ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ (夜鳥空)
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キャラクリエイト~OPまで

なかなか予定が合わずオンセの面子が集まらないので初投稿です。

 ※注意事項
 RTAではありません。
 独自の設定や解釈があります。
 
 性癖に合わないと感じた方はブラウザバックをお願いいたします。


 追加コンテンツが配信されたゴブリンスレイヤーの実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 まずはキャラクリエイトから。今回は先日追加された新システムである「モンスター種族PC」と「年代記(クロニクルプレイ)」を使用してのキャラクター作成となります。

 

 それぞれの説明ですが、まずは「モンスター種族PC」について。こちらは読んで字の如く、何らかの理由で「祈り」に目覚めた「祈らぬ者」(NPC)プレイヤーキャラクター(PC)として遊ぶモードとなります。プレイ済の兄貴たちはご存知の通り、邪教の儀式で魔神と合体してしまい人の心と悪魔の力を持つGO=永井神なプレイから、粘体やスケルトンになって無双するナウなヤングにバカウケなものまで幅広い性癖に応えられる仕様となっております。

 

 次に「年代記」。こちらは開始時間を通常プレイから変更することが可能になるモードです。原作1巻スタートであったゲーム開始の時期を任意の時間軸に設定することで、本編開始の10年前となる外伝『鍔鳴の太刀(ダイ・カタナ)』の舞台である「死の迷宮」に挑戦することや、魔神王討伐戦前に焦点を当て、勇者ちゃんご一行とロールプレイを楽しみながら(フレアとパトスチットを投げ合いつつ)オーバーパワーなシナリオに戦慄するなど本編とは一味違う遊び方があると評判は良いようです。また原作同様の時間軸を選択した場合でもキャラクターの背景に影響が出るようなので、今まで通常プレイのみだった兄貴たちもぜひ導入してみてください。俺もやったんだからさ(同調圧力)。

 

 さて、そろそろ実際のキャラクリに入りたいと思いますが、ここで注意する点があります。

 通常の作成では大まかに「種族」「経歴」「職業」といった順に決定していきますが、モンスター種族の場合は少し違います。

 

 最初に「種族」を選択する点は同じなのですが、その後「属性(アライメント)」「祈る者になった理由」を決めていく流れとなっております。「属性」はそのキャラクターを支える信条であり、モンスター種族をPCとする場合には必ず善か中立どちらかを選択しなければいけません。悪属性のキャラクターはGM(ゲームマスター)が困るから、やめようね!

 「祈る者になった理由」は「種族」と「属性」を選んだ段階で選択肢が提示される仕様になっているので、ここからは実際に入力していきましょう。

 

 まずは「種族」ですが、今回は王道を征く「吸血鬼(ヴァンパイア)」です!

 ……冒険者に向かないんじゃね? と思った視聴者の方、その通りでございます。

 説明書(ルルブ)に記載されているように吸血鬼には多くの弱点がありますが、何よりも冒険に向かないのは、そう「太陽に弱い」です。ぼっちプレイならともかく、一党(パーティ)を組む際に昼間行動できないことは致命的であり、不審に思ったメンバーから正体が露見する危険性もあります。また街中においても昼間外出しない人物は不自然であり、一般的な生活を送ることは難しいでしょう。

 ですがご安心ください。それを何とかする理由が得られるのが後に選択する「祈りの対象」になります。ここでは気にせず入力を続けていきましょう。

 

 次に「属性」ですが「善」を選びます。理由としては正体が露見した際の反応にプラス修正が入りやすい、行動の選択肢に周囲からの好感度が上昇しやすいものが出現しやすいといった点が挙げられます。安定をとるのが大事、はっきりわかんだね。救出可能なキャラクターはロールプレイの一環として可能な限り救い、功績をあげるよりも被害拡大を防ぐ聖人プレイを目指すので間違えて中立を選ばないようにしましょう。モッピー知ってるよ、良いロールプレイをすると経験点が増えるって(FEAR並感)。

 

 

 

 さて、「種族」と「属性」を決定した段階で「祈る者になった理由」を決めることが出来ます。「支配からの解放(キョンシー)」やら「真実の愛(ペナンガラン)」といったアレな選択肢(しゅぞく)が目につきますが、その中から今回は「太陽あれ!(デイライトウォーカー)」を選択したいと思います。

 「太陽あれ!」を選んだ吸血鬼はその名の通り、太陽光を克服した存在となります。魔法的なものか或いは根性か、はたまた長生きしすぎて健康のために日光浴をしていたのか。理由はどうあれ陽光の下で活動できるのは大きなメリットとなります。

 

 上記の3点が決まれば、あとは「年代記」で開始時期を決定することで能力値決定等は自動処理されていきます。「経歴」や「職業」を選択しなくても良いのは楽ちんちんですね。今回はRTAを見越したバランス確認を兼ねての試走となりますので、原作開始時に時間を合わせて決定ボタンを……ポチっとな!

 

 

 

 ……ちょっと長いロード時間がありますので、その間に皆様にお伝えしなければならないことがございます。

 実はこの「モンスター種族PC」ですが、キャラクリ時に唯一困った点がありまして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャラクリ時に性別を決められないんですよね。

 

 

 

 

 これには理由がありまして、PCとして選択できるモンスターが人喰粘菌(ブロブ)骸骨(スケルトン)といった雌雄の無いモンスターや、蛇女(ラミア)夢魔(インキュバス)といった予め性別が決まっているモンスターが多かったために性別決定の選択肢が抜けてしまったようなのです。追って修正が入るという話は出ているのですが、現状はランダムで決まることになります。ですので性別リセを繰り返したくない兄貴たちは更新が来るのを待ってね(来るとはいってない)。

 

 

 

 話している間にロードが終わりました。ここからがOPとなります。

 

 

 

 

>品の良い調度品で統一された執務室。水の都を離れる挨拶をするため、君は至高神の神殿を訪れていた。

 

 OPはPCの一人称視点ADV風。どうやら水の都が舞台のようですね。

 

>勧められて座ったソファー。机を挟んだ反対側には同じくソファーに腰かける見目麗しい美女。両目は帯に覆われているが、その美しさは少しも損なわれてはいない。

 

 お相手氏はみんな大好き剣の乙女さんですね。PCの視線が低いのか、見上げるようなアングルでお山が強調されていて……じつにえっちです。さてはおっぱい星人だなオメー。

 

 「長年の働きとその功績に報いるため、あなたはこの地から旅立つことが認められました。旅立ちにあたり交わされた誓約、改めて確認は必要ですか?」

 

>はい

 いいえ

 

 なにやら難しいことを言っていますが、これが「年代記」で自動生成された背景情報なのでしょう。PCは兎も角実況者は状況が理解できていないので、ここは素直に「はい」を選んでおきましょうか。

 

 「吸血は同意を得た対象から無理のない範囲ですること。後継者以外の眷属をつくらないこと。そして……」

 

>ゴブリンは殺す。慈悲は無い。

>隠せぬ身の震えに耐えながら言葉を紡ごうとする剣の乙女を制し、君は誓約の確認を引き継いだ。

 

 随分物騒なことを言ってますが、PCは剣の乙女のトラウマを知っている? どうやら剣の乙女は通常作成の場合選択する経歴「邂逅」の対象に類するもののようですねクォレハ……。

 

>君の言葉に少し表情を緩ませた剣の乙女は、机上に用意されていた封筒と認識票を手に取る。認識票は傷一つない白色。封筒には至高神の紋を封蝋が施されており、重要なものだと君は感じた。

 

 「この街の冒険者ギルドで登録したという神殿の証明入り登録証と白磁等級の認識票です。……予め登録しておいて下さいって、私言いましたよね?」

 

>ジト目で君を見つつ(帯に隠れて見えてないけど)彼女は君にその2つを手渡ししてくる。

>そういえばギルドに向かうことをすっかり忘れていた。

>君は感謝の言葉を伝えつつそれらを受け取った。

 

 うーん、未登録ということはPCは今まで冒険者としては活動していなかったのでしょうか?騎士団や神殿に仕えていた可能性が微レ存?

 

>心配そうな眼差しで君を見る剣の乙女と会話を紡ぐ。

>……そろそろ出発の時間だ。

>君は立ち上がり、剣の乙女に手を差し出しながら別れの言葉を告げる。

 

 「またお会いしましょう。……お元気で」

 

>握手を交わし、君は執務室を後にする。

>手に残った柔らかな感触が、人との繋がり、心の温かさであると君は感じた。

 

 握手の際に前かがみになった剣の乙女さんのお山が大変なことに……これはいけません。

 ですが、会話のシーンといい最後の握手のシーンといい、これはもしかすると……。

 

 

 おおっと、お山について思索に耽っている間にOPが終了していました。画面ではキャラバンに頼み込んだのか、ゴブスレさんが拠点とする辺境の街に到着したPCが荷馬車から降りて商人に礼を言っているようです。ここから操作可能となりますのでお待ちかねのステータス確認に移りたいと思います。画面ではPCが封蝋を開けようとしていますねぇ。……それ以上いけない(真顔)。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆名前:吸血鬼侍

◆種族:吸血鬼(元圃人)

◆性別:女

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱり圃人でしたかー。視線の低さといい、商人のPCに対する反応といいそんな感じはしていました。性別は女性。かわいいは正義、古事記にもそう書かれている。前衛としてはリーチと膂力に欠けている圃人ですが、そこは吸血鬼パウワーでなんとかなると信じましょう。

 

 ……どうやら余程幼い時に吸血鬼に変じたのでしょうか。金床さんと双璧をなせそうなほどの機能美に溢れたボディですねぇ。通には堪らないものがありそうです。

 

 しかし名前が吸血鬼『侍』? ヴァンパイア侍って書くとB級映画のスメルしかしないですね。それはさておきどういうことでしょうか。通常圃人の前衛キャラクターは『軽戦士』や『剣士』、『斥候』になると思うんですけどねぇ。もうちょっと下のほうを見てみましょうか(覗き込むように視点移動)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆装備

 武器:村正

 鎧 :英雄の胸当て

 盾 :銀の小手

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 武器:村正

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 武器:村正

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ(察し)

 

 

 




 オンセが出来ないのと久しぶりにWizをやって楽しかったので、ついかっとなってやった。
 反省はしていますが続くかどうかはわかりません。
 P.S. 「ブレイド」シリーズは名作。最後にこれだけは伝えたかった。


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ステータス確認~セッションその1ー1

吸血鬼侍ちゃんイメージイラストが描けたので初投稿です。


 OP時点で厄い情報を目撃してしまった実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 えー、気を取り直して実況を続けていきます!

 辺境の街へ到着しましたら急いで冒険者ギルドへと向かいましょう。死亡キャラ救出チャートを走っている兄貴たちにとっては親の顔よりも見てるであろう青年剣士君パーティに参加するためです。予め水の都で登録は(剣の乙女が)済ませているので時間的な余裕はありますが、ここで合流に失敗すると救出が難しくなってしまいます。間一髪のところで乱入するコブラチャートも一気に好感度が稼げるので選択肢に入りますが、今回は安定をとって最初から行動を共にしましょう。

 

 ギルドの扉をくぐると……いました! テーブルに座っている3人組と依頼掲示板の前で悩んでいる神官ちゃんです。まだ青年剣士君による声掛け事案は発生していないようなので、このタイミングで受付に話しかけましょう。おねーさんすいませーん!

 応対してくれたのはゴブスレさんに恋している受付嬢さんです。身体的には圃人な吸血鬼侍ちゃんにとって机の位置は高いために踏み台を持ってきてくれました。ありがてぇ、ありがてぇ……。

 水の都から来たことと、こちらを拠点に冒険者として活動したい旨を伝えつつ剣の乙女に貰った手紙を見せたら引き攣った顔で離れた席の女性のところへ行ってしまいました。どうして……?

 

 おや、机の上に手紙を開いたまま行っちゃってますねぇ。せっかくだからちょっと覗いてみましょうか(チラッ)

 

 

>◆名前:半吸血鬼侍

 

【挿絵表示】

 

>◆経験:従軍経験あり(名誉除隊)

>◆特記事項:吸血頻度は極稀 必要な場合はギルドに依頼として出す旨本人に通達済み

 

 

 要約するとこんな感じですが、これは上手い書き方ですね! 吸血鬼が昼間歩き回ることが出来るなんて常識では考えられない以上、半吸血鬼という落としどころは中々です。従軍経験ありというのも重要。一定の軍事教練を受けた経験があり上意下達の概念を理解しているのはギルド側にとっても扱いやすい人材に見えるでしょう。ほんとに従軍してたんですかねぇ(ボソッ

 最後の吸血に関しては……わかりません!

 血の気の多い冒険者から献血のようにわけてもらえば良さげな感じですが、ぶっちゃけ生命維持にどのくらい血液が必要なのか現時点では把握していないですし、最悪野外で襲ってくる野盗なんかから吸っちゃえばいいと思ってました。まぁ金銭を代価に安全且つ定期的に吸血が出来るならそれに越したことはないので、ヨシ! としておきましょう。

 

 そんな感じで待っていると受付嬢が戻ってきてくれました。手紙に記載されている内容は本当かと尋ねられましたので、口を開けて可愛い牙を見せてあげましょう。見た目は小さくても半吸血鬼、若干怖がられている気がします。場を和ませるために血を吸いたくなったらそこに書いてある通り依頼を出すから受理してねと伝えたらドン引きされました。解せぬ。

 

 腑に落ちない点はありますが、手紙は受け取ってもらえましたので依頼掲示板へと向かいます。女神官ちゃんはまだ掲示板の前で悩んでいますので早速声をかけましょう。半吸血鬼であることを伝えたらビックリされました(残当)。そういえば半吸血鬼って地母神信仰的にはどうなんでしょう。ちょっと悩んで個人的な意見ですがと言いながら、吸血鬼そのものや人に害をなした半吸血鬼なら兎も角、ただ半吸血鬼として生まれただけで生きていてはいけない理由にはならないと思いますと答えてくれました。ええ娘や(ホロリ)。まぁホントは吸血鬼そのものなんですけどね!

 

 女神官ちゃんと交流を深めていると横から話しかけられます。お待ちかねの青年剣士君一行ですね。お前たちのことを待ってたんだよ! 若者特有の万能感と蛮勇に満ち溢れた言動が眩しいですが、こちとら「太陽あれ!(デイライトウォーカー)」です。陽光すら克服した存在にとって痛痒を感じるものではありません。ゴブリン退治に誘われるのでホイホイついていきましょう。

 

 

 

 

 ちょっと移動の時間がありますので、ゴブリンのすくつ(変換できない)に向かっている間に吸血鬼侍ちゃんの装備について解説していきましょう。 

 まず初期装備についてですが、鎧と盾は名称こそ違いますが性能は店売りの胸甲および大籠手と変わらないようです。もし名称が胸甲+3と大籠手+2だったら大変なことになっていたかもしれません。新人冒険者が等級に見合わない装備をこれ見よがしに持っていると、他の冒険者からの反応にマイナス修正が入る場合がありますので注意しましょう。

 防具以外の服装としては、陽光を浴びても平気とはいえやはり苦手なのでしょうか?目深に被ったフードと裾の長い上着で肌の露出を極力抑えた装備になってます。圃人にしては珍しく靴、しかもロングブーツを履いていますがそこは御洒落さんということでひとつ。あとは背中に冒険者ツールの入った背負い袋といったところです。一般的な冒険者の持ち物は所持しているといって良いでしょう。

 

 それで問題の武器のほうですが、えー、やばいですね☆

 

 一般的に入手可能な湾刀の威力ダイスが2d6なのに対し、村正の威力驚きの5d10! これが何を意味するのかといいますと、期待値で小鬼の呪術師(ゴブリンシャーマン)が真っ二つになります。命中にプラス修正が入ることと職業レベルによる補正まで考えると、小鬼戦士(ゴブリンファイター)までは首切り可能でしょう。

 ですが一番問題なのは、大籠手の修正を受けたまま両手持ち武器として使用可能ということです。そんなところまでリスペクトしないでいいから(良心の呵責)。

 新人が持ち歩くには不自然すぎる逸品ですが、先祖代々の家宝や偶然手に入れた品という言い訳でなんとか誤魔化していきましょう。

 

 ……ここまでの情報でお分かりになった方も多いと思いますが、吸血鬼侍ちゃん、どうやら「死の迷宮」、その地下10階に住んでいた方のようです。装備品に関しては、恐らくインスパイア元でドロップするアイテムから選出されたんじゃないかなぁと。フェスじゃないときのSSRより低いドロップ率を引くとかなかなかの豪運ですね、私も見習いたい。しかもOPで描写された剣の乙女の反応から察するに、六人の英雄とは「友好的な」関係だったのでしょう。いったいどんな手段でワードn、もとい「死の迷宮」の魔神王を倒したのか、非常に気になる所さんです。

 

 おっと、そろそろ目的地ですが、到着するまでにひとつやっておくことがありました。

 まずは街道沿いに落ちている木の枝から、只人が握れる太さの硬いものを探しましょう。長さは50~60センチくらいが理想ですね。見つけたら余分な枝葉を除去し、持ち手となる部分に襤褸布を巻き付ければ簡素な棍棒の完成です。出来上がったそれを青年剣士君に渡しましょう。カッコ悪いから要らないと言ってきますが、ゴブスレさんが到着するまで全員が生き残るには本人の自衛能力も重要です。副装備が無いことの危険性と、ゴブリンが巣にしている洞窟内で長剣が満足に振るえるのかわからないからなどと言いくるめて無理やりにでも持たせましょう。

 

 

 ゴブリンの巣がある洞窟に到着したんですが、ちょっと吸血鬼侍ちゃんの様子がおかしいですね。ステータスを確認してみましょう。

 ああやっぱり。スタミナゲージの上限が通常時の半分程度に減少しています。

 「太陽あれ!」である吸血鬼侍ちゃんですが、太陽の光によるペナルティが無いわけではありません。具体的に言うと「スタミナ上限の低下&消耗速度上昇」「再生能力の消失」「判定へのペナルティ」などが挙げられます。洞窟内に入ってしまえば問題ありませんが、判定ペナルティの影響で洞窟入り口にあるゴブリンシャーマンの存在を示すトーテムの知識判定に失敗してしまいました。ここで失敗したのは結構痛いです。予めシャーマンの存在をパーティに伝えられると一気に生存確率が上がるのですが、この後横穴の観察判定に失敗すると見事原作再現、成功しても前衛と後衛が分断される危険性が高いです。失敗したものはしょうがありません、吸血鬼侍ちゃんは後衛2人の護衛として控えつつ、青年剣士君と女武道家ちゃんの粘りに期待しましょう。

 

 洞窟に入るとみるみるスタミナの上限が回復していきます。いつでも抜刀できるよう村正に手を添えつつ、一行と共に洞窟の奥へと進む吸血鬼侍ちゃんですが……よし! 横穴を見つけるための観察判定には成功しました! 急いで後衛2人の前に出ましょう……ってしまったぁぁぁぁぁ!!

 吸血鬼侍ちゃんが暗視持ちだから見えていることを忘れて、後衛に松明を持ってもらっていないじゃない!既に前衛2人は突っ込んでしまっているので後衛は光源が無い状態ですので非常に危険ですって横穴からわらわらゴブリンが出てきたー!

 

 こうなっては仕方ありません。女神官ちゃんと女魔法使いちゃんにはゆっくり下がってもらい、吸血鬼侍ちゃん単独で迎撃しましょう。ステップでゴブリンの攻撃を躱しつつ村正で斬り付けますが、ゴブリンの首が面白いように飛んでいきますねぇ。たまに壁面に切っ先が触れますが、一切の引っ掛かりもなくバターのように切れ目が入るのはちょっと(戦慄)。これ暗くてよく見えていないからまだ良いですが、もし明るかったら後ろの2人はSANチェックだったやもしれませぬ。

 

 横穴からの奇襲が終わったところで忘れていた光源を用意しようと思いますが、女魔法使いちゃんは杖を両手で握りしめたポーズで硬直、女神官ちゃんもあわあわして動けそうにありません。しょうがないのでこちらで準備して渡しておきましょう。洞窟奥からは青年剣士君と女武道家ちゃんの必死の声が聞こえていますのでまだ戦えているようです。援護に向かうために急いで背負い袋から松明を取り出し、火をつけて女神官ちゃんに差し出しますが、なんで女神官ちゃんはそんな驚いた顔をしてるんです? え、後ろ? ちょっとまって第2ウェーブとかなにそれ聞いてないんですけど!? 緊張で周囲が把握できてない女魔法使いちゃんのおなかに黒くべたつくなにかがタップリ付いたナイフが向かってるぅぅぅぅ!? と、とりあえず足元に松明を放り捨てて攻撃……はダメッ……間に合わないっ……背に腹は代えられないので、女魔法使いちゃんを突き飛ばして攻撃はライフで受け(肉に刃物が刺さる音

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 




キャラシーのイラストをアナログで描いていたのが懐かしいので失踪します。


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セッションその1ー2

はじめて感想と評価を頂戴したので初投稿です。


 前回ゴブリンの黒光りする素敵なモノ♂で貫かれたところから再開します。

 

 原作で女魔法使いちゃんの死因となった毒ナイフですが、狙い通り無事に前面胴体中央に命中しました(バトルテック並感)。胸甲で守られた部分からは外れていますが問題ありません。ここでキャラクリ時に吸血鬼を選択した最大のメリットが出てきます。

 

 このゲームのダメージ適用において最も重要なのは、身体のどの部位に命中したのかという点に尽きます。命中箇所が防具によって護られていればその分被ダメージは減少しますし、格好つけて兜を装備していない状態で頭部に殴打攻撃を受ければ、ダメージに加えてよろけや転倒といった付随効果が発生する可能性が出てきます。また腕部や脚部に一定以上のダメージを受けるとその部位が使用不可になったり、最悪部位欠損という取り返しのつかないバステに繋がりかねません。そこで吸血鬼の種族特徴が威力を発揮します。

 

 まず大規模ダメージによる即死無効という点が大きいです。通常生きているキャラクター・モンスターともに一撃で生命力の半分を超えるダメージを受けた場合、ショック死してしまう可能性があります。これを大規模ダメージによる即死と呼ぶのですが、アンデッドの一種である吸血鬼はその対象となりません。負傷数が生命力と同じ数になるまでは立ち続けることができるわけです。またラウンド終了時の再生能力もあるため、陽光の下でなければ即死する危険性はほぼ無いと言って良いでしょう。通常のPCと違い、負傷数が生命力の2倍まで食いしばることは出来ないのでその点に関しては注意しなければいけませんが、それでも肉盾としては破格の性能です。

 

 ちなみにアンデッドには毒・病気に対する完全耐性という素敵な特徴もありますので、ポジって青い顔になる吸血鬼はでませんのでご安心ください。

 

 ……ぶっちゃけ元々は防御特化ビルドを目指す予定でしたので、村正の存在が当初の予定を狂わせたということなんですががが。

 

 説明が長くなってしまいましたが、要するに下手に躱そうとして武器が持てなくなったり移動力が低下したりするよりは、再生能力にものをいわせてボディで受けたほうがお得なんだなぁと思っていただければ問題ありません。

 部位破壊に関してはもうひとつ重要な点があるのですが、のちほど実際に行いますので見ていただいたほうが早いでしょう。

 

 さて、腹部にナイフをもらってゴブリンに押し倒される形で転倒状態の吸血鬼侍ちゃん、お相手氏の息が臭いのかとっても嫌そうな顔をしています。興奮した荒い呼吸を聞いているこっちも不快ですので、その体勢のまま喉笛を噛み千切って差し上げましょう! 固定値だけでゴブリンの生命力を超えますので、もう助からないゾ☆

 

 夥しい血液が降り注いできますが我慢、どうせこの後血まみれになる運命です。突き立ったままのナイフは抜かないと再生の邪魔になるのでさっさとポイーで。ちなみにゴブリンの血は飲めたものではないらしく、摂取しても吸血扱いにはなりません。不味いな。毒にも薬にもなりゃしねぇ(CCO)って感じですね。

 

 押し倒された姿勢からゴブリンをどかして女魔法使いちゃんを確認しましょう。あーゆーおーけー? こっちは血まみれだけど全部ゴブ汁だからヘーキヘーキ! 腹にナイフ刺さってた? 服で止まったから無傷だよ? 嘘じゃないってばホラホラ(ペロン)。 

 え、なに女神官ちゃん? 洞窟の入り口のほうから誰か来た? あ、あの特徴的な鎧姿は……!

 

 女魔法使いちゃんと押し問答をしていると、我らがゴブリンスレイヤーさんがエントリーしてきてくれます。原作よりも若干早いタイミングでの到着ですが、途中での棍棒作成に時間をかけていたのでその分早く追いついてくれたわけですね。

 

 え、あと2人はどうしたかって? 分断されて奥でまだ戦っているんですよー。2人を救出してやりたいんですがかまいませんね! 

 3人でジェットストリーム懇願すると、ゴブスレさんはおもむろにゴブリンの死体に手を伸ばします。はい、いつものアレですね。あ、私もうじゅうぶん浴びているから大丈夫ですよね? ダメですか? そっかぁ……。

 

 うへぇ、匂い立つなあ。えづくじゃあないか(本人が)。3人揃ってゴブリン汁を堪能したら奥へ向かいましょう。おっと、青年剣士君の剣が落ちています。やはり壁面に引っ掛けてしまったようですが、周囲には殴殺されたゴブリンの死体がいくつも転がっています。

 この数から察するに、武道家ちゃんの拳だけでなく青年剣士君の棍棒も役に立ってくれていたかな? 2人の姿が見えないとすると、乱戦の最中に奥へと追い詰められてしまったのでしょうか。

 

 おぅわ!? 奥から何か飛んできましたよ! 

 飛来した物体に目を向けると、それは左腕があらぬ方向に曲がり、全身に傷を負った青年剣士君じゃないですか。どうやらホブゴブリンにいいのを貰って吹き飛ばされてしまったようです。

 同時に曲がった通路の先から女武闘家ちゃんの悲鳴が! あ、ゴブスレさんもしかして突っ込むんですか? ご一緒してもよろしい? あざーす。

 

 青年剣士君の手当ては女子2名に任せ奥へ急ぎます。曲り道の先では床に落ちた松明に照らされ、邪悪な姿を浮かび上がらせる大柄な人型が女武闘家ちゃんを左手で掴み上げていました。右手には棍棒、おそらくあれで青年剣士君をホームランしたのでしょう。ゴブスレさんに、先行してホブの体勢を崩すので止めは任せる旨を告げて、吸血鬼侍ちゃんの存在に気付かせるよう声を上げながら突っ込みます。吶喊(NS隊長)!

 

 せっかくのお楽しみを邪魔されておこなのでしょう、右手の棍棒をフルスイングしてきますが、慌てずにアタリハンテイ力学の精髄である前転回避を駆使して裏回りします。後ろが取れたらその無防備でだらしねぇケツに……ではなく、両の膝裏を一閃します。効力値によるダメージ増加が入って両足とも部位破壊ができました。やったぜ。支えを失った巨体が床に崩れ落ち、衝撃で女武闘家ちゃんが左手から零れ落ちますが、それには目もくれずゴブスレさんは起き上がろうとするホブに止めを刺しています。その容赦のないところ、すこだよ。

 

 ホブの死亡確認や女武闘家ちゃんの怪我の具合、周囲の確認を行っていると、女神官ちゃんが《小癒》を使用したのでしょう。まだ足取りは危ういですが、なんとか自力で歩いてくる青年剣士君と後衛2人がこちらへ向かってきています。

 

 合流して状況を整理しているあいだに、部位破壊のもう一つの特徴について説明しましょう。

 

 先ほどのホブゴブリンへの攻撃ですが、通常の命中であっても恐らく倒せていたと思います。では何故わざわざ部位狙いを行ったのか? 第一の理由として、ゴブスレさんの信頼度を稼いでおきたかったからです。

 

 初見で吸血鬼侍ちゃんの攻撃力を予想するのはほぼ不可能である以上、安全にホブを処理するには2人がかりのほうが確実です。小柄な体躯と俊敏さを活かして先行、しっかりと仕事を果たし有言実行っぷりを見てもらいます。好感度の上り幅が小さいゴブスレさんへの印象をよくするためにチャンスを逃さず稼いでいきます。

 

 第二の理由は、前述のとおり部位破壊とダメージの関係を皆様に見ていただくためです。

 一定以上のダメージを特定部位に与えた場合、その部位が使用不能、或いは破壊されるのが部位破壊となります。ですが部位破壊が発生した際、その部位が許容できる以上のダメージは負傷数の増加に影響を与えません。無明逆流れをそのまま喰らったら二枚おろしになりますが、左腕だけに喰らえば即死は免れる。イメージとしてはそんな感じです。今回の場合は両足に致命以上のダメージが入ってますが、部位破壊に吸収されてダメージがカットされたということですね。

 

 ワンパンできないとかダメじゃん、とお思いの方。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逆に考えるんだ。いつでも精神コマンド「てかげん」が使えるんだって(ニッコリ)。

 

 

 

 

 はい、RTAでの使用は難しいですが、通常プレイ時に一党のレベリングを行う際にはひっじょーに便利なシステムです。生き物を殺めることに抵抗を感じている心優しい新人さんも、これでレベリングするだけで立派な冒険者魂が身に付くことでしょう! 自キャラの撃破数カウントが伸びないという欠点はありますが、低レベル時の成長が厳しいこのゲームにおいて、ある種の救済措置として用意されているのかもしれません。

 もちろん強大なエネミーを少しずつ削って倒すというギミックじみた使われ方もありますので、とりあえず核ぶっぱ(ティルトウェイト)が好きな方からは微妙な顔をされているようですけどね猿渡さん。

 

 

 

 

 ……実はこの部位破壊とダメージカットを悪用した、吸血鬼ならではのバグ技じみたテクニックもあるのですが、それは機会がありましたら紹介したいと思います。あんまり早いうちに公開してエラッタあたるとゲーム進行の方針が崩れちゃうので。ネタバレはいかんぞ! 非生産的な!

 

 

 はい、説明している間に負傷者の手当てが終わったようです。周囲を警戒していたゴブスレさんも戻ってきました。あ、やっぱりまだシャーマンが残ってますか。いつ出発する? 私も同行しよう(仲間面院)。

 他の面々も後を追いかけて来てくれますが、青年剣士君と女武闘家ちゃんがやはり不安ですね。怪我もそうですが、何より精神的な面のほうが危ういかもしれません。

 とはいえホブを処理した以上、残りはシャーマン一体と普通のゴブが少々。こっちにはまだ呪文を使っていない女魔法使いちゃんに回数を残した女神官ちゃん、何よりゴブスレさんがいます! パパパっとやって、終わりっ!

 

 

 

 

 

 

 いやぁ、ゴブリンシャーマンは強敵でしたね(無慈悲なカット)。

 奥の広間をキレイキレイした後は、そう、例のアレです。

 ゴブスレさんが死亡確認! をする音が響く広間、吸血鬼侍ちゃんの耳に微かに聞こえてくる呼吸と身じろぎの音。音の源である人骨で出来た椅子の裏、木板の奥にはゴブリンベビーがぎっしり詰まっています。さっさと始末しても良いのですが、全部倒したところで大した経験にはならないんですよねぇ。

 

 あっ、そうだ(唐突)。

 

 ここは他の白磁級冒険者のみんなに経験を積ませてあげましょう(善意から生まれる悪意)。

 

 ねぇみんな、やらないの? ぼうけんしゃのしごとだよ? ここでみのがすとまたぎせいしゃがでるよ? ぼうけんしゃはみんなやってるんだからさ(同調圧力侍)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 えー、さすがにちょっとやりすぎたようです。

 女神官ちゃんは一体でダウン。女魔法使いちゃんは,《火矢(ファイアボルト)》で二体仕留めた後、杖で一体を仕留めてギブアップ。青年剣士君と女武闘家ちゃんは最初の一体を仕留め損ねて完全にグロッキーです。生き残りがいないかの確認を終えたゴブスレさんが戻ってきたので、手分けして残りを処理していきます。お茶っ葉の芯芽だけを摘み取るようにベビーをプチプチし終わればミッション終了です。ギルドに戻って報告しましょう。

 

 実況者ですが、帰り道の空気が最悪です。

 洞窟を出て新鮮な空気を吸った瞬間女神官ちゃんが口から乙女の尊厳をリバース。女魔法使いちゃんは歩きながらこっちの腹部あたりをチラチラ見つつ無言で考え事。

 青年剣士君と女武闘家ちゃんは瞳から生気が失われ、名前の前に「心折れた」って称号が付いていそうな雰囲気です。ゴブスレさん、なんとかなりませんかこの空気!? え、全員生き残ったのが奇跡みたいなもの? 到着時に全滅しててもおかしくなかった? まぁ、そうなるな(ZIUN師匠並感)。え、自分ですか? なんかゴブスレさんの師匠と同じものを感じる? 気のせいじゃないですかねぇ。

 

 もしかして:マンチ

 

 ギルドに到着したら、疲弊した面々には休んでいてもらいゴブスレさんと2人で受付嬢に報告しましょう。踏み台に乗ってもゴブスレさんの肩くらいまでしか届かない吸血鬼侍ちゃんの垂直方向へのチャレンジ精神よ(優しい配慮)。受け取った報酬はゴブスレさんを含め六等分しますが、要らんと言ってくれるゴブスレさんマジ序盤の神です。ありがたくいただきましょう。

 

 報酬を持って4人の待つテーブルへ向かい、ちゃんと五等分して渡します。やはり白磁等級の報酬の低さに思うところがあるのでしょう。生命賭けて挑んだ結果がこれじゃあ正直割に合いませんし。部屋を借り切って腹を割って話し合ったらどう? と提案しこちらも宿泊手続きをとりましょう。受付嬢さーん、ギルド管理の大部屋にチェックインさせてくれー!

 

 

 え、大部屋はいっぱい?

 

 そっかーあいてないのかー。

 

 ……まぁ、自称半吸血鬼を名乗る不審人冒険者と同部屋なぞみんな嫌に決まってますよねー。

 1人部屋は流石に予算的に厳しいので今日は青空簡易宿泊所かなぁ(野宿の上品な言い回し)。

 

 え、リフォーム前の老朽化した1人部屋で良ければ4人部屋の1人当たりの値段と同じでいいんですか!? ぜひぜひそこでお願いします!

 

 

 思わず飛びついてしまいましたが、これたぶん要監視対象とか訳アリ冒険者の一時確保場所ですよね。ギルドにいた黒曜や鋼鉄等級冒険者の目がそう言ってます。

 まぁまぁまぁ、吸血鬼侍ちゃんには後ろ暗い所なんかないので(強弁)、ありがたく借りることにましょう! 実際のところ睡眠は必須ではありませんし、装備の手入れや剣の乙女への手紙を書いたりは夜中にするつもりでしたので、むしろアリなんじゃないかな?

 

 それでは早速鍵を受け取って部屋へ向かいます。やたら頑丈そうな木製の扉を開ければ、そこはまさにドヤァ……(簡易宿泊所)って感じの間取りです。部屋の面積の半分をベッドが占め、残りの場所に机と椅子、簡易な物入が配置してあります。只人には手狭でしょうが、圃人サイズの吸血鬼侍ちゃんには十分すぎる広さです。

 

 荷物を片付け、さて手紙でもしたためようかと思っていたらおやノック音、誰でしょうか? 女魔法使いちゃん? 入ってもいいかって? どうぞどうぞ。狭いんでベッドに座ってくださいな。

 

 アイスティーもないんだ、ごめんね。洞窟で助けられたお礼? いいっていいって、大したこと(リソースの消費)も無かったし、はじめての冒険で仲間を失ったりしたら悲しくなっちゃうし。青年剣士君と女武闘家ちゃんは故郷に帰る? 心折れちゃったかー。でも冒険者なんて人生はっぱ隊より地に足付いた生き方を送るほうが幸せかもしれんぜよ。

 女神官ちゃんは(予定通り)ゴブスレさんに付いてくことを決めたんだ。大変だと思うけど、彼女ならきっと大丈夫だって!

 

 んで、女魔法使いちゃんはどうするん? 女神官ちゃんと一緒にゴブスレさんに付いてく?

 それとも

     「くにへ かえるんだな おまえにも かぞくがいるだろう・・・」

 する?

 

 

 

 

 

>君がそう問いかけると、幾分かの逡巡の後、覚悟を決めたような表情で彼女は言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「……あんた、本当は半吸血鬼(ダンピール)なんかじゃないでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おファッ!?

 

 

 

 

 

 




挿絵が間に合わなかったので失踪します。


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ちょっとまえのおはなし その1

UAが1000を超えましたので、感謝の初投稿です。
イラストに添える文が欲しかったので非常に短いです。



 「コノシュンカンヲマッテイタンダー」

 「ソンナンジャアマイヨ」

 「ヤッパリコンカイモダメダッタヨ」

 

 

 たくさんの神様が盤上を眺め、応援する駒の活躍に瞳を輝かせています。

 最初は駒を眺めているだけだったこの遊び。

 いつからか駒の動きを説明したり、

 駒の気持ちを代弁するように台詞をあてるような遊びがはじまりました。

 

 おまんじゅうのような姿の神が棒読み(ゆっくり)の中にありったけの心情をこめて語ったり。

 可愛らしい女の子の偶像(アバター)を纏い、その姿からは想像もつかない程の反応を披露したり。

 あるいは歴史の闇に刻まれた猛々しき勇者たちの名言(語録)を引用してみたり。

 

 いつのまにかたくさんの神が集まり、盤の周りはどったんばったんおおさわぎです。

 

 

 ですが、ある神だけが浮かない顔をしていました。

 みんなのために盤上の準備をして、

 みんなが応援する駒に冒険と試練を用意している神です。

 

 今回も非常に盛り上がり、みんなだいまんぞく。

 それがうれしくないわけじゃあありません。

 

 ただ、頑張って用意した駒たちがいつも攻略されるだけで、

 なかなか活躍させてあげられないのが悲しいのです。

 

 今回も張り切って用意したとっておきの駒(ぼくのかんがえたさいきょうのてき)が、

 「します、させます、させません」の呪文と共にあっさりと乗り越えら(TASさんのおやつにさ)れてしまいました。

 

 みんながよろこんでくれるのはうれしいけど、たまには活躍させてあげたいなぁ。

 また次の神が待っているので、彼は新しい駒を考え始めるのでした。

 

 

 

 ある日、いつものように駒の準備をしていると、見知らぬ神が話しかけてきました。

 

 自分の欲望を抑えるのは、感心しないな……。

 だが、わかるよ。

 人から感謝される満足感は甘いものだ。

 

 その神の顔は影になっていてよく見えませんでしたが、分厚い本を何冊も抱えていました。

 

 君はいつも試練を用意する側だ。たまには用意される側になってみたい。そうだろう?

 滅多にない機会だ。とびっきりの駒を選択するといい、君にはその権利がある……。

 

 神はびっくりしました。

 今までだれもそんなこと言って(GMを引き受けて)くれなかったんですから。

 でも、神は俯いてしまいます。

 自分が好きな駒は、みんな怪物みたいな駒ばかりです。これじゃ冒険なんてできっこないです。

 

 そんな様子を見て、顔の見えない神は優しく語り掛けます。

 

 安心したまえよ、私が手を貸そう。

 なに、気にすることはない。わたしはただ君に楽しんでもらいたいだけなのだから。

 

 いつも用意する側だった神は大喜びです。

 顔の見えない神はとても博識で、どうやって冒険に参加したら良いか、仲間と仲良くするにはどんな託宣(ハンドアウト)を選べば良いかなど、様々なことを教えてくれました。

 

 ほんとうにありがとう! 

 きみはいろんなことを知ってるんだね。まるでなんでも知ってるみたいだ!

 

 何でもは知らないよ。知ってることだけさ。

 

 とても謙虚な態度な顔の見えない神。

 そういえば、まだ名前を聞いていませんでした。

 名乗るほどのものじゃあないよ。という言葉に対し、駒を選び終わった神はこう言いました。

 

 なんでもじゃないけどたくさんのことを知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 じゃあ君は「万知神(マンチキン)」だね!

 

 なぜか突然血を吐いて倒れた顔の見えない神改め万知神にお礼を言って、神は盤に近づいていきます。

 いつもの席には表面が真っ青になっているまんじゅう神(生贄)が縛り付けられており、彼が今回冒険の舞台を演出してくれるのでしょう。

 

 今回は、この子に冒険をしてもらいたいんだ!

 満面の笑みを浮かべながら、いつも用意する側の神(久々のPL)とっておき(GM経験点マシマシ)の駒の紹介をはじめるのでした……。

 

【挿絵表示】

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 




我慢できずに挿絵を使ってしまったので失踪します。


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セッションその1 りざると

 平均4000文字くらいでコンスタントに投稿したいので初投稿です。


 前回女魔法使いちゃんに素性バレしたっぽい場面から再開です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やべぇよやべぇよなんでこんな早くバレてんだよいや待ってほしいあくまで女魔法使いちゃんは「半吸血鬼(ダンピール)」であることに対して疑問を持っているだけなんじゃないかきっとそうに違いないここはプランBとして半吸血鬼に憧れたちょっと痛い娘ということにして上手く誤魔化そうギルドに虚偽の申請を出した扱いになるだろうから叱責とか評価悪化とかあるかもしれないけどそもそもあの書類準備したの剣の乙女なんだから『僕は悪くない』よーしこの作戦で行こう(ここまで2秒)。

 

 あー女魔法使いちゃん、ちなみになんで半吸血鬼じゃないって思ったのかな? ナイフが刺さったのに傷が無かった? いやあれは偶然服で止まって刺さらなかっただけだから。ちゃんとおなか見せたとき刺さってなかったでしょ。え? ナイフに塗ってあったのと同じ黒い汁がへその横に付いてた? きっと倒れた時に飛び散ったんだって、いやぁ危なかった。あの黒い汁、解毒剤か≪解毒≫の奇跡が無いと危険な毒だったって、わざわざゴブスレさんに確認とったの? あ、あの後こっそり解毒剤を服用してたから(強弁)。あっという間に傷が治って、しかも毒が効かない体質の種族について心当たりがある? すっごーい! きみはものしりなぼうけんしゃなんだね!

 

 ……これは拙いです。女魔法使いちゃんの知識と観察眼を舐めてました。何れバレるのは想定していましたが、流石にちょっと早すぎて誤魔化しようがありません。

 参考までに聞いても良い? このことは他の誰かに言ったりした? あの時の面子にもギルドにもまだ伝えてない。ふーん、そっかー。

 

 この事実に気付いているのが女魔法使いちゃんだけというならば、やることはひとつ。私も覚悟を決めました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おねがいしますみんなにはいわないでくださいなんでもしますから!!

                               (Pride/Zero)

 

 

 

 はい、思いっきり頭を下げてお願いしましょう。

 正直詰みな状況ですし、女魔法使いちゃんをチョメチョメして真実を闇に葬るのは「属性(アライメント)」の縛りからも許されません。万一ここから逃げ出したとしても、ギルドから手配が回れば剣の乙女にも迷惑をかけてしまいます。ぷるぷる、ぼくはわるい吸血鬼じゃないよ。人間と友達になりたかっただけなんだ(チラッ)。

 

 

 

 

 

 

 【朗報】わちき許された!【感謝】

 

 いやぁお願いしてみるもんですねぇ。

 とりあえず剣の乙女との関係も含めて話してしまいましょう。べつに世界征服とか考えてないですし、無暗矢鱈と従僕を増やしたりもしませんよう。生きるのに必要な最低限の血はいただきますが、ちゃんと合意を得られた相手からだけですから。しんじてくださいとらすとみー!

 

 こちらの気持ちは伝わったようですが、女魔法使いちゃんはなにやら言いたげにしています。

 なにか教えて欲しいことやして欲しいことがあれば遠慮なくいってね!

 肩をお揉みしましょうか? 跪いて靴をお舐めしましょうか?(全力で媚びていくスタイル)

 

 なんで吸血鬼なのに昼間平気な顔で外を歩いていたのかって?

 ふっふっふ、この魔法のアイテムである外套を身に着けていれば陽光なぞ脅威にならんのだ!

 嘘ですごめんなさいぼく「太陽あれ!(デイライトウォーカー)」っていう希少種でして陽光を浴びてもちょっと気分が悪くなるだけで死んだりはしないんです。

 

 

 ドン引きされました。解せぬ。

 

 

 どうしましょう、このままだとギルドに通報されちゃうかもしれません。

 え、吸血鬼なのに本当に冒険者になるつもりなのかって? もちろん! 吸血鬼侍ちゃんには夢がある! それは自らが持つ知識を後継者に託すことだ! 託宣(ハンドアウト)にもそう書かれている。

 そんな相手を探すには冒険者になるのが良いってそれ一番言われてるから。どうです、タフな前衛は要りませんか? 今ならアホみたいに丈夫な肉盾が特価で入荷してますよ? 代金は少量の血液払いとなっております(必死の営業)。

 

 

 やったぜ(交渉成立)。

 

 

 どうやら新しい一党(パーティ)が見つかるまで肉盾として尽くすことと、長年の知識を提供することで暫くは見逃してもらえそうです。優し過ぎて怖いですね。どうしてそこまでしてくれるんです?

 

 洞窟で生命を救われたから、ですか。

 

 いろいろ打算もあったので、純粋な善意じゃなかったんですよ。実際青年剣士君と女武闘家ちゃんは心折れて冒険者を辞めるそうじゃないですか。もっと上手く立ち回れれば2人とも冒険者を続けていたかもしれないのに。って痛い痛い! ほっぺを引っ張らないで!? 

 

 はい、女魔法使いちゃんを助けられてよかったです。女魔法使いちゃんからのお礼の言葉はちゃんと受け取りました。だからもう許してください。あ、ほっぺのダメージ再生した、べんりー。

 

 ようやく納得してもらえたようです(疲弊)。

 

 もうひとつ聞きたいことがあるって? 遠慮せずに全部どんとこいですよ(ヤケお排泄物)。

 普通吸血鬼は真言呪文と奇跡両方の名手らしいけど、吸血鬼侍ちゃんはどうなのかって? 

 はっはっは、まさかそんな前線で斬った張ったがなんぼの吸血鬼侍ちゃんに魔法なんて使えるわけないじゃない。

 

 

 

 

 

 

 な ん で 使 え る ん で す か ? 

 

 

 

 

 

 

 いやギルドで登録用紙(ステータス画面)確認したときには呪文の部分黒く閲覧不可になってたじゃないですか!

 ってアレ? 閲覧可能になってる。え、今回のゴブリン退治はチュートリアルだから、進行に合わせて段階的にコマンドが解除されてく? じゃあ魔法はいつ解禁だったのさ。女魔法使いちゃんが毒ナイフを喰らったときって、庇ったから喰らってないじゃん! ほんとはあの時奇跡を使用して助けてあげるのが正規ルートってわかるわけねーですよそんなルート! フラグ立てに失敗してもミッション終了時に解禁されてた? そりゃ確かに今の今まで確認してなかったけどさぁ……。

 

 えー、取り乱しました。どうやら本来魔法のチュートリアルだった毒ナイフチャレンジとホブゴブ撃破をゴリ押しでクリアしたのが、魔法を唱えられることに気付かなかった原因のようです。結果的に見れば女魔法使いちゃんの好感度が稼げていたようなのでサイオーホースですが、チュートリアルとはいったい……うごご。ちょっとフラグ管理ガバ過ぎるってばよ(責任転嫁)。

 

 まぁ次回の冒険からは使用できるみたいなので、せっかくだから習得呪文と回数を見てみましょう。(チラッ)。

 どうやら吸血鬼侍ちゃん、ビルド的には圃人侍のキャラクターデータに吸血鬼テンプレートを突っ込んで魔改造したもののようですね。真言・奇跡の習得数と回数はともに本来の吸血鬼のものよりは減少してますが、それでも白磁等級とは思えないリストと回数です(白目)。

 

 これなら女魔法使いちゃんに師匠(メンター)として魔法を教えることも可能でしょう。本格的に魔法使いとしての階梯を登るのであれば、魔女パイセンのほうが向いているとは思いますが。

 ところでこの信仰対象の万知神(ばんちしん)ってどんな神なんでしょう? wikiにも掲載されてないですし、覚知神みたいな外なる神(アウターゴッズ)ですかね。こわいなーとづまりすとこ。

 

 随分長く話しちゃったけど、もう聞きたいことはない? 夜更かしは健康に悪いからそろそろ部屋に戻って寝たほうがいいんじゃない? 明日からどうするかは明日になってから考えようよ、青年剣士君たちの送別もしなくちゃいけないし。はいおやすみなさーい。

 

 ふぅ、ようやっと解放してくれました。いろいろ急所となる情報をすっぱ抜かれてしまいましたが、貴重なパーティメンバーが確保できそうです。最善だったのは青年剣士君と女武闘家ちゃん残留からの女神官ちゃんを含めた5人組なんですが、2人が離脱してしまったのと、このルートを選ぶと女神官ちゃんの成長が遅くなってしまい、ゴブスレさんの生存確率が低下してしまう可能性があります。そのためPCも後衛神官職になってゴブスレさんをケアする必要があるのですが、剣の乙女がジェラってしまう恐れがあるので今回は見送りました。

 他の選択肢ですと新米戦士君・見習聖女ちゃんの凸凹コンビあたりが有望なんですが、まだ時期的に重戦士さんのブートキャンプ真っ最中なんですよねぇ。しばらくは女神官ちゃんのようにゴブスレさんにくっついて行動するか、女魔法使いちゃんと一緒にコツコツ実績を積み上げていくのがベターでしょうか。

 

 なんか廊下から音が聞こえますねぇっておわぁ! ノックもしないで女魔法使いちゃんが入って来ました。なんか顔が赤いし目も泳いでますし、ぶっちゃけ挙動不審です。部屋に戻ったんじゃなかったの? なに、部屋の前まで戻ったら扉の向こうから青年剣士君と女武闘家ちゃんの声とベッドが軋む音がしてた? 

 

 

 あー、うん。ほら生命の危機に瀕すると生存本能が働いてそういう気持ちになったり、傷を負ったもの同士がお互いを慰めるためにそういう雰囲気になっちゃったりとかってあるみたいだし。たぶん女魔法使いちゃんがこっちで話し込んでいる間に盛り上がっちゃったんだろうねぇ。

 

 どうやら部屋で夜戦(意味深)が勃発していて、帰るに帰れなくなっちゃったみたいです。

 良かったらこっち泊ってく? ベッド使っていいよ? ぼく棺桶変わるとなかなか寝付けない性質だから(ヴァンパイアジョーク)。えちょっと待ってベッドに2人とかまずいですよ! いくら吸血鬼侍ちゃんがお子様サイズだからって狭いですし、間違いなく女魔法使いちゃんより年上なんですから! あ、やめてフード剥ぎ取らないで外したマントで吸血鬼侍ちゃん餃子にしないでそのまま抱きかかえてベッドに潜らないで!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おきのどくですが きゅうけつきさむらいちゃん は だきまくらにされてしまいました。

 

 

 おそろしく速い捕縛術、オレでなきゃ見逃しちゃうね。

 おかしい。こんなことは許されない。チートじみた前衛の敏捷性をガチ後衛のスペルキャスターが超えるだなんて。このままやられっぱなしは吸血鬼としての沽券(ストップ安)に係わるので、ちょっと仕返しをしてやりましょう。吸血鬼の前に無防備な首筋を晒すとか、この女魔法使い……スケベすぎる!! というわけで首筋にアタックです。今回の冒険では大して消耗していないため吸血の必要はありませんが、おもいっきり吸い跡だけ付けちゃいましょう。ギリギリマントで隠せるところにしてやったこと、ありがたく思うがいい(上位者特有の目線)。ごめんなさい調子にのりましたそんな締め付けないでください呼吸は必要ないので窒息はしませんが物理的に圧死してしまいます!

 

 

 

 

 

 

 

 きゅうけつきさむらいちゃんは

 めのまえが まっくらになった!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




 描き上げた女魔法使いちゃんのイラストに満足できなかったので失踪します。


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いんたーみっしょん1 ぶーときゃんぷ

暖房をつけようと思ったら灯油が切れていたので初投稿です。


 ガバは友達、こわくない! な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 

 初めての冒険から3日が経過し、現在吸血鬼侍ちゃんはギルドの訓練場建設予定地に足を運んでいます。周囲には女魔法使いちゃん・女神官ちゃんに加えて新米戦士君・見習聖女ちゃんがそれぞれ運動しやすい格好で集まっており、おのおの準備運動の真っ最中。

 なぜこんな状況になったのか、この3日間に起きたことについてお話ししましょう。

 

 まず青年剣士君と女武闘家ちゃんですが、やはり心折れてしまったようで、一度故郷に帰ってこれからのことを考えるそうです。一緒に冒険できないのが残念ですが、地に足の着いた人生を2人で歩んでいただきたいものです。辺境の街から去る姿を女魔法使いちゃん・女神官ちゃんと3人で見送りましたが、手を繋いで歩く後ろ姿を見る限り大丈夫じゃないでしょうか。

 

 次に残った面子ですが、女神官ちゃんはゴブスレさんに連れられてゴブリンをスレイする毎日が始まったようです。ギルドへ報告に戻ってきたときに話しかけているのですが、順調にDP(尊厳値)とSAN値が削れてますねぇ。たまにはストレス解消のために無理矢理にでも休ませてあげたほうがいいでしょう。

 で、問題の女魔法使いちゃんですが、根本的に体力が不足しています。試しに2人でゴブリン退治の依頼に行ってみたのですが、半日で往復できるような場所であっても到着時に息切れ、帰還したら疲労困憊という有様でした。こんなんじゃ黒字になんないよー。ゴブスレさんと女神官ちゃんはこれを日に何度もこなしてるんやぞ! 恵まれたカラダ(意味深)に反比例するスタミナは改善が必要です。

 

 次の日、疲れて動けなくなった女魔法使いちゃんを宿に残しソロで依頼をこなそうとギルドへ向かったのですが、ここで吸血鬼侍ちゃんの意外な弱点が判明しました。

 

 白磁冒険者がソロでこなすものと言えばそう、下水道チャレンジことドブさらいから始まる一連の依頼ですが、なんと吸血鬼侍ちゃん、単独では下水関連の依頼を達成できませんでした。嫌がって受けようとしてくれないというのが正しいでしょう。君なんで受けてくれないん? 水辺には河童がいて引きずり込まれたら助からない? フロム産かな? 

 システム的には圃人ならではの低身長と吸血鬼の流水を渡ることができないという弱点の合わせ技でしょうか。一度無理矢理受けてドブさらいをしてみましたが、全く仕事にならず受付嬢から注意される始末。ゴブリン退治は嬉々としてソロプレイしてくれたのですが。そういうとこだぞ吸血鬼侍ちゃん。

 

 日々の糧を稼ぐには依頼をこなさねばならず、かといってこのままでは女魔法使いちゃんに不安が残る。両方解決しなきゃいけないのに体はひとつしかありません。じゃあどうすれば良いか。

 

 はい、稼ぎ重視プレイでは欠かせない、壊れ魔法と名高い≪分身(アザーセルフ)≫の出番ですね。

 

 分身がせっせとソロ稼ぎをしつつ、ブートキャンプで女魔法使いちゃんを鍛える。これが一番早いと思います。思い立ったらなんとやら、受付嬢さんの所へ向かいましょう。すいませーん! ちょっと女魔法使いちゃんと激しい運動したいんですが、何処か良い場所ご存知じゃありません?

 

 ちょっと引き気味の受付嬢さんですが、ギルドの訓練場建設予定地を教えてくれました。今はまだ何もない空き地ですが、見晴らしが良いですし何かが近づいてきても気付きやすいので訓練には丁度良いでしょう。ついでにゴブリン退治の依頼も受けてしまいましょうか、ボーっとしてると後でゴブスレさんに全部持っていかれます。あと後ろの監督官さん、そういう意味で言ったわけじゃないんで掛け算はしないでください(建前)。吸血鬼侍ちゃんは掛け算の前側でひとつ(本音)。

 

 はい、これとこれ、あとこれも受けます。いやソロで。女魔法使いちゃんと訓練するんじゃなかったのかって? このままだと資金繰りに不安が残るので、こうやって両方こなします(目の前で2人に増える)。

 

 今日もドン引きされました。解せぬ。

 

 ゴブスレさん一党がギルドにやってきたので挨拶しに向かったら、良い感じに女神官ちゃんの瞳が濁ってたのでSAN値回復のためにブートキャンプに誘いました。健康的に体を動かして、おいしいご飯を食べればきっと濁りも薄くなるでしょう(無くなるとはいってない)。代わりにゴブスレさんには吸血鬼侍ちゃんの分身を同行させてもらいましょう。ゴブスレパイセンの(わざ)、盗ませていただきます! 分身を見ても全く動じないあたり、大物なのかゴブリン以外に興味がないのか果たして……。

 ついでに重戦士さんたちが依頼に出てしまって暇そうにしていた新米戦士君と見習聖女ちゃんにも声をかけてみましょう。同じ白磁等級、親睦を深めようぜーと誘えば一発です。チョロいぜ。

 

 そんなわけで、忌々しいうららかな日差しの下で目的地へ進んでいきますが、道中ちょっと寄り道。持参した頭陀袋に手ごろな石を拾い入れていきましょう。訓練中のウェイト代わりになりますし、その後のお楽しみの時にも使用しますので。

 

 

 それでは本日の献立と使用する材料を紹介します。

 

◆白磁等級冒険者の陽光焼き軍隊仕立て

 

◆材料(5人分、吸血鬼侍ちゃん含む)

 

 白磁等級冒険者 5人

 自分の得物   各1

 水       1人あたり4~5リットル

 塩       適量

 拾った石    好きなだけ

 

 

①片手に自分の得物を持ち、ゆっくりと行進します。 体幹が鍛えられていないと左右にふらついてしまいます。まっすぐ歩くことを意識しましょう。

 普段身に着けている装備と同重量の重しを付けるのも有効です。布に石を包み、体に固定してウェイト代わりにしましょう。

②両手で得物を頭上に上げ、そのままゆっくり走ります。この時声を出したり歌を歌ったりすると、心肺が鍛えられていざという時に危険を周りに知らせたり咄嗟の呪文が間に合ったりしますのでお勧めです。

③喉が渇かなくても定期的に水を飲みましょう。今日の訓練中に最低4リットルがノルマです。塩分も必要なので、水を飲むときに一緒に舐めておきましょう。

④今日かいた汗は明日流す血の代わりです。死ぬことはないので思いっきり体を酷使しましょう。

 

 

 ほらみんなどうしたの顎が上がって手が下がってる! もっと腕を伸ばして! 足もしっかり上げる! 顔が暗いよほら笑顔笑顔! ニッコリ笑ってほら辛くない! それじゃ一緒に声出していくよ! れーふ()らーい()れーふ()らーい()れっ()! れーふ()らーい()れーふ()らーい()れっ()! そうそう良い感じ良い感じ! それじゃこのまま2時間キープね! 頑張っていこう! 水は好きな時に飲んでね!足りなかったらすぐに用意するから!

 

 

 

 

 

 

 すごく……まりんこ(アメリカ海兵隊)です……。

 

 吸血鬼侍ちゃんも陽光のペナルティを克服すべく先頭で行進してますが、この光景を見て彼女が吸血鬼だと信じる人がいるのだろうか(哲学)。

 みんなギルドで購入した運動着を着用してますが、それぞれ個性がでています。女神官ちゃんは短パン+裾イン。見習い聖女ちゃんはブルマ+裾イン。吸血鬼侍ちゃんはブルマ+裾アウトとバラバラです。共通してるのは全く揺れてないことぐらいですかねぇ……。

 そして女魔法使いちゃん、やばいです。短パン+裾アウトですが、やばいです(2回目)。走ってるだけでもう上下左右にやばいです(3回目)。新米戦士君の顔が赤いのは激しい運動のせいだけではないでしょうね。あ、見習い聖女ちゃんに足を踏まれて転倒しました。頭上ではなく下の得物が地面に激しく擦り付けられてます、あれは痛い。

 

 献立が出来上がる頃、依頼を終えた分身ちゃんがゴブスレさんを引っ張りながらやってきてくれます。手には大きめのバスケット、中身はパンやベーコン塊に葉野菜、揚げた芋やなんかがぎっしり。費用は本日の稼ぎからだしたようですね。痛い出費ではありますが、女神官ちゃんのケアに白磁等級同士の友好を深めることができるなら必要経費です。

 新米戦士君カップルには近くの林で薪になる渇いた枝を集めてもらい、女神官ちゃんと女魔法使いちゃんにはベーコンと葉野菜の準備をしてもらいましょう。その間に吸血鬼侍ちゃん×2は先ほどの石で簡単なかまどを作ります。だから石を拾ってくる必要があったんですね。ゴブスレさんにもかまどのほうを……と思ったんですが、どうやら新米カップルのほうを危険が無いか見守ってくれているみたいです。>そっとしておこう。

 

 かまどが出来上がったら女魔法使いちゃんを呼んで、薪に火をつけてもらいましょう。なんでわざわざ魔法でそんなことなどと文句を言ってますが、これもまた修行。あんまり気合い入れて呪文を唱えると全部吹き飛ぶから、ほどほどにするんやで。

 無事に火が点いたら串に刺した厚切りベーコンを焼き始めます。ついでにパンも温めちゃいましょう。まだだぞーまーだまだまだ……ヨシ! ベーコンの脂が火に落ちて良い匂いが漂っています。アツアツのそれを葉野菜と一緒にパンに挟めば、誰にでも作れるサンドイッチです。

 さぁおあがりよ! あ、よく噛んで食べるんやで。

 みんなおなかペコペコなので、サンドイッチと揚げた芋があっという間に消えていきます。めいめいおかわりのサンドイッチを作ってる中、女魔法使いちゃんてば葉野菜だけ挟んでますね。君には栄養を蓄えてもらわねば困るのだよ(献血的な意味で)、ベーコン食えベーコン!

 

 みんなが舌鼓を打っている間、吸血鬼侍ちゃんは飲み物オンリー。食べられなくはないし味の良し悪しも判るみたいですが、人間的な食事は必須ではないようです。ゴブスレさんも僅かにつまんでくれてますが、なにやら周囲を見て物思いに耽っているご様子。いったいどうしたので……あっ(察し)。

 

 そういえばここはゴブスレさんと牛飼娘さんが暮らしていた村のあった場所でした。令嬢剣士ちゃんからの寄付によって訓練場が完成するまでは暫くこの光景のままです。大きく稼いで建設を前倒しできれば良いのですが、一戸建てならまだしも施設となると、なかなかどうして厳しいものがありますねぇ。女神官ちゃんもそんなゴブスレさんが気になるようですが、声をかけ辛いオーラに負けて俯いたまま揚げたお芋さんを齧ってます。かわいい(かわいい)。

 

 最後はちょっとしんみりしてしまいましたが、暗くなる前に街へ帰りましょう。帰るまでが訓練ですし、逢魔が時にモンスターや追剥に遭遇とか目も当てられません。みんな疲労してますが、ゴブスレさんと分身ちゃんがしっかりと周囲に気を配っていますの大丈夫でしょう。え、本体? だいぶしわしわになってますが問題はないです。

 

 何事もなくギルドに到着し、そのまま解散という流れになりました。女神官ちゃんの瞳の濁りもだいぶ薄まったようですし、新米カップルもまた誘って欲しいと言ってくれてます。よく考えたら彼らのほうが先輩だったような気がしてなりませんが、同じ白磁等級同士これからも仲良くしていきたいですね。

 

 じゃあ吸血鬼侍ちゃんも宿へ戻って……と女魔法使いちゃんに捕獲されました。え、なに、今日は流石に水浴びじゃなくてお風呂に入りたい? いいんじゃないかな、いってらっしゃい。

 

 なんで腕をつかむの? アンタも来い? いや、体質的に汗かかないから大丈夫だし。 埃まみれだから流せって言われても、そのくらいなら水で濡らした手拭いでいいじゃないお風呂代もったいないし。やめて、そんな水がいっぱいの所に入ったら河童に襲われちゃう! ええい分身を囮に本体は逃げってなんで本体のほうに来るの!? 魔力の波動でバレバレ? なにそれすっごーい!

 

 

 

 

 

 このあと滅茶苦茶キレイキレイされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




師が走ってくるまで失踪します。


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セッションその2-1

描いた挿絵のシーンまで進まなかったので初投稿です。


 金金金! 騎士じゃないから恥ずかしくないもん! な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回ブートキャンプを開始してから2週間が経過しました。

 訓練・実践(ゴブリン退治)・座学でローテーションし、休息を挟みながら順調にメニューを消化しています。女魔法使いちゃんも成長したようで、アンダーが減って○○(ピー)cmになって(ピー)カップになるとともに、呪文の使用回数が1回増加しますね。ですがまだまだ成長の余地はあるようです(意味深)。

 

 実践は都合がつく限りゴブスレさん・女神官ちゃんに同行し、駆除と経験点獲得の効率を重視していました。流石に途中で女子2人はギブアップしてしまう場合もありましたが、その場合は吸血鬼侍ちゃんのみ同行し、2人にはギルドでお留守番してもらっています。それぞれ互いの好感度を上げる意味もあるので、そっちは2人で仲良くお茶しててね。

 勿論分身ちゃんも遊んでいる暇はありません。塩漬けになっているゴブリン退治の依頼を片っ端から受注し、報酬に錬金術していきましょう。下水関連の依頼を受けられない今回のプレイではゴブリンが序盤の重要な資金獲得源となります。通常のゴブリンと合わせてシャーマンやリーダーが出現すると良いお小遣い(ボーナス)となりますので、多めに出てくれるとうまあじですね。

 

 画面ではちょうど4人で受けていたゴブリン退治が終わったところです(本日3件目)。幸いなことに攫われた村娘などはおらず、単純な駆除で済んだようですね。巣に運び込まれていた物資や盗まれた品物、遺体に遺された認識票などは記録を取りながら回収し、後でギルドに報告書とともに提出しましょう。

 

 暗黙の了解として巣で拾得した品物は冒険者の副次的収入として良いことになっていますが、盗難の届けが出されているものや冒険者の所持品などはギルドに提出すると評価の対象となります。資金との二択となりますが、身バレした際に少しでも評価が高いほうが影響が少なくて済みますし、この面々は何れも善よりの戒律(アライメント)ですので反対はされません。それに他にも臨時収入が得られるイベントが……と丁度良いタイミングで出ましたね! 分身ちゃんから連絡が入りました。

 

 ゴブリンの巣を潰した帰りに追剥の集団に襲われ、彼らの拠点に連行された後に殲滅したようです。遭遇したその場でダンケダンケしていれば彼らにも生き残る目はあったでしょうに、自宅までハイエースするとか奥手ですねぇ! 分身ちゃん曰く、拠点には香辛料や貴金属を含む換金性が高いあからさまに盗品なものを貯めこんでいたので運搬を手伝って欲しいとのこと。

 

 ゴブスレさーん、帰りちょっと寄り道させてくださーい!

 

 序盤「ああ」か「いや」でしか答えてくれないことが多いゴブスレさんですが、ゴブリン退治の回数が増えたために好感度が上がったからでしょうか。回収予定の量を確信し、少し考えた後に一度ギルドに戻って報告を終えた後に荷車を借りたほうが良いと教えてくれました。流石熟練の冒険者、その発想はなかった(走者並感)。

 

 そうと決まればギルドへ戻り、受付嬢さんに報告とお願いをしましょうか。ちょっと追剥の集団をチョメチョメしたんですが、盗難の届け出とか討伐以来とかあります? あと物資を回収したいので、荷車とか貸していただけません? え、この面子で討伐したのか? いや、分身ちゃんが攫われた先でソロで。

 

 今日もドン引きされました。どうして……?

 

 受付嬢さんはなかなか再起動してくれませんでしたが、代わりに傍で聞いていた監督官さんが荷車の貸し出し手続きをしてくれました。白磁のペーペーですと持ち逃げや破損させる恐れがあるので貸し渋られてしまうことが多いですが、今回はゴブスレさんが一緒ですので大丈夫でした。やっぱ信用って大事やね。

 

 犯行現場追剥の拠点では、既に回収品の仕分けを終えた分身ちゃんが待っててくれてますので、合計5人で手早く積んでしまいましょう。追剥の所持品からは薄汚れた白磁~鋼鉄の認識票が人数分と、頭目らしき死体がショートソード+1を持っていました。こいつら元冒険者かよ(白目)。

 ゴブスレさんは魔法の武器を使わないスタイルですし、他に扱える人もいないので換金しちゃいましょう。

 

 という感じで、野外を行動している際に追剥に遭遇することがあります。本来は遭遇表の中でも確率の低いほうなのですが、ソロで行動しているとそれが一気に高くなります。RTAですとリスクの高い行動なので敬遠されがちなのですが、勝つことさえできれば非常にうまあじな遭遇ですので、腕に自信ニキは是非チャレンジしてみてください。

 

 

 2週間も続ければ、いままでカツカツだった資金面もだいぶ改善されます。当座の生活費を除いても余裕が生まれますので、そろそろ女魔法使いちゃんの装備を更新しましょう!

 

 まずは防具からです。初期装備は露出が多く、防御面に不安がありますのでここから着手します。軽鎧まで装備可能ですので、吸血鬼侍ちゃんのように黒インナー(鎧下)を着込み、その上に革鎧をポイントアーマーのように身に着ける形にします。戦闘中に揺れると大変なので、お山を護る部分はしっかりと体のラインにフィットしたデザインに仕立ててもらいました。

 先に作成してしまい、その後体型が変わると作り直しになってしまいます。だから、先にブートキャンプを行う必要があったんですね(メガトン頑張った構文)。

 

 次に武器です。魔術行使判定に修正が入る紅玉の杖を初期装備として持っていますので、ギルド内の武具店の親父さんに宝石とは反対側、槍でいう石突側に金属の補強を入れてもらいます。接近させないことが前提ではありますが、いざという時に振り回すだけで殺傷力が得られるのは重要です。先端をとがらせて刺突に使えるようにするのも良いでしょう。

 

 最後に真言呪文の発動体。流石に+1より効果が高いものは手が出せませんので、一番廉価なもので我慢です。デザインはある程度自由が利きますので戦闘中に紛失しにくいタイプが良いでしょう。ここは女魔法使いちゃんに好みのデザインを聞いてみましょうか。

 

 ねぇねぇ発動体をプレゼントしたいんだけど、何処に身に付けるタイプが良い? え、指輪? (まぁ腕ごと吹き飛んだりしなければ)無くすことがなくて良いんじゃないかな。ただ、他の人に見られると(盗難にあったり、戦闘中に指ごと狙われたりして)面倒だから、付けた上から長手袋とかで隠してね。

 

 女魔法使いちゃん、なんか赤くなったりニヤニヤしたりしてますが、どうしたんでしょう。やっぱり指輪じゃなくてチョーカー(首輪)とかアンクレット(足輪)のほうが良かった? え、変態? なんで???

 

 女魔法使いちゃんの装備と近々必要なものを準備して、諸々で銀貨200枚ほどの出費となりました。ゴブリン退治が1件あたり銀貨10枚+α、分身ちゃんが一日で4件達成してだいたい銀貨50枚になるかどうかです。本体と女魔法使いちゃんもゴブリン退治に出かける時は追加で20~40枚の収入増ですが、こちらはあくまで経験と連携を学ぶための冒険ですので収入として考えるのはやめておきましょう。

 

 現在2人部屋+女魔法使いちゃんの高タンパクメニュー+2人のお風呂代で1日の生活費が銀貨20枚となってますので、分身ちゃんの副業(追剥狩り)が無いとけっこう厳しいですね。食費は女魔法使いちゃんのみですが、体力作りと吸血鬼侍ちゃんの吸血による消耗を防ぐために肉多めの食事にしているため実質2人分と同額です。

 

 本当は吸血鬼侍ちゃんのお風呂代を節約したいのですが、女魔法使いちゃんが許してくれないのでダメでした。依頼を終えて宿に戻ると汗を流すのですが、毎回逃げ出そうとする吸血鬼侍ちゃんとそれを捕獲して嫌がる猫をシャンプーするようにキレイキレイする女魔法使いちゃんのムービーが流れます。PC版では湯気と泡が消えるそうですが、今回は全年齢版でプレイしてますので諦めてください。ムービーもスキップ可能ですが、RTAではないので毎回ちゃーんと見ましょうね。

 

 

 

 

 

「いいから早くオルクボルグを呼んでってば!」「いやかみきり丸じゃって」「えぇと……」

 

 ブートキャンプ開始から3週間、いつもの面子でゴブリン退治を終えてギルドに戻ると、居ました! 多種族銀等級の一党です。オルクボルグやかみきり丸といった単語を連呼していますね。あまり時間をかけているとゴブスレさんが報告を終えて帰ってしまうので、女魔法使いちゃんに話を振ってみましょう。あの一党が話している単語ってわかる?

 

「たしか≪かみきり丸≫は≪獣殺し(ズヴェルボイ)≫や≪粉砕剣(カシナート)≫、≪妖刀人殺し(ムラマサ)≫みたいな伝説の魔剣で、小鬼特攻を持つ剣だったと思うけど。……あっ(察し)」

 

 流石学院卒、やはり天才か……。胡乱げな表情で隣のゴブスレさんを凝視してますね。こちらから銀等級一党に声をかけて受付嬢さんを助けてあげましょう。おまわりさんこの人です(違)。

 

 さて、ゴブスレさんを銀等級一党に紹介し、そのまましれっと会話の流れに乗ります。ゴブスレさんはゴブリンの話題が無いと途端に会話の興味を無くしてしまうので、妖精弓手ちゃん(にせんさい)が爆発する前にゴブリン退治の依頼なんじゃないかと確認しましょう。ゴブリンの単語さえ出ればあとはポンポン話は進みますからね。ここでゴブスレさんの好感度が足りてれば……。

 

 「休め。今回()俺1人で行く」

 

 ヨシ(例のポーズ)! 極限まで圧縮された宣言を吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんにも向けてくれました! 好感度が低いと「お前たちには関係ない」と同行を拒まれてしまいますが、ちゃんと足りていましたね。日頃ゴブリンをめっ()!していた甲斐がありましたよ!

 なおこの言葉を聞いた女神官ちゃんと女魔法使いちゃんの表情(配点:空気読み人知らず)。

 

 勿論3人には「そんな等級で大丈夫か?」という視線が向けられますが、ゴブスレさんの「それ(ぞれ等級こそ白磁だが、すでに何度もゴブリンの巣を攻略している。危険はあるだろうが、こいつら)なりに(ゴブリンに対して有効な手段を持っている。連れて行けば攻略の)役に立つ(だろうから、良いだろうか?)」という言葉に納得……納得?してくれたようで同行が許可されます。

 

 休んでいる暇はないぞ女神官ちゃん! と言わんばかりのゴブスレさんにケツを叩かれる勢いで準備をして出発となりました。想定されるセッションボスが例のアレですので、女魔法使いちゃんには確認をとっておきましょう。どうする? 流れで参加することになっちゃったけど、銀等級が必要とされる依頼とか危険だよ? 安全のためにギルドでお留守番s(ry

 

 「はぁ!? 白磁なのはアンタも同じだし、私がいなきゃ誰がアンタの面倒見るっていうのよ!? それに万が一アンタの正体が露見し(バレ)たときに、味方になるヤツ(ケツ持ち)がいないと大変でしょ?

 

 

 めっちゃおこられました。そしてやさしい。

 

 女魔法使いちゃんも同行してくれるので、急いで宿へ旅装を取りに行って、ついでに商店で女魔法使いちゃんの旅糧を購入しましょう。吸血鬼侍ちゃんは食物不要じゃないかって? かばんの中はおやつと女魔法使いちゃんの予備でパンパンです。ギルド前には他の面子は揃っているので、遅れたことを詫びつつ出発しましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで蜥蜴僧侶=サン。

 何故先ほどからこちらを野竜の眼光で見ていらっしゃるんでしょうか?

 なんかこう胸のあたり(心臓)に熱い眼差しを感じるんですががが。

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




蜥蜴僧侶さんの目が怖いので失踪します。


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セッションその2ー2

書けるうちに書くのが良いと言われたので初投稿です。


 種族混成パに異物が紛れ込んだ実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回遺跡に向かって出発したとことから再開です。

 

 「露出が減って防護面の安心が増したのはいいけど、ちょっと通気性が悪いわね……」

 

 今まで肩からお山の北半球まで剥き出し装備だった女魔法使いちゃんが、暑そうに襟元を緩めて空気を送ってますね。薄布一枚だった初期装備に比べればマシですが、胸当てに半固定されながらも震える山(前編)を女神官ちゃんと妖精弓手ちゃんがガン見しています。女神官ちゃんはまだ成長の余地があるからヘーキヘーキ。金床さん? そのままの君でいて♡。

 

 春のうららかな……を超え、汗ばむ陽気の街道を歩く一党。

 アレ?と思った方もいらっしゃるでしょう。実はこのイベント、本来よりも半月以上遅れて発生しています。RTA走者の兄貴たちが研究の末に発見した仕様なのですが、原作準拠のイベント、ゴブスレさんの周囲で発生するイベントの殆どが辺境の街周辺のゴブリンの増加数によって進行することが明らかになっています。PCが介入しない場合は原作に沿ったタイムスケジュールで事件が発生しますし、PCがゴブリンの湧き潰しを行うとそのぶんイベント発生が遅くなるわけです。

 

 ちなみに解析班がゴブスレさんを5人に増やしてシミュレートしたレポート(通称五等分のゴブスレ)がありまして、なんとすべての原作イベが発生しないまま四方世界からゴブリンが駆逐されたそうです。江田島平八かな???

 

 ゴブリンの数とイベント発生速度が比例するため、イベ発生のための最低ゴブリン数を見極めずにゴブリン退治を受けすぎるとロスになってしまいます。だからRTA走者兄貴は序盤に下水ルートを走る方が多いんですね。

 しかしながら今回のプレイはRTAではなく通常プレイですので、積極的にゴブリンを狩っても問題はないわけです。ただでさえギルドの評価や他冒険者からの好感度が足りないと追放エンドや討伐エンドになりかねないため、ギリギリまでブートキャンプとゴブリン狩りを行っていました。まるで延々とラダトーム城周辺でスライムを棒で叩く勇者様みたいだぁ(慎重派)。

 

 はい、遺跡の手前野営地点まで到着です。ブートキャンプの効果があったようで、初期ステですと女神官ちゃんより体力がなく、途中でバテてしまう女魔法使いちゃんも脱落せずに付いてこれました。周囲のクリアリングと薪拾い、寝床の支度を終えればモンスター種族PCプレイの最初の関門となる夜会話パートです。

 在野最高位、銀等級冒険者の好感度を稼ぐ絶好の機会なんですが、事前準備はともかく会話自体はオートで進行してしまいます。PCの戒律(アライメント)と経歴、今までの言動の結果がここで反映されるのですが、モンスター種族の場合、反応にペナルティが入って会話の成功率が下がってしまいます。

 ゴブスレさんや白磁等級組と仲良くしていますし、好感度補正用の品物も持参していますが、上手くいってくれるかどうか……。

 

 食事が終わり、明日の英気を養うために各自嗜好品を出し始めました。女魔法使いちゃんも何やら瓶と袋を取り出してますね。なにそれなにそれー?(ちのうしすうていか)

 

 「柑橘類の果汁と干した果実よ。お酒が多いと思って違うものを持ってきたの」

 

 いいですねぇ、お酒に弱い人には好まれると思いますよ。んじゃあこっちも出しましょうねー。

 

 「ねぇちっこいの、アンタのそれはなに? 細長いのはなんかすごい色してるけど」

 

 これはだね同志ちっこいの(一部を見ながら)、バターピーナッツとブラッドソーセージだよ。

 

 とういわけで吸血鬼侍ちゃんが持ってきたのはバターピーナッツとブラッドソーセージです。バタピーは最早説明不要、良いカロリー元になりますしお酒にも合う一品です。ブラッドソーセージは半吸血鬼(ダンピール)(ということになっている)侍ちゃんのネタ食品ですね。

 

 「うへぇ、わざわざそんな手間かけて血を食べるの?」

 

 おっと、これは家畜を潰したときに無駄なく食すための調理法だぞ。今回は繋ぎに穀物の粉を入れたマイルドタイプですが、血と脂、香辛料オンリーのガツンとくるタイプも美味ですね。鉱人道士さんは火酒に合うと大満足。血と聞いて最初はおっかなビックリだった女神官ちゃんと女魔法使いちゃんも頬を緩めています。かわいい。でも卑猥は無い、いいね?

 

 「はは、侍殿も血を好まれるとは流石半吸血鬼。拙僧直接血の滴る心臓を喰ろうたことはありますが、このような調理法があるとは!」

 

 アッハイ、蜥蜴僧侶=サンにも喜んでいただけてなによりです。

 吸血鬼侍ちゃんも頬張っていますが、それ臭み消しに大蒜入ってるけど平気なの? 大蒜は花の匂いがダメなだけで鱗茎(たべるところ)は問題ない。なるほどブラム・ストーカー準拠なんですね。あとそこの2000歳児、ゴブスレさん食べてないのにもう無くなってるとかどういうことなの???

 

 

 

 

 「それでさ、皆は何で冒険者になったの?」

 

 運命の時間がやってきました。ここからは吸血鬼侍ちゃんを見守ることしかできません。各々が冒険者になった理由を口に出しています。女魔法使いちゃんも書物からだけでなく、生きた知識を身に付けるためと言ってますね。

 

 「ふーん。じゃあちっこいのは?」

 

 さてどうでしょう。少し考えるような素振りを見せた後に吸血鬼侍ちゃんが話し始めました。

 

 >「ぼくが冒険者になった理由は、古い友達から冒険の話を聞いたから」

 >「辛いことも悲しいことも多かったけど、それも含めて『冒険』だって」

 >「そうやって話をする友達の笑顔が眩しくて、羨ましくて、同じ景色を見てみたいと思った」

 >「たくさんのしがらみがあって、それを全部片付けるのに10年必要だった」

 >「随分時間はかかっちゃったけど、やっとぼくは『冒険者』になったんだ」

 

 

 

 

 吸血鬼侍ちゃん……きみ、一人称『ぼく』だったのか……。

 

 独白とともに自動生成された過去映像(ムービー)が流れていますが、どうも吸血鬼侍ちゃん「死の迷宮」から解放された後、10年間不正規戦闘部隊じみたことをしていたようですね。出自を利用しての間諜、秩序陣営に隠れた内通者のあぶり出し、混沌陣営の首狩り戦術etc……。あ、勇者ちゃん一行に誤解されて吹き飛ばされてますね。覚醒しなかったら即死だった? カオスフレアかな?

 

 妖精弓手ちゃんも吸血鬼侍ちゃんの答えにはニッコリ。やっぱ冒険でしょ?な回答は正解だったみたいですね! 吸血鬼侍ちゃんを抱き上げて頬擦りしてますが、正直なところを言うと冷や汗ものでした。

 強ければOK!な蜥蜴僧侶さんや懐の深い鉱人道士さんと異なり、吸血鬼であることが発覚したときに一番吸血鬼侍ちゃんの殺害数が多いのが妖精弓手ちゃんであるため、好感度が足りないと今後詰む可能性がありました。どう言い繕ってもアンデッドなのは事実ですし、長命種である上の森人(ハイエルフ)から見れば命を弄ぶ存在ですからねぇ。

 

 そのまま場はお開きとなり、見張り順を決めて就寝です。スペルキャスターには十分な睡眠をとってもらうためにゴブスレさん、妖精弓手ちゃん、吸血鬼侍ちゃんでローテを組みましょう。ゴブスレさんがお前も寝ろと言ってくれますが、回数消耗してないし半吸血鬼は睡眠時間半分で済むから大丈夫といって引き受けます。ゴブリン以外興味のないゴブスレさんは、そういうものかと納得してくれるので説得に成功しました。やったぜ。

 3交代制なので吸血鬼侍ちゃんは一番キツい2直を申し出ましょう。ぶっちゃけ寝なくても問題ないですし、不確定要素を少なくするために前衛2人の体調を万全にしておく必要がありますので。1直がゴブスレさんになったので、先に寝る妖精弓手ちゃんですが、ちょっとちょっと! 吸血鬼侍ちゃんを抱き枕に寝袋へ潜り込んでいきましたよ。それ吸血鬼侍ちゃんの番が来た時に目が覚めるだろうし、女魔法使いちゃんと違ってクッションが足りてねぇですよ。

 

 

 

 

 

 はい、太陽が綺麗ですね(挨拶)。予想通り妖精弓手ちゃんを引き剥がすのに時間がかかりゴブスレさんに迷惑をかけてしまいました。3直で起きてきた妖精弓手ちゃんをジト目で睨んでいましたが、迫力に欠けていたため『こうかはいまひとつのよう』でした。

 睡眠は足りているので、寝袋には戻らず結局朝までコース。妖精弓手ちゃんと話しながら夜明けを迎えました。

 見張りで身体が固まったのか、太陽に正対しつつしゃがみこんだ体勢から大きく伸びをしています。小さな体躯で美しいを描く吸血鬼侍ちゃん。ストレッチが終わるとカップに昨夜飲み残していた果汁を注ぎ、1人で乾杯のモーションを取っていますよ。これはもしかして……。

 

Long may the sun shine!(-太陽あれ!-)

 

 携帯食料を頬張っていた妖精弓手ちゃんがぎょっとした顔で見てますがきっと気のせいでしょう。陽光を浴びることができて嬉しくて声に出しちゃっただけだから(震え声)。

 

 

 

 

 

 妖精弓手ちゃんのドヤ顔ワンターンスリーキルゥ…から始まる遺跡攻略のお時間です。とはいえ一党の半分は銀等級、斬って解決する事象ならともかく吸血鬼侍ちゃんの探索能力はゴブスレさん未満のクソ雑魚白磁ですので、探索の邪魔をしないよう徘徊するゴブリンの排除だけしてましょう。あ、吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんはちゃんと臭い消しを持ってきたのでゴブリン汁は遠慮しておきますねゴブスレさん! そっちの同志耳長ちっこいのにたっぷりかけてあげてください。え、私にも臭い消し寄越せって? 悪いな同志耳長ちっこいの、この臭い消しは2人分なんだ!

 なお臭い消しを忘れた女神官ちゃんもゴブリン汁まみれになったことをここに記しておきます(合掌)。

 

 遺跡内部に侵入すると、壁一面に絵が描かれています。この絵、プレイするたびに差し替えられているそうなので、周回の際には毎回チェックすると面白いとのこと。今回の絵はなんでしょう?

 

 

 >絵画は2つの軍勢がぶつかり合う様子を描いているようだ。

 >数多の騎士を擁する白の軍勢と、悍ましき死の魔力を操る死霊の群れが相対している。

 >白の軍勢を率いる乙女の手には天秤が。

  黒の軍勢を率いる魔術師の腕には円盤がそれぞれ握られている。

 

 女魔法使いちゃんが壁面に顔を寄せ、知識判定をしているようですね。なんだかわかります?

 

 「古代の戦争を描いたものみたいだけど……これ題名かしら? ええと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ネクロの夏』?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女魔法使いちゃんが題名を読み上げると、盤面を眺めていた神々が次々に発狂していきます。発狂まで至らずともぶつぶつと意味不明の単語を呟いたり、マローを社長室に呼び出そうとするなど大惨事です。たぶんマローは関係ないと思うんですが(名推理)。

 

 

 

 

 

 大丈夫万知神(マンチキン)さん? え、気分悪くて吐きそう? ちょっと休憩させて?

 

 しょうがないにゃあ……。

 

 いいよ。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そろそろ戦闘描写が必要になりそうなので失踪します。


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セッションその2ー3

やっと作成済の挿絵まで辿り着いたので初投稿です。


 そろそろ大丈夫ですか? じゃあはじめますねー。

 

 んん! 前回古代の壁画を発見したところから再開します。

 

 女魔法使いちゃんが知識判定に成功したので、この遺跡が魔法の時代に造られたものだと判明しました。魔法の時代には特殊な結界を用意した祭祀場(デュエルスペース)で互いの技を競い合う魔術師の決闘が非常に流行していたそうです。その殆どは魔術師が外方次元界へと姿を消した後に失われましたが、極稀に遺跡として発見されるそうです。中には魔法の時代に生み出されたアーティファクトが眠っているという話もあり、冒険者が一攫千金を夢見る目標にしているとか。四方世界の海の何処かを彷徨っている海中を移動する黄色の艦隊、太陽信仰の聖地とされた神殿などが有名らしいですね。

もしこの遺跡がそういったものであるなら、なにかお宝(レアカード)が眠っているかもしれません!

 

 ゴブ汁をぶっかけれられて文句たらたらの妖精弓手ちゃんも、ダンジョンアタックとなれば銀等級の優秀さを見せつけてくれます。同じく最前列にいて、暗視持ちでペナルティのない吸血鬼侍ちゃんが見つけられない罠を次々と発見、解除してますね。鉱人道士さんも僅かな床の凹みから通路の利用状況を割り出すなど種族特徴と実力の合わせ技を披露してくれます。松明持ちとして隊列中央にいる白磁2人娘もその手際の良さに感嘆している様子。2人とも口開きっぱなしでかわいいなぁ。

 

 お、最後尾で蜥蜴僧侶さんと一緒に警戒をしていたゴブスレさんが何かに気付いたようです。

なになに、罠があるのにトーテムが無い。通常罠や隠れ穴を作らせるのは知識階級(悪知恵の働く)シャーマンやチーフの指示によるものだけど、奴らがテリトリーを主張するトーテムが無いのは不自然だと。

 この段階で異常を感じるとは流石ゴブスレさん。吸血鬼侍ちゃんはじゃあゴブリンジーニアスとかワイズマンとかいるんじゃね? と脳内で思ってますが、そういうのは多分実装されてません。

 

 勿論今回のボスは、逃げるのが正当解、レベル詐欺ボスこと序盤の壁となるみんな大好きオーガさん。モンスター種族プレイのため確定でオーガジェネラルが出現します。この段階ではまだ一党には存在が確認できていませんが、ゴブリンに命令を守らせるだけの力を持つ何かがいる可能性は感じているでしょう。

 

 鉱人道士さんによって分岐の左側にゴブリンがいることがわかりましたが、ここでゴブスレさんの待ったが。はい、妖精弓手ちゃんのトラウマとなる森人冒険者さんイベントです。

 同族の悲惨な姿を目にして妖精弓手ちゃんはゲロインに、幾分か耐性のある女神官ちゃんと女魔法使いちゃんもハイライトさんが家出してますね。ボロボロになった彼女を助けようとした善なる冒険者に数多の毒ナイフと製作者の悪意を突き付けた恒例行事ですが、ゴブスレさんに任せれば危なげなく終わらせてくれますのでさっさと――――おや?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 >悪臭立ち込める部屋。汚泥溜りとしか表現できないそこに彼女はいた。

 >凌辱され、蹂躙され、あらゆるものを奪われ尽くされていた。

 

 >だが、その胸は微かに動いている。

 

 

 

 >まだ、生きているのだ!。

 

 

 

 

 

 

 

 なんでムービーシーンになってるんです?

 

 

 なんで吸血鬼侍ちゃんが駆け寄ってるの??

 

 

 なんで森人冒険者さんを抱きしめてるの???

 

 

 ってムービー終わったと思ったらいきなりQTE!? ゴブリンが毒ナイフ振りかぶって後ろから来てるその後ろでゴブスレさんがナイフ投擲体勢に入ってる入り口で女神官ちゃんと女魔法使いちゃんが叫び声あげてるうおぉぉぉまぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃあぁぁぁぁぁえぇぇぇぇぇ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 >ゴミ山に潜み馬鹿な冒険者を狙っていたゴブリンは歓喜の絶頂にあった。

 >壊れかけの玩具をエサにして、新しい孕み袋が手に入るのだから。

 >チビで貧相な雌だが持ち運ぶにも盾にするにも丁度いい大きさだ。

 >どうせニンゲンの冒険者は雌を盾にすればこちらを攻撃できやしない。

 >その隙に群れの屯する広間まで駆け抜けてしまえばいい。

 >彼の瞳には幸福な未来が映っていた。

 

 

 

 >外套から抜け出すように現れたもう1人の小さな雌の刃によって、彼の未来は永遠となった。

 

 

 

 

 

 

 せーふ、せーふです! ≪分身≫の詠唱が間に合いました! 本体から抜け出るように現れた分身ちゃんがゴブリンの首を落としてくれています。分身ちゃんを知っていた辺境組はそれほどでもありませんが、銀等級組の面々は流石に絶句してますねぇ。しかしなぜこんなことに……。

 

 

 ちょっと調べてみましたが、どうもPCの戒律(アライメント)が極端に善寄りな場合に発生する特殊イベントみたいですね。周囲の好感度を上げるための言動で予想よりも善性を稼ぎ過ぎていたようです。あまり高くなりすぎると寒村からの依頼で報酬を受け取らなくなってしまったり、それによってギルドの評価が下がるので好ましくないのですが……。

 

 あ、吸血鬼侍ちゃんがめっちゃ怒られてます。ベテラン勢から見れば新人が感情を抑えきれずに突っ込んだようにしか見えないですし、白磁の2人からも自分の身を危険に晒したことを非難されてますね。素直に謝っておきましょう。ゴブスレさんは……既に地図を見つけてました。まるでRTA走者みたいですねゴブスレさん。

 

 女神官ちゃんが治療のために≪小癒≫を唱えようとしていますが、それは制止して分身ちゃんが使用します。オーガ戦の鍵となる≪聖壁≫の回数は重要ですし、分身ちゃんが唱えても本体の呪文回数は減りませんから。女神官ちゃんにはボス戦に備えて呪文を温存しておいてもらいましょう。

 

 ≪小癒≫≪賦活≫≪浄化≫と重ねて唱えたことで森人冒険者さんも動けるようになりましたが、流石に連れて歩くわけにはいきません。蜥蜴僧侶さんの生み出した竜牙兵で近隣の集落まで送り届けるという流れになりましたが「ちょっといいか」なんでしょうゴブスレさん? 分身ちゃんの残り呪文回数? 真言が4回と奇跡が1回ですね。ちなみに本体は真言3回と奇跡4回です。

 

 「分身も遺跡(ここ)から離脱して集落へ同行しろ。群れの一部が外を回っている可能性がある。それに本体と分身が同じ場所にいると指示が混乱する」

 

 あー、確かに。別動隊の可能性も(難易度が上がってるので)ありますし、2人の区別が付けにくいですもんね。じゃあ分身ちゃんは竜牙兵くんと一緒に彼女を送ってあげてください。こういう細かいとこに気が付くのがベテランの貫禄ってやつでしょうかね。どうしたんですGM、顔が青いですよ? なんでもない、そうですか。じゃあ奥へ進みましょう!

 

 分かれ道を左へ曲がった先、吹き抜けの広間はゴブリンが雑魚寝する悪夢のような空間です。反対側には更に奥へと続く通路が見えますが、流石に上からでは見えませんね。にしてもちょっと数が多くないですかこれ? 通常の5割増しで寝てる気がするんですけど。一党の人数が増えたから一部屋あたりの配置上限が上がった? まよキンかな?小鬼つながりで。こっちの小鬼はまったく可愛くないですけどね!

 

 うーむ、やっぱり鉱人道士さんの≪酩酊≫と女神官ちゃんの≪沈黙≫のコンボは凶悪ですねぇ。行動不能になったゴブリンをゴブスレさん、蜥蜴僧侶さん、吸血鬼侍ちゃんでキレイキレイしていきます。いつの間にか妖精弓手ちゃんも降りてきて探索用のナイフでゴブリンの喉元を切り裂いてますが、血と脂で4、5匹目で切れなくなってます。せっかくなので村正を貸してあげましょうか。おーい良かったらこっち使ってみ? こうやってつかうのだ(抵抗なく首を切断しながら)。

 

 最初は切れ味に驚いていたみたいですが(無音)、今は嬉々として頭と胴体を分離する作業にハマってますね。精神的に参ってしまうイベントが多かったのでここで持ち直してもらいましょう。

得物を貸して後は見学かと思ってましたが、勢いよく跳びあがって全力で頸椎を踏み砕き始めました。どうやらゴブリンを殺せる機会は逃さない心づもりのようですね。

 

 すべての処理が終わったところで崖上で待機していた面々も降りてきました。どうよ同志耳長ちっこいの、なかなかの切れ味でしょ。いや圃人以外には大型ナイフサイズだからってあげないよ。ちゃんと返してほらほら! ふぅ、危うく借りパクされるところでした。

 それじゃ奥の通路を探索しますかーというところで足元からの不気味な震動。ゴブスレさんが目配せして女神官ちゃんに≪沈黙≫を解除させました。このセッションのボスであるオーガのエントリーです! 難易度上昇で確定オーガジェネラルですが、呪文回数も疲労度も温存できたまま此処まで来ています。油断しなければ余裕でしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「小鬼どもがやけに静かと思えば、雑兵の役にも立たんか」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんで2体いるの? 一党の人数が増えたから一部屋あたりってそれさっき聞いたから。しかも兄弟とか別動隊とかじゃなくてコンパチなの? え、分身も一緒に来ると思って急遽増やしたってなにいってるの??? 分身ちゃんはとっくに街道まで戻ってるよ! ほんとは外回りの別動隊とオーガジェネラル2体で一党を挟撃するつもりだったけど、流石にそれは厳しそうだから別動隊は分身ちゃんにぶつけるねってウッソだろお前wwwもう草も生えませんわよ! しかもかたっぽが手に巻いている()()どう見ても厄いやつじゃん! ()()()()()()()()()()()とかどう考えてもアレじゃん!! 勝ったらドロップするって? ええー?ほんとにござるかぁ?

 

 はい非常に不味いです。1体であれば完封とまではいかないものの怪我人だけで済みますが、腐っても金等級以上が求められるオーガジェネラル、しかも2体同時は死人が出ます、吸血鬼侍ちゃんがもう死んでいるので他にもという意味で。分身ちゃんがいれば自殺特攻で時間稼ぎしつつ片方を速攻で落とすという手も使えたでしょうが、現状分身ちゃんは出せません。正確には今森人冒険者さんの隣にいる子を消してもう一度唱えれば良いのですが、そうすれば森人冒険者さんの生存は絶望的でしょう。ですので分身殺法(分身が死ぬ)は使えません。一体どうすれば……。

 

 

 なんです万知神さん? いまひっじょーにやばいのでタイムアウト取ってるんですけど?

 吸血鬼の特殊能力を使えばいいって? まだ好感度上がってない状態で使ったらボス戦後に第2クライマックス突入しちゃいますよ!

 え、逆に考えるんだ、ここで正体を明かしちゃってもいいやって?

 ≪混沌≫の軍勢の指揮官を倒すことで人族側の味方であることをアピールする?

 な、なるほど。そうか、そんな考え方もあるのか……(お目目グルグル)

 

 

 

 

 やってやろうじゃねぇかよ、この野郎!!

 

 そうと決まればオーガがステレオで長口上を垂れてる間に一党に話しておきましょう。片方はこっちでなんとかするんでもう片方はお願いしまーす。あ、女魔法使いちゃんはこっちの援護してくれると嬉しいな! 馬鹿言ってんじゃないって? でも撤退するにしても分身ちゃんが外にいた別動隊と戦闘に入ってるから挟み撃ちになっちゃうよ? それにほら、話を聞いてなかったからあちらさんキレてるし、ゴブスレさんの無意識の煽りで激おこぷんぷん丸だよ? それにまぁ冒険者としてはペーペーだけど、ぼかぁ戦闘のプロだぜ? んじゃそういうことで!

 

 一党を分けて対峙することを伝えたら、やばいブツをもっているほうのオーガを釣りあげましょう。さっき妖精弓手ちゃんが量産してくれたボール(ゴブリン頭)を相手のゴール()にシュゥゥゥーッ! ついでにヘイカモンカモン!しておきましょう。ヘイトがこちらへ向きますので側面へ移動、オーガ2体を一党で挟み込む布陣へ持っていきます。こうすることでオーガの動きを把握しつつ本体との連携がとりやすくなりますから安心して戦いに臨めます。

 

 「やってくれたな、矮小な地べた這いめが!」

 

 右手に戦槌、左手にペンダントを携えたオーガが怒りで歯を鳴らしながら向かってきます。では戦闘開始です!!

 

 

 

 

 

 えー、巨人や魔神に代表される大型モンスターはとてもこわいです。

 その力は強く、並の防御では上から叩き潰されてしまいます。

 迂闊に後退しようものなら次からはそれを読んで踏み込み、リーチを伸ばしてきます。

 距離をとっても魔法や岩投げが使えるため、安心はできません。

 生命力も強く、再生持ちも多いため非常にタフです。

 そのサイズから齎される攻撃範囲は、通常サイズの相手の攻撃を寄せ付けません

 

 ですが、巨人や魔神に代表される大型モンスターはまったくこわくありません。

 サイズが違いすぎるため、その攻撃は単調です。振り下ろすか薙ぎ払う、あるいは蹴り上げるの3種類が殆どです。

 振りが大きいため、一度懐に飛び込めば連撃はされません。避けるなら前方です。

 魔法は使えますが、痛撃を与えることで詠唱潰しができるのは通常のスペルキャスターと変わりません。

 再生能力があっても、それは殺せば死ぬことを否定してはいません。

 そして……。

 

 

 「圃人風情がこの俺を下に見るとは何たる不遜!」

 

 巨人の膂力で振り回される戦槌、当たれば吹き飛ばしの効果も相まって女魔法使いちゃんまでのラインが空いてしまいます。ですが戦槌が吸血鬼侍ちゃんを捉える事はありません。蹴り上げを誘ってはその勢いを利用して上空へ舞い上がり、叩き落さんと、或いは薙ぎ払おうと振るわれる戦槌は外套を翼のように翻し、鋭角的な軌跡を残しながら紙一重で躱し続けます。隙だらけの腕を斬りつけ、ダメージを蓄積させていきましょう。オーガは吸血鬼侍ちゃんを捉えきれずにイラついているようですが、後方から援護の機会を窺っている女魔法使いちゃんはその理由に気付いたようですね。オーガの持つ近接距離と移動妨害は確かに驚異的ですが、対応する術はきちんとあります。

 

 「ええいちょこまかと、羽虫の如き鬱陶しさよ!」

 

 実は吸血鬼侍ちゃん、こっそりと「飛行」しています。飛行能力を持たないキャラクターによる移動妨害を無視するという特徴により、本来は動きが止まるはずの機会攻撃範囲内でも自由に行動しているわけですね。そしてオーガが焦れて魔法を唱えようとすれば……。

 

 カリブンクルス(火石)……クレスクント(成長)……」

 「サジタ()……インフラマエ(点火)……ラディウス(射出)!」

 

 女魔法使いちゃんが詠唱モーションに割り込み、≪火矢≫をオーガが生み出しつつある火球に命中させ、暴発させてくれました! 至近で爆発を受けたオーガには中々のダメージが入っています。詠唱を邪魔されたオーガの意識が、女魔法使いちゃんに殺意の視線とともに向けられますが今度は吸血鬼侍ちゃんへの注意が疎かになります。追撃でさらに右腕にダメージを蓄積させましょう。よし、規定値を超えたので戦槌を取り落としました! これでさらに攻撃範囲が狭くなります。

 

 おっと、向こうでゴブスレさんが吹き飛ばしを喰らって転倒しています。追撃に移ろうとしたオーガに≪力矢≫を撃ち込んで足を止めておきましょう。一瞬でも動きが止まれば見事な連携で体勢を立て直してくれます。流石(ほぼ)銀等級一党。

 こちらのオーガは要所要所で邪魔をする女魔法使いちゃんが煩わしいのか、吸血鬼侍ちゃんを無視して掴みかかろうとしています。恐怖顔の女魔法使いちゃんも良いけど、行かせないよぉ?

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「ガッハァ!?」

 

 はい、懐に潜り込んだ吸血鬼侍ちゃんが横腹を背骨ごと深々と掻っ捌いてます。夥しい血と臓物が零れ落ちてきました。再生持ちとはいえ失った血液が戻るには時間がかかります。体を支えることが難しくなり蹈鞴を踏むオーガですが、最後の悪あがきでしょうか。左手に持ったペンダントを掲げ詠唱を始めました。

 

 禁じられし魔力を生む黒玉(モックスジェット)よ! 我が意に応えそnゴプッ!?」

 

 させねえよとばかりに下から突き上げられた村正の切っ先が顎と脳を経由して頭頂部からこんにちわ。即座に引き抜きダメ押しの首斬りです。高位の魔神でもなければ首斬り=死亡になりますので、積極的に狙っていきましょう。こんなのお侍様の戦い方じゃない……(対馬並感)。

 

 

 

 

 さて向こうはどうなったかなーってヤバっ、ちょっと時間をかけ過ぎました!≪火球≫に耐えきれず女神官ちゃんの≪聖壁≫が破られそうになっています。状況を打破するためにゴブスレさんがとっておきの巻物(スクロール)を取り出そうとしてますが、ここでアレを使われるのは不味いです! 判定によっては流水に流される扱いになるので吸血鬼侍ちゃんが消失(ロスト)しかねません。背に腹は代えられませんので、以前お話ししていたアレを行います。吸血鬼侍ちゃん、GO!

 

 オーガの背後から〇ッターじみた軌道で接近し、地面スレスレから順次斬り落としていく形で四肢を断っていきます。バランスを崩しこちらを驚愕の表情で見上げるオーガの顔面に蹴りを入れて加速し、今にも≪聖壁≫を割って着弾しそうな火球に()()()()()()()()()ドロップキックです!

 

 あ、せーの、とぉぉ↑おう↓!!

 

 Kaboom!(ドカーン!)

 

 はい、吸血鬼侍ちゃんのドロップキックの衝撃で無事に火球は誘爆しました。同時に大小2つの濡れた物体が地面に落ちる音が響きます。ひとつは四肢を斬り落とされた挙句顔面を蹴られた勢いで仰向けに倒れこむオーガ。もうひとつは……。

 

 「い、今のはいったい……!?」

 

 胸より下が吹き飛んでテケテケ状態の吸血鬼侍ちゃんです。ぶっつけ本番でしたが、なんとか上手くいきました! 見た目は死に体ですが、想定通り負傷数は生命力の半分しか増加してません。

 

 これが吸血鬼PCを選んだ最後の理由、ダメージを部位破壊で置き換えるゾンビ戦術です。

 

 理屈は簡単です。漫画やアニメの演出で、同じ武器で同じダメージの攻撃を受けた際、胴体であれば致命になりますが、腕であれば「たかが腕1本持ってかれただけだ!」っていうのあるじゃないですか。アレを意図的に発生させているイメージです。無明●流れを普通に喰らうと死亡しますが、腕で防げば片腕1本で済むというイメージでもいいですね。むしろそっちで!

 もちろん通常のキャラクターであれば大規模ダメージによる即死判定が待ち構えていますが、アンデッドには無関係、おまけに吸血鬼は再生持ちなので暫くすれば勝手に損傷部位が治るというおまけつき。やらない理由がありませんな(満面の笑み)。

 

 ……ちょっと、いやかなり見た目がグロいので、一党が見ているところでやるのは仲良くなってからにしましょうね(手遅れ)。

 

 とりあえずオーガにとどめを刺してもらいたいので、肘で上半身を起こしながらゴブスレさんに村雨を投げ渡しましょう。通常武器だと分厚い皮膚と強靭な筋肉(やたら高い装甲値)で弾かれて上手く仕留められないのでこっちでどうぞー。なんか「魔神将の部下である……」とか「化け物どもめ……」とか「この裏切り者……」みたいなのが聞こえてきますがあーあー聞こえなーい。ささゴブスレさん一思いにやっちゃってください!

 はい、心臓を丹念に抉った後にしっかりと首を落としてます。まったく完璧じゃあないか(惚れ惚れ)。

 

 「そんな……傷が深すぎて≪小癒≫じゃ治しきれないかも……」

 

 あ、女神官ちゃんこっちは放置してもらって大丈夫ですよ? ほっとけば5分くらいで全快するんで。あれ、聞こえてない? もしかして声出てない感じです? 火球に蹴り入れた時に発声器官も持ってかれましたかね。そんな泣きそうな顔しなくても平気ですって(頭なでなで)。

 

 アルェー? 逆に号泣されちゃいました。

 もしかしてこれ中年おじさんや先輩キャラが死に際に見せる最後のやさしさムーブと勘違いされちゃってます? 待ってそんな悲壮な顔で≪小癒≫の詠唱に入らないで。そもそもなんでまだ呪文回数残ってるの? あー胸糞イベントの時に分身ちゃん(こっち)が使ってたからか。いやいやそもそも吸血鬼侍ちゃんアンデッドなんで≪小癒≫は逆にダメージ入るんですけど!? 女魔法使いちゃんはやく止めて! おおう……まだこっちに走ってきている最中じゃん。たーすーけーてー。

 

 

 

 

 ちょっと地母神さま!? なにそんな腕まくりして気合い入れてるの!?

 推しの女神官ちゃん()が頑張ってるから応えてあげちゃうのーって待ってあんまり頑張っちゃうとダメージが許容範囲超えちゃう!

 しかも装甲無視だからまるっとぜーんぶ入っちゃう!?

 お願いします大成功だけは勘弁してください大成功だけは!

 あああ大成功!? 大成功ナンデ!?

 まだだ、まだ終わらんよ! ダイスがしょっぱければ大丈夫! 最大値さえ出なければ……ッツ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吸血鬼侍ちゃんはサラサラと崩れ去ってしまった……。

 女神官ちゃんは【吸血鬼殺し(ヴァンパイアスレイヤー)】の称号を得た!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




4000字予定を倍以上超えてしまったので失踪します。


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セッションその2 りざると

やることが…やることが多い…!!ので初投稿です。


 前回、吸血鬼侍ちゃん死亡確認!したところから再開です。

 通常プレイだったら当然リセ案件ですが、吸血鬼PCプレイですのでまだまだ続きますよー。

 

 崩れ去った吸血鬼侍ちゃんの姿に泣き崩れてしまう女神官ちゃんと、呆然とそれを眺めている銀等級の面々……蜥蜴僧侶さんだけやっぱりな♂って顔をしてるあたり察しが良いですね!

 

 「あ、ああ……わたし、どうしたら……ッ」

 

 ようやく広間の反対側から駆け寄ってきた女魔法使いちゃんが到着しました。目の前で起きたことを涙ながらに伝える女神官ちゃんと、味わい深い表情でそれを眺める女魔法使いちゃん。あんまり時間をかけると帰りが遅くなっちゃうのでそろそろネタバレをお願いします!

 

 「あー、うん。今呼び出すからそろそろ泣き止みなさい」

 

 そう女神官ちゃんに告げ、胸の谷間からロケットを取り出す女魔法使いちゃん。蓋を開け、油紙に包まれた何かを取り出すとそれを地面に撒き始めました。お、アイコンが出ましたので早速リスポーンしましょう!

 

 

 地面に撒かれたそれは魔力を放出し始め、次第に小さな人型を形作っていく……。

 魔力の高まりが頂点に達し、黒い輝きが皆の視界を一瞬奪いとる。 

 視界が戻った先には、傷一つない、オーガと相対する前とおなじ半吸血鬼侍の姿があった……。

 

 

 はい、皆様お察しの通り、予め女魔法使いちゃんに【邪な土】を持っててもらいました。

 1日1回、負傷数が生命力を超えた際に発動し、生死判定を行わずに一時撤退。後に予め指定しておいた【邪な土】を起点に復活するというインチキ能力です。自分で持ち歩いてても良かったんですが、パーティ分断が発生した時なんかに自害ワープが可能なので他の人に持ってもらうほうがメリットが大きいでしょう。ぺたんと女の子座りのままこちらを呆然と見ている女神官ちゃんに手を差し伸べて起こしてあげましょうねー。

 

 認めよう、君の力を。今この瞬間から、君は吸血鬼殺し(ヴァンパイアスレイヤー)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 滅茶苦茶ポカポカされました。解せぬ。

 

 

 

 「んでちっこいの。結局あんたは何者なわけ?」

 

 散々ウメボシぐりぐりをかました後に問い詰めてくる妖精弓手ちゃん(耳長ちっこいの)。喰らった傍から回復するので負傷数は増えませんが、痛いものは痛いです。まぁ盛大にやらかしてますので全部ゲロっちゃいましょう。その説明をする前に今の四方世界の状況を理解する必要がある。少し長くなるぞ。

 

 

(少女?説明中……)

 

 

 とりあえず、剣の乙女との誓約の下でずっと裏仕事をしていて、最近ようやっと年季が明けたから夢だった冒険者になったことは伝わったようです。「死の迷宮」関連の話は中々信じてもらえないようですね。まぁ仕方ありません。ん、どうしました鉱人道士さん。その刀を見せてくれ? どうぞどうぞ、迷宮内で拾った愛刀です。え、蜥蜴僧侶さん、心臓くれないかですか? あ、明日以降なら(震え声)。

 

 「あ、あの、本当に半吸血鬼(ダンピール)……じゃなくて吸血鬼なんですか?」

 

 どうしたの吸血鬼殺しちゃん? 冗談です泣かないで謝るから、ごめんて。やっぱり血は吸うのかって? まぁ生きていくのに必要だからね。あ、でも誰彼構わず吸ったりはしないよ? 剣の乙女との誓約もあるし、むやみに眷属を作ってもお互いにとって不幸になっちゃうし。

 ほんとはギルドに献血募集の依頼を出すつもりだったんだけど、女魔法使いちゃんが協力してくれてるから今は他の人からは吸ってないよ。もちろん健康に支障が出ないぶんしかもらってないからね。

 女神官ちゃんを筆頭に神職に携わる人にはなかなか受け入れてもらうのは難しいですよね。コツコツと貢献度を稼いでじっくり取り組みましょう。

 もういいんですか鉱人道士さん? えへへーいい刀でしょう? ここ10年その刀か素手で首斬りしてましたから。あ、そうだ。あっちに転がってるオーガがマジックアイテムっぽいもの持ってたんですが、鉱人道士さんだったらわかりません? Moxなんちゃらとかいうアーティファクトだと思うんですが(名推理)。

 

 「ほほう、こりゃなかなかの代物じゃ! 中心に据えてある()()()()()から魔力を供給して、身に付けた者の真言呪文の発動回数を増やす逸品じゃのう!ちょいと発動まで時間がかかるのが難点じゃが、同じタイミングで2回魔法が使えるようなもんじゃ」

 

 やっぱり! 全灯を持つ者(プレインズウォーカー)が求めてやまないMox Jetですねやったー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Mox Tantaliteじゃないですかやだー!

 

 

 

 

 よくもだましたアアアア!!

 

 

 

 

 だましてくれたなアアアアア!!

 

 

 

 

 わかってましたよこんな序盤にパワー9が出るわきゃないって! でも期待しちゃうじゃないですか! オーガだってJetって言ってたやん! え、鑑定に失敗してただけ? そんなー。

 

 はい、残念ながら希望の品ではありませんでしたが、貴重な魔道具(神話レア)であることは間違いありません。魔術師にとっては喉から手が出るほど欲しい品物です。然るべきところへ売りに出せば捨て値でも銀貨5000枚は下らないでしょう。どうします、売って現金に替えちゃいます?

 

 「お前が倒した。好きにしろ」

 

 えっいいんですか(トゥンク…)。とはいえ真言呪文が使えるのは吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんだけですし、せっかくだから女魔法使いちゃんにあげましょう。吸血鬼侍ちゃんは呪文無しでもやることがありますし、後衛の呪文回数が増えるのは大事ですからね。なお吸血鬼侍ちゃんが持って分身すると実質2回分増えるとか言ってはいけない(戒め)。

 

 

 さて、オーガの討伐の証として角でも回収しておきましょうか。それが終わったら街へ帰りましょう! とりあえず竜牙兵くんと森人冒険者さんに同行してた分身ちゃんを呼び戻して……あ。

 

 ……本体が死亡したから分身が消えてますねそういえば。

 やばい、無事に辿り着けてるかなぁ。こっちの操作が忙しくてオートで放置してたから最後どうなってたかわからない……。オーガ戦開始時には既に別動隊との戦闘に突入してたので、女神官ちゃんにとどめを刺されるまでに倒せていればいいんですが……。

 

 

 集落から調査隊としてやって来た森人(エルフ)と迎えの馬車が到着したので、引継ぎをして街へ帰還します。おつかれっしたー! みんな疲弊してますので、余ってる奇跡の回数で≪賦活≫をばらまいて明日に疲れを残さないようにしておきましょう。あ、吸血鬼侍ちゃんの正体については現時点ではみんな黙っててくれるそうです。ただギルドで報告する際には≪看破≫が使われるので露見する可能性が高いですね。話術によっては上手く躱すこともできますが、見たままのことを話してもらうようにみんなには伝えておきます。

 流石にお疲れなのか吸血鬼侍ちゃんもウトウトしちゃってますね。隣で寝こけている妖精弓手ちゃんの胸元に倒れこんだ後に、クッションが足りなかったのか反対隣の女魔法使いちゃんのお山にダイブしています。女魔法使いちゃんもそれをどけることなく眠ってしまってます。ゴブスレさんだけは起きてるようですが、流石にちょっと辛そうですね……。みんなお疲れ様でした。

 

 

 恥ずかしながら帰ってまいりました(挨拶)。流石に馬車では疲れが抜けにくいのでお疲れ顔ですが、無事に辺境の街へ到着しました。ギルドでは受付嬢さんがゴブスレさんの無事を顔に出さないよう努力してるけどバレバレな表情で迎えています。ゴブスレさんが依頼の報告、他はテーブルでぐったり状態です。お、監督官さんが暇そうですね。今のうちに冒険記録用紙(アドベンチャーシート)の訂正をお願いしておきましょう! すいませーん。

 

 「あ、あらお帰りなさい、なにか御用ですか?」

 

 うむむ、初顔合わせの際に受付嬢さんからの相談を受けた時からなんだか挙動不審なんですよね監督官さん。まぁいいか、実は冒険記録用紙に間違いがあったので訂正したいんですけどー。

 

 「間違いですか? できればもう少し早めに気付いて貰いたかったんですけど……。でも白磁の間で良かったです、等級が上がってからの訂正は支部長の承認が必要になりますから」

 

 そう言いながらも水の都で作成(されてた)冒険記録用紙を持ってきてくれました。すいませんすぐに直しますから。さらさらさらーポン(訂正印)。

 

 

訂正前

>◆名前:半吸血鬼侍

>◆経験:従軍経験あり(名誉除隊)

>◆特記事項:吸血頻度は極稀 必要な場合はギルドに依頼として出す旨本人に通達済み

 

 

訂正後

>◆名前:吸血鬼侍

>◆経験:従軍経験あり(名誉除隊休職中 時間外残業あり)

>◆特記事項:①吸血頻度は極稀 必要な場合はギルドに依頼として出す旨本人に通達済み

>      ②吸血鬼希少種(デイライトウォーカー) 日光を浴びても普通に活動できます!

 

 

 ヨシ! 書けたのでお返ししましょう。次からは間違えないようにしますねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドン引きされました。今回はしょうがないよね。

 

 

 「とりあえず近日中に緊急の査問会を執り行うので、逃げないで待ってろ!」というお達しをうっすいオブラートに包んで投げつけられました。依頼を受けるのも禁止されちゃったので、暫くはリフレッシュ休暇としゃれこみましょうか。え、ギルドの1人部屋に泊まって良い(別室送り)? わぁい吸血鬼侍ちゃん別室送りだいすきー。あ、吸血鬼侍ちゃんの報酬は女魔法使いちゃんに渡しておいてくださいねー。

 

 

 別室送りから3日目の朝です。面会も許されていないので非常に暇です。アルティーエの加護持つ走者であれば時空魔法クッキー☆に頼るのでしょうが、吸血鬼侍ちゃんの呪文リストには残念ながら入ってません。村正もあの後ギルド内武具店のじいじに手入れをお願いしてるので手元を離れている状態です。刀身を見て驚いている様子でしたが、研ぎに関してはしっかり請け負ってくれました。

 とはいえ流石にそろそろ暇を持て余して……お、受付嬢さんが来ました。どうやら査問会の準備が整ったようです。早速会場へ案内してもらいましょう。イクゾー。

 

 

 査問会場は窓の無いこぢんまりとした部屋です。中には監督官さんと支部長、それに……槍使いニキです! 形式は昇級試験の面接に似てますねー。あ、この部屋薄い壁で仕切られて隣に人が隠れられるようになってます。槍ニキがいるということは、多分魔女おねーさんが待機していそうですね……。

 

 「それでは査問会を始めたいと思います。この場においては≪看破≫が使用されることを予めお伝えしておきます。偽証が発覚した場合には相応の処置が執られることをご理解下さい」

 

 オッス!お願いしまーす!

 

 

 (少女?説明中……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論からいいますと、黒曜級に昇進しました。

 

 監督官さんですが、なんと受付嬢さんから相談された日、つまり最初の日ですが、あの後すぐに水の都のギルドと至高神の神殿に吸血鬼侍ちゃんの詳細な情報を求める手紙を出していたそうです。すぐに返信が届いたそうですが、両方からの返信に同じ一言が各々の最高責任者の署名とともに書かれていたそうです。

 

 

詮索無用

 

 

 流石にヤベェ件に首を突っ込んだと思って、その後は支部全体でスルーすることで暫しの安寧を得ていたのですが、吸血鬼侍ちゃんがぶっぱしたせいで査問会を開かなくてはいけなくなってしまったそうです。いざ査問会を行えば吸血鬼侍ちゃんの口から出る言葉に嘘が微塵もなかったため、知りたくもなかった真実がギルド(と槍ニキと魔女おねーさん)に直撃したという顛末でした。

 あのぶっぱがなければこのままなぁなぁで押し通す予定だったのにー!と、監督官さんにガン泣きされてしまいました。本当に申し訳ない。1日の≪看破≫使用回数すべてを使っての査問会だったので、余った効果時間で吸血に関しての取り決めや剣の乙女との定期的な報告についても約束させられちゃいました。

 

 立会人として呼ばれていた槍ニキも、いざという時には吸血鬼侍ちゃんを制圧するよう依頼を受けていたそうです。魔女おねーさんも謝りながら隠し部屋から出てきてくれました。吸血鬼侍ちゃんのことは信用できなくても、監督官さんの≪看破≫は信頼してあげてください! 

 

 そして最後に、今までのゴブリン退治と今回の遺跡でのオーガジェネラル討伐の功績を以て黒曜級への昇進が通達されました。この査問会終了後に女神官ちゃん、女魔法使いちゃんと合わせて新しい認識票を渡してくれるそうです。

 2人は昨日昇進審査を終えていたのですが、吸血鬼侍ちゃんに関しての質問に「嘘をつきたくないから答えられない」と言っていたため今日まで保留だったそうです。天使かな?結婚しよ。

 

 「おっそーい! いつまで待たせるのよ!」

 

 別室から荷物を回収し、ギルド1Fへ降りたら同志耳長ちっこいのの声が聞こえてきました。

 みんな待っていてくれたんですね! 白磁3人が揃ったところで受付嬢さんの呼ぶ声。その手には艶のある黒色の登録票が乗せられています。首から下げていた白磁のそれと交換し、これで晴れて黒曜等級冒険者です!

 

 お祝いよー!と騒ぐ同志耳長ちっこいのの音頭でパーティが開催される運びになりましたが、夕方から始めるとのことなので一言断りを入れて宿に戻ることにしました。湯で身体は拭いていましたが、流石に入浴して着替えてから参加するのがレディの嗜みというやつでしょう。

 ん、どうしたの女魔法使いちゃん。吸血鬼侍ちゃんに会いたいっていう人が昨日から宿で待ってる? わざわざ会いに来る知り合いなんていましたかね……。会えばわかるって? じゃあ早く戻りましょうか。

 別室送りの間ベッドが空いていたので、吸血鬼侍ちゃんのベッドを使っていたそうです。女魔法使いちゃんが同室を許すってことは女性ですかね? 全く想像がつかないにゃあ……。

 

 歩くこと10分ちょい、数日振りに帰ってきた我が家(オフトゥーン)です。たーだいまー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やぁおかえり、待ってたよ。随分絞られたみたいだね。それに昇進したんだ、おめでとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なんで森人冒険者さんがいらっしゃるんです???

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サンタさんを探しに行くので失踪します。
 


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いんたーみっしょん2 

うちがサンタさんの巡回路に入ってないことに気付いたので初投稿です。


 前回、ベッドの上にいる森人冒険者さんと再会したところからスタートです。

 

 ええと、無事に集落まで辿り着けていたんですね、良かった。けど、どうして辺境の街(こ↑こ↓)に?

 

 「なに、≪分身(アザーセルフ)≫とはいえ君に助けられたのは事実だからね。直接礼を言いたかったのと、君たちに頼みたいことがあってね」

 

 どうやら遺跡の調査報告のために支部を訪れた森人さんに同行してここまで来たみたいですね。んで頼みたいことってなんでしょう? 全肯定公太郎ばりに言うこと聞いてくれますよ今の吸血鬼侍ちゃんなら。

 

 「難しい話じゃないよ。私を君たちの一党に加えてもらいたいんだ」

 

 ほうほう……え? 一党っていっても、本来は白磁…じゃなかった、黒曜2人の一党で、銀等級の皆さんや女神官ちゃんは臨時ですよ?

 

 「ああ、そのあたりは既に昨日妹姫(いもひめ)さまからお聞きしている。そのうえで君たちの一党が望ましいんだ」

 

 話を聞いてみると、先日の件で所属していた一党は全滅してしまったので、新たな所属先を探しているみたいです。一党の生き残りという立場とゴブリンに凌辱されたという風聞は次の所属を探すのに辛いでしょうね……。ベッドの上で吸血鬼侍ちゃんを抱きかかえて話を聞いている女魔法使いちゃんも遣り切れない表情を浮かべています。

 

 一党に加えてあげたいのはやまやまなんですが、身バレのことを考えるとあまり一党の人数を増やすのは望ましくないんですよね。今回は偶々巡り合わせが良かった(監督官さんの胃が死んだ)だけで、一歩間違えればお尋ね者コースまっしぐらですし。女魔法使いちゃんもそれを考慮しているのか答えあぐねています……。

 

 「ああ、君の特殊な事情については分身君から聞いているよ。その心配はいらないからね」

 

 そんな様子を察したのか、森人冒険者さんはおもむろに首に巻いていた包帯を解き始めて……

って噛み跡ォ!? 分身ちゃん吸血しちゃったの!?

 

 「ゴブリン共を皆殺しにした後、私の傷を癒しながら話してくれたのさ。この先もゴブリンを殺し続けたいのなら、力を貸してほしい。君の血が必要だってね」

 

 吸った後に傷を消そうとして限界突破(オーバーキャスト)の反動で弾け飛んだ時の顔は思わず笑っちゃったけど。なんて言ってますけど分身ちゃんちょっと片道切符人生エンジョイし過ぎてない???

 

 「ダメかな? やっぱりゴブリン共に嬲られた、穢れた身体なんて嫌に決まっ……んくぅ!?」

 

 女魔法使いちゃんの抱っこからするりと抜け出し、言わせねぇよとばかりに噛み跡にマーキング(口付け)する吸血鬼侍ちゃん。ようやった!それでこそ乙女や!

 

 遺跡に行く前から吸ってないんだから、せっかくだしそのままご馳走になりなさいという女魔法使いちゃんの後押しもあって、ゆっくりと血を吸い始める吸血鬼侍ちゃん。ワイングラス半分ほどの量を吸ったところで口を離し、噛み跡に残る血を舐めとった後≪小癒≫をかけて傷を消しています。ってなに引っ張ってるんです女魔法使いちゃん? こっちからも吸え、どうせいつも必要ギリギリなぶんしか吸ってないんでしょうに? おおう、バレてました。

 

 女魔法使いちゃんに正面から抱き着く体勢で首筋に顔を埋める吸血鬼侍ちゃんと、その後頭部を撫でながら頬を紅潮させている女魔法使いちゃん。うーんえっちですね! 吸血はそういう行為のメタファーだって古事記にもそう書かれている。それを眺めながらニヨニヨしてるあたり森人冒険者さんもそっちのケがあるんですかねぇ。おまえも今日から当事者になるんだよぉ!

 

 十分な量、といってもグラス1杯分ほどですが、普段より多く吸血したおかげで吸血鬼侍ちゃんの状態も非常に良くなりました! 肌と髪のツヤも増して健康そうです。健康なアンデッドってなんだろう(哲学)。

 そういえば森人冒険者さんの等級とかってどうなんでしょう? 宴の時間まではまだありますので聞いてみましょうか。

 

 

>じゃあ、まず年齢と等級を等級を教えてくれるかな?

 「ふふ、なんだか気恥ずかしいね。240歳、青玉等級だよ」

>青玉! 2人より二等級上ですねぇ。冒険者としての活動は長いのかな?

 「いや、元々森を荒らす獣やゴブリンを駆除する猟師をしていたんだ。冒険者になって依頼として引き受けると報酬が出るからそのために登録したんだよ」

>なるほど、では冒険者としては野伏や斥候が主な役割だったんですか?

 「そうだね、偵察や追跡、それに前線での的散らしが主な仕事()()()

>……すみません。まだ時間も経っていないのに。

 「かまわないよ。冒険者である以上、いつどんな時にどうなるかは骰子の出目次第だからね」

>ありがとうございます。他に何かセールスポイントはありますか?

 「ああ、ちょっとした隠し種がひとつ。これは口で説明するより見てもらったほうが分かりやすいから、機会があったら教えよう」

>わかりました。森人冒険者さんから言っておきたいことなどはありますか?

 「そうだね、登録上は『森人狩人』になってるので、そちらで読んでもらえると助かるかな。それと、次から血を吸うときはこっちで頼むよ(お山を指差しながら)」

 

 

 というわけで、森人冒険者改め森人狩人さんの自己紹介でした。女魔法使いちゃんより小振りですがそれでも自己主張する胸部装甲と森人特有の優美な容姿。方向性は違えど女魔法使いちゃんに負けず劣らずえっちですね。あ、胸元で吸血するのは痛点の少なさからいってもアリな選択肢ですし、本来は胸元から吸うのがデフォで映像化する際に映えなかったから首筋になったという話もあるそうですよ(蛇足)。

 

 自前の装備は全て喪失してしまい、登録票はゴブリンに壊されてしまったので、昨日ギルドに再発行の申請を出したそうです。再発行されればギルドの口座から貯えを引き出せるので、それまでは居候させて欲しいとのこと。

 それならばと女魔法使いちゃんに目配せして、依頼とオーガ討伐の報酬が詰まった吸血鬼侍ちゃんの金貨袋を渡しちゃいましょう。え、いいのかって? 吸血鬼侍ちゃんお金使わないですし、装備の更新もないですからねぇ。というより更新しようとするとまるで足りないというか……。

 なのでこれで装備一式を買い直して、あと栄養のある食事をしっかり取ること! 奇跡だけじゃ弱った身体を戻すのに時間がかかりますし、森人狩人さんに健康になってもらわないと吸血鬼侍ちゃんのごはんが美味しくならないんですから。

 

 「食べられるのは私のほうなのに、不思議だね、今とても君を食べてしまいたい気分だよ……」

 

 話の途中だがそろそろお風呂の時間だ! これは撤退ではない、後退的前進だ!

 

 吸血鬼侍ちゃんは逃げ出した! しかしまわりこまれた!

 

 この後2人がかりで滅茶苦茶キレイキレイされました(天丼)。

 

 

 

 

 時刻は夕方、ギルド内の酒場に人が集まってきました。女神官ちゃんに引っ張ってこられたのか流石に今日はお疲れなのか、ゴブスレさんも来ていますね。お風呂に入った筈なのに、何故かしわしわになってる吸血鬼侍ちゃんとツヤツヤになってる女魔法使いちゃんと森人狩人さん。ナニがあったんですかね(意味深)。

 森人狩人さんは昨日既に面通しが終わっているからでしょうか、銀等級の面々とも普通に話しています。流石に妖精弓手ちゃんには若干及び腰ですが、あんなのでも森人の超VIPですからね。今がきっと彼女の株価最高値でしょう(あとは下がるだけ)。

 

 「それじゃ、冒険の成功と新人の昇進を祝して、カンパーイ!」

 

 妖精弓手ちゃんが音頭を取って宴が始まりました。ゴブスレさん・妖精弓手ちゃん・蜥蜴僧侶さんは麦酒、鉱人道士さんと森人狩人さんは火酒、女神官ちゃんと女魔法使いちゃんはちょっと奮発して白葡萄酒ですか。吸血鬼侍ちゃんは……。

 

 「ちょっと何それ? 野菜の絞り汁に火酒入れてるの?」

 

 

 厨房からトマトジュースを貰って、そこに鉱人道士さんから分けてもらった火酒を注いでいる吸血鬼侍ちゃん。所謂ブラッディ・マリーですね! もちろん名前は違いますが。

 血のように赤いそれをゆっくりと飲む吸血鬼侍ちゃん。卓上の調味料を加えながら好みの味に調節してますね。お、満足したようです。笑みを浮かべてますね。

 

 「私にも一口貰えるかな? ……うん、飲みやすくなってるね。この飲み方は好みかも」

 

 火酒をストレートで空けてる森人狩人さんも気に入ったようですね。揚げ鶏や黒麺麭を摘まみながら自分でも作り始めています。蜥蜴僧侶さんは揚げ芋に溶けたチーズをかけた物を口に運んでは「甘露!」。黒曜2人娘はお肉タップリの贅沢シチューに麺麭を浸して食べてます。あ!ゴブスレさんいけません!揚げ芋に檸檬をかける時は小皿に取り分けてから! じゃないと「なに勝手に絞ってんのよオルクボルグ!」遅かった……。兜越しに「(檸檬をかけては)いかんのか」と言ってるゴブスレさん、実は結構酔ってますよね? あーもうめちゃくちゃだよ(嘆息)。

 

 

 「よぉ、お前さんが半吸血鬼……じゃなかった吸血鬼侍の嬢ちゃんだろ?」

 

 宴もたけなわ、黒曜2人娘がウトウトし始めたころ吸血鬼侍ちゃんに声をかけてくる人が。この大きくて黒いシルエットは【辺境最高】の重戦士さんですね。新米カップルの面倒を見ている後進の育成にも熱心な冒険者です。片手にジョッキを持っているあたり、一党で飲んでる最中にこちらへ声をかけてきたんでしょうか。

 どうも重戦士パイセン、新米カップルちゃんたちとはよくさせていただいてます。え、新米カップルが吸血鬼ってことに尻込みして吸血鬼侍ちゃんに声をかけ辛くなってるって? 安全かどうか試したいから俺の血を吸ってみろ? どうしましょう、周りを見渡してみますが……ダメですね、悪い酔っ払いしかいません。どいつもこいつも「イッキ!イッキ!」という酒神の祭祀用語を連呼しています。

 

 そういえばまだ男性から吸血したことがありませんでしたね。吸血鬼侍ちゃんの安全性を皆に周知する意味を込めてちょっといただきましょう。ちゅー。

 

 「んあ、思ったほど痛くねぇな。むしろなんかくすぐった……ッツ!?」

 

 おや、なにか様子が……。

 

 「お、おおおおおおおおおおおおおおおう!?」

 

 あわてて口を離す吸血鬼侍ちゃん。重戦士さんは必死に何かを耐えているような表情をしています。

 

 「どうしたんじゃ重戦士の、そんな血相を変えて。なんか身体に異常でも出たんかの?」

 

 「……ヤベェ、吸われてただけなのに危うくイっちまうとこだった……」

 

 その場にいた全員の視線が重戦士さんの下半身に突き刺さりました。

 あー、吸血鬼が血を吸うときって、獲物が暴れないように痛みではなく快楽を与えるって話があったような。吸血鬼侍ちゃんは女の子なので、必然的に男性が快楽を味わうことに……。

 酒場の男性諸君の視線が吸血鬼侍ちゃんに向けられてます。やべぇよやべぇよ(焦り)。

 

 「ええい男ども散れ!散れ!吸ってもらいたきゃ金払え!!」

 

 一気に酔いが醒めたのか、妖精弓手ちゃんが男性冒険者を蹴散らしてくれます。でもその言い方だと金を払えば吸ってくれると思われる気がするんですが(名推理)。

 

 あれ、なんか両肩に重みが。どうしたんですか女魔法使いちゃんに森人狩人さん、そんな怖い顔して。そろそろお暇して宿に戻る? まぁぐだぐだになってきたのでそうしましょうか。先輩方お疲れ様でーす!

 

 ふー、やっと部屋に戻ってきました。そういえば3人になったので部屋を変更してもらうよう宿主さんに言っておかないとですね。え、不要? まぁ今のままのほうが部屋代が安く済みますからいいですけど、ちょっと狭くありません? いいから早く≪分身≫出せって? まぁ今日は呪文使ってないんで大丈夫ですけど(詠唱)。はい、出しましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっとなんでそんなにじり寄ってくるんです? 「今日は私が本体を貰おうかな」「じゃあ私が分身ちゃんね」今日()ってなんなんですかね一体。「まだ身体が痛んでいるんだし、あんまり激しくしちゃ駄目よ?」「蛞蝓のように絡み合うのも良いものだよ? 今度ためしてみるといい」

 あの、話を聞いて……「それじゃあお互い」「満喫しましょうね」誰か助けて……タスケテ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、女性の欲求について魔女パイセンに相談している吸血鬼侍ちゃんと、それを見て鼻を抑える監督官さんの姿が目撃されたとかしないとか。

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




小話を書くために妄想に空気を入れて膨らませるので失踪します。


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かのじょからみたはなし その1

UAが5000を超えたので初投稿です。

お読みいただきありがとうございます。


 

 

「ぼかぁねパイセン、2人のことは大好きだし、傷つけたくないと思ってるよ? だけどさぁ、毎晩毎晩(呪文回数が)枯れるまで(真言の単語発動練習に)付き合わされるのは辛いんだよぉ」

 

 「2人とも、まだ、(単語に込める力の)加減が、わからなくて、独りよがりに、なってるのね。慣れれば、もっと、(魔力の通し方が)馴染んでくると、思うわ、よ?」

 

 太陽()が高いうちから猥談をしてるんじゃあない! こっちはまだ仕事中なんだから!)

 

 監督官は激怒した。必ず、かの吸血鬼侍(メスガキ)理解させ(わからせ)なければならぬと決意した。監督官には

真言呪文(しんご)がわからぬ。監督官は、ギルドの職員である。書類を書き、≪看破(センスライ)≫担当として暮らして来た。けれども薔薇と百合(しんじつのあい)に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 朝の受付ラッシュも落ち着きを見せ、後輩が休憩に出ている間代わりを引き受けている監督官の耳に飛び込んできたのは、受付そばのテーブルで繰り広げられる圃人としても小柄な少女と艶のある蠱惑的な女性の卑猥な(エロい)会話だった。

 

 特徴的な話し方をしているのはこの支部に所属する銀等級のひとりである魔女。依頼に対する取り組み姿勢も真摯であり、危なっかしい後輩たちへの指導も行っている優秀な冒険者。

 それに相対しているのは近年稀に見る問題児。冒険者に困惑を、ギルドに疑惑を、そして監督官に奈落と娯楽を齎した災厄の化身。

 

 監督官は嘆く。あぁ至高神さま。彼女、吸血鬼侍と関わったのが間違いだったのでしょうか……と。

 

 

 

 「あの、先輩。ちょっと良いでしょうか?」

 

 冒険者ギルドへ新人が多く訪れる春先、まだ固さが抜けきらない後輩が困惑した様子で相談してきたのがそもそもの始まりであった。

 

 彼女が担当していた窓口に目をやれば、そこにはまだ成人前にしか見えない1人の圃人の少女の姿。恐らく彼女が用意したのであろう踏み台に乗って窓口に置かれた手紙を興味深げに眺めている。

 

 「あの子、水の都で登録した白磁みたいなんですけど、あっちの至高神の神殿の封蝋がされた冒険記録用紙(アドベンチャーシート)を持参してまして、その内容が……」

 

 なるほど、自分では判断がつかないから相談というのは良いことだけれど、その手紙を見える状態で置きっぱなしなのは如何なものかしらね? そう監督官が指摘すると、慌てて彼女は手紙を取りにとんぼ返り。手紙を見ていた圃人の少女がその勢いに酷く驚いているのが見えた……。

 

 後輩が回収してきた手紙。封蝋は神殿のもので間違いはないようだ。それで、一体どんな内容なのだろう。監督官は手紙を読み進めた。

 

 「うそ、これ本当?」

 

 監督官は困惑を隠せなかった。そこに書いてあったのはどうにも信じがたい来歴。外見にそぐわない従軍経験は百歩譲ってまだ良いが、半吸血鬼、しかも堂々と吸血すると書いてあるとは……。

 

 「何処かで偽造されたものや、或いは手紙自体が盗難に遭ったものだったりする可能性はどうでしょう?」

 

 「あの子が半吸血鬼であるっていうことよりは可能性が高そうね。悪戯にしては迷惑なものだから、後で向こうのギルドに問い合わせてみましょう。とりあえずそれっぽく対応してあげなさい」

 

 そう告げると、わかりました先輩! と言って受付に戻る後輩。何故か彼女は例の圃人におくちあーんをさせている。監督官は思う。違う、そうじゃない。

 

 受付が終わった後、横目で様子を見ていた監督官、暫しの後、依頼ボードの前でウロウロしていた神官の女の子と2人して3人組の白磁等級冒険者に声をかけられているのが見えた。どうやら頭目らしき青年剣士の発案でゴブリン退治の依頼を受けることにしたらしい。白磁等級5人でゴブリン……。後輩も心配そうに見ているが、果たして何人無事に戻ってくるのか。ギルドでは日常的な光景とはいえ、ままならないものだと監督官は思った。

 

 

 白磁5人(あの子たち)が帰ってきた。

 後輩が後詰として銀等級冒険者、ゴブリンスレイヤーを送ったのが幸いしたのか、全員無事だった。だが様子がおかしい。

 青年剣士と女武闘家は完全に心が折れていると一目でわかった。あの2人は多分冒険者を続けることは出来ないだろう。

 女魔法使いと女神官は、疲弊はしているけれど目は死んでいなかった。2人は運が良ければしばらく冒険者を続けられるかもしれない。

 

 そして半吸血鬼侍を名乗る圃人の子……。アレはなんだ?

 散歩帰りのような表情で後輩のお気に入りの銀等級(ゴブスレ)の後をついて回り、彼と一緒に後輩へ報告している。時折ゴブリンスレイヤーから補足が入るもののほぼ依頼の流れを把握していたようだ。既に水の都で活動していた? 冒険記録用紙を見る限り全くの新人の筈なのだが……。

 

 監督官は胸中に沸いた疑念を払拭出来ず、支部長に掛け合って特別室の手配をした。本来は事件の参考人や不正行為を行った冒険者を保護ないし隔離するときに使うものだが、無理を言って許可を得た。他の冒険者とは同室にならず、大部屋を希望していたのは好都合。後輩に手筈を伝え、上手く誘導して個室に泊まらせることに成功した。

 

 翌日、監督官は夜通し個室を見張っていた担当の報告に絶望していた。

 書類内容が出鱈目なら最良、事実なら許容。だが現実は最悪。半吸血鬼だとしても支部内で騒ぎになる事は間違いないというのに、よりにもよって吸血鬼! 混沌に属する種族の中でも危険度が非常に高い存在だ。しかも陽光を浴びても活動するデイライトウォーカー!? もしその話が真実だとしたら、神殿もギルドも混沌の手に落ちているのではないだろうか? まさか、あの剣の乙女さえも吸血鬼の毒牙にかかっているとしたら……?

 

 疑念を解消するため、監督官は水の都のギルドと至高神の神殿に半吸血鬼を名乗る冒険者の情報開示と、冒険記録用紙(アドベンチャーシート)の写しの申請を送ることにした。早ければ一週間ほどで返事が届くだろう。それまでは観察にとどめておくことが支部内で周知され、ひと時の平穏が職員の間に訪れた。

 

 やはりアレはおかしい。白磁等級が収入と功績を得る方法は少ない。その半数を占めるのが下水関係の依頼であるが、あの圃人は下水の依頼を達成した試しがない。後輩もあきれた様子で注意していたが、下水には河童なる怪物がいて、近付くと引きずり込まれるから上手く活動できないと主張しているそうだ。只の圃人ならば特有のユーモアか虚言癖だろうで片付くが、監督官の視点からは怪しさしか感じられない。

 

 また、白磁とは思えない技能を有していることも判明した。難度の高い真言呪文とされる≪分身≫を当たり前のように使い、生み出した分身にひたすらゴブリン退治をさせている。時には野盗や追剥(ブッシュワーカー)を殲滅し本体と一緒に盗難物や物資の回収に向かう姿も見られている。

 

 本体はといえば、白磁冒険者を引き連れて自主訓練に励んでいるようだ。何処か運動に適した場所はないかと聞かれたときは後ろめたさから動揺が表に出てしまったが、かつて捨てられた村の跡地を紹介しなんとかその場は誤魔化せたと思う。

 

 追記:ゴブリン退治を共にした女魔法使いとの仲が妙に良いように感じられる。女神官や新米聖女には年相応?な反応を見せているが、彼女と2人きりの空間は何かが違う。

 真剣な眼差しで取り組む魔法の座学、共有スペースでの盤上遊戯、軽食を楽しむ昼下がり。

 何故か目を離せないその光景に、監督官はより一層の注視を決意した。

 

 水の都のギルドと至高神の神殿、双方から返信が届けられた。便の都合なのは承知しているが、こうもタイミングが同時だと作為的なものを感じてしまう。

 意を決して封を切る。そこに記されていたものは、海千山千の冒険者を相手取り一歩も引かない監督官すら顔を青褪めさせる内容だった……。

 

 厳重な封蝋のされた外包み。それを開いた中には質の良い羊皮紙に書かれた申請却下の文面。

 それだけならばまだ良かった。却下理由に記された言葉こそが監督官の身を竦ませたのだ。

 ギルドと神殿。書いた人物は違えども、ご丁寧に責任者の直筆署名入りで書かれていたのは

 

 

 

詮索無用

 

 

 

の四文字。そのそっけなさに込められた意味を読み取り震える手。そこから滑り落ちた神殿からの外包みを慌てて拾い上げる監督官は気付いた。まだ中に何かが入っている!

 

 それは申請却下の通知書とは違い、脆く破れやすいパピルス紙に認められた手紙だった。

宛名は監督官。署名は剣の乙女。文体と比較するに恐らく直筆であることが監督官には判った。

 

 読み終わったら直ぐに焼き捨てて欲しいという言葉から始まる手紙は、最早監督官の常識を超える内容であった。

 

 「死の迷宮」奥深くに暮らす吸血鬼の君主(ヴァンパイアロード)との出会いと友誼。

 人類の刃として闇に潜み混沌の勢力と闘う10年の歳月。

 辺境で蔓延るゴブリン禍に対抗するための、身分を偽っての出奔。

 

 どうか、吸血鬼侍(かのじょ)の力になって欲しいという言葉で締めくくられた手紙(それ)を、監督官はギルドの裏庭で火にくべた。燃え落ちていくそれを眺めていると、不意に昔興味本位で吸っていた煙草が欲しくなった……。

 

 

 

 多種族で構成された銀等級冒険者がゴブリンスレイヤー(後輩の推し)を求めて支部を訪れ、彼らに白磁3人が付いていくのを監督官は眺めていた。後輩は心配そうな顔で大丈夫でしょうかなどと言っているが、監督官は彼らの生存に何の疑問も抱いていなかった。むしろ今度はなにをやらかすのか。そのほうが心配の種であった。

 支部の見解として、吸血鬼侍はこのまま半吸血鬼侍として取り扱うことに決定した。「六人の英雄」の1人である剣の乙女の意見に背くことほど、愚かなことは無いのだから。

 

 

 

 数日後、森人の操る馬車に乗って一党が帰ってきた。相応に疲弊しているようだが全員無事だ。白磁の3人もなんとか生き残ったようだ。

 ゴブリンスレイヤーが後輩に依頼の報告へ向かうのを眺めていると、監督官は不意に自分を呼ぶ声に気付いた。顔を向けるが誰もいない。ふと下を見ると、そこには踏み台が無いため顔が出せていない半吸血鬼侍がいた。不意に高鳴る心臓を落ち着かせつつ、踏み台を用意し要件を聞けば、冒険記録用紙に記載ミスがあったらしい。記載ミスどころか殆ど嘘じゃねえかと思ったが、手続き的には白磁のうちに言い出してくれて良かった。等級が上がってからの用紙の修正は経歴詐称に繋がりかねないため、支部長の承認が必要となり手続きが面倒なのだ。

 

 用紙を差し出せば、サラサラと流麗な筆致で修正を書き込んでいる。文体が明らかに違うので、やはり用紙は水の都のギルドで作成されたものだったのだろう。

 書き終わったのか、満面の笑みで帰された用紙(それ)を確認し、監督官は眩暈を覚えた。

 

 こっち(ギルド)がどんな思いで隠蔽を行おうかと思っていた矢先に自分から秘密を暴露(エクスポーズ)しやがったのだ!

 

 ふと気が遠くなり、気付けば首根っこを掴み上げて個室に放り込んで(別室送りにして)いた。後から後輩に聞いてみたら、どえらい剣幕で叱っていたらしい。

 後輩曰く、あれほど怒ったのを見るのは孤電の術士(アークメイジ)と『侍×半森人斥候』か『半森人斥候×侍』かで大喧嘩していた時以来だそうだ。解せぬ。

 

 

 

 別室送りにした半吸血鬼侍の査問会を翌日に控えた日、アレを訪ねて森人がギルドにやってきた。身体の調子が悪いのか何処か億劫そうに椅子に座る彼女に具合を聞いたら、数日前までゴブリンの巣で暮らしていたもので、と返された。

 死を待つ身だったところを彼女に救われ、先行して集落へ帰る際ゴブリンの群れに襲われた時も彼女の分身に助けられたのだという。中身はまだだけど、ガワは彼女に癒してもらったのさと笑う姿は、正視するにはあまりにも痛々しいものだった。

 明日査問会を控えているので面会は出来ないと監督官が告げると、それは彼女が吸血鬼だからかい?と返される。まさか、知っていたのか!?

 

 「彼女に教えてもらったよ。それを踏まえた上で、彼女に礼が言いたいんだ」

 

 あと、登録票をゴブリンに取られたから再発行も頼むよ。という言葉を辛うじて拾いながらも、監督官の胸中は混乱を極めていた。

 

 

 

 査問会当日。会場には支部長と監督官、そして立会人として槍使いを招集している。彼には()()()()()が暴れだしたりする可能性があるので、注意してほしいとだけ伝えてある。彼と依頼を共にすることの多い魔女にも同様に伝え、彼女には薄い壁で仕切られた隣の部屋で待機してもらっている。奇跡の回数は最大、効果を最大限に発揮するため、ギルドの資産から特殊な魔具も借り受けている。出来るだけ長く≪看破≫を維持し、真偽を追求するのが監督官の仕事だ。もうすぐ迎えに行った後輩が彼女を連れてやってくる。覚悟を決めよう……。

 

 

 

 

 

 

 終わってみればあっけないものだった。

 半吸血鬼……いや、吸血鬼侍は呆れるほどの善性であり、どうしようもないほど空気が読めない人物だった。秘匿という言葉を知らず、監督官の問いにはすべて真実で答え、隠すことなど何もないという姿勢。支部長は途中から真っ白に燃え尽き、彼を挟んで反対側に座っていた槍使いの顔色が七色に変化するのは見ていて楽しかった。

 

 受付で白磁3人の昇進が待っていることを告げ退室を促すと、彼女は優雅に一礼して部屋を出て行った。3人、いや、隠し部屋から出てきた魔女を合わせて4人の口から同時にため息が漏れる。

 

 「なあ、まさか本気で銀等級2人で吸血鬼を抑え込めると思っていたのかよ?」とジト目で見てくる槍使い。監督官は手当ての割り増しを約束し、支部長の髪は薄くなった。

 「でも、彼女、いい子、よ」と呟く魔女の声だけが、ほんの少しの3人の慰めだった。

 

 

 

 

 

 「まーた先輩のところで邪魔して!さっさと準備してゴブリン退治に行くわよ!」

 「やはりおっきいのが好きなんだね。私ももう少し頑張らないと」

 

 監督官が書類を書き上げた頃、女性の声が彼女の耳に入る。少々キツめの声が女魔法使い。何処かズレた発言をしているのが森人狩人。どちらも吸血鬼侍と同じ一党だ。

 等級でいえば青玉等級である森人狩人が頭目になるのだろうが、彼女は一貫して吸血鬼侍を持ち上げている。物理的にも。若干依存の傾向がみられるが、事情が事情だ。止めるのは少々酷だろう。

 女魔法使いもギルドに来た当初の高慢さは抜け落ちて、良い意味で泥臭い冒険者になったと監督官は思う。下手を打たなければ鋼鉄等級への昇進もすぐだろう。

 

 そんな2人に片腕ずつ抱えられた吸血鬼侍。両側に引っ張られた瞬間に分身して2人になるのは最早芸風の域に達している。魔女に手を振って挨拶をしつつ、それぞれ相棒に抱きかかえられながらギルドの外へと去っていった。

 

 その様子を眺めつつ、監督官は森人狩人が残した台詞を思い出す。吸血鬼侍は面倒見は良いが、女神官や見習い聖女、妖精弓手への対応と、一党の2人や魔女に対する接し方は違う気がする。

 

 前者には手のかかる妹に対する姉のような接し方。後者には何処か甘える、庇護心をくすぐる妹のような言動。だが森人狩人の表情は姉というよりは彼氏の好み(性癖)に合わせて自分を磨く彼女(おんな)の貌。でも先の魔女とのやり取りは、どう考えても搾り取られている男の泣き言。でもでもでも……。

 

 「先輩もどりましたー! あれ、先輩それ何を書いてたんですか?」

 

 後輩の声に驚き我に返る監督官。ふと視線を落とすと、人格査定に使うノートが女性冒険者の名前と矢印、それに数学記号で埋め尽くされていた。

 

 慌てるんじゃあない。先輩としての威厳を保ちつつ、華麗に後輩の質問に答えるのだ。

 

 「これはね、どの組み合わせが一番(妄想が)捗るかを考察していたものよ!」

 「な、なるほど。(塩漬け依頼の消化が)一番捗るかを考えていたんですね!」

 

 

 

 ゴブスレ(和マンチ)さんと吸血鬼侍(バグキャラ)ちゃんのゴブリン湧き潰しによって生まれた僅かな平穏。

 今日もギルドは平常運行であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そろそろ冬眠の準備に入るので失踪します。


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セッションその2.5

お鍋いっぱいにミネストローネをつくったので初投稿です。


 そろそろ自重しなくなる実況プレイ、はーじまるよー。

 

 黒曜等級に昇進するとともに、監督官さんの胃に致命の一撃を与えてしまった吸血鬼侍ちゃん。

 素敵な仲間(まだ戦力外)が増え、そろそろ一党としての体裁が整い始めました。とはいえまだまだ世間様から半目で見られる黒曜等級。まずは鋼鉄等級目指して頑張りましょう!

 

 オーガジェネラルを厚切りステーキ先輩に変え、黒曜等級に昇進してから一週間が過ぎました。分身ちゃんをおつかい(ゴブリン退治)に送り出しつつ、森人狩人さんの指導の下で真言呪文の()()()()の訓練を2人で受けていました。魔女パイセンが煙草に火を点けるときに使用しているアレですね。

 相応の集中が必要ですが、呪文回数の消費無しにアクションが起こせるメリットは大きいです。特に手数に乏しい女魔法使いちゃんの貴重な攻撃手段になりますので、この機会にしっかりと覚えてもらいます。がんばえー。

 

 訓練を見てもらっている間に、森人狩人さんの身体もだいぶ快復してきたようです。とはいえ冒険に出るのはもう一区切り必要そうなので、サクッとセッションをこなしてしまいましょう。

 

 

 

 

 それでは本日の献立と使用する材料を紹介します。

 

◆魔神の活け造り、ゴブリンの悲嘆ソース添え

 

◆材料(4人分)

 

 吸血鬼侍ちゃん  2人

 女魔法使いちゃん 1人

 蜥蜴僧侶さん   1人

 

 ゴブリンの巣   1箇所(塩漬けのもの 大規模なものほどよい)           

 つるはし     1本

 

 

 

 

 まずは蜥蜴僧侶さんを勧誘するところからスタートです。蜥蜴僧侶さーん、ちょっと塩漬けの依頼片付けるの手伝ってもらえませんか? お礼にレア物の心臓プレゼントしますんで。

 

「ほほう、しかし抵抗せずに差し出される心臓には拙僧あまり食指が動かないのですがな?」

 

 (あ、自分のじゃ)ないです。ゴブリンついでに土地の穢れを利用して、()()()()奴を呼び寄せて退治しようかと。そういうのお好きでしょ?

 

「成程、強き異端との闘争こそ拙僧の望むところ。然らば助力は惜しみませんぞ!」

 

 やったぜ。

 

 蜥蜴僧侶さんが釣れましたので、受付嬢さんから塩漬けのゴブリン退治を受注しましょう。新鮮なものはゴブスレさんが片付けてくれますので、良い感じに漬かってるのを見繕ってもらいます。

 

「はぁ、でしたらこのあたりを引き受けてくださると助かりますけど、3人で向かわれるんですか?」

 

 オレが2人分になる。とばかりに分身ちゃんを呼びだして問題ないことをアピールしたら、そのまま武具店のじいじのところへ。へいじいじ! つるはしひとつ包んでくださる?

 

「ウチにゃ只人サイズしか無ぇが、それでもいいなら銀貨20枚だ」

 

 それでお願いしまーす! んで、最後に女魔法使いちゃんにゴブリン退治に出発することを伝えましょう。休んでいる暇はないぞ女魔法使いちゃん! 出撃だ!!

 

「いや、引き受けてから言うんじゃないわよ。まあいいけど」

 

 呆れた表情で吸血鬼侍ちゃんを見ています。これは今夜やり返されますねぇ。

 ゴブリンを退治した後、向こうで一泊する予定なので、荷物をちゃんと準備しましょう。魔女パイセンと和やかに話している森人狩人さんに挨拶したら、さぁ冒険の始まりです!

 

 

 今回チョイスしたゴブリン退治の場所は古い神殿の跡地です。とうの昔に探索し尽くされ、既に枯れた遺跡として放置されていたものにギルドが目を付け、遺跡探索の練習場にする予定でした。しかし、いざ冒険者が向かったところゴブリンが住み着いており、駆除の依頼をギルドが出したものの引き受け手がいないため塩漬けにされていたという代物。

 ギルド依頼の為報酬は低いのですが、査定に色を付けてくれますので吸血鬼侍ちゃんには願ったり叶ったりの美味しい依頼です。

 

 

 4人で歩くこと暫し。昼前に神殿近くの崩れた廃屋までやってきました。さて女魔法使いちゃん、ここからどう攻めるのが良いと思う?

 

「まずは見張りの有無と出入口の数の確認。神殿の見取り図はあるけど、崩落で変わっている可能性もあるし」

 

 いいですねぇ! ゴブスレさんの教育はしっかりと魂に刻まれているようです。

 分身ちゃんと手分けして探索した結果、出入口は正面と裏口の2箇所。両方に見張りのゴブリンが張り付いていて、裏口にはトーテムがありました。

 探索で時間が経過し現在およそ正午。じゃあいつ攻める? その際一党は分けたりする?

 

「んー。基本に則って奴らにとっての朝方、つまり夕方がいいかな。裏口に分身を配置して残りは正面から。私が暗視を持ってないので光源は必要だけど、詠唱の都合上先輩の竜牙兵に松明を持っていただくのが良いかもしれません。建物の大きさから推測して数は多くて30匹。それとシャーマンないしリーダーがいる可能性大。……どう?」

 

 これには蜥蜴僧侶さんもニッコリ。良き研鑽を積まれていると頻りに頷いていますね。装備の確認をしたら夕暮れまで待ち、奴らが油断しているところを攻略しましょう!

 

 

 

 

 そら(事前に情報を集め、敵の予測ができていれば)そう(そう失敗なんて起きず、あっさり終わるわけ)よ。この後のお楽しみのために蜥蜴僧侶さんには呪文の消費を抑えてもらい、ゴブリンは素手で、ホブやマジシャンは女魔法使いちゃんが≪火矢≫で仕留めるコンビネーションプレイ。

 

 途中わざとゴブリンを1匹後ろに流し、女魔法使いちゃんがどう対処するか試してみましたが、左手に装備した発動体から瞬時に炎を生み出し迎撃。熱さに怯んだところを杖の石突に取り付けた切っ先で喉元を一突きして倒しています。≪点火≫からの武器チェインかな?

 

 

 

 礼拝堂だったと思われる広い空間で裏口入学の分身ちゃんと合流し、群れの長だったシャーマンとその取り巻きを挟撃する形に。面倒くさくなったのか、吸血鬼侍ちゃんが分身ちゃんといっしょに≪力矢≫を魔人ブ〇の人類絶滅ホーミング砲ばりにぶっぱして終了しました。

 

 前座が終わり、ここからが本番です。長年ゴブリンが居たために神殿内に混沌の気がいい感じに溜まっていますので、それを集めるべく魔法陣を作成しましょう。塗料はもちろんゴブリンです。広間の分で足りなかったら部屋の外から残りを運んできて使いましょう。

 粗方描けたら次に呼び水を用意します。魔法陣の中心付近でちょっと手を切って血を床に垂らしましょう。戒律(アライメント)が善でも吸血鬼侍ちゃんは強力なアンデッド、その血は不浄の力を含む触媒として役に立ちます。

 最後に使うのは武具店で購入したつるはし! 大きく振りかぶって、ピックの先端を魔法陣の中心に叩きつけますよ!

 

 あ、せーの、とぉぉ↑おう↓!!

 

 SMAAAAASH!!

 

 先端が触れた部分から床一面に赤い線が広がり、次第に門のような図案に変わっていきます。

 両開きのそれがスライドするように広がり、原色渦巻くそこから現れる巨大な姿。

 

 大きな単眼(まなこ)は眠たげに揺蕩い、

 振り上げた(かいな)には垂れ下がる贅肉。

 その咆哮は聴くもののやる気をボロボロにする!

 

 怠惰の魔神(グータレーデーもん)のエントリーだ!!

 

「魔神とあれば相手に不足なし! いざ、いざ、いざぁ!!」

 

 魔神の登場に蜥蜴僧侶さんも大興奮。温存しておいた呪文でバフを盛って一騎打ちの体勢に入りました! 蜥蜴人のタイマンに横槍を入れるのはスゴイ=シツレイですので、蜥蜴僧侶さんの体当たりによって奥に転がっていった魔神はこのままお任せしてしまいましょう。

 銀等級でも少々厄介な怠惰の魔神ですが、自己バフ、回復、高い近接能力と隙の無い構成の蜥蜴僧侶さんであれば問題なく勝利できるでしょう。

 もし負けたら? さぱっと死せい 誉れじゃって偉い人が言ってました。

 

 怪しい光を放つ魔法陣ですが、周囲の混沌の気を消費しきるまで魔神召喚は続きます。

 次が出てきましたよ! しかも期待していたヤツです!

 

 青黒き皮膚は戦士の刃を通さず、

 背の翼で恐怖と殺戮をまき散らす。

 知と力を併せ持つ強壮なる尖兵!

 

 上位魔神(グレーターデーモン)のエントリーだ!!

 

 四方世界に顕現した上位魔神は周囲を睥睨し、女魔法使いちゃんに視線を向けます。

 恐らく愚かな魔術師が身の程も弁えず魔神召喚を行ったと判断したのでしょうか、その目に嘲りの色を浮かべながら矮小なる只人に門を開いた礼をしようとその爪を向けています。

 

 

 

 

 

 残念ながら君の手番(ターン)は回ってこないんだな、これが。

 

 

 「DEEEEEEMO!?」

 

 上位魔神を挟んで女魔法使いちゃんの反対側にステンバーイしていた吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんがアンブッシュからの一閃! 片足ずつ斬り飛ばして転倒状態にさせます。すかさず本体が首を落とし、同時に分身ちゃんが≪聖壁≫を使用。胴体部分を床面に抑えつけます。

 

 魔神の生命力は高く首を落としたくらいでは死にませんが、首を斬られ声が出せない以上呪文を唱えられなくなりました。胴体も必死に起き上がろうとしていますが、無慈悲な地力の差で≪聖壁≫の拘束から逃れることができません。

 

 (DEMOOOOOOOOOOON!)

 

 攻撃手段を失った上位魔神は事態の打開を試みるために特殊能力を使用します。周囲の不浄なる気を用いて自分よりも低位の魔神を召喚し始めました!

 首だけの魔神の周囲に、向こうで倒れている胴体から生えているものと同種の腕が顕現しようとしています。あれは上位魔神の腕(グレーターデーモンズ・ハンド)ですね。

 上位魔神の顔が優越感に歪んでいます。聖壁の拘束も永遠ではない、解放された時が貴様らの最期だと言わんばかりの笑みです。

 

 そんなんじゃ甘いよ?

 

 上位魔神によって召喚された下位の魔神は行動するまでタイムラグ(召喚酔い)があります。召喚されてから行動する間に吸血鬼侍ちゃんが一手番動けるというわけですね。

 

 はい、刈り取り放題な魔神の腕牧場の完成です。

 

 本場死の迷宮で行われる上位魔神増殖に比べれば効率は悪いですが、一度パターン化すればほぼほぼオートで狩れるのが楽ちんでいいですね! むしろ上位魔神が上位魔神を呼べるあたり死の迷宮のほうに特殊な効果があったのかもしれません。

 

 だいたい吸血鬼侍ちゃんのワンパンで上位魔神の腕君は吹っ飛びますが、万が一本体の攻撃で討ち漏らしても分身ちゃんが追撃待機してますので問題はありません。

 ここでも首に拘るのか、手首の部分で二分された魔神の腕(何故か右腕ばかり。そのための右手?)が段々と床面を埋め尽くしていきます。時折切り離した後でもピクピク動いている掌がありますが、それは女魔法使いちゃんに処理してもらいましょう。噛まないから大丈夫だって。

 

「そんなこと言ったって、気持ち悪いものは気持ち悪いのよ!」

 

 へっぴり腰のまま杖の穂先でつんつんしてる女魔法使いちゃんぐうかわ。呪文の使用回数が残ってるなら単語発動で攻撃すればいいんじゃない?

 

「……あ。い、≪点火(インフラマエ)≫! ≪点火(インフラマエ)≫!!」

 

 辺り一面に肉の焼ける臭いが漂い始めました。やはり実践に勝る訓練はないですね!

 なかなかの威力を発揮している単語発動ですが、呪文の使用回数が残っていないと限界突破(オーバーキャスト)扱いとなり消耗が激しくなってしまいます。なので最低1回は呪文回数を残して立ち回ることが女魔法使いちゃんの今後の課題ですね。

 

 流れ作業で腕を刈り取っていましたが、段々湧き速度が遅くなってきました。そろそろ種切れかな? さっきまで雄々しくそそり立っていた腕が見る影もないフニャ〇ンに成り下がっています。あ、女魔法使いちゃんが仕留めたフニャ〇ンが赤い宝玉をドロップしました! これで打ち止めだな(確信)。

 

 では上位魔神にも他次元界へお戻り願いましょう。おうちにおかえり(大発火)。

 内包魔力の差でしょうか、吸血鬼侍ちゃんのほうが同じ≪点火≫を使っても火力は上のようです。首が燃え尽きると同時に≪聖壁≫でプレスされていた胴体ももがくのを止めました。

 蜥蜴僧侶さんのほうは……丁度分厚い脂肪を爪で切り裂いて、怠惰の魔神の心臓を抉り出したところですね。まだ鼓動を続けるそれを自らの頭上で引き裂き、流れ出る血を全身に浴びています。

 両の手に残った心臓を喰らい、勝利の咆哮を上げる姿はBANZOKU味に溢れていますねぇ(震え声)。

 

「いやぁ侍殿、此度の狩りは素晴らしいものでしたな!」

 

 また是非お願いしたいものですな、と返り血と自らの血で真っ赤に染まったまま呵々と笑う蜥蜴僧侶さん。対照的にむせかえる血臭に青くなる女魔法使いちゃん。まったく平気な顔をしてるあたりちゃんと吸血鬼なんですね吸血鬼侍ちゃん。

 

 吸血鬼侍ちゃんが蜥蜴僧侶さんと部屋全体に≪浄化≫を唱え、血抜きが終わったゴブリンと魔神の残骸を外に運び、最後に女魔法使いちゃんの≪火球≫で焼却処分すればお掃除完了です!

 魔神にすべての不浄を吸収させてそれを滅したため、神殿内に漂っていた負のオーラもきれいさっぱりなくなりました。ここまですればアンデッドが湧いたりすることもないですね。

 

 神殿跡地で夜営をして、爽やかな朝を迎えたら、さぁ街へ帰って報告をしましょう! あ、魔神を召喚したのは内緒でお願いします。特に女神官ちゃんにバレると正座させられちゃうんで。

 

「あ、みなさんおかえりなさい! なにか変わったものなどはありましたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いや、ゴブリンだった」」」

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おなかいっぱいで眠くなったので失踪します。


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いんたーみっしょん3

お気に入り登録数が100を超えたので初投稿です。

お気に入りの登録、評価・感想も含めありがとうございます。


 前回、劣化グレーターデーモン養殖を終わらせたところから再開です。

 

 受付嬢さんへの報告が無事(バレずに)終わりました。現在お昼ちょっと前、蜥蜴僧侶さんは異端との戦いに勝った自分へのご褒美でチーズパーティを開催中。

 吸血鬼侍ちゃんは普段通りゴブリン退治に行こうかと思いましたが、女魔法使いちゃんの疲労も考えて分身ちゃんの派遣にしておきましょう。頑張って稼いで来るんやで。

 さて、森人狩人さんは……お、武具店にいました! 注文していた装備の調整をしているみたいですね。たーだいまー。

 

「おや、おかえりご主人様。義妹(いもうと)くんも無事でなにより」

 

 一瞬の動作で吸血鬼侍ちゃんを抱きかかえてますが、ちょっと待ってなにその呼び方。丁稚君がすごい顔で見てますよ?

 

「私の生命を救ったのは君だろう? つまり私の生命の所有者が君である以上、それに相応しい呼び方をすべきだと思ってね」

 

 いや、そのりくつはおかしい(DREMN)。それにいつの間にか義妹にされてますけど、いいんですか女魔法使いちゃん? え、実害は無いし別に構わない? そーなのかー。

 

 スキンシップに満足したのか、森人狩人さんは吸血鬼侍ちゃんを降ろしながら装備を見せてくれました。最近ギルドで流行りだした黒インナー(値段と防御力のバランスが良く、動きを阻害しないので人気)の上から狩人の外套を纏っています。身長があるからカッコイイにゃあ……。

 よく見ると金属で補強している部分がありますね。若干の重量増を代償に防御力のアップを図っているようです。ゴブリン退治を主軸とするなら悪くない選択肢ですね。

 

 武器のほうは……短弓(ショートボウ)戦棍(メイス)でしょうか。戦棍の先端にハンドボール大の金属球が取り付けられてますね。ちょっと珍しい形ですけど、これが前に話してた隠し種ですか?

 

「その通り。素材に銀を加えることで攻撃が弾かれやすい人狼にもダメージが通るようになるんだよ。さらに……≪(トニトルス)≫!」

 

 おお! 森人狩人が真言を唱えながら戦棍を一振りすると、金属球部分がバチバチと雷を纏っています。狩人……トニトルス……あっ(啓蒙↑)。

 

「私は呪文を1回しか唱えられなくてね。なんとかズルできないものかと試行錯誤の結果、生まれたのがこれというわけなんだ」

 

 真言の単語発動の便利さは言わずもがなだよねーと軽く話してますが、これ結構すごくない? 魔術師が前衛と遜色ない攻撃力を得られるんですよ? 

 

「魔術師が前衛に立とうだなんて、普通考えるわけないでしょう。常識的に考えて」

 

 はい、おっしゃる通りでございます。でもいいじゃないですかこれ。いざという時にゴブリンを確殺できる威力が出るんですよ、女魔法使いちゃんも欲しくないの?

 

「義姉に任せたまえよ。既に発注済みさ。そのために先に単語発動を教えていたんだからね」

 

 すっごーい! ……にしては浮かない顔をしてますが何かあったんです? え、本体は出来上がっているけど内部に組み込む宝石の調達が遅れている? 紅玉の杖に使用されている宝石じゃ衝撃に耐えられないんですか。ん? 宝石っぽいものを最近何処かで見たような……。

 

 

 

 

 

 

「あ、もしかしてこれ、使えるんじゃ……」

 

 そうそうそれそれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それだー!

 

 女魔法使いちゃんが背負い袋から出したのは魔神からドロップした赤い宝玉。恐らくは魔力の結晶のようなものなのでしょう。鈍い輝きと素手では触りたくない熱を帯びています。

 

「ちょっと見せてみな」

 

 それをむんずと素手で掴むじいじ。熱くないの? 馬鹿野郎年季が違うって? そりゃごもっとも。それよりもこれ使えそうですか? 通りすがりの魔神からカツアゲしたんですけど(嘘)。

 

「ああ、魔神といやあその血に地獄の熱が流れてるっちゅう逸話が残るようなヤツらだ。火の魔力の通りはそら格別だろうさ」

 

 じいじのお墨付きはもらえましたけど、どうする女魔法使いちゃん。使っちゃってもいい?

 

「まぁ、あんまり表に出したくない入手法だから売るのも難しいと思ってたし、この杖じゃ強度に不安があったから。アンタが良ければそれで構わないわ」

 

 じゃあお願いしちゃいましょう。じいじどのぐらい時間かかる? 組み込むだけだから茶でも飲んで待ってろ? あーい(ちのうしすう低下)。

 

 

 はい、蜥蜴僧侶さんのチーズ祭りに参加している間に完成しました。ただいま動作確認のためにじいじを含めた4人でギルドの裏庭に来ています。女魔法使いちゃんがバランスを確かめるべく渡された得物を振り回していますが、紅玉の杖の2倍くらい重量がありそうなのにまったく重さに振り回されてません。まぁ逞しくなっちゃって。

 あ、もしかして普段から吸血鬼侍ちゃんを抱き上げていたから……?

 

 怖い想像はナシで! 見た目は長柄のハンマーのように見えますね。持ち手は重量軽減のために金属補強した木製ですが、ヘッド部分は全て金属部品を組み合わせて作られています。恐らく内部に魔神の赤玉が格納されているんでしょうが、外側からは確認できません。

 

「そのまま打撃武器としても使えるし、魔法の発動体としても使用可能だよ。重さには慣れてきたみたいだし、そろそろ≪点火≫してみようか」

 

「ん、わかった。……≪点火≫!」

 

 両手を交差し、ハンマーヘッドのお尻側と左手の真言呪文の発動体を擦り合わせながら≪点火≫を唱える女魔法使いちゃん。わお! ハンマーが展開して格納されていた赤玉が出てきました。真言に反応したのか炎を噴き出して真っ赤になってます。あれじゃ金属製でないと耐えられないでしょうね。

 

「おし、そのままアレにぶつけてみな」

 

 じいじが指差す先にはいつ間に用意したのかボロボロの金属鎧を装備した藁人形が。何処となくゴブスレさんに似てますがきっと気のせいですね! 鋳潰す予定のものらしいので、フルパワーでやっちゃってください!

 

グシャア!!

 

 うわぁ。破片が飛び散ると思って≪聖壁≫の準備をしていましたが、飛散せずにぺちゃんこになってます。上から叩きつけた影響も大きいですが、衝撃と熱の相乗効果で予想以上の破壊力です。盾受けも厳しいでしょうし、外皮持ちにも打撃が通りやすくなりそうです。

 

「≪点火≫機構が無きゃただの戦槌(ウォーハンマー)だからな。まぁ爆発金槌とでも呼ぶか」

 

 まぁ、そうなるな(達観)。じいじが命名したところでありがたくいただきましょう。いやぁ森人狩人さんの先見の明すごいですね。感動しました!

 

「いやぁこっちこそ助かったよ。実は本体だけで予算が尽きちゃって、核となる宝石が入荷するまでに稼がなきゃいけなかったんだ」

 

 はっはっは。

 

 感動と感謝をかえして。

 

 

 

 

 

 森人狩人さんの株が乱高下していますが、これで一党として活動する準備が整いました!

 前線回避盾兼肉壁の吸血鬼侍ちゃん、探索もできる遠近両用の森人狩人さん、後方火力および知識担当の女魔法使いちゃん。プラスしてたいてい分身ちゃんを召喚しておくので実質4人パーティですね。専業プリがいませんが吸血鬼侍ちゃんが使えるのでまぁ大丈夫でしょう。≪小癒≫が自分に使えないのがネックといえばネックですが、再生能力で誤魔化せばいけるいける。

 

 あの後、グリップの調整や何やらで結局夕方までかかってしまいました。実戦での運用は明日以降にするとして、女魔法使いちゃんの新しい相棒を用意してもらったお礼を何か考えましょうか。

 おゆはんをちょっぴり豪華にするか、それともちょっとお高いお酒を買って宿で乾杯するか、どっちがいいかなぁ、うーむ……。

 女魔法使いちゃんとも相談して決めようか……あれ、魔女パイセンと2人して何か話してますね。爆発金槌を見せながら談笑しています。邪魔しちゃ悪いからあとで「いいかな、ご主人様?」

 おわぁ! びっくりした、気配を消して後ろから声をかけないでくださいよ森人狩人さん。それでどうしました?

 

「義妹くんなんだけどね、今夜はあの先輩の所に泊まることになったらしいよ。新しい得物に先輩が興味を持たれたようで、見てみたいんだってさ」

 

 魔女パイセンのところですか。魔術師の先輩後輩だし、交流があるのはいいことですね。じゃあ分身ちゃんはあっちに送っておこうかなぁ。え、今日は分身ちゃんを呼ばないで欲しい? まぁ構いませんけども、なにか問題でも? 部屋に戻ったら話す? わかりました。じゃあまた明日ね女魔法使いちゃん。夜更かししちゃ駄目だかんねー。

 

 

 はい。夕食とお風呂を終えて部屋に戻ってきました。夕食は食べる必要はないのですが、森人狩人さんに気を使わせるのはアレですので軽めのものを。お風呂は今日も逃げ出すのに失敗してキレイに洗われました。森人狩人さんですが、吸血鬼侍ちゃんの身体を洗いながらなにか考えているようでしたけど、圧倒的平坦さを嘆いていたんですかねぇもしかして。飲み物をもらってくると下に降りたまま戻ってこないですし、いったいどうしたんでしょう?

 

「おまたせ、アイスティーしかなかったんだけどいいかな?」

 

 大丈夫、一服盛られてもアンデッドに毒は通じないから(震え声)。

 

 それで、わざわざ2人きりの状況を作ってなにかありましたか? 女魔法使いちゃんには言えないこととか、それとも吸血鬼侍ちゃんのことでなにか不満とか?

 

 あれ、なんでゆっくり吸血鬼侍ちゃんに近付いてきてるんです? そっと抱き上げてそのままベッドへ? あの、無言で抱きしめられると非常に困るんですががが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きみは、ほんとうにこまったひとだよ。わたしのごしゅじんさま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 えー、無事に太陽の光を拝むことができました。

 

 昨晩は吸血鬼侍ちゃん、泣かれたり啼かせたり啼かされたりで大変でした。森人狩人さんも、持ち直していたように見えてけっこうギリギリだったみたいです。一晩かけてじ~っくりとお話し(意味深)しましたので、たぶん大丈夫だと思います。たぶん、きっと、めいびー。

 

 スッキリした顔で寝ている森人狩人さんを起こさないようにそっとベッドを抜け出し、食堂で消化の良いものでも作ってもらおうと1Fに降りたところで「ゆうべはおたのしみでしたね」とか言ってる女魔法使いちゃんを見た吸血鬼侍ちゃんは怒って良いと思う。

 

 問い詰めたところ、どうやら2人きりにすればこうなると予想して、魔女パイセンを抱き込んで昨晩の状況を作り上げていたようです。知ってたんなら教えてくれれば良いのに。え、気付かないアンタが悪いに決まってる? そんなー。

 

「吸血鬼をご主人様呼びするだけじゃなく、同じ相手を好きになった只人を義妹扱いするなんて、よっぽど危うい状態でなきゃ誇り高い森人がするわけないでしょう? つまりアンタは、この先2人も爆弾を抱えてかないといけないわけよ」

 

 ナチュラルに自分も爆弾に含めるのやめよ??? まぁ最期(エンディング)まで2人には吸血鬼侍ちゃんに付き合ってもらうから、覚悟しておいてね。……なんですかそのため息。そういうところよって言われてもなぁ。

 

 軽食と牛乳を持って部屋に戻ったら、既に森人狩人さんが起きていました。気まずそうに女魔法使いちゃんに謝ってますが、こうなることを見越していた女魔法使いちゃんの【ええんやで】という笑顔にホッとした表情を受かべますね。活動開始2日目に解散というオチはなくなりました。

 

 これからの方針ですが、引き続きゴブリンを間引きつつ水の都からの、つまり剣の乙女からの依頼を待つ方向でいこうと考えています。これまでの難易度から考えると牧場防衛線は恐らく原作よりもゴブリンの数が増加しているはずです。ですが早めに供給源を断ってしまえば増加を抑えることができるでしょう。

 既に辺境で増えていた分は分身ちゃんがけっこうな勢いで刈り取っていましたので、増えても二倍程度で済むでしょう。

 

 それじゃ今日も楽しくゴブリン退治を受けましょう! 2人の装備の戦闘証明(コンバット・プルーフ)もとっておきたいですし。さて、早速ゴブリンの依頼書を……おや、ゴブスレさんですね。いつもはゴブリン以外の依頼がはけたころにギルドに顔を出すんですが。おはようございます! 今日もゴブリン退治ですか? 良かったらご一緒しません?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてくれ、頼みがある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……アレ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




邪神ぽんぽんぺいんに命を狙われているので失踪します。


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セッションその3ー1

久しぶりに献血をしてきたので初投稿です。


 夜の王の力(意味深)を見せちゃうかもな実況プレイ、はーじまるよー。

 

 前回、ゴブスレさんがギルド入り口に現れたところから再開です。

 

 ええ、ぶっちゃけ牧場防衛ミッションなんですが、予想外のタイミングだったのでちょっと驚いてます。歴代の走者兄貴たちが下水依頼先行によって牧場護衛ミッションを早回しで発生させていたのを鑑みて、あえてゴブリンを漸減してミッション発生を後送りにするのが吸血鬼侍ちゃんプレイでの方針でした。

 

 そのため牧場護衛より先に水の都ミッションが発生する、要するにアニメ版ルートを想定していたのですが、まさかの原作進行に。ひょっとして手紙じゃなくて直接水の都に吸血鬼侍ちゃんが戻らなきゃいけなかったとか……? 

 

 まぁ発生してしまったものは是非もなし。水の都での報酬で牧場の防衛力を強化する予定でしたが、女魔法使いちゃんと森人狩人さんという仲間が吸血鬼侍ちゃんにできました。2人に怪我をさせないよう本気で取り組みましょうか。

 

 場面ではちょうど槍使いニキがゴブスレさんに報酬について確認してますね。やっぱりゴブスレさん太っ腹というよりはお金への執着が無さすぎる感じですねぇ。槍ニキもドン引きしています。

 

 あ、監督官さん、なんでもするなんて言ってないんで座ってて、どうぞ。

 

 お、槍ニキの超かっこいい(なま)"一杯奢れよ?"です! せっかくだから吸血鬼侍ちゃんも乗ってってみましょうか。ゴブスレさん、お酒のかわりにひとくち吸わせてもらうのでもいいかな?

 

「…………ああ」

 

 やりましたわ(完全勝利)。槍ニキがマジかよって顔でゴブスレさんを見てますが、きっと彼の男気あふれるケツイに感銘を受けたんですね! じゃあやる~って感じで挙手しちゃいましょう。

 森人狩人さんも女魔法使いちゃんも受けちゃっていいかな?いいよね?

 

「ゴブリンを殺す機会を目の前にして、私が大人しく宿で帰りを待っている女に見えるかい?」

「まぁ、怪我しない程度に参加するけど、報酬には期待できそうにないわねぇ……」

 

 ()る気マシマシの森人狩人さんに対してあんまり乗り気でない女魔法使いちゃん。だいじょぶだいじょぶそろそろ受付嬢さんが……はい、ゴブ1匹に金貨1枚の報酬を約束してくれましたよ!

 

「こうしちゃいられないわ、早速作戦会議よ! 先輩たちとも相談して効率的に殺す(稼ぐ)算段を整えなくちゃ!!」

 

 瞳が$と¥になってる女魔法使いちゃんかわいい(かわいい)。

 あっそうだ(唐突)。がんばる冒険者(みんな)吸血鬼(ヴァンパイア)ジョークでも飛ばしてみますか。新米コンビ(戦士&聖女)や他の白磁・黒曜の若い子なんかが武者震いか怯えかわからない震動を発してますし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 じゃあ、いちばんゴブリンをたおしたひとは

 ごほうびにちゅーちゅーしてあげようかな?

 

 

 ほら、ここ笑うとこ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……え、なんでみんな本気(マジ)表情(かお)になっているんですか?

 

 ゴブスレさんが男衆に取り囲まれて牧場の防衛についての話し合いが始まってるし、女魔法使いちゃんは女性冒険者の輪の中で質問攻めになってますねぇ。

 

「牧場の防衛成功はあくまで最低ラインだ。紳士協定として他人の獲物を横取りするのはナシにしようや」

「ええと、本来は同性は対象外みたいだけど、あの子の場合はどうなの? やっぱり気持ちいいのかしら……」

 

 あーあー聞こえない聞こえなーい。

 

「ふふ、いけないご主人様だ。そう簡単に身体を許すのは感心できないね」

 

 一切の予備動作を感知できずに吸血鬼侍ちゃんを抱きかかえる2本の腕が。なんか≪加速≫してませんでした? 狩人の業? へーすごいなー。

 

「ギルドの風紀的にも、あまり皆を興奮させるのは如何なものでしょうかねぇ」

 

 笑みを浮かべつつ、薄型の刀剣を2本に変形させながら近づいてくる監督官さんが。あなた冒険者じゃないですよね? 変形(L1連打)が手に馴染んでいるように見えますけど。

 

「「正座」」

 

……はい(スッ)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、ここは牧場です(挨拶)。防衛施設の構築や物資の輸送、怪我人の収容所の開設などやることが多いので、お説教は短時間で勘弁してもらいました。

 現場では既に柵の設置や地面への杭打ち、移動式バリケードの準備など皆忙しく動き回っています。ゴブリン襲撃は今夜ですので、あまり時間の余裕はありませんね。

 さて、歴代の走者兄貴たちの場合準備段階でそれぞれの個性を生かした活躍をされることが多いのですが、吸血鬼侍ちゃん、なんと現段階ではお荷物扱いです。まだ太陽が出ているために「飛行」できないのが辛い……。空が飛べれば情報伝達や軽い物の運送など仕事の幅が広がるのですが、現状は打ち込む杭の両端を尖らせる工作くらいしか技能を生かせる場所がないんですよね。とはいえ重要な仕事ですので手を抜かずこなしましょう。

 

 幸い冒険者(主に男衆)のモチベは天元突破しているらしく、作業は順調にすすんでいるようです。現場を見回りしているゴブスレさんの表情(見えない)も心なしか明るいですね。あ、目が合いました。手を振ってみましょう! なんで周りに助けを求めるような挙動なんですか???

 

 さて、馬鹿やってるうちに日没を迎えました。ここからが吸血鬼侍ちゃんの時間です。日中は最大値の半分以下をウロウロしていたスタミナゲージが、なんと上限からまったく下がらなくなってますよ! 心なしか吸血鬼侍ちゃんも過ごしやすそうですね。

 

 偵察に出ていた森人狩人さんを含む野伏(レンジャー)が戻ってきましたが、どうも顔色が悪いですね……。

 戦力の要となる銀等級冒険を中心に、皆で集まって報告を聞くようです。吸血鬼侍ちゃん一党も呼び出されたので向かいましょう。

 

「敵本隊はおよそ300。大型の個体は完全武装。小鬼英雄(チャンピオン)戦士(ファイター)は生意気にも鎧らしきものを身に付けていたよ。確定じゃないけれど、金属鎧を着たヤツを見た者もいるね」

 

 ()り甲斐がある、と闘志を燃やす(血に酔った瞳の)森人狩人さんを除けば偵察組の表情はみな暗いです。想定(原作)の三倍の数ともなればしょうがないとは思いますけれども。恐らく騎乗兵(ライダー)弓兵(アーチャー)を中心とした別動隊もいるだろうというゴブスレさんの補足も入り、300超えの可能性も出てきました。

 

 大型個体が鎧を身に付けた場合、その脅威度はかなり高くなります。ただでさえ生命力が高くしぶといところに急所を守る防具があると、低ランク冒険者では太刀打ちできません。恐らく銀等級でも一撃で仕留めるのは難しいでしょう。

 

 予想を超える物量にゴブスレさんも対応を決めあぐねているようです。えーと、最低でも半分。上手くいけば七割ほど数を減らす手段があるっていったら協力してもらえます?

 

「……できるのか?」

 

 ()()()()()()()()()()()()。突出した味方がいたり、人質がいたとしても巻き込みから除外できないので。

 

「人間の盾が出てくる可能性がある」

 

 じゃあその人たちを救出してからですね。吸血鬼侍ちゃんは呪文を温存したいので、できれば他のみんなにお任せしたいんですが。

 

「そういうことなら任せておけちみっ子。≪酩酊(ドランク)≫と≪惰眠(スリープ)≫で動けなくしたところをかっさらってしまえばええ」

 

 鉱人道士さんを筆頭に精霊使い(シャーマン)魔術師(ソーサラー)のみなさんが請け負ってくれました。盾持ちが動けなくなったところで槍ニキや軽装戦士の面々が人質を救出、それを弓使い(アーチャー)や遠距離攻撃持ちが援護という流れでいきましょう。原作と同じ流れですが、ゴブリンの数に気圧されて士気が下がったりせずほんとに良かったですよぅ。あ、戦場で動揺しないようにあらかじめ全員に人間の盾の可能性はゴブスレさんが伝えてくれました。女性陣は激おこで、絶対に助け出すと意気込んでますね。

 

 段取りが決まったことですし、ちょっと女魔法使いちゃんと森人狩人さんを呼びます。2人とも、戦いの前に申し訳ないのだけれどちょっとだけ吸ってもいい?

 

「きみも猛っているのかい? ふふ、冗談だよ。好きなだけ吸うといい」

「集中力が落ちない程度にしてよ? それと≪小癒≫は使うんじゃないわよ勿体無いから」

 

 ありがてぇ……。流石に公衆の面前で胸元から吸うと後で監督官さんにお仕置きされちゃうので、首筋からいただきます。2人からショットグラス一杯程度吸ったら傷口を舐めて包帯で隠しときましょうねー。

 

「なにをする気かわからないけど、口に出したことはしっかり実行しなさいよ?」

 

 じゃないとあんたの餌がゴブリンに盗られるかもよ?っておっかないこと言わないでよ女魔法使いちゃん。ほら森人狩人さんの目がヤバいから(震え)。

 

「安心したまえ義妹(いもうと)くん。そんな危機になったら私が先にきみを殺してあげるからね」

 

 おお…もう…(目を覆う)。可愛い義妹をゴブリンの孕み袋にさせるわけにはいかないって? 森人狩人さんが言うと洒落にならないから。吸血鬼侍ちゃん頑張るからそういうのはナシでお願いします!

 

「きみがそういうのなら。ふふ、この戦いが終わったら……おっと、これは口に出しちゃいけないものだったね。終わった後に言うことにするよ」

 

 そうわよ(便乗)。ちょっと不穏な空気を感じましたが、そろそろ配置につく時間です。みんな生き残って明日の朝を迎えようね! 吸血鬼侍ちゃんもう死んでるけど!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牧場から見える森の切れ目から、無数のゴブリンが湧きだしています。

 先陣を切る雑兵の手には只人や森人の女性を括り付けた盾が。中衛は体格の良い田舎者(ホブ)戦士(ファイター)が己が得物を誇示するように掲げながら進軍中。

 隙間を埋めるように呪文使い(マジシャン)呪術師(シャーマン)が配置されており、魔法で援護する腹積もりですねあれは。

 騎乗兵(ライダー)弓兵(アーチャー)は本隊に確認できませんが、簡易櫓に登っている吸血鬼侍ちゃんの暗視には、周囲の背の高い茂みが蠢いているのがクッキリ見えています。バレバレなんだよなぁ。

 

 即席防護壁の裏から武器を構えている冒険者を見て一瞬動きを止める盾持ちですが、その表情を見るとせせら笑いつつ前進を再開しました。

 おお、意外とみんな演技派ですねー。撃てませぇぇぇん!って顔がいい感じにゴブの油断を誘ってますよー。そのまま躊躇いもせずに術者の射程に侵入してきました。それじゃお願いしまーす。

 

「呑めや歌えや酒の精(スピリット)。歌って踊って眠りこけ、酒呑む夢を見せとくれ!」

「≪睡眠(ソムヌス)≫……≪(ネブラ)≫……≪発生(オリエンス)≫……!」

 

 ヨシ! ≪酩酊≫と≪惰眠≫が決まりました! 崩れるように倒れ込むゴブを見て重装備の冒険者が門を開き、軽装冒険者が次々と人質を救出し、門の中へと運び込んでいきます。分身ちゃんも一緒に回収しつつ、抵抗に成功していたゴブリンの首を飛ばしてますね。

 

 盾がなくなり慌てたのでしょう、弓兵が矢を射かけ、騎乗兵が柵を跳び越えるべく疾走し始めました。そろそろいいでしょう。

 ゴブスレさんに視線を向けるとひとつ頷きが帰ってきました。ゴブスレさんも女神官ちゃんを連れて櫓を離れるようですね。きっと小鬼王(ロード)の退路を断つために向かうんでしょう。心配そうに吸血鬼侍ちゃんを見る女神官ちゃんに一礼して、櫓の手すりに足を掛けそのまま飛び出します!

 

 混沌の軍勢の上空、金属鎧を着たゴブリンを中心に、体格と装備の良い集団が視認できる場所まで飛行してきた吸血鬼侍ちゃん。満月を背に両手を大きく広げ、吸血鬼の威容をアピールしています。

 

 突然現れた吸血鬼侍ちゃんに驚いたのか、小鬼英雄(チャンピオン)の命令を待つこともなく呪文使い(マジシャン)呪術師(シャーマン)が魔法を放ってきますが、的が小さすぎて当たりません。もっとも当たったところで抵抗と装甲値ですべて弾くの(ダメージはゼロ)ですが。稀に≪力矢≫を飛ばす頭のいい個体もいますが、命中したそばから再生してますね。大正義リジェネ持ちです。

 

 無駄に魔法を使わせたところで吸血鬼侍ちゃんの手番(ターン)が回ってきました。真言と奇跡の呪文回数は残り3回と4回。ゴブスレさんとの約束は果たせそうです。

 

「≪(カエルム)≫……≪(エゴ)≫……≪付与(オッフェーロ)≫」

 

 まずは≪天候(ウェザー・コントロール)≫から。雲の無い夜だった筈の天気が、ゴブリンの軍勢の周囲のみ深い霧に包まれていきます。不意に霧に覆われて混乱しているのか、ゴブリンの奇声が周囲に響き渡ります。不快に思った大型種が殴り殺したんでしょう、悲鳴も時折聞こえてきますね。これで

 

 

「≪(ホラ)≫……≪一時(セメル)≫……≪停滞(シレント)≫」

 

 続いて≪停滞(スロウ)≫。小鬼英雄(チャンピオン)を中心に大型種がいた場所を巻き込むように行動を阻害する空間を展開します。これで

 

「≪速やか(スピトー)≫……≪哀れ(トリスティス)≫……≪愚者(ストゥルティ)≫」

 

 さらに≪混乱(コンフューズ)≫。霧の中で同士討ちを誘いましょう。田舎者(ホブ)戦士(ファイター)の振り回す棍棒がゴブリンをネギトロめいた肉片に変えていきます。これで

 

 それでは奇跡の詠唱に移ります。万知神(ばんちしん)よ照覧あれ!

 

(あまね)く世界の叡智を貪る知の蒐集者よ、非才なるこの身に瞬刻の閃きを授け給え

 

 万知神さまの専用奇跡、≪教授(ティーチング)≫です。効果は効力値次第ですが、僅かな間だけ異界の禁術に接続(アクセス)し、呪文回数を消費してそれらを唱えられるというものです。これで

 

今宵始まるは≪暗黒の儀式(Dark Ritual)≫。異界の知と我が身に宿る血を練り上げ、今こそ痴を祓う

吸血の教示者(Vampiric Tutor)≫とならん……

 

 ゴブリンの惨状から生み出された不浄の気(黒マナ)を増幅し、この場に最も相応しい呪文(スペル)異界の知識(ライブラリー)から探し出(サーチ)します。連続して唱えてここまでで。代償として吸血鬼侍ちゃんの生命力が削られます(lose 2 life)が、2人から血を分けてもらっていたので倒れる心配はありません。

 

 最後はビシッと決めましょう! 月光によって生み出された僅かな点でしかない吸血鬼侍ちゃんの影が、霧に覆われたゴブリンの軍勢を塗りつぶすように広がっていきます。次第に影は質量を持ち、ゴブリンたちに絡みつくように実体化していきます。必死に影を引き千切ろうと試みていますが、伸縮性があるのか伸びる一方、むしろさらに拘束が強まっているようです。

 

 長い前髪の奥、深紅に煌めく瞳を覗かせた吸血鬼侍ちゃんが最後の真言(ラストワード)を唱え、ついに呪文は完成しました。これで合計

 

 無数の触手がゴブリンを絞り上げ、肉体はおろかその魂さえも生命力に還元し、飲み込まれた生命力は影の始点である吸血鬼侍ちゃんへと吸収されていきます。生きたまま腕を、足を、心までも融かし取り込むその悍ましい場景。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

是即ち≪苦悶の触手(Tendrils of Agony)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




社長室に呼び出されそうなので失踪します。


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セッションその3ー2

挿絵を描く暇がないので初投稿です。

12/15 UA10000、お気に入り200件を超えてました。
拙作をお読みいただきありがとうございます。



 前回、ストームを稼いで呪文(スペル)を使い切ったところから再開です。

 

 吸血鬼侍ちゃんが呪文を多重詠唱し、最後に異界の知識(ライブラリー)から探し出(サーチ)してきた≪苦悶の触手≫。対象から生命力を奪い術者に還元する(loses 2 life and gain 2 life)呪文なのですが、ある特殊な効果が付随しています。

 

 大雑把に言ってしまうと、この手番(ターン)に唱えていた呪文の数だけ≪苦悶の触手≫が追加発動すると思っていただければだいたいあってます。

 通常、戦闘を終わらせるのに(ライフを20点削るのに)必要な≪苦悶の触手≫(ストーム)の数は10回。今回は7回発動しましたので、軍勢の7割を喰らい尽くした扱いとなるわけですね。

 

 波が引くように影が吸血鬼侍ちゃんへと収束し、幸運にも触手から逃れることができたゴブリンの軍勢が吸血鬼侍ちゃんを見上げています。小鬼王(ロード)は持ち前の生き汚さで助かったようですが、大型種の半数以上が触手によって喰われ、戦力は大幅にダウンしています。

 

 このまま小鬼王(ロード)の首を狩って……といいたいところですが、吸血鬼侍ちゃんの出番はここで終了です。原作とほぼ同等まで数を減らせましたので後は他の冒険者に手柄を譲りましょう。

 金貨の報酬は低い等級の冒険者には貴重ですし、集団で安全を確保しながら実戦経験を積める機会を潰すのは、彼らの今後の生存率にも影響してしまいますので。前線でヒャッハーしている分身ちゃんには奇跡による治療に回ってもらい、吸血鬼侍ちゃんは押し込まれそうな防衛ラインの火消しに向かいましょうか。

 

「なかなか派手にやるじゃないちっこいの! でも小物しか残ってないから狙い難いんだけど!」

 

飛行して陣地に向かう途中妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)が声をかけてきました。的が小さくなって文句を言ってますが、それでも外さないあたり流石ですね。サムズアップを返しつつ応援しておきましょう。

 

 とりあえず簡易櫓まで戻ってきました。さて状況は……なかなか理想的に推移しています! 破城槌として運用される予定だった大型種を先んじて減らしたために、防護壁を突破する打撃力が足りてません。突出し過ぎた騎乗兵(ライダー)は柵に引っ掛かったところを集団で袋叩きにされ、援護するはずの弓兵(アーチャー)集団はスペルキャスターの範囲攻撃で面制圧されています。

 

 雑兵たちも怖気づいて前進速度が落ち、妖精弓手ちゃんをはじめとする味方射撃部隊によって壁に取り付く前にその数を減らしていきます。お、足が止まりました。そろそろ前線が崩れるかな?

 

 

「「「GOOOOOOOOOOOOOOORRRRRB!!」」」

 

「GOB!?」

 

 あ!生き残っていた三匹の小鬼英雄(チャンピオン)田舎者(ホブ)を引き連れて後方からやって来ました! 雑兵の情けなさに痺れを切らしたんでしょう、一匹が手近なゴブリンを掴んで防護壁に投げつけてきましたね。不運なゴブリンは壁のシミにクラスチェンジしました。合掌。

 単純な戦闘能力でいえば小鬼王(ロード)を超える小鬼英雄(チャンピオン)。ゴブリンの白金等級とも呼ばれる厄介な相手です。討伐には銀等級複数で対峙するのが望ましいのですが、多種族組は各部隊の中核になっているので引き抜きは無理ですし、銅等級以下では時間を稼ぐのも難しいでしょう。

 重戦士さんと槍ニキに小鬼英雄(チャンピオン)が来たことを伝えたら、一匹ずつ引き受けてくれるそうです。雑魚の相手は飽きたから歯応えのある奴を待ってた? 流石「辺境最高」と「辺境最強」。

 

 たおせたらごほうびだね!

 

 ……≪加速(ヘイスト)≫をかけたのかと見間違う速度で向かってくれました。後ろから追いかける女騎士さんたちのなんとも言えない表情が実に味わい深いです。残りの一匹は吸血鬼侍ちゃんなら問題なく処理できるのでさっさと片付けちゃいましょう……うん?

 

「最後の一匹のところ、私たちも同行したいんだけど、いいよね?」

 

 森人狩人さんと女魔法使いちゃん? なんで此処に? さっきまで防護壁のところで稼いでなかった?

 

「消耗品の補充と休息でちょっと下がってたのよ。で、戻ってくる途中で今の話が耳に入ったってわけ」

 

 いや、なんでいるのかはわかったけど、2人が小鬼英雄(チャンピオン)のとこに行く必要ないよね? 吸血鬼侍ちゃんならソロで余裕だよ?

 

「いつまでもアンタにおんぶにだっこの状態じゃカッコつかないじゃない。ちょっとは見栄を張らせなさいよ」

 

「それともご主人様にとって、私たちは愛でるだけの愛玩動物で、都合の良い血袋でしかないのかな?」

 

 お、2人の何時にない詰め寄りっぷりに吸血鬼侍ちゃんたじたじです。そういうことならお願いしちゃいますか。あ、一応保険のために分身ちゃんを呼び戻してペアを作りましょう。怪我人が出る前に現場に到着するために、本体が女魔法使いちゃんを、分身ちゃんが森人狩人さんをお姫様抱っこして飛んで行くのが早いですね。しっかり掴まっててねー。

 

「そんな小さいナリで重くないの? まぁ重くても口に出したらお仕置きだけど」

 

 最近また成長してえっちなからだになった()が何か言ってますが、適当にあしらっておけば問題ありません。お仕置きが怖くて軽口が叩けるか! でも正座は辛いから勘弁な!

 

 雑兵ゴブリンと盛りあっている一般冒険者の頭上を飛び越え、小鬼英雄(チャンピオン)の前にやってきました。

 小鬼英雄(チャンピオン)の武装はグレートクラブか鎖マンのどちらかなのですが、お、グレクラですね! 鎖マンは間合いが長い上に振り回しによる時間稼ぎが面倒なのでラッキーです。鎖マンは槍ニキに任せた! よろしく!!

 

 おやぁ? この小鬼英雄(チャンピオン)、森人狩人さんと女魔法使いちゃんを見て股間を膨らませてますねぇ。なんて醜い絵面なんだ……。女性を孕み袋としか見ていない視線を感じて2人の殺意ゲージがみるみる上がっていってますねクォレハ……。

 

 では、とびきりの雌を自分のモノにしようと小鬼英雄(チャンピオン)が突っ込んで来たので戦闘開始です!

 まずは飛行してきたときのペアごとに別れて挟撃の体勢に移ります。前後に細かくステップを刻んで攻撃を誘い、空振った腕に雷光を纏った戦棍(トニトルス)を叩きつける森人狩人さん。ヘイトが逸れたのを見計らって、隙の大きな《点火》は使わず戦鎚として用い軸足を狙う女魔法使いちゃん。んーいい感じに削ってますね。

 雌の匂いに釣られて田舎者(ホブ)も近寄ってきますが吸血鬼侍ちゃん×2の絶壁鉄壁の守りに阻まれ次々に首無しゴブリンにクラスチェンジしています。これならこのまま押しきれるかな?

 

「きゃっ……!?」

「義妹くん!?」

 

 あ、女魔法使いちゃんがゴブリンの死体に足をとられて転倒しちゃいました。好機と見たのか、小鬼英雄(チャンピオン)が森人狩人さんの牽制を無視し、グレクラを両手持ちに変えて振り下ろしの体勢に入ってます。恐らく足を潰して動けなくするつもりなんでしょう。

 女魔法使いちゃん、回避は……駄目みたいですね。それじゃ突き飛ばしてどーん!

 

 

 

 

ぐちゃり

 

 

 

 

「痛ッ、ちょっと大丈夫……!?」

 

 グレクラが振り下ろされた場所は陥没し、周囲に血が飛び散ってます。

 小鬼英雄(チャンピオン)は邪魔臭い小さな雌を仕留めて満足げに哄笑しています。何が起きたのか理解したくないのか、女魔法使いちゃんは突き飛ばされた体勢のまま動こうとしません。

 そんな姿を眺める森人狩人さんは……え、巫山戯てないで早く起きろ? しょうがないにゃあ。

 

 あ、そぉーれ!

 

「GOORB!?!?!?」

 

 半ば埋まっていたグレクラがみしりと持ち上がり、地面との隙間から小柄な人影が姿を現しました! まぁ吸血鬼侍ちゃんですね。小鬼英雄(チャンピオン)をグレクラごと片手で振り回し、何度も何度も地面に叩きつけてます。おやおや、グレクラが耐えきれずに壊れちゃいました。手に残った残骸は適当に田舎者(ホブ)にでも投げつけておきましょう。あ、当たったら粉々になりましたよ、田舎者(ホブ)の頭が。

 

 一緒に地面とキスした仲であるゴブリンの死体から出た血に塗れて全身が赤黒く染まってますが、吸血鬼侍ちゃんがダメージを受けた様子はありません。あっちで痙攣している小鬼英雄(チャンピオン)は後回し、とりあえず女魔法使いちゃんを正気に戻すのが先決ですね。おーい元気してれぅ?(ぺちぺち)

 

 あーあーゴブリンの血が顔にべったり付いちゃってます。舌で器用に舐めとっている吸血鬼侍ちゃんも余程不味いのか、ぷんすこ顰めっ面です。ありゃ、prprしたぐらいじゃ刺激が足りないのか、まーだ時間かかりそうですかねー?

 

 よーし、なかなか起きないお姫様にかます伝統の一発だ! やれぃ吸血鬼侍ちゃん!!

 

「んむぅ!? んーんーんぅー!? ……ん、んむぅぅ、ん、ぷぁ」

 

 これ絶対入ってるよね(舌が)な濃厚接触でやっとお目覚めの女魔法使いちゃん。潰されたんじゃなかったのかって? ピンピンしてるよ? いや心配かけさせるなって言われても、森人狩人さんは最初から気付いてたみたいだし……。ねぇそこで分身ちゃんを愛で続けてる森人狩人さん?

 

「まあね。こうやってこの子(分身ちゃん)が消えないで残っているし、それに……」

 

 それに?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……おおう、そこまでわかりますか。まさか殆ど全部お見通しとは。

 ひとつだけ訂正があるとすれば、吸血鬼侍ちゃん、満腹じゃなくて腹八分目ってとこかナー?

 

 森人狩人さんの指摘通り、今の吸血鬼侍ちゃんは普段の腹ぺこ状態とは性能がダンチです!

人並みどころか見た目通りでしかなかった膂力が、本来吸血鬼が持つレベル、しかも(ロード)のそれを発揮できるようになっているといえばお察し頂けるかと。

 圃人の外見でありながら巨人と手四つしても勝つ圧倒的な《力》。吸血鬼とは()()()だって吸血鬼狩りの家系の人(ヘルシングさんち)も言ってますから間違いありませんね!

 

 女魔法使いちゃんを起こしている間に小鬼英雄(チャンピオン)が気絶から回復したようです。先ほどの悪夢を思い出したのか、吸血鬼侍ちゃんを見る目には明らかな怯えが感じられます。そんな君に良いお知らせがあるんだ。分身ちゃんと共に一礼して後ろへ下がりましょう。

 

 帽子や口元を覆う襟巻を吸血鬼侍ちゃん2人に預けながら、女魔法使いちゃんと森人狩人さんが前に出ます。馬鹿にされたと思ったのか、或いはこの雌2匹のほうが弱いと判断したのか目に光が戻っています。

 2人の美貌と肢体に興奮したのか、吸血鬼侍ちゃんと対峙していた時には見る影もないほど縮こまっていたモノも、再び存在を主張し始めましたね!ロリコンじゃないだけだって?そうねぇ……。

 

 震える足で立ち上がり、2人を自らの孕み袋にしようと突進してきました。もしかしたら人質にしてここから逃げることを考えているのかもしれません。

 強欲さが溢れる突進に対し2人は冷静に動きます。女魔法使いちゃんは後ろに下がりつつ爆発金槌を≪点火≫。森人狩人さんは掴みかかってきた手を雷光を纏った戦棍(トニトルス)で打ち払い、跳躍して頭部に一撃を与えました! たまらず動作を止める小鬼英雄(チャンピオン)の膝に、赤化した金属塊を叩きつける女魔法使いちゃん。千切れ飛んだ足は焼けた肉の臭いを放ち、傷口も炭化して出血さえしていない状態です。

 自重を支えられず仰向けに倒れ込んだ小鬼英雄(チャンピオン)の両肩を同様に焼き潰すと、女魔法使いちゃんは森人狩人さんとチェンジ。こんな場所でなければ誰もが見惚れてしまう笑みを浮かべながら、両手で握った雷光を纏った戦棍(トニトルス)小鬼英雄(チャンピオン)の下腹部に狙いを定めて振り上げています。

 

「君個人に恨みはないけど、それはそれとしてゴブリンは須らく死ぬべきだと思うんだ」

 

ぐちゅり

 

「GOOOOOOOOOOORB!?!?」

 

 ヒエッ……。

 振り下ろした感情(戦棍)は彼女にとっての悪夢の象徴を見事に粉砕していますね……。遠巻きに様子を窺っていた男性冒険者がみんな前かがみになってます。誰だってそーする吸血鬼侍ちゃんだってそーする。

 

「アンタはゴブリンの中では英雄だったのかもしれないけど、私たちにとってはただのゴブリンと同じ、金貨1枚分の価値しかないのよ」 

 

ドグシャッ

 

 口から泡を吹きながら痙攣している小鬼英雄(チャンピオン)の頭部を爆発金槌で潰し、女魔法使いちゃんがトドメを刺しました。お、どうやら重戦士さんと槍ニキのほうも片付いたようです。……もしかして2人とも見てました? そんな前隠さなくても大丈夫ですって、たぶん。

 

 もうそろそろ夜明けでしょうか、血と臓物の臭いが充満する闇の世界が薄っすらと明るくなってきました。おや、なんか同志耳長ちっこいのが森のほうを指差してます。どうやらゴブスレさんと女神官ちゃんが帰ってきたみたいですね! 女神官ちゃんの顔色から察するに(ゴブスレさんの顔色? わからないです><)、小鬼王(ロード)はしっかり仕留めてくれたことでしょう。

 ……あれ、ゴブスレさん手を三角巾で吊ってませんよ? よっぽど上手く立ち回れたんでしょうか。まぁ怪我なんてしないほうが良いに決まってます! 詳しいことは後の祝勝会で聞けばいいよね!

 

 あら、全部終わって気が抜けたのか、2人とも干し草の上に座り込んじゃってますね。お疲れ様2人とも。怪我とかしてない? 吸血鬼侍ちゃんはどうなのって? 一時HPが最大HPの5倍あるくらい元気だよ?

 

 森人狩人さんはスッキリした? まだまだ()り足りない? じゃあお風呂入ってー、しっかり休んでー、それからまたゴブリン退治しよっか。時間はいくらでもあるし、好きなだけ付き合うからさー。

 

 女魔法使いちゃんはどう? 学院から離れてやってることがこんなの(ゴブリン退治)だけど、冒険者になって後悔してない? 刺激に溢れてて飽きない? そりゃよかった。それよりも、もう隠し事はないだろうって? さて、可愛い子には秘密がいっぱいあるからね。ごめんなさい調子に乗りました!

 

 

 あ、お日様が出てきましたよ! せっかくだから2人もアレやろうアレ! そうそうしゃがんだ状態から一気に背伸びして、胸を逸らしつつ両手はの字にね! あ、分身ちゃん消えないでもうちょっと我慢して! 4人でできることなんて滅多にないんだから! じゃあせーのーでっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「Long may the sun shine!(-太陽あれ!-)」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HUNTED NIGHTMARE

 

 

 

 

 

 

 

今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 




挿絵の諦めがつくまで失踪します。


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セッションその3 りざると

日間ランキングに顔を出し始めたので初投稿です。

……え?


 前回、牧場防衛ミッションを成功させ、無事に夜明けを迎えたところから再開します。

 

 現在吸血鬼侍ちゃん一党はゴブリンの死体の始末と怪我人の治療に従事しています。呪文の回数が回復したので《分身》作成からの奇跡連打、酷使無双で合計20回使用可能です。やっぱり《分身》はチート魔法。はっきりわかんだね。

 

 奇跡だけ使って分身ちゃんを消すのは勿体無いので、死体焼却に《火球》も使っちゃいましょう。ゴブリンの死体を一ヶ所に集めて着火! 臭いがキツいので《天候》で牧場と反対側に吹き散らして、苦情が出ないよう配慮もしないとですね。

 

「ご主人様、ちょっといいかな……」

 

 分身ちゃんを派遣した後に、今更になって本体が血塗れだと分身ちゃんまで血塗れになることに気付いた吸血鬼侍ちゃんが井戸で返り血を洗い流していると、深刻な顔をした森人狩人さんの声が。どうしました森人狩人さん?

 

「……会ってもらいたい森人の()がいるんだ。理由は……すぐにわかるよ」

 

 森人狩人さんに案内されて向かったのは幾つかある倉庫のうちのひとつ。入口を塞ぐように女騎士さんが立ち、中からは女性の啜り泣きが聞こえてきます。あー……。

 

 女騎士さんに会釈して中に入ると……ああ、やっぱり。そこにはゴブリンに囚われていた女性たちがいました。夜が明けて、漸く助かったという実感が湧いてきたのでしょう、毛布にくるまった身体を震わせながら泣いています。女神官ちゃんをはじめとする治療の心得のある冒険者が話しかけ、落ち着かせようと努めてますね。

 

「……あの娘だよ」

 

 森人狩人さんの視線の先には毛布を頭から被せられ泣いている森人の少女と、それを抱き締めて涙を流す妖精弓手ちゃん。聞いてみると肉の盾として使われていたのではなく、ゴブスレさんと女神官ちゃんが潰してきた巣で保護したそうです。小鬼王(ロード)が保険として確保しておいた、()()()()()()()()()()()()使()()()()()()。つまり、そういうことでなのしょう。

 

「あの()、王に仕える従者一族の出身なんだって。まだ100歳にもなってないって、妹姫(いもひめ)様が……」

 

 これはいけません。このままですと森人狩人さんはおろか妖精弓手ちゃんまで第二第三のオルクボルグに変貌してしまうかも。ねぇねぇ森人狩人さん、吸血鬼侍ちゃんを此処に呼んだ理由、なんとなくわかるけど、本気でその結論に辿り着いたの?

 

「無論本気だよ。正気かどうかはわからないけどね。凌辱を受けたとはいえ、私はまだ折れずに済んだ。けれど彼女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! わかった吸血鬼侍ちゃんにまかせろ無理やりにでも幸せにしてあげちゃうからね! 森人狩人さんも助けてあげてね!! ぜったいだかんね!!!

 

「もちろんだとも。いつか地獄に落ちる時は、ちゃんと君の手を引いて歩いてあげるからね」

 

 よっしやってやろうじゃん! 女神官ちゃん! ここの人たちの身柄はどういう扱いになる? いったん神殿預かりでその後は各自の希望に沿って? じゃあ今ここで希望を聞いてもいいよね?

 

 

 森人少女ちゃんに近寄り、妖精弓手ちゃんに目配せをして場所を変わってもらう吸血鬼侍ちゃん。森人少女ちゃんの正面に跪き、そっと頬に手を触れながら話しかけます。がんばえー。

 

 

 

「誇り高い森人のお嬢さん」

「もし、何一つ生きる理由が無くて、貴女が死を望むのなら」

「苦しみの無い安らかな死を貴女に捧げましょう」

 

「でも、もし何か一つ理由が生まれて」

「それがあれば生きてゆけるのならば」

「ぼくは貴女が欲しい」

 

「ぼくは吸血鬼(ばけもの)です」

「血が無ければ生きられません」

「血があればゴブリンを殺せます」

「ずっとずっと、ゴブリンがいなくなるまで」

 

「だから、貴女の血をわけてください」

「ゴブリンを殺し尽くすその日まで」

「……あるいは、それが生きる理由とならなくなるその日まで」

 

 

 

 

……どうでしょう審査員の≪幻想≫さん≪真実≫さん、吸血鬼侍ちゃんの告白にしか聞こえない交渉は(どきどき)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ごぉーうかぁぁぁぁぁぁく! by≪幻想≫&≪真実≫)

 

 

 

 

 

 

 

 やったぜ。

 

(わたくし)、正直言ってまだ状況が呑み込めておりません」

 

 被っていた毛布を外し、頬に添えられた吸血鬼侍ちゃんの手を自分の手で包み込みながら森人少女ちゃんが呟きます。

 

「ですが、姫様と狩人殿の雰囲気から察するに、あなたは優しい方なのでしょう」

 

「いつまで生きる意思があるかはわかりませぬが、暫しの間、止まり木とさせてくださいませ」

 

 なんとか交渉に成功しました! ここで2人が復讐者(アヴェンジャー)になると今後の冒険に致命的なエラーが出かねません。今後も経過を観察しないといけませんね……。

 

 表の片付けもひと段落したようです。そろそろギルドへ帰って、報酬の受け取りと祝勝会です!

 

 

 

 

 

「……あの変なのに、かんぱーい!」

 

 というわけでギルドの酒場です。森人少女ちゃんは分身ちゃんに預けて一足先に宿へ。しっかりケアするようにお願いしておきました。向こうでは妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)がテーブルの上に乗っかって乾杯の音頭をとっています。無事に生還した喜び。仲間を失った悲しみ、様々な思いを酒とともに冒険者は飲み干しています。そんな中、吸血鬼侍ちゃんはといいますと……。

 

「その、大変申し上げにくいのですが、報酬の査定に時間がかかりそうなんです……」

 

 受付嬢さんにひたすら頭を下げられています。原因はぶっぱした魔法ですね、はい。

 参加した冒険者、退治されたゴブリンの数ともに多いため、今回討伐数は自己申告となりました。もっとも互いにだいたいの数は把握しているため、過大に申告しようとする不届き者はいないみたいです。吸血鬼侍ちゃんも最終局面で討伐した田舎者(ホブ)の金貨は貰っているのですが、≪苦悶の触手≫で喰らい尽くした軍勢の総数がわからないんです。なんせ肉片一つ残っていないもので。

 

「他の冒険者(みなさん)から半数以上のゴブリンを討伐したというお話は聞いていますので、報酬が出ないということはありません。ただ、正確な数が分からない以上今すぐ全額お支払いというのは難しいのが正直なところなんです……」

 

 うーんと、例えばなんですが、金貨以外で報酬をもらうことはできます? 現物、具体的に言うと不動産で。

 

「ええ、住んでいた冒険者が亡くなったり別の街へ拠点を移したりして、ギルドが一時預かりしている物件でしたらありますが……」

 

 じゃあそっちでお願いします。一党で住めるような大きめの一軒家がいいんですけど。

 

「もちろん! 管理の費用も馬鹿にならないですし、この街を拠点としていただけるのでしたら願ったり叶ったりですので!」

 

 あと、女魔法使いちゃんの昇進もできれば。2人がかりとはいえ、小鬼英雄(チャンピオン)を討伐したのは大きいですよね?

 

「はい! 一党全員の昇進が既に議題に上がってますので近々面接が行われます! ちょっとだけ待ってくださいね!」

 

 めっちゃ受付嬢さんの押しが強いです。まぁ大量破壊兵器持ちが面子にいる一党を昇進と不動産で囲い込めるのなら、ギルドにとっても十分に利益が見込めるでしょう。

 

 今後の予定についてはまた後日ということで受付嬢さんと別れ、テーブルのほうへ戻りましたが……おおう、ゴブスレさんの素顔イベはもう始まっちゃってました。乗り遅れて残念です。とりあえずは約束を果たしちゃいましょうか。 そこのおにーさんふたりー!

 

「……来たか」

「随分待たせるじゃねぇか……」

 

 うわ、めっちゃ気合入ってる。どうも2人が耐えられるかどうかのトトカルチョが始まってたみたいですね。あの顔つきから察するに自分が耐えられるほうに賭けてるんでしょうねぇ。

 それじゃまずは重戦士さんから。ちゅー。

 

 

「う、うぐおああああああああああああ!!」

 

 ちゅー。

 おお、見事に耐えきりました。男衆から尊敬の眼差しと女騎士さんから味わい深い表情が向けられています。

 

「っしゃあ!次ぁ俺の番だ! さぁ来い!!」

 

 魔女パイセンと受付嬢さんがびみょい顔で見てますけどいいのかなぁ。まぁいいか、ちゅー。

 

「ふおおおおおおおおおおおおお!? あっ」

 

 ちゅー。堕ちたな(確信)。

 大切な何かを失った表情の槍ニキを、魔女パイセンが何処かへ連れ去っていきました。振り向きざまに吸血鬼侍ちゃんに向けられたウインクはいったい何を意味しているのでしょうか。

 

 お、急に周りがざわつき始めましたね。なにが……ってゴブスレさん!? 兜を脱いだゴブスレさんがケツイに満ちた表情で吸血鬼侍ちゃんの前にやって来ました。本気かゴブスレさん!?

 

「……約束だからな」

 

 あの、嫌なら嫌って言ってね? そ、そういえばほとんど怪我無しで小鬼王(ロード)を倒したみたいだけど、どんな手を使ったの? え、スクロール? ああ!本来オーガに使うはずだったアレ!!

 ゴブリン相手に使ったのなら想定の使用法だろうけど、ちょっと勿体無くない?

 

「血を流すわけにはいかなかった。後で吸われる予定だったからな」

 

 ……なんかほんとごめんなさい。あ、というか槍ニキに命差し出せって言われたときにダメって言ってたじゃないですか。吸血もそれとおんなじだからちゃんと断らなきゃダメですって!

 

「そうなのか?」(ピタッ)

 

 そうわよ(必死)。ほら、向こうで女神官ちゃんと牛飼娘さんが心配そうな顔してるから早く戻って! 今度ゴブリン退治に連れてってもらえればそれでいいから!

 

「わかった」

 

 なんとか誤魔化し切れました。流石にゴブスレさんから吸血は敵を増やしすぎます……。

 

 さて女魔法使いちゃんと森人狩人さんは……おわ!? 急に後ろから細い腕が! ってなんだ妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)か。なんですか急に抱き着いてきて、ボリュームが不足していましてよ? え、少ない友達が他の子と話してて相手がいないボッチを慰めに来た? ほっといてくださいまし!

 

「それから、あの()たちのこと、ありがとね。2人とも、身体の奥底には怨嗟の炎が燻ってるから。身を焼き尽くすほど燃え上がっちゃダメだけど、消えたら多分2人とも生きられない」

 

 長い生の中で、熱を失った森人は枯れるように死んじゃうんだから、と寂しそうに呟く妖精弓手ちゃん。……だから火を絶やさぬよう、燃え上がらせないよう見守るのが吸血鬼侍ちゃんの役目なんでしょ?言われなくてもわかってるって心配性だね2000歳児は。

 

「んなっ!? アンタが何歳か知らないけど、年上に対する敬意ってものを持ちなさいよ! 生意気な小娘はこうしてやる!」

 

 あ、ちょっフードはとっちゃ駄目! 吸血鬼侍ちゃんのアイデンティティがクライシス帝国しちゃう! あ、女魔法使いちゃんバカ笑いしてないで助けて! 森人狩人さん……寝てるぅ!? 

 

「ほーら酔っ払いどもちゅうもーく! ロリ貧乳金髪メカクレ吸血鬼侍とかいう属性過多娘の隠されたオデコちゃんが今明らかに!」

 

 

 

 

 やっ…ヤメロォー!

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




心の整理をするために失踪します。

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お読みいただきありがとうございました。


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いんたーみっしょん4

家の中で吐く息が白くて切ないので初投稿です。


 前回、吸血鬼侍ちゃんの秘匿されたオデコが暴かれたところから再開……ではないです。

 

 牧場防衛ミッションから少し時間が進み、半月が経過しました。その間にあった大きな出来事といえば、やはりお引越しですね!

 

 受付嬢さんから紹介された物件は、街の外縁部にある紅玉級冒険者一党が所有していた邸宅でした。銅等級に昇進した際に、拠点を王都へ移すためにギルドへ譲渡したものだそうです。家具などについてはすべて処分してあったために買い直しとなりましたが、内装を好きに弄れると女魔法使いちゃんは喜んでいました。

 

 ちょっと街の中心部からは距離があるので不便ですが、敷地内に井戸があるのでふんだんに水を使えるのは良い点ですね。そして森人狩人さんと女魔法使いちゃんがこの物件を選んだ最大の理由が、大きなお風呂が備え付けてあることです。

 

 吸血鬼侍ちゃん一党はほぼ毎日のように利用していましたが、入浴、しかも浸かるお風呂は贅沢な娯楽です。何せ1人あたりの入浴料が一日の食費と同等かそれより高いのですから。公共の井戸で水浴びをしたり、宿でお湯をもらって体を拭くのが低級冒険者の常ですが、精神のリラックス効果や身だしなみの観点、あとは個人の趣味としてお金を惜しまず利用していたんですね。

 

 で、新居のお風呂ですが、水の心配は無くても毎日湯を沸かしていたら燃料代が馬鹿になりません。薪の置き場も考えなきゃと思っていたのですが、女魔法使いちゃんが武具店のじいじと結託して、爆発金槌の(コア)を利用した湯沸かし器を作ってしまいました。屋内に据え付けられた炉の中に≪点火≫した核を入れると、そこから熱が水へと伝わりお風呂が沸くという優れもの。なんと冬場は温水暖房にもなるようです。なにつくってんのさ2人とも……。女魔法使いちゃんが稼いだ金貨はそこに全てつぎ込んだみたいですが、本人も満足してますし深くは突っ込みませんよ。

 

 前所有者の一党が6人組と多かったので、一時参加組用の客間も合わせて居住区画が広くとられているのもポイントが高かったみたいですね。ただ、こちらは早々に並び4部屋の壁をぶち抜いて大部屋にされてしまいましたが……。

 あの、森人狩人さん? 大部屋にするのは百歩譲ってまぁ良いですけど、なんでベッドが一つしかないんですか? しかもわざわざワイドキングサイズなんか注文しちゃって……。おかげで金貨が全部無くなった? そら(特注になるうえに早急に用意しろなんて発破をかけたら)そう(お安い値段にはならないです)よ。4人で並んで寝ても余裕ある大きさとか初めて見ましたよ……。 え、余裕がないと動いたときに落ちるかもしれない? ……そうですね。

 

 リフォームをしている間は引き続き今までの宿に泊まっていましたが、先の防衛戦で受けた肉体的・精神的疲れを抜くためにみんな意識して休息を心掛けました。

 特にケアが必要だったのはやはり森人少女ちゃん。表面上の傷は癒えても、女性としての尊厳を踏みにじられた精神的苦痛は酷く、夜中突然悲鳴を上げて起きてしまったり、一党の誰かが傍に居ないと足が痙攣して歩けなくなってしまったり。

 体格が同じくらいだから仕方が無かったのだと思いますが、宿の廊下の曲がり角で吸血鬼侍ちゃんと鉢合わせしたときにゴブリンを幻視して恐慌状態に陥ってしまったときは、流石の吸血鬼侍ちゃんもベコベコに凹んでましたね……。

 

 本人も人との繋がりを求めているのか、まだ体調が本調子でないというのに吸血をせがんできました。流石にまだ早いからとやんわり制する吸血鬼侍ちゃんに対し、あろうことか「やはりゴブリンの子を産むような穢れた女の血は望まれないのですね……」と口に出してしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後どうなったかって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本気でキレた吸血鬼侍ちゃんが森人少女ちゃんを押し倒して昼戦開始。夕方、新居のリフォーム作業の手伝いから戻った2人が一方的な蹂躙劇を見て驚くも、開戦の原因を聞いて同様にキレて参戦。そのまま夜戦を通り越して三日三晩の大乱闘スマッシュシスターズが勃発しました……。

 

 四日目の朝日が顔を出した頃には、吸血鬼侍ちゃんがゴブリンから奪っていた一時HPは全て無くなり、ベッドの上には種族を超えた絆で結ばれた三姉妹が生まれていましたとさ。

 

 いーい森人少女ちゃん、みんなきみのことを大切に思っているんだから、あんな悲しいことは二度と言わないでね?

 

「はい、(あるじ)さま……。上姉様も下姉様も、(わたくし)を家族として迎え入れてくださいました。共に戦うことは出来ませぬが、どうか御傍にいさせてくださいませ」

 

「下姉様って、私のほうが年下なんだけど……まぁいいわ。アンタ、ちゃんと血の一滴(ひとしずく)まで愛してあげなさいよ?」

 

「私が言うのもなんだけど、随分愛が重い()だったね。でもそういう()がきみの好みなんだよね?」

 

 はっはっは、姉2人は好き勝手言いなさる。まぁ否定はしませんが。

 

 

 その後、流石に宿の店主に怒られて謝り倒し、荷を纏めて新居へと引っ越したのですが、少々吸血鬼侍ちゃんが不味いことになってしまいました。

 

「主さま、そろそろ起きてくださいね」

 

「主さま、朝食の準備ができましたよ?」

 

「主さま、お風呂が沸きましたので、おゆはんの前にみんなで入ってしまいましょう」

 

 あぁ^~吸血鬼侍ちゃんのバブみ(ちから)が森人少女ママに吸い取られていくんじゃぁ^~

 

 このままでは吸血鬼侍ちゃんが依頼を受けに行かないダメ冒険者になってしまいます。

 他の人の疲労も抜けたようですので、そろそろギルドへ顔を出してみましょう!

 

 

 

 

「おはようございます! 新居の住み心地は如何ですか!」

 

 受付嬢さんは今日もかわいいなぁ(ほっこり)。いい感じですよ。そろそろ活動しようかと思うんですけど、なにかお勧めの依頼ってあります?

 

「そうですねー。ゴブリン退治の依頼は殆ど無いですし、数少ないそれは全部ゴブリンスレイヤーさんが持って行ってしまいまして……」

 

 ですよねー。おや、盗賊退治とかが増えてるみたいですけど、あ、もしかして。

 

「ええ。ゴブリンの数が減って野外の危険性が下がったために、野盗や追剥が活発化しているみたいなんです」

 

 ゴブリンがいなくなったと思ったら代わりに人間が出てくるのかー。依頼が多く残ってるのは、やっぱり対人は躊躇する冒険者が多いんですかねぇ。或いは危険度が高いから白磁や黒曜では受けさせてもらえないのか。受付嬢さん、この辺の依頼纏めて引き受けてもいい?

 

「はい、先の功績で翠玉1人鋼鉄2人の一党になりましたので、条件は満たしています。まぁ皆さんでしたら等級はあんまり関係ないかもしれませんが……」

 

 吸血鬼侍ちゃんは言うまでもないですが、2人も大概等級詐欺ですからねー。

 

 あっそうだ(唐突)。ちょっとお伺いしたいんですけど、このギルド内で吸血鬼侍ちゃんと森人少女ちゃんが出来る仕事とかって何かありません? まだ森人少女ちゃんにはメンタルケアが必要なのであまり街から離れたくないですし、一緒にいる吸血鬼侍ちゃんも手持無沙汰なので。

 

 ……うーん、流石に急過ぎましたかね。受付嬢さんも悩んでしまってます。

 

 あれ、監督官さんが手招きしてますね、受付嬢さんに断りを入れて近寄ってみましょう。

 2人とも公文書の書式はわかるかって? 吸血鬼侍ちゃんは剣の乙女の下でドンパチしてた時に覚えましたけど、森人少女ちゃんはどう? おお、家の仕事の関係で外交文書の作成をしていた。流石王族の従者の家系ですね! でもそれがどうかしましたか監督官さん? 

 

 ……どうやら先の冒険者の活躍が辺境に知れ渡り、冒険者を志望する若者の数が増えているとのこと。そのためギルドの書類仕事も大幅に増え、手が足りていないそうです。つまり臨時の職員採用というわけですね。

 どうする森人少女ちゃん、せっかくだから受けてみる? 少しずつでいいから働いて皆を助けたい? ええ()や……。あんまり無理はしないでね?

 じゃあ監督官さん、2人ともお引き受けします。でもこれ個人情報とか大丈夫なんです? ほほう、定期的に≪看破≫で他人に漏らしていないか確認してるんですね。なるほどなー。

 

 それでは吸血鬼侍ちゃんと森人少女ちゃんはギルドで事務仕事、分身ちゃんたち3人は野盗退治を頑張りましょう!

 

 

(少女?たち活動中……)

 

 

 はい、こちらはギルド組です。2人とも貸与された制服に身を包んでお仕事中です。森人少女ちゃんはともかく良く圃人用のサイズなんてありましたね。え、制服作成時に全ての種族に合うサイズを用意するようお達しがあった? うーんこのお役所仕事。

 吸血鬼侍ちゃんもなかなかの速度で書類を捌いてますが、森人少女ちゃんたら滅茶苦茶有能ですね。用意されたデスクにいくつも書類ボックスを並べ、複数枚を並列で処理しています。唖然とした顔で見ている受付嬢さん、口開いてますよ。あと監督官さん、ええもん拾ったって顔は当人達に見せないでください。

 

 お、分身ちゃんのほうから着信が。ふむふむ、ではそのように。受付嬢さん、ちょっといいですか?

 

「なるほど、捕縛した野盗を連行する人員を送って欲しいと。皆さんの依頼料から支払う形でいいんですね?」

 

 いいですよー。報酬としてはたかが知れてますが、依頼からあぶれた白磁等級の子のおゆはん代にはなりますし、彼らの野外活動の練習も兼ねてますからね。

 

「ありがとうございます。ちょっと声をかけてきますね!」

 

 そのまま受付嬢さんはテーブル席で途方に暮れている白磁等級の子たちに声をかけ、複数人を纏め上げて分身ちゃんの伝えてきた地点へと送り出してくれました。ほんとはダメなんですけどねーと言いながらも受付嬢さんの表情は明るいです。予めちょっとでも経験を積んでいれば、最初の冒険で失敗する白磁等級が減るかもしれません。今までたくさんの夢見る若者を送り出してきた職員の心情を思えば、いくらか報酬が減るくらいどうってことありませんから!

 

 

 夕方、捕縛した野盗と新人を引き連れて一党がギルドへ帰ってきました。なにやら新人たちは興奮している様子。なにかあったんでしょうか? 

 分身ちゃんに確認したところ、帰り道でゴブリンの巣を見つけたので、新人を引率してゴブリン童貞を捨てさせてきたそうです。最初は3人とも手を出さず、原作の青年剣士君よろしくズンズン進んでいった新人たちがゴブリンに奇襲を受けるまで静観。負傷者が出た段階で介入し第一波を殲滅。怪我人の治療を済ませた後に森人狩人さんによる探索のレクチャー&ゴブリンの生態教育を行ったとのこと。

 幸か不幸か生存者はいなかったものの、惨たらしい遺体とゴブリンの子供は残っていたので、新人にしっかりと始末をつけさせてきたそうです。

 ゴブリンと対峙したものは屋内での戦闘の怖さを、負傷した者は怪我と毒の恐ろしさを、罠を踏みつけたものはゴブリンの悪辣さをそれぞれ身を以て学べたことでしょう。きっと自分たちでゴブリン退治を受ける時、今日の経験が生かされるはずです。

 

 書類仕事も終わりまして、外回り組と合わせて報酬をいただきました。ん? 白磁の子たちに払った割には結構残ってますね。え、書類のほうを頑張ってもらったから少し色を付けてある? 引き続きお願いしたいからその唾付けも兼ねて? 良かったね森人少女ちゃん、しばらくはギルドで働けそうだよ。そうだ、今日はこのままギルドでおゆはんにしましょうか。監督官さんもご一緒しません? 一杯奢りますよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だーかーらー! キミもあの変なのにくっついて回ってる神官ちゃんもギルドでイチャイチャし過ぎなのよ! うちの後輩も気もそぞろになってるし、私だってキミみたいな可愛い子にちゅーされたいのー!」

 

 誰だ彼女に酒を飲ませたのは!? 吸血鬼侍ちゃんだ!!

 うーん……(ストレスが)たまってるってやつなのかな? 目が据わっていて怖いです。あの監督官さん、他の人の迷惑になるのでもうちょっと声を抑えて……。

 

「キミだって嘘つきじゃないのー! 吸血が必要な時はギルドに依頼を出すって書いときながら、いつのまにかちゃっかりキレイどころばかり確保してちゅーしてんだからー!」

 

 あ、アレは剣の乙女が勝手にやった事だから(震え声)。いや、こうなることを予想して布石を打っていたのか……? 剣の乙女、なんて恐ろしい子!

 

「そーかいそーかい、ちゅーしてくれないんなら、こっちからちゅーしてやるんだから!」

 

 え、ちょっと待って! 首筋に甘噛み通り越して割と本気で噛みつかないで!? 

 あと森人少女ちゃん実は酔ってるでしょ? (わたくし)もご奉仕いたしますなんて言いながら反対側に噛みつかないで……。あ、こっちは痛くなくてちょっと変な気分に……。

 

 ふぅ、暫く噛みついてちうちう肌を吸っていた監督官さんですが、酔いが回りきったのかやっと静かになりました。監督官さんの真似をして反対側を吸っていた森人少女ちゃんも、今は森人狩人さんに抱かれて夢の中です。監督官さんどうしよう、このまま置いて帰るわけにはいかないですし……。仕方ないから家の客間に放り込んでおきましょうか。みんなかえるよー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、見知らぬベッドで目を覚まし、その後4人がワイドキングサイズのベッドで寝ている姿を見て尊死しかけた監督官がいたのは一党内の秘密である。

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 




心温まるものを探すので失踪します。

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セッションその4ー1

久しぶりにオンセで遊べたので初投稿です。

12/20 UA16000、お気に入り350件になっていました。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


 愛の鎖が絡みついて離れない実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 着々と一党(パーティ)としての体裁を整えてきた吸血鬼侍ちゃん。頼れるサポーターの加入とともに、拠点となる新居もゲットしました。

 先の本気(マジ)ギレ案件は流石に反省したのか、最近の吸血鬼侍ちゃんは常に受け身状態です。あれほど嫌がっていたお風呂も素直に入るようになってますね。今思えばいつもお風呂から逃げようとしていたのは、飢餓状態で痩せた身体を見せたくなかったからだったのかもしれません。

 

 牧場防衛ミッションで栄養補給した結果、現在は肋骨が浮き出ていたりはしませんが、同じスレンダー体型の森人少女ちゃんと並ぶとどうしても細さが目立ちますねぇ。っていうか森人少女ちゃんの色気がやばいです。栄養状態が良くなり精神も安定してきた結果、控えめなお山と抱き締めたら折れそうな腰、ちっちゃなお尻が庇護欲を掻き立て、ギルドの制服に身を包んだ姿は森人特有のスタイルと合わさり男衆の目を釘付けにしています。身長は女神官ちゃんと殆ど変わらないのに、この差は一体……。

 

 ギルドでの仕事も早くて正確だと職員からの評判も良く、このまま実績を積めば臨時の肩書が無くなるのもそう遠くないかもしれません。頑張れ森人少女ちゃん、公務員はいいぞ。

 

 さて、辺境周辺の近況ですが、ゴブリンも野盗も少なくなってしまいました。専門の駆除業者(ゴブスレ&吸血鬼侍)が本腰入れて回ってしまったので、数が増えるには時間がかかりそうです。もちろん増えたら困るんですけども。反対に増加しているのは輸送護衛の依頼ですね。どうも野良の魔神が街道沿いに出没しているらしく、鋼鉄以上の冒険者が辺境の街と周辺をひっきりなしに往復しています。

 黒曜以下の冒険者は、残っている下水関係の依頼やゴブリン退治を複数の一党で受けて安全マージンをとった冒険を試しているようです。集団で数をこなしているとはいえ、流石にそれだけだと収支がマイナスになってしまったり仕事にあぶれる者がでてしまうので、監督官さんにお願いして吸血鬼侍ちゃんが依頼を出してみました。

 

・場所   ギルド支部                        

・依頼人  吸血鬼侍

・依頼内容 献血募集(黒曜等級以下で健康的な人、他の仕事にあぶれた人優先、女性歓迎)

・報酬   銀貨3枚

・注意事項 この依頼はギルドの査定に一切貢献しません。

      こればかり引き受けても昇進しませんよ!

 

 これがけっこう人気でして、仲間が怪我をして依頼を受けられない独り者や、寝坊して依頼が無くなってしまったお寝坊さんから感謝されています。報酬はギリギリ雑魚寝部屋とおゆはんが確保できる金額に設定して、怠けないように注意しています。不正に手を染めたり犯罪行為に走らないように抑止として機能してくれれば良いんですが。あ、そこの銀色の認識票をつけた人は対象外なので帰って、どうぞ。

 

 もう2~3日で牧場防衛からひと月が経過しそうです。さーて今日も楽しく輸送護衛、野良グータレーでも出てくれると報酬が美味しいんですが……と、おや、朝から受付嬢さんがゴブスレさん一党となにか話してますね。吸血鬼侍ちゃん一党に気付くと手招きされました。おはよーございまーす! なにか御用ですか?

 

「水の街にある至高神の神殿、その代表である大司教からゴブリンスレイヤーさんに依頼が来たんです!」

 

 あ、もうそんな時期になりましたか。剣の乙女さんのラブレターですね。こっちのゴブリンの湧き潰しは新人君たちが積極的にこなしてくれますので、水の街でもゴブリン狩りを頑張ってください! え、もう一通来てる? しかも吸血鬼侍ちゃん宛て? ちょっと見せてもらってもいいですか? どれどれ……?

 

 

 

 

 

 

来い

 

 

 

 

 

 

 ヒエッ……あ、2枚目がありました。冗談かビックリしたぁ。地下水道の件で直接会いたいので、ゴブスレさんと一緒に来て欲しいそうです。cvマダオな剣の乙女はちょっと嫌だなぁ……。

 

 ……そういえば吸血鬼侍ちゃん、辺境の街に来る前、スタート地点が水の街でしたけど、もしかして出発前までは地下で邪神教団殲滅やゴブリン狩りしてたんですかね? んで吸血鬼侍ちゃんが辺境の街へ行ってしまった後、ギルドにゴブリン退治の依頼を出しても誰も引き受けてくれず、結果として増えてしまい、"転移"の鏡で小鬼王(ロード)の増援として送り込まれてたとか……。

 

 ありそう。

 

 念のためこちらもフルメンバーで行くことにしましょう。あ、森人少女ちゃんはどうしよう? 体内の傷って≪蘇生(リザレクション)≫で治療できるんでしょうか。せっかくなら剣の乙女とお話ししてもらって、両者のメンタルケアをしてあげたいっていうのもあるんですよねぇ。

 よし決めた、森人少女ちゃんも一緒に行きましょう。偉い人と顔を繋いでおくのも良いことですし、ちょっとした旅行で気分転換にもなるかもしれませんからね。

 

 ギルドが馬車を用立ててくれましたので、一党ごとに分乗して出発です。連絡要員も兼ねて分身ちゃんを呼びだして、うーんどっちの馬車に本体を配置しようかな? せっかくなのでゴブスレさん一党のほうに本体を乗り込ませましょうか。オッスお邪魔しまーす。

 

 二台の馬車が街道をゆっくりと進んでいきます。ゴブスレさん号はゴブスレさんと妖精弓手ちゃんが、吸血鬼侍ちゃん号は森人狩人さんと森人少女ちゃんが交互に御者を務めています。吸血鬼侍ちゃん? 本体も分身も近付くと馬が怯えるんで後ろに引っ込んでろと言われました。解せぬ。

 

「侍殿も着々と一党の面子が鍛えられてきた様子。また魔神狩りの時には同行させて戴きたいものですなぁ!」

 

 蜥蜴僧侶さんそれ内緒の約束! ほら妖精弓手ちゃんがズルいぞテメェって顔で御者席からこっち睨んでる! 

 

「そういやちみっ子よ、お前さんが面倒を見ている新芽っ子のことなんじゃがの」

 

 新芽? ……ああ森人少女ちゃんのことか。彼女がどうかしました?

 

「お前さんは気付いておらんじゃろうが、あの新芽っ子、どうやら精霊術の才があるようじゃの」

 

 ときおり精霊と話しておるからのって、全然気付かなかったですよ。吸血鬼侍ちゃんが傍にいると精霊が怯えて逃げるから気付かないのも当たり前? 動物に続いて精霊にも怖がられているのか……。技術は身に付けていて困ることはないでしょう。時間がある時で構わないので、森人少女ちゃんに手解きしてあげてくれません? 講習料は酒場で払いますんで。

 

 ん? 御者席から妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)もなんか言ってますね。じゃあ私は弓を教えてあげる? 森人狩人さんは弓は苦手だって言ってたからありがたいですけど、森人少女ちゃんが望まない限り冒険者にはしませんからね? いやケチじゃないですって。

 

 

 はい、車中泊を挟みつつ、道中何事もなく(野良グータレーはいましたが、蜥蜴僧侶さんと妖精弓手ちゃんが嬉々として倒してました)水の街に到達しました。馬車をギルドへ返却して、早速神殿へ向かいます。剣の乙女、怒ってないといいなぁ……。

 

 大人数で押しかける形となってしまい、予想以上の人数に侍女さんも驚いていましたが、銀等級複数に等級詐欺とバグキャラという戦力としてみれば可笑しな面子なのでしょうがないですね。

 

 森人少女ちゃんは依頼のあいだ神殿で預かってもらい、雑務の手伝いをするよう話がまとまりました。それじゃ早速行ってきますねー。え、吸血鬼侍ちゃんは残れ? アッハイ。とりあえず分身ちゃんをみんなに同行させ、本体は残りましょうか。みんな頑張ってねー。

 

 

 

 えーとやっぱり怒ってます? 速攻で吸血鬼ってバレたこととか気を遣って用意してもらった登録証をダメにしちゃったりとか。うーん、怒ってるけど吸血鬼侍ちゃんに対してじゃないみたいですね。辺境の街のギルドの人も悪意があって調査してたわけじゃないから……おや、そっちでもない? それじゃ何に対して怒ってるんです? あ、水の街に住む人たちに対してですか……。

 

 依頼の説明をしている際にゴブスレさんに渡していた資料を見る限り、吸血鬼侍ちゃんがこの街に滞在している間は常に本体か分身ちゃん、或いはその両方が徹底的に地下水道を掃除していたみたいですからねぇ。配布された地図が恐ろしく精確に書かれていましたし。今回吸血鬼侍ちゃんが水の街を離れているときにゴブリン騒ぎが起きても、偶然で片付けられて住民のゴブリンに対する危機感は強くならなかったですかー……。

 

 たぶん実況開始前の吸血鬼侍ちゃんは良かれと思って邪神教団狩りをしたのでしょうが、それが仇になって地下水道のゴブリン増加に繋がったのでしょう。大した脅威が無ければ誰も好き好んで地下水道巡りなんかしないでしょうし……。

 

 救出直後の森人少女ちゃんほどではないですが、剣の乙女のメンタルも危険域まで突入しかけてるっぽいですねこれは。万が一彼女が倒れたりしたら、混沌の勢力が付け入る大きな隙になりかねません。ここは10年来の友人らしく励ましてあげましょう!

 

 

 

 あー、きみが依頼を出した彼はゴブリン退治のエキスパートだし、彼の一党や今回同行している一党もみんな優秀な冒険者だよ? 腕も人格も良く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それにさ、ちょっと戻るのが遅くなっちゃったけど、きみの前にいるのは誰かな? 誰よりもきみの願いを叶えてきた吸血鬼侍ちゃん(ぼく)だよ? ぼくがそばにいるだけじゃ、きみの不安はなくならないのかな?

 

 

 

 ……暫くは≪沈黙(サイレンス)≫を維持しておきましょうか。「死の迷宮」で初めて会ったときは背もお山も小さくて可愛いかった女司教(おんなのこ)、10年経って立派に成長してもまだまだ剣の乙女(おんなのこ)なんですから。

 そんなわんわん泣きながら吸血鬼侍ちゃんを抱き締めている姿を侍女さん以外に見られたら、また良からぬ噂を流されちゃいますよ? ……主に吸血鬼侍ちゃんが。

 

 

 剣の乙女が落ち着いたところで色々確認しておきましょうか。まず下水ワニ剣の乙女の使徒に関しては、ちゃっちゃとゲロっといたほうがいいんじゃないですかね? ゴブリン退治の邪魔になると判断したゴブスレさんがナニするかわかったもんじゃないですし。

 あとは依頼そのものの真意を伝えるかどうか。ゴブリンに対するトラウマに関しては、今回参加している冒険者に限って言えば、話しても誰も咎めたりしないと思いますよ? 剣の乙女と同じくらい、いやもっと悲惨な目に遭った子も同行してますから。傷を舐め合うじゃないですけど、彼女たちと話してみるのもいいと思います。剣の乙女がトラウマを克服する切っ掛けになるかもしれないですしね。

 

 地下水道を守護している使徒に関しては、分身ちゃんを通じて伝えちゃっていいそうです。依頼の真意……情報操作諸々に関しては、もう少し考えたいとのこと。まぁ簡単に自分の根底にあるトラウマを曝け出せる人なんていませんからね。じっくり悩んで結論を出してください。

 

 

 

 それじゃ本体も合流して地下の大掃除に参加しましょうか。既に分身ちゃんを派遣しておいて何を言ってるんだと思われるかもしれませんが、地下水道という舞台(ステージ)は吸血鬼侍ちゃんにとって敵地そのものなんですよねぇ。陽光が届かないので吸血鬼ぱわーは問題なく使えるのですが、流水に囲まれているので常時立ち竦み(フラットフット)を受けてるような状態です。敏捷や咄嗟の反射セーブにペナルティが入るうえに、突き飛ばしなんかで水路に叩き落されたら問答無用でYOU DIEDしちゃいます。今回に関しては豊富な呪文回数を駆使して後衛から援護に徹するほうが良さそうですね。

 

 さて、それじゃ分身ちゃんに連絡して今どの辺りにいるのか聞いて……

 

ドドドドドドドドドドドドドドドド……

 

 ん、何かがすごい勢いで近付いてきてるような……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたいた、やーっとみーつけたぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 おわぁ!? いきなりなにかが吸血鬼侍ちゃんを引っ掴んで、恐ろしい勢いで大通りを駆け抜けています! 

 

「いやー≪託宣(ハンドアウト)≫で今回は4人で挑む冒険(セッション)って告げられて困ってたんだけど、やっと合流できたよ! あ、2人は街の入り口で待ってるからボクが迎えにきたんだ!! 急ぐからしっかり掴まっててね!!!」

 

 

 え、ちょっと待ってくださいなんで水の街から離れようとしてるんです?

 これから『吸血鬼侍ちゃんのドキドキ地下水道探検! 名前を言ってはいけないあの怪物も出るよ!!』が待ってるんじゃないんですか!?

 

 

 いやいやGM、なんで盤面(机の上)を整理してるの? どうして新しい舞台装置(ルルブとトランプ)を出してるんですか?

 え、今から吸血鬼侍ちゃんはこの冒険記録用紙(キャラシー)を使ってくれ? ええとなになに……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・PC④ 執行者/オリジン/吸血鬼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオスフレアじゃないですかやだー!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




サンタクロースを撃ち落とす準備をするので失踪します。

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セッションその4ー2

VF団首領がやりたくて仕方がないので初投稿です。


 いや、なんでGM席に座っているのがゆっくりさんじゃなくて≪真実≫さんなんです? え、ゆっくりさんはあっちで地下水道探索組のマスターだから? まさかのMTS(マルチテーブルセッション)かぁ。たまげたなぁ……。

 

 えぇと、前回謎の超勇者ちゃんに誘拐されたところから再開です。

 

 吸血鬼侍ちゃんを誘拐した人物は、街中央の神殿から入口である門へ向かって最短距離を直進しています。えぇ、あらゆる障害物をパルクールばりに突破しながら。

 小柄とはいえ人ひとりお姫様抱っこした状態でこの速度、一党合流(パーティ結成)の演出とはいえやはり人外の領域……。他人の操作で視点がガクガク動くとちょっと酔いそうですね。

 

 あ、≪幻想≫さん大丈夫ですか? 気分悪かったら少し目を閉じて休んでてくださいね。

 

 ものの数分で辺境最大の街を踏破し、大きな門に到着しました。門の外、街道の端っこには2つの人影が。長い髪をポニーテールにまとめた剣士風の女性と猫耳パーカーに杖を携えた小柄な少女。どちらの胸も豊満ですねぇ! リボンを風に靡かせながら城壁を跳び越えて着地した謎の人物は、2人の前に誘拐してきた吸血鬼侍ちゃんを降ろしています。

 

 はい、皆様ご存知の勇者ちゃんとその仲間たちですね。ドーモ。剣聖=サン、賢者=サン。吸血鬼侍です。

 2人の呆れかえった表情から察するに、勇者ちゃんはもうひとり連れてくるねーと言ってそのまま街中へ突入した感じだったのでしょう。吸血鬼侍ちゃんを見る目には同情の光が宿っています。

 

「お久しぶりなのです。水の街を離れてゴブリン退治をしていると聞いていましたが、丁度良いタイミングで逢えたものです」

 

 これも≪託宣(ハンドアウト)≫の導きなのです、と言ってる賢者ちゃん。なんだかしゃべり方がかしこそうですね。カレーとか好きそう(フレンズ並感)。それで吸血鬼侍ちゃんを拉致った目的はなんですか? とっても聞きたくないんですが、聞かないと(セッション)が進まなそうなので。

 

「先日、街一つを異界に飲み込んだ、終わらない獣狩りの夜を終わらせてきたのだが、一柱、信者の女性を孕ませては異形の存在を生み出し続けていた邪神を取り逃してしまってな……」

 

 当たり判定さえ残っていれば透明だろうと斬ってやったのだがと悔しがっている剣聖さん。発狂していた信者には≪お父様(おどんさま)≫とか呼ばれてたのですと補足する賢者ちゃん。

 

 

(一斉に≪真実≫GMと、その後ろで口笛を吹いている顔の無い邪神を見る視聴神たち)

 

 

 GMはん……あんたなんちゅうもんをシナリオに出してくれたんや……。

 

「それで、その邪神を信仰している教団がこの近くにあるみたいなんだ!」

 

 逃げ込むならきっとそこだよねーと笑う勇者ちゃん。可愛いけど物騒なこと言ってますよねそれ。

 

 街道を逸れ、道なきを進んでいく一行。確信があるのか躊躇なく先頭を歩いている勇者ちゃん。あれ行き当たりばったりじゃないんですか?

 

「そうでもないのです。ほら」

 

 賢者ちゃんの指差す先では勇者ちゃんと剣聖さんが何かを切り伏せています。近寄って見てみると、動物と金属が出鱈目に混ざりあった怪物のようです。なんですこれ? メタルビースト?

 

「足止めか誘いか知らんが、ヤツが通った後にはこのような落とし子が続いているのだ」

 

 恐らく通り道で見つけた雌を手当たり次第に孕ませているのだろうって、ヤバイですねぇそれ。教団の隠れ家に着いたらメタル〇ウラが軍団規模で湧いてたりしそう。

 

「そうならないために貴女に協力をお願いしたのです」

 

 わぁい期待が重ぉい。それで、吸血鬼侍ちゃんは何をすれば良いんです?

 

頭目(リーダー)のフォローを頼みたいのです。私は今度こそヤツを逃がさぬように、戦域(シーン)全体に結界を張らねばいけないので」

 

「その間、私は無防備な彼女の護衛に専念せねばならない。あとは斬撃飛ばしの援護くらいか」

 

 えーと、つまり勇者ちゃんと2人で推定邪神とガチンコしろと? さすがにむーりぃ……。

 

「だいじょうぶ! みんなの力をひとつにすれば勝てるよ!!」

 

 勇者ちゃんの笑顔が眩しい……まるで太陽……ハッ!?

 

 そうです、暗い迷宮から抜け出して、太陽を求めたのが吸血鬼侍ちゃんの始まりだった筈です。邪神の一匹や二匹で尻込みしてるようじゃあ「太陽あれ!(デイライトウォーカー)」なんて名乗っていられません!!

 

 とはいえ、牧場防衛ミッション時の腹八分目モードでも辛そうなのに、今の腹ペコ吸血鬼侍ちゃんじゃあ超越者の戦いについていけそうもないんですよねぇ。なにか良い方法ありませんか賢者ちゃん?

 

「そう言うと思って、目星はつけてあるのです」

 

 徐に腰に下げたポシェットをゴソゴソ始める賢者ちゃん。なにかを掴んでずるりと引き出しました。それどう考えても容量おかしいですよね? 四次元ポシェットですか? え、王国の宝物庫に直結している? すっごーい!

 

()()()()()()()()()()()用意したものです。あなたなら上手く使えると思うのです」

 

 いつか言ってみたかったんでしょうね。ドヤ顔の賢者ちゃんが差し出したのは大剣と長銃、それに黄金色に輝くメダル。こ、これはまさか……!

 

「かつて心を乱した巨人の王を倒すときに共闘した、異邦の騎士から頭目(リーダー)が譲り受けた大剣≪巨人殺し(ストームルーラー)≫。先の獣狩りの異界で見つけた、使用者の血液を弾丸に変えて撃ち出す吸血鬼用の長銃≪血族の誇り(エヴェリン)≫。それから……悪魔殺し(デモンスレイヤー)一党の、あなたと同じポーズ()をする聖騎士(パラディン)から、志を同じくする者がいたら渡して欲しいと預かっていた装具なのです」

 

 大剣と長銃は国宝級なのです、と言いながらそれらを吸血鬼侍ちゃんに渡してきました。

 それらが業物であることは間違いないのですが、吸血鬼侍ちゃんの目は最後のメダルに釘付けになっています。何処となく愛嬌のある太陽を模した顔が刻まれた表面。金属でありながら触れると仄かに感じる熱を帯びたそれはまさに太陽の欠片。

 

 こんなの見せられたら負けるわけにはいかないじゃないですか……!

 

 大剣を右手に持ち肩に担ぐように構え、左手には身長よりも長い長銃。そして首から陽光の輝きを放つ≪太陽のメダル≫を下げれば、\デェェェェン/という効果音とともに特殊(コマンド)部隊仕様な吸血鬼侍ちゃんの誕生です! 何故かフード付きの外套がタクティカルベストに変わっているのは目の錯覚かスキン変更のせいですねきっと。

 

「あ、きっとあそこが入り口だね!」

 

 おっと、感動しているあいだに目的地に到着していたようですね。勇者ちゃんの指差す先には古い遺跡と思しき建築物が、いかにもな地下へ続く階段を伴って待ち構えていました。ゴブスレさんならきっと火攻めor水攻めor生き埋めを考えるのでしょうが、勇者ちゃんはそのままスタスタと階段を降り始めてしまいました。あの、罠探索とかなさらないんですか?

 

「もう最終局面直前(ミドルフェイズ最後)だからな。ダンジョン探索(ハック)は無いと判断したのだろう」

 

 そう言いながら勇者ちゃんの後に続いて足を進める剣聖さん。吸血鬼侍ちゃんも早く行かないと「ちょっと待つのです」なんでしょう賢者ちゃん? 忘れ物かなにかですか?

 

「どうせいつも通り空腹のままなのはわかっているのです。さっさと済ませるのです」

 

 そう言いながら猫耳パーカーを外し服を緩める賢者ちゃん。いいんですか? え、あっちの2人は牙が通らないから賢者ちゃんからしか吸えない? どんだけ硬いんだ前衛組……。

 確かに少しでも吸っておけば楽に動けるでしょうし、それではお言葉に甘えて(ペロン)

 

 ちゅー。

 

「ひわぁ!? ど、どこから吸ってるのですか!?」

 

 あ、ごめんなさいいつもの癖で。最近はこっちから吸うよう言われてたので……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「勇者、参上!!」

 

 ちょっとしたハプニングもありましたが(強弁)、最終決戦の場(クライマックスフェイズ)にやって来ました。

 一党と相対しているのは1人の只人の男。身なりから察するに錬金術師崩れでしょうか。勇者ちゃんを前にして戦意は保っているようですが、膝が笑っているのがちょっと可哀そうです。

 

「ええい、こうなれば今この場で≪お父様(おどんさま)≫の神体を完成させるだけのこと!」

 

 お、流石にボスじゃなかったみたいですね。勇者ちゃん一党も取り逃がしを防ぐために儀式の妨害はしないようです。

 

「≪お父様(おどんさま)≫は目に見えぬほど小さき身体を持つお方! あらゆる生命と交わり、金属を取り込んだ御子を授けてくださる偉大なる神!! ≪お父様(おどんさま)≫の下に全ての生命は平等となり、真の静寂なる世界を迎えることが出来るのだ!!!」

 

 男が高らかに叫んだと思えば、周囲の壁が崩れ去り無数のゴーレムが現れました。男の後ろに立つ一際大きなゴーレムが降り注ぐ何かを浴びるようなポーズをとると、そのボディが有機的に変貌していきます!

 

 もしかして:グレズ

 

 ボディの変貌は周囲のゴーレムへも伝播し、金属の骨格に肉を纏わりつかせ、鋼の鎧を着させたような異形の巨人が次々に生み出されていきます。一体一体が上位魔神、いえ魔神将に匹敵する力を秘めているのは間違いありません!

 

 「さぁ≪お父様(おどんさま)≫、あの忌々しい勇者たちを叩き伏せ、どうぞ御身の子を孕む苗床としてご利用くださいませ!」

 

 男の声に呼応するように巨腕を振り上げる一際大きな巨人。そして……。

 

 ぷちゅ

 

「男は不要というわけですか。まるで盛りのついた猿なのです」

 

 男を潰して満足したのか、巨人……いや、巨神は咆哮を上げると勇者ちゃんたちのほうへ視線を向けてきました。周囲にいる巨人たちも獲物を見定めるように包囲してきます。

 

「qawsedrftgyhujikol!!」

 

 巨神が人類には理解できない言語で何かを言い放つと、うへぇ、装甲の下から無数の触手が現れました。男の言葉から類推すると、あれ全部生殖器官なんだろうなぁ……。

 流石の勇者ちゃんたちも引き攣った顔をしてますねぇ。百合推しの吸血鬼侍ちゃんとしては敗北触手プレイなぞ認めるわけにはいきません! 

 

 ≪血族の誇り(エヴェリン)≫に血を装填、弾丸を生成し巨神へと放つ吸血鬼侍ちゃん。装甲を避け着弾したそれは、剥き出しの肉塊に大きな傷を生み出します。あれ? なんか思っていた以上に威力出てるんですけど賢者ちゃん。

 

「あの邪神はあらゆる()()()と交配し、自らの因子を受け継ぐ子を生み出す異形。つまり()()()()()()()吸血鬼の血はアレにとって致死の毒に等しいのです」

 

 地面に大型の(パイル)を模した礼装を打ち込み、邪神が逃げられないように空間を固定している賢者ちゃんが教えてくれました。だから吸血鬼侍ちゃんを拉致する必要があったんですね! 

 

「今、奴とその眷属が依り代としているのは()()()姿()。つまりその大剣が最も効果を発揮する相手というわけだ」

 

 賢者ちゃんの術式を邪魔しようと、無数に押し寄せてくる触手の群れを薙ぎ払いながら吸血鬼侍ちゃんに告げる剣聖さん。それ本当にただの鋼鉄の剣(はがねのつるぎ)なんですか?

 

「そしてボクの剣とそのメダル! ふたつの太陽が合わされば、その輝きは2倍以上!!」

 

 おお、ちょっとボイルドエッグ理論っぽいですが、なんとなくわかりました! このメダルは互いの力を高め合う増幅器の役割があったんですね。え、それだけじゃない?

 

「そのメダルには、キミのことを信じてくれる人たちの想いが込められている! キミがキミらしく生きていくための、大切な人たちの想いが!」

 

 ふぁ~!! 勇者ちゃんが言葉を発する度に吸血鬼侍ちゃんのぱわーがどんどん高まっていってます! これが勇者ちゃんムーブ(フレアの投げ合い)……!!

 

 

 

 

 迫りくる巨人を一太刀で光に還しながら、最奥の巨神目指して突き進む勇者ちゃん。吸血鬼侍ちゃんもその後を追いかけています。肩に担いだ大剣を振り下ろせば嵐の一撃が巨人を薙ぎ払い、長銃から放たれる赤い銃弾は穿った巨人を爆散させていきます。そのまま呼吸を合わせ、巨神の胸元へ十文字を描くように斬りつけます!

 

ギイィィィン!!

 

「うわ、硬ぁ!?」

 

 周囲の巨人の装甲が勇者ちゃんの剣の前に無力だったのを見たからでしょう、巨神は装甲をも自らの肉体で侵蝕し、外骨格のように再生成したようです。

 

「くっ、こうも圧し潰すように攻められると厄介だな……ッ!」

 

 後方では触手で攻めあぐねていた巨人たちが、その体躯で圧し潰すように次々に2人に跳びかかっています。あまり余裕は無さそうですね……。どうやら吸血鬼侍ちゃんの役割(ロール)を果たす瞬間が来たようです。勇者ちゃん勇者ちゃん、今から邪神(アレ)の動きを封じるので、大技の準備をお願いしてもいい?

 

「え、でも……ううん、わかった! 信じてるからね!!」

 

 ああ^~勇者ちゃんの応援でぱわー(フレア)がどんどん溜まるんじゃ^~。一度後方へ下がって(エンゲージを離脱して)大技の発動準備に入った勇者ちゃん。入れ替わりに巨神へと突撃する吸血鬼侍ちゃんを迎撃しようと、錬金術師を叩き潰した巨腕を振り下ろす巨神。まだ早い、もうちょい……いま!

 

 ガァン!!

 

「qawsedrftgyhujikol!?!?」 

 

 攻撃モーションを≪血族の誇り(エヴェリン)≫による銃パリィで潰され膝立ちになる巨神。その下がってきた胸元、先ほど十字の傷を入れた場所目掛けて吸血鬼侍ちゃんは飛び上がります。

 

 空中で前後反転し、自らの腹部から≪巨人殺し(ストームルーラー)≫を突き込み、貫通させた背中越しに巨神の傷跡へ一撃を叩き込む吸血鬼侍ちゃん。大剣越しに流れる血が巨神に触れると、みるみるうちに傷口が膨れ上がり連鎖的に巨神の表面が破裂していきます!

 

 体表をズタズタにされ悶える巨神と、その胸に自ら磔になった形の吸血鬼侍ちゃん。両者の目に映るのは、太陽の輝きを秘めた剣を振りかぶる勇者ちゃんの姿です。

 

 今だ、≪(ぼく)ごとやれ!≫

 

 吸血鬼侍ちゃんの言葉に頷きを返すと、勇者ちゃんはその力を開放しました。

 

「日輪の力を借りて、今、必殺の、

   サン・ブレェェェェェェェェェェェェェェド!!」

 

 振り下ろされた剣から発せられた陽光の一撃は、巨神の身体を崩壊させていきます。

 光が収まった後には、見る影もなくボロボロになった巨神の姿。なんとか耐えきったと思ったのでしょう、内部組織が露出した醜悪な顔を笑みに似た形に歪ませています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、トドメはこれからなんですが。

 

「超勇者ぁぁぁ! クラァァァァァァァァッシュ!!」

 

 天高く飛び上がった勇者ちゃん、空中で回転してからポーズを決め、一直線に巨神へと落下していきます。ダメージが蓄積して動くこともままならない巨神はその雄姿をただ見上げるばかり。

 頭頂部に着弾した勇者ちゃんの蹴りは、その勢いを殺すことなく巨神の身体を貫通し、地面を砕きながら着地します。

 

「成敗!!」

 

 着地ポーズを決めた背後で爆散する巨神。その撃破と同時に動きを止めていく巨人の軍勢。

 

 これにて最終決戦の場(クライマックスフェイズ)は終了です!

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、ゆっくりGM。こっちボス戦終わったんで、吸血鬼侍ちゃん地下水道の応援に卓移動しますね?

 

 




禁域の森で迷子になったので失踪します。

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セッションその4ー3

クリスマスプレゼントが枕元に無かったので初投稿です。


 前回、勇者ちゃんの必殺技が決まったところから再開です。

 

 邪教の祭壇は見事に崩れ去り、瓦礫の海と化しています。あ、巨神の残骸の下から吸血鬼侍ちゃんが出てきました。ケホケホむせていますが、ダメージは無いようですね。覚醒したのかな?

 

 あれ、首から下げている太陽のメダルが光り輝いています。もしかしたら勇者ちゃんの一撃に対して、このメダルが同じ太陽属性の攻撃を吸収してくれたのかもしれませんね。

 

 なにはともあれ邪神は消し飛んだようですので、今回のミッションは終了でしょう。賢者ちゃんも打ち込んでいた礼装を四次元ポシェットにしまい、瓦礫の中で唯一形を残している姿()()()を調べています。

 

 ……姿()()()

 

 あ、もしかしてこれ邪神教団の移動用のものでは? 街から距離のあるこの遺跡と地下水道の礼拝堂を人目に付かず行き来するにはもってこいの代物でしょう。賢者ちゃん、これと同じものって他にも見たことあります?

 

「先の異界の中で、これと同じ鏡を用いて悪夢の世界を自在に転移する魔術師がいたのです」

 

 なぜか頭に檻を被っていた変態だったのです、と思い出して顔を顰めている賢者ちゃん。

 ヽ且ノ<Ooh! Majestic! って叫ぶ変態だったんだろうなぁ……。その鏡はどうしたんです? 調査のために全部ひっぺがして回収した? これも全部四次元ポシェットシステムの応用なのかなぁ……。

 

 ボスも倒したことですし、この場の処理は勇者ちゃん一党にお任せしてそろそろお暇しましょうか。そういえば地下水道の探索は何処まで進んでますかね? ちょっと分身ちゃんに確認してみましょう。

 

 もしもし分身ちゃん? こちら本体です。みんな今どのあたり探索してます? そろそろゴブリンの痕跡でも見つけました? え、今名前を言ってはいけないあの怪物を仕留めたところ? ちょっと早回し過ぎない???

 

 分身ちゃんに確認したところ、地図の出来がなまじ良かった為に余計な回り道をせずに礼拝堂まで辿り着いてしまったそうです。玄室の遺体に見せかけた罠は生命反応が無かったために分身ちゃんが気付いて引っ掛からず、外から起動させて一党は潜伏。罠に掛かった獲物を嬲りに来た小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)を逆包囲して殲滅したとのこと。ちょっと殺意高い……高くない?

 

 ん、でもどうやって粉塵爆発無しで()()を倒したの? 魔法は通りにくいし近付くのは一苦労だし……竜牙兵を大量に召喚してターゲットを散らした状態で特攻とか?

 

 

 

 

 

 

 

 ……地下墓地(カタコンベ)幽鬼(レイス)に協力してもらった!?

 

 

 ゴブリンやら邪神教団やらに安らかなる眠りを妨げられて激おこの英霊たちに声をかけ、静寂を取り戻すことと引き換えに不死召喚に応じてもらい、吸精や≪力矢≫や≪火球≫でハメ殺したと。効果的だとは思いますけど、分身ちゃんの発想がマンチキンのそれなんだよなぁ……。

 

 女神官ちゃんは微妙な顔をしていたようですが、アレを干からびさせた後、サムズアップして消えていく英霊の姿を見たら何も言わなかったそうです。多分それ何も言えなかっただけじゃないかなぁ……。

 

 おや、お互いの状況を話し合っていたら向こう(分身ちゃん)側がなにやら騒がしいですね。妖精弓手ちゃん曰く、ものすごい数の足音が近づいてくるそうです。

 あ、最短ルートを最小エンカウントでクリアしたってことは、もしかしてゴブリンの数がまったく減ってない……? ちょっと拙いですね。本来は数日かけて減らした状態でも一党が追い詰められる数が残っていました。小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)は倒してあっても田舎者(ホブ)呪術師(シャーマン)は残っているでしょうし、分身ちゃん含め3人が追加でいるとはいえ、一日探索し続けて消耗した一党では本来よりも多いゴブリンの対処は難しいかも……。

 

 そうだ! 賢者ちゃん、ちょっとその鏡で地下水道への転移(ゲート)を繋げてもらえません? かくかくしかじかで、仲間がピンチなんです!

 

「上手くいくかはわかりませんが、やってみるのです」

 

 姿見鏡に手を添え調整を始めた賢者ちゃん。いくつもの場景が鏡面に移り、変化していきます。荒れ果てた荒野で回転櫓をひたすら回すゴブリンの群れ。異常極まりない非ユークリッド幾何学的な外形を持つ多くの建造物に溢れた都。机に向かい筆を走らせる、全身を真っ赤なスーツで覆い、2本の刀を背負った覆面の男。……あ、ストップ! 賢者ちゃんちょっと戻して!

 見つけました! 姿見鏡には半べそになって弓を構えている妖精弓手ちゃんが映っています。どうやら既にゴブリンの攻勢が始まっているみたいですね。

 

「ボクたちも手伝ったほうがいい?」

 

 んー、人死にが出そうになったらお願いします。あくまでもこれは吸血鬼侍ちゃんと彼らの冒険ですし、このくらいのピンチを乗り越えられないようじゃいずれどこかで壁に当たってしまうでしょうから。あとゆっくりGMがこれ以上人数が増えると捌ききれないって顔してるので。

 

 それじゃちょっと行ってきます!

 

 騎兵隊の到着だ!って感じで転移の鏡から現れた吸血鬼侍ちゃん。ゴブリンを投擲しようとしていた田舎者(ホブ)の脳天に赤い銃弾を撃ち込みながら祭壇の前に着地しました。

 突然現れた吸血鬼侍ちゃんに驚いたのか、一瞬ゴブリンの攻勢も止まりましたね。その瞬間に投石紐や弓でゴブリンを仕留めるあたり熟練の冒険者の集まりですね。

 

「ちょっと、分身ちゃんだけ置いて今まで何処ほっつき歩いてたのよ!? っていうかなんで鏡の中から!?」

 

 瓦礫の投擲でゴブリンの頭蓋をたたき割りながら詰問してくる女魔法使いちゃん。いやぁ、ちょっと世界の危機を救ってまして。嘘じゃないってば、とらすとみー。え、ゴブスレさん、余力はあるのかって? ≪分身≫1発以外は呪文回数残してますし、体力も十分ですよー。

 牧場防衛の時のアレ(≪苦悶の触手≫)は使えるかって? この空間だと味方を巻き込むのでちょっと……。あ、でも物理で押し切れるので大丈夫です。

 そうだ、分身ちゃんもう1本村正(コレ)使っていいよー。本体(こっち)は借り物の装備があるので。

 

 阻塞から飛び出し、空中で分身ちゃんとスイッチしつつ腰の村正を引き抜いて持って行ってもらいます。特殊部隊(コマンドー)仕様の本体とドヤ顔ダブル村正の分身ちゃんの機動力にものを言わせ、外周からゴブリンを削り取っていきましょう。地を滑るような構えから二刀で群れの中を駆け抜けつつ首を落としていく分身ちゃん。振りぬく大剣から真空の刃を飛ばして道を拓きつつ、何故か連射できるマスケットを呪術師(シャーマン)にぶっぱなす吸血鬼侍ちゃん。どっちも葦名の地にいそうですね(こなみ)。群れを突破したら反転し、他の皆との挟撃体勢に入ります。

 

 数こそ多いものの、やっぱり統率する小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)がいなければ烏合の衆でしかありませんね。ゴブリンの足並みが乱れたことで、阻塞内側からの遠距離攻撃に徹している一党の顔色も明るくなってきました。あ、森人狩人さんステイ! 盤面有利だからって阻塞から出ちゃダメ!! いのちだいじにを徹底して弓を使っててください。

 

 半数を殲滅したところで士気が崩壊したのか、ゴブリンが散り散りに逃げようとしています。礼拝堂から伸びる逃走経路の数は、ひーふーみー……7本かな? それなら……おーい女神官ちゃん。奇跡ってまだ使える? あと2回? そしたら一番近くの通路を≪聖壁≫で封鎖してもらってもいい? うん、()()()()()()()()()()()()()

 

「「≪ラピス()≫……≪ファキオ(生成)≫……≪モエニウム(城壁)≫」」

 

 吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが呪文を唱えると、ゴブリンたちが向かっていた通路を塞ぐように石壁が立ちはだかります! 苛立ちを隠せず壁を殴るゴブリンもいますが、粗末なナイフ程度ではびくともしませんね。目敏いゴブリンは違う通路へ我先に走り出していますが、残念ながらそちらも通れませんよ?

 

「「「GOBGOBGOB!?」」」

 

 先んじて生み出されたものとほぼ同じタイミングで生成される石壁。吸血鬼の特殊能力である高速詠唱によるものですね。都合4枚の石壁と1枚の聖壁で塞がれた通路は5本。そして、残された2本通路の前には吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが仁王立ち。悲壮感に溢れた表情で振り返った先にはゴブリンを殺すことに特化した冒険者たちの姿が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ざんねん!! きみたちの ぼうけんは これで おわってしまった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、逃げ道を失い、ヤバレカバレで突撃してきたゴブリンは鏖殺完了です。

 吸血鬼侍ちゃんが天井を見上げれば、先ほど名前を言ってはいけないあの怪物をハメ殺した英霊さんたちがグッジョブ!と言わんばかりのサムズアップをしていらっしゃいます。見てたのならもう一度手を貸してくれても良かったのに……。え、女神官ちゃんが困った顔になるのは嫌? じゃあしょうがないですね。

 

 分身ちゃんも含め、流石にみんな疲労困憊なご様子。いつもは涼しい顔をしている森人狩人さんもしゃがみこんでますし、あのゴブスレさんも瓦礫に身を預けて肩で呼吸をしている状態です。あ、妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)、ぱんつはいてないんだからそんな脚広げて仰向けに寝っ転がるんじゃありません!

 

「み、皆さん気を付けてください! 鏡の様子が……!」

 

 みんなに≪小癒≫と≪賦活≫を残った奇跡の回数を使い切る勢いでかけていたら、女神官ちゃんの注意を促す声が。おや、転移の鏡の表面が波立ち、中から人影が近づいてきますね。あ、あの猫耳シルエットは……。

 

「どうやら皆さんご無事のようで。鏡も無傷で確保できて良かったのです」

 

 武器を構えて警戒する一党を眺め、両手を挙げて敵意が無いことをアピールする闖入者。あ、この人は敵じゃないんで大丈夫ですよ。勇者ちゃん一党の頭脳派こと賢者ちゃんです。さっきまで一緒に邪神教団の残党を潰してたんですが、そっちの遺跡にも同じような鏡があって、賢者ちゃんに此処までのルートを繋いでもらったんです。

 

「え、じゃあちっこいのがさっき言ってた、世界の危機を救ってたって冗談じゃなかったの?」

 

 おう、もし負けてたらあらゆる生命体の雌絶対孕ませる邪神が野に放たれるとこだったんやぞ同志耳長ちっこいの。ゴブリンに孕まされるか邪神に孕まされるか好きなほうを選びたまえよ。

 

 賢者ちゃんから邪神教団の潜伏場所であった冒険について話してもらい、サボってたわけじゃないことは信じてもらえました。あ、忘れないうちに借りてた装備返しますね。え、メダルはそのまま持ってていい? そもそもそのメダルに攻撃吸収の効果なんてないし、鑑定してもただのメダルなのは間違いない? じゃああの時吸血鬼侍ちゃんが生き残った理由って……。

 

 ま、まぁ過ぎたことは気にしないことにしましょう。それで賢者ちゃんはどうしてこっちに? ああこの鏡も回収するんですか。でもどうやっ……え、それも四次元ポシェットに入るの!? そんな大きいの入れたら裂けちゃわないんですか!? うわぁほんとに全部入っちゃった……。

 

 目の前で起きた超常現象に、一同目が点になってます。呆然としたままの一党、賢者ちゃんから鏡の分の報酬は王国から支払われると告げられ、ようやく再起動し始めました。

 

 ふむ、賢者ちゃん賢者ちゃん。ちょっと相談があるんですが。ごにょごにょ……。

 

「えぇ……? まぁ、今後も付き合ってもらえるのなら利点は多いですし、陛下に掛け合ってみるのです。あまり期待はしないで欲しいのです」

 

 無理言って申し訳ないけど、なんとかお願いします。やっぱり心配なので。

 

「まったく、そういうとこなのですよ。精々後ろから銀のナイフで刺されないよう注意するのです」

 

 まぁ、刺されても死ななければ問題ないですから。そういえば鏡しまっちゃいましたけど、勇者ちゃんたちとどうやって合流するんです? ああ、明日水の街(こっち)に戻ってくるからそれから王都に帰るんですか。ついでに剣の乙女にも話しておきたいから地上まで案内してほしい? たしかにそろそろいい時間ですし、みんな疲れてますから戻りましょうか。本体はまだまだ元気なので、周囲の警戒は引き受けますね。分身ちゃんも一度帰して改めて呼び直しておきましょう。

 

 帰るまでが冒険です。せっかくここまで脱落者無しでやってきたんですから、最後まで気を抜かず全員無事に帰りましょう!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 




あんこう鍋を仕込んだので失踪します。

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セッションその4 りざると

あんこう鍋がおいしかったので初投稿です。


 前回、至高神の神殿へ戻るところから再開です。

 

 帰り道も勿論地下水道を通るのですが、ああ成程、こんな風になるんですね……。

 礼拝堂を出る際には張り切っていた吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんですが、水路が見えた瞬間に豹変。生まれたての小鹿のように膝がガクガクになり、しまいには分身ちゃんは森人狩人さんの背中にエスケープ、本体も女魔法使いちゃんにしがみついちゃってます。周りの生暖かい視線を見る限り、往路もこんな感じだったんだろうなぁ……。

 こんなんでどうやって地下水道の掃除をしてたんでしょうか。分身ちゃん知ってます? え、定期的にお供え物を持参して英霊の皆さんに協力してもらってた? そっかーだからあんなにフレンドリーだったのかー(思考放棄)。

 

「「「GOBBBB!?!?」」」

 

 おや、進行方向からゴブリンの悲鳴と肉が固いものに叩きつけられる音が。一党は全員ここにいますし、誰かが地下水道に入ってきたんでしょうか。こっそり近づいて確認……しようと思いましたが2人とも動いてくれませんね。妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)お願いしまーす。

 

「うわ、あの白沼竜が尻尾でゴブリンを薙ぎ払ってるじゃない。どんだけ強いのよアイツ」

 

 ああ、剣の乙女の使徒(ファミリア)ちゃんでしたか。帰り道を掃除してくれてたのでしょう、えらいぞー。よーし撫でてあげましょう。おつかれー。え、噛みつかないのかって? 頭の良い子だから大丈夫ですよ。ほら、こんな風に頭を口の中に差し出したって(パクッ)あれ、急に暗くなって、しかもなんかヌメヌメするものが顔中を舐めまわしてる気が。

 

「ちょっ、なに頭から食べられてるのよアンタ!?」

 

 外から女魔法使いちゃんの慌てる声が聞こえてきますが、これもじゃれついてるってやつだからヘーキヘーキ(MTGRU並感)

 暫くしゃぶったら満足したのか、吸血鬼侍ちゃんを開放して水中へ帰っていきました。舐めたり吸ったりは吸血鬼侍ちゃんもするから構わないけど、ブレスケアはちゃんとしようね! 口の中ゴブリンの血臭で凄いことになってるから。

 

 

 

 

 裏庭の井戸から全員が抜け出した頃には、日もすっかり落ちて辺りは真っ暗でした。丁度警備の巡回をしていたのでしょう、松明を掲げた神殿付きの騎士が一党に気付き誰何の声を上げますが、特徴的な一党の姿を見ると無事の帰還を喜びつつ表入口へと案内してくれました。何故か2人に増えている吸血鬼侍ちゃんや明らかに最初はいなかった賢者ちゃんに若干引き気味ですが、こっちは気にしないでええんやで?

 

 取次の侍祭さんに案内が引き継がれ、剣の乙女の所へ通される一党。代表であるゴブスレさんから依頼の達成について報告がされ、これにて依頼完了です!

 みんなだいぶ草臥れた格好になってますので、お風呂と食事の用意をしてくれるそうです。賢者ちゃんは向こうの遺跡の件も伝えたいというので少し居残りですが、他の面々はさっぱりしに行きましょうか!

 

 「おかえりなさいませ皆様。お風呂の準備が整いましたのでご案内いたします」

 

 待合室で時間を潰す事しばし、お留守番をしていた森人少女ちゃんがお風呂の準備ができたことを教えてくれました。食事も温かいものを用意してくれるそうなので、その前にお風呂を済ませてしまおうということですね。しかもお風呂は貸し切りですか! 時間も遅いですし、あまり肌を見せたくない人もいますからね、ありがたい配慮だなぁ。あ、森人少女ちゃんも一緒に入る? たぶん蒸し風呂(サウナ)は初めてだよね? 身体が温まって気持ちいいよー。

 

 

 

「いや~、ちっこいのは冷やっこくて気持ちいいわねぇ~」

 

 おう、それじゃサウナにならないんだよ妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)。湯煙で満たされた浴場に気の抜けた声が響いています。香油の芳香を楽しんでいる女神官ちゃんに備え付けの白樺の枝でマッサージをしている女魔法使いちゃん。森人少女ちゃんはうつらうつらしてる分身ちゃんの頭を膝にのせて小さく鼻歌を歌っています。最初は私はパスでーなんて言ってた妖精弓手ちゃんですが、ここで森人狩人さんがまさかの煽り芸を披露。

 

「おやおやおや? 冒険者は冒険を貴ぶべしと常日頃から仰っている妹姫(いもひめ)様が、まさか蒸し風呂(サウナ)という未開の地に挑戦されないとは……」

 

 キレの良い挑発に乗ってしまった妖精弓手ちゃん。最初はこんなところ入っていられないだの寿命が縮むだの言ってましたが、体温がひんやりで一定の吸血鬼侍ちゃんに目を付けタッチダウン。サウナに入りながら保冷枕を抱き締めるという暴挙を現在進行形です。というか吸血鬼侍ちゃん冷血の恒温動物に近かったんですね。てっきりアンデッドは外気に体温が左右されると思ってたんですが。

 

 しかし、こうやって集まってみるとスタイルの違いが良くわかりますねぇ。森人の3人は手足の長さが只人とは違いますし、元が圃人である吸血鬼侍ちゃんはそれを考慮してもちんちくりんなのが哀愁を誘います。お山は女魔法使いちゃんと森人狩人さんが2トップで、超えられない壁を挟んで女神官ちゃん、森人少女ちゃん、妖精弓手ちゃん、吸血鬼侍ちゃんの順番でしょうか。

 

「なるほど、ここが噂に聞く法の神殿の大浴場なのですか」

「ええ、利用される方からは好評をいただいてますわ」

 

 ここで新たな挑戦者たちの入場です! 先に姿を現したのは勇者ちゃん一党の頭脳担当こと賢者ちゃん。小柄な体格で強調されたそれは実寸よりも大きな破壊力です。あ、同じくらいの身長な女神官ちゃんの目からハイライトが消えました!

 

 続いて入ってきたのは……デカァァァァァいッ説明不要!! 

 もちろん剣の乙女です。圧倒的なサイズと、どの選手よりも女性としての艶に溢れた佇まいには森人狩人さんも苦笑、女魔法使いちゃんも開いた口が塞がらなくなってます。椅子に座り一息ついただけで場を支配するプレッシャーは同性でも逃げることはできません。

 あ、妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)の意識がAFKしてるので、今のうちに拘束から抜けて剣の乙女のところへ行きましょうか。おつかれー。

 

「ええ、お疲れさまでした。皆様からの情報は精査の上冒険者ギルドへ渡されます。小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)や異形の存在が確認された以上、残敵掃討作戦がギルド主導で行われることになるでしょう」

 

 本当にありがとうございますとこの場にいる冒険者一同に頭を下げる剣の乙女。女神官ちゃんがあわあわしてしまい、それを見て笑う他の冒険者たち。

 ジト目で一同を睨みつける女神官ちゃん。おや、森人狩人さんに目を向けたところで表情が固まってしまいました。

 

「ん? ああ体中の傷跡(コレのこと)かな? お察しの通りゴブリンの玩具だった時にできたものだよ」

 

 いやぁ痛かったと苦笑を交えて話す森人狩人さん。思わず視線を逸らしてしまった女神官ちゃん。その先には森人少女ちゃんの肢体が。あっ(察し)。

 

(わたくし)も、あの悪夢から救い出していただいた時には、今こうして五体満足な生活が送れるとは想像できませんでした」

 

 身体の傷も心の傷も、(あるじ)さまに癒していただきましたから、と幸せそうに呟く森人少女ちゃん。2人とも、女神官ちゃんにプレッシャーをかけるのはやめてクレメンス……。

 

 

 

「その、おふたりはこの子と行動を共にされているのですよね?」

 

 隣に座っていた吸血鬼侍ちゃんを抱き上げ、その豊満な肢体の上に乗せて抱き締める剣の乙女。吸血鬼侍ちゃんの小さな身体では隠し切れない艶やかな肢体には、温められて浮かび上がる無数の傷跡。森人少女ちゃんと同じ、いやそれ以上に刻まれた模様を見て、女神官ちゃんが泣きそうな顔をしています。

 

「こわくないのですか? ゴブリンに対峙することが。あの悍ましい視線を浴びることが」

 

 むせかえるような熱気が充満しているにも関わらず、寒さに凍えるように身体を震わせる剣の乙女。痛いほどに抱き締められて吸血鬼侍ちゃんも身動きが取れなくなってますね。

 

「こわいさ。だからご主人様の傍で戦っている。もう二度と恐怖に屈しないようにね」

「とてもこわいです。だから主さまが戦えるようお手伝いをさせていただいております」

 

 うわぁい。嬉しいけど2人とも覚悟ガンギマリですねクォレハ……。どうしてこんなになるまで放っておいたんだ吸血鬼侍ちゃん!

 

「私はおふたりが羨ましい。この子に救われ、苦楽を共にし、互いの生きる支えとなっている貴女がたが。そしておなじくらい妬ましいのです。この子に愛され、血を以て結ばれ、この子の手を取って日の当たる場所を歩く貴女がたが。そして何よりも……。10年以上傍にいながら、沢山の望みを叶えてもらいながら、本当に望んでいることを伝えられなかった自分が情けなくて……ッ!」

 

 あーもうめちゃくちゃだよ。スイッチが入っちゃったのか、わんわん泣きながら今回の依頼の裏事情を自ら暴露していく剣の乙女。あまりの勢いに魂がAFKしていた妖精弓手ちゃんも再起動しています。どうしてこんなになるまで放っておいたんだという目でこっちを見てくる賢者ちゃん。

 想像以上に吸血鬼侍ちゃんへの依存度が高かった剣の乙女。10年間の同棲生活とその後の突然の別居は、彼女の精神に大きな負担を与えていたんですね……。

 

 

 

 

 

 

「……言いたいことはそれだけですか?」

 

 

 

 

 ヒエッ。今まで沈黙を保ってきた女魔法使いちゃんが、今まで見たことがないほどおっかない表情でこっちに近付いてきました! その言葉の重みに反応して、剣の乙女も女魔法使いちゃんに顔を向けています。あ、分身ちゃんなに逃げようとしてるの!? 置いてかないでよ!? あ、妖精弓手ちゃんに捕獲されました。そのまま逃がさないでねー。

 

「一応、今の一党の面子では私が一番最初にコイツに救われたのよ。ほんのちょっと遅ければゴブリンの毒ナイフで死んでたんだから」

 

 表面上は淡々と話しながら吸血鬼侍ちゃんのほっぺたを引っ張っている女魔法使いちゃん。ちょっと引っ張る力が強いんですけど?

 

「その後コイツの正体に気付いて、ばらさないでくれって懇願されて、一党を組むことになって」

 

 引っ張って赤くなった頬を撫ぜるように手を這わせる女魔法使いちゃん。死んでるから当たり前だけど、夜寝てるんじゃなくて力を温存するために活動を停止してるって気付いたときは、どうお仕置きしようか悩んだと言葉を続けています。

 

「罠なんか気にしないで義姉さん(森人狩人)を助けたり、ほとんど吸血しないで我慢したまま依頼をこなし続けたり」

 

 頬から手を離し、赤くなったところへ舌を這わす女魔法使いちゃん。両手で見ないように顔を覆っているようだけど、指の隙間からガン見してるよね女神官ちゃん?

 

「牧場防衛の時にあんな大規模な魔法を使って、やっぱり人間とは違うんだって思った時もあったけど、その後義妹(森人少女)にキレてた姿を見て、結局コイツはコイツでしかないんだなって気付いたわ」

 

 痛っ。吸血鬼侍ちゃんの首筋に顔を近付けたと思ったら、吸血するように歯を立ててきましたよ!? いくら裸でも女魔法使いちゃんじゃ吸血鬼侍ちゃんの装甲値抜けないってば!

 

「私たち3人は皆コイツによって救われた。そして血を提供する代わりに未知なる知識を、復讐の力を、生きる意味をもらってるわ。だからこそ私たちはコイツの所有物(パーティ)だし、コイツは私たちの家族(リーダー)なの」

 

 しっかりと歯型を付けて満足したのか、ようやく口を離してくれました。そのまま手を剣の乙女の顎に添え、顔を自分に向けさせています。

 

「貴女にとってコイツはなに? 願いを叶えるランプの魔神? 怪物を効率よく殺す魔剣? それとも不幸な自分を慰めるための玩具かしら。もしそうだとしたら、貴女にコイツは渡さない。今すぐ返してもらうわ」

 

 あとほんの少しで口付けができてしまいそうな距離まで顔を寄せながら啖呵を切る女魔法使いちゃん。惚れ惚れするほど男らしいんですけど、剣の乙女のお山とサンドイッチされて吸血鬼侍ちゃん潰れてるんですがそれは。あとそっちの俎板コンビ、修羅場ってるわーとか言わないの!

 

「……やだ、もうひとりはいやです。夜がくるたび思い出して、話を聞くだけで身体が震えて。そんな時に、この子はずっと傍にいてくれました。この子がいてくれたから、私は【剣の乙女】でいることができました。10年間、混沌の勢力と対峙することができました」

 

 言葉を紡ぐのに比例して、吸血鬼侍ちゃんをハグする力が増していきます。そろそろ中身出ちゃいそうなんですが、逃げ出しちゃ……ダメですよねぇ。

 

「私もこの子といっしょにいたいです。この子がいない世界なんて、生きる意味がありません」

 

 やったね吸血鬼侍ちゃんモテモテじゃないか(白目)

 しかもみんな揃って重量級だぞう。

 

「まったく、それをもうちょっと早くコイツに伝えてれば貴女の一人勝ちだったのに」

 

 ざまぁないわねぇと呟きながら、剣の乙女の告白を聞いて顎から手を離した女魔法使いちゃん。やれやれと頭を振りながらフラフラと下がって……って危な! 倒れかけたところを咄嗟に滑り込んだ賢者ちゃんが抱き留めてくれました。そのまま額や手首に手を当てて状態をみてますが、もしかして……。

 

「完全にのぼせてるのです。疲れている上にこんなところ(蒸し風呂の中)であれだけ気を昂らせていたら当然なのです」

 

 森人狩人さんに抱えられて浴場の外に運び出される女魔法使いちゃん。森人少女ちゃんは剣の乙女を支えながら浴場を後にし、分身ちゃんは妖精弓手ちゃんと女神官ちゃんの2人に囚われた宇宙人のように連行されていきました。

 

「相談の件ですが、私からも陛下に念押ししておくのです。彼女を含め、あなたの傍にいる女性は全員ヤバいのです」

 

 賢者ちゃんが吸血鬼侍ちゃんの肩を叩きながら請け負ってくれました。ここまでヘビー級が集まるなんて思わなかったんや。自業自得なのです? だって放っておけないじゃないですか……。

 

 

 

 

 

 ちょっと気まずい食事を終え、宿泊用に用意された部屋に戻ったらまさかの締め出し。なんで入れてくれないの森人狩人さん? え、ご主人様は剣の乙女のところに行け? 部屋の奥を覗けば食事に来なかった女魔法使いちゃんが頭から布団を被って悶えている様子が見えます。あ、自分が言ったことは覚えてたんですね。

 再び逃げ出そうとしていた分身ちゃんの首根っこを掴んで森人狩人さんに投げ渡したら、剣の乙女の部屋へ向かいましょう。

 

 勝手知ったる神殿の中、誰にもすれ違うことなく剣の乙女の部屋まで辿り着きました。

 さぁ吸血鬼侍ちゃん。勇気を出してノックしたまえ! お邪魔するわよー。

 

 部屋の中には目元を覆う布を解き、焦点の合わぬ瞳を曝け出す剣の乙女。普段の神官衣より露出は少ないものの、扇情的なプロポーションを余すことなく見せつけるナイトウェア姿でベッドに腰かけていました。

 

 立ち上がろうとする剣の乙女を制し、そのままベッドにそっと押し倒す吸血鬼侍ちゃん。語り合う時間は十分にあります。一晩かけてじっくりOHANASIしてあげてください……。

 

 

 

 

 

 はい、水の街の依頼を終わらせてから一週間が経過しました! え、あの後の夜会話とか女魔法使いちゃんたちへのフォローの様子はどうしたんだって? 必要な分は見せたということだ、これ以上は見せぬ(KGJUMI)ってやつです。

 辺境の街周辺では再びゴブリンの数が増えだしたのか、ゴブスレさん一党と分担して依頼をこなす毎日です。他の冒険者が手を抜いていたわけではないので、おそらく次のイベントフラグを立てるためにGMからテコ入れが入ったんだと思います。

 

 今日も二件ほど依頼を終え、昼過ぎにギルドへ帰ってきた吸血鬼侍ちゃん一党。そろそろシフト上がりの森人少女ちゃんを連れてお茶に行こうと思ったのですが、姿が見えません。すいません受付嬢さん、森人少女ちゃんどこ行ったか知りませんか? ギルドに吸血鬼侍ちゃん一党へのお客さんが来たから、きりの良いところで早上がりして家で待ってる? ご迷惑おかけしてすいません。あ、ついでにコレ(報告書)置いていきますんで、詳細は明日改めてということで。

 

 

 

 

 でも一党にお客さん……誰でしょう? 森人少女ちゃんが家に入れたということは顔見知りでしょうが、予想がつかないですね……。まぁ会えばわかりますか。たーだいまー!

 

「おかえりなさいませ主さま。お客様がお見えになりましたので、応接間でお待ちいただいております」

 

 ありがとね森人少女ちゃん。家に上げたってことは知ってる人? 見ればわかる? ちょっとからかうような笑い方してる森人少女ちゃんかわいいなぁ。お待たせしましたー!

 

「あ、おかえりー! おやつもらってたんだ!」

「予想より遅かったのです。またゴブリンを狩ってたのですか?」

「Kauuuuu-paaa, kauuuuu-paaa(マスク越しの呼吸音)」

 

 バタン! ……ガチャ。

 Oh……。どうやら目の錯覚ではなかったようです。

 部屋の中にいたのは3人。緑の外衣に鎖帷子の女戦士にフクロウを模した外套に身を包んだ少女。それと全身を黒い甲冑で覆い、怪しげな仮面(マスク)を付けたふしんしゃさん。前2人も大概ですが、そこの3人目、それはあんまりにもあんまりでは? 女魔法使いちゃんはドン引きしてますし、意外と笑いの沸点が低い森人狩人さんは腹を抱えて笑ってますよ? 迂闊に顔が割れると混沌の勢力に察知されるから仕方がなかったっていっても、流石にその恰好はちょっと……。とりあえず仮面だけでも取ってくださいよ剣聖さん。

 

 はい、訪問者の正体は身分を隠した勇者ちゃん一党でした。賢者ちゃんとは面識があるので森人少女ちゃんが家に上げた理由はわかりましたが、よくそんな恰好の剣聖さん(暗黒卿)を迎え入れたね? ちゃんと家に上がる前に顔を見せてくれた? ならばヨシ! それで、みんながわざわざ家まで来てくれたってことはもしかして……。

 

「陛下から許可を得たので設置しにきたのです。()()()()()此処に来る前に設置済みなのです」

 

 場所は何処が良いのですか? と聞く賢者ちゃんに予め空けておいたスペースを提示し幅の確認をしてもらいます。余裕は大丈夫ですか? じゃあそこでお願いします。

 賢者ちゃんが四次元ポシェットをまさぐり取り出したのは1枚の姿見鏡。邪神教団の隠れ家にあったものでも、地下水道の礼拝堂にあった大型のものでもないということは、たぶん獣狩りの異界でヽ且ノ<Uaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!からガメてきたうちの1枚でしょうね。

 

 床面にしっかりと据え付け、賢者ちゃんが手を当てて操作すると、鏡面が波打つとともに映像が切り替わっていきます。暫く砂嵐のような映像が続いた後、映ったのはソワソワして書類仕事が手についていない剣の乙女の仕事風景でした。

 呆れた様子の賢者ちゃんが鏡をくぐり、向こう側の剣の乙女を叱りつけています。慣れた様子の勇者ちゃんと剣聖さんに対し、鏡を通り抜けるという常識外の現象を目撃した吸血鬼侍ちゃん以外の一党は混乱状態にあります。まぁ、そうなるな。

 

 

 

 賢者ちゃんに手を引っ張られながら、鏡を通り抜けて剣の乙女がこちら側にやってきました。いやぁこないだぶり。無事に許可が下りてよかったね。え、アンタ今度は何やらかしたのかって? ひどいな女魔法使いちゃん。王様にお願いして勇者ちゃん一党に呼び出されたときにすぐ連絡が取れるように≪転移≫の力が込められた鏡を置いてもらっただけだよ? 地下水道の邪神教団の置き土産の件もあるから、金等級冒険者である剣の乙女のところにも併せて設置してもらっただけで、別に他意はないんだよ?

 

 もうお分かりかと思いますが、先日賢者ちゃんにお願いしていたのは、王都や水の街の神殿といった拠点を結ぶ≪転移≫ネットワークに吸血鬼侍ちゃんを混ぜて欲しいというものでした。そのままでは金髪の王様に鼻で笑われて却下されていた筈ですが、実際に邪神召喚とゴブリン転移が密接にかかわっていた事実がある以上、即応性のある戦力を運用する必要性が高まってきたために賢者ちゃんのゴリ押しもあって許可が下りたというわけです。

 代価としてまた世界の危機(カオスフレア時空)に付き合わされる可能性が高くなりますが、その時は分身ちゃんに一党を任せて本体が赴くことになるでしょう。剣の乙女のメンタルケアが継続して行えるならそんな代償安い安い(白目)

 

「とりあえず、日々の業務に支障がでるようなら侍祭さんに報告させていただきますからね?」

 

 本来雲の上の存在である剣の乙女にお説教かましてしまった女魔法使いちゃん。弱腰な剣の乙女を見てため息をつきながら、賢者ちゃんから渡された使用マニュアルをヒラヒラさせています。もの凄い勢いで首を縦に振る剣の乙女。貴女そんな人でしたっけ? ああ、そんな人でしたね……。

 

「それじゃ、また力を貸してほしい時にくるから、その時はよろしくね!」

 

 手をブンブン降りながら≪転移≫の鏡を通り抜けていく勇者ちゃんとその後に続く2人。マニュアルを渡されてたけど使い方は大丈夫なの女魔法使いちゃん?

 

「今のところ、私が開けるのは水の神殿の通路(ルート)だけね。防犯の都合を考えたらそれでも問題だろうけど」

 

 まぁ王都からの呼び出しなら向こうが開いてくれますし、暫くはそれで十分でしょう。ほら剣の乙女さんもそんなとこに立ってないで座って座って。森人少女ちゃん、悪いけどもういっかいお茶の準備お願いしてもいかな? ……なんでそんなニヤニヤしてるんですか森人狩人さん? 重たい女ばかりでご主人様も大変だねって、その代表者がなに言ってるんですかコンチクショー!

 

 

 

 

 なんだか地雷原でタップダンスしているような気がしてなりませんが、きっと気のせいですそうに決まっています(必死の言い聞かせ)

 

 分身ちゃんも楽しそうに目の前の光景を眺めてますし、もうちょっとだけこの陽だまりのような幸せを楽しみましょうか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




おなかがいっぱいになったので失踪します。

お気に入り登録、誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
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お読みいただきありがとうございました。


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かのじょたちからみたはなし その1

ちょっと短編集みたいに書きたくなったので初投稿です。


1.女魔法使いからみたはなし                             

  

「んぅ……ふあぁ……」

 

 瞼越しに感じる日の光に刺激され、気怠げな声をあげながら目を覚ます女魔法使い。季節は夏となり、朝から気温は高く寝起きの身体は既にじっとりと濡れている。主に汗で。

 

 顔を動かすことなく目だけで左右を見回せば、大きな寝台に様々な種族の女が眠りの神(ヒュプノス)の腕に抱かれているいつもの光景。

 昨晩の吸血担当だった年上の義妹(森人少女)が、吸血鬼侍(一党の頭目)と互いを抱き締めるような体勢のまま寝息を立てている。たぶん吸血の最中に寝てしまったのだろう、噛み跡から一筋の血がシーツに向かって線を引いている。洗濯して落ちないようなら吸血鬼侍に≪浄化≫を使わせなければならない。

 

 頭の横に生えているしなやかな脚は、独創的な寝相を披露している義姉(森人狩人)のものだ。

 毎晩同じ方向に頭を揃えて寝ているのに、何故朝を迎えると艶やかな踵と挨拶するのだろうか?

 

 哲学的な思索に没入しかけていた彼女の耳に、微かに魘されているような声が入ってきた。

 義姉の脚をよけながら上半身を起こす。呻き声の主はすぐ傍にいた。

 

 ボタン留めの寝具を身に纏って寝ていた筈のもう一人の吸血鬼侍。前部ははだけ、平坦な身体が露わになっている。その突端に顔を埋め、ちうちうと音を立てている剣の乙女(クソ重女)の寝姿が目に毒だ。

 

 赤子が母に乳を求めるが如き絵面。不思議と淫靡さは感じさせない……いや、言葉を取り繕うのはよくない。正直ドン引きである。

 無垢な表情で行為を続ける剣の乙女(ペット)と対照的に、彼女の口が動くたびに顔を歪ませ口から不明瞭な音を垂れ流している吸血鬼侍(飼い主)。それでも目を覚まさない辺り訓練されてしまっているのだと女魔法使いは思う。

 

 引き剥がしてしまうべきか、それとも放置するか。しばし考えた後、今日の朝食当番が自分であったことを思い出す。日々ストレスと闘っているのだ、せめて朝食が出来上がるまでは好きにさせてやろう。そっと共同寝室(サバト会場)を抜け出し、彼女は台所へと向かった。

 

 

2.森人狩人からみたはなし                              

 

「DEMOMOMOMOMOMO……」

 

 もう……召喚()べません……と言っているであろう上位魔神(グレーターデーモン)の頭に雷光を纏った戦棍(トニトルス)を叩きつけ、森人狩人は魔神狩り(養殖作業)に終止符を打った。

 周囲には無数の魔神の残骸が散らばり、上の義妹(女魔法使い)魔力を帯びた討伐証(ドロップ品)をせっせと拾い集めている。この惨状を準備した吸血鬼侍(ご主人様)といえば、途中から観戦モードに入り、今は魔神召喚の供物(エサ)に使ったゴブリンの頭で自分の分身と蹴鞠を始める始末。

 

 ふぅ、と身体に籠った熱を逃がすように一息。だが胎の奥に燻るものは治まらず、むしろ燃え上がらんとしている。

 

 戦いの興奮に因るもの? 否、これはそんな単純なものではない。

 あぁ、森人狩人は気付く。これは吸血鬼侍の血に酔っているのだ。

 

 切っ掛けは些細なもの。偶々臭い消しが不足してしまい、さてどうしたものかという時に、吸血鬼侍が以前オルクボルグ(ゴブリンスレイヤー)にゴブリン汁塗れにされたことがあると話してくれたことだった。只人や森人の女の匂いは気付かれやすいため、臭い消しはゴブリン退治の必需品だ。

 だが、そこで上の義妹があることに気付いた。吸血鬼侍の血はアンデッド、それもとびきり強力なものだ。それを臭い消しの代わりにできないものか、と。

 

 最初は嫌がっていた吸血鬼侍だったが、森人狩人が臭い消し無しで巣に入ろうとすると必死に呼び止め、仕方がないとばかりに愛用の湾刀(村正)を手に突き立て、溢れ出る血を跪いた森人狩人の頭上から聖別するかのように注いだ。

 

 こうかはばつぐんだ! 僅か5フィート(1マス)まで接近してもゴブリンは気付くことなく、アンブッシュによってゴブリンは塗料へとクラスチェンジした。

 魔神召喚の前に滑るといけないからと≪浄化≫されてしまったが、まるで吸血鬼侍に包まれているような匂いと感触は、今でも脳裏に焼き付いている。

 

 上の義妹にも教えてあげよう。そして今夜は激しくなるな……!

 愛用の武器を収めつつ、森人狩人は抑えきれぬ猛りを肉食獣の笑みに換えて花の如きかんばせに浮かべるのだった……。 

 

 

3.森人少女からみたはなし                              

 

「その書類が終わったら、今日はもう上がっちゃっていいですよ!」

 

 教育担当(受付嬢)の声に返事をして、森人少女は書類の確認を行っていた。

 公文書の書式は森人のそれと大差無く、慣れてしまえば実家で処理していたそれと変わらぬ速度で仕上げられるようになった。

 間違いがないことを確認し、んーと背伸びをする。

 既に身に刻まれた傷は癒え、体力も随分と戻ってきた。皆に勧められて食べていた獣の肉も、最近は自分で料理できるまでになった。通常の食事の必要が無い吸血鬼侍(主さま)も、楽しみとして食事を共にしてくれるので手を抜くことは出来ない。

 冒険者は須く健啖家で、体型維持に気を遣っている下姉様(女魔法使い)も森人少女の倍近い量を平らげている。況や森人狩人をや。

 いっぱい食べてくれるのは嬉しいが、自分よりも少ない量しか食べない吸血鬼侍には美味しいものを食べてもらいたい。そのために日々研究しているのだ。

 

 否、美味しいだけでは不足している。食べて美味しく()()()()()()()()()()なければならないのだ。

 吸血鬼侍の生命を繋ぐ血の味を高めるため、皆の健康に気を遣わなければならない。依頼をこなすために身体を動かしている姉たちはともかく、激しい運動の許しがでていない森人少女は軽い散歩程度しか身体を動かす機会がないのだ。

 

 ただ腹を満たすだけでは吸血鬼侍に捧げる極上の料理を作ることなど不可能である。美味しく、身体に良く、毎日食べても飽きの来ない、ひとたび口にしたら病みつきになる逸品。日替わりで提供しているが、本当に選んで欲しいものはただ一皿。

 

 依頼から戻ってきた吸血鬼侍たちに呼ばれ、嫋やかな笑顔で向かっていく森人少女。今晩は()()()()()()()()()()日だ。一晩中堪能してもらおうじゃあないか。

 

 

4.剣の乙女(女司教)からみたはなし                              

 

「ぬわああああん疲れたもおおおおん」

 

 真夏の夜、へろへろになって≪転移≫の鏡から現れた剣の乙女が発した言葉は妙な御国言葉に毒されていた。

 まあ、暑かったからねと返す森人狩人はパピルス紙を黒く塗り潰し、吟遊詩人のセリフだけ白く強調して残す不思議な絵画(新婚さんシリーズ)を描いていた。さてはローディストだなオメー。

 

 流れるような歩法で寝台へと近づきダイブ。若干目測を誤ったか目標である吸血鬼侍を逸れ女魔法使いに着弾。ボリュームのある肢体同士がぶつかり合い、双方声にならない悲鳴を上げている。

 

 暫し痛みに悶えた後、剣の乙女が顔を上げればそこには味わい深い表情を浮かべた森人少女。今日は彼女が吸血担当だ。

 一晩で複数人を吸血するのは吸血鬼侍が嫌がるため、淑女協定により同意がない限り彼女と添い寝するのは1人だけ、順番制である。剣の乙女は昨晩~今朝にかけて彼女を堪能して(味わって)いた。

 

 だが待って欲しい。乙女の長年溜めていたフラストレーションは一晩程度では発散できないのだ、剣の乙女だけに。それに見ろ、そこの森人狩人(ハンター)を。もう我慢できないという目をしているじゃあないか。

 他意はないのだけれど、今日は呪文回数残っているのかしら? まだ使える。じゃあ事態は解決だ。さぁ吸血鬼侍よ、分身ちゃんを呼びだしたまえ、すぐでいいよ!

 剣の乙女の熱心な説得により呼び出された分身。呆れ顔の女魔法使いは早々に寝入ってしまい、本体は森人少女と給餌の時間。

 熟れた身体を持て余した美女2人、強く出れない吸血鬼侍(ご主人様)、真夏の汗ばむ夜、何も起きないはずがなく……。

 

 

5.吸血鬼侍からみたはなし                              

 

 いったい何時(いつ)からだろうか? こうやって自分を客観的に見るようになったのは。

 陽光を浴び、早朝だというのに既に蒸し暑い部屋の中で吸血鬼侍は考える。

 額の上には森人狩人のしなやかな脚が乗り、胸元では剣の乙女が飽きもせずちゅぱちゅぱ。

 

 脚を乗せたまま横を向けば、小柄な体格の2人が抱き合うような体勢で夢の国の住人となっていた。吸血途中で寝てしまったのか、肌を伝って零れた血がシーツを赤黒く染めている。後で女魔法使いに怒られるのは間違いないだろう。変色したそれを眺めるうち、吸血鬼侍はふと昔のことを思い返した。

 

 

 

 死の迷宮で目覚めた時、自分が何者であったのか、何故此処にいるのか等という記憶はすっぽり抜け落ちていた。何度も死に、凌辱され、時には骨まで物理的にしゃぶり尽くされ、それでも魂は解放されることなく迷宮内で復活する日々。あらゆる手段を用いて強くなり、いつしかロードと呼ばれ、そしてあの日「六人の英雄(彼ら)」と出会った。

 

 彼らの輝きに魅了され、共に語らい、そして迷宮を出て夕闇の世界へ飛び出した。

 彼らが笑って生を謳歌する世界を作る手助けがしたい。その一心で、只管に暗夜を駆け抜け続けた10年間。

 理解されないこともあった。迫害されることもあった。うっかり当代の白金等級と鉢合わせして滅ぼされそうになったこともあった。その後誤解が解けて友人と呼べる関係になったけど。

 

 

 

 走って、走って、走って。そしてふと歩みを止めた時、黎明の中に吸血鬼侍は≪祈り≫を得た。

 

 高次元の存在が魂に触れる感覚、流れ込む上位者の叡智、作り変えられていく身体と精神。

 

 いつのまにか眼前には自分と同じ姿をした人物が立っており、自分へと手を差し伸べながら高らかに言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、冒険だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、もう起きてたの? まだ寝ててもいいのに」

 

 朝食の準備をしていた女魔法使いの声に頷きを返しながら吸血鬼侍は思う。

 はたして自分が本体なのか、それとも魔法によって生み出された影法師に過ぎないのか。

 

 ……まぁ、どっちでもいっか!

 

 執拗に攻めてくる剣の乙女を引き剥がし、寝台の反発を利用して女魔法使いの胸に飛び込み、太陽のような笑みとともに彼女に告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう! 今日もきっといい日になるよ!!」

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 




次回のネタを探す旅に出るので失踪します。

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セッションその4.5

おそらく年内最後の初投稿です。


 ちゃんと小鬼が出てくる実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 はい、前回で4回のセッションをクリアしました。ショートキャンペーンではそろそろラスボスが出てくる頃合いですが、まだまだ続きますよー! え、吸血鬼侍ちゃん(プレイヤー)がラスボスなんじゃねぇのかって? なぁにぃ?聞こえんなぁ~? 

 

 前回のセッションでは唐突なカオスフレアというサプライズがありましたが、今回は平常運転に戻ります! ですよねGM! え、ちゃんと小鬼が出るシナリオにしてある? やったぜ。

 

 

 

 季節は廻り今は夏真っ盛り、もう幾日かで酒の日がやってきます。地母神の神殿で御神酒を仕込むための女性神官や誘われた娘による脚踏みが行われることでしょう。

 先日の夏至祭の日は一年で最も太陽の力が増す日ということもあり、夜明け前から吸血鬼侍ちゃんのテンションは最高潮。薄暗いうちから一党を起こし、屋根の上で太陽を待っていました。

 

「それは夜明けを呼ぶ騒々しい足音。人が目を閉じるときに現れて、人が目を開く時に姿を消す最も新しき伝説。夜が暗ければ暗いほど、闇が深ければ深いほど、燦然と輝く一条の光……」

 

 女魔法使いちゃんから夜伽の最中に教えてもらった英雄譚の一節を唱える吸血鬼侍ちゃん。人でありながらその強さのために化け物とよばれた者、或いは化け物でありながら人を愛し人の世を守るために夜を祓う者。世界の尊厳を守る最後の剣。そんな人を謳ったおとぎばなしらしいです。

 

 やがて朝日が街を照らし出したとき、太陽あれの言葉とともに祈りのポーズを一党で捧げ、吸血鬼侍ちゃんは満足そうな笑みを浮かべていました。

 

 

 

 そんなこんなで今日も今日とてゴブリン退治ですが、今回は森人狩人さんが欠席です。なんでも妖精弓手ちゃんがゴブスレさん一党での活動報告を忘れていたらしく、王様からお呼び出しがかかってしまったとのこと。せっかくなので森人狩人さんを護衛として雇い、森人少女ちゃんも連れてプチ里帰りを行うそうです。

 2人には戻って平気なのか、吸血鬼侍ちゃんも同行しようか確認したのですが、2人ともしっかりやっていることを家族や友人に伝えておきたいということなので、今回は別行動と相成りました。

 

 女魔法使いちゃんと2人というのは久しぶりですが、効率を考えれば他の一党と臨時で組むのが正解でしょう。というわけでゴブスレさん女神官ちゃん、ご一緒してもいいです?

 

「ああ。一件気になる依頼がある。魔物に対する知識が欲しいと思っていた」

 

 おや、普段よりちょっと言葉が多い。どんな依頼なんです受付嬢さん?

 

「ええ、被害は農作物や家畜程度なんですが、巣と思われる洞窟の近辺にゴブリンではない怪物の死体があったようなんです」

 

 人間でもゴブリンでもない? ふーむ、村人の知識に無いだけの生物か、はたまた未知の魔法生物の可能性もあるわけですね……。その生物の情報がわかったら別途報酬出ます? 増額OK? よっしゃご一緒させてくださいな!

 

「被害が拡大する前に終わらせる。出発するぞ」

 

 引き受けるや否やギルドを出て行ってしまうゴブスレさん。アンタも相変わらず大変ねぇと女神官ちゃんの肩を叩く女魔法使いちゃん。もう慣れましたというハイライトの消えた女神官ちゃんがちょっとこわかったです(こなみ)。

 

 

 

 依頼を出した村に到着です。早速ゴブスレさんが村人にゴブリンについて問いただしていますが、何度見てもあの勢いは凄まじいですね。自分が村人の立場だったら雰囲気に呑まれてまともな返事をできる気がしません。あ、どうでしたゴブスレさん、何か目新しい情報はありましたか?

 

「いや、だがここ数日巣に籠りきりなのか、村の周辺で姿を見せなくなったらしい」

 

 稀に洞窟周辺で死体を見るから群れは残っているようだが、と呟くゴブスレさん。ということはこの村よりもうまあじな狩場を見つけたか、村まで手を伸ばせない程疲弊しているかってことですかね。ゴブリンが生きているのならばやることは変わりません。早速巣へ向かいましょう!

 

 

 

 

 巣と思われる洞窟にほど近い茂みに一党は潜伏中です。入り口には見張りもおらず、獣に喰われたのか損傷が酷い死体が転がっているのが確認できます。ゴブリンのものもありますが、ほぼ同じ数だけ見たことの無い生物の死体も遺棄されていました。

 

「ゴブリンではないけど、明らかに人型の生物ね。大きさはゴブリンと同程度、指の付き方から武器を使用できるのは間違いないと思う」

 

 腐敗臭に顔をひそめながら分析する女魔法使いちゃん。流石学院の才媛。最近筋力にステ振りすることが多かったですが、その頭脳は冴えわたってますねぇ!

 どれ、吸血鬼侍ちゃんも見てみましょう。うむむ、ゴブリンと同じくらいの背格好で全身がもこもこの毛皮で覆われてますね。損傷が酷いですがなにか装飾品のようなものを身に付けています。ゴブリンも価値がないと思って奪わなかったのでしょうか、局部を隠すベルトのような腹巻と赤い布切れを首に巻いていました。

 

「おそらく筋力はゴブリンと同程度。華奢で打たれ弱いが素早さはゴブリンよりあるようだな」

 

 小刀で死体を解体しながらゴブスレさんが考察しています。ゴブリンと比較して相手のスペックを推察できるのは流石というべきか。ただ後ろで女神官ちゃんが怖い顔してるので早く謝って!

 

 死体が遺棄されてからあまりこの入り口は使われていないようで、ゴブリンが行き来した跡も古い物しかないようです。後は中に入ってみないと何とも言えないので、4人で隊列を組んで楽しい洞窟探検(ダンジョンハック)です!

 

 

 

「ドアだな」

「ドアね」

「ドアですね……」

 

 我々探検隊の眼前に現れたのは、明らかに人工的に作られた両開きの木製ドアであった!

 ええ、分かれ道もない一本道を進むこと暫し、徐々に深度を増していくことに不安を感じ始めた矢先に発見した如何にも怪しいドア。ヴァンパイアイヤーを以てしても向こう側の音は聞こえませんね。ノブを見る限り鍵の類も無さそうですが、どうしましょうか。ゴブリンの痕跡を見つけるまでは進む? 了解です、それじゃあ行きましょう!

 

 ドアを開けた先は狭い石造りの通路です。ドアの大きさとほぼ同じサイズで2人が並んで歩くのが精いっぱいでしょうか。遥か前方には今通り抜けたものと同じ意匠の扉が見え……あ、暗視持ちの吸血鬼侍ちゃんにだけ見えてます。女神官ちゃんが松明を、女魔法使いちゃんは爆発金槌を点火して灯りの代わりにしています。視界を確保できる吸血鬼侍ちゃんが戦闘で奇襲に備えてゴブスレさんが後衛、間に灯り持ち2人を挟んで一列縦隊で進んでいるところです。

 

「待て。何かいる」

 

 通路を中程まで進んだところでゴブスレさんの注意を喚起する声が。良く目を凝らしてみれば左右の壁にもたれかかるように複数の小さな人影が背を預けています。時折呻き声のようなものも聞こえてきますが、怪我人でもいるのでしょうか?

 

とまってください なにものですか?

 

 お、一党の接近に気付いて人影の中から槍を持った1人……匹?が近付いてきました。背丈はゴブリンや吸血鬼侍ちゃんと同じくらい、赤い布で口元を隠し、粗末な槍を一党に向けて誰何の声をかけてきます。っていうか洞窟の外で死体を見たもこもこの生き物ですね。

 

「ゴブリンを追ってきた。お前はゴブリンか?」

 

ちがいます、ぼくたちは小鬼(オーガキン)です。ゴブリンとはみどりいろのらんぼうなやつらですか?

 

……まよキンじゃないですかやだー!!

 

「小鬼? ゴブリンではないのか?」

 

 2人が異文化コミュニケーションを取っていますが、互いの認識に齟齬があるようでなかなか話が進みません。ちょっと横からごめんね、君たちのリーダーとお話しさせてもらえるかな?

 

わかりました、こちらへどうぞ

 

 見張りに案内されて彼らの集団に近付く一党。中心には怪我をした者の手当てを行ったり、落ち込む者を励ます頭一つ大きな小鬼?がいました。おそらくあの個体が群れの長なのでしょう。

 

「むむむ、厄介な時に客人が来たものだ。お前たちは()()()()()()()か? それとも()()()()に巻き込まれた漂流者(ドリフター)か?」

 

 あっ(察し) 強いて言えば稀人(ゲスト)でございます、()()()

 

「そうか、私がこの【()()()()()()()()()()】を率いる王であり、"動かざる勇者"不動明王(ゴッドマーズ)の末裔たる小鬼英雄(オーガキンチャンピオン)だ。見ての通り今は国家の非常時で大したもてなしも出来ないが、この邂逅を齎したワイルドグースの導きに感謝を」

 

 頭に小さな王冠を乗せ、細やかな刺繍入りの外套を纏った王が一党を歓迎してくれました。不思議な様子の一党を眺め、得心が行ったように頷いています。

 

「小鬼英雄……やはりゴブリンか」(チャキ)

 

 ゴブスレさんステイ。もうちょい話を聞いてみましょう。

 

 話を要約すると、突然通路から現れた緑色の集団によって王宮が占拠されてしまい、領土外の通路に避難してきたとのこと。未だ中に民の半分が取り残されているので奪還作戦を行う予定だが、戦力が足りず途方に暮れていたようです。そこに都合よく一党が現れたので、助力して欲しいそうです。女魔法使いちゃんは微妙な顔をしていますが、ゴブリンがいると聞いたら止まらないのが約1名いますねぇ。

 

 数は? 装備は? 大型種や上位種は確認できたかなど矢継ぎ早に問い詰めるゴブスレさんに王様も若干引いていますが、頼りになる()()と判断したのか覚えている限りの情報を話してくれています。強引に引っ張りこまれた女魔法使いちゃんもその知識を見込まれて()()()()を担当。女()()ちゃんは怪我をした個体の手当てを行い、懐かれちゃったみたいですね。ちょっと獣臭いですがふわふわのもこもこに囲まれてまんざらでもない顔をしています。かわいい。

 

 え、吸血鬼侍ちゃんは()()()なのかって? 違いますーちゃんと分身ちゃんを派遣して()()()()していますー。ふむふむ全部で3部屋で農地・厨房・王宮がL字に並んだ配置で、農地と王宮は通路で繋がってはいない一本道ですか。ありがとー気を付けて帰ってきてねー。おや、きみは見張りをしていた子だね。焼きキノコをくれるの? 農地で栽培しているものなんだ、ありがとう!

 

いえいえ、これも()()のつとめですから

 

 なるほど、王様とこの子が王国の()()()()()()()だったんですね。そこに現れた稀人が()()()()()()()()()()。バランスの良い宮廷(パーティ)になりました。これは勝つる。

 

「では征くぞ稀人の戦士たちよ。我らが祖国を奪還するのだ!」

 

 王様の号令と共に鬨の声を上げる小鬼たち。手に手に武器を持って宮廷と共に進軍します。民は残るとばかり思っていた女神官ちゃんが戸惑った顔をしていますが、悲しいけど彼ら、使い潰す駒なのよね……。

 

 

 木製ドアを開けた先は体育館程度の広さを持つ空間。天井には星が輝き、その仄かな光に照らされてキノコや迷宮モヤシがすくすくと成長しています。

 

「太陽の光も無しに農業を行っているなんて。それにあの天井で輝いているのは星なの……?」

 

 女魔法使いちゃんがカルチャーショックを受けているようですが、この世界には「空」も「海」も無いんですよ。あるのはただ「通路」と「部屋」しかない迷宮ただそれだけ。

 

 小鬼たちの貴重な食糧であるキノコですが、既に幾許かがゴブリンによって荒らされてしまっているようです。同じ小鬼でも奪うことしか知らないゴブリンと曲がりなりにも栽培や牧畜を理解している小鬼(オーガキン)。一体何処からこの違いが現れたんでしょうかね。

 

 偵察通りこの部屋にはゴブリンはいないようです。次の厨房へ向かいましょう!

 

 

 

「GOBGOBGOB!!」

「PIーPIー!?」

 

 こ れ は ひ ど い。

 ゴブリンが小鬼を殴りつけ、料理を作らせています。材料は農場で育ったキノコに迷宮モヤシ、それに()()()()()()

 大鍋に全てを放り込んで煮るだけの単純なものですが、調理という概念を理解出来ないゴブリンにとっては決して作ることのできないご馳走でしょう。

 

「我が民を殺すだけでは飽き足らず、あまつさえ同胞にその亡骸を調理させるとは許しがたい所業! 今この場で誅伐を下してやる!!」

 

 王様が剣を抜き放つのを合図に宮廷がゴブリンに襲い掛かります!

 ゴブスレさんと吸血鬼侍ちゃんが先陣を切り、小鬼汁に舌鼓を打っていたゴブリンを斬り飛ばします。殺戮を厭う女神官ちゃんでさえ錫杖でゴブリンの頭を叩き割り、狭い空間で爆発金槌を振り回せない女魔法使いちゃんは石突側で喉笛を潰して応援を呼ばれぬよう仕留めています。

 一匹一匹が弱くても数は力。普段自分たちが採る戦法を小鬼に行われ、石斧やだんびらで滅多打ちにされているゴブリンたち。哀れな悲鳴を上げようが止まることの無い暴力で小鬼の群れに飲み込まれ、ミンチよりひでぇ状態に。

 調理を強制されていた小鬼たちも王の帰還に勇気を奮い立たせ、先程まで同胞の亡骸を解体していた包丁や鉈を手に祖国奪還軍に合流しました。彼らが言うには扉の奥、王宮には杖を持った偉そうな緑色と、その護衛をしている大きな緑色が2体いるそうです。

 あちらの部屋に捕まっている者はいるのかというゴブスレさんの問いには、さっきまでいたけれどみんな殺されて鍋の具材になったとの返事が。

 

「人質がいないのならば態々攻め入る必要はない」

 

 怒りを露わにする王様を制するようにゴブスレさんが厨房の一角を指し示します。そこには煮炊きに使用する燃料となる木材や可燃物の山が。あっ(察し)

 

 

 

「GOOOOOOOB!?GOOOOOOB!?」

ドンドンドン!

 

 厨房から煙を送り込まれた王宮、厨房に響く≪聖壁≫によって補強されたドアを叩く音。湿気の多い木材を優先して燃やし生み出された煙は少しずつゴブリンたちの生命力を奪っていきます。最初はいい気味だと笑っていた小鬼たちも、情け容赦のないゴブスレさんの手腕に恐怖しピーピーとか細い鳴き声を上げてますね。そりゃ怖いよなぁ……。

 

 やがてドアを叩く音が無くなり王宮から物音がしなくなってから、まだ生きているゴブリンがいないか確認するために王宮へ入る宮廷。隙間から少しずつ抜けているのか、煙が徐々に薄くなっていく中で王宮には倒れたゴブリンの姿が死屍累々たる様子。死んだふりをしている者がいないとも限らないので、手近なゴブリンから順番に確認していきましょう。

 首を刎ねて、或いは心臓に剣を突き立てて死んでいるのを確認する一行。小鬼たちも仲間の恨みを晴らすように槍の穂先やナイフで死体を改めています。息苦しさから逃れようとしたのでしょう、玉座の上にある通気口に頭を突っ込んだまま事切れた小鬼呪術師(シャーマン)を引きずり下ろした王様が死体を足蹴にしています。ってあれ、今田舎者(ホブ)の手が動いたような……。

 

「HO……HOBGOBBBBBBBB!!」

 

 あ、やっぱり生きてやがった! 王様の首を片腕で締め付けつつ、ふらつきながら立ち上がる田舎者(ホブ)。手中に収めている人物が重要であることを理解しているのか、盾にするように持ち上げています。

 

「ぐぅっ……この無礼者め……ッ」

 

 脚をジタバタさせながら苦し気に声を出す王様。その様子に気を良くしたのかこちらに突き付けるように王様を見せつける田舎者(ホブ)。このまま逃げようと考えているのでしょうか。

 

田舎者(ホブ)の生命力は馬鹿にならん。注意しろ……いや、ゴブリンに対しては初心者(ノービス)だったか」

 

「HOB!?」

 

 ゴブスレさんが抜き打ち気味に放った投石紐による一撃が田舎者(ホブ)の左目を直撃しました! 痛みに耐えかねて王様を手放してしまったので落ちるところを掻っ攫っちゃいましょう。人質がいなくなりヤバレカバレに暴れだす田舎者(ホブ)ですが、後ろから近づく小さな影には気付いてない様子。

 

これは、なかまのうらみです

 

 槍を高跳び棒のように扱い跳躍し、うなじから喉に抜ける一撃を放ったのは見張りをしていた従者君! ぐるりと白目を剥き倒れる巨体。今度こそ死亡確認です!

 

 ゲホゲホと咳き込んでいる王様を肩車する吸血鬼侍ちゃん。さぁ王様、勝利宣言をどうぞ!

 

「うむ。この戦い、我らの勝利だ!!」

 

 一斉に上がる歓声、やれやれといった感じの女魔法使いちゃんとホッとした様子の女神官ちゃん。ゴブスレさんは……小鬼呪術師(シャーマン)の持ち物を漁っているようですね。こんな時でもマイペースなゴブスレさんすこだよ。

 

 

 

 

 

「すまないな稀人の方々。本来ならば金子で礼をするところなのだが、国庫がすっからかんで……」

 

 申し訳なさそうに頭を下げる王様と従者君。被害の補填やら復興やらで予算が底を尽きてしまった様子。ギルドから報酬が出るのであまり気にしないでください。むしろ現物を色々もらってそっちのほうが悪い気も。

 

「お渡ししたのはこの国では必要のないものばかり。気にせず持って行ってくれ」

 

「ええ、気になっていたから譲ってもらえるのは嬉しいわ。しかも専用の籠付きで」

 

 女魔法使いちゃんがもらったのは中に光を放つ鉱物が入っている手提げ容器(星籠)。魔術の媒介にならないか興味があるそうです。

 

「こ、今度の収穫祭に必要なので買う費用が抑えられたのは嬉しいんですけど……」

 

 女神官ちゃんの手には最小限の部位を守る金属鎧(ビキニアーマー)。最初に身に付けた者のサイズにぴったりになるので調整はいらないそうです。

 

「それから、騎士殿にはこれを。……本当に帰ってしまうのか?」

 

 なんとゴブスレさん、王様もとい女王様に求婚されてました。女王様も小鬼と人間の混血(ハーフ)らしく人間との婚姻に肯定的で、しかも相手が王国の危機を救った騎士とあればもうゾッコンです。

 あのゴブスレさんが一瞬硬直し、カタコトで既に相手がいると断った時の女王様と女神官ちゃんの顔は正視できませんでした……。

 

「この剣を私と思って傍に置いて欲しい。どんなに離れていても、気持ちは通じるとワイルドグースも言っている」

 

 女王様が腰に下げていた長剣、只人にはショートソードサイズのそれをゴブスレさんに握らせています。受け取ることを躊躇していたゴブスレさんですが、乙女心を理解した女神官ちゃんが説得してなんとか受け取ってもらえたようです。吸血鬼侍ちゃんはというと……。

 

ほんとうにこんなものでいいのですか?

