※この作品はR-18です。

新そっくりなアイツ   作:もっち~!

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執行

 

---鳥井亜樹---

 

今日も満席だ…瞳に会えない。瞳が男性客にチョコレートを渡している。

 

「瞳…結婚してくれ」

 

「えっ…私は…」

 

「刑事を辞める覚悟がある。だから…」

 

誰だ、アイツは?

 

『彼女の元カレだ。盗賊と刑事は一緒になれない。だから、お前を選んだのかもしれないなぁ…』

 

あぁ…そういうことか。殺人鬼と刑事が一緒になれないのと同じだね。遠い昔の記憶が蘇る。美和子…

 

『お前はどうしたい?』

 

「瞳には幸せになって欲しい。蘭にも、美和子にも…みんなには幸せになって欲しい」

 

『ロストしてもいいのか?』

 

「師匠、訊くまでもないことですよ。俺はいつロストしてもおかしくない、大罪人です」

 

『わかった…お前の望みを叶えてやる。供物は…お前の存在だ。今日は2月の14日だ。お前の人生の猶予は後1ヶ月…3月の14日がリミットだ』

 

「後28日も生きられるんですか?今すぐにでもいいですよ。亘に俺の魂を譲渡します。だから、みんなを幸せにしてくださいね、師匠…」

 

大罪人の俺に出来ること…それくらいしか無い。俺は生きていてはダメなんだ。それだけの罪を負っているのだから。

 

 

リミット前であるが、魂を亘に託し、最後の事案に挑む。だらだら生きるよりも、目の前の時だけを精一杯生きたいから。亘の感じた違和感を引き継ぎ、ネットで調べて行く。だけど、「リビングダッチワイフ」って物が売っている事実は無いことがわかった。それは、人間の作った物では無いってことである。都市伝説に「リビングダッチワイフ」って項目があった。あるお呪いをすると、恋のライバルを、想い人専用の生きているダッチワイフに出来ると言うものだ。これはリビングデッドの親戚のような者であり、身体は不老不死で精神は淫獣のエサになるそうだ。術師は地縛霊状態になり、想い人すらも地縛霊にし、その場に留めようとするようだ。

 

幸い、俺の中には亘がいたため、地縛霊にならずにすんだようだ。俺は殺戮者として、精神を研ぎ澄ましていく。地縛霊と淫獣を殲滅する為だ。魂の移管が済み、心置きなく戦えそうだ。俺はすのはら荘へ向かった。

 

魂の無い俺を彩花は認識出来無いようだ。見えてもいないようだ。亘に彩花の魂を昇華して貰った。

 

『人間の嫉妬は怖いなぁ。呪いを簡単に考えすぎるのも良くない』

 

亘の言葉に頷く。だから、師匠は「人間は愚かで醜い生き物」だと言うのだろう。彩花にしても結衣にしても、呪いを簡単に実行しすぎる。呪いなんてハイリスクしか無いのに…

 

彩花の部屋に向かうと、すのはら荘の住民達が、魔方陣の上に横になっている。既に、ミイラ化しているし。相当前から術を練り込んだのだろうか?それとも淫獣に喰われたのだろうか?彼女達の魂はここには無い。

 

『かわいそうに、魂は喰われたようだ。転生は出来ずにロストだよ』

 

ロストした魂には効果は無いが、悪い者が寄ってこないように、鎮魂の儀式を亘に執り行って貰った。そして、あの部屋へ…

部屋に入るなり、淫獣達が襲い掛かって来た。俺と亘、そして師匠とで、今回の元凶達を屠っていく。既に俺には魂が無いので、やつらの術は効かない。ヤツラの隙を見ながら、亘と俺の人格をスイッチ切り替えしていく。霊的な攻撃は俺には無理だから。だけど、アイツらの攻撃を防ぐことは出来る。攻撃を食らっても、地獄での罰に比べたら、痛くも痒くも無い。

 

 

 

---神代亘---

 

