いつものホテルで、お兄さんが、母さんと僕の作品展を開いてくれた。生前母さんが描き溜めた未公開作品と、僕が趣味で描き溜めた作品を展示してくれたのだった。
「亜樹君は絵の才能もあるんだね~」
作品展は盛況で、お兄さんは喜んでいた。
「紅子の性格を良くしてくれ、このホテルの目玉も作ってくれたとは、君に出逢えて良かったよ」
紅子の父親に言われた。
「お父様…亜樹さんが恐縮していますよ。褒め殺しはしないでください」
僕の横にいてくれている紅子が、父親を牽制している。
「褒め殺しでは無い。正直な感想だよ、紅子。亜樹君、佐田家は君をバックアップする。だから、困ったことがあったら、息子でも娘にでも言ってくれ」
「ありがとうございます」
離れで保管するには難であったけど、今後母さんの作品は、このホテルで適性な環境で厳重に保管してくれることになった。それはそれで嬉しい。ここに来れば、母さんの作品を適度な照明の下で見られるのだから。離れでは、その色合いははっきりと見えないし。
作品展には美和子や有希子も来てくれた。僕との関係がバレるとますいので、他人の振りをしているけどね。蘭の両親、あのコナンという少年も来た。あの少年は何者だ?目付きが小学生では無い。
別室では、オータンとタムタムの作品展も開かれた。こちらは常設では無いけど、姉ちゃんも夏美も喜んでいる。僕の作品と共に展示されたから。
「お兄ちゃん…」
甘えた声の夏美。指定席に収める。
「夏美、ここでそれはやめなさい。みっともないわ」
って、姉ちゃん。夏美は既に安眠モードに移行しているけど…
「本当に、夏美はスーパーブラコンよね」
珍しく蘭も焼き餅モードなようだ。蘭も胸が姉ちゃん並な為、夏美の様にはなれなかった。紅子は更に大きい為、無理だった。朱美は可能な気がするが論外なので、スルーしている。首を絞めかねないし。デコなら可能かな。この前、怒らせて以来、意識的に避けられているが、スルーしている。
「しかし、その妹は、この状況でよく安眠できるな」
って、蘭の父親。
「まぁ、コアラみたいな感じです。いつもの事だから…あぁ、気にしないでください」
「で、出来具合はどう?」
鈴木さんが訊いてきた。新シリーズの目処がたったので、企画書を鈴木さんに提出したのだ。
「そこそこです。1ヶ月に1本いけるかどうかかな」
蘭の父親をモデルにした、ノー天気な探偵の物語。
「そのペースならいいかな。トリック物を捨てた甲斐があったわね」
トリック物はダメだ。父さんのトリックとダブリそうで恐いから。親子2代で推理小説作家はきついと思う。まぁ、父さんとの関係はバレてはいないけど、僕の精神の問題だと思う。鈴木さんに言わせると、考えすぎってことみたいだ。
で、あの部屋に皆で移り、食事会。当然だけど、美和子と有希子は参加しない。
「そうそう、このホテルの1階に画材屋を開こうと思うんだ」
お兄さんが口を開いた。
「紅子に聞いたけど、君達は画材をよく買うそうじゃないか。だから、役立ちたいと思ってね。屋号は『佐丹堂』だよ。どうかな♪」
「僕達の為に?いいんですか?そんな理由で…」
「うん、いいんだよ。画材や塗料で有名なお店になれば、このホテルの知名度もあがるし。一石二鳥だよ」
商魂が逞しいのかな?それとも僕だけの為かな?