 

 あ、ありがとう従者君。むしろこれが一番欲しいといっても過言ではないのだよ。わざわざ用意してもらって悪かったねぇ。欲しかったものをもらえて吸血鬼侍ちゃんもホクホク顔です。

 

 それじゃあそろそろお暇しましょうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 通路まで見送りに来てくれた【踊るグランドゼロ幕府】の国民が聖歌である路道十三章を歌ってくれています。出会いと別れの歌を背に、冒険者一行は長い登り路を引き返しました……。

 

 

 

 

「それで、新たにギルドが派遣した冒険者一党はそんなドアなんて無かったって言ってるの?」

 

 不思議な迷宮から帰還して数日後、里帰りから戻ってきた森人3人娘と冒険者4人はギルドのテーブルで受付嬢さんから聞いた調査報告に首を傾げています。

 ゴブリン退治では済まなかった依頼報告に慌てたギルド。念のために≪看破≫を使った質問もされましたが、4人全員シロという困った事態に改めて調査依頼を出したとのこと。ですが吸血鬼侍ちゃん一行が下った長い一本道にドアなどなく、途中で崩落し進めなくなっていたそうです。

 

「夢でも見てたんじゃないのって言いたいところだけど、実際にブツがあるんじゃそうも言えないわよねぇ……」

 

 そう耳をピクピクさせながら【小鬼殺し(オルクボルグ)】を見つめる妖精弓手ちゃん。ゴブスレさんは仏頂面を貫いています。

 

 はい、ゴブスレさんが女王から下賜された短剣。一晩預かって剣の乙女(鑑定屋)に見てもらったらなんと魔剣でした。しかも効果は小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)

 

 これには剣の乙女も布帯の奥の目を丸くしていました。ゴブリンに対するダメージが上がる以外は只のショートソードなので金銭的価値は低いですが、ゴブスレさんのサブ武器としては活躍する事でしょう。

 家に置きっぱなしにしちゃダメですよ、ちゃんと約束通り持ち歩いてあげないと。ゴブリンに奪われても全く意味のない魔剣ですし、手入れも少なくて済むから効率的でしょ?

 

「……ああ」

 

「まったく、私のいないところで冒険した挙句滅びに瀕した王国の女王様に求婚されるとか、ズルいズルいズールーいー!!」

 

「……そうか」

 

 私も冒険したいと駄々をこねる2000歳児といつものキレがないゴブスレさん。卓上に広げたビキニアーマーのあまりの防御力の低さに遠い目をしている女神官ちゃん。

 女魔法使いちゃんは星籠をもって魔女パイセンと魔術談義中。傍で聞いている槍ニキの顔から察するにディープなところまで踏み込んでいるんでしょうね。

 

「それで、ご主人様はそれをもらってきたんだ」

「良くお似合いですよ、主さま」

 

 え、やっぱり似合う? 照れるなぁ。

 2人に褒められてご満悦の表情な吸血鬼侍ちゃん。その首元には季節にそぐわない、けど不思議と吸血鬼侍ちゃんにマッチする真紅のマフラーが巻かれているのでした……。

 

 

 

 

今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 




年越しの準備をするので失踪します。

お気に入り登録、誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
感想、評価についてもついでに入れていただければ幸いです。

お読みいただきありがとうございました。


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セッションその5ー1

初日の出も初詣も寝過ごしたので初投稿です。


 愛の歪みが超重力領域(グレートアトラクター)を生む実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 素敵なマフラー(小鬼の襟巻)を手に入れてから暫しの時が流れ、収穫祭が近付いてまいりました。

 暑いうちは怪訝な目で見られていた襟巻装備の吸血鬼侍ちゃんでしたが、慣れと気候の変化によって少しずつ風景に溶け込むようになってきましたね。

 

 さて、セッション間にあった出来事といえば……予想通り勇者ちゃん一党に攫われることが多くなりました。

 

 信頼してもらえるのは有難いんですが、世界の危機が訪れるたびに≪転移≫の鏡から現れて吸血鬼侍ちゃんの腕を掴むや否やとんぼ返りは勘弁してください。分身ちゃんを送り返して事情説明しなければならないですし、いきなり吸血鬼侍ちゃんを横取りされてご機嫌斜めの一党の不満が夜にまとめて噴出して大変なんです。

 

 肉食系女子な森人狩人さんは勿論のこと、意外と独占欲の強い森人少女ちゃんを満足させるのはいやーきついっす。夜な夜な鏡から現れる妖怪かまってちゃん(剣の乙女さん)も乱入してくるので収拾がつきませんねホント。ケモノたちが満足して眠りについた後、お疲れさまと頭を撫ででくれる女魔法使いちゃんマジ正妻です。

 

 

 喫緊では死人占い師(ネクロマンサー)がゾンビランドを開設すべく王国に侵攻してきた際、軍を動かすより安上がりだからと、国王陛下に【宝物庫から好きなものひとつ】を報酬に酷使無双させられてました。

 

 勇者ちゃん一党が当たり判定を無く(フェイズアウト)しているタイミングで延々とデュエルディスク(ネビニラルの円盤)起動からの全体除去を繰り返すのはしんどかったです。あんまり吸血鬼使いが荒いとこっちにだって考えが……え、妹ちゃん(王妹)が冒険者に憧れているからこの手(酷使無双)は使いたくなかった? ……うん、兵に犠牲が出るよりは吸血鬼侍ちゃんが襤褸雑巾になるほうがいいよね!(手のひら大回転)

 

 報酬に勇者ちゃんの従兄弟剣(太陽の直剣)をもらって吸血鬼侍ちゃんは大満足でしたが、冒険に憧れちゃってる妹ちゃんのゲージが高まるのは良くない傾向です。後に大事件となる家出騒動を防ぐために何か手が打てれば良いんですけれど。オマケに先の≪お父様(おどんさま)≫で味を占めた無貌の神(月の魔物)さんがまたGMをそそのかしている様子。今度はどんな魔改造をしてくるのか、考えるだけでぽんぽんぺいんが……。

 

 

「……なに面白い顔してるの、みんな準備できてるわよ?」

 

 ああごめんなさい女魔法使いちゃん、ちょっと本日の行程表(デートプラン)の確認してました。

 

 本日は待ちに待った収穫祭です。今日の休みをもぎ取るために剣の乙女さんは一週間ほど顔を出さずに仕事を片付け、デートの装いを揃えるための資金稼ぎ(ゴブリン退治)に女魔法使いちゃんと森人狩人さんは精を出していました。森人少女ちゃんにもおめかししてもらう予定でしたが、監督官さんが実家から大量にお古を取り寄せて森人少女ちゃんを着せ替え人形にしており、それを譲ってもらったそうです。いい仕事してますねぇ!

 

「いつもの恰好だったら文句を言ってやるつもりだったけど……うん、まぁいいんじゃない?」

 

 今日の吸血鬼侍ちゃんは只人の男性用フーディー(パーカー)を上着に、下は厚手のレギンス(スパッツ)というちょっと背伸びした格好です。大事にしまってあるヴァンパイアロードの衣装を持ち出そうとしたら、そういうのは万聖節まで取っておけと言われました。仮装じゃないんですけどねぇ……。

 

 こちらを値踏みしている女魔法使いちゃんはジャンパー(セーター)ジャンパードレス(ジャンパースカート)を合わせたお嬢様スタイル。最初期の魔女っ娘スタイルに比べれば大幅に露出度は低くなりましたが、秘匿されているほどその中身が際立ってきます。つまり中身はえちえちだな!

 他の人はリビングで待っているということなので、女魔法使いちゃんと向かいましょう。お、みんなお茶したり持ち物の確認をしていますね。おまたせー!

 

「どうかな、ご主人様の好みに合わせたつもりなんだけど」

 

 テーブルに着いてゆったりとお茶を楽しんでいた森人狩人さん。ドレスシャツにベスト、細身のズボンとマニッシュなコーディネートが良く似合ってますね。手足の長さを見せつける着こなしは男性と一部の女性の視線を釘付けにすること間違いなしです。

 

「お小遣いよし、みなさまの昼食代よし、主さまのおやつ代よし、ハンカチもちゃんと持ちました。これで忘れ物は無い筈です」

 

 ポシェットの中を何度も確認している森人少女ちゃん。フリルの多いブラウスにロングスカート、サイドの大きなリボン飾りは監督官さんの趣味でしょうか。華奢な身体を可愛らしく包み込むナイスな仕上がりですね。

 

「ほ、本当にこれでバレないかしら……」

 

 ≪転移≫の鏡を本来の姿見として使いながら、おかしなところがないか確認している剣の乙女。タートルネックのニットワンピース、所謂たてセタにロングブーツという出で立ち。変装用なのか眼鏡をかけています。あ、それ認識阻害の魔法がかかっているんですか。でもそのボディラインが強調された格好は別な意味で注目を集めると思うんですが。それから……。

 

「いいなぁ、ボクももうちょっと出るとこ出て欲しいんだけどなぁ!」

 

「重心が上にズレるし、剣を振るうのに結構邪魔なんだがな……」

 

「それは持つ者の言い分なのです」

 

 はい、ゲストルームに泊まっていた勇者ちゃん一行です。予め剣の乙女を通じて地母神の神殿には連絡をとっており、昨日のうちに神官長と儀式に関する打ち合わせは済ませてあるとのこと。百手巨人討伐は女神官ちゃんが神楽を舞う夜からになるので、それまではお祭りを満喫するつもりのようです。

 

「でもごめんね? ≪託宣(ハンドアウト)≫によると、またキミに共闘してもらう必要があるみたいなんだ」

 

 ええんやで。GM的にも本体と分身両方を相手取るのは配置する障害(エネミー)のバランス取りが厳しいでしょうし、またサブマスがニヤニヤしながら準備してるのも見えてますので……。

 

「そっちの一党は夜まで別行動として、こっちは昨日決めた通りでいいわね?」

 

 おっと、どうやら吸血鬼侍ちゃんがいないところでメンバー編成が決まっていたみたいですね。

 

      午前の部      午後の部
吸血鬼侍ちゃん森人少女ちゃん 剣の乙女森人少女ちゃん 女魔法使いちゃん  
分身ちゃん森人狩人さん 女魔法使いちゃん  森人狩人さん 剣の乙女

 

 一度お昼に集合して食事を済ませた後、一部メンバーを入れ替えて午後に臨むようです。

 自衛能力に不安のある森人少女ちゃんは本体と一緒に行動するようになってます。ついでに万が一本体がピチューンしてもすぐ復活できるように、≪邪な土≫も持っててもらいましょうか。

 

「主さまの大切なもの……この身に代えてもお守りいたします!」

 

 いや、それ君を守るためのものだから……。

 

 

 

 それでは始まりましたドキドキ分身(ダブル)デート。まずはAチーム、吸血鬼侍ちゃん側を見てみましょう!

 手番にとれる戦法を増やすためにあえて朝食を取らずに出発している一党、まずはそこから攻めるのが定石でしょうか。お、森人少女ちゃんが半森人(ハーフエルフ)の屋台に向かっています。

 

「主さま、こちらでは森人(エルフ)の食材を只人(ヒューム)風に調理したものが販売されているようでございます。まずは腹ごしらえというのは如何でしょう?」

 

 なるほど、只人に森人、大食漢な(元)圃人という一党の特徴を抑えたすばらしいチョイスです。手早く会計を済ませ、パピルス紙の包みを3つほど抱えて走ってきました。あちらの天幕(テント)が休憩所として開放されているようなので使わせてもらいますか。

 

「まずはこちら、髪切虫の幼虫の牛酪(バター)焼きでございます」

 

 森人少女ちゃんが包みの封を開けるとバターの濃厚な香りが一面に広がります。包みの中には火を通すことでピンと伸びた、バターで艶やかになった幼虫がぎっしり。昆虫食ではメジャーなカミキリムシですね。いただきますと手を合わせ、無造作に摘まんで口に運ぶ吸血鬼侍ちゃん。火が通りトロっとした幼虫の中身と、塩味の効いたバターが織りなす濃厚な旨味に頬を緩ませています。

 吸血鬼侍ちゃんが美味しそうに頬張るのを見た森人少女ちゃんも、続くように摘まみ、ゆっくりと味わって食べていますね。

 

 一方で手を出しあぐねているのは剣の乙女。いつもの布帯付きならいざ知らず、今日はばっちり見えてる眼鏡装備。見た目のインパクトに負けて指を出したり引っ込めたりしちゃってます。

 

「あの、どうかご無理はなさらずに。他にも食べやすいと思われるものを見繕ってまいりましたので……」

 

 おっと、そのフォローは逆効果だぞ森人少女ちゃん。森人娘2人に負い目のある剣の乙女にそんな申し訳なさそうに言ったら……ほら、意を決した顔になりました。淫靡ささえ感じる指の動きで幼虫を摘まみ上げ、そろそろと口元へ運んでいます。こら周りの男ども、そんないやらしい目で見てるんじゃあない!

 

 プツン

 

 竿身の半ばで噛み千切り、ギュッと目を閉じたまま咀嚼。前屈みになっていた男たちは青褪めた顔で股間に手をやっています。

 

「……美味しい」

 

 中身が零れかけていた残りの半身も口に運びながら呟く剣の乙女。見た目で敬遠されがちですけど、只人の口にも合うようでなにより。森人少女ちゃんも不安そうな顔から一変、花が咲くような笑みになりました。他のものも是非お召し上がりくださいませと包みを開けていきます。

 

 残りの包みの中身は手長蝦の大蒜炒め(ガーリックシュリンプ)蝲蛄(ザリガニ)の塩茹でですか! どっちも美味しそうですし、こっちなら只人でも問題なくいただけそうですね。只人向けにちょっと味の濃い調理方法ですし、なにか飲み物でも買ってこようかな……。

 

「あーもう、ぜーんぜん入らないじゃない!!」

 

 お、この耳に残る良く通る声は妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)。天幕の向こう側にある酒場、その前に鎮座する蛙像の前で地団駄を踏んでいます。どうやらレモネードのゲットには失敗したみたいですね。

 

 せっかくのお祭りですし、あれで飲み物をもらいましょうか! 紙包みを持って近付くと、足音で気付いたのか妖精弓手ちゃんがこちらへ振り向きました。

 

「ああ、あんた達も来たの……って、そっちのおっぱいお化けもしかしてつるモゴォ!?

 

 はーいちょっとお口にチャックー。この人は貧乏貴族の三男坊の友人の巨乳さんです、いいね?

 

ぷはぁ! ……まぁ、訳アリなら聞かないけどね。それで、あんた達もコレをやりに来たの?」

 

 森人少女ちゃんが差し出す幼虫を礼を言いつつ摘まむ妖精弓手ちゃん。まぁまぁねというあたり金床でも王族ですねぇ。吸血鬼侍ちゃんは店主に銅貨を渡して銀玉を受け取り、巨乳さん(剣の乙女)に差し出しています。

 

「えぇと、私でいいんですか?」

 

 森人少女ちゃんはこういうの苦手でしょうし、吸血鬼侍ちゃんがやると銀玉が蛙を粉砕しそうで怖いので、お願いします巨乳さん!

 

「わかりました、あまり期待しないでくださいね……」

 

 次は別嬪さんの登場だー!と周りを盛り立てる店主。剣の乙女は白線に立ち、真剣な眼差しで蛙像の口に狙いを定めています。

 一投目、二投目は外れ。それぞれ口の手前と奥に逸れてしまいました。横であの目で狙えるのーと妖精弓手ちゃんが零していますが、いやいや次からが本番だよー。

 

 コロン、コロン、コロン、コロン……。

 

 続けざまに投げられる玉は吸い込まれるように蛙の口の中へ。最後の玉が口に収まった瞬間歓声が周囲から湧きたちました。

 

「いやぁまさか八投も成功するとは、人は見かけによらないたぁこのことか!」

 

 八杯たぁ大損だよと零す店主。あ、店主さん、四杯でいいですよー。店主の背に吸血鬼侍ちゃんが声をかけると驚いた様子で振り向き、グッとサムズアップを返して店内に。僅かな時間で四杯のレモネードを持ってきてくれました。剣の乙女と森人少女ちゃんが杯を取り、残ったうちの一つは妖精弓手ちゃんへ。

 

「へ? もらっちゃっていいの?」

 

 お昼のことを考えるとちょっと量が多いから、一緒に食べてくれると有難いですし、それには飲みものがあったほうがいいでしょ? ありがたく受け取りたまえよ(ドヤァ)

 

「あんたが獲ったんじゃないでしょうに。まぁ、でも礼は言っておくわ。そっちの巨乳さんにも」

 

 巨にゅ!?と言葉を失う剣の乙女を尻目に、甲斐甲斐しく世話をする森人少女ちゃんから差し出されるエビやザリガニを貪る妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)。やっぱり森人少女ちゃんは根っからの世話好きなんだなぁ……。

 

 

 

 

 さてBチームこと分身ちゃんのほうは……と、こちらも朝食代わりに屋台の出物を食べているようですね。竹籠を器に山盛りになった揚げ鶏を食べている森人狩人さんと、それをげんなりした顔で見ている女魔法使いちゃん。手に持った紙袋から鈴カステラを取り出しては、隣の分身ちゃんの口に運んでいます。時折自分の口に運んでは、ザラメの付いた指をペロリと舐めていますね。その仕草、率直に申し上げてエロいと思います。

 

「普通森人って肉食を忌避するんじゃ無かったの? その姿を見ていると信じられないけど」

 

「衰弱した身体を癒すために肉食を続けていたら好きになってしまってね。太って動きが鈍くなるようなヘマはしないから安心して欲しい」

 

 それよりも義妹(いもうと)君……と艶めかしい視線で女魔法使いちゃんを眺める森人狩人さん。つられて分身ちゃんも視線を向けています。

 

「また大きくなったんじゃないのかい? 只人の成長は早いと聞いていたけれど、私じゃ太刀打ちできないほどたわわに実ってお姉さん嬉しいよ」

 

助平吸血鬼(エロガキ)だけじゃなくて、何処ぞの肉食系森人(エロフ)まで弄るようになったせいでしょうが!」

 

 体幹を鍛えても直ぐにバランスが崩れて大変なんだからと文句を言う女魔法使いちゃん。その胸部装甲は牛飼娘さんを超え、剣の乙女に迫らんと成長を続けています。こうやって街中を歩いていても周囲の目がお山に集中してますからねぇ。露出の少ない衣装でこれだから、昔の魔女っ娘スタイルならもう大変だったんだろうなぁ……。

 

 真ん中にちんまいのが挟まっていますが、祭りの日に美人さんが2人並んで歩いている状況。時折声をかけ(ナンパし)てくる勇気ある男性が現れます。辺境の街の住民はなんとなく事情を察しているので放置してくれていますが、街の外から来た若者にそんな事情は知る由も無く、見目麗しい花を摘み取らんと手を出してきます。

 

 まぁ2人に素気無くあしらわれ、皆撃沈していきました。2人ともナンパに引っ掛からないのは嬉しいけどさ、「私4人の子持ちなんで」って断るのはどうかと思うよ女魔法使いちゃん。あとその4人って分身ちゃんじゃなくて剣の乙女を含めて言ってるよね?

 

 それよりも森人狩人さん。面倒だから一言で追い返したい気持ちはわかるけど「すまないが私はこのご主人様の愛玩動物(ペット)なんだ」って分身ちゃんを抱き上げながら言うのは勘弁してください。街の人もドン引きしてますし、明日以降ギルドから何言われるかわかったもんじゃないので……。

 

 そんな感じで周囲に困惑を振りまきつつ練り歩いていると、おや、前方にさまようよろ……じゃなくてゴブスレさんと、おめかしをした牛飼娘さんの姿が。伯父さんが用意してくれた母親のドレスを着て、楽しそうに手を繋いで歩いています。目立つ3人なので気付いたのでしょう、こちらに小さく手を振ってくれてますね。せっかくのデートを邪魔しちゃ悪いので、こちらも小さく手を振り返すにとどめておきましょう。ゴブリン以外は目に入らないのか、ゴブスレさんは牛飼娘さんの仕草に気付いていない様子。そういうとこだぞゴブスレさん。

 

「あの2人、噛みあっていないように見えて絶妙に噛み合っている気がするわ」

「ゴブリン狩りの冒険者が減るのは勿体無いけど、早く幸せになってもらいたい2人だよね」

 

 すべてのゴブリンを殺し尽くすか、その途中で斃れるかの二択しかないような人ですけど、それでも違う道を選んで欲しいと思うのは傲慢なのかなぁ。女神官ちゃんや受付嬢さんには悪いけれど、冒険とは違う日常の象徴はやっぱり牛飼娘さんだと思います。

 

「そうだ、ご主人様のように彼が纏めて面倒をみればいいんじゃないかな?」

 

「その発想は狂人のそれで、普通世間様が認めるもんじゃあ無いってことを理解しなさいっていつも言ってるでしょのこの愚義姉(ばかあね)

 

 さも名案を思い付いたかのように目を輝かせる森人狩人さんと、それをバッサリと切り捨てる女魔法使いちゃん。

 おっと、2人が小突き合っているうちに正午を知らせる鐘の音が響いてきました。そろそろ集合場所に向かわないと。2人とも行くよー!

 

「いつもと変わり映えがしなかった気がするけど……まぁいいわ、早く行きましょ」

 

「つまり君は毎日幸せを感じているってことさ義妹(いもうと)君。それはとても幸福なことだよ」

 

 後から追いついてきた2人の手をとって歩く分身ちゃん。遅れると心配性の森人少女ちゃんが気にするので、ちょっと急ぎましょう!

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




買い置きの食料が無くなりそうなので失踪します。

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お読みいただきありがとうございました。


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セッションその5ー2

お正月休みが終わってしまうので初投稿です。

気付けばUA25000を超えていました。
拙作をお読みいただきありがとうございます。


 前回、ダブルデート(物理)午前の部が終了したところから再開です。

 

 分身ちゃんたちBチームが集合場所の酒場に到着しました。午前中に銀玉入れをやっていたお店ですね。中には既にAチーム一行が待っていて、席取りを兼ねて注文を済ませていたようです。隣の卓では異種族3人組が口喧嘩を楽しみながら昼食を取っている様子。うん、平常運転だな!

 

「ごめん、遅くなったわ」

 

「いえ、店の前の遊戯を楽しんでいたので、此方が早く着いただけですから」

 

 (一応)常識枠の女魔法使いちゃんと森人少女ちゃんが挨拶を交わす一方で、分身ちゃんを抱えながらスッと席に滑り込む森人狩人さん。早速隣の妖精弓手ちゃんをからかい始めています。吸血鬼侍ちゃんは剣の乙女の膝の上でチーズ入りの腸詰を頬張り、隣に座っている蜥蜴僧侶さんと一緒に「甘露!」状態。それを眺めている剣の乙女の前には米を鶏肉や野菜と一緒に炒めて炊いたもの(チキンピラフ)羊肉の串焼き(シシュ・ケバブ)馬鈴薯のマヨネーズ和え(ポテトサラダ)が並んでおり、女性にしてはなかなかの速度で口に運んでいます。デスクワークが多いとはいえ流石金等級、健啖家ですねぇ。

 

 後続が来たのを見計らって、獣人女給さんが他の料理を運んできてくれました。ガーリックオイルのパスタに川鱒のムニエル、塩漬け豚肉の煮込み(アイスバイン)に付け合わせの甘藍の漬物(ザワークラウト)と種類も豊富です。

 普段は硬いパンにシチュー、付け合わせに腸詰や揚げ芋の冒険者メシがデフォルトの一党。食事療法やおやつ代わりに別メニューを頼むこともありますが、基本は質素な食事で過ごしていますので目の前のちょっと奮発した料理にみんな目を輝かせています。っていうか朝のエビといい今回のパスタといい結構ニンニクをガッツリ食べてますね吸血鬼侍ちゃん。苦手なのは花の匂いらしいので食べるぶんには問題ないんですねぇ。

 

 

 さて、おなかもいっぱいになったところで午後の部開始です。先手は分身ちゃん率いるBチーム。メンバーは女魔法使いちゃんと入れ替わりで剣の乙女が加入しています。

 お昼を食べたばかりですし、午後も買い食いというのは芸が無いですね。なにか面白い物でもあればいいんですが……おや、複数の天幕が集まっている場所に人が群がっていますね。なんでしょう?

 

「どうやら蚤の市みたいだね。引退した冒険者や骨董品店なんかが色々珍しいものを並べていたよご主人様」

 

 先行して見に行った森人狩人さんによると、胡散臭い代物からマジックアイテムかもしれないものまで玉石混交で売られている様子。外れ商品を買ってしまったら大損ですが、こっちには稀代の名鑑定家が一緒にいますからね! 掘り出し物を探しに行ってみましょう!

 

「お、なかなか良いモンに目を付けるじゃねぇかお嬢ちゃん!」

 

 頬に大きな傷跡の残る大柄な男性が店主の露店を覗いていた分身ちゃん。おそらく元冒険者なのでしょう、使っていた武具や防具とともに興味深い品物が並んでいました。

 

「そいつは遺跡で発見した古代の遺物でな、頭に装着すると装備した者の語尾を強制的に変える魔法がかかっているんだ」

 

 いや、呪いのアイテムじゃん。しかも外見がケモミミの生えたカチューシャって、製作者の性癖の歪みが具現化したような品物じゃないですか。

 

「世間には何種類か出回っているらしくてな、そいつは語尾を【にゃん】にする猫耳仕様だ。他にも犬耳(わん)兎耳(ぴょん)も発見されたことがあるらしいぜ」

 

 古代人は未来に生きてんなー。でも効果が分かってるってことは、まさか店主がこれ装着したんじゃ……。

 

「いやいや、そいつをうっかり装備したのが俺のカミさんでな、おかげで2人して冒険者を引退する羽目になったってわけよ。ハメちまっただけに」

 

 これ以上子供を増やしちゃ大変だから、装備と一緒に養育費に変えるために今回売りに出したとのことですが、最後下ネタじゃないですかまったく! 嬢ちゃんにはまだ早かったかなって? その時代の最先端は一生現在(いま)が追い付かないヤツだよ! こんな怖ろしい呪いのアイテム買う人なんていな……ってなに横から取り上げているんですか森人狩人さん!? 店主よ言い値で買おうって正気ですか?

 

「逆に考えるんだご主人様。普段強気の義妹(いもうと)君や、きみに恋する少女(剣の乙女)これ(ネコミミ)を装着した時の姿を……実に捗るとは思わないかい?」

 

 

 

 

 

 ……半分出しますね。あと他の人には直前まで内緒ということで、はい。

 

 

 

 

 

 ……ふぅ、世に解き放つには危うい古代の遺物を確保する事ができました! 危険物(ネコミミ)に夢中で忘れていましたが、そういえば剣の乙女の姿が見えませんね。違う店を見ているんでしょうか。

 

 あ、いました。どうやらガラクタ山(ジャンクヤード)化した一画で掘り出し物を探しているみたいですね。腕に下げた籠の中には≪鑑定≫で探し出したのでしょう、いくつも用途不明の物品が放り込まれています。また何かを手に取っていますが、アレは指輪かなぁ。ちょっと興奮した様子で籠に入れ、会計を済ませてご満悦の様子。なにかいいものありましたー?

 

「ふぇ!? え、ええ色々と。神殿で保管している壊れた遺物の補修に使えそうな部品や、単品では不完全な効果しか発揮しない魔道具などがありましたので……」

 

 結構散財してしまいましたと照れる剣の乙女。なるほど、まさにジャンク漁りをしていたわけですね。そういう時には≪鑑定≫能力は便利で羨ましいなぁ。どれが一番の掘り出し物なんです?

 

「うぅ……な、内緒です! 他の方が揃ってからお伝えしますので、今はまだ内緒です!!」

 

 おおう、随分本気で隠したがってますね……。ちょっと聞き出せそうにないので、後のお楽しみにしておきましょうか。一旦買ったものを置きに家に戻るとして、Aチームのほうはどうなってますかねぇ……。

 

 

 

 

 というわけで吸血鬼侍ちゃん率いるAチームです。一党は現在吟遊詩人や大道芸人が集まる区画に来ているようですね。自慢のパフォーマンスや王都で人気の詩、超絶技巧の演奏に調教(テイム)した動物を操るサーカスなど様々な演目が所狭しと行われています。

 失敗した者にはヤジをとばし、見事な技術を披露したものにはおひねりを投げ入れる。日頃娯楽に飢えている人々にとって夢のようなひと時なのでしょう。

 3人はというと、濃いアイシャドウが特徴的な道化師の恰好をしたパフォーマーの前で演目を楽しんでいる様子。ジャグリングやナイフ投げといった目を楽しませる演目を終え、次は楽器を取り出し詩を歌うようですね。

 

 

 深き深き闇の中 愛欲し光求める小さきものの姿あり

 

 其は地べたを這う裸足の鼠 血の海を泳ぎ 寄る辺を探す一匹の鼠

 

 天を見上げ 星に前足を伸ばし 醜く藻掻く事幾年月

 

 やがて鼠は天鼠(てんそ)へと転じ 己が影を友として羽搏く

 

 されど天鼠 光に焼かれ 羽根焼け落ち 焦がれし心は灰と散る

 

 其は黒にして天鼠 只の鼠から生まれ 大山鳴動させる一匹の鼠

 

 

 不思議な韻を踏んだ詩です。森人少女ちゃんが教えてくれた英雄譚に似ていますが、彼女も聞いたことがないもののようですね。歌い終わった道化師はお客さんの歓声に大仰な仕草の礼で応えた後、聞き入っていた3人に近付いてきました。……何故か腰を激しくグラインドさせながら。

 

「ンンン、久しぶりの再会と思えば、随分と変わり果てた姿になったものですねぇ?」

 

 この変態アンタの知り合い? と率直に聞いてくる女魔法使いちゃんすこだよ。いや、「経歴」にもこんな知り合いはいなかったと思うんですが。

 

「ああ、私は悲しい。あんなにも長い間、仄暗い地の底で同じ時を過ごしていたというのに……」

 

 口では悲しいと言いながら、その表情は歪んだ笑みのそれです。その口からは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが見え……あっ(察し)

 

「……フフフ、ハハハハハハ。イーヒッヒッヒッヒッ! 思い出していただけたようで何より! ……ああご心配なく、私は既に役割(ロール)を終えた身、世界(ルール)に干渉なぞしませんとも」

 

 貴女と違ってね、と嘯く不死の蛞蝓(きみょうなどうぶつ)。他人のことは言えませんが、お前も迷宮から出て来てたんか……。

 

「今の私は道化にして辺境を渡り歩く吟遊詩人! 王都にまで聞こえてきた吸血姫(カーミラ)の噂を確認しに馳せ参じたまでのこと」

 

 いやぁ随分稼がせていただきました、と悪びれもせず語る道化師(フラック)。一応確認するけど、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「もちろんですとも。どちらかというとワタクシ、無貌の神(月の魔物)とは相容れないスタンスですので」

 

 おおう、やっぱりこいつ「四方世界の囲い(第4の壁)」を認識してますね……。とりあえず君の営業活動を邪魔する気はないので、敵対しないことを祈ってるよ……。

 

「ええ、ええ。貴女の活躍を詩にして広める。さすればいずれ多次元界への(ゲート)は開かれる事でしょう! その日まで、陰ながら応援してますよ……ではまた」

 

 大仰な一礼とともに一瞬で姿を消す道化師。周囲に配置してあった商売道具ごと霞のように消えてしまいました。2人とも彼が忽然と消えたことに驚き、魔法か手品かと話していますが、まぁ恐らく()()()()()()()()んだろうなぁ……。っとそろそろ勇者ちゃん一党との待ち合わせの時間ですね。また例の酒場まで戻りましょうか。

 

 

 

「んで、分身ちゃんと一党はこっちで、ちっこいのは別行動ってわけね」

 

 酒場に戻ると、そこには完全装備の異種族3人組とBチーム、それに勇者ちゃん一党が待ち構えていました。Aチームの装備も運んで来てくれていたので、吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんも戦闘準備はバッチリです。酒場で三好圃人斥候の密会を聞き耳していた妖精弓手ちゃんが、纏まった戦力である吸血鬼侍ちゃん一党をゴブスレさんの増援に加えるために分身ちゃんに協力を要請したという流れですね。

 ほんとは吸血鬼侍ちゃんもそっちの応援に行きたいところなんですが、ちょっと世界の危機が迫っているみたいでして……。

 

「まぁ、そっちはそっちで大変みたいだし、死なないように気を付けなさいよ?」

 

 あら、いつもと違って優しいじゃないですか。え、同胞2人の想い人が死ぬのを望むほど落ちぶれちゃいないって? そりゃ失礼しました。あーでも森人少女ちゃんにはギルド支部にでも避難してもらったほうが良かったかなぁ……。ん、どうしたの森人少女ちゃん? ポシェットに手を突っ込んで……ってそれはもしかして精霊術の触媒!? まさか森人少女ちゃん……。

 

「戦うことはできませんが、精霊術で傷を癒したり足止めをすることは可能です。お許しいただけるのでしたら、御傍に置いてくださいませ」

 

 いつの間にそんなの覚えてたの……ってそうか、鉱人道士さん! 例の手ほどきを行ってくれてたんですね。耳長の新芽っ子にしては筋が良い? これは後で樽酒を用意しないと(使命感)

 

 森人少女ちゃんは良いとして、あとは剣の乙女ですね。妖精弓手ちゃんからゴブスレさんが動いていることを聞かされたのでしょう、青ざめた顔で分身ちゃんを抱き締めて震えています……。

 金等級の大司教(アークビショップ)という戦術兵器な剣の乙女ですが、ゴブリンだけはやはりダメみたいですね。ちょっと惜しいですが避難して……っと森人狩人さんその手に持っているのは。良い機会だから彼女にもトラウマを克服してもらいたい? いざという時のフォローはする?

  ……わかりました、やってみましょう! 

 

 森人狩人さんからあるものを受け取り剣の乙女のもとへ近付く吸血鬼侍ちゃん。それに気付いて分身ちゃんを開放する剣の乙女。胸の前で合わせられた手は恐怖に震えたままですね。その手を取り、自分の手と重ね合わせながら吸血鬼侍ちゃんが話し始めます。

 

「こわいよね、身体も心もボロボロに傷つけた相手が近くにいるのは」

「ぼくもこわい。きみや、ここにいるみんながゴブリン(あいつら)に傷つけられるのが」

 

「でも、それとおなじ、いやそれ以上にこわいことがあるんだ」

「それは、きみがずっとゴブリン(あいつら)をこわがっていること」

「ぼくやなかまがいないときに、きみが動けないでいること」

「恐怖に震えたまま、ゴブリン(あいつら)の玩具にされること」

 

「だから、恐怖に立ち向かってほしい」

「恐れをなくしてなんて、いわないしいえない」

「でも、ほんの少しだけ勇気をだしてほしい」

「おなじ恐怖に立ち向かうみんなのために」

「おなじ恐怖を感じているぼくのために」

「どうかおねがいします、一緒に恐怖を乗り越えてくれませんか?」

 

 

 森人狩人さんから渡された真紅のマフラーを剣の乙女の首にかけ、太陽の直剣を差し出す吸血鬼侍ちゃん。無意識のうちに触れていたのでしょう、貧相な襟巻に秘められた力に驚きを隠せない様子の剣の乙女。やがて意を決したのか、直剣を受け取り胸元にしっかりと抱き締めました。

 

「皆恐怖を感じていないわけではない。それは彼女たちを見ていれば分かっていた筈なのに。弱い女ですね、私は……」

 

 でも、という彼女の瞳には僅かですが意志の炎が宿ったように見えます。安心して! いざという時は全力で守るから! ……分身ちゃんが。

 

「馬鹿、そこは嘘でも見栄でも自分が守るって言いなさいよまったく……」

 

 これは手厳しい。でも分身ちゃんも大切な仲間だし、もう1人の吸血鬼侍ちゃんだからね。女魔法使いちゃんに苦笑を返しつつ、腰の村正を分身ちゃんに渡す吸血鬼侍ちゃん。多分こっちの戦いでは威力不足なんで、また二刀流に使ってちょうだいな。

 

「話は纏まったみたいね。オルクボルグはどうせ1人で行こうとするだろうから、驚かすために先回りしてやるわよ!」

 

 妖精弓手ちゃんの音頭で酒場から出撃する混成一党。負けることはないと思うので、あとはみんなが怪我をしないように祈るだけです。

 

「いいなぁ、不謹慎かもだけど、ボクもああいう冒険をやってみたいなぁ」

 

 腹が減っては戦は出来ぬと言わんばかりに腸詰の麺麭挟み(ホットドッグ)を両手に持って頬張っていた勇者ちゃんが零します。そりゃ毎度毎度世界の危機ですからねぇ……。たまには小さな冒険もしてみたいという気持ちがあるんでしょうか。

 

「言い方は乱暴だが、私たちは私たちにしか立ち向かえない問題を解決せねばならん」

「それをやり遂げなければ、この世界は早晩混沌の渦に飲み込まれてしまうのですよ?」

 

 一党の厳しい言葉にわかってるよーと返す勇者ちゃん。ケチャップの付着した指を舐めとり、椅子を蹴るように立ち上がります。

 

「ボクたちが世界を救っても、帰る場所が無くなってたら意味がない。それを守ってくれてるのが彼らなんだ。感謝することはあっても不満に思ったりはしないよ!」

 

 うーん、その発想はやはり勇者ちゃん。常人から見れば困難な道のりでも、やれることをやってるだけと言い切れる強さは尊敬の念しか浮かんできません。付き合わされるのは正直辛いですが。

 

「いい加減諦めるのです。≪託宣(ハンドアウト)≫では同行(PC④)は暫く続くようなのです」

 

 ああやっぱり……。この先もハードモードは続くんですね。

 

 そろそろ儀式の時間なのですという賢者ちゃんの声で一党の顔つきが変わりました。女神官ちゃんが巫女役を務めている儀式の祈りを利用して、霊界(アストラル)に乗り込んでの巨人殺しです! 賢者ちゃんから渡された≪巨人殺し(ストームルーラー)≫を担いだら準備はOK。いざ最終決戦(クライマックス・フェイズ)へ!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え、今日は吸わなくていいのかって? いやぁ初心で純真な2人(勇者ちゃんと剣聖さん)の前で吸うのはちょっと……。いや、なんで微妙に残念そうな顔をしてるんです???

 




明日から仕事なので失踪します。

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セッションその5ー3

おしごとたーのしー! ので初投稿です。


 前回、百手巨人(ヘカトンケイル)に挑むところから再開です。

 

 儀式にて束ねられた祈りの力を利用し、賢者ちゃんの手腕により霊界(アストラル)へと魂を投射した一党。眼前には暴威という言葉をそのままカタチにしたような嵐が渦巻いています。

 

「うっひゃー! いーちにーいさーん……あれ、もしかして百本より多いんじゃない? きっと千本くらいあるよ千本くらい!」

「なるほど、千手巨人か」

「じゃあ呼び名はキロトンケイルに変更してやるのです」

 

 次々と腕を生み出す巨人に対峙しながらも余裕のあるやり取りをしている勇者ちゃん一行。あるいはこれが彼女たちのリラックス方法なのでしょうか。勇者ちゃんは半透明に透けた身体をダイナミックに躍動させ、準備運動を始めています。

 

「キミのほうは問題ないかな……って、なんだか凄いことになってるね!?」

 

 へ? 何か変なところが……ってなんじゃこりゃあ!? 半透明なのは勇者ちゃんたちと変わりませんが、吸血鬼侍ちゃんの姿が普段と違っています!

 

 胸甲付き長衣とフードは消え失せ、典雅な装飾の衣装に漆黒の外套、いわゆる吸血鬼っぽい服装に変わってますね。一体何が原因なんでしょう?

 

霊界(アストラル)では魂のカタチがより鮮明に具現化するのです。恐らくその姿が貴女の思う自分自身の在り様なのです」

 

 ほうほう、つまり吸血鬼としての本質が剥き出しになっている感じですかね。となると、外套を握って……そぉい!

 

ヒュパァ!

 

 おお! 思った通り、しなやかな生地の外套が硬質な刃に変わりました! 上手く操れば盾にもなりそうですね。ビジュアル的には神祖生まれのDさんが出演する映画の貴族や、カットカットする死徒さんの振るうアレが一番近いかなぁ。

 

「おお、かっこいいじゃん! なんか吸血鬼っぽい!!」

 

 吸血鬼なんだよなぁ……。すっごーい! と連呼しながらぴょんぴょん跳ねている勇者ちゃんですが、残念ながらまったく揺れていません。まぁそれは吸血鬼侍ちゃんも同じですが。

 

「2人とも遊んでないでさっさと構えるのです。どうやら此方を敵として認識したようなのです」

 

 呆れた様子で2人を窘める賢者ちゃん。そのお山は小柄な体格に反してたわわに実っています。視線か、或いは感情を感じたのか、頬を赤らめながら吸血鬼侍ちゃんから隠すように胸元を抑える賢者ちゃん。かわいい(かわいい)

 

 

「Ah・・・・・・Aaaaaaahhhhhhhhh!!」

 

 それじゃ吸血鬼侍ちゃんは露払いを……っておわぁ!? 腹の底に響くような雄叫びを上げたかと思えば、太い腕から枝分かれするかのように無数の腕を伸ばし、天から降り注ぐ流星のように周囲一帯(シーン全体)に叩きつけようとしています! まだ接敵前段階(セットアップ)だってのに気が早い! 虚を突かれ味方は一塊のまま(同一エンゲージ)なので、このままでは全員巻き込まれちゃいます。しからば吸血鬼侍ちゃん、GO!

 

「おい、何をする気だ!?」

 

 後方から剣聖さんの声が聞こえますが、答えている暇はありません! 人外の反応速度で勇者ちゃんたち(エンゲージ)から離れ、生命力(ライフ)を代償にクイックチャージした≪巨人殺し(ストームルーラー)≫による嵐の一撃を百手巨人(ヘカトンケイル)に叩きつけます! 装甲で殆どが防がれてしまいますが、振るわれたのは紛れもない巨人殺しの業。百手巨人(ヘカトンケイル)敵愾心(ヘイト)を吸血鬼侍ちゃんへ向けることに成功しました!

 

「Gi・・・・・・Gaaaaaahhhhhhhhh!!」

 

 前方、後方、360度全方位から押し寄せる拳の弾幕。小さな身体を僅かな隙間に潜り込ませながら百手巨人(ヘカトンケイル)へと前進していく吸血鬼侍ちゃん。多少の傷は再生するに任せて無視し、致命の一撃のみ躱し、剣で受け、外套で凌いでいきます。一撃でも多く引き付け、一秒でも長く時間を稼げば、それだけ勝利への道が近付いてくるんですから。

 

 顔面狙いの一撃を首を傾げて避け、噛み千切りつつ吸血(ドレイン)して再生速度を向上させる吸血鬼侍ちゃん。近付くにつれて激しくなる拳の重爆。見上げるほど大きくなった巨人の足元に再び嵐の一撃を……ってヤバッ!?

 

ぐしゃり

 

 あー!? 避けるのを見越してか、途中で拳を開き指に引っ掛かるを幸い吸血鬼侍ちゃんの左腕をもぎ取っていきやがりました! 迫る拳と吸血鬼侍ちゃんの回避速度に大きな差はありませんが、絶望的な質量差からくる衝撃は覆すことができません。腕を持っていかれた勢いで吹き飛び、転倒してしまいました。動きを止めた小さな羽虫(吸血鬼侍ちゃん)を確実に仕留めるべく、無数の腕をより合わせ、巨大な腕を生み出す百手巨人(ヘカトンケイル)。さ、流石にアレを喰らったら再生がどうとかって問題じゃないですね……。

 

 

 

 

「おまたせ! 無理させちゃってごめんね!!」

 

 振り下ろされた腕と吸血鬼侍ちゃんの間に割って入ってきたのは我らが勇者ちゃん! 自身の身体の何十倍も大きな拳を受け止め、裂帛の気合いとともに弾き返しました! 重心の乗った一撃を跳ね返され、堪らずに蹈鞴を踏む百手巨人(ヘカトンケイル)。その隙を見逃す勇者ちゃんではありません!!

 

「太陽は……爆発だぁぁぁ!!」

 

 必殺の一撃を放つ勇者ちゃん。技名はちょっとずつアレンジしてるんですね。

 

 閃光が通り過ぎたその後には、焼けた腕が枯れ木の外皮の如く剥がれ落ちる百手巨人(ヘカトンケイル)の巨体。ですがとどめには至らなかったのか、黒く変色した表皮の下から再び腕を生やそうとしています。大技を連続して放つのは厳しいのか、勇者ちゃんの構えた剣には先ほどまでの眩い光は宿っていません。このままではジリープアー(徐々に不利)、なんとか再生を止めないと……。

 

「成程、この霊界(アストラル)では姿は仮初、意思によって変化するということか」

 

 緊迫した空間に涼やかな声が響きます。出処は後方、賢者ちゃんの護衛に回っていた剣聖さんからでした。

 

「つまりだ、私が望めば普段飛ばしている剣気を伸ばすことが出来るわけだ」

 

 眼前に構えた剣を高く掲げる剣聖さん。剣身が輝いたその刹那、天に届かんとばかりに伸びたではありませんか!

 

「チェストォォォォォ!!」

 

斬!!

 

 駆ける勢いのまま跳躍すると、重さをまったく感じさせぬ所作で剣を振りかぶり縦一閃。再生を始めていた巨体はその背後の空間ごと分かたれ、徐々にズレ始めました。

 

「GiGi・・・・・・GaGaGaGaGaGa!!」

 

 うわぁ、まだ頑張るのかぁ……。左右に断たれた巨体から湧きだした無数の手が握手をするように互いを掴み、必死に崩壊を食い止めようとしています。ちょっと生命力(ライフ)が危険域に突入しそうですが、吸血鬼侍ちゃんがもう一撃入れないとかなぁ……ん?

 

「その必要はないのです。……時間がかかりましたが、皆の祈りを集めていました」

 

 賢者ちゃんが杖を翳すと、勇者ちゃんの持つ剣に再び光が宿りました。

 祈りは力なり、力は祈りなり。賢者ちゃんの祝詞とともに、その輝きはいや増すばかりです!

 

 

 

「この一撃は、みんなの想いが込められた一撃!

――――――太陽は、再び昇るっ!!――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者ちゃんの渾身の一撃で、百手巨人(ヘカトンケイル)は四方世界に顕現することなく消えていきます。転んでいた吸血鬼侍ちゃんは勇者ちゃんによって引き起こされ、勝利の両手ハイタッチを……しようとして、まだ左腕の再生ができていないことに気付いたようです。これには一同苦笑い。

 

 いやーどうなることかと思いましたが、終わってみれば完勝でしたね! 大きな被害も無く、勇者ちゃん一行の好感度も稼げました。このままサイドキック・・・・・・もといPC④として参加していれば、酷い目にはあっても死ぬことはないでしょう! それにしても随分あっさり終わりましたね。無貌の神(月の魔物)さんが口出ししてたからもっとヤバい級の出来事が待ち構えていると覚悟していたんですが。……え、ちゃんと用意してある?

 でもこっちはもうエンディングで……ってまさか分身ちゃん(あっち)に出すつもりですか!? 今どうなってるの!? 卓移動しますからね!!

 

 

 

 

 

 ええと、分身ちゃんサイドは……どうやらタワーディフェンスには成功して、ゴブスレさんのマンチプレイと妖精弓手ちゃんの矢で、敵の首魁である闇人(ダークエルフ)が仕留められたところのようですね。

 

 なぁんだ脅かさないでくださいよ無貌の神(月の魔物)さん、そんなおやつなんか食べちゃったりして。美味しそうに食べてますけどなんですそれ? アーモンド入りチョコ? うわぁカロリー高そう。でもひとつもらってもいいですか? ありがとうございま……アーモンド?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ(察し)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘、確かに手応えはあったのに……ッ!?」

 

 雷鳴轟く嵐の中、妖精弓手ちゃんの悲鳴にも似た声が響きます。肌の色こそ違えど、森人と大差ない生命力しか持たぬはずの闇人。呪物の加護を失い死に体だった筈のそれが操り人形のような不自然な動きで立ち上がりました。上体をブラブラと動かすそれは内側から裂けるように爆ぜ、現世の法則から外れた異界の理に従うかのように見る者の正気を削る異形が現れました。

 

 七本の腕を持つことは変わりませんが、見上げるほどの巨体、人族から逸脱した本数の指、枯れ木のようにやせ細った体躯と扁桃(アーモンド)にも見える異貌。本来四方世界に現れることの無い他次元の生命体、その名は……。

 

「アメンドーズ、アメンドーズ……哀れなる落とし子に慈悲を……ヒィーヒッヒッヒ!!」

 

 ……何処からともなく道化師(フラック)の嘲笑が聞こえてきました。あん畜生最初から知ってたなー。恐らく目の前のコレはアメンドーズそのものではなく、「7本の腕」「上位存在の加護」といった類似点から浸食されて生み出された紛い物といったところでしょうか。

 

 偽物とはいえ眼前の悍ましい巨体から発せられる瘴気は人間にとって毒そのもの。特に儀式によって感受性が高まっている女神官ちゃんはこみ上げる嘔吐感を抑えるのに必死なようです。早いとこ仕留めないとSAN値がガリガリ削れて大変なことになっちゃう! 走れ分身ちゃん!

 

 雨で視界が妨げられる中、巨体へと疾走する分身ちゃん。振り回され、駄々っ子のように地面に打ちつけられる拳には膨大な魔力が込められており、触れた箇所が半円状に抉り取られています。

 

 眼前を掠める腕を村正で斬りつけますが、硬い外皮に阻まれ僅かな出血に留まっています。目晦ましを兼ねて≪力矢≫を顔面に放ちますが……うーん、やっぱり威力不足ですね。≪火与(エンチャントファイア)≫や≪力与(エンチャントマジック)≫が使えれば話は違うんですが、吸血鬼侍ちゃん覚えてないんですよねぇ……。

 

「なるほど、つまり私たちの出番というわけだねご主人様?」

「あーもう、私は後衛だって言ってるのに……ッ!」

 

 雷光と炎を纏った連撃が叩きつけられ、千切れ飛ぶ二本の腕。傷口から夥しい血を流し絶叫を上げる異形の前には女魔法使いちゃんと森人狩人さんの立ち姿! 牧場防衛ミッションからこっち無茶な冒険に付き合ってもらってましたが、こんなに強くなってるとは思いませんでした。

 

 分身ちゃんが囮となって異形の攻撃を誘い、振り下ろされた腕や体重を支えるには華奢過ぎる脚に攻撃を集中させる2人。物理的な威力は低くとも、炎と雷撃によるダメージは確実に蓄積しています。

 

「cyuoooooooooaaahhhhhhhh!!」

 

 危なっ!? 最早なりふり構っていられなくなったのか、先程千切れ飛んだ二本の腕を棍棒のように握り、3人を纏めて薙ぎ払おうとしてきました! 分身ちゃんほど回避と耐久力に自信のない2人は、一旦射程外へ退避し隙を窺っています。とはいえ分身ちゃんだと決定打不足だから、隙を作るために被弾覚悟で突っ込むしか……おや、急に雷が強くなって……違う、これはもしかして!

 

「《裁きの司、つるぎの君、天秤の者よ、諸力を示し候え》!」

 

 背後から響く朗々たる詠唱、艶やかな声色とは裏腹に、軍勢すら消滅させる威力を秘めた剣の乙女の≪聖撃(ホーリースマイト)≫です! 天上から降り注ぐ無数の雷撃により、断末魔の声を上げることすら許されず消えゆく異形の偶像(アメンドーズ)

 後には左手を象った呪物が水たまりにポチャリと落ちるだけ。≪聖撃≫の余波で雨雲は吹き散らされ、2つの月がぬかるんだ大地を照らし始めました。呪物を拾い上げ、興味深げに眺めている分身ちゃん。それ後で必要になるからキープしておいてね。放置しておくとゴブスレさんにパリーンされちゃうから。

 

 

 

 

 いやーようやく現世に戻ってこれましたよ吸血鬼侍ちゃん! 勇者ちゃん一行は霊界渡りの後始末と負荷がかかったレイラインの修復に取り掛かるそうですが、吸血鬼侍ちゃんは一党が心配だろうと先に帰してくれました。まさか分身ちゃんサイドに今週のビックリドッキリ変態を出してくるとは思いませんでしたが、全員無事にミッションを終えレアアイテムも回収できて万々歳です! 

 

 ただいまーみんな、怪我してない? あ、これ? 再生が間に合ってないだけだからヘーキヘーキ! そっちも変なのが出て大変だったみたいだね。とりあえず勝利を祝して酒場で「いや、ご主人様。これからが本番だよ」……へ? まだなにか残ってたっけ……って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森人狩人さん

 

 

 

 

 

 生きたまま捕獲したゴブリン(そんなもの)

 

 

 

 

 

 い っ た い な に を す る つ も り な の ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




仕事に全集中するので失踪します。

お気に入り登録、誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

感想、評価についても併せて入れていただければ幸いです。

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セッションその5 りざると

そろそろ1クール目の終了気分なので初投稿です。




 前回、森人狩人さんがゴブリンを引き摺ってきたところから再開です。

 

 ちょっと森人狩人さん、それ何処で拾ってきたんですか? ご丁寧に手足を縄で縛って、猿轡まで噛ませてありますけど。落とし穴に落ちた中で杭に刺さらなかったヤツを生け捕りにした? あーなるほど、運の良いゴブリンがいたんですね。本当に良かったのかは分かりませんが。

 

 拘束されたまま一党の前に放り出されたゴブリン。その目は恐怖と、何故自分がこんな目に遭わなければならないのかという理不尽さへの怒りに満ちてますね。引き摺られた後には擦過による出血と失禁の跡が点々と。周りに散らばる同族の死体を見てはくぐもった悲鳴を上げています。

 

 身をよじり必死に慈悲を乞おうとしていますが、周囲の冒険者の目に僅かな慈悲すら浮かばないと知るや、這ってでも逃げようと試みています……。

 

「まぁ待ちたまえよ、キミに機会(チャンス)をあげようじゃないか」

 

 這いずるゴブリンを仰向けに抑えつけ、右手に持ったナイフで猿轡を切る森人狩人さん。声を上げようとするゴブリンの口を反対の手で鷲掴むように塞ぎ、耳元で囁きます。

 

「ほらご覧、向こうに匂い立つような美しさの雌がいるだろう? ……アレを自分のモノにしたいと思わないかい?」

 

 森人の雌が放つ甘い体臭と耳に当たる吐息に陶然とし、暴れるのを止めたゴブリン。立膝の姿勢でその後ろに回り込んだ森人狩人さんがゴブリンの頭を持って向けた先には、むしゃぶりつきたくなる胸と彼に対して怯えを浮かべた瞳を持つ只人の雌(剣の乙女)の濡れた肢体。

 両足の戒めを解き、後ろから抱き着く形でゴブリンにナイフを握らせています。

 

「あの雌は君を怖がっている。ちょっとそのナイフで脅せば、容易く君専用の孕み袋になるだろうね。それに……」

 

 ゴブリンが両手を縛られたままナイフを握ったのを確認すると、その手を放し後ろから豊かな双丘を押し付ける森人狩人さん。

 

「そんな強い雄なら、惚れてしまう雌がいるかもしれないよ……?」

 

 言葉は理解できずとも、何を言わんとしているかは本能で察したのでしょう。恐怖と怒りの色は瞬刻に消え去り、眼前の雌を自分のモノにすることしか頭に残っていません。口元からは涎を垂らし、濡れた寒さと恐れによって縮こまっていた彼自身は傍から見ても分かるほど屹立しています。

 

 はぇ~すっごいえっちい……じゃなくて、なに剣の乙女にゴブリン嗾けてるんですか。しかも()る気満々にさせちゃって。オマケになんで誰も止めようとしないの? 女魔法使いちゃんも、ゴブスレさんも、妖精弓手ちゃんも! こんな傷口を抉って塩を刷り込むような真似、早く止めさせないと……って、誰かが吸血鬼侍ちゃんを後ろから抑え……ッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 な ん で 吸 血 鬼 侍 ち ゃ ん を 止 め て る の 分 身 ち ゃ ん ?

 

 

 

 

 

 

これは、かのじょがかこをのりこえるためのつうかぎれい(イニシエーション)

 

もしきみ(ぼく)がかのじょたちをこころからあいしているのならば

 

どうかふたりをしんじてみまもってあげてほしい

 

……おねがい

 

 あれ、分身ちゃん本体(こっち)の操作を受け付けていませんね。というよりも自律思考してませんか? 原則本体と同じ行動をする≪分身(アザーセルフ)≫ですが、走者兄貴や実況兄貴からの報告にもあるように、結構な頻度でバグが発生するみたいなんですよねぇ。それにしても随分人間らしいというか、成熟した思考を持ってるというか……。分身ちゃんの説得で、吸血鬼侍ちゃんもジタバタするのを止めてしまいました。うむむむむ、この事態は想定外ですが……。

 

 ……わかりました! 今まで苦楽を共にしてきた分身ちゃんの言うことです、きっとそのほうが一党の幸せに繋がるんでしょう(棚上げ)。あ、でも万が一怪我しそうになったら全力で介入するからね?

 

 

 視線を現場に戻したら……森人狩人さんがゴブリンを開放し、拘束されたままの両手でナイフを腰だめに構え、ゴブリンがじりじりと剣の乙女に近寄っているところですね。対峙している剣の乙女は太陽の直剣を構えてはいるものの、その切先は震え満足に構えることすら出来ていません。

 

「GOOOOB!」

 

「ヒッ……!?」

 

 唐突なゴブリンの叫び声に無意識に後ずさってしまい、バランスを崩しかける剣の乙女。嗜虐的な笑みを浮かべてゴブリンが躍りかかります!

 

 キィィィン!

 

「GOB!?」

 

 その柔らかそうな腹部にナイフを突き立てんとするゴブリンですが、刺さる直前、目に見えない壁に弾かれ衝撃でそれを手放してしまいました。

 顔を背けた体勢で動けなかった剣の乙女も、不思議そうにゴブリンの醜態を見た後、ハッとした表情で首に巻いた襟巻に触れています。いやー無事に効果を発揮してくれて良かった……。

 

 吸血鬼侍ちゃんが不思議な迷宮で小鬼(オーガキン)から貰い、剣の乙女に託した【小鬼の襟巻】。

 その効果は「装備者が魅力的な者である場合、()()()()()()()()()()()()()()」というもの。

 

 森人狩人さんの色香に酔い、生存と生殖本能に支配された小鬼(ゴブリン)にとって、剣の乙女はさぞかし()()()に思えたことでしょう。攻撃を逸らすだけでなく、使われた武器まで弾き飛ばしてしまったんですから。

 

「GOB!?GOBGOBGOB!?」

 

 当てが外れ暫し呆然としていたゴブリン。我に返り逃走を試みますが、その足は泥沼に沈み、身動きが取れなくなってしまいました。必死に引き抜こうとしていますが、そのままズブズブと深みに嵌っていきます。これは、森人少女ちゃんの≪泥罠(スネア)≫ですね!

 

 土と水の精霊に働きかけ、ゴブリンの動きを封じた森人少女ちゃん。ゴブリンを見つめるその目には、一片の感情も浮かんでいませんね……怖っ。そして、泥濘に尻餅を付きゴブリンが見上げるその視線の先には、直剣を下段に構えた剣の乙女。悲痛な声を上げ慈悲を乞うゴブリンですが、眼前の剣先はブレることなく喉元に突き付けられています。

 

 「……嬲るようなことはいたしません。それでは小鬼(あなたたち)と変わりませんから。ですが情けも与えません。これ以上、私や彼女たちのような者を生み出さないために」

 

 掲げた剣が振り下ろされ、一瞬の痛みだけでゴブリンは恐怖から解放されました……。

 

 

 最後の一匹が退治され、一党の顔には安堵の笑みが浮かんでいます。まぁ約一名表情が読めない人物(ゴブスレさん)もいますが。あ、剣の乙女の背後の茂みから女魔法使いちゃんが出てきました。いざという時は介入するつもりだったのでしょう、やれやれという表情で肩に担いだ爆発金槌を揺らしています。激おこ状態の妖精弓手ちゃんは、森人狩人さんに次は絶対こんなことさせないからと念押ししていますね。普段は飄々としている森人狩人さんもその剣幕にタジタジになってますが、剣の乙女の執り成しでなんとか噴火は防がれたようです。

 

 「ああ、無茶なことをして済まなかったねご主人様。予めこうすることは伝えておくつもりだったんだけど、ご主人様が戻ってきたタイミングが悪くてね……」

 

 妖精弓手ちゃんから逃げてきた森人狩人さんが吸血鬼侍ちゃんに両手をあわせて謝っています。うん、霊界(アストラル)での戦闘があったせいで到着が遅れたからしょうがないんだけれど、今回ばかりはちょ~っと不味かったみたいだねぇ。

 

 ……ヒック

 

 ……グスッ

 

「あー、あとでなんでもするから、機嫌を直してくれないかなご主人さま゛っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「うぇあああああああああああああああああん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギャン泣きを始めてしまった吸血鬼侍ちゃんに呆然とする面々。いやーびっくりですね、普段の吸血鬼侍ちゃんからは想像できません。恐らくですが、感情がそのまま出てしまう霊界(アストラル)にいた影響で、普段理性で抑え込まれている部分が表に出やすくなってしまったのではないでしょうか。

 

 なんとも言えない空気の中で響く吸血鬼ちゃんの泣き声。停滞した雰囲気を壊したのはへくちっという女神官ちゃんの可愛らしいくしゃみでした。

 

 

 

 

「ねぇ、そろそろ泣き止んだらどう? このままじゃ話すことも話せないわよ?」

 

 風邪をひいては不味いので、とりあえず今日は解散という流れになり自宅へ戻った一党。濡れた髪をタオルで拭かれ、ベッドに腰を下ろした女魔法使いちゃんのお山に後頭部を預ける体勢で抱きしめられている吸血鬼侍ちゃん。左腕の再生も忘れたまま、まーだえぐえぐと泣いています。

 眼前には正座している森人狩人さんと剣の乙女。首から下げられた森人少女ちゃん謹製の「わたしは主さまを泣かせました」プレートが異彩を放っていますね。

 まさか本体がこんなことになるとは思っていなかったのでしょう、拾ってきた呪具を抱えたままの分身ちゃんの顔にも困惑の色が浮かびっぱなしです。

 

 女魔法使いちゃんの人肌の温もりで落ち着いたのか、驚きのギャン泣きは収まりましたが、今度は頬を膨らませたまま涙目で2人を睨み、口を開こうとしません。暫くそれを眺めていた女魔法使いちゃんですが、何かに気付いたのか吸血鬼侍ちゃんの肩に顎を乗せるように頬を近付け、耳元で囁いてますね。

 

「ねぇ、ひょっとしてアンタ……アイツ(ゴブリン)にやきもち妬いてるんじゃないの?」

 

ビクッ

 

 あーなるほど、吸血鬼侍ちゃんってば2人が無茶したことを怒っているわけでも悲しんでるわけでもなく、森人狩人さんの色仕掛けでメロメロになっていたゴブリンに嫉妬してたんですね。演技と分かっていても納得できず、オマケに2人がそんな手段を取ることを予想出来なかった自分が情けなくて思わず泣いてしまったと。

 心中を言い当てられた恥ずかしさからか、吸血鬼侍ちゃんは拘束(ハグ)から抜け出そうとしていますが、怪我をさせるわけにもいかないよわよわヴァンパイアな抵抗は、却って生暖かい笑みを浮かべた女魔法使いちゃんのスキンシップを強めるだけの結果に終わっています。

 

「ほら、分身ちゃんがアンタに用があるみたいよ。涙を拭いてちゃんとお話しして?」

 

 抱き心地を堪能していた女魔法使いちゃんの言葉にキョトンとした顔で分身ちゃんを見る吸血鬼侍ちゃん。その手に抱えられたブツを見て漸く泣き止みました。そうそう、頭からスッポリ抜け落ちていたようだけど、それが今回のメインお宝だって!

 

 抱きかかえられたまま器用に上着を捲り、引き千切られた傷口を露出させる吸血鬼侍ちゃん。そこに分身ちゃんが呪具をあてがった後、()()()()()()()()()()左腕を再生させていきます。吸血鬼侍ちゃん以外の恐るべき呪具の効果を目の当たりにしていた一党は慌てますが、2人は動じることも無く作業を続けます。

 

 ……よし、成功です! 見た目は今までと違いはありませんが、呪具を通じて百手巨人(ヘカトンケイル)の持つ『手』の権能を取り込むことができました! 無論こんな乱暴な方法で取り込んでも暴走するのが関の山ですが、制御用の術式(プログラム)は既に入手済みです。視聴者兄貴たちのご想像通り、霊界(アストラル)での戦闘中に百手巨人(ヘカトンケイル)から吸血(ドレイン)したときに盗ませていただいてました!

 

 『手』の権能を取り込んだことで、翼『手』、つまり吸血鬼の翼を用いる行動が大幅に強化。霊界(アストラル)で体験した翼を変形させての攻撃や防御、それに今までは不可能だった陽光の下での飛行も解禁になります。翼による攻撃は若干隙が大きいものの、射程・攻撃範囲ともに優秀で雑魚散らしにはもってこいです。

 また、単純に『手』の強化により、一時的な獣化を伴う「内臓攻撃(モツ抜き)」も攻撃オプションとして選択できるように。こちらは至近での致命攻撃となり、攻撃と同時に吸血(ドレイン)ができるおまけつきです。

 

 お金が有ってもなかなかパワーアップに繋がらない吸血鬼侍ちゃんの数少ない強化手段が、呪いのアイテムの使用やボスからの吸血(ドレイン)による自己改造なんですね。

 

 呪具の取り込みが上手くいったことで、吸血鬼侍ちゃんの顔に笑みが。うーん、これもいつもより幼いというか、感情が表に出ていますねぇ。まだ霊界(アストラル)酔いの影響は続いているみたいです。

 

 あ。お宝といえば、剣の乙女が蚤の市で買った掘り出し物ってなんだったんですか? みんな揃ったら教えてくれるっていってたけど。この流れで言わなきゃダメなのって? あーさっきはすごい心配したなーここはいっぱつ面白いものを見せてもらってみんなで笑いたいなー(チラッ)

 

 「うぅ……わかりました。この指輪を嵌めてみてください」

 

 剣の乙女が吸血鬼侍ちゃんに指輪を渡してきましたね。これどの指に嵌めればいいの? 術式の関係で左手の薬指? ……呪われたり外せなくなったりはしないですよね、信頼してますよ?

 

 指輪を通すと吸血鬼侍ちゃんのサイズに自動的に変わり、ジャストサイズになりました。外見的には変化は無さそうですがどんな効果が……おや? 女魔法使いちゃんに抱えられている吸血鬼侍ちゃんがもじもじと動き始めました。膝上から落ちそうになり慌てて女魔法使いちゃんが抱え直しますが、今度は顔を真っ赤にして縮こまってしまいました。一体どんな効果があるんです?

 

「その、冒険者の一党内に異性がいると、恋愛沙汰や生理的な問題で人間関係に亀裂が入ってしまうことって、よくある話ですよね」

 

 ええまぁ、痴情の縺れとかNice boat.案件はあるみたいですが。

 

「そこで、冒険中や迷宮探索の際に一党の性別を統一すればいいのでは? と考えた魔具師が古代にいたそうです」

 

 ほうほう、つまり一時的な性転換のアイテムですね、それがこれ? じゃあ今吸血鬼侍くんになっちゃってるの? 元々胸は平坦なので性転換してもそんなに外見は変わらないと思いますけど。

 

「いえ、本物であれば学院や王国で研究資料として買い取られますので市場には出回りません。その指輪は、所謂欠陥品というもので……」

 

 何故か顔を赤らめながら口を紡ぐ剣の乙女。ものすごく嫌な予感がしますが、核心部分をお願いします……!

 

「……男性が嵌めても何の効果もありませんが、女性が嵌めると……えます

 

 あー、つまりこの指輪を嵌めた吸血鬼侍ちゃんとチョメチョメするつもりだったんですねこのドスケベ乙女さんは。そんなえっちじゃありませんって? 吸血鬼侍ちゃんの顔を真正面から見ながら同じセリフ言ってみようか。

 

 そういう代物なら吸血鬼侍ちゃんの挙動不審も理解できますね。後頭部に感じる女魔法使いちゃんのお山に対して、普段は食欲と親愛の表現として行っていた吸血で発散されていた性欲が、突然ダイレクトに下半身に集中するようになってしまったんですから。

 

 剣の乙女が白状した内容を聞いて頬を染めつつ、まじまじと抱きかかえた吸血鬼侍ちゃんを見る女魔法使いちゃん。視線から逃れようと身を捩るたびに硬直する姿に呆れつつも口元が緩んでいるのがバレバレですよ。

 

「うんうん、トラウマの克服も上手くいったし、ご主人様は新しい力を手に入れた。これで今回はめでたしめでたしというわけヘブッ!?

 

 いい話で終わらせつつこっそり部屋から離脱しようとしていた森人狩人さん、突然何かに足を取られ、転ぶ寸前に抱き留められます。体中に巻き付く無数の黒い触『手』、その湧き出す源泉はベッドから飛び降りた吸血鬼侍ちゃんの影でした。

 

「まぁ落ち着こうかご主人様、話せばわかるよ」

 

 うんそうだね、だいぶ夜が長くなったからじっくりとお話ができるよね。それにあの時言ったよね? ()()()()()()()()

 

 触手で森人狩人さんを拘束したまま、分身ちゃんが差し出す呪いのアイテム(ネコミミ)を受け取る吸血鬼侍ちゃん。一旦分身ちゃんを送還し、即座に再召喚すればあら不思議。分身ちゃんの手にもネコミミがあるじゃあありませんか!

 

 吸血鬼侍ちゃんは触手でお姫様抱っこしている森人狩人さんの頭に、分身ちゃんは事態の推移についていけず、正座のまま困惑している剣の乙女の頭にネコミミを装着し、2人とも過去最高にカワイイ(イカレた)笑顔を浮かべて女魔法使いちゃんに振り返ります。笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である。古事記にもそう書かれている。

 

 何かを察したのか「ほどほどにしときなさいよ」と言いながら森人少女ちゃんの手をひいて共同寝室を出ていく女魔法使いちゃん。それは2人の態度次第じゃないですかねー。森人少女ちゃんも今日はいっぱい活躍してくれたみたいだね! 明日詳しい話を聞かせてね。主さま、頑張ってください? あ、吸血鬼侍ちゃんのやる気ゲージが一気に上がった……。

 

 壊れ物を扱うようにそっと2人をベッドに下ろすダブル吸血鬼侍ちゃん。今まで見たことがないサドい表情のまま、本体は森人狩人さんを、分身ちゃんは剣の乙女を組み伏せています。

 

「お、お手柔らかにお願いするにゃ……」

 

 引き攣った笑みで懇願する森人狩人さん。んー、と考える仕草をする吸血鬼侍ちゃんですが、瞳を嗜虐的に輝かせながら口を寄せていきます。

 

>「でも、ネコさんはつよいおすがこのみなんでしょ?」

 

 うわぁ……。森人狩人さんがゴブリンに触れていた部分を、自分の匂いで上書きするような勢いでマーキング(ちゅっちゅ)し始めちゃいましたね吸血鬼侍ちゃん。NTR属性が無かったのは僥倖ですが、よっぽどジェラってたんですねぇ……。あ、やっぱり耳が弱いんだ。ひと噛みで真っ赤になってます。

 

「明日も仕事がありますので、跡が残ったりするのは避けて欲しいにゃって……」

 

 なんで微妙に期待を込めた瞳で分身ちゃんを見つめてるんですかねぇ剣の乙女は。分身ちゃんはたわわなお山にダイブし、一党でいちばんのふわふわを堪能しているようです。

 

>「だいじょうぶ、こういしょうはのこらないようにするから!」

 

 あ、影から伸びる触手が剣の乙女を絡み捕って……。うわ、すごい。もしかすると、分身ちゃんのほうがテクニシャン(意味深)なんですかね。

 

 

 

 

 

 翌日の明け方過ぎまで一党の家から盛りのついた雌猫の鳴き声が止むことはなく、昨日の顛末を確認しようと待っていた受付嬢さんの前に現れたのは、寝不足で目を真っ赤にした女魔法使いちゃんと、やたらお肌のツヤツヤした吸血鬼侍ちゃんの2人だけでした。

 

 なお水の都の神殿では剣の乙女が修行時間になっても現れず、不審に思った侍祭さんが剣の乙女の私室に置かれた≪転移≫の鏡を通って目撃したのは、幸せそうな顔で分身ちゃんをちゅーちゅーしているあられもない姿の剣の乙女と森人狩人さんの寝姿だったそうな……。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




次回から2クール目の開始気分なので失踪します。


いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

お気に入り登録や感想、評価についても併せて入れていただければ幸いです。

お読みいただきありがとうございました。


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いんたーみっしょん5


たぶん1クールと2クールの間のOVAなので初投稿です。

UA30000、お気に入り登録500件、感想100件を超えました。ありがとうございます。

あとは評価バーの隙間が無くなれば……(チラッ)
評価していただけると2クールへのモチベーションに繋がる……かもです?




 2クール開始までは止まれない実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 収穫祭の攻防も無事終わり、また一党のお互いの意見がぶつかり合い、結果的に絆を深めることに成功しましたね(意味深)。視聴者兄貴たちが予想されていた通り、剣の乙女は侍祭さんから大目玉を食らい、神殿に缶詰め状態へ逆戻り。一応2~3日おきに吸血鬼侍ちゃんが顔を出しに行ってますが、お泊りも夜会話も禁止されてしわしわ乙女になってました。

 

 現在時刻は夜八時過ぎ、夕食も入浴も終え、一党は共同寝室で寛いでいるところです。お風呂で血行が良くなった女魔法使いちゃんから本日の糧を吸わせていただいた吸血鬼侍ちゃん。吸い跡に≪小癒(ヒール)≫をかけた後、吸血の影響で軽い酩酊状態に近い女魔法使いちゃんにあすなろ抱きされて、すっかりリラックスしていますね。

 

 分身ちゃんはベッドの上で森人少女ちゃんの膝枕。その状態で耳マッサージを受けてすやすやと寝息をたてています。悪戯しようと森人狩人さんが手を伸ばしていますが、影の触手に迎撃されてぐぬぬ顔。また調子に乗ってると夜通し鳴かされると思うんですが(名推理)。

 

「……あ、そうだ。ちょっとお願いがあるんだけどいい?」

 

「いいよー」

 

 微睡んだままの女魔法使いちゃんからの声に間髪入れず答える吸血鬼侍ちゃん。せめて内容を聞こうよ。まぁそれだけ信頼しているということなんでしょうね。

 

「学院でお世話になってた先生から連絡があって、一度顔を出さないかって。冒険者になってからの話を聞きたいのと、学院でも噂になってるアンタに会ってみたいんだって」

 

 ほうほう、ちょっと面白そうですね。女魔法使いちゃん曰く、冒険者になる切っ掛けも吸血鬼侍ちゃんの正体が予想出来たのも、その先生の影響があったからとのこと。つまり女魔法使いちゃんと今の関係になったのはその先生のおかげですね! これはご挨拶に伺わねば(使命感)。

 

 もうすぐ万聖節ですし、その前にお伺いしましょうか。学院のある王都までは本来馬車での旅になりますが、せっかくですしもっと早い手段で向かいましょう! あ、女魔法使いちゃん、お金は出すのでじいじのところで魔法付与(エンチャント)された防寒具を買っといてもらえる? うん、女魔法使いちゃんのぶんだけで大丈夫。すっごい寒いと思うから、一番良いのを選んでねー。

 

 というわけで森人狩人さん、悪いけど何日か2人で抜けますので、森人少女ちゃんとお留守番お願いします。え、分身ちゃんは置いて行ってくれないのかって? 朝呼んでおいても翌日には消えちゃいますし。いやぁ、根性じゃあちょっと延長は無理かなー。今回は我慢してください。

 

 

 

 学院に日程の都合を確認したり、女魔法使いちゃんの防寒着を調達してるうちにあっという間に出発の日になりました。

 

 

 日が昇る前の暗い家の前、肌寒い温度だというのにわざわざ森人狩人さんと森人少女ちゃんが見送りに出て来てくれました。森人少女ちゃん謹製のお弁当を背嚢にしまい、もこもこの防寒着に身を包み、背中に愛用の杖(爆発金槌)を括り付けた女魔法使いちゃんをお姫様抱っこして出発です!

 

 吸血鬼侍ちゃんの肩口から魔力で編んだ外套が伸び、翼へと変化。羽ばたく必要はないのか、ふわりと浮かび上がるとそのまま飛行に移りました。下を見れば手を振っている2人の姿。返礼代わりに上空をくるくる旋回し、闇を切り裂いていざ発進!

 

 暗視が無ければ何も見えない月の無い空を滑るように進む吸血鬼侍ちゃん。浮かび上がった瞬間に可愛い悲鳴を上げた女魔法使いちゃんでしたが、下が見えないのが良い方向に働いたのか今のところ怖がる素振りは見られませんね。大丈夫寒くない? 爆発金槌の(コア)を懐炉代わりにしてるから平気? 便利に使えていいなぁ。それよりアンタは寒くないのかって? アンデッドなんで暑さ寒さには強いからねー。それにあったかくてやわらかいのをだっこしてるし。

 

 お、軽口の応酬をしていたら、空が白んできましたね。澄んだ空気のおかげで綺麗な朝日がよく見えます。飛行を中断してその場で滞空しながら太陽が昇るのを眺める吸血鬼侍ちゃん。その目は陽光に引けを取らないほどキラキラしています。

 

>「きれいだねー」

 

「ええ、とっても。……ねぇ、私とこの景色、どっちが綺麗?」 

 

>「おひさまかなー」

 

「そこは嘘でも私って言っときなさいよ」

 

>「すきなひとにうそはつきたくないかなー」

 

「そういうところよ、ばか」

 

 おお、あついあつい(上空300m)。女魔法使いちゃんの顔が赤いのは、寒さのせいかあるいは日が当たって血行が良くなったからなのか……。答えはおひさましかわかりませんね。

 

 

 

 辺境の街を出発して約3時間、流石に直接王都に着陸するのは色々問題があるので、近郊の森に降りてからは徒歩での移動となりましたが、やっと到着です! 学院までは門からけっこう距離があるそうなので、懐も温かいことですし客待ちをしている辻馬車で向かうことにしました。

 

 慣れた様子で御者に声をかけ、学院に向かうよう伝える女魔法使いちゃん。もしかしていいとこのお嬢さんだったり? 

 

「あれ、言ってなかったかしら。ウチは代々魔術師を輩出している家系なのよ。学院を卒業して、その後は研究の道を進んだり宮廷へ出仕したり。わたしは先生の影響で冒険者の道を選んだのだけれどね」

 

 そういえば(アイツ)に顔出すって連絡するの忘れてたわーと呟いてる女魔法使いちゃん。ああ、あのトランジスタグラマーな圃人の少女戦士ちゃんと仲良くなる少年魔術師(おっぱい星人)君ですね。原作では女魔法使いちゃんの死を切っ掛けに学院を休学して冒険者になるんでしたっけ。今回は吸血鬼侍ちゃんが彼女をゲットしたので冒険者になる可能性は低いと思いますが、彼がどんな道を歩むのかはちょっと興味がありますね。

 

 馬車に揺られる事しばし、心地よい揺れに女魔法使いちゃんがウトウトし始めたタイミングで馬車が止まりました。運賃を支払い馬車を降りれば目の前にはアカデミックな建物が。ここが知識を求める者が集う学院かー。

 

 受付で記名するともに、女魔法使いちゃんが懐から出したのは以前使っていた杖に埋め込まれていた紅玉(ガーネット)。卒業の際に先生から貰ったものなので身分証明として使えるそうです。あ、吸血鬼侍ちゃんはどうしましょう? 冒険者認識票でもいい? じゃあこれでお願いします。

 

 まだ1年も経ってないのになんだか懐かしいわねーと言いながら先導する女魔法使いちゃん。廊下ですれ違うのはローブを着て分厚い書を抱えた賢者の卵たち。皆女魔法使いちゃんを見ると驚いたような表情で足を止めています。在学中なんか悪目立ちする事でもしたの?

 

「違うわよ! 一応主席卒業よ。……冒険には何の役にも立たなかったけどね」

 

 はえーやっぱり優秀だったんすねー。主席なら進路も引く手数多だったでしょうに、それでも冒険者の道を選んだのは先生の影響ってやつ?

 

「ええ、先生は他の頭でっかちや派閥争いをしてるだけの愚物とは違うわ……と、ここよ」

 

 どうやら話している間に目的地に着いたようですね。教師陣の研究室が並んだ一画にある大きな扉を叩き、訪問を告げる女魔法使いちゃん。中からは理知的な男性の入室を促す声が。在室されてて良かったと女魔法使いちゃんが先に入っていきました。それじゃ吸血鬼侍ちゃんも続けてお邪魔しまーす。

 

 

 

 

「久しぶりだね、無理に来てもらってすまない。そして貴女が彼女を助けてくれた冒険者だね」

 

 椅子から立ち上がり、初めましてと言いながら手を差し出してくる女魔法使いちゃんの先生。ワイシャツにネクタイ、ベストを着込み眼鏡をかけた30代位に見える……ていうかデカッ!?

 

 2m以上ある身長にがっしりとした骨格。二の腕は女魔法使いちゃんの腰回りよりも太いですし、下あごからは発達した犬歯が伸びていますね。あと理知的かつ決断力のありそうな声が素敵(cv:小山力也)

 

「驚かせてしまったようで申し訳ない。見てわかる通り半鬼人(ハーフオーガ)でね、よく子供に怖がられてしまうんだ」

 

 いえいえ、人は見かけで判断されやすいですし。握手をしようとする吸血鬼侍ちゃんですが、手の大きさが違い過ぎて指を握るような形になってしまい、お互い苦笑しています。

 

 2人を応接用のテーブルに案内し、手早く紅茶を用意する半鬼人先生。その手つきは鮮やかで熟練の技を感じさせますね。

 

「君達一党の活躍を聞いて驚いたよ。ゴブリンに殺されかけたという最初の手紙を受け取ってから、まだ半年ほどしか経っていないのだから」

 

 それに、と紅茶を一口飲んでから、吸血鬼侍ちゃんに優しさを秘めた眼差しを向けてきました。

 

「吸血鬼、それも私の張った≪聖域(サンクチュアリ)≫が全く反応しないとは、手紙に書いてあった通りの御仁のようだ」

 

 ファッ!? ≪聖域≫って奇跡じゃないですか。なんで学院の魔術師が覚えているんです?

 

「えーとね、先生は魔術師にして知識神(ライブラ)の神官なの。おまけに近接職も修めた元()()()()()()

 

 金等級って、マジモンじゃないですか!? もう引退した身だがねなんて言ってますけど、その肉体を維持してるってことは修練は怠ってないですよね? そういえば女魔法使いちゃん、先生の影響で吸血鬼侍ちゃんの正体が予想出来たって言ってたけど、まさか……。

 

「吸血鬼を滅殺することに特化した、王国随一の吸血鬼狩人(ヴァンパイアハンター)。それが先生よ」

 

 

 

 

 

 ……もしかして女魔法使いちゃん吸血鬼侍ちゃんのこと嫌いになったの? やっぱり他の女の子を引っ掛けたりちゅっちゅしたのが許せなかった感じですか? え、ちょっと落ち着けって?

 

 

 

 

 

「なるほど、手紙で伝えられた時は驚いたが、やはり貴女は()()()()()()()()()()()()()()()

 

 へ? 吸血鬼侍ちゃんのお知り合いですか? 一方的に知ってるだけ? ちょっとそのあたり詳しいお話をお聞きしたい所さんですねぇ。そのために呼んだ? なるほどなー。

 

 

 

 

「あれは今から五年前、不死王(ノーライフキング)を名乗る吸血鬼が王都を死者の溢れる地獄に変えようとする計画を目論んでいた時の話だ。計画を知った吸血鬼狩人(我々)は、奴が拠点としていた村を包囲した」

 

 不死王、すごいつよそう(こなみ)。あ、でも村を拠点ということは村人はもう……。

 

「ああ、既に村人は奴の眷属に変貌し、我々と食屍鬼(グール)の乱戦となった。戦いの中で斃れる仲間も出始め、不死王と対峙する時には我々は疲弊しきっていたのだ」

 

 銅等級以上の精鋭で挑んだ筈が、気付けば味方は半数以上が戦闘不能。なんとか撤退する時間を稼ぐために、残っていた銀等級以上の冒険者が悲惨な遅滞戦闘を行っていたとその時の情景を思い出しながら語る半鬼人先生。罰ゲーム過ぎて草も生えませんね。

 

「周りを見渡しても立っている味方はおらず、私も満身創痍だった。勝利を確信した奴は、上空から我々を嬲り殺しにしようと魔術を唱え始めた」

 

 拳を固く握りしめる半鬼人先生。その顔からは無念さと憤りが感じられます。

 

「奴が詠唱を終えたその時だった。視界の隅を金色が走った瞬間、奴が地面へと落ちてきた。上半身(Aパーツ)下半身(Bパーツ)が分かたれた姿でね」

 

 不死王を両断した人影は、上半身のみで呪詛の言葉を垂れ流す奴へ近付くとその首を圧し折り、血を吸い尽くした後に私に気付いた様子で振り向いてきたんだ、と続けますが、もしかしてそれが吸血鬼侍ちゃん?

 

「その時の貴女の瞳にはおよそ感情というものが見えなかった。私とまだ息のあった仲間に≪小癒(ヒール)≫をかけ、呼び止める間もなくすぐに姿を消してしまったんだ。なんとか王都まで帰還することは出来たが、その時の傷が原因で冒険者を引退し、学院の教師になったというわけなんだ」

 

 その時にちゃんと治療していれば引退することは無かったのかと思うとなんだか申し訳ない気持ちになりますねぇ……。え、恐らくあの時の吸血鬼侍ちゃんは祈りを得て(PC化して)いなかった? 自分もかつてそうだったからって、先生も≪祈らぬ者≫から≪祈る者≫になった人だったんだ……。

 

 先生も≪祈る者≫になってからだいぶ長いんですか? かれこれ100年位経ってる……って、嘘、先生年齢3桁なんですか!? たしかに鬼人(オーガ)は老化せずに成長し続けるって話は聞いたことありますが、ハーフでも若さが続くもんなんですねぇ。

 

 その後もしばらく冒険者談義をしてから、女魔法使いちゃんの杖に気付き近接戦闘の授業をしようという流れになり、学院の校舎裏で半鬼人先生の熱血指導が始まりました。

 

 牽制の発火はステップで回避し、女魔法使いちゃんの振るう爆発金槌をナックルガードでパリィする姿はまさに歴戦の戦士。先生からの攻撃は全て寸止めという紳士的な振る舞いには感動すら覚えますね! というかそれだけ動けて引退とか嘘でしょ?

 

 え、せっかくだからアンタも指導してもらえ? 是非とも胸をお借りしたいって、どう考えても借りるのは吸血鬼侍ちゃんなんですがそれは。あ、武器と魔法は使用禁止で! 大怪我したくないんで徒手空拳(ステゴロ)でやりましょう! これならワンチャンいけるかも……っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、先生強かったわねー」

 

>「むり、つよすぎ、かてない……」

 

 せっかくだから一泊して帰ろうと、半鬼人先生に教えてもらったちょっといい宿屋の寝室で、女魔法使いちゃんに慰められている吸血鬼侍ちゃん。ええそりゃもうボッコボコにされました。

 

 こちらの攻撃は鉄壁のディフェンスで防ぎ、隙を見ては突撃槍(ランス)じみた一撃を叩き込まれ吹き飛ばされること数知れず。どっかのパワー馬鹿(オーガなんとかさん)ならともかく技術を持った重量級の相手って、実は吸血鬼侍ちゃん滅茶苦茶苦手なんですよねぇ。踏ん張りが効かないので吹き飛ばしに弱いですし、習得したばかりの『手』の権能で強化した拳でも打ち合いで負けるとかヤバいですね☆

 

 頑張ってカッコいいところ見せるつもりが盛大に自爆して涙目になってる吸血鬼侍ちゃんと、それを膝上で抱えながら頭を撫でる女魔法使いちゃん。やれやれという感じでため息を一つ吐き、胸の谷間に手を入れ、抜き出したものを吸血鬼侍ちゃんの指に嵌めました。あれ、この指輪って。

 

カァァ……

 

 あ、指輪を嵌めた途端に真っ赤になっちゃいました。理性と欲望の狭間で揺れる濡れた瞳で女魔法使いちゃんを見上げる吸血鬼侍ちゃん。女魔法使いちゃんは胸元に吸血鬼侍ちゃんを抱えたままベッドに仰向けに倒れ込み、顔を唇同士が触れ合いそうな距離まで引き寄せ、そっと耳元へ囁いています。

 

「義姉さんたちの事は好きだけど、はじめての時くらいは2人きりがいいわ。分身ちゃんも呼んじゃだめよ。……しっかりとリードしてちょうだい、このスケコマシさん」

 

 やだ、男前過ぎて惚れちゃいそう……。

 一瞬何を言われたのか理解が追い付いていなかった吸血鬼侍ちゃんでしたが、言葉の意味を理解すると泣き笑いのような表情になり、そっと女魔法使いちゃんの首筋に触れるだけのキスを。

 

 

 

>「ありがとう。だいすきだよ」

 

「それはみんなのなかで一番好きって意味かしら?」

 

>「みんなのなかでじゅんばんはきめられないよ。……ごめんね?」

 

「そこは嘘でも私って言っときなさいよ」

 

>「だいすきなひとにうそはつきたくないかなー」

 

「そういうところよ、ばか」

 

 

 

 

 

 

 翌日、慣れない痛みで歩くのが困難な女魔法使いちゃんをお姫様だっこしたまま王宮に突撃し、辺境の街まで≪転移≫の鏡を使わせろと押し掛けて大騒ぎになった一幕もありましたが、その話はまた別の機会にしておきましょうか……。

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




連休なので失踪します。

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セッションその5.5

番外編なのに長くなってしまったので初投稿です。


 その日、姫騎士(うんめい)と出会う実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、王宮に吸血鬼侍ちゃんが凸した結果から再開です。

 

 華美な装飾の、それでいて実用性に重きを置いた内装の執務室。踝まで埋まるようなふかふか絨毯の上で吸血鬼侍ちゃんは正座させられています。首から下げられた「わたしは王宮にアポなしで乗り込んできたアホの子です」プレートが罪状を主張していますね。

 

 応接用のソファーに腰かけているのは金髪の青年とその脇に侍る背の高い赤毛の男性。向かい側にはガチガチに緊張した様子の女魔法使いちゃんが座っています。扉の横には呆れた様子の銀髪侍女さん。手に工作道具を持っているあたり先のプレートは銀髪侍女さんのお手製なのかな?

 

「ふむ、卿が頭の良い馬鹿ということは昔から知っていたつもりだが、どうやら過小評価していたようだな。認識を改めることとしよう」

 

 頭の良い大馬鹿者だ、と続ける金髪の青年。お、開幕から辛辣ぅ! 言葉こそキツいものの、それを口にした彼……国王陛下の頬が緩んでいるあたり、吸血鬼侍ちゃんとは気の置けない関係のようですね。軍を動かさずに死者の軍勢を処理するために国庫の宝物を貸し出すあたり、有効活用しているというほうが正しいかもしれませんが。

 

 恐れながら……と口を挟もうとした女魔法使いちゃんを笑みを浮かべながら制し、野に放たれた吸血鬼侍ちゃん(コレ)を捕まえ、あまつさえ繋ぎ止めた(恋人になった)のだ。お嬢さん(フロイライン)に感謝こそすれ罰を与えることなどある筈もないと続ける陛下。さっすが~、陛下は話がわかるッ! え、大馬鹿者(おまえ)は別だって? そんなー。 (´・ω・`)

 

 

 銀髪侍女さんに連れられて、女魔法使いちゃんが退出していきました。報酬の前払いとして、先に≪転移≫の鏡で自宅まで送ってくれるそうです。それで、吸血鬼侍ちゃんは何をやればいいんですかねぇ?

 

「とある貴族領で、圧制を敷く領主とそれを打倒せんとする反乱同盟が戦端を開く寸前になっている。数の優位こそ同盟にあるが、領主は恐るべき怪物を使役する力をもっているらしい」

 

 民が磨り潰されるのは好ましくない話であろう、と曰くありげに吸血鬼侍ちゃんを見る陛下。

 うーん、まさかこのタイミングで「蜘蛛の巣の大逆襲」が始まるとは……。しかもソロプレイは想定外ですねぇ。まぁ始まってしまったものは仕方が無いですし、断る理由もありませんので進めちゃいましょう! ええと、つまり戦闘が起きる前に原因をなんとかし(面倒事を片付け)てこいってことですね。なるべく領主は生かして捕縛しろということなので、怪物とやらを排除して戦意喪失を狙うのが無難ですかね。

 

 じゃあ早速行きましょうか。吸血鬼侍ちゃんが窓枠に足をかけたところで赤毛の枢機卿からストップが。ここから飛んでいくよりも、貴族領近くの≪転移≫の出口(たびのとびら)へ転移し、そこから向かったほうが早いとのこと。王宮の≪転移≫の鏡まで案内してくれるそうなので、お願いしちゃいましょう。

 

 「貴女が来てくれて助かりました。陛下がまた金剛石の騎士装備(デーンデーンデーン)をいそいそと準備しておいででしたので」

 

 バレてないとお思いなのでしょうが、とこめかみを抑えながら話す赤毛さん。うーん、(陛下のストレスが)たまってる、ってやつなのかな? いいわけないよ!

 

 赤毛の枢機卿に案内された場所には水の街の地下で見つけた巨大な鏡が設置されていました。なるほど、これを拠点に≪転移≫ネットワークを構築したんですね! 鏡の前には先程女魔法使いちゃんを送りに出て行った銀髪侍女さんの姿が。どうやら送り出しは終わって、吸血鬼侍ちゃんが来るのを待っててくれたみたいです。

 

 「そうか行くのかbon voyage(ボンボヤージ)

 

 帽子を深く被り、何故かパイプを咥えている銀髪侍女さんの激励?を背に鏡へと足を踏み出す吸血鬼侍ちゃん。単独行動(ソロセッション)は久しぶりですが、油断せずに行きましょう!

 

 

 

 鏡を潜った先は鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた中で、そこだけぽっかりと開けた一画でした。後ろを振り向けば閉じゆく≪転移≫門の向こうに親指を立てた赤毛と銀髪のいい笑顔。吸血鬼侍ちゃんもサムズアップを返してますね。君らやっぱり仲良しでしょ???

 

 さて、とりあえず地形を把握したいので上空へ。眼下には黒々とした森が絨毯のように広がり、その近くには領主の住処であろう城が鎮座しています。森を挟んだ反対側には天幕が並び炊事の煙が上がっている陣がありますね。あれが蜂起した軍勢でしょうか。

 

 手っ取り早く情報を集めるなら反乱軍の陣へ行くのが良いのですが、今回は別に陛下の書状や身分証明など便利なものは何も無い後ろ暗い活動(シャドウラン)です。間諜の疑いを掛けられて時間をロスするのは勿体無いですし、面倒だから直接城へ向かって……おや? 眼下の森の中、木々の切れ目に何か光るものが。下降するにつれて吸血鬼侍ちゃんの耳に入るのは剣戟の音と怒号、それに紛れ込むように若い女性の喊声も聞こえてきます。

 

 地面に降り立ち音のするほうへ向かうと、華麗な装飾が施された甲冑を身に纏う女騎士を、蜘蛛の巣の描かれた上衣を身に付けた複数の騎士が包囲していました。女性の足元には呻き声を上げる複数の兵。いずれも蜘蛛の巣の紋章が刻まれた武具に身を固めています。

 

 そういえば赤毛さんに貰った資料に載っていた領主の紋章は確か蜘蛛だった筈。ということはあの女騎士さんは反乱同盟の人でしょうか? 一対多で立ち回ってるあたり優秀なのでしょうが、脇腹に矢傷を受け動きに精彩を欠いています。……矢傷? ということは、あれがシナリオヒロインの姫騎士さんですね! このままだと危なそうなので、ちょっと介入しましょう。認識票を服の中に隠して、それからわざと音を立てるように枝を踏んでっと。

 

「!! 誰だ、其処に隠れているのは!」

 

 おお、即座に反応するとは領主の兵たちも優秀ですね。ゆっくりと木陰から出て行きましょう。

 

「? なんだ圃人か。まさかとは思うがコイツを助けに来た反徒どもの一員か?」

 

「クッ、何をしているのです! 私がこ奴らを足止めしている間に疾くお逃げなさい!!」

 

 吸血鬼侍ちゃん見た目は年若い圃人ですからねぇ。こちらを侮るような視線と焦燥感に溢れた視線、両方が向けられてます。ここは陣営をはっきりさせちゃいましょうねー。

 

>「ねぇ、おねーさんはわるいりょうしゅからみんなをかいほうするきしさまであってるかな?」

 

「え、ええ。そうですけれど……痛ぅ!?」

 

「その物言い……。きさま、はんらんぐんだな!

 

 そうわよ(便乗)。吸血鬼侍ちゃんに剣を向ける騎士たちと、こちらを庇おうとするも傷が痛み膝を突いてしまった姫騎士さん。全員剣や槍に持ち替える際に弓は放棄したのか持っている兵はいない様子。流れ矢が姫騎士さんに向かわないのなら遠慮する必要はありませんね。

 

 

 静止状態から踏み込み、一気にトップスピードまで加速。剣を振り上げた状態の部隊長と思しき装備の整った騎士の懐に飛び込み、黒く硬質化した拳を腹に打ち込む吸血鬼侍ちゃん。大戦槌(ウォーハンマー)の一撃を受けたかのように板金鎧(プレートアーマー)を陥没させ吹き飛ばしました。

 全身鎧の騎士がボールの如く跳ね飛ばされたのに気を取られた2人目に近付き、露出している顎先を掠めるようにハイキック。脳を揺さぶり行動不能にさせます。

 

 恐怖を打ち消すように雄叫びを上げながら突き出された槍は蹴り終えた脚を降ろすついでに踏み付け、穂先を深く地面に固定。バランスを崩した3人目に先を丸めた外套を叩きつけて無力化に成功しました。

 武器を放り投げ、悲鳴を上げて逃亡を図る4人目へ向かって地面に斜めに刺さった槍の柄を踏みつけジャンプする吸血鬼侍ちゃん。空中で前回転し兵士の後頭部にドロップキック、そのまま美しいY字ポーズで着地して戦闘終了です!

 

 念のため確認しましたが、全員ちゃんと息はしていました。暫くすれば気絶組が目を覚ますと思うので、重傷組を回収してなんとか自力で生存していただきましょう。

 

 

 さて、姫騎士さんのほうですが……ポカンと口を開けたまま吸血鬼侍ちゃんを見てますね。まぁ、そうなるな。吸血鬼侍ちゃんが近付くと立ち上がろうとしますが、戦闘の興奮が消え傷口が痛むのか蹲ってしまいました。うーむ、お話を聞く前に治療を済ませちゃいますか。ちょっと失礼しますねー。

 

 傷口を露出させるために爪で服を裂き、外套の裾を姫騎士さんに噛んでもらいます。目で確認すれば、覚悟を決めた表情で頷きぎゅっと目を瞑りました。本来なら傷を切開して鏃を引き抜くのが正しいのですが、滅茶苦茶痛いらしいのでズルしちゃいましょう。

 

 何をしているか見られないように、外套を姫騎士さんの顔に巻きつけ視界を遮り、傷口の傍に噛みつく吸血鬼侍ちゃん。一瞬ビクリと身体が跳ねましたが、徐々に力が抜けていきます。吸血の際、獲物が逃げないよう感覚を麻痺させるためのものですが、どうやら痛覚も鈍くなるようです。森人狩人さんで実験して効果を確認しておいて良かったなぁ。

 

 十分に脱力したところで爪で傷口を切開し、鏃を引き抜き即座に≪小癒≫を唱え、出血を最小限に抑えます。失った血液は≪小癒≫では戻らないので注意が必要な点ですね。

 

 傷跡周辺の血を舐め取り、破れた部分を隠すように吸血鬼侍ちゃんのフードを巻き付けたら治療完了です。視界を覆う外套を外し、まだポーっとしている姫騎士さんの頬をぺちぺち。

 

「……ふぁ!? す、すみません。危うい所を助けていただいたばかりか、傷の治療まで……」

 

 意識のハッキリしてきた姫騎士さんに事情を聞けば、やはり賢竜の庵に向かう途中で領主の手勢に捕捉されて戦闘になっていたようです。何卒ご助力をと懇願されちゃいましたが、いつも通り報酬も聞かずに二つ返事で引き受けちゃいました。

 急ぎ向かおうとする姫騎士さんですが、まぁ落ち着き給えよ。素早く脚を払い、バランスを崩したところをお姫様抱っこし天高く舞い上がる吸血鬼侍ちゃん。それで、庵へはどっちに飛べばいいですか?

 

「え!? ええと、あちらの森の外れの……あ、あの石塔だと思います!」

 

 おお、たしかに森の中にちょろっと頭が見える建物がありますよぉ。じゃあ急ぐのでしっかり掴まっててくださいねー。ひゃあと可愛らしい声が聞こえましたが気にせず飛行する吸血鬼侍ちゃん。暫くすると腕の中から姫騎士さんの素性を問う声が。一応冒険者ですが、今回は金剛石の騎士の先触れみたいなものです。領主を捕縛して王都に……と、あっという間に到着しました。

 

 翼をしまいこんで姫騎士さんを降ろすと彼女は扉へ近付き、中の人とやり取りをしているようです。うん、入ってOKみたいですね。姫騎士さんの後に続いてお邪魔しまーす。

 

 

 

「ようこそ、予言を継ぎし人の子よ。そして……んん???」

 

 あー、賢竜さんが吸血鬼侍ちゃんを見てフリーズしてます。そら(サンプル4人の≪託宣(ハンドアウト)≫なのに)そう(像すらしていない吸血鬼とか出てきたらそんな顔にもなるってもん)よ。

 また走者かと思ったらもっと悍ましいのが来ました、と中空を見つめながらブツブツと言ってますが、あのー大丈夫ですか?

 

「え、ええ何も問題はありません。わたしはかしこいので」

 

 ……ヨシ! 何も問題はないですね。ちょっとちのうしすうが下がってそうなオーラを感じましたが、キリっとした表情で姫騎士さんの助言を求める嘆願を聞いています。おや、領主が使役するという怪物を倒す術を姫騎士さんが乞うと、何故か吸血鬼侍ちゃんに視線を向けてきました。

 

「怪物を恐れる必要はありません。貴女は既に悪を断つ剣を、その手に握っているのですから」

 

 彼女を後押しするような優しい(フラグ管理が壊れた叫び)声で吸血鬼侍ちゃんを指し示し、事が成った暁には相談役として出仕しましょうと語る賢竜さん。その瞳は「もうそいつひとりでいんじゃないかな」と雄弁に語っています。姫騎士さんは「貴方が私の剣だったのですね……」と熱に浮かされたような声で呟いてますが、それ微妙に違いますし、ちょっとえちえちに聞こえるので止めて!

 

 

 

 賢竜さんのお墨付きをいただいたので早速城へ乗り込もうとしたのですが、姫騎士さんから流石に無謀だと止められてしまいました。常識的に考えてそうですね(できないとはいってない)。

 

 一度反乱軍の陣へ戻り今後の作戦を考えるとのことですので、姫騎士さんを抱えて再び空の旅へ。ハイライトさんが家出してしまった目で手を振る賢竜さんに別れの挨拶をしつつ、安全運転で飛びましょう。

 

 

 

 「フム、先走って領主の居城へ突撃はしなかったか。実に気の利く奴よ」

 

 な ん で へ い か が こ こ に い る ん で す か ね ぇ ? 

 

 反乱軍の陣に戻れば、手慣れた様子で指揮を執っている陛下金剛石の騎士が。伝令役として銀髪侍女さんも忙しそうに動き回っているのが見えます。ああ、赤毛さん止められなかったんですね。お労しや枢機卿ェ……。

 

 金剛石の騎士はごく自然に反乱軍の指揮系統を掌握し、姫騎士さんや部隊長と作戦を決めているようです。お、どうやら終わったみたいですが、ちょいちょいと吸血鬼侍ちゃんを手招きしています。なんです陛下? ここにいるのは貧乏貴族の三男坊であって爽やかイケメンでドラゴン殺しなサイコーにかっこいい国王陛下じゃない? いや、そういうのいいですから。

 

 まったく、ここは陛下のストレス発散の場じゃないんですがねぇ? え、上手く指揮を執るものが居れば被害は少なくて済む? まぁたしかにそうですが、それなら吸血鬼侍ちゃんが単独で首狩りにいったほうが……あ。姫騎士さんの領地継承には実績がいるからか。

 じゃあ攻め込むときは姫騎士さんと2人で別行動ですかね。軍勢で守りの兵を引きつけている間に、彼女が知っている地下の脱出路から忍び込め? たしかに大勢の前で空を飛ぶのはダメですもんね。じゃあ明日払暁とともに行動開始ってことで。

 

 

「あの、少しよろしいですか?」

 

 夜も更けてきたころ、寝ずの番を兼ねて焚火の面倒を見ていた吸血鬼侍ちゃんに姫騎士さんが声をかけてきました。甲冑は外し、鎧下の上に毛布を引っ掛けた姿ですね。まだこれから冷え込んでくるので、良かったら火の傍へどうぞ。それで、なにか御用ですか?

 

「はい。……此度の戦で勝利した後、私は領主としてこの地を改革せねばなりません。あの男の圧制で荒廃し、土地も人心も荒れ果てた我が領地を」

 

 非常に困難な道ですよねぇ。何年かは収穫も満足に見込めないでしょうし、治安も地に落ちた状態が続いていたみたいですから。

 

「文官は賢竜さまが相談役として力を貸してくださいますが、騎士団も綱紀粛正が必要になります。……貴女のお力を、この領地を救うためにお貸しくださいませんか?」

 

 あー、武官としてのスカウト(引き抜き)ですか。非常に有難いお話なんですが、大切な仲間(かぞく)一党(パーティ)を組んでますので。申し訳ないのですが辞退させていただきます。

 

「そうですか……。いえ、突然すみませんでした。あした、頑張りましょうね」

 

 ちょっと寂しそうに天幕へと戻っていく姫騎士さん。吸血鬼侍ちゃんはまだ冒険者として活動したいので、ごめんなさいね。

 

 

「糞、こんなところまで忍び込んで来おって! 貴様に父を殺された我らが恨み、思い知らせてくれる!!」

 

 はい、悪徳領主と姫騎士さんの煽り合いから始まり、金剛石の騎士のチラ見せ(ヨノカオヲミワスレタカ)を経てぶつかり合う両軍。地上で部下を戦わせておいて地下から逃げようとする臆病者(チキン)を姫騎士さんと捕捉したところです。背後に大蜘蛛を従え、勝ち誇った笑みを浮かべています。姫騎士さんの顔にも恐怖の色が見えますが、吸血鬼侍ちゃんを見て深く頷きました。それじゃいつも通りいきましょう!

 

 分身ちゃんを呼びだし村正を渡すところまでがデフォになってきた今日この頃。いえ、最近分かったんですが、明らかに分身ちゃんのほうが本体よりも刀の扱いが巧いんですよね。

 

「ハッ! どうやら魔術に長けているようだが、かつてこの者の父を殺した魔剣はどうした! あの剣なくばこの化け物を倒すことなど……!?」

 

 おまえは≪蜘蛛を恐れぬもの(グラフレックス)≫がないと大蜘蛛は倒せないと思っているようだが、別になくても倒せるんやで。八本の脚を巧みに使い分身ちゃんを刺し殺そうとしている大蜘蛛ですが、紙一重で躱された挙句体節を順番に斬り落とされていきます。悲鳴と思しき金切り声を上げていますが、一顧だにせず解体を続ける分身ちゃん。すべての脚を根元から失い動けなくなった大蜘蛛。分身ちゃんが二本の村正を鋏のように交差させ振り抜き、頭胸部と腹部が切断されました。

 

 一方的な解体ショーに呆然としていた領主ですが、怨嗟に満ちた雄叫びを上げながら背の大剣を姫騎士さんに振るわんと吶喊してきます。姫騎士さんの構える片手剣では受けてもそのまま体ごと両断されてしまいそうですね。慌てず騒がず突撃ラインに割り込み、外套(つばさ)で大剣を巻き上げる吸血鬼侍ちゃん。絡みついた(つばさ)ごと振りぬこうとしていますが、ピクリとも動かない状況に化け物を目の当たりにしたような顔で吸血鬼侍ちゃんを見つめています。

 

 そのまま大剣を奪い取り、蹈鞴を踏んだ顔面に大パンチ。意識を失った領主は解体を終えた分身ちゃんが担ぎ上げ、2人でハイタッチしてます。ほら姫騎士さん、早く地上に出て勝利宣言しないと。……ありゃ、また目の前の光景に理解が追い付かず魂がAFKしてますね。とりあえず地上まで運んじゃいましょうか!

 

 

 

「今回は良い働きであった。前領主の不正蓄財を用いれば、あの領地の復興も早まるであろう」

 

 いい感じに暴れられて満足したのか、陛下の機嫌は非常に良いですね。それとは裏腹に枢機卿の目は死んでおり、銀髪侍女さんは恨みがましく陛下を睨んでいます。いや赤毛さん、陛下を止められなかったのは吸血鬼侍ちゃんじゃないんですからそんな目で見ないでくださいよ。

 

「これで他の貴族共も暫くは大人しくなるだろう。≪転移≫の鏡の使用料以上の成果を上げた卿には、追加の報酬を渡さねばならんな」

 

 うわ、気持ち悪いくらいに上機嫌ですね今日の陛下。とはいえあんまり希少なものは無理でしょうし、何か良いものはないですか……あ。陛下、魔法の遺物の一時貸与とかお願いしてもいいですか? ……を春までお借りしたいんですけど。

 

「ほう? 確かに希少品故貸与までしか認められんが、一体何に使うつもりだ?」

 

 いえ、これからの時期おなかを空かせた民が大勢出ますので、ちょっとデリバリーをしようかと。民が飢えるのを回避する手段があるなら、陛下も採用しますよね?

 

「よかろう。成果如何によっては貸与期間を延長することもやぶさかではない。精々励むことだ」

 

 ヨシ! これで次のイベントを犠牲無しで突破できるかもしれません。……でも上手くいったら長く貸してくれるって、それつまりその後も扱き使われるってことですよね?

 うーん背に腹は代えられませんし、ここは陛下の思惑に乗ってしまいましょう! それじゃ国庫から借りていきますねー。

 

 

 ふぇー、漸くおうちに帰れますよ。女魔法使いちゃんを先に送り出してから3日も経ってしまいました。姫騎士さんの領主就任式典への参加は金剛石の騎士(へいか)と同じように辞退させていただくことにしました。帰るのが延び延びになってしまいますし、姫騎士さんには裏側(こっち)とは無縁の暮らしを送ってもらいたいですから。今日は何身合体かね?という謎の言葉を投げかけてくる銀髪侍女さんの操作で自宅に≪転移≫を繋いでもらって、帰りましょう、わが家へ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり。随分時間がかかったみたいだけど、どこでナニをしていたのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その説明をする前に今の四方世界の状況を理解する必要がある 少し長くなるぞ(震え声)

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 




給湯器が凍結したので失踪します。

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セッションその6ー1

オンセキャンペーンが延期になったので初投稿です。


 兵站の概念が崩壊する実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回≪転移≫の鏡の使用料としてソロプレイをこなしたところから再開です。

 

 金剛石の騎士(暴れん坊陛下)の出番があったために上機嫌な陛下から、とある魔法の遺物(マジックアイテム)を借り受けることに成功しました。これがあるとないとでは今後の活動に大きな差が出てきますので、上手くいって一安心というところです。

 

 あ、女魔法使いちゃんには嘘偽りなく事情を話したらちゃんと許してもらえましたよ! 単独で動いていたことは怒られてしまいましたが、今度からは必ず()()()に相談するようにと釘を刺されるだけで済みました。やさしみ……。

 

「魔法の遺物を借り受けてきたというお話ですが、どんな効果を持っているのですか?」

 

 仕事が早く終わったのか、あるいは禁断症状を見かねて侍祭さんが許可を出したのか、珍しく剣の乙女が日が出ている間にこっちへ来ています。吸血鬼侍ちゃんの顔を見るなり分身ちゃんを出すようせがみ、今は分身ちゃんに膝枕してもらってご満悦の様子。完全にたれ乙女になってます。

 

 それじゃ試しに使ってみましょうか。背嚢を降ろして中を漁る吸血鬼侍ちゃん。複雑な刺繍が施された一対の手袋を引っ張り出しました。右手用が白、左手用が黒に染められた手袋を小さな手に装着すれば準備完了です。

 

 さて、手頃な物は……あ、あれがいいかな。森人少女ちゃんが淹れてくれたお茶と一緒に、テーブルの上に剣の乙女が持参した焼き菓子が並んでいます。その一つに左手で触れ、握り込むように手首をスナップ。そうすると……。

 

「や、焼き菓子が消えてしまいました(あるじ)さま!」

 

 ナイスな反応ありがとう森人少女ちゃん。驚きのあまり( ゚×゚ ) な顔になっていて、実にぐうかわですね。次に何も持っていない右手をくるりと回すと……はい! 先ほど消えた焼き菓子が、今度は右手に現れました。さぁ女魔法使いちゃん、このアイテムの効果が分かるかな?

 

「小規模な物質転移? にしては現出までにラグがあるし、そうなると……」

 

 おお、流石学院主席。早速目の前で起きた現象を理解しようと考察を始めましたね。もう一度お願いいたしますとキラキラした目で追加の焼き菓子を差し出してくる森人少女ちゃん。天使かな?

 

 思考の海に沈んだまま中々浮上してこない女魔法使いちゃん。後ろに回り込んだ森人狩人さんにお山を持ち上げられても気付いてな……あ、流石に気付いた女魔法使いちゃんに殴り飛ばされました。おひさまが見ていない時間にお願いすれば断られないのに、欲望に突き動かされるから……。

 

「ダメね、降参。情報が足りなさ過ぎて答えを纏めきれないわ」

 

 お手上げポーズをとる女魔法使いちゃん。そのまま殴り飛ばした森人狩人さんをひっ捕らえて正座させてます。あの顔、まったく反省してないですね森人狩人さん。そこに痺れないし憧れない!

 

「あの、私にも鑑定()させていただけますか?」

 

 お、分身ちゃんの膝枕で堕落しきっていた剣の乙女が復活しましたね。吸血鬼侍ちゃんに手渡された手袋を持ち上げ、大司祭としての知識と手袋から読み取れる意匠や内包している魔力から、遺物の来歴を突き止めようとしています。

 

「なるほど、左手(黒色)で触れたものを容積や重量を無視して固有の空間に保管し、右手(白色)からそれを取り出すことができるのですね。保管する空間は有限で、内部の時間は停止しています。そのことから推察するに、恐らく生物は入れられない仕組みになっていると思われます。それから、製作者のつけた名称は……【飲弁当裏衣(インベントリー)】というらしいです」

 

 

◆【飲弁当裏衣(いんべんとうりい)

 

 むかし、中国の明に楊良(よう りょう)というたいそう腕の良い庭師がおったそうな。

 

 狗羅太(く らふた)や毘劉陀亜(び るだあ)と共同で、山渡朴巣(さんどぼくす)という庭園を造っていた時の話じゃ。

 楊はいつも手ぶらで仕事に出向き、手ぶらで帰っていたのだが、仕事場ではしっかり弁当を食っておった。

 不思議に思った依頼主が訪ねると、楊はニヤリと笑うと目にも止まらぬ速さで両の手を衣の中へ。楊の手が懐から抜かれれば、なんと其処には昼食の弁当と酒が。

 依頼主これを見て腰を抜かし、「飲弁当裏衣(いんべんとうりい)!」と叫んだそうな。

 

 傍らで見ていた依頼主の妻が面白がり振る舞いの菓子を楊に渡すと、楊これ幸いと次々に懐へしまい込む。やがて菓子の重さに耐えかね、足を滑らせ庭園の池に落ちてしまった。

 必死に浮かび上がろうと菓子を懐から出す楊であったが、菓子の代わりに池の水がどんどん入り込み、結局楊は二度と浮かび上がって来なかった。

 

 大事な命を失い、無駄なものを抱えたまま死ぬ悲劇を忘れぬために、飲弁当裏衣の警句は口伝にて後世まで盛大に語り継がれていったそうな……。

 

 

 なお現在使われている「インベントリーがいっぱいです」や「容量がいっぱいです」というポップアップは、楊の悲しき死に様が原典なのは言うまでもない事実である。

 

 

 

 出典は民明書房かな??? アレな名称は置いておいて、効果は剣の乙女が説明してくれた通りです。簡単にまとめれば、時間経過による劣化を気にせずに大量の物資を持ち運び出来る冒険者垂涎の品というわけですね。

 

「まぁ、今までもゴブリンや追剥から奪還した物資の持ち運びには苦労していたけれど、そんな小さなことに使うためにご主人様はそれを用意したわけじゃないんだよね?」

 

 いつの間にか正座から抜け出し吸血鬼侍ちゃんを抱きかかえている森人狩人さんが、猫にするように吸血鬼侍ちゃんの喉元を撫でながら疑問を投げかけてきました。森人狩人さん、今ギルドで増加している依頼ってなにがあったか覚えてます?

 

「収穫を終え、村に保管されている食料を狙うゴブリンの討伐依頼と、冬を越すための物資輸送……ああ、なるほどね」

 

 納得がいった様子で頬擦りに移行する森人狩人さん。まだおひさまが見てるのでそれ以上はダメです。丹精込めて育てた作物や家畜を利用して作った保存食をゴブリンに盗まれては堪らんと、現在ギルドには多くのゴブリン討伐依頼が集まっています。

 

 今年は新人のモチベーションも高く、例年通り張り切っているゴブスレさんと手分けして依頼をこなす毎日を送っている様子。吸血鬼侍ちゃん一党も勿論参加していますが、冬になると人々の行き来が少なくなり、それに比例して依頼の数も減少してしまうため、春までの生活費を貯蓄するために頑張る新人から仕事を奪うのはちょっと……と心苦しく感じていたところでした。

 

 そこで今回目を付けたのはもうひとつ増加している依頼、冬を越すための物資輸送になります。

 

 こちら3パターンありまして、予め契約した商人に金銭や換金できる特産品を渡しておき、冬が近づいてきたときに物資に換えて冒険者に運んでもらう契約便と、その年の収穫量から必要な物資をギルドに発注する通常便。それと作物の不作や災害、ゴブリンによる襲撃などで想定外の物資が必要になった場合の緊急便があります。契約便や通常便で運んでいた物資が、賊やゴブリンに奪われて村まで届かないといった事態もここに含まれます。

 

 村の生活が懸かっている以上ギルドも輸送依頼に関しては信頼できる冒険者にしかまわさないように注意しているようです。

 万が一不届き者が物資を持ち逃げした場合、損失はギルド持ちになってしまうため人格面に問題の見られる冒険者はお断りなんだとか。逆に輸送任務を任されるということは等級が低くともギルドからは信用されているという証明になるため、依頼を持ち掛けられて断る冒険者は少ないみたいですね。

 

 3パターンの中で吸血鬼侍ちゃん一党が狙うのは通常便と緊急便の2つ。契約便に関しては商人のほうから馴染みの冒険者に依頼を振ることが殆どなので新規参入が難しいのと、余裕を持たせた計画で動いているため、あえて急ぐ必要が無いという点が除外理由となります。

 

 一方で通常便ですが、収穫時期によっては冬間近になってからの発注でギリギリになってしまったり、村までの距離が遠く時間がかかることがあり、場合によっては食料の欠乏を招く可能性があります。緊急便に至っては依頼を出した時点で食うや食わずになっていることもあるくらいですので、可能な限り急いで物資を届けなければなりません。

 

 いざ物資を運ぶ段階になっても、村一つが求める物資は膨大で荷馬車を使わねば到底運べない量になりますが、量が増えれば当然運ぶ速度は遅くなり、物資を護衛する人数は増え、賊に襲撃される危険性も増してしまうという悪循環が待ち受けています。

 

 

 そのような条件の中で、『昼夜関係なく』『大量の物資を』『非常に高速で』運べるとしたら……どうでしょうか監督官さん? 吸血鬼侍ちゃんに任せてみませんか?

 

 

 

 

 

「全部引き受けていって、どうぞ」

 

 吸血鬼侍ちゃんの脚に縋りつき、アリガットウ、アリガットウと虚ろな目で呟き続ける監督官さん。ほら、受付嬢さんと森人少女ちゃんがドン引きしてるから正気に戻ってください。

 

 ギルドとしてもこちらの申し出は願ったり叶ったりだったようで、是非にという形でたくさん引き受けさせてもらえました! 優先順位に応じて順に輸送する流れになりますが、ここでひとつ問題が。それなりに大きいとはいえ辺境の街だけで物資を集めてしまうと、急な値上がりなどで街の住民の生活に影響を及ぼす可能性が出てしまいます。もちろんある程度は経済を回すために調達しますが、なるべく廉価で仕入れて供給量を多くしたいんですけどねぇ……。

 

 おや、どうしたの森人少女ちゃん、手を上げちゃったりして。

 

「主さま、(わたくし)にひとつ考えがあるのですが……」

 

 

 

 

 

 手袋を嵌めた状態で分身ちゃんを呼び、現在分身ちゃんは辺境の街で買い付けを、本体と森人少女ちゃんは他の街へ買い出し巡りを行っています。剣の乙女に紹介状を書いてもらい、訪れた街の交易神の神殿に突撃。事情を説明したうえで、適正な価格で必要な物資を大量に入手できるよう取り計らってもらう契約を取り付けました。コネは持っているだけではダメです。お互い使ってこその人脈ですからと微笑む森人少女ちゃんは本当に頭の良いお方。

 

 生まれ持った誠実さと一流の商人顔負けの交渉術を使い分け、交易神の神官と丁々発止のやりとりを行う森人少女ちゃん。その姿は小さくも輝いて見えました。

 

 

 

「この倉にお買い上げの小麦粉が保管してありますが、おふたりでどうやって運び出されるおつもりで?」

 

 只人の番頭さんに案内されて2人が訪れたのは小さな石造りの倉庫。丈夫な木製のドアの閂を外し、中を見せてもらえばそこには山と積まれた小麦の袋。粉にして保存しているのかと思ったら粒のままなんですね。粉にすると吸湿しやすっくなって劣化が早くなる? なるほどなー。

 

 クンクンと袋越しに匂いを嗅ぎ、細い竹を袋に突き刺し粒の状態を確かめる森人少女ちゃん。どうやら満足のいく品質だったようで番頭さんに取引成立のお礼を言ってますね。見た目からは年齢が分からない森人とはいえ、美少女に笑顔を向けられて嫌な気持ちになる男は少ないですからね。森人少女ちゃん、怖ろしい娘!

 

 それじゃしまっちゃおうね~。主さまお願いしますという声とともに手袋を嵌めた左手で袋に触れる吸血鬼侍ちゃん。次々にインベントリーに収納していきます。僅か30分ほどで倉の中は綺麗さっぱり空っぽになりました。

 

「さぁ、次は干し肉と燻製、それに葡萄酒でございます。その後は燃料と毛布になりますので、手早く参りましょう」

 

 あっけにとられた様子の番頭さんに向かってにっこり微笑みながら急かしてますね。これは番頭さん今夜森人少女ちゃんの笑顔が悪夢に出てくるんじゃないですかねぇ……。

 

 

 

 同様の手段で他の街もまわり、辺境の街へ戻ったのは日が落ちた後でした。どうやら分身ちゃんたちの買い付けは既に終わったようで、おゆはんを準備して2人の帰りを待っていてくれたみたいです。ただいまー。

 

「おかえりなさい。こっちでも穀物と干し魚はまとまった量を用意できたわ。少しだけど建物補修用の木材や釘なんかもね」

 

「オルクボルグが下宿している牧場の娘さんに掛け合って、見てくれが悪くて売りに出せなかった燻製なんかも買い取らせてもらったよ。チーズは大量消費者(蜥蜴僧侶さん)がいるから少な目だけどね」

 

 みんな方々を駆けずり回ってくれてありがとう。明日から緊急度が高い順に吸血鬼侍ちゃんが特急輸送を開始するので、分身ちゃんは引き続き森人少女ちゃんと買い付けでよろしく。

 

 女魔法使いちゃんと森人狩人さんはゴブリンの湧き潰しをお願いします。歯抜けの一党で行動するよりも、ゴブスレさんと一緒のほうがある意味安心できるかなぁ……。

 

「了解。気分が高揚してきたよ……ところでご主人様、今日は指輪を嵌めてくれないのかな?」

 

 森人狩人さんが艶やかな流し目を送ってきますが暫くお預けです。普段の吸血ならともかく、あっちは吸血鬼侍ちゃんの抑えが効かないので明日に響きかねませんから。

 

「それなら仕方ない。かわりに抱き枕になってもらおうかな。それならいいよね?」

 

 このわざとらしいドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的依頼法)! 死んだ目をした分身ちゃんが個室へハイエースされていきました。分身ちゃんには悪いですが、こっちはしっかりと休ませ……どうしたのかな森人少女ちゃん? 真っ赤な顔で吸血鬼侍ちゃんをハグして。頑張ったご褒美が欲しい? いや、森人狩人さんにも言ったけど、明日に響いたら問題が出ちゃうし……っていつの間に吸血鬼侍ちゃんに指輪を嵌めさせてるんですか女魔法使いちゃん。

 

「今夜は義妹(いもうと)の可愛いお願いに応えてあげて? 大丈夫、無理しないように()()()()()()()()()()()()()()()()

 

アッハイ。それじゃ森人少女ちゃん、よろしくお願いしますね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます! これでなんとか冬を越すことができそうです……」

 

 はい、あの後誰一人欠けることなく朝を迎え、無事に輸送依頼を開始することができました。数日かけて既に両手足の指では足りない数の村を巡り、発注を掛けていた村には依頼通りの物資を、緊急支援が必要な村にはギルドで準備してもらった証書に記入の上、必要な物資を置いていくスタイルですね。

 どうしても代価が準備できない場合は翌年の収穫から支払ってもらうことになりますので、その証明書として後ほどギルドへ提出し、立替分の清算となります。

 

 うーん、やはり2件ほど襲撃を受けて物資が届いていない村がありました。知恵を付けたものがいるのか、あるいは≪祈らぬ者≫に堕した冒険者が出てしまったのか。もしかしたら近いうちに調査依頼が来るかもしれません。

 

 減った物資の調達は分身ちゃんと森人少女ちゃんが精力的に取り組んでくれていますので問題はないでしょう。もし余ってしまっても、収納している限り品質は劣化しないので持ち続けていても大丈夫というのも大きいです。

 一瞬だけ投機に役立てようかという考えが頭をよぎりましたが、森人少女ちゃんと交易神の神官、2人から絶対ダメと念を押されてしまいました。ギャンブルダメ、絶対。

 

 

 

 

 

 

 

 

「主さま、少しだけお時間をいただいてもよろしいでしょうか」

 

 

 おや、なにかな森人少女ちゃん。まだ暗いうちに今日の輸送依頼に出発しようとしていた吸血鬼侍ちゃんをパジャマ姿の森人少女ちゃんが呼び止めました。その表情は真剣で、どこか緊張を孕んでいるようにも見えます。

 

「先程、万知神(ばんちしん)さまから≪託宣(ハンドアウト)≫を賜りました……」

 

 万知神さまから!? ってアレ? 森人少女ちゃんって万知神さまを信仰していましたっけ?

 

「いえ、特定の神を信仰してはおりませんが、主さまが奉ずる方ですので敬意は抱いております」

 

 それは嬉しいなあ、ありがとうね。それで万知神さまはなんておっしゃってたの?

 

 

 

 

 

我と対なる忌々しき神の尖兵が、(一緒にされると迷惑な奴の子分が、)麗しき花を手折らんと北風とともに現れん(女の子をリョナろうとしているよ)

 

花の命は短し。(はやくいけ!)その行く末を照らす道は、汝が内に秘めた(間に合わなくなっても)太陽の輝きにあり(知らんぞー!)

 

 

 

 ちょっと私怨に溢れかえってませんか万知神さま??? え、万知神(マンチ)は最適な手段を手取り足取りマウントとりながら説明するのが好きなのであって、この特技が優秀だから選べとか、これ以外の選択肢はない、他はみんなゴミ、全部無駄とかそんな短絡的な物言いをする奴(最強厨)と一緒にされるのは心外? わかるわー。

 

 

 

 なるほど、これは重要なイベントに繋がりそうですね。≪託宣≫的には一党全員で行くのがよさげな感じ? え、ゴブスレさんたちも? じゃあみんなを起こしてギルドへ向かいましょうか。

 

 なにやら行く先からクッソ重たい変動重力源を感知した気がしないでもないですが、そんなんじゃ吸血鬼侍ちゃんを止めることはできないのだ! さぁ、冒険だ!!

 

 

 

 

 

今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 




好きなキャラのプライズ景品が手に入ったので失踪します。

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セッションその6ー2


筑前煮とモツ煮が上手くできたので初投稿です。


 前回、森人少女ちゃんに≪託宣(ハンドアウト)≫を聞き、ギルドへ向かったところから再開です。

 

 ゴブスレさん一党と行き違いになると拙いので、女魔法使いちゃんと森人狩人さんを起こして後から来るよう分身ちゃんにお願いし、吸血鬼侍ちゃんと森人少女ちゃんは2人で先にギルドへ向かいましょう。森人少女ちゃんには悪いですが、急いだほうが良さそうなので一言断りを入れて抱き上げ、外套(つばさ)を巻き付けて防寒兼揺れ防止の固定具にして全力疾走です。しっかりと吸血鬼侍ちゃんに掴まってくれていますが、アンデッドなので体温が低いから申し訳ないですね……。

 

 依頼の張り出しこそまだですが、夜通し酒場で痛飲する者や早朝出発の冒険者がいるためギルドの1階部分は夜通し解放されています。入り口を潜り、中を見回せば……いました! 女神官ちゃんと一緒に、珍しく早起きしたのか妖精弓手ちゃんが朝食を食べています。早朝から忙しそうに駆け回っている獣人給仕さんに軽い物を頼んでから2人に近付き、挨拶もそこそこに森人少女ちゃんに配布された≪託宣(ハンドアウト)≫の話をしましょう。

 

「万知神からの≪託宣(ハンドアウト)≫、それも皆さんだけでなく私たち全員に対してのものですか……」

 

 あまり例のない形式ですねと考え込む女神官ちゃん。たしかに神官でもない者に≪託宣(ハンドアウト)≫が配られるのは珍しいですし、しかもその神が吸血鬼侍ちゃんが信仰しているとはいえ、明らかに外なる神なのですから警戒するのも無理はありません。

 

「ですが、皆様と主さま、それに(わたくし)たち。共通しているものがあるとすれば……」

 

「まぁ、ゴブリンしかないわよねぇ」

 

 ゴブスレさんご指名の時点で明らかですが、どう考えてもゴブリン案件、しかも厄介なもので間違いないでしょう。また冒険とは程遠いものになりそうねえとぼやく妖精弓手ちゃん。今度死の迷宮観光にでも連れてってあげましょうかね。

 

「おはようご主人様。≪託宣(ハンドアウト)≫があったんだって?」

 

「分身ちゃんはゴブリンスレイヤーを呼びに行ったわ。遅れて合流するって」

 

 お、後続の2人が到着しました。街の外に住んでいるゴブスレさんを早急に連れてくるために分身ちゃんが向かってくれたようですね。それじゃ私は吞兵衛と冬眠しかけてるのを起こしてくるわと2階へ消える妖精弓手ちゃん。今のうちに他の人の分の朝食も追加で頼んでおきましょうか。

 

「……ゴブリンか」

 

 妖精弓手ちゃんが鉱人道士さんと蜥蜴僧侶を起こしてきてくれてからそう時間を空けずに、分身ちゃんがゴブスレさんを連れてきました。……大丈夫ですかゴブスレさん? ちょっとふらついてるみたいですけど。分身ちゃんに抱えられた状態で飛行してきた? 魔術師の塔は登頂してましたし、高所恐怖症じゃないってことは乗り物酔いに近い感じですかね。温かいお茶があるんで良かったらどうぞ。

 

「それで新芽っ子や、≪託宣(ハンドアウト)≫で向かう先は何処か分かっとるんかの?」

 

 鉱人道士さんの問いに頷き、予め用意しておいた地図を広げる森人少女ちゃん。ペンで印をつけた場所は雪山の麓にある寒村、2日ほど前に緊急便で物資を求める依頼が届いた集落です。恐らく令嬢剣士さん一党が買い占めた影響で物資が枯渇してしまったからですね。

 

「しかし、侍殿の魔具で物資は運べても一党を運ぶことは無理と聞きおよんでいる次第、素直に馬車を用いるのが無難と考えますがな?」

 

「この人数だと2輌用意する必要があるかな。急ぐとなると二頭立てが望ましいけど、すぐに手配できるとは考えにくいね……」

 

 旅慣れた2人が移動手段を考えてくれていますが、なかなか良い方法が浮かばない様子。

 うーん、世間的にも女神官ちゃん的にも好ましくないと思いますが、馬車を引く馬についてはなんとかするので、車両と車内に設置できるくらいの丸机を用意してもらえますか?

 

「ほう、ちみっこには何か考えがあるようじゃの」

 

「それじゃ、各自準備をしてまたここに集合しましょ」

 

 ギルドに部屋を借りている面々は一度部屋に戻って冒険の準備を。吸血鬼侍ちゃんたちも装備を取りに一旦自宅へ帰り、依頼張り出し直前に集合となりました。

 

 さて、本来ならば森人少女ちゃんにはいつも通りお留守番をお願いするところなんですが……。

 

「無理なお願いであることは百も承知でございますが、どうか私の同行をお許しくださいませ」

 

 ですよねー。こういう時に備えて冒険者登録だけはしておいてもらっていましたが、大変だし危ないかもしれないよ? ≪託宣(ハンドアウト)≫を賜ったのが自分である以上、冒険を見届ける義務がある? まぁそうだよね。冒険中は必ず誰かと行動を共にするように。絶対に1人にならないって約束してね?

 

 

 

「頼まれていた通り、床面に毛布を敷き詰めて、足を短くした丸机を乗せておいたぞい」

 

「やっぱり馬はダメだったわ。連日の輸送に酷使されてて、今日は休息が必要だってさ」

 

 吸血鬼侍ちゃん一党が装備を整えてギルドに戻ると、既に凸凹コンビが場所の準備を終わらせてくれてました。予め≪格納の手袋(インベントリ)≫から提供しておいた毛布を使って、馬車の床や壁面に防寒措置を施すようお願いしておいて正解でした。

 後は丸木机の下に女魔法使いちゃんが持つ爆発金床の≪(コア)≫で熱しておいた石を布に包んで設置し、上に大きめの毛布を被せれば簡易炬燵の完成です!

 

 馬車での移動は身体を動かさない分体温が低下しやすくなってしまいますし、それを防ぐために外に出て歩けば今度は体力を消耗してしまいます。原作準拠で小鬼聖騎士(パラディン)、難易度が上昇しているため追加で面倒な敵が配置されているのは間違いないので、可能な限り体力を温存する方向でいきましょう。

 

「おお、これは(ぬく)い! 拙僧この心地よさから抜け出せる気がしませんな!!」

 

 脚と尾を毛布に潜らせ、(まなじり)が下がりっぱなしの蜥蜴僧侶さん。冒険が終わったら部屋に設置してもいいのでは? 石は厨房に頼めば熱してくれそうですし。

 

「それで、肝心の馬はどうするの? まさかアンタが引っ張るわけじゃないでしょうに」

 

 重さはともかく、手が届かないから難しいかなぁ。女魔法使いちゃんがジト目で見てくるので、そろそろ助っ人をお呼びしましょう。……みんな、攻撃したりしないでね?

 

 

 

 

 吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんがそれぞれ馬車の前に立ち、爪で自らの手に傷を付けます。握りしめた拳から流れた血が地面に触れると、複雑なサインが地面に浮かび上がり、収束する魔力が徐々に実像を結んでいきます。閃光とともにそれは実体化し、冷たい死の気配を纏って一同の前に現れました!

 

 妖精弓手ちゃんは長耳を緊張でピンと跳ね上げた状態で弓をつがえ、女神官ちゃんは目の前の存在の気配に中てられて若干涙目になっています。ゴブスレさんは……ゴブリンじゃないと判断したのか、あんまり興味を持ってないみたいですね。

 

 堂々たる体格の軍馬に跨り、左手に騎士盾を、腰に長剣を刷いた全身鎧の騎士が2騎。それだけならば物語の登場人物のようですが、ある一点を以て皆の警戒心を煽っています。

 

「な……な……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 騎士にもその相棒たる軍馬にも、()()()()()()()()()、これが。

 

「なんで首無し騎士(デュラハン)なんか召喚してるのよバカー!?」

 

 うがー!と怒声を上げながら吸血鬼侍ちゃんのほっぺを両手で引っ張る妖精弓手ちゃん。いや、考えてみてくださいよ? 疲労もせず、魔法視覚で夜間も吹雪も問題なく、しかも……おっと、女神官ちゃんは気付いてくれたみたいですね!

 

「この首無し騎士(デュラハン)さん、アンデッドの気配はありますけど、まったく悪意を感じません……。あ、ひょっとして!」

 

 女神官ちゃんの声に正解!とでも言いたげに乗騎から降りる2体の騎士。皆に向ける一礼は洗練された騎士の所作そのものです。既に予想されていた方もいるでしょうが、お二方とも水の街の地下墓地(カタコンベ)で彷徨っていた英霊さんですね!

 

 吸血鬼が持つ特殊能力のひとつである【不死召喚】。本来は自らの威を以てアンデッドを従わせるものですが、吸血鬼侍ちゃんの場合【死霊術】に近い方法で召喚を行っています。予め助力を乞う相手と契約を交わし、自らの血を媒介に一時の協力を得る。しかもこの方法、なんと呼び出される側の英霊さんにも好評なんですよね。

 

 【英霊(アンデッド)】として現世に留まっている彼らは誰もが大なり小なり未練を抱えています。冒険の最中で命を落とした者、混沌の軍勢との戦で討ち死にした者、様々な理由はありますが、皆やり残したり後悔していることがあるわけです。

 

 そんな未練を抱えた霊が、もう一度冒険や人助けの機会を得られたならば……そりゃもう大喜びです。しかも満足すると輪廻の輪に還られるというオマケ付き。現在応募多数で召喚待ちの状態が続いています。

 

 というわけで、彼らに何かを強制したり無理矢理従わせているわけじゃないことを分かってもらえると嬉しいのですが女神官ちゃん。

 

「ええと、事情は分かりました。彷徨える霊を救うのであれば、地母神様もお許しくださると思います。ただ、その、見た目が……ですね?」

 

 うんうん、言いたいことはわかります。どんなに高潔な騎士でも、首無しじゃあ怖がられてしまいますからねぇ。ですがそのあたりも抜かりありませんよ!

 

「おまたせ、親父さんに無理言って用意してもらったわ」

 

 お、丁度女魔法使いちゃんと森人少女ちゃんが戻ってきました! 頼んでいたアレを調達してきてくれましたね。2人が腕に抱えているのは、防寒用の襟巻とゴブスレさんの生首……もとい、武具店で販売されている兜です。

 

 何故かゴブスレさんを真ん中に挟んだ状態で並んで待っていた騎士さんの首元に毛布を詰めて支えとし、被せるように兜を備え付けます。最後に毛布を隠すように襟巻を巻き付ければ……。

 

「金属鎧のオルクボルグというか、本来の銀等級並の装備を整えたオルクボルグって感じね……」

 

 そこには側面の角飾りが健在で板金鎧(プレートアーマー)を身に付けたゴブスレさん2人が、革装備のゴブスレさんと肩を組んでポーズを決めている悪夢のような微笑ましい光景が。っていうかノリが良いですねお二方。え、現世最後の冒険だからエンジョイしたい? そう言われると怒るに怒れないなあ。

 

 上の人は首有り首無し騎士(デュラハン)に変身してもらいましたが、下の人もとい首無し馬さんの変装は流石に難しいので、マジックアイテムで召喚した魔法の乗騎という体で押し切ってしまいましょう。魔法(っぽいもの)で召喚したのは嘘ではないですし。馬さんと馬車を繋いだら早速出発です!

 

 途中で一泊する行程なので男女に分かれての乗車となりますが、分身ちゃんを女性車両の生贄護衛にして、吸血鬼侍ちゃんは男性陣のほうに乗り込みましょう。……別に逃げたわけじゃないですからね?

 

 

 

 

「寒風に晒されて洟垂らしながら歩くもんだと思っとったが、こりゃあ快適でいいのう!」

 

 首有り首無し騎士(デュラハン)さんの運転技術は快適で、床に敷き詰めた毛布と合わさり腰にくる震動は殆ど感じません。早速炬燵で火酒をちびちびと始めている鉱人道士さんの赤ら顔も、寒さのせいでは無さそうですね。顎を天板にぴったりと付け、目を瞑ったままの蜥蜴僧侶さんはすっかり炬燵の虜になってしまったようです。

 

「……そうだな」

 

 最初は炬燵に入らず後方を警戒していたゴブスレさんですが、寒さに耐性のある……というかまったく影響のない吸血鬼侍ちゃんが早々に交代し、剣こそすぐ手に取れる場所に立てかけていますが、しっかり炬燵で暖を取ってくれています。正面からのゴリ押しでいける場面や今週のビックリドッキリ変態が出る状況では吸血鬼侍ちゃんが輝くものの、それ以外ではゴブスレさんの知識と経験が重要になってきますからね。圃人の先生に扱かれたとはいえ冬の旅路は消耗との戦いですし、休める時には休んでもらいましょう。

 

「侍殿も先の呪物によって更なる力を得たご様子。やはり一度お手合わせ願いたいものですな」

 

 構いませんけど、春が来て暖かくなってからにしましょうね。冬の間はどうしても身体のキレが落ちてしまってるでしょうから。たしかにそうですなーと首肯し、春といえば……と言葉を続ける蜥蜴僧侶さん。春といえば? チーズですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「侍殿は、いつ己の子を設けるのですかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 え、いやなんでそんな発想に? もしかして蜥蜴人さんたちって春が繁殖のシーズンなんですか? 年中発情してるのは只人だけって話も聞いたことありますし……あ、ゴブリンもか。じゃなくって、女同士じゃ子供は出来ないですって! え、そちらの狩人殿から指輪の話を聞いた? なんでそんなデリケートな話題を……。

 

 鉱人道士さんはニヤニヤしながら吸血鬼侍ちゃんを囃し立ててますし、ゴブスレさんも兜の奥からジッとこちらを見つめています。あとそっちの首有り首無し騎士(デュラハン)さん! わざとらしく兜を180度回転させてこちらに向けるの止めてもらえませんか???

 

 たしかにそういうコトはしてますけど、擬似的なものなので赤ちゃんは出来ないんじゃないですかねぇ。それに生まれてくるのが半吸血鬼(ダンピール)だったら、要らぬ苦労を背負い込ませることになってしまいますし。そもそも吸血鬼は吸血で眷属を増やすもので、そういった行為で子を生み出すのは下賤とかって風潮もあるとかなんとか……。っていうか、吸血鬼侍ちゃんは滅ぼされない限りいつまでも在り続ける化物ですし、そういう話題はむしろゴブスレさんに振るべきでは?(名推理)

 

「……俺か?」

 

 そうわよ(なすりつけ)。牛飼娘さんに女神官ちゃん、受付嬢さんからも好感を持たれているんですから、むしろ寿命が一番短いゴブスレさんが早く考えるべき話題でしょう?

 

「ふむ、一理ありますな。失うものを持たぬ強さよりも、大切なものを守る強さのほうが、難事を乗り越える際の力に繋がるという話を拙僧も耳にしたことが」

 

 流石強さの求道者な蜥蜴僧侶さん、含蓄深い言葉です。ゴブスレさんは深く考え込んでしまったようで、鉱人道士さんの声も耳に届いてないみたいですね。なんとか話題を逸らす事には成功しましたが、ゴブスレさんにも幸せを掴んでもらいたいんですよねぇ……。

 

 

 

 

 その後は互いの冒険の話やゴブスレさんのゴブリン講座などで時は過ぎ、何事も無く夜を明かして翌日の昼前に≪託宣(ハンドアウト)≫で示された村の入り口まで辿り着きました。道中野生動物や追剥に襲われるかと思ってたのですが、どうやら首有り首無し騎士(デュラハン)さんの放つ死の気配に恐れをなして近寄ってこなかったみたいですね。……意外と旅のお供に向いているんじゃないですか首有り首無し騎士(デュラハン)さんたちってば。

 

 馬車を村の入り口付近に停め、今のうちに不自然ではない程度の物資を馬車の中に出しておきましょうか。あ、日が変わって消えちゃった分身ちゃんも呼び出しておかなきゃダメですね、今日も頑張るよー。

 

 炬燵を片付けて空いたスペースに穀物や燻製、酒や毛布を並べていざ村の中へ。閑散としていますが、荒れた形跡は無いのでゴブリンの襲撃はまだ発生していないようです。良かった、これなら間に合っ……ん? 村の中心にある広場のほうが騒がしいですね。何かあったんでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、食料を、少しわけてくださらないかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 えっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 




白米が進み過ぎておなかが苦しいので失踪します。

いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
お気に入り登録や感想、評価についても併せて入れていただければ幸いです。

お読みいただきありがとうございました。


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セッションその6ー3

鏡開きを忘れて賞味期限が切れかかっていたので初投稿です。

日刊ランキングに出たり入ったり、多くの方にお読みいただき感謝の念でいっぱいです。

今後ともよろしくお願いいたします。



 前回、目的の寒村に到着したところから再開です。

 

 村の中心の広場から声が聞こえたので向かってみた一党。そこには村人と思われる数人の男と、彼らに何かを要求している優美な拵えの剣を腰に下げた見目麗しい女性の姿。令嬢剣士さんですね。髪が長いということは、恐らく食料が尽きて村へ無心に訪れたタイミングだと思います。

 

 令嬢剣士さんの必死な訴えに村人たちは冷ややかな目を向けています。ゴブリンの脅威に怯えていたところに、退治するためとはいえ村の貯えを買い占められて困窮は増すばかり。そのうえ更なる支援をと言われれば、とても友好的に接することは出来ないでしょうね。

 

「お取込み中のところ失礼。ギルドの依頼を受け緊急支援物資を輸送してきた一党(パーティ)なんだけど、馬車はここ(広場)まで入れて構わないかな?」

 

 ふぅ、良い意味で図々しく森人狩人さんが会話に割り込み、剣呑な雰囲気はとりあえず払拭されました。物資の引き渡しやギルド作成の書面手続等は森人狩人さんと女魔法使いちゃんにお願いして、吸血鬼侍ちゃんは森人少女ちゃんと一緒に令嬢剣士さんのフォローに行きましょう。

 

 

「……主さま、≪託宣(ハンドアウト)≫にて(わたくし)たちに任された救うべき人物(シナリオヒロイン)はこの方でございます」

 

 令嬢剣士さんを見て確信したのか、森人少女ちゃんがいつになく強い口調で教えてくれました。突然現れた一党に困惑した様子の令嬢剣士さんですが、村に戻ってきた理由を思い出したのか2人に噛みつくような勢いで話しかけてきます。

 

「村へ物資を運んできたということは、食料をお持ちですわよね!? どうかそれをわけてくださいませんか!」

 

 どうどう、落ち着いてください。先にお聞きしたいのですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!? ……今日で約1か月。5日前に食料が尽き、狩りの獲物や白湯で凌いでおりましたが、燃料も底を付いたために私が調達のために村まで下りて参りましたの」

 

「……補給が途絶えた冒険者の末路は決まっている」

 

 荷下ろしをしながら令嬢剣士さんの話に耳を傾けていたのでしょう、ゴブスレさんが抑揚のない口調で呟きます。おそらく村人から彼女たちが購入したものを聞き、何をしていたかの察しは付いているのでしょうね。反論しようと口を開きかける令嬢剣士さんですが、山中での口論を思い出したのかそのまま沈黙してしまいました。

 

 彼らの生存を確認するにしろ、まずゴブリンを排除する必要があると思うんですが、どう攻めますかゴブスレさん?

 

「……呪文はあと何回残っている? それと()()()()()()()()()()()?」

 

 今日は分身ちゃんを呼んだだけなので、真言3回の奇跡4回ですね。呪文を使い切ってから分身ちゃんを再召喚するならもっと増えますけど。夜営道具は一党で使用する分は格納してあるので、6人までなら対応できますよ!

 

「足の速い戦力で速攻をかける。そちらは侍2人と狩人。こちらは戦士、野伏(レンジャー)、神官。夜営を挟んで払暁とともに仕掛けるぞ」

 

 本来ならば日暮れ時を狙っていくのが定番ですが、少しでも彼らの生存の可能性を高めるために早さを採るようですね。吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが不寝番しても問題ないため夜営の安全は確保できるのが救いでしょうか。

 

 それから、と呟くゴブスレさんの視線は量産型ゴブスレさん……もとい首有り首無し騎士(デュラハン)の2人に向けられていますが、できれば彼らは温存したいんですよね。あくまでも騎兵として召喚されているために徒歩(かち)では本領を発揮できないので、今回は休息組や村人の護衛をお願いしたいなぁと。そのぶん吸血鬼侍ちゃんが頑張りますので。

 

 わかった、と言って先発組の招集に向かうゴブスレさん。女神官ちゃんの体力が若干不安ですが、吸血鬼侍ちゃんか分身ちゃんが背負って……は無理なので、抱きかかえる形で運べば問題ないでしょう。

 

「わ、私も参ります! 巣穴までの案内が必要でしょうし、残っているのは私の一党ですもの!」

 

 うーん、令嬢剣士さんの申し出は有難いんですが、下山直後の体力が尽きた状態では行軍に着いてこられないと思うんですよねぇ。ゴブスレさんも口には出しませんでしたが、残留組は恐らく手遅れでしょうし……。やはり村に残ってもらうほうが良さそうですね。

 

「ちっこいのの言う通りよ。行軍速度が落ちて間に合いませんでしたじゃそれこそ本末転倒じゃない。あんたが今できる最善は、巣穴の位置をこの地図に記すことよ」

 

 村人に書いてもらったんでしょう、山中の地図を手で弄びながら妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)がやって来ました。首元の銀等級の証とベテランの風格で令嬢剣士さんを圧倒し、登頂ルートや行軍時に気付いた点を聞き出しています。ここは任せて吸血鬼侍ちゃんも準備を整えてしまいましょう。

 

 

「アンタには不要かもだけど、人数分温石(おんじゃく)を用意したから一応懐に入れておきなさい」

 

 装備の確認を終え、いざ出発というところでサプライズプレゼントが。他の人が落としたり冷えたりしたら交換してあげなさい、と言いながら女魔法使いちゃんが簡易炬燵に使っていた石を個別に包んでみんなに配ってくれました。古典的な懐炉ですが、手がかじかんで武器が持てないといった事態を防ぐためには有用ですね!

 

「あの……どうか皆をお願いいたします」

 

 妖精弓手ちゃんに諭されて同行するのを思いとどまった令嬢剣士さんが、先発組に深く頭を下げています。善処はしますけど、最悪の想定は覚悟しておいてください。それと、()()()()()()()()()()()()()()()()、しっかりと休息を取って明日以降に備えておいてください。

 

 顔を曇らせる令嬢剣士さん。森人少女ちゃん、申し訳ないけれど彼女のフォローよろしくね? ≪託宣(ハンドアウト)≫で示された本番は、恐らくこの程度ではないでしょうから。

 

 

 

「うう、さむぅい……。けど、随分器用な真似できるのね、ちっこいのは」

 

 正午ごろ村を出発し、縄で数珠つなぎとなって雪中行軍に挑んでいる先発組。妖精弓手ちゃんのボヤキも白い吐息とともに風に飛ばされていきます。

 

 先頭を歩く吸血鬼侍ちゃんは左右の外套(つばさ)を前方へ鋭角的に突き出し、ラッセル車のように雪を掻き分けています。雪が避けられた地面を目視し、岩や窪みがあれば声を上げて後続に注意を促してあげましょう。

 

 最後尾の分身ちゃんも外套を広げ、吸血鬼侍ちゃんとの間に挟まる一党の風除けとなっていますね。直で風が当たらないだけで体感温度は随分変わりますし、しもやけや凍傷の危険も低くなるでしょう。万が一誰かが滑落しても、短時間であれば全員を引っ張って飛行することは可能ですので安全面もカバーできるのがこの隊列の良いところです。

 

「はい、それにこの温石……とても暖かいです」

 

 女神官ちゃんが懐に手を当て、顔をほころばせています。簡単な仕組みですが、また石を温め直せば使えますので夜営の時に仕込み直しておきましょうね。

 

「それにしても、やっぱり便利だねご主人様の手袋(ソレ)

 

 鉱人道士さんから分けてもらった火酒をちびちびとやりながら吸血鬼侍ちゃんの後姿を眺めている森人狩人さん。彼女を含め、みんな即座に戦闘に臨めるよう荷物はすべて≪手袋≫にしまってあります。陛下が貸し出しに難色を示す程度には貴重且つ使い方を誤れば王国の経済が崩壊する代物なので、春には陛下に返しますからね、これ。

 

 

 

「そろそろ夜営の準備をするぞ」

 

 巣穴まであと三分の一という地点まで進んだところでゴブスレさんから声がかかりました。ここで食事と仮眠を取り、夜が明ける前に行軍を再開し払暁とともに巣穴の攻略に乗り込む算段ですね。

 

 吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん、ゴブスレさんは手袋から取り出した夜営道具で寝床の準備を始めています。風除けの岩陰に防水布を敷き、岩に沿う形で天幕を設営。あとは山ほど毛布を放り込めば簡易寝床の完成です。

 

 森人狩人さんは天幕の前に即席の竈を拵え、妖精弓手ちゃんが行軍中に拾っていた松ぼっくりを着火剤代わりに薪に火を点けていますね。女神官ちゃんはベーコンや馬鈴薯、人参に玉葱を切り分け、次々と鍋に投下。そこに牛乳とチーズを加えて暫く煮込み、温かいシチューを作ってくれました。火で軽く炙った黒麺麭を添えれば、寒い夜にぴったりな夕食の出来上がりです!

 

 天幕の中で鍋を囲む一党。みんなハフハフいいながらシチューを口に運んでいます。あれ、手が止まってますけどどうしましたゴブスレさん? あそっか、シチューに入ってるベーコンや牛乳、チーズは牛飼娘さんのところで購入したものでした。材料も出来上がったシチューも、作った人の愛情がたっぷり入ってますから美味しいですよね!

 

「あ、愛情ってそんな!? 私はただみなさんに美味しいものを食べてもらいたくて……」

 

 おやおや、女神官ちゃんが真っ赤になっちゃいました。シチューに浸した黒麺麭がでろでろになってますよー。森人狩人さんと妖精弓手ちゃんは黙々と手と口を動かしてますが、2人共そんなに燃費悪かったでしたっけ? 何時にも増して食べているみたいですけど。寒すぎて食べなきゃやってられない? そりゃ脂肪が付いてないからじゃないですかねぇ? ご主人様と分身ちゃんのぶんも食べてるから……って、もしかしてこの後ちゅーちゅーしろってことですか? 

 

「……外の警戒をしてくる。早く済ませろ」

 

 あ、変に空気を読んで出て行かないでゴブスレさん! 無言で自分の両隣を手で叩く森人狩人さん。これは分身ちゃんと2人とも来いということでしょうね。吸血鬼侍ちゃんが分身ちゃんとアイコンタクトを試みるも返ってきたのは諦めのサイン。2人とも粛々と指定の場所に座りました。

 

 上着を捲り上げた森人狩人さんの姿を見て、天幕に響くゴクリと生唾を飲み込む音。持たざる者2人の視線が、森人狩人さんのお山に注がれていますね。あ、吸血鬼侍ちゃんじゃありませんよ。

 

「フフ、何故顔を赤くしておられるのかな妹姫(いもひめ)様? これはあくまで食事だというのに」

 

 ちゅー×2 

 

 吸血鬼侍ちゃんたちを抱き寄せ、吸血を始めさせる森人狩人さん。あうあう言いながら口を開閉させている妖精弓手ちゃんと、最初は顔を真っ赤にしていたけど少しずつ微笑ましいものを見る表情に変わった女神官ちゃん。何か面白いところでもありました?

 

「あ、いえ。なんだか子猫とミルクを与えている母猫みたいに思えちゃって……」

 

 女神官ちゃんの感想を聞いた瞬間に手袋からカチューシャ(ネコミミ)を取り出し装備する2人。ちゅーちゅーしながら子猫が授乳時に母猫を促すように、両手でお山をぷにぷに。

 

「「もっとみるくをのませるにゃー!」」

 

あ、見ている2人とも堪え切れずに吹き出しました。笑いがとれたのでヨシ!としましょう。頭上から聞こえてくる「覚えておきたまえよご主人様」という声は耳に入らなかったことにします!

 

 

 

 さて、随分お待たせしてしまったので、早くゴブスレさんに天幕へ戻ってもらいましょう。何処に行ったかなーっと……お、天幕の風除けにしている岩の上で警戒してくれていました。すいません、吸血終わりましたにゃー! おっと、カチューシャ取らなきゃ。

 

「……そうか」

 

 後は暫く吸血鬼侍ちゃんが警戒に当たって、呪文回復の休息時間だけ直前に再召喚した分身ちゃんにお願いする形になります。天幕が一つなので寝られないかもしれませんが、身体だけでも休ませておいてくださいね。

 

「ああ」

 

 そう吸血鬼侍ちゃんに応えながら、岩の上から動こうとしないゴブスレさん。やっぱり女所帯に男ひとりは入りづらいです? それは冒険者だから気にしない? じゃあ何か気になる事でも? え、吸血鬼侍ちゃんに聞きたいことがある?

 

「お前は、何故ゴブリンを殺す?」

 

 ……これは随分とゴブスレさんの根幹に触れるような質問ですね。吸血鬼としては獲物(エサ)を横取りされるのが迷惑だから。冒険者としては人間に一番被害を与えているのが奴らだから。吸血鬼侍ちゃん個人としては……。

 

>「じぶんがたいせつにおもうひとがクソどものおもちゃにされつづけて、なきねいりしていられるほどにんげんができてないからかなー?」

 

 人間じゃないけどねーと、鮫のような笑みを浮かべながら続ける吸血鬼侍ちゃん。前髪に隠れて見えませんが、その目は恐らくゴブスレさんと同じ色をしていることでしょう。

 

「……俺にも姉が()()

 

 ポツリポツリと話し始めるゴブスレさん。生まれ育った村のこと、お姉さんのこと、圃人の師匠(クソマンチ)のこと、助けることができた人や、間に合わなかった人たちのこと。

 

「いつか俺はゴブリン殺しの途中で野垂れ死ぬ。その結末は既に許容しているが、ゴブリンを殺しきれなかった()()が残るだろう」

 

 その時は……と言い始めた時点で兜にヘッドバットをかます吸血鬼侍ちゃん。流石に金属は痛かったのか頭を押さえて蹲っていますが、ゴブスレさんの言葉を中断させることに成功しました。

 

 ゴブスレさん、その考えは絶対にダメですからね。恐らく行軍中の首有り首無し騎士(デュラハン)さんを見て考えてしまったんでしょうけど、確かに疲労せず、視覚的ペナルティを受けず、毒にも病気もならないのはメリットにしか見えないでしょう。でも、【死霊(アンデッド)】なんて自分からなるようなもんじゃありませんし、それは彼らにとっても侮辱です。吸血鬼(アンデッド)が言うんですから間違いありません!

 

 それよりも、ゴブスレさんの持つ知識や技術、経験それに意思を継ぐ人を育てることを考えましょう! ギルドに掛け合って新人が学ぶ訓練場を設営したり、初心者(ノービス)の引率を行う冒険者を募ってみたり。

 一番いいのはさっさと子供を作って跡取りを育てることでしょうね。家業を継ぐならそれも良し、ゴブスレさんの意思に賛同してくれるなら徹底的に仕込めば良いんです。……あの3人なら、どなたでもきっと賛同してくれますよ?

 

 そこで言葉を切り、ゴブスレさんの兜へ口を近付けそっと囁く吸血鬼侍ちゃん。

 

 

 

 

>「もし、こどもやまごにかこまれて、てんじゅをまっとうしそうになったとき。まだゴブリンがみなごろしになっていなかったら。……そのときはけんぞくにしてあげる」

 

 

 

 

 もっと強くならないとただの吸血鬼(ヴァンパイア)になっちゃうから気をつけてねーと続ける吸血鬼侍ちゃん。なんの保証もない口約束ですが、これで少しは今後について考えてくれると良いのですが。

 

 質問に答えたことへの礼を言いながら天幕へ戻っていくゴブスレさん。冷気を伴って入ってきた彼に早速食って掛かる妖精弓手ちゃんと、それを宥める女神官ちゃんの声が吸血鬼侍ちゃんのところまで聞こえてきます。明日の出発は早いですが、みんなちゃんと休めるんでしょうか……。

 

 岩の上で星の見えない夜空を眺める吸血鬼侍ちゃん。ゴブスレさんには言いましたが、最低でも1人、自分の後継者として吸血鬼希少種(デイライトウォーカー)を生み出すのが吸血鬼侍ちゃんの目的のひとつなんですよねぇ。さてどうしたものか。

 

 分身ちゃんが再召喚を促しに来るまで、吸血鬼侍ちゃんはひたすら雲の向こうに浮かぶ緑の月を睨んでいるのでした……。

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 




納豆餅が美味しかったので失踪します。

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セッションその6ー4

お外を出歩くのが躊躇われるので初投稿です。
 


 前回、ゴブスレさんと夜会話(真)したところから再開です。

 

 天幕で仮眠をとり、夜営道具を格納し夜明け前に出発した一党。山稜に太陽が顔を覗かせた頃に目的地である巣穴を目視できる場所までやって来ました。

 

 美しい山肌を汚すようにポツポツと見える黒い穴。恐らくあれが巣穴の入り口なんでしょうね。攻め込む前の手順確認も兼ねて、再び風除けとなる岩陰に防水布を敷き、小休止をとることになりました。

 

「街で飲んだ時は何この泥水って思ってたけど、寒い時に飲むと不思議と美味しく感じるわね」

 

 琺瑯引きのマグカップで珈琲を啜りながら妖精弓手ちゃんが耳をピコピコさせています。南方から稀に入ってくる珈琲豆ですが、カカオ豆と違い飲料というより薬用として考えられているようであまり浸透していません。上手に焙煎しないと焦げ臭かったりして飲めたものではないというのもありますが、吸血鬼侍ちゃんが準備していたものは好評なようですね。同じく希少且つ贅沢品な砂糖も持ってきたので、カロリー摂取とカフェインによる覚醒作用で英気を養いましょう!

 

「それで、オルクボルグとしてはアレをどう攻めるのかな?」

 

 珈琲にも火酒を垂らして飲んでいる森人狩人さんがゴブスレさんに問いかけています。昨日も行軍中ちびちびやってましたけど、見た目によらず結構呑兵衛ですよね。

 

「探索時は侍1人と野伏が前衛、中衛に戦士と神官。接敵時には野伏と戦士が入れ替わる。奇襲に備えて狩人ともう1人の侍は後衛を任せる」

 

「了解、今日はちゃんと弓を持ってきたからね。妹姫(いもひめ)様ほど上手くはないけれど、援護くらいは任せてもらおうかな」

 

 まぁ持ってきたのは吸血鬼侍ちゃんなんですけどね。≪手袋≫から短弓と矢筒を取り出して森人狩人さんにパス、ついでに野外活動用の装備を全員から回収して身軽になってもらいます。分身ちゃん前衛と後衛どっちがいい? 今日は暴れたい気分? じゃあ前をお任せしますねー。休憩に使った道具を格納したら、いよいよ探索開始(ダンジョンアタック)です!

 

 

 

 

 巣穴の入り口と思われる洞窟の前には破壊された防護柵と思われる残骸と食い荒らされた狩りの獲物の残り滓。それにどす黒く変色し凍り付いた血溜りが残されていました。血溜りからは何かを引き摺ったような跡が洞窟内部へ伸び、まるで一党を誘いこもうとしているかのように見えます。

 

「やはり、ここにいた一党の人たちはもう……」

 

 青褪めた顔で女神官ちゃんが血溜りを見つめています。おや、ゴブスレさんが血溜りで何かを見つけたようです。何かありました?

 

「飛散した内臓(モツ)の欠片だ。ゴブリンの持つ武器ではこうはならん。もっと大型の生物が喰い千切った跡にも見える」

 

 ゴブスレさんの後ろから血溜りを覗き込む吸血鬼侍ちゃん。たしかに血の中に肉片のようなものが混ざってますね。となると、大型の狼や巨人(トロル)でも餌付けしているんでしょうか。

 

「わからん、が警戒するに越したことはない。最低でも呪術師(シャーマン)はいるだろう」

 

 ゴブスレさんの指差す先、洞窟の入り口にはトーテムが作られています。これはやはり増援がいる可能性が高いですね……。ゴブスレさん、接敵時の陣形をちょっと変えてもいいですか?

……って感じに。後衛は吸血鬼侍ちゃん1人で十分なので、先に術持ちを潰しておきたいなぁと。

 

「わかった。全員に周知するぞ」

 

 あっさりと受け入れてくれましたが、これは信頼されているってことでいいんですかね? それともより効率を追い求めた結果なのか。どちらにせよ、なるべく味方の損害を抑える方向で動くことに変わりはありませんので、気合い入れていきましょう!

 

 

 

「……で、最初に見つけたのがコレなんだから、こっちの殺意を上げるのに一役買っているだけって連中には理解できないのかな?」

 

 口調こそウンザリという感じですが、森人狩人さんの目には赫怒の炎がちらついています。

 

 入り口からすぐに掘られた脇道、腐敗臭の籠った部屋にそれはありました。四肢を引き千切られ積み上げられた山と、その前に並べられた3つの首。眼窩には矢が突き刺さり、舌は大きく突き出した状態で顎に縫い留められています。

 

 尊厳という言葉を粉砕するために作られたような光景に息を呑む一党。分身ちゃんが何かを言いたそうに吸血鬼侍ちゃんを見ています。どうやら気持ちは同じようですね。頷きを返すと、分身ちゃんはその冒涜的な部屋に足を踏み入れ、山の中に手を差し込み何かを探し始めました。

 

「ちょ、ちょっとなにやってるのよ!?」

 

 慌てたような妖精弓手ちゃんの声が洞窟内に響きますが分身ちゃんの手は止まりません。遺体の山を漁るのを止め戻ってきたその手には、血と泥で汚れた白磁の認識票が3枚握られていました。

 

>「遍く世界の叡智を貪る知の蒐集者よ、行き詰まりし思考を洗い流す一滴(ひとしずく)を我に与えん」

 

 分身ちゃんが≪浄化≫を唱えると、袖はおろか服全体に付いていた汚泥が消え去るのと一緒に認識票が本来の輝きを取り戻しました。差し出された認識票を受け取った吸血鬼侍ちゃんは、自らのそれと同じように首から下げ、服の下に大切にしまい込みます。

 

 遺体を連れて帰るのは後回しになってしまいますが、認識票だけでも回収するのは冒険者にとって約束のようなものです。自分が冒険の途中で斃れた時、同じように回収してもらいたいですからね……。ゴブスレさんもそれはわかっているので、分身ちゃんを止めることも無く黙って見ていてくれました。

 

 

 遺体に祈りを捧げていた女神官ちゃんも立ち上がり、再度隊列を組んで奥へと向かう一党。通路の先でT字路にぶつかった際にゴブスレさんが選択したのは足跡の多いほう。万が一挟撃を受けた際に後衛である吸血鬼侍ちゃんが受け持つ人数を少なくするのと、前衛の攻撃力を見込んだ判断ですね。

 

 先陣を切って広間へ突入した分身ちゃんの暗視()に映るのは、30は下らないゴブリンの群れ。横穴から奇襲しようと鶴嘴や円匙を担いだ集団、弓を構えた集団、最奥で命令を下しているのは呪術師(シャーマン)でしょうか? 一党を迎え撃つべく準備を整えていたようですね。

 

 女神官ちゃんの≪聖光(ホーリーライト)≫が先んじて決まり、ゴブリンは目を抑えて悶えています。聖なる輝きを背に()()()()()()()()()()()()呪術師(シャーマン)の頭上へ飛翔する分身ちゃん。村正を呪術師(シャーマン)の頭に突き立て、引き抜くと同時に首を刎ね着地。そのまま後衛から順に食い荒らしていきます。

 

「その、お2人とも大丈夫ですか?」

 

 予めお聞きしてましたから呪文維持は継続していますが、と後ろの吸血鬼侍ちゃんに尋ねる女神官ちゃん。吸血鬼侍ちゃんからも分身ちゃんと同様、身を焦がす煙が上がっています。

 

 目晦ましや戦闘中の灯りとして非常に有用な≪聖光(ホーリーライト)≫。忘れられがちなんですが、アンデッドに対する抵抗不可、装甲無視の継続ダメージ源にもなるんですよねぇ。今の女神官ちゃんの術者レベルなら再生でペイできるダメージで済みますが、この先成長していくと再生を上回るダメージになるので注意しましょう。

 

「オルクボルグが踏み込む前に……っと!」

 

 広間の地面の隆起した部分に雷光を纏った戦棍(トニトルス)を叩きつけ、砕いた破片を散弾のようにゴブリンに向けてばら撒く森人狩人さん。体中を穴だらけにした死体が次々と出来上がっていきます。

 

「上手いものだな……。これで二十一」

 

 ゴブスレさんも目晦ましから立ち直りつつあるゴブリンの喉を短剣で突き、その手に握られていた鶴嘴で次のゴブリンに向かっています。流石戦士、あらゆる武器に精通しているといわれる所以ですね。

 

「「「GOBGOBGOB!!」」」

 

 お、予想通り後ろからも来ました。ナイフを木の棒に括り付けた粗末な槍で武装したゴブリンが、無手の吸血鬼侍ちゃんを刺し殺さんと突撃(チャージ)してきました。背から受ける≪聖光(ホーリーライト)≫によって伸びた吸血鬼侍ちゃんの影に踏み込んだ次の瞬間……。

 

「「「GO!?」」」

 

 影から伸びた触手がゴブリンたちを股間から頭頂部に抜けるように貫き、体内で枝分かれしたそれが胴体を突き破って出てきました。そのまま通路を塞ぐ格子として残り、来るかもしれない次の増援に対する妨害として利用しましょう。さて、そろそろ広間のほうも片付いたかな……。

 

「――()ぅッ!?」

 

 !? 今の声は! 吸血鬼侍ちゃんが振り返ると、太股に矢を受け蹲る妖精弓手ちゃんの姿。悪あがきで放たれたゴブリンの矢が運よく前衛をすり抜け(クリティカルし)、妖精弓手ちゃんに当たってしまいました。しかも射撃姿勢で受けたことが災いし、転倒した際に鏃尻近くで矢柄が折れ(回避ファンブルによって)、鏃が体内に残ってしまったようです。こんなところ原作再現しないでいいから(憤慨)

 

 分身ちゃんと視界を共有すれば、広間のゴブリンは残り数体。女神官ちゃんは広間を照らす光源を維持しないといけないのでまだ動けない状態です。森人狩人さんを呼び戻して後方警戒を頼み、吸血鬼侍ちゃんは妖精弓手ちゃんの処置を行いましょう!

 

 荒く息をする妖精弓手ちゃん。太股の傷口は既に変色を始めています。傍に落ちている矢柄には毒を塗った跡が。毒付きの鏃が体内、事態は一刻を争いますね……。姫騎士さんの時に用いた感覚麻痺の噛みつきを使って、早急に鏃を摘出しないと。

 

 まず毒がこれ以上回らないように影の触手で傷口の上部、股関節に近い部分を締め上げます。別の触手を妖精弓手ちゃんの口元に近付ながら、処置について説明しましょう。

 

「どくつきのやじりがはいりこんでいるから、きせきをつかうまえにとりださないといけない」

「いたみをやわらげるためにかみつくけど、したをかまないようにそれをくわえてて」

「いそがないとまにあわなくなるから、かくごをきめて。……おねがい」

 

 若干涙目になってますが、傷口から這い上がる悪寒から深刻さを感じとったのでしょう。なるべく痛くしないでよと言いながら触手を咥えてくれました。あの、先っぽからじゃなくて横から齧りついてくれれば良かったんですが……。まぁいいか。効果に違いはありませんから(目逸らし)

 

 傷口を露出させるために爪でストッキングを破り、紫色に染まった傷の傍に牙を立てる吸血鬼侍ちゃん。そのまま待っていると身体から力が抜け、麻酔が効いてきたのが分かります。

 

 触手を咥える力も抜けてしまったのか、口元に隙間ができてしまってますね。ちょっと苦しいかもしれませんが、一回り触手を太くして隙間を塞ぎましょう。もうちょっとだけ我慢してねー。

 

 『手』の権能を使い、黒く硬化した爪で傷を切開。溢れる血の中から鏃を抉り出し、≪小癒≫を唱えます。すぐさま口から触手を抜き取り、解毒薬を飲ませ……麻酔が効いてて難しそうですね。後でしこたま怒られそうですが、緊急ということで許してもらいましょう。

 

「ん!? ん、んぅ、んんん……。うぇぇ……」

 

 解毒薬の水薬を呷り、口移しで飲ませる吸血鬼侍ちゃん。気管に入らないよう舌で誘導された薬はすぐに効果を発揮し、苦ぁ……と言いながら口元を拭う妖精弓手ちゃんの顔色は平常に戻っています。傷から流れた血を舐め取り、取り出した包帯を巻き付ければとりあえずの処置は完了です。出血が多かったので無理は出来ませんが、歩くくらいなら支障はないでしょう。

 

妹姫(いもひめ)様の治療は上手くいったみたいだね」

 

 後方の警戒を引き継いでもらっていた森人狩人さんが戻ってきました。どうやら増援は無かったようですね。妖精弓手ちゃんの手を取って立ち上がらせ、埃を払ってあげています。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫なわけないでしょう!? すっごい痛かったし、噛みつかれるし、変なモノ咥えさせられるし……!」

 

 うがー!と吠える妖精弓手ちゃんに対し、それだけ元気なら問題ないなと一刀両断のゴブスレさん。それよりも見てもらいたいモノがある、と広間の奥の部屋を指し示しています。どうやら治療している間に分身ちゃんと女神官ちゃんの3人で探索していたようですね。

 

 ゴブスレさんの後を追って歩く一党ですが、やはり怪我が気になるのか妖精弓手ちゃんの歩き方が片足を引き摺るようなものになっています。地面の隆起に足を取られて転倒でもしたら元も子もないので、外套(つばさ)で絡め捕り、お姫様抱っこで運んであげましょう。ジタバタと暴れる妖精弓手ちゃんですが、後遺症が残ったりしたら大変なのでこのまま強引に進んじゃいます。ジッとしててね。

 

 

 

「なんて……酷い……」

 

 女神官ちゃんの呟きが空しく響く覚知神の礼拝堂。祭壇と思われる長方形の大岩の上には一党の1人であろう半森人(ハーフエルフ)の軽戦士が横たわっていました。……胸から下を失った状態で。

 

 ゴブリンの汚濁に塗れ、内臓を失いぽっかりと穴の開いた胴体。額にはガラクタを組み合わせて作られた焼印によって刻まれた覚知神の御印(シンボル)。内臓は潰され塗料として用いられ、祭壇前の床にも大きな覚知神の御印が描かれています。

 

「血溜りのあった入り口から、上半身だけを此処まで運んできたのだろう」

 

 恐らくゴブスレさんの考察は正しいでしょう。焼印も遺体を辱める所業も、ここに安置されたから行われたみたいですし。ということは彼女を喰い千切った何者かは別の場所にいる?

 

「ああ。そしてこの儀式を先導している奴も同じ場所にいる」

 

 異様に統率の取れたゴブリンと祭壇の整備され具合、それに宗教に精通した儀式の取り計らい。そして森人少女ちゃんの≪託宣(ハンドアウト)≫で予見された忌々しき神の尖兵という語句。これらの状況証拠から、ゴブスレさんは未知なるゴブリンの存在を確信したようですね。

 

 小鬼指揮官(マーシャル)? 小鬼将軍(ウォーロード)? 否、それを表すのに最も相応しい呼び名は……。

 

 

 

 

小鬼聖騎士(パラディン)……だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 




出勤形態が変わるかもしれないので失踪します。

いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
お気に入り登録や感想、評価についても併せて入れていただければ幸いです。

お読みいただきありがとうございました。


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セッションその6ー5

最低気温が氷点下な毎日なので初投稿です。

とうとう評価バーが端まで伸びました。お読みいただいているという実感が目に見える形になり、非常に嬉しく思っています。

20万字以上続くとは思っていませんでしたが、これからもお付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。


 前回、未知なるゴブリンの存在を確信したところから再開です。

 

 生活の痕跡が薄いこの洞窟は、ゴブリンが生活する拠点ではなくある種の祭祀場のようなものであると判断した一党。この山の何処かに拠点があり、そこにゴブリンを統率する者と大型の捕食者がいるという考えから、一度村へ引き返し体勢を立て直した後討伐に当たることにしました。

 

 ゴブリンによって辱められていた冒険者の遺体ですが、せめて首だけでもまともな場所に弔おうということになり、祭壇に置かれていた半森人(ハーフエルフ)のものも含め4人全員回収。帰路の夜営時に奇跡の回数に余裕のあった分身ちゃんの≪浄化≫で清め、清潔な布で包んで村まで持ち帰りました。

 

 村に到着した一党を待っていた令嬢剣士さん。森人少女ちゃんの魔法と献身的な看護により疲労は抜けたようですが、帰ってきた一党の人数を見て泣き崩れてしまいました。吸血鬼侍ちゃんが差し出す4つの白磁認識票を震える手で受け取り、ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返す姿。冒険者の末路としてはありふれた光景かもしれませんが、何度見ても慣れることは出来ませんね……。

 

 鉱人道士さんと蜥蜴僧侶さんが村はずれに場所を確保してくれましたので、腐敗が進む前に埋葬することに。志半ばで斃れた彼らの魂の安息を願う冒険者たちの厳かな雰囲気の中、女神官ちゃんの紡ぐ聖句が寒空に響きわたるのでした。

 

 

 

 弔いが終わった後、いったん休憩を挟んでから明日の作戦を説明するというゴブスレさんの言葉に従い、先発組の女性陣は山から村に引いてある温泉に入る流れになったのですが……。

 

「いい加減にしないかご主人様。妹姫(いもひめ)様たちが待っているんだから……」

 

 はい、吸血鬼侍ちゃんが東屋の柱にしがみついて入浴を拒んでいます。自宅の浴槽では問題ないのですが、源泉かけ流しが気に入らないのか、あるいは湯量が怖いのか……。涙目になって抵抗していますね。

 

「いくら汗をかいたりしない体質だからって、丸二日動いた格好のままで過ごすわけにはいかないだろう? それに汚れた格好のまま分身ちゃんを呼んだりしたら、彼女に嫌われてしまうよ?」

 

 森人狩人さんの言葉にビクッとなり、諦めて柱を握っていた手を離した吸血鬼侍ちゃん。牧場防衛の時に判明したのですが、≪分身≫を唱える際術者の恰好がそのまま反映されるようで、返り血で真っ赤な状態で召喚したら分身ちゃんも血塗れで驚きました。

 

「なによ、随分遅かったじゃ……なんでちっこいのは微妙に涙目なの?」

 

 先に入っていた妖精弓手ちゃんがジト目で吸血鬼侍ちゃんを見ています。お湯を怖がっていることを森人狩人さんが暴露すると湯に浸かったまま笑い転げていますが、彼女も入る時に散々躊躇っていたのを見ていた女神官ちゃんは苦笑い。

 

 吸血鬼侍ちゃんを小脇に抱えたままするりと湯に浸かる森人狩人さん。足場と思しき一段浅くなっている場所に吸血鬼侍ちゃんを座らせ、くぁ~と伸びをしています。水面に浮かぶたわわに視線が釘付けになる女神官ちゃんと妖精弓手ちゃん(持たざる者2人)。ひとり我関せずと水面をブクブクしている吸血鬼侍ちゃん。2人の羨望の眼差しに対し、そのうち大きくなるさと女神官ちゃんに笑いかけていますが、妖精弓手ちゃんのほうを見ようとしないあたりわかっててやってますよね森人狩人さん?

 

 

 

「そうだ。悪いんだけど、ちょっとちっこいの貸してくれない?」

 

 温泉に浸かってしばらく経った頃でしょうか、妖精弓手ちゃんが両手を森人狩人さんにむけて突き出し、吸血鬼侍ちゃんの身柄を渡すよう要求してきました。普段なら「まったく妹姫様はしょうがないなぁ」と茶化す森人狩人さんですが、何かを察したのか素直に横にいた吸血鬼侍ちゃんを差し出しています。そのまま女神官ちゃんの肩に手をやり、女魔法使いちゃん直伝の豊胸マッサージを教えてあげようと言いながら温泉を離れていきます。去り際に後ろを振り向きウインクしたのは吸血鬼侍ちゃんと妖精弓手ちゃん、どちらに対してでしょうね?

 

 気を遣わせちゃったわねぇと言いながら受け取った吸血鬼侍ちゃんを膝に乗せ、2人の肩が浸かるまで湯に沈む妖精弓手ちゃん。湯が顔に近付き慌てる吸血鬼侍ちゃんを抱きすくめ、大人しくなるまで沈黙を保っています。

 

「まずは怪我の治療に対するお礼。あんたが手早く処置してくれたから、後遺症なんかも残らず治ったわけだしね」

 

 ありがと、と言いながらわしわしと頭を撫でる妖精弓手ちゃん。気持ちがいいのか、吸血鬼侍ちゃんもされるがままになっています。

 

「次に確認。オルクボルグに言ってた()()、本気で言ってるの?」

 

「ほんきだよ? ……できればほごにしてもらいたいやくそくだけど」

 

 ゴブスレさんを眷属にするという話のことでしょう。吸血鬼侍ちゃんにとって、それを望んでいるというよりは、そうならないよう生きろという意味を込めての約束でしょうね。

 

「じゃあ最後に質問。あんたはいつまであの子たち(森人の娘)2人と同じ時間を過ごしてあげられるの?」

 

()()()()()。ふたりがぼくをひつようとしなくなる、そのひまで」

 

 妖精弓手ちゃんの問いにきっぱりと言い切る吸血鬼侍ちゃん。暫しの沈黙の後、妖精弓手ちゃんが大きく息を吐き吸血鬼侍ちゃんを向き合う体勢に抱え直しました。

 

定命(モータル)の感情を持ちながら、長生種と同じ時を生きる……かぁ」

 

 額に張り付いた前髪をかきあげ、露わになった吸血鬼侍ちゃんの瞳を覗き込みながら言葉を続ける妖精弓手ちゃん。

 

「やっとわかったわ。あんたは毒ね。決して死に至ることのない、けれど一度口にしたら二度と抜け出す事の出来ない甘美な毒」

 

 こんな奴だって分かってたら最初の夜営の時に殺してたのに、と物騒なことを言う妖精弓手ちゃんですが、その口元は緩み、吸血鬼侍ちゃんの頬を優しく撫でています。

 

うちの子(森人)2人と目隠しおっぱい(剣の乙女)は、もうあんたから離れられない。唯一正気を保っている眼鏡おっぱい(女魔法使い)はそもそも離れる気がないみたいだけど、あの子も何時まで持つことやら」

 

 まぁそれは私も同じか、と苦笑しながら頬を撫でるのを止め、両手で顔を固定して2人のおでこをくっつけ、言葉を続けています。

 

「あんたを慕う子全員の人生を看取るまで、勝手に死ぬのは許さない。それから、私を傷物にした罰として、2人きりの時はその髪型でいること! 可愛いおでこは私が独り占めにしてやるわ!」

 

 そんな!? メカクレちゃんからメカクレを取り上げるなんてひどい!! 吸血鬼侍ちゃんは手足をバタつかせて精一杯の抗議をしていますが、全く相手にされてませんね。イイ笑顔で返事は?と言ったきり拘束を緩めようともしない妖精弓手ちゃん。そうやってじゃれ合っていると……。

 

ぐ~きゅるるるる

 

「……そういえば昨日は食事という雰囲気じゃなかったものね」

 

 たしかに遺体の清拭や情報の整理などで吸血の暇がありませんでしたね。吸血鬼侍ちゃんのお腹の虫が空腹を訴えています。ふーむ、作戦会議の前に女魔法使いちゃんか森人少女ちゃんにお願いして……。

 

「ちょっと、目の前に麗しき上の森人(ハイエルフ)の乙女がいるのにその反応はどういう了見かしら?」

 

 えーと、それは吸えってことでしょうか? 最近収入源が乏しくなって献血依頼を受ける冒険者が増えてましたが、ひょっとしてそこで聞く吸血時の快感について興味を持ったんですかね?

 

「ち、違うわよ!? 一党の仲間が空腹で力を発揮できないとか馬鹿らしいじゃない!」

 

 ふーんそーなのかー。ぷりぷり怒っている妖精弓手ちゃんと、それを生暖かく見守る吸血鬼侍ちゃんの対比が不思議空間を生み出していますが、吸わせてくれるのならいただいちゃいましょう! きめ細かな肌に吸血鬼侍ちゃんが可愛らしい牙を滑らせ……。

 

 

 

 

 

滑らせ……。

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

……?

 

 

 

 

「すうとっかかりがない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このあと滅茶苦茶吸血させられました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴブリンを教導し、扇動し、先導する知恵者が近くにいる。そいつを探し出し、取り巻き諸共全て殺す。そうしなければ被害は拡大し続けるだけだ」

 

 先発組の休憩後、作戦会議を行うべく酒場の二階を貸切にしてもらい、一党に事態を説明するゴブスレさん。いつもの面々以外に、今回≪託宣(ハンドアウト)≫を受け取った森人少女ちゃん、そして≪託宣≫で名指しされていた令嬢剣士さんも同席しています。

 先の礼拝堂よりさらに山を登った先にある古代遺跡。神代の時代に鉱人(ドワーフ)が築き上げた砦に奴らは拠点を構え、邪悪な策謀を練っているのでしょう。

 

「砦ねぇ……。アンタの魔法で吹き飛ばせたりしないの?」

 

 女魔法使いちゃんが吸血鬼侍ちゃんに無茶振りしてきてます。やって出来ないことはないでしょうけど、牧場防衛の時みたいに何らかの方法で空腹を満たさないと辛いです。ゴブリンをエサにするんだったら最初からその手で攻めたほうが手っ取り早いですし、それに……。

 

「虜囚がいる可能性もある。巻き込むわけにはいかん」

 

 そこが一番のネックですよねぇ。極端な話、砦を消滅させるだけなら分身ちゃんと一緒にひたすら≪核撃(フュージョンブラスト)≫撃ち続ければいいんですけど、ゴブリンを打ち漏らす可能性があるのと、人質の生命を無視する形になってしまいます。その行為を是とするならば、それはもはや冒険者とは名乗れなくなってしまうでしょう。

 

 崩すなら内部からというゴブスレさんの台詞とともに机上に放られる覚知神の焼印。原作通り覚知神の信徒を偽装して侵入する腹積もりのようですね。女性の人数が多いので生贄を運ぶ籠は2つ拵える必要がありそうですが、持ち手の人数が……あ。

 

()()()()に頼みたいが、いけるか?」

 

 ええ、むしろ喜んで引き受けてくれると思います。混沌の陣営に一泡吹かせられるんですから。そうと決まれば早速≪手袋≫から資材を出して……おや、蜥蜴僧侶さんが邪悪な(エロイ)笑みとともに挙手してますね。なにか考えがあるんでしょうか。

 

「侍殿にいくつかお尋ねしたい。ひとつ、首無し騎士(デュラハン)殿の召喚は最大で何度使えますかな?」

 

 ええと、奇跡の使用回数を代替コストにしてますので、分身ちゃんに全力で働いてもらって16回、本体を合わせると20回までですね。その日他の魔法が何も使えなくなってしまいますが。

 

「フム、さればほどほどに抑えたほうが良さそうですな。ふたつ、御身に合う見栄えの良い衣装はお持ちですかな?」

 

 へ? ロードの衣装で良ければ≪手袋≫にしまってありますけど。それが何か?

 

「それは重畳! では最後にみっつ。()()()()()()()()()()()()?」

 

 それさっきゴブスレさんに言われてた台詞! なんか嫌な予感がしますが、ちょっと神様に聞いてみますね。

 

 どうでしょう万知神さま、偽装は許されますか?

 

 ……≪教典(ルルブ)≫にダメって書いてないからOKだそうです。なんという理想的な万知(マンチ)理論!

 

「素晴らしい! では各々がた、このような攻め手は如何かな?」

 

 蜥蜴僧侶さんの考えを聞くと、面々の表情が二極化していくのが見て取れます。

 ゴブスレさん、森人狩人さん、森人少女ちゃんはキラキラ顔、それ以外の一党はうわぁ……というドン引き顔に。吸血鬼侍ちゃん? 死んだ魚のような目をしてますね!

 

 しかし、砦内部に潜入するより効果的で、尚且つ人質に対する安全も高いのも事実。蜥蜴僧侶さんの策を実行するため、しっかりと準備をしていきましょう!

 あ、みんなちょっとお願いがあるんだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹雪を抜け、黒々とした城門の前に立つ一党。蜥蜴僧侶さんの呼びかけと掲げられた偽の聖印に応えるかのように門が開けられていきます。

 

 門を通り抜けた先には一党を迎えるかのように両手を広げ、裾を引き摺って歩く小鬼司祭(プリースト)の姿。中庭に屯しているゴブリンは門の外から流れてくる女性陣の匂いで興奮している様子で、耳障りの悪い喚き声がそこら中から響いてきていますね。

 

 供物を運んできたと思っているのでしょう。どいつもニヤケ面を隠そうともしていませんが、吹雪の向こうから姿を現した集団を見た瞬間その表情が凍り付きました。

 

 先頭を歩くのは先ほど呼び掛けていた蜥蜴僧正(蜥蜴僧侶さん)。肩の上に典雅な(ロードの)衣装を纏った圃人(吸血鬼侍ちゃん)を乗せて悠然と歩を進めています。鉱人の傭兵(鉱人道士さん)似たような格好の鎧を着た男3人(ゴブスレさんと首有り騎士さんズ)が担ぐ籠の中には只人(ヒューム)森人(エルフ)雌が3人ずつ(女性陣)。毛布を体に巻き付け、寒さかあるいは恐怖に震えているように見えるかもしれません。

 

 それだけであればゴブリンもここまで大人しくはならなかったでしょう。籠に群がろうとする卑しい本能を恐怖で塗り潰した()()はこれから現れるのですから。

 

 馬の歩調を合わせ、雪中を平然と二列縦隊で進んでくる後続集団。先頭の二騎は覚知神のシンボルを染め抜いた旗を掲げ、中庭中央で停止した一党の左右を守るように展開します。その数全部で十二騎。乗騎を含め、()()()()()()()()()をゴブリンへ見せつけています……。

 

 

 

 

 

 

 いやー蜥蜴僧侶さんてば惚れ惚れするほどエロイ(()げつない、()くでもない、()やらしい)作戦を思い付きますね! 覚知神の聖印を見せられた以上開門しないわけにはいかないですし、あえて女性陣の匂いを消さないことで正常な判断力を奪う頭脳プレイ。吸血鬼侍ちゃんの余力を残しつつも威圧感を演出する首無し騎士さんの配置数など、戦争というものを一党で一番理解しているのは間違いないでしょう。

 

 小鬼司祭(プリースト)が引き攣った顔をなんとか威厳のある表情に戻そうと頑張ってますが、残念ながら変顔にしかなってません。女性陣はみな顔を伏せてますが、それ絶対恐怖じゃなくて笑いをこらえてますよね森人狩人さん? 籠が片方揺れてますよ。

 

 なんとか会話のイニシアティブを取り返そうと大袈裟な身振り手振りで蜥蜴僧侶さんに何かを言ってますが、鷹揚に頷くばかりの対応に小鬼司祭(プリースト)も辟易している様子。肩に腰かけた吸血鬼侍ちゃんに通訳してくれていますが、まぁ自己中というか、物事を自分の都合の良いように解釈するのが上手いというか……。

 

 

 

 え、内容がループしてるからそろそろ始めたい? それじゃあ蜥蜴僧侶さんの肩から飛び降りて、まずはみんなに目配せをしながら左右の首無し騎士(デュラハン)さんから旗を受け取ります。吸血鬼侍ちゃんの身長の三倍近くあるそれを片手に1本ずつ持ち、()()の旗を蜥蜴僧侶さんに渡し、残った()()の旗を小鬼司祭(プリースト)に差し出します。このとき可愛らしい()()を忘れずに!

 

 友好の証とでも思ったのでしょう。差し出されたそれを受け取ろうとしますが、手に取ろうとした瞬間、旗は魔法のように消えてしまいました。何が起こったのかわからず動きを止める小鬼司祭(プリースト)ですが、吸血鬼侍ちゃんの()()から突き出された旗、その石突が彼の腹部を貫きます。

 

「GOB!?」

 

 信じられないものを見る目で吸血鬼侍ちゃんを睨みつける小鬼司祭(プリースト)、串刺しのまま宙に足が浮いた状態で藻掻いています。吸血鬼侍ちゃんが笑みを浮かべたまま話しかけていますが、残念ながら言葉が通じていないようですね。蜥蜴僧侶さん、≪念話(コミュニケイト)≫で通訳してもらってもいいですか?

 

「あたえられるがまま、なにもかんがえようとしないおばかさんたち」

 

 蜥蜴僧侶さんが旗を爪で引き裂き、懐から取り出した新しいものと交換しています。描かれているシンボルは山積みになった分厚い本。万知神の御印です。

 

「ちしきはたくわえ、そしてのちにつなげていくものなのに、こたえだけでまんぞくしている」

 

 鍵なんて最初から付いて無かった籠から、毛布を跳ね除けてフル装備の女性陣が踊り出ます。今まで静謐を保っていた首無し騎士(英霊)の皆さんも、そこはかとなく嬉々とした雰囲気を醸し出しながら剣を抜き放ってますね。

 

「そんなふるいかんがえじゃ、いつまでたってもしあわせにはなれないよ?」

 

 小鬼司祭(プリースト)が刺さったままの旗を大きく振りかぶり、昨晩みんなからちゅーちゅーして高めていた吸血鬼ぱわーで中庭に建つ鐘塔目掛けて思い切り投擲。最上部に収められていた鐘と、ついでにゴブリンを粉砕した音が城中に響き渡ります。

 

 蜥蜴僧侶さんから手渡された万知神の旗を足元の石畳に突き立て、ガイナ立ちで鮫のような笑みを浮かべる吸血鬼侍ちゃん。今にも一党に跳びかからんとするゴブリンの集団に対し、高らかに宣言します!

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ! けいもうしてやろう!」

 

 

 

 

 

今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 




出勤前にウォッシャー液が凍っていたので失踪します。

いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
お気に入り登録や感想、評価についても併せて入れていただければ幸いです。

お読みいただきありがとうございました。



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セッションその6ー6

暖房なしで仕事をしていたので初投稿です。


 前回、盛大に宗教戦争を吹っ掛けたところから再開です。

 

 小鬼司祭(プリースト)を開戦のゴングに戦端を開いた一党。慌てて城内へ走るゴブリンは、恐らく群れの統率者である小鬼聖騎士(パラディン)へ事態を知らせに行ったのでしょう。本来ならば増援を阻止するために最優先で討ち取りますが、今回はわざと逃がします。むしろさっさと全軍で来てもらいたいので願ったり叶ったりですね。

 

 一党を取り囲んでいたゴブリンは既に半数が駆逐され、攻めあぐねている者を除けば中庭をぐるりと囲う城壁の上から散発的に石や矢が飛んでくる程度です。動く防壁となった首無し騎士(デュラハン)さんたちに命中するものの、僅かな傷すら付けることができません。むしろ妖精弓手ちゃんの見事な曲射や、ゴブスレさんを始めとする只人勢の投石紐によって()()()()()()()()()()()()()()()撃ち抜かれています。

 

「いきなり血を吸わせて欲しいと言われたときは何事かと思いましたが、まさかこれほどの加護を得られるとは思いませんでしたの……」

 

 ガイナ立ちをしたまま動かない吸血鬼侍ちゃんに向けて我慢が効かず闇雲に突っ込んできたゴブリンを、家宝である軽銀の剣で()()()()()()令嬢剣士さんが声をかけてきました。続けざまに投石紐から放つ石弾は過たずゴブリンの頭に命中し、サイズの合わぬ兜ごと爆散。同じような感想は、首無し騎士(デュラハン)さんを含めた一党全員が感じていることでしょう。

 

「ちょっと! こっちは呪文の維持で手一杯なんだけど!?」

 

 ……後ろから女魔法使いちゃんの文句が聞こえてきますが、吸血鬼侍ちゃんも似たり寄ったりなので我慢して☆ あ、後ろ向いててへぺろした吸血鬼侍ちゃんが怯えてます。よっぽど女魔法使いちゃんの放つ怒りのオーラが怖いんでしょうか……。

 

 よく目を凝らしてみると、吸血鬼侍ちゃんを中心として戦域(フィールド)全体に雪の反射とは異なる淡い光が満ちていることがわかります。光の中では一党の力は増し、その身体は羽毛のように軽やかに舞うほど。鉱人道士さんは平時の妖精弓手ちゃんの如き体捌きでゴブリンの矢を躱し、妖精弓手ちゃんの放つ矢は一矢で3匹のゴブリンを貫く威力に早変わり。森人狩人さんに至っては垂直にそびえる城壁を駆け上がり、驚きで硬直している小鬼弓手(アーチャー)素敵な挨拶(こんにちは死ね)を披露しています。

 

 

 

 令嬢剣士さん()森人狩人さん()森人少女ちゃん()に吸わせてもらった血をベース(色マナ)とし、そこに吸血鬼侍ちゃん()女魔法使いちゃん()、さらに小鬼司祭(プリースト)との会話中に起動していた護符の魔力(Moxから黒)を合わせることで完成した儀式魔法(Enchantment)一党(味方全体)膂力(パワー)身体能力(タフネス)強力なバフ(+3/+3修正)を与える異界の術式((3)(緑)(緑)(白))

 

 

集団的祝福(Collective Blessing)だったか。手間は掛かるが悪くないな」

 

 

 右手に握る剣の柄の感触を確かめながら呟くゴブスレさん。好機と誤認して跳びかかってきたゴブリンを股下から縦に二分し、地面に落ちたゴブ/リンから新しい剣を拾い上げています。優秀で鍛え上げられているとはいえ、膂力では重戦士さんに、速さでは槍ニキに及ばない筈のゴブスレさんですが、この時この場所においては2人を凌駕する身体能力を発揮しています。ちょっと勇者っぽいですよゴブスレさん! あ、そっぽ向かれちゃいました。もしかして照れてるのかな?

 

 

 

「……! 主さま、万知神さまから敵の首領(ボス登場)通達(メッセージ)を賜りました。もう間もなく現れます」

 

 おや、もっと早く来ると思ってましたが、意外と遅い登場でしたね。教えてくれてありがとう森人少女ちゃん、ちょっと危ないから首あり首無し騎士(デュラハン)さんの傍を離れないようにね。

 

「IRAGARARARARARARA!!」

 

 中庭の掃討が終わったころになってやっとこさ現れましたね。只人サイズの全身鎧を纏い、長剣と騎士盾、サーコートを身に付けた邪神の信奉者、覚知神の聖騎士! ウンザリするような数のゴブリンを従え、城内から()()()姿を現しました。

 

 大声で何か喚いてますが、恐らくは騙撃を仕掛けたこちらを貶し、覚知神の素晴らしさを高らかに謳っているんでしょう。あ、訳さないでいいですよ蜥蜴僧侶さん。どうせ大したこと言ってないですし。

 

「あ奴らの身に着けとる防具、ありゃ真銀(ミスリル)製じゃ。軽くしなやかで()()()()()。呪文の選択には気をつけるんじゃぞ!」

 

 ご先祖様の作った鎧を滅茶苦茶に着込みおってからに、とぼやきながら一党に注意を促す鉱人道士さん。小鬼聖騎士(パラディン)の後に続いて現れた体格の良いゴブリンたち、大型種族用に作られた金属鎧で全員を覆っており、一見して生身が露出しているのは眼部くらいでしょうか。

 10匹ほど現れたそいつらは、みな示し合わせたかのように大剣や両手斧など攻撃に特化した武器ばかり持っています。鎧の防御力を当てにしての選択なのでしょうが、ちょっと考え方が脳筋過ぎやしませんかねぇ……。

 

 さて、そろそろ最後の仕掛けを使う予定なんですが……本当に良いんですかゴブスレさん? もしあれでしたら吸血鬼侍ちゃんがやりますけど。

 

「いや、俺がやるのが一番効果的だろう。その代わりデカブツは任せる」

 

 はい、任されました! 吸血鬼侍ちゃんの隣まで進み出たゴブスレさん、懐から取り出した何かをゴブリンたちに見せつけるように掲げます。注目を集めたソレを、地面に放り投げて……。

 

 バキィ!!

 

「「「「「!?!?!?」」」」」

 

 無造作に踏み砕かれた覚知神の焼印を見て、小鬼聖騎士(パラディン)を始めとする信仰心に篤いゴブリンたちの目の色が変わりました。さぁダメ押しの台詞をお願いします! あ、なるべく強い言葉に訳してくださいね蜥蜴僧侶さん。

 

 

 

 

 

 

「『貴様の首は柱に吊るされるのがお似合いだ』」

 

 

GARA……IRAGARARAGARAGARARA(やろぉぉおぶっくらっしゃぁぁぁ)!!」

 

 

 

 

 ヨシ! これで冒険者対ゴブリンの戦いを万知神対覚知神の宗教戦争にすり替えることができました! 今回の城攻めにおいて一番取られたくなかった戦法が虜囚を人間の盾にされることだったんですが、もう奴らの頭に人質を使おうという考えは残っていないでしょう。

 

 冒険者が孕み袋を見捨てられないのはゴブリンにとって周知の事実であり、不利になれば形振り構わずに使われていた可能性があります。しかし今ゴブリンたちの前にいるのは冒険者などではなく覚知神に仇なす異教の信徒ども。撤退することはおろか、背を向けることすら許されない聖戦なんですから。

 

「GARORORORORORORA!!」

 

 抜き放った剣で一党を差し、血走った目で命令を下す小鬼聖騎士(パラディン)。狂奔するゴブリンを前衛に、全身鎧の小鬼騎士(ナイト)がその後を追うように迫ってきます。中庭に屯っていた連中は捨て駒と割り切ったのでしょう、一党の消耗を狙って連戦を仕掛けるという考えは覚知神から授かった智慧なのかもしれませんが、この場においては悪手以外の何物でもありません。

 

「「「「「GOBGOBA!?」」」」」

 

 戦列を組むことも知らず漫然と駆け寄るだけの先頭集団が、首無し騎士(デュラハン)さんたちの突撃(チャージ)で次々に突き崩されていきます。長物でも持っていればもう少し生き延びる時間が伸びたかもしれませんが、現実は騎馬の蹄で踏み潰され、上の人の剣で撫で斬りにされる一方的な展開。慌てて武器を構える小鬼騎士(ナイト)を華麗にスルーし、ひたすら雑魚散らしに専念しています。

 

 おっと、英霊さん(ゲスト)に頼りっきりじゃあ恰好がつかないので、吸血鬼侍ちゃんもお仕事しないとですね。ちょっと勿体無いですけど≪手袋≫から火酒の大樽を取り出し、首無し騎士(デュラハン)さんに分断されて出来上がったゴブリン溜りに向かってシューッ! 間髪入れずにゴブスレさんが追撃の火炎壺! いい感じにお肉をフランベすることに成功しました。燃焼面積を広げるように城壁の上から森人狩人さんが燃える水(ガソリン)入りの瓶を投げつけ、次々とゴブリンが火達磨に変身していきます。

 

 おやおや、先陣をきったゴブリンが火の海に飲み込まれたのを見て小鬼騎士(ナイト)の足が止まってますねぇ。ゴブリンが後退、或いは逃亡しないように後方から睨みを利かせていたのかもしれませんが、足並みが揃わなければただの戦力の逐次投入になってしまいます。むしろ最初中庭にいたゴブリンと合流し、数を頼みに攻められたほうが厳しい戦いになっていたかもしれません。

 

 

 群れの半数以上を焼いた段階で、首無し騎士(デュラハン)さんたちには逃げ道を塞ぐよう包囲にまわってもらいます。一斉に十二騎が抜けたことで一時的に圧力が弱まり、ゴブリンの波が一党に押し寄せて来ますが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「きへいたいのとうちゃくだー!」

 

 新たに城内から現れた四騎の首無し騎士(デュラハン)さんが、ゴブリンを蹂躙しながら一党目掛けて駆け抜けてきました! 先頭の馬には分身ちゃんが、残りの馬には囚われていた女性が抱きかかえられるように相乗り。一党に合流したところで女神官ちゃんと森人少女ちゃんが女性たちを受け取り、首あり首無し騎士(デュラハン)さんに守られながら手当てをしています。

 

 ここで白状しますと、昨晩女魔法使いちゃんに指摘されるまで分身ちゃんを前日に呼び出していれば本体の呪文回数が1回分浮くことを失念していました。そのため首無し騎士(デュラハン)さんを十二騎召喚していても、吸血鬼侍ちゃんの呪文回数を1回残した状態で、分身ちゃんの奇跡回数をフルのまま偵察に送り出せたんですね。

 

 みなさん予想されていたかと思いますが、騒ぎに乗じて分身ちゃんには囚われた女性の捜索をお願いしていました。タイムラグ無しで情報のやり取りができるので、小鬼聖騎士(パラディン)が城内のゴブリンを引き連れて出て行くまで隠密していてもらい、鬼の居ぬ間に女性を愉しもうとしていた抜け目のないゴブリンを始末しつつ内部で召喚、相乗りで脱出してきたという流れです。

 

 おーおー怒ってる怒ってる。遠目に見ても分かるくらい小鬼聖騎士(パラディン)が荒れてますね。まぁ異教徒共を数を武器に嬲り殺しにしようと思ったら、逆に殆どの配下を失い、数を増やすための孕み袋まで奪われてしまったんですから。雑兵ゴブリンがあと30ほど、それと小鬼騎士(ナイト)だけが見える範囲での残り戦力ですが、まだとっておきがいるんでしょ? 早くだしなさいって。

 

 

 

 

 

「GOBBBBBB……」

 

 お、とうとう出てきましたね! 中庭とは反対側の門から回り込むように、一匹の全身鎧を身に纏ったゴブリンが歩いてきました。武器は持たず、発達した腕で殴ってきそうな見た目をしてますが……。

 

「GAGOBBBBBB……」

 

 ……ん? あれ、なんか遠近感が狂ってるのかな? 向かってくる途中に並んでいる植木と比較するとやたら大きく見えるような……。

 

「JAGAGOGOGOGOGOGOGO!!」

 

 ……やっぱメッチャデカい!? 身長が小鬼英雄(チャンピオン)の2倍くらいあるんですけど!? ってこんな時に着信(キーワード)? あ、万知神さまからですね。なになに……?

 

 

 

小鬼重戦車(ジャガーノート)                                               

 覚知神(糞野郎)の与えた知恵により、小鬼聖騎士(パラディン)が品種改良の末生み出した変異種。

 巨人用の全身鎧を着せた状態で成長させることで、身体構造を鎧にあわせるよう矯正した結果

 真銀製の鎧は外骨格のように機能している。

 鎧との接触で生まれる絶え間なく全身を襲う苦痛と、局部を外科的に切除されたことによる

 決して発散できない性欲は、治まることを知らぬ食欲と破壊衝動へと置き換わり、

 気に障るもの全てを粉砕するまでその暴走(スタンピード)は決して止まることはない。

                                       By万知神

 

 

 

 ええ……?(困惑)

 

 半森人(ハーフエルフ)さんを喰い千切った犯人はコイツで間違いないでしょうが、タマを残して棒だけ取るとかなんて怖ろしいことを……じゃなくて! まさか同種族の改造を始めているとは思いませんでした。あ、なんか追伸がきましたね。小鬼騎士(ナイト)は全員去勢済みで、信仰に全てを捧げている? そんな情報知りとうなかったですよ万知神さま……。

 

「チッ、硬いな」

 

「ヌゥ、竜牙刀で斬り込めぬとは……!」

 

 火の海を越えてきた小鬼騎士(ナイト)との戦闘は始まっていますが、ちょっとゴブスレさんと蜥蜴僧侶さんが押されているみたいですね。……神代の鉱人たちは随分良い仕事をしていたようです。とりあえず呪文をほぼ打ち切った分身ちゃんに術式の維持は引き継いでもらって、吸血鬼侍ちゃんも全力で動けるようになりましょう!

 

 さて、試しに村正で手近な小鬼騎士(ナイト)に斬りつけて……うわ、斬り込めはしますけど斬撃の角度を誤ると刀が痛みそうですね。鉱人道士さんの話では魔法も減衰させられるみたいですし……ん? 吸血鬼侍ちゃんの頭上に電球マーク(技閃き)が出ました。小鬼騎士(ナイト)の集団に飛び込んで使え? うーん、せっかくだから使ってみましょうか、ポチっとな!

 

 

 

 

 小鬼騎士(ナイト)が集まっている地点に上空から飛び込む吸血鬼侍。空中でカチューシャ(ネコミミ)を装着し地を這う如き姿勢で着地、猫の手のように曲げた人差し指と中指で挟んだ柄を握り込み、同じく丸く握った左手で切先を掴み、暴発寸前の力を抑え込む。

 鎧の重量と大型武器の弊害で迎撃に時間を取られる小鬼騎士(ナイト)を嘲笑うように左手を開放。射出されし刃、その勢いのままくるりと一回転すれば、その場に残るは鎧ごと胴を輪切りにされた3つの死体のみ。

 ……かつてむっつり侍(『君』)から伝授された、東方より伝わりし秘剣、【星流れ(シューティングスター)】である。

 

 

 

 

 ……そういえば『君』の肖像(aa)ってその人でしたね。ネコミミを装備することで刀の握りが変わり、彼の技を使えるようになったんでしょうか。見た目は締まらないですが威力は見てのとおり。なんせ技を放った本人が目を白黒させてるくらいですから。

 

「ほう、そのような技法が! では拙僧も試してみますかな……っ!!」

 

 うわぁ、左手が『君』方式じゃなくて、親指と人差し指で摘まむ剛力バージョンで小鬼騎士(ナイト)を輪切りにしてますよ蜥蜴僧侶さん。予想以上の威力にテンション爆上げになってますねぇ。

 

 ゴブスレさんのほうは……お、装甲の薄い脇の下から肺に抜ける一撃で小鬼騎士(ナイト)を仕留めてます。しかもその小剣(ショートソード)、女王様からもらった【小鬼殺し(オルクボルグ)】じゃないですか! ちゃんと持ち歩いてあげてたんですねぇ。

 

 おっと、とうとう小鬼重戦車(ジャガーノート)が突っ込んできました! 一党との間にいるゴブリンや小鬼騎士(ナイト)を薙ぎ払いながらですが。どうやら制御が効かないというのは本当みたいですね。ゴブスレさんのほうでは、小鬼聖騎士(パラディン)が崩壊しかけている士気を高めるために打って出てきています。その目には最早ゴブスレさんしか映っていない様子。アレの相手はお任せして、吸血鬼侍ちゃんはあの呼吸する破壊衝動を抑えましょう!

 

「JAGO!JAGO!!JAGO!!!」

 

 とはいえ、ちゅーちゅーさせてもらってはいますが牧場防衛の時ほどおなかが膨れていないので受け止めるのは難しそうですね。村正で上手く受け流していますが地面に着弾した拳が生み出す石畳の破片が吸血鬼侍ちゃんを含む周囲を無差別に襲っています。ここ屋外ですし太陽も出ているので、再生能力が機能していない吸血鬼侍ちゃんは被弾を抑えないといけません。ほとんどは外套(つばさ)で逸らしていますが、少しづつ当たる頻度は高くなってきています。城壁の上から妖精弓手ちゃんが援護してくれていますが、片手で防がれた挙句城壁ごと叩き潰さんと拳が飛んできて慌てて退避している状態です。

 

「ならばこれでどうです!? ≪雷電(トニトルス)≫……≪発生(オリエンス)≫……≪発射(ヤクタ)≫!」

 

 令嬢剣士さんが≪稲妻(ライトニング)≫を放ちますが、真銀の装甲で軽減され内部までダメージが届いていません。しかしその刺激を不快に思ったのでしょう。小鬼重戦車(ジャガーノート)の目が令嬢剣士さんを捉え、口から涎を滝のように溢れさせながら掴もうと腕を振り回しています! なんとか捕まることはありませんでしたが、常人の腕ほどもある指が令嬢剣士さんを掠め、衝撃に引き摺られて転倒してしまいました。家宝である軽銀の剣は手から離れ、打ち付けた二の腕を抑えた姿勢で呆然と小鬼重戦車(ジャガーノート)を見上げる令嬢剣士さん。口元から顔を覗かせる乱杭歯によって一党の仲間を失った恐怖が彼女を縛り付けているようです。

 

 剣戟では威力不足ですし、魔法も鎧で減衰されて効果は今一つ、せめて内部に直接叩き込めば……いけるかも? ええい、迷ってる暇はありません! 

 

 「JAGOB!?」

 

 令嬢剣士さんを掴み上げようと腕を振り上げた小鬼重戦車(ジャガーノート)の顔面、兜から僅かに除く黄色く濁った瞳に村正を突き入れる吸血鬼侍ちゃん。上半身を拳で握り潰されかけながら奥へ奥へと切先をねじ込んでいきます。

 鍔元まで突き刺したところで顔から引き剥がされ、痛みに怒り狂う小鬼重戦車(ジャガーノート)は拳からはみ出している吸血鬼侍ちゃんを……。

 

 

 

「みんな、かみなり、ねらっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶつん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




灯油切れで部屋で吐く息が白いので失踪します。

いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
お気に入り登録や感想、評価についても併せて入れていただければ幸いです。

お読みいただきありがとうございました。


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セッションその6 りざると


ケーキの移動販売が来たので初投稿です。

1/23 UA40000を超えていました。
拙作をお読みいただきありがとうございます。


 前回、小鬼重戦車(ジャガーノート)に硬いモノを挿入したところから再開です。

 

 鍛えようのない眼部を傷つけられ激おこの小鬼重戦車(ジャガーノート)、顔面から引き剥がした吸血鬼侍ちゃんを丸齧りにしましたが……。

 

「JAGOBBBBB!?」

 

 そりゃアンデッドですから喰えたもんじゃないですよねぇ。残った部分を地面に投げ捨て、怒りのあまり地団駄を踏んでいます。

 

 さて、肝心の残った部分は……セーフ! 上半身です! 戦闘能力こそ喪失したものの、分身ちゃんの維持は出来るので一党へのバフは切らさずにすみました。半森人(ハーフエルフ)さんの時もでしたが、女性の下半身を喰い千切るのは、もしかしたら決して解消することのない性欲を紛らわせる代償行為なのでしょうか? ゴブリンの考えることはわかりませんねぇ……。

 

 って、そんなに下半身(Bパーツ)が不味かったんでしょうか。小鬼重戦車(ジャガーノート)が先程投げ捨てた吸血鬼侍ちゃん(Aパーツ)に向かってのっそりと足を進めています。握りしめた巨大な拳は激情に震え、欠片も残さず粉砕してやるという殺意が溢れてますね。

 

 さっさと離脱したいところですが、忌々しいことに下半身だけでなく胸から下をごっそり持っていかれたために、ダメージを部位破壊で置き換えるゾンビ戦術(セッションその2ー3参照)に失敗しちゃったみたいです。

 

 両肘を地面に付いて少しづつ遠ざかろうとする吸血鬼侍ちゃんですが、歩幅の差からあっという間に距離を詰められてしまいました。両の拳を組み、ダブルスレッジハンマー(マチルダさん絶対殺すパンチ)を繰り出さんとする小鬼重戦車(ジャガーノート)。うーん、これは一回休み(邪な土)コースですかねぇ。ここで全体バフが切れると後が辛そうですが……ん?

 

「主さま、今お救いいたします……!」

 

「これ以上、仲間が死ぬのを黙って見過ごすわけには参りませんわ!」

 

 森人少女ちゃんと令嬢剣士さんが上半身だけの吸血鬼侍ちゃんを助け出そうと駆け寄ってきてくれていますが、無茶ですって2人とも!? 吸血鬼侍ちゃんなら直ぐに復活するから来ちゃダメだって! あ、巨岩のような拳が助け起こそうとする2人を巻き込む範囲で振り下ろされて……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「≪叡智求めし我が神よ、探求の道妨げし、斯かる脅威を打ち払い給え!!≫」

 

 

 

 

 

 ……不可視の壁が3人の前に展開され、小鬼重戦車(ジャガーノート)の拳を受け止めています。女神官ちゃんが得意とする≪聖壁(プロテクション)≫の奇跡ですが、今の祝詞は万知神に捧げるもの。唱えたのは……。

 

「どうかお早く、あまり長くは持ちそうにございません……!」

 

 森人少女ちゃん!? いつの間に奇跡を使えるようになったの? いざという時には祈りを捧げるようにと万知神さまが≪託宣(ハンドアウト)≫に添付されてた? た、たしかに危機が迫った時の祈りは真摯なものになるでしょうが、それで良いんですか万知神さま……。

 え、こういうシチュだからこそ萌えるって? わかりみ。

 

 令嬢剣士さんが吸血鬼侍ちゃんを抱えて離脱したのを確認し、その祝詞の如く拳を打ち払って後退する森人少女ちゃん。小鬼重戦車(ジャガーノート)跳ね除けられた勢いのまま頭から城壁に突っ込み、抜け出すのに手間取っている様子。あのね森人少女ちゃん、助けに来てくれたのは嬉しいけど、あんまり無茶な真似はしないでって言ってたでしょ? 令嬢剣士さんも、仲間を失いたくない気持ちはわかりますけど、それで自分を危険に晒しちゃ元も子もないじゃないですか!

 

「主さまをお助けいたしますのが(わたくし)が賜った≪もうひとつの託宣≫(ダブルハンドアウト)でございます。それに……」

 

 もう護られるだけの従者(おんな)ではありませぬ、と微笑む姿。そんな状況ではないと分かってるようですが、吸血鬼侍ちゃんも思わずトゥンク……しちゃってます。これはもう立派な冒険者ですね。

 

「あの、仲良きことは美しきかな(キマシタワー)とは申しますが、怪我のほうは大丈夫なんですの?」

 

 中身(モツ)をボロボロ落としながら森人少女ちゃんと笑い合っている吸血鬼侍ちゃんを見てドン引きしながら問いかける令嬢剣士さん。あ、屋内で暫く安静にしていれば治るんで大丈夫です。それよりも早いところアイツを片付けないとですね。はーい呪文遣い(スペルスリンガー)の人はちゅうもーく!!

 

「おうおう、ちみっこが何時にも増してちみっこになっとるが平気なんかの?」

 

「腹筋が無いのにどうやって大声を出しているのか興味が湧くねご主人様。それであの木偶の坊を倒す算段はついたのかな?」

 

 通常の三倍の速度で駆け寄ってきた鉱人道士さんと、小鬼騎士(ナイト)に落下致命を叩き込んで落下ダメージを打ち消しつつ城壁から降りてきた森人狩人さん。女魔法使いちゃんには分身ちゃんから術式の維持に専念してもらうよう伝えてあります。

 

「あいつのぶちゃいくなつらにむらまさをぶちこんであるから、それをねらってみんにゃでびりびりさせてみてほしいにゃ」

 

 ちょうど城壁から抜け出してきた小鬼重戦車(ジャガーノート)の顔を見る呪文遣い(スペルスリンガー)たち。人喰鬼(オーガ)以上の大きさですが、再生能力は持っていないため左目に村正が刺さったままの状態です。

 

「なるほど、外からの呪文では鎧で弾かれてしまうとしても、刀を通じて内部からでしたら!」

 

「うん、試してみる価値はありそうだね」

 

 互いの顔を見て頷き、それぞれ構えを取る呪文遣い(スペルスリンガー)。魔法使いが2人、精霊使いが2人。重ね合わせるように詠唱を開始します。

 

「JAGOJAGOJAGO!!」

 

 残った片目で呪文遣い(スペルスリンガー)を捕捉した小鬼重戦車(ジャガーノート)。終わることなく全身を苛む痛みと、決して抱くことの出来ない雌の匂いによって正常な思考は失われ、その巨体を生かして全員引き潰さんと突撃してきます。でも一手遅い! 

 

「「 ≪雷電(トニトルス)≫……≪発生(オリエンス)≫……≪発射(ヤクタ)≫!!」」

 

「「≪雷鳥よ、青い空飛ぶ雷鳥よ、()の呼び声聞いたなら、風巻く光と行ってくれ!≫」」

 

 放たれた4本の雷光は吸い込まれるように村正へと命中し、真銀(ミスリル)の加護無き巨体を焼き焦がしていきます。激しく痙攣し地面に膝を付く巨体、力を失った首は前へと傾き、強固に守られていた筈のうなじの隙間を露出させました。そこへ最後の呪文遣い(スペルスリンガー)が……。

 

「チェェストォォォォォッ!!」

 

 その体躯からは想像できない程の飛翔でうなじを一閃したのは蜥蜴僧侶さん。よっぽど気に入ったのか【星流れ】で決めてくれましたね。皮一枚残す見事な太刀筋、最期は自重で千切れ、頭部が石畳に打ち付けられました。これはまごうことなき呪文遣い(スペルスリンガー)(物理)

 

小鬼重戦車(ジャガーノート)首級(くび)、貰い受けましたぞ!!」

 

 蜥蜴僧侶さんの≪竜吠≫の如き咆哮が城内に響き渡り、生き残っていた僅かなゴブリンたちの戦意を崩壊させました。武器を放り捨てて逃亡を図るも、手ぐすね引いて待ち構えていた首無し騎士(英霊)さんによって次々に討ち取られていきます。そして……。

 

 

 

「余所見をする余裕があるとは思えないが?」

 

「GARAGOB……ッ!」

 

 小鬼聖騎士(パラディン)を抑え込んでいたゴブスレさんのほうも決着が近そうです。盾に傷が刻まれているものの目立った外傷の無いゴブスレさんに対し、既に盾を失い鎧ごと切り裂かれた傷を幾つも受けている小鬼聖騎士(パラディン)真銀(ミスリル)の剣で剣戟を放つも盾でいなされ、浅い切り傷を盾に付けるばかり。

 

只人(ヒューム)と同じ体躯とて、只人の剣技を使えるわけではあるまい。素直に慣れている小剣の腕を磨くべきだったな」

 

 担い手の瞳と同じ赤い閃光を纏った【小鬼殺し(オルクボルグ)】をコンパクトに振るい、冷静に小鬼聖騎士(パラディン)の生命力を削るゴブスレさん。彼にとって最早戦いではなく作業といったところでしょうか。攻めあぐねた小鬼聖騎士(パラディン)が間合いを突き放さんと剣を振るおうとした瞬間……。

 

「甘い甘い! ゴブリン相手にオルクボルグが本気でタイマン張るとでも思ってんの?」

 

 攻撃の起こりを潰すように妖精弓手ちゃんの矢が頭部に集中し、切り払うために無駄に体力を消耗するばかり。卑怯なとでも言いたそうに唸っていますが、ゴブリン相手に卑怯などという馬鹿馬鹿しいことを言う者はこの場に存在しないでしょう。

 

「GO、RARARARARAッ!!」

 

 あ、鍔競り合いの体勢から両者の剣が手を離れました! おそらく魔剣の類だと認識したのでしょう、【小鬼殺し(オルクボルグ)】を拾い上げた小鬼聖騎士(パラディン)が逆手持ちでゴブスレさんの首筋を狙っています。ゴブスレさんも真銀の剣を掴み……。

 

「……いい剣だ。俺が使うには勿体無いほどに、な」

 

 真銀の剣は小鬼聖騎士(パラディン)の喉を貫き、光を失った【小鬼殺し(オルクボルグ)】はゴブスレさんが掲げた盾の半ばまで食い込むに留まりました。【小鬼殺し(オルクボルグ)】を握る右腕に剣の腹を叩きつけて潰し、手から零れ落ちたソレを拾い上げ小鬼聖騎士(パラディン)の腹を踏みつけて動きを封じます。

 虚ろな目で見上げる小鬼聖騎士(パラディン)には、禍々しい3つの赤い光が見えることでしょう。小剣を脳天に突き立て、二度と動かないことを確認し立ち上がるゴブスレさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が、俺たちが、【小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)】だ」

 

 

 

 ……相棒認定されたよ!! やったね【小鬼殺し(オルクボルグ)】ちゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴブスレさんが何かに目覚めかけているようですが、とりあえず見える範囲のゴブリンは始末しました! 首無し騎士(英霊)の皆さんもいい仕事をしたと満足げな仕草で還っていきますね。またいつかどこかで一緒に冒険しましょう!

 隠れているやつがいないとも限らないので城内の掃除も行いたいのですが、人質だった女性たちを早く村まで送り届けないといけませんね。ここは二手に分かれて行動しましょうか。

 

 女魔法使いちゃん、女神官ちゃん、森人狩人さんは呪文の消耗もありますし、女性たちのケアもしてもらいたいので一足先に村へ戻ってもらいます。護衛兼籠担ぎ要因はゴブスレさんと蜥蜴僧侶さん。それから……何故かまだ居残りしている首あり首無し騎士(デュラハン)さん2名。

 

 あの、お疲れならもう昇天して(あがって)もらっても大丈夫ですけど……。帰るまでが冒険だから辺境の街まで付き合ってくれる? それじゃお言葉に甘えさせていただきますね。

 

 帰還組を送り出し、残ったのは探索に長けた妖精弓手ちゃんと鉱人道士さん、それから漢探知が可能な吸血鬼侍ちゃんです。といってもまだテケテケ(上半身のみ)状態なので早いところ屋内に運んでもらいたいのですが……おや?

 

「まだ呪文に余裕がありますので、私も連れて行ってくださいませ」

 

「やつらが何を目的にここを占拠していたのか、それを確かめねば彼ら(一党)に顔向けができませんの」

 

 2人には先に戻ってもらうつもりだったんですけど、付き合ってくれるのならお願いしちゃいましょう。あ、分身ちゃんが呪文を使い切っているので再召喚して奇跡だけでもフル充填しておきたいですね。2人とも、戦闘後で疲れているところ申し訳ないのだけれど、ちょっとだけ吸わせてもらってもいいですか? 吸血鬼侍ちゃんの再生速度が上がりますので。

 

「はい主さま、必要なだけ吸ってくださって構いません」

 

「ちょっと!? 服をはだけるのはせめて屋内に入ってからにしてくださいませ!」

 

 吸血鬼侍ちゃんを抱えたまま()()()を出そうとする森人少女ちゃんと、それを慌てて止め、城内へ引っ張り込む令嬢剣士さん。肌色シーンをニヤケ面で眺めていた鉱人道士さんは妖精弓手ちゃんにガチビンタされ、冷たい石畳に正座させられていますね。残当。

 

 

 

「ほぉぉぉ……。こりゃまたど偉い量の鋳塊(インゴット)だのう!!」

 

 ちゅーちゅーして下半身を生やし、ついで分身ちゃんを再召喚、その後城内の探索へ移った居残り組。想定していた隠れゴブリンの姿は無く、小鬼聖騎士(パラディン)出陣後に分身ちゃんが仕留めた奴らが最後だったみたいですね。ゴブリンによって荒らされた区画を抜け、隠された地下に通じる階段を見つけた一党。下りた先に広がる光景を目にした鉱人道士さんが唸っています。

 

 おそらくこの城そのものが巨大な製錬場だったのでしょう。上層の倉庫や居住区はゴブリンの収奪に遭い武具を持ち出されていましたが、その元となる原料を保管していた地下には気付いていなかったみたいです。鉄や銅といった武具や建材に使われるものから、金や銀、真銀といった延べ棒と呼んでいい代物。そして一番目を引くのは……。

 

「あれはまさか、この剣と同じ軽銀……!」

 

 令嬢剣士さんが鞘から抜いた家宝の剣と同じ輝きを放つ鋳塊が、他の鉱物に挟まれる形で保管されていました。製錬方法が失伝しているために金よりも高価と言われている軽銀、机上に積まれている数だけでもどれほどの金額になることやら。

 

「どうするんじゃちみっこ。こいつぁ冒険者の身には余る代物じゃぞ?」

 

 鉱人道士さんの問いかけにも???な様子の吸血鬼侍ちゃん。今いる面子の中で一番目の前の財貨が持つ価値が分かってないですから。もっともこれまでがお金があってもどうしようもない場所(死の迷宮)お金がなくてもなんとかなる場所(シャドウラン)しか知らないので、仕方がないのかもしれませんね。

 

「主さま、いま主さまの目の前には国をも動かす「(ちから)」があります。これをどう使うのか、慎重に考えなければなりません」

 

 鉱人(ドワーフ)として、どの種族よりも鉱石の価値を知っている鉱人道士さん。外交官の氏族出身の森人少女ちゃん。貴族の生まれで財貨の持つ力と危うさを骨身に叩き込まれている令嬢剣士さん。3人の視線が吸血鬼侍ちゃんに向けられ、目が泳ぎ非常に困惑しちゃってます。

 

「あのさ、とりあえず全部持って帰って、落ち着いてから考えればいいじゃない」

 

 中庭(うえ)の鎧なんかも一緒にさ、と何気ないように言う妖精弓手ちゃんの言葉で、なんとか緊迫した空気は霧散しました。それもそうじゃのという鉱人道士さんの呟きを聞いて、弾けるように動き出す吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん。あっという間にすべて≪手袋≫の中に収めてしまいましたね。

 

 あとは帰りがけにゴブリンからも剥ぎ取っておけば問題はないでしょう。飛んでいけばそう遅れずに帰還組と村で合流できるでしょう、分身ちゃんが鉱人道士さんと森人少女ちゃんを、吸血鬼侍ちゃんが残りの2人を抱えて帰ります! わしゃ高いところは嫌じゃとごねる鉱人道士さんを宥めつつ低空を進む2つの影。帰還組の足跡を目印に、村への帰路に着きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後村で一泊し、翌日馬車に保護した女性を乗せ辺境の街へ。被害に遭った女性たちは地母神の神殿で預かってもらい、ようやく一党はギルドへと帰ってきました。

 ギルド前に到着したところで首あり首無し騎士(デュラハン)さんたちの姿がぼやけ、サムズアップとともに光の中へ。本当にお世話になりました。いつかきっと、また会う時が来るでしょう!

 

 ……ギルドでは受付嬢さんと監督官さんが素敵な笑みを浮かべた仁王立ちで迎えてくれました。すっかり忘れていましたが、今回依頼を受けて令嬢剣士さんの救出に向かったわけじゃないんですよね。銀等級を筆頭に優秀な冒険者が半月近く音信不通になったら、そりゃ怒りますわ……。

 

 森人少女ちゃんによる≪託宣(ハンドアウト)≫の説明と、令嬢剣士さんからの一党壊滅の報告。そしてゴブスレさんから語られた小鬼聖騎士(パラディン)の顛末で、真っ赤だった受付嬢さんの顔は転じて真っ青に。詳細は報告書を上げるというゴブスレさんの言葉を背に受けながらフラフラと席に戻っていきました。

 

 追い打ちをかけるようで申し訳ないですが、例のブツについても報告しないとですね。あのう監督官さん、実はもう一つお話ししたいことが。ええ、遺跡で発見した宝物なんですけど、貴重な貴金属を含む鋳塊(インゴット)を大量に。実物ですか? はいここに、例の≪手袋≫にしまってあります。本数ですか? ええと……、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?(てへぺろ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、勝手に市場に流したり鍛冶場に持ち込んだりしないで早急に目録を作成します。その後、陛下にお伺いを立てて買い取ってもらうか適切な代価をいただくよう努めます。ですからその2本に分割できそうな小剣(慈悲の刃)を変形させながらステップ刻まないでくださいなんでもしますから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 今何でもするって言ったわよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あっ(察し)

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 





早速ケーキを食べるので失踪します。

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セッションその6 いんたーみっしょん

ケーキが美味しかったので初投稿です。



 何でもするって言ってしまった者の末路を描く実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 

 前回、冒険から帰還した吸血鬼侍ちゃん。          

 疲れからか、不幸にもギルドの職員に失言してしまう。

 本体をかばいすべての責任を負った分身ちゃんに対し、

 ≪看破≫の使い手、監督官が言い渡した示談の条件とは……。

 

 

 

 

 

 

 

「「みんな、がんばってゴブリンをたいじしてにゃー」」

 

 

 

 いえ、別に分身ちゃんが庇ったわけでもないですし、2人とも素直に監督官さんの言うことを聞いてるんですけどね猿渡さん(挨拶)

 

 厳冬期となり、集落に蓄えられた食料を狙うゴブリン退治くらいしか依頼の無いボードの前で声掛けを行っている2人の獣人(パットフット)? フリル過多の衣装とネコミミ、ネコ尻尾を装備し手には看板を掲げています。その内容はというと……。

 

 

 春までの限定サービス!

 ゴブリン退治を成功させた冒険者の皆さまに、

 当ギルドで大人気の吸血姫(ヴァンパイアプリンセス)が熱いベーゼ(ちゅー)をプレゼント!

 希望者にはなんと2人同時サービスも!!

 ※死んだら元も子もありません。献血はちゃんと期間を空け、安全マージンを考えましょう。

 

 

 衝立の向こう側で悠然と右手を上げて(完全勝利した)勝利のポーズを決めている監督官さん(監督官さんUC)に軽い殺意を覚えないわけではありませんが、もっとヤバいことを要求されるよりはマシだったと考えたほうが建設的でしょうね。……クソッ、なんて時代だ!!

 

 

 

 遺跡から大量の鋳塊(インゴット)を持ち帰って一週間が経過し、それから毎日この格好を続けている吸血鬼侍ちゃん。献血量が増えたので体調は良さそうですが、毎日大量のゴブリン退治をこなしてくる槍ニキとその後ろで微笑んでいる魔女パイセンから恐怖を感じる日々が続いています。槍ニキもなんというか、娼館とかで発散するほうが建設的じゃないですか? え、それは魔女パイセンに悪いって……あっ(察し)

 

 どうやら魔女パイセンは上手くヤったみたいですね! この献血もきっと夜のスパイス(意味深)みたいなものなんでしょう。逆にぱったりと来なくなったのは重戦士さん。少年斥候くんと新米剣士くんが入れ込む姿を、少女巫術師()()と見習聖女ちゃんが汚物を見る目で眺めているのを目撃してから足を運ばなくなったみたいです。これには女騎士さんもニッコリ。

 

 

 

 森人少女ちゃんの≪託宣(ハンドアウト)≫に付き合ってもらう形で冒険に赴いたために、前回なんと全員無報酬で働いてもらってしまっていたという事実。目録は作成途中なのですが、金銭に換算するとかなりヤベーイ金額になるのはもはや確定的に明らか。相談の結果、可能な限りみんなの要求に沿う形で報酬をお渡しすることになりました。

 

 

 

 

 

 ①ゴブスレさん:金の延べ棒

 

 しょっぱなから≪核撃(フュージョンブラスト)≫級の一撃ですが、ゴブスレさんの要求はまさかの金の延べ棒! 一党全員が先の戦闘で頭を強く打っていたのかと慌てましたが、怖ろしいことに正気でした。

 

 インゴットを背嚢に納め、ギルドを出て行くゴブスレさん。彼を見送った後には、吸血鬼侍ちゃんよりも恐ろしい化け物を見たという表情の一党が取り残され、事態の推移を待つばかり。

 

 その後三日ほど姿を見せなかったゴブスレさんですが、四日目の早朝納品に訪れた()()()()()牛飼娘さんと、その左手薬指に光る金色によって皆が察しました。

 

「朝食の席で突然延べ棒をテーブルに置いたときはとうとう気が触れたのかって伯父さんが慌ててたけど、これで指輪を作る、サイズが分からんから一緒に来てくれって言われたときは思わず笑っちゃった!!」

 

 2人のペアリングを作って、残りは牧場の運営資金にするんだと幸せいっぱいの牛飼娘さん。結婚式は春になってから執り行うそうですが、それまでお腹が膨らまないかが心配ですね……。

 

 

 

 

 

 

 

 受付嬢さん? 吸血鬼侍ちゃんのクリアランスには閲覧を許可されていない情報です。

 

 

 

 

 

 ②女神官ちゃん:なし

 

 正確には違うのですが、女神官ちゃん個人は清貧を旨とする教義のため報酬は受け取らないという形に。代わりに貧乏貴族の三男坊(国王陛下)から孤児院に寄付が届く段取りになっているそうです。また、牧場の事業拡大に伴う従業員募集に孤児院の子供たちを雇ってもらえるよう牛飼娘さんと話し合ったみたいですね。

 

 後日、女魔法使いちゃんが酒の席でゴブスレさんのことは諦めたのか聞いてみたところ、地母神様は一夜の恋を否定されておりませんという返答がきたそうです。……頑張れゴブスレさん!

 

 

 

 ③妖精弓手ちゃん:お引越し

 

 どうも先の温泉でお風呂が気に入ったようで、毎日のように吸血鬼侍ちゃん一党の家に上がり込むようになった妖精弓手ちゃん。入浴後、冷えると風邪をひくからと言いながら泊まっていく日々が続き、結局住み着くようになりました。

 

 かねてから汚部屋を清掃員から注意されていたらしく、いい機会だから引っ越すわーと言い出したので、それを報酬にさせました。依頼の無い日は昼までベッドの中、起きてもすぐに新しく用意した炬燵に入り込み、森人少女ちゃんから甲斐甲斐しくお世話されるという悠々自適を通り越し自堕落極まりない生活を送っています。

 

 吸血鬼侍ちゃんがお風呂に入っているところに乱入してきたり、あんた体温低くて寒いのよと言いながらベッドに潜り込んでくるようになったのですが、何なのだ、これは! どうすればいいのだ?!(DOD並感)

 

 

 

 ④鉱人道士さん:軽銀の鋳塊(インゴット)と樽酒

 

 こちらも正確には樽酒のみですね。軽銀の鋳塊(インゴット)は鉱人の里へ送り、失われた精錬技術を蘇らせる切っ掛けにしたいとのことでした。流石にそれだけでは申し訳なかったので、≪手袋≫に格納していた余剰物資から好みの銘柄の樽酒をプレゼントしたところ喜んでもらえました。

 

 また報酬とは別に森人少女ちゃんと合わせて精霊術用の上等な触媒が欲しいということでしたので、練習用も含めてたっぷり預けておきました。ちょっと今森人少女ちゃんが忙しくて修行ができていませんが、山を越えたらまたお願いしたいところですね。

 

 

 

 ⑤蜥蜴僧侶さん:魔神養殖&魔神の核(懐炉用)

 

 やはり寒さで身体が思うように動かないのがもどかしいようで、女魔法使いちゃんの爆発金槌に組み込まれているものと同様の魔神の核をご所望でした。手早く狩って渡そうと思っていたのですが、養殖から参加したいということなので2人でキャッキャッしながら魔神狩り。

 

 途中で炎の鞭と大剣を持ったでっかいヤツ(ヴァララカール)が出てきましたが、どうやら迷宮(まよキン)産だったらしく先手を取ってワンターンキル。魔神の核と一緒に落としていった、やたら美味しそうな固形物(パワー餌)を2人でポリポリからの「甘露!」×2 なんだかちょっと強くなったような気がします。

 

 魔神の核はギルドの武具店の店主(じいじ)にお願いして懐炉の熱源に加工してもらい、蜥蜴僧侶さんに完成品をプレゼント。24時間持続するので、これで寒い日も安心ですね!

 

 

 

 ⑥令嬢剣士さん:一党(パーティ)への参加と、王国及び実家へのプレゼン準備のヘルプ

 

 まさか一党(パーティ)への合流をお願いされるとは思いませんでした。

 

 小鬼聖騎士(パラディン)によってすべてを失うことも無く、一党は助けられませんでしたが初めての冒険を生き延びた令嬢剣士さん。覚知神の呪いは受けず、このまま冒険者を続けていくつもりのようですが、やはり仲間を失ったことで新人育成の必要性を痛感し、現状を変えたいと決意。今回入手した報酬を生かす方法を一緒に考えて欲しいというのが彼女の願いでした。

 

 この考えに真っ先に賛同した森人少女ちゃん。監督官さんを巻き込んで、かつてギルドが計画していた訓練場建設計画の草案を発掘。冒険者の教育と後進育成の必要性、運営に必要な資金や物資の持続的供給に関する計画書を作成中とのこと。

 

 基本的には今回発見した莫大な金属材を国に預け、それを担保に資金を強請り運転資金にするつもりのようです。国としても供給バランスが崩れることは避けたいでしょうし、タダみたいな元手で今後何十年ぶんにもなる金属材が手に入るのですから、交渉の落としどころは十分にあるでしょう。おまけに鋳塊(インゴット)はまだ吸血鬼侍ちゃんの≪手袋≫に全て収まったままですし、ね。

 

 

 

 

 ⑦森人狩人さん:軽銀製の戦棍(メイス)(鉱人の里に発注)

 

 令嬢剣士さんの持つ軽銀の剣を見て思うところがあったのか、鉱人道士さんが里に送った軽銀の鋳塊(インゴット)から戦棍を作って欲しいというのがお願いでした。雷光属性との相性は抜群なので、森人狩人さんの決め技である雷光を纏った戦棍(トニトルス)の威力はぐーんと上がるでしょう。

 

 いや、正直ちょっと口には出せないようなお願いをされると覚悟してたんですが、信じてましたよ森人狩人さん! え、そういうのは普通に頼めばやってくれるんだよねって?

 

 クソッ、これだから白粉(おしろい)塗っているような奴は!!(スケベ森人(エロフ)に対する最大級の罵倒)

 

 

 

 ⑧森人少女ちゃん:吸血鬼侍ちゃん(主さま)三日分(()()()()()()()

 

 はい。2発目の≪核撃(フュージョンブラスト)≫は森人少女ちゃんでした。

 

 報酬の話を持ち掛けた際、自宅に戻ってから一党の中で真っ先に出てきた願いがこれです。初の冒険に酔ってちょっと変なことを言い始めたのかと思いましたが、内容はいじらしい乙女心に溢れているものでした。ええ、溢れすぎて重さを感じるほどに。

 

 

 

「初めて血を吸っていただいた時のように、身も心も、魂すら融け堕ちるほど愛してくださいませ」

 

 

 

「重ねてお願いいたします。どうか指輪を付け、ゴブリンに穢された記憶を塗り潰すほどに求めてくださいませ」

 

 

 

「そして、もし叶うならば。どうかこの時だけは、()()()()()()(わたくし)だけを見てくださいませ……」

 

 

 

 

 ……こんな殺し文句を言われて滾らない(おとこ)がいるでしょうか?

 

 人外の速さで森人少女ちゃんを抱き上げ来客用寝室に走る吸血鬼侍ちゃん。分身ちゃんはあっけにとられた様子の女魔法使いちゃんと令嬢剣士さんに、これから三日間余計な侵入者が現れないよう頼み込み、続いて駆け込むように入室、からの施錠コンボ。

 

 予想通りちょっかいを掛けてきた森人狩人さんと、半月放置されて我慢の限界だった剣の乙女は只人2人と入浴しにやって来た妖精弓手ちゃんによって撃退され、誰にも邪魔されることなく吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん、2人がかりで徹底的にちゅーちゅーされた森人少女ちゃん。

 

 四日目の朝、リビングで様子を窺っていた一党の前に姿を現したときの表情からは今まで僅かに残っていた暗い雰囲気は消え去り、見た目相応のちょっと幼い、でも女性らしさを感じさせる笑顔が浮かんでいるのでした。

 

 

 

 ⑨:剣の乙女……?

 

 いや、なんで??? 関係ないじゃないですか貴女は。

 半月も放置されて寂しかった? それは悪いと思いますけど、人助けだったんだからしょうがないでしょ? そんなふくれっ面になってもダメですよ、可愛いけど。

 

 構ってくれたら令嬢剣士さんの計画に手を貸してくれる? うわ汚っ!? これだから権力者ってヤツは! ……いや冗談ですって。嬉しいですよ? だからそんな泣かないで……。

 

 罰として一晩ちゅーちゅーすることを要求するって、まぁいいですけど。その手に持っているカチューシャ(イヌミミ)と首輪付きリードは何ですか? 神殿の宝物庫にあった物ですって、え、まさか吸血鬼侍ちゃんに着けろって言うんじゃ。嘘、剣の乙女(そっち)が付けて吸血鬼侍ちゃんがリードを持つの? ちょっとマニアック過ぎやしませんかねぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ご主人様に可愛がって欲しいわん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後分身ちゃんと2人がかりで一晩中ちゅーちゅーしました。

 分身ちゃん曰く「しんせんで、すっごいこうふんした」そうです……。

 

 

 

 

 ⑩女魔法使いちゃん:???

 

 はい、そんな感じで昼はギルドのマスコット(監督官さんの玩具)、夜はちゅーちゅーする生活を送っていた吸血鬼侍ちゃん。途中から寝泊まりを始めた妖精弓手ちゃんから、只人(ヒューム)ばりに発情してんじゃないわよみっともない! というお叱りを受けてスケベ森人(エロフ)2人と流れ弾で剣の乙女が轟沈。

 爛れた生活を目撃して思考停止状態の令嬢剣士さんの肩を叩き、どうせみんなああなるのと優しく告げる女魔法使いちゃんがいたりしました。

 

 なおネコミミ吸血姫によるドキドキ献血キャンペーンですが、血を抜きすぎて依頼中にぶっ倒れた辺境最強(槍ニキ)が発生したために支部長から禁止が言い渡されました。まあ、そうなるな。

 

 

 

 

「しっかし、こうも依頼が無いと暇でしょうがないわねぇ」

 

 人数が増えたので新たに追加した炬燵に入り、胡坐の上に吸血鬼侍ちゃんを抱えながら分身ちゃんの淹れた茶をすする妖精弓手ちゃん。運動不足は美容の大敵、早速……と言いながら分身ちゃんを持ち逃げしようとする森人狩人さんの足を炬燵の中で器用にロックし、慎みを持てって言ってるでしょと相変わらず効果の薄いお小言を。

 

「そんなに暇してるんだったら、ちょっと付き合ってくれないかしら?」

 

 おや、ギルドに顔を出しに行ってた女魔法使いちゃんが戻ってきました。令嬢剣士さんと森人少女ちゃんは例の計画書のために監督官さんと毎日顔を突き合わせていますが、それ以外の面子は順番に面白い、あるいは緊急の依頼がないか確認に行く程度です。今日は女魔法使いちゃんの日でしたが、何かありました?

 

 「半鬼人先生(せんせい)からの指名依頼。場所はこの近くの知識神の文庫(ふみくら)で、内容は資料調査。ついでに修道女の様子も見て来てくれって」

 

 報酬は安いけど、暇してんなら来る? という女魔法使いちゃんに、伸びをしながら同行を告げるのは妖精弓手ちゃん。寒いから分身ちゃんと一緒に留守番してるよとのたまうのが森人狩人さん。いや、時間短縮のために2人とも抱えて飛ぶから分身ちゃんも連れて行きますからね?

 

 あんまり家に閉じこもっていても獣に貪られるだけですし、ここはひとつ気分転換に図書館へ。もしかしたら吸血鬼、デイライトウォーカーに関する情報があるかもしれません。久しぶりな少人数での行動ですが、寒さに負けないよう張り切っていきましょう!

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 




ケーキがなくなったので失踪します。

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お読みいただきありがとうございました。



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セッションその6.5

止まない雨はないので初投稿です。


 意外なところで因果は繋がっているかもな実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、女魔法使いちゃんに半鬼人先生からの依頼について聞いたところから再開です。

 

 知識神の文庫(ふみくら)といえば、禁書、魔導書、外法の書などを調査、封印、管理する場所であり、冒険者にとって防壁の修繕や周辺に出没したゴブリン退治などで呼ばれることはあっても、資料に触れることなど通常考えられないことなんですが……。

 

「大きな声では言えないけど、あの文庫には半鬼人先生(せんせい)とその一党(パーティ)が現役時代に蒐集した吸血鬼関連の書物や呪物があるらしいのよ」

 

 それをアンタに見てもらって、内容を精査して欲しいっていうのが本音でしょうねと続ける女魔法使いちゃん。たしかに、不確実な情報で吸血鬼に挑んで返り討ちに遭う力自慢は後を絶たないようですし、吸血鬼狩人(ヴァンパイアハンター)が誤った情報を正しいものと認識していたら大惨事でしょうね。

 

 

 

 そうだ、お伺いするついでに補給物資も運んであげましょうか。まだ余剰物資は≪手袋≫に入ってますし、長持ちするとはいえ春までは保たない食料もありますからね。炬燵から予め温めておいた温石を取り出して女魔法使いちゃんと妖精弓手ちゃんに渡し、森人狩人さんから分身ちゃんを奪還して出発です! え、お土産よろしく? 期待しないで待っててくださいね。

 

 

 

 

「うぅ寒っ! あんたやっぱり冷たいわよ。どうにかして体温上げられないの?」

 

「ヴァンパイアはむじひなれいけつかんなので、さわってもつめたいのだー」

 

 2人を背中から抱き締め帯革(ベルト)で固定し、外套(つばさ)ですっぽりと包み込みながら飛行中に文句を言う妖精弓手ちゃん。寒かったらもっと脂肪(ボリューム)つけて、どうぞ。吸血鬼侍ちゃん? 抱き着くときに胸が有ると密着できないからぺったんこが理想なんです。

 

 ギャーギャー騒ぎながら飛ぶ吸血鬼侍ちゃんと妖精弓手ちゃんに比べ、分身ちゃんと女魔法使いちゃんのほうは静かなものです。時折2人の顔に笑みが浮かぶ当たり会話は弾んでいるようですが、何を話しているんでしょうかね。

 

 

 

「へぇ、淡泊そうに見えて意外と2人とも積極的なのね」

 

「エルフがにくをたべないのは、はまるとぬけだせなくなるから。まちがいない」

 

「でも未だ負け無しなんでしょう?」

 

「よるのおうですのでー」

 

「はぁ、アイツも貴女と同じくらい甲斐性があればねー……」

 

「がんばって。おうえんしてる」

 

 

 んん? なんだか違和感が……。あ、本体と分身ちゃん、それぞれ好みの傾向があるのかな?

 

 会話の端々から推測するに、女魔法使いちゃんと剣の乙女は本体、森人狩人さんと森人少女ちゃんは分身ちゃんが主なちゅーちゅー相手みたいですね。思い返せば妖精弓手ちゃんは本体の入浴時にしか乱入してこなかったですし、訓練場建設計画で森人少女ちゃんと令嬢剣士さんからの質問に答えていたのは分身ちゃんだけでしたね。……つまり本体は脳筋で分身ちゃんが頭脳担当だった?

 

 

 

 

 おっと、≪分身(アザーセルフ)≫の奥深さについて考えていたら目的地に到着しました。

 静謐な森の中、周囲を防壁に囲まれひっそりと佇む文庫。厳重な封印がしてあるのでしょうが、吸血鬼侍ちゃんは僅かな血臭……吸血鬼に関する品物の気配を感じ取っているようですね。

 

「君達が頭領(リーダー)の教え子とその仲間だね。歓迎するよ」

 

 女魔法使いちゃんが訪問を告げると、男性の司祭が一党を出迎えてくれました。半鬼人先生ほどではないですが、この人も背が高いですね。黒髪に目元の傷跡(スカーフェイス)が印象的です。

 

 補給物資があることを聞くと顔を綻ばせ、案内の修道女さんを呼んでくれました。そちらは分身ちゃんにお願いして、早速書庫へ案内しようという傷あり司祭さんに連れられて廊下を進む一党ですが……どうしました妖精弓手ちゃん、後姿をジッと見てるみたいですけど。

 

野伏(レンジャー)? 斥候(スカウト)? いや、むしろ刺客(アサシン)かしら。あんな服装(ナリ)で嫌味なくらいの足捌きして……」

 

 ……ええまあ、『頭領(リーダー)』って言ってましたし、そんな予感はしてましたけど。

 

 

 

 

 

「さて、改めて自己紹介を。知識神の神官にして文庫(ふみくら)の番人、ついでに元冒険者で、彼と同じ吸血鬼狩人(ヴァンパイアハンター)をしていたこともある」

 

 よろしく、と言いながら吸血鬼侍ちゃんと握手を交わす傷あり司祭さん。柔らかで丁寧な物腰なんですけど、どこか胡散臭いというか。きっと隠し事が出来そうもない半鬼人先生の代わりに交渉事や後ろ暗い駆け引き(CV:宮本充)を一手に引き受けてたんだろうなぁ。

 

 挨拶も終わったところで今回の依頼です。この文庫には彼らの一党が現役時代に蒐集した吸血鬼に関係してそうな品物が数多くあるのですが、なかなか分類が出来ず、危険度によっては王都に運ばなければいけないような代物も含まれている可能性があるとか。その区分と輸送を任されたわけですね。吸血鬼が遺した日記や研究レポートもあるそうなので、女魔法使いちゃんの目も輝いています。

 

 

 

 

 僕も向こうで整理しているから、何かあったら声をかけてくれという傷あり司祭さんの言葉を皮切りに資料の山へ手を伸ばす一党。吸血鬼侍ちゃんが手にしたのは……。

 

『よせふかのしんりょうじょのカルテ(ちょしゃ:にせふか)』

 

『とうしんだいきゅうけつきこっかくひょうほん(ヒヒイロカネせい)』

 

『クソみてぇなはた』

 

 ……碌な物がないですね!

 

 女魔法使いちゃんは……なんか吸血鬼侍ちゃんが触ったら火傷しそうな鞭だかモーニングスターだかわからない武器を振り回してますね、すっかりパワフルになっちゃって……。

 

 

 

「うわスッゴ! ちょっとちょっと、ちっこいのこれ見てみなさいよ!!」

 

 おや、興味なさげに眺めていた妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)が何かを見つけたようですね。机の上に広げた大判の書物を見て興奮しているようですが、なんですそれ?

 

只人(ヒューム)が描いた絵物語っぽいんだけど、ほらココ! 勇者が戦ってる!!」

 

 どれどれ……隣から覗き込んでみると、たしかに緑色の服を着た森人が戦っている場面が描かれています。乱戦になっているようですが、蜥蜴人に狐の獣人(パットフット)、それと眠りを司る魔神……。

 

 あっ(察し)

 

 次々にページを捲っては、只人の剣士や格闘家、その他よく分からない種族と拳や剣を交える絵面が続いていますね……。

 

「口伝で遺せばいいのになんで態々書物なんて作るのかと思ってたけど、こういうのがあるなら悪くないわね!」

 

 そりゃ森人は世代交代が遅いから口伝でも良いでしょうけど、他の種族は記録に残しておかないと遺失したり歪曲して伝わったりするからなんだよなぁ。今回の資料調査もその一環ですし。

 

 

 

「こら、ちゃんと働かないとお小遣い(報酬)あげないわよ?」

 

 2人で絵物語に夢中になっていたら女魔法使いちゃんに怒られました、……何故か吸血鬼侍ちゃんだけ。妖精弓手ちゃんはもとより戦力に数えていなかったのか、あるいは放置しておいたほうが調査が進むと考えたのか。で、女魔法使いちゃんが真剣に目を通しているそれは何の資料?

 

「これ? 吸血鬼が眷属を生み出す際の力の分け与えについての考察。……そういえばアンタ、今まで眷属を作ったことあったの?」

 

「ないよーけんぞくどうていだよー」

 

 言い方ぁ!とツッコミながら吸血鬼侍ちゃんを引っ叩く女魔法使いちゃん。でも、作ったことがないのでどんな基準で眷属が出来るのか気になります。机と女魔法使いちゃんのお山の間に失礼して……。

 

 

◆眷属の生成に伴う祖の弱体化と力の関係

 

 眷属の位階は素体となる対象が持つ素養と、祖となる個体がどれほど自らの力を分け与えるかによって大きく左右される。

 素体が優秀であれば、より多くの力を受け入れることが可能で、眷属化直後より強大な力を持つことが確認されている。

 しかし、眷属に力を注ぐことは祖となる個体にとって自らの魂を引き裂くことに近しい行為であり、多大なる苦痛と弱体化を伴うものである。

 そのため、多くの吸血鬼は僅かな力のみ眷属へ分け与え、その配下が収奪した力を吸い上げることで弱体化を回復させることを好む。

 故に、ただ一体の眷属を傍に置く吸血鬼は須く強者であり、数を頼みとして討伐を行うことは概ね死に直結する。

 

 牙狩りよ、恐怖を忘れるなかれ。されど恐怖に屈することなかれ。

 

 

 なるほどなー。力を多く注ぐほど信頼する眷属がいる吸血鬼はおっかないってことなんですかね。んで雑魚をいっぱい用意する奴はだいたい裏切りを恐れる小心者と。

 

「それが定説だったんだけど、その資料を信じた結果、見事に裏目ったのが君が吸い殺した不死王(ノーライフキング)を名乗る吸血鬼との戦いさ」

 

 

 

 会話が聞こえていたのか、傷あり司祭さんが苦笑しながらやって来ました。その言い方ですと、やっぱり討伐に参加されてたんです?

 

「まあね。と言っても途中で力尽きてしまったから、あの時最後まで立っていたのは頭領(リーダー)だけ。つまり、僕もまた君に助けられた一人というわけだ」

 

 おかげでこうやって隠居生活を送っていられると笑う傷あり司祭さん。はぇ~そんなところで縁があったんですねぇ。

 

 

 

 

「話を聞く限り不死王って強かったみたいだけど、どうやって対抗しようと思ってたの?」

 

 あ、そこ気になりますね! 妖精弓手ちゃんの問いに対し、ちょっと待ってねと言いながら資料を漁る傷あり司祭さん。あったあったと持ってきたのは……手のひらサイズの金属板かな?

 

真銀(ミスリル)に特殊な血液……誤魔化すのもアレか、吸血鬼の血を溶かし込んで作られた合金でね。真銀の持つ物理、魔法に対する耐性に加え、武器に加工すれば同族の血が毒となる吸血鬼への特攻を、防具にすれば微細な傷を自動で修復する機能を持つ。圧倒的強者である吸血鬼を滅ぼすために、弱者である人間が生み出した外法の産物だよ」

 

 同族を滅ぼすために血を提供する吸血鬼なんていないでしょうから、血を確保する方法はお察しでしょうね。うえ~という顔を見せる妖精弓手ちゃんに対して、考え込む仕草を見せる女魔法使いちゃん。何かに利用するつもりなんでしょうか。

 

「あの、この合金の製法を纏めたものってありますか?」

 

「ん? ああ、勿論ここで保管しているよ。あまり大っぴらには出来ないけど、君達ならばいずれ独力でも見つけそうだからね」

 

 手渡された真っ赤な装丁の本を見つめ、その後同じように吸血鬼侍ちゃんを見ている女魔法使いちゃん。えっと、なんでしょうか……?

 

「ねぇ、この間の騒動でゴブリンスレイヤーが珍しく装備に執着してたじゃない? いい機会だし、新しい装備を用意してあげようと思うんだけど」

 

 結婚のお祝いにしては物騒だけどね、と続ける女魔法使いちゃん。もしかしてその素材に()()を選択するつもり? 幸い材料には困らないと思いますけど、どこで作ってもらうんで……あ。

 

「ああ、鉱人が軽銀を送ったところを強請(説得す)るのね」

 

 もうちょっと言い方ってもんがあると思うんですがね妖精弓手ちゃん。……まあ内容は同じですけども。真銀も血液もある、足りないのは腕の良い鍛冶師というわけですね!

 

「鉱人の鍛冶師は技術を秘匿したがるって話だし、機密保持の契約を結べば原料欲しさに吸血鬼狩りなんて馬鹿な真似はしないと思うわ」

 

 資料そっちのけでわいのわいの騒ぐ一党を見て、堪え切れない様子で笑い声を上げる傷あり司祭さん。頭領(リーダー)から聞いてはいたけれど、まさかあの夜の吸血鬼がこんな可愛い子だったとはねと肩を震わせています。

 

「いやすまない、牙狩り(僕たち)が宿敵と定めている吸血鬼と、後輩である冒険者がこんな風に会話をするなんて。五年前の自分に言ったら間違いなく正気を疑われる光景だよ」

 

 ひとしきり笑った後に、僧衣の襟元を緩めながら立ち上がる傷あり司祭さん。笑みの色を残したまま吸血鬼侍ちゃんを見ています。

 

「その冊子を進呈する代わりにちょっと運動に付き合って貰えるかな? 久しぶりに身体を動かしたくなったよ」

 

 どうして……? これ絶対断れないし、絶対ボコボコにされるヤツですよ! おっライバル対決じゃ~んと暢気に煽ってくる妖精弓手ちゃん。吸血鬼侍ちゃんは縋るような目で女魔法使いちゃんを見ますが……。

 

「しっかり頑張りなさい。カッコよかったらあとで頭撫でてあげる」

 

 

「やってやろうじゃねえかよ このやろう!」

 

 

 野郎じゃないんですけどねぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、まあ先生の時よりは善戦したんじゃない?」

 

「ずるい、でがかりをぜんぶつぶされた、うちのしまじゃのーかん……」

 

 いやぁ結構頑張ったんですけどねぇ。技の起こりを察知してのカウンター。しかも氷結によるスタンで行動を潰してくる頭脳派プレイに完封されちゃいました。凍り付いた部位を砕いて強引に攻めたりもしましたが、見透かされたように間合いを取られて攻めきれず。結局傷あり司祭さんの息が上がったところで終了になりました。

 

「ほら、頭撫でてあげてるんだからもっと喜びなさいよ」

 

 往路とは違い、女魔法使いちゃんを背負う形で飛行しているのは本体のほうですね。優しい手つきで頭を撫でられ、背中にたわわを押し付けられても涙目で拗ねています。

 

 そういえば、資料調査やボコられタイムの間ずっと姿を見せなかった分身ちゃんですが、何をしていたのか聞いてみたら……。

 

「なんだ、お茶飲んで暖炉の傍に居ればけっこうあったかくなるじゃない! 今度からは出かける前にちゃんとあったまっておきなさいよ!」

 

「そともなかもぽかぽか、だされたおかしもおいしかった」

 

 なんと補給物資を倉庫に入れた後、修道女さんたちに囲まれて優雅なティータイムを過ごしていたそうです。娯楽に乏しい場所に、ロリ貧乳金髪メカクレ吸血鬼侍とかいう属性過多娘がやってきたら、そりゃもうアイドルですよね。随分モテモテだったご様子。

 

 

 

「まったく……。今夜一緒に寝てあげるから機嫌直しなさい? 指輪付けてもいいから」

 

「そんなさるみたいにさかったりしない。……ぎゅってするだけ」

 

 また遊びに来てってお願いされたとぽわぽわ話しながら前を飛ぶ分身ちゃんペアにジト目を送っていた吸血鬼侍ちゃんですが、女魔法使いちゃんの言葉にちょっとムキになって反論しています。

 

 ギルドでも毎日がスペシャルとか夜会話多過ぎ、百合の花畑なんて散々な言い方されてますけど、実は吸血鬼侍ちゃんから求めることって少ないんですよねぇ。大体が襲われたところを返り討ちにするパターンで、その数少ない例外が女魔法使いちゃんでしょうか。

 

 

 

 

 

「で、また新しい子を沼に引きずり込んだわけだけれど、一番好きなのは誰なのかしら?」

 

「……ぜんいんすき。だれにもわたさない」

 

「あら、随分強欲になっちゃって。どういう心境の変化でしょうね」

 

「ぜんいんしあわせにするってきめたから。……わがままいってごめんなさい」

 

「いいわよ。でも持ち時間はまちまちだから、誰をどう愛するのかはしっかり考えてね?」

 

 

 

 

 夕日を背に飛ぶ二つの影。その速度は微妙に違います。

 同じ時を生きられない相手に対し、吸血鬼侍ちゃんはどんな結論を出すのでしょうか?

 

 ……まあ、今日明日の話ではありませんし、まずはゴブスレさんにプレゼントする装備について考えましょうか! 明日朝一で鉱人道士さんを捕まえて、人族の中で有数の技術を誇る鉱人の鍛冶場へ乗り込む手筈を整えます!

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 




明日も雨が止まないので失踪します。

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セッションその7ー1

ちょっと日が伸びた気がするので初投稿です。


 結婚するのか、私以外のヤツと……な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、知識神の文庫(ふみくら)の依頼を完了したところから再開です。

 

 女魔法使いちゃんの発案により、文庫の司祭さんから提供された資料を基に鉱人の城跡で手に入れた真銀(ミスリル)と吸血鬼侍ちゃんの血を素材に、結婚のお祝いとしてゴブスレさんの装備を新調しようという計画が立ち上がりました。

 

 今までは量産品を好みに合わせてカスタマイズしたり、あるいは使い捨てにしてゴブリンを退治していたゴブスレさん。ですが最近は【オルクボルグ(小鬼殺し)】を大切に扱うなど考え方に変化がでてきた様子。牛飼娘さんとの結婚を機に、ゴブリンを殺すことから生き残って帰るほうに意識が変わってきたのかもしれませんね。

 

 材料に目途はついてますので、必要なのは装備を鍛える鍛冶師です。鉱物を扱わせれば右に出る者はいない鉱人に依頼をしたいところですので、鉱人道士さんに伝手がないか聞いてみようという話に。文庫から帰った翌日、早速ギルドに行ってみましょう。

 

 

 

 

 

 

「成程、そいつぁ面白そうだのう! そんじゃま、ちょっくら里に顔を出しに行くとするか!」

 

 朝から蜥蜴僧侶さんと一緒に腸詰で一杯やっていた鉱人道士さんを捕まえ、事情を話したところ快諾してくれました! 早速出発と言いだしてますが、お酒入った状態で大丈夫なんです? あ、いつものことか。

 

「いやいや、オルクボルグを連れて行けないのにどうやって鎧の寸法を測るつもりなのよ?」

 

ちょっとは酒を抜いてまともに考えなさいよこの鉱人!とツッコミを入れる妖精弓手ちゃん。たしかに、サプライズにしたいのに本人にサイズを聞くのは本末転倒ですし、だからと言って寸法が分からなきゃ作りようがないですもんね。

 

「店主殿は小鬼殺し殿と良く武具について遣り取りをされているご様子。もしやご存知では?」

 

蜥蜴僧侶さんが武具店の店主(じいじ)に話を振りますが、おや、首を横に振ってますね。

 

「確かに俺が面倒を見ちゃあいるが、修理し過ぎて買った時とは別モンになってる上に、ちょいちょい自分で改良してやがるからなぁ」

 

 正確な寸法はわからねえよと返されちゃいました。となると、誰かが≪惰眠(スリープ)≫でもかけて意識の無い間にこっそりと……。

 

「馬鹿ねぇ。本人のガードが固いなら、攻めるのは身内からって相場が決まってるのよ」

 

 お、なんだか自信ありげですね女魔法使いちゃん。数日で分かるからその間に出発の準備をしておけ? ほほう、それじゃお手並み拝見といきますか!

 

 

 

 

 

 

 

「はいこれ。何に使うのかは分からないけど、言われた通り()()を貰ってきたよ!」

 

「急に無理言って悪かったわね。変なことには使わないから期待して待ってて頂戴」

 

 いいのいいの!と明るく笑う相手から数枚の羊皮紙を受け取る女魔法使いちゃん。吸血鬼侍ちゃんが覗き込むと……おお! 身長や胴回りを始めとして、ゴブスレさんの各部の詳細な寸法が書かれています。これなら全身鎧だとしても問題なさそうですね。連れ出すの苦労したでしょと労う女魔法使いちゃん。小さな金貨袋を代金として渡しています。

 

「私もはじめてだったけど、近いうちに行かなきゃと思ってたからむしろ丁度良かったかな。彼のちょっと困った顔も見られたし」

 

 むしろ採寸代まで貰っちゃってこっちが心苦しいくらいだよ、と舌を出す()()()()()

 

 確かに、結婚式で着る礼服の採寸であればゴブスレさんに確認せず、しかも不審に思われることも無くデータがわかりますね、流石一党の頭脳担当!

 

 我々はゴブスレさんの寸法が分かって嬉しい、牛飼娘さんはゴブスレさんと楽しい時間を過ごせた上に、採寸の費用まで浮いて嬉しいと、双方にとって利益のある取引でしたね!

 

 

 

 さて、ゴブスレさんの身体情報が入手できたところで鉱人の里へ向かうメンバーですが、案内役の鉱人道士は当然として発案者である女魔法使いちゃん、蜥蜴僧侶さん、それに吸血鬼侍ちゃんの種族バラバラな四人組となりました。

 

 森人少女ちゃんと令嬢剣士さんは計画書の作成で手が離せませんし、ゴブスレさんを誘うわけにはいかないので伝えてません。暇を持て余している妖精弓手ちゃんと森人狩人さんですが……。

 

鉱人(ドワーフ)の里に森人(エルフ)が行って話がややこしくなるのも面倒だし、私たちは止めとくわ。オルクボルグにゴブリン退治の依頼をチラつかせて、そっちに意識が向かないようにしとくから」

 

 ということで、女神官ちゃんも含めた四人でゴブリン退治で暇を潰して待っててくれるそうです。そうだ、良い機会なので森人狩人さんの獣性をガッツリ下げといてもらえますか? 最近分身ちゃんが、朝疲れた顔をしていることがあるので……。

 

 それじゃあそろそろ出発しましょうか! 馬車の中には前回と同様炬燵が据え付けられていますが、首無し騎士(デュラハン)さんにはお休みいただいて、普通の馬に頑張ってもらいます。流石に他の種族の領地にアンデッドを連れ込むのはちょっと……え、吸血鬼侍ちゃんはいいのかって? あーあー聞こえなーい。

 

 

 

 

 

「眼鏡っ子よう、前々から思っとったんだが、ええ機会だから言っておこうかの」

 

「あ、はい。何でしょうか……?」

 

 鉱人の里に向けて進む馬車の中、鉱人道士さんのいつになく真剣な表情から発せられた言葉によって女魔法使いちゃんに緊張が走りました。吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが交代で御者を務め、今はちょうど吸血鬼侍ちゃんが休憩中。四人で炬燵に入り、互いに向き合っている最中に飛び出た発言です。

 

「鱗のも薄々気付いとると思うが、この先上手く付き合っていくにゃあ必要なことだわい」

 

 どうやら蜥蜴僧侶さんも同意見のようで、然り然りと頷きながら尻尾をくゆらせていますね。さて、まったく見当がつかないのですが女魔法使いちゃんてば何をやらかしたんです?

 

「いや、身に覚えはないけど……私、ご気分を害するようなことをしてましたか?」

 

 それじゃよそれ、とチッチッチと指を振る鉱人道士さん。女魔法使いちゃんの頭上には?マークが浮かんでますが、成程そういうことですか。

 

 

 

 

 

 

「あのなあ、()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()? のう鱗の」

 

「いやまったく。既に幾度となく冒険を共にした仲、それでは聊か他人行儀過ぎるというもの」

 

 思いがけない指摘にあっけにとられた様子の女魔法使いちゃん。そういわれてみれば、重戦士さんや女騎士さん、槍ニキや魔女パイセンに対しても常に敬語で話してますもんね。

 

「え、いや私まだ鋼鉄等級ですし、お二人は年長者であるとともに等級も上ですから……」

 

 いいとこのお嬢様で頭も良いですけど、意外とそういうところ律儀ですよね。あれ、でも妖精弓手ちゃんに対しては最初からフランクだったような。アレは特殊過ぎ? せやな。

 

「そうそう、耳長娘と同じように考えればええ。変に気を使われても逆に疲れちまう」

 

「あー……うん。わかった、これからはあの2000歳児と同じように接する。それでいい?」

 

 暫くあーうー唸っていましたが、自分の中で落としどころを見つけたのか、ちょっとぎこちないですが普通に言葉を返しています。

 

「巫女殿も最初は及び腰であったのが嘘のような立ち居振る舞いに変わりました故、参謀殿も慣れれば自然に振る舞えるものかと」

 

 先達二人の言葉で少し照れている女魔法使いちゃん。照れ隠しなのかニヤニヤ笑ってる吸血鬼侍ちゃんを右隣りから引っこ抜いて抱きかかえ、二人からの視線を遮る盾にしちゃいました。

 

 

 

 

 

 

 

「先んじて侍殿には聞きましたが、参謀殿は己が血を継ぐ者は欲したりはしないのですかな?」

 

 ぎこちなさが薄れ、会話が弾むようになった頃に爆弾を投下する蜥蜴僧侶さん。隣の鉱人道士さんがニヤついているということは、二人とも最初から暇潰しの話題にするつもりでしたね!

 

 前にも言いましたけど、指輪は擬似的なものだから行為は出来ても妊娠はしませんし、だいいち半吸血鬼(ダンピール)なんて茨の道を歩まなければならない子を生み出すのは可哀そうですって!

 

「それより気になるんだがの、眷属になった時っちゅうのは、外見は吸われた時点のものになるんか、それともジジイが吸われると若返ったりするんか。どっちなのかのう」

 

 あーそこは確かに気になりますね。もし肉体が最盛期のものになるんでしたら、吸血鬼侍ちゃんがこんなに小さい理由が分からないですし、たぶん吸われた時の外見が固定されるんじゃないですかね。どうなんでしょう女魔法使いちゃん。

 

文庫(ふみくら)で見た資料の感じだと、吸われた時の外見で固定されるみたいね。美童(ショタ)趣味の変態吸血鬼が、村の美少年を拐かして永遠に愛でるなんて話が残ってるくらいだし」

 

 鉱人道士さんの問いに答えた後、からかうような表情で吸血鬼侍ちゃんを見てますね。なんですかその顔は?

 

「ねえ? 今の私といやらしおっぱい女(剣の乙女)くらいに成長した私、どっちのほうが好みかしら?」

 

「??? いっしょにいてくれるなら、おばあちゃんでもいいよ?」

 

「……まあアンタならそう答えると思ってたわよ」

 

 想定外の答えを期待してたのでしょう、吸血鬼侍ちゃんの回答を聞いて肩を落としています。女心が分かってないわねぇと溜息をついてますが、対面で男二人がニヤついていることを忘れちゃダメですよ?

 

「いい? アンタは気にしないかもしれないけど、アンタと並んで見られた時に『かわいいお孫さんですね!』なんて言われたら、私、二度と立ち直れなくなる自信があるわ。今ですらおっぱい女(剣の乙女)が『あら、娘さんとお出掛けですか?』って言われてベソかいてるくらいなんだから」

 

 ああ、この間やけに吸血鬼侍ちゃんをまさぐりながら「まま……まま……」ってちゅーちゅーしてきたのはその反動ですか。また新たな境地を開拓したのかと思ってましたよ。

 

「はぁ……やっぱり早いとこ自分を鍛え上げないとダメみたいね。アンタに眷属(むすめ)にしてもらうにしても、(からだ)が耐えきれなくて喰屍鬼(グール)になりました、なんて笑い話にもなりゃしないわ」

 

「であればやはり強者と戦うのが一番、拙僧は応援致しますぞ!」

 

 炬燵パワーで冬でも元気になった蜥蜴僧侶さんの声援を受け、将来設計を考え始めた女魔法使いちゃん。いちおうほぼ確実にデイライトウォーカーとして眷属化させる方法は思いつきましたが、ちょっとばかし代償が重いので、是非とも頑張って成長して欲しいですね!(たわわを眺めながら)

 

 

 

 

 

 

 さて、道中で二度夜営を挟み、峠を登り切った一党の眼下に鉱人の里が見えてきました!

 

 岩肌が露出した鉱山に囲まれた盆地。狭い土地にひしめくように無数の煙突が生えています。山の斜面には多くの黒点、恐らくすべてが坑道の入り口なのでしょう。

 

 馬車を街の入り口に停め、鉱人道士さんの後を付いて歩く一党。街中には鉱人以外には僅かに只人の姿が見られる程度。蜥蜴人や圃人の姿は珍しいのでしょうか。好奇の視線が蜥蜴僧侶さんと吸血鬼侍ちゃんに向けられていますね。

 

「おっと失礼! 何分この図体故」

 

 すべてが鉱人基準で作られているため、大柄な蜥蜴僧侶さん非常に歩き辛そう。通行人を避けようとして逆に露店の軒先に頭をぶつけてしまってます。大丈夫ですか蜥蜴僧侶さん?

 

「すべては未だ見ぬ強者(つわもの)と死合う為の修行なり。これしきの事で歩みを止めるわけにはいきませぬな!」

 

 呵々と笑う蜥蜴僧侶さんですが、今ちょっと気になること言ってましたよね? 強者って何かご存知なんですか? え、吸血鬼侍ちゃんに同行していれば出会うと思ってる? そんなトラブルばかり起こるわけないですって!

 

「ホレ、遊んでないでさっさと来んかい! もうすぐ目的の場所だからの!」

 

 人波の中から鉱人道士さんの声は聞こえるんですが、一体どこに……あ、女魔法使いちゃんが手を振ってます。平均的な身長の女魔法使いちゃんでも、周りの鉱人からすれば頭一つ大きく見えますね。吸血鬼侍ちゃんは迷子にならないように蜥蜴僧侶さんの肩に乗せてもらいましょうか。

 

 

 

 

 街中を歩くこと暫し、鉱人道士さんに案内され到着したのは小さな工房でした。表には金床とハンマーを組み合わせた特徴のない看板が掲げられており、店の入り口の扉は閉ざされています。

 

 それを見た鉱人道士さんは小さく舌打ちをすると、まーた店をほっぽらかしとるのかあの馬鹿は! と呟きながらノックもせず扉を開けて店内へ。慌てて後を追う一党、店舗部分を足早に通り抜け、分厚い鉄の扉の先からは金属を打つ音が。どうやら店の主はいたようですね。

 

「また店番を置かずに鍛冶場に入り浸りおって! 客が来ても分からんだろうが!!」

 

「ああ!? 今は客の相手なんざしてる場合じゃねえんだよこの根無し草!!」

 

 うーんこの鉱人特有?の荒っぽい応酬、女魔法使いちゃんはドン引きしてますね。たぶんあれ挨拶みたいなものだから大丈夫ですって。とりあえず奥まで進んじゃいましょう。

 

 

 鍛冶場と思しき場所で鉱人道士さんと怒鳴り合っていた鉱人の男性。背丈は鉱人道士さんより僅かに低いですが、厚みははるかに勝っています。おそらく脂肪ではなく筋肉、大げさに言えば縦と横の幅が同じに見えるといっても良いくらいです。

 

 それよりも目を引くのはその姿でしょう。全身を包帯で覆い、隙間から見える肌は黒光りしています。右目に眼帯をしていることから長年炎を見続けていた人なんでしょうか? あの、そろそろその人を紹介してもらえませんか?

 

「ああ、こ奴がわしの知る中で一番性格が捻くれていて、一番腕の立つ鍛冶師よ」

 

「腕が立つってのは当然の賛辞だが、性格は余計なお世話だ馬鹿野郎」

 

 腕組みをしながらフンスと鼻を鳴らす隻眼鍛冶師さん。すると、軽銀のインゴットを送った相手っていうのも?

 

「ああこいつだぁ。このナリを見る限り早速馬鹿やったみてぇだけどな」

 

 ちょっと組成を調べるのにトチっただけだと嘯いてますが、結構ボロボロになってませんかねぇ? もしかして森人狩人さんの戦棍もこの人にお願いしたんでしょうか。大丈夫かなぁ……。

 

「ああ、心材と先端に軽銀を使うってヤツだろ? ……ん、てこたぁチビ助があのインゴットを見っけた冒険者ってことか?」

 

 吸血鬼侍ちゃんひとりじゃないですけどね。実は依頼したいものがあって来たんですけど……。

 

 

 

 

「なるほどなぁ、真銀に血を混ぜるたぁ思いつきもしなかったぜ」

 

 女魔法使いちゃんから製法の記載された冊子と現物の金属板、それにゴブスレさんの採寸の写しを渡された隻眼鍛冶師さん。光の加減を見たりハンマーで叩いたりと金属板に興味津々のご様子。そいつで鎧を頼みてえんだと言う鉱人道士さんの話を聞き、考え込んでいます。

 

「んで、そのかみきり丸っちゅう冒険者は全身金属鎧なんざ着たがらねぇヤツなんだろ? だったらちいとばかし素材が足らねえなぁ」

 

「と申されますと、必要なのは獣の革などですかな?」

 

 蜥蜴僧侶さんの問いに対し吸血鬼侍ちゃんを指差す隻眼鍛冶師さん。え、吸血鬼侍ちゃんですか? 血はともかく皮を剥がれるのはちょっと……え、違う?

 

「そのチビ助の装備、専用の鎧下に部分鎧を組み合わせた仕様だろ? 同じように部分鎧の下に、もう一層革鎧を組み込む。真銀をベースにした素材ならではの仕様ってわけだ」

 

 一党の前でラフ絵を描いてくれましたが、ほほう、強度のあるインナーの上に急所を隠す目的で薄くて軽量な金属鎧を重ね着する感じでしょうかね。脇の下や膝裏などにも薄い金属板を仕込んで刺突攻撃に備えることも考慮されているようです。

 

「でも、金属鎧の下に着る革鎧だと、厚みを抑えないといけないんじゃない? そうすると防御力が下がって本末転倒な気が……」

 

「慌てるんじゃねえよたわわっ子。薄くて丈夫、伸縮性があって擦れや熱にも強い! そんな奥様ウットリな素材があるっつたらどうするよ?」

 

 隻眼鍛冶師さんの口から垂れ流されるナチュラルセクハラ発言。鉱人道士さんを汚物を見るような目で見る女魔法使いちゃんと、コイツと一緒にしないでくれというアイコンタクトを返す鉱人道士さん。でも、その素材ってお高いんでしょう?

 

「あいにくと非売品でな。自分の力で入手するしかねえんだよ」

 

 そこまで言うと隻眼鍛冶師さんは立ち上がり、そこの根無し草を含め、お前さんたちは冒険者なんだろう? と問いかけてきます。まあそうですけど、一体何からその素材は獲れるんです?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冒険者なら誰もが憧れる称号ってヤツさ。どうだ、いっちょ竜殺し(ドラゴンスレイヤー)になってみねえか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。




寒さが和らいでくれないので失踪します。

いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
お気に入り登録や感想、評価についても併せて入れていただければ幸いです。

お読みいただきありがとうございました。



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セッションその7ー2

 上手く煮物が作れたので初投稿です。


 前回、竜殺し(ドラゴンスレイ)を勧められたところから再開です。

 

 竜殺し! 冒険者の中でも一握りの強者しか成しえぬと言われている偉業のひとつですが、二点ほど疑問が。まず近くにドラゴンがいるのかどうか。そして、そのドラゴンは()()()()()()()()()()()()()()。そのあたりどうなんですか隻眼鍛冶師さん?

 

「ああ、うってつけのが近くに住み着いてやがる。元々は里に出入りする隊商を驚かしては食料を失敬するセコいヤツだったんだが、代わりに害獣除けにもなってたから見逃してやってたんだ。だがデカくなってドラゴンらしく貴金属や宝石に興味を持ち始めてな? 近頃は宝石細工の荷馬車まで襲うようになりやがった!」

 

 憤懣やるかたないといった表情で話す隻眼鍛冶師さん。オマケにだ、といって一党を見回しながら言葉を続けます。

 

「どうやって嗅ぎ付けたのか分からねぇが、オメェたちが送ってきた軽銀にご執心らしく、毎日のように里の上を旋回するようになっちまった!」

 

 この状況が続くようなら商売あがったりだぜと吐き捨てると、腕組みをしたままドカッと座り込み深い溜息を。生産物が送れなくても、それを代金に購入している食料や日用品が届かなくても問題というわけなんですねぇ。

 

 竜殺しは名誉と嘯きながら力の弱い幼竜を狩る冒険者が後を絶たないため、冒険者はギルドからはむやみに竜を刺激しないよう言い含められているのですが、実際に被害が出ているのならば話は別です。王国の領域では無いため冒険者ギルドはありませんが、ドワーフの有力者、長老などから許可を得られれば討伐に赴くことができるかもしれません。隻眼鍛冶師さん、誰か竜殺しの許可を出してくれそうな偉い人のコネとかありません?

 

 

 

 

「……ちみっこよぅ。お前さんの目の前にいる樽木乃伊(ミイラ)が、その偉いさんなわけよ」

 

 

 

……え? そうなんですか? こう見えて商工会の顔役である長老の一人?

 

「……たいへんしつれいしました」

 

 気にすんなと笑い飛ばしてくれましたが、考えてみれば軽銀の分析を任されるくらいの人物ですからね。腕の立つ職人が尊敬を集める業界なら当然かもしれません。

 

 討伐の許可が頂けるなら是非狩りに行きたいのですが、もう一点確認しておくことが。

 蜥蜴僧侶さん、竜司祭としての立場から見て、竜を討伐することって大丈夫なんですか?

 

「フム、もっともな疑問ですな。確かに我ら竜を崇め、恐るべき竜に至る道を歩む者。ですがご安心を、竜とは我らが目指す到達点であると同時に、挑むべき目標でもあります故」

 

 機会あれば挑戦すべき存在ですからなぁと胸を張る蜥蜴僧侶さん。なるほど、ただ敬うのではなく、超えるべき壁としても認識されているんですね。

 

「問題が無いようなら討伐対象の情報収集と準備に取り掛かりましょ? 他の連中に横取りされる前にケリをつけないと」

 

 女魔法使いちゃんの音頭でで各自準備に取り掛かります。商工会や衛兵の詰め所で竜の特徴を聞いたり、討伐やその後の処理に必要な物資を揃えたり。順番に片付けなきゃですね!

 

 

 

 

「討伐対象は赤竜(レッドドラゴン)。商工会の被害届から推測される大きさは体長約4メートル、尻尾込みだと8メートル程度ね。恐らく年齢段階は青年(ヤング・アダルト)、まず100年は生きてないと思うわ」

 

 各々情報収集を終え、一党は現在酒場で夕食をとりながら、ドラゴンについてのおさらいを女魔法使いちゃんから受けています。鉱人道士さんと蜥蜴僧侶さんは火酒を、女魔法使いちゃんと吸血鬼侍ちゃんは葡萄酒を頼み、濃い味付けの煮込みと蒸かした馬鈴薯(じゃがいも)を摘まみながら集めてきた情報を突き合わせ、明日の討伐の作戦を立てる参考にしようというところでしょうか。

 

「赤竜の特徴は炎に対する完全耐性ですな。青年段階ともなれば魔法の武器以外の物理攻撃は通りが悪く、その竜鱗は呪文に対する抵抗を持ち始める時分。逆に冷気に対しては拙僧のように不得手としているかと」

 

 たっぷりとチーズをかけた馬鈴薯(じゃがいも)を頬張りながら、女魔法使いちゃんの言葉を引き継ぐように蜥蜴僧侶さんが赤竜の情報(データ)を明らかにしてきます。

 

「手柄と栄誉に目がくらんだ若僧が10人ばかりで寝床を襲ったが、逃げ帰った一人以外こんがりローストされておった。そいつから寝床への行き道と周辺の地形を聞き出してきたわい」

 

 肉汁(グレーヴィー)ソースを垂らした山盛りマッシュポテトを崩しながら苦々しげに同胞の失態を話す鉱人道士さん。一党が飛行能力や遠距離攻撃手段を持たない場合、ドラゴンは平気で上空から引き撃ち火吹き(ブレス)してきますからね。赤竜の寝床へ里から山道と切通しを経て徒歩で半日程度の距離。風雨による浸食で天井が抜けた、現在採掘が行われていない坑道跡に寝床を構えているようです。

 

 これらの情報から推察される赤竜の性格は……。

 

「ドワーフのせんしをかえりうちにできるていどにきょうりょくで、ちょくせつさとをおそわないていどにあたまがいい。でも、すみかがバレているのにひっこししないのはざんねんしょう」

 

 竜殺しの勝敗は事前の準備でほぼ決まってしまいます。耐性と弱点を暴かれ、戦闘区域(フィールド)の情報を知られたドラゴン。その行く末は、もうお察しくださいとしか言えませんね。今日はしっかりご飯を食べて、明日の戦いに備えましょう!

 

 

 

 

「そうじゃ眼鏡っ子、部屋は二人用を二部屋おさえといたからの。満腹はイカンがちみっこの腹を空かしたままにゃせんようにの?」

 

「……お気遣いどーも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、時刻は正午をまわったところ、一党は赤竜が寝床としている坑道跡に到着しました!

 

 吸血鬼侍ちゃんは分身ちゃんと一緒に、天井に開いた穴から坑道を見下ろす体勢で待機しています。穴の大きさはドラゴンが飛びながら通り抜けられるほどで、もはや穴ではなく地面の裂け目と言っていいでしょう。

 

 下を覗き込めば……いたいた、赤竜がだらしねぇ恰好で寝こけていらっしゃる。その手前側には、岩陰に隠れるように3人が待機しているのが見えますね。下側の準備は大丈夫そうですので、竜狩りの開始と洒落込みましょう!

 

 まずはおはようの挨拶から。吸血鬼侍ちゃんが≪手袋≫から長槍(ロングスピア)を取り出し、本来投擲に向かない筈のそれを吸血鬼の膂力に任せて赤竜に向かってシューッ!! 重力が加算された長槍は強靭な竜鱗を貫き、赤竜の腰部に突き刺さりました! 巨体を支える重要な部位を傷つけ、俊敏な動きを封じることに成功です。

 

 突然の痛みに跳ね起きた赤竜。頭上を見ればクッソ小憎らしい顔をした吸血鬼侍ちゃんが見えているでしょう。怒りの咆哮を上げ、上空に飛び上がってきました。

 

 はい、ここで問題です。10メートル近い大きさのドラゴンが、鳥や虫のように真っすぐ上に飛行できるでしょうか? その答えは眼下に見えてますね。頭部は上を向き吸血鬼侍ちゃんを睨みつけていますが、狭い空間を旋回しながら徐々に上がってきています。

 

 恐るべき飛行能力を持つと言われるドラゴンですが、その実成長すればするほど()()()()()()()()()()()()()。航続距離や飛行速度は上昇するものの、その体躯が足枷となり旋回、上昇能力は悪くなる一方なのです。

 

 今この瞬間にも吸血鬼侍ちゃんを噛み砕かんとその顎を開いていますが、上昇速度は遅く、飛行に気を取られているため下の3人が行動していることに気付いていない様子。天井の裂け目から飛び出し、空中で待ち構えていた吸血鬼侍ちゃんを捕捉した赤竜は、その強靭な顎を……。

 

「ざんねん、またきてねー」

 

「DORARAGO!?」

 

 裂け目の反対側で待機(レディ)していた分身ちゃんが村正を一閃! 片方の翼を斬り落とされ飛行が維持出来なくなった赤竜は寝床へと急速に落下していきます。このまま落下ダメージが通れば即死すると思いますが、素材がダメになってしまうので受け止めてあげましょう。鉱人道士さん、お願いしまーす。

 

「任せろい! 土精(ノーム)水精(ウンディーネ)、素敵な褥をこさえてくんろ!」

 

どぷん!

 

 ヨシ! 落下地点に先回りするように発動した≪泥罠(スネア)≫が巨体を受け止め、そのままズブズブと動きを封じていきます。赤竜は泥沼から抜け出そうともがいていますが、腰を痛めているために下半身の踏ん張りが効いていません。泥沼を生んだ元凶である鉱人道士さんを睨みつけるその目を、間髪入れずに女魔法使いちゃんが放った()()の光が貫きました!

 

「≪(サジタ)≫……≪必中(ケルタ)≫……≪射出(ラディウス)≫! ……あら、随分上手くいったわね」

 

 双眸を穿たれ悲痛な叫びを上げる赤竜。閉ざされた視界のまま必死に手を伸ばし、液状化していない地面の淵へ手をかけました。ありったけの力を込めて身体を引き寄せ、沼から這い上がらんと唸り声を響かせています。

 口からは炎がチロチロと見え、好き勝手やってくれた冒険者(しんにゅうしゃ)を焼き尽くすまで怒りは鎮まらないと主張しているかの如き様相を露わに。ですが……。

 

「あったよ!まるたが!」

 

「でかした!」

 

「DOR……!?!?」

 

 天井の裂け目から飛び込んできた2本の太矢に似た影。重力を味方に落下してきた吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが、抱く様に構えた先端を尖らせた丸太を赤竜の両の手に深々と突き立て、地面に縫い止めました!

 

 必死に引き抜こうと暴れる赤竜ですが、固い地面を貫いた丸太は微動だにせず、まったく抜ける気配がありません。腰部と翼、そして両の手の甲からの出血で徐々に動きの鈍くなる赤竜。その前に進み出たのは、竜を敬い、竜を目指し、そして今竜を己が糧にせんとする蜥蜴僧侶さんです。

 

「その血肉のすべて、我らが強くなるための糧とさせていただく。いざお覚悟召されい!」

 

 胸から下が泥中に埋まり、頭部を突き出した体勢で蜥蜴僧侶さんの宣言を受ける赤竜。意味は通じなくとも自らに迫る死の気配は察したのか、地面に竜牙刀を突き立てた姿勢の蜥蜴僧侶さんをその牙で粉砕せんと首を伸ばし……。

 

「GO……DO……」

 

 前に倒れ込むような姿勢で噛みつきを躱し、地面を鞘に見立てた竜牙刀を逆手持ちで跳ね上げるように抜刀。下段からの鋭い切り上げによって、赤竜の首がドサリと地に落ちました……。

 

 血の噴き出る首に大きな革袋をあてがう吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん。竜の血は貴重な触媒になるのでしっかり回収しておきましょう。袋を取り換えながら繰り返し、出が悪くなったところで作業は吸血(血抜き)に移ります。

 

 強靭な鱗を意に介さず牙を突き立て、吸血する2人。肉に血が回ってしまうと()()()()()()()()()()()、竜の血は高い魔力を秘めているので飢餓状態を癒すにはもってこいですから。

 

 ちゅーちゅーという音が坑道跡に暫く響き、ぷぁっという声とともに2人が口を離しました。

 

「「……まんぞく」」

 

 両手を磔にしていた丸太を造作も無く引き抜き、片腕ずつ2人で握った赤竜の死体を泥沼からすぽーんとぶっこぬくシュールな光景。ブレーンバスターの如く腹を上にひっくり返された体に蜥蜴僧侶さんが近付き、斃した相手を称える祈りを捧げながら胸部に竜牙刀を突き立てます。

 

 2人が吸い尽くしたため傷から血が流れることはなく、そこから両の手を差し込んだ蜥蜴僧侶さんは体内から赤黒い塊……竜の心臓を引き抜きました。

 

 常人であれば眉を顰め、あるいは声高に野蛮だと叫ぶような光景ですが、此処にいる一党の目には祖竜信仰の真髄たる神聖な儀式に映っています。両手に収まらないほどのそれを天高く掲げ、大きく広げた口で齧り付く蜥蜴僧侶さん。倒した相手の力を取り込むように咀嚼し、飲み込む行為を繰り返していますね。

 

「……流石強き竜。まだ年若くとも拙僧だけでは受け継ぎきれませぬな」

 

 半分ほど残った心臓を吸血鬼侍ちゃんが用意した防水布に乗せ、若干悔し気に呟く蜥蜴僧侶さん。いや、それ残りだけでも20kg以上あるじゃないですか。あとは皆で美味しくいただきましょう?

 

 さて、皮を剥がすのはプロにお任せするとして、先に傷みやすい内臓を処理しておきましょうか。まず頭部は討伐の証明になるのと、その後≪竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)≫用の牙を採取するので忘れずに持ち帰りましょう。胴体はなるべく皮を傷つけないよう蜥蜴僧侶さんが作った傷口を広げ、内容物を零さないよう取り出していきます。

 

 火吹き(ブレス)を吐くための器官である火炎袋は別に取り分け、潰すと周囲が臭くて食べられなくなってしまう胆のうは丁寧に肝臓から引き剥がします。あ、食べられないですけど薬の原料になるので捨てないでくださいね!

 

 消化器官系……いわゆる白モツは中に未消化物が入ってますので、破かないよう慎重に取り出し防水布の上に。循環器系である赤モツはそのまま袋に詰め、≪手袋≫へしまっちゃいます。

 

 四肢と翼を含む胴体を収納すれば、残るは防水布により分けておいた白モツです。処理が甘いと臭みが出てしまったり、食感が悪くなってしまうので手早く洗浄したいのですが、残念ながら近くに水場はありません。じゃけんまとめて≪浄化(ピュアリファイ)≫しちゃいましょうねー。

 

 無傷で戦闘を終えられたので、≪浄化(ピュアリファイ)≫を連発して内臓と一緒にみんなの解体時の返り血なんかも綺麗にしちゃいましょうか。汚れとともに脂や臭いも一緒に落ちてくれるので非常に助かります。まあ吸血鬼侍ちゃんからは何時でも血の匂いがするんですけどね……。

 

「綺麗にはなったのはわかるけれど、気分的にさっさとお風呂に入りたいわね……」

 

 わかりみ。あ、鉱人の人たちって温泉が好きみたいなので、結構街中にも入浴施設があるらしいですよ? 採掘や製錬作業が昼夜問わず稼働している都合上、酒場は24時間営業しているそうなので、戻ったらドラゴンのフルコースを楽しみましょう!

 

 

 

 

「あ、ちょい待てちみっこ! 赤竜(コイツ)が貯めこんどる財宝を忘れとるぞ!!」

 

 

 あ、はい。すぐに回収しまーす……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんじゃ、旨い酒と、戻ってきた商品と、ついでに珍妙な冒険者たちにぃ……乾杯!!」

 

 時刻は深夜、もうすぐ日が変わろうという頃合いですが、一党は隻眼鍛冶師さんや仕事を終えた職人さんたちとともに宴の真っ最中です。

 

 持ち帰った赤竜は職人の早業で解体され、見事な鉱人風料理へと変貌しました。。机の上には所狭しとドラゴン料理が並べられ、みな酒を片手に舌鼓を打ってますね。

 

「うん、採れたてだから食感も抜群だし、このタレがまた合うわね~!」

 

 女魔法使いちゃんが口に運んでいるのはモツの串焼きですね。大蒜を効かせた甘辛いタレを塗りながら鉄板で焼き上げたそれを片手に持ち、普段はあまり飲まない麦酒をお供にパクついています。

 

「こっちの煮込みもなかなかイケるぞ。部位によって味が違うのも堪らんわい!」

 

「こりゃまた酒が進んでいけねぇ! お~い、樽で追加持ってこいや!!」

 

 鉱人道士さんと隻眼鍛冶師さんはモツ煮を大皿から流し込むように食べてます。小腸(ホルモン)以外にも(フワ)胃袋(ガツ)腎臓(マメ)が入っていて、それぞれ味わいや食感に違いがあるみたいですが……あんな食べ方でホントに分かるんですかね?

 

「やはり心臓(ハツ)こそ力の源。しかもチーズとともに衣を付けて揚げるとは……まさに甘露!!」

 

 ハツとチーズの竜田揚げを口に運んでは雄叫びを上げている蜥蜴僧侶さん。周りの酔っ払いたちが面白がって次々に皿に追加を乗せてますが、消えるように無くなっていってます。まさか本気で1人で心臓を食べ切るつもりなんでしょうか……。

 

 

 

「2人とも、あんだけ吸っておいてよく食べるわねぇ……」

 

「おいしいものはべつばらなので~」

 

「うめ うめ うめ」

 

 なんだか女魔法使いちゃんが呆れてますが、吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんも何かを食べているみたいですね。分身ちゃんは……タンステーキでしょうか? 香辛料をたっぷり使ってスパイシーに焼き上げた塊をナイフとフォークを優雅に使って口に運んでいます。

 一方で吸血鬼侍ちゃんのほうは……? 一心不乱に赤くて薄いものを食べ続けています。なんでしょうアレ?

 

「お、チビ助は通なモン喰ってるじゃねえか! ドラゴンのレバ刺しなんぞ仕留めた奴しか口に出来ねぇ極上の味だかんな!」

 

「うめ うめ うめ」

 

 あ、肝臓(レバー)だったんですね! ドラゴンの中でも限られた種のものしか生食できないと言われているレバー。強酸や毒を貯め込む種は論外ですし、白竜は足が早いので生食は難しいとされる中で、体温が高く寄生虫の心配が無い赤竜は貴重な存在(しょくざい)です。大蒜と岩塩、そしてあまり普及していない胡麻油で味付けされたそれをひたすら口に運び続けていますねぇ。

 

「うめ うめ うめ」

 

 ……よっぽど気に入ったんでしょうか? 吸血鬼侍ちゃんの手がまったく止まりません。

 

「うめ うめ うめ」

 

「ちょっと、大丈夫なの……ってフラフラじゃない!?」

 

「うめ うめ うめ」

 

 吸血鬼侍ちゃんの様子がおかしいことに気付いた女魔法使いちゃんが慌ててフォークを取り上げ、額に手を当てています。なんだか目もグルグルしてますし、顔も赤くなってますね。

 

「あー、竜血とレバーの取り過ぎで魔力酔いしてるみたい」

 

 寝かせてくるからみんなは楽しんで頂戴と一党に告げ、吸血鬼侍ちゃんを抱っこして酒場二階の借りている部屋へ運んでいく女魔法使いちゃん。残された鉱人道士さんと蜥蜴僧侶さんの目は、タンステーキを食べ終わり、口元をナプキンで拭っている分身ちゃんに向けられています。

 

「お前さんは大丈夫なんかの? 同じくらい血を吸ってたと思っとったんだが」

 

「あのことちがって、おとなですので」

 

「フム、やはり≪分身(アザーセルフ)≫は奥が深い呪文ですなぁ」

 

 分身ちゃんの台詞をサラッと流しているあたり、2人はやはり大物なのか、それともただの酔っ払いだからなのか……。判断に迷うところですねぇ。

 

 

 

 

 

 さて、二階の部屋に戻った2人ですが、どんな具合でしょうか。ベッドに寝かされた吸血鬼侍ちゃんは、荒い呼吸を続け、心細いのか女魔法使いちゃんの服の裾を掴んで離さなくなってます。

 

「ちょっと服を緩めるわよ。……大丈夫?」

 

「……わからない。からだのしんがあつい。やけちゃいそう」

 

「典型的な魔力暴走の症状ね。真言呪文に目覚めたばかりの年少者が陥ることが多いけど、いつも空腹が常態なところにいきなり大量の魔力を取り込んだからかしら」

 

 上着を脱がされ、下着(インナー)のみの姿となった吸血鬼侍ちゃん。素肌が露出している腹部や二の腕は熱を帯びて赤く上気し、僅かに汗を浮かべ浅い呼吸を続けている状態です。とりあえず魔力を発散させないと、と呟いていた女魔法使いちゃんの手が止まり、ゴクリと生唾を飲み込む音が静かな部屋に響きます。

 

「そうよ、これは緊急処置。こんな街中で呪文を使わせたらどんな被害が出るかわからないし、安全な方法があるならそれを選ぶべき」

 

 吸血鬼侍ちゃんの首にかけられている()()を手に取り、鎖から外したそれを吸血鬼侍ちゃんの指に嵌める女魔法使いちゃん。熱に浮かされたような表情で吸血鬼侍ちゃんの上に跨り、焦点の合わない瞳で見上げる吸血鬼侍ちゃんに頬を寄せ、耳元で囁いています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……じっとしてて頂戴、すぐ楽にしてあげるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、いつもと全然違うじゃない……」

 

 

「こら、暴れちゃダメ」

 

 

「ん、熱っ……!」

 

 

「やだ、私までなんだか身体が……」

 

 

「もう、そんなに吸ったってなにも……!?」

 

 

「え、嘘、なんで……?」

 

 

「ちょっ、落ち着きなさいってば!」

 

 

「……あーもう、こういう時はホントに甘えん坊なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございまーす……」

 

 翌朝、鉱人道士さんと蜥蜴僧侶さんに部屋の様子を見てくるよう頼まれた分身ちゃん。

 静かに扉を開け、中を窺っていますが……。

 

「ねぇ分身ちゃん、もしかして此処まで全部貴女の想定通りだったのかしら?」

 

 ベッドに腰かけた姿の女魔法使いちゃん。その腕には狂熱が引き、穏やかな表情で眠ったままお山をちゅーちゅーしている吸血鬼侍ちゃんが抱かれています。普段と違う点があるとすれば、吸血鬼侍ちゃんの口元から一筋零れている色が()()()()()ことくらいでしょうか。

 

「ぼうだいなまりょくをそそぎこんで、うつわをきょうかするぷらん。いまのそれはちょっとしたふくさんぶつだから、いじょうではありませんのでー」

 

 そう言いながら両手を胸の前に構え、左手の親指と人差し指で輪を作り、右手の人差し指を輪に通す仕草を見せつける分身ちゃん。

 

「つまり、けいかくどおり」

 

「そのドヤ顔と卑猥なジェスチャーをやめなさい! 今すぐ!!」

 

 ベッドに吸血鬼侍ちゃんを放り出し、真っ赤になって分身ちゃんを追いかける女魔法使いちゃん。騒ぎを聞きつけた男衆が駆け付けるまで追いかけっこは続き、その間、吸血鬼侍ちゃんが目を覚ますことはありませんでしたとさ。

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




煮物に味がしみこむまで失踪します。

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セッションその7 りざると

 休日は色々捗るので初投稿です。
 


 

 前回、分身ちゃんがあやしい企みを抱いていたところから再開です。

 

 急性的な魔力の過剰摂取によって体調を崩した吸血鬼侍ちゃん。それを介抱(意味深)した女魔法使いちゃんの身体にその時不思議な事が起こり、ちゅーちゅー(血)がちゅーちゅー(乳)に変化してしまいました。

 

 黒幕である分身ちゃん曰くただちに健康への影響はないそうですが、何か身体への違和感とか出てたりしませんかね?

 

「いや、不思議と調子は良いし、魔力も充実してるわね。なんというか、今まで使われていなかった機能が解放されたような気分?」

 

 確かに、お肌や髪の艶も良いですし、身体も軽そうですね。吸血鬼侍ちゃんの知らぬところでやらかした張本人の分身ちゃんは……下手な口笛を吹いて誤魔化す気満々の様子。まぁ必要が迫ったら教えてくれると思いますので、先に鉱人の里での用事を済ませてしまいましょうか。

 

 

 

 

「お、ようやっと来やがったな! それじゃ出すモン出してもらおうじゃねえか」

 

 工房には既に腕まくりをした隻眼鍛冶師さんが待ち構えていました。昨夜まで巻いていた包帯は全て解かれ、黒光りする肌と見事な白髭を晒しています。神官さんに≪小癒(ヒール)≫でもかけてもらったんですか? え、あんな怪我肉喰えば治る? 週間少年跳躍の海賊かな?

 

 綺麗に物が退けられた作業台の上に必要なものを≪手袋≫から取り出して並べていく吸血鬼侍ちゃん。真銀(ミスリル)のインゴットをはじめ、添加する鉄やクロム、モリブデンの粒、それに炎への耐性を期待して竜血も一袋出しておきましょうか。それと、一番重要なものを出すので大きめの容器を貸してくださいな!

 

「おうよ、そこの壺に頼まぁ!」

 

 隻眼鍛冶師さんの指差す先には大きめの酒瓶くらいの陶製の壺。うーん、もっと注ぎ口が広かったら壺の上で首を刎ねて一気に注いで(ヴァニラ・アイスごっこして)みたかったんですが。残念ですが漏斗を使って普通にやりましょう。

 

 分身ちゃんに押し付けるのも悪いと思って吸血鬼侍ちゃんがやるつもりだったんですが、なーぜ-かー昨晩までフルだった吸血ゲージが減っているので、分身ちゃんにお願いします(白目)

 

 漏斗の上で左掌を村正で貫き、切先から流れる血を瓶に注いでいきます。抜いたほうが出血量が多いんじゃないのと思われるかもしれませんが、抜くと再生が始まってあっという間に傷が塞がってしまうんです。だから、刺したまま微妙に刀を抜き差しする必要があるんですね。

 

 見てる周りが痛そうですが、刀をグリグリしている本人はいたって涼しげな顔。むしろあれは、減った血を補給するためにお昼何を食べようか考えている顔ですね。

 

 瓶の淵ギリギリまで注いだらしっかり栓をして、吸血鬼の血ボトルの完成です! そのうち凝固してしまいますが、合金に使用する際は砕いて使うので問題ないとのこと。

 

「うし、これで素材は揃ったな。竜皮は鞣し作業に入ってるから終わり次第加工に移るとして……チビ助とたわわっ子! ちょっとツラ貸しな!」

 

 おや、まだ何かあるんですかね。背後の布で仕切られた一画に呼ばれました。中は……どうやら採寸場のようですけど、一体何が始まるんです?

 

「お前ェらの狩ってきた竜が思いのほかデカかったからな。依頼の鎧に使ってもまだ素材が余っちまう。商工会で買い取っても良いんだが、せっかくだからお前ェらの装備も作ってやんよ」

 

 お、これは嬉しいサプライズ! 着々と魔法戦士の道を歩んでいる女魔法使いちゃんの防具は重要ですし、店売り品だと素のステータスに追い付かない吸血鬼侍ちゃんにとってもオーダーメイドは有難いですね。採寸するとともに愛用している武器を見せ、どういう方向性で装備を整えるか相談が始まりました。

 

「あまり重い防具だと魔法行使に影響が出るから、なるべく動きを阻害しない方向でお願いしたいのだけれど……」

 

「フムン……ほんじゃ革手袋(グローブ)外套(クローク)がええか。炎の耐性が上がれば得物の出力を上げても問題なくなるってもんよ。ついでに得物も置いてけ、こっちで赤竜の素材を組み込んで使い手に熱が伝わらんよう調整しといてやる」

 

 え、そんなこと出来るんですか!? そうしたら暫くは店売りの杖で凌いで、ゴブスレさんの鎧と一緒に送ってもらいましょうか。で、吸血鬼侍ちゃんはどんな感じがいいですかね?

 

「チビ助は防具なんざ着たって意味無ぇだろうが。もっと面白ぇモンを鍛えてやる!」

 

 そう言いながら吸血鬼侍ちゃんの腕の長さや村正を構えた時の脚幅、村正そのものの寸法を測り始める隻眼鍛冶師さん。もしかして鍛えてくれるのって……。

 

「おうよ! その湾刀……ムラマサだったか? そいつぁ只管に切れ味を追求した業物だ。したら相棒は魔力を秘めたカタナがお似合いってヤツだろ?」

 

 おー、村正を研ぎに出している間に使おうと思ってじいじに取り寄せを頼んだことがあるんですが、湾刀って全然市場に出回ってないんですよね。手に入らない割に作りが繊細なので、吸血鬼侍ちゃんの膂力で扱うとあっという間にダメになっちゃって……。あまりにも費用対効果が悪いのでメンテ中は素手(パンチ)で冒険していた吸血鬼侍ちゃんです。

 

「全部まとめて春までには仕上げて送ってやっから、出来上がりを楽しみに待ってやがれ!」

 

 お土産にドラゴンの正肉(しょうにく)と≪竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)≫用の牙、精霊術の触媒に使える竜皮の切れ端をどっさり貰った一党。令嬢剣士さんたちの進捗も気になりますので、辺境の街へと帰りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずるいずるいずるい! また私が居ないときに限って面白そうなことしてきて!!」

 

「おあ~……」

 

 はい、予想通りのリアクションありがとうございます。ギルドに戻るなり絡んできた2000歳児が、ドラゴン退治を耳にするなり吸血鬼侍ちゃんの肩を掴んでグラングラン揺さぶっています。

 

 分身ちゃんは目の下に隈をこさえた令嬢剣士さんに拉致され、女魔法使いちゃんは森人狩人さんと互いが不在の間にあった情報交換の真っ最中。どうやら吸血鬼侍ちゃんに救いはないようです。

 

 

「こっちが延々とゴブリン潰しをしている間にドラゴン退治とか、私も連れて行きなさいよ」

 

 酒場のテーブルに吸血鬼侍ちゃんと向かい合わせに座り、葡萄酒を呷るように飲む妖精弓手ちゃん。いや、ゴブスレさんを足止めするって言いだしたのはそっちじゃないですか。それに本来は鎧の発注に行くだけで、ドラゴン退治は予定にない突発的なものでしたし。

 

「あーあ、私も冒険がしたい。もっとドキドキを感じたい……」

 

「……ドキドキするのがぼうけん?」

 

「そう! 迫り来る脅威、死角から現れる強敵、手に汗握る宝箱の罠解除! その先に浪漫と達成感が……ってなに?」

 

 身を乗り出して力説する妖精弓手ちゃんに対してちょいちょいと手招きをする吸血鬼侍ちゃん。何の疑いもせず顔を近付ける妖精弓手ちゃんの唇に……。

 

 

 

 

 

 

 

 ちゅっ

 

「んなっ!?」

 

「ちょっとだけぼうけん。……ドキドキした?」

 

 不意打ちで触れるだけのちゅーをされて真っ赤になる妖精弓手ちゃん。なるほど、これは(意識の)死角から現れた、迫り来る脅威ですね。他に冒険を完遂するのに必要なのは……。

 

「キマシ?」

 

「キマシ!」

 

「尊死しそう」

 

「俺もあそこに混ざりたい……」

 

「百合の間に挟まりたい男子だ! 捕らえろ!!」

 

「おやおやおや? 妹姫(いもひめ)様ともあろうお方が、まさか口吸いのひとつで真っ赤に酔われてしまうとは。ひとつ上の森人(ハイエロフ)とはいえ、初心(うぶ)処女(おとめ)であれば致し方ありませんなぁ」

 

「うっさいわね! だいたいなによ『ひとつ上の森人(ハイエロフ)』って!? そんなんだから年中発情してるスケベ森人(エロフ)なんて不名誉な渾名付けられるんでしょ!」

 

 煽り勢筆頭(ギルド調べ)の森人狩人さんにからかわれ、ムキになって追いかける妖精弓手ちゃん。ギルド内を所狭しと駆け回る麗しの森人(エルフ)2人……実に絵になりますな! おや? 誰かが吸血鬼侍ちゃんの肩を叩いて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日の出てる間はイチャイチャするなって、私言いませんでしたっけ?」

 

 ヒエッ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吸血鬼侍ちゃんは受付嬢さんにお説教されてますので、その間に令嬢剣士さんに拉致された分身ちゃんの様子を窺ってみましょうか。恐らく森人少女ちゃんや監督官さんと一緒にいると思うのですが……ああ、ギルドの個室に詰めて作業をしているみたいですね。

 

「……というわけで、なんとか宰相閣下の承認を得るところまでは漕ぎ着けましたの。あとは一週間後の陛下との直接会談で勝負ですわ!」

 

「王都のギルド本部にも掛け合って、西方辺境を訓練場を含めた冒険者支援体制のテストベッドにする方向で話をつけました」

 

「陛下を説き伏せる最後の一押しを、主さまにお願いしたいのです」

 

 紙とペンを使って戦い続けていた3人。みんな肌色も悪く髪のツヤも落ちてしまうほどに疲弊していますが、瞳だけはギラギラと輝いています。剣を振らずとも、魔法を唱えずとも救える命が、守れる笑顔があるならばという想いでここまで頑張ってくれたのでしょうか。感謝を口に出そうとした分身ちゃんを指で制し、令嬢剣士さんが首を振っています。

 

「お礼を頂くにはまだ早いですわね。すべては陛下をご納得させることが出来るか否か。ご褒美に関しては、すべてが終わった後にたっぷりと請求させて頂きますわ」

 

「わかった。そのときはかなえられることなら()()()()するからね?」

 

 分身ちゃん!? ちょっと、まずいですよ!

 

「ん? 主さま……」

 

「今、なんでもするって」

 

「言いましたわよね?」

 

「……ほんたいが」

 

 あっ(察し)

 

 責任を本体に擦り付けようとしてますが、甘い考えですなあ。 監督官さんは分からないけど、2人がロックオンしてるのは分身ちゃんですから。残念だったねぇ!(JMNG)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして時計の針は進み、陛下へプレゼンする当日となりました。ついでに名残惜しいですが、≪手袋≫も返却する予定です。使い勝手が良いので、なんとか貸出期間を延長できませんかねぇ。

 

 前乗りで王都を訪れていた一党、当日王宮へ出向くのは令嬢剣士さん、森人少女ちゃん、分身ちゃんの3人です。え、吸血鬼侍ちゃんですか? 

 

「主さまは(わたくし)が説得してまいりました。計画の説明はしましたが、ハッキリ言ってこのプレゼンにはついてこれそうもないので……」という森人少女ちゃんの言葉で察してあげてください。

 

 代わりというわけではありませんが、吸血鬼侍ちゃん、女魔法使いちゃん、森人狩人さんの3人は先の知識神の文庫(ふみくら)訪問と、例の合金の製錬法を頂戴した報告を半鬼人先生にしに行く予定です。森人狩人さんは行ってないだろう? ほら、王宮に行かせるよりマシだから(白目)

 

 

 

 

 

 「……よかろう、卿の意見を是とする。上手くやって見せるのだな」

 

 お、どうやら王宮では令嬢剣士さんが立案したギルド主体の冒険者支援計画が承認されたみたいですね! 張り詰めた気持ちが緩んだからか、令嬢剣士さんの目には光るものが浮かんでいます。その後ろでは分身ちゃんと森人少女ちゃんがハイタッチ。≪転移≫の鏡で来ていた剣の乙女もホッとした表情ですね。赤毛の枢機卿と魔法の義眼の宰相もようやく肩の荷が下りたという眦をさげた珍しい顔を。これで少しは貧乏貴族の三男坊(暴れん坊陛下)の出現が少なくなれば良いのですが。

 

「じゃあへいか、てぶくろのへんきゃくといんごっとのひきわたし、おねがいします」

 

 分身ちゃんが本体から預かってきた≪手袋≫を取り出し、銀髪侍女さんに渡そうとしますが……おや、陛下が止めてますね。どうしたんでしょう。

 

「あー……。鉱人の城跡で見つけたインゴットについては後ほど国庫に納めて貰うが……」

 

 ううむ、果断を信条とする陛下が珍しく言い淀んでます。何か問題でも発生しましたか?

 

「いや、そうではない。……卿は、今暫くその魔具を使う気はあるか?」

 

 へ? いや、便利ですからあれば嬉しいですけど、陛下もよくご存知の通り、コレは流通を破壊する危険極まりない代物ですよね?

 

「無論使用には制限を設けるが……つまりアレだ、二匹目の泥鰌を狙うというヤツよ」

 

 あーなるほど。赤毛の枢機卿と宰相を見てみますが……赤毛さんは苦笑してますし、義眼さんはいつもの無表情のまま口笛を吹いてやがります。つまり、また埋蔵金を見つけて来いってことですよね?

 

「幸い混沌の軍勢が現状攻め入ってくる気配は無い。兵站にも若干の余裕がある故、その魔具の優先度は高くはない。ならば有効に使える有能な人物に預けることに問題はなかろう」

 

 耳障りの良い褒め殺しに聞こえますが、「放置しとけばネームドを斬り殺して回る野良ユニットを使い倒してやるぜ」をオブラートに包んでいるだけという悲しさ。まあ≪手袋≫の有用性は冬の間に証明されてますので、貸してくれるというなら素直に借りておきましょう。

 

「そうか! あーいや、無限に資源が湧いてくるハンマーや、畑に植えるだけで優秀な兵士が採れる種子など有効な魔具を見つける事、期待しているぞ!」

 

 ちょっと物欲駄々洩れ過ぎやしませんか??? 後ろで赤毛さんが真顔になってますよ陛下。あと竜退治をしても国庫が潤うほどは貯めこんでなかったです。……ホントですよ?

 

 

 

 

 

「しかし残念だったね、弟君と会えなくて」

 

「薬学の実習で泊りがけで出てるんじゃしょうがないわよ。先生に言伝はお願いしたから問題はないでしょ。もう小さな子供じゃないんだから」

 

 さて、半鬼人先生を訪ねて学院に向かっていた3人ですが、報告が終わって街中を散策している様子。会話から察するに、今回も弟君は女魔法使いちゃんに会えなかったみたいですね。

 

 あの先生がご主人様がボコボコにされた相手なんだろう?とからかわれ、涙目になっている吸血鬼侍ちゃん。どうやらトラウマ克服までの道のりはまだまだ時間がかかりそうな予感。

 

 まだ合流までは時間があるし、先に何処かでお昼を食べましょうかという女魔法使いちゃんの提案で屋台が並ぶ広場へやって来た3人。腸詰を麺麭に挟んだものや、揚げた魚と芋の皿盛り、大きな平鍋で炒め上げられたピラフなど美味しそうなものばかりです。

 

 早くも森人狩人さんは腸詰の麺麭挟みに齧りつき、溢れる肉汁を堪能してますね。女魔法使いちゃんは移動式の石窯で、小麦粉の生地に蕃茄のソースとチーズを乗せて焼いた平麺麭に興味津々の様子。さて、吸血鬼侍ちゃんは何にしようかな……。

 

 

 

 

 

「ンンン~? まさかこのような場所でお会いするとは奇遇ですねぇ!」

 

 う わ あ 。食事時に見たくない知り合い上位ランカーのエントリーです。塊のまま直火で炙り表面を削った肉を麺麭に挟んだ最近流行の軽食を片手に、相変わらず腰をグラインドさせながら歩いてきました……。

 

 特徴的なアイシャドウに道化師を模した装束、相変わらず変な色の舌ですねこの不死の蛞蝓(フラック)は。あんまり近寄らないでいただけます? 一緒にいるところを見られて、知り合いに噂とかされると恥ずかしいし……。

 

「おやつれない。赤竜を吸い殺した麗しき吸血姫の詩は王都でも好評を博しているというのに」

 

 いやいや、ちょっと誇張が激しすぎやしませんかねぇ? 吟遊詩人の詩なんてそんなもん? そうかも。で、わざわざそれを言うためだけに顔を出したとでも?

 

「いいえ、また稼がせて頂きましたので、今回はちょっとしたプレゼントをお持ちしました!」

 

 どーぞと言わんばかりに無理矢理手にねじ込まれたのは()()()()()に包まれた小さな包み。余程軽い物が入っているのか、持っているのを忘れそうなほどの重さです。

 

「そう遠くない未来、具体的に言えば3セッション後くらいの冒険で必ずお役に立ちますとも! では、良き後日談を……」

 

 言いたいことだけ言って姿を消す道化師。相変わらず第四の壁を突破してきますね……。あれ、今のって収穫祭の時の……と女魔法使いちゃんが言ってますが、いいえ人違いです(迫真)

 

「いや、どう見ても知り合いでしょ、プレゼントまで貰ってるし。……中身は何かしらね?」

 

 すっごく開けたくないんですが、開けないと詰む可能性がある以上覚悟を決めますか!

 

 

 

「……私の目には何も入ってないように見えるんだけど、ご主人様には何か見えているのかな?」

 

 腸詰の麺麭挟みを食べ終わった森人狩人さんが、顎を吸血鬼侍ちゃんの頭に乗せながら覗き込んできます。リボンと包装を解き、開けた箱の中身はからっぽ。森人狩人さんがひょっとして噂の『馬鹿には見えないアイテム』ってヤツかなーなんて言ってますが、大丈夫、()()()()()()()()()()()()()()

 

「え、じゃあ今の変なヤツ、空の箱を押し付けていったってこと?」

 

「……ううん、たぶんわたしたかったのはこっち」

 

 包装に使われていた()()()()()を、フードに付けていたリボンと交換しながら呟く吸血鬼侍ちゃん。()()を寄越してきたってことは、しっかり備えておけという彼なりのお節介かもしれません。

 

「しばらくはだいじょうぶ。でも、ちょっときをつけないとかも」

 

「そう。じゃあ今はゴブリンスレイヤーの結婚式と、装備の受領の事だけ考えときましょうか」

 

 それに、何かあったらちゃーんとみんなを守ってくれるんでしょ? と言いながら吸血鬼侍ちゃんのほっぺたを指でつついています。馬鹿にされたと思ったのか、つつかれる瞬間にぱくりと口に含み、熟練の舌使いで舐り始める吸血鬼侍ちゃん。ひゃんと可愛い声を上げる女魔法使いちゃんと、羨ましそうな顔で指を突き出してくる森人狩人さんを引き連れて、向こうから歩いてきた王宮組に手を振っています。

 

 あ、変装した剣の乙女が一目散に駆け寄って来まし……おっと! 転びそうになったところに吸血鬼侍ちゃんが滑り込んでギリギリセーフです。そんな慌てなくても逃げたりしないので、気を付けてくださいよ? また放置プレイが続いて寂しかった? これから暫くは時間に余裕があると思うので、ちゃんとお仕事を片付ければいつでも会えますから、ね? 

 

 慌てて駆け寄ってきた面子と合流し、とりあえずお昼にしようという流れに。さっきペロリと平らげていた森人狩人さんは……まだまだいけるって顔をしてますね。吸血鬼侍ちゃんは分身ちゃんの手に≪手袋≫があるのを不思議そうな目で見ていますが、そのあたりも何処か座れるところでゆっくりとお話ししましょうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 




最近夜明け前に目が覚めてしまうので失踪します。

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セッションその7 えんだあみっしょん

 苦行用BGMを聞きながら執筆したので初投稿です。


 そろそろ年貢の納め時な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 寒さも和らぎ、訓練場の建設に向けての人足の募集がチラホラ聞こえ始めました。

 

 鉱人の里から依頼の品が出来たので送ったという連絡が早馬で来たため、吸血鬼侍ちゃんをはじめとする関係者はギルドで輸送便の到着を今か今かと待っているところです。

 

 万が一にも受領の現場を見られないよう、牛飼娘さんにお願いしてゴブスレさんは終日牧場のお手伝いです。何件かゴブリン退治の依頼はありましたが、事情を知った重戦士さんが纏めて引き受けてくれました。年少組の実戦訓練になると(うそぶ)いていましたが、女騎士さんに素直じゃないと突っ込まれ仏頂面のまま出発。ギルドに居合わせた冒険者の生暖かい視線を集めていました。

 

「今、街の入り口まで来たわよ!」

 

 待つのに我慢が効かず、屋上から見張っていた2000歳児がギルドに飛び込んできました。お土産を待つ子供じゃないんだから、もうちょっと慎みを持ったほうがいいのでは?

 

 

 

「お待たせしました! 中に入れていただいて大丈夫ですよー!」

 

 業者の差し出す紙片に受領のサインを書き込んだ受付嬢さんが屋内に向かって声をかけると、待ってましたとばかりに外へ飛び出す一党。大きさがまちまちな木箱の山を、あっという間に運び入れてしまいました。

 

 

「さて、まずは私のから開けてみようか」

 

 木箱に添付されていた明細を確かめ、武具店のじいじ(店主)から借りたバールのようなもの(工具)で蓋をこじ開ける森人狩人さん。木屑に埋もれる形で納められていた布包みを取り出し、ウキウキとした手付きで開封していきます。本人はクールな表情をしているつもりなんでしょうが、長耳がピクピクしているので全員にバレバレです。かわいい。

 

「うん、バランスもいい感じだ。それじゃあ……≪雷電(トニトルス)≫!」

 

 形状は以前とさほど変わらないように見える戦棍を二度三度試し振りをした後、みんなに少し離れるよう告げた後に真言を唱える森人狩人さん。先端の球が帯びる雷光は以前に比べ輝きを増し、仕様書によると振り抜けば雷球として撃ち出すことすら可能なんだとか。

 

「凄い……。いいえ、(わたくし)も必ず使いこなせるようになってみせますわ!」

 

 冒険者支援計画から解放され、やっと自らの鍛錬の時間が出来た令嬢剣士さん。基礎体力作りと並行して真言の単語発動を学んでいる彼女のやる気が高まっているようですね。同じ軽銀製の相棒がいるんですから、鍛錬を続ければそう遠くないうちに出来るようになると思いますよ。

 

 

 

「ええと、こっちが私の箱ね。さて、何が出てくるのやら……」

 

 森人狩人さんより少し大きめの木箱を開ける女魔法使いちゃん。同じく木屑に埋もれる形で、愛用の爆発金槌とともに大小2つの革の巾着袋が入っていました。

 

 小さな巾着の中には相談の時に話していた革手袋が。素材となった赤竜の手を模しているそれは、一見すると蜥蜴僧侶さんの手だと錯覚するほど精巧に作られています。

 赤竜の爪から削り出されたのでしょう、両手10本の指先すべてに小さな爪が生え、≪布鎧(キルトアーマー)≫程度なら軽々と引き裂いてしまいそうです。ゴブリンに懐に潜り込まれてもそのまま反撃出来るのは、精神的にも安心ですね!

 

 もうひとつの大きめの巾着の中にも隻眼鍛冶師さんが提案していた外套(クローク)が折りたたまれた状態で入っていました。女魔法使いちゃんが広げてみると、翼の皮膜を重ねて縫い合わせているのでしょうが、何故か薄手の生地の中に細長い芯が何本も埋め込まれているようです。なんでしょうこれ?

 

「ほほう……。おおい眼鏡っ子や、たしかこの間≪浮遊(フロート)≫を覚えとったろ? それを着てからちいと唱えてみろい」

 

「ん、わかったわ。≪(ウェントス)≫……≪一時(セメル)≫……≪接続(コンキリオ)≫」

 

 仕様書を覗き込んでいた鉱人道士さんの言葉に従い、外套を羽織って呪文を唱える女魔法使いちゃん。鉱人の遺跡や知識神の文庫の時など、飛行での移動頻度が増えてきたため、魔術師の位階を上げた際に≪浮遊(フロート)≫を習得していました。

 自力で飛行可能な人数が増えれば吸血鬼侍ちゃんの負担も減りますし、戦い方のバリエーションも増えますからね。あ、でも一番の理由は『吸血鬼侍ちゃんと空中散歩をしてみたかったから』だというのは秘密だそうです。めっちゃかわいい。

 

 呪文が完成し、床面から僅かに浮かび上がる女魔法使いちゃん。するとどういうことでしょうか、身体を覆う形であったはずの外套がシュルシュルと広がり、内に仕込まれていた芯を基点に竜の翼のように展開しました!

 羽ばたく必要はないのか女魔法使いちゃんの動きに合わせて揺れていますが……おや、何やら女魔法使いちゃんが念じると、翼を閉じたり、身体を外から隠すように覆ったりできるようですね。

 

「その外套は着用者が≪浮遊(フロート)≫を唱えている間、術者の意思を感知して動く様になっとるらしい。術者の呪文維持も補助してくれるみたいじゃの。芯材には例の合金に加え、竜血も混ぜ込んだと書いてあるわい」

 

 口は悪いが腕は確かなのが小憎らしいと続ける鉱人道士さんですが、立派なマジックアイテムじゃないですかこれ! 流石鉱人驚異の技術力(メカニズム)とでもいうべきでしょうか。妖精弓手ちゃんと森人少女ちゃんが女魔法使いちゃんの手に掴まってふよふよ浮いている感じから、移動だけなら2人くらいは運べそうですね。……あ、後ろから森人狩人さんが飛び乗ったら流石に墜落しました。3人は無理だな(確信)

 

 

 

 さて、ゴブスレさんの装備一式は一番大きな木箱に入っているということは、この細長い木箱に吸血鬼侍ちゃん用の刀が入っているはずなんですけど……圃人サイズにしてもやけに小さいです。どうみても刀が入っているような大きさじゃありませんよこれ。

 

「まぁまぁ、鍛冶師殿は約束を違えるような御仁ではござらん。まずは中身を確かめてみては?」

 

 蜥蜴僧侶さんがそう言うならしょうがないにゃあ。吸血鬼侍ちゃんが箱から取り出した深紅の袱紗に包まれていたのは、長さ30㎝ほどの短刀。半分以上を柄の部分が占め、鞘は10㎝にも満たない不思議な形状をしています。鞘がこれだと刀身はもっと短いと思うんですが……これどうやって使うんでしょう? ちょっと仕様書を拝借して……ほうほう、またこれはマニアックなモノを鍛えたもんですねぇ。

 

「ていっ」

 

「ちょっ!? 何いきなり馬鹿な事してるのよ!」

 

 もはやキャップといったほうが良さそうな鞘から刀を抜き、黒い刀身にチラつく火の粉の如き刃紋が浮かぶそれを自らの心臓に突き立てる吸血鬼侍ちゃん。それを見て転倒状態から復帰していた女魔法使いちゃんが慌てて止めさせようとしますが……。

 

「おお~……!」

 

 ずるりと胸から引き抜かれた刀は大きく姿を変え、まるで血を吸って成長するように赤い刀身が鍔元から形成されました。鎬には熾火のように僅かな炎が揺らめいて見え、そこから滴り落ちる血は刀身を離れた刹那に燃え上がり、床に着く前に自らの纏う火で燃え尽きていきます。

 

「どうやらちみっ子の血を触媒に力を発揮する魔剣……いや、妖刀と呼ぶべきかの」

 

 けったいなモンばかりこさえよってと憤慨する鉱人道士さんですが、吸血鬼侍ちゃん的には大当たりです! 陽光の届かない場所であればいくらでも再チャージできますし、物理属性以外の攻撃手段が手軽に振れるのは有難いです。後で裏庭で試し振りしなきゃ(使命感)

 

 

 

 さあ、今までの品物はあくまでも前座。メインディッシュはこれからです。

 

 蜥蜴僧侶さんでなければ抱えられないほどの大きさの木箱。厳重に梱包されており、鉱人道士さんもなかなか開けるのに苦労している様子。いっそ外箱を斬ったほうが早いんじゃないですかね?

 

「そのほうが早えか。そんじゃちょっくら頼まあ」

 

 了解ですのん。流石に燃えると拙いので村正を構え、上面をスパッと切断する吸血鬼侍ちゃん。切り離された上部を脇に退かし、露わになった内部を一斉に覗き込む一党の面々。

 

 

「「「「「「「「「「「おお~」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、オルクボルグと可愛いお嫁さんの幸せと、此処に集ったすべての人の輝かしい未来を願って……乾杯!!」

 

 既に場の空気に酔っているっぽい妖精弓手ちゃんの音頭が響くギルドのホール。偶々居合わせた冒険者や牧場の取引相手の人たち、休暇を取っていたギルド職員まで巻き込んでの祝いの宴が始まりました!

 

 中心にはいつもの鎧を脱ぎ、この日のために仕立てられたフロックコート姿のゴブスレさんと、蜂蜜色のロングプリーツドレスを着た牛飼娘さん。流石に純白のウェディングドレスではありませんでした。他の目的に着回しが出来ないですし、そう何着も礼服を買うような社会でもありませんからね。

 

 

 

 結婚式は牛飼娘さんの意向で地母神の神殿で行われ、新婦側の親族として伯父さんが。新郎側は親族が全員亡くなっているために友人として()()()()()()()()がお呼ばれされていました。最初ゴブスレさんから声をかけられた時は2人ともまたゴブリンが牧場を狙っているのかと身構えたそうですが、事情を聞くなり快諾したみたいです。

 

 2人のパートナーとして魔女パイセンと女騎士さんが出席し、ゴブスレさんが自分の一党と吸血鬼侍ちゃん一党、重戦士さん一党を招待。

 

 あの時間、間違いなく地母神の神殿が西方辺境で一番戦闘力が高い場所になっていましたね。

 

 

 式の進行役を務めたのは女神官ちゃん。本来は上司である神官長さんが相応しいものですが、本人の強い希望と牛飼娘さんの意向で彼女が任されたそうです。いつもの気弱そうな雰囲気は霧散し、終始厳かな空気の中で進む婚姻の誓い。最後のキスの場面ではじめて泣き笑いのような表情を見せ、2人に幸せが訪れるよう地母神に祈りの言葉を捧げていました。

 

 

 なお、神殿前で行われた新婦からのブーケトス。圃人の少女巫術師()()や見習い聖女ちゃん、受付嬢さんらが次の幸せを掴まんと手を伸ばす中、勝ち取ったのは女騎士さん。勝利の咆哮を上げる姿は雄々しくも美しいものでした。重戦士さん、ちゃんと面倒みてあげてくださいね?

