「なぁ…なんか要望と違うんだけど…」
書き上がったSSを、朱美に送信したのだが…
「要望は、ボーイズラブ系だよな?」
言われた通り、書いたはずだ。
「そうなんだが…アルセーヌ・ルパンとシャーロック・ホームズの恋バナって…これじゃ、オッサンズラブだと思うのだが…で、ワトスンが出て来て三角関係って…う~ん…」
うん?男同士ならいいって、言われた気がするのだが…
「後なぁ、男同士で正常位プレイは無理だぞ」
正常位プレイが基本って言わなかったか?
「男には差し込み口が無い」
あぁ、そう言われれば、そうだな。
「その辺は、朱美が手直ししてくれ。本業の方がマジでヤバいんだよ」
編集の鈴木さんに呼び出されているし…企画書はまだ書き上がっていないし…廃業かな?中三で?なんだかなぁ…
◇
昼休み…いつもと違う。今朝、夏美から弁当を受け取った。いつも、昼と晩はコンビニ弁当なので、少し嬉しい。弁当箱を取り出すが、小さい…薄い…少食過ぎるだろう、これでは…蓋を開ける。キャラ弁のようだ。モデラーらしい作品が並ぶが、こんなのに手間をかけるなら、味付けにも掛けて欲しい…味がしない。まぁ、素材本来の味と言われてしまえば、そうなんだけど…
「どうしたの?鳥井君…そのお弁当は…」
デコが隣から眺めている。
「スゴい…細かい…」
細部まで再現されているのだが…1つつまんで、デコの口の中に押し込んだ。
もぐもぐ…
「う~ん…ダシが感じ無い。って、言うか、誰に作って貰ったんですか?」
「妹…」
「へ?妹さんがいるの?」
目を点にして驚いているデコ。
「まぁ、いるよ」
「一人暮らしって…」
「別居しているんだ」
「ごめん…深入りしすぎたね」
デコは泣きそうな顔で俯いてしまった。僕が追い込んだのか?下手に手を差し出すと、誤解されるから、スルーしておこうかな。
で、弁当箱にメモをいれておく。
『ありがとう。料理でなくて、モデラーをしていろ』
と…
午後の授業…腹が空きすぎで、耳は休日である。僕と姉妹達は別の中学に通っている。一緒には嫌だったらしい。まぁ、三つ子扱いだからな。姉妹達は一駅先にある私立に通っている。朱美も姉妹達と同じ中学である。僕は電車通学無しの公立中学だ。
授業が終わり、帰宅部の活動をこなす。編集部の担当の鈴木さんの呼び出し。何を言われるんだ?胃が痛い。二駅先にある、編集部が入居しているビルへと向かう。そして、編集部の受付に行き、鈴木さんを呼び出した。
「栗井先生、お待ちしていました♪」
ショートカットでスポーティーな感じの女性が、抱きついて来た。
「で、次回作についてだよね?」
「はぁ?美女が抱きついたのに?それについての感想は?」
メンドーなことを訊く。胸が気持ちいいに決まっているだろうに。鈴木さんは巨乳でも貧乳でも無いフツーな胸だけど、形は良さそうだと思う。
「用件を済ませましょう。腹が減って…」
さすがに、ここでは資料収集はマズいだろうな。いつか、鈴木さんからも資料を手にしたいけど。大人の女性と大人じゃない女性の違いは、知っておきたいから。
「また、コンビニ弁当か?」
「はずれ。妹の弁当…量が通常量の1/4以下くらい…」
「あぁ、女の子は少食だからねぇ~♪大盛ナポリタンでいいかな?」
「トーストも…あと、珈琲もね」
編集部にたかる僕。同じビル内にある喫茶店に、注文をしてくれる鈴木さん。そして、応接室の一つに通された。そこには、初めて逢う女の子が既に座っていた。見た目は、羽川翼の眼鏡無しバージョン似だ。髪の毛はピンクブラウン系でシルバーのメッシュ入りか?おしゃれだな。
「彼女は、栗井先生の挿絵担当のオータンさんだよ」
と、紹介された。えっ?同い年くらいなのか?彼女も僕を見て、驚いている。
「二人共、素性は公開していないけど、同い年だぞ♪」
え…そうなんだ。歳上の女性だと思っていたんだけど…
「同い年なんですか…それなのに、あの作品は凄い…」
僕の作品を誉めてくれたオータン。で、僕が遅めの昼飯を食べる間、雑談タイムとなった。
「栗井先生のペンネームの由来って何ですか?」
オータンに訊かれた。
「う~ん…未公開情報だけど、オータンならいいかな。僕の本名は鳥井って言うんだけど、鳥井から連想したのが、サントリーなんだよ。で、サントリーから連想したのがトリスで、下の名前は鳥栖にしたんだ。で、鳥井の”と”から十を連想して、一歩引いて九にして、”と”と”く”を置き換えて栗井にしたんだ♪」
何かに反応して、目を見開くようにして驚いているオータン。何に反応したんだ?
