※この作品はR-18です。

新そっくりなアイツ   作:もっち~!

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生きる為の目的

 

---毛利蘭---

 

デコちゃんがお見舞いに来てくれた。

 

「亜樹君がこれを持って来てくれました」

 

持って来た?それは生きているってこと?デコちゃんから手渡されたのは、三代目安芸桜の落款の入った鉛筆画であった。どこかの温泉地の風景画のようだ。湯煙の立ち上る建物、横には川が流れ、バックには山がそびえ立っていた。

 

「ここにいるのかな?」

 

「いて欲しいです。私、夏休みになったら、この場所を探そうと思います。わかったら、蘭さんにお知らせしますね」

 

デコちゃんの笑顔が眩しい。生きる目的を見つけたようだ。私も頑張らないと…亜樹君は生きているんだ。そうだ、想いが強ければ、また逢えるはずだ。

 

 

 

---デコ---

 

蘭ちゃんに大見得を切ったものの…どう、探せば良いのかな?う~ん、だれか探偵さんに頼めば…そうだ。世良ちゃんに頼んでみるかな。

 

「うん?この絵の場所を知りたいのか?」

 

世良ちゃんは快く引き受けてくれた。ちょうど、夏休みが近いせいもあって。

 

「手がかりは、温泉地であることだけかぁ…」

 

虫眼鏡で絵を精査している。亜樹君のクセを知っているようだ。細かい場所にこだわりを残す亜樹君。

 

「住所表記は無いかな…うん?この建物…ゆらぎ荘って看板を掲げているよ」

 

虫眼鏡で、私も見てみた。あぁ、本当だ。ここに住んで居るのかな?って、温泉旅館風の建物である。考え込んでいると、世良ちゃんがスマホで検索をしてくれていた。

 

「う~ん…検索でヒットしないなぁ。エリアが分からないと無理か…」

 

その日は、そこまでだった。世良ちゃんは、期末試験の勉強があるそうだ。私は、まだ休学中である。ストレスがかかると発作が起きるらしいから。

 

 

翌日、鈴木画廊を訪れた。そこは亜樹君担当編集者だった鈴木さんの縁者が経営している、二代目安芸桜の絵画を扱っている画商である。

 

「この絵って、どこで描かれたか、分かりますか?」

 

ダメ元である。目利きの鈴木さんに賭けてみただけである。

 

「あぁ、これは、あやか温泉の画伯の住んでいる下宿屋ですよ」

 

あやか温泉…

 

「あぁ、早速、送った落款を使ってくれたようですね」

 

話してわかったのだけど、鈴木さんの遠縁の鈴木まゆこって子が、亜樹君と付き合っているらしい。

 

「まゆこに聞いて驚いたよ。だから、まゆこに頼んで、落款を渡して貰ったんだ」

 

って…確かめて来ないと…蘭ちゃんに報告したいし。

 

 

 

---鳥井亜樹---

 

週末…阿良々木一家が、ゆらぎ荘にやってきた。

 

「署長に聞きました。高名な陰陽師だそうで」

 

阿良々木父がそう切り出した。

 

「昔の話ですよ…」

 

高校1年生の言うセリフでは無い気がする。

 

「我が家は無宗教で、息子の葬儀をどこでどう行えば良いか、見当が付かないんです」

 

と、阿良々木母。俺にどこかを斡旋してくれって、話か?って、どこで?聖域は無理だし…

 

「お兄ちゃん、お稲荷さんの…」

 

あぁ、あそこはプチ聖域ではあるか。夏美が夜な夜な、パトロールという名の油揚げのツマミ喰いをしているし。

 

「白蛇神社があった場所はどうですか?今は稲荷様の祠があるだけですが…」

 

「おまかせしていいですか?」

 

「まぁ、できる限り協力いたします」

 

「で、息子をやった奴は?」

 

「貝木泥舟って言うインチキ詐欺師の呪術師です」

 

詐欺師のインチキ…本物の呪術師である。

 

「あっ!アイツか!」

 

月火が声を上げた。

 

「撫子ちゃんをはめた奴だ」

 

口封じの為の殺人教唆か?撫子とは、月火によると、あの白蛇事件で、月野木病院へ搬送した女の子らしい。

 

