---鳥井亜樹---
夏休みを利用しての東京遠征…メンバーは俺、コガラシ、狭霧に浄化要員としてアーシア、迷子対策兼近接要員として翼を入れ、里帰り組の蘭とデコと共に、東京へと向かった。夏美は姉の記憶が鮮明にある為に同行を拒否し、必要時に呼び出すことにした。
俺と夏美の姉、春美は理不尽で、不器用な愛情持ちで、危険人物である。弟と妹が仲良しなのに焼き餅を焼き、鉄拳制裁した姉。蘭へ嫉妬し、蘭への制裁を加えた姉。俺と夏美が地獄へ落とされたのに、なんで姉はのうのうと生きているのだろうか…答えは簡単なことであった。まだ死んでいないからだそうだ。それに、誰も殺していない為、地獄行きへはならない模様だ。理不尽過ぎる。あの世ですら…
東京駅…人混みがスゴい。翼以外は人混み酔いでプチパニック気味である。ここで、蘭たちと別れて、俺達だけで、令子の元へと移動をした。
「えぇ~と…こっちよ」
翼の指示で、令子の元へ移動する俺達。翼を連れて来て良かったぁ~。コガラシも狭霧も俺も戦力外である。アーシアはプチパニック気味の俺達の心を癒やすので手一杯のようだ。人選は間違ってはいなかったようだ。
「なんで、こんなに人があふれているんだ?」
のどかな温泉街から出て来た俺達には、刺激が強すぎる。ようやく令子のマンションに着いた時は皆ヘトヘトであった。
「あぁ~、人混みにやられたのかな?」
令子に優しく抱かれている俺。
「なんで、あんなに人間があふれているんだ?」
「大都会だから…」
令子と一体になり、徐々に落ち着きを取り戻していく。令子の鼓動、令子の体温、令子の肌、令子の内臓に触れ、平常心を取り戻していく。
「大丈夫?」
「あぁ、令子の香り…落ち着く」
「そう…良かった。役立てて」
その日は、皆リラックス優先で、東京の夜を満喫し、翌日、令子から、案件の説明がされた。
「これと言って問題があるとは思えないんだけど、住民が入居すると、その住民達が失踪しちゃう、『神隠しの家』って呼ばれているの」
喰われたかな。そうなると餓鬼系の悪霊か?
「私達霊能者が何度もメンバーを替えて、調査に行っているんだけど、痕跡も気配も感じ無いのよ」
ステレス性持ち?条件があるのか?
「消えた住民のパターンはどんな感じ?」
「ファミリーでの入居よ。単身では広すぎる物件だから」
あいまいなデータを頭に入れ、現地へと向かった。
◇
そこは、都会の裏路地にある大きな洋館だった。この洋館って…どこかで見たような…誰の記憶だっけ?俺?亘?う~ん…
令子を先頭で、中へ入ってみる。各々がそれぞれの流儀で気配を探っていく。
「う~ん…なぁ、令子、地下室はあるのか?」
こういう場合は地下室が怪しい場合がある。
「あるわよ」
寝室の様な部屋に隠し扉があり、そこから地下へと降りていく。
「アーシア、浄化をしてくれ」
「わかりました」
アーシアの術で、澱んでいた空気が浄化されて行く。
「コガラシ、怪しそうな場所を叩いてくれ」
「わかった」
地下には倉庫のような広めな部屋と個室があった。個室の1つにはバスタブがある。これって…アレだよな。バスタブの底にはスイッチらしき物があるし。
「このバスタブって、死体処理用だな」
「死体処理用?」
「あぁ、底にあるスイッチを押すと、濃硫酸が流れ出していき、死体が消えていくんだよ」
確か、この辺りに、排水用のスイッチがあったはず。あぁ、あった。
「どうして、知っているの?」
令子に訊かれた。
「俺も生前使っていたから。そのせいで、地獄へ堕とされたんだよ」
令子の顔から血の気が失せていく。
俺…鳥井亜樹は生前、猟奇的な連続殺人犯であった。しかし、殺した相手の死体を消し去った為、警察は立件出来ずに、放置と言う名の公安の監視対象であった。
「このバスタブシステムを持っていたから、知っているんだよ。アーシア、この部屋を浄化してくれ」
「分かりました」
僕もお札による鎮魂を行っていく。そして、あの広い空間へ…そこを調べて行く。
「ここに何があるの?」
令子に訊かれた。
「いや…気配が無いのが妙なんだよ。そうなると、考えられるのは、何かの条件で召喚されるか、転移してくる者がいるってことだ。だから、転移陣が無いかを調べているんだよ」
見た限りは無い。見えない魔法陣か?
