---鳥井亜樹---
月宮あゆの季節が到来した。クリスマスの夜が明けるまでがタイムリミットだと言う。ソレを逃すと、翌年のシーズンまで待たないと、あゆは地上に降りてこないらしい。
「あゆがいたよ」
真琴が商店街で見かけたそうだ。真琴の情報では、大好物のたい焼き屋で、よく食い逃げをしていると言う。
翌日から張り込みである。雪姫先生には事情を話し、学校を休んでいる。いつ、来るんだ?いや、どこから来て、どこへ帰るんだ?産まれ育った月宮神社はもうないし。
「来た!あの娘が月宮あゆだよ」
赤いカチューシャを頭にして、天使の翼を付けたランドセルを背負っている。服装はタートルネックのセータにダッフルコートという出で立ちで目立つ。
ここは陸釣りするか?先程買ったたい焼きを、彼女の視線の先に置いてみた。
「うわぁ~、今日はラッキーだよ。たい焼きが落ちているし」
拾って食べ始めるあゆ。
「あゆ、みっけ!」
真琴が接触した。
「あれ?真琴…じゃ、祐一君はどこ?」
「こっちだよ」
真琴があゆを誘導する。そして、あの鎮魂の石碑の前に連れて行けた。念話で、石碑を中心に結界を、朱乃、龍さん、まゆこ、狭霧に張ってもらった。これで逃げられないだろう。
「これって、どういうこと?」
「相沢祐一君は亡くなったんだよ」
って、俺があゆに近づく。
「なんで?」
「事故でだよ」
「そんな事無いもん。祐一は奇跡が、起こせるんだからね!」
奇跡が起こせる?
「ボクは祐一君しか信用しない。真琴、ねぇ、祐一君はどこにいるの?」
「天国だよ…鎮魂して、昇華していったから…」
「祐一君を呼び戻せばいいんだね。そうだ、天使をみつけなきゃ!」
そう言うとあゆは、走り出し、結界を透過していった。うそっ!師匠並の能力者か?
真琴とこゆずが追跡を始めた。どこに住んでいるのかを調べる為に。俺も追跡に加わった。だけど、商店街で見失った。真琴とこゆずの追跡を振り切るって、スゴい。この二人は、霊的な追跡をしている。人体が発する霊波動をキャッチして、追跡していたのだ。なのに、追跡が失敗した。そうなると、商店街のどこかにいるのか?
『意識体に霊波動は無いに等しいレベルだ』
と、亘からアドバイスだ。微弱な波動…何かで打ち消して逃亡か?
「こゆず、大きめは波動だと、何を感じる?」
「あの大樹かな…」
あぁ、師匠が問題は無いと言った空き地か。そこへ、3人で向かった。学習塾だった廃墟を突き破るようにそそり立つ大樹。これって、ご神木か?
「あぁ、そうだよ。あれは白浪神社のご神木の子供だ」
って、師匠が転移してきた。そうか…白蛇神社と呼ばれていた頃のご神木の子供なのか…
「だから、あゆにとって波長が合うんだろうね」
「師匠は、居場所を知っていて、探すように言ったのですか?」
「あぁ…そうだよ。知らない者の前には、姿を現さないからね。今は、真琴は勿論、亜樹とこゆずを認識出来るはずだ」
あれは顔見せの儀だったのかぁ。
「さて、行こうか」
師匠を先頭に、俺達3名が付いていく。行き着いたのは、屋上だった。
「高い処に昇るのが好きなんだよ。そうだろ、真琴」
真琴が頷いた。
『強奪』
師匠があゆを引き寄せた。俺達の前に引き寄せられて、驚いているようだ。
「天使の人形を見つけたよ。ここの地下室に埋めていたんだな」
師匠があゆに、天使の人形を手渡した。
「ねぇ、これで祐一君は甦るの?」
「無理だよ」
「なんで?天使は奇跡を起こせるんでしょ?」
真剣な目で師匠を見るあゆ。
「奇跡って、人間が起こすから奇跡なんだよ。あゆも祐一君も、もう人間では無い。だから、奇跡は起こせないんだよ」
諭すように優しく語り掛ける師匠。
「そんな…ねぇ、あゆの願いは叶わないの?」
「叶えてやる。但し、祐一ではなく、そこにいる亜樹に愛情を、注いでくれるかな?」
俺に?なんで?
