---美神令子---
原因不明の病気で苦しむ女性。有名な病院でたらい回しにされ、藁にも縋る想いで、うちの除霊事務所へ来た。
「どうでしょうか?」
何らかの呪いを受けているようだ。何の呪いだ?
「誰かに恨まれていますか?」
「あぁ、俺が恨まれているが…」
女性の連れの大男が声を上げた。彼の方が恨まれているようだ。
「これ、病気では無く、呪いを掛けられています」
「呪い?誰に?」
「誰にかはわかりません。呪いが名札を付けている訳で無いですから」
「どうすれば、治りますか?」
う~ん、私は除霊は得意だけど、呪いは守備範囲外だ。誰かいたっけかな?う~ん…そうだ、亜樹君なら可能か。蛇の呪いを外したとか言っていたよな。
「知り合いに専門家がいます。その彼に依頼してみてください」
まだ、冬休みまで遠い。あやか市へ行ってもらうか。
---鳥井亜樹---
令子から依頼が舞い込んできた。なんらかの呪いを受けた女性の呪いの解除だそうだ。月野木病院への入院を勧めておいた。ゆらぎ荘に来られても、困るから。除霊、解除系は幽奈と真宵、真琴を危険に晒し兼ねないし。
件の女性が転院してきたと知らせを受けて、月野木病院へと向かった。
「どんな感じ?」
まゆこに訊いた。
「何らかの呪いだと思うわ。全身を検査したけど、病気などでは無いわ。あと、憑依もされていない」
呪いって言っても、色々あるからな。女性の元へと向い、病室に入った俺。付き添いの大男が俺を見て固まった。この大男は俺の生前の知り合いだった。俺も記憶の封印が一部剥がれ落ちた気がした。
大男の名前は冴羽リョウ。最強のスイーパーである。リョウなら恨みを一杯買っていそうだ。女性の方は、槇村香。リョウの相棒である。彼女は恨みを買うとは思えない。とばっちり確定だな。
「亜樹…生きていたのか…」
俺に声を掛けてきたリョウ。
「亜樹君…まさか…」
香さんの顔から血の気が失せていく。
「いや、一度死んで、地獄で懲役600年ほど喰らって、現在仮釈放中です」
と、正直に告白したのだが、
「「はぁ?」」
って、なるよな。普通…信じない者にとって、信じられない事だし。
「どういうことだ?」
リョウに訊かれた。
「答えたまんまだよ。事故で胸を撃ち抜かれてね。死体は美和子と冴子が、処分してくれたそうだ」
美和子がそう言っていた。冴子とは、リョウのセフレにしたいランキングで1位の女性である。
「処分の件は、冴子から聞いた。だが、こうして生きているのは、どうしてだ?」
生き返るって現象は、説明のしようが無い気がする。俺も原理は理解していないし。
「俺であって、俺では無いんだよ、リョウ。まぁ、それは、後にしよう。まゆこ、香さんを全裸にして」
「おい!なんで、全裸にするんだ?」
動揺するリョウ。実は香さんにホの字だったりする。
「呪いの種類を確定する為だ。あぁ、出て行ってくれかな?それとも香さんの全裸を鑑賞する?」
「見ない!」
リョウは部屋を出て行った。入院着を脱がすと下着類をしていなかった。全裸の香さん…相変わらず、美体である。う~ん、あれこれしたいけど…邪な気持ちをアッチへ置いて、呪いの種類を見極めていく。これって…
「まゆこ…これって、蛇じゃないのか?」
「そうなの?」
これって、まゆこには見えないのか。香さんの身体を蛇がしめつけている。その頭部は股間に到達していて、今にも洞窟に入りそうである。先端が二股に分かれている蛇の細長い舌は、香さんのクリを弄んでた。これは、マズイ。すぐに、前回と同じ処理をする。『フルカウンター3倍返し』で、蛇を術者の元へお帰りしてもらった。
「あれ?締め付け感が消えた」
急に身体的なストレスが無くなり、呆気にとられている香さん。
「まゆこ、しばらく、経過観察の入院を頼む」
「わかった。手続きしておくわ」
◇
病室を出て、リョウに呪いを解除した事を伝えた。
「そうか…それで、お前は、どうやって生き返ったんだ?」
どうやって?エロ師匠によってなんだが、ここの住民では無いリョウに言っても、分かってくれないか。
「閻魔大王の上司に、司法取引を持ちかけられて、承諾したんだよ」
「ふざけるな!俺は真面目に訊いているんだぞ」
今にも殺しかねない勢いのリョウ。そんなことを言われても…
「だから、真面目に答えている。信じるか、信じないかはリョウの好きにしろ」
「お前は人間なのか?」
疑われるよな。死後の世界を信じない人には。まして、蘇りの現象は更に信じられないだろう。
「概ね人間であるよ。細かく言うと違うと思うけど」
俺の新しい人生は中学卒業以降から始まった。そういう意味では交配を経て産まれていない訳で、厳密には人間では無い。それは俺も、亘も分かっている。
「概ね?」