「で、オータンは?」
「あっ…私は…あきが大好きだから…英語読みをブロークンして…」
「秋が好きなのか。僕は春が好きだよ。昼寝に適しているし」
何かに反応して、頬を薄桃色に染め、俯いたオータン。
「で…次回作はどうしたいのかな?」
訳知り顔で、鈴木さんが割って入ってきた。
「トリックが浮かばないんだよ。オータンにも話したけど、ジャンル変えはダメかな?」
「その件が今日の議題よ。オータンから連絡を受けてね。う~ん、独自トリックが売りだしねぇ…かといって、大物作家で無いから、次回作まで悠長に待てないし」
そうなるよね。たがが、中学生作家に、そこまで厚い待遇は無いよね。うんうん…
「別ジャンルだと、浮かんだのは、温泉地ごとに現地妻がいる男の騒動記とか」
「はぁ?これは随分と変化させるわねぇ。せめて、刑事物を挟んで欲しいけど」
刑事物かぁ…スルーして置こうかな。
「で、現地妻って点がネックがなんだよ。僕は恋愛経験が無い、女性関係も無い、色恋沙汰の経験が無い、ガールフレンドがいないなどの問題がある。これで、妄想だけで書けるかな?」
実際は、ガールフレンドは二人いる。しかし、恋って言う物は、トラウマがあり、よくわかっていない。そんな僕の発言に、オータンが驚いている。今度は何に反応したんだ?
「そうね…妄想だけって、限界があるでしょ?無理だろうな。恋愛しなさいよ~」
って、鈴木さん。
「一応、ガールフレンドは二人、作れたけど?」
「まだ、恋愛には至らないのね。う~ん、前途多難よね」
蘭からは、恋愛が無いまま、プロポーズされているし。前途多難だと思う。
「出逢いが大切でしょ?いくら好みでも、出逢いが最悪だと、結果も最悪になる。だから…異性に興味があまりない」
女体の神秘には興味があるが、異性と見た場合は、興味は無い。昔、あの姉妹で痛い想いをした。それがトラウマになっている。姉妹でも人間関係を築けなかったのに、恋人?無理無理…
「異性に興味が無いって、同性が対象?」
オータンに訊かれた。
「同性?もっと無い。男友達はいらない。メンドーだよ。群れようとするし。作業部屋で一人で思考を巡らせる時が、一番好きな時間だよ」
男友達だと思っていた朱美が、女子だったことにショックを受けている。そんなことは、ここでは言えない。
「ぼっち好き?」
「そうでも無いよ。オータンとメッセージをヤリトリしているし。あの時間も好きだよ」
オータンの耳が真っ赤だ。何に反応したんだ?女心がまるで分からない。
「そうなると、恋愛日記的な物でも良いわよ♪」
って、鈴木さん。恋愛日記?はて?
「ぼっち好きの男が異性を意識していって、恋をする過程を描くとか」
ぼっち男の恋愛事件簿的な?そんな本、買う人がいるのか?
「まぁ、設定はどんぴしゃであるけど…周囲に異性がいないよ」
いや4人いるが、説明がメンドーなので、いないことにした。
「血の繋がらない妹さんは?お弁当を作ってもらったんでしょ?」
「そうだけど…アイツは、かわいい妹枠だよ」
オータンが僕を睨んでいる。何か地雷を踏んだかな?
