---妃英里---
亜樹君は生き返っていた。2歳も若返ってだ。実際に会ったし、蘭からの報告も受けた。事実として受け止めるしか無い。だけど…聖域の賢者を名乗る者の話では、亜樹君の魂は近い将来に、神代亘という人物に引き渡されるそうだ。それは、亜樹君の2度目の死が訪れるってことである。彼は死ぬために生き返ったのか?
美和子さんに知らせるべきか?少し悩む。亜樹君に再会すれば、きっと彼女も生きる力を復活出来るだろうけど、事は眉唾な話である。逆に混乱させる要因になりかねないし。どうしよう…
お見舞いがてら、様子を見てくるかな。
---雨野紗霧---
神代亘に捕まった。亜樹の為だと言うが…コイツの変態行為は留まるところを知らない。もしかすると、あの鬼畜物の作者はコイツで、純愛物の作者が亜樹だったのでは無いのか?そんな疑念が浮かぶくらいに、亘はド変態である。
今日は、タコの魔物を召喚して、私を襲わせている。触手が乳房を締め付け、乳首を締め付け、舌を締め付けている。吸盤がクリを吸い、乳首を吸い、膣内部に吸い付いている。なんだ…この気持ち良さは…堕ちる…今後、タコとしか出来ない身体になりそうだ。
「いいよ。その表情♪」
責めるだけ責めて、亜樹に人格をスイッチした亘。アイツ、鬼だ…
スケッチブックに私を描く亜樹。出来れば、亜樹にして欲しいんだけど…うっごぉ!迂闊にもタコで達した私。有り得ない刺激で意識が覚醒していく。膣の中にタコが入ったようだ。ダメ…そこには入らないで…子宮に侵入しようとしているタコ。そんな刺激を感じる。亜樹の前で、イヤらしい身体になっていく。悶え、喘ぎ、痙攣していく。助けて…しかし、真剣にデッサンをしている亜樹には届かなかった。
◇
優しい刺激で意識が覚醒していく。内風呂で、亜樹が泡立ったスポンジで、私の身体を洗ってくれていた。身体が動かない。声すら出ない。お人形さんのような私。そんな私を綺麗に優しく磨き上げてくれている亜樹。
「亜樹…欲しい…」
「僕のが欲しいのか?」
僕?亘がスイッチしてきた。
「亜樹だよ。亘じゃないって…」
逃げようとするが身体が動かない。
「狭霧はドエムだな。嫌いじゃないよ。ふふふ」
蛇に睨まれたカエル…そんな感じかもしれない。
---鳥井亜樹----
夏休みの定番の肝試しって何だ?
「蘭、肝試しって何だ?」
「え!え…っと…恐い場所を巡っての根性試しかな?ねぇ、翼さん」
説明に困った蘭が翼に振った。
「お墓とか、廃病院とかでの根性試しだよ」
なるほど…夏休みの恒例の行事である肝試しが行われると、連絡が来たのだった。
「なんで、夏の定番なんだ?」
「肝が冷えるから…」
「冷えないと思うが…」
僕の返答に、苦笑いしている翼と蘭。
「そうか。能力が無いと、内臓が冷えるのか」
そもそも夏休みの意味がわからない…なんだ、この毎日が山掃除の日々は…まぁ、肉体労働は亜樹の担当だから、問題は少ないけど。
「で、白蛇神社で開催って…もう無いんだが…」
今は白浪稲荷と白浪神社になっている。
「う~ん…主催者が気づいていないのかも。今、千紗希と結衣が確認に行ってくれているよ」
あの二人にまかせるか。
---由比ヶ浜結衣----
葉山君のカーストに次ぐカーストの頂点である相模南が、今回の主催者だった。私達のクラスは2つのカーストと仲間外れにより構成されているのだ。まぁ、仲間外れって言うのは語弊があるな。亜樹君と仲間達って分類になるのかな。
「白蛇神社で開催は決定なのよ。あの廃れた神社…肝試しの為に存在しているのよ」
下見をしていないようだ。
「だから、もう白蛇神社は無いんだよ」
食い下がる私と千紗希。
「無い訳無いわよ。鳥居も残っているし」
「だから、違う神社が建立されたのよ」
って、千紗希。
「違う神社?構わないわ。肝試しに最適な場所は、あそこだけだし」
聞く耳を持たない南。
「神聖な場所で、ダメだって」
「心配なら、あんた達のエセゴーストバスターを連れてくれば?」
まるで、聞き耳を持たない。ダメだ…千紗希が亜樹君へ連絡をした。
『わかった。警察へ連絡だな。阿良々木警部の息子さんの初盆だし…』
警察が介入かぁ…大事になりそうだ。
---鳥井亜樹---
肝試しの日、阿良々木家、相沢家の初盆の儀を、執り行うことになっていた。神社として、厳戒態勢で臨む。そんな遊び気分で霊域を乱す行為は、悪霊を呼び兼ねないし。助っ人として、コガラシ、龍さん、まゆこ、狭霧に依頼した。悪霊系と雪姫先生は相性が悪いからだ。
「一応、夏凜と九郎丸も連れて来た。悪霊以外なら、役立てるはずだ」
って、肉弾戦に雪姫先生が参戦するらしい。対人戦要員として、蘭、翼、ひたぎが警備に加わるらしい。まぁ、悪霊より人間の方がタチが悪い気がするからな。
当日…阿良々木家所縁の警察関係者も参列し、初盆の儀を執り行い始めた。だけど、儀式途中で、
ドド~ン!ヒュ~!パンパンパン
って、花火が打ち上げられた。儀式の為の蝋燭の炎が揺らめく。空気の流れが変わり、澱み始めたようだ。
「本殿から出ないで下さい。ここなら安全ですから。祭事を続けます」
う~ん、結界として張ったしめ縄が切られたようだ。バカなことを…相沢祐一の眠る岩盤地帯に侵入したようだ。相沢祐一の為の灯火が消えた。マズい事態である。
「申し訳無い。儀式は中止し、明日改めて、執り行います。ここから出ないでください。悪霊達が侵入したようだ。くそっ!」
本殿の外へ出て、退魔の術を掛けようとしたのだが、岩盤地帯から煙が上がっていた。キャンプファイヤーでもしたのか?それとも放火か?
