なんかA組と期末テストで勝負をすることになったらしい。登校してきた僕らに渚君達が経緯も含めて昨日の放課後の出来事を教えてくれた。そのことで相談もせずにって謝られたんだけど、話を聞く限りでは相談できる状況でもないしどう考えても渚君達は悪くないと思う。それと追加の情報で勝ったら相手に命令できるっていう内容は一つだけということになったとか。
そんな一悶着はあれど期末テストは確実に近づいてきていて、授業も基礎的なものから応用的なものの割り合いが内容的にも多くなっている。基礎と応用の違いが分かるようになるなんて、僕も三年生になってから随分と成長したようだ。とはいえ皆もやる気十分だったんだから間違いなく成長しているのは僕だけじゃない。これならA組との勝負だって問題ないだろう。
「こらカルマ君、真面目に勉強やりなさい‼︎ 君なら十分総合トップが狙えるでしょうが‼︎」
「言われなくともちゃんと取れるよ。アンタの教え方が良いせいでね。けどさぁ殺せんせー、アンタ最近“トップを取れ”って言ってばっかりでつまらないね」
問題ないだろう、とは思うんだけど……何故かカルマ君だけ一人やる気が削がれてるんだよね。E組の中間テスト総合トップであるカルマ君は、今回の期末テストでも重要な戦力だって考えてたのに……いったいどうしちゃったんだろうか。また停学明けの時みたいな反抗期かな?
「それよりどうすんの?そのA組が出してきた条件って……なーんか裏で企んでる気がするんだけど」
「心配ねぇよ、カルマ。このE組がこれ以上失うモンなんてありゃしない」
「まぁ失うモンは無くとも無理難題を吹っかけられる可能性はあるがな」
今回の賭け事について楽観的に捉えている岡島君だったが、カルマ君や雄二の考えは岡島君とは違うようだ。とはいえ渚君達の話だとその場の流れで勝負することになったみたいだし、幾らなんでも二人の考え過ぎだと思うけどなぁ。流石にそこまで厄介な命令は考えてないだろう。
「勝ったら何でも一つかぁ。学食の使用権とか欲しいな〜」
「あ、それいいね。だったらタダで学食を使えるようにお願いすればどうかな?それなら僕もお昼にカロリーを摂取できるし」
「二人とも、命令はあくまでもA組に対してじゃからな?それでは学校に対する命令じゃぞ。というよりE組から本校舎までの距離を考えると学食の使用そのものが面倒ではないか?」
倉橋さんの提案は僕の食生活も充実するから名案だと思ったんだけど、それは秀吉によってあっさりと否定されてしまった。……むぅ、そう言われてしまうと中々これといったものが思いつかない。クラス間での勝負だから僕個人の主張をするわけにもいかないし。
「ヌルフフフフ、それについては先生に考えがあります。さっきこの学校のパンフを見ていましたが、とっても欲しいものを見つけました」
と、僕らが命令について頭を悩ませていたところで殺せんせーが提案してきた。この学校のパンフ?でもそれって学校への命令になるんじゃ……?
「
そんな僕の杞憂を余所に提案された殺せんせーの命令を聞き、皆は思ってもいなかった内容に驚きの表情を浮かべていた。きっと僕も皆と同じような表情をしてると思う。
だけど殺せんせーの提案した内容はA組に要求できるもので、それでいてE組全員に利点があるものとしては最大級の命令かもしれない。何より僕も美味しいカロリーを摂取することができる。先生の提案を否定する人は誰もいなかった。
「君達は一度どん底を経験しました。だからこそ次はバチバチのトップ争いも経験して欲しいのです。先生の触手、そして
本当に殺せんせーは僕らのために色々と考えてくれてるなぁ。元々成績トップを狙ってたんだから目標自体は変わらないものの、ここまでお膳立てしてもらった以上は是が非でもA組に勝たないとね。
★
今日の授業も滞りなく終わり、じゃあ放課後も期末テストに向けて勉強だ。と自分でも似合わないことを思っていたんだけど、秀吉とムッツリーニは用事があるとのことで今日は帰ってしまっていた。まぁそういう日も偶にはあるさ。
つまり今日は雄二と二人で勉強ってことになる。それでも特に問題はないんだけど、気分的にはもう一人二人は欲しいところだ。う〜ん、誰か誘おうかなぁ。もしくは何処かの勉強グループに入れてもらおうかなぁ。取り敢えずトイレに行った雄二が帰ってくるのを待ってから相談しよう。
「ねぇ吉井君。もし良かったら放課後、本校舎の図書室で一緒に勉強しない?実はテスト期間を狙って前から予約してたのよ。……坂本君はお手洗いかしら?」
僕があれこれ考えていたところで片岡さんから勉強のお誘いを掛けられた。隣には矢田さんもいる。物凄いグッドタイミングだ。雄二が残ってることもお見通しらしいし、それなら話は早いや。
「うん、そうだよ。まぁ雄二には訊かなくても断る理由なんかないだろうし、誘ってくれるなら僕らも一緒に勉強させてもらおうかな。……でもなんでわざわざ僕らを誘ってくれたの?他にも偶に一緒に勉強してる人とかいるでしょ?」
僕も誰かしら誘おうと思ってたし誘ってくれたこと自体は嬉しいんだけど、片岡さん達が僕らを誘ってくれた理由がよく分からないんだよね。今回はA組と勝負していて殺せんせーの触手も懸かってるわけだし、E組の中でもトップを狙えそうな人を誘った方がいいんじゃないかな?
