---来生瞳---
目の前の彼からは、先程までの狂気の表情は見えない。今は温和な表情で、絵を描いている。その絵は、私達三姉妹をモデルにした天使の裸婦画であった。
「そうか…服部の母親の依頼か…」
拷問により、白状した姉。素直に接すれば、素直に察してくれる彼。始めから素直になれば良かった。
「良し、こんな物かな?」
コピー機でコピーして、落款を押してから、私に手渡してきた。拷問の末に出した私の表情。壊れた顔である。姉の顔は恍惚であり、妹の顔は天真爛漫そうだ。
「そうだ、お前達の妹を連れて来ないとな。夏美、珈琲を淹れてくれ」
「はい、お兄ちゃん♪」
妹は人気造型師であるタムタムだそうだ。彼は席を立ち、地下室へと降りていった。
しばくらくすると、乾いた音が地下室の方から聞こえた、私達は急いで、音源へと急ぐと、そこには胸を貫通された彼と、拳銃を手にしている妹がいた。
「あぁ…お姉ちゃん…死んじゃうかな…」
威嚇射撃に失敗して、胸を貫通させてしまったようだ。
「夏美…お客さん達を、安全な場所へ…冴子へ、後始末を頼んでくれ…」
彼の視線の焦点はどこに合っているのだろうか。私達の方を振り返らない。
「わかった。早く、こっちへ来て」
彼の妹さんの手引きで地上階へ戻った。
「拳銃を」
妹が拳銃を手渡した。
「この住所に、お兄ちゃんの隠れ別荘がある。これは金庫の解錠ナンバー…欲しいだけ、持っていっていいから」
裏口に案内してくれた。
「ここから出て行って。あなた達の家には戻らないで。警察がいるからね。後…お兄ちゃんの遺作を持って行ってね」
妹さんの目には涙が零れている。
「ありがとう…」
「お兄ちゃんの言いつけだよ。それを護るのが妹の務めだから」
私に、当面の資金を手渡し。私達が庭へ出ると、ドアを閉めた。
---鳥井夏美----
お兄ちゃんの元へ急いで戻る。だけど、血だまりがあるだけで…どこかへ移動したようだ。動いちゃダメだよ…滴下血痕がある。それを追って行くと、全裸でバスタブに入っているお兄ちゃんがいた。
「お兄ちゃん!」
「夏美…死体を消してくれ…頼む…後、後始末を冴子に…あぁ…」
ゴボゴボ…
口から吐血している。肺もやられたようだ。
「蘭と工藤君のことを…クリスに頼んで…」
「分かったから…喋っちゃダメだよ」
呼吸する度に出血が酷くなる。
「夏美…大好きだった…今更だけど…最後のお願い…お別れのキスを…」
「知っていたよ」
お姉ちゃんが、あの時暴走しなければ…
私とお兄ちゃんの仲に焼き餅を焼かなければ…
たらればはダメだな…自分に正直になれば良かった…もう遅いけど…
お兄ちゃんの唇に自分の唇を重ねた。舌を入れようと思ったのだが、お兄ちゃんの口は開かなかった…
「お兄ちゃぁぁぁぁぁ~ん!」
看取るのは、私で良かったのかな…一人で行かさないから、待っていてね。バスタブには死体を載せると起動するスイッチがある。お兄ちゃんはそのスイッチを避けて、横たわっている。私も全裸になり、お兄ちゃんに抱きつくように、位置取りをして、片足をスイッチの上に浮かした。お兄ちゃんの元へ行けば、私の足でスイッチがオンになり、濃硫酸が注ぎ込み、死体を消してくれ、最後に下水に流すシステムである。
冴子さんへ連絡を…『後始末をお願いします 夏美』と、メールを送信した。後、クリスに、『蘭丸と工藤新一のことをお願いします 夏美』と、メールを送信した。そして、受け取った銃で、お兄ちゃんと同じ場所に、弾丸を撃ち込んだ…もう、お姉ちゃんにジャマをさせないよ♪
---野上冴子---
夏美ちゃんからメール?なんだ?開いて見ると、『後始末をお願いします 夏美』とある。これは…急いで美和子と共に、亜樹君の家へ向かった。合い鍵で家に入ると、デッサン画が1枚テーブルに置かれていた。落款が押されているので、完成したようだ。キャンパスを見ると、まだデッサンを正式には描き始めていないようだった。
テーブルには、まだ暖かい珈琲が、彼専用のマグカップに注がれている。今まで、ここで絵を完成させていたようだ。何があったんだ?
地下室へ向かう…調教部屋には誰もいない…ただ、大量の血痕が残されているだけ…いや、壁に弾丸がめり込んでいる。それを摘出して、ポケットにしまった。滴下血痕がある。死体処置のバスタブの部屋に続いている。嫌な予感しかしない…
「いやぁぁぁぁぁぁ~!」
美和子が叫び、半狂乱になっていく。
「バスタブに触るな!溶けるぞ!」
「え?!あぁぁぁぁ~!なんで…」
亜樹君と夏美ちゃんは満足そうな顔で寄り添っていた。既に腰辺りまで溶けている。もう、助からない。いや、ここに入れた時点で助からないだろう。
ここの壁にも弾丸がめり込んでいた。丁寧に摘出して、ポケットへ。美和子にメールを見せた。
「後始末をするよ。刑事であることは、忘れろ。いいな」
頷く美和子。血痕を消さないと。彼らの衣服を消さないと。物置部屋へ行き、血痕を消す薬剤を手にして、血痕の上に塗していく。
美和子は、亜樹の血痕塗れの服や下着を焼却炉へ投げ込み、燃やし始めた。夏美の衣服は血痕が無いので、洗濯篭へ入れておく。
「誰にやられたんでしょうか?」
「後始末を頼んだんだ。事故なんだろう」
---冴羽リョウ---
冴子からの連絡…通話が切れた後も、呆然とする俺。
「おい、どうしたんだよ、リョウ!」
香に訊かれた。
「お前が涙するって…」
アイツのことだ。ふらっと帰って来そうだが…
「何でもないよ。目にゴミが入ってさぁ…」
「あぁ、紛らわしいなぁ…まったく…」
結局、俺は香とは一緒にならないかもだ、亜樹♪
to be continued