「恩に思わないでください。恩を受けたのは私の方ですから」
紅子が笑顔で僕の顔を覗き込む。
「それに、ここへの買い物であれば、安心です。亜樹さんは、トラブルに巻き込まれ易いから、心配なんですよ~」
やっぱり、僕の為なんだね。新一ってヤツに顔がそっくりだから…まぁ、そのおかげで蘭や美和子に出逢えたから良いけど。
◇
翌週の金曜…学校から帰ると、家の前に美和子がいた。手にはカバンを持っている。
「どうしたの?家出?」
声を掛けた。
「あっ、おかえり♪お泊まりに来たの。明日の自主トレに参加するよ」
って。カバンはお泊まりセットと、自主トレ用品なんだね。
「ちょっと…お泊まりって?」
電柱の影から、知らない男性が出て来た。
「なんで、高木君がいるの?」
高木って人らしい。
「いえ…佐藤さんがソワソワしていたから、心配で…何で工藤君がいるんですか?」
あっ、新一に間違われている。有名人にソックリって、とっても不便…
「君に説明する必要性は無い。ふ~ん、尾行していたのか」
鍵を開けてドアを開け、僕と紅子と美和子だけ入った。高木って言う人を入れる理由は無かったから。
「あの人も刑事?」
彼の身分を確認してみた。
「そうだよ。同じ部署なんだ。なんで、尾行するかな。明日は非番なのに…」
「美和子さんが気になるんじゃないの?」
「ストーカーとして、逮捕するかな」
あぁ、その手もあるよね。
「まぁ、楽な服に着替えて。部屋は2階の空いている部屋を使って下さい」
「ありがとう、亜樹君♪」
荷物を持って2階へと昇っていく美和子。
「紅子、珈琲を頼めるかな?」
「はい♪」
1階には、紅子の為の部屋があり、そこで制服から私服へと着替えた。ちなみに、蘭は母屋にある僕の部屋を使っている。僕は母屋で生活しないから。
着替えて、書庫で調べ物をしながら、構想を練っていく。取材メモを見ながら、ノートへ情報を整理して書き込んでいく。美和子と紅子が、僕の作業を興味深そうに見ていた。
「小説家って大変なんだな」
って、美和子。
「刑事さんだって、大変でしょ?刑事ドラマと違って、書類との格闘らしいじゃないですか」
蘭の父親は、探偵になる前は刑事だったそうで、刑事ドラマと実際の違いを聞いたことがあったのだ。
「まぁねぇ、書類が大事だよ。捜査も大事だけど。捜査や推理が冴えていても、書類に出来無いと、裁判で使えないし」
そうだ…夏美の作業場から、モデルガンを取りだし、美和子に手渡した。
「美和子さんの銃で象りした、夏美の作ったモデルガンです。出来映えを後で夏美に伝えてください」
「あぁ、わかった。ふ~ん…よく出来ているな。弾倉も回転するのか。リアルだな。軽さと柔らかさを除くと」
モデルガンだから。重さと頑丈さまで再現すると、それは違法拳銃になると思う。それだけの再現力はある。
疲れたので、絵を描く。紅子と美和子をモデルにして。
「え?私をですか?もったいないような…」
紅子の謙遜する言葉。過去の紅子も気になるけど、今の紅子は好きである。
「はい」
二人に出来た絵を手渡した。
「凄い…」
「短時間にこんなに描けるの?モンタージュ作りできそうだな」
あぁ、出来るかな?でも見た物しか描けないから、無理かな。
「おじゃましま~す♪」
蘭がやって来た。既に母屋で着替えてきたようだ。う~ん、姉妹の帰りが遅い。蘭より先に帰って来る距離なのだが。どこかで不良を狩っているのかもしれないな。
「外で高木刑事に会いましたけど、何か遭ったんですか?」
って、美和子に言った。
「うん?まだいるのか?暇だな。何も無い。遭ったとすれば、私と工藤君が逢い引きしていると、誤解しているくらいかな」
笑顔で返す美和子。
「あぁ、尾行されたんですね。佐藤刑事はモテるから♪」
「そんなこと無いわよ」
「あぁ、いいな~亜樹君に描いてもらったんですか」
美和子に描いた絵を見ている蘭。
「さらっと描いてくれたよ」
蘭にも絵をプレゼント。その絵を見るなり顔と耳を真っ赤に染めた。
「なんで…私だけ…全裸なの?」
「何も着飾らない蘭が好きだから」
正直に言った。
「そういうのは、人前で言わないで~恥ずかしいからさぁ~」
俯いた蘭。
「見ないでも描けるの?ねぇ、私の想像ヌードも描いて♪」
ペンを走らせる僕。5分ほどで完成、美和子に手渡す。