 

 

 

 

「うっし、そろそろ()()()お色直しといこうかの! かみきり丸よこっちゃ来い来い!」

 

 槍ニキにダル絡みされていたゴブスレさんを引っ張り出し、武具店のほうに連れ出す鉱人道士さん。待機していたじいじ(店主)とともに裏の倉庫へと消えていきました。

 

「あははっ、新婦(わたし)じゃなくて新郎(かれ)がお色直しするなんて面白いね!」

 

 魔女パイセンと会話が弾んでいる牛飼娘さんも、突然のイベントに期待が高まっているみたいですね。事情を知らない冒険者たちもゴブリンの着ぐるみか?それとも花嫁衣裳か?とトトカルチョを始める始末。10分ほどで戻ってきた鉱人道士さんとじいじのやり切った(おとこ)の顔が、皆の期待を高めていきます。え、吸血鬼侍ちゃんが音頭をとれ? しょうがないにゃあ(いそいそ)

 

 

 

「「それじゃあみんな、こえをあわせて~……せーのっ」」

 

 

 

「「「「でてこいゴブリンスレイヤー!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……呼んだか?」

 

 

 

 

 

 

 呼びかけを受けて姿を現したゴブスレさん。一同が目にした予想外の、ある意味予想通りの姿に皆が声を失ってしまいました。

 

 深みのある赤と山吹色で構成された竜革の鎧(ドラゴンハイドアーマー)。その上に重ねられているのは、艶の無い黒地に赤い紋様が描かれた例の合金製の部分鎧。墨の上から血を垂らしたようなそれは、言われても真銀(ミスリル)製とは思えない禍々しさを醸し出しています。籠手(ガントレット)脚甲(グリーブ)も同様の素材で作られ、首元はこれも竜革と思しき襟巻で、急所を隠すよう意匠を凝らしてありますね。

 

 兜は今まで使っていた量産品と大きく形状が変わったわけではありませんが、かつて側面から突き出ていた角部分は初めから存在せず、その分の重量を全体の厚みに回し着用時の違和感を無くしてあるとのこと。また、兜の素材にも吸血鬼侍ちゃんの血が混ぜられ、着用者に兜を通して暗闇を見通す目を与えてくれるそうです。

 

「鉱人の里の職人が、持てる(わざ)の全てを注ぎ込んで鍛え上げた逸品。隻眼鍛冶師(あの馬鹿)の言葉を借りるなら≪複合素材鎧(コンポジットアーマー)≫とでも言うべき代物だあな」

 

 口調こそ荒っぽいですが、鉱人道士さんの顔には誇らしげな笑みが浮かんでいます。鉱人の持つ技術の成果が、こうやって皆の前に出来上がったのですから。

 

「ようやく銀等級らしい装備になった……って言いたいところだが、ヤベェなそれ。魔法を齧っただけの俺にだって分かるくらい魔力が籠められてやがる」

 

 どこでそんな素材手に入れたんだと問う槍ニキ、少し考えた様子のゴブスレさんが返した答えは……。

 

「……『冒険で』だ」

 

 その答えに絶句した後、爆笑する槍ニキ。そうじゃねえけど、まあそうだよな! と笑い転げています。周りの冒険者たちもゴブスレさんの返答に驚き、そして同じように笑い始めました。その笑いはかつての嘲りや侮りを含んだものではなく、まるで初めて冒険に成功した新人(ルーキー)を祝福する、そんな空気を伴っているように見えます。

 

 

 

 

「ゴブリンスレイヤーさん。その鎧も含めて、多くの人が貴方を応援してくれています」

 

 突然立ち上がり、ゴブスレさんに指を突き付ける女神官ちゃん。さっきまで監督官さんと妖精弓手ちゃんの胃壁をガリガリ削りながら受付嬢さんとヤケ酒をしていたので目が据わっていますよ。

 

「でも、それはゴブリンスレイヤーさんの無事な帰還を願うものであって、より危険な場所に赴くためのものじゃないんです。そこを履き違えてはいけません」

 

 グイグイとゴブスレさんに近付き、兜越しにキスが出来そうな距離まで間合いを詰めていきます。そのまま胸甲を指で撫で上げ、兜を両の手で押さえ少しずつ顔を寄せる女神官ちゃん。

 

「家族だけが、貴方の事を想っているわけりゃないんれふからね~……」

 

 おっと! 酔いが回ったのか話し途中で崩れ落ちてしまいました。ゴブスレさんが支えた彼女を監督官さんが引き取り、同じく酔い潰れた受付嬢さんと並べて毛布をかけています。想いは秘めたままじゃ辛いですからね、酒の力を借りてでも発散したほうが良いこともあるでしょう。

 

 

 

「貴女も、そっちの双子ちゃんもありがとうね。みんなが彼を助けてくれたから、こうやって一緒になれたんだと思う」

 

「たいせつななかま」

 

「たよれるあいぼう」

 

「「ぼくとおなじ『ゴブリンスレイヤー』!!」」

 

「……そっか、ちゃんと彼にも分かり合えるお友達がいたんだ。良かった……!」

 

 吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん、2人に幸せに満ちた笑顔を向ける牛飼娘さん。そのまま2人をぎゅっと抱き締めてくれました。この笑顔を守るためにゴブスレさんは終わりのない戦いを続けてきたんですよね……。

 

 女神官ちゃんの背格好だと牛飼娘さんのお山が顔面直撃コースですが、残念ながら2人の身長ではおへそのあたりが限界です。それでも肌触りの良い服越しに感じる女性特有の柔らかさと暖かさが心地よいのか、2人とも目を閉じてぺたりと顔をくっつけています。

 

 後でみんなに怒られても知らないからね……って、2人とも突然何かに気付いた様子で牛飼娘さんの腰に手をまわし、耳を彼女のおなかにあて、何かを聞き取ろうとしている様子。

 

 え、まさか……。

 

「えっと、どうしたのかな2人とも?」

 

「もうひとつのこどう!」

 

「あたらしいいのち!」

 

 

 

「「あかちゃん!!」」

 

 

 

「……本当か?」

 

 2人の声に静まり返る空間。ギギギ……という擬音が聞こえてきそうな動きでこちらを振り向くゴブスレさん。コクコクと頷く2人を見て、そうか、と呟いた切り動かなくなってしまいました。

 

「え、だって彼としたのって初めてのときだけだから……」

 

 あらら、牛飼娘さんは頬に手を当て真っ赤になっちゃいました。まさか初弾命中とはやりますねゴブスレさん! 流石銀等級!!

 

 男衆にもみくちゃにされた挙句何故か胴上げをされている動かざるゴブスレさんと対照的に、女性陣に囲まれて、おなかや肩を触られている牛飼娘さんは戸惑いながらも嬉しさを隠せない様子。

 

 乗るしかない、このビッグウェーブに!と拳を固めた女騎士さんと、捕食者の眼光を浮かべた魔女パイセンがパートナーを捕獲し、二階へと消えていきました。明日の日を拝めるといいですね!

 

 

 

 

 冒険者の結婚ラッシュが始まる予感を感じますが、実を結ぶまではまだ余裕があるでしょう。その間に訓練場の建設や新人の育成、やることはたくさんあります。吸血鬼侍ちゃんも準備のためにそろそろお暇しましょう「あら、なに素知らぬ振りして帰ろうとしているのかしら?」……か?

 

「結婚式が終わって、漸く纏まった時間がとれるのだから、ちゃんとみんなに付き合ってあげなさい? 義妹(いもうと)ちゃんや後輩とも約束したらしいしねえ?」

 

 ()()()()()()()()って、と笑みを浮かべる女魔法使いちゃんの背後には酒気ではない何かで上気した顔の森人少女ちゃんと令嬢剣士さん。分身ちゃんを両側から挟み込み、そのまま一足先に家路に。森人狩人さんは抱えていた妖精弓手ちゃんを吸血鬼侍ちゃんに渡し、上手くやりたまえよご主人様とちょっと子供には見せられない笑みを浮かべています。

 

「むりやり、ダメ、ぜったい」

 

「そうだね、でも互いの理解があればそれは合意というものだよ」

 

「……あんまり乙女に恥かかせるんじゃないわよ」

 

「おさけのいきおいではちょっと……。はじめてならなおさらだいじに、ね?」

 

 ……どうやら意志セーブと交渉判定には成功したようです。じゃあ()()()()普通に寝ましょという女魔法使いちゃんの言葉に従いギルドを後にすることに。まるで普通じゃない寝るがあるみたいな言い方ですね(震え声)

 

 

 

 自宅への帰り道、最後尾を歩く吸血鬼侍ちゃんにお姫様抱っこされた状態の妖精弓手ちゃん、最初は降ろしなさいよと暴れていましたが、長耳に牙を擦り付けられた途端に大人しくなってしまいました。涙目になって吸血鬼侍ちゃんを睨みつけています。

 

「そうやって他の娘も毒牙にかけてきたんでしょ? このエロガキめ」

 

「そうだよ、わるいきゅうけつきだもの。……けいべつする?」

 

「しないわ。おっぱい女たちは兎も角、森人義姉妹(あの2人)は私があんたっていう甘美な地獄に突き落としたんだもの。その罪から逃げるつもりは無いわ」

 

 だから私も毒杯を呷るの、と言って吸血鬼侍ちゃんの首元に顔を埋める妖精弓手ちゃん。そのまま歯を立て、吸血の真似事をしています。

 

「ジャガーノートよりもいたいかなぁ」

 

「嘘おっしゃい、もう治ってるくせに」

 

 

 

 ……どうやら女魔法使いちゃんと森人狩人さんは、空気を読んで先に歩いて行ったみたいです。姿の見えない2人を探すように視線を彷徨わせる妖精弓手ちゃん。置いてけぼりにされた子供か、或いは迷子の子猫のような表情を浮かべたまま俯いてしまいました。

 

「ぼくでよかったら、ずっといっしょにいるよ?」

 

「『で』なんて言ってるうちはまだまだね。もう少し乙女心を勉強しなさい」

 

「ぼくはおとめじゃなかった……?」

 

 

 

 気の利いたことを言おうとしてバッサリ切り捨てられ、ちょっと凹んだ吸血鬼侍ちゃんを見てほんの少し明るさを取り戻したみたいです。

 

 どんな選択肢を選んでも、それが自分の決めた道であるのなら後悔は無いはず。もし叶うなら、みんな『が』幸せになる道が見つかりますように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。




MTGAで新しいドラフトが始まったので失踪します。

いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がりますのでよろしくお願いいたします。

お読みいただきありがとうございました。


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セッションその8ー1

 節分に豆を年齢分食べるのが辛かったので初投稿です。



 たくさんの人に春が来た実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、ゴブスレさんの結婚を盛大にお祝いしたところから再開です。

 

 幸せ溢れる宴から数日後の早朝、吸血鬼侍ちゃん一党の拠点ハウスに今日も女魔法使いちゃんの声が響いています。

 

「ほら、さっさと準備する! 建設現場近くでゴブリンの目撃情報よ!」

 

 どうやら朝一でギルドの張り出しを見に行ってくれてたみたいですね。寝坊助な面々を起こそうと寝室のドアを開けた女魔法使いちゃん。おや、内部の状況を見て頭を抱えちゃってます。どれどれ、どんな具合なんでしょうか。

 

 

 

「ん……ちゅっ……ぷぁ。……これでくるしくない?」

 

「はい、とても楽になりました。……また、夜にお願いしても?」

 

「もちろん。ちのかわりにすわせてくれてありがとう」

 

 艶めかしい曲線を描く剣の乙女のお山をちゅーちゅーしていた吸血鬼侍ちゃん。服の乱れを整え、どこかスッキリした様子の剣の乙女に優しく抱き寄せられ、一党内最大のふかふかを堪能してますね。

 

 キングサイズベッドの奥側には、同じく分身ちゃんにちゅーちゅーされている令嬢剣士さん。分身ちゃんが吸うままに任せ、鼻歌を歌いながら頭を撫でる姿は慈しみに溢れています。

 

「……ふふ、まさか子を宿していないのに母親の真似事をするようになるとは。運命とはまこと奇妙なものですわね」

 

「……やっぱりきもちわるい? おっぱいがでるのも……きゅうけつきも」

 

「そんなことありませんわ。最初は驚きましたけど、より深い絆で皆さんと結ばれましたもの」

 

 不安そうな表情を浮かべる分身ちゃんを胸に埋めながら微笑む令嬢剣士さん。血『で』繋がった関係というのも悪くありませんわと優しく頬をつつかれ、差し出された指をぱくりと口に含む悪戯に成功した分身ちゃんにもちょっとだけ笑みが戻ってきました。

 

 ……いつもの光景ですね、ヨシ!

 

 

 女魔法使いちゃんに起きたのと同じ現象が2人にも発生してますが、ここ数日みんなの協力で行われた()()によって、竜血(スタドリ)を摂取した吸血鬼侍ちゃんの魔力を体内に取り込んだ際の変化について、いくつかわかったことがあります。

 

 まず、身体能力及び魔法行使能力の一時的向上。流石に集団的祝福(+3/+3修正)ほどではありませんが、清浄の名誉(+1/+1修正)くらいは強化されるみたいです。

 

 次に、体内にストックされている吸血鬼侍ちゃんの魔力を消費することで、消費した呪文回数を1回復活させることができました。勿論消費した場合強化修正は消えてしまいますが、一党全員の呪文回数が増加すると考えれば素晴らしい効果と言えるでしょう!

 

 ……ただ個人差があるのですが、代償として魔力をストックしている間、胸が張ってしまったり人によっては母乳が出てしまうという状態異常が起きることも判明しました。現在確認されているのは只人の3人。森人の2人には起きていないので、もしかしたら種族差が関係しているのかもしれません。

 

 何故オパーイにそんなことが起きてしまうのか。

 吸血鬼侍ちゃんの頭脳担当である分身ちゃん曰く、『そそいでたいないにのこっているまりょくは『ぼく』のいちぶみたいなものだから、からだがあかちゃんとかんちがいしちゃってるんだとおもう。つかってなくなればもとにもどるから、しんぱいしなくてもだいじょうぶ』とのこと。

 

 どうやら少しずつ魔力を身体に馴染ませて、眷属化の際に失敗するのを防ぐ試みのようです。みんなは強化修正と呪文回数が増えてうれしい、吸血鬼侍ちゃんはちゅーちゅーするときに吸血ほど相手に負担をかけなくて済むからうれしい。……一石二鳥ですね!(白目)

 

「まあそうね。傍から見たら性的倒錯者の集団であることを除けばだけど」

 

 ジト目で一党を眺める妖精弓手ちゃん。魔法が使えないから関係ないし、そんなはしたない真似できるかとぷんすこしています。吸血鬼侍ちゃんにお山がおっきくなるかもしれないよと言われた時の懊悩とした表情はなかなか見応えがありました。

 

 

 

「分身ちゃんは監督官さんと約束があるんでしょ? 業務開始時間に間に合わなくなるわよ?」

 

 女魔法使いちゃんの指摘を受け慌てて支度を始める分身ちゃん。いつもの長衣とフードの恰好ではなく、予め監督官さんに渡されていた服に着替えています。装飾の施されたシャツに膝丈のサスペンダー付きズボン。白のソックスと非常にマニッシュなデザイン。髪型もメカクレからオールバックに整えられ、ぱっと見は貴族の少年にしか見えなくなってしまいました。

 

 『この格好で一日ギルドでアルバイトして欲しい!』というのが監督官さんの()()()()の内容でした。細部まで凝った指定をしてくるあたり、やはり筋金入りの変態淑女ですねクォレハ……。

 

「よくお似合いですわ。今日一日、ギルドのお手伝い頑張ってくださいね」

 

「ありがとう! それじゃいってきます、()()()()()()

 

「い、いってらっしゃい! ……ふぅ、危うく乙女心が噴出してしまうところでしたわ」

 

 手を振りながらギルドへ向かっていった分身ちゃん。それを見送る令嬢剣士さんは鼻を抑え、必死に何かを耐えている様子。自分からお願いしたことでやられてちゃ苦労しませんて。

 

 『(わたくし)のことは、是非お姉ちゃんと呼んでくださいまし!』という令嬢剣士さんの()()()()ですが、なかなかの破壊力を秘めているようですね。剣の乙女と女魔法使いちゃんも「いい……」「いいわね……」という顔で歩いていく分身ちゃんの後姿を眺めています。

 

 

 

「っと、危ないところだったわ。義妹(いもうと)ちゃん、そこの愚義姉(ばかあね)は……ダメみたいね」

 

「はい、流石に今回は耐えきれなかったようで。本日は寝かせておいてあげたいと思います」

 

 我に返った女魔法使いちゃんが見る先には、輝かんばかりの裸体を惜しげもなく晒して寝ている森人狩人さんと、上からシーツをかけている森人少女ちゃんの姿。まず先に≪浄化(ピュアリファイ)≫をかけているあたり、昨晩の惨状が容易に想像できますね。

 

 『最近セクハラや親父ギャグなど、目に余る言動を繰り返している上姉様を()()()()()くださいませ』という森人少女ちゃんの()()()()。一応決行する前に森人少女ちゃんが反省を促したのですが聞き入れてもらえず、仕方なく実力行使に出ることに。

 

 竜血(スタドリ)を連続摂取しながらの終わりのないちゅーちゅータイム。慈悲を乞う森人狩人さんに対し、「まだ話す余裕があるのですね。では続けてください主さま」と素敵な笑みを浮かべながら言葉を返す森人少女ちゃん。

 その笑顔に恐怖した2人はより一層激しくちゅーちゅーし、途中から参戦した森人少女ちゃんと3人でユニバァァァス!!した結果、なんとか()()()()()ことに成功しました。

 

「私が主さまから注いでいただいた幸せを、上姉様にも味わっていただきました。きっと幸福な夢を堪能されていることでしょう」

 

 曇りなき眼でそう言ってのける森人少女ちゃん。やっぱり重量級なんだなーと再認識させられちゃいましたね……。

 

 

 

 

 さて、剣の乙女を仕事に送り出し、森人狩人さんは寝かせたままギルド訓練場の建設現場へ向かう一党。吸血鬼侍ちゃんは女魔法使いちゃんと妖精弓手ちゃんを、分身ちゃんは森人少女ちゃんと令嬢剣士さんを抱えて飛行中です。

 

 え、重さを均一にするなら妖精弓手ちゃんと森人少女ちゃんは逆じゃないかって? 好きな娘をぎゅってしたいんだよ言わせんな恥ずかしいってやつみたいです。すごくいい……(恍惚)

 

「今回の依頼、ギルドはゴブリンスレイヤーに回すつもりで除けておいたみたいだけど、計画に携わってる私たちが受けるのが筋だと思って引き受けてきたの」

 

 風に負けないよう大きめの声で吸血鬼侍ちゃんに話しかける女魔法使いちゃん。どうやら掲示板に張り出される前の依頼だったようです。朝晩はまだ冷えますが、だいぶ暖かくなって依頼の数も増えている状況。例年通り人気の無いゴブリン退治ですので、なるべく数をこなしていきたいですね。

 

 建設現場に到着し、すぐに現場監督さんと情報を交換する一党。どうやら近くにある陵墓を出入りする姿を作業員の一人が目撃したとのこと。すぐに引き返してギルドに通報したのは正しい判断だったと思います。現状では目立った被害はないようですが、食料に目を付けられたりしたら面倒です。早速駆除してしまいましょう!

 

 

 

 

 

「幽かにですが死の精霊の姿が見えます。恐らく古代の陵墓ではないかと。となればあすこが入り口となりましょう」

 

 ゴブリンを目撃した作業員の案内で辿り着いた小高い丘。森人少女ちゃんが言った通り、そこにぽっかりと空いた大穴が陵墓の入り口のようです。地面を見れば草陰に隠れた沢山の足跡。大きさからしてゴブリンのものだと思いますが……。

 

「この異様に大きな足跡は、ゴブリンなのでしょうか?」

 

 令嬢剣士さんが首を傾げながら眺めるそれは、田舎者(ホブ)にしても大きいものです。流石に鉱人の城跡で戦った小鬼重戦車(ジャガーノート)ほどではありませんが、牧場防衛時に大量に現れた小鬼英雄(チャンピオン)に近いサイズであることは間違いありません。

 

「ゴミ溜めあり、トーテム無し、見張りなし。……はぐれ小鬼英雄(チャンピオン)が子分を従えているってところかしら?」

 

 ゴミ溜めを棒で掻き分け、人間の残骸が無いことを確かめながら呟く妖精弓手ちゃん。見つかるのは動物の骨や、陵墓に眠っていたものと思われる割れた陶器の欠片ばかり。どうやら虜囚はまだ出ていないようですね。

 

「つかまっているひとがいないなら、わざわざたたかってやるひつようはないよね?」

 

「左様でございます。疾く殲滅いたしましょう」

 

 鮫のような笑みを浮かべる吸血鬼侍ちゃんと、その顔を見て頬を紅潮させる森人少女ちゃん。トラウマこそ克服しましたが、ゴブリンに対する憎しみの炎は生涯消えることはないのでしょう。冬山で自分以外の仲間を失った令嬢剣士さんも同意するように頷き、家宝の双剣を抜き放ちます。

 

「しょうめんはぜんぶせいあつするから、それいがいからのけいかいをおねがいするね?」

 

 返事代わりに頷きを返す一党に微笑みかける吸血鬼侍ちゃん。さあ、侵入と略奪(ハック&スラッシュ)の時間です!

 

 

 

 太陽の灯りが僅かに差し込む玄室。光を避けるように部屋の隅で寝ているゴブリンの数全部で五。美しい壁画が描かれていたであろう部屋は汚物とガラクタで溢れ、耐え難い悪臭が充満しています。音も無く入り口から歩み寄る吸血鬼侍ちゃん。その足元から伸びた影が部屋の床一面に広がり、次の瞬間……。

 

「「「「「GO!?」」」」」

 

 無数に突き出た触手がゴブリンの身体に巻き付き、ギリギリと締め上げていきます。窒息などという生易しいものではなく、肉と骨など意に介さず諸共に捩じ切り、かすかに風船が破裂するような音を立てるばかりで断末魔の叫びを上げることすら許さない殺し方。影が吸血鬼侍ちゃんのサイズに戻った時には、四肢と頭部がバラバラになった五体分の肉片が転がっているだけです。

 

「相変わらずえげつないコトするわねぇ。……どうしたの?」

 

 床にばら撒かれたゴブリンだったものを避けながら近付く女魔法使いちゃん。吸血鬼侍ちゃんがしゃがみこんで何かをしているのに気付いたようです。

 

「おはかをあらされておこってる。てをかしてほしいって……」

 

 そういうなり棺の傍らに立ち、自らの血を垂らす吸血鬼侍ちゃん。血を受け止めた棺の中に黒き淀みが生まれ、それが次第に形を成していきます……。

 

「これは、悪霊(ゴースト)? いえ、もっと力強い……まさか幽鬼(レイス)ですの?」

 

 令嬢剣士さんの呟きとともに、仮初のカラダで顕現する幽鬼(レイス)。陰鬱な空気を纏う女性の姿のそれは、何かを訴えるように吸血鬼侍ちゃんの前で腕を振っています。

 

「……うん、わかった。いっしょにやっつけちゃおうね」

 

「ちっこいの、そいつが言ってることが分かるの?」

 

「すきなひとのおはかをあらすやつらをとっちめてほしいって」

 

 女幽鬼は全身で怒りを表現すると、ふよふよと扉をすり抜けて陵墓の中へ。暫くすると戻ってきて、吸血鬼侍ちゃんの耳元で何かを伝えようとしています。頷きを返しながら手で女魔法使いちゃんにマッピング用紙を求め、スラスラと地図を描き始めました。

 

「りょうぼのマップと、ふほうきょじゅうしゃのはいちはこんなかんじ。まんなかにおっきいのがねてるみたい」

 

 出来上がったのは陵墓全体の詳細な地図とそこで寝ているゴブリンの配置図。中央の大部屋には不細工な怪物が描かれています。恐らく巨人(トロル)なんでしょうが、吸血鬼侍ちゃんてばあんまり絵心はないみたいですね……。

 

「これ、トロルのつもり? まあ特徴は出てるけど……。だとしたら再生能力が厄介ね」

 

 デフォルメされた絵から女魔法使いちゃんが知識判定に成功してくれたようです。傷口を酸か火で焼かないと、首を斬り落としても再生すると言われている厄介なモンスター。時間をかけていると戦闘音を聞きつけて周囲から増援が湧いてくる可能性もあります。

 

「迂闊に進んでいくと挟撃されそうね。どうするつもり?」

 

 妖精弓手ちゃんが地図を指でなぞりながら吸血鬼侍ちゃんに視線を向けています。どうやらこの陵墓、斥候(スカウト)の目から見てもなかなか巧妙な作りになっているようですね。問いかけに応えるように後腰から血刀を抜き、胸に突き立てて刀身を生成する吸血鬼侍ちゃん。刀身から発する炎の照り返しを受けて真っ赤な瞳がユラユラと輝いています。

 

「とびらをくさびでふさぎながら、ひとへやずつこんがり。おぶつはしょうどく!」

 

 

 

 

 

 

 

「OLRLLLT!?!?!?」

 

 上手に焼けましたー! と言わんばかりの笑顔で血刀から炎を噴出させている吸血鬼侍ちゃん。火炎放射器のように伸びた炎の舌(Flame Tongue)は室内のトロルとゴブリンを舐めまわし、焼け付いた喉からはヒューヒューという掠れた音が出るばかり。同様の手段で他の部屋は制圧済みで、扉の隙間に楔を打ち込み横槍が入らないよう工作してからの蹂躙です。

 

 こんな閉所で炎なんて大丈夫なのかと使ってから気付いたのですが、どうやら燃焼には酸素ではなく吸血鬼侍ちゃんの血に含まれる魔力が用いられているようで、炎が付着した対象の生命そのものを燃やす仕組みみたいです。他の部屋で使用した際、ゴブリンが腰に巻いていた襤褸布が焼けずに残っていたので判明しました。

 

 最初は火を放つなんてと怒っていた女幽鬼さんも、陵墓に損害を与えず不法居住者だけを燃やす光景に今ではニッコリ。あんまりはしゃぎ過ぎて危うく自分に火が燃え移るところでした。この炎、幽霊も燃えるんですね……。

 

「あいつらをしょりしてくれてありがとうって。おれいをしたいけど、ここにあっためぼしいものはむかしとうくつしゃがもってっちゃったんだって」

 

 制圧が完了したところで一党に向き合う女幽鬼さん。深々とお辞儀をする姿は高い知性を感じさせます。お宝がないのは残念ですが、先に見つけた者が持っていくのは冒険者の習い、しょうがないですね。

 

「ですが、これで心残りなく輪廻に還ることが出来るのですね。再び愛する方と巡り逢えることを祈っております」

 

 神官らしく旅立ちを祝福してくれている森人少女ちゃんですが、なぜか女幽鬼さんが困った顔をしています。暫くもじもじしていましたが、意を決したように吸血鬼侍ちゃんの耳元に口を寄せています。あ、吸血鬼侍ちゃんの表情がどんどん味わい深いものに……。

 

「あいするひとはべつにこいびととかはんりょじゃなくて、ずっととおくからながめていたひとだって」

 

 ええ……? 一同の顔に困惑が浮かんでいます。照れたように頬に両手をあててクネクネしてる女幽鬼さんですが、もうちょっと詳しく事情を話してもらえませんかねぇ……。

 

 

吸血鬼侍ちゃん通訳中……   吸血鬼侍ちゃん通訳中……   吸血鬼侍ちゃん通訳中……   吸血鬼侍ちゃん通訳中……

 

 

「ええと、つまり一方的に好意を抱いていた殿方がお亡くなりになった際に」

 

「自分と命を共有することで生き返らせようとして、失敗して幽鬼になってしまったと」

 

 

 はい、割合どうしようもない理由でしたね! どうやらかつてこの辺りを治めていた領主のイケメン息子に恋した土着の魔女が、一方的にストーカー行為を繰り返した挙句、彼が可愛いお嫁さんをゲットしたことに絶望。

 領民に慕われていた彼が早逝したのをいいことに陵墓に侵入し、彼と命を共有することで擬似的な蘇生を目論んだ結果、見事に失敗。とうに輪廻に還っていた彼の魂は現世に蘇ることはなく、儀式に失敗した魔女は肉体を失ってずっとこの陵墓に住み着いていたそうです。

 

「っていうか、普通に変態じゃないの! さっさと諦めて地獄に落ちなさいよ!」

 

 妖精弓手ちゃんがキレてますが、残念ながら当然ですね。いやあそれほどでもーというジェスチャーをしてますが、誰も褒めてませんよ女幽鬼さん。あと森人少女ちゃん、死してなお想い続ける……素晴らしい愛ですね! なんて言ってますけど、それ絶対間違いだから。

 

「で、結局どうするのかしら? 放置しておいても碌な事なさそうだし、さっさと消滅(じょうぶつ)してもらう?」

 

 女魔法使いちゃんが爆発金槌を素振りする様を見て天井近くまで飛び退る女幽鬼さん。女神官ちゃんか剣の乙女あたりなら痛くしないで送ってくれると思いますけど。……ふんふん、え、本気ですか? まあ吸血鬼侍ちゃんが言えた義理じゃないですよねー。

 

「せっかくはなせるあいてにあえたから、もうちょっとレイスせいかつをエンジョイしたいって。すがたはけせるので、さわぎにならないようにするからおねがいっていってる」

 

 それつまり一党に憑いてくるってことですよね? 森人少女ちゃん以外がうげぇという顔をしてますが、そんなことはお構いなしに一党と同じ高さまで降りてくる女幽鬼さん。なんか変なモノを拾ってしまいましたが、これで依頼は達成ということでいいでしょう。現場監督さんに伝えて、訓練所建設を進めてもらいましょうか!

 

 

 

 

 

「……で、ゆうれいさんがついてきちゃったんだ」

 

「……そうか。昔姉に言われたことがあった。あそこには怖い女幽霊が出るから、()()()は絶対に近付くな、と」

 

 姉の言っていたことは正しかったのだな、と呟くゴブスレさん。そのころからへんたいふしんしゃ扱いだったんですか女幽鬼さんは。いやだから褒めてませんって。

 

 トロル燃やし祭りから数日後。監督官さんから解放された分身ちゃんとしょうきにもどった!と言い張る森人狩人さん、何故か憑いてきた女幽鬼さんを面子に加え、デイリークエストのゴブリン退治を終えた一党。受付嬢さんに報告を終え、さてご飯でも食べて帰ろうかと思っていたら最近姿を見ていなかったゴブスレさんに会うことが出来ました。

 

 聞くと地母神の神殿から技能実習を兼ねて子供たちが牧場に来たために、牛飼娘さんとともに仕事を教えていたんだそうです。引率として同行していた女神官ちゃん、チーズの供給源である家畜に興味を持った蜥蜴僧侶さんも一緒になって手伝うという大所帯に。

 

 そろそろつわりが始まりそうな牛飼娘さんを楽にしてあげるためにも、子供達には早く仕事を覚えて貰いたいとゴブリン退治を一旦休み、牧場の手伝いに専念すると決めたんだとか。

 

「すまんな、迷惑をかける」

 

「そんなこと気にしてないで、愛しいお嫁さんのことだけ考えてなさいよ。訓練場が軌道に乗れば、アンタの仕事は指導する側に変わるんだから」

 

 軽く頭を下げるゴブスレさんに対し、手を横に振りながら鷹揚に答える女魔法使いちゃん。他のみんなも同意見ですから、牛飼娘さんを大事にしてあげてくださいね。

 

 

 

 助かる、と再び頭を下げるゴブスレさん。しかし、傍から見るとなかなかすごい光景ですね。森人(エルフ)が3人に只人(ヒューム)のたわわが2人、違法圃人(レーア)こと吸血鬼侍ちゃんが分身ちゃんと合わせて2人の合計7人の美女美少女に囲まれているんですから。女幽鬼さん? 座ってて、どうぞ。

 

 新婚と知っている冒険者は時折ゴブスレさんをからかうくらいに馴染んでますが、新人と思しき白磁等級たちからはやっかみの目で見られてますねぇ。そんな目で見るくらいなら玉砕覚悟でナンパしたほうが良いのでは? 小数点以下で成功すると思いますよ(黒本並感)

 

 

 

 お、そんな話をしていたら勇気ある挑戦者(チャレンジャー)が現れたようです。ドスドスと大きな足音を立てながら近付いて来たのは外套を纏った()()()()()。一党が座るテーブルの傍に来た彼を見た女魔法使いちゃんが、ポカンとした表情を浮かべています。んん? この子もしかして……。

 

「あれ、なんであんたが辺境の街(ここ)にいるの? 新学期が始まったばかりじゃない」

 

 女魔法使いちゃんが問いかけますがまったく耳に入っていない様子の少年。一党を見回し、ある人物に真新しい杖を突き付け、ギルド中に響き渡るほどの怒りの籠った声で叫びました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オマエが……! オマエが姉ちゃんを手籠めにして無理矢理一党(パーティ)に参加させたクソ野郎だな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




消化が悪くてお腹にきたので失踪します。

いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
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セッションその8ー2

 おなかの調子が元に戻ったので初投稿です。



 前回、理由なき濡れ衣がゴブスレさんを襲ったところから再開です。

 

 糾弾の声を上げた後、荒く息を吐く少年……女魔法使いちゃんの弟さんである少年魔術師君。杖を突きつけられた形のゴブスレさんは微動だにせず、ギルド内は静寂に包まれて……。

 

「オイオイオイ、死んだわアイツ」

 

「流石『辺境最優』、新婚ほやほやで修羅場を迎えるなんて……」

 

「おい、誰か此処でネタばらしの看板用意しろ!」

 

 失礼、包まれていませんね! テーブルに着いていた一党もそれぞれ違った反応を。妖精弓手ちゃんと森人狩人さんは肩を震わせながら下を向き必死に笑いを堪え、森人少女ちゃんと令嬢剣士さんは曖昧な笑みを、吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんは頭上に大きな『?』を浮かべています。

 

「……人違いだ」

 

「ハア!? 此処にいる連中でオマエ以外に誰が姉ちゃんに手を出すって言うんだよ!」

 

「……ねえ、ちなみに学院ではどんな噂が広まってるのかしら?」

 

 (ゴブスレさんにしては)的確な返答でさらにヒートアップする少年魔術師君。これ、ウチの弟とみんなに紹介しながら女魔法使いちゃんが興味深げに彼に問いかけています。

 

 

 

「女をとっかえひっかえ食い物にするクソ野郎。真理を探究する(よすが)である魔術を私欲で乱用する俗物。半鬼人(ハーフオーガ)の教授に決闘を挑んで返り討ちにあった身の程知らず。それから……」

 

 

 

「ダ、ダメ……私もう我慢出来ない……ッ」

 

「まだだ、まだ笑っちゃダメだよ妹姫(いもひめ)様……ッ」

 

 

 

 いやー出るわ出るわ、立て板に水とはこのこととばかりに途切れることなく列挙される罵詈雑言。なにが凄いかって、()()()()()()()()()()()()()でしょうか。あまりの的確さに森人少女ちゃんと令嬢剣士さんですら顔を明後日の方向に向けて口元を抑えるほど。いったい何処の性悪蛞蝓(フラック)が広めたんでしょうね。

 

 

 

「ち、ちなみに何を根拠に彼が一党(パーティ)頭目(リーダー)だと判断したの?」

 

 浮かんできそうになる笑みを必死に抑え、なんとか仏頂面を取り繕いながらゴブスレさんを指し示す女魔法使いちゃん。指先が震えているあたりそろそろ限界が近そうです。ここで口を開くとろくでもないことになると悟ったゴブスレさんは沈黙を保ち、それを勝ち誇ったような表情で見る少年魔術師君は自信に満ちた顔で言い放ちます。

 

 

 

 

 

 

「誰が見たって分かるほど邪悪な魔力を帯びた鎧を付けてる上に、この中で一番等級が高いのは認識票を見れば一目瞭然だろ! それ以前に男はコイツしかいないじゃねえか!!」

 

 

 

 

 

 

 

「俺は既婚者だ。愛する女は1人しかいない」

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉が引き金となり、ギルド内に笑いの嵐が吹き荒れました。

 

 一党の面々はもとより事態の推移を面白がって見ていた冒険者たち、ギルドの職員までもがもう耐えきれんとばかりに吹き出しています。その声量に負けて、鎧は仲間からの大切な品だというゴブスレさんの言葉は掻き消されてしまいましたが……ヴァンパイアイヤーには届いたようで、吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんは照れたような顔をしていますね。ヒーヒー言いながら机を叩いている監督官さんの隣にハイライトさんが家出した受付嬢さんが見えた気もしましたが、吸血鬼侍ちゃんのログにはなにもありません!

 

 

 

 笑いについていけてない新人と、馬鹿にされたと思って頬を紅潮させている少年魔術師君が取り残されたグダグダ空間。そろそろお姉ちゃんの口から説明してあげないと可哀そうでは?

 

「あ~、笑った笑った。そうね、それじゃこっちにいらっしゃい」

 

 眦に浮かんだ涙を指で払い、吸血鬼侍ちゃんを手招きする女魔法使いちゃん。伸ばされた小さな手を掴み、机上経由で自分の膝上にキープ。後頭部をたわわな胸元に納め、細い首元に光る真新しい()()()()()()を彼に見せつけるように指で弄びながら吸血鬼侍ちゃんを紹介します。

 

「この子が一党(パーティ)頭目(リーダー)で、あんたがいうところの『私を手籠めにしたクソ野郎(こいびと)』よ。義理の姉になるんだから、ちゃーんと仲良くしなさい?」

 

「ドーモ、おとうと=クン。クソやろうです。コンゴトモヨロシク……」

 

(ニンジャスレイヤーなのか夜魔ヴァンパイアなのか)これもうわかんねぇな。

 

 

 

 

 

 

「嘘だ……姉ちゃんの恋人がこんなちっこいガキで、しかも女だなんて……」

 

 ブツブツと呪詛を垂れ流しながらシチューを口に運んでいる少年魔術師君。その虚ろな眼差しから察するに、突き付けられた現実を正視出来るまではもう少し時間が必要かなぁ。

 

 流石にあの空気の後ではギルドで食事というわけにもいかず、ゴブスレさんと別れて自宅に戻ってきた一党。硬直したままの少年魔術師君はお姉ちゃんがお米様抱っこで運んできました。現在森人少女ちゃんお手製のシチューでおゆはんの真っ最中。春が来たとはいえ朝晩はまだまだ肌寒く、愛情たっぷりの温かさが嬉しいですね。

 

 先ほどチラッと見えましたが、この春吸血鬼侍ちゃんは紅玉等級に昇進しました。牧場防衛からこっち様々な場面で活躍してきたのを評価されたかたちですね。元が鋼鉄だったので一気に三階級特進!……ではなく、収穫祭までの活躍で一階級昇進、鉱人の城跡でのインゴット発見とそれに伴う冒険者支援計画の推進で二階級特進という扱いなんだとか。

 

 監督官さんに二階級特進って縁起悪くない?と言ったら、もう死んでるからお似合いですね!と返されて納得していた吸血鬼侍ちゃんが可愛かったです(こなみ)

 

 同様に女魔法使いちゃんも紅玉に……はならず、森人狩人さんと同じ青玉に。これは別に生きているから二階級特進しなかったわけではなく、吸血鬼侍ちゃんを名実ともに頭目(リーダー)にするために交渉した結果だそうです。既に経験点(評価P)はカンスト上限なので、次の頭目(リーダー)の昇進に併せて自動的に上がる予定とのこと。

 

 活躍の面から言えば充分に昇進できるはずの森人狩人さんは今回青玉に据え置き。本人は人格査定に引っ掛かったと誤魔化していましたが、あれ絶対頭目(リーダー)を吸血鬼侍ちゃんに押し付けるための方便ですね。もっともセクハラや過激なスキンシップのせいで本当に引っ掛かった可能性も否定できないのが恐ろしいところですが……。

 

 冒険者になってまだ日が浅い森人少女ちゃんと令嬢剣士さん。功績だけ見れば吸血鬼侍ちゃんに匹敵する素晴らしいものですが、当人たちから経験不足を理由に保留して欲しいとの申し出があったために白磁のままとなっています。既に仮オープンしているギルドの訓練場で一期生として学び、卒業した段階で鋼鉄まで昇進することを内々で伝えられたそうです。

 

「ちっこいのもさっさと銀まで上がって来なさいよ。あ、でも(宮仕え)になっちゃダメだから。気軽に冒険に行ったり出来なくなっちゃうもの」

 

「どっちもむ~りぃ。そんなすぐにはあがれません」

 

 自分の器から鶏肉をスプーンで吸血鬼侍ちゃんの器に移し、帰路で人参を強奪しながらのたまう妖精弓手ちゃん。でも考えてみれば、勇者ちゃん一党に付き合わされている時点でもしかして既に白金等級なのでは……? いえ、この考えは危険なのですぐに忘れましょう!

 

 

 

 

「あら、今夜はシチューですか。それに……お客様かしら?」

 

 お、≪転移≫の鏡から剣の乙女がやって来ました。いつもの指定席に座り、眼帯を付けた顔を少年魔術師君に向け微笑みを浮かべています。魔力の波長とかで姉弟だって分かるんですかね?

 

 ついでに空中の女幽鬼さんにもチラ見してましたが、害意がないと判断したのか警戒を解いてくれました。吸血鬼侍ちゃん以外には見えなくなっているはずなんですが、金等級にはバレちゃったみたいですね。

 

 あ、女幽鬼さん。たぶんワンパンで消滅(じょうぶつ)させられちゃうので、その脂肪もいでやろうかと言いながらちょっかい出すのは止めたほうがいいと思いますよ? あとそれ吸血鬼侍ちゃんのですから。

 

 さて、鏡から人が出てくるという超常現象を目撃した少年魔術師君ですが……そんなことより目が剣の乙女のお山に釘付けになってます。その気持ちは分かりますが、男のチラ見は女性からすればガン見というほど、ましてここまでの生唾ゴックンな凝視となれば誰だって気付くものです。

 そういう青少年からの視線に慣れている本人は苦笑していますが、同志耳長ちっこいの(妖精弓手ちゃん)とお姉ちゃんは出荷される豚を見る目を向けています。あ、今舌打ちしたでしょ?

 

「わざわざこんなところまでやって来て、学院はどうしたのよ」

 

 ちゃんと卒業しないと実家が煩いわよとジャブを入れるお姉ちゃんですが、生返事しか返って来ず実力行使に。襟を巧みに使った締め上げでほらキリキリ吐けと持ち上げてますけど、多分それ声が出せないと思うんですが(名推理)

 

「……担当教授にゴリ押しして休学の手続きしてきた。単位は足りてるから問題ねえだろ」

 

 絞められていた喉元をさすりつつ、吸血鬼侍ちゃんをお姉ちゃんそっくりのキッツイ目で睨みつけてきました。紅玉の認識票を下げているとはいえ、見た目は圃人の子供ですからねえ。ここは年長者らしく余裕を持った対応を見せてあげたほうが良いんじゃないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

「いつもおねえちゃんをおいしくいただいてます。そっちのおねえさんたちもいっしょに」

 

ぶっ殺す

 

 先ほどお姉ちゃんにされていたようにギリギリと吸血鬼侍ちゃんの首を締め上げ始める少年魔術師君。残念ながら呼吸を必要としない吸血鬼侍ちゃんには、効果はいまいちなようですね。言い方ぁ!と激しいツッコミを入れてくる女魔法使いちゃんに引き剥がされ、荒く息を吐いています。

 

 うーん、オマエみたいなチビガキが頭目(リーダー)なんて信じられるかと完全に臍を曲げられちゃいました。証拠を見せろと言われても、冒険者じゃない子を連れまわすわけにはいかないですし、万が一にも怪我なんてさせたらギルドの信用問題に繋がりかねません。

 

「あら、それなら話は簡単じゃない。明日朝一でこの子をギルドで登録してくるから、アンタは一足先にみんなと訓練場で準備してなさい」

 

 他の新人ちゃんと纏めて面倒見てあげましょ、とサラッと言ってますが、明日の訓練って結構キツいやつですよ? 痛くしなければ覚えない? まあお姉ちゃんがOK出すならいいでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい、いつもは走り回ってばかりだけど、今日はちょっと違った視点からモンスターとの対峙について考えてみようか。進行役の狩人おねーさんだよ」

 

「みなさまおはようございます。本日も怪我などなさらぬようご安全にお願いいたします」 

 

 ヨシ! の唱和とともに始まりました初心者講習会。まだ冒険を経験したことの無い初心者(ノービス)から、ベテランの指導を受けた経験のある黒曜や白磁等級など、様々な冒険者が訓練場の屋内施設に集まっています。森人少女ちゃんは森人狩人さんの助手として駆り出されているため、吸血鬼侍ちゃん一党からは令嬢剣士さんが参加。まだ昇進していなかった女神官ちゃんもその隣に立っています。『辺境最高』の一党からはいつもの仲良し四人組。重戦士さんと女騎士さんも見学に来ていますね。

 

 それ以外に目につくのは黒曜と白磁が入り混じった多種族一党でしょうか。蜥蜴人の戦士を筆頭にバランスの良い構成になっています。……女魔法使いちゃんが先に依頼を手に入れてくれた影響で、陵墓での全滅を免れていたみたいですね。

 

 

 

 そんな和気藹々とした冒険者を不機嫌な顔で見ている少年魔術師君。首からはピカピカの白磁の認識票が顔を覗かせています。森人狩人さんの説明も右から左に聞き流して全く頭に入ってなさそうですね。女騎士さんの隣でそれを見た女魔法使いちゃんが大きな溜息を吐いています。

 

 

 

「さて、冒険の経験の有無はひとまず置いておこう。この中で直接モンスターの命を奪ったことの無い子は手を上げてくれるかな?」

 

 森人狩人さんの問いにパラパラと挙手が上がります。まったくの初心者以外でも、後衛を務める呪文遣いだと経験の無い冒険者も多いんですねぇ。

 

「そのまま次の質問にいこうか。今、手を上げている子の中で、家畜を〆たことのある子は手を下げていいよ。経験の無い子は上げたままでストップ」

 

 半分以上の手が下がり、そのままなのは両手で数えられる程度。その中には女神官ちゃんやナイスなお山を持つ交易神の侍祭さんの姿が見えます。あ。もちろん少年魔術師君も残ってますね。

 

 今手を上げている子は前に、という森人狩人さんの指示に従い施設の前側に集まる数名。それ以外の冒険者はしばらく見学のようです。お、いつの間にか姿を消していた森人少女ちゃんが、布で内部を見えなくしてある台車を押しながら帰ってきました。布の奥からはガサゴソと何かが動き回る音が聞こえてきます……。

 

 

 

「ひゃあん!?」

 

 開けてみて、という指示に従い布を取り去る女神官ちゃん。突然目の前に舞った白いものにビックリしてしりもちをついちゃってます。

 

「あいたたた……。あれ、これって羽根?」

 

 鼻先に乗っかった羽根を取りながら布の下に隠されていたものの正体を見る女神官ちゃん。そこには急に視界が開けて興奮する鶏が、籠の中いっぱいに入っているではありませんか。

 

 台車のポケットから人数分の牛刀を取り出し、事態についてこれていない冒険者に手渡していく森人狩人さん。ニッコリ笑いながら午前の訓練内容を話し始めました。

 

「さて、童貞と処女の集まりである君たちにやってもらいたいのは、今日の昼食(ランチ)の準備だ。揚げたてチキンの麺麭挟みの予定だったんだけど、頼んでいた鶏肉に足が生えて逃げ出してしまってね。急遽〆るところからやり直さなくちゃいけなくなったんだ」

 

 給食がタダで食べられるのに、まさか準備が出来ないなんてことはないよね? と挑発的な笑みを浮かべる森人狩人さん。うーんこれは狙ってやってますね……。

 

 

 

「なんでそんなことオレたちがやらなきゃいけないんだよ、冒険には関係ないだろ?」

 

 予想通り噛みついてきた少年魔術師君に振り向きながら、森人狩人さんお得意の煽り芸が火を吹きはじめました。

 

「おやおやおや? ひょっとして君は糧食が尽きて飢えているとき、偶然前を通りかかった獲物をみすみす逃すつもりなのかな?」

 

「いや、万に一つの可能性として、切り株に頭を打ち付けて死んだウサギを見つけたとしよう。まさか君は内臓も出さずに丸齧りしても大丈夫な胃袋の持ち主なのかな?」

 

 次々に繰り出される芸術的装飾に彩られた煽り文句の嵐に反論できず黙り込んでしまう少年魔術師君に、とどめの一撃(coup de grace)を放つ森人狩人さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そもそもだ、家畜を〆ることすら出来ない人間が、モンスターを殺せると本気で思っているのかな? もしそうだとしたら、この世界にゴブリンなんかいるはずもないのにね?」

 

 

 

 

 命を奪う行為をしたことの無い冒険者を、後方からニヤニヤ笑いながら見ていた経験者たちの顔がみるみる青褪めていきます。重戦士さんや女騎士さんは平然としていますが、並の冒険者では受け流せない程の感情が、その言葉には籠っていました。

 

 

 

 

「……まあそういうわけだから、おなかが空いてくる前にスパッと決めてくれるかな? なーに、命の危険はないからね。精々つつかれる程度だよ」

 

 息が出来ないと錯覚させるほどの感情を掻き消し、おどけたようにニワトリをそれぞれに手渡していく森人狩人さん。あ、吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが、大きなタライと煮立った湯がなみなみと入っている大鍋を持って奥の控室からやって来ました。本気でここでやらせるのつもりだと悟った面々は、真っ青な顔でニワトリと牛刀を交互に見ています。

 

「ためらいきずがはいるとあじがおちるから、いっぱつできめてね?」

 

「しめかたをまちがえるとたべられるぶぶんがへるから、きずはさいしょうげんにね?」

 

「うう……。い、いきます!!」

 

 わざとらしく口の端から涎を垂らしている2人の言葉に唾を飲む挑戦者(チャレンジャー)たち。いち早く覚悟完了した女神官ちゃんが、左手で首を持って吊り下げたニワトリに牛刀を振り下ろし……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?!? なんで走り回るんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 命の重さと儚さを教えてくれたニワトリさんは、このあと冒険者が美味しく頂きました。

 

 泣きながら「うめ、うめ……」と言ってた女神官ちゃんに、分身ちゃんがちょっとときめいていたのは内緒です。

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 




お昼寝すると夜眠れないので失踪します。

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セッションその8ー3

休み中にいっぱい書いたので初投稿です。

UA50000を超えました。いつも読んでいただき嬉しく思っております。

もしよろしければ、評価や感想、お気に入り登録をしていただけますと幸いです。



 前回、ランチの素材を調理したところから再開です。

 

 昼食を済ませ、再び屋内施設に集合した訓練生たち。何人か顔色が悪い子がいますが、もしかして食欲が湧かなかったんですかねえ(ゲス顔)

 

 少年魔術師君も配られたチキンサンドに手が付けられなかったようで、隣で物欲しそうな顔をしていた圃人の少女ちゃんに押し付けてました。可能性が収束していく……!

 

「午後はグループに分かれて一組ずつ地下の特別室での実習よ。順番が回ってくるまでは外で銀等級組に扱かれてなさい」

 

 午後の教官役を務める女魔法使いちゃんの、それじゃ4~6人でグループ作ってという無慈悲なコールが響きます。もとより一党(パーティ)を組んでいる面子はそれで固まってしまいますし、顔見知りがいる者はさっと集まってしまいます。必然的に、ボッチや及び腰の冒険者があぶれていくわけでして……。

 

 

 

「ええと、よろしくお願いしますね」

 

「ガンバルゾー!」

 

「……ふん」

 

「まあ、(わたくし)は何方と組んでも構いませんので……」

 

 

 

 前の一党が解散したばかりで組む相手がいない圃人の少女ちゃん、最初からあぶれ者と組むつもりだった令嬢剣士さんは問題ないとして、女神官ちゃんが声をかけられなかったのは意外ですね。もしかして毎度毎度銀等級や頭のおかしい連中に付き合わされている様子から敬遠されちゃっているんでしょうか?

 

 もしそうだとしたら、女神官ちゃんへの申し訳なさ半分、それだけ優秀な子を勧誘しなかった他の訓練生に残念半分ってところでしょうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

 

 

 

 順番待ちの時間を利用して屋外へ出たあぶれ一党。大上段から木刀を振り下ろす圃人の少女ちゃんの一撃を左の短剣で受け流しながら、令嬢剣士さんが訓練生に対する不満を垂れ流しています。

 

「まったく、どの一党も見る目がありませんわね。ちょっと考えれば、地母神の孤児院出身者で家畜を潰したことの無い子供なんて滅多に居ないでしょうに」

 

「教官役の狩人さんから頼まれていましたし、普段は2人がかりで押さえて〆てますからね。まさか走り回るとは思いませんでしたけど……」

 

「え、あれって演技だったの!? 迫真過ぎて気付かなかったよ!」

 

 ぷんすこしている令嬢剣士さんに苦笑を返す女神官ちゃん。体勢を崩されて蹈鞴を踏んでいる間に喉元へ右の長剣を突き付けられた圃人の少女ちゃんが、降参のポーズをとりつつ驚いた声を上げています。

 

「もう慣れた、とは言いませんが、私もゴブリンの命を奪ったことはあります。直接錫杖で打ち据えたこともありますし、≪聖壁(プロテクション)≫や≪聖光(ホーリーライト)≫を用いて間接的に殺した回数はもっと多いですから」

 

 それに、最初の冒険の時点でゴブリンの子供を殺せって言われちゃいましたし、と言葉を続ける女神官ちゃん。そういえばそんなこともありましたねえ(遠い目)。あ、それに小鬼の国を助けた時にも錫杖でゴブリンの頭をパッカーン!してましたもんね。サクラとして立派に役目を果たしてくれたわけですか。なお走り回る首無しチキン。

 

 そんなネタバレを話しながら投石紐を利用した的当てに挑戦している女神官ちゃん。流石にゴブリンスレイヤーさんのようには上手くいきませんねとちょっと悔しそうです。

 

「……たかがゴブリンに、なんでそんなに臆病になっているんだよ。あんな雑魚呪文で一発じゃねえか」

 

 椅子代わりの切り株に腰掛けた少年魔術師君がボソッと零した言葉、これが世間一般から見たゴブリンに対する考え方なんですよねぇ。まずこの偏見を是正することが、訓練場の重要な役割になるはずです。

 

「同じ白磁の(よしみ)で忠告させて頂きますが、その言葉、教官役のお二人の前で言うのは止したほうが賢明ですわよ。破落戸(ゴロツキ)と同等の扱いな白磁がひとり訓練場から姿を消しても、逃げ出したと思われるだけですので」

 

「……あなたのお姉さんも、最初の冒険でゴブリンに殺されかけました。今、一党(パーティ)頭目(リーダー)をしているあの人が庇わなければ、たぶん助からなかったと思います」

 

 ハイライトの消えた四つの目で見つめられ、気圧されたように身体を仰け反らせる少年魔術師君。一気に重さを増した空気を払拭するように、屋内施設から出てきた一党に気付いた圃人の少女ちゃんが、ちょっと大袈裟に声を上げました。

 

「あ、ホラ! 最初に入っていった四人組が出てきた……よ……?」

 

 

 

 

 現れた一党を示していた圃人の少女ちゃんの指先がへにゃりと曲がっています。その四人組……重戦士さんのところのダブルカップルですが、少年斥候君と新米剣士君の服は返り血と思しきもので真っ赤に、少女巫術師さんと見習聖女ちゃんの服は僅かに乱れ、こちらは顔を羞恥で真っ赤にしています。周りを気にする余裕も無く、血のついた得物を引き摺りながらトボトボと洗い場のほうへ歩き去って行きました。

 

 ハイ次の一党(パーティ)という女魔法使いちゃんの声に従い屋内施設へ進むのは、蜥蜴人の戦士さんを中心とする一党。あぶれ以外の他の一党も訓練の手を止めたままじっと入り口を見つめています。暫くすると見えてくるのは頑丈な鉄扉の奥から排出される一党の姿。

 先の四人組と同様に、男性陣は返り血で、ビキニアーマーの神官戦士さんと交易神の侍祭さんは顔を真っ赤に染め、血塗れの武器を持ったまま、全員生ける死体(ゾンビ)のように口を半開きにして歩いています。

 

 

 

「あんたたちで最後ね。ついて来なさいな」

 

 今までの一党の惨状なぞなんでもないように、涼しい顔であぶれ一党を迎えに来た女魔法使いちゃん。鉄の扉をくぐった先は薄暗い部屋が広がり、訓練用ではなく預けてあった本来の装備と、冒険に使うことの多い道具類が並んでいました。部屋の奥には隠し切れない血臭を放つ、地下へ続く石造りの階段が見えています。

 

「自分の得物とこの先必要になりそうな装備を身に付けたら訓練開始よ。消耗品も代金を請求したりしないから、好きなだけ持つといいわ」

 

 女魔法使いちゃんの指示に従い物品を漁り始める一党。圃人の少女ちゃんは腰のベルトに水薬(ポーション)の瓶を何本も差し込み、令嬢剣士さんは罠探知用に使う為でしょうか、10フィート(3メートル)の木の棒を手に取っています。

 

「あの、どちらかを持ってもらってもいいですか?」

 

 女神官ちゃんが躊躇いがちに差し出した松明(トーチ)と投石紐を胡散臭そうに眺める少年魔術師君。使ったことの無い投石紐を敬遠したのか、松明を黙って受け取りましたね。

 

「準備はいいみたいね。それじゃ降りるわよ。()()()()()()()()()注意しなさい」

 

 角灯(ランタン)代わりに爆発金槌を点火している女魔法使いちゃんを先頭に階段を下っていく一党。どうやら元々ここあった遺跡を流用した地下施設らしく、壁面は丈夫な石造りです。令嬢剣士さん、松明を持った少年魔術師君、女神官ちゃん、最後尾に圃人の少女ちゃんの順に並び後に続いていけば、階段を下りきった先にまた頑丈そうな鉄扉が。鼻に纏わりつく血臭の出処もこの先で間違いないでしょう。

 

 

 

「うっ……すっごい血の臭い……」

 

 扉を開け中に足を踏み入れれば、むせかえるほどの血臭が一党を迎えました。()()()()()()()を奪うほどの臭いに包まれた大部屋、一党がその中程まで進んだところで、女魔法使いちゃんの無慈悲な宣告が響きます。

 

「ここでは咄嗟の事態にどう対応するかを考えてもらうわ……頑張って生き延びなさい」

 

「え? どういう意味だよ姉ちゃん……!?」

 

 少年魔術師君の戸惑いの声に反応を返さず、突然爆発金槌の灯りを消す女魔法使いちゃん。同時に≪浮遊(フロート)≫を唱え外套を翼のように展開し、如何な手段を用いたのか、天井の中へと姿を消してしまいました。

 

 松明の頼りない灯りだけとなって焦る一党の耳に、生理的嫌悪感を呼び起こす悍ましい喚き声が部屋の外周から聞こえてきます。

 

 緑色の矮小で醜悪な体躯、獣欲と嗜虐性に溢れた視線、粘性の高い液体を滴らせた粗末な武器、そして圧倒的な数を頼みとする最弱(最凶)祈らぬ者(NPC)……。

 

 

 

 

「「「「「GOBGOBGOBGOBGOB(ごぶごぶごぶごぶごぶ)!!」」」」」

 

 

 

「ウソ、なんでこんなところにゴブリンがいるの……!?」

 

「ッ……撤退します! (わたくし)が殿を務めますので、目晦ましの≪聖光(ホーリーライト)≫をお願いしますわ!」

 

「わかりました! 後衛の2人は出口の確保を、少しずつ後退します!」

 

 場慣れしている2人は即座に撤退を決断! ≪聖光≫で灯りを確保しつつゴブリンを怯ませ、圃人の少女ちゃんと少年魔術師君に発破をかけ出口に走らせます。10フィート棒を投げ捨てた令嬢剣士さんは、顔を抑えて()()()()()()ゴブリンを撫で斬りにしながらヘイトを集め、≪稲妻(ライトニング)≫で一掃する構えを見せています。

 

「え、なんで、なんで鍵がかかってるの!?」

 

 いち早く扉に取り付いた圃人の少女ちゃんが開けようとしますが、いつの間にか施錠されていてビクともしません。焦る彼女を嘲笑うかのように、ゆっくりとゴブリンたちが包囲を狭め始めました。

 

「扉から離れてろ! ≪火石(カリブンクルス)≫……≪成長(クレスクント)≫……痛ッ!?」

 

 ≪火球(ファイアボール)≫の呪文で扉を吹き飛ばそうと試みる少年魔術師君ですが、突然手の甲に走った()()()()に呪文を中断してしまいます。視線の先にはナイフを弄びニヤニヤ笑う一匹のゴブリン。馬鹿にされたと感じ頭に血が上ったために貴重な呪文をゴブリンに向けて放ってしまいました。

 

 GOBGOB(ごぶごぶ)と声を上げながら転げまわる姿を見て溜飲が下がったようですが、1回しか使えない呪文を唱えてしまったことに顔を青褪めさせています。同時に気付く身体の変調。()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その場に倒れ込む少年魔術師君。

 

「ッ! 大丈夫ですか!?」

 

「ええと、解毒薬(アンチドーテ)解毒薬(アンチドーテ)……暗くてどれだかわかんない!?」

 

 異変に気付き慌てて駆け寄る2人。解毒薬を取り出そうとしますが瓶の区別が付かずにまごつく圃人の少女ちゃんを見て、即座に懐から自分が持っていたものを取り出す女神官ちゃん。少年魔術師君を抱き起して瓶の中身を口に注ぎ込みます。

 

「身体は動かせますか? それと残りの呪文は?」

 

「動くのは問題なさそうだけど、呪文はさっきので……ッ」

 

 悔しそうに口を開く少年魔術師君。部屋の前方では強烈な雷光が複数のゴブリンを昏倒させています。令嬢剣士さんの2回しか唱えられない貴重な≪稲妻≫、しかし単語発動による擬似エンチャントを考えれば2発目は撃てません。

 

「前線は私が≪聖壁(プロテクション)≫で抑えます! 一度後方へ下がって出口近くの掃討を!!」

 

「わかりましたわ……頼みます!」

 

 僅かに逡巡した後、令嬢剣士さんとスイッチして前線に立つ女神官ちゃん。部屋を前後に仕切るように展開された防壁がゴブリンの集結を妨げています。雌に近付けなくなったゴブリンは苛立たし気に声を上げ、邪魔な防壁を破らんと一斉に殴りつけ始めました。()()()()()()()()()()その膂力による反動に歯を食いしばりながら耐えていますが、あまり長く持たないのは誰の目にも明らかです。

 

「あああ開かない、開かない、開かないよう!?」

 

 冒険者セットと一緒に袋詰めされていた鍵開け道具を鍵穴に入れ、必死に解錠を試みる圃人の少女ちゃんですが、慣れない作業と焦りからか時間がかかっている様子。彼女を守るために剣を振るい続けている令嬢剣士さんの顔にも疲れの色が見え始めています。

 

「クソ、オレに代われ! 武器を振り回すのに慣れてないオレより、オマエのほうが足止めに向いてる!」

 

 扉の前から退き、令嬢剣士さんの援護に向かう圃人の少女ちゃんとすれ違った少年魔術師君が、地面に松明を投げ捨てて解錠作業を引き継ぎました。物事に集中できるタイプなのでしょう、切迫した状況でも手付きに乱れはなく、慎重かつ手早く差し込んだキーピックを動かしています。さほど複雑な機構では無かったのか、およそ一分ほどでカチンという音とともに鍵は外れ、鉄の扉が開きました。

 

「おい、開いたぞ! さっさと脱出……!?」

 

 後ろを振り向き脱出を促そうとした少年魔術師君。その目に移った光景は、複数のゴブリンに纏わりつかれ地面に押し倒されている令嬢剣士さんとゴブリンに邪魔されて助けに向かうことの出来ない圃人の少女ちゃん。そして……。

 

「あ……ああ……ッ!?」

 

GOBGOBGOBB(ごぶごぶごぶぶ)!」

 

 2枚目の≪聖壁(プロテクション)≫を唱える隙を突かれ、引き倒された女神官ちゃん。仰向けに転倒した彼女の上に跨ったゴブリンが、彼女の服に手をかけようとしている瞬間でした。

 

 開いた(逃げ道)、拘束された女剣士とそれを助けあぐねている圃人の少女。そして今まさに穢されようとしている神官の少女。視線を彷徨わせた少年魔術師君の選んだ行動は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレの仲間に手ぇ出してんじゃねぇ!!」

 

GOB(ごぶ~)!?」

 

 女神官ちゃんに跨っていたゴブリンの側頭部を魔術師の証たる杖でフルスイング! 虚を突かれたゴブリンはそのまま吹き飛び、痙攣しています。そのまま女神官ちゃんの手を引いて立ち上がらせ、血のついた杖で令嬢剣士さんを指し示しながら大声で撤退の意思を伝える少年魔術師君。

 

「アイツらを回収してとっとと逃げるぞ!」

 

「あ、ありがとうございま……うしろ、危ない!!」

 

 手を引かれて立ち上がった女神官ちゃんの目が恐怖に見開き、少年魔術師君の背後を見つめています。振り返った少年魔術師君の眼前には、毒と思しき液体の滴るナイフの切先が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~い終了~。お疲れ様~」

 

 唐突に部屋に響く女魔法使いちゃんの声。石造りの天井の上から聞こえてきたそれに一党は動きを止めてしまいました。いえ、一党だけでなく外周を取り囲むゴブリンや、少年魔術師君の眼前にいるゴブリンまでも。動きを止めていないのは令嬢剣士さんを押し倒しているゴブリンと、吹き飛ばされたのを忘れたように起き上がる2体だけです。

 

 そのまま天井をすり抜けて現れた女魔法使いちゃん。唖然とする一党の前に立ち、両手を2回打ち鳴らして注目を集めます

 

「全員とりあえず深呼吸。それから、心を落ち着かせて部屋を見回してみて」

 

 言われた通りにする一党。あっ、と最初に声を上げたのはやはり女神官ちゃんでした。

 

「この部屋、もしかして≪幻影(ビジョン)≫に覆われてますか?」

 

「正解。暗闇と血臭で精神に負荷を与えた状態だと看破し辛くなるのよね」

 

 女神官ちゃんの問いに満足げに頷き、指を鳴らす女魔法使いちゃん。それを合図に、≪幻影(ビジョン)≫を維持していた()()()()()が呪文を中断し、部屋の全貌が一党の目に入って来ました。

 

 

 

 

「う~んナイスショット!」

 

「ゴブゴブゴブ……」

 

「あの、そろそろ胸を揉むのを止めていただけませんでしょうか……流石に恥ずかしいです……」

 

 既に塞がった頭の傷をさすりながらグッと親指を立てて少年魔術師君に向けている吸血鬼侍ちゃんと、幻影が剥がれても令嬢剣士さんを押し倒したままの分身ちゃん。2人の影から伸びた触手が、少年魔術師君と圃人の少女ちゃんの前でゆらゆらと自己主張しています。

 

「触手の上に≪幻影≫で生み出したゴブリンの群れを被せて、適当に動かしてたの。若干の音ズレなんかは狭い屋内だと気付きにくいし、剣で打ち合ってる時も違和感を感じなかったでしょ」

 

 上手いこと考えたものです。一党が上を見れば天井も先程までに比べて高くなっており、≪幻影≫で偽りの天井を用意して、その上に女魔法使いちゃんが待機していたことがわかるでしょう。

 

「でも姉ちゃん。オレ、実際に毒で動けなかったんだけど?」

 

「あれはウチの頭目(リーダー)のちょっとした特技。軽い麻痺を与えるようなものよ」

 

 解毒薬(アンチドーテ)ですぐ動けるようになったでしょと続ける女魔法使いちゃん。はい、分身ちゃんが噛みついていました。妖精弓手ちゃんの治療のときに解毒薬で麻痺を治せたことから、ゴブリンの毒の代用として使ったということです。

 

「えっと、じゃあ先に入ってた一党の恰好の原因って……」

 

「女の子は触手とそこのエロガキ2人が全力でセクハラしたから。武器と男衆の恰好に関しては……これからね」

 

 再び女魔法使いちゃんが指を鳴らすと、吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが部屋の中央へ進み、あぶれ一党に向かってファイティングポーズを取り始めました。

 

「それじゃ午後の部の最終授業。あの2人を腕が上がらなくなるまで()()()()()()()()

 

 その言葉を聞いた時の一党の表情は二分されていました。即ち、なんでそんなこと?という疑問の表情を浮かべる少年魔術師君と圃人の少女ちゃん。そして、ああやっぱりという諦めの表情を浮かべる女神官ちゃんと令嬢剣士さんです。

 

「モンスターを殺す時に、いちいち血や内臓にビビってたらその隙を突かれて死ぬ。それが自分なら自業自得で済むけど、仲間を危険に晒したとなればそれは一党(パーティ)とは言えないわ。それに見た目に騙されて魔神に殺される冒険者の話なんて幾らでも転がっているものよ? どうせ殺すんだから外見なんて関係無いってのにね」

 

 あぶれ一党に手本を見せるために爆発金槌に点火しながら2人に近付く女魔法使いちゃん。わざとらしく憐れみを誘う表情を浮かべていた吸血鬼侍ちゃんが、眼前に迫った女魔法使いちゃんを見上げながら口を開きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きょねんのいまごろとくらべて、カップが3サイズあがったよね!」

 

 

「2サイズよこの馬鹿!!」

 

 

 ドグシャア!!!

 

 

 ギリギリのところで理性が働いたのか、顔面ではなくどてっぱらに爆発金槌を叩き込んだ女魔法使いちゃんは偉いですね。全身が木端微塵になる中で、残った首だけがポーンと吹き飛ばされ、分身ちゃんが拾いに向かいました。

 

「ね、姉ちゃん何してんだよ……人殺しじゃねえか……」

 

 荒く息を吐く女魔法使いちゃんにおずおずと話しかける弟君。その言葉に無言で指し示した先には、既に再生を終わらせ元気に走り回る吸血鬼侍ちゃんの姿が!

 

「安心なさい、ここにいる面子であの2人を殺せるやつなんて……あ、1人いたわ」

 

 女魔法使いちゃんに釣られ、みんなの視線が集まったのは……。

 

「「おねがいします、ヒールだけはやめてくださいヴァンパイアスレイヤーさん!!」」

 

「いい加減そのことは忘れてください!!!」

 

 

 ギャーギャーと言い争う4人を呆然と見つめる少年魔術師君と圃人の少女ちゃん。そんな2人の肩を叩いたのは令嬢剣士さんでした。誰もが見惚れるような笑みを浮かべながら、2人に優しく語り掛けます。

 

 

 

 

「諦めましょう。私たちに出来るのは、ただ愚直にあのナマモノ2人を殴ることだけですわ」

 

 

 

 

 

 

 その後、地下室から姿を見せた4人は仲良く洗い場へ赴き、血と汗と泥とともに、少年魔術師君の角も取れて少しだけ丸くなったそうです。

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、どうしたんですか女幽鬼(レイス)さん、そんなメスの顔して。

 あの少年、彼こそ私が愛するあの人の生まれ変わりに違いない?

 困難を前に女の子を庇うイケメンっぷり見間違えようがありませんわって、ええ……?(困惑)

 

 




 平日は更新が遅れそうなので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がりますのでよろしくお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその8ー4

 四連休を錬成したので初投稿です。


 前回、新人たちが血の洗礼を受けたとことから再開です。

 

 吸血鬼侍ちゃんと女幽鬼さんの合作による不思議なダンジョンを活用した訓練が始まり一か月ほど。マンネリを防ぐのと、思うように武器が振るえない状況を体験してもらうために、≪幻影(ビジョン)≫と触手による障害物を配置したことによって新たにシチュエーション戦闘も可能になりました。洞窟の壁面に武器を引っ掛けたりするのは致命的ですからね、原作的に考えて。

 

 また、空き時間を利用した新人同士の交流も盛んになり、少年魔術師君の態度にも若干の変化が見られるようになりました。さほど年齢の変わらない少年斥候君や新米戦士君から牧場防衛の話を聞いて、ゴブリンの数による攻勢の恐ろしさとそれを殲滅した冒険者側の悪辣さ、それに吸血鬼侍ちゃんの理不尽さに目を丸くしていました。

 

 実戦経験は積んでいるものの、牧場防衛には参加していなかった蜥蜴人の戦士さんも話に加わり、初めての冒険でやらかしたこと、実戦で感じた恐怖などを打ち明けたためにグッと仲間意識が強くなったようです。

 

 距離感が近くなり、気の置けない者同士。若い男子が集まったとなればそういう方向に話が進むのは自然なわけで……。

 

「なんというかこう、甘えさせてくれる感じが堪らないんだって!」

 

「そうかァ? 俺ァやっぱ喰らうんなら肉付きの良いほうが好きだけどなァ。性的な意味で」

 

「大きいは正義、はっきりわかんだね」

 

 休憩の合間に女性陣のランニング姿を見ながら自分の性癖を暴露している青春男子たち。ギルド支給の運動着姿で躍動するうら若き乙女へチラチラと視線を向けていますが、それ女性からしたらガン見なんだよなぁ。

 

 お付き合いしているらしい交易神の侍祭さんに目を向けている蜥蜴人の戦士さんと、それに同意するよう頷いているのは新米戦士君。少年斥候君は飲み物や汗拭き用の手拭いを準備している森人少女ちゃんに熱い視線を送っています。

 

 彼らにジト目を向けている少年魔術師君は呆れたように溜息をついて興味ありませんという顔をしていますが、残念ながら3人にはバレバレのようです。

 

「なに僕は興味ありませんて顔してんだよ。さっきからチラチラ見てんのは分かってんだぞ?」

 

「ほー、実の姉がでっかいと反動でちっぱいが好きになるもんなのか……」

 

「肉が少なくて食いでが無さそうなんだよなァ」

 

 男子たちの視線の先には遅れがちな見習い聖女ちゃんをフォローしながら走る女神官ちゃんの姿。汗で身体に張り付いたシャツが、その華奢なラインを浮かび上がらせています。

 

「バッ・・・・・・そんなんじゃねえよ!? あの貧相な身体のどこにあんな奇跡を使う力があるのかって考えてただけだ!」

 

 うんうん、青春してますね。でも大声を出したから女性陣から凄い目で見られてますよ少年魔術師君。特に圃人の少女ちゃんあたりから。それにほら……。

 

 ゾクゾクッ

 

 突然首筋に走った悪寒に身を震わせていますが、()()()()()()()()異常はありません。

 

「そろそろきゅうけいおわりだよ~」

 

 今日の教官役である分身ちゃんの呼びかけに慌てて駆けだす男子たち。少年魔術師君の背中にはピッタリ寄り添うように女幽鬼さんが頬擦りしています。……どうやらストーキングは順調なようですね(白目)

 

 

 

 

「……そういや、アレはどうなんだよ」

 

 一応分類は女だろ? と言いながら、距離を空けて一党を先導するようにランニングする分身ちゃんの背中を眺めながら只人2人に問いかける少年魔術師君。

 

「いや、夕飯を買う金が無い時には何度もお世話になったし、悪い人じゃないことはわかってるんだ……」

 

「ああ、めちゃくちゃ強いし、オマケにゴブスレのおっさんとマトモに話が出来るのもすげえんだけど……」

 

「「女にしか興味が無さそうなんだよなあ……!!」」

 

 でっかい溜息を吐きながら返答する2人。そりゃ非生産的なと率直なツッコミをいれる蜥蜴人の戦士さんと対照的に、やっぱ滅ぼすべきでは? と物騒なことを呟く少年魔術師君。そんな会話が聞こえたのか、くるりと振り向き器用に後ろ走りしながら分身ちゃんが3人に向かって一言。

 

「おとこのひとがきらいなわけじゃないよ? ちゅーちゅーしておいしいのがおんなのひとのほうがおおいだけで」

 

 だからみんな、はやくおいしくなってね? とチロリと舌を見せながら笑い、そのまま前を向いてランニングを続ける分身ちゃん。後ろを走る若者4人が若干前屈みになっているのは仕方がないことでしょう。分身ちゃん、罪作りな女よ……。

 

 

 

 さて、分身ちゃんは教官役を務めていますが、本体である吸血鬼侍ちゃんは何をしているのかというと……。

 

「……で、円匙を探してた職人がゴブリンを見かけたのがこの辺りなんだが……」

 

「トーテムなし、ゴミためあり、ほりかえしたつちあり。たぶんなかにはいりこんでる」

 

 先にも話を聞いていた顔見知りの現場監督さんとともに、訓練場から少し離れた草原を探索している吸血鬼侍ちゃん。日が傾いてきたころ、斜面にぽっかりと口を開けた怪しい穴を見つけました。入り口近くの痕跡から、内部でゴブリンが掘削していると判断したようです。本来ならソロで突っ込んで制圧するのが手っ取り早いのですが、どうやらこの機会を利用して新人たちの教育を行おうと考えているみたいですね。

 

「こんばんはてつやでみはりをするから、しょくにんさんはねんのためにぜんいんまちまでひきあげて。あすもおやすみでいいから、これでみんなといっぱいやって?」

 

 ≪手袋≫から金貨袋を取り出し、現場監督さんに渡す吸血鬼侍ちゃん。一度分身ちゃんの維持を中止して再召喚し、新人たちを引率して一党とともに街へ戻り、ギルドへ報告するようお願いしています。明朝ギルドから討伐の依頼が出た後に行動を開始するつもりみたいですね。

 

 おや、分身ちゃんが自分が残ったほうが良いのではと確認していますが、吸血鬼侍ちゃんが残るの一点張り。ちょっと珍しいですね、効率重視の吸血鬼侍ちゃんなら不測の事態に備えて分身ちゃんを見張りに残すと思ったんですが……。分身ちゃんも不思議そうにしていますが、気を付けてねと言い残して訓練場へ飛んでいきました。

 

 

 

 

「いまかえったら、またみんなをいやなきもちにさせちゃうから……」

 

 うーん、どうやら悩み事を抱えているみたいですね。自宅で原因が分かれば良いのですが……。

 

 

 

 

 

 

 新人たちをギルドまで送り届け、ついでに受付嬢さんにゴブリンの痕跡を見つけたこと報告した一党。訓練場の建設と運営の妨害となるため、ギルドからの依頼という形で討伐の許可が下りました。明朝新人たちに実戦を経験させるために、ベテランと組んで一気に殲滅する方向で話が決まりました。

 

 ダブルカップル組はいつも通り重戦士さん一党として、蜥蜴人の戦士さん率いる多種族一党には槍ニキ&魔女パイセンがフォローについてくれるそうです。

 

 吸血鬼侍ちゃん一党は少年魔術師君と圃人の少女ちゃんを預かり、人数が多いので2チームに分割することに。吸血鬼侍ちゃん、女魔法使いちゃんが少年魔術師君と圃人の少女ちゃんと組み、分身ちゃんと森人狩人さんが一党の白磁2人と組んで四人組×2で行動となりました。それ以外の新人たちも適宜割り振られ、1組あたり新人が10人程度の集団になりそうです。

 

 出来ればゴブスレさんや妖精弓手ちゃんたち銀等級一党にも声を掛けたかったのですが、牛飼い娘の依頼で牧場にお泊りされているそうなので残念ながら今回は不参加ということに。女神官ちゃんは回復要因として重戦士さん一党が声をかけ、無事引き取り手が見つかってなによりです。

 

 

 

 

 

「……で、だれかあのこがへこんでいるりゆうをしらない?」

 

 おゆはんの席で吸血鬼侍ちゃんのいつもと違う様子を話し、原因を知る人がいないか周りを見る分身ちゃん。どうにもピンとこないのか、一党の面々は首を傾げていますね。

 

「おおかた悪いモンでも喰ったか、腹でも空かしてんじゃねえの?」

 

 森人少女ちゃん特製シチューを掻っ込みながらぼそりと呟く少年魔術師君。よく食べよく運動しているためか、辺境の街にやって来た時に比べると体つきがしっかりしてきたように見えます。どうしても座学に重きを置く学院と違い、身体を動かす機会が多いですからね。成長期も相まって一回り大きくなったかのようです。

 

「毒が効くような甘っちょろい身体じゃないし、最近は空腹でもない筈なんだけどね……」

 

 ぺしりと少年魔術師君の頭を叩きながら、っていうか貴女が分からないんじゃ誰も思いつかないんじゃないの?と女魔法使いちゃんが言葉を続けます。

 

「アザーセルフでわかれているときのかんじょうは、きょうゆうしてないからわからない、おたがいにね」

 

 だから考え方も好みもちょっとずつ変化していくよと告げる分身ちゃん。やっぱり人格の分割……というか独立が進行しているんでしょうかね。これも成長の一つのカタチなのかなぁ。

 

「……あの、もしかしたら私、心当たりがあるかもしれません」

 

 おずおずと手を上げたのはおゆはんを求めて一党宅を訪れていた剣の乙女。眼帯を外した虚ろな瞳で女魔法使いちゃん姉弟のほうを見つめています。視線で先を促す女魔法使いちゃんに微笑みを向けながら、剣の乙女が自分の考えを話し始めました……。

 

 

 

 

 

「……ということではないかと、私は思うのですが」

 

 

 剣の乙女の考えを聞いた一党の反応は様々です。ははぁご主人様らしいやと頷くもの、ええ……?とちょっと引き気味なもの、生暖かい笑みを浮かべるもの……。

 

「ああ、うん。あの子ならそういう思考のドツボに嵌っても可笑しくはないわね」

 

「いや、やっぱりアイツ馬鹿だろ? 吸血鬼がそんなこと……痛ぇ!?」

 

 どこか納得した様子の女魔法使いちゃんに再び頭を引っ叩かれ蹲る少年魔術師君。これは明日お話しないとねと呟きながら、蹲ったままの少年魔術師君に頭上から質問を浴びせます。

 

「で、あんた本当についてくる気? 週明けまでに学院に帰らなきゃ行けないんでしょ」

 

 ひらひらと刻印入りの封筒を弄ぶ女魔法使いちゃん。どうやら学院から少年魔術師君に帰還命令が出たみたいですね。ゴブリン退治が終わってからだと乗合馬車に間に合わないので、出発はさらに伸びそうなんですが。おや、分身ちゃんが送って行ってくれるみたいですね。女魔法使いちゃんの時も王都での馬車を含め5時間ほどで着きましたし、門から徒歩でもなんとかなるでしょう。

 

「当たり前だ! アイツが本当に姉ちゃんを守れるくらい強いのか見定めてやる!」

 

 フンスフンスしている少年魔術師君を一同は優しい目で見て……あ、1人だけ熱い視線を送ってました。やはり私の王子様? うん、もうそれで良いと思いますよ。

 

 

 

 

 それじゃあ明日も早いから、ということでいそいそと就寝の用意を始める一党。予想通り分身ちゃんはスケベ森人(エロフ)義姉妹に捕獲され、その後を令嬢剣士さんが顔を真っ赤にしながら追いかけ、4人は共同寝室へ消えていきました。分身ちゃんがんばえー。

 

 少年魔術師君を来客用寝室へ放り込み、夜戦場(あそこ)で寝るのは嫌ねと呟く女魔法使いちゃん。そこに近付く影が。普段の服装よりも露出が減った寝間着姿の剣の乙女が、何かを決心したような顔つきで女魔法使いちゃんの前に立っています。

 

「あの、すこしお話ししませんか? あの子のことについて……」

 

 そう切り出した剣の乙女と相対し、二言三言会話を交わした後に首肯する女魔法使いちゃん。少年魔術師君の寝る部屋から間を空けた来客用寝室に2人で入って行きました。果たしてどんな話し合いが行われるのでしょうか。夜は(一部を除き)静かに更けていきます……。

 

 

 

 

 

 

 

「ひがくれてからいっぱいゴブリンがはいっていって、よあけまえにくんれんじょうのしほうをかこむようにいりぐちがかいつうしたよ。とちゅうでひきあげてったゴブリンはぜんぶころしてあるから、のこりはなかでねてるとおもう」

 

 分身ちゃんが差し出した竜血(スタドリ)をちゅーちゅーしながら訓練場周辺の地形図に印を付けていく吸血鬼侍ちゃん。首無しチキン事件が発生した広間を臨時の作戦本部にして集まった冒険者に状況を説明しています。四つの入り口から同時に攻め入って、一匹残らず殲滅するつもりみたいですね。

 

「外へは一匹たりとも逃がさず、なるべく中に追いやっていく感じか。新人に見せるには随分地味な絵面になりそうだぜオイ……」

 

「一番盛り上がるのは最後だからな。調子に乗って数を減らしすぎるなよ?」

 

 槍ニキと重戦士さんは吸血鬼侍ちゃんが言わずともやりたいことを理解してくれていますね! 分身ちゃんも頷いてますし、あくまで今回()()を張るのは新人たちですから。各組ともベテランが少数を引率して突入し、クリアリングが終わった段階で入り口を見張ってもらっていた残りの新人を呼ぶ段取りで進めます。無駄に怪我をしないように、油断せずに頑張りましょう!

 

 

 

 

 

「……随分地味なんだな、ゴブリン退治って」

 

「馬鹿、あんたたちに分かりやすいようにやってんのよ。普段ならもっと手早く済ませてるわ」

 

 吸血鬼侍ちゃん組の受け持ちとなった最初に発見した入り口に到着し、改めて周囲を探索している様子を見て愚痴をこぼす少年魔術師君の頭にまたもや愛の一撃が。蹲る弟を無視し圃人の少女ちゃんに顔を向ける女魔法使いちゃん。あ、そのちょっと女教師っぽい仕草を見て吸血鬼侍ちゃんのテンション上がってますね。

 

「さて、あの子が何をしているか説明できるかしら」

 

「は、ハイ! ゴミの中から攫われた人がいないかの推測と、上位種がいるかどうかの判別としてトーテムの有無を調べています。あと、まともにエサを食べているのかもわかる……かも?」

 

 圃人の少女ちゃんの回答に頷きを返し、吸血鬼侍ちゃんに視線を向ける女魔法使いちゃん。どうやら昨日から変わりなさそうですね。

 

 只人(ヒューム)では2人並ぶと武器を震えそうにない狭い通路ですが、吸血鬼侍ちゃんと圃人の少女ちゃんなら十分な広さです。小柄な2人が前衛に、真ん中に松明持ちの少年魔術師君、最後尾に女魔法使いちゃんという隊列で進んでいきます。

 他の新人たちには入り口の警戒を任せ、後ほど圃人の少女ちゃんが呼びに来ると伝えてあるので問題はないでしょう。

 

「ゴブリンのけはいがしたらすぐにうしろにさがってね。ぜったいにとおさないから」

 

「了解です教官殿! ……!? そこ、その壁面なんか変です!

 

 圃人の少女ちゃんが指差す先、僅かに土が壁面からこぼれている場所があります。後ろへ下がるよう手で指示し、そっと近づく吸血鬼侍ちゃん。おもむろに右腕を壁面に突っ込み……。

 

「GOBGOB!?」

 

「せいかい。よこあなをほってかくれていることがあるからちゅういしてね」

 

 おお、ナイスキャッチ(物理) 不意打ちを企んで潜んでいたゴブリンを頭を鷲掴みにして引きずり出し、左手で毒付きナイフを持つ腕をへし折って地面に放り出す吸血鬼侍ちゃん。そのまま血刀を起動させ、横穴に向けて火を放ちます。

 

「「「GOBGOBGOB!?」」」

 

 横穴の中から聞こえてくる悲鳴に恐れをなしたのか奥へと逃走を図るゴブリン、追いかけようとする少年魔術師君を制し、横穴の中へと消えていく吸血鬼侍ちゃん。再びゴブリンの叫びが響いた後、通路の前方から姿を見せました。どうやら横穴を踏破してきたみたいですね。

 

「しんだふりをしてることもあるから、かならずとどめをさしてね。よこあなはぜんぶそうじしたから、さきにいこっか」

 

 事もなげに笑う吸血鬼侍ちゃんに引き攣った顔を向ける新人2人。ゴブスレさんならもっとスマートに出来るんでしょうけど、吸血鬼侍ちゃんだとどうしても大味になっちゃうのが欠点ですねぇ。

 耳を澄ませば奥から同じような悲鳴と冒険者の喊声が聞こえてきます。先に進むにつれゴブリンが外へ逃げ出そうと次々に一党へ向かってきますが、近寄る傍から吸血鬼侍ちゃんに殴り倒され、奥へと逆戻りさせられています。その頻度は奥に進むにつれて増し、最終的には目を合わせながらゴブリンがじりじり後退するようになってしまいました。

 

 

 

 

 

「随分遅かったじゃねえか。お前さんとこがビリだぜ?」

 

「よこあながあったからそうじしてたの。いっぴきもにがしちゃダメだから」

 

 そりゃ災難だったなあと笑う槍ニキ。既に他の3組はこの四辻の集結点に到達していました。圃人の少女ちゃんに外で警戒に当たっている他の新人を呼んでくるようお願いし、彼らの到着を待ちます。

 

 内側に視線を向ければ、おそらく休息場所にするつもりだったのでしょうか。食べかけの死肉や毒を作るのに用いられている壺、盗まれた円匙が乱雑に置かれた10メートル四方ほどの空間が目の前に広がっています。

 部屋の中心には顔や腕を腫らしたゴブリンの集団が、他の個体を盾にしようと内側へ内側へと入り込もうとしている醜悪な光景が。すべての通路を塞がれ、なんとか生き延びようと足掻いています。

 

「ゴブリンを殺した経験の無いヤツ、前へ出ろ」

 

 吸血鬼侍ちゃん組の後続が到着したのを確認し、重戦士さんが新人に声を掛けます。躊躇いがちに進み出る新人、その中には少年魔術師君や圃人の少女ちゃん、それに交易神の侍際さんの姿があります。

 

 一歩踏み出そうとした槍ニキを視線で止め、スタスタと部屋の中心へ歩き出す吸血鬼侍ちゃん。いいのか?と言わんばかりの目に笑みを返すと、でっかい溜息を吐かれてしまいました。

 

 先ほど吸血鬼侍ちゃんに殴り飛ばされたヤツでしょうか、顔を押さえたゴブリンが命乞いをするように地面に手を着いて何度も頭を下げています。

 

 村正に添えていた手を離し、目線を合わせるようにしゃがみ込む吸血鬼侍ちゃんを見て、顔を上げたゴブリンは前衛姿勢から突進、隠していたナイフを吸血鬼侍ちゃんの腹部に突き立てます!

 

 ニヤリと笑みを浮かべるゴブリン。毒に悶える姿を想像しているのでしょう、馬鹿な冒険者を嘲笑うように喚き、それにつられて他のゴブリンもゲラゲラと笑い声を上げ始めました。

 

 五分後に逃れられぬ死が待っていようと、今この瞬間の悦楽の前にはきっとそんなこと考えられないのでしょう。毒に苦しむ吸血鬼侍ちゃんを人質にと考え、盾として抱えようとしていますが、ナイフを握った手が微動だにしないことに気付き焦ったような視線を吸血鬼侍ちゃんに向けていますね。

 

「こんなふうにゆだんをさそって、どくないふでこうげきしてくるのはにちじょうさはんじ。ふよういにちかづかないことと、げどくやくはかならずもちあるくこと」

 

 ニッコリと笑ったままナイフを握った手を掴んで腹から引き抜き、持ち主の顔の前まで持ち上げる吸血鬼侍ちゃん。そのまま眼前で腕を捩じ切り、悲鳴を上げるゴブリンの肩を押さえ、黒く硬化した右手を腹に抉り込みます。薄い腹筋を貫き、内臓を引きずり出したそれをゴミでも捨てるようにゴブリンの集団の中心に投げ入れました。

 

「ふいうちにしっぱいしたゴブリンは、あいてをおこらせたヤツをころして、ごきげんをとろうとする。わるいのはコイツだけで、オレはわるくないというじぶんかってなかんがえ」

 

 吸血鬼侍ちゃんが口にしたそのままの光景が新人の前で行われています。もはや声すら出せない状態のゴブリンを怪我の少ない連中が石や棒で滅多打ちにし、動かなくなったそれを放置したまま卑屈な笑みを冒険者に向け始めました。

 

「ここまできたらあとひとおし。ぼくがゆるしてもほかのひとがゆるさないことをおしえてやるだけ」

 

 その言葉が紡がれた瞬間、吸血鬼侍ちゃんの背後から投擲された長槍がゴブリンを3匹纏めて刺し貫きました。部屋の隅まで吹き飛び、壁に縫い付けられた末路を見て今度こそゴブリンたちの心はへし折れたようです。

 

 他の奴が先に死ねば、もしかしたら自分の番が回ってくるまでに飽きて帰るかもしれない、そんな考えなのでしょう。我が身可愛さに他の個体を差し出すように重傷のものを冒険者側に押しやっています。押される側も抵抗し、押してきた相手を殴りだす陰惨な状況を目撃して、新人たちの顔色は悪くなる一方ですね。

 

 

 

「クソっ、こんなのが冒険であってたまるか……ッ!」

 

 躊躇する新人の中から進み出た少年魔術師君。新米戦士君から借りたのでしょう、棍棒を振りかぶり、命乞いをするゴブリンの脳天に叩きつけました。頭部から血と脳漿を噴き出しながら倒れたところに支給されていたナイフで心臓を突き、完全に死んだのを確認。フラフラと戻ってきたところを女魔法使いちゃんが抱き留め、よくやったわねと頭を撫でています。

 

 

 

「どうしました? 抵抗しない相手を殺すことはできませんか?」

 

 口元に手を当て、蹲ってしまった交易神の侍祭さんの肩に手を添えて問いかける森人少女ちゃん。無言で頷く姿に困ったような笑みを浮かべ、それでは荒療治でいきましょうと告げながら、持っていたナイフで侍祭さんの喉元から腹部にかけて服を切り裂きました! 悲鳴を上げる肌も露わな侍祭さんの姿に、周囲の目が一気に集中します。

 

「オイ、いきなり何てことしやが……ッ!?」

 

「ちょっとだまってて」

 

 (つがい)の肌を衆目に晒され怒りの声を上げる蜥蜴人の戦士さん。森人少女ちゃんに詰め寄ろうとしますが、鼻先に突き付けられた分身ちゃんの持つ村正の切先と、その姿からは想像もできない程の圧迫感に気圧されて動けなくなってしまいました。外気に晒された胸元を隠そうとする侍祭さんの腕を背後から押さえ付け、前髪で隠れた表情のまま肩越しに話しかける森人少女ちゃん。

 

「よーく見てください。こんな状況であっても、いえ、こんな状況だからこそ貴女を見て欲情しているケダモノたちの姿を」

 

 森人少女ちゃんの指差す先に侍祭さんが揺れる視線を向ければ、股間を膨らませたゴブリンたちの雌を犯す事しか考えていない瞳の群れ。さっきまで命乞いをしていたとは思えないその変貌に、歯の根が合わないほどの恐怖を感じているようです。

 

「もし殺せないというのなら、このまま貴女をあの群れに投げ込みましょうか。自分の股座(またぐら)からゴブリンの赤子が顔を出すのを見るのは、なかなかに得難い経験ですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(わたくし)が保証いたします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉に声を無くす冒険者たち。

 

 一党以外では森人少女ちゃんを救助した女神官ちゃんが知っているくらいでしょうか、それ以外のベテランも薄々気付いていたようですが、新人のなかには自分がそうなった光景を想像してしまい、嘔吐している女性もいます……。

 

 村正を突き付けていた分身ちゃんが≪手袋≫からシーツを出し、侍祭さんを包んで抱き上げて蜥蜴人の戦士さんに手渡し。受け取った蜥蜴人の戦士さんも動揺を隠せず、彼女に声をかけることも出来ない様子です。

 

 そのまま分身ちゃんは森人少女ちゃんに歩み寄り、抱き締めるや否や長い耳や頬、首筋にマーキングを。感情が抜け落ちたような顔つきだった森人少女ちゃんでしたが、分身ちゃんのアプローチで徐々に表情が戻ってきました。2人の触れ合いを見て滾る欲望を我慢できずに襲い掛かってきたゴブリンを影の触手で串刺しにしつつ、分身ちゃんは新人に向かって笑いながら告げます。

 

 

 

「てにあせにぎるわなのかずかず、そらをまうどらごんとのたたかい、きらびやかなざいほう。すごくかっこいいよね」

 

「でも、みんなのいちばんめかにばんめのぼうけん、あるいはさんばんめ。すくなくともこくようにあがるまえに、かならずごぶりんたいじがまっている」

 

「そこにあるのは、ちと、おだくと、けがされたひとのそんげんと、ごぶりんだけ」

 

「そうぞうして? なかまを、かぞくを、こいびとを。たいせつなひとをそんなめにあわせたくないのなら、やることはひとつ。わかるよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴブリンは皆殺しだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が頂点から僅かに外れた頃にギルドへ帰還した冒険者たち。ぞろぞろと戻ってきた集団に、別の冒険から帰ってきていた一党が気付き、声をかけようとして動きを止めました。

 

 戻ってきた新人の顔はやつれ、動きは精彩を欠いた有様。でも、その目はギラギラと輝き、ただの初心者(ノービス)には無い凄みが生まれています。

 

 訓練で何をやって来たんだと一党の頭目が集団の代表と思しき重戦士さんに問いただすと、肩を竦め、何でもない様子でこう返事が来るのでした。

 

 

 

 

 

「なに、()()()ゴブリン退治さ。お前らも散々経験してきただろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




 連休中にもうちょい更新したいので失踪します。

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 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその8 りざると

 有給休暇が使えたので初投稿です。


 前回、新人たちが一皮剥けたところから再開です。

 

 お昼過ぎにギルドへ到着した冒険者集団。今回のゴブリン討伐を持ち掛けたのが吸血鬼侍ちゃんなので、報告をしようと受付嬢さんのところへ向かっていますね。新人たちの眼光の変わりっぷりに引き気味の彼女にしっかり顛末を伝えましょうか。

 

 

「……それで、ゴブリンを追い詰めて新人に()()()()()()()()()()()?」

 

 呆れたように背中を椅子に預けながら目頭を揉む受付嬢さん。暫しの瞑目、その後見開いた瞳は鋭く、吸血鬼侍ちゃんを厳しい目で見つめています。

 

「結果はどうであれ、ギルドは今回の貴女の行動に対して警告しなければいけません。貴女が行ったことは新人に対するゴブリン殺害の強要であり、彼らの意思を踏みにじる強迫に該当します。今後の人格査定に大きな影響を与えることを覚えておいて下さい」

 

「わかった。でも、ひつようならまたやるから」

 

 うーんこのセメントっぷり。ギルドの評価をまったく気にしていませんね。どうしてこうゴブリンに係わる冒険者は融通が利かないんでしょうと大きな溜息を吐く受付嬢さん。ガックリと肩を落とした後に言葉を続けます

 

 

「あのですね、予め訓練の一環として申請を出して、受講する側の了承さえあれば別に問題なかったんですよ!! ……形式上は、ですけど。だから、次からはちゃんと私たちにも話してくれませんか?」

 

「……ごめんなさい。つぎはちゃんとおはなしします」

 

 ギルド中に響くような声でしたが、それは吸血鬼侍ちゃんを心配し、諭すための声でした。しゅんと縮こまっちゃった吸血鬼侍ちゃんを困った顔で眺める受付嬢さん。おや、彼女の後ろから見慣れた手が伸びてきて……。

 

「*おおっと* ついうっかりインクこぼしちゃったー」

 

 わざとらしい棒読みを垂れ流しながら報告書にインク壺を傾ける監督官さん。受付嬢さんに付着しないよう繊細な手つきで垂らされたそれは記入途中の書類を黒く染め、書き損じへと変えてしまいました。

 

「あーせっかく書いてた書類ダメにしちゃってごめんねー。書き直しが必要なら変わるけど、なんの書類だったのー?」

 

「……いえ、ただのメモでしたから大丈夫です。もう、服に付いたら大変なんですから気を付けてくださいね!」

 

 ウインクをしながら謝り倒す監督官さんと、眦を下げた表情で怒ったフリをする受付嬢さん。吸血鬼侍ちゃんが口を開こうとするも、監督官さんの指で唇を押さえられ、反対の手でしーっのポーズ。背後を示す指の先では支部長さんが苦笑いをしています。……どうやら、見なかったことにしてくれるみたいですね。

 

「ありがとうございます」

 

 頭を下げる吸血鬼侍ちゃんを見て、慌てて視線を逸らしわざとらしい無視を始めるギルド職員たち。おやおや、ありがとうを言うのもダメだったみたいですね吸血鬼侍ちゃん。

 

 

 

 

「ぬわああん疲れたもおおおおおおん! あれ、なんでちっこいのやみんながギルド支部(こ↑こ↓)に居るのよ?」

 

 あれ、妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)がバテバテになってやって来ました。牧場に泊りで依頼を受けてると聞いてましたけど……なんで微妙に剣の乙女の口調が移ってるんですかねぇ……? 続いてゴブスレさんを始めとする銀等級一党の面々と、それに牛飼い娘さんが入って来ましたね。みな疲労の色が濃いみたいですけど、何かあったんです?

 

「ゴブリンだ。牧場から運んでいた食料を狙って襲ってきた」

 

 既に皆殺しにしたけれど、街道での襲撃だった上に牛飼い娘さんを庇いながらだったために結構しんどかったそうです。もしかすると、こっちが討伐した集団の一部だったのかも。

 

「こっちもさっき、くんれんじょうのちかでみなごろしにしてきたよ?」

 

「……詳しく聞かせろ」

 

 ゴブスレさん達が襲われたということで、重戦士さんや槍ニキも集ってきて互いの事情を説明。状況から考えて、やはり吸血鬼侍ちゃんたちが鏖殺(ブッコロ)した群れの食料調達部隊ではないかという結論に至りました。

 

「……ぼくがみのがしてたのかも、ごめん」

 

「いや、その可能性は低い。今の季節はまだ食えるものが少なく、ゴブリンは楽をすることしか考えない。自分たちで集めるより、輸送業者を襲うのが簡単だと判断したのだろう」

 

 おそらく何日も前から街道沿いに潜んでいたと言って口を紡ぐゴブスレさん。周りで聞いていた新人たちの顔にも納得の表情が浮かんでいます。

 

 そういえばゴブスレさん、牧場のほうが忙しいからあまりギルドに顔を出してませんでしたね。身に付けた装備も以前の安っぽく見えるものとは違いますし、新人から見たら謎の銀等級冒険者といったところでしょうか。なお中身。

 

 

 

 

「それじゃあ訓練場に持っていくつもりだった差し入れは、ここでみんなで食べちゃおうか!」

 

 表の荷車に積んであるから、お腹空いてる人は運ぶの手伝ってーという牛飼い娘さんの明るい声を聞いて、弾かれるように跳び出していく新人冒険者たち。ギルドに入って来た時の剣呑な色は薄まり、少しずつですが経験相応の明るさが戻ってきましたね!

 

 上手く意識の切り替えが出来ないと精神的に参ってしまったり、冒険から戻ってきても物音に敏感に反応してしまい、疲れが抜けなくなることが多々あります。冒険者が冒険の後に飲み食いや娼館で散財するのは、そのリセットを促す意味も大きいですね。まあ生存本能が高まってヤっちゃうタイプもいるようですけどね森人狩人さん!

 

 

 

「……あいつらに何をした?」

 

「きょねん、ぼくたちがあの2人にやらせたこと。おとうとくんもちゃんとできたよ」

 

「……そうか」

 

 吸血鬼侍ちゃんの視線の先には、青い顔で水をがぶ飲みする少年魔術師君と、オロオロしながら見守る女神官ちゃん、まったく情けないわねーと腕組みをしている女魔法使いちゃんの姿。

 

「あの3人は、きっとえいゆうになれる。ぼくたちとちがって」

 

「そうだな。俺たちとは違う」

 

 少年魔術師君がむせている様を見て笑う彼女たちの様子が眩しいのか、恐らく2人とも目を細めて見ている気がします。その目に浮かぶ感情は、憧憬か、それとも諦観でしょうか?

 

 

 

 

「もう、2人ともなーに暗い顔してるの?」

 

 重くなった空気を吹き飛ばすように2人の肩を叩く牛飼娘さん。いつのまにか食料の運び込みは終わっていたようで、周りでは騒がしいちょっと遅めのランチの真っ最中。ゴブスレさんから会話の内容を聞くや否や、呆れたように笑いだしてしまいました。

 

「まったく、2人が自分をどう思っているかは分からないけど、君は私にとって間違いなく英雄だし、双子の妹ちゃんだってみんなを救った英雄に決まってるじゃない!」

 

 そう言って笑い続ける牛飼娘さんを見て、考えもしなかったという顔で目を丸くする2人。その後互いに視線を向け、突き出した拳をコツンと軽く合わせました。

 

 

 

 

 

 

 

「やったね、えいゆう」

 

「お前もな、英雄」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと、ぼくはふたごじゃないよ???」

 

「えっ!? 彼からそう聞いてたんだけど……」

 

「≪分身≫を説明するのが難しかった。……面倒だったわけじゃない」

 

 

 

 

 

 ゴブスレさんェ……。

 

 

 

 

 

「ほんとに今日帰るの? 別に明日でもいいじゃない」

 

 日差しが赤く変わり始めた頃、ギルド前に集まった冒険者たち。もう一晩泊っていけばいいと言う女魔法使いちゃんの提案を断り、少年魔術師君が学院に帰ろうとしています。運び役の分身ちゃんは向こうで森人少女ちゃんに、戻ってきたらお昼の続きをしようねと導火線に火を点けちゃってます。それってつまり吸血鬼侍ちゃんに速攻で再召喚しろって言ってると判断してよろしい?

 

「いや、この気持ちが変わる前に戻りたい。やりたいこととやるべきことを見つけたから」

 

 少年魔術師君の顔つきは一か月前とは大きく変貌し、少年から青年と呼ぶべきものになったように見えますね。そのままゴブスレさんの前に立ち、勢いよく頭を下げました。

 

「最初のときは悪かった。勘違いで思いっきり失礼なこと言っちまって……」

 

「構わん、気にしていない」

 

 何でもないように返答するゴブスレさん。これほんとに何とも思ってないんだろうなぁ。自分のことですら意に介さないのに、まるっきり人違いでしたからねぇ……。そのまま女神官ちゃんに向き直り、手を差し出しました。

 

「お前には感謝してる。地下室での立ち回りと冒険者の心構え。一緒に訓練出来て良かった」

 

「わ、私も助けてもらって嬉しかったです! 馬乗りされた時は本当に怖かったので……」

 

 おずおずと差し出された手を握り、握手を交わす女神官ちゃん。妖精弓手ちゃんや令嬢剣士さん、圃人の少女ちゃんがそれをニヤニヤと眺めています。無遠慮な視線に気付いた少年魔術師君は慌てて手を離し、最後に吸血鬼侍ちゃんの前にやって来ました。

 

「お前が姉ちゃんを守れるくらい強いのは十分に分かった、それは認めてやる。だが、お前みたいな怪物を放っておけるわけないだろ。だから……」

 

 強く握った拳を吸血鬼侍ちゃんの胸に押し当て、大声で宣言する少年魔術師君。

 

「俺は、お前を滅ぼせるくらいの吸血鬼殺し(ヴァンパイアスレイヤー)になる! お前が人を襲った時は、必ず止めて見せる!!」

 

 その途方もない、でも実現してしまいそうな勢いの内容に一瞬硬直する吸血鬼侍ちゃん。でも、すぐに笑みを浮かべ胸に当てられた手に自分のそれを重ね、言葉を返します。

 

「がんばれ、みらいのヴァンパイアスレイヤー。……あ、でもしょだいはもういるから、きみはにだいめだからね?」

 

 いつまでそのネタ引っ張るんですか!?と顔を赤くして吸血鬼侍ちゃんを追いかける女神官ちゃんと、くるくるみんなの周りを回りながら逃げる吸血鬼侍ちゃん。その様子を分身ちゃんに抱えられた上空から見ている少年魔術師君の耳に、下から声を張り上げている女魔法使いちゃんの言葉が届きます。

 

「いい? 先生(半鬼人先生)のところに行ったら、何を言われても最初にその手紙を見せなさい! 絶対に最初によ!!」

 

 わかってるーと大声で返事をする少年魔術師君、その背中に抱き着く分身ちゃんにお願いというポーズを送った後に、胡散臭いモノを見る視線を少年魔術師君のお腹にしがみ着いている恍惚の表情を浮かべた()()()()()に向けています。いや、きっと守護霊みたいなものですし、悪いものと判断したら半鬼人先生が破ァ!ってしてくれますから大丈夫ですって……たぶん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、まさかこのまま有耶無耶で済まそうだなんて思ってないでしょうね?」

 

 ですよねー。時刻はもうそろそろ深夜、現在吸血鬼侍ちゃんは女魔法使いちゃんと剣の乙女に上下から挟まれて、キューカンバーサンドの()()()みたいにしおしおになっています。

 

 

 分身ちゃんから無事に少年魔術師君を()()()()送り届けたという連絡を受け、慌てて再召喚した吸血鬼侍ちゃん。夕食とお風呂を済ませ、完全に出来上がった状態の森人少女ちゃん()分身ちゃん()貪り始めたのを見届けてからのことでした。

 

 あんたはこっちで寝ないの?という妖精弓手ちゃんの声を背に共同寝室を抜け出し来客用寝室へ向かっていた途中、突然伸びてきた腕が蛇のように絡みつき、寝室の一室に引きずり込まれた吸血鬼侍ちゃん。胸に顔を埋める体勢で剣の乙女に受け止められ、そのままベッドまで。

 

 そこに腰掛けて待ち構えていた女魔法使いちゃんに背中側から吸血鬼侍ちゃんを抱き締められ、一党の双璧を担うふかふかに覆われたまま掛毛布の上に倒れ込んだのが現在の状態です。

 

 

 

 やわらかくてあたたかく、甘い匂いのするお山に囲まれ混乱している吸血鬼侍ちゃん。暫く3人でベッドの上でゴロゴロ転がった後、仰向けに寝そべった剣の乙女とその脇下に手を着き、上に覆い被さるような体勢の女魔法使いちゃんに挟まれた形で落ち着きました。逃げ出そうにもおへその上で剣の乙女が手を組んでホールドされ、女魔法使いちゃんの両腕が床ドン体勢のため完全に逃げ場を失った状態ですね。もう逃げられないわよという女魔法使いちゃんの言葉に、引き攣った笑みを浮かべちゃってます。

 

「ここんとこずっと様子がおかしかったけど、今回の依頼で確信したわ。アンタ、またどうしようもないこと考えてるでしょ」

 

「……そんなことないよ?」

 

うーんこの嘘をつけない吸血鬼侍ちゃん、誰が見たってバレバレなんだよなぁ。また誰かにヤキモチ妬いてんの?という問いに対して必死に首を横に振っています。その様子に苦笑する剣の乙女。ホールドしていた腕を解き、這いまわるような手つきで吸血鬼侍ちゃんの寝巻のボタンを外していきます。

 

「……羨ましかったんですよね、僅かな時間で成長する新人たちが。それに、女の子を庇ってあげられる体格が」

 

 平たい胸、腹筋の感じられないおなか、肋骨の感触が直に伝わる脇腹……。壊れ物を扱うように繊細に撫でまわされ、吸血鬼侍ちゃんの青白い肌が徐々に紅潮していきます。

 

「……だって、ちゅーするときにまいかいかがんでもらわないといけないし、おひめさまだっこするときも、きをつけないとあしをひきずっちゃうから」

 

 その目に浮かぶ涙は羞恥心の発露でしょうか、それとも悔しさの表れですかね?

 

「でも、いちばんいやなのは、なやんでいるのがみんなにばれちゃうこと」

 

 そう言って口を噤む吸血鬼侍ちゃんに。ほんとアンタ頭は良いのに馬鹿よねぇと頬をつつく女魔法使いちゃん。咥えられそうになった指を引っ込めながら、呆れた様子で言葉を続けます。

 

「もし私やアンタのクッションになってる拗らせ乙女のお山が小さかったら、アンタは私たちを自分のモノにはしなかったかしら?」

 

「なんで??? みんなをすきなこととおやまのこのみはかんけいないよ???」

 

 そう言い切るくせになんで分からないんだか、と溜息を吐く女魔法使いちゃん。クッション呼ばわりされた剣の乙女もその解答には思わず苦笑い。

 

「同じことじゃない。アンタがちっこくても小鬼英雄(チャンピオン)みたいに馬鹿でかくても、私たちはアンタを愛してたでしょうね。ちっこいから愛でているのとはまったく別の話よ?」

 

 それに、と悪戯めいた光を瞳に浮かべながら、顔を近付け吸血鬼侍ちゃんの耳元で蠱惑的に囁く女魔法使いちゃん。

 

 

 

 

 

 

「ゴブリンスレイヤーのお嫁さんに言われて喜んでたでしょ、()()()()()()()()?」

 

「ふぁっ!?」

 

 この真っ赤な顔は恥ずかしさからですね間違いない。両手で顔を覆ってしまった吸血鬼侍ちゃんの隙を突くように服を剥ぎ取り終えた剣の乙女。首から下げられた指輪を外して、そっと吸血鬼侍ちゃんの指に嵌めようとしています。

 

「そうですね、私たちの小さな英雄さん。それに……ふふっ、こちらは『小さな』などと、とてもとても言えませんわね……」

 

「だめっ!? いまつけたら……っ」

 

 慌てて指輪を抜こうとしていますが、剣の乙女に技量であしらわれあえなく敗退する吸血鬼侍ちゃん。だんだん息が荒くなり、2人を見る目に獣欲が宿り始めます……。

 

「うーんこの【女殺し(レディキラー)】。アンタ実は魔剣を3本も持ってたのねぇ?」

 

「最近我慢してたから凄いことになってますわね……。でも、それは私たちも同じですのよ?」

 

 剣の乙女がするりと吸血鬼侍ちゃんの下から抜け出し、仰向けに寝かされた吸血鬼侍ちゃんに2人がかりで迫っています。吸血鬼侍ちゃん、諦めて被捕食者の気持ちになるですよー。

 

 

 

 

 

 

「私たちを虜にした責任は、ちゃーんと取ってもらわないとね……」

 

「いっぱい吸って、いっぱい注いで、いっぱい愛してください……」

 

 

 

「ど、どりょくします……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー。いきてる?」

 

「おはよー。しんでる」

 

「「きゅうけつきですからー」」

 

「いや、なにその挨拶。吸血鬼(ヴァンパイア)ジョークのつもりなの?」

 

 なんとか朝を迎えることの出来た2人。朝食当番だった妖精弓手ちゃんの呆れた視線を受け流しながらテーブルに着き、朝食の内容を眺めています。焼きたての麺麭と冬の間に作っておいた蜜柑のジャム。野菜スープにデザートと、妖精弓手ちゃんらしい肉っ気のない献立ですね。

 

 瞬く間に一人前を腹に納めた分身ちゃんを見て、吸血鬼侍ちゃんはデザートのイチゴが乗った小皿だけ自分の前に残し、他は全て分身ちゃんの前に。目線で感謝を伝え先程と変わらぬ勢いで食べる姿を見て、妖精弓手ちゃんが顔を赤らめながら心配そうに声をかけています。

 

「ちっこいのは食欲が無さそうで、分身ちゃんはお腹ぺこちゃんみたいだけど……昨晩はそんなに凄かったの?」

 

「いくらすってもどんどんあふれてきて、もとめられるままにそそいだらさいチャージのおわらないかいらくじごく……」

 

「どこにいくらそそいでもぜんぜんまんぞくしてくれなくて、どうしようもないからかいかんでいしきをトバしてにげきり……」

 

 2人ともよほど恐ろしい目に遭ったのでしょう、瞳孔が開きっぱなしの表情でカタカタ震えています。ゴクリと生唾を飲み込む妖精弓手ちゃんと令嬢剣士さん。そこ! ガタッと立ち上がらなくていいですからね森人狩人さん!!

 

「そんな夜の生活を続けてて、ポックリ死んだら許さないわよ?」

 

 ちゃんと約束を守りなさいと窘める妖精弓手ちゃん。焙煎に失敗したであろう泥のように不味い珈琲を一気飲みし、2人とも乾いた笑みを浮かべながら返事をします。

 

 

 

 

 

 

「「どんなにつらくてもしねないの、きゅうけつきだもの」」

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 まだまだ更新したいので失踪します。

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セッションその8 いんたーみっしょん


 まだまだ止まれないので初投稿です。




 未来のPC①を放流しちゃった実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 新人たちを教育した案件から時は過ぎ、ちょっと動くと汗ばむ陽気になりました。

 

 あの時恐怖に引き攣った顔でゴブリンに剣を振り下ろしていた新人たちも、今では立派な冒険者。白磁の認識票をゴブリンの返り血で汚しながら、毎日朝から依頼の争奪戦を行っています。

 

 ショック療法が良い結果を生んだのか、毎年ゴブスレさんが片付けていた大量のゴブリン退治が奪い合いとなる事態に受付嬢さんは嬉しい悲鳴を上げ、ゴブリンの返り血で染まった姿で凱旋する冒険者は辺境の街の風物詩となりそうな勢いに。

 

 早期に依頼を引き受けるようになったため、被害に遭う女性の数も減少傾向にあるようです。理想は被害ゼロを達成することですが、やはり現実は厳しいところ。依頼を受けた冒険者が集落に到着した際に、次は必ずゴブリンを見かけた時点で討伐依頼を出すよう言い広めているのが結果に繋がれば良いんですけどね……。

 

 

 

 吸血鬼侍ちゃん一党肝入りの計画である訓練場も予定の工事が終了し、研修生たちが生活できる宿舎も完成。基本は三か月、希望する者は最長で半年まで無償で訓練が受けられる体制が構築されました。

 

 もちろん訓練をサボるような不届き者は叩きだされ、ギルドのブラックリストに登録されてしまい、後に他の地方に同様の施設が建設されても利用できなくなるほか、悪質なものは冒険者登録自体を抹消し、二度と登録不可となる厳しい処分が下されることになりました。兵士ほどではありませんが、冒険者1人を食べさせる費用は決して安いモノではありませんから、当然の措置と言えるでしょう。

 

 また、怪我や引退で一党(パーティ)が解散したり、負傷からの復帰でリハビリが必要な冒険者などは格安で利用可能だそうです。ここで新たに一党を結成するもよし、他の一党に合流するもよしという考えみたいです。場合によっては教官として採用される道もあるそうなので、冒険者引退後のセカンドライフとしても人気が出るかもしれませんね。

 

 冒険者支援体制が軌道に乗ったことで、森人少女ちゃんと令嬢剣士さんは再び義眼の宰相閣下に提出するレポートの作成にかかりっきりに。女魔法使いちゃんと森人狩人さんは教官役が気に入ったようで、訓練場での指導やゴブリン退治の引率など引っ張りだこになっています。夕方には自宅に集まるとはいえ、いつも一緒に行動していた昨年と比べるとみんな成長した実感が湧く半面、ちょっと寂しい気持ちも吸血鬼侍ちゃんの中にあるみたいです。

 

 

 

 さて、そんな寂しがりやの吸血鬼侍ちゃん。去年はヒャッハーしながらゴブリン退治をローテしていましたが、今年はちょっぴりまったり進行。今日は分身ちゃんと一緒に空を飛んで、ゴブスレさんと牛飼娘さんにお呼ばれして牧場に向かっています。

 

「いらっしゃーい! 2人ともよく来てくれたね!!」

 

「すまんな、手間を取らせた」

 

「おきになさらず~」

 

「ママのからだがだいじ~」

 

牧場入り口で迎えてくれた夫婦の前に勢いを殺しながら着地し、そのまま牛飼娘さんにハグする2人。耳をおなかにくっつけて、ふむふむと何かを調べています。

 

「「うん、()()()()()げんきにおっきくなってる!!」」

 

 その言葉に顔を綻ばせ、2人を優しく抱き締める牛飼娘さん。ゴブスレさんもどこかホッとしているように見えますね。

 

 結婚の宴の時にはまだ判断出来なかったみたいですが、夫婦が授かったのはなんと双子ちゃんでした! おなかが大きくなるのが早いと気付いた女神官ちゃんが、吸血鬼侍ちゃんに調べて欲しいと頼んだことで発覚したものです。夫婦的には嬉しいものですが、単胎妊娠に比べると様々なリスクがあるため、今日みたいに定期的に通って確認しているんですね!

 

「ゆだんはしないでね? ちょっとでもへんかをかんじたらすぐにしらせて」

 

「それと、まんがいちのときはおなかをひらくかもしれないから、そのことだけはおぼえておいてね?」

 

 真剣な2人の顔を見て、そのときはよろしくと笑う牛飼娘さん。

 女神官ちゃんと話し合ったのですが、母体に負荷がかかり過ぎて母子双方に危険が迫った場合、地母神の神殿で帝王切開を行うことを計画しているみたいです。吸血鬼侍ちゃんは牙狩りの面々に依頼して、知識神の文庫(ふみくら)と学院の書庫で文献を探し、女神官ちゃんとともに可能な限り安全性を高める術式を構築中なんだとか。もしこれが確立すれば、母子の生命を守ることや、将来の人口増加につながる素晴らしい成果になるでしょう。

 

 ちなみに吸血鬼侍ちゃんが女神官ちゃんに黙って草案の写しを陛下に見せたところ、なーぜーかー女神官ちゃんの等級が一段飛ばしで青玉になり、地母神の神殿への寄付金の桁が一つ増えたそうです。いやー不思議なこともあるもんですねー(棒)

 

 

 

「それじゃあ、ちょっとだけゆびにきずをつけるから、でたちをこのうえにたらしてね」

 

 お、どうやらもう一つの依頼を果たすために召喚の準備に入ったみたいですね。

 

 つい先日までゴブスレさんが寝泊まりに使っていた納屋。結婚した今は古い装備の保管庫になっているのですが、そこの床に吸血鬼侍ちゃんが自分の血で複雑な文様を描いています。その上には鉱人の城跡で回収した真銀(ミスリル)の装具が人型に2体分並べられ、頭部に当たる部分には以前首あり首無し騎士(デュラハン)さんに被ってもらっていた角付きゴブスレさん兜が据え付けられた状態です。

 

 爪で自分の指を傷つけ、甲冑の心臓に当たる場所にそれぞれ一体ずつ血でサインを刻む吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん。その上に2人の血を垂らすよう、ゴブスレさんと牛飼娘さんにお願いしています。

 

「えっと、これでいいのかな?」

 

 先にゴブスレさんが垂らし、後に続いて牛飼娘さんが指先から赤い雫をポタリ。それが最後の鍵だったのでしょう、周囲から魔力が集まるとともに、甲冑がひとりでに動き始めました!

 

 おおー!という牛飼い娘の感嘆の声に反応するように立ち上がる2体の甲冑。()()()()()()()()()()を慌てて定位置に据え、何事もなかったように一礼をしています。……やっぱりしまらないですね()()()()()……。

 

「まさか、城跡の時に世話になった……?」

 

「せいかい! またつきあってくれるって!!」

 

「てんせいもじゅんばんまちでひまなんだって。やたらちがうせかいからまぎれてくるみたい」

 

 どこもかしこも転生者ばかりで行政も混乱しているみたいですね(白目) というわけで、順番待ちに飽きた2人がわざわざ下界に帰って来てくれました! 位階は若干下がって動甲冑(リビングメイル)としての召喚ですが、今回のお役目ならば十分すぎる強さでしょう。吸血鬼侍ちゃんに促されて、牛飼娘さんがたどたどしく()()()()()を唱え始めました。

 

「うう、緊張するなあ……。わ、私たち夫婦の子供が大きくなるまで、どうかこの牧場の平和をお守りください! ……これで大丈夫?」

 

 目をギュッと瞑って祝詞を言い切った牛飼娘さん。そろりそろりと開けた先で見た光景は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 動甲冑(リビングメイル)に両側から肩を組まれ、脇腹を小突かれている困惑したゴブスレさんの姿)

 

 

 

 

 

 うん、牛飼娘さんが吹き出すのもしょうがないですよ、この光景は。

 

 予め召喚予定の2柱から、文面なんて気にしない、気持ちが籠ってればヘーキヘーキと言われていましたが、ほんとにあんなのでも良いんですか……。

 

 でも、これでゴブスレさんが懸念していた『自分が牧場を離れているときに、家族や神殿から預かっている子供を守る手段』は問題なさそうですね!

 

 春になってゴブリンが活動を活発化させる季節となり、吸血鬼侍ちゃんたちから新人がヒャッハーしているのを聞いたゴブスレさん。どうしても気になってソワソワしているのに牛飼娘さんが気付き、そんなに心配なら見てきたら?と言ったのが召喚のきっかけでした。

 

 ゴブリンの動向と新人の習熟度は気になるけど、牧場の守りと母子の安全はもっと気になる。そんな悶々とした思いを吸血鬼侍ちゃんに打ち明けてくれたので、彼らに再登場願ったわけですね。

 

 こうやって言葉に出して相談を持ち掛けてくれるあたり、丸くなったというか、ゴブスレさん本来の素顔が見えてきたというか……。吸血鬼侍ちゃんもまんざらでもなさそうな顔をしてますね。

 

 

 

 

 

 そろそろお昼だけど、2人とも食べてかない?という牛飼娘さんの嬉しい誘いに諸手を上げて喜びを表現する腹ペコ吸血鬼×2。神殿から来た子たちもみんないっぱい食べるから作ってて楽しいんだよと笑う顔は、ちょっと汚れた2人には眩しすぎたみたいですね。目を押さえて転がり始めちゃいました……。

 

 大丈夫!?と心配そうに聞いてくる牛飼娘さんですが、その純真さにやられているだけなので、放置しとけばそのうち復活しますから。

 

 調理は朝のうちに終わらせてあるから、温めればすぐ食べられるよーという声とともに歩く4人ですが、母屋のほうがちょっと騒がしいですね……。家畜が逃げ出したか、作物を狙った動物が姿を見せたんでしょうか? みんな揃って空を指差してますけど……あ、あの空から舞い降りてくる特徴的なシルエットは……!

 

 

 

 

「いたいた! 健康チェックの日にごめんなさい。悪いんだけど、そこの2人回収させてもらえるかしら?」

 

 外套(つばさ)を器用に操って降りてきたのは女魔法使いちゃんでした。呪文回数を消費するとはいえ、早馬と同等の速度を出せる≪浮遊(フロート)≫で飛んで来たってことは何か緊急事態でしょうか。今日はたしか訓練場で真言の単語発動を教える予定だったと思いますけど……。牛飼娘さんが気を利かせて持ってきてくれた井戸水を飲み干しながら、汗を拭っています。

 

「突然訓練場近くの広野の上空に裂け目が出来て、そこから白金等級一党(パーティ)の3人が落ちてきたの。騒ぎになると厄介だから、とりあえずウチに案内したんだけど……」

 

 あ、そっか。訓練場建設の起工が原作より二ヶ月以上早かったので頭から抜け落ちていましたが、今の季節は初夏、勇者ちゃん一党が帰ってくる時期でした! 見つけたら速攻で回収しようと思ってましたが、まさか牧場訪問の日と重なるとは……。とりあえずすぐ戻りましょう、牧場ランチはまた次の機会ということで。

 

「おじゃましましたー」

 

「またらいしゅう、ようすをみにくるからねー」

 

「ありがとー! 3人とも気を付けてねー!!」

 

「……またいつでも来い」

 

 うん、なんかこう、良いですね。2人の幸せ、吸血鬼侍ちゃんが守護(まも)らねばならぬ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー久しぶり! お昼ご飯もらってるね!!」

 

「食べながら口を開くな。……む、何やら面白い剣の気配が」

 

「そういうのは後回しにするのです。……また新しい女を引っ掛けましたね?」

 

……この圧倒的なキャラの濃さ、コレを感じると勇者ちゃん一党だなって実感が湧きますよね!

 

 ちょうど在宅でレポート作成をしていた森人少女ちゃんがお昼を用意してくれて、令嬢剣士さんを含め5人で待っていてくれたようです。いつもと変わらない明るい笑顔の勇者ちゃん、クールを気取っていますが美味しい料理で頬が緩んでいるのを隠せていない剣豪さん。そして吸血鬼侍ちゃんをスンスンと嗅いで何かを確信している賢者ちゃん……って最後はちょっと不味いですって!?

 

「話は2人から聞いたのです。陛下を動かして冒険者の訓練場を作り上げるとは、なかなか良い仕事をしたのです。褒美に撫でてあげるのです」

 

「おあ~」

 

 先ほどの疑惑を誤魔化すように吸血鬼侍ちゃんの頭を全力で撫でる賢者ちゃん。摩擦で煙を吹いているように見えますが、きっと気のせいでしょう。森人少女ちゃんが吸血鬼侍ちゃんたちのご飯も用意してくれたので、積もる話をする前にいただいちゃいましょうか。

 

 

 

 

「……でね、ボクはこう言ってやったんだ。『それがどうした!』って!!」

 

 身振り手振りを交えながら語られる三千世界の冒険譚。時には笑いを呼び、時には手に汗握り、そしてめでたしめでたしで終わる物語。つっかえることもありましたが、その度に剣豪さんや賢者ちゃんが的確にフォローして話が進んでいきます。

 

 目を輝かせながら夢中になって聞き入る森人少女ちゃん。時折ツッコミをいれながらも楽しそうに耳を傾けている令嬢剣士さん。勇者ちゃんの口が閉じるころには、すっかり日は暮れてしまいました。今夜は泊って、明日の朝≪転移≫の鏡で王宮に顔を出しに行くそうです。宰相へのレポートを提出する日でもあるので、みんなで向かうことになりました。

 

 

 

 おや、じゃあ今日は寝ようかというところで、吸血鬼侍ちゃんが賢者ちゃんを呼び留めています。どうやら帝王切開に関する術式について、賢者ちゃんの意見も聞きたいみたいですね。

 

「なるほど、では陛下が持っている草案に目を通して、意見を添えて返すことにするのです」

 

「ありがと。やれるだけのことはしたいから、おねがいね?」

 

 良かった、どうやら目を通してもらえるみたいですね。勇者ちゃんは勇者ちゃんですし、剣豪さんは剣豪さんなので、最終戦闘(クライマックスフェイズ)以外で一番忙しいのは賢者ちゃんですからね。王国随一の知力と魔術の知識を持つ彼女に手伝ってもらえるのは非常に助かります。

 

「てつだってもらうおれい。なにをすればいい?」

 

 吸血鬼侍ちゃんの言葉を聞いて一瞬剣呑な光を宿した目になっていましたが、何事もなかったかのように四次元ポシェットから金属製のカードのようなものを取り出す賢者ちゃん。吸血鬼侍ちゃんに差しだして、表面に血でサインをするよう求めています。

 

「ん、できた。これってなににつかうの?」

 

「これはサインを書いた対象を霊界(アストラル)を通じて一時的に召喚する呪物なのです。また手が足りないときにいちいち探すのは面倒なので、これで一発ツモなのです」

 

 暗月警察かな??? 吸血鬼侍ちゃんは一応太陽の戦士のつもりなんですが(ダクソ並感)

 

 つまり、また世界の危機的なサムシングに呼ばれるってことじゃないですかヤダー!

 

「私に言われずともわかっているのではないのですか? 自分という存在が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……うん」

 

「いずれ、望まずとも世界の危機が自らの周りに現れる日が来るのです。それまでに、大切な人との絆を強く結んでおくのですよ」

 

 摂理(ルール)からの逸脱、変わる周囲の環境(システム)、そしてそれを乗り越えるための(パス)の大切さ。

 

 これは……つまりカオスフレアじゃな? やっぱり白金等級はそっちの規則(レギュレーション)で動いているんですね……。

 

 そう焦らずとも、頼れる仲間がいるのでしょうと吸血鬼侍ちゃんの頭を撫でる賢者ちゃん。今はまだ、摂理(ルール)に守られた存在でいればいいのですと言い残して来客用寝室に入って行きました。

 

 一歩前進したと思えば、また新しい障害が目の前に現れる。これ乗り越え続けることもまた、冒険と言っても良いんでしょうか。

 

 自ら諦めない限り、吸血鬼侍ちゃんには無限の時間がありますから。ほんの僅かずつでも構いません、きっとみんな『が』幸せになる道を探し続けることでしょう。

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ~かま~えた。ふふ、最近相手してくれなくて寂しかったんだよご主人様? 分身ちゃんも一緒に、今夜はじっくりお話ししようじゃあないか……」

 

「「ヒエッ」」

 

 




 休み中にもう一話くらい更新したいので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がりますのでよろしくお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその8.5

 まだだ、まだやれる!ので初投稿です。

 気付けばもう50話。ここまでモチベーションが保てたのはお読みいただいている皆様のおかげです。これからも拙作を見ていただければ幸いです。

 ……もしよろしければ、お気に入り登録や評価、感想を頂けると一層頑張れるかもしれませんので、気が向いたらで結構ですのでお願いいたします。


 王都の休日な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、勇者ちゃん一党と王宮に行くところから再開です。

 

 賢者ちゃんとの会話の後、不覚にもスケベ森人(エロフ)に誘拐された吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん。なんとか撃退には成功したものの、負担の大きかった分身ちゃんが真っ白に燃え尽きてしまいました。

 

 休ませてあげたいのはやまやまなんですが、義眼の宰相への説明が出来るのは分身ちゃんだけなので、心を鬼にして再召喚します。若干ハイライトさんが出張中のようですが、吸血鬼侍ちゃんもおんなじような目をしてますので許容範囲です、たぶん。

 

「あの愚義姉(ばかあね)の面倒はこっちで見ておくから、気にしないで行ってらっしゃい」

 

 犯人である森人狩人さんは気持ちよさそうに寝ていますので、女魔法使いちゃんにお説教をお願いしつつ、陛下に面会する組と宰相にレポートを提出する組は早速王宮へ≪転移≫しましょうか。

 

 

 

 

「おや、随分遅かったじゃないか。陛下も首を長くして待っていたよ」

 

 一行を迎えてくれた銀髪侍女さん。まさか勇者ちゃん一党が一緒だとは思っていなかったようで、普段は眠そうな目をちょっとだけ丸くしています。宰相殿の執務室はもう案内は不要だろうと言って令嬢剣士さんたちを先に行かせ、勇者ちゃん一党と吸血鬼侍ちゃんを陛下の執務室に案内してくれました。

 

 

 

「……というわけで、しんじんのゴブリンごろしたいけんはひじょうにこうかてきなので、ぜひほかのギルドでもどうにゅうしてください」

 

「うむ、どうやら卿は疲れているようだな。泥鰌の行方について聞くつもりであったが、それはまた機会を改めることとしよう」

 

「あるぇ~?」

 

 

 訓練場の調子はどうだという世間話に答えた結果がこれだよ! まあグルグルおめめで新人のゴブリン童貞を奪った手順を嬉々として語っている吸血鬼侍ちゃんを見たら当然でしょうか。

 

 どじょうだして?やくめでしょと言われた時に備えて赤竜が貯めこんでいた財宝は持ってきていたんですが、どうやら出す必要は無さそうですね。今日はもう帰っていいよという感じで執務室から退出を言い渡されてしまいました。吸血鬼侍ちゃんを送り出す赤毛の枢機卿が何かを言おうとして結局口を噤んだままでしたが、伝えたいことでもあったんでしょうか?

 

 

 

 さて、早々に追い出されてしまいましたがこれは予想外の事態。レポート組はいつも報告後の昼食会までがセットなので、昼過ぎまで手持無沙汰になってしまいました。学院で半鬼人先生とお茶でも良いのですが、最近少年魔術師君が出入りしていて顔を合わせると気まずいんですよねぇ。

 

 

 

 とりあえず街に出てから決めようとガバい考えで王宮内を歩く吸血鬼侍ちゃんですが、不意に足を止めてしまいました。訝し気な視線の先には、キョロキョロと周囲を警戒しながら柱の影から影に移動している一人の少女。陽光を反射しキラキラと輝く金髪に青い瞳、冒険を共にする地母神の神官たる少女に似ていながら、より女性らしさを感じさせるプロポーション。あれはまさか……。

 

「なにをしていらっしゃるんですか、おうまいでんか?」

 

「ファッ!?」

 

 吸血鬼侍ちゃんの問いかけにビクッと身を竦ませ、慌てて左右に目を向ける少女。視点を下げたところで吸血鬼侍ちゃんに気付き、息を吐きながら胸を撫で下ろしています。

 

「なんだ、侍女かと思ってビックリしたじゃない。驚いて損した・・・・・・じゃなくて! 私は……そう、貧乏貴族の三男坊の妹よ! 決して王妹殿下なんていう可憐で聡明な女の子じゃないわ!!」

 

「そ~なのか~……」

 

 堂々と豊かなお山を張りながら嘘を吐く少女。ジト目でそれを眺める吸血鬼侍ちゃんですが、少女を挟んだ反対側に銀髪侍女さんがいることに気付きました。何やら目にも止まらぬ速さでハンドサインを繰り出していますね……。

 

「(急な依頼で申し訳ないのだけれど、今日一日殿下の我儘に付き合って貰えないだろうか? 報酬は弾むと約束するから)」

 

「(こいつちょくせつのうないに・・・!)」

 

 いや、ハンドサインとアイコンタクトですからね? どうやら久しぶりに陛下と遠乗りに出掛ける予定だったのが、勇者ちゃん一党の帰還によって取りやめになってしまいご機嫌斜めなご様子。このままだと脱走を計画しかねないということで、暇をしている吸血鬼侍ちゃんに白羽の矢が立ったようです。

 

「(そんなにぼくのことしんようしていいの? きゅうけつきだよ?)」

 

「(少なくとも、王宮に巣食う混沌の勢力との内通者よりは信頼しているさ。実績もあるしね)」

 

「(ひかくたいしょうがうれしくないなあ……!)」

 

 少女の言い訳を聞き流しながら銀髪侍女さんと迫真の交渉をする吸血鬼侍ちゃん。報酬の魅力に抗えなかったのか、王妹殿下の騎士を引き受けることにしたみたいです。

 

「よろしければ、ぼくにぶりょうをなぐさめるエスコートをまかせていただけませんか、おじょうさま?」

 

「……その認識票、冒険者よね? わかったわ、今日一日私の騎士となる栄誉を授けましょう!」

 

 王宮を抜け出す算段が付いてご満悦の王妹殿下お嬢様。はじめての冒険に興奮しているみたいですけど、銀髪侍女さんの目が凄いことになってますので覚悟しておいたほうがいいでしょうねぇ。

 

 

 

 

 どうやら銀髪侍女さんが予め申し送りをしてくれていたのでしょう、驚くほどスムーズに王宮の外へ出ることができました。衛兵のみなさんがこちらを見る表情が引き攣っていたのはご愛敬ですね。

 

「おじょうさま、どこかあんないをきぼうされるばしょはございますか?」

 

「そうね、まずは冒険者の酒場に行ってみたいわ!」

 

「かしこまりました。それではおてをしつれい。……まいごになるといけませんので」

 

 子ども扱いしないで頂戴と文句を言うお嬢様の手を取って歩き出す吸血鬼侍ちゃん。紅玉の認識票を下げた圃人と貴族のお嬢様という非常に目立つ組み合わせの2人に、道行く人の視線が集まります。殆どが微笑ましいものを見るものですが、稀に良からぬ考えを孕んでいる視線も。

 

「ん? なにかあったの?」

 

「なんでもありませんよ? ほら、あそこのかどをまがればもくてきのみせですから」

 

 お、吸血鬼侍ちゃんが後ろから近付いて来た破落戸の股間に村正の柄を捻じ込みました。声も無く崩れ落ちるそれを放置して何事もなかったかのようにお嬢様を案内しています。同様に隙を窺っていた連中は肝を潰して逃げてっちゃいました。この場合は玉を隠してでしょうかね?

 

 

 

 

 

 2人がやって来たのは古びた店構えの酒場。外からでも店内の喧騒が伝わってくるほど盛況なようです。勇み足で踏み出そうとしているお嬢様を制し、護衛らしく先に戸を潜る吸血鬼侍ちゃん。

 

「「「「「……」」」」」

 

 一瞬店内が静まり2人に視線が集中しますが、吸血鬼侍ちゃんの紅玉の認識票を一瞥すると先程までの喧騒が戻ってきました。これが白磁や黒曜だったらベテランの洗礼が待ち構えていたかもしれませんが、上にまだ二等級あるとはいえ紅玉まで上り詰める冒険者はそう多くありません。白金と金は別枠扱いですしね。

 

「らっしゃーい! おや、貴族のお嬢様のちょっと刺激的な社会見学かい?」

 

「そんなとこかな。レモンすいふたつとドネルサンドひとつ、ソースはヨーグルトとチリソースのハーフあんどハーフで」

 

 給仕の軽口を流しながら手慣れたように注文する吸血鬼侍ちゃん。もしかしてこの店に来たことがあるんでしょうか? ん? 奥で調理をしていた店主さんが吸血鬼侍ちゃんを見て驚いた顔をしています。吸血鬼侍ちゃんが口元に指をあてて内緒のジェスチャーをすると、納得したように調理に戻っていきました。

 

「もしかして此処を利用したことがあるのかしら?」

 

「たまにですが。ちがうばしょにあったときはよくりようしたものです」

 

 違う場所(死の迷宮直上)ですねわかります。ってことは店主さんとは10年以上のお付き合いというわけですか。そりゃ驚いた顔をするわけです。

 

 店内を興味深げに見渡しているお嬢様。壁に所狭しと貼られた一党(パーティ)募集の張り紙や、昼前から祝杯を挙げている冒険に成功したと思われる一党に目を輝かせています。魔神を滅ぼした一撃の解説や宝箱に仕掛けられた悪辣な罠を解除する際の緊張感、そして手に入れた財宝の分配に沸き立つ歓声……。そこかしこから聞こえる栄光と勝利の凱歌。うんうんと頷くお嬢様の顔に喜色が溢れています。

 

「やはり冒険とは素晴らしいものですわね! お兄様……ゲフンゲフン、国王陛下もかつて冒険者として活躍していたのです、私もそんな経験を味わってみたいのに……」

 

 紅潮した頬を冷ますように両手を当て溜息を吐くお嬢様。ですが、冒険とはそんな輝かしいモノばかりではありませんよね?

 

「……おじょうさま、すみのテーブルにすわる3にんぐみがみえますか?」

 

 吸血鬼侍ちゃんの小さな呟きに怪訝な顔をしながら言われた方向を見るお嬢様。そこには四人掛けのテーブルに座る3人の冒険者の沈鬱な姿がありました。誰も座っていない席には3人の前に並んでいるのと同じ麦酒が置かれ、周囲に掻き消されてしまうような声で会話をしているようです。

 

「たぶん、なかまがひとりしんだのでしょう。そのわかれのいっぱいですね」

 

 その言葉を聞いてハッとした様子で周囲を見渡すお嬢様。先ほどまで気付かなかった、否、彼女が見ようとしていなかったもうひとつの冒険の結末がそこには広がっています。

 

 失った腕の根元を押さえて苦笑する只人の戦士。泣き止まない神官を痛ましい表情で見ている斥候。そして一人寂しく杯を傾け続けている森人の魔術師……。

 

「ぼうけんは、せいこうがやくそくされているものではありません。ダイスのでめしだいで、よそうはかんたんにくつがえるものです」

 

 お嬢様の頬から朱の色が抜け青みが増していく最中、通路を挟んだテーブル席の一党が漏らしている話題が2人の耳に入ります。

 

「聞いたか? 西の辺境の話。なんでも白磁の連中にタダ飯食わせてやってるらしいじゃないか」

 

「ああ、銀等級が雁首揃えて冒険にも行かずに手取り足取り仲良しこよしで棒振りから教えてるっていうじゃないか……」

 

「オマケにゴブリンを集めて新人に殺しの練習をさせたとか。あんな雑魚そのへんの農民だって相手に出来るってのなぁ!」

 

 俺たちもそんな恩恵に預かりてえなあと笑う声に、吸血鬼侍ちゃんの顔からあっという間に表情が消えていきます。豹変した吸血鬼侍ちゃんを見て、声をかけようとしていたお嬢様の口も閉じられてしまいました。

 

 

 

 

 

「おーまたせしましたー! 檸檬水2つとドネルサンドのハーフ&ハーフ、食べやすいように半分に切っておいたよ!!」

 

 重苦しい空気を払拭するように響く給仕さんの声。カウンターに置かれた注文品を見て、なにやらお嬢様が戸惑っている様子。

 

「ええと、これはどうやって食べたらいいの?」

 

「そのままてづかみでどうぞ。しろいソースのほうがまろやかで、あかいソースのほうはちょっとからいです」

 

 では、と言いながらおずおずと手を伸ばすお嬢様。細長い麺麭に切れ目を入れ、溢れんばかりに酢漬けの玉葱と甘藍を敷き詰め羊肉を挟み込んだ豪快な見た目。半分に切られたそれは、赤白別々のソースがかけられています。

 

 赤いチリソースがかけられたほうを掴み、口に運ぶお嬢様。大口を開けるのははしたないと考えてか、少しづつ啄むように食べています。あ、チリソースが唇についてその刺激に驚いてますね。普段の食事では唐辛子系の香辛料は少なそうですし、もしかしたら初めての味なのかも。

 

「か、辛すぎじゃありませんかコレ!? 冒険者は皆こんなものを食べられるんですか!?」

 

「からいものはしょくよくがましますし、ぼうけんしゃはみなけんたんかですからね。ぺろっとたべちゃいますよ」

 

 そっちは辛くないですよという吸血鬼侍ちゃんの言葉に従い、白いヨーグルトソースのほうを手に取るお嬢様。全体を纏め上げる甘めのソースが気に入ったのか、頬を緩めながら美味しそうに食べ進んでいます。

 

「あの、貴女のぶんは注文しなかったの?」

 

「あさがおそめだったのと、まんぷくだととっさのうごきがにぶりますので。ぼくのことはおきになさらず」

 

 ヨーグルトソースがかかった分を食べ切り、檸檬水で口内をさっぱりとさせたお嬢様がはたと気付いたように訪ねています。もっともらしい答えを返している吸血鬼侍ちゃんですが、おそらく口に合わずに残してしまう可能性を考えていたんでしょうね。

 

「あー、このチリソースだっけ? ちょっと辛くて私の口には合わなかったから、出来れば代わりに食べてもらえる?」

 

「……そういうことでしたら、いただきます」

 

 残りの半分と吸血鬼侍ちゃんを交互に見つめ、お皿をスーっと差し出して来るお嬢様。彼女の不器用な気遣いに感謝しながら、小さな口をめいっぱい大きく開けてかぶりつく吸血鬼侍ちゃん。そのワイルドな食べっぷりを見てお嬢様は目を丸くしています。

 

 

「こういうのは、おもいきってまるかじりするのがいちばんおいしいたべかたです」

 

「もう、なんで最初に言ってくれなかったの!」

 

「きかれなかったので~」

 

 うがーと声を上げるお嬢様。どうやらお店とメニューのチョイスは成功だったみたいですね! 

 

 

 

 

 

 ブランチを済ませ、街中を冒険する2人。冒険者御用達の武具店に入って、重戦士さんが持っているような巨大だんびらを吸血鬼侍ちゃんが片手で振り回して周囲の度肝を抜いてみたり、お嬢様に甲冑を身に着けさせて一歩も歩けない残念な姿を店員さんと一緒に笑いを堪えながら眺めたり、小腹が空いたところで最近流行りの氷菓子(あいすくりん)に舌鼓を打ってみたりと王宮では味わえない刺激にお嬢様も大満足のようです。

 

 時刻はだいたい午後三時くらいでしょうか。歩き回って少し疲れた様子のお嬢様の休憩を兼ねて、広場で吟遊詩人の語りを聞いているところです。くるくると二本の棒を回して水飴を練る2人は、南方で大暴れしている凶悪なサメの物語に夢中になっている様子。なんでも邪悪な魔術によって生命を歪められたサメは復讐のために海を跳び出し、地上を、空を、そして霊界(アストラル)までも我が物顔で泳ぎ回っているとか。

 

「サメ……なんて怖ろしいモンスターなのでしょう……ッ」

 

きょうてん(ルルブ)のどこにも『サメはうみいがいをおよげない』ってかいてないですから~」

 

 それは万知神さまだけの理屈なんだよなぁ……。とまれ、その臨場感に溢れた語りは聴衆に好評を博し、吟遊詩人が手に持つ帽子には次々と硬貨が投げ入れられています。

 

「さて、つぎは何を見せてくれるのかしら?」

 

「ん~、じゃあせいれいじゅつしが≪しえき(コントロール・スピリット)≫でよびだしたせいれいどうしをきそわせるやみのとうぎじょうに……あ」

 

 水飴をしゃぶりながら、次に行く場所を考えていた吸血鬼侍ちゃんの口からポロリと棒が落ちてしまいました。その様子を見て、吸血鬼侍ちゃんの視線の先に顔を向けたお嬢様の顔も引き攣っています。凍り付く2人の視線の先には……。

 

 

 

 

「ンンン~? 今回はお忍びデートですかぁ! 後で刺されても知りませんよぉ?」

 

「そんなんじゃないから。でもよかった、ちょうどたのみたいことがあったから」

 

 え、よりにもよってソイツ(フラック)に頼み事? ドン引きしているお嬢様を放置して、道化師に話しかける吸血鬼侍ちゃんはちょっとシュールですね。

 

「にしのへんきょうではじまったくんれんじょう、しってるでしょ? あれは()()()()()()()()()のわがままでおこなわれてるってひろめてほしいの」

 

「ええ構いませんとも! ただ、こう見えてワタクシけっこう高給取りでして。お高いですよ?」

 

「もんだいない。さきにほうしゅうはわたしておく……ねっ!!」

 

ゴシャッ

 

 ≪手袋≫から金の延べ棒を取り出した吸血鬼侍ちゃん。そのまま大きく振りかぶって投擲し、メイクの濃い顔に叩き込みました! アフンという気の抜けた声とともに吹き飛ぶ様を見て満足げな笑みを浮かべています。っていうかこっそりガメてたんですね延べ棒。頭脳担当からいざという時に備えて秘匿するよう言われてたんでしょうか。

 

「すこーし多く貰いすぎちゃいましたねぇ。お釣りといっては何ですが、チョットだけ忠告させていただきましょうか!」

 

 何事もなかったかのように立ち上がり、いそいそと延べ棒を懐にしまい込む道化師。クルクル回転しながら2人に近付き、天を仰ぐようなポーズを決めながら口を開きます。

 

()()()()()()()()()()()()()()。生贄に狙われるのは、いつだって麗しき乙女と相場が決まっているのですから……」

 

 その言葉を最後に路地裏へと姿を消す不死の蛞蝓(フラック)。怒涛の勢いで襲い掛かる衝撃に呆然としていたお嬢様が再起動し、彼が消えて行った路地裏を覗き込んでいます。

 

「今の道化師は一体何者? 随分仲が良さそうだったけど……」

 

「みなかったことにしてください。めをあわせるとふこうがうつるので」

 

 (別に仲良しじゃ)ないです。しかし赤い手ですか。どうやら吸血鬼侍ちゃんには聞き覚えの無い単語みたいですね。強いて言えば女魔法使いちゃんの新調したグローブが赤いですけど、別にそういう意味じゃ無さそうですし……。

 

 

 

 

 道化師に絡まれている間に、いつの間にか夕暮れ時が近付いてきてしまいました。お嬢様の冒険の時間もそろそろ終わりとなってしまいますね。

 

「おかえりなさいませ主さま。おつとめご苦労様でした」

 

 王宮の入り口には訓練場の運営について話し合っていた3人と義眼の宰相、それに銀髪侍女さんの姿が。どうやらお待たせしてしまっていたみたいですね。みんな厳しい遣り取りを行って疲れているでしょうに、微塵も顔に出さずに吸血鬼侍ちゃんを出迎えてくれました。

 

「今日は私の我儘に付き合ってくれてありがとう。……また、一緒に遊んだり出来るかしら?」

 

「こんかいはぐうぜんにめぐまれておきた、まほうのようなひとときです。どうか、おんみのたちばをおもんぱかってくださいませ」

 

 お嬢様……いえ、王妹殿下の乞い願うような視線を真っ直ぐ見つめ返し、甘い希望を断ち切るように言葉を紡ぐ吸血鬼侍ちゃん。そうですよねと俯く殿下に、ただ……と言葉を続けます。

 

「おうきゅうのなかでおはなしをするくらいでしたら、へいかもおゆるしくださるかもしれません。そのときは、ぜひおこえかけを。ですがこれだけはこころにとめおいてくださいませ。ぼうけんでつかむしょうりとえいこうのうらには、かならずはいぼくとしがえがかれていることを……」

 

「……ええ、明るい面だけではなく、その裏に隠された暗い一面を知ってこその真実よね。お兄様を説き伏せて、必ずまたお話し出来るようにするから!」

 

 宰相に先導されて王宮内へ消えていく王妹殿下。何度も振り返っては吸血鬼侍ちゃんに手を振っていました。

 

「随分気に入られたみたいだね。殿下にも手を出す気かな?」

 

「そんなんじゃないよ。ただ、ほんのちょっとげんきがでるまほうをかけただけ」

 

 ≪転移≫の鏡がある部屋まで一党を案内しながら吸血鬼侍ちゃんをジト目で見てくる銀髪侍女さんと、彼女から視線を逸らしながら今日の出来事を報告する吸血鬼侍ちゃん。不死の蛞蝓(フラック)の言っていたことについては銀髪侍女さんのほうでも注意してくれるそうです。

 

 鏡を起動して、これで依頼は完了だと告げる銀髪侍女さん。報酬については後日リストを用意してくれるとのことなので、期待して待つことにしましょうか。突然湧いた休みの時間が、なんだかとても長いひとときに変わった一日でしたね。

 

 

 

 

「それではまた、次の報告会でお会いしましょう」

 

「ああ。訓練場の成功、期待しているよ」

 

 一党を代表して令嬢剣士さんが別れの挨拶を告げ、鏡を通り抜ける一党。光が収まったそこは、見慣れた自宅のリビングです。

 

「あ、おかえり。結構時間かかったのね」

 

 長耳をピクピク動かし、視線を向けずに一党を迎えたのは妖精弓手ちゃん。なにやら大きなはっぱを睨んでいます。

 

「あれは私たち(森人)が用いる葉書(はがき)でございます。おそらく里より届いたものかと思うのですが」

 

 首を傾げていた吸血鬼侍ちゃんをフォローするように森人少女ちゃんが教えてくれました。後ろから覗き込む吸血鬼侍ちゃんには読めませんが、装飾のように美しい森人(エルフ)語の手紙を舐めるように読んでいた妖精弓手ちゃん。どうやら読み終わったのか、ひょいっと頭を上げ、事もなげに一党に言いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結婚することになったみたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「……え?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




 もう一話!もう一話!!なので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
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 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその9ー1

 流石に力尽きたので初投稿です。

 UA55555を超えました。キリ番は懐かしい文明……。

 お気に入り登録や評価、感想を頂けると一層頑張れるかもしれませんので、気が向いたらで結構ですのでお願いいたします。




 水場には河童が住むと信じ込んでいる実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、妖精弓手ちゃんの口から衝撃的な一言が飛び出たところから再開です。

 

 

 王都で一仕事終えて自宅まで戻ってきた一党、予想だにしない一撃で絶賛混乱中。いち早く復帰した令嬢剣士さんが妖精弓手ちゃんの肩を押さえながら状況を問いただしています。

 

「そ、それは突然決まったことですの?」

 

「いや、もう随分前から約束してたわよ? まったく、どんだけ待たせるつもりだったのかしら」

 

「お相手はどんな方ですの? やはり高名な氏族の生まれなどでしょうか」

 

従兄(いとこ)よ、私が小さかったころから良く遊んでもらってたわね」

 

 あの堅物もようやく覚悟が決まったようねーと他人事のように語る妖精弓手ちゃん。あ、この時点で森人義姉妹は何かを察したみたいですね。

 

 

 

「では妹姫(いもひめ)さま、早急に戻る準備を始めなければなりませんね」

 

「そうねー。盛大に式を挙げるつもりだからさっさと帰って来いって書いてあるし。あ、もちろん式にはみんなにも参加してもらうつもりよ? オルクボルグたちにも声掛けとかなきゃ!」

 

 お嫁さんにも来てもらいたいけど、流石にお腹の赤ちゃんのことを考えると難しいわねーと続けている妖精弓手ちゃん。既に頭は結婚式のことでいっぱいのようです。

 

「うんうん、長年やきもきしていたけれど、これでようやく森の後継者問題に決着がつきそうだね。……おやおやおや? どうしたんだいご主人様、そんな泣きそうな顔をして?」

 

 ニヤニヤ笑いを噛み殺して心配そうな表情を浮かべ、吸血鬼侍ちゃんを覗き込む森人狩人さん。全部わかってて言ってるんですから性質が悪いですねぇ。

 

 

 

「けっこん、するの……?」

 

「そうよ。もともとそのつもりだったし、私も反対する理由はないもの。やっと収まる所に収まってくれるって感じよね」

 

「そっか……しあわせになってくれるならそれがいちばんだよね……」

 

「なーに泣きそうな顔してんのよ? こういう時は笑って祝福するのが当たり前でしょ?」

 

 うーんこのどうしようもないすれ違い感。堪え切れずに涙を零す吸血鬼侍ちゃんをたわわなお山で包み込むように抱きしめ、迫真の演技で森人狩人さんが妖精弓手ちゃんを睨みつけています。

 

「まさかとは思うけど、ご主人様との関係は遊びだったとでも言うつもりかな? 妹姫様は!? ……プフッ!

 

「アンタたちと違って、私は清いお付き合いしかしてないわよ!? ……っていうか、なんでちっこいのの話が出てくるのよ?」

 

 せめて最後まで笑うのは抑えよう? 沈黙を保ったまま茶番を眺めていた女魔法使いちゃんが、頭を抱えながらクリティカルな質問を繰り出しました。

 

 

 

 

 

「もしかしたら聞き逃しただけかもしれないんだけど。誰と誰が結婚するんだったかしら?」

 

「ねえ様と従兄殿だけど???」

 

 

 

 

 

「ねえご主人様、今どんな気持ちかな? 勘違いして捨てられちゃったと思ってたみたいだけど、今どんな気持ちかな? 素直な言葉で表現してくれたまえよご主人様」

 

「はずかしすぎてしにたい……しねない……いきじごく……」

 

 真っ赤になってプルプルしている吸血鬼侍ちゃんの周りをNDKしながら反復横跳びする森人狩人さん。流石に哀れに思ったのか、ワンパンで女魔法使いちゃんに黙らされてしまいました。

 

「え、もしかして私が結婚すると思ってたの? ないない、そんなつもりぜーんぜん無いから!」

 

 一頻り笑い飛ばした後、宥めるように吸血鬼侍ちゃんの頭を撫でる妖精弓手ちゃん。まだまだ冒険者を続けたいしねーと言いながらも、自分が嫉妬の対象になっていたことに隠し切れない笑みが顔に残っています。一方で散々からかわれてご立腹な吸血鬼侍ちゃん。おもむろに妖精弓手ちゃんの薄い胸に抱き着き、顔を見上げるような角度から甘い囁きとともにカウンターを試みます……。

 

 

 

「おねがい……ぼくをすてないで……」

 

「っ!? そ、それは反則……!」

 

 お、良い感じに決まりましたね! 余裕綽々だった妖精弓手ちゃんを一発で茹で上げることに成功しました! 流れ弾が森人狩人さんと令嬢剣士さんに命中して2人とも鼻から乙女の恥じらいが放出されないよう必死に耐えていますが、それはいわゆるコラテラルダメージというヤツですね。

 

 

 

 

 

「それじゃあ全員落ち着いたところで改めて結婚式についてだけど、いいわね?」

 

 女魔法使いちゃんの声にテーブルに着いた全員がコクコクと頷きます。収拾がつかなくなりかけた場を拳で纏めるあたり、やはり一党の頭脳派は馬力が違いますね!

 

「参加させてもらうのはウチの6人とゴブリンスレイヤーの一党(パーティ)の4人。それに言い出しっぺを入れて全部で11人。水の街で舟を調達して、川を遡上していくのよね?」

 

「舟は難しいかもしれないね。交易が行われているわけでもないし、時期によっては川底に接触しやすい場所もあるかもしれない」

 

「となれば、筏などを利用するのが宜しいでしょうか。帆と櫂では天候によって遅れが出る可能性もありますわね……」

 

 旅慣れたもの、知識を持つものが意見を出し合いあっという間に組み立てられていく行程表。二床にわかれて乗ることも考えられましたが、大型のほうが安定性が良いためその案は却下されました。となると遡上するにも大きな力が必要になりますし、なにより致命的なのは……。

 

「そういえばアンタたち、筏に乗れるのかしら」

 

「「(ガタガタガタ……)」」

 

 どうやらダメみたいですね。かといって陸路は道なき道を切り開かなければいけませんし、この大人数では吸血鬼侍ちゃんが空輸するのも難しいです。何か良い方法はないものでしょうか。

 

「こういう時は小細工に定評のあるオルクボルグに聞いてみましょ。アイツならなにか思いつくかもしれないし」

 

「きこう」

 

「きこう」

 

 そういうことになった(餓狼伝並感)

 

 

 

 

 

「……状況は把握した。幾つか尋ねたいことがある」

 

 一党みんなでぞろぞろと移動してきた冒険者ギルド。ちょうどゴブリン退治を終わらせたところのゴブスレさん一党を発見しました! どうやら蜥蜴人の戦士さん一党に乞われてゴブリン退治に付き合っていたようですね。悪くない一党(パーティ)だと評価するゴブスレさんの声は、僅かに嬉しそうな響きを含んでいるように聞こえました。

 

 結婚式についても一度確認を取りたいと言ってますが、その時点でみんなの目が驚きの色に染まります。かつてのゴブスレさんだったら、まず間違いなく断りから入っていたことでしょう。確認するということは、本人に行きたいという意思があるということですからね……。

 

 他の3人も参加を快諾してくれました。なお今回はちゃんと最初からお姉さんの結婚式だと伝えたため、吸血鬼侍ちゃんのような勘違いは起きずじまい。残念!

 

外套(つばさ)で飛行する際、制限時間や重量制限はあるか?」

 

「いつまででもとべるよー」

 

「もちあげながらとぶなら、おとなふたりがげんかいかなー」

 

 2人の返事を聞きながら、机上に広げたパピルス紙に筏の絵を描くゴブスレさん。11人乗るために必要なスペースや強度を考えているようです。

 

「食料を中心とした必要物資は≪手袋≫に格納すれば重量は無視していいだろう。そうなれば乗員の重さのみと考えていい。であれば……」

 

 考えが纏まったのか、ペンを置き吸血鬼侍ちゃんを見るゴブスレさん。

 

「お前たち、どの程度まで水面近くを飛行出来る?」

 

 ……どうやら、2人にとってはハードな旅行になりそうですね。

 

 

 

 

 

「やっぱりみずのうえ、こわい……」

 

「かっぱがこっちみてるきがする……」

 

「ほら、しっかり引っ張りなさい。早く進めばそれだけ早く解放されるわよ? ……あと河童ってなんなのよ?」

 

 水面ギリギリを硬い表情で飛行する吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん。上流から流れてくる流木やゴミを時には弾き、時には≪手袋≫のなかに押し込みながら編隊を組んでいます。そんな2人を励ますように声をかける女魔法使いちゃん。3人の腰には丈夫な革製の腰帯が巻かれ、フックを経由して太いロープが繋がれています。3本のロープを辿っていった先には……。

 

「うんうん! 風を切る、とまではいかないけど結構速度出るじゃない!」

 

「帆と櫂、それに主さまたちの牽引で予定よりも早く到着できそうですね」

 

 はい、一党が乗っている大型筏ですが、吸血鬼ぱわー+αによって筏とは思えないほどの速力を叩きだしています。直接持ち上げるのではなく引っ張るのならば、さらに重いものでもいけるだろうというゴブスレさんの発案で、飛行能力持ちが動力にされてしまいました。

 

 より効率的に速度を出すために水面ギリギリで飛行することを余儀なくされている2人は既に涙目になっています。よっぽど流水が怖いんでしょうね。でも残念ながら万知神さまも効率こそが最も重要であるといってます。信徒たる2人はちゃーんと教義に従いましょうねー(愉悦顔)

 

 

 

「ほら、お姫様が焼菓子用意してくれたわよ。これ食べて元気出しなさい?」

 

「「あまーい!」」

 

 時折筏に戻っては、様子を聞いたり補給食を持ってきたりと往復を繰り返す女魔法使いちゃん。吸血鬼侍ちゃんたちが筏に降りられないからしょうがないですね。妖精弓手ちゃんも流石に悪いと思ったのか、とっておきのレンバスを提供してくれたみたいです。両手で持ってネズミのようにカリカリと齧る2人を見て女魔法使いちゃんがほっこりしています・・・・・・おや?

 

「じょうりゅうからせんとうおん……ゴブリンのわらいごえもきこえる!」

 

「!? 先行偵察! こっちは精霊の力で増速して追いかけるわ!」

 

 川のせせらぎに紛れて消えそうな音を吸血鬼侍ちゃんが聞き取ったようです。分身ちゃんとともにフックを腰帯から外し上流へと急行する2人。女魔法使いちゃんは筏組に情報を伝え、即座に森人少女ちゃんが≪追風(テイルウインド)≫を唱え始めました!

 

「あーもう! なんでこんな時にまでゴブリンなのよー!?」

 

「キンキン喚くな金床! ただでさえ硬くて響くんだからよ!!」

 

「なんですって!? アンタが降りればもっと速くなるかしらこの酒樽!」

 

 いつもの言い争いを繰り広げながらも素早く戦闘の準備をする一党。やがて目の前に、今にも沈みそうなボロボロの筏が姿を現しました!

 

 

 

「みなさん、お怪我はありませんか!」

 

「みんな身体は大丈夫です! ただ、筏のほうがあまり長くは保たないかも……っ!」

 

「鉤付きロープを投じます故、それを引いて此方に寄せてくだされ!」

 

 ゴブスレさんと一緒に吸血鬼侍ちゃんたちが牽引していたロープを投じる蜥蜴僧侶さん。引き寄せられた筏から、命からがらという形相で冒険者たちが転がり込んできました。

 

「た、助かったぁ~!! あのまま沈められるかと思ったわ……」

 

「ええ、何の抵抗も出来ずに溺れていたかもしれません……」

 

 武器もブーツも無くした様子の女冒険者が崩れ落ちそうになったところを女巫術師さんが支えています。他の冒険者たちも半死半生といった具合ですね。女神官ちゃんが差し出す水袋を美味しそうに飲んでいます。

 

 

 

「ゴブリンか。何があった?」

 

「か、川幅が狭まったところを通過するタイミングでゴブリンが崖上から岩やら木やらを投げ落としてきたの。反撃しようにもこっちの得物じゃ届かなくって……っ」

 

「櫂を壊されてしまって動けなくなり、もうダメかと思っていたのですが……。突然崖上に何かが落ちて、ゴブリンを吹き飛ばしたんです」

 

「それ、ウチの一党の切込み役よ。あと、ゆっくり話している暇は無さそうね。瓦礫の塊が近付いて来てるわ」

 

 ゴブスレさんを中心に事態を確認している一党に、上空から女魔法使いちゃんの警戒を呼び掛ける声が響きます。指差す先には縄で括り付けられた幾つもの瓦礫の塊。通り抜けようとするものを沈めんと悪意を持って設置されています。

 

「ごめん、ゴブリンのしまつでていっぱい!」

 

「すいめんがちかすぎててがだせない……!」

 

 姿こそ見えませんが、2人は崖上で大立ち回りを演じているようですね。時折首や胴を切断されたゴブリンや狼の死体が水面に落下してきます。夏の日差しは2人のスタミナと集中力を奪い、その声は苦渋に満ちています。冷静に状況を見ていた森人狩人さんが立ち上がり、愛用の戦棍に雷光を纏わせました。

 

 

 

義妹(いもうと)ちゃんと吸血鬼殺しちゃん、≪聖壁(プロテクション)≫を頼んでもいいかな? ちょっと瓦礫が散乱すると思うからね」

 

「わかりました。お師匠さま、主さまの落下に備えて≪水歩(ウォーターウォーク)≫の準備をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「まかしとき! 教え子より下手糞だと思われたら師匠の面子丸つぶれだからの!」

 

 小さく頷き奇跡の準備に入る森人少女ちゃん。吸血鬼侍ちゃんの事故死を防ぐために鉱人道士さんに≪水歩(ウォーターウォーク)≫を頼んでいます。

 

「……あの、吸血鬼殺しって私のことですか? 私のことですよね???」

 

 ハイライトさんを見失いながらも条件反射のように≪聖壁(プロテクション)≫を展開する女神官ちゃん。大丈夫、今回はちゃんと防御用に使われるから!

 

「準備はいいかな? それじゃあ……雷電(トニトルス)≫……≪発生(オリエンス)≫……≪発射(ヤクタ)≫!!

 

 大きく振りかぶった戦棍より伸びる雷光が瓦礫の塊に直撃! 周囲に散らばる破片は岸壁を大きく削り取り、万が一筏に当たれば穴を穿ってしまうことは容易に想像が出来るほどの勢いを秘めています。しかし、現実として破片が筏を穿つことはあり得ません。

 

「≪いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守り下さい≫」

 

「≪叡智求めし我が神よ、探求の道妨げし、斯かる脅威を打ち払い給え≫」

 

 純粋なる信仰にて生み出された不可視の障壁が角度を付けた状態で展開され、押し寄せる瓦礫と破片を受け流しています。

 

「まだまだいくよ……再演(リピータレ)≫! そしてダメ押しの……再演(リピータレ)≫!!

 

 続けざまに放たれた都合3発の雷光が、行く手を阻んでいた悪意をすべて砕き切りました! 普通では考えられない程の連続詠唱を見て、令嬢剣士さんがあんぐりと口を開けています。

 

「ええと、いつのまにそんな連射を会得されていたのでしょう? というか、呪文回数は1回と聞いていたような気が……」

 

「いや、教官を務めている間に位階が上がったみたいで2度唱えられるようになったんだ。それと残りの1回は……ふふ、わかるよね?」

 

 意味ありげに下腹部をさする姿を見て赤面する令嬢剣士さん。ああ、吸血鬼侍ちゃんのチャージを消費したんですね。森人狩人さんは、まあ今日はこれで打ち止めだから後は頼むよと座り込んでしまいました。通常は単語発動での雷光を纏った戦棍(トニトルス)を振るい、いざという時は高威力の三連射。もしかすると瞬間火力なら一党で一番かもしれませんね……。

 

 

 

 

 おや、いつの間にかゴブリンの悲鳴が聞こえなくなりました。どうやら吸血鬼侍ちゃんたちのゴブリンの掃討も終わったようですね。残念ながら女巫術師さんたちが乗っていた筏は損傷に耐えきれず沈んでしまいました。まさにタッチの差で間に合ったという感じでしょうか。

 

 彼らには申し訳ないのですが、今から下流の村へ引き返す余裕はないのでエルフの森までご同行頂くことになるでしょう。ここでほっぽり出されても文句を言えないと思っていたようで、妖精弓手ちゃんが同行を求めたら涙ながらに感謝されて困惑の表情を浮かべてました。

 

 

 

 さて、リソースの消耗も激しいのでそろそろ夜営の準備に移りたい一党ですが、吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんがまーだ帰ってきていません。女魔法使いちゃんが上空から探しているのですが、森の深い木々が邪魔をして発見できていないようです。万が一事故で一回休み(邪な土)コースになったら森人少女ちゃんが持つお守りから復活するはずなので、何処かにいるとは思うんですが……。

 

 あ、分身ちゃんが森から飛び出してきました! なにやら酷く焦っている様子ですけど、どうしたんでしょうか? 妖精弓手ちゃんの傍に降り立って両手をわたわたさせています。

 

「あのこがかみのエルフとおしろいエルフのふたりぐみにつかまっちゃった! しかもおしろいエルフは()()()()っぽい! いっしょにきて!!」

 

「……は?」

 

 

 

 ……は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイオイ、ゴブリンどもを潰しに来た筈が、なーんでこんな所にクソ吸血鬼がいるんだぁ? しかもまだお天道様がギラついてるってのによぉ?」

 

「私が知るわけなかろう。とまれ、混沌の勢力の将なれば討ち果たさぬ道理はない。婚礼の場に穢れなぞ近付けたくないのでな、疾く始末するとしよう」

 

「(どうしよう……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 そろそろ失速しそうなので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がりますのでよろしくお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその9ー2

 このくらいのペースを維持したいので初投稿です。




 前回、白いのと黒いのに目を付けられたところから再開です。

 

 さて、吸血鬼侍ちゃんの前には2人の森人。輝ける兜の森人こと妖精弓手ちゃんの従兄殿と、やたらガラの悪い闇人が吸血鬼侍ちゃんを狙っています。周囲には他にも複数の気配があり、どうやら完全に包囲されちゃってるみたいです。

 

「命乞いなら聞いてやってもいいぜぇ? 首から下を燃やしてからだけどなぁ!」

 

 うーんこのテンプレな三下(チンピラ)ムーブ。懐から取り出した小刀を弄んでますが、あれから吸血鬼侍ちゃんの血刀と同じニオイを感じます。先ほどの言動といい、この仮称不良闇人さんも牙狩りみたいですね。吸血鬼侍ちゃんもワンチャン一回休み(邪な土)コースで撤退しようかと考えていたようですが、特殊な術式で一発退場(コンティニュー不可)だと洒落になりませんので流石に中止かなぁ。

 

 となると対処法は限られてきちゃいます。分身ちゃんが妖精弓手ちゃんを連れて来てくれるまで時間を稼ぐか、全員を無力化するか。もちろん森人のみなさんに怪我を負わせてはいけませんし、森を傷つけて『小枝を踏み折れば、骨を折ってあがないとする』なんて言われるのも勘弁願いたいところ。やはり逃げ回って妖精弓手ちゃんの到着を待つのがベターで……。

 

「オイオイ、何逃げ腰になってんだチビ吸血鬼? しゃがめば見えなくなっちまうってかぁ?」

 

「やめんか馬鹿者、下手に暴れて森を傷つけられては敵わん。それに逃げ出すというのなら所詮その程度の小物。わざわざ森に灰をばら撒く必要はあるまい」

 

「むぅ~……」

 

 あ、吸血鬼侍ちゃんがムッとした表情に。不良闇人さんの安っぽい挑発もですが、従兄殿のそれも大概ですよね! お、ヤるってのか?とガンをとばす不良闇人さんにあっかんべーをして、外套(つばさ)を地面に打ち付け落ち葉を巻き上げながら飛行を開始しました!

 

 

 

「野外、ましてや森中において、本気で森人の射手から逃れられるとでも思っているのか?」

 

 従兄殿の声が響く森中、木々の間を縫うように飛行する吸血鬼侍ちゃんに向かって地上、そして樹上から無数の矢が飛来してきます! 一射で2本3本の束ね撃ちは当たり前、従兄殿なんて横山光輝キャラばりに途切れない連射を浴びせてくる始末。おまけにどの矢もホーミングしてくるせいで吸血鬼侍ちゃんも躱し辛そうにしています。統制の取れた射撃で飛行進路を限定し、徐々に追い込んでいく様は流石量産型レゴラスと言わざるを得ません。しかも回避のために高度を下げて飛んでいると……。

 

「オラ、さっさと落ちろってんだよクソチビ吸血鬼!!」

 

「あぶないなぁ……」

 

 不良闇人さんが振るう血刀から伸びた炎が、吸血鬼侍ちゃんを焼き尽くさんと迫ってきます! 森の中で振るっているのに植物に燃え移らないのは、ひょっとして森人特有の加護か何かなんでしょうか? 振るっている当人は白粉が剥げてますけど。

 

 日光が届かない程密集して木が生えているため吸血鬼の再生能力は機能しそうですが、射手の数を減らさないことにはジリープアー(徐々に不利)ってヤツですね。吸血鬼侍ちゃんもそう判断したのか、どうやら反撃に打って出るようです。いったいどうやって怪我をさせずに無力化するつもりなのでしょうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な!? 何処から現れ……ホワァァァァァァァ!?」

 

「や、やめろ! 私には愛する妻と娘が……ぬふぅ!?」

 

「え、まさか貴女そういう……!? あっ……んぅ……やぁ……」

 

 

 

「な、なんだ? 何が起きている!?」

 

 次々に奇声を残して沈黙していく同胞の異常事態に混乱している従兄殿。あれだけ吸血鬼侍ちゃんを追い立てていた矢の雨も止んでしまいました。土が剥き出しとなった地面に倒れ伏す射手に慌てて駆け寄りますが、近付いたことで目に入ってきた光景が彼の混乱をさらに加速させます。

 

 うつぶせに倒れた男性の右手は何かを指し示すかのように頭部方向へ伸ばされ、指先が土に何かを記していました。流麗な森人語で書かれたソレは、彼が最期の力で遺したメッセージ……。

 

 

 

 

 

 

 

すごかった

 

 

 

 

 

 

 

「何が『すごかった』だ馬鹿者ー!?」

 

 

 

 

 

 従兄殿が魂の叫びを上げたのと同時刻、顔を歪ませながら木々の合間を疾走していた不良闇人さん。恍惚の表情を浮かべたまま気絶している森人をそっと地面に横たえる吸血鬼侍ちゃんに漸く追い付いたようです。炎揺らめく血刀を吸血鬼侍ちゃんに突き付けていますが、その切先は震え、顔には冷や汗が噴き出ています。なんだか吸血鬼侍ちゃんを怖がっているような……。

 

「お、おまっ、お前なぁ!? なんつー怖ろしいことをしてくれてんだコラァ!?」

 

 最初に仕掛けてきた時とはまるで別人のような様子に首を傾げている吸血鬼侍ちゃん。お、なにか思い当たる節でもあったんでしょうか? 両手を後ろで組み、身体を左右に揺らしながら不良闇人さんに向かっていってますね。

 

「おに~いさん! なんだか~、さいしょのよゆうがないみたいだけど~、いったいどうしちゃったのかな~?」

 

 ゆっくりと近付く吸血鬼侍ちゃんの顔は、最近とんと見ていなかった悪戯顔(メスガキ)のそれ。顔を引きつらせて後ずさる不良闇人さんを追い詰めるように迫っていきます。

 

「ほかのおにいさんとおねえさんは、がんばってたえようとしてたけど、おにいさんはにげちゃうつもりなの~?」

 

 ピンク色の舌をチロリと出し、これ見よがしに唇を舐め上げる姿は完全に非合法! 可愛さ全振りの見上げるような視線に呑まれた不良闇人さん、気付けば背後を大樹によって塞がれてしまいました。近寄るんじゃねえと荒く叩きつける怒声も微妙に裏返っており、吸血鬼侍ちゃんの嗜虐的な笑みを深めるだけのスパイスに。

 

「おとなのオスなのに、そんななさけないこえでなくんだね~。はずかしくないの~?」

 

「五月蠅ぇぞこのメスガキ吸血鬼!? 大人を舐めたらどうなるか、その貧相な身体にわからせてやるからな!!」

 

 折れかけた精神(こころ)を奮い立たせ、血刀と蹴撃を駆使して吸血鬼侍ちゃんを攻め立てる不良闇人さん。可愛らしい(憎たらしい)顔のまま小刻みな左右のステップで躱され続け、その顔には焦りの色が濃くなってきています。ひゅうっと息を吸い込み、周囲の樹木ごと吸血鬼侍ちゃんを斬り殺す(わからせる)べく大振りの一撃を繰り出しますが……。

 

「ざんね~ん! そんなちからまかせなうごきじゃ、だれもまんぞくしてくれないよ~?」

 

 突如前後のステップに切り替えた吸血鬼侍ちゃんの動きについていけず、バランスを崩してしまう不良闇人さん。前につんのめった顔面を吸血鬼侍ちゃんに鷲掴みにされ、強引に頭を傾けられたところで吸血鬼侍ちゃんの狙いに気付いたみたいですが、ちょ~っと遅かったですねぇ……。

 

「ちょっ、待て、それはヤベえって……ッ!?」

 

 左手で顔面を、右手で左肩をガッチリと固定し、無防備に外気に晒された褐色の肩口。吸血鬼侍ちゃんの小さな口が汗ばんだ不良闇人さんの肌に触れ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゅ~」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!? あっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくら馬鹿でチンピラで白粉の剥げた屑だといっても、我が朋友は決して弱き者ではない。それをこうも容易く……!」

 

 従兄殿が悲鳴を聞きつけ到着した時には、全てが終わった後でした。口から魂のような何かをはみ出させたまま、尻を高く持ち上げたうつぶせ状態で崩れ落ちている不良闇人さんと、口元をハンカチで拭っている吸血鬼侍ちゃん。どちらが勝者かは一目瞭然です。

 

「すっごいのうこうなひのまりょく(あかマナ)だけど、こ~んなにはやくまけちゃうよわよわおしろいエルフだなんて、ちょっときたいはずれかな~?」

 

 よっぽどチビ呼ばわりされたのを根に持っているんでしょうか、普段のぽわぽわ甘えん坊吸血鬼侍ちゃんからは想像も出来ない程のメスガキっぷりですねクォレハ……。完全に腰が抜けて動けない不良闇人さんを指でつつきながら追い打ちをかけています。

 

 悔し気に睨みつけてくる視線を受け、メスガキ度はいや増すばかり。あ、と声を上げ、可哀そうな人を見る目で不良闇人さんの顔を覗き込みながら、とどめの一撃(coup de grace)をお見舞いしました。

 

 

 

 

 

 

 

「おに~さん、もしかして……ど~ていさん?」

 

 

 

 

 

 

 

「ゴハァ!?」

 

 盛大に血を吐き動かなくなった不良闇人さんを満足げに見下ろす吸血鬼侍ちゃん。達成感に満ちた表情のまま、駆けつけてきた従兄殿に向き直ります。小首を傾げるその姿に腰が引けていた次期族長ですが、ゴホンと咳ばらいをして吸血鬼侍ちゃんに正対しました。

 

「その者は『精霊の愛し子』でな。生まれながらに火の精霊と深く繋がっていたが故に迫害され、闇人の国を追われたのだ。独占欲の強い精霊は、愛し子が他の者と深い仲になる事を決して許さぬ。……別にその屑が異性に好かれていないわけでは……あまりないぞ?」

 

 友人をフォローしているようにみえて徹底的に扱き下ろしてませんかね従兄殿? 屑より重要なことがある、と吸血鬼侍ちゃんに訝し気な目を向けてきます。

 

「我が同胞、そして森の木々を傷つけることなく制したのは何故だ? それほどの力を持つのならば、如何様にも殺せた筈」

 

 ふう、弓を構えてはいるものの、やっと話を聞く姿勢に入ってくれましたね! 吸血鬼侍ちゃんにちゅ~されて行動不能になっていた森人のみなさんも復活して徐々に集まってきました。

 

「ぼうけんをいっしょにしているかみのえるふのおんなのこから、おねえちゃんのけっこんしきにしょうたいされました。かのじょとほかのみんなはゴブリンのしゅうげきをうけて、まだかわぞいにいるとおもいます。おにいさんがいとこさんでしょうか?」

 

 まさか従妹の仲間とは思っていなかったのでしょう。固まってしまった従兄殿を見て困った様子の吸血鬼侍ちゃん。心配はいりません、頼れる援軍がもうすぐそこまで来ていますから! ほら、向こうから吸血鬼侍ちゃんを呼ぶ声が聞こえてきましたよ……。

 

 

 

「ち~っこいのぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 分身ちゃんに抱えられ、木々の間を縫うように飛んで来た妖精弓手ちゃん。空中で分身ちゃんから離れ、神業的な身体制御で一直線に吸血鬼侍ちゃん目掛けて落ちてきます。渾名を呼ばれ振り返った吸血鬼侍ちゃんの目にしたのは……。

 

「無闇矢鱈に血を吸うんじゃないわよこの馬鹿ぁ!!」

 

「ぐえ~……」

 

 綺麗に揃えられた妖精弓手ちゃんの靴裏、それが自分の顔に直撃する瞬間でした。そのまま吸血鬼侍ちゃんの上にのしかかる体勢で着地した妖精弓手ちゃん。まわりの唖然とした表情に気付き、慌てて立ち上がり可憐な笑顔で従兄殿に挨拶しています。

 

「久しぶりね、あに様。結婚おめでとう!」

 

「あ、ああ……。その下敷きになっている吸血鬼は良いのか?」

 

「まえがみえない……」

 

 ヘーキヘーキ、こんなの掠り傷よ!なんて言ってますけど、顔面陥没を掠り傷とは言わないんだよなぁ……。

 

 

 

 

 

 妖精弓手ちゃんの説明によって、吸血鬼侍ちゃん&ゴブスレさん一党と、ゴブリンに襲われていた女巫術師さん一党の森人の集落への逗留許可が下りたために現在人員の移送中です。襲撃地点からほど近い川岸に筏は係留できたものの、そこから徒歩では時間がかかるうえに救出した一党の疲労も気になります。幸い飛行手段を持つ者が多いので、現在地点まで二回に分けて手早く運ぶことになりました。

 

 冒険者なのでレディーファーストというわけではありませんが、またゴブリンが襲ってこないとも限らないので相談の結果先に女性陣を連れてくることに。吸血鬼侍ちゃん、分身ちゃん、女魔法使いちゃんがそれぞれ妖精弓手ちゃんと女巫術師さん、令嬢剣士さんと森人少女ちゃん、森人狩人さんと女巫術師の妹さんを抱えて飛んでいるところです。

 

「まさか、こんなかたちで森人の集落を訪れる事になるとは思いませんでしたの……」

 

 こわごわと地面を見ながら吸血鬼侍ちゃんにしがみついている女巫術師さんがため息交じりに呟いています。枝を避けるたびに感じる揺れに身を竦め、豊満なお山を吸血鬼侍ちゃんにギュッと押し付けていますね!

 

「ゴブリンに襲われてこう言うのはアレだけど、森人の結婚式なんて滅多に見られないんだから! いい機会だと思って楽しんでいって頂戴!」

 

 風きり音に負けないように顔を寄せて自慢気に語る妖精弓手ちゃん。まだ興奮から冷めていないのか、薄い胸から早めの鼓動が吸血鬼侍ちゃんに伝わってきています。分身ちゃんは問題ないと思いますが、まだ人を運ぶのに慣れていない女魔法使いちゃんは……うん、大丈夫そうですね。若干遅れ気味ですが、しっかり前の2人を認識して飛んでます!

 

「私たちを降ろしたら次に男衆の番だけど、ちゃんと道順わかってるの?」

 

「だいじょうぶ、さっきすったちのにおいをたどるから」

 

「ああそう……まあ役に立ったなら吸われた連中も浮かばれるでしょうね」

 

 いや、誰一人として死んでませんからね? 妖精弓手ちゃんの執り成しで矛を収めてくれた森人さんたちに対して、血を吸ったことをしっかり謝った吸血鬼侍ちゃん。未だ警戒している人が半分、何故か赤い顔でハァハァ言っている人が半分だったのですが、どういうことなの……?

 

 

 

 抱えてきた女性陣を降ろし、間を置かずに男性陣を迎えに行く3人。残り人数は5人ですが、蜥蜴僧侶さんがクッソ重いため実質二人分の扱いですね。流石に女魔法使いちゃんに見知らぬ男冒険者を抱えさせるのを許容できるほど吸血鬼侍ちゃんも心が広くないので、吸血鬼侍ちゃんが蜥蜴僧侶さん、女魔法使いちゃんがゴブスレさんと鉱人道士さん、分身ちゃんが残り2人となりました。

 

「ウーム、拙僧も竜が如く飛べれば良いのですが、いかんせん持続時間が短いのが難点ですなぁ」

 

りゅうよく(ワイドウイング)だと、てもつかえなくなっちゃうしね~」

 

「左様、侍殿や軍師殿のようには上手くいかぬのが、まこと歯痒いものですな……」

 

 流石に10分しか飛べないうえに、両手が偽竜(ワイバーン)のように翼に変わってしまうのは汎用性に欠けますからねぇ。残念そうに項垂れる蜥蜴僧侶さんを慰めるように、ゴリゴリする首筋の鱗に頬擦りする吸血鬼侍ちゃん。早く竜になって、一緒に自由に空を舞う日が来るといいですね!

 

 

 

 そんなほんわか飛行している吸血鬼侍ちゃん組とは一変して、フラフラと安定せずに飛んでいるのは女魔法使いちゃん組です。なにやらゴブスレさんに対して女魔法使いちゃんが文句を言っているみたいですが……。

 

「だーかーらー! 私は気にしないからもっとしっかり抱き着いて頂戴! バランスを崩したらそれこそ3人纏めて地面のシミよ!?」

 

「いや、だが……」

 

「そうじゃぞかみきり丸! こうグッと抱き寄せるようにな……ぐぇ!?」

 

「アンタは落としてやろうかしらこの助平ジジイ……ッ!」

 

 うーん、どうやら牛飼娘さんと吸血鬼侍ちゃん両方に遠慮してゴブスレさんが女魔法使いちゃんの腰に手を回すのを躊躇っているみたいです。奥ゆかしいというかなんというか……。

 

「あのままでは危のうございますな……。侍殿、ここから集結地点までは如何程で着きますかな?」

 

「もうあとごふんくらいのところまできてるかな?」

 

「であれば、拙僧も己が翼で飛ぶと致しましょう。侍殿は向こうをお頼み申す」

 

「あれをつかうの? ……ん、わかった」

 

 蜥蜴僧侶さんが懐から取り出したポーションを飲み干したのを確認し、支えていた手を離す吸血鬼侍ちゃん。空中で大きく広げた蜥蜴僧侶さんの腕が、風を受けながらメキメキと音を立てて翼へと変化していきます!

 

「いつの間にあんな芸当が出来るようになったんかのう、鱗のは!」

 

「ああ、この間の赤竜の血液から作った魔法薬を使ったのね。結構材料費高いのに……」

 

 吸血鬼侍ちゃんにゴブスレさんを任せ、女魔法使いちゃんにお姫様抱っこされるかたちになった鉱人道士さんが驚嘆の声を上げています。どうやら赤竜の血を触媒に、呪文の持ち越しが出来る≪竜血(ドラゴンブラッド)≫のように作用する魔法薬を作っていたみたいですね。女魔法使いちゃんが一枚噛んでいるのは分かりましたが、おそらく魔女パイセンも協力してくれたんだろうなぁ……。

 

 両の翼をはためかせ、優雅に空を舞う蜥蜴僧侶さん。今はまだ祖竜の力を借りなければいけませんが、いずれは竜へとその身を昇華させ、自分の力だけで羽ばたくことが出来るようになるでしょう!

 

 

 

「すまんな、迷惑をかける」

 

「きにしないで。ふたりみたいにおっきくないけどね~」

 

「もとよりお前にそんな感情を抱いたことはない」

 

 女魔法使いちゃんから離れて気が緩んだのでしょうか、吸血鬼侍ちゃん相手に軽口を叩く貴重なゴブスレさんが見られました。そんな、ひどいと項垂れたふりをする吸血鬼侍ちゃんに対し、顔を背けた状態で言葉を続けるゴブスレさん。

 

「……友に、そのような劣情を抱きたくはないからな」

 

「ん、わかってる。じょうだん」

 

 葉擦れで掻き消されてしまうほどの小さな声で呟くその言葉に、柔らかな笑みを浮かべたまま返事をする吸血鬼侍ちゃん。種族も性別も、生きているか否かの違いすらある2人ですが、その間には確かな友情があるのかもしれませんね。

 

「おっそーい! 早くしないと日が落ちるまでに着けないわよー!!」

 

 おっと、地上から妖精弓手ちゃんのこちらを急かす声が響いてきました! 焦らず急いで着陸し、男性陣を降ろしたらすぐに出発です。目指すはエルフ王の森、気を抜かずに進みましょう!

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 




 目と鼻がムズムズしてきたので失踪します。

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セッションその9ー3

 四連休にはならなかったので初投稿です。




 前回、エルフ王の森に向かったところから再開です。

 

 森人の斥候部隊の誤解を解き、楽し気に鼻歌を歌う妖精弓手ちゃんに先導されて進む一党。木々を見渡せば、斥候たちが周囲と吸血鬼侍ちゃんを警戒しているのがわかります。

 

 森人さん達と森の木々を傷つけないためとはいえ少々やり過ぎたのか、従兄殿の警戒は弱まらず、吸血鬼侍ちゃんの一挙手一投足を観察していますね。流石に吸血鬼侍ちゃんも反省したようで、大人しく妖精弓手ちゃんが話す故郷の自慢話に耳を傾けながら後ろを着いて行ってます。

 

 

 

「オイ、お前はあのクソチビの双子かナニかか? ちゃんとガキらしく大人の言うことを聞くよう躾けとけっつーの!」

 

「まえむきにぜんしょさせていただきますね、どーていのおにーさん」

 

「どっ……!?」

 

 色々な意味で勝てないと悟ったのか、吸血鬼侍ちゃんではなく分身ちゃんに絡みにいった不良闇人さん。あえなく返り討ちにあい、その流れ弾が女神官ちゃんに命中していました。真っ赤な顔でチラチラ見てくる女神官ちゃんの視線に耐えられず、そそくさと従兄殿のほうへ逃げる後ろ姿。長命種の威厳を欠片も感じさせない悲しみを背負っているように見えますね……。

 

 

 

 

 

「どうだ、偽りの長生者(エルダー)よ。これぞ自然が生み出した永久なる都、森人が生まれいずる揺り籠にしていつか還る墓所、祖霊に見守られし我らが故郷だ」

 

「ほわあ~……」

 

 生い茂った木々の隙間から夕日が差し込むころ、一党は目的地である森人の街へ辿り着きました! 従兄殿がフンスと語ってくれていますが、その言葉に偽りがないことは誰の目から見ても明らかでしょう。途方もない年月をかけて精霊たちが作り上げた自然の建築。木の(うろ)を利用した家から一党の様子をを窺っているのはすべて森人です。身近に妖精弓手ちゃんや一党の2人がいる吸血鬼侍ちゃんであっても、その可憐な容貌には目を奪われちゃっているのかなぁ。キョロキョロと楽しそうに周りを眺めています。

 

「ほらちっこいの! ここから(まち)の中心が見えるわよ!!」

 

「どこどこ~……あいたっ」

 

 おや? 妖精弓手ちゃんに手招きされて近寄っていた吸血鬼侍ちゃんが突然ころんじゃいました。顔面からいったらしく、涙目で赤くなった鼻をおさえてます。見たことも無い景色に夢中になって足元がお留守になっていたんでしょうかね?

 

「あいたっ」

 

「ちょっと、どうしたの分身ちゃん? 何もないところで転んだりして……」

 

 うん? 後ろでは分身ちゃんも同じようにころんじゃったみたいです。女魔法使いちゃんに助け起こされてますが、何が起きたのかさっぱりらしく目を白黒させてますねぇ。

 

「へぷっ……あいたっ」

 

 あ、今度は風に飛ばされてきた大きな葉っぱが吸血鬼侍ちゃんの顔に付いて、剥がそうとしたところでまた足を取られて躓いてます! もしかして、何者かのスタンド攻撃を受けている……!?

 

「ハッ! どうやらお前ら森に嫌われちまったようだなぁ。精々足元の枝が抜けないように注意するこった」

 

「そうだな、貴様もこの森に来た当初は何度足元に穴が開いたことやら。経験者は語るというやつだな」

 

 不良闇人さんは五月蠅ぇ余計なこと言うなと従兄殿に掴みかかってますが、首を絞められている本人は涼しい顔。でも、森に嫌われてるってどういう意味なんでしょう?

 

「あー、森人や森そのものに危害を加えそうな相手に対して、祖霊が過剰に反応しているのよ。あんたも一応アンデッド……本来の輪廻から外れた存在でしょ?」

 

「なるほどな~……おあ~」

 

 妖精弓手ちゃんの説明に納得したように頷いていた吸血鬼侍ちゃん。頭上から伸びてきた蔓に絡め捕られて宙吊り状態に。そのままポイっと空中に捨てられちゃいましたが、なんとか飛行して元の場所に帰って来られたようです。これ、空が飛べない人だったら大惨事だったんじゃ……。え、そのへんは森が考慮しているから大丈夫? ほんとぉ?

 

 

 

「まったく、融通が利かないご先祖様たちねぇ……。ちっこいの、ちょっと顔貸しなさい」

 

「は~い。あ、まえがみあげちゃ……ふぁ!?」

 

「んな!? 何をしているのだ星風の娘よ!? ……ぁ」

 

 おおー! ちょいちょいと妖精弓手ちゃんに呼び寄せられた吸血鬼侍ちゃん。おもむろに前髪を掻き上げられ、抗議する間も無く秘匿されたおでこにちゅーされてます! 公衆の面前でそのような行為に出た従妹に驚いた様子で2人を引き剥がそうとする従兄殿ですが、妖精弓手ちゃんの無言の眼光に怯み、手を出しあぐねている様子。唇をおでこから離し、前髪を撫で下ろしながら妖精弓手ちゃんがちゅーの理由を教えてくれました。

 

「森人が直接肌に触れるのを許すってことは、その相手を客人として歓迎しているということなの。あんたは私が招待した客人であることを、森に見てもらったってわけ」

 

 これで問題ないでしょと吸血鬼侍ちゃんの頭を撫でていますが、目は静かな怒りを秘めたまま従兄殿を見つめています。見られている側も、先の失言を悔いるような顔をしていますね。

 

「あに様、()()()()の前でもう一度同じことを言ったら、上の森人(ハイエルフ)としての品性を疑うからね?」

 

「……わかっている。同胞(はらから)の生命と誇りを守り、生涯付きまとう闇を祓ってくれた御仁だ。礼を述べることこそあれ、その存在を穢れた者と断ずることなど以ての外。……非礼を詫びよう」

 

「きにしないで、ぼくがきゅうけつきというばけものであることはじじつだから」

 

 森人狩人さんと森人少女ちゃんに挟まれ、左右の頬にちゅーされている分身ちゃんに向けられていた2人の視線が、再び吸血鬼侍ちゃんに戻ってきました。ゴブリンによって全てを奪われた2人が、再び立ち直る切っ掛けとなった吸血鬼侍ちゃんに対しての先の発言。気にしないでと笑う吸血鬼侍ちゃんを見て、少しだけ彼の眉間の皺が薄くなったような気がします。

 

 

 

皆に宣言しよう。此処に集いし異邦の者は、此度の婚姻の幸福を分かち合うべく我らが招いた客人なり! つまらぬ矜持や偏見によって礼を失するならば、それは偉大なる父祖たちへの恥と知れ!!」

 

 次世代の長たる彼の堂々たる言葉に、その場にいたすべての人が思い思いのかたちで敬意を表しました。只人、鉱人は深く頭を下げ、森人は跪き、蜥蜴僧侶さんは奇妙な合掌のポーズを。吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんも貴族の一礼を返しています。互いを認め尊重しあうことを確認し、改めて冒険者たちは客人として迎え入れられることと相成りました。

 

「おーおー、いつ間にか指導者の貫禄ってヤツが出てきたんじゃねえの……()ってぇ!?」

 

「馬鹿者! 跪けとは言わんが、お前も形式上頭くらい下げんか!」

 

「何時まで経ってもそのあたりの礼儀がなっていないのよねえ、この悪童は……」

 

 ……流石の不良闇人さんも、妖精弓手ちゃんにだけは言われたくないのでは?(名推理)

 

 

 

 

 

 はい、従兄殿がおゆはんをご馳走してくれるということで、先に旅の疲れを流すべく沐浴に赴いた一党。地下を流れる清流の景観に驚いた後、服を脱ぎ次々に川の流れへと瑞々しい肢体を預けていきますが……。

 

「ほら、そんな泥だらけでおゆはんに行けるわけないでしょ? 我慢してこっち来なさいな」

 

「やだ、こわい……」

 

「むーりぃ……」

 

「2人とも顔が真っ青ですわね……」

 

「あはは……ほんとに流れる水はダメなんですね」

 

 水の街の地下水道を超えるガチビビりで水に近付くのを嫌がる2人。これには女神官ちゃんも苦笑しています。自宅のお風呂では見せたことのない怯えっぷりに令嬢剣士さんも驚きを隠せないみたいですね。脱いだ衣服を預かってくれている森人の侍女さんたちも困った顔をしちゃってます。自分に≪浄化(ピュアリファイ)≫を唱えれば綺麗にはなりますが、折角の好意を無駄にするのも悪いですし……。

 

「太陽だって克服したんだ、だったら流れる水も大丈夫だよ。それとも……もし私たちが溺れているとき、ご主人様は水が怖いからって助けてくれないのかな?」

 

「「……たすける!」」

 

 森人狩人さんのわりとアバウトな根性論にのせられ、少しずつ水場へ近付く吸血鬼2人。女魔法使いちゃんと令嬢剣士さんに手を取られ、流れの中程へと進んでいきます。足のつく間はなんとか平静を保っていましたが、次第に深くなる水深と、水の流れによってその足は水底を離れ……。

 

 

「「やだ、やっぱりこわい!!」」

 

 

 突然の浮遊感にパニックとなって暴れる2人。暴れたことによって跳ねた水が顔に掛かり、さらにパニックとなる悪循環に陥ってます。弱点のために力が出ないのが不幸中の幸いですね。でないと女魔法使いちゃんと令嬢剣士さんに怪我をさせてしまっていたかもしれません。

 

 

 

「ほら、目の前には誰がいるかしら? ……そう、しっかり抱き着いてきなさい。私はここにいるわ。大丈夫よ、アンタもちゃんと浮かんでるじゃない」

 

「呼吸は必要ないと聞いていますが、まずは大きく息を吸って……そう、そのまま(わたくし)の肩を持ってください。ふふ、これでもう沈みませんわよ?」

 

 2人の脇下から手を回し、そっと抱き寄せる女魔法使いちゃんと令嬢剣士さん。落ち着いて呼吸を整えるよう言い聞かせ、肌の触れ合いによって大人しくさせることに成功しました。暫くは落ち着かないのか手足を不規則に動かしていた2人ですが、頭や頬を撫でられているうちにパニックも収まったみたいですね!

 

「いい? 2人とも。一緒に目を瞑って水に潜るから、私と後輩が頬をつついたら水中で目を開けるのよ?」

 

 女魔法使いちゃんに指示され、コクコクと頷く2人。背中から抱き締められた体勢で息を整え、合図とともに水中へ。覚悟はしていても怖いものは怖いのか、最初は若干藻掻いていましたが、背後から感じる暖かさと鼓動に落ち着きを取り戻したようです。30秒ほどたったころ、2人の頬がつつかれ水中で目を開けると……。

 

「「(わぁ……!)」」

 

 澄んだ水を通して見えるのは幻想的な光景です。水底に群生した苔が金緑の輝きを放ち、水面で反射し降り注ぐさまはまるで光の(とばり)。その輝きの中を揺蕩うように見えるのは、同じく水中に身を沈めた3人の乙女の姿。金色の髪をなびかせて笑う女神官ちゃん、ネコ科の肉食獣のように水底でポーズを決めている森人狩人さん。そして、たくさんの水の精霊に囲まれてちょっと困った顔をしている森人少女ちゃん。

 

 そっと女魔法使いちゃんが手を離しても暴れることもなく、森人少女ちゃんにお願いされた精霊さんに支えられて水中を漂う吸血鬼侍ちゃん。その顔からは、流水に対する忌避感はすっかり抜け落ちているようでした……。

 

 

 

 

 

「俺だってなぁ! 只人(ヒューム)のチャンネーとお付き合いくらいしたことあるっつーの! だけどよぅ、一生添い遂げられるかっつったら、そりゃ無理だろうが……」

 

「成程、炎術師殿もなかなか苦労されている様子。拙僧も竜になる決意をしているとはいえ、いつかは血を繋ぐために(つがい)を探さねばいけませんからなぁ」

 

「その辺かみきり丸は上手いことやったからのう! 冬至(ユール)の頃にゃあ可愛い双子が産まれてるだろうさ!」

 

「……そうだな」

 

「なに、式を挙げる前に子作りとは……!? これが文化の違いか……」

 

 沐浴を終えて女性陣が戻ってきた頃には、男性陣はいい感じに出来上がっていました。いつの間に意気投合したのか、不良闇人さんは蜥蜴僧侶さんと鉱人道士さんと一緒に葡萄酒を樽で空け、従兄殿とゴブスレさんは新婚さんと既婚者の微妙に噛み合わない会話を繰り広げている真っ最中。どうやら他種族をあまり好んでいなさそうな従兄殿も、冒険者という特異な存在には興味を持ったみたいですね。

 

 

 

「むう、鱗さえあったのなら、拙僧も侍殿に求婚していたのですがなぁ……」

 

「「「「「……えっ?」」」」」

 

 帰ってきた女性陣に葡萄酒と西米(タピオカ)のジュースを勧めながら、ポロっと爆弾発言を繰り出す蜥蜴僧侶さん。だいぶ糖分と酒精で酔っているらしく、いつもの聡明さがその瞳からは窺えません。

 

「いや、確かに強さに対する思想は違えども、その生き様は尊敬に値するものでありますゆえ。だからこそ惜しい……卵を産める方であれば……ッ」

 

「さすがにたまごはうめないかなぁ……ごめんなさい」

 

 水晶を削り出して作られた透明なグラス、その中に浮かぶ西米(タピオカ)の粒を見つめ、食いしばった牙の隙間から漏れるような声で嘆く蜥蜴僧侶さん。わりと好感度がカンストに近い吸血鬼侍ちゃんも、ちょっと申し訳なさそうに答えてますね。

 

 

 

 

「おうなんだクソチビ、その言い方じゃまるでお前に()()がいるみてえじゃねえか?」

 

 酒臭い息を吐きながらグッと小指を立てたジェスチャーをとばして来る不良闇人さん。警戒心バリバリだった彼ですが、女魔法使いちゃんが半鬼人先生と傷あり司祭さんについて話したら一気に態度が気安くなりました。やっぱりあの引退詐欺な方々とお知り合いだったんですね。

 

 件の不死王()討伐の際には別件で同行していなかったために怪我をすることはなかったそうですが、自分だけ無事だったことを悔やんで冒険者は引退、従兄殿の懐刀としてここ何年かは活動しているとのこと。吸血鬼侍ちゃんの血刀を見て、まさか同族殺し(キンスレイヤー)がソレを持つとは思わなかったとボヤいていました。

 

 ……さて、先刻まで和気藹々としていた雰囲気は不良闇人さんの一言で凍り付き、互いを窺うような視線が飛び交っています。その変貌に戸惑っている女巫術師さん一党と、何かを察して押し黙る従兄殿。酩酊してる不良闇人さんはまったく気付いていないみたいですね。

 

「お、その感じだとこの場にいるんだな()()が! そのナリではねえと思うが、オルクボルグのツレってのはお前か!?」

 

「違う」

 

 ズビシと吸血鬼侍ちゃんを指差す不良闇人に対し、即座に否と告げるゴブスレさん。おそろしく速い返答、(オレ)でなきゃ見逃しちゃうねってくらいのスピードでした。

 

「蜥蜴の旦那はさっきの物言いだと違うってこたぁ……まさかの樽オヤジか!? 俺が言えるこっちゃ無ぇが、年の差ってモンを考えたほうが……」

 

「馬鹿モン! わしにだって選ぶ権利くらいあるわい!!」

 

 ちみっこは凄ぇが、付き合うにはハードルが高すぎるわなと続ける鉱人道士さん。まあ、おもに吸血鬼侍ちゃんの性癖がハードルを上げている原因なんですけどね。

 

「ああもうわっかんねえなぁ!? オラ、素直に吐きやがれ!」

 

「おあ~……」

 

 一向に判明しない吸血鬼侍ちゃんの()()に業を煮やしたのか、吸血鬼侍ちゃんの両肩を掴んで前後に揺さぶる不良闇人さん。流石に割って入ろうとした従兄殿ですが、不意に入り口のほうに顔を向け動きを止めてしまいました。あ、もしかして……。

 

「おーおー盛り上がってるみたいじゃない! あ、ねえ様連れてきたわよ、ほら入った入った!」

 

「そんな騒がなくても聞こえています。……はじめまして、妹がお世話になっておりますわ」

 

 テンション高めの妖精弓手ちゃんに連れられて入ってきたのは、浮世離れした美貌の女性。細くしなやかな肢体と、相反するが如く盛り上がった双丘。薄い銀糸の長衣を纏った姿は、毎日のように森人と同じ寝台で寝起きしている女魔法使いちゃんと令嬢剣士さんでさえも息を忘れてしまうほど。花冠に彩られた髪の下からは上の森人(ハイエルフ)の証たる長耳が顔を覗かせています。

 

 混沌とした場を律し、花冠の森姫によって沈められた夕餉の席。ですが、それをぶち壊すのもまた、同じ上の森人(ハイエルフ)の姫でした。飛石を渡るように宴席を通り抜け、不良闇人さんから吸血鬼侍ちゃんを奪い取り胸元に抱きかかえた妖精弓手ちゃん。不良闇人さんが求め、誰もが言い出せなかった答えをとびっきりのタイミングで披露してくれました。

 

「ねえ様にも紹介するわね! この子が結婚式に招待した一党(パーティ)頭目(リーダー)よ。同胞(はらから)の誇りを守ってくれた侍にして、日光を克服した吸血鬼(ヴァンパイア)。最近は竜も吸い殺したんだっけ?」

 

 吸ったのは殺してからなんだよなぁ……。次々に暴露される吸血鬼侍ちゃんの所業。同時に一党以外の目からハイライトさんが次々に失踪していきます。あとね、と妖精弓手ちゃんが言ったところで覚悟を決めたのか、吸血鬼侍ちゃんが妖精弓手ちゃんとお揃いの満面の笑みを浮かべました。

 

 

 

 

 

 

「去年の暮れから一緒に住んでいるの! あ、森人(うち)()2人と只人(なかま)の2人、それと水の街のおっぱい大司教も一緒だけどね!」

 

「か、かぞくどうぜんのおつきあいをさせていただいてます……」

 

 

 

(クラッ……)

 

 

 

「あれ、どうしたのねえ様、急に寝ちゃったりして?」

 

「いや、フツーに考えて実の妹がアンデッドと同居してますなんていったらそうなるだろうよ。オマケに他の女も一緒だとか冗談にしても笑えねえぞ?」

 

「冗談なんかじゃないわよ? みーんなちっこいのの毒牙にやられちゃったんだから」

 

 あっけらかんと答える妖精弓手ちゃんから視線を引き剥がし、一党の女性陣を見渡す不良闇人さん。頬を染めるもの、笑うもの、視線を避けるもの……。赤くなって首を左右に振る女神官ちゃんを除き、誰ひとりとして否定しない事実に不良闇人さんは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「付き合ってるのが同性で、しかも複数とかわかるわけねえだろうがこのクソチビメスガキ吸血鬼(ヴァンパイア)ァァァ!?」

 

 

「おあ~……」

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 




 週三くらい更新が出来ると嬉しいので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
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 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその9ー4

 なかなか冒険に向かうまで進まないので初投稿です。


 前回、妖精弓手ちゃんの爆弾発言で場が混乱したところから再開です。

 

「いくら真実とて、もう少し言い方というものがあるだろうに。我が朋友も、客人に掴みかかりあまつさえ吊るし上げるとは……。2人とも森人としての誇りは何処へ置いてきたのだ!」

 

 森人の侍女さんによって倒れた花冠の森姫は運ばれていき、夕餉の席はお開きに。そのまま従兄殿こと輝ける兜の森人さんによるお説教タイムに突入しました。一党の前で正座させられ、頭上からクドクドとお小言を浴びせかけられている妖精弓手ちゃんと不良闇人さん。俺は森人じゃねえだろとの呟きに対し、いいから白粉を塗れと返すあたりいつものことなんでしょうね。

 

 宴席での無作法を咎めるものから始まり、2人の私生活にだらしなさや片付けが出来ないところをいい加減直せと言うあたりまで従兄殿の話題が広がった頃、森人たちと吸血鬼侍ちゃん、それに分身ちゃんが揃って同じ方向を向きました。訝し気に他の種族がそれを眺めるうちに、屋内に斥候と思しき出で立ちの森人さんが飛び込むような勢いで入って来ました!

 

「報告! 情報にあった神獣が出現、あらゆるものを蹴散らしながら(くに)へ侵入しようとしています!!」

 

「なに? 進路上の民の避難を急がせろ! ……続きはこの騒動が終わってからだ」

 

 斥候さんを伴い部屋を出て行く従兄殿。その後を追おうとしていた不良闇人さんを呼び止め、妖精弓手ちゃんが事情を確認し始めました。

 

「ねえ、神獣とか言ってたけど、あに様は何をそんなに焦っているの?」

 

「んあ? そういや言ってなかったか。俺らがゴブリンを追っていたのは物のついでってヤツでな、本来の目的は神獣……なんつったけな。まあそいつの目撃情報があったから探してたんだよ」

 

 そいつが川から離れると面倒なことが起きるとか言ってたっけなあと思い出すように話す言葉に顔を青褪めさせる妖精弓手ちゃん。まさか、と呟く彼女を心配して吸血鬼侍ちゃんが顔を覗き込みます。

 

「だいじょうぶ? しんじゅうってのはあぶないの?」

 

「ええ、私の想像が間違っていなければ、傷一つ与えずに元居た場所へ帰さないといけない生き物よ」

 

「……ゴブリンではないのだな」

 

 こんな時でも通常運行のゴブスレさんに違うわよ!とツッコミをいれつつ、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする妖精弓手ちゃん。歌うような旋律とともに紡がれるのは、数々の異名を伴う伝説の獣の名前です……。

 

 

 

 

 

 はい、というわけでやって来ましたエルフの森の外縁部。とりあえず様子を見に行こうという妖精弓手ちゃんの言葉に従い移動してきた一党。あ、女巫術師さんたちには一般森人さんたちとともに避難してもらいました。慣れない連携はかえって危険に繋がりかねませんし、銀等級をはじめ等級詐欺が顔を揃えた面子と比べるとどうしても実力不足は否めませんので。

 

 流石にここまで来ると全員の耳にもハッキリと神獣の鳴き声が聞こえてきます。周囲の樹上をひっきりなしに斥候が行きかい、正確な進路を割り出そうとしているようです。遠くには土煙とともに巻き上げられる木々や岩の飛び交う様子が確認できますね。お。土煙の奥に巨大なシルエットが見え始めました! そろそろ目視できそうで……?

 

 

 

 

「「MOOOKKEEEEEEEEELLL!!」」

 

「GOOOOOOOOB!?」

 

 

 

「あの、私の目が変になっていなければ、()()()()()()()()()()見えるんですけど……」

 

「『モケーレ・ムベンベ(川をせきとめるもの)』……只人(ヒューム)の言葉だとレルニアン・ヒュドラって言うんだったかしら」

 

 まあヒュドラだから首も増えるでしょうよと乾いた笑いを浮かべる妖精弓手ちゃんですが、こりゃまた雑ゥ!な難易度調整ですねぇ……。いつぞやのオーなんとかさん(オーガジェネラル)の時を思い出しますよ。

 

 首の本数によって大きく強さ……というか、面倒臭さが変わるヒュドラですが、一般的に1本なら動物、2本から魔獣、8本以上は神獣に属すると言われています。絶対尻尾斬られるやーつ(ヤマタノオロチ)や妖精弓手ちゃんが言ってたカニさんとお友達なやーつ(レルニアン・ヒュドラ)が有名ですね。しかも対峙するのはおろか傷を付けるのもダメといわれるとなかなか難易度が高いミッションです。戦闘不能までボコって、あとから≪小癒(ヒール)≫すれば許してくれませんかGM? ダメ? しょうがないにゃあ……。

 

「やはりゴブリンではないか」

 

「いや、確かに背中に乗っかってるけど、アレを小鬼竜騎兵(ドラグーン)とは呼びたくないわよ……」

 

 目敏くゴブリンを見つけテンションが上がっているゴブスレさんに眉間を揉みながら女魔法使いちゃんがツッコミをいれています。確かにどう見ても制御できてませんからね。ここは原作通りゴブスレさんに革綱で雁字搦めに……ってアレ? ゴブスレさん革綱作ってないじゃない!?

 

 あ、不良闇人さんが男衆と従兄殿の仲を取り持って宴会が前倒しになった影響で、準備パートが潰れていたんですね。オマケに酔いが回っている蜥蜴僧侶さんは無策のまま眼前のヒュドラ……仮称『双頭のレルニアン・ヒュドラ(デュアルヘッド・モケーレ・ムベンベ)』に挑もうとして、鉱人道士さんと森人狩人さんに抑え込まれてますし。……もしかして、これは吸血鬼侍ちゃんが何とかしないといけない展開なのでは?

 

 

 

「ねえちっこいの、なんとかしてあの神獣を大人しくさせられないかしら?」

 

「……あとでちょっとだけちゅ~してもいい? たぶんおなかがペコペコになっちゃうから」

 

「ええ、全員説得しておくから、平原から山脈まで選り取り見取りよ! ……あれ、なんでかしら。急に目の前がぼやけてきたわね……」

 

「お前ら、普段からこんな調子なのかよ……。流石に俺でも引くわー」

 

 何故か自爆して目から心の汗を流し始めた妖精弓手ちゃんとドン引きしている不良闇人さんがいますが、ここは華麗にスルーしてヒュドラを取り押さえに行きましょう! あ、ヒュドラの動きを止めたら背中のゴブリンはお願いしますね。

 

 

 

「「いってきま~す」」

 

「頑張りたまえよご主人様」

 

「主さま、どうかご武運を」

 

 森人2人の応援を背に受けて飛翔する吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん。樹上で攻めあぐねていた森人さん達の唖然とした顔をよそにヒュドラの前に着地します。暴走中とはいえ半神の獣、目の前に邪悪なるアンデッド?が姿を現すと、無差別に振るっていた暴力を2人に見舞わんと全力で突進してきました! どうやらそれぞれの頭で1人ずつむーしゃむーしゃするつもりのようですね!

 

「キャッチのじゅんびよ~し」

 

「かくごかんりょ~。いざ~」

 

 ストライドを広く取り、両手を前に構えて受け止める体勢の2人。それを不遜と受け取ったのか、勢いを殺さずに頭からヒュドラは突っ込んできます。そのあまりに無謀な挑戦に樹上で推移を見守っていた森人さんたちからは退避を促す声がかけられますが、決して退こうとはしない2人。そして……。

 

 

 

ズドォン!!

 

 

 

 衝突によって周囲には土煙が舞い、2人の姿は見えなくなってしまいました。上から叩きつけるように振り下ろされたヒュドラの頭は地面にめり込み、その動きを止めています。背中のゴブリンがギャーギャーと騒いでいますが、ヒュドラが動きを再開する兆候は見られません。徐々に晴れていく土煙の中に森人さんたちが見出したのは……。

 

 

「MBEEEEEEE……!?」

 

 

「お~も~い~……」

 

「あばれんな、あばれんなよ……」

 

 ガッチリと両の顎を受け止め、動きを拘束している2人の無事な姿でした。よく見れば足元に僅かに赤い液体が残るポーションの瓶が。なるほど、2人とも竜血(スタドリ)でバフをかけたうえで力比べに挑んだんですね! あ、ちなみにきたない言葉を発しているほうが吸血鬼侍ちゃんです。

 

 ヒュドラも必死に2人を振りほどこうとしていますが、その小さい身体からは想像もつかない程の膂力で抑え込まれ頭を持ち上げることができないみたいですね。さらに地面からは影の触手が這い上がってきて、四肢や尻尾に絡みつき自由を奪われるがままになっています。手にしたナイフで背中を刺したり、思いっきり踏みつけたりしているゴブリンも触手に纏わりつかれ、必死に振りほどこうと無駄な努力の真っ最中。そこに飛来する1本の矢が……。

 

「よくやったわ2人とも、そのまま動きを封じてなさい! ……よっし命中!」

 

「デタラメや」

 

 ごめんなさい、それ同じ作者の別作品なんですよ不良闇人さん。静止した状態で森人の矢を躱せるはずもなく、眉間を撃ち抜かれて落下する小鬼竜騎兵(ドラグーン)。ヒュドラに踏み潰されるまでもなく地面の赤いシミに姿を変えました。背中の騒々しいのがいなくなったからでしょうか、ヒュドラの目から凶暴な光が徐々に薄まり、恐るべき咆哮は小さな唸り声へと変化していきます。身体の力みがなくなったことを確認した2人が触手を影の中へと戻すと、ズン……という地響きとともにその場に座り込んでしまいました。

 

「つかれた~……」

 

「おなかぺっこぺこだおう……」

 

 赤竜の時とは違い、動く目標を受け止めるのは流石にしんどかったのか2人もその場にしゃがみ込んでしまいましたね。勢いのまま大の字に寝転ぶ吸血鬼侍ちゃんと、おなかを抱えて空腹をアピールする分身ちゃん。目の前のヒュドラをチラチラ見てますが、ソレから吸っちゃダメですよ!

 

「MOKEEE……」

 

 そんな2人の様子をジッと観察していた『双頭のレルニアン・ヒュドラ(デュアルヘッド・モケーレ・ムベンベ)』。柱のように太い前足を片方の頭に近付け、大きく開いた口に当てるとそこからベキリという破砕音が。口をモゴモゴさせたまま吸血鬼侍ちゃんの前に顔を降ろし、器用に舌を伸ばし何かを地面に吐き出しました。

 

「くれるの?」

 

「MBEMBE……」

 

 彼、或いは彼女が吐き出したのは立派な牙でした。吸血鬼侍ちゃんの問いに何事か答えるように喉を鳴らすと、そのままゆっくりと来た方向へ歩いていきます。声も無くそれを見送る森人さんたち。そのまま神獣は森の中へと消えていきました……。

 

 

 

「2人ともご苦労様。……あれ、それあのヒュドラの牙じゃない、へし折っちゃったの?」

 

「ううん、ヒュドラがおいてった」

 

 不思議なこともあるのねえと外套(つばさ)を翻して2人を回収しに来た女魔法使いちゃんが2フィート(60cm)近い長さの立派な牙を手に取って眺めています。明日酔いから醒めた蜥蜴僧侶さんに何か良い使い道がないか聞いてみましょうか。……おっと、そんな3人の傍に上から幾つもの人影が降ってきました。従兄殿を始めとした森人の斥候さんたちですね。

 

「まさか本当に傷を負わせることも無く神獣を追い返すとはな。御蔭で(くに)の内部に被害が及ぶ事態は避けられた。……礼を言う」

 

「すきでやったことだから、きにしないで?」

 

「それよりも、あっちのほうがもんだい……」

 

 律儀にしゃがんで視線を合わせながら話す従兄殿に対して、分身ちゃんがある方向を指差しました。その先には赤いシミにクラスチェンジしたゴブリンの残骸を漁るゴブスレさんと森人狩人さん、そして2人を何とも言えない表情で眺めている不良闇人さんの姿が。

 

「どうかなオルクボルグ、何か手掛かりになるものは見つかったかな?」

 

「鉄製の短剣に革鎧、それに……なんだこれは」

 

 おや、珍しく不明瞭な言い方をするゴブスレさんが残骸から何かを拾い上げて眺めています。血まみれのそれを襤褸布で拭い暫く眺めた後、吸血鬼侍ちゃんたちのほうへ歩み寄ってきました。

 

 

「表面処理の粗さから考えて、奴らが作ったものだと思う。これに見覚えはあるか?」

 

 追い付いてきた残りの一党や森人さん達の前に手を広げ、見つけたものを開示するゴブスレさん。金貨ほどの大きさのメダルに紐が通された装飾品。どうやら粗末な首飾りのようですが……。

 

「うーん……学院の資料ではそんな神の御印(シンボル)は見た記憶がないわね」

 

「わ、私も神殿で読んだ書物では見たことがないと思います……!」

 

 森人さんたちも同様に首を傾げています。ゴブリンのことですし、適当に作った物の可能性も十分に考えられますが……。おや、寝っ転がった体勢のまま首飾りを見ていた吸血鬼侍ちゃんが勢いよく跳び起きました。ゴブスレさんから差し出されたそれを手に取り、顔を苦々しげに歪めています。

 

「……コレが何か知っているのか?」

 

「せいかくなところはわからないけど、ちょっとまえにむかしなじみのへんたいがいってた。()()()()()()()()()()()って」

 

 たしかに! 吸血鬼侍ちゃんが手から下げたソレは、ゴブスレさんが拭ったにもかかわらず赤い色が。鉤爪の生えた()()()の手は血のような赤に彩られ、輝く宝珠を握りつぶさんとしているようなモチーフになっています。微かに描かれた紋様は、おそらく鱗を簡略化したもののように思えますが……。

 

「いずれにせよ、この(くに)の近くにゴブリンがいる。ならばやることは変わらない」

 

「ん、そうだね」

 

「やることはひとつだね」

 

 淡々と話すゴブスレさんに笑顔を向けながら声を返す2人。溜息をつくもの、鮫のような笑みを浮かべるもの、またこの展開ですか地母神様と肩を落とすもの……。反応は様々ですが、誰一人として一党の中で反対する者はいないようですね。

 

 

 

 

 

「「「「「「「ゴブリンは皆殺しだ(よ)(です)」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイオイ、いつの間に冒険者てのはあんなガンギマリゴブリン絶対殺す集団になったんだ?」

 

「知らん、私に聞くな。そもそもお前だって冒険者だったのだろう? お前のほうが詳しいのではないか」

 

「馬鹿言うな!? 俺がいた牙狩りだってもう少しマトモだったっつーの!!」

 

 

 

 




 急に気温が上がって体が怠いので失踪します。

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セッションその9ー5

 暖かいのと寒いのとの差で風をひきそうなので初投稿です。

 UA60000を超えました。お気に入り登録をしてくださる方も多くなり、とても嬉しく思っております。

 評価、感想につきましても、励みとなりますので是非ともお願いいたします。


 前回、神獣をおうちにおかえりしたところから再開です。

 

 『双頭のレルニアン・ヒュドラ(デュアルヘッド・モケーレ・ムベンベ)』の背中に取り付いていたゴブリンが身に着けていた赤い手の御印(シンボル)。その真相を探るべく、冒険者たちは森の奥深く川を遡上せんと早朝から船出の準備をしています。

 

「≪風の乙女(シルフ)や乙女、接吻おくれ。我らの船に幸ある為に≫」

 

「流石は対話を司る若草の娘。精霊との親和性は私なぞ到底及ばぬ域にあるようだな……」

 

 森人さんたちが用意してくれた白樺の船に鉱人道士さんお手製の垣盾を据え付け、急ごしらえの戦船となった船体に森人少女ちゃんが≪追風(テイルウインド)≫を唱えると、風の精霊たちが踊り舞うように舟の周囲を巡り始めました。荷物の積み込みを指揮していた従兄殿も、その術の見事さに感嘆の声を上げていますね。

 

「わかくさのむすめって、な~に?」

 

「なに、聞いていなかったのか? あの娘は王の代弁者として精霊や他種族との対話、交渉を司る"若草"という氏族の生まれなのだ。あの狩人の娘も、害獣や森に侵入してきたものを排除する"叢雲"の氏族の出であろう」

 

 へー、そういう氏族たちによって森人の社会は運営されているんですね。あれ、じゃあ100歳にもなっていないのに外交官として活躍していた森人少女ちゃんて……。

 

「我らは年齢ではなく、その技術、職能が認められた段階で成人したとみなしている。それを加味しても、あの娘は際立つ存在であった。使節団が何者かに襲われ、消息を絶ったと報告があった時は己が耳を疑ったが、まさかゴブリンによるものだったとはな……」

 

「……ゴブリンは、きらきらかがやいてるエルフがねたましくて、よごしてやりたくてたまらないから。ヒュームはすぐにころしても、エルフはずっとなぶりつづけるの」

 

 口調こそ淡々としているものの、前髪の奥に隠し切れない赫怒の炎がちらついている吸血鬼侍ちゃんを見て、従兄殿が驚いた顔を見せています。本来であれば捕食対象でしかない森人2人を庇護している理由の一端を感じ取ったのでしょうか。準備が完了したことを告げる森人少女ちゃんに手を振る吸血鬼侍ちゃん。その前にしゃがみ込んで視線を合わせ、手を差し出してきました。

 

「小さき不死者よ、傷つきし同胞(はらから)と、我が従妹のこと、頼んだぞ」

 

「このみにかえてもまもりぬくことを、あまねくせかいをてらすたいようにかけてちかいます」

 

 握り返してきた手の小ささと冷たさ、それに反比例する瞳の暖かさに瞑目した様子の従兄殿。頭を振って雑念を払いつつ、そういえば……と森人の古老たちが話していたことを漏らしてくれました。

 

「水の街から何やら報せを受け取ったらしくそっちに注力しているが、赤い手についても私から上奏するつもりだ。後ほど分かったことは伝える……必ず戻って来い」

 

「ありがと。それじゃ、いってきます!」

 

最後に船に飛び乗り、見送りに来た森人さん達に大きく手を振る吸血鬼侍ちゃん。冒険者を乗せた船が見えなくなるまで、彼はずっと川面を見つめてるのでした……。

 

 

 

 

 

「ねえちっこいの、あに様と出航前に何を話してたの?」

 

「ん~? おてんばなぎりのいもうとをよろしくってたのまれた……おあ~」

 

 妖精弓手ちゃんに後ろから抱きすくめられている吸血鬼侍ちゃん、現在船の中心辺りで頬擦りされているところです。荒療治で水に潜れたとはいえまだまだ船の縁は怖いらしく、船体中央に設けられた休憩スペースに絶賛引きこもり中。向かい側では船酔いしたらしい分身ちゃんが、森人少女ちゃんに膝枕されてダウンしていますね。お肌ツヤツヤな森人少女ちゃんに対し、分身ちゃんは若干煤けております。

 

「申し訳ございません主さま。やはり昨晩はご無理を申し上げてしまったようで……」

 

「きにしないで、みんなのチャージもひつようだったから……」

 

 はい、お察しの通りちゅ~だけでは済まされず、しっかり充填作業(意味深)もさせられていた2人。困難が予想される冒険前に消耗(意味深)するのは如何なものかと、いつもなら女魔法使いちゃんが止めに入ってくれるのですが……。

 

「まあ考えてもみたまえよ義妹(いもうと)くん。2人が頑張ってくれると4人の呪文回数が増えるんだ。つまり得をしているんだよ!」

 

「そうかしら? ……そうかも」

 

 こういう時ばかり口が上手い森人狩人さんに乗せられ最後の砦があっけなく陥落。全員の呪文が1回ずつ多く使えるようになりました……。なお、矢鱈目を輝かせた女神官ちゃんがかぶりつきでその一部始終を見学しようとしていましたが、妖精弓手ちゃんによって回収され無事保護されていたことを此処に記しておきます。

 

 

 

 

 

「最初はいいオンナを何人も侍らせやがってこのクソチビども!って思ってたが、そのザマを見てるとやっぱ羨ましくねえな……賦活剤(エリクシル)飲むか?」

 

「みんなたいせつなひとばかりだから……ちょっとあいじょうがおもいけど」

 

 お目付け役として同行してきた不良闇人さんの差し出す賦活剤(エリクシル)を受け取り、クピクピと飲み干す分身ちゃん。森人秘伝のそれはすぐに効果を発揮し、青白かった分身ちゃんの顔色が良くなってきました。最初本人は同行を面倒臭がっていたのですが、神獣の件が一応片付いたことと従兄殿から頼まれたことで臨時の一党メンバーということに。ぶつくさ言いながらもこうやって気を配ってくれるあたり、面倒見は良いのかもしれませんね。

 

「なあ、言いたくなかったら言わなくていいけどよ。お前さんとあの狩人女、クソチビに生命と誇りを守られたってのは……」

 

「はい、ゴブリンからです。あの地獄から助け出され、生きる意味を見出せなかった(わたくし)に対して、主さまは『自分のモノになって欲しい。ゴブリンを殺し続けるために血を吸わせて欲しい』と仰って下さいました。そうでなければ、氏族からの憐みの視線に耐えられず自ら命を絶っていたことでしょう」

 

「……(ワリ)ィ、嫌なモン話させちまったな」

 

「いえ、だからこそ主さまとともにこうして冒険に赴くことが出来ているのです。主さまを中心として『血』によって繋がった今の仲間(かぞく)を、(わたくし)は心から愛しておりますから」

 

 そう嫋やかに笑う森人少女ちゃんを、妖精弓手ちゃんが眩しいものを見るような顔で見つめています。執拗な頬擦りが止まり後ろを振り向く吸血鬼侍ちゃん。どこか寂しそうな妖精弓手ちゃんの手を取り自分の頬にあてがい、小さな声で囁きます。

 

「もしのぞむなら、ぼく『が』ずっととなりにいてあげる。……ドキドキした?」

 

「……もっとロマンチックな場所なら合格点あげても良かったかもね、このエロガキめ」

 

「おあ~……」

 

 左右のほっぺたを引っ張られて抗議の声を上げる吸血鬼侍ちゃんを見て、妖精弓手ちゃんの顔にも笑顔が戻ってきました。只人(ヒューム)3人の眷属化についてもそうですが、そろそろ森人3人との関係もしっかり考えなきゃいけませんよ吸血鬼侍ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、なんでしょうかこのにおい……?」

 

 ゴブリンとの偶発的遭遇(ランダムエンカウント)を呪文や奇跡の消耗無しで突破(地に足が着くことにテンションが上がった吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが蹂躙)し、さらに川を遡っていた一党。周囲に漂う、花とも水とも湿り気を含んだ土のものとも異なる甘ったるい香り。一番最初にそれを口に出したのは女神官ちゃんでした。他の面々も気付いたようで首を捻っていますが……ああ、森人2人の顔が険しくなっています。

 

「上姉様、これは……」

 

「うん、間違いないね。人の尊厳が穢された、奴らの巣穴で嗅ぎ慣れた()()臭いだ……ッ」

 

 僅かに怯えを含んだ森人少女ちゃんとは対照的に、ガチガチと歯の根が合わぬほどの憤怒を滾らせる森人狩人さん。そっと頭を胸元に抱き寄せる分身ちゃんの手の冷たさに昏い熱を奪われ、体内のそれを放出するように大きく息を吐きました。

 

「だいじょうぶ。ここにはぼくが、なかまがいるから。みんなでいっしょにあいつらをわからせてやろう?」

 

「……うん、ありがとうご主人様。おかげで邪魔な熱はなくなったみたいだ。あと火照っているのは……ふふ、ここだけかな?」

 

「そっちは、ぜんいんぶじにもどってから……ね?」

 

 おどけたように自分の下腹部をさする森人狩人さんと、それに軽口を返す分身ちゃん。普段は飄々としていますが、ゴブリン絡みで一番暴走しやすいのは間違いなく彼女なんですよねぇ。訓練場の時に見せた狂気の片鱗は未だに森人狩人さんの中に残り続けているのでしょう。魂に絡みついたそれは、最早彼女を形成する一部になってしまっているのかもしれません……。

 

 

 

「たぶん、みてきもちのいいものじゃないから、ぐあいがわるくなったらすぐにいってね?」

 

「ちっこいのがそこまで言うんじゃ、よっぽどのモノが見られそうね。まったく嬉しくないけど」

 

 森人狩人さんの狂気にあてられて動けなくなっていた女神官ちゃんを、船の中央に引っ張り込みながらみんなに告げる吸血鬼侍ちゃん。どうやらこの臭いの原因は察しているみたいです。≪手袋≫から気付け用の薬草と甘味入りの発泡水薬の瓶(瓶入り黒いしゅわしゅわ)を取り出す姿を見て、妖精弓手ちゃんの顔からも血の気が引いてしまっていますね。

 

「たしかに、巫女殿や野伏殿には少々厳しいかもしれませぬな……」

 

 戦場(いくさば)で同じものを経験したことがあるのでしょう、蜥蜴僧侶さんも爪を鳴らしながら徐々に強まる臭いに顔を顰めています。立ち込めていた霧が薄くなり、硬い表情の冒険者の前に、その光景は広がっていました……。

 

 

 

 

 

「なんて、悪趣味な……ッ」

 

「まるで百舌鳥の早贄ね……」

 

 嫌悪感に顔を歪ませる令嬢剣士さんと、感情を切り離したように無表情な女魔法使いちゃんが見つめる先。乱雑に並べられた杭によって股間から口までを貫かれ、甘ったるい腐臭を放つ奇妙な果実たち。ただ生命を弄びたいがだけに作られた冒涜的なオブジェが、一党の前に広がっています。

 

「こら間違いなく小鬼どもの所業じゃな。一攫千金を狙った冒険者や、行商人たちが狙われたようだの」

 

 あまりに悍ましい光景に耐えきれず嘔吐してしまった女神官ちゃんの背中をさすりながら、鉱人道士さんが亡骸の周囲に散らばる遺品を見て判断しています。吸血鬼侍ちゃんが差し出す黒しゅわ(コ〇ラ)で酸いものを洗い流しながら、地母神への祈りを呟き続る女神官ちゃん。ゴブリンの手で生み出された悲惨な光景を一番見て来たであろうゴブスレさんでさえ、眼前の惨状に眉をひそめているように思えます。

 

「……あれ、あの亡骸だけ妙に綺麗ね……」

 

 おや、高い気温と湿度によって腐敗が進み崩れた亡骸が多い中で、妖精弓手ちゃんが何かを見つけたようです。形を留めた長い耳が確認できることから森人と思われるそれに近付き、()()()()()()()()()()()()()()()()に手を伸ばし……。

 

 

 

「!? それにさわっちゃだめ!!!」

 

 

「ELFOOOOOOOIL……!」

 

 

「嘘!? なんで死体が動いて……ッ!」

 

 突如太い杭を圧し折りながら動き出した森人の死体が、口を限界以上に開き妖精弓手ちゃんに噛みつこうとしています! 咄嗟に割って入った吸血鬼侍ちゃんに突き飛ばされ難を逃れた妖精弓手ちゃんの目に飛び込んできたのは、首を切断されながらも吸血鬼侍ちゃんの左腕に噛みつく死体の頭部と……。

 

「ぎぃ!? うぁぁぁぁ・・・・・・ッ!?」

 

 ≪火球(ファイアボール)≫で下半身が吹き飛んでも、小鬼重戦車(ジャガーノート)に丸齧りにされてもケロリとしていた吸血鬼侍ちゃんが苦悶の声を上げる光景。見れば噛みつかれた部分から染み出る()()()()黒い液体が、()()()()()()()()()しているのが分かります!

 

 

「うぅ……! がああああああああああああッ!!」

 

 

 肉体を侵される激痛に耐えながら、残った右手で左肩を掴み、ぶちぶちと音をたてながら左腕を引き千切る吸血鬼侍ちゃん。投げ捨てられたソレは左腕を飲み込みながら、徐々に名状しがたい形状へと変化しようとしています!

 

「全員離れてろ! ……さっさと燃えっちまいなこのゴミ野郎!」

 

「ELFOOOOOOOIL……」

 

 その形状変化が終わる前に不良闇人さんが放った炎が左腕を包み、死体の頭部であったものと一緒に焼き尽くしていきます。炎の中で悶えるソレは次第に動きを弱め、断末魔の悲鳴とともに灰も残さず消えていきました。荒い息を吐いていた吸血鬼侍ちゃんが、しりもちをついたままの妖精弓手ちゃんに駆け寄り安否を確かめています。

 

「だいじょうぶ? あのくろいのついてない?」

 

「……この馬鹿! 私のことより自分のことを心配しなさいよ!」

 

 怒ったように声を上げ、吸血鬼侍ちゃんを抱き締める妖精弓手ちゃん。残った右手でその頭を撫でながら、だいじょうぶだいじょうぶとあやすように吸血鬼侍ちゃんは頬擦りしています。

 

「実際どうなんだクソチビ、結構ヤベェ勢いで喰われてたみてぇだが?」

 

「ん、もんだいない。……ちょっといつもよりじかんがかかりそうだけど」

 

 傷口を見せたくないのか、先に長衣の袖を再生させた吸血鬼侍ちゃん。普段なら時間をかけずに治るはずの欠損が未だ肩口から再生が進んでいないようです。おや、万知神さまから着信(キーワード)が届いたんでしょうか? 妖精弓手ちゃんのハグから抜け出し、中身の無い袖を振りながら、一党に黒いドロドロについて話し始めました。

 

 

 

「たぶん、せいめいたいをくらってぞうしょくするタイプ。ヒューム()ドワーフ()リザードマン()よりも、エルフ()がさわったらあぶないとおもう。あと、つよいまりょく()にもひかれるみたい。じっさいにしんしょくされたかんじだと、じったいがあればアンデッド()はあっというまにとりこまれちゃいそう。……みんなぜったいにさわっちゃだめ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしかして:ファイレクシアの油/Phyrexian oil

 

 

 

 

 

 ちょっとGM??? これはひょっとして世界の危機(World Crisis)ってやつでは???

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 花粉症の足音が聞こえ始めたので失踪します。

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セッションその9ー6

 ジオン残党兵ばりに待っていたゲームが配信されたので初投稿です。



 前回、吸血鬼侍ちゃんが油まみれになりかけたところから再開です。

 

 いやー危ないところでした! 殆どのダメージは一回休み(邪な土)コースで済む吸血鬼侍ちゃんですが、流石にこれは想定外です。死亡ではなく生命そのものを変容させるファイレクシアの油は残念ながら防ぎようがありません。しかも侵蝕スピードが速いアンデッド()森人()がメンバーの半数を占める集団ですので、ちょっとした油断が一党(パーティ)崩壊に繋がる危険性を秘めています。

 

 万が一付着したらどうなるかを吸血鬼侍ちゃんの尊い犠牲によって周知出来たのは不幸中の幸いですね。何も知らずに攻撃して、返り血を浴びでもしたらその時点でアウトでしたから。

 

 とはいえ被害は決して軽くはありません。なかなか再生が始まらない吸血鬼侍ちゃんは戦力ダウンですし、前述のとおり近接戦闘はリスクが高すぎます。魔法ないし遠距離攻撃のみで相手をするには厄介な相手でしょうね……。

 

「あの、これが先程の亡骸の近くに落ちていたのですが……」

 

 おや、女神官ちゃんが何かを発見したようですね。両手にそれぞれ持っているのは半球型の呪物でしょうか。油は付着していませんが、吸血鬼侍ちゃんに分かるほどの魔力を秘めているみたいです。魔法の品となると、やはりここは一党の頭脳担当にお願いするべきでしょうね。

 

「これ、なんだかわかる? なにかをいれるものっぽいけど」

 

「ちょっと見せて頂戴。……ん、多分直接触れないで何かを運ぶための呪物ね。内側に≪浮遊(フロート)≫に近い術式が刻まれてるわ。」

 

「あ、なんかいやなよかん……」

 

 女魔法使いちゃんの横から呪物を覗き込んでいた吸血鬼侍ちゃんの顔が引き攣っています。おそらくその想像は正しいでしょうね。何処かで油を封印した呪物を見つけた森人がゴブリンに捕まり、嬲られている際に見つかったのでしょう。中にあった感染源はおそらく巣に持ち去られてしまったに違いありません。

 

 

「さっきのでおわりならいいけど、もしここでなきがらをもてあそんでいたゴブリンが、かんせんにきづかないで()にもどってたら……」

 

「……病気を巣に持ち帰らせて蔓延させる。俺もよく使う手だ」

 

 ゴブリンに対する嬉しくない信頼性が、ゴブスレさんによって真実味を帯びてきましたね……。もしかしたら昨日の筏襲撃や先程吸血鬼侍ちゃんが蹂躙した群れは、巣に帰れなくなったゴブリンの成れの果てだったのかもしれません。となれば閉鎖された空間で油はどんどん汚染を広げていくので……。

 

 

 

 

 

 

 

「ちっこいのの予想通りね。物見塔にいるヤツ、目からあの黒いの流してるもの」

 

 妖精弓手ちゃんが目を凝らして見つめる先、はるか古代に築き上げられた城塞は予想通り既に油によって汚染されているようです。定期的に通用口を出入りするゴブリンはみな一様に眼窩から黒い油を滴らせ、見回りというよりは生前の行動をなぞるが如く淡々と決まった道を歩き回っています。手に持つナイフや石斧も油に塗れ、あらゆる生物を同化させようとする邪悪極まりない意思を感じさせますね……。

 

「……アレはゴブリンではないな」

 

 そう呟くゴブスレさんの言葉に一党の気持ちは集約しているでしょう。愚かで醜悪、卑小極まりない言動は消え去り、狂気的なほどに静謐なまま行動する姿は既にゴブリンではないもっと悍ましいモノに成り果ててしまったことをまざまざと冒険者に見せつけてきています。

 

「しかし、そうなるといつもの小鬼殺し殿の手筈は使えませんな。幸い呪文遣い(スペルスリンガー)は潤沢におりますが、一匹ずつ相手をしていては焼け石に水というもの」

 

「それに、だいたいこういう時は汚染の大本が何処かにあると相場が決まっているものさ。それを何とかしないことには、根本的な解決にはならないだろうね」

 

「それでは、内部へ侵入し調査を行いましょう。道中の障害は主さまと炎術師さまに焼き払っていただく方向でよろしいかと」

 

「……慎重そうにみえて意外と脳筋なんだな若草の嬢ちゃんは。まぁ力技で解決できるならそれが一番か」

 

 しゃがみ込んで何かを削っていた蜥蜴僧侶さんと、それを興味深そうに眺めていた森人狩人さんが問題を提起し、森人少女ちゃんが一党の意見をまとめ解決法を提示しています。不良闇人さんもツッコんでいますが、こういう場合下手に小細工を考えるより正攻法で押し切ったほうが良さそうですからね。城塞外縁部で遭遇した油漬けの動物で試してみたところ、炎属性の攻撃であれば汚染対象ごと油を焼き払えることと、≪聖壁(プロテクション)≫で流れ出た油をカットできることは確認済みです。

 

 現状一党で炎属性攻撃が可能なのはまず前述の2人+分身ちゃん。それと女魔法使いちゃんが爆発金槌および≪点火≫の単語発動で呪文の消耗無しで攻撃可能なので主戦力となります。ゴブスレさんが油壷を持っているので、数は限られますが只人はそれを投擲することも可能ですね。

 

 相性は悪くないものの遠距離攻撃手段に乏しい鉱人道士さんと蜥蜴僧侶さんには一党の援護をお願いするかたちになりそうです。また、森人三人娘は油に触れたら一発アウトなので、可能な限り後方支援に徹してもらいましょう。リスクを考えれば吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんも下がったほうが良いのですが、火力と自切による感染阻止を鑑みて戦力として数えることになりました。

 

「ちっこいの、さっきみたいな無茶したら絶対ダメだからね?」

 

「まえむきにぜんしょさせていただき……おあ~……」

 

 まあ本人たちが下がろうとしないのが一番の要因なんですけどね。妖精弓手ちゃんにほっぺたを引っ張られても首を横に振ろうとしない姿を見て、女魔法使いちゃんも諦めたのか分身ちゃんに注意を促していますね。

 

「ダメージで消えるだけならいいけど、汚染されてそのまま戻れなくなったら大変だから、無理しちゃダメよ?」

 

「ん、わかってる」

 

 たしかに、そこは懸念事項ですね。再召喚で何事も無ければ良いのですが、半ば自立した存在になっているため汚染されてそのまま死亡とか洒落になりませんから。今回は2人とも安全第一で頑張りましょうね。

 

 

 

 

 

「これは、予想以上に汚染は広まっているようですわね……」

 

 分厚い木を抜けた先の光景を目の当たりにして、令嬢剣士さんがため息交じりに呟くのも無理はありません。長い年月を経て草木が生い茂っていた筈の中庭は異様な植生に変貌し、蜜がわりに黒い油を滴らせる大輪の花や獲物を求めて這いまわる蔓草、短筒の弾丸のように種子を撃ち込んでくる樹木など悪夢のような植物に溢れていました。幸い火に弱いのは共通しているようで、不良闇人さんを含めた3人がかりで燃やし祭りを開催し、なんとか被害を出さずに済みました。

 

 途中で油に汚染される前に死んだと思われるゴブリンの死体を見付け、改めたところ数字の刻まれた札が括り付けられた鍵を発見。これで小鬼呪術師(シャーマン)が待ち構えている屋上への昇降機(エレベーター)を使えるようになりました。これ番号が毎回ランダムらしいので、万が一拾いそびれるとクッソ長い階段を上るか、外壁をよじ登るか、空を飛ぶかの三択が待っているらしいです。

 

 先程燃やし祭りと言いましたが、本来であれば森人によって施された火除けの加護によって火を使う行為は阻害される筈なのですが、遺跡のあちらこちらに油を塗りこめた跡があり、何事も無く使用することが出来てしまいました。といっても楽観は出来ません。おそらく遺跡そのものを侵蝕しようとしている可能性が高いので、早急に原因を排除しないと大変なことになりそうです。

 

 

 

「うへぇ、こりゃあ内部はもっとヒデェ有様になっているに違いねえ……」

 

「つかれた~」

 

「おなかすいた~」

 

 呪文こそ使っていませんが、肉体的精神的疲労は如何ともしがたいようで、歩く火炎放射器と化していた3人はだいぶグロッキー状態です。不良闇人さんは岩の上に座り込んで賦活剤(エリクシル)をがぶ飲み、分身ちゃんは今回働き場所が少なそうな森人狩人さんにちゅーちゅーさせてもらっています。竜血(スタドリ)を飲むという手もあったでしょうが、どうやら森人狩人さんに押し切られてしまったみたいです。

 

「……ちっこいのは吸わなくて平気なの?」

 

「だいじょうぶ。まだおなかはへってないから」

 

「……そ、ならいいけど」

 

 ≪手袋≫から取り出した水袋の薄めた葡萄酒で喉を湿らせていた吸血鬼侍ちゃんに妖精弓手ちゃんが心配そうに声をかけていますね。視線が注がれている左腕はまだ再生が始まらないようで、肩口から湿気を多く含んだ風によってひらひらとなびいています。

 

「しんぱいしなくても、そのうちはえてくるからだいじょうぶ。……とかげさんのしっぽもはえてくるの?」

 

「はっはっは、残念ながら拙僧そこまでの再生力は持ち合わせておりませんので。これは大事な一張羅ということでひとつ」

 

「あはは、ちっこいのみたいに直ぐ生え変わるわけないでしょうに!」

 

 沈んだ面持ちの妖精弓手ちゃんを元気づけるように冗談を飛ばす吸血鬼侍ちゃん。それとなく察してくれた蜥蜴僧侶さんも話題に乗ってくれて、大きな口を開けて笑いながら尻尾をくゆらせています。2人に気を使わせたと思ったのか、妖精弓手ちゃんも無理矢理笑みを浮かべて付き合ってくれていますが、やはりどこかいつもと様子が違います。ちょっと気にしておいたほうが良さそうですね……。

 

 

 

「ほいでかみきり丸よ、お前さんとしては上と下、どっちだと思う?」

 

「上だな。下であったならば、既に川に油を流しているはずだ」

 

 囂々と音立てて流れ落ちる人造の瀑布と、それを生み出している巨大建造物を交互に見ながらゴブスレさんが鉱人道士さんの問いに答えています。もし持ち主が賢いものであるならば川を利用して汚染を広げようとするはずですが、遡上してくる間にそのような傾向は見られませんでした。

 

 となれば、面白半分に仲間に向けて効果を確認している可能性が高いです。今はまだ城塞外周を回るだけに留まっていますが、これが外に解き放たれたらパンデミック間違いなしです。早急に汚染を食い止めましょう!

 

 

 

 

 

「……よく考えたら、全員乗れませんよね」

 

「かといって分散して乗り込むのも危なそうだし、どうしたものかしら……」

 

 ええと、城塞内部で昇降機の入り口を発見した一党ですが、ここにきて最大の危機に瀕しています。原作でもギリギリと思われる定員ですが、どう考えたって乗り切れるわけないですよね……。下手すると2回でもダメかもしれません。かといって女魔法使いちゃんの言う通り分散して乗り込むのもリスクが高そうですし、どうしたものでしょうか……おや、昇降機の近くにあった小部屋を探索していた人たちが戻ってきました。森人狩人さんが手招きしてますね。

 

「どうかな妹姫(いもひめ)様? おそらくここの内部図面だと思うんだけど」

 

「ええ、これを見る限り昇降機は吹き抜けになってる屋上へ繋がってるみたい。これなら外から飛んでも回り込めそう!」

 

 警備員詰所(こべや)の入り口近くに掲示してあった木製の地図。流麗な森人語で記されたそれはどうやら城塞(ダム)の避難経路図だったようです。ほっそりとした指先で表面をなぞりながら妖精弓手ちゃんが声を弾ませてますね。吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん、女魔法使いちゃんと、特製水薬(ポーション)を服用すれば蜥蜴僧侶さんも飛行出来ますので、重量的に厳しい蜥蜴僧侶さんが外組にまわれば人数的にもゆとりが生まれますね!

 

「とはいえ双方の連絡手段は欲しいので、主さま2人と妹姫様、それに上姉様には別の班に分かれていただくことになるかと思います」

 

「りょーかい、それじゃ私はちっこいのと外組に回るわね。狭いところ好きじゃないから」

 

 まだ片袖をプラプラさせている吸血鬼侍ちゃんを抱え上げながら、妖精弓手ちゃんが名乗りを上げています。それなら私はご主人様と狭い部屋で密着しようと言いながら分身ちゃんを捕縛する森人狩人さん。火の攻撃が可能な人数の割り振りも考慮した結果、以下のような組み分けになりました。

 

 

 

外側飛行組吸血鬼侍ちゃん&妖精弓手ちゃん                     

女魔法使いちゃん&令嬢剣士さん

蜥蜴僧侶さん&ゴブスレさん

昇降機利用組分身ちゃん 森人狩人さん 森人少女ちゃん

女神官ちゃん 鉱人道士さん 不良闇人さん

 

 

 

 飛行組は女魔法使いちゃんの魔法とゴブスレさんの油壷、それに令嬢剣士さんの≪稲妻(赤3点)≫で、昇降機組は不良闇人さんの炎術とやはり森人狩人さんの≪稲妻(赤3点)≫で油を防ぎながら駆逐する構成ですね。鉱人道士さんにも油壷を持ってもらい、火の効果を高めてもらうことになりました。

 

「油対策はこれで良さそうだけど、どうやって汚染されたゴブリンの群れとその源を滅ぼすつもり? 流石に攻撃に回せるほどの余裕はないと思うわよ」

 

 一般の冒険者一党に比べて呪文と奇跡の回数は格段に多いこの混成一党ですが、それでも火属性だけで油を焼き尽くすのは難しいでしょう。何かアイデアはないの?と無茶振りをしてくる妖精弓手ちゃんに、抱き上げられた吸血鬼侍ちゃんがある人物を見つめながら答えます。

 

 

 

「えっとね、……で、……するつもりなんだけど、だいじょうぶ?」

 

「え、そんなこと出来るんですか!? でも、そんなこと万知神はお許しに……」

 

「そのへんはもんだいないからへーき。あとはきみのしんこうしだい」

 

「……わかりました。この汚染は決して広めてはならないもの、地母神様もきっと認めてくださいます!」

 

「ん、ありがと。……そっちも頑張って、でも無茶はしないでね?」

 

「かしこまりました。主さまの希望に沿えるよう、万知神さまの巫女として頑張ります」

 

 吸血鬼侍ちゃんの作戦に最初は驚いていた女神官ちゃんですが、油の危険性を目の当たりにしたためでしょう、決意を秘めた表情で頷いてくれました。同様に森人少女ちゃんも胸元に手をあてて頭を下げています。他の面々も納得してくれたようで、次々に頷きが返ってきていますね。

 

「昇降機の扉が開いた瞬間に作戦開始ね。みんな気張っていくわよ!!」

 

 妖精弓手ちゃんの掛け声とともに2組に分かれる一党。さあここからはタイミングと勢いの勝負です!

 

 

 

 

 

「しょうこうきとうちゃくまで3……2……1……いま!

 

 分身ちゃんと連絡を取り合っていた吸血鬼侍ちゃんの掛け声で、屋上から見えないように城塞(ダム)外周を飛行していた3組が上昇を開始。予め確認していた場所目掛けてゴブスレさんが油壷を投げ、令嬢剣士さんの放つ≪稲妻(ライトニング)≫でゴブリンを排除。同時に火の壁で侵入されない橋頭保を確保しました! 向かい側の昇降機入り口でも同様に火が放たれ、森人少女ちゃんが入り口前に待機。護衛として森人狩人さんを引き連れた分身ちゃんが走り、吸血鬼侍ちゃんを含めてちょうど三角形の配置になる場所へ到着しました。そして、その中心となる場所へ走る2人の人物……。

 

「しっかり着いて来な、勝利の鍵の嬢ちゃん!」

 

「は、はいっ!!」

 

 道を切り拓く様に炎を放ち、中心点に向かう女神官ちゃんを先導する不良闇人さん。床面を擦りながら振り上げられる血刀は炎を噴き出し、緩慢な動きで接近しようとする汚染されたゴブリンを寄せ付けません。

 

「GOBOIL、GOBOOOILLLL!?」

 

 分身ちゃんに近い位置にいた小鬼呪術師(シャーマン)だったと思われるゴブリンが振り回す杖の先、周囲に黒い油を飛び散らせているあれが件の源でしょうね。呪文を授かる程度には優秀だったためでしょうか、汚染されているにも拘わらず、その目には嫉妬と欲望の光がギラついています。不良闇人さんに導かれて走る女神官ちゃんに目を付け、自慢の≪眠雲(スリープクラウド)≫を唱えようとしますが……。

 

「そうはさせないよ? ……≪雷電(トニトルス)≫!」

 

「GOBOI!?」

 

 森人狩人さんが放った一筋の雷光がそれを貫き、詠唱を中断させます! 威力こそ≪稲妻(ライトニング)≫に及ばないものの、戦棍の補助があるとはいえ瞬時に≪ショック(赤2点)≫を与えられるのは非常に有用ですね。女神官ちゃんが三角の中心点に辿り着き、それを囲うように不良闇人さんが火を放つのを見て頂点に待機していた3人が動き始めました!

 

 

「≪はながさきほこり≫……」

 

「≪みのなれば≫……」

 

「≪二度の星夜で≫……」

 

「「「≪いとしいひとと(愛しい人と) よあけのかねに(夜明けの鐘に) もりのとり(森の鳥)≫」」」

 

 

 

 目を瞑り、両手を広げ朗々と歌い上げる3人。屋上に響き渡る清澄は歌声は神の奇跡を称え、その効果を増幅させる≪聖歌(ヒム)≫の奇跡。ですがその詠唱は万知神のものではなく地母神に捧げられる内容。信仰とは異なる神に祈りを捧げても何ら効果は発揮しない筈ですが……。

 

「凄い、地母神様への祈りで場が満たされています……。これなら……!」

 

 周囲に溢れる神気に後押しされるように錫杖を強く握り、奇跡を願い始める女神官ちゃん。その姿に危機感を覚えたのか汚染されたゴブリンが一斉に群がってきますが、蜥蜴僧侶さんの背に乗ったゴブスレさんが上空から油壷による爆撃を行い火の海を作り出しています。

 

 

「≪いと慈悲深き地母神よ、どうかその御手で、我らの穢れをお清めください≫!!」

 

 

 

 

 

「「「「「「GOBO……IL……」」」」」」

 

 女神官ちゃんを中心に広がる暖かな光が、屋上はおろか城塞(ダム)とその外縁部、磔が乱立していた川縁すらすっぽりと包み込み、範囲内の穢れ……ファイレクシアの油を消し去っていきます。油に浸食された部分を失い崩れ落ちるゴブリンだったもの。すでに侵されて脆くなっていたのでしょう、床面にぶつかった衝撃で粉々に砕け散っていきます。光が収まった屋上には、じんわりと表面から油を滲ませるひび割れたオーブがひとつ残されているだけです。

 

「あとはソレを砕けば……みんな離れなさい!」

 

 キリキリと矢を引き絞りながら叫ぶ妖精弓手ちゃん。その鏃は普段の木の芽とは違い、白い小さな欠片のようなものが使われています。

 

「毒を以て毒を制す……。異界の毒と神獣の牙が秘めた毒、どっちの神秘が上かしっかりと味わいなさい!!」

 

 放たれた矢は過たず命中し、砕けたオーブはしゅうしゅうと音を立てながら融けていきます。蜥蜴僧侶さんが削り出した、神獣の牙を用いた鏃の毒が、ひび割れた呪物に勝ったようですね!

 

 

 

「にしてもすんげえ効果だったな娘っ子。まさかここら一帯を纏めて浄化しちまうとは想像もつかなかったわい!」

 

「ええ、私も正直驚いてます。それに3人の≪聖歌(ヒム)≫がしっかりと地母神様に届いていたことも……」

 

 バテバテになってしゃがみ込んでいたところを一か所に集められ、焼菓子(レンバス)竜血(スタドリ)で補給している3人を見ながら女神官ちゃんが苦笑しています。当たり前のことですが、その神を信仰している神官以外の祈りは、神に届くことはあっても奇跡を起こす力など持っていません。じゃあ何故3人の≪聖歌(ヒム)≫は効果を発揮したのでしょうか? あ、ちょうど女魔法使いちゃんが吸血鬼侍ちゃんに焼菓子を咥えさせながら訪ねてますね。

 

「お疲れ様、上手いこと≪浄化(ピュアリファイ)≫を増幅させられたみたいね。なんて言ったかしたら、万知神の奇跡の……」

 

「≪もほう(イミテーション)≫。ほかのかみさまのきせきをまねるものだけど、せんだつへのリスペクトをわすれないのがばんちしん(マンチキン)のたしなみなんだって」

 

 なるほど、専用奇跡を含めた他の神の奇跡を唱えられるから≪模倣(イミテーション)≫なんですね。しかも詠唱の際には他の神の信者としても扱われると。やっぱり回数増加と対象コピーはマンチキン御用達なんですねぇ。わかりみ……。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ探索を続けましょう。もしかしたらお宝とか眠っているかもしれないしね!」

 

 暫しの休息の後、妖精弓手ちゃんの発破で休憩から気持ちを切り替える一党。呪文や奇跡は半分ほど消耗していますが、既に≪浄化(ピュアリファイ)≫で油塗れ勢は排除していますし、探索をするくらいでしたら問題ないでしょう。相変わらず吸血鬼侍ちゃんの左腕は返ってきませんが、一晩休めばきっと生えてくるでしょう!

 

「よっこい……おっとっと」

 

「ちょっと、あんたは休んでなさいよちっこいの。さっきはしょうがなかったけど、片腕が無いんじゃバランスがとれないんじゃない?」

 

 立ち上がる際にバランスを崩し、妖精弓手ちゃんのおなかにポフリと顔を埋めてしまう吸血鬼侍ちゃん。普段ならあっという間に再生するぶん、もしかしたら部位欠損による姿勢制御は苦手なんですかね……って、おや? なにやら吸血鬼侍ちゃんの足元に白い魔法陣のようなものが……。

 

「え、待ってよちっこいの。またどっかに行っちゃうわけ!?」

 

「あ~…たぶんゆうしゃちゃんたちによばれてるんだとおもう。たぶんせかいのきき?」

 

 徐々に光に包まれ姿が薄くなっていく吸血鬼侍ちゃん。させないとばかりにきつく抱きしめる妖精弓手ちゃんの腕が、するりと身体をすり抜けてしまいました。ああ、この間賢者ちゃんに頼まれた召喚サインによる呼び出しですね。

 

 泣きそうな顔になっている妖精弓手ちゃんを見て、悪戯を思い付いたような表情を浮かべた吸血鬼侍ちゃんが、そっと顔を寄せて触れ合うことのないちゅーをしています。

 

「もどってきたら、ほんとにしてもい~い?」

 

「いいわよ。戻ってきたら覚悟しなさい。だから……」

 

 それ以上は口に出さずに笑って見送ってくれる妖精弓手ちゃん。吸血鬼侍ちゃんも一党を見渡し、無事な右手を大きく振って出発の挨拶をしています。半ば呆れた顔で見ていた不良闇人も、肩を血刀でトントンと叩きながら死ぬんじゃねえぞと応援してくれました。分身ちゃんを見れば深く頷きを返してくれてますので、こっちは任せても大丈夫ですね。

 

「それじゃ、ちょっとせかいをすくいにいってくるね!」

 

 

 

「心配しなくても、きっとすぐに帰ってくるわ。そんな顔してたらまたアイツにからかわれるだけよ?」

 

「だって……」

 

 光の粒子となって消えた吸血鬼侍ちゃんを見てへたり込む妖精弓手ちゃんの肩に手をやり、安心させるように話しかける女魔法使いちゃん。眦から零れるものを見て、視線を合わせるようにしゃがみ込み、女の顔で問いかけています。

 

「そんなにアイツが大事なら、あらゆる手段を使って繋ぎ止めてみる? アイツも貴女を気に入っているみたいだから、重しが増えれば自重するようになるかもしれないわよ?」

 

「ふぇっ!? そ、それってもしかして……」

 

 慌てて見返す妖精弓手ちゃんですが、女魔法使いちゃんの目に宿る力に気圧されて言葉が出てこない様子。ふと視線を和らげた女魔法使いちゃん、まあ貴方達には幾らでも時間があるのだから、後悔だけしないようにねと言い残して離れていきます。

 

 その後姿を見つめる妖精弓手ちゃん。ゴシゴシと涙を拭い立ち上がったその顔には、今までにない決意が宿っているように見えました……。

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 




 漆黒のステイヤーが可愛すぎるので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がりますのでよろしくお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその9-7

 花粉で頭がボーっとしているので初投稿です。


 あれ、ちょっとなにしてるんですか無貌の神(月の魔物)さん? 最近風評被害が酷いからちょっと冒険者の手助けしてくるって、いやいやそんなのGMが許すわけ……え、いいんですかGM!? 早く油を無くすにはこれが一番?

 

 そもそもオイルレスリング(油による汚染拡大)は想定外って、じゃあアレは誰が盤上に持ち込んで……内ゲバで領土と手勢を失った法務官(Praetor)が戦力拡充のために乗り込んできた? うわ、なんでわざわざ四方世界に来るかなぁ……。

 

 GMとしても、油が一滴でも残ると今後の冒険(シナリオ)に問題が起きるからここで根絶させたいと。なるほど、じゃあその方向で動きましょうか! いつもと違うカッコいいとこ期待してますからね、無貌の神(月の魔物)さん!!

 

 

 

 

 

 えー、はい! 前回吸血鬼侍ちゃんがサビ残に召喚されたところから再開です!!

 

 吸血鬼侍ちゃんの召喚された場所は、予想通り勇者ちゃん一党の最終決戦の場(クライマックスフェイズ)でした。

 

 荒れ果てた岩肌が広がる地底世界。闇に閉ざされた中に蠢く無数の赤い目は全て汚染されたモンスターです。時折視界内で輝く白い光は勇者ちゃんの一撃でしょうか。一瞬だけ赤い光の海に空白が生まれますが、すぐさま押し寄せるモンスターによってその隙間は塞がれてしまいます。

 

 

 

「召喚には成功したようですが……おや、その左腕は何処に落としてきたのです?」

 

「ちょっとあぶらにしんしょくされそうになったから、じぶんでひきちぎったの」

 

「成程、森人(エルフ)たちが話していた地上(うえ)に来ている冒険者とは貴女たちのことでしたか」

 

 剣聖さんに守られながら吸血鬼侍ちゃんを召喚していた賢者ちゃん。左腕を失くしたままの姿を見て目を丸くしています。残念ながら今の吸血鬼侍ちゃんは戦闘力が半減しているようなものですからね。ちょっと期待外れだったのかもしれません。

 

「思ったとおり上にも汚染が広がっていたのです。見えますか? アレが四方世界(ここ)に油を持ち込んだ犯人なのです」

 

 賢者ちゃんが杖で指し示す先、無数のモンスターに守られた一角にソレは悠然と構えていました。有角の女性的な上半身と、牙の生えた大きな口を備えた甲殻類を連想させる下半身。本来は全身を覆っていたであろう外骨格は無残にひび割れ、そこからあの忌々しい油を滲ませています。周囲に機械と肉が融合した配下を次々と生み出し、数の暴力で押し潰そうとする戦略。おそらくあの個体が例の零落した法務官(Ruined Praetor)で間違いないでしょう。

 

「配下のモンスター、単体では脅威ではないのだが幾ら倒しても復活してきてキリがない。今は頭目(リーダー)が抑え込んでいるが、長期戦では此方が不利だろう」

 

「あの蟹女が延々と蘇生し続けているのは分かっているのですが、既に土地を半ばまで汚染されていて、そこから無尽蔵の魔力を生成しているのです」

 

 なるほどー、たしかに勇者ちゃんの一撃で軍団規模で吹き飛ばされてますが、バラバラになった身体が汚染された地面に接触した途端に再生が始まってますね。別の個体の四肢が強引に繋ぎ合わされ、新たな生命として活動を開始する死体だったもの。豊富な魔力(基本でない土地)から繰り返される蘇生(リアニメイト)を正面から相手するのは面倒極まりないですねぇ。

 

 

 

「あーもう! ねえまだ対抗策は思いつかないのー!?」

 

 流石の勇者ちゃんも押し寄せる敵の数に辟易しているのか、いつもの明るい顔はどこへやら。面倒くさそうに軍勢を薙ぎ払い続けています。身体に纏う太陽の加護(プロテクション黒)で油が付着するのは防いでいるようですが、法務官に攻撃を試みても雑兵の肉壁に阻まれて上手くいってないようです。

 

「あの子を休ませるための交代要員として召喚()んでみたのですが、その腕では無理なのです。ちょっと困ったのです……」

 

 うーむ、珍しく賢者ちゃんが溜息を吐いてますねぇ。気まずそうに残ったほうの手で頬をポリポリと掻いている吸血鬼侍ちゃん。そろそろ状況を動かしてみましょうか。お願いします万知神さん!

 

「あ……」

 

「どうしたのです? なにか良い案でも……≪託宣(ハンドアウト)≫なのですか?」

 

「うん、あのあぶら、かみさまたちもこまってるみたい。ここでみんなまとめてけしちゃいたいんだって。……しょうもうしきってたおれるとおもうから、そのあとはまかせてもいい?」

 

 虚空を見上げていた吸血鬼侍ちゃんを見て、≪託宣(ハンドアウト)≫であることを察知した賢者ちゃん。その後の吸血鬼侍ちゃんの言葉に暫く考え込んでいましたが、決心がついたのか真っすぐ向き合いながら答えを返してくれます。

 

「どうやらそれ以外の方法は無さそうなのです。あとの始末は我々が行うので、ここは任せるのです。……魔力は必要なのですか?」

 

「ひとくちだけ、すってもいい? ……ごめんね」

 

「こういうときは謝罪ではなく感謝が適しているのです……ひぅ……ん……ぁ……」

 

「ん、ありがと。……それじゃちょっとはなれててね?」

 

 はだけた服を戻しながら心配そうに見つめる賢者ちゃんに笑みを返し、前に進み出る吸血鬼侍ちゃん。新たな獲物に気付いて油を滴らせた異形が襲い掛かってきますが、剣聖さんの飛ぶ斬撃によってその悉くが肉片へと変えられていきます。

 

くろ(自分)あお(賢者ちゃん)あお(女魔法使いちゃん)あか(不良闇人さん)。うん、あとはくろをふやせば……っ!」

 

 村正を抜き、自分の喉元を切り裂く吸血鬼侍ちゃん。夥しい血が地面へと零れ、複雑な魔法陣を描いていきます。同時に唱え始められる奇跡を乞い願う詠唱。万知神への祈りの声が響き、それを(しるべ)として上方次元より莫大な情報が四方世界へと雪崩を打って押し寄せて来ます。

 

(あまね)く世界の叡智を貪る知の蒐集者よ、非才なるこの身に瞬刻の閃きを授け給え

 

 ≪教授(ティーチング)≫により異界の禁術に接続(アクセス)し、そのまま自分自身()を代価に≪暗黒の儀式(Dark Ritual)≫を二重詠唱。反動で血を吐きながら増幅された魔力(黒黒黒黒)を体内に留め、先に儀式魔法(Enchantment)の完成を急ぐ吸血鬼侍ちゃん。

 

「くぅ……あぁ……! ≪偽りの力に染まりし大地よ、狂気の月に照らされ、己が真実の姿を思い出せ≫ ≪そして恐怖せよ この世界に汝らの住まう場所など在りはしないのだから≫

 

 吸血鬼侍ちゃんの詠唱が終わると同時に、地底世界の天井に走る無数の亀裂。空間を割って現れたのは地下からは見える筈の無い夜空です。星を覆い隠す灰色の雲、その()()に浮かんでいるのは天面の半分を占めるほどに大きな血染めの月(Blood Moon)。刺すように降り注ぐ深紅の月光((2)(赤))が、汚染された岩肌(基本でない土地)を本来の荒れ果てた岩肌(基本土地-山)へと変えていきます。

 

「Praeeeeeetoooooor!?!?!?」

 

 お、魔力源(土地)を台無しにされて法務官が焦ってますね! おそらく四方世界に侵攻する際にリソースの殆どを持ち込んでいたのでしょう。ここでマナを枯らしてしまえば好き勝手出来なくなるはずです。そして、同時に唱えられていたもう一つの魔法( (2)(黒)(黒))が、四方世界に存在し得ない根源的恐怖を具現化させていきます……。

 

 

 

 

 それは 唐突に紅い月から降り立って来た

 

 ヒトに似た だが決してヒトのものでは無い体躯

 

 骨と 肉と 触手によって編み上げられた異形の姿

 

 顔らしき部分には何も無く 空虚な(うろ)がただあるのみ

 

 だが その場にいた誰もが感じ取っていた

 

 その無貌は 決して無表情などではなく

 

 その場にいた全てを 自分自身ですら嘲笑っているのだと……

 

 

 

 

「「「「「Phyyyyyyreeeeee!?」」」」」

 

 重力なぞ関係ないと言わんばかりに悠然と降りてくる無貌の神(月の魔物形態)。その姿を目にした侵略者たちが次々に発狂し、体内から突き出るように噴き出したファイレクシアの油によって自ら串刺しになっていきます。通常の人間とは全く違う精神構造の彼らでさえ発狂(-5/-5修正)するほどの≪激しい恐怖(Crippling Fear)≫。吸血鬼侍ちゃんや勇者ちゃん一党が無事なのは、ひとえに無謀の神さんのほんの気まぐれ(【種別:冒険者】を対象より除外したから)にすぎません。

 

 

 

「まったく、なんてモノを召喚するのです!? ……まぁ、これで逃げ出すための門を閉じることが出来るのです」

 

 そして、魔力源(土地)を失った法務官に手勢を蘇生(リアニメイト)する魔力(マナ)はあるわけも無く。当人も発狂寸前(現在1/1)で踏みとどまっていますが、最早趨勢は決しました。≪転移≫の門を封じるために術式を編み始めた賢者ちゃんを横目に、地上に降り立った異形がふらつく吸血鬼侍ちゃんを抱き締めるように手を伸ばしています。あ、ツバ付けちゃダメですよ無謀の神さん。その子は万知神さんの愛し子なんですから!!

 

「Prae……toooooor!!」

 

 げ、死に体の法務官が何やらイヤーな最後っ屁(インスタント)を唱えようとしています。周囲から無理矢理魔力を吸い上げ、足りない分は僅かに残った自らの生命力を削ることで(lose 4 life)補い、賢者ちゃんを道連れにしようとしています! 法務官から感じる濃密な死の気配((1)(黒/Φ)(黒/Φ))に反応し、射線に割り込むように吸血鬼侍ちゃんが賢者ちゃんの前に飛び出して……ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶちり ぶちり ぶちり

 

 

「う……ぁ……」

 

「!? しま……っ!」

 

「この、いい加減に斃れろぉぉぉぉぉお!!」

 

 虚空より出現した無数の腕が吸血鬼侍ちゃんに群がり、既に失っていた左腕を除く四肢を無理矢理もぎ取っていきました。痛みに強い吸血鬼侍ちゃんも、こう立て続けに欠損が続くと流石に堪えたのか、小さく呻き声をあげ地面に落下してしまいました。

 

 慌てて吸血鬼侍ちゃんを拾い上げようとした無貌の神(月の魔物)さんも呪文維持が切れてしまったのか空に浮かんでいた血染めの月と一緒に消えてしまい、代わりに硬直から復帰した賢者ちゃんが抱え起こしています。

 

 お疲れ様です、満足しました? ああ、それはなにより。

 

 あ、狙っていた賢者ちゃんを殺せなかった法務官がさらに≪四肢切断(Dismember)≫を唱えようとしますが、怒りの炎を目に宿した勇者ちゃんの一撃によって浄化されました。吸血鬼侍ちゃんへのダメージは甚大ですが、これでファイレクシアの油が引き起こした騒動に決着がつきましたね!

 

 

 

「なんでそんな身体で無茶をするのですか!? これじゃ損傷が酷すぎるのです!!」

 

 吸血鬼侍ちゃんを抱き起こし、四肢をすべて失った小さな姿を見て息をのむ賢者ちゃん。吸血鬼侍ちゃんも意識がはっきりしないのか、返事もせず浅い呼吸を繰り返しています。ただでさえ再生が遅くなっているところにダメージが蓄積して、結構危険な状態になってしまったみたいですね。傷を治そうにも≪小癒(ヒール)≫や≪蘇生(リザレクション)≫は逆効果ですし、これはもう≪邪な土≫で復帰するしかないですかねぇ……。おや、賢者ちゃんが2人を呼び寄せています。何か方法があるのでしょうか。

 

「たしか彼女には回復の奇跡はダメだったのだな。どうにか治す方法はないのか?」

 

「……私では生命力が不足しているのです。2人とも、少し血を分けて欲しいのです」

 

「それでこの子が元気になるの? ならいいよ!」

 

「わかった……噛みついてきたりしないよな?」

 

 それぞれの得物で指先を傷付け、血の滲みだしたそれを吸血鬼侍ちゃんの口にそっと近づける2人。生命力溢れる匂いに惹かれたのか、差し出されたそれをあむっと咥えしゃぶり始めました。指先に感じる舌の感触がくすぐったいのか、2人ともどこか落ち着かなさそうな顔をしていますね。

 

「うひぃ! ちょっとくすぐったいかも!!」

 

「むう、意識のないままこれ程の技巧を魅せるとは……まさにテクニシャンというヤツだな」

 

 いや、それはちょっと違うんじゃないでしょうか剣聖さん。あ、でも2人の血のおかげか、吸血鬼侍ちゃんの再生が始まったみたいです! 欠損部位から徐々に四肢が形成されていますが、流石に服までは追い付かないのでしょうか、青白い手足が剥き出しのままです。とりあえず身体を優先して再生しているみたいですね。

 

「これでガワはなんとかなったのです。あとは森人(エルフ)の森へ戻ってから処置するのです」

 

 大きめのぬいぐるみを抱えるように吸血鬼侍ちゃんを抱き上げ、≪転移≫の術式を起動する賢者ちゃん。よかった、森人の森まで送っていってもらえるみたいです。まあ古老たちに報告もあるでしょうし、そのついでなのかもしれません。相変わらず気絶したままですが、おそらく分身ちゃんの維持も途中で切れてしまっているでしょう。心配をかけちゃったぶん、みんなからのお説教が待っているのかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

「……んゆ?」

 

「……あ、や~っと起きたわね。この寝坊助め」

 

 お、前髪を弄られる感触に反応して、漸く吸血鬼侍ちゃんが意識を取り戻しましたね。ふかふかの草が集まって出来たベッドに横たわったまま、目だけを動かして辺りを確認しています。

 

 声のするほうに目を向ければ、そこには同じベッドに横たわる妖精弓手ちゃんの一糸纏わぬ姿。自然が生み出した造形に囲まれ、その美しさは普段よりも輝いているように思えます。寝ている間に脱がされたのか、同じく全裸だった吸血鬼侍ちゃんも思わず感想を漏らしてしまってますね。

 

「きれい……」

 

「とーぜんよ! なにせ此処は森人の住まう場所。周囲の自然から生気を貰って、髪色も肌艶も良くなるんだから。……でもありがと」

 

 再生した四肢に違和感が無いか確かめるように僅かに動かす吸血鬼侍ちゃんを抱き締め、頬擦りをする妖精弓手ちゃん。暫くそうして満足したのか顔を離し、代わりに両手で吸血鬼侍ちゃんの顔を固定しながらジト目で見据えています。

 

「ちっこいのがデタラメーズ(勇者ちゃん一党)に運ばれてきてもう3日も寝てたのよ? 若草の()が祖霊と交渉してちっこいのに森の生命力を分けてくれるよう頼み込まなかったら、あと半年は目を覚まさなかったかもしれないんだから。ちゃんとお礼言っときなさい」

 

「おあ~……」

 

 分けてもらった生命力をこのベッドに集める術式を組んだのは猫耳頭巾(賢者ちゃん)だけどねと続けながら、両手で挟んだ左右のほっぺたをぐにぐにとこね回す妖精弓手ちゃん。これはけっこう怒ってますね……。

 

 

 

「ねえ、なんであの時私を庇ったの? アレは油断してた私が悪かったの。ちっこいのが傷つく必要なんて無かったのに」

 

「? まもるほうほうがあったから、まもりたいひとをまもっただけだよ???」

 

「―――――ッ!? だからって、それで死んだら元も子もないじゃない!? あんた、あれだけ好き勝手女の子を惚れさせておいて、先に死ぬなんて許さないって言ったでしょ!!」

 

「でも、そこでためらってたいせつなひとをまもれないのは、もっといや。またおなじことがあっても、ぜったいまもるから」

 

 吸血鬼侍ちゃんをベッドに押し倒し、覆い被さるような体勢で問い詰める妖精弓手ちゃん。顔に落ちてくる水滴とともに、その鬼気迫る視線を受け止める吸血鬼侍ちゃん。そっと妖精弓手ちゃんの頭に手を伸ばし、自らの平坦な胸に抱き寄せました。

 

「だいじょうぶ、ぼくはぜったいにしなないよ。だって、きみとやくそくしたから。……だから、そんなになかないで?」

 

「……うっさい、泣いてなんかないわよぅ」

 

 あやすように背をポンポンと叩かれる妖精弓手ちゃん。誤魔化すように顔を薄い胸に擦り付けていますが、吸血鬼侍ちゃんがそこに感じる熱い水はいったい何処から流れているんでしょうかね?

 

 

 

 

 

「おちついた? もうだいじょうぶ?」

 

「……うん。恥ずかしいとこ見せちゃったわね」

 

 ベッドに座り込んだ姿勢の吸血鬼侍ちゃんに膝枕され、頭を撫でられていた妖精弓手ちゃん。どうやら落ち着いたみたいです。ちょっと恥ずかし気に口を尖らせていますが、その特徴的な長耳がピコピコ動いているあたりまんざらでもなさそうですね。

 

「ねえちっこいの、この前話していたおっぱい女たち(只人3人娘)の眷属化だけど、なるべく早いうちに了承を得てちょうだい?」

 

「どうして?」

 

「この居心地の良い世界をずっと続けたいってのが本音かしら。それに、ちっこいのは気にしなくても、あんまり外見年齢が離れるのは嫌みたいじゃない。特におっぱい大司教とか」

 

「あ~、うん」

 

 私を含めた森人3人で、あんたともう3人くらい養って(吸わせて)あげるわよと続ける妖精弓手ちゃん。たしかに、そろそろ微妙なお年頃になる方もいらっしゃいますからねぇ……。

 

「こんど、ちゃんとはなしてみるね。かみさまともそうだんしないといけないだろうし」

 

「神が人の恋路を邪魔するってんなら、ちっこいのが引っ叩きに行ってあげなさいよ。それが惚れさせたやつの甲斐性ってもんでしょ?」

 

 ですって至高神さん! え? ちょっと考えさせてって、いやまさか本気で……?

 

 

 

 ぐ~きゅるるるる

 

「おなかすいた……」

 

「まあ3日も寝てたらそうでしょうね。待ってなさい、ずっと宴会を続けている連中から適当なのを連れて……どうしたのよちっこいの?」

 

 吸血鬼侍ちゃんのお腹の音を聞いて人を呼びに行こうとする妖精弓手ちゃん。不意に手を掴まれて振り返れば、吸血鬼侍ちゃんがじっとその顔を見つめています。怪訝そうに問いかける妖精弓手ちゃんに、暫く視線を彷徨わせたのち、何かを決心した顔で言葉を紡ぎ出しました。

 

「きみがいい」

 

「きみのちがいい」

 

「……きみが、ほしい」

 

「ふぁっ!?」

 

 突然の告白にボフっと顔を真っ赤にする妖精弓手ちゃん。狼狽えながらも年上の威厳を保とうと必死に取り繕い、緩む頬を隠すようにぶっきらぼうに口を開きます。

 

「へ、へえ……。それって、餌として私が欲しいって事? それとも、女としてかしら?」

 

 私、そんな安い女じゃないわよと言わんばかりの言葉ですが、残念ながら吸血鬼侍ちゃんの答えはシンプルでした。

 

「すべて」

 

 

「ふぇ?」

 

 

「みもこころもたましいも、すべてほしい」

 

 

「――――――――――――――――ッ!?!?」

 

 

「きみのすべてを、ぼくにちょうだい?」

 

 

ぷしゅ~

 

 ふらつく妖精弓手ちゃんの腕を取り、草のベッドに引っ張り込む吸血鬼侍ちゃん。されるがままの妖精弓手ちゃんの肢体に牙と舌を滑らせ、さわさわと刺激を与えています。お、牙が長耳に到達したところでやっと再起動し、両手で吸血鬼侍ちゃんの肩を押さえて引き剥がしました!

 

 猫のように荒く息を吐き、上気した顔で睨みつける妖精弓手ちゃん。その目にはうっすらと涙が浮かんでいます。一点集中で精神を突き崩されて、果たして立ち直れるでしょうか!

 

「……いいわ、私の全てをあんたにあげる。その代わり、私もあんたからひとつ、あるものを貰うから」

 

「な~に?」

 

「……あんたの『終わり』を頂戴。私が死ぬまで絶対に返さないわ」

 

「ん、わかった。ぼくは、きみがいきるのをやめるまで、ぜったいにおわらないから」

 

 うーん、このフェアなようでフェアじゃない取引。でも、お互いが納得しているなら公平ですよね! あーもう私の負けよと騒ぎながら吸血鬼侍ちゃんを抱きかかえ、ベッドの上を転がりまわる妖精弓手ちゃん。吸血鬼侍ちゃんを下にした状態で転がるのを止め、その顔を覗き込んでいます。

 

「50年や100年くらい私たち以外の女に浮気したっていいわ。待つのは辛いかしれないけど、私たちには永遠に近い時間があるんだもの。……でも、眷属にするのはあの3人だけにしといてちょうだい? あんまり増えても養いきれないんだから!」

 

「うわきなんてしないよ?」

 

「どーだか。どうせまたおっぱいの大きい女を見付けたら粉をかけるに……ひゃん!?

 

「ぼくは、おっきのもちっちゃいのも、ぺったんこもすきなの。んちゅ……ちゅっ……ちゅう……くふぅ」

 

 拗ね始めた妖精弓手ちゃんを黙らせるようにちゅ~ちゅ~する吸血鬼侍ちゃん。穢れを知らないピュアな2000歳児ではその刺激に耐えきれず、あっという間に出来上がってしまいました。

 

 影の触手で部屋の隅に纏められていた荷物から≪手袋≫を引き寄せて指輪を取り出し、自分の指に嵌める吸血鬼侍ちゃん。温泉の時とは逆に、自らに妖精弓手ちゃんを乗せるような形に抱き寄せています。

 

「できるだけやさしくするけど、いたかったらごめん」

 

「ふふっ、いいわよ痛くても。……好きよ、私の()()()()()。あんたを手にして身を焼かれるなら、私は本望よ?」

 

()()()()()?」

 

「今度スケベ森人(エロフ)のどっちかに聞いてみなさい? 嬉々として意味を教えてくれるでしょうから」

 

「わかった。……んむぅ……ちゅ……ちゅっ……」

 

 唇同士が触れ合う水っぽい音が響く中、少しづつ近付く2人の身体。やがてそれは一つに重なり……。

 

 

 

 

 

「あ、これやばいかも……」

 

「……ごめん、やっぱりいたかった?」

 

「いや、痛いは痛いんだけど……。うわ、なんていうか、精神的な満足感? 幸福感がヤバいわね。繋がってるだけなのに、顔がにやけてくるのが自分でもわかるもの……ちゅ……」

 

「んむぅ……ぼくも。ぎゅってしたときにむねからきこえるこどう、すごくほっとする」

 

「シルマリルこそ平気なの? 分身ちゃんがスケベ森人(エロフ)2人を相手してる時とか、もっと積極的だけど。その……動かないと辛いんじゃないの、ソレって?」

 

「あれは、いやなきおくをうわがきするためにふたりがのぞんでいるから。ぼくはこのままでもじゅうぶんしあわせ……んちゅ……」

 

「んむ……ぷぁ……そっか。……シルマリルが良ければ、このままお話ししましょ? あんたが今まで見てきたこと、感じたこと。それにこれから何がしたいのか。話題はいくらでもあるわよ?」

 

「うん、ぼくもききたい。きみがみてきたたくさんのひとのこと、きみがかんじてきたたくさんのおもいでのこと」

 

「もう、一晩じゃ話し終わるわけないでしょ、二千年分もあるんだから」

 

「だったら、つづきはまたこんど。それでもおわらなかったら、そのまたつぎに……ね?」

 

「そんなにあんたを独占してたら他の()に怒られちゃうでしょうが。ちゃ~んとみんな平等に愛して頂戴。それが約束でしょ?」

 

「うん。かならずやくそくはまもる。……ぜったいにみんなしあわせにするから」

 

「ええそうね、みんな幸せになるんだから。……もちろん、あんたも幸せにしてあげるわ。私たち全員でね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、そのまま朝まで語り明かした挙句、エロガキが目覚めたことも知らせずに2人とも寝こけてたってわけね……」

 

 

 

「ご、ごめんなさい……」

「ご、ごめんなさい……」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 鼻水と鼻詰まりが酷いので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がりますのでよろしくお願いいたします。

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セッションその9 りざると

 うまぴょいから逃げられなかったので初投稿です。

 お気に入り登録700件ありがとうございます。新年度が近付き投稿ペースが落ちるかもしれませんが、今後もお読み頂ければ幸いです。


 前回、女魔法使いちゃんに正座させられたところから再開です。

 

 思いが通じたのに任せて夜通しちゅーちゅーしてしまい、全裸で怒られていた吸血鬼侍ちゃんと妖精弓手ちゃん。なんとかお説教を乗り切った後に、身支度を整えて他のみんなにごめんなさいしに行くことになりました。そりゃ半死半生(もともと生きていない)で寝かされていたのに、起きるなりちゅっちゅしてたら謝罪案件ですよねぇ。

 

 手っ取り早く≪浄化(ピュアリファイ)≫でいろんなものを綺麗にして、洗濯済の服に着替えたら向かいましょうか。ちょっと内股で歩いてる妖精弓手ちゃんを見たら、2人がナニしてたか一発でバレちゃいますね……。

 

 

 

 

 

 女魔法使いちゃんに先導されて着いたのはエルフの森の中心近く、おそらく外からの来訪者をもてなすための迎賓館的な場所でしょうか。ゴブスレさんを筆頭にいつものメンバーと勇者ちゃんたち3人、それに川で救助していた女巫術師さん一党もいますね。ん? さらに見たことのない男女2人組の冒険者がいますけど、何処かで会っていましたっけ……?

 

「ああ、アンタが居ない間にあの城塞を調べていた時に見つけた2人ね。油塗れのゴブリンから隠れていたところを保護したのよ」

 

 あ、原作で圧搾機にかけられてた冒険者ですか! 吸血鬼侍ちゃんが呼ばれちゃったので忘れてましたけど、無事に助けられたんですね。下層のゴブリンも汚染している可能性は高かったのですが、みんな女神官ちゃんの≪浄化≫で消滅したために難を逃れたのでしょうか。

 

「起きたか。……なんだ、怪我でもしたのか?」

 

「ふふん、名誉の負傷ってヤツよ!」

 

「ふかくはついきゅうしないで……」

 

 妖精弓手ちゃんに抱きかかえられた状態で現れた吸血鬼侍ちゃんを見て、僅かに安堵を滲ませるゴブスレさん。同時にぎこちなく動く妖精弓手ちゃんに目を向けますが、どうやら一党のみんなには致したことがバレバレのようですね。スケベ森人(エロフ)姉妹と令嬢剣士さんは生暖かい目で見てきますし、女神官ちゃんは「あっ(察し)」という顔をしています。

 ≪浄化≫で匂いも落ちたのが気に入らないのか、マーキング(所有権を主張)するように頬擦りを続けている妖精弓手ちゃん。そんなことしなくても吸血鬼侍ちゃんは逃げやしませんよ。

 

「おや、もう目が覚めたのですか。ちょうどいま、他の一党(パーティ)を送るところだったのです」

 

 四次元ポシェットから≪転移≫の鏡を取り出していた賢者ちゃんが吸血鬼侍ちゃんに気付いて声をかけてきました。どうやら各一党を拠点に送り届けようとしていたところみたいですね。たしかに筏も無い状態でエルフの森(ここ)から帰るのは厳しいでしょうから、王都なりなんなりに送り届けてあげたほうが彼らも助かるでしょう。吸血鬼侍ちゃんたちは急いでませんので、先に彼らを送ってあげてくださいな。

 

「ではそうするので、もうちょっとエルフの森(ここ)で待ってるのです。そちらの姫の姉とその新郎も、貴女が起きたら話したいことがあると言ってたのです」

 

「ん、わかった。まってるね」

 

「それじゃみんな、ボクに着いて来て! だいじょうぶ、危なくなんかないよ!!」

 

 おや、詫び石ですか?(ソシャゲ並感) まあ吸血鬼侍ちゃんも本調子では無さそうですし、従兄殿と森姫さまが話したいというのならもう少しお邪魔させてもらっちゃいますか。賢者ちゃんが開いた≪転移≫の門に、勇者ちゃんの先導で次々に消えていく冒険者たち。みんなお礼を言いながら笑顔で去って行きました。ここで拾った命を無駄遣いせず、頑張って活躍してもらいたいですね。

 

 

 

「勇者殿から聞き及んでおりますが、召喚先では侍殿も随分危ういところだったようで」

 

「うん、すっごいひさしぶりに"あれ、もしかしてあぶないかも"っておもった……

 

「そうね、そういえばまだそっちはお説教してなかったわねぇ?」

 

 労うように声をかけてくれた蜥蜴僧侶さんに思わず本音を漏らしてしまった吸血鬼侍ちゃん。気付いた時には既に手遅れ、顔面を女魔法使いちゃんに鷲掴みに。そのまま妖精弓手ちゃんのハグから引っこ抜かれ、再び正座されられちゃいました。

 

「いきなり分身ちゃんが消えた時はみんな慌てたのよ? 向こうも世界の危機とやらで手が足りないから呼んだんでしょうけど、それでアンタが帰って来なかったらどうなるか。わからないアンタじゃないでしょ?」

 

「うん。……みんな、心配かけてごめんなさい」

 

 正座のまま一党に頭を下げる吸血鬼侍ちゃん。空気を読んだのか読んでいないのか、シュルシュルと伸びてきた蔓が「私は一党の仲間に心配をかけたダメ吸血鬼です」の札を吸血鬼侍ちゃんの首にかけていきました。その姿を見ながらうんうんと頷いている森人狩人さん。あ、なんか嫌な予感が……。

 

「そうだよご主人様。きみがいなくなったら、私も義妹(いもうと)ちゃんも生きる理由が無くなってしまうよ? 私たちを虜にした責任はしっかり取ってもらわないと、ね?」

 

「そうやってプレッシャーをかけるのは止めなさいって言ってるでしょこの馬鹿義姉(ばかあね)。義妹ちゃんもそこで頷かないの。……まぁ、これでわかったでしょ?」

 

 いけしゃあしゃあとのたまう森人狩人さんにツッコミをいれながら、吸血鬼侍ちゃんを諭す女魔法使いちゃん。既に何人もの命を背負っているんですから、自分の命を軽んじるような行動は慎まないといけませんね。

 

 

 

 

 

「侍従から聞いて耳を疑ったが、本当に目が覚めたようだな」

 

「ちょっと、小さき不死者の足をつついて、いったい何をしているのかしら?」

 

 お、正座にやられた吸血鬼侍ちゃんが、妖精弓手ちゃんに足をツンツンされているところに従兄殿がやって来ました。後ろにはおっぱ……花冠の森姫も一緒にいますね。悶える吸血鬼侍ちゃんを見て楽しんでいた妖精弓手ちゃんが、誤魔化すように吸血鬼侍ちゃんを抱きかかえて頬擦り(マーキング)を再開し始めました。

 

「見ての通りちょっとしたスキンシップよ、ねえ様、あに様。それより()()()()()に話したいことがあるんじゃなかったの?」

 

「……その前に。どういうことかしら、()()()()()()()

 

 うん? 妖精弓手ちゃんが昨晩から吸血鬼侍ちゃんを呼ぶのに使い始めた単語を聞いたとたんに2人の表情が変わりました。2人だけじゃありません、森人義姉妹(エロフ姉妹)も驚いた様子で妖精弓手ちゃんを見つめています。やはり森人特有の言い回しなんでしょうか?

 

「あの、その()()()()()って、どんないみなの?」

 

 抱きかかえられたままの体勢で手を上げ、従兄殿に向かって訪ねる吸血鬼侍ちゃん。眉間を押さえ、どうしたものかという表情をしていた従兄殿が、躊躇いがちに口を開きました。

 

「我々森人(エルフ)の生は永い。その中で見つけた自分にとって最も大切なもの、何よりも大事なものを表す言葉だ。本来は世界のどこかに眠る三つの宝玉を意味するものだが、今では最愛の人、愛しき者という意味合いが強い」

 

「ええと、だいすきなひとってこと?」

 

「端的に言えばそうなる。相応しくない者が手にすれば、その身を焼かれる運命の宝玉。たとえそうだとしても求めずにはいられない至高の光。……つまりそういうことだ」

 

「おおう……」

 

「あら、こーんな公衆の面前で意味を聞くなんて、シルマリルったら随分大胆じゃないの!」

 

 思っていた以上に情熱的な内容だったために恥ずかしそうに腕の中で悶える吸血鬼侍ちゃんを、抱き締めた状態から離さずにからかうような視線を向ける妖精弓手ちゃん。今まで積み重なってきた好感度も作用していると思いますが、愛されてますねぇ吸血鬼侍ちゃん。おや、バカップルの如くスキンシップを続けている妖精弓手ちゃんに硬い表情で花冠の森姫が近付いています。その真剣な顔を見て、妖精弓手ちゃんも吸血鬼侍ちゃんを弄る手を止めました。

 

 

 

「一応聞きますが、本気なのですね? 定命の存在から外れた、自然の摂理に反したモノを、貴女はシルマリルと呼ぶのですか?」

 

「そうよ、この子が私のシルマリル。たとえこの身が焼け落ちることになろうとも、掴んだ手は絶対に離したりしないわ。それに2人が結婚するんですもの、私が跡継ぎの心配をする必要はないわよね?」

 

「んなっ!? 結婚して早々世継ぎの話なんて、そんなはしたない!」

 

「あら、愛する人と繋がるのって、とっても幸せよ? ねーシルマリル」

 

「こんのクソチビ、巨乳のネーチャンやロリママだけじゃ飽き足らず、ちっぱいまで毒牙にかけやがって……痛ェ!?」

 

 同意を求めるように頬擦りをする妖精弓手ちゃんを見て、顔を真っ赤にしている花冠の森姫。どうやら妹が大人の階段を上ったことに気付いてしまったみたいですね。あうあうと意味のない声を出し続ける彼女の後ろで血涙を流す不良闇人さん。迂闊なことを口にしたせいで妖精弓手ちゃんの怪鳥蹴りを喰らっています。

 美しく優雅というイメージをぶち壊す森人の惨状に呆気にとられた様子の冒険者を見て、大きく咳ばらいをした従兄殿。気を取り直したように侍従から何かを受け取り、マウントポジションで不良闇人さんを殴っていた妖精弓手ちゃんに差し出しています。

 

 

 

「その辺にしておけ星風の娘よ。『如何なる時も上の森人(ハイエルフ)としての優雅さを忘れることなかれ』だ。それよりも、我が従妹の新たなる門出に際し渡しておくものがある。手を出すのだ」

 

 不良闇人さんにとどめを刺せず不完全燃焼な妖精弓手ちゃん、手渡されたのは細長い葉を編んで作られた小さな包み。上側を解いた妖精弓手ちゃんの隣から覗き込んだ吸血鬼侍ちゃんの見たものは、ふかふかの黒土から顔を覗かせている小さな新芽でした。

 

「あに様、これってもしかして……」

 

「ああ、昨夜我らが放った木芽鏃と同じ場所から選り分けた森の新芽だ。そなたが住処としている場所にこれを植え、心を込めて育むのだ。さすれば、やがて新芽は木となり、そして大樹へと育ち、そなたとそなたの家族の住む(いえ)となるだろう」

 

「まったく、随分気の長い話ねぇ。でも、ありがとうあに様。ねえ様のこと大事にしてあげてね」

 

 なるほど、森の株分けみたいなものなんでしょうか。離れていても気持ちが繋がるようにという願いが込められているのかもしれませんね。

 

「小さき不死者よ、我が従妹と同胞(はらから)のこと、頼むぞ。それと例の赤い手についてなのだが」

 

「! なにかわかったの?」

 

 おお、出発前に請け負ってくれていた赤い手についての情報ですか! 現状あの装飾品と蛞蝓野郎(フラック)以外の情報がありませんから、ちょっとでも詳しい話が聞きたいところですね。

 

「古老の1人に若いころ数多の世界を巡ったと嘯く御仁が居るのだが、かつて此処ではない世界を旅していた時に同じシンボルを見たことがあったそうだ。他の古老たちはまた法螺を吹いていると笑っていたが、私にはそうは思えなんだ」

 

 ふむふむ。その古老さんは、もしかして次元渡り(プレーンズ・ウォーカー)だったりしたんですかねぇ。ふとした拍子に次元を超えて()()()()()に足を運んでいたとしても不思議ではないのかも。こちらの予想が正しければ、混沌の勢力に大幅なテコ入れが入りそうですね……。

 

"赤い手は滅びのしるし"。ゴブリンやオーガ、トロルを束ね、強壮なる邪竜を率いし世界喰らいの悪竜。森人(エルフ)只人(ヒューム)鉱人(ドワーフ)が協力して外方次元界に追い返したその幻影は、今でも虎視眈々と生命の輝きに満ちた世界を狙っていると古老は言っていた」

 

 その手は既にこの世界にも伸びていると言ってその古老は口を閉ざしたと語る従兄殿。うーん、出来れば直接話を伺いたいところですが、今回は時間があまり無さそうですので諦めましょう。

 

「おしえてくれてありがとう。このはなしはゆうしゃパーティにも?」

 

「ああ、只人の王に伝えるよう頼んである。……注意せよ、秩序の勢力を切り崩すために内通者を作るのは奴らの常套手段。既に王国内部にもその手は伸びていることだろう」

 

 そうなんですよねぇ。銀髪侍女さんや部隊長と間違えられたところから始まる大恋愛で王宮付きのメイドさんと結婚したリア充将軍さんが洗っていると思いますが、何処かのタイミングで内通者を一掃しないと陛下や王妹殿下が危ういかもしれません。吸血鬼侍ちゃんも注意を払っておきましょうか。

 

 

 

 

 

「おまたせなのです。送り先はそちらの拠点で良いのですか?」

 

 お、ちょっとシリアスに会話をしていたら賢者ちゃんが戻ってきました。特に他に行く場所もありませんので、ゴブスレさんたちも一緒に吸血鬼侍ちゃん一党のハウスに送ってもらいましょう! 中空に浮かぶ≪転移≫の鏡に手をあてて座標を入力する賢者ちゃん。波打つように風景が切り替わり、鏡には見慣れたリビングが映し出されました。

 

「陛下には古老の方々の未来予想、しっかりと伝えておくのです」

 

「ああ、こちらも遺跡の封印と混沌の勢力の動向には注意するよう徹底しておこう」

 

 互いに確認を取り合い、別れの挨拶をする賢者ちゃんと従兄殿。1人また1人と鏡へと入って行く中で、吸血鬼侍ちゃんを呼び止める声が。これは……花冠の森姫ですね。

 

「正直、彼のように貴女を信用することは、私には出来ません。貴女個人の在り様はどうあれ、吸血鬼という生命を冒涜する存在であることに違いはないのですから」

 

「ちょっとねえ様、シルマリルがそんなヤツじゃないってことは……むぐ!?」

 

 反論しようとした妖精弓手ちゃんの口を触手で塞ぎ、花冠の森姫に続きを促す吸血鬼侍ちゃん。その様子を困ったように眺めながら、花冠の森姫は言葉を続けています。

 

()()()()()。他の全てを投げうってでも手に入れようとしてしまう至高の宝玉。貴女に執着するあまり、妹が変わり果ててしまわないとどう証明出来ましょうか……」

 

「……」

 

 伝承の通りならば、花冠の森姫が恐れているのも無理はありません。誰が好んで愛する妹が破滅の道を歩むのを見過ごせるというのでしょう。悲し気に俯く花冠の森姫に、吸血鬼侍ちゃんが答えを返します。

 

「あなたのいもうとも、ほかのみんなも、みをやかれるようなあしきこころのもちぬしなんかじゃないよ? それに、いっしょにいてくれるかぎり、ぼくはみんなをまもりつづけるから」

 

 安心は出来ないだろうけど、信じて欲しい。そう言って頭を下げる吸血鬼侍ちゃんを後ろから抱き締め、触手を吐き出した妖精弓手ちゃんが言葉を引き継ぎます。

 

「もし、万が一シルマリルが見境なく血を吸い、死を撒き散らすようになったら……その時は私が、私たちがこの子を()()()()()。それがシルマリルとともに生きるって決めた血族(かぞく)としてのケジメよ」

 

「……まだ子供だと思っていましたが、いつの間にか大人になっていたのね。わかった、貴女の生は貴女の好きなように謳歌しなさい。……でも、偶には顔を見せに来て頂戴ね?」

 

 決意に満ちた妖精弓手ちゃんの姿に虚を突かれた様子の花冠の森姫。大きく息を吐くと、微かに微笑みを浮かべながら妖精弓手ちゃんの頭を撫でています。どうやら認めて貰えたみたいですね! 既に他の面子は鏡を潜り、残っているのは2人だけです。

 

「うん、またみんなで遊びに来るから! その時は、私も叔母さんて呼ばれるようになってるかもね!!」

 

「またそんな破廉恥なこと! ちょっと、聞いているのですか!?」

 

 花冠の森姫の怒声をバックに吸血鬼侍ちゃんを抱えたまま≪転移≫の鏡を通り抜ける妖精弓手ちゃん。一瞬の浮遊感の後、みんなが待つリビングが目の前に広がっていました。

 

 

 

「これで全員通過なのです。忘れ物がないようなら通路を閉じるのです」

 

「だいじょうぶ、ありがとう」

 

 2人が現れたのを確認して鏡を停止させ、四次元ポシェットにしまい込む賢者ちゃん。おや? 代わりに何かを取り出して、吸血鬼侍ちゃんに近付いてきましたよ。

 

「やはり本体を召喚中に≪分身(アザーセルフ)≫が消滅するのは、戦闘中だと致命的な危機を及ぼす可能性があるのです。今回の急な召喚のお詫びと言ってはアレなのですが、ちょっと良いものを王宮の宝物庫からガメて来たのです」

 

 ちょっと≪分身(アザーセルフ)≫を唱えるのですと催促しながら凄いことを言っている賢者ちゃん。ガメてきたってそれ義眼の宰相や銀髪侍女さんが激おこなんじゃ……あ、この間の王妹殿下の護衛の報酬扱いで強請ってきたんですか。それならばヨシ!

 

 4日振りくらいに呼び出された分身ちゃん、本体を通して状況は理解しているのか困惑した様子は見られません。いつも通り背後から迫ってきた森人狩人さんを触手で迎撃しながら賢者ちゃんが手渡して来たものを見つめています。精緻な装飾が施されたチョーカーのようですが、これは一体何でしょうか?

 

「【呪文維持の護符(アミュレットオブパーマネンシー)】。術者にかけられた呪文の効果を、そのチョーカーを身に付けている間維持してくれる呪物なのです。普通は≪加速(ヘイスト)≫や≪円盾(メイジシールド)≫を維持させるのですが、分身が装備すれば呪文維持が不要で≪分解(ディスインテグレイト)≫の直撃でも解除されない≪分身(アザーセルフ)≫になるのです」

 

 ほほう! ということは分身ちゃんがいつでも好きなように動けるというわけですね! あれ、でも≪分身(アザーセルフ)≫って乱用すると人格に悪影響が起きるとかっていう話があったような……。

 

「だから、普通の魔術師は≪分身(アザーセルフ)≫を維持などという遠回しな自殺はしないのです。貴女たちの場合、既に別個の人格として目覚め始めているので大きな影響はないと思うのです」

 

 賢者ちゃんの言葉を聞いて、お互いを見つめ合う吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん。そう言われると、問題ないというか、もう手遅れというか。そんな感じもしますね。

 

 

 

「ぼくはきみだし」

 

「ぼくもきみだね」

 

「ぼくときみはちょっとちがうかもしれない」

 

「でも、ぼくときみはきっとおんなじだから」

 

「「ふたりになっても、ずっといっしょ!!」」

 

 

 

「どうやら自己同一性(アイデンティティ)は問題なさそうなのです。今後おそらく性格や嗜好といった面で差異が現れてくるのです。たまに≪分身(アザーセルフ)≫を解除して、知識や経験の共有を行うのも良いと思うのです」

 

 どちらが本物かで争ったりしたらどうしようかと危惧していましたが、2人ともそんな細かいこと気にしていないみたいですね。万が一本体側が一回休み(邪な土)になっても分身ちゃんがいてくれるなら、一党に迫る危険は大きく下がるでしょう。毎日再召喚する手間とコストも無くなりますし、一石二鳥以上の効果が望めそうですね!

 

 

 

 

 

「ほんじゃ、今日は解散ちゅうことで。ギルドへの報告は明日すればええじゃろ」

 

「ですな。拙僧そろそろ牧場のチーズが恋しくなっております故、食べ歩きでも行いますかな」

 

「あ、面白そうですね! ゴブリンスレイヤーさんはこの後牧場へ?」

 

「ああ。……また週末、健康確認を頼む」

 

「「はーい!」」

 

 

 

 みなさんお疲れモードなので、本日はこのまま解散。明日改めてギルドへ報告するために集まることとしました。吸血鬼侍ちゃん一党も荷物の片付けだけ終わらせて、早めにご飯とお風呂、そのあとゆっくり休みたいところですが……。吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんを囲うように魔術師組が顔を突き合わせ、なにか話し合っています。

 

「ちなみに、この状態でさらに≪分身(アザーセルフ)≫を唱えたらどうなるのかしら」

 

「戦略的には火力も機動力も増すので、可能なら嬉しいのですけれど……」

 

「正直お勧めはしないのです。今こうやって互いを認め合っているのが奇跡みたいなものなのです。下手に人格分裂を起こして知能の低い吸血鬼の側面が現れたら目も当てられないのです」

 

「それは残念だね。1人に1人ずつご主人様が傍に居てくれたら最高だったんだけど」

 

 なんて怖ろしいことを考えているんですかねえ森人狩人さんは……。吸血のコストも上がるでしょうし、2人でじゅうぶんですよ!

 

「なんにせよ、これから2人は別個の人格として変化していくのです。それぞれの個性を尊重してしっかり手綱を握るのが肝心なのです」

 

 2人に対する心構えを講釈しつつ、滑るように吸血鬼侍ちゃんへと近付いてくる賢者ちゃん。危険を察知して瞬時にバックステップをした分身ちゃん。それと対照的に、その場から動けなかった吸血鬼侍ちゃんを抱き上げて……。

 

「というわけで、こっちのちょっと抜けているほうに私の魅力を教え込むのです……あむ」

 

「ふぁ!?」

 

 小柄な体格にそぐわぬ立派な果実を押し付けながら、元圃人らしくちょっぴり尖った吸血鬼侍ちゃんの耳を舐る賢者ちゃん。突然の感触にビックリして、吸血鬼侍ちゃんの宙ぶらりんの手足がピンと伸びきっています。

 

「あら、てっきり攻めっけの強い分身ちゃんのほうが好みだと思ってたんだけど」

 

「ふーん、シルマリルはやっぱりおっきいほうがいいのかしら……」

 

 感心したように賢者ちゃんを見ている女魔法使いちゃんと、押し付けられて潰れているお山をジト目で眺めている妖精弓手ちゃん。助けを求めるように伸ばされた吸血鬼侍ちゃんの手を取り、自分の胸部に宛がっています。

 

「大丈夫よ。このエロガキ、大きいのも小さいのも楽しめる性癖だから。そうよね?」

 

「お、おっきいのもちいちゃいのも、みんなちがってみんないい……」

 

 素直に自分の好みを曝け出す吸血鬼侍ちゃん、まあ男らしいというかなんというか。その様子を見て胸を撫で下ろしている分身ちゃんですが、残念ながら魔の手は既に分身ちゃんを射程圏内に捉えているのでした。

 

 

 

「さてご主人様、約束を果たしてもらおうじゃないか。その護符があれば、中途半端なところで居なくなったりしないんだよね? とても辛いんだよ? 火を点けられて放置されるのは……」

 

「ま、まって……あっ……」

 

 約束……してましたねえ、磔の乱立していた川岸で。絡みつく様に森人狩人さんに抱き着かれ、戸惑いの声を上げる分身ちゃん。既にベッドの上には臨戦態勢の森人少女ちゃんと、胸元をはだけた令嬢剣士さんがスタンバっています。

 

「主さま、あつかましいお願いなのですが、(わたくし)、ご褒美を所望いたします」

 

「その、胸が張ってしまって苦しくて……。楽にするのを手伝って頂きたいんですの」

 

 自分は安全圏にいると思い込んでいた分身ちゃんの顔が引き攣っていくのが良くわかります。呪文維持に失敗した振りをして消える逃げ方も最早使えませんので、諦めて3人を満足させてあげるしかないですね(愉悦)

 

 それぞれがベッドへと運ばれ、周囲には濡れた瞳の美女美少女の艶姿。明日はギルドへ報告に行く約束があるので、ちゃんと朝起きられるようにしないといけません。互いに視線を交わし、覚悟を決めた表情でベッドに寝転ぶ吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん。その闘志を反映するように影の触手が蠢き、部屋中を覆い尽くしていきます。

 

「わかった。みんな、こっちにきて?」

 

「ぜんりょくで、めいっぱいしあわせにしてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「だからおねがい。……みんな、()()()()()()()()」」

 

 

 

 

 

「「「「「「(あ、これまずいかも……)」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝ギルドに姿を見せた吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんに、他の面子はどうしたのだと代表してゴブスレさんが聞いたところ、「「みんなつかれがでてまだねてるよ?」」と返答するお肌ツヤッツヤな2人がいたそうな……。

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 花粉症からも逃げられないので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がりますのでよろしくお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその9 いんたーみっしょん

 年度末の忙しさから逃れられなかったので初投稿です。

 ちょっとずつ書いていると、最初と最後で微妙に話がズレるのが恐ろしいところさんです。
 整合性の合わない部分があるかもしれませんが、ご指摘いただければ幸いです。
 投稿前に誰かにダブルチェックしてもらう勇気は筆者にはありませんであいた……。



 

 はーい、では皆さんそれぞれの神殿の長に≪託宣(ハンドアウト)≫を送信するということでお願いしまーす。

 

 ……ふう、まさか誰にも許可を取らずに乱入していたとは思わなかったなぁ。無貌の神(月の魔物)さんや覚知神さんでさえ、GMに一言断りを入れてから駒を参加させてるっていうのに。

 まあその代償は高くつくことになったので、精々みんなが頑張っている冒険譚(キャンペーン)の引き立て役になってもらいましょうか。困ったちゃんを放置していたら同じ被害を受ける()が増えちゃいますし、ね。

 

 あれ、至高神さん。そんな真剣な顔で何を書いてるんですか? みんなで送る予定の≪託宣(ハンドアウト)≫とは凝りようが違うみたいですけど……。え、可愛い愛娘が幸せになるために必要? ちょっと見させてもらっても?

 

 うわ、これ、良いんですか? いや私としては美味しい展開になるんで喜ばしい限りなんですけど、関係各所の胃に甚大な被害が出るような……。でも、たまにはこういう世界線(周回)があっても良いですよね。彼女には幸せを掴んでもらいたいですし。わかりました! GMと万知神さんにも協力してもらえるよう話しておきます!!

 

 

 

 

 

 

 だんだん戦略級ゲームじみてきた実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、城塞(ダム)に蔓延していた油汚れを落としたところから再開です。

 

 季節は暑さが和らぎ始めたころ。赤い手の勢力が各地に散らばっていることが判明し、秩序勢力はどったんばったんおおさわぎ(誇張的表現)。金髪の陛下も温存していた軍を動員、綺羅星の如き将星の活躍もあり混沌の軍勢を順調に駆逐しているとのこと。個々の戦闘力は高くても、戦術や戦略といった視点から見ればノイズにしかならない冒険者を戦列に加えるような末期戦になるかと戦々恐々としていましたが、流石にそんな事態にはならずに済みそうです。

 

 まさか油まみれになっているとはあちらさんにとっても想定外だったのでしょうが、森人(エルフ)の森の奥を拠点としていた赤い手の御印(シンボル)を持ったゴブリンと同様の集団が、鉱人(ドワーフ)の地下都市近郊でも姿を見せているそうです。もちろん西方の辺境でもその動きは活発化しており、血に酔った冒険者たちが連日その影を追って依頼を奪い合っているんだとか。

 

 お腹が大きくなってきた奥さんの傍に居たい筈のゴブスレさんも、感情を兜の奥に隠しながら新人たちを引き連れて西方の辺境を縦横無尽に駆け巡る毎日。定期診断の時は必ず牧場で吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんを迎えてくれますが、それ以外は出ずっぱりみたいですねえ。

 

 ゴブリン駆逐の体制を整えるため、独立行動が可能になった分身ちゃんを筆頭に森人狩人さん、森人少女ちゃん、令嬢剣士さんは一時的に住まいをギルドの訓練場に移し、負傷して帰還した冒険者の治療や救出した女性のフォローなどに日夜注力しています。ギルドも昨年まででは処理がパンクしていたであろうゴブリン退治依頼の多さに事態を重く見たようで、受付嬢さんを頭に専門対策チームを結成。訓練場に常駐し事態が収拾するまでカンヅメだそうです。おのれゴブリン……!

 

 

 

 さて、分身ちゃん率いる吸血鬼侍ちゃん一党の分隊(ゴブリン絶対殺すパーティ)が頑張っている一方で、吸血鬼侍ちゃんはナニをしているのかというと……。

 

 

 

「ほら、そろそろ起きなさい。今日はおっぱい乙女と王都へ行く日でしょ? 朝食の前にそこのお姫様といっしょにお風呂入って来なさい」

 

「……うにゅ?」

 

「うぇぇ……もう朝ぁ? ぜんっぜん寝た気がしないわよぅ……」

 

 ほっぺたに触れる柔らかな唇の感触と一緒にかけられた声でモゾモゾとベッドの上で動き出す吸血鬼侍ちゃん。目の下には分厚いクマが出来ています。

 

 ここ一か月ほど、金髪の陛下のお願い(無茶振り)で手袋に補給物資を詰め込んで東奔西走の毎日を送っていた吸血鬼侍ちゃん。進軍が早すぎて輜重部隊が追い付けなかったり、混沌の軍勢に遭遇して物資の補給が滞っている場所に、単独でしかも高速かつ安全に補給物資が運べるとしたら……まあ酷使無双させられちゃいますよねぇ。おそらく幹部クラス(中ボス)であろう原色の竜(クロマティックドラゴン)も何匹か磨り潰して素材と竜血(スタドリ)に変換していますので、陛下としては一石二鳥といったところでしょうか。

 

 そんな怠そうな吸血鬼侍ちゃんの身体に、芸術品のような裸体を惜しげもなく晒した妖精弓手ちゃんの肢体が絡みついています。目を瞑った状態で、同じく生まれたままの姿の吸血鬼侍ちゃんの鎖骨辺りに顔を擦り付け、満足したら猫のように背を逸らせて伸びをする2000歳児。エプロン姿の女魔法使いちゃんを見て、くぁ~と欠伸をして吸血鬼侍ちゃんを抱き上げました。

 

 そうそう、妖精弓手ちゃんと女魔法使いちゃんは、パートナーが産休に入って手持無沙汰な槍ニキ&重戦士さんと一緒に大物潰しをギルドからお願いされて毎日下級魔神やらオーガやらを追いかけているみたいです。軍が取りこぼした()()()や脱走兵が増えているため、放置しておくと被害が出かねませんからね。巨大なだんびらでオーガを開きにする重戦士さんの隣で、爆発金槌で別のオーガの頭部を吹き飛ばす女魔法使いちゃんを見て槍ニキがドン引きしていたと妖精弓手ちゃんが話していました。おお。こわいこわい。

 

「ん、おはよ~。それじゃシルマリルを磨いて来るわね。着替えは食事の後でいいのかしら?」

 

「ええ、食べ溢しなんて付けたら洒落にならないから、適当にシャツを着せといて頂戴」

 

 りょーかいといいながら吸血鬼侍ちゃんを抱えてお風呂へ直行する妖精弓手ちゃん。されるがままな半分寝ている吸血鬼侍ちゃんの手を見ても、例の指輪は嵌っていません。つまり昨晩は普通に寝ていただけですね!

 

 

 

「魔力炉確認ヨシ! ちゃんとお湯は沸かしてくれてるわね」

 

 階段を降り、リビングを経由して風呂場へ向かう途中で妖精弓手ちゃんが目を向けた先、部屋の壁面に外殻の隙間から赤い光を放つ魔力炉が嵌め込まれているのを指差し確認しています。女魔法使いちゃんの爆発金槌に使われているのと似たソレは、先日分身ちゃん主導の養殖でドロップした魔神の核を使用した湯沸かし専用のものですね。

 

 今までは毎回爆発金槌から外していたのですが、いちいち面倒臭いのと女魔法使いちゃんが泊りで出掛けているときに使えなくなってしまうので、武具店のじいじにお願いして新調してもらいました。

 

 

 

「にしても、実際に目にすると凄かったわね~あの≪核撃(フュージョンブラスト)≫。3人で分割詠唱すれば呪文回数を消費しないんだっけ?」

 

「りろんてきにはどんなしんごんじゅもんにもつかえるけど、()()いがいはひとりでとなえたほうがはやいから……ん、そこもうちょっとやさしく……ふぁぁ……」

 

 小さな丸い木製の椅子に腰かけてギュッと目を閉じている吸血鬼侍ちゃんの髪を洗う妖精弓手ちゃん。普段はお湯で流すだけで、汚れが気になる時は≪浄化(ピュアリファイ)≫を唱える入浴ですが、今日は珍しく入浴用石鹸を使っていますね。水浴びや蒸し風呂が一般的な社会で石鹸は高価なもの。濯ぐのに多量の水を使うのも相まっておいそれと手が出せる代物ではありませんが、妖精弓手ちゃんによって贅沢に泡立てられたそれは2人の全身をすっぽりと包み込んでますね。

 

 絶妙な力加減で頭皮をマッサージされ、吸血鬼侍ちゃんの口からは言葉にならない声が漏れています。他人にシャンプーしてもらうのって、なんであんなに気持ちが良いんでしょうか?

 

 ……さらっと流しそうになってしまいましたが、どうやら吸血鬼侍ちゃん一党は呪文行使における単語発動の次の段階に踏み込んだみたいですね。もともとは剣の乙女たち六人の英雄(オールスターズ)が【死の迷宮】で継戦能力確保のために使っていた詠唱方法ですが、単語発動を身に着けているとはいえ生半可な冒険者では習得するのは難しそうですけど……。

 

「シルマリルの魔力を体内に保持しているあいだ、術者同士の魔力の波長が合うように変化するんだっけ? これから毎日魔力供給するつもりなのかしらね~このむっつりさんは」

 

「つ、つかわなければのこりつづけるから、まいにちするひつようは……ひぅっ!?」

 

 あわあわが顔に付いて目が開けられない状態の吸血鬼侍ちゃんを椅子から降ろし、抱きすくめるようにして身体を洗っていく妖精弓手ちゃん。指の間や脇腹といった敏感な場所を素手で撫でるように擦り、悪戯っぽい笑みを浮かべながら小さな背中に身体を押し付けています。視覚を封じられた状態で感覚が鋭敏になっている吸血鬼侍ちゃんはされるがまま、頭のてっぺんから爪先までまんべんなく洗われてしまいました。

 

「はい、おしまい。気にする人は少ないと思うけど、これで血の匂いは薄くなったんじゃないかしら。……ありゃ、せっかく綺麗になったのに、なんでそんな顔してるのよ?」

 

「えう……」

 

 椅子をひっくり返して手桶に変え、湯を汲んで吸血鬼侍ちゃんの頭からかけながら笑う妖精弓手ちゃん。吸血鬼侍ちゃんを抱えたまま脱衣場へ戻ると、髪から滴り落ちる雫をふわふわのバスタオルで拭きとり、そのまま吸血鬼侍ちゃんの全身を包んで抱き締めてわしゃわしゃと拭っています。

 

 石鹸の匂いで身体に染み付いている血臭が薄れたのが不安なのか、ちょっと俯き加減の吸血鬼侍ちゃん。それを見た妖精弓手ちゃんは、やれやれといった様子で自分ごと吸血鬼侍ちゃんをバスタオルで包み、タオルの内側でなにやらゴソゴソ始めました。

 

「血の匂いを付けるわけにはいかないから、代わりに麗しの上の森人(ハイエルフ)がマーキングしといたげる。他の()には内緒よ? ……あむ……んちゅ……」

 

「おあ~……」

 

 ……タオルの下から見える吸血鬼侍ちゃんの足がピンと伸びきったり、へなへなと崩れ落ちそうになって支えられていますが、いったい内部でナニが行われているんでしょうか? あとさっきから女魔法使いちゃんがフライパン片手に2人のこと眺めてますよ?

 

 

 

 

 

「うん、まあこんなもんかしらね」

 

「いいじゃない、いつもよりずっと男前かもね」

 

「うぅ……おでこもあしもす~す~する……」

 

 朝食を済ませた後、2人がかりで目一杯おめかしさせられた吸血鬼侍ちゃん。口調とは裏腹にまんざらでもなさそうな女魔法使いちゃんと、グッとサムズアップしている頭にたんこぶをこさえた妖精弓手ちゃんの視線の先、いつもと違う装いに戸惑っている吸血鬼侍ちゃんの姿があります。

 

 白のドレスシャツに吊り紐の付いた紫色のキュロット。同色のショートブーツに覆われた脚部は普段インナーで隠されている素足を惜しげもなく晒しています。髪型も服装に合わせて変えられ、アイデンティティであるメカクレはちょっとおませさんなオールバックになり、禁断のオデコちゃんも露わに整えられています。

 

 胸元が寂しくならないように装飾品としてリボンタイが付けられていますが……あ、よく見たらこれ女魔法使いちゃんに渡していたブローチ(Mox Tantalite)蛞蝓野郎(フラック)から貰ったブルーリボンじゃないですか。とどめに帯刀調帯(ベルト)に村正と血刀を下げれば、もはや乙女ゲーに出てくる幕末剣士の如き出で立ちですね!

 

「おっぱい娘が居なくて良かったわねシルマリル。あの()がいたら間違いなく襲われてたわよ」

 

「ああ、分身ちゃんに半ズボン履かせて鼻からお嬢様分を噴き出してたものね……」

 

 ……なるほど、一党の常識人ポジだと思ってましたけど、この面子の中で生きていけるんですから令嬢剣士さんも性癖が迷子になっていたんですねぇ。擬似少年愛(おねショタ)なのか、それともちっちゃい子に攻められるのが好き(ロリおね)なのか……。謎は謎のままにしておきたいところです。

 

「……お化粧してもなかなかクマが隠せないわね。しょうがない、今日は依頼明けの休息日だから吸っていいわよ? そんな顔でおっぱい乙女に逢わせるわけにもいかないし」

 

「ありがとう。じゃあちょっとだけ」

 

 おや、疲れが抜けきっていない吸血鬼侍ちゃんを見かねて、ちゅーちゅーさせてくれるみたい。手慣れた様子でエプロンとシャツをずらし、吸い口を露出させる女魔法使いちゃん。ふるふると揺れるソレを両手で上下から支え、何度か啄むように口付けをした後に吸い始めた吸血鬼侍ちゃんの頭を優しく撫でています。そんな2人の行為を妖精弓手ちゃんが指を咥えて羨ましそうに眺めていますね。

 

「……ぷぁ。ん、だいぶらくになった」

 

「顔色も良くなったしこれで暫くは大丈夫でしょ。でもキツかったら早めに言いなさい? アンタが倒れて王国の兵站が崩壊でもしたら目も当てられないんだから」

 

「そんなことはない……とおもう、たぶん」

 

 いやー流石にそのあたりは陛下ならしっかり考慮してくれていると思いますよ? ぺろりと先端に残ったぶんを舐め取った吸血鬼侍ちゃんの顔色は、先ほどよりも随分と良くなっています。服の乱れを整えた女魔法使いちゃんに抱き着き、頬擦りをしながら感謝を表していますね。甘えたがりな吸血鬼侍ちゃんをまんざらでもない表情で眺めていた女魔法使いちゃんですが、≪転移≫の鏡の表面が波打つのを見てちょっと名残惜しそうにしながら吸血鬼侍ちゃんを引き剥がしました。

 

「ほら、お迎えが来たわよ。会議の最中に寝たらダメだからね?」

 

「ん、がんばる。……それじゃ、いってくるね」

 

「ちゃ~んと()()()を忘れずに持って帰ってきなさいよシルマリル!」

 

 妖精弓手ちゃんの声を背に鏡の中へと飛び込む吸血鬼侍ちゃん。嵐が去った後の静けさにも似た静寂が一党の家に訪れるのでした。

 

 

 

 

 

「……ねぇ、()()を飲んだら私もシルマリルにあげられるようになったりしないかしら?」

 

「……試してみる? ……んッ!? もう、力加減には気を付けて頂戴。敏感なんだから」

 

「ご、ゴメン! ……あ、なんかこれすっごい癒される。シルマリルがハマるのもわかるわ」

 

 

 

 

 

 

「とうちゃ~……わぷっ」

 

「んっ……急に飛び込んだら危ないでしょう? ちゃんと確認してから≪転移≫しないと、いつぞやのように*いしのなかにいる*ことになるかもしれませんわ」

 

「おお、それは巨乳防御。まさか【死の迷宮】時代では使えなかった業を習得していたとは……」

 

 はい、出会い頭の事故を起こした吸血鬼侍ちゃんが降り立ったのは王宮内にある≪転移≫の鏡の間でした。豊満なお山に埋まるように受け止められた吸血鬼侍ちゃん。それを窘めるように剣の乙女が「私、怒ってますのよ?」なポーズをしていますが、残念ながら口元の緩みが隠せていませんね。そんな様子を驚嘆の表情で見ているのは銀髪侍女さん。いや、巨乳防御って……まあ当時女司教ちゃんだった剣の乙女のお山は、一党の他の女性に比べればささやかなものでしたけど。

 

「乳繰り合っているところ申し訳ないけれど、早速会議室に向かうよ。それと今日は補給のために一時帰還した将軍たちも参加するからね」

 

「ふふ、わかりました。さぁ行きましょう」

 

「おあ~……」

 

 先導するように歩き出す銀髪侍女さんを追いかけるように速足で歩く剣の乙女。その胸元にはしっかりと吸血鬼侍ちゃんがキープされています。最近長身の女性から抱っこされたまま運ばれることが多いですね吸血鬼侍ちゃん。やはりサイズがちょうどいいんでしょうか?

 

 

 

 

「ではこれより戦況の確認と今後の方針を定める会議を始める……のだが、その、なんだ。余が言うのもアレだが、卿はそれで良いのか?」

 

 赤毛の枢機卿と義眼の宰相を左右に、背後に銀髪侍女さんを従えた陛下の声で始まろうとした御前会議なのですが、早速出だしから躓いています。まあ原因は吸血鬼侍ちゃんなんですけどね!

 

 出席者の視線を集めて居心地悪そうに身を捩る吸血鬼侍ちゃん。その小さな身体が座っているのは剣の乙女の膝の上。乙女の腕が腹部をガッチリとホールドしているため脱出は難しそうですね。

 

 後頭部をお山に挟まれた状態で見上げれば、そこに剣の乙女の幸せそうな笑顔。お互いデスマーチだったのでここ一か月会議以外では顔を合わせることも出来なかったためか、普段よりもスキンシップが情熱的です。

 

「ハハ、良いではありませんか! もしかしたら陛下が尻で磨いていらっしゃる玉座よりも良き座り心地なのかもしれませんぞ!!」

 

 馬鹿でかい声をあげているのは猪武人さん。王国の至宝である将軍の1人で、王国最強の騎馬隊である黒色槍騎兵を率いる猪の獣人さんです。けっこう失礼な事を言ってますけど、陛下には前線で暴れて欲しいという思いを込めた発言の為、いつもお咎めはありません。まあ宰相の額には青筋が浮かんでるんですけどね。

 

「フン、退くことを知らぬ猪はこれだから困る。少しは我が盟友たる狼人(ベイオウルフ)の狩りを参考にしたらどうだ? 先日もそれで危うく糧秣が枯渇するところだったそうではないか」

 

 さらっと毒を吐いているのは同じく将軍である金銀妖瞳半森人さん。左右で色の違う瞳を皮肉気に歪めて輜重部隊を置いてけぼりにして混沌の軍勢を殲滅していたことを指摘しています。あ、盟友の狼人さんは風の精霊と契約した将軍で、部隊全体に≪追風(テイルウインド)≫の効果を及ぼす特殊な術式を扱うことから≪疾風狼人(ウォルフ・デア・シュトルム)≫という二つ名で呼ばれているそうです。

 

「…………」

 

 陛下の前であるにも関わらず言い争いを始めた2人を黙って眺めている只人の男性は沈黙将軍さん。陛下ですら声を聞いたことがないというほど無口な人ですが、宰相と銀髪侍女さんとは非常に仲が良いそうです。かわいい圃人の奥さんとの間に子供もいるらしいのですが……時折彼の背後にうっすらと何かが見えるんでしょねぇ。吸血鬼侍ちゃんを見る目も何処か他の人とは違いますし、もしかして彼もまた神に選ばれし存在(別の走者)の可能性ががが。

 

 3人を含む将軍の多くは吸血鬼侍ちゃんと顔見知りで、補給物資の緊急輸送や突然の暴れ赤竜(ランダムエンカウント)を始末したりでピンチを助けたりもしていたみたいです。

 

 もっとも【死の迷宮】出身のヴァンパイアロードであることは内緒で、銀髪侍女さんのような特殊な訓練を受けた密偵、陛下の人材コレクションに引っ掛かった風変わりな吸血鬼みたいなものだと認識されていますね。

 

 いちおうスキャンダルってレベルではない案件なので、現在王国で吸血鬼侍ちゃんの正体を知っているのは陛下、枢機卿、宰相、銀髪侍女さん。あとは陛下の【死の迷宮】時代からの仲間くらいでしょうか。ややこしい真理は秘匿しておいたほうが良いって無貌の神(月の魔物)さんも頷いてますし。

 

 

 

「ふむ、軍と(まつりごと)はこんなところか。霊峰に墜ちた火石についてはあの娘に任せるとして……信仰の面からは何かあるだろうか」

 

 防衛部隊のローテーションや輜重部隊の警備増強など、吸血鬼侍ちゃんにはちょっと難しい話が続いていた会議。休憩や軽食を挟んで行われていたそれもひと段落し、疲れ目をほぐすように眉間を揉んでいた陛下の蒼氷色(アイスブルー)の瞳が剣の乙女に向けられました。

 

「実は先日、私を含め王国の主だった神殿の長が、一斉に各々が信仰する神より≪託宣(ハンドアウト)≫を賜りましたわ。細部は若干違えども、その内容は同じものであることを確認してありますの」

 

「ほお、それは珍しい。この世界を眺める神々は何と言っているのだ?」

 

 興味深げに眉を歪ませる陛下に対し、舟を漕いでいる吸血鬼侍ちゃん頭を優しく撫でながら剣の乙女が告げた内容は、その穏やかな表情とは裏腹に苛烈なもの。僅かに上向きな口元は、かつて受けた凌辱を払拭する絶好の機会が訪れたことに対する喜びの表れなのかもしれません。

 

赤い手の残響に端を発する小鬼禍はもはや(いくさ)にあらず。人の世に蔓延らんとする病を()()するが信徒たるものの務め。……神々はゴブリンを祈らぬ者や生物ではなく、疫病やそれを運ぶ感染源として扱うお考えのようですわ」

 

 ……性別を問わず見るものを魅了する豊満な肢体から放たれる見えざる威によって、文官はおろか歴戦の将軍たちですら声を発することが出来ないほどの圧迫感が会議室に広まっています。あの宰相ですら頬に一筋の汗を浮かばせる重たい空気を払拭したのは、くぁ~という場違いな欠伸の音でした。

 

「んにゅ……ひとのはらをつかわなければかずをふやせず、ひとになんらえきをあたえることもない。おなじくひとにいぞんしている吸血鬼(ぼく)がいうのもおかしいけど、ゴブリンをいかしておくりゆうなんて、なにひとつとしてないよね?」

 

「……少なくとも、卿とは言葉を交わし友誼を結ぶことが出来た。そこは大きな違いだと余は思うがな」

 

「あ~うん、あいつらひとのはなしをきかないから」

 

「うむ、そうだな! まあ会話が出来んほうが無駄な命乞いを聞かずに済むから、そういう意味では助かっているぞ!!」

 

 欠伸を噛み殺しつつ、ほっぺたで剣の乙女のお山の感触を堪能しながら話す吸血鬼侍ちゃんに対し、毒気を抜かれたように肩の力を緩める陛下。ヴァンパイアロードであることを知っているが故の苦笑にも似た表情を見て、事情を知らない面々は冗談だと受け取ったようですね。呵々と笑い飛ばす猪将軍さんの大声で、場の雰囲気は明るいものに戻りました。

 

 

 

「では、諸神殿も小鬼禍の撲滅に協力してもらえるということで良いのだな?」

 

「ええ、学院や文庫(ふみくら)に籍を置く方々からも協力の申し出を頂いております。冒険者ギルドとも連携を取り、速やかに終息させたいと考えていますわ」

 

「???」

 

「……卿は上手くやっている。卿の運んだ物資によって、兵たちは飢えることも矢玉の残量も気にせず戦うことが出来ているのだ。兵の損耗も極めて低く抑えられている。これは誇るべき卿の成果なのだよ」

 

「……うん!」

 

 念押しするように訪ねる陛下に対し、嫋やかな笑みとともに返答する剣の乙女。なるほど、神殿と冒険者ギルドを結びつけるためにここのところ忙しく動いていたんですね! 半鬼人先生を代表とする元"牙狩り"の人たちも動かすことが出来れば、森人や鉱人の国とも協調して事態に対処できるかも。こういう戦略的な視点から物事を俯瞰できるからこそ、陛下も剣の乙女を重用しているんでしょうね。

 

 分身ちゃんならワンチャンあるかもしれませんが、残念ながらちのうしすうがアライさん並な吸血鬼侍ちゃんには逆立ちしても真似できそうにありません。話についていけてない吸血鬼侍ちゃんに気付き、義眼の宰相がそっと落ち着いた声で褒めてくれました。難しい話は分からなくても褒めてもらえたのは嬉しいのか、吸血鬼侍ちゃんも笑顔になりましたね! 日もとっぷりと落ちた頃ようやく会議は終わりとなり、全体の半分も理解できなかった吸血鬼侍ちゃんも苦行から解放されました。

 

 

 

「さて、随分遅くなってしまったね。どうする、どちらを先に送ろうか?」

 

「え~と、ぼくはあとで「2人とも、この子の家へ送っていただけますか?」……ふぇ?」

 

 いつものように銀髪侍女さんに先導され≪転移≫の鏡の間を訪れた吸血鬼侍ちゃん。相変わらず剣の乙女に抱きかかえられた状態です。いくら吸血鬼侍ちゃんが軽いとはいえ長時間ホールドしていられる筋力と持久力、流石金等級冒険者といったところでしょうか。レディーファーストではありませんが、先にお疲れであろう剣の乙女を帰そうとしていた吸血鬼侍ちゃん。剣の乙女の発言に目を丸くしています。

 

「お話ししたいことがありますの。とても、とても大切なことです」

 

「……ん、じゃあふたりともうちでおねがいします」

 

「了解、あまり羽目を外しすぎないようにしたまえよ?」

 

 何処か決意に満ちた表情を浮かべる剣の乙女を見て、普段なら茶化して来る銀髪侍女さんもやけに素直に門を開いています。波打つ銀色の向こう側に浮かび上がるのは見慣れたリビング。2人が鏡を抜けた瞬間、背後から小さな声が届きました。

 

「幸せを見つけたなら、決して手を離してはいけないよ? これは人生の先輩からのお節介だ」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

……外見からはまったく推測できませんが、銀髪侍女さんっていったい何歳なんでしょうかね? 女神官ちゃんと同じくらいにも見えますし、でも陛下と一緒に【死の迷宮】に挑んでいた筈ですし、今の言動から察するに剣の乙女よりも年上なのかも。そもそも定命(モータル)かどうかすら怪しいですからねぇ……。

 

 

 

 さて、背後の鏡は普通の姿見へと戻り、何事もなく帰宅した吸血鬼侍ちゃん。お出掛けしているのでしょうか、女魔法使いちゃんと妖精弓手ちゃんの姿は見えませんね。剣の乙女には何やら重要なお話があるそうですが、とりあえずおゆはんを食べてからじっくりと……おや? 剣の乙女が抱えた吸血鬼侍ちゃんをリビングのテーブルに腰掛けさせて……。

 

 

 

「かんたんなものならぼくにもつくれるから、さきにおゆはんに……んむぅ!?

