文化祭2日目…生徒の父兄達が押し寄せて来た。評判が評判を呼び、俺のいるクラスの模擬店は大忙しらしい。俺はその模擬店への出禁を喰らっていた。う~ん、何故?
「あぁ、いたいた。お~い、ケダモノ君♪」
嬉しそうな結衣の声。振り返ると、大人の女性を同伴していた。
「こいつだよ」
って、その女性に俺を紹介した結衣。
「うちの結衣がいつもお世話になっています」
って。うん?結衣の母親か?
「お母さん、違うって!私がお世話をしているのよ」
お世話?なったことは無い気がする。
「ふふふ、結衣、顔が赤いわよ」
「そんなことは…」
あぁ、耳まで朱いぞ。
「お~い!亜樹くぅ~ん」
って、今度は千紗希の声だ。振り返ると、千紗希も大人の女性を同伴している。
「母さん、彼よ」
「ふ~ん、千紗希にしては、いい男を手に入れたわね」
え?千紗希の手に墜ちていないんですが…
「そ、そ、そんなんじゃ無いわよ~」
「彼は紳士的なの?」
ケダモノですが、何か?
「うん、まだ手を出してくれないの」
「うちの娘は、魅力無いですか?」
千紗希の母親らしき女性に訊かれた。
「魅力はあります」
幽奈がストレスなく、憑依出来るのは魅力である。
「そう」
「あぁ~、先輩♪」
こんどはいろはの声だ。
「先輩、ちょっと良いですか?」
俺の腕を抱き締めて、どこかに連れて行く。
「お母さん、彼です」
って、いろはの母親らしき女性の前に…そんな感じで、知り合いの女性陣の母親達への面通しを受けた俺。母親達の顔が同じに見える。イカン、人間の顔の認識率が下がってきているのか。そもそも、人混みは苦手だ…部室に逃げ込むかな。モブ化をして、こっそり部室に逃げた俺。しかし、部室には先客がいた。
夏美、こゆず、真宵、真琴が、屋台から買ってきた粉物で、パーティーをしていたのだった。
「縁日の食べ物、おいしいです」
って真宵。縁日っぽいが、縁日では無い。
「りんご飴もいけますね」
って真琴。それは粉物では無いのだが…夏美とこゆずは、黙々と食べている。今日は幽奈は来ていないようだ。師匠に呼び出されたらしい。ここで、まったりとするか。
暇なので、うたた寝をしてしまったようだ。誰かに揺り動かされ、起こされた。起こした人物を見て、固まる俺…バニー姿の麻衣だった。
「どう?似合う?」
「何しているんだ?」
また、透明人間に戻ったのか?
「うちのクラス、バニーズカフェで、みんなバニー姿なのよ」
それは、狭霧もか?興味有る。
「狭霧も火憐も、まゆこもか?」
「はい、お客さんゲットですね」
って、腕に抱きつき、お持ち帰りをさえれた俺。さすが上級生、俺の心を掴むのがうまい。
バニーズカフェに入ると、狭霧、夏凜、まゆこがバニー姿できびきび働いていた。
「何?亜樹じゃないか…麻衣か、連れて来たのは?」
「客引きして来ました♪」
狭霧、まゆこが固まっている。夏凜はあまり動じていないようだ。
「指名していいの?」
麻衣に訊いた。
「う~ん、それはお店が違うと思うな。ここは喫茶店よ」
指名が出来ないようだった。取り敢えず、狭霧の姿を脳内保存だな。
「おい!亜樹…そんな真剣な眼差しで見るな…」
狼狽えている狭霧。おかまいなく。
「で、注文は何かな?」
「狭霧の女体盛り」
「無いですよ。では、珈琲でいいですね」
女体盛りが珈琲に化けた。ここの珈琲は、メジャメーカーのブレンドのようだ。非も無く可も無くって感じである。少し雑味が足り無い気がするなぁ。
