---妃英里---
亜樹君にお願いをされた。生前に大変お世話になったので、新作の絵画を届けて欲しいと言われたのだった。先方は信じてくれるだろうか?眉唾すぎて、門前払いだろうか?単なる仕事なら、こんなにプレッシャーは無いのだけど、亜樹君の願いである。娘の目に適った男の願いである。叶えてあげたい。
先方の待つ部屋を訪れた。
「ご無沙汰しております」
目の前には現当主夫妻と、次期当主夫妻が並んで待っていた。
「お待ちしていました、妃先生」
にこやかな笑顔。信じてもらえるだろうか?
「これを何も言わずに、納めてください」
亜樹君に託された絵画を手渡した。彼の住んでいるゆらぎ荘が、桜舞い落ちる中に佇んでいる風景画である。
「これは…見事な…」
言葉に詰まる現当主。
「まさか…この構図…この落款…」
目を見開いて驚いている次期当主夫妻。
「妃先生…これをどこで手に入れたのですか?」
涙を浮かべた目で私を真っ直ぐに見据えている現当主。
「信じられない話ですが、作者に手渡され、生前お世話になった佐田家に納めて来て欲しいと、依頼されました」
誰かのツバを飲み込む音がする。天を仰ぎ見るような視線をする現当主。
「そうですか…彼は元気なんですか?」
「娘の話では、あの傷が無くなっていて、私達の知る彼よりも若いそうです。ただ、車椅子の必要無い身体に産まれ代わり…」
そこまで説明すると、涙がこみ上げて来て…言葉が続かない。これでは弁護士失格である。感情に飲み込まれるとは。
「そうですか。生まれ代わったのですか。この作品は素晴らし出来です。さっそく、コスモスの間に、三代目の作品として、展示しますよ。悟、頼めるかな?スタッフ達も見たいだろうからな」
「はっ、ただいま展示してきます。素晴らしい桜の風景画ですね」
次期当主である悟さんが、涙を拭ってから、絵画を受け取り、部屋を後にした。
---佐田紅子---
日課にしているコスモスの間での散歩。だけど…初めて見る絵画が展示されていた。これって…誰の作品?落款には『三代目』と刻まれていた。どういうこと?亜樹君に子供はいないはず。弟子もいなかった。じゃ、これは誰の悪い冗談なんだ?
吸い込まれて、その場に連れて行かれそうになる風景画。これは安芸桜の作品に間違いない。だけど、誰の作品だ?隅々まで見ていくと、建物の前にある池に映り込む私達家族の肖像…対になる岸辺には人影すら無い。だけど、池に映り込んでいる笑顔の私、お兄様、お義姉様、お父様、お母様…こんな風に花見に行ったことは無いのに…
「紅子も気づいたか?」
お兄様の声、振り返ると、お兄様がいて、あの絵画を優しいまなざしで見つめていた。
「現実には、あり得ない風景だよな。彼の目にはこう見えているのかも。現世をうらやましく見て描いたのだろう」
あり得ないことを言うお兄様。現世を見ているって、どういうことだ?彼はどこにいると言うのだ?
「今、裏付けをさせている。裏が取れて、確認が取れたら、家族旅行をする。彼が産まれ代わったと言う、あの場所へ…」
産まれ代わった?どういうことだ?
「お兄様、亜樹君に何かあったのですか?夏美ちゃんと取材旅行では無いんですか?」
お兄様の表情が曇った。それは、亜樹君の身に何かが遭ったってことだ。
「それは、ここでは話せない。紅子の部屋で話そう」
◇
真実を知らされた。なんで…どうして…涙がこぼれていく。1年近く知らされなかった事実。取材旅行にすら行っていないのか。お兄様が手渡してきた彼の遺作のデッサン画…見覚えがある。私が、お茶をお出ししたお客様だ。お兄様の話では、その日、彼は事故で…その死体は、いつもの方法で消し去ったそうだ。夏美ちゃんの遺体と共に。
「なんで、早く言ってくださらなかったのですか?」
「紅子には、そんな事実を言え無かった。すまない」
私に頭を下げるお兄様。そんな…
「で、彼は産まれ代わったそうだよ。蘭さん、デコさん、美和子さん、由美さんが、一緒に暮らしているってさぁ」
って、明るい声のお兄様。それは、確認が取れたってことか?
「どうやって、産まれ代わったかは定かでは無いが、一度会いに行こうと思う。眉唾な話故、深入りは出来無いけどな」
嬉しそうなお兄様の顔。それは、亜樹君に会えるってことか?