 

 う、うわぁ……紅潮した頬の剣の乙女が、テーブルの上へ仰向けに寝かせた吸血鬼侍ちゃんに覆い被さり、両腕を頭上で交差させて拘束する体勢で唇を奪っています。普段のちゅーちゅーで吸血鬼侍ちゃんがしている啄むようなキスでも、森人の女性陣が親愛の確認として行うマーキング的なキスでもなく、口腔を蛇が暴れまわるような激しい口付け。ビックリして硬直している吸血鬼侍ちゃんの舌を絡め捕り、吸い上げ、絶え間なく甘い蜜を送り込む剣の乙女。歯茎の裏や舌の根元の粘膜を蹂躙されて身体を跳ねさせている吸血鬼侍ちゃんを見て、さらに奥まで蛇のように長い舌を侵攻させ始めました。

 

 永遠に思えるほど口腔を貪られ、互いの口から銀糸が繋がる光景を見ながら反射的に本来不要である呼吸を荒く行う吸血鬼侍ちゃん。一方で勢いの衰えない剣の乙女は、てらてらと(ぬめ)る舌で吸血鬼侍ちゃんの喉元から顎のラインを舐め上げ、そのまま僅かに尖った耳に到達しました。

 

>「ぷはぁっ……はぁ、はぁ……ねぇ、どうしたの? こんなきゅうに……ひゃう!?」

 

 小さな耳を執拗に舐った後、尖らせた舌先を耳穴へと挿入し、同時に指で反対の耳穴を刺激し続ける剣の乙女。両の穴を異なる刺激に襲われて、吸血鬼侍ちゃんは口元から雫をこぼしながらされるがままですねぇ……。

 

 完全に吸血鬼侍ちゃんが茹で過ぎた青菜のようにくてっとした頃になって、ようやく攻め手を緩めた剣の乙女。テーブルとの間に吸血鬼侍ちゃんを挟み込むように蠱惑的な肢体を押し付け、互いの呼吸が肌で感じられるほどに顔を寄せて囁いています。

 

「至高神様から賜った≪託宣(ハンドアウト)≫は、もうひとつありましたの。そちらには、至高神様の温かな想いと、こんな言葉が込められておりました」

 

 再び顔を寄せ、吸血鬼侍ちゃんの半開きの口に舌を滑り込ませる剣の乙女。無意識のうちに繋がりを求めているのでしょうか、おずおずと舌を出し自らも動き始めた吸血鬼侍ちゃんを愛おしそうに抱き締め、全身で吸血鬼侍ちゃんを快楽に溺れさせるように昇り詰めさせていきます。何度目かの脱力を迎えた吸血鬼侍ちゃんの頭を撫でながら語る、先程の続きの言葉は……。

 

 

 

「汝が為すべきことと、汝が為したいことは相反するものにあらず。汝は自らの幸せを求めることを諦めてはならない。……そう至高神様は仰ってくださいました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうか、私を幸せにしてくださいませんか?」

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 なんとか新年度を迎えるために失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がりますのでよろしくお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。




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セッションその9 いんたーみっしょん その2

 なんとか年度内に更新できたので初投稿です。


 前回、吸血鬼侍ちゃんが捕食されかかっているところから再開です。

 

 いやー、わかっているつもりでしたけど、剣の乙女の愛もなかなか重いですねぇ。豊満な肢体で物理的に抑え込まれて、吸血鬼侍ちゃんはもはや俎板上の鯉。あとは美味しく頂かれてしまうだけで……おや、誰か来たようですね? 玄関のドアが開いて2人の人物が入って来ましたが、吸血鬼侍ちゃんを調理するのに忙しい剣の乙女は気付いていない様子。助けを求める吸血鬼侍ちゃんの視線を受け止め、音もなく近寄り剣の乙女の耳元で両側から囁きました。

 

「おゆはん作るの面倒だったからギルドで調達してきたんだけど……」

 

「その様子じゃあシルマリルをおなかいっぱい味わうつもりだったみたいねぇ?」

 

「ひゃうっ!?」

 

 慌てて飛び退る剣の乙女。振り返る目に映ったのは、揚げ物や酒瓶をテーブルに置いている女魔法使いちゃんの呆れた表情。幸せな束縛から解放されたものの、腰が抜けて動けない吸血鬼侍ちゃんの口に鶉の卵のフライを押し込みながら、妖精弓手ちゃんもひらひらと手を振っていますね。

 

 

「おかえりシルマリル。ずいぶんおっきなお土産を持って帰ってきたじゃない」

 

「むぐむぐ……おもちかえりされたのはぼくなんだよなぁ……」

 

「ほら、そこのエロ大司教サマもさっさと席に着きなさい。4人分には少ないけど、あとは朝食で余った麺麭でも出せばいいわね」

 

 妖精弓手ちゃんが吸血鬼侍ちゃんを椅子に移すのを確認して、食器棚からカトラリーとグラスを取り出す女魔法使いちゃん。ちゃんと4人分用意してますね。真っ赤な顔であわあわしている剣の乙女を見て、やれやれといった様子で首を振りながら席に着くよう促しています。逡巡していた剣の乙女も、ここは黙って従うべきと判断したのでしょう。4人が揃ったところでグラスに葡萄酒が注がれ、ちょっと気まずいおゆはんタイムが始まりました。

 

 

 

 

 

「回りくどいのは嫌いだから率直に聞くけど、なんでコイツを襲ってたの?」

 

「そりゃもういろいろたまってたからじゃない? 最近私たち全員忙しかったし」

 

 卓上の料理が粗方片付き、皆が牧場産のチーズを肴にグラスを傾けていたところで女魔法使いちゃんが先制のジャブ……ではなく、いきなりフィニッシュブローを叩き込みました。一口飲んだだけで酔いが回っているのか、どストレートな理由を挙げる2000歳児。大人の階段上ってから、わりとそのへんおおらかになりましたね。良いか悪いかは別として。

 

 問われた剣の乙女はグラスを弄びながら、気まずそうに吸血鬼侍ちゃんをチラチラ眺めています。先ほどの痴態凶行を悔いるような視線に気付いた吸血鬼侍ちゃんが、身を乗り出して剣の乙女の頭を抱き寄せ、頭を撫でながらあやすように語り掛けます。

 

「だいじょうぶ。ちょっとびっくりしたたけで、ぜんぜんおこってないし、こわがってもいないから。だから、わけをおはなししてほしいな?」

 

 それに気持ちよかったしと続ける吸血鬼侍ちゃんの顔が赤いのは、ほんとに葡萄酒のせいなんですかねぇ……?

 

「あの、その、わたし、≪託宣(ハンドアウト)≫を賜りまして。至高神様は、自分の気持ちに素直になりなさいと……それがたとえ人から外れることになったとしても、信仰を忘れなければ構わないと仰って下さいました。それで、この子と2人きりになった瞬間どうしても自分の気持ちを抑えきれなくなってしまい……本当に申し訳ありません」

 

 しゅんとした様子で撫でられるがままの剣の乙女。その姿を見て至高神さんもグッとガッツポーズをキメています。ほら、そんなに神気(オーラ)漏らしてるとまた地上で奇跡が頻発して大騒ぎになっちゃいますって。

 

「そうすると、おっぱい大司教も覚悟を決めたってことでいいのよね? おっぱい眼鏡と同じように、永い時間をシルマリルと歩む覚悟を!」

 

 そんな乙女ちっくな告白に目を輝かせるのは我らが2000歳児。上の森人(ハイエルフ)の人生という永遠に等しい旅路に新しい道連れが増えることに長耳をピコピコさせ、喜びを隠しきれない様子です。あ、女魔法使いちゃんに引っ叩かれた。後頭部を抱えてのたうち回る2000歳児に一瞥をくれ、驚いて硬直している剣の乙女の顎に手を添えて、その顔を覆う眼帯を取り去りました。僅かに焦点の合わない剣の乙女の瞳を覗き込み、何かを確認するように頷いています。

 

「……うん、ちゃんと本気みたいね。一時の狂騒に呑まれたわけでも、焦燥感に駆られて勇み足を踏んだわけでもない。正気でもないのは間違いないでしょうけど」

 

 まあそれは私たち全員に言えることよね、と続け、満足そうに笑う女魔法使いちゃん。喜びを全身から溢れさせ満面の笑みで剣の乙女に頬擦りをしている吸血鬼侍ちゃんのほっぺたをつついて、良かったわねーこのスケコマシとからかっています。ふう、どうやらこの場は丸く収まりそうですね!

 

 

 

 

 

「……あ、でもあんたが大司教辞めちゃったらその後釜はどうするのよ? 流石に吸血鬼の眷属が神殿長を続けるのは問題だろうし、だからといって『私、吸血鬼(この子)と添い遂げます!』で出奔したら不味いんじゃない? ……ヒック

 

 お、めでたいめでたいと騒ぎつつ、瓶から直で葡萄酒を飲んでいた妖精弓手ちゃんが気付いてしまいましたね。そのあたりの引継ぎをちゃんとしないと、また混沌の勢力に付け込まれる隙を生み出しかねませんからねぇ。至高神さんが≪託宣(ハンドアウト)≫に付記してた方法で上手くいけば良いんですが。

 

「はい、ですのでこの子にお願いするのは現状の『赤い手』による騒動が終息した後、私の後継者を指名してからとなります」

 

「いや、後継者って言ってもあんた金等級でしょ。その後を継ぐとなれば、生半可なヤツじゃ重責に潰れるのが目に見えてるわよ?」

 

 剣の乙女の膝の上に座る吸血鬼侍ちゃんの口に落花生の牛酪炒め(バタピー)を放り込みながら問う女魔法使いちゃん。その心配はごもっとも。単なる腕っぷしだけではなく、海千山千の実力者との交渉や政治に関する知識も要求されますからねぇ。そんな懸念を抱く女魔法使いちゃんに笑みを返しながら、剣の乙女は爆弾発言をかましてくれました。

 

「日々の務めに関しては、実務の中で学べば宜しいかと。幸いなことに神殿付きの侍祭は皆優秀ですので。不足している力量(レベル)は、近々至高神様が専用の≪試練(クエスト)≫を用意してくださるそうです。『赤い手』の問題が片付き次第、私と次代の()()となる()が≪託宣(ハンドアウト)≫を賜ることになりますわ」

 

 そういえばぁ、辺境にぃ、あまり冒険(セッション)に参加してない聖女いるらしいっすよ(ねっとり)。剣の乙女の発言から察してしまったのか、あの()も可哀そうにと呟く女魔法使いちゃん。流石にいきなり高難易度≪試練(クエスト)≫はあんまりなので、その前にちょうどいいタイミングで強化合宿(パワーレベリング)してあげましょうか……。強く生きてね、見習い聖女ちゃん。

 

 

 

 

 

「ん、だったらこれはしばらくつかわないようにしないと……」

 

 おや? 話がひと段落したところで、吸血鬼侍ちゃんが剣の乙女の膝から降りて例の指輪をコトリと机の上に置きました。突然の行動に、吸血鬼侍ちゃんを除く3人の目が指輪に釘付けとなっています。

 

「ええと、それはどういう意味かしら。魔力供給は止めるってコト?」

 

 視線で互いに牽制し合い、代表して女魔法使いちゃんが咳ばらいをしながら問いただすと、フルフルと首を横に振る吸血鬼侍ちゃん。どうやら別の理由があるみたいですね。

 

分身ちゃん(ぼく)がいってたんだけど、だれかをけんぞくにするときは、ものすごくちからをつかうんだって。だからみんなにまりょくをおくるのはひかえなきゃいけないし、いままでよりもたくさんすわせてもらって、ちからをたくわえないとダメなの」

 

 分身ちゃん(むこう)も指輪は外しちゃったんだって、と告げる吸血鬼侍ちゃんの顔と指輪の間を行き来する3人の視線。ゴクリと鳴る生唾を飲み込む音は、誰の喉から響いたものでしょうか。スッと伸びた白い繊手が指輪を摘まみ上げ、震える手で反対の手の指に近付けていきます。

 

「……ひとつ、確認なのですが。この指輪を用いれば、私でも魔力を注ぐことが出来るのでしょうか?」

 

「あ、やっぱりきづくよね? うん、できるよ。むこうもそれでまりょくをためはじめたって」

 

 ……なるほど、すぐに≪手袋≫に格納してしまえばいいのにわざわざ机の上に置いたのは、それに気付かせるためだったんですねぇ。リボンタイをポッケに入れ、シャツのボタンを上からひとつづつ外し始める吸血鬼侍ちゃん。臍上まで外されたことで生まれた隙間から覗く青白い肌が作り出す煽情的な光景は倒錯的な色気を伴っており、視線を外す事の出来ない3人の脳をゆっくりと蕩けさせていきます。

 

「……私たちのチャージを消費しちゃったときは、また()()()してもいいのかしら?」

 

「もちろん。じゅもんのぶんかつえいしょうは、このさきぜったいにひつようになるから」

 

「わ、私は遠慮しておくわ。ほら、私呪文使えないし……」

 

「んとね、せいれいとのしんわせいがたかいエルフは、まほうがつかえるかどうかにかかわらずたかいまりょくをひめてるんだって。それがハイエルフなら……ね?」

 

「わぁい、逃げ場なんて最初から無かったのね……あ、別に嫌なわけじゃないの」

 

 吸血鬼侍ちゃんの無慈悲な宣告に頭を抱える妖精弓手ちゃん。やっぱり気持ち悪い?と眉を下げる吸血鬼侍ちゃんの見て、慌てて頭をわしゃわしゃと撫でながらフォローに入ってます。

 

「馬鹿ねえ、気持ち悪いなんて思ってたらあんたにしてもらうわけないじゃない。むしろ嬉しいのよ、シルマリルを支えてあげられるんですもの」

 

「……ほんとに?」

 

 ほんとよほんとと笑いながら、ジト目の吸血鬼侍ちゃんと視線を合わせる妖精弓手ちゃん。その目に嘘がないことを認め、頭を撫でる手を取りそっと口付け。寝室のある二階への階段に近付くと、3人に向かって振り返り、幼い容姿に似つかぬ艶やかな笑みで誘います。

 

「みんな、ありがとう。なれないとたいりょくがすっからかんになっちゃうから、ゆっくりとおねがい。……だいじょうぶ、ぼくはじょうぶだから、ちょっとらんぼうでもへいきだよ?」

 

「うぅ……はぁ……。い、いつもこんな衝動に耐えていたのですか、貴女は……っ」

 

 誘蛾灯に吸い寄せられるようにフラフラと立ち上がり、吸血鬼侍ちゃんに近付く剣の乙女。既に指輪を嵌めているその息は荒く、普段乱暴にちゅーちゅーしようとしない吸血鬼侍ちゃんの強固な理性と自制心の強さ、それに対して自分たちがどれだけ挑発的な行為をしていたのかを文字通り身を以て味わっているみたいです。可愛い女の子を好き勝手弄んでいるように見えて、実は滅茶苦茶気をつかっていたんですねぇ……。そんな剣の乙女の変わり様を見て2人の顔が引き攣っていますが、安心してください、この後2人も体験できますよ?

 

 そんな3人の今にもプッツンしそうな理性の糸は、あどけない笑みと素直な好意をミックスした吸血鬼侍ちゃんの一声で、あっさりとを断ち切られてしまうのでした。

 

 

 

 

 

「ぼくがぜんぶうけとめるから。みんなのおもいも、よくぼうも。だから……きて?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、3人とも本能に負けて足腰が立たなくなるまで致してしまったと。……同じ轍を踏んだ者としては全くもって笑えませんわね」

 

「うんうん、それだけ普段ご主人様は頑張ってたということだよ。流石底なしのスタミナを誇る夜の王」

 

「それぜったいほめてないよね???」

 

 翌朝、久しぶりに家まで帰ってきた分身ちゃん分隊(ゴブリン絶許チーム)が見たものは、キングサイズベッドの上で身動きが取れなくなっている3人のあられもない寝姿と、それを甲斐甲斐しく世話しているお肌ツヤツヤな吸血鬼侍ちゃんの笑顔でした。

 

 後で確認したところ、女魔法使いちゃん、妖精弓手ちゃん、令嬢剣士さんは一発。森人狩人さんは二発。剣の乙女はちょっと頑張って三発でダウンしたそうです。これは貫禄の金等級。

 

 ……え、まだ名前の出ていない()がいるじゃないかって? 2人がダウンした後に、延々と分身ちゃんを貪っていた彼女でしたら……。

 

「うぅ、お恥ずかしい限りです。主さまと繋がっているだけで幸せな気持ちでいっぱいになってしまいました……///」

 

 とのコメントを残しています。一晩で二桁とか、白金等級ですか? なんて怖ろしい()ッ!?

 

 

 

 

 

 さて、なんとかお昼ごろになって動けるようになった3人を起こし、リビングで昼食をとる一党の面々。大皿に山盛りになったミートボール入りパスタ(カリオストロの城のやーつ)をメインにシチューを添えたそれを下品にならない程度に腹へ流し込むように食べているあたり、よっぽど体力を消耗したんでしょうねぇ。

 

「それで、軍と神殿の動きは分かったけど、冒険者(わたしたち)は今後どうやって動くつもり?」

 

 吸血鬼侍ちゃんの口元をナフキンで拭いながら剣の乙女に問いかける女魔法使いちゃん。他のみんなの目も同じように彼女に向けられています。

 

「今、陛下直属の密偵が内通者を暴発させようと動いています。こちらの感知するなかで蜂起させて、一気に殲滅する考えのようですわ」

 

「ふーん、でも犯人が分かっているなら、さっさと捕まえればいいのに」

 

「所詮王宮に潜んでいるのは末端ですから。彼らに話を持ち掛けた人物を表舞台に引き摺り出すのが真の狙いなのですよ」

 

 剣の乙女の言葉にうんうんと頷いている吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん。分身ちゃんはともかく吸血鬼侍ちゃんは多分理解してないですね。

 

「おそらく、そう遠くないうちに内通者に対する依頼が来るでしょう。それに備えて、皆様も力を付けなければいけません。ですので……」

 

 そう言いながら剣の乙女が机の上に置いたのは……羊皮紙ですね。一党の名前が書きこまれていますが、何に使うつもりなのでしょう。

 

「私を含めて、現在この一党には6人の真言呪文遣いがいます。その内で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この二点を目標にしたいと思いますの」

 

 なるほど、たしかに今の段階では決まった組み合わせでしか分割詠唱が上手く行えていないみたいですし、それは重要ですね。でも、呪文の威力を抑えるっていうのはどういうことなんでしょう?

 

「あの、組み合わせの多様化については理解できますけど、呪文の威力を抑えることの必要性はなんでしょうか?」

 

 お、令嬢剣士さんが聞いてくれました。現状分身ちゃんを組み合わせに入れないと詠唱が行えない彼女にとって渡りに船な目標ですし、疑問点は早めに解消しておきたいですもんね。

 

「分割詠唱の技術自体は、一定以上の力量を持つ者であれば習得は然程難しくありません。では何故冒険者の間で広まっていないのでしょう? それは、発動した呪文の威力に術者が耐えきれないからです」

 

 剣の乙女はそう言うと、認識阻害の眼鏡越しに吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんを見つめています。おや、何かやましいことでもあるのでしょうか? 2人が目を逸らして下手糞な口笛を吹き始めました。

 

「制御出来ない呪文は術者へと逆流(バックファイア)してしまいます。……皆さんに内緒で身体の内に呪文を受け入れていましたね?」

 

「「……はい」」

 

 確信めいた口調の圧に負け、素直に認める2人。再生するのを良いことに、黙って反動ダメージを許容してたんですね。でもそれは吸血鬼侍ちゃんたちだから出来る芸当であって……。

 

「ええと、2人への説教は後回しにするとして。つまりこの子たち2人を含めない組み合わせで分割詠唱をすると、3人のうち誰かが吹っ飛ぶ可能性があるってことかしら?」

 

「……いえ、()()()()()()()()()()()()。分割詠唱を習得した術者の呪文というものは、それだけの威力を秘めているのですから」

 

 女魔法使いちゃんの質問に溜息とともに返答する剣の乙女。一歩間違えれば起きていたであろう大惨事を想像して、呪文遣いたちの顔色が一気に悪くなってます。負傷を隠していた2人に注がれる視線も増し、居心地が悪そうに身体を縮こませています。

 

「分割詠唱の真髄は、3人掛かりで三倍以上の威力を出すのではなく、三倍以上の継戦能力を確保する事にあるのです。それが、あの【死の迷宮】で私たちが得た教訓ですの」

 

 

 

 実体験を伴う重みのある言葉に、声を失う面々。それを払拭したのは、妖精弓手ちゃんの明るい声でした。

 

「つまり、私や若草ちゃんの役目は詠唱に入って無防備なみんなを守り抜く事ね! なあんだ、いつもと変わらないじゃない!!」

 

「はい、主さまや皆さまをお守りするのが(わたくし)の役目でございます。安心して背をお預けくださいませ」

 

「もちろん、詠唱に参加しない場合は私やお嬢さんも護衛に回るからね。そっちの入れ替え(スイッチ)もしっかり訓練しておかないと」

 

 続けざまに声を上げる森人三姉妹。その様子を見て剣の乙女も笑みを深め、どこか懐かしいものを見る表情を浮かべています。気炎万丈な仲間たちに号令をかけるように、片手を突き上げた吸血鬼侍ちゃんの声が響きます。

 

「みんなでがんばって、もっともっとつよくなる! そうして、ゴブリンをこのせかいからほろぼしてやる!!」

 

 みんなから放たれるおー!という声に分身ちゃんもうんうんと頷いています。さらに結束の深まった一党の成長に、今後も期待できそうですね!

 

 

 

 

 

「まあそれはそれとして、痛いのを隠していたそこの2人はお説教なんだけどね」

 

「「……やさしくしてね?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで時は過ぎ、日々の業務(ゴブリン退治)の合間に訓練を重ねていたらめっきり秋も深まってまいりました。山沿いでは雪がちらつき始めた地域もあるみたいですね。

 

 忙しい職務の合間を縫って剣の乙女が参加してくれたことで、分割詠唱の精度も随分上がりました。最初は制御に失敗して逆流を一手に引き受けた吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが爆散する珍事も起きていましたが、今ではそれも笑い話に……するには随分血生臭いですねぇ。とりあえず致命的失敗(ファンブル)しなければ問題ないレベルまで引き上げられたので、実戦にも十分耐えられるでしょう。

 

 同時に進められていた魔力貯蔵計画も順調な様子。依頼で消費しなかった余剰の魔力を注いでいるので溜まる量は微々たるものですが、継続していれば馬鹿にならなかったみたいです。分身ちゃん曰く、このペースなら遅くとも春までに1人分の儀式に必要な魔力は溜まるとのこと。

 

 只人(ヒューム)の3人で話し合った結果、やはり最初は剣の乙女が良いのではという結論に至ったそうです。眷属化の際にデイライトウォーカーになるためには対象の素養が重要なので、自分の力量(レベル)に不安がある女魔法使いちゃんと令嬢剣士さんはもう少し研鑽を積んでからにしたいそうです。

 

 ……決して剣の乙女の年齢が一番上だからじゃないですよ? 吸血鬼侍ちゃんと歩いているときに「可愛い娘さんですね!」って言われて剣の乙女が凹んでたなんて事実はありませんから。

 

 

 

「収穫の時期に入ったけど、今年はゴブリン退治の依頼は例年より少ないってオルクボルグが言ってたわ。春からこっち新人たちと一緒に駆除して回ってた効果が出たのかもね」

 

「各地の神殿も協調して小鬼禍に対処してますので、そちらも成果を出しているようですの」

 

 朝食の麦粥(ポリッジ)をスプーンでかき混ぜながら、互いの仕入れてきた情報を交換する一党の面々。軍も組織だって『赤い手』の軍勢の雑兵たるゴブリンに対処しているでしょうし、ゴブリンの絶対数が減少しているのかもしれませんね。

 

「このあいだ2人が呼び出された火石に擬態していた原型生物(シング)退治。本格的に目覚める前に別の異形が滅ぼしちゃったんだっけ」

 

「うん、ただでさえややこしいじたいなのに、これいじょうふかくていようそをふやされてたまるかっておこってた」

 

「おじぎをしてかえってった無貌の神(つきのまもの)さんをみて、ゆうしゃちゃんたちもにがわらいしてたね」

 

 シングは犠牲になったのだ……盤面を整理したいというGMの願い、その犠牲にな……。

 

 散々舞台を引っ掻き回されて激おこな神々の仕置きも最骨頂。そろそろ耐えきれなくなって暴発すると思うのですが……お、≪転移≫の鏡が波打っています! これはもしかしなくても……。

 

 

 

 

 

「おはよう諸君、随分待たせてしまったね。君たちと西方辺境の銀等級に、王国からの指名依頼だよ。依頼内容は『狐狩り(フォックスハント)』。漸く尻尾をだした黒狐を狩ってもらいたい。……悪いけど、ギルドまで案内してもらえるかな?」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 新年度が忙しくないのを期待しつつ失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がりますのでよろしくお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその10-1

 無事に新年度の仕事が始まったので初投稿です。

 UA70000を超えました。更新頻度が低下した中でとても嬉しく思っております。まだまだお話しは続きますので、お付き合いいただければ幸いです。


 おや、珍しいですね太陽神さん。化身による配信活動が忙しくて絶賛引きこもり中って聞いていたんですが。せっかく準備していた生配信(ライブセッション)が回線の不具合で中止になった? あー、たぶん例の乱入者のせいで混線しちゃったんですねぇ……。

 

 そろそろケリがつくと思いますのでもうちょっと待ってもらえれば……って、なにいきなり下界へ託宣(ハンドアウト)送り始めているんです??? いい機会だから信徒のみんなに活躍してもらう? まぁ他の皆さんの信徒も続々と参戦してますし、太陽神さんのとこの信徒はみんないい子たちですものね。じゃあ、集合場所のアドレスを送っておきますので、時間厳守でお願いしまーす。

 

 

 

 

 

 パーティ分割はジッサイ浪漫な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、銀髪侍女の依頼でギルドに移動したところから再開です。

 

 普段よりも人数が増えたために、監督官さんにお願いしてギルド二階の会議室を借りた吸血鬼侍ちゃん。周りを見渡せば、錚々たる面子が揃っています。一同を前にいつもの飄々とした様子で、銀髪侍女さんが口火を切りました。

 

「改めて、この場に集まってもらい感謝するよ。今回は陛下の代理人として君達に王国からの指名依頼を持ってきたわけなんだけど……やっぱり随分個性的な面子だね」

 

 吸血鬼侍ちゃんを膝に乗せ微笑んでいる剣の乙女の両隣には女魔法使いちゃんと妖精弓手ちゃん。長机を挟んだ反対側には同じく分身ちゃんを抱えた森人狩人さん。森人少女ちゃんと令嬢剣士さんは受付嬢さんと一緒にお茶とお菓子の準備をしていますね。

 

 隣の長机にはゴブスレさんと女神官ちゃんが隣り合って座り、対面には二日酔いらしく頭を押さえている鉱人道士さんと戦の予感に尻尾をくゆらせている蜥蜴僧侶さんの姿。黒板の前に立つ銀髪侍女さんを興味深げに眺めています。そして、もうひとつ準備された長机には……。

 

「……別にお前らまで来る必要は無かったんじゃないのか?」

 

「なに、夫が銀等級を纏めて招集するほどの依頼に向かうのだ。私にも聞く権利くらいあるだろう」

 

「そう、ね。若い子たち、も、急な呼び出しに、驚いてた、もの」

 

「まぁ、ガキのために稼げるときに稼いでおくのが役目だよなぁ」

 

 げんなりした顔で机に突っ伏している重戦士さんと、対照的に呵々と笑う女騎士さん。その隣で微笑む魔女パイセンと2人で、自らの膨らんだお腹を撫でています。やれやれと首を振る槍ニキを含めた4人、普段はギルドの訓練場で座学や魔法の指導をしていますが、本日はご指名ということでこちらに来てもらいました。実際に依頼を受けるのは男2人ですが、西方辺境の戦力を根こそぎ動員する依頼に興味津々でついて来ちゃったみたいです。

 

「ああ、構わないさ。今は休業中とはいえ、君達は十分に信頼と実績を得ているからね。それにパートナーの受ける依頼について気になる気持ちもわかるよ。疑問点などがあったら質問するといい」

 

 銀髪侍女も2人の同席を許可してくれましたね。ベテラン冒険者の持つ知見、特に魔女パイセンの知識はおそらく賢者ちゃんに次ぐものでしょうし、依頼内容の精査に力を発揮してくれることでしょう。

 

 

 

「ガキといえば、お前のほうはそろそろじゃなかったか?」

 

「ああ、次の安息日に行う予定だ」

 

 槍ニキの言葉に頷きを返すゴブスレさん。はい、牛飼娘さんの帝王切開の日取りがもうすぐなんですよね。出来れば自然分娩で出産してもらいたかったのですが、やはり母体への負担が大きいらしく大事を取って術式を執り行うことになりました。すでに場所と器材の準備は整っていますので、今回の件が片付き次第施術に係わる人を招集する段取りです。

 

 本当はゴブスレさんには牛飼娘さんの傍にいて欲しかったのですが、各地にゴブリンをばら撒いている元凶はゴブリンでなくても抹殺対象らしく、迎えに行った分身ちゃんに抱きかかえられて牧場から駆けつけてくれました。大きな怪我をさせないよう、無事にゴブスレさんをおうちに帰さなきゃいけませんね! お、銀髪侍女さんがみんなにパピルス紙(ハンドアウト)を配り始めましたね。どうやら依頼についての話が始まるみたいです。

 

 

 

「さて、お茶とお茶菓子も行き渡ったようだし、そろそろ依頼について話そうか。吸血鬼くんの一党には先に話してあったけど、今回の依頼は『狐狩り(フォックスハント)』。王国に巣くっていた売国奴と、混沌の勢力に組する商人を捕殺してもらいたいんだ」

 

 銀髪侍女さんが大目標を提示した段階でスッと上がる手がひとつ、令嬢剣士さんですね。よろしいでしょうかと前置きをしながら皆が思っているであろう疑問を銀髪侍女さんにぶつけます。

 

「その仰りようですと既に対象の目星は付いていたご様子。現在の行方は判明しているのでしょうか?」

 

「ああ。こちらの不手際を晒すようで申し訳ないのだけれど、御付きの侍女を殺して入れ替わっていた二重存在(ドッペルゲンガー)に王妹殿下が攫われかけてね。殿下の無事を優先して人員を割いていたために逃亡を許してしまったんだ」

 

 なんと、王宮内で誘拐未遂とは穏やかじゃないですねぇ。しかも二重存在(ドッペルゲンガー)といえば上位魔神の一種、一般の兵卒では歯が立たない化け物です。よく追い返せましたね……。

 

「吸血鬼くんが先に殿下にしていた警告が、思いのほか心に残っていたようでね。王都の治安維持を任されている将軍を常に近くに置いてくれていたから助かったよ。彼も戦場に出られず武勲を上げられないと嘆いたところだったし、殿下は助けてくれた彼にホの字というわけさ」

 

 その有能な将軍さん、側頭部に一房若白髪がありそう(CV:池田秀一)ですよね? 王妹殿下を庇いながら二重存在(ドッペルゲンガー)を追い返すとはなかなかやりますねぇ! それで、件の売国奴と商人というのは?

 

「まず、王宮に潜んでいた内通者というのは旧王国派閥の1人、陛下がこの国を興す際に真っ先に恭順してきた貴族だよ。面従腹背を地でいく男でね、領地での人望は厚いが裏では麻薬に人身売買と好き放題。民を愛していると公言しながら、愛国心を煽って混沌の軍勢との戦に民を駆り立てるというのだからまったく性質が悪い」

 

 どうやら配布された紙片(ハンドアウト)に描かれている似顔絵の片方がその人物らしいですが……うーん、なんというか薄っぺらい笑みを浮かべてますね。貴族のご婦人たちからの好感度は高そうですが、あんまりお友達になりたいタイプじゃありませんねぇ。となるとこっちの黒い肌の狐耳の獣人がもう片方の商人でしょうか。

 

「ご明察。そいつが混沌の勢力と反王派を繋ぐカギとなった男なんだ。王都と辺境を行き来し、はては他の地方まで交易の手を広げる大商人。貴族の一部と結託して糧秣や武具の手配や輸送でのし上がってきた傑物だよ」

 

 なるほど、たしかに自信に溢れたふてぶてしい顔をしていますね。ん? 各地で手広く商売……あっ(察し)

 

「ご想像の通り、黒狐が販路を広げた地域では何故か麻薬患者が増加する傾向にあるんだ。一体誰がそんなものを流通に乗せているんだろうね?」

 

「きぞくのこうえきひんをあらためるようなことはみんないやがるから、そこにつけこんでほかのしなものといっしょにはこんだの?」

 

 お、流石分身ちゃん。伊達に頭の良いほうと言われてませんね! 軍需品と一緒に運んでしまえば一般人の目には入りませんし、主計係を抱き込んでしまえば止める者はいなくなるという寸法ですね。そうするともしかして……。

 

「あ、嫌な予感。もしかして地方の領主が抱える私兵の間で麻薬が蔓延したりとか……」

 

「……辛うじて国軍は呑まれなかったけど、旧王派の領地は荒廃する一方さ。国力を削ぐという点に於いては実に効果的な手段だ。残った土地を治める気が無いならなおさら、ね?」

 

 思わず口に出してしまった妖精弓手ちゃんを憂鬱そうな顔で見ながら肯定する銀髪侍女さん。地方がこんな状態じゃあ上様出陣(デーンデーンデーン)が頻発するのも頷けます。軽くお茶で喉を整え、銀髪侍女さんが言葉を続けます。

 

「物流の流れから彼らの所業を突き止めたところまでは良かったんだけど、秘密の会合現場を抑えに行った部隊が護衛の麻薬中毒者(ヤクチュウ)とモンスターによって半壊。まんまと逃げられてしまったんだ」

 

「くすり、だめ、ぜったい」

 

「そうね、でもアンタも似たようなもんよね」

 

「ひど~い……」

 

 あ、ぷんすこしている吸血鬼侍ちゃんが女魔法使いちゃんの言葉で撃沈しました。中毒性と依存性の高さは折り紙付きでしょうか。淡々と説明を続けている銀髪侍女さんの口調は苦みが滲みっぱなしですね。

 

「彼らが逃げ込んだ先は王都の北。仮称『赤い手』の軍勢が未だ占拠している城塞都市跡……つまり『死の迷宮』さ」

 

 

 

 ……うわぁ、そこに繋がるのか。本隊と少数の群れを囮に国軍を疲弊させ、一部の部隊で電撃的に占拠。信奉する神を召喚するつもりですか。各地で捨て駒にされているモンスターやそれによって被害を受けている民や兵も、全て儀式の生贄に見立てているんでしょうねぇ。

 

「オイオイ、いくら俺らが腕っこきつってもよ、流石に軍勢の相手は……出来ねぇよな?」

 

「「???」」

 

 途中まで声を上げた槍ニキから向けられた視線に首を傾げる2人。やって出来ないことはないでしょうけど、たぶんそれよりもっと愉快な依頼だと思いますよ?

 

 

 

「既に本隊は壊滅させ、逃げ込んだ一部を除けば残る仕事は()()()の駆除。とはいえ軍もそれなりに消耗していてね。それに『死の迷宮』は大勢で乗り込むのは厳しい場所なんだ」

 

 軍は街を包囲して逃がさないようにするので手一杯なんだと告白する銀髪侍女さん。たしかに、『死の迷宮』内部は最大6人までじゃないと移動すらままなりませんからね。餅は餅屋、迷宮に挑むには兵よりも適した者たちがいます。剣の乙女が吸血鬼侍ちゃんを抱きかかえたまま立ち上がり、言葉を引き継ぐように口を開きます。

 

「現在各神殿から賛同してくださった神官の方々を中心に、城塞都市外縁部から『死の迷宮』入り口までの打通部隊を編制中です。彼らの協力の下『死の迷宮』へ突入、対象の捕殺及び『赤い手』が進めている儀式の妨害を行います」

 

「ここにいる14人と、到着が遅れている()()。あわせて17人を3つの部隊に編成し、同時に迷宮内へ突入。上層から敵を殲滅しつつ進行する陽動のA、地下四階の制御室を奪還するB、最下層で行われているであろう『赤い手』の儀式を止めるCに分かれて行動するよ。緊急時の脱出方法を確保するために、大司教と吸血鬼くん2人には別のチームになってもらうことになるかな。ああ、それと遅れている3人は儀式阻止で決定済みだから、先に埋めておくよ」

 

目的代表同行者
Aチーム陽動                                
Bチーム制御室奪還            
Cチーム儀式阻止      勇者ちゃん 剣聖さん 賢者ちゃん 

※剣の乙女 吸血鬼ちゃん 分身ちゃんは別のチームにすること!

 

 銀髪侍女さんが黒板に表とチームの目的を書き、横に代表者と同行者の名前を書けるようにしています。先に枠を持って行った3人、なんかうっすら見えてますけど、いったい誰なんでしょうねぇ(白目) おや? 吸血鬼侍ちゃんが両手を上げてなにやらアピールしてます。どうしたんでしょう?

 

「あのね、ぼくいちばんしたがいいな」

 

 これは珍しい、吸血鬼侍ちゃんが自分の意見を前面に出して来るなんて。普段そんなに自己主張しないんですけど、やっぱり『死の迷宮』には思うところがあるのでしょうか。

 

「あ、じゃあぼくはまんなかがいいな」

 

 頷き合った後に2人のおねだりするような視線が剣の乙女に向けられています。対面の森人狩人さんの胸元と、自分の胸元から向けられる熱いそれに思わず身じろぎをする剣の乙女。口を開きかけて何かを言おうとしますが、上手く言葉にならない様子。

 

「「……だめ?」」

 

「わ、わたしは地上の様子が把握しやすい陽動部隊を希望いたします!」

 

目的代表同行者
Aチーム陽動剣の乙女                                
Bチーム制御室奪還分身ちゃん            
Cチーム儀式阻止吸血鬼侍ちゃん      勇者ちゃん 剣聖さん 賢者ちゃん      

※剣の乙女 吸血鬼ちゃん 分身ちゃんは別のチームにすること!

 

 部屋にいた全員から生暖かい視線を向けられながらも言い切った剣の乙女。「いえーい!」と遠隔ハイタッチ(届いてない)で喜びを露わにする2人をバックに、わくわくドラフトタイムの開始です!

 

 

 

 

 

「さて、どうするよ? 俺ぁ別にどこでも構わねぇぜ」

 

「装備重量を考えたら、俺は行軍距離が短い陽動のほうが良さそうだ。お前はどうする?」

 

「奴らはゴブリンを捨て駒にしている。動員されるなら上層だろう。……どうした?」

 

「いや、17だと何処かが5人編成になるんだけど、私の予想通りならCチームは色々危険ね。ていうか下手すると2人とも足手まといになるかも……」

 

 辺境三羽烏が口火を切る中で頭を抱えていた女魔法使いちゃん。その様子に気付いたゴブスレさんが声をかけていますが……去年までのゴブスレさんからは想像出来ない光景ですねぇ。結婚とそれに続く新生活で考え方も変わったでしょうか。あと、女魔法使いちゃんの想像はたぶんあってます。

 

「じゃあCチームは5人と考えておいて、残りのチームを先に決めちゃいましょ」

 

「あの、出来れば(わたくし)たち3人、同じチームにさせて頂きたいのですが。元より連携には慣れておりますし、御姉様2人はどちらの代表と組んでも分割詠唱が出来ますので……」

 

 話を進める妖精弓手ちゃんに向かって、おずおずと手を挙げたのは森人少女ちゃん。後ろで森人狩人さんと令嬢剣士さんが頷いています。たしかに急造の一党(パーティ)で連携を取るには経験が不足していますし、なるべく本来の形に近いほうが力を発揮出来るかもしれません。妖精弓手ちゃんが一党の頭脳担当である女魔法使いちゃんに視線を向けると、頷きが返ってきました。

 

「それなら3人は分身ちゃんと一緒に制御室奪還がいいと思うわ。となると、ゴブリンが出そうな陽動にゴブリンスレイヤーたち3人に回ってもらって……」

 

目的代表同行者
Aチーム   陽動    剣の乙女      ゴブスレさん 重戦士さん 槍ニキ                    
Bチーム制御室奪還分身ちゃん   森人狩人さん 森人少女ちゃん 令嬢剣士さん      
Cチーム儀式阻止吸血鬼侍ちゃん  勇者ちゃん 剣聖さん 賢者ちゃん      

※剣の乙女 吸血鬼ちゃん 分身ちゃんは別のチームにすること!

 

「フム、であれば拙僧は深い階層のほうを希望いたしますかな? より強き敵が出る予感がしますれば、退くことなど考えられぬ故」

 

「ほいじゃ、鱗のに付き合うとしようかの。森人と一緒なんは()()難いが、どこぞの金床よりはだいぶマシだわい」

 

「なにおぅ、こっちから願い下げよ! ほら、私と一緒に陽動作戦にするわよ!!」

 

「え、あ、はい、わかりました。あれ? でもそうなると……」

 

 2000歳児が女神官ちゃんの腕を取って鉱人道士さんに向かって吠えてますが、引っ張られている女神官ちゃんの気の毒そうな視線は女魔法使いちゃんに注がれています。この二組が陽動と制御室に参加するということは、必然的に残った女魔法使いちゃんは……。

 

目的代表同行者
Aチーム   陽動    剣の乙女      ゴブスレさん 重戦士さん 槍ニキ 女神官ちゃん 妖精弓手ちゃん
Bチーム制御室奪還分身ちゃん   森人狩人さん 森人少女ちゃん 令嬢剣士さん 鉱人道士さん 蜥蜴僧侶さん
Cチーム儀式阻止吸血鬼侍ちゃん  女魔法使いちゃん 勇者ちゃん 剣聖さん 賢者ちゃん      

※剣の乙女 吸血鬼ちゃん 分身ちゃんは別のチームにすること

 

「うん、まぁ、だいたい予想通りね。わかってたもの」

 

「えっと、あの、ぜったいにまもるからね? やくそくする!」

 

 ああ、すっごい遠い目になっちゃってる……。吸血鬼侍ちゃんが慌てて剣の乙女のハグから抜け出し、女魔法使いちゃんの胸元に飛び込みました。頭を撫でたり頬擦りしてなんとか正気に戻そうとしていますね。あ、だんだん目に光が戻ってきました。おかえりハイライトさん、もう家出なんてしないでね?

 

「ありがと、もう大丈夫よ。……まあアレね、アンタと()()3人が一緒なら死ぬような目に遭っても死ぬことは無いでしょ。万が一死ぬんだったら、それはこの世界の終わりと同義でしょうし」

 

「むぅ、ぜったいにまもるっていってるでしょ!」

 

 私おこなのアピールをしながら耳を甘噛みしてくる吸血鬼侍ちゃんをアイアンクローで引き剥がす女魔法使いちゃんの姿に一同ドン引きしていますが、なんとか無事に現世へ帰還できたようです。まぁあの3人が敗北するようなら世界の命運はそこで終了な気もしますし、あながち間違ってないのが凄いですよね。

 

「さっきから分かってるような口振りだけどよ、まだ顔を見せてねぇ3人の見当がついているってのかい?」

 

「えぇ、まぁ。この子を含めて此処にいる全員が束になっても鎧袖一触で吹き飛ばすとびっきりだと思います。出来れば外れて欲しい予想だったんですけどね」

 

「……は? イヤ、それってまさかとは思うが……」

 

 女魔法使いちゃんの言葉に怪訝な顔をしていた槍ニキの顔が面白いように引き攣っていきます。ああ、どうやら想像してしまったみたいですね。時を同じくしてギルドの一階が騒がしくなってきましたね。階段を駆け上がり、ドタドタと騒がしい足音が会議室に近付いてきます。勢いよく開け放たれた扉の向こう、背中に大剣を背負い、太陽のような笑みを浮かべたその少女こそ……。

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなってゴメン! ボク、参上!!」

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 満開の桜の下で毛虫と出会ったので失踪します。

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セッションその10-2


 車の運転中、ふと横を見たら野生の雉とエンカウントしたので初投稿です。

 近くで見ると意外と大きくて驚きました。近くを通過しても逃げようとしない辺り舐められていた可能性が微レ存?

 UA72000、お気に入り720、感想272……聖なる数字ですね! これを機に更新速度をあげていきたいところですが、仕事の進捗具合に左右されそうです。


 はーいちゅうもーく。みなさん、自分の信徒への集合場所と時間の≪託宣(ハンドアウト)≫は送信し終わりましたか? ……うん、大丈夫みたいですね! これで盤外からちょっかいを出して来る輩が出なくなれば良いんですが……。

 

 さて、じゃあそろそろ再開しましょうか……ってあれ? どなたか太陽神さんを見てませんか? ≪託宣(ハンドアウト)≫送るって行ってから、まだ帰ってきてないんですけど。

 

 え!? さっき下界に向かって出発した!? まさか直接≪託宣(ハンドアウト)≫を告げに行ったとか……ちょっと確認してきますね。

 

 ……あ、やっぱり。お出かけ用の化身(アバター)が無くなってる。

 

 うーん……まぁ太陽神さんならそんな酷いことはしないでしょうし、太陽大好きな吸血鬼侍ちゃんと一度お話ししてみたいって言ってたからなぁ……。

 

 ええい、ここは高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変にいきましょう! ちょうど一枠空いてますし、せっかくだから直接乱入者をわからせてやってもらうのも悪くなさそうですね!

 

 お待たせしました! それじゃ再開していきまーす。

 

 

 

 

 

 うぉっほん! 前回、勇者ちゃんがダイレクトエントリーしてきたところから再開です。

 

唐突に現れた当代の白金等級の登場に声を失う冒険者の面々、まあ生ける伝説ですからね。イエーイとVサインをしている勇者ちゃんの後ろから剣聖さんと賢者ちゃんもやって来て、これで勇者ちゃん一党が勢ぞろいです。

 

「遅れてしまい申し訳ないのです。交易神の神殿に潜んでいた内通者(インサイダー)魔神兄弟(ブラザーズ)をしばき倒していたら、思った以上に時間がかかってしまったのです」

 

 おかげで神殿は大騒ぎ(ショック)なのですと言いながら席に座る賢者ちゃん。ブラザーズ……ショック……あっ(察し)。うん、この話題に踏み込むのは止めておきましょう!

 

「紹介する必要は無いと思うけど、彼女たちが最深部に突入するCチームに参加してもらう3人だよ。ああ、せっかくだから全員チームごとに座り直すといい」

 

 銀髪侍女さんの声に従って席を移動する一行。吸血鬼侍ちゃんの向かいに勇者ちゃんが座り、その隣には剣聖さん。女魔法使いちゃんと賢者ちゃんが吸血鬼侍ちゃんの両隣ですね。

 

「今回も大変だと思うけど、よろしくね! もちろんそっちのおねーさんも!!」

 

「ああ、うん。あんまり年齢は変わらないと思うのだけど……」

 

 ちょっと複雑そうな顔でよろしくと返している女魔法使いちゃん。下手すると勇者ちゃんのほうが年上だったりするような……。ほら、きっと大人びて見えたからですよ! おもに吸血鬼侍ちゃんに当ててるとことかが。

 

 

 

 さて、各チームともそれぞれの役割や使える呪文・奇跡の回数や種類の確認作業に入ったみたいですね。とはいえみなさん(一部を除いて)ベテラン冒険者ですし、新人だって等級詐欺にもほどがある子ばかりです。冒険を共にした関係の人も多いですし、他のチームは問題ないでしょう。唯一不安そうな顔をしているのは……。

 

「はぁ……。やっぱりアンタと同じチームに入ったのは失敗だったかしら。この面子の中で私がする仕事なんて無さそうじゃない。足手纏いにならないよう立ち回るだけで精一杯よ」

 

「そんな、こと、言うもんじゃ、ないわ。貴女にしか、出来ないことが、あるはず、よ?」

 

 椅子に浅く腰掛け、お山を机に乗せて背もたれに寄りかかった状態で大きな溜息を吐いているのはやっぱり女魔法使いちゃん。他の卓の邪魔にならないように避難してきた魔女パイセンがそれを窘めるように笑っています。同じように席を移動していた女騎士さんも、その横でうんうんと頷いています。

 

「その通りだ。冒険者の能力は単純な腕っぷしや魔法の強さで決まるものでは無い。お前には学院で学んだ知識と、それを実戦で生かすセンスがある。私のような脳筋と違ってな!」

 

 呵々と笑っていますが、それ褒められたことじゃないですよね??? 重戦士さんが向こうで頭を抱えてますし。そんな女騎士さんを見て毒気を抜かれたのか、女魔法使いちゃんの目にハイライトさんが帰ってきてくれました。

 

「それに分割詠唱は出来るようになったのでしょう? であれば、私やその子と合わせれば十分に戦力として運用出来るのです」

 

「……ふぇ?」

 

「ああもう、こっち向きなさい。……よし、ちゃんととれたわね」

 

「ん、ありがと。あと、あしでまといなんかじゃないよ? いつもたすけられてるもん」

 

 賢者ちゃんの視線の先には、席を移動するときにこっそり持って来ていたお茶菓子を頬張る吸血鬼侍ちゃん。ハムスターのように口をパンパンに膨らませたまま首を傾げる仕草を見て、女魔法使いちゃんがハンカチで口元に付いたお菓子の欠片を拭いてあげてますね。されるがままの吸血鬼侍ちゃんをジト目で見ている賢者ちゃん、そこはかとなく羨ましそうなのは気のせいでしょうかね。

 

「基本的な立ち回りとしては、術者2人を私が護衛しつつ牽制、前衛2人が速攻をかけるのがセオリーだが……今回の敵の予想はどうだったかな?」

 

「先日邪神が引き摺って行った原型生物(シング)は、『赤い手』の総大主教(グランドビショップ)を名乗る召喚者が招いたものでした。どうやら己が奉ずる神を降臨させるために、次元の穴を開く呼び水として火石に偽装するかたちで召喚したようなのです。おかげで次元の境界は薄くなり、魔神やらも入り込みやすくなっているのです」

 

「それを利用して、強大な赤竜神をこの世界に招くのがそのぐ、グランなんとかの野望なんだ! そんな存在がこの世界に降り立って、通り抜けてきた空間の歪みを固定されちゃったら、週間世界の危機が毎日世界の危機になっちゃうかもしれないんだっけ?」

 

「はい、この世界を取り巻く囲い(スクリーン)が無くなり、三千世界のあらゆる厄介事が舞い込んでくるようになるのです。残念ながら、この世界はその変革に耐えられるほど成熟し(イカれ)てはいないのです」

 

 ああ、まさに混沌の坩堝(カオスフレア)になっちゃうと。たしかにそれではこの世界を維持するのは難しそうですもんね……。

 

「ええと、つまり私たちはその総大主教(グランドビショップ)を倒して、異界の神の召喚を止めればいいのよね? べつにその竜を倒す必要は無いのよね?」

 

 女魔法使いちゃんの言葉に対して、吸血鬼侍ちゃんを含め、全員が優しい目で笑みを返しています。まぁ、こういう時に召喚を阻止できるかといえば……ですよねぇ。あ、また女魔法使いちゃんのハイライトさんが家出しちゃいました。吸血鬼侍ちゃんがスキンシップをしてますけど、今度はなかなか戻って来てくれませんね。お、他の卓も話し合いがひと段落したみたいですね。賢者ちゃんが立ち上がって、四次元ポシェットからいつもの≪転移≫の鏡を取り出して設置し始めました。

 

「そろそろ出発するのです。鏡の先は『死の迷宮』近くの集合場所になっているのです。各宗派の神殿の長と、同行する僧兵や神殿騎士が待っているので、準備が出来たものから順番に通って、先に挨拶を済ませておくのです。……貴女と保護者はちょっと残るのです。話しておきたいことがあるのです

 

「? わかった」

 

「保護者って……いや、あながち間違ってはいないけど」

 

おや? みんなが続々と鏡を潜っていく中で、賢者ちゃんが吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんを引き留めています。分身ちゃんに手を振って先に行ってもらい、残ったのは3人だけ。話しておきたいことってなんでしょうね?

 

 

 

「そんなに時間を取るつもりはないのです。確認しておきたいことがあるだけなのです」

 

 不思議そうな顔をしている吸血鬼侍ちゃんの頬に手を伸ばし、何かを確かめるように撫でる賢者ちゃん。その顔はいつになく真剣で、女魔法使いちゃんも無言で見守っています。瞳を覗き込むように顔を近付け、目と目が物理的に接触しそうなほどです。普段と違う様子に困惑した吸血鬼侍ちゃんが口を開き、声を発しようとした瞬間……。

 

「んむぅ!?」

 

「へ? いや、こんな時に盛ってんじゃ……!? ちょっと、なんなのかしら、ソレ?」

 

予備動作無しに吸血鬼侍ちゃんの唇を奪い、濃厚に舌を絡め始めた賢者ちゃん。唐突な情事の始まりに呆然とする女魔法使いちゃんがツッコミをいれようとしたその時、吸血鬼侍ちゃんの身体に起きた変化に気が付いたようです。

 

「……ぷぁ。……何時からそんな状態だったのです? 正直に話すのです」

 

「……ことしのなつ、くろいあぶらにさわったあと。しばらくたってから……」

 

 女魔法使いちゃんの視線の先、賢者ちゃんのちゅーで上気した吸血鬼侍ちゃんの顔。その表面にはうっすらとひび割れが浮かび、微量の魔力が漏れているようです。どうやらさっきのちゅーは魔力を送り込むためのものだったみたいですね。体内に収まるはずの魔力が漏れ出しているということは……。

 

「再生能力で誤魔化していたようですが、それはひびの入った水瓶を外から塗り固めているようなもの。内側の損傷は治らないのです。……なぜ隠していたのです?」

 

「もうすぐしゅじゅつのよていびだし、それがおわるまではしんぱいをかけたくなかったから……。ちゃんとしゅじゅつのあとにはなすつもりだったよ? ほんとだよ?」

 

 いや、そんなウソ誰も信じないと思うよ吸血鬼侍ちゃん。2人ともキッツイ目で吸血鬼侍ちゃんを見ています。

 

「この事は、あの子は知っているのかしら」

 

「うん、だまっててもらってる。あ、しんぱいしなくてもあっちはだいじょうぶだよ。まりょくであみあげられたからだだから、こっちのそんしょうははんえいされないの。だからへいき……」

 

 うーん、分身ちゃんに口止めしているあたり悪い意味での確信犯ですね。しかもその返事は間違いなく逆効果、2人の怒りゲージがみるみるうちに上がっていってます。わたわたと取り繕う吸血鬼侍ちゃんの正面に目線を合わせる形で女魔法使いちゃんがしゃがみ込み、ニッコリと微笑んだ直後。甲高い音が会議室に響きました。

 

 

 

 

 

 

ぱぁん!!

 

 

 

 

 

 

 痛みには鈍感でも衝撃は伝わったのでしょう。すでに赤みが引き始めている頬を晒している吸血鬼侍ちゃんと、振り抜いた手を抑えている女魔法使いちゃん。賢者ちゃんも厳しい目で吸血鬼侍ちゃんを責めています。

 

「ねえ、なんで自分が叩かれたのかわかる?」

 

「……からだのことをかくしてたから」

 

「ええ、それもあるけどそれは一番の理由じゃないわ」

 

「あのこにだまっててもらったこと」

 

「それはちょっと違うわね。本当に危険だったらあの子も黙ってたりしないもの」

 

「…………」

 

 ありゃ、黙り込んでしまいました。俯いて目に涙を浮かべている吸血鬼侍ちゃんをそっと抱き寄せ、女魔法使いちゃんが頭を撫でています。そのまま小さな子どもに間違いを諭すような口調で語りかけ始めました。

 

「あのね、私たちが怒っているのは『そんな身体なのに、私たちを眷属化させるために魔力を集めていたこと』。いくらみんなが大好きで、ずっと傍に居て欲しいからって、それで無理して自分が死んだら元も子もないじゃないの。……もう死んでるけど」

 

「あ……」

 

「今の今まで気付けなかった身で言えた話では無いのですが、いくら恋人にせがまれたからといって自分の身を削るのは愚か者のやることなのです。魔力蒐集の効率も落ちますし、身体にかかる負担も大きくなるだけなのです。……今だって貯めこんだ魔力を抑えるのに力を割いているのでしょう?」

 

「……うん」

 

女魔法使いちゃんの胸元に顔を埋める形の吸血鬼侍ちゃんを、背中から挟み込むように抱き締める賢者ちゃん。ひんやりとした吸血鬼侍ちゃんの身体が2人によって温められ、凝り固まっていた肉体と精神から力が抜けたようにふにゃふにゃになっていますね。

 

「今回の件がひと段落したら、ちゃんとみんなに自分の事を話しなさい? 一党(パーティ)だけじゃなくて、ゴブリンスレイヤーたち全員によ」

 

「ん、やくそくする。かならずみんなにはなす」

 

 

 

 顔を合わせづらいのか、お山とおへそのあいだから返事をする吸血鬼侍ちゃん。背後の賢者ちゃんがこっそりと腰帯(ベルト)に手を伸ばしているのに気付いていない様子です。その動きを察知した女魔法使いちゃんは即座にアイコンタクトを交わし、胸元に忍ばせていたブツを静かに吸血鬼侍ちゃんの指に……。

 

「ふぁっ!? えっ、なんで……!?」

 

「いえ、先程のはあくまで確認。本題はここからなのです」

 

 突然の全身を駆け巡る衝動に動けなくなる吸血鬼侍ちゃん。カチャカチャと何かを外しながら、賢者ちゃんが耳元で囁くように話しかけています。その息遣いすら刺激になるのか必死に逃げようと悶えていますが、女魔法使いちゃんにガッチリとホールドされて動けない様子。

 

「分割詠唱を使う上では互いの波長を合わせることが重要なのは周知の事実。とはいえ貴女たち2人と私で練習している時間はないのです。手っ取り早く貴女の魔力を取り込んで、さっさと調整を済ませてしまうのです」

 

「ああ、ついでに過剰な魔力をヌイておけば、身体もラクになるわよねぇ。……まさか、この期に及んで嫌だなんて言わないでしょう?」

 

 抱きかかえられた状態で運ばれ、先程まで会議をしていた長机の上に座らさせた吸血鬼侍ちゃん。息も絶え絶えな様子ですが、なんとか辞めさせそうと最後の抵抗を試みています。

 

「そ、そんなじかんないよね? みんなまってるよね?」

 

「安心するのです。時間をかけるつもりも、抵抗する暇もあげないのです。……あむ」

 

「うわ、一気にいくわね。……私も念のためにチャージしておこうかしら」

 

「ほのほうがよひのでふ。ふぐにほうふぁいふるのでふ」

 

「おあ~……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと時間かかってたけど、大丈夫? なにかあった?」

 

「いえ、なにも。ちょっとお説教が長引いただけなのです」

 

「背中のその子は問題ないのか? 精魂尽き果てたような顔つきだが……」

 

「ええ、足がしびれただけ。そのうち元気になるわ」

 

「おあ~……」

 

 ……はい、前半のお説教を含めて30分弱といったところでしょうか。普段に比べれば随分早かったですね! ナニがとは言いませんが。

 

 ≪転移≫の鏡の先には、既に展開された各神殿の陣屋が広がっていました。天幕(テント)にはそれぞれの御印(シンボル)が描かれており、一目でその信仰する神が分かるようになっています。

 

 どうやら先に出発したみんなはそれぞれ縁のある神殿勢力に顔を出しているみたいですね。分身ちゃんは……あ、知識神(ライブラ)天幕(テント)のところにいました! あの話している大柄な人物は半鬼人先生ですね。隣には傷あり司祭さんもいっしょにいます。先生に師事しているとはいえ、流石に少年魔術師君はいないみたいですね。学院の教師ではなく、今日は知識神の信徒として来ているということでしょうか。

 

 その向こう側、大音量で賛美歌を歌っている屈強な僧兵の集団がいますね。逃げ腰だった女神官ちゃんが捕まって胴上げされてますが……もしかして、地母神の信徒なんでしょうか。みなさん薄い袖無しの僧衣に身を包み、鍛え上げられた肉体を誇示するように入念なウォーミングアップをしています。っていうか、だいぶアレンジされてますけど、あの賛美歌もしかして般若心経……?

 

「あらあら、随分と可愛らしいお侍さんですね」

 

「きゃっ!? え、誰です……か……?」

 

 うわ、びっくりした! いつの間にか女魔法使いちゃんの背後に立っていた女性が吸血鬼侍ちゃんのほっぺをつついていました。条件反射で指をしゃぶり始めた吸血鬼侍ちゃんに対しても一切動じず、あらあらうふふと笑っています。つよい(確信)。

 

「あそこの筋肉たちを力で従えている地母神の神殿の長なのです。神殿を部下に任せて東方辺境を巡り、病人や負傷者を癒す片手間で魔神や破戒僧を素手で仏締(ぶっち)めていた女傑なのです」

 

「すっごい強くて、すっごいやさしいひとだよ!」

 

「あらいやだ、お恥ずかしい。私は只の尼僧ですよ?」

 

 半目の賢者ちゃんと抱き着いてきた勇者ちゃんに対してもあらあらうふふと笑う女性……聖人尼僧さんとでもお呼びしましょうか。身長は剣の乙女より少し低いくらいですが、その胸部装甲は勝るとも劣らない程のボリューム。

 

 でもそんなことより注目なのは、ゆったりとした装束の下に隠されている鍛え上げられた肉体ですね。女性らしい柔らかさを失わぬままに練り上げられたそれは、吸血鬼侍ちゃんに匹敵するほどの頑強さを秘めていそうです。指チュパしている吸血鬼侍ちゃんの目がマジになっているあたり本物でしょうね。作戦はガンガン行こうぜで固定されてそう。

 

「知識神の神殿からは先生が来てくださってますし、至高神はあの()が張り切って仕切ってましたね。交易神殿は魔神の影響で今回は不参加、当代の勇者が代わりに参加という形で落ち着いたのでしたっけ」

 

「ええ、出来れば来て欲しかったのですが、そこの馬鹿力が神殿ごと吹き飛ばしてしまってたせいで後始末に追われているのです」

 

「あはは……ごめんね?」

 

「となれば、規模の大きな宗派で参加してくださりそうなところは……ああ、いらっしゃったみたいですね」

 

「うわぁ、あんな恰好するのは焦った冒険者だけかと思ってたけど、ホントに着こなしてるのね……」

 

 聖人尼僧さんの指し示す先、地母神の僧兵が身体から湯気を立たせながらウォーミングアップをしている区画に近付く集団がいます。みな見目麗しい女性で片手に長剣、片手に盾を持ち、凛とした表情で男たちと対峙しています。あえて視覚的問題をあげるとすれば、全員下着鎧(ビキニアーマー)なことぐらいでしょうか。

 

 離れていても聞こえてくる言葉の応酬から察するに、どうやらお互いの恰好を問題視しているようですね。戦乙女の信徒たちは僧兵に向かってちゃんと防具を身に着けろと言い、僧兵は女性たちにもっと慎み深い格好をしろと返しているみたいです。それだけでは冒険者ギルドで深酒をした酔っ払いの罵りあいにしか聞こえませんが、不謹慎ですが面白いことに、双方とも互いを親身になって心配しています。もっと命を大事にしろという意味で防具を勧めている戦乙女と、ゴブリンやオークに襲われたらどうするのだと肌を隠すよう諭す僧兵。信じるものが違うために行き違っていますが、どちらも相手を重んじているが故の言動なのでしょう。……たぶん。

 

「そろそろ止めてあげたほうが良さそうですね。では私はこれで。みなさん、戦のあとの宴会でまたお会いしましょうね?」

 

 吸血鬼侍ちゃんの口から指を抜き取り、頭をひと撫でして喧騒へと向かっていく聖人尼僧さん。敗北や死をまったく考えていないあたり、やはりおっかない人なのかもしれません。その後姿を両手をブンブン振って見送る吸血鬼侍ちゃん。あ、女魔法使いちゃんが地面に投げ落としました。これは……嫉妬ですかな?

 

「それだけ元気ならもう背負ってなくてもいいわよね?」

 

「はい、ぼくはげんきです!」

 

 ならばヨシ! 埃を払いながら立ち上がった吸血鬼侍ちゃんの足はしっかりと地に付いており、先程までの腰砕けではないですね。キョロキョロとあたりを見回して、何かをさがしているみたいですが……。

 

「やっぱり、しんこうしているひとがすくないのかなぁ」

 

「なに、おなじ万知神の信徒でも探してるの?」

 

 女魔法使いちゃんの問いに首を横に振る吸血鬼侍ちゃん。≪手袋≫の中から大事そうに取り出したのは、仄かに暖かい黄金色のメダル。胸元に抱く様に握りしめて残念そうに溜息を吐いています。

 

「ああ、彼を探していたのですか。残念ですが彼とは連絡が取れなかったのです。五柱の神々を信仰する長には≪託宣(ハンドアウト)≫が届いたとのことですが、彼の信じる神がそうしたのかはわからないのです」

 

「残念だなぁ、ボクも久しぶりに会いたかったのに……」

 

 おやおや、勇者ちゃんも一緒になって溜息を吐き始めてしまいました。いざ戦となれば意識が切り替わるでしょうが、モチベーションや仲間との会話は勇者ちゃん一行にとって非常に重要ですからねぇ、フレア的な意味で。クライマックス前に稼いでおかないと困ったことになりかねません。なんとかテンションを上げていきたいところですが……おや? なにかがこっちに向かって来ています。寒さを孕んだ秋空に似つかぬ温もりを秘めた風を纏い、駆け抜けた後に生命の息吹を残し疾走する白い姿。勢いを殺すことなく接近し、剣聖さんと勇者ちゃんの危険感知判定に引っ掛かることもなくそのまま……。

 

 

 

 

 

 

どーん!!

 

「へぶっ!?」

 

「え、今度はなに!?」

 

 白い何かに跳ね飛ばされ、そのまま押し倒された吸血鬼侍ちゃん。頭を振って意識をハッキリとさせたその目に映り込んだのは……。

 

 

 

「ワン!」

 

 これから絵を描くキャンバスのように真っ白な毛並みを持った、一匹の狼でした。普段自分がみんなにしているように喉元や頬へふわふわの身体を擦りつけられ、困惑だった表情があっというまに幸福に満ちていきます。

 

「ふわふわ……もこもこ……」

 

「わふっ!」

 

 どうだ、すごいだろうと言わんばかりに唸る狼と、その首元に抱き着き幸せそうに顔を緩ませている吸血鬼侍ちゃん。突如出現したゆるふわ空間に一同が動けない中、後を追うように1人の人影がやって来ました。1人と一匹の傍に近付き、吸血鬼侍ちゃんの上に乗っかったままの狼を引き剥がし、そのまま肩の上に担ぎ上げてしまいました。

 

「クゥーン……」

 

「俺のツレが粗相をして申し訳ない。貴公、怪我は無いか? こやつも悪気があってやったわけでは……」

 

 おや? グレートヘルム(バケツ兜)越しの視線が注がれる先には、ぶつかった衝撃で落ちたのでしょう、太陽のメダルが。辺りを見渡し勇者ちゃん一行に気付くと、納得した様子で深く頷き、吸血鬼侍ちゃんに手を差し伸べそっと引き起こしてくれました。

 

「そうか、貴公が太陽に焦がれた吸血鬼。陽光の下で人と歩むことを決めたデイライトウォーカーであったか!」

 

 そういうと口を閉じ、何かを待つように吸血鬼侍ちゃんと対峙する鉄兜の騎士。吸血鬼侍ちゃんが逡巡していたのはほんの僅か、彼の意図を察し、瞳を輝かせてしゃがみ込みました。空気を読んだ狼が肩から飛び降り、彼も同じように屈んでいきます。初対面でありながら互いの呼吸は把握していると言わんばかりに完璧なタイミングで立ち上がり、背筋を伸ばし、両手をY字に高く掲げる2人。2人が声を発するのに合わせ、狼が大きく吠えた瞬間。黒い雲に覆われていた空が割れ、輝きが一帯を照らし出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「太陽万歳(たいようばんざい)!」」

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 ふぅ、なんとか合流してくれましたね……。太陽神さんてば現地での移動手段まったく考えてないんだから。聖騎士さんのEDに転移装置を捻じ込んで、一緒に跳んでもらったからなんとかなりましたけど。……まぁ、あの光景を見せられたらなにも言えませんて。みんな、いい笑顔で輝いてるなぁ……。

 

 





 頑張って聖なる数字を超えるために失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
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 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその10-3

 週一を維持していきたいので初投稿です。



 前回、太陽万歳!したところから再開です。

 

 雲の合間から差し込む光に照らされ、燦然と輝く大小ふたつの。当然アホみたいに目立つ訳でして……。

 

「シルマリルのその恰好久しぶりに見たわねぇ。じゃなくて、あの銀髪娘が集合かけてるからこっち来なさい」

 

「おお、密偵殿が来ているのか! では俺も同行しよう!!」

 

「ワン!」

 

 吸血鬼侍ちゃんをひょいと抱え上げ、みんなが集まっている一角へ歩く妖精弓手ちゃんと、その後ろに続く聖騎士さん&わんこ(狼)。傍から見たらめっちゃ味わい深い光景ですね。ん? 妖精弓手ちゃんが抱えた吸血鬼侍ちゃんの首筋に顔を近付けて鼻をスンスンさせてます。

 

「むぅ……あの2人の匂いがする」

 

 あ、これはいけません。やむを得ない事情があったとはいえ2人にちゅーちゅーされていたのは事実。半目で睨んでくる妖精弓手ちゃんのヤキモチは可愛いですが、戦闘前にやる気がダウンするのは好ましくありません。オロオロしている吸血鬼侍ちゃんを見て、溜息を吐いた妖精弓手ちゃんがそっと吸血鬼侍ちゃんの前髪を掻き上げ、露出したオデコに自分のそれをくっつけて囁いています。

 

「まぁ、あの森人義姉妹(エロフ2人)と違って理由もなく致す事は無いでしょうし、言いたくないなら言わなくていいわ。でも……んっ」

 

 言い淀んでしまった妖精弓手ちゃんの頬を両手で包み、口を塞ぐように唇を重ねた吸血鬼侍ちゃん。後ろの1人と1匹がガン見しているのも構わず、何度も啄むような口付けを敢行しています。頬を染めて口を結んでしまった妖精弓手ちゃんを真っすぐ見つめながら、躊躇いがちに言葉を重ねます。

 

「『しのめいきゅう』からもどったら、かならずぜんぶはなすから。だから、ちょっとだけじかんをちょうだい?」

 

「……しょうがないわねぇ。洗いざらい全部話してもらうわよ? シルマリルが隠していることも、あの2人がそんなことをしてた理由も」

 

 ふぅ、なんとか納得してくれたみたいですね。まぁ後回しにしただけという話もありますが。そんな事を話しているうちにみんなが見えてきました、ブンブン手を振っている勇者ちゃんに、吸血鬼侍ちゃんも両手を振って返しています。周囲には知識神(ライブラ)のヤベェ2人と聖人尼僧さんに率いられた僧兵、それに幌の無い馬車が3台。軽量な高速仕様なアレで『死の迷宮』入り口まで突っ切る算段なんでしょうか? とりあえず銀髪侍女さんに話を聞いてみましょう!

 

 

 

 

「道は用意した! あとは己が意志に従い駆け抜けるのだ!!」

 

「やれやれ、随分張り切っちゃってまぁ。……かく言う僕も結構高揚してるんだけど……ね!」

 

「あの2人も大概デタラメだけど、まわりの僧兵さん達も頭おかしいとは思わないかい、ご主人様?」

 

「うん、かっこいいよね!」

 

 半鬼人先生と傷あり司祭さん、2人の大技によって切り拓かれた道を疾走する3台の馬車。赤いスタチューと氷の結晶が舞い踊る花道を爆走するその周囲を守護するように、屈強な僧兵たちが上半身を微動だにせず脚部を霞む勢い(十傑集走り)で随伴しています。振動を吸収しきれずガタガタと大きく揺れる馬車にチームごとに分乗し、体力・魔力を温存したまま『死の迷宮』入り口へと向かっている最中。突風に吹き飛ばされる塵芥の如くゴブリンが空を舞う光景に、突入組は口を半開きにしたまま空を見上げています。

 

 ヨシ、斥候が集めてきた情報通りですね! 敵の殆どが赤い手の思想に染まったゴブリン、上背があるので目立つオーガやトロルも見えますがその数は少なく、歩兵にとって相性最悪な飛行ユニットも僅かに魔神やガーゴイルと思しき姿が見える程度のようです。

 

 高空から落下して赤いシミとなった同胞の亡骸を踏みしめ、勇敢に、或いは無謀に鉄の剣で斬りかかってきた小鬼の乗り手(ライダー)を乗騎の狼ごと拳で粉砕する僧兵を見て、いつも余裕顔を崩さない森人狩人さんの顔にも一筋の汗が流れています。素手で大立ち回りをしている僧兵を見て瞳をキラキラと輝かせている分身ちゃん。そういえば2人とも男性だと細身イケメンよりも武骨でたくましいタイプが好みでしたもんね。

 

 

 

 制御室奪還組はそんな分身ちゃんを見て緊張をほぐしている様子。他の馬車の様子はどうでしょうか?

 

 

 

「ねえ! どう考えたって只人(ヒューム)が出していい膂力じゃないと思うんだけど、いったいどうなってるワケ!?」

 

 風の音に負けないように大声を出しているのは妖精弓手ちゃん。問いかける先は、涼しい顔で馬車と並走(ダカダカ)している聖人尼僧さんです。匂い立つような色気に惹かれて集まるゴブリンをミンチに変えつつ、血染めの手を頬に添えてあらあらうふふと笑っていらっしゃいます。コワイ!

 

「母なる大地に肌で触れ、その加護を受けているんです。とはいえ彼らはまだまだ修行中の身、どうしても力任せになりがちなんです」

 

 な、なるほど。たしかに彼らと違って聖人尼僧さんはミンチメーカーしている際に力を込めている様子はありませんね。単純な筋力なんかじゃない、もっと凄まじい何かを感じます。

 

「私も力よりも技に重きを置いておりますが、流石にあの境地には達しておりませんの。……ミンチにするだけなら力は必要ありませんし」

 

「お、おう……」

 

「クソ、これだから逸脱者ってのは。……お前はこの状況についてどう思うよ?」

 

「別に、それぞれ得意不得意があるだけだろう。競うより自分の持ち味を生かすことを考えるほうが建設的だ」

 

 ほう、と悩まし気に息を吐く剣の乙女をドン引きした様子で眺める重戦士さんと槍ニキ。三羽烏の残る一羽であるゴブスレさんは……揺れる馬車の上にも拘わらず、装備の点検を行っています。分身ちゃんに連れられて飛行した時は具合悪そうでしたけど、地上走行なら乗り物酔いはしないみたいですね。槍ニキの愚痴にも律儀に返事しているあたり、だいぶ丸くなってきたんだなぁ……。

 

「あんな無茶苦茶している連中がまだ修行中って、その上はどんな化け物がいるってのよぅ……」

 

「あら、気になりますか? うふふ、もうすぐ見られると思いますよ」

 

 馬車の周囲で繰り広げられる非現実的な光景に、若干現実逃避し始めちゃった妖精弓手ちゃん。それに追い打ちをかけるように嫋やかに笑う聖人尼僧さんの口から衝撃の発言が。え? これ以上のトンデモ変態が来るんですか!?

 

 

 

「「「DEMOOOOOOOON!!」」」

 

「「「「「GOBGOBGOBGOBGOB!!」」」」」

 

「ひっ!?」

 

 うわ、上空を旋回していた魔神たちがおかわりのゴブリンを召喚し始めた!? よっぽど酷い環境に留め置かれていたんでしょうか、みな血走った目で涎を垂らし、車上の女子たちに熱い視線を向けています。無遠慮極まりない視線に怯えた声をあげ、思わず剣の乙女に抱き着いちゃった女神官ちゃん可愛いですね。増援として現れた小鬼弓兵(アーチャー)の射かけてくる矢が徐々に馬車を包囲するように近付いて来ています。制御室奪還組と儀式阻止組の馬車は吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが翼で降り注ぐ矢の悉くを打ち払っていますが、剣の乙女率いる陽動組の馬車は無防備な状態です。

 

「ど、どうしましょう。≪聖壁(プロテクション)≫を……」

 

 焦ったように杖を握りしめ、奇跡を乞おうとする女神官ちゃん。それを制止したのは、危機的な状況にそぐわない、のほほんとした聖人尼僧さんの声でした。

 

「大丈夫です。彼らが来てくれましたから」

 

 聖人尼僧さんが指し示す先、空の彼方から何かが来ています。ひぃふぅみぃ……両手の指には足りない程の集団が、布に包まれた大きな何かを抱えて飛行しているみたいです。困惑した様子の魔神たちを尻目に、馬車の頭上を優雅に旋回する数は9。一斉に抱えていた大きなものを投下しました!

 

 重力に引かれ加速したまま地表に近付き、ゴブリンたちを巻き込んでそのまま着弾! 9つの土煙が立ち込める中で、それぞれ1人づつ歩み出る者たちがいます……。

 

 身体を覆っていた粗末なローブを脱ぎ捨て、現れたのは……ん? なんというか、周囲の僧兵たちに比べるとこう、ふとましいというか、蓄えてるというか……全体的にぽっちゃりしてる男たちです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その顔には穏やかな笑みが浮かべられており、見る者の気持ちをほっとさせる不思議ななにかを感じます。彼らはいったい……?

 

「あ、あの方々はもしや……ッ!?」

 

 知っているのか女神官ちゃん!?

 

「小さいころ、神官長さまに聞いたことがあります。厳しい修練を積み、心身ともに鍛え上げられた僧の中でも限られた者だけが就くことの出来る役職。過酷な辺境を巡るために筋肉の上に脂肪を纏い、行く先々で神事を執り行う巡回説教者(サーキットライダー)。その姿は豊潤の象徴、その笑みは母なる大地の優しさの表れ。そしてその振るう力は……ッ!」

 

「「「「「GOBGOBGOB!!」」」」」

 

 折角の雌達を目前にして現れた突然の乱入者に対し、激昂して襲い掛かるゴブリン。雲霞の如く押し寄せるソレを()()()()()()()()()で捌き、突き込まれる毒液滴る刃は太く丸い指の先で止め、或いはその分厚い皮下脂肪でいなしながら馬車の周囲に広い円陣を組むように移動する男たち。その芸術的な動きに修行僧たちは感動の涙を流しています。脚幅を大きく開き大地の力を蓄えるように膝を曲げ腰を落とすと、両膝に手を添え、片方の足を天に伸ばすように高々と持ち上げました!

 

 

 

 

 

「……あらゆる邪気を祓う、大地が持つ≪浄化(ピュアリファイ)≫の力、そのものです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「≪神々よ、照覧あれ(ごっづ あんど でうす)≫!!」」」」」」

 

 

 

「「「「「GO……!?」」」」」

 

 天高く掲げられた足が振り下ろされ、踏み込まれた地点から広がる清浄なる波動。あらゆる穢れを取り除くそれは、周囲一帯の穢れを浄化していきます。無数に散らばるゴブリンの死体も、刃に塗りたくられていた毒も、そして、()()()()()()()()()。原作でもあった通り、穢れと認識されたものは須らく≪浄化(ピュアリファイ)≫の対象となってしまいます。だから、予め≪託宣(ハンドアウト)≫で告知する必要があったんですね(例の構文)。

 

「……って、こんな地面じゃ馬車で走れないじゃない!? まだ魔神も残ってるしどうすんのよ!?」

 

 穢れを吹き散らかした風が通った後に残されたのは、夥しい量の水。すべてゴブリンが原材料です。秋風で乾燥していた地面が水浸しとなり、うかつに走行すればぬかるみに車輪や足をとられてしまいそうです。非現実的な光景に声を失っていた一行の中で最初に我に返った妖精弓手ちゃんの声が響き、それによって他のみんなも現世に帰ってきました。上空を見れば、危険を察知して逃れた魔神が降下してきており、手駒を失った怒りをぶつけんと迫って来ています! 相棒である太陽の剣を握りしめ、馬車から飛び出んとする勇者ちゃんを止めたのは、聖騎士さんの大きな笑い声でした。

 

「ハッハッハ、心配無用! 頼れる同志がいるからな!! そら、そろそろ降りてくるぞ!」

 

 あ! そういえばふとましい彼ら……巡業力士巡回説教者を運んできた人たちがいましたね! 逆光で良く見えませんが確かに少しずつ降下してきているようです。……いや待って欲しい。翼も無しにどうやって人が空を飛ぶというのだろうか(哲学)。さらっと流してましたけど、見たところ羽根や飛行可能な呪物なんかは持って無さそう。というより、彼ら……もしかして……。

 

 

 

「ねえ、ちょっと私の頬にキスしてくれないかしら」

 

「? いいよ。ちゅ~……」

 

「ああうん、いつもの感触。ということは、私が目にしているのは紛れもなく現実なのね……」

 

 女魔法使いちゃんが遠い目をしていますが、大丈夫、吸血鬼侍ちゃんも含め、誰も事態を理解出来ていませんから。純白のトーガをはためかせ、ゆっくりと降りてくる9つの人影。筋肉の上に程よく脂肪が付いた肉体は、ギリシャ彫刻を思わせる色気を感じさせるものです。

 

 謎の光(教育的配慮)によってカバーされてますが、おそらくトーガの下は履いていないのでしょう。勇者ちゃんの目を剣聖さんと賢者ちゃんが手で覆ってます。そしてその顔は、聖騎士さんが身に着けているものと同じグレートヘルム(バケツ兜)によって隠され、個人が特定できないようになっています。

 

「同志たちが地母神のと共に巡業していたのは丁度良いタイミングだった! おかげでこうやって世界の危機に間に合ったのだからな!!」

 

「ワン!」

 

 1人と1匹がドヤっている向こうで、彼らが魔神たちと相対しています。身の丈ほどもある大剣や大斧を取り出す魔神と対照的に、無手のまま悠然と構える男たち。その姿を見た瞬間、吸血鬼侍ちゃんが馬車から落ちそうな勢いで身を乗り出し、危うい所で女魔法使いちゃんに引っ掴まれていました。

 

「ちょっと、いきなり危ないでしょ!? ……どうしたの、そんなにガン見して」

 

「あのひとたちから、おひさまをかんじる……」

 

「おお、貴公も感じるか! 同志たちが身に秘めた太陽の熱と光を!!」

 

 吸血鬼侍ちゃんが反応したのは太陽を感じたから? おっと、魔神たちが得物を振りかざして突進してきました。腰を低く落とし、迎撃の構えを取る聖騎士さんの同志たち。その両手が光を放ち、周囲が揺らめくほどの熱を持ち始めています!

 

「彼らは≪太陽の手≫を持つ者。寒さに震える者に手を差し伸べ、安らかなる陽だまりをもたらす者。同時に邪悪なるものを焼き滅ぼす、灼熱の怒りを秘めし者。この世の摂理を理解し、されど狂気に沈まず天上に輝き続ける者。即ち……」

 

 身体を両断せんと迫る刃に片手を向ければ、飴細工のように蕩ける魔神たちの武器。もう片方の拳に力を籠めれば、溢れ出す太陽(≪核撃≫)の力。呪文無効化能力を持つはずの魔神の外殻を易々と貫き、元の世界に召還することすら許さず原子にまで分解する滅却の拳。

 

「太陽神の代行者、核武僧である」

 

 突き出した拳をそっと戻し、合掌する核武僧たち。魔神はその痕跡すら残さず、この世界で滅んでいったようです。うーんこのトンデモ集団。もう冒険者はいらないんじゃ……。

 

「とはいえ、周囲へ与える被害も大きいので地母神のが張る浄化の結界が無ければ大変なことになるのだがな!!」

 

「わふっ!」

 

 あ、そこでバランス調整してるんですね。流石に無差別にどっかんどっかんやって四方世界が世紀末になるのはちょっと遠慮したいところです。え? ≪浄化(ピュアリファイ)≫は良いのかって? 世界に蔓延る病気を綺麗さっぱり洗い流しているだけですから(白目)。

 

「たいようのちから……からだにためる……」

 

 おや、吸血鬼侍ちゃんが何か考え込んでいます。核武僧さんたちの流儀を見て何か閃きそうなんでしょうかね? ちょっとガタが来ているとはいえ、クッソ頑丈な吸血鬼の肉体です。余程の無茶で無ければ好きにさせてあげましょう。

 

 

 

 さて、混沌の軍勢を突破して到着しました城塞都市跡。てっきり市街戦が待ってると思って身構えていたのですが……。

 

「「「≪神々よ、照覧あれ(ごっづ あんど でうす)≫!!」」」

 

「「「≪神々よ、照覧あれ(ごっづ あんど でうす)≫!!」」」

 

「「「≪神々よ、照覧あれ(ごっづ あんど でうす)≫!!」」」

 

 はい、ここは重要な戦域(シーン)では無いので巻きですねわかります。敵味方識別式のMAP兵器でクリアリングされた『死の迷宮』入り口前に着くと、すぐに始まった拠点の設営。馬車から降り立った吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが≪手袋≫から取り出した資材を使って、僧兵たちが瞬く間に防護壁を組み上げていきます。設営の指示を出しているゴブスレさんの指揮も同に入ったものです。牧場防衛ミッションや数々の巣穴攻略で培われた経験が生きているようです。

 

 さて、本来は防護壁が完成次第一行は『死の迷宮』へと踏み込む予定でしたが、ちょっと予定が変更となり女性陣が炊き出しを始めています。妖精弓手ちゃん、森人狩人さんの斥候コンビが瓦礫や石を利用して竈を組み上げ、そこへ乗せた大鍋に吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん、令嬢剣士さんがひたすら刻んだ食材を放り込んでいきます。穀物や根菜、干した魚に……あ! こっそり吸血鬼侍ちゃんが赤竜のジャーキーも入れてます。

 

 火力を調整している鉱人道士さんと蜥蜴僧侶さんが苦笑いしている間に沸々と煮え立つ具材たち。ただのごった煮になりかけたそれを立派な食事に変えるのは、一行の料理番たる女神官ちゃんと森人少女ちゃん。適当に詰め込まれていた≪手袋≫の中の調味料を駆使して、疲れた身体に滋味が染みる雑炊に仕上げてくれました!

 

「お待たせしました! おなかいっぱい食べてくださいね!!」

 

 大鍋2つぶん作られたソレを一抱えもある器に注ぎ、女神官ちゃんが運ぶのは地面に座り込んだマッチョの集団のところ。笑顔を浮かべて匙と一緒に差しだしています。でも僧兵たちはみな陣地構築に出払っていますよね? じゃあこの男たちはというと……。

 

「「「≪神々よ、今日の糧に感謝いたします(ごっづ あんど でうす)≫!」」」

 

「「「≪神々よ、今日の糧に感謝いたします(ごっづ あんど でうす)≫!」」」

 

「「「≪神々よ、今日の糧に感謝いたします(ごっづ あんど でうす)≫!」」」

 

 笑みを浮かべて器と匙を受け取り、流し込むような勢いで食べている独特な髪型の集団。察しの良い方はお分かりだったことでしょう。巡回説教者(サーキットライダー)さんたちですね! 道中でのゴブリンの群れを纏めて消し去ったのと拠点構築前のMAP兵器使用の影響もあって、蓄えていた脂肪(カロリー)を使い果たし、素体の筋肉ボディが露わになってしまったんだとか。再びMAP兵器を使用する(四股を踏む)には消費したカロリーを補給しないといけないということなので、急遽炊き出しが行われたわけです。

 

 鍋が2つ用意されているということは、他にもお腹を空かせた人がいるということ。そちらには剣の乙女と聖騎士さんが対応中。器用に背中に盆を乗せた狼がその後ろについていってます。

 

「さあ同志たち、腹いっぱい食べて再び輝きを取り戻してくれ給え!!」

 

 差し出された碗と匙を震える手で受け取る核武僧たち。その腕は枯れ木のように瘦せ細り、頭のグレートヘルム(バケツ兜)が一層のアンバランスさを醸し出しています。……あの、大丈夫なんですか彼ら? あっちの巡回説教者(RIKISHI)も大概ですけど、こっちは生命の危険を感じるんですが。

 

「ワン!」

 

 なるほど、人の身で太陽の力を完全に再現するのは難しく、エネルギー効率が悪いので極端に消耗してしまったと。ご飯を食べて日向ぼっこしてれば回復する? 太陽信仰すごいですね。

 

「ゆっくり召し上がって下さい。まだまだ沢山用意してありますので」

 

 剣の乙女の声掛けに頷きを返しつつ、グレートヘルム(バケツ兜)を被ったままゴブスレさんばりに器用に食事している核武僧たち。あっという間に食べ切り、おかわりを要求し始めてますね。あ、もしかして彼らが兜を脱がない理由って……。

 

「ガウ」

 

 やっぱり。個人としての顔を消すことと、ガリガリになった恥ずかしい姿を知り合いに見られたくないからなんですね。どちらの男たちも、大鍋が空になる頃には元の姿を取り戻しているあたり慣れっこなんだろうなぁ……。

 

 

 

「やあ、無事に防護陣地の設営は完了したみたいだね。それに彼らの補給も終わっているようだ」

 

 拠点構築が終了し、説教者と核武僧が腹ごなしの運動を始めた頃、後続を率いて銀髪侍女さんが到着しました。陣地の防衛はウォーミングアップをしているマッチョ集団と、彼女と一緒にやって来た戦女神信徒のおねーさま方にお任せする方向で話が決まっていました。消費する物資に関しても、≪手袋≫にしまっておいた余剰品のありったけを出したのと、おっつけ交易神の神殿から輜重部隊を連れて神官が派遣されてくる手筈となっています。戦闘には参加出来ずともせめて後方支援はしないと、今後肩身の狭い思いをするからなんだとか。うーん世知辛い……。

 

 何はともあれ、防衛の引継ぎが終わればいよいよ『死の迷宮』への突入です! ある意味吸血鬼侍ちゃんが産まれた場所でもある因縁の地ですが、一体どんな今週のビックリドッキリ変態強敵が待ち構えているのでしょうか。次回、ダンジョンアタック開始!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 GWにはなるべく話を進めたいのでので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がるかもしれませんのでよろしくお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその10-4

 思いもよらず筆がのったので初投稿です。


 うーん、3組に分かれてダンジョン攻略に挑戦するのは見栄えが良いけれど、どの組に焦点を当てるか悩ましいなぁ……。みんな魅力的だからそれぞれ応援神が憑いてるし、全員映したいけどそうすると広く浅くになっちゃうし、かと言って細かく切り替えてたら、何時ぞやみたいにまた大事な場面(シーン)を見逃しちゃったりしそうですし……。

 

 ウーム、ウーム……。あ、五月蠅くてすみません≪幻想≫さん、ちょっと今後の実況を如何しようか考えてまして。実は……というわけなんですけど、何か良い方法は無いものですかねぇ。

 

 ……えっ!? いや、確かにそうすれば間違いなく美味しい場面(シーン)を拾えますし、推しの良いトコロをみんな見られますけど……。わかりました、ちょっとGM神さんにも確認してみます。

 

 ……というわけで、無茶なお願いだとは思いますが……。OK? ホントに? やった、ありがとうございます! それじゃ早速無貌の神(N子)さんと万知神さんを呼んできますね!!

 

 

 

 準備ヨシ! じゃあ2人とも、こちらで待機しててくださいね。出番になりましたらお呼びしますので。

 

 

 

 

 

 前回、拠点防衛の引継ぎを終え、『死の迷宮』に突入するところから再開です。

 

 ボッタクルボルタック商店、ルイーダギルガメッシュの酒場、ルドン高原訓練場といった、かつてこの城塞都市が賑わっていた名残の跡地を通り抜け、いよいよ迷宮の入り口前に到着した一行。

 

 長らく封じられていた鉄の扉はこじ開けられ、此処を守護していたであろう兵士たちの血と臓物によって『赤い手』の御印(シンボル)がでかでかと描かれています。その扉を忌々し気に、或いは何処か懐かし気に撫でていた剣の乙女。一行に振り返り、懐から三束の羊皮紙を取り出しました。

 

「突入前に、各組の斥候担当にお渡ししておく物があります。私と彼女たち2人が記憶している限りを書き出した、『死の迷宮』の地図(マップ)です」

 

 妖精弓手ちゃん、森人狩人さん、ちょっと悩んで女魔法使いちゃんに手渡して、万が一各組の代表が斃れた場合、それを見ながら迷宮を脱出するよう伝えてますね。先人たちが血と時間で作り上げた地図の重さを確かめるように持つ3人。流出したら不味いので、絶対に無くさないでくださいね?

 

「それで、何でもない顔して一緒にいますけど、貴方()も同行するつもりなのですか?」

 

 賢者ちゃんが訪ねているのはキャラの濃い1人と1匹。何気に狼もカウントしているあたり只物ではないと感じているのでしょうか? あ、ちなみに下水ワニこと至高神さんの使徒(アバター)は今回神殿でお留守番。サイズが大きすぎて迷宮での行動には向かないんだそうです。

 

「おお! 勿論だとも。この世界の輝きを曇らせんとする異界の神、太陽神の信徒として許してはおけぬからな!!」

 

「ワン!」

 

 スッパリと言い切る聖騎士さんに同意するように、剣聖さんのお山に夢中になっていた狼も吠えています。欠食児童たちの食事を用意している時にもたわわな女子の間を行き来していたあたり、おっきいの好きなのは確定的に明らかですね。あれ、でもそうするとパーティ人数がオーバーしません? それとも7人じゃなくて6人と1匹だからセーフ?

 

「わふっ」

 

「ふぇ? どうした……おあ~」

 

 お、トコトコと狼が吸血鬼侍ちゃんに近寄って、襟元を咥えて器用に自分の背中に乗せました! これは……あわせて1人分換算ということですね?

 

「のせてくれるの? ありがとう!」

 

「ガウ!」

 

 首元に抱き着かれてまんざらでも無い様子の狼。おひさまのにおいを胸いっぱいに吸い込んで、吸血鬼侍ちゃんの顔も緩み切っています。普通の人サイズですと重さが大丈夫でも歩くだけでガックンガックンしそうですが、お子様サイズの吸血鬼侍ちゃんなら問題なさそうですね。

 

 呆れた様子でその光景を見ていた賢者ちゃんも、狼の頭を撫でながら「感謝するのです。なるべくその子の身体に負担をかけないようお願いするのです」と吸血鬼侍ちゃんの具合をそれとなく伝えてくれてます。……もしかして、こちらが思っている以上に吸血鬼侍ちゃんの疲弊は重大なんでしょうか。戦闘ではあまり負荷がかからないよう支援に徹したほうが良さそうですね。

 

 

 

 

 

 

「それじゃみんな、はりきって世界を救おうね! 頑張るぞ~……お~!!」

 

「「「「「お、お~……」」」」」

 

 勇者ちゃんのいまいち締まらない号令で『死の迷宮』へと足を踏み入れる一行。さて、ここからはちょっと変わった形式で各組の動向をお伝えしていきたいと思います!

 

 今までは吸血鬼侍ちゃんや分身ちゃんの撮れ高が高い活躍する場面(シーン)の度に映像(視点)が切り替わっていましたが、今回のパーティ分割は普段よりも多い3組。人数も増えてますね。あまり頻繁に映像(視点)が入れ替わると、視聴者の皆さんが全体を把握することが困難になってしまう可能性があると考えました。

 

 そのため、今回は特別に各組ごとに実況兼解説者を用意して、それぞれ応援している子が参加している組を担当していただくことになりました!

 

 陽動として迷宮上層を荒らしまわる剣の乙女率いる正統冒険者組は、様々なサービス(ネタ)で緊張感を演出し、煽って良いのは煽られる覚悟がある奴だけだと言わんばかりに身体を張って卓を盛り上げてくれている無貌の神(N子)さんが。

 

 実はお前が本体なんじゃという疑惑が常に付き纏う、吸血鬼侍ちゃんの攻め担当こと分身ちゃん率いる制御室奪還組は、彼女が卓に参加する切っ掛けを生み出し、48とも108とも噂される数多の(くち)プロレス技で吟遊詩人たちをムギャオーさせてきたマンチのマエストロ万知神(ばんちしん)さんが、担当として名乗り出てくれました。

 

 儀式阻止を目的とする吸血鬼侍ちゃん本体組は、引き続き自分が担当させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 

 お、ちょうど盤面では各組ごとに行動を開始したみたいですね! 先ずは陽動組から見ていきましょうか。担当のN子さん、よろしくお願いします!

 

 

 

 

 

 

 はいどーも! モンスター種族実況プレイ陽動組の部、はーじまーるよー!

 

 え、いつもと変わらない? そりゃアレですよ、急に口調(文体)が変わったらみんな混乱しますからね。あえて何時もと変わらない文体()を使っているんです。OK?

 

 まあ本筋に影響しない些事はポーイして、早速状況を確認してみましょう!

 

 さて、剣の乙女を中心にベテラン冒険者で固めた陽動組。バランスの良さは全組でも随一でしょう。理想的ガチタンな重戦士さんに、槍も魔法もイケるユーティリティプレイヤーな槍ニキ、装備を一新してようやく銀等級らしくなり、家族という守るべきものを手に入れ、ますます生存能力(サバイバビリティ)に磨きがかかったゴブスレさんの3人が前衛に。優秀な斥候であり貴重な遠距離急所攻撃(スニークアタック)技能を持つ妖精弓手ちゃん、等級詐欺なガチ後衛ビルドされた女神官ちゃんが後方に控えています。

 

 そして何より司教(ビショップ)として真言・奇跡を高レベルで両立させている剣の乙女! 原作のようにゴブリンへのトラウマが残っていたら危うかったかもしれませんが、この世界線(キャンペーン)ではすでに克服済み。何ならゴブリンの解剖を、鼻歌交じりに素手で行えるくらいのメンタルになっています。

 

 うん、やはり強化ボスラッシュ(やーなむフレンズ)は正解でしたね! みんな面白く成長してくれました。化身(フラック)をコッソリ送り込んでおいた甲斐があったというものです。あ、これオフレコでお願いしますね?

 

 

 

 おっと、目を離している間に早速接敵していたみたいですね。相手はゴブリンの集団、既に殲滅されちゃってます。まぁ所詮緊急補充した数合わせの雑魚、鎧袖一触ってヤツですね……って、槍ニキが負傷してる? 油断するような性格じゃありませんし、何があったんでしょう。

 

「クソッ、何だってんだあのゴブリン。キッチリ心臓を抉ってやったのに、最後っ屁かましてきやがった……ッ」

 

「動かないでください! ……毒は塗られてませんけど、結構深く斬られてますから」

 

 二の腕を抑えて荒く息を吐く槍ニキの傷を改めて、女神官ちゃんが応急処置を施しています。

小癒(ヒール)≫を使うほどでは無さそうですが、初戦でいきなり負傷者発生は先行き不安ですね……。

 

「ああ、妙に動きも良かった。逃げ場の無い迷宮内だから良かったが、もし屋外なら大振りな一撃は避けられるかもしれねぇ」

 

 周囲に両断されたゴブリンの死体を生み出した重戦士さんも首を傾げています。2人ともタイマンで小鬼英雄(チャンピオン)を屠れる技量の持ち主ですし、ただのゴブリン相手に手こずるような鍛え方はしてない筈ですが。お、ゴブリンの死体を検分していたゴブスレさんが、周囲の警戒をしていた妖精弓手ちゃんと一緒に戻ってきました。

 

「……戦闘中は暗くてよく見えなかったが、ただのゴブリンにしては装備の貧弱さに比べて異様に鍛えられている。俺の膂力では、小鬼殺し(こちら)でないと一撃で仕留められん」

 

 そう言いながら赤い光を放つ相棒を見つめるゴブスレさん。たしかに、朧げな輪郭(ワイヤーフレーム)しか見通せないので判別し辛いですが、死体を見れば刃毀れしたナイフと粗末な腰布だけの出で立ちなのに筋肉が非常に発達しているようです。

 

「精鋭に鍛え上げるつもりなら装備も良いものを与えるだろう。どうにも相手の頭目の考えが読めん。……!?」

 

 考え込んでいたゴブスレさんが突然剣を構えました! 兜の奥から鋭い目で見る先はゴブリンの死体。……徐々に迷宮の床面へと溶け込むように消えていきます。死体のあった場所には僅かばかりの金貨。その光景を見た剣の乙女の顔色が変わりました。これってもしかして……。

 

「まさか、迷宮が稼働しているというのですか……」

 

「ちょっと、一体何が起きてるワケ?」

 

 慎重に死体が消えた場所に近付き、落ちていた金貨を拾い上げた妖精弓手ちゃんが訝し気に訪ねています。他の面々も同様の面持ちで剣の乙女に視線を向けていますね。それを受け止め、剣の乙女が『死の迷宮』のシステムについて話し始めました。

 

「この迷宮内において、『死』は解放ではありません。死した者は魔力に還元され、迷宮に使役される存在と変貌します。何度倒しても現れる怪物。迷宮に精神を侵され祈らぬ者(ノンプレイヤー)へと堕した者。そして、志半ばで斃れた冒険者たち。すべて迷宮の従僕となり、新たな冒険者を呼び込むための疑似餌と成り果てるのです……」

 

「じゃ、じゃあこの金貨って……」

 

 疑似餌と聞いて察してしまったのでしょう。妖精弓手ちゃんが手に持っていた金貨を取り落としてしまいました。憂鬱な表情で金貨に視線を落とす剣の乙女に、皆かける言葉が見つからないようです。

 

「従僕に貶められたモノが斃れた時、その存在を削って報酬が遺されます。残りの魔力は再び迷宮へと還り、新たなカタチを得る。減少した魔力は報酬に釣られて迷宮に挑む冒険者で賄えば良い話です」

 

 うんうん、いつ何度聞いても効率的なシステムです。コレを組み上げた魔術師はよっぽど底意地が悪かったんでしょうねぇ。

 

「……待て。では()()()は、この迷宮で生まれたアイツは、()()()?」

 

「そうよ! 吸血鬼ってことは、シルマリルだって元々は人間だったんでしょ?」

 

 ゴブスレさんが言うアイツ、吸血鬼侍ちゃんの話題になると、剣の乙女は迷宮の壁面に寄りかかるように身体を預け大きく息を吐きました。本人のいないところで話すのは、と言いかけたところで、吸血鬼侍ちゃんなら何にも気にしないことが脳裏によぎったのでしょう。絶対気にしないと思うんで、話しちゃって構わんのやで?

 

 

 

「吸血鬼となる前のあの子については、本人も分からないそうです。冒険者だったのか、それとも何者かによって拐かれた一般人だったのか。確かなのは、あの子が此処、『死の迷宮』で死んだことだけです」

 

 昔、まだ祈らぬ者(ノンプレイヤー)だった彼女に聞いた話ですと前置きして、剣の乙女が語る吸血鬼侍ちゃんの始まり。このあたりは万知神さんしか把握してませんからねぇ。勿論N子さんも知りませんよ? ()()()()()、ね?

 

「吸血鬼となったあの子は、始めはとても弱かったそうです。同じ祈らぬ者(ノンプレイヤー)怪物(モンスター)、冒険者に何度も何度も殺され、嬲られ、弄ばれ。文字通り骨までしゃぶり尽くされた経験も、両手足の指ではとても足りなかったと」

 

 その光景を想像してしまったのでしょう。口元をおさえて蹲る女神官ちゃんの背中を妖精弓手ちゃんがさすってあげています。その彼女の顔色も、薄暗い迷宮内でハッキリわかるほど青褪めていますね。2人の姿を痛まし気に眺めながらも、剣の乙女の口は閉じることなく動き続けています。

 

「でも、決してあの子は諦めなかった。どんな手を使ってでも強くなろうと決意し、そして実行した。およそ私たちが思いつくあらゆる手練手管を、善悪の区別なく使ったそうです。ただ、生き延びるために……」

 

 そう! だからあの万知神(マンチキン)の目に留まった!!

 

 どんなに見苦しく無様でも、生きようともがき続ける滑稽な姿!

 

 どんな極悪人でさえ眉を顰めるような手を使いながらも、己が良心を歪めることなく保ち続けた、呆れるほど矛盾に満ちた人間性(ヒューマニティ)!!

 

 

 

 ……だからこそ、万知神()はあの矮小な(可愛らしい)吸血鬼の中に"輝き(祈り)"を見出したんでしょうね。

 

 

 

「不自然に敵と遭遇しなかった迷宮の最下層、むせかえるほどの血臭に満ちた玄室で、私たちはあの子と出会いました。無数の上位魔神や祈らぬ者(ノンプレイヤー)の屍に腰掛け、武器を構え警戒する私たちに、()()困ったような笑顔を向けて、こう話しかけてきたんです」

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、おひさまってどんないろをしているの? ランタンのひかりよりもあかるいの? たいまつのほのおよりもあったかいの? ……ぼくをころすまえに、おしえてほしいな!』……って」

 

 

 殺すことなんて、出来ませんでしたという言葉を残し、口を閉ざした剣の乙女。

 

 うーん、なかなかみんなのメンタルにクるものがあるみたいですねぇ。辺境三羽烏も俯いてしまってますし、女神官ちゃんと妖精弓手ちゃんの目には光るものが浮かんでいます。剣の乙女の眼帯が湿っているように見えるのは……目の錯覚ということにしておきましょう。

 

「それで、そのあとは? シルマリルはどうなったの?」

 

「詳細は陛下との誓約のためにお話し出来ませんが、『死の迷宮』を解放し、囚われていた魂が輪廻に還る中で、あの子は外の世界に出ることを選びました。吸血鬼という特徴を生かし、陛下付きの密偵として混沌の勢力に潜入し、後方の攪乱や首狩りに従事していたそうです。その後祈る者(プレイヤー)として目覚め、調査と監視を兼ねて私が預かっていたのです」

 

 そして、それが物語(キャンペーン)の始まりに繋がった、と。

 

 

 

「まあ、その、何だ。思った以上に深い話だったけどよ? とりあえず今は依頼のほうに注力しようや、な?」

 

 頭をガリガリと掻きむしりながらの槍ニキの言葉に、ハッと顔を上げる一行。そうなんですよね、しんみりしちゃってますけど、それはそれとしてまだ仕事が残っているんですよねぇ。

 

「そ、そう()す! 何故ゴブリンが強大化()ているのか、その原因も突き止めないといけま()ん!!」

 

 袖で涙を拭いながら言い放つ女神官ちゃん、舌を噛んじゃってます。かわいい。

 

「アイツが何であれ、今のアイツは()()であり、同じ目的を持つ()()だ。問題は無い」

 

「……やっぱりオマエ変わったな。だが今のほうが背中を預けられる。頼りにしてるぜ、辺境最優?」

 

 ゴブスレさんと重戦士さんも、武器を構え直して臨時の頭目(リーダー)である剣の乙女の指示を待っています。頷きを返し、最後に残ったメンバーに顔を向ける剣の乙女。

 

「もう、大丈夫ですか?」

 

「……ええ、スッキリしたわ。この依頼が終わったら、シルマリルをめいっぱい可愛がってやる。ふわふわフリフリの服を着せて、甘いお菓子を食べさせて、抱きしめながらめいっぱい甘やかしてやるわ! 森人義姉妹(エロフ)やおっぱいたちがドン引きするくらいにね!!」

 

 待ってなさいよシルマリル! と吠える妖精弓手ちゃんを、皆が苦笑しながら見ています。うん、これなら大丈夫そうですね。

 

 不自然に強大化したゴブリンの謎を追い、迷宮を進む一行。その先には、一体どんな真実が待っているのでしょうか? 続きは次の機会に。待て、しかして希望せよ!

 

 

 

 

 

 

 どうでしょう、こんな感じで大丈夫です? 良かった! じゃあ次回もよろしくお願いしますね!!

 

 にしても万知神さんてば無駄に凝り性なんだから。もっとわかりやすく軽い背景設定でも良いと思うんですけど。

 

 え? 背景設定と愛は重ければ重いほど萌える? うわ、正直ドン引きですよソレ……。

 

 まぁ、次回は途中からそちらに引き継ぐことになるでしょうけど、あんまりGM神さんを困らせないであげてくださいね?

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 




 週2くらいのペースで更新できたらなぁと思うので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がるかもしれませんのでよろしくお願いいたします。

 遅れることもありますが、なるべく感想にはお返事をさせて頂いてます。やはり感想こそ更新のための燃料、はっきりわかんだね(感想クレクレ厨)。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその10-5


 GW前に進められるところまで進ませたいので初投稿です。



 前回、吸血鬼侍ちゃんの過去がちょこっと明らかになったところから再開です。

 

 思わぬ強さのゴブリンに手傷を負った陽動組。『死の迷宮』の恐ろしさと吸血鬼侍ちゃんの波乱万丈な生い立ちを噛み締めながら薄暗い通路を進んでいます。

 

 先頭を歩くのは夜目が効き高い探索技能を持つ妖精弓手ちゃんと、暗視技能を付与する兜を被っているゴブスレさん。クソマンチ師匠に仕込まれているので、妖精弓手ちゃんには及びませんがこちらも探索が出来る前衛ですね。その2人に守られるように中心に立ち、女神官ちゃんが持つ頼りないランタンの灯りに照らされた通路を迷いなく進んでいくのは剣の乙女です。

 

「ああもう、ひっきりなしにゴブリンと遭遇(エンカウント)するせいで何処にいるのか分からなくなっちゃったじゃない!」

 

「先程5-9の転移床(ワープポータル)を通りましたので、今は転移先の15-4付近ですね」

 

「マジか。注意してたつもりだったんだが、魔力の反応なんざ感じなかったぜ……」

 

 地図とにらめっこしながら頭を抱えている妖精弓手ちゃんを見て、苦笑しながら指先で地図の現在地を指し示す剣の乙女。後ろで槍ニキが驚いていますが、どうやら制御室を乗っ取った連中が迷宮全域に探知を阻害するようにジャミングをかけているみたいですね。先ほど他の組を見ている2人からも≪転移(マロール)≫が使えなくなっていると連絡がありました。まぁ直接制御室や最奥に乗り込まれるのは嫌でしょうし、対策はしているということなのでしょう。速攻でのりこめ~出来たら楽だったんですけどね……っと、先導していた妖精弓手ちゃんが複数並んだ玄室の扉の見える場所で立ち止まり、後ろ手に『待て』のハンドサインを出しました。

 

「あの右側の扉の奥からあいつらの出す騒音が聞こえる。一緒に微かに悲鳴みたいなのも聞こえるけど……人のものじゃないみたい」

 

 悲鳴と聞いて一歩進み出たゴブスレさんを制しつつ、困惑した様子で扉を見ている妖精弓手ちゃん。言われてみれば他の扉付近は汚物や腐敗した何かが散乱していますが、妖精弓手ちゃん指差す扉だけはそういったものが見られません。

 

「……あ」

 

「……何か思い当たるものが?」

 

 おや、何かに気付いたのか剣の乙女が口元に手をあてています。貪欲に情報を求めるゴブスレさんの問いに頷きを返し、推測を話し始めました。

 

「先程の扉、あの中には迷宮の悍ましき本質、斃れた冒険者の末路がいる筈。()()を利用していたのならば、ゴブリンの強大化にも説明が付きます……」

 

 右側の部屋……強大化……あっ(察し)。そうか、迷宮が稼働しているのならアレもまた復活してもおかしくはないですね。でも、まさかアレをゴブリンにやらせるとか控えめに言って正気を疑いますよ? 知能はそのまま、力だけが増したゴブリンなんてそうそう御せるもんじゃありませんし。

 

「よくわからないけど、あの部屋の中にあるモノがゴブリンを強くしている原因なんでしょ? だったらさっさと取り戻さないと!」

 

「そうですね、早く解放してあげましょう……」

 

 剣の乙女の言い方にみんな違和感を覚えているみたいですが、先陣を切る様に歩き出す彼女の後を追うように例の扉の前に向かっています。扉に触れられる程の距離まで近付けば、妖精弓手ちゃん以外の耳にも耳障りな声と何かを殴る打撃音、そして人のものとは思えぬ呻き声が入って来ましたね。

 

「ゴブリンは30くらい、それ以外に大型の何かと、ゴブリンに殴られてる何かがいる……ほんとに囚われた人じゃないのよね?」

 

「ええ。この迷宮に囚われてはおりますが、最早人とは言えない存在となっているはずです」

 

 念押しするように問う妖精弓手ちゃんに、悲しげな顔で首を横に振る剣の乙女。剣を抜き放ったゴブスレさんが扉を蹴り開ける位置に立ち、女神官ちゃんに目配せしています。

 

「≪聖光(ホーリーライト)≫で奴らの目を奪う。……今日は煙を吹く奴はいないからな」

 

「……ふふっ、はい! わかりました!!」

 

 緊張を解すためかあるいは素なのか。吸血鬼侍ちゃんがいないことを付け加えるゴブスレさんの言い方に思わず笑っちゃってる女神官ちゃん。ひとしきり笑った後、キリっと表情を変え詠唱に入りました。

 

「俺らはデカブツを先に落とす。悪ィが暫く持たせられるか?」

 

「問題ない。……任せろ」

 

「応、任せた。……征くぞ!!

 

 左の拳を突き合わせた辺境三羽烏。ゴブスレさんが扉を蹴り開け、重戦士さんと槍ニキが玄室の中へと突入! 同時に発動した女神官ちゃんの≪聖光(ホーリーライト)≫が扉に注意を向けたゴブリンたちの視界を奪い、目を抑えてのたうっているところを妖精弓手ちゃんの矢とゴブスレさんの≪小鬼殺し(オルクボルグ)≫によって次々と斃されていきます。殆どが普通のゴブリンですが、やはりどの個体も体つきが逞しくなっていますね。

 

「チッ、小鬼英雄(チャンピオン)人喰鬼(オーガ)なら楽に仕留められると思ってたんけどよ」

 

「ああ、まさかコイツがゴブリンの面倒を見るようなヤツだとは思わなかったな……」

 

 通り過ぎ様に何匹かを排除しつつ重戦士さんと槍ニキが吶喊する先、ゴブリンたちを監督していたと思しき巨大な姿。右手に大剣を、左手に炎を纏った鞭を携え、頭部からは雄々しき双角を生やした異形が待ち構えていました。配下のゴブリンが奇襲によって数を減らしていく様を見て怒りの雄叫びを上げているのは、以前も見たことのある火炎魔神(ヴァララカール)です!

 

「Valararararararara!!」

 

「おっと、そんなへっぴり腰の鞭なんざ当たるかよ!」

 

 縦横無尽に振るわれる鞭を搔い潜り、足首や膝裏など大型生物を相手取る際の定番部位を攻め立てる槍ニキ。その表情には余裕すら感じさせます。分厚い外皮によってダメージの大半は防がれてしまっているようですが、ただでさえ赤い魔神の顔が苛立ちによって燃え上がるような色に変わっていきます。ならばこれならどうだと言わんばかりに、伸ばしていた鞭を左手に引き戻し右手の大剣を大上段に構え、斬り潰す勢いで振り下ろしますが……。

 

「ダメだな。力は強いが、技術が伴って無ぇ。流れに手を加えられりゃあ……そらよ!」

 

 おお、間合いに踏み込んだ重戦士さんが愛用のだんびらで大剣の斬撃に割り込み、綺麗に受け流しました! 砕かれた床材を足場に頭部へ肉薄した槍ニキが、跳躍の勢いそのまま魔神の右目を抉り抜きます。思わず大剣を手放し、傷口を抑える火炎魔神。残った片方の目には、ゴブリンたちの悲惨な死に様が映し出されています。

 

 

 

「8……9……これで10!」

 

「オルクボルグ! そろそろ下がって!!」

 

 ゴブリンが奇襲から立ち直るまでにおよそ三分の一を屠ったゴブスレさんが、後衛を守るために少しづつ入り口付近へ後退していきます。妖精弓手ちゃんの矢も合わせれば半数を()ったところで守勢に切り替え、視界が復活したゴブリンたちを牽制していますね。群れの半数を失いながらも、ゴブリンたちの目には恐怖ではなく馬鹿にされた怒りが満ちているあたり、()()を利用したレベリングは効果を発揮しているみたいですね。ゴブスレさんの後ろに控える女性3人を見る瞳には、綺麗なものを穢し尽くしてやろうという悪意が満ち溢れています。

 

「も、もう一度≪聖光(ホーリーライト)≫を……」

 

 再び聖句を唱えようとした女神官ちゃんを制し、剣の乙女が一歩前に踏み出しました。その豊満な肢体を食い入るように見つめるゴブリンたちに何の感情も浮かんでいない一瞥を向け、至高神への祈りを捧げ始めました。

 

「裁きの(つかさ)、天秤の君よ、罪ある者、咎なき者、遍くへ平等に水を」

 

 あーあー、女神官ちゃんの顔が引き攣っちゃってます。わかります、こんな使い方するなんて普通じゃありませんからね。でも、()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「「「GO・・・・・・GOB・・・・・・」」」」」

 

 剣の乙女に跳びかかったゴブリンたちが次々に水へとその姿を変えるあまりにも非現実的な光景に、思わず硬直してしまう火炎魔神(ヴァララカール)。仕方がありません、たとえ思いついたとしても誰もやろうとはしなかった禁忌の使い方ですからねぇ。ですが、戦闘中にその隙は命取りです。

 

「Valara・・・・・・!?」

 

 心臓と眉間、二つの急所を貫かれ地響きを立てて崩れ落ちる巨体。やがて粒子へと変わり、その場には魔神の核と幾許かの金貨が落ちているばかり。損害無しで敵対勢力の排除は完了しました!

 

 

 

「ふむ、どうやら≪浄化(ピュアリファイ)≫されたゴブリンは魔力に還元されないようだ」

 

「ええ。恐らくそれを見越して神々は≪託宣(ハンドアウト)≫を(したた)められたのでしょう」

 

 お、戦闘が終わり各自損耗の確認をしている最中ですが、床面に残り続ける水たまりを見てゴブスレさんが我々(神々)の思惑に気付いてくれたみたいです! 外でのMAP兵器使用はあくまで戦域を限定するための舞台操作、本当の目的は『死の迷宮』が貯蔵している魔力を減少させることにありました。システムが外部と切り離されて運用されている以上盤面外(こちら)から直接干渉するのは難しかったので、急遽万知神さんが考案した方法でしたが、どうやら上手くいきそうですね!

 

「みなさん怪我もされていませんし、このまま上層から浄化していけば……あれ?」

 

「あ、ちょっと何処行くのよ!?」

 

 おや、何かに気付いて女神官ちゃんが駆けだしました。慌てて後を追う妖精弓手ちゃんと一緒に、部屋の奥に鎮座している彫像の傍へと近づいていきます。その手前には、戦闘中には居なかった筈の人影が倒れています。

 

「あの、大丈夫です……ひっ!?

 

「いきなりどうしたの……ヒィッ!?

 

 うつ伏せの状態で僅かな身じろぎと微かな呻き声を上げるだけのそれに近寄り、抱え起こそうとした女神官ちゃんの口から悲鳴が。突き飛ばすように距離を取った女神官ちゃんとの間に割り込むように立った妖精弓手ちゃんからも、同じように悲鳴が漏れました。

 

 プルプルと小刻みに震えながら、人形が繰り動かされるように立ち上がる人型。警戒を促しながら近寄る辺境三羽烏に向き直った瞬間、彼らの口からも困惑の声が流れ出てしまいました。

 

 

 

「A……AhAh……」

 

 重心が定まらないのか、前後左右にフラフラと揺れる立ち姿。時折痙攣するように身体が跳ねるのは絶え間ない苦痛に因るものでしょうか。頬がこけ、年齢はおろか性別すら判別できない程に歪んだ顔。落ち窪んだ眼窩には眼球は無く、ただ赤黒い涙が溢れています……。

 

「……これが、迷宮で斃れた冒険者の行き着く最終地点です。限界まで魔力を削り取られ、もはや個を保つことすら出来なくなった魂の集合体。責められ、嬲られ、痛めつけられることだけが存在意義な半実体の木偶人形。そして……」

 

「……何となく想像出来るけど、教えてちょうだい。シルマリルと正面から向かい合うために」

 

 そこで躊躇うように口を噤んでしまった剣の乙女。妖精弓手ちゃんが唇を噛み締めながら、それでも強い意志を秘めた眼差しで先を促しています。その眼力に後押しされるように、決定的な一言を剣の乙女が口にしました。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「―――っ!」

 

 聞きたくなかったと言わんばかりに耳を塞ぎ、しゃがみ込んでしまった女神官ちゃん。その横を通り、彫像の傍へと近付いていくのはゴブスレさんですね。努めて無感情な声を保っているのか、普段よりも抑揚無く聞こえる問いは剣の乙女に対してです。

 

「つまり、あの残滓は殺しても()()がある限り再生成され続けるのか?」

 

「はい、限界だった魂は完全に砕け散り、その欠片は殺害者に吸収され、糧となるそうです。ここにゴブリンを配置したのも、それを利用するためでしょう」

 

 うーんなるほど、吸血鬼侍ちゃんも強くなるために此処でお世話になってたんですねぇ。冒険者や徘徊する怪物(ワンダリングモンスター)から逃げながらのレベリングは時間がかかったことでしょう。残酷な物言いかもしれませんが、『死の迷宮』に挑戦した時点で自分の命はベットしたようなもんですからね。魂の欠片まで利用し尽くされても文句は言えないでしょう。

 

 この中で、今までに先生にお世話になったことのない冒険者だけが吸血鬼侍ちゃんに石を投げなさい。……今現役の冒険者からはいっぱい飛んできそうですね。

 

 

 

「この像を破壊してもソイツの生成は止まらねえのか?」

 

「像自体が迷宮によって再生成されてしまうので、破壊は意味を成しません。制御室を奪還するまで封鎖しておくのが最善でしょう」

 

 彫像を槍で指し示しながら壊すことを提案する槍ニキに否定の言葉を投げかける剣の乙女。流石にそのあたりはしっかり対策されているんですね。でないとあっという間に破壊されちゃうでしょうし。

 

「それにだ。封鎖するにしても、先ずはアイツらをなんとかしねえと」

 

 重戦士さんがだんびらを向けた先、部屋の入り口からは新たなゴブリンの声が聞こえて来ています。恐怖による統制か、あるいは力が増す事を知って利用するつもりなのか。どうやら先程殲滅した群れはほんの一部だったようですね。交代でやって来たと思われるゴブリンが近付いて来ています。

 

「此処で待っていれば、ゴブリン共は勝手に集まってくる。後は消耗を抑えつつ、適宜≪浄化≫すればいい。それが他の組への援護になる」

 

 懐から油壷を取り出しながら、何でもないように言い放つゴブスレさん。たしかにいつもの巣穴殲滅と比べれば有利な地形で迎え撃てる分楽かもしれませんね! ()る気に満ちたゴブスレさんを見て、やれやれと言った様子で得物を構え直す重戦士さんと槍ニキ。泣きじゃくっていた女神官ちゃんも、涙を拭って立ち上がり、獰猛な笑みを扉へ向けています。

 

「これが他の皆さんの助けになるというのなら……。私、頑張ります!」

 

「近付いてくるゴブリンは私たちが足止めするから、おっぱいと一緒にバンバン≪浄化≫しちゃいなさい!」

 

「お、おっぱい……」

 

 おお、どうやら女神官ちゃんも()る気になってくれたみたいです! 構えた杖の先端を入り口に向け、汚物は浄化せんとする強い意志を感じさせる佇まいです。妖精弓手ちゃんを挟んで反対側にいる剣の乙女が肩を落としていますが、おっぱいで通じるから仕方ないですね。あ、重戦士さんと槍ニキ、そんなにチラ見してたら後で奥様達に報告しちゃいますよ? それは吸血鬼侍ちゃんのものです。

 

「まずは火で足止めをして、纏まった瞬間に一網打尽にする。あとは手札を入れ替えながら繰り返すだけだ。……いくぞ」

 

「「「「「GOBGOBGOB!!」」」」」 

 

 入り口から雪崩れ込んできたゴブリンに油壷が投擲され、先頭が怯んだところに妖精弓手ちゃんの矢が飛んで行ったあたりでそろそろ他の組の様子を見て見ましょうか! 次は万知神さん担当の制御室奪還組、分身ちゃんチームです!! では万知神さん、お願いしまーす!

 

 

 

 

 

 

 はい、モンスター種族実況プレイ制御室奪還組の部、実況と解説は万知神でお送りさせて頂きます。

 

 まず、最初の昇降機(エレベーター)の使用は儀式阻止組と同様なのですが、彼らのほうが深くまで潜りますので先に行ってもらうことに。昇降機(エレベーター)までの道のりにある光を通さぬ空間(ダークゾーン)を抜けるのに時間がかかるかと思っていましたが、吸血鬼侍ちゃん、分身ちゃんが普通に見通せていることが発覚。全員をロープで結び、楽しく電車ごっこしながら難なく通過してしまいました。どうやら『死の迷宮』で生まれた2人は各階層の光を通さぬ空間(ダークゾーン)を無視できるみたいです。これは思わぬ幸運でした。

 

 一階まで戻ってきた昇降機(エレベーター)に乗り込み、四階まで一気に下ってきた一行。進行方向逆側の通路の先、扉の奥から聞こえる断末魔の悲鳴はおそらくもうひとつの昇降機(エレベーター)を守護していたルームガードのものでしょう。ブルーリボンを身に着けた吸血鬼侍ちゃんが嬉々として殴り掛かっている姿が目に浮かびます。合掌。

 

「一階はゴブリンだらけだったけど、この階には居ないみたいだね」

 

「そうですね上姉様。通路や玄室の内部に()()()()がしませんので、恐らく昇降機(エレベーター)を利用しての移動が許されていないのでしょう」

 

 お互いに頷き合っている森人義姉妹(エロフ2人)。彼女たちの言う通り、一階昇降機(エレベーター)までの道のりではうんざりするくらいのゴブリンが襲い掛かって来ていました。儀式阻止組と一緒だったので勇者ちゃんが纏めて通常攻撃(全体化済)で滅してくれましたけど、勇者ちゃん一行が一緒じゃなかったら面倒だったかもしれません。

 

「ゴブリンの代わりに人喰鬼(オーガ)やら巨大蜘蛛(ヒュージスパイダー)がわらわら出て来てはおりますけども……」

 

 困ったような令嬢剣士さんの見つめる先、通路の先のほうからは、何かが壁面に叩きつけられる音と断末魔の悲鳴、ついでに蟹の甲羅をパキっと割っているような音が断続的に響いて来ています。やがて音が止み、大小2つの人影が戻ってきました。手には細長いものを幾つも抱えているようですけど、アレは何でしょうか?

 

「いやー甘露甘露! まさか火を通すことで身が締まり、甘みも増すとは思いもよらぬ幸運ですな!!」

 

「うん、そのままたべるよりもおいしい!」

 

「おう、まさかそりゃ今仕留めたヤツじゃあるめえな……?」

 

 黒焦げになった殻を歯で粉砕し、湯気を上げる中身を頬張りホクホクとした表情を見せる2人。鉱人道士さんと令嬢剣士さんの顔が引き攣っているところから察するに、退治したばかりな採れたて巨大蜘蛛(ヒュージスパイダー)の脚部みたいです。辺り一帯にナッツにも似た匂いが広がり、森人2人もゴクリと唾を飲み込んでいます。

 

 というか、そのままって昔の話ですよね? 今向こうで齧ってたわけじゃないですよね???

 

 

 

「けぷ。うん、ごちそうさまでした」

 

 だいたい一匹ぶん、8本ほど食べてご満悦の分身ちゃん。流石に胴体部は令嬢剣士さんによって止められてしまったみたいです。迷宮内で食べているものを考えると怖いものがありますが、蜥蜴人とアンデッドならきっと大丈夫でしょう。分身ちゃんなら最悪腹掻っ捌いて出しちゃえば良いわけですし。

 

「うんうん、ご機嫌なようで何よりだよご主人様。それで、この先に迷宮の制御室があるんだったかな?」

 

「うん、まりょくじゅんかんシステムやしょうこうきのかんりもそこでしてるはず」

 

 口元の食べかすを森人少女ちゃんに拭われながら分身ちゃんが答えているように、四階の制御室に赤い手の協力者……売国奴と黒狐がいる可能性は高いです。もし最下層に纏まっていたら? 勇者ちゃんが薙ぎ払って終了なのでむしろ楽ですね。……っと、先程から何か考え込んでいた令嬢剣士さんがおずおずと手を上げていますね。

 

「……あの、考えていたのですけど。やはりおかしくありません? 儀式の邪魔をされたくないのでしたら昇降機(エレベーター)を稼働させる必要なありませんし、もしそうされていたら私たちも此処まで容易には来れなかった筈。何か別の思惑を感じませんか?」

 

「フム、あえて懐に飛び込ませる理由があると?」

 

 戦の作法に関してはこの中でいちばん詳しいであろう蜥蜴僧侶さんも、言われてみればという感じに首を捻っています。言われてみれば、≪転移(マロール)≫を使えなくするだけで昇降機(エレベーター)は乗れるというのもおかしな話です。……まさか引き込まれてる?

 

「ここで悩んでてもしょうがないじゃろ。途中で消耗せんで来られただけ儲けと思ってたほうがええ」

 

「そうだね。はやくコントロールをとりもどして、ほかのくみをえんごしなきゃね!」

 

 鉱人道士さんの言葉に頷き、足早に進む一行。進入禁止の標識を無視し、響き渡る警報(アラーム)も意に介さず突き進んでいきます。さて、何も無ければ配置されているガーディアンは固定なんですけど、介入によってどう変化しているのか。注意しておいたほうが良さそうですね……。

 

 

 

「おっすおじゃましまーす」

 

「あの、その言葉使い、何故かイラっとしますので止めていただけませんこと?」

 

 分身ちゃんが勢いよく扉をキックし、突入した制御室。広々とした部屋の中に2人の男が待ち構えていました。どちらもがっしりとした体格の壮年で、浅黒い禿頭にふさふさの狐耳が生えているほうが、混沌の勢力との橋渡し役である商人、黒狐でしょう。自信に満ちた、或いはふてぶてしい笑みを浮かべて一行を品定めしているように見えます。

 

 となると、隣に悠然と立っている貴族風の男。人好きのするような、見方を変えれば薄っぺらい笑みを浮かべているのが旧王派閥の貴族、売国奴でしょうか。同じように一行を……ん? いえ違いますね。特定の誰かをじっと見つめているみたいです。視線の先にいる人物に、大仰な身振りを交えながら話しかけ始めました。

 

 

 

 

 

 

「10年以上の年月を経て、やっとこうして君と逢うことが出来た。これも全ては真の知恵者たる()()()の導きというものだろう。あの日、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()! ああ、やはり君は私の理想とする女性だよ、永遠に幼き吸血姫!!」

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

「「「「「……え?」」」」」

 

 

 

……え?

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、もしもし覚知神(クソ野郎)? なんかウチの娘に色目使うオッサンが覚知神の導きとか言い出してるんだけど、何か弁明はあるかい?

 

 

 





 間を空けずに更新したいので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。新たにお読みくださった方から初めのほうに残っていた誤字脱字を教えていただき、まだ残っていたのかと思う次第であります。

 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がるかもしれませんのでよろしくお願いいたします。更新の燃料になります故……。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその10-6

 舞台裏でいろいろ暗躍し始めているので初投稿です。




 いやね、覚知神()のことは大嫌いだけど、唐突な閃きの大切さってのは認めてるんだよ、これでも。

 

 入浴中にEureka(わかった)!!って叫んだ数学者然り、自分の尻尾を噛んだ蛇の白昼夢からベンゼン環に思い至った化学者然り。7試合で引退したウィズボール(やきう)選手の耳元で囁いたのは絶許だけど。

 

 でもさ、流石に売国奴(アレ)は酷くないかい? よりにもよって他人の愛し子(推し)にぶつけてくるなんて。もしかしてアレかい? 『そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな』って言われたいとか? 全力で軽蔑してあげるよ?

 

 なに、もうちょっと場面(シーン)を見守って欲しい? そうすれば≪託宣(ハンドアウト)≫を渡した理由が分かる? ……いいよ、君がそこまで言うのならもう少し黙って見ていることにしよう。ただ、もし何かあったら卓上(あっち)の太陽神さんもそこの地母神さんも盤外乱闘の準備をしていることを肝に銘じておくことだね。これは腐れ縁からの忠告だよ?

 

 

 

 

 

 

 コホン。前回、吸血鬼侍ちゃんの強烈なファンが現れたところから再開です。

 

 支配者のポーズで大胆な告白をした売国奴を見て、分身ちゃんたちも呆然と立ち尽くしているばかり。何とも言えない空気が制御室を漂っています。

 

 しかし、10年以上前から分身ちゃん……『吸血鬼侍(ヴァンパイアロード)』を知っているということは、彼もまた迷宮に挑んでいた元冒険者だったりするのでしょうか。そのあたり詳しく銀髪侍女さんに聞いておくべきだったかもしれませんね、いつもの実況担当が。

 

「ふぅン、その言い方だと、ひょっとして君も冒険者だったりするのかい?」

 

 お、いち早く復活した森人狩人さんが気になっていたことを訪ねてくれました。止まったままの分身ちゃんを抱き上げ、彼に見せつけるように頬擦りしているあたり良い性格してますよね。

 

「その通りだよ葉っぱ喰いの狩人君。家督を継げぬ辺境貴族の三男坊だった私だが、魔術の才能はあってね。かつて学院で学んでいたこともある。そして自分の力を試したくて『死の迷宮』へ挑むために学院を飛び出したんだよ。そこの実家に家名に泥を塗っている彼女のようにね」

 

 わぁお、これが社交界で鍛え上げられた舌戦の作法ってやつですね。軽いジャブを放ったつもりが全方位に反撃が飛んで来て、森人狩人さんと令嬢剣士さんの顔に青筋が浮かんでます。森人狩人さんが戦棍を起動しようとして森人少女ちゃんに羽交い絞めにされちゃいました。

 

「どうどう、上姉様落ち着いてくださいませ。……それで、学院から『死の迷宮(ここ)』を訪れて、冒険者として生活していたのでしょうか?」

 

「ああ、そうだ。幸いなことに一党(パーティ)にも恵まれてね、あの『六人の英雄(オールスターズ)』や国王陛下が率いていた一党(パーティ)ほどではないが、誰一人欠けることなく迷宮最下層まで到達することが()()()程度の実力は持っていたよ」

 

 え、結構強くないですかそれ? 過去を懐かしむように語る彼を見る一行の目が、変態を見る目から警戒対象を見るそれに変わっています。少なく見積もっても銅等級、下手をすれば銀等級近い実力はあるかもしれません。でも、到達することが()()()ってことは……。

 

「残念ながら、私たちは優秀ではあっても英雄では無かった。『六人の英雄(オールスターズ)』が最下層へ挑み、君主(ロード)が混沌の軍勢を迎え撃つために迷宮を離れた時、功を焦ってしまったんだ」

 

 淡々と彼が語る過去の惨劇は、階層こそ違えど『死の迷宮』ではありふれたものでした。想定外の消耗の早さに撤退のタイミングを見失い、行き詰る一党(パーティ)。奇襲をかけてきた上位魔神(グレーターデーモン)によって次々と斃される仲間たち。頼みの魔法も使い切り、手に持つ杖のみが武器という末期戦。

 

「君と出会ったのはその時だ! 私の腰ほどまでしかない小さな体躯で上位魔神に斬りかかり、膝、股間、腰、両肩と鮮やかに切断していく剣舞! 上半身が床に落下する前に首を刎ねるのを見た瞬間、死の恐怖で縮み上がっていた私自身に全身から血が集まるのがありありと判った!!」

 

 恍惚の表情で叫び出す売国奴に、再びドン引きの一行。あ、大声で分身ちゃんが再起動しました。キョロキョロと周りを見るその姿に、過去出会った『吸血鬼侍(ヴァンパイアロード)』を重ねて見ているのでしょう。……典雅な貴族の衣装の一部が盛り上がっていますねぇ。

 

「歓喜に震える私を一顧だにせず、君は迷宮へと消えてしまった。きっと、あの時の君に私などという塵芥は目に入らなかったんだろうね。他の階層でも君に助けられたという冒険者はいたが、誰一人として君の事を知る者は居なかった」

 

 命からがら迷宮を脱し、仲間を見捨てたという周囲の目も気にせず『吸血鬼侍(ヴァンパイアロード)』について探していたのでしょう。混沌の軍勢が近付いてくるなかで、城塞都市から逃げ出しす冒険者も多かったはずです。そうしている間に『死の迷宮』は解放され、金剛石の騎士(K・O・D)が新しい王となった。

 

「失意の中で領地へ戻り、腐っていた私の耳にある噂が聞こえてきた。『死の迷宮』最深部にいた吸血鬼が、新王に手駒として飼われていると」

 

 信憑性の欠片もない噂だが、私はそれが真実だと確信したと語る売国奴の目には、まごうことなき狂気の光。森人少女ちゃんが気圧されて後ずさるのを面白そうに眺めながら言葉を続けています。

 

「陛下に近付くために反王派()()()父と兄2人を討ち、貴族の誰よりも早く陛下へ恭順した。噂の真意を確かめるためなら僅かな良心なぞ痛むことも無かった。そして、宮廷内で侍女と話す君を見付けたんだ!」

 

 しかし、陛下子飼いである君に近付くことは出来なかったと表情の抜け落ちた顔で語る売国奴。口を噤んだ彼の横から、呆れた様子の黒狐が口を挟んできました。

 

「だが、彼も諦めの悪い男でね。お前を手に入れるために、こちらが出向く前に自分から私に接触してきたのだ。随分歪んだ愛情だとは思わんかね?」

 

 お、ようやくそっちの目的も話してくれそうですね。今の段階だとロリコンおじさんの歪んだ愛を後押ししている変態でしかないですから。黒狐とその背後にいる混沌の勢力にも何らかのメリットがあるはずです。冥途の土産に是非教えて下さい! 冥途に送られるのが何方かは言いませんけど。

 

 

 

「その男の歪んだ欲望については理解できなくとも納得は致しましたわ。では、貴方と混沌の勢力は何故彼に協力しているんですの?」

 

「フン、その問いに答える前に、こちらからひとつ問うてみよう。お前たち、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 あっ。

 

 そう、きたかー……。

 

 

 

 

 

 

「吸血鬼って、そりゃあ此処にいるちみっ子がそうだろう? お前さん何を言っとるんだ?」

 

 唐突な黒狐からの問いに戸惑いを隠せない一行。分身ちゃんを横目に返事をした鉱人道士さんを嘲笑うかのように黒狐が笑い出しました。

 

「クハハ! そうか、只人(ヒューム)より長生きな鉱人(ドワーフ)でさえ既にそのような認識か! ではそちらの森人はどうだ? 見たことがあるかね?」

 

 急に話を振られた森人狩人さんと森人少女ちゃんも、質問の意味が分からないのか無言のままです。その様子を見てさらに笑いを強める黒狐。馬鹿にした様子の彼を睨みながら、令嬢剣士が抜き放った軽銀の剣を突き付けます。

 

「話が見えませんわね。素直に言うつもりが無いのなら、捕縛して然るべきところで吐いて頂きますが?」

 

「なに、お前たちのあまりの無知に笑いを堪え切れなかったのだ。……ではもうひとつ問おう。お前たちは吸血鬼の弱点について知っているな? ()()()()()()()()()()()

 

「吸血鬼の弱点といえば、日光に聖銀、神々の奇跡に流水……冒険者なら知っていることですわ。……それが何か?」

 

 自信なさげに答える令嬢剣士さんを見て、ますますふてぶてしい笑みを深める黒狐。その視線が沈黙を保つ分身ちゃんに向けられます。

 

「成程成程、では、君が言うその弱点とやらは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは、と言いかけて口を紡ぐ令嬢剣士さん。バレている可能性が高いとはいえ、分身ちゃんがデイライトウォーカーであることは最大級の秘密です。口を閉ざした彼女を見て、耐えきれないとばかりに哄笑を上げ始める黒狐。あー、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「真偽はさておき、冒険者どころか童の寝物語で語られるほど弱点の多い吸血鬼。だがその姿を実際に見たことがある者はどれだけいる? お前たちもその()()()()()()()()()()以外の吸血鬼なぞ見たことがないのだろう!」

 

 そこで一旦話すのを止め、黙ったままの分身ちゃんを見る黒狐。俯いて沈黙を保つ分身ちゃんを獲物を嬲るような瞳で見つめながら、良く響く大声で言い放ちます。

 

 

 

 

 

 

「当たり前だ! この王国、いや、この地方に暮らしていた吸血鬼の悉くは、そこの同族殺し(キンスレイヤー)に喰い殺されているのだからな!! ……そうだろう? 夜に背を向けた裏切者(ベトレイヤー)?」

 

 

 

 

 

 

 ……うん、良くその結論に達したと彼を称賛するべきかもしれませんね。

 

 彼の言う通り『吸血鬼侍(ヴァンパイアロード)』が陛下付きの密偵として暗躍している際、数多の吸血鬼を討伐していたのは事実。巧妙に逃げ続けていた『不死王』を名乗ってたアレが引き起こした牙狩り壊滅の案件が、この地方で起きた最後の吸血鬼禍のはずです。『吸血鬼侍ちゃん』を祈る者(プレイヤー)にするために狩りを続けていたのがこういう形で暴露されるとは思いませんでしたね……。

 

 

 

「……この地方で吸血鬼を見ない理由はわかったよ。でも、それとご主人様を求める変態に協力する理由が結びつかないんだけど?」

 

 うなだれたままの分身ちゃんを強く抱き締めながら、茶化すように問いを投げかける森人狩人さん。しかしその瞳は全く笑っていません。急かすような物言いに両手で焦るなとアピールしながら、黒狐の愉悦タイムは続いていきます。

 

「そう結論を急ぐな森人(エルフ)の娘よ。だがそろそろ喉も乾いてきた、質問に答えるとしよう。こう見えて私は商人でね、需要があるならばあらゆる商品を提供するのがモットーだ。食料、麻薬、そして……不死の兵士。秩序と混沌、双方に死なずの兵がいれば、戦争に必要な物資は永遠に必要とされるだろう? それが弱点を克服した吸血鬼であるならば猶更だ」

 

「まさか、主さまに強制的に眷属を作らせるつもりですか!?」

 

 悲鳴のような森人少女ちゃんの声に満面の笑みで頷く黒狐。もちろんそんなことに吸血鬼侍ちゃんも分身ちゃんも協力するわけがありません。でも、こういう場合大抵言うことを利かせる方法を用意してるんですよねぇ……。あ、黒狐の演説をにこやかに聞いていた売国奴が懐から何かを取り出し、みんなに見せつけるように掲げています。

 

「もちろん愛する君にそのような強制はしたくない。だがこれも2人の未来のためだ。この迷宮に蓄積された膨大な魔力を君に注ぎ込み、()()()の君に、迷宮であらゆる生を貪っていた君に戻ってもらう!!」

 

 そう叫ぶや否や、掲げていた呪物……()()のようなものを起動する売国奴。制御室いっぱいに光が溢れ、床面に葉脈のように赤い線が走り、森人狩人さんに抱かれた分身ちゃん目掛けて向かっていきます!

 

「!? はなれて!!」

 

「ご主人様、何を……っ!?」

 

 ずっと動きを止めていた分身ちゃんが翼を展開し、強引に森人狩人を弾き飛ばして距離を空けました! 驚愕の表情でそれを見送る森人狩人さんに向かって、()()困ったような笑みを浮かべ、赤い光に飲み込まれていく分身ちゃん。何の前触れもなく起きた事態に動くことが出来ず、一行はただ血の色をした海に消えゆく分身ちゃんを呆然と見つめています。

 

 

 

 部屋中に満ちていた赤い光が渦巻き、中心に吸い込まれていく非現実的な光景。やがて渦の中心に小さな人影が見え始めました。見慣れたフード姿でも、迷宮時代から愛用していたという貴族風の衣装でもなく何処か異国の風を感じさせる装束。肌の露出を極限まで減らし、黒地に血の色の脈動が蠢く羽織袴姿。コピーであった村正と血刀こそ消失してしまったものの、その出で立ちは、何処かあの『六人の英雄(オールスターズ)』の頭目(リーダー)を彷彿とさせるものです。

 

 

 

「……おお、あの頃と服装は違えども、その身に纏う剣気と血臭。まさに私が恋焦がれた吸血姫そのもの! さあ、どうか私の隣まで……!!」

 

 売国奴の感極まった声に導かれるように、ゆっくりと歩き出す分身ちゃん。それを引き留めようと駆けだした森人狩人さんの足に絡みつくものがあります。

 

「ご主人様、正気に戻りたまえよ……くっ、なんでご主人様の触手が邪魔を……っ!?」

 

「ちょっ、やめ、離して……っ!?」

 

「主さま、なぜ……?」

 

 周囲を見渡せば、既に他の仲間たちも触手によって拘束されているのが分かります。ある者は後ろ手に、ある者は両腕を上に交差した状態で絡め捕られ、体中を無遠慮に触手が這いまわっていますね。普段の夜戦の際に触れてくるのとは全く違う悍ましい感触に、女性陣の口から噛み殺せなかった悲鳴が漏れ出ています。

 

「うーむ、こいつはどういう事かの? ちみっ子があんな連中の言いなりになんぞなるわけが無いと思うんだが」

 

「であれば、何らかの邪法によって意識を操られていと考えるのが妥当。十中八九あの護符ではありませぬかな?」

 

 どうやら拘束するだけで絞殺そうとはしていないからか、意外と平気そうな男性陣。冷静に事態を観察しています。2人の予想通り、おそらく売国奴が持っているのはこの『死の迷宮』にあった()()()()でしょう。まさか()()()使()()()()……あ。

 

「素晴らしい! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! これで彼女は私のモノだ!!」

 

「……感極まっているところ邪魔して悪いが、ちゃんとこちらの要望にも応えてくれよ。その吸血鬼を頂点に、この迷宮で眷属を量産する。それさえ履行するのなら、その母体は好きにしたまえ」

 

 

 

 あー、成程。完全に理解した。覚知神(クソ野郎)が待ってくれと言ってたのはこれが理由ですね。なんだかんだ言ってアイツもこの世界線(キャンペーン)が気に入ってたわけか。覚知神(クソ野郎)の思惑で動くのは癪ですが、ここまでお膳立てされたらしょうがないですね。乱入者に吠え面かかせる計画にのってやりましょう!

 

 

 

 背後の影に一行を拘束させたまま歩き続け、遂に売国奴と黒狐の前まで辿り着いた分身ちゃん。人形のような無表情の顔に手を伸ばし、売国奴が壊れ物を扱うように撫でています。その光景を直視出来ないのか、先程まで分身ちゃんの名を叫んでいた仲間たちも力を失くし、俯いてしまいました。

 

「……長かった。こうして君に触れるまで、10年以上の時間が必要だった」

 

 愛おし気に頬を撫で続ける売国奴。普段なら速攻でぶん殴ってるはずの分身ちゃんも、ただただ無表情を貫いたまま。その光景に満足そうに頷き、売国奴が顔の高さを等しくするように屈みました。

 

「最初に君にお願いしたいのは、私を君の眷属にすることだよ。君を見た日からずっと、体を鍛え魔術の腕は磨き続けてきた。私が持つ君への愛があるならば、食屍鬼(グール)になぞ成らず、陽光の下で2人腕を組んで歩けるはずだ!!」

 

 うーんこの自信、何所から湧いてくるんでしょう? でもこのくらいの気持ちを剣の乙女や女魔法使いちゃんにも持って欲しいですね。そのほうが眷属化の成功率も上がりそうですし。

 

 売国奴の要求に微かに頷き、彼がいそいそと露出させた肩に口を近付けていく分身ちゃん。売国奴の顔が恍惚に染まっているのは、吸血に伴う快楽を期待してか、それとも彼の中で完成している輝かしい未来を夢想してでしょうか。ゆっくりと分身ちゃんの牙が肌に触れ、彼の幸福が絶頂に達したその瞬間……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶづん

 

 

 

 

 

 

「グッ、があぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 肩口に走った激痛に、反射的に分身ちゃんを突き飛ばす売国奴。脂汗の浮かんだ顔で見る先には、口元を血で染めた分身ちゃんが口内の肉塊をペッと吐き捨てる姿。肉を抉られた肩から溢れる血を止めようと傷口をおさえて蹲る彼の耳に届いたのは、可愛らしい声で紡がれた無慈悲な一言でした。

 

 

 

 

 

 

「まっず」

 

 

 驚愕の表情を浮かべた売国奴の前で、嫌いな食べ物を口に入れてしまった子供のようにペッペッと舌を出している分身ちゃん。その口元に、背後からハンカチを持った細腕が伸びてきました。手際よく(汚れ)を拭きながら反対の手で吸血鬼侍ちゃんを抱き寄せた森人狩人さんが、ハンカチで拭き取りきれなかった唇の血を舌で舐め取っています。

 

「うん、たしかに不味いね。毒にも薬にもならなさそうだ。口直しに葉っぱ喰い(エルフ)の血はどうかな?」

 

「うん、ちょっとだけすわせて? ちゅ~……」

 

 首筋に顔を埋めた分身ちゃんの後頭部を愛おし気に撫でつつ、勝ち誇ったような笑みを蹲る売国奴に向けて、序盤の意趣返しをキメた森人狩人さん。羞恥と怒りの色を浮かべる売国奴ですが、失った血が多いのか徐々にその顔は青褪めていきます。おっとり刀で駆け付けた蜥蜴僧侶さんと森人少女ちゃんが、死なない程度に≪小癒(ヒール)≫で回復させ、黒狐用に準備していた銀糸入りのロープで拘束してしまいました。

 

 

 

「何故だ、何故お前は自分の意思で行動している。そいつが提唱した覚知神の業は完璧だった筈。……何故だ!?」

 

 今まで保っていた余裕を失い、浅黒い肌を紅潮させて叫ぶ黒狐。彼の疑問ももっともでしょう。覚知神(クソ野郎)が齎す智慧はまごうことなき正解(チート)ですから。ただ、今回は運が悪かったですね。

 

「迷宮の魔力に侵されたお前は、迷宮の制御鍵であるその護符に逆らうことは出来ない。お前の()()()はその鍵の所有者に……まさか」

 

 お、やはり黒狐、頭は良いようですね。自分で言ったことが信じられないのか、首を横に振りながら、あり得ない、あり得ない……と繰り返しています。拘束された売国奴が虚ろな目でその痴態を見つめる中、肌が破れるほどに頬を掻き毟っていた売国奴が、分身ちゃん()()を見上げながら呟きます。

 

 

 

「お前は……お前はいったい、なんなのだ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 な ん だ と 思 う ?

 

「な ん だ と お も う ?」

 

 

 

 

 

 

 突然体中の穴という穴から血を噴き出した(発狂ゲージ満タン)黒狐を死なせないように、慌てて奇跡を唱える分身ちゃん。いやー頭が良すぎるのも考えものですよね?

 

 しかし、覚知神(クソ野郎)も随分と手の込んだ意趣返しを思い付いたもんです。ずっと1.5人分の魂を納めていたせいで負担が掛かっていた『吸血鬼侍ちゃん』を分割し、本体と分身の2人として活動していたわけですが、どちらも容量いっぱいには程遠い隙間だらけの状態でした。そのスペースを利用してこうやって実況しているのですが、どうやら黒狐も同様の手段で分身ちゃんを制御下に置こうと思っていたのでしょう。残念ながらそこには製作者(わたし)がいたわけで。

 

 彼、売国奴は単純に『吸血鬼侍ちゃんを自分のモノにする方法』を求めるべきでしたね。変にロマンを求めて()()()()なんて考えるから覚知神(クソ野郎)の屁理屈に騙されるんですよ。

 

 ……まぁ、『死の迷宮』に蓄積されていた魔力の殆どを『分身ちゃん』に注ぎ込んでくれたおかげで、漸く彼女が()()()姿()になりました。しかも()()()()()()()()『あの頃』のボス仕様です。いつもの実況担当に確認をとってからのほうが良さそうですが、いうなれば『分身ちゃん』改め『()()()()()()()』にキャラシーが変わった感じですね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え? じゃあ本体こと吸血鬼侍ちゃんはなんなのかって?

 

 

 

 それはですね……おっと、ちょうど儀式阻止組のほうも最終戦闘(クライマックスフェイズ)に入るとのこと。実況はあちらに引き継いでもらいましょうか。『()()()()()()()』の詳細は後ほど、あるいは向こうのシーンで判明するかもしれませんね。

 

 

 

 それでは今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ああ、うん。いい仕事したんじゃない。これで()()()へのプレッシャーにもなるし、『吸血鬼侍ちゃん(愛し子)』も物語(キャンペーン)を続けられるだろうから。

 

 まったく、こんなことが出来るんだったら、毎回GM神を困らせるのはいい加減止めたらどうなのさ? 毎回許可は取ってる? まぁ、そうだけど……。

 

 ……今回は感謝してる。助かった。

 

 ……なんだい、お礼を言うのがそんなに変だとでも言うのかい? そうそう、素直に受け取っておけば良いんだよ!

 

 ……ありがとう。

 

 




 GW中にセッションその10を終わらせたいのでので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がるかもしれませんのでよろしくお願いいたします。更新の燃料になります故……。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその10-7

 GWの予定はないので初投稿です。



 ウーム、無貌の神(N子)さんの卓も万知神さんの卓も盛り上がってますねぇ。断片的にしか聞こえませんけど、どうやら万知神さんがキャラ作の時に仕込んでおいた設定を開示し始めたみたいです。相変わらず一癖も二癖もある裏設定をGMに投げといたんだろうなぁ……。

 

 あ、万知神さん。そろそろこっちの卓で動きがあるっぽいです! そちらの切りが良さそうなら儀式阻止組のほうを始めたいんですけど……。OK? よし、じゃあ気合い入れていきましょう!!

 

 

 

 えー、前回、陽動組と制御室奪還組にケリがついたところから再開です。

 

 制御室奪還組と一緒に光を通さぬ空間(ダークゾーン)を抜け、やってまいりました昇降機(エレベーター)前。電車ごっこで使用していたロープを吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんがいそいそと≪手袋≫に仕舞い込んでいます。道中遭遇したゴブリンやら何やらはみんな纏めて勇者ちゃんが薙ぎ払ってくれました。いやー楽ちんちんです!

 

「おさきにどうぞ~」

 

「ありがと~」

 

 順番を譲ってもらったので、早速昇降機(エレベーター)へ乗り込む一行。女性多めの構成なのでスペースも荷重も十分に余裕があります。まぁガチガチに装備を固めた戦士六人とかでも問題なく動いてくれるんですから気にする必要は無さそうですね。結構な速度で降下しているはずですが不快な震動を感じないのは、やはり高度な術式で制御されているからなんでしょうか。吸血鬼侍ちゃんも狼に跨ったままバランスを崩さずにいるあたり是非とも解析したいところです。

 

「それにしても、随分大人しい狼だね! 頭も良さそうだし!!」

 

「わっふぅ」

 

 勇者ちゃんに撫でまわされても嫌がるような素振りを見せず、されるがまま泰然自若としている狼。その視線は待ち構えているであろう黒幕への対処を話し合っている剣聖さんと賢者ちゃんのお山に釘付けになっています。身振り手振りをする度にたゆんたゆんと揺れるのに合わせ、吸血鬼侍ちゃんを乗せたまま身体ごと視線が行ったり来たり。目の前にもあるんですからそっちを見たらどうです? 胸甲と同じくらい硬そうですけど。

 

「うむ、此処に来る前に一党(パーティ)で挑んでいた遺跡で見つけたのだ。自然発生したと思われる亡者を光り輝く剣を振り回し滅していたのだが……はて、どうやって剣を振っていただろうか?」

 

 ウーム、ウームと考え込み始めてしまった聖騎士さん。肉球付きの手で剣を握れる訳は無いですし、口に咥える(シフ方式)くらいしかないと思うんですけど(名推理)。

 

「……大丈夫なのですか? あまり元気がないようですが」

 

 思い思いに決戦までの時間を過ごす一行の中でずっと静かだった吸血鬼侍ちゃんを心配して、賢者ちゃんが話しかけてきてくれましたね。ひょっとして搾り過ぎましたかと聞いてくる賢者ちゃんに対し、フルフルと首を横に振る吸血鬼侍ちゃん。お腹が空いた以外でこんな顔をしているということは珍しいですね。また何か悩み事でもあるのでしょうか?

 

「ここのところ、みんなにめいわくかけっぱなし。やっぱりぼくじゃなくて、あのこがほんたいになるべきだったんだ……」

 

「!? アンタまたそんなコト考えて……ッ」

 

「待つのです。……まさか、≪分身(アザーセルフ)≫を使う前から互いを認識していたのですか?」

 

 コクリと頷く吸血鬼侍ちゃんを驚愕の目で見つめる賢者ちゃん。そりゃひとつの身体の中に複数の精神が入っているなんて普通思いつきませんもの。……ん? でもそうしたら今この場にいる『吸血鬼侍ちゃん』の基盤となっている魂は一体誰のモノなんでしょう?

 

「とってもくらいところで、あのこがたたかってているのをずっとみてた。がんばれ、がんばれっておうえんしてたら、あるひおひさまのひかりがみえたの。いっしょうけんめいてをのばして、そのひかりをつかんだら、いつのまにかあのこのとなりにいた……」

 

「『吸血鬼侍(あなた)』を祈る者(プレイヤー)にしたのは、信仰と発動する奇跡から万知神であることは確かなのです。でもそれは≪分身(アザーセルフ)≫として活動している分身ちゃん(あの子)であって、貴女はまた別の神に……」

 

「……ねえちょっと、なんか身体から生えて来てない?」

 

「ぼ、ぼくのことはいいから!? それよりもこんどのしゅじゅつなんだけど……」

 

 それからはずっと2人一緒だったと話す吸血鬼侍ちゃんの言葉を聞いて、思考の海に沈み始めた賢者ちゃん。若干ですが発狂ゲージが上昇し始めていますね。ピシリピシリと身体から生える血の棘を見た吸血鬼侍ちゃんが、慌てて気を逸らそうとしています。そういえば次の安息日に手術って言ってましたっけ。それがひと段落したら諸々解決しなきゃいけない問題に手をつけましょうか。差し当たっては吸血鬼侍ちゃんの身体がいちばん……おっと、どうやら到着したようですね。固く閉ざされていた昇降機(エレベーター)の扉が自動的に開いていきました。

 

 

 

「さーて、ここからは歩いていくんだっけ? ……あれ? キミ何してるの?」

 

「おっとっと。えーとね、さきにおそうじするね!」

 

 勇者ちゃんの視線の先には狼の背中から飛び降りた吸血鬼侍ちゃん、若干よろけながらの着地は見ていてちょっと心配です。勝手知ったる我が家と言わんばかりに歩を進め、左右一つずつある扉の左を躊躇いなくキック! 突然扉が開いて立ちすくみ状態の下級魔神(レッサーデーモン)の群れに容赦なく血刀からの火炎放射を浴びせています。

 

「「「「LEMOOOOOOON!?」」」」

 

 燃やし祭りにお友達を呼ぶことも出来ず、あっという間に黒焦げとなった魔神たちを押し退けて玄室に入る吸血鬼侍ちゃん。後を追って入ってきた一行に自分より前に出ないようジェスチャーをしながら壁沿いに歩いています。

 

「い~ち、に~ぃ、さ~ん……よん!」

 

「「「「「あ!」」」」」

 

 あ! 掛け声とともにジャンプした吸血鬼侍ちゃんの足元がポッカリと口を開きました!! 慌てて駆け寄ろうとする勇者ちゃんの前で闇へと消える吸血鬼侍ちゃん。伸ばした手は虚空を掴み、残るは奈落へと通じる大穴……ん?

 

「えへへ……びっくりした?」

 

 ああ、飛べるんだから落ちる心配は無いですもんね。悪戯が成功してニッコニコです。みんなの緊張を解すつもりだったのかもしれませんけど、残念ながら目論見は失敗なんだよなぁ……。背後から伸びてきた繊手に首根っこを引っ掴まれ、宙吊りとなった吸血鬼侍ちゃん。恐る恐る振り返れば、そこには青筋を浮かべた女魔法使いちゃんと、にこやかな笑みを浮かべた賢者ちゃんが……。

 

「あ、あれ? リラックスできなかった?」

 

 

 

 

 

 

「「正座」」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

「貴公、場を和ませようとするのは良いが、時と場合は考えるべきだと思うぞ!」

 

「わふっ」

 

「ごめんなさい」

 

 こんなこともあろうかと用意されていた『私は悪いことをしたいけない子です』プレートを首から下げ、ロープグルグル状態で狼の背中に据え付けられた吸血鬼侍ちゃん。流石に悪ふざけが過ぎたと反省しているみたいですね。先ほどまでぷんすこ怒っていた賢者ちゃんもそんな吸血鬼侍ちゃんを見て怒りを鎮め、次やったら枯れるまで搾り取るのですと言って許してくれました。……許されたんですよね?

 

「うう……さっきから転移床(ワープポータル)ばっかりで気持ち悪くなってきた……」

 

「なんだだらしのない、帰ったらみっちり修行だな」

 

 連続で5つも転移床(ワープポータル)を通ったからでしょうか、いつでも元気いっぱいな勇者ちゃんが顔を青くしています。腰のポーチから取り出した水薬(ポーション)を飲んで頭を振っていますが、人によって酔いやすいとかあるんですかね。対照的にケロっとした顔の剣聖さん、鍛えられているからなのかそれとも神経が鈍いのか。謎は深まるばかりです。

 

「つぎのポータルをぬけたら、()()()()がいたへやがみえてくるよ」

 

 身体を捩ってロープから抜け出そうとしている吸血鬼侍ちゃんの言葉に気を引き締める一行。そろそろ反省したのですねと確認しながら賢者ちゃんがロープを解いてくれました。ゆっくりと進む一行の前に現れたのは豪奢な扉。壁には『赤い手』の御印(シンボル)が掲げられ、床には以前かかっていたであろう標識(プレート)が無残に打ち捨てられています。それを何処か悲し気に眺めている吸血鬼侍ちゃんの前で、扉がゆっくりと開き始めました……。

 

 

 

「……どうやら既に異界化しているようなのです。空間中に嫌な魔力が充満しているのです」

 

 顔を顰めた賢者ちゃんが呟くのも無理はありません。扉を抜けた先は、今まで通過してきた玄室とは似ても似つかぬ有様に変わり果てていました。

 

 怪しく脈動する有機的な床に、地下でありながら浮かぶ緑と赤の2つの満月。空間の中心には小さな祠のようなものがあり、この空間全体を震わせるほどの鼓動が定期的に発せられています。

 

「ガルルルル……!」

 

「ム、あそこに居るのが今回の黒幕だろうか?」

 

 聖騎士さんが指し示す先、祠の傍にローブ姿の人影が見えますね。フードに隠れて顔は見えませんけど、どうやら人型のようです。あれが総大主教(グランドビショップ)なんでしょうか? 吸血鬼侍ちゃんを背に乗せたまま、狼も威嚇するように唸っています。

 

「お前がグランなんとかだな! 神妙にお縄に着くか、ここでボクたちにぶっとばされるか、好きなほうを選ぶといいよ!!」

 

「……ようやく来たか。忌々しい神の走狗(コマ)共め……」

 

 勇者ちゃんの啖呵に舌打ちを返し、不穏な事を口走るローブ服。響く声は若い男性のそれで、煩わしそうにフードを取り去った下の素顔は端正と言って良いものです。銀髪に真紅の瞳、人形のように整った美丈夫(イケメン)ですが、何故か心に響くものが感じられません。きっとそれは、内面が悍ましいものであることを主張するほどに歪んだ表情のせいでしょう。苛立たし気に髪を掻き上げながら一行に向けるのは、侮蔑と憤懣に満ちた視線です。

 

「何故僕だけが邪魔されなければならない。好き勝手に世界を弄んでいるのは貴様らとて同じだろう」

 

 ……いえ、彼は一行のことなんて見ていません。部屋の隅の塵芥を眺めるような超越的な視線で睨みつけているのは吸血鬼侍ちゃん。そしてその後ろにいる……。

 

「己の欲望のままに世界を歪め、贔屓の走狗(コマ)の一挙手一投足に一喜一憂! 挙句の果てに()()()()()まで造り出す!! 僕が同じことをして何が悪い!!!」

 

「いったい何を言っているのです? この世界に殴り込んできたのはそちらなのです」

 

 困惑した表情で問いかける賢者ちゃんを一瞥し、再び舌打ちをする総大主教(グランドビショップ)。大仰な身振りで振りかざすのは、常人には理解の及ばぬ超越者の主張です。

 

「ハッ。お前たちなら既に察しているのだろう? この世界が神を名乗る痴愚共の遊び場(ボード)に過ぎないことを。そしてこの世の全てが奴らの被造物であることを! そしてソレはお前たちとて例外では無いこともな!!」

 

 そう言い放つ彼の目には勇者ちゃんたち3人と同じ、いや、さらに強い()が宿っています。乱入者は他の神が生み出した祈る者(プレイヤー)だと思ってましたけど……もしかしてこの男、化身(アバター)!?

 

「よってたかってそんなバケモノを作り上げ、好き勝手動かしているというのに! 何故僕を認めない!! 僕を受け入れようとしない!!!」

 

「うあ……!?」

 

 捻くれて歪み切ったものとはいえ、紛れもない神威をぶつけられ苦悶の声を上げる吸血鬼侍ちゃん。衝撃で隠していたひび割れが表面化し、一行に衝撃が走ります。

 

「んなっ!? このっ、その子は良い子なんだ! 乱暴しないでよ!!」

 

 振り下ろされた太陽の剣をバックステップで躱し、視線を勇者ちゃんに向ける総大主教(グランドビショップ)。その顔に浮かんでいるのは、モノを知らぬ子を嘲笑うような、見るに堪えない笑みです。

 

良い子だと? 当たり前だ、ソレはそうなる様に望まれた(作られた)モノだ! 誕生(キャラ作)前に設け(考え)られた仮初の人格(仮設定)、本来生まれ出る筈の無かった影法師(廃棄案)! ソイツは祈る者(プレイヤー)でも祈らぬ者(ノンプレイヤー)でも、いや有象無象(エキストラ)ですらない!!」

 

「やだ……いわないで……」

 

「ッ!? みんな聞いてはダメなのです!!」

 

 懇願するような吸血鬼侍ちゃんの声を聞き、笑みを深める化身(アバター)。賢者ちゃんの叫びが空しく響く中、致命の一撃(クリティカル)となる一言が全員の耳に届きました……。

 

 

 

 

 

 

()()()()は、『吸血鬼侍』という神の玩具(オモチャ)を作り出すためだけに用意された()()()。その隅にへばり付いていた残留思念(設定の消し残し)が身体を乗っ取って動かしていただけの……只の木偶人形だ」

 

 

 

 

 

 

  あ……

「あ……」

 

「ガウ!?」

 

 その言葉がトドメとなったのか、崩れるように狼の背中から落ちる吸血鬼侍ちゃん。慌てて駆け寄った女魔法使いちゃんが抱え起こしますが、その瞳には光が無く、ただ眦から涙を零すばかり。

 

 そっか……。『吸血鬼侍ちゃん』の中にいたのは、何の力も持っていない、何処にでもいる、ただの圃人(レーア)の女の子だったんですね……。『吸血鬼侍ちゃん』を誕生させるためだけに用意され、『死の迷宮』で命を散らし、それでももう一度太陽を見るために『吸血鬼侍ちゃん』の中で待ち続けていた。分身ちゃん……『吸血鬼侍ちゃん』と仲良くなれたのは、本当に奇跡に近い確率だったのかもしれません。

 

 

 

「フン、本来の持ち主ならいざ知らず、偽物の魂では幾ら優秀な肉体とて扱いきれまい。邪魔な不確定要素(イレギュラー)共々ここで消し去ってやろう!」

 

「うわっと!? あーもう、結界は卑怯だよ!」

 

「ちっ、全ては儀式の時間を稼ぐためのものだったのか!」

 

 果敢に斬りかかってきた勇者ちゃんを祠の近くから弾き飛ばし、手に持つ『赤い手』が表紙に刻まれた本を掲げる総大主教(グランドビショップ)。空間中に響く鼓動がどんどん強くなっていきます! 吹き飛んできた勇者ちゃんを受け止めた剣聖さんが零した言葉を耳ざとく聞いていた総大主教(グランドビショップ)が、呆れた様子でその疑問に答えます。

 

「おいおい、僕は三流芝居の悪役では無いんだ。妨害される可能性が少しでもあるなら、長話なんてするわけがないだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「儀式はお前たちが迷宮入りする前に完了している」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、空間を振動させていた鼓動が一際強くなり、そしてソレが姿を現しました。

 

 

 

  生物的様相を持った床が裂け、総大主教(グランドビショップ)が立つ祠を中心に円を描く様に走る亀裂。吸血鬼侍ちゃんを抱きかかえた賢者ちゃんを守る様に後退する一行の眼前で、祠の周囲をぐるりと囲うように昇り立つ()()()()()()()。赤、青、緑、黒、白。クロマティックドラゴンの要素を持つ五本に加え、半透明のもの、骨と皮だけのもの、鉄と発条で組み上げられたものの三本、合計八本が亀裂の隙間から首をもたげる姿はこの世のモノとは思えない光景です。首に守られるように中心に浮かぶ祠の前で、総大主教(グランドビショップ)が勝利を確信したように両腕を突き上げています。

 

「やったぞ! これで僕を認めなかったあいつ等の干渉は遮断された! この世界は僕のモノだ!!」

 

「ふざけるな! この世界はここで暮らす人たちのものだ! お前のモノなんかじゃないぞ!!」

 

 念願の玩具が手に入った子供のように無邪気に喜んでいますが、好き勝手されるのはこの世界。そんな事を認めるわけにはいかないと立ち上がる勇者ちゃんですが、背後で女魔法使いちゃんと一緒に吸血鬼侍ちゃんを介抱している賢者ちゃんの顔色が良くありません。いったい何がががががががががががが

 

 

 

「不味いのです。この世界と情報次元を繋ぐ(ゲート)が遮断されたのです。これでは奇跡を使うことが出来ないのです……っ」

 

 

 

 ……あー、あー、繋がったかな? いきなり回線が切れるもんだからみんなびっくりですよ。どうやらあの竜みたいなのの影響で四方世界(あっち)盤外(こっち)が上手く繋がらなくなってしまっているようです。まったく、いくら相手にしてもらえないからって此処までやりますかね普通……。でも賢者ちゃんの言う通り状況はあんまりよろしくありません。先ほどから万知神さんが『吸血鬼侍ちゃん』が見えなくなったとパニクってます。交易神さんも勇者ちゃんとの繋がりが切れて不安そうな顔をしていますし、奇跡も届けられないのは非常に厳しいですね……。

 

 

 

「そら、どうした! それがこの世界を背負って立つ勇者とやらの力か!!」

 

「くっ この程度でやられるもんか!」

 

 炎、電気、酸、毒、冷気。それに加えてMPを削るアストラルのブレスや肉体を腐らせる瘴気、大口径の火砲を向けられ捌くのに必死な勇者ちゃん。身体から吹き出す太陽の加護(フレア)で軽減しているようですが、確実にダメージは蓄積されています。援護を求めようにも剣聖さんは吸血鬼侍ちゃんたちを守るのに手一杯でそんな余裕は無さそうです。焦りを隠せない勇者ちゃんを見て、総大主教(グランドビショップ)の端正な顔が酷薄に歪んでいきます。あっ! 死角を縫って接近してきた首が勇者ちゃんを上空にカチ上げました! ダメージは軽そうですが踏ん張りの効かない空中では回避が難しくなってしまいます。絶好の機会は逃さんとばかりに、白と緑の首が冷気と酸を滴らせた口で挟み撃ちにしようと迫って……!?

 

 

 

 

 

 

「≪(あま)照らし坐す我等が慈母よ、闇祓うその輝きにて、明日を照らす光明となれ≫!!」

 

「ガアァァァウ!!」

 

 

 

 幾重にも形成された結界を切り裂き、勇者ちゃんの危機を救った双光。酸が噴き出る筈の切断面を秘めた熱で焼き潰した一撃は、幅広の長剣を口で操り全身に朱の紋様を浮かび上がらせた狼によるものです。ではもう一条、白い首を根こそぎ消滅させた一撃を放ったのは……!

 

 

 

「フム、あ奴どうやら太陽の力に弱いようだな!」

 

 

 

 無手の右手に光を纏う、陽光を槍として投擲した聖騎士さんです! 空中で器用に勇者ちゃんを受け止めた狼がその横に着地し、背中から勇者ちゃんを降ろし再び唸り声を上げています。その自信に満ちた顔が気に入らないのか、端正なマスクを作画崩壊させた総大主教(グランドビショップ)の叫び声が響きました。

 

 

 

「何故だ、此処は既に神と切り離された世界。何故貴様は奇跡を使えるのだ!? 答えろぉ!」

 

 

 

「決まっている。太陽はいつも此処にある! そして遍く全てを照らしているのだからな!!」

 

 自身の胸元を指差しながら高らかに言い放つ聖騎士さんと、それに気圧されたように黙り込む総大主教(グランドビショップ)。沈黙した彼を放置して、聖騎士さんが吸血鬼侍ちゃんの傍にやって来ました。

 

 女魔法使いちゃんに抱き締められたまま、表情を失いただ涙を流している吸血鬼侍ちゃん。かける言葉が見つからないのでしょう。女魔法使いちゃんも賢者ちゃんも口を閉ざしたままその涙を指で拭い続けるばかりです。聖騎士さんが来たのに気付き顔を僅かに上げる吸血鬼侍ちゃんを見て、視線を合わせるようにしゃがみ込んだ聖騎士さん。グレートヘルム(バケツ兜)のくぐもった、しかし慈愛に満ちた言葉を絶望の海に沈んでいる吸血鬼侍ちゃんに投げかけました。

 

 

 

「立て、小さき友よ」

 

「たとえ貴公が仮初の存在であろうとも、太陽は貴公を照らしている」

 

「それに貴公には、愛し、愛される人々がいるのだろう?」

 

「その者たちと育んだ絆、それを貴公は偽物だと言うのか?」

 

「顔を上げ周りを見るのだ。貴公の為に涙を流し、悲しんでいる彼女らを救えるのは貴公を置いて他にはおらぬ」

 

 

 

 

 

 

「そして笑え! 笑って明日へ進むのだ! 沈んでも必ず昇る、美しき太陽のように!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 それは、赤ちゃんが生まれて初めて出す声によく似ていました。

 

 ぼくはここにいる、そうみんなに伝えるような、とても大きな泣き声。

 

 そのあまりの大きさに女魔法使いちゃんと賢者ちゃんの涙も止まり、唖然とする2人の眦に残ったそれを舐め取りながら、泣き笑いの表情で吸血鬼侍ちゃんが口を開きます。

 

 

 

「ずっと、うそついててごめんね。ほんとはあのことちがって、なんにももってないただのこどもなの。あのこのこういにすがって、つよいふりをしていた、ちっちゃくてよわむしなひきょうものなの……」

 

 でもね、と言いながら2人を抱き寄せ、頬擦りをする吸血鬼侍ちゃん。ひび割れた皮膚が崩れるのも構わずに、2人の体温を確かめるように続けています。

 

「みんながだいすきで、ずっといっしょにいたいってきもちと、おひさまをさがしていたのはうそじゃないよ? ……いままでありがとう」

 

「!? なによソレ、まるで別れの挨拶みたいじゃない……ッ」

 

 キッと睨みつけるような視線を送る女魔法使いちゃんに、()()困ったような笑みを返す吸血鬼侍ちゃん。随分痛めつけちゃったけど、この身体はあの子のものだから。ちゃんと返さなきゃダメなのと続ける吸血鬼侍ちゃんをきつく抱き締めています。ひとつのからだにはひとつの魂、それが自然なコトでしょと笑う顔は曇りのない透明なもの。そんな顔を物理的に歪ませたのは、横から伸びてきた賢者ちゃんの両手でした。

 

「寝言は寝てから言うのです。魂の入れ物が必要なら、作ればいいだけの事なのです。散々好き勝手やってハイさよならとか、ヤリ逃げ男よりも性質(タチ)が悪いのです」

 

「おあ~……」

 

 ムニムニとほっぺを引っ張られ、奇妙な声を上げる吸血鬼侍ちゃんを女魔法使いちゃんと一緒に抱き締めながらぷんすこしている賢者ちゃん。たしかに、身体が足りないのならもうひとつ作ってしまえば良い。普通に考えれば荒唐無稽な話ですが、賢者ちゃんが言うと信憑性がありますねぇ。

 

「まずはあの友達がいなさそうなボッチをわからせて、そのあとみんなでお説教なのです。……それが終わったら、たっぷり愛してあげるのです」

 

「……ふふっ。そうね、先ずはあのスカシ面を凹ませましょう? 後のことはそれからでいいわ」

 

「……うん!」

 

 左右の頬に2人からちゅ~されて、やる気が上がった吸血鬼侍ちゃん。それを見た一行の顔にも余裕が戻ってきたみたいです。一方で蚊帳の外だった総大主教(グランドビショップ)も再起動し、忌々し気に吸血鬼侍ちゃんを睨みつけてきてますね。

 

「……半死半生の雑魚が1人増えたところでどうなる!? お前たちは全員ここで終わりなんだよ!!」

 

「ウーム、太陽を信じぬ湿度の高い男はこれだから困る。嫉妬の炎は太陽とは違うのだぞ」

 

 今までの慇懃無礼な態度をかなぐり捨て、感情をむき出しに絶叫する総大主教(グランドビショップ)、どうやらアレが彼の本性のようですね。醜悪なそれを半目で見ていた聖騎士さんの呟きでさらに激高し、残る六本の首を一斉に嗾けて来るようです。

 

「かつての悪竜神(ティアマト)は五本の首全てを落とされ、その胴体は下方次元に放逐された。だがこの残響(アバター)は違う! 弱点を補うために首を増やし、()()()()()()()関連付けることで高い神性も付与してある!! 死にぞこないに太陽神の信徒、おまけに犬が一匹増えようが、こちらの勝利は揺るがない!!!」

 

 

 

立ったな(フラグが)。迫り来る暴威を前にそれぞれの得物を構える一行。村正を抜こうとした吸血鬼侍ちゃんを見て、賢者ちゃんがアドバイスてくれていますね。

 

「先のダメージを見る限り、太陽の属性が弱点のようなのです。たしか太陽の直剣を持っていた筈なのです。それを使うのです」

 

「おお、貴公も所持しているのか! 俺もかつての冒険で手に入れ、愛用しているのだ!!」

 

「よーし、じゃあ今日は合わせて三兄弟だ!」

 

 嬉し気に剣を抜き放つ聖騎士さんと並び立ち、鮫のような笑みを浮かべる勇者ちゃん。ここからが反撃の時間(ターン)だと言わんばかりの気合いの入り様を見て、普段は冷静な剣聖さんも気を昂らせているみたいです。女魔法使いちゃんと賢者ちゃんには後方支援に回ってもらって、吸血鬼侍ちゃんも早速……。あれ? 吸血鬼侍ちゃんの顔が青褪めてますね。それに出る筈の無い脂汗も浮かんでいます。いったいどうしたんでしょう。≪手袋≫から剣を取り出そうとしない吸血鬼侍ちゃんを不審げに見ていた賢者ちゃんが心配して声をかけています。

 

「どうしたのですか? もしかして損傷が進んで動けないのですか?」

 

 背後からの問いかけにゆっくりと振り返り、フルフルと首を横に振る吸血鬼侍ちゃん。じゃあ何が、という表情の賢者ちゃんに、半笑いの表情で言葉を返します。あ、あの顔はやっちまった時の顔ですね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トラウマこくふくのときにわたしちゃって、かえしてもらうのわすれてた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あ。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




 GW中にこのセッションを終わらせたいので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がるかもしれませんのでよろしくお願いいたします。更新の燃料になります故……。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその10-8

 お天気が良くてもおうちにいるので初投稿です。



 あーあー、音声大丈夫です? 映像は乱れてません? こちらはちょうど今ボス戦が始まったところです。

 

 なんとかそちら(盤外)との回線は確保しましたけど、現地にいる太陽神さん以外は信徒(推しの子)に奇跡を送れない状態のままみたいですね……。

 

 たとえ奇跡が届かなくても、みなさんの想いは彼らに通じると思います! 是非応援してあげてください!!

 

 

 

 前回、吸血鬼侍ちゃんがうっかりしていたところから再開です。

 

 自分の正体を暴露され死んだ目になっていた状態から復活したのも束の間、昨年の収穫祭の時に太陽の直剣を剣の乙女に貸したまま忘れるという盛大なガバが発覚した吸血鬼侍ちゃん。オロオロするばかりの様子に溜息を吐いた賢者ちゃん。苦笑いを浮かべていた剣聖さんが一歩進み出て状況を動かしてくれました。

 

「ならば私が前に出よう。スマンが属性付与(エンチャント)を頼む」

 

「無いものはしょうがないのです。私たちと一緒に後ろから援護に回るのです」

 

 おお、賢者ちゃんが呪文を唱えると、剣聖さんの握る剣に勇者ちゃんや聖騎士さんと同じ太陽の輝きが宿りました! 二度三度と剣を振り満足そうに頷いた剣聖さんが、裂帛の気合いとともに眼前の大悪竜(オロチ)へと吶喊していきます。それを見送った賢者ちゃんがしょんぼりしている吸血鬼侍ちゃんを回収し、後方で待機していた女魔法使いちゃんのところまで下がっていきますね。

 

「おかえり。で、どうするの?」

 

「せっかく()()()がいるのです。まずは()()をするのが礼儀なのです」

 

「わかったわ。ほら、アンタも何時までもしょげてないで働きなさい」

 

「うん……」

 

 頭をぺしりとはたかれた吸血鬼侍ちゃん。気合いを入れ直して見つめる先は怪獣大決戦真っ只中の戦場。左右に並んだ2人に目配せをして、一斉に呪文の詠唱に入りました!

 

「≪ウェントス()≫!」

 

「≪ルーメン()≫……!」

 

「……≪リベロ(かいほう)≫!! せぇ~のっ!」

 

 杖を片手に複雑な呪印を結ぶ女魔法使いちゃんと賢者ちゃん。2人の身体から溢れた魔力が吸血鬼侍ちゃんの両手に集まり、万物の根源立つ原初の光が灯り始めます。組んだ手を開けば比例して大きさを増す光球。一抱え程になったそれを掴み、大きく振りかぶった吸血鬼侍ちゃんが勢いよく投擲しました!

 

「全員一時退避~!!」

 

「GYAAAAAAA!?」

 

 背後から迫る熱を感じた勇者ちゃんの号令で一斉に距離を空ける前衛。一番足の遅かった聖騎士さんが効果範囲から離脱した直後、後退する彼に追撃しようとしていた黒い首に≪核撃(フュージョンブラスト)≫が命中! もろに喰らった黒竜の首は悲痛な鳴き声を上げました。……あれ、後ろ3人がしかめっ面になってますね。どうしたんでしょう?

 

「あれ? あんまりきいてない?」

 

「……どうやら対策を取られて(メタを張られて)いたようなのです」

 

「へぇ……ムカつくわね」

 

 

 

「馬鹿め、貴様らの攻撃方法は既に入手済み。竜に万能属性が通じると思うな!」

 

「……DORARARARA!!」

 

 鱗の一部が剥がれ、焼け焦げているものの健在をアピールするように吠える黒い首。祠が怪しく脈動し、供給される魔力によってその傷も瞬く間に塞がってしまいました。先ほど聖騎士さんと狼が倒した白と緑の首も復活し、復讐に燃える瞳で一行を見下ろしています……。

 

 うーん、持久戦になればこちらが圧倒的に不利ですし、かといって押し切れるほどの戦力があるわけでも無し、困りましたね。太陽の直剣が無い吸血鬼侍ちゃんでは弱点をつけないですし、頼みの綱だった分割詠唱が使えないと女魔法使いちゃん自身の火力は物足りません。≪火矢(ファイアボルト)≫にせよ爆発金槌にせよ、火属性が無効化されそうな首も何本かありますからねぇ。……お、ちょっと考え込んでいた吸血鬼侍ちゃんが顔を上げ、2人に声をかけてます。何か思いついたのでしょうか?

 

「あのね、もういっかいさっきのやつおねがいできる?」

 

「構わないのですが、あまり効果は望めないと思うのです」

 

「……ねぇ、また無茶な事考えてるでしょ?」

 

 再び杖を構えた賢者ちゃんと、じっと吸血鬼侍ちゃんの目を見つめる女魔法使いちゃん。隠し事は許さないからという気持ちの籠った視線に対し、肯定の頷きを返してますね。

 

「うん、すっごいむちゃをする。でも、いまのぼくができるのはむちゃすることぐらいなの。だから……」

 

 おねがい、と頭を下げる吸血鬼侍ちゃん。今までなら黙ってやるか、事後承認を祈って強行していたのでしょうが、流石にこの状況では嘘は付けませんよね。あっさりと無茶をすることを認めた吸血鬼侍ちゃんの頭を撫でながら、女魔法使いちゃんが優しく確認をとっています。

 

「無茶をするのは決定事項なのね……。まぁ素直に言ったから許してあげる。でも、終わったらお説教とお仕置よ?」

 

「およめさんのしゅじゅつがひかえてるので、できればやさしくしてね?」

 

 絞られ過ぎて手術が出来なくなったらそれこそ笑い話にもなりませんからねぇ。そこだけは念を押してお説教とお仕置きを甘んじて受けるつもりの吸血鬼侍ちゃん。覚悟ガンギマリなその態度に女魔法使いちゃんも折れた様子で、しょうがないわねぇと言いながら杖を構えました。

 

「それじゃいくわよ? ……≪ウェントス()≫!」

 

「何をするつもりかわからないのですが……。≪ルーメン()≫!」

 

「それはみてのおたのしみ」

 

 先ほどと同じように、2人の身体から溢れた魔力が吸血鬼侍ちゃんへと流れ、両の掌に光が生み出されました。万物を照らし育む癒しの光であると同時に、その熱であらゆるものを焼き尽くす、相反する性質を内包した可能性の光。その輝きをキラキラした瞳で見つめながら……。

 

「……≪オッフェーロ(ふよ)≫!!」

 

「「……え?」」

 

 自らを抱き締めるように、両の手に宿った小さな太陽の輝きを体内へと取り込みました!

 

 

 

 

 

 

「ム!」

 

「お?」

 

「あれは……!?」

 

 お、前線で首と斬り結んでいたみんなも背後で発生した新たな輝きに気付いたみたいですね! 相対していた大悪竜(オロチ)も周囲に漂う太陽の気配に気圧されたように動きを止め……機械仕掛けの奴だけキョロキョロとあたりを見渡してますね。ポンコツかな??? 一瞬の静寂が訪れた戦場。それを破ったのは、己が理解の、予想の、願望を超えた事態に遭遇し、超越者の仮面が剥がれ落ちた総大主教(グランドビショップ)のヒステリックな叫び声でした。秘宝であるはずの本を取り落とし、ワナワナと震える指先を突き付ける先は、徐々に光が収まる中に立つ小さな人影。

 

「……馬鹿な、なんだその姿は。そんなモノ、万知神(アイツ)の設定には無かったぞ!? ≪核撃(フュージョンブラスト)≫のエネルギーを体内に取り込むなど正気のモノがやることじゃあないぞ、この不良品(ガラクタ)が……!?」

 

 そこではたと気付いたように辺りを見渡し、見つけ出した白い影へ憎々し気に怒鳴ります。ていうかシナリオや他人の設定を覗き見してメタを張るとか大概な事してやがりますねコイツ。……あ、別に彼とは関係無いんですけど。冷静沈着を装う者が大声を上げる時って、大概余裕を無くして何とかアドを取り戻そうとしている時のような気がしませんか?

 

「矮小な太陽神の走狗(イヌ)と見逃していたが……。貴様、まさか僕と同じ化身(アバター)!? 貴様がこいつらに力を貸しているのか!!」

 

「フン!」

 

 その問いに答えるまでも無いと言うように鼻を鳴らし、行きがけの駄賃とばかりに青竜の首を斬り飛ばして疾走する狼。三回転後の着地を決めた先は、見違える姿となった吸血鬼侍ちゃんの隣です。

 

 

 

「綺麗……はっ!?」

 

「気を抜ける状況では無いのです。……たしかに()()姿は少々理性によろしくないのですが」

 

 戦闘中であることが頭から抜け落ちてしまったように、吸血鬼侍ちゃんを見つめる女魔法使いちゃん。構えていた爆発金槌の先が地面に接触した音で我に返り、気持ちを切り替えようと真っ赤になった顔を振っています。そんな女魔法使いちゃんを窘めている賢者ちゃんの頬も朱に染まり、本人はチラチラと見ているつもりのガン見を視線の先に注ぎ続けていますね。2人に……いえ、この場にいるすべての演者(キャスト)が注目する中、ゆっくりと吸血鬼侍ちゃんが閉じていた眼を開き始めました……。

 

「ん……。うまくいったかな?」

 

 体内に取り込んだ太陽が秘める熱の影響でしょうか。インナーも含め装備していた服は全て崩れ去り、見えるのは一糸纏わぬ小さな姿。体中に走るひび割れは朱色の紋様となり、そこから吹き出す黄金の太陽風(フレア)が薄衣のように裸体の一部を覆っています。頑なに秘匿し続けていたオデコも露わとなり、総大主教(グランドビショップ)を見据える瞳は血の赤ではなく黎明色に。あ、『吸血鬼侍(分身)ちゃん』に比べてちょっと三白眼気味ですね! もしかしてそれが恥ずかしくてずっと隠していたのかな?

 

「ワンワン! わふぅ」

 

「えへへ、ちからをかしてくれてありがとう()()()()()

 

 隣に降り立った狼……太陽神さんの化身(アバター)の首元に顔を埋め、感謝の気持ちを伝える吸血鬼侍ちゃん。どうやら狼の正体には気が付いたようですね! おひさまの匂いを胸いっぱいに吸い込み、促されるままにそのもこもこの背中に跨ります。しっかり背中に座ったのを確認すると、狼が咥えていた剣をそっと差し出してきました。使えと言いたげなその表情に戸惑う吸血鬼侍ちゃん。せっかくだから借りちゃって良いと思いますよ?

 

「えっと、……いいの?」

 

「バウ!」

 

 お、吸血鬼侍ちゃんが剣を受け取ると、狼が何処からともなく大きな円盾()と鈴なりに結ばれた呪物(勾玉)を取り出し、中空に浮かべてますね。武器をとっちゃったかと心配していた吸血鬼侍ちゃんですが、それを見て顔に笑みが戻ってきました。うんうん、流石信徒と信仰対象、相性はバッチリ! お、前衛のみんなが集まってきました。どうやら決め技に入る準備をするつもりみたいですね!

 

 

 

「おお、貴公も己が内に太陽を見出したのだな!!」

 

「うん。かくぶそうさんたちのわざをみて、もしかしたらできるかもっておもったの」

 

 あー、アレを見て思いついたんですか! ん? でも核武僧さんのパンチは核分裂ですけど、たしか≪核撃(フュージョンブラスト)≫は核融合……。いや、そんな細かいことは気にしちゃダメですね! HBの鉛筆をへし折る事と同じように出来て当然と思うことが重要だって、昔世界を支配しようとしていた吸血鬼の忠実なる配下が言ってましたし!!

 

「おー! 可愛いけどちょっとエッチだね!!」

 

「あ、さわるとあついからきをつけてね?」

 

「いや、これはもはや犯罪では……?」

 

 戦線を再構築するために集まってきた勇者ちゃんと剣聖さんも、吸血鬼侍ちゃんを見て驚いています。剣を持ってないほうの手を近付けては離しを繰り返し、身体から放出されている熱を確かめているようですね。勇者ちゃんの後ろで鼻を押さえている剣聖さん、鼻から飛ぶ斬撃が漏れそうでしてよ? 背中に高熱を発している吸血鬼侍ちゃんが乗っているのにポアっとした顔をしているあたり、やはり太陽神さんの化身(アバター)は優秀だなぁ。

 

 

 

「巫山戯るなよ……っ。何処まで僕の邪魔をすれば気が済むんだ……!?」

 

 おや、一行が戦闘中会話(フレア稼ぎ)をしているのに業を煮やしたのか、総大主教(グランドビショップ)大悪竜(オロチ)ごとこちらへ向かってきました。彼が抱える負の感情に反応してか、過剰供給された魔力によって八つ首の目も血走り、口からはそれぞれの属性のブレスが漏れ出しています。

 

「どいつもこいつも、何故僕を気持ちよく遊ばせない!? 楽しませようとしないんだ!?」

 

 こんな事、許される筈が無いと呟く彼を冷たい視線で見ているのは後衛2人。三千世界を渡り歩く賢者ちゃんなら兎も角、この世界に生きる女魔法使いちゃんにとっては理解の及ばぬ超次元的思考……というより、ただの狂人の戯言ですよねぇ。

 

「バッカじゃないの? 別に世界は()()()()()()()()()()()()()()()()()っつーの」

 

()()もまた、あの子と同じく世界の法則から外れた存在なのです。あの子と違うのは、それが世界に認められたかどうか。その一点なのです」

 

 然程大きくはない2人の会話。ですがそれは彼にとって決して捨て置けぬ言葉だったようです。矢継ぎ早に大悪竜(オロチ)へ命令を下しながら狂気に満ちた瞳で女魔法使いちゃんを睨みつけ……。

 

()()がそれを言うのか? 本来なら()()()()()()()()()お前が! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ただ()()のお気に入りというだけで持て囃されている玩具(オモチャ)でしかない、()()お前が!?」

 

 ……()()()()()()()()()()()、その言葉を口にしてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で? それがどうしたっていうのかしら」

 

「なん……だと……!?」

 

 明かしてはならない真実をぶつけてもなお崩れない女魔法使いちゃんの態度に、気圧されたように言葉を失う総大主教(グランドビショップ)。手に持つ爆発金槌をクルクルと回し、手から≪点火(インフラマエ)≫の単語発動をしながら静かに彼へ言葉の刃を抜き放ちます。

 

「アンタの言ってることは何一つ理解できないし、理解したくもないわ。でも、もし()()()があの場所に居なかったら、私は()()()で死んでいた。何も残せず、何も変えられず。……そういうことなんでしょ?」

 

 こんな事も出来ずにゴブリンに殺されていたんじゃないと口にする女魔法使いちゃんの顔は普段通りのまま。その事実こそが逆に総大主教(グランドビショップ)を怯えさせる原因になっているのでしょうか。それに、と続ける女魔法使いちゃんの言葉が、戦争音楽に満ちた空間に不思議と響き渡ります。

 

「たとえ誰か()の意思で誘導されたものだとしても、アイツが私を求め、私がそれに応えたことは変わらないわ。私はあの子を愛している。これまでも、そしてこれからも。アイツが望む限り永遠にね?」

 

「馬鹿な、その感情こそがアイツらによって植え付けられた、偽りのものだというのに……!?」

 

 理解できないという総大主教(グランドビショップ)の顔を見て馬鹿にするような笑みを浮かべ、本来(原作)よりもたわわな胸を張る女魔法使いちゃん。やましいところなぞ何一つとして無いという開き直った顔で、この世界全体と、それを観測している誰か()に届けと言わんばかりに高らかに宣言するのは……。

 

 

 

「それこそ望むところってヤツよ。つまり私たちとあの子はたくさんの人々(神々)に祝福されている! このありきたりな幸せを邪魔するって言うのなら……かかって来なさい。神だろうとなんだろうと、みんな纏めてぶちのめしてあげるわ」

 

 

 

 ただの人間が口にするのには傲慢すぎる、でも誰もが苦笑して受け入れてしまうような。

 

 そんな、恋する少女の一世一代の宣戦布告(告白)でした。

 

 

 

「うんうん、やっぱり愛されてるね~キミ! あの子が夢中になるのも分かる気がするよ!!」

 

「あう……///」

 

 後方からの盛大な援護射撃(告白)でお肌ツヤッツヤな勇者ちゃんにからかわれ、顔を真っ赤にして俯く吸血鬼侍ちゃん。その間にも大悪竜(オロチ)へ攻撃する手を緩めないあたりフレアの補給は万全みたいですね! 過剰供給による負荷が原因なのか、大悪竜(オロチ)の再生にも異常が起きたらしく首の総数は増え続けるものの全体的な力は減少しているみたいです。攻め手が増えたことに対抗しようとして手段を誤ったのかもしれませんね。

 

「とはいえ貴公、その状態も長くは保たんのではないか?」

 

「うん、あとさんぷん(3ラウンド)くらいかな……?」

 

 おっと、流石に負荷が厳しくなってきたんでしょうか。見れば身体中に走る紋様の一部が赤から黒に変色し、プスプスと黒い煙が……ひょっとして焦げてます?

 

「なんだ、じゃあ大丈夫だね!」

 

「そうだな、何も問題は無い」

 

 自信満々に告げる勇者ちゃんと剣聖さん。どうやらハッタリでは無さそうですね。剣を大悪竜(オロチ)、その背に立つ総大主教(グランドビショップ)に向け、キメ顔で宣言するのは……。

 

「「一分(1ラウンド)で、十分(フィニッシュ)だ!!」」

 

 堂々たる勝利予告です。

 

 

「で、どうやってアレを倒すのかね?」

 

 聖騎士さんが見つめる先、額に青筋を浮かべた総大主教(グランドビショップ)が、もはや語ることも無いと口を閉ざしたまま四十八本まで増えた竜の首を操り、一行を滅ぼさんとその神に等しい力を行使しています。数多の属性が入り混じった竜の吐息(ブレス)は結界と言えるほどの密度となり、近付くことは容易では無さそうですが……。

 

「ああ、アレ? 見掛け倒しで大した威力じゃないと思うよ? 数に対抗するために首を増やしたせいで、攻撃力も防御力もガタ落ちだね!」

 

 猪突猛進に見えてそのあたりクレバーですよね勇者ちゃん。まぁ毎度毎度負けられない戦いばかりですから、そういうのを見抜く眼力も磨かれてきたんでしょうね。

 

「ブレスの結界を突破して、全員自慢の必殺技でどっかーん! これで勝つる!!」

 

 すいません、やっぱり脳筋ですよね? レベルを上げて物理で殴る系の脳筋ですよね???

 

 そしてそれに納得したように前衛全員が太陽神さんを含めて頷いています。何処も彼処も脳筋ばかりだ……。

 

「それじゃいつもの援護よろしく! いぇ~いボク一番乗り~!!」

 

「まったく、調子が良くなる(フレアが貯まる)といっつもああなのです。……ほら、貴女たちもさっさと行って終わらせて来るのです」

 

「は~い」

 

「わふっ」

 

 既に駆けだしている前衛のみんなの後を追うように疾走する狼と、その背に跨り剣を構える吸血鬼侍ちゃん。行く手には渦巻く魔力の嵐、竜の吐息(ブレス)の洗礼が待ち構えています。翼を展開して迎撃しようとする吸血鬼侍ちゃんを制し、狼はそのまま駆けていきますね。そろそろ先に行ったみんなが竜の吐息(ブレス)エリアに入りますけど、どうやって回避するつもり……うわぁ。

 

 身体から放出されるフレアで竜の吐息(ブレス)を遮断している勇者ちゃんは、そもそもレベルが違うのでまぁ納得しましょう。でも剣聖さん、どうみても隙間の無いその竜の吐息(ブレス)、なんで当たってないんですか??? これが元祖『射線を先読みしての移動』と『ドット単位で見切るすり足』の組み合わせなんでしょうかねぇ……。

 

「よっ、ほっ、ムン、トオォー!!」

 

 そして騒々しく前転し続け(ローリングし)ている聖騎士さん。アレ絶対当たってますって……。

 

 え、なんです万知神さん? アレこそがアタリハンテイ力学を応用した前転回避? うわーやーなむちほーでもよく見た光景です! って、無貌の神(N子)さんまで……。

 

 と、とにかく全員被弾せずに接近することが出来たみたいですね! さて、吸血鬼侍ちゃん&太陽神さんのほうは……。

 

「すっごーい!」

 

「ワン!」

 

 おー、太陽神さん大盤振る舞いですね! 属性ブレスを(疾風)で吹き散らし、首が体当たりしようと迫れば周囲の時間を遅くして(霧隠で)回避、あ、よそ見していた機械仕掛けの首に、聖騎士さんから伸びた稲妻(迅雷)が当たりました! 周囲で起きる不思議な現象に吸血鬼侍ちゃんも大喜びです。

 

 

 

 周囲を覆っていた竜の吐息(ブレス)の結界が突破され、とうとう本体まで辿り着かれた大悪竜(オロチ)。その背に立つ総大主教(グランドビショップ)の顔が屈辱と恐怖に歪んでいるのが見て取れます。逃げ場を潰すように全方向から迫る一行、賢者ちゃんの魔術による援護で、草を刈るような速度で首を薙ぎ払っていきます。

 

「そろそろトドメだ! みんな、いっくよ~!!」

 

 勇者ちゃんの号令で己が得物に力を籠める前衛陣。空間全体を照らし出すように生まれた複数の太陽の輝きを前に、大悪竜(オロチ)の首が怯えるように祠の周囲へ巻き付いていきます……。いや、怯えているのは大悪竜(オロチ)じゃありません、それを操っている……!

 

「クソ! 大悪竜(オロチ)よ、僕を守れ!! あんな大技連発できるわけが無い。こちらは魔力さえあれば幾らでも再生ガッ!?

 

 あ、大悪竜(オロチ)を盾にしようとしていた総大主教(グランドビショップ)の顔が仰け反りました! 幾重にも張られた防護結界を抜け、呪文抵抗すら貫通して当たったのは≪力矢(マジックミサイル)≫、その射手はもちろん……。

 

 

 

「あら、今日も命中。運が良いわねぇ」

 

 指で総大主教(グランドビショップ)を指し示したポーズを決めている女魔法使いちゃんですね!

 

 突然の衝撃に蹈鞴を踏み、穿たれた目を押さえながら遠方で挑発している女魔法使いちゃんを睨みつけていますが……その気の緩みが命取り。制御を離れた首が縦横無尽に動き回り、痛みとの相乗効果で彼の冷静さを奪い取っていきます。その隙を見逃すほど、一行が甘いわけがないんですよねぇ。

 

 

 

「日輪の力を拝借して……!」

 

「今、必殺のぉ……っ!」

 

「太陽、万歳!!」

 

 剣聖さん、勇者ちゃん、そして聖騎士さん。三方から大悪竜(オロチ)を取り囲み、太陽の輝きを秘めた一撃を放つ3人。閃光は総大主教(グランドビショップ)の展開する防御結界を易々と貫き、その膨大な熱量で大悪竜(オロチ)の首を焼き滅ぼしていきます。

 

「ぐっ!? こんな、こんな事があってたまるか! 僕は認めない、僕を認めなかった奴ら、その人形どもを認めない!! ……ハッ!?」

 

 辛うじて自分の身は護れたのでしょう。黒焦げになった大悪竜(オロチ)の背、崩れかけた祠にもたれかかるように立つ総大主教(グランドビショップ)が、自分以外の全てを否定する怨嗟の声を上げています。ですが忘れていません? 自分が何を一番警戒していたのかを。ほら、空を見上げて? そこに終わりが見えますよ?

 

 総大主教(グランドビショップ)が見上げる視線の先、白き双光が天から落ちてきます。踊る様にクルクルと周り、加速し続ける光の螺旋。

 

 突撃体勢をとった吸血鬼侍ちゃんと太陽神さんのエントリーだ!

 

 降り注ぐ陽光の槍を前に、彼の口から洩れるのは悲鳴と疑問でした。

 

「止めろ、僕の夢を壊すな! 何の権利があって僕の邪魔をする!? 僕はお前たちと同じことをしているだけなのに!!」

 

 えぇ……? この期に及んでまだ自分のやっていることが理解できないとか、どうしましょう? なんとか吸血鬼侍ちゃんを通じてハッキリわからせてやりたいんですけど、大丈夫かなぁ。

 

 

 

「きみのきもち、ちょっとだけわかるよ」

 

「ぼくもあのこのからだをかりて、いままでたくさんみんなにめいわくかけてきたから」

 

「でも、ぼくはきみとちがう」

 

「きみは、きみいがいのだれもみとめようとしなかった」

 

「じぶんのことをわかってくれないと、あいてのことをわかろうとしないのにわめいてた」

 

「それじゃあだれもきみのこと、すきになってくれないよ」

 

「ぼくは、ぼくのすきなひと、ぼくをすきでいてくれるひとのためにわがままになる」

 

「ぼく『が』しあわせになるために、みんな『で』しあわせになるために」

 

 

 

「だから……さよなら」

 

 

 

 

 

「どうして……?」

 

 

 

 祠を蹴り穿つように着弾した吸血鬼侍ちゃんと太陽神さん。そこから広がる爆発的な閃光が空間全体を白く染め上げ、一行の視界を奪います。やがて光が収まり、眼前に掲げていた腕を退けたみんなの目に映る景色は、寸刻前のものとは大きく異なりました……。

 

 

 

「わぁ~!」

 

「おお、これはまた……!」

 

「美しいな……」

 

 焼け焦げた竜の首だったもの。大樹の枝に変じたそこから芽吹くのは、淡い桃色をしたたくさんの花。勝利の余韻を感じさせる風に舞うのは桜の花びらです。この空間が崩壊するまでの僅かな間だけ咲き誇ることを許された儚い夢の景色が、そこには広がっていたのです。

 

 祠のあった中心点。抉れたそこには浄化された竜血であっただろう水が流れ込み、小さな池が出来ていました。その真ん中に見える2つの白。水面に浮かぶ蓮の葉に立っているうちの片方が、天を指差すように腕を上げて……。

 

 

 

 

 

 

「ぼくたちの……かちだ!」

 

 

 

 その声に呼応するように太陽神さんが放った勝ち名乗りの遠吠えが、桜花舞う清浄な空間に、何処までもどこまでも響き渡っていくのでした……。

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まったく、あの調子だと最後の最後までわかってなかったんだろうなぁ。

 

 あれだけ卓を引っ掻き回している万知神さんや無貌の神(N子)さんが認められて、なんで自分が認められないのか。

 

 だって、きみは自分の事ばかりで他の()のやりたいことを認めようとしないんだもの。

 

 それじゃあだれだってきみと遊びたいなんて思わないし、きみが来るのを嫌がる様になるだけだよ

 

 今回だってそう。乱入なんかしないで最初から遊びたいって言ってれば、こんな事にはならなかったかもしれない。

 

 あの覚知神さんだって、犬猿の仲の万知神さんがいてもわざわざ許可を得て参加しているんだもの。

 

 ……そんなんだから、きみはいつまでたってもみんなから独り善がりの無法者、吟遊詩()って呼ばれるんだよ……。

 

 

 




もう一話か二話くらいでこのセッションが終わりそうなので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がるかもしれませんのでよろしくお願いいたします。更新の燃料になります故……。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその10-9

 今がその時なので初投稿です。



 吸血鬼侍ちゃんと太陽神さんに蹴り出された化身(アバター)は下方次元界に落下、中の人(吟遊詩神)は別室で≪真実≫さんと≪幻想≫さんによるお説教中……と。

 

 ふぅ、なんとか収拾がつきましたかね。これで彼ももう少し他()の気持ちを考えて行動してくれるようになれば良いんですけど。

 

 さて、あとは吸血鬼侍ちゃん……本体ちゃんのほうをどうするかですが……。

 

 ん? 万知神さんGM神さんと何話してるんです? いいから気にしないでって、その邪悪な笑みを見たら誰だって気になりますって!

 

 あーもう! わかりました。こっちはそろそろ〆に入りますから、適当なタイミングでイベント起こしてくださいね!

 

 

 

 お待たせしました! 前回、見事ボスを撃破したところから再開です。

 

 バッチリ勝利のポーズを決めている吸血鬼侍ちゃん。ずっと抱えていた色々な気持ちに整理がついたのでしょう、眉を立てた明るい顔になってますね。ああいう顔をしているとコンプレックスだった三白眼もヤンチャな男の子みたいで可愛いものです。あれ、そういえばさっき三分で時間切れって言ってませんでしたっけ?

 

 

 

ぷしゅ~……

 

「あ、もうだめ~……」

 

「わふ!?」

 

 ああもう言わんこっちゃない。全身から噴き出ていた魔力もその勢いを急激に弱め、生まれたままの姿に逆戻りしてそのままひっくり返っちゃいましたね。体中のひびからは僅かずつですが魔力が漏れたまま、これあんまり良い状態じゃないですよね? 慌てて狼……太陽神さんが背中に乗せ、みんなが待つ池のほとりに運んでくれました。

 

「うわ、大丈夫って()っつ!? ……ゴメン、大丈夫?」

 

「あいた~……」

 

 おわ、太陽神さんの背中で伸びてる吸血鬼侍ちゃんを受け取ろうとした勇者ちゃんが、触れた肌が持つ予想以上の熱さに驚いて吸血鬼侍ちゃんを落としちゃいました。受け身も取れず顔面から地面とちゅ~して涙目になってますね。同じ太陽の熱だと身に纏う加護で防げないみたいです。うーむ、これじゃあ介抱するの苦労しそうですが……。

 

「まったく手のかかる頭目(リーダー)だこと。ほら、じっとしてなさい」

 

「は~い……」

 

 お、賢者ちゃんと一緒に歩いてきた女魔法使いちゃんが羽織っていた外套(クローク)で吸血鬼侍ちゃんを包んで抱き上げました! そういえばその外套(クローク)革手袋(グローブ)、赤竜が素材でしたっけ。上手いこと熱を遮断してくれているようです。持ち運ぶだけならこれで十分そうですね。女魔法使いちゃんに抱きかかえられて安心したのか、吸血鬼侍ちゃんは寝てしまったみたいです。もしかしたら消耗を抑えるために最低限の機能以外をカットしちゃったのかもしれませんね。

 

「≪転移≫を阻害していた術式は既に解除されているのです。すぐに地上まで戻って……もう一人のこの子に話を聞いてみるのです」

 

 いつもの鏡を取り出さず、静かに目を閉じた賢者ちゃん。小さな声で何かを呟いていますが、もしかして直接転移するために座標を計算しているんですかね? あの、お願いですからここまで来て*いしのなかにいる*だけは勘弁して下さい……。

 

 

 

「やぁおかえり。他の組は既に帰還して……どうやらねぎらいの言葉をかけている余裕は無さそうだね。君たちの仲間は知識神の天幕(テント)で休息をとっている、案内しよう」

 

 賢者ちゃんの≪転移≫によって地上へ帰還した一行。手に鈴のようなものを持った銀髪侍女さんが出迎えてくれました。≪転移≫してくることが予め分かっていたような出待ちでしたが……あの鈴が転移を察知する呪物とかなんですかね。外套(クローク)に包まった吸血鬼侍ちゃんを見て容易ならざる事態だと判断したのでしょう、挨拶もそこそこにみんなのところへ案内してくれるみたいです。

 

 知識神の天幕(テント)が並ぶ一画、他の天幕(テント)と違ってここだけ国際色豊かな面子が集まっていますね。道中で戦況を聞いたところ、軍による二重包囲が成功して殆ど殲滅に近い戦果だそうです。包囲を突破できたのは飛行ユニットの一部くらいで、ゴブリンやオーガなど地上ユニットは鏖殺完了とのこと。前もって巡回説教者さんや核武僧さんたちが間引いていたとはいえ中々の大戦果。これで天秤が秩序側に傾いたかな?

 

「あ、やっと帰ってきた! お疲れ~って……シルマリル? なんでそんな格好してるの?」

 

「近付いてはダメなのです。今から状況を説明するので、主だった面子を集めてくるのです。……惚けてないで早く動くのです!」

 

 いち早く一行を見付けたのは妖精弓手ちゃんでした。跳ねるような勢いで近付いてきましたが、女魔法使いちゃんに抱きかかえられたまま死んだように動かない吸血鬼侍ちゃんを見て表情が固まってしまいました。その尻を蹴とばす勢いで指示を出す賢者ちゃんの声で我に返り、慌てて他のメンバーを呼びに行ってくれました。

 

 

 

「……というわけで、現在非常に危険な状態なのです」

 

 知識神の神官さんの好意で貸切らせてもらった大型天幕(テント)の中、机の上に外套(クローク)をシーツがわりにして吸血鬼侍ちゃんが寝かされています。賢者ちゃんから吸血鬼侍ちゃんの正体と現在の状況、身体が痛んだ経緯を聞いた一同の顔は等しく暗いものに。浮かない顔ばかりの天幕(テント)を見渡した賢者ちゃんが、分身ちゃん……『吸血鬼侍ちゃん』へと歩み寄っています。

 

「あの子は、貴女に身体を返そうとしていたのです。それが本来の姿、自然な姿なのだと主張していたのです。ですが……」

 

「そうだね。それであのこがいなくなっちゃうのはぜったいにダメだし、なにより……」

 

 そこで言葉を区切った分身ちゃん。力無い笑みを浮かべながら、嘘偽りのない今の心情を吐露します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんかあたらしいからだがてにはいっちゃったから、いまさらかえされても……こまる?」

 

 ですよね~。喜ぶべき事の筈なのに、なんとも喜び辛いタイミングで手に入った新しい身体。先に帰還した2組を見ていた無貌の神(N子)さんと万知神さん曰く、2人になっておめでとうパーティをするつもりで盛り上がっていたそうです。おお……もう……。

 

「まぁまぁご主人様、逆に考えるんだ。そっちの身体はあげちゃってもいいやって」

 

「上姉様、場を和ませる冗談にしては少々趣味が悪いと思います」

 

 森人狩人さんのジョークも上滑りしているこのなんとも言えないグダグダ空間。咳ばらいをした賢者ちゃんが気を取り直して今後の動きについて話し始めました。

 

「先程も話した通り、あの子の身体は罅の入った水瓶のようなものなのです。今は私が魔力を送り続けていますが、それが尽きれば消耗し続け、最後には存在すら危ぶまれてしまうのです」

 

「ええと、でしたらその罅を埋めてしまえばよろしいのでは? 幸いにも()()()頭目(リーダー)が潤沢に魔力を保有しておりますし……」

 

 おずおずと手を上げて発言する令嬢剣士さんの意見に首を振る賢者ちゃん。女魔法使いちゃんも同様なところを見ると既に検討したのでしょうね。どうしてですのという令嬢剣士さんの問いに憂いを隠しきれない様子で答えています。

 

「その方法では水瓶の表面を覆うだけで、内部の罅は残り続けてしまうのです。一見修復できたように見えても、いつまた割れてしまうか分からない状態が続くだけなのです……」

 

 あー、それは厳しいですね。日常生活を送るだけなら大丈夫かもしれませんが、冒険者として活動したり、先程の核エネルギーを体内に取り込んだりしたら今度こそ体全体が砕け散って……あれ? 吸血鬼侍ちゃんが熱を帯びたままってことは、もしかして現在進行形で内部から崩壊しかかっているということでは? お、同様の考えに達した剣の乙女が賢者ちゃんに聞いてますね。ああ、やっぱりこのまま放置していたら爆発四散しちゃうっぽいです。

 

「根本的な解決としては、そちらの子のように新しい身体を用意するのが最善の策なのです」

 

「んだども、新しい身体を用意するっつったってよぅ……」

 

 分身ちゃんのほうでさえ、様々な要因が重なった結果の奇跡みたいなものでしたからねぇ。途方もなさ過ぎてみんな困惑している様子……おや、今まで沈黙を保っていたゴブスレさんが寝ている吸血鬼侍ちゃんに近寄っていきましたね。軽銀と吸血鬼侍ちゃんの血で鍛えられた籠手でそっと吸血鬼侍ちゃんの頭を撫でています。そのまま賢者ちゃんに向き直って……。

 

 

 

「わかった。何が必要だ? 直ぐに用意する。遠方にあるのなら取りに行かねばならんな」

 

 

 

 ……。

 

 え?

 

「え、あの、ゴブリンスレイヤーさん? それはどういう意味でしょうか?」

 

 それにもうすぐ手術の予定日じゃないですかと慌てた様子の女神官ちゃん。他の面々の中にも同様の意見の人がゴブスレさんを見つめていますが、それを意に介することもなくポツポツと語ります。

 

「……手術が不安でないと言えば嘘になる。だが、俺はただ頭を垂れて手術の無事を祈るよりも、成長した子供達に『友を救うためにお前たちの出産に立ち会えなくてすまん』と頭を下げられる父親でありたい。……駄目か?」

 

 それに、成功率を上げるなら1人より2人いたほうが良いだろうという残りの言葉は果たして皆の耳に届いたでしょうか?

 

 夫となり、そしてこれから父親になろうとする1人の男の心情。それを吐露するのにどれだけの勇気が必要なのか? 同じく父親になる重戦士さんと槍ニキも、ハッとした表情でゴブスレさんを見ています。

 

「……そうだな。どうせ出産の時に男が出来ることなんざたかが知れている。精々手を握ってやるくらいだろうが、それもアイツに握り潰されるだけかもしれん」

 

「まぁそうだな。父親になるんだったら、ガキに胸張って話せるカッコイイ武勇伝の一つくらい用意しとかなきゃいけねえよな?」

 

 ……んもう、どうしてお嫁さんの居ないときに限ってカッコつけるんですかねぇこの男どもは! 未来のパパたちの奮起を見て他の面々にの顔にも力が戻ってきました! さて、じゃあ現実的にどうするかというと……お、どうやら賢者ちゃんに腹案があるみたいですね! ちょっと聞いてみましょうか。

 

 

 

「みんな、感謝するのです。あの子の新しい身体を作る……正確には再構成するのに必要になるものがいくつかあるのです。ひとつは膨大な魔力。これは既にあるものを流用すれば良いのです」

 

 皆の視線の先にいるのは分身ちゃん。大きく頷いた後に、何かに気付いた様子で剣の乙女に顔を向けました。

 

「ごめんね? けんぞくにするのがちょっとおそくなっちゃう」

 

「フフ、良いんですよ? それで私の大好きなあの子が元気になってくれるのでしたら」

 

「ん、ありがと。それにみんなも……またまりょくをもらうようになっちゃうけど、いい……おあ~……」

 

 あ、おずおずと上目遣いで訪ねていた分身ちゃんの姿が一瞬にして消えました。犯人である森人狩人さんが煙の上がりそうな勢いで分身ちゃんに頬擦りをしています。可愛いなあ可愛いなあご主人様はと繰り返す彼女の頭に拳を叩き込みながら、令嬢剣士さんも了承を返してますね。

 

「……どうやら大丈夫そうなのです。ふたつめに肉体の損傷を埋め、存在強度を増すための素材。あの子の中で燃え盛る太陽を完全に抑え込めるだけの強靭さを生む呪物が必要なのです」

 

「そりゃまたえらく珍しいモンが必要だのう。まさか鋼を埋め込むワケにもいかんじゃろうし」

 

「あの、雪山の製錬場跡で主さまが見付けた軽銀などではダメなのでしょうか?」

 

 森人少女ちゃんの提案に首を横に振る賢者ちゃん。魔力の通りは他の金属に比べればマシみたいですが、鉄よりも融点が低いので今回は向かないみたいです。真銀は、いっそ黄金ではと意見が飛び交いますが、どれも相性がよろしくないみたいです。うーんあと思いつくものと言ったら……。

 

「思い出した! アレよアレ!! アレならバッチリじゃない?」

 

 おや? 妖精弓手ちゃんに心当たりがあるみたいですね。しきりにアレアレと繰り返してますけどそれじゃ誰もわかりませんよ。流石にエルフの森の木とかでは無さそうですけど、他に妖精弓手ちゃんが知ってそうなものってなんかありましたっけ? 頭の悪そうな発言を繰り返している2000歳児を窘めるように、眉間を押さえた女魔法使いちゃんが詳細を聞き出そうとしています。

 

「いや、アレって言われても……。せめて何処で見たのかくらいハッキリして頂戴?」

 

「何言ってるのよ? あんたも見てたじゃない、シルマリルが知識神の文庫(ふみくら)で弄って遊んでたの!」

 

「知識神の文庫(ふみくら)? ……あ」

 

 どうやら思い立つ節があったのか、信じられないと言った表情で妖精弓手を見る女魔法使いちゃん。ドヤ顔2000歳児はアレならバッチリでしょと成功を確信した表情で笑っています。確かにアレなら……と呟く女魔法使いちゃんを見る限り、的外れな代物では無いようですが……。心当たりがあるのですねという賢者ちゃんに頷きを返し、吸血鬼侍ちゃんを抱き上げながら女魔法使いちゃんが立ちあがりました。

 

「とりあえず司祭様に譲ってもらえないか聞いてみましょう。話はそれからよ」

 

 

 

「やぁ、今回は大活躍だった……おっと、どうやら込み入った話のようだね。お茶は出ないけど奥へどうぞ」

 

 お借りしていたものからほど近いところにある天幕(テント)、その入り口で他の神官と事後処理について話し合っていた傷あり司祭さんと半鬼人先生を見付けた一行。にこやかに挨拶を交わす間も無く女魔法使いちゃんが抱えた吸血鬼侍ちゃんを見て事情を察したのか、すぐに天幕(テント)の奥へと一行を案内する傷あり司祭さん。机の上に散乱していた書類を退かし、吸血鬼侍ちゃんを寝かせる場所を用意してくれました。席に座り『死の迷宮』での出来事を離した後、女魔法使いちゃんが本題を話し始めます。

 

「損傷が激しいこの子を救うには、新しく肉体を作り直さないといけません。そのための素材として、文庫(ふみくら)で保管されている()()()()を譲っていただきたいんです!」

 

 あー! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! そういえばそんなモノありましたね。良く言えばフレーバーアイテム、素直に言えばゴミだと思ってましたけど、まさかこんな使い道があるなんて……。金剛石(ダイヤモンド)より硬く、永久不変で決して錆びない金属。太陽の欠片ともいわれる赤く輝くアレならば吸血鬼侍ちゃんの身体を形成する素材にピッタリですね! 傷あり司祭さんと半鬼人先生、どちらも吸血鬼侍ちゃんには友好的に接してくれてますし、これはもう勝ったと言ってもいいでしょう!

 

「成程、事情はわかった。……今、彼女が酷く消耗していることもね」

 

 ……あれ、何か雲行きが怪しいような。

 

「それは、どういう意味でしょうか?」

 

 想定外の反応に対して、硬い表情で問いかける女魔法使いちゃん。無意識のうちに吸血鬼侍ちゃんを抱く腕に力が籠っているようですね……。その様子を見て、傷あり司祭さんも普段の柔和な(ペルソナ)とは違う、策謀家としての一面(キー)を表に出しているようです。

 

「迷宮内で奴らが語っていたことが事実なら、この国を脅かす吸血鬼の数は極僅か。僕たち牙狩りが半壊したあの件からこっち吸血鬼禍が起きていないのも確かな事だね」

 

「……何が言いたいのかしら? まさかこの子が吸血鬼禍を起こすとでも?」

 

 徐々に高まっていく剣呑な雰囲気。それを察知してか自分の得物に手を伸ばしかける者も出るほどの緊張感が天幕(テント)の中を支配しています。硬直した会話を爆発させたのもまた。傷あり司祭さんの言葉でした。

 

 

 

 

 

 

「いや、こう思っただけさ。弱り切った半死人(本体)とまだ完全に力が馴染んでいない吸血鬼(分身)。ここには頭目()を始め元牙狩りが集まっている。差し違える覚悟で挑めば、この地方から吸血鬼を根絶出来るんじゃないかってね」

 

 

 

 

 

 

 直後、天幕(テント)に響いたのは武器を抜き放つ音、驚きの声、そして数多の硬質なナニかが砕け散る破砕音です。

 

 

 

 傷あり司祭さんの周囲には砕けた氷柱が散乱し、無数の触手が全身を串刺しにせんと服に触れるギリギリのところで静止。一方で床面から伸びた真紅の十字架が、武器を抜きかけた西方辺境の冒険者たちを拘束しています。膠着状態に陥った場を収めたのは、呆れた様子で眉間を揉んでいる賢者ちゃんの声でした。

 

「……これで満足なのですか、文庫(ふみくら)の番人。もしこれ以上戯れを続けたいというのなら、我々も介入せざるを得ないのです」

 

「いや、十分だよ。どうやら2人とも、僕が思っていた以上に大事にされているようだからね」

 

 両手を上げて降参のポーズを取る傷あり司祭さん。同時に半鬼人先生が展開していた拘束も融けるように消え去り、天幕(テント)内に静寂が戻ってきました。大きな体をすまなそうに縮こませ、吸血鬼侍ちゃんを守る様に抱き締めていた女魔法使いちゃんに近付く巨体は半鬼人先生ですね。

 

「驚かせてしまってすまない……。だが、元牙狩りとしてどうしても確かめておかねばならなかったのだ。彼女たちが真に人間を友として見ているのか、人間から友として受け入れられているのかを」

 

 深々と頭を下げる半鬼人先生を何とも言えない表情で見つめる女魔法使いちゃん。恩師と想い人、どちらも大切に考えているが故の葛藤でしょうか。

 

「どうやら2人が人間に絶望することは無さそうだ。これなら安心してグハァ!?

 

 あ、胡散臭い笑みを取り戻した傷あり司祭さんが吹き飛んでいきました。僅かな助走距離から見事な飛び蹴りを決めた張本人は、肩で荒い息を吐きながらビシッと指を突き付け、傷あり司祭さんを睨みつけています。

 

 

 

「ハァ、ハァ……。馬っ鹿じゃないの? シルマリルがそんなコトするわけないし、万が一するような時は私たちが責任を持って殺してあげるの。その覚悟も無しに一緒にいると思われるのは侮辱以外の何物でもないわ」

 

 そこまで一気に言うと一呼吸し、天幕(テント)の外まで聞こえるような大きな声で、妖精弓手ちゃんは叫びます。

 

「アンタたちなんかに、シルマリルを終わらせる権利をやるもんか! それは私たちだけのものだ!!」

 

 

 

 

 

 

「というわけで、さっさと譲渡を認めるのです。これ以上引き延ばして何か起きても責任はとれないのです」

 

「ああ、わかったよ。どうやら僕が思ってた以上に彼女は愛されていたようだね。……今すぐ向かうのかい?」

 

 ……ふぅ、どうやら傷あり司祭さんも認めてくれたみたいですね。一行にひたすら頭を下げている半鬼人先生がちょっと可哀そうになってきました。お互い立場というものがあるので仕方ないとは思いますけど、吸血鬼侍ちゃんの周りにいる女性はみんな重量級ですからねぇ……。

 

 さて、ただいま賢者ちゃんと傷あり司祭さんが知識神の文庫(ふみくら)への≪転移≫準備を進めているところですが……あーあー、妖精弓手ちゃんがみんなからからかわれています。恋する2000歳児の周囲をNDKしながら回る森人狩人さんと鉱人道士さん、必死にフォローをいれようとして逆効果になっている森人少女ちゃん、それを見て笑い声を上げているのは蜥蜴僧侶さんと剣の乙女ですね。だれも怖くて指摘していませんでしたけど、傷あり司祭さんに≪聖撃(ホーリー・スマイト)≫をぶちかまそうとしていたのは秘密です。あ、至高神さんが先んじてこっそり決定的成功(クリティカル)にしてたのも内緒ですよ?

 

 

 

「ふふ、これで何とかなりそうですわね」

 

「うーん、これを何とかなったと言うのはちょっと心苦しいけど……」

 

 まだ休眠状態の吸血鬼侍ちゃんを抱っこしている女魔法使いちゃんの隣に、分身ちゃんを抱えた令嬢剣士さんがやって来ました。まるで子持ちの母親のような互いの姿に苦笑し、それぞれ抱き締めている想い人の頭を優しく撫ででいます。優しい目で分身ちゃんを撫でていた令嬢剣士さんが、ふと思いついた様子で分身ちゃんに問いかけました。

 

「あの、これからのおふたりの関係はどうなりますの? どちらかが本体でもう片方が分身というわけでは無さそうですし」

 

 柔らかな手の感触に気持ちよさそうに目を瞑っていた分身ちゃん、器用に腕の中で向きを変え、正面から抱き着くような姿勢になって答えています。

 

「ん~とね、やってみないとわからない。でも、きっといまとおなじ、ううん、いまよりもずっとすてきなかんけいになるとおもう!」

 

「あー、前にゴブリンスレイヤーのお嫁さんが誤解してた姉妹。もしかしたら本当にそんな関係になるのかしらね」

 

「……呼んだか?」

 

 不意に後ろから聞こえた声に驚き、慌てて保護者2人が振り向いた先。ゴブスレさん(角無し兜)聖騎士さん(バケツ兜)、2人を先導するように歩く太陽神さん(わんこ)の姿がありました。令嬢剣士さんの腕の中から抜け出た分身ちゃんが、とぼけた顔をしている狼に抱き着き頬擦りしています。

 

「ありがとう、あのこ(ぼく)をまもってくれて。ありがとう、あのこ(ぼく)をみちびいてくれて」

 

「……ワン!」

 

 気にするなと言わんばかりに分身ちゃんを押し倒し、顔中を舐める太陽神さん(わんこ)。戯れる1人と1()の姿にみんなの顔も緩んでいます。あ、万知神さんが凄い顔で見てるのでそのへんにしておいたほうが良いですよ太陽神さん。

 

「しかし貴公、先程の言葉、心に染み入るようであった! 俺も何時かはあのような言葉が似合う父親になりたいものだ! 相手は未だ見つかっておらんがな!!」

 

「…………」

 

 聖騎士さんの称賛に無言を貫くゴブスレさん。あれ絶対照れてますね。わかりやすい反応を見て、また笑顔の輪が広がっていきます。

 

 おっと、賢者ちゃんがみんなを呼んでます。どうやら≪転移≫の準備が出来たみたいですね。

 

 さて、眠り姫になってしまった吸血鬼侍ちゃん。やっと自分というものを手に入れるチャンスが巡ってきたんです。みんなも協力してくれているんですから、ちゃんと寝坊せずに起きなきゃダメですからね?

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 コノシュンカンヲマッテイタので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。本当に自分では気づかないので有難い限りです。

 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がるかもしれませんのでよろしくお願いいたします。更新の燃料になります故……。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその10 りざると

 目覚める時は今なので初投稿です。

 書きたいことを詰め込んでいたらおそらく今までで最長に。お時間のある時にゆっくりとお読み頂ければ幸いです。




 前回、知識神の文庫(ふみくら)へ出発するところから再開です。

 

 賢者ちゃんの呼び声でぞろぞろと集まってくる西方辺境の冒険者たち。こうやって見ると本当に寄せ集めというか、バラエティ豊かな面子ですね。複雑な演算で消耗したのか、腰に手を当てて水薬(ポーション)を一気飲みしている賢者ちゃんの横には銀色に光る≪転移≫の鏡が置かれています。そこに映っているのは勿論知識神の文庫(ふみくら)、制限時間アリのミッションでファストトラベルが使えるのは有難いですね!

 

 どうやらこの場は銀髪侍女さんと返り血で真っ赤に染まりながらすっごい良い笑みを浮かべている聖人尼僧さんが引継ぎ、軍と協力しての事後処理にあたってくれるみたいです。女魔法使いちゃんにだっこされた吸血鬼侍ちゃん対して気遣いの言葉を送ってくれたのは嬉しいんですけど、そのまま野獣の視線が分身ちゃんにスライドしていったのは怖かったですね。「騒動がひと段落したら小寝子(こねこ)ちゃん共々手合わせお願いしますね?」と微笑みかけられた時の分身ちゃんの怯えっぷりはヤバかったです……。

 

 

 

 さて、鏡を通り抜けた先は昨年訪れたことのある知識神の文庫(ふみくら)。槍ニキは物珍しそうに周囲を見渡していますが、重戦士さんはいつもと変わらぬ立ち姿。もしかしたら修繕や野盗退治の依頼で来たことがあるのかもしれませんね。全員の到着を確認したところで鏡をしまい込んだ賢者ちゃん、一行を見て大きな溜息を吐いています。

 

「ふぅ、転移事故が起きることもなく無事に到着したのですが……別に全員で押し掛ける必要は無かったのでは?」

 

「いや、まぁそうだけど。やっぱ心配じゃない? シルマリルたちの変化を見届けたいってのもあるし」

 

 賢者ちゃんが半目で見渡すのも無理はないでしょう。あわせて20人以上がいきなり現れたんですから修道女さん達もビックリ。元牙狩りの2人が一緒じゃなかったら、保管している呪物を狙ったテロと間違われるような登場と面子ですからねぇ……。

 

 傷あり司祭さんが説明してくれて落ち着きを取り戻した修道女さんたち、一行が寛げるようにとお茶の準備を始めてくれています。あ、目敏い修道女さんたちに囲まれて分身ちゃんが全力で可愛がられてます! 服装や纏う雰囲気が変わっても精神はそのままなのか、嫌がる素振りも見せずに素直におもちゃに徹してますね。これから大切なイベントがあるみたいなんですから、ほどほどにして資料室へ来てくださいねー。

 

 

 

「ええと、この子は此処に寝かせれば良いかしら?」

 

「そこで問題無いのです。ああ、貴女はもう少し左に。運ばれてくる素材とあわせて三角形の配置になるように待機していて欲しいのです」

 

「ん、わかった~」

 

 机や椅子が部屋の隅に固められた資料室、その床に吸血鬼侍ちゃんをそっと横たわらせる女魔法使いちゃん。先ほどから吸血鬼侍ちゃんの体温は下がってきているようで、今は修道女さんにお借りした毛布の上に寝かされています。男性陣がいるところで裸体を晒すわけにも行かないので、肩口から下を隠すように上からシーツがかけられていますが、薄い布地のために身体の線がクッキリと浮かび上がってますねぇ。……うーん、逆にえっちな気がします!

 

 ひとしきり修道女さんたちにチヤホヤされた後、断りを入れて抜け出してきた分身ちゃんも儀式のためにスタンバイ。賢者ちゃんの指示に合わせて床に血で複雑な術式を描き、指定された場所で体育座りをしています。なお修道女さんたちのところから戻って来た時に森人義姉妹(エロフ2人)に捕縛され、何事かを約束させられていたようですが……残念ながら音声を拾うことは出来ませんでした。

 

 そんな森人(エロフ)の妹のほうこと森人少女ちゃんと女神官ちゃん、それに聖騎士さんは儀式の場を清めるためにそれぞれが信仰する神に祈りを捧げています。賢者ちゃん曰く肉体という防壁の無い、剥き出しの魂というものは非常に脆く、また容易に悪しきものからの干渉を受けてしまうんだとか。

 

 元々吸血鬼関連の品物を保管しておくために外部からの干渉を防ぐ防壁はあるようですが、念には念を入れて内部も清めていたほうが良いとのこと。たしかにこんなところでまた余計な茶々が入って、闇堕ち吸血鬼侍ちゃん誕生とかまったく笑えませんからねぇ……。こっそり太陽神さんが怪しいオーラを放っている呪物を浄化して回ってますし、まぁ問題無いでしょう!

 

 お、そうこうしているうちに件の骨格標本を取りに行っていた()()が戻ってきたみたいですね。西方辺境の男衆に勇者ちゃんと剣聖さん、季節は秋、暖房の無い屋内だというのにみんな汗だくになってますけど、もしかして……。

 

「だぁ~!? 骨格標本っつーから軽いモンだと思ってたが、なんつー重さしてやがる畜生!?」

 

「あはは、すっごい重かったね~!」

 

「……まさか部位ごとにバラシて運ぶのが精一杯とはな」

 

 あー、やっぱり重かったんですね。立ち姿で保管されていた標本を吸血鬼侍ちゃんは軽々と動かして『死の舞踏』ごっこしてましたけど、100%金属製は流石に人では厳しかったみたいです。頭部、胴部、腰部、右腕、左腕、右足、左足と七部位に分割されて運ばれてきたそれを、指定された場所に置いてそのまま倒れ込んじゃいました。森人狩人さんと令嬢剣士さんが、予め修道女さんに用意してもらっていたタオルと飲み物を今日一番の功労者たちに配っています。

 

 最初は分身ちゃんが取りに行くつもりだったみたいですが、棒立ちで何の役にも立ってないんじゃ冒険者の名折れと言い出した槍ニキの発案で役目を交代していたんですけど……。やはり無理は禁物です。万が一腰をやってしまったら大変ですからね、冒険者としてもお父さんとしても。

 

 

 

「それでは始めるのです。神官は所定の位置へ、それ以外は床の術式を踏まないよう少し離れるのです」

 

 賢者ちゃんが杖で床の紋様を突いたのを切っ掛けに、分身ちゃんの血で描かれた魔法陣が光を放ち始めました。どうやら再構成の儀式が始まったみたいですね!

 

 陣の中心に並んで寝かされた吸血鬼侍ちゃんと骨格標本。それを挟むように分身ちゃんと賢者ちゃんが向かい合わせに立ち、女神官ちゃん、森人少女ちゃん、剣の乙女、そして聖騎士さんと(太陽神さん)がその四方を補う形に並んでいます。それ以外の人たち、冒険者一行と勇者ちゃんに剣聖さん、それに元牙狩りの2人は術式の外から推移を見守っていますね。……もっとも勇者ちゃん以降の4人は万が一に備えての介錯要員という一面もあると思いますが。儀式が失敗し、理性を持たぬバケモノが生まれた時は……全力で倒すことを予め勇者ちゃんが宣言していましたので。

 

「まず、肉体と魂を分離させるのです。……魔法陣に魔力を注ぎ込むのです」

 

「ん……こんなかんじでいい?」

 

 分身ちゃんが自らの掌に爪を立て、血の滲み始めたそれを床の魔法陣へしゃがみ込んで押し付け、集中すること暫し。魔方陣の中心に亀裂が生まれ、そこから血のように赤い魔力が溢れ出てきました! 粘性の高いそれは吸血鬼侍ちゃんと骨格標本を飲み込むと自ら姿を変え、宙に浮かぶ球体へと変貌。泡のようにも卵のようにも見える球体の中で、取り込まれた2つの身体が徐々に崩れていくのが透けて見えますね。

 

 幼虫が蛹の中で変態するように融ける吸血鬼侍ちゃんの身体。同時に球体から小さな輝きが飛び出してきました。所在なさげに彷徨うそれに手招きし、ふよふよと近付いて来たソレを分身ちゃんが優しく胸元へ抱きしめています。もしかしてあの光が吸血鬼侍ちゃん……その身体に残っていた『圃人の女の子』の魂、その欠片なんでしょうか。

 

 やがて真紅の球体は吸い込まれるように内側へ収縮し、小さな身体が見えてきました! 全身に走っていた罅割れはすべて消え、艶やかな肌が魔力光を受けまるで輝いているようです。ゆっくりと降下する身体を賢者ちゃんが抱き留め、用意してあった寝台(ベッド)へそっと寝かせています。

 

 クッソ重たい骨格を取り込んだので全身義体じみた重さの吸血鬼侍ちゃんが爆誕したらどうしようかと心配していたんですが、どうやら()()()()()()()()()()()()()()()()ために素材の重量は気にしなくて良かったみたいです。流石に抱き着いた相手が転生トラックに轢かれたトリッパーめいた光景になったら吸血鬼侍ちゃんも曇っちゃいますからねぇ……。

 

「それじゃあ、たましいといっしょにぼくのなかにあるこのこのかけらをもどすね」

 

 人形のように微動だにしない吸血鬼侍ちゃんの身体にゆっくりと近付き、胸元で保護していた光を解放する分身ちゃん。同時にその身体から抜け出すように現れた光の粒子が、寝かされている身体へ入り込んでいきます。無事にすべての光が吸い込まれたのを確認した分身ちゃんが安堵の息を吐いてますね。

 

 これで身体の新しい肉体への魂の移植は終了だと思うのですが、この後はどうするんでしょう? お、再び吸血鬼侍ちゃんの身体にシーツを掛けた賢者ちゃんが杖を突くと、床一面に光っていた魔法陣が消えました。儀式の補助をしていた女神官ちゃんたちと陣の外で見守っていたみんなを吸血鬼侍ちゃんの身体の近くへ呼び寄せているようですが……。

 

 

 

「新たな肉体の生成と魂の定着は完了なのです。あとは、あの子を目覚めさせるだけなのです」

 

 そう告げる賢者ちゃんを怪訝な目で見る一同。まだ何か必要な事があるのかと言いたげな顔を見て、説明が不足していたのですと咳ばらいをする賢者ちゃん。それを誤魔化すようにちょっと冷たい吸血鬼侍ちゃんの頬を撫でながら、これから必要となる手順を話し始めました。

 

「人を人として形成しているのは、自己認識と他者からの認識に因るものなのです。今のあの子は真っ新な状態。先ほど魂と一緒にもう1人が持っていた記憶の欠片を肉体へ戻していましたが、それだけではぜんぜん足りないのです」

 

 ほうほう、吸血鬼侍ちゃんがどう思われていたか、吸血鬼侍ちゃんをどう思っていたかを伝えることで自己を確立させるという理解で良いんですかね? 互いを結び付けていた(パス)を思い出させることで、吸血鬼侍ちゃんを眠りから起こしてあげると。まずは2人から魔力供給を受けていた人から始めるのですという賢者ちゃんの声で、吸血鬼侍ちゃん一党(パーティ)の面々が寝台(ベッド)の傍へ集まりました。

 

「神官たちの祈祷によって、今この時この場所は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。強く祈り、願うことでその想いは通じ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 おお、流石わかっていらっしゃる。先ほどから≪真実≫さんと≪幻想≫さんを始め、みんな(神々)が固唾を呑んで見守っていますからね。あれだけ強く祈られたら嫌でも気付いちゃうわとツンな反応をしている地母神さん。お気に入りの女神官ちゃんが頑張ってるのを見て、セッション中ずっとニマニマしていたことに気付かれてないと思っているのは本()だけです。

 

 さっきからハンカチで涙を拭き続けているのは至高神さん。剣の乙女の成長と、吸血鬼侍ちゃんの正体に思わずウルっときてしまったみたいですね。なお吟遊詩神が吸血鬼侍の真実を暴露した時は直で殴りに行こうとしていたのは内緒です。流石にリアルファイトは不味いですよ!?

 

 無貌の神(N子)さん、万知神さん、覚知神さんの3()は盤面かぶりつき状態で事態の推移を見守っています。何処から持ち込んだのかアカシックレコーダー(保存機器)まで準備して、一言も逃すまいと鬼気迫る勢いです。……やっぱり仲良いですよね? お、分身ちゃんが動き始めました。どうやら本番開始みたいですよみなさん!

 

 

 

「みんな、あのこへのきもちをつよくおもっててね? ……はじめるよ」

 

 分身ちゃんの声とともに、祈る様に手を合わせた女性陣の身体から淡い光が放たれています。あれがおそらくチャージされていた吸血鬼侍ちゃんたちの魔力なのでしょう。想いに比例するように輝きを増す光が徐々に体から離れ……あれ? 一党(パーティ)の女性たちの他に、後ろからもう一つ光が昇ってきましたね。一体何処から……!?

 

 

 

 

 

 

「……オイ、なんでテメェからアイツの魔力が出てくるんだよ、ゴブリンスレイヤー?」

 

「誤解だ」

 

 

 

 

 

 

「ちょっとどういうコトよオルクボルグ!? 説明しなさい!!」

 

 目にも止まらぬ勢いでゴブスレさんを蹴倒し、ギリギリと首を締め上げる妖精弓手ちゃん。ゴブスレさんも必死に引き剥がそうとしているようですが、細腕にどれほどの力が籠っているのか、手の緩む気配はありません。勇者ちゃんと剣聖さんの2人掛かりでやっと引っぺがすことに成功し、森人少女ちゃんに落ち着くよう説得されています。一方で重戦士さんに手を引っ張られて立ち上がったゴブスレさんですが、よく見れば足がガクガクになってます。一体どれだけの衝撃を受けたんでしょうかね……。

 

「なぁ、まさかとは思うが……嫁さんが身重で色々持て余して、我慢できずに手を出したワケじゃあ……」

 

「違う」

 

 口をパクパクするだけで声が出ない槍ニキに変わって確認を取っている重戦士さん。即座に否定するゴブスレさんを見て、お前がそんな不義理をする男とは思っていないが……とお茶を濁すような言い方に。傷あり司祭さんと半鬼人先生さんからの微妙な視線に身じろぎするゴブスレさんを守るように、女神官ちゃんが両手を広げて立ちはだかりました!

 

「みなさん酷いです! ゴブリンスレイヤーさんがそんな事をする人だって、本当に思っているんですか!?」

 

 この健気さっぷり、流石清楚系清純派な女神官ちゃん! 地母神さんもこれにはニッコリ。かつての想い人を信じてもらおうと必死になる姿はヒロインの鑑ですね! その強い視線に思わず目を逸らしてしまうしまう一行。やはり原作メインヒロインは格が……。

 

 

 

「あんなに毎日アピールしてるのに、一向に手を出そうとしてくれないヘタレなゴブリンスレイヤーさんに、そんな度胸あるわけないじゃないですか!!」

 

 

 

 

 

 

 地母神さん、あなたは今、泣いていい……泣いて良いんです……ッ。

 

 

 

 あまりにも普段の様子からかけ離れた言動に思わず当身を入れて気絶させた女魔法使いちゃんグッジョブ。スヤァ……という感じに崩れ落ちる女神官ちゃんを部屋の隅に寄せていた椅子に座らせています。おや、凍り付いた空気を壊すようにスッと手が上がりました。みんなの視線の先、ほっそりとした指の持ち主である森人狩人さんがうんうんと頷きながら一言。

 

 

 

「彼女の言う通りだとも。魔力がオルクボルグの身体から出てきたということは、彼がご主人様に魔力供給(意味深)したのではなく、ご主人様が彼にカヒュッ

 

 キメ顔で妄言を吐いていた森人狩人さんの首に言わせねえよとばかりに巻き付いた細腕が瞬時に狂人を絞め落としました。鮮やかな手並みを見せた森人少女ちゃんが上姉様が大変失礼を、と頭を下げるのを見て、震える声で気にしていないと答えるゴブスレさん。

 

 ちょっと知識神さん、崩れ落ちた地母神さんに薄い本を渡さないでください! 『吸血鬼侍ちゃん♂&分身ちゃん♂×ゴブスレさん』とか何処に需要があるんですかもう!?

 

 ……あ、若干怯えた様子のゴブスレさんに苦笑しながら森人少女ちゃんが襟元を緩めて服の下から何かを取り出しました。手のひらに乗ってスペースが余るほど小さなそれをゴブスレさんに見せているようですね。あれはもしかして……。

 

「オルクボルグ様も、主さまから()()を渡されていらっしゃったのですね」

 

「……ああ。結婚式の後、いざという時のためにと。()()()、だったか?」

 

 2人の手に乗っている小さな巾着。ぺったんこなのは中に入っていた邪な土が魔力と見做されて回収されちゃったからなんですね。光の原因がわかってみんな胸を撫で下ろしている様子。こんなところで不倫発覚とか誰も幸せにならないんだよなぁ。

 

 お。気を取り直したように咳ばらいをした賢者ちゃんが最後の手順に入ったことを話し始めています。どうやら儀式もクライマックスのようですね。

 

「……コホン。あとはそれぞれあの子に触れるのです。その際、あの子との思い出を強く意識し、それを渡すような、見えない(パス)で結ぶようなイメージを持つのです」

 

 手本を見せるのですと言いながら吸血鬼侍ちゃんへ近付いていく賢者ちゃん。冷たい彼女の頬に手を当て、優しく語り掛けるように口を開きました。

 

「最初に出会ったあの日、あまりにも歪んだ在り様に驚いて、ウチの脳筋2人をけしかけたのは悪かったのです。その後も蛮族領域や王宮で顔を見る度皮肉を言ったのも謝るのです。何をしても困ったような笑みしか浮かべない貴女をどうにか変えたくて、自分でもちょっとムキになっていたと思うのです……」

 

 賢者ちゃんの告白に驚きを隠せない一行。勇者ちゃんと剣聖さん、それに分身ちゃんだけは揃って苦笑いを浮かべています。まるで好きな女の子にちょっかいを出す悪ガキみたいだったね~と笑う勇者ちゃんに煩いのですと赤い顔でがなり立てた後、再び吸血鬼侍ちゃんに向き直りました。

 

「いつの間にか貴女は、びっくりするほど幼くなっていたのです。今思えば、それこそが貴女が祈る者(プレイヤー)としてこの世界に生まれた証だったのです。それからずっと、私は貴女を見ていた。貴女が見せてくれる()()、貴女が歩む()が知りたくなったのです」

 

 そこで言葉を区切り、頬を撫でていた手を止めてそっと顔を近付ける賢者ちゃん。唇同士が触れ合いそうな距離で、小さく、でもみんなの耳に届く声で吸血鬼侍ちゃんに呼びかけます。

 

「だから、こんなところで寝ていないでさっさと起きるのです。起きて、貴女の進む(未知)の先を、私に見せるのです!」

 

 そのまま唇を寄せ、否定の返事などさせないというように口を塞ぐ賢者ちゃん。触れ合っていた唇が離れた時には顔は真っ赤になり、口を開けてそれを見ていた一行に振り返り、眉を立てた笑みを浮かべながら言い放ちます。

 

「何を惚けているのですか? ……他の人に操を立てているのなら、頭や頬を撫でたり、手を握るだけでも良いのです。早く順番にするのです!」

 

 大胆過ぎる賢者ちゃんの行為に度肝を抜かれていた一行ですが、其処は度胸とハッタリが持ち味の冒険者。じゃあ次はと言いながら次々とその身体に触れ、吸血鬼侍ちゃんとの思い出を語っていきます……。

 

 

 

 

 

 

 はじめてのゴブリン退治、オーなんとかさん(オーガジェネラル)との死闘、牧場防衛ミッション。女魔法使いちゃんをはじめ、森人狩人さんや森人少女ちゃんを救い出せたのは嬉しかったですよね。まだ人格が不安定だったのでいろんな人に迷惑をかけ続けていたころでもあります。

 

 水の街での下水探索に収穫祭の襲撃、雪山でのなんちゃって聖戦(ジハード)。剣の乙女や妖精弓手ちゃんと仲良くなったり、森人少女ちゃんの≪託宣(ハンドアウト)≫で令嬢剣士さんを危機から救ったのも良い思い出です。勇者ちゃん一行に誘拐されるようになったのもこの頃からでしたね。

 

 ちょっと不思議な世界を救ってみたり、ゴブスレさんの結婚式にあわせてプレゼントを用意したり、新人冒険者を死なせないために訓練場を建設してみたり。依頼以外の冒険を楽しむことを覚えたのはこの頃かもしれません。……2人を中心とした一党(パーティ)生活が爛れ始めたのも。

 

 そして城塞跡での異世界からやって来た危機との接触に、吟遊詩神が裏で糸を引いていた一連の『赤い手』騒動。祈る者(プレイヤー)祈られる者(プレイヤー)、双方がマジ切れしたこの騒動は各所に大きな影響を与えましたね……。

 

 

 

 楽しかったこと、辛かったこと、改めて伝えておきたかったこと、こんな機会が無ければ心中に秘めていたであろうこと。様々な思い出を振り返りながら、みんなが吸血鬼侍ちゃんに話しかけ、その身体に触れていきます。

 

 力強く手を握る槍ニキ。節くれだった大きな手で壊れ物を扱うようにこわごわと頭を撫でる重戦士さん。鉱人道士さんはさっさと起きんかちみっことデコピンをかまし、その硬質な口先で器用にキスをした蜥蜴僧侶さんにはみんなが驚いていました。

 

 天幕(テント)での一触即発な状況を生み出した引け目もあり一歩引いたところからそれを見ていた元牙狩りの2人も妖精弓手ちゃんに強引に引っ張られ、かつて不死王(ノーライフキング)を名乗る吸血鬼との戦いで吸血鬼侍ちゃんに助けられたことをバラされていました。なんと恩知らずなと憤慨する聖騎士さんを勇者ちゃんが羽交い絞めにして、その前で傷あり司祭さんと半鬼人先生がひたすら頭を下げる光景は事情があったとはいえちょっとシュールですね……。

 

 

 

 一党(パーティ)の仲間たちも、賢者ちゃんに負けじとばかりに自分の気持ちを想いに乗せて、吸血鬼侍ちゃんに話していました。その後にちゅ~しているのはやはり対抗心か、それともマーキングなのか。キスをする場所にも個性が出ているのが非常に興味深いですね。

 

 手の甲(忠誠)の令嬢剣士さん、手首(欲望)の森人狩人さん、首筋(執着)の森人少女ちゃん。なんとなく()()()なぁと思う3人娘。分身ちゃんもこれには苦笑いを浮かべていました。

 

 何故か参戦した勇者ちゃんと剣聖さんは、タイミングを合わせて左右同時にほっぺた(親愛)のキス。これは愛情というよりは友情、愛らしい戦友への気持ちの表れでしょうね。

 

 未だ開かない(憧憬)へのキスは剣の乙女。眼帯で他人の視線から隠している自分への戒めなのか、それともこれから変わっていくのだという意思表示なのか……そのあたりどうなんでしょう至高神さん? え? 尊みに溢れ過ぎていて直視できない? 気持ちは分かりますがそこはちゃんと見ててあげなきゃ! もし万知神さんたちが録画していなかったら、見なかったことを一生後悔してたかもしれないんですよ?

 

 うわ、妖精弓手ちゃんがシーツを捲り上げて吸血鬼侍ちゃんの胸元に思いっきりキスしてます。心臓のある位置に鬱血するほど強くされたキスが意味するのは"所有"。吸血鬼侍ちゃんの終わりは誰にも渡さないという宣戦布告ですねこれは……。知識神さん、とりあえずそのスケブは横に置いて、黙って見ててください。あとネタにするならちゃんと権利者(万知神さんと太陽神さん)の承諾を得てからでお願いします。

 

 

 

「いや、全員でそんなガン見しないでもらえるかしら。別に変わったことなんてしないわよ」

 

 お、どうやら〆の分身ちゃんを除けば、女魔法使いちゃんがラストみたいですね。だいぶハードルが上がっているように思えますが、いったいどのようなパフォーマンスを魅せてくれるのでしょう。視聴神たちも前のめりになって見ています! 脱力したように肩を落としたまま吸血鬼侍ちゃんに近付き、両手を顔の横について覆い被さるような体勢に。重力によってボリュームを増したお山がシーツ越しに吸血鬼侍ちゃんの平原にくっつく至近距離で、言葉の雨が降り注ぎ始めました。

 

 

 

「まぁ……あの総大主教(グランドビショップ)が言ってたことが妄言じゃないとしたら、アンタと出会わなかった私は最初の冒険で死んでたのよねぇ。それを考えれば、アンタに宛がうために生かされたってのも何となく理解出来るわ。アンタおっぱい好きだし」

 

 押し付けられた柔らかさに反応したのか、意識が無い筈の身体が僅かに動きました。本能レベルでおっぱい好きなんですね吸血鬼侍ちゃん。その反応に苦笑しながら女魔法使いちゃんは言葉を続けています。

 

「そのまま冒険に付き合わされて、あれよあれよという間に他の子までモノにして。誰もアンタを刺さなかったのは奇跡みたいなものよ。全員に感謝することね」

 

 そっと前髪を掻き上げて、秘匿されたオデコを露出させながら語る女魔法使いちゃん。思い返せばいつNice boat.しても可笑しくないジゴロっぷりでしたもんね……。

 

「おまけに私も泣き顔に騙されてコロッといっちゃって、いつの間にやら保護者扱い。私はアンタの母親じゃないんだからね、もう……」

 

 そっと頭を撫でる女魔法使いちゃんの表情は、言葉とは裏腹に慈愛に満ちたもの。女というにはあまりに優しすぎる顔はたしかに母親を感じさせるものです。

 

「でも、私は後悔してないわ。アンタに初めてをあげたことも、馬鹿(ばかあね)義妹(いもうと)ちゃんと仲良くなったことも。後輩だってお姫様だって、アンタをずっと慕っていた初心な巨乳乙女だって私の大切な血族(かぞく)よ? ……白金等級の頭脳まで堕としてたのは予想外だったけど」

 

 下手糞な口笛を吹いている賢者ちゃんを軽く睨みつけながら、冗談よと笑う女魔法使いちゃん。だから、と言いながらそっと吸血鬼侍ちゃんの額に唇を落とし、悪戯っ子のような表情で問いかけます。

 

「いつまで寝てるつもりなの? このままじゃ私たちみんなあっちの子にとられちゃうわよ? それでもいいの?」

 

 とらないよ!?と叫ぶ分身ちゃんを華麗にスルーして立ち上がる女魔法使いちゃん。後はお願いと言って肩を叩き、分身ちゃんを吸血鬼侍ちゃんのほうへ押しやっています。……偶然かもしれませんが、額へのキスが意味するのは()()。親子の愛情を表しているともいわれているそれを行うとは……侮れませんね、女魔法使いちゃん。

 

 

 

 さて、トリを務めるのは分身ちゃん。あいたたと女魔法使いちゃんに叩かれた肩をさすりながら吸血鬼侍ちゃんが眠る寝台(ベッド)へ。みんなが触れていた手を両手で握り、自分と同じ顔を覗き込みながら語り掛けています。

 

「いいたいことややりたいことはたくさんあるけど、それはぜんぶきみがおきてからのはなし。いまぼくがきみにつたえるのは、かつてきみにいわれたこと。いつかきみにいいたかったこと。いちどしかいわないから、しっかりきいててね?」

 

 そっと口を近付けたのは賢者ちゃんと同じ場所。愛情を示す唇にキスをして、吸血鬼侍ちゃんが太陽を見た時と同じ、見る誰もを魅了する笑顔で言い放った言葉は……。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、冒険だ!!」

 

 

 

 

 

 

 分身ちゃんが宣言した瞬間、その場にいた全員の身体から淡い光が立ち昇りました。

 

 照らすものすべてを暖かくする思いの光。人の心を象徴する柔らかな輝きが、部屋中を埋め尽くしていきます……。あ、太陽神さんがこっち見てますね。準備が整ったという合図でしょう。万知神さんたちの準備は……バッチリみたいですね。では……太陽神さんお願いします!!

 

 

 

 

 

 

「凄い……光が満ちていくのが私にもわかります……っ!」

 

 太陽神さんが大きく吠えた直後、みんなの祈りの光が吸血鬼侍ちゃんの身体へ次々と吸い込まれていきます。眼帯を取り去った剣の乙女が霞む目で見つめる先、宙に浮かんだ吸血鬼侍ちゃんがゆっくりと瞼を開き始めました。生まれたままの姿だった小さな身体に光が触れると、徐々にそれは新たな装いへと変化していきます……。

 

 黒かったインナーは無垢を具現化したような白へと変わり、袖の無い肩口から鎖骨、胸元を経て腰部まで大胆に露出したデザインに。どうやら無貌の神(N子)さんのアイデアらしいのですが、身体にフィットした意匠でなければ僅かに浮き出た肋骨以外に大事な先端が見えてしまっていたかもしれません……。肩甲骨辺りまでしか隠さない丈の短い上着を羽織っていますが、怪しげな魅力を放つ白い肌を隠す役目は果たせていませんね。

 

 腹部を覆っているコルセットを挟んで下半身、半ば役目を放棄しているミニスカートの下には、此処だけ以前の色を残した黒のスパッツ。パンツは絶対に見せませんという万知神さんの固い決意の表れだそうです。ちょっぴり顔を覗かせた魅惑の太股の下は、膝上までのロングブーツに。短めの白い毛に覆われたふわふわもこもこデザインは太陽神さんの化身(アバター)に似せているとのことです。トンと着地した瞬間に白百合の花弁が舞うのはやり過ぎじゃないですかね地母神さん?

 

 コンプレックスの三白眼を隠すためのメカクレをガードしているのは剣の乙女とお揃いのベール、これは至高神さんの提供によるものです。フードと違って付けたまま前髪を持ち上げられちゃいそうですが、本当の自分を見せたいという内に秘めた思いを後押しするためのものなんだとか。意外とその辺少女趣味ですよね至高神さん。

 

 胸元にはブルーリボンと護符を組み合わせたペンダントをあしらい、不思議な光沢を放つチェーンをアクセントとして各所へセット。あれもしかしてヒヒイロカネですか? 流石にデブの骨格だと装備に使っても余りが出たからって……さらっととんでもないこと言いましたね覚知神さん?

 

 あ、ゆっくりと身体の調子を確かめるように動いていた吸血鬼侍ちゃんが、分身ちゃんと抱き締めあっています!! 頬擦りをするように顔を寄せあい、お互いが確かにそこにいることを確認するような、倒錯的でありながら微笑ましい光景にみんな目を奪われてしまっているようです。おっと、抱擁を終えた吸血鬼侍ちゃんが、()()()()()()()()2本の剣を取り出しました。

 

「これは、きみがもってて? ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「わかった。でも、きみはどうするの?」

 

 どうやら村正と血刀を分身ちゃんに渡しているみたいです。差し出された愛刀を受け取り腰に差す分身ちゃんですが、何処か心配げに訪ねてますね。たしかに分身ちゃんにオリジナルを渡してしまったら他に装備なんて……。あ、もしかして覚知神さんが笑っているのって。

 

「だいじょうぶ! みて!!」

 

 あ! 吸血鬼侍ちゃんが掲げた手に光が集まって、幅広い刀身を持った剣と周囲が移り込むほどに磨き上げられた円盾()が出てきました! それ以外に周囲を歪な金属球のようなもの(勾玉)がいくつも旋回しています。どれも赤い輝きを……って、成程、身体を生成するのに使った余りはこれらとアクセサリーにつぎ込んだんですか。なんて贅沢な使い方を……。

 

「ウム、あれらこそまさに太陽の欠片! この世界を遍く照らし出す慈母の愛がカタチを為したものであろう!!」

 

 大きく頷く聖騎士さんの横でフンスと自慢げに鼻を鳴らしている太陽神さん。実に良い仕事でした、お礼はこちらへ戻って来てからさせていただきます!

 

 

 

 

 

 

「えへへ……あれ?」

 

 おや、クルクル回りながらみんなに新しい姿を見せて歩いていた吸血鬼侍ちゃんが急にバランスを崩しています。慌てて分身ちゃんが支えましたが……何かを察したのか、持ち上げた吸血鬼侍ちゃんを女魔法使いちゃんにダイレクトパス! 急に飛んで来た小さな想い人を柔らかなクッションで受け止め、女魔法使いちゃんが何事かと尋ねています。

 

「ちょっと、まさかまだ具合が悪いの? それとも……」

 

 心配そうに矢継ぎ早に問いかける女魔法使いちゃんに首を振り、照れたように笑う吸血鬼侍ちゃん。ぺったんこのお腹をおさえながらの台詞は、安心と信頼の……。

 

「……おなかすいちゃった」

 

 その言葉に対し、呆れた様子でブンブンと吸血鬼侍ちゃんを振り回す女魔法使いちゃん。一頻りブンブンして目を回している吸血鬼侍ちゃんを背中側から抱き締め、なんだかなぁと笑っているみんなのほうへ顔を向けさせました。

 

「そりゃそうでしょうよ、もうすぐ今日が終わるんだもの。随分とお寝坊さんねぇ?」

 

「あぅ……ごめんなさい。でも、これでみんなとあしたがむかえられるね!」

 

「そうね、でも大切なことを忘れているわ。……まずみんなに、アンタを待っていた人たちに言うことがあるんじゃない?」

 

「え? ……あ!!」

 

 一瞬惚けていた吸血鬼侍ちゃん。何かに気付いたのか慌ててみんなを見渡していきます。笑っている人、涙を流している人、苦笑している人……。たくさんの表情がありますが、そのどれもが吸血鬼侍ちゃんを待っていた、みんなが持つ大切な感情です。

 

 それを感じ取ったのでしょう。不意に浮かんできた涙を拭い、太陽を思わせる晴れやかな笑顔で、吸血鬼侍ちゃんはいちばん大事な言葉をみんなへと伝えるのでした……。

 

 

 

 

 

 

「みんな、しんぱいかけてごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

「それから……ただいま!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 キャンペーンでやりたかったことの第一目標が達成できましたので失踪します。

 お気に入り登録に評価や感想、非常に励みとなっております。

 お時間がありましたら、一言でも構いませんので感想を頂ければ嬉しいです。今後の作品の方向性にも影響してくると思いますので。

 誤字脱字のご連絡も助かっております。減らしたいと思ってもなかなか無くならないのが辛いですね……。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその10 いんたーみっしょん

 止まるんじゃねぇぞ……なので初投稿です。

 気付けば今回で50万字超え、随分長く続いたものです。

 まだまだお話しは続きますので、よろしければお付き合いください。


 おーい、生きてる人は返事してくださーい!

 

 あーあー、みんな満足そうな死に顔で眠ってる。後片付けをする身にもなってくださいよまったく。

 

 あ、覚知神さん。もしかして勝ち残りました?

 

 おおー、まさか地母神さんと至高神さんをまとめて相手取って最後まで立っていたとは……。

 

 愛し子(推し)のためにも負けられなかった? あれ、どの子が覚知神さんの推しでしたっけ……って。

 

 

 

 え? 嘘……なんで……?

 

 いや、確かに()()()の考え方や行動力を鑑みるに、そうであってもおかしくはないかもしれませんが、まさか……。

 

 でも、その子のためには絶対に負けられないって気持ち、わかります!

 

 みんなが寝ているうちに、こっそり送り出してあげてください。……GM神さん以外には内緒ですよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんにちわ赤ちゃんな実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが大きく成長&変化したところから再開です。

 

 万知神さんが準備していた2枚目のキャラシーと、2人のデータの見直し&擦り合わせを基にGM神さんと協議した結果、2人のリビルドが発生しました! そこで、ほんへ開始前に2人の変化……データ面および今後の呼び方についてお話しさせて頂きたいと思います。

 

 

 

 まず、前回まで『本体』あるいは『吸血鬼侍ちゃん』と呼ばれていた子……『吸血鬼侍』の器となった肉体、そこに残っていた圃人の少女ちゃんの魂が核となっている子のほうから解説させていただきます。

 

 

 

 前回の最後に本人も言っておりましたが、リビルドの結果、前衛職としての侍のクラスが無くなりました。また、万知神さんの愛し子(推し)であり信徒でもあるのは『分身ちゃん』であるため、万知神の神官クラスも同時に削除。これによって刀および重装鎧の装備不可、真言呪文リストの削除、万知神さんの専用奇跡使用不可と大幅にデータが変わることに。これらはすべて後述する『分身ちゃん』と呼ばれていたほうの子に集約されることで話し合いに決着がつきました。

 

 代わりに追加されたのは太陽神さんの愛し子(推し)であることを意味する太陽神の神官クラス。専用の奇跡が使用可能なことに加え、日光によるペナルティが緩和……というより、陽光の下で()()()()が与えられるようになりました。

 

 日光を活動の代替エネルギーとして利用することが可能となり、再生能力の強化および吸血頻度の低下、自然環境での活動にプラスの修正とよりデイライトウォーカーらしい立ち居振る舞いが可能に。健康のために日光浴をするのが毎日の習慣になるとのことです。

 

 また、上位クラスである侍の代替として陛下と同じ君主(ロード)のクラスを新規に取得。失った真言呪文リストの代わりに奇跡の使用回数が大幅にアップし、自分および眷属に対して奇跡による生命力回復が可能になりました!

 

 今までのデータですと≪小癒(ヒール)≫に代表される回復の奇跡はアンデッドへダメージを与えるだけでしたが、対象を限定することで純粋な癒しとして機能するように。怪我をした仲間(眷属)を癒せないのは頭目(リーダー)としてどうよ? という視聴神さんたちの意見を反映した結果、OKを出してくれたGM神さんには感謝ですね。

 

 それと普段から便利に、そしてちょっと口には出せない使われ方をしていた触手君は残念ながら『分身ちゃん』限定の技能になってしまいましたが、それと引き換えにヤベーイものが使用可能に。

 

 ヒヒイロカネ由来の新ボディの中には大悪竜(オロチ)との戦いで取り込んだ星の力(核融合炉)がしっかり組み込まれており、戦闘の際にはその有り余る出力を利用して自分およびちゅ~ちゅ~した相手の身体能力を大幅に向上させるバフとして機能するそうです。明言はされていませんが、出力を絞った状態でも集団的祝福(Collective Blessing)と同等の効果があるんだとか。これは立ってるだけで役割が持てますね!

 

 

 

 次に『分身ちゃん』……万知神さんに見初められた『死の迷宮で誕生したヴァンパイアロード』の子のほうですが……こちらは順当なパワーアップですね。売国奴さんの(LOVE)の力で解放されたボス属性を如何なく発揮する性能になっています。

 

 吸血鬼特有の膂力と村正・血刀の二刀を組み合わせた、呼吸不要な無酸素運動から繰り出される連撃で蹂躙するのがデフォの脳筋スタイルと、万知神さん仕込みの真言・奇跡のテクニカルな使用方法。万能触手君の幅広い使い道も相まって攻勢に出た時の爆発力は『吸血鬼侍ちゃん』とは比較になりません。説得して仲間になると弱体化するキャラクターが何故か敵データのまま隣にいるような嘘くさいスペックは暴力が全てを解決すると言わんばかりです。

 

 

 

 ……ただ、ちょっと弱体化した部分もありまして。『吸血鬼侍ちゃん』と身体を共有していたことで受けていたデイライトウォーカーの恩恵が独立したことで弱体化してしまい。陽光の下にいることによるペナルティが復活してしまいました。

 

 お互いの魂の繋がりは残っているようなので、再生能力の低下と判定へのマイナス修正、やる気の減少程度で済んでいるようです。通常の吸血鬼のように12点/ラウンドなんてダメージを受けたら……あれ、意外と大丈夫っぽいですね。

 

 それと、吸血鬼侍ちゃんが分身ちゃんに二刀を手渡ししていた場面で既に察しの付いていた方もいらっしゃると思いますが、≪分身(アザーセルフ)≫の副産物として活用していた複製品の使用が出来なくなってしまいました。

 

 というのも、吸血鬼侍ちゃんのボディを新造するタイミングで所持していた呪物の類が()()素材として見做されてしまったようで、闇人からドロップした≪手≫の呪具に王国から貸与されていた≪手袋≫も消費されてしまいました。幸い機能そのものは能力として引き継がれたのでインベントリーは使用できるのですが……2人が別行動するときは荷物の管理と選別が必要になってしまいました。だからオリジナルの二刀を渡しておく必要があったんですね。

 

 そう、()()()呪物です。つまり()()指輪も取り込まれてしまったわけでして……。

 

 

 

 賢者ちゃんが≪手袋≫を装備していないのに村正と血刀を取り出した吸血鬼侍ちゃんを不思議に思い、調査したことで発覚したこの事実。慌てて2人が衝立の向こう側で確認したところ、3本目の愛刀が発見されました。

 

 抜刀、納刀は任意に可能ですが、指輪無しで抜刀状態になれる事実が衝撃のファーストブリット。≪手袋≫を事実上借りパクしてしまい、賢者ちゃんに「これはもう身体(ろうどう)で支払ってもらうしかないのです」と言われたのが撃滅のセカンドブリット。そして分身ちゃんが抜刀不能になりしょぼくれていた女性陣を見て、「欠陥品ならいくらでもあるのです」と賢者ちゃんが四次元ポシェットからジャラジャラと()()指輪を取り出したのが抹殺のラストブリット。もうやめて! とっくに2人のライフはゼロよ!

 

 頬を赤らめながらいそいそと賢者ちゃんから指輪を受け取り、宝物のように胸に掻き抱く女性陣。それを見る重戦士さんと槍ニキの顔は青褪め、無意識のうちに尻を手で隠していました……。パートナーに指輪の情報が流れないことを心からお祈りしております。

 

 ……こっそり混ざって指輪をゲットしている女神官ちゃん。怒らないから何に使うのか言ってみなさい、地母神さんが泣いてますよ?

 

「これでみんなからまりょくをもらうのもはかどるし、みんなをしあわせにできるね!」

 

「ソウダネー……」

 

 目の前の現実をポジティブに受け止め、分身ちゃんに良かったねと笑いかけた吸血鬼侍ちゃん。それに返事をした分身ちゃんの顔が引き攣っているように見えたのはきっと目の錯覚でしょう。

 

 

 

 その他吸血鬼としての固有能力の使用の可否については、実際にセッションを行っていく中で検討していくそうです。近々四方世界にアップデートが入るとの話もありますので、そのあたりは高度な柔軟性を維持しつつ云々ってやつでいきましょう!

 

 

 

 さて、長々とお話ししてしまいましたが大まかな変更点はこのくらいで……あ、失礼しました。いちばん大切なお話がまだでしたね!

 

 侍ではなくなってしまった『吸血鬼侍ちゃん』、分身ではなく独立したキャラクターとなった『分身ちゃん』。2人の今後の呼び方についてです。

 

 2人の保護者である太陽神さんと万知神さん、それに視聴神のみなさんがそれぞれ意見を出し合い、時には怒鳴り合い時には殴り合いとなった話し合い。推しの想い人の名付け親になろうと参戦してきた至高神さんや、キラキラとDQNの二択しか選択肢を出そうとしない無貌の神(N子)さん。最終的には≪真実≫さんと≪幻想≫さんまで加わって、盤外はまさに大惨事大戦という有様になっておりました……。

 

 壮絶な戦いを制し、命名権をゲットしたのは覚知神さん。決め手は「あの子たちは最初からお互い名前で呼び合っているんだから、私たちが2人を区別しやすい名前で呼べばいいんじゃね?」という身も蓋も無い率直な一言でした。まぁ、たしかにそうなんですけど……。

 

 というわけで、元『吸血鬼侍ちゃん』は新たなクラスと愛する女の子を眷属化して一緒に居たいという願い、今後眷属を率いる立場から吸血鬼君主ちゃん(ロードちゃん)に。元『分身ちゃん』は……少し紛らわしいですが、これまでの呼び名をを引き継ぐかたちで吸血鬼侍ちゃん(サムライちゃん)と呼ぶことになりました! もちろん我々が彼女たちを勝手にそう呼んでいるだけであって、本当の名前は別にあるんですが……それはナイショということで。

 

 

 

 

 

 

「んゅ……あさ……」

 

 そんなこんなで新しい身体になってから数日後、天井の明り取りから差し込む優しい日差しによって、吸血鬼侍ちゃん……じゃないですね、吸血鬼君主ちゃんが目を覚ましました。抱きしめていたやわらかい抱き枕に二度三度顔を擦りつけた後、くぁ~と伸びをして目に入るのは見慣れぬ部屋。手術の最終準備のために泊まり込んでいた地母神の神殿で用意してもらった仮眠室です。

 

 周りを見渡せば、同じように簡易寝台に横たわる数人の女性の寝姿。誰もが死んだように眠っています。手術の精度を高めるためにみんなギリギリまで頑張っていましたから、起きられないのも無理はありません。毛布を下に敷いているとはいえ、硬い木板の寝台(ベッド)ですから疲労も溜まっていることでしょう。あとでまとめて治してあげなきゃですね。

 

「みなさん、そろそろ朝食の準備が……あ、もうお目覚めでしたか。おはようございます!」

 

「ん、おはよ~!」

 

 古びた味のある木製の扉を開けて入ってきたのは女神官ちゃん。どうやら泊り組を起こしに来てくれたみたいです。既に起き上がっていた吸血鬼君主ちゃんに笑顔で朝の挨拶をして、そのまま眠りの世界に囚われている女性陣を現世に呼び戻し始めました。掛け布団を容赦なく引っぺがす鮮やかな技、手慣れて見えるのは孤児院で鍛えられているからでしょうね。

 

 その姿を見た吸血鬼君主ちゃん、どうやら真似をするつもりのようです。自分が寝ていた寝台(ベッド)へ近付き、布団の中へ潜り込んで行きました。触れればどこまでも沈み込んでしまうような錯覚を覚える柔らかな感触、そのまま抱きしめて眠りたいという誘惑を振り切りながらそっと頬に口付けを。相手が起きたのを確認してから再びひんやりとしたキスを落とし、むぎゅっとその肢体を堪能するように抱きついて挨拶をしています。

 

「おはよ~。きょうもきっといいひになるね!」

 

「ん……。はい、おはようございます」

 

 焦点の合わぬ目で吸血鬼君主ちゃんを見つめ、柔らかな笑みを返す抱き枕こと剣の乙女。小さな想い人を抱き締めたまま寝台(ベッド)から出て、んーと軽く背伸び。それにあわせてたゆんと揺れるたわわに、女神官ちゃんと彼女に起こされていた()()()()()()()()の目が釘付けになっていますね……。

 

「もう朝なのですか。ぜんぜん寝た気がしないのです」

 

 お、眠たげに目を擦りながら賢者ちゃんも起きてきましたね。たわわに後頭部を埋めている吸血鬼君主ちゃんを見て、朝からお盛んなのですねと言いながらそのほっぺを引っ張ってます。全員が起きたのを確認した女神官ちゃんが、手を叩き、今日の始まりを宣言しました。

 

「さぁみなさん、井戸で顔を洗って朝食にしましょう! 早くしないと、向こうの人たちが到着しちゃいますよ?」

 

 

 

 

 

 

「やはりこの服装、少々煽情的(スケベ)過ぎるのです。身体のラインが浮き出てますし、顔を洗った際にバッチリ透けてたのです。あの万年発情期の森人(エロフ)『是非とも横から手を差し込んで鳴かせたいね!』と興奮していたのも無理はないのです」

 

「そんなこといわれても……。あ、おでこはだしちゃだめ……!」

 

 質素ですが心のこもった朝食をいただき、身支度を整えている一行。たわわに頭を突っ込んで寝ていたために前衛芸術と化した髪型の吸血鬼君主ちゃんを膝上に乗せて、賢者ちゃんが髪を梳いてくれています。肩越しに見える白い肌、ほんの僅かでもズレてしまったら大草原の小さな家が拝めてしまいそうなインナーに目を奪われているようですが、それでも淀みなく丁寧に行われる寝癖直しに吸血鬼君主ちゃんも大人しく従っていますね。さて、もう一組のほうですが……。

 

「ふふ、そんなに緊張していては手術までに疲れてしまいますよ?」

 

「そ、そんなコト言われましても……。あっ、すっごいやわらかい……」

 

 こちらは姿見の前に座っている見習い聖女ちゃんの髪を、剣の乙女が手際良く編み上げていますね。手術ですのでお化粧は厳禁、髪も纏めておかないといけません。既に自分の髪は済ませており、腰まで届く美しい金髪をギブソンタックにしています。普段簡素なポニーテールにしている髪の間を剣の乙女の指が通るたびに身じろぎし、首筋から肩にかけて感じる圧倒的質量のためにガチガチになった見習い聖女ちゃんの姿を見て、同じく持たざる者の女神官ちゃんも苦笑しています。

 

 もっとも、自分が信仰している至高神の大司教、西方辺境の頂点である文字通り雲の上の人に手ずからヘアメイクを施されているのですから仕方ないですよね。

 

 

 

 そんな見習い聖女ちゃんですが、何故この場に居るのかという疑問を抱く方もいらっしゃるかと思います。どっちの吸血鬼ちゃんからも好感度が高い重戦士さん率いる一党(パーティ)の一員であり、新米戦士君の女房役。今年は実力不足を痛感したのか、他の新人たちと一緒に訓練場で汗を流す毎日を送っていました。まだまだ実力不足の彼女を今回の手術に立ち会うよう呼んだのは、他ならぬ剣の乙女です。

 

 吸血鬼君主ちゃんと添い遂げるために後継者を求めていた彼女。才能はあれど経験が不足している見習い聖女ちゃんに目を付け、密かに手をまわし始めたのが一月ほど前。当時の吸血鬼侍ちゃんから重戦士さんを経由して面会し、水の街の神殿で後継者としての教育を開始していたそうです。

 突然の訪問に最初は面食らっていた見習い聖女ちゃんですが、剣の乙女の真摯な説得(おねがい)と至高神さんからの≪託宣(ハンドアウト)≫で口説き落とし、了承してもらえたとのこと。

 

 相方である新米戦士君も神殿預かりとなり、神殿騎士(テンプルナイト)に毎日扱かれているそうです。訓練場で下地が出来ていたおかげでなんとか遅れずに鍛錬に食らいついているんだとか。このまま鍛え続けていれば神の声が聞こえる(奇跡が使える)ようになる日もそう遠くはないかもしれません。

 

 で、見習い聖女ちゃんがいる理由ですが、……ぶっちゃけ箔付けです。今回の主題である帝王切開手術の確立は、女神官ちゃんと見習い聖女ちゃんの名前で公表されることになっています。この功績を以て見習い聖女ちゃんを次代を担う後継者『至高神の聖女』として大々的に発表し、反対勢力を黙らせる算段を立てているんだとか。もちろん、1人の女性として、出産という人生の大きな一幕に立ち会い経験を深めて欲しいという思惑もあるようですね。

 

 同様に、西方辺境における地母神信仰の顔役として将来活躍する事を期待されている女神官ちゃんも、なるべく早い段階で功績を積んでもらおうという彼女の上役である神官長さんの考えとも合致しているわけで。至高神と地母神のトップが友好関係とあれば辺境一帯の連帯感も増しますし、上手くいけば秩序勢力が躍進するための原動力となるかもしれません。そのため今回の案件、冒険者ギルドだけではなく政財界や他の宗教勢力など各方面から非常に注目を集めております。

 

 

 

「ええと、≪浄化(ピュアリファイ)≫済の布の準備ヨシ! 大鍋にお湯もヨシ! 場を清める香草と聖油の準備もヨシ! それから……」

 

 身支度を済ませた一行。手術を行う聖堂に赴き、現在見習い聖女ちゃんがパピルス紙片手に最終確認を行っています。長机に積まれた清潔な布の束、いくつかに分けて沸かされている大量の湯、術式を執り行う際に使用する小物なんかも並べられています。すべて数え終わった見習い聖女ちゃんがペンでパピルス紙にチェックを入れました。どうやら漏れは無さそうですね。

 

「これで此方の準備は完了なのです。向こうの到着にはどのくらい掛かりそうなのですか?」

 

「えっとね……しんでんのぶどうばたけのあたりまできてるって!」

 

「ではもうすぐですね! 玄関までお迎えに行ってきます!!」

 

 賢者ちゃんの問いにむむむと頭に指をやり、誰かと会話している様子の吸血鬼君主ちゃん。おー、どうやら吸血鬼侍ちゃんとの()()()()()は問題なく出来ているみたいですね! 先行して走り出した女神官ちゃんを追うように3人も玄関へと歩いていきます。

 

 

 

 さて、吸血鬼君主ちゃんのボディを新造する際、素材となったヒヒイロカネに余剰分が出ていたのはみなさんご存知ですね? 太陽神さんに頼まれて2人のデータ面を担当していた万知神さんが設定を考え、三種の神器を模した装備や装飾品などを作成するのに使われていましたが……なんと万知神さんが一部を覚知神さんに譲渡していました! いやー、なんだかんだ言ってもやっぱり仲良しじゃないですかおふたりさん。

 

 で、ヒヒイロカネで面白いことをする権利を得た覚知神さん。その特性に目を付けてとんでもないものを作成、吸血鬼侍ちゃんに渡してしまいました。

 

 

 

 ヒヒイロカネと言えばやはりその強度に目を奪われがちですが、他にも様々な特性を秘めています。魔力の通りが良いことや生体との拒絶反応が少ないこと。別名オリハルコンとも呼ばれ、神代の産物として四方世界では半ば伝説となっている金属です。極稀に遺跡から発見される遺物の中にはヒヒイロカネを使用していると思われる装甲服(AMスーツ)もあるんだとか。前衛職に霊体への攻撃能力を持たせるレアな遺物として、超高額で取引されているらしいです。

 

 その中で覚知神さんが注目したのは、ヒヒイロカネが()()()()()()を持っているということ。同一の素材から作られたヒヒイロカネ製の呪物は装備した者の意識、思考を共有化する機能を持ち、距離に関係無く会話が出来るというぶっ壊れ能力を得ることが出来ます。これを思い付いた覚知神さん、最初は一党(パーティ)全員分作る気でいたようですが、検証の結果複数人との思考共有は人格に異常が発生する可能性が極めて高いという推測に。泣きながら装飾品に作り変え、元々同じ体に同居しており思考の共有に問題の無い吸血鬼君主ちゃんと吸血鬼侍ちゃんの2人分だけ残したそうです。

 

 全身がある意味ヒヒイロカネな吸血鬼君主ちゃんは問題無いとして、そんなヤベーイ代物をプレゼントされた吸血鬼侍ちゃん。失くしてはいけないし精度を上げるためには体内に取り込む必要があるという問題点。それを解決するために2人がとった行動は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゅんびはいい? しぬほどいたいかもよ?」

 

「だいじょうぶだ、もんだいない。さぁばっちこ~い!!」

 

 頭をぱっかーん(比喩的表現)して、直接脳に挿入というあまりにもワイルドな方法でした。

 

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの「ただいま!!」から間を空けずに行われたこの暴挙。感動の空気は一瞬にして吹き飛び、失神する者が続出する大惨事に。もちろん2人はその後こっぴどく叱られていました。

 

 まぁそのおかげで何処にいても互いの位置が分かりますし、一党(パーティ)分割中にも会話が出来るようになったので結果オーライでしょう! こうやって実況している時も音質が以前よりクリアになってますし、良いこと尽くめですね!!

 

 

 

「とうちゃく~! どうちゅうもんだいなし、ぼしともにいじょうなし! とにかくヨシ!」

 

「ん、とまりでのせつめいと、どうちゅうのかいぞえおつかれさま。みんなもありがとう!」

 

 お、到着した馬車から吸血鬼侍ちゃんが飛び出してきました! 華麗にヒーロー着地を決めた後に吸血鬼君主ちゃんとハグしあってますね。馬車の左右に護衛として追従していた英霊さん2人にも抱き着いて兜にちゅ~し始めました。あれ、たしか鎧の下から漏れる霊体の光は白色(白霊)だったと記憶しているんですが、なんで片方が黄色(太陽霊)、もう片方が青色(暗月)なんでしょう? 2人のリビルドに影響されたんですかね?

 

「……待たせた。今日は宜しく頼む」

 

「あはは、そんな緊張しなくてもいいじゃない。君が手術するわけじゃないんだから!」

 

 続けて降りてきたのはゴブスレさん。鎧下扱いの竜革鎧(ドラゴンハイド)こそ着用しているものの、シンボルである兜と複合素材鎧(コンポジットアーマー)は着けていませんね。流石に今日は空気を読んでくれたみたいです。彼の伸ばした腕に捕まり、ゆっくりと降りる身重の姿は牛飼娘さん。……うーん、おかあさんになったらなんて呼べば良いですかね? 視聴神のみなさんの意見をお待ちしております。

 

「はい、そのままゆっくり足を降ろして……そう、風のクッションが受け止めてくれますので」

 

 それをフォローするように一緒に降りてきたのは森人少女ちゃん。母体に可能な限り衝撃を与えないよう風の精霊さんにお願いして、牛飼娘さんに≪降下(フォーリング・コントロール)≫をかけてもらってますね。流石一党(パーティ)の気配り担当、出来る女の子です。

 

「ワン!」

 

 そして最後に降りてきたのは太陽神さん……ではなく、その化身(アバター)を務めていた狼ですね。既に太陽神さん(中の神)こちら(盤外)へ帰ってきてますが、化身(アバター)の狼は四方世界に暫く残しておくそうです。基本は牧場で牧羊犬(わんこ)として活動させるつもりですが、後々吸血鬼君主ちゃんの使徒(ファミリア)として契約する予定だとか。きっと吸血鬼君主ちゃんも喜びますね!

 

 以上、合流した人を合わせて今回の手術に立ち会う人が全員揃いました! 本当は他のみんなも来たがっていたのですが、収穫時期になってゴブリンの活動が活発化する傾向にあるために新人たちを引率して駆除に出向いてもらっています。ゴブスレさんも最初はそちらへ行くつもりだったようですが、「この間の緊急時と違って、ゴブリン退治に出掛けて出産に立ち会えないのは流石に笑えない」と全員からダメ出しを喰らって凹んでいたそうです。

 

 勇者ちゃんと剣聖さんは王都へ戻って陛下に報告と次の世界の危機に備えての休息、聖騎士さんもそろそろ自分の所属する一党(パーティ)へ戻られるかと思ってましたが、「癒し手が不足していては万が一の時に困るだろう」とゴブリン駆除に同行してくれているそうです。やはり聖人か。噂では魔神様との詩吟勝負に負けた一党(パーティ)の仲間がムキになって魔神様に挑み続けているとか……。うん、戻りたくないですね!

 

 

 

「それではみなさん中へどうぞ! 少し休憩したら手術を開始します!!」

 

 女神官ちゃんの声で神殿へと進む一行。中程を歩くゴブスレさんの手が牛飼娘さんの手に重なり、そっと指が絡められています。驚いた様子でゴブスレさん顔を見た牛飼娘さん、ちょっと顔を赤くしながら彼の腕を引き寄せ、寄り添うように2人並んで歩く姿は秋風に晒されてなお暖かそうに見えますね。この日のためにたくさんの人が知恵を絞り、必要な物資を集め、()()()()()()()()()()()! 手術はかならず成功するでしょう!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 




 区切りの良いところまで進めたいので失踪します。

 お気に入り登録に評価や感想、非常に励みとなっております。

 お時間がありましたら、一言でも構いませんので感想を頂ければ嬉しいです。今後の作品の方向性にも影響してくると思いますので。

 誤字脱字のご連絡も助かっております。減らしたいと思ってもなかなか無くならないのが辛いですね……。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその10 いんたーみっしょん その2

 どんどん長くなってしまうので初投稿です。

 到達しました72話、実にキリの良い数字ですね。

 今回は何時にも増して露骨な描写が多いので、ご注意をお願い致します。



 前回、牛飼娘さんが到着したところから再開です。

 

 牧場からの短距離とはいえ馬車での移動、しかもサスペンションなど無いタイプですと身体に負担がかかりやすいので、到着後に少し休憩中の一行。手術前に精神を落ち着かせる意味合いを兼ねてダブル吸血鬼ちゃんが牛飼娘さんとスキンシップをしていますね。本当はお茶でも飲んでリラックス出来れば良いんですけど、手術に備えて昨夜から食事制限が掛かっているので残念ながらお預けです。

 

「もうすぐでられるからね!」

 

「みんなふたりをまってるよ!」

 

「うん、やっぱりわかってるみたい。いつもより活発に動いてる!」

 

 おおきくなったおなかに頬を寄せ、赤ちゃんに語り掛けるように話す2人の頭を優しく撫でている牛飼娘さん。連日泊まり込みでメンタルケアをしてくれていた吸血鬼侍ちゃんと森人少女ちゃんには頭が上がりません。2人とも当人である牛飼娘さんはもとより家族であるゴブスレさんと伯父さんの不安も取り除こうと頑張っていたようです。『死の迷宮』から戻った後も、休む間もなく動き続けるみんなを見ていた牛飼娘さん。不安の色が払拭されているようでなによりですね。

 

 ダブル吸血鬼ちゃんと女神官ちゃん以外の面子は既に隣室で手術の準備を始めており、扉の奥からは酒精と香草の香りが微かに漂って来ています。邪なるモノを阻む術式が展開された部屋に兜を向けている英霊たちは若干居心地悪そうにしています。善なる霊とはいえこの世の存在ではない2人にとっては出禁を喰らっているような気持になるのかもしれませんね。狼さんはこの部屋内における序列二位のお山の持ち主である女神官ちゃんに尻尾を振って可愛さアピール中。太陽神さん(中の神)が抜けてもまったくブレないのはある意味凄いと思います。

 

 

 

「……そろそろ行きましょうか。ゴブリンスレイヤーさんと狼さん、それに英霊のお二方は隣の部屋でお待ちください」

 

 お、どうやら始まるみたいですね。女神官ちゃんの声に頷きを返した吸血鬼侍ちゃんが、触手と翼を器用に使って牛飼娘さんを包み込み、そっと持ち上げました。牛飼娘さんの顔に驚きの色が無いのを見るに、この運ばれ方は牧場で何度か経験していると思われます。リラックスした様子で編み上げられた触手に背を預け、何処か不安そうに見ているゴブスレさんにそっと手を伸ばしています。躊躇いがちにその手を握るゴブスレさんに笑いかけながら、発するのは普段通りの明るい声。

 

「もう、そんな顔してたらお姉さんに笑われちゃうよ? ……大丈夫、こんなにみんなが協力してくれてるんだから、心配しないで! それじゃ、いってくるね!!」

 

「……ああ」

 

 スッと離れた彼女の手を僅かに彼の手が追いかけたのは、隠し切れない不安の現れでしょうか。英霊さんたちが両側からゴブスレさんの肩に手を置き、運んで来てあったソファーへと案内しています。あ、深く腰掛けた足元に我が物顔で狼が座り込みました。とぼけた顔で見上げてくる狼の頭を、ゴブスレさんはゆっくりと撫で続けています。ナイス狼! これで少しでも不安が払拭されれば良いのですが……。

 

 

 

「それでは始めるのです。手術時間は約一時間を想定。まずは麻酔と切開箇所の消毒なのです」

 

 さて、隣室でも動きがありました。清潔なシーツの上に寝かされた牛飼娘さんを中心に賢者ちゃん、剣の乙女、森人少女ちゃんが片側に、反対側にダブル吸血鬼ちゃんという並びで始まった手術。賢者ちゃんたちの背後には手術に用いられる器具、消耗品が並べられ、その向かいには沸かされたお湯の入った鍋が。女神官ちゃんと見習い聖女ちゃんは少し離れた位置で記録係を担当しているようです。

 

「それじゃあ、いまからますいをするね。ちょっとちくっとするかもだけど、ごめん」

 

「いいよ、思い切ってカプッとやっちゃって! ……んっ」

 

 丸くおなかの部分が切り抜かれたシーツを掛けられた牛飼娘さんと、その首元に口を近付ける吸血鬼侍ちゃん。牛飼娘さんの返答に頷きを返し、そっと牙を突き立てました。僅かに身じろぎをするだけで口付けを受け入れた牛飼娘さんの目が徐々にトロンとしていきますね。それを確認した森人少女ちゃんが、≪浄化(ピュアリファイ)≫済の器に入った高純度の酒精を用いて素早くおなかを消毒していきます。

 

「如何ですか、冷たさや刺激は感じられますでしょうか?」

 

「ううん、触れられてる感覚も無いよ。自分の目で見てるのになんか不思議だね」

 

 どうやら感覚麻痺は上手くいったみたいですね! 眠たげな眼で自分のおなかを見つめている牛飼娘さんに対し、本当に開腹の場面を見るつもりなのですかと確認している賢者ちゃん。え、普通衝立や布なんかで見えないように仕切りを作ると思うんですけど、まさか……。

 

「ゴメンね我儘言っちゃって。でも、この子たちが産まれてくる瞬間を見ていてあげたいの。それにほら、家畜のお産や加工で血には慣れてるから大丈夫!」

 

 うーんこの覚悟ガンギマリお母さん。笑みに込められた強さに押し負けたように肩を落とす賢者ちゃんに哀愁が漂っています。一方で既に青い顔になっているのは見習い聖女ちゃんですね。頻りに手のひらの汗を服の裾で拭っています。

 

「あの、見てて怖くないの? 意識がある状態でおなかを切るとか……」

 

 まぁこれが普通の反応ですよね。隣で平然としている女神官ちゃんに戸惑いを隠せない様子で訪ねていますけど、残念ながらその子も普通じゃないんですよ……。

 

「訓練場で見たと思いますけど、血に関しては私も家畜を潰した経験はありますから。それに……」

 

 そこで一旦口を閉じ、何かを思い返すように目を瞑る女神官ちゃん。再び開いたその瞳には、ゾッとするほどの怒りが込められたモノでした。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを怖がってなんかいられません」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

「あ、主さま! いったい何をなさっているのですか!?」

 

 ……最初にそれを目撃したのが森人少女ちゃんであったことは、今思えば幸運だったのかもしれません。

 

 油塗れだった城塞跡から帰還した後の話です。当時の吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが夜中に寝室を抜け出し、2人で何かをしているのに彼女が気付いたのは夏の終わりの頃でした。

 

 こっそりと示し合わせたように寝台(ベッド)を離れ、一階に降りていく2人の姿。心地よい疲労に包まれた意識では水でも飲みにいったのではと思うのが関の山だったようです。しかし、それが毎日のように続くとなれば不審に思うのも無理はありません。ある夜、どうしても気になった森人少女ちゃんは2人をこっそりと追いかけてしまいました。

 

「ええと、ここはさきにきっちゃダメだから……」

 

「う~、ちっちゃいからやりにくいね~……」

 

 浴室の前に脱ぎ散らかされた寝巻を見て汗を流していたのだと納得した森人少女ちゃん。その夜も随分激しかったので、残り香を消すためのものだと思ってしまったのでしょう。自分も一緒に身体に付着した色々な液体を洗い流そうと、備え付けのタオルを手に浴室へ。2人の主を綺麗にして差し上げれば、もしかしたら2人からご褒美が貰えるかもしれない。森人少女ちゃんの脳裏にそんな考えが浮かんだのかもしれません。

 

 ちょっと淑女には相応しくないピンク色の思考に促がされ、浴室の扉を開いた森人少女ちゃんが目にしたのは……。

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

「みつかっちゃった……」

 

 

 

 

 

 

 タイル地に広がる赤い海と、()()()()()()()()()、抉り出した()()()()()()()()()()を熱心に解剖(バラ)している血に染まった2人の主の姿でした。

 

 

 

 

 

 

「あのね、べつにあたまがおかしくなったわけじゃないよ?」

 

「ていおうせっかいのれんしゅうをしてただけだから……」

 

 その場で卒倒した森人少女ちゃんを介抱しつつ、同時に≪浄化(ピュアリファイ)≫で浴室の痕跡を消す2人。その間に失った器官と傷口は綺麗さっぱり治っています。

 

 なんとか寝巻を着せてリビングの椅子へ座らせた森人少女ちゃんが目を覚ますと、2人で必死に先程の行為を説明しました。死体を腑分けするわけにもいかないし、いくら傷つけても問題ない身体を有効活用していただけなのだと。ですが、それで納得するほど森人少女ちゃんは甘い女ではありませんでした。

 

「主さまでは痛覚が鈍すぎて参考にはなりませぬ。実際に手術をする際には麻酔やそれに類する痛覚麻痺の処置をされるのでしょうが、それらも主さまには効果が無いのでは? 構造を把握するだけならまだしも、手術の練習には向かないと思われます」

 

 理路整然と問題点を指摘されれば反論出来る筈も無く。黙り込んでしまった2人に対して森人少女ちゃんが提案したものは、まさに愛情と狂気による産物でしょう。

 

「ですから、どうか(わたくし)を使ってくださいませ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。未来の礎となるのであれば、これほど嬉しいことはありませぬ」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「は?」」

 

 

 

 

 

 

 ……察しの良い視聴神のみなさんなら、この後どうなったかおわかりになることでしょう。

 

 翌朝、3人の姿が見えないことに気付いた朝食当番の女魔法使いちゃんが見たものは、黒く変色したタイルの上で、≪浄化(ピュアリファイ)≫が唱えられなくなるほどに≪教授(ティーチング)≫と≪小癒(ヒール)≫を限界突破(オーバーキャスト)して昏倒している全裸の吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん、そして下腹部を愛おし気に撫でながら2人を膝枕している、同じく生まれたままの姿の森人少女ちゃんでした……。

 

 

 

 その後、女魔法使いちゃんの悲鳴を聞きつけて起き出してきたみんなからこっぴどくお説教された吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん。ですが、森人少女ちゃんが自分の身に施してもらった処置を話したところ、同じことをして欲しいと涙ながらに懇願されてしまいました。……剣の乙女と森人狩人さんです。

 

「あいつらに凌辱された事実が消えるわけじゃないことはわかってるよご主人様。でも、もし可能ならば、私にも義妹(いもうと)ちゃんと同じことをしてくれないかな……?」

 

「私も同じ気持ちです。それに、これはゴブリンに穢された女性にとっての救済となるかもしれません……!!」

 

 ……愛する人の魂の叫びを聞いた2人がその後如何したかは、言うまでもありませんよね?

 

 

 


 

 

 

 期せずして練習を積むことが出来た2人。ですが、望まぬ機会は更にあったのです。

 

「助けられたのは1人だけだ。……すまん」

 

 ある新人の一党(パーティ)が依頼から戻らないという連絡が届き、手隙の面子を連れて急行したゴブスレさん。しかし、救い出せたのは女性1人だけでした。

 

 訓練場での洗礼を済ませ、油断も慢心も無かった一党(パーティ)。ただただ骰子の出目だけが悪かったのです。森人少女ちゃんの≪浄化(ピュアリファイ)≫で身体の汚れは落とされていますが、その膨らんだ下腹部が彼女の受けた凌辱を物語っています。俯いた彼女の口から零れているのは、助け出されたという安堵でもなく、凌辱を受けた絶望でもなく……。

 

 「悔しい……。みんなあいつらに殺されて、私だけが生き残って……ッ」

 

 嬲り殺しにされながらも、凌辱に耐える彼女に生きろと叫んでいたという仲間たちへの後悔。そしてただ1人生き残ってしまったという自分自身への怒りでした。

 

 

 

「……主さま」

 

「「うん、わかってる」」

 

 森人少女ちゃんの声に揃って頷きを返す2人。固く握りしめられた両の拳をそれぞれ手に取り、己の胸元に抱き締めました。冷たい手の感触に顔を上げた女冒険者を正面から見つめ、静かに語り掛けます。

 

 

 

「いたかったよね。こわかったよね。しんでしまいたいほどくやしいよね」

 

「なかまがみんなころされて、こんなこといわれたくないかもしれない。でも、あえていわせてもらうね」

 

 

 

 

 

 

「「いきていてくれてありがとう」」

 

 

 

 女冒険者の目から涙が零れ、訓練場の床を濡らしていきます。嗚咽をあげる彼女の頭を優しく撫でながら問うのは、厳しさの中にある僅かな慈悲か、あるいは甘美な堕落への誘いでしょうか。

 

「あとほんのすこしのくつじょくをうけいれてくれるなら、きみのおなかにきせいするクソッタレをとりのいてあげる。ひとのこをやどすことができるようにしてあげる」

 

「ソレをうみおとすことにたえられないというのなら、いたみもなくねむらせてあげる。あとのしまつとあいつらへのケジメは、みんなでしっかりひきうけてあげる」

 

 

 

「「きみは、どうしたい?」」

 

 2人の視線を受け、硬く目を閉じる女冒険者。再び目を開いたときに彼女が出した答えは……。

 

 

 

 


 

 瞼越しに感じる眩しさに反応して、ソレは小さな身じろぎをしていました。

 

 生暖かい液体に浸かり、快適に過ごしていたハズなのに、肌に感じるのは乾いた空気と……身を刺すような殺気。

 

 重い瞼を開きながら不満の声を上げようとした瞬間、怖ろしい力で口を塞がれ、出るのはくぐもった吐息だけです。

 

 焦点の合わぬ目で見上げれば、口を塞ぐ腕の先にはふたつの赤い光。

 

 ()()何も無い緑の月からいつも見上げていた、真っ赤な月に似た輝きです。

 

 その光は徐々に近づき、ソレの視界一杯に迫った時。光の下に亀裂が走り、そこから発する悍ましい音がソレの耳に入りました。

 

 

 

「だまれ。おまえのたんじょうはだれからもしゅくふくされてなどいない。うぶごえなどあげさせてたまるか。おまえがいまいかされているのは、おまえたちがどれほどみにくくおぞましいものなのかをみなにあらためてしらしめるためだ。わかったらふるえてまっていろ」

 

 

 

 言葉の意味はまったくわかりませんが、目の前の何かがとても恐ろしいものであることはソレにもわかりました。

 

 声を出させぬよう細長く血生臭いモノを口に噛まされ、無造作に頭陀袋に放りこまれるソレ。僅かでも声を出そうものなら袋の外から万力のような力で締め上げられ、ソレはただ黙るしかありませんでした……。

 


 

 

 皆に見てもらいたいものがある、という銀等級からの招集によって訓練場の講堂に集まってきた冒険者たち。水の街へ出向している新米戦士君と見習い聖女ちゃんはいませんが、蜥蜴人の戦士に率いられた一党(パーティ)をはじめ依頼に出向いている一党(パーティ)以外の冒険者は来ているようです。吸血鬼侍ちゃん一党(パーティ)の面子以外にも、女神官ちゃんや少年斥候君、圃人の少女巫術師さんの姿も見えています。それ以外にも夏の終わりから訓練場に来たと思われる新人……こちらは本当にペーペーですが、もチラホラといるみたいですね。

 

 元新人たちの集まりから聞こえるのは依頼に失敗した一党(パーティ)の話、ただ1人生き残った女冒険者も孕み袋にされていたという決して他人事ではない話題です。春先までならいざ知らず、訓練場が稼働してから鍛錬を積んだ白磁の中にゴブリンを侮る者などいるわけがありません。

 

 

 

「やぁみんな、教官の狩人おねーさんだよ。今日はみんなに見てもらいたいモノがあるんだ」

 

 普段通りの調子で講堂に現れた森人狩人さん。後ろには同じく教官を務めることの多い森人少女ちゃんと、彼女に支えられて歩く1人の女性。若干顔色が悪いのは≪小癒(ヒール)≫だけでは失った血液を補うことが出来なかったからでしょうか。最後尾を左右に吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんを従えるように歩くのは、血の滲む頭陀袋を引き摺っているゴブスレさんですね。異様な組み合わせを見て集まった冒険者たちの顔が徐々に引き攣っていくのが見てとれます。

 

「……もう知っている子もいると思うけど、君達の同期の一党(パーティ)がゴブリン退治の依頼に失敗した。1人を除いて嬲り殺しにされ、生き残った彼女もゴブリンを孕んで()()

 

 まずは依頼半ばで斃れた彼らに祈りを、という森人狩人さんの声に黙祷を捧げる冒険者たち。顔を上げた彼らの視線が向けられるのは、生き残りという女冒険者です。憐憫、或いは忌避の混じる視線を向けられてなお正面を見る彼女の姿はとても力強いものに感じられます。

 

「皆様もご存知でしょう。ゴブリンの成長は早く、腹が膨らむ頃には産むしかないという状態であることが殆どです。その悍ましさに耐えきれず。自ら命を絶つ女性も少なくありません」

 

「でも、彼女は耐えた。凌辱の限りを尽くされながら、殺された仲間の言葉を信じ、救出が来るまで生き残った」

 

 これはすごいことなんだと語る教官2人の目には、歓喜とも狂気とも見分けのつかない光が宿っています。話を聞く中には、口元を押さえながら必死に立ち続ける女性冒険者の姿も見て取れますね。

 

「そして彼女は選んだ。1匹のゴブリンを道連れに死ぬことでも、黙して悍ましい害獣を産み落とす事でもなく、自らの腹を裂いて追い出す道を!」

 

 講堂内に響き渡る森人狩人さんの声に合わせるように頭陀袋の中身を放り出すゴブスレさん。中から出てきたのは……。

 

 

「……!?!?!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。突然の衝撃と人の多さに驚いたのか、キョロキョロと辺りを見回すだけで逃げる素振りは見せていません。

 

 

 

「既に切開の傷は主さま……そちらの2人によって癒され、彼女は人の子を産むことが出来る身体に戻っております。(わたくし)たちも同様に母親となる機能を取り戻すことが出来ました」

 

 そっと分身ちゃんに近づき、後ろから抱き締める森人少女ちゃん。吸血鬼侍ちゃんは森人狩人さんに抱き上げられ、後頭部をお山に埋もれさせています。 

 

「―――ッ!?」

 

 漸く事態を把握したのか、声にならない悲鳴を上げるゴブリン。慌てて立ち上がろうとしますが、いくら成長が早いといってもまだ揺り籠を追い出されて一刻と経っていないのでは足元もおぼつかす、無様に転倒を繰り返すだけ。そこにゆっくりと近付く姿があります。

 

 感情の浮かばぬ瞳でゴブリンを見つめ、視線を合わせるようにしゃがみ込むのは青白い顔の女冒険者。そっと顔に触れるように両手を伸ばしていきます。本能的に察知したのでしょうか、まるで母親に縋るようにつんのめりながら歩み寄って行く小さなゴブリン。倒れ込んで来るその身体を()()()受け止めた彼女は……。

 

 

 

「良かった……。万が一にでも母性本能を刺激されるようなら死のうと思ってたけど、一切そんな気持ちは湧いてこない。やっぱりただの寄生虫ね」

 

 ()()()()()()()()()()体勢のまま、ゆっくりと力を込めていく女冒険者。その顔に浮かんでいるのは、厄介な害虫を駆除した時に人が持つ感情……安堵の表情そのものです。首の骨を折るなどという慈悲を与える事は無く、その場でゆっくりと立ち上がっていきます……。

 

 絶妙に加減された力と自重によって窒息し、地に着かぬ足をバタつかせるゴブリン。まだ未熟な爪を彼女の腕に突き立てようとして剥がれてもなお、もがくのを止めようとしません。そのあまりに生き汚い光景を見た冒険者たちに浮かぶのは嫌悪と畏怖の色。ゴブリンというモノの醜悪さと、それを殺さんとする人間の持つ漆黒の殺意に対してでしょう。

 

 やがて動きを止めたゴブリンを床に落とし、腰に差していた短刀でその心臓を抉る女冒険者。最期にビクンと身体が跳ねるのを見て、身震いする冒険者たち。この期に及んで死んだふりをするゴブリンの、生に対する執着に恐怖すら感じているのかもしれません。

 

 

 

「彼女たちには、油断も慢心も無かった」

 

 森人狩人さんが女冒険者の手から短刀を受け取るのを横目で見ながら、冒険者たちに語り掛けるゴブスレさん。その淡々とした声に引き込まれるように彼らの視線が集まっていきます。

 

「幾ら周到に準備をしても、完璧に装備を整えても、万全の連携(チームワーク)を磨き上げても、冒険に失敗する可能性はある。それで命を失う結末を完全に防ぐことなど、神にだって不可能な事だろう」

 

 例え銀等級であっても、その事実は変わらない。そう語るゴブスレさんの言葉に何も反論は上がってきません。

 

「冒険に失敗した冒険者の末路は悲惨なものだ。死ぬことが救いになるような目に遭う可能性だってある。だが……」

 

 僅かに下を向いた後、再び語りだすゴブスレさん。その言葉には先程までとは違い、微かに熱が籠っているように感じます……。

 

「あえて言わせてもらう。生き残ることを諦めるな。生き残りさえすれば挑むことが出来る。己に、仲間に襲い掛かった不条理に。そしてそれでも駄目な時は……?」

 

 そこまで話したゴブスレさんの両手に、そっと触れるものが。見れば森人2人から逃げ出してきた吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが、その手をギュッと握っています。満面の笑みを見せる2人に呆れたように溜息を吐くと、途切れかけた言葉を続けます。

 

()()()()()。お前たちが為せなかったことは、必ず後に続くものがやり遂げる。輝かしい栄光だろうと、陰惨極まりない復讐だろうと。……だから、安心して逝け」

 

 ケジメは後から必ずつけるという言葉で締めくくられたゴブスレさんのお話し。言葉も無く聞き続けていた冒険者の中から、次第にクスクスという笑い声が聞こえ始めました。やがてそれは伝染し、講堂中に響くような大きなものへと変わっていきます。

 

 

 

「……何か可笑しかったか?」

 

「ん~ん、ぜんぜん!」

 

「すごいよかったよ。ゴブリンスレイヤーってかんじで」

 

 2人からの称賛にそうか、と一言だけ返すゴブスレさん。きっとみんなも同じ気持ちなんでしょう。『仲間』でも『友人』でもなく、ただ同業でしかない『冒険者』。それでも誰かが未練を晴らしてくれるのなら、満足して終われる。後を継ぐ者がいるのだと言いたかったのは通じていると思いますよ?

 

 

 


 

 

 

「そうだ、皆良くやってくれている。準備も、根回しも、事後処理の計画もだ。何も心配するような事は無い……」

 

 なのに、何故……とソファーに腰掛けたまま自問自答を繰り返しているゴブスレさん。先ほどまで狼を撫でていた手も動きを止め、心配そうな狼に舐められるがままになっています。どうにか元気付けようとしていた英霊さんたちも、万策尽きたのか壁に手を当てて反省のポーズ。うーん、思考が負のスパイラルに陥ってますねぇ。あまり悪い方向に物事を考えていると、どんなに固定値(事前準備)が良くても致命的失敗(ファンブル)を引き寄せてしまうかもしれません。

 

 手術も佳境に入っているようですし、誰かあの空気を変えてくれる人は……。

 

 あ、覚知神さん。彼女が現場に到着した? 良かった! 彼女ならきっとゴブスレさんのマイナス思考を止めてくれる筈です。なんとかしてあの重たい空気を払拭してくださ~い!

 

 

 

 

 

 「やはり俺は彼女に相応しい人間ではないのか。所詮俺はゴブリンにとってのゴブリン、人並みの人生なぞ望むべきでは無かったのか。俺なんかが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺なんかが幸せになる権利なんてない!」……な~んて、そんな馬鹿なことは考えていないわよね?」

 

 

 

 口から零れた言葉を一言一句なぞる声に顔を跳ね上げ、辺りを見回すゴブスレさん。

 

 いつの間に現れたのか、ソファーに埋もれるように腰を下ろしていた彼の前に、1人の女性が立っていました。

 

 慌てたように傅く英霊さんにいいからいいからと手を横に振り、目敏くお山を見つけた狼へはこのスケベさんめと両のほっぺたをワシワシ。

 

 ゴブスレさんの肩口ほどまでしかない小さな身体。昔はもっと大きく思えていた筈なのに、今はもう彼のほうが見下ろすようになっています。

 

 あの日見たのと寸分違わぬその姿に、立ち上がった姿勢のまま茫然と見つめるゴブスレさんの口から洩れたのは……。

 

 

 

 

 

 

「……()()()?」

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 予想より1~2話ほど伸びそうなので失踪します。

 お気に入り登録に評価や感想、非常に励みとなっております。

 お時間がありましたら、一言でも構いませんので感想を頂ければ嬉しいです。今後の作品の方向性にも影響してくると思いますので。

 誤字脱字のご連絡も助かっております。減らしたいと思ってもなかなか無くならないのが辛いですね……。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその10 いんたーみっしょん その3

 難産だったので初投稿です。

 新サプリの登場で色々変更が発生しそうなデータとフレーバーまわり。話が進む中で吸血鬼君主ちゃん&侍ちゃん一党の周辺でも少しづつ変化が起きると思います。


 前回、ゴブスレさんの姉を名乗る不審者……じゃなくて、ゴブスレさんが姉と呼ぶ女性が現れたところから再開です。

 

 牛飼娘さんの手術を隣室で不安に押し潰されそうになりながら見守っていたゴブスレさん。思考が負のスパイラルに突入しそうになったところで、突如現れた女性に警戒心を顕わにしています。幸い武器の類は持って来ていなかったので剣を突き付けたりはしていませんが、鋭い目つきで眼前の女性を見ていますね。

 

「色々言いたいことも聞きたいこともあると思うけど……隣、座っても良い? 遠出してきたら疲れちゃって」

 

 返事を聞く前にさっさとソファーに座り、自分の横をポンポンと叩く女性。無言の圧力に屈したのか、ゴブスレさんは黙って隣に腰を下ろしました。間に他の人が座れない程度に開いた隙間は、まるで2人の微妙な距離間を表しているようです。暫くの間、膝の上に飛び乗ってた狼の背中を優しく撫でている女性を眺めていたゴブスレさん、やがて意を決したように口を開きました。

 

 

 

「何故、現れた……?」

 

「ん~、それは『どうして?』それとも『どうやって?』どちらの意味なのかしら?」

 

「どちらもだ。俺の姉は既に死んでいる。……俺が殺したようなものだ。恨まれているのであれば、亡霊となって現れても不思議ではない。或いは他の誰かが死霊術で嗾けてきた可能性もある」

 

 うーんこの疑心暗鬼。予想外のセメント対応に女性も苦笑いを浮かべていますね。

 

「『久しぶり』とか『大きくなったわね』なんて言うような年齢でもないけれど、もう少し感動の再会を喜んで欲しかったかなぁ。まぁいいわ」

 

 そこまで言うと女性は撫でていた狼の両前足を手に取り、背中側から抱えるように持ち上げてゴブスレさんのほうに向きなおりました。口元を狼で隠すようにしながら器用に前足を動かして、子供を人形であやすように答えを返します。

 

「『どうして?』のほうは簡単。可愛い奥さんをほっぽり出してどうでも良いことで悩んでいる弟の尻を蹴っ飛ばしに来たの。『どうやって?』は……目の前にヒントがあるんじゃない?」

 

 以前にも見たことがあるでしょ?と問いかける女性の言葉に考え込むゴブスレさん。といいますか、言葉では怪しんでいるように言ってますけど推定敵対者の前で視線を外して思考するなんて普段のゴブスレさんからは考えられない光景です。やっぱり本心では色々察しているのでしょうか。そこを敢えて考えさせるあたり推定お姉さんも良い性格してますねぇ……。

 

「本来の枠組みから外れ、摂理の外から観察している者たちの従者……神の"使徒(ファミリア)"か」

 

「うん、正解。流石に簡単すぎたかな?」

 

 狼を万歳させながらゴブスレさんの答えに満足そうに女性は頷いています。目の前の狼もそうですし、水の街の地下水道では剣の乙女が至高神さんから贈られた白ワニさんを見ていますので、答えに辿り着くのはそう難しくはなかったかもしれません。徹底したリアリストなゴブスレさんですけど、実際に神の奇跡が目に見える形で発現する四方世界において上位者の存在は周知されていますからね。不可解な現象は古代の遺物か神の気まぐれのどちらかであるのが殆どです。

 

「じゃあ次はこっちから問題。貴方の前にいる姉を名乗る不審者は、一体どの神様の"使徒(ファミリア)"でしょうか? ヒントはあげません!……って、これ自体がヒントになっちゃうか」

 

「……まさか」

 

 もう答えを言っちゃってるようなものね~と苦笑する女性とは対照的に、微動だにしなくなったゴブスレさん。まぁ最愛の姉が信仰していた神が散々敵対してきた連中と同じだとはなかなか信じ難いでしょうからねぇ……。その視線に回答を見出したのか、ゆっくりと狼を地面に降ろし、そっと彼の頬に触れる女性。その口から紡がれたのは、ゴブスレさんの推理が間違っていないことを示すものでした。

 

「ねぇ、成人もしていないような娘があんなにたくさんの技術や知識を持って、しかもそれを他人に教えられると思う? ()()()()()()()()に結果を出すなんて、不思議だと思わないかしら」

 

「覚知神の閃き、偽りの全知……ッ!」

 

 籠手(ガントレット)の無い手をギシリと軋むほどに強く握りしめるゴブスレさん。食い込んだ爪によって皮膚が裂け、床に赤い雫が落ちていきます。それを悲し気に見ていた女性はそっと手を伸ばし、血の滴る拳の指を1本ずつ解いていってます。最愛の姉から教わり、生きるために活用し、これまで何度も危機を乗り越えてきた知識と技術が覚知神さん由来と知ったゴブスレさんの気持ち、単純に悲劇と呼ぶには因果の糸が太すぎる気もします。ポケットから取り出したハンカチで手の傷を覆った女性の言葉によって、ゴブスレさんの怒りは困惑へと変貌していきます……。

 

 

 

「でも、あの日ゴブリンが村を襲ったのは神様も想定外だったみたい。本当は王国全土を巻き込む人間同士の争いに発展する予定だったんだって」

 

 ……どういうことです覚知神さん? そんな露骨に目を逸らさなくても良いじゃないですか。

 

「神様がくれた智慧で村は大きく発展した。子供たちの識字率と算術の理解度は王都を凌ぐほどだったし、新式の罠や農薬は村を豊かにしていったわ。その波は周辺の村落にまで波及し、いずれ辺境を飲み込み王国全土に広がるはずだった」

 

 ははぁ、西方辺境の発展を見て他の地域でも不満が噴出、宥めるにしろ弾圧するにしろ国を割る騒ぎとなる予定だったと。まだ陛下の権力基盤も脆弱だったころでしょうし、旧王派閥の貴族たちもその不満を煽る方向にいったかもしれませんね。でも、そうはならなかった。いったいなんででしょう?

 

「神様はね、人間という生き物の持つ欲深さ、嫉妬の心というものを甘く見過ぎていたのよ。私たちの村だけが裕福になっていくのを妬んだ近くの集落が噂を流して、ならず者たちに村を襲わせようとしていたんだって。実際には密告によって冒険者が派遣されたから襲撃は無かったけど、彼らが道中で蹴散らし、住処を奪われたゴブリンの群れが……ね」

 

「いや、だが……それは……」

 

 だから、私が死んだのは自業自得。村のみんなを殺したのは私なのと告白する女性。様々な要因が重なった結果とはいえ、村を滅ぼした原因がお姉さんだった真実に言葉を失うゴブスレさん。本当は私たち、国家転覆を目論む反逆者になるはずだったのよと苦笑する女性に、かける言葉が見つからないようですね……。

 

「まぁそんなわけで、私は授けられた智慧を分別なくばら撒いた報いを受けて死んだのだけど、最期に貴方を隠した行為が神様の目に留まったみたいでね。私も貴方のことが気になっていたから輪廻の輪に還らずに"使徒(ファミリア)"として残ることにしたの。お互いの利害の一致ってやつね」

 

 そこまで一息に話すと、女性……お姉さんは立ち上がり、座ったまま彼女を見上げているゴブスレさんのことをそっと抱きしめました。どうすれば良いのか分からないゴブスレさんの心情を代弁するように僅かに上下する彼の腕を見て、少しだけ笑い、そしてその頭をゆっくりと撫でています。

 

「だからね、貴方が私の死を気に病む必要なんて何処にも無いの。むしろあの子の心を傷付け、義理の両親を奪った私を責めたって許されるのよ?」

 

 ……たしかに、一手食い違っていたら牛飼娘さんも巻き込まれていた可能性が高いですものね。もしそうなっていたら、生き残りはゴブスレさん1人だけだったかもしれません。その言葉を聞いた彼の手がピタリと止まり、抱きしめていたお姉さんの肩を掴んで引き剥がしました。

 

「違う! 姉さんが教えてくれた智慧が無ければ、俺は何処かで野垂れ死んでいた。新たに村で生み出された特産物を届けにあいつが牧場へ行っていなかったら、あいつも村で死んでいた。それが覚知神が齎したものであろうと知ったことか! 姉さんは、俺と……俺の妻となったあいつを護ってくれたんだ……ッ!!」

 

 血を吐くようなゴブスレさんの叫び。使えるものはすべて使うのが彼の流儀である以上、それが覚知神由来の知恵であろうと否定することは無いのでしょう。そして、その考え方を魂に刻み込ませたのはクソマンチ師匠ともう1人、目の前の彼女に違いありません。弟の本音を聞き、しばし呆然としていた彼女ですが、やがて肩を震わせ始めました……。

 

「ふふ、そうね。毒と薬は紙一重。知識も技術も只の道具、全ては使い手次第……父さんと母さんが言ってたものね」

 

「!? 姉さん、身体が……」

 

 眦の涙を指で拭いながら笑うお姉さん。その身体がだんだんと薄くなっています。どうやら時間切れみたいですね……。

 

「赤ちゃんの顔を見てから()()つもりだったけど、ちょっと無理そうね。でも良かった、貴方の心からの言葉が聞けたのだから」

 

 引き留めるように握ろうとした手がすり抜け呆然とするゴブスレさんを見て、ゆっくりと首を振り、一歩下がるお姉さん。その顔はとても晴れやかです。ずっと1人で汚泥の中を這いずっていた弟が父親になる瞬間は見られなかったですが、彼が大人になっていたことを確認出来た喜びに満ちているように見えます。スカートの裾を翻しながらその場でくるりと回り、ゴブスレさんの鼻先に指を突き付けながら言い放ちます。

 

「いい? 人は誰だって幸せになる権利を持っているの。だから自分なんかがなんて思っちゃダメ。それに、貴方にはもっと大切なことがあるわ」

 

 それまでの厳しい表情が一転。かつてゴブスレさんが見ていた、悪戯好きな子どものような顔になって紡ぐのは、これから彼が歩む道のりを祝福する言葉でしょう。

 

 

 

「それは、自分の家族を幸せにする義務。幼馴染のあの子を、今まさに産まれようとしている赤ちゃんを、そしてその先へと続いていく生命の営みを護ること。自己犠牲なんて以ての外。だってあの子たちの幸せには、貴方が不可欠なんですから」

 

言いたいことは言ったとばかりに満足そうに微笑み、踵を返すお姉さん。狼と英霊さんに手を振って、牛飼娘さんの頑張っている部屋とは反対側の出口へと歩いていきます。あ、と声を上げて振り返り、突然の再会と更なる別れに立ち尽くすゴブスレさんに声をかけました。

 

「私を此処まで送ってくれた神様からの伝言。『≪御印≫を踏み潰した件はこれで不問に処す(あの時は悪かったよ)精々苦しみの生を足掻き続けることだ(家族は大切にね)』だって。まったく素直じゃないんだから……」

 

 それと、こっちに来るときはたくさんの土産話を持ってくること。覚知神様以外の神様も貴方に注目しているみたいだから、きっとこの先もどったんばったんおおさわぎよ? と笑いかけるお姉さん。その言葉を聞いて、ようやく固まっていたゴブスレさんの表情が崩れました。

 

()()()()のはだいぶ遅くなると思う。まだ俺にはやりたいこととやるべきことがある。だから……!?」

 

 そこまで言ったところで、背後の扉の向こうから聞こえてきた声が彼の言葉を遮るように響きました。この世界に産まれた証、自分たちはここに居るんだと叫ぶような2つの産声に気を取られたゴブスレさん。ハッと振り返った時には、既にお姉さんの姿は消えていました。

 

「だから、暫くはさよならだ……姉さん」

 

手術を行っていた部屋から聞こえてくる喜びの声と、彼を呼びに駆け寄る女神官ちゃんの呼び声に掻き消されるように響いた呟きは、きっとお姉さんに届いたことでしょう……。

 

 

 


 

 

 

「2人の自発呼吸を確認したのです。臍帯の結合部から指2本分のところを糸で縛るのです」

 

「「は~い!」」

 

 ……ふぅ、赤ちゃんも無事に産声を上げてくれましたし、これで手術の山は越えましたかね!

 

 へその緒の赤ちゃんにほど近いところを絹糸で縛り、胎盤との間の血流を遮断する2人。タイミングを見計らって爪を走らせ、僅かな出血だけで臍帯切断に成功しました。既に切開した箇所には癒しの奇跡をかけ、傷口が分からない程になっています。お腹が大きくなっていたために伸びていた皮膚も妊娠前の状態に戻り、牛飼娘さん……もうお母さんですから牛飼若奥さんでしょうか、の二児の母とは思えぬ見事なプロポーションが非常に目の毒です。

 

「男の子と女の子の双子ちゃんですか……」

 

「この場合、どっちが上のきょうだいになるんでしょうね……」

 

 剣の乙女と森人少女ちゃんが清潔なタオルで赤ちゃんを包み、付着していた血などを拭きとっていますね。自然分娩ですと先に産まれた子のほうが妹ないし弟らしいですけど、帝王切開の場合も同じで良いんでしょうか? 確認したところ、ついてるほうの赤ちゃんが先に取り出されたので、お姉ちゃんと弟くんという扱いになりそうです。

 

「うわぁ……赤ちゃんって、ほんとうに『赤い』んですね……」

 

「個人的には『赤』を表すのにもっとも相応しいのが赤子の色だと思うのです」

 

若干青白い顔の見習い聖女ちゃんが、賢者ちゃんと一緒に弟くんを覗き込んでいます。こわごわと頬に触れ、その暖かさに目を丸くしているようですね。僅かに生えた髪の毛の色は……牛飼若奥さんと同じ赤色ですね! 剣の乙女が抱きかかえているお姉ちゃんがフサフサの灰色の髪なので、両親とは逆になったみたいです。

 

「はい、これでおしまい。今お母さんのところへ連れて行ってあげますからね」

 

 お、剣の乙女のほうがお姉ちゃんの清拭を終えてお母さんの傍へと歩み寄っていきました。吸血鬼君主ちゃんから受け取った白湯を口に含んでいる牛飼若奥さんの顔色は良好、痛覚麻痺が切れても痛みを訴えないところを見るに手術後の癒しは効いているみたいですね!

 

 剣の乙女が抱きかかえているお姉ちゃんを見て、吸血鬼君主ちゃんに補助されながら上体を起こしています。受け取ったお姉ちゃんをそっと胸元に抱き寄せ、小さな命の鼓動を肌で感じ取っているようです。お、女神官ちゃんに引っ張られながらゴブスレさんが入って来ました!

 

「あはは、お姉ちゃんと弟くんだって。君とおんなじだね!」

 

「そうか。……良く、頑張ってくれた。皆も、ありがとう」

 

 深々と頭を下げる新たなパパに対してヘヘンと鼻下を指先で擦る女性陣。さっそく女神官ちゃんに≪浄化(ピュアリファイ)≫をかけてもらった手で森人少女ちゃんから弟くんを受け取り、こわごわとした様子で抱いています。奥さんと同じ色の髪を指先で髪の色は逆なのだなと呟く姿はどこからどう見てもお父さんでしょう。

 

「母子ともに問題はないようですので、夕方には牧場へ戻れると思います。こちらで一晩過ごすよりもご自宅のほうが安心できますからね!」

 

「ああ。これからもよろしく頼む」

 

 念のため自分と吸血鬼侍ちゃんが明日まで付き添うことを告げる女神官ちゃん。しばらくは神官が交代で牧場に泊まり込むつもりみたいですね。これから寒くなりますから母子の健康には気を付けないといけませんし、間違いなく押し寄せる客人への対応も必要でしょうし。牧場の伯父さんもそれは承知しているので、泊り用の部屋を用意してくれているそうです。おや、扉の影から中を窺っていた英霊さんを見つけた牛飼若奥さんが二柱を手招きして中へ導いています。ゴブスレさんと目配せして頷き合い、抱えた姉弟を英霊さんの見える位置に差し出しました。

 

「みんなが力を貸してくれたおかげで、無事に2人とも産まれました!」

 

「どうか、この2人の成長を見守って欲しい」

 

 2人の言葉に重々しく頷き、それぞれの前で膝を付いて礼を示す二柱。どうやら担当する子は決まったみたいですね。恭しく受け取った赤ちゃんを見て鎧の隙間から青と黄色の光が漏れていますけど、あれは喜びの表現なんですかね?

 

 

 

「これでデータ収集は完了なのです。()()()()()()()と一緒に論文として纏めれば、人々の生活は劇的に変化するのです。2人とも、まだ気を抜くのは早いのです」

 

 無事に帝王切開の手術も終わり、詳細なデータを取ることが出来て満足そうな賢者ちゃん。臓器再生の方法やゴブリンの摘出法などとともに外科的手法が確立すれば、出生率や母子の生存性の向上にも繋がる一連の計画、しっかりと纏めてもらいたいですね。

 

 張り詰めていた精神が緩み気が抜けたのか、椅子にもたれかかっている女神官ちゃんと見習い聖女ちゃんに発破をかける姿は精気に満ちています。剣の乙女と森人少女ちゃんの顔にも安堵の色が浮かび、今後ゴブリンによる被害で泣く女性が減る未来を見据えているようにも見えますね。

 

 

 

「2人とも、お疲れ様! 2人のおかげで痛みも無く赤ちゃんをぉぉぉ……?」

 

 ん? 牛飼若奥さんの声が妙に滑っていますね、どうやら吸血鬼君主ちゃんと吸血鬼侍ちゃんを呼んでいたみたいですけど。……そういえばさっきから2人とも何をしているんでしょう、ずっと静かなままですけどぉぉぉぉぉぉ!?

 

「あ、主さま?」

 

「その、何をされているんですか?」

 

「「え? ……ふぁっ!?」」

 

 牛飼若奥さんが見る先。森人少女ちゃんと剣の乙女に困惑した様子で訪ねられて、初めて我に返ったように辺りを見渡す2人。その口元は赤く染まっています。あわあわと慌てふためく2人が捧げ持つように手にしていたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくら赤ちゃんの為に栄養を送る器官だったとはいえ、直接口を付けるのは正直どうかと思うのです」

 

 ……役目を終えて木桶に安置されていた、赤ちゃんと一緒にお母さんから出てくる器官……胎盤でした。

 

 

 

「あかちゃんがパパとママにだかれてるのをみて、おわったっておもったらしゅうちゅうりょくがきれて、おなかすいたなってかんがえてたら……」

 

「こえをかけられるまで、ぜんぜんいしきがなかった……ほんとうにごめんなさい……」

 

 ガタガタと震えながら正座する2人を眺める賢者ちゃんの声にも困惑が混じっています。たしかに動物なんかは出産後の栄養補給に母親が食べたり、一部地域によってはそういう風習があるという話も聞きますけど……ダイレクトは不味いですよ2人とも、ちゃんとお母さんに許可を取ってからでないと。え、違う?