僕でもそう思うんだから片岡さん達だってそれくらいのことは分かってるはずだ。それなのにあまり一緒に勉強したことのない僕らを誘ってくれた理由となると……
「そりゃあお前の成績が悪くて放っとけなかったんだろ」
「え、そうなの⁉︎」
トイレから帰ってきた雄二の指摘に僕は愕然としてしまう。まさか殺せんせーの触手、延いては地球の存亡が懸かった期末テストでも放っておけないくらい僕の成績は壊滅的だと思われていたなんて……全滅じゃないだけマシなのに。
そんな僕らのやり取りを見て片岡さん達は苦笑いを浮かべている。
「吉井君、坂本君が言ってるのは違うからね?貴方達を誘ったのは偶々っていうか、授業で班も組んだことがあるから誘いやすかっただけよ。坂本君も、図書室で一緒に勉強しようって話なんだけどどうかしら?」
「ん、じゃあお言葉に甘えさせてもらうとするか。にしてもテスト期間中に図書室利用可能とは用意がいいな」
「確かにねー。ずっと前から図書室の予約をしてる辺り、メグってば本当に真面目だよ」
やっぱり雄二にも断る理由はなかったようで、片岡さんのお誘いを間を置くことなく受け入れていた。机に置いていた荷物を取って教室を出る準備もしており、僕も雄二に続いて行こうとする。
「メグちゃんメグちゃん、私も一緒に図書室行っていい〜?」
と、そこで倉橋さんも僕らに声を掛けてきた。どうやら今日は彼女も誰とも予定がないらしい。
当然ながら倉橋さんの参加を拒否するような人はおらず、僕らは五人で本校舎の図書室へと向かうことになった。
★
図書室に来た僕らは片岡さんの利用予約票を受付に見せて中へ入り、指定された席で教科書や参考書を広げて勉強を始めることにした。取り敢えず僕は得意科目である文系科目を中心に進めていくことにする。期末テストで科目トップを狙うならまずは得意科目を伸ばしていかないとね。だから決して苦手科目を後回しにしてるとかそんなんじゃない。
「ーーーこんにちは、E組の諸君。先日は
そんな勉強している僕らのところへ声を掛けてきたのは、今回の期末テストで戦うA組のリーダーである浅野君だった。っていうか
そんな浅野君に応じるのは雄二だ。僕らの面子で浅野君の鉄面皮染みた
「おう、浅野。“五教科で勝った方が命令を一つ下せる”だろ、問題ないぜ。……で、この取り決めをしたのはお前だよな?いったいどんなえげつない命令を考えてんだ?」
「えげつないなんて人聞きが悪いな。生徒同士の賭け事にそこまで無茶な要求はしないさ。考えている命令もA組とE組の関係を明確にする程度の軽い命令だよ」
「ほぉ、A組とE組の関係を明確に……ね。俺達に主従契約でも結ばせるつもりか?確かに“契約書にサインする”ってのも一つの命令だもんな。相変わらず発想が恐ろしいこって」
「A組からの命令に関してはノーコメントとさせてもらうけど、その発想が出てくる時点で恐ろしいというのは君も変わらないと思うよ」
うわぁ、やってるやってる。なんでこの二人の会話って殺伐とするんだろうなぁ。少なくとも去年までと違って今はそんな必要ないだろうに。
と、そこで隣に座っている矢田さんから肩を叩かれたのでそちらへと振り向く。
「ねぇ吉井君、坂本君と浅野君って前から付き合いがあるの?なんか初対面って感じでもないけど」
「ん〜、まぁ生徒会と対立してた時にちょっとね。雄二も去年まではしょっちゅう喧嘩して色々と目を付けられてたからさ」
雄二は自分が悪いっていう証拠を残さないように暴れてたし、それを怪しむ教師や生徒会の物言いは自然と高圧的で殺伐としていたものだ。僕は雄二に邪魔だって言われて
僕が過去を振り返って遠い目をしてる間にも話は進んでいた。雄二と浅野君の探り合いに倉橋さんが割って入る。
「それで、浅野ちゃんは何しに来たの?私達とお喋りしに?」
「いや、そういうわけじゃ……というより僕の呼び方を訂正してもらえないだろうか?」
「え〜、じゃあ浅ちん?」
「普通に呼ぶという選択肢はないのか……それなら最初の呼び方でいい」
まさかの浅野君が折れた⁉︎ 特に意味のないやり取りとはいえ、あの浅野君すら振り回すなんて……倉橋さん、恐ろしい娘っ‼︎
珍しく諦めたように嘆息する浅野君は肩を竦めて話を続ける。
「僕は彼女の付き添いだよ。これ以上の余計な諍いはないと思うけど、彼女が自主的に動くのは珍しいから念のためね」