「どうしたんだ?焦げ臭いが…」
火の手はここまで昇ってきていた。崖に這わしていた蔦に引火したようで、岸壁の上には炎の壁が出来ているようだ。
「これは?」
唖然としている阿良々木警部。
「肝試し集団の花火が着弾したのかもしれない。取り締まりをお願いします。僕はここで退魔の術を行使しますから」
「わかった。息子の初盆の儀を…おい!取り締まるぞ!」
阿良々木警部達が石段を降りていく。
炎の勢いが増して行く。しめ縄を燃やしたのか?バカなことを…
---相模南---
鳥居の前に警察車両がいるし…千紗希達、警察に告げ口をしたのか?確か、この辺りから入れたはず。鳥居の脇の竹林に分け入ると、侵入禁止の意味か、縄が張られていた。
ジャマなので、ナイフで切り、中に入ると、そこは開けた場所になっていた。真ん中にパイプが通ってはいるけど。
「ここをベースにするわ。暗いわね」
誰かが何かを壊し、その木材に火を付け、篝のように置き、この場を照らし始めた。
うん?『相沢祐一、ここに眠る』と彫られた石碑が1つ置かれている。誰かが、それを倒して、ベンチ代わりにしている。
「夏と言えば花火だよな」
打ち上げ花火を上げ始める者、爆竹を投げて遊ぶ者、ロケット花火を崖にある穴目がけて撃ち込む者…収拾が付かなくなってきた。
「じゃ、クジを引いて、同じ番号同士でペアを組み、上の鳥居がゴールよ」
「おぉぉぉぉ~!」
1番の者から5分間隔でスタートし始めた。だけど、ロケット花火が何かに当たり、燃え始めた。マズい…こんな場所では消防車は入れない。私はこっそりと、ここから立ち去った。
---雨野紗霧---
悪霊がウヨウヨいるし…コガラシが、次々の撃破しているが、数が多すぎる。
「なぁなぁ、彼が狭霧の彼氏かぁ?」
誅魔忍軍の相棒である浦方うららに訊かれた。
「今は退魔に集中しろ!」
「中々の男前やなぁ~。狭霧にしては上出来や」
手数より口数が多いうらら。
「コガラシ…マズいぞ」
結界として張ったしめ縄が燃やされている。しめ縄で出禁にされていた悪霊達が、ここぞとばかりに、侵入してきている。
「あぁ、マズいなぁ。しめ縄を燃やすとは…ここ、盆地だよな…」
悪い物が溜まり易い。そこでは、刑事達が補導を始めている。本殿の儀式は中止したのだろうな。こんな騒ぎでは、儀式なんか出来無いだろう。
うっ!何かに叩かれ、崖に激突した。何が来たんだ?
「雨野先輩…マズいなぁ」
あぁ、マズい。動けない。背骨をやられたようだ。困ったことに、コガラシに回復術が無い。
「浦方先輩、ここで止めますよ」
「あぁ、お任せや!」
うららが式神を呼び出すも、簡単に消されていた。
「何?コイツ…」
ズドーン!
コガラシの渾身のパンチが炸裂したが…
「何…効かないだと…雨野先輩、逃げろ!」
逃げたくても、身体が動かない。どう逃げろと言うんだ?
「ボクが時間を稼ぐ…」
真琴が、私の前に立った。だけど、力を持っていない真琴は、はたき飛ばされていく。
「真琴、お前の勇気…嫌いじゃ無いよ」
飛ばされた真琴を、九尾の狐が受けとめた。
「夏美ちゃん…」
「うりゃ~!」
目の前の魔なる者が避けた。私の前に亜樹が飛び降りてきた。亜樹じゃない…亘だ…
「僕の狭霧に何をしているんだ。狭霧を陵辱していいのは、僕だけだ!」
いや、亜樹は好きだが、亘はちょっと…
「貴様!何者だ!」
魔なる者がビビっている。
「『捕獲』僕は陰陽師、神代亘だ!『破砕』」
「うごっ!」
魔なる者が一瞬で粉々になった。これが陰陽師の術か?