 

「……ねぇ、2人とも。こっちに来てくれるかな?」

 

 お、震える2人を苦笑して見ていた牛飼若奥さんが寝台(ベッド)からちょいちょいと手招きをしています。処刑台へ向かう死刑囚のような2人がすぐそばまで歩いてくると、牛飼若奥さんは涙目の2人を抱き寄せました。

 

「ずっと気を張ったまま、お腹がペコペコになるまで頑張ってくれたんだもん。おこったりなんてしないよ? もしおなかの足しになるんだったら、あれは2人の好きにしていいからね?」

 

「……ほんとにおこってない?」

 

「きもちわるいとか、おもってない?」

 

 不安そうな瞳で見上げる2人を豊満な胸に押し付けるように抱き締め、優しく頭を撫でる牛飼若奥さん。おこってないし、おもってないよと笑う姿は母性に満ちています。そっと解放された2人は胎盤の入った木桶を抱えて衝立の向こう側へ。バキューム音がしばらく続き、再び現れた姿はお肌ツヤツヤで元気が漲っているようですね。

 

「せいめいりょくにみちあふれた、すばらしいあじでした……わぷっ」

 

「いまならきばがりのふたりにもかてるきがする!……わぷっ」

 

「馬鹿なことを言ってないで、2人もあの子たちに挨拶するのです。残ってるのは貴女達だけなのです」

 

 剣の乙女と森人少女ちゃんに口元を拭われ、英霊さんの前に放り出された2人。差し出された姉弟を危なげなく抱き上げ、その瞳を覗き込んでいます。その奥に見ているのは2人が歩む未来か、それとも鏡のように映る自分たちの姿か。やがて満足そうに2人は笑い、歌うように姉弟を祝福するのでした……。

 

 

 

「うまれてきてくれてありがとう。このみにくくてかなしいせかいへ」

 

「うまれてきてくれてありがとう。このうつくしくかがやくせかいへ」

 

「きみたちのみらいは、きっとかなしみでみちている」

 

「きみたちのみらいは、きっとしあわせでみちている」

 

「でも、それがずっとつづくなんてだれもきめてないから」

 

「そう、それがずっとつづくようにぼくたちがきめたから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「さあ、ぼうけんだ!!」」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 次は重くない話にしたいので失踪します。

 お気に入り登録に評価や感想、非常に励みとなっております。

 お時間がありましたら、一言でも構いませんので感想を頂ければ嬉しいです。今後の作品の方向性にも影響してくると思いますので。

 誤字脱字のご連絡も助かっております。減らしたいと思ってもなかなか無くならないのが辛いですね……。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその10.5


 シリアスさんは遅めのGWなので初投稿です。




 これで一国一城の主な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、無事にゴブスレさんがパパになったところから再開です。

 

 不思議な訪問者もあった出産から約三か月。ゴブスレさん譲りの灰色髪なお姉ちゃんと牛飼若奥さんと同じ赤髪の弟くんですが、体調を崩すことも無くすくすくと成長しています。2人とも首がすわり、ママと他の人の区別がつき始めたようで、日替わりでお世話をしている女性たちが抱き上げている時と反応が違うみたいです。

 

 ママ以外で懐いているのはお姉ちゃんが女魔法使いちゃんと剣の乙女、弟くんが女神官ちゃんと……妖精弓手ちゃんでした。ダブル吸血鬼ちゃんは嫌われてはいないのですが、まだ魂が未熟な段階でヤバイ級アンデッドが近付くのは宜しくないだろうという考えのもと、涙を呑んで自粛中です。もうちょっと大きくなったら遊んであげてくださいね?

 

 

 

 さて、そんな感じに年も明け、真冬ということで牧場もあまり作業がありません。家畜の世話はありますが、それも狼と英霊さんが暇つぶしに済ませてしまうので、ぶっちゃけやることがないんですよね。そのため実習に来ていた地母神神殿の子供たちは机勉強のために神殿へ一時里帰り中。代わりに牧場に滞在してるのは……。

 

 

「むぅ、おしめを縫うというのもなかなかに難しいのだな……」

 

「これも 母親 の 役目 よ? がんばって ね?」

 

「みんなが端切れを持ち寄ってくれたから、まだまだいっぱい作れますよ!」

 

 暖炉の前に椅子を並べ、繕い物をしている3人の女性。そのうち2人のおなかは大きく膨らんでおり、マタニティドレスの上にカーディガンを羽織り、腹部には毛布を掛けています。1人スリムなボディラインを維持している牛飼若奥さんが、真剣な眼差しで針先を見つめている女騎士さんと、それを横目に見事な速さでおしめを縫い上げている魔女パイセンの前に端切れを積み上げながら笑っています。

 

 というわけで、現在空いた宿泊スペースを有効活用するために出産を控えた銀等級奥様が牧場に滞在しています。どうしてもギルドの宿泊所ですと深夜の騒音や人の出入りがあるので環境的によろしくないですし、ゴブスレさんの結婚資金もありますが、冬場収入の減少する牧場にお金を落とす意味も込めて纏まった宿泊代を払っているみたいですね。

 

 最初は受け取ろうとしなかった牛飼若奥さんでしたが、腕の良い神官が常駐しているうえに出産経験のある女性がいると心強いという2人の意向もあり、そういうことならと受け取ったとのこと。春までのぶんをポンと前払いしたみたいですが、それでも銀等級らしい生活水準を要求されていたギルド暮らしに比べれば少ないんだとか。どうしても等級が上がればそれなりにお金を使うことを期待されますし、無言の圧力みたいなものもあったんでしょうねぇ……。

 

 あ、ちなみにわりかし成り上がりテイストな吸血鬼君主ちゃん一党の場合、早いうちに持ち家を手に入れたのと動かせる金が辺境の街の経済力を超えているので、そういうことは言われてないみたいです。やろうと思えば街一つ干上がらせることも出来ちゃいますからね、しませんけど。

 

 

 

「お疲れ様です、温かいお茶とお菓子を持ってきたので少し休憩にしませんか?」

 

 お、女神官ちゃんがお盆に湯気の立つ紅茶と焼菓子を乗せて部屋へ入って来ました。その首に掛けられている冒険者認識票は翠玉に変わっています。

 

「ああ、ありがとう。ずっと縫い目を見ていて頭が痛くなってきたところだったのだ……」

 

「あら? 昇級 したの ね おめでとう」

 

 縫いかけのおしめっぽいサムシングを机の上に放り出し、女神官ちゃんの差し出すカップを受け取る女騎士さん。同じようにカップを受け取ったパイセンが目敏く認識票の更新に気付き、優しく微笑みかけていますね。

 

「はい! このあいだの研究発表が認められて翠玉等級になりました!!」

 

 薄い胸を張りながら自慢げに笑う女神官ちゃんの姿に3人の顔も緩んでいます。帝王切開手術の確立と、それに付随する麻酔および()()()の摘出法を纏めたレポートは陛下を始め王国上層部に高く評価され、女神官ちゃんと見習い聖女ちゃんの名声は一気に広がりました。

 

 既に前報酬として青玉等級になっていた女神官ちゃんは翠玉に、白磁のままだった見習い聖女ちゃんは一気に青玉まで昇格というスピード昇進。賢者ちゃんや剣の乙女の後押しもあったとはいえ、2人とも頑張っていましたからね。等級のプレッシャーに負けないようこれからもよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなでまったりとした日々が続いていたのですが……。現在、吸血鬼君主ちゃんと侍ちゃんは王都に来ています。涙を浮かべた2人の手を取り真ん中で微笑んでいるのは聖人尼僧さん。その後ろであらあらうふふと笑っている彼女をげんなりした顔で見ているのは妖精弓手ちゃんと森人狩人さんです。聖人尼僧さんに捕縛されている2人を取り返す算段を立てながら、ひそひそと昨日起きた惨劇の話をしているようですね。

 

「あの2人をいっぺんに相手取って完勝するとか、ホントに人間なのかしらあのおっぱい……」

 

「うんうん。まさか昼だけじゃなくて、夜の勝負でも2人纏めて枯らしてしまうなんてね……」

 

 ……2人の台詞からカンの良い視聴神さんはお察しになるかと思いますが、一応今朝ナニがあったのかお話ししておきましょうか。

 


 

「ヒック……グスッ……たいようしんさまのしんでん……?」

 

「はい、神官長を凌ぐほどの実力をお持ちですし、この街に神殿を拓くのも良いかと思いまして」

 

 半泣き顔を妖精弓手ちゃんの薄い胸に擦り付けながらの吸血鬼君主ちゃんの問いにツヤツヤ笑顔で返事をする聖人尼僧さん。その背後では同じく半泣きの吸血鬼侍ちゃんが森人狩人さんのお山をちゅーちゅーしています。

 

 突然≪転移≫の鏡から現れたと思ったらクラスチェンジした2人の首根っこを掴み、強制的に手合わせ。≪分身(アザーセルフ)≫のエラッタから一足先に逃げ出して調子に乗っていた2人を再生出来なくなるまでボコり、そのまま寝室で夜通し搾り取るという凶悪コンボ。遅めの太陽が顔を覗かせて暫し、つい先ほど解放された2人は半鬼人先生や傷あり司祭さんに手も足も出なかった時と同じくらい凹んでいました……。

 

「ええと、それを伝えるためにわざわざ此処へ? あとなんで2人をボコボコにしたのかしら?」

 

「はい。もともと手合わせはお約束していましたし、あの純情な()が会う度に自慢してくるのでずっと気になってまして……お2人の()()()

 

 頬をヒクつかせて問う妖精弓手ちゃんに対しても、にこやか笑いを崩さずに卑猥なジェスチャーを見せる聖人尼僧さん。剣の乙女ってば他所でナニを言ってるんですかもう。ほら、妖精弓手ちゃんも「まぁ、たしかにシルマリルとヘルルインの魔剣はすごいけど……」なんて言いながら真っ赤になっちゃってますし。……()()()()()

 

「……ぷぁ。ヘルルインってぼくのこと?」

 

「古い森人(エルフ)の言葉で蒼く輝く氷星(シリウス)を表すものだよご主人様。なるほど、ご主人様にぴったりだね」

 

 ほー、天上で一番明るく輝く星のことですね。森人(エルフ)が敬愛する星々の女王(エレンターリ)灯をともす者(ティアンタレ)の異名を持つ彼女の最高傑作で呼ぶとはなかなかロマンチストじゃないですか妖精弓手ちゃん。森人狩人さんに撫でられながら何度も繰り返してますし、吸血鬼侍ちゃんも気に入ったみたいですね。

 

「それに、人間と共存を謳うのであれば、太陽神に仕える吸血鬼という肩書は役に立つのではありませんか?」

 

 卑猥なハンドサインを引っ込めた代わりに口から出るのは至極まっとうな意見。これには流石に妖精弓手ちゃんも反論できません。まだ胸元でベソかいている吸血鬼君主ちゃんを宥めながら、どうしたいのかを聞いています。

 

「どうするシルマリル? あのおっぱい尼僧の言う通り、シルマリルの願いを叶えるには悪くない話だと思うけど」

 

「ん……やる。みんなのこころをあかるくてらせるようなしんでんをつくる」

 

 おお、やる気になってるみたいですね! その言葉を聞いた聖人尼僧さんがポンと手を打ち合わせ、微笑みを崩さぬまま提案したのが……。

 

「うふふ、それじゃ行きましょうか。≪転移≫の鏡を使えば王都の太陽神の神殿まであっという間ですよ?」

 

「「……え、いまから?」」

 


 

 なんとか聖人尼僧に捕縛された2人を取り返し、彼女の先導で歩く吸血鬼君主ちゃん一行。若干怯えている見た目圃人の少女を森人2人がおんぶして歩く姿は、事情を知らない道行く人から見れば微笑ましく映ることでしょう。残念ながら背中の2人、歩く核弾頭なんですよ。

 

「それで、その太陽神の神殿とやらは何処にあるのかな? 見たところこの辺りは商業地区のように思えるのだけれど」

 

「うふふ、もう見えてきましたよ。ほら、あそこです」

 

 半目の森人狩人さんの問いをいつもの微笑みでいなしながら聖人尼僧さんが指差す先には……なんでしょう? 人だかりが出来ている建物があります。威勢の良い掛け声や注文を復唱する店員と思われる人の復唱が響く一画は周辺の商店に比べても繁盛しているみたいですけど……。

 

「え、もしかしてあそこが?」

 

「はい、太陽神の神殿です。信徒の方が育てた野菜や畜産物の直売、その場で食べられる食堂などもあるんですよ?」

 

 ほほう、直売所やイートインスペースもあるとはなかなか珍しいですね……って、それなんて道の駅ですか? どうやら神殿の一画を解放して行っているみたいですけど、なんだか普通の神殿とはイメージが全然違いますねぇ……。

 

「へぇ、面白いことをしているんだね……っと、ご主人様急にどうしたんだい!?」

 

 おや? 先ほどまで元気が無かった吸血鬼君主ちゃんと侍ちゃんが突然背中から飛び降りて駆けだしちゃいました。向かった先は煙と良い匂いのする鉄板の前、どうやら牛肉を焼いているみたいです。分厚く切り出された赤身の肉を見て2人の口元から涎がダラダラと……搾り取られたせいでおなか空いてるんですねきっと。

 

「おいしそう……」

 

「おこづかいでたべてもだいじょうぶかなぁ……」

 

 一般人から……いや、普通の冒険者から見ればアホ程稼いでいる2人ですが、まともな金銭感覚を身に着けさせるために、令嬢剣士さんからお小遣い帳を書くよう言われています。幾ら使ってもその場では大丈夫ですが、後でお説教されちゃうので2人ともちょっと躊躇っていますね。たぶんこの前、蛞蝓野郎(フラック)に金塊をそのまま投げつけたのが原因なんだろうなぁ……。

 

 

 

「ちっこい嬢ちゃんたち、肉を喰えば大きくなるぞ! 喰っていくかい?」

 

 不意に頭上からかけられた声に驚く2人。通常の発声とは違う、()()()()()()()()()()声の主を見て目を輝かせています。

 

「ほあ~!」

 

「かっこいい!」

 

 大きな真紅の複眼に、額から生えた2本の触角。艶やかな黒と濃緑の外骨格を惜しげもなく晒す軽装のなかで、唯一目立つのは腰帯(ベルト)に輝く2つの太陽石(キングストーン)。混沌の勢力の中でも最も恐れられている種族のひとつである飛蝗人(ローカスト)がエプロン姿でステーキを焼く姿は、なかなかにシュールですね。

 

「ちょっと2人とも、勝手に走り出しちゃ……うわ、ビックリした!?」

 

蟲人(ミュルミドン)、しかも飛蝗人(ローカスト)とは……街中で見るのは初めてかな」

 

 ようやく追い付いてきた森人2人も声の主を見て目を丸くしています。最後尾をゆっくりと歩いてきた聖人尼僧さんが彼の前まで進み、悪戯が成功したような顔で彼を紹介してくれました。

 

 

 

「こちら、この太陽神の神殿を治める神官長様です。……貴女たちと同じく、祈る者(プレイヤー)として目覚めた方でもあるのですよ?」

 

 

 

「持ち上げるのは止してくれ、今はただのステーキ屋の主人さ!」

 

 

 

 

 

 

「ええぇぇぇぇぇぇぇ~!?」

 

 

 

 ……そんな大きな声を出したら他の方に迷惑ですよ、そこの2000歳児。

 

 

 

 

 

 

「「うめ、うめ、うめ……」」

 

「良い食べっぷりだ! おかわりはまだまだ焼けるからな!!」

 

「あーあー2人ともがっついちゃって……あ、でも美味しい」

 

 お子様用の椅子に腰かけ、一心不乱にステーキを貪る2人を見て顎を鳴らしながら笑う飛蝗人(ローカスト)の神官長さん。えぇと太陽神さん、あの人はなんて呼べば……。蟲人英雄? じゃあそれで。

 

 最初は警戒していた妖精弓手ちゃんも、2人の懐きっぷりから悪い人じゃないと判断したのか、吸血鬼君主ちゃんの隣で焼き野菜を頬張っています。食事療法からこっち平気で肉食をするようになった森人狩人さんは、吸血鬼侍ちゃんにあーんしたりしてもらったりとランチを満喫中ですね。

 

 2人のおなかがぽっこり膨らんだ頃合いを見計らって聖人尼僧さんが新しく太陽神の神殿を建立したい旨を話すと、蟲人英雄さんはあっさりと快諾してくれました。あまりの即断即決っぷりに妖精弓手ちゃんが理由を訪ねたところ、帰ってきたのはいかにも太陽神の信徒らしい答えでした。

 

「太陽はいつでも皆を見守ってくれているからな!」

 

 なんか理由になってないような気もしますが、向こうで太陽神さんがへへっと鼻の下を指で擦っているから問題無いでしょう! 聖騎士さんといい蟲人英雄さんといい太陽神さんの信徒はおおらかな人が多いみたいですね。

 

 ……おや、良かったわねシルマリルと妖精弓手ちゃんにほっぺをつつかれている吸血鬼君主ちゃんを見ていた蟲人英雄さんの視線が、いつの間にか吸血鬼侍ちゃんに向けられています。何処か懐かしいものを見るような視線に気付いた吸血鬼侍ちゃんが、デザートを食べる手を休めて彼に問いかけています。

 

「あの、ぼくがどうかしたの?」

 

「いや、君の纏う月の香りを感じていたら、不意に親友を思い出してね……」

 

 鉄板を掃除する手を休め、遠い場所を見るように視線を上げた蟲人英雄さん。興味津々な一行の表情を見て、咳払いの後にゆっくりと話し始めました……。

 

 

 

「俺と親友は、飛蝗人(ローカスト)の王となるべく産み出され、育てられていた。だが、俺は太陽の導きで祈る者(プレイヤー)となり、人々の平和を脅かすかつての同胞たちと戦っていた」

 

「アイツは俺を倒すことで王の資格を得られると教え込まされ、俺とアイツは何度も拳を交えた。その中で、アイツもまた祈る者(プレイヤー)となる資格を得ていたんだ」

 

 そう言ったところで一度言葉を区切り、過去を思い出すように沈黙する蟲人英雄さん。再び話しだしたその口調には、苦いものが混じっています。

 

「最後の戦いの時、俺たち2人を纏めて葬ろうと混沌の軍勢が押し寄せてきた。独自の論理で動く飛蝗人(ローカスト)を邪魔に思った魔神の手によるものだった……」

 

 ギチギチと鳴る口元から漏れるのは、悔恨か、それとも怒りでしょうか。深く呼吸をした後に、親友との別れの一幕を語ってくれました。

 

「体勢を崩した俺を庇う形でアイツは魔神の槍で貫かれ、命を落とした。敵味方に別れてしまったが、最期までアイツは俺の親友だったんだ……」

 

「俺は、戦いの中で半身とも言える親友を失った。君達にはそんな後悔を味わってもらいたくはない。互いを信じ、困った時は助け合ってくれ」

 

 そう、絞り出すような声で告げる蟲人英雄さんを見て、お互い頷き合う吸血鬼君主ちゃんと吸血鬼侍ちゃん。そっと硬質な蟲人英雄さんの腕に触れ、誓いの言葉を紡ぎます。

 

 

 

「「だいじょうぶ、ぼくたちはずっといっしょ!」」

 

 

 

 

 

 

「あら、2人だけずっと一緒なんて随分酷いこと言ってくれるじゃない」

 

「まったくだね。私たち全員を虜にしておいて、そのまま放置しておく気なのかな?」

 

「「おあ~……」」

 

 おおう、良い感じだったのに森人2人の可愛いヤキモチで台無しな空気に……。聖人尼僧さんは相変わらずあららうふふですし、蟲人英雄さんも呆気にとられた様子で4人の痴話喧嘩を眺めています。一頻りほっぺを引っ張って満足したのか、膝上に吸血鬼君主ちゃんを乗せた妖精弓手ちゃんが蟲人英雄さんに確認をとっています。

 

「とりあえず、シルマリルが新しく神殿を作るのは良いってことなのよね。でもそういう時ってなんか有難いものを置いたりするんじゃないの? おっきい御印(シンボル)とか」

 

「うん? ああ、太陽神は太陽そのものが御印(シンボル)だからそういったものは……」

 

 そこまで口にした蟲人英雄さん、はたと何かに気付いたようにダブル吸血鬼ちゃんと交互に見渡し、納得したように大きく頷いています。ちょっと待っててくれと言い残し、風のような速さで神殿の奥へと走り去ってしまいました。戻ってきたその手には細長いものを覆った包みが2つ抱えられていますね。黄色い紐で封がされたほうを吸血鬼君主ちゃんに、青い紐で封がされたほうを吸血鬼侍ちゃんに差し出しながらこう告げています。

 

祈る者(プレイヤー)としての先輩から、後輩へのプレゼントだ。受け取ってくれるかい?」

 

 頷きながら受け取り、封を解く2人。包みが解放されると同時に周囲に溢れ出したのは、むせかえるような太陽と月の香りです。

 

「なにそれ、精霊が驚いて逃げてっちゃったわよ……」

 

「美しい。とても綺麗な刀身だね……」

 

 吸血鬼君主ちゃんの手には1本の(ケイン)。短いながらもびっしりと紋様が刻まれたそれは白く輝き、振り抜いた軌跡に光が舞っています。

 

 吸血鬼侍ちゃんの手には護拳付きの長刀(サーベル)。精緻な装飾の鞘から抜き放たれた刀身は真紅に輝き、吸い込まれるような美しさを見せています。

 

 

 

「かつて、俺と親友が使っていたものだ。俺たちは互いに向けてしまったが、どうか君たちは互いを護るために使って欲しい……」

 

 

 

「「うん、やくそくする!!」」

 

 

 

 自信に満ちた表情の2人を見て、どこか肩の荷が下りた様子の蟲人英雄さん。きっと貴方の親友だった……いえ、今も親友である人も認めてくれているでしょう。……ですよね! 万知神さん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、結局此処に祠を作ったってわけね」

 

 女魔法使いちゃんが見つめる先、ギルドの訓練場の集会所に作られた小さな祠をエヘ顔の吸血鬼君主ちゃんが掃除しています。御印(シンボル)のかわりに置かれた太陽のメダルはピカピカに磨かれ、まわりには農家の出と思われる新米冒険者が祈りを捧げていますね。

 

 その隣には同じように万知神さんの祠。版上げで使用されなくなった怪物事典(モンスターマニュアル)や古い教科書などが乱雑に積まれた周囲にはこれまた神殿や学院出身の新米たちが集まっています。

 

 許可を貰ったは良いものの、何処に建てるかや維持はどうするんだという問題で喧々諤々だった一幕があり、結局ギルドにお願いして訓練場の隅に置かせてもらうことにしたようです。え、万知神さんの許可は得たのかって? 吸血鬼侍ちゃん曰く、聖典(ルルブ)の何処にも神殿を建てる時は万知神さんの許可を得なければいけないって書いてなかったから良いんだそうです。

 

「まぁまぁ下姉様、良いではありませんか。主さまが神殿を預かる神官として認められれば今後も何かと動きやすくなるというものです」

 

 森人少女ちゃんが取り為してますけど、彼女も万知神さんの信徒ですからねぇ。これから新米たちを洗脳……支配……教育していくのは間違いなさそうです。それが目に見えているから女魔法使いちゃんも半目で横にいるニッコニコの森人少女ちゃんを見ているのでしょう。

 

 

 

 何はともあれこれでダブル吸血鬼ちゃんが人界へ溶け込む下地の第一歩が完成したわけで。帝王切開関連の協力も含め、これからも継続して友好政策を執り続けていきましょう! 目指せ親愛なる隣人、次は見習い聖女から見習いを奪い取る作業に入るんだ!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 




 気合い入れてサプリを読み込みたいので失踪します。

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セッションその11-1

 シリアスさんは深刻な五月病に感染してしまったので初投稿です。

 サプリのあちこちに散らばるネタに気を取られて時間がかかってしまいました。本家に負けないように全力でネタに走るセッションをお楽しみください。


 お菓子ヨシ! 飲み物ヨシ! 録音機材(アカシックレコーダー)ヨシ! うん、準備はバッチリですね!!

 

 あ、至高神さんおはようございます! 剣の乙女と見習い聖女ちゃんに送る≪託宣(ハンドアウト)≫は出来ましたか……って、どうしたんですそんな緊張しちゃって? 今日は可愛い推しの晴れ舞台じゃないですか。もっと明るく元気にいきましょうよ!

 

 え、緊急事態? あの()が見学に来る? ええと、今まで来てなくて顔を出しそうな()ですと……嗜虐神さんですか? それともこのあいだ思いっきり説教していた吟遊詩神もとい死灰神さん? その2()でもないとすると……。

 

 ……あ、まさか。秩序と混沌の大規模戦争が冒険に移り変わってから、顔を見せてなかったあの()ですか!?

 

 それは……ちょっと想定の範囲を超えてますね。昔のノリで介入されると、冒険が血と硝煙塗れになっちゃうかも。まぁ今回は見るだけでしょうし、いきなり推しを登場させるなんてことは……あのGM? なんで露骨に目を逸らすんですか? ウソ、もしかして。もう、既に……!?

 

 

 


 

 あー、うぉっほん! 本格的にダブル主人公で進行する実況プレイ、はーじまーるよー!!

 

 さて、暦の上ではもう春という時期にもかかわらず小雪のちらつく辺境の街。吸血鬼君主ちゃん一党(パーティ)宅のリビングには炬燵様が鎮座しておられます。

 

「「ごっはん~ごっはん~♪」」

 

「寒いのに食欲旺盛ねぇ。こうも雪が続くようならまたシルマリルが物資の緊急輸送に呼ばれるかもしれないわねぇ」

 

 よっぽどおゆはんが楽しみなのか、ダブル吸血鬼ちゃんが声を揃えて即興の歌を口ずさんでますね。キッチンからは濃厚なチーズの香りが漂ってきており、ペコペコのおなかに住んでいる妖精さんたちが一斉に鳴き出しているようです。吸血鬼君主ちゃんを膝上に乗せ、肩口に顎を乗せた状態で炬燵に潜り込んでいる妖精弓手ちゃんが恨めしそうな声で長い冬を呪っています。

 

 やはりというかなんというか、土下座する勢いの監督官さんに頼まれて昨年同様物資輸送に従事していた吸血鬼君主ちゃん。だいぶ前に輸送依頼は完了していますが、雪に閉ざされた状態が長く続くようですと、また食料が不足する集落が出るかもしれません。

 

 冬になる前にゴブリンの駆除を進めていましたが、完全に殲滅するのは難しいですからねぇ。蓄えを狙って集落を襲う群れが出る恐れもありますので、現在吸血鬼侍ちゃんが西方辺境を巡回しており、本日はその労いを込めて牧場から貰った畜産物で豪華なおゆはんというわけです!

 

「拙僧も昨年頂戴したこの懐炉が無ければ冬眠していたかもしれませんなぁ。今日の晩餐に招待して頂いたことも合わせて何か返礼を考えなければ」

 

 妖精弓手ちゃんの対面、同じように吸血鬼侍ちゃんを膝上に抱えた蜥蜴僧侶さんが、尻尾をくゆらせながらしみじみといった様子で頷いています。牧場での働きに対して現物で報酬を貰っていた一党(パーティ)、山のように積み上がったチーズと腸詰を見て、真っ先に思い浮かんだのが蜥蜴僧侶さんでした。チーズをたっぷりつかったおゆはんに招待したところ何処からか丸鶏を調達してくれましたので、只今キッチンで令嬢剣士さんが調理中というわけです。

 

 

 

「お待たせいたしましたわ! 牧場のチーズと宰相から頂いた白葡萄酒をベースに作った特製のチーズフォンデュ。鶏モツと玉葱のパイ包み焼きはもう少しお待ちくださいまし」

 

 お、令嬢剣士さんが良い匂いのする土鍋を運んできましたよ! 炬燵に用意しておいた保温の魔法がかかった鍋敷きの上に乗せられた鍋は沸々と煮え立ち、中のチーズはトロリととろけた状態で保たれるようになっています。続けて運ばれてくる食材たちが所狭しと並べられ、本日のおゆはんが完成です!

 

「甘露ッ!!」

 

「「おいし~!!」」

 

 めいめいが食べたいものを串に取り、黄色いチーズの海へ投入。予め火を通してある食材へ十分にチーズが絡んだところで取り出し、そのまま口へと運ぶ贅沢な食べ方です。チーズと同じく牧場で作られた腸詰は抜群の相性、頬張った蜥蜴僧侶さんの口からはいつもの声が飛び出していますね。ベーコンや馬鈴薯を頬張るダブル吸血鬼のほっぺたも落っこちそうになっています。

 

「あぁ~。身体の中からあったまるし、2種類の違ったコクが楽しめるからいいわねコレ」

 

 頬を緩ませる妖精弓手ちゃんが口にしているのは牧場での薪割の時に見つけたカミキリムシの幼虫ですね。下茹でされてピンと伸びた身にチーズの衣を纏わせ、噛み千切れば口中に溢れる濃厚な旨味。甘い幼虫とチーズの塩分が織りなすハーモニーは薄味を好む森人(エルフ)の舌も唸らせる味のようです。

 

「素材が良いものでしたから、私の拙い調理でも美味しく出来上がってくれましたの。あ、麺麭もなかなかイケますわよ?」

 

 エプロンと三角巾を外して着席した令嬢剣士さんも、骰子状に切り出して焼き色を付けた麺麭を口にしながら笑みを浮かべていますね。根菜にキノコ、大蒜などを摘まみつつ、白葡萄酒でくどくなった口内をさっぱりさせている姿は育ちの良さを感じさせます。外は雪の混じった寒風が止まぬ中、温水暖房と炬燵によって暖かい部屋で進むささやかな夕食会。用意した具材が全て無くなるまで、そう長い時間はかかりませんでした……。

 

 

 

「はぁ……美味しかった。他の連中も来られなくて悔しがるでしょうねぇ。あとで自慢してやろっと!」

 

 鶏モツと玉葱のパイ包み焼きに加えて〆のパスタまで貪り尽くし、満足げに仰向けに倒れる妖精弓手ちゃん。彼女の言う通り、今日はちょっと人数が少なめでした。

 

 剣の乙女は見習い聖女ちゃんと一緒に神殿に向かい、至高神さんからの≪託宣(ハンドアウト)≫を待っている状態。女魔法使いちゃんと森人義姉妹(エルフ2人)は賢者ちゃんと一緒に学院へ赴いているそうです。出発の際に意味深に微笑んでいた4人を思い出したのか、ダブル吸血鬼ちゃんは若干震えていますね……。

 

「にしても……シルマリルにもヘルルインにも好かれているなんて、ちょっと妬けちゃうかも」

 

「いやぁ、拙僧に鱗が無かったら肌を重ねるのも良いかもしれませんが、残念なことに一張羅でありますからなぁ」

 

 妖精弓手ちゃんが蜥蜴僧侶さんの懐で丸くなっている吸血鬼君主ちゃんを見ながら漏らす呟きに、牙を見せる笑みで答える蜥蜴僧侶さん。さっきまで膝を占領していた吸血鬼侍ちゃんは現在令嬢剣士さんの胸元に潜り込んでいます。

 

「それに、君主殿は()()()()()()でいなければならぬと聞いております故、拙僧も紳士的に接しなければならぬ次第。こうやって触れるのが精一杯でありますなぁ」

 

「あう……」

 

 蜥蜴僧侶さんに撫でられながら頬を赤くする吸血鬼君主ちゃん。はい、実は今吸血鬼君主ちゃん、ピュアピュアな処女(おとめ)なんです……。

 

 

 

 みんなの協力で新しい身体を手に入れた吸血鬼君主ちゃん。日光浴で魔力を補充できるようになったものの、ここのところずっとあいにくの空模様、もう何日もおひさまの姿を見ていません。太陽さんの専用奇跡である≪晴天(サニーデイ)≫を使えば1回につき1時間は晴天になるものの、魔力の消費を考えると赤字になってしまう為あえなく断念。ボディ新造の際に吸血鬼侍ちゃんが貯め込んでいた魔力を使ってしまい、剣の乙女の眷属化が遅れてしまうことを悩んでおり、積極的にみんなから魔力を貰うつもりでした。

 

 しかし、いざ夜戦というところで処女(おとめ)になっていたことが発覚。もちろん以前に魔力供給してもらっていましたし、『死の迷宮』でクソザコ吸血鬼をしていた時に一通りの酷い経験はしていたので、とっくの昔に開通済みだったのですが……。どうやらその辺りの問題がまとめてリセットされてしまったようで。ご主人様の初めての相手はこの狩人(ハンター)だッ!と跳びかかる義姉(森人狩人さん)を絞め落とした森人少女ちゃんの一言が、その後の全てを決定しました。

 

 

 

 

 

 

主さまには申し訳ございませんが、≪蘇生(リザレクション)≫を行使する際に都合が良いのでそのまま清らかな身体を保っていただけませんでしょうか? (わたくし)を含め、みな主さまのお手付きですので……」

 

 

 

 ええ、非常に合理的かつ納得力に溢れた言葉だと思います。魔剣で散々みんなを鳴かせておいて清らかはないんじゃない?という意見もありましたが、試しにやってみたところ無事に成功。どうやら魔剣使いはピュア判定には影響を及ぼさなかったようです。正典には乙女が童貞か否かの確認は書いてないからセーフ? だれもそんな状況想定してないんだよなぁ……。

 

 そんなこんなで剣の乙女眷属化計画は絶賛遅延中。太陽神さんの信徒となった吸血鬼君主ちゃんはあんまり吸血を好まなくなり、相手が望まない限りは日光浴かお山から魔力を集める傾向にありますし、独立して攻めっ気がさらに強くなった吸血鬼侍ちゃんを、性癖に反して森人義姉妹(エロフ2人)に代表されるケダモノへ差し出すのも可哀そうという、ちょっとだけ困った状態になってしまいました。

 

 うーん、どこかにこうモリっとゲージを溜められる美味しい(エサ)はいないものですかねぇ……。っと、リビングに設置してある≪転移≫の鏡の表面が波打ち始めましたね。さて、神殿組か学院組かどちらが帰ってきたのでしょうか。

 

 

 

「ただいま戻りましたわ。……あら、良い匂い」

 

「「お、お邪魔しまーす!」」

 

 お、やって来たのは神殿組でした。最初に出てきた剣の乙女に続いて、神殿で修行していた新米戦士カップルがこわごわと鏡を通ってきました。そういえば往路は普通に馬車で向かってましたから鏡を使用するのは初めてかもしれませんね。使用方法を教えてもらうということはそれだけ信頼されていることでもありますし、2人のパワーレベリングは順調みたいです。

 

 3人が揃ってやって来たということは、至高神さんからの≪託宣(ハンドアウト)≫が届いたということでしょうか? 蜥蜴僧侶さんのところから吸血鬼君主ちゃんを強奪して、ちっちゃな尖り耳をしゃぶっていた妖精弓手ちゃんが口を離しながら問いかけています。

 

「おかえり~。もしかして例の≪託宣(ハンドアウト)≫の件?」

 

「ええ。それに関連してお客様が見えてまして……どうぞ此方へ」

 

 おや? 剣の乙女の招きに応じるように、新米カップルの後ろから小さな人影が進み出てきました。歩みとともに響く金属音は人影の足元から……どうやら義足のようですね。素足と金属の足を交互に進ませながら姿を現したのは、壮年の圃人の男性でした。

 

 

 

「ふむ、どうやら夕食は終わってしまったようだね。まぁよろしい。太陽馬鹿(聖騎士)から君たちの話を聞いて依頼を持ってきた。すまないがタオルと温かいお茶を頼む」

 

「おお~……!」

 

 その無礼半歩手前な堂々とした振る舞いとキッチリ着込んだ軍服にも似た装いを見て、感嘆の声を上げるダブル吸血鬼ちゃん。すぐさまお茶と足拭き用のタオルを用意してもてなしの姿勢に入りました。いつにない2人の行動に妖精弓手ちゃんと令嬢剣士さんも目を丸くしていますね。清めた足を炬燵に潜り込ませ、お茶を啜るその姿を見て考え込んでいた蜥蜴僧侶さんが、思い出したかのように声を上げました。

 

「その装いに胸の御印(シンボル)……もしや御身は栄纏神(えいてんしん)に仕える神官では?」

 

「え~てんしん?」

 

 蜥蜴僧侶さんの言葉に首を傾げる吸血鬼君主ちゃん。どうやら知らないみたいです。他の人も同様に首を傾げてますが……おや、妖精弓手ちゃんは知っているみたいですね。もしかして、と前置きをしながら確認するように男性へ問いかけています。

 

「≪破壊≫を司る神の顔の一つで、神代の時代に東方から押し寄せてきた赤い津波を打ち砕いたっていう話をむかーし聞いたことがあるような……」

 

「左様、混沌の軍勢との戦いの時には何処からともなく姿を現し、自由と秩序の守護者として力を振るう人界の護り手。決して見返りを求めることは無く、その身に()()光と誇りは迫る悪意を通さず、振りかざす一撃はあらゆる災厄を粉砕すると戦場では称えられていたとか。こうして実際に目にするのは拙僧も初めてですな……」

 

 敬意を表すように奇妙な合掌を結ぶ蜥蜴僧侶さん。それを見て敬礼にも似た返礼をする男性、いちいち動作がサマになっています。あ、ダブル吸血鬼ちゃんの瞳がアイドルを見るファンのそれになっちゃってますね……。

 

「随分大袈裟に広まってしまっているようだが、あくまで我々は教義に則って力を行使しているに過ぎない。長い戦乱の中で多くの戦友が斃れていった。上の森人(ハイエルフ)お嬢さん(フロイライン)の言う通り、もはや長命なる種族の間で語られる異端の集まりでしかないと私は思うのだがね」

 

「ですが、今回は動くときである。そう言うことなのでしょう? そうでなければ態々水の街(ウチ)まで来たりしませんもの……」

 

 頭痛を堪えるように頭を押さえながらツッコミを入れる剣の乙女。依頼の話はそちらの後で構わんよという彼の言葉に応じ、至高神さんからの≪託宣(ハンドアウト)≫について話し始めました。

 

 

 

「私と彼女……次代の大司教に下された≪託宣(ハンドアウト)≫は、とある村に迫る危機を解決することです。雪に閉ざされた集落を襲う混沌の軍勢から住民を護り、敵の首魁を滅ぼすこと。それを彼女が大司教となるために必要な通過儀礼(イニシエーション)であると、至高神様は判断されたようです」

 

 なるほどなるほど、大筋はそのままで難易度に調整を加えた感じっぽいですね。一党(パーティ)の頭脳担当+アルファが不在なのは調整の一環ということなんでしょう。主役である神官2人の護衛として新米戦士君とダブル吸血鬼ちゃん。残った枠は妖精弓手ちゃん、令嬢剣士さん、蜥蜴僧侶さんから1人を選択というのがGM神さんの当初考えていたものなんだと思います。

 

 ……で、例のあの()の影響で変わった結果、どうなるんでしょうかねぇ。

 

「私に下された≪託宣(オーダー)≫も、恐らく君たちの冒険に関係するものなのだろう」

 

 剣の乙女の言葉を引き継ぐように、飲み干したカップを弄んでいた男性……栄纏神(えいてんしん)の神官さんが話し始めました。曰く、何処かの阿呆共がこの西方辺境に冬を繋ぎ止め、ライフラインの寸断を計画しているんだとか。オマケに春が遅くなるほど農作業は滞り、秋の収穫にも悪影響が出かねないというなかなかに陰湿な作戦を立てているようです。

 

「この地に冬を繋ぎ止める楔となっている魔神……『冬将軍』を討伐すること。それが私に下された指令(ミッション)であり、君達の助力を求めてきた理由でもある」

 

 ええとGM神さん、つまりまた一党(パーティ)分割ですか? まぁ君主ちゃんと侍ちゃんが揃って動くと過剰戦力になっちゃいますし、前回の冒険も視聴神さんたちには好評だったみたいですからねぇ。了解しました、2人を分けつつ適当に編成すれば良いんですね!

 

 

 

「ん~と、だったらぼくがふゆしょうぐんのほうにいくね」

 

 おや、君主ちゃんが先に行先の希望を出しましたけど……剣の乙女とは別行動になっちゃいますが良いんですかね?

 

「ぼくはかまわないけど……いいの?」

 

「うん、きみにならまかせられるし、それに『あのきけんなきゅうけつきをしたがえるじだいのせいじょさますっご~い!』するならぼくよりもきみのほうがいいかな~って。……だめ?」

 

 ほうほう……え、君主ちゃんが頭を使っている……だと……?

 

「確かに、どちらか1人ということでしたら太陽神の信徒である貴女よりも大衆受けはしそうですね。……お願いしても良いでしょうか?」

 

「ん、わかった! ふたりもいっしょにがんばろうね!!」

 

 剣の乙女も侍ちゃんのほうがインパクトが大きいと判断したのか、侍ちゃんに同行をお願いしてますね。勢い良く返事をした侍ちゃんはそのまま新米カップルに飛び込んで2人に強烈なハグ。いきなりのスキンシップに顔を赤くするあたり、まだまだ修行が足りないみたいですね。

 

 

 

「ふむ、であれば拙僧もそちらへ同行致そう。強者に挑むは誉れといえども、名前を聞くだけで拙僧とは相性が悪そうでありますからなぁ……」

 

 どうやら蜥蜴僧侶さんも聖女ちゃん試練組に同行してくれるみたいです。魔神懐炉で緩和されているとはいえ、冬将軍とか明らかに苦手そうですもんね。

 

「人数のバランスを考えるなら残りはシルマリルのほうに着いてったほうが良さそうだけど……」

 

「でも、悪天候の中3人抱えて飛ぶのは流石に無謀ではありませんでしょうか……」

 

 若干口淀む妖精弓手ちゃんの見る先には令嬢剣士さん。君主ちゃんの最大乗員は3人ですが、あくまで飛べるだけであって戦闘はおろか高速飛行も難しくなってしまいますからね。ちょっと心配だけど6-3に別れて……と一行が考える中、スッと上がったのは栄纏神(えいてんしん)の神官さんの手です。

 

「心配無用だ只人(ヒューム)お嬢さん(フロイライン)。こんなナリで動き回る以上、私も自前で()()()()は持っている。上の森人(ハイエルフ)お嬢さん(フロイライン)ならこちらで引き受けよう」

 

 コツンと義足を叩きながら任せたまえよと応じる栄纏神(えいてんしん)の神官さん。流石は推定神官長クラス、剣の乙女のように使徒(ファミリア)を授かっていてもおかしくはありません。≪転移≫を除けばもっとも短時間で長距離を移動出来るのが飛行ですからね、全員の歩調を合わせられるなら最適の手段と言えるでしょう!

 

 

 

「じゃあ組み分けはこれで決まりね! そうしたらギルドに行って明日出発出来るように馬車を手配してくるから、シルマリルとヘルルインはお馬さんを召喚()んでおいて頂戴」

 

「「は~い!」」

 

 上着を引っ掛けて飛び出していった妖精弓手ちゃんに手を振りながら返事をする君主ちゃんと侍ちゃん。どうやら今回も英霊さんにお願いするつもりのようです。新米カップルと蜥蜴僧侶さん、それに栄纏神(えいてんしん)の神官さんにはゲスト用の寝室に泊ってもらうみたいですね。……あ、もちろん全員別々の部屋ですよ?

 

 

 

「当初の予定とは大きく変わってしまいましたけど、これもまた試練ということなのですね」

 

「わぷっ」

 

 みんなをそれぞれの寝室に案内した直後、剣の乙女に後ろからそっと抱き上げられ、お山に顔を埋める形で抱きしめられた君主ちゃん。理性ではこの組み分けが正しいと判っていても、感情的には一緒に冒険したかったんでしょうね……。しばらくは剣の乙女の好きにさせていた君主ちゃんですが、ゆっくりとお山から顔を上げ、ちょっと拗ねているような剣の乙女の頬に両手で触れました。

 

「うん、ぼくもちょっとさみしい。でも、あのこがいればだいじょうぶだろうし、はなれててもこころはつながってるから。だから、そんなかおしないで?」

 

 そのまま剣の乙女に顔を近付けさせ、唇を重ねる2人。微かに響く水音の後に銀糸を引きながら離れた剣の乙女の口から漏れるのは、蕩けるように甘い囁きです。

 

「でしたら、その証をください。離れていても、貴女を感じられるように。私の寂しさが満たされるほどにたくさん……」

 

 そう言いながら君主ちゃんの服に手をかける剣の乙女。イイ感じに盛り上がってますけど、此処は寝室じゃないんですよねぇ……。

 

 

 

 

 

 

「……ああいう甘々なのも新鮮ですわね」

 

「きょうみがあるならやってあげてもいいよ?」

 

「あ、いえ。私はちょっと強引に迫られるほうが好みですから……いつもみたいにお願いします」

 

 

 

 背後から聞こえる声にビクッと震え、ゆっくりと背後を振り返る剣の乙女。そこには顔を赤くした令嬢剣士さんと味わい深い表情の侍ちゃんの姿が。さらにその背後から感情を押し殺した女性の声が響いてきます……。

 

 

 

「ふーん、お馬さんの召喚をヘルルインに任せて女の子とちゅーちゅーしてるなんて。吸血鬼を統べる君主サマは随分と偉いみたいねぇ」

 

「ごめんなさい」

 「ごめんなさい」

 

 

 

 その後、拗ねた妖精弓手ちゃんのご機嫌を取るために明け方近くまでリビングの灯りが消えることは無く、その空気に当てられた侍ちゃんと令嬢剣士さんは大いに盛り上がったそうです。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かね吸血鬼(ヴァンピーア)お嬢さん(フロイライン)。随分と疲れた顔をしているが」

 

「うん……すぐげんきになるからだいじょうぶ」

 

 夜明けと同時に牛乳を飲んで体操を始めた栄纏神(えいてんしん)の神官さん。聖女ちゃん応援組はまだ寝ていますが、どうやら冬将軍討伐組はもう出発するようです。

 

 昨晩は随分盛り上がっていた筈の妖精弓手ちゃんと令嬢剣士さんは生気に満ちたツヤツヤお肌、この様子だと侍ちゃんも暫く起き上がれなさそうですね……。

 

「それで、昨日言ってた飛行手段ってのはなんなの? シルマリルたちみたいに羽根を生やして飛ぶわけじゃ無さそうだし」

 

「慌てる必要はないぞ上の森人(ハイエルフ)お嬢さん(フロイライン)。もう間もなく到着する」

 

 防寒具でバッチリ固めた妖精弓手ちゃんの問いに柔軟運動をしながら返答する栄纏神(えいてんしん)の神官さん。その言い方ですとやはり飛行生物に騎乗するタイプっぽいですね。お、君主ちゃんが何かに反応して顔を上げました。まだ暗い西の空を見ているようですが……。

 

「はえ~……すっごいおっきい……」

 

 闇の中から浮かび上がるように近付くシルエットは巨大な鳥。吸血鬼一党(パーティ)宅上空を旋回する姿はとても優美なもの。バサリバサリと翼を羽ばたかせながら栄纏神(えいてんしん)の神官さんの隣に降り立ったのは、大人が背に乗れるほどに大きな猛禽です。その力強い脚部に括り付けられていた2本の槍を手にした栄纏神(えいてんしん)の神官さんが、呆気にとられた様子の3人に向かって言い放ちます。

 

 

 

 

 

 

「惚けている暇は無いぞお嬢さん(フロイライン)たち、出撃だ!!」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ええと、GM神さん。彼が出てきた時からずっと気になってたことがありまして。いつ聞こうか迷ってたんですけど、この機会に聞いても良いですか?

 

 

 

 

 

 

 あの栄纏神(えいてんしん)の神官を名乗ってる()、どう見ても信徒じゃなくて栄纏神(A-10神)の主神格である破壊神さんですよね???

 

 

 




 こうしちゃいられない、休んでる暇は無いので失踪します。

 お気に入り登録に評価や感想、非常に励みとなっております。

 お時間がありましたら、一言でも構いませんので感想を頂ければ嬉しいです。今後の作品の方向性にも影響してくると思いますので。

 誤字脱字のご連絡も助かっております。減らしたいと思ってもなかなか無くならないのが辛いですね……。

 お読みいただきありがとうございました。

 


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セッションその11-2

 毛虫と蛞蝓が隣人になったので初投稿です。

 職場にも自宅にも訪ねてくるなんて、積極的ですよね(白目)。

 ……早急に対策をしなければ。


 あ、破壊神さんチィ~ッス! 珍しくお出かけですか?

 

 ふむふむ、愛する者のために戦う道を選んだ淑女に感動したから手助けがしたい、ですか。好きそうですよねそういうの!

 

 それで、加護と一緒に適当な武具を渡すつもりと。なるほど、だいたい理解し(わかり)ました!

 

 破壊神さんはその権能の都合上山ほどヤベーイやつを持ってますけど、どれにするつもりなんです? え、いや確かにツルハシは便利ですけど、流石に彼女が持つにはビジュアル的にちょっとアレかな~って(N子さん)は思いますけど……。

 

 う~ん、ちょっと目録(リスト)見せて貰っても良いですか? ほうほう、相変わらず頭の悪……ゲフンゲフン、個性的なモノが多いですねぇ。……あ! これなんかどうです? こんな風にちょっと四方世界風にアレンジすれば見栄えも良いですし、上手く関連付ければ使徒(ファミリア)の制御もしやすくなると思いますよ!

 

 ついでに化身(アバター)はこんな感じにして……おお、歴戦の強者(ツワモノ)って感じで良いじゃないですか! あとはコッソリGM神さんの脚本(シナリオ)に細工をすれば……完成! これで地上(あっち)でも活動できますよ!! え、いやいやそんなお礼だなんて、最近ずっと元気が無さそうでしたから、たまにはパーッと楽しんでも問題ありませんって!

 

 それじゃいってらっしゃませ~! ……ふぅ、久しぶりに良い仕事した気がします。死灰神がやらかしてからこっち他の視聴神がみんな尻込みしちゃって、()()な面子が飛び入り参加するサプルァ~イズ!が無かったですからねぇ……。

 

 美しく完成された物語も良いですけど、やっぱり(N子さん)的にはアドリブを要求されるシチュは欲しいかな~って。破壊神さんならきっと盛大に卓を動かしてくれるでしょう! さ、他の連中にバレないうちに席に戻るとしますか……。

 

 

 

(なおこの後万知神さんを巻き込み、2人でさらに悪ノリした)

 

 

 


 

 

 前回、破壊神さん栄纏神(えいてんしん)の神官さんの号令で出撃したところから再開です。

 

 夜明けの空を飛翔する2つの影。ひとつは大型の鳥の姿、もうひとつは小さな人型です。

 

 雲を眼下に見る高度を飛んでいるにも拘らず、運ばれている妖精弓手ちゃんと令嬢剣士さんは通常の防寒装備のまま。普通だったら凍えてしまうところですが……。

 

「だいじょうぶ? さむくない?」

 

「ええ、問題ありませんわ。……いきなり口付けをされた時は驚きましたけど」

 

 若干頬を赤らめながら返答している令嬢剣士さん。お姫様抱っこの状態で運ばれていますが、その身体は暖気に満ちており、飛行する吸血鬼君主ちゃんの背後には見事な飛行機雲が出来ていますね。編隊(エレメント)を構成する大型の鳥……栄纏神(えいてんしん)の神官さん曰く"大砲鳥(カノーネンフォーゲル)"からも同様のベイパートレイル。こちらの発生源はもちろん妖精弓手ちゃんです。

 

 吸血鬼君主ちゃんの体内に格納されている星の力(核融合炉)、そこで生まれた魔力を契約した相手に供給することでバフをかける新しい能力ですが、副産物として発生する熱も送ることで暖房にもなるようです。温水暖房があるとはいえ寒い冬の夜、湯たんぽのようにあったかい吸血鬼君主ちゃんの身体を巡って奪い合いが発生したのを切っ掛けに発見されたこの機能。厚着をして動きが鈍くなることを嫌う女性陣にも好評ですし、冬でもみんなが露出の高い服装で抱きしめてくれるのでダブル吸血鬼ちゃんもニッコリ。まさにwin-winの関係ってヤツですね! あ、ちなみに妖精弓手ちゃんが栄纏神(えいてんしん)の神官さんに寒くないのか聞いたところ「鍛えているからな」と返答されたそうです。それってつまりやせ我慢なんじゃ……。

 

 

 

「ねぇ、そういえば聞いてなかったんだけど。栄纏神(えいてんしん)ってどんな神様なの?」

 

 妖精弓手ちゃんが思い出したように訪ねたのはおひさまが真上に差し掛かろうとする頃、休憩のために見晴らしの良い丘へ着陸している時でした。夜明けから曇りがちだった空に青が見え、僅かに地面が温められてきています。お姫様抱っこで朝から飛び続けて流石に疲れたのか、妖精弓手ちゃん特製の焼菓子(レンバス)を頬張りながらうとうとし始めちゃった吸血鬼君主ちゃん。気を利かせた令嬢剣士さんの膝枕で静かに寝息をたてていますね。

 

「そういえば伝えていなかったな。口はあまり回るほうではないが、それでも良ければ腹ごなしに話すとしよう」

 

 指先についていた欠片を舐め取りながら大砲鳥の足に括り付けていた牛乳で焼菓子(レンバス)を流し込んだ栄纏神(えいてんしん)の神官さんが、紅茶の準備をしながら語りだす神様のお話し。吸血鬼君主ちゃんの髪を梳いている令嬢剣士さんも興味津々みたいですね。2人に紅茶をサーブし、カロリーを補充するためかドバドバと砂糖を入れながら話し始めました。

 

栄纏神(えいてんしん)は最初から神であったわけではない。秩序と混沌の軍勢が、世界を揺るがすほどの勢力でぶつかり合っていた頃に戦っていた戦士の中から現れたとされている」

 

「と言いますと、戦女神のように人の身から神に成ったということですの?」

 

 令嬢剣士さんの疑問も当然でしょう。剣奴から冒険者を経て神域まで上り詰めた戦女神さんこそ、ある意味もっとも成功した冒険者であると言えますからね。しかし、栄纏神(えいてんしん)の神官さんその言葉に首を横に振っています。では、どういうことですのという令嬢剣士さんの問いに対し、淡々と栄纏神の由来を語っていきます。

 

「そも、栄纏神(えいてんしん)とは特定の神をさす名称では無い。≪破壊≫を司る神々によって取り立てられた、人々を護らんと戦った無数の名も無き勇者の集合体こそ栄纏神(えいてんしん)であると言われているのだ」

 

 訝し気な視線を送る妖精弓手ちゃんと令嬢剣士さんに首を竦めて返す栄纏神(えいてんしん)の神官さん。まぁ取り立てた本()が言ってるんですから間違いでは無いのでしょう。そのまま途切れることなく語り(騙り)を続けていますね。

 

()()()()()を持つ魔剣を持ち、巨人(タイタン)の精髄を混ぜ込んだ金属鎧で全身を覆ったイボイノシシ(ワートホグ)を相棒として、鉄の防壁を乗り越えて人界に攻め入らんとする赤い軍勢を迎え撃つ不屈の戦士。必ず最前線に立ち、どのような攻撃を受けようと決して怯むことなく、魔剣を振るった後には敵の影すら残さない。ひとたび戦場に姿を現せば、兵士たちの士気は天井知らずに上がったとさえ伝わっているな」

 

 その武勇にあやからんと、伝説の真似をし始めたのが信徒の原点だと語る栄纏神(えいてんしん)の神官さん。やがて信徒の戦いぶりが広まるにつれて、彼らが神と崇める栄纏神(えいてんしん)の名が世に知れ渡ることになったのだ、と言って、カップの底に残った砂糖を一息に口へ流し込んでしまいました。

 

 

 

「……つまり、栄纏神(えいてんしん)とは実在しない神であると? 戦場で絶望と対峙するために兵士たちが生み出した幻想という事ですの?」

 

「違う。それはまったく違うぞ只人(ヒューム)お嬢さん(フロイライン)

 

 躊躇いがちに訪ねる令嬢剣士さんに対し、バッサリとその疑問を切り捨てる栄纏神(えいてんしん)の神官さん。いいかね?と前置きをして告げる内容は、四方世界の住人にはにわかに信じがたい話です。

 

「神の力というものは信仰によって大きく左右される。信仰が衰退すれば神はその権能を失い、この世界へ及ぼす影響は減少する。逆もまた然りだ。あの太陽馬鹿(聖騎士)吸血鬼(ヴァンピーア)お嬢さん(フロイライン)の活躍が世に広まれば、太陽神の力はこの世界を遍く照らす光となろう。つまり、人々が祈りを捧げその力を信じるのであれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 うむむ、その辺りの扱いの巧さは流石破壊神さんと言わざるを得ませんねぇ。あまりに広範な権能と、捧げられる信仰の受けの広さ。それらを利用して都合の良い面を抽出、最も相応しい化身(アバター)で遊びに出掛けてるんですから。"栄纏神(えいてんしん)の神官"の外見が圃人なのは、今回目を付けた対象である一党(パーティ)の中心人物に合わせてなのでしょう。

 

「戦場で信仰するに値する神を求める祈りがある限り、栄纏神(えいてんしん)は存在し、その神官は自由と秩序を守るために現れるだろう。頼りになる戦友の姿を借りて、な」

 

 そこまで話すと裾を払って立ち上がり、相棒である大砲鳥へと搭乗する栄纏神(えいてんしん)の神官さん。どうやら休憩は終わりのようです。慌てて彼の後ろに妖精弓手ちゃんが乗り込み、いつの間にか目を覚ましていた吸血鬼君主ちゃんが、深く考え込んでいる令嬢剣士さんに抱き着いてますね。

 

「あの方の言うことが真ならば、祈りそのものが力を持つという事。人の願いは世界を変える力を持つというのですか……?」

 

「あのね、ぼくにはむずかしいことはわからないけど……。えーてんしんさまは、たすけをもとめるこえをみすごせなかった()()()()なんだとおもう。それで、こんどはたすけられたひとがほかのたすけてほしいひとのところにあらわれる。……()()()()()()()()()()()()()()()()。そうやって、みんながたすけあっているうちにうまれたんじゃないかな?」

 

 なるほど、吸血鬼君主ちゃんは栄纏神(えいてんしん)という存在を「待たせたな!」とか「手こずっているようだな、手を貸そう」みたいな、ピンチの時に現れる援軍の総体と考えているみたいですね。危機を救われた者が他の者が危機に瀕してる時にその危機から救う。その連鎖の中で偶像英雄(ヒーロー)として確立した名称が"栄纏神(えいてんしん)"であり、その在り方に惹かれ実践する者のことを栄纏神(えいてんしん)の神官と呼ぶようになったと。

 

「それは……。ええ、それはとても素敵なお話しですわね」

 

 あんまり要領を得ない吸血鬼君主ちゃんの話でしたが、どうやら令嬢剣士さん的にはOKだったみたいですね。上目遣いで反応を窺っていた吸血鬼君主ちゃんの頭を撫でながら、どこか吹っ切れたような顔になっています。あ、既に上空へと飛翔していた大砲鳥の背中から妖精弓手ちゃんが身を乗り出して2人を呼んでいます。

 

「それじゃあ、いこ? ()()()()()()()!」

 

くっ!? このタイミングでそれは卑怯ですわ!」

 

 真っ赤になった令嬢剣士さんをお姫様抱っこして空へと舞い上がる吸血鬼君主ちゃん。そういえばそんな呼び方する約束してましたねぇ。不意打ちが成功して満足そうな君主ちゃんの胸を令嬢剣士さんがポカポカと叩いています。

 

 目的地である冬将軍の拠点は王国の北にある山脈、入り江の民が暮らす暗黒の国との境界に近い場所とのこと。途中の集落で一泊し、翌日払暁とともに出発。日が落ちる前にケリをつけるつもりみたいですね。夕方には集落に到着する予定とのことですので、もう半日頑張っていきましょう!

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、なんかどんどん天気が悪くなってる気がするんだけど?」

 

 妖精弓手ちゃんのボヤキが溶け込む曇天の空。夕刻が迫るにつれ雲が厚みを増し、地上の様子が窺えないほどになってしまったために現在低空飛行中の一行。肌に感じる風もどんどん冷たくなっているようです。これもひょっとして冬将軍の影響なんでしょうか……。

 

「拙いな、想定よりも奴らの進攻が早い。……戦闘の準備を」

 

 顔を顰めた栄纏神(えいてんしん)の神官さんが見据える先、小さな集落があるようですが……夜が近いというのに灯りの一つもありません。夜目の効く吸血鬼君主ちゃんと妖精弓手ちゃんの視界に見えるのは、雪と氷に閉ざされた家屋と……野外に点在する()()()()()()()()に石を投げつけているゴブリンの群れ。叩き割られたソレを奪い合うように手に取り、()()を貪っているようです。

 

「あいつら……ッ」

 

「熱ッ!? ど、どうしたんですの頭目(リーダー)!?」

 

 ……どうやら吸血鬼君主ちゃんはあの氷柱の正体に気付いたようですね。ガチガチと歯を鳴らし、前髪に隠れた瞳をギラつかせています。抑えきれない怒りが熱となって放出されているのか、装備越しに伝わる熱気に令嬢剣士さんも驚きを隠せない様子。

 

「……氷漬けになった住人を砕いて喰ってるわ」

 

 体内の魔力を通じて君主ちゃんの怒りが伝わっているのでしょう、口調こそ冷静ですが妖精弓手ちゃんもキレてますねぇ。弓に矢をつがえ始めたのを見て、栄纏神(えいてんしん)の神官さんも両手の槍を握り直しているようです。

 

「あの様子では生存者は望めんな。となれば小鬼が散る前に仕留めるべきだと思うが、如何するかね? ……その顔を見れば返答は不要だ。思うままに蹴散らしたまえよ」

 

 彼の問い掛けに無言で意志を示す3人。令嬢剣士さんを背面に背負い直した吸血鬼君主ちゃんが急降下していくのを見た栄纏神(えいてんしん)の神官さんが、広場でゴブリンを小突いているオーガに目を付けたようです。高度を下げぬまま投擲の体勢に入ったか彼を見て、慌てたように妖精弓手ちゃんが声をかけています。

 

「ちょっと、矢でも無理なのにこんな距離から届くわけ無いでしょ。オマケに風も精霊たち以外の干渉のせいで読みにくくなってるし……」

 

「なに、大物喰らいは我らの専売特許。一撃を決めたら降下する、まずはとくと御覧じろ、だ」

 

 2人を援護するならもっと近づけという妖精弓手ちゃんの要望をスルーしながら狙いを定める栄纏神(えいてんしん)の神官さん。大砲鳥の背という不安定な足場でありながらまったくブレることのない穂先が、集落の入り口近くに()()した吸血鬼君主ちゃんに慌てふためくオーガの眉間にピタリと照準を合わせ……。

 

 

 

「では、戦争というものを教育してやろう」

 

 

 

 狙い過たずオーガの頭部を爆散させた投擲は、その威力を殺すことなく地面へと着弾。周囲にいたゴブリンを巻き込みながら広場に巨大なクレーターを生み出しました。圃人の投擲が発生源とは思えない威力に唖然としている妖精弓手ちゃんの眼前、栄纏神(えいてんしん)の神官さんが空いた手で指を鳴らせば、その手中には投げたはずの槍が戻ってきているではありませんか! 

 

「まぁ挨拶はこんなものか。……どうしたのかね上の森人(ハイエルフ)お嬢さん(フロイライン)。小鬼共が統制を失い逃げる前に数を減らしたほうが良いと思うのだが」

 

「……ハッ!? そ、そうね、シルマリルたちの援護をしなきゃ!」

 

 いつの間にか弓の距離まで降下していたことに気付き、慌てて矢をつがえる妖精弓手ちゃん。……まぁあんなトンデモ見せられたら誰だってそうなりますよね。集落の外へ逃げようとするゴブリンの頭を次々と射貫きながら先行した2人を探しているみたいです。さて、2人は何処にいるでしょうか……?

 

 

 

 

 

 

「「「「「GOBGOBGOB!!」」」」」

 

「良いですわ……もっと寄って来なさい……ッ!」

 

 あ、細い路地を走る令嬢剣士さんがいました! 押し寄せるゴブリンを後退しながらおびき寄せ、振り向きざまに1匹ずつ斬り斃していく幕末スタイルで数を減らしています。内臓を溢しながら倒れるゴブリンを後続の連中が踏み潰し、それがトドメとなっていますねぇ。防寒着の首元を緩めている令嬢剣士さんの雌の匂いに興奮して、ゴブリンたちは止まれなくなっているみたいです。

 

 ある程度の数が釣れたところで反転し、直線に並んだゴブリンへ対峙する令嬢剣士さん。詠唱の時間を確保する距離はしっかり稼いでいますね。右の逆手に構えた軽銀製の長剣を地面に突き立てると、そこから生じた幾筋もの電光がゴブリンの群れへと疾走していきます!

 

「≪トニトルス()≫……≪オリエンス(発生)≫……≪ヤクタ(投射)≫!」

 

「「「「「GOB!?」」」」」

 

「まだ、まだこんなものでは済ませませんわよ……!?」

 

 雷に焼かれ次々に倒れるゴブリン。()()()()()()()()()()()()()を見た瞬間、動きを止めてしまう令嬢剣士さん。一瞬の隙を突くように、毒に塗れた短剣を突き立てようと令嬢剣士さんの頭上から飛び降りてきたゴブリンが彼女を地面に押し倒しました!

 

 辛うじて初撃は防いだものの、右手は地面に突き立ったままの長剣から離れ、左手は短剣ごと抑え込まれてしまっています。仰向けに組み伏せられた状態で眼前にあるゴブリンの醜悪な顔、その目に浮かぶ雌を嬲ることしか考えていない色を見て、硬直してしまっている令嬢剣士さん。雌の怯えを敏感に感じ取ったゴブリンが、獲物の動きを封じるためにその短剣を令嬢剣士さんの豊かな胸元へと……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのめすはぼくのものだ」

 

 

 

「……頭目(リーダー)?」

 

 令嬢剣士さんの鎧を貫く前に、全身を赤く染めた吸血鬼君主ちゃんが割り込み、手のひらで毒短剣を防ぐことに成功しました。そのままゴブリンの拳を握り込み、見た目からは想像も出来ない膂力で令嬢剣士さんから引き剥がす君主ちゃん。手に食い込む君主ちゃんの爪を嫌がるゴブリンが殴る蹴るの抵抗をしていますが、一顧だにせずそのまま集落の通りのほうへと引き摺って行ってます。呆然としていた令嬢剣士さんが我に返り、長剣と先程目を奪われたモノを回収して追いかけた先は、ゴブリンにとっての悪夢の具現でした……。

 

 

 

 周囲に散らばるゴブリンの()()()は大きく分けて3種類。ひとつは眉間や側頭部を射抜かれている身綺麗なモノ。ひとつは大筒でも直撃したかのように肉片と化し、体重を半分以下に減らしているモノ。そして残りのひとつを目にしたゴブリンが、恐慌に満ちた悲鳴を上げました。

 

 

 

 おそらく吸血鬼君主ちゃんが握っていたであろう部位を除き、全身くまなく原型が無くなるまで砕かれた肉塊。つい先ほどまで氷漬けの肉を奪い合ってた群れの仲間の変わり果てた姿が、眼前には幾つも転がっているのですから。

 

 

 

「あ、おかえりシルマリル。ソイツが最後の1匹よ……って、おっぱいお嬢様はどうしたの?」

 

 屋根の上から額に矢を生やしたゴブリンの死体を蹴り落としながら声をかける妖精弓手ちゃん。既に鏖殺は完了していたようですね。援護に行った対象の令嬢剣士さんを伴わずに戻ってきた君主ちゃんを見て首を傾げています。

 

「こいつ、ぼくのたいせつなひとをおしたおしてた」

 

「あ~……」

 

 感情を喪失したような君主ちゃんの声を聞いて事態を察したのでしょう。屋根から飛び降り、後方から駆け寄ってきた令嬢剣士さんの前に着地して、そのままギュッと抱きしめています。突然目の前に降ってきた妖精弓手ちゃんに驚いていた彼女ですが、抱きしめられた温もりと森人(エルフ)の纏う芳香によって、張り詰めていた精神が緩んだのでしょう。ポロポロと涙を流しながら妖精弓手ちゃんの薄い胸に顔を埋めてしまいました……。

 

「さて、最後のデザートはどう調理するつもりかね?」

 

 上空から周囲を警戒していた栄纏神(えいてんしん)の神官さんが地上へと戻ってきました。乗騎から飛び降り、逃亡を諦めようとしないゴブリンを眺めながら訪ねていますが……答えは分かり切っていそうですね。

 

「こいつらは、いきることにひっしだったむらのひとたちをおもしろはんぶんにころした。ぼくのたいせつなひとをきずつけようとした。だから、たましいにきょうふとぜつぼうとこうかいをきざみつけてからころす。うまれかわっても、にどとあのみどりのつきからでてこようなんておもわなくなるように」

 

 憐れみを誘うような声を上げるゴブリンを無視したまま、ゴブリンの拳を握った腕を振り上げる吸血鬼君主ちゃん。自然ゴブリンもそれにつられて宙へと浮かびます。奇妙な浮遊感によって歪むゴブリンの顔は、その直後、物理的にも歪みました。

 

「ゆるさない」

 

「GOB!?」

 

 パン職人が生地を作るように、掴んだゴブリンを地面に叩きつける吸血鬼君主ちゃん。顔面から落ちたゴブリンの口からは悲鳴とともに折れた歯がこぼれています。衝撃で身動きの取れないゴブリンを持ち上げ、今度は少し向きを変えて地面へと振り下ろします。

 

「ゆるさない」

 

「GOB!?」

 

 肩口から地面に衝突し、奇妙な形に変わった腕を見て泣き叫ぶゴブリン。二度三度と続いた衝撃によって、白いものが汚らしい肌から突き出しました。それを見た吸血鬼君主ちゃんが、再び角度を変えて腕を振り上げます。

 

「ゆるさない」

 

「GOB!?」

 

 露出した骨が身体にめり込むように調整された落下は見事成功し、突き出ていた白いものは再びゴブリンの体内へと戻って行きました。どうやら反対側から突き出たようですが、その部分は腹に刺さって見えないのでヨシ!ということなのでしょう。

 

「ゆるさない」

 

「ゆるさない」

 

「ゆるさない」

 

「GO……B……」

 

 何度も、何度も、何度も繰り返される魂への彫刻。周囲へ飛び散る血が、赤黒くなっていた吸血鬼君主ちゃんを再び真紅へと染め直していきます。ゴブリンがピクリとも動かなくなり、その声が殆ど聞こえなくなったころ、吸血鬼君主ちゃんの背中に衝撃が走りました。

 

「もう、良いのです頭目(リーダー)。私は大丈夫ですから……」

 

 返り血に染まった吸血鬼君主ちゃんを背中から抱き締め、骨が砕けグニャグニャになったゴブリンの腕を放そうとしない小さな手に触れる令嬢剣士さん。真っ赤に泣きはらした目に涙こそ浮かんでいないものの、初めて味わった恐怖は消え去っていないようです。手に感じる温かさが凍り付いたように開かなかった吸血鬼君主ちゃんの腕を解かし、ゴブリンだった肉塊はようやく地面へと解放されました。

 

 

 

 しばらく為すがままだった吸血鬼君主ちゃん。興奮から醒めた後、突然抱擁から抜け出そうと身を捩り始めました。解放しようとしない令嬢剣士さんに泣きそうな顔で自分から離れるよう訴えているようです。

 

「だめ、ちでよごれちゃうからはなれて! ぼく、いまきっとひどいかおしてるとおもうから……」

 

「そんなことありません! 私を、人の尊厳を守ってくださった勲章ですもの。……それに、どのような顔をされていても私は貴女を嫌いになったりませんわ」

 

 その悲しい訴えを聞いた令嬢剣士さん、より一層の力で吸血鬼君主ちゃんを抱き締めています。無理矢理抜け出そうとすれば大切な人に怪我をさせてしまうかもしれないので、吸血鬼君主ちゃんも迂闊に動けなくなってしまいました。そこへ逃げ場を奪うようにやって来た妖精弓手ちゃん。吸血鬼君主ちゃんの顔に付いた返り血を拭こうとして乾いてしまっていることに気付き、ジッとしてなさいと言いながら顔を近付けて……。

 

「ふぁっ!?」

 

 眼前いっぱいに広がる妖精弓手ちゃんの綺麗な顔と、甘い吐息。そして顔中を縦横無尽に舐る艶めかしい舌によって吸血鬼君主ちゃんの顔が真っ赤になっちゃってます。ほっぺた、鼻先、上下の瞼……。乾いて張り付いてしまっている血を舌で剥がすように舐め取っていく妖精弓手ちゃん。唇に残っていたソレを口付けとともに奪い取ると、満足そうに顔を離しました。

 

「ん、これでとりあえず良いでしょ。……にしても、変に気を遣ってると思ってたけど、しっかり所有権は主張するのねぇ」

 

「あうう……」

 

 ニマニマ笑う妖精弓手ちゃんと対照的に頬を染めている令嬢剣士さん。先ほどの吸血鬼君主ちゃんの発言ですね。……おや、本人は何のことか分かっていない様子。首を傾げちゃってます。

 

「ゴブリンに向かって、おっぱいお嬢様は僕のものだ、大切な人だって啖呵を切ってたじゃない。ヘルルインと分離してからこっち、森人義姉妹(エロフ2人)を含めた3人に対して妙に消極的だったでしょ」

 

 その言葉を聞いてバツが悪そうに顔を背ける吸血鬼君主ちゃん。あ、妖精弓手ちゃんに無理矢理令嬢剣士さんのほうに顔を向けさせられてます。キリキリ吐きなさいという言葉に対し、躊躇いがちに口を開き始めました。

 

 

 

「だって、さんにんがすきなのは≪ぶんしん≫だったあのこのほうだから。ふたりにわかれたいまはあのこだけがすきなんじゃないかなっておもって……おあ~……」

 

 うーんこれはギルティ。2人とも青筋を浮かべながら吸血鬼君主ちゃんのほっぺたを引っ張ってます。いひゃいいひゃいという訴えを無視してお仕置きを続けること暫し、真っ赤になったほっぺに左右から唇を押し付けながら、物分かりの良くない幼子に語り聞かせるように心中を露わにします。

 

「あのねぇ、シルマリルもヘルルインも、わたしたちにとって最愛の人なのよ?」

 

「私たちが恋に()ち愛を注いでいるのは『吸血鬼の王(ヴァンパイアロード)にして人とともに歩む者(デイライトウォーカー)』である貴女たち2人。そこに優劣などありませんわ」

 

 例えばわたしがヘルルインとちゅーちゅーしてたらどう思う?という問いに対し、質問の意味が分からない様子の吸血鬼君主ちゃん。「ぼくたちのどちらかがしあわせにしてあげられるならだいかんげい!」という言葉から推察するに、吸血鬼侍ちゃんに対して嫉妬の心を抱く事など考えられないということなんでしょう。その能天気な発言に苦笑しながら、妖精弓手ちゃんが答え合わせをしてくれました。

 

「シルマリルがそう思っているように、ヘルルインも同じことを思っているの。だから、シルマリルはもっと3人に甘えてあげなさい?」

 

()()2人を毎日相手にして枯れる寸前まで搾られるのを見ていると、私も愛でていただくのが躊躇われてしまって。それに……」

 

 胸元を押さえながらチラチラと吸血鬼君主ちゃんを見る令嬢剣士さん。意を決したように続きを口にしました。

 

「口付けで魔力を注がれてから、ずっと胸が張って苦しいんですの。……楽に、していただけませんか?」

 

 あー、だから令嬢剣士さんにゴブリンが集まって来てたんですね。言われて意識してしまえば感じる甘い香り。口元から涎を垂らした吸血鬼君主ちゃんが、膝立ちになった令嬢剣士さんにフラフラと近付いていきます。既に軽銀製の胸当てが外されているお山。女魔法使いちゃんや剣の乙女のような暴力的なサイズでは無いものの、十分に豊かと言えるソレを包んでいる上着のボタンに手が掛かり……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残っていた遺体の埋葬は済ませておいた。今日はここで一泊するので後は自由に過ごしたまえ。ああ、夕食は牛乳たっぷりのシチューを希望する」

 

 

 

 おゆはんのリクエストを残して、相棒と一緒に適当な納屋付き民家の中へと消えていく栄纏神(えいてんしん)の神官さん。悪戯が成功したような妖精弓手ちゃんの笑い声が、固まってしまった2人の耳に嫌になるほど響いてきています。……まぁ、TPOって重要ですよね? 

 

 真っ赤になった2人が2000歳児を追いかけながら手近な民家にサザエさん帰宅したところで、吸血鬼侍ちゃんたちのほうに場面を移してみましょうか! 万知神さんたちが映像を記録してくれてますので、それを見ながらの実況&解説ですね! それでは映像の切り替えをお願いします!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 




 足なんて飾りです。一番偉い人にはそれがわからんので失踪します。

 一時総合ランキングに入っていたようで、UAとお気に入り登録が跳ね上がっていました。多くの方に目を通していただけるので嬉しいですね。

 お気に入り登録に評価や感想、非常に励みとなっております。

 お時間がありましたら、一言でも構いませんので感想を頂ければ嬉しいです。今後の作品の方向性にも影響してくると思いますので。

 誤字脱字のご連絡も助かっております。減らしたいと思ってもなかなか無くならないのが辛いですね……。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその11-3

 雨が降ると頭が痛いので初投稿です。


 前回、見習い聖女ちゃんサイドに場面転換したところから再開です。

 

 吸血鬼君主ちゃん組が出撃した少し後、太陽がすっかり顔を出した頃に出発した吸血鬼侍ちゃん組。前日に召喚した二頭の英霊馬さんによって快調に進み、その速度は時速20km近くをキープという驚異的なものでした。通常の荷馬車の速度が6~12kmくらいらしいので、およそ倍の速さで行軍していることになります。途中休憩不要な疲れ知らずのアンデッドであることも追い風となり、通常は3日ほどかかる目的地までの行程の八割がたを出発日の夕方までに走破してしまいました。

 

 それだけ速度があると荷馬車への衝撃もかなりのものとなりますが、そこは一面に敷き詰めた毛布を緩衝材にしてカバー。御者要らずで目的地まで進んでくれる英霊馬さんに全てを任せ、一行は馬車の中でぬくぬくあったまっているようです。あ、吸血鬼侍ちゃんがインベントリーを使えなくなってしまったため、馬車の中は荷物が満載です。辛うじて確保できたスペースに炬燵を設置している一行でございます。

 

 

 

 日が暮れてきたために、本日は此処までという事で夜営の準備を済ませた一行。荷物でスペースが圧迫され全員で寝るのは厳しいので、申し訳ないのですが男性2人はお外でテント泊、女性陣は馬車の中で睡眠をとるつもりみたいですね。外では蜥蜴僧侶さんが組み上げた竈に、灯り兼おゆはん準備用の焚火を新米戦士くんが起こそうとしています。

 

「あのね、出発した時からどうしても気になっていることがあるんだけど……」

 

「ん、な~に?」

 

 おや、炬燵の魔力に憑りつかれ抜け出せなくなっている見習い聖女ちゃんが、対面にいる吸血鬼侍ちゃんに問いかけています。吸血鬼侍ちゃんは剣の乙女のお山と掛毛布の間で丸くなっており、彼女が身じろぎする度に形を変えるたわわへと見習い聖女ちゃんが複雑な視線を向けています。その視線を馬車の外へと向けながら、見習い聖女ちゃんが躊躇いがちに口を開きました。

 

「えっと、御者もいないのに目的地へ運んでくれるのは有難いんだけど……」

 

 見つめる先には栗毛と葦毛の二頭。高く伸びた首につぶらな瞳、()()()()()()()()()休憩を取る姿は愛嬌に満ちています。……はい、()()です。

 

 

 

 

 

 

「アレ、絶対に馬じゃないよね???」

 

 

 

 見習い聖女ちゃんの疑問の声に反応して、慌てて被り物を装着する下の人たち。すぐさま合体しましたけど……で色が違うんだよなぁ。明らかに馬ではない、むしろUMAな存在を目にして良い感じに発狂ゲージが貯まりつつある彼女を吸血鬼侍ちゃんが宥めています。

 

「みんな、ぼくじょうでエンジョイしてるふたはしらがうらやましいんだって……」

 

 ええ、吸血鬼侍ちゃんも最初は昨年のように首無し馬さんを呼ぶ予定だったんです。ただ、召喚陣から雪崩のように英霊さんが現れて、みんなして暇だから冒険したいって言うもんだから……。英霊さん同士の大人げない話し合いの結果、自分たちを馬だと思い込んでいる逸般英霊というかたちで冒険に参加してくれることになりました。

 

 見た目はアレですが、指示を出さずとも進んでくれますし、アンデッドだから疲労しないので休憩中や夜営時の警戒もお任せ出来る優秀なおUMAさんです。いざという時は後衛を護る盾としても使えるかもしれません。性格はともかく、中身は立派な英霊さんですからね!

 

 

 

「どうしてもきになるんだったら、ごめんなさいしてもういっかいしょうかんする? こんかいはきみがリーダーだから、そのしじにしたがうよ? ……んちゅ」

 

 吸血鬼君主ちゃんと分離してからこっち、なんだか昼間は眠そうな吸血鬼侍ちゃん。器用に鼻先で剣の乙女の服をずらし、半分寝ている状態でお山をちゅーちゅーしてますね。最初は面食らっていた男性陣もそのあどけない様子に毒気を抜かれてしまい、今では新米戦士くんすら目を向けようとしません。……もっとも、初回に見習い聖女ちゃんから腰の入った一撃を貰ったからかもしれませんが。

 

「んっ、もう少し強く吸っても大丈夫ですよ? ……ええ、此度の試練(クエスト)は貴女が主役ですから。尻込みせずに私たちを有効に使ってくださいね、頭目(リーダー)さん?」

 

 そんな吸血鬼侍ちゃんの頭を撫でながら、見習い聖女ちゃんへと微笑みかける剣の乙女。実は今回、一行の頭目(リーダー)は見習い聖女ちゃんに務めてもらうことになっています。年齢も実力も自らより上な人を扱う経験をしてもらうのと同時に、吸血鬼侍ちゃんを制御下に置いているという実績を積むためですね。間違った指示で誰かの身に危険が及ぶときはその限りではありませんが、クッソ死ににくい吸血鬼侍ちゃんが対象の場合はあえて無謀な指示に従うつもりみたいです。取り返しのつく場面で失敗を経験しておくのは悪いことじゃありませんからね!

 

 

 

 さて、吸血鬼侍ちゃんを制御下に置くということは、その生命維持にも係わらなければならないということです。餌やりを忘れておなかを空かせた吸血鬼侍ちゃんが、通りすがりの人間を襲ったらたいへんですからねぇ。左右のお山を満遍なくちゅーちゅーした吸血鬼侍ちゃんが、剣の乙女の服の乱れを整えた後にくるりと見習い聖女ちゃんのほうへと向き直りました。しゅぽっと炬燵の中に消え、内部を通って顔を出したのは見習い聖女ちゃんの胸元。正面から抱き着き、見上げるような視線でおねだりしています。

 

「あのね、リーダーからもちゅーちゅーしたいな」

 

「うぇっ!?」

 

 突然の要求に混乱している見習い聖女ちゃん。縋るような目で対面の剣の乙女に助けを求めようとしていますが、あらあらうふふと笑うだけで剣の乙女は介入しようとしません。羞恥心と義務感の狭間で揺れる視線を受けて、胸元に顔を擦り付けていた吸血鬼侍ちゃんが再びおねだりを繰り出します。

 

「だめ……?」

 

「……エロ吸血鬼のおねだりひとつ叶えられずして何が聖女だ! どこからでもかかってこい!!」

 

 雄叫びとともに服の裾をまくり上げた見習い聖女ちゃん。厚手の上着の下から現れたのは、小ぶりながらも将来性を感じさせるふたつの果実です。剣の乙女が大司教になってから急激にたわわになったように、見習い聖女ちゃんも将来ナイスお山の持ち主になるかもしれませんね。ほわぁ~と感嘆の声を上げ、そっと口を近付ける吸血鬼侍ちゃんを真っ赤になった顔で見ています。

 

 馬車の入口からおUMAさんたちが見守り、蜥蜴僧侶さんとおゆはんを作っている新米戦士くんの耳がダンボになっていることにも気付いていない様子。やがて小さな牙が薄桃色の先端に触れようとした瞬間、吸血鬼侍ちゃんの後頭部に近付くものが……。

 

 

 

「はい、そこまで。あんまり揶揄わないであげてください」

 

「は~い」

 

 炬燵の向こう側から伸びてきた手が吸血鬼侍ちゃんの後頭部を掴み、見習い聖女ちゃんの胸元から引っこ抜いていきました。たくし上げポーズのまま硬直している見習い聖女ちゃんに対し、吸血鬼侍ちゃんを胸元に抱えながら謝罪の言葉を伝えています。

 

「吸血でしたら指先や首筋でも大丈夫ですのに、ちょっと悪戯したいとこの子が言うものですから。……ごめんなさいね?」

 

「でも、まだあおいかじつはちょっとあじみしたいかも。おあ~……」

 

 エロガキと化した吸血鬼侍ちゃんがほっぺたを引っ張られているのを見て、ようやく担がれていたことに気付いたのでしょう。みるみる羞恥とは異なる赤色に見習い聖女ちゃんの顔が染まっていきます。あ、聖光(ホーリーライト)はダメですって。ダメージを再生でペイ出来ちゃうので。

 

 

 

「おあ~……!? だれかがおそわれてる!」

 

 おや、おしおき中の吸血鬼侍ちゃんが突然何かに反応しました。遅れて微かに悲鳴とそれを嘲り笑うような声、それに地響きのようなものが聞こえてきましたね。まったりとしていた一行の間に緊迫した空気が戻ってきました。炬燵から抜け出た吸血鬼侍ちゃんが飛び出そうとして、ピタリと立ち止まり見習い聖女ちゃんのほうを見ています。その視線に訝し気な目を返していた見習い聖女ちゃんですが、何を言わんとしているのかを理解して吸血鬼侍ちゃんに指示を出しました。

 

「ええと、先行して襲われている人の救助をお願いします! 可能であれば原因の排除も!!」

 

「あいあいまむ!」

 

 頭目(リーダー)の指示に大きく頷いて夕暮れの空へと飛翔する吸血鬼侍ちゃん。どうやら見習い聖女ちゃんも悲鳴の出処へと向かうつもりのようです。おUMAさんたちに馬車を任せ、残りの4人も吸血鬼侍ちゃんの後を追うように駆けだしました!

 

 

 

 

 

 

「痛ッ、は~な~せ~よ~!」

 

 あ、いました! 吸血鬼侍ちゃんの視線の先、白い毛皮に覆われた大型の人型に掴み上げられて苦悶の声を上げている子が見えました! 頭頂部から長い耳を生やした小さな姿。片足は奇妙にねじ曲がり、握りしめられた胴体からは骨の軋む音が聞こえるほどです。手に持った短刀を逞しい腕に突き刺そうとしていますが、長い毛と分厚い脂肪で阻まれ望む効果を得られていないようです。

 

「お、うまく捕まえたモンだなァ」

 

「この時期の兎人(ササカ)にしちゃあ脂がのってそうだァ」

 

 おー、さらに後方から2体の毛むくじゃらが現れました。吸血鬼君主ちゃんよりもちのうしすうの低そうなところから察するに、雪山に生息する乱暴者である雪男(サスカッチ)でしょう。ん? 兎人(ササカ)の子を掴んでいた1体が何かに気付いた様子で彼女をにぎにぎしています。いやらしい笑みを浮かべながら、後から来た2体に手に持つ獲物を見せびらかしています。

 

「おー、脂がのってると思ったら、こいつメスだァ。そんなら喰う前に使()()()()もらうかなァ」

 

 うーんこの二大欲求を纏めて叶えようとする思考。お前だけズルいや喰う前にオラたちにも使わせろという明け透けな言葉を聞いて兎人(ササカ)の少女の顔が絶望に染まっていきます。まずは捕まえたオラからだァという声とともに彼女の服に太い指をかけようとしていますが……吸血鬼耳は地獄耳なんだよなぁ。

 

 

 

「ねぇ、うさぎさんっておいしいの?」

 

 唐突な少女の声に雪男(サスカッチ)たちが振り向けば、そこには獲物よりも小さな圃人(レーア)の姿が。好奇心に満ちた表情で兎人(ササカ)の少女を見つめています。

 

「なんだオメェ。どこから出てきたんだァ?」

 

「こりゃ食いでの無さそうな圃人(レーア)だァ。使()()にしても小さすぎて入らねぇなァ」

 

 首根っこを掴んで持ち上げられても悲鳴一つ上げない姿に若干気色悪そうにしていますが、再び美味しいのと問われお互いに顔を見合わせています。やがて首根っこを掴んでいた1体が、新しい獲物の両足を圧し折りながら質問に答えました。

 

「まぁ、オメェみてぇなチビより食いではあるし、〆る前に()()()ことだって出来るからなァ。ヤってる最中に裂けちまっても構わねぇし、味もなかなかのモンだァ」

 

「ふ~ん、そ~なのか~」

 

 両足を砕かれても顔色一つ変えない獲物は流石に気味が悪いのか、思わず手を離してしまう雪男(サスカッチ)。その地べたに落下した獲物がゆっくりと立ち上がる姿を見て、無意識のうちに後ずさりしていますね。驚いているうちに若干手が緩んだのか、少しだけ楽になったような顔を見せる兎人(ササカ)の少女に笑みを見せながら、その圃人(レーア)……吸血鬼侍ちゃんは少女を捕まえている雪男(サスカッチ)へと近寄っていきます。目の前に立つ毛むくじゃらな巨体を見上げて口にするのは、吸血鬼侍ちゃんらしい傲慢な台詞でした。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、そのこはぼくがもらうね」

 

「あん? オメェなに言って……」

 

 雪男(サスカッチ)の瞳が最期に映したのは、村正の放つ冷たい輝き。首、肩、肘、手首、腰、股関節、膝、足首……身体の可動部分を断つ無数の剣閃は一瞬で巨体を部位ごとに解体し、納刀の音とともに地面へと肉塊が落ちていきます。その中で唯一完全な形を留めていたモノ……兎人(ササカ)の少女を受け止めた吸血鬼侍ちゃん。事態を飲み込めていない残りの雪男(サスカッチ)へとペコリとお辞儀をして、そのままスタスタと去って行こうとしています。

 

「すぐにちりょうするから、もうちょっとがまんしてね?」

 

「は、はい……」

 

 急転直下の連続で頭がパンクしているのか、お姫様抱っこのまま素直に運ばれる兎人(ササカ)の少女。あ、我に返った雪男(サスカッチ)が追いかけてきました。

 

「こらぁ、それはオラたちの獲物だぞォ!」

 

「オメェも一緒に喰ってやるぞォ!!」

 

「わわっ!? おっかけて来ましたよ!」

 

「へ~きへ~き。もうすぐなかまがくるから」

 

 背後からの怒声に身を固くする彼女を安心させるように笑いながら、追い付かれない程度の速さで()()()()()吸血鬼侍ちゃん。飛んで彼らを撒かないということは、ここで殲滅するつもりなんでしょうか。……あ、こちらに走り寄ってくるみんなが見えました! 蜥蜴僧侶さんの背に乗っていた見習い聖女ちゃんが、地面に飛び降りながら状況を尋ねています。

 

「おそわれていたこはきゅうしゅつして、いっぴきはそのばでしまつしちゃった。のこりはおいかけてきているあのにひき。……けがわときんにくがあついから、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「よっしゃ、それならコイツのお披露目だな!」

 

 吸血鬼侍ちゃんのアドバイスを聞いて、鮫のような笑みを浮かべる新米戦士くん。至高神さんの御印(シンボル)が刻まれた籠手(ガントレット)に触れると、そこから溢れた光が彼の身体を包んでいきます。やがて光が落ち着いたとき、彼の右半身は異形の武具に覆われていました……。

 

 右腕全体を覆うように形成された巨大な籠手(ガントレット)。そこから生えた()()()()()は喰らう獲物を求めて震動し、暴れるタイミングを今か今かと待ち望んでいるかのよう。我武者羅に突撃してくる雪男(サスカッチ)のうち手前の1体に目標を定め、新米戦士くんが駆け出していきます!

 

 

 

 自分の半分ほどしかない大きさの只人(ヒューム)が仲間に突っ込んでくるのを見て、後ろの雪男(サスカッチ)が嘲りの笑みを浮かべています。チビが体に合わない大きな武器を振るったところで大した威力にならないし、筋肉で受け止めて体勢を崩した所を殴れば血反吐を吐いて吹き飛んでいくに違いない、だいたいそんなことを思っているんでしょうねぇ……。そんな考えは、()()()()()()()()が組み合わさった超巨大武器(ヒュージウェポン)で前にいた仲間が血煙に変じ、勢いを殺さぬそれが彼の全身を文字通り()()した時に終わりを告げました。

 

「神殿に持ち込まれたまま放置されていた粉砕剣(カシナート)、上手く使いこなせているみたいですね」

 

「ぼくのしってるカシナートとちがうきがする……!」

 

 頬に手をあてて満足そうに笑う剣の乙女と兎人(ササカ)の少女を抱えたまま首を捻っている吸血鬼侍ちゃん。たぶん吸血鬼侍ちゃんの想像しているのはハンドミキサーで、あんな規格外の兵器(オーバードウェポン)じゃありませんよね? むこうでは勢いを殺せずに血だまりに足をとられ、盛大に転倒した新米戦士くんを見習い聖女ちゃんが慌てて助け起こしています。……うん、あれなら聖女の騎士として十分な実力を持っていると言えるでしょう! 彼女の治療もありますし、とりあえず馬車まで戻りましょうね。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ助かりました。あのままじゃきっとあいつらの玩具(オモチャ)兼おゆはんになってたと思います」

 

 ありがとうございます、と深々と頭を下げる兎人(ササカ)の少女こと白兎猟兵ちゃん。手にしたシチューを頬張りながら一行に礼をいっています。馬車を停めた野営地点に戻った一行。彼女の治療を済ませ、現在予定より遅いおゆはんを食べているところですね。話を聞いてみれば、やはり彼女は見習い聖女ちゃんの託宣(ハンドアウト)で目指していた集落の出身でした。

 

「集落が雪男(サスカッチ)氷巨人(フロストジャイアント)に包囲された状態で、応援を呼ぶためにそれを突破してくるとはなかなかに剛毅ですなぁ」

 

「うへぇ、1匹2匹なら兎も角、そんなにいたら身体がもたないって……」

 

 チーズを齧っている蜥蜴僧侶さんがうんうんと頷く横で苦い顔をしているのは新米戦士くん。どうやら粉砕剣(カシナート)の反動で全身酷い筋肉痛に見舞われているようですね。

 

「今は父さんをはじめとする大人のみんなが頑張ってますけど、もうあまり食料も残っていなくって……」

 

 そこなんですよねぇ。兎人(ササカ)にとって食料が尽きることは死と同義、戦って死ぬのも飢えて死ぬのも嫌ならば、助けを求めるしかありません。一行と出会えたのはまさに()()()()()()ということでしょう。碗の底まで綺麗に食べ切った白兎猟兵ちゃんが、治癒の奇跡を使った吸血鬼侍ちゃんに向かって頭を下げています。

 

「あつかましいお願いなんですが、故郷の危機を救う手助けをしてもらえませんか? 大したお礼は出来ませんけど……」

 

「もちろん、いい……おっと」

 

 いつも通り二つ返事で引き受けようとして、ハッと口を紡ぐ吸血鬼侍ちゃん。そっと視線を見習い聖女ちゃんへ向けています。良かった、頭目(リーダー)の意見を聞くことを忘れてない無かったみたいですね。視線に気付いた見習い聖女ちゃんが頷きを返すと、改めて白兎猟兵ちゃんの手を取って告げました。

 

「うん、そのためにぼくたちはきたんだ。だから、がんばろうね!」

 

 吸血鬼侍ちゃんに続いて肯定の意思を示す一行。外から覗いていたおUMAさんたちも二本足で立ち上がり、全身でやる気をアピールしています。あ、見習い聖女ちゃんが馬は馬らしくしててください!と半泣きで抗議しに出て行きました……。

 

 

 

「それじゃあ、おやすみなさ~い」

 

「うむ、また明日ということで」

 

 全員で寝るには少々狭い馬車の中、外に張った天幕(テント)で休む蜥蜴僧侶さんと新米戦士くんを送り出した女性陣。毛布の山に埋もれ顔だけ出した吸血鬼侍ちゃんが、インナー姿の白兎猟兵ちゃんを自分の領域(テリトリー)に引っ張り込んでいます。外見の個体差が激しい兎人(ササカ)ですが、どうやら白兎猟兵ちゃんは只人(ヒューム)に近いタイプみたいですね。長い耳と尻尾以外は獣の相が感じられない温かな肢体を堪能するように、全身余すところなく手と口で愛でています。

 

「おみみふかふか……あったかい……」

 

「駄目ですって()()()()兎人(ササカ)の耳はデリケートなんですよ?」

 

 お返しと言わんばかりに脇をくすぐられ、小さく声を上げる吸血鬼侍ちゃん。すっかり仲良しになったみたいですが……。

 

 

 

「あのさ、その()()()()って……ナニ?」

 

 剣の乙女に背後から抱き締められた状態で髪を解いていた目の死んでいる見習い聖女ちゃんが、思わず問いかけるのも無理は無いでしょう。出会って半日も経っていないのに好感度がやたら高いんですから。剣の乙女は兎人(ササカ)の性格を知っているらしく、ちょっとだけ困った笑みを浮かべていますね。毛布の海から上半身を出した白兎猟兵ちゃんが、おなかに頬擦りをしている吸血鬼侍ちゃんの頭を撫でながら話し始めました。

 

「もし、あすこで旦那様が駆け付けてくれなかったら、ぼくは散々嬲られた後にミンチになってあいつらの腹に収まってたでしょう。そこから救ってくれた旦那さまは、ぼくの命の恩人でありぼくのすべてを好きにする権利を持っているんです。もし旦那さまがぼくを食べたいって言うのなら、喜んで外の焚火に飛び込みますからね!」

 

 予想を遥かに上回る好感度の高さに若干引き気味の見習い聖女ちゃん。吸血鬼侍ちゃんもちょっと驚いた様子で白兎猟兵ちゃんを見上げています。もしおなかが空いたらいつでも言ってくださいね?という彼女に対し、慌ててそんなつもりは無いことを告げています。

 

「たべないよ!? ……()()()()()()()()()()()、ぎゅってしたりはするかもだけど」

 

 ああ、そういえば彼女にはまだ自分が吸血鬼だって伝えてませんでしたね。母親に歯を磨いてもらう子どものように、膝上で口を大きく開いて牙を見せる吸血鬼侍ちゃん。……おや、それを見て頭を撫でていた白兎猟兵ちゃんの手が動きを止めてしまいました。肌寒い気温だというのに頬に汗を浮かべて、膝上の吸血鬼侍ちゃんと傍らにいる神官2人を交互に見ています。躊躇いがちに尋ねられたソレは、吸血鬼侍ちゃんにとって思いもよらぬ存在が生き延びていたことを示しているものでした……。

 

 

 

 

 

 

「あの、旦那さま。もしかして旦那さまは、()()()()()()()()()吸血鬼なんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まだ、きゅうけつきがのこっていたの?」

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 ちょっとずつ仕事が忙しくなってきたので失踪します。

 お気に入り登録に評価や感想、非常に励みとなっております。

 お時間がありましたら、一言でも構いませんので感想を頂ければ嬉しいです。今後の作品の方向性にも影響してくると思いますので。

 毎度発生している誤字脱字のご連絡も助かっております。減らしたいと思ってもなかなか無くならないのが辛いですね……。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその11-4


 湯豆腐が冷ややっこにクラスチェンジしたので初投稿です。




 お、ナニ読んでるんですかGM神さん? 次の物語(セッション)のネタ探しですか?

 

 ペロッ! これは……動物擬人化モノ? ああ、ちょっと前に流行ってましたし、最近は娘化して競技場で走ったりしているジャンルですよね! (N子さん)的には猫党忍伝とか名探偵犬と紅の豚野郎とかがフェイバリットなんですが……。

 

 え、豚は違うだろって? こまけぇことはいいんですよ! あぁでも、兎が主人公っていうのは結構珍しい気がしますねぇ。

 

 タイトルはなになに……猫の糞1号? なんかミリタリーモノっぽいですけど……。あのGM神さん、なんでこの兎たち上着はちゃんと着てるのに、下は誰も履いてないんですか?

 

 ―セッション前にあったGMとルーニーの会話より抜粋―

 


 

 前回、食べ損ねた吸血鬼のいることが判明したところから再開です。

 

 普段のぽわぽわした雰囲気をかなぐり捨て、ハイライトの無い瞳で白兎猟兵ちゃんを見上げる吸血鬼侍ちゃん。あ、吸血鬼君主ちゃんが三白眼なのに比べて、瞳の大きさは普通ですがデフォでハイライトさんが不在なのが吸血鬼侍ちゃんです。まぁそれは置いておいて、ちょっと身体から殺気が漏れてるんで落ち着きましょうか。すわ何事かと蜥蜴僧侶さんと新米戦士くんが馬車の中に飛び込んで来ましたし、白兎猟兵ちゃんが殺気に中てられてお耳の毛がぶわっと逆立っちゃってますからね?

 

 

 

「フム、つまり侍殿が同族狩りをしている期間、ずっと休眠していたために生き延びたということですかな、その氷の魔女とやらは」

 

 結局全員集まってしまった馬車の中。剣の乙女のお山に包まれてようやく落ち着きを取り戻した吸血鬼侍ちゃんを見ながら、白兎猟兵ちゃんから聞いた話から予想される氷の魔女の幸運さを蜥蜴僧侶さんが語っています。どうやら遥か北方で手勢を率いてブイブイ言わせていたらしいのですが、百年ほど前に高貴なる獅子にフルボッコにされこの地まで逃げ延びて来たんだとか。傷を癒すために眠りについていたところを何者かによって目覚めさせられ、この長い冬に乗じて暴れまわっているみたいですね。

 

「それで、ぼくらにも自分に従うよう言ってきたんですけど、高慢な態度が気に入らなかったお父さんと、その親友たちが一斉にこう言ったんです。"俺のケツを舐めろ(消え失せろ)!!"

 

 そしたらもう怒っちゃって怒っちゃって、と笑う白兎猟兵ちゃん。その返しを聞いてベテラン組は爆笑していますが、新米カップルはドン引きしちゃってますよ……。

 

「幸いぼくたちが住んでいる古い防衛陣地(おしろ)跡は護るのに適した地形でして。狩りに使っている石弓(クロスボウ)とみんなで掘った隧道(トンネル)を駆使して氷の魔女の下僕を迎え撃っていたんですが、だんだん食べ物が少なくなっちゃって……」

 

「それで、単身応援を呼ぶために包囲を突破したと。まったく、無茶するじゃないの」

 

 ジト目の見習い聖女ちゃんに呆れられてもあははーと笑っている白兎猟兵ちゃん。これは筋金入りの兎人(ササカ)ですねぇ。臆病だけど勇敢、非力だけど強い意志を持つ彼ららしい考え方です。食料もだけど()()もそろそろ尽きるかもという彼女の言葉通り、試練(クエスト)を達成するには急ぐ必要があるかもしれません。馬車中の視線が、頭目(リーダー)である見習い聖女ちゃんへと集まっています。暫く俯いて考え込んでいた彼女が、意を決したように顔を上げ、一行へと自分の考えを話し始めました……。

 

 

 

「危険かもしれないけど、一党(パーティ)を分割しようと思う。空を飛べる2人が先行、案内役として彼女と……それから私を運んで頂戴。アンタは先輩と一緒に馬車を護りながら後から追いかけて来て」

 

 後詰にまわされて不満そうな新米戦士くんですが、アンタ一発カマしたらすぐ()()切れでしょと言い返され、その場に崩れ落ちてしまいました。何故かへへっと鼻の下を指で擦っている吸血鬼侍ちゃん、そういう意味じゃないですからね? 男泣きしている新米戦士くんを励ましていた剣の乙女が、微笑みを浮かべたまま見習い聖女ちゃんに疑問を投げかけました。

 

「速攻をかけるという点では良いと思いますが、それでしたら貴女ではなく私が先行するほうが良いとは思いませんか?」

 

 その言葉を聞いて、同じように微笑みを浮かべて見習い聖女ちゃんを見るのは吸血鬼侍ちゃんと蜥蜴僧侶さん。ほんとこのベテランたちは意地悪ですねぇ。みんなわかってて言ってますよねと溜息を吐きながら、見習い聖女ちゃんが返答しました。

 

「そりゃ先輩に任せればあっという間に解決すると思う。けど、この試練(クエスト)()()()に与えられたモノ。全部先輩たちに任せて『いやぁ氷の魔女は強敵でしたね』なんて、そんなの試練(クエスト)を乗り越えたなんて言えないじゃない!」

 

「……ごうか~く!!」

 

 文句ある!?とばかりに自分よりも遥かに高い等級の冒険者を睥睨する見習い聖女ちゃん。その足がガクガク震えているのにみんな気付いているでしょうが、恐れを知らないことと知りながらも抗うことは違いますからね。見事な啖呵を切った彼女に吸血鬼侍ちゃんが飛び込んでいきました。

 

「ウム、功名心や焦りの色が見えたならば止めようとも思っておりましたが、どうやら杞憂であった様子」

 

「ええ、今の彼女でしたら問題ありませんわ。それに……あの子もいますから」

 

 えらいぞ~!と言いながら見習い聖女ちゃんの頭を抱えて撫でまくっている吸血鬼侍ちゃんを見て笑い合うベテラン2人。新米戦士くんに吸血鬼侍ちゃんを引っぺがすよう頼んでますが、先程のダメージが思いのほか深かったようで彼の再起動には時間がかかるみたいですね。ぼくもいきますよ~!という気の抜けた声とともに白兎猟兵ちゃんも加わり、馬車の中はもうしっちゃかめっちゃか。明日、戦場へ行くとは思えない和やかな空気のまま、夜は更けていくのでした……。

 

 

 

 

 

 

「はぐ、はぐ……ごくん。あ、見えてきましたよ旦那さま! あすこがぼくたちの暮らしている山です!」

 

 払暁とともに出発した先行組、太陽が顔を出し切った頃に目的地が見えてきました。非常食として持たされていた焼菓子(レンバス)を吸血鬼侍ちゃんからもらって頬張っていた白兎猟兵ちゃんの指差す先には、小高い丘に築かれた砦跡と、山肌に空いた無数の隧道(トンネル)入り口。そして何重にも掘られた()()の織りなす線画が上空から確認できます。

 

「ほほう、隧道(トンネル)に加えてあの地面を掘って作られた狭い通路。成程、巨体から見れば随分厄介な代物ですな」

 

 戦に関しての造詣が深い蜥蜴僧侶さんが唸るほどの陣地構築、遺構を利用したにしても実に見事なものです。裾野から攻め上がろうとしている雪男(サスカッチ)に対して、塹壕からひょこっと顔を出しては石弓(クロスボウ)で一撃を与えている兎人(ササカ)の姿があちらこちらに見えてますね。

 

「……なんか、メチャクチャ軍隊っぽい動きしているように見えるのは、あたしの目の錯覚かしら?」

 

 蜥蜴僧侶さんの背からその戦いを見ている見習い聖女ちゃんの呟きを聞いて、吸血鬼侍ちゃんにお姫様抱っこされている白兎猟兵ちゃんの耳がピコピコ動いてます。あ、ダメですよ吸血鬼侍ちゃん、これから戦闘が始まるのに耳をしゃぶろうとしたら! なんとか誘惑に耐えた吸血鬼侍ちゃんには気付かず、白兎猟兵ちゃんがその疑問に答えてくれました。

 

「昔はみんなバラバラだったみたいなんですけど、お父さんと2人の親友が、みんなに戦い方や地面の効果的な掘り方を教えてくれたんだそうです」

 

「おとうさんたちはべつのところからやってきたの?」

 

 未だに長耳を目で追っている吸血鬼侍ちゃんの問い掛け。あまり行動範囲の広くない兎人にしては珍しい出自ですが、白兎猟兵ちゃんの返答は吸血鬼侍ちゃんの予想を超える驚きのものでした。

 

 

 

「お母さんから聞いた話だと、ある日突然砦の中に3人が現れたんだそうです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そ~なんだ~」

 

 

 

 

 

……んん???

 

 

 

 

 

 

「あ、見てください。あれがお父さんです。親友のお2人も一緒ですよ」

 

 白兎猟兵ちゃんの示す先、塹壕の中を歩く3人の兎人、彼女とは違って()()()()()()()そのものな姿ですね。お揃いの真っ白な上着(雪原迷彩服)と同じく白いニット帽。左右の2人は細長い金属の棒のようなものを持ち、真ん中の1人は一際大きな金属の筒のようなものを抱えています。

 ……あの、GM? 彼らの下半身がマッパに見えるんですが……。え、大至急病院に行け? いやでもあれ絶対履いてな……アッハイ、彼らはしっかり服を着ています。ちぃ覚えた。 

 

 真ん中の灰色毛に垂れ耳(ロップイヤー)な兎人がハンドサインを出すと、左右の2人が塹壕から顔を出し、兎叩きに躍起になっている氷巨人(フロストジャイアント)へ手に持つ棒を向けました。白毛に短めの耳の兎人が狙いを定め、棒の下部にある()()()を引いた瞬間……。

 

TOTOTOTOTOTOTONK!!

 

「GIGAAAAAAAS!?」

 

 ……棒から放たれた無数の()()が強靭な氷巨人(フロストジャイアント)の皮膚を突き破り、その右足に少なくないダメージを与えました! 突然の痛みに悲鳴を上げながら射手に向き直った氷巨人(フロストジャイアント)の左足に、黒毛に長耳の兎人が追撃を浴びせ始めました。

 

「へへ、命中命中!」

 

「コラッ! もう補給は出来ないんだから無駄弾は使うなって!!」

 

 得意げに鼻を鳴らす黒毛の兎人を垂れ耳の兎人が窘めています。どうやら残弾が心もとないというのは本当みたいですね。……というか、アレどう見ても自動小銃(M16)……。それに、垂れ耳の兎人が持っているのって……。

 

「GIGAGAGAGA!!」

 

 あ! 両足から流血したまま氷巨人(フロストジャイアント)が3人へと近付き始めました! 怒り狂った瞳は3人を睨み、その巨大な拳で叩き潰さんと迫っています。腰を抜かした黒兎さんを庇うように前に出た垂れ耳兎さんが、抱えていた大筒(スティンガー)を巨体へと向け……!

 

 

 

BUH-FOOOOOOOM!!

 

 

 

毒針(スティンガー)の一撃は過たず命中し、爆炎の中から2本の足だけが現れ、音を立てて倒れ込みました。

 

「すっごーい!」

 

「ほわ~、いつも大切そうに手入れしてるのは見てましたけど、まさかあんな威力があったなんて……あ、お父さん危ない!?」

 

「え? なんでオマエ空飛んで……ウワァー!?

 

 あ、不味い! 銃撃音を聞きつけてやって来た別の氷巨人(フロストジャイアント)が爆炎を突っ切ってきて白兎さんを掴み上げてます!! すぐに黒兎さんが腕に狙いを定めて引き金を引きましたが……。

 

「ウッソ、弾切れ!?」

 

「だから無駄弾は撃つなって言ったじゃないか!!」

 

 慌てる黒兎さんを叱りつけながら、垂れ耳兎さんが副兵装(サイドアーム)短筒(ガバメント)で射撃をしていますけど……やはり威力不足らしく氷巨人(フロストジャイアント)の手は緩む様子はありません。このままだと兎の()()()が出来ちゃいます! お、上空から機を窺っていた吸血鬼侍ちゃんと蜥蜴僧侶さんがアイコンタクトを取っています。どうやら突っ込む気みたいですね!

 

「侍殿!!」

 

「ん! うさぎさんをおねがい!!」

 

「え、ちょっ、まさか!?」

 

 抱きかかえていた白兎猟兵ちゃんを蜥蜴僧侶さんの背に向かって放り投げ、急降下する吸血鬼侍ちゃん。両腕が翼に変じている蜥蜴僧侶さんが受け止められるはずもなく、その役目は強制的に見習い聖女ちゃんのものに。背に増えた荷重に従うように蜥蜴僧侶さんも降下体勢に入っています。

 

「このっ、は~な~せ~よ~!」

 

 捕まっている白毛の兎人……白兎猟兵ちゃんのお父さんも銃床で懸命に巨人の腕を叩いていますが、やはり兎人の腕力ではダメージには程遠いようです。もはや瞬刻の余裕も無いと判断した吸血鬼侍ちゃん、腰部から影の触手を射出して、氷巨人(フロストジャイアント)の肩口へと打ち込みました!

 

「GIGA!?」

 

 肩口を抉る鋭い痛みに思わず怯んでしまった巨人。僅かに緩んだ手から白兎猟兵ちゃんのお父さんがこぼれ落ちて……ふぅ、親友の2人が下でキャッチしてくれました! 獲物を逃した怒りに燃える瞳で肩口から伸びる触手を追った先には、ワイヤーを巻き取るように触手を縮めながら突っ込んでくる小さな人影。妖刀(ムラマサ)魔王剣(サタンサーベル)を抜き放ち、独楽のように高速回転する吸血鬼侍ちゃんが繰り出すのは、まごうことなき巨人殺しの一撃です!

 

 

 

「ひっさつ! へ~ちょ~あた~っく……!? おあ~……」

 

「GI……GA……」

 

 原典は延髄を削ぎ落す一撃ですが、ちょっと回転が強すぎたのか巨人の頸部は爆発四散。勢いを殺せなかった吸血鬼侍ちゃんは頭部と一緒に雪原にダイブしちゃいました……。立て続けに2体も氷巨人(フロストジャイアント)がやられたことで雪男(サスカッチ)たちの戦意は駄々下がり。そんな彼らに追い打ちをかけるように、着陸した蜥蜴僧侶さんの背から飛び降りた見習い聖女ちゃんの宣言が、辺り一面に響き渡ります。

 

「次にこうなりたい奴は前に出て来なさい! 首から下を立派な毛皮のコートに変えてやるわ!!」

 

「「「「「ヒエッ……」」」」」

 

 巨人の頭部を踏みつけながら放たれた見習い聖女ちゃんの啖呵にビビったのか、雪男(サスカッチ)の群れは散り散りになって逃げていきました。ふぅ、なんとか防衛には成功したみたいですね!

 

 

 

「アイテテ……危うく肉団子になるところだったよ……」

 

 親友2人に支えられた白兎猟兵ちゃんのお父さんが、彼女とともに見習い聖女ちゃんのもとへとやって来ました。さかさまに雪原に突き刺さっていた吸血鬼侍ちゃんも、引っこ抜いてくれた蜥蜴僧侶さんと一緒に傍で待っていますね。脱いだ防寒具の上にお父さんを寝かせ、怪我の具合を確かめていた白兎猟兵ちゃんの表情が安堵のそれに変わりました。

 

「あちこち青痣になってましたけど、骨や内臓には異常ないみたいです」

 

 ありがとうございます旦那さま、と深々と頭を下げる白兎猟兵ちゃんをお父さんが驚いた表情で見ていますね。まぁたった一日で娘にそんな人が出来たら驚くのも無理はないでしょう。どういうことだってばよと娘に詰め寄ろうとするお父さんを抑えながら、隊長格と思われる垂れ耳兎さんが一行に提案してきました。

 

「彼女になにがあったのか聞きたいし、助けてもらったお礼もしたいから、とりあえずボクたちの家に行かないかい?」

 

「ええと……もうすぐ連れが到着するから、そっちと合流してからでも良い? 馬車の中に食料も積んできたから」

 

 そいつぁナンバーワンだ! と飛び跳ねながら全身で喜びを表現する黒兎さんと垂れ耳兎さん。やっぱりこの3人、別の世界線から迷い込んだんじゃ……。

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、つまりキミたちは氷の魔女をやっつけに来てくれたってことで良いのかな?」

 

「ええ。至高神さまからの託宣(ハンドアウト)により、この集落の危機を救うことが彼女に与えられた試練ですので」

 

 白兎猟兵ちゃんのお父さんの問いに対し、彼に癒しの奇跡を使いながら剣の乙女が一行の来た目的を伝えています。山肌に掘られた穴を潜り、一行が案内されたのは巣穴の中心と思われる広々とした空間。具だくさんのポトフが入った大鍋を中心に、たくさんの兎人がひしめき合っています。

 

「ほら、そんなに慌てなくたってまだまだあるから! あ、そこ! 隣の碗から人参をくすねるな!!」

 

 馬車に積んであった食料を使って手早く作られたそれをお椀いっぱいによそい、ハフハフと頬張る兎人たちを疲労した腕をさすりながら見習い聖女ちゃんが監督しています。新米戦士くんや吸血鬼侍ちゃんが手伝ったとはいえ、彼らが持ち寄ったいくつもの大鍋で同時に調理するのは大変だったと思います。 カゴいっぱいのジャガイモの皮を剥いた新米戦士くんは「俺もう二度と剣を握れないかも……」などとぼやきながらポトフを貪っていますね。

 

 そんな2人を懐かしいものを見る目で眺めていた垂れ耳兎さんが「()()を見るのは何十年ぶりかなぁ……」と呟いてます。たしかに、垂れ耳兎さんの異世界転移はこれで2回……おっと、これは某合衆国の最重要機密でしたね! あぶないあぶない……。

 

 

 

「この人がぼくを助けてくれた旦那さまだよ!」

 

「「「「「「「お姉ちゃんを助けてくれてありがとー!!」」」」」」」

 

「ほわぁ~……ふわふわともこもこがおしよせてくる……!」

 

 あ、吸血鬼侍ちゃんが白兎猟兵ちゃんと7人の弟妹ちゃんたちに一斉にむぎゅ~っとされて尊死しそうになってます! 3人の妹ちゃんたちは白兎猟兵ちゃんと同じ耳と尻尾だけ、4人の弟くんたちはそれに加えて膝下が兎になっているみたいですね。こども特有の体温に加え、あたたかいポトフをおなかいっぱいに食べたぽかぽか攻撃によって、吸血鬼侍ちゃんの幸福ゲージが振り切れんばかりに上昇しています。

 

 もこもこに埋もれた吸血鬼侍ちゃんの隣では、蜥蜴僧侶さんも子供たちの抱き着き攻撃の餌食になってますね。外界との交流が絶えて久しい集落では、蜥蜴人は物語の存在でしかなかったのでしょう。ペタペタと鱗を触られてもにこやかに笑う蜥蜴僧侶さん、やはり辺境ギルド一の聖人なのでは……?

 

 

 

「ハッタリと勢いで雪男(サスカッチ)は追い返せたけど、次は氷の魔女が直接乗り込んで来る……よね?」

 

「まぁ間違いないでしょうなぁ。舐められたまま放置しては、部下たちの統率も維持出来ぬかと」

 

 おなかいっぱいのこどもたちをそれぞれの家に帰した後、広間に残った者たちで今後についての話し合いが始まりました。見習い聖女ちゃんが憂鬱そうに口火を切り、蜥蜴僧侶さんが相槌を打っています。

 

「手持ちの弾薬……おっと、()()()()()は殆ど使い切っちゃったから、これからは普通の石弓しか撃てないんだ、ゴメン」

 

「となると、面制圧力に不安が残りますわね……」

 

 黒兎さんが申し訳なさそうに告げる内容は今後の戦況が不利になる事を示しています。剣の乙女の言う通り、雪男(サスカッチ)なら兎も角氷巨人(フロストジャイアント)が相手では、石弓は威力不足と言わざるを得ません。また、構造上連射が効かないのも辛いところですね。

 

「真夜中に攻めて来られると、夜目の効かない俺たちは不利だよなぁ……」

 

「あ、その心配はないと思いますよ?」

 

 新米戦士くんのぼやきに反応して、吸血鬼侍ちゃんを膝枕していた白兎猟兵ちゃんが会話に入って来ました。どうやら夜間の戦闘の場合夜目の効く兎人が有利なため、もっぱら日の出ているうちに攻めて来るんだとか。

 

「あれ? そうすると氷の魔女って、日光はどうやって防いでいるの?」

 

 見習い聖女ちゃんの疑問ももっともですね。近くに日光を気にせず活動している2人が居るので忘れがちですが、普通の吸血鬼は日光を浴びたら滅んじゃいます。何らかの手段で日光を遮っているのか、あるいは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。一行の視線が垂れ耳兎さんに集まります。

 

「アイツが来るときはいっつも吹雪と一緒だったから、雲と雪で日光を防いでいるんじゃないかなぁ……」

 

 自信なさげに首を捻っていますが、相手がデイライトウォーカーでないならやり様はいくらでもあるでしょう! あとは大将首を獲った際に残党が残ると面倒なんですが……。お、吸血鬼侍ちゃんが膝枕から上体を起こし、虚空を見上げながらしきりに頷いてます。もしかして君主ちゃんと連絡を取っているのかも……。脳内通信が終わったのか、くるりと体勢を入れ替えて白兎猟兵ちゃんの背後に回り、頬擦りをしながらみんなに会話の内容を話し始めました。

 

「あのね、むこうのようじはおわったから、あすのひるにはこっちにこられるって! しかも、サプライズゲストもいっしょ!!」

 

 ほほう! 見習い聖女ちゃん組を見ている間にあちらでも動きがあったみたいですね。どうやら氷の魔女が攻めてくるのは明日になりそうですし、その間に冬将軍討伐組へ再度視点を向けて見ましょうか。万知神さん、録音機材(アカシックレコーダー)の操作をお願いします!

 

 

 


 

 

 

 では改めて吸血鬼君主ちゃん組に移りましょう。現在時刻は午後9時くらい、おゆはんを済ませた一行は就寝準備の真っ最中。この少人数だと男女別はかえって危険な可能性があるため、みんな集まって大部屋で寝るつもりみたいです。

 

 栄纏神(えいてんしん)の神官さんは相棒の翼を布団代わりに、妖精弓手ちゃんと令嬢剣士さんは薄い掛毛布と吸血鬼君主ちゃん(核融合湯たんぽ)を併用して温まる気満々ですねぇ。

 

「ほらシルマリル、愛する恋人2人が寒くならないようにあっためてちょうだい?」

 

「……なんだか日向ぼっこしていた猫を抱き締めてるのに似てますわね」

 

 左右からギュッとされてまんざらでもなさそうな吸血鬼君主ちゃん、微妙な調整を行って最も就寝時に適した温度を探しているようです。インナー姿の令嬢剣士さんは良いとして、栄纏神(えいてんしん)の神官さんがいるのに全部脱ぐのは如何なものでしょうか妖精弓手ちゃん。まぁ抱き枕と化した吸血鬼君主ちゃんもマッパなんですけどね!

 

「あ~……今の温度がちょうどいかも……って、どうしたのシルマリル?」

 

 吸血鬼君主ちゃんの平坦な胸に長耳をくっつけていた妖精弓手ちゃんが見上げる先、君主ちゃんが何かを探るように目を閉じています。やがて目を開けた君主ちゃんが、ぽつりと呟きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど~ていのにおいがする……しかもふたり……」

 

「「は?」」

 

 

 

 意味の通じぬ呟きに頭上に?を浮かべる2人。しかし次の瞬間、妖精弓手ちゃんの鋭敏な聴覚に複数の足音が聞こえてきました。

 

「人型の足音が近付いて来る。数は2、ゴブリンじゃないわね。歩調からすると……多分男だと思う」

 

 その言葉を聞いて、それぞれの相棒に手を伸ばす一行。掛毛布の中で弓と双剣が握られています。部屋の反対側を見れば、片目だけうっすらと開けた栄纏神(えいてんしん)の神官さんが、相棒の翼の下で双槍を手にしているのが見えますね。

 

 やがて全員の耳に入るドタドタという足音。同時に罵り合うような声も聞こえてきました。どうやら寒さに対する悪態と準備不足を相手に擦り付ける醜い争いのようですが……。

 

 

 

「だから精霊任せにしないでちゃんと防寒対策をしろって言っただろ! おかげで俺まで凍死しそうだよ!!」

 

「あぁ!? テメェが道を間違えたのがそもそもの原因じゃねぇかこのシスコン野郎! いい加減姉離れしやがれ!!」

 

「お前に言われる筋合いは無いねこの白粉(おしろい)童貞! メンヘラに付き纏われてそのまま寂しく生きて死ね!!」

 

「お前だって童貞だろうが! それにメンヘラはお前の相棒!! どんだけ拗らせればそんな悍ましい魔力を出すようになるんだっつーの!?」

 

 

 

「「「……」」」

 

「知り合いかね?」

 

 だんだん味わい深くなる表情を見て問いかけてくる栄纏神(えいてんしん)の神官さんに対し、無言のまま動き始める3人。わざと上半身が見えるように毛布をずり下げ、扉に背中側を向けるように身を捩る左右の2人。真ん中の吸血鬼君主ちゃんに抱き着き、顔だけを迫り来る2人のほうに向けた姿勢で待つこと暫し。蹴り開けられた扉の向こうから飛び込んで来た赤毛の少年と褐色肌の青年を、これから始まるであろう情事を想像させるポーズで迎え撃ちました。

 

「「……あ」」

 

歓迎されざる訪問者2人の目に飛び込んで来たのは、女性らしい曲線を強調する黒インナー姿の只人(ヒューム)と、自然が生んだ至宝と言うべき上の森人(ハイエルフ)のシミ一つない背中。そして不満げな2人を抱き寄せるように腰に手を伸ばす、小さな暴君の歪んだ微笑み。クレバスが割れるように開かれた口から湧き出す言葉は、停止していた彼らの思考を誘導するのに十分すぎる威力を発揮しました……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからおたのしみだったのに……。じゃましないでくれる? ど~ていさんたち」

 

「「ぶっ殺す!」」

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 




 新しい業務がスタートしたので失踪します。

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セッションその11-5

 オンセキャンペーンが始まったので初投稿です。

 お外で集まらなくても遊べるTRPGは良い文明、古事記にもそう書かれている。


 前回、童貞2人を盛大に煽ったところから再開です。

 

 吸血鬼君主ちゃんのとってもむごーい仕打ちにキレた青少年たち、宣言通り吸血鬼君主ちゃんに襲い掛かりましたが……。

 

 

 

「人様の御宅を訪問する際はノックをしたまえ。それが礼儀というものだろう?」

 

「「はい」」

 

 間に割って入った栄纏神(えいてんしん)の神官さんによって鎮圧され、現在お説教の真っ最中。小柄な神官さんよりも低い正座をキメたまま、頭上から懇々と降り注ぐ有難いお話しに耐えているところです。時折お互いに責任を擦り付けるように小突き合いが起きますが、背後の大砲鳥がその大きな嘴を見せつけてその都度黙らせているようです。

 

 

 

 さて一方、2人を煽り立てた吸血鬼君主ちゃんたちですが……。

 

「君たちもだお嬢さん(フロイライン)方。先ほどの振る舞いはいささか淑女としての品位に欠ける行為だとは思わんかね?」

 

「「「はい……」」」

 

 少年魔術師君と不良闇人さんのとなりで同じように正座をして、お説教を受けています。あ、マッパで事に及んだ2人ですが、妖精弓手ちゃんは掛毛布を、吸血鬼君主ちゃんは自前の翼をそれぞれ上着代わりにしているので、現在は見られても大丈夫な格好になっていますね。

 

 

 

「……まぁ説教はこのくらいにしておこう。少年たちは何をしに此処へやって来たのかね?」

 

 お、どうやらお説教は終わったみたいです。足が痺れて悶えている男子2人に対して、栄纏神(えいてんしん)がこの地への来訪理由を尋ねています。先に復活した不良闇人さんが、まだ痺れと戦っている少年魔術師君の足を責め立てながら答えてますね。どうやら少年魔術師君に憑りついている女幽鬼(レイス)さんの制御方法を教えてやって欲しいという半鬼人先生からの依頼で、秋口からこっち彼を様々な場所へ引っ張りまわしているみたいです。

 

 困難に直面したときにこそ制御する力が身に付くらしく、今回真冬の雪山で一狩りするつもりが色々あって遭難しかけていたんだとか。あ、吸血鬼君主ちゃんが女幽鬼(レイス)さんに手を振ると、ちゃんと返してくれてますね。どうやら少年魔術師君とは上手くやれているっぽいです!

 

 

 

「ああ、そういやアンタも妖精に憑かれてるんだったっけ。すっかり忘れてたわ」

 

「あぁ? 2000歳のクセにもうボケが始まってんのか? それにコイツは妖精なんて可愛い奴じゃ……()っちぃ!?」

 

 あ、妖精弓手ちゃんの呟きに反応して悪態をついた不良闇人さんが発火しました!? よく見ると彼の首筋に抱き着く様に、炎で編まれた真っ赤なツインテールの女の子の姿が見えますね。彼女が不良闇人さんの相棒の妖精さんでしょうか?

 

 あれ、どうしたんです無貌の神(N子)さん、彼女を見てそんな顔を引き攣らせて。え、昔住んでいた別荘()に放火した奴に似ている? そういえばアイツもわりかしメンヘラかつスイーツ脳だったって。……それじゃあの女の子、妖精じゃなくて何処かの神の化身(アバター)? いやまさかそんな……なんで目を逸らすんですがGM神さん???

 

 

 

「あの、それでしたら私たちに手を貸していただけませんか?」

 

「手? 分身(アザーセルフ)が居ないみたいだけど、ソイツだけで大概の事は何とかなるだろ? なんでわざわざ……」

 

 令嬢剣士さんのお願いに難色を示す少年魔術師君。吸血鬼君主ちゃんを睨みつけながら言う台詞は至極真っ当ではありますが、背後の女幽鬼(レイス)さんは興味を示してくれているみたいです。将を射んとすればまず馬を射よ、ここは彼女から口説き落としてもらいましょう!

 

「あのね、このちかくにいるふゆしょうぐんっていうまじんをやっつけないと、ふゆがおわらないの。もし()()といっしょにこのじけんをかいけつできたら……ふたりのあいしょうはバッチリだってみんなにしってもらえるんじゃないかな?」

 

「あ、オマエもしかしてアイツに話しかけて……!?」

 

 吸血鬼君主ちゃんの思惑に気付いた少年魔術師君が割って入ろうとしましたが、突然ガクっと崩れ落ちてしまいました。同時に彼の周りに()()が集まり、次第に女性の形へと変化していきます。実体を得た女幽鬼(レイス)さんと力を失い彼女に膝枕されてぐぬぬ顔の少年魔術師君の姿を見た吸血鬼君主ちゃんが、何かに気付いたように頷いていますね。

 

「クソッ、呼んでもいないのに出てくるんじゃない……ッ」

 

「ヴァンパイアハンターへのだいいっぽ、おめでとう!」

 

 少年魔術師から向けられる忌々し気な目をスルーしながら拍手をする吸血鬼君主ちゃん。ひょっとして女幽鬼(レイス)さん「生ける風」扱いになったんですか? 少年魔術師君の頭を撫でながら首肯しているのできっとそうなんでしょうねぇ。……というか少年魔術師君、黙って実体化を解除すれば良いのにしないあたり順調に女幽鬼(レイス)さんのバブみに浸食されているようですね。お姉ちゃん離れする日も近いかもしれません。

 

 

 

「それでクソチビは2人に分かれたってワケか。テメェも難儀な生まれだったんだなぁ……」

 

「あのこともあえたし、みんなとなかよくなれたからわるいことばかりじゃないけどね」

 

 おや、いつのまにか吸血鬼君主ちゃんと不良闇人さんが仲良くなってます。ダブル吸血鬼ちゃんの生い立ちが自分と重なって見えたのでしょうか、若干ですが眼差しが柔らかくなった気がしますね。それがどうも面白くないのか、彼の背中に抱き着いている仮称火の妖精さんが不満げな顔をしています。「やっぱ女の身体って柔らかいのか?」なんて中学生男子みたいなことを吸血鬼君主ちゃんに聞いてる不良闇人さんの首元に、赤々と燃えるツインテールを巻き付けて……。

 

()っちぃ!? ナニ誤解してやがる、俺がこんな事故物件に色目使うワケ無ぇだろうが!?」

 

「……!」

 

 どうやら仮称火の妖精さんは嫉妬の炎も操ることが出来るみたいですね(白目)。必死に宥めようとする不良闇人をジト目で睨みつけながら、うねうねと動くツインテールで相棒に焼印を付け(マーキングし)ています。その光景を見ている吸血鬼君主ちゃん、あんまりな言われようにちょっと涙目になってますね……。

 

「ぼくはじこぶっけんだった……?」

 

「まぁ、まともな神経の持ち主がお付き合いするのは難しいですわね」

 

 でも、それも含めて皆頭目(リーダー)を愛してますのよという令嬢剣士さんの言葉に安心したのか、照れたように彼女のおなかに顔を埋めちゃいました。そんな2人のスキンシップを食い入るように見つめているのは半実体の淑女さんたち。いつかは私も相棒に……という決意が、熱気と瘴気になって周囲に溢れています。……それ絶対身体に悪いモノですよね?

 

 

 

「ほら、遊んでないで全員集合! 明日の作戦を伝えるわよ!!」

 

 お、地図を広げて栄纏神(えいてんしん)の神官さんと話し合っていた妖精弓手ちゃんがみんなを呼んでます。どうやら明日の冬将軍討伐の作戦が決まったみたいですね。令嬢剣士さんが淹れてくれたお茶を片手にみんなで地図を覗き込み始めました。

 

「現在我々のいる村が此処。徒歩でおよそ半日ほどの距離に遺棄された神殿がある。夕刻に上空から見た限り、辺境一帯に冬を留めている冬将軍は現在その神殿跡を拠点としているようだ」

 

「なぁ、これってやっぱり……」

 

「ああ、俺たちが見て来たモンはこれが原因だな」

 

「ふたりともなにかしってるの?」

 

 地図の印が付いている場所を見て頷き合っている2人。何やら訳知りっぽいですね。吸血鬼君主ちゃんの問いに答えるように少年魔術師君が地図の上に指を滑らせています。

 

「この村に辿り着いたのは、道に迷ってた時に氷漬けになった森や動物を辿って来たからなんだよ。……もし反対に向かってたらヤバかったかも」

 

「オマケに辺りの精霊たちも怯えっぱなしで人里の方角も聞けやしなかった。魔神の仕業ってなら納得がいくぜ」

 

 見れば2人の肩口に手をあてて浮かんでいる相棒(カノジョ)たちもうんうんと頷いています。今回の討伐対象である冬将軍という魔神、その名の通り冬を引き連れて移動しているみたいですね。

 

「彼奴は常に吹雪を纏って行動する。視界も遮られるがそれ以上に飛び道具が威力を発揮できないのが問題だな」

 

「私も当てられないとは言わないけど……普段通りに射られるかと言われるとちょっとねぇ……」

 

 自然の化身である精霊たちとは違う理で吹く風を読むのは、流石に妖精弓手ちゃんでも厳しいみたいです。となれば何とかして吹雪を止ませないといけないのですが……。

 

「いちじてきにでだいじょうぶなら、ふぶきはなんとかできるとおもう」

 

 お、吸血鬼君主ちゃんがしゅたっと挙手して任せて欲しいと言ってます。妖精弓手ちゃんの確認に対しても大きく頷きを返してますので、自信はあるみたいですね。話し合いの結果、吸血鬼君主ちゃんが吹雪を解除したタイミングで栄纏神(えいてんしん)の神官さんが上空から先制爆撃、敵集団が混乱しているところを各個撃破するということで纏まりました。また対象が移動して被害が拡大するのは宜しくないので、夜明けとともに出発して朝のうちにケリをつけるつもりのようです。

 

「それじゃ今日は早めに休みましょ。……アンタたちも此処で寝ていいけど、変な事考えるんじゃないわよ?」

 

「ハッ! そんな硬い抱き枕こっちから願い下げだっつうの……痛ェ!?」

 

 あーあー……妖精弓手ちゃんの化鳥蹴りで窓から不良闇人さんが飛び出て行きました。寒風が吹き込んで来るそこを吸血鬼君主ちゃんがシーツで塞ごうとしていますが、ちょっと届かないみたいですね。むっとした表情で飛行しようと……おや?

 

「……ったく、貸してみろ。相変わらずチビの癖になんでも自分1人でやろうとしてやがる」

 

「アンデッドはせいちょうしないからしかたないの。でもありがと」

 

 吸血鬼君主ちゃんの背後からシーツを奪い取った少年魔術師君が割れた窓を塞いでくれました。相変わらず言葉はキッツイですが、吸血鬼君主ちゃんのお礼にそっぽをむいているあたり若干の関係改善は望めそうですね! 妖精弓手ちゃんが吸血鬼君主ちゃん(核融合湯たんぽ)を小脇に抱えて毛布にくるまったのを見て、背嚢を枕代わりに横になった少年魔術師君。女幽鬼(レイス)さんが目と目がくっつきそうなほどの距離でその寝顔を眺めてますが……直接の被害が無いようなのでそっとしておきましょうか。 それじゃ襲撃まで少しカットしちゃいましょう!

 

 

 

 

 

 

「そうだ、只人(ヒューム)お嬢さん(フロイライン)。少しいいかね? 君に渡しておきたいものがあるのだが……」

 

「はい? なんでしょうか。……!? こ、これは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー、こりゃまた随分派手にやってくれてるじゃねえの!」

 

 神殿跡を見下ろす位置にある小高い丘の上。周囲を探っていた不良闇人さんが感嘆の声を上げながら見つめる先には、渦巻く様に吹雪が固まっている場所から天に伸びるように立ち昇る暗雲。上空にて相棒に騎乗して待機している栄纏神(えいてんしん)の神官さんよりも高度まで上がったそれは、寒空全体を覆い尽くすように広がっています。やはりあそこにいるであろう冬将軍が、西方辺境に長い冬を齎している元凶で間違いありません!

 

「それじゃあはじめるね。じゅんびはいい?」

 

 栄纏神(えいてんしん)の神官さんからの合図で吹雪を解除する準備を始めた吸血鬼君主ちゃんが、体内に秘めている星の力(核融合炉)を起動させました。頭上に掲げられた両手の間に生み出された小さな輝き、炉心から直接魔力を供給されたそれは翠玉の光を放ち、周囲で待機しているみんなにも感じられるほどの熱が感じられます。頭と同じくらいの大きさにまでなった光球を構えた吸血鬼君主ちゃんが、太陽神に捧げる共通の詠唱とともに立ち昇る暗雲の中心へと投擲しました!

 

 

 

たいようらいさん! ひかりあれ(ストナーサンシャイン)!」

 

 

 

 それ進化の光!? いや陽光をブン投げているからあながち間違いでは無いのかも……。

 ドワオ!という効果音と共に不規則な軌道を描きながら天へと突き進む≪晴天(サニーデイ)≫の奇跡(軌跡)。上空に立ち込める暗雲と接触した瞬間、爆発と錯覚するほどの閃光が一行の視界を奪いました。目を瞑っていても感じられるほどの眩しさが終息した後、一行の眼前に広がっていたのは……。

 

「フム、見事なものだな」

 

 周囲一帯(半径3km)にわたって顔を見せた青空と、突然冬の結界を剥がされて混乱している魔神の集団の姿です。集団の中心に位置していた上位魔神(グレーターデーモン)栄纏神(えいてんしん)の神官さんの投槍で爆散したのを見て、呆然としていた面々が一斉に動き出しました!

 

「私は此処から援護するわ! 怪我しないように暴れて来なさい!!」

 

 言葉とともに矢を放つ妖精弓手ちゃん。周囲には吸血鬼君主ちゃんがインベントリーから取り出した矢筒がいくつも置いてあります。地上の敵だけではなく、上空の栄纏神(えいてんしん)の神官さんへ向かっている魔神まで撃ち落とす見事な業。流石ですね!

 

 

 

「行くぜシスコン小僧! 遅れるんじゃねぇぞ!!」

 

「わかってるっつーの! ……頼んだぞ?」

 

 お! 丘の上から勢いよく飛び出していった2人が、半実体化した相棒(カノジョ)に支えられながら斜面を飛ぶように駆け降りていきました! 不良闇人さんは勢いのまま敵集団へと躍りかかり、血刀に触れるを幸いに縦横無尽に斬り斃す大暴れ。攻撃の隙を狙って近寄る抜け目ない奴は、寄り添うように彼と背中合わせに立つ火の妖精?(K子)さんが、その両手から放つ炎で焼き払っています。……無貌の神(N子)さん、やっぱり彼女と知り合いなんじゃないですか? 顔が引き攣ってますし、なんか顔や腕に火傷の痕みたいなのが浮かび上がって来てますけど……。

 

 派手に動き回る不良闇人さんコンビとは対照的に、淡々と敵を処理しているのは少年魔術師君と女幽鬼(レイス)さんのコンビ。「生ける風」としての彼女を維持するために集中している少年魔術師君を背後から抱き締めたポーズのまま、目に映った敵を次々に黒い炎で焼き尽くしています。明らかに火が点きにくそうな液状の身体を持つ魔神すら燃やしているところから察するに、ただの色違いの炎では無さそうですが……。お、令嬢剣士さんをお姫様抱っこして横を通り過ぎようとしていた吸血鬼君主ちゃんが目を丸くしています。

 

「彼らの炎、傍に居るだけで何か身体に絡みつくような感覚が有りますわね……」

 

「えっとね、ぼくがまえつかってたちかたなとおなじで、もやしているのはぶっしつじゃなくてたいしょうのせいしんとかたましいってよばれているものだとおもう。だから、ほんのうてきにいやなかんじがする……たぶん」

 

 あーなるほど、強固な外皮や呪文耐性を持つ魔神があっさりと燃えているのはそういうことだったんですね。恐らく牙狩りの人たちの業と同様に人間以上の存在……吸血鬼や魔神に特化した術式なのでしょう。どうやら吸血鬼殺し(ヴァンパイアスレイヤー)を目指すという誓いは順調に叶いつつあるみたいです!

 

 

 

「おそらくあの祭壇のようなものが冬をこの地に留めている呪物なのでしょう。冬将軍らしき魔神の姿が見えないのが不安要素ではありますが」

 

「さいしょにふきとんでたのはただのグレーターデーモンだったし、どこにいるんだろう?」

 

 妖精弓手ちゃんと栄纏神(えいてんしん)の神官さんの援護射によって空いた隙間を縫うように駆ける吸血鬼君主ちゃんと令嬢剣士さん。2人の目指す先には暗雲を発生させていたと思われる金属製の祭壇らしきものが見えてきました。1()0()m()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。投槍によって砕かれた魔神の武具や岩の破片が当たっていましたけど、その表面には傷一つ付いていません。どうやら相当強固な造りになっていそうですが……。んん? なんか上部が回転して2人に棒状の部分を向けているような……

 

 

 

「!? ふせて!!」

 

「Staaaaaaaaliiiiiiiiiin!!」

 

 

 

BAM!!

 

 

 

「いたた……」

 

 雷鳴の如き轟きと共に放たれた()()1()2()2()m()m()()()()()。何とか令嬢剣士さんの前に割り込み円盾()で逸らすことには成功したようですが、その衝撃の強さを物語るように、吸血鬼君主ちゃんの両腕は裂け純白の大地を赤く染めています。重厚な駆動音を響かせてゆっくりと旋回する()()は怪しく光り、装甲の隙間から溢れる有機的な粘体。上空から降下してきた栄纏神(えいてんしん)の神官さんが2人への射線を遮るように大砲鳥を着陸させ、忌々し気に眼前の脅威を睨みつけています。

 

「……どうやら冬将軍はあの戦車と一体化しているようだな」

 

「戦車? アレは戦車(チャリオット)なんですの?」

 

 栄纏神(えいてんしん)の神官さんの呟きに驚きの声を上げている令嬢剣士さん。まぁ普通"戦車"って言ったらソッチですからねぇ……。此方でも無貌の神(N子)さんが「今度化身(アバター)不死の蛞蝓(フラック)を動力源にして、思いっきり乗り回してやろうと思ってたのに!?」と悲鳴を上げています。轟音を上げながら一行を轢殺せんと迫ってくる鋼鉄の獣(スターリン)に向かって、後方から赤と黒の炎が放たれますが……。

 

「クソが! ガワが頑丈過ぎて中まで火が通らねぇ!?」

 

「こっちもだ。どうやら装甲は純粋な金属で出来ているらしい……ッ」

 

 他の魔神たちのように炎上することも無く、悠々と炎の海を乗り超えて迫る冬将軍。砲塔と同軸の機銃から放たれる魔力弾から逃れるように、不良闇人さんと少年魔術師君は慌てて岩陰へと退避しました。その隙を見て相棒の脚に吸血鬼君主ちゃんと令嬢剣士さんを掴ませ、上空へと退避した栄纏神(えいてんしん)の神官さん。冬将軍も空に向けては砲撃出来ないみたいですね……。

 

「フム、中々に厄介だな。空から少しずつ削るのが安定だろうが……」

 

「まぁ、たいさくはしてくるよね……」

 

 空から様子を窺う3人の眼下で、鋼鉄の獣(スターリン)が各部のハッチを解放しました。内部に潜んでいる冬将軍が無数の口と思われる器官を生み出し、そこから吹き出す猛烈な吹雪が周囲へと展開されていきます。みるみるうちに冬の結界が車体を覆い尽くし、再びそこから暗雲が昇り始めました。遠距離では冬の結界で射線を通さず、近距離では一撃必殺の砲撃とひき逃げアタック。相手の攻撃は分厚い装甲で防ぎ、結界を解除しても離れればまた張り直す……これは難攻不落ですねぇ。

 

頭目(リーダー)の一撃……太陽神の神官様から拝領した(ケイン)は使えませんの?」

 

「けっかいをかいじょするのにけっこうちからをつかっちゃって、もういっかいかいじょしたらちょっとまりょくがたりないかも……ごめん」

 

 令嬢剣士さんからの問いに申し訳なさそうに答える吸血鬼君主ちゃん。流石に高達成値≪晴天(サニーデイ)≫の連発は厳しいみたいです。地上では童貞コンビに妖精弓手ちゃんが合流してますが、冬の結界に阻まれて攻めあぐねているようですね。

 

 

 

吸血鬼(ヴァンピーア)お嬢さん(フロイライン)が再び結界を解除したタイミングで、私が一撃を加えるのが妥当だろう。すまないが頼めるかね?」

 

「ん、もういっかいくらいならなんとか。かいじょしたらそのままちじょうでこうげきをひきつけるね」

 

 頷き合った後、大砲鳥の脚から離れ地上へと落下していく吸血鬼君主ちゃん。先ほどと同じように光球を生み出し、今度は冬将軍が内部に潜む冬の結界へと直接投擲しました。ひび割れるように解除されていく冬の結界、後方から飛んでくる炎や矢を援護に吸血鬼君主ちゃんが冬将軍の注意を引き付けようと接近していきます。同時に直上から一撃を喰らわせるべく、栄纏神(えいてんしん)の神官さんが両手に槍を構えて……!?

 

「ダメ、よまれてる。よけて!」

 

「……ッ!?」

 

 あ! 降下体勢に入っていた大砲鳥に向かって、無数の粘体が触手のように伸びてます!? 既に攻撃の姿勢になっていたために大砲鳥は避けることが出来ず、牙の生えた触手に絡め捕られてしまいました。嫌らしい笑い声を上げる冬将軍の一部は、背中に乗った2人ごと大砲鳥を地面に叩きつけるつもりなのでしょう。悲鳴を上げる令嬢剣士さんを見た栄纏神(えいてんしん)の神官さんが、咄嗟に相棒に命じたのは……。

 

「我が半身よ、お嬢さん(フロイライン)を護れ!!」

 

 相棒の言葉に従い、身体を振るわせて背中から令嬢剣士さんを振るい落とす大砲鳥。自由落下に入る寸前翼で彼女を覆い、そのまま地面へと叩きつけられました……。

 

「……怪我は無いかねお嬢さん(フロイライン)

 

「ええ、私は大丈……!? そんな、どうして……?」

 

 柔らかな羽根によって保護された令嬢剣士さんとは異なり、もろに地面へと打ち付けられた大砲鳥と栄纏神(えいてんしん)の神官さんの姿は悲惨なものへと変貌していました。金属製の義足は根元からへし折れ、優雅に空を舞っていた翼はあらぬ方向へと曲がり、両者の身体からは白い粒子が漏れ始めています。……どうやら化身(アバター)の損傷が許容範囲を超えたために送還が始まってしまったようですね。目の前の事態に声を無くした様子の令嬢剣士さんを見て、栄纏神(えいてんしん)の神官さんが笑みを浮かべながら語り掛けています。

 

「言ったはずだぞお嬢さん(フロイライン)栄纏神(えいてんしん)の神官とは戦友を助けるために現れるものだ。その源は人々の想いであり、その存在は仮初のものに過ぎない。ただ1人、()()()()を持つ者を除いてな……」

 

 震える手で彼が示す先は令嬢剣士さんの胸元、そこに着けられているひとつの勲章です。眩い光を放つ黄金と金剛石で彩られたソレ(黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章)は、昨夜令嬢剣士さんが彼から渡されていたもの……。

 

「君たちが吸血鬼(ヴァンピーア)お嬢さん(フロイライン)と共に歩もうとしている道は、とても険しく他人から理解されがたい道だ。その勲章は君の旅路を助けるものであり、たとえ人の道を外れたとしても、君たちが人の隣を歩んで行くのだという証明となるだろう……」

 

「……私に務まるのでしょうか、そのような大役が」

 

 徐々に透けながら送還される栄纏神(えいてんしん)の神官さんとその相棒。2人の視線を受け止めた令嬢剣士さんの不安げな表情を見て、駆け寄ってくる吸血鬼君主ちゃんを指し示す栄纏神(えいてんしん)の神官さん。その顔にはからかうような色が浮かんでいます。

 

「彼女たち姉妹(シュヴェスター)と添い遂げること以上に難しいコトなど無いと私は思うがね? 大いに悩み、考え、自らの在り方を問い続けたまえよ。君には永遠に等しい時間が待っているのだから……」

 

「ありがとう、かみさま。またいつか……」

 

 光の粒子となって消えゆく栄纏神(えいてんしん)の神官さんの傍らに駆け寄ってきた吸血鬼君主ちゃん。太陽神さんの化身()と同じ気配を感じていたのでしょう、彼の正体(破壊神さん)には薄々気が付いていたみたいですね。では、善き旅路をという言葉を残し彼らが消え去っていった空を見上げています。ですが、感傷に浸っている暇はありませんよ!

 

「Staaaaaaaaliiiiiiiiiin!!」

 

「おいクソチビ! 一旦下がって体勢を立て直すぞ! ……聞こえてんのかコラ!?」

 

「シルマリル、おっぱい娘を連れて下がりなさい!!」

 

 装甲の隙間から触手を展開している鋼鉄の獣(スターリン)……冬将軍が砲塔を2人に向け始めています。砲撃に対して吸血鬼君主ちゃんは回避するかもう一度円盾()で受け流すか考えているようです。背後からは撤退を促す声と共に炎と矢が飛んで来ていますが、冬将軍はまったく反応せず狙いは前2人に固定されたまま。吸血鬼君主ちゃんが悔し気に舌打ちをしながら令嬢剣士さんに撤退するよう伝えようと……おや? 振り向いた吸血鬼君主ちゃんが何かに気付いたみたいですね。開いた口からは言葉が出ず、令嬢剣士さんを見つめています……。

 

 

 

頭目(リーダー)、お忙しい時に申し訳ないのですが、ひとつお願いを聞いていただけませんか?」

 

 背後で勲章を握ったまま俯いていた筈の令嬢剣士さんからの問い掛け。そこに込められた意志の強さは吸血鬼君主ちゃんの身を竦ませるほどの感情に満ちています。狙いを定めていた冬将軍すら怯えさせるほどの気迫を纏った令嬢剣士さんが、吸血鬼君主ちゃんに目線を合わせるようにしゃがみ込み、その頬をゆっくりと撫でています。

 

「私に、人の境界を踏破する最後の一歩を踏み出す勇気を。そして、頭目(リーダー)と共に歩む最初の一歩を踏み出す勇気をいただきたいのです」

 

 頬に添えられた指先から微かに伝わる震え。令嬢剣士さんの抱く恐怖や不安を感じ取った吸血鬼君主ちゃんがその手を握り、ゆっくりと顔を近付けていきます。触れ合う唇から送られたのは残っていた僅かな魔力……そして、めいっぱいの好きという気持ちでしょう。銀糸を残して離れた吸血鬼君主ちゃんの口から、熱い吐息と少し照れたような言葉が零れました。

 

「いまはこれがせいいっぱい。でも、かえったらあのこといっしょにつづきをしようね?」

 

「ええ、十分ですわ。……あとは恋の旅路を邪魔する不届き者を成敗するだけです!」

 

「……Staaliiiin!!」

 

 強い視線を向けられたことで、呪縛が解けたように動きを取り戻した冬将軍が砲塔の旋回を完了させ、自慢の122mm砲を発射しました! 咄嗟に庇おうとする吸血鬼君主ちゃんを手で制した令嬢剣士さんが、胸元から外した勲章を天高く掲げながら誓いの言葉を高らかに唱えます!!

 

「我は自由と秩序を守護せし者(ホーリーオーダー)にして戦場にて苦難に喘ぐ者に手を差し伸べる者(ホスピタラー)! そして、故無くして斃れた者の無念を力とし、正当なる復讐を果たす者(アヴェンジャー)なり! 我が意志を貫き通す力よ、顕現せよ!!」

 

 戦場に令嬢剣士さんの宣誓が響いたのと同時に、爆炎に包まれる2人。声にならない悲鳴を上げた妖精弓手ちゃんの視線の先、ゆっくりと煙が晴れた場所には、まるで2人を庇うように立ちはだかる巨大な姿が!。

 

 小さな納屋ほどもある体躯と、それを覆う巨人の精髄が変化した金属(チタン)製の全身鎧。太く長大な牙にびっしりと見える細かな傷は幾度も戦を経験した証でしょうか。本来は穏やかであろう瞳を憤怒の色に染めた栄纏神(えいてんしん)使徒(ファミリア)が、冬将軍と生き残りの魔神を威嚇するように雄々しき咆哮を上げました!!

 

 

 

「Bmooooooooooooo!!」

 

 

 

「おっきいブタさん? ……じゅるり」

 

イボイノシシ(ワートホグ)ですのよ頭目(リーダー)。あとそんな目で見てはいけません、私の大切な相棒ですから」

 

 庇われる形になった2人は無事みたいですね! 見上げるほどの巨体を涎を垂らしながら見ている吸血鬼君主ちゃんをやんわりと窘めている令嬢剣士さん。その手には栄纏神(えいてんしん)の神官の象徴たる武器が握られています。鼻息も荒く冬将軍に突撃せんと構える使徒(ファミリア)の額に手を当てて落ち着かせながら、無傷で砲撃を防がれて狼狽しているように見える冬将軍に向き直り言い放ちます。

 

「無辜の民を殺め、その亡骸をゴブリンに弄ばせたこと、まこと許しがたき行為。大人しく討伐されるのであれば元の世界に還ることも出来るでしょう。しかし、抵抗するのならば……」

 

「Staa……liiiin!!」

 

 魔神のプライドか、はたまた召喚者との契約に因るものなのか。本体である粘体を内部に引き込み、最高速度で突撃してくる冬将軍を見て無言で武器を構える令嬢剣士さん。魔力を注ぎ込まれ起動したそれを冬将軍に向け、暴発寸前まで高まった力を解放する聖句(キーワード)を唱えました!

 

 

 

ぶっとばしてさしあげますわ(Enemy is in sight. Open fire)!!」

 

VVVRROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!

 

 

 

 七つの切先(銃身)から放たれる発射速度毎分3900発の魔力弾。牛の鳴き声とも評される砲声が実際に続いたのは1R(30秒)にも満たない時間でしょう。根こそぎ魔力を奪われて膝を付いた令嬢剣士さんを、傍らで見守っていた吸血鬼君主ちゃんが支えています。

 

頭目(リーダー)、私は貴女と共に歩み、人々を護る栄纏神(えいてんしん)の神官になれるでしょうか……」

 

「うん、きっとみんなきみにえーてんしんのかごをかんじるとおもうよ。まじんのかくまでくだいちゃうとはおもわなかったけど」

 

 2人が見る先には、()()()()()()()。装甲の破片も、飛び散って然るべき肉片も、強制的に送還された魔神が遺す残滓である()()()すらも。すべて消し飛んでしまったみたいですね。射線上にいた不幸な魔神も同様に消滅し、僅かな生き残りは後方で様子を窺っていた3人+αと使徒(ファミリア)によってあっとういうまに蹂躙されました。

 

 

 

「優雅には程遠いけど、とんでもない威力だったわねぇ……」

 

「いや、何でそんな平常運行なんだよ? アレか、クソチビの周りはこんなトンデモばっかりってヤツなのか???」

 

「オマエが言えた義理かよ……いやオレは違うからな! 一緒にすんなよ!?」

 

 魔神の落とし物を拾いながら集まってくるみんなを見ながら、ころんと大の字に寝っ転がった吸血鬼君主ちゃん。冬将軍が生み出していた暗雲が消えて空に太陽が顔を覗かせたので、日光浴で魔力の回復をしているみたいです。

 

「おなかすいた~……」

 

「申し訳ありません、私が魔力を強請ったせいで……」

 

 そんな吸血鬼君主ちゃんを膝枕している令嬢剣士さんも浮かない顔、口付けの際の魔力譲渡で吸血鬼君主ちゃんがすっからかんになったことに後ろめたい気持ちがあるのでしょうか。しばらく天日干ししていれば勝手に回復するので気にしなくても良いと思うんですが。

 

 

 

「んで、結局あの神官は何者だったの? 空から落ちた後に消えちゃったみたいだけど。それにあのでっかい猪にアンタの持ってる物騒な得物。私にゃさっぱりわかんない!」

 

「……まぁ、おせっかいな神様がいらっしゃったということにしておきましょう」

 

 日光で少し回復したのか、令嬢剣士さんの使徒(ファミリア)に乗ってモフっている吸血鬼君主ちゃんを見ながら首をふりふり唸っている妖精弓手ちゃんを見て、曖昧な笑みを浮かべたまま答える令嬢剣士さん。まさか単に破壊神さんが暴れたかっただけだなんて想像できないでしょうねぇ……。巨体の背中ではしゃいでいる吸血鬼君主ちゃんに向かって、疲れの滲む声が飛んできました。

 

「これでテメェの依頼は終了なのかクソチビ? 流石にちょっと休みてぇんだが」

 

 声の主はしゃがみ込んで賦活剤(エリクシル)を一気飲みしていた不良闇人さん、疲れの色が濃い顔で吸血鬼君主ちゃんを睨みつけています。隣の少年魔術師君も女幽鬼(レイス)さんを非実体に戻してどかっと座り込んでますね。2人の頭上では火の妖精?(K子)さんと女幽鬼(レイス)さんが互いの相棒の活躍を自慢し合っているようです。2人とも女子力高いなぁ……。

 

「うん、これでぼくのほうはおわり……んお?」

 

 お、吸血鬼君主ちゃんが虚空を見上げながら何度も頷いています。なるほど、このタイミングで吸血鬼侍ちゃんからの連絡が来たんですね! 連絡が終わり、訝し気な視線を向ける一行に対して、吸血鬼君主ちゃんが鮫のような笑みを浮かべながら告げた会話の内容は……。

 

 

 

「あのね、あっちのぼくたちがむかったうさぎさんのむらに、わるいきゅうけつきのいきのこりがこぶんといっしょにせめてくるんだって! ……キンスレイヤー(どうぞくごろし)のかり、みてみたくない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……いや、意味わかんねぇよ!?」」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 あ、お疲れ様です破壊神さん! どうでしたか久しぶりの下界は? 楽しんでいただけたようで何よりです。

 

 にしても随分大盤振る舞いでしたねぇ。アヴェンジャー(魔剣)ワートホグ(使徒)も使いこなすには時間がかかりそうですけど。

 

 え、彼女の魂が奥さんに似てたからついプレゼントしちゃった? えぇとその奥さんってどこちほーの奥さんですかねぇ? インド(パールヴァティー)北欧(ゲルズ)日本(クシナダヒメ)……。色々想像出来ますけど、深くは触れないでおきましょうか……。

 




 ゴミ漁り系2Hメイスブンブン型ドワーフ娘を組み上げるので失踪します。

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 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその11-6

次のセッションが待ち遠しいので初投稿です。



 前回、令嬢剣士さんが米国面栄纏神(えいてんしん)の神官としての力を継承したところから再開です。

 

 魔剣アヴェンジャーの一斉射撃で魔神"冬将軍"を消し飛ばし、長冬の原因を物理的に排除することに成功しました! 

 

 どうやらこの魔剣は扱う者の奇跡の回数を弾丸に変換して発射する機構らしく、まだ神官として目覚めたばかりの令嬢剣士さんでは一斉射が限界みたいですね。冒険で成長して奇跡の回数が増えれば一党(パーティ)随一の面制圧力の持ち主になってくれることでしょう。

 

 さて、吸血鬼君主ちゃんが妖精弓手ちゃんをお姫様抱っこし、新たに令嬢剣士さんの使徒(ファミリア)となったワートホグ(イボイノシシ)の背に残りの3人が乗り込んだところで、カメラを見習い聖女ちゃんサイドに戻してみましょう!

 

 

 

 

 

 時間はちょっと進み、現在吸血鬼侍ちゃん組が雪男(サスカッチ)氷巨人(フロストジャイアント)を撃退した日の翌朝です。夜明けとともに氷の魔女が配下を引き連れてお礼参りに来ると想定し、最低限の見張り以外はしっかり休息していたんですが……。

 

「……来ないわね」

 

「こないね~」

 

 暗視持ちで睡眠が不要なために夜通し警戒に当たっていた吸血鬼侍ちゃん、眠気覚ましのお茶を持って来てくれた見習い聖女ちゃんと一緒に首を傾げています。眼前には昨夜遅くから降り出した雪によって生み出された銀世界、足跡一つない綺麗な状態を保っていますね。

 

 昨日のうちに矢玉の準備と周到に張り巡らされている塹壕の確認は済ませており、馬車に積んであった予備の食料で兎人さんたちもおなかいっぱい元気いっぱい状態にしてあるので何時襲撃が来ても大丈夫なんですけど、ちょっと肩透かしです。

 

「おかしいね……いつもなら暢気に大声で歌いながら雪男が歩いてきたり、氷の魔女の先触れとして人狼(ルーガルー)が来ると思うんだけど」

 

 同じく徹夜で見張りをしていた垂れ耳の兎人(ササカ)さんも、乾燥ニンジンをポリポリしながら現状を不審に思っているようですね。にしても人狼とはこれまた()()()相手がいるものです。

 

「人狼って、たしか人に化ける狼のほうだよね? 狼の姿に成れる獣人(パットフット)じゃなくて」

 

「うん、ひとざとはなれたしゅうらくでおきる、じゅうにんどうしがつるしあうげんいんになるほう。ギルドのくんれんじょうでおべんきょうしたやつだね!」

 

「ふわぁ……たしか、銀か魔法の武器じゃないと深い傷を負わせられないんだったか。俺たちは兎も角此処のみんなにゃちょっと厳しい相手じゃないかな?」

 

 欠伸を噛み殺しながら外に出てきた新米戦士くん、そのまま大口を開け新雪に顔からダイブ! しばらく顔を擦り付けた後に口をモゴモゴさせながら起き上がり、口内で溶かした雪で口を濯ぎペッと吐き出してました。冒険者三大職業病のひとつである虫歯を防ぐには毎日の歯磨きが欠かせませんからね。ちなみに諸説ありますが、残りは水虫と皮膚病であるとされてます。どれも衛生状態に左右される病気ですので、冒険者はみんな可能な限り冒険中の清潔に気を付けています。それもあって、≪浄化(ピュアリファイ)≫を使える神官が非常に重宝されるんですね。

 

「とかげさんのかたなもあんまりこうかがないとおもう。……まっぷたつにひきちぎればさいせいできないけど」

 

「「うわぁ……」」

 

 吸血鬼侍ちゃんや蜥蜴僧侶さんが嬉々として人狼を八つ裂きにしている光景が容易に想像出来たのでしょう、垂れ耳の兎人さんと新米戦士くんの顔が面白いように歪んでいます。どうやら4人とも、人狼の特性についての知識は持っているようですね。

 

「旦那さま~! 朝ごはんの用意ができましたよ~!! ……あれ、小父さんたちどうしたの? なにか変なものでも食べた?」

 

 朝ごはんを報せに来てくれたのは、三角巾とエプロン姿が眩しい白兎猟兵ちゃん。変顔になった男性陣を見てくりっと首を傾げる仕草は、どことなく兎の習性を感じさせて可愛いですね!

 

「ま、腹が減っては何とやら。私は先に貰って来たから、とりあえず食べてきてちょうだい。あ、アンタは私と一緒に見張りよ!」

 

「ありがたい、それじゃお言葉に甘えさせてもらうよ」

 

「なにかあったらすぐによんでね!」

 

 手提げから麺麭の腸詰挟み(ホットドッグ)を取り出す見習い聖女ちゃんに対して、ぺこりとお辞儀をした垂れ耳兎人さんと一緒に、地下へと続く入口へ向かう吸血鬼侍ちゃん。なんで俺が……と言いかけた新米戦士くんの口にもうひとつ持って来ていたパンを捻じ込みながら、見習い聖女ちゃんが警戒を引き継いでくれました。それにしても随分ハイになってますね吸血鬼侍ちゃん。寝なくても平気でも、徹夜明けのテンションにはなるのかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「敵襲! 総員戦闘準備!!」」

 

 

「ふぁっ!?」

 

 突然耳に入ってきた新米コンビの大声に驚きの声を上げる吸血鬼侍ちゃん。朝ごはんをいただいた後、誘惑に負けて剣の乙女のお山を枕にうつらうつらしていたところでした。まわりで面白そうに眺めていた兎人たちが素早く武器を手に駆け出していくのを見ながら、蜥蜴僧侶さんもゆっくりと立ち上がっています。

 

「さて、鱗の身に寒さは堪えますが、暖は戦の熱と狩猟戦利品(トロフィー)にて取ることに致しますかな」

 

「おみやげになるといいね!」

 

 歯を見せる獰猛な笑みで剥ぎ取りを宣言する蜥蜴僧侶さんと目を合わせ、ニッコリと笑う吸血鬼侍ちゃん。その目にも狩りに対する悦びの色が浮かんでいます。≪分身≫から一個の独立した存在になって、吸血鬼が持つ攻撃性、嗜虐性は吸血鬼侍ちゃんのほうに集中したように思われます。まぁ吸血鬼君主ちゃんが専守防衛になったのかと言えば、そんなことはないんですけどね!

 

「私は兎人たちの援護に回ります。昼になればあの子たちも駆けつけてくるでしょうから、それまで負傷者を出さぬよう立ち回ってくださいね?」

 

「は~い! じゃ、いってくるね!!」

 

 一度剣の乙女のお山に顔を埋めてから全速力で地下居住区を飛び出した吸血鬼侍ちゃん、白兎猟兵ちゃんの声援を背に上空まで飛翔し、攻め手の陣営を確認したところ……。

 

「あれ? ゆきおとこもきょじんもいない……」

 

 眼下に見えるのは白地に歪な線を描きながら雪中を駆ける人狼ばかり。首を捻りながらもとりあえず手近な一体に狙いを定め、村正を抜刀しながら急降下。周囲に漂い始めた濃密な血臭が頭上から生じていることに気付き、反射的に見上げてしまった人狼は……。

 

「Ga……!?」

 

「あ、はんぶんにしたらけがわがだめになっちゃうんだった……」

 

 正中線で左右に分割され、雪の絨毯(カーペット)に沈む人狼。零れ落ちる中身が白を朱色に染め、進撃の終着点を彩っています。刃の血を振り払い、次なる獲物を探す吸血鬼侍ちゃんの目に、塹壕から顔を覗かせたまま迫り来る人狼に震える石弓を向けている兎人さんが写りました。あの毛色はたしか白兎猟兵ちゃんの弟妹の筈です!

 

「Grrrrr……Gaaaaah!!」

 

「くるな~こっちこないで~」

 

 ……ん? なんだか声に悲壮感が無いというか、切羽詰まった感じがしないというか。あ、吸血鬼侍ちゃんの視線に気付いた兎人ちゃんが可愛いウインクを飛ばしてきましたよ? 恐怖で震えるその肉を裂いて喰ってやろうという勢いで雪を掻き分けて兎人ちゃんへと迫る人狼。そういえば()()辺りって確か……。

 

「Gro!?」

 

 突然間抜けな声を上げて消えた人狼。雪原には大きな穴が空いています。あっけにとられた様子でそれを見ていた吸血鬼侍ちゃんに、怯えたフリをしていた兎人……あ、末の妹ちゃんですね、が大きく手を振りながら人狼消失のからくりを教えてくれました。

 

「このあたりには雪が大地を割って出来た深い裂け目がいっぱいあるんです! その近くにおとうさんたちがトンネルの出入り口を作ったって言ってました、おねえちゃんのだんなさま!!」

 

 あーなるほど、クレバスじゃありませんけど水が凍結する際に大地を割断するように、深い裂け目を生み出したんですね。興味を惹かれた吸血鬼侍ちゃんがぽっかりと空いた穴から下を覗き込んでみると……。

 

「G、Grr……」

 

「お~……」

 

 底のほうでもがく小さく見える人狼。どうやら落下途中に負傷し、そのまま動けなくなっているようです。もしかしたら頭部を打ち付けたりして即死していたほうが、彼にとっては幸運だったかもしれません。砕けた足が岩の間に挟まった状態で歪な形のままに再生し、完全にはまり込んだ状態。自ら足を切断しようとしても、持ち前の再生力が瞬く間に傷を塞いでしまっています。

 

 天井の裂け目から覗く赤い双眸に希望を見出したのか、プライドを捨てて哀れな声で鳴く人狼。その姿を見た吸血鬼侍ちゃんのとった行動は……。

 

「……」

 

「!? Ga、Gaa……!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、でした。

 

 既に脅威ではなく、また助けることにメリットを見出せないとはいえ、なかなかに厳しい対応です。慈悲の一撃を与えないのはあの人狼を救助しに来るかもしれない群れの仲間を釣るためか、あるいは単に時間と手間をかける価値を感じていないだけなのか。どちらにせよ、敵と見做した対象への苛烈さも吸血鬼君主ちゃんより上かもしれませんね。……それが悪いとは、口が裂けても言えませんけれど。

 

 どうやら同様の裂け目は各所にあるようで、上空から見ればあちこちに大穴が空いているのが見て取れます。出入口の近くに準備してあった岩を使って、兎人さんたちが裂け目の上に蓋をしています。落下防止と落ちた相手の心を折るためのものでしょうか? 振り向けば、先程の末妹ちゃんも小さな身体で頑張って岩を運んでいました。どうやらこれが彼らの正式な落ちた敵への対処法みたいですね。通常の矢玉では効果が薄いですし、わざわざ銀の矢を用意するまでもないということなのでしょう……。

 

 

 

 人狼の処理が終わったあたりでこめかみに手を当てる吸血鬼侍ちゃん。吸血鬼君主ちゃんから連絡が来たみたいです。同時に麓のほうから黒い雲がせり上がってくるのが確認できました。どうやら本体のお出ましのようですね! あまり良い話では無かったのか、苦い顔をした吸血鬼侍ちゃんが、負傷者の確認と全体の指揮を執っていた見習い聖女ちゃんの所へと降りていきます。

 

「たぶんあのくものなかにこおりのまじょがいる。あと、あのこかられんらく。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「それって、まさか!?」

 

 応急処置を施した兎人さんを抱いたまま悲鳴にも似た声を上げる見習い聖女ちゃん。力が入ったのか抱かれている兎人さんが暴れています。その手をゆっくりと引き剥がしながら、努めて平静を保った声で剣の乙女が断じます。

 

「吸ったのでしょう。己が配下の血を。しかも恐らく、極めて乱暴且つ杜撰に……」

 

 

 

 

 

 

「……つかいすてのこまにするなら、ほとんどちからをわけなくてもいいからね~」

 

 集まっていた兎人たちの毛が一斉に逆立ち、新米戦士くんが思わず剣を向けた先。双眸を赫怒の炎に燃やした吸血鬼侍ちゃんが牙を剝き出しにした笑みを浮かべていました。怒りの向く先は吸血鬼が増えたことでしょうか、それとも統制の取れない配下を生み出した氷の魔女に対してでしょうか。兎人たちが怯えるその瞳を隠すように、剣の乙女が吸血鬼侍ちゃんの頭を胸元へと抱き寄せました。

 

「あの子や上の森人(ハイエルフ)の姫が彼方にはいます。皆で力を合わせれば、吸血鬼禍を起こす種を残すことなどありませんわ」

 

 だから落ち着いてくださいという剣の乙女の呼びかけによって、なんとか周囲に巻き散らかされていた吸血鬼侍ちゃんの怒りは収まったようです。怒りでは無く羞恥によって赤くなった顔をお山から覗かせて、みんなにごめんなさいしてます。……ちゃんとあやまれてえらいぞ~。

 

 うーむ、吸血鬼君主ちゃんが子どもっぽいのは休眠期間が長かったからだと思ってましたけど、よくよく考えてみれば吸血鬼侍ちゃん……『"死の迷宮"の吸血鬼(ヴァンパイアロード)』も祈る者になってからそんなに時間が経ってないんですよね。しかもその大半が迷宮での死と隣り合わせの日々かその後の混沌勢力の首狩り……まともな情操教育を受けられる環境じゃあないです。もしかしたらまともに人とコミュニケーションをとったのは女魔法使いちゃんと出会った時からなのでは……。やはり女魔法使いちゃんが2人のママだった?

 

 

 

 

 

 

「随分と手間をかけさせてくれたねぇ、泥ウサギども!」

 

 立ち込める暗雲の下、吹雪を伴って現れた冷たい視線の美女。僅かに理性を保っている部下を引き攣れた氷の魔女が、忌々し気に一行を睨みつけています。配下の目が一様に赤く染まっているあたり、全員を吸血鬼化させたのは間違いないようです。理性を持たぬ喰屍鬼(グール)を吸血鬼君主ちゃんたちに嗾け、自身は兎人の集落を落とすために出てきたのでしょう。

 

「素直に従ってりゃ牧場扱いで生かしておいてやったものを、どうやら本気で死にたいらしいねぇ……ッ!」

 

 寒気と共に浴びせられた殺気で兎人さんたちの毛が逆立つ中、一歩前に進み出たのは見習い聖女ちゃんです。手に持つ天秤の剣を突き付けるように向け、高らかに言い放つ姿は修行中の身とは思えないほどの威厳に溢れていますね。

 

「幾許かの兎人が雪男の糧となるのは自然の摂理、それを罪とは言わないわ。でも、生者である配下を全ての生あるものに害を為す喰屍鬼(グール)従属種(レッサー)にしたこと、断じて認めることは出来ない!」

 

「ほざけ小娘、(あたし)を誰だと思っている! かつて北の大地を氷の下に沈め、静謐な世界を支配していた氷の魔女だぞ!! 誰も(あたし)の邪魔をする事なぞ出来やしない、たとえそれが(あたし)の封印を解いた愚か者であったとしてもね!」

 

 あー、なるほど。混沌の勢力が西方辺境を冬に閉じ込めるために採った手段は一つじゃなかったのか。冬将軍の召喚も、氷の魔女の封印を解くのもそのうちの一つであったと。ところが氷の魔女は制御出来ずに自由意思で活動し始め、それを見た至高神さんが≪託宣(ハンドアウト)≫に利用したんですね。

 

 ということは、吸血鬼である氷の魔女が日中に活動できるのは、冬将軍による天候操作では無くて彼女自身の力に因るもの。あの吹雪による日光遮断は彼女自身が行っていることなんですね。獅子に凹まされたのが100年前なだけで、実際にはもっと長い時を過ごしているのかもしれません。

 

 影を伴わぬ腕を持ち上げ、とある1人を指し示す氷の魔女。嗜虐的な笑みを浮かべ、配下である従属種(レッサー)に命を下しました!

 

「さぁオマエ達、餌の時間だよ! ()()()()()()()()()()()()()()()()、後は好きにしな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ?」

 

 

 

 

 

 

「うわヤバッ!? 兎人のみんなは地下壕に退避、良いって言うまで絶対に出て来ちゃダメだからね!!」

 

 まぁ、そうなるな(ZIUN師匠)

 

 予想通りブチ切れた吸血鬼侍ちゃん。普段からハイライトさんがいない瞳が吸血鬼君主ちゃんばりに収縮し、怪しい輝きを放ち始めました。横でそれを見てしまった見習い聖女ちゃんが慌てて兎人さんたちに避難指示を出しています。実に的確な判断ですねぇ。全員が退避したのを確認した見習い聖女ちゃんが扉に背を預け、一息入れたところにスッと差し出されたお茶。お礼を言いながら受け取り一気飲みした後に、差し出してきた()()()()()()()に向かってツッコミを入れてます。

 

「いやぁ、旦那さまってばすっごく怒ってますねぇ」

 

「なんでアンタ避難してないの!? 今から此処は地獄めいた戦場になるの確定なんだから!」

 

 まぁまぁもう一杯どうぞと言いながら陶製のポットからお茶を注ぐ白兎猟兵ちゃん。蜥蜴僧侶さんに首根っこを掴み上げられて落ち着くよう宥められている吸血鬼侍ちゃんを見ながら、普段通りの口調で返す言葉は……。

 

「や、好きな人が頑張る姿を見てみたいって思っただけですよ?」

 

 うーんこの素直さ。見習い聖女ちゃんも毒気を抜かれたようで、好きにしなさいと投げちゃいました。向こうでは吸血鬼侍ちゃんが雪原に逆さまに突き刺さった状態から復活中。どうやら蜥蜴僧侶によって物理的に頭を冷やされたみたいですね。感情豊かなことを悪いとは言いませぬが、激情に支配されるようでは大切なものを護れませぬぞ?と諭されシュンとしちゃってます。女魔法使いちゃんがママなら蜥蜴僧侶さんがパパなのかも。随分と濃い顔ぶれの家族だなぁ……。

 

 

 

 おっと、そうこうしているうちに吸血鬼化した(ヴァンピリック)雪男(サスカッチ)氷巨人(フロストジャイアント)が斜面を駆け上がって来ました! 雪原に適応した種族特徴は残っているのか、雪の下に潜む裂け目を器用に避けながら迫っていますね。竜牙刀を肩に担いだ蜥蜴僧侶さんが、何やら思案している様子。どうしたんでしょう?

 

「ふむ、竜牙刀では傷を負わせるのが精々、足場も此方が不利。さて、如何したものか……」

 

「あら、それでしたら私がお手伝い出来ますわ」

 

 お、吸血鬼の防護を抜く算段を考えていた蜥蜴僧侶さんに剣の乙女が微笑みかけ、持っている竜牙刀に触れながら呪文を唱えました。強い魔力の光を放ち始めた刀……≪力与(エンチャント・ウェポン)≫ですね! 感嘆の声を上げている蜥蜴僧侶さん腕に触れ、これはオマケですと言いながら追加の呪文を唱えると……。

 

「お? おお! 何やら拙僧の身体が腕竜(ブラキオン)の如き大きさに!?」

 

「10分で効果が切れてしまいますので、時間にはお気を付けて」

 

「ご助力感謝! では参りますぞ!!」

 

 氷巨人が子供に見えるほどに巨大化した蜥蜴僧侶さんが驚きと歓喜の咆哮を上げ、斜面を滑降する勢いで走り出しました。その足元には裂け目がありますが、身体に比して小さすぎるために落ちる心配はありません。おや? 脳も身体に合わせて巨大化したハズの蜥蜴僧侶さん(サイズ10倍)が、何故かちのうしすうが下がったようにヒャッハーしている姿を羨ましそうに見ていた吸血鬼侍ちゃん。目をキラキラさせながら剣の乙女の袖を引いてます。

 

「あのね、あのね!」

 

「申し訳ありません。≪巨大(ビッグ)≫の呪文に大人になる効果はありませんし、そもそもアンデッドには効果を発揮しませんので……」

 

「そんな~……」

 

 そういう呪文じゃないんだよなぁ……。先刻までの殺気を撒き散らしてした姿と、今のしょぼくれた姿のギャップに頭を抱えていた見習い聖女ちゃんが、すげぇ!かっけぇ!!と叫ぶ語彙力の不足している新米戦士くんの頭を小突き、正気に戻しました。そのまま何やら相談し、吸血鬼侍ちゃんと剣の乙女に声をかけた後に地下通路へと消えて行きました。はて、何をするつもりなんでしょうか? 2人の姿が見えなくなったのを確認して、吸血鬼侍ちゃんも前線に向かうことにしたようです。

 

「それじゃあ、こおりのまじょからはいかをひきはがしてくるね!」

 

「はい、お気を付けて」

 

「旦那さま、がんばってください!」

 

 2人の声援を背に吹雪舞う空へと飛翔する吸血鬼侍ちゃん、視界の悪さをものともせず一直線に向かう先は赤目の雪男の群れ。氷巨人の頭を掴み上げてバックブリーカーを決めている蜥蜴僧侶さんの足元をすり抜けようとしているところへ上空から迫り、抜き放った村正の一太刀で次々と首を刎ねていきます。斃した相手が増えるほど血臭に紛れて補足出来なくなる吸血鬼侍ちゃんを雪男は捉えきれず、ただ屍の山を築いていくばかり。宙を舞う雪が朱に染まるほど流れた血が、その勢いを物語っています。

 

 

 

「チッ、なんだってんだあの蜥蜴野郎!? オマエ達も行け、さっさとアイツを始末しな!!」

 

 業を煮やした氷の魔女が直掩と思しき氷巨人も戦線に投入し始めました! 巨人を千切っては投げ千切っては投げの活躍をしている蜥蜴僧侶さんですが、巨大化した状態での活動時間は長くありません。時間切れになったタイミングで圧殺するつもりなのでしょうが、残念ながら状況は既に詰んでいます。吹きすさぶ風音と戦場の奏でる音楽の中に紛れて、巨大な生物が迫る足音が響いているのですから。そして、天候をひっくり返す緑光の輝きと共に、彼らがやって来ました!!

 

 

「騎兵隊の到着ですわ!!」

 

 暗雲と吹雪を掻き消し、燦々と降り注ぐ陽光に焼かれ悶える雪男や氷巨人を跳ね飛ばしながら停止した巨躯。その背に跨った令嬢剣士さんが会心のドヤ顔をキメています、かわいい。同じく背に跨っていた少年魔術師君は青い顔をしており、不良闇人さんが憐れみを孕んだ顔で彼を介抱しています。酔ったわけでは無さそうですけど、どうしたんでしょう?

 

「クソッ、どんだけバケモンなんだよアイツ。それに、コイツ(女幽鬼)があんな簡単に喰屍鬼(グール)を滅ぼせるなんて、オレ知らなかった……」

 

「まぁその、なんだ。周りがアレ過ぎて気付いてなかったんだと思うけどよ、オマエが従えている生ける風(相棒)ってのはそれだけ怖ろしいモンなんだ。相手が吸血鬼やその眷属だったら、俺よりもオマエのほうが脅威度高いんだぜ? ……そして、その力を以てしても倒せる気がしねぇクソチビのヤバさ。早めに知れて良かったと思っとけ」

 

 ……背中に妖精弓手ちゃんを背負った吸血鬼君主ちゃんがテヘペロしていることから察するに、随分と派手にやったみたいですね。「生ける風」が邪悪なる者に対してどれだけ脅威となるのか、そしてそれを向けようとしている吸血鬼君主ちゃんがどれ程常識から乖離した存在なのか。彼が越えなければならない壁は随分と高いようです。

 

 

 

「……なんなんだ、オマエ達は一体なんなんだよ!?」

 

 配下が白煙を上げて悶える中で、半ば狂乱状態で叫ぶ氷の魔女。その周囲にはキラキラと輝く何かが広がっており、彼女だけが陽光に灼かれていません。あれ、微細な氷の結晶を纏うことで光を遮断しているみたいです。ふむふむ、だから彼女に影が無いんですね!

 

 え、違う? 吸血鬼には元から影が無い? いやでもダブル吸血鬼ちゃんには影が……やっぱりありますよね。ほうほう、太陽神さんが2人の背後(バック)についてるから影が生まれている。なるほど、だから最初にギルドを訪れた時に怪しまれなかったんですね! ……ってまさかのギャグ!? もう、いいんですかそんな理由で。

 

 おっと失礼しました。蜥蜴僧侶さん目掛けて突撃していた氷巨人も体中から白煙を上げて地に伏し、残るは氷の魔女ただ1人。地下通路を抜けて現れた人影が、彼女に終わりを告げるべく天秤の剣を掲げ言い放ちます。

 

「冒険者よ。生まれも育ちも、種族さえも違うけど、同じ目的のために集まった冒険者。氷の魔女、此処がアンタの終着点よ」

 

「ほざくな小娘! (あたし)は悠久の時を支配し、静謐なる世界を統べる吸血鬼(ヴァンパイア)だ!! 決してオマエ達如き定命(モータル)に滅ぼせるような存在では……!?」

 

 憎々し気に見習い聖女ちゃんに向けられていた視線が逸れた先、そこに在ったのは太陽と月の香りが入り混じった2つの小さな人影。異なる衣装に身を包み、同じ顔で興味深げに彼女を見つめる4つの赤い瞳。その輝きに射竦められたように固まる氷の魔女の口から零れた呟きは、絶望の()()()に掻き消され最後まで紡がれることはありませんでした。

 

「ま、まさかオマエ達は……オマエ達も吸血(ヴァンパイ)……ガッ!?

 

「……悪いけど、俺は弱っちい人間だから。まさか卑怯なんて言わないよな?」

 

 氷の魔女を挟んで見習い聖女ちゃんと反対側に回り込んでいた新米戦士くんの、キュルキュルと回る粉砕剣1/6(カシナート)を振り抜きながらの呟き。遮断結界ごと氷の魔女の半身を抉り取った一撃は、結界を失った彼女に容赦なく陽光を浴びせています。青白い身体を炎で焼き焦がされている氷の魔女の頭上から降り注ぐのは、祈りの聖句と共に繰り出された見習い聖女ちゃんによるトドメの一撃です……!

 

「裁きの司、つるぎの君、天秤の者よ、諸力を示し候え!!」

 

 天から降り注ぐ雷光に打ち据えられ、崩れ落ちていく氷の魔女。五体を維持できなくなり灰の山になったところで、最後の維持を見せました!

 

「こんな……こんな所で滅びるものか! (あたし)は……氷の魔女だ!!」

 

 ほんの僅かな氷のヴェールを頼りに、雪風に乗って逃げ去る氷の魔女。限界突破(オーバーキャスト)による追撃の≪聖撃(ホーリー・スマイト)≫を放とうと祈念を始めた見習い聖女ちゃんですが、緊張の糸が切れたのか膝を付いてしまい、駆け寄ってきた新米戦士くんに支えられています。悔し気に氷の魔女が飛び去った方向を睨む見習い聖女ちゃんですが、ダブル吸血鬼ちゃんが近付いて来たのを見てポツリと呟きます。

 

「あのさ、あんまり気乗りしないかもだけど……」

 

「ん、わかってる。あとはまかせて?」

 

「ぼくたちにもつごうがいいから、きにしないで?」

 

 申し訳なさそうな見習い聖女ちゃんの頭を背伸びしながら撫でる2人。どうやら徹底的に()()を利用するつもりのようです。注意を喚起する一行に手を振りながら、陽光に照らされた空へと飛び立ちました。山の向こうへと消える2人を見送った妖精弓手ちゃんが、何処か納得出来ないという表情で剣の乙女の傍に座り込み、空を見上げながら口を開きました。

 

「シルマリルとヘルルイン、あの女吸血鬼を喰うつもりよね……」

 

「ええ。それは恐らく力を取り戻すため、私たちの眷属化を早めるためなのでしょう」

 

「なんていうか、他の女を利用ってところにモヤモヤするあたり、私も随分イカレてるみたい」

 

「……私も、同じ気持ちです」

 

 ……綺麗に晴れ渡った冬空とは違い、恋する乙女の心情はなかなか複雑なようです。2人とも、帰ってきたらちゃんと説明しなきゃですね。

 

 

 


 

 

 

 手を繋いだまま血の匂いを辿って飛翔する2人。辿り着いたのは氷で覆われた洞窟のような場所です。恐らく雪男たちの生活空間であったと思われる凍り付いた()()()()や遺品の散らばる広間を抜け、彼らが通り抜けられない狭い通路の先。最奥の部屋に彼女は待ち構えていました。

 

「ハッ! 吸血鬼(ヴァンパイア)矜持(プライド)を知らぬ新参者(ニオファイト)が、永世者(エルダー)を前にしての礼儀も知らぬとみえる!!」

 

 拠点にあった≪邪な土≫を用いたのでしょう、外見は美しさを取り戻した氷の魔女の悪態に顔を見合わせるダブル吸血鬼ちゃん。彼女が何を言っているのか理解出来てない表情ですねクォレハ……。

 

「れいぎさほう、きいたことある?」

 

「ううん、だれもそんなこといってなかったね」

 

 

 

 

 

 

 

 

>「「みんな、おはなしするまえにぼくをころそうとしてきたもの」」

 

 

 

「ま、待て!? どうやらオマエ達は世界というものを知らないようだ。そ、そうだ、(あたし)がオマエ達に吸血鬼(ヴァンパイア)の社会というものを教えてやろう! 血族の種類や位階ごとの作法、それらを身に着ければ夜の世界で蔑ろにされることも無くなる。どうだ、(あたし)の従僕……いや、同盟者になれ!!」

 

 予想外の反応に慌てて自分を生かす事の有用性をアピールする氷の魔女。真に彼女が永世者(エルダー)ならば、()()()()宿()()()()は2人にとっても貴重なものでしょう。笑みを浮かべながら近付く2人に向かって、安堵の笑みを浮かべながら手の甲を差し出す氷の魔女。なるほど、接吻によって契約は為されるみたいですね。壊れ物を扱うように手を取る2人を満足げに見ていた彼女の顔が恐怖に塗り潰されたのは、僅か数秒後の事でした……。

 

「なっ!? オマエ達何を……があァァァァァ!?

 

 腕を抑え込まれ、両の首筋に食い込む同族の牙の激痛に悲鳴を上げる氷の魔女。その瞳には「何故だ?」という疑問がありありと見て取れます。血を失い徐々に霞む意識の中で、彼女の疑問に答えるように口元を赤に染めた2人の悪鬼が耳元で囁きます。

 

「あのね、きゅうけつきのれいぎとかはいらないの」

 

「ほしいのは、そのみにながれているちしきとけいけん、それだけ」

 

>「「だって、このへんきょうにのこっているきゅうけつきはぼくたちだけだから」」

 

「う……あぁ……ま、まさか、オマエ達……同族殺し(キンスレイヤー)……んむぅ!?」

 

 うわ言の様に呪詛を垂れ流す口を自らのソレで塞ぎ、口内を蹂躙していく吸血鬼君主ちゃん。その精髄一滴すら残さずに貪るような行為は氷の魔女の冷え切った心を犯し、蓄積されていた叡智や経験の全てが吸血鬼君主ちゃんに奪い取られていきます。やがて恍惚とした表情へと変貌した氷の魔女。最後に燃え上がる蠟燭の如く熱を求めてくる彼女に対し、愛しい者にするように2人は冷たい肢体を抱き締め、吸血鬼侍ちゃんがその喉元に最期の口付けを行いました……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。とってもおいしかったよ。……ごちそうさま」

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。 

 

 

 




 ゴミ漁り系ドワーフちゃんのレベルアップ作業を行うので失踪します。

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セッションその11 りざると


 セッションが延期になったので初投稿です。



 前回、ダブル吸血鬼ちゃんがごちそうさましたところから再開です。

 

 自称永世者(エルダー)な氷の魔女を喰らい、良い感じにみなぎったダブル吸血鬼ちゃん。意気揚々とみんなのところへ帰るために飛行していましたが、上空から激おこな女性陣を見た瞬間にHALO土下座を敢行。なんとかお説教とお仕置きは帰ってからにしてもらうことに成功しました。

 

 拭き取り損ねた口元の血を妖精弓手ちゃんに舐め取られ、ニッコリと微笑まれた時の2人はまさに蛇に睨まれた蛙状態。見習い聖女ちゃんの執り成しがなかったら弁明の暇も貰えずにその場で喰われていたかもしれませんね。

 

 

 

 さて、そんなこんなで至高神さんからの試練(クエスト)は無事に終了。一行は帰途に着いたのですが……。

 

「んなななな何で俺たちが外でUMAに騎乗してなきゃなんねぇんだよ!?」

 

「仕方ないでしょ、定員オーバーなんだもん。2人ともまだガキなんだから外でも平気でしょ?」

 

「あぁ? テメェこそ脂肪が足りてねぇから寒いんだろ……痛ってぇ!?」

 

「意地張ってないで相棒に暖めて貰えば良いだろうが……」

 

 ガタガタと震えながらおUMAさんに乗っていた不良闇人さんのケツに、荷台から飛んで来た矢がブスリ。隣で同じく寒さを我慢しながら騎乗してしている少年魔術師君からは呆れかえった視線。毛布を頭から被ったままの姿で矢を放った妖精弓手ちゃんを剣の乙女が宥めつつ、後方に見える巨体を眺めていますね。

 

「みんな本当に元気ですのね。冬の元凶を倒したとはいえ、寒さは変わっておりませんのに……」

 

 

 

「足元に近付きすぎてはいけませんよ! ……あの子たちを踏まないよう注意してくださいまし」

 

「プギィ!」

 

 巨体がゆっくりと歩を進める周囲を駆けまわる小さな人影。令嬢剣士さんが優しく頭を撫でながら、使徒(ファミリア)であるワートホグ(イボイノシシ)に指示を出しています。跳び付いて巨体をよじ登ったり背中で寝転んだりと、実にフリーダムな彼らの頭には左右に揺れる長い耳が。はい、白兎猟兵ちゃんとその弟妹たちですね! 何故彼らが一緒に着いてきているのか? これには深い事情がありまして……。

 

 

 


 

 

 

「最後の最後まで無茶振りをして申し訳ないんだけど、頼みたいことがあるんだ……」

 

 氷の魔女とその配下が倒され、平和が戻ったはずの兎人(ササカ)さんたちの集落。そこをお暇しようとしていた一行に、すまなそうな顔で声をかけてきたのは白兎猟兵ちゃんのお父さん。立つ鳥跡を濁さず、面倒事はすべて解決しようという考えのもと話を聞く一行。彼の口から零れたのは、想定以上に深刻な問題でした。

 

「アイツらがいなくなったおかげで食べられる仲間は減るだろうけど、このまま人口が増えると食料不足になりそうなんだ……」

 

 どうやら昔から雪男(サスカッチ)は彼らを食料と見做していたようで、兎人たちにとって家族の一員が食べられることは珍しくなかったようです。悲しくないわけではありませんが、皮肉なことにそれが人口調整の役割を果たしていたんだとか。

 

 近隣で食べ物が手に入らなくなってしまっては、活動中食べ続けなくてはいけない兎人は生きていけません。氷の魔女が滅んだことで行動可能な範囲は広がりますが、それですぐに食料が増えるはずもなく。このままだと群れの分割という名の口減らしが必要になってしまうんだとか。

 

「出稼ぎで食料を送ってくれとは言わないけど、どこか住み込みで働けて食べ物に困らない働き口を紹介して欲しいんだ」

 

 悔しそうに項垂れる白兎猟兵ちゃんのお父さんの肩を抱きながら続く垂れ耳兎人さんの台詞に考え込む一行。白兎猟兵ちゃんは兎も角、小さな弟妹たちを冒険者にするのは流石に難しいですし、そもそも兎人という種族があまり冒険者に向いていないという特性もあります。多くの食料を持ち歩かなければいけないというのは大きな弱点ですからねぇ。

 

 一時的にダブル吸血鬼ちゃんたちで預かるという案も出ましたが、それでは根本的な解決になりませんし、冒険で不在の時に彼らを不埒な連中から保護することも出来ません。何処か安全で信頼のおける、真っ当な働き口は無いものでしょうか。そんな誰もが羨むホワイト職場の存在に一番最初に辿り着いたのは、やはりこういう時だけ妙に冴えている妖精弓手ちゃんでした。

 

「あるじゃない。人手を募集していて、信頼出来て、私たちも良く知っている職場!」

 

「フム、確かにあそこならば安全が保障されておりますし、彼らが飢える心配はありませんなぁ」

 

 妖精弓手ちゃんの口から出た場所を聞いた一行の顔には納得の色が。あそこなら大丈夫だろうということで、白兎猟兵ちゃんの弟妹たちを預かってそこまで連れていくことになりました。吸血鬼侍ちゃんが事情説明と受け入れ準備のために一足先に飛んで向かい、標高が下がるにつれてぬかるみが増えてきた山道をゆっくりと一行は目的地に向かっているわけですね。

 

 あ、不良闇人さんと少年魔術師君の2人ですが、最初は兎人さんの集落で別れるつもりだったみたいです。ですが少年魔術師君が「意地張ってないでお姉ちゃんとあの()に逢っていきなさい!」と妖精弓手ちゃんに押し切られ、保護者役の不良闇人さんも不承不承同行しているといった塩梅。顔を赤くしながら余計なお世話だとそっぽを向いていましたけど、あの()って一体誰の事なんですかねぇ……?(ゲス顔ダブルピース)

 

 

 


 

 

 

「わわ、可愛い子がいっぱいだね! みんなきょうだいなのかな?」

 

「「「「「「「はい、そうです! おくさま!!」」」」」」」

 

 あくる日の昼過ぎ、目的地に到着した一行を笑顔で迎えてくれたのは牛飼若奥さんです! お行儀よく整列して返事をするおちびさんたちを1人ずつ順番にハグして、その暴力的なたわわの虜にしていますね。しれっと列に並んでいた吸血鬼君主ちゃんは素敵な微笑みを浮かべた剣の乙女に捕獲され、これまた圧倒的なたわわの海で溺れているようです。

 

「こっちの戦友から聞いたとおりに使っていない倉庫を空けておいたが……本当に調度品の類は要らないのか?」

 

「……ぷぁっ。ん、だいじょうぶ。いまからよういするから」

 

 吸血鬼侍ちゃんと一緒に姿を現したゴブスレさんの声に胸元から顔を引き剥がし、返事をする吸血鬼君主ちゃん。その言葉から察するに、何やら予め頼んでいたみたいです。ゴブスレさんに案内されて着いた先は古ぼけた倉庫。……牧場防衛ミッションの後、森人少女ちゃんと出会った場所ですね。

 

 綺麗に清掃され、あの時の情景を想起させるようなものは何一つとしてない倉庫内を見渡す吸血鬼君主ちゃん。暫し瞑目の後、インベントリーから取り出したものは……。

 

「……うわ、シルマリルってばまだ隠し持ってたの?」

 

「いざという時の資金源として、持っているよう頭目(リーダー)に進言していましたの」

 

 ズシリと重い、光り輝く黄金のインゴットです。吸血鬼侍ちゃんと2人並んで足を進め、立った場所は倉庫の中心。床一面に精緻に描かれた魔法陣の基点にインゴットを置くと、魔法陣から溢れる光が倉庫いっぱいに広がりました! 目を瞑ったままの2人の口から紡がれるのは、己が信じる神に捧げる祝詞。そして、世界そのものに干渉し望むままに変貌させる力ある言葉(パワーワード)です。特定の詠唱を持たぬが故に術者の心理が色濃く反映されるソレは、かつて体験したあの不思議な迷宮を生み出し、自らがその支配者(ダンジョンマスター)になるという宣言に他なりません!!

 

 

 

 

 

 

めいきゅうきんぐだむ(make you kingdom)!!」

 

 

 

 

 

 

 ボワンという気の抜けた音が鳴り、光の収まった倉庫。インゴットが置かれていた場所には地下へと続く石造りの階段が出来ていました。2人に案内されるがままゆっくりと階段を下る一行。頑丈な両開きの扉を抜けた先は夜目を持たない只人(ヒューム)には見通せない暗闇の空間が広がっていました。

 

 ぽっかりと口を開けた闇の中へと歩き出す一行。剣の乙女は吸血鬼君主ちゃんに、令嬢剣士さんは吸血鬼侍ちゃんに、牛飼若奥さんはゴブスレさんにそれぞれ手を引かれ、ゆっくりと進んでいきます。夜目の効く妖精弓手ちゃんや兎人さんたちの口から漏れる感嘆をお供に再び扉を開けた先。そこにも光通さぬ海が広がっていました。ですが吸血鬼君主ちゃんがインベントリーから星籠を取り出し、淡く輝きを放つ星の欠片に自らの星の力を注ぎ込み、宙に放り投げた瞬間……。

 

 

 

「これは……!?」

 

 照明の如く天井に輝く星に照らされた部屋を見て、言葉を失った様子の令嬢剣士さん。目の前にはふかふかのベッドや衣装入れが人数分配置されており、兎人ちゃんたちが一斉に自分のベッドを確保しに駆け出してますね。通って来た扉のほうを確認していた妖精弓手ちゃん曰く、あっちはリビングでそこからさらにキッチンや浴室、トイレなどに続いていたそうです。

 

「すっごーい! ねぇねぇ、どんな魔法をつかったの?」

 

 言葉を失った様子の冒険者たちとは対照的にキラキラした目でダブル吸血鬼ちゃんに質問している牛飼若奥さん。ヘヘンと自慢げに鼻の下を擦りながら交互に口を開いています。

 

「ここはいま、ダンジョンになってるの! あ、モンスターはでないからあんしんして?」

 

「いざというときのひなんばしょにもなるから、なにかあったらここにはいってね?」

 

「ぼくたちが()()まではぜったいにこわされないし、しんでもおへやじたいはのこるよ!」

 

「いまはこのひろさだけど、しょくばいをついかすればかくちょうもできるよ!」

 

「うんうん、みんなのお部屋をつくって2人ともえらいぞ~!」

 

 褒めて褒めてと言わんばかりの2人をハグして頬擦りしている牛飼若奥さん。その後ろにいる剣の乙女の顔は引き攣っていますね。2人が甘えているのに対してのヤキモチというわけでは無いようですが、そうするとやはり理由は……。

 

「あの、お2人とも? まさか今唱えた呪文は……」

 

 

 

 

 

 

「「≪ダンジョンマスター≫だよ???」」

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、おっぱい乙女。その≪死王(ダンジョンマスター)≫とかいう呪文、名前からして嫌な予感しかしないんだけど???」

 

 何処か遠い目をしている剣の乙女を見て何かを察したのか、妖精弓手ちゃんの問いが石造りの部屋に虚しく響いています。まさかこんな使い方をするとは思っても見なかったでしょうねぇ……。

 

「……あの『死の迷宮』も強力な死霊術師の≪死王(ダンジョンマスター)≫によって生み出されたと言われています。支配者となった術者の意思が反映されるとはいえ、居住施設を設けるのに用いるなんて……」

 

 おっと! 精神的ショックで倒れそうになった剣の乙女を妖精弓手ちゃんがギリギリのところでキャッチすることに成功しました。背後から抱き留める形となり、腕に感じる圧倒的な柔らかさにくっ(72)という表情を隠しきれておりません。吸血鬼君主ちゃんが大小無の区別なく全部大好きとはいえ、やはり膨らみには憧れがあるのでしょうか……。

 

 おや、なにやら思案していたゴブスレさんが、牛飼若奥さんのママっぱいに敗北しているダブル吸血鬼ちゃんに質問があるみたいです。いいか?と前置きをした後に、問い掛けを始めました。

 

「最初に呪文を唱える際、金塊を使っていたな。つまり、代価さえ用意出来れば迷宮(ダンジョン)を生成出来るのか?」

 

「うん。なかでしんだひとをいきかえらせることはできないし、たべものをうみだすことはできないけど」

 

 ああ、そのあたりは『死の迷宮』とおんなじなんですね。復活するのは怪物(モンスター)(トラップ)、そして財宝(ドロップ)のみ。食料は自前で用意しなければといけないと。

 

「それと、先程怪物(モンスター)は出ないと言っていたが……出す場合出現するヤツは選べるのか?」

 

「ぼくよりもよわいモンスターならえらべるよ。オーガでも、ドラゴンでも……()()()()()()

 

「ダンジョンからでられないようにすることもね。……いま、なにをかんがえているか、わかるよ?」

 

 その予行練習も兼ねてたの、と鮫の様な笑みを浮かべるダブル吸血鬼ちゃん。頭上に?を浮かべている牛飼若奥さんを挟んで、3人の赤く光る視線が交差する空間。内面で揺れる感情を押し殺しながらゴブスレさんがしゃがみ込み、2人と同じ高さに目線を合わせ、呟きます。

 

「……頼む」

 

「いいよ、ぼくもおなじことをかんがえてたから」

 

「ちょっとだけじかんをちょうだい? へいかにもきょかをもらったほうがよさそうだから」

 

 牛飼若奥さんの抱擁から抜け、片膝を立ててしゃがんでいるゴブスレさんに近付く2人。そっと両の頬に顔を寄せ、牛飼若奥さんに聞こえないように囁くのは優しさの発露か、それとも呪いの言葉でしょうか。

 

 

 

 

 

 

「「こおにごろし(ゴブリンスレイヤー)はかならずあらわれる。だから、そのいきかた(ゴブリンスレイヤー)をきみたちのこどもにうけつがせるひつようなんてないの。あのこたちは、じゆうにいきかたをえらんでいいんだよ?」」

 

「……ああ、そうか。そうだな」

 

 

 

 

 

 

「あれあれぇ~、なんか良い雰囲気になってる。ひょっとして……浮気? どうしよう、2人がかりで私の旦那さまがとられちゃうかも!」

 

「違う」

 

「せんゆうとはそんなんじゃないよ!?」

 

「あ、でもママのほうのおっぱいはちょっとほしいかも。おあ~……」

 

 あちゃー、ぷんすこしているふりの牛飼若奥さんの冗談に過敏に反応して、吸血鬼侍ちゃんが真っ赤になっちゃいました。人妻のお山を物欲しそうな目で見ていた吸血鬼君主ちゃんは、ベッドに剣の乙女を放り出して駆け付けた妖精弓手ちゃんにお仕置きされてます。その後ろからやって来た白兎猟兵ちゃんが、7人のおちびさんたちと一緒にゴブスレさん夫妻に一斉に頭を下げました。

 

「どうか、弟妹たちをよろしくお願いいたします。旦那さま、それに奥様」

 

「「「「「「「よろしくおねがいいたしします!!」」」」」」」

 

「うん、こちらこそよろしくね!」

 

「……宜しく頼む」

 

 ふわふわな兎人のおちびさんに囲まれて、困惑気味のゴブスレさん。滅多に見れない姿に一行の顔にも笑みが溢れています。暫くは食料の支援が必要かもしれませんが、地母神の神殿の人員と合わせて牧場の拡大が進めばじきに解決するでしょう! 長かった冬は終わり、もうすぐ春が訪れる西方辺境。新しい出会いとともに物語は続いていきます……。

 

 

 


 

 

 場面は変わって一党(パーティ)の自宅。白兎猟兵ちゃん以外のおちびさんたちを牧場に預け、ギルドに簡易報告をした後に帰宅した一行を迎えたのは今回冒険(セッション)不参加だった面々です。牧場で偶々出くわした女神官ちゃんとの会話を思いっきり弄られて臍を曲げている少年魔術師君を女魔法使いちゃんが追撃し、ふざけてしなだれかかってくる森人狩人さんに過剰反応した火の妖精(K子)さんが不良闇人さんの首を赤々と燃えるツインテールで締め上げるカオスな光景。いや~これこれ、実にホームに戻ってきたって実感が湧きますね!

 

「それじゃあ、新たな聖女の誕生を祝して……乾杯!」

 

 いつも通り、妖精弓手ちゃんの音頭で始まった見習い聖女ちゃんの試練(クエスト)達成のお祝いを兼ねての大宴会。店屋物と森人少女ちゃんお手製の料理、それにたくさんの酒がテーブルの上に所狭しと並べられています。新米戦士くんは粉砕剣(カシナート)氷巨人(フロストジャイアント)や氷の魔女を倒したことを身振り手振りを交えながら熱弁し、森人少女ちゃんに必死のアピール。外交の氏族出身のエリートらしく見事な聞き手になっていますが、残念ながら新米戦士くんの恋は実らないようです。そんな彼の様子を骨付き肉を骨ごと噛み砕きながら半目で見ている見習い聖女ちゃん、先達である剣の乙女から「思いは口に出し、行動しなければ実りませんよ?」と諭され、グッと拳を握り何か決意を新たにしたようです。……今夜は客間を一つ用意しておいたほうが良さそうですね!

 

 

 

「で、大司教の位を譲る目途は立ったわけだけど」

 

 宴も進み、テーブル上の食べ物やお酒が無くなりかけてきた頃合い。ワイングラスを弄んでいた女魔法使いちゃんが、膝上の吸血鬼君主ちゃんに視線を向けながら戦端を開きました。部屋の空気が変わったのを察した見習い聖女ちゃんが酔い潰れた新米戦士くんを背負い、令嬢剣士さんに案内されて二階へと消えて行きました。女性陣からのサムズアップに良い笑顔でサムズアップを返す姿はまさに歴戦の戦士。もはや誰も彼女を見習いなどと呼ばないでしょう!

 

 同様に戦略的撤退を目論んだ不良闇人さんと少年魔術師君ですが、賢者ちゃんに呼び止められて渋々と席に戻っています。態々惚気話を聞かせる為では無さそうですが、何か彼らにとっても重要な話なのでしょうか?

 

「大司教の話の前に、皆に見せたいものがあるのです」

 

 そう言って賢者ちゃんが四次元ポシェットから取り出したのは、紅玉色に輝く液体の入った小さな瓶。テーブルに置かれたそれからは強い魔力が感じられます。冒険に出ていた面々からの問いかけるような視線を受け止め、賢者ちゃんが話し始めました。

 

「さて、『豊穣』の水薬(ポーション)というものを知っているのですか?」

 

「子を授かりにくい夫婦が服用するものですわよね? 貴族の間でも服用する者がおりますので」

 

 令嬢剣士さんが思い出すように呟くのを聞いて、頷きを返す賢者ちゃん。ふむふむ、一種の不妊治療薬みたいなものでしょうか。卓上の瓶がそれだとすると随分高価そうですが。

 

「あれはあくまでも媚薬の類。夜戦が盛り上がることはあっても実際に妊娠確率が高くなるものでは無いのです。ですが、この霊薬は違うのです」

 

 そこで言葉を区切り、賢者ちゃんが見る先には森人少女ちゃん。そっと瓶を持ち上げ、大切なものであるかのように胸に抱きしめながら説明を引き継いでいます。

 

「この霊薬は魔術的な作用で服用者の複製を胎内に作り、同時に注がれた魔力の持ち主の特徴を引き継いだ子を生成します。その際、産まれてくる子の種族は母体のそれに準じ、魔力提供者の特徴のみを受け継ぎます。……その種族を問わずに」

 

 難解な言い回しに脳が着いていかず、ダブル吸血鬼ちゃんと妖精弓手ちゃん、それに不良闇人さんの頭上には?マークが。ですがそれ以外の面々には通じたようで、みんな驚愕の表情を浮かべています。……童貞男子2人の背後に浮かぶ相棒さんたちも。

 

「それは、只人(ヒューム)の男性と森人(エルフ)の女性が交わっても、産まれてくるのは半森人(ハーフエルフ)ではなく只人の男性の特徴……体格や髪色などを受け継いだ森人、しかも女性となるのですか?」

 

 令嬢剣士さんの問いに頷きを返す森人少女ちゃん。では、という声と共に、剣の乙女がもっとも重要であろう問いを投げかけます。

 

「それが、本来子を為せぬ組み合わせ。森人と圃人(レーア)、あるいは……」

 

そこで口を噤む剣の乙女を見て、言いたいことは分かるという思いの籠った微笑みを浮かべる賢者ちゃん。その口から発せられたのは、彼女たちが心より待ち焦がれていた言葉です。

 

 

 

「はい、交わる相手がその子……吸血鬼(ヴァンパイア)であっても、産まれてくる子は母親と同じ種族、性になるのです」

 

 

 

 瞳や髪の色、呪文遣い(スペルスリンガー)の素養など吸血鬼以外の特徴は引き継ぐと思いますが、という賢者ちゃんの言葉は果たして皆に届いたでしょうか? 堪え切れずに瞳から大粒の涙を零す森人少女ちゃんの肩を年長の森人2人が抱き締め、良かったわねと祝福しています。その傍らで会話の流れに着いていけず、赤裸々な話題に居心地が悪そうに身じろぎしている男子2人。しゅるしゅると近寄って来た賢者ちゃんの呟きによって一瞬にしてその表情が凍り付きました。

 

 

 

 

 

 

「ちなみに、母体が実体を持っていなくても魔力を取り込めば子を為せる計算なのです。……これで童貞からオサラバなのです」

 

 その言葉で漸く理解が及んだのでしょう。脱兎のごとく逃げ出そうとした不良闇人さんでしたが、即座に目がハートの火の妖精(K子)さんによって捕縛されています。先に気付いていたであろう少年魔術師君は……既に女幽鬼(レイス)さんに金縛りにされてますね。もはや、のがれることはできんぞ。

 

 女性陣の喜びっぷりにビックリして動きを止めていたダブル吸血鬼ちゃんもなんとか理解できたのか、2人で抱き合ってますね。おや、吸血鬼侍ちゃんのほうが挙手をしてます。何か聞きたいことがあるのでしょうか?

 

「えっと、ぼくがそのくすりをのんだら、トカゲさんのあかちゃんをうんであげられる?」

 

「可能ですが、その場合種族は吸血鬼となるのです」

 

「ムウ、それは残念ですな。参考までに男子が服用するモノは無いのですかな?」

 

 ありゃ、それは残念ですね。蜥蜴僧侶さんの尻尾も力を失って床に伸びてしまいました。未練というよりは疑念を払拭するために投げかけた問いでしたが、それを受け取った賢者ちゃんの顔は厳しいものです。予想外の反応に驚く蜥蜴僧侶さんを見て、コホンと咳払いの後に賢者ちゃんが答えを返しています。

 

「申し訳ないのですが、効果を男性側に依存する霊薬は無いのです。そして、この先も絶対に作らないのです。理由は……察して貰えると思うのです」

 

 賢者ちゃんの問いにダブル吸血鬼ちゃんと一緒になって首を傾げる蜥蜴僧侶さん。やがて答えに辿り着いたのでしょう。苦虫を嚙み潰した表情で、牙の隙間からそれを漏らしました。

 

「小鬼、ですな……」

 

 あっ、という表情のダブル吸血鬼ちゃん。周りで話を聞いていた面々の顔も青褪めています。確かに、男性側に効果を依存する霊薬の製法が万が一混沌の勢力の手に渡ったとしたら……。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな未来になる可能性がゼロでない以上、その霊薬は存在してはならないのです」

 

 それは……想像しただけで地獄ですね。鎖に繋がれた女食屍鬼(グール)に群がり、延々と腰を振るゴブリン。手荒に扱っても壊れることなく無尽蔵にゴブリンを増やし続ける孕み袋の誕生です。もしかしたら食屍鬼だけでは済まないかも。その上位種である吸血鬼(ヴァンパイア)でさえも……。

 

「「うぷっ……」」

 

 青い顔になって口元を押さえているダブル吸血鬼ちゃん。『死の迷宮』で凌辱された記憶は有っても、永劫に等しい時間ゴブリンに嬲られるという想像などしたことなど無かったでしょう。2人の背中をさすりながら、賢者ちゃんが話しを続けています。

 

「女冒険者に予め摂取してもらうという案もありましたが、我ながらあまりに人でなしな考えだったので却下したのです。幸い帝王切開の術式がほぼ確立したので、この霊薬が世に出回ることは無いのです」

 

 それに、と続ける賢者ちゃん。森人少女ちゃんが持つ瓶を見ながら、ため息交じりに語るのは……。

 

「その霊薬は、まだ臨床試験が出来ていないのです。大っぴらにできないモノなので信用のおける対象に使ってもらう予定でいたのですが……」

 

 あ! 呆れ交じりの賢者ちゃんの視線の先、微笑みを浮かべた森人少女ちゃんが霊薬の瓶を開封してる!? 学院に赴いていたメンバーは既に承知だったのでしょう、瓶の中身を呷る森人少女ちゃんを畏敬の籠った視線で見つめています。液体を嚥下する度に動く白い喉元を呆然と見つめる一同。

 

 やがて中身を全て飲み干し、ほうっという熱の籠った吐息と共に、ゆっくりと森人少女ちゃんが吸血鬼侍ちゃんへと近付いて行きます。恐る恐るといった風に吸血鬼侍ちゃんを抱き締め、その耳元で自らの想いを打ち明けています。

 

「主さま。(わたくし)の最後の我儘です。私を……んむぅ!?

 

 突然口を塞がれて目を丸くする森人少女ちゃん。塞いだのは……吸血鬼侍ちゃんの唇です。体内の熱を貪り、奪い取るような口付け。僅かな時間で出来上がってしまった森人少女ちゃん、その濡れた瞳を見つめながら、吸血鬼侍ちゃんから誓いの言葉が送られました。

 

 

 

「おねがいします、ぼくのあかちゃんをうんでください」

 

「……はい!!」

 

 泣き笑いのような顔のまま、抱擁を交わす2人。やがて吸血鬼侍ちゃんが森人少女ちゃんをお姫様抱っこし、お熱いシーンに見入っていた一同に対し見惚れるような笑顔で宣言しました。

 

「ちょっとこづくりしてくるから、のぞいたりしないでね?」

 

「実地観察は勘弁しておくので、後で詳細なレポートを提出するのです」

 

「承知しました、微力を尽くします……ッ!」

 

 賢者ちゃんの無粋なツッコミに笑顔で返し、二階へと消えていく2人の影。残された面子は一様に顔を赤くし、2人の熱気に当てられてしまったみたいです。先ほどまでの青い顔はどこへやら、自分と同じ顔をした子の妖艶な顔を見て、沸き立つ感情を持て余しているように思える吸血鬼君主ちゃん。戦端を開いたはずの女魔法使いちゃんも事態の推移に着いていけず、半ばずり落ちるような姿勢で椅子に背を預けています。赤い顔でもじもじしている剣の乙女と目が合いましたが、もはや続きを話すための気力は残っていないみたいですね。

 

 

 

「ほわぁ~……すごかったね……」

 

「ええ、あんな風に迫られたら私もどうなっていたことか。他のみんなは……駄目みたいね」

 

 二階へ駆け上がろうとしている森人狩人さんと、それを必死に止めている令嬢剣士さん。赤ちゃんが出来たらおっきくなるかしらと自分の胸に手を当てている妖精弓手ちゃん。白兎猟兵ちゃんはぼかぁウィズボール(やきう)チームが作れるくらい欲しいですねぇと笑ってますし、童貞2人は相棒のねっとりとした湿度の高い視線に耐え切れず気絶しています。うむ、見事に全滅していますね!

 

 

 

「熱病の如く浮かされるのが恋、その後に産まれるのが愛と鳥人(ハルピュイア)の女性が歌っているのを耳にしたことはありましたが……いやはや、愛もまた燃え上がるものであったとは! ひとつ勉強になりましたな」

 

「燃え上がるというか、じっとりと沁み込んで来るというか……。まぁあの子たち2人なら、私を含めたこの面子を受け止める甲斐性はあるでしょうよ」

 

 呵々と笑う蜥蜴僧侶さんを横目に、呑まなきゃやってられないわと呟きながらキッチンへと向かう女魔法使いちゃん。戻ってきたその手には新しい葡萄酒の瓶と、チーズの乗せられた皿。目を輝かせている蜥蜴僧侶さんの前に置き、2つのグラスに葡萄酒を注いでいます。

 

「渋みが強くて普段は馬鹿義姉(ばかあね)しか飲まないけど、今日は美味しく飲めそうね。口の中が甘ったるくてしょうがないもの」

 

「それには同意ですな。そんな時はやはり塩気の強いチーズが合うかと」

 

 収拾のつかない眼前の惨事を肴に朝まで痛飲することを決めた2人。グラスを掲げたところで何に乾杯するか思案していましたが……。

 

「このろくでもなく、とても素晴らしい世界に」

 

「斯様な世界で、同じ時間を過ごすという幸運に」

 

 

「「乾杯」」

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 PLのコンディションを整えるので失踪します。

 なかなか週一投稿が難しくなっている状態で、評価やお気に入り登録をしていただきありがとうございます。

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 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその11 いんたーみっしょん

やたらと筆が走ったので初投稿です。



 お早う御座いま……おや至高神さん、涙目になって何を見ていらっしゃるんで?

 

 ふむ、これは彼女の幼き頃の肖像(ポートレート)

 

 今の妖艶な美しさも良いですが、未だ咲くことを知らぬ蕾もまた可憐ですね。

 

 しかし何故今更になって……? ふむ、散々な苦労をかけた娘にどうにかして幸いを届けたいと。

 

 成程成程。そう言うことならお任せを。

 

 この万知神、うどんと屁理屈を捏ねる腕は神々の中でも随一と自負してますので。

 

 まぁ見ててください、本当の祝福ってヤツをご馳走してあげますよ……!。

 

 


 

 

 吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)育成実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、吸血鬼侍ちゃんと森人少女ちゃんが真に結ばれたところから再開です。

 

 大宴会の残り香漂う翌朝。死屍累々という言葉が相応しい一階へと手を恋人繋ぎで降りて来た吸血鬼侍ちゃんと森人少女ちゃん。賢者ちゃんが魔力探知を試みたところ、無事胎内に新しい魔力反応が見つかりました! 今後は成長速度や母体への影響を慎重に検査しつつ、様子を見守っていくそうです。

 

 また、奇跡のような出来事を目の当たりにした半透明の恋する乙女2人が、自分たちにもと熱と湿度の籠った視線で霊薬を要求。貴重なサンプルになりそうなのですとノリノリな賢者ちゃんによって残りの試作品が供与されました。実態も無いのに飲めるのかなぁという疑問がありましたが、どうやら聖水や聖油と同じで非実体にも干渉出来るとのこと。飲むというよりは体内に取り込むという感じみたいです。嬉々として黄金の液体を身体に受け入れる相棒を見た童貞男子2人の絶望フェイス、蜥蜴僧侶さんが黙って2人の肩を叩く程度には素晴らしいものでした。

 

 

 

 さて、そんなイベント盛りだくさんな朝から数日が経過しました。各方面への報告と根回しのために本日はみんな別れての行動です。吸血鬼侍ちゃんと森人少女ちゃん、それに令嬢剣士さんと賢者ちゃんは、金髪の陛下へ新たにギルドの訓練場に建設する施設の説明と、その許可を得るために王宮へ。ついでに妊娠?報告と霊薬の説明もする予定とのこと。

 

 不良闇人さんと少年魔術師君は半鬼人先生へ報告するために、謁見組の≪転移≫の鏡に便乗して王宮経由で学院に。ひとつ上の男になった2人を見た半鬼人先生の反応が楽しみです! 背後に浮かぶ相棒2人が揃って自らの腹部を愛おしそうに撫でていますが……うん、詳細は後ほどレポートでいただきましょうか。

 

 剣の乙女と見習い聖女ちゃん、それに新米戦士くんは水の都の神殿へ。無事≪託宣(ハンドアウト)≫で指定された試練(クエスト)を達成したので、本格的に大司教の地位を譲る準備に入るそうです。本当は宴会の翌日には向かう予定だったのですが、予想以上に見習い聖女ちゃんの腰と新米戦士くんのメンタルに負荷が掛かっていたために休息を挟んでいたそうです。……至高神の神官はみんな肉食系になるんですかねぇ?

 

 

 

 女魔法使いちゃんと森人狩人さんは受付嬢さんに泣き付かれてギルドの訓練場へ。なんでも年が明けてからこっち、手厚い福利厚生とタダ飯の噂を聞きつけて、王都などから青玉・鋼鉄等級の冒険者が流れて来ているそうです。新米たちの模範となるような冒険者なら大歓迎なのですが……どうもタチの悪い(福本モブ的な)連中らしく、秋に冒険者デビューした新人に横柄な態度で接するわ、春に()()を済ませている黒曜・白磁等級の子たちを「ゴブリンを殺すのに練習が必要な腰抜け」と下に見るなど好き勝手しているとのこと。職員からの注意にも耳を貸そうとせず、実力行使をチラつかせてくる始末。このままだと我慢の限界を超えた洗礼組がキレて血が流れるかも……というところまで来ているんだとか。

 

 ギルドとしても冒険者の品位を下げるような連中を放置しておくわけにはいかないので、女魔法使いちゃんと森人狩人さんに加え、依頼から戻って来た重戦士さんと槍ニキという泣く子も慈悲を乞う面子で黙らせに出るそうです。既に監督官さんが王都から連中の冒険記録用紙(アドベンチャーシート)を取り寄せており、更生の見込みの無い者はその場で冒険者の身分を剥奪、場合によっては犯罪者として捕縛する許可も下りている模様。

 

 どうやらギルドも本腰を入れて冒険者の綱紀粛正に乗り出したようですね。訓練場の存在で新人たちの技術とモラルの底上げが見込める以上、低等級で胡坐をかいている評判の悪い冒険者は不要と判断したのかもしれません。それに不満で野盗や山賊に転身するのならば……粛清する大義名分を得るようなものですから、ね?

 

 

 

 残りの面子である吸血鬼君主ちゃんに妖精弓手ちゃん、白兎猟兵ちゃんですが……彼女の弟妹であるおちびさんたちが働いている牧場に来ています。急に食べ盛りの子どもが増えて備蓄が不安になりそうな牧場に食料を届け、ついでにおちびさんたちの日用品も持ってきた感じですね。

 

 まだ働き始めて数日ですが、おちびさんたちはみんな元気に牧場の中を駆けまわっています。春植えの蕪や玉蜀黍の畑にする予定の荒れ地で木の根や石の除去、それに土壌改良の為の腐葉土や牛糞のすき込み(Plow Under)を頑張る姿。肩から下げた牛飼若奥さんお手製のポシェットからは、おやつ兼非常食の人参が頭をチラリ。大きな岩や切り株なんかはちょっと彼らには厳しいので、それらを発見したときには……。

 

 

 

「「「「「「「だんなさま、おねがいします!」」」」」」」

 

「ああ、少し離れていろ」

 

 ゴブスレさん(旦那さま)が棒を使い、梃子の原理で切り株を掘り返すのを「がんばえ~!」と応援するおちびさんたち。応援に夢中で作業の手が止まっているのはご愛敬というものでしょう。僅かに隙間が生まれたところで絶賛ファーマーライフを満喫中な英霊さん2人が手を突っ込み、鎧姿の3人掛かりでぶっこ抜きました! 見事切り株を引っこ抜き、「すっご~い!」と称えられ困惑しているゴブスレさんとまんざらでもなさそうな英霊さん2人。その奇妙な一幕を偶々通りかかった伯父さんが生暖かい笑みで眺めているのが印象的でした。

 

 

 

 さて、リアル牧場物語が進む傍らで、吸血鬼君主ちゃんは何をしているのかといえば……。

 

「フン! ハァ!! セィヤァ!!!」

 

「よっ、ほっ、へぷっ!?」

 

 女騎士さんが繰り出す連撃を躱し切れず、宙に打ち上げられてますね!

 

 盾を投げ捨て両手持ちとなった長剣は重戦士さんには及びませんが十分に重く、単なる力任せでは無い一撃はウェイト差という吸血鬼君主ちゃんの数少ない弱点にぶっ刺さり、面白いようにポンポン空中へと跳ね上げられています。やがて顔面から地面に落ちた吸血鬼君主ちゃんの首元に切っ先が突き付けられ、幅広い刀身(天叢雲)の剣を離し両手を降参のポーズに上げたところで手合わせが終了しました。

 

「む~りぃ……こうさ~ん……」

 

「ハッハッハ! いやぁ良い運動になった。膂力も技量も持ち、何よりうっかり一撃を入れてもあっという間に再生するのが最高だ! 君に相手を頼んで正解だったな」

 

 普段見慣れた騎士甲冑ではなく、豊満なお山が見て取れる鎧下姿。その腹部は既に引っ込み、女性でも羨むプロポーションを取り戻しています。吸血鬼君主ちゃんの手を取って立ち上がらせ、ご褒美と言わんばかりにその顔をお山に埋もれさせてますね。

 

「惜しかったわねぇシルマリル。もうちょっとご飯食べて大きくなれば、なんとか踏みとどまれるんじゃない?」

 

「そうですよ()()! もっと人参食べましょう!!」

 

「ふふ……流石、に、大きくは、ならない、と、思う、わ?」

 

 簡易的なテラスに置かれたテーブル席でそれを観戦していた女性陣。残念そうに肩を落とす妖精弓手ちゃんとポシェットから人参を取り出す白兎猟兵ちゃんを見て、魔女パイセンが苦笑しています。ゆったりとしたデザインのブラウスにロングスカート、トレードマークのとんがり帽子はそのままな彼女のおなかも蠱惑的な曲線を描き、3人のいるテーブル席の傍には2台の移動式ベビーベッドが置かれています。ベッドの中にはスヤスヤと眠る赤ちゃん。黒髪にキリっとした眉の女の子と、紫色の髪に泣き黒子が特徴の男の子。辺境に名を馳せる銀等級ダブルカップルの愛の結晶です!

 

 

 

 ゴブスレさんと牛飼若奥さんの出産から数えて3ヶ月ほど後、銀等級ダブルカップルの出産もここ牧場で行われました。といっても先の帝王切開のような困難さは無く、出産に伴う傷の治療や≪浄化(ピュアリファイ)≫による消毒など、基本的な対応で問題なかったようです。産後の経過も順調で母子ともに健康。身体が鈍るのを厭うた女騎士さんがリハビリを兼ねて吸血鬼君主ちゃんに手合わせを願うくらいには元気が有り余っていらっしゃるご様子。うーん、母親は強しってヤツですかね?

 

 

 

「おっと、勝負はついたのかな?」

 

「ちょっと休憩して、お茶にしましょう!」

 

 お、ちょっと大きめのベビーカーを押している牛飼若奥さんと、ティーセットを持った女神官ちゃんがやって来ました! ベビーカーの淵からは灰髪と赤髪の赤ちゃんが顔を覗かせ、好奇心に満ちた瞳で周囲を見ています。先に置かれていたベビーベッドに横付けされると、身を乗り出して中の黒髪眉毛ちゃんを覗き込んでますね。

 

「ふへへ……やっぱり赤ん坊ってのは可愛いわねぇ……」

 

 自分に懐いてくれている赤髪の弟くんに被り付きの妖精弓手ちゃん、見目麗しい上の森人(ハイエルフ)という素性を置き忘れたような非常にだらしねぇ顔で、握手している赤ちゃん同士を眺めています。これは将来結婚待ったなしね!なんて言ってますけど、流石に早過ぎません??? まぁ本人同士の気持ちもあると思いますが、辺境で優秀な冒険者を囲い込むという点ではアリな気もしますね。

 

「はい、どうぞ!」

 

「ああ、ありがとう」

 

 女神官ちゃんが淹れたお茶を腰に手を当てて一気飲みする女騎士さん。その男らしい姿にあちこちから漏れる苦笑。肩にかけた布で汗を拭き、妖精弓手ちゃんと一緒になって赤ちゃん同士の触れ合いを覗き込んでいます。夢中になって見ている妖精弓手ちゃんに「自分も欲しいとは思わんのか?」と聞いてますが……。

 

「んとね、若草の()の頑張りでシルマリルの子を産めるのはわかったんだけど……あね様たちとの兼ね合いもあるし、なかなか直ぐにはねぇ……」

 

 ああ、そっちの懸念もありますか。貞淑さが美徳とされる森人(エルフ)、しかも王族となれば結婚すぐ子作りはちょっとはしたないって思われちゃいますもんね。その間に妹である妖精弓手ちゃんが先に出産となると、色々問題になりそうです。お姉さんにプレッシャーをかけるのは妖精弓手ちゃんとしても避けたいところでしょうし。お茶菓子を頬張っていた吸血鬼君主ちゃんを抱き上げ、頬擦りをしつつ言葉を続ける妖精弓手ちゃん。

 

「まだまだシルマリルと冒険し足りないし、まだ暫くは身軽で良いかなって。1000年くらい」

 

 うーんこの圧倒的なタイムスパン。只人(ヒューム)の女性陣は揃って苦笑い。普段の言動を見てると忘れがちですが、永遠に等しい時間を美しい姿のまま過ごす上の森人、そのお姫様ですもんね。

 

「それに、今はそっちに魔力を使う余裕は無いんでしょう、シルマリル?」

 

 

 

「……そうだな、そろそろ手合わせの代価を払うとしよう」

 

 表情を真面目なそれに変え、妖精弓手ちゃんの胸元から地面に降りた吸血鬼君主ちゃんの前にしゃがみ、視線を合わせる女騎士さん。その視線を受けて、躊躇いがちに吸血鬼君主ちゃんが口を開きました。

 

「あのね、ぼくからおねがいしたことだけど……ほんとうにいいの?」

 

「こう見えても私は聖騎士となるべく研鑽を積んでいる身だ。実際に見たのは君が初めてとはいえ、吸血鬼(ヴァンパイア)という存在の恐ろしさは嫌というほど耳にしている」

 

 厳しい言葉を受け、俯いてしまった吸血鬼君主ちゃん。だが、という言葉と共に、女騎士さんが籠手(ガントレット)を嵌めた手でその頭を撫でながら言葉を続けます。

 

「『君』という個人については、私は非常に好ましく思っている。多少、いやかなり子どもっぽいところはあるが、君には間違いなく善性が備わっているからな。……この場合の『君』にはもう1人のあの子も含まれているぞ?」

 

 冗談めかした口調に顔を上げた吸血鬼君主ちゃんを見て、ニヤリと口元を歪める女騎士さん。女性をとっかえひっかえするのは如何なものかと思うが、全員が幸せになるのなら良いだろうと呵々と笑っています。

 

「あの大司教殿が人の身を捨てると聞いたときは自分の耳を疑ったが、それが愛ゆえにというのなら是非も無し。私や彼女が幸運の女神から前髪を毟り取れたのは君のおかげだからな」

 

 そう言って魔女パイセンと視線を交わし、苦笑する2人。椅子から立ち上がった魔女パイセンも、ゆっくりとした動作で吸血鬼君主ちゃんに近付き、その傍らにしゃがみ込みました。

 

「新しい命、を、守って、くれるなら、好きにして、いいの、よ? 彼女の、ために、魔力が必要、だもの、ね」

 

「うむ、ちょっとデカい乳兄弟が出来るようなものだ! 存分に味わうと良い!!」

 

 そう言い放ち、鎧下を勢いよく捲り上げる女騎士さん。隣の魔女パイセンもブラウスの前ボタンを外していきます。窮屈な場所から解放された4つのたわわが零れ落ちるように跳び出し、出産によって更に破壊力を増したお山を見て女神官ちゃんと妖精弓手ちゃんが崩れ落ちました。

 

 

 

 氷の魔女を捕食したことによって眷属化に必要な魔力を獲得した吸血鬼君主ちゃん。ですがそれはあくまで最低限。万全を期すならば更なるちゅーちゅーが必要でした。吸血鬼侍ちゃんと2人掛かりという案もあったのですが、彼方は霊薬による子作りという森人義姉妹のトラウマ克服の仕事がありますので残念ながら廃案。折角蓄えた魔力を今後の冒険(セッション)で消耗しないとも言い切れないので、早急に眷属化を行ってしまおうという結論に至りました。

 

 そのため別の補給対象(ちゅーちゅー相手)を探していたのですが、そこに件の屑冒険者騒ぎ。下手に連中の前で吸血相手の募集でもしたら、質の悪い血液を吸わせるだけで依頼も受けない怠惰冒険者の誕生か、吸血を拒否したことを逆恨みして悪評をばら撒かれる未来しか見えません。

 

 わりと行き詰ってしまってしまい一党(パーティ)の頭脳担当たちが頭を抱えていた時に、颯爽と答えを導きだしたのはやっぱり妖精弓手ちゃん。血が無いのならおっぱいで良いじゃないという滅茶苦茶乱暴な理論で、牧場に行くことを提案したのです!

 

 ドヤ顔でおっぱいおっぱい連呼している2000歳児を呆れた様子で見ていた頭脳担当たちでしたが、直ぐにその表情は真面目なものに。牧場に滞在しているのは銀等級、しかも2人とも熟練の呪文遣い(スペルスリンガー)です。ダメ元で頼んで来いと送り出された結果、女騎士さんとの手合わせを条件にちゅーちゅーさせてくれることになったわけです。

 

 

 

「それじゃ、いただきます……んちゅっ」

 

 抱き上げてくれた女騎士さんのお山に口を付け、ゆっくりとちゅーちゅーし始めた吸血鬼君主ちゃん。女騎士さんはその身体を片手で軽々と支えながら、反対側の手でゆっくりと吸血鬼君主ちゃんの頭を撫でています。いくら小柄とはいえ身長から考えると20kgほどはありそうなダブル吸血鬼ちゃんを良くみんな抱っこできるなぁと思っていましたが、万知神さんに問い合わせたところ、抱っこしてもらっている時は2人ともこっそり浮遊しているため、相手が感じる重さはだいたい林檎3個ぶん(1kg弱)なんだとか。赤ちゃんよりも軽いんですねぇ……。

 

「……ぷぁっ。ありがとう、ごちそうさま」

 

「ん? なんだ、もう良いのか?」

 

 片方のお山から口を離した吸血鬼君主ちゃんが、ニッコリと笑いながらお礼を言ってます。どうやら反対側は赤ちゃんのぶんだから吸わないみたいですね。そのままふよふよと飛行して、魔女パイセンのお山に顔を埋めています。

 

「んっ。ふふ……、やっぱり、赤ちゃんより、吸う力 は、強い、のね?」

 

「ごめん、いたかった……うむぅ!?」

 

 魔女パイセンの声に慌てて顔を上げようとした吸血鬼君主ちゃんでしたが、そのまま顔にお山を押し付けられて目を白黒させています。口いっぱいに感じる柔らかな感触と甘い匂いのダブルパンチによって、陶然とした様子でちゅーちゅーしてますねぇ。魔女パイセンのホールドが解け、頬を赤く染めた吸血鬼君主ちゃんが一言。

 

「とてものうこうなまりょく、ごちそうさまでした……」

 

 背後で女騎士さんが私のはどうだったんだ?と声を上げてますが……どうやらさっぱりとした喉越しだったそうです。

 

 

 

「よし、それじゃあ最後は私だね! えい!!」

 

「ふぇ?」

 

 暢気な掛け声とともに吸い口を露出させた牛飼若奥さんを見て、魔女パイセンに撫でまわされていた吸血鬼君主ちゃんが驚きの声を上げました。女騎士さんとの手合わせの代価はあくまで()()()()()()()()()()()()()()()なので、牛飼若奥さんは対象外だと思うんですが……。魔女パイセンから受け取った吸血鬼君主ちゃんをハグしながら、そんな疑問を先読みしたように牛飼若奥さんは笑っています。

 

「ふっふっふ、この牧場にいる銀等級冒険者は全部で()()! 残念なことに()は仕事中なので、かわりに私からどうぞ!」

 

 ……え? ゴブスレさんもカウントしてたんですか?

 

「それにね、ウチの子たち早めに離乳食を食べ始めちゃったから、最近あんまり飲まないんだ。だから今日も張ってて痛いんだよね」

 

 そう言いながら吸血鬼君主ちゃんの口元にそっと吸い口をあてがう牛飼若奥さん。鼻先から感じる甘い芳香におめめグルグル状態の吸血鬼君主ちゃん、戦友の大切な奥さんからちゅーちゅーして良いのかという理性と、魔力を集めなきゃという使命感のせめぎ合いが見て取れます。そんな吸血鬼君主ちゃんの葛藤を知ってか知らずか、ちょっぴり尖った耳元に口を寄せ、理性を吹き飛ばす一言を囁く牛飼若奥さん。

 

 

 

 

 

 

「このまま張ってると辛いから、飲んでくれないと自分で搾ることになっちゃうかなぁ。……ね、勿体無いと思わない?」

 

 

 

 

 

 

 この後、妖精弓手ちゃんと白兎猟兵ちゃんの2人掛かりで引き剥がされるまで、ちゅーちゅーするのを止めなかったエロ吸血鬼がいたそうな……。

 

 


 

 

 はい、予想以上の魔力が集まった牧場遠征を終えて、帰ってきました一党の自宅(エロ伏魔殿)。それぞれの成果を発表し合いながら夕食を終え、現在リビングは緊張に満ちています。

 

 あーうーという意味の無い声が続き、言い出す切っ掛けを掴めない吸血鬼君主ちゃんに、チラチラと視線を向けるだけでもじもじしている剣の乙女。既に数えきれないほどちゅーちゅーしたり夜戦したりしているというのに、付き合いたてのカップルのような初々しさです。……言い方を変えれば、見ている側からすればもどかしくてたまったものでは無いという状態ですね。

 

 森人(エロフ)義姉妹+2000歳児は完全に奥様戦隊ですし、令嬢剣士さんと賢者ちゃんはお茶を片手に愉悦顔。吸血鬼侍ちゃんは白兎猟兵ちゃんに押し倒されて「旦那さま! うさぴょいでも、うさだっちでも、すきだっちでも良いですよ!!」と迫られているワケワカンナイヨー!!な有様。ウィズボール(やきう)チームを作る宣言は酔った勢いによる妄言では無かったんやなって……。

 

 頼みの綱であるみんなのオカン(女魔法使いちゃん)は苦虫を纏めて噛み潰したような顔でバカップルを見ていましたが……おっと、とうとう我慢の限界を迎えたのか、椅子を蹴立てて立ち上がり、驚きで硬直している吸血鬼君主ちゃんを小脇に抱えました! 椅子に座ったまま呆然と見上げている剣の乙女に視線を向けて……。

 

 

 

 

 

 

「ヤらないなら、貰うわよ」

 

 

 

「あげません!!」

 

 

 

 ……これは麗しい友情ですね! アンタもキッチリ型嵌めてきなさいと抱えていた吸血鬼君主ちゃんを剣の乙女に放り投げ、再び席に戻った女魔法使いちゃん。もう離さないと言わんばかりにきつく抱き締められた状態で、吸血鬼君主ちゃんが女魔法使いちゃんに顔を向けました。

 

「ありがとう、がんばるね」

 

「……失敗して喰屍鬼(グール)にでもしたら覚悟しなさい。目の前で始末して私も死んであげるから」

 

 クッソ重たい激励の言葉に顔を引き攣らせながらも、大きく頷く吸血鬼君主ちゃん。するりと剣の乙女の胸元から抜け、その手を取って口付けをしました。

 

「それじゃあ、いこうか」

 

「……はい!」

 

 数日前の光景を思い出すようなエスコート。吸血鬼君主ちゃんにお姫様抱っこされて二階へ消えていく剣の乙女に向かって、女性陣がサムズアップ。剣の乙女も頬を赤く染めながら小さく返しています。やがて寝室の扉が閉まる音とともに、リビングに弛緩した空気が戻ってきました。お疲れさま義妹(いもうと)くんと肩を叩く森人狩人さんをジト目で睨む女魔法使いちゃん。その視線に気付かないフリをしながら、そういえば、と問いかけました。

 

「確か、本来眷属を生み出す際には対象の生命力を全て奪い取り、死んだ状態で魔力を送り込むんだっけ」

 

「……ええ、そのほうが手っ取り早し抵抗もされないもの。でも、それだと素体が劣化してしまうし、腐敗する前に送り込める魔力に限りがあるわ」

 

 ほほう、そんな仕組みになってたんですか。死体となった素体に魔力を送り込んで支配下に置く。……あれ、それって魔力が足りないと上手く眷属にならないんじゃ?

 

「魔力が不足していると、生まれる眷属は喰屍鬼(グール)従属種(レッサー)になる可能性が高いのです。それではあの子の願いを叶えることは出来ないのです」

 

「ともに日光の下を歩める吸血鬼希少種(デイライトウォーカー)。主さまの求める血族(かぞく)が要求されるもの……」

 

 うーむ、やり直しの効かない眷属ガチャは怖ろしいですね。でも、なんとかする方法はあるんですよね? 森人少女ちゃんの言葉を補うように、令嬢剣士さんが口を開きます。

 

「だから、生命力を少しずつ抜き取りながら、減った分を頭目(リーダー)の魔力で補填する。そのための交わりですわ」

 

「でも、それは生きながらに身体を作り変えるような所業。肉体への負荷は想像を絶するものになる。……そうだよねご主人様」

 

「うん。だからいたみをかいらくにおきかえて、にくたいがこわれないようにするの。いままでぼくたちがみんなとからだをかさねてきたのは、そのかいらくにたえてもらうため」

 

 おおう。つまり、精神が壊れそうなほどの快感に耐えるだけの前準備が必要だったと。だからあんなエロ……爛れ……情熱的な日々を送っていたんですね! 

 

「……ねぇヘルルイン、あの2人なら大丈夫よね? ちゃんと上手くいくわよね?」

 

 いつになく弱気な様子の妖精弓手ちゃん。縋るような目を向けられた吸血鬼侍ちゃんは、彼女の手を取り、ギュッと胸に抱きしめました。冷たいはずの吸血鬼侍ちゃんの肌、ですが妖精弓手ちゃんには内部から広がる温かさを確かに感じています。

 

 

 

「ぼくにはわかるよ。いま、ふたりはおたがいにすべてをあずけてる。かこ、げんざい、そしてみらい。このあたたかさがあるかぎり、あのこの……ううん、ぼくたちのみらいは……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しあわせでいっぱいだから!!」

 


 

 

 

 

 

 

 

「ほわぁ~!?」

 

 

 

「んなななな何よ今の声!? シルマリルの声よね!?」

 

 机やソファーに突っ伏したまま寝てしまった一行の耳に飛び込んで来た奇声。朝の清廉な空気を台無しにする奇妙な声に驚いて跳び起きた妖精弓手ちゃんが、慌ててみんなを叩き起こして回っています。

 

 スヤァ……と全く起きようとしない吸血鬼侍ちゃんは森人狩人さんが小脇に抱え、おそるおそる二階への階段を上る一行。幾つも並んだ来客用寝室のうち、唯一ドアが閉まっている部屋の前に到着しました。部屋の中から微かに聞こえる話し声。興奮しているほうをもう1人が落ち着かせようとしているみたいですが……。

 

 周りの面子を見渡し、後ろへ下がった妖精弓手ちゃん。このままでは埒が開かないと強引に突入するつもりですね。ドア前方の空間が空いたことを確認し強く踏み込んだ後、自慢の蹴りでブチ破りました!

 

 

 

「ちょっとシルマリル!? いったい何があったの……よ……?」

 

 ドアを蹴り開けた姿勢のまま固まっている妖精弓手ちゃんを押し退けるように、雪崩を打って入り込んだ一党の仲間たち。彼女たちも一様に声を失ってしまいました。

 

 

 窓から差し込む陽光に照らしだされたベッドの上、吸血鬼君主ちゃんに抱き着かれ、途方に暮れている1人の()()。艶やかな金髪は日の光を反射して輝き、焦点を結ばぬ空色(スカイブルー)は夕焼けの色に変じ、硬直している仲間たちを半泣きになって()()()()()()()。寝ぼけ眼を擦っていた吸血鬼侍ちゃんも、その姿を見た瞬間森人狩人さんの胸元から飛び出し、満面の笑みで抱き着きました。摩擦で火が点きそうな勢いで両の()()()に頬擦りされ、ダブル吸血鬼ちゃんを引き剥がせずに困り果てているのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ、えへへ・・・・・・」

 

()()()()()()()()()()()だ~!!」

 

 

 

 

 

 

「あの……何故か幼くなってしまいました……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「……え???」」」」」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 


 

 ちょっと万知神さん??? いったいぜんたい何をやらかしているんです???

 

 まぁ落ち着け? これが落ち着いていられますか! 物語(キャンペーン)最大級のおっぱいが無くなっちゃったんですよ!?

 

 え、別に無くなってはいない? ちゃんと理由はある?

 

 そこまで言うのなら一旦引き下がりますけど……ちゃんと説明してくださいよ?

 




 免許更新を忘れていたので失踪します。

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 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその11.5

 思うように筆が進まなかったので初投稿です。



 認めよう、君の力を。今この瞬間から君は冒険者だ、な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、吸血鬼君主ちゃんが剣の乙女を眷属にしたところ、なーぜーかーちっちゃくなってしまいました。吸血鬼侍ちゃんが()()()()()()()()()()と言ってましたけど、どう見ても『死の迷宮(ダイカタナ)』時代よりも幼いです。眷属にしても姿はそのまま、若返ったりはしないという話でしたが……。

 

「つまり、吸い過ぎてヤバくなって慌てて魔力を送り込んだら、アンタの因子が強すぎちゃって、外見まで引き摺られたってコト?」

 

「たぶん。あと、しょうもうをおさえるためにせつやくしてるのもあるかも。ちょっとまえのすがたをそうぞうしてみて?」

 

「えっと……はい、やってみます」

 

 猫のように首を引っ掴まれてプラプラしている吸血鬼君主ちゃんと、反対の手で眉間を押さえている女魔法使いちゃんに促がされ、胸に手をあてて目を閉じた剣の乙女。その身体を光が包み、収まったところで一党の目に映ったのは、昨夜まで見慣れた妖艶な肢体。傷一つない肌の血色が若干悪くなったくらいの違いしか無さそうですが……。

 

「……ねぇおっぱい乙女。悪いけどすぐにちっちゃい姿に戻ってくれる? お願い」

「? え、ええ……」

 

 振り絞るような声で頼んできた妖精弓手ちゃんの声に頷き、"あのころ"形態に戻る剣の乙女。部屋中に安堵の声が響く中、気を確かめるように頭を振っていた妖精弓手ちゃんが姿を変えるよう求めた理由は……。

 

 

 

 

 

 

「あとちょっとあの姿を見ていたら、強引に押し倒して羨ましいたわわにむしゃぶりついてたわね。間違いなく」

 

妹姫(いもひめ)さまもそう思うかい? まぁ義妹(いもうと)ちゃんが()()()状態だからねぇ……。どうどう、落ち着き給えよ」

 

 フーフーと荒い息を吐き、今にもルパンダイブしそうな森人少女ちゃんを抑え込む2人。残念ながら目がハートな森人少女ちゃんにその呟きは届いていないみたいですね。視線を横に向ければ、鼻から溢れるお嬢様分を必死になって止めようとしている令嬢剣士さんを吸血鬼侍ちゃんが介抱しています。

 

「……魔性の美というか、アンタで慣れた気でいたけど素材が違うとここまで変わるのね」

 

「すごいよね~」

 

 はい、ダブル吸血鬼ちゃん以外、みんな剣の乙女の壮絶な色気に中てられちゃってたんですね!

 

 少女形態に戻ったことでみんな正気を取り戻してくれましたが、あのままだと朝っぱらから夜戦(意味深)になってましたね間違いない。お、吸血鬼君主ちゃんにアドバイスを貰いながら魔力で服を編んでいた剣の乙女が、後ろを向いていた一党(パーティ)のみんなに声をかけてます。

 

「どうでしょうか、変ではありませんか?」

 

「「「「「……」」」」」

 

 ……自信なさげにもじもじしている剣の乙女を見て、みんな言葉を失っちゃってますねぇ。まぁ盤外(こっち)でも至高神さんが鼻を押さえてますし、太陽神さんが無表情で撮影装置を連射(パシャパシャ)しているくらいですから。

 

 ほっそりとした二の腕を強調する白いノースリーブのシャツと大胆に太股を見せつける黒いミニのプリーツスカート。同じく黒のグローブとロングブーツで四肢の先端は覆っているものの、むしろ肌の白さを際立たせるアクセントにしかなっていません。寒さ対策の夜色のケープには吸血鬼君主ちゃんがこっそり呪文維持の護符(アミュレットオブパーマネンシー)をブローチ代わりにくっつけてますね。身に着けていたのは良いですが使う機会がありませんでしたし、剣の乙女に有効利用してもらうつもりなのかな? 最後にダメ押しの認識阻害の眼鏡を装備すれば……。

 

「かわいい!」

 

「えろい!!」

 

「えろかわいい!!!」

 

 

 

「もうダメ、辛抱堪らん! ちょっと可愛がらせなさい!!」

 

 興奮したダブル吸血鬼ちゃんが周囲を走り回り、妖精弓手ちゃんに捕獲され羞恥で頬を染める剣の乙女ちゃんかわわ。あ、衣装デザインは無貌の神(N子)さん提供でございます。怪我をする度何食わぬ顔で装備ごと復元していたダブル吸血鬼ちゃんでしたけど、こうやって衣装を登録しておけば、再生時にマッパになる心配をしなくて良くなるんですね。いちいち針仕事で衣装を修復する吸血鬼ってのもなんかカッコつかないですし、元の大司教の姿に変身した時にはいつものえちえちな服装になったあたり、空中魔力固定装置(キューティーハニー)的なアトモスフィアを感じます。

 

 

 

 その後1日かけて身体の調査を行った結果、剣の乙女ちゃんの詳細なスペックが判明しました。

 

 朝チュンしても焼け落ちていなかったことから陽光への脆弱性はありませんし、日光浴でのエネルギー補給も問題なし。吸血に関しては吸い過ぎて事故ると大変なので、暫くは親にあたる吸血鬼君主ちゃんからの吸血or女性陣からの授乳で賄ってもらうことに。変身して大司教モードになると一気に消耗してしまうらしく、女魔法使いちゃんのお山を一心不乱にちゅーちゅーする姿は地母神さんが『あら^~いいですわゾ^~』と壊れるくらいには刺激が強かったみたいです。

 

 現状実装されている技能としては【邪な土】と【眷属化】以外はダブル吸血鬼ちゃんと同じものが使えるっぽいです。まぁ2人もまだバランス調整段階なので、実装されていない技能が多いんですけどね!

 

 

 

 さて、乙女ちゃんモードの装備については、メイン武装として貸しっぱなしだった太陽の直剣。サブは短剣か殴打武器がベターじゃないかとみんなで話していたのですが……。

 

「あの子の従者になった記念に面白いものをあげるのです。少々複雑な仕掛け(ギミック)の武器ですが、今の貴女にはピッタリなのです」

 

 妙に押しの強い賢者ちゃんが押し付けてきたのは、精緻な装飾が施された一振りの騎兵刀(サーベル)。鍔の部分が護拳(ガード)になっているのが特徴ですね。手に取って≪鑑定≫していた剣の乙女ちゃんが何かに気付き、眼前に掲げた剣を強く振ると……。

 

ガシャッ!!

 

「あ、それ女王様がくれた主に捧げし忠義の砲剣(レイテルパラッシュ)だね! やっぱかっこいいなぁ!!」

 

 おゆはんを食べに来ていた勇者ちゃんが目を輝かせながら出どころを明かしてくれましたが……やーなむちほー産じゃないですかやだー! 切先が変形して現れた銃口を見て、みんな驚いています。刺突をメインにした剣と遠距離に対応した銃。両方の機能を併せ持つ変態……浪漫……優秀な武器なのが、このレイテルパラッシュです!

 

「むう、銃は苦手だから振るうのを避けていたが、いざ他人が使っているのを見ると、やはり羨ましくなるな……」

 

 おなじくおゆはんを貪っていた剣聖さんが物欲しそうな目で見ていますが、斬撃を飛ばせる人には不要だと思うんですがそれは。あ、もっと他にないのとせがんでいた吸血鬼君主ちゃんが、裸に頭部と右手にでっかい車輪、左手に大砲という冒涜的な装備に!?

 

「通常の短筒と違い、握り(グリップ)の棘に指を当てて血を充填すると弾丸が生成される仕組みになっているのです。吸血鬼にしか使えない武器なので、ゴブリンの手に渡る心配も無いのです」

 

 楽しそうに車輪を回し続けてYOU DIEDした吸血鬼君主ちゃんを抱き上げながら、賢者ちゃんが仕様について説明してくれてます。使用者の筋力に左右されず、短期間の修練で恐るべき威力を生み出す銃の普及は四方世界にとって望ましくありませんからね。現状弾薬費が高価すぎるのとメンテナンス出来る人間が限られているため広まっていませんが、ゴブリンが使い始める悪夢の事態は避けねばなりません。そういう意味では万が一盗難に遭っても盗んだ相手が使えないというのは実に素晴らしい(マジェスティック)!!。 新生剣の乙女ちゃんの活躍に期待が高まりますね。

 

 

 

「それじゃ、明日冒険者登録に行きましょうか」

 

「はーい!!」

 

「え、あの、私は既に登録してありますが……」

 

 一通りの確認が終わり、これなら問題ないだろうということになったその夜。一党のママである女魔法使いちゃんの一声にぴょんぴょんする白兎猟兵ちゃんと、困惑した様子の剣の乙女ちゃん。お気持ちはごもっともですが、これには事情ってものがありましてですね……。

 

「その恰好で『私は金等級冒険者で、みんなから剣の乙女として敬愛の念を集めています!』って言えるんなら構わないけど、良いかしら?」

 

「ごめんなさい」

 

 まぁ、そういうことです。盤外(こっち)の盛り上がりは置いといて、六英雄の1人である『剣の乙女』が姿を変えてウロウロしているのは問題なわけで。それならいっそ新人冒険者として登録することで偽装身分(カバー)を用意してしまおうという話ですね。幸い他にも登録が必要な仲間がいますし、まとめてやってしまえば目立つことも無いでしょう! ……外見という点を考えないのであればですが。

 

「なるほど、冒険者として登録すれば旦那さまの御傍で活躍できるんですね。ぼく頑張ります!」

 

 やる気に溢れた白兎猟兵ちゃんを見て、満足げに笑みを浮かべる女魔法使いちゃん。視線はそのまま吸血鬼君主ちゃんへと移り、その小さな肩をポンと叩きました。

 

「なに他人事みたいな顔してるのかしら。アンタも登録するのよ?」

 

「……ふぇ?」

 

 


 

 

 数日前に冬将軍が討伐されたことにより、あっという間に春めいた陽気となった辺境の街。冬眠から覚めたように活動を始めた冒険者に対応するためにギルドの受付は大賑わいです。受付嬢さんが訓練場で邪神ぽんぽんぺいんと戦いながら、元新人と都落ち(福本モブ)冒険者のいがみ合いを捌いているため、監督官さんまで新人登録に駆り出されているみたいです。夢と希望に満ちた瞳でピカピカな白磁の認識票を受け取る少年少女に、営業スマイルで対応していた彼女。冒険者たちのざわついた声に気付き、視線を向けた先には……。

 

「とうちゃ~く!」

 

「ほわぁ~! ここがギルドなんですねぇ」

 

「……やはり似合っていないのでしょうか? みなさん此方を見てますもの……」

 

 好奇に満ちた冒険者の間を掻き分けるように一直線に受付へと向かってくる3人の少女。種族は違えどもその美しさ、可愛らしさは周りの目を捉えて離さず、ギルド中の注目を集めながら監督官さんの前までやって来ました。3人の後方からはこれもまた美女、美少女の一行が。こっそりと後を付けてきた彼女たちがテーブル席に着くのを見た後、監督官さんが3人の少女に笑みを向け、要件を尋ねています。

 

「やぁやぁ可愛いお嬢さんたち、今日は冒険者登録かな?」

 

 からかうような視線を受けて、さっと先頭の子の後ろに隠れようとする眼鏡の少女。お父さんのお下がりであるまだら模様の上下(迷彩服)を着ている兎耳の少女はどこ吹く風といった態度を崩そうとしません。受付の縁に手をかけ懸垂のような格好で顔を見せながら、吸血鬼侍ちゃんに借りた貴族のお坊ちゃん風の半ズボンスタイルな先頭の少女……吸血鬼君主ちゃんが来訪の目的を話しました。

 

「えっと、ぼうけんしゃとうろくをおねがいします! ()()()()()()!!」

 

「はいはい、()()分ね。それじゃあこの用紙に必要事項を記入し……んん?」

 

 用意した白紙の冒険記録用紙(アドベンチャーシート)を取り落とし、思わず二度見する監督官さん。よく見れば吸血鬼君主ちゃんの胸元にある筈の紅玉の認識票がありません。聞き返してしまったのも無理は無いでしょう。女魔法使いちゃんに持たされた手紙と、それを差し出す吸血鬼君主ちゃんを交互に見つつ確認をとってますね。

 

「ええと、後ろの2人は新規で良いとして……え? 再発行じゃなくって???」

 

 はい、覚知神さんに言われるまで私を含め誰も気付いていなかったのですが……吸血鬼君主ちゃん、なんと現在冒険者ではありません。というのも、水の街の冒険者ギルドで登録してあるのはあくまで『吸血鬼侍ちゃん』の名前なので、2人に分かれた時にその名前を元分身ちゃん……現在の吸血鬼侍(サムライ)ちゃんが名乗ってる以上、書類の上では吸血鬼君主(ロード)ちゃんは自分を『吸血鬼侍ちゃん』だと思い込んでいる一般吸血鬼、あるいはそっくりさんでしかないのです。

 

 慌てて監督官さんが視線を向けた先、テーブル席で手を振っている吸血鬼侍ちゃんの首には紅玉の認識票。交互に視線を向ける監督官さんに追撃をするように、認識阻害の眼鏡をずらした剣の乙女ちゃんが、心苦しそうな様子で口を開きます。

 

「本当に申し訳ありませんが、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 眼鏡による認識阻害が無くなったことと、吸血鬼君主ちゃんが差し出した女魔法使いちゃんからの手紙によって、目の前の眼鏡っ子が誰なのか、何故新規登録なのかを察してくれたみたいです。ニヤリというあまり人様にお見せ出来ない笑顔を浮かべながら、幾分か弾んだ声で自分を見つめている3人の少女に声をかけました。

 

「そこの机じゃ高さが合わなくて書き辛いだろうから、ちょっと奥の部屋で作成しようか! 3人とも着いてきてね~!!」

 


 

「はい、それじゃあこれで3人とも晴れて冒険者の仲間入りを果たしたワケだけど……早速依頼を請けるかな?」

 

「んとね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「うんうん、それがいい! 場所は街を出て街道沿いに歩けば見えてくるけど、困ったら認識票を下げている先輩に道を尋ねるといい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 お、戻ってきましたね! 先程までの営業スマイルとは打って変わって心底嬉しそうな笑顔の監督官さん。彼女に引率されている3人の首には真新しい認識票が輝いています。3人揃ってお辞儀をしながら監督官さんにお礼を言い、このまま訓練場に向かうみたいですね。前年の春から、冒険者登録をした新人は余程自分の腕に自信がない限りは訓練場に通うことをギルドから勧められてますので、新米冒険者のロールプレイとしては真っ当といえるでしょう。

 

 さて、後は上手く釣れるかどうかですが……おっと、ギルドホールの一角を占拠していた集団の中から鋼鉄の認識票をつけた男3人が立ち上がりました! 装備から判断するに、戦士1人と斥候か軽戦士っぽいのが2人でしょうか。うーん、全員揃いも揃って性根の腐ってそう(福本モブ)な顔をしてますねぇ。「運の良いヤツ」や「後から合流するからあんまり汚すんじゃねぇぞ」なんて小声で話しているあたり判りやすいというか何というか……。

 

 

 

「さて義妹(いもうと)くん、私たちもそろそろ向かおうじゃあないか」

 

「そうね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。残りの連中は頼むわね?」

 

「任せときなさい! こう見えても私、掃除は得意なのよ!」

 

「でも、おへやのおそうじはできてな……おあ~……」

 

 檸檬水を飲み干した女魔法使いちゃんと森人狩人さんが立ち上がるのを見て、妖精弓手ちゃんが吸血鬼侍ちゃんのほっぺを引っ張りながら平坦な胸を張って請け負ってますね。テーブルの上には本来冒険者が見ることの出来ない他人の冒険記録用紙(アドベンチャーシート)と人相書きが広げられています。どの用紙にも注意書きや付箋が多く、素行の良い冒険者で無いのがひと目でわかります。人相書きの顔については……まぁ視聴神の皆さんがお察しの通り、向こうのテーブル席の連中ですね。

 

 

 

 王都から流れて来た連中の中で、辺境ギルドのおっかない面々に脅しつけられて更生した者は訓練場で教官役や新人の引率を率先して引き受け、人事評価の向上に邁進しているのですが、それすらも拒否した一部の連中が先日とうとう訓練場を追い出されてしまいました。

 

 宿泊費が続く間は近場の宿屋の大部屋を借り切っていたようですが、どうやらそれすらも底をついたようで、とうとうギルドのホールに屯するように。宿屋でも深夜まで騒ぎ立てたり、いちゃもんを付けて宿泊費を踏み倒そうとしたりと随分迷惑をかけていたみたいです。鋼鉄等級なんですから依頼をこなせば日々の生活費くらい簡単に稼げるというのに、下水掃除や近場への輸送依頼なんかは鋼鉄等級のこなす依頼じゃないとゴネる始末。

 

 辺境の街居付きの冒険者からも総スカンを喰らい、やり場のない不満と溜まったストレスを発散させようと、超えてはならない一線を超えるつもりのようですねぇ。

 

 妖精弓手ちゃんに引っ張られて赤くなった頬をさする吸血鬼侍ちゃんが見上げれば、二階の手摺にもたれかかるようにして待機している鉱人道士さんと蜥蜴僧侶さん。一行に向かって小さく手を振ってくれてます。重戦士さんと槍ニキは顔を見せると警戒されてしまうので、油断させるために本日は森人少女ちゃんと令嬢剣士さんと一緒に訓練場に行っているため、その代替要員として協力してもらっているんですね。

 

 むむむ、女魔法使いちゃんと森人狩人さんが出て行ったことで、連中も気が緩んでいるみたいですね。ギルドから出て行く2人にイヤらしい視線を向けながら「クソ、いつかヒイヒイ言わせてやる」だの「無理矢理手籠めにしてやれば俺たちの玩具だ」なんて盛り上がってますけど……吸血鬼イヤーにはバッチリ聞こえちゃってるんだよなぁ。

 

「ねぇ、あいつらもうしまつしても……おあ~……」

 

 あぶないあぶない、牙を剥くような笑みを浮かべている吸血鬼侍ちゃんのほっぺを妖精弓手ちゃんが再び引っ張ってもうちょっと我慢しなさいと窘めています。そんな妖精弓手ちゃんの顔もなかなかおっかないことになってますけどね。ギルド側の準備はばっちり、あとは先行した鋼鉄等級3人のやらかしを吸血鬼君主ちゃんが連絡してくれれば……お、どうやら3人に接触してきたみたいですね。視点を移してみましょう!

 

 


 

 

「なるほど~、きょうはくんれんじょうじゃないんですね!」

 

「あ、ああ。今日は実地訓練としてゴブリンが住んでいた巣穴にみんな集まっているんだ……」

 

 うーんこのガバガバ理由。どうやら追いかけて来た腐れ冒険者(福本モブ)、人気のない洞窟か何かに3人を連れ込む算段のようです。言葉巧みに街道から離れ、林の奥へと誘導しているつもりなんでしょうが……あまりにも挙動不審過ぎて誰も引っ掛からないんじゃないですかねぇ。

 

 リーダー格と思しき眼鏡をかけた重装備の男は吸血鬼君主ちゃんの太股に目を奪われてますし、後方を警戒している斥候っぽいのは白兎猟兵ちゃんの左右に揺れる長耳に気を取られて、竜革の外套を使って上空から凄い目で眺めている女魔法使いちゃんと森人狩人さんに全く気付いていません。素肌に革鎧というセンシティブな格好のふとましい軽戦士からねっとりとした視線を注がれ、居心地悪そうな剣の乙女ちゃん。嫌悪感で青褪めた二の腕にも粘っこい視線が纏わりついてます。

 

 3人が精神的な拷問を受けながら歩く事暫し、どうやら彼らが致す場所に選んだ洞窟に着いたようですが……。ん? なんだか見覚えが……あ!?

 

 

 

「ど、どうした? 急に立ち止まって」

 

「……ん、なんでもない。このおくにみんないるの?」

 

 歩みを止めた吸血鬼君主ちゃんを訝し気に眺めている眼鏡重戦士。不審がられていると勘違いして3人に早く中に入るよう急かしていますけど、吸血鬼君主ちゃんが止まったのは全く別の理由です。上空の女魔法使いちゃんの顔も歪んでいますし、間違いありません。

 

 

 

 ここ、『吸血鬼侍ちゃん』が初めて『冒険』をした、あのゴブリンの巣穴です。

 

 

 

 先ほどまでの人懐こい笑顔が消え、黙ったまま歩く吸血鬼君主ちゃんと、それを心配そうに見つめる2人。いよいよバレたと思ったのでしょう、入り口からの光が届かなくなった辺り、ちょうどゴブリンが壁抜きをしてきた場所で腐れ冒険者(福本モブ)が動き出しました! リーダー格の眼鏡重戦士が吸血鬼君主ちゃんの首を腕で挟み込むように締め上げ、反応して武器を抜こうとした2人に向けて反対の手で剣を突き付け手慣れた様相で恫喝の声を響かせます。

 

「おっと、妙な真似はするなよ? お前らの大切な仲間の首が、俺が驚いた拍子にへし折れるかもしれないぜ!」

 

「おあ~……」

 

 うん、もうちょっと演技ってものを学んだほうが良いんじゃないかなぁ吸血鬼君主ちゃん。呼吸不要なので苦しさとは無縁ですが、喉元に当たる金属の感触に不快そうに唸っています。いつの間にか短剣を抜いていた残りの2人も吊るし上げられた吸血鬼君主ちゃんの服に刃をあてがう素振りを見せ、剣の乙女ちゃんと白兎猟兵ちゃんに武器を捨てるよう怒鳴りつけてますね。2人が剣とクロスボウを地面に置くと、足元から顔まで舐めまわすような視線を向け、下品に笑いだしました。

 

「そうそう、黙って言うことを聞いてれば痛い思いはしなくて済む。むしろ気持ちよくさせてやるからなぁ?」

 

「あんまり乱暴に扱うんじゃねえぞ? アイツらが使()()前に壊しちまったら面倒なことになる」

 

「駆け出し冒険者がゴブリンに返り討ちにされて姿を見せなくなる……っ。何処にでも転がっている、ありふれた話……っ!」

 

 もうちょっと気の利いたことを言うかもと思ってましたが、残念ながら見た目通りの台詞でしたねぇ。剣を鞘に納め、空いた手で無遠慮に吸血鬼君主ちゃんの身体をまさぐる眼鏡重戦士。剣の乙女ちゃんと白兎猟兵ちゃんに節穴斥候と太め軽戦士がにじり寄るのを見て、吸血鬼君主ちゃんが声をあげました。

 

「……さんにんともぼくがあいてするから、そのふたりにはてをださないで」

 

「オイオイオイ、そんな貧相なナリで随分余裕ぶっこくじゃねえか。まぁ俺たち3人を満足させられたら考えてやるよ!」

 

 考えてやるよ(考えるだけ)ですねわかります。自分たちが圧倒的強者であると信じ込んでいる者特有の歪んだ笑みを浮かべている腐れ冒険者(福本モブ)たち。手早く剣の乙女ちゃんたちを逃げられないようにロープで縛り上げ、自慢の逸品を引っ張り出しながら吸血鬼君主ちゃんを囲むように迫ってきます。表情の消えた吸血鬼君主ちゃんが、正面で期待と興奮で息を荒くしている眼鏡重戦士の得物に手を伸ばし……。

 

 

 

 

 

 

ぷちゅん

 

 

 

 

 

 

 柄の部分にぶら下がる塊を、果物を摘み取るようにあっさりともぎとりました。

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああああ!?」

 

 激痛にのたうち回る眼鏡重戦士の眼前に果実を落とし、横で呆然と立ちすくむ節穴斥候の股間を蹴り上げる吸血鬼君主ちゃん。細心の力加減で放たれた一撃は、骨や内臓を傷付けることなくナッツだけを粉砕。口から泡を吹いて崩れ落ちるソレに背を向け、下ろしたズボンが引っ掛かって仰向けに転倒している太め軽戦士へと近寄っていきます。

 

「ぼ、冒険者同士の争いはご法度……っ! これは決して許されない暴挙……っ!!」

 

 ぐにゃあ……とした顔で必死に喚いてますが、手を出してきたのは彼らが先ですからねぇ。ニッコリと笑ったまま近付く吸血鬼君主ちゃんを見て、本来笑みとは肉食獣が牙を剥く行為であると彼も思いだしたことでしょう。恐怖ですっかり縮み上がった相棒に小さな足が乗り、少しづつ力が籠められる中で、悲鳴を上げることしか出来ない太め軽戦士。やがて上から押し潰すような万力の如き力に耐え切れず、彼の股間からも水っぽい破裂音が響きました。

 

 

 

「おやおや、随分派手にやったみたいだねご主人様」

 

 お、剣の乙女ちゃんと白兎猟兵ちゃんの拘束を解いていたら、女魔法使いちゃんと森人狩人さんが迎えに来てくれました。地面でのたうち回る男たちを見て顔を引き攣らせてます。絶対に殺さず生かしたままギルドまで連行する約束を守りながら最大限の責めを行う吸血鬼君主ちゃん、なかなかやりますねぇ!

 

「た、助けてくれ……っ」

 

 訓練場でスゴイ=シツレイな態度を取っていたにも関わらず、這いずるように女魔法使いちゃんへと近付き助けを乞う眼鏡重戦士。ゴミでも見るような目で眺めていた女魔法使いちゃんでしたが、溜息を吐きながら杖で肩を叩いています。

 

「まぁ、そのまま出血してたら危ないかもね。取り合えず止血くらいはしておきますか」

 

 嫌そうな顔を見せている吸血鬼君主ちゃんと剣の乙女ちゃんに手を振り、奇跡は不要だと告げる女魔法使いちゃん。まぁ酷い目に遭わせようとしてきた連中に癒しの奇跡をかけるのは嫌ですもんね。懇願するような顔つきの男たちにニッコリと笑いかけながら、爆発金槌を起動する女魔法使いちゃん。赤熱した先端を見て、何がおこなわれるか察したのでしょう。逃げようとする眼鏡重戦士の腹を踏みつけて固定し、笑みの表情……目は全く笑っていない……のまま、傷口へと爆発金槌を近付け……。

 

 

 

「私の大切な恋人や家族を犯そうとしたヤツらに施すには、十分すぎる処置でしょう?」

 

 

 

 

 

 

 洞窟中に充満する肉の焼ける臭い。今日のおゆはんは肉以外が良さそうですね……。

 

 


 

 

「ようやく来たか」

 

「そいつらで最後だからさっさと放り込んでくれや!」

 

 燃やしたゴミを引き摺りながら辺境の街へと帰還した一行を、街の入り口で重戦士さんと槍ニキが迎えてくれました。その背後には大型の馬車が2輌。連中に気取られぬよう訓練場に移動させていたものを、油断を誘うついでに運んで来てくれたんですね! 手や足に枷を嵌められた()冒険者たちを屋根の無い荷台に乗せ終えた鉱人道士さんと蜥蜴僧侶さんに、監督官さんがねぎらいの言葉と共に飲み物を渡しています。

 

「お疲れさま~。暴れる前に拘束できて助かったよ~!」

 

「いや、拙僧の呪文ですらないひと吠えに怖気付き、術師殿の≪酩酊(ドランク)≫で寝てしまう程度の未熟者ばかりでしたからな。王都で活動していた冒険者とは思えぬ技量、まこと拍子抜けとしか言いようがありませぬ」

 

「鱗のの言う通りだのう。訓練場の新人のほうがまだマシだわい」

 

 ため息交じりにぼやく銀等級2人。冒険者登録の剥奪と犯罪者として官憲に引き渡すことを通達した監督官さんに対し言いがかりだと騒ぎ立てていた連中ですが、冒険記録用紙(アドベンチャーシート)を突き付けながら数々の違法行為を告発され逆上、彼女に掴みかかろうとしたところで待ち構えていた2人に無力化されたという顛末だったそうです。なお、監督官さんもバッチリ≪酩酊(ドランク)≫の効果範囲に含まれていましたが、腐れ冒険者(福本モブ)たちがバタバタと倒れ伏す中1人だけ平然と立っていたとのこと。精神的にタフでなきゃギルド職員なんてやってられないですもんね……。

 

「こ、こんな事が許されてたまるか……何故なんだっ! 圧倒的……! 圧倒的ギルドの……横暴っ!」

 

 おや、荷台に放り込まれた衝撃で眼鏡重戦士が意識を取り戻しましたね。もがく身体が周囲の連中にぶつかり、衝撃で次々と目を覚ましていきます。馬車を囲うように立ち、蔑みの視線を向ける辺境居付きの冒険者たちを見て、自分勝手な意見を主張し始めました。

 

「新人と上の連中ばかり優遇されて……俺たちは中間搾取……っ! 俺には分かる……どうせギルド職員(お前たち)もグル……っ! そいつらと結託して甘い汁を吸っている……汚い社会の在り様っ!」

 

 お、おう。あんまりにも歪み切った考え方に一同の目が点に。訓練場から馬車と一緒に来ていた森人少女ちゃんと令嬢剣士さんも頬を引き攣らせています。経済に明るい2人からすれば、彼らの主張は的外れにも程があるでしょうねぇ。はぁ、と巨大な溜息を吐いた監督官さんが、只人(ヒューム)社会は複雑怪奇なのねぇと頷いている妖精弓手ちゃんから吸血鬼侍ちゃんを受け取り、彼らが積まれている馬車へと近付いて行きました。

 

「あのさぁ……口を開けば文句と不平しか吐かない中堅下位等級と、ゴブリン退治から上級魔神殲滅までこなしてくれる上に、訓練場建設のために王国から莫大な資金援助を引き出してくれて、おまけにタダみたいな依頼料で新人の育成もしてくれる新進気鋭の若手。ギルドがどっちを優遇するかなんて決まり切ってるでしょ?」

 

「俺たちはベテラン……っ! 白磁や黒曜の使えない奴らとは……違う待遇……っ! 優遇されて当たり前……っ!」

 

 なんでそれがわからないのかなぁとぼやく監督官。なおも不平を漏らす連中の前に手を翳して声を遮り、普段の飄々とした姿からは想像もつかない冷徹な顔を見せ……。

 

 

 

 

 

 

「残り少ない時間を有意義に使いたまえ、()冒険者の犯罪者諸君。ギルドはもう、君たちを救わない」

 

 

 

 ヒエッ……。強烈な殺気をぶつけられた眼鏡重戦士は泡を吹いて気絶、抱きかかえられていた吸血鬼侍ちゃんもその余波を喰らってガタガタ震えています。凍り付いた時間を動かすように監督官さんが重戦士さんと槍ニキに出発を促しています。水の街の至高神の神殿に移送し、裁きを受けさせるみたいです。……つまり見習いでなくなった至高神の聖女ちゃんのお仕事ですね!

 

「ギルドの女子(おなご)はおっかねえな。酒に呑まれんよう注意せんといかん……」

 

「然り。さればまずその一口目をいただくとしますかな」

 

 受付嬢さんもですが、監督官さんの怒りも買ってはいけないと心に刻んだ冒険者たち。ゴミ処理に付き合わせてしまったお詫びに、ギルドホールに居合わせた冒険者たちにギルド持ちで一杯奢ってくれるということで、みな引き攣った顔のままギルドへと入って行きます。一行もそれに続こうとしたところで、女魔法使いちゃんが吸血鬼君主ちゃんの挙動がおかしいことに気付きました。

 

「どうしたの、しきりに服を気にしてるみたいだけど? 洞窟で泥でも跳ねた……っと」

 

 おや、屈みこんだ女魔法使いちゃんのお山に顔を埋めるように吸血鬼君主ちゃんが抱き着きました。突然のセクハラに対し、公衆の面前で盛ってるんじゃないわよと引き剥がそうとした女魔法使いちゃんですが、掴んだ肩が僅かに震えているのを見てそのまま優しく抱き締めました。

 

「どうしたの? ただ甘えたくなったわけじゃないんでしょ?」

 

「……あいつらにさわられたかんしょくがまだのこってるきがして、きもちわるくて」

 

 ああ、無遠慮に身体をまさぐられてましたもんね……。好きでもない人に肌を蹂躙されたら流石の吸血鬼君主ちゃんも不快だったみたいです。やっぱアイツ殺しとくかと立ち上がりかけた女魔法使いちゃんを慌てて制しながら、上目遣いでおねだりするのは……。

 

 

 

「あのね、いっしょにおふろはいってほしいの。ぜんしんきれいにしてほしい……だめ?」

 

 

 

「……いいわ、ピッカピカに磨き上げてあげる。アンタと出会った思い出のあの場所を穢されて、私もムシャクシャしてたし」

 

 森人狩人さんに声をかけ、2人は身体を清めてからギルドに向かうことを告げる女魔法使いちゃん。何となく理由を察したのか、森人狩人さんも揶揄うこともなくみんなに伝えておくよと引き受けてくれました。

 

「わがままいってごめんなさい」

 

「ばか、べつに謝るような事じゃないでしょ。それにお酒が入る前に考えたかったこともあるし」

 

 吸血鬼君主ちゃんを抱き上げながら、あそこまで冒険者が王都から流出した理由、ただの偶然とは思えないと呟く女魔法使いちゃん。言われてみれば下位等級がごっそり抜けたにも拘わらず、王都からの依頼が辺境に回ってきたという話も聞かないですし。もともと冒険者の数が依頼よりも多かったのか、それとも他の理由があるのか。気にしておいたほうが良いかもしれませんね。

 

 王都の状況も気になる所ではありますが、今日はパーッと騒いで嫌な気分を払拭しちゃいますか。ギルドの風通しも良くなったことで、春からの新人育成も捗ることでしょう。ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)も、これからますます忙しくなっていきますね!

 

 

 

 

 なお、お風呂で燃え上がってしまい、2人がギルドに顔を出したのは日が暮れた後だったそうです。若いってすっごーい!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 


 

 

 なるほど、可変式とは考えましたね万知神さん。これなら視聴神さんたちの様々なニーズにも対応できますね!

 

 んで、やり切った顔の万知神さんとは対照的に渋い顔のGM神さんは何をそんなに悩まれているんです?

 

 ふむふむ、次のシナリオで使う予定のゴブリンが足りない? あー、死灰神(オ〇ニー)野郎が『赤い手』の時に盛大に無駄遣いしてましたもんね……。

 

 ここは逆転の発想でいきましょう、ゴブリンが足りない、だったら人間を敵にしちゃえば良いやって。

 

 いやいや、あの子たちを悪堕ちさせるとかじゃないですからその物騒な神殺し(チェーンソー)は仕舞ってください万知神さん!?

 

 ふぅ、まぁこの無貌の神(N子)さんに任せてください。駄々甘い人間関係にスパイスを効かせてみせますから!!

 

 

 




 テキストでのオンセに慣れないので失踪します。

 不定期な更新のなか、評価やお気に入り登録をしていただきありがとうございます。

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 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその12-1

 連休中にお話しを進めたいので初投稿です。

 とうとうUAが10万の大台に乗りました。まさかここまで続くとは正直思っておらず、皆様にお読みいただけたことがとても嬉しいです。

 オンセが出来るようになるまでの暇潰しにと始めたこのお話し、セッションは出来るようになりましたが、引き続き投稿していく予定ですので、気長にお待ちいただければ幸いです。


 おい、決闘(デュエル)しろよ。な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、害悪冒険者を纏めてブタ箱送りにしたところから再開です。

 

 吸血鬼侍ちゃん、あの後こっそり監督官さんに彼らの冒険記録用紙(アドベンチャーシート)を見せて貰ってたんですが……いやー出るわ出るわ、違法行為の痕跡と依頼人や依頼先での苦情の数々。まるで悪事のバーゲンセールって感じでした。

 

 見習いを卒業した至高神の聖女ちゃんにいきなりデカい案件を振ってしまいましたが、しっかり裁きを下して貰いたいところさん。吸血鬼侍ちゃんがそれとなく令嬢剣士さんに尋ねたところ、おそらく鉱山での強制労働あたりに落ち着くのではということでした。只の労役を課すには少々危険な連中ですし、無駄飯喰らいを養ってやるほど王国も太っ腹ではありません。過酷な現場で働けるだけの体力と技術はあるでしょうから、死刑よりはマシだと思って年季が明けるまで頑張って貰いましょう!

 

 結局日暮れまでちゅっちゅしてた吸血鬼君主ちゃんと女魔法使いちゃんは予定より大幅に遅れてギルドに現れ、現在は盛大に揶揄われた後、件の話を切り出したところですね。

 

 

 

「……というわけで、王都からの冒険者流出の裏には何かしらの理由がある気がして」

 

 石鹸の香りの裏に隠し切れない残り香を纏った女魔法使いちゃんの投げかける疑問。その話題に付き合っているのは……令嬢剣士さんと監督官さんですね。間に座らせた吸血鬼侍ちゃんの口に揚げたての馬鈴薯(フライドポテト)を放り込みながら、反対の手で麦酒(おビール様)のジョッキを傾けている監督官さんが口を開きました。

 

「あまり大きな声では言えないけど、貴族の一部が混沌と手を組んだ件(赤い手の騒動)が終結した後、この西方を含めた各辺境に冒険者が増えてるんだ~」

 

 ふーむ、訓練場目当ての冒険者が増加した西方は分かりますが、他の地方も増えているのはなんででしょうね? たしかまだ訓練場はこの西方のみで、他の地方は早くて来春からの試験運用だと森人少女ちゃんが言ってた気がしますし。

 

「冒険者になりたての新人と、既に固定の依頼人を持っていたり、名が知られていて引く手数多な紅玉より上の等級は残っているみたいだけど、あの連中みたいに下位で燻っていたのがゴッソリ居なくなったって話だよ~」

 

 だから王都も新人が育たなくなっちゃったって、このあいだの定例会で愚痴ってたわ~と続け、ジョッキを呷る監督官さん。うーむ、ちょっと前までの辺境ギルドの様に、中間層が育たない環境になりつつあるということですかね。依頼の消化率も悪くなり、体面を気にして表には出していないものの、こっそり冒険者に直接声をかける『ギルドのおすすめ依頼』も増えているそうです。

 

「ふむ……明日あたり確認してみましょうか。ちょうど訓練場の()()()()()についてのプレゼンもありますので」

 

「あ、じゃあ私も行く! 終わったらシルマリルとデートするんだから!!」

 

 おいもさんごと吸血鬼侍ちゃんにパクリとされ、指先の塩をぺろぺろされていた令嬢剣士さんがくすぐったそうにしながらの提案。自慢の長耳で聞きつけた妖精弓手ちゃんも割って入って来ました。プレゼンが終わったらってことなんでしょうが、最初からデートの事しか頭に無いのがバレバレですね。女魔法使いちゃんがちゅっちゅしていたのが羨ましかったようです。

 

「それじゃあ、明日はその4人に任せるわ。義妹(いもうと)ちゃんは誰かさんのせいで無理させられないし」

 

「えう……」

 

 女魔法使いちゃんに秘匿されたオデコとツンツンされて、バツの悪そうな吸血鬼侍ちゃん。視線の先には森人狩人さんに頭を預け、静かに目を閉じている森人少女ちゃんの姿。繊細な芸術品の如き両手の添えられた腹部が()()()()()()()()()()。ションボリヴァンパイアな想い人の頭をまぁまぁと言いながら撫でる令嬢剣士さんが、でも……と口を開きました。

 

「まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは予想外でしたわね……」

 

 

 

 はい、森人少女ちゃんが子を授かった日からまだ半月も経っていないという事実に我々も驚きを隠せません。なのに何故妊娠5か月ほどのおなかになっているのかといえば、まさに令嬢剣士さんが言った通り、吸血鬼侍ちゃんが魔力を注ぎ込み続けていたのが原因です。

 

 愛する主さまの因子を受け継ぐ子を授かって間もないというのに、愛情深い(精一杯オブラートに包んだ表現)森人少女ちゃんの求めるまま毎晩のように魔力を注いでいた吸血鬼侍ちゃん。一番早く異変に気付いたのは、寝起きドッキリを仕掛けようとしていた森人狩人さんでした……。

 

 獣のような交わりの痕跡を≪浄化(ピュアリファイ)≫で浄め、横向きに手を繋いで眠る2人の少女。一枚の絵画のような光景を満足そうに眺めていた森人狩人さんでしたが、その目に飛び込んで来たのは、スリムなラインを描いていたはずの可愛い義妹の腹部が膨らんでいるという驚愕の事実。

 

「いくらご主人様が底なしとはいえ、外見上判るまで注ぐなんて羨ま……ゲフンゲフン、無茶なことをするとは思えないしね……」

 

 2人がかりならまだしも……という呟きは聞こえなかったことにしましょう。その後、朝食を集りに態々≪転移≫の鏡でやってきた賢者ちゃんが調べた結果、胎児の急激な成長が確認されました。

 

 もちろんこれには一同激おこ。急激な成長が母子に悪影響を与えたらどうするつもりなのですかとブチ切れた賢者ちゃんを筆頭に、君に何かあったら私は悲しいと珍しくシリアスな上義姉様(森人狩人さん)。貴女も流されてんじゃないわよと下義姉様(女魔法使いちゃん)に窘められ、吸血鬼侍ちゃんもごめんなさい状態。私たちにはまだ赤ちゃんは早いわねぇと、吸血鬼君主ちゃんを抱き締めた妖精弓手ちゃんが呟いていたのが印象的でした。

 

 ≪転移≫による母子への影響がはっきりと判っていないため、安定期に入るまで森人少女ちゃんには訓練場での事務作業をお願いすることになり、森人狩人さんはそのお目付け役兼訓練教官として同行。女魔法使いちゃんは剣の乙女ちゃんと白兎猟兵ちゃんを訓練場へ引率するために明日はパスだそうです。行くって言っておきながら、結局行けませんでしたものね訓練場……。

 

 


 

 

 そんなこんなで次の日。訓練場へ向かう面子を見送った後、≪転移≫の鏡を潜ったダブル吸血鬼ちゃん&妖精弓手ちゃんと令嬢剣士さん。いつも通り眠たげな眼をした銀髪侍女さんが出迎えてくれたのですが……。

 

「やぁ諸君。来てもらって早々申し訳ないんだけど、今日はちょっと立て込んでいてね。手間賃は渡すからまた明日来てくれると嬉しい」

 

 と言って、金貨の入った小袋を吸血鬼君主ちゃんに押し付けてすぐに出て行ってしまいました。どうやら緊急の案件があるみたいですが、それを聞く間も無く居なくなっちゃいましたね……。

 

「それじゃお言葉に甘えてデートの時間よシルマリル! あ、半分貰っていくから」

 

 吸血鬼君主ちゃんの手から小袋を強奪し、等分した残りを袋ごと令嬢剣士さんに放り投げると吸血鬼君主ちゃんを抱えて駆け出す妖精弓手ちゃん。まずは馬人の女の子(ウマ娘)のレースからよ~という声を残して消え去っていった通路を吸血鬼侍ちゃんと令嬢剣士さんが味わい深い表情で見ています。

 

 やがて令嬢剣士さんがコホンと咳ばらいをし、ちょっとだけ照れながら気取った仕草で吸血鬼侍ちゃんへと手を差し伸べました。

 

「……では、私たちも逢瀬を楽しむことにいたしましょうか」

 

「うん! いこう、おねえちゃん!!」

 

 

 

 降って湧いたデートタイムを満喫すべく、王都を歩く吸血鬼侍ちゃんと令嬢剣士さん。陛下との謁見を予定していた為、2人とも冒険者の服装ではありませんね。吸血鬼侍ちゃんは以前吸血鬼君主ちゃんが着ていた幕末剣士風の衣装に身を包み、令嬢剣士さんは仕立ての良いパンツスーツスタイル。胸元に輝く聖印(シンボル)が栄纏神の神官であることを誇り高く主張しています。

 

 そんな出来る女感マシマシなパートナーと手を繋いでいる吸血鬼侍ちゃんの頭の上には、手のひらサイズとなった令嬢剣士さんの使徒(ファミリア)がパイルダーオン。雪山で見たあの巨体だと辺境の街にすら入られそうも無かったので、サイズ変更が可能なのは嬉しいですね!

 

 そんな初々しいカップルですが、見て回っているお店はなんとも()()()ものばかり。穀物問屋で小麦の価格を調査したり、武具店で最近のトレンドから増えている魔物の傾向を推測したり。年頃の女の子らしく服飾店も訪れていましたが、2人して下着を付ける習慣の無い一党(パーティ)森人(エルフ)たちに装備させる逸品を吟味し始める始末。各人のサイズは完璧に把握しているようで、大事なところしか隠していないものから大事なところを隠していないものまで真剣に選んでますね……。

 

「着けた時の感覚に慣れてもらうために、出来るだけ布面積の少ないタイプにいたしましょうか」

 

「えっと、ぜんぜんかくれてないけどいいの?」

 

「問題ありませんわ。着けるのは就寝前……頭目(リーダー)が皆を愛でる時だけですもの」

 

 あの、それって勝負下着っていうんじゃ……。お、興味深げに眺めていた吸血鬼侍ちゃんがブラを手に取ってますね。サイズから考えて森人少女ちゃん用のものでしょうか。布地の中心にリボンをあしらったデザインみたいですけど……。

 

「このリボンかざりはなんでついてるの?」

 

「ふふ、これを解くと()()()が露出するデザインになっておりますわ。こういうのはお嫌い?」

 

「……いいね!」

 

 グッとサムズアップを送り合う2人。どうやら今後夜戦の際には森人3人の装備欄に【E:あぶない下着】と記入されそうです。あ、万知神さんと太陽神さん(ご両神)曰く、君主ちゃんは半脱ぎ状態、侍ちゃんは全裸or下着姿が好みだそうです。いったいナニの話なんですかねぇ……。

 

 

 

 さて、いろんなお店を巡っている間に太陽が真上に近付いてきました。「最近無性にステーキとウイスキーをいただきたくて……」と照れる令嬢剣士さんの希望で、蟲人英雄さんのお店がある道の駅太陽神の神殿へ向かっている2人。前回は明るい活気に満ちていた筈の神殿前の通りが何だか騒然としています。頷き合った吸血鬼侍ちゃんと令嬢剣士さんが人込みを掻き分けて向かった先では……。

 

「嫌!? 離してください!!」

 

「その娘から手を離せ、悪童め!」

 

 ギチギチと特徴的な声で詰め寄る蟲人英雄さんに相対している身なりの良い若者の集団。その中の1人が、まだ少女と呼ぶのが相応しい町娘を拘束し、抜き身の剣を突き付けているではありませんか!

 

「ハァ? 俺たちは混沌の勢力の内通者を捜査しているんだよ。この女には密偵の疑いがある。邪魔するっていうのかい? 飛蝗男さんよぉ!」

 

 ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべ、軒先に並んだ商品や店の棚を荒らしまわる男たち。神殿を訪れている商人や参拝者は遠巻きにその凶行を眺めるばかりです。もともと蟲人英雄さんしか常駐の神官が居らず、警備担当がいないため、彼らを止めに入る人なんて……。

 

 

 

 

 

 

「おやめなさい!!」

 

 

 

 いるさっ! ここに1人な!!

 

 家宝の宝剣を地面に突き立て、高らかに言い放つ令嬢剣士さん。良家の雰囲気を纏う衣装と不釣り合いなその迫力に狼藉者たちが気圧された隙を突いて、吸血鬼侍ちゃんが町娘を男の手から奪い返しました! 恐怖に震える彼女を蟲人英雄さんに託し、令嬢剣士さんの隣に並び立って相手を睨みつけています。

 

「おお、君たちか!」

 

「おひるをたべにきたんだけど、あいつらは?」

 

「最近王都で悪さをしている連中だ。道行く人を襲い、商店を荒らすことを繰り返している。今回は俺を口実に暴れるつもりだろう」

 

 性質の悪いことに、みな貴族の子弟のため官憲に突き出しても無罪放免になってしまうんだ、と悔し気に顎を鳴らす蟲人英雄さん。見れば仕立ての良い格好に質の良い武器、なるほど、不遜な態度はそれが根拠ですか。吸血鬼侍ちゃんに手首を打たれ町娘を奪い取られた男が、怒りと羞恥で顔を真っ赤にして喚き始めました。

 

「テメェ、俺たちが誰だか判ってんのか!? こんな事してタダで済むと……」

 

「貴族の誇りを忘れ、庇護すべき民を害する者が何をぬけぬけと。恥を知りなさい!」

 

 権力を笠に着る男を一喝して黙らせる令嬢剣士さん。随分当たりが強いですがもしかして知り合いでもいるんでしょうか? 吸血鬼侍ちゃんが確認したところ、どうやら社交界で見たことのある顔がチラホラいるみたいです。みな次男や三男といった家督を継げない予備(スペア)ばかり、不平不満を募らせている愚かな子弟(バカボン)たちとのこと。

 

「五月蠅ぇ! だったらその女の代わりにテメェが()()()()()!!」

 

 あーあー、後先考えずに全員得物を抜いちゃいましたね。商店を壊していた連中も集まり人数は20人に少し足りないくらいでしょうか。剣を構えた令嬢剣士さんを制し、一歩前に進み出た吸血鬼侍ちゃんがおなかに手を当てながら訪ねています。

 

「おなかすいちゃったから、てばやくすませるね。あんまりはでにしないほうがいい?」

 

「そうですわね……後遺症が残らない程度に、なるべく派手にお願いいたしますわ」

 

「ん、わかった」

 

 そう言い残して駆け出し、長剣を上段に構えた男に肉薄する吸血鬼侍ちゃん。剣の腹を振り下ろしてきたのは斬るためではなく痛めつけるのが目的なのでしょうか。肩口に迫るソレを半身になって躱し、弧を描く様に上から踏みつけて深々と地面に固定。刀身を砕きながらの踏み込みから繰り出された膝蹴りが硬直している男の顎にめり込み、血と砕けた白いモノを吹き散らしながら男は地に沈みました。

 

 続けで突き込まれた剣先を吸血鬼侍ちゃんは地を這うような低姿勢で避け、外套(マント)に偽装した翼で鋭く足を払い、宙に浮いた顔を鷲掴みに。落下速度を加えた叩きつけによって漫画みたいな罅割れを生み出しながら後頭部を地面に植え込みました! 頭部が爆発四散してもおかしく無さそうですが、どうやら着弾の瞬間に翼を地面との間に割り込ませて見た目だけ派手にしているらしく、叩きつけられた相手は気絶で済んでいるみたいです。

 

 まさか反撃してくる相手がいるとは思っていなかったのか、集団が浮足立っているのを察知した吸血鬼侍ちゃんは満面の笑みを浮かべて吶喊。ちぎっては投げの大暴れであっという間に残りの連中も片付けてしまいました。1人だけ残されたリーダー格の男……さっき町娘を捕まえていたヤツですね、の前に立ち、眼前に突き付けられた剣をまるで意に介さず何か悩んでいます。

 

「クソ、なんなんだこのガキ!? 近付くんじゃねぇ!?」

 

「ん~……。あ、おもいだした!」

 

 震える切先を指先で摘まみ、枯れ枝を折るように先端から折り進める吸血鬼侍ちゃん。柄だけになったソレを呆然と見つめる男にニッコリと微笑み、顎を掠めるように蹴りを放ちながら告げる言葉は……。

 

 

 

「『のらいぬあいてにおもてどうぐはもちいぬ』! しのめいきゅうでおしえてもらったんだ!!」

 

 

 

 頭虎眼流かな??? 崩れ落ちた男の上に先に蹴散らしていた取り巻きを積み上げ始めた吸血鬼侍ちゃんを見て、騒ぎを聞きつけて駆け付けた衛兵さんたちに事情を説明する令嬢剣士さん。衛兵さんたちの顔が歪んでいるのは、何度捕まえても上からの圧力で解放されているからでしょうか。あ、完成したオブジェクトの上に登っていた吸血鬼侍ちゃんが、おなかをおさえて座り込んじゃいました。刀を使わず殺さないように手加減するのは思いのほか面倒だったみたいですね。

 

 お、商人から借りた大八車に拘束した男たちを乗せた衛兵さん一行が、2人に詰め所まで同行して欲しいと言っているようです。どうやらおひるごはんは抜きになりそうですね……。

 

 


 

 

「まったく、同じ貴族として恥ずかしい限りですわ……」

 

 結局2人が解放されたのはおひるどころかアフタヌーンティーの時間でした。おなかが空き過ぎてぐったりした吸血鬼侍ちゃんを背負った令嬢剣士さんが衛兵たちの敬礼に見送られて詰所から出てきたところです。先の無軌道な若者たち、至高神の神官や国王派の騎士などが突き出してくることは多いらしいのですが、令嬢剣士さんが実家の名前を出したところ非常に驚かれていました。

 

「家の名を使った報告もありますし、あの連中について何か判るかもしれません。王都にある我が家の別邸へお付き合い頂いても宜しいでしょうか?」

 

「ごはん、たべられる?」

 

「ふふ、もちろんですわ。領地に伝わる郷土風料理を召し上がってくださいな」

 

 背中からの問いに苦笑しつつ、おゆはんを約束してくれた令嬢剣士さん。どうやら令嬢剣士さんの家系は領地持ちの貴族みたいです。金髪の陛下とも良好な関係を築いてますし、先の『赤い手』の時にも慌てた様子がなかったことから旧王派でも無さそうですね。

 

 おぶさった状態の吸血鬼侍ちゃんが脳内通信で吸血鬼君主ちゃんと連絡を取ってみたところ、レース場で知り合った人と意気投合してこれから3人で飲みに行くと応答が返ってきました。王宮から≪転移≫の鏡で自宅に帰るのは難しそうですし、2人を抱えて飛行するのも面倒臭いので、今日は自宅に帰らずにお泊りさせてもらうことになりそうです。あとでちゃんと令嬢剣士さんのおうちの場所を伝えなきゃですね!

 

 

 

 令嬢剣士さんの背中におぶさったまま揺れること暫し、吸血鬼侍ちゃんの目の前に美麗な建物がそびえ立っています。貴族の邸宅が立ち並ぶ一画に存在感を主張するこのお屋敷が、令嬢剣士さんの実家みたいです。近隣の邸宅と比べて敷地の広さは控えめですが、しっかりと手入れの行き届いた庭に規律正しい使用人たち。うむ、流石名家って感じです。

 

 背中から降りた吸血鬼侍ちゃんは令嬢剣士さんと手を繋ぎ、家令と思しき老齢の男性によって迎えられた正面玄関。重厚な扉を抜けた先には、調和の取れた高級品によって統一された両階段のホールが広がっていました。壮麗な眺めに目を丸くしている吸血鬼侍ちゃんの横をすり抜けホールの中心に立った令嬢剣士さんが、貴族の一礼を取りながら歓迎の意を表してくれました。

 

「おほん、ようこそ我が家へ。歓迎いたしますわ」

 

 まぁ、既に一党(パーティ)の仲間でお迎えしたことのある方もいるのですが、と苦笑する令嬢剣士さん。賢者ちゃんや森人少女ちゃんは何度も来たことがあるようです。訓練場に卸す食料や資材などの手配に実家の力を使う関係で、打ち合わせのために訪れていたんだとか。おかげで家出娘が実家の敷居を跨ぐ事を許されましたわ、だそうです。

 

「本当はもっと別の形でご招待出来れば良かったのですが。……特に頭目(リーダー)は」

 

「えっと、もしかしてぼく、かぞくのひとにきらわれてる?」

 

 歯切れの悪い令嬢剣士さんの言葉にションボリする吸血鬼侍ちゃん。傍から見れば貴族の御令嬢を誑かして危ない目に現在進行形で遭わせている張本人ですからねぇ。おまけに可愛い娘さんを傷物にしちゃいましたし。俯いて涙目な吸血鬼侍ちゃんを慌ててハグする令嬢剣士さんを見て、老家令がハンカチで目元を押さえながら「お嬢様、ご立派になられて……」と呟いています。

 

「あ、いえ決してそのような事は。既に対話は済ませておりますし、訓練場建設の支援とその後の食料や消耗品の独占契約によって、我が家としても良い取引をさせていただいてますので。その、むしろ私の母がですね……」

 

 

 

 

 

 

「―――(わたくし)が、どうかしましたか?」

 

「!? お母様……」

 

 不意に響く頭上からの声。2人が見上げた先、両階段上の踊り場に佇む1人の女性の姿がありました。背は令嬢剣士さんより僅かに低いくらい。スレンダーな肢体を細身のドレスに包み、美しい金髪は令嬢剣士さんと同じ色。令嬢剣士さんがお母様と呼んでいるのだから間違いないのでしょうが、とても経産婦とは思えない若さです。良いとこお姉さんか、下手をすれば妹に見られてもおかしくはありません。

 

 もしかして後妻さんかとも思いましたが……どうやら血の繋がったお母さんで間違いはなさそうですね。髪の間から覗く先が僅かに尖った耳がその理由を語ってくれています。いやーまさか、令嬢剣士さんのお母さんが半森人(ハーフエルフ)だったとは!

 

 

 

若草の知恵者(森人少女ちゃん)殿から話は窺っております。娘と彼女たちが所属する一党(パーティ)頭目(リーダー)はとても愛らしい姿をしていると」

 

 ゆっくりと階段を下りる姿は可憐という言葉が形を成したと言っても過言ではありません。怜悧な瞳を吸血鬼侍ちゃんへと向け、外見にそぐわぬ鈴を転がすような声で半森人夫人さんが歓迎の言葉を紡ぎ始めました。

 

「ようこそ、小さな頭目(リーダー)殿。生憎と主人は領地へ出向いており不在の身。代行として妻である(わたくし)が歓迎の言葉を……?」

 

 おや? 半森人夫人さんが何かに気付いたようで、キョトンとした顔で吸血鬼侍ちゃんのことを見ています。相対する吸血鬼侍ちゃんは何処か惚けたような顔で夫人のことを見つめています。令嬢剣士さんが声をかけても微動だにしないのを見て、半森人夫人さんも戸惑いを隠せない様子。

 

「あの、もし……? ええと、どうしてしまったのかしら?」

 

「恐れていた事態が起きてしまいましたわね……」

 

 先ほどまでの涼やかな表情が一変、不安げに吸血鬼侍ちゃんを見る半森人夫人さん。オロオロしている彼女に対し、令嬢剣士さんが深い溜息と共に口にしたのは、生みの親である万知神さんにさえ予想出来なかった理由でした……。

 

 

 

 

 

 

「おねえさま……」

 

 

 

 

 

 

「言えるわけありませんわ、お母様が頭目(リーダー)の性癖のど真ん中にぶっ刺さる女だなんて……」

 

 

 

 

 

 

 ちょっと吸血鬼侍ちゃん? 流石に人妻は不味いですよ!?

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 できれば連休中にせっしょん12を終わらせたいので失踪します。

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 お読みいただけた反応が執筆の燃料となりますので、一言でも感想をいただければ幸いです。

 今回も、お読みいただきありがとうございました。


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セッションその12-2

 暑さにやられていたので初投稿です。


 前回、吸血鬼侍ちゃんがママに首ったけになったところから再開です。

 

 突然おねえさま呼びされて混乱状態の半森人夫人さんでしたが、吸血鬼侍ちゃんの目線にイヤらしいものが含まれていないことを察しコホンと咳払い。年長者の威厳を取り繕いながら会話のイニシアティブを握ろうと動き始めました。スルスルと吸血鬼侍ちゃんに近付くとその手を取り、魅力的な笑みを浮かべて話しかけています。

 

「あらお上手。ですが、もし貴女が娘を娶って頂けるのでしたら……(わたくし)は義理の母ということになりますわね?」

 

「およめさんをもらうとママがセットでついてくる……!?」

 

「お、お母様!?」

 

 婿入りをして頂くので正確には貴女を我が家に迎え入れる形ですが、と続ける半森人夫人さん。その言葉に薔薇色の未来を想像したのか吸血鬼侍ちゃんの顔は真っ赤に染まっています。あ、隣の令嬢剣士さんもですね。こちらは羞恥と怒りが半々といった具合でしょうか。冗談はこのくらいにして、と吸血鬼侍ちゃんを抱き上げた半森人夫人さんが、改めて令嬢剣士さんに向き直りました。

 

「どうやら、良くしてもらっているというのは本当みたいですね。お茶の用意をさせますので、こちらへ。……連絡も無しに帰ってきたのには相応の理由があるのでしょう?」

 

「はい。ご報告したいこととお聞きしたいことがありますので。……抱き心地、如何ですか?」

 

「……このサイズ感が堪りませんわね。 ねぇ、本気でウチに婿入りする気はおありかしら?」

 

「えっと、もうすこしおたがいについてしりあってからのほうがいいかなって」

 

 ……うん、気に入られたようで良かったですね! 後はお茶のお供におなかにたまるサンドイッチやスコーンがあれば良いのですが。吸血鬼侍ちゃんの空腹ゲージは最早限界寸前みたいです。

 

 


 

 

「……だから、おねえちゃんにはいつもたすけてもらってるの!」

 

「成程、家業を継がせるために学ばせておいた甲斐があったというものです。……言ったでしょう? 数学は社会に出ても決して無駄にはならないと」

 

「ええ、痛感しておりますわ。まさか一党(パーティ)に経済観念の破綻している者が3人もいるとは……」

 

 

 身振り手振りを交えながら如何に令嬢剣士さんが冒険で活躍していたかを語っている吸血鬼侍ちゃん。卓上のティースタンドに乗っていた食べ物は綺麗さっぱり無くなり、純粋に紅茶を楽しんでいるみたいです。経済に明るい令嬢剣士さんと森人少女ちゃん、人並み以上の知性を持つ女魔法使いちゃんに、普段はアレですが実は器用万能な森人狩人さんのおかげでガバガバお財布な一党(パーティ)がやっていけてますからねぇ。ダブル吸血鬼ちゃんと2000歳児だけだったら最初の年を越せていなかったかもしれません。

 

 栄纏神の神官になったことについては若干顔を顰めたものの、冒険者として順調にキャリアを積んでいることと、訓練場関連で契約を独占出来たことで、半森人夫人さんも令嬢剣士さんが冒険者を続けることを認めてくれているみたいです。大切な1人娘なうえ、家宝の宝剣を持って家出同然に出奔した彼女のことはやっぱり心配だったんですねぇ。

 

 栄纏神の神官についても、信仰に忌避感があるのではなく、戦争に駆り出されないかのほうが気になっている模様。栄纏神の神官といえば激戦地に現れる伝説みたいな存在ですからさもありなんという感じです。

 

「当家にとっても好ましくない婚約を解消するためとはいえ、その手段に冒険者になるという極端な道を選んだときはどうなるかと思いましたが……貴女は幸せを見つけたのですね」

 

 雪山での出会いから訓練場建設にまつわるネゴシエイト、そして『赤い手』に繋がる一連の冒険譚(キャンペーン)を聞き終わった半森人夫人さんの目には光るものが。決められた将来を望まぬ女性が選ぶ道のひとつとはいえ、成功する人は少ないですからね。……そして気になるワードが。

 

「こんやく、してたの?」

 

「いえ、落ち目の貴族が当家の経済力を取り込もうとして、一方的に望んでいただけですわ。相手側の男性も正直あまり良い噂を聞かない方でしたし」

 

 あんまりにもしつこいものだから家に迷惑をかけないように出奔しましたの、と言ったところで実家を訪れた要件を思い出した令嬢剣士さん。街中で暴れていた貴族のボンボン連中についてと、彼らを引き渡す際に家の名前を用いたことを半森人夫人さんに伝えたところ……。

 

「おそらく『火打石団』のことでしょう。()()()()目に余る行為を繰り返していると社交界でもその悪辣さが噂されておりました」

 

 ああ、()()()()そうなんですね。王国内の反王派が売国奴と黒狐によって根こそぎ動員され、その殆どが粛清されたために王国の治安は向上していました。……()()()()、ですが。

 

 社会の闇に潜んでいた混沌の手勢とその協力者は正体を掴まれぬよう慎重に行動していたため、皮肉にも一般市民への影響は最小限に抑えられていました。彼らが消滅した後、空席に座り込んできたのがあの『火打石団』でした。

 

 しかし、混沌の手勢とは違い、彼らは一般市民を害することに何ら躊躇することはありません。自分たちが特権階級であることを悪用し、好き勝手し放題というわけです。

 

 今日2人が衛兵に引き渡した連中も果たしてどこまで裁かれるのかわかったものでは……おや、何やら騒がしくなってきましたね。門のほうで屋敷の警備と何者かが争っているみたいです。「落とし前」だの「貴族の誇りを穢した」なんて叫んでいるような……あ。

 

「どうやら彼らは貴女の想像以上に愚か者の集まりだったようですね」

 

「……申し訳ありませんお母様」

 

 うーん、まさかこんなに早く釈放された挙句、屋敷にまで押し掛けてくるとはこの実況神の目を以てしても……アッハイすいません万知神さん、だいたいこうなると思ってました! 窓から様子を窺った吸血鬼侍ちゃんの目には武装した連中に加え、松明を持った者まで見えています。

 

「ちょっとあぶないかも。どうする、しまつする?」

 

「いえ、先ずは言葉でいきましょう。お母様はこちらでお待ちくだ……」

 

 令嬢剣士さんの言葉を手で遮り、スッと立ち上がる半森人夫人さん。いつの間にか部屋に控えていた老家令さんから受け取った上着に袖を通し、2人に向き直りました。

 

「あの人が不在な今、この家を護るのは妻である(わたくし)の役目です。それに……見えますか? 先頭にいる男の身に着けている家紋が」

 

 半森人夫人さんの指し示す先、松明の炎に照らされているのは口元から火をチラつかせている火蜥蜴(サラマンダー)の図案。それを見た令嬢剣士さんの顔がみるみる引き攣っていきます。

 

「しってるやつ?」

 

「……私と無理矢理結婚しようと画策していた男ですわ。現当主は真っ当な方ですが、あのアホボンは予備の立場を弁えずに放蕩三昧。家からの仕送りを使い果たした後は借金と踏み倒しを繰り返し、挙句の果てにその借金を私と結婚することで返済しようと考える程度には愚物ですの」

 

 辛辣ゥ! 遠めに見ても整った顔立ちをしていますが、屋敷の衛兵さんに突っかかる男の表情は、イケメンを台無しにする醜悪さを醸し出しています。応接間に飛び込んで来た衛兵に頷きを返しつつ、令嬢剣士さんの顔を見た半森人夫人さんが玄関へと歩き出しました。

 

「あの男個人での因縁ならまだしも、万一家の名前を出してくるようなことがあれば当主代理として(わたくし)が応対するのが筋というもの。……もっとも、有意義な話し合いになるとは思えませんが」

 

 ああ、半森人夫人さんもマトモな話し合いになるとは考えていないんですね……。ひとつ頬を叩き、貴族としての威を纏った彼女を追いかけるように吸血鬼侍ちゃんと令嬢剣士さんも玄関へと向かいました。

 

 


 

 

は、はいふれふ(あ、アイツです)! はのちひふぁふぉれたちひほんなきうふぉ(あのチビがオレたちにこんな傷を)!!」

 

 玄関に姿を現した3人を目敏く見つけた1人の男が、フガフガと通りの悪い声で吸血鬼侍ちゃんを指差しています。あれは顎に一撃貰ってた男ですね。大袈裟に顔中を包帯でグルグル巻きにしてますが、吸血鬼侍ちゃんの鼻には血の匂いが届いていないあたりとっくに奇跡による治療を済ませているのでしょう。他にもギプスや包帯まみれの男たちがいますけど、吸血鬼侍ちゃんもそんな大怪我はさせていないんだよなぁ。

 

 取り巻きの訴えを聞いたアホボン……放蕩貴族はゴミでも見るように吸血鬼侍ちゃんを一瞥した後、粘っこい視線を令嬢剣士さんと半森人夫人さんへ向け、自身に満ち溢れた口調で話し始めました。

 

「私との婚約を()()()()()()辺境へと()()()()()()()貴女が、()()()()()()()王都へ戻られたと聞きまして、是非ご挨拶をと思っていたのですが。まさか我が男爵家の者に傷を負わせたのが貴女とそこの地べた摺り(ロードランナー)であったとは……」

 

 う わ ぁ。彼の言葉を聞いた3人の腕に鳥肌が立っています。どういう思考回路をしていたらそこまで自分に都合が良いように物事を捉える事が出来るんでしょうか? あ、吸血鬼侍ちゃんは無反応ですが、地べた摺り(ロードランナー)圃人(レーア)に対する最大級の侮辱表現ですね。鳥坂先輩の中指おっ立てばりに気軽にかましてくれてますけど、出会い頭に圃人へ言ったらバクスタかま(アゾット)されても文句の言えない所業です。

 

 言葉を失った3人をよそにペラを回し続ける放蕩貴族(アホボン)。全く中身の伴わない自画自賛と美辞麗句に塗れた長話は実に効率よく3人のSAN値を削っていますね。一頻り言葉を垂れ流した後、ようやっと本題(と思われる話)に入ったのですが……。

 

「そこの地べた摺り(ロードランナー)は男爵家の誇りと郎党に傷を付けた。これには誅伐が必要ですなぁ」

 

「話になりませんわね。罪なき民に手を上げていたのはそちらの男たち。配下の統制も取れない器の持ち主が言いそうな台詞ですこと」

 

 令嬢剣士さんが放蕩貴族(アホボン)の戯言を一刀両断バッサリと切り捨ててますが、自分の正当性に酔っている彼はまるで堪えた様子がありません。むしろ配下の男たちの言う混沌勢力の内通者探しという建前を心の底から信じているとしか思えない口振りです。埒が明かない押し問答に令嬢剣士さんがイライラしてますが、ある一点だけこちらが不利なんですよねぇ……。

 

 

 

「内通者探しを妨害するということは、もしや貴家が()()()()()()()()()()()()のでは? 貴女が()()()()()()西方辺境では、今や過去の存在となった()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という噂も耳にしております。おや、そういえば貴家が懇意にしているのも……西()()()()()()()()でしたかな?」

 

「―――っ!?」

 

 まぁ、道化師(フラック)に噂を広めるよう依頼しちゃいましたからねぇ……。急に冒険者育成に注力し始めたギルドと、そこと協力して莫大な利益を上げている貴族の家。疑いの目は向けられますよねぇ。

 

 口調から推測するに、目の前の地べた摺り(吸血鬼侍ちゃん)がその張本人だとは気付いていないようですが、繋がりが無いことの証明……神官による≪看破(センスライ)≫で「吸血鬼と懇意にしているか?」なんて聞かれたら面倒なことになってしまいます。

 

「では、当家の娘が貴家の郎党を傷付けた代償に、貴方は何を望むのですか?」

 

 口を噤んでしまった令嬢剣士さんに代わった半森人夫人さんの問いに対し、ニチャア……という擬音が良く似合う笑みを浮かべた放蕩貴族(アホボン)が提示した条件は……。

 

 

 

 

 

 

「貴族の家同士の諍いはそちらも望んではおりませんでしょう。ここは()()()()()()()()()私と御令嬢の婚約、そしてそこの地べた摺り(ロードランナー)の引き渡しで如何ですかな?」

 

 

 

 

 

 

 ……え? それ本気で通ると思ってるの???

 

 

 

 呆れを通り越してコイツ実は凄いヤツなんじゃないかという3人の表情を見て、決まったなという顔をしている放蕩貴族(アホボン)。『自分の利益を追求する一方通行な要求は貴族の特権』なんて考えているのかもしれません。まわりの取り巻きも吸血鬼侍ちゃんに獲物をいたぶるような目線を向けていますけど……。

 

「ええと、率直に返事をさせていただきますが……」

 

「ああ勿論だとも! 答えは決まり切っているからね!!」

 

「「折角ですが、お断りさせていただきます(わ)」」

 

「なん……だと……!?」

 

「ですよね~」

 

 まあ、そうなるな(ZIUN師匠)。

 

 断られるとは露ほども思っていなかったのでしょう、放蕩貴族(アホボン)の顔がみるみる羞恥と憤怒の色に染まっていきます。怒りに震える手で腰の剣を抜き放ち、切先を3人へと向けながら怒鳴り散らし始めました。

 

 

「馬鹿な、これほどまでに寛容な条件を呑まないなんて何を考えている!? 塵芥(ゴミ)のような地べた摺り(ロードランナー)一匹差し出すだけで、男爵家( )と繋がりを持ち、共同で利益を上げられるというのに!!」

 

 

「いや、貴方のそれは只の寄生であって、決して共存共栄などではありませんわ。それに……」

 

 真顔でツッコミを入れる令嬢剣士さん。目配せした半森人夫人さんが頷くのを見て、脳内通信で目の前の珍獣を吸血鬼君主ちゃんにリアルタイム中継している吸血鬼侍ちゃんを抱き上げました。すぐ近くまで来ているので、早く直接見るよう吸血鬼君主ちゃんを急かしていた彼女の唇に自らのソレをそっと近づけ……。

 

「ん? んちゅ……ちゅる……れる……」

 

「な……な……っ!?」

 

 互いの舌を絡め合い、唇で扱くように吸い、唾液を送り込み合う濃厚な口付け。横で半森人夫人さんが眼前にかざした指の隙間から真っ赤な顔でガン見するほど情熱的な行為を見せつけた令嬢剣士さんが、口元から伸びた銀糸の橋を舐め取りながら言い放ちます。

 

「私、この子と既にこのような関係になっておりますので。それに……正直に申し上げて、貴方、私の好みじゃありませんもの」

 

「何を馬鹿なことを! そのようなどこの馬の骨とも判らない小僧などと情交を結ぶなど、貴族として恥ずかしくは……」

 

「おや、それは半森人( ハーフエルフ)の冒険者であった(わたくし)を妻として迎え入れた当家に対する侮辱と受け取っても?」

 

 怒鳴り散らす放蕩貴族(アホボン)に対し冷たい視線と言葉を向ける半森人夫人さん。なんと、元冒険者だったんですか! 当主である令嬢剣士さんのお父様との馴れ初めが気になる所ですが……。

 

 

 

 

 

 

「おいおい、いつの間にそんな女たらしになったんだ? おちびちゃんは」

 

 どうやら時間稼ぎは上手くいったみたいですね! 放蕩貴族(アホボン)と取り巻きを挟んで反対側、屋敷の門のほうから歩いてきたのは()()()()()。酔い潰れた妖精弓手ちゃんを()()()()()()でお米様抱っこし、吸血鬼君主ちゃんを肩車した格好で悠然と歩み寄って来ています。傷跡の目立つ身体から放たれる覇気に気押されたように男たちが割れ、その間を威風堂々通り抜けた彼女。妖精弓手ちゃんを半森人夫人さんに託し、吸血鬼侍ちゃんと視線を合わせるようにしゃがみ込みました。

 

「混沌の勢力の掃討作戦を終わらせて息抜きにレース場を見にいったら懐かしい顔を見かけてな。思わず声をかけたら瓜二つの別人……でもなく、なんともややこしい関係じゃないか。そこの俎板ちゃんとも意気投合して3人で酒盛りをしていたら、おちびちゃんが困ってるとこっちの子が言うもんでね。酔い潰れた俎板ちゃんを抱えて飛んできたってわけだ」

 

 ニィッと頬を吊り上げるような笑みを見せる彼女に対し、呆けた顔を向けていた吸血鬼侍ちゃん。おずおずと手を伸ばし、頬に刻まれた深い傷跡を指でなぞりながら再会の言葉を紡ぎました。

 

「えっと、ひさしぶり。はがねのおねえちゃん」

 

「ああ、久しぶり。おちびちゃんもこっちの子も、あの頃と全く変わってないな!」

 

 ガシガシと乱暴に金属製の手で頭を撫でられながらも、吸血鬼侍ちゃんの顔には笑みが浮かんでいます。おそらく陛下の命で首狩りをしていた時期に彼女……『女将軍さん』と知り合っていたのかな。まだ"祈らぬ者"だった吸血鬼侍ちゃんが覚えているということは、よっぽど強く印象に残っていたんでしょうねぇ……。

 

 一頻り再開の喜びを分かち合った後、状況についていけずに立ち呆けていた『火打石団』に向き直る女将軍さん。吸血鬼君主ちゃんを肩車したまま、肉食獣が牙を剥くような笑顔で話し始めました。

 

「私が東方でゴミ処理をしている間に、王都は随分と平和になったとみえる。お前たちのような悪童が我が物顔で練り歩けるほどになぁ?」

 

 ん? 違うか? と男たちの顔を見渡す姿は正直おっかないです……。引き攣った顔で目を逸らす面々の中で、1人だけ声を張り上げる勇気、あるいは蛮勇の持ち主がいました。

 

「武官が口を挟むような真似は止めて頂きたい! これは()()()()()()()()()()!!」

 

「ほう、ほうほうほう。成程、()()()()()()()()()()()()武辺者の出る幕ではありませんなぁ」

 

 真っ赤な顔で女将軍さんに対し「引っ込んでろ!」と言える胆力は素直に凄いと思いますが、()()()()()()()()()()()()()()()本当に彼は理解しているのでしょうか? やれやれと肩を竦めながらわざとらしくへりくだった口調で女将軍さんが提示したのは、実に()()()()決着方法です。

 

「聞けばそちらの御令嬢を巡っての争い。元来貴族同士のもめ事は決闘を以て解決するのが習わし。故に貴公とそちらの圃人による()()()で決着をつけるのが貴族の誇りというものでは?」

 

「望むところだ! 私が勝った暁には御令嬢、貴方には私の妻となって頂く。彼女を穢したそこの地べた摺り(ロードランナー)は、降伏など認めず我が剣の錆にしてくれる!!」

 

「では決闘は3日後の正午。場所は壁外の練兵場を空けておきましょう。くれぐれも()()()()()()()()……」

 

 ニヤリと笑う女将軍さんには気付かず、逃げることなど許されぬと吸血鬼侍ちゃんに捨て台詞を吐いて火打石団は去って行きました。ずっと置いてけぼりだった吸血鬼侍ちゃんですが、暫く考え込んだ後に女将軍さんに向かってペコリと頭を下げました。

 

「おねえちゃんとママをまきこまないようにはいりょしてくれてありがとう」

 

「なに、礼を言われるほどのものじゃあない。火打石団(アイツら)への対処は陛下も憂慮されていたからな」

 

「あの、まだママになったわけでは。それに……」

 

 今日もその会議だったからな。サボったけど! と笑う女将軍さん。今日の謁見がキャンセルされたのは火打石団についての緊急会議だったからなんですね。肩に乗せていた吸血鬼君主ちゃんを天高く放り投げてはキャッチしている彼女に向かって、令嬢剣士さんも深く頭を下げています。

 

「当家へのご配慮、心より感謝致します閣下」

 

「それこそ礼を言われるようなもんじゃないさ。何せおちびちゃんが負けたらお嬢さんはあの放蕩貴族(アホボン)に嫁がなければいけないよう私が勝手に決めてしまったのだから」

 

 悪びれもせず(のたま)う女将軍さんに苦笑しつつ、吸血鬼侍ちゃんを抱き上げる令嬢剣士さん。その頬に口付けを落としつつ、彼女も女将軍さんに負けず劣らずの悪い顔になってます。

 

頭目(リーダー)が勝利すると信じておりますもの。それよりも、連中に準備期間を与えたのは……」

 

()()()()()()()()。ご自慢の貴族の誇りとやらに賭けて、盛大に動いてくれる筈さ」

 

 2人揃って悪い顔してますねぇ。ダブル吸血鬼ちゃんはそんな2人を不思議そうに見てますが、君らは肉体労働(ハクスラ)担当なので気にしなくて良いと思います。明日は朝一で陛下に謁見と一党(パーティ)への報告からですね。令嬢剣士さんを放蕩貴族(アホボン)に渡さないよう、気合い入れていきましょう!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この酔い潰れている方……もしかして星風の妹姫(いもひめ)様では……?」

 

 

 

 




 夏に負けるわけにはいかないので失踪します。

 お気に入り登録に評価、感想ありがとうございます。

 お読みいただけた反応が執筆の燃料となりますので、一言でも感想をいただければ幸いです。

 今回も、お読みいただきありがとうございました。


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セッションその12-3

 行き当たりばったりの弊害が出てしまったので初投稿です。


 前回、女将軍さんの介入で決闘(デュエル)が決まったところから再開です。

 

 放蕩貴族(アホボン)とその取り巻きが去った後、明朝王宮で落ち合うことを約束して女将軍さんは官舎へと帰って行きました。両手をダブル吸血鬼ちゃんと繋いだ令嬢剣士さんの提案で、とりあえず半森人夫人さんが抱えている酔い潰れた2000歳児を寝かせてしまおうということで、再びお屋敷へとお邪魔させていただくみたいです。≪転移≫の鏡は王宮にしかありませんし、飛行して帰る時間も勿体無いですからね。本日はお泊りさせてもらいましょう!

 

 

 

 翌朝、まったく起きようとしない2000歳児を半森人夫人さんに任せ、令嬢剣士さんの左右の手を取り仲良く3人並んで王宮へと赴いたダブル吸血鬼ちゃん。詰め所で待っていた女将軍さんと銀髪侍女さんの2人と合流し、見慣れた会議室へと案内されました。今は金髪の陛下をはじめ王国の重鎮が顔を揃える中で、令嬢剣士さんが火打石団および放蕩貴族(アホボン)と決闘する旨を報告しています。

 

 何度も困難な冒険を成功させ、ギルド訓練場の建設等で陛下に気に入られている優秀な冒険者である令嬢剣士さんですが、それはあくまで一個人としての功績。貴族の家同士の揉め事となれば、派閥や利害など様々な要因が関わってきます。まして吸血鬼侍ちゃんが代理人(チャンピオン)として表舞台に出るのであればそれなりの筋というものを通さねばなりません。

 

「……ですので、王都で諍いを起こしたこと、ギルド訓練場の権益を掛け金として扱ったことの責はすべてこの私に御座います。どうか頭目(リーダー)への寛大な処置をお願い申し上げます」

 

「このこはわるくないよ!」

 

「ぼくたちがめだっちゃったのがいけないの」

 

 一同の前で片膝を着き、伏して乞い願う令嬢剣士さん。彼女を庇うように両隣のダブル吸血鬼ちゃんがアワアワしているのを会議室に集った武官・文官が若干引き気味に眺めています。金髪の陛下のお気に入りとはいえ、貴族の令嬢がここまでするほどの大人物には2人とも見えませんからねぇ。外見圃人ですし。

 

「ふむ」

 

 困惑した様子でざわつく一同の中で沈黙を保っていた金髪の陛下。義眼の宰相と視線を交わし、スッと手をあげ会議室の喧騒を静めました。いったいどのような沙汰を下すのか、一同が固唾を呑む中で放たれたのは……。

 

 

 

 

 

 

「「でかした!!」」

 

 

 

 ……メッチャいい笑顔を伴った、お褒めの言葉でした。

 

 

 

「いや~余としても連中の処分には困っていたし、良い頃合いで問題を起こしてくれたな~と」

 

「左様、己の能力ではなく家名に依って力を振るう者など王国にとって害悪でしか無い。纏めて処分する絶好の機会を設けてくれたものだ」

 

「は、はぁ……?」

 

 やたら上機嫌な陛下もですが、今まで見たことが無いほどニッコニコな義眼の宰相を見て一同ドン引きしています。普段の冷徹な仮面は何処へ行ってしまったのでしょうか……。赤髪の枢機卿が溜息を吐きながらも陛下を勇めようとしないあたり、火打石団による被害は相当なものっぽいですね。椅子に腰かけている女将軍さんと銀髪侍女さんもサメのような笑みを浮かべています。

 

「えっと、つまりどういうこと?」

 

「ケツは陛下が持ってくれるので、めいっぱい賭け金(ベット)を吊り上げて構わないということだ。御令嬢の身柄が懸かっているのだから、手を抜くことなど無いと思うがね」

 

「ん、わかった!」

 

 頭に?を浮かべていた吸血鬼侍ちゃんに分かりやすく説明をしてくれる義眼の宰相さん。背後では陛下がウキウキしながら金剛石の騎士(K・O・D)装備の準備を始めています。どうやら本気で火打石団……反社会的勢力を潰す気みたいですね。

 

 

 

「おや? 卿、随分と上機嫌ではないか」

 

「これは失礼いたしました。以前、小官が軍規違反を犯した貴族の縁者を処罰した時の騒動を思い出しまして……」

 

 赤毛の枢機卿に無理矢理席に座らされた陛下が、極められていた腕をさすりながら1人の将軍に話を振りました。蜂蜜色の髪に灰色の瞳、髪と同色の耳と尻尾……獣の相を持った小柄な男性が頭を掻きながら苦笑して答えています。金銀妖瞳半森人さんの盟友であり、神速の用兵を得意とする疾風狼人さんですね! それを見た一同の顔に漸く笑みが戻ってきました。

 

「成程、であれば彼奴等が拠点に集めている商家などから強奪していた銘品は、是非とも闇に流れる前に()()()しなければなりませんなぁ」

 

 後を引き継ぐように、鼻下に髭を蓄えた只人(ヒューム)の将軍さんが冗談を飛ばしてみんなの笑いを誘っています。会議室に集結した面々の中では若干年上の彼、芸術家としても有名な人らしいのですが……ちょっと他の将軍さんたちと雰囲気(絵柄)が違い過ぎません? チョビ髭じゃなくて泥鰌髭ですし、なんか手で「」ってやってるんですけど。

 

 その後の話し合いで親連中への対処は義眼の宰相さんが音頭を取って進めることが決まりました。彼の手にかかれば決闘後に家の名を出して逃げるという手段は使うことが出来ないでしょう。「卿が負けるとは微塵も思わんが、油断はするな」という陛下のお言葉を土産に、3人は会議室を後にするのでした……。

 

 

 

「陛下の許しも出たことだし、すぐに決闘の準備を進めたほうが良いと思うぞ?」

 

 お、会議室を出たところで後ろから女将軍さんが声をかけてきましたね。抱き着いてきた吸血鬼君主ちゃんを片手で軽くあしらい、肩車をしながらの言葉に令嬢剣士さんが首を傾げています。

 

「どうやらお嬢様は貴族の作法を綺麗なものだと信じておられるようだ。金と女と砂袋(サンドバッグ)を纏めて奪おうとする連中が素直に勝負をすると思うのかい?」

 

「……一対一の決闘で頭目(リーダー)が負けるとは考えにくいのですが」

 

 怪訝そうに尋ねる令嬢剣士さんに首を振り、呆れた様子の女将軍さん。彼女の影から音も無く現れた銀髪侍女さんがその疑問について答えてくれました。

 

「いいかい、ああいった手合いが負けを認めるわけが無い。決闘は不当だと言い張り、手勢とともに勝敗をひっくり返すことを躊躇わないものさ」

 

 それにだ、といって銀髪侍女さんが見る先には吸血鬼侍ちゃん。突然話を振られて?な彼女に懇切丁寧に説明するのは……。

 

「君は御令嬢の決闘代理人(チャンピオン)、つまり騎士として決闘に望まねばならない。相応の振る舞いが要求されるし、観客の前で吸血鬼としての能力を使うわけにもいかないよ?」

 

「おあ~……」

 

 一夜漬けで決闘の作法を覚えさせられる宣言を受け、絶望のうめき声をあげる吸血鬼侍ちゃん。絶望で崩れ落ちる彼女を横目に女将軍さんの肩に乗った吸血鬼君主ちゃんに向き直り、君も遊んでいる暇はないよと無慈悲な宣告。

 

「決闘前の誘拐や妨害は日常茶飯事。まずは彼女の母君をお連れして、君たちの拠点で保護するといい。それから、決闘後の()()に備えて暴れたい面子に声をかけておくように。陛下も参加する祭りだ、合法的に貴族を殴れる良い機会だよ?」

 

 ああ、勝敗をひっくり返すってそういう……。向こうがその気ならこちらも遠慮する必要はありませんね! 情報収集と面子集めのために、急いで半森人夫人さんを連れて辺境へと帰還しましょう!!