---鳥井亜樹---
お風呂タイムの後、勉強をしようと思ったのだが、ノートを学校に置き忘れたことに気づいた。取りに行かないとダメだな。ノートが無いと翼に勉強を習えないし。
夜の学校へ行く事にした。夜の学校は静かだと思っていたのだが、バリン、パリンと賑やかであった。音のする方へと行ってみると、真剣を手にした女性が、何かと戦っていた。あれって、魔物か?なんで、学校に?
魔物達を術で屠っていく。
「君は魔法使いか?」
戦っていた女性に訊かれた。
「まぁ、そんな感じだよ」
う~ん…この女性…能力者かな?嫌な予感がするんだけど…女性と話している間に、新手の魔物達が現れ、女性に向かって襲い掛かっていく。すかさず、術で屠っていく。キリが無い予感がする。
「そういう君は何者だ?」
「私は魔を狩る者だ、魔法使い君」
魔を狩る者?僕には魔を呼び寄せている者にしか見えない。しばらくすると、魔物達が湧いて、僕が屠っていく。
丑三つ時まで、攻防が続き、魔物が出なくなると、女性もいなくなっていた。
◇
「で、そのせいで、勉強も睡眠もしていないの?」
昨夜の出来事を、朝風呂で披露した俺。心配そうに、麻衣に訊かれ、頷いた。
「魔を狩る者って、何者なの?」
翼に訊かれた。
「魔物を召喚して、狩っているように見えた。彼女は何者だろうな?学校の制服を着ていたけど…」
放課後、部室には行かずに、図書館室へ翼達と向かった。過去にそういう事例が無いかを調べる為である。
「無いわね」
無いねぇ…次に、歴代の卒業アルバムに目を通していく。昨晩の女性を探す為である。現在の在校生では無い気がする。でも、卒業生にもいない。
「真剣を手にしていたのよね?」
千紗希が剣道部のメンバーの顔写真を撮ってきてくれた。でも、そこにはいなかった。あぁ、現場となった廊下の窓ガラスは総て割れていた。そのことから、朝風呂メンバーは全員、俺の話を信じてくれたのだ。
「わかったよ~」
って、結衣が走ってきた。
「平塚先生が思い出してくれたよ。5年前にもあったって。で、その生徒は退学処分になったそうだよ」
実在したのか…結衣が静から写真を借りて来てくれた。あぁ、この女性だと思う…ちょっと雰囲気が違うけど…
「その生徒は今どうしている?」
「う~ん…」
結衣が悩み込んでいる。問題があったのか?
「それがねぇ、何者かに強姦されて…」
お決まりのコース…死人に口無しかぁ。
「で、どこでやられたんだ?」
「発見されたのは、あの現場だって…退学処分になったのに、懲りずに学校に侵入して、何者かに…」
学校内でやられたのか?それは、学校として汚点だから、記録には残していないってことか。退学処分だから、卒業アルバムにも載っていないようだ。
「犯人は特定されたのか?」
「それがねぇ…」
結衣は雪乃を一瞬見た。まさか…でも、年齢的に合うなぁ。5年前に高校1年であれば、20歳前後である。アイツらの闇は終わっていないのか。
「そうか…祐一を見つけたから、現れたのか…」
アイツら絡みから、答えを見いだした俺。
「何の為に?」
翼に訊かれた。
「復讐だろうな。浮遊霊になって、この辺りにいて、鎮魂されて昇華されていく祐一の魂を見つけて、彼の死を知ったのだろう。そうなると、死因は祐一絡みってことだろうな」
「悪霊化する前に、どうにかしないとダメだな」
狭霧の言葉に頷く僕。
「今夜から、見回りするか。夏凜と狭霧も来てくれ。まゆこも非番なら来て欲しい。能力のない者は、夜の学校へは近寄るなよ」
頷くみんな。
◇
一応、阿良々木警部に調べて貰った。結果、川澄舞は死亡していた。あの廊下で死体で見付かったそうだ。それは惨たらしい死体だったという。着ていた物はボロボロで、身体の一部が欠損していたそうだ。それに関しては、野犬に喰われたのだろうと結論付けたそうだ。だけど、校舎内で野犬は無いだろうに…
事件の容疑者は浮かんだらしいが、有能な弁護士と政治的な圧力の前では、地方警察は無力だったそうだ。結果、川澄舞は高校を退学した不良である為、不良仲間達になんらかの報復を受けたと判断され、自業自得だと地元紙の記者は結論付けたらしい。
『たぶん、その記者も雪ノ下の手先だろうな。そんな根も葉もない噂により、川澄家の人々はこの地を追い出され、川澄家所有の麦畑は、マンションになったんだ』
賢者様の声…立ち退きをさせる為に、娘に何かしたのか。相沢家、月宮家に共通する何かを感じる。阿良々木警部にその事を伝えると、同意された。
雪ノ下母は、手段を選ばない女帝のようだ。未だに行方が掴めないらしい。
◇
真琴によると、魔狩り人である川澄舞は、相沢祐一の友達だったようだ。そこにつけ込んで、陽乃が何かをしたのだろう。何をしたんだ?
