---デコ---
亜樹君がお見舞いに来てくれた。目を覚ますと、私の手を握りしめてくれていた。
「デコ、大丈夫か?」
心配そうに私を見つめてくれていた。
「亜樹君…死んだの?」
困った顔の亜樹君。
「どうだろうな…俺にはわからない。どの状態を以て、死んだというかだな」
亜樹君の手からは温もりが感じられない。それは、そういうことなんだろう。
「私に憑依していいよ」
更に困った顔をする亜樹君。
「傍にいたい」
「俺のことは忘れて、人生を添い遂げられるヤツを見つけろよ」
「忘れられないよ!」
目頭が熱い。涙で亜樹君の顔がぼやけて見える。
「今の俺には、デコを幸せにしてあげる時間が無いんだ。ごめん…」
時間が無い…
「天に召される日まで、傍にいたい」
「俺は天に召されない。ロストする運命なんだよ。転生も出来無いと思う。だから、もう逢えないかもしれない」
逢えない…胸が痛い。そんなのはイヤだ!
「だから、俺のことを忘れてくれ、デコ…」
そう言い残し、亜樹君の気配は消えた。新作の風景画を残して…生きた証を持って来てくれたようだ。
---神刀朧----
知らない場所に連れ込まれた。目の前には作務衣姿の男性がいた。
「僕の弟子に何をしてくれたんだ?」
え!
言霊の直撃で、吹き飛ばされ、壁に激突した。その衝撃で、身体が壁にめり込んでいる。動けない…何の者だ?何故か私は全裸である。いつ脱がされたんだ?私の知識から外れた存在である、目の前の男に恐怖を感じる。
「どれ?味見でもするか…いや、その前に、このバカをどうにかしないと…九重、亘の魂ユニットと記憶ユニットを取り出して、新しいホムンクルスへ移植しておいて」
「はい、お兄様」
九尾の狐だと…彼女は、私が殺した男から、何かを取りだして、部屋を出て行った。
「貴様…何者だ?!」
「僕?この館の主の破綻した性癖を持つエロ好きの男だよ」
「何…いや、そうじゃなく、何者だ?」
「皆は僕を、聖域の賢者と呼んでいるかな」
聖域の賢者だと…じゃ、ここは聖域なのか…もはや逃げられない。聖域は、あの世とこの世の中間にある。私程度の能力では、どちらへも行く事が出来ない無限な地獄である。
「さてと、味見、味見っと♪」
股間に顔を埋められた。恥ずかしさで、身体が熱い…
「やめろ!舐めるな…」
体内から温水が湧き出ている。これは…感じているのか、私の身体が…
「噛むな!」
気持ちがいい…浮遊感を感じる。どこかに浮かんでいる。どこにだ?
ズン!
体内に衝撃波が撃ち込まれたようだ。
「あ…何…」
賢者との距離が近すぎる。これって、交わっているのか…裂ける…体内に激痛が走り回る。
「あれあれ?処女なのか?じゃ、処女血で契約書を作るか」
契約書?なんのだ…
「お前は、今後、亘の愛刀、神刀朧として、生きるんだよ。いかなる時も亘と共に戦い、亘が望めば、その身体を提供をするんだよ。いいな。この件については異論反論激論は認め無い。良し♪」
契約書が蒼い炎で燃え上がり灰になっていく。契約は締結された。
---幽奈---
目の前に亘君が横たわっている。彼に与えられた新しい身体である。九重様が、亘君の魂ユニットと記憶ユニットを入れている。
「今度の身体には再生能力も備わっている。だけど、今回のような貫通されると、治りは悪い。注意せよ」
「はい…」
「死に慣れるって、困ったものだな」
「そうですね」
もう何度も亘君は死んでいる。誰かを護る為、誰かを救うために…それなのに、私は亘君を救えない…そして、亜樹君は死にたがりである。早くロストをして、魂を亘君へ譲渡したがっている。産まれて来なければ良かったと思っているそうだ。
「こんなにも身近で接しているのに、気づかないコイツはバカだ。魂の色が違う以外は、幽奈がソックリだと言うんだよ」
「あぁ…生きている時と死んだ後では魂の色が、違いますものね」
「魂の色だけ違うから戸惑っているぞ。魂の臭いもソックリだからな」
そうか…気づいて貰えない理由はそこか。私は今も生者だと思ってくれているのか。
「まぁ、今後も傍にいてやれ。それしかないだろう」
「はい」
でも、亘君が気づくってことは、亜樹君がロストしてしまうってことだ。見守るしかないか…今は…
---鈴木まゆこ---
月野木病院に狭霧が緊急搬送されてきた。ショック状態でだ。何が起きたんだ?狭霧ほどの能力者がショック状態って…
「身体に悪い部分は無い。心的なショックだな」
って、龍さん。夏凜の話だと、幽奈さんと狭霧が誰かに誘拐されて、彼女達の元へ転移した亜樹君。そして、戻って来たのはショック状態に陥った狭霧だけだったそうだ。
亜樹君と幽奈さんはどうしたんだ?あの二人を倒す敵がいたのか?