「麻衣、蒸らし時間を、もう少し延ばすと、もう少し美味しくなるぞ」
って、アドバイスをした。
「そうなんだ。裏方に伝えてきます」
麻衣は文化祭を、楽しめているようだ。
「亜樹!私の姿は脳内保存するなよ」
って、夏凜。
「あぁ、全裸だけを保存してあるから問題は無い」
「はい?」
再生能力持ちの夏凜は、もうこれ以上体型の変化は起きないので、成長過程を楽しむ対象にはならない。
「まゆこもいいなぁ…」
◇
帰宅して、今日の情景をスケッチブックに描いておく。
「おい!絵に残すなよ~」
って、狭霧。
「狭霧、かわいかったよ」
「そんなことを言うな…って、なんで、シースルーのバニー衣装なんだ?」
「芸が細かいでしょ?」
真っ赤な顔で固まる狭霧。まゆこも夏凜もシースルーで、麻衣だけバニー姿である。
「おい!別の催しをした印象がするだろ?」
狭霧の小言をスルーする。
「あれ?こんな顔の生徒、いないぞ」
って、狭霧。そんな訳は無い。いたから、記憶に残っているんだが…
「誰だ、この子?」
狭霧が頭をフル回転しているようだ。マジにいないのか?そうなると、透明人間がまだいるのか?麻衣にも確認したが、クラスメイトにはいないと言う。
夏凜、まゆこにも確認したが、やはりいないという返事だ。誰だ、この子は?バニー姿で、給仕をしていたのだが…
◇
文化祭最終日…麻衣達のバニーズカフェにいる。透明人間を確定する為である。
「みんなに訊いたけど、わからなかったわ」
って、麻衣。
「麻衣以外にも透明人間がいるんだと思う」
「そうなんだ。ねぇ、助けてあげて」
「そのつもりだよ」
だけど、中々見付けられない。いなかったのか?記憶違いだったのか?はて?う~ん…
「おい!起きろよ」
って、狭霧。あぁ、寝てしまったようだ。頭脳労働向きでは無いからな。しかし、閃きが舞い降りて来た。
「そうか…なぁ、この子がサーブしている女性に、心当たりは無いか?」
「無いなぁ…ちょっと、訊いてくるよ」
狭霧が、女性の似顔絵を手にして、バックヤードへと駆け込んだ。しばらく待つと、翼がやって来た。静に確認してきたそうだ。
「わかったわよ。その女性は美坂香里。あの世代の女性よ」
あの世代…雪ノ下陽乃世代か…ここにも闇があったのか。
「住所はわかるか?」
「もちろん。あぁ、私は動けないから、部室に小町ちゃん、いろはちゃんを呼び出しているから、二人を連れて行ってね」
それは、一人だとやらかすって、心配されているのかな。俺は部室へ立ち寄り、美坂家を目指した。
◇
美坂香里…水瀬名雪の親友だった少女。高校卒業後、大学に進学し、昨日は妹が通うはずだった高校の文化祭に訪れたそうだ。
「これは?」
香里にスケッチのコピーを見せた。
「確かに、バニーズカフェに行ったわ。でも、こんな子はいなかったけど…あれっ?」
透明人間と思しき少女を見つめる香里。
「まさか…有り得ない。だって、あの子は…今…」
彼女の妹は病院に入院しているそうだ。原因不明の病で、一進一退の症状を繰り返し、徐々に体力が削られて、ついには植物人間一歩手前だそうだ。俺達は、香里と共に、彼女の妹である栞の元へと向かった。
そこには、スケッチブックに描いた少女に似た少女が、ベッドに横たわっている。これって…
「なぁ、陽乃の降霊会に出席したことあるか?」
