---鳥井亜樹---
テンコさんと亘が無事に再会できた直後、俺は俺の身体から弾き出されていく。完全に弾き出される迄の僅かな間に、俺の生きた歴史が走馬燈に映し出されていく。本当にロクでも無い人生だった。後悔ばかりである。
完全に弾き出されると目の前は闇であった。夏美の気配だけを感じ、夏美の元へたぐり寄せられているようだ。
---鳥井夏美---
テンコさんと亘が無事に再会できた後、私の前に光る玉が近寄って来た。お兄ちゃんの生きた記録だと、直感した。その玉は私の身体に引き寄せられ、私の身体に吸い込まれて行く。
これでお兄ちゃんは、私だけの物…私の中にだけ、お兄ちゃんの記憶が生きるんだ。
私の身体にお兄ちゃんが定着すると、私は天へと昇華した。これから転生をして、生まれ変わるようだ。転生した世界にお兄ちゃんがいないのは、物凄く寂しい。
----幽奈---
私が亘君と本当の意味で再会した場合のビジョンを、師匠に見せられた。
「亜樹君は完全にロストするんですか?」
私の予想とは違っていた。ロスト…何の悪い冗談だ?
「天狐よ、冗談では無い。これが現実だ」
現実?
「いいか。僕は全知全能では無い。出来る事に限りがあるんだよ。亜樹とは契約をしている。亘が天狐を認識すれば、亜樹の魂は亘の物になるとな」
魂を奪われれば亜樹君はロストする。亘君の魂として、この世界に戻ってきた亜樹君。
「だから、どちらかを選べと言っただろ?二人同時には救えない。救えるのは一人だよ。魂は1つしか無いんだから」
そうですが…私の選択で1つの人格が消えるって、悩みます。
「まぁ、悩めよ。これも天狐、お前への罰の内だ」
聖域における大罪を犯した私。その罰が、この2者択一だとは…
「私はどうすれば、良かったんですか?」
師匠に…聖域の賢者様に縋り付いた。
「亘が人札になった直後に、亘を連れて駆け落ちだろうな。もう手遅れだが」
手遅れですね。確かに…私の選択ミスは、そんなに前のことだったのか。
「そうすれば、亘は神代家のバカ達に、殺されることもなかった」
後悔後を絶たず…
「そう…何もかもが手遅れだ」
私は誰も救えないのか…
「いや救える。但し、亘か亜樹のどちらか一人だ。お前が救えるのはな」
二人のうち、一人を斬り捨てろと?
「何度も言う。魂は1つしかない。同時に二人へ与えることは出来ない。与えられるのは一人だけだ」
そんな…
「裏技があるとすれば、夏美の魂を奪うくらいだな」
悲しみの連鎖が、止まらない。そんなことは出来ない。
「人札の術は、そういう物だ」
私は無力なのか…最強の霊能者と言われたのに…恋い焦がれる少年を助けられないばかりか、一緒にいたいと思える少年すら救えないとは…
「天狐よ、人間の出来る範囲なんて、その程度だよ。悩むな」
「しかし…」
「どうしてもって言うのなら、修羅の道へ進み、夏美の魂を奪え!」
それをすれば、私は亘君と一緒にはいられない。
「そうだな。それをすれば、お前は聖域から追放で、賞金首になる。亘、亜樹に殺されるのも一興か」
いやだ…彼らと一緒にいたい。もっと長く…
「本当に、お前はわがままだな」
そうですが、何か?この後に及んで開き直った私。
「開き直りか?う~ん…まぁ、もう1つ手立てはあるんだが…それは教えて上げない♪」
手立てがある?なんで、そんなに楽しそうに言うの?まさか、ソレを目指しているのか、この鬼畜な師匠は…
「まぁ、がんばれや♪」
そう、言い残して師匠は消えた。その残された手立てを目指しているのか、師匠は…わがままな弟子である私の為に…