「仮に、彼を倒す敵がいた場合、厄介だな」
と、龍さん。術の多彩さ、強大さにおいて、亜樹君の方が龍さんを凌ぐくらいである。
「亘…死ぬな…おい!」
狭霧の譫言…亘君に覚醒した上で、やられたのか…
「知り合いに声を掛けておくよ。万が一の場合に備えてな」
龍さんが出て行った。何が攻めてきたのだろうか?女子高生の連続神隠し事件と関連があるのか?
---雪姫---
夏凜と九郎丸と伴って、信濃の龍雅湖を探索している。そこは地底湖だった。湖の畔には巨大な城がある。その城内を探索し始めた。賢者からの命令で、ここの探索を命じられたのだ。
「これは…」
九郎丸が何かを見つけたようだ。無数の人骨…骨盤の形状からして、若い女性か?骨には干からびた肉片が所々付着している。喰われたようだ。ここを根城にしていた怪異によって。
「カバンとか靴が散乱しています」
夏凜が更に奥で見つけた。通学カバン…中を確認すると、神隠しに遭った女子生徒の物のようだ。夏凜に命じて、地上まで出て、応援を呼んで来いと伝えた。ここは地底湖故、スマホの電波の圏外だったから。
「いいか?鎮魂の出来る者を連れて来てもらえ」
「はい」
バンパイアの私では、鎮魂なんか出来ない。更に城内を九郎丸と探索していく。天守閣を探索すると、黒竜の人化した死体を見つけた。その部屋には、おびただしい量の血液の血痕が…ソレを舐めて見た。亜樹のだ…まさか、ここで刺されたのか?この量では、まず助からないだろうな…
「先生、大丈夫ですか?」
九郎丸の声…立ちくらみをおこしたようだ。亜樹の行く末を想像し、ショックを受けたようだ。アイツは私の中で、存在が大きくなっているようだな。
「大丈夫だ。アイツ…無茶をしたようだな」
「亜樹君は大丈夫ですよね?」
「あぁ、アイツは死に慣れている。また、生き返るさ…」
英雄の絞り滓…大人しくは生きられないのか…ふっ、アイツらしけどな。
---由比ヶ浜結衣----
ホームルームの時間…雪姫先生から、衝撃的な言葉が…
「亜樹が、また入院した。今回も2週間くらい掛かるそうだ」
また入院?何をしているんだよ…あのケダモノは…
「後、神隠し事件は解決した。残念な結果であるが、事実は事実として受け入れろ」
新聞やテレビで大々的に報じられていた。長野県の山岳地帯のほら穴から、人骨と通学カバンが発見されたって話だ。身元確認をした結果、この学校の行方不明者と判明したそうだ。犯人は、その山の所有者である男で、若い女性の肉を喰っていたと言う。猟奇的な話だ。
「その事件に、ケダモノ君は関わったのですか?」
思わず質問をした私。ユキノン、ひたぎ、翼、千紗希から、鋭い視線を感じる。訊いてはダメな質問だったのか?
「知らない。まぁ、関わっては、いないだろう」
先生の表情からは、動揺しているように思える。関わっていたようだ。
そして、放課後…部室に…
ドン!
いきなり翼に胸倉を掴まれ、壁に押し当てられた。
「ホームルームでの質問…あれは、無いんじゃないのかな?」
笑顔だけど、首を絞めてきた翼。殺される…どうして?
「ユキノン、千紗希…助けて…」
だけど二人は、助ける素振りすら見せない。
「関わっているのは明白でしょ?なんで、あんな質問をするの?」
千紗希が怒っている。なんでよ…
「幽奈さんと狭霧先輩を助けに行ったのよ。当然、犯人と戦ったはずよ」
って、ユキノン。そうだった…助けに行ったんだ。まさか、返り討ちに…
「亜樹君を悪く言うのであれば、それなりに行動するからね!」
って、翼。絞めていた力を緩め、千紗希達の方へ下がっていった。虎の尾を踏んだのか?