「じゃ、血の繋がらないお姉さんは?」
「6年くらい逢っていない。だから、逢っても分からないと思う。妹も再会した時に分からなかったし」
「逢いたい?」
「どうだろうな…僕は大好きだったけど、嫌われていたから…たぶん、今もそうだろう。だから、逢わない方がいいかな。つらくなるから…」
姉のことを思い出し、目頭が熱くなっていく。幼いながらも、大好きだった姉。その姉に毛嫌いされ、一緒に住むことを拒否され、目が合うことさえも…なので、母屋と離れの間には壁がある。目が合わないように。
「じゃ、万が一、お姉さんと再会できたら、日記を書いてね♪」
「えっ?僕の淡くてすっぱい失恋話を?」
「6年も経つと、色々と変わるわよ。そうだね…取材旅行しようか?三人でさぁ♪」
取材旅行?何の取材だ?はしゃいでいる鈴木さん。
「温泉旅行をしよう。電車移動にすれば、トリックとかの参考になるでしょ?」
あぁ…結局、推理物を書けって事ですね…
◇
帰り、鈴木さんが車で送ってくれた。最初に降ろされたのは僕。うん?オータンに家がバレるんですけど…家の真ん前で降ろされた。
「じゃ、日程と予算と場所が決まったら連絡するから。プロットを練っておいてね♪」
って、上機嫌で去って行く鈴木さん。えっ?プロット?やはり推理物なのか…
家に帰り着き、一息入れて、母屋に弁当箱を返しに行く。母屋の勝手口は、台所にあるので、そこに返却すれば良いって、夏美が言っていた。なので、勝手口を開けて、台所に入ると…えっ?なんで?
その時、台所にいた、僕と目が合った女の子も固まっている。それは今さっき別れたばかりのオータン…何で、ここに?
「お姉ちゃん…どうしたの?」
夏美の声がして、夏美が台所に入ってきた。
「おっ…お兄ちゃん…」
夏美の声で、僕のロックは外れた。
「夏美、これを返しに来た。量が少なすぎる。味付けが緩い。素材でモデリングするな。感想は以上だ。ありがとう」
夏美に弁当箱を手渡して、勝手口から出て、離れに戻る。ショックだった…オータンが春美なのか…鈴木さんは知っていて、再会させたのか?今日の出来事の不思議さ、不自然さの原因、理由が分かっていく。
作業部屋に籠もる。電気をつけず、タブレット、スマホの電源を切り、ぼっち状態になる。春美に嫌なヤツと思われただろうな。僕はこの6年で何も変わっていない。もう…どうでもいい…
◇
我に返ると、蘭の家の前にいた。蘭へ連絡するか。スマホの電源を入れると、おびただしい量のメールがあり、直ぐに着信があった。表示を見ると朱美だった。
「何か、用か?」
「何かじゃないだろ?今、どこにいるんだ?」
「蘭の家の前…我に返ったら、ここにいた」
「そうか…じゃ、蘭の家に泊めて貰えよ。いいな。変な気を起こすなよ!」
って、通話が切れた。変な気ってなんだ?取り敢えず蘭へ連絡をした。
---江戸川コナン---
夜中、玄関のドアが開く音…俺は自分の部屋のドアを開けて、様子を窺った。玄関に寝間着姿の蘭が入って来て、続いて俺が入って来た…はぁ?なんで、俺が入って来るんだ?俺の偽物か?
「亜樹君、遠慮しないでいいのよ。ほら、入って」
亜樹って言うのか、アイツは。俺の偽物では無いようだ。しかし、似ているなぁ。
「ここ、私の部屋よ。ほら、入りなさいね」
亜樹って男は、蘭に促されて、蘭の部屋へ入っていった。おぃおぃ、どういう関係だ?こんな夜中に、蘭を訪ねるって…
部屋の中に戻り、壁際で聞き耳を立て、蘭の部屋の様子を窺った。
「これに着替えて。少し大きいかもしれないけど」
蘭が男に自分のスエットの上下を渡したようだ。
「ほら、隣に来て」
蘭と添い寝だと!何者だ、アイツは…
「いいのよ。好きにして…私の身体は亜樹君の物だからね」
って…俺ですら言われた事の無いセリフ…何者だ…まさか、俺にソックリなアイツに乗り換えたのか?まさかなぁ…
---鳥井亜樹----
始発で自分の家に戻った。蘭も一緒である。玄関前には、朱美と姉妹が待っていた。
「亜樹…騙すつもりはなかったんだ。すまない」
って、姉の春美が謝って来た。スルーをして、家の中に入る僕達。後を追って、朱美と姉妹も入って来た。姉妹の目は腫れていた。
「おい、腐れ!お前、幸せ者だな♪姉と妹に、こんなにも想われて♪」
まさか、僕のことが心配で?涙したのか?まさかなぁ。冷やかす様に言う朱美は、いきなり僕に右ストレートをプレゼントしてくれた。いきなりの贈り物で、目の前が真っ暗になっていく。
◇
うっすらとした意識…誰かに膝枕をされている。横から、朱美の啜り泣く声がする。
「ごめんよ~。つい、手が出ちゃって~」
って、何度目だ?お前の攻撃でノックダウンしたのって。
「お兄ちゃん…」
僕の手を握り締めている妹。春美は…いないのか…うん?右手を握り締めている夏美、左から覗き込んでいる朱美…じゃ、膝枕をしてくれているのは?目の前に朱美の顔が有り、膝枕をしてくれている人物の顔が見えない。朱美、ジャマ!