「うん、わかった。彼とはいつまでも、一緒にいられる?」
「あぁ、いられるよ。妹が付いてくるがね」
「妹?私よりもお姉さん?」
「そうだよ」
「そうか…」
あゆの身体が光の分子に分解されて行く。消える前兆である。
『手を出すなよ!』
師匠から念話が届いた。そして、あゆは俺達の前から消えた。
「よし、これでミッション成功だ。明日にはあゆが、押し掛けるからな」
って、師匠が消えた。はぁ?どういう意味ですか?
◇
朝…目覚め…物凄く柔らかい物がいる。こんな大きく柔らかい物ってなんだろうか?上には結衣が載っている。両サイドには真琴と…誰だっけ?この子?はて?
「う~ん、小学生だよなぁ?」
って、珍しく起きていた狭霧。
「小学生?有り得ないだろ?どう見積もりをしてもDかEは有るぞ」
って、小学生?部屋の隅にチョコンと置かれた、天使の翼付きの赤いランドセル。え!月宮あゆかぁぁぁぁ~!あのあどけない女の子って、隠れ巨乳だったのか?って、ノーブラにセータって、痒くないのか?ダッフルコートまで着込んで寝ているし。
「どういう状況?」
「その子に排除されたんだよ」
それで目が醒め、あゆを目にして、完全に醒めたらしい狭霧。起こさない様に、寝床から抜け出た俺。
小学生でこの胸だと、虐めの対象では無いのか?だから、陽乃は虐めたのか?もしかすると祐一はあゆを庇って、陽乃に盾を付いて…そんなストーリーが頭に浮かんだ。
久しぶりに狭霧と朝風呂へ向かう。男湯の前で別れようとすると、一緒に男湯に入った狭霧。おいおい…湯船には既に翼とひたぎと雪乃が待っていた。
「新人さんは小学生だってね」
って、翼。
「そうなんだけど…どうなんだろう。まゆこに相談しないとダメなレベルだよ」
実際のあゆのことを話した。
「Eカップでノーブラの小学生?」
ひたぎが狼狽えている。
「あゆの実際年齢は幾つだ?」
「見た目は小学生だよな」
ドッボ~ン!
静寂の時間に、いきなりの落下音。何かが湯船に投げ込まれたのか?
「ばぁ~!」
って、全裸のあゆが湯面から現れた。股間はツルツルであるが、胸はデカい…さすがの翼も生唾を飲み込んでいた。そこまでインパクトのある胸だった。
「ちょっと退いてね」
って、固まっている狭霧を排除して、俺の隣に来たあゆ。恥じらいを感じ無いレベルの小学生である。アンダーヘアがまるで無いので、10歳前後か?
「あゆちゃん!」
結衣があゆを追いかける形で、湯船に入ってきた。
「ダメだよ、飛び込んじゃ」
「うぐぅ~」
どうするよ。俺の手に負えない問題が生じそうだ。
「翼、頼めるか?」
「え!無理かも…」
珍しく弱気な翼。そうなると、アイツだな。女体は駿河に限るか?
「先輩、すみません。年齢が低すぎます」
って、駿河も拒否。なので。真琴とこゆずに頼んだ。まゆこが来るまでの担当として。いや、適任者がいた。蘭と香さんがいるじゃないか。小さい子でも大丈夫なはずだ。
「いいわよ。その代わり、ご褒美はいっぱいね」
って、蘭。ご褒美?
「まかせなさい。私もご褒美が欲しいな」
って、香さん。あゆに見せられるご褒美なのか?それって…
---来生泪---
久しぶりに帰国した。鳥井兄妹に頂いたお金を元にして、海外で暮らし始めた私達だったが、妹の瞳が奇病にかかり、記憶を無くしてしまった上、車椅子での生活である。指名手配されているか、心配だったが、そんなことにはなっていなかった。彼は生きているのか?