「魂は人間の魂だよ。身体は違うけど…」
「身体は何だ?」
「それは、蘇生してくれた人に訊かないと、わからない。ただ、前世の記憶はあるが、今世については、中学卒業以前の記憶はまるで無いに近い」
何かを考えるリョウ。
「亜樹は亜樹なのか?」
厳密には違うが頷く俺。厳密に言うと、亘がメインで、俺はアシストであるから。ただ、日常生活に於いては、亘は対処出来ない為、俺がメインになっているにすぎない。修行漬けだった亘は日常生活って物を知らないから。
「冴子は、その事を知っているのか?」
冴子とは、美和子の元上司である警察庁のキャリアである。前世に於いて、俺は関係をもっていた。
「どうだろうな。目暮警部の耳には入っているから」
美和子の復職理由を訊きに、先日、目暮警部の部下が来ていたし。
「今、何をしているんだ?」
「高校生だよ。生前、まともに高校に通っていなかったから」
入退院が多かった気がする。高校生探偵として名高い工藤新一に顔がソックリだった為、工藤新一を狙う組織に狙われる嵌めになったり、今とは違うハードボイルドな世界で生きていたような気がする。
「彼女は出来たのか?」
特定の女性は夏美だけでいいと思う。その為の取引だったし。亘はまだ見付からないテンコさんだろうし。
「セフレは一杯いるよ」
「はぁ~?」
俺の答えに、ずっこけるリョウ。まぁ、斜め上を行く答えだな。
「相変わらず、ハーレムなのか?」
「性欲が無いのが難点だよ」
「まったくお前と来たら…で、香を襲った奴は?」
「分からないよ。でも、呪いを3倍にして返品をしたから、死ぬか霊能者を頼るかだろうな」
襲った奴は、呪い返しをされたと気づくはずである。正式な知識を持っていればだが。
「そうか。わかった。香を狙った奴は、消すよ、しばらく、香を頼めるか?」
「当分、経過観察の為の入院だよ」
「なるほど」
リョウは単身、アーバンジャングルである大都会へと帰って行った。
---野上冴子---
リョウから有り得ない事実を知らされた。亜樹君が生きているって…。私は彼の遺体が消える場面に遭遇している。彼の死を揉み消す行動も取った。なのに生き返ったって?死体が無いのに、どうやって?
「あやか市にある月野木病院に、香が入院している。そこで確かめてみろ」
リョウの言葉を受けて、職場に休暇を申請し、あやか市へと向かった。
取り敢えず、あやか警察署に顔を出しておく。警察庁のキャリアとして、後で問題になるとマズいから。表敬訪問という挨拶を終え、署長室を出ると、有り得ない人物と遭遇した。
「美和子…」
「冴子さん…どうして、ここに?」
私と一緒に亜樹君の死体を処分した元部下である。ただ、亜樹君の死体が消え去った後、半狂乱な状態になり、静養する為に警察を去ったはずなのだが…
「美和子は、今何をしているの?」
「ここの警察で刑事をしています」
嬉しそうに言う美和子。生まれ変わったら、二度と刑事にはならないって、言っていたのだが、どうしてだ?
「なんで、刑事に復職したの?」
「亜樹君に斡旋して貰いました。彼は昼間、高校生しているんで、昼間やることが無いので、私も9時5時で働いているんです」
高校生している…生き返ったのは本当なのか…
「あぁ、由美もここの交通課で働いていますよ」
由美とは、美和子の同僚だった女性警官である。
「どうして?」
「亜樹君の傍にいたいからです。今度こそ、護りたいから。後、彼の成長を見守りたいからです」
ズルい…私も…傍に居たい。
「彼に会えるか?」
「えぇ、同じ下宿に住んでいますから」
ズルすぎる…同じ屋根の下だと…添い寝し放題ではないか。
「でも、生前の亜樹君ほど、性欲は無いですよ」
生前…それは死んだのは事実ってことか…
「まぁ、その分、車椅子の必要性を感じないくらい、元気ですから問題ないかな」
私の知っている鳥井亜樹は、体力も筋力もない奴だった。それって別人では無いのか?会ったら、工藤新一ってオチもあり得る気もするが…
美和子の仕事が終わるのを待ち、由美と共に3人で下宿へ向かった。彼女達の下宿先は温泉街にあった。建物は見た目、温泉旅館そのものなんだけど…
「あれ?冴子さん…どうしたんですか?」
毛利蘭に声を掛けられた。彼女も同居しているのか。
「知り合いが月野木病院に入院していて、見舞いを兼ねて、訪れたのよ」
「あぁ、槇村香さんって人ですか?この前、亜樹君が解呪したんですよ」
頷く私。彼は本当に生き返ったのか。
「あ?冴子…冴子じゃないか」
彼の声。振り向くと彼がいた。あの傷は無いが、工藤新一では無く、彼で間違いは無い。言葉を掛けるより早く、彼に抱きついた。
「仕事しすぎか?胸が小さくなったような」
私の身体を服の上から堪能している彼。
「しばらく、ここで養生していきなよ」