 

 

 

「それじゃあおちびちゃん、約束の報酬は頼んだよ?」

 

「ん、ちゃんとふたりはおまつりにつれてくるね」

 

「ああ。それから、明日の夜なんだが……」

 

「えへへ、きたいしてまってて!」

 

 

 

 ……んん? なにやら吸血鬼君主ちゃんと女将軍さんがナイショ話をしてますね。顔を見合わせてニッコリしてますけど、何を企んでいるんでしょうか? まぁ悪い感じはしませんからとりあえず放置しておいて問題は無いでしょう!(慢心)

 

 


 

 

「さぁ、此処が私たちの拠点ですわ」

 

「「いらっしゃいませママ~」」

 

「こら、他人様のもの(人妻)に手を出そうとしない」

 

 半森人夫人さんと一緒に、惰眠を貪っていた2000歳児を回収し自宅へと戻った一行。ぺこりと頭を下げる半森人夫人さんに抱き着こうとするダブル吸血鬼ちゃんを、女魔法使いちゃんが見事なアイアンクローでブロックし、侍ちゃんを森人狩人さんの胸元に投げつけ、君主ちゃんは自らのたわわに押し付けて黙らせています。2人ともしばらくジタバタしてましたけど、顔中に感じる柔らかさと甘い匂いに負けて大人しくなりました。やっぱりたわわは偉大なんやなって。

 

 

 

「ようこそおいでくださいました、奥様」

 

「ええ、短い間ですがお世話になりますわ」

 

 お、二日酔いでウンウン唸っている2000歳児に水を飲ませていた森人少女ちゃんが戻ってきましたね。訓練場関連のやり取りで親密といって良い関係の半森人夫人さんに挨拶をしています。互いの近況を話していますが、半森人夫人さんの目は膨らんだおなかに釘付け。その視線に気付いた森人少女ちゃんが彼女の手を取り、そっと腹部に宛がいました。

 

「神々の恩寵と主さまの尽力によって、悪鬼に壊された胎は癒され、子を宿すことが叶いました」

 

「そうでしたか。異なる種族の間に授かった子の大変さは(わたくし)も経験しております。些細な事でも構いません、何かありましたらすぐに連絡を」

 

 おめでとうございます、と優しく彼女の腹部を撫でる半森人夫人さん。只人(ヒューム)、しかも貴族である令嬢剣士さんのパパと結ばれるまでには相応の苦労があったことでしょう。もしかしたら、自分の過去と森人少女ちゃんを重ねているのかもしれません。その視線は令嬢剣士さんが息を吞むほどに穏やかなものですね。

 

「あのね、ぼくもとってもうれしいの。アンデッドだからみんなにきらわれてもふしぎじゃないぼくが、こうやっていのちをつなぐことができたのが」

 

 森人狩人さんのたわわから抜け出てきた吸血鬼侍ちゃんがその腹部に抱き着き、耳をピタリと当てています。柔らかな感触の奥からは、とても小さい、けれど確かな鼓動が吸血鬼侍ちゃんへと届いているんですね……。

 

「では、これからは血族(かぞく)を支える者として一層頑張らねばなりませんね。ウチの娘もですが、誰1人不幸にしてはいけませんよ?」

 

「はい、ママ!」

 

 いえ、ですからまだママになったわけでは……という呟きと共に流れる温かな雰囲気。どうやら半森人夫人さんはみんなの優しい姑さんになってくれそうです。おや、空になったコップを弄びながら、妖精弓手ちゃんがその光景を羨ましげに眺めてますね。目敏く見つけた吸血鬼君主ちゃんが女魔法使いちゃんとアイコンタクトを取り、一息に胸元へ飛び込んで行きました。

 

「うわ!? いきなり抱き着いてきたら危ないじゃないの!」

 

「ん~……。えっとね、ちょっとさびしそうにみえたから。どうかしたの?」

 

 突然の奇襲に危うくコップを落としそうになりながらも妖精弓手ちゃんが吸血鬼君主ちゃんをキャッチしました。薄いけど確かな柔らかさを感じる胸元に頬擦りをして後に顔を上げ、その視線の理由を問いかけると……。

 

「……あのね、シルマリル。もし私が『赤ちゃんが欲しい』って言ったら、どうする?」

 

「おひさまがしずんでからならいつでもいいよ?」

 

「へぇ……。この間まで子供は暫くいらないって言ってたけど、どういう心境の変化かしら」

 

 わお、即答ですね! おずおずと告げられた妖精弓手ちゃんの予想外の問いに興味を覚えた女魔法使いちゃんが揶揄うような視線を投げかけると、長耳を朱に染めて照れてます。恥ずかしさを誤魔化すように吸血鬼君主ちゃんを抱き上げ、ほっぺたをムニムニと変形させながら見つめる先には吸血鬼侍ちゃんたちの姿が。

 

「あんな光景見せられたら羨ましくなるに決まってるじゃない。それに……」

 

 森人少女ちゃんを中心に笑う吸血鬼侍ちゃんたちを見ながら答える妖精弓手ちゃん。胸元に吸血鬼君主ちゃんを抱き締めながらくるくる回り、リビングのソファーへ倒れ込みました。赤くなった顔を想い人の小さな身体で隠しながら、続けて言葉を紡ぎます。

 

 

 

「オルクボルグや他の銀等級カップルにも子どもが産まれたでしょ? 長命種(私たち)にはあんまり実感がわかないけど、これから産まれてくるシルマリルやヘルルイン(私たち)の子どもには、出来るだけその子たちと長い時間を共有してもらいたいなぁって。そう思っただけよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え、なにこの可愛い乙女? いつもの2000歳児はどこへ……?

 

 

 

 一切の音が消えたリビングで、一同の視線を集めモジモジしている妖精弓手ちゃん。普段なら間違いなく煽り倒すであろう森人狩人さんですら、妖精弓手ちゃんのあまりの乙女っぷりに顔を赤くしています。あ、「どうせ私には似合わないこと言ってると……」と言葉が零れる口を、吸血鬼君主ちゃんが自らの口で塞ぎにかかりました! 言葉半ばで唇を奪われ、目を白黒させる妖精弓手ちゃん。湿った音がしばらく続いた後、真っ赤になった彼女の耳元へ吸血鬼君主ちゃんが口を近付け……。

 

「やっぱりさっきのはナシで。このけっとうさわぎがおわったら、あらためておねだりしてくれる? ……『あかちゃんがほしい』って」

 

「……うん」

 

 長耳を牙で擦り上げながら囁くという激レアな吸血鬼君主ちゃんの攻めっ気によって、妖精弓手ちゃんは撃沈寸前のご様子。テーブルのほうでは同じく顔を赤くした森人狩人さんが「ご主人様、私も急に赤ちゃんが欲しくなってしまったんだけど……」と全面攻勢に出ていますね。

 

「は、話には聞いておりましたが、随分と爛れた関係なのですね。貴女たちは……」

 

 幸か不幸か、まともな恋愛観を持っていた半森人夫人さんの呟きが響くリビング。部屋の空気がピンク色に染まり日が高いうちから一戦始まりそうになったところで、我に返った令嬢剣士さんがパンパンと手を叩いてみんなを正気に戻しました。

 

 

 

「み、皆さん、今は明後日の決闘が最優先ですわ! 相手の情報収集に祭りへお招きする方々に対する声掛け、やることは山積みですのよ!!」

 

「そうだね。じゃあ私は訓練場で王都から来た冒険者たちと話をしてみよう。もしかしたら辺境へ流れて来た理由に火打石団が関係してるかもしれないからね」

 

「では私は至高神の神殿に。元冒険者の方々(地下帝国送り待ちの連中)に改めてお話を伺って参ります」

 

 吸血鬼侍ちゃんを半脱ぎにまで追い詰めたところで女魔法使いちゃんにアイアンクローをキメられた森人狩人さんと、エロエロ大司教モードへ変身した剣の乙女ちゃんが、それぞれ情報を集めるべく向かう場所を申告しています。なるほど、火打石団が幅を利かせて居心地が悪くなったために王都を離れて辺境に流れて来たという可能性は十分にありそうですね。あと剣の乙女ちゃん、何とかしてそのえっちぃオーラを隠そう! 一党(パーティ)の半数以上が魅了されてますよ!?

 

 

 

「私は素直に学院ね。先生なら王都の裏事情についても詳しいと思うし」

 

 エロ大司教が認識阻害の眼鏡をかけ、漸くえっちぃ空気が払拭された後。ついでにアイツら(元童貞コンビ)がいたら巻き込んでやろうかしら、と邪悪な笑みを浮かべているのは女魔法使いちゃん。赤い手の騒動の際に牙狩りの情報網は残っているっぽいのが判明しましたし、半鬼人先生の性格なら道を外れた貴族への教育的指導(比喩的表現)とか好きそうですもんね。

 

 

 

「んじゃ私は王都の神殿にでも話を聞きに行こうかしら。あのステゴロ尼僧や太陽神の神殿長にも話を通しておきたいし。……っていうか絶対嬉々として参加するでしょあの尼僧(アマ)……」

 

 若干ジト目な妖精弓手ちゃん、以前ダブル吸血鬼ちゃんを限界まで搾り取られた時の恨みがまだ残っている様子。シルマリルも一緒に行きましょ、と吸血鬼君主ちゃんを誘いましたが……。

 

「えっとね、はがねのおねえちゃんとのやくそくがあって、ちょっとほかにいくところがあるの。けっとうがはじまるギリギリまでかかっちゃうかも……ごめんね」

 

 申し訳なさそうに誘いを断る吸血鬼君主ちゃん。これはやはり王宮を去る前のナイショ話が関係しているのでしょうか。それなら仕方ないわね~と妖精弓手ちゃんも納得してくれたみたいです。

 

 

 

「それじゃぼくは……」

 

 スッと立ち上がりかけた吸血鬼侍ちゃんですが、その小さな肩を左右からガシッと掴まれてしまいました。首を振って左右を見れば、そこには令嬢剣士さんと森人少女ちゃんの素敵な笑顔が。

 

頭目(リーダー)にはこれからみっちり決闘の作法、貴族の礼儀を学んでいただきますわ!」

 

(わたくし)も微力ながらお手伝いさせていただきます、主さま」

 

「おあ~……」

 

 残念ながら当然と言わざるを得ない。お腹に赤ちゃんがいる森人少女ちゃんは≪転移≫の鏡が使えませんし、胎児によろしくないので決闘の場には参加出来ないため、せめて事前準備は協力したいと張り切っているみたいです。客人である半森人夫人さんのお世話もあるのであんまり無茶はしないで欲しいところではありますが、既に目が本気になってるんだよなぁ……。

 

 助けを求めるように視線を彷徨わせ、行き着いた先は半森人夫人さん。潤んだ瞳で見つめられ、彼女はコホンと咳ばらいをひとつ。

 

 

 

 

 

 

「きちんと礼儀作法を身に着けることが出来ましたら、ご褒美に頭を撫でてあげましょう」

 

「じかんはゆうげんだよ! はやくやろう!!」

 

 吸血鬼侍ちゃんの舵取りお上手ですね奥様。え、旦那さんと思考と行動のパターンがソックリ? 貴族の当主とは……うごご。

 

 

 

 では、目標が定まったところで個別に行動です! クライマックスは2日後の正午、頑張っていきましょう!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 




 お盆休みの間に残りを書き上げたいので失踪します。

 いつもお気に入り登録や評価、感想ありがとうございます。

 やはり読んでくださった方の反応がありますと執筆速度が上がりますので、一言感想や評価、もし良かったらお気に入り登録、お待ちしております。


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セッションその12-4

 おや?何故かミドルフェイズが終わっていないので初投稿です。



 おやぁ? ライブ衣装にバッチリ髪型までキメて、今日は随分気合いが入ってますね! 

 

 みんなが真似した懐かしの完全装備ですけど……今日って何かイベントありました?

 

 え? ちょっと一曲歌ってくる?? 四方世界で???

 

 いま、まぁ素性がバレなければ大丈夫だとは思いますけど、あんまり世界の音楽を塗り替えないでくださいよ?

 

 何せ貴方の曲は文字通り世界を変える力があるんですからね? 成功神(ロックの神)さん!

 

 演奏(セッション)開始前にあった、無貌の神(N子)とリーゼントヘアーの神が交わした会話より―

 

 


 

 

 前回、決闘に向けて情報収集を開始したところから再開です。

 

 一党(パーティ)のみんな、それぞれ自分が得意とする分野、場所に向かって動き出したところですが、さて誰に焦点を当てて見ていきましょうか。ふむ、吸血鬼侍ちゃんは早速決闘の作法であるお辞儀をすることから教えてもらっている様子。

 

 しばらくは地味な絵が続きそうですので……よし! 吸血鬼君主ちゃん、君に決めた!! 女将軍さんとの会話中に出て来た『約束の報酬』とか『2人をお祭りに連れて行く』など気になるワードもありますので、吸血鬼君主ちゃんが何処へ行くのか追いかけてみましょう!

 

 

 

 訓練場や≪転移≫の鏡で王都へ向かうメンバーを見送り、自宅の庭で一生懸命お辞儀をしている吸血鬼侍ちゃんを上空から眺めていた吸血鬼君主ちゃん。ぽかぽか陽気の春の空を飛び、向かったのは辺境のギルド支部です。

 

 依頼の奪い合いは早々に収まり、落ち着きを取り戻したギルドホールをキョロキョロと見渡す吸血鬼君主ちゃん。どうやら誰かを探しているようですが……。

 

「おや、白いほうの頭目(リーダー)ちゃん。今日は依頼をお探しかな?」

 

 お、窓口で書類と格闘していた監督官さんが吸血鬼君主ちゃんを目敏く見つけ、カウンターにCloseの札を置いて外に回ってきました。流れるような動きで吸血鬼君主ちゃんの両脇に手を差し込んでそのまま確保、あっという間に食堂のテーブル席へと運んでしまいました。獣人女給さんに飲み物を頼むと膝上に乗せた吸血鬼君主ちゃんのうなじに顔を埋め、猫吸いならぬ吸血鬼吸いに興じています。

 

「あ゛~すっごい効く~。……うむ、黒いほうの頭目(リーダー)ちゃんから感じる月の香りも捨て難いけど、やっぱ私はキミの持つ太陽の匂いのほうが好きかな~。むふ~!」

 

「おあ~……」

 

 うなじから始まり、喉元やほっぺた、果ては頭頂部まで満遍なく吸引され、呻き声を上げる吸血鬼君主ちゃん。……今さらっと流しそうになりましたけど、監督官さんってば何気ない口調で『月の香り』って言ってませんでした? 決して一般的な単語(ワード)では無いと思うんですけど。……彼女、一体何者なんでしょうね?

 

「ごめんごめん、最近ストレスが溜まっててさ。癒されたかったのよ」

 

 動き出して早々に疲労困憊な吸血鬼君主ちゃんの口元に飲み物を運びつつ、てへぺろアピールの監督官さん。お肌をツヤツヤにしながら言っても説得力に欠けると思うんですが。グラスを持つのとは反対の手で、吸血鬼君主ちゃんの首に下げられた白磁の認識票を弄んでいます。

 

 それで今日はどんな御用?という問いに対し、お返しとばかりに後頭部でお山をポフポフしていた吸血鬼君主ちゃんが、膝上に座ったまま彼女の顔を見上げました。

 

「あのね、ひとをよびにきたの」

 

「おや珍しい。誰を探しているのかな」

 

 監督官さんを見つめていた吸血鬼君主ちゃんの視線が新たに向いた先には、2人の男性の姿がありました。1人は愛用の武器である巨大なだんびらの手入れをしており、もう1人は獣人女給さんから受け取ったチーズを今まさに堪能しようと大口を開けているところです。

 

 

 

「……ん?」

 

「ム?」

 

 その視線に気付き、吸血鬼君主ちゃんの探し人……重戦士さんと蜥蜴僧侶さんが2人を見つめ返しています。お、吸血鬼君主ちゃんの手招きに応じ、その手に相棒と皿を抱えてテーブル席まで来てくれました! 獣人女給さんに飲み物を頼んだ重戦士さんがテーブルにだんびらを立てかけながら着席。その隣に蜥蜴僧侶さんも椅子を退かして床に直接座り込んでいますね。

 

「どうした、なんか依頼か?」

 

「フム、これは珍しい組み合わせですな」

 

 ……言われてみれば確かに。重戦士さんと蜥蜴僧侶さん、どちらも吸血鬼君主ちゃんと仲良しですが、2人いっぺんに頼み事というのは今まで無かった気がしますね。女騎士さんという回復が出来る前衛がパートナーとしている以上、同じように動ける蜥蜴僧侶さんが重戦士さんと組むという事態はあまり考えられません。吸血鬼君主ちゃんの戦闘スタイルから考えても、依頼で求められる同行者は遠距離支援か呪文遣い(スペルスリンガー)でしょうし。

 

 2人ともそれを理解しているのでしょう、何故呼ばれたのか思い当たる節が無い様子です。ですが、吸血鬼君主ちゃんの話を聞くにつれその表情は大きく変化していきます。片方は得心、もう片方は……逃げ道を全て塞がれた獲物のような表情に。

 

 

 

「……だから、()()()()()()()おまつりにきてほしいの。それが()()()()()()()()()()にしはらうほうしゅうのいちぶだから」

 

 ……ん? 2人を連れてというのは眼前の2人のことではない? もしかして『蜥蜴僧侶さん』と『重戦士さん+【女騎士さん&赤ちゃん】』ということでしょうか。おねがいします、と頭を下げる吸血鬼君主ちゃんの対面。2人の表情は実に対照的なものです。

 

「成程。そういう事であれば拙僧は喜んで参加させていただきますぞ」

 

 腕組みしながら何度も頷く蜥蜴僧侶さん。床面の尻尾もご機嫌に揺れています。一方の重戦士さんは……。

 

「うぐぉ……いや、何時かそうしなきゃならん時が来るのは判っていたんだが……おぁぁ……」

 

 脂汗を浮かべ、両手で頭を抱えた状態で悶えています。まぁ、呼び出しの理由が理由ですからねぇ。ここは男らしくバッチリ決めて欲しいところです。暫くのたうち回っていた重戦士さんですが、やがて覚悟を決めたように立ち上がりました。

 

「……アイツに話してくる。明後日の朝、お前らの家に行けば良いんだな?」

 

「うん、そのままおうとまでちょっこうびん。……ごめんね、むりいって」

 

「いや、謝る必要は無ェ。責任はキッチリ果たさねぇとな」

 

 ギルドの玄関へと歩き出した重戦士さんの後を追うように立ち上がった吸血鬼君主ちゃん。くるりと後ろを振り返り、蜥蜴僧侶さんにも明後日一党(パーティ)の自宅まで来てくれるよう頼んでいます。蜥蜴僧侶さんの首肯を見た後走り出した吸血鬼君主ちゃんの背中に監督官さんから質問の声が投げかけられました。

 

「ねぇねぇ、差し支えなければ教えて欲しいんだけど、おっかない依頼人さんに支払う残りの報酬って何なのかな?」

 

「えっとね、それはナイショ。おんなのこどうしのやくそくなの!!」

 

 振り返って2人に向けた表情は悪戯っ子のそれですね。その言葉だけ残して駆け出していった吸血鬼君主ちゃん。外から聞こえる声から察するに、後方から重戦士さんに抱き着いてそのまま飛び始めたのでしょう。徐々に遠くなる重戦士さんの悲鳴をよそに残された2人が顔を見合わせています。

 

「フム。拙僧の記憶が確かならば、君主殿は兎も角あの将軍殿は『おんなのこ』という齢では無かったような……」

 

 只人(ヒューム)の慣習ですかなと首を傾げる蜥蜴僧侶さんを見て、その鼻先にデコピンをかます監督官さん。痛みと呼ぶにはあまりに微細な衝撃に目を白黒させている蜥蜴僧侶さんに、腰に両手を当てた「私、怒ってますの」ポーズの監督官さんがキッパリと言い放ちました。

 

 

 

「そんなこと言っちゃダメだよ~。恋する女性は何歳になっても『おんなのこ』なんだから」

 

 


 

 

「あ、こんにちわ妹様!」

 

「おねえちゃんのだんなさまのいもうとさまだー!」

 

「ちっちゃーい!」

 

「あったかーい!」

 

「おひさまのいいにおーい!」

 

「おあ~……」

 

 はい、ところ変わってここは牧場。早速吸血鬼君主ちゃんが兎人(ササカ)のおちびちゃんたちに囲まれ、おもいっきり揉みくちゃにされています。

 

 乗り物(君主ちゃん)酔いしたのか、若干青い顔の重戦士さんを女騎士さんに預け、吸血鬼君主ちゃんは現在ゴブスレさん夫妻に魔女パイセン、白兎猟兵ちゃんwithおちびちゃんと一緒にお茶をご馳走になっているところです。

 

 突然の訪問に驚いた様子もなく、冬毛の生え変わり時期に突入したおちびちゃんたちの抜け毛塗れになった吸血鬼君主ちゃんを笑いながら綺麗にしてくれている牛飼若奥さん。鎧下に肩に手拭いという農作業姿のゴブスレさんも微かに笑っているように見えます。

 

「今日はどうした。茶を飲みに来ただけというわけでもないだろう。アイツを運んできた事と関係が有るのか?」

 

「んとね、いまかかわってるあんけんでちょっとききたいことがあるの」

 

 白兎猟兵ちゃんが淹れてくれたお茶で喉を湿らせつつ、王都での一件を話す吸血鬼君主ちゃん。火打石団の横暴を聞いて「ひどーい!」とぷんすこしているおちびちゃんたちの横でゴブスレさん夫妻が顔を見合わせています。

 

「うーん……もしかしてこの間来た人も……」

 

「ああ、可能性は有る」

 

 お、何か心当たりがあるのでしょうか? 思い出すように額に手を当てつつ、牛飼若奥さんが話してくれたのは……。

 

 

 

「えっと、うさぎちゃんたちに牧場の仕事を覚えて貰っている時にお客さんが来たんだ。ほら、ウチって畜産以外にもギルドの訓練場に卸す野菜用の農地があるよね? 去年から地母神の神殿のみんなが頑張ってくれたおかげで牧場の農地も広くなったんだけど、消費地が近いし日持ちもしないから利益のことはあんまり考えてなかったんだ」

 

 ふむふむ、主食である麺麭は焼くのに領主の持つ窯を借りないといけないですし、原料の麦も保存が利くので新規参入は難しいでしょう。それよりも新鮮な野菜のほうが需要がありますし、栄養面から見ても有難いですからねぇ。牧場産のベーコンと野菜を挟んだサンドイッチは訓練場でも大人気です。

 

「そのお客さん、たぶん何処かのお貴族様の御用商人だと思うんだけど、その貴族の庇護下に入るようしつこく迫ってきたの。これだけの敷地があれば葡萄や油菜みたいな商品作物が大量生産出来る。今の何倍も儲けられるから、自分たちで食べるぶんは他所から買えば良いだけだって」

 

 もしかして:モノカルチャー経済

 

「たまたま伯父さんが留守だったから困ってたんだけど、彼と英霊さん2人がその人を取り囲んだらすごい勢いで帰っちゃった。……あの時は助かったよ!」

 

「……甘い話には必ず裏がある。そう判断しただけだ」

 

 うーんこの惚気話、おちびちゃんたちも「ごちそうさまー!」の大合唱です。ですが牧場を傘下に加えようとするのは原作(オリジン)の揺り返しでしょうか。

 

 単なる金儲けならまだマシですが、裏に覚知神さんの囁きで擬似先進農法に目覚めた農学者でもいたら塩害・森林伐採・土壌流出等の環境破壊コンボ待ったなしです。牧場の関係者がみんな利益にあまり興味がないことが功を奏したといえるでしょう。

 

「……調査の必要があるな。スマンが少し出掛ける」

 

 おや、考え込んでいたゴブスレさんが立ち上がり、最近ご無沙汰の複合素材鎧(コンポジットアーマー)に着替えてきました。金貨が入ってると思しき袋を懐にしまい、暗視付きの兜越しに吸血鬼君主ちゃんへと向き直ります。

 

「決闘当日は同行してやれんが今日明日は問題ない。情報屋を当たってみるが、お前も来るか?」

 

「いく!」

 

 ほほう、どうやら辺境の街のならず者の集まり(ローグ・ギルド)へ行くつもりのようですね。あそこなら牧場に干渉してきた人物が何者であるか判るかも。

 

 陛下の駒だった時代にスパイ狩りを行っていた(ウェットワーカーだった)吸血鬼侍ちゃんなら繋がりを持っている可能性はありますが、ぽわぽわちのうしすうの吸血鬼君主ちゃんはそういったコネが全く無い状態です。この先影の世界に顔を出す切っ掛けになるかもしれませんし、是非同行させてもらいましょう!

 

 お、どうやら重戦士さんと女騎士さんの話し合いも決着がついたみたいですね。疲労困憊の重戦士さんに対して呵々と笑い声を上げる女騎士さん、抱きかかえている娘さんもそれにつられて満面の笑みを浮かべています。隣で話を聞いていた魔女パイセンも声を出さずに笑っていますね。

 

 では明後日この子と一緒に行くからな!と声を上げる女騎士さんに手を振り、ゴブスレさんと重戦士さんを抱えて飛び立つ吸血鬼君主ちゃん。飛行能力が向上したのか以前よりも安定性が増したように思えます。これなら2人が酔うことも……あんまりないでしょう! 3人のママと4人の赤ちゃん、そしてたくさんのうさぎさんに見送られながら辺境の街へと飛んで行くのでした……。

 

 


 

 

「しっかし、忍びの旦那に連れられてからこっち一度も顔を出さなかったお方が、まさか嫁さんでも無ェ()同伴で来るたァ驚きですぜ」

 

「戦友だ。わかっているなら言わなくていい」

 

 複雑な符丁と手順が入り混じった挨拶の後、肩を竦めながら灰色頭巾の店主がからかうように笑い、対するゴブスレさんからは憮然とした声。ギルドで重戦士さんと別れてから2人が訪れた場所は、雑貨屋の裏手から繋がったもぐり酒場(スピークイージー)です。

 

 小気味よく走る管弦楽器のフレーズと、それに妖艶に絡みつくピアノの旋律。心躍る演奏が響く店内の注目は、店主とともにやって来た2人へと集中しています。

 

「ほわぁ~……きれいなしっぽだ……」

 

 吸血鬼君主ちゃんがカウンターでグラスを磨くバーテンダーの人魚(バーメイド)さんの尻尾に夢中になっている間にゴブスレさんは店主と交渉を進め、牧場を傘下に入れようと話を持ち掛けてきた人物の素性と何処の紐付きであるかを聞き出しているみたいですね。

 

 

 

「ありャ王都で貴族連中と商いをしている商家の人間ですわ。多少後ろ暗いところはありますが、そのくらいの度量が無きャ生き馬の目を引っこ抜くような連中と渡り合えねェってモンでさぁ」

 

「そんな男が何故この辺境まで赴き、牧場を傘下に収めようとする」

 

 ゴブスレさんの問いをまぁまぁと手で制し、テーブルの上を滑ってきた2つのグラスを手に取り、片方をゴブスレさんに渡しつつ口を付ける店主。続けてバーメイドさんは苦笑しながら、キラキラと期待で満ちた目で見つめてくる吸血鬼君主ちゃんの前にもグラスを滑らせてます。

 

「金髪の陛下の治世のもと徐々に力を失っているとはいえ、未だ政治と経済の多くを握っているのは門閥貴族。蜜月の関係でいるためにゃあ予備(スペア)を飼殺す遊興費くらい必要経費と割り切って当然ってもんです。ただ、飼われている連中(火打石団)がそれを理解して無かったのが誤算なだけで」

 

 あー、遊ぶ金が足りなくて商人を強請ってたんですねわかります。友達料の一部として金銭を都合していたのを予備(スペア)が勘違いして、どんどん図に乗って来た。拒否しようにもそれまで裏社会を牛耳っていた連中と違って加減を知らず、領地に従属している農奴に振るうような気安さで暴力という手段に出てくると。

 

「表向きは有志による王都の治安維持を謳っているいるもんだから当主連中も強くは言えず、報復を恐れて官憲も及び腰。なんとも平和な御時勢なこって」

 

 

 

 やれやれと肩を竦める店主と、いらだちを抑えるようにグラスを呷るゴブスレさん。丹精込めて作った作物が愚かな貴族の遊興費になるところだったと言われたら誰だって同じことをするでしょう。微かに真紅の光を帯びている兜奥の瞳を見て、そうカッカしなさんなと店主が笑っています。

 

「先生が何もせずとも、連中の運命はもう決まり切ってますわ。あの嬢ちゃん……特に黒いほうが動いてるなら猶更に」

 

 店主の顎で示す先。心に染み入るような音楽から一変、心を鷲掴みにする歌を披露する舞台(ステージ)に夢中になっている吸血鬼君主ちゃんの後姿がありました。

 

 

 

 牛革(レザー)ジャケットに揃いのズボン、特徴的な髪型(リーゼント)の男性がギターを片手に歌いながら、足の動きに合わせて腰を揺らし、上半身を躍動させる見事なパフォーマンスを披露。それまで静かに演奏を楽しんでいた仕掛け人(ランナー)たちも彼の動きを真似して皆ステップを踏んでいます。近くにある2人掛のテーブル席では、軍帽を被った青年が同席している赤毛の森人(エルフ)の少女が歌い手の男性に向かって黄色い歓声をあげているのを苦虫を嚙み潰したような顔で見てますね。

 

「あの娘は如何かわかりやせんが、黒いほうの嬢ちゃんは間違いなく影を走る住人(こっちがわ)でさぁ。()()()()()を疎む貴族に雇われた仕掛け人(ランナー)が、()()()の刃によっていったい何人王都の路地に消えていったことやら」

 

 頭巾の下から覗く口元を歪ませながら嗤う店主を静かに見つめるゴブスレさん。フン、と鼻を鳴らし、攻撃色の失せた瞳を吸血鬼君主ちゃんへと向け、断定的な口調で呟くのは……。

 

 

 

「知らんな。どちらのアイツも、俺にとっては同じ冒険者で、隣に並ぶ戦友で、背を預けられる親友だ。アイツがそれを拒まない限り、な」

 

 

 ゴブスレさん渾身のデレに思わず真顔になった店主、やがて肩を震わせながら彼と同じように舞台(ステージ)へと向き直りました。ちょうど演奏が終わったのか、眼前で楽しそうにステップを踏んでいた吸血鬼君主ちゃんを歌い手の男性(ロックの神様)が抱え上げ、舞台へと引っ張り上げています。

 

 突然の事態に目を白黒させていた吸血鬼君主ちゃんでしたが、バンドメンバーが演奏を始めると踏ん切りがついたのか、静かに客席のほうへ向き直りました。

 

 静かなピアノの独奏から始まり、大空を鳥が飛ぶように広がっていく主旋律(メロディー)。吸血鬼君主ちゃんから発せられたのは、その小さな見た目と違わぬ透き通るようなソプラノの、その見た目からは想像出来ない程力強い歌声です。

 

 

 

 それは、冒険者(アドベンチャラー)仕掛け人(ランナー)なら誰もが知っている歌。

 

 時を超え、世界を超え、永遠に戦い続ける戦士の物語。

 

 その姿はワタリガラス(レイヴン)山猫(リンクス)、時には玉葱(カタリナ)と様々であり、その立ち位置も傭兵や騎士、はたまた国を統べる者(大統領)であったりと、てんでバラバラなものばかり。

 

 栄纏神(えいてんしん)の使徒とも異なる、四方世界ではない何処か違う場所から伝わった奇妙な伝説。

 

 己が魂の安息の場所を求め、数多の戦場を彷徨った英雄の歌とされているものです。

 

 

 

 先ほどまで足を踏み鳴らしていた観客も目を閉じて歌に聞き入り、ちょっと不機嫌だった軍帽の青年も、隣の相棒と一緒に吸血鬼君主ちゃんの歌声に合わせて「とぅーとぅーとぅーとぅとぅー」と口ずさんでいますね。

 

「――こんな外れ(モン)が集まる溜まり場(ネスト)で、()()を歌い上げる気概のある嬢ちゃんだ。噂にゃ耳にしておりましたが、やっぱ只者(タダモン)理由(ワケ)ありませんわな……」

 

 

 

 店主の呟きが旋律に溶け込んだところで一旦視点を切り替えて、ほかのみんなの行動結果を確認してみましょう!

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 


 

 

 いやぁ、まさか吸血鬼君主ちゃんが歌を歌えるとは思いませんでしたよ!

 

 アレ仕込んだのは万知神さんですか? え、違う? じゃあ無貌の神(N子)さん……でもない。

 

 うーむ、となると後は……あ、まさか。

 

 (太陽神さんが玉葱を並べている姿を見て真実に気付いた探索者はSANチェック(0/1d3)です)

 




 クライマックスフェイズが遠いので失踪します。

 お気に入りや評価、感想がとても励みになっております。

 なかなか進まないお話しですが、これからもお付き合いいただければ幸いです。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその12-5


 中の人の崩壊が激しいので初投稿です。


 うぷ……いくら好きだからって流石にあの量のドーナツは無理ですって成功神(エルヴィス)さん……。

 

 オオサカでも食べ過ぎで化身(アバター)を何度もダメにしてるっていうのに、まったく懲りないんですから……っと。

 

 おや正道(ルタ)神さん、珍しいですね。ダブル吸血鬼ちゃん卓はRTAじゃないから興味ないものとばかり。

 

 ほう、同じ盤面で王国繁栄RTAを走っている信徒のストレスがマッハだから、息抜きをさせてあげたいと。

 

 なるほどなるほど、ではこんな≪託宣(ハンドアウト)≫を送ってみては如何ですか? きっと喜んでくれると思いますよ!

 

「――オリチャーはわるいぶんめい――」 正道神さんの残したチャートより抜粋

 

 


 

 

 前回、吸血鬼君主ちゃんが歌姫デビューしたところから再開です(嘘)。

 

 日付は進み現在2日目の夜、一党(パーティ)の拠点たる自宅のリビングには明日の朝女騎士さんと来る予定の白兎猟兵ちゃんと吸血鬼君主ちゃん以外の面子が勢ぞろい。庭先で吸血鬼侍ちゃんに礼儀作法を叩き込んでいた令嬢剣士さん親子と森人少女ちゃんが作ったおゆはんを頂いているみたいです。

 

「おじぎを……おじぎをするのだ……」

 

 吸血鬼侍ちゃんの目がゲッ〇ー線を浴び過ぎたようにグルグルになっていますが、ただちに影響は無いでしょう。きっと。

 

 美味しくおゆはんを頂いた後は、それぞれが調べてきた情報の報告と精査に取り掛かった一行。森人少女ちゃんの淹れてくれたお茶を相棒に顔を突き合わせていましたが……。

 

 

 

「いやぁ、想像以上にどうしようもない連中みたいだね。火打石団ってのは」

 

 やれやれと肩を竦める森人狩人さんの言葉に全てが集約していると言って良いでしょう。あまりのやらかし具合に「同じ貴族として本当に申し訳ありませんわ……」と半森人夫人さんが青い顔になっちゃってます。

 

 

 

「商隊の護衛に無理矢理同行して護衛料を集る、臨検と称して商品を掠めとる、酷い時は破落戸とグルになって荷を奪おうとすることもあったらしい。王都から冒険者が逃げてくるわけだよ」

 

「その方々はまだマシですね。至高神の神殿で裁きを待っている連中は実際に何度も商隊を『消して』いたようですので。貴族連中に無理矢理脅されていた、俺たちは被害者だと主張していましたけれど、新任の大司教猊下(元見習い聖女ちゃん)の目を誤魔化すことは出来ませんでしたわ」

 

 森人狩人さんを補足するように、省エネモードの剣の乙女ちゃんが冒険者の屑(福本モブ)たちの余罪を暴露してますけども……あいつら本っ当に碌な事しませんねぇ。

 

 

 

「学院も似たようなモンね。金の力で卒業した馬鹿息子(アホボン)どもが我が物顔でやってきては、家名をチラつかせて優秀な生徒を引き抜こうとしてたみたい。上層部は門閥貴族とズブズブだから今まで多少は大目に見てたみたいだけど、最近は露骨に圧力を掛けて来てたらしいの」

 

「住人に対する横暴っぷりは最悪、ヘルルインから聞いた太陽神の神殿みたいな騒ぎがそこかしこで起きてるわ。よりにもよって地母神に仕える娘を手籠めにしようとした時に『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて言ったらしいし」

 

 わーお。地母神の神殿がゴブリンの被害に遭った女性が心身の傷を癒し、暮らしていく場所であることは誰もが知っている事実なのにその言い様、全方面に喧嘩を売ってるとしか思えません。そういった蔑視を払拭するために、寄生虫の駆除や母体の受胎機能回復方法を確立しようとみんなで頑張っているのに……。

 

「偶々研修に来てて現場に居合わせた辺境(こっち)の神殿の娘が割って入った時にも、『ゴブリンの娘が邪魔立てするか!』って吐き捨てたんだって。……ああ、そいつらは全員あのおっかない女(聖人尼僧)が半殺しにしたって本人が言ってたから、そんなに殺気立つんじゃないわよヘルルイン」

 

 ああ、葡萄尼僧さんは王都に行ってたんですか。後輩である女神官ちゃんが出世の道を三段跳びに駆け上がってますので、尼僧さんもその補佐をするための勉強かもしれませんね……って、妖精弓手ちゃんの言葉通り吸血鬼侍ちゃんが激おこ状態に!

 

 攻撃色に染まった瞳を輝かせ牙をガチガチと鳴らしているのを見た森人狩人さんが後ろから抱きしめ、そっと手で眼前を覆いながら落ち着かせようとしています。

 

「その怒りは明日に取って置きたまえよご主人様。腸が煮えくり返っているのは私たちも同じだからね」

 

「……ん、ありがとう。もうだいじょうぶ」

 

 両目を覆っていた森人狩人さんの手を取り、そっと口付けをする吸血鬼侍ちゃん。森人狩人さんのおなかに顔を埋めるように抱きつき、くぐもった声でみんなに話します。

 

「ぼくもあのこも、みんなのことを『けがれたおんな』だなんておもったことないよ。みんなとってもきれいで、かわいくて、せんさいな、ぼくたちのたいせつなかぞく!」

 

 だから、明日はあいつらをわからせてやると静かに告げる吸血鬼侍ちゃんを見て頷く一同。王都に蔓延している病巣を一息に切除する絶好の機会です! 全力で相手してやりましょう!!

 

 

 

「そういえばヘルルイン、今日シルマリルを見かけたかしら?」

 

「んと、ひるすぎにかえってきてそのまま≪てんい≫のかがみでおうとにいったよ。あしたはちょくせつかいじょうにくるっていってた」

 

「ふーん。……ねぇ、今シルマリルが何してるのかって、わかったりする?」

 

「ん、ちょっとどうちょうしてみる」

 

 おっと、妖精弓手ちゃんのお願いに応えて吸血鬼侍ちゃんが目を瞑って脳内通信を試みてますね。吸血鬼君主ちゃんの動向は太陽神さんが見守っているのでちょっと映像を回してもらい……ん? どうしました太陽神さん、そんな真っ赤な顔になって……って、吸血鬼侍ちゃんの顔もみるみる赤く染まっていってます! ちょっと回線を繋げてみましょう!!

 

 

 

 

 

 

「へぇ、これが話しに聞いていた霊薬かい? 思っていたほど不味くはなさそうだね」

 

「ん、りんしょうしけんがおわったあとのかいりょうひんだから、そのあたりもばっちり」

 

 むむむ、映像が乱れて音声しか届いていませんが……これは吸血鬼君主ちゃんと女将軍さんの声ですね。どうやら豊穣の霊薬の話をしているようですが……。

 

「ちゃんとみんなおまつりにもさそったし、あしたになったらあえるからね!」

 

「そうだな、おちびちゃんはしっかりと約束を果たしてくれたよ。……さて、依頼料の残りはあとひとつだ。最後までキッチリ付き合って貰うよ?」

 

 ほほう、吸血鬼君主ちゃんが蜥蜴僧侶さんと重戦士さん一家に声をかけていたのは、決闘のお膳立てを女将軍さんにお願いするときの依頼料だったんですか。話を聞く限り豊穣の霊薬もその一部みたいですね。んで、これから残りの支払いをするっぽいですけが……おや、何やら布が擦れるような音が。同時に寝台(ベッド)が軋む音も響いてきましたけど……え、まさか。

 

「だいじょうぶ、ぼくにまかせて。さぁ、ちからをぬいてぼくにぜんぶをゆだねて……こころも、からだも……ね?」

 

「ああ、わかった。……フフッ、忘れられない夜になりそうだ」

 

 

 

 

 

 

 こ れ は い け ま せ ん 。

 

 同時通訳を行っていた吸血鬼侍ちゃんの顔色が赤と青を往復して面白いことになってますが、それ以上に女性陣が怖い! 能面の如き無表情の女魔法使いちゃんにレイテルパラッシュをガシャガシャ変形させ続ける剣の乙女ちゃん、虚ろな笑い声を上げていた妖精弓手ちゃんがポツリと呟きました。

 

「これは、シルマリルとしっかり()()()しないといけないわね……」

 

 吸血鬼君主ちゃん、どうして……?

 

 


 

 

「ヤベェ、滅茶苦茶緊張してきやがった……まだ来てないよな?」

 

「まったく、何をそんなに怯えている。父親として恥ずかしくないのか!」

 

 はい、吸血鬼君主ちゃん疑惑の夜が明けて決闘当日、早朝一党(パーティ)の拠点にやって来た重戦士さん一家と白兎猟兵ちゃんと合流し、現在時刻はお昼前。貴族の誇りを賭けた決闘(火打石団最後の日)を一目見ようと練兵場にはたくさんの人が集まっています。おなかを押さえながら辺りを見渡す重戦士さんの頭を女騎士さんが引っ叩き、その光景を娘さんが不思議そうに眺めていますね。

 

「では頭目(リーダー)、此度の決闘で守らねばならない事とは?」

 

「きゅうけつきのちからはつかっちゃだめ、とんだりはねたりしてかわすのもだめ、あいてのどひょうにたってむじひにじゅうりんする!」

 

「素晴らしい、頭を撫でてあげましょう」

 

「わ~い!」

 

 関係者席扱いの最前列に一行は集まり、吸血鬼侍ちゃんが令嬢剣士さん親子と一緒に最後の確認を行っているようです。赤ちゃんへの負担を考慮し残念ながらお留守番となった森人少女ちゃんでしたが、彼女の分までと言わんばかりに頭を撫でる半森人夫人さんに吸血鬼侍ちゃんもご満悦。やる気ゲージは満タンですね!

 

「フム、どうやら君主殿たちはまだ来ていない様子。出番に間に合えば良いのですが」

 

「まぁアイツの出番は決闘の後だし、放っておきましょ」

 

 一行でいちばん高い視点から会場を眺めている蜥蜴僧侶さんですが、やはりまだ吸血鬼君主ちゃんは来ていないみたいです。一般観客席にはこちらに向かってにこやかに手を振っている聖人尼僧さんと、その隣で無表情を貫いている蟲人英雄さんの姿が見えますね。まぁ女魔法使いちゃんの言う通り、決闘が終わるまで吸血鬼君主ちゃんの出番は無いのですが……。

 

 

 

「まぁまぁ、それよりも向こうを見てみると良い。どうやら彼らもやる気みたいだね」

 

「うっわ、ボンボンばかりとは聞いてたけど結構良い装備してるじゃない」

 

 森人狩人さんの示す先、ちょうど一行の反対側の席に放蕩貴族(アホボン)をはじめとする火打石団の連中が集まっていますね。妖精弓手ちゃんが呆れているように全員当世具足(フリューテッドアーマー)で身を固め、威圧感のある炎紋剣(フランベルジュ)片手半剣(バスタードソード)を手に持っています。盾を持たないのは鎧の防護に自信があるのとより剣の威力を高めるためでしょうか。

 

 

 

 

 

 

「――それでは、両家の代表は前に!」

 

 声を張り上げる立会人。今回貧乏くじを引かされたのは最近良いとこなしだった交易神の神殿長さんですね。地母神と太陽神は連中と揉めてる当事者ですし、至高神の神殿は恣意的な判定を下すのではないかと火打石団がゴネたために選外。他の神殿も貴族間の諍いに首を突っ込みたくないとエンガチョしたために泣く泣く引き受けたっぽいです。『赤い手』の騒動の時に足を引っ張った前科がありますし、多少はね?

 

頭目(リーダー)、我が家の誇りと私の想い、貴女に託しますわ」

 

 ふてぶてしい笑みを浮かべて進み出る放蕩貴族(アホボン)を見て、吸血鬼侍ちゃんと頷き合う令嬢剣士さん。家宝である軽銀の双剣の短いほうを抜き、鞘ごと吸血鬼侍ちゃんへと手渡しています。なるほど、決闘代理人(チャンピオン)らしく自前の村正や暗月の剣(サタンサーベル)ではなく彼女の愛剣を使うんですね! 只人(ヒューム)の短剣は圃人(レーア)としても小さめの吸血鬼侍ちゃんにとっては長剣(ロングソード)サイズ、決闘には相応しいものでしょう。

 

「どうやら逃げ出さずに来たようだな地べた摺り(ロードランナー)孺子(こぞう)。今ならすべての剣を捨てて這いつくばれば命乞いを聞いてやらなくもないぞ?」

 

 会場中央に進み出て来た吸血鬼侍ちゃんに侮蔑の表情をむける放蕩貴族(アホボン)。完全に吸血鬼侍ちゃんを下に見ています。令嬢剣士さん宅でのいざこざの時には気にしてませんでしたけど、並んでみると意外と良い体格をしてますね。重戦士さんほどの大きさではありませんが、だんびらを持った立ち姿は重心がブレず、貴族らしい堂々とした佇まいです。

 

「惨めに慈悲を乞う貴様の姿を見れば、彼女も真の愛に目覚めることだろう。冒険者如き下賤な連中とは違う、我ら高貴なる者の伴侶として彼女は生まれ変わるのだ!」

 

 どこか陶然とした様子で薔薇色の未来を思い浮かべる放蕩貴族(アホボン)。彼の中では吸血鬼侍ちゃんは単なる路傍の石でしかないようです。立会人である交易神の神殿長さんですら顔を顰めるような妄言を垂れ流す放蕩貴族(アホボン)を黙って見ていた吸血鬼侍ちゃん、彼の言葉が途切れた瞬間に先制の一撃を与えます。

 

 

 

「あんまりつよいことばはつかわないほうがいい」

 

「……何?」

 

「よわくみえるよ? ()()()()()()()()()()

 

 わーお、素晴らしい切れ味。一瞬にして放蕩貴族(アホボン)の顔は憤怒と羞恥によって真っ赤に染まり、立会人の静止が無ければそのまま斬りかかりそうな剣幕になりました。背後では令嬢剣士さん親子がグッとサムズアップ、()()の仕込みが上手くいってニッコリしています。

 

「貴様、貴族たる私を愚弄するかッ! おい、早く開始の合図を出せ!!」

 

 慌てて決闘の開始を告げる立会人を押し退けるように迫り、大上段に振りかぶっただんびらを吸血鬼侍ちゃんへと叩きつける放蕩貴族(アホボン)。その太刀筋を見た重戦士さんの口から感嘆の声が上がるのを長耳で捉えた妖精弓手ちゃんが説明を求める視線を向けています。

 

「見掛け倒しかと思っていたが、予想以上に鍛えてるな。剣の重さに身体が引っ張られちゃいねぇ」

 

「なによ、ただのボンボンじゃないっての?」

 

「いや、()()()()()()()()()()()()()。日々の暮らしのために汗水垂らすことなく、只管棒振りに集中出来る恵まれた立場でなきゃ戦場に出る駒は作れねぇ」

 

 ああ成程。庶民が労働に消費する時間を鍛錬に費やすことが出来る貴族ならではの力というわけですね。家督を引き継ぐ長男とは違い、戦場で武勲でも立てなければずっと冷や飯喰いの予備(スペア)でしかない次男三男。必死になって力を求めるでしょうね。

 

「どうした孺子(こぞう)、無様に逃げ回るだけか!」

 

 苛烈に攻め立てる放蕩貴族(アホボン)に言葉を返すこともなく、だんびらの連撃を捌き続ける吸血鬼侍ちゃん。振り下ろしは短剣を刀身に沿わせることで逸らし、横薙ぎの一撃は後退して躱しています。余程持久力(スタミナ)に自信があるのか、放蕩貴族(アホボン)の攻撃速度が落ちる兆候は見られません。

 

「ねぇ、いくら普段の戦い方が出来ないからって、あのままじゃちょっと不味くない?」

 

 防戦一方に見える戦いに思わず不安げな声を上げる妖精弓手ちゃん。観客たちも一方的な展開に溜息を洩らし、盛り上がっているのは火打石団の連中ばかり。思わず他の一行の顔を見渡す妖精弓手ちゃんですが……。

 

 

 

「フム、勝ちましたな」

 

「そうだね、ご主人様の勝ちだ」

 

「まったく、もう少し骨があると期待していたのだがなぁ……」

 

 

 

「……あ、あれ?」

 

 接近戦に覚えのある面子の勝ち確宣言に困惑する妖精弓手ちゃん。女騎士さんに至っては相手の不甲斐なさに半ばキレかかっているほどです。勝利の根拠が見えてこない妖精弓手ちゃんに対し、娘さんをあやしながら重戦士さんが説明してくれたのは……。

 

 

 

「確かに相手の剣は重いし早い。だが、ありゃ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。抵抗出来ない者ばかり相手にしていたせいで考えが凝り固まっちまってる。あれじゃチビ助には届かねぇよ」

 

 

 

「クソ、ちょこまかと目障りなガキが……っ!」

 

 重戦士さんの指摘の後、会場にどよめきが沸き立ち始めました。一方的に攻めていた筈の放蕩貴族(アホボン)の顔に焦りの色が見え、対照的に吸血鬼侍ちゃんに浮かぶのは冷めた表情です。

 

 最初に剣で逸らしていた振り下ろしも紙一重で避け、薙ぎ払いはまさかの前進し間合いの中へ飛び込んで躱す煽りプレイ。背後の取り巻きたちがざわつき始めたのを感じ取り、放蕩貴族(アホボン)が声を張り上げました。

 

「決闘の作法を弁えぬ地べた摺り(ロードランナー)め、騎士らしく正々堂々と戦え!!」

 

「……べつにいいけど、こうかいするよ?」

 

 ステップを止めて剣を構えた吸血鬼侍ちゃんを見て頬を歪める放蕩貴族(アホボン)。ジリジリと近付き、吸血鬼侍ちゃんの間合いの外で大上段に剣を構えました! 剣の重さと膂力、吸血鬼侍ちゃんの何倍もあるソレを十二分に乗せた一撃がその身体を粉砕せんと迫り……。

 

 

 

 

 

 

「なん……だと……!?」

 

 渾身の一撃を受け止められ、驚愕の表情を浮かべる放蕩貴族(アホボン)鍔迫り合い(バインド)に持ち込まれた段階で彼にとっては屈辱でしょうが、それだけでは終わりません。短剣をいなそうと体重を掛けて押し込みますが吸血鬼侍ちゃんは微動だにせず、逆に吸血鬼侍ちゃんの手首のまわしによって剣がずらされています。

 

 大剣(グレートソード)、しかも両手で握ったソレを片手持ちの短剣によってまわされるという悪夢。体軸の左右にはみ出るだんびらに振り回されて無様な踊り(ダンス)を披露する放蕩貴族(アホボン)の醜態を見て、会場に歓声が飛び交っています。つまらなそうに剣をまわしつづける吸血鬼侍ちゃんの顔を見て、放蕩貴族(アホボン)の口から断続的に悲鳴が漏れ始めました。やがて2人のダンスも終わりの時間を迎え……。

 

 

 

「ヒッ、畜生!? 何だ、何なのだオマエは!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な ん だ と お も う ?」

 

 

 

 

 

 

 鍔元で砕かれただんびらの柄を握ったまま呆然と立ち尽くす放蕩貴族(アホボン)と、陽光を反射して輝く刀身を天高く掲げた吸血鬼侍ちゃん。どちらが勝者なのかは一目瞭然です。決闘の終わりを告げる立会人の声の後、会場は爆発するような歓声によって埋め尽くされました。

 

 

 

「ヒューッ! さっすがヘルルイン……って何よ2人とも、もう勝負はついたでしょ?」

 

「まぁ、こっちはそう思ってもあちらさんは違うみてぇだからなぁ」

 

「左様、戦の余韻に水を差す無粋な輩が居ります故」

 

 吸血鬼侍ちゃんに駆け寄ろうとしたところで蜥蜴僧侶さんに首根っこを引っ掴まれた妖精弓手ちゃん。ガルルルと唸りながら振り返りましたが、完全装備の男子2人を見てキョトンとした顔になっています。それと時を同じくして対面の火打石団の連中が得物を構え、ワナワナと俯いて震えていた放蕩貴族(アホボン)が、後ろ腰に差していた小型の鎧貫き(エストック)を歓声に応えて手を振っていた吸血鬼侍ちゃんの背中に突き立てました!

 

「……そっちのりゅうぎにつきあってあげたのに、ずいぶんなことをするね?」

 

「黙れ孺子(こぞう)! 貴様のような塵芥(ゴミ)が我々貴族に勝つことなどあってはならない! こんな勝負は無効(ノーカン)だ!!」

 

 うーんこのハンチョウ理論。あまりの傍若無人っぷりに毒気を抜かれたような吸血鬼侍ちゃん。腹部から鎧貫きの切先を覗かせたままこの会場で一番不幸な立会人である交易神の神殿長さんに退避を促しています。脱兎の如き勢いで観客席に逃げる彼と入れ替わるように、火打石団の連中が「ノーカン! ノーカン!!」と声を上げながら会場の中心へと歩を進めています。

 

頭目(リーダー)しっかり、傷は浅いです。……まさか此処まで愚か者の集まりでしたとは。とことん見下げ果てましたわ」

 

 重傷の(ふりをしている)吸血鬼侍ちゃんを抱え上げた令嬢剣士さんが絶対零度の視線を向ける先、焦点の合わぬ目で見つめ返す放蕩貴族(アホボン)が血濡れの鎧貫きを手に哄笑しています。脱ぎ捨てた兜の下に見える首元に光るのは天秤と剣を象った聖印(シンボル)。しかし秤の上には()()()()()()()()()、天秤の体を為していません。

 

 

 ま た 死 灰 神(アイツ) か 。

 

 

 

「我が愛を貫くための正義の道を邪魔するというのなら、婚約者の貴女とて容赦しませんぞ!」

 

 おっと失礼しました。完全に己が正義を信じた瞳で令嬢剣士さんを睨みつけ、取り巻きから受け取った長剣(ロングソード)の切先を突き付ける放蕩貴族(アホボン)……いえ、死灰神の信徒。何のために決闘を行ったのかさえ彼の脳裏には残っていないようです。

 

 吸血鬼侍ちゃんを抱えているのとは反対の手で栄纏神の聖印(シンボル)をギュッと握りしめた令嬢剣士さん。裁きの魔剣(アヴェンジャー)を召喚しようとした彼女を制したのはクスクスと笑う吸血鬼侍ちゃんです。

 

「そのまけんはせんゆうをたすけ、むこのたみをまもるりっぱなちから。あんなヤツをおしおきするのにつかうのはもったいないよ。それにほら……!」

 

 吸血鬼侍ちゃんの指差す先、練兵場の監視塔の上には複数の人影が! 逆光になって良く見えませんが、何やら腕組をしてポーズを決めているみたいですね。観客たちも気付いたようであちこちで声が上がっています。

 

「なんだあの人影は!?」

 

「鳥か!? 魔神か!? 羽ばたき飛行機械(オーニソプター)か!?」

 

「いや違う、あれは……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

「――待たせたな諸君、私が来た!!」

 

 

 

 金剛石の騎士(K・O・D)のエントリーだ!!

 

 

 

「んな!? まさか実家から持ち出したのですか、姉上!!」

 

 見事なヒーロー着地を魅せた彼の後ろに続けて着地する2人の人物。その片方を見た女騎士さんの口から驚きの声が飛び出しました。彼女の見つめる先、土煙の中から立ち上がったのは、金髪の陛下……ゲフンゲフン、金剛石の騎士に比肩するほどの雄姿です。

 

 

 

 陽光を浴びて輝くは完全なる黄金の鎧

 

 見る者を圧倒する優美な頭飾りに、張り出した肩部装甲

 

 両腰に太刀を佩き、ヒールの高い脚甲で立つ姿はまさに美の極致

 

 何時の頃から始まったのか、それは定かではあらねども

 

 その姿を見たものは、誰もが思わず彼の冒険者の宿と同じ名で呼ぶという

 

 ――即ち、黄金の騎士(ナイトオブゴールド)

 

 

 

「ちょっとなにあの黄金の鎧? これだけ離れてるのに総毛立つほどの魔力を感じるんだけど」

 

「ええ。ですが、とても暖かいものを感じます……」

 

「確かに。拙僧も何やら身体の調子が良くなった気がしますな」

 

「はい! 妹様と似た太陽(アマテラス)の力を感じます!!」

 

 自分の身体を抱き締め、震えるように縮こまる女魔法使いちゃん。対照的に陶然とした顔を向けているのは剣の乙女ちゃんです。不思議そうに腕を回す蜥蜴僧侶さんを見て苦笑交じりに女騎士さんが口を開きました。

 

「アレは我が家に伝わる魔法の鎧なんだ。代々の当主が身に纏い、突き従う兵の先頭に立ち戦場(いくさば)へ赴く時の戦装束。姉上が継承権を放棄したために、いずれ私が引き継がねばならんのかと思っていたんだがなぁ……」

 

「その言い方だと、受け継ぐのは乗り気じゃなかったみてぇだな?」

 

「当たり前だ。私は当主なんて柄じゃないし、そもそもあの鎧は冒険ではなく戦争において最も輝くモノ。私が受け継いだところで十中八九蔵の肥やしになっていただろうさ」

 

 姉上が引き取ってくれてむしろ有難いと笑う女騎士さん。たしかに、冒険で使うにはあんまりにもきんきらきんですもんねぇ。

 

「しっかし、姉上め嘘をついていたのか。()()()()()()あの鎧は纏えないと言ってたのに……」

 

 

 

 ……あ、そういうことか吸血鬼君主ちゃん!

 

 

 

 

 

 

「どう、いたいところとかない?」

 

「ああ、あれだけ重かった身体がまるで嘘のようだ。二十は若返った気分だよ」

 

「それじゃあいもうとよりもとししたに……おあ~……」

 

 失礼なことを言うのはこの口かな?とほっぺを引っ張られている吸血鬼君主ちゃん、陛下金剛石の騎士に肩車してもらいご機嫌なようですね。頭上ではしゃぐ吸血鬼君主ちゃんをそのままに金剛石の騎士は火打石団を睥睨し、練兵場全体に響く朗々とした声で彼らの罪を告発します。

 

「貴族という臣民に支えられて生きる身でありながら、それを理解しようとせず民を苦しめる所業、決して許されるモノでは無い。痛い目を見る前に神妙に縛に就くことをお勧めしよう」

 

 聞く者の心を掴んで離さぬ天性のカリスマ。聴衆を聞きほれさせる筈のそれはあまり効果を発揮していません。観客のざわめきは広がり続け、告発された側の火打石団ですら困惑の色を隠せていない様子。やれやれ、どうやら話しても無駄なようだと金剛石の騎士が肩を竦めていますけど、原因はそこじゃないんだよなぁ……。

 

 

 

「ふ、巫山戯るな!? 一体なんの真似だ! 我々を馬鹿にしているのか!?」

 

 死灰神の信徒(アホボン)が震える指を向ける先、そこには飛び降りて来た3人目の姿がありました。

 

 豚のような被り物に裸の上半身、妙にピチピチな紫色のタイツにしか見えない全身布鎧(着ぐるみ)。腰に差した湾刀(イースタンサーベル)に刃は無く、虚ろな瞳は左右非対称な大きさで、指を突き付けて来た者たちを不思議そうに眺めています。

 

 

 

「申し訳ありません。私には止めることが出来ませんでした……」

 

「普段から彼には苦労をかけっぱなしだからね。偶にはストレスを発散する機会を用意してあげようじゃないか」

 

 何時の間にやら一行に合流していた赤毛の枢機卿が胃の辺りをおさえながら呻き、その隣では銀髪侍女さんがスキットルの(ウォトカ)を呑みながら、達観したように目の前に誕生したトンチキ空間を眺めています。

 

「ええと、騎士のお二人は何となく想像がつくのですが、あの良く判らない全身布鎧(着ぐるみ)を纏っていらっしゃるのは……」

 

「君のような勘の良い女の子は大好きだよ」

 

 吸血鬼侍ちゃんを抱えてなんとか撤退してきた令嬢剣士さん。頬をヒクつかせながらの質問を銀髪侍女さんがはぐらかしていますけど、それ答え言ってるようなモンじゃないですかヤダー!?

 

 硬直した空間を打破すべく一歩進み出た謎の全身布鎧(着ぐるみ)が、その場にいる全員の視線を受けながら言い放つのは……。

 

 

 

 

 

 

私は常に正しき道を歩む者の味方だ(CV:塩沢〇人)

 

 

 

 良い声と名言が合わさって全て台無しですってば正道(ルタ)神さん……。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 




 次こそはクライマックスフェイズなので失踪します。

 お気に入りや評価、感想がとても励みになっております。

 原作との乖離が激しくなってまいりましたが、ご容赦頂ければ幸いです。

 今回もお読みいただきありがとうございました。


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セッションその12-6

 どうして想定外の事態(イレギュラー)は発生するのかわからないので初投稿です。



 前回、ヒーローが惨状(誤字に非ず)したところから再開です。

 

 大見得を切った義眼の宰相さん布鎧豚男(着ぐるみ)に会場の雰囲気が呑まれた決戦の場、最初に反応したのはやはりというべきか死灰神の信徒(アホボン)ですね。怖気付いた取り巻き連中に発破をかけ、悪い意味で一番目立つ布鎧豚男(着ぐるみ)へと嗾けてきましたが……。

 

「フン、少し奇抜な姿をすれば貴様らのような愚か者がとびついてくる……」

 

 やれやれと肩を竦めながら向かってくる一団に向かって悠然と歩きだし、彼らが振るう剣へと無防備に進んでいきますが……当たりません! その見た目からは想像も出来ないほど軽やかなステップによって相手を幻惑、紙一重のところで躱し続けています!! それどころかすれ違う敵の鎧が砕け、次々と倒れ伏していくではありませんか!

 

「クソ、何だコイツ! 変な動きしやがっ……グギャア!?

 

「まったく、何所を見ている?」

 

 シャウッ!という掛け声とともに繰り出される拳撃。胸の前で交差させた両腕を目にも止まらぬ速さで振るい、蹄の先に生みだした真空の刃で相手の二の腕や腿を切り裂いています! 左右にぶりぶり揺れるケツの動きも相まって、その動きはさながら蒼天を舞う白鳥のような……すいません、やっぱクリーチャーにしか見えませんね。

 

 

 

「フム、なかなかのカラテ。あの御仁相当な遣い手のようですな」

 

「なぁ、やっぱ俺ァ帰ってもいいか? ダメか? ダメだよなぁ……」

 

 お、連中が縦横無尽に練兵場を駆け回る布鎧豚男(着ぐるみ)へ夢中になっている間に、観客席から蜥蜴僧侶さんと重戦士が来てくれましたね! 感嘆の声を上げる蜥蜴僧侶さんとは対照的に死んだ目でトンチキ空間を見つめる重戦士さん。残念ながら逃げ場はありませんよ?

 

 さて、貴族の決闘において今回のように勝敗に納得がいかず、片方が勝負をぶち壊しにかかった場合ですが、相手側も同数を動員することが慣例として認められているそうです。死灰神の信徒(アホボン)の号令で練兵場に乱入してきた取り巻きの人数はおよそ30、つまり一党(パーティ)やその関係者が全員参戦しても十分お釣りが出るほどなんですが……。

 

「まぁここは男子に任せて私たちは観戦してましょ。あ、ヘルルインも行っちゃダメよ? 一応重傷ってコトになってるんだから」

 

 観客席の最前列に被り付きになっている妖精弓手ちゃんの言葉通り、女性陣は全員(けん)に回っています。あまり味方が多くても動きづらいですし、節操の無い連中が女の子に傷でも付けたらその場で血風呂(ブラッドバス)待ったなしですからねぇ。観客席に被害が出た時の救助役という面もありますので、女将軍さんからリクエストのあった男子2人のみ参戦と相成りました。

 

 

 

「来たか、待っていたぞ2人とも。女を待たせるとは感心せんな?」

 

「これはしたり。さすれば遅参の責は戦場(いくさば)での功にて雪がせていただきたく」

 

 からかうような口調の女将軍さんに合わせ、畏まった返事を返す蜥蜴僧侶さん。2人の間に流れる空気に重戦士さんが居心地悪そうにだんびらを抱え直しています。目敏く新たな参戦者に気付いた火打石団の連中が、背を向けている女将軍さん目掛けて剣を振りかざしてきました!

 

「そんな虚仮脅しの鎧、バラバラにして鋳潰してやる!」

 

「では試してみるかい? 虚仮脅しかどうかを……な!」

 

 振り向きざまに腰に佩いた太刀の柄を握り、抜き放つ女将軍さん。鯉口が切られ、顔を覗かせたのは膨大な熱を秘めた実体無き光剣(スパッド)です! 交差した剣がまるで飴細工のように融かされ呆然とした様子の男でしたが、次の瞬間には鋼鉄製の籠手(ガントレット)ごと腕を落とされ、絶叫を上げながらのたうち回っています。その傷口はブスブスと音を立てるほどの高熱で焼かれたために、一滴の血も流れていません。あんぐりと口を開けてその様子を眺めていた男子2人に向き直ると、命令することに慣れた者特有の威圧感を乗せた声で女将軍さんは命令を下します……。

 

「決して殺すな。だが痛みは与えろ。逃亡阻止と従軍神官の練習相手を兼ねて、腕や足の1本は奪え。……返事はどうした?」

 

「「イエスマム!!」」

 

 跳ねるような勢いで布鎧豚男(着ぐるみ)のほうへと駆けて行く2人。突然の乱入者に浮足立った火打石団の連中に突撃し、固く握った拳やだんびらの腹で次々に相手を戦闘不能にしていますね! それを見た布鎧豚男(着ぐるみ)は戦いの舞台を空中へと移し、取り巻きの頭を足場にしながら華麗なブーンを決めています。観客席まで吹っ飛んだ取り巻きは待ち構えていた蟲人英雄さんと聖人尼僧さんが捕獲、死なない程度に治療を施してくれているようです。

 

 

 

 さて、金髪の陛下金剛石の騎士(K・O・D)の肩にブッピガァン!!していた吸血鬼君主ちゃんですが……おや、2人とも火打石団の連中に取り囲まれちゃってますね。流石に悪名高い噂の金剛石の騎士を前にして、死灰神の信徒(アホボン)も慎重になっている様子。ジリジリと包囲を狭めてくる相手に対し、腕組みをしたポーズを維持していた金剛石の騎士が頭上の吸血鬼君主ちゃんに声をかけました。

 

「卿もそろそろ働いたら如何かね? 余は枢機卿に剣を抜くなと止められているのでな」

 

「は~い。これはおしおき、ころしちゃダメなんだよね?」

 

「うむ、この国は法治国家である以上、法に則り裁きを下さねばならん。たとえ相手がどんな屑であろうとな」

 

「狂人がほざくな! 貴族こそが国の中枢、民など貴族の所有物に過ぎん! 我らに使()()()()ことを光栄に思うことこそあれ、逆らうなど烏滸がましいにも程があるわ!!」

 

 死灰神の精神汚染を受けてもなお保つのは死灰神の信徒(アホボン)が信奉する貴族の誇りとやら……。彼の強靭な精神を賞賛すべきか、心根まで染み付いた歪んだプライドを嗤うべきか。どちらにせよ確かなのは、吸血鬼君主ちゃんに対して最高値で喧嘩を売ったことでしょう。

 

 怒りによって煌々と輝く瞳を前髪の奥から覗かせたまま、胸元で合わせていた両手を勢いよく左右に広げる吸血鬼君主ちゃん。その軌跡から現れるのは、宙に浮かぶヒヒイロカネ製の歪んだ球体(勾玉)です。クルクルと衛星のように吸血鬼君主ちゃんの周囲を旋回する数は全部で6つ。徐々に速度を上げ、まるで光帯のようにも見える輪から射出された光弾が……。

 

ていくざっとゆーふぃーんど(これでもくらえ)!!」

 

 ――2人を包囲している男たちへと襲い掛かりました!

 

 

 

「ガッ……!?」

 

「ま、曲がる!?」

 

「クソ、何で追いかけて来るんだ……グェ!?」

 

 辛うじて視認できる程度の速度で宙を舞う光弾。初撃(プライマリー)で6人が鎖骨や膝を砕かれて地に伏し、追撃(セカンダリー)が残った敵に喰らいつかんと猟犬のように追い立てています。取り巻きたちも光弾を打ち落とそうと必死に得物を振り回していますが、その悉くを掻い潜り男たちを戦闘不能にしていきます。取り巻きが櫛の歯が欠けたように倒れたのを呆然と眺める死灰神の信徒(アホボン)に対し、金剛石の騎士がまだ続けるかねと尋ねますが……。

 

「まだだ、もうすぐこの場に王都中の同志が集まってくる! キャプテン率いる別動隊さえ来れば貴様らなぞ……ッ!!」

 

 なるほど、最初からこちらを逃がすつもりは無かったみたいですね。貴族の権威を民衆に恐怖とともに知らしめんとする行為、上手くいっていたら王都の勢力図が一気に塗り替えられたかもしれませんね。辛うじて平静を保ちながら火打石団を取り仕切る首魁の称号を口に出す死灰神の信徒(アホボン)に対し、周囲の獲物を全て打ち倒した光弾をしまいながら、吸血鬼君主ちゃんが絶望の一言を告げました。

 

「こないよ」

 

「……何?」

 

「ここにはもうだれもたすけにこないよ。みんなつかまってるから」

 

「ハッ! 言うことに事欠いてそのような戯言を! 我ら貴族に剣を向ける愚か者がこの王都にいるわけが……」

 

 吸血鬼君主ちゃんの嘘と断じ嘲笑を浴びせる死灰神の信徒(アホボン)。確かに報復を恐れずに剣を向ける気概のある人物はそう多くないでしょう。そう、()()()()

 

 

 

「――ちぼしんさまとたいようしんさま」

 

「……?」

 

「おまえたちがけんかをうったのは、このおうこくでいちばんこわいひとたちのところだよ。わかっててやったんでしょ?」

 

「何を馬鹿なことを。所詮弱者と農民が縋る力無き神殿ではないか! 坊主共は表社会に口を出さずただ祈っておれば良いのだ!! 我が正義を邪魔するというのならば、奴らも悪を焼き払うための薪として聖なる炎にくべてやろう!!」

 

 首元の聖印(シンボル)を握りしめながら哄笑する彼の目は完全に己が正義に酔っています。口では幾ら言っても通じないと理解したのでしょう。金剛石の騎士がパチリと指を鳴らすと、観客席の銀髪侍女さんが懐から宝玉のようなものを取り出しました。膨大な魔力を秘めたそれを見て、隣にいた吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんが目を輝かせています。銀髪侍女さんが合言葉(キーワード)を唱えると宝玉から光が溢れ、練兵場の空に何かを映し始めました!

 

「ねぇねぇ、それはなぁに?」

 

「これは離れた場所の様子を映し出す呪物だよ。そら、クッキリと見えてきただろう?」

 

「うわ、あの連中ってもしかして……」

 

 映像を見た妖精弓手ちゃんの顔が面白いように引き攣っていくのが見て取れます。まぁ見た目のインパクトが強い方々ですからねぇ。上空に浮かぶ映像を見た観客たちの間からも、戸惑いと感嘆の声が上がり始めました。

 

「なぁ、あの方々って……」

 

「ああ、あの()()()()()()()()()()()、間違いねえ!」

 

「それに周りにいる()()()()を被った神官様もだ!!」

 

 

 

「馬鹿な、何故あの連中が王都にいる? 辺境へ出向いていたのでは無かったのか!?」

 

 ありえないと叫ぶ死灰神の信徒(アホボン)を憐れみの目で眺める金剛石の騎士。まさか空を飛んで王都に駆け付けたなんて言っても信じられないでしょうしねぇ……。広場と思われる場所にはボコボコにされた火打石団の連中が積み上げられ、一番下には性別や年齢すら判別できないほど顔を腫れ上がらせた人物が下敷きになっています。おそらくあれが「キャプテン」を名乗る貴族なのでしょう。

 

 巡回説教者さんと核武僧さんの一団によって期待していた応援が絶たれ、まだ立っていた残り少ない取り巻きたちも戦意を喪失したみたいです。得物を地面に放り捨てながら必死の形相で何かを訴え始めているようですが……。

 

「ま、待て! 俺は子爵家の次男だ! 俺に何かあったら家が黙っちゃいないぞ!?」

 

「そうだ! 我らは王国の藩屏、我らを害するということは王国に害を為すことと同義だぞ!!」

 

 おおう……。この期に及んで家の名に縋るとかどんだけ必死なんですかねぇ。腕や足を押さえながら引き攣った笑みを浮かべ声高に特権を主張する連中に注がれている観客の視線は冷え切っています。今まで散々好き勝手しておいてその罪から逃げようというのは、ちょっと虫が良すぎる話なわけで。

 

「そうだ、卿らに伝えねばならん事があったな。既に卿らは各家の当主より縁を切られている。『我が家にそのような人物は存在しない』という花押入りの証文がここにあるわけでな?」

 

 金剛石の騎士さんの言葉を受けて、吸血鬼君主ちゃんがインベントリーから取り出したのは上質な紙の束。ばら撒かれたそれを手にした取り巻きからは信じられないという声が上がっています。嘘だ、こんなもの偽物だと呻く姿に嘆息を零し、金剛石の騎士がその兜を外しました。

 

「まぁ、そのような証文が無くとも余が貴様らを貴族として認める筈が無かろう。……王国の血肉たる民を貪り、国家の命を掠めとる寄生虫共が!

 

 獅子の如き一喝によって、今度こそ絶望に崩れ落ちる火打石団の構成員たち。どうやら抵抗は無駄であると悟ったようですね。あとは連中を拘束して水の街へ送る手筈を……おや? 火打石団本体が壊滅した映像を見てから沈黙していた死灰神の信徒(アホボン)の様子が……。

 

 

 

「成程、どうやら貴女とは今世では結ばれぬということか」

 

「ならば、今更生にしがみついたところで何になるというもの」

 

 ……あ、なんか嫌な予感が。

 

「我らの愛は不滅! 一時の死が2人を別つとも、来世で再び結ばれるは必然!!」

 

「ご安心召されよ。貴女の柔らかき肢体は欠片も残さず喰らい、我らは一つとなるのですからな!」

 

 令嬢剣士さんを見つめる死灰神の信徒(アホボン)の瞳はどろりと蕩け、その身体からはチリチリと火の粉のような魔力が溢れ出しています。既に戦意を喪失した取り巻きたちからも立ち上がるソレは、紛れもなく死灰神の奇跡の前兆……ッ!

 

 

 

「お前もっ! お前もっ!! お前もっ!!!」

 

 

 

「我が愛の為に死ねっ!」

 

 

 

 

 

 彼の叫び声と同時に身体の内から吹き出した炎によって燃える取り巻きたち。その火を消さんと地面を転がりまわりますが、勢いは衰えることなく彼らの生命を燃やし尽くしていきます。やがて僅かな灰を残し、奪われた血肉と魂は死灰神の信徒(アホボン)へと集まっていき……。

 

 

 

「AWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!」

 

 

 

 見上げるような巨躯、血の色に染まった瞳、とめどなく涎を溢れさせる裂けるように広がった口、剛毛で覆われた逞しい腕。歪んだ愛に酔い獣に堕ちた1人の男(灰に塗れた獣)の姿が、そこにはありました。

 

 

 

「なんて悍ましい姿。あれが愛に狂った者の成れの果てとでも……ちょ、ちょっと頭目(リーダー)。何処へ行くんですの!?」

 

 おや、令嬢剣士さんに抱えられていた吸血鬼侍ちゃんが腕の間から抜け出してますね。背中から貫通していた鎧貫きを引っこ抜き、地面に投げ捨てながら睨む先は灰に塗れた獣。その瞳に浮かんでいるのは憐れみでしょうか。

 

「あれは、このよのことわりからはずれた()()()。あいてできるのはおなじ()()()()だけ」

 

 視線の先では蜥蜴僧侶さんが剣を抜き放とうとする陛下を抱え、女将軍さんと重戦士さんが牽制しつつ観客席へと後退してきています。布鎧豚男(着ぐるみ)こと義眼の宰相さんも対面の蟲人英雄さんと聖人尼僧さんのほうへ脱出しており、戦いの場に残っているのは、大小2つの人外の姿のみ。

 

「だから、あれをたおすのは()()()()のやくめ。ちょっといってくるね!」

 

 そう言い残し駆け出す吸血鬼侍ちゃん。呼び止めようとする令嬢剣士さんを制したのは、宝玉をしまい込んだ銀髪侍女さんです。今にも飛び出していきそうな彼女の肩に手をやり、淡々と言葉を紡いでいきます。

 

「あの子の言う通り、ここから先は逸脱者の戦場だよ。死の迷宮に挑戦していた(あの頃)の陛下なら喰らい付けたかもかもしれないけど、戦いの場を政治へと移した今じゃ無理だろうね」

 

 なおも戦場へ向かおうとして赤毛の枢機卿に絞め落とされた陛下を眺めている銀髪侍女さん。悔し気に唇を噛み締める令嬢剣士さんの頭を撫でながら、だが君たちに出来ること、君たちがやらねばならないことがあるじゃないかと一党(パーティ)の面々に語る姿からは、何処か定命の存在から外れているような不思議な雰囲気が感じられます。

 

「そうね、私たちにはやらなきゃならないことがあるわ」

 

 女魔法使いちゃんの声に同意するように頷く面々。口に出さずとも考えていることはみんな同じなのでしょう。2つの小さな刃が獣を圧倒する光景を見ながら、僅かな怒りと、それ以上の母性に満ちた声で女魔法使いちゃんが全員の気持ちを代弁するように呟きます……。

 

 

 

「2人がまた無茶したのを叱ることと、ちゃんと帰ってきたのを褒めてあげること。――それが、あの子たちを怪物にしないために私たちが望んだ、寄る辺としての役目だものね」

 

 


 

 

「かたいね~」

 

「ごうもうだね~」

 

 振り回される剛腕を掻い潜りながら言葉を交わすダブル吸血鬼ちゃん。どうやら灰に塗れた獣の分厚い防護点に阻まれ、なかなかダメージを与えられていないみたいです。ヒヒイロカネの剣(天叢雲)と村正であれば斬り込めはするようですが……うーん、傷口が綺麗すぎるためか目に見える速度で再生し、僅かに動きを阻害する程度の効果しかありません。

 

 本来であれば獣が忌み嫌う炎属性である血刀で焼くのが正当解なんでしょうが、死灰神(クソッタレ)がメタを張っているのか炎耐性が高く体表に火すら点きません。腹立たしいことこの上ないですが、『灰に塗れた獣』という名称は伊達ではないようです。

 

「AWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!」

 

「おっとっと」

 

「あぶないなぁ」

 

 オマケに凶悪な形をした鉤爪は魔法付与(エンチャント)されているらしく、吸血鬼侍ちゃんが来る前に掠っていた吸血鬼君主ちゃんの傷がまだ残っています。流石に不死殺しまでは無いみたいですが、サイズ的に直撃を喰らうのは不味そうですね……。

 

 さて、如何したものでしょうか……っと、2人が戦いながら遠くを見ています。視線の先にいるのは……蟲人英雄さんですね。2人を見つめる真っ赤な眼に導きの光を見たのでしょうか、横薙ぎの剛腕を大きく跳躍して回避し距離を取った2人が頷き合い何事か決心したみたいです。

 

「はじめてのきょうどうさぎょうで……」

 

「ぶっつけほんばんだけど……」

 

「「ふたりなら、だいじょうぶ!!」」

 

 村正を鞘に納め、反対側から暗月の剣(サタンサーベル)を抜く吸血鬼侍ちゃん。吸血鬼君主ちゃんはおへその下に手を宛がい、何かを引き抜くようなポーズを……あ、おなかから離れた手には光り輝く(ケイン)が握られてます! 2本の神器から迸る魔力は獣の生存本能が警鐘を鳴らすには十分過ぎる存在感を放ち、恐怖に駆られた獣が2人を握り潰さんと両腕を振りかざして突進してきました!!

 

 

 

「ぼくがとっぱこうをひらいて……!」

 

 突き込まれた腕を紙一重で躱し、相手の勢いを利用しカウンター気味に叩き込まれた一撃。分厚い毛皮と筋肉を切り裂き、傷口からは激しく鼓動する心臓が顔を覗かせました! 

 傷口を押さえようとする反対側の腕には無数の触手が絡みつき、傷と腕の拘束による痛みによって、獣は悲鳴にも似た咆哮を上げています!! それでも再生能力に翳りは無いのか、徐々に傷口は狭まっていきますが……。

 

「ぼくがぜんりょくをたたきこむ!!」

 

 脈動する心臓目掛け、身体ごと突っ込む勢いで(ケイン)を突き刺す吸血鬼君主ちゃん。吹き出す血液が吸血鬼君主ちゃんの身体に付着する前に蒸発するほどの膨大な熱を孕んだ一撃が、身体の内部から獣を焼き焦がしていきます。星の力(核融合炉)から直接流し込まれるエネルギーに耐え切れず、獣の身体のあちこちから光が溢れ出しました……!!

 

「ばいばい、ありえたかもしれないぼくたちのみらい……」

 

「さよなら、あいをしらなかったぼくたちのかのうせい……」

 

「「――ヲヤスミ、ケダモノ……」」

 

 

 

 愛を知らぬ獣が崩れ去り、灰の山となったのを見て沸き立つ練兵場。果たして灰に塗れた獣に2人の言葉は届いたのでしょうか? ……おっと、灰被り(シンデレラ)となったダブル吸血鬼ちゃんのもとへと、一党(パーティ)のみんなや集まってくれた面々が駆け寄って来てくれました! 吸血鬼君主ちゃんが両腕を広げてハグ待ちポーズをしているところに、先陣を切って走ってきた妖精弓手ちゃんが……。

 

 

 

「そこの金ぴか騎士と昨晩ナニしてたのよシルマリル!!」

 

「へぷっ!?」

 

 見事にタックルを決められ、2000歳児ごと再び灰塗れになっちゃってますね……。

 

 


 

 

「……えっと、じゃあ一晩かけて全身の傷や欠損を癒してたの? 2人で仲良くえっちなことしてたんじゃなくて???」

 

「うん。ほら、まえとちがって≪そせい(リザレクション)≫がとなえられるようになったから。けっとうのばをよういしてもらうほうしゅうとして、はがねのおねえちゃんにおねがいされてたの」

 

 前後に激しく揺さぶられて半ばグロッキーになりながらも事の次第を説明する吸血鬼君主ちゃん。向こうでは兜を脱いだ女将軍さんが涼やかな()()をみんなに披露しています。両の籠手を外せば鍛えられながらも女性らしいしなやかさを保つ両腕があり、軽々と跳躍する姿から両脚も復活していることが見て取れますね!

 

 女騎士さんから姪っ子となる赤ちゃんを受け取り、優しい手つきで頭を撫でる女将軍さん。まさか「可愛い姪っ子を、自分の手で抱いてやりたい」というのが≪蘇生(リザレクション)≫の理由だったとは。一般に噂される女傑らしさとはかけ離れた姿ではありますが、とても尊みに溢れてますねぇ……。

 

 ん、でもあの時確か豊穣の霊薬も持ってましたよね吸血鬼君主ちゃん。一晩しっぽりコースで無かったということは、アレには別の使い道が? 同じ疑問に到達した妖精弓手ちゃんが訪ねると、悪戯が成功したような顔で吸血鬼君主ちゃんが笑っています。

 

「えへへ、あれはね~……」

 

 ちっちゃな指で指し示す先には暴れたりないのか布鎧豚男(着ぐるみ)と手四つをしている蜥蜴僧侶さん。ウェイト差をものともせず互角に渡り合っている義眼の宰相さんに戦慄を禁じ得ないのですが、そっちは横に置いておきましょう。姪っ子を女騎士さんの腕の中へ帰し、あんぐりと口を開けた妹夫婦にウインクを飛ばした女将軍さんが蜥蜴僧侶さんへと歩み寄って行きます。その手には件の豊穣の霊薬が……あ、もしかして!?

 

 

 

「なぁ竜司祭殿、おちびちゃんから聞いたんだが……なんでも『鱗があったら拙僧の子を産んで貰いたい』な~んて言ってたらしいじゃないか……?」

 

 突如背後から囁かれた猫撫で声に尻尾をビクンと跳ねさせながら振り向く蜥蜴僧侶さん。その顔には戦場で劣勢に追い込まれた時にも見たことが無いほどの焦りの色が見て取れます。

 

「い、いやそれは酒の勢いで出た冗句(ジョーク)であって、拙僧はそんな節操の無い事を言ったりは……」

 

「それで上手いこと言ったつもりかい? どうやらおちびちゃんとは遊びだったらしいねぇ?」

 

「そんな、ぼくのこころをもてあそんだの……?」

 

 しどろもどろに返事をする蜥蜴僧侶さんを追い込むように、即興で連携攻撃を繰り出す女性2人。涙を浮かべて見つめてくる吸血鬼君主ちゃんから目を逸らせば、一党の女性陣(奥様戦隊)がヒソヒソと話をしている光景が飛び込んで来ます。

 

「ちょっと聞きました奥様。あの方戦場で轡を並べた女性だけに飽き足らず、あんなちっちゃな子の心臓(ハート)まで奪っちゃって……」

 

「乙女の純情を弄ぶとは、なんて冷血漢なんだろうね。蜥蜴人(リザードマン)は皆恒温動物らしいけども」

 

「俺の卵を産め! なんてもはや告白と変わらないのでは? 母はそう思います」

 

 ……なんか本物の奥様も混じってません??? 耳に届く女性たちの囁きに顔を引き攣らせる蜥蜴僧侶さん。それを見た女将軍さんが一気に勝負に出ました!! 手に持つ豊穣の霊薬を蜥蜴僧侶さんに見せつけるように掲げ、誰もが見惚れる笑顔で声を張り上げます!

 

 

 

「この霊薬があれば種族の差を超えて子を成せるのだろう? 鱗の有無など愛の前では些細な事だ。私は、お前の子が欲しい」

 

 衆人環視のなかで繰り出された大胆な告白。その漢らしい言いっぷりに女性陣はほぅと熱い溜息を吐き、男性陣は蜥蜴僧侶さんに絡みつく薔薇色の鎖を幻視し、優しい視線を向けています。

 

 鰓人(ギルマン)のように口をパクパクさせていた蜥蜴僧侶さんですが、どうやら覚悟が決まったみたいですね。女将軍さんの前に膝を着き、籠手を外した彼女の手を己の両手でそっと包んで胸元に引き寄せました。ヒューヒューと牙の隙間から浅く息を吐いているのは緊張によるものでしょうか? グッと下腹に力を籠め、彼女に告げた返事は武骨ながらも慈愛に満ちた蜥蜴僧侶さんらしいものでした。

 

貴女(きじょ)との間にならば、強き子が産まれること相違なし。是非とも我が子を産んでくだされ!!」

 

 咆哮の如き返事に黄色い声を上げる女性陣。何時の間にか復活していた陛下の目にもうっすらと涙が浮かんでいます。王国に欠かせない人材とはいえ、傷を負いながらも戦い続ける彼女の幸せについて思うところがあったのかもしれませんね。

 

 

 

 

 

 

 さて、あとは2人がキッチリお説教とお褒めの言葉を貰えば今回の騒動はおしまいに……あれ? なんか吸血鬼君主ちゃんの足元に見覚えのある召喚陣が。同時に聞こえる声は賢者ちゃんのものですね。これはもしや……。

 

 

 

「もしもし、聞こえてるのですか? ちょっと地下でゾンビが盆踊りしていて大変なのです! 早く滅却しないと地上に溢れそうなので今すぐ手を貸すのです!!」

 

 

 

「おあ~……」

 

「……ざんぎょう、がんばってね!」

 

 ……うん、頑張れ吸血鬼君主ちゃん。きっとお説教は軽くなるよ!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 




 塩沢ボイスを聞いていたら耳が孕みそうになったので失踪します。

 評価、感想いつもありがとうございます。

 ちょっと今後の話の持って行き方に悩んでおりますので、アンケートなるものを用意してみました。お時間がありましたら、ポチって頂けると幸いです。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその12 りざると

 迫り来る健康診断が怖いので初投稿です。




 前回、吸血鬼君主ちゃんのサビ残が決定したところから再開です。

 

 賢者ちゃんからのヘルプ要請に応じ光の粒子となって消えていく吸血鬼君主ちゃん。一行にいってきまーすと手を振ってますが、けっこう消耗が激しいんじゃないですかね? 太陽神さん曰く、(ケイン)を用いた一撃は比類なき威力ですが、同時に星の力(核融合炉)の全エネルギーを使用してしまうため、使用後は一時的にパワーダウンしてしまうんだとか。滅却と賢者ちゃんが言ってたことから考えると吸血鬼君主ちゃんに求められる役割は広範囲殲滅役でしょうが……。

 

 

 

「――ちょっと、なんでそんなに消耗しているのです? もしや明るいうちから一戦おっぱじめていたのですか?」

 

「えっと、あのことふたりでけものをわからせてたの」

 

「獣……あの森人(エロフ)の義姉のほうなのですか? 貴女たち2人いっぺんとは羨ま……ゲフンゲフン、非常にけしからんのです。次は私も呼ぶのです」

 

「ちがう、そうじゃない……」

 

 しわしわマスコットと化した吸血鬼君主ちゃんを抱き上げ、前後に揺さぶっている賢者ちゃん。されるがままの吸血鬼君主ちゃんはやはり消耗しているようです。

 

 彼女からあらぬ疑いを掛けられていますが、生存に必要なちゅーちゅーは日常的にお願いしているダブル吸血鬼ちゃん、みんなから求められない限り本格的な行為までは発展することは少ないんですよねぇ。尤もちゅーちゅーすること自体に快感が伴うので、その後相手に火が点いてしまうことは否めませんが。

 

 ……なお、満月の前後に関しては本能的に昂ってしまうのか、ギルドや訓練場で語られる武勇談の如き夜会話(意味深)により、一党(パーティ)の女性たちが翌日お休みしちゃうことは良い子のみんなにはナイショですからね!

 

 

 

 さて、高レベル(世界の危機)卓を見ている視聴神さんたちからのコメントによりますと、現在無数の死体を繋ぎ合わせたような異形の巨体(再誕者)が、地底奥底に設置された祭壇の周りをやたら滑らかな動きで踊り続けるというSAN値直葬な儀式(暗黒盆踊り)が行われているんだとか。

 

 四肢から突き出た人型の構成物がヌルヌルと動く悍ましい光景を直視してしまった無貌の神(N子)さんが「蛇遣座の私には、センチメンタルグラフティな運命を感じずにはいられません……」と言い残して気絶してしまったそうです。……ちょっと見に行ってみましょうか!

 

 

 

 ふむ、祭壇の中心では首謀者と思しき金髪の女性が肌も露わな半裸姿で祈祷中ですね。「本来の姿を……」とか「人を超えた神に近い存在へ……」などと言いながら祭壇に据え付けられた巨大な太鼓を一心不乱に連打しています。血の色に染まった天井からは粘性の強い液体が雨のように降り注ぎ、その空間にいる者全てをぐっしょりテカテカに湿らせているみたいです。

 

「どうでもいいけどはやくなんとかしようよ!? 見てるだけで頭おかしくなりそうだって!」

 

「うむ、アレを一般人が見たら正気を保てるとは思えん。ここで仕留めねばな……!」

 

 天井から降り注ぐ謎の液体で全員が濡れ濡れになっている中、勇者ちゃんがウンザリしたような声で叫び、その横で剣聖さんが剣を構え直していますが……おお!? 胸甲を付けている勇者ちゃんは大丈夫ですが、吸血鬼君主ちゃんを含めた軽装の3人は布地が透けて、とっても大変なことになってます! え、勇者ちゃんなら胸甲が無くても大丈夫だって? 吸血鬼君主ちゃん的には平原が透けちゃうのも大問題みたいです、性癖的な意味で。

 

「ああもう、さっさと補給するのです……って、ちょっと、服の上からは……ひぅ!?」

 

 ……エネルギー切れで干からびかけていたところで賢者ちゃんの透けたお山を見てしまった吸血鬼君主ちゃん。謎の液体(ローション)による刺激か、はたまた視線を感じての羞恥心によるものか。濡れた布地がピッチリと張り付き強調されたお山、肌色の透けるその先端でささやかに存在を主張していた薄桃色の吸い口にむしゃぶり付いちゃってますね……。

 

 普段であれば、刺激を与えすぎないよう相手の表情や気配を窺いながらちゅーちゅーするのですが、そんな余裕は無いと言わんばかりに一心不乱にちゅーちゅー。子猫が母猫にミルクをせがむ時のように、小さな手でお山をふにふにしながらのおねだり攻撃まで併用しています。その思いがけない刺激に、賢者ちゃんも立っているのがやっとのご様子。

 

 ぷぁっと吸血鬼君主ちゃんが口を離したところで態勢を立て直そうとする賢者ちゃん。せめて服越しではなく直接と、お山の頂上で蠱惑的に震える吸い口を露出させようと試みますが……。

 

「んぅ……もっとちょうだい……? あむ……んちゅう……」

 

「ひぅ……そんな強くしては……ふぁ……駄目、なのです……」

 

 補給行動が途切れたのも束の間、すぐさま反対のお山から魔力を頂戴し始める吸血鬼君主ちゃんの強引な攻めによってとうとうへたり込んじゃいました。……口では駄目と言ってますが、夢中になってちゅーちゅーしている吸血鬼君主ちゃんの後頭部を撫でる手付きはとても優しく、お山に顔を埋める想い人を見つめる瞳がトロンと蕩けているあたり手遅れ感がヤバいですね☆

 

 

 両のお山を登頂したところで口を離し、谷間に顔を埋めたまま賢者ちゃんの顔を見上げる吸血鬼君主ちゃん。熱の籠った息を吐く、端から銀糸を垂らす半開きになった口。そこから僅かに覗く舌を見つけ、己の舌で絡め捕らんと自らの口を近付けていきます。

 

 眼前に迫る賢者ちゃんの濡れた瞳に拒絶の色が無いのを確かめると、両手で賢者ちゃんの首に絡ませ動きを封じ、甘い吐息の一呼吸すら逃さぬよう、期待と不安に震える彼女の唇を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え、これ以上はいけない? この卓はあくまで健全な卓なので、それを超えるような迫真の実況はNG? ですよね~。この先の展開は盤面に被り付きになってる地母神さんと知識神さんに見ててもらうとして、こちらは決闘終了後のみんなの様子を見ていきましょう! 

あ、2人とも。ちゃんと録画はしておいてくださいね?

 

 


 

 

 さて、火打石団との決闘が終わった練兵場に視点を移してみましたが……どうやら事後処理は順調に進んでいるようですね。残念ながら観客席で捕獲されていた団員も死灰神の信徒(アホボン)の儀式の生贄になってしまい、生きて捕らえる事は出来なかったみたいです。まぁキャプテンと本隊は筋肉式キャプチャー済ですので、取り調べに関しては問題無いでしょう!

 

 ふむふむ、どうやら事後処理も含め今後に関しては追って連絡するという銀髪侍女さんの有難い申し出を受け、一行は撤収の準備をすすめているようです。落ち着いたらまた姉妹で話そうと笑う女将軍さんの隣には、ガッチリと腕を掴まれた蜥蜴僧侶さん。どうやらお持ち帰りされてしまうみたいですねぇ。首にしがみついて頬擦りしながらがんばえ~と応援していた吸血鬼侍ちゃんを、女魔法使いちゃんが回収していきました。

 

 おっと、我関せずと娘をあやしていた重戦士さん、ニヤニヤ笑いの女将軍さんに「王位を簒奪するのは見過ごせんから爵位で我慢してくれ、義弟(おとうと)君」と肩を叩かれ、引き攣った笑みを浮かべてます。そういえば憧れてましたもんね、蛮族と蔑まれた男が偉大なる王に登り詰めた英雄譚に!

 

 

「では、貴女はあの()の眷属となり、夜の一族となるつもりなのですね?」

 

 今日は久々にギルドに泊まるという重戦士さんたちを見送り、関係者だけになった一党(パーティ)の自宅。事態が解決したので屋敷に戻るつもりだった半森人夫人さんですが、将来について話したいという令嬢剣士さんの願いに応じ、もう一泊してくれることに。

 

 吸血鬼侍ちゃんの眷属として、共に永遠の道を歩むことを聞かされた半森人夫人さんが、ソファーに座った森人少女ちゃんに膝枕されつつ白兎猟兵ちゃんの耳をはむはむしている吸血鬼侍ちゃんを見ながら確認するように問いかけています。

 

「はい。人の道を外れたとしても、私は頭目(リーダー)と、一党(パーティ)の皆と生きていきたいのです」

 

 どうかお許し下さいと頭を下げる令嬢剣士さん。暫しの沈黙の後、どこかホッとした様子の半森人夫人さんが、そっと令嬢剣士さんの頭を抱き寄せ優しく胸の内を語り始めました。

 

(あの人)には申し訳無いのですが、(わたくし)は貴女の決心を嬉しく思います。自分()より先に貴女()が死ぬという悲しみから、私は逃れることが出来るのですから」

 

 主人が先に逝くのは結婚を決意した時既に覚悟していましたが、娘が自分より先に老いて死ぬのはとても辛いのです、と呟く半森人夫人さん。その目には微かに涙が浮かんでいます。上の森人(ハイエルフ)ほど極端ではないにしろ、只人(ヒューム)に比べて圧倒的に長い寿命を持つといわれる半森人(ハーフエルフ)。たしかに順当に行けば最後に残されるのは半森人夫人さんですものね……。

 

「家のことは気にしなくて構いません。私も夫も()()()()()()()()()、いざとなれば養子を迎え入れることも出来ますから」

 

 半森人夫人さんの視線の先には、愛おし気に吸血鬼侍ちゃんの髪を梳く森人少女ちゃんの姿。なるほど、パパの頑張りで令嬢剣士さんの弟妹が産まれれば問題なし、ダメでも才能ある養子に家を引き継いでもらうつもりのようです。もし森人少女ちゃんの子が養子に来てくれるなら、王国でも最高峰の一党(パーティ)と深い繋がりが得られますからね! 視線に気付いた吸血鬼侍ちゃんが森人少女ちゃんと視線を交わし、ぴょんとソファーから飛び降りて令嬢剣士さんの背中に抱き着きました。肩越しに頬擦りをしつつ、、半森人夫人さんへと笑いかけます。

 

「えっとね、ほんにんのきぼうをそんちょうしてあげたいけど、ぼくはいいとおもうよ」

 

「はい、表社会とのパイプを確保することは、主さまやその眷属の皆様の平穏に繋がりますから」

 

 だから、子育ての指導よろしくお願いします!とペコリとお辞儀をする吸血鬼侍ちゃん。本気で半森人夫人さんに義母(ママ)になってもらうつもりですねこれは……。急なお願いにも拘わらず「では義理の娘がたくさんできますね」と微笑む半森人夫人さんも大物だと思います。

 

 

 

 そんな感じで令嬢剣士さんの眷属化について保護者の了解が得られたので、剣の乙女の次は彼女か……とみんながワイワイ始めたところで、リビングに据え付けてある≪転移≫の鏡が波打ち始めました! どうやら向こうの卓も終わったみたいですね。先に揺らめく鏡面から飛び出して来たのは全身ヌメヌメな勇者ちゃんと剣聖さん、それに続く様に……ん? 残りの2人がなかなか出てきませんね。 森人少女ちゃんの≪浄化(ピュアリファイ)≫でヌメヌメから解放された勇者ちゃんが、困惑した様子の一行に向かって躊躇いがちに口を開きました。

 

「えっと、邪教の神官とその従者を吹き飛ばすときにちょっと無理させちゃって。ボクたちじゃあの子を癒してあげられなくって……」

 

「消耗し切っている筈なのに私たちからの吸血を拒否されてしまってな。すまないが頼めるか?」

 

 おや、血液よりもお山から生命力を分けてもらうのが好みとはいえ、吸血を嫌がるとは珍しいですねぇ。徐々に近づいて来る鏡面の人影を見守る一同。やがてそれは吸血鬼君主ちゃんを背負った賢者ちゃんとなり、鏡のこちら側へと降り立ちました。あーうーと呻く吸血鬼君主ちゃんの顔色は悪く、明らかに弱体化していますね。謎の粘液で濡れ透けの状態の賢者ちゃんですが、その煽情的な姿を隠すこともなく申し訳なさそうに頭を下げ……。

 

「私が無理をさせたせいでこの子の消耗が激しいのです。私の魔力は底をついている上に何故か吸血をしてくれないのです。あとは皆にお願いするしかないのです……!」

 

 


 

 

「――つまり、無尽蔵に再生を繰り返す相手を滅ぼすために敵の首魁が陣取る祭壇の中心に吶喊して、魔力の続く限り無差別範囲攻撃(アサルトアーマー)をぶっぱし続けたと」

 

「はい、前衛の攻撃では配下の異形は傷付けられても神官までは届かず、神官を直接狙おうとすれば再生した配下が後衛を狙ってくるという千日手だったのです。ジリ貧の状況を打開するためにその子が言いだしたのですが、ここまで無茶をするとは思わなかったのです……」

 

 しょんぼり賢者ちゃんから事情を聞き、また馬鹿な事やったのねぇと呆れた様子で胸元の吸血鬼君主ちゃんの頭を撫でる女魔法使いちゃん。どうやら再誕者を殲滅するのに≪霹靂(パニッシャー)≫を自分に纏わせて突撃を繰り返していたみたいです。物理法則を無視した軌道で当たるを幸い全てを薙ぎ払う暴虐の力、それってもはやシャインスパークでは?

 

「召喚時に私からありったけの魔力譲渡(ちゅーちゅー)はしたのですが、それすらも全部使い切るまで止まろうとしなかったのです。半ば昏倒状態になっても吸血を拒み続けるので、急いでここに運び込んだのです……」

 

 勇者ちゃんたちと同じく森人少女ちゃんの≪浄化(ピュアリファイ)≫で清潔さを取り戻した賢者ちゃんですが、顔には苦悩の色が濃く残っています。吸血鬼君主ちゃんが暴れまわるのが一番効率的だったのかもしれませんが、何故そこまで吸血を嫌がったんでしょうか? ふむ、どうやら女魔法使いちゃんには見当がついているみたいですね。左右のお山を寄せていっぺんにちゅーちゅーしている吸血鬼君主ちゃんのほっぺをつつきながら、その理由を明らかにしました。

 

「吸血に歯止めが効かなくて2人を消耗させるのが怖かったのよね。まったく、そんなに意志が弱いわけないでしょうが、このスケコマシ」

 

「あう……」

 

 お山に顔を埋めたまま上目遣いで睨んで来る吸血鬼君主ちゃんをいなしつつ優しく抱き締める女魔法使いちゃん。剣の乙女を眷属化するときに吸い過ぎたのが躊躇いに繋がっていたんですね。ちゅーちゅーするのを止めて逃げようとする小さな身体に腕を絡ませ強引に魔力供給している姿を見て、賢者ちゃんがおずおずと尋ねました。

 

「あの、そんな勢いでちゅーちゅーさせて貴女は大丈夫なのですか? その、気をやってしまったりは……」

 

「へ? ああ、問題無いわ。今のこの子の吸い方はお腹が空いている時のものだしね。……フフ、こっちを気持ちよくさせようとするときは……()()()()()()()()

 

 あの吸い方で本気ではないのですか!?と戦慄の賢者ちゃん。魔力タンク(意味深)が空になった女魔法使いちゃんがホールドしていた吸血鬼君主ちゃんを離すと、まだ空腹が収まらないのかチラチラと剣の乙女ちゃんを見ています。あ、エロエロ大司教モードに変身しようとした彼女を制して、ちっぱい乙女ちゃん形態のままちゅーちゅーし始めました!

 

「ん……この姿ですと、いつもより刺激が強いですね……」

 

「ちぅ……ぼくのすべてをうけとめてくれる、おっきいのもすきだけど、ぼくのちっちゃなてでもぜんたいをおおってあげられる、おくゆかしいおおきさもだいすきだよ……んちゅ……」

 

 なだらかな丘を丹念に散策し、頂上へ到達したところで生命の源を取り込む姿。母子のような女魔法使いちゃんとの行為とは違う幼い容姿の2人が魅せる艶やかな光景を見て、みんな揃って生唾ゴックン状態になっています。やがて満足したのか口を離し、そのまま頬を擦り付け感謝を告げる吸血鬼君主ちゃん。どうやらおなかいっぱいになったみたいですね!

 

 

 

 

 

 

「まぁ今回は何とかなったけど、この先も同じことが続くようだと万が一ってことも考えられるわよねぇ? ……どうしようかしら」

 

「はい……どうにかして召喚前に状況や消耗の有無を確認できれば良いのですが……」

 

 おなかが膨れて元気を取り戻した吸血鬼君主ちゃんが「ふん、どうせ私はちっぱいにすら程遠い金床よ……」と拗ねる妖精弓手ちゃんに抱き着き、無いのも大好きと言いながら長耳をしゃぶる光景を横目に反省会を行う一党(パーティ)の頭脳担当たち。女魔法使いちゃんの言う通り、うっかり飢餓状態の時に召喚でもしたら足手纏いにしかなりませんからね。

 

 さぁどうしようかと頭を悩ませる一同……おや、吸血鬼侍ちゃんを膝上に乗せて吸血鬼吸いを堪能していた森人狩人さんがシュタっと手をあげました。

 

「……ふぅ。やはりご主人様吸いは癖になってしまうのがいけないね。それは兎も角、現在私たちご主人様たちに愛してもらっている面々は、体内に留まっている2人の()()によって様々な加護を受けているよね? その経路(パス)を通じてご主人様たちの状況を把握することは出来ないかな」

 

 ああ、そういえば呪文回数増加や身体能力向上の効果がありましたね。現状送られてくるだけのラインを改良して相互に情報をやり取りできるようにすれば良いという考えでしょうか。暫く考え込んでいた賢者ちゃんでしたが、いけるかもしれないのですと明るい表情を見せています。なら試してみましょうかと立ち上がった女魔法使いちゃん。良い感じに妖精弓手ちゃんを仕上げていた吸血鬼君主ちゃんを抱き上げて顔を寄せ、耳元でそっと囁きます。

 

「おなかいっぱいになった直後で悪いけど、魔力が枯渇している猫耳フードのお嬢さんをたっぷりと可愛がってあげてくれるかしら。満月も近いことだし、2人がかりの朝までコースでも構わないわよ?」

 

 キョトンとした顔で女魔法使いちゃんを見ていた吸血鬼君主ちゃんですが、その言葉の意味を理解すると満面の笑みで頷きました。降ろしてもらいながら脳内通信で吸血鬼侍ちゃんに呼びかけ、2人でトコトコと賢者ちゃんのもとへ。捕食者の笑みを浮かべるダブル吸血鬼ちゃんの顔に迫る危機を察知したのか逃げ出そうとする賢者ちゃんですが、左右をガッチリ固められ逃亡は失敗に終わりました。

 

「あの、2人とも? 何をそんなにはりきっているのですか???」

 

「えへへ、ちゅーちゅーさせてくれたおれいに、いっぱいまりょくをおくってあげるね!」

 

「ふたりがかりはうらやましいんだよね? だいじょうぶ、ぜったいにいたくはしないから!」

 

 助けを求める視線を周囲に送る賢者ちゃん。しかし返ってきたのは半森人夫人さんを含む全員のサムズアップです。二階へと消えていく3人の後姿を見て「今日はお泊りしてっても良いかな?」と森人少女ちゃんに尋ねる勇者ちゃん、穢れを知らぬ少女と思っていましたが、いつのまにか大人になったみたいですね。サムズアップを解きながらポロリとこぼれた半森人夫人さんの言葉が、視聴神さんたちの心情を代弁していることでしょう。

 

 

 

「……皆さん、本当に仲が良いのですね」

 

「ええ! 固い絆で結ばれた、素晴らしい仲間ですわお母様!!」

 

 

 

 ……物は言いようなんだよなぁ。

 

 


 

 

「えい、えい、むん!」

 

 翌朝、一党の自宅の庭に響く剣戟の音と気の抜けた掛け声。村正と暗月の剣(サタンサーベル)の二刀流を軽々と振るい、吸血鬼侍ちゃんが果敢に攻撃を繰り出しています。息を吐かせぬ連続攻撃を長短2本の軽銀製の宝剣で捌き、長い髪を靡かせ踊るようにステップを刻む相手に対し、牙を剥くような笑みを浮かべてる吸血鬼侍ちゃん。四方世界の常識(システム)から逸脱している勇者ちゃんと剣聖さんですら、眼前で披露されている怖ろしくも美しい死の舞踏(ダンスマカブル)に目を奪われています。

 

 振るう速度では遥かに勝っている筈の吸血鬼侍ちゃんの剣戟を弾ける理由は、その軽銀の刀身が纏った雷の力に因るものでしょうか。攻撃の起こりを見てから剣閃の描くであろう軌道に己が剣を割り込ませ、刀身同士が触れるギリギリの距離で目に見えぬ何かで弾くように吸血鬼侍ちゃんの剣を逸らし続けています。

 

 焦れた吸血鬼侍ちゃんが放った甘い一撃は二刀で挟むように受け流され、体勢を崩したところで首筋に突き付けられた刃。得物を鞘に納めた吸血鬼侍ちゃんが両手を上に降参のポーズを取ったところで勝負が決まりました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、吸血鬼侍ちゃんが嬉しそうに声を上げています。

 

「まいりました~。すっごくつよかったんだね、()()!」

 

「引退した身ではありますが、身体が鈍らないよう鍛錬は続けております。全盛期の動きが維持できるのは精々三分(3ラウンド)ほどですが、その間であれば相手が上位魔神(グレーターデーモン)であっても負けるつもりはありませんよ?」

 

 尊敬100%の視線にフンスと胸を張る半森人夫人さん。そのバストは控えめだった。

 

 なんと彼女、≪死の迷宮≫に冒険者が殺到していた暗黒時代に各地を渡り歩き、混沌の勢力とガチンコやっていたヤバイ級冒険者だったそうです。その放浪の中で領地に出没する混沌の軍勢に殺されかけていた若様の窮地を救ったのが旦那さんとの馴れ初めなんだとか。

 

 

 

「家宝の剣とは聞いてたけど、アレって母親のほうの家系だったのね……」

 

「ええ、流石は元()()()半森人(ハーフエルフ)という半端者が貴族と結婚なぞ……と五月蠅い外野を黙らせる箔付けのために第二位まで上り詰めただけのことはあるのです」

 

 思いもよらぬ展開に目を丸くしている女魔法使いちゃん。庭の木陰で足腰の立たぬ賢者ちゃんに膝枕をしつつ、後ろから抱き着いている吸血鬼君主ちゃんの頭を撫でています。2人がかりで一晩中めいっぱい魔力を注ぎ込まれ、早朝から≪浄化(ピュアリファイ)≫のお世話になっていた賢者ちゃんは未だに火照った顔をしていますが、体調は問題ないんでしょうか。

 

「思いっきり太い経路(パス)を通されたおかげで2人の状況も判るようになりましたし、新たにあっちの子も召喚出来るようになったのは僥倖なのです。……代わりに大事なものを失った気がするのですが

 

「ごめんね? でも、すっごくよかったでしょ?」

 

「……いつか仕返しをしてやるので、覚えておくのです」

 

 半目で吸血鬼君主ちゃんを睨む賢者ちゃんですが、普段のような圧力は無くひたすら可愛いだけですねぇ。お山にダイブしてきた小憎らしい想い人を抱き留め、ニヤニヤ笑いで見下ろす膝枕の主と視線を交わし溜息をひとつ。頭上に青々と茂る枝が風に揺れるのを眺め、魂までこの子色に染め上げられてしまったのですと呟く姿は幸せに満ちているように見えますね。

 

 みんなの頭上で涼しい木陰を提供してくれているこの木、実は昨年森人(エルフ)の森で妖精弓手ちゃんの従兄殿から貰ったあの苗なんです。庭に植えた時は手のひらに収まるほどの大きさだった苗ですが、あっという間に伸び始め、既に自宅二階の窓と同じくらいの高さにまで成長しました。毎日のように吸血鬼君主ちゃんが木の周囲をグルグル回り、地面から何かを引っこ抜くジェスチャーを取りながら森に住む毛むくじゃらな妖精(トト〇)の真似をしていたのが原因かもしれません。

 

 

 

「良いですか、双剣の極意は纏わせた雷の力を利用することにあります。鋼を引き寄せ、時には逸らす相反する力を制御してこそ真の大小二刀遣いといえるでしょう」

 

 剣に宿らせていた雷の精霊に礼を言いながら、令嬢剣士さんへ双剣の絡繰りを説明する半森人夫人さん。吸血鬼侍ちゃんの剣が不可思議な妨害を受けていたのはそれが原因だったんですね! 不安げに受け取った剣の刀身を眺める令嬢剣士さん、単語発動で一時的にチャージすることは可能ですが、半森人夫人さんのように長時間切り結べるほどの維持は難しいと感じているようです。

 

「――もし1人では為し得ないと感じたのならば、一党(パーティ)の仲間を頼りなさい。叢雲の狩人殿は貴女より精緻な呪文運用が出来るでしょうし、若草の知恵者殿に師事して新たに精霊術を学ぶのも良いでしょう。焦る必要はありません。貴女には無限の時間があるのですから」

 

「お母様……」

 

 屋敷に帰る前に見せたいものがあると言って、賢者ちゃんをサンドイッチして寝ていたダブル吸血鬼ちゃんを叩き起こしたときは何事かと思いましたが、ちょっと不器用な親心の発露だったみたいです。仮称『魔法剣』と呼べば良いでしょうか、単語発動をさらに発展させたような新たな呪文の活用法を目の当たりにして、この場に居る冒険者の目が輝いています。呪文が使える前衛と近接戦闘が可能な呪文遣いが多い一党(パーティ)なので、これから大いに活躍してくれるでしょう!

 

 


 

 

「皆さんは(わたくし)の新しい義娘(むすめ)です。何か困りごとがありましたら遠慮せずに相談を。……またいつでも遊びにいらしてくださいね?」

 

「では、我々も一度王都へ戻るのです。そちらの騒動の後始末が終わったら知らせるのです」

 

 またねー!と手を振る勇者ちゃんを最後尾に≪転移≫の鏡へと消えていく半森人夫人さんと勇者ちゃん一行。ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)も今日はゆっくり休んで、ギルドに顔を出すのは明日にするつもりのようです。掃除を始めたり二度寝をするために各自が散らばろうとした時、一同を呼び止める声がリビングに響きました。

 

「……みんな。ちょっといいかしら?」

 

 麗しき声の主は妖精弓手ちゃん。庭での手合わせ中もずっと木の上でひとり考え事をしていたみたいですが、何処か思いつめたような表情をしています。先を促すようなみんなの視線にらしくもなく口をモゴモゴしていましたが、意を決したように秘めていた考えを一党の面々に告げました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いがあるの。暫くの間、一党(パーティ)を離れても良いかしら? ……シルマリルと一緒に」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 駆け込みダイエットに勤しむので失踪します。

 評価、感想いつもありがとうございます。あわせて誤字の報告も非常に助かっております。なかなか無くすことが出来ないので有難い限り。

 もし宜しければ、読み終わった後にお気に入り登録して頂ければ幸いです。いつか四桁の大台に乗れたら良いなぁと思う次第であります。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその12 いんたーみっしょん


 ワクチン接種で腕が痛いので初投稿です。



 お前がパパになるんだよ!な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 妖精弓手ちゃんの意味深な告白から数日後、とあるイベントに出席するために辺境で名を馳せる冒険者たちがギルドの訓練場へと集まっております。天井の高いホールの中で期待と不安に満ちた視線を左右に巡らせているのは、念願の冒険者となった新人たち。ベテラン連中は壁際でそれを懐かしそうに眺めています。

 

 お、新人たちに紛れてこっそり白兎猟兵ちゃんの姿も見えますね。実戦経験は積んでいるとはいえ、冒険者としての知識や技術は必要なので通うことにしたようです。剣の乙女ちゃんが混じっているのは……新人だったころの気持ちを忘れないようにという戒めですね!(目逸らし) 

 

 そうそう、去年走り回るチキン事件を引き起こした例の()()は既に森人狩人さん主導で済ませているとのこと。今年は無事に終わったようで何よりです。……お、壇上に森人狩人さんがやって来ました! どうやら始まるみたいですね……。

 

 

 

「やぁみんな、おはよう。教官の狩人おねーさんだよ」

 

 いつもの口調で壇上に現れた森人狩人さん、一緒に出てきたのはゴブスレさんに吸血鬼侍ちゃん、それに最近ご無沙汰だった女神官ちゃんです。いつもなら相棒の森人少女ちゃんが隣にいるのですが、身重の義妹を連れ歩くのはちょっと……ということで、森人少女ちゃんは辺境の街のギルドでアルバイト中です。書類仕事の早さは一党(パーティ)断トツ一位なので、監督官さんも喜んでました。

 

「先日やっと陛下から許可が下りて、訓練場の目玉となる施設が運用可能になったんだ。この施設があれば君たちの技術(スキル)は飛躍的に向上するだろう。……心が折れなければね?」

 

 不安げに視線を向ける新人たちに歯を見せる笑みを返し、説明を担当に引き継ぐ森人狩人さん。交代で3人が新人たちの前に出て……あ、ゴブスレさんが女神官ちゃんに脇腹を肘でつつかれてます。ビクッと肩を震わせる姿を見てベテラン勢が笑いを堪えてますねえ。若干緊張しているようですけど、大丈夫かなぁ……。

 

「お前たちが挑む施設は、魔法で作られた人工の迷宮(ダンジョン)だ。入るたびに構造が変わり、敵の配置も変化する。予め内部構造を把握することの出来ない、実践に即したものだ」

 

「いまのじてんでかどうしてるのは、ゴブリンのすあなをそうていしたものだよ。ふつうのヤツからホブ、シャーマン、アーチャー。ばあいによってはチャンピオンもでるかもしれないね」

 

「支配者である彼女の命令(オーダー)によって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。また迷宮内でしか使えませんが、治癒の水薬(ヒールポーション)解毒薬(アンチドーテ)もお渡しします」

 

 予想以上に手厚い準備と死の危険が無いことに安堵の声を上げる新人たち。ひそひそと「これは楽に経験が積めるな!」などという声も聞こえてきますが……あ、ベテラン勢は判ったみたいですね、吸血鬼侍ちゃんが創り出した()()()()()()()()()()。うんうんと満足そうに新人たちの反応を眺めていた森人狩人さんが、満を持して新人たちの余裕を纏めて消し飛ばす爆弾を投入しました。

 

 

 

「ああ、言うのを忘れていたよ。お嬢さんたちの中で未通の子がいたら、想い人に頼んでさっさと大人になってくるといい」

 

 

 

 

 

 

「ゴブリンに処女を散らされるのがお望みなら話は別だけどね?」

 

 

 

 

 

 

 凍り付くような冷たさと、赫怒の炎の熱さ。その両方を秘めた言葉によって魔法でも掛けられたように動きを止める新人たち。呼吸すら覚束無いほどのプレッシャーを放つ森人狩人さんが、そんな彼らを嗤いながら言葉を続けます。

 

「3人の話をちゃんと理解していないのかな? ゴブリンたちは君たちを傷付けないわけじゃない、()()()()()()()()()()。雄を見れば戯れ交じりに四肢の先端から切り刻み、雌ならば集団で嬲りにかかる。そんなのは序の口だと義妹(いもうと)ちゃんが講義で話していただろう?」

 

「ああもう、馬鹿義姉(ばかあね)ったらまたタガが外れてる……!」

 

 

 

 頭を抱えながら呪文を詠唱する女魔法使いちゃん。掲げた爆発金槌の先端から限界まで威力を落とした力矢(マジックミサイル)が発射され、狂気で煌々と瞳を輝かせている森人狩人さんの側頭部を綺麗に撃ち抜きました! 相変わらず見事なワザマエですね。

 

 衝撃で正気に戻った森人狩人さん、怯える新人たちの視線と3人からのジト目を一身に浴びて下手糞な口笛で誤魔化そうとしています。おっと、無言で近寄った吸血鬼侍ちゃんが森人狩人さんの形の良い長耳に噛みつき、見事にダウンさせました! そのまま女神官ちゃんに彼女を渡すと、コホンと咳払いをして新人たちに向き直りました。

 

「えっとね、こんかいのダンジョンは、へんきょうさいゆうがいままでけいけんしてきたゴブリンのしゅうせい、こうどう、たたかいかたと、ゴブリンにけがされたひとたちのけつえきからおしえてもらったくつじょくをぜんぶもりこんであるの。だから、()()()()じゃなくて、()()()()。そうおもっていたほうがいいよ?」

 

「先に入った一党(パーティ)が出てこない場合、次に挑む一党は自動的に救出訓練となります。……確実に助けが来るのだから、実際の依頼よりも安心して訓練に臨めますよね?」

 

 にっこりと笑う女神官ちゃんから放たれる圧力にただ頷く事しか出来ない新人たち。ちょっと見ない間になんか凄味が増しているんですけど!? おや、女神官ちゃんに介抱されていた森人狩人さんが何か言おうとしてますね。……嫌な予感しかしません。

 

「想いは遂げていたほうが良いというのは私の実体験からの言葉だからね? もし相手がいないならご主人様に頼み給え。至高の技巧(テク)で優しく卒業させて……へぶっ」

 

「誤解を招く言い方をするんじゃないわよこの馬鹿義姉(ばかあね)!!」

 

 あ、追撃の力矢(マジックミサイル)が先程とは反対側のこめかみを撃ち抜きました。森人狩人さんの妄言に何それ聞いてないという顔の吸血鬼侍ちゃん。そっと新人たちのほうを見てみると……。

 

「な、なぁ、本当に卒業させてくれるのかなぁ……?」

 

「馬鹿ねぇ、話聞いてなかったの? お嬢さんたちって言ってたんだから対象は女の子だけ……あれ?」

 

「つまり、あの頭目(リーダー)……生えてるということか!?」

 

「俺の処女も散らして欲し……うわまてなにをするやめ」

 

「変態だ! 吊るせ!!」

 

 開幕とは異なる類の期待と不安の視線を向けられ、ちょっと引き気味の吸血鬼侍ちゃん。助けを乞うようにベテラン勢に視線を向けてもそっと顔を背けられています。救いは無いんですね……。

 

 無言のプレッシャーに耐え兼ね。意を決して口を開く吸血鬼侍ちゃん。さぁ、新人たちの圧を跳ね返すようなキメ台詞をどうぞ!

 

 

 

 

 

 

「えっと……あんまりえっちなのはいけないとおもいます!」

 

 

 

「アンタたち2人にだけは言われたくないわねその台詞」

 

「まぁまぁ、これで新人たちの慢心も消えたことでしょう。……余裕も無くなったと思いますが」

 

 火に油を注ぐような発言によって一気に燃え上がったホールを呆れた様子で眺める女魔法使いちゃん。隣の令嬢剣士さんが必死にフォローしようと試みていますが、それは追い討ちにしかなっていないのでは?

 

 横を見ればゴブスレさんにヤジをとばして魔女パイセンに尻をつねられている槍ニキに、顔を突き合わせて森人少女ちゃん謹製の「頭あるじさまでもわかる帝王学」という謎の本を読み込んでいる重戦士さん&女騎士さんいう謎空間。ここだけ見れば辺境で名を馳せる冒険者だとは誰も思わないでしょう。銀等級まで上り詰めるような連中はだいだい頭のネジが外れてますからねぇ……。

 

 

 

「あはは……。そういえば、もう1人の頭目(リーダー)さんは何方に? 上の森人(ハイエルフ)のお姫様の姿も御見かけしてませんけど」

 

 お、地獄の書類仕事から解放された受付嬢さんが緑色に発光する謎の液体(エナドリ)片手にやって来ました。ただでさえ辺境春のゴブリン祭りでデスマーチだったところに迷宮(ダンジョン)の建設まで追加されて、毎日死んだ目で机に向かっていた彼女を知っている一行の目は感謝と労いに満ちています。

 

 腰に手を当てて粘度の高い液体を一気飲みしながらの問いに対し、顔を見合わせる一党(パーティ)の面々。視線で互いに牽制し合った後、代表して女魔法使いちゃんが口を開きました。

 

 

 

「あのお姫様ならちょっと実家まで里帰りしているわ。パートナーのスケコマシも一緒にね」

 

 


 

 

「だいじょうぶ? さむくない?」

 

「うん、シルマリルが星の力(核融合炉)であっためてくれてるから大丈夫よ」

 

 心配する声に応じながらギュッと吸血鬼君主ちゃんに抱き着く力を強める妖精弓手ちゃん。季節の上では春とはいえ、上空を飛ぶ2人の息は白く、糸を引く様に背後へと伸びています。

 

 時間は少し遡って妖精弓手ちゃんが意味深な台詞を言った翌日。2人は一党の自宅から離れ、エルフ王の森へと向かっている真っ最中。彼女のお願いというのは一緒に里帰りして欲しいというものでした。

 

 急な里帰りの理由についてはお茶を濁されてしまい、「森に着いたら話すわ」の一点張りでしたが、彼女の言葉を聞いた森人義姉妹(エルフ2人)が「おめでとうございます!」や「妹姫(いもひめ)様もとうとう決心したんだね」と喜びも露わに祝福していましたので、お叱りや粛清などの悪い話では無さそうなのが救いでしょうか。

 

 お姫様だっこの体勢で森を目指す2人。星の力(核融合炉)の恩恵で飛躍的に飛行速度は向上し、余剰熱で防寒対策もバッチリですので快適な飛行……の筈なんですが、やっぱり妖精弓手ちゃんの様子がどこか普段と違います。

 

「……ん……ふぅっ……んぅぅ……」

 

 もじもじしてると思っていたら、おもむろに抱き着いてほっぺにちゅー。細い首筋に顔を埋めて匂い付け(マーキング)や愛おし気に頬を撫でまわしたりと、普段とはかけ離れた行為に吸血鬼君主ちゃんも困惑を隠せない様子。どうしたのと尋ねてもなんでもないわと返ってくるばかりで埒が空きません。

 

 

 

 妖精弓手ちゃん、どうしちゃったんですかねぇ……ん? なんですか神々のみなさん、なんか自分変な事言いました? え? アレを見て本当に何だか判らないのかって? イヤ、普段とは違うとしか……。

 

 ちょっと無貌の神(N子)さん、そんなドヤ顔してるなら妖精弓手ちゃんの様子がおかしい理由が判るんですよね? え? 自分以外みんな判ってる!? お前は女心がわかってないって言われても、戦女神さん以外はいくらでもガワ変えられるじゃないですか……。

 

 もう、そこまで扱き下ろすなら自分にも教えてくださいよ! え、面白いからナイショ? いいから実況を続けて? そんな~……。 

 

 

 

 ええと、失礼しました。以前水の街まで馬車に乗り、そこからさらに筏で1日かけて川を遡っていた行程を飛行でスキップして僅か半日で終わらせ、新緑の眩しいエルフ王の森が2人の眼下に広がり始めました。お、妖精弓手ちゃんが吸血鬼君主ちゃんにお姫様抱っこされた体勢のまま愛用の弓を構え、自宅の庭で成長している木から作り出した一本の矢をつがえていますね。

 

「とっくの昔に私たちの存在に気付いてるとは思うけど、うっかり撃ち落とされないように報せておきましょうか。……ふっ!」

 

 通常の矢とは異なり、先端に穴の開いた筒のようなものを取り付けた特殊な形状の矢……鏑矢を引き絞り、地平線へ向かって放つ妖精弓手ちゃん。笛のような独特な音を生み出して飛翔する矢、その音に応えるように地上からも鏑矢が撃ち上げられました! 交差する二本の矢が生み出す音は複雑に絡み合い、まるで音楽のように周囲一帯に響き渡っています……。

 

「うん、これで良し! そしたらシルマリル、この間みたいに森の中をゆっくり飛んで頂戴? 案内役の斥候が迎えに来てくれるから」

 

「ん、わかった。しっかりつかまっててね」

 

 妖精弓手ちゃんの言葉に従い徐々に高度を落としていく吸血鬼君主ちゃん。豊かに生い茂る木々の合間を縫うように飛んでいるうちに、左右の枝に人影が見え始めました。手に弓を持ち、腰には矢柄と短剣を身に着けた優美な姿。これは……懐かしの斥候さんたちです! 速度を落としているとはいえ飛行する2人に楽々と追従しているあたり森人(エルフ)たちの練度の高さを物語っていますね。

 

 

 

「……来たか、星風の娘とその伴星。予想よりも早い里帰りであったな」

 

 斥候さんたちの警戒……もとい護衛の下、以前妖精弓手ちゃんに案内された街並みを見下ろせる集落の外縁部へと到着しました。従兄殿とお姉さんが、侍従を連れて2人を出迎えてくれました。鷹揚に挨拶を交わす姿を見ると、普段忘れがちですが妖精弓手ちゃんがマジモンのお姫様だったことを思い出しますね。

 

 不意の訪問に若干警戒されているのでしょう、なんだか森人(エルフ)たちの視線が吸血鬼君主ちゃんに集中しています。警戒が5割、奥様が3割、熱い視線が2割といったところでしょうか。

 

 お姉さんである花冠の森姫もじっと吸血鬼君主ちゃんを見つめているようですが……お、周囲の様子を見て苛立ちを隠せない様子の妖精弓手ちゃんが吸血鬼君主ちゃんへ近付いてきましたね。ぷんすこしながら大袈裟な身振りを伴って何かを催促しているみたいです。頷きを返した吸血鬼君主ちゃんが、そっと両手をおへそのあたりに宛がい何かを引き抜くようなポーズを……あ。

 

 

 

「これは……!?」

 

 吸血鬼君主ちゃんが(ケイン)を引き抜いた瞬間、森の中に溢れる陽光の輝き。膨大な熱量(エネルギー)を孕んだ光を浴びてエルフの森が歓喜の声を上げるように騒めき、生い茂る枝葉を大きく揺らしています。突然の出来事に周囲で興味深げに宙を飛び交っていた精霊たちも驚いていましたが、次第にその暖かな光に身を委ね、気持ち良さそうに目を瞑っていますね。

 

「――太陽神の神官から譲り受けた神器よ。これでもまだシルマリルが夜の住人だなんて言うつもりかしら?」

 

 背後から吸血鬼君主ちゃんに抱き着き、頬擦りをしながら妖精弓手ちゃんが笑っています。あの、目がまったく笑っていないんですが……。空いているほうの手で妖精弓手ちゃんを撫でながら吸血鬼君主ちゃんも困ったように笑みを浮かべていますね。

 

「あのね、ここにきたりゆうはぼくもきいてないんだけど、たぶんたいせつなようじなんだとおもう。おはなしをきいてあげてくれませんか?」

 

「……貴公の言う通りだな。斥候は持ち場へ戻れ、後は私たちが引き継ごう」

 

 ふぅ、どうやら警戒は解いてくれたみたいですね。次期族長の指示に従い散っていく斥候の人たち。何人かが名残惜しそうな目で吸血鬼君主ちゃんを見ていますが……見なかったことにしておきましょう!

 

 さて、肝心要の妖精弓手ちゃんの訪問理由ですが……お、どうやら決心がついたみたいですね。吸血鬼君主ちゃんを抱きかかえ、お姉さんと従兄殿へと相対しました。微かに震えるその手に吸血鬼侍ちゃんがそっと手を重ね、全幅の信頼を孕んだ瞳で見つめています。その後押しを受け、強い意志を含んだ声で妖精弓手ちゃんが己の願いを口にしました。

 

 

 

「今日ここに来た理由はただ一つ。『揺り籠』を使わせて欲しいの」

 

「!? 本気で言ってるの……?」

 

 『揺り籠』……? ふむ、聞いたことの無い単語ですねぇ。ですが森人(エルフ)たちにとっては重要なものなのでしょうか、花冠の森姫は否定の声を上げ、従兄殿も驚いた顔をしています。付き従っていた侍女たちも同様の表情ですね。ただ1人頭上に?マークを浮かべているのは吸血鬼君主ちゃん、完全に蚊帳の外状態で放置されちゃってます。互いに意見をぶつけ合う3人の美しき上の森人(ハイエルフ)、こりゃ長引きそうですねぇ……。

 

 

 

 

 喧々諤々の言い合いが続く事暫し。吸血鬼君主ちゃんが抱きかかえられたまま頭上に舞う木の葉の枚数を数えるのに飽き、侍従さんたちと無言のアイコンタクトで脱走を協議し始めた頃、ようやく決着がつきました。最終的には従兄殿が妖精弓手ちゃん側につき、花冠の森姫を説得したみたいです。憔悴した彼女の肩を抱きながら、勝ち誇ったように吸血鬼君主ちゃんを掲げる妖精弓手ちゃんに話しかけています。

 

「直ぐに準備はさせよう。そなたの伴星には、その間に身を清めて貰うと良い」

 

「では(わたくし)が案内いたします。……構いませんね?」

 

「……うん、貴女になら任せられるわ! それじゃシルマリル、この子に着いて行って。しっかり面倒見てもらいなさい!」

 

 従兄殿の言葉を受け、1人の女性が前に進み出てきました。幾重にも布を重ねた露出の少ない服を纏い、何故か瞳を閉じたままの小柄な森人(エルフ)さんですが、どうやら彼女が案内してくれるみたいですね。妖精弓手ちゃんが彼女を見て一瞬驚いた顔をしていましたが、すぐに納得したような笑みを浮かべ、吸血鬼君主ちゃんを彼女へと手渡しました。妖精弓手ちゃんは別に準備があるようで、また後でねーと言い残してそのまま従兄殿たちと一緒に行っちゃいましたね。

 

 ……おや? ぽつんと残された吸血鬼君主ちゃんが不思議そうな顔で案内役の女性を見上げていますね。視線を受け止めている彼女も心当たりがあるのか、柔らかな笑みを浮かべ、ゆっくりと歩き出しながら吸血鬼君主ちゃんの視線に応えています。

 

「ふふ、すぐに判りますよ。さぁ、まずは身体を綺麗にいたしましょう」

 

「えっと、よろしくおねがいします?」

 

 初対面にしては随分と距離感が近いですが、吸血鬼君主ちゃんも何処か安心したように彼女に抱かれるままですね。そのまま身を清める場所まで連れて行ってくれるみたいです。

 

 ……ふーむ、たしかに何処かで見たことがあるような気もしますが……やっぱり記憶に無いですねぇ。彼女の言う通りすぐに判るんでしょうか。ちょっと様子を見てみましょう!

 

 


 

 

「どこか痒いところはありませんか?」

 

「ん、ちょっとみぎ……あ、そこ……ふあぁ……」

 

 清流のせせらぎに交じって響くのは案内役の女性の問い掛けとそれに反応する吸血鬼君主ちゃんの気持ちよさそうな声。前回水恐怖症を克服した例の場所にやって来た2人、女性の唱えた≪隧道(トンネル)≫によって形成された即席の水浴び場で、吸血鬼君主ちゃんが全身を満遍なくキレイキレイされています。

 

 薄布一枚を身体に巻き付けた姿の彼女、腰まで水に浸かった状態で膝上に吸血鬼君主ちゃんを乗せ、大きな葉で作った器で水を掬っては頭のてっぺんから爪先まで優しく洗い流していきます。あれほど流水を怖がっていた吸血鬼君主ちゃんですが、流水に浸り頭上から水を掛けられても怖がる様子を見せず、完全に身体を彼女に預けていますね。

 

 時折身を捩り、顔を彼女に擦り付けて何かを確認している吸血鬼君主ちゃん。どうやら確信が持てたのでしょうか、するりと膝上で向きを変え、彼女と正対する姿勢で口を開きました。

 

「やっぱり()()()とおんなじにおい……もしかしておねえさん?」

 

 え、お姉さん? 吸血鬼君主ちゃんが見上げている彼女……体型を隠す服を脱いだので判り易いですが、身長は妖精弓手ちゃんよりちょっと低く、手のひらサイズの控えめなお山のスレンダーな体型。肩甲骨辺りまで伸びた白に近い銀髪は清流の雫を纏いキラキラと輝いています。アレ? 言われてみれば誰かに似ているような……。

 

 吸血鬼君主ちゃんの言葉に応えるようにゆっくりと開かれた瞳。その色は()()()()()()()と同じ、紅玉(ルビー)のような赤色です。え、じゃあ森人少女ちゃんのお姉さんなんですか!? 

 

 

 

 

 

 

「あら嬉しい。でも外れです。貴女たちによって救われた若草の娘は私の()。つまり、私はあの子の()()()()()()です。……貴女も『おばあちゃん』って呼んでくれて良いんですよ?」

 

   ……エルフって、すっご~い!

「……エルフって、すっご~い!」

 

 

 

 いや、ビックリしました! まさか姉妹にしか見えないこの女性が森人少女ちゃんのお祖母ちゃんだったなんて……。森人(エルフ)の年齢は見た目からは判断出来ないのは2000歳児を見れば判ることですが、こうやって知り合いと血縁関係のある人を見ると改めてそれを思い知らされますね……。

 

「えへへ……おばあちゃん……!」

 

 思いっきり甘えてくる吸血鬼君主ちゃんの頭を優しく撫でる彼女……若草祖母さんとでもお呼びしましょうか。ほっそりとした肢体から放たれる圧倒的なバブみによって、吸血鬼君主ちゃんも完全に骨抜きにされてますね。あらあらと口では言いながらもまったく困っていない様子で甘やかす姿は森人少女ちゃんそっくり。むしろ彼女のほうがオリジンでしょうか……。しばらくお肌の触れ合いを楽しんだ後、膝上に抱え直した吸血鬼君主ちゃんを抱き締めた若草祖母さんが口にしたのは、森人少女ちゃんを助けたことへの感謝の言葉でした。

 

 

 

「行方不明になっていたあの子から届いた葉書(てがみ)には、貴女と仲間の方々への感謝の言葉が綴られておりました。小鬼(オルク)どもの地獄から救い出され、命だけではなく森人(エルフ)の誇りも取り戻すことが出来たと。つい先日届いたものには、女としての幸せと、母となった喜びの気持ちが溢れているものでした……」

 

 本当にありがとうございますと語る若草祖母さん。吸血鬼君主ちゃんの肩に滴る雫は彼女の頬を伝って来たものでしょうか……。肩越しに振り返った吸血鬼君主ちゃんが、彼女の頬を流れるその熱い雫を舌でそっと舐め取り、耳元で囁いています。

 

「ううん、おれいをいうのは()()()()のほう。あのこがいてくれたから、()()()()はたくさんのぼうけんをしてこれた。あのこがいのちをわけてくれたから、()()()()はただのバケモノからかわることができた」

 

 だから、ありがとうは直接言ってあげて?と笑う吸血鬼君主ちゃん。その言葉に頷き、頬を伝う涙をそっと拭う若草祖母さん。ふにふにと吸血鬼君主ちゃんのほっぺたを指で捏ねながら表情を笑みへと変えていきます。

 

「ええ、そういたしましょう。産まれてくる曾孫の顔を見るのは年寄りの楽しみですからね」

 

 出産予定日が近付いたらお伺いしますねと笑う若草祖母さんに対し、同じく満面の笑みを返す吸血鬼君主ちゃん。よしよし、半森人夫人さん(ママ)だけでなく頼れるお祖母ちゃんも出来て、今後の家族計画は上手くいきそうですね! 併せて外交を司る氏族である若草のノウハウも学ぶことが出来たら、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の王国における立ち位置も更に良くなることでしょう。

 

 うんうん、森人少女ちゃんの赤ちゃんが産まれてくる日が待ち遠しいなぁ……っと、何時の間にやら吸血鬼君主ちゃんもピッカピカに磨き上げられ、水気を拭きとったちっちゃなボディに香油らしき液体を塗ってもらっているようです。僅かに残っていた血の匂いが完全に消え去り、やり遂げた顔の若草祖母さん。対照的に吸血鬼君主ちゃんは落ち着かないみたいですねぇ。

 

「はい、おしまい。あとは此方の服に着替えていただければ準備は終わりなのですが……」

 

 絹織物と思しき子供用サイズの衣を持った若草祖母さん、一糸纏わぬ姿のままチラチラと吸血鬼君主ちゃんを見ています。髪に残った水分を拭きとっていた吸血鬼君主ちゃんがその様子を見て首を傾げていますが……。

 

「えっと、おばあちゃん、どうかしたの?」

 

「あの、はしたない女と思われても仕方が無いのですが……ひとつお願いを聞いていただいても宜しいでしょうか」

 

 乙女チックにもじもじしていた若草祖母さん、興奮によって鮮やかさを増し宝石のように瞳を輝かせ、吸血鬼君主ちゃんの耳元に口を近付けていきます、まるで他の誰にも聞かれないようにと微かな声で囁いたのは……。

 

 

 

 

 

 

「以前、友人からすごかったというのを聞いておりまして。おなか、空いてはおりませんか……?」

 

 

 

 ……うん、これは森人少女ちゃんのお祖母ちゃんですね間違いない。

 

 


 

 

「来たか。随分念入りに身体を清めていたようだが……どうした、何かあったのか?」

 

「……ナニもなかったよ?」

 

 口から魂を半分出している吸血鬼君主ちゃんを見て、不安げに調子を尋ねる従兄殿。子供サイズでも森人(エルフ)のものでは大きさが合わず、上下揃いな服の上だけを寝衣のように着た吸血鬼君主ちゃんを抱きかかえている若草祖母さんの顔はツヤツヤしていますね。……吸ったのに吸われたみたいになっているとは不思議なものです。

 

 禊の後に2人が訪れたのは泉のような場所。大きな蓮の葉を足場に向かった先では従兄殿と花冠の森姫が待っていました。お姉さんは何故かボロボロと泣いており、口からは「妹に先を越された……」や「結婚前にだなんて、うらやまけしからんですわ……」などという声が漏れています。

 

「妻はそっとしておいてくれ。気持ちの整理に時間がかかっているようだからな。……義妹はこの先で待っている。ここからは貴公1人で行くのだ」

 

「ん、わかった。おばあちゃん、あんないしてくれてありがとう!」

 

 ぴょんと若草祖母さんの腕から飛び降り、お礼を言う吸血鬼君主ちゃん。おばあちゃん呼びに対してやれやれという顔をしているところから察するに、従兄殿も彼女のことは理解しているみたいですね。妖精弓手ちゃんが「この子」って言ってましたし、上の森人(ハイエルフ)からみれば若草祖母さんも年下なんだよなぁ……。お、歩き出そうとした吸血鬼君主ちゃんを呼び止めて、従兄殿が何かを渡してますね。大きな葉で覆われ、蔓で縛られた牧場のチーズ塊くらいの大きさの包み。中からはかすかにカチャカチャと瓶同士がぶつかるような音がしています。

 

「これを持って行け。貴公には不要かもしれんが、念の為にな。……健闘を祈る

 

「……? ありがとう」

 

 包みを受け取って歩き出した吸血鬼君主ちゃん。その背中を見る従兄殿の目は優しさに溢れています。若草祖母さんにそれを指摘されると「明日は我が身だからな……」と背中を煤けさせながら返してますけど……いったいどれほどの試練がこの先に待ち構えているというんでしょうか?

 

 


 

 

「おっそーい! シルマリルってばいつまで私を待たせるつもりだったのか……シルマリル? ちょっと、どうしたのよ黙り込んじゃって? おなか空いたの? それとも眠い?」

 

「ほわぁ~……」

 

 ……吸血鬼君主ちゃんが呆けてしまうのも無理はありません。従兄殿が指し示していた先、吸血鬼君主ちゃんが辿り着いた泉の最奥には、自然の生み出した究極の美が広がっていました。

 

 流れ落ちる滝を背に咲き誇る蓮の花、中心に咲く一際大きな一輪の蓮華に腰掛け、訝し気に声をかけている妖精弓手ちゃん。素肌が透けるほど薄い絹衣を纏い、水飛沫によって濡れた髪は夜空に瞬く星の輝きに満ち、そっと吸血鬼君主ちゃんの頬に手を伸ばす仕草ひとつが背筋が凍るほどの美しさを秘めています。まるで絵画から抜け出てきたような美の極致と言うべき姿に、ただただ吸血鬼君主ちゃんも息を呑むばかりです……。

 

 妖精弓手ちゃんの繊手が頬に触れたことでようやく我に返った吸血鬼君主ちゃん。ムニムニと遠慮なく頬を蹂躙す普段と変わらないスキンシップによって、やっと目の前の女性が妖精弓手ちゃんであると認識が追い付いたみたいですね。頬をなぞる手を優しく取り、そっと口付けをしながら素直な気持ちを露わにします。

 

「とってもきれいで、みとれちゃった。ぼくのかわいいおひめさま?」

 

「ふふっ、前にも言ったけど、故郷の森の中でこそ森人(エルフ)は輝くものなのよ? それに……」

 

 吸血鬼君主ちゃんの腕を取り、蓮華へと引っ張り上げる妖精弓手ちゃん。後ろ抱きの体勢のまま花の中心に座り、眼前の光景に見惚れる吸血鬼君主ちゃんの耳元で囁くのは……。

 

 

 

「ここは『揺り籠』。私たち上の森人(ハイエルフ)の永い生の中で何度も訪れる特別な場所。この世界に産まれる時、祖霊の元へと還る時、そして……新たな命を紡ぐ時にね」

 

 妖精弓手ちゃんの呟きを合図に、時計が逆回りするように花弁を閉じ始める蓮華。やがて蕾の形へと姿を変え、2人はその中に閉じ込められてしまいました。内部はおおよそ半径5フィートほどの空間があり、花弁を通して外の光が感じられます。急に閉所に閉じ込められて慌てた様子の吸血鬼君主ちゃん。その小さな身体を抱きすくめ、妖精弓手ちゃんがからかい交じりに頬擦りを始めました。

 

「そんなに慌てるんじゃないわよ。()()が終わったら、ちゃんと外に出られるんだから」

 

「……ふぇ? ぎしき?」

 

「そう、儀式。祖霊との繋がりを深め、一時的に霊的な位階を上げて、新たな生命を授かるための儀式」

 

「えっと、つまり?」

 

 ああ、それってつまり……。頭が事態に追い付いていないのか、首を傾げる吸血鬼君主ちゃんに対し「もうシルマリルってば察しが悪いんだから」とわしゃわしゃ頭を撫でる妖精弓手ちゃん。秘匿されたおでこに口付けをして、膝上に吸血鬼君主ちゃんを抱きかかえた体勢にチェンジ。頭アライさんな吸血鬼君主ちゃんにも一発で理解できる言葉で告げるのは……。

 

「つまり、私とシルマリルの赤ちゃんを授かるための儀式よ! ……シルマリル、私は、あなたの子どもが欲しいの。イヤだなんて、言わないわよ……ね?」

 

「ふぁっ!?」

 

 ……これはまさしく、四方世界で一番美しい『○○〇しないと出られない部屋』ですね!

 

 

 

 ほら、さっさと出しなさいという妖精弓手ちゃんの勢いに負けてインベントリーから豊穣の霊薬を取り出す吸血鬼君主ちゃん。腰に手を当てて一気飲みをする男らしい姿を横目に従兄殿から託された包みを開けてみれば、中には森人(エルフ)謹製の賦活剤(エリクシル)がぎっしり。瓶のラベルに「絶倫」や「フルチャージ!」「えるぴょい伝説」という文字が躍っているのを見てしまった吸血鬼君主ちゃんの顔がヤバいくらいに引き攣っています。こうなることが最初から判ってたんですね従兄殿……!

 

 ええと、夜の事情に詳しい地母神さんに確認したのですが、森人(エルフ)の男性には文字通り肉食系の人は少なく、その寿命も相まってあまり夜会話に積極的ではないそうです。またパートナーにがっつくのははしたないとされ、時間をかけて互いを高めるのが美徳とされているので、途中で中折れしないように特殊な賦活剤(エリクシル)が発達したんだとか。……森人(エルフ)は未来に生きてるなぁ。

 

「さ、こっちにいらっしゃいシルマリル」

 

 お、霊薬を飲み干した妖精弓手ちゃんが花の中央にあるクッションに似た形の花托(かたく)と呼ばれる部分をポンポンと叩いています。ふわふわとした花托に腰掛けた吸血鬼君主ちゃんを抱きしめ、仰向けに寝転がった妖精弓手ちゃんが目を細めて笑っています。

 

「シルマリルが()()()()()()()満月まであと3日。それまでお互いを()()()()()()()()? あぁ、儀式中の上の森人(ハイエルフ)は半分精霊みたいな存在になってるから食事や睡眠、排泄の心配はいらないわ。シルマリルも後ろ2つは元から不要だし、おなか空いたら好きなだけ吸っていいから」

 

 ……うん、完全に逃げ場無しですね! 捕食者の眼光を浮かべ顔を近付けてくる妖精弓手ちゃんを見て、覚悟を決めたのか先んじて唇を奪う吸血鬼君主ちゃん。閉ざされた空間に濡れた音が響き、銀糸を残して離れた口から熱を帯びた吐息が漏れています。イニシアティブを奪われた妖精弓手ちゃんですが、それを挽回するように眉を立てた笑みを見せ吸血鬼君主ちゃんを花托へと押し倒しました!

 

 

 

「いつもはシルマリルの好きにされちゃってるけど、儀式中の上の森人(ハイエルフ)は祖霊の後押し(バックアップ)を受けてるの。その知識や経験、技術(テク)を含めてね。今日こそはシルマリルを啼かせてやるんだから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……満月の夜から()()()、腰が抜けて立てなくなった妖精弓手ちゃんをお姫様抱っこして現れた吸血鬼君主ちゃん。2人の姿を見て、やつれた顔の従兄殿は化物を見るような目を、お肌ツヤツヤの花冠の森姫さんは羨ましそうな目を、何故か一緒に居合わせた若草祖母さんはキラキラとした尊敬の目を向けていたそうな……。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 




 栄養補給に邁進するので失踪します。

 評価、ご感想ありがとうございます。次話が遅れたりしながらも連載を続けられているのは、やはり読んでいただいた方からの反応が嬉しいからですね。

 もし宜しければ、読み終わった後にお気に入り登録して頂ければ幸いです。いつか四桁の大台に乗れたら良いなぁと思う次第であります。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその12.5

 寒暖の差が激しく体調不良気味なので初投稿です。



 おほー、妖精弓手ちゃん頑張ってますねぇ! 以前矢傷の治療の際に噛みつかれた内腿を甘噛みされて、あわや一発昇天かと思いましたが、なんとかギリギリのところで耐えきったみたいです。

 

 お返しと言わんばかりに祖霊たちの知識を駆使してイニシアティブを握ろうと果敢に攻めてますけど……祖霊が蓄えているのはあくまで対草食系森人(エルフ)男子用の知識であって、無尽蔵の持久力(タフネス)を持つ吸血鬼君主ちゃんには効果が薄いんですよねぇ……。合間合間に長耳や腋、おへそにカウンターをもらって、また出来上がっちゃいそうになってます。

 

 なんとか花托(かたく)に吸血鬼君主ちゃんを押し倒してご立派な魔剣を抜かせることに成功しましたが……あーあー、自分の手首と魔剣の刀身を見比べて真っ赤になっちゃいました。星の力(核融合炉)が生み出す魔力によって脈打つ刀身に躊躇いがちに触れ、その硬さと熱に思わずゴクリと生唾を飲み込んでいますね……。

 

 あ! 無理はしないでという吸血鬼君主ちゃんの言葉に反応して妖精弓手ちゃんが動き出しました!! 仰向けの吸血鬼君主ちゃんを上四方固めのように抑え込み、吸血鬼君主ちゃんの頭を太股でガッチリホールド。柔らかな感触と甘い体臭によって存在感を増した眼前に掲げられている魔剣へと、てらてらと艶めかしく輝く桃色の舌を近付けて……。

 

 

 

 

 

 

 ……うん、こっちの2人はま~だ時間かかりそうですねぇ。妖精弓手ちゃんがいつまで攻勢を続けられるのか気になる所ではありますが、この先は齧り付きでガン見している地母神さんと知識神さんにお任せしちゃいますか。あ、ちゃんと記録はしておいてくださいね!

 

 さて、次シナリオは砂漠が舞台だったと思うんですが……おや? 万知(ばんち)神さんと覚知神さんの凸凹コンビがGM神さんと3人で深刻な顔して話し合ってますね。セッション準備に不具合でも起きたんでしょうか?

 

 お三方、どうしました? GM神さんは頭抱えて万知神さんは苦虫を纏めて噛み潰したような顔、覚知神さんなんて白を通り越して顔面真っ青じゃないですか。また破壊神さんが遊びに行っちゃったとかですか?

 

 ……は? ()()沿()()()()()()()()()()()()()()()()()? 

 

 いや、この間話したときに、例の原作イベはダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)にぶつけるのはちょっと……ってことで、砂の海を航海しながらドラゴンの秘宝を追い求める冒険活劇に変更するって言ってませんでしたっけ?

 

 ……えー!? 誰かが覚知神さんの名を騙って勝手に≪託宣(ハンドアウト)≫を送った!?

 

 いや、まぁそんなことをするヤツは1人しか思い浮かばないですケド……。じゃあ隣国は絶賛牧場中? しかも本来よりも規模が大きくなってる!? ……大丈夫? 一党(パーティ)のみんな人間に絶望して闇堕ちしちゃったりしません?

 

 ええい、仕方ありません! とりまカワイイ無貌の神(N子)さんが時間稼ぎをしますので、凸凹コンビは脚本(シナリオ)の修正をお願いします。せっかくGM専だった神さんや視聴神の皆さんが楽しんでいるところなのに、アレの自己満足で物語(キャンペーン)を台無しにされるワケにはいきませんからね! あ、正道(ルタ)神さんと奪掠神(タスカリャ)さんはあの馬鹿の捜索をお願いします。どうせどっかの"啓示"板(吹き溜まり)で妄言を垂れ流しているでしょうから。

 

 

 

 

 

 


 

 

 平和とは、戦争と戦争の間の準備期間な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、吸血鬼君主ちゃんと妖精弓手ちゃんがえるぴょいしたところから再開です。

 

 生理現象から解放されていたとはいえ、一週間ものあいだえるぴょいしていた2人。視聴神さんたちの予想通り、妖精弓手ちゃんのおなかは見事に大きくなっております。妹の劇的ビフォーアフターに花冠の森姫が卒倒する一幕もありましたが、豊穣の霊薬について現物を交えてお話しし、何とか納得して貰うことに成功しました。

 

 元気いっぱいな吸血鬼君主ちゃんは兎も角、幸せそうにおなかをさする妖精弓手ちゃんは完全に腰が抜けてしまっており、このまま帰るのはちょっと不味いよねという意見で全員の考えが一致。せっかくの里帰りですし、姉妹水入らずでお話ししたいという姉妹の希望もあり、もう一泊してから帰ることになりました。

 

 ひとつ上の森人(ハイエロフ)の異名をまざまざと見せつけられたのか、花冠の森姫に絞り尽くされ背中が煤けている従兄殿と吸血鬼君主ちゃんが肩を叩き合って友情を深めたり、既に孫のおなかが大きくなっていることを聞いた若草祖母さんが帰宅に同行を申し出るといったイベントをこなし、背中におばあちゃん、前に妖精弓手ちゃんという姿で自宅へと帰還した吸血鬼君主ちゃんを迎えたのは……。

 

 

 

 

 

 

「やぁお帰りご主人様。妹姫(いもひめ)様とはお楽しみだったみたいじゃないか」

 

「そうね馬鹿義姉(ばかあね)。ピンク色の思念を送られ続けたこの子が暴走するくらいにね」

 

「ヒック……グスッ……」

 

 

 

 ……森人狩人さんにしがみ付き泣き顔で睨んで来る吸血鬼侍ちゃんと、その肩を優しく抱き寄せる()()()()()()()森人狩人さん。そして青筋を浮かべた笑みで爆発金槌を起動している女魔法使いちゃんと、そんな修羅場を遠くから見ている一党(パーティ)の面々でした。

 

 

 

「えぇとつまり、シルマリルの昂ぶりがヘルルインにまで伝播しちゃって、我慢しきれなかったヘルルインを受け止め続けた結果こうなったと……」

 

 ソファーに腰掛けた妖精弓手ちゃんが顔を引き攣らせながら事の次第を確認するように呟く声が響くリビング。「おなかがそうなってなかったらエロガキと一緒に一日説教コースよ」と女魔法使いちゃんが額に手を当てています。どうやらえるぴょい中の吸血鬼君主ちゃんの思考がヒヒイロカネによる脳内通信を経由して吸血鬼侍ちゃんに流出してしまい、意図せぬ暴走状態に陥ってしまっていたみたいですね。

 

 最初は吸血鬼侍ちゃんもその変調を隠していたのですが、一日二日であれば我慢出来ても三日も続けば限界になるわけで……。頬を上気させどこか上の空な吸血鬼侍ちゃんを不審に思った森人狩人さんが不意打ちでスキンシップを図ったところ、あえなく理性が崩壊。こちらでもえるぴょいが発生してしまったそうです。

 

 リビングで獣のように森人狩人さんが求められていたところに偶然賢者ちゃんが≪転移≫の鏡からやって来て事態が発覚。最初は強制的に魔力を発散させて理性を取り戻させようと考えていたらしいのですが……。

 

「いきなりこの森人(エロフ)が『今が絶好の機会だから豊穣の霊薬を渡して欲しい』なんて言い出して、もうしっちゃかめっちゃかだったのです」

 

「だってそうだろう? 只人(ヒューム)の子どもたちと同じ時間を過ごさせるのなら子作りは早いほうが良いし、一党(パーティ)でも足並みをそろえたほうが子育ても都合が良いじゃないか」

 

 君の予想通り妹姫(いもひめ)様も立派なおなかになっているしねぇ、と勝ち誇った笑みを浮かべる森人狩人さん。盤面を読み切った森人狩人さんが凄いというべきか、そこで無理矢理にでも吸血鬼侍ちゃんの暴走を止めなかった賢者ちゃんを賞賛すべきか微妙なところですね……。

 

 

 

 一方で自分の行為がそんな事態を引き起こしていたと知った吸血鬼君主ちゃんですが、現在女魔法使いちゃんの膝の上で絶賛おしおき中。後ろ抱きされた体勢のままひたすら耳元で「スケコマシ」「エロガキ」「節操無し」「女殺し(レディキラー)」などと囁かれながら、剣の乙女ちゃんの吸血の練習台にされております。

 

 服の前面をはだけた状態の首筋を剣の乙女ちゃんの舌が這いまわり、反応して動こうとする身体を女魔法使いちゃんに抑え込まれ、吸血鬼君主ちゃんはその肢体をびくつかせるばかり。抜刀させられていないのが唯一の救いでしょうか。

 

「ひぁぁ……ごめんなさい……ひぅ……ゆるして……」

 

「あら、アンタ謝るようなコトしたの? お姫様に赤ちゃんが出来たのは喜ばしいことよ?」

 

「えう……」

 

「ちゅ……そうですわ……新たな生命は祝福こそされても、決して忌避されるものではありませんもの……れる……」

 

「おあ~……」

 

 ……もはやお仕置きというよりもそれにかこつけたスキンシップのような気もしますが、2人が満足そうな顔をしているのでヨシ!としましょう。

 

 


 

 

「そう、そのまま手のひらに座っている精霊を感じ取ってください」

 

「……あ。これが、精霊のあたたかさでしょうか……?」

 

 戦慄の夜が明けた翌日。自宅の庭に敷物を広げ、一党(パーティ)の面々が集まっています。若草祖母さんを中心に女魔法使いちゃん、森人狩人さん、令嬢剣士さんが座り、両手を胸の前で掲げ何かを掬い上げるようなポーズをしていますね。

 

 若草祖母さんに促がされるまま目を閉じ、意識を集中する令嬢剣士さん。そっと目を開けた先にはちょこんと手の上に乗った火花散らす光の球(雷の精霊)の姿がありました。驚いた表情の令嬢剣士さんに対して森人少女ちゃんが祝福の言葉を送っています。

 

 母親が半森人(ハーフエルフ)だからでしょうか、すんなりと精霊を視認することが出来た令嬢剣士さんですが、一方で渋い顔をしているのは女魔法使いちゃん。なまじ理詰めで物事を考える傾向が強いからか、なかなか精霊の姿を見ることが出来ないみたいです。

 

 隣で涼しい顔をしている森人狩人さんといえば……うん、日頃の不摂生のためか精霊たちからエンガチョされてますね。手に乗るようお願いしてもプイっとそっぽを向かれ、教師役の若草祖母さんも苦笑い。生活習慣の改善が必要ですねクォレハ……。

 

 

 

 昨日、吸血鬼君主ちゃんのお仕置きの裏でこっそり発生していた若草の祖母と孫の邂逅は、終始理想の形でございました。

 

 新たな命を宿したおなかを幸せいっぱいの顔で撫でる森人少女ちゃんの顔を見て、若草祖母さんも涙を堪え切れず号泣。「(わたくし)決めました! この子だけでなく、血族(かぞく)みんなの……貴女たち全員のおばあちゃんになります!!」と涙ながらの宣言には妖精弓手ちゃんもニッコリ。でも年齢的には若草祖母さんのほうが年下なんだよなぁ……。

 

 既に外交の仕事に関しては後進に道を譲っており、半ばオブザーバー的な立場だったそうで、相談の結果みんなの赤ちゃんが成長するまで同居してくれることになりました。

 

 ダブル吸血鬼ちゃん、そして一党(パーティ)の女性たちが抱える複雑な事情を聞き、今後の方針を尋ねられた若草祖母さん。しばし考え込んだ後、ゆっくりと瞳を開きながら口にした方針は……。

 

 

 

 

 

 

「まずはもっと広い家にお引越しいたしましょう。家族が増えたらこの家では少々手狭ですし、なにより子供の教育によろしくありません。きちんと社会に適応する倫理観を持たせるのであれば、昼夜の顔はしっかりと区別いたしませんと」

 

 

 

 なんて真っ当な意見! こういうので良いんですよこういうので!!

 

 

 

「それで、新しい家を建てる場所を探しにシルマリルとおっぱい乙女が出掛けたのね」

 

「うん。できればぼくじょうのちかくにたてたいっていってた」

 

 うんうん唸りながら頑張って精霊を見ようとしている女魔法使いちゃんを樹上から眺めている妖精弓手ちゃん。その身体を背後から抱きしめ、幹に背を預けるように吸血鬼侍ちゃんが一緒に座っています。敷地さえ確保できれば家そのものは≪死王(ダンジョンマスター)≫で一発ですし、セキュリティ強化も後付けし放題ですからね。街の大工さんたちの仕事を奪ってはいけないので多用は禁物ですけれども。

 

 牧場の近くというのは街から離れた場所が良いというのもありますし、今後新たに施設を立てる際にも話を通しやすいという点もあるからでしょうか。牧場の実習生を新たに迎える宿舎や、冒険者が産休・育休の際に長期滞在できる施設も併設できればそれだけ牧場周辺の重要度も上がりますし、地母神の神殿や知識神の文庫(ふみくら)から人を集め、出産関係の技術を学ぶ教育機関なんかも設けることが出来るかもしれません。

 

「その時はこの木も植え替えないとだけど……新しい(いえ)を創るっていうのは飽きがこなくて面白そうねヘルルイン!」

 

「がんばってしゃかいにこうけんして、ぼくたちをうけいれてもらいやすくしないとね!」

 

 長命種(エルダー)らしい長期的な考えですけど、そういう一歩一歩進む姿勢が大切なのかもしれませんね! それでは続けて吸血鬼君主ちゃんと剣の乙女ちゃんのほうに視点を向けてみましょうか!!

 

 

 

 

 

 

「なるほど。それで直接ウチに来たんだ!」

 

「ええ、まずはお話しをしたかったのと、ご相談がありまして……」

 

 うんうんと頷く牛飼若奥さんと剣の乙女ちゃんの声が響く牧場の母屋の一室。牛飼若奥さんの左右にはゴブスレさんと伯父さんが座り、あの頃モードの剣の乙女ちゃんの膝上には吸血鬼君主ちゃんがホールドされています。TPO的にはちょっとアレな光景ですが、吸血鬼君主ちゃんを見る伯父さんの目には諦観にも似た優しさが滲んでいますね。牧場防衛ミッションからこっち様々な事件、イベントで顔を出してますのでこの光景にも慣れちゃったのかもしれません。

 

 土地を購入するにあたり資金についてはまったく問題は無かったのですが、一党(パーティ)には不足しているものがあり、それを解消するために牧場を訪れた2人。人気・実力とも辺境でも有数の一党(パーティ)ですが、残念ながら社会的信用が不足しているんですよねぇ……。

 

一党(パーティ)の最高等級が紅玉というのは、低くはないのですが高いともいえません。冒険者としての実力は『辺境最高』の一党(パーティ)にも負けないと自負しておりますが、活動期間が短く街での認知度というのは決して高くはありませんの」

 

「しんゆうみたいにぎんとうきゅうまであがると、それもかわるんだけどね~」

 

「……そうだな。俺のような男が曲がりなりにも社会に信頼されているのは、等級に因るものが大きいだろう」

 

 そのため、一番の土地所有者である領主との繋がりもなく、それ以外の耕作放棄地なんかを持っている地主からも信用が得られにくいというのがダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の欠点ですね。これが山間の集落であったりすると、冬季の緊急輸送などの依頼をこなした関係で下へも置かない持て成しになるのですが、今度は≪転移≫の鏡以外の交通の便が悪くなるというのが痛いところ。

 

「ですが、最近事業が好調なこの牧場ならば土地を新たに購入してもおかしくはありませんし、銀等級冒険者が後継ぎということで、信用という点でも問題が起きる可能性は低いと考えられます」

 

「こうにゅうしきんはこっちがだすし、ちゃんとおやちんもはらうよ。しょうらいてきにはしゅっさんかんけいのぎじゅつをまなぶしせつや、あたらしくママになるひとがあんしんしてしゅっさん、こそだてできるばしょもつくりたいの」

 

 熱意の籠った2人の言葉を聞き、顔を見合わせる牧場夫婦。先に動いたのは牛飼若奥さんです。対面から吸血鬼君主ちゃんを受け取り、ギュッと抱きしめながらゴブスレさんへ問いかけます。

 

「私は良いと思うよ。この子やみんなのおかげで『あの日』を乗り越えることが出来たし、こうやって君と結ばれることも出来た。可愛いおちびさんたちや英霊さんを連れて来てくれたのもそうだよね」

 

「――ああ。俺もそう思う。あの日、友がいなかったら、牧場を……お前を守り切れなかったかもしれない。その後の冒険でも幾度となく助けられた。可能な限りその恩を返したい。だが……」

 

 そこまで口に出して言い淀むゴブスレさん。兜を身に着けていない、素顔を向ける先にはこれまで沈黙を保ち続けている伯父さんの姿。目を瞑ったまま会話を聞いていた彼が、みんなの視線に気付き口を開きました。

 

 

 

「私は、反対だ。実力がどうであれ、この話を持ってきた君たちは白磁等級。世間では破落戸と変わらない扱いをされる犯罪者予備軍だ。少なくとも世間はそう受け取るだろう」

 

 否定の言葉を上げようとした牛飼若奥さんをゴブスレさんが制し、彼女が座り直したのを横目で見た伯父さんは話を続けていきます。

 

「牧場の経営に関してもだ。ギルドとの契約で生活は安定し、これ以上事業を拡大しなくても十分に暮らしていける。分相応を超えた財は余計な諍いを生む原因になるかもしれない」

 

 それもまた真理。日々を安定して暮らしていけること以上に、幸せなことがあるでしょうか? その大切さが判るがために、吸血鬼君主ちゃんも牛飼若奥さんの胸元で俯いてしまっています。

 

 

 

 

 

 

「だが……それは私個人の意見。この牧場の後継ぎは君たち2人だ、好きにしなさい」

 

「!? いいの……?」

 

「おあ~……」

 

 伯父さんの言葉に立ち上がる牛飼若奥さん。無意識に胸元の腕に力が入り、吸血鬼君主ちゃんが幸福死しそうになっています。やんわりとそれを指摘し、傍らの移動式寝台(ベビーカー)でスヤスヤと寝息をたてている双子の頭を撫でながら笑う伯父さん。

 

「構わないさ。君たちは親として、何よりも子どもたちの幸せを考えなければならない。そのために必要ならば、悪魔や()()()にだって魂を売る。親とはそういうものだからな?」

 

「ふふっ。もう……面白くないよその冗談!」

 

 普段の姿からは想像出来ない伯父さんの言動に思わず笑い声を上げてしまった牛飼若奥さん。その隣でゴブスレさんも微かに笑っているように見えますね。お、移動式寝台(ベビーカー)から離れた伯父さんが牛飼若奥さんの傍に屈み、お山に埋もれて昇天しかかっていた吸血鬼君主ちゃんと視線を合わせました。

 

「小さな吸血鬼くん、約束してくれるだろうか。この牧場で暮らす者を、護ってくれると」

 

「……うん! ぼくと、ぼくのかぞく、ぼくのなかまは、しんゆうとそのかぞく、そのおともだちを、ずっとずっと、まもります!!」

 

 何ら強制力のない、ただの口約束。でもだからこそ、吸血鬼君主ちゃんと吸血鬼侍ちゃん、そして血族(かぞく)のみんなは決して約束を違えることなくゴブスレさんの家系とその仲間を守り、ともに生きていく事でしょう……。

 

 

 

「ありがとうね、お義父(とう)さん!」

 

「ありがとう、ございます」

 

 口々に伯父さんに礼を言う2人。……おや? 伯父さんは何故か渋い顔のままですね。何処か不満そうな彼を見てゴブスレさんが躊躇いがちに尋ねてみたところ……。

 

 

 

「その、なんだ。……君は何時になったら私を『義父』と呼んでくれるのかね?」

 

 あー、そういえばゴブスレさん、伯父さん相手だといっつも敬語ですし、他人行儀に受け取られがちな会話しかしてませんでしたもんね。お互い相手が自分の事を苦手だと思っていたために、双方とも歩み寄りのタイミングが掴めなかったのかもしれません。

 

 キョトンとした顔のゴブスレさんに溜息を吐きながら、どこか懐かしむように伯父さんは過去を振り返ります。

 

「君は、変わった。ゴブリンに対する苛烈さはそのまま、絶対に生きて帰ってくるという意志を感じるようになった。かつての君にはそれが無く、何処か自分の生命を軽んじているように私には見えていたんだ」

 

「……はい」

 

 伯父さんの言葉を否定することもなく、首肯するゴブスレさん。銀等級に至るまでの只管にゴブリンを狩り続ける姿勢は人間味を感じさせないものだったことは想像に難くないですし、実際に近くでそれを見ていた伯父さんからすれば、到底安心できるものではなかったことでしょう。

 

「だが、あの日……牧場にゴブリンが押し寄せてきた日から君は少しずつ変わっていった。他人を頼ることを知り、表情も柔らかくなった。牧場を訪れる『友人』と呼べる人たちも増えた」

 

 そこで言葉を区切り、部屋の扉へと目を向ける伯父さん。僅かに開いた隙間からは兎耳と発光が見え隠れしています。

 

「牧場の経営も順調になり、力を貸してくれる子たちも来てくれるようになった。彼らとともに土へと向き合う君の顔は、姪の……義娘(むすめ)のツレに相応しい面構えだったよ」

 

 もっとも、出産を控えた妊婦が押し寄せる事態になるとは思ってもみなかったがね、と苦笑する伯父さん。つられて苦笑する後継ぎ夫婦を見て、笑みを柔らかなものへと変えています。

 

「君が笑う顔など数年前は想像も出来なかった。人は変わるものだとつくづく実感したよ。……改めて、義娘(むすめ)と牧場を頼む」

 

「はい……義父(とう)さん」

 

 

 

 固く握手をする親子を見て、ヘヘンと鼻の下を指で擦る女性陣たち。扉の向こうからはおちびさんたちと英霊さんが飛び込んできて、やいのやいのとおおさわぎです。

 

 白兎猟兵ちゃんの妹ちゃんに抱き着かれた伯父さんが困った顔で頬を描く姿を見ながら、牛飼若奥さんのお山から抜け出てきた吸血鬼君主ちゃんが定位置に戻り、そっと剣の乙女ちゃんの手に自分の小さな手を重ねています。

 

「かぞくって、いいよね」

 

「ええ。私たちも、彼らのような素晴らしい家族になりましょうね?」

 

 

 お引越しについてはまた今度お話しすることにして、今日は絆の深まった家族をお祝いしましょうか。夏が近付き牧場はますます忙しくなっていきますが、今日は特別なお休みということで神様たちにも大目に見てもらいましょうね!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 


 

 

 

 

 

 

「死灰神の痕跡を確認。既に別の次元()へと逃亡した模様」

 

「……まぁそうでしょうね。手口は杜撰ですが、嫌がらせとしては一級品の爆弾を投下していったものです。余計なイベントが発生してしまった以上、今回の物語(キャンペーン)は再走案件なのでは?」

 

否定(ネガティブ)。このまま放置すればジャンル変更(闇堕ち√)の可能性が高まるが、十分に修正可能」

 

「そのためには脚本(シナリオ)の修正が必要……この後すべてのイベントに成功すれば今回のロスは挽回できますし、リセットせずに続行しましょうか」

 

肯定(ポジティブ)。この物語(キャンペーン)最速を求めるもの(any%TAS)でもなければ全てを救う英雄譚(100%RTA)でもない。手の届く範囲で最大限の幸福(三流のハッピーエンド)を手に入れるために奔走する姿、それを見て楽しむものだから」

 

「ええ、ならば私たちのやることは決まっています。視聴神たち()が望む物語(キャンペーン)へ針路修正を行うために、これより冒険(セッション)への介入を開始します」

 

 

 




 気候が安定したら運動を始めたいので失踪します。

 お気に入り登録に評価や感想、ありがとうございます。

 お時間がありましたら、一言でも構いませんので感想を頂ければ嬉しいです。今後の作品の方向性にも影響してくると思いますので。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその13-1

 戦慄のセカンドブリットが迫ってきているので初投稿です。




 ――ああもう、いい加減泣き止みなってば。

 

 個神情報(アカウント)乗っ取りに関しては≪幻想≫さんと≪真実≫さんも深刻な問題だと受け止めてくれて、あの馬鹿を拘束次第ガッツリ追及するって言ってるし、脚本(シナリオ)の軌道修正は正道(ルタ)神さんと奪掠神(タスカリャ)さんが引き受けてくれたんだからさ?

 

 ああうん、まぁ彼女(ゴブスレ姉)はカンカンだろうね。折角回復傾向にあった弟とその親友の人間性が、どう考えてもガリガリ削れるのが確定しているイベントだもの。

 

 え? このままだと勝手に四方世界(あっち)へ介入しちゃいそう? 彼女の出番はまだ先なんだし、なんとか抑えられない?

 

 ……仕方ない。あんまりこの手は使いたくなかったけど……ちょっと出かけてくる。

 

 直接介入するのは好きじゃないけど、あの()たちが闇堕ちする事態を黙って見過ごすのはもっと嫌だからね……!

 

 

 

 


 

 

 最高の聖人も最低の悪人も等しく人間から生まれ来る実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、お引越しの準備を始めたところから再開です。

 

 うららかな春が過ぎ、段々と暑さが近付いて来た西方辺境。ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の計画は順調に進んでおります。

 

 牧場を介しての土地購入はスムーズに進み、高値を吹っ掛けられることもなく予定していた敷地面積の確保が完了しました。これまでの取引に因る信用が大きかったのは当然ですが、伯父さんが地権者や同業者に対して、正式に自分の跡取りとしてゴブスレさんを紹介したのも良かったみたいですね。後継者が決まっていない状態で事業拡大をしても先行きが不安と思われてしまいますし、姪……改め義娘(むすめ)である牛飼若奥さんとゴブスレさんの紹介には丁度良いタイミングでした。

 

 地母神の神殿から来ていた職場体験も評判が良く、他の牧場へ就職が決まった子たちもいるそうです。冒険者のように派手な活躍こそ無いものの、家畜の怪我や病気を癒す事の出来る彼女たちは大切に扱われますし、待遇も等級の低い冒険者とは比較にならないほど良いとのこと。

 

 安定した日々を送ることが出来るのは大切ですし、囲い込みも兼ねて後継ぎのお嫁さんとして永久就職することも考えられます。訳アリの子たちが働ける環境が整いつつある辺境の街、これからますます発展していくことでしょう!

 

 

 

 また、水の都にて裁きを受けていた腐れ冒険者(福本モブ)と『火打石団』の貴族子弟たちの処分も決定し、見事に全員鉱山での強制労働(地下帝国送り)となりました。

 

 一部貴族からは罪の減免を求める声があったようですが、王国首脳陣は綺麗に黙殺。「ふむ……では犯罪者では無く反逆者として扱うが、それでも良いのだな?」と処す処すムーブをかまして彼らの反抗心を圧し折ったそうです。

 

 刑期を全うすれば社会に復帰できる(復帰させるとは言ってない)可能性がありますが、反逆者として処刑されたらそれでおしまいですからね。身内から反逆者を出したという恥を晒さないためにどの家も『火打石団』に参加していた者は家系図から存在を綺麗さっぱり消されたそうです。面子を重んじる貴族ならそうせざるを得ないでしょう。門閥貴族の力を削ぐという義眼の宰相さんの目論見は見事に成功したわけですね!

 

 

 

 それと、これら王国の浄化に多大な貢献をしたということで、一党の面々も昇格が決定しました。しばらく足踏みをしていた子もいますし、等級詐欺な子を適正な等級に上げるという事情もあるようですが、ここは素直に喜んで良いところでしょう!

 

 まず、頭目(リーダー)であるダブル吸血鬼ちゃんは揃って銀等級に昇格。もともと紅玉だった吸血鬼侍ちゃんは兎も角、書類上はペーペーである白磁からいきなり銀等級は流石にどうなのという意見が吸血鬼君主ちゃん本人の口から出ましたが……。

 

「いや、そもそも登録の時点から例外塗れなんだから、諦めて昇格しよ?」

 

 と監督官さんに微笑まれ、首を縦に振るしか吸血鬼君主ちゃんに許された選択はありませんでした。……その際ペン回しの要領で慈悲の刃をクルクルしていたのは、決して見間違いでは無いと思います。

 

 

 

 昇格を拒んで青玉等級に居座り続けていた森人狩人さんは、同じく青玉だった女魔法使いちゃんといっしょに紅玉等級へ。

 

 実績は申し分ない2人ですが、翠玉を飛び越して一段抜かしに紅玉へ昇格となったのはちょっと想定外でした。どうやら訓練場での教官を務めていたのが査定に大きくプラスに働いたようで、新人たちや先の腐れ冒険者(福本モブ)のような連中に舐められないように箔を付ける意味合いも込めての昇格なんだとか。

 

 ……女魔法使いちゃんを含め一党に所属している只人(ヒューム)の女性陣が、今後ダブル吸血鬼ちゃんの眷属になる予定なのはギルドでも公然の秘密というヤツなので、公的に通用する身分を用意しておこうという考えもあるみたいですね。

 

 

 

 鋼鉄等級だった森人少女ちゃんと令嬢剣士さんですが、なんと経験点が上限に引っ掛かってしまい二階級特進の翠玉等級に。

 

 実力も十分以上に備わり、社会貢献度的には一気に銅等級まで昇格してもおかしくないくらいの評価なのですが、事情を知らない新人からのやっかみや門閥貴族紐付きの冒険者からの嫌がらせ等を考えての措置だそうです。次の査定の際には色を付けてくれるそうなので、紅玉の2人に追い付く日はそう遠くないかもしれませんね。

 

 

 

 新人詐欺にも程がある剣の乙女ちゃんと白兎猟兵ちゃんは、森人少女ちゃんと令嬢剣士さんの時と同様に訓練場での講習が終わったので鋼鉄等級に。

 

 真言、奇跡両方を使えるうえに近接でも専業戦士顔負けの技量を持つ剣の乙女ちゃんに、普段はぽわぽわしてるのに、いざ実戦となると石弓と山刀(マシェット)を巧みに使い獲物を狩り立てる白兎猟兵ちゃん。もとより他の新人とは次元が違う2人だったので、同期からの反感は全く無かったそうです。

 

 なお、一党のメンバーではないにも関わらず、辺境のギルド支部で一党に次ぐスピード昇格を続けている女神官ちゃんに対し、2人揃って「先輩! 先輩!!」とにこやかに迫り、女神官ちゃんが悶絶している姿がギルドで良く見られているとか。無自覚なパワハラは良くないと思います。

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな感じで日々を過ごしていた一党ですが……本日はちょっと雲行きが怪しいですね。

 

 外ではしとしとと雨が降る初夏の夜。普段であればおゆはんをすませ、各々リラックスしている筈の時間ですが……リビングのソファーに座った女魔法使いちゃんのお山に顔を埋めるように吸血鬼君主ちゃんが抱きつき、それをみんなが心配そうに見ています。泣き腫らした真っ赤な眼の吸血鬼君主ちゃんの頭を優しく撫でながら、女魔法使いちゃんが声をかけてますね。

 

「もう、大丈夫? 落ち着いたかしら」

 

「……ん」

 

()()()()で泣かなかったのは褒めてあげるわ。でも、そんなんじゃ冒険者失格よ?」

 

 口調こそ優しいものの、吸血鬼君主ちゃんを窘める声には厳しいものが混じっています。おなかの大きな森人(エルフ)三姉妹はそっと顔を伏せ、剣の乙女ちゃんと令嬢剣士さんは厳しい表情を浮かべ、吸血鬼侍ちゃんに長耳をしゃぶられていた白兎猟兵ちゃんは困惑を隠せない様子。

 

「……貴女はあまりショックを受けていないみたいですね」

 

「ぼくはあのこほどやさしくないから。みんなこうなるかのうせいをかくごして、くんれんにいどんでいるはずだもの」

 

 お茶の用意をしていた若草祖母さんの問いに平坦な声で返す吸血鬼侍ちゃん。僅かに強まる腕の力に気付いた白兎猟兵ちゃんが「そんなコトありませんよ」と言いながら、そっと吸血鬼侍ちゃんを抱き寄せています。

 

「あの子の言う通りよ。これは()()()()()()()()()()()()()()。アンタが気に病む事じゃないの」

 

「わかってる。でも……」

 

 

 

 

 

 

「ぼくたちがダンジョンをつくったから、あのこたちはくるしいおもいをしたんだ……!」

 

 


 

 

「全員の……救出に、成功……しました……っ」

 

 震える声で森人狩人さんに報告をする至高神の聖印を身に着けた白磁の少年。彼の背後では助け出された冒険者を用いての治療訓練が始まりました。普段であればデブリーフィングを兼ねての訓練となるそれが、今日は沈鬱な空気で満ち溢れています。

 

「末端の傷は後回しだ! まずは動脈近くの傷から塞げ!!」

 

畜生(ガイギャックス)、態と致命傷になりにくいところばかり刺してやがる……っ」

 

「違う、≪小癒(ヒール)≫じゃない! ≪解毒(アンチドーテ)≫が先だ!!」

 

 四肢を粗末な刃物で切り刻まれた斥候を必死に治療を試みる新人たち。傷口が変色しているのを見つけた精霊使いが、奇跡の回数が残っている神官が≪小癒(ヒール)≫を唱えようとしているのを制し、代わりに≪解毒(アンチドーテ)≫を要求したりと、半ば狂乱状態でありながら身体に叩き込まれた手順を守り治療が施されていきます。

 

 

 

「痛ぇ……痛ぇよぅ……っ」

 

「……教官! 応急処置は済ませましたが、傷の大きさから我々では対処が難しく≪治療(リフレッシュ)≫が必要であると思われます!!」

 

「そうだね、良い判断だ。ここから先は彼女に任せたまえ」

 

 膝の関節を砕かれ、奇妙な方向に足が向いていた戦士に添え木を巻き付けていた地母神の神官が悔しそうに声を上げ、それに応えるように寝かされている戦士へと近付くのは剣の乙女ちゃん。必死に痛みに耐える彼の額に手を当て、もう少しの辛抱ですと励ましながら聖句を唱え始めました。

 

「≪天秤の君なる我が神よ、正しきことのため、立ち上がる力をお与え下さい≫」

 

 傷口に触れた手から放たれるあたたかな光によって、瞬く間に元の形を取り戻していく彼の脚を驚きの表情で見つめる新人たち。あえて細かな傷は残した剣の乙女ちゃんの声にハッと我に返り、治療の続きに臨んでいます。

 

 決して死ぬことは無いとはいえ、あるいは『死』以上の責めを負う可能性がある訓練。以前森人狩人さんが言っていたように、ゴブリンたちは容赦なく新人たちを嬲っていました。それは、女性冒険者も同様です……。

 

 

 

「嫌ぁ……なんで、こんな……私、穢され……っ」

 

 力無く崩れ落ち、汚濁に塗れた身体を拭き清められるまま呆然と呟き続ける女魔術師。純潔を奪われ、魔術師の象徴たる杖も折られた彼女を他の新人たちが痛まし気に眺めています。森人狩人さんの言葉が冗談や脅しでなかったこと、自分たちが五体満足にダンジョンから戻って来られたのは決して当たり前のことでは無かったという事実を漸く理解したのでしょう。

 

 お、森人狩人さんに断りを入れて、吸血鬼君主ちゃんが女魔術師へと近寄って行きました。新人たちが場所を譲り、吸血鬼君主ちゃんを彼女の傍まで……!?

 

 

 

 

 

 

 それは、不運が重なっただけだったのかもしれません。あるいは、周りから見れば不当であっても当事者にとっては当然の感情だったのかも。

 

 泣き崩れる彼女の姿に女魔法使いちゃんを重ねてしまったのか、そっと彼女に近付いていった吸血鬼君主ちゃん。≪浄化(ピュアリファイ)≫で穢れを清め、胎内に残る汚濁を取り除くためにそっと彼女に手を伸ばし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「近寄るな! この化物!!」

 

 恐怖と憎悪に満ちた瞳を向ける女魔術師に、差し伸べた手を払われてしまいました。

 

 

 

 何が起きたのか理解できずに固まる吸血鬼君主ちゃんを見て、更に怨嗟の炎を燃え上がらせる女魔術師。眼前に無防備に晒されている細い首目掛けて両手を伸ばそうとした時、2人の間に割り込む1人の女性の姿。女魔術師の腕を極めて床へと引き倒し、暴れる彼女を拘束したのは……。

 

 

 

「恨む相手が違うわ。恨むのは力不足の自分自身よ、馬鹿女」

 

 

 

 ゴブリンを帝王切開で摘出し、自らの手で縊り殺した、あの女冒険者です。

 

 

 

「あいつはもうダメね。自分のヘマを他人に押し付けるようじゃ、仲間の信頼なんて得られるわけないもの」

 

 治療にあたっていた精霊使いの≪酩酊(ドランク)≫で眠らされ、運び出されていく女魔術師を見ながら吐き捨てる彼女。あの一件以来訓練場の雑務や新人のケアを率先して引き受け、みんなから寮母さんのように慕われている彼女の言葉に他の新人たちも深く頷いています。呆然と立ち尽くす吸血鬼君主ちゃんの前に膝を着き、みんなに顔を見せないように強く抱き締めながら耳元に囁くのは、ぶっきらぼうではありますが慈愛の込められた言葉です。

 

「あんたは何も間違ったことはしていない。だからそんな顔を見せちゃダメだ。あんたが後悔を見せたら、新人たちは着いてこなくなっちゃうだろ?」

 

「ん。……いまは、ないちゃダメなとき……!」

 

 乱暴に豊かなお山を顔へと押し付けてくる只人寮母さんの言葉を聞いて、必死に涙を決壊させないように我慢する吸血鬼君主ちゃん。僅かに浮かんでいた涙を彼女の胸元に吸わせ、普段よりも赤みを増した瞳のまま顔を上げました。無理矢理笑みを浮かべる吸血鬼君主ちゃんを剣の乙女ちゃんへと放り、パンパンと手を叩いて治療の続きを促し始めました。

 

「ぼさっとしてないで動く! 次の一党は迷宮攻略(ダンジョンアタック)の準備、治療班は使った薬の補充を急いで!!」

 

 


 

 

「――改めてあの子にはお礼を言わないとね。アンタがあそこで泣いてたら、今までの苦労が水泡に帰すところだったんだから」

 

「ふぁい……」

 

 自罰的思考にどっぷり嵌まっている吸血鬼君主ちゃんを引きずり出すように、やわらかなほっぺを引っ張りながら呟く女魔法使いちゃん。うーん、やっぱり不幸な事故だと思うんですが、吸血鬼君主ちゃんは納得出来てないみたいですねぇ。訓練に参加する新人は全員、訓練での負傷に関しては一切の責をギルド及び協力者は負わない旨の誓約書を受付嬢さんに提出していますし、何より実戦と違って必ず救援が来ますから安全性は段違いですし。それを話してもまだ俯いたままの吸血鬼君主ちゃんを見る女魔法使いちゃんの目にこわいものが宿ってますね……。吸血鬼君主ちゃんの顎を掴んで自分のほうを向かせ、怒りにも似た感情を漲らせた顔で問いかけました。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ迷宮(ダンジョン)は閉鎖して新人をいきなり実戦に放り込む? それとも安全に救出訓練を行うために、私が裸で迷宮(ダンジョン)に行こうかしら」

 

 

 

「!? ぜったいダメ! それならぼくが……っ」

 

「アンタこそ駄目に決まってるじゃない。アンタしか一党で≪蘇生(リザレクション)≫の触媒になれないんだし、アンタがゴブリンの玩具になるところを()()許すワケないでしょ」

 

「でも……!」

 

 イヤイヤと首を振る吸血鬼君主ちゃんを諭すように言葉を続ける女魔法使いちゃん。「いいかしら?」と前置きをした上で投げかけられるのは、どこまでも吸血鬼君主ちゃんの事を思っての言葉です……。

 

「アンタがどんな強大な力を持つ不死者の王(ヴァンパイアロード)だって、全てを救えるわけがないでしょう? 依頼で間に合わなかった生命も、訓練で新人が傷つくのも、アンタが悪いわけじゃない。それまで自分のせいだなんて思っているんなら、それこそ思い上がりも甚だしいわ」

 

「えぅ……」

 

「自分を犠牲にして他人の幸福を追求するのは止めなさい。アンタには自分自身と、もう1人の自分と、血族(かぞく)と、たくさんの友達を幸せにするっていう夢があるんでしょう? ……もしそれでも他人の幸せを追い求めるのなら、私たちを捨て(殺し)てからにして頂戴。アンタがいない幸せなんて、私たち誰も望んでいないんだから」

 

 そう言いながら吸血鬼君主ちゃんを抱き上げ、二階への階段へと向かう女魔法使いちゃん。吸血鬼君主ちゃんを抱くのとは反対側の手で剣の乙女ちゃんと令嬢剣士さんを手招きし、そっと耳打ちをしています。あ、頷きを返した令嬢剣士さんが吸血鬼君主ちゃんの耳に舌を差し入れて、敏感な穴をかき回し始めました! 不意の刺激に吸血鬼君主ちゃんが混乱している間に、剣の乙女ちゃんがエロエロ大司教モードに変身、同様に反対側の耳の穴を攻略しています。

 

 左右の敏感な穴を異なる力加減で蹂躙され、為す術無く上り詰めていく吸血鬼君主ちゃん。淫靡な水音とともに舌が抜かれたと同時、空気を求めるように喘ぐ吸血鬼君主ちゃんの口を今度は女魔法使いちゃんが己の口で塞ぎました!

 

 桃色の蛇が口内をのたうち回る感触に上気した顔で必死に耐える吸血鬼君主ちゃんですが、女魔法使いちゃんが小さな牙に舌を宛がい、素早く擦りつけたことで勝負は決まりました。舌先から滲む血と甘い唾液のカクテルを直接流し込まれ、宙ぶらりんの脚がピーンと伸びきった後、力の入らない身体を女魔法使いちゃんに預ける形で吸血鬼君主ちゃんがゴールイン。完全に出来上がった顔で女魔法使いちゃんの胸元に顔を埋める想い人の耳に、3人の美姫がゆっくりと顔を近付け……。

 

 

 

「他人の事を考えてる余裕なんて無くなるくらい、今夜は付き合って貰うわよ。アンタは、私たちの事だけ見ていれば良いんだから……」

 

「釣った魚にはちゃんと餌を与えないと、水槽から逃げ出してしまいますわ。……まさかとは思いますが、頭目(リーダー)はそんな甲斐性なしではありませんわよね?」

 

「あの、ええと、その……。い、いっぱい愛してください……っ」

 

 3人に迫られ、回らぬ頭で必死に脱出の方法を考えている吸血鬼君主ちゃん。周囲を見回し、森人(エルフ)三姉妹に助けを求める視線を送りますが……。

 

 

 

 

「シルマリルの負けね。大好きなおっぱいに囲まれて限界まで絞られてきなさい」

 

「諦め給えご主人様。私もこの子がいなかったら参戦したんだけどねぇ?」

 

「主さま。主さまに救われた(わたくし)たちは、もはや主さま無しでは生きてゆけません。どうか、それをご理解くださいませ……」

 

 残念ながら救いの手は差し伸べられないようです。最後の希望を込めてもう1人の自分に助けを求めましたが、帰ってきたのは卑猥なハンドサインが3つ。白兎猟兵ちゃんはまだ良いとして、若草祖母さんまで同じジェスチャーを返すとは正直驚きです。

 

 自分は逃げ切ったと安堵の笑みを浮かべる吸血鬼侍ちゃんを見て、女魔法使いちゃんが白兎猟兵ちゃんに対して「うさぴょいして良いわよ」と告げると、目にも止まらぬ速さで大好きな旦那さまにうさだっちを敢行する白兎猟兵ちゃん。

 

 以前眷属になりたいかを吸血鬼侍ちゃんが聞いたところ、「ぼかぁ自分が吸血鬼になって永遠に旦那さまのおそばにいるよりも、たくさん子どもを産んで、その子孫の中の何人かが旦那さまや妹さま、その眷属のみなさんと仲良くし続けてくれるほうが良いですねぇ」と笑っていました。

 

 兎人(ササカ)は1度の子作りで複数人出産が珍しくないそうなので、今までは身体を馴染ませるために霊薬は使っていなかったのですが、一党のオカンである女魔法使いちゃんからゴーサインが出たらもう大変。腰のポシェットから取り出した霊薬を一気飲みし、先程まで女魔法使いちゃんが座っていたソファーに吸血鬼侍ちゃんを押し倒す白兎猟兵ちゃん。恋多き種族ともいわれ、弱者であるが故に繁殖欲旺盛な兎人、一度火が点いたらもう止まりません。

 

「旦那さま、当面の目標はウィズボール(やきう)チームが作れるくらいですが、最終的にはリーグ戦が組めるくらいまでうさぴょいしましょうね!」

 

「おあ~……」

 

「それじゃみんな、おやすみ」

 

 妊婦3人とおばあちゃんの前で始まった熱烈なうさぴょい、情熱的なアプローチを受ける吸血鬼侍ちゃんが呻き声を上げるのを見ながら吸血鬼君主ちゃんを愛でる3人は二階へと消えて行きました。彼女たちにサムズアップを送っていた妖精弓手ちゃんが、果敢に攻める白兎猟兵ちゃんにエールを送る森人義姉妹(エロフ2人)を半目で眺めつつ、残りの1人に声をかけていますね。

 

「まぁ、こんな感じでいつも騒がしくて退屈しないわね。……ただ、ヘルルインは兎も角シルマリルはあんまり目が離せないのよ。なんていうか、不意の衝撃で壊れちゃうんじゃないかって」

 

 だから、貴女は2人をめいっぱい甘えさせてあげて欲しいの、という妖精弓手ちゃんの声にクスクスと笑う若草祖母さん。閉じたままの瞳で森人少女ちゃんに顔を向けながら、そうですねぇと言葉を続けています。

 

「たくさんのお嫁さんに、しっかり者の教育ママがいらっしゃるようですし、おばあちゃんの役目はとことん甘えさせてあげることですね。あの子たち2人だけじゃなくて、妹姫(いもひめ)様も含めたみなさんの帰ってくる(いえ)を創り上げることにいたしましょう」

 

 老後の趣味にはもってこいですねと冗談めかす若草祖母さんに対し、貴女森人(エルフ)なんだから老いないし、そもそも私より年下じゃないのと苦笑交じりに返す妖精弓手ちゃん。箱入りのお姫様と辣腕の外交官では、実年齢と精神の成熟度が比例しないんですかねぇ。今まさにすきだっちというタイミングで「続きは寝台(ベッド)にいたしましょうね?」と割り込む若草祖母さんに戦慄している妖精弓手ちゃんの呟きが、少し人数の減ったリビングに響きました……。

 

 

 

 

 

 

「――やっぱり純粋過ぎるのよ、シルマリルは。お願いだから、人間に、世界に、絶望したりなんかしないでちょうだい……」

 

 

 

 

 

 

 なお夜明けまで続いた一対三の夜戦ですが、吸血鬼化して持久力(タフネス)の向上した剣の乙女ちゃんの活躍でなんとか吸血鬼君主ちゃんをわからせることが出来たそうです。「最近また成長しちゃったから、もし2人だったら返り討ちにあってたわね……」という女魔法使いちゃんのコメントが激戦を物語っていますね!

 

 


 

 

 様々な思惑が入り混じり、徐々に変化していく辺境の街。ある日の早朝、冒険者ギルドの応接室に集まったのは、西方辺境でも指折りの冒険者たちです。早朝に街へ到着した馬車から降りた人物がギルドに持ち込んだ依頼、それに対応できる実力の持ち主がギルドへと招集された感じですね。

 

 依頼を受け取った監督官さん直々に呼び出された面々は以下の通り。在野最高位にして新人パパであるゴブスレさん、重戦士さん、槍ニキの辺境三羽烏。『六英雄(オールスターズ)』の1人である真語と奇跡を使いこなす大司教にして、成りたてホヤホヤの吸血鬼希少種(デイライトウォーカー)たる剣の乙女ちゃん。栄纏(えいてん)神の神官にして訓練場建設の立役者である令嬢剣士さん。そして最近銀等級になった存在自体がバグことダブル吸血鬼ちゃんに、2人を秩序側に繋ぎ止める最後の鎖である女魔法使いちゃん。お互い顔馴染みではありますが、こうやって依頼で顔を合わせるのは『赤い手』の一件以来かもしれません。

 

 長机を挟んで互いに向き合う冒険者たちと依頼主一行。机の対面に座っているのはみんな女性ですね。非戦闘員と思われる半数は疲労の色が濃く、護衛らしき残りの3人は涼しい顔をしています。護衛はみな色合いの異なる銀髪で、1人は既に顔見知りの人物。初めて見る2人はそれぞれ犬耳を生やした長髪の幼女に半森人(ハーフエルフ)らしき短髪の女性。2人とも()()()()()()を身に着けていますね。

 

 護衛対象らしき3人……侍女服を纏う森人(エルフ)圃人(レーア)の女性に甲斐甲斐しく世話を焼かれている只人(ヒューム)の女性からは、高貴な身分の者特有の所作が見てとれます。強行軍で疲れ果て外見は酷い様になりながらも、その目には強い意志が満ちており、のっぴきならない事情で此処まで辿り着いたことが冒険者たちにも察せられる程です。

 

 砂まみれでボロボロな3人を尻目に、飄々とした態度で懐から取り出したスキットルの(ウォトカ)を飲み干した銀髪の女性……銀髪侍女さんが、げふぅと酒臭い息を吐きながら告げたのは……。

 

「やぁみんな、久しぶり。朝早くから呼び出してすまないね。今日は、君たちの実力を見込んで依頼をしたいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「現在、隣国で人為的にゴブリンが生み出されている。()()のために囚われている女性たちの救出と、その首謀者の排除に協力して欲しい」

 

 

 

 ……この場に居る冒険者全員の怒りに火を点けるには、十分過ぎる内容でした。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 続きを早めに仕上げたいので失踪します。

 評価や感想、いつもありがとうございます。

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セッションその13-2

 セカンドブリット直前なので初投稿です。



 前回、隣国の惨状を知ってしまったところから再開です。

 

 銀髪侍女さんの言葉に色めき立つ冒険者たち。国に働きかけ、訓練場を整備し、新人たちに教育を施しているのも、すべてゴブリンをこの世から消すための行い。そのゴブリンをわざわざ増やすなど理解出来る話ではありません。顔を顰める重戦士さんに青筋を立てる槍ニキ……ゴブリンの生み出してきた数々の悲劇を知り、新たな生命を授かったばかりの父親である2人にとって決して許せる事態ではないでしょう。そしてそれは、赫怒の炎によって瞳を赤に染める3人の小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)にとっても同じことです。

 

「ゴブリンか、何時出発する?」

 

「たすけだすひとはなんにんくらい?」

 

「だれをころせばいい?」

 

 ゴブスレ院×3……! 表面上は冷静ですが、3人とも腸が煮えくり返っているのが容易に想像できます。銀髪侍女さんが噛みつかんばかりに情報を要求する3人に手のひらを見せてステイさせながら、ひとつずつ順番に質問の回答をしています。

 

「王都で必要な物資を確保するから、出発は明朝。彼女たちの情報が確かならば、救出対象の数は判っているだけで2()0()()()()……もしかしたら更に増えているかもしれない」

 

「にじゅっ……!?」

 

 予想以上の人数に思わず声を上げてしまった令嬢剣士さん、ハッと口を抑えそれ以上の言葉をなんとか飲み込みました。情報源である護衛対象の3人、その代表である只人(ヒューム)の女性が強張った顔で銀髪侍女さんに縋るような顔を向けています。

 

「首謀者は国の実質的な支配者である()()。武官筆頭である兵士長と手を組んで()()()を設け、国の象徴である先王の1人娘である姫を利用して実権を握ろうと画策している男だ。この2人を排除しない限りゴブリンは際限無く増え続けるだろうね」

 

 計画を知って止めようとした彼女が狙われていたところを潜入していた私たちで保護、なんとか此処までお連れしたんだと肩を揉みながらぼやく銀髪侍女さん。となると犬耳ちゃんと半森人(ハーフエルフ)さんも密偵なんでしょうかね? 彼女の後を引き継ぐように只人(ヒューム)の女性……砂漠の姫君が国での悪夢を語り始めました……。

 

 

 

「国を強くする素晴らしい計画があるという宰相と兵士長の案内で私が目にしたのは、非現実的なまでに悍ましい光景でした。最初は信頼できる人物……此方の2人に王国へと我が国の惨状を報せて貰い、私自身は万に一つの可能性に賭けて説得の為に国に残るつもりでした。ですが……っ」

 

 瞳から溢れる涙は、愛する国を守れなかった悔しさに因るものでしょうか。爪が皮膚を突き破り、血が滴るほどに手を握り、絞り出すような声で紡ぐのは……。

 

「2人を城から脱出させようとしていた私の前に現れた宰相は、嘲笑うようにこう言ったんです。『先王の娘という象徴は2つは不要、貴女にはゴブリンを増やす苗床になって頂きましょう。友人である其方の2人と一緒にね』と。そして、彼の背後から現れたのです……」

 

 

 

「私と同じ顔、同じ姿の、絶対に私だと認めたくないほど歪んだ笑みを浮かべた、もう1人の私が……っ!!」

 

 

 

「オイ、そいつぁまさか……!」

 

 血を吐くような姫君の叫びに頬を引き攣らせる槍ニキ。姫君の見たものが幻や錯覚ではないとした場合に、その似姿が変装や魔術に因るものでは無く、もっと厄介なものである可能性に気付いたみたいです。女魔法使いちゃんと剣の乙女ちゃんも同様に顔を強張らせているあたり、同じ推測に至ったみたいです。ゴブリン以外に興味ナッシングなゴブスレさんとぽわぽわちのうしすうな吸血鬼君主ちゃんが頭上に?を浮かべているのを見て、吸血鬼侍ちゃんが苦笑しながら皆の脳裏に浮かんだ似姿の正体を話してくれました。

 

「んとね、たぶん≪にじゅうそんざい(ドッペルゲンガー)≫。ひとのすがたをうつしとって、たにんになりすますグレーターデーモンのいっしゅ。けんやまほうのぎじゅつもうつしとるからめんどくさいあいて」

 

 うげ、≪二重存在(ドッペルゲンガー)≫!? なんつーモンを引き連れてやがりますかまったく! 人間社会に入り込んでは疑心と混乱を撒き散らす歩く災厄、観察するだけで対象の記憶まで写し取るから正体を暴きにくいことこの上ない厄介な魔神です。武器や防具などの装備と生来の能力まではコピー出来ないのが不幸中の幸いではありますが、それでも相手にするのは面倒極まりないですね……。

 

「陛下が姫様を保護し、彼の国を糾弾したところであちらには完璧に姫様を再現できる魔神がいる。下手に口を出せばそれこそ此方が影武者を利用していると言いがかりをつけられるだけだね」

 

「だからこそ、軍を動かさず秘密裏に処理しなければならないというわけですのね……」

 

 ゴブリンを戦力化しようとしている以上戦争を仕掛ける気満々なのは判っていますが、王国も先年の『赤い手』の騒動によって疲弊しているので戦争という事態は避けたいところ。それを探る為の内偵だったのでしょうが、このタイミングで姫君が確保出来たのはある意味好機と言えるかもしれません。

 

 外道に堕ちた上層部の首を挿げ替え、先王が健在だったころの関係に戻ることが出来れば両国の平和に繋がることでしょう。令嬢剣士さんの言う通り、国同士の争いに発展させることなく事を為す必要がありますね。

 

「此処まで話しておいて今更かもしれないけど、依頼を引き受けて貰えるだろうか?」

 

 今なら何も聞かなかったことにして出て行ってくれても構わないよという銀髪侍女さんの言葉を聞いて、席を立つ冒険者はいません。みんなそれぞれに強い意志を込めた瞳で話の先を促すばかりです。ありがとう、と小さく笑い、銀髪侍女さんが作戦内容を話し始めました!

 

 

 

「まず、私たち3人を含めた此処にいる11人と、後から合流する1人を合わせた合計12人をふたつのパーティに分ける。辺境三勇士と大司教、栄纏(えいてん)神官の御令嬢と白いほうの君は女性たちの救出だ。お膳立てされているようで気分が悪いと思うが、君たちには"英雄"になって貰う」

 

「……"英雄"だと?」

 

 "英雄"という銀髪侍女さんの言葉に強く反応したのは槍ニキですね。『英雄になること』を夢見て冒険者となり、魔女パイセンと一緒に在野最高位である銀等級まで上り詰めた一流の戦士である槍ニキ。家庭を持ち子どもが産まれた今でも……いえ、子どもが産まれたからこそ、その夢を未だに諦めてはいないのかもしれません。そんな彼が「英雄になれ」と言われて素直に頷けるとは考えにくいところさんです。

 

「言葉通りだよ。人為的に小鬼禍を引き起こした国から先王の遺児たる美姫を救出し、囚われの女性たちを開放した英雄。それが陛下と宰相の作り上げた脚本(シナリオ)であり、君たちに期待されている役回り(ロールプレイ)だ」

 

「……では、残りの面々の役回り(ロールプレイ)は……?」

 

 淡々と語る銀髪侍女さんの言葉に遣り切れんとばかりに首を振る槍ニキ。憧れの英雄にこんな形でなるなんて想像すらしていなかったことですもんね。半ば確信めいた口調で訪ねる剣の乙女ちゃんに対し、判っているんだろうとシニカルな笑みを浮かべ、銀髪侍女さんはもうひとつのパーティの()()について語り始めました。

 

「光ある所に必ず影あり。黒いほうの君とその保護者君、そして私たち3人と特別招待者(ゲスト)()()は小鬼禍の引き金を引いた連中の抹殺だよ。決して他人に誇れるものでは無いが、誰かがやらねばならない事だ」

 

 宰相に兵士長、魔神に協力しているであろう邪教の神官、狩らなければならない獲物は多いと話す銀髪侍女さん。だが、という前置きの後、視線を向けた先は女魔法使いちゃんです。

 

「君は表の世界に生きる冒険者(アドベンチャラー)仕掛け人(ランナー)ではない。……もし暗殺者(アサシン)じみた依頼が嫌であれば……」

 

 断ってくれて構わない、と続けようとした銀髪侍女さんと手で制し、ゆっくりと立ち上がる女魔法使いちゃん。両隣で不安そうに見上げているダブル吸血鬼ちゃんの頭を撫でながら自分の意思をみんなに対して明らかにしました。

 

 

 

「この2人と一緒に歩むことを決めた時点で、真っ当な生き方なんてするつもりないわ。人の道を外れた行為上等! それで外道を始末出来るなら、喜んで血の斑道を築いてあげるっての」

 

 うーんこの覚悟ガンギマリ勢筆頭。壮絶な決意に目を丸くする一同をフンスと見回し、左右の小さな想い人を無理矢理に抱き寄せてお山に埋もれさせています。「あら^~」と頬を染める姫君を同じく赤い顔の森人(エルフ)の侍女さんがしばき倒し、圃人(レーア)の侍女さんは大笑い。銀髪侍女さんの左右に座る銀髪の2人はダブル吸血鬼ちゃんをどこか眩しそうに見ていますね。あれ、どうしました無貌の神(N子)さん、そんなふ~やれやれみたいな顔して。まるでギリギリのところで爆弾の解体処理に成功したように疲れて見えますけど……?

 

 


 

 

「それじゃあ一度お別れだ。明日また此処で会おう」

 

「ばしゃとおUMA(ウマ)さんのじゅんび、おねがいね!」

 

 救出の手筈と脱出方法の打ち合わせを終え、王都に姫君と侍女さん2人を護送するために一度解散となった一行。一党(パーティ)の自宅から≪転移≫の鏡を使ってショートカットするために銀髪侍女さんが残る面々に手を振っています。吸血鬼君主ちゃんと剣の乙女ちゃんも一緒に応接室から出て行きました。金髪の陛下と義眼の宰相への説明と、王都で砂漠越えと救出作戦に必要な物資、資材を調達し、ぜーんぶインベントリーにしまっちゃうつもりみたいです。こういう時にすっごく便利ですよねインベントリー。必要度が低そうなものも纏めて持ち運べるので、いざという時に慌てなくて良いのは非常に助かります。

 

 監督官さんも通常業務に戻り、残されたメンバーには微妙に気まずい沈黙が。「この2人は置いていくから、明日まで友好を深めておいてくれたまえ」という銀髪侍女さんの熱い無茶振りが光ります。

 

 こういう時に先陣を切ってくれるのはやっぱり【辺境最強】たる槍ニキの良いところですね! 互いを知るには飯を一緒に喰うのが一番だということで、ギルドの食堂へと移動。ちょっと遅めの朝食を獣人女給に頼み、テーブルへと全員を誘導してくれました。注文した料理が到着しみんなが口を付け始めたところで、さりげなく目の前の2人の戦闘力(意味深)を確認しながら胸元の聖印を話題のとっかかりにして会話を試みていますね。

 

「あー、お前さんたちはやっぱり仕掛け人(ランナー)なのか? 見たところ冒険者じゃ無さそうだし、あまり見ない聖印を下げてるしな」

 

 良かったら教えてくれねぇか? という槍ニキの言葉に同じタイミングで頷く大小2人の銀髪さん。口火を切ったのは半森人(ハーフエルフ)の女性です。

 

「いえ、私たちは宰相直属の密偵……陛下の側近であるあの方(銀髪侍女さん)とは間接的な同僚といったところでしょうか。普段は秘書の真似事をしております」

 

 胸元に下げる聖印を見せながら微笑む姿は何処か蠱惑的で、槍ニキも思わず生唾を飲んでしまっています。……ゴブスレさんの膝上に腰掛けている吸血鬼侍ちゃんが悪い顔をしてますねぇ、後で魔女パイセンに密告す(チク)るつもりですねアレは。

 

「私は正道(ルタ)神を、この()奪掠神(タスカリャ)を信仰しています。冒険者の方々にはあまり馴染みがないかもしれませんね」

 

「ああ、あのいつも忙しそうに走り回っている……」

 

 お、重戦士さんは正道(ルタ)神さんを知ってたみたいですね。偉い勢いで昇級したり、無茶な冒険に挑む走者が稀に良くいますから、それを目撃したことがあるのかも。真円をモチーフとした聖印を撫でる彼女の隣で、()()()()()()()()()()を美味しそうに頬張っている犬耳の少女が大きく頷いています。

 

「貴方達3人の評判は仕事柄良く耳にしている。腕も人格も良い冒険者だと」

 

可愛らしい耳をピコピコさせながらの言葉に面映ゆそうな男性陣。ですが次に彼女の口から出た言葉は、その場にいる冒険者を凍り付かせるには十分な威力を秘めていました。

 

 

 

「――養父(ちち)も『早く金等級に上がってくれないものか』といつもボヤいている」

 

「……あの、ちなみにお養父(とう)様がどなたなのか、お伺いしても?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このあいだ、貴族のアホボンたち相手にハジケてた全身布鎧(着ぐるみ)の中の人」

 

 

 

 え? 結婚してたんですか宰相さん???

 

 

 

 

 

 

「――というわけで、行く当てのない孤児や訳アリの子を保護して、養育するのが義父(ちち)の数少ない趣味なんです。私とこの()も、血の繋がりはありませんが義理の姉妹扱いですね」

 

 衝撃の事実に混乱する冒険者たちを見てクスクスと笑う半森人(ハーフエルフ)の女性。おや? 吸血鬼侍ちゃんは驚いていないですね。ひょっとして前から知ってたんでしょうか。膝上からずり落ちないようにさりげなく吸血鬼侍ちゃんの腰に手を回していたゴブスレさんも気付いたようで「知っていたのか?」と尋ねています。大ぶりな腸詰(ソーセージ)に夢中になっていた吸血鬼侍ちゃんが小さな口で先端を齧り取り、何故かヒエッ……とした顔になっている重戦士さんと槍ニキに流し目を送りながらゴブスレさんの問いに答えを返しました。

 

 

 

「むぐむぐ……。うん、しってた。だって、ぼくやよいどれ(銀髪侍女)さんをつかって、こんとんのせいりょくとつながってたきぞくやないつうしゃをしゅくせいしてたほんにんだもの」

 

 

 

 え? まさかの王国安全保障局局長(久々にワロタ)ポジなんですか???

 

 

 

 ねー♪ と笑い合う2人を味わい深い表情で見ている冒険者たち。奪掠神(タスカリャ)神官の犬耳の少女……銀毛犬娘ちゃんは我関せずと鶏肉を貪っています。よく見たら銀色の毛並みに黒斑が混じってますが、もしかして彼女もそのポジションなんですかねぇ……。

 

 ん? でもそうなるとこの半森人(ハーフエルフ)の女性……半森人局長さんのほうが義眼の宰相さんよりも年上なんじゃ……ヒッ!? す、すいません正道(ルタ)神さん、半森人局長さんは裏表の無い素敵な美少女です!!

 

 


 

 

 そんな感じで友好を深めつつ翌日。ギルドが所有する中で一番大きな馬車に乗って出発した一行。荷物のほぼ全てをインベントリーにしまっているのもありますが、10人以上乗ってもスペースに余裕があるのは流石といえるでしょう。勿論それだけ大型ですと馬車を牽くのにも相応の力が必要になります。サスペンションを備えているため通常のものより更に重量を増した馬車ですが、そのスピードはまるで早馬の如し。サスペンションが無かったら本日お留守番の2000歳児辺りは腰が痛いと文句をいうこと間違いなしです。

 

 

 

「あのよぅ、タダ乗りしている身分であれこれ言うのはお門違いだってのは俺もじゅーぶん判っているんだがな……?」

 

 あ、次第に草木が姿を消し、足元が砂地になってきた頃、外を眺めていた槍ニキがとうとう我慢の限界に達したようです。もう慣れてしまって諦めの表情を浮かべるダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の女性陣と、相変わらず(ウォトカ)を呷っている銀髪侍女さん。若干酔ってしまっている重戦士さんとそれを介抱しているゴブスレさん。スヤァ……と寝息を立てている銀髪義姉妹以外の注目を集めた槍ニキが、馬車の前側を指差しながら叫びました。

 

 

 

「あれの何処が馬なんだよ!? ()()()()()なんざ聞いたことも無ぇよ!?」

 

「五月蠅ェ……頭に響くんだよ……。別にいいだろ、脚が何本あってもよォ……」

 

 青白い顔の重戦士さんが凄んでも屈することなく頭を掻き毟る槍ニキ。彼の指摘通り、馬車を牽引しているのは惚れ惚れするほどの馬体を誇る2頭のおUMA(ウマ)さんです。8本の脚それぞれに接地面を増やすためのかんじきを履き、砂漠迷彩に塗装された胴体にゴキゲンなダブル吸血鬼ちゃんを乗せて、灼熱の太陽をものともせずにバクシンしています。なんせ砂漠にはコーナーがありませんからね!

 

 毎度お馴染み英霊さんたちを召喚したわけなんですが、今回は現地での救出活動にも参加していただくため選出作業は難航。人数とコストのバランスについて細心の注意を払った結果、ハリボテスレイプニールの姿で召喚に応じてくれました!

 

 戦闘を考慮していないため防具無しの全身タイツ姿ではありますが、その分コストはお安く通常の首無し騎士(デュラハン)2体のコストで最大8人に分離するお買い得っぷり。なお、みなさん頭部は頑なにゴブスレヘッドのため、ゴブスレさんからは微妙なオーラが出ていることはここに記しておきます。

 

 

 

「あんまりカッカしてると、そこの後輩みたいにぶっ倒れるわよ?」

 

「うう……申し訳ありませんわ……」

 

 やれやれと首を振る女魔法使いちゃんの視線の先では、ブラウスの前を全開にしている赤い顔の令嬢剣士さんが、エロエロ大司教モードな剣の乙女ちゃんに抱きしめられてるちょっとえっちな光景が。薄布に包まれた一党(パーティ)第一位のお山をクッション代わりに令嬢剣士さんの頭を受け止め、剣の乙女ちゃんがそっと彼女の額に手を当てています。吸血鬼のひんやりした体温が心地よいのか、令嬢剣士さんの顔色も少しずつ良くなっているみたいですね。

 

 風通しこそ良いものの、上昇する一方の気温は容赦無く体力を奪っていくため、見張り担当のダブル吸血鬼ちゃん以外はそれぞれ楽な格好になっています。

 

 元から露出過多な剣の乙女ちゃんはまぁ置いておいて……。重い鎧を脱ぎ捨て上着のボタンを大きく開けている重戦士さん。胸元から覗く逞しい胸板はダブル吸血鬼ちゃんがバッチリ視姦しています。赤竜の外套が熱を遮断してくれているのか、女魔法使いちゃんは涼しい顔。2つボタンを外している魅惑の谷間では、見張りに立つ前に吸血鬼君主ちゃんがお昼寝していました。

 

「……おいゴブリンスレイヤー。嬢ちゃんたちの恰好を見て、なんつーかこう、言うことはないのかよ?」

 

「知らん。戦友(とも)が止めないのだから、俺が口を挟む事ではない」

 

 やたら南方風模様の(アロハ)シャツの似合う槍ニキがゴブスレさんに突っかかってますが、対するゴブスレさんは塩対応。見た目は暑そうですが、女魔法使いちゃんと同様に竜革の鎧(ドラゴンハイドアーマー)が熱を防いでくれているみたいです。舌打ちをした槍ニキがうっかり女性陣に視線を向けかけ、慌てて馬車の外に向き直ってますね。

 

 

 

「さて、そろそろ合流場所だ。馬車から降りる準備をしようか」

 

 お、手品のようにスキットルをしまった銀髪侍女さんが、いつの間にか起き出していた銀髪義姉妹とともに荷物の整理を始めていますね。3人とも服装が昨日とは異なり、どこか異国情緒を感じさせるものに変わっています。どうやら砂漠に暮らす森人(エルフ)の民族衣装みたいですね。頭部を保護するターバンに同色の外套、厳しい日光から身体を保護するとともに、人相を判り難くするのにも役に立つんだとか。

 

 協力者との合流場所は砂漠にポツンと存在していた小さなオアシス。乗って来た馬車を吸血鬼君主ちゃんがインベントリーにしまい、代わりに日除けの天幕(テント)を設営して待つこと暫し。砂の色が赤く染まり始めた頃、地平線の彼方から一行へ近付いて来る船団がやって来ました!

 

 砂の海を掻き分け力強く進む船。その舳先に立つ人影を見たダブル吸血鬼ちゃんが勢いよく飛び出して行きました! 突然空から近付いて来る小さな飛行物体に一瞬長銛を構えた人影ですが、2人の姿を確認するとゆっくりとそれを降ろし、船へと降り立った2人と相対しました。

 

 

「「えへへ……ひさしぶりだね、おじいちゃん!」」

 

「双子だったのか? ……まぁ良い。今は再会を祝う時だろう」

 

 跳び付いて来る2人を抱き留め、ギチギチと顎を鳴らす蟲人(ミュルミドン)……今は船団を率いる長たる蟲人僧侶さん。『吸血鬼侍』ちゃんとの仲は良かったみたいですね。やがて舟板を上がってきたもう1人の戦友に気付き、一行へと近付いて行きます……。

 

「お久しぶりです。お変わりないようで安心しました」

 

「いや、随分と年を取った。そちらは……良い方向に変わったみたいだな」

 

「はい。ずっと好きだった子と、想いが通じました……!」

 

 蟲人僧侶さんの肩から飛び移って来た吸血鬼君主ちゃんを抱き締めながら、少女のように微笑む剣の乙女ちゃん。肩に残った吸血鬼侍ちゃんと2人を見比べながら、長年の謎が解けたと蟲人僧侶さんが頷いています。

 

 

 

 

 

 

「成程。ずっと女だと思っていたが、男だったのか。どうりで頭目(アイツ)が反応しなかったわけだ」

 

「いえ、2人とも女の子ですよ……?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

 

 あ、あのおっぱい星人……そこでしか判断してなかったのか……!

 

 


 

 

「しっかし、まさかこんな所で()()六英雄(オールスターズ)の1人と会えるたぁ思わなかったぜ!」

 

「そうだな……。ん? いや待て、1人とは何度も顔を合わせているだろ?」

 

 夜の移動は危険だということで、日が暮れたオアシスに火が焚かれ、現在互いに持ち寄った食料を使ってささやかな宴会が始まっています。良い感じに酒のまわった槍ニキと重戦士さんが、『死の迷宮』の話を聞こうと蟲人僧侶さんのところへ押しかけているみたいです。『死の迷宮』で『吸血鬼侍(ヴァンパイアロード)』だった時代……まだ祈らぬ者(ノンプレイヤー)だった頃の記憶はダブル吸血鬼ちゃん両方とも穴だらけですし、当事者の生の声が聞きたいというのは冒険者のサガというものでしょう。

 

 淡々と蟲人僧侶さんの口から語られる冒険の数々に、ゴブスレさんも含め若い冒険者はみな夢中になっています。悲劇と喜劇を縦横の糸に、栄光と挫折を織り込んで編まれた灰と青春の物語。剣の乙女ちゃんも懐かしむように耳を傾けていました……。

 

 長い物語が終わり、宴も終わりが見えてきた頃、ふと思い出したように女魔法使いちゃんが口を開きました。

 

「すっかり忘れていたのだけれど、ここで合流する12人目っていうのは貴方なの?」

 

「いや、違う。俺は只の運び屋(ポーター)だ。()を届け、囚われの女たちを安全な場所へ運ぶ……な」

 

 ああ、そういえばそうでしたね! もう若くないと嘯く蟲人僧侶さんの口振りからすると、どうやら男性みたいですけど……。宴に参加していた船団の面々は蟲人ばかり、ちょっと自分には区別が付きにくいですねぇ。

 

 おや? 突然水辺の際に設置されていた焚火が消えてしまいました。誰かが間違えて水でも掛けてしまったんでしょうか……。

 

「ひゃん!?」

 

 ん!? 今のは令嬢剣士さんの声です! 槍ニキと一緒に半森人夫人さんが見せてくれた『魔法剣』について話してましたが、突然真っ赤な顔でお尻を押さえて周りを見渡しています。槍ニキが必死に顔を横に振っているので彼がお触りの犯人では無さそうですが……。

 

「きゃっ!?」

 

 こ、今度は剣の乙女ちゃんです! 恥ずかしそうにたわわを隠しているということは……あ、ダブル吸血鬼ちゃんの顔がマジになってます。怒りによって真っ赤に染まった瞳で暗闇を見渡しながら、不届き者を探しているようですが……。

 

「にゃあっ!?」

 

「ひぁ……っ!?」

 

 ええ……? どうやら2人の索敵すら潜り抜けられてしまったみたいです。恥ずかしそうに太股の間を押さえる仕草はクッソ可愛いですが、愛し子へのセクハラによって太陽神さんが激おこ寸前になってます! これじゃもう1人の親である万知(ばんち)神さんも……あれ? いない???

 

 あの、無貌の神(N子)さん、覚知神さん。万知神さんどこ行ったか知りませんか? これ伝えないでいたら後々酷いことに……え? なんで盤上を指差しているんですか? ……あ、まさか。

 

 

 

 

 

 

「カッカッカ! 魔剣『女殺し』の持ち主と聞いておったのに、2人とも()()ではないか! それともナニか? 湯に浸からなければ抜けん()()なのかのう? ん?」

 

 暗黒の世界に響く下品な声。暗闇に目を凝らす一行の中で、ゴブスレさんだけが暗視の付与された兜越しに声の主を見付けました。腰から抜き放った信じられないほど邪悪な形をした武器(アフリカ式投げナイフ)を投擲した先は、オアシスに1本だけ生えている棗椰子(ナツメヤシ)の頂点です!

 

 闇を切り裂いて飛翔する刃を避け、地面へと降り立つ小さな人影。ダブル吸血鬼ちゃんよりは大きいですが、ゴブスレさんの腰辺りまでしかない体格は間違いなく圃人(レーア)のものです。

 

 松明によって照らし出され、剣を向けられながらもその顔からは笑みは消えず、浮足立った冒険者たちを品定めするような瞳で見つめるその老人は……。

 

 

 

 

 

 

「年甲斐も無く何をやっている。師匠」

 

 

 

 ナニをやってるんですか、万知神(マンチキン)さぁん!?!?

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 




 体力を温存するので失踪します。

 評価や感想、いつもありがとうございます。

 体調が悪化する気しかしないので、次話は少し遅れるかもしれません。お待ちいただければ幸いです

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 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその13-3

 ワクチン接種後に震えて寝ていたので初投稿です。




 いやー、いつ見ても限界ギリギリ(エッジ)を攻めるキャラデザとロールプレイですよねマンチ師匠!

 

 普段は冷静沈着な(ペルソナ)しているクセに、ああやって盤面に登場した時は普段のキャラを忘れてハジケるんですから面白いですよねぇ万知神さん()も。毎度毎度覚知神さん(腐れ縁)死灰神(困ったちゃん)の相手を一手に引き受けてくれてますし、ストレスが溜まってるのかなぁ。

 

 ……まぁ、覚知神さんのやらかしの尻拭いをするために化身(アバター)で向かった先で、唯一生き残っていた少年にその場のノリで口プロレスと108のマンチ技を仕込んだんですから、ある意味2人の乳繰り合いからこの物語(キャンペーン)が始まったと言っても良いのかもしれませんね。

 

 あ! 勿論これはこの物語(キャンペーン)独自の舞台設定(レギュレーション)なんで、原作(オリジン)とはまったく異なりますので視聴神のみなさんはそこんとこよろしくお願いしますね! 無貌の神(N子)さんとの約束ですよ!!

 

 


 

 

 前回、セクハラ師匠がエントリーしたところから再開です。

 

 ダブル吸血鬼ちゃんの警戒を嘲笑うかのようにすり抜けセクハラをキメた隠密の技術(テク)を目の当たりにして、目の前の老圃人(レーア)が只物ではないということを察した冒険者の面々。大切なパートナーへのボディタッチにがるる……と牙を剥き出しに威嚇するダブル吸血鬼ちゃんでしたが……。

 

「うう~……あれ?」

 

 師匠から向けられるからかい混じりの視線を通して万知神さん(パパ)からの父性なアクセスを感じたのか、吸血鬼侍ちゃんの瞳から徐々に攻撃色が薄くなっていきました。唯一被害を免れていた女魔法使いちゃんを守ろうと彼女の前で両手を広げて唸っていた吸血鬼君主ちゃんも、ゴブスレさんが溜息とともに自分の師匠だと説明してくれたことで臨戦態勢を解除しましたね。まぁまだ警戒はしているのか、女魔法使いちゃんの背中にしがみ付いて所有権は主張していますけど。

 

「やはり"辺境最優"とは知り合いだったんだね」

 

「ケッ、昔ちぃとばかし小突き回してやっただけよ」

 

 お、松明を手に持った銀髪侍女さんがマンチ師匠の隣までやって来ました。お互い軽口を叩き合う姿から察するに、影の中を走るもの(ランナー)と雇用主としての関係は長いのかもしれません。困惑気味の冒険者たちに向き直り、彼が12人目だとみんなに話しています。どうやら姫君たちを辺境の街まで脱出させている間、時間稼ぎのために宰相の息のかかった連中を砂漠の都で足止めしてくれていたみたいですね。

 

「姫さんが居なくなったモンだから、連中泡を喰って右往左往しとるわい。姫さんに化けさせた≪二重存在(ドッペルゲンガー)≫に白のバルコニーから手を振らせて都の民を飼いならす一方で、王国との国境に向けて兵を動かしとる。ついでに使いモンにならねぇゴブリンも放流してやがるぜ」

 

 ゴブリンの選別、いや品種改良のつもりかねぇと嘯くマンチ師匠。一定の力量(レベル)に達しなかった個体を処分ついでに王国への嫌がらせとして国境付近でリリースしているっぽいですね。背後には砂漠が広がっているだけですし、飢えた連中の向かう先は王国領一択、と。

 

「……最近変に知恵を付けたゴブリンがいるって報告がギルドに多いってあの監督官が言ってたけど、その原因って……」

 

「だろうな。付け焼刃とはいえ軍事教練を受けた個体。他のゴブリンも見よう見まねで覚えるかもしれん」

 

 最悪だな、と女魔法使いちゃんの推測を肯定するゴブスレさん。ゴブリンを駆除するときに一番大切なのは、生き残りを出さないこと。知恵を身に着けた生き残りが他の巣に辿り着き、それを広めればあっという間にゴブリン全体の脅威度が底上げされてしまいます。最初の冒険で女魔法使いちゃんや女神官ちゃんたちがやったように、赤子だろうと殲滅しなければあっという間に天秤はゴブリン側に傾くことでしょう……。

 

「知恵を付けたゴブリンと、それを覚えさせている連中。両方殲滅しなければ、この小鬼禍は決して終わらない」

 

 ギリッと拳を握るゴブスレさんを見て、強く頷く一同。人為的に引き起こされた災厄であれば、人の手で止められぬ道理なし! 決意に満ちたゴブスレさんを見て、ダブル吸血鬼ちゃんもやる気MAXの様子。この依頼(クエスト)、絶対に失敗は許されません! 気合い入れていきましょう!!

 

 


 

 

「一時はどうなるかと思いましたが、あの子たちのおかげで何とかなりそうですね」

 

「そうだな。砂嵐をやり過ごすにしろ避けるにしろ、都までの行程は遅れていただろう」

 

 船の舳先に近い甲板で針路を見ながら話している剣の乙女ちゃんと蟲人僧侶さん。船団と合流した翌日、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、船は快調に進んでいます。帆柱(マスト)に設置されている小さな櫓には吸血鬼君主ちゃんと令嬢剣士さんの姿があり、2人とも呪文でお仕事をしている真っ最中。先刻までは浮足立っていた冒険者一行や船員たちも、船の周囲に広がる幻想的な光景に目を奪われているみたいですね。

 

「こりゃ……なんつーか、すげぇな……!!」

 

「もうちょいマシなコト言えねぇのかよ。……まぁ、気持ちは判るけどよ。テメェはどうだ?」

 

「今までに、見たことの無い景色だな」

 

 右舷(スターボード)に並ぶ3人も語彙力を失い、ただただ眼前の光景に目を奪われています。恐るべき大自然の驚異と、過酷な環境が生み出す幻想的な風景、そしてそれを生み出した太陽神の奇跡にも驚いているみたいですね。左舷(ポートサイド)で背中に吸血鬼侍ちゃんを乗せ、銀髪3人娘と一緒に並んでいる女魔法使いちゃんの口から、思わずといった感じで言葉が零れました。

 

()()()()()()こんな快適な旅が送れるなんて、誰も想像出来ないわよ……」

 

「ね~!」

 

 

 

 

 

 

「「「「「speed up(バクシン)! speed up(バクシン)!! speed uuuuup(バクシーン)!!!」」」」」

 

「ええ、ありがとう風の乙女(シルフ)たち。船体も安定してますので、増速しても問題無さそうですわ」

 

 自分の周囲を楽しそうに飛び回る風の乙女(シルフ)に微笑みかけ、もっと船速を上げたいとおねだりする小さな姿に頷きを返す令嬢剣士さん。彼女の言葉を受け精霊たちが帆に近付くと、更なる風が生まれ船は速度をグングン上げていきます。

 

 若草祖母さんの手ほどきを受け、精霊使いとして目覚めた令嬢剣士さん。半森人夫人さんから受け継いでいた素質もあって瞬く間に精霊との対話が上達し、真言・奇跡・精霊術の三系統を使いこなす魔法戦士という全盛り属性にまで成長してしまいました。

 

 当の本人は「私の力なんて、それぞれの専門家には到底及びませんの」と謙遜してますけど、それを克服しちゃったら特化型の人が泣いちゃいますし、現時点で既に一党(パーティ)で一二を争うユーティリティープレイヤーですからね?

 

 ちなみにもう1人は産休中の森人少女ちゃんです。同じく産休中の森人狩人さん(義姉)から真言魔法を教わり、こっそり吸血鬼侍ちゃんからも死霊術を学んでいるため恐るべきガチ後衛になりつつあります。信徒であり推しの恋人でもある2人の成長には万知神さんと破壊神さんもニッコリ。剣の乙女ちゃんが幸せを掴み全力でドヤっていた至高神さんと3()で祝杯を上げていました。

 

 そんな令嬢剣士さんと一緒に櫓に上がっている吸血鬼君主ちゃん、ぺったんこな胸元に緑色に光り輝く球体を抱え、太陽神さんへの感謝の祈りを捧げている様子。なるほど、これほどの砂嵐の中で船の周囲だけずっと台風の目みたいになっていると思ったら、吸血鬼君主ちゃんが≪晴天(サニーデイ)≫を唱えていたんですね!

 

 船が進むのに伴ってピタリと静まる砂嵐、半径3kmのまるで空間を包み込むように砂のカーテンに覆われた不思議な光景。手を伸ばせば届くと錯覚するほどの距離にある人の生命を容易く奪う自然の猛威。ですが、奇跡によって阻まれているそれは、何処か神々しいまでの美しささえ感じさせるものですね……。

 

 

 

 よしよし、このまま進んでいけば夕刻には都の近くに到着出来そうですね……っと、船首のほうがなんだかざわついてますね。女魔法使いちゃんの背中から剣の乙女ちゃんのお山へと移動していた吸血鬼侍ちゃんが何かを見つけたみたいです。あれは……。

 

「ばしゃが……ひいふうみい……4だいかな?」

 

晴天(サニーデイ)≫の効果範囲に入ったことで砂嵐が止み、砂塵に埋もれかけていた馬車の集団が船の前に姿を現しました! 突然の砂嵐によって立ち往生していたのでしょうか? 横転した車体の下から砂を掻き分けて顔を出す人影が見えますが……おや? 蟲人僧侶さんの顔が(多分)厳しいものになってます。雰囲気の変化を感じ取った剣の乙女ちゃんが小さな声で話しかけてますね。

 

「どうかなさいましたか?」

 

「……面倒なことになったな」

 

 ギチギチと顎を鳴らす蟲人僧侶さん、要領を得ない彼の言葉に首を傾げていた剣の乙女ちゃんですが……。

 

 

 

「冒険者諸君、向こうに気付かれぬよう戦闘準備を頼む。アレはこの国の兵士たちだ」

 

 異国風の装束に身を包み、冷たい視線で馬車の一団を睨む銀髪侍女さんの声がみんなの意識を切り替えさせました。彼女と同じように頭に布を巻き、口元を覆い隠した半森人局長さんと銀毛犬娘ちゃんも船の縁から顔を出して一団を吟味していますね。

 

「さて、箱の中身はどっちだと思います? 宝物(おたから)か、それとも塵芥(ゴミ)か」

 

「中身が大事なモノだったら、真っ先に心配している筈。そうじゃないってことは、正解は考えるまでもない」

 

「でしょうね。……ちょっといいですか? 貴女に頼みたいことがありますの」

 

「……ふぇ?」

 

 お、半森人局長さんが吸血鬼侍ちゃんを呼んでこっそり耳打ちしてますね。何か企んでいるのでしょうか……? 注意しておいたほうが良さそうですね。

 

 


 

 

「砂嵐に巻き込まれたか。災難だったな」

 

「あ、ああ。このまま全員生き埋めと思っていたが、俺たちは()()()()()()()いなかったらしい」

 

 至高神の聖印を下げた剣の乙女ちゃんを伴って彼らへと近付く蟲人僧侶さん。突然の異貌に驚いた表情を見せた男たちでしたが、分隊長と思しき1人が感謝の言葉を述べています。その周囲では砂の中から這い出てきた男たちが負傷や装備の確認をしていますね。

 

「申し訳ないのだが、都まで乗せて行ってはくれないだろうか? 助けてもらった礼は向こうでしっかりとさせてもらう」

 

「構わん、遭難者を救助するのは船乗りの義務だからな」

 

 蟲人僧侶さんの言葉にほっと肩を撫で下ろす部隊長と思しき男。乗せて行って貰えるぞ! という彼の声にまわりからも歓声が上がっています。ここまでは普通の対応ですが、さてどうなるか……。

 

「其方は何人だ? 人数によっては複数の船に分かれて乗ってもらうことになる」

 

「俺と副長、それに兵士が10人の合計12人だ」

 

「そうか。ふむ……」

 

 ギチギチと顎を鳴らしながら横転したままの馬車を眺める蟲人僧侶さん。どれも金属で補強された頑丈な車体ですね。転がっているのは4台で、内3台は後部の乗降口を固く閉ざしたまま放置されています。蟲人僧侶さんの視線に気付いた分隊長が慌てて「人員輸送用の車体は1台だけで、残りは消耗品が入っているんだ」と取り繕うように説明しています。……うーん、これは怪しいですねぇ。

 

「軍が必要としている物資を捨て置くわけにもいかんな。一緒に回収してやろう」

 

「い、いや!? 君たちの船を俺たちの都合で圧迫するのも申し訳ない、あれはこのまま放置してほしい」

 

「そうか、不要ならば売って金銭の足しにさせて貰うとしよう」

 

「駄目だ!! あ、いや、違うんだ。機密に係るものもあるのであのまま砂中に沈めるんだ。だから出発は少しだけ待ってくれ」

 

 どうしても中身を見られたくないみたいですねぇ。しかも後で回収ではなくこのまま埋めてしまうとか……。これは銀毛犬娘ちゃんの言う通り中身は塵芥(ゴミ)の可能性が高そうです。周囲の兵たちも何処か浮ついた様子で頻りに腰に下げた武器を気にしています。これはもう間違いないでしょう。

 

 

 

「話にならんな。やってくれ」

 

「は~い! ……てぃっ!!」

 

 やれやれと首を振る蟲人僧侶さんの合図で、船の影に身を潜めていた吸血鬼侍ちゃんが飛び出して行きました! 静止の声を上げる兵たちの間をすり抜け、手近な馬車の扉に村正を一閃。そっと扉を開けたところで……。

 

 

 

「「「GOBGOBGOB!!」」」

 

「おあ~……」

 

 ……突然伸びてきた()()()()()()()()()()()によって、車内へと引きずり込まれていきました。

 

 

 

「ガキがっ、余計な事しやがって!!」

 

 剥がれかけていた仮面をかなぐり捨て、剣を抜き放つ分隊長。隊員たちもそれに続く様に得物を構え、船団の代表と見た蟲人僧侶さんと剣の乙女ちゃんの2人にジリジリと近寄っています。人質にして船団を脅すつもりみたいです。

 

「そこを動くなよ? 俺たちは荒事に慣れてるんで……な!?」

 

VVVRROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!

 

 お、牛の鳴き声のような射撃音とともに、分隊長や兵士の足元をなぞるように砂煙が上がりました! 驚いた兵士たちが見上げた先、船の縁に足を掛けて身を乗り出しているのは、切先から余剰魔力を煙のように放出している魔剣を構えた令嬢剣士さんです! 同時に兵士たちの背後からは、馬車の構成部品と何か()()()()()()が砂漠へとぶちまけられる音が二度三度と続けて響いて来ています。

 

「動くなというのは此方の台詞ですわ。全身粉々で砂漠と同化したくなければ、武器を置いて跪きなさい!」

 

 未知の脅威によって戦意を喪失し、両の膝を砂地へと着く分隊長。何か逃げる切っ掛けはと周囲を見渡したのが彼の不幸でしょう。

 

「あ、ああ……」

 

「あ~あ、よごれちゃった……」

 

 金属や木材と区別されることなく平等に粉砕され、砂漠へとばら撒かれた積み荷だったモノ。

 

 王国に捨てて来る筈だったゴブリン、3台に分けて積んでいた50匹近くが汚らしい肉片へと変貌し、白い砂地の一部を赤黒く染める光景でした……。

 

 


 

 

「ゴブリンの生き残りは無し、良い仕事だったよ」

 

「ふふん!」

 

 馬車の残骸を検分していた銀髪侍女さんの声にフンスと平らな胸を張る吸血鬼侍ちゃん。人間用のものは壊さなかったみたいですが、ゴブリンを詰め込んでいた馬車は完全にバラバラになってますね。辺境三羽烏を中心に兵士たちの武装解除が行われ、彼らは平服に日除け用の外套という姿で一所に集められています。手足を拘束していないのは砂漠のど真ん中で逃げる場所など無いということと、船上から令嬢剣士さんが狙っているからですね。

 

「んで、こいつらが例の……」

 

「そう、処分予定のゴブリンを王国に不法投棄し、帰りに隊商(キャラバン)や集落を襲って()()を調達する部隊さ。……()()()()()

 

 ああ、やっぱりそういう部隊ってありますよねぇ。銀髪侍女さんの言葉に今まで辛うじて抑えていたであろう殺気を撒き散らしながら兵士たちを眺める槍ニキ。上位魔神とタイマンを張れる圧に押されて兵士たちが縮み上がっています。半森人局長さんが無傷の馬車内で見つけた周辺地図の存在もあって、この計画が周到に準備され、また彼らの日常になっていたことも判りました。

 

 冷たい視線を向けられて焦ってるのは分隊長。せっかく助かったと思ったら今度は人間に殺されそうになってますからねぇ。必死に助かる道を探して智慧を巡らせているようですが、こういう時に出て来る言葉ってだいたい相場が決まっていると思いませんか?

 

「お、俺たちは命令に従っていただけなんだ。そうしなかったら宰相と兵士長に殺されちまう! 悪いのはあの2人なんだ!!」

 

 分隊長の言葉に乗っかるように、口々に責任を擦り付ける兵士たち。命令されていただけ、悪いのは全部上役なんだ。うーんこの判り易い責任転嫁。聞くに堪えない言い訳を制したのは、スッと前に進み出た剣の乙女ちゃんです。豊満な胸元に手を添え、分隊長と目線を合わせるようにしゃがみ込む姿を見て、兵士たちの目に好色の光が浮かんできましたね……。あ、船上で≪晴天(サニーデイ)≫を維持している吸血鬼君主ちゃんが真顔になってます。これはいけませんよ……!

 

()()()()()()()()()()……このような作戦は命令されてこなしていただけで、貴方達は決して愉しんでいたわけでは無いのですね?」

 

「そ、その通りだ! 俺たちだって好き好んで守るべき国の民を攫っているわけじゃない!、国を強くする為に必要な犠牲だって言うアイツらの言葉に騙されていただけなんだ!!」

 

「成程……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘ですね」

 

「ヒィッ!?」

 

 凪いだ水面のように静かな表情で、分隊長の言葉を切り捨てる剣の乙女ちゃん。ハイライトの消えた瞳のまま、淡々と、しかし途切れる事無く質問を続けていきます。

 

「ゴブリンを王国に廃棄する際、どんな気持ちでしたか? 自分たちと比べて豊かな国を貶めることが出来て気分が良かったのでは?」

 

「そ、そんなことは無い!? 悪いとは思っていたが、仕方なくやって……」

 

「それも嘘」

 

「な……!?」

 

「面倒なゴミ捨ての帰りに隊商(キャラバン)を見付けた時、どんな気持ちだったのか教えて下さい。特別報酬(ボーナス)が転がり込んできたと心躍っていたのではありませんか?」

 

「……」

 

「言えませんか。では代わりに私が皆に教えてあげましょう」

 

 黙り込んでしまった分隊長に対して凄絶な笑みを見せる剣の乙女ちゃん。櫓から彼女の気配を感じ取った吸血鬼君主ちゃんが飛び出そうとして、令嬢剣士さんと入れ替わりに見張り台に来ていた女魔法使いちゃんに引き止められています。そっと胸元のお守り(アミュレット)を握りしめ、何かを探るように目を瞑りました。やがて目を開けた彼女の語りに、分隊長は心底恐怖することになります。

 

 

 

「――小太りな商人の男性と美しい褐色の女性が2人。この2人は姉妹でしょうか? 年の若い女の子は武闘家かしら。少し年上の神官の男の子と魔法使いのお爺さんで一党(パーティ)を組んだ冒険者みたいですね」

 

「!?」

 

 まるで現在進行形でその情景を見ているかのように、すらすらと話し始めた剣の乙女ちゃんを驚愕の表情で見つめる分隊長。兵士の中にも何人か同じ顔をしている者がいますね。

 

「友好的に近付いて行き、最初に一番鈍そうな商人を不意を突いて斬殺。浮足立ったところで副長が武闘家の少女を人質に取って神官と魔法使いの動きを封じ、その後女性たちを拘束ですか。良く訓練された動きですね? それとも手慣れていらっしゃるのかしら」

 

 なんて判り易い暴漢の手口。現場の光景が目に浮かんでくるようで……あ、もしかして剣の乙女ちゃん、≪読心(マインド・リーディング)≫を使ってる? でも詠唱はしていなかったですし……ん、そういえばあの胸元のお守り(アミュレット)ってたしか……。

 

「散々痛めつけて抵抗できなくなった男性2人の前で一党(パーティ)の仲間を凌辱し、絶望させたところで放置ですか。帰りの馬車の中でも散々お楽しみだったみたいですね? 『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』そうですし」

 

「あ、あああああああああああああああ!!」

 

 精神の限界を超えてしまったのか、錯乱状態で剣の乙女ちゃんへと掴みかかろうとした分隊長。咄嗟に間に割って入ろうと蟲人僧侶さんが前に駆け出しましたが、それよりも早く落ちてきた何かが分隊長を地面に叩き伏せました!

 

「ぼくのたいせつなひとにさわるな、クソやろう」

 

 突然空から降ってきた吸血鬼君主ちゃんに驚く兵士たちを尻目に剣の乙女ちゃんのお山へと抱き着く吸血鬼君主ちゃん。その頭をそっと撫でながら、剣の乙女ちゃんが蟲人僧侶さんへと向き直りました。

 

「あまり船乗りの作法には詳しくないのですが、航砂中に罪を犯した者の処罰はどのようなものになるのでしょうか?」

 

「船員同士の個人的な争いであれば当人同士の決闘で裁くこともあるが、そうでなければ刑はおのずと決まってくる」

 

 くるりと兵士たちに背を向け、船へと引き上げていく蟲人僧侶さん。その姿を見て、降りていた面々も続々と船へ乗り込んでいきます。どんな刑が下されるのか理解してしまった分隊長が、必死の形相で去り行く一行を引き止めようと立ち上がりましたが……。

 

「ま、待ってくれ!? 頼む……ヒィッ!?」

 

 足元に着弾した≪力矢(マジックミサイル)≫によって体勢を崩し、無様に転倒する分隊長。砂まみれの姿で見上げた先には、櫓の上で杖を構えた女魔法使いちゃんの姿がありました。

 

 全員が乗り込んだことを確認し、兵士たちの目の前で船内へと引き上げられていく舷梯(タラップ)。呆然とそれを見ていた男たちの頭上から、ギチギチと言う音とともに落とされた言葉は……。

 

 

 

「砂漠では誰の命も平等だ。砂漠で奪った命は、砂漠に委ねなければならない」

 

 

 

 

 

「お前たちは其処で乾いてゆけ」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「……まぁ、あの子にしては我慢したほうかしらね」

 

「カッカッカ! テメェのオンナに手を上げられそうになって飛び出さねぇ男がいるものかよ」

 

「いや、あの子一応女の子だし。……で、何? あの子の護衛が外れたから胸でも触りに来たの?」

 

「ハッ! 触られても何とも思わねぇ娘っ子の乳なんざ触るつもりは無ェよ。それよりいいのか? ……このままだとあのチビッ子、()()()()()()()()?」

 

「いずれ向き合わなきゃいけなかった問題だもの。たとえ今回目を閉じさせたって、いつか必ず対面しなきゃいけなくなる。ゴブリン退治と同じよ」

 

「それでアイツがぶっ壊れても構わないってか? ……怖ろしいオンナだよオメェは」

 

「何とでも言いなさいな。あの子の傍には支えてくれる()がいるし、私はあの子が乗り越えられるって信じてる。それに……」

 

「それに?」

 

 

 

 

 

 

「――たとえあの子が壊れたとしても、私はずっとあの子の傍に居るわ。それが、私が()()()()()()()()()()()()()唯一の方法でしょ?」

 

「……やっぱり怖い女の子だね、君は」

 

 

 




 失った元気を取り戻すために失踪します。

 評価や感想、いつもありがとうございます。

 体調は元通りになりましたので、また週一くらいのペースで投稿出来たらと考えております。

 一言感想やお気に入り登録は更新スピードに影響を与える可能性がありますので、是非ともお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその13-4

寒暖の差に負けてしまったので初投稿です。



 前回、ゴブリン廃棄部隊を絶望させたところから再開です。

 

 呆然と見上げる兵士たちを背に速度を上げて航行を開始した船。≪晴天(サニーデイ)≫の基点である吸血鬼君主ちゃんが移動したことで、奇跡によって遮られていた砂嵐の壁が徐々に兵士たちへと近付いています。

 

 船へと駆け寄ろうとする者、馬車を掘り起こそうとする者、馬車の下に潜り込んで砂嵐をやり過ごそうとする者……。危機に際して協力するという考えが浮かばないのか、それぞれが好き勝手に行動するのを分隊長が表情の抜け落ちた顔で眺めています。「神に見放されていなかった」と話していましたけど、間近に迫った危機に対して、彼の信ずる神は応えてくれるんでしょうかね?

 

 

「だいじょうぶ? きもちわるかったりしない?」

 

「ええ、問題ありませんわ。呪文の効果は既に切れておりますので……」

 

「ん……よかった……」

 

 兵士たちの顛末を見届けることも無く、甲板に敷かれた毛布の上に剣の乙女ちゃんを座らせ、吸血鬼君主ちゃんが頭をそっと抱き寄せています。やっぱり剣の乙女ちゃん、先程の分隊長との会話の時に予め≪看破(センスライ)≫を使用してたんですね……。

 

 明確に嘘として用いられた言葉が判別できるということで、ギルドの昇級試験や裁判の時に活用されている≪看破(センスライ)≫。どんなに優秀な遣い手であってもその持続時間は1時間のはずですが、それを飛躍的に伸ばす手段のひとつが剣の乙女ちゃんの身に着けている≪呪文維持の護符(アミュレットオブパーマネンシー)≫です。

 

 元々は≪分身(アザーセルフ)≫維持のために賢者ちゃんがくれたマジックアイテムでしたが、吸血鬼侍ちゃんが自分の身体を手に入れたことで不要となり、ここ最近は剣の乙女ちゃんのアクセサリー扱いでした。普通は魔術師が低い防護点を補うために≪円盾(メイジシールド)≫や≪矢避(ディフレクト・ミサイル)≫を永続化するのに用いられるのですが、今回はどうやら交渉(ネゴシエイト)に備えて≪看破(センスライ)≫を維持していたみたいです。

 

 ……つまり、今日の朝……奇跡の使用回数を最大限活用するなら、消耗がリセットされる前の昨晩からずっと周囲の会話の中に隠れている嘘を判別し続けていたってことですか剣の乙女ちゃん。オマケに≪読心(マインド・リーディング)≫まで併用したとあれば、そりゃ精神的にも疲弊しちゃいますよねぇ。

 

「ですが消耗に見合う成果は得られました。要塞の構造と罠の配置、兵士たちの交わす符丁、そして、女性たちが囚われている場所についても……」

 

 そこまで語り一息つく剣の乙女ちゃん。ゆっくりと膝立ちになり、吸血鬼君主ちゃんを抱きしめ返しました。想い人の頭を撫でながら、躊躇いを振り払うように分隊長から読み取った記憶をみんなに伝えています。

 

「この先に待ち構えているのは、悍ましき人の悪意の総覧です。どうか、その闇に呑まれないでください……」

 

 


 

 

「……ニンゲンってやつは、同族に対してもトコトン残酷になれるモンなんだなぁ」

 

「んなもん今までだって散々見てきただろうが。……テメェも頭は冷えたか、ゴブリンスレイヤー?」

 

「……ああ」

 

 怒りを通り越して虚無感すら漂わせながら、徐々に赤く染まる空を見上げて呟く槍ニキ。兵士たちから奪った兜を調節している重戦士さんが相槌を打ちつつ、同じく鎧の調整を行っていたゴブスレさんを心配そうに眺めています。ふぅ、なんとか落ち着いてくれたみたいですね。

 

 

 

 剣の乙女ちゃんによって暴かれた要塞内の情報は、熟練の冒険者である彼らにとっても信じられないものでした。うっかり居合わせてしまった船員さんは船縁から嘔吐してしまっていましたし、令嬢剣士さんも真っ青な顔に。あの女魔法使いちゃんですら舌打ちをしてしまうもの……と言ったら判って頂けるかもしれません。

 

 "小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)"の3人も怒りのあまり瞳を赤く輝かせていましたが、クソマンチ師匠が全員に冷や水をぶっかけてくれたのでなんとか収まりました。「テメェらが今ここでキレたところで何にも事態は好転しねェだろうが。んな事よりこれから何が出来るかを考えろよ糞餓鬼共」という台詞は実にキレッキレでした……。

 

「あの爺さんの言う通りだ。俺たちが今出来ることをやるだけ・・・・・・と。良し、これで全部だな」

 

 満足げに頷いた重戦士さんが兜を放った先には8人の人影。兵士の装備を身に纏った首の無い人物がキャッチした兜を頭のある位置へと据え付け、具合を確かめています。お、重戦士さんにサムズアップを送ってますね、フィット感は良いみたいです。ハリボテスレイプニールから分離した英霊さんたちが、見事な兵士姿へと変身しました!

 

 蟲人僧侶さんの船へと乗り込むにあたり、乗って来た馬車は吸血鬼君主ちゃんのインベントリーにしまい込み、英霊さんたちは何柱かに分かれて船団の船に乗ってもらっていました。一度送還してしまうと再び召喚コストがかかってしまいますし、船の乗員にはまだ余裕があったのも幸いしました。要塞への潜入のためにローブ等は用意してありましたが、兵士の姿のほうがより怪しまれずに済みそうなので兵士たちからかっぱいでいたんですね!

 

「にしても良くこんな暑苦しい兜なんざ着けていられるモンだなぁ」

 

「防暑よりも匿名性を優先したのだろう。()()()()()()()()()()()、人は何処までも残虐に振る舞えるものだ」

 

「……成程なぁ」

 

 兜の前面をカシャカシャと開閉していた槍ニキがゴブスレさんの言葉に納得した様子で肩を落としています。ゴブスレさんの推測は恐らく正しいでしょう。個性を無くし集団に溶け込むことで人狩りやゴブリン廃棄の罪悪感を無くさせるとともに、過激な行動を容認しやすい匿名性を持たせたんでしょうね。「俺1人でやったんじゃない」「みんな同じことをしている」は何時の時代も免罪符の代名詞です。

 

「だが此方にとっても好都合だ。敵地で顔を晒すが危険を負わずに済む」

 

 顔出しNGな英霊さんたちには有難いことに、辺境三羽烏を含めた全員分の装備がありますからね。符丁も入手済ですし、件の繁殖場まではスムーズに潜ることが出来そうです。一方囚われの女性たち救出組の他の面子はといえば……。

 

 

 

「おきがえおわった? そしたらそうびはあずかっておくね」

 

「おう、頼まァ……って、随分攻めた格好じゃねぇかオイ……!」

 

 お、吸血鬼君主ちゃんたちが着替え終わって男性陣たちのところへやって来ましたね。剣の乙女ちゃんと令嬢剣士さんは銀髪侍女さんたちと似た異国風の衣装に身を包んでいます。人狩りに遭った女性的な変装なのでしょうか? みんなの装備を片っ端からインベントリーにしまい込んでいる吸血鬼君主ちゃんは……うん、良く言えば簡素、悪く言えばマイホームフリーな格好ですね!

 

 只人(ヒューム)サイズの黒いタンクトップをワンピースのように着こみ、その上から真っ赤なマフラー(小鬼の襟巻)を装備した吸血鬼君主ちゃん。剥き出しの真っ白い太股や二の腕が目に毒ですし、ちょっと動くとガバガバな胸元から先っちょがチラチラ見えちゃってます。

 

「私たちも止めたのですが、どうしてもと押し切られてしまいまして」

 

「ぼくがわるめだちしていれば、ふたりがいやらしいめでみられたりしないでしょ?」

 

 フンスと胸を張ってますが、そこは嗜好の問題なんだよなぁ……。おっと、全員の装備をしまい終わった吸血鬼君主ちゃんがくるりとみんなのほうへ向き直り、これからの予定を確認し始めたみたいです。

 

「みんながひとかりぶたいのへいしになりすまして、ぼくたちがそのせんりひん。はんしょくじょうにつれていくふりをしながらようさいないぶにはいりこんで、つかまっているおんなのこたちをたすけだす!」

 

「ええ、同時に別動隊が外から潜入し、宰相と兵士長、そして≪二重存在(ドッペルゲンガー)≫を排除します。最終合流地点は街の外縁、船団が待つ船着き場になりますわ」

 

 補足を加える令嬢剣士さん視線の先、隠密装備に身を固める別動隊の姿が見えています。異国風の衣装から忍装束に着替えた銀髪3人娘に、いつもの外套の上からさらに黒いローブを重ね着した女魔法使いちゃん、吸血鬼侍ちゃんと師匠は普段と変わらない格好ですね。

 

 

 

「そちらも準備は良さそうだね。本当なら街で休息を挟んでから乗り込む予定だったけど、残念ながらそんな時間は無いみたいだ」

 

 特産品の果物は美味しいんだけどなぁと付け加える銀髪侍女さんの声を切っ掛けに表情を引き締める一行。分隊長から抜き出した記憶から時間的な余裕は無いと判断し、到着後即座に作戦を実行することにしたようです。

 

「要塞地下の構造はしっかり覚えてくれたかい?」

 

「ん、だいじょうぶ。みんなをたすけだしたら、()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「頼んだよ。加減を間違えて要塞が崩れたら大変だからね」

 

 んん??? なにやら不穏な単語が飛び交っているようですが……。誰も驚いていないとすると、全員が納得している方法なのでしょうか。両手を上げてまかせてアピールをしている吸血鬼君主ちゃんを見る女魔法使いちゃんの目に、若干の心配の色が浮かんでいるように思えます。

 

「あの子のこと、頼んだわね」

 

「ええ、お任せくださいませ」

 

「必ず守り切ってみせますわ」

 

 吸血鬼君主ちゃんに聞こえないようにこっそり剣の乙女ちゃんと令嬢剣士さんに声をかけていますね。予め伝えてあるとはいえ、人の悪意の現場を実際に目にした時に、吸血鬼君主ちゃんがどうなってしまうのか。そこが今回の作戦で一番のネックになりそうな予感がします……。

 

 


 

 

「それじゃ、がんばってね!」

 

「そっちもきをつけてね!」

 

 日が暮れて辺りが闇色に染まり始めた頃、砂漠の国の都へと到着した一行。船着き場で蟲人僧侶さんたちと一旦別れ、街の入り口手前で潜入班とも別行動になっています。お互いの無事を祈ってぶんぶん両手を振る2人を微笑ましそうにみんなが見ていました。

 

 夕暮れ時の門にはギリギリで街まで辿り着いた隊商が集まり、なんとか閉門までに街へ入れて貰おうと交渉しているみたいです。さりげなく門番の懐に挿し入れたのは賄賂でしょうか。お互い当然のように遣り取りしていますし、これも日常的な光景なのかもしれません。あ、救出班の一行に関しては兵士の恰好をしたことで衛兵に見とがめられることも無く、槍ニキの軽妙な話術によって無事に街中へと入ることが出来ましたのでご安心ください!

 

「にしても、ここの兵隊連中は随分住人から嫌われているみてぇだな」

 

 兜越しの若干くぐもった声で溜息まじりに呟く槍ニキ。英霊さんたちも居心地が悪そうにしています。3人の美少女に縄を打って連れ歩く集団に注がれる視線は夜とともに訪れた空気のように冷ややかで、ここの兵士たちが普段どれだけ忌み嫌われているのかが容易に察せられますね。

 

「――逆に言えば、この光景が日常となるほどに国が歪んでいるということだ」

 

 普段と違う兜に違和感を隠せないのか、頻りに角度を調整しているゴブスレさんも小さく同意しています。王国なら即座に官憲が飛んできそうな状況ですが、当の本人達が取り締まる側なんだからどうしようもありません。職質や賄賂を要求されないだけマシだと思って行動したほうが良いでしょうね。

 

「んじゃ、そろそろ行くか。……暴れたりすんなよチビ助?」

 

「わかってる。がんばってがまんする……」

 

 ご機嫌斜めな吸血鬼君主ちゃんを重戦士さんが宥めていますね。どうやら繁殖場への侵入方法がお気に召さない様子。一番スムーズな方法なのは判っているので納得はしているみたいですけど、心情的にはあんまり気が進まないみたいですねぇ。お、要塞の入り口が見えてきました! ここからが本番です!!

 

 

 

「お、そいつらが今日の獲物か? 随分と上玉が捕まえられたみたいだな」

 

「おう! 王国の冒険者らしいが、ゴブリンを捨ててきた帰りに砂漠の知識が無ぇもんで右往左往してたところを見っけたんだよ。楽な仕事だったぜ」

 

 詰所の兵に話しかけられ、フレンドリーに対応している槍ニキを横目に周囲を見渡す一行。松明に照らされた兵たちの顔は一様に好色な雰囲気を隠さず、手を縄で縛られている女性3人を舐めまわすように見ています。不快な視線から身を隠すように吸血鬼君主ちゃんへ寄り添う2人の行為は演技だけでは無さそうですね。

 

只人(ヒューム)()()()圃人(レーア)()()()()か……。もう()()()確かめたのか?」

 

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。運び込む前に消耗させちまったらまたどやされるだろうが」

 

「ハッ! 真面目ぶりやがって」

 

 厭らしい視線を剣の乙女ちゃんと令嬢剣士さんに向けた詰所の兵が卑猥なジェスチャーを見せるのに対し、不愛想な声で塩対応の重戦士さん。やっぱり捕らえられた女性たちは兵士に乱暴されることが多いようです。2人の間に挟まるように立っている吸血鬼君主ちゃんを見て、兵士の瞳に加虐の光が宿り始めました……。

 

「こんなガキが苗床じゃあ碌なゴブリンが産まれねぇだろうさ。わざわざ下に運ぶ必要は無ぇよ」

 

「おあ~……」

 

 そう言いながら乱暴に手を伸ばし、吸血鬼君主ちゃんの両手を掴んで持ち上げる兵士。一瞬抵抗しようとした吸血鬼君主ちゃんですが、重戦士さんに言われたことを守ろうと必死に我慢しているのが見て取れます。こんな痩せこけたカラダなら孕む心配は無さそうだなと笑い合う兵士たちを見て、一行の怒りゲージは順調に上がっていっております。あ! 吸血鬼君主ちゃんの両手を纏め、片手で頭上に掲げる姿勢で拘束した兵士が反対側の手でつるペタボディをまさぐり始めました!!

 

 服の裾から手を入れられ、不快そうに身を捩る吸血鬼君主ちゃん。その慈しみの欠片も無い手つきに英霊さんたちの目つきがヤバいことになってます。槍ニキとゴブスレさんが目配せをしているのは当初の計画を変更するか否かの判断でしょうか。一触即発の空気を終息へ導いたのは、吸血鬼君主ちゃんが使うのを躊躇っていた吸血鬼の異能に因るものでした……。

 

 

 

「そういうワケだ、このガキは置いてさっさと2人を下に……」

 

 平坦なボディに飽きたのか、小さな唇を蹂躙しようと吸血鬼君主ちゃんの砂まみれの前髪を掻き上げたところで急に動きを止めた兵士。煌々と光る瞳に魅入られたかのように吸血鬼君主ちゃんを見つめ

微動だにしません。罅割れたクレバスのような口元から漏れたのは、あらゆる感情を押し殺し冷徹に自らの意思を伝える凍え切った言葉です……。

 

 

 

「んとね、くるしいから、したにおろしてほしいな……ダメ?」

 

 急に動かなくなった同僚を不審に思い近寄って来た他の兵士たちも、赤く光る吸血鬼君主ちゃんの瞳に射抜かれた瞬間同じように硬直。やがて片膝を着き頭を垂れてしまいました。腰の剣に手を掛けていたゴブスレさんが兜の奥で安堵の溜息を吐き、インベントリーから取り出したタオルで頻りに身体を拭っている吸血鬼君主ちゃんの頭に手をのせ、不器用に撫でています。

 

「不快な思いをさせた。すまん」

 

「ん、へーき。ころすとあとのしょりがめんどうだから、ぜんいんみりょうしちゃった」

 

 血の色に染まっていた目を休めるように閉じていた吸血鬼君主ちゃんの言葉に安堵する一行。なるほど、対象に自らへの好意を抱かせる魅了の魔眼を使ったんですね! 自らの生命や信念を侵すような命令は拒否されてしまうものの、お願いの内容さえ適切ならば長時間効果を発揮する能力です。

 

「すげーなその魔眼。そいつがありゃいくらでも美人のネーチャンを……あ」

 

 あーあー、途中まで言っちゃった槍ニキが泣きそうな顔の吸血鬼君主ちゃんを見て顔を真っ青にしています。剣の乙女ちゃんはレイテルパラッシュをガシャガシャ変形させますし、令嬢剣士さんも魔剣に切先を槍ニキへ。面頬を上げた重戦士さんにジト目で睨まれ、瀕死状態なところへ刺さったトドメの一撃はゴブスレさんの一言。

 

「いくら俺でも、その台詞は無いな」

 

 

 

 

 

 

「……すまん、俺が悪かった。お前さんの心を土足で踏みにじっちまった……!」

 

「ん……もういいよ。ちゃんとわかってるから」

 

 半泣きの吸血鬼君主ちゃんの前で土下座ってる槍ニキ、なんとか許してもらえたみたいです。人間を大切に思っているからこそ使っていなかった能力ですからねぇ、冗談でもあんなふうに言われたら吸血鬼君主ちゃんが泣いちゃっても不思議じゃありません。目尻の涙を拭った後に、絶対零度の視線を槍ニキへと向けている想い人2人に見上げるような視線を送り、おずおずと話し始めました。

 

「あのね、もうゆるしてあげて。ぼくはぜんぜんきにしていないから。それよりも、その……」

 

 言い出しにくそうな吸血鬼君主ちゃんを見て、揃って溜息を吐く2人。片膝状態で左右から吸血鬼君主ちゃんを抱きしめ、耳元でゆっくりと囁いています。

 

「判りました。彼へのお仕置きは奥方にお任せすることに致しましょう」

 

「それと、大丈夫ですよ? 貴女が私たちにその力を行使したなんて、誰も思っておりませんから。私たちが貴女に抱いている愛情は、間違いなく私たち自身が育んできたものですもの」

 

「ほんとに? ……わぷっ」

 

 僅かな猜疑心すら残さないと言わんばかりに吸血鬼君主ちゃんを強く抱きしめる2人。触れ合う肌から伝わる体温によって、少しずつ吸血鬼君主ちゃんの強張りも消えていきます。後ろで槍ニキが肩を撫で下ろしてますが、帰ったら魔女パイセンのお仕置きが待っているので気を抜くのは早計じゃないですかねぇ……。

 

 大好きな人たちだからこそ、歪んだ力で自分のモノにしたと思われたくなかった吸血鬼君主ちゃん。ずっと魔眼のことを隠していたのは、心を操って自分を好きにさせたと思われるのが怖かったからだったみたいです。

 

半鬼人(ハーフオーガ)の先生や文庫(ふみくら)の司祭が言ってましたでしょう? 間違いなく、貴女は、みんなから愛されているんです」

 

「その愛を疑う者がいるのなら、私が相手になって差し上げますわ!」

 

「えへへ……ふたりとも、だいすき!」

 

 2人に頬擦りをし返す吸血鬼君主ちゃんにようやく笑顔が戻ってきました。2人から離れ、気まずそうにしゃがみ込んでいた槍ニキのところに駆け寄り、その頭をギュッと抱きしめました。

 

「こまらせちゃってごめんなさい。なかなおりしてくれる?」

 

「……おう! この借りは必ず返すぜ!!」

 

 この槍に賭けて! 言いかけて槍が無いことに気付き頬を掻く槍ニキを見て、やれやれと立ち上がる重戦士さん。英霊さんたちからも警戒色が消えています。槍ニキから離れた吸血鬼君主ちゃんが向かったのは、先程身体をまさぐっていた兵士のところです。魅了が完全に聞いているのか熱い視線を送ってくる彼の前で、心底嫌そうな顔で吸血鬼君主ちゃんがおねだりを始めました。

 

「……あのね、ゴブリンのはんしょくじょうにあんないしてほしいな?」

 

「ああ、俺に任せろ!」

 

 着いてきな!と先陣を切って歩く背中にんべーっと舌を出し、他の兵士には通常任務に戻るよう命じる吸血鬼君主ちゃん。女性3人の手を縛っていた縄を解いた一行がその後に続いて要塞の奥へと進んでいきます。進む先に悍ましい悪意があると判っていても、進まないという道を選ぶことは出来ません。覚悟を決めた一行の行く先は、頼りない松明が照らす地下へ続く石造りの階段です。想い人に追い付いた2人が左右の手を握り、決して離すまいと力を籠めるのを感じて、吸血鬼君主ちゃんが困った笑みを浮かべています。

 

 剣の乙女ちゃんが見た人の悪意の極致。吸血鬼君主ちゃんに見せるのはちょっと……いやかなり怖いですが、そこは他のみんなのフォローに期待していますからね!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 次回、ちょっと内容が悪趣味の塊になりそうなので失踪します。

 評価や感想、いつもありがとうございます。

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 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその13-5

勢いに乗って書き散らしたので初投稿です。

直接的な表現は避けたつもりですが、露骨な描写がありますのでお読みいただく際はその点ご留意いただければと思います。



 ・・・・・・えー皆様、大変長らくお待たせいたしました。

 

 これより救出班がゴブリン繫殖場に突入するとの連絡が、現場の万知神さんより送られて参りました。

 

 予てから懸念されていた闇堕ち案件、同行者は彼女をフォロー出来る面子で固めてはおりますが、決して油断出来る状況ではないと思われます。

 

 視聴神の方々につきましては、むやみに信徒へ≪託宣(ハンドアウト)≫を送ったり直接現場へ押し掛けたりせず、温かく彼らを応援して頂きたく存じます。

 

 また、逃亡中の死灰神に関しましては、引き続き私こと無貌の神(N子)が行方を追っておりますので、捕縛時に投げつける石と罵詈雑言はしっかりと用意しておいて頂ければ幸いです。

 

 それでは、実況神さんへ中継を繋げたいと思います……。

 

 


 

 

 前回、魅了した兵士に繁殖場への道案内を命じたところから再開です。

 

 松明の光に照らされた、石造りの螺旋階段を下り続ける一行。地下深く潜るにつれ陰鬱なオーラが漂ってきているように思えます。一定間隔で灯りが設置されているため足元は十分に見えていますけど、不意に足を取られてしまうような、そんな嫌な感じがしますねぇ。

 

 階段を下りながらひっきりなしに話しかけてくる兵士に塩対応しつつ、何処か落ち着かない様子で首元のマフラーを弄ぶ吸血鬼君主ちゃん。1人で駆け下りたい気持ちを必死に我慢しているみたいですね。現在進行形で囚われの女性たちが苗床として尊厳を冒されている以上、むしろ良く耐えていると褒めてあげたいくらいです。

 

「ここからはゴブリン脱走防止の罠があるから注意してくれ」

 

 お、階段を下りきったところで周囲の様子が変化しましたね。今までは剥き出しの石で覆われていた通路が、一面白い化粧石で覆われた造りに。床面に化粧石より僅かに濃い灰色で導線が描かれており、どうやら繫殖場へ続く道を示しているみたいです。

 

「ゴブリンは暗視を持つ代わりに色の濃淡が判別し辛い。上手い遣り方だ」

 

「ほー、そいつぁ知らなかったぜ」

 

 色の境界を指でなぞっていたゴブスレさんの声には僅かな感嘆が混じっています。どうやらこの施設を造り上げた人物は相当ゴブリンの生態に詳しい人物なのかも。あ、ゴブスレさんと視線を交わした吸血鬼君主ちゃんが、ものっそい嫌そうな顔で兵士に近付いて行きました。

 

「ねぇねぇ、このはんしょくじょうはだれがつくったの?」

 

「此処の責任者の神官だよ。宰相閣下が何処からか連れてきた男でね、胡散臭い上に人の話を全く聞こうとしない異常者みたいなヤツさ。でかい傷跡でもあるんだか、()()()()()()()()()()()()()()()若いのか年寄りなのかも判んねぇ」

 

 うーんこの匂い立つマッドの香り。装いから考えれば加虐神さんの信徒の可能性が高いですが、死灰神(ヤツ)が成りすましていた可能性も捨てがたいところです。まぁどちらにしても善良な人物ではなさそうですね。

 

 

 

 灰色の線に導かれるように歩を進める一行。やがて一行の目の前に、分厚い鋼鉄の扉が姿を現しました。僅かな床面との隙間からは薬品と思しき刺激的な臭いが漏れ出ており、鋭敏な嗅覚を持っている吸血鬼2人が顔を顰めています。

 

「この先が繁殖場だ。君にはあの2人と一緒に、ここで働いてもらうことになる」

 

 おお、どうやら吸血鬼君主ちゃんに好意は抱いていても、苗床となる女性を連れて来るという考えは揮発していなかったみたいです。下手に突っ込むと矛盾から正気に戻ってしまう可能性がありますので……。

 

「あんないありがとう。おれい、してあげるから、ちょっとかがんでほしいな?」

 

 もじもじしながら両手を伸ばす吸血鬼君主ちゃん。鼻の下を伸ばした兵士がしゃがみ込み、期待に震えながら目を閉じたところで……。

 

 

 

「……てい」

 

 

 

 小気味よい音を立て、粉々に砕かれた頸椎。力を失った身体を床に打ち捨て、吸血鬼君主ちゃんがゴミを見るような目で死体を見ながら吐き捨てました。

 

>「いままでさんざんたのしんできたんだ。ゆめみごこちのまましねただけありがたいとおもえ」

 

 

 

 眼前で行われた突然の凶行、しかしその場に居合わせた者の中に、吸血鬼君主ちゃんを咎める人は1人もいません。誰もが救いようのない男だったと理解しているからでしょう。みんな無言で吸血鬼君主ちゃんが取り出した本来の装備に着替え、粛々と突入の準備をしています。全員の準備が終わったところで、剣の乙女ちゃんが扉に手を当てながら一行へと向き直りました。

 

「それでは、開きます。……準備は宜しいですね?」

 

 彼女の言葉に頷きを返す一行。重戦士さんは相棒の握り具合を確かめ、槍ニキは咄嗟の魔法に備えて発動体である耳飾りに手を添えています。英霊さんたちは兵士姿のまま隊列を組み、その先頭にゴブスレさんを立てて突入の構え。頭に使徒(ワートホグ)を乗せた吸血鬼君主ちゃんは令嬢剣士さんと手を繋ぎ、これから目にする()()から決して目を背けないよう真っすぐ前を見つめています。各々の覚悟を見た剣の乙女ちゃんが≪解錠(アンロック)≫の呪文を唱え、重たい扉がゆっくりと開かれていきます……!

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 ――それが地獄であったのなら、どれだけ救いがあったことでしょう。

 

 責め苦を受けるのは罪を雪ぎ、輪廻に戻るために必要な罰なのだから。

 

 ――それが悪夢であったのなら、どれだけ安堵があったことでしょう。

 

 如何に辛い事があっても、夜が明ければ必ず平穏が訪れるのだから。

 

 

 

 ――でも、彼女たちがいる場所は何処までも現実の世界。

 

 効率的にゴブリンを増やし、可能な限り母体を長持ちさせることに特化した、理想的な繁殖場。

 

 人の知恵と神の知識の交配によって形成された、異形の揺り籠です……。

 

 

 

「これが、同じ人間に対してやることかよ……ッ!!」

 

 ぎしり、と奥歯を砕かんばかりに噛み締めた槍ニキの言葉が全てを物語っています。

 

 ギルドホールよりも広い空間は通路と同じ白い化粧石で覆われ、継ぎ目が見えないほど精緻な作りになっているのが見て取れます。

 

 ゴブリンが生活する場所特有の汚物や腐臭は何処にも無く、ある種病院のような清潔を保ち、衛生的な環境を維持しているようです。……部屋の中央にある悍ましき軟体を除けば。

 

「うぅ……もうイヤァ……」

 

「産みたくない……」

 

「おごぉ……うぶぇ……!」

 

 部屋の半分を占めるほどの軟体に半ば埋め込まれるような形で拘束されている女性たち。体表を粘液質な触手が這いまわり老廃物や汚濁を拭き取るとともに、生存に必要なエネルギーを送り込むためか、彼女たちの口内に侵入し、無理矢理に体液を流し込んでいます。

 

「……なぁ、あのゴブリン共なんかおかしく無ぇか?」

 

 身動きの取れない女性たちに覆い被さり、腰を振るゴブリンを見て呟いたのは重戦士さんです。長い鎖に繋がれた首輪を着け、一心不乱に女性たちを喰い荒らす悪鬼。ですが、ある意味彼らですらも人間の底知れぬ悪意の犠牲者です……。

 

「……!!」

 

 己が欲望を吐き出し、動きを止めたゴブリン。しかし次の瞬間、首輪から伸びている鎖が巻き上げられ、引き摺られるように女性から引き剥がされていきます。首を圧迫する首輪に手を伸ばし必死に抗おうとするその姿を見て、令嬢剣士さんの口から悲鳴にも似た声が上がりました。

 

 

 

 局部を曝け出したまま、無様に引き摺られていくゴブリン。その目は焼かれ視界を失い、その喉は潰され声を発せず、その耳は塞がれ孕み袋の悲鳴を聞けず。首輪に伸びた手は全ての指を斬り落とされ、ゴブリンを増やす行為を除いた、女性たちに苦痛を与える可能性のある全ての要因が排除されています……。

 

 引き摺られていった先には同様のゴブリンが無数に繋がれ、臭いだけを頼りに餌に群がっています。鎖の緩んだ個体がよろよろと女性たちのほうへ向かって歩いているあたり、完全に行動を縛られているようですね……。

 

 

 

「おや、新しい苗床を持って来てくれたのかい?」

 

 あまりに非現実的な光景に動きを止めていた一行の耳に届いたのは、この悍ましい光景とはそぐわない、しかしこの場に相応しい男の声でした。吸血鬼君主ちゃんの視線の先には、1人の女性の傍にしゃがみ込む神官風の男の姿。顔を黒い布で隠し、ボサボサな髪の側面からは黒色の長耳が見えています。

 

「ちょっと待っていてくれ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ぐったりとした女性の傍に蠢く小さな緑色の物体。身を捩るように身体を動かし、本能的に栄養を求めて女性へと這い寄っていきます。やがて胸元まで到達し、光を失った瞳で股座からひり落とされた汚物を見る女性を気にも留めず、望まぬ乳を蓄えた母親の器官へと口を近付け……。

 

 

 

「――あぁ、君の食事は()()じゃ無いよ」

 

 初乳を口にする前に男に掴み上げられたゴブリン、全身を舐めまわすように見られ、不快な金切り声を上げるそれを男は感情の浮かばぬ瞳で観察しています。やがて溜息を吐き、片手でゴブリンの口を塞ぎ、反対の手で懐から取り出した短刀を突き立てました!

 

「うーん、育成に回す価値無し! 最近は質が落ちてきたなぁ……」

 

 そのまま力を無くした小さな身体を軟体へと放り投げる男。軟体の中には半ば融けた死体がいくつも浮かんでおり、回りまわって女性たちの栄養になっているのでしょう。立て続けに行われた悍ましい行為、常人が見たら発狂してしまう可能性が高いです……。

 

「それで、君たちはいったい誰かな?」

 

 綺麗に死体を投げ込んだことで満足そうな男……闇人繁殖者(ブリーダー)が一行に近寄ってきて、興味深そうに女性3人を観察しています。そういえば圃人(レーア)との交配はまだやってなかったあぁと暢気に呟いてますが……近付いて来た吸血鬼君主ちゃんを警戒することも無く、視線を合わせるようにしゃがみ込みました。

 

「ふむ、ちょっと発育状態は悪いけど、サンプルとしては良いかもしれないねぇ」

 

「……ねぇ、なんでこんなことするの?」

 

「??? 質問の意味が判らないね。出来るからやってるんだけど?」

 

 感情の抜け落ちた顔で問いただす吸血鬼君主ちゃんに、お前は何を言ってるんだという顔で返答しているあたりヤバいですってこの男。ペラペラと話し始めた内容は、倫理観や人間性をドブに捨てた実験の素晴らしさについてです。

 

「――可能な限り苗床への苦痛を取り除き、生産性を高めるために導入したあの軟体(ウーズ)は正解だった。分泌液には鎮痛作用が含まれてるし、苗床の出す老廃物や()()()()を栄養にして育ってくれる。実に経済的だ」

 

「――繁殖用の個体は苗床を傷付けることがあったから、可能な限り危険な部位は()()することにしたんだ。本当は嗅覚も無くしたかったんだけど、苗床の匂いを察知しないと興奮しなくなっちゃうからね」

 

「――生産直後に基準に満たないやつは全部廃棄処分さ。()()はもっと生産数を上げろと五月蠅いんだけど、不良品を出したりしたら僕の腕が疑われちゃうからね」

 

「――ああ、国を出て正解だった! 地上にはこんなにも生命が溢れている、もっともっと生命を増やさないと!!」

 

 留まる事無く続く生命賛歌の演説。どうやら彼は地下帝国から抜け出して、地上で歪んだ生産活動を行う悦びに目覚めてしまったみたいです。明らかに兵士ではない面々に囲まれて顔色一つ変えず持論を展開出来る胆力は素直に凄いと思いますが、まさかこの惨事を引き起こしておきながら無事で済むと思っているのでしょうか……?

 

 

 

「――さぁ! 君たちも協力してくれたまえ! 可能な限り苦痛は取り除くと約束するし、安心して身体を委ねたまガッ!?

 

「お前と話すことなど何一つとして無い」

 

 闇人繁殖者(ブリーダー)の言葉を途絶えさせたのは瞳を赤く輝かせるゴブスレさんの刃。水平に胸へと突き込んだ剣をぐるりと捻り、傷口を広げてから蹴り倒す姿は怒りに満ちています。男を貫いた"小鬼殺し"がうっすらと輝いて見えるのは気のせいでしょうか? もしかして「お前もゴブリンだ」って感じでそこはかとなく小鬼特攻が効いたのかもしれませんね。

 

ゴフッ……な、何をするお前たち!? 僕の作品をどうするつもり……」

 

 倒れ込む男を放置して鎖に繋がれたゴブリンへと駆けるのは槍ニキと英霊さんたちです。薬品の臭いに交じって血臭を嗅ぎ取ったのか、興奮しているゴブリンたちに躍りかかり次々に仕留めていきます。血の混じった咳をする闇人繁殖者(ブリーダー)が静止の声を上げる中、軟体(ウーズ)へと近寄る姿が。強い意志を秘めた瞳の剣の乙女ちゃんと、彼女を守るように先陣を切って歩く吸血鬼君主ちゃんです!

 

「じゃまは、させない……!」

 

 他の女性たちのように剣の乙女ちゃんを拘束しようと迫る触手を吸血鬼君主ちゃんが輝く(ケイン)で打ち払っています。自分を守る小さな想い人が、泣いちゃダメだと必死に歯を食いしばっているのを見た剣の乙女ちゃんが紡ぐのは、あらゆる穢れを清める奇跡を乞い願う聖句です……!

 

 

 

 どうでしょうか至高神さん!? 『赤い手』の時は賛成多数でGOサインが出ましたけど、今回は打ち合わせ無しの突発的詠唱です。死灰神(バカ)が絡んでいるのでOKしてあげても良いと思うんですけど……了承? やったぜ。

 

 

 

「≪裁きの司、天秤の君よ、罪ある者、咎なき者、遍くへ平等に水を≫……!」

 

 

 

 剣の乙女ちゃんから発せられた光によって、輝きに満たされていく繁殖場。白き壁を貫通し、恐らくこの要塞全てを覆うほどの効果を齎したそれは、彼女の願いを叶え、範囲内全ての軟体(ウーズ)とゴブリンを清らかな水へと変化させていきます……。

 

「えーれいさん、これをつかって!」

 

 拘束から解放された女性たちを英霊さんたちが抱え起こし、吸血鬼君主ちゃんが取り出した清潔な布で包んでいきます。ゴブスレさんと槍ニキも駆けつけ、意識のある女性たちに声をかけているみたいですね。

 

「わたし……助かるの……?」

 

「ああ、そうだ。胎の中の糞虫も、必ず取り除いてやる」

 

 腹の膨らんだ少女の囁きを聞き逃さず、手を握りながら強く言い聞かせるゴブスレさん。安心したように意識を失った少女の首には白磁の登録票が……! ≪読心(マインド・リーディング)≫で見た武闘家の女の子です!!

 

 英霊さんたちが介抱している女性たち……その殆どが只人(ヒューム)と砂漠森人(エルフ)の女性ですが、その中に南方出身者に多い褐色の肌の女性がいますね。酷く消耗しているようですが、命に別状は無さそうなのが救いでしょうか。……お、繁殖場の奥に向かっていた重戦士さんと令嬢剣士さんが戻ってきました! 傍らには巨大化した使徒(ワートホグ)も一緒です。

 

「奥にあった昇降機(エレベーター)はぶっ壊しておいた。これで暫く時間は稼げるだろう」

 

「ですが、ゴブリンの異常を見て此処に兵が来るのは時間の問題ですわね……」

 

 なるほど、ゴブリン搬出用兼移動用の昇降機(エレベーター)があったんですか。確かに此処は繁殖専門の場所っぽかったですし、ゴブリンの軍事訓練はもっと上層で行われていたのかも。脱走を見逃さないために監視は居るでしょうし、突然ゴブリンがパシャっと水に変わったら闇人繁殖者(ブリーダー)を呼びに来るのは間違いないでしょう。……おや? 吸血鬼君主ちゃんが軟体(ウーズ)のいた部屋の中心で何かゴソゴソ始めました。インベントリーから水薬(ポーション)や女性用の着替えを取り出した後に、英霊さんたちにちょっと離れるようお願いして……!

 

「よっこい……しょ!!」

 

 うわ、往路で使用していたものよりも二回り近く大きな馬車を取り出しました!? すぐさま英霊さんたちが女性たちを馬車へと運び始めましたが……流石にちょっと大きすぎでは? ハリボテ2頭で牽くのは無理そうですし、そもそも部屋の扉を通り抜け出来ないサイズなんですけど……。

 

「ええ、そのままこっちへ……そう、そこで止まってくださいな!」

 

 ん? 令嬢剣士さんが馬車の前面に使徒(ファミリア)を呼んでますね。指示に従って停止した使徒の頭を撫でて、何やら聖句を唱えてますが……おお!? イボイノシシ君のサイズが馬車と同じくらいまででっかくなりました! 御者席に座っていた英霊さんの投げた太いロープを己が使徒に繋いでます。そうか、イボイノシシ君にこの大きな馬車を牽いてもらうんですね!

 

 

 

「装具の固定は完了ですわ! あとは……頭目(リーダー)、お願いしても?」

 

「ん、まかせて!」

 

 全員が馬車に乗り込んだことを確認した令嬢剣士さんに呼ばれた吸血鬼君主ちゃんが、(ケイン)片手に部屋の中を歩き回り始めました。目を閉じたまま何かを確認するように呟きながらぽてぽてしている姿を見て、息も絶え絶えな闇人繁殖者(ブリーダー)から疑問の声が飛んできました。

 

「何を訳のわからんことを……している……? 全員が乗り込めたところで、到底脱出できるものでは無いだろうに……」

 

「うるさい、ちょっとだまって」

 

 殺意マシマシの視線を向けられ口を閉じる闇人繁殖者(ブリーダー)。吸血鬼君主ちゃんはどうやら地上の何処かにいる吸血鬼侍ちゃんと交信しているみたいです。何度か遣り取りをした後、もう1人の自分のナビゲートに従って体の向きを変え始めました。

 

「えっと、ほうがくはこっちで、かくどはこのくらい……」

 

 ぽてぽてと歩いた終着地点は、何も無い壁の前。ガリガリと(ケイン)で目印を付けて、馬車に乗り込んだみんなに声を掛けました。

 

「みんな、しっかりめをかくしておいてね!」

 

 吸血鬼君主ちゃんの声を聞いて、それぞれ目を伏せたり布で覆い始めた一行。自分では動けない女性たちに英霊さんが目隠しをしています。その様子を見て、吸血鬼君主ちゃんが体内の星の力(核融合炉)を稼働させ、膨大なエネルギーを生成し始めました! あ、まさか……!?

 

「しゅつりょくちょうせいよし……ほういしゅうせいよし……」

 

 体内で生み出されたエネルギーを全て(ケイン)へと集め、刺突の構えを取る吸血鬼君主ちゃん。呪文や奇跡ではない、純粋な破壊の力が蓄積されていきます。全力で抑え込まなければ容易く暴走してしまうであろう原初の力に指向性を持たせ、印を刻んだ壁目掛けて一気に解き放ちました!!

 

 

 

「ぜんぶ、まとめて、いっちょくせんに……ぶちぬく!!」

 

 

 

 夜明けの輝き(カオスフレア)とも、黄昏の輝き(ダスクフレア)とも異なる青白き光(ヴァイスフレア)の奔流。もし賢者ちゃんがこの光景を目撃していたら、三千世界で暗躍するとある組織を連想していたかもしれません。瞼越しにも感じられる星々の輝きが収まった後に一行が目にしたのは、綺麗な真円を描いてくり抜かれた地上へと続く長い隧道(トンネル)です!

 

 崩れやすい砂の層を貫通したハズなのに、何故隧道(トンネル)の壁面が崩れて来ないのか。馬車から顔を覗かせた槍ニキがその理由に気付き頬をヒクつかせています。

 

「うへぇ、どんな熱を加えたら砂がガラスみてぇに固まっちまうんだよ?」

 

 ……だいたい1700度以上かなぁ。幸い隧道(トンネル)自体は通り抜け可能な温度みたいなので、特別な熱対策をしなくても大丈夫そうです。通過している最中に蒸し焼きになってしまったら大惨事ですからねぇ……。急激に冷えたことで網目状の模様が入った隧道(トンネル)へと突入していく馬車から、早く乗るよう剣の乙女ちゃんが呼び掛けていますが……。

 

「すぐにおいつくから、さきにいってて? だいじょうぶ、いっぽんみちだからまいごにはならない!」

 

「……判りました。早く、来てくださいね?」

 

 輝きを失った(ケイン)をしまいながら両手をブンブン振る吸血鬼君主ちゃんを、剣の乙女ちゃんが切なさを秘めた瞳で見ています。恐らくこの後吸血鬼君主ちゃんが何をするのか概ね察しているのでしょう。ですがそれを口には出さず、黙って許してくれたんですね。

 

 お待ちしてます、という声を残し先発した馬車を見送った吸血鬼君主ちゃん。やり残した仕事を果たしに向かった先は……。

 

 

 

カハッ! 素晴らしい力だ!! 決して地下では見ることの出来ない星々の輝き、君を苗床にすれば素晴らしい生命が誕生するだろう!!」

 

 星の力に目を焼かれ、心を奪われた闇人繁殖者(ブリーダー)のところです。

 

「そこにいるんだろう? 最早目も見えないが、その身体に纏う香りで判るとも! ああ、今まで知らなかった香りだ……」

 

 うわ言の様に口を動かす闇人繁殖者(ブリーダー)を抱え上げ、そっと頬に触れる吸血鬼君主ちゃん。ほの温かい小さな感触に頬を緩ませ闇人繁殖者(ブリーダー)が、見えぬ瞳で何かを見付けたように宙を見据えながら喝采の声を上げ始めました。

 

「そうか、真理は……生命の源は……こんなにも近くにあったのか……!」

 

 死に瀕した男の妄言か、あるいは高まりを極めた啓蒙による閃きか。「わかったぞ! わかったぞ! わかっ……」と無邪気に喜ぶ闇人繁殖者(ブリーダー)の声を止めたのは彼の喉元に食い込んだ吸血鬼君主ちゃんの牙です。残り少ない血液とともに蓄えた叡智を吸い上げられながらも満足げな笑みを浮かべる闇人繁殖者(ブリーダー)。彼の耳元で囁かれたのは、至福に包まれたまま旅立つはずだった彼の魂を冒涜する呪いの言葉……。

 

 

 

「さようなら、おろかなたんきゅうしゃ。おまえからまなんだことは、なにひとつみらいへのこさない。すべてかこにおきざりにしてやる……!」

 

 

 

 薄れゆく意識の中で刻まれた呪いの言葉。理解が脳に到達したと同時に首を捩じ切られた彼の頭は、悲痛の表情のままその思考を止めるのでした……。

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 もう後は駆け抜けるだけなので失踪します。

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 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその13-6

 だいぶ涼しくなってきたので初投稿です。



 前回、悪意の塊を製作者ごとぶち壊したところから再開です。

 

 闇人繫殖者(ブリーダー)から血と知識を吸い尽くし、首を捩じ切った吸血鬼君主ちゃん。流れ込んで来た知識を吟味した後にスタスタと歩き始めましたね。重戦士さんと令嬢剣士さんが使えなくした昇降機(エレベーター)の近くへと向かい、壁面をペタペタと触っています。

 

「ん~と、たぶんこのへん……あった」

 

 お、吸血鬼君主ちゃんが壁面にあった(ボタン)を押すと、壁の一部がスライドし、隠し部屋が現れました! 闇人繫殖者(ブリーダー)の研究室のようで、部屋中に紙資料や薬品が転がっています。どうやら知識だけでなく、現物まで全部頂いていくつもりみたいですね。

 

 ……ふむ、ちょっと時間がかかりそうですし、今のうちに暗殺チームの進捗を確認してみましょうか。万知神さん、覚知神さん。記録装置(アカシックレコーダー)を起動して貰っても良いですか?

 

 うん、しっかりと記録出来てますね! では時間を少し遡って、吸血鬼侍ちゃんたちの冒険を見ていきましょう!!

 

 


 

 

 時間は救出班と別れた少し後、日が完全に落ちて松明の灯りが頼りなさそうに城内を照らし出しています。都の門を通らず吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんの飛行能力で城壁を飛び越え、一行は城の屋上から城内の様子を窺っているみたいです。

 

「「「GOBGOBGOB!!」」」

 

「五月蠅い、さっさと歩け!」

 

 一行の眼下では軍事訓練を終えたゴブリンたちが、兵士に追い立てられるように地下へと消えていく姿が見えています。皆不満タラタラの表情ですが、武器の類は訓練終了後に取り上げられているため暴れたりはしていない様子。

 

 時折列から摘まみだされている個体は基準に達していない弱い個体でしょうか。周囲の個体から嘲笑と蔑みの視線を向けられながら、砂漠で見たのと同型の馬車へと詰め込まれていますね。

 

「……見てわかる通り、この国は完全に歪んでしまっております。人間ほどではないにしろ、あれ程の規模でゴブリンを教導するには相応のコストが掛かっています。その皺寄せは全て何も知らぬ民や商人へと押し寄せているのです」

 

 感情を押し殺した半森人局長さんが淡々と語るのを何とも言えない表情で聞く一行。既に国はゴブリン育成に国力を全振りしているのでしょうか。国の中心であるというのに街には活気が無く、常ならば猥雑な活気に満ちているであろう歓楽街にも人の姿は疎らですね。

 

「でも、そんな状態なら宰相に対立する勢力が動いたりしないのかしら? どう考えても亡国に突き進んでいる真っ最中でしょ?」

 

「反対する者たちも()()。真っ先にゴブリンのおゆはんになっていたけど」

 

 女魔法使いちゃんの疑問に眠そうな声で答える銀毛犬娘ちゃん、どうやら使い魔を放って宰相の居場所を捜索しているみたいです。使い魔と視覚を共有しながらの言葉にうげぇという顔で首を振る女魔法使いちゃんの反応は至極真っ当なものでしょうね。

 

「なまじ姫君に化けた二重存在(ドッペルゲンガー)が、宰相を抑えようとする出来レースを行っているから性質が悪い。民たちも薄々ゴブリンの存在には気付いているみたいだけど、それでも姫様なら……という願望に縋っているのさ」

 

「下手に追い込んで暴発させるよか希望っちゅう餌をチラつかせておいたほうが、民を飼い馴らすのに都合が良いってことよ」

 

 だからこそ、王国に小鬼禍が押し寄せて来る前にケリをつけないとね、と冷笑を浮かべクソマンチ師匠を一瞥する銀髪侍女さん。首を竦めた後に「そんじゃ仕事の時間だ」と言い残し壁面から身を躍らせ、闇の中へとクソマンチ師匠は消えて行きました。同時に銀毛犬娘ちゃんの耳と尻尾がピン!と跳ね上がり、獲物を見付けたことをアピールしています。

 

「見つけた。謁見の間で二重存在(ドッペルゲンガー)と一緒にいる。兵士長も訓練の報告のためにそこへ向かっているよ」

 

「どうする? かべをぬいてきしゅうする?」

 

「んー、それも面白そうですが、今回はもう少しスマートにいきましょうか」

 

 翼を展開し城壁をぶち抜く気満々の吸血鬼侍ちゃんを制し、エロい(えげつない、ろくでもない、いやらしい)笑みを浮かべる半森人局長さん。使い魔との接続を切った銀毛犬娘ちゃんの肩を叩きながら至極楽しそうに言い放ちます。

 

「ここは、真正面から正々堂々と忍び込んで差し上げましょう!」

 

 


 

 

「調理場から火が出たぞ! 早く消火に当たれ!!」

 

「クソ、なんで水が出ねぇんだよ!?」

 

「誰だ、扉に鍵を掛けてまわった馬鹿野郎は!?」

 

 クソマンチ師匠の陽動によってどったんばったんおおさわぎな城内をこっそりと進む一行。半森人局長さんの宣言通り正門から侵入し、最短ルートで目的地へと進んでいるところです。

 

 勿論城内は兵士が右往左往しているのですが、一行が彼らと遭遇することは無く誰何の声が飛んでくることもありません。先導してくれている銀毛犬娘ちゃんの案内が的確なのは間違いないのですが……。

 

「あのね、どうしても気になってしょうがないんだけど……」

 

 途中まではなんとか沈黙を保っていた女魔法使いちゃんですが、とうとう我慢出来なくなったのか声を出してしまいました。不思議そうな顔で見つめて来る銀毛犬娘ちゃんに対し頭痛を抑えるように額に手を当てながら、ボス戦の前に晴らしておきたい疑問について尋ねました。

 

 

 

 

 

 

「なんでさっきから何もないところで屈伸したり、階段の踊り場で反復横跳びしたり、虚空に向かって手を振ったりしてるの???」

 

 

 

 乱数調整ですねわかります。銀毛犬娘ちゃんから「お前は何を言ってるんだ」と言わんばかりの透き通った視線で見つめ返され、女魔法使いちゃんの発狂ゲージが良い感じに上昇するのを見て半森人局長さんが苦笑しながら説明してくれています。

 

奪掠神(タスカリャ)の信徒が行う不可解な言動には、全て神に捧げる祈りが込められているんですよ。傍から見ればおかしく見えるかもしれませんが、信徒にとっては大切なものなんです」

 

 実際一度も兵士に見咎めれらていませんよね?という言葉の圧に女魔法使いちゃんも屈しちゃいました。銀毛犬娘ちゃんだから戦闘は回避できてますけど、もし半森人局長さんだったらひたすら忍殺し続けて突破したんだろうなぁ……。

 

「到着。この先に目標が揃っている」

 

 おっと、いつの間にやら謁見の間の前まで来ていました。扉を蹴り開けようと吸血鬼侍ちゃんが前に進み出ましたが、また半森人局長さんに止められちゃってますね。

 

「えっと、せいせいどうどうましょうめんからじゃなかったの?」

 

「ふふ、それはあくまで侵入する時のお話しです。戦いに於いて重要なのは、『します、させます、させません』ですからね?」

 

 そう言ってこっそりと吸血鬼侍ちゃんに耳打ちをする半森人局長さん。だんだん吸血鬼侍ちゃんの顔もエロくなってますねぇ……。呆れたように2人を眺める女魔法使いちゃんの肩を優しく叩きながら。銀髪侍女さんが悟ったような声で呟きます。

 

「まぁ、考えてもしょうがないさ。よく言うだろう?『神は骰子(ダイス)を振らない』ってね」

 

 


 

 

「なんだ!? 一体何が起きたというのだ……!?」

 

 ボス霧の手前から分割詠唱で≪核撃(フュージョンブラスト)≫を叩き込むという暴挙、煙が充満した部屋の中に男の声が響いています。豪奢な身なりと人に命令し慣れている所作から考えるにこの男が宰相でしょうか。となると、彼の前で血塗れで倒れている鎧姿の男が兵士長でしょうね。咄嗟に彼を庇ったのか、鎧には調度品の破片が刺さり、傷口からは夥しい血が流れています

 

「≪核撃(フュージョンブラスト)≫ダ……ドウヤラ凶暴ナ鼠ガ入リ込ンデイルヨウダナ……!」

 

 お、部屋中に倒れた兵士たちを忌々し気に見ていた宰相の傍に10フィートほどもある大柄な人影が現れました! 全身黒いゴムのような肌で顔と思わしき部分はのっぺりとしており、ただ横一文字に裂けた口によって辛うじて顔と認識させる異形の姿……衝撃によって姫の偽装が剥がれた二重存在(ドッペルゲンガー)ですね。

 

「それは此方の台詞だね。王宮から逃げ出した後にこんな所にまで入り込んでいるとは……やっぱりあの時取り逃したのは失敗だったよ」

 

 煙の中から登場した銀髪侍女さんが冷たい視線で二重存在(ドッペルゲンガー)を睨みつけています。あ、もしかして赤い手の時に王宮から逃げたのと同一の個体なんですかね。

 

「王国への恨みを晴らすのと、権力の座に就く一石二鳥の手。なかなかのモノでしたけど、少々派手にやり過ぎですよ?」

 

「王国ノ飼イ犬ドモガ……他人ノ庭先ヲ荒ラスノガ余程好ミトミエル……!」

 

 嗜虐の色濃い半森人局長さんの挑発に口元を歪ませる二重存在(ドッペルゲンガー)。屈辱に身体を震わせる姿と言動から、襲撃者の所属に気付いた宰相が舌打ちをしています。額に青筋を浮かべ、気の小さいものなら委縮してしまうような声を上げますが……。

 

「小娘を連れ出したドブネズミどもめ! のこのこと戻ってくるとは良い度胸ではガッ……!?

 

「おしゃべりしたいとおもうほどみりょくてきじゃないんだよなぁ」

 

 残念ながら戦闘前会話に応じるほど優しくはないんですよねぇ。煙に紛れて接近していた吸血鬼侍ちゃんにバクスタされ、信じられないモノを見る目を向ける宰相。無言でその身体を蹴り倒した吸血鬼侍ちゃんが興味津々で二重存在(ドッペルゲンガー)を眺めています。アレはちょっと味見したいっていう顔ですね……。

 

「ねぇ、ドッペルゲンガーっておいしいのかなぁ?」

 

「食べたことのある人間は居ないんじゃないかな。それより、まだ死んでない……いや、もう死んではいるのかな? どちらにしても、まだ終わってはいないよ?」

 

「ふぇ? ……あ」

 

 あ!? 床に倒れていた兵士長が不自然な動きで立ち上がりました! 同じように兵士たちも身を起こし、傷だらけのまま己が武器を抜き放っています。鎧の隙間から見える肌は生者とは思えぬ色と乾きに変じ、黒々とした穴のように落ち窪んだ瞳を見て女魔法使いちゃんが嫌悪の声を漏らしています。

 

「何アレ、死体が動いてるのかしら?」

 

「この国に伝わる亡者ってヤツだね。非常に頑丈で、急所を持たないために物理攻撃では倒しにくい相手だね」

 

「ああそう。……で、あっちの宰相がなんかワイルドになっているのは気のせいかしら?」

 

 げんなりした顔の女魔法使いちゃんが爆発金槌で指し示す先……あ、蕩けた瞳の宰相が巨大な獣に変身しました! 放蕩貴族(アホボン)のそれと酷似した姿……やっぱり裏で糸を引いていたのはあの死灰神(クソッタレ)で間違いありません!!

 

「AWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!」

 

 肥大した腕を用いた叩きつけを躱し、包囲の輪を狭めて来る亡者に対峙する一行。敵は二重存在(ドッペルゲンガー)支配(死灰)者の獣、そして人間性を失った亡者たちです!

 

 

 

「それで、誰がどの相手をするの? 流石に私じゃ大物の相手は厳しいんだけど」

 

「君はあの2人と一緒に亡者を頼むよ。その得物(爆発金槌)なら相性は良いだろうからね」

 

 爆発金槌を肩に担いだ女魔法使いちゃんに対し、銀髪侍女さんが視線で示した先、何故か虚空に向かって短剣を振るっている銀毛犬娘ちゃんの隣で2丁の単筒を構えた半森人局長さんがニコニコしています。私はあんな色物じゃないと零しながら亡者へと躍りかかり、次々に亡者たちの頭部を吹き飛ばしていく姿は立派な呪文遣い(スペルスリンガー)ですね!

 

 味わい深い顔で女魔法使いちゃんを眺めていた銀髪侍女さんが突然バックステップ! 直前までいた場所に巨大な拳の重爆が降り注ぎ、床面を砕きます。やれやれと服の乱れを整え、宰相だった獣へと歩み寄るその手には何も持っておらず、無手で獣へと向かっていきます。

 

「ねえ! アレ大丈夫なの? 膂力も体格も比べるのが馬鹿らしい位差があるけど!」

 

「ふふ、問題ありませんよ。彼女は(しのび)ですから」

 

 振り下ろされた長剣(ロングソード)をステップで躱し、竜革の手袋でその頭を掴んで直接≪点火≫を叩き込みながらの問いに、同じく至近から銃弾をお見舞いしていた半森人局長さんが再装填しながら軽く答えています。確かに今は3人とも忍装束ですけど……。

 

(しのび)ってなによ? 忍者とは違うの?」

 

 どうやら女魔法使いちゃんも同じ疑問を抱いた様子。東方辺境や『死の迷宮』内で極稀に見かけるという忍者という存在、一部の識者や冒険者は知っていてもおかしくはないですが……。

 

「忍者はあくまでも職業のひとつ。斥候と武闘家の複合職で、そちらの頭目(リーダー)2人と同じ上級職。稀ではあるけど、決して姿を見ないわけではない……」

 

 亡者の首を斬り飛ばしつつ、その場前屈をしている銀毛犬娘ちゃんが淡々と語る声が響く戦場。一見無意味と思える行動で亡者の動きを制限し、最短時間で殲滅し続けながら言葉を続けています。

 

(しのび)は極限まで心身を鍛え上げ、人という存在から逸脱し、生物としての格を昇華させた超越者。(しのび)に武器なんて要らない。何故なら、己の身体こそが最強の武器だから」

 

 やがて全ての亡者を斃した彼女が短剣を鞘へと納め、ゴロンと横になりながら呟いたのは……。

 

 

 

 

 

 

「『忍者(にんじゃ)』から『(ひと)』を削り取って『(しのび)』。つまり、彼女はそういう()()なの……わふぅ」

 

 


 

 

「――おや、もうおしまいなのかな? 随分とだらしないものだね」

 

「GRUUU……」

 

 涼しい顔でスキットルから(ウォトカ)を呷りつつ、眼前で倒れ伏す獣を眺める銀髪侍女さん。再生力に長けたはずの獣の身体は無残に蹂躙されており、幾度となく骨を砕かれ、内臓や重要器官を素手で引き抜かれたことで完全に心が折れてしまっているようです。おや、どうしました無貌の神(N子)さん、そんな頭を抱えちゃって。え、栗本チャレンジ? あっ(察し)

 

 両手を返り血でどす黒く染めながらも無傷で獣を倒した彼女に対して、半森人局長(正道神)さんが引き攣った顔を向けています。恐らく再走の日々を思い出しているのでしょう。ガクガクと身体を震えさせながら「流石は陛下の懐刀、見事なワザマエ!」と頑張って威厳を保とうとしていますねぇ。

 

 さて、あとは吸血鬼侍ちゃん対二重存在(ドッペルゲンガー)の勝負の行方ですが……あれ? 二重存在(ドッペルゲンガー)の巨体が何処にも見えませんね。あれだけデカければ見失うことは無いと思うんですが……。そういえばさっきから周囲がどっかんどっかん五月蠅いですね、何かが高速でぶつかり合っているような音が部屋中に響いて……

 

 

 

「「あはははははははははは!!」」

 

 うわ!? 調度品や亡者の残骸を撒き散らしながら、吸血鬼侍ちゃん2人が硬質化した爪でラッシュの早さ比べをしています! コピー出来ない武器や防具を引っ込めてまで同条件にしているのは、自分と同スペックの相手と戦ってみたかったからでしょうか。全くの互角の勝負に2人ともテンションMAXなあたり、二重存在(ドッペルゲンガー)の記憶を写し取る能力は伊達では無さそうですね……。

 

「わ~い!」

 

「た~のし~!」

 

 互いに拳をぶつけた反動で距離を空け、再び激突しようとした瞬間、2人の間に爆発金槌の一撃が叩き込まれました。ビクッと身体を震わせた2人の吸血鬼侍ちゃんが見る先には、無表情で爆発金槌を再点火する女魔法使いちゃんの姿。滅茶苦茶怒ってますよ!?

 

「遊んでないで、さっさと終わりにしなさい。それとも今ここでお仕置きされたいのかしら?」

 

 その問いに引き攣った顔になる2人、おや? 片方が何か思いついたように手をシュタッと上げてますね。ユラユラと熱で周囲を歪ませる爆発金槌を突き付けながら女魔法使いちゃんが発言を許すと、その吸血鬼侍ちゃんがとんでもないことを言い始めました……。

 

 

 

 

 

 

「あのね、どっちがほんものか、あてられる?」

 

 吸血鬼侍ちゃんさぁ……。

 

 

 

 

 

 

「ぼくがほんものだよ!」

 

「ええ~!? ぼくがほんものだよ!」

 

 互いが自分が本物だと言い合う2人の吸血鬼侍ちゃん。ご丁寧にグルグルと高速で走り回り、既にどちらが発言したのかすら判らなくなっています。吸血鬼侍ちゃん本人が言い出したのか、それとも二重存在(ドッペルゲンガー)の狡猾な罠なのか、果たしてどっちなんですかねぇ……。

 

 ぐに~と互いのほっぺたを引っ張り合う2人の吸血鬼侍ちゃん、どうやら本物も翼や触手といった生来の能力で本人証明をするつもりは無さそうです。暫く2人を観察していた女魔法使いちゃんもそれを察したのか、溜息を吐きながら2人に声を掛けています。

 

「あ~もう、いい加減にしなさい。……今から2人に質問をするわ。その答えで本人かどうか判断するわよ?」

 

「「は~い!」」

 

 お行儀よく正座をした2人の前に進み出る女魔法使いちゃん。一体どんな質問で本人かどうか判別するんでしょうか。銀髪3人娘も興味深そうな顔で事の推移を見守っています。

 

 顎に手を当てて、考え込んでいた女魔法使いちゃん。やがて2人に相対しちょっと投げ遣りに言葉を投げかけました!

 

 

 

 

 

 

「やっぱ面倒臭いわね。さっさと偽物を処分して頂戴。早く家に帰って。()()()()()()()しましょう? 馬鹿義姉(ばかあね)義妹(いもうと)ちゃんが()()()()()()()()()も随分溜まってるんじゃないの?」

 

 

 

「いいの!?」

 

「えぇ……?」

 

 

 

 片方は喜色を露わにし、もう片方はドン引きするという対照的な反応を示した2人。肉食獣が牙を剥くのに酷似した笑みの女魔法使いちゃんが爆発金槌を起動して……。

 

 

 

「死ね」

 

 笑みを浮かべている吸血鬼侍ちゃんに、力の限り叩きつけました!!

 

 

 

 

 

 

「――まったく、こんな真似二度としないで頂戴よ?」

 

「はい、ごめんなさい……」

 

 柄の半ばで折れた爆発金槌を片手で持ち、反対の手で抱き着いてきた吸血鬼侍ちゃんの頭を優しく撫でる女魔法使いちゃん。口調こそ厳しいものの、その表情は慈愛に満ちています。そんな2人を驚愕の表情で見ていた首だけの吸血鬼侍ちゃんの顔がブレるように歪み、のっぺりとした黒い二重存在(ドッペルゲンガー)のそれへと戻っていきます……。

 

「何故ダ……記憶カラ模倣(シミュレイト)シタ反応ハ間違ッテイナカッタハズ……」

 

「そうだね、興味本位で悪いけど、そこは私も気になる所だよ。今後二重存在(ドッペルゲンガー)を判別する時の参考にしたいしね」

 

 死に体のまま疑問を口にする二重存在(ドッペルゲンガー)。種族としての矜持からか答えを聞くまでは死んでも死にきれないといった様子ですね。横から顔を出してきた銀髪侍女さんをジト目で睨みつつ、女魔法使いちゃんが告げた答えは……。

 

「自分のオンナが孕んだからって、ホイホイ他の女の誘いに乗るようなクズを先に殴り飛ばしただけよ? 本物だったらお仕置きになるし、再生できるのは()()()で確認済みだもの」

 

 わぁお、なんという脳筋的発想。これには二重存在(ドッペルゲンガー)も開いた口が塞がらず、そのまま送還されていきました。……そういえば、さっき2人に呼び掛けた時「アンタ」って言ってましたっけ。吸血鬼侍ちゃんに呼び掛ける時は「貴女」ですもんね女魔法使いちゃん。

 

「成程、最初から両方殴る気でいたわけか。これはちょっと参考にはならないね」

 

「満面の笑みを見てイラッとして、力が入り過ぎたのは誤算だったけどねぇ……」

 

 銀髪侍女さんの感想に肩を落としながら言葉を返す女魔法使いちゃん。ポッキリと折れた相棒を悲し気に眺めています。涙目で謝り続ける吸血鬼侍ちゃんを抱き上げて頬擦りしつつ、何故あんな真似をしたのか、自分の推測を話しています。

 

「あの馬鹿とおんなじで、2人に分かれてからずっと私やお姫様、それにおっぱい乙女に何処か遠慮してたでしょ。……自分がまだあの子の分身としか見られていないのか、それとも独立した1人として見て貰えているのか。ずっと不安だったのよね」

 

「……うん」

 

 ああ、吸血鬼君主ちゃんとは逆に、自分が分身であったことがずっと気がかりだったんですか。新しい身体を手に入れても、本当はまだ吸血鬼君主ちゃんの影としてしか見られていないのか、ずっと不安に思っていたんですね。

 

「やっぱり2人ともお馬鹿さんね。私たちが愛しているのは貴女たち2人ともよ? それに自分たちで言ってたじゃない。『()()()()()()()()、ずっといっしょ!!』ってね」

 

「……あ!」

 

 そうそう、新しい身体を手に入れる前から、互いを別な、対等な存在として認めあっていたじゃないですか! だから、自分が分身だったとか、吸血鬼君主ちゃんに遠慮する必要とかは無いんです!! お、表情に明るさが戻った吸血鬼侍ちゃんを見て、女魔法使いちゃんが悪戯を思い付いたような顔でそっと耳元に顔を近付けています。

 

「……じゃあ、さっき言ってた()()()は受け取ってくれるのよね? 別にあの子に遠慮する必要なんてないんだから」

 

「……えへへ。ここでうなずいたら、おしおきでしょ? だまされないからね!」

 

 なんだ、判ってるじゃないと笑みを交わす2人。ふぅ、なんとか蟠りは解消されたみたいですね! 私が欲しかったら自分から言いなさいと笑う女魔法使いちゃんをポカポカ叩く吸血鬼侍ちゃんの顔は、何処か吹っ切れたように見て取れます。おや? ゴロンと横になっていた銀毛犬娘ちゃんがムクリと起き上がりました。どうやら再び使い魔と意識を共有していたみたいですが。

 

「城内に収容されていたゴブリンが全部水に変わったって。たぶん≪浄化(ピュアリファイ)≫された」

 

「どうやら地下の皆さんも上手くいったみたいですね。そろそろ私たちもお暇致しましょうか」

 

「そうだね。脱出路を作るための誘導も必要だろうし」

 

 そう言いながら吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんにしがみ付き始める銀髪3人娘。銀髪侍女さんが女魔法使いちゃんの背中に陣取り、半森人局長さんと銀毛犬娘ちゃんが吸血鬼侍ちゃんを左右から抱きしめています。左右に感じるたわわとちっぱいにまんざらでもなさそうな顔の吸血鬼侍ちゃんでしたが、何かに気付いたように半森人局長さんに問いかけます。

 

「えっと、でるときはこっそりじゃなくていいの?」

 

「はい、既に老翁が階下をしっちゃかめっちゃかにしてますので、此処は最短ルートで行きましょう!」

 

 そう言いながら笑みを浮かべた彼女が指差すのは、何もない壁面。侵入の時に却下された案を向こうから提示され、吸血鬼侍ちゃんの顔には苦笑の裏にやる気が見え隠れしています。

 

「……おもいっきり、やっていいの?」

 

「ええ、全力でどうぞ! あ、老翁との契約には脱出は含まれてませんので、気にしなくていいですよ~」

 

 現地解散なのか~……。まぁクソマンチ師匠なら単独のほうが動きやすそうですし、後でひょっこり顔を出して来るに違いありません! 暗月の剣(サタンサーベル)を正眼に構えた吸血鬼侍ちゃんが壁に向かって羽ばたき、分厚い外壁をものともせずぶち抜いて外へと飛び出して行きました!!

 

「私が方角を指示するから、このまま彼女の後を飛んでくれるかな?」

 

「判ったわ。……やっぱり貴女、只人(ヒューム)じゃなかったのね」

 

 僅かな重さしか感じさせぬ背中の銀髪侍女さんを横目にしみじみと呟く女魔法使いちゃん。フフ、怖いかい? という彼女の言葉を鼻で笑い飛ばし、正面に向き直り、闇夜を睨みつけながら呟きます。

 

「こちとら好き好んで吸血鬼の恋人をやってんのよ。今更人外の1人や2人怖がるもんですか。それに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一番怖いのは只人(ヒューム)よ。あの子たちにとってはね……」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッ、忌々しい神々の走狗(イヌ)と、何も知らぬ痴愚共め……!」

 

「最早滅びは免れん。ならば盛大に燃やし尽くしてやろう……」

 

「さぁ、封印は解いてやった! 奴らを、この国を……ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全てを焼き払い、灰の中に埋めるのだ……ッ!!」

 

 

 




 合流後のドタバタが待ち構えているので失踪します。

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セッションその13-7

 3桁の大台が目の前なので初投稿です。



 前回、ゴブリン養殖の首謀者をしばき倒したところから再開です。

 

 身体に纏わりつくような闇の中を飛行し、蟲人僧侶さんの待つ都の外の船着き場へと急ぐ一行。眼下ではクソマンチ師匠が仕掛けた不審火に加え、吸血鬼侍ちゃんたちによって半壊した謁見の間の爆発によって兵たちが混乱の極みに陥っているのが確認できます。

 

 女性2人を抱えているとは思えない速度で飛行する吸血鬼侍ちゃんを女魔法使いちゃんが必死に追従してますが、やはり暗視が無い分銀髪侍女さんのナビゲートがあっても徐々に離されてしまってますね。

 

「あーもう! こういう時はさっさと眷属にしてもらっておけば良かったと思うわね……!」

 

 あー、吸血鬼になれば暗視能力が獲得できますもんね。悪態を吐きながら女魔法使いちゃんが歯を食いしばって飛行しているのを見て、背中の銀髪侍女さんがまぁまぁと宥めています。

 

 やがて女魔法使いちゃんの進む先に小さな光が見えてきました。松明を手にした蟲人僧侶さんが舳先に立ち、闇を透かすように一行を見上げています。先に船へと降り立った吸血鬼侍ちゃんたちに続いて、女魔法使いちゃんも無事に着地に成功しました!

 

「おじいちゃん、おまたせ!」

 

「予定通りお前たちが先着か。救出班はどうなっている?」

 

「あっちもおんなのこをたすけおわったって。すぐにだっしゅつけいろをつくるほうこうをつたえるね!」

 

 半森人局長さんと銀毛犬娘ちゃんを解放し、蟲人僧侶さんへと抱き着いた吸血鬼侍ちゃん。一頻り硬質な頬にスリスリした後に肩車へ移行し、繁殖場の吸血鬼君主ちゃんへと脳内通信を送り始めました。

 

「あっちの連中が来たら、後は王国に向けて出航で依頼は完了かしら。国境沿いに迎えが来ているんだっけ?」

 

「……うん、その予定だったんだけどね。どうやらもう一仕事しなきゃいけないみたいだ」

 

 ん? やれやれと肩を揉んでいた女魔法使いちゃんの問い掛けに厳しい顔で銀髪侍女さんが答えています。都とは反対の空を睨む彼女にイヤな予感を感じたのか、女魔法使いちゃんの顔にも緊張の色が浮かんでいますね。救出した女性たちを休ませる準備をしていた銀毛犬娘ちゃんも毛を逆立てて同じ方向を見ていますが……。

 

「! ちと、いおうのにおい……」

 

「あ、あら? もしかして……」

 

 微かに漂ってきた異質な臭いに反応した吸血鬼侍ちゃんを見て、半森人局長さんが冷や汗を流しています。砂漠の国について調査していた彼女なら、宰相が切り札として拘束していた()()について知っていてもおかしくはありません。どうやら死に際に宰相が……否、彼を乗っ取って封印を破壊した死灰神(クソッタレ)が言っていた、国を灰燼に帰す存在が向かって来ているみたいですね……!

 

「これはちょっと予想外でしたね……どういたしましょう?」

 

 顔にガバ発生と書いてある半森人局長さんの言葉に沈黙する一行。もし接近する敵性体が予想通りでしたら、流石に分が悪いです。銀髪3人娘は対人特化ですし、女魔法使いちゃんは爆発金槌が使えない上にどう考えても火属性は無効化されそうです。何より空を飛んでいる相手に対抗できるのは吸血鬼侍ちゃんだけなのが……。

 

 おや? ()()()()()()()()で僅かに闇夜に浮かび上がる巨体を眺めていた吸血鬼侍ちゃんが何か思いついたみたいですね。吸血鬼の能力である【脳の瞳】を活用して、先程までよりも細かく吸血鬼君主ちゃんへ射角や方位の修正を伝えているようですが……あ、まさか。

 

「えへへ……せっかくだから、()()もいっしょにぶちぬいてもらっちゃおうよ!」

 

 


 

 

 砂の海から斜めに突き出した青白き光の奔流が闇夜を切り裂き、一行の乗った船の上を空に向かって貫いていく幻想的な光景。空と大地の間にある全てを薙ぎ払いながら、星空へと駆け上がっていきます。

 

 視線さえ通っていれば半径2㎞までのほぼ全てを感知可能な恐るべき視覚によって正確に対象を捕捉し、リアルタイムで射手へと座標を伝えられる通信能力との併用によって発射された一撃は、封印されていたことに対する屈辱を晴らすべく砂漠の都を焼き尽くさんと迫る老年の赤竜(オールド・レッドドラゴン)に過たず命中し――。

 

 

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!?」

 

 

 

 ――その片翼を、原子の粒へと分解しました!!

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~、やっと地上に戻って来られたぜ……」

 

「おかえり~。あれ、あのこは?」

 

「ちょっと繁殖場で後始末をしてますわ。それよりも……」

 

「なんだ、今の咆哮は?」

 

 ガラス化した隧道(トンネル)を駆け抜け、無事地上へと帰還した救出班の耳に飛び込んで来た苦悶の咆哮。船団から僅か500mほど先に落下した老年の赤竜(オールド・レッドドラゴン)が砂の海でもがく姿を見てみんな目を丸くしています。地上までの道を作るついでに喰らわせたにしては圧倒的な成果を見て、観測手(スポッター)役の吸血鬼侍ちゃんが得意げに鼻の下を擦っています。

 

「やぁみんな、五月蠅くてすまないね。アレは宰相が用意していた対王国の切り札でね。使わせるつもりは無かったんだけど、どうやら長年の待遇に不満があるみたいで砂漠の都を焼き尽くすつもりみたいなんだ」

 

「はぁ!? あんなモンが街に入ったら夜明けまでになんもかんも灰に変わっちまうだろうが!」

 

 あまりに大きな被害予想に声を荒げる重戦士さんに対し、首を竦める銀髪侍女さん。砂漠の国を解放した後にじっくりと解決するつもりだったんでしょうが、動き出してしまった以上何とかするしかありません。放置したら重戦士さんの言う通り一晩で都が焼け落ちてしまいますからね……。

 

「今回は()()()()()()()()()()()()()()、冒険者らしく竜退治ってのも悪かねェ!」

 

 お、兵士やら繁殖場やらでストレスが溜まっている槍ニキはやる気満々ですね! それもそうだなぁと納得したように、重戦士さんも相棒のだんびらを担ぎ直しています。歯を剥く笑みを見せる槍ニキがゴブスレさんに視線を向け、テメェはどうするよ? と問いかけてますね。

 

「……アレは、ゴブリンではない」

 

「まぁ、そうだな」

 

「だが、()()()なら、竜退治に()()()ものなのだろう?」

 

「……へっ、判ってんじゃねぇか! おい! アイツは俺たちに任せて貰って良いよな!!」

 

 おお、ゴブスレさんも竜と対峙するみたいですね。そんなゴブスレさんを見て嬉しそうな槍ニキが銀髪侍女さんに確認を取ってますが……。

 

「勿論だとも。砂漠の国解放に加えて恐るべき竜を撃破、英雄らしくて良いじゃないか」

 

 そこはロマンを解する銀髪侍女さん、グッとサムズアップで答えてますね! HFO3人に加えて令嬢剣士さんと剣の乙女ちゃん、それに吸血鬼侍ちゃんが前へと進み出ました。即席ですが、西方辺境有数の六英雄(オールスターズ)の誕生です!

 

 

 

「あの、その、えっとね……」

 

「もう、判ってるからそんな顔しない。杖も無いし、私じゃ邪魔になっちゃうもの。素直にあの子を迎えるために此処で待ってるわ」

 

 あ、杖を折る原因を生み出しちゃった吸血鬼侍ちゃんの頭を女魔法使いちゃんが苦笑しながら撫でています。流石に爆発金槌無しで参戦するのは無謀ですし、資料漁りに勤しんでいる吸血鬼君主ちゃんを待っててあげる人も必要ですからね。お、吸血鬼侍ちゃんを解放した女魔法使いちゃんがゴブスレさんへと近付いてます。装備の確認をしていた彼に自分の纏っていた竜革の外套を脱いで、鎧の上から羽織らせました。

 

「アンタの鎧と同じで、赤竜のブレスに対して効果があるわ。的になれとは言わないけど、あの子たちを守ってあげて頂戴?」

 

「……ああ」

 

 強く頷き踵を返すゴブスレさん。マントをはためかせて歩く姿はまるで物語の騎士のようですね。カッコよくなったじゃねえかと軽口を叩く槍ニキを睨みつけるゴブスレさんを中心に赤竜がのたうつ砂の海へと進む一行を、少しだけ悔しそうに女魔法使いちゃんが見つめています……。

 

 

 

「まぁ、今の私じゃこれが限界かしらね……」

 

 


 

 

老年の赤竜(オールド・レッドドラゴン)の攻撃は噛みつき、左右の爪、翼と尾による打撃です! 巨体による圧し潰しにも十分注意してください!!」

 

「かみつきはよそういじょうにとどくからきをつけてね~!」

 

 翼で飛行し、上空から戦況を見る2人からの赤竜の脅威を告げる声が響く戦場。片翼を失いながらも戦意までは無くしていない赤竜の咆哮が、冒険者たちの恐怖心を煽らんと木霊します。下腹に気合いを入れて耐えたHFOが愚直に攻めて来るのを忌々し気に睨む赤竜の足元が突然波打ち、ズブズブと巨体が沈み始めました!

 

 万知神さん専用奇跡である≪教授(ティーチング)≫を経由して吸血鬼侍ちゃんが唱えた≪流砂(クイックサンド)≫の呪文。巨体故に劣悪な敏捷も相まって思うように身動きが取れず、赤竜の攻撃は精彩を欠いていますね。

 

 半径30mを流砂へと変える≪流砂(クイックサンド)≫。勿論近接戦闘を挑んでいるゴブスレさんたちもバッチリ範囲内ですが、流砂に沈むことなく、3人とも軽快に赤竜の周りを駆けまわっています。一体どんな方法を取ったのかというと……。

 

「ハッハァ! どんな頓智かと思ったけどよ、まさか本当に()()()()()()走れるたぁな!!」

 

「10分しか持ちませんのでそれだけはご注意を! ……ありがとう、水精(ニンフ)風精(シルフ)。無理なお願いを聞いて頂けて感謝してますわ」

 

 流砂の淵に立つ令嬢剣士さんの周りを飛び回る精霊が、気にすんなといいたげにサムズアップを返しています。いや~、万知神さんから吸血鬼侍ちゃんを通じてやってみるよう伝えてみましたけど、まさか本当に≪水歩(ウォーターウォーク)≫で砂の海を歩けるとは! え、船が浮かんでいるんだから海、つまりに水上に決まってる? うーんこのマンチ理論。

 

 振り下ろされる死神の鎌の如き爪を首を傾げることで躱し、肘の内側や脇の下といった柔らかい部分を攻め立てる槍ニキ。丸太のように太い尾はだんびらを己が腕の延長のように扱う重戦士さんによっていなされ、雑に砂をまき上げるばかり。同族の亡骸(そざい)を身に纏ったゴブスレさんを噛み砕かんと首を伸ばして噛みつこうとすれば、剣の乙女ちゃんのレイテルパラッシュによる上空からの弾丸の雨が眼部に集中し、ゴブスレさんに迫る攻撃を妨害しています。

 

「そろそろ効果が切れますわ! 前衛は一時後退してください!」

 

「GURURU……」

 

 ≪水歩(ウォーターウォーク)≫の効果時間が迫ったことを伝える令嬢剣士さんの声に従い前衛が離れたのを見て、一方的に攻め立てられていた赤竜の口から炎が漏れ始めました! 邪魔な地べた這い共を一息に焼き尽くし、上空で五月蠅い羽虫を叩き落そうと大きな口を開け……!

 

 

 

「いおうくさいおくちはちゃん~ととじようね~!」

 

「GUAA!?!?」

 

 ≪流砂(クイックサンド)≫の維持を止めた吸血鬼侍ちゃんが愛用の二刀で開きかけた顎を貫き、口が開かぬよう縫いとめました! 吐き出す直前だった炎のブレスが口内で暴発し、夥しい血とともに砕けた歯を裂けた口から零す赤竜。強固な鱗で覆われていた喉元から胸部にかけてもズタズタに裂けていますね。あ、衝撃で抜け落ちた二刀を空中で回収しつつ、残っていた片翼も吸血鬼侍ちゃんが斬り落としました!

 

「GU……GAAAAAH!!」

 

 両翼を失い、天を仰ぐような格好で立ち尽くす赤竜。天と地を統べる強者としての意地でしょうか、もっとも近くにいた地虫……同族の亡骸を身に纏う悍ましい人間(ゴブスレさん)に向かって血液混じりのブレスを発射しました!

 

 チャージが不足しているとはいえ、人1人燃やし尽くすには十分な熱量を秘めた火竜の吐息(ドラゴンブレス)。勝利を確信して細めていた赤竜の瞳が、爆炎を突っ切って現れたゴブスレさんを見て驚愕に見開かれています。

 

 竜革の外套と吸血鬼の血入り軽銀製円盾(ミスリルバックラー)の二重防御で赤竜のブレスを防ぎ切り、赤竜へ肉薄するゴブスレさん。立派に役目を果たし燃え散る外套を一瞥した後、ブレスの残り火で照らし出された喉元を見据え、"小鬼殺し"を突き立てた場所は――。

 

 

 

「……昔、姉さんが話していた。強大な竜には唯一か所、弱点が有ると」

 

 ――爆発で他の鱗が剥がれる中で、唯一残っていた逆鱗です!!

 

 

 

「GOA……」

 

 

 

 瞳から光を失い、砂の海へと音を立てて倒れる赤竜。

 

 新たな竜殺し(ドラゴンスレイヤー)が、今ここに誕生しました……!

 

 

 

 

 

 

「おまたせ~! あれ、なんかへんなにおいがする……?」

 

「遅い。もうお祭りは終わっちゃったわよ? いいからさっさと竜の死体を回収してきなさい」

 

「ふぇ? ……ほわぁ~!? おっきい!!」

 

 ……ふぅ。まったく、締まらないったらありゃしませんねぇ……。

 

 


 

 

「みんなお疲れ。流石西方辺境の精鋭だね」

 

「おう、まぁまぁ楽しめたな!」

 

 慌ててすっ飛んでいった吸血鬼君主ちゃんが赤竜の死体を回収して戻って来た冒険者たちを銀髪侍女さんが労いの言葉で迎えてくれました。軽く返事を返す槍ニキを始め、みんなの顔は困難な冒険を成し遂げた充足感に満ちています。ボロボロに散ってしまった外套についてゴブスレさんが謝罪しようとして、苦笑する女魔法使いちゃんに止められてますね。しっかりと装備者の身を守ってくれましたし、新調するための材料はたくさん手に入りましたもんね!

 

「さて、疲れているところ申し訳ないけど、最後の仕事に取り掛かってもらおうかな」

 

 おや、銀髪侍女さんの隣にいつの間にか見覚えのある鏡が設置してあります。賢者ちゃんの呪文とは違い、持ち運びできるサイズで≪転移≫を再現するため色々制限が厳しいとらしく、救出した女性たちを安全な場所へ送るには出力が足りないので馬車を用意したという代物なのですが……。

 

 お、波打つ鏡面の向こうから誰かが出てきました! 豪奢な鎧に身を包み、輝く金髪は獅子の如き威を見る者に感じさせるカリスマ……って、陛下じゃないですか!? 後ろには正装姿の砂漠の姫君に、お仕着せを纏った友人2人も一緒です。え、どういうことなの? 困惑を隠せない冒険者たちを見て、陛下が事情を説明してくれました……。

 

 

 

「つまりだ、卿らには余とともに今一度砂漠の都へ同行して貰いたい。混沌と手を結んでいた宰相一派を排除し、亡国の危機を救った英雄としてな?」

 

「依頼の時に話していたよね? 『君たちには英雄になってもらう』ってさ」

 

 悪戯が成功したような顔でペラを回す陛下と銀髪侍女さんを呆れた目で眺める冒険者たち。どうやら2人のほうが何枚も上手だったみたいですね。

 

 宰相一派の排除と被害に遭った女性たちの救出を見越して王宮で待機していた陛下と姫君たち。銀髪侍女さんの合図で砂漠の国へと転移し、混乱を最小限に抑えつつ姫君の帰還を大々的に民へ発表するつもりだったみたいです。脱出の手引きをした銀髪3人娘の活躍やゴブリン繁殖場の破壊、二重存在(ドッペルゲンガー)の撃退などの戦果はまるっと辺境三羽烏に押し付け、新しい英雄を生み出すことが目的だったんですね。

 

「卿らは今回の活躍で金等級へと昇格し、同時に王国騎士として叙勲される。一代限りの爵位ではあるが、持っていて損はあるまい」

 

 もっとも、貴公は将来貴族の位を継承するかもしれんがな? と揶揄われているのは重戦士さん。女騎士さんが家を継げば自動的に婿入りですからねぇ。あ、興味無さそうに話を聞き流すゴブスレさんに気付いて、半森人局長さんがそっと耳打ちしてますね。

 

「騎士ともなれば商会との遣り取りや土地の購入、あるいは牧場を警備するための人を雇う際の信用が段違いですよぉ?」

 

「後で詳しい話を頼む」

 

 家族と牧場を守るためなら手段を選びませんものね、ゴブスレさん。先程までとは打って変わって真剣に陛下の話へ耳を傾けています。

 

「地母神の尼僧と小さき至高神の聖女にも辺境の街へ向かうよう声を掛けてある。今頃は治療の準備を()()()が音頭を取って進めているだろう。……帝王切開技術を確立した()()()だ」

 

 だから卿らは疾く行くと良い、とダブル吸血鬼ちゃんへ話す陛下の顔は何処か苦々しげに見えます。やっぱり女神官ちゃん、王妹殿下との似姿の件もありますし、何か深い事情があるんでしょうかね?