「直接手を下したわけでは無いですが、実行犯がそう供述しているようです」

 

「ソイツを警察に引き渡してもらいませんか?」

 

「法での裁きは出来ませんが、良いですか?」

 

怪異絡みである。もし、立件するには月火が怪異であることを立証しないといけない。今、本人を前にして気づいた。コイツ、怪異に取り憑かれた訳では無い。怪異そのものだ。姉の火憐は怪異に取り憑かれているようだが、どちらも悪さをするタイプでは無いので、放置がいいかな。

 

「どういうことですか?」

 

「怪異絡みです。警察で立件が出来ますか?非科学的な事案ですが」

 

「う~ん…」

 

立件は無理で有る。それがわかっているだけに、唸っている阿良々木父。

 

「法での裁きは受けませんが、もっと過酷な裁きを受けているそうですよ。聖域の賢者様の元でね」

 

「なるほど…怪異には怪異の専門家におまかせが一番ですか…」

 

阿良々木父と阿良々木母は、揃って警察官だそうだ。今回の件で、この『あやか市』のことを署長から聞いたそうだ。怪異、人外と人間が共存するエリアだと。

 

「そう思ってください。その為に、退魔師、悪魔祓い、霊能者などが、住んでいて、調整をしているのですからね」

 

まぁ、調整が効かないから、事件が起きるんだけど…

 

 

白浪稲荷と名付けた祠…結構な量の油揚げが供えられている。九尾の狐様が、たまに目撃されると噂され、供物を置いていく者が絶えないらしい。ちなみに、賽銭箱は無い。夏美は、お金よりも油揚げを優先したいらしい。

 

祭壇のある社殿が要る。油揚げを食べて、機嫌の良い夏美イコール九重様が、呪文で社殿を作り上げていく。ちなみに、この土地は賢者様の名義になっているそうだ。なので、俺達が自由に使って良いって、言われている。

 

「後、何が必要かな?」

 

「蝋燭で照らす為の灯籠かな?」

 

石の灯籠を社殿へ向かう道の両側に配置していく。

 

「後、御炊きあげ場かな。火を使うので、防火対策が必要だな」

 

消防車が放水出来ない高台にある。術で雨を降らせば良いか?

 

「ふむ」

 

耐火煉瓦を積み上げたコの字型の御炊きあげ場が完成。後は、内装か。祭壇を設置し、雅楽用の楽器を用意して、中庭に向けて神楽殿を設置した。正式な神社では無いが、祭事場は必要である。後は、簡易宿泊出来る部屋を数部屋用意した。寝ずの番用だ。

 

消耗品の類いは聖域から送られてきた。蝋燭、火打ちセット、調理器具など。泊まり客や修行者の為の食事を作る為である。問題は食材だな…

 

「保存食を備蓄だな。麦、米、みそ、茶葉でいいんじゃないかな?」

 

夏美は油揚げだけあれば、良いらしい。まぁ、味噌は、焼き味噌にしておかずにする。お茶は汁物の代わりになる。修業時代を思い出すなぁ…

 

「あぁ、そうか…後、骨の保管場所か…」

 

稲荷に墓は似合わない。納骨堂かな。夏美が納骨堂を作り上げた。喉仏だけを収納するタイプである。

 

「残りの骨を粉にする石臼も要るか…」

 

ここには水の流れが無い。水車を動力に出来ない。となると…人力か…喉仏以外の骨は粉にして、分骨希望者にはロケットに入れて渡し、残りのは森に撒く。カルシウムが溶け出し、良い肥料になり、いずれ土に返るのだ。

 

「お~い!、食事を持って来たよ~!」

 

狭霧と千紗希、雪乃だ。僕にはおにぎり、夏美にはいなり寿司であった。

 

「ほとんど、完成?」

 

「たぶん…」

 

祭事場の建設に携わったことが無いので、聖域の修行場をイメージして作った。まぁ、夏美の中の九重様が文句を言わないので、正解に近いのだろう。

 

「神主は、亜樹君?」

 

千紗希に訊かれた。夏美は稲荷神主だから、祭事場は僕になるのか…う~ん、避けたいなぁ。お姉ちゃんがいれば、二人で住み込み住職も有りかもしれないが。

 

「後は巫女役だな…どうするか…能力者が良いんだけど…」

 

