---湯ノ花幽奈----
遠い昔…幼い少年に出逢った。後に名前を知ることになる陰陽師の神代亘である。ここ、あやか市で…彼は聖域からの修行の帰りに、この街に立ち寄った旅人だった。私も旅人だった気がする。なんせ、遠い昔の記憶な為、曖昧なのだ。だけど…少年のことをふと想い出した。ゆらぎ荘で、亜樹君と出逢って…
◇
彼がこの街に来たのは、お祭りだったと思う。縁日の屋台は道の両端にあったから。余分なお金の無い私は、焼きもろこしの屋台を眺めていた。そんな私に、彼は焼きもろこしを差し出して来た。
「お姉ちゃん、コレ、食べたいんでしょ?」
彼は焼きもろこしを2本持っていて、そのうちの1本を私に差し出してくれた。
「え?いいの?」
「うん♪」
真っ直ぐな視線で私を見つめる少年。
「ありがとう♪」
買うお金のなかった私は、彼からのプレゼントを受け取った。食べ終わった後も、彼と二人で楽しい時間を過ごした。たこ焼き、お好み焼き、林檎飴、ミルクせんべいと…彼は気前良く、私におごってくれた。そして、夕方になり、一軒の温泉旅館の前に出た。
「いつか、二人でここに泊まりたいね…お姉ちゃん」
少年の顔は、どこか悲しそうだった。
「そうだね。いつか、ここに一緒に来よう」
少年を優しく抱き締めた。その時、彼の行く末が見えた。彼は大人には成れない。小学校にすら行けない。その前に彼は…
「お姉ちゃんどうしたの?」
涙が溢れていた。こんなに幼いのに…彼の為に、私が出来る事は無いのか?彼は想い出を作りたかったようだ。私とで良かったのか?大切な想い出の相手…
◇
1週間後…最終決戦の場にいる私。この世の災厄の根源であるヨルダ討伐の為に編成された部隊にいた。そこで彼に再会した。
「お姉ちゃん♪」
私を見つけて、掛け寄って来た彼。あの時のように優しく抱き締めてあげる。出来るなら、彼だけでも、生きて返して上げたい。この身を犠牲にしても…だけど、それは叶わぬ事だった。
ヨルダは報復タイプの憑依体であり、自分を倒した自分より強い相手に憑依することで、生き残ってきた。彼を倒すのは至難の業である。
「倒したら負けか…撤退するか」
指揮官が悩み始めた。このままでは全滅してしまう。しかし、
「我々、神代家にお任せください。最強の陰陽師を連れて参りました」
と、あの少年をヨルダに向かわせた。何をするのだ?彼が最強の陰陽師だと言うのか。そう言えば、以前見た彼の行く末では、彼を殺すのは人間の大人達だった。そう、ヨルダではなかった。
彼は呪文を唱え、ヨルダへ放つと、ヨルダは彼に憑依しに行った。ヨルダを倒したの?ダメだよ…だけど、憑依した筈のヨルダは、彼の内に封じられていた。
「我が神代家最終奥義、『人札の術』でございます」
それは非人道的な術であった。術者の魂を使い、強力な人外をコーティングして、封印する術だそうで、それにより術者は人間ではなくなるそうだ。そして、死んでも転生は出来ない。魂はコーティングした人外諸共、消滅するそうだ。
少年の未来は、ここで潰えたのだ。
彼はその場で封印のカゴに入れられて、封印をされた地下牢に、死ぬまで幽閉されるそうだ。直ぐに殺しても問題は無いが、ヨルダを倒した褒美で、幽閉という生きる道を与えたと言う…
◇
私は私を含めた人間達を呪った。あんな幼い子に、なんて術を使わせたのだ。神代家は人類最強と謳われたが、そこに彼の名前は残されていない。彼は既に、人間ではなくなったからだ。
彼との約束が果たせない。このまま、生きて行く自信が無い私。自分勝手な者達を見ると、呪いを掛けたくなる。コイツらの為に、彼は生き地獄に向かった訳では無いのに…
そして、私は決意をして、彼の修行先であった聖域へと向かった。私と彼の師匠である聖域の賢者様に会う為に…
「亘の為にここへ来たのか?」
「はい。彼が転生できるようにお力をお借りしたいです」
「供物はお前か?」
「はい」
彼の為に出来る事…彼のいない世界を救うなんて、もう出来ない。
「亘と再会はしないでいいのか?」
うっ!それは…再会したいに決まっているが、それでは供物になれない。
「いえ…この身は惜しくないです。ですから…」
「幻流斎よ、お前がいない世界に転生して、亘が喜ぶと思うか?お前は、更に亘を苦しめたいのか?」
「いえ…そんなことは…」
言われて見れば…約束が果たせないなぁ…でも、他に供物がない私。
「ならば、こうしよう。お前の身体を私が愉しむ。その代わり、お前の魂を現世に置いてやる」
浮遊霊になるのか?
「いや、地縛霊だよ。亘と約束をした、あの宿に地縛させてやる。そこで再会の時まで待て。あぁ、記憶は封印させて貰うよ。お互いの想いが強ければ、いずれ記憶は戻る。想いがそうでもない時は、すれ違いの出会いをせよ」
すれ違いの出会いでもいい…もう一度彼に会いたい。ずっと、彼の傍にいたい…
◇
そして、出逢えた。彼の波動を感じる青年に…彼の妹には、賢者様の義妹である九尾の狐様がなっていた。うっすらとであるが、生前の彼の顔が見える。黒かった髪は、あの術の行使のせいか、真っ白になっていたけど。あの笑顔が、そこにはあった。
『よく待てましたね♪』
彼女からお言葉を頂いた。記憶の封印が解かれていく。彼との想い出が甦ってくる。だけど、彼自身の記憶は無いようだ。彼は鳥井亜樹を名乗っているし。
「私…この部屋に地縛しています湯ノ花 幽奈って言います。よろしくお願いします」
この姿では初対面だし、前に会った時は名乗っていなかったので、自己紹介をしてみた。
『う~ん…』
彼女のうなり声。
『お尻を見せても、想い出さないよ』
って、うなりの原因はそこなのか…う~ん。どうすれば良いんだ。