 

 国境沿いには既に疾風狼人さんと金銀妖瞳半森人さんという王国の双璧コンビが此方に向けて進軍する準備を完了させており、ダブル吸血鬼ちゃんたちが王国へ帰還次第砂漠の国の治安維持のために都へと向かうそうです。辺境三羽烏と銀髪侍女さん、それに英霊さんの半数と往路で乗って来た馬車は一旦此処でお別れですね。半森人局長さんと銀毛犬娘ちゃんは女性たちの治療のために協力してくれるそうなので、一緒に辺境の街まで帰ることになりました。

 

 砂漠の都へと赴く一団が見送る中、闇の中へと漕ぎ出す船団。さぁ、女神官ちゃんたちが待ってます。急いで辺境の街へと戻りましょう!!

 

 


 

 

 令嬢剣士さんの精霊術と蟲人僧侶さん率いる船団の人たちの尽力で夜通し船は進み、翌日の昼前に砂漠の境界まで辿り着いた一行。再開を約束し別れた後に、すぐさま大型馬車で出発しました。

 

 国境で待機していた双璧に陛下からの伝言を伝え、街道をひた走ること半日。日も完全に落ち切った頃に辺境の街へと帰って来ることが出来ました!

 

 街の入り口で待機していた新人たちが伝令として町中を駆け回り、治療のために辺境の街へと集まっていた人々を招集、収容人数を考えてギルド訓練場を治療の場として整えてくれていた為、一行はその足で訓練場へと向かうことに。次々に馬車から降りてくる女性たちの悲しい姿に声を失う新人たちもいましたが……。

 

 

 

全員深呼吸! ……治療の優先度に従って彼女たちを処置室へ搬送してください」 

 

「そこ、ぼさっとしてないの! 消毒用の酒精(アルコール)と清潔な布を運んで!!」

 

「いいか、決して彼女たちを憐れむな! 全員生き延びるために戦ってきた、勇気ある女性たちだ!!」

 

「もう大丈夫です、必ず元の綺麗な身体に戻してみせますから……!」

 

 聖人尼僧さんの一喝が、至高神の聖女ちゃんの発破が、只人寮母さんの獅子吼が、そして、女神官ちゃんの優しい声が新人たちの心に染み渡り、今まで積んで来た訓練に従ってその身体を動かしていきます。互いの役割を完璧に把握しているが故の有機的な連携で女性たちはそれぞれ処置室へと運ばれ、適切な治療が開始されました。

 

「どうかご安心を。私もゴブリンによって何度も胎を膨らませておりましたが、今ではこうやって愛する人の子を宿すことが叶いました。貴女も必ず素敵な恋が出来るようになります……!」

 

「辛かったよね、怖かったよね、苦しかったよね。だが、それで終わらせるには君の人生は勿体無い。しっかりと傷を癒して、どんな方法でも良い、アイツらに復讐してやろうよ」

 

「此処にいるみんな、全員ゴブリンの恐ろしさを知ってるの。だから、誰も貴女を蔑んだり忌避の目で見るような人は居ないわ。もし泣きたかったら、私が胸を貸してあげる。……ちょっと物足りないかもしれないけど」

 

 救出された女性たちに声を掛け、そっと抱きしめたり手を握っているのはお腹の大きな森人(エルフ)の美姫たち。冒険者ギルドで寝泊まりしていた女神官を監督官さんが馬車で送り出す時に便乗して来ていました。至高神さんの奇跡が使える女騎士さんに薬学に詳しい魔女パイセンも一緒に駆け付けてくれています。向こうでは新人たちに交じって半森人夫人さんと若草祖母さんが消化の良い食事を魔法のように作り出し、ゆっくりと治療を終えた女性たちに振る舞っていますね。

 

「では、私も治療に協力してきます」

 

「私は母と一緒に調理へ回りますわ。……こういう時、治癒の奇跡を使えないのが歯痒いですわね」

 

 ゆっくりと至高神の聖女ちゃんに向かっていく剣の乙女ちゃんに、悔し気に顔を歪ませながらも自分に出来ることをやるべく駆け出した令嬢剣士さん。ダブル吸血鬼ちゃんもそれに続こうと踏み出したところで女魔法使いちゃんが2人を後ろから抱きしめました。

 

「ふぇ?」

 

「どうしたの?」

 

「2人とも、ちょっとこっちに来て」

 

 両脇にダブル吸血鬼ちゃんを抱え、女魔法使いちゃんが向かった先は衝立で仕切られた部屋の隅。不思議そうに見上げて来る2人を下ろし、服をはだけさせながら女魔法使いちゃんが床へと腰を下ろしました。

 

「2人とも、居残り組と別れてから辺境の街に着くまでずっと眠りっぱなしだったわよね? 全然生命力が足りてないんでしょ。ほら、いらっしゃい」

 

「うん、いただきます……はむ」

 

「んちゅ……ちう……んむぅ……」

 

 優しく両手を広げた女魔法使いちゃんに誘われ、左右それぞれの吸い口に唇を寄せるダブル吸血鬼ちゃん。女魔法使いちゃんの推測通り、だいぶ消耗していたみたいですね。目をトロンとさせ生命の源を吸い上げる2人。勢いが弱まったところで口を離そうとしましたが、後頭部を女魔法使いちゃんに抑えられお山に再び顔を埋めています。疑問の目で見上げて来る2人に優しく微笑みながら、女魔法使いちゃん口を開きました。

 

「いいから、()()()()()()()()

 

 女魔法使いちゃんの言葉の真意を汲み取った2人、ふるふると震える先端にそっと牙を宛がい、滲み出てきた赤い雫を白の恵みとともに吸っています。それで良いのと言わんばかりに2人の頭を優しく撫でる女魔法使いちゃん。やがて先端に滲む色が桃色から赤一色になったところで漸く頭を解放された2人が、傷を癒すように先端に舌を這わせています。

 

「ごちそうさま。……だいじょうぶ?」

 

「きぶんがわるくなったりしてない?」

 

「大丈夫よ、冒険で怪我した時よりも少ない量しか吸われてないもの。ほら、治療に行ってきなさいな」

 

 心配そうに見つめる2人のお尻を叩いて送り出した女魔法使いちゃん。溜息を吐いた後に服の乱れを整え、腰のポシェットから強壮の水薬(スタミナポーション)を取り出しました。いざ蓋を取ろうとしたところで手が滑ったのか、つるんと手から逃げ出して床に転がってしまいました。コロコロと転がる先には小さな人影。転がって来た瓶を爪先で器用に蹴り上げ、空中でキャッチしたそれをそっと女魔法使いちゃんに差し出すのは……。

 

 

 

「出産もしてない女の授乳風景なんて見て楽しいのかしら?」

 

「ケッ! いいからさっさと飲んじまいな」

 

 陽動を行うために別行動だった、クソマンチ師匠(万知神さん)です。

 

 

 

「いつの間にこっちへ帰ってきてたの? まさか船に乗ってたとは思えないし」

 

「そのまさかよ。脱出方法は自前なんて言われたら、一番楽な方法を選ぶってぇの」

 

 うわ、本当に乗ってたんですか。まぁ本気で隠形されちゃったらダブル吸血鬼ちゃんでも見つけられそうにないですし、流石師匠というところでしょか。一息に水薬を飲み干す女魔法使いちゃんを横目に、衝立の向こう側で行われている人の尊厳を取り戻す戦いに耳を傾けているようです。

 

 

「で、何しに来たの? 正直私なんかに係る理由なんて無いでしょ」

 

「……オメェ、あの向こう側で行われている行為についてどう思うよ?」

 

 ジト目で睨む女魔法使いちゃんに対し、隣に座り込んで目を閉じたまま問いを発するクソマンチ師匠。衝立の向こうを透かして見るように目を細めた女魔法使いちゃんが、驚くほど平坦な声で答えます。

 

「そうね……世界の外側から見たら何の意味も無い行為なんじゃないの? でも、私はそれをとても尊いと思う。生きようと必死に耐え抜いた彼女たちも、彼女たちを救おうとあらゆる手を尽くす冒険者や神官たちも、そして……怖くてたまらないのに、それでも人に寄り添って生きようとするあの子たちもね」

 

「そうかい。そう言えるオメェだからこそ、あの2人はお前を選んだのかもしれねぇなぁ」

 

 女魔法使いちゃんの言葉に納得したように頷き、よっこいせと立ち上がるクソマンチ師匠。座ったままの女魔法使いちゃんに後ろ手を振りつつ、去り際に残した言葉は……。

 

 

 

「君達になら、僕達の愛し子を任せられる。どうか、あの2人を幸せにしてあげて欲しい」

 

 

 

「――アンタたちに言われるまでも無いわ。一流の悲劇なんていらない。三流の喜劇で結構。あの子たちと、その周りに集まったみんな……。他の何を犠牲にしたって、必ず幸せにしてやるわ!」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 ダブル吸血鬼ちゃんに相応しい異名を考えるので失踪します。

 評価や感想、お気に入り登録いつもありがとうございます。

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セッションその13 りざると

 とうとう100話まで到達したので初投稿です。



 前回、多くの人々が自分に出来ることに全力を尽くしていたところから再開です。

 

 ちょっと動くだけで汗ばむようになってしまった近頃、砂漠の国からダブル吸血鬼ちゃんたちが戻って来てから一か月ほどの時間が経過いたしました。

 

 現在地は王宮にある謁見の間、金髪の陛下と王妹殿下の前に文官・武官が一堂に会し、本日の主役の登場を待っているところです。他にも各神殿の主だった面子が集まっており、聖人尼僧さんや蟲人英雄さん、それに至高神の聖女ちゃんと聖戦士君の姿も確認出来ます。その隣には、周りから浮いている集団が。良く見れば、見知った面々の集まりですね!

 

 王国という巨人の神経たる面々を差し置いて、陛下たちの近くに参列している賓客扱いの奇妙な集団。急ぎ用意した礼服がイマイチ似合っていないのはご愛敬というものでしょう。今回功績を挙げ新たな王国騎士として任ぜられる3人の関係者と、もう1組の主役の仲間たちです。

 

 

「辺境三勇士、入場!」

 

 

 儀典長が声を張り上げ、壮麗な喇叭の音が響く中、真紅の絨毯の上を進む3人の冒険者。

 

 

「おい、いつものふてぶてしさは如何した! もっと背筋をシャキッと伸ばさんか馬鹿者!!」

 

「おまっ、こんな場所でデケェ声出すんじゃねぇよ!?

 

 

 辺境で名を馳せた銀等級にして、今日この日を以て金等級へと昇格する男たちが緊張した面持ちで歩を進めるのを見て、我慢ならんと声を張り上げたのは華麗なドレスに身を包んだ女騎士さんです。礼服を洒脱に着こなした半森人の軽戦士さんとネクタイが苦しそうな少年斥候君が囃し立て、武官のほうからも笑い声が上がっています。

 

 

「あはは! 3人ともカチコチになっちゃってる!!」

 

「魔物と、対峙、してる、時、とは、違う、もの、ね?」

 

 

 結婚式の時に仕立てた蜂蜜色のロングプリーツドレス姿で笑う牛飼若奥さん。その隣ではトレードマークのとんがり帽子を外し、露出の少ないドレス姿の魔女パイセンがクスクスと笑っています。女騎士さんを含め3人とも子どもたちを連れて来ていましたが、式典の間は控室で預かってもらっています。同じく式典に参列している沈黙将軍さんと疾風狼人さんの奥さんが面倒を見てくれてますので安心ですね!

 

 

「しっかし、あの3人に先を越されることになるたぁな」

 

只人(ヒューム)は我らより短き生を歩むが故に、その成長も目覚ましきものがありますからなぁ」

 

「全盛期と呼べる期間が短いからこそ、我らは血と、知識と、技術を後進へと継いで行くのだ。……私たちのようにな?」

 

 

 しみじみと呟く鉱人道士さんの隣で呵々と笑う蜥蜴僧侶さん。反対側には寄り添うように女将軍さんが並び立ち、そっと手を繋いでいますね。繋いでいるのとは反対の手で下腹部を優しく撫でながら揶揄い混じりに微笑む姿を見て、鉱人道士さんが火酒を欲しそうな顔になっています。こちらも異種族カップルも甘々熱々ですねぇ……。

 

 

「こ、こいつら……叙勲式を打ち上げか何かと勘違いしているんじゃないのか……!?」

 

 

 式典の作法というものを因果地平の彼方へ投げ捨てたような有様に胃痛を堪えるように腹を押さえた儀典長が眼を剥いていますが、無礼を咎める事無く金髪の陛下はご機嫌な様子。王妹殿下も口元を押さえて笑いを必死に隠そうとしていますね。

 

 

「構わん、卿らも楽にせよ。今日はまことめでたき日、少々羽目を外すのも良かろう」

 

「……まぁ、陛下がそう仰るのでしたら……」

 

 

 陛下の一声で途端に弛緩する式典の空気。先んじて金等級に昇格している犬人の冒険者が祝いの言葉を張り上げ、呼応するように猪武人さんから竜殺しを称賛する声が広間中に響き渡る大声で発せられました。

 

 

「なんか、想像してたモンと違うな……」

 

「現実は悉く想像から外れるものだ」

 

 

 こっそりと呟く槍ニキの声を華麗にスルーし歩き続けるゴブスレさん。竜革鎧と複合素材鎧に加え、トレードマークの暗視機能付き兜を被ったままの姿です。控室で待機している際に儀礼官から兜を外すよう言われゴネていたのですが、呼びに来た銀髪侍女さんが「陛下からの伝言。『素顔を見せながら腹の内を隠す輩より、顔を隠していても本心を曝け出す者のほうが好ましいとは思わんかね?』だってさ」と執り成してくれたため、フル装備で式典に臨んでいるんですね。

 

 陛下と王妹殿下の座る玉座の前、一段高い場所に居る2人の前に辿り着き、令嬢剣士さんと女騎士さんに叩き込まれた作法通り片膝を着く3人。それを見た陛下が立ち上がり、金等級への昇格と王国騎士への叙勲式が始まりました!

 

 


 

 

 えー、叙勲式が進んでいる間に、この一か月の間何があったのかを振り返っておきましょうか!

 

 まず、ギルドの訓練場に置かれていた仮設治療所は既に撤去され、治療を受けた女性たちは牧場近くに建設された療養所に移り現在体力の回復と精神的なケアを受けているところです。

 

 臨月に近い状態の女性から優先して行われた摘出手術。やはり≪小癒(ヒール)≫では外科手術の傷を塞ぐのが精一杯で、受胎機能を回復させるには≪治療(リフレッシュ)≫、新しく器官を再生させるのには≪蘇生(リザレクション)≫が必要という結論に。

 

 ≪治療(リフレッシュ)≫であれば司祭以上の神官が使える場合もありますが、可能ならば母親の象徴を穢される前に戻してあげたいというのが人の心というもの。そうなると≪蘇生(リザレクション)≫一択になるのですが、残念ながら集まった多くの神官の中で≪蘇生(リザレクション)≫を授かっている神官は吸血鬼君主ちゃんと剣の乙女ちゃんの2人しかいませんでした。

 

 聖人尼僧さんや半森人局長さん、それに銀毛犬娘ちゃんも使えるのは≪治療(リフレッシュ)≫まででしたし、吸血鬼侍ちゃんの使える万知神さんの専用奇跡≪模倣(イミテーション)≫は、あくまで他の神様の信徒として奇跡もしくは専用奇跡を唱えられる効果なので、習得していない奇跡を唱えることは出来なかったみたいです。

 

 そのため、≪蘇生(リザレクション)≫を使える2人、そして触媒として必要な清らかな乙女代表として女神官ちゃんが、摘出手術や治療を終えた女性たちと毎晩同衾するという事態に……。

 

 何故か術者と触媒の一人二役を嫌がった吸血鬼君主ちゃんが、至高神の聖女ちゃんをベッドに引っ張り込んで清らかな乙女役を押し付けるつもりだったようですが、虚偽は良くないと断固拒否されあえなく失敗。聖女という高嶺の花に淡い恋心を抱いていた新人たちの想いを粉砕するとともに、護衛兼雑用係として同行していた新米戦士君改め至高神の聖戦士君が凄い目で見られていましたね。

 

 1回あたり6時間の同衾が必要なため理論上は1日4人ずつ相手に出来そうですが、残念ながら『一晩』なので日中はダメらしく、治療は1日2人ずつという非常にスローペースなものに。吸血鬼君主ちゃんは全然平気そうでしたが、毎晩違う女性と床を同じくするという精神的負担から、後半は女神官ちゃんが日中の間殆どダウンしてしまう事態に陥るというハプニングもありました。

 

 精神的疲労が女神官ちゃんの性癖に変な方向へ作用したのか、途中から例の指輪を見つめてブツブツと何かを呟いていたり、同衾した女性たちから熱い視線を送られていたりしましたが、現場に居合わせていた剣の乙女ちゃんは今でも沈黙を保っています。

 

 

 

 女性たちの外傷及び摘出手術の治療は2、3日で終了し、順番に母親の機能を回復させる段階になったところで仮設治療所を解体。≪蘇生(リザレクション)≫を習得しておらず手持無沙汰の吸血鬼侍ちゃんが牧場近くに≪死王(ダンジョンマスター)≫で建設した療養所へと移ってもらいました。

 

 出産及び育児での長期滞在を想定して個室や共同のキッチン、風呂、トイレを設置し、緊急手術にも対応出来るように麻酔器具(麻痺罠)状態保存(石化罠)も完備しているのでいざという時にも適切な処置が取れるよう考えられているみたいです。

 

 兎人(ササカ)のおちびちゃんたちが甲斐甲斐しく女性たちのケアを手伝ってくれたおかげで≪蘇生(リザレクション)≫待ちの女性たちも精神的にリラックスした状態で過ごすことが出来、術後の経過も非常に順調。少し前に正式に吸血鬼君主ちゃんの使徒(ファミリア)となった狼さんと一緒に、ふわふわもこもこで彼女たちの傷ついた心を癒してくれています。

 

 あ、牧場とその近辺の用地拡大に伴って、兎人(ササカ)の集落から白兎猟兵ちゃん一家とその親友の家族が移住してくることになりました! 住居はいくらでも用意できますし、畑にはたくさんの人参。元陸軍特殊部隊群(グリーンベレー)の能力を活かせる仕事だとお父さん3人も乗り気でしたね。

 

 そんな感じで女神官ちゃんの正気度をガリガリ削りながら治療を続け、半月ほどで全員の治療が完了。暫くは牧場の手伝いをしつつ、これからの事について考えてもらうことになりました。流石にあれだけの事があったため故郷へ帰ろうという女性は1人もおらず、みんな王国で生活することを希望しており、体力回復と職業訓練も兼ねて兎人(ササカ)のおちびちゃんたちと一緒に毎日畑に出ています。夏の日差しの下、汗と土塗れになった彼女たちの顔には笑みが浮かび、徐々に明るさを取り戻してくれていますね! 砂漠の国から居残り組が帰ってきたのもこのくらいの時期でした。

 

 

 

「今帰った。……遅くなってすまん」

 

「ううん、無事に帰ってきてくれただけで嬉しいよ!」

 

「「「「「「「おかえりなさいませ! だんなさま!!」」」」」」」

 

 

 牧場の跡取りの帰還を今か今かと待ちわびていた牛飼若奥さんの情熱的な抱擁に歓声をあげる兎人(ササカ)のおちびちゃんたち。重戦士さんと槍ニキの顔にもやっと帰ってきたという安堵の表情が浮かんでいます。復路も大活躍だったらしい英霊(ハリボテ)さんたちが満足げに還っていく姿に手を振っていた銀髪侍女さんが一行に向き直り、改めて今回はありがとうと頭を下げています。

 

 

「陛下も半月ほどで此方に帰って来ると思う。陛下の帰還を以て今回の依頼は完了となり、辺境三勇士は金等級に昇格するとともに、正式に騎士として叙勲されることになる。叙勲式には一党(パーティ)の仲間や家族も一緒に参加してもらうことになるだろうから、しっかりと準備を頼むよ?」

 

「……え、金等級になるの? それに騎士って???」

 

「ああ。名ばかり貴族だが、牧場が舐められることは少なくなると思う」

 

 

 突然耳に飛び込んで来た言葉に理解が追い付いていない様子の牛飼若奥さん。ゴブスレさんに補足されて漸く意味を咀嚼できたのか、うわ、じゃあ私もお姫様じゃない!と顔を真っ赤にしちゃってます。半森人局長さんが「正確には貴族夫人ですねぇ」と付け加えていますが、その肩をガッチリと掴む人影が……。

 

 

「陛下からの伝言。『卿には友好国の治安維持活動の指揮を執ってもらう。相棒(バディ)とともに早急に来たまえ♡』だってさ」

 

「あ゙あ゙あ゙も゙お゙お゙や゙だあ゙あ゙あ゙!!」

 

 

 仕事が増えるよ! やったね局長ちゃん! と全力で煽る銀髪侍女さんと、頭を抱えて地面をのたうち回る半森人局長さん。どう考えたってブラック勤務なのは間違いないですし、絞め付け過ぎれば反乱、甘くし過ぎても舐められて反乱とクソみてぇな難易度待ったなしです。銀毛犬娘ちゃんに引き摺られながら牧場から去って行きましたけど、どうやって砂漠を超えるつもりなんでしょうかね……?

 

 


 

 

 嵐のような騒ぎが過ぎ去り、一応の落ち着きを取り戻した辺境の街。療養所は女神官ちゃんと寮母さんに任せ、ダブル吸血鬼ちゃんたちは一旦街へと戻ることに。ギルドでは3人の金等級昇格を祝うフライング宴会が始まり、在野最高位の銀等級が3人も抜けてしまう事実にギルド職員たちが真っ青になっていました。銀髪侍女さんから「彼らの拠点は今まで通り辺境の街で構わないよ」と言われるまでのお通夜状態は、見ていて可哀そうになるほどでしたね……。

 

 

「ふむふむ、それじゃあ彼らの扱いは今までとそんなに変わらない感じで良いってこと?」

 

「ああ。今後彼らに王国から招集が掛かることはあると思うけど、むしろ彼らに期待されているのは後任の指導。特に軍が動かし辛い小鬼禍に対抗する為の試金石だと思ってくれて構わない」

 

 

 金等級になればギルドに働きかけて支部の運営に口を出せるようになるからね、と付け加える銀髪侍女さん。応対している監督官さんもそれならばと納得しているみたいです。どうやら辺境のギルド支部をモデルケースとして、本格的に冒険者全体の質の向上を考えているのかもしれません。

 

 兵の損耗も多かったものの、『赤い手』の件からこっち混沌の勢力は大きく力を削がれ、その後の死灰神による余計なちょっかいで内通者候補もその殆どが狩り尽くされていますからね。砂漠の国という新たな火種を抱え込んでしまいましたが、国内の環境整備に注力出来るだけの余裕が生まれたといっても良いでしょう。

 

 

「彼らの待遇については理解したけど……()()()に関しては、国としてはどうするつもりなのかな? 正直に言って一支部が囲い込むには過剰戦力なんだよねぇ」

 

「そこは気になるよね。彼女たちについては私たちも随分頭を悩ませていたんだよ」

 

 

 まぁ、やっと方針が纏まったんだけどねと笑う銀髪侍女さんの空いたグラスにお酒を注ぎながら、目で続きを促す監督官さん。いつもより度数の低い液体を一息に飲み干しながら銀髪侍女さんの口にした内容は……。

 

 

 

「――三年。三年で国内に残る混沌の勢力の残党を排除し、陛下と砂漠の姫君との婚姻を以て二国を統一する。そのころには何家も貴族の取り潰しが行われているだろうから、金等級昇格と同時に領地持ちの貴族となってもらうつもりだよ」

 

 

 とても遠大で、しかし確実に掴むことの出来る未来として感じられる計画でした。

 

 

「もっとも、既に治めてもらう予定の土地は決まっているんだけどね」

 

「へぇ? 気の早い話だねぇ……」

 

 

 何処を預けるつもりなのと問う監督官さんに、懐から取り出した(ウォトカ)で口を湿らせた銀髪侍女さんが面白くて仕方がないといった表情で伝えた場所は、ある意味ダブル吸血鬼ちゃんに一番ふさわしいものでした。それを聞いた監督官さんがの酔いが一発で吹き飛び、思わず顔を引き攣らせるほど相応しい場所と言えば……。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、領地にするにはピッタリだとは思わないかい?」

 

 

 

 

 

 

 冒険者ギルドでそんな話がされているとは露知らず、宴会も早々に自宅へと帰って来た一党(パーティ)とその関係者一行。ダブル吸血鬼ちゃん的には叙勲式までの約半月はゆっくり休むつもりだったようですが……。

 

 

「休んでいる暇は無いのです。さっさとその2人を眷属にするのです」

 

「おあ~……」

 

 

 自宅のリビングで待ち構えていた賢者ちゃんによって、2人のささやかな望みはあえなく潰えてしまいました。

 

 

 

「叙勲式の後には、貴女たちの真実を公表し、同時に決して人間に仇なす存在ではないという陛下からの宣言が出されるのです。その前に2人を眷属にして、純情乙女と合わせてなし崩し的に眷属3人の身分も一緒に保証させるのです」

 

「あう……きゅうにそんなこといわれても……」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんを抱き上げた状態でキメ顔でのたまう賢者ちゃん。言っていることは乱暴ですけど、これが良い機会なのは間違いありません。ふわふわのお山に後頭部を埋もれさせたまま、恐る恐る女魔法使いちゃんと令嬢剣士さんの様子を窺う吸血鬼君主ちゃんですが……。

 

 

 

「――ふむ。じゃあ後輩、今日が真人間でいられる人生最後の日よ。ちゃんとお母さんにお別れを言っときなさい」

 

「……いえ、私の母は此処に居りますが。それに、母とは死に別れるわけではありませんわ。ちょっと身体が冷たくなって食生活が変わるだけですもの」

 

「ふぁ!?」

 

 

 予想以上に乗り気な2人を見て驚きを隠せない吸血鬼君主ちゃん。ではお母様、先立つ不孝をお許しくださいと冗談交じりに告げる令嬢剣士さんを半森人夫人さんが苦笑しながら窘めています。

 

 

「思っていたよりも早いですが、これもまた巡り合わせというものでしょう。あの人には私から伝えますので、貴女は後悔の無い選択をしなさい」

 

 

 そっと娘を抱き寄せて後押しをしてくれるお母さん。一党のみんなが眩しそうに2人を眺める中で、漸く賢者ちゃんの拘束から抜け出した吸血鬼君主ちゃんが女魔法使いちゃんにしがみ付いています。おなかのあたりに頭をグリグリと擦り付け、不安でいっぱいの顔で見上げて来る吸血鬼君主ちゃんを抱き上げ、何かを言いだそうとした小さな唇を女魔法使いちゃんが自らのソレで塞ぎ、問答無用で蹂躙し始めました!

 

 

「んむ!? んん~……んく……ぷぁっ」

 

「アンタ、またくだらないこと言おうとしたでしょ? いい加減認めなさい。この先どんなことが待ち受けていたとしても、私たちはみんなアンタたち2人と永遠を歩むことを決めてるんだから」

 

「……ほんとにいいの? もしかしたら、またみんなにきらわれてころされちゃうかも……んむぅ!?」

 

「……ぷぁ。馬鹿ねぇ、そうならないために陛下も宰相も、そこの猫耳おっぱいも動いているんでしょうが。アンタが進む道は、みんなのおかげで幸せいっぱいに舗装されてるのよ?」

 

 

 だから、今夜カタをつけるわよ? と半ば出来上がった吸血鬼君主ちゃんを半目で睨み、ほっぺをむにむにと引っ張る女魔法使いちゃん。吸血鬼君主ちゃんが周りを見渡せば、みんな笑顔で2人を祝福してくれていました。

 

 

「ヘルルインには悪いけど、成功率を考えたら2人ともシルマリルに吸ってもらったほうが良いみたいなの。万が一にもデイライトウォーカーになれなかったら……ねぇ?」

 

「ん! だいじょうぶ、わかってるよ。……パパがふたりで、ママがたくさんで、おかあさんとおばあちゃんもいる! そんなかぞくになれるんだよね!!」

 

 

 だから、この子もぼくの大切な赤ちゃん!と妖精弓手ちゃんのおなかに頬擦りをする吸血鬼侍ちゃん。同じ日光を克服した存在とはいえ、『ヴァンパイアロード』である彼女よりも『デイライトウォーカー』である吸血鬼君主ちゃんが眷属にしたほうが失敗する確率は低そうですからね。

 

 ひょっとしたら心情的にモヤモヤしてるんじゃないかと妖精弓手ちゃんは気にしていたようですが、ダブル吸血鬼ちゃんはまったく意に介していなかったみたいです。同じ血で繋がった集団としての血族(かぞく)。2人にとっての家族はそんなアバウトなもので十分なのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

「さて、話も済んだようなので、早速おっぱじめるのです」

 

 

 ……良い話で終わるかと思っていたんですが、そうは問屋が卸さないみたいですね。賢者ちゃんの掛け声で各人が動き出し、事態が飲み込めていない吸血鬼君主ちゃんがキョロキョロとみんなを見渡しています。

 

 

「えっと、まいにち≪そせい(リザレクション)≫をつかってたから、あんまりまりょくがたまってないんだけど……いまからするの?」

 

「安心するのです。ここにはたっぷりと魔力を蓄えた()()()が揃っているのです。選り取り見取り、芳醇な魔力を吸い放題なのです」

 

 

 フンスと豊かな胸を張る賢者ちゃんの言葉とともに吸血鬼君主ちゃんを寝室へと運び始める女性たち。主賓である女魔法使いちゃんと令嬢剣士さんに両腕を掴まれ、囚われた宇宙人状態で階段を上る後ろを、エロエロ大司教モードの剣の乙女ちゃんと賢者ちゃん、それに……。

 

 

「流石に母乳は出ませんが、血液であれば構いません。娘の門出を祝うためならば、この程度何でもない事ですので」

 

「夫とはもう数百年前に死別してますからね。孫たちも独り立ちしましたし、新しい恋を探すのも良いかと思いまして」

 

「おあ~……」

 

「がんばえ~!」

 

 

 クールに決めているように見えて長耳が真っ赤な半森人夫人に、肉食獣の眼光を浮かべている若草祖母さんまで一緒になって階段へと姿を消して行く背後、ハイライトさんが失踪した吸血鬼君主ちゃんをソファーに座る森人三姉妹と吸血鬼侍ちゃんを膝上に抱きかかえた白兎猟兵ちゃんが笑顔で見送っています。やがて上の階からは寝台(ベッド)が軋む音と、愛を交わし合う艶やかな声が響き始めました……。

 

 

「……あした、ひからびてないといいね?」

 

「そうねぇ、みんな加減するとは思えないし。……それよりも、ヘルルインは自分の心配しなくて良いのかしら」

 

「……ふぇ?」

 

 

 ゴッドスピード!って感じで吸血鬼君主ちゃんを見送っていた吸血鬼侍ちゃん。被害を免れたと思い安堵の吐息を漏らしていたところで妖精弓手ちゃんから不意の問い掛け。その意味を知る前に獣は行動を開始していました。

 

 

「さぁ旦那さま、うさぴょいの時間ですよ! まだお子を授かっていないので、今夜は朝までうさだっちです!!」

 

「おあ~……」

 

 豊穣の霊薬をキメて目がハートの白兎猟兵ちゃんにソファーへと押し倒された吸血鬼侍ちゃん。助けを乞うように愛する森人(エルフ)の美姫たちへ視線を送りますが……。

 

 

「ファイトです主さま。もし補給が必要でしたらいつでもお声かけ下さいませ」

 

「ふふ、たしかこういう時は『がんばれ♡がんばれ♡』っていうのが只人(ヒューム)の作法なんだっけ」

 

「バシッと決めてやりなさいヘルルイン。ウィズボール(やきう)チーム結成までの道のりは遠いわよ~?」

 

 

 愛の結晶が宿ったおなかを撫でながら反対の手で卑猥なサインを繰り出す奥様戦隊を見て、みるみる顔を絶望色に染めていく吸血鬼侍ちゃん。夏毛に生え変わった身体を擦り付けてくる白兎猟兵ちゃんに完全に主導権を奪われているご様子。唐突にリビングで始まったうさぴょいを眺める妖精弓手ちゃんが苦笑しながら呟いた言葉が、この一党(パーティ)を端的に表しているのかもしれませんね。

 

 

 

 

 

 

「みんな今まで散々酷い目に遭ってきたんだもの。このくらいの幸せを掴んだからって、誰にも文句は言わせないわ!」

 

 


 

 

「――卿らには余に対する忠義は求めぬ。ただ民の安寧を護るよう、その力を振るうことを期待している」

 

 

 おっと、回想シーンの間に陛下のスピーチが終わったみたいですね! 儀典長が恭しく差し出した金色の認識票を王妹殿下が3人の首へと掛けていきます。天井から降り注ぐ光を受け輝く認識票を下げた3人が立ち上がったところで大きな拍手が沸き起こり、新たな騎士の誕生を寿ぐ声が謁見の間を飛び交っています。冒険者が並ぶ列へ3人が分け入ったところで、今日のもう一組の主役を呼ぶ儀典長の声が響き渡りました!

 

 

 

 壮麗な軍装の近衛兵が開けた両開きの大扉を抜け、謁見の間へと登場した女性たち。その可憐な姿にあちこちから溜息まじりの感嘆の声が上がっています。

 

 まず現れたのは5人の()()です。右端には眼鏡を掛け、ノースリーブの白いシャツと黒のプリーツスカート姿の首に護符を下げた剣の乙女ちゃん。反対側には両腰に軽銀の双剣を佩き、肩に身の丈ほどもある魔剣を背負った令嬢剣士()()()が、頭にミニサイズの使徒(ファミリア)を乗せて威風堂々と歩を進めています。2人の隣にはダブル吸血鬼ちゃんが、それぞれフル装備で隣の想い人と手を繋いでいますね。そしてダブル吸血鬼侍ちゃんに挟まれ、5人の中心にいるのは……。

 

 

「……うむ、余の見間違いで無ければ、卿らもうちょっと大人びていなかったか?」

 

「全部このエロガキの仕業で御座います、陛下」

 

 

 ……怒りを堪えるように顔を引き攣らせている、森人少女ちゃん並にちっちゃくなっちゃった女魔法使いちゃんです!

 

 

 

 賢者ちゃんの身に着けているような身体にフィットしたボディースーツにトレードマークのとんがり帽子、常時展開している翼を外套代わりにした姿。立派なお山はサイズこそ小さくなったものの、それよりも体格が縮んだためカップ的にはサイズアップしているという奇跡。苦笑している令嬢剣士()()()も合わせて、横でてへぺろしている吸血鬼君主ちゃんの仕業ですね。

 

 剣の乙女ちゃんの時は半ば事故だったものの、味を占めたのか2人に対してもこっそり細工をしていた吸血鬼君主ちゃん。眷属化が完了したところで身体の異変に気付いた女魔法使いちゃんが締め上げ、その理由を吐かせたところ……。

 

 

「ぼくがちっちゃいせいで、つながっているときにちゅ~してあげられなかったから……」

 

 

 相手を小さくすれば相対的に届くかもという思い付きで及んだ犯行。たしかに今までは森人少女ちゃんと妖精弓手ちゃんしか届いてませんでしたからねぇ。2人の身長も15cm近く違うのですが、妖精弓手ちゃんが超絶モデル体型なのでギリギリ届いてたみたいです。

 

 ふざけた理由だったらお仕置きと息巻いていた女魔法使いちゃんもこれには苦笑い。2人とも剣の乙女ちゃんと同様に【魔貌】の能力で元の姿に戻れたのでお咎め無しで済んだようです。

 

 

 

 やたら外見年齢の低い面々に目を白黒させていた諸侯ですが、5人に続けて入場してきた女性たちの姿を見て、先程とはまた違った声を漏らしました。

 

 後から現れたのは6人の女性。前を行く3人は麗しき森人(エルフ)。それぞれ趣は違えどもその美貌は甲乙付け難く、彼女たちの登場で広間が一気に華やいだと感じるほどです。愛の結晶を胎内に宿し膨らんだ腹部でありながらも、その美貌は陰るどころかより一層彼女たちの美しさを彩っています。

 

 小柄な体格に儚げな表情の森人少女ちゃん……いえ、お母さんになるのですからこの呼び方はもう似合わないですね。両手をおなかの前で組んでゆっくりと歩く()()()()()()()()。森人狩人さん改め()()()()()()もゆったりとしたドレスに身を包み普段はチェシャ猫のような顔を幸せ一色に染めていますね。

 

 真ん中を悠然と歩く妖精弓手ちゃんは……もはや言葉を紡ぐ必要も無いでしょう。散々だらしねぇところを見ていた筈の鉱人道士さんでさえ開いた口が塞がらない程の美しさ……上の森人(ハイエルフ)を見慣れていない武官たちは半ば魅了されたように呆けてしまっています。

 

 3人の美姫の後ろには身重の身体を案じるように白兎猟兵、半森人夫人さん、そして若草祖母さんが続いています。陛下の前まで到着したところで侍従が持ってきた椅子に()()()()()()、その背後に回りました。この謁見の間で椅子に座っているのは他に()()()()()殿()()()()と言えば、どれだけ3人が厚遇されているのかが判って頂けるかと思います。

 

 

「卿らの活躍、数々の困難を打ち砕いてきたその力と人望、余はとても嬉しく思う。その献身に報いる前に、ひとつ尋ねたいことがある」

 

 

 玉座から立ち上がり、一歩ずつ一行へと歩み寄りながら言葉を紡ぐ陛下。口調こそ厳しいもののその顔には笑みが浮かんでおり、聞く前から答えは判っていると言わんばかりの表情です。

 

 

森人(エルフ)吸血鬼(ヴァンパイア)。どちらも只人(ヒューム)よりはるかに永き時を生きる種族にして、類稀なる美貌を持つ隣人。我ら凡俗から見れば、羨望とともに恐怖を感じざるを得ない存在と言えよう」

 

 

 凡俗と言ったところであちこちから漏れる苦笑をジト目で黙らせ、言葉を続ける陛下。背後では王妹殿下が笑いを堪えるのに必死なようで、椅子のひじ掛けを軋むほどに握りしめていますね。

 

 

「我らは心配なのだ。その強大な力が何時此方へ向かないとも限らない。そんな状態が恐ろしくて堪らないのだ。……だからこそ、民の代弁者として余は問おう。卿らは我ら人間に仇なす存在なのか?」

 

 

 陛下の問い掛けに仲間たちを見回すダブル吸血鬼ちゃん。皆の頷きを確認した後、向こうで心配そうに見つめている冒険者たちに笑顔を向け、2人同時に答えを返します。

 

 

「ぼくたちは、ずっとみんなとなかよしでいたいの」

 

「みんながわらっていきていけるように。みんなとわらっていきていけるように。それがみんなのこどもやまご、そのずっとさきまでつづいてほしいの」

 

 

 

 

 

 

「「だから……ぼくたちと、ともだちになってくれますか?」」

 

 

 

 

 

 

「水臭いことを言うな。我らは既に友であろう? 『死の迷宮』で出会った、その瞬間からな!」

 

 

 

 陛下の言葉ととも爆発するように湧き上がる歓声。予め打ち合わせしていたとはいえ、ここまで人の心を掴むのは流石陛下と言えるでしょう! 列から飛び出して来た猪武人さんが吸血鬼侍ちゃんを抱え上げて武官の列に放り投げ、当然の流れのように胴上げが始まりました。向こうでは剣の乙女ちゃんが立派なお山を持った紫色の髪の女性にからかわれています。あの人って、もしかして『六英雄(オールスターズ)』の……。

 

 吸血鬼君主ちゃんも冒険者たちに捕まってもみくちゃにされ、前髪をリボンで纏められて秘匿されたおでこを出されちゃってます。下手人である監督官さんのお山をポフポフしていた吸血鬼君主ちゃんへ、ゴブスレさんと牛飼若奥さんが並んで話しかけてきました。

 

 

「えへへ……『おめでとう』と『ありがとう』、両方いっぺんに伝えなきゃと思ってね!」

 

「お前たちの協力で、俺は『冒険者』になることが出来た。改めて感謝する……親友」

 

「ううん、こちらこそ。『おめでとう』と『ありがとう』だよ……しんゆう!」

 

 いつかの時と同じように、拳を突き合わせる2人。そんな2人を牛飼若奥さんが纏めてハグしています。ほっぺたに感じるたわわに正当な所有権を持つゴブスレさんと目を合わせ、お互いに苦笑しているみたいですね。

 

 ちっちゃくなっちゃった女魔法使いちゃんを心配するように話しかけている半鬼人先生と少年魔術師君。妖精弓手ちゃんにちょっかいを出していた不良闇人さんは若草祖母さんにアイアンクローを喰らって悶絶しています。赤い髪を靡かせて熱っぽい目で彼を見つめている火の妖精?(K子さん)の隣には彼女と瓜二つのちっちゃな姿が。よく見れば少年魔術師君の背後にも女幽鬼(レイス)さんにそっくりな半透明の少女がプカプカと浮かんでいます。……2人とも、立派なパパになったんですねぇ(ほろり)。

 

 

 

「おっと、余としたことがうっかり。実は卿らにもう一つ聞いておきたいことがあったのだ」

 

 

 おや、陛下がダブル吸血鬼ちゃんを手招きしていますね。みんなに断りを入れてぽてぽて近付いて来た2人を抱え上げ、首を傾げている2人に尋ねました。

 

 

「卿ら、先日銀等級に昇格したであろう。となれば、新たな騎士たちのように何か異名を付けんとな?」

 

 

 ああ、そういえばたしかに。槍ニキの【辺境最強】に重戦士さん一党の【辺境最高】、そしてゴブスレさんの【辺境最優】。みんなカッコいい異名(称号)がありますもんね。『死の迷宮のヴァンパイアロード』だけではなく、冒険者として2人が認められた証になるかもしれません。

 

 真実の公表(情報操作)ついでに広めておこうという義眼の宰相からの提案もあり、一党(パーティ)の仲間は勿論関係者みんなで顔を突き合わせて始まった喧々諤々の遣り取り。……なんかこっち(盤外)でも似た光景を見たことがある気がしますねぇ。

 

 【辺境最小】や【辺境最愛】に【辺境最重】と言った意見が飛び交い、なかなか纏まらないみたいです。あ、半森人局長さん【辺境最速】はRTA専用称号(トロフィー)なんでダメですからね?

 

 ……お、どうやら良い感じの案が出たみたいですね! みんなから送り出されたダブル吸血鬼ちゃんが、お互いに頷きあって陛下に抱き着きに行きました。

 

 

「おっと。……どうやら決まったようだな。さて、卿らの存在をこの世界に刻み込む異名、聞かせてもらおうではないか」

 

 

 跳び付いてきた2人を受け止めた陛下の言葉に頷きを返し、2人同時に宣言した異名は……。

 

 

 

 

 

 

「「へんきょうさいあく(辺境最悪)!」」

 

 

 

「ひとからちょっとだけ()やおっぱいをちゅ~ちゅ~する、と~ってもわるいきゅうけつき」

 

「かわいいおんなのこをなんにんもどくがにかけて、じんせいをかえるひどいきゅうけつき」

 

「そんなぼくたちが、へんきょうでいちばんわるいやつになるように」

 

「そんなぼくたちよりひどいこが、このせかいからいなくなるように」

 

 

 

「「ぼくたちが、へんきょうさいあくになる!!」」

 

 

 

 【辺境最悪】……なるほど、ピッタリかもしれませんね。人にちょっかいを出す程度の悪い子である自分たちが、辺境で一番悪いヤツになるように。それ以上の悪がのさばるのを決して許さないという意志表示も込めているのでしょう!

 

 言葉の真意を汲み取った陛下と宰相が悪い顔を浮かべています。どうやら2人の気持ちはしっかりと伝わったみたいですね……っと、陛下の腕から2人を引き剥がした女魔法使いちゃんがそのまま冒険者の一団に向かって2人をブン投げました! 水平に飛んできた2人を蜥蜴僧侶さんと重戦士さんがガッシリと受け止め、そっと地面にリリース。目を回している2人の頭を槍ニキがガシガシと撫でまわし、続けて女騎士さんと女将軍さんが2人を肩車。散々みんなに弄ばれてフラフラになった2人を抱き留めたのは……。

 

 

 

 

 

 

「話の途中ですが世界の危機なのです」

 

「ゴメンね! ちょっとボクたちだけじゃ手が足りないみたいなんだ!!」

 

「……本当に申し訳ない」

 

 

 

 ……これから最終決戦(クライマックスフェイズ)というオーラを全身から放っている勇者ちゃん一行でした。

 

 

 

 半笑いの表情で背後に振り返るダブル吸血鬼ちゃん。2人の目に飛び込んで来たのはみんな揃ってサムズアップしている大切な仲間(薄情者)たちのイイ笑顔。絶望顔の2人を流石に可哀そうに思った女魔法使いちゃんがこっそりと近付き、半泣きで装備の確認をしている2人を抱き寄せて耳元で囁く言葉は……。

 

 

 

 

 

 

「しっかり世界を救ってきなさい、私たちの可愛い王子様たち?」

 

 

 

 衝撃波(ソニックブーム)だけを残して盛大に窓をぶち破って飛び出して行った2人と、その後を慌てて追いかける勇者ちゃん一行。あんな素敵なこと言われちゃったら、世界の危機のひとつやふたつ、あっという間に解決してくるでしょう!

 

 

 

 トロフィー【辺境最悪】を取得したところでタイマーストップ……にはなりません! ダブル吸血鬼ちゃんとその仲間たちの物語(キャンペーン)はまだまだ続きますからね!! 

 

 セカンドシーズンはこれにて終了、次回からはサードシーズンに突入です! ダブル吸血鬼ちゃんの活躍に、これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 




 サードシーズンの準備をするので失踪します。

 投稿を始めてから1年弱、まさかここまで続くとは思っておりませんでした。

 全てはお読みいただけた方々に支えられての継続、評価や感想が無ければ本当に失踪していたことでしょう。

 もし、よろしければ……これからもお読みいただければ幸いです。その際お気に入り登録や評価、感想もいただけると励みとなりますので、お時間に余裕がありましたら是非に。

 改めて、お読みいただきありがとうございました。


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セッションその13 いんたーみっしょん その1

 次はサードシーズンと約束したな。アレは嘘なので初投稿です。


あ、お疲れ様です万知神さん! お役目ご苦労様でした!!

 

 いや~、正道(ルタ)神さんと奪掠神(タスカリャ)さんが盤外への逃走を防いでいる間に、信徒に成りすました本()を捕縛するとは……流石のワザマエ! この無貌の神(N子)、敬服致しました!!

 

 騒ぎを起こした当の本()は……むう、呆然自失って感じですねぇ。

 

 本来ならサークル会員神格(資格)剥奪の上、出禁にして二度と四方世界に干渉出来なくするところですが……どうせまた同じような手口を使って"啓示(掲示)"板経由で信徒を探すでしょうからねぇ。

 

 

 

 はてさて、どうしたものか……おや? ≪幻想≫さん、何か良い意見をお持ちのようで。

 

 ふむふむ、成程……いいですねぇ! 出禁にするよりよっぽど効きそうです。その手でいきましょう!!

 

 さ~て死灰神くぅ~ん? キミには特等席を用意しようじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 キミの独り善がりの我儘がどれだけ害悪であったか。キミが干渉しないだけで物語(キャンペーン)がどれだけ面白くなるのかを、目を逸らさずに見続けたまえよ。

 

 


 

 

 ヤレばデキる、それが世界の真理な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、称号(トロフィー)【辺境最悪】を獲得したところから再開です。

 

 陛下から直々に【辺境最悪】の異名を認められたことで、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の認知度も急上昇。辺境の街を中心に、周囲の環境も大きく変化してまいりました。状況説明を兼ねて、その辺りからお話しさせていただきましょうか!

 

 

 

 まず、砂漠の国に赴く前に話していたお引越しですが、当初の予定より遅くなったものの無事に完了いたしました。ゴブスレさんに購入してもらっていた土地を借りて、遣い手が限られるもののクッソ便利な≪死王(ダンジョンマスター)≫でポンと建設。触媒として必要な財貨は、銀髪侍女さんが砂漠の国から戻ってきた際に赤竜が貯め込んでいた財宝を、依頼の報酬の一部として療養所建設のコストと合わせて丸投げしてくれたのでそれを使わせてもらうことに。勿論マジックアイテムやご禁制の品には手を付けず、金貨や宝石を使用したのでご安心を。それらは剣の乙女ちゃんと魔女パイセンが鑑定の上、ヤベーイ代物は纏めて知識神の文庫(ふみくら)に投げ込まれていました。

 

 

 

 次に一党の新たな拠点となる新居についてですが、大まかには今まで住んでいた街中の屋敷をアップグレードした感じですね。

 

 寝室はダブル吸血鬼ちゃん用の大部屋2つに加え、個人用兼来客向けの個室を多数配置。もちろん全部屋冷暖房完備です。また、基礎が≪迷宮(ダンジョン)≫であることを最大限に悪用し、何処からか湧いて来る豊富で清潔な水をふんだんに使用できる大浴場とキッチンを女性陣の強い要望もあってダブル吸血鬼ちゃんが設置。おまけに()()()()()のことを考慮して、遮音性に優れた部屋も新たに設けられました。……はい、視聴神さんたちの予想通り、待望の赤ちゃんが誕生いたしました!

 

 

 

 賢者ちゃんと女魔法使いちゃんの緻密な計算に基づいた正確な魔力供給により、綺麗に出産予定日を揃えていたお母さん候補の3人。多数の神官の仲間たちが見守る中、半日ほどの時間差で全員無事に出産を終えることが出来ました。

 

 赤ちゃんが産まれた順番は早いほうから妖精弓手ちゃん、叢雲狩人さん、若草知恵者ちゃん。奇しくも子を宿したのとは逆順になってますね。一番最初に愛の結晶を宿していた若草知恵者ちゃんを差し置いて長子を出産した妖精弓手ちゃんが何とも申し訳なさそうにしていましたが……。

 

 

妹姫(いもひめ)様、どうかお気になさらず。妹姫様が長子をお産みになられたほうが古老の皆様も納得されますでしょうし、将来お義母様(半森人夫人さん)の下へ養子に出すことになった際にも問題にはなりにくいでしょう。それに……」

 

 

 自分と同じ銀に近い白髪に一房混じった金の流星を持つ我が子を愛おし気に撫でつつ、嫋やかに微笑む若草知恵者ちゃん。そっと妖精弓手ちゃんの抱く赤ちゃんに手を伸ばし、その頬に優しく指をなぞらせて……。

 

 

「産まれた順番などでこの子たちに注がれる愛は決して変わることはありません。みんな同じ、愛しき私たち全員の子どもで御座いますから」

 

 

 ……うん、強くなりましたね、若草知恵者ちゃん。これが母親になるってことなんでしょうか。

 

 

 

 

 

 

「だいじょうぶ? いたかったりへんなところはない?」

 

「大丈夫よ、みんながしっかり癒してくれたもの!」

 

 

 幸せいっぱいの笑顔で赤ちゃんを抱く妖精弓手ちゃんを心配そうに眺める吸血鬼君主ちゃん。ケロっとした顔の本人に対し、立ち会っていた神官のみんなは一様に安堵の表情を浮かべています。

 

 今回お母さんになる3人が全員森人(エルフ)という出自。外見からも想像出来ると思いますが、その美しい容姿に比して出産が与える母胎への影響は強く、華奢な身体へ掛かる負担は只人(ヒューム)よりもはるかに大きいものになってしまいます。

 

 いざという時に備えて帝王切開の準備はしていましたが、幸いにも3人とも自然分娩で出産を終え、それに伴う裂傷と皮膚の弛みは治癒の奇跡で綺麗に治され全員魅惑のプロポーションを取り戻していますね。

 

 

「ハイエルフにしてはちょっとみみがみじかい………?」

 

「たしかに先端が少し丸いかしら? フフ、きっとシルマリルに似たのよ。ほら、そっくり!」

 

 

 初乳を飲み終わって微睡む赤ちゃんの耳。森人(エルフ)よりはずっと長く、上の森人(ハイエルフ)にしてはちょっぴり短めの長耳は妖精弓手ちゃんの言う通り吸血鬼君主ちゃんによく似ています。頭頂部にピョコンと生えたアホ毛と授乳の際にチラッと見えた瞳の色も吸血鬼君主ちゃんと同じ色ですので、成長したら2Pカラーの妖精弓手ちゃんみたいになるかもしれませんね!

 

 

 

 

 

 

「えへへ、おつかれさま。……ぶじにうんでくれてありがとう」

 

「思っていたほどの痛みは無かったからね。ご主人様が望むならすぐにでも2人目を……痛っ!? 冗談だよ義妹(いもうと)君、流石の私も暫くは育児に専念するつもりだってば」

 

「冗談には聞こえなかったわよ馬鹿義姉(ばかあね)。貴女もそんなポンポン森人(エルフ)を増やすんじゃないわよ?」

 

「は~い!」

 

 

 おやおや、ベッドで上体を起こしていた叢雲狩人さんと彼女を後ろからあすなろ抱きしていた吸血鬼侍ちゃんが女魔法使いちゃんに怒られちゃってます。2人の愛の結晶は女魔法使いちゃんのたわわに顔を擦り付けながらスヤスヤと夢の中。この子は左右の耳上の髪が吸血鬼侍ちゃんと同じ色になってますね。

 

 産まれた時に産声を上げなかったために立ち会ったみんなが焦っていましたが、叢雲狩人さんがおもむろにおっぱいを含ませると即座に上機嫌でちゅーちゅーし始めたあたり将来大物になる予感がします。

 

 


 

 

 そんな感じで無事に出産というイベントを終わらせたダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)。育児経験など無い集団でしたが、そこは若草祖母さんが全面的にバックアップ。特殊な環境である血族(かぞく)構成を考慮し、ローテーションを組んで赤ちゃんに向き合っていくことになりました。資産的には十分潤っているのであくせく稼ぐ必要はありませんが、訓練場での指導や勇者ちゃん一行から呼び出される可能性もありますので、最初からチーム戦で育児に臨むつもりのようです。

 

 現状自宅に常駐しているメンバーは吸血鬼5人、森人(エルフ)が4人(2000歳児含む)に兎人(ササカ)が1人の合計10人。これを吸血鬼とそれ以外を組ませる5組に編成し、行動の際の基本単位として考えることに。昼と夜に1組ずつが育児に専念し、残りの3組のうち1組が訓練場に教官役として出勤。後の2組は緊急時に備えての待機兼休息組として、牧場のお手伝いや息抜きのデートなんかにお出掛けするみたいです。

 

 あ、ちなみに吸血鬼ママたちのおっぱいを赤ちゃんが飲んで平気なのかという疑問があるかと思いますが、賢者ちゃんが実際に味わったりして分析したところ「純粋な生命力の塊なので栄養源としては見做せないのですが、生物としての(レベル)を上げるには非常に効果が高いのです………ちゅー」とのことですので、森人ママたちのおっぱいの補助として飲ませるのはOKみたいです。

 

 また、以前銀等級カップルたちの赤ちゃんには暫く近付くなと言われていた吸血鬼が傍に居て良いのかという点ですが、既にダブル吸血鬼ちゃんの因子を持っているので平気とのこと。ついでにそろそろあっちの赤ちゃんにも近付いて良いとのお達しが出ましたので、これからも続くであろう冒険者カップルから誕生した赤ちゃんの集団保育が捗りそうですね!

 

 お、ちょうどリビングに今日のローテーションが貼ってありますのでちょっと見てみましょうか! どれどれ……?

 

 

担当①担当②
昼番若草祖母さん剣の乙女ちゃん
夜番妖精弓手ちゃん吸血鬼君主ちゃん
お仕事叢雲狩人さん【ギルド訓練場】令嬢剣士さん【ギルド訓練場】
お休み若草知恵者ちゃん【自宅待機】女魔法使いちゃん【療養所】
お休み白兎猟兵ちゃん【畑に行ってきます!】吸血鬼侍ちゃん【野良魔神退治】

 

 

 ふむふむ……。お仕事組は訓練場で教官、白兎猟兵ちゃんは弟妹たちのところへ行っているみたいですね。吸血鬼侍ちゃんが赤文字ということは、ギルドからの緊急依頼ですっ飛んでいったんでしょう。女魔法使いちゃんは療養所へ。リハビリ中の冒険者たちに今後の身の振りについて聞きに行ったのかな?

 

 

 

 さて、リビングの様子は……と。ほほう、若草祖母さんの子守歌が響いてますね。赤ちゃん3人と一緒に夜番の2人もソファーで寝息を立てています。普段は活発に飛び回っ(バクシンし)ている風の精霊たちも、その美しい旋律に身を任せ、気持ちよさげにゆったりと宙を漂っているみたいです。

 

 

「流石おばあ様の子守歌、妹姫(いもひめ)様と主さまも気持ちよさそうに寝ていらっしゃいますね」

 

「うふふ、年季が違いますから。……ごめんなさいね? ()()お乳が出ない私のために家に残ってもらっちゃって」

 

「そんな、どうかお気になさらず。今日はお天気も良いですし、ゆっくりと日向ぼっこでもと考えておりましたので」

 

 

 せっかくのお休みなのに、と頭を下げる若草祖母さんに微笑みを返す若草知恵者ちゃん。そういえばおっぱい出ませんものね、若草祖母さん。……なんか不穏当な発言が聞こえたような気もしましたが。

 

 

森人(エルフ)の年長者の方の目から見ても、それほどまでに魅力的に映るのでしょうか、共に永遠を歩んでくれる存在というものは……」

 

「そうですね……。森人の長い人生、その中で自分よりも長く生きてくれる存在というものに私たちは強く惹かれてしまうのです。上の森人(ハイエルフ)の方々との身分違いの悲恋が恋物語として人気がある理由も、その性質(サガ)にあるのでしょう」

 

 

 もっとも、自分よりも儚い存在に心惹かれる者もおりますので全員がそうというわけではありませんが、とお茶の用意をしていた剣の乙女ちゃんの問いに答える若草祖母さん。

 

 

「私もあと何年生きられるか……というのは冗談ですが、氏族の務めを後任に託し、1人の女として自由に生きられる時間を得ることが出来ました。そんな時にこの子たちを見てしまったら……ね?」

 

 

 ソファーから吸血鬼君主ちゃんを抱え上げ、膝上に乗せながらその場に座る若草祖母さん。今まであった支えが無くなりもたれかかってきた妖精弓手ちゃんを肩口で受け止め、その頬を優しく撫でています。

 

 

「何れ人はその版図を広げ、森へと迫って来る日が訪れます。その時に両者の間に仲介者として入り込むことが出来る中立的な立場の存在を用意しなければ、混沌の勢力が付け入る隙を生み出してしまうことになりかねません」

 

 

 おそらく陛下もそれを考えて貴女たちを取り立てているのでしょうと語る若草祖母さん。万が一放蕩貴族(アホボン)たちのような輩が台頭し、自浄作用を超えて王国が腐敗するようなことがあれば、その大樹を切り倒す役目を担うのをダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)に期待しているのかもしれません。義眼の宰相あたりがこっそり考えていそうな気がしますね……。

 

 

「その為には、人間社会から侮られない程度の力を持ち、尚且つ混沌の勢力よりも大きな脅威として認識されないよう力を抑えなければならない。……難しい問題ですね」

 

 

 細い指を顎に沿えて考え込む剣の乙女ちゃん。内々に聞かされていることですが、数年後に≪死の迷宮≫があった城塞都市に貴族として封ぜられるのはそれを見越してのことなのでしょう。北方からの脅威に対する王国の盾となり、人界の守護者としての立場を確立することで迫害や脅威論を逸らすつもりなのかもしれませんね。

 

 

「まぁそれでも人間社会から排除しようとするのなら、その時はみんなで森人(エルフ)の森へお引越ししましょうか。可愛い孫や曾孫たちに手を出すつもりでしたら、私も遠慮は致しませんので♪」

 

 

 にっこりと笑う若草祖母さんですが、その瞼の奥の瞳は笑ってないんだろうなぁ……。吸血鬼と森人の長生者(エルダー)タッグに刃を向けられたら大変ですし、只人(ヒューム)が勝っている繁殖力に関しても豊穣の霊薬を用いることで解決出来ちゃいますし。倫理的にどうこうという話は絶滅戦争時にはナンセンスですからねぇ……。

 

 

「んにゅ……でも、ぼくはなるべくみんなとなかよくしたいの。ちょっときらわれても、こわがられてもへいき、【へんきょうさいあく】だから。……ナメられたら、わからせるかもだけど」

 

「主さま、聞いていらしたんですか……」

 

 

 おや、いつの間にか目を覚ましていたんですね吸血鬼君主ちゃん。くぁ~と欠伸をした後に若草祖母さんの控えめなお山に顔を擦り付け、柔らかな感触を堪能。そのまま喉元から頬へと滑るように顔を持ち上げていき、長耳へと到着した後に……。

 

 

 

 

 

 

「つぎのおやすみのとき、おばあちゃんのぜんぶがほしい。……だめ?」

 

「うふふ、こんな年寄りを堕とそうだなんて悪い子。おばあちゃんはとっても嬉しいのですが、ちょっとタイミングが良くなかったですよ?」

 

「ふぇ? ひぁぁ!?

 

「子どもを産ませたばかりの女の前で当人のおばあちゃんを口説くとは、なかなか良い度胸してるじゃないシルマリル。ほら、貴女もなんか言ってやりなさいよ」

 

 

 

 若草祖母さんに顔を寄せて愛を囁いた吸血鬼君主ちゃんの耳を甘噛みしながら青筋を立てているのは寝ていた筈の妖精弓手ちゃん。若草知恵者ちゃんのほうに吸血鬼君主ちゃんの顔を無理矢理曲げながら追撃を求めています。暫くあわあわしていた若草知恵者ちゃんですが、意を決したように真っ赤な顔で口を開きました!

 

 

 

 

 

 

「あの、おばあ様とする際には、是非私も一緒に可愛がってくださいませ!!」

 

「えっと、その。……うん、きみがいいのなら……」

 

「……いや、まぁ、当人がそれで良いってんなら何も言わないけど……えぇ……?」

 

 

 

 

 

 

 違う、そうじゃないという顔をしている妖精弓手ちゃんに、まぁ積極的ねぇと頬を染める若草祖母さん。まさにこの祖母にしてこの孫娘ありという感じですね……。

 

 


 

 

「――で、()()は何処まで本気だったのかしらシルマリル。ふざけてたら怒るし、本気ならその理由を教えて頂戴?」

 

 

 爆弾発言が飛び出たその日の夜、遮音性の高い赤ちゃん部屋で夜番の2人が顔を突き合わせています。おなかが空いて泣いていた子におっぱいを飲ませ終わった妖精弓手ちゃんが使用済みおしめを≪浄化(ピュアリファイ)≫で綺麗にしていた吸血鬼君主ちゃんを後ろからハグし、顔を合わせずに耳元で囁いています。口調とは裏腹に全く怒ってはおらず、恐らく理由も判った上での質問みたいですね。

 

 

「えっとね、おばあちゃんからのこういのぜんぶがぜんぶあいじょうってわけじゃじゃないのはわかってるの。エルフのせいぞんいきをまもりたいってきもちもあるし、かわいいまごむすめのたちばをかくりつしたいっておもってるのも、ほんにんからちょくせつおしえてもらったの」

 

「でも、ぼくたちをすきっていうきもちはほんものだし、みんなをあいしてくれているのもほんとうなの。ずっとむかしにあいするひとをうしなって、さびしいきもちをかくしてふるまってきたのもたしかなの」

 

 

 

「だから、ぼくがささえになってあげられるなら、かのじょのきもちにこたえてあげたいの」

 

 

 

「――『療養所にいる女の子たちも含めて、全員纏めて幸せにしてあげる』な~んて考えだったら、思いっきり引っ叩いてやるつもりだったんだけどなぁ……」

 

 

 抱えていた吸血鬼君主ちゃんをくるりと半回転させ、互いに向き合う形に抱え直した妖精弓手ちゃん。そのまま休息用のベッドに倒れ込み、不安そうな目を向けている吸血鬼君主ちゃんの前髪を掻き上げ、おでこにそっと口付けをしました。

 

 

「シルマリルは()()()()()()()。残酷だけど、シルマリル1人に全ての人を救うことなんて出来ないわ。いろんな人の力を借りて、たくさんの困難を乗り越えて、それでやっとここまで漕ぎ着けたくらいなんだから」

 

 

 それはヘルルインも一緒よ? と続ける妖精弓手ちゃん。どんなに強い力を持っていても、決して力では解決できない問題はいくらでも転がっていますからね。貧困とその化身がラスボス、自然の驚異が裏ボスとはよく言ったものです。

 

 

「シルマリルがそれを理解して、際限無く救いの手を差し伸べたりしないのなら、新しい()を引っ掛けて来ても歓迎するわ。だってその娘はシルマリルにしか救えないってことだもの。もちろん、普通に恋する乙女だったりしても認めてあげなくはないけど……」

 

「えっと、その……ごめんなさい?」

 

 

 変なのに限ってシルマリルとヘルルインに惹かれちゃうんだから、と溜息を吐く妖精弓手ちゃん。謝るんじゃないわよと想い人の頭をグリグリ撫でてますが……あんまり人のことは言えないんじゃないですかねぇ?

 

 

「愛を交わすのも良いけど、無暗に眷属や子どもを作るのも考えものよ? 産んだばかりの私が言うのもアレってことは判ってるけど・・・・・・。まぁそのあたりはおっぱい眼鏡にしっかり監督してもらうつもりだけどね」

 

 

 あ、兎ちゃんは例外よ? ヘルルインといっしょに目一杯()()()()()あげなさいと笑う妖精弓手ちゃん。現状一党(パーティ)で唯一定命の存在から外れることを望んでいない子ですからねぇ。かわりにたくさんの子どもを授かって、子々孫々ずっとダブル吸血鬼ちゃんたちに寄り添って生きていくのが夢みたいなので。愛し方も人それぞれ、愛の形を決めるのも本人次第ということなのでしょう。

 

 

 

 赤ちゃんたちの息遣いと妖精弓手ちゃんの呼吸音だけが静かに響く室内。赤ちゃんがぐずったらすぐに対処出来るようクッションにもたれかかった姿勢で吸血鬼君主ちゃんの頭を撫でていた妖精弓手ちゃんですが・・・・・・。

 

 

「……今日はみんなあんまり飲んでくれなかったわね。……シルマリル?」

 

「いいの? ……はむ……んちゅ……」

 

「んっ……全部飲んじゃダメよ? 後で欲しがる子がいるかもしれないから」

 

「ふぁい……ちぅ……ちゅ~……」

 

 

 う~んこの甘々カップル。赤ちゃんが寝ている僅かな時間に始まった2人のいちゃつきは、太陽神さんが東の空に顔を見せるまで続くのでした・・・・・・。

 

 


 

 

「ふわぁ…………おはよ、みんな」

 

「おはよう。2人とも夜番お疲れ様、朝食出来てるわよ」

 

 

 夜明けとともに赤ちゃんを抱きかかえてリビングへと姿を現した2人をエプロン姿の女魔法使いちゃんが迎えてくれてますね。既に朝食を済ませた叢雲狩人さんと若草知恵者ちゃんに翼で包んでいた赤ちゃんを返して吸血鬼君主ちゃんは外へ飛び出して行っちゃいました。今日もお天気が良いので、太陽神さんから日光浴で生命力を分けてもらいにいったんでしょうね。ねむねむおめめの妖精弓手ちゃんも赤ちゃんを剣の乙女ちゃんに預けて朝食に取り掛かっています。

 

 

「あふぅ………今日の予定はどんな感じだったかしら?」

 

「今日は育児担当以外の皆様で牧場の収穫のお手伝いで御座います。春まきの人参と甘唐辛子(ピーマン)、それに蕃茄(トマト)が綺麗に色づいておりました」

 

蕃茄(トマト)! 良いわねぇ、もぎたてが堪らなく美味しいのよアレ」

 

「人参も甘くて美味しいですよ! そのままでもじっくり焼いても楽しめます!!」

 

 

 妖精弓手ちゃんと白兎猟兵ちゃんのテンションが良い感じに高まってますね。お天気も良いですし、せっかくだから赤ちゃんも一緒に連れて行こうという話になったみたいです。精霊術師たちが精霊さんに温度調節をお願いし、移動式寝台(ベビーカー)に日除けを被せて熱対策もバッチリですね!

 

 

 そんな感じで朝食を終え、農作業の準備に取り掛かっていた一行ですが・・・・・・おや、なんだか外が騒がしいですね?

 

 長耳をピコピコさせている森人(エルフ)兎人(ササカ)、それに常人を遥かに超える聴覚の吸血鬼ばかりなみんなの前に、背中に吸血鬼君主ちゃんを背負った兎人の女の子が玄関を蹴破る勢いで現れました! 毛並みと体格から考えて次女ちゃんだと思うおちびさんが息を切らせながら叫んだのは・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらうさぴょいしたんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 こんなのセッションじゃないわ、ただのいんたーみっしょんなので失踪します。

 話数が3桁の大台に乗り、多くの方に感想や評価、お気に入りをして頂き非常に嬉しく思っております。もしまだの方がいらっしゃいましたら、お気に入り登録していただけると幸いです。

 また誤字、脱字につきましても教えていただき非常に助かっております。こちらは減らすよう頑張りたいと思いますが、また見かけるようでしたらお声かけいただければ助かります。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその13 いんたーみっしょん その2

 しばらくはまったり進行なので初投稿です。



 おや、お疲れ様です新()さん。盤外(こっち)での生活には慣れました?

 

 なるほど、毎日充実していて実に楽しそうですね! ≪死≫さんも自分のデッキ調整に付き合ってくれる子が来てくれたってすっごく喜んでましたよ!!

 

 最近また新しいエキスパンションが出たみたいで・・・・・・って、おや? その子は確かダブル吸血鬼ちゃんたちと交友のある……なんと、彼女たちと姉妹だったんですか! いやー知りませんでした、世間は意外と狭いんですねぇ……。

 

 ほほう、結婚式に顔を出せなかったので、出産祝いくらい送ってあげたいけど何が良いか見当も付かない、ですか。

 

 うむ、新()さんらしい初々しい悩みですねぇ。そういう時は適当に暇ぶっこいてそうな()に声を掛けて、即興でイベントを起こすのが()々の流儀ですよ!

 

 ほら、ちょうどあそこで欠伸している()がいるんで、一緒に脚本(シナリオ)を考えてみましょう!

 

 破壊神さーん、太陽神さーん! ちょっと新()ちゃんを交えて、可愛いN子さんと一緒に遊びませんかー!!

 

 


 

 

 前回、兎人(ササカ)の次女ちゃんがやって来たところから再開です。

 

 ひなたぼっこをしていた吸血鬼君主ちゃんを捕まえ、血相を変えて飛び込んで来た次女ちゃんの先導で朝日の照らす牧場の敷地を駆ける一行。訪れたのはおちびちゃんたちの家ではなく療養所のほうですね。蹴破るように扉を開け、恐々と様子を窺っている療養中の女性たちを掻き分けた先で一行が目にしたのは……。

 

 

 

 

 

 

「……地母神様は決して一夜の交わりを否定されてはおりません。ですが、相手の年齢は慮って然るべきなのではありませんか?」

 

 

「「「……はい」」」

 

 

 ドドド……という擬音が似合う笑みを浮かべた女神官ちゃんと、彼女に正座させられている3人の女性。そして彼女たちの首筋に抱き着いて頬擦り(マーキング)している兎人(ササカ)の弟君達の姿でした。

 

 

 激おこ女神官ちゃんの隣には苦笑を浮かべた只人寮母さんと、あんまり状況を理解していなさそうな下の子2人(四男と四女)を抱き締め、年上のお姉さんたちとうさぴょいした兄弟にジト目を向けている三女ちゃんの姿もありますね。一行が来たことに気付いた女神官ちゃんが顔を向けた瞬間、吸血鬼君主ちゃんが「ヒエッ……」と怯えて女魔法使いちゃんに抱き着いちゃってます。

 

 

 いきなり抱き着かれた女魔法使いちゃんは……おや? 正座している3人の女性――よく見たら砂漠で兵士に捕まっていた冒険者の3人ですね――の顔を見て何かを察したみたいですね。額に手を当てて溜息を吐いてます。もしかして……。

 

 

「なにかしってるの?」

 

「ああうん、あの()たちがうさぴょいしたのは私が原因だわ……」

 

 


 

 

 

 とりあえず事情聴取のために一党の自宅に関係者が集まり、正座中の女魔法使いちゃんの弁明を聞く一同。あの後、牧場からおちびちゃんたちの雇用主兼保護者代理のゴブスレさんと牛飼若奥さんもやって来て、弟君達の女性冒険者3人に対する懐き具合からナニがあったのか凡そ察してくれたご様子。どうやら女魔法使いちゃんの説明が誤解を招き、彼女たちをうさだっちに駆り立ててしまったみたいです。

 

 

 

 心身ともに傷ついた状態で辺境の街に運び込まれた被害者の女性たち。身体の傷は奇跡で癒せても、心に負った傷はそう簡単には癒えません。訓練場での啓蒙活動により被害に遭った女性たちに白い目を向ける人は少なくなりましたが、いきなり街に放り出すのはあまりにも乱暴ということで急遽建設された療養所で心身のケアを受けておりました。

 

 

 ずっと寝台(ベッド)の上にいても精神がふさぎ込んでしまうため、リハビリを兼ねて農作業の手伝いをして貰っていたのですが、これがなんと大人気。土に触れ生命を育てることが彼女たちに生きる活力を与えてくれました。

 

 

 とは言え全員が農家の出というわけでもなく、勝手が判らず戸惑う女性もいたのですが、そんな彼女たちを助けてくれたのが兎人(ササカ)のおちびちゃんたちでした。

 

 

 ゴブリンに穢された女だと蔑むことも無く、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるウサミミのショタ&ロリっ子。種族的な気質からか距離感も近く、献身的に接してくれるおちびちゃんたちの魅力に女性たちも大いに癒されていたそうです。褐色姉妹と武闘家の少女も、そんなおちびちゃんたちに心を救われた中に含まれておりました。

 

 

 農作業の合間に話す冒険譚におちびちゃんたちは目を輝かせて聞き入り、もっとお話しを聞きたいとせがんで来ることもしばしば。いつの間にか互いの部屋に集まって一緒の時間を過ごすようになっていたそうです。

 

 

 このまま冒険者を辞めておちびちゃんたちと牧場の手伝いをしていこうかと考え始めた頃合いに、タイミング悪く女魔法使いちゃんから今後の身の振り方についての聞き取りがやって来てしまい……。

 

 

「もし冒険者に復帰するんだったら、街にある一党の拠点を暫く無料で貸してあげるから、良かったらそっちに移る?って聞いたつもりだったのよ……」

 

 

 居心地が悪そうに告白する女魔法使いちゃん。どうやら彼女たちにはそれが療養所からの立ち退き勧告に聞こえてしまったみたいです。既に一緒に救出された女性たちの何人かは地母神の神殿やギルド訓練場の職員など新たな行先に旅立っており、自分たちも療養所を出て行かねばならないと思い込んでしまったとのこと。

 

 

 急な話に作業が手に付かず、様子のおかしい3人を心配したおちびちゃんたち。特に仲の良かった上の兄弟3人がおゆはんの後の自由時間に彼女たちの部屋を訪れ消沈していた理由を聞いたところ、牧場を出て行かなければならない(と彼女たちが思い込んでいる)ことが発覚。いくら偏見が薄れているとはいえ彼女たちが酷い目に遭ったのは事実ですし、一般の街の人からしたらゴブリンの慰みモノになった女でしかありません。救出に立ち会った辺境三羽烏は兎も角、それ以外の男性に対しては未だに恐怖心が残っているというのも彼女たちの負い目になっていたのでしょう。

 

 

 なかなか他の女性には打ち明けられなかったこれらの想いが一気に噴出し、行き場の無い悲しみによって目の前で泣き出してしまった女性冒険者たち。心優しいおちびちゃんたちがそんな彼女たちを放っておけるはずも無く……。

 

 

「だいじょうぶ!」

 

「ぼくたちがついてるよ!」

 

「だから、もうなかないで?」

 

 

 ふわふわの毛並みの腕に頭を抱きかかえられた女性陣の乙女回路はMAXフル回転。大好きな彼女たちを何とか泣き止ませようと、懸命に頭を撫でたり頬擦りしてくるおちびちゃんたちに思わずトゥンク・・・・・・してしまったのは仕方がなかったのかもしれません。数人毎に分かれて生活していた大部屋の住人が、ちょうど彼女たち3人だけという偶然も状況を後押ししてしまったのでしょう。

 

 

 積極的な性格の褐色姉妹の姉のほうがおちびちゃんを抱えたまま部屋の扉の内鍵を施錠し、妹と武闘家の少女が部屋の明かりを吹き消すチームプレイ。暗視はあるものの突然暗くなってビックリしているおちびちゃんたちを寝台(ベッド)に運び、柔らかな肢体の感触に顔を真っ赤にしている可愛らしい兎人(ササカ)の少年たちに微笑みかけ……。

 

 

 

「言葉だけじゃ信じられないわ」

 

「そういうのは行動で示して頂かないと……」

 

 

 

「――お願い。冷え切ったままの私たちの心と身体、暖めてくれる……?」

 

 

 

 

 

 

 明朝、起きたら兄たちが居ないことに気付いた末の弟君がお姉ちゃんたちにそれを報せ、みんなで手分けして行方を捜したところ……。

 

 

「療養所の部屋でうさぴょいしたままの姿で気持ち良さそうに寝ているみんなを発見したと……」

 

 

 確認するように呟く女神官ちゃんにコクコクと頷きを返す二女ちゃん。四男と四女の末っ子コンビは三女ちゃんに「ねぇねぇ!」「うさぴょいって?」と聞いて困らせちゃってますね。早熟な傾向にある兎人(ササカ)ですが、まだ2人にはちょっと早かったみたいです。

 

 

「……ねぇ、年齢的にはどうなの? ちゃんとうさだっち出来るのかしら?」

 

「そうですねぇ。もう(つがい)を探してもおかしくない年齢にはなってますよ。ぼくくらいの歳なら産んでても不思議じゃないですから」

 

 

 僅かに膨らんだおなかを幸せそうにさすりながら返事をする白兎猟兵ちゃんと、おちびちゃんたちに驚愕の視線を向ける妖精弓手ちゃん。やっぱり捕食されちゃう側の存在であるため、兎人の子作りは早いうちから可能になるみたいですね。

 

 

 

 

「ええと、つまり彼女たちは此処を追い出されると勘違いしてしまっていたと……」

 

「今後の当てについて聞いたつもりだったんだけど、聞き方が悪かったわね。……紛らわしい言い方をしちゃって御免なさい」

 

 

 深々と頭を下げる女魔法使いちゃんに対し、慌てたように首を振る女冒険者たち。些細な行き違いから生まれたうさぴょいでしたが、それがおちびちゃんたちとの関係が一歩進むきっかけとなったため、ある意味後押しされたような気持ちみたいです。感謝の言葉を向けて来る彼女たちに苦笑を返し、女魔法使いちゃんが今後について話し始めました。

 

 

「もし牧場に残るなら、街の職人さんに依頼して新しく家を建てて貰おうと思ってたのよ。あんまり≪死王(ダンジョンマスター)≫に頼るのも良くないし、ある程度お金を地域で回さないとね……」

 

 

 たしかに。ダブル吸血鬼ちゃんがポンポン建築しちゃうと建設に携わる人の仕事を奪うことになっちゃいますもんね。一党の拠点や療養所といった特殊な設備が必要な建物なら兎も角、一般の居住施設なら専門の業者さんに依頼したほうが良さそうです。

 

 

「……まぁ、その様子ならおちびちゃんたちの家を拡張して個室を作るほうが良さそうね。あ、ちなみに秋にはその子たちのご両親とその友人がこっちに移り住んで来るから、しっかり挨拶は考えておいたほうが良いわよ?」

 

 

 おお! 白兎猟兵ちゃんの家族と戦友がこっちに来てくれるんですか!! 陸軍特殊部隊群(グリーンベレー)の偵察チームで培った技術と経験は一級品ですし、牧場の護衛任務はもちろん冒険者への教導といった仕事も任せられそうですね。

 

 

「パパとママがいっしょだー!」と無邪気に喜ぶおちびちゃんたちとは対照的に、顔を青くする3人の淑女。なかなか親御さんに息子さんとうさぴょいしましたとは言い辛いでしょうねぇ。しっかりと責任は取って頂きましょう。……お、漸く事態を理解した牛飼若奥さんが吸血鬼君主ちゃんと目配せしてますね。イエーイとハイタッチをしながら満面の笑みを浮かべて……。

 

 

「かぞくがふえるよ!」

 

「やったね妹ちゃん!」

 

 

 2人とも、それ以上いけない(真顔)

 

 


 

 

 朝っぱらから思わぬイベントが勃発していましたけど、今日は夏野菜の収穫をする日であることを思い出した一行。手に手に籠や麻袋を抱えて畑までえっちらおっちら。あ、参加者には一党の面子に加えてゴブスレさん夫妻におちびちゃんたち、それにうさぴょい組も合流しています。

 

 

「皆様、此方に冷たい飲み物を用意しておりますので、汗をかいたらこまめに水分を補給してくださいませ。塩分補給用の焼菓子もありますので、小腹が空きましたらご一緒にどうぞ」

 

 

 畑近くに茂る木の下に敷物を広げ赤ちゃんたちの面倒をみてくれている若草祖母さんが、手に持つキンキンに冷えた金属瓶を示しながらみんなに声を掛けています。どうやら精霊さんたちに頼んで希望の温度を維持しているらしく、森人(エルフ)の間では通称『魔法瓶』と呼ばれているみたいですね。

 

 

「はい! 自分の手と野菜、どっちも傷つけないように気を付けてね!!」

 

 

 牛飼若奥さんの配る鋏を手に畑へと散っていく一行。太陽の恵みをいっぱいに浴びて立派に育った夏野菜を次々と収穫していきます。一党の面子やゴブスレさんは手際よく進めていますが、不慣れな女冒険者たちは手間取っているみたいですね。でもご安心を、頼れるパートナーが一緒です!

 

 

「あわてなくてへーき!」

 

「まずはヘタからちょっとはなれたところにハサミをいれて……」

 

「それからヘタのうえできればキレイにとれるよ!」

 

「う~……ていっ! ……やった、綺麗に取れたよ!!」

 

 

 小さな身体をぴょんぴょんさせながら手取り足取り教えている兎人(ササカ)の男の子たち。武闘家少女ちゃんが慎重にヘタの直上に鋏を入れ、実に傷を入れる事無く収穫出来てほっと笑みを浮かべるのを長男くんが満面の笑みで喜んでますね。褐色姉妹に手を貸している二男と三男くんも向こうのほうで同様にぴょんぴょん跳ねて喜びを露わにしています。

 

 

「まったく……ただでさえ夏真っ盛りで暑いってのに、アレ見てると更に暑く感じるわね……」

 

「うん。でも、すきなひとといっしょにいられるのはしあわせ!」

 

 

 器用に蕃茄(トマト)をもぎ取っている妖精弓手ちゃんと爪で茎を切り離している吸血鬼君主ちゃんが、そんなカップルたちの光景を見て微笑んでますね。種族の違うカップルという共通点もあり、何処かシンパシーを感じているのかもしれません。

 

 

「うう……とどかない……」

 

「あらあら、それじゃあちょっとお手伝いしましょうね?」

 

「わっ!? ……おねえちゃんありがとう!!」

 

 

 甘唐辛子(ピーマン)畑のほうでは背伸びしても届かない位置に生った実を懸命に取ろうとしていた四女ちゃんを、大人モードの剣の乙女ちゃんが抱っこしてあげてますね。普段のエロエロ衣装ではなく作業用のシャツとズボンという恰好はちょっと新鮮かも。急に高くなった視界に驚きの声を上げる四女ちゃんでしたが、ひんやりとした手の感触と優しい声に落ち着きを取り戻して抱っこされた状態で次々に収穫した実を籠に入れていってます。

 

 

「はふぅ。ひんやり……」

 

「ふふ……この辺りは粗方収穫出来ましたし、ちょっと休憩に致しましょう」

 

 

 おやおや、耳出し用に2つ穴を開けた麦わら帽子を被っている三女ちゃんが、同じく麦わら帽子スタイルの令嬢剣士さんのたわわに顔を埋めてますね。吸血鬼特有のひんやりとした体温が気持ち良いのか、脱力したまま目を閉じて令嬢剣士さんに身体を預けています。只人(ヒューム)よりも高い体温のおちびちゃんを苦笑しながら抱き上げた令嬢剣士さんが、ゆっくりと若草祖母さんの待つ木陰へと運んでいきました。お、昼食の用意をしていた若草知恵者ちゃんがみんなを呼び集めてますね。作業もひと段落したようですし、みんなお待ちかねのランチタイムです!

 

 

 

 

 

 

「はむはむ……。それでオルクボルグ、収穫が終わったら次は何を植える予定なの?」

 

 

 ちょっと贅沢な白麺麭(パン)に牧場産の牛酪(バター)を塗り、そこに同じく牧場製のベーコンと収穫したばかりの夏野菜を挟んだサンドイッチが振る舞われたランチタイム。指に着いた蕃茄(トマト)の汁をペロリと舐め取りながら妖精弓手ちゃんがゴブスレさんに今後の作付けについて尋ねてますね。まだ暑い時期が続くとは言え、冬に備えた食料の備蓄も考えないといけません。

 

 

「基本は日持ちのする根菜を植える。玉葱に蕪、それに……人参もだ」

 

 

 キラキラ輝く期待の目に圧されたのか、付け加えるように話すゴブスレさん。もちろんおちびちゃんたちのテンションは爆上がりです。品種による味の違いも楽しめるので一石二鳥ですね!

 

 

「それから、豹芋(ジャガイモ)を多目に育てるつもりだ」

 

「へぇ……? 腹持ちが良いから訓練場でも人気だけど、それだけが理由じゃ無いわよね?」

 

 

 牛飼若奥さんと頷き合った後にゴブスレさんが告げた内容に反応する妖精弓手ちゃん。シンプルに塩茹ででも美味しいですし、そこに牧場産牛酪(バター)をのっけたじゃがバターは寒い冬の間、収入の減った新人たちの半ば主食になってます。付け合わせにザワークラウトを添え、懐に余裕がある時は腸詰(ソーセージ)の1本でも追加するのが定番メニューですね。

 

 

 他のみんなも気になるようで、視線がゴブスレさん集まっています。突然注目の的となり若干引いた様子のゴブスレさんでしたが、咳払いをした後にジャガイモ祭りの理由を話してくれました。

 

 

「砂漠の国に滞在している間に、豹芋(ジャガイモ)を煮て発酵させた後に蒸留を重ねることで高純度の酒精(アルコール)が出来ると依頼人から聞いた。少量なら寒さ対策や気付けに使えるし、火炎瓶の材料にもなる。それに……出産や手術の時の消毒にも役に立つだろう。……なんだ?」

 

 

 一同が目を丸くして見つめて来るのに対し、居心地が悪そうに身じろぎするゴブスレさん。思いがけないみんなの反応に戸惑っているみたいです。叢雲狩人さんと目で牽制し合っていた女魔法使いちゃんが、みんなを代表して口を開きました。

 

 

「いやぁ、最近はずっと牧場の跡取り息子として働く姿しか見てなかったから忘れてたけど、そういえばアンタはそういうヤツだったなぁって」

 

「そうか。……いや、そうだな」

 

 

 女魔法使いちゃんの口振りに一瞬だけムッとした顔になったゴブスレさんでしたが、ふと何かを思い出したように苦笑しています。しまった、怒らせたかと女魔法使いちゃんが謝罪の言葉を口にする前に彼の口から出てきたのは……。

 

 

 

 

 

 

「平穏な毎日というものが幸福だということを知ることが出来た。今の生活に不満など無い。だが……俺は冒険者だったな」

 

 

 暫し目を瞑った後、牛飼若奥さんへと向き直るゴブスレさん。しょうがないなぁという顔の奥さんに頭を下げながら、また家を空けることが増えるだろうと告げています。

 

 

「ん、わかってるよ。キミのやりたいことをして良いからね! あ、でも約束。何があっても、ちゃんと帰ってきてね? じゃないと……」

 

 

 悪戯っぽい光を浮かべた顔で吸血鬼君主ちゃんを手招きする牛飼若奥さん。警戒心皆無で近寄ってきた小さな身体をむぎゅっと抱き寄せちゃいました。出産と育児を経て尚成長しているたわわで顔を塞がれ、汗とミルクの入り混じった甘い芳香にクラクラしている吸血鬼君主ちゃんを優しく撫でながら……。

 

 

 

 

 

 

「もし未亡人になっちゃったら、この子と再婚しちゃうかもよ?」

 

「おあ~……」

 

「駄目だ。たとえ戦友(とも)であってもお前は渡さん。お前は、俺のものだ」

 

 

 ゴブリンに対する怒りとは異なる感情で瞳を赤く光らせるゴブスレさんの反応を見て一斉に顔を扇ぎ出す女性たち。「な~んか気温上がってない?」「いやはや、ラブラブだねぇ」という奥様戦隊の言葉でみんなに担がれたのだと気付き、ゴブスレさんが憮然としながら冷たいお茶を一気飲みしちゃってます。あ、当て馬にされてた吸血鬼君主ちゃんがやっとたわわの間から顔を出せたみたいですね。本来は不要な筈の深呼吸をして、若干赤い顔でゴブスレさんに向き直りつつ素直な気持ちを伝えています。

 

 

「ぷはっ。えっとね、しんゆうのものをとったりはぜったいにしないよ? でも、ちゃんとかぞくのところにかえってあげてね? じゃないと……」

 

「ああ、最大限努力すると約束する。だが、万一の時は……頼めるか?」

 

「ん。まかせて、やくそくする。もししんゆうになにかあったとき、おくさんとこどもたちは、ぼくたちがまもるから。……でも、そのしんぱいはいらないよ?」

 

 

 

 

 

 

「ぼくたちがこのせかいでいちばんわるいやつになるまで、ほかのわるいやつはぜ~んぶやっつけつづけるもん!」

 

 


 

 

 日がとっぷりと落ちた頃、野良魔神退治に出ていた吸血鬼侍ちゃんからギルド支部に来て欲しいという脳内通信が届き、吸血鬼君主ちゃんと女魔法使いちゃんが闇夜を飛行しています。

 

 

 2人の背にはゴブスレさんと叢雲狩人さんの姿が、ゴブスレさんは鉱人道士さんを通じて鉱人(ドワーフ)の里に蒸留に用いる機材の見積もりを依頼していたのが到着したということで、一緒に運んであげているみたいです。叢雲狩人はというと、魔神退治でヘロヘロになっている吸血鬼侍ちゃんを迎えに行くという建前で一足先にちゅーちゅーさせる腹積もりのご様子。「お酒は絶対にダメですよ?」という若草祖母さんの言葉にはしっかりと返事していたのでそちらの心配は無さそうです。妊娠中はもちろん、授乳時期のお酒は避けたほうが無難ですからね。

 

 

 夜になっても灯りの絶えないギルドの扉を潜り、お目当ての人物を探す一行……お、ちょうどみんな一緒にいるみたいですね。机に突っ伏している吸血鬼侍ちゃんと火酒を景気よく飲み干している鉱人道士さん。それに、今回吸血鬼君主ちゃんを呼ぶよう吸血鬼侍ちゃんに頼んでいた人物とそのパートナーも同席しています。一行が到着したことに気付いたその人物……女騎士さんが、大きく手を振って酒場の席へと一行を招きました。

 

 

「こんな夜分に呼び出してすまない。キミにも感謝するよ、ありがとう」

 

「ん、おきになさらず~。……はむ……ちゅ~……」

 

 

 目にも止まらぬ速さで吸血鬼侍ちゃんを抱きかかえた叢雲狩人さんが早速ちゅーちゅーさせる光景を横目に一行へと頭を下げる女騎士さん。その手には精緻な装飾が施された一通の封筒が握られています。おゆはんはご馳走しようという彼女の言葉に頷き女魔法使いちゃんが適当に注文を済ませた後、女騎士さんが一行を呼び出した理由を話し始めました。

 

 

「今朝、私の元に姉からこの手紙が届いたのだ。……ああ、姉と言っても竜司祭殿を捕獲したあっちじゃない。もう1人真ん中にいるんだが……」

 

 

 途中で口を噤み、ゴブスレさんを見る女騎士さん。兜越しに無言で見つめ返して来る彼の視線を受け止め、続きを話し始めました。

 

 

「お前は知っているだろう。かつてこの近くに庵を構えていた偏屈な女魔術師を。そして、その魔術師がどうなったのかを……」

 

「……ああ。暗黒の塔の屋上から、あいつは此処ではない何処かへと旅立っていった」

 

 

 何処か懐かしむような響きを帯びたゴブスレさんの呟き。孤電の術士(アークメイジ)さんとの冒険の日々は『小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)』を形成する重要な要因になっていましたもんね。そんなゴブスレさんを見ながら持っていた手紙を机へと広げる女騎士さん。そこに記された内容を見て、一行の目には驚きと困惑が手を取り合いながら踊っています。

 

 


 

 

『やぁ、結婚おめでとう。キミと姉さんの慶事には()()も随分と盛り上がっていたよ』

 

『本当は結婚式にも出たかったんだけど、何分こちらも立て込んでいてね。最近やっと時間が出来たのでこうやって手紙を認めることが出来たくらいなんだ』

 

『そのお詫び、というわけではないのだけれど、ひとつ結婚祝いを送ろうと思う』

 

『同封した地図に記された古い神殿に、我が家に伝わる黄金の鎧と源を同じくする逸品が眠っている』

 

『パートナーである彼にピッタリのモノだろうから、箔付けにもちょうど良い筈さ』

 

『そうそう、その神殿は太陽神を祀ったものだから、お友達の小さな吸血鬼くんに力を借りるといい』

 

『彼女らへの報酬も一緒に手に入るだろう。キミたちの冒険を楽しみに見守っているよ』

 

『たしかこういう時の応援は……イザユケー! ボウケンシャー! だったかな?』

 

『追伸、高所恐怖症だったら覚悟しておきたまえ♪』

 

 


 

 

「なんというか、個性的なお姉さんだったみたいね……」

 

「ああ、我が姉ながら正直奇人変人の類だと思う。家から勘当されて尚自分の研究に没頭し、そのまま魔術師になったくらいだからな……」

 

 

 だから私が家督を継ぐ羽目になったんだ、と溜息まじりに零す女騎士さん。まぁ長姉が軍のバリキャリでその下が魔術オタクときたら、末っ子の女騎士さんに掛かる期待は重くなりますよねぇ。

 

 

「だが、どっちの姉も冗談は言っても嘘は決して付かん。この地図に載っている神殿に宝物があるというのは確かだろう」

 

 

 自信に満ちた表情で頷く女騎士さん……おや? ゴブスレさんと鉱人道士さんが地図を覗き込んで首を傾げてますね。もしかして知っている場所なんでしょうか。

 

 

「のうかみきり丸、この場所は確か……」

 

「ああ。()()小鬼聖騎士(パラディン)が拠点を設けていた山に近い」

 

 

 え、そうなんですか? 2人の言葉に釣られるように地図を覗き込む女魔法使いちゃんと叢雲狩人さんも、そういえばそうかもと同意してますね。山間にあった神殿は太陽神さんを祀るものでは無かったですし、もっと見つかりにくい場所に作られていたんでしょうか? みんなの反応を見ていた女騎士さんが、おゆはんに夢中になっていた吸血鬼君主ちゃんへと顔を向けました。

 

 

「下の姉が君を指名したのは太陽神の神官であることと、もう一つ理由がある。恐らく君……いや、君の一党の協力が無ければ神殿に辿り着くことは不可能だろう」

 

「むぐ……。えっと、そのしんでんはどこにあるの? ひょっとしてダンジョンのなかとか?」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの問いに首を横に振り、目の前に上向きに指をピッと差し出す女騎士さん。反射的に差し出された先っぽを咥える吸血鬼君主ちゃんを苦笑しながら引き剥がし、一行に伝えた神殿の場所は……。

 

 

 

 

 

「空だ」

 

 

「ふぇ?」

 

 

「その太陽神を祀る神殿……『浮遊神殿(フロートテンプル)』は、雲よりも遥かに高い場所を飛んでいるらしい」

 

 

 

 

 

 

「私と相棒をその神殿まで送り届け、共に調査に付き合って貰いたい。それが今回君たちへ依頼したい冒険だ。……ついでに子どもを預かってくれると助かる

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




 ショートセッションが続く予定なので失踪します。

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セッションその13 いんたーみっしょん その3


 釣りキチ三平を読み返していたので初投稿です。




 前回、女騎士さんから『浮遊神殿(フロートテンプル)』探索の同行を依頼されたところから再開です。

 

 

 ギルドの酒場で依頼を引き受け、翌日を準備に費やし出発となった2日後の早朝。牧場の入り口には朝早くから冒険に出発する面子とそれを見送りに来たみんなで賑わっていますね。普通の馬車サイズに大きくなった使徒(ファミリア)ワートホグ(イボイノシシ)君に令嬢剣士さんが車体を繋ぎ、参加者が次々に車内へと乗り込んで行ってます。

 

 

 最初から空を飛んでいくという案もあったのですが、急ぐものでもありませんし、到着までに消耗してしまっては万一の時大変だろうということで、以前訪れた温泉のある村まではゆっくりと陸路で向かうことにしたみたいです。

 

 

 今回の冒険に赴くメンバーは、まず依頼人であり主役でもある重戦士さんと女騎士さん。久々の冒険ということで2人とも気合十分、若草祖母さんの抱く愛娘に手を振って出発の挨拶をしていますね。

 

 次に『浮遊神殿(フロートテンプル)』まで飛行可能なメンバーの選出でしたが、まず女魔法使いちゃんが不参加を表明。二重存在(ドッペルゲンガー)との戦いで壊してしまった爆発金槌の修理がまだなので今回はパスとのこと。何やら鉱人道士さんや武具店の店主(じいじ)と悪い顔で話し合っていたのが気になる所ではあります。

 

 

 野良魔神退治で疲労が残っている吸血鬼侍ちゃんも今回は見送り。本人は参加したがっていましたが、若草知恵者ちゃんが寝台(ベッド)で説得し首を縦に振らせたそうです。また、ダブル吸血鬼ちゃんは互いの身体を≪邪な土≫として設定しているため、何らかの拍子に2人同時に肉体が滅びちゃうと復活出来なくなっちゃう可能性があるそうです。そのため、余程のことが無い限り2人一緒に危険な場所に赴くのは避けたほうが良いとのこと。残念ですが安全マージンは重要ですからね。

 

 

 というわけで、必然的に吸血鬼君主ちゃん、剣の乙女ちゃん、令嬢剣士さんの3人が飛行ユニットとして参加。太陽神さんの信徒である吸血鬼君主ちゃんは猛烈に行きたいアピールをしていましたし、四方世界基準では恐らく最高峰の実力者である剣の乙女ちゃんも空飛ぶ神殿に興味があるようで参加を表明。また、令嬢剣士さんはかつての仲間たちに挨拶と報告がしたいということで参加を熱望していましたので、居残りの2人も参加枠を譲ったのかもしれません。

 

 

 残る枠はあと一つ。面子から考えれば斥候が必要なので、妖精弓手ちゃんか叢雲狩人さんのどちらかが来てくれると嬉しいというところ。出産を終え身軽になった2000歳児が「ぜったい冒険行きたいー!」とジタバタ騒いでいた為、苦笑しつつも大人の対応で叢雲狩人さんが参加を辞退し最後の枠は妖精弓手ちゃんとなりました。

 

 

 久しぶりのまともな冒険にテンションの上がった妖精弓手ちゃん。ウキウキしながら高高度での防寒・防風用の上着を汚部屋から引っ張り出していたのですが……。

 

 

 

 

 

 

「わ゙だじも゙ぼ゙ゔげん゙じだがっ゙だの゙に゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙!! ……へぷちっ!

 

「いやぁ申し訳ないねぇ妹姫(いもひめ)様。妹姫様の代わりにめいっぱい空の旅を満喫してくるよ」

 

 

 真夏だというのに防寒用のセーターを着込み、真っ赤な顔で鼻水を垂らしている妖精弓手ちゃん。彼女からの恨みがましい視線を涼やかに受け流しながら、荷台の上から手を差し伸べる吸血鬼君主ちゃんの手を取って叢雲狩人さんが車内へと消えて行きました。悲しみで崩れ落ちる2000歳児を、赤ちゃんたちから遠ざけるように女魔法使いちゃんが首根っこを掴んで確保していますね。

 

 

「いくら夏だからって、素っ裸で布団も掛けずに腹を出して寝てたら、そりゃ風邪ひいてもおかしくないでしょうよ……。いいからさっさと家に戻って布団に入る。赤ちゃんたちにうつさないように暫く隔離部屋よ」

 

「ゔあ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ん゙……」

 

 

 あー、妊娠している間はお腹を冷やしたらダメだからとパジャマと妊婦帯を装備するようみんなから口酸っぱく言われてたのが、普段マッパで寝てる妖精弓手ちゃんにとってはストレスだったのかもしれませんね。やっとそれから解放されて文字通り産まれたままの姿で気持ちよく寝たら身体が対応しきれずに風邪をひいてしまったと。

 

 

 まぁ運が悪かったとしか言えませんけど、これを機にちゃんと寝巻を着る習慣を付けてみても良いんじゃないでしょうか。……吸血鬼君主ちゃんは着衣or半脱ぎのほうがそそられるみたいですし(謎)。

 

 

 

「では仲間を借り受ける。ちゃんと返すから心配するな!」

 

「いってきま~す!」

 

「はい、この()はしっかりとお預かり致しました。皆さま、良き冒険を」

 

「いってらっしゃ~い!」

 

 

 使徒(ファミリア)に牽引されゆっくりと動き出した馬車。その後方から手を振る女騎士に対して、若草祖母さんが抱きかかえた娘さんと一緒に手を振っています。ダブル吸血鬼ちゃんもハグからのほっぺすりすりを行った後、馬車の幌の上に吸血鬼君主ちゃんが飛び乗ってますね。冒険者たちの乗った馬車が丘の向こうに消えるまで、ダブル吸血鬼ちゃんはお互い一生懸命両手をブンブン振っているのでした……。

 

 


 

 

 さて、冒険組を送り出した後の一行ですが……。お、赤ちゃんたちや預かっている娘さんに風邪を移しては事だということで個室に隔離された妖精弓手ちゃん。寝台(ベッド)でうんうん唸っている彼女の部屋に吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんが訪れてますね。2人ともアンデッドなので毒病気無効ですし、病原菌も寄り付かないそうです。屍者(ゾンビ)食屍鬼(グール)のイメージで病気の塊と思われがちなアンデッドですが、知識神さん曰くあれは周囲の環境が原因であって、きちんと衛生に気を使っていれば代謝が無い分普通の人よりも清潔なんだとか。

 

 

 余談ですが、吸血鬼君主ちゃんの眷属となった3人が一番驚いたのは、食事を行ってもトイレに行かなくて良くなったことだったみたいです。自前の魔力で体内に取り込んだ食物を完全に分解し魔力に還元することで、排泄が不要になるんだとか。消費と還元がほぼトントンなので生命維持には使えませんが、食事によるリラックス効果は期待できるそうです。ダブル吸血鬼ちゃんもごはん食べるの大好きですし、人と交流する時に食卓を囲めるのは良いことですもんね!

 

 

 ……いちいちトイレに気を使わなくて良いということで、女性冒険者たちから凄い目で見られていたのは内緒です。男女混成パーティでは気を使う事ですし、排泄時は入浴時と同じくらい無防備になっちゃいますからねぇ。

 

 

 

「ざむ゙い゙……あ゙だま゙お゙も゙い゙…………へぷちっ!

 

 

 頭から毛布を被りガタガタ震えている妖精弓手ちゃん。力無く寝台(ベッド)から突き出た手がワキワキと湯たんぽ(吸血鬼君主ちゃん)を探して彷徨っていますが、残念ながら先程出発してしまいました。何とかは風邪をひかないとか夏風邪は何とかがひくとか言われてますけど、罹患している当人はひたすら身を震わせるばかり。風邪を一発で治すような奇跡は無いですし、あっても急患に備えてみだりに奇跡を乱発するわけにもいきません。精々強壮の水薬(スタミナポーション)を呑ませるくらいですが、高価なために一般の人には手が届きません。身体を暖かくして体力を温存しつつ、消化の良い食べ物をとるのが関の山でしょうか。

 

 

「まぁ死ぬようなモンじゃないし、2~3日寝てれば熱も下がるでしょ。あんまり薬に頼るのも良くないし、ゆっくり寝てなさいな」

 

「なにかほしいものある? たべたいものとか、してほしいことでもいいよ?」

 

 

 女魔法使いちゃんが妖精弓手ちゃんの額に手を当てながら優しく安静にしているよう告げる傍で、何かしてあげたそうに顔を覗き込む吸血鬼侍ちゃん。吸血鬼特有のヒヤッとした手の感触にうっすらと目を開けた妖精弓手ちゃんが、間近にある吸血鬼侍ちゃんの瞳を見つめながら呟きました……。

 

 

「――が食べたい……」

 

「ふぇ? なにがたべたいの?」

 

喇蛄(ザリガニ)の茹でたのが食べたいなぁ……。むか~しね、あに様とねえ様と3人で川遊びをしている時に、侍女の1人がいっぱい捕まえて来てくれて。ただ塩茹でにしただけなのに、す~っごく美味しかったの……」

 

 

 懐かしいなぁ……と呟く妖精弓手ちゃん。いつもの快活さが息を潜め、儚さと可憐さが前面に押し出された憂い顔に思わず見惚れてしまう吸血鬼2人。熱によって上気し、潤んだ瞳の破壊力は普段見慣れている2人であっても生唾を飲み込んでしまうほど魅力的なようです。呆けたように妖精弓手ちゃんの顔を見つめていた吸血鬼侍ちゃんがハッと我に返り、宙を彷徨っていた彼女の手を握って大きく頷きました!

 

 

「わかった! すぐにかってくるね!!」

 

「え。いや、ちょっと待ちなさいって……」

 

 

 女魔法使いちゃんの静止の声も届かず、矢のような速さで部屋を飛び出して行った吸血鬼侍ちゃん。間も無く窓の外に辺境の街へと飛んでいく小さな姿が見え、力無く伸ばした手を下ろしながら女魔法使いちゃんが溜息を吐いてます。恐らく彼女にはこの先の結末が予測出来ているのでしょう。そっと妖精弓手ちゃんの頬を撫で、部屋からリビングに向かって歩き出しました……。

 

 

 

 

 

 

「どこにもうってなかった……」

 

「そりゃそうよ。只人(ヒューム)の食卓には滅多に出ないし、新鮮なものなんて早々手に入らないわ」

 

 

 お、午前の仕事を終え、牧場の母屋の軒先でランチタイムを楽しんでいた一行。涙でちょっとしょっぱくなった牛飼若奥さん謹製の夏野菜スープを啜りながら入手出来なかったとションボリしている吸血鬼侍ちゃんを女魔法使いちゃんが慰めています。以前収穫祭で屋台が出ていたこともありましたが、あれは例外的なものであり、只人(ヒューム)の普段の食卓に登場することは無い、一種の珍味的な扱いですからねぇ。

 

 

森人(エルフ)の集落でなら手に入る可能性はありますが、それも確実とは言えませんし……」

 

「えう……」

 

 

 妹姫さまのおねだりを叶えて差し上げたいのは山々なのですが……と申し訳なさそうに頭を下げる若草知恵者ちゃんの言葉に、ますます肩を落とす吸血鬼侍ちゃん。何か別のもので都合をつけるしかないのかと考えていた一行ですが、そこに救世主が現れました! 今まで無言でスープを口に運んでいたある人物が、意を決したように口を開いたのです。その人物とは……。

 

 

 

 

 

 

「あー、横から口を挟むようですまないが、もしかして喇蛄(ザリガニ)を捕まえたいのかな? ……それだったら、力になれるかもしれない」

 

「……ふぇ?」

 

「……え? お義父さん?」

 

 

 ……恥ずかしそうにポリポリと頬を掻きながら仏頂面を貫き通そうとして失敗している、牧場夫婦のお義父さんです!!

 

 

 みんなの視線を一身に浴び、ちょっと引き気味なお義父さん。ですが気を入れ直し、期待と不安の眼差しで見つめてくる吸血鬼侍ちゃんの前にしゃがみ込んで視線を合わせ、ゆっくりと頭を撫でています。

 

 

「いくつか準備が必要になるが、それを手伝ってくれるのなら明日捕まえに行こうか」

 

「ほんと!? ……あ、でもはたけやうしさんのおせわが……」

 

 

 お義父さんの言葉に一瞬目を輝かせた吸血鬼侍ちゃん。ですが毎日忙しく働いている姿を思い出し再びシュンとしちゃいました。喜怒哀楽をハッキリと表す吸血鬼侍ちゃんに苦笑を浮かべながら、事態の推移を見守っていた兎人(ササカ)のおちびちゃんたちと女性冒険者たちを指し示しました。

 

 

「みんなしっかりと仕事を覚えてくれている。1日くらい私が居なくても大丈夫だよ」

 

「ありがとう! えへへ……」

 

「ぬおっ!? ……その、なんだ。君も家庭を持つ身なのだから、みだりに抱き着いたりするのは良くないのでは?」

 

 

 嬉しさのあまりお父さんの首筋に抱き着いちゃった吸血鬼侍ちゃんを慌てて引き剥がすお義父さん。周囲の女性陣達を窺いながらやんわりと諭そうと試みてますが、女性たちの目は娘と戯れる不器用な父親を生暖かく見つめるソレそのものです。オホンと咳払いをして場を仕切り直すと、みんなに明日の準備を割り振り始めました。

 

 

「君たちは蚯蚓(ミミズ)を集めて来てくれるかい? 畑ではなく必ず森で捕まえて来てくれ。落ち葉や枯草の下にいると思うから。決して1人にはならず、必ず冒険者のお姉さんたちと一緒に行動するように、いいね?」

 

「「「はい! だんなさまのおとうさま!!」」」

 

 

まずはおちびちゃんたちに木製の蓋付き容器を幾つか手渡し、餌となるミミズを集めるよう頼んでますね。牧場の畑にも沢山いますけど、彼らは畑を豊かにしてくれる頼もしい存在なので、森で採取するよう念押しをしているんですね。そんなミミズを大量に食べてしまうモグラは農家の嫌われ者なので、牧場でも狼さんが見回りをして、見つけ次第頭からボリボリするのが日課になっています。

 

 

「君たち2人は丘向こうの竹林から竹を取って来て欲しい。手で握れるくらいの太さのものを2本と、ちょうど君の背丈くらいの細いものを人数分だ」

 

「は~い!」

 

「わかりました。義父さん」

 

 

 続いて吸血鬼侍ちゃんとゴブスレさんに、恐らく竿にするのであろう竹を取ってくるよう頼むお義父さん。元気よく返事する吸血鬼侍ちゃんの横で、今まで見たことの無いほど明るい表情のお義父さんに目を丸くしていたゴブスレさんでしたが、深く頷きを返し吸血鬼侍ちゃんに抱えられて竹林へと飛んでいきました。

 

 

「それと……確か古くなった甘藷(サツマイモ)があった筈だ。お前はあれを茹でておいてくれるか? 私は仕掛けの準備をしておく」

 

「はーい! ……ふふっ、お義父さんが釣りに行くなんて何年振りだろうね!」

 

 

 牛飼若奥さんに準備を頼みつつ、楽し気な雰囲気を纏いながら納屋へと姿を消すお義父さんを、何処か嬉しそうな表情で見る牛飼若奥さん。彼女の口ぶりから察するに、もしかしてお義父さんって釣り好きだったんでしょうか? 妖精弓手ちゃんのおねだりから始まったお話が、なんだか面白い方向に動き出しましたね!

 

 


 

 

「さて、全員竿は持ったかな」

 

 

 日が変わって翌日。牧場から少し離れたところにある小川のほとりに集まったのは、全部で4人と1匹と二柱。一行のリーダーであるお義父さんの声に全員手に持った竿を高く掲げています。トレードマークのとんがり帽子を麦わら帽子に変えた女魔法使いちゃんに、同じく麦わら帽子と若草祖母さんが縫ってくれた白いワンピース姿の吸血鬼侍ちゃん。誰かが川に落ちた時の救助に役立つだろうと水中呼吸の指輪を付けたゴブスレさんも竜革鎧に麦わら帽子というシュールな姿です。

 

 

 その横には器用に竿を口にくわえた狼さんと、初めての釣りに興奮して鎧の隙間から光が漏れている英霊さんの姿が。彼らが付いて来たいとジェスチャーで伝えてきたときに全く動じてなかったあたり、お義父さんには筋金入りの釣りキチ疑惑が浮上してまいりました。

 

 

 

「へぇ……単純な作りだけど、これで本当に釣れるのかしら?」

 

「まぁ試してみるといい。そうだね……あそこの岸際、流れの緩やかなところに落としてみなさい」

 

「は~い。……ていっ」

 

 

 細くしなやかな1m程の青竹の先に糸を結わえ付け、重りと針を付けただけの簡単な仕掛けにみんな興味津々です。針にミミズを付けた吸血鬼侍ちゃんがお義父さんに言われた場所に仕掛けを振りこみ、重りが着底してから待つことしばし……。

 

 

「あ!? なんかピクピクしてる!」

 

「まだ鋏で餌を抑え込んだだけだよ。もう少し待って、しっかり餌を口に運ぶまで我慢するんだ」

 

 

 竿先に感じる感触に慌ててアワセを入れようとする吸血鬼侍ちゃんでしたが、お義父さんの言葉にじっと我慢。やがて竿先に感じるピクピクという当たりがグイッと引っ張るようなものに変わったところで……。

 

 

「さぁ、ゆっくりと引っ張り上げるんだ。勢いを付けてしまうとせっかくかかった針が外れてしまうからね」

 

「あわわ……そ~っと……!」

 

 

 ビクン、ビクンと後ろに向けて逃げようとするザリガニの力に思わず一気に引き上げたくなるところですが、その誘惑に耐えてそっと岸へと引き寄せていく吸血鬼侍ちゃん。水面から赤い姿が離れ、川岸の草むらの上にポトリと着地させることに成功しました!

 

 

「ほわぁ~!」

 

「うん、上手く釣れたじゃないか。みんなも慌てる必要は無い。恐らく何年も釣り人は居なかっただろうし、逃げられてもすぐ他の奴が喰いついてくるからね」

 

「うし、それじゃ私もやってみようかしら……!」

 

 

 両手の鋏を掲げて威嚇するザリガニをひょいと背中側から掴み上げ、持ってきた木桶へと放り込むお義父さん。人数分の木桶を用意したということは、誰が何匹釣り上げたのか一発で判ってしまいますねぇ。みんなそれぞれ竿を手に、ここぞと思うポイントに仕掛けを投入すると……。

 

 

「わ、ほんとに釣れた!」

 

「ワン!」

 

「……驚いたな。こんなに簡単に釣れるとは」

 

「「……!!」」(ジェスチャー:跳ねる歓喜で嬉しさを表現している)

 

 

 次々に水面から飛び出てくる赤い姿に驚きの声が続く川岸。ゴブスレさんも自ら釣り上げたザリガニをまじまじと見つめた後、そっと自分の木桶にしまい込んでますね。みんなが釣りだしたのを見て、吸血鬼侍ちゃんも再び竿を振って仕掛けを水の中へと打ち込み始めました。

 

 

 

「いや、ビックリするくらい釣れたわね」

 

「ね~!」

 

 

 最初は釣れる度に一喜一憂していた2人ですが、際限なく釣れてしまうためにちょっと竿を置いて休憩しているみたいですね。早アワセしてしまったり喰いが浅くてバラシてしまうこともありますが、やはり釣り人が居なかったためかすぐに違うヤツが喰ってくるため、まさに一投一匹という有様。狼さんは木桶に釣ったザリガニをしまう際に鼻の頭を鋏で挟まれて不貞寝してますし、英霊さんたちもあまり釣り過ぎても食べ切れないと判断したのかみんなの木桶の水を変えたり槍の穂先に仕掛けを結んで魚狙いに変えたりと別の遊びに切り替えているみたいです。

 

 

 ……そういえばお義父さんの姿が見えませんね。最初はみんなに釣り方を教えたり絡まった仕掛けを解いたりとサポートに回っていましたが、みんなが慣れて来てからは手を出すことも無かったみたいですけど……。あ、居ました! 葦の生い茂る川岸に敷物を敷いて座っています。隣にはゴブスレさんも一緒に並んでますね。

 

 

「正直、意外でした。義父さんにこんな趣味があったとは……」

 

「まぁ、君が牧場に来てからは行く事も無かったからね。……小さい頃は良く妹と一緒に釣りをしていたんだ」

 

 

 穏やかな表情で水面を見つめる2人の傍には長い竹の竿が2本。1本は大きめの針にミミズを房掛けにしたぶっ込み仕掛け。狙いはウナギかはたまたナマズでしょうか? もう1本は茹でた甘藷(サツマイモ)を潰して麺麭(パン)屑と一緒に練り上げた吸い込み仕掛け。こちらは恐らく鯉狙いですね。

 

 

「あの()の母親……私の妹はあまり身体が丈夫でなくてね。あの娘を産んだ後も乳の出が良くなかったんだ。少しでもそれが改善されればと思い、此処で鯉を釣っては妹夫婦のところへ持って行っていたものだよ」

 

 

 過去を懐かしむように言葉を続けるお義父さん。昔から鯉は栄養の豊富な魚と言われてますし、産後の乳の出を良くするという話も広く伝わっています。きっとお義父さんもそれを信じて妹さんに食べてもらうために釣りを続けていたのでしょう。

 

 

「……だが、あの娘が牧場に来てからは、釣りをすることも無くなっていた。あの娘にひもじい思いをさせたく無かったし、嫌でも妹のことを思い出させてしまうからね」

 

「……はい」

 

 

 淡々と語るお義父さんの言葉に頷きを返す事しか出来ないゴブスレさん。しんみりとしてしまった空気を払拭するように、お義父さんが明るい声で続きを話し始めます。

 

 

「だが、それももう大丈夫だろう。みんなの協力で牧場の経営も順調だし、君という後継者も出来た。本当はあの娘が出産した際にも釣りに行くつもりだったんだが、冬は時期が悪くてね……」

 

 

 今もあまり良い時期ではないけれど、竿を出さなきゃ釣れないからね、と笑うお義父さん。それに釣られるようにゴブスレさんも不器用な笑みを浮かべています。はじめはすれ違いの多かった2人ですが、牧場襲撃を機に少しずつ互いを理解しようとした結果、少々ぎこちなさなは残っていますが立派な親子関係を築くことが出来たみたいですね……。こっそりと様子を窺っていたみんなもそんな2人に生暖かい視線を向けています。

 

 

「……もう少し、親子水入らずにしておいてあげましょうか」

 

「そうだね。……あれ?」

 

 

 おや、吸血鬼侍ちゃんが何かを指差しています。ちっちゃな指が指し示しているのは竹竿の1本。竿先が水面に向かって弧を描いています!

 

 

「む、何かかかったみたいだ! 慌てず慎重にアワセてみたまえ」

 

「はい! ……グッ!?」

 

 

 うわ、竹竿を握っているゴブスレさんが川に引き込まれそうになって二歩三歩と蹈鞴を踏んでいます! 邪魔にならないようもう1本の竿をお義父さんが回収している間にこっそり覗いていたみんなが駆け付け、吸血鬼侍ちゃんがゴブスレさんの腰に抱き着きました。英霊さん二柱は左右から竿に手を伸ばして、糸が限界を迎える前に獲物を引き寄せようと必死に川岸へと寄せています。

 

 

「うわ、おっき……じゃなくて、あんなのどうやって岸に上げるのよ?」

 

「大丈夫だ、そのまま岸まで寄せてくれ……!」

 

 

 困惑の声を上げる女魔法使いちゃんの横で、冷静に指示を出すお義父さん。着ていた上着を脱いで腕に巻き付け、川縁ギリギリまで近寄っていきます。ゴブスレさんたちの竿さばきで獲物が水面に顔を出した瞬間、その腕を大きな口の中へと突っ込みました!

 

 


 

 

「おっきいね~……」

 

「いや大きすぎでしょ。ちょっと隣に並んでみなさいよ?」

 

 

 ゴブスレさんと英霊さんが大の字になって荒い息を吐くそのすぐ横。5フィート近くある大きな鯰が恨めしそうにみんなを睨んでいます。隣に寝転がった吸血鬼侍ちゃんよりも縦横両方大きいと言えば、視聴神さんたちにもそのサイズが判って頂けるでしょうか?

 

 

「これも……食べるのですか?」

 

「そうだね……今回はそうしよう。この大きさならヌシではないだろうし、今は産卵時期でもないからね」

 

 

 この大きさならおちびちゃんたちも満足するだろうと笑うお義父さん。みんなもつられて笑う中、鯰だけが口をパクパクさせています。2~3日生かしたまま泥を吐かせる必要があるので、家畜の洗い場に水を張ってそこで泳がせておくみたいですね。

 

 

「今日釣った喇蛄(ザリガニ)も泥を吐かせたほうが美味しいからね。それまでには森人(エルフ)のお嬢さんの熱も下がっているだろう」

 

 

 きっと驚くだろうと笑うお義父さんに満面の笑みを向ける吸血鬼侍ちゃん。冒険に行けなかった妖精弓手ちゃんも体調と機嫌を復活させてくれること間違いなしです!

 

 

「……ねぇ、たのしかった?」

 

「ああ、心躍る体験だった。……これもまた、冒険なのかもしれんな」

 

「えへへ……じゃあぼうけんはだいせいこう!」

 

 

 そっと吸血鬼侍ちゃんの頭を撫でるゴブスレさんの顔はとても穏やかなもの。それを見ているみんなの顔もほっこりしていますね。さぁ、釣った獲物が弱る前に凱旋です! 牧場で待っているみんなをビックリさせてあげましょう!!

 

 

 

 

 

 

 ……なお、自分が寝込んでいる時に楽しく釣りをしていたことに2000歳児がへそを曲げ、彼女のふてくされた態度を見た女魔法使いちゃんがキレて、吸血鬼侍ちゃんに魔剣を使って無理矢理生命力を補充させたのは叢雲狩人さんには内緒ですよ?

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 ああ……次は冒険パートだなので失踪します。

 お気に入り登録に感想や評価、いつも嬉しい限りです。また、誤字の報告もいただき感謝しております。気を抜くとすぐにやってしまうので何とかしたいですね……。

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セッションその13.5

 初投稿からちょうど1年なので初投稿です。

 1年で約85万字。ここまで継続出来たのは、読んでくださる皆様のおかげで御座います。

 まだまだダブル吸血鬼ちゃんたちの冒険は続きますので、お付き合いいただければ幸いです。




 推しにスパチャを投げつける実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 

 前回、これはこれで冒険な日常をお届けしたところから再開です。

 

 

 ほのぼの牧場ライフから冒険組に視点を移してみれば……お、ちょうど目的地である集落が見えてきたみたいですね。急ぐ必要のない冒険のため、車内で一泊しゆっくりと山道の景色を楽しんでいたようです。

 

 

「おお! これはこれは、毎年お世話になっております」

 

「こんにちわ! ゴブリンをみたり、なにかたりないものがあったりしない?」

 

 

 冬の緊急輸送ですっかり顔馴染みになった村長と吸血鬼君主ちゃんが挨拶を交わしています。小鬼聖騎士(パラディン)の一件以来ゴブリンたちが姿を見せることも無く、たまに獣が迷い込んで来る程度ということで、村の状況は悪くないみたいです。一晩の宿をお願いしたところ、以前作戦会議に使用した酒場を快く貸してくれました!

 

 


 

 

「――皆さん、久しぶりですわね」

 

 

 馬車を酒場に横付けし、荷解きを済ませた一行。吸血鬼君主ちゃんのインベントリーから取り出した花束を墓前に供え、令嬢剣士さんがそっと石碑に刻まれた名前に指を滑らせています。後ろに控える吸血鬼君主ちゃんたちも厳かな雰囲気に身を包み、冒険半ばで斃れた彼らに敬意を表していますね。

 

 

「あれから、たくさんの冒険に赴きました。混沌の勢力、異世界からの侵略者、同じ人間を食い荒らす(ケダモノ)の群れ……。様々な敵と対峙し、一党(パーティ)の仲間や協力して下さった皆様のおかげでそれらを退けることが出来ましたの」

 

 

 かつての仲間たちに語り掛けるように、自分が歩んできた冒険の思い出を紡ぐ令嬢剣士さん。楽しかったこと、辛かったこと、どれもみんな大切な記憶です。

 

 

「人界の守護者にして秩序の護り手たる栄纏神(えいてんしん)の神官としても認められ、永遠を添い遂げる方と結ばれることも出来ました。(わたくし)は、本当に幸せ者です……」

 

 

 眦に涙を浮かばせながら、心の内を明かす令嬢剣士さん。僅かに震える手で腰に佩いた家宝の短剣に手を伸ばし、しゃりん……と音を立てて抜き放ちました。

 

 

「未熟な私と冒険を共にしてくださった皆さんに、改めて誓いますわ。人の道から外れ、後ろ指を指されることになろうとも、私は人の営みを護り、人界を侵す者たちに立ち向かう戦士と共に戦うことを!」

 

 

 高らかに宣言しながらトレードマークのツインテールに刃を当てる令嬢剣士さん。左右二筋の剣閃が煌めき、山の涼やかな風に乗って金糸が舞い上がりました……。

 

 

 

 

 

 

「すみません、私の自己満足にお付き合い頂いて……」

 

「何を言う、自らの心にケジメをつけるのは重要な事だ。此処にそれを嗤うヤツが居るとでも思っているのか?」

 

 

 頭を下げる令嬢剣士さんに対し、腕組みをしながらぷんすこと怒る女騎士さん。他のみんなも同様の表情を浮かべていますね。彼女1人を残して全滅してしまった一党(パーティ)、悲しいことではありますが、冒険者にとってはありふれた話でもあります。実際自分だけが生き残ってしまったというサバイバーズ・ギルトに耐え兼ねて、冒険者を辞めてしまう者も多いみたいですし。お、判ってはいるのですが……と俯いてしまった令嬢剣士さんに、そっと近づく小さな姿が……。

 

 

「おとなっぽいかみがたになったね。とってもよくにあってるし、ぼくはすきだよ」

 

頭目(リーダー)……」

 

 

 下から顔を覗き込むような視線とともに差し出された両手、令嬢剣士さんに抱き上げられた吸血鬼君主ちゃんが彼女の頭を優しく平坦な胸元に抱き寄せています。

 

 

「まえのなかまのことは、たいせつにおぼえててあげてね? それがきっと、ともにたたかうみんなをすくうちからになってくれるから。それに……」

 

 

 ぎゅっと視線を遮っていたハグを解き、自らの背後を示す吸血鬼君主ちゃん。令嬢剣士さんの目に飛び込んで来たのは……。

 

 

「ああもう、そんな顔をしないでくれたまえ。思わず抱きしめたくなってしまうじゃないか」

 

「ふふ、もう抱きしめてますよね?」

 

「ちょ、なんですのいきなり……むぎゅっ!?」

 

「おあ~……」

 

 

 叢雲狩人さんと大人モードの剣の乙女ちゃん、一党(パーティ)の高身長一位と二位に吸血鬼君主ちゃんごと抱きしめられた令嬢剣士さんが目を白黒させています。押し寄せるたわわにご満悦な吸血鬼君主ちゃんが剣の乙女ちゃんに回収され、フリーになったところを叢雲狩人さんに頬擦りされちゃってますね。

 

 

「うむ、仲良きことは美しきかなというヤツだな!」

 

「……なんか違わなねェか?」

 

 

 満足そうに頷く女騎士さんの隣で首を捻る重戦士さん。女性たちの姦しい笑い声は猫可愛がりされることにキレた令嬢剣士さんが≪稲妻(ライトニング)≫を乱射するまで続くのでした……。

 

 


 

 

「――っはぁ。これは、いいお湯ですね……」

 

 

 夜の帳が降りた頃、剣の乙女ちゃんの艶やかな吐息が響いています。村人たちの好意で貸切りにして貰った温泉に浸かりに来た一行、じんわりと身体に感じる外気とは異なる温かさ、その快感にみんな目を細めていますね。……まぁ、快感の要因はそれだけでは無さそうですが。

 

 

「いっしょにはいればよかったのにね……んちゅ」

 

「ふふ、無理を言ってはいけないよ。殿方には矜持(プライド)というものがあるのだから。それよりも……どうかなご主人様? たしか森人(エルフ)のお乳は味わったことが無かったと思うのだけれど」

 

「ん……おゆであっためられて、すごくあまい……ちゅる……もうちょっとすってもいい?」

 

「もちろんだとも。赤ちゃんのぶんまで飲んでくれて構わないからね……んっ」

 

 

 湯に浸かった叢雲狩人さんの腿上に横座りした体勢で、たわわに口を付けたまま疑問を呟く吸血鬼君主ちゃん。どうやら混浴のつもりで重戦士さんを誘ったようですが、馬鹿言うなと真っ赤な顔で断られちゃったみたいです。こんなこともあろうかと持ってきた湯浴衣(ゆあみぎ)が使えずしょんぼりしていた吸血鬼君主ちゃんでしたが、今では叢雲狩人さんのたわわとそこから湧き出るミルキィなママの味に夢中になっていますねぇ。

 

 

「まったく、頭目(リーダー)ったら。帰ったら先輩に言いつけますわよ? それにしても……」

 

 

 湯に浮かべた木桶に手のひらサイズの使徒(ファミリア)を入れ、一緒に温泉を楽しんでいた令嬢剣士さん。ちゅーちゅー真っ最中の叢雲狩人さんとそれを興味深そうに眺めている女騎士さんの一糸纏わぬ姿をまじまじと見つめています。

 

 

「お二人とも、とても一児の母とは思えませんわね……」

 

「そうかな? 妹姫(いもひめ)様も義妹(いもうと)ちゃんも変わらないからこんなものだと思っていたのだけどね」

 

「うむ、普通は体型が崩れたり色素が定着するものらしいが。おそらく産後にかけられた奇跡にそういったものを防ぐ効果もあったのでは無かろうか」

 

 

 未だちゅーちゅーしている吸血鬼君主ちゃんを挟んで互いを見合う2人のママ。令嬢剣士さんの言う通り、出産前と変わらぬ……むしろ色気を増したプロポーションは同性にすら目の毒になりそうなほど。訓練場にて薄着で指導を受けている新人冒険者たちにはちょ~っと刺激が強いかもしれませんね。 

 

 

「それに、私たちよりも見ておくべき相手がいるだろう?」

 

「……いえ、アレは最早そういった段階を超越した何かですわ」

 

 

 女騎士さんの指差す先に視線を向け、ほぅと溜息を吐く令嬢剣士さん。温泉から受けるのとは違う熱によって頬を上気させ、必死に目を逸らそうとしていますが、本能がそれを許さず食い入るように見つめてしまうのは……。

 

 

 

「あの、そんなに見られると恥ずかしいのですが……」

 

 

 湯に浮かぶ2つの果実と、温められて仄かに朱に染まった艶めかしい輝きを放つ肌。かつてゴブリンによって刻まれた傷跡はトラウマと一緒に全て消え失せ、そこにあるのは見る者の理性を狂わせる極上の柔肉。食い入るように見つめて来る女性たちの視線に恥ずかしそうに身を捩り、淡く色づいた果実の先端を手で隠す剣の乙女ちゃんの肢体に全員が生唾を飲み込んでいます。

 

 

「うむ、私も同性を押し倒してむしゃぶりつきたくなったのは初めてだな。……心配するな、冗談ではないが本気でも無いぞ?」

 

 

 下からの圧に気付き女騎士さんが見れば、そこには叢雲狩人さんのたわわに口を付けたままじっと見上げている吸血鬼君主ちゃんの不安げな視線。くしゃりと前髪を撫でながら女騎士さんがその気はないと告げると、ホッと安心したみたいですね。ちゅーちゅーするのに満足したのか先端から口を離し、先っぽに残った雫を舌でペロリと舐め取った後に何度も口付けを落としています。ちゅっちゅっという小鳥のさえずりのような音とともに繰り出されるお礼に対し、叢雲狩人さんが身を委ねたまま余韻に浸っていましたが……。

 

 

「さて、満足したところで……次はご主人様が2人にちゅーちゅーされる番だよ?」

 

「ちゅっ……ちゅっ……ふぇ?」

 

 

 そう宣言するや否や、くるりと吸血鬼君主ちゃんを回転させる叢雲狩人さん。後頭部をたわわに預ける形で水面に仰向けに身体を浮かび上がらせ、細い両手を脇に挟んでしっかりとホールド。上半身をロックされた吸血鬼君主ちゃんが事態が呑み込めずに動けないところで、そっとにじり寄る2つの影。水面に漂う肢体を支えるように、剣の乙女ちゃんと令嬢剣士さんが近付いてきました。

 

 

「明日は長時間の飛行(フライト)が予想されますので、今夜はしっかりと補給(チャージ)させて頂きますわ……」

 

 

 右手で小さな背中を支え、左手で鳩尾の辺りを撫でながら平坦な胸に口付けの雨を降らせる令嬢剣士さん。突然のくすぐったさに身を捩ろうとする吸血鬼君主ちゃんですが、気付いた時には下半身も拘束されております。お腹の下に感じる暴力的な柔らかさに、快感でグッと反りそうになる首を無理矢理曲げて視線を向けて見れば……。

 

 

「ん……ちゅっ……ふふ。さぁ、早く魔剣を抜いてください……」

 

 

 両脚の間から一党(パーティ)最大のたわわを想い人の肢体に乗せ、獲物を丸呑みする蛇のように舌を這わせる剣の乙女ちゃんの姿が。空いた両手で脇腹や太股など敏感なところを刺激され、こみ上げる快感に身を動かすことも出来ずひたすら昇って行く吸血鬼君主ちゃん。やがて3人の()()()に耐え切れず……。

 

 

「おお……。あいつのだんびらには及ばずとも、小さな体躯に不釣り合いなほどの一振り。流石魔剣と呼ばれるだけのことはある……!」

 

「ふふ、だろう? しかも得物に振り回されたりせず、しっかりと使いこなしているからね。みんなご主人様の剣捌きに夢中になってしまうのさ」

 

「やあぁ……はずかしいよぅ……っ」

 

 

 半ば強引に抜かされた魔剣をまじまじと見つめられ、羞恥心で顔を真っ赤にしている吸血鬼君主ちゃん。フンスとドヤ顔をしている叢雲狩人さんの隣で女騎士さんが魔剣の大きさに感嘆の声を漏らしています。逃亡の意思が無いと判断されたのか、解放された両手で顔を覆っている吸血鬼君主ちゃんを見て、眷属2人の目に肉食獣の光が宿り始めてますね……。

 

 

「温泉に魔力が混入してはいけませんので、今夜はこちらで失礼します……はむ……」

 

「では私は此方から。頭目(リーダー)、痛かったら手を上げてくださいね……ちゅ……」

 

「おあ~……」

 

 

 懇々と湧き出る温泉から発生するものとは違う水音と、合間に響く吸血鬼君主ちゃんの我慢の声は、それから約2時間ほど続いたのでした……。

 

 


 

 

「……なぁ、大丈夫か?」

 

「ん、なんとか。……そっちは?」

 

「正直ヤバかった。持久力(スタミナ)が落ちるから止めろって言っても聞かねェし、無理矢理気絶させなかったら朝まで搾り取られていたかもしれねェ……」

 

 

 真夏の夜の宴が明けて翌日、若干ふらつきながら飛行する吸血鬼君主ちゃんに、防寒着に身を包んでおぶさっている重戦士さんが心配そうに声をかけています。前を飛ぶ女性陣に恨めしそうな目を向けていることから察するに、吸血鬼君主ちゃんたちにあてられた女騎士さんが大いに盛り上がっちゃったみたいですね。

 

 

 夜明けとともに麓の村を出発し、現在朝の9時くらいでしょうか。地上の暑さとは無縁の身を切るような寒さに耐えながら雲の上を飛行する冒険者たち。昨日しっかり充電したことで、剣の乙女ちゃんと令嬢剣士さんには吸血鬼君主ちゃんから星の力(核融合炉)の熱が送られていますが、どうしても体表の温度が低下するのは避けられません。

 

「いやぁ快適快適。大司教の温もりを味わいながらの冒険とは、なんとも贅沢なものだな! まぁ欲を言えば大人の姿で抱き寄せて貰いたかったものだが」

 

「申し訳ありません。此方の姿のほうが吸血鬼としての力を制御しやすいので……」

 

 

 前方を飛ぶ至高神さん信仰のペアからは暢気な声が聞こえて来ています。もこもこの防寒着姿でお姫様抱っこされてご満悦な女騎士さんに苦笑を返す剣の乙女ちゃん。その背中からは立派な翼が展開されていますね!

 

 

「うぅ……やはりお2人のように速くは飛べませんわ……」

 

「いいじゃないか、ゆっくりでも。それに揺れが少ないから私は快適だよ?」

 

 

 列の真ん中を飛ぶ令嬢剣士さんが愚痴を零すのを笑って流す叢雲狩人さん。令嬢剣士さんの背中に見える翼は何処か硬質で、ものすご~く頑丈そうに見えますね。具体的に言うと384箇所くらい被弾しても無事に帰還できそうです。これも栄纏(A-10)神、もとい破壊神さんの加護なんですかねぇ。

 

 

 お肌ツヤツヤな女性陣をやつれ気味の重戦士さん&吸血鬼君主ちゃんが追随すること暫し。地表から離れた酸素の薄い環境に耐えるために、令嬢剣士さんが風の精霊にお願いして、運ばれている3人の付けているマスクの中で呼吸の補助をして貰っていますが、精霊たちも狭い場所に飽きてきたようで隙間から顔を覗かせている精霊たちを令嬢剣士さんが頑張って宥めている状態です。地図とにらめっこしている女騎士さんの先導で浮遊神殿(フロートテンプル)を目指していますが、そろそろ見つかって欲しいところ……。

 

 

 

「む、見えてきたぞ!」

 

 

 

 お、先頭の女騎士さんから喜色に溢れた声が聞こえてきました! かじかんだ手で彼女が指差す先には、雲海に浮かぶ大きな神殿が顔を覗かせています。互いに視線を交わし、ゆっくりと神殿に近付いて行く一行。やがて神殿の端にある発着場のような場所に降り立ちました。

 

 

「どうやら何らかの方法で地上と同じ環境を維持しているみたいですわね。……ありがとうみんな、無理に付き合ってくれて」

 

 

 風の精霊たちに感謝の言葉を告げ、マスクから解き放った令嬢剣士さん。狭苦しい場所から解放された精霊たちは伸びをしながら中空へと姿を消して行きました。同じくマスクから解放された呼吸が必要な3人も、同じ姿勢で凝り固まった身体をほぐすようにストレッチをしています。

 

 

「ふぅ……。ようやく着いたわけだが、あまり見たことの無い建築様式だなぁ」

 

「そうですね。恐らく全て金属製なのでしょうが……」

 

 

 コツコツとブーツの踵で地面の感触を確かめながら周囲を見渡す女騎士さんに同意するように、床に手を当てて材質を見極めようとしていた剣の乙女ちゃんが頷いています。すべてが人工物で覆われ、木や土が全く見当たらない不思議な構造に興味を惹かれているみたいですね。

 

 

「あ……」

 

「お、どうした? なんか見付けたか?」

 

 

 インベントリーからみんなの装備を取り出していた吸血鬼君主ちゃんが不意に顔を上げ、何かを探すように辺りを見回すのを目撃した重戦士さんの問い掛けに、大きく頷きを返す吸血鬼君主ちゃん。神殿の中心と思われる建物を指差し、懐から大事そうにあるものを取り出しました。

 

 

「そいつぁ確か訓練場に飾ってた……」

 

「うん、たいようしんさまのメダル。なんとなくだけど、だれかによばれてるきがするの」

 

 

 おお、たしかに。普段から僅かに熱と輝きを帯びている太陽のメダルが普段よりも輝きを増しています。何かに導かれるように歩き出した吸血鬼君主ちゃん。その後を装備を整えたみんなが慌てて追いかけてますね。向かう先は先ほど指差していた神殿の中心部。果たして何が待ち受けているのでしょうね……。

 

 

 

 

 

 

 迷いなく歩く吸血鬼君主ちゃんを先頭に神殿内部へと足を踏み入れた一行。巨人(タイタン)が悠々と歩けそうなほど広大な回廊を進み、美しい装飾が施された大きな扉の前へと辿り着きました。両開きの扉の中心には丸い窪みがあり、そこから伸びた光が吸血鬼君主ちゃんの持つ太陽のメダルへと繋がっています。みんなから同意をもらった吸血鬼君主ちゃんが恐る恐るメダルを窪みへと嵌め込んでみたところ……。

 

 

「……何も起きませんわね」

 

「ふむ、太陽神の信徒で無くば開かないとは思っていたが、まだ何か足りないものがあるのか?」

 

「とはいえ、此処に来るまでの道すがら探索はしたけれど、そういう類のものは見付からなかったからねぇ……」

 

 

 まぁ、私が見落と(ファンブル)してなければの話だけどね、と笑う叢雲狩人さん。他のみんなもそれぞれ調べてましたけど、めぼしいものはありませんでしたし。他に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()といえば……あ。

 

 

「あ! わかった!!」

 

 

 お、どうやら吸血鬼君主ちゃんもアイデアロールに成功したみたいですね! みんなを呼び寄せて考えを話したところ、納得の笑みを浮かべたり、あらあらと苦笑したり、マジかよと頭を抱えたりとリアクションは様々。ですがみんな吸血鬼君主ちゃんの発想には賛同してくれたようです。

 

 

「それじゃあ、じゅんびはいい?」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの掛け声に合わせて淡く光る扉の前に横一列に並ぶ一行。その場に屈んで呼吸を整え、同一のタイミングで立ち上がっていきます。上体が伸びきると同時に両腕を斜め上に掲げ、僅かに胸を張った状態で一斉に唱える聖句はもちろん……!

 

 

 

 

 

 

Y Y Y  Y Y

 

「「「「「「太陽万歳(たいようばんざい)!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 おお……なんて美しい太陽賛美! これはもちろん合格ですよね太陽神さん!!

 

 ……って、笑い転げてないで早く開けてあげてくださいよ!?

 

 恥ずかしさのあまり涙目になっちゃった剣の乙女ちゃんを見て、至高神さんが凄い顔でこっち睨んでますから!!

 

 

 

 

 

 

「良かった、ちゃんと開きましたね……」

 

「えへへ……きっとかみさまがみとどけてくれたんだね!」

 

 重厚な音を響かせながら開いていく両扉。役目を終えてコロンと落ちてきた太陽のメダルを拾い上げながら、真っ赤な顔の剣の乙女ちゃんが恥ずかしそうに呟いています。彼女の差し出すメダルを受け取った吸血鬼君主ちゃんの顔には満面の笑み、みんなでいっしょに太陽万歳!したのが嬉しかったみたいですね。

 

 

「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか。気ィ引き締めて行こうぜ?」

 

 

 同じく羞恥心で顔を赤くした重戦士さんが咳払いと共に先を促し、真剣な表情になった一行が扉の奥へと進み始めました。先の回廊とほぼ同じ広さの通路を歩く一行、ある場所まで進んだところでその足がピタリと止まりました。

 

 

「これは……神代の歴史を題材とした壁画でしょうか?」

 

「そうみたいだけど、どうやら左右で異なる話みたいだね」

 

 

 天井から差し込む陽光によって照らし出された回廊の壁面。そこには太陽神とそれにまつわる神々の逸話が絵画として遺されていました。

 

 

 右の壁に記されているのは、太陽神の化身である白き狼と蟲人(ミュルミドン)の少年が繰り広げる冒険の旅

 

 行く先々で困っている人を助け、時には悪戯が見つかって追いかけられ、たま~にご褒美をもらって尻尾をブンブンする珍道中

 

 人々の平和な暮らしを乱す闇の軍勢に、祈りの力を束ねることで立ち向かった物語です

 

 

 

 左の壁に記されているのは、星の彼方の世界で紡がれた五つの星を舞台に描かれた年代記

 

 太陽神の化身たる絶対の力を持つ存在が、緩やかに衰退を続ける世界で織り成す人間たちの歴史を見つめ、時に歴史へと介入し栄光と悲劇を紡ぐおとぎ話

 

 破壊神を模した存在である電気騎士が絵画中を華麗に彩る、破壊と創造の物語です

 

 

 

「どうやら、異なる世界における神々の在り方を記したものみたいですね」

 

「そうなんだ~」

 

 

 剣の乙女ちゃんの説明に判って無さそうな返事を返す吸血鬼君主ちゃん。あ、でも右の絵画に描かれている白い狼を見て、これが太陽神さんのことだってことは理解しているみたいです。お、左の壁面にある合戦の様子を描いた絵を見ていた女騎士さんが何かに気付いたみたいですね!

 

 

「おお、これは黄金の騎士(ナイトオブゴールド)ではないか。我が家に伝わる鎧が描かれているということは、いよいよ姉上の話の信憑性が増して来たな!」

 

「いやオマエ、此処まで来て自分の姉を信じて無かったのかよ……お?」

 

 

 上機嫌な女騎士さんの隣で、げんなりした様子で通路の奥を見つめていた重戦士さんの目が細くなりました。どうやら"探索"はここまでみたいですね。通路の奥から近付いて来るプレッシャーに気付いた一行が戦闘態勢を取り、吸血鬼君主ちゃんが星の力(核融合炉)の出力を上げ始めました……!

 

 

 

 

 

 

守護者(ガーディアン)……いえ、違いますね。むしろ閉じ込められていた侵入者でしょうか」

 

「うん、私もそんな気がするね。あんな禍々しい気配の太陽神の信徒がいるとは思えないし。……あ、ご主人様は特別だよ?」

 

 

 通路の奥、薄影から現れた異形の姿を見て冷静に正体を吟味する剣の乙女ちゃん。軽口を叩いている叢雲狩人さんも、口調とは裏腹に獲物から視線を外そうとしません。ゆっくりと姿を現したのは、赤い兜と鎧で全身を覆い、二刀を携えた牛の魔神。そして、その影から飛翔してきた機械仕掛けの梟の如き2体の魔神です!

 

 

「飛行している魔神2体は私たちが引き受けましょう」

 

頭目(リーダー)は皆と一緒にそちらの大型を!」

 

「ん、わかった!」

 

 

 翼を展開し飛翔する眷属2人を見送り、地上組に先駆けて牛の魔神(赤カブト)へと突っ込む吸血鬼君主ちゃん。振り下ろされた大刀を躱し、挨拶がわりにヒヒイロカネの刀で斬りかかりますが……。

 

 

「わ、かたい!」

 

「――どれ、試してみるか。……オラァ!!」

 

 

 想定外の硬さに反動で吹っ飛んでいく吸血鬼君主ちゃんと入れ替わるように踏み込んできた重戦士さんが、地を這うような姿勢からフルスイングで愛剣を叩き込みますが、やはり鎧に阻まれて本体にダメージは与えられていない様子。頭上からの叩き潰すような剣戟を刀身でいなしながら後退し、その頑丈さに悪態を吐いています。

 

 

「どうした? 自慢の逸物の硬さで負けているようだが?」

 

「もうちょい言い方ってモンを考えろよ!?」

 

「ふむ……では魔法ならどうだろうね」

 

 

 巨体による体当たりをステップで避けつつ、詠唱を始める叢雲狩人さん。軽銀製の戦棍から発射された≪稲妻(ライトニング)≫が立て続けに鎧へと降り注ぎますが、それすらも鎧の表面を滑るように逸れてしまい、有効打にはなっていません。さてどうしたものかと一行が考える中、涼やかな声を上げたのは女騎士さんです。一歩引いた位置から戦況を見ていた彼女の口から出たのは……。

 

 

 

「すまん! もう少し観察したいから、暫く囮になっていてくれ!!」

 

「は~い!」

 

「ふふ、りょ~かい」

 

「仕方無ェなぁ……」

 

 

 ……なんとも頼り甲斐のある台詞ですね!

 

 

 

 

 

 

 地上組が攻めあぐねている中、2体の魔神と空中戦を繰り広げている眷属の2人ですが……戦況はどうでしょうか?

 

 

「あら? 当たりませんね……」

 

「くっ、速い!?」

 

「「むだむだむだむだむだむだぁ!!」」

 

 

 うーん、こちらもなかなか苦戦しているみたいです。剣の乙女ちゃんと相対している白銀魔神(コタネチク)が鳴き声を上げる度に令嬢剣士さんと格闘戦(ドッグファイト)を繰り広げている黄金魔神(モシレチク)が猛烈に加速し、黄金魔神(モシレチク)が瞳を輝かせると剣の乙女ちゃんの動きが鈍り、レイテルパラッシュから発射される弾丸さえも目視出来てしまうほどに速度を落とし悠々と白銀魔神(コタネチク)に回避されてしまっています。流石双魔神と呼ばれるだけのことはありますね……。

 

 

 吸血鬼君主ちゃんから供給される星の力(核融合炉)のエネルギーによって負傷はすぐに再生しますが、相手にダメージを与えられなければジリープアー(徐々に不利)です。魔神の異能に翻弄されている2人を嘲笑うように、金と銀の梟が縦横無尽に回廊を飛び回り好き勝手に暴れ始めました! 羽ばたく翼から抜け落ちた羽が刃に変じ、乙女の柔肌に傷を付けるのを目にした吸血鬼君主ちゃんが劣勢を押し返さんと援護に回ろうとしますが……。

 

 

「大丈夫ですわ、頭目(リーダー)!」

 

「ええ、攻略方法は見付かりましたので」

 

「……わかった。でも、むりしないでね?」

 

 

 上空から見下ろす2人の眉を立てた笑みによって押しとどめられ、一瞬の逡巡の後に笑顔を見せ、再び牛の魔神(赤カブト)へと突撃して行きました。

 

 

 

「あの魔神の力、恐らくは時間を操作するものでしょう」

 

「はい。そしてそれは、長時間持続するものではありませんわ」

 

 

 上空で2体横並びとなり、首をくりくりと動かしながら2人を観察していた魔神に対し翼をはためかせて接近する令嬢剣士さんと剣の乙女ちゃん。また先程までの焼き直しかと嘲るような視線を向けていた双魔神の瞳が、驚愕の色に染まっています。

 

 

「たしかに、(わたくし)は眷属の中で一番飛ぶのが下手ですわ。ですが――」

 

 

 粘性の高い液体に囚われたように動きの鈍い令嬢剣士さんに向かって次々と羽根の刃を飛ばす白銀魔神(コタネチク)。避け切れずに被弾する姿に満足そうな笑みを浮かべていましたが……。

 

 

そんなばかな!?

 

「――皆の中で一番頑丈(タフ)なのも私です!」

 

 

 掲げた魔剣で急所を隠し、一直線に魔神へと突き進む令嬢剣士さん。四肢への被弾は再生するに任せ、翼に穴が穿たれても速度を緩めることも無く、只管に前だけを見据えて飛翔していきます。やがて刃の雨を抜けた先、目を見開いて逃げようとする白銀魔神(コタネチク)の眼窩に突撃の勢いのまま魔剣を突き刺し……。

 

 

 

 

 

 

これが、『栄纏神官魂』です(How do you like me now)!!」

 

 

 

 毎分3900発の速度で発射された魔弾によって機械仕掛けの頭蓋を砕かれ、回廊の床へと落下していく白銀魔神(コタネチク)。核ごと粉砕されたことで召還すら許されずに消えゆく魔神を一瞥し、令嬢剣士さんは地上で戦う吸血鬼君主ちゃんたちの援護へと向かっていきました。

 

 

 

 

 

 

うっそだろおまえ……!?

 

「さて、相方は墜ちてしまいましたが……貴方は如何するのですか?」

 

 

 うっそりと微笑む剣の乙女ちゃんの迫力に気圧されたかのようにたじろぐ黄金魔神(モシレチク)。悠然と近付いて来る小柄な吸血鬼に向かって自身の異能である停滞の能力を行使しますが……。

 

 

「やはり、その力は≪停滞(スロウ)≫に似たもののようですね。それならば、≪加速(ヘイスト)≫で相殺できるのも当然ですよね?」

 

 

 身体を侵す呪いを意に介さず、等速で飛行し続ける剣の乙女ちゃん。その手が胸の護符(アミュレット)を握りしめた瞬間、剣の乙女ちゃんの動きが高速化し、抜き打ちで放たれた銃撃によって黄金魔神(モシレチク)の翼に無数の風穴が開きました!

 

 

アイエエエ……!?

 

 

 突然の損傷に大きく体勢を崩した黄金魔神(モシレチク)を追撃する速度は通常の2倍。≪加速(ヘイスト)≫に対抗しようと半壊した機械仕掛けの梟も己の異能を行使し続けますが、永続化された≪加速(ヘイスト)≫を打ち消すことは出来ず徐々に天井近くへと追い詰められていきます。やがてその胴体、時計を模した機巧の中心に黒く硬質化した剣の乙女ちゃんの右腕が容赦無く叩き込まれ……。

 

 

さよなら!!

 

「これはお土産にしましょうか。親方が喜びそうですものね」

 

 

 内臓攻撃で核を抜き取られ、活動を停止する黄金魔神(モシレチク)。令嬢剣士さんが地上へ向かうのを確認すると、剣の乙女ちゃんもその後を追うようにゆっくりと降下して行きました……。

 

 

 

 

 

 

 さて、空中戦は無事に勝利しましたけど、地上のほうはどうでしょうか?

 

 

「おい、まだ時間かかるのかよ!? いい加減こっちも保たねェぞ!?」

 

 

 おや、重戦士さんの切羽詰まった叫び声が響いてますね。大刀二刀に加え口から炎を吐いて前衛の3人を攻撃し続けている牛の魔神(赤カブト)。吸血鬼君主ちゃんが適宜≪聖壁(プロテクション)≫を展開して負傷は防いでいるみたいですが、3人の持久力(スタミナ)も無限ではありません。……ただでさえ搾り取られちゃってますしねぇ。

 

 

「かいふくのこともかんがえると、そろそろ≪せいへき(プロテクション)≫はおしまい~」

 

「それは何とも嬉しい言葉だねご主人様。……後は気合い避けで如何にかするしかないかな?」

 

「ふむ……よし、だいたいわかった! 全員集合!!」

 

 

 軽口とは裏腹に真剣な表情の叢雲狩人さんが戦棍を構え直し、再び接近しようとしたところで女騎士さんののんびりとした声が響きました。≪聖壁(プロテクション)≫の効果が残っている間に後退してきた3人へと、牛の魔神(赤カブト)攻略の手順を話し始めました……。

 

 

「あの鎧、受けた衝撃を分散させることで驚異的な強度を保っているようだ。なので、攻撃を掻い潜りつつ包囲、三方向から同時に殴打を加えてみてくれ」

 

 

 女騎士さんの指示に従い、二刀とファイアブレスを躱し巨体を包囲する3人。先程までとは違う動きに牛の魔神(赤カブト)も警戒しているみたいですね。

 

 

「ったく、簡単に言ってくれるぜ……」

 

「ふふ、口ではそう言いながらしっかりと意見に従う当たり、信頼しているんだね」

 

「なかよしだもんね! ……それじゃあ、せ~の!!」

 

 

 だんびらの腹を棍棒代わりに構えた重戦士さんのボヤキに茶々を入れる叢雲狩人さん。剣を円盾()に持ち替えた吸血鬼君主ちゃんの合図で3人が一斉に殴りかかりました!

 

 

おれさまのいっちょうらが!?

 

 

 同時に着弾した三発の打撃による衝撃を鎧は吸収しきれず、身体から剥がれ飛び散る鎧。続けざまに繰り出された攻撃が剥き出しになった筋肉に刻まれていき、先程まで余裕綽々だった牛の魔神(赤カブト)の咆哮に焦りが見え始めていますね。絶え間ない攻撃を嫌がり3人を弾き飛ばすべく二刀を振りかざしたところに、女騎士さんと剣の乙女ちゃん、至高神の信徒2人が唱えた聖句によって生み出された雷光が勢いよく降り注ぎます!

 

 

「「裁きの司、つるぎの君、天秤の者よ、諸力を示し候え!」」

 

ひどい……おれさまのあいとうが!!

 

 

 聖なる稲妻に耐え切れず粉々に弾け飛ぶ二刀。そこから流れ込む≪聖撃(ホーリー・スマイト)≫の魔力に身を焼かれ、苦悶の声を上げる牛の魔神(赤カブト)。一際大きな咆哮が響くと散らばっていた鎧が浮かび上がり、傷ついた身体を覆わんと動き出しますが……。

 

 

「そうは問屋が卸しませんわ!」

 

 

 魔剣への装填(チャージ)を終えた令嬢剣士さんの斉射によって、二刀と同様に砕け散る鎧。武器と防具両方を失い呆然と立ち尽くす牛の魔神(赤カブト)にトドメを刺そうと、吸血鬼君主ちゃんがおへそのあたりに手を当てますが……おや?

 

 

「そりゃたしか思いっきり消耗するヤツだったろ? ここは先輩に華を持たせると思って、な?」

 

「……ん! おねがいします、せ~んぱいっ!!」

 

 

 肩を叩きながら不慣れなウインクを見せる重戦士さんに笑いながら前を譲る吸血鬼君主ちゃん。不敵な笑みを浮かべながら歩み寄る重戦士さんを脅威と感じたのか、牛の魔神(赤カブト)がその逞しい腕を振りかざしヤバレカバレの一撃を繰り出してきました! 直撃すれば肉片一つ残りそうもない剛腕を自慢のだんびらで受け流し、重戦士さんがすれ違いざまに一閃!!

 

 

ほな……さいなら……

 

「フン、まぁまぁ楽しめたってところだな」

 

 

 音を立て崩れ落ちる巨体を背に見得を切る重戦士さんのカットインで、戦闘終了です!

 

 


 

 

「ほわぁ~」

 

「綺麗ですね……」

 

 

 回復と装備の点検を済ませ、神殿の最奥へと到着した一行。採光窓から差し込む陽光によって自然な明るさを保つ大広間を前にして、みんな感嘆の声を上げていますね。

 

 

「アレが姉上の手紙に記されていたモノに違いないだろう。判り易くて有難いな!」

 

 

 無造作に並べられた巻物(スクロール)魔道具(マジックアイテム)を後回しに女騎士さんがズンズンと進む先、舞台のように一段高くなっている場所で、互いに武器を突き付け合うような姿勢で静止したままの2体の鎧が己が主を待っていました。

 

 

「……あの黄金の鎧も含め、これらの鎧は異世界の神を模して作られたようですね。戦場を支配する騎士の象徴、≪破壊≫を司る神の化身たる迫撃神(モーターヘッド)。この鎧の基となった存在は、そう呼ばれていたようです」

 

 

 鎧の傍に刻まれていた銘を読み上げながら寒さに耐えるように自分の身体を抱きしめる剣の乙女ちゃん。どうやら片方の鎧から発せられている、禍々しいとさえ思える魔力におもいっきり中てられちゃったみたいですね。

 

 

「鎧は自ら遣い手を選び、己が全てを預けるという。無理に纏おうとすればどのような反動があるか……あ、こら、人の話を聞いているのか!?」

 

 

 エア眼鏡クイッをしている女騎士さんの横をすり抜けて鎧へと近付く重戦士さん、何かに導かれるように手を伸ばす先は、全身傷だらけの黒い鎧です。二本の長剣を佩き大きな円盾を携え、積層装甲に覆われた何処か東方風の趣を感じさせる漆黒の胴体。重戦士さんが触れると眩い光を放ち、新たな主を祝福するようにその身体を包み込みました!

 

 

「へぇ……なかなか良いじゃねェか。気に入ったぜ、相棒!」

 

 

 満足げに頷く重戦士さんの言葉に兜のスリットから赤い光を放つ『黒騎士の鎧(バッシュ・ザ・ブラックナイト)』。なんだか重戦士さんが装備しているとものすご~く似合ってる気がしますね、モチーフ的な意味で。二刀は腰に帯びたまま、今まで両手で扱っていた相棒であるだんびらを片手で振り回しているところから察するに、鎧装備時には身体能力向上の効果もあるみたいです。

 

 

 さて、問題はもうひとつの鎧です。剣の乙女ちゃんの震えの原因である禍々しい魔力の出処は間違いなくこっちですねぇ……。

 

 

 内部構造が透けて見える半透明の積層装甲に、全身に散りばめられた血の十字架の意匠。腰に佩いた長剣と大きな盾はあくまでも補助武器でしかありません。

 

 

 その主武装は右腕に持つ長柄武器、槍などという生易しいものでは無く、霊体や呪いといった()()()()()()()()()()焼き尽くし消滅させてしまう恐るべき火炎放射器。たった15騎で星ひとつを制圧したというオリジナルほどの力は無いと思いますけど、『最強の幻影(L.E.D.ミラージュ)』と呼ばれるだけのポテンシャルを秘めているのは間違い無さそうです……。

 

 

 ……えっと、あの、太陽神さん、破壊神さん。流石に()()はやり過ぎなんじゃ……あ、叢雲狩人さんがニコニコ笑いながら近付いちゃってますよ!?

 

 

「……うん。いいね、凄くいい。君とは仲良くやっていけそうだよ」

 

 

 ほっそりとした指で鎧の胸元に刻まれた赤い十字架に触れる叢雲狩人さん。重戦士さんの時と同様に光が彼女を包み込みます。

 

 

 光が収まったその場には、自らに相応しい主を見付け歓喜に身を震わせる鎧と、彼が持つ狂気を気持ちよさそうに受け止めている叢雲狩人さんの姿がありました……。

 

 

 

「えっと、だいじょうぶ? きぶんわるかったりしない」

 

「ああ、問題ないよご主人様。この子が持つ破壊と殺戮の本能は、私のゴブリンに対する狂気のみを増幅してくれているみたいだからね。無差別に暴れまわったりはしないさ」

 

「ん、わかった。よろいさんとなかよしになれてよかったね!」

 

「ふふ……そうだね。これからよろしく頼むよ、相棒?」

 

 

 祝福の言葉を告げる吸血鬼君主ちゃんの頭を優しく撫でる叢雲狩人さん。彼女の心の内に潜む決して消えることの無い狂気は、ダブル吸血鬼ちゃんが誰よりも知っていますからね。祝うことこそあれ、諫めるなどということは彼女に対する侮辱、長き復讐の生を全否定することに他なりません。

 

 

「ふむ、財宝の鑑定は帰ってからでも出来るだろう。すまんが全部しまうことは可能かな?」

 

「だいじょうぶ! ぜ~んぶもらってっちゃおうね!!」

 

 

 女騎士さんの声によって一斉に宝物を吸血鬼君主ちゃんの近くに運び始める一行。インベントリーにしまわれる量は多く、帰ってからの鑑定が楽しみですね!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 次回サードシーズン開始!(予定)なので失踪します。

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セッションその14-1


 はじまりはグダグダからが平常運転なので初投稿です。




 えー、今回は『サードシーズン開始に伴う一党(パーティ)に参加する新キャラ枠抽選会』にご参加いただき、視聴神の皆様方には改めてお礼を述べさせていただきたいと思います。本当にありがとうございました!

 

 厳正なる抽選の結果、見事枠をゲットしたのは……知識神さん、嗜虐神さん、そして鍛冶神さんです! 皆さま拍手~!!

 

 ……では、当選した3()一党(パーティ)に参加させてあげたい推しの子を教えていただけますでしょうか? その子に応じた登場タイミングを脚本(シナリオ)担当と相談して決めたいと思いますので!

 

 まず嗜虐神さんは……まぁそうですよね。登場する時に一党(パーティ)の誰かがいればすんなりと受け入れてもらえそうですし、一党の濃い面子にも早く適応出来そうです。

 

 次に鍛冶神さんは……ほほう、その子ですか! 鍛えればどこまでも伸びる無限の可能性、確かに好きそうですもんね。この子も登場タイミングは原作(オリジナル)に近いタイミングで問題ないでしょう!

 

 最後にみんなが注目している知識さんの推しの子ですが……? ふむ、ふむふむ。おお~、ここに来てまさかのチョイス、無貌の神(N子)さん的にはちょっと予想外の子でしたね!

 

 少々野暮かもしれませんが、推しの理由を聞いても? ……ほうほう、『自分のことをコミュ障で才能が無い陰キャだと思っている自称地味子ちゃんが、突然王子様に見初められて非常識人たちの冒険に巻き込まれ、アワアワしながらも必死に頑張る姿が見たい!』。可愛い無貌の神(N子)さんが言うのもなんですけど、クッソ捻じ曲がった性癖してますねぇ知識神さん、早口で気持ち悪いですし。……でも、嫌いじゃ無いですよそういうの!!

 

 となると、先に知識神さんの推しの子を合流させたほうが脚本(シナリオ)的にも良さそうですね。わかりました、あっちで必死こいて脚本(シナリオ)作成中の万知神さんに仕様の変更を伝えてきますね! あ、勿論締め切りはおんなじですよ?

 

 


 

 

 素敵な仲間が増えますよ!な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 

 前回、浮遊神殿(フロートテンプル)でおたからを発見したところから再開です。

 

 

 女騎士さんの依頼で浮遊神殿へ赴き、無事に新たな力となる鎧を入手した一行。その他の財宝に関しても、みんなまとめてインベントリーに放り込み、まるっとお持ち帰りしちゃいました。

 

 

 持ち帰った財宝は一党(パーティ)の自宅で鑑定、目録作成の後、その殆どは金髪の陛下に献上することに。王国の宝物庫にしまっておけば賢者ちゃんがいつでも取り出せますし、様々な便宜を図ってくれている義眼の宰相や赤毛の枢機卿に少しでも恩返し出来ればって感じですね。

 

 

 また、浮遊神殿に関してですが、当面はそっとしておく方針となりました。内部構造を詳しく調査すれば任意の場所に移動させることも可能そうなんですが、解析が出来そうな賢者ちゃんが忙しいみたいで暫くは関われないとのこと。また日を改めて調査することにしたそうです。常人では辿り着けない場所にありますし、吸血鬼君主ちゃんが太陽神さんの神官としてしっかりお参りしてありますので、魔神の類が自然湧きすることは無いでしょう、たぶん、きっと。

 

 

 

 さて、そんなこんなで時間が過ぎ、残暑が僅かに緩んできた頃。辺境の街の冒険者ギルドには大勢の冒険者が集まっています。上は金から下は白磁まで、様々な等級の冒険者が即席の壇上に立つ受付嬢さんに注目していますね。受付嬢さんの横にはおなかぺこぺこなダブル吸血鬼ちゃん、テーブルの上に所狭しと並べられた料理の放つ食欲をそそる香りに涎を垂らしている2人を横抱きにした受付嬢さんが、良く通る声で乾杯の音頭を取ろうとしています。

 

 

「――というわけで、本日をもちましてゴブリン特別討伐依頼は終了となります。皆さん、ご協力ありがとうございました!」

 

「「ました~」」

 

「西方辺境でのゴブリン変異種の駆逐完了を祝い、当支部に所属している『辺境最悪』より労いの宴席が設けられました!」

 

「「いっぱいたべて、いっぱいのんで、あしたからもがんばろうね~」」

 

「職員含めた全員分が奢りということなので、皆さん、盛大な感謝と共に……乾杯!!」

 

「「「「「かんぱ~い!!」」」」」

 

 

 カツンとぶつかり合うジョッキの音が響き渡るギルドホール。財宝を献上した報奨金の一部をみんなに還元しようと設けられた宴会は大盛況ですね!

 

 

 砂漠の国から流入していた軍事教練を受けたゴブリンを一匹残らず殲滅するために、金等級に昇格した『辺境最優』(ゴブスレさん)の発案で行われていたギルドからの特別依頼。訓練場卒業生たちによって依頼前から積極的に駆除はされていましたが、ギルドから報奨金が出ることになり勢いはさらに加速。夏の間は西方辺境で盛大にゴブリン狩りが行われておりました。

 

 

 とはいえ広い西方辺境、始めは手当たり次第で駆除できていたものの、数が減ってからはなかなか発見出来ず空振りで帰還する冒険者も増えて行きました。そんな状況を打破し、参加から僅か一か月足らずで今回の駆逐完了宣言にまで導いた3人の英雄(ヒーロー)が冒険者たちに囲まれて楽しそうに談笑しています。その3人とは勿論我らが『辺境三勇士』! ……ではなく――。

 

 

 

 

 

 

「教官! 現地での指導、ありがとうございました!!」

 

「みんなスジが良い子ばかりでこっちも楽しかったよ!」

 

 

「教官! 危うくゴブリンの()()を見落としかけてしまい、本当に申し訳ありませんでした!!」

 

「あの体格だと予想外のところにだって隠れることが出来るからね。まさか、と思う場所ほど念入りに見るのがコツだよ!」

 

 

「教官! モフらせて頂いても宜しいでしょうか!!」

 

「って言いながらもうしてるじゃないか!? アハハ、くすぐったいってば!!」

 

 

 

 

 

 

 ――圃人(レーア)ほどの身長にモフモフな毛に覆われた全身、二足歩行する兎そのものの姿をした3人の元陸軍特殊部隊群(グリーンベレー)。真新しい白磁の認識票と一緒に軽銀(アルミ)製の認識票(ドッグタグ)を首から下げた、白兎猟兵ちゃんのお父さんとその親友たちですね!

 

 


 

 

「あのさ、雇い主(オーナー)であるキミの許可が貰えるんだったら、ボク達も参加したいと思うんだけど?」

 

 

 牧場の住み込み警備員として家族で引っ越ししてきたうさぎさん(USA GI)たち。雇い主であるゴブスレさんが渋い顔でゴブリン駆除の進捗具合を確認しているのを見て顔を見合わせ、協力を申し出てくれました。外見からは想像しにくいですが3人とも既に全盛期を過ぎたナイスミドル、最初はゴブスレさんも気持ちだけ受け取るつもりだったのですが……。

 

 

「――駄目だ、まったく見つけられん」

 

「ねぇシルマリル、ホントに3人とも居るのよね?」

 

「うん。3にんとも、ちゃ~んと()()()()()()()()()()にかくれてるよ!」

 

「はっはっは、いやぁ面目ない。私も慢心していたつもりは無かったんだけどねぇ」

 

 

 牧場近くの森で行われた腕試しで斥候(スカウト)技能持ちを完封。ロープで逆さ吊りになった叢雲狩人さんの乾いた笑い声が響く中で、途方に暮れるゴブスレさんと妖精弓手ちゃんに『脳の瞳』で3人の居場所を把握している吸血鬼君主ちゃんが無情にも事実を告げています。その後2人とも首筋に短剣(ナイフ)代わりの小枝を突き付けられて降参、実戦で磨き上げられてきた技術と経験の片鱗を見せつける形で、うさぎさんチームの勝利となりました。

 

 

 非魔法的な技術による探索と隠密能力では妖精弓手ちゃんを凌ぐ斥候(スカウト)であることを証明した3人はその足で冒険者登録を行い、ギルドに最新の情報を請求。本来は白磁など相手にされる訳も無いのですが、震え混じりのゴブスレさんの説得により無事に成功し、他のベテランたちに交じって作戦会議が開催されることに。

 

 

 ベトナム戦争やアフガンでの非正規作戦で培った知識と豊富な実戦経験に裏打ちされた説得力のある意見に胡散臭い奴を見る目で3人を見ていた冒険者たちも顔色を変え、あっという間に必死になってメモ用紙(パピルス)に彼らの言葉を書き留め始める始末。実際に討伐に同行すれば、可愛い見た目からは想像も出来ない程の冷静さで隠れたゴブリンを次々と見つけ出し、新兵……もとい新人に殺しの経験を積ませるためにわざと足だけを石弓で撃ち抜いたりと八面六臂の大活躍。なんと牧場を訪れてから一か月足らずで砂漠の国にほど近い地域のゴブリンを完全に駆除するという偉業を成し遂げました!

 

 

 勿論これは一時的なものであり、すぐに他の地域から流れてきたゴブリンが住み着くのは確定した未来。それでも一番みんなが恐れている技術の伝播を防ぐことが出来たのは素晴らしいことでしょう。活躍を目にしたギルドも3人をすぐに呼び出し、訓練場の教官役に就かないかと持ち掛けたのですが……。

 

 

「いやぁ、ボクたちはあくまで牧場の雇われ警備員だから」

 

「もうそんなに若くないし、今から公務員になるのはチョット……」

 

「教官役もたまになら良いケド、畑で人参を作るほうが楽しいしね!」

 

 

 ゴメンね~、と3人から可愛らしく断られた受付嬢さんが、そっと目を逸らすゴブスレさんの足をおもいっきり踏んづけたのは見なかったことにしてあげましょう……。

 

 


 

 

「あ、白いほうの頭目(リーダー)ちゃん! ちょっと相談に乗ってもらいたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「ふぇ?」

 

 

 ゴブリンの駆除による報酬と訓練場とは異なる実戦の空気。両方を得ることが出来た一石二鳥の特別依頼は、辺境の街を拠点にしている冒険者たちに大いに歓迎されましたが、残念ながら全員がその恩恵に預かれたわけではありませんでした。ちょうど今監督官さんが相手をしている3人組もそんな冒険者の一部でしょう。

 

 

 手招きをしている監督官さんのところへぽてぽてと歩み寄り、差し出された両腕に身を任せ半ば定位置となった膝上へと抱えられる吸血鬼君主ちゃん。獣人女給さんに吸血鬼君主ちゃん用の果実水を頼みながら吸血鬼吸いを堪能する監督官さんの前には翠玉の認識票をつけた3人の冒険者が椅子に腰掛けていました。

 

 

 1人は机に立てかけるように大斧を傍に置き、困ったような顔をしている戦士風の男性。1人は聖印を首から下げた、なんだかお金とは縁遠そうな雰囲気を醸し出す逞しい体格の男神官。そして最後の1人は……。

 

 

「だ~か~ら~、私には教官役なんてむ~りぃ。知識は実践しないと意味が無い~……」

 

 

 普段は目深に被っているフードを脱ぎ捨て、机に頬を乗せながら据わった目で愚痴を零すメカクレの女性。ゴブスレさんを逆恨みして襲い掛かった挙句返り討ちに遭った圃人斥候と組んでいた、戦斧士さん、武僧さん、妖術師さんの3人ですね!

 

 

 

「――それで、3人を訓練場の教官として正式に採用するって話になったんだけど……」

 

 

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの口に揚げ物を放り込みながら監督官さんが話してくれた相談の内容は、1人教官になることを拒んでいる妖術師さんのこれからについてでした。

 

 

 圃人斥候が()()した後、臨時で他の冒険者と組みながら堅実に功績を積み重ねてきた3人。今年翠玉まで昇格した後は訓練場で新人たちの指導を精力的にこなし、それがギルドに認められて教官として採用が決まったそうです。

 

 

 危険も少ないですしお給料も安定、冒険者家業とは比較にならないほど恵まれた職であるギルド職員への登用は冒険者にとって夢のある未来です。いい加減3人では依頼をこなすのに限界を感じていた男性2人は一も二も無く首を縦に振り、これからは新人の教育が自分たちの役割だと張り切っていたのですが……。

 

 

「彼女がどうしてもイヤだと言って聞きませんで。拙僧と頭目(リーダー)はもう盛りは過ぎ、腰を落ち着ける良い機会。それに……」

 

 

 そこで言葉を切り意味深に戦斧士さんに視線を送る武僧さん。ニヤニヤと笑う監督官さんに悪態を吐きながら、安定した職に就きたい切実な理由を話してくれました。

 

 

「その、な? 訓練場で面倒を見ていたじゃりン子と()()()なって、今度ガキが産まれるんだよ。俺1人なら兎も角、嫁と子どもにハラぁ減らしたまま暮らさせるワケにゃあいかねえだろ?」

 

「おお~! あたらしいパパだ~!!」

 

 

 なもんで近々そっちの世話になると思うからヨロシクな?と照れ臭げに笑う戦斧士さん。冒険者のベビーラッシュが良い感じに始まっているみたいですね! 「しかも相手は鳥人(ハルピュイア)のカワイ子ちゃんなんだよ!」というニヤニヤ笑いの監督官さん(あくま)の言葉に、「襲ってきたのはあっちだよ!」と必死に反論しています。肉食系だなぁ……。

 

 

「それで、一党(パーティ)が解散しちゃうでしょ? 教官は嫌だってことだから、彼女には新人を率いて新しい一党を率いたらどう?って言ったんだけどねぇ」

 

「むーりぃ……。人に物を教えるのも、頭目(リーダー)になるのもむーりぃ……」

 

 

 ご覧の有様だよと苦笑する監督官さん。翠玉まで昇格して教官役に推薦されるくらいなんですから、実力、人柄ともに申し分ない人だと思うんですけどねぇ……。聞けば冒険に出たくない訳でもなく、知識の蒐集とそれを実践で思う存分確かめたいんだとか。頭目(リーダー)として仲間の面倒を見るとなると、なかなかそうも言ってられないでしょうからねぇ。

 

 

「お金もべつにいらない……何も考えずに冒険がしたい……」

 

 

 机に人差し指をグリグリさせながら思いの丈を酒臭い吐息と共に吐き出す妖術師さん。憂いを帯びた表情はとても艶やかですが、駄々洩れの本心が全てを台無しにしています……おや、そんな彼女の魂の叫び(誇張表現)を長耳で聞きつけて駆け寄ってくる、あの独特なシルエットは……!

 

 

 

 

 

 

「話は聞かせてもらったわ! 貴女、私たちと組みましょう!!」

 

 

 

 おおっと、ここで2000歳児のエントリーだ!!

 

 

 

 

 

 

「貴女の気持ち、わかるわ~。シルマリルもヘルルインも、ほかのみんなもオルクボルグに影響されてゴブリンゴブリンゴブリン……あんなの冒険じゃないもん! あ、もちろんゴブリン退治が大切なのは判ってるけどね?」

 

 

 アレは冒険じゃなくて作業よ?と監督官さんから受け取った吸血鬼君主ちゃんに向けて苦笑する妖精弓手ちゃん。ゴブスレさんが冒険心に目覚め、王国からも僅かですが補助金が出るようになった今、ゴブリン退治は辺境の街の冒険者にとって重要な稼ぎであると同時に定期的に行われなければならない湧き潰し的な扱いになり始めています。

 

 

「悪辣な罠に満ちた古代遺跡、巨大なドラゴンとの死闘、山よりも高い空に浮かぶ浮遊神殿(フロートテンプル)……そう言うのが冒険ってヤツでしょ! ああ思い出したらまた悔しくなってきた……なんで風邪ひいたのよ馬鹿な私……あむ! ちゅる……」

 

「おあ~……」

 

 

 テンション高めに冒険に対する意気込みを叫び、自爆してその悔しさを吸血鬼君主ちゃんの耳をしゃぶることで紛らわそうとしている妖精弓手ちゃん。盛大に酔っぱらっているように見えましたけど、彼女が持っていたグラスの中身は檸檬水。授乳のことを考えてお酒は控えているみたいです。……となると、場の雰囲気とお酒の匂いだけで酔っぱらっているんですねこの2000歳児。

 

 

「いいなぁ……。そんな心躍る冒険がしたい……あなたたちと組めば私にも出来るかなぁ……?」

 

「出来るわよ! 面子は一流、支援体制もバッチリ、あとは貴女の気持ち次第! さぁ、どうする!?」

 

 

 唇が触れ合いそうな距離に近付いた妖精弓手ちゃんを見て、ギュッと瞳を閉じる妖術師さん。再び開かれたその目には、まごうことなき決断的な輝き(酒の勢い)が宿っています。

 

 

「やる! あなたたちと組んで、私ももう一度冒険者になる!!」

 

「その言葉が聞きたかった! そうと決まれば作戦会議よ!! あ、なんかちょうど良い依頼見繕っておいてもらえるかしら? 3人でもいけそうなヤツがいいわ!」

 

「りょうか~い。適当に探しておくね~!」

 

 

 間に吸血鬼君主ちゃんを挟み込みつつ、肩を組んでギルドの二階へと歩き去って行く2人+巻き込まれた人身御供。途中で机の上から失敬していた飲み物が果実水の瓶だったのは不幸中の幸いでしょう。天上の調べとも称される美しい声から繰り出されるクソみたいに音程の外れた歌を伴って闊歩する2000歳児と妖術師さんを見て、預言者が海を渡るが如く冒険者が割れて道を譲っていますね。

 

 

「おそらく部屋で呑み直すつもりでしょうなぁ……」

 

「……今日はウチに泊まりに来いよ。仲間の新たな門出を祝おうじゃないか」

 

「新婚のところ申し訳ない。……監督官殿、彼女らのこと、よろしくお頼み申す」

 

 

 階段を踏み外しそうになりながら上っていく()()()()仲間の背に祝杯を挙げ、そそくさとギルドから戦略的撤退をキメた男2人。1人残された監督官さんが手酌でワインを飲もうとした時、スッと横から伸びてきた腕が瓶を持ち上げ、彼女の持つグラスへと血のように赤い液体を注いでいきます。

 

 

「お、悪いねぇ! それじゃお返し……に……」

 

 

 瓶を受け取り親切な相手のグラスに注ぎ返そうとした監督官さん視線が、グラスから腕、紅玉の認識票が光る豊満な胸元を伝い相手の顔へと向けられていきます。終着点にあったのは、にこやかな笑みを浮かべた眼鏡の良く似合う自他ともにダブル吸血鬼ちゃんの保護者と認識している……。

 

 

 

 

 

 

「さて、夜はまだまだこれからよ。……じっくりと聞かせてもらおうかしら、あの2人にナニを吹き込んだのか、ね?」

 

「アイエエエ……」

 

 


 

 

「――うん、今日は良い冒険日和ね! お日様もシルマリルを応援してくれてるわよ!!」

 

「ソウダネ~」

 

 

 頭にでっかいたんこぶをこさえ、小脇に死んだ目をした吸血鬼君主ちゃんを抱えたた2000歳児がビシッと指で示した先、かつて3人のHFOが踏破した全60階層の塔が夏空に雄々しくそびえ立っています。その背後ではたんこぶの生産者である女魔法使いちゃんが溜息を吐き、酒の勢いで一党(パーティ)への参加を決めてしまった妖術師さんがどうしてこうなったと頭を抱えていますね。

 

 

 妖精弓手ちゃんと同じようなたんこぶをこさえた監督官が選んでくれた依頼。辺境三勇士によって攻略され、この地の領主の監視下に置かれていた魔術師の塔に何者かが侵入し、監視任務に当たっていた兵が蹴散らされるという事件が発生したため、原因であると思われる侵入者を排除せよというものでした。

 

 

 面目を潰された領主が兵を送り込んだものの、やはり勝手が違うせいか塔内部に仕掛けられた無数のトラップにひっかかり無残に敗退。苦虫を嚙み潰したような表情で持ち込まれた案件のため、みんな及び腰で引き取り手がいなかった塩漬け依頼を体よく押し付けられた感じです!

 

 

「で、如何するの? 手っ取り早く済ませるなら飛んでいくのが一番早いと思うけど」

 

「えー!? そんなのつまんない! やっぱり罠を掻い潜って進むのが冒険でしょ? 貴女もそう思うわよね!」

 

「えっ。あ、はい。ソウデスネ……」

 

 

 キラキラと輝く麗しき上の森人(ハイエルフ)の笑顔に負け、曖昧な笑みを返す妖術師さん。朝起きたら一糸纏わぬ2000歳児とロリ吸血鬼にサンドイッチされた状態で同衾しており、狭い通共有スペースを挟んだ反対側の寝台(ベッド)に味わい深い表情の女魔法使いちゃんが座っていたら悲鳴の一つや二つ上げてもしょうがないでしょう。酔いが醒めて昨日の話を思い出しガクガクと震え出したところにたんこぶ装備の監督官さんが依頼書片手に飛び込んできて、なし崩し的に此処まで来てしまった彼女は何も悪くありません。悪いのは全部酒とウィズボール(やきう)に人生を捧げている監督官さんと、そこでドヤ顔な2000歳児です。

 

 

「もう、昨日と違って堅苦し過ぎ! もっと力を抜いて、真剣に冒険を楽しみましょ?」

 

「えっと、うん。わかった。……私も素直に内部を上っていくのに賛成。構造や配置されている魔物を見て見たいし、塔を占拠している犯人の考えが知りたいから」

 

 

 毒気を抜かれたように肩を落とした後、本来の斜に構えたスタンスを取り戻した妖術師さん。発動体であり、今まで収集してきた知識を書き記してある本をしっかりと抱え直して塔を睨みつける姿はまさに冒険に挑もうとする冒険者そのもの。女魔法使いちゃんもそれを見て「しょうがないわねぇ……」と装備の点検を始めました。

 

 

「あれ、そのガントレットは?」

 

「ああコレ? 壊しちゃった相棒の部品と砂漠で仕留めた赤竜の素材を使って親方に作ってもらったの。革手袋(グローブ)も作り直して魔法の発動体になってるから、呪文も普通に使えるわ」

 

 

 お、吸血鬼君主ちゃんが見つめる先、女魔法使いちゃんの右腕に見慣れない籠手が付いてますね。竜の腕を模した革手袋(グローブ)を覆うように装備されてますけど、なんだか見た目がごちゃごちゃしてますね。()()()()()()()みたいなのが生えてますし。

 

 

「ふーん……。あ、そういえば聞いて無かった。ねぇ貴女、呪文は何を使えるの?」

 

「えっと、真言と、それから死霊術を少し。だから、死霊術の遣い手である吸血鬼のいる一党(パーティ)はずっと気になってた……」

 

 

 グイグイと距離を詰めて来る妖精弓手ちゃんに若干引きながらもちゃんと受け答えしてくれる妖術師さん。真言と死霊術の二系統を使えるのはなかなか凄いですね! 回数もそれなりに唱えられるみたいですし、流石教官に推薦されただけのことはありますね。

 

 

「それに、吸血鬼の血液や牙はなかなか手に入らない貴重な触媒。あと、呪文回数を増加させる()()()()についても教えて欲しい。それから……」

 

「ああうん、そのあたりは帰ってから()()()()と話しましょうか。ほら、まずは依頼を成功させないとね?」

 

 

 恍惚の表情でつらつらと語り続ける妖術師さんを正気に戻し、焦点を塔へと誘導する女魔法使いちゃん。……知識神さんが推しにする理由が判った気がします。

 

 

「よし、それじゃ張り切っていくわよ! 塔の上でふんぞり返っている頭でっかちの鼻を明かしてやるんだから!」

 

「お~!」

 

「おー」

 

「お、おー!」

 

 

 妖精弓手ちゃんの号令一下、塔の入り口に向かって丘を下る一行。彼女たちの行く先には、一体どんな罠が待ち受けているのでしょうか? 次回、塔の攻略スタートです!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 


 

 

 あれ? どうしたんですかGM神さん、そんなブルーハワイを吸ったような()色になっちゃって。

 

 え、塔の内部データを作ってない? まさか本当に真正面から挑むとは思ってなかった?

 

 うわぁ……今から作るのは流石に難しいですよねぇ。

 

 あ、そうだ。逆に考えましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふざけんな!? こんな塔まともに上ってられっか!! って思わせればいいやって。

 





 妖術師さんと白粉森人さんのツーショットに胸キュンなので失踪します。

 見切り発車にも程がありますが、サードシーズンが開始となりました。

 モチベが保てるのも、読んでくださった方からの評価や感想に因るところが大きいです。

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 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその14-2


 寒さが身に染みるので初投稿です。




 前回、塔の攻略に挑んだところから再開です。

 

 

 見晴らしの良い丘を下り、塔の入り口の前に到着した一行。目の前には無残に破壊された扉と、入り口付近を封鎖するように設けられた仮設の詰め所がありますね。以前はしっかりした造りの詰め所だったみたいですが、侵入者に瓦礫の山に変えられてしまったそうです。

 

 

「こんにちわー! 冒険者ギルドの依頼で来たんだけど?」

 

 

 突然現れた見目麗しい上の森人(ハイエルフ)に目を奪われている兵士へ冒険者認識票と依頼の写しを提示してニッコリ微笑む妖精弓手ちゃん。こういう時APP(外見)の能力値が高いと有利に働きますよね。逆に隠密ミッションとかだと目立ちすぎて足を引っ張ることもあるみたいですが。

 

 

「あの、しんにゅうしゃはどんなほうほうでとうにはいりこんだんですか?」

 

「対峙した人がいるんだったら、どんな服装で何の呪文を使っていたか覚えてないかしら?」

 

 

 軽やかな声を聞きつけて集まってきた兵士たちに愛想良く微笑みながら侵入者についてリサーチする一行。ジャンルこそ違えどみんな可愛い女の子ばかり、慣れた様子で情報を集める3人を一歩引いたところから妖術師さんが若干キョドりながら見守っています。原作でも交渉事を苦手そうにしてましたし、こういうのは人当たりの良い武僧さんあたりがやっていたのかも。

 

 

 お、どうやら情報が集まったみたいですね! 3人が聞いて回った情報はこんな感じです。

 

 

 

・首謀者はローブ姿の痩せぎすな男。現れた時は石で出来た巨人を従えており、巨人に命じて詰め所を破壊。塔の扉も力任せに突破していった。

 

・塔に侵入された後、塔の最上階から翼の生えた怪物が何度も行き来して、動物や野盗と思われる人間の死体を運び込んでいるのを見た。

 

・領主の命で討伐隊が突入したが、数階層上ったところで攻めあぐねて撤退を余儀なくされた。内部は骸骨(スケルトン)粘菌(スライム)が徘徊し、至る所に(トラップ)が仕掛けられていた。

 

・塔に入り込もうとしなければ怪物が襲い掛かって来ることも無いので、こうやって入り口周辺を固めて監視し、冒険者ギルドに討伐依頼を出していた。

 

 

 

「――と、こんな所かしら。ねぇ貴女、これで相手の正体の見当って付く?」

 

 

 集めた情報を指折り数えながら歌うように紡いだ妖精弓手ちゃんが訪ねる先は妖術師さんですね。暫く考え込んでいた彼女ですが、いくつか疑問はあるけど……と前置きしてから推察を語り始めました。

 

 

「討伐対象はおそらく死霊術師(ネクロマンサー)。兵士を蹴散らして塔に侵入する時に使ったのは石巨兵(ストーンゴーレム)だし、死体を運んでいるのは石像鬼(ガーゴイル)骸骨(スケルトン)粘菌(スライム)も、死霊術で生み出すことが出来るから。ただ……」

 

「ただ……?」

 

 

 言い淀む妖術師さんを下から見上げながら続きを促す吸血鬼君主ちゃん。全然そんな風には見えませんが、ダブル吸血鬼ちゃんってば死霊術のエキスパートですからね。自分よりも高位の術者の前で考えを述べるのは思わず躊躇ってしまうのも無理はありません。お、ひとつ大きな深呼吸をした妖術師さんが続きを話し始めました!

 

 

「行使している呪文の数に使役している従僕の数、それに呪文の持続時間も普通じゃ考えられないくらい多いし、長い。こんな辺境にいるのがおかしいくらいの凄腕なのか、それとも何か呪文維持を代替する手段を持っているんだと思う」

 

 

 一息で言い切った後、どうかな……という目で3人を見回す妖術師さん。話を聞いていた3人は口をあんぐりと開けて固まっちゃってますね。妖術師さんの呪文に対する造詣の深さ、そしてそこから導き出された推論に驚きを隠せない様子です。あ、真っ先に再起動した女魔法使いちゃんが咳払いをして吸血鬼君主ちゃんを小突いてますね。どうなの?という女魔法使いちゃんの問い掛けに対し、吸血鬼君主ちゃんは……。

 

 

 

 

 

 

「すっご~い!」

 

 

「うひゃあ!?」

 

 

 満面の笑みで抱き着いてきた吸血鬼君主ちゃんによってバランスを崩した妖術師さん、危うい所で転倒を回避し、蹈鞴を踏みながらも抱き止めることに成功しました! すごいすごいと連呼しつつ、胸のあたりに頬擦りしてくる吸血鬼君主ちゃんをどう扱えば良いものか、保護者達に助けを求める視線を送っていますが……。

 

 

「ぷくく……ねぇ、今どんな気持ち?」

 

「自分が如何に脳筋的思考に陥ってたかをまざまざと見せつけられた気分よ……」

 

 

 おおう……。orzの姿勢で項垂れる女魔法使いちゃんを妖精弓手ちゃんが煽り倒していますね。どうやらここ最近なんでもゴリ押しで解決してきた自分を顧みて、ちのうしすうが下がっていることに気付いてしまったご様子。もしかして吸血鬼君主ちゃんの眷属になったことによる悪影響……では無さそうですね。単純に物事を力押しで解決するのが手っ取り早かっただけでしょう。

 

 

「さて、そろそろ行きますか。斥候(スカウト)役も久しぶりねぇ」

 

 

 うーん、と伸びをして塔へと歩き出した妖精弓手ちゃんを慌てて追いかける妖術師さん。胸元には吸血鬼君主ちゃんが引っ付いたまんまですね。ガックリと肩を落とした女魔法使いちゃんもその後に続いています。待ち受ける敵と罠の数々、どうやってクリアしていくのか楽しみですね!

 

 


 

 

 

 

 

 

「――飽きた」

 

「えぇ……?」

 

 

 もう何個目か判らない罠を解除したところで呟かれた妖精弓手ちゃんの一言に、朝まであれほど冒険への意気込みを語っていたのにと妖術師さんが顔を引き攣らせています。壁のスリットに差し込んでいたキーピックを腰のポーチにしまい込み、そのままジタバタと暴れ始めちゃいましたね。

 

 

「だって、無意味な分岐に中身の無い宝箱、出て来る敵は骸骨(スケルトン)粘菌(スライム)ばっかり。うんざりするほどの(トラップ)はどれもこれも落とし穴(ピット)だし、オマケに今までの階層ぜ~んぶ同じ構造なのよ!? こんなんでやる気出せって言われても無理に決まってるじゃない!?」

 

「だよね~……」

 

 

 うがー!と吠える妖精弓手ちゃんをよしよしとあやす吸血鬼君主ちゃん。その周りには幾つもの歪な金属球(勾玉)が旋回しており、先程からわらわらと湧いて出て来る骸骨(スケルトン)粘菌(スライム)をずっとオートで処理しています。砕けた骨や飛び散った飛沫が壁や床へと吸い込まれるように消えているので、おそらく自動回収機能が働いているのでしょうか。普通だったら崩壊して再利用することは出来ませんので、やはり塔自体に秘密が隠されているのかも。

 

 

「子どもが見てないからってみっともない真似するんじゃないわよ。……それで、正攻法を諦めてどうするの?」

 

「うーん、シルマリルのピカっと光るヤツを真上にぶっぱなして、塔ごと吹き飛ばすとか?」

 

「いや、この塔自体が貴重だから解体せずに監視に留めていたんじゃないの???」

 

 

 身体の大部分を失ってもまだカタカタと顎を鳴らすしゃれこうべを踏み砕きつつ、ジト目で妖精弓手ちゃんを睨みつける女魔法使いちゃん。幼稚に見えるだろう所作なのになぜか可愛さが目立ってしまう2000歳児の駄々こねと物言いにこめかみを抑えています。なんもかんも面倒臭くなった妖精弓手ちゃんの全部吹き飛ばせばええやん理論を聞いて、妖術師さんも頬を引き攣らせていますね……。おや? 自分で言った台詞に何か引っかかったのか、妖術師さんが顎に手を添えてブツブツと呟きながら思考の海に沈んで行きました。

 

 

「――が――だから、ひょっとして――。とすると……」

 

「えっと……、またなにかおもいついたの?」

 

「うひゃあ!?」

 

 

 長い前髪で表情の見えない妖術師さんにそっと近付き、下から顔を覗き込んだ吸血鬼君主ちゃん。突然の声掛けに驚いた妖術師さんがまた抱き着かれるのかと飛び退り、そこで声を掛けられたことに気付いた様子。3人の期待の目に圧されながらも、再び推察を話し始めました。

 

 

石像鬼(ガーゴイル)で空から逃げられるとはいえ、逃げ場の無い塔に建て籠るのは不利よね? 敵が骸骨(スケルトン)粘菌(スライム)しか出てこないのも、罠が落とし穴だけなのも不自然すぎる。もし塔を占拠しているのが自分の力を誇示したい類のヤツだったら、もっと殺傷能力の高い敵や罠を配置する筈」

 

「ふむ……。そうね、両方とも斬撃が効き辛く、粘菌(スライム)は攻撃した者の装備まで損傷させる性質ね。兵士を消耗させ、この塔に釘付けにするにはもってこいかも。となると……」

 

「――()()()()()()?」

 

 

 互いに補完し合うように意見を述べる一行。吸血鬼君主ちゃんの呟きに妖術師さんが頷きを返しました。

 

 

「うん。そう考えると床が落とし穴(ピット)だらけなのも納得出来る。何かを邪魔されたくないのか時間稼ぎ自体が目的なのかはハッキリしないけど、この塔を上らせたくないのは間違い無い……と思う」

 

「なるほどねぇ。となれば、さっさと上に行ったほうが良さそうね。……シルマリル?」

 

「ん! わかった!!」

 

 

 上体を起こしニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた妖精弓手ちゃんに壁を示された吸血鬼君主ちゃん。ぽてぽてと外壁に近付くと、おなかかから引き抜いた(ケイン)の出力を最小限まで絞り壁をくり抜き始めました!

 

 

「え? え?」

 

「外側に落とすと兵隊さんたちに迷惑だから、ちゃんと内側に倒しなさいね?」

 

「は~い!」

 

 

 当然のように外壁に穴を開ける様子に思考が追い付いていない妖術師さんを余所に作業は順調に進み、人ひとりが余裕で通り抜けられる程の穴が綺麗に開きました。妖精弓手ちゃんを抱きかかえた女魔法使いちゃんがぴょんと穴から飛び出すのを見送った後、吸血鬼君主ちゃんが妖術師さんの袖をクイクイと引っ張り、満面の笑みを浮かべて……。

 

 

「それじゃ、ちかみちしよっか! さいじょうかいまでひとっとび!!」

 

 


 

 

「あわわわわわ……!?」

 

「だいじょうぶ、おちてもちゃんととちゅうでひろうから!」

 

「いや、落とさないでよ!?」

 

 

 今までに体験したことの無い高度に驚き、お姫様抱っこしている吸血鬼君主ちゃんの首元へとしがみ付いた妖術師さんの悲鳴が響き渡る夏の空。見上げれば、先行した女魔法使いちゃんが同じように妖精弓手ちゃんをお姫様抱っこして飛行しているのが見えますね。青褪めた顔で抱き着いて来る妖術師さんにちょっぴり悪戯心が湧いたのか、器用に首を動かして妖術師さんの喉元に顔を埋め、肌に浮いた冷や汗をペロリと舌で舐め上げてますね。

 

 

「ひゃん!? ちょ、いきなりナニを……!?」

 

「えへへ……」

 

 

 青かった顔を羞恥で赤に染め直しながらグイグイと細い首を締め上げて来る妖術師さんに対し、ごめんなさいしながら再び顔を摺り寄せる吸血鬼君主ちゃん。懲りずに悪戯してくる小さな暴君に呆れた様子の妖術師さんでしたが、心に余裕が戻ってきたようで何よりです。

 

 

「2人とも、遊んでないで準備しなさい。ほら、お客さんよ?」

 

「ふぇ?」

 

「「「「「GARGOOOOOO!!」」」」」

 

 

 お、どうやら壁を抜かれたことに気付いて迎撃が出てきたみたいですね! 手に手に槍や四又鋤を持った石像鬼(ガーゴイル)が上層から現れ、一直線に4人へと突っ込んで来ました!!

 

 

 綺麗な編隊を組んでの急降下攻撃を躱し、上へと飛び始めた4人。それを追撃するように5体の石像鬼(ガーゴイル)が下から追撃を仕掛けて来ています。単純な飛行速度では吸血鬼君主ちゃんたちが二倍近く速いのですが、抱えているやわらかくてあったかい荷物のために無茶な速度は出せないみたいですね。……あ、ちなみに≪浮遊(フロート)≫の呪文と竜革の外套で慣れていたからでしょうか、3人の眷属の中で女魔法使いちゃんが一番飛ぶのが上手だそうです。女魔法使いちゃんがF-15Cで剣の乙女ちゃんが速度と引き換えに火力を増したF-15E、令嬢剣士さんは言わずもがなの我らがA-10神。ダブル吸血鬼ちゃんは……YF-23ですかねぇ、白と黒の二機ですし。

 

 

「あら、なかなか連携も上手いみたいね」

 

「おじゃまむしさん……」

 

 

 おっと、どうやら石像鬼(ガーゴイル)を振り切れないみたいですね。遠距離攻撃こそ無いものの長柄でチクチク狙われて2人もイラっとしているご様子。焦れた吸血鬼君主ちゃんが歪な金属球(勾玉)をもう一回展開して薙ぎ払おうとしたところを妖精弓手ちゃんが制止しました。

 

 

「まぁまぁ、ここは麗しき恋人に任せなさいって! ちょっと足持っててね!!」

 

 

 そう言い放つと同時に女魔法使いちゃんのたわわから抜け出し、足を持たれた状態で逆さ吊り状態になった妖精弓手ちゃん。逆さまの視界をものともせずに眼下から迫る石像鬼(ガーゴイル)に狙いを定め、次々に矢を放ちます! 石で覆われた強固な外皮を避け、唯一視界を確保するための魔法的な材質で出来ている眼部を過たず貫き……。

 

 

「「「「「GOyyyyyle!?」」」」」

 

 

 視界を失った石像鬼(ガーゴイル)はバランスを崩し次々と落下。眼下で様子を窺っていた兵士たちが慌てて逃げた地面へと激突し、粉々に砕け散りました!

 

 

「ふふん、楽勝楽勝! どうシルマリル、惚れ直したかしら?」

 

 

 フンスと()()の吸血鬼君主ちゃんを()()()()妖精弓手ちゃんですが、ドヤ顔を向けた先には真っ赤な顔でアワアワしている妖術師さんと、彼女の両手に目を塞がれてフラフラとホバリングしている吸血鬼君主ちゃんの姿。状況が飲み込めていない2000歳児を諭すように、足を掴んでいる女魔法使いちゃんが口を開きました。

 

 

 

 

 

 

「下着も付けてないのにそんな恰好ではしゃがないの。……大切な()()が見えてるわよ」

 

「あわ、あわわわわ……!?」

 

「まっくらでなにもみえない~……」

 

 

 

 ……ああ、そういえば『はいてない』し、『つけてない』んですよね妖精弓手ちゃん。それなのに逆さ吊りで大立ち回りしたら、そりゃ見えちゃいますよねぇ。

 

 

 一瞬何を言われているのか判らなかった妖精弓手ちゃんですが、呆れた様子の女魔法使いちゃんに彼女を支えているのとは反対の手で両足の付け根を指し示されてようやく気付いたみたいです。納得したようにひとつ深く頷くと、あっけらかんとした様子で言い放ちます。

 

 

「や、別に見られて困る相手は居ないし、あの子を産むときに大勢に見られてるもの。そんなに気にすること無いんじゃない? ……どうせその()()()()()()()()()()()()()

 

「これだから長命種(エルダー)の経産婦ってのはどいつもこいつも……!」

 

 

 青筋を浮かべた女魔法使いちゃんに空中で思いっきり振り回されながら、てへぺろを崩さない2000歳児のメンタル強すぎませんかねぇ……。女魔法使いちゃんの台詞から察するに、若草知恵者ちゃんと叢雲狩人さんも同様のことを言ってたっぽいですし、若草祖母さんも言動の端々から似たアトモスフィアを感じることが……。種族(エロフ)的特徴なんでしょうか?

 

 

「んゆ……! えっと、とりあえずはやくいらいをおわらせよう?」

 

 お、妖術師さんの目隠しを首を振って抜け出した吸血鬼君主ちゃんが珍しく建設的なことを言ってます! 妖術師さんのSAN値(常識度)がゼロになる前に依頼を終わらせないと大変なことになりそうですし、さっさとボスをしばき倒して帰りましょう!!

 

 


 

 

「オッスおじゃましま~す!」

 

「それ後輩から止めろって言われてたでしょ???」

 

 

 塔の外壁から次々と繰り出されるハリネズミのような対空砲火(≪力矢≫)Iフ〇ールド(呪文抵抗)で無効化し、最上階にダイナミックエントリーをかました吸血鬼君主ちゃん。続いて女魔法使いちゃんが柱に囲まれた広間へと降り立ち、この塔を制御している中枢へと到着しました! 如何な魔術を使っているのか、薄皮一枚隔てたように陽光を通さぬ暗い部屋。その中央には禍々しい光を放つ大きな水晶が設置され、そこから伸びた触手(ケーブル)床へと潜り込み、怪しい脈動とともに塔から膨大な魔力を吸い上げているようです。

 

 

「たぶん、あの水晶が死霊術を維持している魔術装置だと思う……」

 

「その通りだ、招かれざる訪問者……」

 

 

 妖術師さんの言葉に応じるかのように、闇の中から姿を現した1人の男。骨に乾燥しきった皮が辛うじて引っ掛かっているような肉の無い身体に、どろりと濁る輝きを湛える落ち窪んだ眼窩。手に握る杖は人間の骨を組み上げ、握りに赤子の頭蓋骨を用いた悍ましい代物。その身から放出される負のオーラに身を震わせながら、妖術師さんが眼前に立つアンデッドの正体を看破しました!

 

「まさか、塚人(ワイト)……!?」

 

「如何にも。死を克服し、魔導を極めし我の前にひれ伏すが良い、定命の者(モータル)どもよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念! 私上の森人(ハイエルフ)だから長命種(エルダー)だも~ん!!」

 

「ぼくデイライトウォーカー」

 

「同じく~」

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

「わ、私は只人(ヒューム)だから! あの3人と一緒にしないでよ!?」

 

 

 骨ばった顎をカクンと落とし、マジかよ……という目で侵入者を眺める塚人(ワイト)。横で妖術師さんが必死に一般人アピールをしていますけど、残念ですが既に同一カテゴリー(同じ穴の狢)と認識されちゃってるみたいですね。

 

 

「ええい、貴様らが何であろうと我が目的を阻むのであれば結末は変わらぬ! ここで石巨兵(ストーンゴーレム)のシミになるがいい!!」

 

 

 あ、頑張って気を持ち直して自慢の石巨兵(ストーンゴーレム)を嗾けてきました。天井スレスレの大きさから繰り出されるパンチは破壊力抜群! 並の兵士や冒険者なら為す術無く床のシミにジョブチェンジ間違い無しですが……。

 

 

「パリィ!」

 

「あら、シルマリルってば器用ねぇ!」

 

 

 おっと、久しぶりに閃きアイコンを出した吸血鬼君主ちゃんが円盾()で迫る拳を受け流し、ガラ空きのボディにちっちゃな拳を叩き込みました! Aパーツ(上半身)Bパーツ(下半身)に分かれた巨体が床に崩れ落ちるのを見て、妖精弓手ちゃんが口笛とともに華麗なワンパンを褒めてくれてますね。

 

 

「な!? ……だが、それで勝ったと思うのは間違いだぞ!」

 

 

 おお、塚人(ワイト)が水晶に触れ何事か唱えると、砕けた筈の巨体が巻き戻るように修復され、再び一行の前に立ちはだかりました! どうやら生半可な攻撃では再生されてしまうみたいです。

 

 

「む~……」

 

 

 褒めて貰ってご満悦だった吸血鬼君主ちゃん、むっとした顔で再生した石巨兵(ストーンゴーレム)を睨みつけ、今度は再生させないと言わんばかりにおなかに手を伸ばしますが、女魔法使いちゃんがその頭にそっと手を置き一歩前に進み出ました。右腕に装着した重そうな籠手を示しながら、物騒な笑顔で巨体を見ています……。

 

 

「ソレは最後に取っておきなさいな。私もコレを試すよう言われてるから、ちょうど良いところだし、ね?」

 

「う~。……わかった」

 

「ハ、成りたての新参者(ニオファイト)が随分とデカい口を叩くものだ! そんな玩具(オモチャ)で一体何が……」

 

 

 ガキン!!

 

 

 塚人(ワイト)の嘲笑を掻き消すように響く金属同士が擦れ合う音。右足を後ろに引き、突撃体勢を取った女魔法使いちゃんの右腕には籠手から突き出した鈍く輝く1本の(パイル)。引き絞るように構えられたソレは、女魔法使いちゃんの≪インフラマエ(点火)≫の呟きとともに赤熱していきます……!

 

 

「――ふっ!」

 

 

 吸血鬼の身体能力をフルに活かした全力疾走。飛ぶように突き進む姿を巨体の拳は捕らえることが出来ず、感情の無い瞳が懐に潜り込んだ女魔法使いちゃんを見下ろしています。踏み込んだ勢いと腰の捻りから生み出された突き上げ(アッパー)は正確に石巨兵(ストーンゴーレム)の正中線、その中枢を貫き――。

 

 

「≪ラディウス(射出)≫っ!!」

 

 

 ――灼熱の杭(ヒートパイル)による一撃(とっつき)が、再生の要である(コア)もろとも石巨兵(ストーンゴーレム)を粉砕しました!!

 

 

 

「ケホ……うん、動作も問題なし。革手袋のおかげで熱も伝わって来ないわね」

 

「うぇぇ……。ちょっと、全身粉塗れなんだけど!?」

 

 

 粉塵舞う広間で満足そうに頷く粉塗れの女魔法使いちゃんに、同じく真っ白になった妖精弓手ちゃんが詰め寄ってますね。ちょっと威力が高すぎて文字通り粉々になっちゃったみたいです。一方で塚人(ワイト)白粉(おしろい)を塗りたくったような格好になり、目の前で起きた惨劇にわなわなと震えています。そんな彼の身に纏う豪奢なローブの袖をクイクイと引っ張る小さな姿が……。

 

 

「ねぇねぇ、ワイトって、()はかよってるの?」

 

「あ、ああ。人とは若干異なるが、魔力を循環させるために似たようなものが……あ」

 

 

 あっ(察し)

 

 

 

 

 

 

「にがいけど、からだによさそうなあじでした」

 

 

 完全に潤いを失いサラサラと風に乗って消えていく塚人(ワイト)だったものに、ごちそうさまでしたと手を合わせる吸血鬼君主ちゃん。水晶玉を操作して塔を停止させた妖術師さんがドン引きした様子でそれを眺めています。彼女からの視線に気付いた吸血鬼君主ちゃんが、良いことを思い付いたという表情で妖術師さんに近付き、そっと耳元で囁きます……。

 

 

「……ワイトのもってたちしきはもらっちゃったから、あとでわけてあげるね?」

 

「本当!? ヒヤッホォォォウ!! ……あ」

 

 

 手のひらクルックルな妖術師さんを見ていた女魔法使いちゃんと妖精弓手ちゃんが味わい深い表情になってますね。アレは多分、この後妖術師さんを待ち受けている運命を悟ってしまったからでしょう。2人でそっと彼女の肩に手をやり、吸血鬼君主ちゃんを引き剥がして両側から耳元で告げるのは……。

 

 

「歓迎するわ、新しい妹ちゃん?」

 

「ふふ、また可愛い義娘(むすめ)が増えるわね!」

 

「え、妹? いや、私のほうが年上……。それに義娘……?」

 

 

 2人の意味深な台詞と態度に???な妖術師さん。おうちに帰ったらきっとすべてが理解出来ますよ! 光を失った水晶玉をインベントリーにしまった吸血鬼君主ちゃんがみんなのほうに振り返り、向日葵のような笑顔で宣言しました!!

 

 

「ぼうけんはせいこう! したのへいたいさんとギルドにほうこくして、それからみんなでおふろ!!」

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 ゆるゆると短めのセッションが続くかもなので失踪します。

 誤字のご報告ありがとうございます。かなり前のほうの話に残っているのを教えていただけると、恥ずかしい反面読んでくださる方がいるなぁと嬉しくなりました。

 評価や感想、お気に入り登録もありがとうございます。お時間がありましたら、一言ご感想を頂けると非常に嬉しく思います。

 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその14-3

 とうとう暖房を使ってしまったので初投稿です。




 前回、ボス?をナレ死させたところから再開です。

 

 

 ウィンウィンと唸りを上げていた塔が停止し、階下を覗いて内部を徘徊していた骸骨(スケルトン)粘菌(スライム)が崩れ去っているのを確認した一行。流石に60階も下りるのは勘弁ということなので、吸血鬼君主ちゃんと女魔法使いちゃんが1人ずつ仲間をお姫様抱っこし、外壁沿いに大空へとダイブ。地表すれすれで翼を展開し、無事詰め所(仮)の前に着地しました!

 

 

 突然目の前に落下してきた一行に驚き思わず槍を向けてきた兵士たちでしたが、塚人が滅ぼされたと聞くと即座に調査隊を編成し、塔の内部へと突入。ご機嫌斜めな領主様へちょっとでも良い報告をするために、財宝の類が残ってないか探しに行ったみたいです。吸血鬼君主ちゃんたちが面倒くさくてショートカットした階層にあると良いんですが……。

 

 

 

 

 

 

「あのね、おはなししたいことがあるの」

 

「お、なにかななにかな~?」

 

 

 ギルドへ帰還した一行を迎えてくれた監督官さんがいつものように抱き上げようとするのを埃塗れだからとストップし、真剣な表情でお願いする吸血鬼君主ちゃん。普段とは違う真面目な雰囲気に監督官さんも何かを感じたのか、4人を応接室へと案内してくれました。

 

 

 先達たちが冒険で獲得してきた様々な戦利品(トロフィー)が見る者の目を奪う応接室。一際目を引くのは先に砂漠の国で倒された赤竜の首級ですね! 今にもブレスを吐きそうな表情で作られた剥製は昇格試験で呼び出された冒険者たちのロマンを掻き立てる原動力になっているみたいです。

 

 

「それで、お話ししたいことって? ……あ、もしかして私への告白とか? いや~参っちゃうな~!」

 

 

 膝上に吸血鬼君主ちゃんを抱えた女魔法使いちゃんを真ん中に、左右に妖精弓手ちゃんと妖術師さんという布陣の一行へお茶をサーブしつつ冗談めかした先制の一撃を放つ監督官さん。対面のソファーによっこいしょと座り、吸血鬼君主ちゃんが話し出すのを待ってくれています。暫く考え込んでいた吸血鬼君主ちゃんですが、頭の中で整理がついたのでしょう。ゆっくりと口を開きます。

 

 

「えっと、さいきんアンデッドたいじのいらいってふえてる? このちかくだけじゃなくて、おうこくぜんたいで」

 

「んー・・・・・・。そうだね、増加傾向にあるよ。ゴブリンが数を減らしたのと同じくらいから、あちこちで死霊術師(ネクロマンサー)が活動しているみたい」

 

 

 今回の依頼もその一つだね、と続ける監督官さんの話を聞いて、合点がいったように頷く吸血鬼君主ちゃん。お、もしかして心当たりでも? と促す監督官さんの顔を真っすぐ見つめながら告げるのは――。

 

 

 

 

 

 

 

「……きけんなネクロマンサーが、おうこくぜんたいをしのうずにまきこもうとしているかも」

 

 

 ――一連のアンデッド騒ぎが、何者かによって人為的に引き起こされているかもしれないという恐るべき話でした。

 

 

 

「とうですいつくしたワイトなんだけど、よみとったきおくがスカスカだったの。ちからもイマイチだったのに、じしんだけはいっちょまえ。それに、だれかにつかえているとかじゃなくて、じぶんがしゅぼうしゃだって()()()()()()()

 

「≪分身(アザーセルフ)≫……じゃないんだよね? ――となると、まさか複製體(トークン)!?」

 

「……えっと、複製體(トークン)って何?」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの話を聞いて、頬を引き攣らせながらその正体を看破する監督官さん。あまり聞いたことが無い単語に首を傾げる妖精弓手ちゃんに、同じく驚愕の表情を浮かべていた妖術師さんが若干早口で説明しています。

 

 

複製體(トークン)っていうのは、禁術によって生み出された自分と寸分たがわぬ複製のこと。生み出された複製體の能力は本体とほぼ同一だけど、あくまで仮初の存在。本体の意思ひとつで消したりも出来るし、わざと能力を落とすことも可能。もしかしたら、同一存在が干渉しあった時に起きるとされている対消滅(レジェンドルール)も発生しないかな」

 

「……それって、どのくらいの数が作れるの?」

 

専用の術式(エンチャント)を起動するための魔力(マナ)があれば、それこそ魔力が枯渇する(タップアウト)までは()()()()

 

 

 うわ、最悪じゃないと天井を見上げて呟く妖精弓手ちゃん。吸血鬼君主ちゃんの知識と塚人(ワイト)から読み取った穴開きの記憶から考えれば十分有り得そうな話です。しかも妖術師さんの言葉が正しければ、本体である塚人(ワイト)は禁術と呼ばれるだけの高度な魔術を使える凄腕ということですよねぇ。

 

 

「となると、各地のアンデッド騒ぎは儀式の一環ってところかしら」

 

「たぶん。ようどうであるとどうじに、しをまきちらしてとちをじぶんのいろにそめあげているんだとおもう」

 

 

 なるほど、本体が舞台裏にいる状態で儀式を進行させるために、自らの複製體(トークン)に陽動を兼ねて目立つ行為をさせ、同時に討伐に赴いた兵や冒険者を消耗させること(チャンプブロック)で時間を稼いでいると。うーむ、聞けば聞くほど考え方や視点が常人のソレとは違いますね。まるでかつて四方世界から飛び出して行ったという界渡りの魔術師(プレーンズウォーカー)のような……。

 

 

 

 ……あれ、どうしました≪死≫さん? え? 犯人は以前新()さんと決闘(デュエル)してフルボッコにされた死霊術師(黒使い)? 審判をしていた≪死≫さんからレギュレーション違反を指摘され、盤外への参加資格を剥奪されたのを逆恨みしている? いや、それただの困ったちゃんじゃないですかやだー!

 

 

 

……はい、唐突に今回の黒幕が暴露されましたが、盤面にいるみんなには判らないことですから!

 

 

 とりあえず今の状況を纏めますと、まず各地で多発しているアンデッド湧きの原因は、盤外(こちら)への界渡り(プレーンズウォーク)を企む死霊術師(ネクロマンサー)である塚人(ワイト)によるもの。自らの複製體(トークン)を生み出し、各地で陽動を兼ねた死の儀式を進行中。このままだと四方世界中に死をバラ撒きつつ盤外(こっち)に無理矢理エントリーしてくる可能性が高い。……最悪ですね!

 

 

 盤外云々は判らないとしても、このまま放置していれば碌なことにならないのは間違いありません。なんとかして本体である塚人(ワイト)を見付けて倒さなければいけませんし、陽動である複製體(トークン)も放置してはおけませんね。

 

 

「――うん、わかった。すぐに王都の本部に報せて、各地で発生しているアンデッド騒ぎを最優先で片付けるよう働きかけてみるね。知り合いにも声を掛けて当代の白金ちゃん達が何か掴んでないかも聞いてみるよ。それから……」

 

「ん。アンデッドがらみのいらいはぜんぶぼくたちにまわして? できるだけはやく、できるだけたくさんつぶして、あいてがイライラするのをさそう! ……あいたっ」

 

「こら、そういうのはあの子を含めて全員で相談してから決めなさい? ……まぁ、今回はしょうがないけど」

 

 

 あ、積極的に狩りを行うつもりの吸血鬼君主ちゃんがぺしっと女魔法使いちゃんにひっぱたかれちゃいましたね。報・連・相は大事、はっきりわかんだね。ごめんなさいする吸血鬼君主ちゃんの頭を優しく撫でながら叱る女魔法使いちゃんを生暖かい目で見守りながら、監督官さんがさらさらと本部に宛てた手紙を書き上げ、ギルドの印を捺して乾かしています。

 

 

「よし、後でギルドと契約している鳥人(ハルピュイア)()に急いで運んでもらうから、今日中には本部に届くよ! さてと、みんなは今日はゆっくり休んで、また明日来てもらっても良いかな? 出来れば来られる人全員で来てくれると嬉しいなぁ?」

 

「りょーかい、それじゃまた明日ね。……あ、そうだ。貴女の荷物も一緒に引き上げちゃいましょ? シルマリル、運ぶの手伝ってあげてちょうだい」

 

「は~い!」

 

 

 監督官さんの言葉に大きく頷く一行……妖術師さんだけは「えっ」って顔をしてますけど、もうダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)に一員として見做されちゃっているみたいです。妖精弓手ちゃんの一声でギルドの宿泊施設にある妖術師さんの私物も一党の自宅へ回収するつもりなのが発覚し、いよいよ後戻り出来なくなってますねぇ。

 

 

「えっと、≪浄化(ピュアリファイ)≫が使えるなら先に使っておけば良かったんじゃないの?」

 

 

 部屋を出る前に埃が付いてしまった椅子を中心に≪浄化(ピュアリファイ)≫を唱え、ピカピカの状態に戻した吸血鬼君主ちゃんを見て疑問の声を上げる妖術師さん。……言われていればその通りですし、何故か今の≪浄化(ピュアリファイ)≫の効果に含めなかったのかみんなの恰好は埃塗れのままですね。キョトンとした顔で妖術師さんを見上げていた吸血鬼君主ちゃんが返した答えは……。

 

 

「さきにきれいになってたらまたクンカクンカされちゃうし、このあとみんなでおふろだもん。じゅもんはせつやく!」

 

「ぶ~ぶ~! 吸血鬼吸いしたかったのに~!!」

 

 

 いや待て、今のほうが自然な味わいが……と言いながら詰め寄る監督官さんから逃げ出しつつ、ケラケラと笑う吸血鬼君主ちゃん。2人がクルクルと応接室を走り回る姿を呆然と眺めていた妖術師さんの肩を両側から叩くのは勿論残りの2人ですね。

 

 

「まぁ、そのうち慣れるって!」

 

「当事者じゃ無ければ、見てる分には飽きないわよ?」

 

「ええ……?」

 

 

 ……頑張れ妖術師さん! 一党(パーティ)に参加したら毎日がこんな感じですよ!!

 

 


 

 

「うわ、広っ!? それにこんな沢山お湯が……!」

 

「家を()()時に一番拘ってたのが此処だったのよ。みんなお風呂大好きだから」

 

 

 さて、埃塗れで帰ってきた一行。おゆはんの支度をしていた若草の2人から「先に冒険の疲れを癒してきてくださいね(ニッコリ)」と言われ、クッソビビりつつ自慢のお風呂へと向かいました。脱衣場備え付けの籠にポイポイと服を脱ぎ捨て、風呂場へと飛び込む吸血鬼君主ちゃんと2000歳児の後に続いて入った妖術師さんが感嘆の声を上げ、その隣でうんうんと女魔法使いちゃんが相槌を打っています。

 

 

 広々とした浴室は大理石(のような石)で覆われ、奥に鎮座する浴槽は総檜(っぽい木の)造り。一度に平均的な一党(パーティ)全員が浸かっても余裕がありそうなほどの湯舟は、ダブル吸血鬼ちゃんご自慢の逸品です。……お、先に突入していた2人が何やら準備をしていますね。

 

 

 水草で編まれた耐水性の敷物を広げ、その上に木製のU字型に凹んだ椅子を2つ並べる妖精弓手ちゃん。吸血鬼君主ちゃんが大きな桶にお湯を汲んで運んでくると、壁面に設置されていた棚に手を伸ばし、幾つか並んでいる金属製の瓶を吟味し始めました。

 

 

「んー……。やっぱり冒険の後は『あわあわ』が一番ね!」

 

 

 そう言いながら瓶を取り出し、白っぽい色の中身を桶の中へと注いでいきます。トロリとした液体が十分に投入されたところで、吸血鬼君主ちゃんと2人仲良く桶の中に手を突っ込んでかき混ぜると……。

 

 

「あわあわ~」

 

 

 みるみるうちにブクブクと泡立ち、森人(エルフ)自慢のボディーソープの完成です!

 

 

 楽しそうに2人が作り上げたこの『あわあわ』、森人(エルフ)の間に伝わる洗体用の石鹸だそうで、天然の植物由来で肌に優しく、そのまま水に流しても環境を汚染しない優れものなんだとか。赤ちゃんの肌も傷めないので、叢雲狩人さんが素材を集めて作ってくれたみたいです。他にも棚には『すーすー』や『ぬめぬめ』と森人の文字で書かれた瓶が並べられていますね。

 

 

 ……妖精弓手ちゃんの言ってたように、『あわあわ』は身体の汚れを落とすためのものですが、粘度の高い液(〇ーション)に変わる『ぬめぬめ』は満月が近くなった際、ダブル吸血鬼ちゃんの()()()を鎮めるために。爽やかな香りと消臭効果のある『すーすー』は夜戦の香りを消すために翌朝使われる代物だそうです。映像は残念ながら入手出来なかったのですが、お風呂を司る浴槽神さんが鼻から神性を溢れさせながらこっそり教えてくれました。

 

 

「よし、準備バッチリ! それじゃシルマリルはおっぱい眼鏡をお願いね」

 

「は~い! ふたりとも、こっちにどうぞ?」

 

 

 2人の手招きに「誰が眼鏡よ」と裸眼でちょっと目つきの悪い女魔法使いちゃんが歩き出し、その後を不安そうな顔で妖術師さんが続いています。2人を椅子に座らせると、柄の付いた小さな桶でお湯を汲み、吸血鬼君主ちゃんと妖精弓手ちゃんが2人の頭にそれをかけ、続いて『あわあわ』を手に取り、髪を優しく洗い始めました。

 

 

「おきゃくさま、かゆいところはありませんか~?」

 

「……何処で覚えたのよそんな台詞」

 

「このあいだともだちになったサキュバスのおねえさんから~」

 

 

 何やら不穏な事を口走る吸血鬼君主ちゃんと、後で追及する決意を固めた女魔法使いちゃん。背伸びをしながら一生懸命手を伸ばして艶やかな赤毛を泡塗れに変えていきます。その隣では同じく椅子に座った妖術師さんの髪を妖精弓手ちゃんがわしゃわしゃと洗っていますね。

 

 

「もう、結構痛んじゃってるじゃない! こんな癖の無い金髪なんだから、ちゃんと手入れしないと勿体無いわよ?」

 

 

 口調とは裏腹に繊細な手付きで髪を清めていく妖精弓手ちゃん。出産からこっち母性に目覚めたようで、みんなをお風呂に誘ってはこうやって洗ってあげているみたいです。なお洗われている妖術師さんは真っ赤な顔で俯いちゃってますね。その理由は……。

 

 

「あ、あの!? さっきからあたってるんだけど……」

 

「ん? ああ、別にいいじゃない。減るもんじゃないし。増えもしないけどね!」

 

 

 妖術師さんの頭を胸に抱きかかえるようにして『あわあわ』を湯で流していた妖精弓手ちゃん。胸元から上がる声を華麗にスルーし、今度は『あわあわ』を妖術師さんの身体全体に満遍なく広げていきます。『あわあわ』が入らないようにギュッと目を瞑っていた妖術師さんがそ~っと目を開いて時に入ってきたのは、自分の肢体にも泡を纏った妖精弓手ちゃんが悪戯っぽい表情で迫って来る光景でした。

 

 

「ほら、じっとしててちょうだい?」

 

「あわ、あわわわわ……」

 

 

 抱き着く様に肌を重ね、手指のみならず全身を使って妖術師さんを磨き上げていく妖精弓手ちゃん。吸い付くような肌の感触と耳元に感じる甘い吐息によって、妖術師さんの思考回路は爆発寸前。意味不明な言葉を口から漏らしながら視線を横に向ければ、そこには更に耽美な光景が……。

 

 

「あわあわで、ふわふわ~。あ~ん……」

 

「こら、もうすぐおゆはんなんだから、摘まみ食いはダメよ?」

 

「……だめ?」

 

「……ちょっとだけなら」

 

「えへへ……は~い! んちゅ……」

 

 

 女魔法使いちゃんの膝上に向き合う体勢で座り、互いの身体を清めていた吸血鬼君主ちゃんが、お湯によって人肌近くまで温められた眷属のたわわに口を付け、安心しきった表情でちゅーちゅーするギリギリな映像。『あわあわ』によって大事な部分にモザイクは掛かっていますが、それが逆にエロい!と地母神さんがガッツポしています。

 

 

 ちゅーちゅーされている側の女魔法使いちゃんも、心身を預けてくる吸血鬼君主ちゃんの小さな身体を優しく抱き寄せ、頭のてっぺんから爪先まで全身くまなく洗い清めています。真っ赤な顔でそれを見ている妖術師さんに気付くと苦笑まじりに「塔でもお姫様が言ってたけど、そのうち慣れるわよ?」と言ってるあたり、もはや日常的な行為っぽいですねぇ……。

 

 

 

 

 

 

「はぁ~。蒸し風呂も良いけど、やっぱりお湯に浸かるほうが好きだわ~」

 

「きもちいいね~」

 

 

 全身をピカピカに磨き上げた後、湯船へと浸かる一行。う~んと長い手足を伸ばしながら満足そうに呟く妖精弓手ちゃんの声が響く浴室。冒険の汚れを落とし、十分な水分を得たことでその肢体は輝きを増し、隣で肌を隠すように縮こまりながら湯に浸かっていた妖術師さんが、そのこの世のものとは思えぬ美しさに目を奪われています。

 

 

 そのまま浸かると全身が湯に沈んでしまうため、女魔法使いちゃんの膝上に乗っている吸血鬼君主ちゃんもふやけたように脱力し、後頭部を女魔法使いちゃんのたわわに預けて肩まで浸かっています。女魔法使いちゃんがその細い腰に腕を回して捕獲していなければ、そのままプカプカ浮かんじゃいそうですね。

 

 

「さっきはビックリしたでしょう? いきなり全身泡塗れにされて。お姫様ってば最近誰彼構わずああなのよ……」

 

「失礼ね、ちゃ~んとやる相手は選んでるわよ。それに私からしたら赤ちゃんもみんなも変わらない年齢だしね~」

 

 

 数十年なんて誤差よ誤差! と薄い胸を張る2000歳児。その平面を見て先程までの艶姿を思い出してしまったのか、また妖術師さんが真っ赤になってしまいました。ブクブクと湯に沈んでいく彼女を見た妖精弓手ちゃんがスルリと背後に回り込み、後ろから抱きすくめるように上体を水面上へと引っ張り上げ、細い腰に腕を回しました。両腕を交差させた状態で腹部から上に向かって這わせながら、脱衣場から気になっていたことを尋ねています。

 

 

「ねぇ、ずっと気になってたんだけど、なんで胸にサラシなんて巻いてたの? 良いモノ持ってるのに勿体ないじゃない」

 

 

 妖精弓手ちゃんの視線の先には水面に顔を覗かせる2つの果実。白兎猟兵ちゃん以上令嬢剣士さん以下というサイズで、大きいとはいえませんが形の良い美乳ですね。肩越しに覗き込んで来る美貌にドギマギしている妖術師さんが、向かいで好奇心に満ちた目をしている吸血鬼君主ちゃんから目を逸らしながら口を開きました。

 

 

「……前の一党(パーティ)では女は私1人で、寝床も大部屋で一緒だったから。頭目(リーダー)毛皮と羽毛が好み(ケモナー)で神官は美少年好き(ショタ)だったから、2人からはそういう目で見られることはほとんど無かったんだけど、失踪した斥候の圃人(レーア)がね……」

 

「えっと、ごめんなさい……?」

 

 

 男性のチラ見は女性のガン見、一党(パーティ)の仲間からそういう目で見られるのは結構キツそうですねぇ……。周囲に気を配る振りをして動作を見られるのは溜まったものでは無いでしょう。しかし、その後に彼女が続けた言葉は、2匹の獣に火を点けるのには十分過ぎるものです。

 

 

「こんな()()()()()()()()()()()、見たって()()()()()()()()()()()()……」

 

「お、それは聞き捨てならないわねぇ? そうでしょ、シルマリル?」

 

「え? ……ひゃう!?」

 

 

 悪い笑みを浮かべた妖精弓手ちゃんが、妖術師さんの腹部に宛がっていた両腕を密着させたまま、少しずつ上部へと擦り上げていきます。薄い脂肪と筋肉の下にある骨の感触を感じながら上っていく2本の腕、やがてそれは双丘の麓へと到着し……。

 

 

 ふにっ

 

「うひゃあ!?」

 

 

 柔らかな感触とともに動きを止める妖精弓手ちゃんの腕。羞恥で朱に染まった顔で妖術師さんが振り向けど、そこには妖精弓手ちゃんの姿は無く、次の瞬間には彼女の胸元に妖精弓手ちゃんが滑り込むように姿を現しました! 驚きに身を固める彼女の両腕を取り、先程自分がやっていたように背後から抱きしめるような姿勢で妖術師さんの手を自分の腹部に宛がい、滑らかな腹部の上を滑らせていき……。

 

 

 つるん

 

 

 何の障害も無く平原を縦断。途中で可憐な桃色の感触を得ただけで、魅惑の曲線を描く鎖骨へと到着してしまいました。その平易な道のりに言葉を無くした妖術師さんに向かって、ニッコリと笑みを見せながら……。

 

 

「ね、わかったでしょ? これが本当の"無い"ってこと」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

 もう、謝る必要なんて無いのよ? と笑いながら妖術師さんに背を預け、浴槽を泳いで近寄ってきた吸血鬼君主ちゃんを抱き止める妖精弓手ちゃん。きめ細かな肌に舌を這わせる吸血鬼君主ちゃんの頭を撫でながら顔を横に向け、妖術師さんのお山に頬擦りを始めました。

 

 

「貴女はとっても魅力的な女の子よ? 私たちと一緒にシルマリルと歩んで欲しいくらいにね。もちろん、白うさちゃんみたいに永遠を共にするんじゃなくて、血を未来に繋いでいく道を選んでくれても良い。どちらにしても、貴女という存在は決してつまらなくなんかないわ!」

 

「あう……」

 

「それに、死霊術を学ぶのに時間は必要じゃない? 眷属になれば好きなだけ研究出来るわよ?」

 

 

 妖精弓手ちゃんの褒め殺しにタジタジなところに追撃を入れるニマニマ笑いの女魔法使いちゃん。知識の譲渡にしろ魔力供給にしろ、ダブル吸血鬼ちゃんと深い繋がりを持たなきゃいけませんからねぇ。妖術師さんから離れた妖精弓手ちゃんがくるりと向きを変え、胸元の吸血鬼君主ちゃんを2人の間に挟み込むように押し付けちゃいました。小ぶりながらも張りのある双丘に顔を埋めた状態から、揺れる瞳の妖術師さんを見上げる吸血鬼君主ちゃん。震える彼女の口元にそっと顔を近付け――。

 

 

 

 

 

 

 

「皆様、着替えは此方に置いておきま……ごゆるりと……」

 

 

 ――浴室の扉を開け、笑みを浮かべながら声を掛けてきた若草知恵者ちゃんが、同じ表情のままゆっくりとドアを閉じていきました。  

 

 

「えっと、さきにおゆはんだね……」

 

「……うん」

 

 

 ギリギリでインターセプトされちゃった妖術師さん。ちょっと残念そうに見えるのは気のせいでしょうかね……。

 

 


 

 

「それじゃ、新しい仲間の加入を祝って……乾杯!」

 

 

 ノリノリな2000歳児の音頭に続いて乾杯と唱和する一行。テーブルの上には美味しそうな料理が所狭しと並んでいますね!

 

 

「今日は畑で採れた蕃茄(トマト)と牧場産のベーコンを使ったパスタに、オルクボルグ様から立派な鯉を頂きましたので、思い切って麦酒(ビール)煮に挑戦してみました」

 

 

 可愛らしいエプロン姿の若草知恵者ちゃんがフンスと胸を張る自慢の品々。メインの2皿以外にも甘藍(キャベツ)の酢漬けや大籠いっぱいの麺麭、牧場産のチーズも用意されていますね。赤ちゃんにおっぱいを与えるためにアルコールは控え、代わりにみんなの持つグラスに注がれているのは地母神の神殿から貰った葡萄ジュース。爽やかな甘さが人気の逸品なんだとか。

 

 

「おいし~!」

 

「皮目がネットリとしていて、堪りませんわね!」

 

「一緒に煮込まれた野菜もイケるわよ!!」

 

 

 川魚特有の臭みをビールと胡椒、香草の力で消し、上手に仕上げられた鯉の身。その身から出た旨味を十分に吸った根菜たちもみんなの舌を唸らせています。普段はがっついたりしない令嬢剣士さんもですが、今日は珍しくお代わりを取っていますね。ひょいひょいと人参や豹芋(ジャガイモ)を口に放り込みながらも妖精弓手ちゃんが優雅さを保っているのは、流石上の森人(ハイエルフ)の姫君といったところでしょうか。

 

 

「あら、このパスタ冷製なのね。まだ暑いからスルスル食べられちゃう」

 

「はい! 旦那さまが氷を用意してくれました!! デザートには氷菓(アイス)もありますよ!!!」

 

 

 クルクルとフォークにパスタを巻き付け、口へと運んだ女魔法使いちゃんが眦を下げ、その隣では白兎猟兵ちゃんがキンキンに冷えた金属製の容器を掲げています。氷を敷き詰めた木桶に塩を入れ、先程まで一生懸命その上で容器を転がしてくれていましたからね。中にはきっとコクのある蕩けるようなアイスクリームが出来ていることでしょう!

 

 

「こらご主人様、ズルズル啜るから口の周りにみんな付いてしまっているじゃないか。 ……動かないでくれたまえよ?」

 

「ふぇ? おあ~……」

 

「――更にチーズを削って入れると、また味が変わりますよ?」

 

「あ、コクが増して美味しい……!」

 

 

 

 おやおや、口元を真っ赤に染めた吸血鬼侍ちゃんを叢雲狩人さんが貪ってますね。その隣では妖術師さんの具を食べ終えた麦酒(ビール)煮の碗に剣の乙女ちゃんがチーズを加え、さらに千切った麺麭を浮かべてスープの旨味を余すところなく食べる方法を伝えているみたいです。スープを吸って身重になった麺麭を口に含み、じゅわっと広がる濃厚な旨味に妖術師さんも目を輝かせていますね!

 

 

 

 

 

 

 楽しいおゆはんタイムも終わり、これからの計画について話し合うことにした一行。何人かが胸元に赤ちゃんを抱いているのはこの一党(パーティ)ならではの光景でしょう。若草祖母さんが淹れてくれたお茶を啜りながら、明日からの予定を決めてるようです。

 

 

「それじゃあ、基本は飛行可能な2人とそれに随行する2人、合計4人を基本として動くことで決まりかな」

 

「ん。ほかのふたりはおやすみして、ぼくじょうやみんなをまもる!」

 

 

 叢雲狩人さんの言葉に頷きを返す吸血鬼侍ちゃん。現在の一党(パーティ)構成だと……飛行可能なのはダブル吸血鬼ちゃんに眷属3人の合計5人。若草祖母さんはカウント対象外なので、それ以外が森人(エルフ)3人に白兎猟兵ちゃん、それに新しく加わった妖術師さんで5人ですね! ダブル吸血鬼ちゃんは出ずっぱりになると思うので、眷属3人のうち2人が同行して、1人が休息兼牧場の護衛、随行組も同じような感じでしょうか。

 

 

「牧場の守りはそれで十分でしょう。英霊のお二方や狼さん、それに移住して来てくれた兎人(ササカ)のお父様たちもいらっしゃいますので」

 

「いざとなればおちびちゃんたちとそのお嫁さんたちも戦力に数えられそうだしね。……また牧場が襲撃されても余裕そうなのは気のせいかしら」

 

 

 牧場の戦力を指折り数える剣の乙女ちゃんの隣で戦力過多に気付き頭を抱える女魔法使いちゃん。冗談抜きでダブル吸血鬼ちゃん一党が居なくても牧場の戦力は過剰気味なんだよなぁ……。

 

 

「「トークンをつぶしつづけて、ほんたいがやけになるまでいやがらせしつづける。どのくらいつづくかわからないけど、みんながんばろう!」」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんの声に大きく頷く一行。ギルドからの報告を受けて、陛下や勇者ちゃん達も動いてくれることでしょう。それを信じて、明日からひたすらトークン潰しです! 気合い入れていきましょう!!

 

 


 

 

「グワーッ!?」

 

「どうやら西方辺境の複製體(トークン)がやられたようだな……」

 

「ククク……ヤツは複製體(トークン)の中でも最弱……」

 

定命の者(モータル)に滅ぼされるとは不死者(イモータル)の面汚しよ……」

 

「「イヤーッ!!」」

 

「アイエエエ!?」

 

「冒険者!? 冒険者ナンデ!?」

 

「「ドーモ、トークン=サン。デイライトウォーカーです」」

 

「コワイ!」

 

「ゴボボーッ!」

 

 

 ……なんて遣り取りがあったかどうかは不明ですが、ひたすらに複製體(トークン)を狩り続けること約一ヶ月。暑さも和らぎほのかに秋を感じるようになった頃、事態は動き出しました。

 

 

「早朝から失礼! 冒険者ギルドから緊急招集です!!」

 

 

 まだお日様が顔を出す前、僅かに東の空が明るんできた時刻。牧場に響き渡るのは、口元に魔法の拡声器(メガホン)を添えた梟の特徴を持つ鳥人(ハルピュイア)の女性の声です。

 

 

「『辺境最優』と『辺境最悪』の皆様、急ぎギルドまでお越しください!」

 

 

 出せるギリギリまで速度を上げていたのでしょう。青を通り越して土気色になった顔、こけた頬に、傷つき羽根の抜け落ちが目立つ翼。それでも職務を全うすべく、彼女は声を枯らして冒険者を呼び続けています。

 

 

「各地でアンデッドの軍勢が出現、既に王国は軍を投入。冒険者にも参加要請が来ております!!」

 

 

 高度を保てなくなり、落ちてきたところをダブル吸血鬼ちゃんによって受け止められたギルドの使者。癒しの奇跡を使おうとした2人を制し、最後の力を振り絞って伝えたのは――。

 

 

 

「陛下は、これを恐るべき死霊術師(ネクロマンサー)に因る死の軍勢(デスアーミー)であると断定されました!!!」

 

 

 ――本体である塚人(ワイト)が、とうとうしびれを切らし、重い腰を上げて動き出したという皆が待ち望んでいた報せです。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 次回より、再び複数神による分割実況予定なので失踪します。


 UAが130000を超えました。決して短くはない物語を皆様に読んでいただけて、非常に嬉しく思っております。

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。読んでいただけた方からの反応が次話への原動力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその14-4

 年末進行でちょっと忙しかったので初投稿です。




 前回、情報収集フェイズが終了したところから再開です。

 

 

 払暁とともに響き渡った鳥人(ハルピュイア)の使者さんの声により、にわかに慌しくなる牧場。ゴブスレさんや兎人(ササカ)のパパさんたちも飛び起きてきました。ダブル吸血鬼ちゃんが使者さんを介抱する姿を見て、みんな頷き合って準備のために家の中へと消えていきます。

 

 

 疲労困憊という言葉が人型になったような使者さんですが、ダブル吸血鬼ちゃんが一党(パーティ)の自宅へ運び、朝ごはん用に準備していた蜂蜜入りの甘い麦粥(ポリッジ)をたらふく食べさせて来客用の寝台(ベッド)に寝かせてあげています。本人はそのまま一行に同行してギルドへ戻るつもりだったみたいですが、流石に一度休まないと生命に関わりそうでしたので……。ギルドには牧場で休んでいることをちゃんと伝えておきましょうね。

 

 

「「それじゃ、いってきます!!」」

 

「はい、いってらっしゃい」

 

「旦那さま、妹さま、それに皆さま! お気をつけて!!」

 

「「「「「「「がんばえ~!」」」」」」」

 

 

 予め準備しておいた旅装を担ぎ、巨大化した栄纏神さんの使徒(ワートホグ)が牽引する馬車へと乗り込む一行を、若草祖母さんと白兎猟兵ちゃん、それに牧場のみんなが見送りに来てくれてますね! 本来ならば全員で向かうべきなのでしょうが、そろそろ激しい運動は控えないといけない白兎猟兵ちゃんは残念ながら今回はお留守番です。眠そうな目を擦りながら起きてきてくれた兎人(ササカ)のおちびちゃんたちの声援を背に辺境の街へと向かう馬車の内部は、ほどよい緊張感が漂ってます。それぞれの役目を果たし、必ず全員無事に冒険を終わらせましょう!

 

 

 

 

 

 

「朝早くからごめんね~。ちっちゃな頭目(リーダー)ちゃんたちの予想通り、事態が動き出したんだ~」

 

 

 ギルドの応接室に集まった辺境を代表する冒険者たちを見回しながら召集の理由を告げる監督官さん。化粧で上手く誤魔化していますが、彼女の目の下にも隈があるのでしょう。その隣には朝食代わりに保存食を貪る勇者ちゃん一行の姿も見えますね。……つまり、今回も世界の危機案件ということなんだよなぁ。

 

 

「むぐむぐ……失礼。食事をする時間も碌に無かったのです。仕込みにかなり手間を取られていたのです」

 

 

 口元の食べかすをハンカチで拭いつつ、依頼の口火を切る賢者ちゃん。応接室の中心にある大きな机の上には王国全体を記した地図が広げられ、その上に大小様々な駒が置かれています。白い駒が秩序の陣営、黒い駒が混沌の陣営みたいですね。

 

 

「改めて現在の状況を説明するのです。王国東方に混沌の軍勢が現れ、一斉に王都を目指して進攻を始めているのです。点在する防衛用の砦で食い止めてはいるのですが、数は多く、国境にほど近い外縁の都市が既にひとつ墜ちたのです。また、軍の装備を賄うための鉱山との連絡が途絶えたという報告も届いているのです」

 

 

 口を動かしながら地図上の駒を動かす賢者ちゃん。羊皮紙を侵蝕するように黒の駒がその数を増やし、引き寄せられるように砦へと黒い津波が押し寄せていくのを見て、集まった冒険者たちの顔に厳しいものが浮かんでいますね。

 

 

「滅ぼされた都市から湧き出る軍勢は主にアンデッドと飛竜(ワイバーン)。それぞれ食欲と生者への憎しみで人の多い場所……砦目指して突き進んでいるのです。今のところ砦の防衛は成功しているのですが、無尽蔵の増援があっては陥落するのもそう遠くはないのです」

 

 

 白の駒を倒し、王都へと雪崩れ込む黒の駒。このままだと王国滅亡待ったなしという状況。打開するにはやはり……。

 

 

「そこで、今回も複数の部隊を編成し、敵の急所を抑える手でいくのです」

 

 

 魔法のように手中に現れた青い駒を盤面に置いていく賢者ちゃん。駒が置かれた場所は、鉱山、砦、滅ぼされた都市、そして――。

 

 

「……ふぇ?」

 

 

 ――机に身を乗り出して興味深そうに地図を眺めていた、吸血鬼君主ちゃんの頭の上でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず第一に砦の防衛。ここは単純明快なのです。軍勢が途絶えるまで只管敵を削り続け、可能な限り軍勢を誘引し続けるのです」

 

 

 なるほど、現状無限湧きに等しい敵を延々と潰し続け、王都へ向かわせないようにするわけですね。ここは兵士たちの負担を軽減すべく大火力を用意するのが良いでしょう。あ、砦の負傷者に対応するために、癒しの奇跡を使える人や応急処置が出来る人が必要かも。

 

 

 

「次に敵を生み出し続けている都市の解放。敵地に潜入し、儀式を中断させるのが目的なのです。ここは既に先発組が入り込んでいるので、彼らと合流して事に当たってもらうのです」

 

 

 先発組が≪転移≫の鏡を持っているので移動はノータイムで可能みたいですが、敵にとっても重要な場所ですので激しい抵抗が予想されます。先発組の能力によっても変わりますが、ここは瞬間火力よりも継戦能力を重視した編成が重要な気がします。

 

 

 

「それから、連絡が途絶えた鉱山。敵の手に落ち武具の生産拠点となっている可能性があるので、その調査をお願いするのです。万一混沌の勢力がいた場合は、その排除も任せるのです。至高神の神殿から応援が来るので、彼女たちと共同で調査に赴いて欲しいのです」

 

 

 ふむふむ、兵の装備や砦の防備に必要な金属資源を採掘している場所っぽいですね。いくら兵がいても武器や矢玉が無ければ戦えませんし、混沌の手に落ちていたらまたゴブリンに武器を配られたりする可能性もあります。たしかに調査は必要でしょうが……ここって、もしかして例の冒険者の屑や貴族のアホボンが送られていた地下帝国なのでは? おそらく応援に来てくれるのって至高神の聖女ちゃんと神殿騎士君でしょうし。

 

 

 

「最後に、首謀者のところへ殴り込みに行く私たちに同行してもらう組なのです。≪転移≫を妨害している各地の刻印を破壊した後、入念に準備をし(バフをかけ)て、≪転移≫の巻物(スクロール)で一気に奇襲をかけるのです」

 

 

 お、新()さんが用意してくれていた巻物(スクロール)をしっかり使ってくれるみたいです! 転移阻害を解除したうえでバフを積み、最大戦力を投入してボスを討伐するつもりですね。ダブル吸血鬼ちゃんが2人とも同行するのが良いのか、それとも1人は他の組の応援に回ったほうが良いのか……ん? 話を聞いている吸血鬼君主ちゃんがエロい顔をしてますね。なんかまたろくでもないことを思い付いたんでしょうか。

 

 

 賢者ちゃんの説明を受け、各組の編成について話し合い始めた冒険者たち。察しの良い視聴神さんたちなら既にお分かりかと思いますが、今回もパーティ分割&複数神による実況となります! どの組を誰が担当するかは参加する面子を見て決めるという話になってますが、果たしてどんな組み分けになるでしょうか! ……お、どうやら決まったみたいですね、どれどれ……。

 

 

 


 

 

「じゃあ私は砦にしようかな。()()()も自分の力を披露したがっているみたいだからね」

 

「混沌の軍勢と相対するのは栄纏神の神官にとって最高の栄誉。私もご一緒させていただきますわ!」

 

「おふたりのように戦うことは出来ませんが、癒しを求める方がいるのなら……!」

 

 

 まずは花形である砦防衛組。火力に定評のある令嬢剣士さんに最近ヤベーイ代物を入手した叢雲狩人さん、癒しのスペシャリストである女神官ちゃんに加えて……。

 

 

 

「うぇぇ……侵入口が下水とか絶対ヤダ! 私も砦に行く!!」

 

「はっはっは、ならば砦組は流行りの女子会とやらにするとしよう」

 

「ふふ……、半分、以上、は、ママ、だから、ママ会、かしら、ね?」

 

 

 都市組の潜入する場所が下水と聞いて断固拒否の構えを取った2000歳児に呵々と笑う女騎士さんが続き、うっそりと微笑む魔女パイセンも一緒に砦組へ入ることにしたみたいです。なんと6人中4人が子持ち人妻という、青少年の性癖が破壊されそうな組が爆誕してしまいました……。

 

 


 

 

「んで、俺たちは仲良く下水潜りってワケか……」

 

「先発組も()()()で、こっちは漢祭り。……この差は一体何なんだろうな」

 

「下水ならゴブリンが……」

 

「「勘弁してくれ……」」

 

 

 続いて廃都市組ですが……揃って溜息を吐く2人に、久々にゴブリンゴブリン言い始めたゴブスレさん。金等級になってもHFOのやることが変わるわけじゃありませんからねぇ……。その横では吸血鬼侍ちゃんが「ぼくはおとこだった……?」と啓蒙値をグングンと上昇させてます。まぁまぁ、HFO3人に加えて追加の先発組も男2人、つまり逆ハーレムパーティですよ吸血鬼侍ちゃん! なお先発組も含めて全員既婚者の模様。

 

 


 

 

「あの2人が応援なら、移動速度の速い私たちで鉱山まで運ぶのが一番手っ取り早いわね」

 

「ええ、早く終われば他の組の応援に回れるかもしれませんわ」

 

 

 お、どうやら鉱山調査には女魔法使いちゃんと剣の乙女ちゃんが向かうみたいです。水の街まで≪転移≫の鏡で移動し、至高神の神殿で2人をピックアップしてから鉱山まで飛んでいくつもりですね。高速飛行可能で、遠近両方に対応出来る2人なら少人数でも大丈夫でしょう! 応援の2人も神殿でみっちり鍛えられて成長していますから!!

 

 


 

 

 さて、これで3組のメンバーが確定しましたね! 残るは勇者ちゃん一行と一緒にギミックを解除して、仲良くボスに殴り込みに行く特攻隊ですが……あれ? あと残っているのって……。

 

 

「これは、なんともユニークな面子になったのです」

 

「熟練の死霊術を見られる良い機会でございますから」

 

「えいれいさんいがいのしょうかんって、あんまりうまくつかえないから。ぬすめるぎじゅつはぬすんじゃおう!」

 

 

 お勉強熱心な若草知恵者ちゃんが微笑む横で、ぺったんこな胸を張る吸血鬼君主ちゃん。隣で放心している3人目に気付き、小さな手でそっと彼女の手を握り、自信満々に言い放ちました。

 

 

「だいじょうぶ、ふたりともぼくがしっかりまもるから!」

 

「どうして……?」

 

「えっと、みんなで力を合わせてがんばるぞー!!」

 

「お~」

 

 

 思いもよらぬ展開となり、現場猫顔で放心している妖術師さん。まぁ突然勇者ちゃんたちのガチンコバトルに同行しなければいけないと言われれば、誰だって同じ顔になるでしょう。塚人(ワイト)もそう思っています、きっと。

 

 

 でも左右から吸血鬼君主ちゃんと若草知恵者ちゃんにサンドイッチされ、耳元で甘い吐息とともに「凄腕の死霊術師(ネクロマンサー)が見られる」とASMR攻撃を受け、知識欲が恐怖心を上回ったご様子。グルグルおめめになってノートと筆記具を準備しているあたりやっぱり良い性格してると思います。なんとかフォローしようと頑張る勇者ちゃんと、その姿を生暖かく見守っている剣聖さんは平常運転ですね。

 

 

 

 さて、ちょっとゴチャゴチャになってしまいましたので、いつものように見やすく表にしてみましょうか! ちょうど≪幻想≫さんが可愛い女の子が表紙でドヤ顔しているノートに纏めていたものが仕上がったみたいですので、それをちょちょいと拝借して……。

 

 

 

担当箇所作戦目的参加メンバー
①砦耐久防衛妖精弓手ちゃん、叢雲狩人さん、令嬢剣士さん、女神官ちゃん、女騎士さん、魔女パイセン
②廃都市軍勢召喚儀式阻止吸血鬼侍ちゃん、ゴブスレさん、重戦士さん、槍ニキ、不良闇人さん少年魔術師君
③鉱山   調査および敵勢力排除女魔法使いちゃん、剣の乙女ちゃん、至高神の聖女ちゃん、神殿騎士君、〇〇〇〇君、〇〇〇〇ちゃん
④ボス部屋腹パン吸血鬼君主ちゃん、若草知恵者ちゃん、妖術師さん、勇者ちゃん、剣聖さん、賢者ちゃん

 

 

 

 んんん? 廃都市のところにうっすらと元童貞、現妻子持ち2人の名前が浮かび上がっているのはまぁ良いとして、鉱山のところにも名前が……。しかもご丁寧に伏字になってます。

 

 

 え、見ちゃダメ? 久々の登場だからまだ内緒? うーん、ちょっと想像がつかないですねぇ……。せっかくだから視聴神の皆様も、誰が登場するのか予想してみて欲しい? 一体誰が出て来るんだろう……?

 

 

 おっと、謎の2人について考えている間に出発の準備が完了したみたいですね。それぞれの組に分かれ、≪転移≫の鏡や馬車など別々の移動手段で目的地へと向かう冒険者たち。残っているのは監督官さんとボス部屋殴り込み特攻チーム。連続で鏡を起動した消耗を回復するためにポーションをがぶ飲みしていた賢者ちゃんがほぅと大きく息を吐いてますね。心配そうに下から顔を覗き込んでいた吸血鬼君主ちゃんを捕獲し、吸血鬼吸いに移行しながら口を開きました。

 

 

「貴女たちが持ち帰って来たインゴットのおかげで、兵の装備の質は向上しているのです。演習の回数も増え、彼らへ支払う給料も増額出来たのです……むふ~」

 

「そうだな。混沌の軍勢と相対しても無様に崩れるようなことは無く、また狂奔して矢鱈と突撃する新兵も少なくなったと聞いている。……む、これはなかなか……」

 

「託された役割を果たすことで、自分が世界の秩序を守る力の一翼を担っているんだって、そうみんなが自覚出来るようになったんだ! ……うん、今日も最高に最強なおひさまのにおいだ~!!」

 

「おあ~……」

 

 

 口では良いこと言ってるのに、吸血鬼回し吸いしながらだから全部台無しなんだよなぁ……。うなじやほっぺたに顔を埋めて吸血鬼君主ちゃんの纏う太陽の香りを堪能していた勇者ちゃんが満足げに頷き、ひょいっと差し出した先には目の前のトンチキ空間についていけてない妖術師さん。まじりっけ無しの善意100%な笑顔で差し出された吸血鬼君主ちゃんをおずおずと受け取り、3人からの無言の圧力に負けて同じように後頭部へ顔を近付け――。

 

 

「あ……。あったかくて、やさしい匂い」

 

「だよね~! ……みんなそれぞれ自分に出来る精一杯をやっているんだ。そしてそれはボクも、その子も、そしてキミもおんなじだよ!」

 

 

 そのまま目を瞑って小さな身体をギュッと抱きしめる妖術師さん。吸血鬼らしからぬおひさまの暖かさと香りによって張り詰めていた精神が和らいだ彼女に対し、優しく語り掛ける勇者ちゃん。

 

 

「その子が貴女を選んだのには、必ず理由があるのです。戦いの中で貴女を護るという約束は必ず果たされるのです。だから、落ち着いて自分に何が出来るのかを問い続けるのです」

 

 

 摂取量が足りなかったのか、物欲しげ視線で吸血鬼君主ちゃんを見ながら妖術師さんへと語り掛ける賢者ちゃん。その言葉を反芻するように俯いていた妖術師さんが、くるりと抱えていた吸血鬼君主ちゃんの向きを変え、真っすぐに視線を合わせながら質問を投げかけました。

 

 

「本当に、私のことを護ってくれる? 信じても良い?」

 

「もちろん! このみにかえて……はダメだってやくそくしたから、ぜんいんそろってかえれるようにがんばる!!」

 

「あら? ……主さま、ちゃんと約束は覚えていらしたんですね」

 

 

 自身満々に笑う小さな暴君を見て、毒気が抜かれたように肩を落とす妖術師さん。ですがその顔にはもう緊張や恐怖の色は無く、自然体な彼女になっていますね! そんな2人を見る若草知恵者ちゃんの顔にも余裕が見てとれます。

 

 

 叢雲狩人さんもそうですが、愛の結晶が誕生してから2人とも随分精神状態が安定しているみたいです。一時の強迫観念に囚われているように愛を求めることも無くなり、獣のような交わりも(そういう趣向(プレイ)で無い限り)鳴りを潜めたと地母神さんが言ってましたし。

 

 

「さて、我々もそろそろ出発するのです。王国各地に点在する≪転移≫封じの刻印を壊してまわるのです。それなりの防衛戦力は配置されている筈なので、余力を残しつつ速攻をかけるのです」

 

「良し! それじゃあみんな……ちょっと世界を救いに行こう!!」

 

 

 賢者ちゃんの言葉に全員が頷き、勇者ちゃんの音頭で決意の声を上げる一行。ではそろそろ各組を担当する実況神さんたちをご紹介いたしましょう!

 

 

 

 まずはド派手な戦闘が予想される砦防衛戦ですが……こちらは無貌の神(N子)さんにお願いします! 新たな力を手に入れた叢雲狩人さんの活躍に期待ですね。奥様戦隊に囲まれた女神官ちゃんが、どのような反応を返してくれるのかも期待が持てます。少数の精鋭で大軍を切り崩すというシチュエーションが胸を熱くさせることでしょう!!

 

 

 

 続いて廃都市潜入組、こちらを担当してくださるのは万知神さん! 愛し子である吸血鬼侍ちゃんがメンバーに居ますし、視聴神の皆さんも予想が出来てたかと思います。こちら嗜虐神さんの推しの子が登場するとのことですので、邂逅した時の反応が楽しみです!

 

 

 

 さらに鉱山調査組ですが……おっと、これは予想外! まさかの知識神さん登場です!! 赤く顔を腫らしているのは、至高神さんとのお話し合い(ステゴロ)によるものとの情報が視聴神さんから入っております。≪幻想≫さんの表情を見る限りシークレットゲストの採用にも知識神さんが関わっている気がします。これは予想がつかない話になるかもしれません……!

 

 

 

 最後にボス部屋突撃の我らが吸血鬼君主ちゃんと愉快な仲間たちですが、こちらは引き続き自分が担当させていただき……と言うとでも思っていたのか? 今回はなんと、先日新たに盤外(サークル)へ加入された新()さんにデタラメーズの実況をお願いしたいと思います!!

 

 

 前回のショートセッション(せっしょんその13.5)でシナリオ作成に参加していただき、今回のセッションに繋がるフラグやキーアイテムを考えてくれた彼女、素質は十分に感じられると太陽神さんと破壊神さんの太鼓判も頂戴しております! 天〇のスープ並に濃い面子をどう料理するのか、フレッシュな実況に期待が高まるばかり!! 実況が始まるのが待ち遠しいですね。

 

 

 

 それでは一旦休憩を挟んで、まずは砦防衛戦に参加する奥様戦隊から見ていきましょう! 実況の無貌の神(N子)さん、準備をお願いします!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 





 年内にもう1話くらい更新したいので失踪します。

 前話より間が空いてしまい申し訳ございません。更新出来ていないにも関わらずお気に入り登録してくださった方がいるのを見て、ちょっと短いですがなんとか続きを書くことが出来ました。やはり読んでくださる方がいるのはとても嬉しいですね。

 評価や感想もお待ちしておりますので、お時間がありましたら是非お願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその14-5


 大変お待たせいたしました。年末年始のゴタゴタが片付いたので初投稿です。




 はいどーも! 実況を務めさせていただきます盤外(サークル)でいちばんカワイイN子さんですよー!!

 

 

 前回、各チームに分かれたところからの再会ですね! 私が今回担当するのは砦耐久戦。我らがダブル吸血鬼ちゃんのお嫁さんにして新米ママである妖精弓手ちゃんとその仲間たちが、砦に迫る亡者(アンデッド)飛竜(ワイバーン)の群れをどう料理するのが期待が高まります!! それでは早速一行の様子を確認してみましょうか。覚知神さん、影像をお願いしま~す!

 

 


 

 

「よーく引き付けて……今だ!!」

 

「よっしゃ命中! おい、早く次投げるモン持ってこい!!」

 

「あったよ、丸太が!」

 

「「「「「でかした!」」」」」

 

 

 

 お、これは砦の現在の様子を映したものでしょうか? 押し寄せる骨人(スケルトン)に向かって砦の上に陣取った兵士たちが石や煉瓦を次々に投げつけています。骨人(スケルトン)の特性上、矢や投槍等の刺突攻撃はあまり効果的ではありませんので、打撃属性に近い原始的な投擲で対処しているみたいですね。

 

 

 砦の門を強引に打ち崩そうと槌鉾(ヘビーメイス)刺鉄球(モーニングスター)を装備した骨人(スケルトン)が集まって来たところで数人掛かりで丸太を投げ落とし、バラバラになった骨ごと即席のバリケードを生み出しています。残念ながら砦の中に剣や日本刀は自生して無さそうですが、砦の補修用として保管してあった建築資材を活用して上手いこと攻勢を凌いでいますねぇ。ふむふむ、地上戦力への対処はなんとかなっているようですが……。

 

 

「「「GYAAAAAOSSSSS!!!」」」

 

「ひいいいい!? 飛竜(ワイバーン)が来たあああああ」

 

「デケェ!?」

 

「怖ェ!?」

 

「ちきしょう! 弩砲(アーバレスト)が壊れてなければ……」

 

 

 砦上空を旋回する複数の大きな影。翼に変じた両腕を持ち、全長の半分近くを占める長い尾の先端には毒針があるとも言われている飛翔体は、モブ兵士の言う通り飛竜(ワイバーン)ですね! 硬い外皮に鋭い牙、火に対する備えが無ければ人体を容易く黒焦げにする炎のブレスに加え、自身は炎に対する完全耐性を持つというインチキ相性の持ち主。飛行能力も相まって、精鋭の兵士十数人であっても犠牲を出しながら戦わざるを得ないという戦場の蹂躙者と言える存在です!!

 

 

 投槍や投石では射程が足りず、通常の弓や弩では外皮を貫くことは非常に困難、軍属の戦魔術師(ウォーメイジ)が習得していることの多い≪火矢(ファイアボルト)≫や≪火球(ファイアボール)≫が効かないという点もモブに対して厳しい敵である理由の一つでしょう。彼らの言う通り弩砲(アーバレスト)があれば有効打を与えることは可能ですが、どうやら連戦の間に壊れてしまったみたいです。

 

 

 なんとか砦から引き離そうと兵士たちが矢を射かけたりしていますが、残念ながら有効とは言い難い状況。鬱陶しそうに眼下の兵を睨みつけていた飛竜(ワイバーン)たちの口元からチラチラと炎が漏れるのを見た兵士が顔を引き攣らせています。

 

 

「GURUUUUUU……」

 

 

 おそらくチャージが完了したのでしょう。縦に割れた瞳に残忍な光を浮かべた飛竜(ワイバーン)たちが、滾る炎を喉奥に漲らせた顎を砦へ向かって大きく開き――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――騎兵隊の登場よ!!」

 

 

 ――彼方から飛来した木芽鏃の矢が眼窩から脳髄を深々と貫き、その悉くが地上へと落下していきました!!!

 

 

 

 

 

 

「いやぁ流石は妹姫(いもひめ)様、まさか1人で全部落としてしまうとはねぇ」

 

「ふふん、当然よ! こんな開けた場所だったら目を瞑ってたって外さないわ!!」

 

 

 感嘆の声を上げる叢雲狩人さんに対して、イボイノシシ君が牽く馬車の幌上に陣取りながら薄い胸を張る妖精弓手ちゃん。車内から顔を覗かせていた他の面々も同様の声を漏らしていますね。普段はコメディリリーフ的な役回りの多い2000歳児ですが、決める時はキッチリと決めるあたり歴戦の冒険者であることは間違いありませんね!

 

 

 続けざまに矢を放つ妖精弓手ちゃんを乗せたまま砦の門へと爆走するイボイノシシ君。進路のアンデッドの群れを轢き潰しながら近付いて来る奇怪な一行に兵士たちも唖然としていましたが、妖精弓手ちゃんの薄い胸元に輝く銀の認識票を見て応援の冒険者であると気付いたみたいです。慌てて開門の指示を出そうとする隊長格と思しき男性に対し、幌から身を乗り出した令嬢剣士さんが制止の声を上げました。

 

 

「門はそのままで大丈夫ですわ! 直接お邪魔致しますの!!」

 

 

 戦場に良く響く声を上げた後、妖精弓手ちゃんに目配せをする令嬢剣士さん。妖精弓手ちゃんが頷きを返しイボイノシシ君の背に飛び移るのを確認し、家宝の双剣を煌めかせて牽引の綱を斬り払いました! 同時に車内から飛び出す数人の影。翼を展開した令嬢剣士さんが一番先に車外へと躍り出てきた女騎士さんをお姫様抱っこして上空へと舞い上がり、それを追いかけるように魔女パイセンが女神官ちゃんを豊満なお山に埋もれさせながら続いています。何処からともなく取り出した箒に跨り優雅に飛ぶ姿はまさに魔女。あの箒は名前もそのまま空飛ぶほうき(ブルーム・オヴ・フライング)という魔法のアイテムですね!

 

 

「まったく、みんな少々お転婆さん過ぎないかい?」

 

 

 空へと舞い上がる4人の後、最後に荷台から出てきたの叢雲狩人さん。勢いを失い停止した荷台から涼し気な顔で現れ、イボイノシシ君が作った道の後が残るアンデッドの群れに相対するように門の前に立ちはだかるのを見た兵士たちからは、戸惑いとざわめきの声が滲んでいます。

 

 

「お、おい君たち! 1人取り残されているじゃないか!?」

 

「ふふ、問題ありませんわ」

 

 

 防壁の上に降り立った4人に駆け寄って来た隊長さんがその様子を見て慌てたように話しかけて来るのを苦笑交じりに迎える令嬢剣士さん。下で手を振っている叢雲狩人さんへ優雅に手を振り返しつつ、一行を注視している砦の兵たちに告げたのは、彼らからすればみんなの正気を疑うような言葉です。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、皆さまは一休みしてくださいませ」

 

「んな……!? こんな時に冗談を言っている場合かね!?」

 

「あら、冗談ではありませんわ」

 

 

 詰め寄らんとする隊長を手で制し、七つの切先を持つ魔剣を召喚する令嬢剣士さん。同時に胸元の聖印が輝き出し、不安げに事態を見守っていた兵たちの顔に驚きの色が溢れ出します。

 

 

栄纏神(えいてんしん)の神官は、人界を護らんと奮起する戦士と共にありますわ! それに……」

 

 

 ガチリ、と撃鉄を起こし増援として現れた飛竜(ワイバーン)の群れへと魔剣を向ける令嬢剣士さんの顔には見る者を安心させる自信に満ちた笑み。同時に眼下の戦場から溢れる眩い光と膨大な魔力を指し示し、手に握る武器に力を込める兵に告げるのは……。

 

 

「――今、あそこにいるのは、神代の戦場を駆け抜けた騎士の似姿、その代行者ですのよ?」

 

 


 

 

「ふふ……そんなふうに言われたら、私だってちょっと恥ずかしいのだけどね……」

 

 

 森人(エルフ)の聴覚で令嬢剣士さんの言葉を聞きとり、面映ゆそうに笑う叢雲狩人さん。その装いは今までとは全く異なる姿になっています。

 

 

「エルフのピッチリインナースーツ姿ヤッター! ……アバーッ!」

 

「コワイ!?」

 

「「「「「アイエエエ……」」」」」

 

 

 狩り装束を脱ぎ捨て、その下に着用していた黒いインナースーツの上へと装着されたのは半透明の部分鎧。何処か淫靡さを感じさせる身体にフィットした装甲ですが、それを打ち消して余りある怖気も似たオーラによって、森人(エルフ)の美女を見て歓声を上げていた砦の兵士たちの中にエルフリアリティショックを引き起こした者が続出しています。……失禁しながら倒れる兵士たちに慌てて駆け寄る女神官ちゃんは可愛いですね!

 

 

 イボイノシシ君とその背に乗った妖精弓手ちゃんがアンデッドをひき逃げダイナミックしつつ離れていくのを確認した叢雲狩人さん。押し寄せる亡者へと進み出るその右手には、長槍にも見える長大な火炎放射器(インフェルノ・ナパーム)。カウンターウェイトとして装備された左手の盾と腰部の長剣の鞘には血の十字架マークが刻まれ、背部の燃料供給機構は戦場に漂う魔力や生命の残滓を貪欲に取り込み、右手の殲滅兵器へとエネルギーを送り始めています。

 

 

「「「「「aaaaah……!!」」」」」

 

 

 イボイノシシ君の作った道を埋め尽くし、再び津波のように砦へと迫るアンデッドの軍勢。迎撃しようと投石の構えを取る兵たちを上に登った一行が押し止めるのを確認した叢雲狩人さんが、ゆっくりとその長柄を津波へと向けていきます。砲身内に十分なエネルギーが送り込まれ、襲い掛かる先を求めて暴れようとする彼を艶やかな手付きで撫でる叢雲狩人さん。歓喜に震えるが如く震動する相棒を両手で構えると、力を解き放つための引き金となる真語(トゥルーワード)を唱えました……!

 

 

「さぁ、君の力を魅せてくれ……リベロ(解放)≫!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――砦の兵たちが感じたのは、閃光と熱。

 

 

 眩しさに背けていた目を眼下に向ければ、見目麗しい森人(エルフ)の構えた長柄から伸びる一筋の焔が兵たちの目に飛び込んで来ました。

 

 

 先に巨大な猪が作り上げた道のような……否、もっと恐ろしい光景が、其処には展開しています。500フィート(約150メートル)の火炎舌が左右に振られ、射線上にある全てのものを焼き尽くしていく蹂躙劇。アンデッドも、木も草も、投げ落とされた煉瓦でさえも、その炎の前では区別なく消滅しているのです。兵士たちでは対処するのが非常に難しい相手である、複数の死体が合成させられたような巨大なアンデッド(ファランクス)がその手に持つ槍と盾がなんの効果も発揮せぬまま紅の中へと消えていくのを見て、兵士たちも腰を抜かしてペタンと座り込んでしまっているようです。

 

 

 ……うんうん、流石は破壊神さんと太陽神さんのコラボ超遺物(アーティファクト)! 軍団相手に地形ごと削り取っていく様はまさにMAP兵器と言わんばかりの大活躍ですね!! 下手に破壊すると再生したり新たな駒の材料となりそうなアンデッドを滅却処分、再利用不可な形で倒せるのは対アンデッドに最適な装備と言えるでしょう!

 

 

 原典が持つ超音速移動……は生身が耐えられないので無理ですが、鎧を纏っているとは思えないほどの軽快な動作で敵陣に突入し、全方位を炎の海に変えている叢雲狩人さんの顔には狂気の微笑みが浮かんでいます。ですがそれは蹂躙劇に高揚しているのではなく、鎧から流れ込むソレを感じて自然と浮かぶモノ。彼女の瞳からは鎧自体が持つ殺戮衝動をしっかりと受け止め、狂気の渦に呑まれる事無く共に血染めの道を歩くという強い意志が見て取れます。……鎧に取り込まれないかちょっぴり心配でしたが、どうやら取り越し苦労だったみたいですね!

 

 

 見える範囲全てを焼き尽くしたところで地を舐める火炎舌は担い手の狂気と共に引っ込み、辺りには静寂が訪れています。目の前で繰り広げられた悪夢のような光景の影響でしょうか、未だ兵士たちは呆然自失となっている様子。そんな彼らに声を掛けるのはもちろん我らがヴァンパイアスレイヤーちゃんですね!

 

 

「ええと……皆さん、増援が来る前に負傷者の手当てと補給を行いましょう! 私たちが乗って来た馬車の中にも少ないですが医療品が積んでありますので、開門をおねがいします!!」

 

 

 パンパンと手を叩き、良く通る声で行動を促す女神官ちゃんを見て兵士たちもようやく再起動したみたいですね。傷付いた者を一か所に纏め負傷の度合いによって治療の順番を調整したり、砦内の蔵から運び出した糧食を使って炊事の準備を始める姿は統率が執れています。尽きぬ敵軍に半ば包囲されながらも高い戦意を保っていられたのは、ひとえに金髪の陛下と綺羅星の如き将星の尽力によるものでしょう。

 

 

「ちょっと! 危うくこの子が焼き豚になっちゃうところだったわよ!?」

 

「ブヒィ……」

 

 

 お、頭の上にミニチュアサイズのイボイノシシ君をのっけた妖精弓手ちゃんが、叢雲狩人さんに抱きかかえられて砦の壁外からひょっこりと現れました。壁の僅かな凸凹を足掛かりに駆け上がって来た叢雲狩人さんの体術は、小鬼聖騎士(パラディン)率いるゴブリンの軍勢を殲滅した冬山で吸血鬼君主ちゃんのバフを受けながら見せたものに匹敵する鋭さ。鎧による補助もあると思いますが、ステに依存しない純粋な体捌きでは一党(パーティ)で一番かもしれませんね。

 

 

「いやぁ申し訳ない妹姫(いもひめ)様。思っていた以上にこの子が暴れん坊でね? まるでご主人様たちの魔剣みたいカヒュッ

 

「言わせないわよ!!」

 

 

 ハッハッハと笑いながらセクハラ発言をかます叢雲狩人さんを目にも止まらぬ速さで絞め落とす妖精弓手ちゃん。見れば頭上のイボイノシシ君からはほのかに焦げ臭さが漂っています。どうやら火炎放射の射程を見誤ってローストされかけてたみたいですね。若干涙目になって主である令嬢剣士さんの胸元に飛び込み、よしよしとチリチリになった毛並みを撫でられています。

 

 

 さて、とりあえず差し迫った脅威は排除出来たと思うのですが……そういえば、この砦の責任者は誰なんですかね? あちらで女騎士さんに指揮の巧みさを称賛されている人はあくまで小隊長とかでしょうし、砦全体を掌握しているのはまた別の人のような……お、一行が降り立った外壁に登る階段を上等な装備で固めた部下を率いて駆け上がってくる20代半ばくらいの男性が。灰色の髪に実直そうな顔つき、あれはもしかして……!

 

 

「応援に駆けつけていただき感謝いたします、冒険者の皆さん。これで一息付けそうです」

 

 

 冒険者風情がと侮ることも無く、丁寧な物腰で女性陣に頭を下げる男性。女騎士さんと話していた隊長さんが慌てて敬礼するのを見て、妖精弓手ちゃんたちも彼がこの砦の責任者であると判断したみたいです。あ、女将軍(お姉)さんの関係からか王国の軍にも精通している女騎士さんが、みんなに彼を紹介してくれていますね。やっぱり彼は陛下が信頼する七将軍の1人、7人の中で一番の若手ながらも軍略に長け、特に防衛戦を得意とする"鉄壁将軍"さんでした!

 

 

 

 鉄壁将軍さんの案内で砦内に通された一行。癒しの奇跡が使え、またそれに頼らずとも豊かな医療知識と経験を持つ女神官ちゃんと、応急処置技能を習得している令嬢剣士さん&妖精弓手ちゃんは負傷者の手当ての応援に向かい、一行の暫定頭目(リーダー)である女騎士さんと頭脳担当の魔女パイセン、そして戦闘で疲労している叢雲狩人さんが応接間へと案内されました。

 

 

「アンデッドと飛竜(ワイバーン)、どちらも人の多い場所へ向かう性質があるため、砦外へ打って出ることはせず防衛に専念しておりました。そのため兵の損耗は最小限に抑えられておりますが、矢玉や投石用の礫など物資に若干不安がありますね」

 

「ふむ、となると我々の役目は貴公らの支援よりも敵の殲滅だろうか」

 

「ええ。そちらの彼女のように単騎で戦況を塗り替える力を持っている存在が、皆さまのような冒険者という方々ですから」

 

 

 

 疲労回復用にと出された紅茶と茶菓子を貪り、それじゃお休みとふてぶてしくソファーへ横になる叢雲狩人さんを見て苦笑しつつ、鉄壁将軍さんが現在の戦況を語ってくれています。砦の防壁を利用して上手く敵を誘引していたため死傷者は最小限に留まっているみたいですが、やはり飛び道具の消費は激しいとのこと。次回以降の敵軍に相対する役割は一行が引き受けたほうが良さそうです。

 

 

「わかった。もとより我らは大軍に帯同しての戦闘は不向き。敵将の首狩りと大火力に因る殲滅に専念するのが妥当というものだ」

 

「ふふ……、なんだか、楽しそう、ね?」

 

 

 フンスと頷く女騎士さんを見て、僅かに口元を緩ませる魔女パイセン。当然だと言わんばかりに胸を張り、女騎士さんが言い放つのは……。

 

 

「敵将の首の一つや二つ持って帰らねば、我らを信じて送り出してくれた皆に示しがつかんからな。あと、あ奴に『手ぇ抜いてたんじゃ無ぇのか?』などと言われたら腹立たしいし」

 

「あら、ごちそう、さま。それじゃあ、私も、頑張らないと、ね?」

 

 

 互いに笑みを見せあうおっかない美女2人。鉄壁将軍さんもそんな2人を見て苦笑を浮かべています。……ふむ、どうやら次の敵が現れるまでは時間が掛かりそうですねぇ。ちょっと他の組の様子を見てみましょうか。……お、どうやら知識神さんが担当の鉱山調査組のほうで動きがあるみたいです! 知識神さーん、そちらの状況はどうなってますかー?

 

 


 

 

 ――はい。こちら鉱山調査組、実況担当の知識神です。

 

 

 ≪転移≫の鏡にて至高神さんを祀る神殿へ向かった女魔法使いさんと剣の乙女さんを待っていたのは、予想通り聖騎士君と至高神の聖女さんでした。現在4人は水の街を出て進路を北へ、目的地である鉱山へ向かって飛行中です。飛行に適したあの頃形態(ロリモード)の剣の乙女さんが聖騎士君を後ろから抱きしめる体勢で飛行し、その後を至高神の聖女さんをお姫様抱っこした女魔法使いさんが追随している形ですね。

 

 

「いやぁ、まさかこんな軽々と持ち上げられるなんて……いちおう俺フル装備なんですよ?」

 

「ふふ、吸血鬼は力持ちなんです。あ、もっとしっかり掴まらないと落ちちゃいますよ? ……よいしょっ……と」

 

「ふぉぉ……っ!」

 

 

 白銀の甲冑に例の籠手(ガントレット)、腰には強化クラブ(釘バット)を下げた聖騎士君が、肌が触れ合いそうなほどに間近に感じる剣の乙女さんから漂う甘い香りに悶えています。もぞもぞと動く彼を優しく窘め抱え直す剣の乙女さん、彼女にその気は無くとも思春期真っ只中な青少年には少々刺激が強いみたいですね。そんな男の子のドギマギを凄い目で見ている少女が1人……。

 

 

「あンの馬鹿、だらしなく鼻の下伸ばしやがって……ッ! 先輩に厭らしい目を向けるんじゃないわよ!!」

 

「はいはい、信徒に見せられない顔になってるわよ聖女サマ? あの子にお山が当たるのを警戒して、先に私へ跳び付いて来たのはあんたでしょうが」

 

「う~……。それはそうですけどぉ……」

 

 

 可愛らしい嫉妬を見せている至高神の聖女さんを見て、やれやれと首を振る女魔法使いさん。むにゅっと自慢のたわわを押し付け、おっぱい乙女がエロエロ大司教姿じゃなくて良かったわねぇと続けています。あれはちょっと洒落にならない破壊力ですし、そんなサービスしようものならダブル吸血鬼ちゃんが黙っていないのでは?

 

 

「それに、あんただって出るとこ出てきてるじゃない。ちょっと前だったら着れなかったでしょ、そんなエロい衣装」

 

「いや、エロいって……。これ、正式な大司教の法衣なんですよ?」

 

「おっぱい乙女も昔はあんなふうにぺったんこだったみたいだし、もしかして身に着けると成長するのかしら、そのエロ装束」

 

「だから、エロって言わないでください!?」

 

 

 たしかに。見れば至高神の聖女さんが身に着けているのは、剣の乙女さんのトレードマークにもなっているエロエロ法衣じゃありませんか。スレンダーな女性が身に着けたら色々見えてしまって大変そうな格好ですが、以前に比べてグッと女性らしいプロポーションになった至高神の聖女さんは見事に着こなしています。剣の乙女さんよりも背が低く、まだ微かに少女の趣を残しつつも、胸部の薄布を押し上げるお山はなかなかのサイズです。令嬢剣士さん以上叢雲狩人さん未満くらいのお山は未だ発展途上。これからの成長に期待です(じゅるり)。

 

 

 

 おっと、少女の成長に感じ入っている間に目的地が近付いてまいりました。地表からは草木が少なくなり、ごつごつした岩が目立つようになってきました。進む先には表面に細い道を刻みつけた鉱山が見えて来ましたね。山肌を削って作られた切通は馬車同士がギリギリすれ違える程度の狭いもの、足を踏み外したら大怪我間違いなしです。

 

 

 鉱山で採掘された鉱石はあの道を通って製錬所へと運ばれ、また(強制)労働者の必要物資を輸送するのにも使われる道ですね……と、談笑していた4人の雰囲気が変わりましたね。どうやら鋭い知覚を持つ吸血鬼2人が何かに気付いたみたいです。

 

 

「これは、血の匂いですね……」

 

「荒い息遣いに、人の声も……! あそこ、荷馬車が襲われてるわ!!」

 

 

 女魔法使いさんの指し示す先、恐らく行き違い用に整備された山の中腹にある小さな平地に、1台の荷馬車が横転しています。運んでいた食料や日用品が散乱し、御者と思われる2つの人影が身を隠すように斜面に伏せ、道の縁から様子を窺っているのは……。

 

 

 

 

 

 

「GU……GAHU……」

 

 

 頭部を潰され、未だ痙攣している馬と、その身体を貪る1匹の飛竜(ワイバーン)。新鮮な肉に夢中になっている飛竜(ワイバーン)を見て、片方の人影が身を乗り出そうとしてもう片方に抑え込まれていますね。

 

 

「俺の愛馬が!?」

 

「馬鹿! 刺激するんじゃないわよ!!」

 

「あいつを買うのに年収の五分の三もつぎ込んだんだぜ!? それをあんな風に餌にされて、黙って見ていられるかよ!」

 

「だからって、そんな山刀1本でどうしようっての!? あんなデカブツの前じゃ()()()()()()と同じで役に立つわけないじゃない!! それよりも、あの子が食べられてる間に逃げないと……」

 

「あ、ヤバ。目が合った」

 

 

 食事の邪魔をされたことに腹を立てたのか、馬から口を離し人影へと顔を向ける飛竜(ワイバーン)。逃げられないと悟ったのか、()()()()()()()が腰の山刀を抜きながら前へと進み、()()()()()()()()()()を庇うように相棒を飛竜(ワイバーン)に向かって突き付けています。

 

 

「GAAAH……」

 

 

 そんな2人の態度が気にくわなかったのでしょう、目を細めた飛竜(ワイバーン)が身体ごと2人へ向き直り、血と唾液に塗れた顎を大きく開きました。周囲に撒き散らされる腐臭と硫黄の臭いに顔を顰めながらも逃げようとしない2人を見て、新たな肉を得んとばかりに咆哮を上げ――。

 

 

 

 

 

 

「マナーがなってないわね。汚く喰い散らかしてんじゃないわよ」

 

「GYA!?」

 

 

 横から突っ込んで来た女魔法使いさんの膝が横っ面に叩き込まれ、そのまま山肌へと叩きつけられました!

 

 

 巻き上がる砂埃の中で、頭を振りながら立ち上がる飛竜(ワイバーン)、食事の邪魔をした乱入者を怒りに満ちた目で探しています。視界を遮る土煙を撒き散らそうと振り回す尻尾が突然動かなくなり、不意に身体が宙へと浮かび上がったその直後……。

 

 

「GAAA!?」

 

 

 凄まじい力で振り回され、再び山肌へと叩きつけられた飛竜(ワイバーン)。連続で受けた衝撃によって立ち上がれなくなった彼の知覚に突然舞い込んできたのは、自分のものとは違う硫黄の臭いと、寒気を覚えるほどの死の気配。

 

 

 霞む目で見上げる先には、鈍い輝きを放つ先端を彼の頭部に向け、弓を引き絞るような構えをとる1匹の人間……否、身に纏う血臭は決して人間が持つものでは無いと彼は気付きました。圧倒的な死の気配が集まる切先が、彼の頭部に狙いを定め……。

 

 

ラディウス(射出)

 

 

 一際強い衝撃を最後に、強欲な飛竜(ワイバーン)の意識は永遠に絶たれました。

 

 

 

 

 

 

「な、なぁ。今飛び込んで来たのって……」

 

「たぶん、人だったような……?」

 

 女魔法使いさんが投げ渡した至高神の聖女さんも一緒に抱えて剣の乙女さんが降りて来たのにも気付かず、ドカン!という大きな音を最後に静まり返った土煙を恐る恐るといった様子で眺める男女。やがて赤熱化した杭打ち機(パイルハンマー)片手に姿を見せた女魔法使いさんの姿を見て、2人の顔が驚きの色に染まっています。

 

 

「うーん、もうちょっと威力は絞っても良さそうね……あ。そこの2人、大丈夫? 怪我とかは……!」

 

 

 首を捻りながら土煙の中から現れ、助けた2人に視線を向けた女魔法使いさんの顔も驚愕の表情に変わっていますね。……フフ、まさかお互いこんなところで再開するとは思ってもいなかったことでしょう。心折れ、冒険者を辞めた者と、冒険を続け、そして人の道から外れた者の再会。果たしてそれは互いの生き方にどんな影響を与えるのか。実に興味深いものです……。

 

 

 

 

 

 

「まさか、こんな形で会うことになるなんてね。……これも、アンタたちの差し金かしら?

 

「嘘……なんで……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつは全然成長してないのに、デカ過ぎんだろ……」

 

「わかる」

 

「あらあら……」

 

 

 

 

 

 

「「「死ね!!」」」

 

 

 

 

 

 ……ええと、今回はここまでです。ご視聴、まことにありがとうございました。

 

 


 

 

 あの、私、彼らの再開はもう少しシリアスになると思っていたんですが?

 

 え? そういうのはお腹いっぱいだから、今シーズンは頭空っぽで進行?

 

 ええ……? いや、まあ、良いですけども。

 

 ……でも、そういうことなら、期待して良いんですよね?

 

 ダブル吸血鬼ちゃんの濃厚な眷属作り(意味深)とか、ママ森人(エルフ)たちとの甘々夜会話(意味深)とか。

 

 あ、でも一番興味深いのは嗜虐神さんの推しの子がどんな色に染まっていくのかですね! 私、気になります!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 勢いを失う前に続きを書きたいので失踪します。


 なんとか年を越すことが出来ました。本年もダブル吸血鬼ちゃんとその仲間たちの冒険を楽しんでいただければ幸いです。

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セッションその14-6

 水道や玄関前が凍ったりしていたので初投稿です。




 前回、かつて冒険を共にした仲間と再会したところから再開です。……激うまギャグではありませんから。

 

 

 眼前のたわわを見て口を滑らせてしまった元青年剣士君と、うっかりそれに同調してしまった聖騎士君の2人。パートナーに力いっぱいビンタされた挙句女魔法使いさんから拳骨を貰い、真っ赤な頬にたんこぶをこさえて焼け焦げた飛竜(ワイバーン)の隣で正座させられております。故郷に帰ってからも鍛錬は続けていたのでしょう、腰の入った良いビンタを元女武闘家さんは披露してくれました。

 

 

「思い出話に花を咲かせたいところだけど、それは後回しにしましょう。2人は仕事で来ていたのかしら?」

 

「んぐ、んぐ……ぷはっ。うん、故郷に戻ってから2人でお金を貯めて、運送業を始めたの。軍の兵站では賄われない嗜好品や、定番外の品物を運ぶ隙間狙いの仕事ね」

 

 

 女魔法使いさんが差し出した革袋を受け取り、薄めた葡萄酒を美味しそうに飲み干す元女武闘家さん。口元の水滴を指で拭いながら、此処を訪れていた理由を話しだしてくれました。

 

 

 辺境の街を去る際、武具店の店主(じいじ)に装備を買い取ってもらい、それを元手に驢馬を購入。ダブル吸血鬼ちゃんたち一行が雪山で手に入れた莫大な貴金属を元手に整備された街道の恩恵もあり、運送業の需要は急速に拡大していたらしく従業員2人の零細であっても引く手数多だったそうです。

 

 

 その利益を元に乗用馬や馬車を揃え、運べる量が増えたところで軍の兵站統括の目に留まり、半ば軍の御用聞きみたいな待遇で仕事を請けるようになったとか。地下帝国……もとい、強制労働の場である鉱山への荷運びもその中の一つだったみたいですね。

 

 

「今まではアイツ1人でこなしてたんだけど、最近荷物の量が増えてきたの。()()()()()()()()()()()()()()()()()、あたしも復帰したんだけどね~」

 

「……()()()? ってことはもしかして……」

 

 

 驚きを隠せない様子の女魔法使いさんに、はにかむような笑みを見せる女武闘家さん。ふふんと形の良い胸を張りながら疑問に答えを返しました。

 

 

()()()の夜戦で一発命中して、今じゃ二児の母親よ? 女の子と男の子がひとりずつ、とっても可愛いんだから!」

 

 

 なんと、元青年剣士君もやりますねぇ。冒険という生と死の狭間の危機を体験して、生殖本能が高まっていたのでしょうか? 生々しい男女の話題を聞いて至高神の聖女さんの耳がダンボになってます。隣の聖騎士君から向けられる畏敬の念の籠った視線に居心地悪そうに身じろぎしている元青年剣士君でしたが、お仕置きタイムが終わったと判断したのか正座を崩しながら肩を落とし、何事かぼやいているようです。

 

 

「アイツらのために気張って稼ごうと思って、大枚はたいて買った愛馬が……痛ッ!?」

 

「命あっての物種でしょ、また最初からやり直すだけよ!」

 

 

 しょぼくれていた元青年剣士君の尻を蹴り上げる元女武闘家さん。大切な資産である馬と馬車を失ってなお明るい表情で笑える気丈さ、そんな2人を見て一行の顔にも笑みが浮かんでいるようです。やはり、母は強しということでしょうか。

 

 

 

 

 

 

「――さて、そろそろ今後についてお話しいたしましょうか」

 

 

 一頻り笑いあった後に口火を切ったのは剣の乙女さんでした。周囲に散らばる荷物から察するに、夫婦は鉱山へと向かう往路で飛竜(ワイバーン)と遭遇したみたいです。移動手段と装備を失った2人の安全を考えるならば人里まで送るのがベストですが、鉱山の状況が不明な現在一旦引き返すのは避けたいところ。そうなると採れる手段はやはり……。

 

 

「おふたりに同行して頂くのがいちばん良いよね……?」

 

「まぁ、そうするしかないわよねぇ」

 

 

 申し訳なさそうに言葉を紡ぐ至高神の聖女さん、隣でうんうんと聖騎士君も頷いています。彼女の言葉を継ぐように女魔法使いさんが、かつて冒険を共にした2人へと向き直りました。

 

 

「悪いけど、あなたたちを人里まで送る時間は無いわ。私たちと一緒に鉱山へ同行するか、それとも此処で別れるか――」

 

「一緒に行くわ。あそこには顔見知りの兵隊さんもいるし、徒歩で帰っている間にまた飛竜(ワイバーン)と出遭ったら今度こそ間違いなく腹の中だもの」

 

 

 ――選んで頂戴、と言いかけた女魔法使いさんの言葉を遮るように、決意を口にする元女武闘家さん。同じ考えなのか、隣で元青年剣士君も大きく頷いています。

 

 

「足手纏いにはならないなんて言えないけど、自分のくらい自分で守ってみせる。だから、お願い!」

 

「俺も、自分とコイツの面倒は見るよ。それ以上は……あんま期待しないでくれると嬉しいかも」

 

 

 2人の目には決して退かないという強い意志が見えますね。これなら鉱山で何か起きていたとしても心折れずに立ち向かうことが出来るかもしれません。

 

 

「わかったわ。……それじゃあコレを持ってなさい」

 

「貴方にはこちらを。山刀よりは扱いやすいと思いますわ」

 

 

 おや、女魔法使いさんが身に着けていた火竜の革手袋を元女武闘家さんに手渡しています。元青年剣士君には剣の乙女さんが腰に佩いていた太陽の直剣を差し出していますね。ほぼほぼ丸腰だった2人にとっては有難い申し出でしょう。

 

 

「うわ、軽くて付けてないみたい!」

 

鎖帷子(チェインメイル)くらいなら簡単に引き裂けるから、いざという時はそれで凌いで頂戴?」

 

「こっちの剣も凄いな……! あ、でも俺たちがこれを使っちゃって、2人は大丈夫なのか?」

 

「御心配には及びませんわ。もう一振りありますので」

 

 

 かつて振るっていた鋼の剣、そして先程まで握っていた山刀とはまるで違う握り心地に顔を綻ばせる元青年剣士君。目の前で嫋やかな笑みを浮かべている小さな女の子……剣の乙女さん(あの頃形態)に心配そうに疑問を投げかけ、続いて取り出されたレイテルパラッシュに目を丸くしています。まぁ見た目可憐な少女が魔法の武器と思われる剣を二振りも持っているとは思いませんよね。

 

 

「私も問題無いわ。赤熱化させないで鈍器として扱うなら手袋は要らないし、それに……」

 

 

 革手袋を嵌めてシャドーボクシングをしながら見つめてくる元武闘家さんに対し、ウインクを返す女魔法使いさん。キョトンとした顔の彼女の前で外套のように折りたたんでた翼を展開し、たゆんとたわわを揺らしながらポーズを決めて……。

 

 

「私、今吸血鬼やってるからすっごい力持ちよ? あ、そっちの小っちゃい子もね」

 

 

 あーあー、2人の目が点になってますよ女魔法使いさん・・・・・・。

 

 


 

 

「それじゃあ、噂は本当だったんだ・・・・・・」

 

 

 ぽてぽてと山肌の細道を進む一行。先導する元青年剣士君の頬は両方に紅葉マークが付いています。突然の吸血鬼カミングアウトの際、証拠として剣の乙女さんが大司教形態に変身した時に思わず「デッッッッッ」と漏らしてしまったからですね。まぁ、あれは不可抗力でしょう。誰だって言っちゃいます、私だって言っちゃいます。あ、聖騎士君は何とか耐えきったみたいです。至高神の聖女さんによる日頃の教育の賜物でしょうね。

 

 

「噂って、どんなのかしら? 割と興味あるんだけど」

 

 

 元女武闘家さんの言葉に食いついたのは女魔法使いさん。冒険者や王国関係者ではない、一般の人々の間で自分たちがどのように語られているのか気になるみたいですね。おや、至高神の聖女さんと聖騎士君はなにやら曖昧な笑みを浮かべています。もしかして2人は神殿を訪れる信徒から聞いたことがあるのでしょうか? ええと、怒ったり呆れたりしないでね? という前置きの後に元女武闘家さんの口から語られたのは、何処かの道化師(フラック)によって面白可笑しく誇張されたダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の逸話の数々でした……。

 

 

 

 

 

 

◆辺境の街のギルドでは、あの怖ろしい吸血鬼が冒険者として活動している。

 

一党(パーティ)の面子は皆見目麗しき美女美少女ばかり。可憐な森人(エルフ)を何人も傅かせ、気に入った只人(ヒューム)は自らの眷属にして、永遠の美貌を報酬に自分への忠誠を誓わせている。

 

◆低能な者が大層嫌いで、ゴブリンやオーガといった混沌の種族、それに野盗や騎士崩れを見ると何処までも追いかけて根切りにする。

 

◆ギルドの幹部はすでに篭絡され、自らのシンパを増やすべく私兵集団の育成を始めた。

 

◆あの辺境三勇士を手玉に取り翻弄した挙句、その妻に手を出した。

 

◆餌となる人間を効率よく育てるために土地を買収し、人間牧場を開設した。これにはあの【辺境最優】も一枚噛んでいる。

 

 

 

 

 

 

 ……いやぁ、元女武闘家さんの口からとめどなく列挙されるダブル吸血鬼ちゃんの武勇伝(?)。元青年剣士君以外は皆一様に口元を押さえ、肩を震わせています。

 

 

「――とまぁ、春に王様の名前で正式に【辺境最悪】の存在が認められるまでは、こんな噂ばかりだったわ。……って大丈夫? ほかのみんなも……」

 

 

 

 

 

 

「も、もうダメ……私耐えられない……ッ」

 

「頑張れ! 此処で吹き出したら後で何されるか判ったもんじゃ……ッ」

 

 

 

 

 

 

「2人とも、我慢しなくていいわ。……どうやら世間で噂になっている【辺境最悪】の頭目(リーダー)は、『身の丈6フィートを超える銀髪紅瞳の偉丈夫で、人を人とは思わないほど傲岸不遜でどうしようもないほどの好色家な()らしいじゃない。もしそんな煌びやかで格好良い吸血鬼がいるってんなら、是非ともウチの頭目(リーダー)に逢ってもらいたいわねぇ。……絶対に嬉々として殺しに掛かるでしょうから」

 

 

「「ブフッ」」

 

「……ええ、間違いありませんわね……ッ」

 

 

 

 もう耐えられないとばかりにおなかを抱えて笑い転げる若人2人。その横では剣の乙女さんも目に涙を浮かべながら肩を震わせています。まるで死灰神の使徒のよう(ぼくのかんがえたさいきょうのきゅうけつき)な容貌に女魔法使いさんの口元もプルプルと震えています。……これ本人たちが聞いたらどうなっちゃうんでしょうか。真っ赤な顔になって怒るのか、それとも虚無顔になってしまうのか。実に気になります。

 

 

「えっと、2人を眷属にした吸血鬼っていうのは、あの小っちゃい子よね? ……あの子って男の子だったの?」

 

「あー……。それに関しては後のお楽しみにしとくわね。今は調査のほうに集中しましょ? ほら、アレが兵の詰め所じゃないかしら」

 

 

 当然湧き上がってくる元女武闘家さんの疑問に対し、頬をヒクつかせながら誤魔化しにかかる女魔法使いさん。まさか2人に増えた挙句()()()()()()()()出来るなんて、日が昇っているうちには言えませんものね。それ以外の噂もやっかみや誇張表現はあれどだいたいあってるのがポイント高いです。陛下が布告を出してくれたのは丁度良いタイミングだったのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 そんな感じでやって来ました地下帝国(鉱山)の入り口。山肌にへばり付く様に兵士たちの居住施設が設けられ、その奥に脱走防止用の鉄条網や柵に囲まれた労働者の生活空間が広がっていま……()()

 

 

「これは……」

 

「ひどい、みんなが暮らしてた家が滅茶苦茶じゃない……!?」

 

 

 本来は兵たちが昼の疲れを癒し、温かな食事や心休まる余暇を過ごしていたであろう施設は無残に破壊され、あちこちから火の手が上がっています。掲げられていた王国旗は赤黒い塗料によって邪神の聖印(シンボル)が上書きされており、まるでこの地が王国の統治から外れた場所であると主張しているかのよう。そして何よりも一行の目を釘付けにしているのは――。

 

 

「aaa……」

 

「ah……」

 

「ooooo……」

 

 

 ――死体と成り果てて尚、生者の温もりを求めて彷徨う兵士だった者たちの無残な姿と、それを遥かに超える数のかつて兵士だった部品が散らばる惨状でした。

 

 

 目の前に広がる地獄絵図に言葉を失ってしまった元冒険者の夫婦。呆然と立ち尽くす2人を神殿カップルが介抱する横で、眷属の2人がある方向を冷たい目で睨みつけています。鋭敏な吸血鬼の聴覚に入ってきたのは、いつか聞いたことのある粘着質な男たちのイヤらしい笑い声です……。

 

 

「ギャハハ……! 見たかよ連中の情けない顔、同僚に食いつかれてもまだ『しっかりしろ』なんて言ったやがったぜ!!」

 

「それで自分が死人になって仲間を喰らってんだから、面白いったらありゃしないぜ!」

 

「圧倒的……ッ! 圧倒的優位性……ッ!!」

 

「おいおい、喰いかけはしっかりとバラシとけよ? これ以上従僕が増えても面倒臭ェからな」

 

「チッうっせーな。判ってんだよンな事は! ……おいどうした、急に黙りやがって」

 

 

 騒々しい足音がピタリと止まり、次の瞬間駆け出すように近付いて来る足音。只人の耳にも届くほどに五月蠅い声が辺り一面に響き渡り、一行が警戒を強める中、ひとつの人影が一行の前に転がり出るように飛び込んで来ました!

 

 

 

 

 

 

「女ァ……! あたたかい血の通った、女の匂いだぁ……!!」

 

 

「……ッ」

 

 

 ……飛び込んで来た者の姿を見た至高神の聖女さんの顔が怒りと驚愕に歪んでいるのは当然と言えるでしょう。自分が裁き、この地へ追いやった元冒険者が、変わり果てた姿で現れたのですから。同じく男の顔を確認した女魔法使いさんと剣の乙女さんの表情は能面のように無を保っています。これは怒りのあまり無表情になってしまったパターンですね……。やがて男の後を追うように死人を引き連れて現れたのは――。

 

 

「テメェ、いきなり走り出してナニ考えて……!!」

 

「オイオイオイ、こんな所でボーナスキャラかよ! やっぱ俺たちツイてるぜ!!」

 

 

 ――()()洞窟で吸血鬼君主ちゃんや剣の乙女さんを穢そうとし、男の象徴をミンチに変えられた3人組。そして彼らと纏めて一緒に地下帝国送りにされた屑冒険者(福本モブ)たちの、口元や手をどす黒い血で染めた悍ましい姿でした。

 

 

 

 口元を血に染め、()()()()()()兵士の腕を放り出しニヤニヤと笑う男たち。視聴神の皆様はお察しかと思いますが、彼らは既に人の身から逸脱しているようです。白目が真っ赤に染まり、どろりと蕩けたような瞳で一行を睥睨すると、女魔法使いさんに指を突き付けながら口を開きます。

 

 

 

「あン時は随分と世話になったよなぁ! たっぷりと礼をさせてもらうぜ?」

 

「俺たちは生まれ変わった! ()()()()()()()()()()()()()吸血鬼(ヴァンパイア)様になァ!!」

 

「抵抗は無意味……ッ! そのあたたかな肉を差し出すのが最善手……ッ!」

 

「まァ肉を喰らう前に、別の意味でも喰わせてもらうけどな! 覚悟しろよぉ?」

 

 

 

「嘘だろオイ……!? こんな数の()()()なんて相手に出来るわけないだろ……?」

 

 

 牙を剥き出しにするような笑みを浮かべ、一行の女性たちを貪らんとにじり寄る屑冒険者(福本モブ)だったものたちの視線から奥さんを庇うように進み出る元青年剣士君。しかしその手に握る太陽の直剣はカチカチと震え、切先はブレてしまっています。肩越しに感じる元女武闘家さんの恐怖を孕んだ視線を受けて、何か手はないかと周囲に目を向けています。

 

 

「ね、ねぇ。逃げなきゃ……! いくらみんなが凄腕でも、あんな数の()()()相手じゃ……」

 

 

 元青年剣士君の影に隠れるように身体を竦め、イヤらしい視線から逃れるように身を捩る元女武闘家さん。一向に動こうとしないかつての仲間とその連れに撤退を促しながら目を向けると、そこには……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吸血(ヴァンパイ)()……?」

 

「えっと、何かの冗談だよね、きっと」

 

「……いや、あの顔は本気でそう思ってるって」

 

 

 まぁ、知っている人はそういう反応になりますよね……。剣の乙女さんは無表情から困惑を隠せない顔へと変わり、神殿カップルは彼らを必死にフォローしようとしています。そしてもう1人、いちばんおっかない子が残っています。

 

 

「へへっ……それにしても()()()の身体ってのは良いモンだなぁ。力も強くなったし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「そうだ、女どもは土下座して頼んできたら眷属にしてやっても良いぜぇ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あの餓鬼みてぇな()()()より、俺たちに吸われるほうが良いに決まってるだろ。常識的に考えて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ニコッ)」

 

 

「ひっ!?」

 

 

 ドヤ顔を見せている自称吸血鬼の屑冒険者(福本モブ)を眺め、満面の笑みを浮かべている女魔法使いさん。直視してしまった元女武闘家さんが悲鳴を上げてしまうほどの表情のまま、ニタニタと下卑た笑みを浮かべている眼鏡重戦士だったものへと問いを投げかけました。

 

 

「ねぇ。ひとつ聞きたいんだけどいいかしら?」

 

「あ? 命乞いならもうちょい後にしな。テメェだけは嬲り尽くしてから喰ってやるからよ!」

 

「アンタたち、吸血鬼になったのよね?」

 

 

 何当たり前なこと聞いてんだ? という侮蔑の表情を隠さず女魔法使いさんをねめつける元眼鏡重戦士。剣の乙女さんと神殿カップルが固唾を呑んで見守る中、知識判定に成功した者にとっては当然の、そうではない者にとっては困惑の言葉を紡ぎます……。

 

 

 

 

 

 

「なら、なんで血を吸わないのかしら」

 

 

 

「「「……は?」」」

 

 

 投げかけられた言葉の意味が判らず、呆けた様子の自称吸血鬼たち。元青年剣士君と女武闘家さんの2人も同じような顔をしています。一方知識判定に成功した面々は「ああ、やっぱり……」という顔をしていますね。

 

 

「吸血鬼は、その名の通り他人の生命を糧とする存在。不死を維持するために必要なのは血に代表される生命力の源であって、決して対象の肉体を飢えた野良犬のように食い散らしたりなんかしないわ」

 

 

 辺りに散らばる兵士の部品を見回しながら滔々と語る女魔法使いさん。彼女の言う通り、吸血鬼はその身体の維持に物質的なモノを必要とせず、血などを媒介に対象の生命力を吸っています。まぁダブル吸血鬼ちゃんの場合、みんなのおっぱいが同様の役割を果たしているみたいですけど。ごはんを食べたりもしていますが、あれはあくまで嗜好品であり、身体維持とは関係ないものですからね。

 

 

「肉ごと血を取り込んでいるのかと思ったけど、乱暴に引き千切られた兵士の死体からその可能性は低いわね。どの部品も傷口から血が溢れているもの」

 

「それに辺りをうろついているアンデッド。アンタたちはアレを自分たちが生み出した従僕と思ってるみたいだけど、あれは只の屍人(ゾンビ)。吸血鬼の僕じゃないわ」

 

「だ、だったらなんだっていうんだよ!?」

 

 

 つまり、アンタたち以外の誰かが創り出したものね、と冷たく吐き捨てる女魔法使いさんの言葉を受け、耐えかねたように悲鳴にも似た怒鳴り声を上げる元冒険者の哀れな存在達。女魔法使いさんからのアイコンタクトに気付いた至高神の聖女さんが、彼らに真実を突き付けます……。

 

 

「貴方達は、邪悪な魔術師によって儀式の生贄として殺され、その後死霊術により仮初の不死を与えられただけの……」

 

 

 

 

 

 

「貴方達が従僕扱いしている彼らと同じ、ただの新鮮な屍人(フレッシュゾンビ)です。決して、吸血鬼(ヴァンパイア)なんかじゃありません」

 

「……てか、本当に吸血鬼(ヴァンパイア)だったら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「そもそも、私たち2人が吸血鬼稀少種(デイライトウォーカー)と気付けない時点で……。少しでも不死の気配(オーラ)が感知出来れば判ると思うのですが」

 

 

 残酷な宣告を行う至高神の聖女さんに続く様に、冷静なツッコミを入れる聖騎士君。剣の乙女さんも頬に手を添え、ほう……と溜息を吐いています。

 

 

「えっと、イマイチ理解できないんだけど、つまりどういうこと?」

 

「あー……なんだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 先刻までの取り乱しっぷりは何処へやら、首を捻り捻り頭上に疑問符を浮かべる元女武闘家さんを庇いながら、誰にでも理解できる結論を口にする元青年剣士君。その単純明快な言葉は当然のように()()の耳へと到達し……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ああああああアあああああああAああああああああああああアああああああああ唖あああああああああああああアああああああ嗚呼ああああああああああAああああああああああああ唖あああああああ!?!?!?」」」」」

 

 

 

 

 散々自分たちを馬鹿にしてきた(と思い込んでいる)人間を捕食する存在となったという快感や、死を克服した存在へと変貌したことによる優越感。そういった彼らの増長した自我を支えていた支柱が完全に崩れ去り、残ったのは外法によって死体を喰らう怪物に成り果てたという変わらない現実だけ。彼らの貧弱な精神はそれを認めることが出来ず、その魂ごと不定の狂気へと堕ちてしまったようですね……。

 

 

 肥大したプライドによって辛うじて残っていた人格は風前の塵芥のように吹き飛び、残ったのは終わりなき飢えと温かく柔らかな肉を求める獣性のみ。一行を取り囲むように集まって来た屍人(ゾンビ)と何も変わらない、決して満たされぬ食欲のみで動く存在へとなった彼らにもはや語ることは無いでしょう。溢れる涎を拭うこともせず、大きく口を開き駆け寄って来る屍人(ゾンビ)に対し、一行がそれぞれの武器を構え、迎撃の体勢に入りました!

 

 

 人間性を喪失した亡者の群れと戦闘に入ったところで、今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました。

 

 

 




 お年玉にPSONEとPSPとワンダースワンカラーと3DSとメガドライブとセガサターンとネオジオミニを頂いたので失踪します。RTA(真)が捗りそうな予感……!


 評価や感想、いつもありがとうございます。読んでくださった方から反応が返ってくると、もりもりやる気が上がります。

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セッションその14-7

 車のドアが凍結して開かず、遅刻しかけたので初投稿です。

 日間ランキング効果でUA140000、お気に入り登録が4ケタとなりました。ありがとうございます。なるはやで更新したいなぁと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。



「「「「「オ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァァァァァァ!!」」」」」」

 

 

 おっと失礼、再開前の音量調整を忘れておりました……こほん。前回、自分を吸血鬼だと思いこんでいた一般屍人(ゾンビ)と戦闘になったところから再開です。

 

 至高神の聖女さんによる情け容赦の無いマジレスによってなけなしの人間性(ヒューマニティ)を失い、身も心も亡者へと堕した屑冒険者(福本モブ)の成れの果てである新鮮な屍人(フレッシュゾンビ)たち。彼らの叫び声に釣られて集まって来た熟成された屍人(ノーマルゾンビ)とともに一行を十重二十重と包囲しようとしています。通常であれば食欲に支配された彼らが狙うのは血の通った温かな肉を持つ生者。それが柔らかければなおヨシ!という感じで、至高神の聖女さんと元女武闘家さんが狙われる筈なのですが……。

 

 

「あの屑ども、どうみても私たちを見てるわよねぇ……」

 

「ええ。もしかしたら吸血鬼に対する羨望と嫉妬の感情が残っているのでしょうか?」

 

 

 女魔法使いさんと剣の乙女さんが呟くように、新鮮な屍人(フレッシュゾンビ)たちの赤く蕩けた瞳は2人に狙いを定め、その魅力的な肢体を貪らんと今にも跳びかかって来そうです。……どちらも死体なだけに。

 

 

「こいつら以外はそっちの女2人を狙ってくるでしょうから、まず相棒の護りを最優先に考えなさい。噛みつきだけじゃなくて、爪にも毒がある可能性があるから攻撃を喰らうんじゃないわよ?」

 

「わ、わかった!」

 

「アンタも気を付けなさいよ!」

 

 

 眼前の屍人(ゾンビ)の群れから目を逸らさぬまま、半ば巻き込まれた状況の元冒険者の2人に声を掛ける女魔法使いさん。太陽の直剣を構える姿がなかなか様になっている相棒を何処か懐かしそうに見た後に、元女武闘家さんが竜革の手袋に包まれた拳を構え、屍人(ゾンビ)たちの動きを注視しています。

 

 

「――え、でもそれじゃお二人が……むぎゅっ!?」

 

「フフ、心配してくださってありがとうございます。でも大丈夫ですよ、思いっきりやっちゃってください」

 

「……ぷぁっ。うう……判りました。……ってちょっと、ナニ鼻の下伸ばしてんのよ!!」

 

「グワーッ!」

 

 

 おや、大人形態な剣の乙女さんのほうは何事か至高神の聖女さんに伝え、むぎゅっとその顔をたわわに埋もれさせて反論を封じ込めているみたいです。しばらく手足をジタバタさせていた至高神の聖女さんですが、たわわから顔を大きく息継ぎをした後に仕方なさそうに頷いてますね。

 

 ……あ、横で鼻を抑えていた聖騎士君の鎧の隙間から天秤剣の柄を捻じ込んで悶絶させています。同じ神殿の先輩後輩による濃厚な百合を目撃してしまったのですから仕方ありませんね。崩れ落ちた聖騎士君が粉砕剣1/6(カシナート)を杖代わりに立ち上がるのをジト目で見た後、至高神の聖女さんが奇跡を乞い願う詠唱を始めました……!

 

 

「裁きの(つかさ)、天秤の君、剣の君よ、光あれ!」

 

 

 聖女さんからの真摯な祈りを受け取り、ハッスルした至高神さんがみょんみょんみょんと奇跡パワーを四方世界へと送信。包み込むように握られていた彼女の手が咲く花の如くふわりと開かれ、そこから放たれた聖光(ホーリーライト)が辺りを眩く照らし出します!

 

 

「「「「「オ゙ア゙ア゙ァァ!?!?」」」」」」

 

 

 アンデッドの身では抵抗すら許されない聖なる光に灼かれ、身悶える屍人(ゾンビ)たち。耐久力の落ちていたものから次々に崩れていきますが、素早く効果範囲から逃れた対象もいるようです。まだ鮮度を保っている元屑冒険者(福本モブ)たちですね。そしてアンデッドは味方陣営にもいるわけで……。

 

 

「あー……日光と違って普通に痛いわねぇ……」

 

「ええ、まぁ。自ら望んでこの身体に成ったとはいえ、至高神様の加護で傷付くのはなかなか心にくるものが……」

 

「あの、やっぱりやめましょうよ……」

 

 

 ぷしゅーと背中から白煙を上げる吸血鬼な2人。心配そうに声をかける至高神の聖女さんにいいから気にしないでと後ろ手を振りつつ、半壊した建物の影から此方を窺う新鮮な屍人(フレッシュゾンビ)から目を離していません。

 

 

「逃がすと面倒だから此処で狩るわ。ちょっと離れるけど、不意打ちには気を付けてね」

 

「なまじ知性の残滓があると何をするか判りませんものね。全て始末しておきましょう」

 

 

 そう言うや否や新鮮な屍人(フレッシュゾンビ)が隠れた建物へと突っ込む女魔法使いさん。外套を翻すが如く自らの翼を掴み、鋭利な(ふち)を刃のように振るい――。

 

 

「ギャアッ!?」

 

 

 ――崩れかけていた建物の基部ごと、隙を窺っていた屍人(ゾンビ)を慈悲も無く両断していきます。幸運にも初撃から逃れることに成功したうちの一体……おや、あれは節穴斥候だったものですね、が頭上から女魔法使いさんを押し倒さんと跳びかかりますが、その腹部を血の色に染まった銃弾が貫きました。

 

 

「がああああ!? がああああ!?」

 

 

 バランスを崩し地上へ落下した元節穴斥候。地面に強く打ち付けられ、大穴の開いた腹部を抑え膝立ちになったところで、何者かが間近で自分を見下ろしていることに気付き怯えたように血の混じった奇声を発しています。そっと伸びて来た白い繊手が喚き散らす彼の頭頂部と顎下に添えられ……。

 

 

屍人(ゾンビ)を完全に殺しきるには、やはり頭部を潰すのが一番でしょうか」

 

 

 グシャリ、と熟れた果実を潰すように弾ける頭部。既に凝固しかけていたのか血が周囲に飛び散ることも無く、汚れたのは実行者である剣の乙女さんの両手くらいでしょうか。血痕は染み抜きしにくいわよ?という女魔法使いさんからの指摘に対し「魔力で編んでいるので一旦解除して着直せば無くなりますわ」と微笑んでいますね。ちょっと便利で羨ましいです。

 

 

 立て続けに仲間(仲間とはいってない)を滅ぼされた元屑冒険者(福本モブ)たちですが……おやおや、2人の強さに委縮してしまい誰が突っ込むのか無言で牽制しあっているみたいです。散々兵士たちを強化されたステで蹂躙していたというのに、逆の立場になった途端この体たらく。そんな連中を見ている女魔法使いさんの目に冷ややかな光が灯っています。

 

 

「……ねぇ、こんなに隙を晒して談笑しているのに、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「人の身を捨て強くなったのでしょう? 自分たちを馬鹿にした女をわからせる絶好の機会ではありませんか」

 

 

 2人の冷たい視線を受けてもなお唸り声を上げるばかりの屍人(ゾンビ)たち。そんな彼らに対し、淡々と言葉を紡ぐ2人の口調には徐々に熱いものが含まれていきますね。

 

 

「あの子は1人ぼっちでアンデッドに成り、何度も何度も滅ぼされていました。それでも決して諦めず、光を求めて戦い続けたのです」

 

「アンタたちは群れているんでしょう? 数を利用して飽和攻撃をしないの? 防衛役(タンク)が攻撃を引き受けている間に背後から致命の一撃は? 手足の1本失ったくらいじゃ死なないんだから、全員同時に捨て身で掛かってきたらどうなの?」

 

吸血鬼(ヴァンパイア)の肉を喰らえば、アンデッドとしての階梯が上がって吸血鬼(ヴァンパイア)へと成れるかもしれませんわ。誰とも知らぬ術者の傀儡から逃れる絶好の機会ですのに……」

 

 

 ほぅ、と熱を帯びた吐息とともに自らの熟れた肢体を抱き締め、挑発するような視線を向ける2人。そして彼らへのトドメとなる言葉が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「私たちを手に入れた、あの子なら出来たわよ?」」

 

 


 

 

「うへぇ、あっちは随分盛り上がってるみたいじゃん……」

 

 

 銃撃と大きな破砕音、そして屍人(ゾンビ)の雄叫びがする方向を眺めながら暢気そうに呟いている聖騎士君。しかし話しながらも油断することは無く、手に握る粉砕剣1/6(カシナート)へ肉片を纏わせながら、次々に屍人(ゾンビ)を腐敗した挽肉(ミンチ)へと加工しています。

 

 ≪聖光(ホーリーライト)≫の輝きに身を焦がされながらも、唯一残った食欲に突き動かされるように生者へと押し寄せる屍人(ゾンビ)たち。それに対し呪文を維持している至高神の聖女さんを護るように3人が囲み、迫る亡者たちを迎撃しています。

 

 

「クソッ、近寄るなっての!?」

 

 

 骨だけになった両足でにじり寄る屍人(ゾンビ)に向かって太陽の直剣で斬りつける元青年剣士君。剣を振り回すのに邪魔する出っ張りは無いので剣を引っ掛ける心配はありませんね。刀身に触れた部分から煙を上げて両断された死体を見て、久々の戦闘にゴクリと生唾を飲み込んでいます。足を止めてしまった彼に別の屍人(ゾンビ)が掴みかかろうとしますが……。

 

 

「ほら、動き回る! 止まってたら複数体に囲まれて餌になるだけよ!!」

 

 

 屍人(ゾンビ)の胸元を貫通したのは竜革の手袋を嵌めた元女武闘家さんの拳です。ブスブスと焦げ跡を残し腕が引き抜かれ、鉤爪のような形の反対の手がその頭を薙ぎ払い、屍人(ゾンビ)の息の根を止めました。熱を帯びる両の手をグーパーしながら歯を見せる笑みを浮かべ、再び構えを取っています。

 

 

「うわ、これめっちゃ便利。ちょっと欲しいかも……!」

 

 

 材料はまだ余っていると思うので作れなくは無さそうですが、いったいナニに使うつもりなのでしょうか? 護身用にしては威力が高すぎると思うのですが……。

 

 

「これで13! 次はどいつだ!!」

 

 

 ふむ、やはりキルスコアは聖騎士君が断トツ一番みたいですね。≪聖光(ホーリーライト)≫で半分以上削れているとはいえ、元冒険者の2人にはまだ人型の敵に対して武器を振るうのに若干の躊躇いが見受けられます。その点ギルドの訓練場で『殺し』の何たるかを学び、また神殿騎士として研鑽を積んで来た聖騎士君は、『敵』に対して躊躇うことの恐ろしさを知っていますので情け容赦ない攻撃が繰り出せているようです。

 

 

「ニク……クワセロォォォ!!」

 

「やば、抜かれた……ッ!?」

 

 

 ……っと、そんな話をしていたら動きがありました! どうやら賢しい新鮮な屍人(フレッシュゾンビ)の一体が吸血鬼組ではなく生身組を狙って迂回してきていたようです。口元から涎を溢れさせ、マシラのように建物の壁を蹴って接近するふとましい影。膨張した筋肉によって半ば弾け飛んだ革鎧を素肌に纏う太め軽戦士の成れの果てですね。

 

 元冒険者の2人を頭上を飛び越え、聖騎士君の繰り出した粉砕剣1/6(カシナート)に片腕を持っていかれながらも突き進むのを止めず、一直線に向かう先には≪聖光(ホーリーライト)≫を維持している至高神の聖女さん! 地面スレスレに身体を縮こませ、両足の筋肉が断裂するのも意に介さず高く跳躍。目を閉じて呪文に集中している至高神の聖女さんへと大口を開けたまま落下していきます。勢いそのまま彼女を喰らうつもりなのか、聖騎士君の声にうっすらと目を開けた彼女を丸齧りにせんと、目に獣性を孕み肉欲の突き動かすまま襲い掛かり……。

 

 

 

「 い゙ だ だ゙ ぎ ま゙ ぁ゙ ず 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おなか壊すから、食べちゃダメだからね?」

 

 

 

ごきん

 

 

 

 ――至高神の聖女さんの絶賛成長中な胸元からするりと飛び出し、瞬時に巨大化した至高神の使徒(下水ワニ)の顎に阻まれ、そのまま噛み砕かれてしまいました……。

 

 

「うん、そのままペッてして。……よしよし、良い子だね!」

 

 

 新たな主の言葉に従い、念入りに咀嚼したあとに腐肉を吐き出した白ワニの巨体を優しく撫でる至高神の聖女さん。白く輝く鱗を丁寧に撫でられてワニさんも嬉しそうです。

 

 いつの間にサイズ変更機能追加してたんですか? ……ああ、破壊し、もとい栄纏神さんが羨ましかったんですねわかりますん。でももっと早く追加してあげてたら、剣の乙女さんが喜んだんじゃないんですか?

 

 

「悪い、抑えきれなかった。……怪我なんかしてないよな?」

 

「へーきへーき、この子がしっかり護ってくれたもん。やっぱ私の騎士様はこの子よね~!」

 

 

 おっと、周囲の屍人(ゾンビ)を片付け終えた聖騎士君が息を切らせながら駆け寄ってきました。後ろには同じく息切れ状態の元冒険者の2人も一緒ですね。久方ぶりの生命のやり取りで随分消耗しているみたいです。

 

 不安そうに声を掛ける聖騎士君を揶揄うように白ワニさんに抱き着き、その前途有望なたわわをこれ見よがしに変形させる至高神の聖女さんですが、その頬には一筋の汗が。軽い口調で誤魔化してはいますが、白ワニさんがいなければ危なかったのは間違いありません。聖騎士君に責任を感じさせないよう明るく振る舞う聖女ちゃん尊い……しゅき……。

 

 

 ……ハッ!? 尊死しかけている間に吸血鬼組も決着みたいですね! 先ほどまで響いていた銃声や破砕音が消え、男が喚く声がするばかり。生身の4人も声のするほうへ向かうみたいでなので、一緒にカメラも動かしてみましょうか。

 

 


 

 

「クソ、クソッ! こ、この化け物どもめ!?」

 

 

 女魔法使いさんと剣の乙女さんの前で悪態を吐く1人の男。レンズの割れた眼鏡がずり落ちているのにも気付かず喚きたてているのは眼鏡重戦士だった新鮮な屍人(フレッシュゾンビ)です。眼前の蹂躙劇を見たショックで一時的に人間性を取り戻したのでしょうか? 呼吸不要な身体ならではの連弩(マシンガン)トークを披露して、2人をウンザリとした表情に導くことに成功しています。逃げることも出来ず、勝てそうもない相手の前で彼のような輩がやることと言えば、視聴神の皆様も予想が付きますよね?

 

 

「そ、そうだ。俺たちをこんな身体にした奴のことを知りたいんじゃないのか!? もし見逃してくれるんだったら、アイツについての情報を話す!!」

 

 

  こ ん な 身 体先刻まで吸血鬼になったとイキリ散らしていたというのに、まったくもって素晴らしい手のひらの返しっぷりです。きっと新鮮な屍人(フレッシュゾンビ)にされた際に手首に駆動部品(モーター)を組み込まれたのでしょう。その後に続くのは決まりきった文句であるところの『「れは最初から反対していた」「いつらが言い出したこと」「らなかったんだ、こんな目に遭うなんて」「んだことだろう? それよりもこれからのほうが重要じゃないか」』のオアシス構文(変形版)ですね。

 

 

 (彼の主観で)自分がどれほど有用であるかというアピールを終え、必要無い筈の荒い呼吸を繰り返す元眼鏡重戦士。沈黙を続ける2人が悩んでいると考えたのでしょう。ダメ押しとなる一言を口にしてしまいました……。

 

 

 

 

 

 

「な、なぁ、こんなに役に立つんだから、()()()()()()()()()()()()()()? ()()()()じゃなくてもお前たちが血を吸えば、吸われた相手は永遠の生命を……」

 

 

 

 

 

 

 ――瞬間。何か硬いモノが地面に叩きつけられる轟音が響き、砂埃の舞う空間に苦悶の声が零れます。

 

 

「ご゙……お゙あ゙……ッ。い゙、い゙ぎな゙り゙な゙に゙を゙……ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ」

 

 

 

 

 元眼鏡重戦士の顔面を掴み、切れる寸前の理性によって死なないギリギリの力加減で地面に叩きつけた女魔法使いさん。ミシミシと音を立てる頭蓋に悲鳴を漏らしかけた元眼鏡重戦士が瞬時に黙るほどの重圧を身体全体から放ちながら、壊れた自鳴琴(オルゴール)のようにたどたどしく言葉を紡いでいます……。

 

 

「ア、アンタが どんな 糞野郎、でも 元人間として、尊厳を持って 殺してあげようと お、思ってた。それが 人でなくなった わ、私に出来る 僅かばかりの じ、慈悲だから……」

 

 

 彼女の背後から駆け寄って来た剣の乙女さんに指の隙間から助けを乞う視線を向ける元眼鏡重戦士。ですが、彼女の瞳もまたダブル吸血鬼ちゃんを彷彿とさせる攻撃色に彩られています。

 

 

「で、でも アンタは あの子の決意を 願いを ゆ、夢を穢した……ッ。それで 黙っていられる ほど わ、私は 人間出来てない わ……。も、もう 人間じゃ ないけど ね……!」

 

 

 ガラスが罅割れるような笑みを浮かべ、抑えつけていた手を離す女魔法使いさん。その隙を逃さず逃げようと元重戦士が起き上がろうとしますが、人外の膂力によって打ち付けられた頭部は地面へと植え付けられており、どんなに身を捩ろうとも抜け出すことが出来ません。

 

 

「ヒイィッ!? お、おい、お前神官なんだろ!? 目の前で()が殺されようとしているんだ、なんで止めないんだよ!?」

 

 

 自力での脱出は不可能と判断したのでしょう。なんとか助けてもらおうと剣の乙女さんの良心に訴えかけるように悲鳴を上げていますが、それを聞く剣の乙女さんは勿論キョトンとした顔で、まるで彼が何を言っているのか判っていない様子。やがて合点が行ったのか、ポンと手を叩いて返した答えは……。

 

 

 

「不思議なことを言うのですね」

 

 

 

 

 

「この場には人なんて 1 人 も い ま せ ん よ ?

 

 

 3人ともアンデッドですから、と微笑む剣の乙女さんを見て、いよいよ絶望顔になった元重戦士。歯の根の噛み合わぬ顔で見上げれば、そこには凄絶な笑みを浮かべた吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)が拳を振り上げる姿。「4人が合流するまで3分ほどですよ」という背後からの言葉に無言の視線にて返事を返し――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迅速かつ鮮やかな、口を利く死体の解体が始まりました。

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!? ――――――!?!?」

 

 

 小五月蠅い悲鳴を出さぬよう、最初に顎を砕かれた元重戦士の無言の悲鳴が響く中で行われる解体劇。痛みが無いのが恐怖なのだということを、彼も文字通り身を以て思い知ったわけですね。

 

 

 

 

 

 

胸に突き立てられた貫手によって、そのまま胸骨を引き剥がされ

 

 

褥で想い人の服を脱がすように、肋骨を左右に押し広げられ

 

 

馬乗りになる際に邪魔だからと、両の足を股関節で踏み潰され

 

 

振り払おうとする両の腕を、紙縒りの当たりを狙うように引き抜かれ

 

 

広げられた胸部へと差し込まれた両手で、内臓が一塊にかき回され

 

 

既に鼓動を止めて久しい心臓を、眼前で一息に握りつぶされ

 

 

空洞の奥に鎮座する背骨を、頭部を持ち上げるために折り砕かれ

 

 

 

 

 

 首から下を全て喪い、それでもまだ鮮明に意識を保っている元重戦士だったもの。

 

 

 周りの地面ごと抉り取るように持ち上げられ、恋人に口付けをするように両頬に手を添えられている彼の顔には、自らの()()に受けた恐怖と「何故自分がこんな目に……」という理不尽に対しての絶望が満ち溢れています。肺も無いのにヒューヒューと漏れる息遣いには、微かに「死にたくない」という言葉が含まれていたのかもしれません。そんな彼に平常心を取り戻したのか、攻撃色の薄れた瞳になった女魔法使いさんが微笑みかけ……。

 

 

 

「残念だけど、その願いは聞けないわ」

 

 

 

 

 

 

「だって、私もアンタも、もう死んでいるんだもの」

 

 

 

 一片の慈悲も無く、ぐちゃりという汚らしい響きを以て、死肉を処理するだけの解体劇は幕を下ろしました。

 

 


 

 

「――ご気分は、如何ですか?」

 

「最悪。どんな顔してみんなに、あの子に会えば良いか判んない……」

 

 

 女魔法使いさんの全身に纏わりつく解体の痕跡を≪浄化(ピュアリファイ)≫で消し去り、豊満なたわわに顔を埋めさせるように抱き締めた剣の乙女さん。胸元から顔を上げようとしない女魔法使いさんに対し、クスリと笑いながらその心情を吐露しています。

 

 

「私はスッキリしましたよ。貴女があの子たちのために怒ってくれて。貴女があの子たちを大切に思ってくれているのを改めて知ることが出来て。もし貴女が手を出していなかったら、私がやってましたもの」

 

 

 たぶん、もっとぐちゃぐちゃでしたよ?と笑う声を聞き、ノロノロと顔を上げる女魔法使いさん。彼女の目に映る黄昏色の瞳には、お揃いの狂気の炎がチラついていることでしょう。

 

 

「その怒りがあの子たちの大切なものを害さない限り、私はその感情を全肯定します。そうでなければ、あの子たちと永遠を歩む事なんて出来ませんもの」

 

 

 そう女魔法使いさんに告げながらそっと頬に手を添え、ゆっくりと顔を近付けていく剣の乙女さん。重ねられた唇の隙間から蛇のような舌が入り込み、最初は戸惑っていた女魔法使いさんでしたが、やがて身を委ねるように淫靡なスキンシップを受け入れていきます……。

 

 

「ん……ぷぁ。あのお姫様もそうだけど、最近同性とこういうことするのに抵抗が薄れてきた気がするわね……同じ血族(かぞく)だからかしら」

 

「うふふ……。み~んな、あの子たちのせいにしておきましょう」

 

 

 2人の間に架かった銀糸をペロリと舌で巻き取りながら淫蕩に微笑む剣の乙女さん。真っ赤な顔になった女魔法使いさんもまんざらでもなさそうですね。2人の情熱的なスキンシップに盤外(こちら)のテンションは右肩上がりです。そしてそれを見ているのは此方だけではなく……。

 

 

「うわぁ、うわぁ……」

 

「先輩、やっぱソッチの気も……」

 

 

 顔を覆う手指の隙間から2人をガン見していた元女武闘家さんが、かつての仲間の艶姿に生唾を飲み込んでいます。その隣でモジモジしている至高神の聖女さんは「自分がもしあの立ち位置だったら……」と半ばトリップしている様子。そしてそのパートナーである男2人は……。

 

 

 

 

 

 

「そうか……百合とは……てぇてぇとは……」

 

「四方世界のすべてが、うん、わかって……きたぜ……」

 

 

 

「「神々と世界と俺たちの関係は、すごく簡単なことなんだ……ははは……」」

 

 

 ……どうやら盤外(こちら)の神気が漏れているのか、世界の真実に近付いてしまっているようです。グルグルおめめにアルカイックスマイルで吸血鬼2人を見つめる背中からは緑色のオーラが立ち昇っていますね……。あ、ようやく生身組が合流して見られていることに気付いた女魔法使いさんが、恥ずかしさと怒りがない交ぜになった真っ赤な顔で男2人を追いかけ始めました。

 

 

「くっ、この、今のは忘れなさい!!」

 

「心配すんなって、あの2人には内緒にしておくからさ!」

 

「たとえ道ならぬ愛だとしても、俺、応援するよ! だって俺たち、仲間じゃないか!!」

 

 

 精神が肉体を凌駕したのか、吸血鬼の身体能力を以てしても補足出来ない速さで逃げる2人を杭打ち機(パイルハンマー)片手に追い回す女魔法使いさん。それを楽しそうに見ていた剣の乙女さんが百合オーラに中てられてポーっとしている女子2人を手招きし、ぽふっとたわわに抱き寄せました。ひんやりとしたやわらかい感触に蕩ける2人に顔を近付け……。

 

 

 

「さて、そろそろこの鉱山を死の渦に陥れた元凶を仕留めに行きましょうか。まだ此処に居た筈の放蕩貴族たちの姿を見てませんので、そちらと一緒に引きこもっているのでしょう。早く片付けて、今後についてお話ししましょう?」

 

 

 ……これはもう消化試合、ナレ死の未来しか見えませんね。区切りも良いところですので、そろそろ別チームへと実況を変わりましょうか。ええと次は……どうやら吸血鬼侍ちゃんと辺境三勇士の廃都市組が現地に到着したみたいです。担当は万知神さんですか、それでは次回より実況を変わらせていただきます。

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 


 

 

 はぁ……やっぱりこの卓は良い……豊富な百合に溢れている……!