1年前、事故で末の妹である愛の構えた拳銃が暴発して、鳥井亜樹君を撃ってしまった。だけど、彼の機転で、彼の描いた絵画とお金を貰い、海外へと逃亡した。恩返しをしないと…瞳の病気が治ったら。いや、治る兆しが見えたら…
だけど、どこの病院へ言っても、原因不明で治療の目処が立たなかった。
そこで、最後の賭けに出ることにした。新宿駅の伝言板に、合い言葉を書くと、裏世界に精通した凄腕の便利屋さんと出逢えるって、都市伝説に掛けてみた。
待ち合わせのバーで待つ。
「お嬢さんに、カクテルXYZを差し上げて」
合い言葉である。隣を見ると大柄な男性が座っていた。
「ねぇ、どこかに凄腕のお医者さんって、いませんか?あなたへの代金は、私の身体で、お払いします」
「金は払えないってことか。病人の治療費に使うからか?」
総てを言っていないのに、事情を知っているようだ。どうしてだ。
「お金に関しては大丈夫だよ。お前は来生3姉妹の姉だろ?知り合いから、話は聞いている」
知り合い?身構える私。
「そんなに警戒しないでも、大丈夫だよ。亜樹の関係者には手を出さない」
鳥井亜樹君の知り合いなのか?
「あやか市にある月野木病院へ転院をさせろ。但し、治療後はあやか市に永住になるが、どうかな?」
あやか市?どこにあるんだ?そんな心配を余所に、鉄道の切符を3人分渡してきた。
「代金は亜樹から、既に貰っているし、今回の依頼料も既に貰っている。礼は、直接亜樹に言え」
そう言うと、バーテンに料金を払って出て行った。
◇
あやか市駅の改札を出ると、月野木病院の車が待っていてくれた。早速、病院へと向かう。着くと瞳は検査をされて行く。
「ウィルス性の脳炎の様だけど、寄生虫みたいね」
って、看護師の女性に言われた。寄生虫?
「発症して随分と経つみたいね。侵入経路が特定が出来なかったわ」
って、虫の入ったガラス瓶を見せてくれた。
「治ったんですか?」
「失った記憶は、中々戻らないわ。日々、リハビリに専念ね」
手術は成功したのか…って?検査していただけでは無いのか?いつ、手術したのだ?
「手術代はどの位ですか?」
「亜樹君の知り合いだから、お金は要らないんじゃ無いかぁ?むしろ、身体で払って欲しいみたいだし」
苦笑いしている看護師の女性。
◇
無菌室で眠る瞳。瞳と添い寝をしている亜樹君…どういうこと?
「執刀医は亜樹君よ。能力を使いすぎて、今寝ているのよ」
能力?
「能力って?」
「あなた達のことは、賢者様から聞いているわ」
賢者様?
「亜樹君に恩義を感じるなら、隣のあやか温泉駅で、喫茶店を営業してくれないかな?亜樹君も賢者様も、珈琲好きなんだけど、隣の駅には喫茶店が無いのよ」
そうだ。亜樹君は珈琲好きだわ。
「わかりました。開店させます。で、身体の提供もします」
「身体は、彼女の身体が良いみたいよ」
って、瞳を指差す看護師さん。確かに、瞳が好きだった亜樹君。
「じゃ、開店場所とかは、こちらで用意します。豆とかの仕入れは亜樹君がルートを持っているから、亜樹君に相談してみてね」
って。
「1年前、亜樹君は大丈夫だったんですか?」
一番の心配ごとを訊いてみた。
「大丈夫って?あぁ、銃殺した件?気にしていないから、問題無いでしょ」
銃殺?だって、彼は生きている…え!脳裏にあの後の映像が流れている。愛にも流れているのか、涙を流している。死んだのか。あの妹さんは後を追うようにして…
「でも…彼は生きていますよね?」
『生かされているだけだ。期限付きの蘇生だよ。期限が来れば、亜樹も夏美もロストする』
耳からでは無く、脳裏に直接響く声…誰の声だ?
「ロストって?」
『存在そのものが消えるんだよ。亜樹と夏美の魂は、別人が引き継ぐから』
魂を抜かれるのか…何で…
『そういう契約だ』
脳裏に響く声は、そこで途絶えた。
「泪姉ちゃん…私はどうしたら良いの?」
愛は私に縋り付いてきた。存在が消えるって、どういうこと?