狭霧をロックオンした。

 

「おい!見つめるな!私は無理だ。そっち系の能力は無い」

 

狼狽える紗霧はかわいい。見た目が大切である。能力があれば、千紗希なんか、かわいい巫女になれそうだけど…

 

「当日は。千紗希とひたぎには、炊事場を頼みたい」

 

「はい♪」

 

「狭霧は…しょうがない。警戒要員ならいいか?」

 

「あぁ、まかせろ。夏凜と九郎丸で警戒する。想定される敵は?」

 

「邪な悪霊とか、浮遊霊かな。ここって、気の吹きだまりになっている気がするから」

 

不思議と、ここには風が無い。それはそれで、おかしい現象である。街で生じた熱が上昇気流を産み出し、階段を駆け上がって、風になっても良い環境であるが…祭事が終わったら、探索してみるか…何か、ありそうだ。この場所には…

 

 

阿良々木家の手により、阿良々木暦の探し出せた亡骸を収めた棺が運び込まれた。肉が殆どないので、やたらに軽い。役所への手続きなどは翼に丸投げした。こういう作業は得意だから。

 

まず、亡骸の入った棺を祭壇に設置した。巫女がまだ決まっていないよ。どうするんだ。

 

「よぉ!」

 

師匠である聖域の賢者様がいらした。隣には…巫女姿の…お姉ちゃんがいた。えっ!

 

「この祭事限定で、テンコを貸すよ♪」

 

テンコ…天狐幻流斎…お姉ちゃんが、そこにいた。

 

「亘くぅ~ん♪」

 

幽奈の様に頬を重ねるお姉ちゃん。え?!どうして?幽奈とイントネーション、声、動作、頬の感触が一緒なんだ。でも、紛れも無くお姉ちゃんである。僕の探していたお姉ちゃんである。更に…幽奈と魂の色が一緒である。なんで?どういうこと?生者と死者では魂の色が異なるはずなのに…亜樹に、この難問は解けるかな?

 

『お前が答えを出すことが大事だと思う』

 

亜樹は正解にたどり着いたようだ。えぇぇぇぇぇ~、なんで?記憶を共有しているのに、なんで僕にはわからないんだ?

 

「お前、そこで混乱する?まだまだ蒼いなぁ~」

 

って、師匠。だって…

 

「おい!神主が混乱してどうするんだ!しっかりしろ!」

 

師匠から喝!が入った。そうだな。祭事が終わったら、確認しようか。

 

 

見送る客が集まってきたので、祭事を始めた。

 

「これより、阿良々木暦の送る儀式を始めます。執り行うのは、ここの神主である私、神代亘」

 

「その妻である天狐幻流斎の二人で、つつがなく行います」

 

僕とお姉ちゃんの共同作業が始まった。僕の祝詞…お姉ちゃんが合間に神器である五十鈴で闇を切り裂いて行く。天からお迎えがくると、雅楽の音色が聞こえ始め、彼の魂を心静かに送り出していく。

 

そして、送り出しの儀式は無事に終わり、亡骸を昇華させる儀式へ…棺を御炊きあげ場へ運び、完全な骨にしていく。完全な骨になるまで、僕は祝詞を唱え続けつつ、薪をくべて、火を絶やさないようにする。まぁ、孤独な作業であるが、おろそかに出来ない。

 

完全に骨になったところで、自然鎮火を待ち、鎮火後、骨をトングで広い集めていく。ここでの焼きが甘いと、石臼での作業が大変になるので、注意が必要であるけど。そして、喉仏以外の骨を、石臼で粉々にして、希望者分のロケットに詰めて行く。

 

「では、このロケットをお持ち下さい。骨を分骨しました」

 

と、阿良々木家の皆さんへお配りし、喉仏の骨のみ納骨堂へ納めた。

 

「おにいちゃ~ん!」

 

「こよみぃぃぃぃ!」

 

納骨堂内には悲痛な声が響く。その中で、今回の祭事での最後の祝詞を唱える僕。

 

終わった…ヘロヘロになり、仮眠室へ行く…お姉ちゃんには、訊きたいことが一杯ある。這いつくばるように仮眠室に着くと、お姉ちゃんの姿は無かった。あれ?夏美だけがいる。

 

「お姉ちゃんは?」

 

「帰ったよ。門限があるからね」

 

えぇぇぇぇぇ~!そんなぁぁぁぁぁ~!ショックだぁぁぁ~!門限ってなんだ?