……彼女?え、何?浅野君、暗に彼女がいるって僕らに自慢しに来たの?めっちゃ殺意が湧いてきたんだけど。
というのは僕の勘違いだったようで、
「……雄二」
「ぅわっ‼︎」
突然現れた静かな、でも凛とした声に僕はびっくりして肩を跳ねさせる。反射的に声のした方向へと視線を向けると、いつの間にか霧島さんが近くまで来ていた。物静かな人なのは知ってたけど、僕に全く気配を感じさせないなんて……まるで凄腕の暗殺者みたいだ。
でも霧島さんだったら噂から考えて浅野君の彼女ってことはないだろう。名前を呼ばれた雄二がまたもや会話に応じる。
「翔子か。いったい何の用だ?」
「……どうしてまた勉強する気になったの?」
「別にお前には関係ないことだ。……だが今度のA組との勝負、E組は負けるつもりねぇから覚悟しとけ。浅野、お前もな」
そう言って雄二は二人に対して獰猛な笑みを浮かべる。よくもまぁ雄二個人だと馬鹿で勝てないのは明白なのに強気になれるものだ。とはいえ僕もE組が手も足も出ず負けるだなんて思っちゃいない。科目トップを狙えそうな人はE組にも揃ってるんだからね。
「……そう」
「随分と強気な発言だね。まぁ良い勝負が出来ることを期待してるよ」
雄二の発言に対して二人はそれだけ言うと僕らの席から立ち去っていった。霧島さんの考えてることはよく分からなかったけど、浅野君は明らかに良い勝負が出来るとは思っていない言い方である。少なくとも自分が負けることは考えてないんだろう。強気なところは浅野君も変わらないなぁ。
「……結局、霧島さんは今のを坂本君に訊きに来ただけだったのかしら?」
「みたいだね……それよりも坂本君と霧島さんってどういう関係なの?お互いに名前で呼び合ってたけど……もしかして付き合ってるとか?」
残された僕らはすぐに勉強に戻れるような雰囲気でもなく、関心は二人の訪問から雄二と霧島さんの関係へと向けられていた。そこは僕も大いに気になっていたところだ。もし二人が良い関係だなんて言おうものなら雄二を処刑せねばなるまい。
「いや、それはない。アイツとは単なる幼馴染みってだけだ」
…………まぁ今はセーフにしておこう。美人の幼馴染みがいるというだけで有罪ものだが、二人にそれらしい空気はなかったし図書室で暴れるのは問題になる。僕も友達を失わずに済んで安心したよ。
その後は雄二が話を逸らして再び勉強を再開することになった。なんか話の切り替え方が強引だった気もするけど、新事実が判明して僕も殺意が抑えきれなくなったら大変だから一先ず置いておこう。
そうして浅野君と霧島さんとの邂逅は特に波乱もなく過ぎ去り、僕らは図書室の利用時間終了まで勉強を続けるのだった。
次話
〜終業の時間・一学期〜
https://novel.syosetu.org/112657/32.html
雄二「これで“期末の時間・二時間目”は終わりだ。楽しんでくれたか?」
矢田「今回も新しく登場した人ってことで霧島さんが来てくれてるよ‼︎」
翔子「……よろしく」
雄二「つーかなんでお前は俺が図書室にいることを知ってたんだよ。今回は偶々片岡に声を掛けられただけだぞ」
翔子「……私も図書室で勉強してたから。雄二を見掛けて声を掛けただけ」
矢田「あ、原作みたいに坂本君が来たから図書室に来たってわけじゃないんだ」
雄二「それはそれで異常だからな?それが普通だと思うなよ」
翔子「……まだそこまでするつもりはない」
雄二「
矢田「そういえば霧島さん、坂本君が女の子と一緒だったのに冷静だったね。原作では結構ヤキモチ焼いてたのに」
翔子「……まだ彼女じゃないから。実力行使に出るのは彼女になってから」
雄二「だから
矢田「霧島さんってホントに坂本君一筋だよねー。坂本君も素直になればいいのに」
翔子「……私も雄二の頑固さには困ってる」
雄二「お前らな……まぁいい。今回はFクラスと違って勝てる要素の大きい勝負だ。進級直後の試召戦争みたいには行かねぇぞ」
矢田「まぁそこは私も坂本君と同じ意見かなぁ。色々と負けるわけにはいかない勝負だし」
翔子「……私も負けない」
雄二「ということで期末テストの勝負は次に持ち越しだ。次回も楽しみにしとけよ」
明久「……ということがあったんだけど、ムッツリーニとしては雄二をどう思う?」
土屋「…………
秀吉「お主らもその辺りの対応は一貫して変わらんのぅ……」