「で、その女の能力はなんだ?」
夏凜に訊かれた。
「魔物召喚だよ。自分で召喚した魔物を狩っていただけだ」
「何の為に?」
狭霧の疑問は、僕の疑問でもある。
「わからない。ただ、理由は有ると思う。理由も無く、そんな能力は身に付かないからな」
元々、なんらかの能力があった可能性はある。ただ彼女の場合、召喚術というより『強奪』に近い気がする。近くにいる魔物を呼び寄せた感じがするのだ。一般的に、召喚術は使役した魔物を呼び出す為の物である。彼女の場合、狩る為に召喚している為、使役していない魔物を召喚していることになる。
そして、たぶん…呼び出した魔物を狩ることが出来ずに、魔物達に陵辱されたのかもしれない。陽乃が何かをして…
0時を回った。空気が微かに鳴動している。
「来るぞ!」
狭霧と夏凜は得物を構えた。
バリン!パリン!
窓ガラスが割れ始めた。2階の廊下のようだ。3人で現場へと向かった。そこでは舞が魔物達を狩っていた。窓ガラスを突き破って出てくる魔物達。突き破って?外には魔物はいなかった。舞の影からも湧き出す魔物。昨夜よりも湧き出る魔物の数が多い上、湧き出る間隔が狭い。
夏凜、狭霧、僕が参戦をし、僕は舞の元へ向かう。廊下の角を曲がった先に舞はいた。
「犯したりないのか?このド変態が!」
魔物達が舞を制圧し、舞を陵辱していた。迷わず、屠っていく。だけど、ボス格は簡単には屠れなかった。なんだ、コイツ…
「貴様は何者だ?ほぉ~。中々の霊力持ちだな。お前も喰うかな」
舞はコイツに喰われたのか。霊力を奪う為に…お札での封印。これも効かない。コイツの正体はなんだ?聖水…効かない。今までに遭遇したことの無い種族のようだ。
「亘!そいつは、ゴブリンロードよ」
って、九重様が転移してきた。ゴブリンロード?この世界にいないだろうに…
「転移門で異世界から転移させたのね」
あぁ、なるほど…そうなると、物理攻撃しか効かないのかな。ゴブリンロードは魔法に対する耐性持ちだと、聖域で習った。神刀朧を使いたいのだが、エロ師匠に喰われて、まだ使い物にならないようだ。では、バトンソードで応戦だな。
ゴブリンロードは斧による打撃である。斧を振り上げた瞬間、瞬動術で懐に入り込み、イチモツをまず使い物に出来なくしておく。
「貴様…」
斬り落としたイチモツを『地獄の業火』で灰にしておく。これで、舞を襲えないだろう。イチモツを斬り落とした切断面に、九重様が毒矢を撃ち込んだ。
「貴様ら…」
「なんだ?こんなのいたのか?」
エロ師匠が九重様の隣に転移してきた。師匠の張り手一発で灰になっていくフロアボス。
「じゃ、帰るよ」
師匠は転移していった。弱っている女体に目をくれないって、忙しいようだ。俺は、舞の元へ駆け寄り、状態を確認する。既に心は折れているようだった。あの真剣は無い。気力で発現させていたのかな。
「おい、大丈夫か?」
「君は…魔法使い君…」
九重様の能力で、神社の敷地内に転移した俺、九重様、舞。強力な結界で護っているここなら、舞は消えないはずである。
「話を訊かせてくれ。状況によっては、祐一の元へ送ってやる」
「祐一…君…逢いたい…」
舞の視線は、どこにも焦点が合っていない。あまり時間が残っていないようだ。
「どうして、こんなことになったんだ?」
「祐一君が行方不明になって…陽乃が降霊術をするって…それに参加したら、あの魔物に目を付けられて…」
そうか、いい加減な方法で降霊術をしたのだろう。いや、転移門を使ってヤッタのか。そのせいで能力者の舞にゴブリンロードが憑依して、仲間達を呼び込んだのかもしれない。
「なんで、校内で死んでいたんだ?」
「校内?そんな筈は無い。私は雪ノ下家の儀式の間で、襲われたんだから…」
そうなると、死体遺棄か。見せしめの意味である舞の死体は、発見されないと意味がないから。