「アーシア、浄化してくれ。コガラシ、部屋のど真ん中を叩いてくれ。翼、狭霧は臨戦態勢を取っていて」
皆、頷き、指示通りに行動をし…
コガラシが叩くと、部屋に魔法陣らしき物から、光が漏れてきた。転移陣のようだ。何が出るんだ?異変に気づいたコガラシが、急いで戻って来た。
「これは?」
「振動を蓄積して発動するタイプだな。引っ越し、住民の行動により家が柱を通じて、この床に振動エネルギーを蓄積して、発動するタイプだよ」
何かが現れた。
「君達は、カラクリに気づいたのかな?」
紳士風の男性が現れた。人間では無く、悪魔のようだ。
「ラムイーターか?」
「そこまでお見通しなのかね」
ラムイーターとは、子羊を好んで食べる悪魔のことである。この場合の子羊とは人間のことであるけど…
「冥界では子羊を食べることが禁止されていてね。でも、冥界では無い、ここなら問題が無いって、魔王が言うんだよ」
魔王?赤髪、黒髪、緑髪…どの魔王だ?
「そうか。なら、ここもダメなんだけど…」
「はぁ?人間風情とは協定は結ばない。お前らは俺達のエサだからな!」
魔法陣から悪魔達が次々に出て来た。僕は神刀朧を手にして、瞬動術で陣の中心へ行き、刀を突き刺した。
「貴様…何をするんだ!」
叫ぶ紳士風の悪魔。
「退路を断ち、新手を呼び込まない。そんな感じだよ」
悪魔達を斬り刻んで行く。
「コガラシ、翼!みんなを護れ!」
現状の戦力では、僕しか対応出来ない。霊障だと思っていたので、悪魔払い系は僕だけであった。
「わかった」
「了解にゃん」
地下室な為、大規模な攻撃が出来ない。攻撃すれば、家が壊れ、みんなタダでは済まないだろう。
「令子は手を出すな。お前の攻撃は通じない」
令子はゴーストバスターであって、悪魔払いでは無いので、戦力にならない。
「え、そうなの…マズいじゃん」
一人じゃ無理かな?そう思い始めた時…悪魔達が灰に成っていく。
「亘、面白い相手と遊んでいるな」
エロ師匠が転移してきた。
「貴様!何者だ!」
紳士風の悪魔が叫んだ!
「コイツの師匠だよ。悪魔は頭が悪いのか?ここでの活動は禁止されているだろ?」
「何を言っているんだ?人間はエサだ!」
「そうだよ。だから、乱獲禁止にしてあるだろ?」
え?人間ってエサなのか?師匠の発言に驚く僕。
どさっ!
師匠が何かを悪達の前に投げ捨てた。あれって、紅髪の魔王様か?ボロボロな身体で、意識が飛んでいるようだ。
「魔王さまぁぁぁぁぁ~!貴様、何てことを!」
「だって、約束は破る為にある訳で無いって、わかってくれないから、魂に刻み込んであげたんだよ」
魔王様をボロボロにするって、それはそれで悪魔達は逃げ惑うが、退路は断ってある。
「亘。こいつらは貰って行くよ。エサにするから」
師匠と共に悪魔達が消えた。それと共に、地下室の澱んでいた空気が、軽くなった気がする。悪魔って、何のエサだ?
「今のアレは何?」
令子に訊かれた。
「聖域の賢者様だけど…」
「あれが?性癖の破綻したエロ神?」
頷く俺。って、女性陣全員が、既にボロボロになっている。師匠…喰ったんですね…
◇
コガラシと共に、女性陣を地上階へとあげた。短時間で一気にエナジードレインをしたようだ。師匠のエナジーは女性のオーガズム時に発生するエネルギーが主食で有る為、エナジードレインをされた女性は、身体的にボロボロになっている場合が多い。一人ずつ、浄化、清浄、着衣の後始末3連コンポを掛けていく。師匠の尻縫いをしておくのは弟子の務めだろう。
「あれって、女性の敵だよね?」
って、翼。
「だけど、一応正義の味方なんだけど」
苦笑いするしかない僕。朧もボロボロになり、震えながら、僕の魂に寄り添っている。当分、使えないかも。
「あのエロ神が師匠なの?ねぇ、亜樹君」
頷く俺。
「あれさえ無ければ、優しいアニキ枠なんだけど…」
こうして、令子の案件は幕を閉じた。
◇
師匠の活躍により、予定より早く終わった案件。狭霧、コガラシ、翼は東京観光をしたいらしいので、帰還は予定通り、明日になった。蘭たちの予定もあるので、それはそれで良いと思う。
俺は令子、アーシアと共に、別行動で図書館へと向かった。俺の起こしたことの顛末を調べる為にだ。
1年前の新聞から読み進めていく。だけど、出ていないかった。死体が無い殺人…事件にはなっていない。殺されたのは、闇の世界の奴らだったのか、失踪事件にすらなっていなかった。
「良かったじゃない」
って、令子。良かったのか?まぁ、人間の世界で裁けないから、地獄に堕とされたのは事実である。地獄では年季奉公も終わり、仮釈放の身である。
「俺のこと、恐い?」
「聞いた時はショックだったよ。でも、その後の事を聞いたから、問題無いかな」
令子に、鳥井亜樹としての歴史を語った俺。