 

「シンデレラと一緒。0時を過ぎたら、魔法は解けちゃうんだよ」

 

「どこへ行けば会えるの?」

 

「自分で探すこと…ごめん。それしか方法が無いよ」

 

ショック過ぎる…ショックのあまり、その場で睡魔に襲われて…

 

 

重い…金縛りか?手足の自由が効かない。囚われたのか?誰に?

 

ゆっくりと瞼を開くと、俺の部屋のようだ。右には全裸の幽奈。左には全裸の狭霧。いつもの風景であるが、金縛り状態である。何が違うんだ?

 

「おぉ、目覚めたのか」

 

目の前に雪姫先生がいた。それって、上に載っているってこと?交わっているってこと?

 

「夏美に頼まれて、ここまで運んだんだよ」

 

夏美は夜々とこゆずに挟まれて寝ていた。彼女なりに疲れたようだ。

 

「金縛りなんですが…」

 

「あぁ、逃げないように、縛ってあるからな」

 

え?緊縛プレイをされていたのか…そんな趣味は俺には無いぞ。

 

「会えたようだが…いつ結婚したんだ?」

 

「何の話?」

 

「うっ…お前、上の空だったのか?天狐幻流斎が、お前の妻を名乗ったんだぞ!」

 

「えぇぇぇ~?いつ?」

 

お姉ちゃんも、僕の事を想っていてくれたんだな。ちょっと嬉しいけど…

 

「お前の耳は、節穴か?」

 

「え?聞いていないんだもの…いつ、言われたの?」

 

「はぁ~。お前と言うヤツは…賢者の苦労がわかった気がするよ」

 

そんな…そこまで言うか…

 

「で、天狐幻流斎は誰かわかったのか?」

 

「全然分からないんだよ。先生、知らない?」

 

雪姫先生が頭を抱えている。

 

「それは、何かの呪いか?たぶん、お前以外全員が分かっていると思うぞ」

 

えぇぇぇぇぇ~!そうなの?何で、僕にはわからないんだ?当事者だけ分からないって、おかしいじゃないか。

 

「そうか…亜樹の罪のせい、天狐幻流斎の罪のせいだな」

 

「何?何?お姉ちゃんの罪って?」

 

「アイツは●●したんだ」

 

え?肝心な部分だけ聞こえない。これって、聖域の呪いだ…

 

「なるほど、肝心な部分は言葉に出来ないのか…だから、お前には分からないのか…」

 

雪姫先生の視線は幽奈に向けられている。なんで?どうして幽奈なんだ?幽奈は自縛霊だぞ!最強の霊能者であるお姉ちゃんが自縛霊になる訳が無い。

 

「さすがは鬼だな。弟子でも容赦はしないってことか」

 

それは、師匠が、僕に呪いを掛けたのか…僕の魂である亜樹の犯した罪に対して…そして、お姉ちゃんが犯したという罪に対して…師匠ならやりかねない。曲がったことは嫌いな人だから…

 

「俺の罪って消えるのか?」

 

「罪自体は消えん。だが、改心は出来ると思うぞ」

 

「でも…罪が消えないと、亘が彼女を認識出来無いのはつらい…」

 

先生に泣きすがる。亜樹が天寿を全うすれば、逢わしてくれるけど…それでは、僕のお姉ちゃんは年老いてしまう。

 

「泣くな。幽奈が起きるぞ」

 

だけど…

 

「お前はお前らしく生きれば、良いのでは無いのか?考え過ぎると知恵熱が出る。それにだ、間違った方向へ行けば、賢者が鉄拳制裁をしてくれるはずだ」

 

それは恐い…激痛だけを感じ、決して死なない鉄拳制裁。地獄の沙汰である。男女問わずに行われる、師匠のマジ切れ時の刑罰である。

 

 

そして、学校へ…期末試験だと言う。入院が多かった為、学生生活をエンジョイしていない内に、夏休みらしい。ゆらぎ荘では、テスト勉強…普段から勉強をしていれば、テスト勉強はいらないらしい。ひたぎと翼は、普段通りだし。