「え…えぇぇぇぇぇ~…想像でここまで描けるのか…う~ん…」
まぁ、身体のパーツは見ているから、ポーズによってどう変化するかは応用編だけどね。
「こんなにスタイル良かったかな?」
「あぁ、亜樹君の理想ですよ。それに近づけるようにすると、良いと思います」
って、蘭が説明している。遠からず…そんな感じだよ。
「ただいま♪腹減ったよ~」
って、姉妹と朱美が帰って来た。あぁ、飯の用意しないと。紅子と蘭と僕がキッチンへと向かった。
「美和子さん、いらっしゃい♪」
「お誘い、ありがとう♪」
「おぉ、お兄ちゃんの絵だ。描いて貰ったんですね」
夏美と美和子が楽しそうに会話している。
「で、姉ちゃん、帰りが遅く無いか?」
「あぁ、こそ泥を捕まえて、警察に引き渡していたから」
「うん?こそ泥?どこで?」
「母屋の裏で捕まえたよ。金目の物は無いのになぁ」
一般的な金目な物は無い。有るとすれば、父さんと僕の原稿、夏美と姉ちゃんの作品くらいだけど、一点物な為、足が着くと思うので、まず盗まないだろう。
「妖しい者では無いって…まったく、妖しいだろ、住民でも無いのに」
まぁ、この辺りに住んでいる者で、鳥井姉妹を知らない者はいない。そのくらい、恐怖な対象になっている姉妹と朱美。絡んできた不良達を制圧して、ボス格だけを拘束して、人気の無い場所に連れて行きボコる。通常の一般人では無いのは周知な事実だ。
交番のおまわりさんですら、姉妹達に敬礼をする位、ビビられている。
「妖しいな。この辺りに住民では無いんだろう」
「柔道経験があるみたいだったよ。少し愉しめたかな♪」
姉ちゃんは空手一筋である。僕とのプロレスごっこをする為だけに、朱美は柔道を多少極めている。そして、夏美はマーシャルアーツの使い手であった。
「明日は亜樹も参戦だぞ」
って、姉ちゃん。へ?なんで?
「拒否!」
「ダメだ。美和子さんの相手をしろ。あと、蘭丸な」
「僕は攻撃できないぞ!」
「それでいいんだ。攻撃を全部凌いでみな」
挑発的に言い放つ姉ちゃん。お前を倒したい…
「姉ちゃん、今から手合わせするか?」
はっとする姉ちゃん。
「ダメだ。腹が減って無理」
「喰った後だと、嘔吐の危険があるが…」
「なんで、私なんだ?」
「一番苦しむ顔が見たいから♪」
「う~ん…過去のことは謝るから…」
「じゃ、明日な♪」
凹んでいる姉ちゃん。空手一筋の姉ちゃんは、間接技に弱い。攻撃をしのげれば、間接技に持ち込めるし。その前に投げ技でも制圧できるかな?
って、僕は武術を習ってはいない。まぁ、朱美とのプロレスごっこ程度の実力だ。ただ、動体視力は鍛えられている。何度も、姉ちゃんの正拳突きを、目の前で寸止めされているから。
◇
食事の後、まったりしていると、呼び鈴がなった。こんな時間に来客?蘭が玄関へと向かった。
「えっ?目暮警部?」
「うん?蘭君…どうして…ここに何があるんだ?」
美和子が玄関へと向かった。
「警部、どうしたんですか?」
「佐藤君…それは、私が聞きたい。ここで、何が行われているんだ?」
「どういう事ですか?」
「高木から工藤君を見つけたと報告があったのだが、彼の行方が分からなくなったんだ」
「え?新一?」
「蘭ちゃん、亜樹君の事じゃないかな?私と亜樹君が一緒にいるところを目撃されたから」
「あぁ…彼は新一では無いんです」
「どういうことかな?失礼するよ」
「ちょっと、勝手に上がらないでください」
紅子と食器を洗っていると、知らない大柄な男性が入って来た。それも土足でだ…
「君は工藤君では無いのか?!」
威圧的に言う男性。
「違います。なんですか?土足で、勝手に入ってきて。捜査令状はあるんですか?」
「うん?そういうのが必要な状況なのか?」
警部がどこかに連絡をし始めたので、僕も蘭の母親に救援を求めた。あれ?紅子もどこかに連絡をしているし。
◇
30分もすると、僕の家の前は騒然となった。大柄な男性が呼んだ警視庁の人々、僕の呼んだ蘭の母親、そして、紅子が救援を要請した警察庁の人々が睨み合いをしていた。
大柄な男性と警察庁の偉い人と蘭の母親の3者で、話し合いをし始めた。その結果…埒が明かなかった。
「捜査令状はあるので、家宅捜査に着手します」
「違法捜査は認められない」
「容疑はなんですか?彼は未成年ですよ!」
っと…どうなるんだ?