「朱美…私の弟に何をしてくれるんだよぉぉぉ~!」
春美の怒声が、朱美の後方から聞こえた。そうなると、蘭の膝枕か…
「あっ、すまん…つい…」
春美の迫力に負けてか、朱美の態度が、いつもより温和である。
「傷物にした責任は取るから♪」
「お前!それが狙いか?それで、亜樹を全力で殴ったのか?お前には、絶対に渡さないからねっ!」
蘭の前で不毛な会話は止めてくれよ。朱美が春美の相手をし始めたおかげで、蘭の優しい眼差しを見る事が出来た。
「なんで?お前、亜樹を嫌いなんだろ?」
「何言っているの!大好きだよ~ん♪だから…ハンドルは、亜樹から秋を連想して、オータンにしたのよ♪」
えっ?そういう事なのか…僕のこと、嫌いじゃなかったの?じゃ、どうして、あんな事を…
「はぁ?」
「お前と一緒だよ!好きな感情に照れて殴るだろ?私は大好きな感情に照れて、言葉による暴力を振るったのよ!」
はぁ?
「えっ?」
「まさか、あんなことになるなんて…もう、自分の心に嘘は吐かないことにしたの。だから、朱美、ちょっかい出すなよ!いいなぁ!」
春美の声がドスの効いた声になっていく。そう、あの声により、僕の幼い心は…あの声で『逆らったら、殺すからな!おい、わかってんのか?そこのガキ!』って…基本、この姉妹はキレると放つ言霊は暴走していくのだ。
「二人にはお兄ちゃんは渡さないから」
って、夏美が僕に載ってきた。おい、僕は怪我人だぞ!夏美の胸は微乳であるが、何故か気持ち良い。でも、膝枕中に載られると、首が痛い…
「「夏美!」」
「お兄ちゃんは、私が護る♪」
◇
週末、僕は病院に入院している。三人の不毛な戦いを止めようと、割って入ったのだが、夏美の攻撃をカットした瞬間、朱美の右ストレートと春美の左上段回し蹴りとで、頭部をサンドイッチされて、意識が飛んで…蘭が救急車を呼び、検査入院となった。
「ごめん」
「すまん」
春美と朱美が謝っている。夏美はショック状態のようだ。護るって言った直後に、僕が病院送りにされたことが、ショックだったようだ。蘭は僕の手を握り締めている。検査結果は異常無し。でも、2,3日は様子見での入院になったのだ。
「この際だから、言っておきます。私は亜樹君にプロポーズをしました」
蘭の発言に固まる三人。うん?朱美はあの現場にいただろうに。
「あなた達に、亜樹君を任せられません。私が一緒になります。いいですね」
蘭の言葉に項垂れている三人。僕がここにいる原因は、この三人であるのは、明らかであるから。
「妹として傍にいていいかな?」
夏美が蘭に訊いた。まだ、プロポーズの返事をしていないのだが。
「それはいいと思います。でも、二度と亜樹君をこんな目に遭わすことは、私が許さない」
この四人の戦いは見たく無い。きっと、死闘になるだろう。中学生の部のトップ3に、高校生の部の新星だし。僕なんかで争って欲しくない。
こうして、僕の波乱に満ちた?女難の相が出まくった?血の繋がりの無い三つ子プラスアルファな?生活は開幕した…