「どうして、それを?」
じゃ、その時に、異世界の何かが、少女に舞い降りたのだろうか。
「転院を勧める。月野木病院へ転院させてくれ」
「その病院なら助かるの?」
「ここじゃ、もう無理だろ?藁に縋れよ」
頷く香里。
◇
月野木病院で受け入れの準備を進めていく。
「あのスケッチの少女は透明人間ではなかったの?」
心配そうに麻衣が訊いてきた。
「違うよ。美坂栞の学校へ行きたいという想いが、具現化したものだ。そうだな、生き霊と言えば良いかな」
異世界の何かに入り込まれ、そういう能力が開発された可能性はある。
「厄介な敵ってことだが」
龍さんが来てくれた。
「異世界の魔物です。僕だけでは難しい」
「異世界か…俺でも難しいな」
イザとなれば、師匠頼みだな。
「彼女も、転移門を使った降霊会の被害者ってこと?」
まゆこに訊かれた。
「そういうことです。舞は陵辱されましたが、栞はそういう年齢に達していなかったから、降臨されてしまったのでしょう」
憑依ではなく、体内に潜んでいるようだ。そんな波動を感じた。放っておけば、いずれ肉体を食い破り、出て来そうだ。
「到着しました」
医局の看護師から連絡が来た。直ぐさま、除霊専用の部屋へ、栞の載ったストレッチャーを運び込んだ。部屋には栞の他、僕、まゆこ、龍さん、アーシア、リアス、朱乃がいる。
「出しますよ」
まゆこと龍さんが頷いた。僕は『強奪』を発動した。すると、栞の身体から異形なる物が現れた。
「アーシア、栞を頼む!」
「はい!」
栞に回復術を掛けていくアーシア。異形なる物を龍さん、まゆこ、朱乃、僕の結界で封じ込めていく。リアスが滅びの力を発動し、異形なる物と対峙するが、劣勢であった。どうする?そうか、あれを使えば…僕はある術を唱え始めた。
「おい!その術は…」
龍さんの声…言いたいことはわかるが、たぶんコレしかない。僕は呪文に集中した。
『亘、お前は呪文に集中しろ』
亜樹の声だ。コイツ…何をする気だ?亜樹は、バトンソードを取りだし、僕の聖属性オーラを使い、刃を生成して、異形なる物に襲い掛かった。
『俺はシリアルキラーだよ。殺しは慣れている。お前は呪文に集中しろ!』
おい…早く術を発動しないと、亜樹がヤバい…亜樹からは『死ぬ覚悟』が湧き出ている。どんな手を使ってでも、この場にいるみんなを護る気だ。例え、刺し違いをしてでも…そして交戦の末、予想通りに、亜樹が異形なる物と刺し違えた。
『捕まえた。絶対に逃がさないから、確実に発動しろよ。なぁに、俺が死んだら、魂をくれてやる。だから心配するなよ』
って…コイツ、バカだろう?お前が死んだら、お前という存在はロストするんだぞ!僕の心配なんかしている場合では、無いだろうに。初めて感情が爆発していく。いや暴走していく。僕自身の力の無さに、怒りが沸き起こる。亜樹は僕に渡す魂を汚さないように、亜樹自身の心で相手を捕まえていた。
そして、術を発動した。異形なる物は、僕の身体に吸い込まれて行く。人札を舐めるなよ!そうだ、亜樹はどうした?
『まだ、いるよ…疲れた…』
亜樹の声に安心し、気の緩んだ僕はその場に倒れた。僕もエネルギー切れだ。
◇
気が付くとベッドに横たわっていた。俺は俺のままである。ロストしなかったようだ。
『無茶するなよ、相棒♪』
って、亘。そうだな。また、死にたがり病が再発したか?