 

「翼、テスト勉強って、何をすれば良いんだ?」

 

亜樹が僕にスイッチした。僕に体験させる為のようだ。

 

「テストに出そうな物を勉強するんだよ」

 

「どこが出るの?」

 

「そんなの分かったら、こんな苦労はしないんだよ!」

 

っと、狭霧。それはそうだけど…

 

「今まではどうやっていたの?」

 

翼に訊かれた。

 

「今まで?今回、初めてだよ」

 

亜樹は経験者であるらしいけど、記憶が定かでは無いらしい。

 

「…」

 

夏美以外、絶句状態で固まっている。どうして?

 

「まさか…学校へ通うのって、初めて?」

 

「そうだけど…それが何か?」

 

「…」

 

3月にこの世に戻って来た。亜樹が魂の譲渡に同意してくれ、この世に戻れたのだ。それまでは聖域で暮らして居たし。

 

「小学校も行っていないの?」

 

「記憶に無い」

 

目が点になって、夏美以外が俺を見ている。なんで?

 

「義務教育を受けていないの?」

 

「いや…聖域で受けて来たけど…この世界のは受けていないよ」

 

「う~ん…それは問題あるかも…」

 

って、腕組みする翼。

 

「幼稚園は行ったの?」

 

「何、それ?」

 

「…」

 

学校って、小学校からじゃ無いの?はて?

 

ズン!

 

首筋に手刀が叩き込まれた。誰に?意識が遠くへ…

 

 

 

---聖域の賢者---

 

このバカに聞かせたく無いので、意識を狩り取った。

 

「賢者様!」

 

ちとせが、跪いた。

 

「ちとせ、楽な姿勢で良いぞ」

 

「はい」

 

ちとせが正座に座り直した。

 

「このバカの話をしに来た。コイツには聞かせたく無いので、意識は飛ばした」

 

「聞かせたく無い?」

 

翼に訊かれた。

 

「あぁ、コイツは自分を人間だと思っているからな。今はホムンクルス、人造人間だ。人格は訳有って、鳥井亜樹と神代亘の2つ持っている」

 

誰も驚かない。予想は着いていたのだろう。

 

「神代亘は、産まれてすぐ、母親の初乳だけ飲んで、聖域に預けられた。来たる日に向けて、術を行使出来る様にな」

 

あの一線を越える禁断の術、『人札封印の術』の為である。

 

「初乳だけですか?」

 

夏美…いや九重以外、全員の顔が強ばっている。

 

「あぁ…それだけだ。コイツが母親と触れたのは、その1回限りだよ。父親とは触れたことが無い。その時の反動だろうな。愛情とスキンシップに飢えているケダモノだよ、亘はな。一方亜樹は、父親の再婚相手の連れ子とうまくいかなくて、小学生の時から一人暮らしを余儀なくされた。こいつも、スキンシップと愛情に飢えたケダモノである」

 

僕も似たような境遇だったので、よくわかる。

 

「亘君は、誰に育てられたのですか?」

 

翼が代表して質問をしてきた。

 

「その当時の僕の弟子であった天狐幻流斎だ」

 

『え?私…』

 

幽奈が声を上げた。人間には聞こえないが、人外の者、能力者には聞こえている。聞こえた者は皆、幽奈の方へと振り向いた。

 

「天狐幻流斎も罪を犯したので、記憶の封印が為されており、未だに昔の記憶が封印されているかもしれない」

 

『そんなぁ…』

 

悲しそうな声の幽奈。

 

「亘は最強の陰陽師になる為、聖域では出来る限りのアシストをした。1秒を1日にする環境下で、文字を教え、言葉を教え、コイツが3歳になるまで、天狐幻流斎が傍に寄り添い、亘の育児をしていたんだ」

 

『だから…懐かしさが…初めて逢った時に感じたんだ…ゴメン…亘君…』

 

懺悔している幽奈。お前の罪は、こんな物では無いだろ?