「護りたい人を護る為だったんでしょ?護られた側から見れば、亜樹君は英雄だと思うな」
そういうものかな?アーシアは俺が褒められて、なんか嬉しそうである。図書館を出て、令子のマンションに戻る。
「また、来てくれる?」
令子に訊かれた。
「困ったら呼んでくれ。できる限り、対処するから」
「ありがとう♪」
みんなが戻るまで、令子と…
---佐藤美和子---
1年前…大切な人を失った。とっても大切な人を…彼は、私達を護る為に手を汚し続け、そして事故で死んだ。私は上司と共に、彼と彼の妹さんの死体を消滅させた。彼の意志を受け継いで。なので、世間的には彼らは失踪したことになっている。
私の元を去った彼…それは私が刑事で、犯罪者とは一緒になってはダメな職業であったから、彼は手を汚して私の元を去ってしまった。刑事が天職って私が言ったからだろう。
だけど、あの日以来、心にぽっかりと穴が開いてしまった。彼の死を知っているのは、私と私の上司、彼が信頼していた弁護士、探偵、殺し屋程度である。皆、彼が裏でしていた行為を黙認していた。そこに、彼なりの正義があったから。
そんな私に、有り得ない情報がもたらされた。
「彼が生きていた?本当ですか?」
彼の死を知っている弁護士から、信じられない話を聞いた。私はこの目で、彼の死体を見た。彼の死体を処理したのだ。なのに…
「信じられない話だけど、生きていたの。蘭が彼の元へ引っ越しをしたのよ」
無気力で、何も手に付かずに、死んだ様な生活をしていた私。そんな私を元気付ける為の偽情報か?いや、そんな事をいう人では無い。この人は…
「どこにいるんですか?この目で見て、確かめたいです」
「あやか温泉にある、ゆらぎ荘っていう下宿屋に住んでいるの。夏美ちゃんもいたわ」
彼と彼の妹が生きていた。私は二人の死体を見たのに…その死体が消えるのを見ていたのに…あれは、夢だったのか?
無気力だった私に、力が満ちていく。旅行カバンに当面の着替えなどを詰め、真偽を確かめに行く準備をしていく。もし、本当に生きているなら、傍にいたい。もう刑事を止めているし。一緒にいても問題は少ない。
そして、東京駅へと向かった。
◇
あやか温泉駅へと向かう。東京駅から特急に乗り、途中でローカル線に乗り継ぐようだ。ローカル線に載ると、学生らしい一団がいることに気づいた。その中の一人の顔を見て固まった私。そこには彼がいた。
他人の空似?1年前に見ていた顔がそこにある。死人とは思えない。仲間達と談笑をしているし。え?蘭ちゃんとデコちゃんもいる。私は吸い寄せられるように、彼に近寄って行った。
「あれ?!美和子…どうして、ここに?」
「美和子さん…」
彼と蘭ちゃんが私に気づいた。私の名前を覚えてくれている。彼に違いない。
「妃弁護士に聞いたの。どうして、生き返ったなら、知らせてくれなかったの?」
抑えている物が爆発しそうである。金髪の少女が私に抱きつき、私の暴走しそうな感情をクールダウンしてくれているようで、徐々に落ち着きを取り戻していく。
「誰?」
黒髪の少女が彼に訊いた。
「生前、つきあっていた女刑事さんだよ」
生前…それは生き返ったと言うことだ。
「もう、刑事は辞めたの。だから、傍にいても大丈夫になったのよ」
彼は立ち上がり、私を金髪の少女から受け取り、抱き締めてくれた。忘れられない彼の臭い。あの傷跡はもう無いけど、傷跡のあった部分を指で撫でた。
「天職だったんだろ?なんで、辞めたんだ?」
「亜樹君がいなくなって…精神をやられて…退職したんだよ」
「そうか…」
私達の間に、多くの言葉はいらない。そう、温もりを感じ合えれば…
◇
彼と同じ下宿に住むことになった。部屋は蘭ちゃんと同室である。デコちゃんが、別の部屋へ移動してくれたのだ。
「美和子さんが来るとは」
蘭ちゃんが驚いている。いや、私も驚いている。彼が生き返ったとは…あの一生消えない傷痕が無いけど、彼は彼のままだった。もう小説を書く能力は失われていたが、絵を描く才能だけは残っていて、三代目安芸桜の雅号を持っていた。
「美和子の家賃も出すよ。絵がそこそこの値段で売れるから」
って、家賃が月5万って安いだろう。1日2食付きで、温泉入り放題って。仕事も斡旋してくれた。地元の警察にコネがあるそうで、途中採用って形で、刑事に復職出来た。警察庁勤務っていう経歴が効いたようだ。
「亜樹君…ありがとう」
「いいって。美和子は女刑事がお似合いだよ。生前、たっぷりと迷惑を掛けたし」
生前という言葉を使う亜樹君。生き返ったという事実を受け入れているようだ。後、蘭ちゃんから忠告も受けた。亜樹君の一人称が変わったら、注意した方が良いと。生き返った時に、人格を二つ貰ったそうで、亜樹君の裏人格である神代亘って人物は、陵辱好きだと言う。どれだけ人格が変わるのか…それは興味が有るが、恐怖でもある。