「いい?結衣と私達には、大きく違うことがあるの」
千紗希が珍しくエキサイトしている。
「結衣以外の私達は、亜樹君に救われたの。あなただけは、彼との接点が無いのよ。その違いは些細なことかもしれないけど、大きな隔たりだと思うの」
あぁ…確かに、私だけは、救われていないのかも知れない。え?!みんな、あのケダモノに救われたのか…そっちの方が驚きである。
コンコン!
扉が開き、中等部の生徒が二人、入って来た。
「阿良々木君の妹だよね?」
って、翼が声を上げた。
「あぁ、バサ姉、ガハラさん、お久しぶりです」
翼とひたぎの中学校時代の知り合いの妹達だという。
「お願いです。お兄ちゃんを探していください」
って…人探しクラブでは無いんだけど…翼が、ケダモノ用のファイルを捲っている。
「これか…そうか、これが阿良々木君だったんだ」
それは、書類の束から、ケダモノの琴線に触れた案件だった。
「発覚した神隠し事件の被害者は全員、女生徒だったものね。別件って、亜樹君の走り書きもあるよ」
アイツ、見抜いていたのか?別の事件って…
「どこでいなくなったの?」
「学校の帰り道で…家に帰ってきた形跡がなかったから…」
「う~ん…八幡君のケースに似ているわね」
そう言われれば…翼はヒッキーの事件のファイルを取りだし、読み込んでいる。あのケダモノは案件が終わると、詳細なレポートを書いて保存していたのだ。
「この八幡君と阿良々木君は似ているかな。ぼっち系だし…妹想いだし…」
そうなると、葉山君の餌食に?他のクラスに手を出すとは思えないけど…
「亜樹君の意見が訊きたいなぁ。こういうの専門家だし」
神隠しの専門家だったのか??
「雪乃さんと千紗希さんは、彼と連絡が取れないか、確認してくれますか」
「わかったわ。ユキノン、行くわよ」
「えぇ」
「私と戦場ヶ原さんで、帰宅経路を確認しましょう。で、由比ヶ浜さんは留守番でよろしくね」
って、私以外のみんなは部室を出て行ってしまった。う~ん、ぼっち系にはなりたくないんだけど…
---鈴木まゆこ---
「あれ?まゆこ?ここは?」
ようやく、意識を取り戻した狭霧。
「月野木病院よ。緊急搬送されてきたのよ」
「あぁ…そうか…目の前で亜樹が殺されたからな…気が動転したんだろう」
殺された…彼が?
「でも強制転移は発動していないよ」
彼が危険に遭遇した時、魔具を付けられている私達は、彼の元へ強制転移させられるはずだ。
「発動する暇も無いほど、呆気なく殺された。目の前で、何を出来なかったよ…うぅ」
狭霧が力無く泣き始めた。ラスボスを倒した直後、どことなく現れた女性の刀で、身体を貫通されたそうだ。彼は最後の力を振り絞って、どこかへ相手と共に強制転移したそうだ。
「私と幽奈の前から…危険を排除してくれたんだと思う。私に幽奈を頼むって、命じてくれたのに…この様だよ。幽奈はどこへ行ったんだ?くそっ!」
ベッドを力無く叩く狭霧。ショック状態の原因はこれか…私もショックである。彼が呆気なく殺されただなんて…
◇
ここはどこだ…
「秋音さん、大丈夫ですか?」
夕士君の声…
「龍さん、秋音さんの意識が回復したみたいですよ」
「どれどれ…」
龍さんの声…私どうなったんだ?
「うん、もう大丈夫だろう。君は仕事中に倒れたそうだよ」
倒れた?なんでだ?疲れていたかな?
「賢者様と連絡が取れて、彼は生き返ったそうだ。後1週間位で戻れるらしいよ」
生き返った?誰が?
「まだ、記憶が混乱しているのかな。ゆっくりと休むといい。何か遭ったら、夕士君を通じて、連絡を取ってくれ」
そういうと、龍さんが出ていかれたようだ。
「夕士君…誰が生き返ったの?」
「え?!鳥井ですよ」
鳥井?鳥井…鳥井亜樹…君…
「亜樹君…死んだの?」
「秋音さんは、その事実を知って、倒れたそうです。狭霧さんがナースコールで、ナースセンターへ知らせてくれたそうですよ」
そうだ、狭霧のケアをしていて…また、亜樹君が死んだって訊いて…何度、死ねば、彼の罪は消えるのだろうか?