 

「3歳から5歳までは、聖域で本格的なトレーニング、所謂鍛錬とか修行をこなした。だから、幼稚園なぞには行っていない。そして、6歳の誕生日の前日に、亘は英雄になり、死んだことになった。その為、小学校へも通っていない」

 

静まり返る室内。

 

「死んだ事になり、幽閉され、事件を起こして、大勢の人間達により、なぶり殺され、聖域でまた引き取ったんだ。だから、中学にも行っていない。今年の3月に夏美こと九重を付けて、鳥井亜樹として仮釈放したんだよ」

 

『仮釈放…そんな…』

 

「そして、鳥井亜樹は、事件にならない事件を多数起こした。内容は猟奇的なシリアルキラーだよ」

 

「シリアルキラー…連続殺人犯?」

 

九重以外の者の顔から血の気が失せていく。

 

「そうだ。殺した相手の死体を濃硫酸で溶かして消した。だけどなぁ、僕に言わせれば、亜樹は正当防衛をしただけだ。相手はテロ組織のメンバーで、たった一人で、殺しまくったんだ。人間視線から言えば、亜樹は凶悪犯であるが、僕的には亘と変わらない英雄だ。だから二人の人格を1つの器に収めたんだ」

 

「英雄?だって、シリアルキラーなんでしょ?」

 

翼が珍しく狼狽えている。

 

「あぁ、その事実は消せない。だけど、亜樹が意味も無く、手を汚すと思うか?コイツは、愛する者達を守る為、修羅の道に身を落としたバカだ。一緒に生きられない世界に、一人で踏み込んだ。守りたい、護り切りたい一心でね」

 

亘は自分の意思で行っていないが、亜樹は自分の意思で人間をやめたに等しい。九重までもがツバを飲み込んでいる。九重は亜樹の必死さを理解し、夏美の想いを背負い、志願して夏美としてこの世に降り立ったのだ。

 

「次に、天狐幻流斎なんだが、コイツは類い希な霊能者だったのだが、亘が殺されたことを知り、自分を含む全人類を呪った。その為、天狐幻流斎は呪術師へ地位が落ち、自殺をした。実際は、自殺行為ではあるがな」

 

『そう…自殺をした。聖域では禁忌とされた行為である。なので、私は聖域において、重罪人であるんだよ…』

 

「自殺行為の内容は、自分の身体を供物に、亘の蘇生を僕に願った。だけど、亘は、一線を越えた術を行使した為に、生物では無くなっていた。なので、蘇生は無理だったんだ。いくら全知全能なる者がいたとしてもね」

 

『魂が無かったから…あの術でロストしてしまったから…でも、生きて欲しかった。短すぎるもの…彼の人生は…』

 

「だから、提案をした。人造人間に、ねつ造した記憶を入れて、亜樹の魂の準備が出来るまで、僕が魂の代わりをして、コイツの精神体に、残りの人生を歩ませることをね。そして、今は亘には、人造人間の元になった鳥井亜樹の魂が入れて有る。で、天狐幻流斎の魂は、知り合いの座敷童のいる家に地縛させてある」

 

ちとせが頷いている。

 

『だから、ここに地縛しているんだ…亘君との約束の地に…』

 

「二人は元の関係に戻れないんですか?」

 

狭霧に訊かれた。彼女は幽奈の声が聞こえる組である。

 

「お互いがお互いを認識すれば、記憶の封印は解かれる。だけど、亘が、バカだから、身近にいるのに、まるで気づかないんだよ。まったく…」

 

幽奈と天狐幻流斎が同一人物であることに、困惑しているコイツ。天狐幻流斎が自殺することは無いと、信じ込みすぎである。

 

「まぁ、天狐幻流斎は気づいているようだが、このバカが気づかない限り、二人の記憶の封印は解除されない。あと、ハンデとして他人からの情報では、気づかないように呪いを掛けてある。まぁ、二人とも真面目に修行したご褒美に、このバカが気づけば、天狐幻流斎の身体は返してやる。ほとんど、未使用だよ」

 

『師匠…まさか、屍姦したんですかぁぁぁぁ~!』

 

「当たり前だろ。あんな良い女体だ。屍姦を2、3回した程度だよ」

 

「ド変態…」

 

う~む、九重も言うようになってきたな。

 

「まぁ、そんな感じだ。ソロソロ帰ろうかな。雲行きが怪しくなってきたし…」

 

九重と幽奈からの冷たい視線を浴びて、聖域へと逃げ帰った。

 

 

 

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