「ねぇ、祐一君は、どこ?」
「今、送り出してあげるよ」
本殿の儀式場に、舞の魂を連れて行き、浄化、鎮魂、昇華の術を発動していく。煤けていた舞の魂は純粋無垢なる魂になり、天へて昇華していった。
「無事に送れたか?」
夏凜と狭霧がやって来た。
「あぁ、送れたよ」
舞が旅立った大空を見上げた僕。
◇
「ねぇ、天使はどこにいるの?」
天使を探す少女の夢を見た。街中を探し回る少女。
「どうして、探しているんだ?」
俺は少女に訊いた。
「天使のストラップ…願いを込めると、奇跡が起きるんだよ。祐一君が言っていたんだよ」
◇
妙な夢を見て目覚めた。右に狭霧、左に夏凜、上には幽奈が憑依したアーシアが載っていた。ここって、神社の仮眠室か…起こさないように抜け出して、アーシアと共に、男湯へ転移した。
温泉でアーシアと抱き合って、のんびりする。アーシアはスヤスヤと寝ている。幽奈も寝ぼけていない。俺も気持ちが良いし、三者両得だな。
いつもの時間になると、全裸の女性達が入浴しに入って来た。何度も言うが。ここは男湯である。
「やっはろー♪」
今朝の一番乗りは、結衣だった。こいつ、朝から元気だな。
「うっ!由比ヶ浜先輩に負けた」
くやしそうないろは。
「ケダモノ君、解決したの?」
俺の隣を陣取った結衣に訊かれた。
「舞に関しては解決した。だけど、根本は解決していない。聖域から陽乃は出所したらしいのだが、行方不明なんだ。雪ノ下母と逃げているのかもな。で、陽乃がアレコレ暗躍していたようなので、後何をやらかしたのかを訊かないとダメだ」
あの女がしでかしたことを、総て解決しないと、この案件は終わらない気がする。
「警察が捜して見付からないんだよね?」
「魔物に喰われたかな?」
「可能性ってあるんですか?」
いろはが割り込んで来た。
「ある。転移門を降霊術の道具に使っていたようだから」
異世界から呼び出した魔物は、あの1体だけなのかも、わからないし。基本、異世界の魔物は、エロ師匠で無いと倒せない。僕の能力は、この世界の魔物に対して、効果があるだけだからだ。
「おはよう」
蘭、デコ、翼、雪乃、ひたぎ、麻衣がやってきた。
「あぁ、おはよう」
今日はアーシアがいるので、誰も無茶をしない。ヒール持ちのアーシアがいるってことは、俺が疲れているってことであるからだ。だけど、そういうローカルルールに縛られない自由人もいる。
「やぁ、先輩!今朝も元気そうですね」
って、駿河が俺の前に立ち、妙なポージングをしてアピールしている。すかさず、ひたぎが制圧してくれた。その後も火憐が翼に制圧されているし。まぁ、概ねこの2名だけであるが…
お風呂タイムを終えて、部屋に幽奈入りのアーシアを寝かし付け、学校へ行く支度をして、朝飯に向かった。
◇
「亜樹!夏凜はどうした?」
ホームルームの時間…雪姫先生は開口一番にそう訊いてきた。
「夏凜?たぶん、神社の仮眠室でないかな?」
「起こさなかったのか?」
「安眠しているのに、起こせないでしょ?」
って、まだ寝ているのか?あの二人は…
「お前は、妙なところで優しいな」
って、心外である。俺はいつも優しいケダモノである。って、言うか、ホームルームって、俺との会話だけで終わっていいのか?
放課後…狭霧と夏凜に詰め寄られている。
「なぜ、起こさぬ」
「いつも言っているだろ?」
二人共午後から登校したらしい。所謂、重役出勤をして、先生に大目玉を食らったようだ。
「スヤスヤ寝ているんだもの。起こすのが忍び無いと言うか」
「頼むから起こしてくれ。遅刻の常習犯になりつつあるんだ」
って、狭霧。まぁ、そうだな。毎朝、置き去りにしているし。
「おい!狭霧と同じ扱いにするな」
って、夏凜。
「不公平は良くないでしょ?」
今日はお客さんはいないようだな。って、二人の小言は、まだまだ続くようであるので、帰れそうもないけど…