「コガラシ!祐一の鎮魂碑を戻してくれ!」
「あぁ、わかった」
「夏美は、祠の修復だ。龍さん、しめ縄をお願いします」
指示を出し終えた亘は、私の方を振り向き、何かの術を行使した。緑色の光に包まれていき、手足の感覚が戻っていき、痛みが消えている。回復術のようだ。
「『鎮火』『鎮魂』『浄化』『静寂』」
次々に術を行使していく亘。空気の澱みが消えていく。風の流れを感じ始めた。
「コガラシ、狭霧、明日の夜に延期したから、頼むよ」
そう言うと、亘は転移していった。
「スゴい…あれが、狭霧のほんまの彼氏か?」
「彼氏では無い…私では釣り合いが取れない」
亘の彼女は天狐幻流斎である。それも相思相愛…突き入る隙はない。あるとすれば、記憶が封印されていることだけだ。だけど私は、亘では無く、亜樹が好きなんだよ。って、亜樹にはデコちゃんと蘭ちゃんがいるしなぁ。う~ん…
「狭霧で釣り合いが取れない?どんだけ、すごいんや、アイツは」
「最強の陰陽師だよ」
って、コガラシ。
「どんなに修行しても、彼には追いつけない。そんな存在だよ」
って、龍さん。
---鳥井亜樹---
補導者リストが阿良々木警部から送られて来た。神社の受けた損害を、こいつらの両親から受け取る為である。蘭の母親である弁護士の妃英里には依頼済みだ。
「首謀者の名前が無いけど…」
千紗希と結衣にリストを見せた。
「あれ?無いねぇ。逃げたのかな?」
「煽るだけ煽って?最悪じゃん」
最悪である。損害賠償請求が出来ない。崖に空いた穴にロケット花火を打ち込む大会をしたらしい。消防によると、そのせいで、蔦に引火したらしい。
岩盤地帯はゴミと焼け残りの山であった。小町達が掃除をしてくれている。復活した滝壺の底には使用済みの花火が大量に捨ててあって、これは小町達には無理なので、真琴とこゆずが除去してくれている。
「まぁ、大きなバケツって言えば、言え無くもないけど…」
夏美は静かな怒りを纏っている。窃盗の現行犯で逮捕済みの1番ペアが、夏美の祠から御神体を盗み取ったのだ。人間の触れた御神体は焼却処分となり、また作らないとダメである。
「作るのは問題ないけど…祠を開けて、御神体を手にする行為が許せないよ」
夏美の中の人は激怒していた。そうだ。今夜の儀式で使う物を、聖域から貰ってこないとなぁ。昨晩の使いかけは、使えないし…
「そう思って持って来たよ」
って、荷物を抱えて、エロ師匠が転移してきた。
「首謀者の相模南は、時の牢獄で禁固刑中だよ。夏休みが終わったら、釈放する」
時の牢獄は、リアル世界の1秒が1年に相当する牢獄である。そこの禁固刑は、脳裏へ、犯した罪の映像を、24時間絶え間なく流し込む刑である。目を瞑っても、寝ても、脳裏に流し込まれた映像を見る羽目になる地獄の刑の1つだ。
「だいぶ、被害があるようだな。まぁ、悪霊より人間の悪意の方が極悪だ。悪意と思わない悪意は特になぁ」
確かに…たぶん、相模的には悪意は無かったんだろうな。だけど、受けた側からすると、とんでもない悪意の塊の人間に見える。
スマホの着信音。通話状態にすると、令子だった。
「亜樹君、手伝って欲しい案件があるんだけど…」
「どんな案件?」
「古い洋館絡みなんだけど」
霊的なスポットの定番である。古い洋館って…
「今夜、儀式があるから、動けるのは明日以降だよ」
「まかせるけど、なるべく早くお願いね。資料はメールしておくから」
資料がメールで送られてきた。令子が手を焼く案件かぁ…コガラシと狭霧を連れて行くかな。僕はピンポイント除霊は得意では無いから。コガラシと狭霧に資料をメールした。
「東京に行けるのか!」
「資料によると、東京の物件だな」
「東京…行きたい♪」
「観光はしないぞ。仕事だけだ。まぁ、コガラシと狭霧で、デートなら、しょうがないけどな」
「で、で、デート!」
「私…亜樹君一筋だお!」
二人とも動揺しているようだ。俺には、男女の問題は解決不能なので、二人にまかせるか。東京か…姉ちゃんに会わないようにしないとなぁ。デコと蘭は、家族へ近況報告をする為に、同行するそうだ。
俺としての生前の記憶は、蘇りつつある。だけど、亘としての記憶が無いんだよな…テンコさんって、どんな女性なんだ?