「亜樹君…気が付いたの?ねぇ、大丈夫?」
まゆこの瞳から大粒の涙が零れている。
「大丈夫だよ。亘がエネルギー切れだ」
刺された部分は再生している。再生能力持ちの身体って、便利だなぁ。
「無茶をするな!」
って、龍さん。こんなロクでもない俺を心配してくれている。
「他に手立ても無いし…結果オーライでしょ?」
「ありがとう…妹の為に…」
美坂香里が、俺に頭を下げた。
「いいって。救える者を救うのは懲役の内だし。まゆこ、俺はどのくらい入院すればいいんだ?」
「2,3日は入院してね。心配だから…」
魔力切れによる、マインドロストという現象だと思う。『人札封印の術』は切り札で、魔力を思いっきり使うらしい。あぁ、身体がだるい。高カロリー消費な運動をした感じだ。マインドロストの為か、亘が爆睡していた。
---鈴木まゆこ---
最強の陰陽師の術を、目の当たりにした。あれが人間を辞めた原因の術なのか。異世界の魔物すらを封印した彼。既に人札である彼は、もう魂をロストしない為、亜樹君も無事だった。
龍さんは呪文の途中で気づいたそうだ。あの時の龍さんの彼を見つめる目は、悲しみに満ちていた。それが何故かは、魔物が封印される時点でわかった。
英雄のはずが、人間でなくなった為、英雄の絞り滓といわれた神代亘。だけど、英雄としての力は衰えていなかった。
「亜樹は大丈夫なんだよな?」
狭霧は亜樹君の心配をしている。
「大丈夫。聖域の賢者様が、再生能力持ちにしたようで、傷が自動で修復されているわよ」
「そうか…良かった」
亜樹君が倒れた後、魔具の能力で、狭霧と夏凜が召喚された。それは亜樹君の状態が最悪である証拠であった。見た目は問題は無くても、亜樹君は一般人である。亘君と耐久度が違うのだ。究極の呪文を唱えた亘君、亘君へのダメージを総て肩代わりした亜樹君。このコンビ、最強だと思う。二人共、どんな敵にも、心が折れないのだろう。死すら恐れない、護りたい心の持ち主に違いない。
「無茶しやがる…」
そう言いながら、涙している夏凜。夏凜も狭霧も、亘君の本気による亜樹君への影響を心配している。それは私もだけど…
「大丈夫そうだな。脈拍も安定しているし、魂も定着している」
龍さんが、霊的に診察をしてくれた。だけど…この時、たぶん…亜樹君の異変は始まっていたかもしれない。龍さんが診察したのは亘君であって、亜樹君では無かったのだ。人格は亜樹君だったけど、身体も魂も亘君の物になりつつあり、残念だけど、この時、誰もそのことに気を止めなかった。結果的ではあるが、この時、亜樹君の心、精神は病み始めていた。そう、身体は再生するが、亜樹君の心は再生されていなかったのだ。闇に染まりつつある心は、汚れ始めていた。
「しかし、雪ノ下陽乃の闇は深いな」
と、雪姫先生。夏凜の召喚に気づき、ここへやって来た。
「深すぎる…転移門を降霊術に使うなんて…」
龍さんが珍しく怒りを纏っていた。
「これで終わりだといいが…」
終わりだと言う保証は無い。まだ、闇に飲まれている人が、いるかもしれない。
---鳥井亜樹---
退院をした。みんなを代表して、麻衣と翼が迎えに来てくれた。
「大丈夫?」
麻衣に声を掛けられた。
「麻衣と翼のバニー姿みたいなぁ」
「妄想出来るなら、大丈夫ね」
って、翼。だと思います。
「腹減った…」
入院中、食事は栄養点滴だけだった。胃袋は空っぽである。
「当分、お粥食よ。胃袋が寝ているから」
そうだ。退院直後って、そんな感じだった。
「何が食べたい?」
麻衣を女体盛りで…なんて、言える雰囲気では無い。二人共、真剣に心配してくれているから。
「ふわふわの卵焼きかな。後、サバランとモンブラン」
「ケーキは消化が悪いからダメだよ」
って、翼。そうですね。砂糖が消化悪いんだっけ?ねぇ、亜樹。どうだっけ?もっと、亜樹から学ばないと…食い物関係は詳しいしね。
ゆらぎ荘に着くと、みんなが玄関前で待っていてくれた。
「おかえりなさい♪」
代表して、幽奈が僕に抱きついてきた。