---聖域の賢者---
目の前で、新たなペットが苦しんでいる。
「どうしたんだ?」
ペットの股間には十字架が差し込まれている。
「やめぇ~!どかせぇ~!」
刺激が足り無いのか?聖なる針をクリに打ち込んだ。
「うごぉぉぉぉぉ~!」
股間からこれでもかと液体が溢れ出ている。伊豆湖というペットにそれらを舐めさせている。
「臥煙先輩を…解放せぇ!」
このペットは頭が悪いようだ。現状が分からないらしい。聖なる針を乳首に深く打ち込んだ。
「うげぇぇぇぇ~!」
「なぁ、誰に、情報を貰って、あやか市に来たのかな?伊豆湖はここで飼っているから、コイツからは情報を得られないよね?影縫余弦よ」
コイツの場合、基本的に悪意は無いのだが、やり過ぎるということがないから不死身の怪異の専門家になった、暴力陰陽師である。そして、コイツは、誰かから『あやか市』に不死身の怪異がたくさんいると聞き、亜樹のエリアに侵入してきた。ターゲットは雪姫、夏凜、九郎丸だと推測されたのだが、コイツの獲物は阿良々木月火と言う中学生に的を絞っていた。
この阿良々木月火は、怪異らしいことを何もしていない、ほぼ無害な怪異である。それに的を絞ったことが解せない。そして、事件は起きた。月火を襲撃している最中に、月火の兄である暦が、妹を助けに入り、このバカに殺されたのだ。死体は、道ばたに捨てられたようだが、付近にいた怪異達にエサになったようだ。
「さてと…口を割らないようだし、その姿で地獄へ送るか。そうだな、無限淫乱化地獄なんかどうだ?鬼達の肉便器にしてやるよ♪」
「やめぇ…」
力を感じ無い声…
「じゃ、誰からの情報だ?忍野か?貝木か?」
「うぅ…貝木泥舟…」
アイツか…変な呪いを中学生に広めたか。正しい手順を教えない詐欺タイプの呪術師である。
「素直が一番だよ。お前に掛かっている呪いを解き、伊豆湖と同じ立場にして飼う。いいな」
コイツに掛かっている呪いは、地面を歩けない呪いである。誰が掛けたのやら…
---鳥井亜樹----
今回は15日のロスである。
「亜樹くぅ~ん♪」
転移した直後…幽奈が僕に抱きつき、頬を重ねて来た。なんか、懐かしい感触である。まるで探しているお姉ちゃんのようだ。基本、コミュ障の僕は、亜樹に人格をスイッチした。
「ただいま、幽奈。さてと、神隠しの男子生徒の捜索へ行くか。幽奈、狭霧と秋音を呼んでくれるかな?」
「うん♪」
何?幽奈が召還陣を発現させて、狭霧と秋音を召喚してくれた。あの召喚陣って、お姉ちゃんの紋章が入っている。何で…どうして…混乱する僕。
「亜樹!」
「亜樹君!」
狭霧と秋音も抱きついて来た。幽奈が暖かい眼差しで見ている。まるで、お姉ちゃんのようだけど…どうして?
「神隠しにあった男子生徒の捜索をする。賢者様が襲われた地点をだいたい特定してくれたんだよ」
混乱する僕を尻目に、亜樹が彼女達と返答してくれた。そして、特定してくれた場所へ歩いて行く。この辺りかな?う~ん、厄介だ…造成地になっている。掘り起こしは難しいか?頭蓋骨に狙いを定めるか…一番、肉片の残りが少ない箇所だし。
少し歩くと、造成前の森に出た。この辺りかな?朽ち果てそうな木が目に入り、大きく開いた穴があった。ここかな?取り敢えず、穴の中を聖なる炎で消毒を兼ねて燃やしてみた。蠢く怪異達。そして、僕達に襲って来た。狭霧と秋音がそれらを処分していく。亜樹は身を守る術を行使して、僕をアシストしてくれている。淡々と、僕は僕の仕事をしていく。そして、穴の中から、シャレコウベを取りだした。
「あったよ」
「やはり、探し人は亜樹君の専門だね」
って、秋音。自分の探し人は見付からないんだけど…残留思念を読み取っていく。通学カバンを見つけないと…個人の特定が難しい。腕と一緒にあるイメージが浮かぶ。腕って、どこだ?
ふと上を見ると、あっ!あった。喰われていない分、腐乱が酷いが、かろうじてカバンを手にしていた。斬り飛ばされた衝撃で、高い木の枝に引っ掛かっていた。
「秋音…警察へ連絡を頼む」
「わかった…」
◇
警察による捜査の結果、亡骸は阿良々木暦と判明した。当然、発見者である俺達のアリバイを確認されたが、事件当時、俺は入院していた。それは、賢者様が証言してくれた。あかし署の署長さんは、仲居さんの顔馴染みで有り、賢者様の事を知っていたようなので、容疑者から直ぐに除外してくれたようだ。
そして、2件の神隠し事件は終結した。