亜樹は僕に魂を託した。彼にとっての最後の敵と戦う為に、後を振り返れないように、引き留められないように、リミットより早く、僕に魂を託し、最後の殺戮をしに行った。術師を殺し、召喚の議場を破壊する為に…

 

亜樹にはリミットなんか、必要はなかった。その日その日を、精一杯に生き抜いてきたからだ。僕は知っている。ずっと、亜樹に寄り添って1年近く生きていたからだ。

 

3月15日で、亜樹の執行猶予は消え、刑の執行が為される。彼の人生のリミットはその前日までだ。ホワイトデー…後、2週間である。記憶の歪みのお陰で、亜樹の記憶を保っていられるのは、ついに僕だけになった。幸いなことである。別れの悲しみは、僕だけが背負えば良いのだ。

 

僕は僕の生身の身体を得た。亜樹の身体だったホムンクルスは、今御炊きあげをしている。3月14日に奇跡を起こすために…大事な行事である。精一杯、亜樹の為に祈祷をしている。亜樹の生きた1年間を僕の中に刻むように…

 

僕は僕だ!

 

『そうだよ。亘は亘だ。俺は単なるシリアルキラー。忘れていいぞ、亘…』

 

そうは言うが、僕の中で生きていて欲しい。3月15日まで…

 

 

 

---来生瞳---

 

賢者様に二択を迫られている。高校時代から付き合っていた内海俊夫のプロポーズを受けるか、記憶に残っていない大切な人の想いを受け継ぐかを…リミットは3月13日である。

 

「姉さん、どうしよう…」

 

2月14日に、俊夫からプロポースを受けた。元盗賊である私は、刑事である俊夫の妻には相応しく無い。でも俊夫は刑事を辞める覚悟だと言う。

 

「瞳のしたいようにしなさい」

 

「記憶に残っていない彼…名前すら思い出せない。どうしてかな?」

 

「総てを被ってくれたんだよ。お姉ちゃんは、俊夫さんと一緒になればいいよ。私が背負うから」

 

その彼のことを、妹の愛は覚えているようだ。

 

「どんな人だったの?」

 

「お姉ちゃんは、知らない方がいいよ」

 

「姉さんは覚えているの?」

 

「えぇ、覚えているわ。でも、瞳は気にしないでいいのよ」

 

なんで、私だけ覚えていないんだ?どうして…二人は遠い目をして、何かを思い出しているようだ。

 

 

 

---佐藤美和子…

 

高木君にプロポーズをされた。返事は3月14日にって…2月14日に、チョコなんかあげたから。あのチョコは本当は誰にあげる予定だったんだ?思い出せない。とても、大切な人のことを忘れている気がする。

 

なんで、私はここの警察に勤めているんだ?そこがキーだと思うんだ。駅前の馴染みの喫茶店の瞳さんに、その話をした。

 

「えっ?美和子さんも?」

 

瞳さんも…誰かの為に買ったチョコを、元カレに上げて、プロポーズされたそうだ。

 

「え?そうなんですか?私もです」

 

って、蘭ちゃんもだ。これって、偶然か?もしかして、同じ人物にあげようとしたのでは無いか?

 

三人で記憶を追い始めた。返事を出すまで、後2週間だけど…

 

 

 

---神代亘---

 

師匠の賭け…誰か一人でも、亜樹のことを想い出せば、亜樹と夏美の記憶を託そうとしていた。だけど、現状では難しいようだ。僕しか覚えていない。リミットまでに僕以外の人が思い出さない場合、僕の記憶からも亜樹と夏美の記憶は消える。

 

どうして、彼らがこんな目に遭うんだ。理不尽である。

 

『そうだよ、理不尽な動物だからな、人間って言うのは…』

 

結局、懸命に生きても、記憶から簡単に消え去るものなんだな。お姉ちゃんの記憶からも僕は消えるかもしれない。僕が思い出しても…手遅れなんだろう。

 

『どうする?天狐と出逢わない人生を生きるか?』

 