耳元で囁き、耳タブをハムハムしてきた。それだけの刺激で、言えない場所に湿り気が帯びていく。
「1週間、休暇をゲットしてきたわ。色々訊きたいことがあるの」
「じゃ、俺の部屋に逗留しなよ。夏美もいるし」
夏美ちゃんも一緒に生き返ったのか。寄り添うようにして死んでいた二人の姿が、脳裏に浮かんで来た。とても幸せそうな表情の二人の…
彼の部屋へ通され、部屋着に着替えた。温泉旅館風の浴衣である。
「まずは温泉でも入って、疲れを取ってくれば?美和子、由美、一緒に行ってあげて」
「わかったわ。さぁ、行きましょう、冴子さん」
二人に温泉へと連れて行かれた。亜樹君と話したいんだけど…
---鳥井亜樹---
確定した無限領域の捜査が行われた。その結果、迷宮に迷い込み、出る事が出来なかった人達の亡骸が多数見付かったそうだ。
雪ノ下市は、既にあった行政区域を、3つほど飲み込んだそうだ。それなのに、誰もその事を気にしていない。怪異の為したことは、人間は無条件に受け入れてしまうようだ。
成長し続けた街は、ひなびた農村、漁村を近代的な街にしたようで、観光地になりつつある。その収益は雪ノ下開発を乗っ取った九鬼財閥へと流れ込み、師匠の元へ還流しているらしい。
で、無限領域が確定したことにより、怪異の力は消え、人間の知るところとなった。ゴーストタウンのような入居待ちの多数の住居。格安で九鬼住宅が販売することになるそうで、入居者は直ぐに見付かるそうだ。
破綻をした雪ノ下グループによる、無計画な都市開発、役人を使った行政区の変更など、次々に明るみになる雪ノ下女帝の豪腕振り。どこに潜伏しているのだろうか?女帝の右腕だった敏腕弁護士もどこかに雲隠れしたらしい。
で、あの空き地なんだが…小町、いろはの調査チームが調査してくれるそうだ。だけど、あの師匠の言い方は、師匠絡みだと思うんだが…問題無いって言う辺りがねぇ。
---野上冴子---
毎日温泉三昧な生活の美和子と由美。贅沢だ!
毎日亜樹君と会話をしている美和子と由美。理不尽である。
「ここに住みたいなぁ」
呟く私。
「警察庁のキャリア様だと、通勤がキツいですよ。休みが取れたら、いらしたらどうですか?」
って、美和子。そうなんだけど…
「ここに慣れると、都会に行けなくなりますよ。テレビ無いし」
テレビが無い?温泉地と言えば、コインを入れて見るテレビでは無いのか?話を聞くと、テレビ放送の電波が届かないらしい。スマホの電波は、基地局数カ所でカバー出来ているそうだけど。
「ここって、人里とは違うから」
話を聞くと、信じられない事ばかりである。人外と呼ばれる人ならぬ者達との共存エリアであるという。ここの大家は永遠の15歳の座敷童だそうだし。
「そういうのを信じない人は、ここに永住は無理ですよ」
警察署のある隣の駅は、人間のみが住むエリアで、緩衝地帯らしい。
「まぁ、私も当初は信じられませんでしたし」
と、美和子。でも信じないことには、亜樹君の存在説明が出来ないことに、気づいたそうだ。
「こんなエリアだから、亜樹君も夏美ちゃんも存在出来るのかなって」
非科学的なことは、信じない私。だけど、信じないと亜樹君といられないのか…う~ん、わかっていても難しい。
「不便なこととかは無いの?」
ユートピアだとしてもデメリットはあるはずである。
「不便?感じたことが無いです。署のあるエリアに行けば、大抵の物があるし。有るとすれば、亜樹君の小説の新作がもう出ないことかな」
それがデメリットか。不便では無いようだ。通勤を除いて…東京まで片道3時間は見ないとな。乗り継ぎの時間があるから。
「まさか、ここから通勤する気ですか?」
由美が驚きの声を上げた。それも有りでは無いかな。緊急の呼び出しには応じられなくなる為、ダメだと思うがね。
◇
食事…旅館風であった。大広間で毎日食べているそうだ。何故か、亜樹君以外は皆女性である。ここでもハーレム生活なのか?亜樹君的には自覚は無いだろうけど。
「ここの警察は暇って言えば暇ですよ。人外絡みの事件が多くて、警察では対応しきれませんから」
って、美和子。その為、人外対応の組織が自警団のように活動しているらしい。亜樹君も能力者の括りに入り、警察の協力者である高校生探偵をしているそうだ。その為、美和子、由美への仕事の斡旋はスムーズに出来たらしい。そういえば、立て続けに発覚した雪ノ下家の犯罪。それも亜樹君が解決していったそうだ。
「俺の手柄では無いよ。仲間達の協力があったからだ」
って、亜樹君は手柄を認め無いらしい。
「まぁ、私達の英雄であることには、変わりは無いし」
英雄?その言葉に違和感を覚えた。そう、この世界の裏で起きていることは、一般人の知るよしも無いことであるから。