いえ、このままでいいんです。亜樹は…亜樹には選択の余地は無かった。困っている人々を救いたかっただけ。それだけだったと思いたいです。それに比べて僕は…憎しみの対象として殺された。誰かを助けることをせずに…僕の方が大罪人の気がする。

 

『後、1週間だ…天狐の記憶からは、亜樹は消えている』

 

そんな…お姉ちゃん…どうして…どうして、忘れちゃうのさぁ。あんなに大切に思っていたのに…

 

『亘のことを必死に忘れないようにしているからだ。天狐は、お前や亜樹の様に強く無い、単なる人間なんだ。期待をしすぎるな』

 

だから、お姉ちゃんは、大罪を犯したんですね。

 

『あぁ、他の者の魂で、罪は消えない。亜樹や夏美のように、自分自身で、有効に使わないとダメなんだよ』

 

「師匠…湯ノ花幽奈として、付き合っても良いですか?」

 

『あぁ、それでもいいぞ。天狐には荷が重かったのかもな』

 

 

 

---鳥井亜樹---

 

3月14日を迎えた。春だと言うのに、季節外れの雪が舞っている。もう、俺の姿は誰にも見えない。翼も紗霧も夏凜も元の生活に戻れた。それだけが救いかぁ…それにしても、幽奈はどこに行ってしまったんだ?成仏してしまったのか?

 

そういえば、明日は卒業式だったな。そこまで保たなかった。まぁ、しょうがない。まぁ、俺の人生の卒業式と言ってもいいかもしれないか。これで、俺は消えることが出来る。師匠に頼んで、夏美だけは転生させてもらえるようにしたし。もう、思い残すことは無い。

 

「一緒にいても良いですか?」

 

亘には、まだ微かに見えるようだ。勿論だよと言うけど、声は既に聞こえていないようだ。

 

「1年間ありがとうございました。生きて行く自信がつきました」

 

それは良かった。俺は俺に出来ることしか出来ない。それだけの男だよ。亘の自信は亘の成長の賜り物だよ。がんばって、生き抜け!って、聞こえていないか。

 

神社にも行きたかったが、悪霊もどきの俺では、しめ縄の結界で弾かれてしまった。まぁ、それはそれで、安心だけどな。温泉駅前に行く。喫茶「キャッツアイ」の様子を見て、消えるとしよう。蘭、美和子、瞳が、それぞれの彼に返事を返す日だ。

 

後ちょっとで「キャッツアイ」って処で、俺は刑場へと強制転移させられた。瞳…幸せになぁ…

 

 

 

---槇村香---

 

いい男三人が首を項垂れて、凹んでいる。瞳、美和子、蘭ちゃんが、お断りをしたのだった。

 

「ごめんね。チョコをあげる相手を間違えちゃったんだ、てへっ」

 

って、三人同時に、ごめんなさいをしたのだった。

 

見ていて、爽快だな。って、リョウはチョコすら持って来ないんだが…

 

閉店後の店内…賢者様が見えた。

 

「じゃ、約束だ。亜樹と夏美の記憶を、君達に授ける。但し、直ぐには無理だよ。瞳の体内には3ヶ月になる双子の胎児が記憶の封印入りで、入っているんだ。何かのきっかけで、前世の記憶が蘇る。徐々にだけどな」

 

「えっ!じゃ、あの1回で出来たんですか?」

 

驚いている瞳。ざわめく店内。

 

「ズルい…瞳さん…」

 

蘭ちゃんが声を上げた。

 

「蘭君、それは違うよ。瞳は母親だ。亜樹とは結婚は出来ない。歳の差カップルで良ければだけどね、亜樹と一緒になれるのは、瞳以外の女性だけだ。ただ、瞳には幸せを少し早く届けただけだ。産む幸せ、育てる幸せ、見守る幸せだよ」

 

「ありがとうございます、賢者様…」

 

瞳が賢者様に頭を下げた。

 

「じゃ、幸せにな…」

 

賢者様はそう言うと、私達の前から姿を消した。

 

 

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