 

 定番も、意表を突く組み合わせも、複数でもイケる。嗚呼、創作意欲が湧いてきます……!!

 

 ……うぇ!? い、いえ。ちゃんと担当する神の許可は取りますって。自分の愛し子が無理くりなカップリングに突っ込まれたら、誰だってキレますから!

 

 え、お前の推しである女魔法使いはどうなんだって? そりゃ、アレですよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 せめて、この物語の中では、あの()がずっと笑顔でいられたら良いなって。そう、私は思っています。

 

 ……あ、ちょっと、今笑いましたね!? ふん、≪幻想≫さんに「推しの子を化身(アヴァター)越しにセクハラされた」って言い付けてやりますから!!

 




 次回、歪んだ性癖の爆弾が登場するので失踪します。


 誤字のご報告いつもありがとうございます。見直しても気付かないことが多いので非常に助かっております。

 もしよろしければ、評価や感想、お気に入り登録をして頂けるとモチベーションに繋がります。お時間があれば是非に。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその14-8

 寒くてお出掛けする気力が湧かないので初投稿です。

 ※2/3修正 吸血鬼侍ちゃんの信仰する神様を間違えるという盛大なガバをやらかしたため、前任の実況神は≪幻想≫さんと≪真実≫さんによってZAPされました。次の実況神はきっとうまくやるでしょう。




 ふーむ……。やはりPCの人数が多いと、多()数実況による切り抜き配信でも時間が掛かるのは仕方ないですかね。

 

 とはいえ、各()の推しの活躍する姿が見られるのがこの物語(キャンペーン)の醍醐味である以上、そこを疎かにするわけにもいきませんし。

 

 今後はセッションで取り上げる人数を絞り込んだうえで、セッション自体の数を増やすことで平等に機会を用意して……。

 

 ん? ああ、貴方ですか。私がセッション進行に腐心しているのがそんなに不思議ですか?

 

 無貌の神や覚知神もそうですが、こう見えて我々はセッションの円滑な進行を第一に考えているのですよ。

 

 GM神にセッションのネタとなる駒やシナリオフックを提供し、推しが登場しやすい環境を構築する。所謂win-winの関係というヤツです。貴方のように、あたら自分の意見を主張し他()の推しを下げるような言動をしているのとは違うのです。

 

 ・・・・・・おや、反論してこない? 存外、無貌の神による仕置きは効いていると見えますね。

 

 ですが同情はしませんよ。貴方が行っていたことは、盤外(サークル)に対する迷惑行為なのですから。

 

 ――ほら、見えますか? そろそろ貴方が創り上げた駒が出て来ますよ。

 

 ……その設定と性能に関しては、一定以上の魅力を感じますからね、貴方の駒は。

 

 


 

 

 まるでSRPGの部隊分割進行みたいな実況プレイ、始まります。

 

 ……だいぶセッションが長くなって来ましたので、リフレッシュを兼ねて挿入してみましたいつもの挨拶。ここからの実況は万知神がお送りしていきますので、どうぞ宜しくお願い致します。

 

 

 

 さて、砦防衛と鉱山調査に一区切りが付き、次なるミッションは軍勢召喚儀式阻止。廃都市から湧き出る死の軍勢(デスアーミー)を止めるべく、私の推しである吸血鬼侍ちゃんと、王国の最も新しき英雄(ヒーロー)こと辺境三勇士が担当する作戦で御座います。

 

 賢者ちゃんが王国中に構築した≪転移≫の鏡ネットワークを活用し、目的地である廃都市に一番近い転送場所へと送り出された4人。王国目指して無言の進軍を続ける骨人(スケルトン)を主とする軍勢を避けつつ、地下水脈を用いて内部へと侵入。下水に潜るのを涙目になって嫌がる吸血鬼侍ちゃんをゴブスレさんが無言で拘束し、ドブ川ダイビングするという面白珍百景もありましたが、無事都市内部の地下構造へと到達することが出来ました。

 

 水中呼吸の指輪を付け、見通しの効かぬ汚水の中を水底を蹴って進む3人のHFO+放心状態のだっこ(吸血鬼侍)ちゃん。やがて水深が浅くなり、川に迷い込んだ海獣のようにのそっと水面から顔を覗かせた一行の目に飛び込んで来たのは……。

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「crrrooooooooww!」」」」」

 

「「「「「crrrooooooooww!!」」」」」

 

「「「「「crrrooooooooww!!!」」」」」

 

 

「うおおおお!? 死ぬ死ぬ死ぬ!?!?」

 

 

「だぁ~!? (クセ)ェ嘴で(つつ)くんじゃ……って、あ、オイテメェら、見てないで早く助けろ!!」

 

 

 

 腐肉をたんまりと喰らい丸々と太った鴉の群れに囲まれ、今まさに追加のおやつになろうとしている元童貞、現生身童貞の2人の慌てふためく姿でした……。

 

 

 

 

 

「こ、これまでで一番死ぬかと思った……」

 

「だいじょうぶ? はい、これおみず」

 

 

 吸血鬼侍ちゃんの血刀と松明の炎で2人から引き剥がされ、槍ニキの愛槍で纏めて串刺しにされた鴉を横目にどっかりと座り込む少年魔術師君。吸血鬼侍ちゃんが差し出した水筒を黙って受け取り、薄められた葡萄酒をがぶ飲みしています。不良闇人さんもケツを高く持ち上げたうつぶせ状態でコヒュー、コヒューと荒い息。周囲の警戒に赴いていたゴブスレさんと重戦士さんが戻ってきて、その隣に腰を下ろしていますね。

 

 

「どうやらさっきの鴉共がここいらを縄張りにしていたみてぇだな。他に邪魔してきそうなヤツは見当たらなかったぜ」

 

「……何故襲われていた。それに妻と子は一緒ではないのか?」

 

 

 とりあえずの安全が確保出来たところで、疑問を投げかけるゴブスレさん。騎士位の叙勲式のときに彼の傍らに浮かんでいた火の妖精?(K子さん)ちっちゃな火の妖精?(娘さん)が見えないのが気になっているみたいです。……そういえば少年魔術師君のパートナー(事実上の妻)である女幽鬼(レイス)さんと2人の愛娘ちゃんの姿も確認出来ません。あの子たちがいれば先程の碌に飛べない鴉なんてあっというまに焼き鳥か干し肉だと思うのですが。

 

 

「あー……。アイツらは今消えちまってるんだ。ちょっと訳アリでな」

 

 

 何やら気まずそうに目を逸らす不良闇人さん。ゴブスレさんに視線を向けられた少年魔術師君も同じような反応ですね。契約が切れてしまった等の問題ならもっと深刻な顔をするでしょうし、他の事情があるのでしょうか。

 

 

「ふんふん。へぇ~、なるほどな~……」

 

「――ん? あ、オイクソチビ、まさかテメェ!?」

 

 

 おや、吸血鬼侍ちゃんが虚空に向かって何事か話しかけたり頷いたりしていますね。それを見た不良闇人さんが血相を変えています。ありがとね~と手を振って見えない彼女たちに礼を言った後、脂汗を浮かべる2人の傍へと歩み寄り、怪訝な顔をしている金等級3人に告げた彼女たち不在の理由は……。

 

 

 

 

 

 

「えっとね、『あざとい猫耳パーカーを被った卑しい女(賢者ちゃん)無駄な脂肪(羨ましいたわわ)に見惚れて鼻の下を伸ばすなんてサイテー! 娘と一緒に実家(アストラル界)に帰らせていただきます!!』だって」

 

 

「「「・・・・・・」」」

 

 

 困惑、呆れ、戸惑い。辺境三勇士から三者三様の目で見つめられ頬をヒクつかせる旦那2人(おっぱい星人)。場の沈黙に耐えかねたのか勢い良く立ち上がり、その心情を叫び始めます。

 

 

「仕方無ェだろ!? あんなデカいモンぶら下げて『先行組、よろしくお願いするのです』って前屈みになったら、嫌でも目に入って来るっつーの!!」

 

「姉さんより小さいとはいえ、身長を考慮したら互角以上の戦闘力! 気にするなってほうが無理な話じゃんか!!」

 

 

 ああ、賢者ちゃんが依頼主だったんですか。それで挨拶の時にむぎゅっと寄せられたたわわを思わずチラ見(ガン見)してしまい、奥さんの怒りを買ってしまったと。妖精弓手ちゃんに匹敵する火の妖精?(K子さん)は兎も角、女幽鬼(レイス)さんはそこそこのモノをお持ちなんですが、相手が悪すぎましたね……。あと少年魔術師君は相変わらず業が深いですね。

 

 

「いや、胸の大きさなんて人それぞれ好みがあるだろ……」

 

「惚れた女の大きさが一番好みの大きさって事だろうに……」

 

「胸の大小は乳の出に関係無いと聞く。そんなに拘る必要があるのか?」

 

「ぺったんこでもちゃんとでるよ。いっぱいちゅーちゅーさせてもらった!」

 

 

 それぞれのパートナーを思い浮かべつつ意見を口に出す三勇士+α。しかしその意見には重大な欠点があることには気付いていない様子。わなわなと震え出した2人を怪訝そうに見ていた一行の前で、とうとう生身童貞たちの怒りゲージが振り切れてしまいました……。

 

 

 

 

 

 

 

「「馬鹿野郎! それはお前らのツレがみんなでっかいから言える台詞だッッッ!!」」

 

「お、おう……」

 

「……そうか」

 

「なんか、スマン……」

 

 

 

 ……まぁ、辺境三勇士の奥様方はみんなナイスバディですね。鍛え抜かれた肉体よって支えられた張りのある双丘の持ち主である女騎士さん。可愛い双子ちゃんに加えて、ダブル吸血鬼ちゃんにちゅーちゅーされても型崩れしない魅惑のたわわな牛飼若奥さん。そしてレギュラー勢の中でも剣の乙女ちゃん、女魔法使いさんと肩を並べる最高クラスな魔性のお山の所有者である魔女パイセン。うーん、これは生身童貞たちの叫びを否定出来ません! ……でも姿が見えないとはいえ、妻子が傍に居る状況でそんなこと言ってしまって良いんですか?

 

 

 

「熱ィ!?」

 

「あがが……す、吸い尽くされる……!?」

 

 

 

 ほら、言わんこっちゃありません。虚空より現れたうねるツインテール2本組×2が不良闇人さんの身体中に絡みつき、良い感じに網状の焼き色がつき始めました。石造りの床に崩れ落ちてピクピクと痙攣している少年魔術師君の頭上には、自分そっくりの娘を抱きつつゴミを見るような目で夫を見下ろす半透明の女幽鬼(レイス)さん。いやぁ、どちらも愛が重い……!

 

 


 

 

「そういや、なんでお前さんらが先行組に選ばれたんだ? 腕っぷしには問題無さそうだが、専業の斥候ってわけでも無ェんだろ?」

 

 

 あの後なんとか土下座って奥さんと娘さんに許してもらい、機嫌を直した妻子を左右の肩にしがみ付く様にぶら下げている不良闇人さんに、ふと思い出したように向けられた槍ニキの問い。

 

 

 後発組は伝統と信頼のHFO3人に、侍という名のもっと悍ましい何かと化した吸血鬼侍ちゃんという地獄面子。ゴブスレさんが単独行動のために学んだことがあるとはいえ、本職には程遠い習熟度でしかありません。少年魔術師君は魔術師+「生ける風」を使役するタイプの"昼歩く者(デイウォーカー)"ですし、槍ニキの見立て通り不良闇人さんも斥候役には見えません。賢者ちゃんによる2人のメンバー選出には何か理由があるのでしょうか? 皆からの視線を感じた不良闇人さんが歩みを止め、薄暗い通路の天井を見上げながら口を開きました。

 

 

「……なぁアンタら。この街が昔、何だったかって知ってるか?」

 

「いや、知らん」

 

「テメェは本当にゴブリン以外に興味が無ぇのな!?」

 

「最近はわりかしマトモだったから忘れてたが、お前はそういうヤツだったな……」

 

 

 ドきっぱりと即答するゴブスレさんにツッコミを入れる槍ニキ。その隣で首を傾げている吸血鬼侍ちゃんも知らないみたいですね。

 

 

「まだこの世界で偉大なる魔術師が決闘(デュエル)を繰り広げていた時代。≪死≫を信奉する吸血鬼(ヴァンパイア)がこの街を支配していたらしい。街に閉じ込めた多くの命を生贄とし、外なる世界に至ろうとしていたって聞いたことがある」

 

 

 意外と言っては失礼ですが、こういう逸話や伝説に詳しいですよね重戦士さん。英雄譚が好きだったり自らも英雄になりたいと夢見ていたり。一度は諦めかけていた夢ですが、何の因果か今では王国騎士兼貴族の婿養子というシンデレラファイター! まぁダブル吸血鬼ちゃんたちと関わったのが原因なのは間違いありませんね。

 

 

「陰惨な研究を繰り返し、界渡り(プレインズウォーク)まで後一歩というところで計画を察知した吸血鬼狩人(ヴァンパイアハンター)たちが戦いを挑んだ。多くの犠牲を伴いながらも、最後は狩人(ハンター)たちの頭目(リーダー)がその身と引き換えに吸血鬼(ヴァンパイア)を打倒したって結末らしいが……」

 

「ああ、その狩人(ハンター)の集まりが俺たち"牙狩り"の原型となった集団で、吸血鬼(ヴァンパイア)と相打ちになったのが初代"牙狩り"の狩長なワケよ。……まぁこれも全部が全部真実じゃ無ェんだけどな」

 

「そ~なの?」

 

 

 成程、既に【魔法の時代】には後の"牙狩り"に繋がる集団が形成されていたんですね。重戦士さんの語りに補足を入れつつ語尾を濁す不良闇人さん、吸血鬼侍ちゃんの先を促す視線に目を逸らしながら躊躇いなく幾重にも枝分かれした地下通路を進んでいきます。

 

 

「つまり、吸血鬼(ヴァンパイア)を滅ぼした後にソイツの居城を利用して作られたのがこの街の成り立ちなんだよ。んで、同時に代々の狩長を含む"牙狩り"の戦士たちが眠る墓所が街の地下にある。ソイツを連れて来たのも、ウチの元頭目(リーダー)が一度は仲間たちの眠る地を見ておくべきだって言いだしたからだ」

 

「おまえたちみたいな吸血鬼を討滅してきた偉大な先達だろ? 俺だって敬意を払うさ」

 

 

 吸血鬼侍ちゃんをジト目で睨みつけながら言葉を引き継ぐ少年魔術師君。以前なら「死んだ奴の考えなんて判らないだろ」なんて言いそうでしたが、元"牙狩り"の面々や女幽鬼(レイス)さんと関わる中で死後の存在についても考えるように変化したみたいです。……おや、進むにつれて一行の表情が変わって来てますね。物理的な温度とは異なる精神に作用するような寒さに身震いしながら槍ニキが通路の先を睨んでいます。

 

 

「……この先に、その墓所ってのがあるのか?」

 

「ああ。今まで"牙狩り"が秘匿してきた秘密も、一緒に眠ってるぜ」

 

 

 知らずに済めばどれだけ良かったか、なんて言うなよ? と憐れみにも似た笑みを浮かべる不良闇人さん。秘匿とは甘美なものとは良く言ったもので、人は誰でも隠されたものに惹かれてしまいます。しかし、知らないほうが幸せだったという場合も多いわけでして……。薄汚い水路には似合わぬ重厚な鉄扉を前に一行へと塗り替える不良闇人さん。開けるぞ?という無言の確認に一行が頷きを返すのを確認し、ゆっくりと両開きの扉を解き放った先には……。

 

 

 

 

 

 

「――チッ。人様の墓をこんなに穢しやがって……ッ!」

 

 

 一行の眼前に見えるは元は厳かな空気を纏う広間。装飾の少ない石造りの地下墓地(カタコンベ)の外周には幾重にも重なる輪のように棺が安置され、戦いの中で斃れた"牙狩り"の戦士たちの名前が刻まれています。遺体が回収出来ず空の棺であったとしても、その勇気と栄光を忘れないために抜かすことなく年代順、同じ戦いであれば年齢の若い順に整然と並べられていたのでしょう。

 

 

 ――しかし、"牙狩り"の誇りとも言える墓所は、本来の様相とは全く異なる姿へと変わり果てていました。

 

 

 乱雑にぶちまけられた棺は内側からこじ開けられたように破損しており、壁面や床はピンク色の臓物にも似たグロテスクな蠢く肉塊に覆われ、まるで巨大な生物の内臓にも見える悍ましき光景。その上を死臭を放つ腐肉によってぎこちなく動く死人が這いずり回り、自壊するのも厭わずに互いを破壊し合っています……。

 

 

 そんな悪夢のような光景の中、ただ一つ生を感じさせる存在がいるのに気付いた一行が駆け寄って行ったのは、怪しく光を放つ魔法陣の中心で人骨を組み合わせて作られた十字架に磔にされている1人の女性の下。褐色の肌に金糸のような髪、既に衣服の体を成していない襤褸布に包まれた蠱惑的な身体……不良闇人さんと同じ、闇人(ダークエルフ)ですね。

 

 

「……うん? なんだ、また冒険者か? 呆れたなものだな、こんな所にまで来ようとは。それに……どうやら同郷の者もいるようだ……」

 

「うっせ、ンなことより降ろすぞ? どう考えたってテメェが亡者召喚儀式の鍵っぽいからな」

 

 

 皮肉気に笑う女闇人さんに悪態を返し、彼女を拘束する骨を睨みつける不良闇人さん。幾本も四肢を貫き絡みつくその有様に眉を顰めながら手を伸ばしたところで……。

 

 

 

私に触るなッッ!! ……あのような化物に成りたくなければな

 

 

 消耗しているとは思えないほどの大声で不良闇人さんを制し、咳き込みながらある一点を見つめる女闇人さん。慌てて手を引っ込めた不良闇人さんと一行が釣られるように見た先には……。

 

 

 

 

 

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙……」

 

「キヒィーヒヒヒ……!」

 

「タスケテ……タスケテ……」

 

 

 

 辛うじて人間()()()頃の面影が残る、子どもが落書きで描いたような崩れかけた半液体の人間(ゼリーマン)。両手の指では足りない数の赤黒いヒトガタの姿に、吸血鬼侍ちゃん以外の皆が声を失っています。

 

 

「オイオイ、なんだよありゃあ……!?」

 

「私を助けようとしてこの身に触れた、勇気か、あるいは下心に溢れた冒険者の末路だよ……。私の身体は腐敗と病気、呪いに塗れている……触れれば貴様らも同様の末路を辿ることになるぞ……」

 

 

 外見だけはマトモなのが悪辣だな、と自嘲気味に笑う女闇人さん。囚われた女性を解放しようとする正義感も、肉欲に突き動かされて彼女の肢体に手を伸ばしたケダモノも同じ結末を迎えるとは実に厭らしい仕掛けです。儀式を邪魔する者を嵌めるにしては随分と凝った罠を用意したみたいですね。

 

 

「私を解放しなければこの儀式は止まらんし、私に触れれば皆あのような姿となる。であれば、残る手段は一つだろう? 苦痛は生を実感させる嗜虐神からの恵みだが、それが悍ましき殺戮の源となっているのならば話は別だ……私を殺すといい」

 

「……テメェ、嗜虐神の……」

 

 

 自分を見つめる一行に疲れた笑みを見せる女闇人さん。その首元に光る聖印(シンボル)を見て、彼女が嗜虐神さんの信徒であると不良闇人さんも気付いたみたいです。ガリガリと乱暴に頭を掻き毟り、舌打ちをしながら懐から取り出した血刀を抜くのを見て一行が色めき立ちました。

 

 

「っておい、何するつもりだよ……!?」

 

「黙ってろ、こりゃあ同郷の誼ってヤツだ。苦痛を尊ぶテメェにゃ悪いが、サクッと決めさせて……!」

 

 

 少年魔術師君の静止の声に耳を貸さず、切先を彼女の首元へと向ける不良闇人さん。辺境三勇士が割って入ろうとしますが、一瞬の差で剣閃が先んじます。血の色の一閃が女闇人の細い首筋へと煌めき……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはダメ。このこにはまだやってもらうことがある」

 

 

 

 ――同じ血の色の刃が甲高い音を響かせて剣閃を遮り、彼女の首が胴と別れを告げるのを妨げました。

 

 

「……何故邪魔をする。私を殺さねば儀式を止めることは不可能なのだぞ? 地べた摺り(ロードランナー)の小娘よ」

 

 

 背後からの疑念の声に答えず、不良闇人さんの剣を弾く吸血鬼侍ちゃん。彼が二撃目を繰り出してこないのを確認し血刀を懐へと納め、くるりと女闇人へ向き直りました。見下ろす小さな小娘に不審そうな目を向けていた女闇人、ですが、吸血鬼侍ちゃんの口から出た言葉は彼女の疑念を振り払って有り余る爆弾です……。

 

 

 

「ぼくのユメをかなえるのに、きみがひつようなの。ぼくたちだけだと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()をみんなのためにつかえないから」

 

「!? 兄を知っているのか!?」

 

 

 『兄』という言葉に激しく動揺する女闇人。同時に辺境三勇士の顔にも緊張が走ります。一行が知る闇人といえば、目の前の2人を除けば後はほんの僅かですからね。

 

 

「その『兄』というのは、まさか」

 

 

 半ば確信を抱きながら問いを発するゴブスレさん。重戦士さんと槍ニキも答えに辿り着いたみたいです。頷きを返す吸血鬼侍ちゃんの口から出た『兄』の正体は勿論……。

 

 

「さばくのまちでみんなにひどいことしてたあのダークエルフ。あのこがちをすったときにとりこんだきおくのなかに、たくさんこのこのすがたがあった」

 

 

 邪神の囁きに唆され、地上へとやって来た闇人繁殖者(ブリーダー)ですね。

 

 


 

 

「そうか、兄はそのようなことを……」

 

 

 辺境三勇士と吸血鬼侍ちゃんから砂漠の国での顛末を聞き、ガクッと項垂れる女闇人さん。どうやら彼女、突然邪神の啓示を受け地下世界から飛び出したお兄さんを追って地上へとやって来たそうです。先々でゴブリン相手に実験を繰り返すお兄さんの痕跡を追っていたものの、途中で件の魔術師に捕まり軍勢召喚儀式の生贄にされてしまったんだとか。初めは闇人繁殖者(ブリーダー)の妹ということで警戒の目を向けていた三勇士も、その不遇さと不運っぷりに今は可哀そうなものを見る眼で彼女を眺めています。

 

 

「まぁ、その、なんだ。アンタの兄貴はクソッタレなのは間違い無ェが、それがアンタの罪だとは言わねぇよ」

 

「だが、私は兄を止められなかった。国から出る前に阻止していれば、砂漠の国も平和だったかもしれん……!」

 

「落ち着け。まだ話は終わっていない」

 

 やはり死んで詫びるしか! とジタバタ身を捩る女闇人さんを宥めつつ、吸血鬼侍ちゃんに話の続きを促すゴブスレさん。慈悲を乞うような女闇人さんの視線を受け止め、吸血鬼侍ちゃんが自身の望みを話し始めました。

 

 

「あのね、おにいさんのけんきゅうはうまくつかえばたくさんのひとのいのちをすくうことができるとおもうの。でも、それにはまほうでもきせきでもない、じゅんすいなちしきとぎじゅつがひつよう。しぎゃくしんのおしえには、いりょうにかんするものがいっぱいあるはず。それをぼくたちにおしえてほしいの!」

 

「……それは、()()()()を含む医療行為のことを言っているのだな?」

 

「既に戦友は他の神殿と協力して、帝王切開の術式を確立させた。俺の妻もそれで双子を出産している」

 

 

 女闇人さんの真剣な問いかけに対し、実体験を以て答えるゴブスレさん。牧場に設立された療養所の話を聞くにつれ、女闇人さんの顔には笑みが浮かんで来ています。

 

 

「……でもよチビ助、あん時兄貴の血を吸ったのは確か……」

 

「うん、ぼくじゃなくてあのこだよ。ちしきとけいけんのきょうゆうのために、ちとまりょくをかいしてたがいのきおくをみせあいっこしてるの。ほかにもいろいろできるけど……それはまだないしょ!」

 

「はは……面白いな貴様ら。小鬼(オルク)を滅ぼすために世界の在り様から変え始めるとは。良いだろう、力を貸す……と言いたいところだが。それには死なずにこの状態から抜け出さねばならん。貴様ら何か策はあるのか?」

 

 

 まぁそこですよね。彼女の協力が得られるとしても、先ずは儀式を止めるのが先決。でも彼女に触れてしまえばその瞬間()()によって死病と腐敗の全盛りが待ち構えています。顔を見合わせる脳筋族を横目に少年魔術師君が溜息を吐きつつニコニコしっぱなしの吸血鬼侍ちゃんの頭を引っ叩き、解決策を提示しました。

 

 

「いいからさっさと降ろしちまえよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は~い!」

 

 

 

「「「「「……は???」」」」」

 

 

 みんなにちょっと離れるようにお願いし、いそいそと降ろす準備を始める吸血鬼侍ちゃん。影の触手を展開したところで目の前のちっちゃいのの正体が吸血鬼(ヴァンパイア)であると女闇人さんが気付き、驚きの声を上げようとしたところで……。

 

 

「んなッ!? 貴様もしや吸血モガッ!?

 

「ちょっとだけがまんしてね? いっきにぜんぶのほねをひきぬくから」

 

 

 舌を噛まぬよう触手を咥えさせ、四肢に刺さる骨棘から身体を引き剥がすことを告げる吸血鬼侍ちゃん。覚悟を決めた女闇人さんがギュッと目を瞑ったのを確認し、四肢に巻き付けた触手を一気に引っ張り、彼女を悍ましき十字架から奪い返しました!

 

 

「――――――ッ!!」

 

 

 十字架の各所にある棘に残っていた襤褸切れ同然の服を奪われ、生まれたままの姿で解放された女闇人さん。四肢に穿たれたいくつもの穴から鮮血を流しながら落ちて来る彼女を吸血鬼侍ちゃんはしっかりと抱きとめ、男子たちの視線を遮るように布状に変化させた翼で包みました。全身に走る激痛に涙を堪えながら身体を震わせる彼女に優しく微笑み、その傷を癒す奇跡を唱えます……。

 

 

えいちもとめしわがかみよ(叡智求めし我が神よ)ともしびきえんとするがくとに(灯消えんとする学徒に)いまひとたび(今一度)しょをてらすあかりをさずけたまえ(書を照らす灯りを授け給え)

 

 

 暗闇の中で揺れる蝋燭の如き柔らかな光に包まれる女闇人さん。≪治療(リフレッシュ)≫の奇跡によって傷は全て塞がり、艶やかで蠱惑的な肢体が戻ってきました。肌に残る血の跡をペロペロと舐め取る吸血鬼侍ちゃんを呆然と見ていた女闇人ですが、血を舐め取り終えた吸血鬼侍ちゃんが微笑みながら眦に残っていた涙を吸い取ると、耐え切れないとばかりに笑い出しました。

 

 

「ククク……吸血鬼(ヴァンパイア)でありながら癒しの奇跡を乞い願うか。矛盾の塊だな貴様! 先ほど言っていた『夢』とやらも、同様に歪んでいるのだろう?」

 

「うん。ぼくは、ぼくのたいせつなかぞくといっしょに、にんげんのともだちでありつづけたいの。そのために、きみのちからがひつようなの。きみのすべてがほしいの。……ダメ?」

 

 

 不安そうに胸元から自分を見上げる小さな化物を見て、呆れたように溜息を吐く女闇人さん。そっと頬を撫でながら、吸血鬼らしからぬ情熱的な告白をしてきた吸血鬼侍ちゃんに新たな脅威の接近を継げます。

 

 

「大胆な告白は嬉しいが、まずは当面の問題を片づけたら如何だ? そら、他の連中は気付いているぞ!」

 

「ふぇ?……あ」

 

 

 女闇人さんに夢中になっていた吸血鬼侍ちゃんも、やっと迫る危機に気付いたみたいですね。入り口とは反対側の醜悪な肉塊に覆われた壁面から響いて来る微かな震動。足音と思われるそれは次第に大きくなり、広間全体を震えさせるほどになっていきます。各自が戦闘態勢を取る中、少年魔術師君が顔色の悪い不良闇人さんに気付き、怪訝な顔で声を掛けています。

 

 

「なんだよ元童貞。何時にも増して顔が悪いぞ」

 

「顔色って言えよ元童貞。……最悪の予感が当たっちまったんだよ……」

 

「最悪? なんだそれは」

 

 

 "小鬼殺し"を抜き放ちつつ、反対の手で火炎瓶を構えるゴブスレさんの問い。愛槍の握りを確かめる槍ニキと"黒騎士"の鎧に身を包んだ重戦士さんも不良闇人さんの言葉に耳を傾けています。

 

 

「さっきの街の成り立ちの話だが、多くの犠牲を払って吸血鬼(ヴァンパイア)を倒したってのは嘘だ。実際は吸血鬼(ヴァンパイア)と狩長の一騎討ちで、他の連中は戦いについていけなかったらしい」

 

「あ? んじゃあ犠牲は出なかったってことか?」

 

「いや、犠牲は出た。……一騎討ちの後、()()()()()()()()を滅ぼす戦いでな」

 

 

 槍ニキのツッコミに首を振る不良闇人さん。たしかに、同士討ちに等しい騒ぎで多くの犠牲が出たというのは世に広めたく話ですからね。しかし、血に呑まれたというのは穏やかな話ではありません。

 

 

「初代の狩長は獣人(パットフット)……馬人(セントール)の剣士だったそうだ。月の光を固めた大剣を振るい、数多くの吸血鬼(ヴァンパイア)を討滅した熟達の狩人(ハンター)。その腕前と人柄から狩長として認められたが……狩りの代償で、その身体は次第に獣性に蝕まれていった。この街の吸血鬼(ヴァンパイア)を滅ぼした時に限界を迎え、人間性を喪失した狩長は怖ろしい獣へと変貌しちまった……!」

 

 

 ギリッと不良闇人さんが歯ぎしりをした直後、広間に響く轟音。壁を形成していた石材と肉片が飛び散る中、広間へと現れたのは見上げるほどに大きな巨体です……。歪に生えた蹄を持つ脚に人と馬の特徴を極限まで歪ませて練り上げられたような体躯。肩口から生えた口のような器官の内部には無数の瞳が蠢き、その名の如き醜い顔には白く濁った瞳と乱杭歯が覗く大きく避けた口。

 

 

 背中に括り付けられた大剣のみが、辛うじて目の前の怪物がかつて"英雄"と呼ばれていた存在であることを証明しています。蕩けた瞳孔で一行をねめつけ、ふたつの口から聞くだけで精神を鑢掛けするような咆哮を上げて突進してくるのは……!

 

 

「全員散れ! チビ助はソイツを抱えて離れてろ!!」

 

 

 

 

 

 

――人を救うために戦い、その果てに人でなくなってしまった哀しき英雄、醜い獣です……!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




 あたたかな春が訪れるのを待っているので失踪します。

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。読んでくださった方から反応を頂けると、次話へのモチベが良い感じに上がりますね。

 お読みいただきありがとうございました。




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セッションその14-9

 自宅に引き籠ると筆が走るので初投稿です。

 前話で盛大なガバを起こしてしまい、一部変更が発生しております。投稿直後にお読みいただいた方には申し訳ありませんが、若干内容が変わっておりますのでご確認いただければ幸いです。



 前回、堕ちた英雄との戦いが始まったところから再開です。

 

 

 血に呑まれ、獣と人の歪に混ざり合った異形の姿となった初代狩長……死灰神のリスペクト先に倣って"醜い獣"と呼びましょうか。彼の捩れ肥大化した右腕の一撃によって開幕が告げられ、肉腫蠢く床を陥没させるその威力に一行が冷や汗を流していますね。

 

 

 数多の犠牲を払って討伐された初代狩長、手厚く葬られていたその亡骸を死霊術で蘇らせ、儀式の守護者とする手口……一連の騒ぎの首謀者である死霊術師(ネクロマンサー)はなかなかに良い性格をしていると思います。この都市にいたであろう冒険者は皆ゼリーマンと化してますし、中途半端な実力の持ち主では返り討ちに遭うのは必定。西方辺境の精鋭が相手取るのは自然な流れと言えるでしょう。

 

 

「チッ……まともに受けられるのは俺ぐらいか……」

 

「テメェ以外は掠っただけで重傷だよチクショウ!?」

 

「……こうも速いと狙いが定まらんな」

 

 

 叩きつけるような巨腕の一撃を愛用のだんびらで受け、刀身で滑らせるように受け流す重戦士さんの苦い声。"黒騎士の鎧"による身体能力増幅(パワーアシスト)を加えてなお軋みを上げる身体に苛立ちを隠せていません。複数の馬脚と左腕を駆使した突進は槍ニキのそれに匹敵する速度、迂闊にカウンターなどと考えていたらあっというまに挽肉(ミンチ)一直線です。2人ほどの筋力や敏捷性を持っていないゴブスレさんは既に大きく距離をとり、火炎壺による援護に徹するつもりのようですが、巨体に似つかぬ俊敏さに攻撃の糸口が掴めていない様子。ですが、そうやって攻める機会を窺っていると……。

 

 

「「オ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」」

 

「こっちこないでよ~!」

 

「クッ、隙あらば此方狙い……吸血鬼への恨みが肉体に染み付いているんじゃあないのか!?」

 

 

 頭部と右肩、ふたつの口から悍ましい咆哮を上げ、天井すれすれまで跳躍して吸血鬼侍ちゃんを狙ってきます。抱えられている女闇人さんの言うように牙狩りとしての使命感が亡骸に宿っているのか、あるいは死霊術師(ネクロマンサー)によってターゲットの優先順位が設定されているのか……微妙なところです。狙いが吸血鬼侍ちゃんなら女闇人さんは放り出したほうが安全なんじゃないかと視聴神の皆様に言われてしまいそうですが、残念ながらそれも危険なんですよねぇ。

 

 

「ガキと女ばっか狙ってんじゃねぇよこの馬面野郎……って危ねッ!?」

 

「迂闊に突っ込むなよ元童貞! ……つっても、アレを何とかしないと俺も近付けないしなぁ」

 

 

 少年魔術師君が悔しそうに呟くその理由は、醜い獣の一撃に付随する追加効果に悩まされているからですね。相手の繰り出す攻撃は主に叩きつけと薙ぎ払い……攻撃自体は大振りなのですが、攻撃に巻き込まれた床や壁材、それに亡者のパーツがまるで葡萄弾のように周囲に炸裂し、他の亡者や棺を粉々に砕いています。"生ける風"である女幽鬼(レイス)さんを展開している間は無防備になってしまう少年魔術師君や、鎧を纏っていない不良闇人さん、それに一糸纏わぬ姿の女闇人さんは掠っただけでも致命傷になりかねません。吸血鬼侍ちゃんがエヴェリンで飛来する危険物を撃ち落としていなければ、女闇人さんは既にハンバーグに変身していた可能性が高いです。

 

 

「俺の槍じゃ威力不足で、盾役(重戦士)は攻撃に回せねぇ。そっちの兄ちゃんの炎が一番効いてそうだが、一発貰っちまったらそれで仕舞い。ゴブリンスレイヤー! なんか上手い手は無ぇのかよ!?」

 

 

 ふーむ、一撃離脱を繰り返してヘイトを集め、何とか隙を作りだそうとしている槍ニキにもあまり余裕は無さそうです。一撃貰ったらオワタ状態なギリギリの戦いは彼好みではありそうですが、相手を倒す手段が無ければいずれ消耗して被弾してしまうことでしょう。暗視付きの兜越しに醜い獣を観察していたゴブスレさんですが……お、何か思いついたのでしょうか? 絶え間なく飛んでくる飛礫や人体のパーツを翼で払い除けている吸血鬼侍ちゃんへと近付いて行きました。

 

 

「長期戦は此方に不利だ。一気に勝負を決めたい。()()()()()()()()使()()()()?」

 

「! えっと、あのこからどくりつしてちをすわなくてもできるようになったから、だいじょうぶ! きせきのかいすうにはよゆうがあるから、えんごもまかせて!!」

 

 

 ゴブスレさんからの問いに眉を立てた笑みで返す吸血鬼侍ちゃん。翼に包んだ女闇人さんをお姫様抱っこした立ち姿で万知神(わたし)への祈りを紡いでくれています……ああ^~推しからの祈りが気が狂うほど気持ちええんじゃ^~。……コホン、失礼しました。奉ずる神(わたし)への祈りが鍵となり、盤外を通じて異界の知識へと接続(アクセス)。それは吸血鬼君主ちゃんから独立したことで正式に万知神(わたし)の愛し子となり、吸血をしなくても膨大な魔力(スパチャ)を世界の外から汲み上げることが出来るようになった彼女だからこそ可能な、単独での儀式魔法(Enchantment)の行使です……!

 

 

 

 

 

 

「……!? こいつぁ……!」

 

「力が湧いてきやがる……こりゃチビ助の援護(バフ)か?」

 

「ああ、今なら俺でも普段のお前たちと同等の技量になる。お前たちならそれ以上の効果が有るだろう。……一気に決める」

 

 

 淡い光に包まれた身体を不思議そうに眺める槍ニキに、だんびらの握り(グリップ)を握り直し歯を見せる笑みを浮かべる重戦士さん。そんな2人に並びながら、腰に佩いた"小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)"を抜き放ったゴブスレさんが何処か自慢げに呟いています。キョトンとした顔の2人がやがて爆笑とともに背後の吸血鬼侍ちゃんにグッとサムズアップした後、一斉に醜い獣へと駆けて行きます!

 

 

「ハッ! 急に力が増したからって調子に乗るんじゃねぇぞ!!」

 

「ホレ、追い付けるモンなら追い付いてみやがれ!」

 

「……む」

 

 

 揶揄いまじりの激励?に一瞬硬直するゴブスレさんでしたが、2人が醜い獣へと跳びかかるのを見て無言で後を追っていきました。もしかして、照れてるんですかね? 一緒に≪集団的祝福(Collective Blessing)≫の対象となった牙狩り組もその効果に驚いているみたいです。

 

 

「オマエ……どんだけ隠し玉があるんだよ……」

 

「えへへ……ないしょ! 『きりふだはさきにみせるな、みせるならさらにおくのてをもて』ってかみさまがいってた!!」

 

「うへぇ、性格悪ィ……。まぁ、これなら俺らも攻めに回って大丈夫だろ。良い仕事だぜチビ!」

 

 

 むむむ、失敬な。由緒正しき万知(マンチ)の考えなんですよ? 可能な限り不確定要素を削り取り、有利な条件を整え、急に襲い掛かる不運(ファンブル)に備えるのが、偉大なる上位者≪固定値≫の信者にして骰子(ダイス)に嫌われている我ら『2d6の期待値は3』な民の心得なんですから!

 

 


 

「オラァ!」

 

「そらそらそらッ!!」

 

「……ッ!」

 

 

 斬撃、刺突、殴打……。血刀と母子妖精(K子さん's)による火炎に加え、"生ける風"が持つ邪悪特攻の付与された追う者たち(射撃攻撃)まで加わった怒涛の攻勢。驚異的な耐久力を見せた醜い獣も徐々に動きが鈍くなってきたようです。途中右肩の口から光とともに吐き出された濁液が連撃に夢中になっていた不良闇人さんに命中しそうになり、間一髪吸血鬼侍ちゃんの≪聖壁(プロテクション)≫で防ぐという場面もありましたが順調に削っているみたいですね。……まぁ、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙……」」

 

「だいぶ弱って来たみてぇだな。ったく、初代パイセンの亡骸をボロボロにさせやがって……」

 

「……!? おい、なんか様子が変だ……」

 

 

 一行の連撃に耐え切れず地に伏せる醜い獣。炎によって大剣を身体に括り付けていた革帯に火が点き、膝を着いた衝撃でブツリとそれが千切れ、崩れ落ちた"彼"の眼前へと大剣が突き立ち……。

 

 

 

 

 

 

「ああ、そうか。私は()()大切な仲間を失うところだったのか……」

 

 

 

 ――墓所全体を包み込む眩き光の奔流。輝きの海に呑まれもがくように蠢いていた亡者たちが、次々に安らかな顔で天へと召されていく非現実的な光景。やがて翡翠の輝きは一点へと収束し、そこには先程までとは違い、確かな人間性(ヒューマニティ)を持つ""聖剣の担い手"が、異形でありながらも清廉なオーラを纏った姿で大剣を構えています……。

 

 

「アンタ、意識が……?」

 

「ああ。だがすまない、私を縛る呪いは未だに続いているようだ……」

 

 

 警戒を解かずに槍を構える槍ニキの問いに顔を歪ませて苦笑のような表情を浮かべる聖剣の担い手。その言葉が示す通り大剣を握る手は小刻みに震え、切先を吸血鬼侍ちゃんへ向けようとしています。

 

 

「もう間もなく私の意識は消え、今度はこの聖剣を君たちへと向けるだろう。数多の吸血鬼を滅ぼしてきた月光の刃を、牙狩りの後継たちに使いたくはないのだがね……」

 

 

 大剣を握る巨大な右腕を矮小な左腕で必死に抑え込みつつ、掠れた声で笑う聖剣の担い手。その言葉の裏に隠された意図を汲み取ったのでしょう、少年魔術師君が隠し切れないやるせなさとともに口を開きます。

 

 

「だから、アンタをもう一度殺せって言うのか? 何か他に手があるかもしれないじゃないか!?」

 

「キヒ……青臭く、そして若いな、"生ける風"と共に歩む少年よ。人界に仇なす存在を先んじて滅ぼすのが我らの在り様、私が獣性に呑まれてからでは遅いのだよ……」

 

 

 今この時も、そこの小さな吸血鬼(ヴァンパイア)に斬りかかるのを抑えているくらいなのだから、と乱杭歯の隙間から漏らすように自らを嘲り笑う聖剣の担い手。それでも、と少年魔術師君が反論しようとしたその時、ギリギリ穏やかさを保っていた異形の瞳が真紅に染まりました!

 

 

「オ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

「グゥッ……!? どうやら私の身体を弄んだ輩は、後輩とのささやかな歓談も気に入らないようだ……! は、早く……私が意識を保っている間に……ぐ……ギィ……ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

 

 本能に身を任せるように暴れ出す右肩の口、それに引き摺られるように頭部の瞳も再び蕩け始め、目には獣性が宿り始めています。手を伸ばしかけた少年魔術師君の首を咄嗟に不良闇人さんが引っ掴んで後退しなければ、彼の身体は床のシミへと姿を変えていたことでしょう。悔し気に土煙の向こう側を睨みつける少年魔術師君が見たものは……。

 

 

 

 

 

 

「「グオ゙オ゙オ゙オ゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」」

 

 

 頭部と、そして右肩から生えた口内に蠢く無数の瞳から血涙を流し、両手で月光の聖剣(MOONLIGHT)を構える悲しくも怖ろしい獣が、その身に焼き付けられた吸血鬼に対する殺戮の使命に突き動かされるままに一行へと襲い掛かる姿です!!

 

 


 

 

「速ぇ! 重ぇ!! そして何よりも……上手ぇ!!!」

 

「マズイな……あんだけ超重武器だってのに、攻撃後に隙が見つからねぇぞ!?」

 

「クソが! 副長(傷あり司祭)みてぇな動きしやがって、思い出させんな!!」

 

「俺たちの遠距離攻撃じゃ、牽制にもならないってのかよ……」

 

 

 右腕の時と同様の振り下ろしと薙ぎ払いに加え、聖剣のリーチを生かした突きに柄尻を用いた打突。膂力に任せた力押しではなく確かな『技』を感じる攻撃に、重戦士さんが感嘆の声を上げるのも頷けます。同時に行っている複数の足をフルに活用した狩人特有の歩法(やーなむステップ)は間合いを測る槍ニキの感覚を微妙に狂わせ、一方的な攻勢を維持するのに一役買っているようです。少しでも注意が逸れればと不良闇人さんと少年魔術師君が炎と闇の塊で援護をするものの、あっけなく聖剣で切り払われてしまいこちらも有効とは言えない状態です。

 

 

「ん……だいじょうぶ? まだいたい?」

 

「問題無い、助かった。……だが、厄介だ」

 

 

 お、剣戟を躱した際にやーなむステップに巻き込まれ、右足が変な方向に曲がってしまったゴブスレさんでしたが、吸血鬼侍ちゃんが触手を伸ばして回収し、≪治療(リフレッシュ)≫の奇跡で回復してもらったみたいですね。その場で何度か飛び跳ねて具合を確認しつつ、どう攻めたものかと考えている様子。

 

 

「呪文は何回残っている?」

 

「んと、しんごんが3かいと、きせきがあと2か……あぶない!!」

 

 

 おっと、横薙ぎの一閃で槍ニキと重戦士さんを壁際まで弾き飛ばした聖剣の担い手が眼前に翡翠色に煌めく剣身を掲げ、大技の体勢に移りました! 爆発的な光を放つ大上段からの一撃が向けられているのは、言うまでも無く仇敵である吸血鬼侍ちゃんと、その傍らにいる女闇人さん、そしてゴブスレさんです!!

 

 

 射線上にある全てを飲み込むような月光の奔流。その迫る輝きを見て、抱えていた女闇人さんをゴブスレさんへと託し、2人の前に立ちはだかる吸血鬼侍ちゃん。

 

 

「≪えいちもとめしわがかみよ(叡智求めし我が神よ)たんきゅうのみちさまたげし(探求の道妨げし)かかるきょういを(斯かる脅威を)うちはらいたまえ(打ち払い給え)≫!!」

 

 

 祈りの聖句と共に展開される≪聖壁(プロテクション)≫。しかし何物をも退ける筈の防壁はあっというまに罅だらけとなってしまい、重ねるように張られた2枚目の≪聖壁(プロテクション)≫すらも食い破らんとしています。

 

 あ、ちょっと!? お願いは嬉しいのですがそんな無理したら……! このままでは危険と判断した吸血鬼侍ちゃんが3枚目を限界突破(オーバーキャスト)で唱えることで何とか防ぎ切りましたが……。

 

 

「お、おい貴様。血が……!?」

 

んぐ……。ん、だいじょうぶ。まだまだこれから!」

 

 

 限界突破(オーバーキャスト)の反動でこみ上げてきた血を喉を鳴らして嚥下し、心配そうに声を掛けて来た女闇人さんに無理矢理な笑みを返す吸血鬼侍ちゃん。吸血鬼の能力によって生命力は自動回復しますが、限界突破(オーバーキャスト)の代価である『消耗』は運命力(エッジ)、或いは魂を燃やすのに近い行為。如何に吸血鬼と言えど繰り返せば存在の消滅に繋がりかねません。……あ、口元から赤い一筋を流す吸血鬼侍ちゃんを見て、ゴブスレさんが決断的に立ち上がりました! 竜革の外套を女闇人さんの肩に掛け後方に下がるように告げた後、そっと吸血鬼侍ちゃんに手を伸ばし……。

 

 

「――あまり無理はするな、戦友。俺たちは一党(パーティ)だ、相手がどれ程強大であろうとも、攻略の糸口は必ずある」

 

「――ん、わかった」

 

 

 籠手(ガントレット)越しの不器用な手付き、くしゃりと頭を撫でるゴブスレさんの気遣いを目を細めて受け入れる吸血鬼侍ちゃん。小さな戦友から手を離した【辺境最優】の瞳は、何としても勝利を得るのだという強い意志に満ち溢れています……! 懐から取り出した瓶を手の中で転がしながら、ひとつひとつ確認するように言葉を紡いでいきます。

 

 

「今までの戦いから考える限り、物理的な攻撃は効果が薄いようだ」

 

「そうだね。まほうのぶきでもいまいちきいてないみたい」

 

「お前を狙うのが最優先なのは間違いないが、それ以外に狙われていたのはあの炎術師だな」

 

「けものにちかいそんざいだから、ほのおがきらいなんだとおもう」

 

「現状で火を攻撃に使えるのは、炎術師とお前の血刀、それにアイツの≪火球(ファイアボール)≫。俺も油と火炎壺は持っているが……」

 

「あんなにはやくうごいてたら、あてるのはむずかしいよね」

 

「だが、方法はある」

 

 

 眼前の攻防を見据えながら、視線を交わさずに言葉を交わす2人。聖剣の逆袈裟を後方へ大きく跳躍することで回避した槍ニキが隣に着地するのを見て、入れ替わりとばかりに駆け出しました!

 

 

「時間は稼ぐ、呪文でヤツの動きを止めろ!」

 

「おねえさんのごえいもよろしく~! あ、さわるとしんじゃうからきをつけてね?」

 

「あ、待てコラ! ……ったく、信用されてるってことで良いんだよなぁ……ッ」

 

 

 気を抜けぬ攻防によって消耗し、荒く息を吐く槍ニキ。翼で受け流しながら、或いは無様にローリングを繰り返しながら必殺の一撃を躱し続ける2人を見て、口の端を吊り上げて笑っています。戦闘を見守る裸マントの闇人(ダークエルフ)を一瞥し、彼女の盾となるような位置に動きつつ、魔法の発動体である耳飾りに触れながら呪文を唱え始めます……!

 

 

「≪アラーネア(蜘蛛)≫……≪ファキオ(生成)≫……≪リガートゥル(束縛)≫ッ!!」

 

 

 

 

 

 

「「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?!?」」

 

 

 突然頭上から降ってきた≪粘糸(スパイダーウェブ)≫によって拘束された聖剣の担い手。呪文の有効範囲内には近接戦闘状態の一行もいましたが、互いのサイズ差が仇となり粘体に絡めとられたのは彼1人だけです。ダメ押しの2発目が身体中を覆い隠したところで何とか抜け出そうと試みていますが、本職ではないとはいえ金等級にまで上り詰めた術者の達成値は伊達ではありません。そして、その隙を見逃すほど【辺境最高】の頭目(リーダー)は甘くないのです!

 

 

「うおぉぉりゃぁぁぁああ!!」

 

 

 轟ッ!と風を斬る一閃で、片側2本の馬脚を斬り落とす重戦士さん。効果が薄いとはいえ、超重武器による斬撃は巨体を支えるには細すぎる脚を切断するには十分過ぎる威力です。一撃後に≪粘糸(スパイダーウェブ)≫に絡めとられた愛用のだんびらを惜しげも無く手放し、腰にマウントしていた長剣と円盾に装備を切り替え追撃の構えを取る姿はまさに歴戦のHFO! もう女騎士さん(パラディン)の馬の世話が一番の仕事だなんて言わせませんとばかりの気迫ですね。

 

 

「相手が動かないのであれば、当てるのは容易いことだ。……蛇の目(ファンブル)さえ出なければな」

 

 

 バランスを崩し、突き立てた聖剣にもたれかかるように立つ異形に投げつけられた幾本もの瓶。割れた瓶から零れた油が≪粘糸(スパイダーウェブ)≫へと沁み込むのを見て、空中に待機している吸血鬼侍ちゃんを残し聖剣の担い手から離れるゴブスレさんと重戦士さん。代わりに前へと進み出るのは、現代に受け継がれし牙狩りの末裔である2人です。

 

 

「いい加減楽にしてやろうぜ? クソッタレな死霊術師(ネクロマンサー)に操られる姿なんざ、他の奴らに見せたかねぇ」

 

「わかってる。……少し引っ込んでてくれ、これは俺が自分の意思でやるべきことだから」

 

 

 空中で血刀を胸に突き立て、刀身を形成している吸血鬼侍ちゃんを見ながら自身の愛刀を構える不良闇人さん。少年魔術師君も"生ける風"の2人を送還し、呪文の詠唱を始めました。粘体の隙間から覗く先達の目に微かな人間性を見出し、その忌々しい呪縛から解き放つために、持てる最大火力を発揮せんと3人が覚悟の咆哮を叫びます!

 

 

「ばいばい、ぼくたちのてんてきにして、いだいなるかりうどさん……!」

 

 

「≪カリブンクルス(火石)≫……≪クレスクント(成長)≫……≪ヤクタ(投射)≫ァ!!」

 

 

「燃えっちまいなァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 ――墓所の天蓋を貫き、地表まで達するかのように立ち昇った炎の渦。呪いを燃やし尽くす業火の消えた跡から、微かに聞こえる声。

 

 

「ヒュー……ヒュー……。見事だ、現代の牙狩りたち……!」

 

 

 頭部だけの姿でありながら、未だ死に切れぬ聖剣の担い手。その傍らには寄り添うように月光の聖剣が突き立っています。巻き込まれないように下がっていたゴブスレさんと重戦士さん、それに竜革の外套を肩に掛けた女闇人さんと一緒に槍ニキも偉大なる先達の最期に立ち会うべく彼の下へと集まって来ました。不要な筈の浅い呼吸を繰り返す彼の頬に吸血鬼侍ちゃんがそっと手を触れると、そこから塵のように崩れ去っていきます……。

 

 

「"生ける風"を連れた少年はいるかな? すまないが、もう目が見えなくてね……」

 

「……ああ、いるよ。俺は此処に居る」

 

 

 白く膜の掛かり始めた瞳を動かす彼の傍にしゃがみ、そっと触れる少年魔術師君。血の通った温かな手を感じ、安心したように目を瞑る聖剣の担い手が、掠れた声で告げたのは……。

 

 

「君に、我が師……導きの月光を託そう……。そこの小さな吸血鬼が過ちを犯そうとした時、止める手立てとなる筈だ……」

 

 

 剣に触れ給え、という彼の声に従い、未だ輝きを保ち続ける背丈より大きな刀身に手を伸ばす少年魔術師君。その指先が触れた瞬間、辺りに光が満ち、輝きが収まった後には少年魔術師君の体格に相応しいサイズへとその大きさを変えた月光の聖剣が彼の手の中に在りました。

 

 

「決して血に酔うこと無く、己の信念に従い力を振るい給え。さもなくば、行き着く先は私と同じ、獣なのだから……」

 

 

 そう最後に言い残し、サラサラと崩れ去った聖剣の担い手。完全に灰となった彼の身体はもう二度と弄ばれることは無いでしょう。聖剣を脱いだローブで覆い、しっかりと抱え直した少年魔術師君が、自分を見つめる吸血鬼侍ちゃんに対し決意に満ちた声で宣言します。

 

 

「オマエが間違ったことをしようとするなら、俺は必ずオマエを止める。たとえその隣に姉さんがいたとしてもそれは変わらない。姉さんは、オマエとともに歩むことを決めたんだから……!」

 

「――うん。もしぼくたちがにんげんにぜつぼうして、きばをむけるときがきたのなら……。そのときは、きみがくるのをまってる。……えへへ、きみがとめられなかったら、み~んなごはんにしちゃうからね? あいたっ」

 

 

 牙を見せる笑みでドヤ顔を披露する吸血鬼侍ちゃんの頭に炸裂するげんこつ。続けて伸びて来た籠手(ガントレット)がほっぺたを両側から引っ張り、ドヤ顔を涙目に変えてしまいました。

 

 

「馬鹿言うな、そんときゃまず俺たち金等級に依頼が来るに決まってんだろうが!」

 

「竜に魔神、大物喰いは俺の専売特許だが、吸血鬼殺し(ヴァンパイアスレイヤー)は名乗れねェからな」

 

「…………」

 

「ご、ごめんなふぁい……」

 

 

 からからと笑う槍ニキに神妙な顔で頷く重戦士さん。無言でほっぺたを引っ張り続ける兜の奥には若干の怒りが見て取れます。辺境の最精鋭集団とはとても思えない子供じみた光景には不良闇人さんも毒気を抜かれたようですね。……お、裸身を隠すようにしゃがみ込んでいた女闇人がシュタッと手を上げています。何か言いたいことがあるようですね。

 

 

「……和気藹々としているところ申し訳無い。私の体には未だ呪いが残っているのだが、呪いを解く手段は有るのか?」

 

「もちろん! かたっぱしから≪かいじゅ(ディスペル)≫すれば……あ」

 

 

 途中まで言いかけてピシッと固まる吸血鬼侍ちゃん。どうやら限界突破(オーバーキャスト)が必要なほど奇跡を使い果たしていたことを忘れていたみたいですね。オロオロしていた彼女ですが、ふと何かを思い出したように動きを止め、周りにいる男衆を肉食獣の瞳で見渡しています。……あ、ゴブスレさんが吸血鬼侍ちゃんの考えに思い至ったのか後退りし始めましたね。

 

 

「えへへ……あのね、みんな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゅーちゅーしても、いいかな? いいよね?」

 

 

 

 ぞわり、と背筋に走る生存本能に従い蜘蛛の子を散らすように逃げ出す男たち。蠱惑的な眼差しで迫る吸血鬼侍ちゃんから必死の形相で距離を取ろうとしています。

 

 

「ね、ひとくちだけでいいから! ぜんぜんいたくないよ? むしろきもちいいよ?」

 

「馬鹿野郎、気持ち良いから逃げてんだろうが!?」

 

「みんなのおくさんはこころよくすわせてくれるよ?」

 

「アイツらから吸ってんのは母乳だろ……ハッ、まさか俺たちからも……!?」

 

「ん~……、みんながそっちがいいのなら、ぼくはかまわないけど?」

 

「やめろ。俺はあいつ一筋だ。……血で我慢しろ」

 

「は~い……ちゅー……」

 

 

 ガクガクと全身を震わせながら吸血を受け入れるゴブスレさん。唇に残った血をペロリと舐め取り艶やかな笑みを向けて来る吸血鬼侍ちゃんを槍ニキと重戦士さんが引き攣った顔で見ています。奇跡の回数を補充する為とはいえ、戦闘で昂った身体に腰の抜けるような快楽を叩き込まれたら、男の尊厳が決壊してしまうかもしれないと焦っているようですね。

 

 

 ……あ、するりと首元に抱き着いた吸血鬼侍ちゃんにちゅーちゅーされて、重戦士さんが戦闘中にも見せなかった苦悶の表情を浮かべています。首筋から唇が離れた後に安堵の溜息を吐いているところから察するに、今回も耐えられたのでしょう。一方全速力で逃げ回っていた槍ニキですが、飛行する相手には対抗出来ずあえなくタッチダウン。途中で「あっ」という声が漏れていましたので今回もダメだったみたいです……。

 

 

 辺境三勇士からちゅーちゅーし、満足したように口元を拭う吸血鬼侍ちゃん。不良闇人さんと少年魔術師君の背後で両手で×マークをしている奥様に吸わないよとジェスチャーを返し、ぽてぽてと女闇人さんの所へ帰ってきました。歴戦のHFO3人を瞬殺し笑顔で近寄る吸血鬼侍ちゃんに向けている表情は、畏敬かはたまた呆れなのか。いざ≪解呪(ディスペル)≫を唱えようとした際に彼女の表情に気付いた吸血鬼侍ちゃん。そっと彼女の長耳に口を寄せ……。

 

 

 

 

 

 

「ばんぜんをきすなら、もういっかいぶんふやしたほうがいいかな。……どうおもう?」

 

「ほ、本当に恐ろしいヤツだな、貴様は!?」

 

 

 

 ……さて、召喚儀式は無事に阻止出来ましたし、後は召喚済みの軍勢を蹴散らす作業だけでしょうね。残るは本命である吸血鬼君主ちゃんたちボス部屋特攻組です。実況もだいぶ長引いてますので、いったん休憩を挟んだ後に実況神さんにマイクをお渡ししましょうか。視聴神の皆様も、今のうちにトイレや飲み物の購入を済ませておいて下さいね。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 次が本当のクライマックスになる筈なので失踪します。

 誤字のご報告、毎回ありがとうございます。投稿してから読み直しても自分では気付けないのが不思議ですね……。

 評価や感想、お気に入り登録もお待ちしておりますので、お時間がありましたら是非お願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその14-10


 雪、積もってたよ……(過去形)なので初投稿です。




 ふぃ~……。皆さんの協力もあって、なんとか終わりが見えて来ましたねぇ。

 

 お、新()さん! どうです? 緊張とかは……して無さそうですね! うんうん、良い感じです!!

 

 視聴神さんたちも期待してますし、あなたらしくのびのびとやれば大丈夫ですって!

 

 ……それにほら、老害っぽくてあんまり大きな声では言えませんけど、盤外(サークル)の空気を悪くするのが明らかな困ったちゃんを歓迎するほどメンバーが不足しているわけじゃありませんし、出来れば穏便に帰って欲しいかなって。

 

 いくら決闘(デュエル)で勝てなかったからって、禁止術式(カード)の使用や規約(フォーマット)違反を繰り返す悪質決闘者(デュエリスト)なんて、誰もお友達になりたいと思わないですし。

 

 ……おっと、実況神さんがマイクを持ってきましたね! それじゃ新()さん、ボス部屋組の実況よろしくお願いしま~す!!

 

 


 

 

 ――それでは皆様、最後の組となりましたボス部屋突撃チームの実況を始めさせていただきます。実況は私、最近盤外(サークル)に参加させて頂きました新()がお送りいたします。……やはり気取った口調は私には似合わないね。普段通りの言葉遣いでいかせてもらうよ。

 

 

 さて、各組とも様々なイベントを消化し絆を深めあったり経験値を獲得したりと大盛り上がりだったけど、()に腹パンをかますべく≪転移≫を妨害している拠点を潰して回っている吸血鬼君主ちゃんと愉快な仲間たちはどうだろう? ちょっと現在の様子を見てみようか。覚知神さん、映像をお願いしても良いかな? ありがとう、どれどれ……。

 

 

 

 

 

 

「せぇい!」

「グワー!?」

 

 

「とりゃあ!!」

「グワー!?」

 

 

「とおぉ~う」

「グワー!?」

 

 

「たあぁ~!」

「チッパイロリエルフママカワイイヤッター!!」

 

 

「う、うおりゃ~!?」

「オドオドケイメカクレネクロマンサーカワイイヤッター!!」

「へ、変態だ~!?」

 

 

 

 ……ふむ、ちょうど最後の拠点を護っていた塚人(ワイト)四天王を撃破したところみたいだね。然程精度の高くない複製體(トークン)だったのか、若草知恵者ちゃんと妖術師さんの攻撃に気持ちの悪い断末魔を上げながら倒れるのを見て後方の賢者ちゃんが額に手を当てているね。え、四天王なのに何故か5人いる? そりゃ四天王なんだから5人いるに決まっているじゃないか、常識的に考えて。

 

 

「……いまいち納得しかねるのですが、これで≪転移≫の邪魔をしていた拠点は全て落としたのです。みんな、お疲れ様なのです」

 

「では、補給をした後に首謀者の隠れ潜む場所へ一気に攻め入るわけでございますね」

 

「そうだね! あ~おなかすいた~!!」

 

「うむ、腹が減っては何とやら。戦の前の腹ごしらえだな」

 

 

 更地と化した拠点跡に敷物を広げ、回復用の水薬(ポーション)英雄の聖餐(ヒーローズ・フィースト)の準備をする賢者ちゃんの下へと集まる一行。おなかをおさえて空腹をアピールする勇者ちゃんに若草知恵者ちゃんが魔法瓶に入った蜂蜜と柑橘汁(はちみー)を差し出しているね。ん? ごはんとなれば真っ先に駆け付けて来るであろう吸血鬼君主ちゃんは……おや? 妖術師さんと一緒に何かを拾い集めているみたいだ。

 

 

「んしょ、んしょ……」

 

「師匠、これ何に使うんです? 死霊術の触媒にするには穢れ過ぎていると思うんだけど……」

 

「んとね、いまはまだないしょ。こんどみんなのまえでみせてあげるね!」

 

 

 バラバラに散らばった塚人(ワイト)の骨片を袋に集めている妖術師さんからの問いに、ニッコリと笑みを浮かべながら秘匿を継続する心づもりの吸血鬼君主ちゃん。いつのまにか呼び方が師匠になっているけど、もしかしたら血族(かぞく)になる前準備の一環なのかもしれないね。粗方骨片を拾い集めた後に、賢者ちゃんの呼ぶ声に返事をして2人も食事を開始したみたいだ。

 

 

「うめ、うめ、うめ……」

 

「あ、薄味だけど結構いけるんだね」

 

「でしょ~! あ、これ振りかけるともっと美味しくなるよ!!」

 

「量は多いですがしっかり食べるのです。『備えあれば()()()()』と古代の書物にも書かれているのです」

 

 

 毒、病気、呪い、麻痺、睡眠、石化、精神作用、能力値ダメージ、能力値吸収、そして即死……相手が使用してくるであろう嫌がらせに対策(カウンター)を用意するのは対魔術師戦における基本中の基本、それが界渡り(プレインズウォーク)寸前の大物相手なら猶更というもの。全員が強化(バフ)を受けたのを確認したところで、賢者ちゃんがボス戦にあたっての確認を始めたようだね。

 

 

「――というわけで、序盤は2人に攻撃を任せ、形態移行した後に一気に畳みかけるのです」

 

「りょ~かい! 任せてよ!!」

 

「ふむ、では私はいつも通り後衛の護衛だな」

 

 

 頑張るぞー!と気炎を上げる勇者ちゃんの隣で普段通り涼やかな佇まいの剣聖さん。賢者ちゃんを含め3人に気負った様子は無く、自然体なまま最高のパフォーマンスが発揮出来る状態を維持しているようだね。

 

 

「は~い……んちゅ……ちう……」

 

「ふふ……主さま、そろそろおしまいでございます。それにしても、此度の支援者は随分と気前の良い方でございますね」

 

「そ、そうだね。≪転移≫の巻物(スクロール)だけじゃなく()()()()()まで準備しておいてくれるなんて……」

 

 

 一方でこちらもある意味通常運転の子たち。若草知恵者ちゃんのちっちゃいけど愛情がギュッと詰まったお山に顔を寄せ、ちゅーちゅーと生命の雫を分けて貰っている吸血鬼君主ちゃん。赤ちゃんのように乳輪ごと口いっぱいに頬張り唇と舌で吸い上げるのではなく、乳頭だけを優しく口にして啄むように吸っているみたいだね。愛する主さまの後頭部に手を添え、授乳の補助をしている若草知恵者ちゃんの慈愛に満ちた表情に目を奪われていた妖術師さんだったけど、彼女の言葉で我に返り、()()()()()()について触れてくれているね。

 

 

「今回のように厄介な手合いが相手の場合、大抵そこかしこで恨みを買っていたりその台頭を良く思っていない存在がいるのです。わざわざ浮遊神殿(フロートテンプル)などどいう余人の目に付かない場所に秘匿していたあたり、良い性格をしているのは間違いないのです」

 

「えっと、それはどっちの意味で?」

 

「勿論、両方の意味なのです」

 

 

 いやぁそんなに褒められたら照れてしまうよ。『盤面を操ること(コントロール)』と『人の嫌がることをする(パーミッション)』が大好きな私だけど、最低限のルールは守っているからねぇ。環境(ローテ)が変われば振るえる魔術(デッキ)も変わるし、時には自慢の魔術が禁止される(マロー君が社長室に呼ばれる)こともある。そんなしがらみを受け入れたからこそ四方世界の外側から物語(キャンペーン)を見ることが出来ているのであって、傍若無人に力を振るいたいわけじゃあないんだよ。……まぁ彼にそれが理解出来なかったから、こんなことになったんだけどねぇ。

 

 

 

「……ぷぁ。ごちそうさま、これでじゅんびばんたん!」

 

「では≪転移≫の門を開くのです。環境適応(エンデュア・エレメンツ)をはじめとする極限環境への対策は行っているのですが、油断はしないようにするのです」

 

 

 強化(バフ)の残り時間を確認し、手に持った≪転移≫の巻物(スクロール)を起動する賢者ちゃん。刻まれていた術式が起動し、彼の隠れている空間への門を生み出していく。……ふぅ、万一作成に失敗していたらどうしたものかと思ってたけど、大丈夫だったみたいだね。

 

 

「じゃあみんな、いっくよ~!!」

 

「とっつげ~き!!」

 

 

 霧がかった門の向こうは見通すことが出来ないけれど、それで立ち止まるような一行では無いわけで。斬り込み役である2人が真っ先に飛び込み、後を追うように続く術者たち。最後に剣聖さんが門へと突っ込んだところで、クライマックスの舞台へ視点を切り替えていこう!!

 

 


 

 

 ――≪転移≫の門を抜けた先は広大な異空間。生物の体内を想起させる脈動する肉壁と噴き出る腐汁、そして空間全体に響き渡る囚われし魂たちの苦悶の声。おそらく廃都市の墓所はここをイメージして構築されたんだろうね。対応策を講じていなければ生者は2秒で昏倒してしまうような悪環境の中で、()()は屍をうず高く積み上げて形作られた玉座に腰掛け、招かれざる客たちに憎々し気な視線を向けているね……。

 

 

「来たか、勇者を名乗る墓荒らし共め……!」

 

「来たよ、物語を『めでたしめでたし』で終わらせる為に!!」

 

 

 

 一行を見下ろすように立ち上がる人影。骨だけの姿を闇の衣で覆い隠し、ローブから覗く左手には円盤状の籠手(デュエルディスク)。窪んだ眼窩には怒りと侮蔑、そして隠し切れない焦りの表情。揺らめくような赤の瞳が輝きを放つと、肉壁を突き破って無数の骨が組み合わさって形成された骨の壁(Wall of Bone)が現れて一行の進路を阻むように立ちはだかっているね。肉の無い指先で指し示す相手は一行の中で一番知性を感じる賢者ちゃん。声帯の無い喉から魔力を帯びた声を出し、一行へと呪言を浴びようと試みているのかな?

 

 

「思っていたよりも人数が多いな。力不足を痛感して有象無象を増やしたのか? 無駄なことを……」

 

「まったく、情報収集が足りてない(リサーチ不足な)のです。想定よりも手駒を動員せざるを得ない状況に陥ってなお拠点に引き篭もっているとは、もう少し自分を客観的に見るべきだったのです」

 

 

 まずは軽いジャブの応酬。彼からすれば『勇者』とその一党(パーティ)といえば3人が普通なんだろうか。まぁ時々ソロプレイで魔王を撃破する猛者(も〇も〇)もいたようだけど、『死の迷宮』で一般的となった6人編成は彼にとって違和感があるのかもしれないね。……なに、原典は6人じゃないのかって? そこはホラ、彼は知恵の実(アップル)得られ(持って)なかったんじゃないかな、きっと。

 

 

「まぁ良い。誰も彼も我が前では一個の生命(ライフ1点)に過ぎぬ。勇者であろうとなかろうと、その結末は変わらぬのだからな」

 

「それは此方の台詞だ。貴様は四方世界に湧き出る世界の危機のひとつに過ぎず、これまでのように、そしてこれからのようにただ無為に消えていくだけだ」

 

「その通り! あ、世界の半分とか言われても頷かないからね? この世界はお前のものなんかじゃないもんね!!」

 

 

 生命を軽んずる彼の台詞に溜息を吐き、一行に共通する本心を吐露する剣聖さん。彼女の言う通り、()()()の世界の危機は日常茶飯事。失敗すれば世界が滅びるだけでそんなのは普段と変わらないのだから。一行の淡泊な反応にギシリと拳を軋ませる彼にトドメを刺すように、吸血鬼君主ちゃんが一歩進み出て……。

 

 

 

 

 

 

「そのてにつけてるやつ、ひょっとしてネクロディスクのつもり? ぜんぜんにあってないよ?」

 

「貴っ様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 最高にクールな煽りをかまし、彼をブチキレさせることに成功した吸血鬼君主ちゃん。「()()()()()()()ときはもっとかっこよかったもん!」と追撃までキッチリ決めて上手くヘイトを集められたみたいだね。……まぁ本当は儀式魔法(エンチャント)呪物(アーティファクト)連携技(コンボ)のことなんだけど、相手に通じているから問題無いよね!

 

 

「雑魚と捨て置いていれば調子に乗りおって!! 輪廻の輪に戻ること敵わず、この閉じた世界で永劫の苦痛にもがき苦しむがいい!!」

 

 

 彼の怒号に呼応するように出現した無数の触手。人間の胴回りを超える太さのそれが一斉に卑猥な鎌首をもたげたところで戦闘開始だ!!

 

 

 

 

 

 

「屑どもが、我が魔術の前にひれ伏すが良い!!」

 

 

 火と氷、風の刃と巨岩の礫、あらゆるものを焼き尽くす無尽の光と全てを飲み込む無限の闇。矢継ぎ早に繰り出される呪文(スペル)に対し、的確に相殺を取り続ける賢者ちゃん。その余波に足を取られながら術者へと突き進む勇者ちゃんと吸血鬼君主ちゃんを援護するように後方から斬撃が飛び、邪魔をせんと立ちふさがる触手の群れを吹き飛ばしているね。時折向けられる石化の呪いを予めかけていた強化(バフ)で凌ぎ、アンデッドを滅ぼす聖なる一撃を叩き込むべく疾走する2人。

 

 

「あばれんな、あばれんなよ……!」

 

「なにそれ、変な言い回しだなぁ……っしゃい!!」

 

呪文遣い(スペルキャスター)決闘(デュエル)に横殴りとは、いよいよ以て度し難い! 叡智を知らぬ愚か者がッ!!」

 

 

 のたうち回る触手を吸血鬼君主ちゃんが引き受け、勇者ちゃんがその手に握る愛剣を一閃! 呪文の詠唱を中断し杖で受け止めた彼が忌々し気に叫ぶ声をさらりと聞き流しながら連撃を繰り出しているね。そこに触手を始末した吸血鬼君主ちゃんも加わり、ヒヒイロカネの輝く軌跡を描きながら呪文を唱えさせないよう攻め続けているけど……。

 

 

「ええい鬱陶しい! 吹き飛べ蛮族共!!」

 

 

 彼を中心に発生した負の魔力の爆発によって一挙手一投足の間合い(エンゲージ)から吹き飛ばされる2人。その隙を逃さず繰り出した即死呪文が無効化されたのを見て、どうやら一行が強化(バフ)ガン積みなのに気付いたようだね。人骨で作られた杖を向けて彼が唱えるのは、全ての呪文を打ち消す現在では失われた秘奥……!

 

 

「≪マグナ(魔術)≫……≪レモラ(阻害)≫……≪レストィンギトゥル(消失)≫ッ!!」

 

「うげ、せっかくかけてもらった強化(バフ)が!?」

 

「ぜんぶきえちゃった……」

 

「あらゆる魔術の効果を消し去る魔術の真髄、失われし叡智の恐ろしさを知るが良い!」

 

 

 指先から迸った凍てつく波動によって強化(バフ)を打ち消され、驚いた()()の2人を嘲笑いながら杖を持つのとは反対の手を突き出し、何かを潰すように拳を握りしめる彼。手を向けられていた勇者ちゃんの前に割り込んだ吸血鬼君主ちゃんが、()()()()()()()のを見て勇者ちゃんがギリっと歯を食いしばっている。≪対抗呪文(カンスペ)≫効果範囲外にいた4人が駆け寄ろうとするのを後ろ手で制し、視線を外さずにゆっくりと地に伏した吸血鬼君主ちゃんを庇う位置に移動しているようだ。

 

 

「まずは1人。呆気ないものだな、定命の者(モータル)というものは」

 

「……この子に何をした?」

 

「フン、その身に似合いの()()()()()()()()()()()()()()()だけよ」

 

 

 1つの生命を握りつぶしたことになんの感慨も浮かばないとばかりに笑う彼、しかしそんな余裕は勇者ちゃんの言葉によってあっけなく崩れ去ってしまうわけで……。

 

 

 

 

 

 

「なぁんだ、じゃあなんの心配もいらないね!」

 

「と~ぜん! しんぞうなんて、もとからうごいてないもんね!!」

 

「んなっ!?」

 

 

 滑るように接近してくる勇者ちゃんの影から何事も無かったかのように姿を現し、触れ合うような距離まで接近してきた吸血鬼君主ちゃんに驚愕の顔を向ける彼。その怯みは致命的であり、繰り出された二刀の斬撃によって跡形も無く消え去る羽目になったのは当然の代償と言えるだろうね。

 

 

「お、のれぇぇぇぇぇ……ッ!?」

 

 

 恨みがましい声を残して消滅した彼に釣られるように、動きを止める触手と骨の壁。しかしそれに油断することも無く、警戒を解かずにいる一行に業を煮やし、再び彼の声が醜悪な空間に響いて来たね……!

 

 

「少しでも可愛げというものを見せたら楽に死なせてやったというのに……」

 

「いいからさっさと出てくるのです。もったいぶったところで結末は変わらないのです」

 

「……フン、くだらぬ挑発に乗ってやるとするか!」

 

 

 嘲りまじりの賢者ちゃんの挑発に応えるように姿を現した彼の威容……肉膜を突き破って現れた金輪を持つ左右の手が勇者ちゃんと吸血鬼君主ちゃんを握りしめ、ズルリと這い出て来た上半身は拘束された2人が盤上遊戯の駒にしか見えない程の大きさ。巨大な王冠を戴いたあの姿が、彼……塚人覇王(ワイトキング)の真なる姿のようだね。

 

 

「よくぞ我が真なる姿の存在に辿り着いた。称賛をくれてやろう」

 

「結構。お前のような存在が何の策も無しに姿を見せるわけが無いのです。どうせまだ生命のストックは持っているのです」

 

「……貴様、我が不死の秘密に気付いているのか!?」

 

 

 賢者ちゃんの反応の薄さに気味悪がっていた塚人覇王(ワイトキング)、彼女が彼の不死の秘密を知っていると気付いて空間を震わせるような唸り声を上げているね。……まぁ、その辺の秘密はぜ~んぶ私が紙片(ハンドアウト)(したた)めて、巻物(スクロール)魔法の道具(マジックアイテム)と一緒に浮遊神殿(フロートテンプル)に用意しておいたんだけどさ!

 

 

「だが、気付いたところで何とする! 複製體(トークン)を作るのにいささか消費したとはいえ、永き時の間に蒐集した生命(ライフ)は優に万を超える数。先程の一撃で消費した生命も僅かに1人分()、あと何度繰り出せるかな?」

 

 塚人覇王(ワイトキング)の嘲笑に呼応するように響く幾千幾万の嘆きの声。彼に生命を奪われ、輪廻の輪に戻ることすら出来ずただ消費されるのを待つだけの哀れな魂の叫びが空間中に木霊しているね……。

 

「更にだ、念には念を入れて、貴様よりも先に此方の2人を始末してやろう。後ろで蹲っているどちらの死霊術師(ネクロマンサー)従僕(ペット)か知らんが、当代の勇者と共に口から内臓を溢れさせて無様に壊れるさまを見ているがいいッ!!」

 

 

 そう言い放ち、骨の巨腕に力を込める塚人覇王(ワイトキング)。拘束された時に備えてかけてあった強化(バフ)である移動の自由(フリーダム・オヴ・ムーヴメント)を失い、もはや2人には為す術など残っていない……!

 

 

 

 

 

 

 ……なーんて、彼は思っているんだろうねぇ?

 

 

 

「――この()をはなせ」

 

「フン、何を馬鹿な……!?」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの呟きを命乞いと思ったのか、嘲笑を返す塚人覇王(ワイトキング)の表情が驚愕に変わっていくね。彼の意思に反するように握りしめられていた両手がゆっくりと開き、その隙間から華麗に着地する2人。ぶよぶよとした床に着いた吸血鬼君主ちゃんの腕は黒く硬化したものに変化しているね。まったく、目の前の事態が信じられないような顔をしているいるけど……全部事前の情報収集(リサーチ)をしていれば判ったことなんだよ?

 

 

「――その()はいらない。ばいばい」

 

「わ、我が腕がバラバラに……何故だ、何故再生しない!?」

 

 

 続けて囁かれる吸血鬼君主ちゃんの言葉に従うように、音を立てて崩れ落ちる一対の巨腕。肩口から先を失い、頭部と上半身だけの飢者髑髏(ガシャドクロ)に成り果てた巨体が右往左往する姿は滑稽極まりないけれど、当人はそれどころじゃないんだろうさ。さて、察しの良い視聴神のみんなはもう判っているね? 一体どんな原理で巨腕の拘束から逃れ、果ては分解まで引き起こしたのかってことはね?

 

 

 

 

 

 

「たしか、収穫祭の日に闇人(ダークエルフ)が持っていたんだったかな?」

 

「はい。百手巨人(ヘカトンケイル)を召喚する触媒にして、その権能を秘めた特級の呪物。あの子の身体を構成する一部となった『手』を支配する力の一端なのです。通常の人型相手では大した効果は無いのですが、召喚と制御の対象であった()()()()()()()()であればその影響力は絶大なのです」

 

 

 流石賢者ちゃん、バッチリお見通しだねぇ。彼女の推測通り、吸血鬼君主ちゃんの身体を再構成する際に取り込まれた『手』の呪物。アレが塚人覇王(ワイトキング)の拘束から逃れ、その制御を奪い取った決め手というわけだね。

 

 

「おのれ……一体の人形にどれ程の資源(リソース)を投入したのだ。まったくもって非効率極まりないぞ!?」

 

「? ぼくはにんぎょうじゃないよ? デイライトウォーカー!」

 

「……は?」

 

 

 あ、巨大な顎がカクーンと落ちたね。吸血鬼君主ちゃんの存在を知らなかったってことは、やはり複製體(トークン)には情報の送受信機能を付けていなかったんだろうね。大方自分の所在(アドレス)が割れるのを防ぐつもりだったんだろうけど、それが今回は裏目に出たわけだ。……そして、それこそが彼の敗北の原因となる。

 

 

「やれやれ、視覚が魔法的なものしかないのも考えものなのです。どうせ魔力量だけで判断して、こちらの切り札を雑魚と侮っていたのです」

 

「……? なんだ、何を言っている?」

 

 

 クソデカ溜息とともに首を左右に振る賢者ちゃんに訝し気な視線を向ける塚人覇王(ワイトキング)。お前の敗因を教えているのですという彼女の言葉を笑い飛ばそうとした刹那、自分の身に何が起きているのか漸く気付いたようだね。

 

 

「ガ……ッ!?」

 

 

 肉壁に覆われた空間を震わせる一際大きな鼓動。ドクン、ドクンという震動とともに崩れていく空間をただ呆然と眺める塚人覇王(ワイトキング)。内臓を思わせる罅割れた肉の隙間から次々と貯め込んでいた魂が飛び出て来るのを見て、漸く自分の身に何が起きたのか理解したようだねぇ。後方で蹲っているばかりと思っていた2人こそが、無尽蔵の命のストックを持つ自分を滅ぼす存在だということに!

 

 

 

「――ええ、永い間、良く耐えて来られました。彼の死霊術師(ネクロマンサー)に隷属する時は終わったのです」

 

「うん、うん、わかるよ。辛かったよね。……アイツを滅ぼすのにみんなの協力が必要なんだ。まだ躊躇っている魂も説得するから、一緒に手伝ってくれる?」

 

 

 腐肉の床に手を置き、目を瞑ったまま誰かに語り掛けるように言葉を紡ぐ若草知恵者ちゃんと妖術師さん。2人の周りには肉壁から抜け出して来た魂が集まり、喜びと悲しみ、そして怒りがない交ぜになった強い感情を表すように輝きを放っているね。まさか、という塚人覇王(ワイトキング)の呟きを肯定するように賢者ちゃんが無慈悲に告げるのは……。

 

 

「死せる者との対話は善き死霊術師(ネクロマンサー)にとって必要不可欠な素質。そして、自らの未練を晴らすために力を行使する死霊術師(ネクロマンサー)に力を貸すことを躊躇う魂もまたいないのです。ただ魂を己が生命と魔力の資源(リソース)としか考えていないお前には未来永劫理解出来ないのです」

 

「グ……オォッ……ま、まだだ、まだ全ての魂が逃げたわけではない!」

 

 

 全身に走る罅割れから漏れだす魔力を無理矢理留めながら最後の悪足掻きを企む塚人覇王(ワイトキング)。「死」を恐れ、「死」から逃げるために他者の生命を奪い、「死」を超越した存在になるために四方世界の外を目指したその妄執を呪文に昇華し、盤外から力を呼び込もうとするその気概は素晴らしいと思うけど……。

 

 

「我が生命を代価に、偉大なる≪死≫に乞い願う! 我が覇道を阻まんとする蛮族を焼き尽くす、紅蓮の焔を呼び起こし給え!!」

 

 

 先程まで腕に嵌っていた腕輪に輝く緑の宝石(Mox Emerald)と、王冠に咲き誇る睡蓮の花弁(Lotus Petal)が散り際に生みだした魔力(マナ)を呼び水に、己の生命力を限界まで注ぎ込むことで形成した盤外からの魔力の導線(Channel)。虚ろな口腔に生みだした火の玉(Fireball)に全てを込め、眼前の敵を滅ぼさんと吠える塚人覇王(ワイトキング)。その魔力が解放されれば空間ごとすべてが焼き尽くされてしまうのは間違いないだろうね。

 

 

 

 ――注ぎ込む魔力があればの話だけれども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故だ、何故我が祈り(Channel)が届かない……?」

 

 

 

 うん、すまない。その祈り(Channel)決して届かない(禁止カードな)んだ。

 

 

 頼りなく燃えていた口内の火が消え、同時に崩れ落ちる巨大な飢者髑髏(ガシャドクロ)。巻き上がる塵芥が一行の視界を遮り、その後彼女たちの目に映った光景は、一面を灰色の砂で覆われた荒涼な砂漠と、腰から下を失いながらも必死に這いずって一行から離れようと藻掻く塚人覇王(ワイトキング)の小さな姿のみ。彼がその身に取り込んでいた魂たちはみなあるべき場所へと還り、後はケジメをつけるだけというところだね……。

 

 

 

「ガハァ、ハァ、ハァ……!?」

 

 

 この場から逃げることさえ出来れば再起は可能だという一心で、腕の力のみで逃亡を図る彼の目前に降り立つ小さな姿。這い蹲った姿勢から見えるのは、先刻矮小だと嘲笑っていたデイライトウォーカーの肌も露わな2本の足。それに沿って視線を上げる彼の目に飛び込んで来たのは……。

 

 

「ヒィ!? な、なんだその悍ましい()()は!?」

 

 

 黒い粗末なキャミソール一枚の服装に、顔を隠す奇妙な紋様の刻まれた。そしてその小さな背に担がれた不釣り合いなほど大きな車輪。その回転に合わせて聞こえるのは、落とし切れぬ血痕とともに染み付いた犠牲者たちの苦悶の声……。

 

 

「や、やめろ、やめてくれ……ッ!?」

 

 

 命乞いをする彼の声に応えることも無く、車輪を回す吸血鬼君主ちゃん。サイレンにも似たその回転音に惹かれるように集まって来たのは、家族や仲間、大切な人を消費され、輪廻に還るよりも復讐を望む魂たちのようだね。吸い込まれるように車輪の中へと彼らが消え、歓喜にも似た呻き声が一層高まったところで彼に視線を向ける吸血鬼君主ちゃんの返答は……。

 

 

 

「――おなじことをいったみんなに、おまえはどんなへんじをしたの? ぼくのこたえは、それとおんなじ」

 

 

 聞く耳なんぞ持たない。言外にそう言い放ち、彼女は躊躇うこと無く車輪を彼へと振り下ろし……。

 

 

「ギャアアアアアアアアアア!?!?」

「オオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 車輪の回転に身体を砕かれ、削ぎ落とされ、少しづつ小さくなっていく塚人覇王(ワイトキング)。その断末魔の悲鳴に交じって、怨敵が滅びるさまを見て歓喜の声を上げる魂たち。やがて彼の声が聞こえなくなったところで車輪の回転が止まり、犠牲者たちも満足したように再び眠りについたみたいだね。

 

 

 

 

 

「こ、これで終わったの?」

 

「とりあえず首謀者は仕留めたのです。後は残敵掃討ですが、おそらく他の組が既に動いていると思うのです」

 

 

 へなへなと座り込む妖術師さんの呟きに律儀に返事する賢者ちゃん。切り札である死霊術師(ネクロマンサー)2人に被害が及ばぬよう呪文を相殺し続けていた彼女は剣聖さんと並んで隠れたMVPだね。最大戦力である勇者ちゃんを露払いに用いることに不安はあっただろうに、それをおくびにも出さず彼との舌戦に勝ったのは流石と言えるだろう。

 

 

「よっと、ただいま~!」

 

「お帰りなさいませ。主さまもお怪我はありませんか?」

 

「ぴんぴんしてるよ~!」

 

「そうか。……ならまず服を着たらどうだ?」

 

 

 お、小脇に吸血鬼君主ちゃんを抱えた勇者ちゃんも戻って来たね。手に小さな袋を持っているのを見ると、塚人覇王(ワイトキング)の骨片も拾い集めていたのかな? 手渡しで受け取った吸血鬼君主ちゃんからを脱がし、顔色などを確認して安堵の表情を浮かべているようだ。愛刀を納めた剣聖さんがキャミソール一枚の姿を見てはしたないと頭を抱えているけど、あれが正装らしい(地底人スタイルだ)から仕方ないんじゃないかな。

 

 


 

 

「それじゃあ、みんなを回収しに出発だ!」

 

 

 負傷の確認とドロップ品の回収などを済ませ、そろそろ戻るつもりな一行。吸血鬼君主ちゃんは脳内通信で吸血鬼侍ちゃんと連絡を取り合い、合流場所を教えてもらっているみたいだね。

 

 

「はぁ……誰か他に≪転移≫の呪文を覚えて欲しいのです。結局全部の箇所を回らなければならないのです……」

 

「まぁそう言うな。鏡の併用でずいぶん楽になったのだろう?」

 

 

 ああ、鏡の呪物を利用した≪転移≫システムは、銀髪侍女さんと賢者ちゃんだけが全容を知っているんだったか。ダブル吸血鬼ちゃんや剣の乙女ちゃんはあくまで利用権を貸与されているだけだものね。大きな事件になって動員数が増えるほど彼女の負担も大きくなるし、これは何らかのテコ入れが必要かもしれないね。……おや?

 

 

「あ、あれ? 師匠、どうしたの!?」

 

「……ふぇ?」

 

「主さま、涙が……」

 

 

 慌てた様子の2人に指摘されたことで気付き、零れる涙を不思議そうに拭う吸血鬼君主ちゃん。後から後から流れるソレの理由が判らず首を傾げているようだね。

 

 

「なにか、異常でも感じたのですか?」

 

「ううん、ぼくはなんにもへんなところはないよ。……でも」

 

 

 普段の白装束に戻っていた吸血鬼君主ちゃんが胸元を抑えるように拳を握り、切なそうな顔になったのを見て、すわ何事かと周囲に集う一行。不意に顔を上げた吸血鬼君主ちゃんが零したのは……。

 

 

 

 

 

 

「……けんぞくのだれかが、こころのなかでないてるきがする」

 

 

 

 ふむ、どうやら女魔法使いちゃんの件が何らかの理由で「親」である吸血鬼君主ちゃんに伝播したみたいだね。とはいえ、彼女たちの夜の関係について私は然程詳しいわけでは無いし、そも心の機微なんてのは私にとって専門外だからねぇ。後はいつもの実況神さんに丸投げして、私の実況はここまでにさせてもらうことにするよ。次回は騒動の後始末とリザルトになるだろうから、視聴神のみんなは期待して待っているといい。……ああ、全裸待機は止め給えよ? 初心な≪幻想≫さんが真っ赤な顔で困っていたからね?

 

 

 では、今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 





 やっとセッションの終わりが見えたので失踪します。


 感想いつもありがとうございます。次話のネタが湧いて来たり、そんな展開もありだなという選択肢が浮上することがありますので、お時間がありましたら頂けますと幸いです。

 評価やお気に入り登録もお待ちしておりますので、宜しければお願いいたします。



 お読みいただきありがとうございました。




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セッションその14 りざると その1


 短期で自宅警備員にジョブチェンジしたので初投稿です。



 実況を担当してくださったみなさん、お疲れ様でした!

 

 ()さん含めみんな個性的な語りと内容で視聴神さんたちも大いに盛り上がっていましたよ!!

 

 さてさて、名残惜しいところではありますが、そろそろセッションの〆の時間が近付いてまいりました。

 

 愛馬を失い明日からの生活に不安のある夫婦や女闇人さんの今後について、そしてなにより女魔法使いちゃんの心の内に救う獣をどうするか? 最後までお付き合い頂ければ幸いです。

 

 それでは吸血鬼君主ちゃんチームに再びカメラを向けて……実況再開です!

 

 


 

 

 前回、塚人覇王(ワイトキング)をもみじおろしにしたところから再開です。

 

 

 あるべき流れへと還る魂を見送り、塚人覇王(ワイトキング)の貯め込んでいた財宝や研究資料を根こそぎ回収した一行。脳内通信で座標を送って来てくれた吸血鬼侍ちゃんたち廃都市組のところへと、賢者ちゃんが≪転移≫の門を開いてくれています! ……おや? その傍らでうつ伏せに倒れてピクピクと身体を震わせている吸血鬼君主ちゃんを妖術師さんが抱き起してますね。いったい何が……。

 

 

「えっと、師匠大丈夫? っていうかいつもこんなコトしてるの?」

 

「いつもはしてないよ。どうしてもまりょくがたりないときだけ……」

 

「ふぅ、ご馳走様なのです。相変わらず豊潤で濃厚な魔力だったのです」

 

 

 艶めかしく口元を拭う賢者ちゃんの顔はほんのりと上気しており、体内に取り込んだ魔力が全身へと馴染んでいく感覚に昂っているみたいですね。……つまり、みんなの前で逆ちゅーちゅーしたんですね、このいけない猫耳フードちゃんってば。

 

 

 もはや見慣れてしまったのか、顔を僅かに赤くするだけで苦笑している勇者ちゃんと剣聖さん。その隣で若草知恵者ちゃんは羨ましそうに指を咥えています。そんなみんなにドン引きしている妖術師さんも、はたして何時まで初々しく反応をしてくれるのでしょうか……。

 

 

「さあ、門が安定したのです。維持する時間が長いほど消耗するので、また魔力を貰うようになるのです。……私は何度でも構わないのですよ?」

 

「そりゃ大変! みんな、早く行こう!!」

 

 

 捕食者の視線を吸血鬼君主ちゃんに向ける賢者ちゃんを見て一斉に門へと飛び込む一行。吸血鬼君主ちゃんも妖術師さんにおんぶしてもらって運ばれていますね。最後に飛び込んだ賢者ちゃんが「むう、惜しいことをしたのです」と呟いていたのはきっと気のせいでしょう!

 

 

 

 

 

 

「あ、みんな~!」

 

「だいじょうぶ? けがしてない?」

 

 

 まず一行が訪れたのは廃都市地下の儀式場。牙狩りの聖地である墓所ですね。吸血鬼侍ちゃんと不良闇人さんの血刀、それに奥さんと娘さんにお願いして墓所を蝕んでいた肉壁を焼き払い、棺や瓦礫が散乱しているものの以前の悍ましい光景は既に無くなっているようです。

 

 

 ゴブスレさんの外套を羽織る女闇人さんを見て吸血鬼君主ちゃんが驚いた顔をしていましたが、吸血鬼侍ちゃんから彼女の話を聞くと警戒を解き、インベントリーにしまってあったシーツをちょちょいと加工してキトーン(古代ギリシア風長衣)を作り、呪いを解かれて触れられるようになった彼女にプレゼント。同じ顔が並んでこちらも驚いていた女闇人さんでしたけど、男性陣が後ろを向いている間に素早くキトーンを纏い、冒険者セットの中から吸血鬼侍ちゃんが取り出した革紐で布がはだけないよう纏め上げています。

 

 

「ふむ、こんなものか。もうこっちを向いても良いぞ男子諸君」

 

「「みておどろけ~!」」

 

 

 女闇人さんの声にゆっくりと振り返る男性陣。彼らの目に飛び込んで来たのは……。

 

 

 

「うわぁ、スタイルが良いから凄く似合ってるよ!」

 

「はい、艶のある肌の色と布地の対比が美しいですね」

 

 

 勇者ちゃんと若草知恵者ちゃんの太鼓判を押す声も耳に入らず、あんぐりを口を開けたままの男性陣。あ、ゴブスレさんは即座にそっぽ向いてますね。胸の前と背中側でばってんに掛けられた紐によって強調された胸元に、腰紐から下が全開のため露わになっている肉付きの良い太股。普段目にしたことの無いエキゾチックな魅力に男性陣とダブル吸血鬼ちゃんの目は釘付けです。

 

 

「すげぇ別嬪さんじゃねぇか! こりゃ世の男どもが目の色変えてお近づきになろうとするぜ、間違い無ェ」

 

「む、そうなのか? 地上の男の好みは良く知らんのだが」

 

 

 ヒューッ!と口笛を吹く槍ニキの称賛に首を傾げる女闇人さん。女性陣もうんうんと頷いてますね。ようやく動き回れる格好になったところでいったん彼女はダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)が預かり、消耗した体力の回復を図るとともにこれからについて話し合うことに。

 

 

 最初は同郷である不良闇人さんに同行させようかという案もあったのですが、少年魔術師君の面倒を見るので精一杯だという彼の主張とその背後の奥さんと娘さんが放つオーラに気圧されて、その案はあえなく却下。順当に訳アリな人物を抱え込むことに定評のあるダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の拠点で静養する流れとなりました。

 

 

 彼女自身に咎が無いとはいえ、どうしても地上では悪目立ちしてしまう闇人(ダークエルフ)ですし、兄である闇人繁殖者(ブリーダー)のやらかしたことを考えれば有力者の下で保護したほうが安全ですからね。吸血鬼侍ちゃんの言っていた通り嗜虐神さんの信徒としての能力も非常に貴重ですので、ある意味囲い込みと言われても仕方ないでしょう。

 

 

「ごめんね、せっかくちじょうにきたのに、きみのいしをそんちょうしてあげられなくて……」

 

 

 申し訳なさそうに俯く吸血鬼侍ちゃん。そっと顎に伸びて来た褐色の手に導かれ、上向きになった口元に……。

 

 

「……そういえば先程の返答がまだだったな……ん」

 

「んむ!? ……ん……んちゅ……」

 

 

 目の前いっぱいに広がる闇人(ダークエルフ)の麗しい顔に、口内を蹂躙する桃色の蛇。何度も牙に身を押し付けるそれが甘い唾液と共に血を吸血鬼侍ちゃんへと流し込み、ちゅぷり、と湿った音を立てて離れていきました。

 

 

「良いだろう、()()()()。兄の引き起こした災禍の償いとして、また苦難に満ちた道を歩まんとする女たちの尊き生を祝福するため、私の持つ全てを存分に使うがいい。なに、()()()()()の代わりと思えば、貴様らに血を吸われるのも悪くないさ。痛みとは祝福であるのだからな」

 

「……ぷぁ。うん、ありがとう! ひとがいきるのにひつようのない、ゴブリンというじゃまなくるしみをほろぼすのに、ちからをかして!!」

 

 

 豊満な胸元に顔を摺り寄せて来る吸血鬼侍ちゃんを優しく抱きとめる女闇人さん。ほら、もう1人の貴女がまた新しい女を堕としたのですという賢者ちゃんのツッコミに吸血鬼君主ちゃんが苦笑を返しています。あ、生でゆりんゆりんな光景を見た元童貞たちが鼻の下を伸ばし、ムッとした顔のパートナーにお仕置きされてますね。2人にはちょっと刺激が強すぎたのか~……。

 

 

 

「それで、次はどちらだ」

 

「先に砦に向かうのです。軍勢の湧きは止めましたが、既に出現しているものは皆砦に向かっている筈なのです」

 

「ああ、生者の多いところに引き寄せられるんだったか」

 

 

 女闇人さんの艶姿を見ないように離れていたゴブスレさんの問いに答える賢者ちゃん。叢雲狩人さんが初期配置を全滅させたとはいえ増援は来ていたでしょうし、例の存在感の薄い怪物が現れているかもしれません。……まぁ、叢雲狩人さんに素の状態で焼き滅ぼされている可能性もありますけどね。

 

 

「おくすりやごはんはいっぱいしまってあるから、はやくわたしにいこう!」

 

「そうだね、きっとみんな腹ペコだよ!」

 

 

 ボス戦後と思えないほど元気な2人の声によって現実へと引き戻された男性陣がそそくさと荷物を纏め始め、吸血鬼侍ちゃんが裸足の女闇人さんをお姫様抱っこして準備完了。廃都市組を加えて再び光り輝く≪転移≫の門を潜り抜けた一行の目に飛び込んで来たのは……。

 

 

 

 

 

 

「ささ、怪異殺し(ガストスレイヤー)君。砦の倉庫から拝借した堅麺麭だよ」

 

「……む? いかんな。おい、葡萄酒が無くなっているぞ!」

 

「ふふ、お肩を、お揉み、致します、ね?」

 

「ああああああああああ……!?」

 

 

 

 積み上げられた木箱に厚布を敷いた即席のソファーに座らされ、右手にはビスケット、左手には葡萄酒の入ったグラスを持ち、クスクスと笑う魔女パイセンに肩を揉まれている女神官ちゃんが、大勢の兵士に傅かれておめめをグルグルさせながら言葉にならない呻き声を響かせている不思議な光景でした……。

 

 


 

 

「うう……みなさん酷いです……!」

 

「まぁまぁ、みんな騒げるネタが欲しかったのよ」

 

「それに、あのペリュトンを滅ぼしたのは事実ですのよ? それもたった1人で」

 

 

 死の軍勢(デスアーミー)の首謀者たる塚人覇王(ワイトキング)が滅びたという知らせを受け、どんちゃん騒ぎの始まった砦の一画。ようやく下に降りられた女神官ちゃんが、遠巻きに見守るという建前で助けを無視していた妖精弓手ちゃんと令嬢剣士さんをぽかぽかと叩いてますね。酒蔵から運び出された秘蔵の酒があちこちで封を切られ、そこかしこから「怪異殺し(ガストスレイヤー)に乾杯!」という声が聞こえて来ています。

 

 

「では、亡者共は片付いたのだな」

 

「はい。若干の打ち漏らしが残っている可能性はありますが、そちらは兵の皆様にお願いする形がよろしいかと」

 

 

 ゴブスレさんの問いに胸を張って返答する令嬢剣士さん。傍らに置かれた魔剣は未だに切先から魔力の残滓を放っており、フル回転で使われていたことが見て取れます。予想通り襲来した第二陣ですが、防衛戦で真骨頂を発揮する栄纏神の加護の下防御力を増した砦の防壁と、豊富な遠距離攻撃によって退けられ、僅かな負傷者のみで撃退に成功したそうです。

 

 

「にしても、まるで森人(私たち)みたいな矢だったわね! 単語発動の呪文で狙いを付けてたんだっけ?」

 

「ええ、ちょっとした。コツが、あるの、よ?」

 

 

 葡萄酒を煽り赤い顔になっている2000歳児が凄い凄いと連呼しているのは魔女パイセンの見せた矢による攻撃。指の間に挟み込んで片側4本左右合わせて8本の矢が手から離れると、まるで吸い込まれるように亡者を貫き、そのまま集団を一掃したんだとか。妖精弓手ちゃんの膝上の吸血鬼侍ちゃんが使()()()()()()()()矢を見せてもらったところ、砂漠の国で討伐した赤竜の牙が鏃として使われていたそうです。竜牙の矢……外れずの矢(シュートアロー)束ね撃ち……。あれ? もしかして魔女パイセンの火力って高くないですか?

 

 

「それにしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、武器を振り回すだけが攻撃では無いのだと改めて思い知った気分だ!」

 

「いえ、そんな。たまたま上手くいっただけで……」

 

「お、なんだ? ゴブリンスレイヤーみたいな屁理屈でも押し通したのか?」

 

 

 バンバンと背中を叩きながら称賛の声を上げる女騎士さんに辟易した様子の女神官ちゃん。話題を聞きつけて集まって来た一行の視線を受けて一瞬硬直したものの、他人に面白おかしく話されるよりはマシだろうという思いが勝ったようでポツポツと話し始めてくれました。

 

 

「えっとですね、何だか鳥と鹿が混ざったような怪物が現れて、そいつには剣も矢も効果が無かったんです」

 

「うむ、私も斬りかかったのだが思いっ切りすり抜けてしまったな!」

 

「エロフの姉のほうがいれば2秒で焼き鳥だったんだろうけど、おっぱい娘と2人で地上の亡者をヒャッハーしてたからいなかったのよねぇ」

 

「それでいきなり『怖いか人間よ!! 己の非力を嘆くがいい!!』とか『我は此処に居て、此処には居らぬ!! 故に我を滅ぼすことは不可能だ!!』なんて偉そうに喋り出して、それを聞いていたらだんだん腹が立ってきて……」

 

 


 

 

「じゃあ、あなたは此処には居ないんですね?」

 

「……? 何を馬鹿なことを。我は此処に居て此処には居らぬと……」

 

「だから、『此処には居ないんですよね?』」

 

「え、いや、それは我の素敵で無敵な特性を説明したものであって……」

 

「『此処には居ないんですよね?』自分で言ったじゃありませんか」

 

「だからそれは、あくまで例え話……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたは、此処には居ませんよね?』

 

「そうかな……そうかも」

 

 


 

 

「んで、そのバケモンは消えちまったってワケか!!」

 

「自らの、存在、に、疑問を、抱いたから、存在を、保てなかった、の、よ」

 

 

 こ れ は ひ ど い。

 

 

 実際に現場を見ていた地母神さん曰く、『うさぴょいしたおちびさんと女冒険者たちの前に立っていた時に匹敵するオーラを出していた』そうです。女神官ちゃんの笑顔は可愛いときとおっかないときの2パターン存在する。みんなもしっかり覚えておこう!

 

 

 切り札であったペリュトンが呆気なく撃破?され、頼みの綱の飛竜(ワイバーン)は妖精弓手ちゃんと魔女パイセンによって次々と射落とされ、亡者の群れはMAP兵器で根こそぎ殲滅。そりゃ兵士たちも崇め奉るってもんでしょう。猪なのに獅子奮迅の活躍をしていた使徒くんも、危機から救出した兵士たちに備蓄の豹芋(ジャガイモ)蜂蜜(はちみー)を貰い大喜びで貪っています。

 

 

 そんな感じで戦勝ムード真っ只中な砦ですが、先刻感じた異常の出処を突き止めるべく1人行動する吸血鬼君主ちゃん。妖精弓手ちゃんと歓談している令嬢剣士さんを見付け、その袖口をクイクイ。何事かとしゃがみ込んで視線を合わせる彼女にむぎゅっと抱き着いちゃいました。

 

 

「あら、如何なさいました? おなかが空いたのでしたら少々お待ちを……」

 

「ん~ん、そっちはまだへーき。……あのね、なにかとってもかなしいこととかなかった?」

 

「悲しいこと、ですか? ……砦の兵たちが亡くなったことは悲しいですが、そういうことでは無さそうですわね」

 

 

 服の裾を捲り上げようとする令嬢剣士さんを制し、首筋に顔を埋めたまま問う吸血鬼君主ちゃん。令嬢剣士さんの答えをきくとその顔をじっと見つめ、真実かどうか見定めているようです。やがて納得がいったのかひとつ頷くとひんやりとしたほっぺに頬擦りをして、ボス部屋で感じたものについて話していますね。

 

 

「――だから、けんぞくのだれかがすっごくかなしんでるきがしたの」

 

「成程、私では無いとすると……」

 

「鉱山組のどちらかかしら。ヘルルインも違ったのよね?」

 

 

 優しく後頭部を撫でながら相槌を打つ令嬢剣士さんに、万一の可能性を指摘する妖精弓手ちゃん。視聴神さんたちはご存知ですが勿論吸血鬼侍ちゃんも違います。

 

 

「どっちもなかなか内心を表に出さないから、ちょっと面倒かもしれないわよ? どうする? 無理やりにでも聞き出しちゃう?」

 

「んとね、できればほんにんからちょくせつききたいの」

 

「判りました。もしかしたらもう片方が事情を知っているかもしれませんものね」

 

 

 わぁお、令嬢剣士さん鋭い。両手をワキワキしながら尋問の構えを取る2000歳児をピシャリと窘める姿はとても一党(パーティ)の最年少には見えません。まぁ女魔法使いちゃんとは半年も離れていないんですけどね。おっと、お手伝い致しますわと、いう令嬢剣士さんの協力が得られたところで勇者ちゃん達3人が鉄壁将軍さんのところから帰って来ました! 首魁を討ち果たしたという報告を受けて彼も安堵の表情を浮かべていたみたいです。

 

 

「そろそろお暇するのです。みんな、準備は出来ているのですか?」

 

 

 賢者ちゃんの呼びかけに根の生えかけていた重い腰を上げ、最後の一仕事に向かう冒険者たち。目的地である鉱山の≪転移≫場所は兵たちの居住区を指定してあるみたいです。残念ながら焼け落ちてしまっていますが、果たして合流はスムーズにいくのでしょうか……?

 

 


 

 

「……こりゃ、随分派手にやったみてぇだな」

 

 

 未だ煙の上り続ける居住地跡を見て零れた重戦士さんの呟き。その言葉に示されているのは荒廃した街並みだけでは無いのでしょう。勇敢に戦い散っていった兵士たちの亡骸に、貪り喰われて部位ごとにバラバラになった人体の一部。そして、人の尊厳を踏みにじった報いを受け、血溜りや肉片へと姿を変えた、新鮮な屍人(フレッシュゾンビ)へと堕した屑冒険者(福本モブ)たちの僅かな痕跡が辺りに見受けられます。

 

 

「これだけの人数がいきなり≪転移≫してきたら、嬢ちゃん達なら直ぐに気付くと思うんだがなぁ」

 

「いえ、どうやら先に鉱山を制圧しに向かったみたいなのです」

 

 

 おや、賢者ちゃんが持っているのは紙片(ハンドアウト)でしょうか? 流麗な筆致で鉱山に潜む元貴族たちを殲滅しに先行する旨が書かれていますね。この字体はたしか剣の乙女ちゃんだった筈です。

 

 

「……妙だね。私や妹姫(いもひめ)さまなら兎も角、妹君や大司教殿が増援を待たずに突っ込むなんて」

 

「ちょっと、それどういう意味かしら? ……まぁ、あの2人なら無理に急いだりしないわよね」

 

 

 顎に手を添えて考え込む叢雲狩人さんと、彼女の言い方に噛みつきながらも冷静に分析する妖精弓手ちゃん。他のみんなも同様の考えみたいですね。

 

 

「……考えられる理由は2つ。やむを得ず突入せざるを得なかった場合か、余程殲滅を急ぎたかった場合かだ」

 

「しんゆうは、どっちだとおもう?」

 

 

 周囲の状況を確認していたゴブスレさん、吸血鬼君主ちゃんの問いに無言で踵を返し、一行をある場所へと案内していきます。≪転移≫の登録地点だった居住地の中央広間から5分ほど歩いたその場所は……。

 

 

「何よ、これ……!?」

 

 

 

 鋭利で巨大な刃によって割断された建築物に、全身を弾丸で穿たれた死体の数々。そして何より目を引くのは、同心円状にひび割れた地面に残るドス黒く変色した血痕と、変質的なまでに解体された人体の一部です……。

 

 

 

「ねぇ、これって……」

 

「うん、まちがいないね……」

 

 

 へたりと座り込む妖精弓手ちゃんを女神官ちゃんが支える横を通り過ぎ、陥没した地面の傍らにしゃがみ込むダブル吸血鬼ちゃん。この惨劇を生み出したのが誰なのか悟ってしまったみたいですね。これほどまでに執拗な破壊を行ってしまった眷属を一刻も早く抱きしめなければと走り出そうとしたその瞬間……。

 

 

 

 

 

 

「――あら、2人とも何処に行くつもり? もう全部片付けたわよ?」

 

 

 ()()()()()()()()()声に振り向いた2人の視線の先には数人の人影。刀身に肉片のこびりついた粉砕剣1/6(カシナート)を肩に担いだ聖騎士君と、同じく血に染まった天秤剣を布で拭き清めている至高神の聖女ちゃん。ダブル吸血鬼ちゃんを見て驚きのあまり開いた口が塞がらない様子の元冒険者夫婦。そして、背後から女魔法使いちゃんを痛まし気に見つめている剣の乙女ちゃんの姿です。

 

 

「ほら、覚えてる? 最初の冒険で一緒だった2人よ? 偶然道中で再開して、安全のために同行してもらってたのよ」

 

「……うん、もちろん! ひさしぶり~!!」

 

「まったく、合流場所に居なかったので心配してたのです。紙片が無かったらどうなっていたのか判らないのです」

 

「ああ、悪かったわね。あんまり時間をかけてたら貴腐人(ノーブルゾンビ)が逃げそうだったのよ」

 

 

 ()()()()()()()が元冒険者夫婦にダイブするのを横目に賢者ちゃんからのジト目を受け流す女魔法使いちゃん。普段通りの受け答えに見えますが、やはり何処か違和感がありますねぇ。

 

 

「ねぇ、あっちにあったのって……」

 

「……はい、内なる獣性と『敵』に対する殺意が抑えきれず……」

 

 

 甘えるようにエロエロ大司教モードな剣の乙女ちゃんの豊満な胸元へ抱き着き、たわわの感触を楽しむフリをして耳元で囁く吸血鬼君主ちゃん。想い人の尖り耳を愛撫するように口を寄せた剣の乙女ちゃんの返答もまた睦言からは程遠いものです。義姉妹からちゅーちゅーしている彼女を見る令嬢剣士さんの表情も何処か硬いものに見えますね。……お、妖精弓手ちゃんがこっそりと抜け出て2人のところに近付いてきました。剣の乙女ちゃんを背後から抱きしめ、吸血鬼君主ちゃんとは反対側の耳元にその桜色の唇を近付けました。

 

 

「あの子、ちょっと洒落にならないくらいヤバいわね。……荒っぽいけど、今夜仕掛けるわ。手伝ってくれるかしら?」

 

「ええ、勿論。大切な血族(かぞく)にして、同じ彼女(ひと)を愛する身ですもの。全力で参りますわ」

 

「ん、ありがとう。……シルマリルもいいわね? このままだとあの子、オルクボルグから聞いてた砂漠の国でのアンタみたいになっちゃうから」

 

「うん、おねがい。ぼく、あのこをこれいじょうかなしませたくない……!」

 

 

 決意に満ちた3人の視線の先には、「今後の身の振りについて提案したいことがあるから、今日はウチに泊っていきなさい」と元冒険者夫婦を≪転移≫の鏡に押し込む女魔法使いちゃんの背中。それに加えて女闇人さんの受け入れ準備や金髪の陛下への報告も残っています。そんなスタックが山積み状態で次回ED。さて、どんな結末が待っているでしょうか?

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 





 夜戦に向けてTo LOVEる並の描写研究に邁進するので失踪します。


 感想に評価、いつもありがとうございます。

 読んでいただいた方の反応が一番の活力になりますので、一言でも構いませんので頂けると嬉しいです。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその14 りざると その2

 短い自宅警備期間だったので初投稿です。




 前回、吸血鬼君主ちゃんたちが女魔法使いちゃんのケアに向けて決意を新たにしたところから再開です。

 

 

 全ての組が合流したところで辺境のギルドへと帰還した一行。≪転移≫の門を抜けた先では前兆を察知して、受付嬢さんと監督官さんが一行を待っていてくれました。

 

 

「みなさん、おかえりなさい!」

 

「うんうん、みんな無事に戻って来てくれた……みたいだね!」

 

 

 両手を合わせ花が咲くような笑みを浮かべる受付嬢さん。一瞬硬直した隣の監督官さんもでしたが、それを隠すように笑っていますね。吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんに紹介されて元冒険者夫婦が再会の挨拶する姿を眺めていた彼女の背中に、小さく軽い何かがおぶさって来ました。

 

 

「おかえり。よく頑張ったねって褒めてあげたいたいところだけど……」

 

「ん。まだおわってないというか、これからがほんばんというか」

 

 

 おひさまの匂いと温かさを首元に感じつつ、囁きに耳を傾ける監督官さん。その視線の先はやっぱり女魔法使いちゃんです。二児を儲けていることを暴露され真っ赤になっている2人を見てからからと笑っていますが、海千山千の冒険者を見てきた監督官さんの目は誤魔化せていないようですね。

 

 

私たち(ギルド)一党(パーティ)の内情に干渉するのはあんまり良くないんだけど、一党(パーティ)の仲間に対しての心のケアっていうのは頭目(リーダー)の大事な仕事だよ? 疎かにしてると心が澱んできちゃうんだ」

 

 

 監督官さんのおっしゃる通り、冒険後のクールダウンはジッサイ大事です。日常と冒険の切り替えが上手くいかなくなると、とんでもない大ポカや致命的な問題が発生したりしますからね。

 

 

 そんな冒険者たちの心の洗濯といえばやはり『飲む』『打つ』『買う』がベターなところ。『飲む』は食事と共にギルド内の酒場で安価に提供されてますし、懐に余裕がある場合はゴブスレさんが女神官ちゃんの後輩を連れ込んだ高級店も選択肢に入るでしょう。

 

 

 『打つ』は仲間内でささやかに賭けるも良し、スリルを求めて賭場に赴くも良しですね。まぁそちらに行く場合は大抵財布の中身をすっからかんにされちゃいますし、それで身代を持ち崩して借金持ちになったり3つ目のお店で働くことになる場合も……。ギャンブルは生活に支障が出ない程度にしましょうね?

 

 

 それで最後の『買う』ですが……まぁ戦闘後の昂りを鎮めたり、或いは冒険前のゲン担ぎに利用する場合が多いですね。所謂『あげまん』なお姉さんは大人気ですし、冒険に失敗して仕方なく働く場合も。ダブル吸血鬼ちゃんたちが動き出してからは無くなりましたが、ゴブリンの被害を受けた女性たちが流れ着く先のひとつでもあるんですよね……。

 

 

「今のあの子にとって食事は娯楽みたいなものだし、賭け事もそんなに好きじゃ無さそうだよね。それに君たち一党(パーティ)の特殊な事情を鑑みると……ねぇ?」

 

 

 一党(パーティ)の爛れた関係を思い返して監督官さんも思わず苦笑い。【辺境最悪】のお披露目の後、ダブル吸血鬼ちゃんたちのラブラブっぷりは辺境の街のみならず王都にも広まっているくらいですし、一時期の森人義姉妹(エロフしまい)の攻勢はギルドの誰もが知っているほど。西方辺境の可憐な花を独占しているスケコマシとして男性冒険者からは嫉妬と畏敬の混ざった複雑な眼で見られています。

 

 

森人(エロフ)の子たちが出産を機に落ち着いたんだから、同じ手を使ってみたらどうかな?」

 

 

 卑猥なハンドサインと共に繰り出された監督官さんの提案に吸血鬼君主ちゃんは渋い顔。ダブル吸血鬼ちゃんが気にしているのはやっぱり……。

 

 

「あんまりけんぞくのかずをふやすと、おうこくのひとたちからこわがられちゃうかもしれない。それに、いまのたちばのままじゃみんなをまもってあげられないの」

 

 

 ですよねぇ。今はまだ金髪の陛下の特別な友人ということで存在が許容されていますけど、むやみに眷属を増やしてしまったり、陛下が代替わりした時に王国に対する脅威として見られるのは十分に考えられます。王国の統治基盤に組み込まれるのが一番安定ではあるのですが、冒険者という立場ではちょっと不足していますね。……おや? そんなふうに監督官さんの背中で俯いている吸血鬼君主ちゃんに迫るあの特徴的な猫耳フードは……。

 

 

「話は聞かせてもらったのです」

 

「ひゃん!?」

 

 

 敏感なうなじを舐め上げられ、ビックリして手を離してしまった吸血鬼君主ちゃんをキャプチャーし、豊満な胸元に抱きかかえたのは賢者ちゃん。どうやら支部長さんへの報告は終わったみたいですね。この後元童貞コンビと一緒に陛下へ顛末の報告をしに向かうということで、このギルドで別れる予定だったんですが……。

 

 

「貴女の眷属をあの状態で放置しておくのは不味いのです。切り札を一枚あげるので、さっさと押し倒して解決するのです」

 

 

 そう言いながら吸血鬼君主ちゃんのちょっぴり尖った耳に唇を寄せ、何事か呟く賢者ちゃん。吸血鬼君主ちゃんとさり気なく耳を寄せていた監督官さんの表情が大きく変わっていきます。

 

 

「――なので、貴方の心配は近々解消されるのです」

 

「ほほう、そんな状況になってたんだ!」

 

「……ほんとに、しんぱいしなくていいの?」

 

 

 賢者ちゃんの言葉が未だ信じられないようで、不安げに彼女の顔を見上げる吸血鬼君主ちゃん。その不安を拭い去るように優しく頬を撫で、私は必要の無い嘘は付かないのですと笑う賢者ちゃん。喜びで緩む顔を隠すようにたわわに顔を埋めた吸血鬼君主ちゃんの「ありがとう」という声は、顔を見合わせて笑う出来るオンナ2人にしか聞こえなかったみたいですね。

 

 

「シルマリル~! そろそろ帰るわよ~!!」

 

「ほら、呼んでいるのです。……頑張るのですよ」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんを探しに来た妖精弓手ちゃんに手渡し、頭を撫でながら激励の言葉を送る賢者ちゃん。満面の笑みで返事をする吸血鬼君主ちゃんを見て、妖精弓手ちゃんが3人で何を話していたのか聞いているみたいです。牧場へと向かう一行のところへ歩み去っていく後姿を見ながら、見送る2人が感慨深げに呟くのは……。

 

 

 

 

 

 

「王国とその周辺地域における、邪教の信徒の一斉消滅……ねぇ。これで砂漠の国の併合も前倒しになるのかな?」

 

「未だ混沌の勢力は活動しているので油断は出来ないのですが、上手くいけば爵位授与が早まるかもしれないのです。そうすれば、あの恐ろしくも愛らしい血族(かぞく)が安心して暮らせるようになるのです」

 

 

 

 

 

 



 

「……はい、契約内容に不備はありませんね。それでは此方に署名をお願い致します、オルクボルグ様」

 

「――ああ」

 

 

 若草祖母さんが差し出す上質な羊皮紙を受け取り、ぎこちない手つきでサインをするゴブスレさん。普段の彼からは想像も出来ない姿を見て、傍の牛飼若奥さんが肩を震わせています。2枚の羊皮紙にそれぞれ自分の名前を書くと、その片方を机の対面に座る元青年剣士君へと差し出しました。

 

 

「これで契約は完了だ。住居は戦友が用意する手筈になっているから心配はいらん」

 

「つぎのあんそくびにむかえにいくから、おひっこしのじゅんびをしておいてね!」

 

「ああ! よろしくたの……痛ってぇ!?」

 

「雇い主様に対する礼儀を弁えなさいっての! ……コホン、これからよろしくお願い致します」

 

 

 ぺしりとケツを叩かれて悲鳴を上げる元青年剣士君を横目で睨んで黙らせつつ、深々と頭を下げる元女武闘家ちゃん。テンパった牛飼若奥さんが「こちらこそ!」と頭を下げてしまい、雇用契約を生暖かく見守っていた一同が堪え切れずに笑いだしてしまってますね。

 



 

 

 

 

 

 

 さて、ギルドで勇者ちゃん一行&元童貞コンビと別れ、牧場に凱旋した一行。冒険前に子どもを預けていた槍ニキたちも一緒です。牧場の外縁で畑の手入れをしていたおちびさんたちが一行の帰還を報せてまわり、みんなでお出迎えしてくれました!

 

 

「わわ、お客さんがいっぱいだ! よし、冒険の成功を祝ってご馳走を作るから、みんな手伝ってくれるかな?」

 

「「「「「「「かしこまりました、おくさま!!」」」」」」」

 

 

 一行の明るい顔を見て冒険が成功したことを察した牛飼若奥さんが腕まくりをしつつ号令をかけると、一斉に動き出すおちびさんたち。そのパートナーである元冒険者の女性たちも食材の調達や調理の準備に取り掛かっています。……コホン、お、向こうから保育園で使われるような車輪付きの大型荷車(キャリーワゴン)に子どもたちを乗せて向かってくるのは只人寮母さんと若草祖母さん、白兎猟兵ちゃんです。それに加え、モフモフの毛並みに子どもたちをしがみ付かせて笑っている白兎猟兵ちゃんのお父さんたちも一緒ですね!

 

 

「ほらみんな、パパとママが帰って来たよ~!」

 

「「お帰りなさいませ、皆様」」

 

「子どもたちはみんな元気が有り余ってるよ~。おかげで腰が……アイテテ」

 

「もうすぐおじいちゃんになるんだから、お父さんもおじさんたちも無理しちゃだめですよぅ」

 

 

 あらら……。歴戦の陸軍特殊部隊群(グリーンベレー)でも子供たちの無尽蔵のスタミナには勝てなかったみたいですね。腰に手を当てているお父さんたちを白兎猟兵ちゃんがからかっています。只人寮母さんによって荷車(ワゴン)から1人ずつママのところへ帰った子どもたち。やっぱりママが大好きなんでしょうね、みんな満面の笑みで……おんやぁ? そうでもない子が何人か……。

 

 

「うー……」

 

「なぁ~によその目は? ママの金床じゃ不満?」

 

「うぅー……!」

 

「まったく、誰に似たのかしら! ……ていっ!」

 

「あぅー♪」

 

「あ、あらあら……。おっぱいはしっかり飲んでくれますのに……」

 

 

 不満げに見上げて来る我が子……星風長女ちゃんを剣の乙女ちゃんの胸元に押し付け、ジト目で睨む妖精弓手ちゃん。大好きなたわわに星風長女ちゃんは満足そうに頬擦りしていますね。剣の乙女ちゃんも複雑な笑みを浮かべていますが、星風長女ちゃんもちゃんと自分のお母さんは妖精弓手ちゃんだと認識はしているみたいです。

 

 

「やぁー!」

 

「お、おや? 何がそんなに気に入らないんだい?」

 

 

 その向こうでは叢雲狩人さんがジタバタと暴れる愛娘……叢雲次女ちゃんを宥めるのに難儀している様子。髪の毛を引っ張ったりはしないようですが、頬擦りしようとするママをノーサンキューとばかりにちっちゃなおててで押し退けようとしていますね。ママに似てクリっと大きな瞳が見つめているのは、様子を見にやって来たダブル吸血鬼ちゃんです。

 

 

「ぱぁぱ! ぱぁぱ!!」

 

「あぁはいはい、パパが良かったんだね。……で。君はどっちのパパにするのかな?」

 

 

 しゃがみ込んでダブル吸血鬼ちゃんに高さを合わせ、横に並んだ2人の前に叢雲次女ちゃんを差し出す叢雲狩人さん。左右に首を振って何事か思案する素振りを見せる叢雲次女ちゃんが取った行動は……。

 

 

 

「ぱぁぱ♪ ぱぁぱ♪」

 

「「えへへ……!」」

 

「……まさか両方1人占めとはね。我が子ながら将来が恐ろしいよ」

 

「まぁ、特殊過ぎる私たちの血族(かぞく)関係を鑑みれば悪い話ではありませんわね」

 

 

 左右の手をいっぱいに伸ばし、ダブル吸血鬼ちゃんの襟元を握って離さない姿に戦慄を隠せない叢雲狩人さん。その光景を見ていた令嬢剣士さんの言う通り、エルドラージクリーチャー並みにコジレックした一党(パーティ)の状況を考えればむしろ有難いかもしれません。パパが2人いて、ママがいっぱいなんて家族構成、滅多にお目にかかれないでしょうし。

 

 

 

 

 そんな母と子の一幕もありましたが、牛飼若奥さんの音頭で設けられた宴の席は大盛り上がり。新顔である妖術師さんと女闇人さんも初めは場のノリに気圧されていたようですが、若草知恵者ちゃんと一緒に善き死霊術師(ネクロマンサー)として活躍したのをキャスター陣が囃し立てたり、救出された女闇人さんが闇人繁殖者(ブリーダー)被害者である女冒険家に頭を下げたら「え?いや貴女何も悪くないじゃない」と困惑したように言われて宇宙猫みたいな表情になったり、豊穣の霊薬の効果で生まれた3人の娘の存在を知って再起動したりと、2人ともあっという間に馴染んでしまいました。

 

 

 鉱山で合流した際に、たった一度だけ冒険を共にした元青年剣士君と元女武闘家ちゃんの2人を見たゴブスレさん。しっかりと2人のことは覚えていたようで、彼にしては饒舌に「今の暮らしはどうだ」「子どもたちは健康か」と若干早口に会話をしていたのが印象的でした。一般人としての暮らしがどれだけ大変で、どれほど幸福なものなのかを知った彼に女魔法使いちゃんが持ち掛けたのが、冒頭で見た映像の件ですね。

 

 

 

 大事な商売道具である荷馬を失ってしまった元冒険者夫婦。国からの依頼なので幾許かの補償が出る可能性はありますが、それですべてが賄えるとは考えにくいです。若干の蓄えは有るそうですが、2児を抱えた今後の生活を考えると厳しいと言わざるを得ない状況。そこで女魔法使いちゃんが持ち掛けたのが、牧場のスタッフとして彼らを雇うことでした。

 

 

 牛飼若奥さんとゴブスレさん、それにお義父さんの3人で牧場を運営していた頃、街への輸送はおもに当時の牛飼娘さんの担当でした。しかし、業務の拡大と騎士位の授与により、2人は労働者から名実ともに経営者へと転向。牧場で働く人数も増え、若草祖母さんや令嬢剣士さんに雇用主としての契約の仕方や雇用についての勉強もしている最中です。

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)のお手伝いは土地買収に名前を貸してもらった事への恩返しと冒険の息抜きを兼ねたボランティアみたいなものであり、白兎猟兵ちゃんの家族や砂漠の女冒険者たちの契約は2人の承認を受けて若草祖母さんが代行して行ったものでした。そんな折に持ち掛けられた元冒険者夫婦の雇用は、いわば2人にとってのOJTみたいなものですね。

 

 

 予てから2人で相談しながら作成していた契約内容を元冒険者夫婦に合わせて調整し、賃金や待遇、住居や就業中の子どもの預かりについてまで細かく書かれた契約内容に元青年剣士君は目を回していましたが、隣で読み進めていた元女武闘家ちゃんの表情が徐々に引き攣っていくのが周りで見ていた冒険者たちにも判りました。上から下まで3度読み返した元女武闘家ちゃんが机に契約書を置き、思わずといった表情で口にしたのは……。

 

 

「えっと、怒らないで聞いてね? これって所謂『騙して悪いが』ってヤツ???」

 

「違う」

 

 

 ……そう聞いてしまうほど、四方世界の基準から見れば労働者に優しい内容だったみたいです。

 

 

 

「いやだって、『繁忙期を除き、最低週に1日は完全休み。1日は半日でおしまい』とか『保育所での子供預かりは無料。万一に備え癒しの奇跡が使える神官が常駐しています』とか『就業時の昼食は牧場側で提供』とか、そんな上手い話信じられるわけないじゃない」

 

 

 これじゃ王様か貴族様よ、と心情を吐露するのは無事に契約を終えて胸を撫で下ろしている元女武闘家ちゃん……せっかくなので新しい呼び方を考えてあげましょうか。元青年剣士君もあわせて、視聴神さんたちからの応募をお待ちしています。――ですね。実際の王様や貴族は何時ぞやの貴族の子弟たちのような例外を除けば目を覆いたくなるようなブラック労働なんですが、そこは黙っているのが夢を壊さない優しさでしょう。

 

 

「少々甘い箇所もございましたが、そこはおふたりの経営方針ということにしておきましょう。幸い、財布の紐の緩い出資者がすぐ近くにいらっしゃいますので」

 

 

 2人の指導をしていた若草祖母さん的にも及第点といった内容だったみたいですね。若干労働者に甘い内容だとしても、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)と懇意にしている間は経営に困ることは無いでしょうし、ゴブリンによって傷付けられた女性たちの救済という側面もありますからね。一般募集を出さない完全縁故採用ですが、甘い汁を狙う第二第三の福本モブや旧王派残党の密偵なんかを弾くには丁度良いかもしれません。

 

 

「ふふ、冒険ではありませんが、またご一緒出来ますね!」

 

「そうね。みんなの大切な子どもを預かるんだもの、あんたも頑張んなさいよ?」

 

 

 元女武闘家ちゃんの手を取って嬉しそうに笑う女神官ちゃん。元女武闘家ちゃんもまんざらでもなさそうですね。歩く速度は違っても、進む方向は同じ幸せの待つ方角。途中で互いが到着するのを待って、一緒に休憩するのもきっと楽しいですよ!

 

 

 

 

 

 

「んじゃそろそろ休ませて貰うか。ガキの面倒見てくれて助かったぜ!」

 

「久しぶりの親子の触れ合いを楽しんでね? 部屋はもう準備してあるから」

 

「いつもすまないな。……オイ、行くぞ! ここで寝るんじゃない!!」

 

「んぁ? あ、ワリィ寝てたか。疲れを抜くのに暫く泊まれるのは有難ぇよなぁ」

 

 

 楽しい宴もそろそろ終幕。只人寮母さんに頭を下げ、金等級2組がお子さんを連れて向かうのは牧場内に設けられたゲストハウスです。療養所で治療を受けている女性の関係者や出産を控えた夫婦、パートナーが冒険に出ている間に子どもと一時滞在するのに使われている施設ですね。子どもを預けて2人そろって冒険に出向くことの多い槍ニキ夫婦にとって貴重な親子のコミュニケーションの場になっているみたいです。

 

 

 ちなみに療養所や保育所の料金ですが、ゴブリンの被害に遭った女性の治療と静養期間の生活費は原則無料、関係者の宿泊と保育所の利用料は等級によって変わるみたいです。白磁や黒曜からは殆ど請求せず、上の等級から割増しで貰うことで調整し、お財布事情が苦しい駆け出しの負担を軽減する仕組みになっているそうです。そうすると中堅以上から不満が出るような気がしますが、ギルドの評価でいうところの社会貢献や人格査定にプラスが貰えるのでそういった声は上がっていないんだとか。

 

 

 また、夫婦の片方、若しくは両方が冒険から帰って来なかった場合、残された者の未来は暗いものになってしまうのが悲しい現実である四方世界。乳飲み子を抱えたまま娼館で働く未亡人や、困窮した神殿や孤児院に放り込まれる幼子は決して珍しいものではありません。劣悪な環境で生活する者が増えれば、それだけ心に闇を抱え、混沌に呑まれる可能性も高くなってしまいます。

 

 

 そういった事態を少しでも減らすため、ゴブスレさんがダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)と一緒になって各種取り組みを行っているわけですね。これからの目標としては、万が一預かっている子どもが孤児になってしまってもそれを放り出したりせず、基礎的な教育を終えるまでしっかりと育て上げ、その子の能力と志望に沿った職を斡旋できる枠組みを作ろうと動いているようです。商工会ギルドや冒険者ギルドと提携し、積極的に卒業生を採用して貰う流れが出来れば、ほんの僅かずつでも貧困(ラスボス)のHPを削れるかもしれません。

 

 

 残念ながらダブル吸血鬼ちゃんやゴブスレさんが干渉出来るのはあくまで『冒険者』が関われる範囲内のことだけであり、今この瞬間街で貧困に喘いでいる人たちを救済することは出来ません。

 

 

 もちろん炊き出しなどを行う神殿に寄進したりはしていますが、明日の生活を劇的に改善させるのは難しいですね。不死であるダブル吸血鬼ちゃんとその眷属、そして彼女たちと添い遂げることが可能な長い寿命を持つ森人(エルフ)にしか出来ないことをやるしかないのです。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、私たちもお暇させてもらおっか。今回大活躍だった怪異殺し(ガストスレイヤー)ちゃんも寝ちゃってるしね」

 

「そうだな。……また明日、だ。戦友」

 

「「「「「「「おやすみなさ~い!!」」」」」」」

 

「おやすみ~」

 

「またあした、しんゆう!」

 

 

 お、槍ニキたちに続いて牧場夫婦とうさぎさん一家もお帰りみたいですね。スヤァ・・・と寝息を立てている女神官ちゃんをお米様抱っこしたゴブスレさんがペコリと頭を下げるのに合わせて、おちびさんたちが元気に別れの挨拶をしてくれました。

 

 

「いつもの部屋を用意してあるから、じっくり絆を深めてくるといい」

 

「うん、ありがとう! ……はぁ、神殿じゃなかなかイチャつけないのよねぇ」

 

 

 聖騎士君の首根っこを掴んだ至高神の聖女ちゃんが、卑猥なサインを繰り出す叢雲狩人さんに見送られて2階へと消えていくのは最早見慣れた光景ですね。どうしても神殿だと『長と騎士』の関係なのでラブラブ出来ないらしく、今回みたいに外で冒険をした後くらいしか夜会話が出来ないんですね。そのぶん大いに盛り上がるようで、翌日聖騎士君が干からびかけているのは言うまでも無いことです。

 

 

「赤ちゃんの夜泣きが響かぬよう、来客用寝室の防音は完璧です。……3人目に挑戦されても良いのですよ?」

 

 

 寝室へと案内する若草祖母さんが頬に手を添えて微笑むのを見て真っ赤になる元冒険者夫婦。躊躇いがちに握り合う2人の手を見る限り、今夜は盛大に夜戦が行われる事でしょう。

 

 

 

「さて、ちゃっちゃと後片付けをして、私たちも休みま……」

 

 

 うーんと伸びをして首をコキコキと鳴らす女魔法使いちゃんの両肩をガシっと掴む2つの人影。吸血鬼君主ちゃんを小脇に抱えた妖精弓手ちゃんと、エロエロ大司教モードの剣の乙女ちゃんがイイ笑顔で彼女を2階へと引っ張っていってます。不意の誘拐に抵抗する女魔法使いちゃんですが、おっぱいソムリエ(『君』)直伝の合気めいたテクニックで身動きを封じられ、そのまま連行されるばかり。

 

 

「若草ちゃん、うさぎちゃん。悪いけど宴会の後片付けをお願いしても良い? ヘルルインは森人(エロフ)姉と一緒に子どもたちを見ててちょうだい。おっぱい娘は新人2人に血族(かぞく)について話してあげてくれるかしら?」

 

 

 妖精弓手ちゃんの言葉にそれぞれの応答を返す仲間たち。運ばれていく女魔法使いちゃんに敬礼し、後は任せろという強い意志で見送りました。眼前で繰り広げられた壮大な茶番に開いた口が塞がらない様子の妖術師さんの隣では、女闇人さんがマイペースに子どもたちと戯れていますね。

 

 

「ふむふむ、成程。間違い無く森人(エルフ)でありながら、因子の提供者である我が主の特徴を持つ、か。実に興味深いな」

 

「なに、そう遠くないうちに君もご主人様と新たな生命を紡ぐことになるだろうさ。そうだ! せっかくだから両方のご主人様の魔力を一度に注いで貰うってのはカヒュッ

 

「もう、上姉様。はしたないですよ? ……ですが、おふたりが主さまの寵愛を授かることは(わたくし)も嬉しく思います」

 

「ええと、その。頭目(リーダー)とともに永遠の道を歩まれるか、あるいは命を繋ぐ道を選ばれるか。どちらの選択であっても、(わたくし)たちは歓迎いたしますわ!」

 

 

 鮮やかに森人(エロフ)を絞め落とし、嫋やかに微笑む若草知恵者ちゃん。そんな2人をジト目で見ながら胸を張って言い放つ令嬢剣士さんの言葉に、自らの将来を想像したのか妖術師さんが真っ赤になっちゃってます。新たに血族(かぞく)へと迎え入れられる2人がどんな道を選ぶのか、これからが楽しみですね!

 

 

 

 さて、2階へと消えた面々の様子ですがどんな感じでしょうか。今回は地母神さんの協力のもとに開発された特製のカメラを使って各部屋の様子を覗いてみましょう! 視聴神のみなさんにお見せ出来るギリギリまでを克明に映し出し、それ以上は即座にシャットアウトしてくれる優れものだそうです。あんまり過激な描写は≪幻想≫さんに真っ赤な顔で×マークを出されちゃいますので。

 

 

 まずは久々の冒険で昂ってしまっていると思われる元冒険者夫婦のお部屋から見てみましょうか。中継を受け取る前に内部の音を確認して……。

 

 

 

「ぐっ、そんな強くしたら……ッ!?」

 

「フン! 宴会中もおっきなお山ばっか見てたクセに。気付かないとでも思ってたの?」

 

「あっあっあっあっ……」

 

 

 

 お、始まってるみたいですね! 寝台(ベッド)に押し倒された元青年剣士君の上に元女武闘家ちゃんが跨り、のっしのっしと動いていらっしゃいます。元青年剣士君も何とか反撃の糸口を探っているようですが、巧みなシフトウェイトと上からの抑え込みに抗えず、悲鳴に似た呻き声を上げるばかり。やがてビクッと震えた後に脱力する彼ですが、そんな相棒に構うこと無く攻め立てる元女武闘家ちゃんのニクショクっぷりが恐ろしいですね……。

 

 

 

「んっんっ……。ほら、私だって結構あるんだよ?」

 

「ちょ、俺だっていっぱいいっぱいなんだから……ッ」

 

 

 お隣の部屋では至高神の聖女ちゃんが最近急激に成長しているたわわを聖騎士君に押し付けていますね。日々の過酷な訓練に加え、禁欲を旨とする生活によって聖騎士君の魔力はたまりにたまってまさに青金玉(ブルーボール)状態。聖女ちゃんの柔らかな肢体と甘い体臭に耐えられるわけもなく……。

 

 

「んっ! もう、こんなにいっぱい……」

 

「わ、悪い。我慢出来なかった……」

 

「まったく! でも、まだまだいけそうね……はむ」

 

 

 いやー、若いってすごいですねぇ。聖女ちゃんの愛情たっぷりなコミュニケーションを受けて尚立ち上がる鋼の意思は、地母神さんと至高神さんが熱っぽい視線で見つめるほどの益荒男ぶり。合間合間に口づけを挟みながらの夜会話は深く静かに盛り上がっているようです。

 

 

 さてさて、それでは本命である吸血鬼君主ちゃんたちの大部屋ですが……あれ? 上手く映像が送られてきませんね。音声は途切れ途切れで入って来ていますけど……。地母神さん、何か四方世界との通信に障害でも起きてますか……って、ち、地母神さん! 鼻から神気が溢れてますよ!? ええと、送受信の装置はこれだから……ええい、このスイッチだ!!

 

 

 

 ふぅ、地母神さんが使い物にならなくなってしまいましたが、何とか映像は受信出来そうですね。経験も知識も豊富と胸を張っていた地母神さんがこんな状態になってしまうなんて、いったいどれほどの光景が広がっているのでしょうか。それではそろそろ……って、覚知神さんが手でバッテンをしてますね。どうやら≪幻想≫さんが期待のあまり熱暴走を起こしてしまったみたいです。

 

 

 視聴神の皆様には申し訳ありませんが、≪幻想≫さんの回復を待って続きをお送りしたいと思います。しっかりとトイレを済ませた後、蝶ネクタイとカフスボタンの正装でお待ち下さいませ。あ、前に新()さんが言ってた通り全裸待機は厳禁です! 全裸なんて非紳士的ですし、なにより≪真理≫さんがそういうのに五月蠅いですからね!!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 ギリギリのラインを探る旅に出かけるので失踪します。


 たくさんの感想ありがとうございます。評価やお気に入り登録も次話のモチベに繋がりますので、よろしければお願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその14 りざると その3

 やっと終わりに辿り着けたので初投稿です。




 ええと、気分は如何ですか≪幻想≫さん。ダブル吸血鬼ちゃんたちの深くて重い愛情の発露とはいえ、やはり少々過激でしたかね?

 

 ≪真実≫さんも渋い顔をしていますし、『ゆうべはおたのしみでしたね』で省略して、いんたーみっしょんに進めてしまうのも一つの手ではあります。もしあれでしたらそちらにしてしまっても……。

 

 ……え、「お互いの絆と愛を確かめ合う夜会話をスキップするなんてとんでもない!」ですか?

 

 むむむ、視聴神の方々の影響を受けていらっしゃるとはいえ、そこまで夜会話シーンを望まれているとは思いませんでした。あとその胸の前で両手をギュってしているのあざと可愛いですね。

 

 わかりました! どうしても耐えられなくなってしまったら手を上げて地母神さんを呼んでください。彼女がその神威の粋を結集して作り上げたKENZENフィルターを使ってもらいますから!

 

 


 

 

 視聴神のみなさま、大変お待たせいたしました! 只今≪幻想≫さんが復帰されましたので、前回女魔法使いちゃんがドナドナされたところから再開です。

 

 

 彼女たちの動向を見守っていた地母神さんからの情報によりますと、女魔法使いちゃんをキャプチャーした一行はダブル吸血鬼ちゃんが頻繁に利用している大寝室に入って行ったそうです。

 

 

 拠点を街から牧場へ移した際に2部屋に増設された大寝室ですが、我々の予想とは違いダブル吸血鬼ちゃんがそれぞれの寝室に常駐しているというわけではないみたいです。

 

 

 お嫁さんたちとイチャコラするのに使うのが最も多いのは確かなのですが、互いの知識や経験を共有するためにダブル吸血鬼ちゃんが同衾して肌を重ねていたり、ベビーベッドを卒業した子どもたちを間に挟んでママたちと川の字……を通り越して/////な感じで眠ることも増えてきているんだとか。あ、夜戦の時は子どもたちはちゃんと別の部屋に寝かせていますからね?

 

 

「――で、人をひん剥いた挙句寝台(ベッド)の上で拘束して、これからナニをするつもりなのかしら?」

 

 

 以前より更に大きさを増した特注のベッドに上体を後ろに倒した姿勢で座らされ、ジト目で下手人たちを睨んでいる女魔法使いちゃん。トレードマークのとんがり帽子とぴっちりスーツを脱がされ下着も露わなその恰好、拘束と呼ぶには余りにも艶やかな光景です。

 

 

 後ろに傾いた上体を支えているのはキャミソール姿の吸血鬼君主ちゃん。女魔法使いちゃんの後頭部を肩口で受け止め、前にまわした手はご立派な胸の下。ちっちゃな手のひらだけではたわわの海に沈み込んでしまうため、交差させた腕全体で柔らかなお山を支えていますね。

 

 

 そんな吸血鬼君主ちゃんを膝上に座らせているエロエロ大司教モードの剣の乙女ちゃんは、視聴神の皆様の予想通り上はノーガード。横紐が確認出来ないのでまさか下も……と思っていたら、辛うじて大事な場所をガードするCストリング――所謂『Iバック』というヤツですね――を身に着けていました。サンドイッチの中身のように間に吸血鬼君主ちゃんを挟み込んだ状態で女魔法使いちゃんの首筋や耳を艶めかしい手つきで撫でさすっています。

 

 

「ふふん、そんなの決まってるじゃない。さ、溜まってるモンをキリキリ白状しなさい! 正直に吐かないと……ちゅーするわよ?」

 

 

 極めつけは女魔法使いちゃんに覆い被さるようにガチ恋距離でドヤ顔を披露している妖精弓手ちゃん。普段通りの慎みという言葉を森に置き去りにした一糸纏わぬ姿ですが、天上の美とも称される自然が生み出した至高の芸術品はその永遠の輝きを惜しげもなく晒しています。

 

 

「正直もナニも、別に隠していることなんて……んむ!?」

 

 

 あ、目を逸らしながら誤魔化そうとした女魔法使いちゃんに対し、妖精弓手ちゃんが有言実行と言わんばかりに彼女の口を己のソレで塞ぎました。眼前に広がる美しい顔と慈しみに溢れた舌遣いに目を白黒させる女魔法使いちゃん、他3人と違って呼吸が必要な妖精弓手ちゃんが重ねた唇を離すころには温かい血の通わぬ顔が真っ赤に染まっています。

 

 

「……ぷあっ。どう、素直に話す気になった? 後ろのおっぱい乙女なら知っているんでしょうけど、私もシルマリルも、貴女の口から聞きたいの」

 

「何時までも隠してはおけないものですし、丁度良い機会ではありませんか?」

 

「おねがい。かかえているふあんやなやみ、おしえてほしいな?」

 

 

 銀糸の橋を舐め取りながら真剣な眼差しで相対する妖精弓手ちゃんに、背後からより一層優しい手つきで心身を解きほぐそうとする2人の心からの言葉。

 

 

 やがて覚悟が決まったのでしょう、強張っていた身体から力を抜いて吸血鬼君主ちゃんにもたれかかり、胸元に宛がわれた細く小さな腕に自らの腕を重ねた女魔法使いちゃんが、ゆっくりと自らの心の内に住まう獣について話し始めました……。

 

 


 

 

 人の道を外れたことに対する負い目と、人外の力を手に入れたことへの優越感。心の内深くに眠っていたソレが眼鏡重戦士という歪んだ写し鏡の存在を見ることによって目を覚まし、吸血鬼君主ちゃんの野望(ユメ)を穢す言動で抑えきれなくなり、暴れ出した獣を鎮めるために行われた惨劇。

 

 

 ゆっくりと心の内を露わにした女魔法使いちゃんは力ない笑みを浮かべ、後ろ手に吸血鬼君主ちゃんの頬を撫でながら僅かに眦を濡らしています。

 

 

「四方世界の英雄の1人であるおっぱい乙女や神に祝福された人界の護り手である後輩と違って、私は何処までも平凡な存在。偶々アンタに見初められたから盤上に立っているのであって、そうでなければあの総大主教(グランドビショップ)が言ってた通りとっくの昔に死んでいた。たとえ眷属として人を超える力を手にしたとしても、その本質までは変えられない。……ううん、むしろ卑小な精神が増大して、あの屑冒険者(福本モブ)や死灰神の信徒のように獣と化すのがオチよ。だから――」

 

 

 その先を紡ごうとしたところで、再び口を塞がれる女魔法使いちゃん。先程の口付け異なる貪るような舌遣いに目を見開きつつも、両腕を剣の乙女ちゃんにそっと抑えられており押し退けることが出来ません。ちゅぷり、と音を立てて絡んだ舌が抜かれ、言葉を遮った張本人である妖精弓手ちゃんが女魔法使いちゃんの頭をそっと自らの薄い胸に抱き寄せました。

 

 

「その先は言っちゃダメ。それと……ありがとね、心の内を曝け出してくれて。あなたはイヤかもしれないけど、自分のお腹を痛めて産んだ子も、若草ちゃんやエロフの産んだ子も、これから産まれて来るうさぎちゃんの子も、そして、あなたたちシルマリルとヘルルインの眷属の子たちも。私にとってはみ~んなおんなじ大切な可愛い娘なの。だから、悩みを打ち明けてくれてとっても嬉しい!」

 

 

 母親冥利に尽きるわね! と笑う妖精弓手ちゃん。そのきめ細かな肌の温もりに触れ、女魔法使いちゃんも安心したように目を閉じてされるがままになっています。両腕の拘束を解いた剣の乙女ちゃんは嬉しそうに微笑みを浮かべ、膝上の吸血鬼君主ちゃんはそっと女魔法使いちゃんの耳元に口を近付け……。

 

 

「きみはぼくにとって、ママでもあり、おね~ちゃんでもあり、むすめでもあり、およめさんでもある、ほかのなにものにもかえられない、とってもたいせつなそんざいなの。だから、きみじしんがきみをきらいにならないで?」

 

「……ふぅん、そこまで言うんだったら、アンタにとって『一番好きなのは私ってことで良いのかしら?』」

 

「――!! 『みんなのなかでじゅんばんはきめられないよ』、ぜんいんぼくのたいせつなひとだもの」

 

「ふふ……『ばか、そこは嘘でも私って言っときなさいよ』」

 

「えへへ……『だいすきなひとにうそはつきたくないからね!』」

 

 

 視線とともに言葉を交わし、堪え切れずに途中で吹き出してしまった2人。いつぞやの会話を通じて互いの気持ちを再確認し、女魔法使いちゃんが年相応の笑顔を見せてくれました!

 

 

「へぇ、貴女そんなふうに笑うのね。普段は大人っぽいけど、そうやっているとなんだか子どもみたい!」

 

「フフ、本来の年齢で言えば一党(パーティ)で一番年下ですもの。可愛らしいではありませんか」

 

 

 普段から一党(パーティ)の頭脳担当として振る舞っていることもあり、良く言えば大人っぽい、悪く言えば眉間に皺の寄った表情を見せることの多い女魔法使いちゃん。そんな彼女の笑顔を見て、長耳を嬉しそうにピコピコさせながら妖精弓手ちゃんが摩り下ろすような勢いで頬擦りを始めました。外見だけ見れば大人モードの剣の乙女ちゃんがいちばん年上に見えるのですが、1位と2位の間には4桁の差があるんですよねぇ。

 

 

「むぐ……まったく、お転婆な時とそうじゃ無い時の差が激しすぎるのよ、お姫様ったら」

 

 

 吸い付くような感触の胸元から顔を上げた女魔法使いちゃんの抗議にもどこ吹く風な妖精弓手ちゃん。ぷく~と膨らんだ彼女の頬を愛おし気に撫でながら、見る者全てを魅了する笑顔で言い放ちます。

 

 

「ふふん、私にはね、シルマリルとヘルルインの2人と永遠を歩むって決めた時に、もうひとつ自身に誓った事があるの。それは、私が血族(かぞく)みんなの帰る場所である『森』になること。華麗に咲き誇って実を残し、次の世代を育む土へと還る花たちも。風雨に身体を震わせる小さきものを護り、永久(とこしえ)に立ち続ける霊木も。すべてを区別すること無く(いだ)き続ける。そんな広~い『森』にね!」

 

「それは……お姫様くらいの寿命でないと途中でダメになりそうな誓いね。でも、私も好きかな、その馬鹿馬鹿しいけど誇り高い誓い」

 

「えぇ、本当に。おとぎ話のようで、それでも叶えたいと努力し続けることの出来る素敵な未来だと思います……」

 

「うん、とってもすてきだね!!」

 

 

 永遠に等しい寿命を持つ上の森人(ハイエルフ)にしか叶えることの出来ない大きな未来(ユメ)をキラキラと瞳を輝かせながら語る妖精弓手ちゃん。たとえ只人(ヒューム)の国家や故郷である森人(エルフ)の森から排斥されたとしても、大切な血族(かぞく)を護り続けるという強い意志に彩られた未来地図は決して色褪せること無く世界に記され続けることでしょう。

 

 

 

「ふふん! どう、ちょっとは貴女たちのママを見直したかしら? 私に足りないのはおっぱいだけであって、夢も希望もたっくさん持って……ひゃん!?

 

 

 おや? 薄い胸を張りながらドヤっていた妖精弓手ちゃんが可愛らしい声で飛び上がりました。不意打ち気味に内腿を撫でられ睨みつける先は吸血鬼君主ちゃんです。

 

 

「ちょっとシルマリル! せっかく良いこと言ってる最中にナニするのよ……って、あ、アレ?」

 

 

 悪戯好きなおててをひっぱたいてやろうと振り上げた彼女の腕が行き場を無くして宙に浮かんでいます。吸血鬼君主ちゃんの腕は先程から変わらず女魔法使いちゃんのたわわを下から支えてますし、その手に重なるように女魔法使いちゃんの手が添えられていますね。あ、気のせいかしらと首を捻る妖精弓手ちゃんを見て、吸血鬼君主ちゃんが悪い顔になってますよ!?

 

 

「……きのせいじゃないよ。えいっ!」

 

「きゃっ!?」

 

「んっ」

 

「ひあぁ!?」

 

 

 三者三葉の可愛い悲鳴を上げる女性たち。淡い照明器具(ランプ)の光に照らされて揺れる吸血鬼君主ちゃんの影。そこから伸びた幾本もの触手が、彼女たちの肢体に緩く纏わりついているではありませんか! サンドイッチの具からクラスチェンジした吸血鬼君主ちゃんが、寝台(ベッド)の上で悶える3人の姿を満足そうに見下ろしています。

 

 

「ちょっ、アンタ触手は使えなくなったんじゃ……っ」

 

「えへへ……あのことじょうほうきょうゆうしているうちに、ちょっとだけつかえるようになったの!」

 

 

 そういえば吸血鬼侍ちゃんと完全に分離した時にそんなこと言ってましたっけ。それが情報共有を繰り返している間にスキルとして継承されたんでしょうか。いつぞやのように部屋中を覆い尽くすような規模ではなく、また拘束するほどの力も持っていないみたいですが、何故かみんな抵抗しようとはしていませんね。

 

 

「たたかいにはつかえないけど、ふれたところから『ほしのもつあたたかさ』と『まりょく』、それに『みんながだいすき』ってきもちがつたわるようになってるの。まけんみたいにいちどにたくさんまりょくはおくれないけど、そのぶんじんわりとひろがっていくみたい!」

 

 

「なんて無駄に器用なコトしてんの……あ、コラッ! そこは敏感なトコだっての!?」

 

 

 満面の笑みでのたまう吸血鬼君主ちゃんを睨む女魔法使いちゃんでしたが、脇の下やうなじ、膝裏など皮膚の薄い部分をくすぐられて必死に笑いを堪えています。なんとか脱出しようと同じく左右で触手に拘束されている2人に視線を向けますが……。

 

 

「ん……恥ずかしがり屋さんですのね。大丈夫、痛くしたりはしませんわ……はむ」

 

 

 右側には清らかさと淫靡さを併せ持ち、成熟した女性の美しさを惜しげもなく晒す剣の乙女ちゃんが、胸元に先端を擦り続ける触手たちを両手で愛おし気に撫でつつ、躊躇いがちに唇に触れて来る触手を優しく口内へと迎え入れる煽情的な姿が。おっかなびっくり内頬や歯茎の裏を確かめている彼?を蛇のような舌でエスコートし、淫らな舞踏(ダンス)を披露しています。

 

 

「ふおお……お、おなかに赤ちゃんがいる時に森人(エロフ)姉妹がヘルルインにせがんでるのは知ってたけど、これ、ヤバいわね……新しい扉を開けちゃいそう……!」

 

 

 左側には永遠の若さを持ち、一児の母とは思えない体型と美貌を保っている妖精弓手ちゃんが、ケツドライヤー猫みたいな表情で長耳と身体を震わせています。原因はおそらく腰のほうでモゾモゾ動いている触手なんでしょうが、残念ながら地母神さんによるKENZENフィルターが働いており盤外(こちら)からでは詳細が判りません。

 

 

 援軍が絶望的であることを知り、引き攣った顔の女魔法使いちゃんの顔にかかる影。見上げた先には、吸血鬼君主ちゃんの竜血(スタドリ)を飲み干し熱を孕んだ瞳の輝きが。

 

 

 少女から大人になる狭間、その奇跡の瞬間で時間を止めた危うい魅力を醸し出す肢体を傷付けないよう、緩く巻き付いた触手から肌を通じて浸透する熱と魔力、そして深い愛情によって女魔法使いちゃんの冷たい身体が徐々に熱を帯びていくのが見て取れます。優しく肩を押され仰向けに寝台(ベッド)へ寝かされた女魔法使いちゃんに何度も啄むような口付けを落とす吸血鬼君主ちゃんの目には何処か悪戯めいた光が宿っていますね。

 

 

「あのね、いうことをきかないけものをしつけるにはどうしたらいいのか、ギルドでおしえてもらったの。ちからかんけいをはっきりさせて、どっちがあるじかわからせるか、きばをむくってかんがえがうかんでこなくなるまであまやかして、とろとろにとろけさせちゃうか。ほうほうはどっちかだって」

 

 

 ああ、賢者ちゃんと監督官さん(ドスケベ2人)が言いそうなことですね。迫る危険を感じて身を起こそうと女魔法使いちゃんが動きますが、時すでに時間切れ。左右の肩を熱っぽい視線の剣の乙女ちゃんと妖精弓手ちゃんががっちり抑え込んでいます。

 

 

「あのことちがって、ぼくはあんまりはげしいのはとくいじゃないから、2ばんめのほうほうをつかわせてもらうね。そのためにふたりにもきょうりょくしてもらったの!」

 

「んなっ!?」

 

 

 慌てて左右を見回しても、そこには蕩けきった仲間の顔があるばかり。進退窮まった彼女を見て、不意に真剣な表情になった吸血鬼君主ちゃんがそっと耳元に顔を近付けていきます。また快楽を与えられるのかと身を固くして備える女魔法使いちゃんでしたが、熱い吐息とともに囁かれたのはある意味で物理的な快楽よりも性質の悪い甘美な毒……。

 

 

 

 

 

 

「――おうこくしゅうへんのこんとんのせいりょくがよそうよりもはやくくちくできそうなの。くにのうんえいがあんていしたら、へいかがごほうびに【しのめいきゅう】があったとしをくれるって。きたにたいするまもりをまかされるかわりに、りょうちもちのきぞくになれるの。……まぁめいぎはたぶんあのこになるけどね!」

 

 

 何気ない声で伝えられた国家機密に目を丸くする女魔法使いちゃん。余所に漏れれば物理的に首が飛ぶ話を突然聞かされて混乱しているところに、容赦なくトドメの一撃が繰り出されました。

 

 

 

 

 

 

「かぞくがあんしんしてくらせるばしょをてにいれたら、あたらしいけんぞくをつくろ? だれかのちをすってうみだすんじゃなくて、きみとぼくのあいだにつくりたいの!」

 

「――――――ッ!?!?」

 

 

 吸血鬼同士の間で子を成すことは、特別な意味を持っています。吸血の果てに生み出される眷属はあくまでも配下であり、極端な言い方をすれば道具や駒のようなもの。ですが愛の結晶として産まれた子は両親の全てを受け継ぐ権利と義務を持っているのです。万が一ダブル吸血鬼ちゃんや眷属の女の子が悪に墜ち、牙狩りや勇者ちゃんに滅ぼされた時、みんなの持っていた知識や技能の一部……言わば経験点が遺された子どもへと受け継がれるんですね。所謂吸血鬼(ヴァンパイア)の名家というのはそうやって何代も血を濃くしていった家系を指すそうです。

 

 

 眷属としての本能と、愛する人と子を成せることに対する悦び。身も心も魂さえも感情の爆発に塗り潰され、処理できなくなった脳が悲鳴を上げて力無く寝台(ベッド)に身を委ねる女魔法使いちゃん。紅潮した顔と口の端から流れる雫が制御出来ない想いを端的に表しているようです。潤んだ瞳で見つめてくる彼女に再度口付けを落とし、スッと下がる吸血鬼君主ちゃん。「あ……」という声を漏らしかけた女魔法使いちゃんの口が、またすぐに快感を押し殺す形に変わりました。

 

 

「ちゅ……ほら、もっと喜びを露わにしなさい? シルマリルとの愛を形に出来るんだって……んちゅ……ちう……」

 

「ちゅる……はぁ、私も嬉しさで胸がいっぱいですのよ? 近い未来、皆様のように我が子を産めることが判って……んむぅ……」

 

 

 嬉しさに震えるふたつのたわわに左右から口をつける妖精弓手ちゃんと剣の乙女ちゃん。妖精弓手ちゃんはその細くしなやかな指でやわやわと裾野をマッサージしつつ、快感で歪む口で先端に口付けを繰り返しています。口内から両足の付け根へと触手君が旅立つのを見送った剣の乙女ちゃんは、自らのたわわで女魔法使いちゃんのそれを挟み込みゆっくりと刺激を与えることで、沸騰した頭が冷静になるのを妨げているようです。

 

 

 異なる快楽に翻弄され、何度も高みへと昇り詰める女魔法使いちゃん。十二分に準備が出来たところで吸血鬼君主ちゃんが魔剣を抜き放ち、女魔法使いちゃんに視線で最後の確認を。眦から雫を零す潤んだ瞳の彼女がゆっくりと頷くのを見て、ゆっくりと魔剣を……。

 

 


 

 

「――ってかんじで、さんにんをまとめてあいてにしてるよ!」

 

「あわ、あわわわわ……」

 

「貴様といいむこうの頭目(リーダー)といい、本当に恐ろしいな我が主は!?」

 

 

 脳内通信を駆使して大寝室の様子を窺っていた吸血鬼侍ちゃんの実況を聞き、熱暴走状態の妖術師さん。その隣の女闇人さんも口ではああ言っているものの、嗜虐神の信徒らしく吸血鬼の攻めに興味津々な様子。叢雲狩人さんから借りたちょっと胸の窮屈なワンピース姿で口の端から涎を垂らしているのは非常に教育に宜しくありませんね。

 

 

「でもこれで先輩の内に眠る獣は抑えられますわね」

 

「まぁ、別の獣が目覚める気がしないでもないけどね。それよりご主人様、話を聞いていたら私も昂ってきてしまったんだけど……ダメかな?」

 

「だ~め。きょうはぼくがこどものとうばんなの! ……またあした、ね?」

 

「むぅ、それは残念。じゃあ後輩君、ちょっと運動に付き合って貰おうかな?」

 

「え、ちょ、待ってくださ……ひゃん!?」

 

 

 吸血鬼侍ちゃんにお誘いを断られた叢雲狩人さんが令嬢剣士さんをお姫様抱っこして2階へと消えていくのを見送りつつ、若草祖母孫娘タッグの用意してくれたお茶を楽しむ1階組。チラチラと上を気にしている妖術師さんからはムッツリの気配がしますね! そんな様子を見て何か悪戯を思い付いたのか、テーブルを挟んで反対側に座っていた吸血鬼侍ちゃんが身を乗り出し、妖術さんの耳元で囁いています。

 

 

「――そんなにきになるんなら、いまからでもまざってきたら? きっとわすれられないけいけんになるよ!」

 

「うぇ!? そ、そんなむ~りぃ……。それに、はじめてはもっとこう……」

 

 

 真っ赤な顔で両手を振ってむりむりアピールをしつつ、合わせた指先をもじもじさせながら本音を漏らす妖術師さん。そういう行為自体を否定しない辺り随分と毒されていますねぇ。

 

 

「判ります。はじめては大切な思い出に御座いますからね……あいたっ」

 

「もう、貴女が言うと洒落になりませんよ?」

 

 

 わかりみが深いと頷く若草知恵者ちゃんの後頭部をぺしっとたたくおばあちゃん。冗談にしてはブラックすぎる発言に事情を知っている面子の顔が凍り付いてるのを見て、つまらぬ冗句で申し訳ございませんと頭を下げる若草ちゃん。……若草知恵者ちゃんの大切な初体験のお相手はダブル吸血鬼ちゃん、イイね?

 

 

 

 

 

 

「そ、そういえばそろそろ出産予定日なんだっけ? あんまりおなかは大きくなってないみたいだけど」

 

 

 重くなりかけた空気を払拭するように妖術師さんが話しの流れを向けたのはゆったりとした服装でおなかをさする白兎猟兵ちゃん。彼女の言う通り、僅かに膨らんだ腹部の大きさはここのところ変動せず、マタニティドレスの上からでは確認できない程度ですね。

 

 

「いやぁ、これはぼくら兎人(ササカ)の特徴らしくって。なるたけ子孫を増やせるように妊娠期間も短いですし、おなかもあんまり大きくならんのです。ほら、膨らんだおなかじゃ逃げ足が遅くなってしまうもんで」

 

 

 産まれる子の姿もぼくらきょうだいみたいなのからお父さんたちみたいなのまで様々ですし、控えめサイズにしてるんでしょうなぁと笑う白兎猟兵ちゃん。なるほど~、おなかが大きくならないのにはそんな理由があるんですねぇ。

 

 

「ぼくのお母さんも出産前日まで平気な顔で出歩いてましたし、こんなに気を遣って貰っちゃって逆に申し訳ないような気がしますよぅ」

 

「そんなことないよ。ささかのとくちょうはしらなかったけど、みんなあかちゃんがぶじにうまれてきてくれるのをなによりもだいじにおもってるの。だから、てきどなうんどうとおいしいごはん、それから……」

 

 

 そこまで言うと白兎猟兵ちゃんの顎に手を添え、唇を合わせるだけの優しいキスを送る吸血鬼侍ちゃん。おまじない、と笑う想い人の姿に白兎猟兵ちゃんの耳としっぽは止まることを忘れたように荒ぶっております。瞳は潤み、口の端からは雫を零し、両の足の間からも……んん???

 

 

 

 

 

 

「なぁ兎人(ササカ)の娘よ、もしかしてそれ、破水してないか……?」

 

「んぇ? ……あ、言われてみれば、なんだかおなかが痛いような……」

 

 

 

 

 

 

 …………え?

 

 

 

 

 

 

「「「「「「う、うまれる~!?!?」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、絆を深め合ってツヤツヤお肌で1階へと降りて来た元冒険者夫婦と神殿カップル、そして女魔法使いちゃんの心中の獣わからせ部隊が目撃したのは……。

 

 

 

 

 

 

「あ、おはようございます。ゆんべはおたのしみでしたねぇ!」

 

「えへへ……ふわふわでかわいいでしょ!」

 

 

 吸血鬼侍ちゃんと同じ真紅の瞳を持つちいさな兎人(ササカ)の赤ちゃんを大切に抱く吸血鬼侍ちゃんと白兎猟兵ちゃんの花咲くような微笑みに、急な出産に立ち会いながらも満足そうに微笑む若草祖母孫娘タッグと新人2人、それに新しい妹を興味深そうに眺める子どもたち。そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、本当に申し訳ない……」

 

「うう……(わたくし)は悪くありませんわ……」

 

 

 リビングに正座させられ【私はお産の手伝いもせずベッドで夜会話を楽しんでいた森人(エロフ)(えっちな吸血鬼)です】の札を首から下げた下着姿の2人でした……。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 


 

 

 ――ふぅ、なんとか収拾がつきましたね。実況に協力してくださった皆さん、本当にありがとうございました!

 

 ()さんもとても初めてとは思えない実況っぷりで、正直驚きました! これからも脚本(シナリオ)作成やネタの提供に協力していただけると非常にありがたいですねぇ。

 

 知識神さんと嗜虐神さんの推しの2人も良い感じに一党(パーティ)へ馴染んでくれそうですし、これでまた冒険に広がりが出そうですね!

 

 今後の流れといたしましては、いんたーみっしょんの後に単発を挟み、次のセッションという感じですね。日常編も見どころさんが増えて来ましたし、まったり牧場ライフを実況するのも面白いかもしれません。

 

 ではでは今回のセッションはこれにて終幕、視聴神のみなさんも、ゴミを片付けたうえで忘れ物などしないよう注意して各世界へお帰り下さいませ!

 

 

 




 日常とは何ぞやという思索に耽るので失踪します。


 なんだかんだで累計100万文字が見えてまいりました。途中で投げ出すことなく続けて来られたのは偏に読んでくださる方々の応援の賜物、有難い限りです。

 感想もいつも楽しみに読ませて頂いております。自分では気付けない解釈やすっかり忘れていた伏線を思い出す切っ掛けになったりと非常に助かっている次第です。もし宜しければ、お読みいただいた後に一言書き込んでいただけると幸いです。

 また、評価やお気に入り登録も執筆の原動力となりますので、是非お願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。




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セッションその14 いんたーみっしょん

 エルデの王を目指していたので初投稿です。

 とうとう辿り着きました総文字数100万&UA150000超え。すべては拙作をお読みくださった方々の応援の賜物でございます。

 まだまだダブル吸血鬼ちゃんたちのお話しは続きますので、よろしければお付き合い頂けますと幸いです。


 信頼と実績を積み上げていく実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 

 前回、新たな仲間と血族(かぞく)が増えたところから再開です。

 

 

 例年よりも少し長かった夏が終わり、秋の色が濃くなってきた今日この頃。牧場の一画に人々が集まりテーブルを囲んでいます。片手では収まらない多種多様な種族、それぞれのニーズに応える御茶請けをサーブした小柄な森人(エルフ)の女性……若草祖母さんが満足そうに頷き、集まりの代表である牧場夫婦に一瞥を送りました。ゴブスレさんと牛飼若奥さんが頷きを返すのを見てニッコリと微笑み、鈴を転がすような声で宣言するのは……。

 

 

「それでは定例の報告会を始めさせて頂きます。みなさま、お手元に資料はお持ちでいらっしゃいますでしょうか?」

 


 

 というわけで、今回は血生臭さとは無縁なほのぼの牧場物語でございます!

 

 

 若草祖母さんの音頭で始まった報告会。今までも幾度となく行われていたものですが、今回はいつもより参加している面子が多いです。まぁこれには理由がありまして、一行の想像以上の速度で牧場を中心とした土地に新たな施設、産業が生まれたからなんですね。今集まっているのはその施設の代表者や王国、冒険者ギルドとの連絡役を担ってくれている人たちです。

 

 

「じゃあまずは療養所から。治療が終わって心のケアを受けている女の子たちの経過は順調、兎人(ササカ)のおちびちゃんやみんなの子どもたちとの触れ合いが良い方向に働いているみたいだね」

 

 

 お、一番手は只人寮母さんですね。収穫時期が近付くにつれ集落近くにゴブリンが出没するようになり、増え始めたゴブリン退治の依頼。今のところ冒険者に被害は出ていないようですが、残念ながら被害はゼロではありません。ゴブリンに拐かされ心身に傷を負った女性が何人も療養所へ運び込まれたようです。

 

 

()()()駆除に関しては、奇跡に頼る箇所を減らして神官の負担を軽減することに成功したよ。これは()()()のおかげかな?」

 

「フン、当然だ。神の御業に頼らずに技術で補えるならそれに越したことは無い。それに、医術の進歩は奇跡の回数(医療リソース)を他に回すことが可能になるという利点(メリット)にも繋がるしな」

 

 

 只人寮母さんにセンセと呼ばれた彼女の隣に座っている女性。褐色のナイスバディを軍服にも似た闇人(ダークエルフ)の民族衣装に包み、その上から白衣を纏っているのは牙狩りの墓所で救出された女闇人さんです。衣装案を出してくれた嗜虐神さんに彼女の呼び名を聞いたところ「これが一番性癖に刺さる」ということでしたので、これから彼女のことは闇人女医さんと呼ぶことになりました。

 

 ちなみに厚手の衣装の上からでも判るほどに胸や腰、脚部のラインが強調されているのは、縫ってくれた若草祖母さんが服のサイズを間違えたわけではなく、最初からそういうデザインなんだそうです。……Yシャツ+ネクパイ+ジャケット+白衣とか、属性過多と言わざるを得ませんね。

 

 

石化(ブラスター)(トラップ)を応用した容体安定装置の調整と、我が主たちの麻痺噛みつきに変わる麻酔薬の精製も順調だ。必要な素材は現状採取で賄えているが、今後に備えて栽培も視野に入れておいたほうが良いだろう」

 

 おお、そういえば療養所は≪死王(ダンジョンマスター)≫の呪文で建設してましたっけ! ≪蘇生(リザレクション)≫を使用出来る吸血鬼君主ちゃんと剣の乙女ちゃんが不在の際、患者を一時的に保存するための緊急措置に用いられる生命維持装置代わりの石化罠。≪蘇生(リザレクション)≫によって傷と一緒に治っちゃいますので解呪の手間要らずの優れものだそうです。また、帝王切開時に必要な麻酔をダブル吸血鬼ちゃんやその眷属による麻痺噛みつきに依存している状況から脱却し、知識があれば誰でも使用可能な麻酔薬に置き換えるのも重要なことですね!

 

 自信に満ちた表情で一同を見回し、豊かな胸を張る闇人女医さん。一党(パーティ)の一員となってまだ日が浅いにも拘わらず、次々に成果を上げる彼女にみんなから注がれる尊敬の眼差しに面映ゆそうにしていましたが、咳払いとともに気持ちを切り替え報告の続きを始めました。

 

 

「それと、兄の研究資料から再現した粘体(ウーズ)による長期治療槽の設計も完了した。近々王国から被験者が来ることになっている。四肢の欠損程度であれば、理論上は一月ほど水槽の中で過ごせば元通りになる筈だ。……手術に用いる器具の製作も併せて、協力して頂いた()()()殿()には感謝しているよ」

 

「よせやい身体が痒くならぁ! 酒と鋼のある所に鉱人(ドワーフ)あり、しかもそれが希少な素材とキッツイ味わいなら猶更ってもんだ!!」

 

 

 微笑みを浮かべ頭を下げる闇人女医さんの視線の先にいるのは1人の鉱人(ドワーフ)。縦横の幅が変わらないほどに鍛え上げられた肉体を持ち、炉の熱によって焼けた黒光りする肌を惜しげもなく晒している眼帯の老人……ゴブスレさんの鎧を始めとする一行のトンデモ装備を手掛けてくれた隻眼鍛冶師さんです!

 

 


 

 

 さて、何故隻眼鍛冶師さんが牧場に居るかといえば、これには色々と事情がありまして。一言で言ってしまえば、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)に対しての多種族連合による政治ゲームの産物というヤツです。

 

 

 金髪の陛下によって存在を認知され、その立場が保証されたダブル吸血鬼ちゃんを始めとする吸血鬼(ヴァンパイア)血族(かぞく)。他の種族と比べて絶対的に数は少ないですが、その脅威度は計り知れません。陛下を代表とする只人(ヒューム)は友情と地位で、妖精弓手ちゃんたち森人(エルフ)はその愛を以てダブル吸血鬼ちゃんたちを秩序の勢力の一員として受け入れてくれました。となると、他の種族の方々も選択を迫られてしまうわけでして。そう、融和か、或いは拒絶かを。

 

 

 全体の意思よりも個人の考えを尊重する蜥蜴人(リザードマン)は蜥蜴僧侶さんに対応を一任。男性の中ではゴブスレさんに次いでダブル吸血鬼ちゃんの好感度が高いことが幸いし、秩序側の蜥蜴人(リザードマン)とは力比べ以外では喧嘩しないよう約束したみたいです。混沌側に席を置く者に関しては、強き者を敬し力を貴ぶ蜥蜴人(リザードマン)らしく向かってくるなら打ち倒してしまってかまわないんだとか。うーん実に蛮族的思考。

 

 

 こうなってくると黙っていられないのが鉱人(ドワーフ)たちですね。希少な金属や素材をわんさか集めることが出来、己が鍛えた武具を全力で振るってくれるダブル吸血鬼ちゃんたちと如何にか繋がりを持つべく、牧場からの依頼で蒸留器具発注の為に里に帰ってきていた鉱人道士さんを招集した長老たち。それを予想していた鉱人道士さんの口からはこのような回答が。

 

 

「そんじゃ、長老衆の中から1人牧場に出向いて鍛冶場を開けばええ。火酒(ウォッカ)の蒸留も始まるし、ちみっ子たちが冒険で手に入れた素材にいち早く触れられると思うがの」

 

 

 それに、あそこのベーコンは美味いしなという鉱人道士さんの言葉がトドメとなり、無言で腕まくりをして向かい合う長老たち。壮絶な()()()()の結果、隻眼鍛冶師さんが見事出向の権利を勝ち取ったわけですね。

 

 

 蒸留器具と鍛冶に使う道具を満載にした荷馬車を引き連れ鉱人道士さんと一緒に牧場へとやって来た隻眼鍛冶師さん。わらわらと集まって来たうさぎさんと子どもたちに驚き、既に用意されていた蒸留を行う小屋にまた驚き、そして何よりも……。

 

 

「おいチビ助、こいつぁ……」

 

 

 あらかじめ武具店のじいじと鉱人道士さんに鍛冶のイロハの聞き取りをして、最適な間取りに仕上げられていた工房。その壁際に設置された炉から発せられる光に目を奪われ、声にならない溜息を漏らす隻眼鍛冶師さん。ヘヘンと鼻の下を指で擦っている吸血鬼君主ちゃんが自慢げに説明してくれたのは……。

 

 

「ぼくのなかにあるちからのいちぶ、たいようのかけら。けっしてきえないたねびとしてつかえるかなって!」

 

 

 牧場に来てくれたお礼! と笑う吸血鬼君主ちゃんを見て呆気にとられた様子でしたが、やがてニヤリと笑い、その逞しい腕を伸ばし乱暴に吸血鬼君主ちゃんの頭を撫でまわす隻眼鍛冶師さん。

 

 

「ありがとよ、チビ助。酒と鋼、両方とも全力で取り組ませて貰うぜ!」

 

 


 

 

「酒の仕込みはチビどもが腹いっぱい喰った残りの芋で始めている。収穫祭には初酒を振る舞えると思うが、出来れば並行して麦も試してみてぇところだな」

 

「わかった。あとで必要な量を教えてくれ、用意する」

 

 

 ゴブスレさんの言葉によろしく頼まぁと返す隻眼鍛冶師さん。鍛冶と酒造りの二足の草鞋ですが、その顔には生き生きとした笑みが浮かんでいますね。あんまりお酒にしてしまうと消毒用のアルコールが足りなくなりそうですが、酒造神さん曰く火酒を造る際は蒸留で96%まで度数を上げた後に加水して40%程度まで落とすので、その途中で一部を薬品として取り分けておくとのこと。甘味や香りづけに用いられる蜂蜜や香草は森人(エルフ)兎人(ササカ)のみんなが集めてくれるみたいです。

 

 

「となると、やはり問題になっているのは≪蘇生(リザレクション)≫周りですわね……」

 

「ええ、私やあの子に依存した治療体制からの脱却にはまだ多くの課題が残っております。皆様、引き続きご助力いただければ幸いです」

 

 

 令嬢剣士さんの呟きに同意し、一同に頭を下げる剣の乙女ちゃん。はい、それこそがダブル吸血鬼ちゃんたちが直面している最大の問題なんですよねぇ。

 

 

 

 ゴブリンの被害に遭った女性の救済や社会復帰の補助と、冒険者の育児の手助けを目的として立ち上げられた療養所ですが、その運営にあたっていくつかの問題点がありました。中でも一番の問題は、≪蘇生(リザレクション)≫を用いての治療が、その重要性と頻度に比して圧倒的に術者の数が足りないことです。

 

 

 死に瀕した者すら癒す事の出来る高位の奇跡である≪蘇生(リザレクション)≫。西方辺境で唱えることの出来る神官は剣の乙女ちゃんと吸血鬼君主ちゃんのみ、王国全土を見渡しても恐らく両手足の指で収まるほどしかいないであろう非常に希少価値の高い奇跡ですが、何故そんなに遣い手が少ないのでしょうか? 

 

 神に仕える神官たちが上位の奇跡にアクセスするには、本人の素質とたゆまぬ祈り、そして信奉する神との親和性が強く求められます。また、何の奇跡を授かるかはまさに神のみぞ知るといった具合であり、神たちからも授ける奇跡を細かく指定することは出来ないんだとか。ただでさえ上位奇跡に到達する者が少ないうえ、そこから奇跡ガチャが行われるので、まず≪蘇生(リザレクション)≫を授かる神官そのものがレアになってしまうわけですね。

 

 また、その特徴的な奇跡の触媒もネックになっていることは否めません。えぇ、視聴神さんたちも大好きな『清らかな乙女との一晩の同衾』です。

 


 

 ――さぁ、想像してみてください。致命傷を負った貴方は≪蘇生(リザレクション)≫を唱えられる高位の神官に奇跡をかけて貰える幸運に巡り合い、意識も虚ろな状態で寝台(ベッド)の上で儀式の始まりを待っています。

 

 ガチャリと扉が開く音が聞こえ、期待の眼差しをそちらへ向けた貴方。噂に聞こえた美貌の持ち主である剣の乙女ちゃんのような麗しき女神官を想像していた貴方の目に飛び込んで来たのは、腰が曲がるほどに徳を積んだ敬虔な老神官の触れたら折れてしまいそうな肉体、あるいは信仰に己の全てを捧げてきた屈強な武僧の薄衣に包まれた鋼のような雄っぱいでしょう。そしてその隣には「これも信仰のため……」と呟き続ける死んだ魚の目をした女性。ムクムクと湧き上がる罪悪感に貴方は身を縛られながら、3人はひとつの寝台(ベッド)で一夜を明かし……。

 


 

 ……とまぁ、これは極端な例ですが、≪蘇生(リザレクション)≫を唱えられる神官が男性という可能性もあるわけでして。術者本人が『清らかな乙女』であれば死の淵を彷徨う者にとって心躍る一夜になるかもしれませんが、そうでない場合は誰かに協力をお願いしなければいけません。原作で剣の乙女ちゃんが女神官ちゃんに依頼した理由ですね。ただでさえ粗暴と思われている冒険者に対し忌避感を抱く人も多いため、男性冒険者が生命の危機に瀕した際に≪蘇生(リザレクション)≫を受けられる可能性は極めて低いと言わざるを得ません。

 

 

 これが療養所のように施術を受けるのがゴブリンによって傷付けられた女性になると、また話は変わってきます。心身に深い傷を負った彼女たちは異性に対して恐怖を抱いていることが多く、たとえ治療のためであっても男性の神官と同衾することに耐えられない可能性があるため、必然的に女性の神官がその役目をすることに。

 

 ただでさえ遣い手が少ない中で女性だけ……となると、それこそ後は聖人尼僧さんや戦女神さんのところの神殿長くらいしか選択肢が残っていないわけでして。彼女たちを牧場に招くわけにもいかないので、必然的に剣の乙女ちゃんと吸血鬼君主ちゃんがブラック勤務。もし2人が冒険に出向いている時に急患が運び込まれてきた場合、なんとか2人が戻ってくるまで患者の命を繋ぎ止める必要が出て来ます。その為に考案されたのが石化を利用した生命維持装置であり、奇跡に頼らない医術による治療法の確立というわけです。

 

 触媒である『清らかな乙女との一晩の同衾』に関しても、現在は吸血鬼君主ちゃんと女神官ちゃんが一手に引き受けていますけど、将来的にはみんなの活動を見て育った子どもたちや賛同してくれる女性たちに協力をお願いする方針に舵を取る予定みたいですね。永遠なる乙女の道を歩む吸血鬼君主ちゃんは兎も角、女神官ちゃんだって素敵な誰かと結ばれるかもしれませんし、『いつまでも触媒になれる清い身体でいてね!』というのはあんまりな話ですからねぇ。

 

 

 というわけで、療養所の今後としては≪蘇生(リザレクション)≫に頼らない治療法の確立と賛同者の確保、それから可能ならば≪蘇生(リザレクション)≫を唱えられる後継者の育成が目標みたいですね。何年か後にはダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)は北の都市にお引越し予定なので、現在住んでいるおうちはそっくりそのまま療養所の関係者が住めるように譲渡するそうです。元青年剣士君と女武闘家ちゃん夫妻――視聴神さんの意見を頂戴し新進農夫&農婦さんとお呼びしますね!――の家族や白兎猟兵ちゃん以外のうさぎさんたちは牧場でそのまま暮らすので、彼らが住むかもしれませんね。

 

 

 

「ええと、次は私から。冒険者ギルドからの依頼で用意する迷宮探検競技用の会場設計は完了した。師匠や姉弟子、ゴブリンスレイヤー……さんの意見を参考に『骨折以上の怪我をしないよう』『ひらめきや知識も要求される』迷宮(ダンジョン)()()予定。開催される冬至(ユール)のお祭りまでに何度か試しに創ってみるから、改良点を教えて欲しい」

 

「お恥ずかしい話ではございますが、主さまたちほどの魔力は2人とも持ち合わせておりませんので、(わたくし)が迷宮を、彼女が罠や怪物と2人で役割を分担することにいたしました。併せて彼女には迷宮支配者(ダンジョンマスター)演技(ロール)も担当して頂く予定でございます」

 

 

 おっと、続けて報告をしているのは妖術師さんと若草知恵者ちゃんですね。原作では古い遺跡を利用して行われた迷宮探検競技ですが、どうやら迷宮そのものを新しく用意することになったみたいです。完全に人工物のほうが余計な物(ゴブリンや魔神)の混じる心配は無いですし、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の存在を広める広告塔にもなるでしょう。熟練の冒険者が揃っていますので、試作品にアタックしてもらって改良点を探せるのも良いですね!

 

 

 

(わたくし)からは万聖節に際しての出店の準備と奉納演舞の依頼、それに周辺警備の計画についてお話しさせて頂きますわ」

 

 

 お、どうやら令嬢剣士さんが万聖節関係の交渉の窓口になっているみたいですね。今年は収穫祭と合わせて大々的に行われる予定なので、ギルドや商工会、神殿関係者も気合いを入れているらしく、地元の名士となりつつある牧場夫妻とダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)にも開催者側としての参加が打診されているようです。

 

 

「まずは出店ですが、こちらは牧場の畜産品と森人(エルフ)料理をメインに提供する予定ですの。万聖節ということですので、給仕役の方たちには義祖母(おばあ)さまに仮装用の衣装を用意して頂きます」

 

「あ、可愛い! こっちはおちびちゃんたちに似合いそうだね!!」

 

 

 令嬢剣士さんの言葉を聞き手元の資料に目を落とす一同。そこには二通りのラフデザインが描かれています。清楚さと可愛らしさを併せ持つお仕着せ風のエプロンドレスと可憐さの中に艶やかさを秘めた民族衣装(ディアンドル)風のフリフリドレス、そのどちらかを着用者が選択するみたいですね。

 

 

「奉納演舞に関しては、万知神の信徒であるお二人が引き受けてくださいました。こちらの衣装も義祖母(おばあ)さまにお願いする形なのですが……」

 

「フフ、大丈夫ですよ? おばあちゃんはお裁縫が大好きですので。可愛い孫とその愛する人、それにたくさんのお友達が着る衣装ですもの、頑張っちゃいますから!」

 

「そ、そうですか。お手伝い出来るところは皆でフォロー致しますので、お願い致しますわ……」

 

 

 ちょっと縫う数が多くありません?と心配顔の令嬢剣士さんを安心させるように可愛くガッツポーズを見せる若草祖母さん。闇人女医さんの衣装を見る限り素晴らしい裁縫の腕を持っているのは間違い無さそうですけど、時折見せる下腹部を優しく撫でる動作が気になりますね……。

 

 

「最後に警備計画ですが、死霊術を扱える方々に英霊の皆様を召喚して頂くことで対応致します。万聖節のため通常よりも軽い負担で多くの英霊たちをお招き出来るからですわね」

 

 

 あ、なるほど。別名死者の日と呼ばれる万聖節、()()()()()()()()()()()と言われる日であれば英霊さんたちを呼ぶ絶好の日取りですもんね! おまけに不死者が最も力を増す時期でもありますので、ダブル吸血鬼ちゃんやその眷属のみんなも力が漲っていることでしょう!! ……お、首を傾げながら挙手しているのは元女武闘家ちゃん……じゃなかった、新進農婦さんですね! 何か疑問点があるみたいですが……。

 

 

「あのぅ、その英霊さんってのはアンデッドなんですよね? もし私たち以外の誰かが同じようにアンデッドを召喚してた時、区別って付けられるんですか?」

 

 

 おお、その発想は素晴らしい。死者を召喚しやすくなるのはここの面子だけではありません、邪悪な死霊術師だって同じ恩恵を受ける筈ですから。たしかに区別が付けられないと万一混沌の勢力が死霊術テロを起こした際に大混乱になってしまいそうです。新進農婦さんの質問を受け、令嬢剣士さんの代わりに答えるのは妖術師さん。まだ少し人見知り感が残っているのか若干目を泳がせていますが、ひとつ深呼吸をしてその質問に答えています。

 

 

「えっと、英霊たちを呼び出す儀式の際にちょこっと細工をして、一目で私たちが召喚した英霊たちだって判るようにする予定です。万一私たち以外が召喚しても、彼らとの区別を付けるのは容易になります」

 

 

 具体的には……という言葉の後に続くその細工を聞いて、段々と顔が引き攣っていく新進農婦さん。周りのみんなは笑いを堪えるのに必死ですね。確かにその方法なら部外者は一発で見抜けるでしょう!

 

 

 

「うわぁ……此処に来てから私の常識がどんどん崩壊していく……っと、失礼しました! 最後に私から先日入寮した2組の経過と今後の予定について報告させて頂きます!!」

 

 

 お、机に突っ伏していた新進農婦さんが再起動して勢いよく立ち上がりました。どうやら冒険者用の出産、育児施設のほうに新しいカップルが入ったみたいですね。此処に居ない面子とともに子どもたちの遊び場のほうにいるみたいなので、ちょっとそちらを見てみましょうか!

 

 


 

 

「「ぎゃお~! た~べちゃうぞ~!!」」

 

 

 

 歓声か悲鳴か区別の付かない可愛らしい声を上げて逃げ回る子どもたちをゆっくりと追いかけるダブル吸血鬼ちゃん。両腕を上げて小さな身体を頑張って大きく見せながら鬼ごっこの鬼をしているみたいですね!

 

 

 

「がんばって!」

 

「「うー!」」

 

 

 まだ頭でっかちな森人(エルフ)三姉妹、星風長女ちゃんと叢雲次女ちゃんの手を取り逃げ回っている灰色髪の女の子はゴブスレさん夫妻の長女……牧場長女ちゃんですね! まだ小さいながらもお姉さん気質を発揮して2人を庇うように立ち回っているようです。

 

 

 

「ほら、こっちもって!」

 

「え、でも……」

 

 

 草むらの中に潜んでいるのは重戦士さんと女騎士さんの子どもである太眉長女ちゃんと、槍ニキと魔女パイセンのところの泣き黒子長男くん。困り顔の彼に無理矢理ロープの端っこを握らせて太眉長女ちゃんが悪い笑みを浮かべてますが、鬼が通ろうとした時にピンと張って転ばせるつもりでしょうか? ……ダブル吸血鬼ちゃん相手なら良いですけど、それ結構危ないから他の子にはしないであげてくださいね?

 

 

 

「いたっ!? ……うぅ……ヒック……」

 

「こーら、男の子がそんなすぐに泣いちゃダメよ? ほら、向こうでお姉ちゃんがピンチだから助けてあげなきゃ」

 

「グス……うんっ! ……いたっ!?」

 

 

 何も無いところで転んじゃった牧場長男くん。女魔法使いちゃんに抱き起され、目尻に浮かんでいた涙を袖で拭ってお姉ちゃんのほうへと駆け出して……あ、またコケた。外で走り回るよりも妖精弓手ちゃんや若草祖母さんに森人(エルフ)の伝承やゼ〇ダじゃないほうの勇者の伝説などを聞くほうが好きみたいですし、冒険者よりは牧場運営のほうが向いているのかも。

 

 

 

「おやぁ、どうしたんですかぁ? お空をずっと見てるけど、何が見えるのかなぁ?」

 

「…………」

 

「おひさまと、くもと、かぜと……あとはなにがみえるのかなぁ……」

 

「あぅー」

 

 

 頭のてっぺんにちょうちょを乗せ、ぽけっと空を見上げている若草三女ちゃんに声をかけているのは白兎猟兵ちゃん。その腕の中には首から下がふわふわの毛で覆われている白兎四女ちゃんがスヤスヤと寝息を立てています。兎人(ササカ)の赤ちゃんは生まれてすぐは身体保護の為にほぼ全身が毛で覆われており、初めて春を迎えた生え変わりの際に毛が抜け落ちてその子本来の毛並みになるそうです。

 

 若草三女ちゃんの隣で同じように空を見上げている2人の姉弟。髪の毛を2つのシニヨンに結ったちょっとツリ目の女の子は、今牧場に居る子どもの中で最年長である新進農夫婦さんたちの長女であるお団子長女ちゃん。彼女の膝上で同じように空を見上げている頭部に昔のお父さんに似せてバンダナを巻いているのは鉢巻長男くんです。ママに似て勝気かつ世話焼きな性格から、移住早々牧場の子どもたちのボスになった将来が楽しみなお姉ちゃんですね!

 

 

 で、その若草三女ちゃんなんですけど……うん、間違いありません。どうやら彼女、盤外(こっち)が見えているようです。ママの信奉する神であり、吸血鬼侍ちゃんの生みの親でもある万知神さんが手を振ると、そのちっちゃなおててで返事を返してくれて万知神さんが尊死しかけてますもん。

 

 若草の氏族の特徴である精霊などの非物質的な存在に対する親和性が為す業なのか、はたまた万知神さんの信徒の間に産まれたことに対しての恩寵(ギフト)なのか。現状で判っているのは、万知神さんの親馬鹿&孫馬鹿っぷりが更に加速するということでだけですね。彼女の成長に歪みが出たら大変ですので、視聴神のみなさんも若草三女ちゃんが見ているところでは全裸待機したり各種語録を使うのは控えていただければと思います、ハイ。

 

 

 

「あーあー、父親とは違った意味で目を離せない子になりそうね……」

 

 

 再び何も無いところでスッ転び、駆けつけてきたお姉ちゃんとチビ森人(エルフ)2人に慰められている牧場長男くんに生暖かい視線を送っていた女魔法使いちゃん。そこへ近付いてくる2組のカップルの姿があります。2組とも女性のほうは膨らんだお腹をしており、傍らに立つパートナーは見上げるような体躯に硬い鱗の肌、ご立派な尻尾を持つ異種族カップルです!

 

 

「まぁまぁ、痛くしなければ覚えませぬ。怪我を恐れて鱗の上に鎧を纏い痛みを知らずに育ってしまえば、いざという時痛みに負けて動けなくなってしまいますからな」

 

「いや旦那、鱗無しにゃあちょっと厳しくねぇか? みんな爪が当たっただけで切れちまうような柔肌ですぜ?」

 

 

 呵々と笑う片方に対しナイフのような爪で頬を掻きながらツッコミを入れている2人はどちらも蜥蜴人(リザードマン)。片方はダブル吸血鬼ちゃんのマブダチである我らが蜥蜴僧侶さんですが、もう1人のほうは……あ! 腰に鮫刃の木剣を佩いてます!! ということは、訓練場での()()の時の蜥蜴人(リザードマン)の戦士さん! であれば、彼の傍らで幸せそうに微笑んでいる女性は……やっぱり、交易神さんを信奉している只人(ヒューム)の侍祭さんですね!!

 

 

「まったくだ。どのような姿で産まれてくるかは判らぬが、只人(ヒューム)の子は蜥蜴人(リザードマン)ほど成長が早くない。そのあたりはしっかりと理解して貰わねば、なぁ亭主殿?」

 

「これはしたり。しからばまずは貴女(きじょ)らが落ち着ける巣作りから始めなければいけませんかな?」

 

 

 蜥蜴僧侶さんの分厚い胸板を拳で小突き、揶揄うような笑みを浮かべているのは女将軍さん。見慣れた鎧姿ではなくゆったりとした服装に身を包み、反対の手で膨らんだおなかを撫でています。新進農婦さんが言っていた入寮者2組とは、この異種族カップルのことだったんですねぇ。

 

 

 

 地母神さんに確認したところ、女将軍さんに豊穣の霊薬を渡した少し後に吸血鬼侍ちゃんと若草知恵者ちゃんが侍祭さんの元を訪れ、量産第一号の霊薬を届けに行ったそうです。衆人環視の中でパートナーをひん剥かれたこともあり最初は警戒していた2人でしたが、吸血鬼侍ちゃんから謝罪とともに差し出された霊薬と、愛の結晶が宿り若草知恵者ちゃんの大きくなったおなかを見て侍祭さんが喜びの涙を溢れさせ無事に和解。出産時期が近付いてきたら施設に招くことを約束していたとのこと。無事に愛が実り、ちょうど時期が重なったのか蜥蜴僧侶さんカップルも一緒に施設へと入寮したというわけですね。

 

 

 

「しかし、こうやって見ているとあの2人もまるで子どものようだな……」

 

「まぁ、ね。ひっどいスケコマシなのは間違いないけど、2人とも祈る者(プレイヤー)としての自我が目覚めてからまだ十年も経っていないんだし」

 

 

 それでいて2000歳児に子どもを産ませたんだからねぇ……と苦笑する女魔法使いちゃん。遊び疲れた子どもたちに押し倒されそのまま一緒に寝息を立てている姿を見ても、初見であの2人が恐ろしい吸血鬼(ヴァンパイア)であるとはとても思えないでしょう。そんなオカン的視線でみんなを眺めている女魔法使いちゃんを見て、悪戯っぽい表情を浮かべた女将軍さんがそっと近付き、背後から耳元で囁きました。

 

 

「……陛下から聞いたぞ。数年以内にあの2人は貴族に叙され、あの城塞都市のあった土地……地下に『死の迷宮』を抱えるあの地を領地として賜るのだろう? 北狄に対する王国の盾、民を護る剣となれば君たちの存在も皆に受け入れられよう。さすれば『恐るべき脅威である吸血鬼(ヴァンパイア)』ではなく『奇妙だが頼れる隣人』として、一つの種族として暮らすのも夢の話では無くなるだろう」

 

 

 宰相など『陛下と砂漠の姫との間に産まれた王子の配偶者として、将来君たちの娘の中から妻を迎えるべきだ』と言ってるくらいだからな、と笑う女将軍さん。なんとも気の早い話ではありますが、将来の国母に森人(エルフ)、あるいは太陽とともに歩む吸血鬼(デイライトウォーカー)がいれば血族(かぞく)の未来は安泰でしょう。

 

 

「フム、であれば参謀殿や大司教殿と君主殿の間に、あるいは栄纏神の神官殿と侍殿の間に子が産まれたとしても問題は有りませぬなぁ。なにせ『吸血鬼』とは似て非なる秩序に与する種族であるからして」

 

「んん? なんだかこじつけな気がしますけど……でも、愛する人との間に新たな生命を紡ぐことが出来る喜びは、私にも判ります!」

 

「だな! それで強い子が産まれてくれりゃあ万々歳ってもんよ!!」

 

 

 したり顔な蜥蜴僧侶の言葉に深く頷く異種族カップル。そこんとこどうよ?という4人に見つめられた女魔法使いちゃん。トレードマークのとんがり帽子を深く被り、真っ赤に染まった顔を隠しながら返した答えは……。

 

 

 

 

 

 

「……うん、認めるわ。私もお姫様や馬鹿義姉(ばかあね)義妹(いもうと)ちゃん、白ウサちゃんみたいに、あの子との愛のカタチが欲しい。それはきっと、おっぱい乙女や後輩ちゃんだっておんなじ気持ちだと思う」

 

 

 あら可愛い! 普段のオカンらしい言動から忘れられがちですけど、まだ20歳前ですものね女魔法使いちゃん。ロリロリな省エネモードでもじもじしている姿は何処か犯罪の香りが漂ってますが、『それもまた愛だよね!』って≪幻想≫さんが頷いているので完璧に無罪(ノットギルティ)です!!

 

 

「フッ、ならば陛下には早急に砂漠の国を纏めて頂き、さっさと姫君と結ばれてもらわんとな! 私もこの子を産んだら戦線に復帰せねば!!」

 

「ハッハッハ! まるで我ら竜の末裔たる種族の考え、実に拙僧の番らしい!!」

 

「いや、ちゃんと子育てはしなさいよ???」

 

 

 何処かズレた思考で1人納得している女将軍さんと、その隣で全自動肯定マシーンと化した蜥蜴僧侶さん。これもまたお似合いの夫婦ということなんですかね? あ、ニコニコ顔で子どもたちとダブル吸血鬼ちゃんの寝顔を見ていた白兎猟兵ちゃんが5人に気付き、寒くなる前に寝てる子+αを屋内に運びたいので手伝ってほしいと言ってますね。大きく腕を広げた蜥蜴人(リザードマン)2人が子どもたちを纏めて抱え上げ、女魔法使いちゃんが残ったダブル吸血鬼侍ちゃんを両脇に……おや?

 

 

「ちょっと、2人とも起きてるでしょ?」

 

「「えへへ……バレちゃった」」

 

 

 ああ、抱え上げた時に重さを感じなかったんですね。想い人に抱き着いたりする際に相手の負担にならないよう、2人ともこっそり飛行して体重を打ち消しているんでしたっけ。流石に寝ている時までは無理らしく、それで女魔法使いちゃんも判ったみたいです。

 

 

「ほら、起きてるんなら自分で歩きなさいな」

 

「ん~……もうちょっとこのままがいいな?」

 

「ふわふわ……いいにおい……ふわぁ」

 

 

 甘えるように見上げる吸血鬼君主ちゃんと、たわわに顔を埋めたまま寝る体勢に入っちゃった吸血鬼侍ちゃん。デイライトウォーカーじゃない吸血鬼侍ちゃんはやっぱりお日様の出ている間は眠いのかもしれませんね。

 

 

「まったく、家に着くまでよ? 子どもたちが見たら真似しちゃうもの」

 

「えへへ……ありがと。――こどもはもうちょっとだけおあずけだけど、こんやはいっぱいあいしてあげるね?

 

「んなっ!? こ、この……うん

 

「ZZZ……」

 

 

 ずり落ちないように吸血鬼侍ちゃんを両手で抱え直す女魔法使いちゃんの肩口に顔を寄せ、満面の笑みで感謝を告げる吸血鬼君主ちゃん。続けて囁いた愛の言葉の直撃を喰らい、顔を真っ赤にする女魔法使いちゃんに対し、啄むような口づけの大攻勢をお見舞いしていますね。

 

 

 さて、今回はそんな感じでまったりと進んでいく平穏な日常をお送り致しました。次回はお待ちかねの万聖節! 『今年こそは姪っ子と甥っ子に逢いに行くわ!』と気合いを入れている()()の為にも、次のセッションは早めに視聴神のみなさまへお届けできればと思います!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




 玉葱に代わる萌え装備を探す旅に出るので失踪します。

 4月より職場が変わるため、投稿までに時間が空いてしまうかもしれません。

 不定期となる可能性が高いですが、お待ちいただければ幸いです。

 評価や感想、お気に入り登録が増えると作者が喜びますので、よろしければお願い致します。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその15-1

 ワクチン3回目も無事発熱したので初投稿です。




 ……うん、これでヨシ! 我ながら会心の出来だと思います!! 昨年叶わなかった甥っ子と姪っ子との初対面なんですから、めいっぱいオシャレしなきゃですよ!

 

 あとは万聖節の前日、ダブル吸血鬼ちゃんが英霊さんたちを召喚するために(ゲート)を開きますから、それに便乗する形で四方世界(あっち)に向かってください!

 

 当日に太陽神さんが吸血鬼君主ちゃんに≪託宣(メッセージ)≫を送ってくれることになっていますので、向こうではバッチリエスコートしてもらえますよ!おもいっきり楽しんで来てください!!

 

 ……あ、そうそう。ついでにN子さんからひとつお願いしたいことがありまして。四方世界(あっち)に着いたら、彼女たちに()()を渡して貰えます? え、やだなぁ、そんな変なモノじゃありませんよ! 後発組の()たちを応援する、私たち視聴神一同からのちょっとしたサービスですって!!

 

 


 

 

 いつか見た生と死が交差する実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回、牧場のアップグレードとお子様たちの成長を見届けたところから再開です。

 

 収穫祭と万聖節の祝いをいっぺんに行うお祭りに備え、着々と準備を進めていた牧場に集いし冒険者とその関係者たち。あっという間に時は流れ、現在はお祭り当日になっております。

 

 

「よい……しょっ。これがさいごのひとつかな?」

 

「そうね、これで食材の積み込みは完了! お疲れシルマリル」

 

 

 身の丈の何倍もある大きな木箱を荷台に運び入れ、うーんと背伸びをする吸血鬼君主ちゃん。荷の固定をしていた妖精弓手ちゃんがぴょいっと荷台から跳び下り、小さな想い人を抱き上げて頬擦りをしていますね。

 

 

「皆で釣って参りました蝲蛄(ザリガニ)は鮮度を落とさぬよう泥を吐かせた後に活けのまま積み込みましたし、オルクボルグ様が獲ってきてくださいました揚げ物用の鯰たちも元気な状態です。街に着きましたら早速調理を始めたいと思います」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの影から伸びる触手を手に取り、ゆっくりと降りて来たのは若草知恵者ちゃん。頑張りますと腕まくりをする姿は一児の母とは思えぬほど可愛らしいですね!

 

 

 向こうで調理するもの以外にも牧場産の燻製仕立ての腸詰やベーコン、豚の内臓と乾燥蕃茄(トマト)の煮込みなど屋台で振る舞われる料理が馬車の荷台には満載。荷運びでおなかを空かせた一行の食欲を刺激する良い匂いが辺り一面に漂っています。

 

 

「――でも、作ってるときはあんな凄かったのに、今は全然臭わないのね」

 

森人(わたしたち)は気にならないけど、慣れてない義妹(いもうと)くんたちには少々刺激が強かったかな?」

 

「ふふ、そこはおばあちゃんの年の功というものです♪」

 

 

 辟易とした顔で木箱を覗き込んでいるのは女魔法使いちゃん。中には香ばしい匂いを放つ麺麭(パン)がきっしりと詰め込まれています。鍛冶場に設けられた太陽炉の熱を分けてもらう形で設けられた竈で焼き上げられた麺麭、一見ごく普通の麺麭にしか見えませんが……。

 

 

「麦の粉に生糸を取る際に出る副産物である(サナギ)の粉を混ぜて焼き上げた森人(エルフ)伝統の麺麭。今回は他の種族の方でも食べやすいよう香草や蜂蜜を混ぜてありますが、本来は()()()()()を生かしたまま作るのですよ?」

 

 

 森人(エルフ)の食生活を支える昆虫食。コスパに優れ、カロリーベースで考えても優秀な蛋白源ですね。森人の間で盛んな生糸産業の副産物として生成されるそれを余すことなく味わえる今回の目玉ですが、焼き上げている時に発生した臭いは強烈で、好奇心からうっかり近付いてしまった兎人(ササカ)のおちびさんたちは全員鼻を抑えて悶絶し、竈の周囲一帯から森人以外の種族が姿を消してしまうほどだったとか。上手く処理してくれた若草祖母さんの料理スキルの高さが伺えますね!

 

 

 

 おや? 食材の他に明日着る衣装の積み込みも完了した出店の準備組の傍らでは、吸血鬼侍ちゃんと妖術師さん、それに牧場付きの二柱の英霊さんが地面に何やら複雑な紋様を描いています。ああ、もうひとつ頼まれていた街の警備のために英霊さんたちの追加召喚の準備をしているのかな。担当の仕事を終えて徐々に集まる面々の中心にいるのは妖術師さん、どうやら彼女が召喚儀式を執り行うみたいですね! ガチガチに緊張している彼女を見た吸血鬼君主ちゃんが、妖精弓手ちゃんの胸元からふよふよと飛行して彼女の背中に抱き着きました。

 

 

「あああああ……失敗したらどうしよう……っ!」

 

「だいじょうぶ、うまくいくよ! それに……しっぱいしても、すぐにまりょくはほきゅうしてあげるから、ね?」

 

「ふぁっ!?」

 

 

 耳元で囁かれた甘い言葉に顔を真っ赤にする妖術師さん。どうやら以前口にしていた『魔力供給』の真実を知ってしまったみたいですね。彼女をストー……見守っていた知識神さんに確認したところ、迷宮探検競技用の会場設計のために若草知恵者ちゃんと2人で≪死王(ダンジョンマスター)≫を唱えるために、それぞれダブル吸血鬼ちゃんから魔力供給(意味深)を受けていたそうです。真実を知った彼女は当初アワアワしていたものの、近頃妙に母性に目覚めている妖精弓手ちゃんと相手をトロットロに蕩けさせる吸血鬼君主ちゃんによるダブルパンチで見事型に嵌められてしまったとのこと。

 

 ちなみにご主人様ソムリエの叢雲狩人さん曰く「白いほうのご主人様は此方を魂まで融かすような甘々な魔力供給で、黒いほうのご主人様は身も心も全て自分のモノであると刻み付けてくる情熱的な魔力供給」なんだそうです。……そんな2人を小さな身体でいっぺんに受け止める若草知恵者ちゃんがやはりさいつよなのでは???

 

 

 余談ですが、治療方法の研究の一環として≪蘇生(リザレクション)≫の触媒に闇人女医さんが新たに名乗り出てくれたんですが、彼女明らかに吸血鬼侍ちゃんと魔力供給(ちゅーちゅー)しているんですよねぇ。しっかりと奇跡は発動しているので触媒の条件は満たしているのですが、清らかな乙女でなければならないのに魔力供給済みという矛盾……これは裏で万知神さんと嗜虐神さんがルールの穴を突いている予感がします! 

 

 

 

「もう、あまり純真な女の子を弄んではいけませんわ」

 

「えへへ……は~い!」

 

 ちょっっぴり羨ましそうな剣の乙女ちゃんにほっぺたを突っつかれ、にんまりと笑いながら背中から離れる吸血鬼君主ちゃん。赤い顔の妖術師さんの手を取って隣に並び、同じように手を握り合っている吸血鬼侍ちゃん&若草知恵者ちゃんペアと正対する形で魔法陣を挟んで向かい合います。触れ合う手から流れ込んで来る膨大な魔力が快感を引き起こすのか、上気した顔の妖術師さんと若草知恵者ちゃんの詠唱を始めると、それに呼応するように無数の召喚サインが地面に浮かび上がってきました!

 

 花開く様に連続する白や黄色の輝き。その光が収まったとき、一行の前に姿を現したのは――。

 

 


 

 

「お、来た来た! 西方辺境が誇る英雄と、その仲間たちのご登場だね!!」

 

「あはは……あのように笑う姿を見ていると、彼女たちが既婚者だなんて思えないですね……」

 

 

 辺境の街の入り口で一行を待っていた2人の女性……受付嬢さんと監督官さんの目に映っているのは、令嬢剣士さんの相棒であるイボイノシシ君が牽引する荷車の幌の上でぴょんぴょん飛び跳ねている我らが2000歳児のお転婆な姿。見目麗しい女性ばかりな集団の登場に街の住民は一斉に喝采の声を上げ、祭りを楽しみにやって来た商人や観光客は陶然とした表情でみんなを見つめていますね。

 

 ……牛飼若奥さんと仲睦まじげに手を繋いでいる、見る限り集団の中でただ1人の男性であるゴブスレさんに男たちから嫉妬の視線が突き刺さっていますが、そんなモノ効かんとばかりに2人で双子ちゃんの乗ったベビーカーを押す姿に敗北し、男たちは皆地面に崩れ落ちています。

 

 

「お待たせいたしました。本日提供させて頂く食材を持って参りましたわ」

 

「お疲れ~! ん~良い匂いだねぇ!! ……あれ、小さな頭目(リーダー)ちゃんたちは一緒じゃ無かったのかな?」

 

「フフ、すぐに判りますわ。……ほら、聞こえてきましてよ?」

 

 

 御者席からヒラリと華麗に舞い降りてきた令嬢剣士さんと挨拶を交わしながら、姿の見えないダブル吸血鬼ちゃんを探してきょろきょろと周りを見渡す監督官さん。令嬢剣士さんの曰くありげな言い回しに首を捻っている監督官さんの横で、受付嬢さんが街道から聞こえてくる音楽に気付きました。

 

 

「これは、行進曲(マーチ)ですか……?」

 

「あ、ホントだ。随分勇ましい曲調だけど……って」

 

 

 音の聞こえてくる方向を向いたギルド職員2人の口があんぐりと開き、周りの人々も近付いて来る一団を見てポカンとしているのを苦笑を浮かべて眺める牧場一行。みんなも最初に()()を見た時は同じ反応でしたもんねぇ。秋の陽光を反射し光り輝く揃いの甲冑に身を包んだ一団を説明するなら、召喚直後に彼らを見た牧場長女ちゃんの言い放った一言がいちばん相応しいでしょう!

 

 

 

 

 

 

「ママー、タマネギさんがいっぱいだー!!」

 

 

 

 集団の先頭を歩くのは南瓜をくり抜いて作った仮装用の兜を被り、元気に喇叭を吹き鳴らしているダブル吸血鬼ちゃん。その後ろには太陽神さんと万知神さんの聖印が描かれた戦旗を掲げた牧場付きの英霊さん二柱、さらに続いて今回集まってくれた英霊さんたちが勢ぞろいです!

 

 死者が帰って来る万聖節ということで普段よりも召喚枠が拡大し、多くの英霊さんが殺到していた今回の英霊召喚。せっかくの機会ということで鎧はみんなで統一し、それ以外は各自が生前扱っていた愛用の武器を持って馳せ参じてくれたんですね。

 

 曲面を多用したデザインの揃いの鎧は見た目に反して軽く、それでいて当世具足(フリューテッドアーマー)を超える物理耐性を持つ高機能。同じく丸みを帯びた籠手(ガントレット)脚甲(レギンス)は生半可な攻撃は逸らしてしまう高度な技術が惜しみなく投入されたものです。そして何よりも、その玉葱とも揶揄される特徴的な(ヘルム)! 耐衝撃に優れ着用者の生命をしっかりと守るユーモラスなデザインは誰にも真似出来ません。万が一祭りに乗じたテロで悪しき死霊術師(ネクロマンサー)がアンデッドを投入してきたとしても、英霊さんとの違いは一目瞭然でしょう!

 

 いやー、それにしてもみんな張り切ってますね! それぞれが個性を主張するために長年の相棒を誇らしげに掲げています。パッと目に付く中ですと、まずは背中に大きな車輪を背負っている人と雷を帯びた剣槍を持っている人。大剣と短刀の二刀流の人はなんだかピョンピョン跳ね回ってますし、少年魔術師君が狩長さんから受け継いだ聖剣と同じ気配を感じる大剣を持っている人は、他の人より装備重量が重いのかちょっと遅れ気味なようです。……お、吸血鬼君主ちゃんの頭を撫でている首から太陽神さんの聖印を下げている人、シールドバッシュ用に鋭い突起の付いた円盾と風を纏う大剣を持つ彼はもしかして、あの伝説の騎士では……!

 

 

「つ、疲れたぁ……」

 

「お疲れ様、良い仕事っぷりだったわ」

 

 

 荷馬車の中で息も絶え絶えな妖術師さんを女魔法使いちゃんが膝枕して優しく髪を撫でていますね。向かい側の席では同じようにスヤスヤと寝息を立てている若草知恵者ちゃんを若草祖母さんが介抱し、それをみんなの子どもたちが興味深げに眺めています。なるべく多くの英霊さんを招くために、ダブル吸血鬼ちゃんから補給を受けつつ限界突破(オーバーキャスト)ギリギリまで召喚していた2人。今はゆっくりと休んでもらいましょうか。

 

 


 

 

「ええと。それでは皆さん、配布した地図に対応した区画の警備をお願いしますね?」

 

「あやしいヤツがいたら、ふんじばってギルドまで連れてきてね~!」

 

long may the sun shine(太陽万歳)!/

 Y Y Y Y Y Y  Y Y Y Y Y 

Attendre et espérer(待て、しかして希望せよ)!\

 

 ……えっと、万知神さん。なんですアレ? 太陽神さんの決め台詞が羨ましかった? にしたってなんで巌〇王なんですかねぇ……。

 

 おっほん! 気を取り直して、ギルド女子2人の声を背に街中へ散らばっていく英霊さんたち。睡眠&休息不要な特性を生かし、フルタイムで警備をしてくれるみたいです。同時に住民たちに彼らが警備担当であることを周知するため、新米冒険者が駆り出され街のあちこちで声を張り上げていますね。

 

 

「それじゃ、ちょっとご挨拶に行ってくるね!」

 

「子どもたちを頼む」

 

「「「いってらっしゃいませ、だんなさま、おくさま!」」」

 

 

 おっと、牧場夫婦は商工会の偉い人や街の有力者たちのところへ顔出しに向かうみたいですね。双子ちゃんは白ウサの次女ちゃんと三女ちゃんが預かり、みんなでお見送りしています。今回はダブル吸血鬼ちゃんの子どもたちも全員連れてきてますし、交代で面倒を見るつもりなのかな。

 

 

「ほ~ら2人とも、可愛いお嫁さんたちを働かせてサボってちゃダメだよ~?」

 

「「は~い」」

 

 

 会心のポーズを決めてドヤっていたダブル吸血鬼ちゃんを監督官さんが纏めて抱え上げ、運んでいく先はお祭り用に用意された特設天幕(テント)が集まっている場所。開店に向けて多くの人が準備を進めている中に一際華やかな空気を放つ区画がありますね。お、どうやら剣の乙女ちゃんと令嬢剣士さんが本日振る舞う予定の腸詰(ソーセージ)に竹串を挿しているみたいです。

 

 

「可愛い吸血鬼(ヴァンパイア)が遊んでたから捕まえて来たよ~!」

 

「あらあら、これはどうもご丁寧に」

 

「まったく、頭目(リーダー)ったら……。あ、そうだ。もし宜しければ試食など如何です?」

 

 

 有無を言わさぬ強引な誘拐に対し監督官さんのナイスなお山に後頭部をポフポフさせて抗議していた2人でしたが、2人を受け取った剣の乙女ちゃんの暴力的なたわわに顔を押し付けられあっという間に轟沈しちゃってます。おや? 幸せそうな顔で猫のように喉を鳴らす2人を微笑まし気に眺めていた令嬢剣士さんが何かを監督官さんへと差し出していますね。

 

 

「おっほ、こりゃご立派ァ!って感じだねぇ。もしかして牧場の?」

 

「ええ、作り立ての腸詰を炭火で焼いて、さらに上から牧場産のチーズをかけてみましたの」

 

「「とかげさんスペシャルなの~……ふかふか~……」」

 

 

 表面を香ばしく焼き上げられた後にたっぷりチーズでお化粧をした大ぶりな腸詰を受け取り目を輝かせる監督官さん。トロリと蕩け落ちてきた乳白色の粘体を舌で受け止め、そのまま肉棒へと舌を這わせる仕草に周りで開店準備をしている男たちが釘付けになっています。プリッとした弾力のある表面の肉汁をたっぷりと堪能した後、ツヤを帯びた唇で赤黒い先端を艶めかしく咥え込み――。

 

 

 

 

 

 ガブッ!!

 

「「「「「ヒエッ……」」」」」

 

「ゥンまああ~いっ!! 肉の旨味と脂の甘さ、そしてそれを引き立てる香辛料が実に良い仕事してるよ!」

 

 

 先端を喰い千切られた腸詰に何かを重ねて見ていた男たちが股間を抑えて震えているのを横目に見つつ、麦酒(おビール様)が欲しくなるねぇと嘯く監督官さん。同じく開店準備を進めていた女性陣から冷ややかな目で見つめられている男たちを苦笑混じりに眺めていた令嬢剣士さんを見て何か思いついたのか、ひっじょ~に悪い笑みを浮かべていますね。

 

 

「んっふっふ。男子諸君の想像力は逞しいねぇ。ちっちゃな頭目(リーダー)ちゃんたちのもコレくらいご立派なのかなぁ?」

 

ひゃん!? な、ナニを仰ってますの!?」

 

 

手に持つ腸詰を愛おしげに舐めつつ、令嬢剣士さんを背後から強襲。瑞々しい果実を片手で揉みしだきながら眼前で肉棒を振る様はまごうこと無きセクハラ親父ですねぇ。突然の凶行に戸惑い、令嬢剣士さんは助けを求めるように、慈母の微笑みを浮かべている剣の乙女ちゃんへと視線を送っていますね。

 

 

「? ……

 

 

 おおっと、彼女からの必死の視線に気付いた剣の乙女ちゃん。ダブル吸血鬼ちゃんを胸元に埋めたままシュルシュルと蛇の如き歩法で2人へと近付いていきました! 令嬢剣士さんに流し目を送りつつ、監督官さんの持つ先っぽを喰い千切られた腸詰へとその蠱惑的な唇を寄せて……。

 

 

 

「あむ……んっ」

 

「……え?」

 

 

 根元まで一息に咥え込み、なんと咀嚼すること無く丸呑みに! ごくり、と蠱惑的に蠕動する喉元を見て先程とは違う意味で股間を抑える男性陣が見守る中、監督官さんは目の前で起きたことを理解出来ずに手に残った竹串と剣の乙女ちゃんの顔とを交互に眺めるばかり。お肉の良い匂いに釣られて顔を上げたダブル吸血鬼ちゃんを自らの両頬に寄せつつ、熱の籠った吐息とともに剣の乙女ちゃんが告げるのは……。

 

 

 

「はふぅ……2人の()()は、こんな風に呑み込んだりは出来ませんわ。――フフ、良かったら今夜、貴女も頬張り切れないくらいの()()を味わってみては? ねぇ2人とも?」

 

「えへへ、おなかいっぱいになるまでたべさせてあげよっか?」

 

「あ……でも、ふつうのじゃまんぞくできなくなっちゃうかもね?」

 

うぇっ!? あ、あはは……あ、そうだ! これから打ち合わせがあるんだった!! それじゃまたね~!」

 

 

 えろーい! 剣の乙女ちゃんに合わせてダブル吸血鬼ちゃんまで悪ノリした攻勢に喪女疑惑のある監督官さんはタジタジ、顔を真っ赤にして戦略的撤退を選択したみたいです。エロエロ大司教による唐突な暴露(エクスポーズ)に周囲は騒然、天幕(テント)の下で出番を待っている腸詰の山に受付嬢さんを含む女性たちの熱い視線が注がれ、男性陣は何か大切なものを失ったかのように三度股間を抑え崩れ落ちていますね。まだ日も高いうちにナニを言ってますの!?という令嬢剣士さんの怒声が広場に響き渡るのでした……。

 

 


 

 

 さて、一部で青少年に有害な一幕があった気もしますが、もうすぐお祭りが始まる時間となりました。……お、ギルドを更衣室代わりに着替えていた女性たちがちょうど戻って来ましたね!

 

 

「おまたせ~! ふふん、どうよこの衣装、似合ってるでしょ?」

 

 

 一番にやって来たのは妖精弓手ちゃん。普段の活動的な装いとは異なる露出を抑えたエプロンドレス姿ですが、シンプルでありながら彼女の美しさを存分に引き出していますね! 胸元に揺れる大きなリボンがボリュームを補っています。なんのとは言いませんが。

 

 

「……なぁ、本当にアレが上の森人(ハイエルフ)の姫君なのか?」

 

「良いじゃないか可愛いらしくて。それにこういうのは楽しんだ者勝ちというものだよ?」

 

 

 続いてやって来たのは民族衣装(ディアンドル)風衣装に身を包んだ闇人女医さんと叢雲狩人さん。抜群のプロポーションを見せつけるように大きく胸元の開いたブラウス姿が眩しいです。森人(エルフ)らしいモデル体型が実に映えますね! あれ、どうしました嗜虐神さん? え? 闇人女医さんの肌の傷跡が消えてる? ああ、それなら吸血鬼侍ちゃんがじっくりねっとり癒してたって地母神さんが言ってましたよ。

 

 

「うへへ……ぼくたちこんなかぁいい服着るの初めてです! おばあちゃま、ありがとうございます!!」

 

「「「ありがと~ございま~す!」」」

 

 

 おお! 白兎猟兵ちゃんと妹ちゃんたちはレースたっぷりのエプロンですね! 長いおみみのふわもこと合わさって全体的にふんわり柔らかいイメージに纏まっているみたいです。たぶん既製品も流用したんでしょうが、この完成度の高さ、やはり高性能おばあちゃん……!

 

 

「うふふ、可愛い孫たちにい~っぱいプレゼント出来て、おばあちゃんもうれしいですよ?」

 

 

 そんな若草祖母さんはシンプルな黒のワンピースに白いエプロン。スレンダーな体型も相まって若草知恵者ちゃんの姉妹にしか見えません。ロングスカートの裾からチラリと除く白い足が視聴神さんたちを悶えさせております。

 

 

「うう……こんな格好私には似合わないってば……」

 

「んなこと無いわよ。御覧なさい? 周りの男どもの目を。普段とは全然違うでしょう?」

 

 

 女魔法使いちゃんの影に隠れるようにやって来た妖術師さんは前髪をアップにしたノットメカクレスタイル! これまたフリル多めの可愛らしいディアンドルですね。ほどよい大きさのお山にほっそりとした腰つき、何よりも普段の陰気な姿とのギャップにいつもの彼女しか知らない冒険者たちが目を丸くしています。ダイヤの原石に気付いていた人は居なかったみたいですねぇ……。

 

 

 そして女魔法使いちゃんですが……デッッッッッ!!

 

 ……コホン、失礼。あまりの衝撃に語彙が消失してしまいました。

 

 腰に手を当てた自然体なポーズの女魔法使いちゃんですが、薄手のブラウスを内側から盛り上げる圧倒的なたわわに会場全員性別問わず目が釘付けになっています。背後の妖術師さんがしがみ付くのに併せて縦横無尽に揺れる様はまさに視覚の暴力、愛の狩人(エロハンター)と化した叢雲狩人さんが我を忘れて跳びかかっていき……あ、空中で顔面を鷲掴みにされてそのままアイアンクローを極められちゃいました。

 

 

「仕込みを担当してた2人も着替えて来なさいな。あ、義妹(いもうと)ちゃんは疲れて寝ちゃってるから、貴女は奉納演舞まで傍に居てあげて? ……個室を借りてるけど、あんまり激しくしちゃダメよ?」

 

「うん、がんばるね!」

 

 

 ありゃ、若草知恵者ちゃんがダウンしちゃったみたいですね。剣の乙女ちゃんと令嬢剣士さんを交代で着替えに向かわせつつ、吸血鬼侍ちゃんに若草知恵者ちゃんを託す女魔法使いちゃん。昨日も遅くまで仕込みや奉納演舞の練習をしていたので疲労が溜まっていたのかも。揚げ物系は残りの人員でなんとかなりそうですし、日が暮れてからの奉納演舞に備えて休んでもらうことにしたのでしょう。言外に魔力供給を匂わせているあたり、夕方まで2人は戦線離脱確定ですねぇ。

 

 

「さて、アンタもさっさと……ってどうしたの? 急に空を見上げて」

 

 

 おや? さっきまでお嫁さんたちの艶姿に夢中になっていた吸血鬼君主ちゃん、いつぞやの若草三女ちゃんのように虚空を見上げています。って、あれ? もしかして太陽神さん、今≪託宣(メッセージ)≫送ってます? てっきり前もって送っていたものだとばっかり……。

 

 

「えっとね、とくべつゲストがこっちにくるからおもてなししてほしいって、かみさまからのおねがいがきたの」

 

「お願いって……≪託宣(ハンドアウト)≫? 太陽神からの?」

 

「うん。もうすぐとうちゃくするって」

 

 

 信仰する対象からの無茶振りには応えなきゃならないのが神官の務め……というわけではありませんけど、突発的なイベントで予定変更を余儀なくされた女魔法使いちゃんは泣いても良いと思います。暫く考え込んでいましたが、脳内で結論が出たのか眉間を手で抑えながら口を開きました。

 

 

「まぁ、義妹(いもうと)ちゃんたちが頑張って前準備を終わらせてくれてるから後は仕上げだけだし、アンタが抜けても大丈夫でしょ。……相手が誰なのか判らないけど、上手くエスコートして楽しませてあげるのよ?」

 

「ん、わかった! いってきます!! ……ちゅっ」

 

 

 駆け出しざまに啄むようなキスをして人混みの中へと消えていく吸血鬼君主ちゃん。不意の一撃に目を白黒させる女魔法使いちゃんを、周りのみんなが羨ましさと微笑ましさが綯い交ぜになった瞳で見ていますね。

 

 

「ちょっと、今の見ました奥様? 普段は熟年夫婦みたいな空気感出しているのに、こういう時だけ初々しい反応を見せるなんて。おっぱい眼鏡ったらあざといんだから!」

 

「はっはっは、それが義妹(いもうと)くんの良いところだよ妹姫(いもひめ)様。というか、奥様なのは2人も一緒じゃないかい?」

 

「むしろ此処に居る全員が既婚者だし、うち半分は経産婦だな」

 

「しかも番った相手は同じ人っていうのが凄いですよねぇ」

 

「うふふ、おばあちゃんはまだですよ? ま~だ♪」

 

「お、おばあ様……?」

 

 

 うーんこの奥様戦隊(二夫多妻)。聞こえよがしに囁かれる女性陣の呟きに段々と赤くなる女魔法使いちゃんの顔色。それが羞恥か怒りなのかはちょっと判断が出来ませんね。子どもたちが興味津々な瞳で見ている手前怒鳴るわけにもいかず、涙目になって拳を震わせる姿は実に新鮮です!

 

 

「お待たせいたしま……何の騒ぎですの、これは?」

 

「あの子も居なく()()ってしまってるみたいです()()……」

 

 

 女魔法使いちゃんの羞恥刑は、着替えを終えて戻って来た令嬢剣士さんの男装ウェイター服と、剣の乙女ちゃんの見た者の脳を破壊する猫耳メイド姿で全員の意識が吹き飛ぶまで続いたのでした……。

 

 


 

 

 猫耳装着型エロエロ吸血鬼メイド服仕様という大量破壊兵器で全員の死亡が確認されている一方そのころ。太陽神さんから送られてきた待ち合わせ場所である辺境の街の中心にある噴水広場へと到着した吸血鬼君主ちゃん。南瓜頭に貴族風の吸血鬼装束という仮装にしか見えない姿で走り回る様は、町中の人から微笑ましい目で見られていました。

 

 

「お、いたいた♪ そそくさ~!」

 

 

 さて、誰が目的の人物なのかとキョロキョロと周囲を見渡している彼女にスススーっと近寄っていく人影が。南瓜頭が邪魔をして接近に気付かない吸血鬼君主ちゃんを背後から抱き上げてしまいました。

 

 

「わわっ!? だれ?」

 

「ふふ、だ~れだ?……って、初めて会うんだから判るわけないか!」

 

 

 抱き上げれらた状態でくるりと半回転させられ、頭の南瓜を脱がされてしまった吸血鬼君主ちゃん。対面する形となった彼女の目に入ってきたのは剣の乙女ちゃんと同じくらいに見える女性です。薄い茶色の髪を緩く一つに束ね、フリルの多い白のブラウスにコルセット付きの黒色スカートを合わせた女性らしい服装……所謂『童貞を殺す服(チェリースレイヤー)』という装い。コルセットによって強調されたお山は叢雲狩人さんを超え、女魔法使いちゃんに迫らんとする標高です。吸血鬼君主ちゃんが童貞だったら危なかったかもしれませんね。

 

 

「むぐぐ……ぷぁっ! ……あれ? おね~さん……」

 

 

 むぎゅっと抱き締められ、暫くお山の間でもがいていた吸血鬼君主ちゃん。やっと解放され見上げた先、高い知性と慈しみを秘めた()()()()が彼女の視線を捉えて離しません。やがて女性の艶やかな唇が開き、鈴の転がるような声で紡がれたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッフッフ、そのと~り! わたしはみんなのおね~さん!! さぁ、キミもわたしの妹にしてやろう! 抵抗は無意味だ!!」

 

 

 

 

 

 

 ≪真実(おまわり)≫さんこっちです! ここに姉を名乗るへんたいふしんしゃさんがいます!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




 関節の痛みが消えないので失踪します。

 ご感想、評価ありがとうございます。勤務地が変わりなかなか時間がとれなくなってしまいましたが、未完とならないよう頑張っていきたいと思います。

 お読みいただいた方からの反応が執筆の励みとなりますので、お時間がありましたら是非感想や評価、お気に入り登録をして頂けますと幸いです。

 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその15-2

 硝子の足のおせいそさんが頑張ってくれているので初投稿です。




 前回、吸血鬼君主ちゃんが姉なのるものと遭遇(エンカウント)したところから再開です。

 

 

 太陽神さんの≪託宣(おねがい)≫を受け、『特別ゲスト』を迎えに来た吸血鬼君主ちゃん。しかし、そこで出会ったのは童貞を殺す服を容易く着こなす矢鱈とフレンドリーな『お姉ちゃん』でした。

 

 まぁいくら吸血鬼君主ちゃんが女の子好きで相手が素晴らしいお山をお持ちであったとしても、あからさまに怪しい人物にそう簡単に懐いたりは……。

 

 

「あったかふわふわ……」

 

 

 あ、駄目みたいですね(白目)。顔を谷間に埋もれさせ、後頭部を優しく撫でる彼女の攻勢によってあっという間に骨抜きにされちゃってます。こんなところ知り合いに見られたらまた大変なことに……って、おや? 何か白くて毛むくじゃらな物体が2人目掛けて疾風の如き速さで走り寄ってきています。牧場の印を刻んだ首輪を付けたあの独特なシルエットは……。

 

 

「ワン!」

 

 

 元太陽神さんの分身(アバター)、吸血鬼君主ちゃんが使徒(ファミリア)として契約を結んでいる狼さんです! 

 

 

「おやワンコくん、久しぶりだねぇ。よ~しよしよし!」

 

 

 どうやら狼さん、たわわの気配を感じ取って来たみたいですね。片手で吸血鬼君主ちゃんを支えたまま頭を撫でてくる『お姉ちゃん』に対し、千切れんばかりに尻尾を振っています。そんなところまで飼い主……もとい、契約者に似なくていいんですけどねぇ……。

 

 

 

 

 

 

「♪~♪♪~」

 

 そんなこんなで合流した2人と1匹。狼さんに跨った吸血鬼君主ちゃんと手を繋ぎ、祝祭に賑わう街中を楽しそうに見てまわる『お姉ちゃん』。時折立ち止まっては何処か懐かしいものを見る眼差しで商店や路地へと眼を向けています。……おや? 鼻歌交じりで歩く『お姉ちゃん』に吸血鬼君主ちゃんがちょっと驚いた表情を見せていますね。どうしたんでしょうか?

 

 

「そのおうた……」

 

「……ん? ああこれ? 昔から冒険者が良く冒険の道中で歌ってたんだって。聞いたことあるのかな?」

 

「うん、()()()()がときどきくちずさんでる。……きいてるのがバレるとやめちゃうの」

 

 

 へぇ、ゴブスレさんがねぇ……。吸血鬼君主ちゃんの言葉を聞いて目を丸くしていた『お姉ちゃん』。やがて肩を震わせ堪え切れないとばかりに笑い出してしまいました。

 

 

「――そっか、覚えててくれたんだ。……ねぇ、良かったら一緒に歌ってくれる?」

 

「いいよ! ぼくもこのおうた、だいすき!!」

 

 

 目尻に浮かんだ雫を指で払い、ニッコリと笑う『お姉ちゃん』。彼女の誘いに応じた吸血鬼君主ちゃんが透明感のあるソプラノで旋律を紡ぎ、それに合わせるように響く柔らかなアルトとともに街中へと広がっていきます……。

 

 

 

晴れた日は出かけようどこか遠くへ

知らないとこ目指して歩いて行こう

さぁ 冒険だ

 

昨日より今日が好き新しいから

ワクワクするこの気持ちなんだろう

さぁ 冒険だ

 

 

 足を止め、不意に聞こえてきた歌声の出処を探し辺りを見回す街の人々。視線を向けた先には、大きな白い犬に跨った圃人(レーア)の少女と、彼女と手を繋いだ只人(ヒューム)の女性が楽しそうに歌う姿。

 

 

 

晴れた日は出かけようこころ裸で

うれしいこと探して歩いて行こう

さぁ 冒険だ

 

 

 

 それは、冒険者であれば誰もが知っているもの。未知を求め、誰も見たことの無い景色に恋焦がれる者の心情を表した歌。2人の声に釣られ、人々の中からも小さく、でも確かに歌声が上がり始めました……。

 

 

 

家の中にいても

そうだつまんない

犬に道をきけば

どこへでも行ける

 

 

 

 犬扱いに不満の唸り声を上げる狼さんを慌てて宥める吸血鬼君主ちゃん。その様子を見ているみんなの顔に笑顔の花が咲いていきます……。

 

 

 

晴れた日は出かけよう口笛ふいて

悲しいこと忘れて歩いて行こう

さぁ 冒険だ

 

 

 

 うっすら浮かんだ涙を拭っているのは、おそらく冒険で仲間を失った人ですかね。冒険者を続けているのか、あるいは引退し別の道を歩んでいるのか。……声を張り上げ歌う姿からはどちらなのかの判断は出来ませんが、背後に佇む半透明の人影がそれを苦笑ながら眺めているのは、きっと今日が万聖節だからでしょう。

 

 

 

イソイソするこの気持ちなんだろう

 

 

 

「「「「「――さぁ、冒険だ!!」」」」」

 

 

 

 辺り一帯に響き渡るような声で終わりを迎えた冒険の歌。いつの間にか増えていた歌声にビックリしているうちに、2人と1匹は集まってきた人たちにもみくちゃにされちゃってますね。暫くは開放してもらえそうにありませんし、ちょっと出店のほうに視点を切り替えてみましょうか!

 

 


 

 

「はい、鯰と豹芋(ジャガイモ)のフライお待ちどうさま。塩か葡萄酒酢(ワインビネガー)を付けて食べるといい」

 

「こちら食べ歩き用の腸詰の麺麭挟み(ホットドッグ)でございます。発酵甘藍(ザワークラウト)は挟み放題ですので、お好みでお入れくださいませ」

 

「「「ありがとうございました~!」」」

 

 

 おお、出店は大人気ですね! 叢雲狩人さんと闇人女医さん、それにおちびちゃんたちがホールスタッフ。令嬢剣士さんと白兎猟兵ちゃん、それに妖術師さんがキッチンスタッフを務め、剣の乙女ちゃんと若草祖母さんがお持ち帰りのお客さんを捌いているみたいです。普段あまり目にすることの無い森人(エルフ)兎人(ササカ)の女の子たち、しかもこの日の為に用意された特製の衣装に身を包み、クルクルと天幕(テント)を駆けまわる可憐な姿に男性客のみならず女性客からも感嘆の溜息が零れています。

 

 エプロンで強調されたたわわやふわふわスカートから覗く白い肌にムラっときて不埒なことを考える者もいたようですが、常駐していた英霊さんが即座にアームロック、詰め所へと連行していったそうです。その容赦ないやり方と、牙を剥く笑みを伴う「おちびちゃんたち以外、私たちみんな吸血鬼(ヴァンパイア)のお手付きよ?」という女魔法使いちゃんの優しい言葉に一見さんも震えあがり、無事お触り禁止は守られているんだとか。

 

 

「わ~い! いただきま~す!!」

 

「うふふ……ゆ~っくり味わって飲んでていいんですよぉ……」

 

 

 あ、ちなみに女性客がおちびちゃんを抱き上げるのは彼女たちが嫌がらなければセーフらしく、自分が食べるものと一緒に人参ジュースを注文して、美味しそうにコップを傾ける四女ちゃんを膝上に抱えたちょっと放送出来ない顔の受付嬢さんががが。きっと疲れているんですね(白目)。

 

 

 

 さて、残りの面子は何処に……と。お、いました! 天幕(テント)奥の従業員スペースのほうで女魔法使いちゃんと妖精弓手ちゃんが子どもたちの面倒を見ています。賄いと思しき皿の乗ったテーブルを一緒に囲んでいる小さな姿は……おや珍しい、少女巫術師さんと少女剣士ちゃんの圃人(レーア)コンビです。訓練場でみっちり扱かれた後、重戦士さんのところでお世話になっていましたし、圃人どうし意気投合したみたいですね。それぞれが1人ずつ子どもを抱え、早めのお昼ご飯を食べさせてあげていますね。

 

 

「ん~……ちゅ~……」

 

「ふふ、金床でも気にせず飲んでくれる良い子ねぇ。……誰かさんとは違って」

 

「んふ~! あったかふわふわ~!!」

 

「うひゃひゃ!? くすぐったいってば~」

 

 

 ふわふわの毛に覆われた白兎四女ちゃんにおっぱいを飲ませている妖精弓手ちゃん。満足したのか吸い口から唇を離した四女ちゃんの背中を摩り、けぷっと空気が出るのを見て満足そうに笑っています。ダブル吸血鬼ちゃんや子どもたちがいっぱいちゅーちゅーしてもなお透明感のある吸い口を服で覆いながら半目で睨む先では、少女剣士ちゃんの小柄な体格に似使わぬ立派なモノに顔を埋めてご満悦な星風長女ちゃんがママに向かって会心のドヤ顔。その金床はパパたちがこよなく愛している素晴らしいモノなんだけどなぁ……。

 

 その隣では少女巫術師さんがテーブルに腰掛けている若草三女ちゃんと見つめ合い、そっと人差し指を差し出していますね。若草三女ちゃんも同じように指を近付かせ、やがて互いの指先が触れ合い、2人の顔に笑みが……って、それコミュニケーションなんですか???

 

 

「まったく! そのたわわ好き、いったい誰に似たのかしらね?」

 

「いや、あのエロガキとお姫様の両方でしょ。馬鹿義姉(ばかあね)と一緒に散々私の胸を弄りまわしてたの忘れたのかしら。……はい、あ~ん」

 

「あ~む……ちゅ~……」

 

 ぷんすこしている2000歳児にツッコミを入れつつ、固い頭部を噛み千切ったカミキリムシの幼虫を叢雲次女ちゃんに差し出す女魔法使いちゃん。叢雲次女ちゃんが美味しそうに中身を吸いだしたのを確認すると、残った皮を自分の口に放り込んでいますね。餌をせがむ雛鳥のように口を開けている叢雲次女ちゃんを見た少女剣士ちゃんが、そういえば、と女魔法使いちゃんに声を掛けています。

 

 

「みんなもしかしてもう乳離れしたんですか?」

 

「そうね、うさちゃん以外はみんな……あぁ、一番デカい2人がまだ飲んでるわよ」

 

「あはは……」

 

 

 女魔法使いちゃんのあんまりな言い方に圃人コンビも思わず苦笑い。同じように若草三女ちゃんの口元へ幼虫を運んでいた少女巫術師さんがふと気付いたように呟きます。

 

 

「でも、随分と早い気がしますね。普通1年ちょっとは母乳を求めると思ってましたけど。それになんだか成長も早いような……」

 

 

 ……はい、良いところに気が付きましたね。3人が産まれたのは今年の初夏。まだ生後半年くらいのはずなのに、3人ともハイハイはおろか1人で立ち上がって走り回っています。ママたちの種族である森人(エルフ)の子どもの成長は早いのかと思っていましたが、どうやらそういうワケでもなく。実はもっと別の原因があったんですねぇ。視聴神のみなさんはなんとなく察していらっしゃると思いますが、その原因は――。

 

 

「その、ね? 私たち眷属の母乳がこの子たちの成長を促進させちゃったみたいなのよ……」

 

「「……え?」」

 

 

 ――妖精弓手ちゃん目配せした後、バツが悪そうな女魔法使いちゃんの口から零れた答えに目を白黒させる2人。まぁ、そんな顔になりますよねぇ……。 

 

 


 

 

「んじゃまずはおさらい。なんで吸血鬼(ヴァンパイア)は他人の血を吸うんだっけ?」

 

「ハイッ! 生きてくために必要だからですっ!!」

 

「いや、もう死んでるでしょ。……『存在を維持するため』、とか?」

 

「ん~、まぁそんなところね。良い機会だし2人にも知っておいてもらおうかしらね」

 

 

 お腹がいっぱいになって舟を漕ぎ始めた子どもたちをベビーカーに移した後、妖精弓手ちゃんが店のほうから持って来た飲み物で気持ちを切り替えた2人たちに吸血鬼について問いかける女魔法使いちゃん。少女剣士ちゃんのとんちんかんな回答に額を抑えている巫術師さんの答えが適当でしょうか。視聴神のみなさんは既にご存知かもしれませんが、女魔法使いちゃんによる吸血鬼(ヴァンパイア)講座の時間です!

 

 

吸血鬼(ヴァンパイア)が血を吸うのは、にじり寄って来る死に抗うため。放っておけば塵となる肉体を維持するために、元となった種族、あるいは同じ吸血鬼の血が必要なの。動物やゴブリンなんかの血を吸っても意味が無いのはそういう理由ね。」

 

 

 眼鏡をクイっと上げて知性をアピールする女教師スタイルな女魔法使いちゃんの言葉にコクコクと頷く圃人コンビ。その隣では妖精弓手ちゃんも同じように頷いてますが……もしかして知らなかったんですかねぇ?

 

 

「体内に取り込んだ血液は吸血鬼の意思で生命力にも魔力にも変換出来るの。不死に等しい再生力や、後天的に修得する呪文行使能力はその産物ね」

 

「先生、黒いほうの先輩はちょっとしんどそうですけど、白いほうの先輩は平気な顔で日光浴してます! っていうか、吸血鬼って日光を浴びると滅びるんじゃないんですか?」

 

「ん~、色々端折って説明すると、日光が平気なのは親であるあの子が吸血鬼稀少種(デイライトウォーカー)だからで、もう1人の分身から独立した元吸血鬼君主(ヴァンパイアロード)の子も2人が長い間ひとつの身体を共有してたからその影響を受けてるのよ」

 

 

 そうそう、太陽神さんの寵愛を受けた吸血鬼君主ちゃんは日光を天敵とせず、むしろ活力に変換出来る非常にレアな存在です。魂が繋がっている吸血鬼侍ちゃんも間接的にその恩恵に預かり、本来は弱点である日光をある程度克服しているわけですね。

 

 

「オマケにシルマリルってば、ちっちゃな太陽を身体の中に持っているんだもの。……あれ? それなら別に血やおっぱいを吸わなくても良いんじゃない?」

 

 

 もしかしておやつ感覚で吸ってたワケ?と首を傾げる妖精弓手ちゃん。恥ずかしながら私実況神も同じ疑問を抱いていたんですが、吸血鬼君主ちゃんの新しい身体……ヒヒイロカネ製の太陽炉を考案した万知神さんと覚知神さん、そして実際に設計に携わった鍛冶神さんにその理由を教えて頂きました。

 

 

「あの子の身体を『炉』に例えると、体内の太陽の欠片は『炉心』で、そこから放出される力は身体能力や魔力を増幅させる『薪』。体外から摂取する血や母乳はその膨大な力を受け止めている『炉』を安定させ、また修理・維持するための『修復材』って感じらしいわ。日光も『修復材』扱いだけど、それだけじゃ戦闘なんかで出力を上げた『炉』の修復が間に合わないんだって」

 

 

 だからみんなからちゅーちゅーしてるのよ、と続ける女魔法使いちゃんの言葉にほえ~と頷く3人。最初に聞いたときは正直驚きましたね、そんなに高度かつ繊細な構成だったとは思いませんでしたので。

 

 

「それとさっき意味がないって言ったけど、動物や異種族の血も『薪』としては使えるし、吸い尽くした相手の知識や記憶は奪えるから完全に無意味ってわけじゃないみたい。迂闊に吸い過ぎると自分の記憶と混じり合って危ないからあの2人しかやらないけどね」

 

 

 ほほう、闇人繁殖者(ブリーダー)や氷の魔女から知識と記憶を頂戴していたのは記憶に新しいですが、同じアンデッドとはいえ別種族である塚人複製體(ワイトトークン)から記憶を奪えたのにはそんな理由があったんですねぇ。……お、話に喰い付いて来た2人を見た女魔法使いちゃんの表情が良い感じにエロくなってきてますよ!

 

 

「……『炉』で生み出され、あの子の体内に蓄えられた『薪』は魂や肉体の繋がりを通じてもう1人のあの子や私たちに供給され、その恩恵を受けることが出来るの。一度繋がりを設ければ何もしなくても少しずつ供給されるけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「も、もしかしてそれが……!」

 

 

 真っ赤な顔で身を乗り出し、続きを促す少女剣士ちゃん。その隣では少女巫術師さんがゴクリと生唾を飲み込んでいます。艶やかな笑みを浮かべた女魔法使いちゃんが、ほっそりとした指先で自らの下腹部に触れながら告げるのは……。

 

 

「あの子たちに直接『薪』……()()()()()()()()()()()()。身体能力の向上や呪文回数の増加が主な効果だけど、白ウサちゃんの毛ツヤが良くなったりお姫様がキラキラになったりするから身体に良いのかもしれないわねぇ」

 

「へぇ、そうなの。ぜんぜん気付かなかったわ」

 

「「ええ……?」」

 

 

 2000歳児ェ……。まぁしかし、ダブル吸血鬼侍ちゃん一党(パーティ)の『魔力供給』の意味を知り小さな淑女たちは大興奮。教官として訓練場で顔を合わせる叢雲狩人さんや令嬢剣士さんが、時折キラキラしているのには深いワケがあったんですねぇ。

 

 

「あれ? でもそれなら眷属の皆さんを、その、『ちゅーちゅー』するのは無意味なんじゃ……」

 

「ああ、あの子の身体は一種の『増幅器(ブースター)』になってて、吸わせた以上の『薪』になって帰って来るのよ。まぁ『薪』だけじゃ身体を維持できないからお姫様たちから『ちゅーちゅー』させてもらってるんだけど」

 

「そういう意味ではヘルルインは燃費が悪いのよねぇ。身体の維持をぜーんぶ『ちゅーちゅー』に依存してるんだから……にしても」

 

 

 少女巫術師さんの疑問にさらりと答える女魔法使いちゃん。なるほど、それなら頻繁にちゅーちゅーしている意味が……って、妖精弓手ちゃんが悪い顔してますねぇ。席から立ったと思えばスルリと女魔法使いちゃんの背後に回り込み、両の手で彼女のたわわを持ち上げながらそっと耳元に口を近付け……。

 

 

 

「――それだけが理由じゃないでしょ? ちゃんと本音で話しなさいな」

 

「……あの子たちに必要とされるのが、求められるのが嬉しいからよ。……悪い?」

 

 

 とんがり帽子に赤くなった顔を隠し、俯いちゃった女魔法使いちゃん。良く言えましたと言わんばかりに頬擦りをする妖精弓手ちゃんの対面では圃人コンビがキャーキャーと黄色い悲鳴を上げています。いやー、愛されてますねぇ!

 

 

 

「えっと、みなさんの爛れた生活についてはまだまだ聞きたいんですけど、肝心の子どもたちの成長とはどんな関係が?」

 

 

 一頻り女魔法使いちゃんを弄り倒して満足したのか、ツヤツヤした顔で話を本筋へと戻す少女巫術師さん。ちょっと話に飽きてきたのか、少女剣士ちゃんは万知神さんに向かって『交信』のジェスチャーをしている若草三女ちゃんを興味深そうに眺めています。啓蒙が高まっちゃう~。

 

 

「あ~……私たちって分類的にはアンデッドじゃない? その身体から出る母乳って、毒では無いんだけど栄養にもならなくて、『生命力』そのものって感じなのよ。だから、それを摂取した子どもたちは……」

 

「すくすくと大きくなっちゃった……ってワケですか」

 

「そ。お腹はふくれるけど栄養にはならないから、私たちのおっぱいもたっくさん飲んでたの」

 

 

 おかげでヒリヒリしっぱなしよ、と薄い胸元を擦る妖精弓手ちゃん。交代で飲ませているとはいえ、子どもたちみんな良い飲みっぷりでしたもんね。おまけにダブル吸血鬼ちゃんやその眷属にまでちゅーちゅーさせてあげてたんですから、森人(エルフ)ママたちの負担は相当なものであったはずです。

 

 

「そんなにいっぱい吸われて、おっぱいが足りなくなったりしなかったんですか?」

 

 

 親指をしゃぶりながら夢の世界に旅立っている子どもたちを覗き込みつつ、好奇心の暴走するままに尋ねる少女巫術師さん。その質問は更なる地獄への片道切符なんですよねぇ……。フフンと薄い胸を張り、同性すら魅了する美貌の妖精弓手ちゃんが誇らしげに言い放ったのは……。

 

 

「ああ、それは大丈夫」

 

 

 

 

 

 

「シルマリルにちゅーちゅーしてもらって、体内で増幅した後に注いで(返して)もらってたから!」

 

「「ほ、ほわぁ~!?」」

 

 

 思わず口から砂糖を吐き出してしまいそうなほどに駄々甘い夜会話の一端でした……。

 

 


 

 

「――さて、そろそろ本題に入ろうかしら」

 

「こ、この流れで言わなきゃダメですかぁ~?」

 

 

 最後まで起きていた若草三女ちゃんが夢の国(ドリームランド)へ旅立ったのを確認し、真剣な表情で圃人の少女剣士ちゃんへと向き直る女魔法使いちゃん。いやいやと眼前で手を振る小さな姿を静かに見つめ、彼女が話し出すのを待っています。躊躇っている様子の少女剣士ちゃんでしたが、隣に座る少女巫術師さんがそっと手に触れ頷くのを見て、おずおずと口を開きました。

 

 

「えっとですね。このあいだ訓練場の同期たちとゴブリン駆除の依頼を受けたんです。油断していたわけじゃないんですけど、壁役(タンク)が引き付けていた1匹が突然こっちに突っ込んできて、為す術無く組み伏せられちゃいまして……」

 

 

 いやぁ、体格差は如何ともし難いですねぇと笑う少女剣士ちゃん。悍ましい雄に押し倒された恐怖を身体は覚えているのでしょう。震える小さな手を見た妖精弓手ちゃんが、机の反対側から手を伸ばして彼女を抱き上げ、膝上に乗せてギュッと抱きしめてあげています。

 

 

「……そっか、怖かったわよねぇ」

 

「あはは……。すぐに他の前衛がそいつの首を刎ねてくれましたけど、支えを失って重さの増した死体が全身を圧し潰してきて、それで……」

 

「泣き出しちゃったこの子を介抱しつつ、巣の中のゴブリンを殲滅するのは骨が折れました~」

 

 

 頬に手を添えたポーズでその時の苦労をアピールする少女巫術師さんの腰には、圃人用に拵えられた鈍い光を放つ慈悲の短剣(ミセリコルデ)。鎧を身に纏う習慣の無いゴブリン相手なら身体の何処に刺さっても傷を負わせることが出来、()()を駆除する際にも役立つそれを彼女は愛用しているみたいです。

 

 

「――そう、それで、冒険者を続けるのが怖くなった?」

 

「あ、それは大丈夫です。故郷を飛び出して、痛いのも苦しいのも全部承知の上で冒険者になることを選んだんで。ただ、そのう……」

 

 

 女魔法使いちゃんの言葉に首を何度も横に振り、必死に否定する少女剣士ちゃん。心配そうに彼女を見る女魔法使いちゃんと妖精弓手ちゃんをよそにあらあらうふふという顔で事態の推移を生暖かく眺めている少女巫術師さんを半目で見た後、両の人差し指をモジモジさせながら少女剣士ちゃんが言葉を続けていきます。

 

 

「私を押し倒してきたヤツの獣欲に満ちた瞳を見た瞬間、『こんなクソ野郎に私の純潔を奪われてたまるか!』って思ったんです。その後、宿に戻って寝台(ベッド)の上で気持ちを整理していた時、不意に()()()()()を思い出して……」

 

「教官って、馬鹿義姉(ばかあね)のことよね。その言葉っていうと……

 

 

 少女剣士ちゃんの言葉を聞いた女魔法使いちゃんの顔がみるみるうちに引き攣っていきますね。まぁあの時の叢雲狩人さん良い感じにタガが外れてましたもんね……。同じ推測に至った妖精弓手ちゃんが、腕の中で顔を真っ赤にしている少女剣士ちゃんとニヤニヤ笑いの少女巫術師さんを交互に見つめています。彼女の視線に気付いた少女巫術師さんが艶やかな笑みを浮かべながら椅子から降りるのを見て、妖精弓手ちゃんの膝上から抜け出しその隣に並んだ少女剣士ちゃん。ギュッと拳を握り覚悟を決めた表情で、その心中を露わにします……。

 

 

 

「そちらの頭目(リーダー)さんに、私を大人のオンナにしてもらいたいんです!!」

 

「私はおひさまの匂いのする頭目(リーダー)ちゃんがいいなぁ~」

 

 

 これは、修羅場の予感……ッ!!

 

 


 

 

「どう? ちょっとは落ち着いた?」

 

「はい、すみません……」

 

 

 真っ赤な顔でおめめグルグルだった少女剣士ちゃんをたわわに埋もれさせ、落ち着くまで拘束していた女魔法使いちゃん。胸元から聞こえるくぐもった声に落ち着きの色があるのを確認し、そっと抱きしめていた腕の力を緩めています。暴走状態から復帰し、プルプルと半泣きで震える小さなレディを膝上であやす姿はまさに歴戦のオカンといった風格が漂っていますね。

 

 

「貴女の気持ちは理解したわ。ケダモノ共に穢される痛みと辛さはウチの面々が一番良く知ってるもの」

 

 

 頭を撫でる女魔法使いちゃんの手付きは只管に優しく、少女剣士ちゃんの硬直していた心身を解きほぐしていきます。やがて力の抜けた小さな身体がたわわにもたれかかってきた頃、女魔法使いちゃんがゆっくりと2人に対し問いを投げかけました。

 

 

「ひとつ聞いても良い? あの子たちを初めての相手に望んでくれたのは何故? あぁ、そこのお姫様は判らないけど、私としてはこれが浮気だなんて思ってないから安心して頂戴」

 

「む、私だってそうよ! シルマリルもヘルルインも、無駄に女の子を泣かせるような真似はしないし、させないわ! ゴブリンを相手に戦おうとする仲間のお願いなんだから、叶えてあげて当然じゃない!!」

 

 

 本当かしら~? という女魔法使いちゃんの視線を跳ね返すように薄い胸を張る妖精弓手ちゃん。既に愛の結晶を育んでいる余裕の表れでしょうか。ああ、でも……と言いながら、上目遣いで不安げに見つめる少女剣士ちゃんに声を掛けています。

 

 

「答えたくなければ言わなくて良いけど、他の男じゃダメなの? ほら、いつも一緒にいるあのチビッ子(少年斥候)とか、半森人(ハーフエルフ)優男(軽戦士)とか」

 

「えっと、やっぱり一党(パーティ)の仲間は家族って感じだから、そういう対象には考えられなくて。それに、この間のゴブリン……田舎者(ホブ)のせいか、自分より大きな男性(ひと)がちょっと怖くって……」

 

「……ゴメンなさい、嫌なコト思い出させちゃって」

 

 

 女魔法使いちゃんの膝上で力無く笑う少女剣士ちゃん。圃人(レーア)の体格で田舎者(ホブ)に組み伏せられたらトラウマになっても不思議じゃありませんよね……。長耳をしおれさせて謝る妖精弓手ちゃんの頭をぺしりと叩いた女魔法使いちゃんが、少女剣士ちゃんを抱え直しながら口を開きました。

 

 

「まぁ、そういうことならあの子たちが適任かしらね。身長は貴女たちよりもちっちゃいし、近寄られても怖くは無いでしょう。事情を話せば引き受けてくれると思う」

 

 

 ただ、と言葉を続ける女魔法使いちゃんを真剣な表情で見つめる圃人コンビ。2人の眼差しを受け止めた女魔法使いちゃんが口にするのは、ダブル吸血鬼ちゃんと肌を重ねるということの真なる意味です……。

 

 

「あの子たちと交わり、魔力供給を受けるということは、眷属化しやすくなっていくということ。精神(こころ)肉体(からだ)もあの子たち好みに作り変えられ、たとえ眷属に成らずとも周りからは吸血鬼(ヴァンパイア)に魂を売った裏切り者と見做されてもおかしくないわ。……私みたいな凡人は、心の内に潜む獣を御し続けなきゃいけないしね」

 

 

 もとより永遠に等しい寿命を持つ上の森人(ハイエルフ)や、強壮なるドラゴンになる事を目指す蜥蜴人(リザードマン)を除けば、不老不死を望まないものなど数えるほどしかいないでしょう。あの売国奴のように、ダブル吸血鬼ちゃんを操って永遠の命を授かろうとする輩が再び現れないとも限りません。

 

 

「もし、王国や秩序の勢力が私たちを『敵』であると認識した時、貴女たちも同類と見做される危険性があるわ。……そんなリスクを背負ってでも、あの子たちを()()()()()()?」

 

 

 自らを包み込むひんやりとした吸血鬼の身体。鼻をくすぐる甘い魔力の芳香と、微かに力の入った腕の震えを感じ取った少女剣士ちゃん。その冷たい肌を温めるように女魔法使いちゃんの手に自分の小さなそれを重ね、きりりとした表情で言い放つのは……。

 

 

 

「もちろん! みなさんがとっても優しいことは、訓練場で指導を受けてた時から誰よりも良く知っているつもりです!! だから……お願いします!!!」

 

「……ん。ありがとう、あの子たちを好きになってくれて。あ、でも最後に一つだけ」

 

 

 満足げに微笑んだ後、ゆっくりと少女剣士ちゃんの耳元に口を近付けていく女魔法使いちゃん。柔らかな拘束にわたわたする姿に悪戯っぽい光を瞳に宿しながらそっと囁くのは……。

 

 

「あの2人の()()、そっちの頭目(リーダー)のだんびらには負けるけど、そんじょそこらの只人(ヒューム)じゃ太刀打ちできない()()よ?」

 

「あー……、最初はちょ~~~っとキツいかもねぇ。2人ともめいっぱい優しくしてくれるとは思うけど、頑張ってね?」

 

「うそ……こんなとこまで……?」

 

 

 少女剣士ちゃんのおへその上あたりに指を滑らせ、にんまりと微笑む女魔法使いちゃん。愕然とした表情の少女剣士ちゃんが嘘だと言って欲しそうに対面の妖精弓手ちゃんに視線を向けますが、返ってきたのはうんうんと頷く2000歳児の微笑み。ガクガクと震える少女剣士ちゃんを満足げに眺めていた妖精弓手ちゃんがふと気付いたように視線を向けたのは、同じく愉悦顔で一党(パーティ)の仲間を眺めていた少女巫術師さんです。

 

 

「そういえば、貴女もこの子と同じ考えなの? シルマリルが希望とかなかなか判ってるじゃない!」

 

「うふふ、その子とおんなじように大切に守ってきた純潔を畜生に奪われる危険性を無くしたいっていうのもあるんですけど……」

 

 

 小さな身体からは想像も出来ない程のプレッシャーを放ち、とある方向を見つめる少女巫術師さん。その視線の先にいるのはフリルたっぷりの衣装で調理場を目まぐるしく動き回っている1人の女性の姿。まるで大蛇が大きく顎を開き、舌を覗かせているような顔つきで漏らしたのは……。

 

 

 

 

 

 

「同業者が次々と吸血鬼(ヴァンパイア)の毒牙に斃れる中で『喪女同士、助け合っていこうね!』なんて言ってたクセに、抜け駆けをした挙句卑屈な笑みを浮かべながら『す、すごかったよ……』ってマウントを取ってくる陰キャ気取りのリア充に『今日から私たち竿姉妹ですね!』って言い放ってやりたくて……ッ!」

 

 

 

「ヒエッ……!?」

 

「どうかなさいましたか?」

 

「いや、なんか急に寒気が……」

 

「風邪でしょうか? 最近涼しくなってきましたものね」

 

 

 ……出店の入り口付近では、急にガクガクと震え出した妖術師さんを若草祖母さんと剣の乙女ちゃんが心配そうに見ています。圧倒的なオーラを放つ少女巫術師さんに残りの3人はどう対処するか決めあぐねているみたいですね。コホン、と咳ばらいをした女魔法使いちゃんが、これだけはという感じで今後の流れを話し始めました。

 

 

「……今日明日ってのは難しい話だけど、あの2人には伝えておくわ」

 

「ま、イヤとは言わないでしょうよ、シルマリルもヘルルインも2人のこと大好きだし」

 

 

 ああ、確かに。辺境の街で数少ない圃人(レーア)仲間ですもんね。ギルドや訓練場で顔を見る度2人して飛んで行って(物理)ましたから。少女剣士ちゃんとはだいたい同年代くらいですけど、少女巫術師さんは結構、いやかな~り年上……まぁ2000歳児を筆頭に3桁歳も多いですし、外見だけならエロエロ大司教モードの剣の乙女ちゃんが一番年上なのかなぁ。

 

 

 ……と口から呪詛を垂れ流している少女巫術師さんは暫く放置安定でしょうか。……おや、出店の入り口のほうが騒がしくなってます。どうやら『お姉ちゃん』を連れた吸血鬼君主ちゃんが狼さんと一緒に戻って来たみたいですね。

 

 

 さて、無事にゲストを迎えられお祭りは更に盛り上げっていくことでしょう! 万知神さんから、街の有力者との会合を終えたゴブスレさん一家が他の金等級家族と一緒に此方へ向かっているとの連絡も入ってきています。はたして『お姉ちゃん』の正体と、その目的はいったい何なのでしょうか? この先も目が離せません!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 GW中に次話を仕上げたいので失踪します。

 予想通り通勤時間が長くなり、書くのが遅くなってしまいました。

 ゆっくり進行になるかとは思いますが、続きをお待ちいただければ幸いです。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその15ー3

 GWなのにお出掛けする気力が湧かないので初投稿です。




 前回、喪女の抱える怨念の恐ろしさを知ったところから再開です。

 

 

 さて、吸血鬼君主ちゃんが信奉する太陽神さん直々のおもてなし依頼という、どう考えても裏が有るとしか思えない存在である『お姉ちゃん』。2人と1匹が連れ立って姿を現した際、一党(パーティ)みんな警戒心を隠せない状態でしたが……。

 

 

「うわ、可愛い~! みんな()()()()()()()だし、それを衣装がさらに魅力的にしてるね~!!」

 

「へ? も、勿論よ! 貴女、なかなか良いセンスしてるじゃない!!」

 

 

 持たざる者のいじらしい乙女心を驚異的な観察眼で見出し……。

 

 

「うま~! 素材の鮮度も抜群だし、調理の仕方も最高!! ……ひょっとしてこれは森人(エルフ)風の味付けを只人(ヒューム)向けにアレンジしてるのかな?」

 

「お気に召して頂けたようで何よりですわ。ささ、お代わりは如何ですか?」

 

 

 お母(半森人夫人)さんから教わった味付けを褒められて上機嫌な令嬢剣士さんを陥落させ……。

 

 

「ふはははは! さぁうさぎちゃんたち、このニンジンが欲しくば可愛いポーズを見せるのだ~!!」

 

「「「せ~のっ、しゃい☆」」」

 

 

 持参した人参で兎人(ササカ)のおちびちゃんたちを手玉に取り……。

 

 

「ふへへ……なんだってこう、ちっちゃな子って可愛いのかしらね~!」

 

 

 あれよあれよという間に場の空気を制圧し、現在は両手に星風長女ちゃんと叢雲次女ちゃんを抱え、膝上に若草三女ちゃんを乗せてニッコリご満悦。クソマンチ師匠(万知神さん)との邂逅以来盤外(こちら)からの干渉にピリピリしていた女魔法使いちゃんでしたが、『お姉ちゃん』の言動に毒気を抜かれてしまい、たわわを机の天板に預けた脱力した姿勢で対面の椅子に座っちゃってます。……この圧倒的コミュ力、死灰神さんにも見習って貰いたいくらいですねぇ。

 

 

「ふわふわ~♪」

 

「パパのにおい~♪」

 

 

 おっぱいソムリエな星風長女ちゃんとパパ大好きな叢雲次女ちゃんは『お姉ちゃん』のたわわの虜となっており、女魔法使いちゃんの隣で机に頬杖を突く妖精弓手ちゃんにジト目で睨まれてもどこ吹く風といった様子。膝上で大人しくしている若草三女ちゃんは――。

 

 

「……♪」

 

 

 ――『お姉ちゃん』の緑色の瞳を通して覚知神さんを感じ取り、順調に啓蒙を上昇させているみたいです。あ、ちょっとダメですって覚知神さん!? 勝手にそんなもの(秘儀『夜空の瞳』)授けたらまた万知神さんに怒られちゃいますよ!?

 

 

「ハァ……まぁ、そっちのおっぱい姉は良いとして……」

 

 

 吸い付いたようにたわわから離れようとしない愛娘たちを溜息まじりに眺めていた妖精弓手ちゃんが向き直った先には、背もたれの無い椅子に座らされた吸血鬼君主ちゃんと、彼女を背後からハグし動きを封じている妖術師さん、そして、吸血鬼君主ちゃんの足元に齧り付く様に身体を寄せる2人の小さな淑女の姿。只人(ヒューム)の子どもほどの背丈にも拘わらず、2人の背から放たれているオーラは常人とは思えない熱気を帯びています……。

 

 


 

 

「うわ、すっごいすべすべ。それに想像以上に柔らかい……」

 

 

 真っ赤な顔で指先をあてがい、なんども往復させる圃人の少女剣士ちゃん。最初はぎこちなかった動きが躊躇いを無くすとともに滑らかになり、徐々にねちっこいものへと変貌しています。

 

 

「フフフ、でもこのくびれたところから上の部分は、とっても硬いですね……」

 

 

 行為に夢中になっている彼女と頬がくっついてしまいそうな距離で、妖艶に微笑む少女巫術師さん。相棒の撫でるすぐ傍に小さな手を添え、曲面に沿って何度も擦り上げています。張り出した部分に刺激が与えられる度ビクンと身体を跳ねさせる吸血鬼君主ちゃんを見る目はまごうこと無き肉食獣のものですね……。

 

 

「ん、やあぁ……。みんながみてるのに……っ」

 

 

 普段は布地に覆われ、厳重に秘匿されている部分を公衆の面前で暴かれ、羞恥心と刺激のダブルパンチに自らの指を噛み締め、必死に耐えようとしています。なんとか身を捩って2人の容赦無い攻めから逃れようと頑張りますが……。

 

 

「うう……ごめんね師匠、今の私はあの子に逆らえない……」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの動きを封じるように、より一層身体を密着させる妖術師さん。その柔らかな感触と、万が一にも3人に怪我を負わせるわけにはいかないので、吸血鬼君主ちゃんも力尽くで拘束を解くことは出来ないみたいです。やがてその身体はフルフルと震え始め、小さく可愛らしい口の端から雫が垂れて来ました。食事の手が止まってしまったお客さんたちの注目を集める中、限界を迎えた吸血鬼君主ちゃんの顎は上向きに仰け反り、不要な筈の空気を求めるように舌が口外へと突き出され――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで3人掛かりでシルマリルのブーツを脱がせて足を撫でまわしてるの???」

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!?」

 

 

 ――我慢の限界を超えた吸血鬼君主ちゃんの笑い声が、店中に響き渡るのでした……。

 

 


 

 

「あ~くすぐったかった!」

 

 

 スッキリした顔で椅子に腰掛け、生足をプラプラさせている吸血鬼君主ちゃん。その足元ではズッコケ3人組が正座させられていますね。いや~良いイベントだったわ~と食事を再開する神経の図太いお客さんたちへと頭を下げるホールスタッフを横目に、吸血鬼君主ちゃんをあすなろ抱きした妖精弓手ちゃんが呆れた様子で3人を見下ろしています。

 

 

「……で? シルマリルにどうしてもお願いしたかった事っていうのが、コレ?」

 

 

 うん、まぁ、そりゃ想い人が公衆の面前で辱め(意味浅)を受けたら怒りますよねぇ。震える長耳をシュッと後ろに絞り、頬をヒクつかせても輝きを失わぬ美貌の妖精弓手ちゃんを見て生命の危険を感じた3人が慌てて弁明を始めています。

 

 

「えっと、私たち圃人(レーア)って靴を履く習慣が無くって、いつも裸足じゃないですか。だから足の裏ってカチコチなんですよ、ホラ!」

 

 

 そう言いながら見事なY字開脚を披露し、足裏を見せる少女剣士ちゃん。たしかにその可愛らしい見た目からは想像も出来ない程頑丈そうな足裏です。

 

 

「里を出て都会を訪れ、そこで靴の存在を知り御洒落の一環として履く者もいますけど、そのころには既に足裏は頑丈になっているのです」

 

 

 妖術師さんの膝上に腰掛け、同じように足裏を見せる少女巫術師さん。……雑に扱われても抵抗しない辺り、妖術師さんってばよっぽど彼女が怖かったんですかねぇ。

 

 

「だから、只人(ヒューム)みたいにぷにぷにな足裏の圃人なんて、今まで一度も見たことが無かったんです。でも、訓練場で汗を流すためにみんなで水浴びをしている時に……」

 

「あ、だからぼくたちのあしもとをじ~っとみてたんだ~」

 

 

 ポン、と合点がいったように手を叩く吸血鬼君主ちゃん。どうやら訓練後のシャワーの時に視線を感じていたみたいですね。健康優良な男子諸君の覗きだったら容赦無く殲滅していたんでしょうけど、まさか内部犯によるものだったとは……。

 

 

 でも、なんでダブル吸血鬼ちゃんの足裏は柔らかいでしょうか? ……ふむ、太陽神さんと万知神さんに確認したところ、『死の迷宮』で吸血鬼にされた時期が非常に早く、足裏の皮膚が分厚くなりかけていたのを身体が傷と判断して再生させてしまったとのことです。

 

 そう言われてみれば、圃人コンビと比較しても吸血鬼君主ちゃんのほうが頭半分くらい背が低いですし、体型もちょっぴり子どもっぽいような。となれば、身体がまだしっかりと出来上がっていないほど幼い時に吸血鬼に成ったということですか……。

 

 

「その辺で勘弁してあげたら? どうせソイツも怒ってないんだし」

 

 

 なんとも怒り難い理由に味わい深い表情となっていた妖精弓手ちゃんに助け舟を出す女魔法使いちゃん。彼女の言う通り、くすぐり地獄に落とされていた筈の吸血鬼君主ちゃんはケロっとした顔をしています。シルマリル、怒ってないの?という問い掛けに首を振り、妖精弓手ちゃんの胸元から抜け出し椅子から降りる吸血鬼君主ちゃん。気まずげに顔色を窺っている3人へと邪気の無い笑みを向けて……。

 

 

「ん、ちょっとはずかしかったけど、おこってないよ。だって、たいせつなかぞくとともだちだもん!」

 

「し、師匠……っ!」

 

 

 イイハナシダナー。滂沱の涙を流しながら跳び付いて来た妖術師さんの頭をよしよしと撫でつつ頬擦りをする吸血鬼君主ちゃん。まったくシルマリルは甘いんだからと呟く妖精弓手ちゃんの長耳も定位置に戻っていますね。……お、テーブル席で推移を見守っていた女魔法使いちゃんが立ち上がり、吸血鬼の膂力を駆使して圃人コンビをひょいっと持ち上げ、吸血鬼君主ちゃんの眼前に並べました。アワアワしている2人の間に顔を近付け、悪魔のように囁くのは……。

 

 

「あの子が許しても、あの子を愛する者が許すかどうかは別の話よねぇ。罰として、ここであの子に()()()して頂戴? ……初めてを貰って欲しいって、ね?」

 

「「……はい」」

 

 

 ……女魔法使いちゃん、怖ッ!?

 

 

 

「えっと、ふたりのこと、ぼくもあのこもだいすきだよ。だから、ぼくたちをえらんでくれたのはうれしいし、おねがいはきいてあげたいんだけど……」

 

 

 そう言いながら上目遣いで見る先は、一党(パーティ)のオカンである女魔法使いちゃん。そして、妖精弓手ちゃんと令嬢剣士さんです。他の女性陣は一歩引いた場所から3人の返答を見守っていますね。

 

 


 

 

 さて、様々な出自、境遇を持つ一党(パーティ)の女性たちですが、ダブル吸血鬼ちゃんの想いはどうであれ表向きには正式な配偶者というものが存在します。銀等級冒険者であり、秩序の勢力に与する強大な吸血鬼(ヴァンパイア)。まだ公表されてはいませんが、近々『死の迷宮』を抱える廃都市一帯を領地として貴族に叙される予定の2人はハイリスクではあるものの超有望株です。

 

 そんな2人を取り込むべく子や孫を送り込もうとする者は後を絶たず、軍人や官僚、果ては反王派であった斜陽の貴族などからも大量の釣書が届き、銀等級に昇格した直後は大変だったみたいです。……なんせ滅ぼされない限り永遠に存在し続けるわけですからね。家の存続を第一に考える貴族としては喉から手が出るほど欲しい存在でしょう。

 

 ダブル吸血鬼ちゃんの性癖を理由に「是非嫁に来てくれ!」という男性からのお誘いは丁重にお断りしたものの、「娘婿に!」や「孫娘でどうだ!?」という非常に断りづらいものまで送られてくる始末。困り果てた一行が偶々王都に戻ってきていた半森人局長さんに相談したところ……。

 

 

「あら、簡単なことです。他の家が文句を言えない程の相手を正妻としてしまえば良いのですよ。他の方々は側室、乱暴な言い方をすればお妾さんということで……」

 

 

 これにはダブル吸血鬼ちゃん激おこ。「「みんなだいすきだから、じゅんばんなんてきめられない!!」」と陛下と宰相の前で大暴れ。銀髪侍女さんと銀毛犬娘ちゃんに制圧され、ふかふかの絨毯に組み伏せられた2人の傍にしゃがみ込んだ半森人局長さんがゆっくりと口を開きました……。

 

 

「納得がいかなくても、これは王国……ひいては秩序の勢力として生きるために必要なこと。あなた方一党(パーティ)は王国にとって妙薬にも劇毒にも成り得る存在、王国を揺るがす要因を孕んだまま放置するわけにはいかないのです。それが、上に立つ者の義務ですので」

 

 

 子どもに語り聞かせるように説き伏せられ、涙目となった2人。一党(パーティ)みんなで話し合い、出した結論が『妖精弓手ちゃんを吸血鬼君主ちゃんの、令嬢剣士さんを吸血鬼侍ちゃんの正妻として陛下に認めてもらう』ことでした。

 

 

 

「今の私は"至高神の大司教"ではなく、1人の"吸血鬼希少種(デイライトウォーカー)の眷属"ですから」

 

 

 もっとも2人と早く出会い、長い間想いを積み重ねていた剣の乙女ちゃん。至高神の聖女ちゃんを後継者に指名し、表向きは隠遁している彼女を大っぴらに表舞台に登場させるのは不味いですし、彼女自身がそれを望まないため誰よりも先に辞退してくれました。

 

 

 

「田舎者の獣人(パットフット)が正妻じゃあ納得出来ないお貴族様もいらっしゃるでしょうし、なによりぼかぁみなさんのなかでいっとう早く喜びの野に旅立っちゃいますからねぇ。そこでまた後妻さん争いが起きるのも面倒でしょう?」

 

 

 眷属化を望まず、定められた時間を共に歩むことを決めている白兎猟兵ちゃん。まだ膨らむ前のおなかをさすりながら、ぼかぁ旦那さまと命を次に繋げたらそれで幸せですよぅと笑う姿からは「生きること」に全力な兎人(ササカ)の力強さを感じました。

 

 

 

「いやぁ、妹姫(いもひめ)様を差し置いて正妻というのは流石にねぇ……」

 

(わたくし)の心と身体は既に満たされておりますので、これより先は私たち血族(かぞく)全員が幸せになる道を探していきたいと考えております」

 

「――そんなわけで妹姫(いもひめ)様。変に気を遣わず、最良の選択をしてくれたまえよ」

 

 

 

「ゴメンって言ったら2人を……みんなを侮辱することになる。だから、ありがとう」

 

 

 子を宿したおなかに手を当て、優しく微笑む森人(エルフ)の義姉妹。眦からボロボロと雫を零しながら妖精弓手ちゃんが眉を立てた笑みを返しています。上の森人(ハイエルフ)の姫君であれば外野を黙らせるのに十分すぎるでしょう。多種族の融和という観点から見ても文句の付けようのない選択です。

 

 

 

「んじゃ、もう1人は後輩で決まりね」

 

「んなっ!? ……どういうことですの?」

 

 

 摘まみ上げた吸血鬼侍ちゃんを令嬢剣士さんの胸元に押し付けながら涼やかに笑う女魔法使いちゃん。咄嗟に受け取ってしまった令嬢剣士さんが戸惑いの声を上げるのを見て、やれやれと首を振りながらその理由を説明し始めました。

 

 

「――自分を客観的に見てみなさいな。混沌の勢力蔓延る遺跡から莫大な財宝を発見し、それを元手に冒険者ギルドという組織の改革に着手。チンピラ同然の下級冒険者を即戦力に鍛え上げ、同時に福利厚生の改善に成功した敏腕経営者。腐りきった王国の汚物(貴族)を華麗に切除し、苦しめられていた民を解放した開明派の貴族。オマケに自らも眷属と成って"吸血鬼希少種(デイライトウォーカー)"を秩序側に迎え入れた立役者にして、ただ1人きりの真なる栄纏神の神官。……貴女は、冒険者の憧れる英雄にして伝説に足を踏み入れた存在なのよ?」

 

 

 うーんこの属性山盛り。こうやって列挙されるとなかなかに壮観ですねぇ。理性ではそれを判っていたのでしょう、反論せずに口を噤んでしまった令嬢剣士さんをそっと抱きしめ、それに……と女魔法使いちゃんが言葉を続けます。

 

 

「もしこの子たちが闇に堕ちた時、私が正妻だったらウチのバカ()と顔を合わせるのすっごく気まずいでしょ? 見事私たち全員を滅ぼした後に『お前も姉と同じように吸血鬼と内通していたのだろう? この裏切り者め!!』な~んてことになったら後味悪いし」

 

「いや、それは正妻であろうとなかろうと関係ないのでは? そもそも私たち全員を滅ぼせるとは思いませんが……」

 

「まぁ、後は素直に貴族の御令嬢である貴女のほうが俸給魔術師(ウェッジメイジ)の娘である私よりも周りを黙らせやすいし」

 

 

 ああ、以前そんなこと言ってましたね。たしかに同じ宮廷勤めとはいえ貴族位の有無は大きいでしょう。()()、両方の面で詰められた令嬢剣士さんが諦めたように溜息を吐き、お山をポフポフしていた吸血鬼侍ちゃんを抱え直しました。

 

 

「――判りました。皆さんの期待に応えるよう、そして血族(かぞく)全員が安心して暮らせるよう、誠心誠意努めさせて頂きますわ!」

 

 


 

 

 ……とまぁ、そんな感じにセッション間で行われていた正妻会議。後発組である妖術師さんや闇人女医さんもそれは了承済ですし、公の場以外では決して不公平な扱いはしないし、他のみんなを「2号さん」呼ばわりする輩はその場でダブル吸血鬼ちゃんがグーパンで黙らせてやると約束したみたいです。

 

 実際、貴族同士の顔繋ぎの場であるパーティー会場で、酒に酔った貴族のボンボンが「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」などと口走り、プッツンしたダブル吸血鬼ちゃんが即座に手袋を顔面にシュート。翌朝宿泊していた令嬢剣士さんの実家に蒼白を通り越して亡者みたいな顔のボンボンが猿轡をかまされた状態で一族郎党によって引きずり出され「どうかこの馬鹿の首ひとつで! 根切りだけはご勘弁を!!」という一幕があったようです。

 

 ぷんすこしているダブル吸血鬼ちゃんをなんとか宥め、令嬢剣士さんの実家に有利な商取引を行うことで手打ちとなった騒動でしたが、その後表立ってそういうことを口にする輩はいなくなったみたいです。……裏でコッソリ金髪の陛下が「あ奴らなら例え相手が余であったとしても何ら躊躇うことなく決闘を申し込んで来たであろう。卿らも心に留め置くがいい」と噂を流してくれていたのは内緒ですよ?

 

 

「……その様子ですと、既にお二方はお認めになったようですわね」

 

 

 ……おっと、回想シーン(ホワンホワンホワン)している間に話が進みそうになっていますね! 女魔法使いちゃんと妖精弓手ちゃんの態度から2人の出した答えを察した令嬢剣士さんが、まったく……と言った様子で眉間に手を当てています。不安げに見上げる吸血鬼君主ちゃんに近付き、しゃがみ込んで視線を合わせ、紡いだ答えは……。

 

 

(わたくし)が反対するわけありませんわ。互いを想い尊重し合っているのなら、是非とも彼女たちの願いに応えてあげてくださいませ。それが訓練場の教官として彼女たちを見てきた先達としての、そして1人の女としての私の答えですの」

 

「ん、ありがとう! ……ごめんね?」

 

 

 謝らないでくださいなと言いながら、むぎゅっと吸血鬼君主ちゃんを抱きしめ、苦笑する令嬢剣士さん。他の面々も「まぁ、そうなるな」といった表情ですね。一歩間違えれば修羅場ってたであろう店内には、固唾を呑んで見守っていたお客さんたちからの盛大な拍手が沸き上がっています。その中には周りの真似をして拍手をするちっちゃな森人(エルフ)3人娘を膝上に「わかりみが深い」という表情で深く頷く『お姉ちゃん』の姿もありますね。

 

 

「うんうん、2人とも愛されてるんだねぇ。お姉ちゃんも鼻が高いなぁ~!」

 

「いや、どう考えてもアンタあの子たちのお姉ちゃんじゃないでしょ。……で、何? 結局あのエロジジイ(クソマンチ師匠)と同じで私たちにちょっかい出しに来ただけなの?」

 

 

 そろそろ話して貰える? とニッコリ笑顔の女魔法使いちゃん。素敵な笑みの下ではパイルハンマーの撃鉄が引き起こされ、ママの殺気を感じた森人(エルフ)3人娘が若草祖母さんのところへ避難していますね。流石に時間稼ぎも限界と判断したのでしょう、どうどう、落ち着いてと両手を降参のポーズにした『お姉ちゃん』が来訪の理由を話し始めました。

 

 

「んふふ、私が今日この地を訪れた理由は3つ! ひとつ、去年ギリギリで見られなかった可愛い甥っ子と姪っ子の顔を見ること。ふたつ、上司の友人から預かったプレゼントを届けること、そして……」

 

 

 そこまで話すと口を閉じ、女魔法使いちゃんの背後へと視線を向ける『お姉ちゃん』。視線の先には有力者との慣れない話し合いに精神的に疲れたであろう牧場夫婦の姿があります。結婚式の時に新調した蜂蜜色のドレス姿の牛飼若奥さんが明るい笑みとともに一行に手を振り、その隣で竜革鎧(ドラゴンハイド)複合素材鎧(コンポジットアーマー)を合わせ、上から金等級昇格祝いに陛下から下賜されたサーコートを纏ったゴブスレさんが双子を乗せた移動式寝台(ベビーカー)を押しています。……あ、どうやら一行に交じって手を振り返している『お姉ちゃん』に気付いたみたいですね。

 

 

「……嘘、あの人って……っ」

 

 

 信じられないようなものを見たという顔で呆然と立ち尽くす牛飼若奥さん。ゴブスレさんのほうは……うん。兜越しで直接は見えませんが、たぶん宇宙猫みたいな顔してますねこれは……。2人の只ならぬ様子に彼方へと消え去っていた警戒を取り戻した一行が身構えるのも気にせず、『お姉ちゃん』が硬直している2人へと近付いて行きます……。

 

 

「……何故だ」

 

「う~ん0点! もうちょっとみんなに判り易く伝わるようにしよ?」

 

「……どうして此処に居る?」

 

「30点。それじゃ何が知りたいのかみんな誤解しちゃうよ?」

 

「……還ったんじゃ無かったのか? ――()()()

 

「うんうん、そうやって重要な情報を小出しにするの、嫌いじゃないよ! ……あ、もしかしてもう二度と逢えないと思ってた? 残念! 実はちょこちょこお仕事でこっち(四方世界)に来ているのだ!!」

 

「帰れ」

 

 

「うわぁ、オルクボルグを手玉に取ってる。今まで遭遇したことの無い怪物(クリーチャー)ね……」

 

 

 最初のシリアスな雰囲気は何処へやら。見たこともないほど饒舌なゴブスレさんと、まるで漫才をするかのように会話を楽しむ『お姉ちゃん』を見て、今度はこっちで修羅場かと身構えていた面々もぐんにゃりと脱力しちゃってますね。机に突っ伏す妖精弓手ちゃんを余所に、『お姉ちゃん』が誰なのかを察した牛飼若奥さんの瞳からポロポロと涙が零れ始めました。

 

 

「え、なんで、お姉ちゃんが……」

 

「うん、久しぶりだね。……あぁ、実は生きてたなんてワケじゃ無いよ? 私は()()()に死んで、此処に居るのはその残り香みたいなものだから」

 

 

 記憶に残るものよりもずっと小さな身体。見上げるような体格だった筈なのに、今では自分のほうが大きくなっていることに気付いた牛飼若奥さん。グチャグチャになった感情を持て余しただ涙する妹分を、『お姉ちゃん』がちょっと背伸びしながら抱きしめてあげています。やがて落ち着きを取り戻した彼女が泣き止んだところで、一行へと向き直った『お姉ちゃん』が、緑色に変じた瞳を輝かせつつ改めて自らの正体を明かしました……。

 

 

 

 

 

 

「はじめまして! いつも弟が、『ゴブリンスレイヤー』がお世話になってます。私はその子の姉。10年以上前に死んでいて、()()覚知神の使徒(ファミリア)をやってるんだ!!」

 

 

 

 いや、もうちょっと言い方ってもんが……。そういうところほんとゴブスレさんとソックリじゃないですか……!

 

 


 

 

「ふーん、つまりオルクボルグとワンコ、それに英霊コンビは去年ソイツに逢ってたのね」

 

 

 ギロリ、という擬音がこの上なくマッチするジト目でねめつけられ、ガクガクと頷く1人と1匹と2柱。戦闘モードに移行しかけた一行を一喝し、事情を話すよう告げたのはまさかの妖精弓手ちゃんでした。剣の乙女ちゃんに叢雲狩人さん、それにこの場には居ませんが若草知恵者ちゃん。覚知神さんから≪託宣(ハンドアウト)≫を受け取り人界に害を成す一番の要因はゴブリンであり、心身に深い傷を負った彼女たちが使徒(ファミリア)である彼女に敵意を持つのは仕方がないのかもしれません。

 

 たどたどしく、でも必死に昨年の邂逅についてついて話し、彼女が決して害悪なだけの存在では無いと判り、みんななんとか矛を収めてくれたようです。流石に叢雲狩人さんの火炎放射器(インフェルノ・ナパーム)は『お姉ちゃん』でもヤバいらしく、覚知神さんがハラハラしながら見守っていました。

 

 

「それじゃあ、さっき言ってた甥っ子と姪っ子って……」

 

「うん、そこで寝てる2人だよ。去年はタッチの差で顔を見られなかったんだ」

 

 

 女魔法使いちゃんの声に頷きを返し、2人を起こさぬようそっと頬を撫でる『お姉ちゃん』。慈しみに満ちたその表情に、剣の乙女ちゃんと叢雲狩人の顔に驚きが溢れています。

 

 

「ワン! ワン! クーン……」

 

「ふんふん……。あのね、おね~さんはわるいひとじゃないって。おおかみさんとおんなじで、ようがあるときにかみさまにからだをかしてあげてるだけ。それいがいはふつうのひととかわらないんだって」

 

「ああ、そう言われればあの時以来あなたも只の犬よねぇ……あ、ゴメン狼だっけ」

 

「フン!」

 

 

 失礼な!と鼻を鳴らす狼さんに慌てて謝罪する女魔法使いちゃん。ほんのり空気が和やかになったところで、双子ちゃんを愛おし気に撫でていた『お姉ちゃん』が満足したように立ち上がり、一行へと向き直りました。

 

 

「うん、めいっぱい堪能した! これでその1は完了。つ~ぎ~は~……コレ!!」

 

 

 鼻歌まじりに鞄に手を突っ込む『お姉ちゃん』、取り出し掲げたるは……何でしょうアレ。片方は画面越しにも判るほどの悍ましい瘴気を纏ってますし、もう片方は……なんか物理的にモザイクが掛かってますね。……ん?≪真実≫さんからメッセージが……なになに、『あまりにも教育的によろしくないので画像処理しています』。あの、いったいナニを送ったんですか嗜虐神さん?

 

 

「「「わわ、まっくら!?」」」

 

「あんなモノ、見ちゃいけませんわ!?」

 

 

 『お姉ちゃん』が取り出したモノを見た瞬間、抜群のコンビネーションで兎人(ササカ)のおちびちゃんたちの視界を塞ぐ女性たち。見るからにヤバいものを持った『お姉ちゃん』が近付くのは、未だに正座の影響で足が痺れ逃げ遅れていた妖術師さんです。

 

 

「はい、貴女にはコレ! 知識神様からのプレゼント♪」

 

「うぇぇ、なんか凄く呪詛みたいなものを感じる……あ、でもなんか凄く親近感が……」

 

 

 笑顔で差し出されたブツを反射的に受け取ってしまった妖術師さん。最初引き攣っていた表情が段々と緩み、炬燵に嵌って動けなくなった蜥蜴僧侶さんみたいな顔になっちゃいました。ふへへ……といつもの笑みを浮かべる彼女の手には一冊の書物。表紙に書かれている題名は……。

 

 

「その本は『不浄なる暗黒の書(Book of Vile Darkness)』。世間で『悪』とされる、ありとあらゆる知識が収められているの。善を尊び悪を征すのならば、先ずは相手を知らなきゃならない。決して本の悪意に呑まれないよう、注意して読みなさいだって」

 

 

 ああ、追加サプリの中で初めて成人向けのラベルが貼られたっていう……。知識神さんもなかなかに恐ろしいものをプレゼントしたものです。彼女の様子を見る限り本との相性は良さそうですし、もし本の悪意に呑まれそうになっても一党(パーティ)の誰かが引っ叩いて正気に戻してくれるでしょう!

 

 それで、もう一つのモザイクが掛かってるブツは……まぁ、予想通り闇人女医さんのところですね。みんなが頬を引き攣らせている中で、彼女と『お姉ちゃん』だけが期待に満ちた顔をしているのが非常に怖いです。……あ、とうとう映像自体に規制がかけられてしまったので、暫くは音声だけのお送りとなるそうです。

 

 


 

 

「貴女には……はい! 嗜虐神様お手製の……」

 

「んな!? これは……なんと冒涜的な……!」

 

「朝夕の()()が禁止されちゃって、随分溜まってるんじゃない? 鞭打つ代わりに、これを身に着けたらどう?」

 

「ま、まさか……これを着けたまま日常生活を送るのか!?」

 

「想像してみて? 露出皆無ないつもの服装の下に、これを着けている状況を……」

 

「……素晴らしい」

 

「でしょ~? それにほら、貴女の主さまって、動きを妨げたり拘束したりってあんまりしないでしょ?」

 

「うむ、悪鬼共に嬲られたのを想起させぬよう、相手が望まぬ限り絶対にしないと言っていたな」

 

「逆に考えるのよ、自分から着けちゃえばいいやって」

 

「嗜虐神様、有難く頂戴いたします……っ!!」

 

 


 

 

 ……えぇと、途切れ途切れに聞こえていた会話と他のみんなの表情から嗜虐神さんのプレゼントがどんなものであったのか、視聴神のみなさんはなんとなく想像がつきましたでしょうか? あ、嗜虐神さん、≪真実≫さんと≪幻想≫さんからお話しがあるそうなので、セッションが終わったら2人のところへ行ってください。必ず絶対に逃げないでくださいね?

 

 

 ホクホク顔の2人を見て満足げな『お姉ちゃん』。どうやら2つ目の理由とやらも完了したみたいです。急いで2人に冒涜的な神器(アーティファクト)をしまわせた女魔法使いちゃんが、もう限界ギリギリといった表情で切り出しました。

 

 

「これで2つ目も終わり? ゴブリンスレイヤーには悪いけど、さっさと3つ目も終わらせてとっとと帰って頂戴……」

 

「いやぁ、随分と嫌われちゃったみたいだね~。……まぁ3つ目はすぐに終わるから、もうちょっとだけ我慢してくれるかな?」

 

 

 良い感じにSAN値が削れ、啓蒙が高まってきた一行を見回し苦笑する『お姉ちゃん』。視線を向けた(ゴブスレさん)が身構えるのを手振りで落ち着かせ、ゆっくりと告げるのは……。

 

 

 

 

 

 

「3つ目は、退職の報告。今日限りで覚知神様の使徒(ファミリア)の仕事はおしまい! わたし、普通の女の子に戻ります!!」

 

 

 ――魂のあるべき場所、輪廻の輪へと還る、本当にお別れの挨拶でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいま~! ……あれ?」

 

「私が至らぬばかりに皆様にご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした。この後の奉納演舞で挽回させて……あの、如何なさいましたか?」

 

 

 

 うわあ、なんだか凄いことになっちゃったぞ(白目)

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 できればGW中にEDまでもっていきたいので失踪します。


 お気に入り登録や評価、感想ありがとうございます。

 感想欄のコメントからセッションのネタが湧くことも多いので、一言でも構いませんので頂けますと幸いです。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその15ー4


 なんとかGW中に間に合ったので初投稿です。




 前回、『お姉ちゃん』の衝撃的な告白を聞いたところから再開です。

 

 

 お日様が地平線へと傾き、夜の闇が近付いて来た辺境の街。篝火に照らされた広場では、商品を売り切った屋台が店じまいを始め、入れ違いになる形で立ち飲みなどの大人向けのお店が誘蛾灯のように人々を享楽へと手招きしています。

 

 ダブル吸血鬼ちゃんたちのお店も夕方には用意していた食材が無くなり、天幕(テント)を夜の部の出店者に引き継いでから奉納演舞の関係者控室へと移動。演舞の主役である2人の着替えと使用する機材の確認を行っているみたいですね。

 

 

「……ん、これで良し。引っ掛かりや突っ張った感じはしない?」

 

「ええ、大丈夫です。綺麗に纏めて頂き、とても嬉しく思います」

 

 

 若草知恵者ちゃんの腰まで届く長い髪を上手く結い上げることに成功し、満足げに頷く女魔法使いちゃん。普段は後ろでシンプルに束ねられていたソレは猫人(フェリス)の耳のような形に纏められ、金をふんだんに用いられたアクセサリーがその周囲を煌びやかに彩っています。

 

 

「それに、祖母君がご用意された装束も良くお似合いですわ!」

 

「ええ、本当に。……やっぱり経産婦には見えませんわね」

 

「そ、そうでしょうか……」

 

 

 恥ずかしそうに身を捩る若草知恵者ちゃんをキラキラした瞳で褒めちぎる令嬢剣士さんの隣で、剣の乙女ちゃんが熱っぽい吐息を漏らすのも無理はありません。肩回りと腰の部分、それに胸元が大きく露出した純白の装束は彼女のスレンダーなボディラインを強調するようなレオタードに近いタイプ。薄布を幾重にもスカートのように巻き付けることで辛うじて隠されている脚部も、いざ演舞が始まれば太股の付け根近くまで見えてしまいそうです。髪飾りに合わせて随所にちりばめられた金の装飾が清楚さと淫靡さの両方を際立たせていますね!

 

 

 

「ふむ、我ながら会心の出来と言わざるを得ないな。……そら、見て驚くがいい我が主よ」

 

「ほわぁ~……!!」

 

「ふふ、とっても大人っぽいですよ♪」

 

 

 おお、あちらでは若草祖母さんと闇人女医さんの手によるメイクを施された吸血鬼侍ちゃんが差し出された鏡を見て驚きの声を上げていますね。黒を基調にした若草知恵者ちゃんとは色違いの衣装、普段は化粧のけの字も知らぬとばかりにすっぴんな吸血鬼侍ちゃんですが、淡く温かみを感じる色合いのチークと宝石のような瞳を強調するアイライン、血のように赤いリップによって背筋がゾクりとするほどの色っぽさが生まれています。

 

 

「うわ、エッロ……」

 

「えっちですね~」

 

「いいなぁ~」

 

 

 あまりの変わりっぷりに圃人3人娘(1人は元ですが)も開いた口が塞がらない様子。手を取り合って互いの魅力を褒め合っている主役2人を羨ましそうに眺めています。盤外(こっち)でも万知神さんを始めとして視聴神のみなさんが一斉に連続撮影(カシャカシャカシャ)してますし、奉納演舞に向けての掴みはバッチリでしょう! ……あ、控室に令嬢剣士さんが入って来ました。そろそろ演舞の開始時間ですね。一党(パーティ)以外のみんなは既に観客席で待っているみたいですし、現場で撮影している無貌の神(N子)さんもそちらへ移動をお願いしま~す!!

 

 


 

 

 秋の日は釣瓶落としとは良く言ったもの。すっかり暗くなった辺境の街の一画、篝火によって照らし出された演舞の舞台を囲むようにたくさんの人が集まっていますね。その手には紙で作られた提灯、「天灯」とも呼ばれるそれは、とても遠い処にいる大切な人に想いを届ける手紙の役割を担っているものですね。

 

 

 合図と共に一斉に放たれたそれを並んで眺めている複数の人影。移動式寝台(ベビーカー)から身を乗り出して手を伸ばす双子の姉弟に、彼らと目線を合わせて浮かび上がる輝きを見上げている牛飼若奥さん。そして……。

 

 

「綺麗だね~。盤外(あっち)から見るのも悪くなかったけど、やっぱり地上から見るのが一番だよ」

 

「そうか」

 

 

 幻想的な光景を並んで見ているもう一組の姉弟。ゴブスレさんが手に持っていた天灯に火を灯しそっと手を離せば、ふわりと浮かび上がったそれは仲間と合流するように空に舞う星々に紛れていきます……。

 

 

「……先程の話、本気なのか?」

 

「うん。神様には認めてもらったし、心残りだった甥っ子と姪っ子を見ることも出来たしね。万知神の巫女ちゃんたちの演舞に便乗して()()つもり」

 

 

 互いに視線を合わさずに交わされる問答。現世に遊びに来た死者たちを送り返す神事である奉納演舞、『お姉ちゃん』以外にも同じ目的で今日この場に集まった人たちが存在します。

 

 

「あの愉快な英霊さんたちも、ようやく転生の順番が回って来たんだって。『今日が遊び納め!』って感じでみんな全力で祭りを満喫していたよ」

 

 

 ――はい、何度もダブル吸血鬼ちゃんやみんなを助けてくれた英霊さんたちですが、とうとう彼らにも輪廻の流れに還る日がやってきたみたいです。動甲冑(リビングメイル)首無し騎士(デュラハン)、果てはハリボテの姿で協力してくれた彼らに感謝するとともに、旅立ちを祝福するという意味合いもこの奉納演舞にはあったんですね。牧場夫妻と個別に契約した二柱だけは続投ですが、他の皆さんとは本日でお別れというわけです。

 

 

「姉さんは、それで――」

 

「あ、始まるみたいだよ!」

 

 

 何かを口にしようとしたゴブスレさんを遮るように、明るい声とともに舞台を指し示す『お姉ちゃん』。小さな姉弟とそのお母さんが眼を向けた先では、今まさに奉納演舞が始まろうとしていました……。

 

 

 

 

 

 

 ――リィン、リィン、リィン……。

 

 

 始めに舞台へと姿を現したのは吸血鬼侍ちゃん。夜の闇に溶け込むような薄衣と透けるような白い肌、そして煌々と輝く黄金の瞳と血の色に染まった唇の妖艶さに観客たちは一様に言葉を失っています。

 

 複雑に刻まれる歩法(ステップ)は穢れを払う浄化の歩み。踏み込みとともに振るう剣は二股の刀身を持ち、その間に付けられた鈴から響く清浄な音が、現世と霊界(アストラル)の境界を曖昧なものへと変化させていきます……。

 

 

 ――ポロン、ポロン、ポロン……。

 

 

 その後に続く若草知恵者ちゃんの手には幾本も弦の張られた白木の弓。つま弾く音に誘われるように踊り舞う精霊たちによって霊界(アストラル)への(ゲート)が開かれ、膨大な魔力(マナ)が2人へと注がれているのが見えますね。会場の熱気によって汗ばんだ肌に張り付く薄衣は既に役割を放棄し、透けた生地の向こう側に隠れていた桃色の蕾の存在を露わにしています。

 

 

 瞳を閉じたまま舞台へと進む2人。空気と魔力(マナ)の流れを感じ取るその足取りは確固としたものであり、心配そうに見守る一党(パーティ)みんなの視線をよそにゆっくりと舞台へ登場。向き合うように相対した2人が静かに伏せていた瞳を開け、剣鈴と琴弓の音を伴奏に神楽を舞い始めました……。

 

 

 

「「() () () () いつ() () () () ここの() たり() もも() () 『よろず()』……」」

 

 

 はじまり()から運命と偶然(六面体骰子)を通じ、可能性(∞上昇クリティカル)を経て、確率(%ロール)すらも超えて万知(マンチ)へと至る祝詞。状況を利用し、前提をひっくり返し、時には勝利条件すら変えてしまう異端の思想。あらゆる手を用いて己の理想を追求する、傍から見ればその教義は狂っていると思われても仕方のないものです。ですが、そんな彼らですら決して手を出さない禁忌としていることがあります……。

 

 

「「――ふるべ(振った結果は絶対)ゆらゆらとふるべ(サマダイなど以ての外!)」」

 

 

 それは、自分の気持ち(判定の出目)を誤魔化すこと。決断の前に有利を追求すること(前提条件変換)に関して一切の躊躇いを持たない万知神さんの信徒ですが、出した答え(判定の結果)台無しにするような(コッソリ変える)事だけは行いません。万一信徒がそのような行為に及んだ場合、それは最早信徒ではなく背教者(サマダイ使い)、万知神さんは決してその者を許さないでしょう。……まぁ逆に言えば、それ以外のあらゆる手を躊躇すること無く使うってことなんですけどね!

 

 

 開き直りにも聞こえる祝詞に万知神さんも大満足、推しの2人の艶姿にテンションもうなぎのぼりといった様子です。霊体となって集まってきた英霊(白霊)さんたちの反応は……うんうんと頷いているのが半数、ドン引きしているのが半数といったところでしょうか? 好き好んで助っ人として召喚されている方たちですし、だいたい予想通りの割合ですね!

 

 

「「――♪――♪♪」」

 

 

 手に持っていた武楽器をしまい、祝詞を紡ぎながら神楽を舞う2人。舞台を踏み鳴らす足音を触媒に、降り注ぐ魔力(マナ)を贅沢に消費して霊たちが還る道を造り上げていきます。今朝ダウンしてしまった若草知恵者ちゃんの体調が心配でしたが、軽やかに、そして激しさを増すステップを披露する顔は明るく、疲労の色は見えません。これはやっぱり……。

 

 

「うふふ、あの子ったら『愛しの主さま』にい~っぱい()()()もらったみたいですね」

 

「まぁ、あんなキラキラになってるってことはそうなんでしょうけど。後でギルドに菓子折り持って謝りにいかなきゃダメよねぇ……」

 

 

 可愛い孫娘の晴れ姿、一瞬も見逃さないとばかりに観ている若草祖母さんの横で昼間ギルドの休憩室で繰り広げられていたであろう行為を想像し頭を抱える妖精弓手ちゃん。一応ギルドから出る前に≪浄化(ピュアリファイ)≫は使用したみたいですが、アレ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、魔力供給の際に()()()()()()()()()を若草知恵者ちゃんが『穢れ』と考えていない場合……まぁ、そういうことです。

 

 その道の専門家である地母神さん曰く「2人の魔力は()()と違って生臭かったりせず、どろりと濃い花の蜜みたいな香りと味わい」なんだとか。まぁそうじゃなかったらみんな簡単にゴックンしたりは……おっと、≪真実≫さんがイエローカードをチラつかせているのでこの話は此処までです!

 

 


 

 

「さて、そろそろかな」

 

 

 ――祭りの終わりは何処か切なく、さみしいものです。

 

 『お姉ちゃん』の呟きと同時、たん、と2人の足跡が揃った瞬間、舞台から天に向けて一筋の光が伸び始めました! 徐々に明るさを増すそれは星に届かんとばかりに空を駆け上がり、光の道へとその姿を変えていきます……。

 

 

 彼方へと続く階梯を昇る半透明の人影たち。家族や友人の姿を見て安心したのか、誰もが安らかな表情を浮かべています。天灯に捕まってプカプカと浮かんでいくのは幼い子どもたちの霊でしょうか? かつての仲間の肩を叩き走り出した霊の後姿に、あの冒険者がいつかの再会を願う言葉を投げかけていますね。

 

 

「みんな、またね!」

 

「ワン!!」

 

「今までありがとう。――お疲れ様」

 

「皆様の新たなる旅路に、数多の幸運が有らんことを……」

 

 

 ……どうやら英霊さんたちともそろそろお別れのようですね。ブンブンと大きく手を振る吸血鬼君主ちゃんの横で女魔法使いちゃんが深々と頭を下げ、剣の乙女ちゃんが彼らの旅立ちを祝福する祈りを捧げています。揃いのカタリナヘルム(玉葱頭)を脱ぎ、素顔を覗かせた英霊さんたちを見て人々の間からどよめきが上がっているのは、もしかして知っている顔が居たんですかね?

 

 

「――行くのか?」

 

「うん。いつまでも道が残るわけじゃないし、昇り損ねて置いてけぼりになったらそれこそ悪霊になっちゃうかも」

 

 

 スカートの裾を翻し、4人へと向き直る『お姉ちゃん』。愛おしい家族1人ひとりの手を握り、優しく声を掛けていきます……。

 

 

「いつか身長で負ける日が来ても弟は弟! お姉ちゃんとして、弟が間違ったことをしようとしてたら思いっきりひっぱたいてあげてね!!」

 

「は~い! ばいばい、おば……おねえちゃん!!」

 

 

 ……どうやら教育は行き届いているみたいですねぇ。うっかり禁句を口走りそうになっていた牧場長女ちゃんでしたが、途中で気付いて言い直してます。

 

 

「自分の気持ちはちゃんと主張しないと伝わらないよ! あと、幼馴染は大事にね!! ……じゃないと、将来ケッコン出来ないかもよ~?」

 

「う、うん。わかった……!」

 

 

 うりうりと頭を撫でられながらの言葉に目を白黒させながらもちゃんと返事をする牧場長男くん。……頑張れ、選り取り見取りかもしれないけど、尻に敷かれないようにね。

 

 

「ほんとは結婚式や出産にも立ち会ってあげたかったんだけど、ちょっと間に合わなくってねぇ。まだまだ伝えたいこと、話したいことはたくさんあるんだ~」

 

「……うん。私も、もっとお姉ちゃんと話したい、教えて欲しいって思ってるよ……っ」

 

「わぷっ。……これは良いモノね~」

 

 

 そこまで言うと言葉に詰まってしまい、無言で『お姉ちゃん』を抱き寄せる牛飼若奥さん。思い出の中の彼女よりも自分が大きくなり、かつて自分がして貰ったように彼女の頭をその胸に埋もれさせています。しばらくその感触を堪能していた『お姉ちゃん』でしたが、そっと顔を上げ義妹の目に浮かぶ涙を指で払い、明るく笑いかけました。

 

 

「でも、あんまり小姑が口を出すのも悪いしね。大丈夫、2人ならどんな困難だって乗り越えられるから! お姉ちゃんが保証するぞ!!」

 

「あはは……うん。ありがとう、お姉ちゃん」

 

 

 もう一度しっかりと抱き締め合い、ゆっくりと離れる義姉妹。そして、最後に『お姉ちゃん』が声を掛けるのは――。

 

 

「あのね? 神様から『天寿を全うしたら新しい使徒(ファミリア)にならないか』って勧誘するように言われてるんだけど……どう?」

 

 

 ――って、ナニとんでもないこと言わせてるんですか覚知神さん!? 

 

 

「……悪いが他を当たってくれ。戦友には言い辛いが、あまり神とやらに干渉されるのは好まん」

 

 

 まぁ、ゴブスレさんならそう言いますよね。お姉ちゃんが無くなった原因でもありますし、今まで覚知神さんの≪託宣(ハンドアウト)≫が齎してきた悲しみを嫌になるくらい見てきてますものね。静かに、でも確かな意志を秘めた瞳でそう答えたゴブスレさんを眩しそうに見ていた『お姉ちゃん』が、やがて満足そうに頷きました。

 

 

 

「……そっか。うん、そうだね。私も、あなたには人のまま生きて人として生を終えてもらいたいな!」

 

 

 そう言いながらゴブスレさんに跳び付き、熱烈なハグをする『お姉ちゃん』。おっきくなったね~と笑う姿は深い慈愛に満ちているように思えます。『お姉ちゃん』の背中に回るゴブスレさんの手は壊れ物に触れるかのように優しく、冷たい籠手(ガントレット)越しであっても温かな想いが伝わっていることでしょう。

 

 

「あ、そうだ。最後にこれ、あげちゃう!」

 

「……これは?」

 

 

 抱擁を解き、光の道へと一歩踏み出したところで慌てて振り返った彼女を怪訝そうに見つめるゴブスレさんの手に渡されたのは、ひとつの小さな。金属と有機物どちらにも思える銀色のソレを託した『お姉ちゃん』は悪戯が成功した子どものように笑っています。……おや? 現場にいる無貌の神(N子)さんの顔が面白いくらい百面相(物理)してますね。まるでヤバいものでも見ちゃったような……。

 

 

「それは、全ての悲劇を終わらせることが出来るかもしれないもの。いつか人々が団結し、あの緑の月にまで手を伸ばす時が来たら、その鍵が≪門≫を開きみんなを月へと導いてくれるはず。たとえあなたが辿り着けなかったとしても、その先に居る誰かが必要とするだろうから。……きっとその隣には、あの可愛らしい吸血鬼(おともだち)とその仲間が一緒だと思うよ?」

 

 

 だから大事に持っててね? と≪銀の鍵≫を懐にしまい込むゴブスレさんへと笑いかける『お姉ちゃん』。言い終わると同時にその足は地面から離れ、彼女の身体はふわりと宙に浮かび上がりました。

 

 

 ゆっくりと空を舞う『お姉ちゃん』。いつの間にかその姿は半透明になっており、人々には浮遊する彼女が認識できなくなっているようです。光の道へと進む最後尾に向かう彼女に気付いたダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)が、それぞれ一番相応しいと思う感謝を彼女に向けていますね。わちゃわちゃしているみんなに苦笑しながら手を振る彼女の背へと放たれたのは……。

 

 

 

 

 

 

「――姉さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう……さよなら」

 

「――うん、それでいいんだよ。()()()じゃなくて……さよなら!」

 

 

 弟の言葉に返事を残し、振り返らずに光の道へと進む『お姉ちゃん』。勢い良く進む彼女の足を止めたのは、進む先で待ち構えていた()()()()()でした。

 

 

 逆光になって良く見えませんが、どうやらねぎらいの言葉をかけているみたいです。肩を組んだりこめかみをグリグリしたりとなんだか気の置けない関係のようですが……。あ、その中の1人が眼下のゴブスレさんに微笑み、手を振ってますね! もしかして()()()()は……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友達を待たせ過ぎだよ、姉さん……」

 

 


 

 

「んじゃ、お祭りが無事に終わったことと、奉納演舞の成功を祝して……乾杯!!

 

 

 妖精弓手ちゃんの音頭に続き、打ち合わされるジョッキの音。既に日は変わってしまってますが、深夜のギルドホールには無事の成功を喜ぶ声が響いています。

 

 

「……にしても、まさかアンタがこんな気を利かせてくれるなんてね。最初のころからは想像出来ないわよ」

 

「そうか? ……そうだな」

 

 

 なみなみと麦酒(エール)の注がれたジョッキ片手にゴブスレさんへと絡んでいるのは女魔法使いちゃん。街の有力者との会談の後、調理長に頼んで打ち上げ用の料理とお酒の用意をしてくれていました!

 

 すっかりおねむの子どもたちは牛飼若奥さんと女騎士さん、魔女パイセンの金等級奥さん組がみんなまとめて面倒を見てくれているため、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)は珍しく全員集合。重戦士さんのところの男性陣もみんな集まり、槍ニキと一緒に祭りの感想を語り合っているみたいですね。

 

 

「しっかし、ちみっ子も随分と化けたもんだのう!」

 

「然り、普段とは違う怪しげな魅力を感じますな」

 

「えへへ……みなおしたでしょ?」

 

「はい、主さまの新たな魅力が皆様に伝わったことでしょう」

 

 お酒とチーズあるところに2人の姿あり。一党(パーティ)といっしょに奉納演舞を観ていた鉱人道士さんと蜥蜴僧侶さんが吸血鬼侍ちゃんの艶姿を褒めちぎっています。演舞の高揚感が残り頬を紅潮させている若草知恵者ちゃんが微笑む中、空いたジョッキに火酒を注がれている鉱人道士さんの鼻の下は顎が床に付いてしまいそうなほど伸びきっちゃってますねぇ。

 

 

「あれ、レモネードなの?」

 

「うん、もともと強くなかったし、赤ちゃんが出来てからずっと飲んでなかったもの。そうしたらあんまり飲みたいとも思わなくなっちゃった」

 

 

 おや、乾杯のジョッキの中身はソフトドリンクだったんですね。あたりを見渡せば一党(パーティ)のみんなは揃ってお茶か果実水、あるいは妖精弓手ちゃんとおんなじ檸檬水(レモネード)。アルコールは女魔法使いちゃんだけみたいです。吸血鬼君主ちゃんは……ブラッディ・マリーと思わせてバージン・マリー(ウォッカ抜き)ですね。ちょっぴり胡椒を添えてアクセントとはなかなかに通ですねぇ!

 

 

「な~に? 可愛い奥さんを酔わせてナニかするつもりだったの? それとも酔い潰して浮気に走るのかしら」

 

「うわきなんてしないよ? それに……」

 

 

 ニヤニヤと笑いながら吸血鬼君主ちゃんのほっぺをつつく妖精弓手ちゃん。しかしその余裕は簡単に崩れ去ってしまうのですよ……。

 

 

 

 

 

 

「ぼくは、いつだってきみのみりょくによってるから。ぼくのかわいいおひめさま?」

 

「んなっ!? し、シルマリルの女たらし!!」

 

 

 あーあ、お酒も飲んでないのに真っ赤になっちゃってます。ビックリするほど打たれ弱いんだから……。

 

 


 

 

「あ、あの!」

 

 

 テーブルの料理が殆ど姿を消し、何人か酔い潰れて寝る者が現れ始めた頃。ダブル吸血鬼ちゃんの席に近付いてくる小さな姿。袖口を握りしめ決意に満ちた表情を浮かべた少女剣士ちゃんと、悪い笑みで彼女を後ろから押している少女巫術師さんの圃人コンビですね。既に吸血鬼君主ちゃんから話を聞いていたのでしょう、吸血鬼侍ちゃんの顔に不審げな色は見えませんね。

 

 

「その、昼間お願いしていた件についてなんですが……」

 

「ん、おはなしはきいてるよ。ぼくをえらんでくれてありがとう!」

 

「わひゃあ!?」

 

 スススーと少女巫術師さんが離れるのを見て席を立ち、少女剣士ちゃんをハグする吸血鬼侍ちゃん。ほっぺたをスリスリしながらの言葉によって少女剣士ちゃんの余裕はいっぺんに吹き飛んでしまったみたいです。その光景を楽しそうに見ていた吸血鬼君主ちゃんでしたが、不意に太股に感じた柔らかな感触に硬直しちゃってますね。

 

 

「お祭りの余韻残る素敵な時間に、こんなことを聞くのは無粋かもしれませんが……」

 

 

 太股に跨るように身を寄せ、吸血鬼君主ちゃんの耳元で囁く少女巫術師さん。微かな酒精の香りとともに囁かれたのは、いつ()()のかという甘い問い掛け。お酒の勢いを借りてなのかもしれませんが、今まで見たこともないほど積極的な彼女に吸血鬼君主ちゃんもちょっと驚いているみたいです。ですがそこは百戦錬磨の2人、脳内通信を交わし、血族(かぞく)みんなにアイコンタクトを送って出した返答は……。

 

 

 

 

 

 

「「じゃあ、いまから!!」」

 

「「えぇ!?」」

 

 

 ――ですよねー!!

 

 

 

 真っ赤に茹で上がった2人をお姫様抱っこし、一党(パーティ)のみんなの前に連れて来たダブル吸血鬼ちゃん。待ち受けるみんなの顔は既に奥様戦隊と化しています。この感じからすると次は……。

 

 

「ちょっと奥様、あのエロガキ共、浮気にならないって判った途端女の子に手ぇ出そうとしてますわよ?」

「まぁ、ひょっとして私たち、飽きられてしまったんでしょうか……」

「もう頭目(リーダー)無しでは生きていけない身体にされてしまいましたのに……」

「やっぱり同じような体格の子が良いのね。……胸は私よりおっきいけど」

「涙を拭き給えよ妹姫(いもひめ)様。その葛藤は既に終わらせたはずじゃないか」

「それに、(わたくし)たちにはあの子たちがおりま……申し訳ございません! 眷属の皆様方のお気持ちを考えずに……っ」

「そうですよぅ。愛して()()()()という証はしっかりと残ってますから!」

「えぇと……師匠たち最低です!」

 

 

 

「止めんか馬鹿共。……それに本気にするんじゃない我が主よ。悪ふざけに決まっているだろうに」

 

「「ヒック……グスッ……」」

 

 

 ……うん、無貌の神(N子)さんの貌よりも見た流れですね!

 

 

 

「お、おう。まぁお前らがそう決めたんなら、俺は何も言わん。――後悔の無ェようにな」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんが泣き止むのを見計らって全員で突撃した先は圃人コンビの頭目(リーダー)である重戦士さんのところ。2人の唐突なカミングアウトに飲みかけの麦酒(エール)を噴き出しかけていましたが、事情を聞いたところで上記の台詞。……なんとなく察していたんでしょうね。

 

 

「さて、訓練生。戦闘に当たり教官の援護は必要かな?」

 

 

 卑猥なハンドサインとともに繰り出される台詞の出処は勿論訓練教官こと叢雲狩人さん。一見からかっているように見えますが、その瞳の奥には初めてを幸せなものにしてあげたいという想いが込められて……いるような気がしないでもないです。事の発端である彼女の問い掛けを受け、考える素振りを見せる2人。最初に顔を上げたのは少女剣士ちゃんです。

 

 

「はい、いいえ教官殿! 対象との戦力差は歴然。練度、技術ともに隔絶しており、私の勝算は絶無ですが……タイマンで挑ませて頂きます!!」

 

「判った。全力を尽くし給え。……ご主人様、どうか彼女を大事にしてあげて欲しい」

 

「うん、まかせて! ……『あっさり』じゃなくて『どっぷり』でいいよね?」

 

 

 俺〇かな??? 武者震いと思しき振動を発する少女巫術師さんを抱えてギルド2階の個室へと消えていく吸血鬼侍ちゃん。……おや、手を振る女魔法使いちゃんが何かを思い出したかのように手をポンと叩いてますね。一体なんでしょう?

 

 

「ああ、そういえば私がアンタの部屋に行ったのもあの2人が大部屋なのに()()()()()()たからだったっけ。懐かしいわねぇ」

 

 

 牧場に戻ったらあの2人に話して悶絶させてやろうかしら、と愉悦顔の女魔法使いちゃん。いやぁそんなこともありましたねぇ……。小さな影が階段奥に消えるのを見送った叢雲狩人さんが、まだ悩んでいる様子のもう1人の教え子へと声を掛けていますね。

 

 

「さて、君はどうする? ()()()なら選り取り見取りだよ?」

 

「そうですね。応援は無しで挑みたいと思うのですが……」

 

 

 顔を上げた少女巫術師さん、すっごい悪い顔をしています。吸血鬼君主ちゃんに抱きかかえられた体勢で、ついっと掲げられた指先。その示す先に()()のは勿論……。

 

 

 

 

 

 

「――ええ、抱き枕をひとつ、戦場に持ち込んでも宜しいでしょうか」

 

「うぇ? ……えぇぇぇぇ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 ――翌朝、2人の戦果報告を今か今かと待っていた一行の前に現れたのは……。

 

 

「お、思いつく限りの『初めて』を奪われちゃいました……」

 

「えへへ……がんばったね!」

 

 

 しっかりとアフターケアまでしてもらい、キラキラになっている少女剣士ちゃんと……。

 

 

 

「ええ。注がれる魔力に太陽の暖かさ、とっても素敵でした。……また、お願いしても?」

 

「えっと、ぼくはぜんぜんかまわないけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……色々されたけどすごすぎてなにも言えないぃ……」

 

 

 自力で歩くことが出来ない程に腰砕けの()()()を抱っこした吸血鬼君主ちゃんに寄り添うように歩く、完璧に満ち足りたもはや淫魔(サキュバス)の類にしか見えない少女巫術師さんの姿でした……。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。 

 

 




 今更になって悪魔殺し一党のソ〇ールさんと新米戦士君の新しい呼び方が被っていることに気付いたので失踪します。


 GWが明けるとまた忙しくなり、更新速度が遅くなってしまいそうです。

 ゆっくりと続きをお待ちいただければ幸いですので、よろしくお願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその15 りざると?


 鍔鳴の太刀を無事読了したので初投稿です。




 

 どもどもー! 可愛い無貌の神(N子)さん、ただいま盤外(サークル)に帰還いたしましたー!!

 

 いや~、途中で≪真実≫さんに映像を止められちゃって、どなたも満足には程遠い顔をしていらっしゃいますねぇ。

 

 そこで、みーなーさーまーのーたーめーにぃー……。

 

 こんな動画を用意しました!!

 

少女?準備中…… 少女?準備中…… 少女?準備中…… 

 

「ん……んちゅ……れる……」

「んむっ……ぷはっ……はぅぅ……」

 

 互いの太股に跨るように向き合って抱き合い、口づけを交わす2人。ちょっぴり吸血鬼侍ちゃんのほうが背が低いですが、若草知恵者ちゃんやロリ形態の眷属の子たちよりも小さな体格差、普段よりも積極的ですね!

 

「ふあっ……。わたし、そんな大きくないですよ……?」

「んー? でもほら、ぼくのてにおさまらないくらいおっきいね!」

「んっ……やぁ、そんな敏感なところばっかり……っ」

 

 キスの雨を降らせる傍らで、少女剣士ちゃんのたわわに優しく触れているのもポイント高いと思いません? 種族の関係で小さく見えますけど、超絶トランジスタグラマーですよねぇ少女剣士ちゃん。只人(ヒューム)の体格だったらワンチャン女騎士さん以上かも……お、互いの態勢が整ったところで吸血鬼侍ちゃんがゆっくりと少女剣士ちゃんをベッドに横たわらせました!!

 

「それじゃあ、さいしょの『はじめて』をもらうね?」

「ふふっ、最初のって。……うん、私のはじめて、いっぱい奪ってください」

 

 ――やがてふたつの小さな影はひとつとなり……というところまで帰りがけに編集しておきました! この続きは少々お待ちくださいね!!

 

 ……おやおや? 中途半端なところで止めるな? んもーしょうがないなぁ視聴神くんはー!

 

 それじゃあ……もう一組のほうも先っちょだけお見せしちゃいますね?

 

 

「はむ……ちゅっ、んちゅ……」

「れる……ん……ちゅる……」

 

 顔を寄せ、手を繋ぎながら互いを高め合う吸血鬼君主ちゃんと少女巫術師さん。先程の2人と異なる点を挙げるとすれば……。

 

「んぅ、やぁっ!? ……な、なんで私を間に挟んでるのよぅ……っ」

 

 蛞蝓のように絡み合う2人の舌の間に、抱き枕(妖術師さん)の吸い口が挟まれていることでしょうねぇ……。

 

 山の麓に添えられた小さな4つの手。緩く絞るように揉みしだかれたそれは既に吸血鬼君主ちゃんと魔力供給を交わした証として頂点から雫を零しており、山肌を伝う生命の源を競うように2人が舐め取っています。

 

「ぺろ……もしかして、きもちよくない?」

「わ、わかんない……刺激が強過ぎて……ひゃうっ!?」

「あらあら、抱き枕が喋るなんて不思議ですねぇ……かぷっ」

 

 うわ、山頂を吸血鬼君主ちゃんに譲った少女巫術師さんが山の中腹に思いっきり吸い付いちゃいました。ビクンと震える抱き枕を意に介さず、痛みを生じさせないギリギリの力加減で吸引。銀糸を舐め取りながら口を離せば、シミひとつ無かった柔肌にクッキリとマーキングが残っちゃってますねぇ。

 

「はぁ、はぁ……。お、おねがい、もう……っ」

 

 2人の攻勢に耐えられるわけもなく、何度も昇り詰めてしまう妖術師さん。濡れた瞳で吸血鬼君主ちゃんを見上げ、慈悲を乞うように『おねだり』をしますが……っと、この先で展開される少女巫術師さん無双のシーンはまだ編集前ですので、この先は見せられないよ!ってヤツです。≪幻想≫さんがギリギリ気絶しないで見られるくらいの修正で仕上げますので、期待して待っててくださいねー!!

 

 


 

 

 前回、圃人コンビが乙女の本懐を遂げたところから再開です。

 

 

「次は1勝してみせますよ!」

 

「ではまた、お願いしますね?」

 

 

 キラキラしている圃人コンビ――2人とも少女から大人になりましたので今後は『圃人剣士』ちゃんと『圃人巫術師』さんですね――とお別れし、代わりに女騎士さんたちに預かってもらっていた子どもたちをお迎えしつつ、ついでに腰が抜けて立てない妖術師さんを回収した一行。牧場へと帰還し一息入れたところで、ゴブスレさんから例の鍵を見せて貰っているみたいですね。

 

 テーブルの上に置かれた小さな≪銀の鍵≫。鉱物とも有機物とも判別の付かない不思議な光沢を放つ鍵を前に一行の頭脳担当が鑑定を試みていますが……。

 

 

「うーん……ダメね。さっぱり判らないわ」

 

「そうか」

 

 

 降参のポーズを取る女魔法使いちゃんに無表情――あ、ちょっと残念そうです――で頷くゴブスレさん。鍵を手に取り精神を集中していた『あの頃』モードの剣の乙女ちゃんも、申し訳無さそうに鍵を机の上に戻してしまいましたね。

 

 

「残念ながら、私にもこの鍵が何であるかを見通すことが出来ませんでした。しかし、だからこそ逆に判ったことがあります」

 

「……それは?」

 

「至高神様の加護により、我々信徒は物の真価を見通す力を授かっております。しかし、その観察眼が見通せるのは、この世界で生まれた存在に対してだけ。つまり……」

 

 

 この鍵は、四方世界の外より齎されたものであるということです、という彼女の言葉に押し黙る一行。剣の乙女ちゃんの鑑定結果を疑うような未熟者(ヌーブ)が居るわけもなく、誰もが卓上で怪しく光る鍵を気味悪げに眺めていますね。

 

 

「オルクボルグのお姉さんがくれたにしても、使い方が判らなきゃどうしようもないわよねぇ」

 

「門の鍵って言われても、その門ってのが何処にあるのかすら判っていないわけだし……」

 

「……そうだな」

 

 

 続けざまのツッコミに段々としぼんでいくゴブスレさん。普段見慣れた決断的な姿とはかけ離れたその有様を見て流石に不味いと思ったのでしょう。吸血鬼君主ちゃんが女魔法使いちゃんと妖精弓手ちゃんを2人まとめてハグし、打開の一手を提示しました。

 

 

「えっとね、じぶんたちだけでわからないことは、そのみちのせんもんかにきいてみよ?」

 

 


 

 

「――成程、それで私を呼び出したのですか」

 

「毎回思うんだけど、そのほっそい身体の何処にそんな量が……って、これ見よがしに揺らすんじゃないわよ!?」

 

「うん、美味しかった。濃い目の味付けが酒によく合うね」

 

 

 大皿に山盛りの肉団子(ミートボール)入りパスタと牛飼若奥さん自慢のシチューを3杯平らげ、上品に口を拭っているのは賢者ちゃん。妖精弓手ちゃんの疑問にたわわを揺らすことで答えつつ、若草祖母さんの淹れてくれたお茶を飲みながら満足げに頷いています。隣では銀髪侍女さんがいつものようにスキットルの(ウォトカ)をチビチビ。どうやら賢者ちゃんたちなら何か判るかもと、ダブル吸血鬼ちゃんが王都まで呼びに行ったみたいですね。

 

 

「まさか姉君が外なる神の使徒(ファミリア)になっていたとは。金等級である君が覚知神に魅入られなくて何よりだよ」

 

「美味な昼食と書類の山から抜け出す口実を用意してくれたことには感謝してるのです。さぁ、その鍵とやらを見せるのです」

 

 

 僅かながらに安堵の色を見せる銀髪侍女さんの横で、げふぅという決して乙女が出してはいけない音を相棒に卓上に置かれた鍵を手に取る賢者ちゃん、その顔色がみるみるうちに食堂でおなかいっぱい食べた後に財布が無いことに気付いたように悪くなってますねぇ。胃からこみ上げてくる酸っぱいものを無理矢理お茶で嚥下しつつ、一行へ解析の結果を話し始めました。

 

 

「この≪銀の鍵≫は、一種の転送装置のようなものなのです。……前提としての話しですが、私たちの知る≪転移≫の門は使用者の精神力を媒介に、使用者が座標を把握している場所へと転移する仕組みになっているのです」

 

「だから私たちが使用を許可された時、ぐるぐるいろんな場所を案内してもらったのよねぇ」

 

「鏡に術式の補助を任せるため、素で≪転移(ゲート)≫を唱えるより消耗が少ないのも利点なのです」

 

 

 賢者ちゃんの言葉に≪転移≫の門を起動出来る面子がうんうんと頷いていますね。使用者が座標を指定出来ない、行ったことの無い場所への転移は事故の元になるため、極力避けるよう言われているみたいです。

 

 

「ですが、この鍵の場合は違うのです。≪転移≫の門を使用する際、この鍵に刻まれているであろう座標……お姉さんの言葉を信じるのなら、『緑の月』への門が開かれるのです」

 

 

 あーあー、幾人かの顔が宇宙猫になっているのも仕方がありませんよね。……はい、ここで視聴神のみなさんにはぶっちゃけてしまいますが、あの≪銀の鍵≫を入手したことによって、女神官ちゃんをメインヒロインとしつつ原作キャラに死亡者が出た場合に突入する通称『女教皇』ルートのラストダンジョン、その他のルートでは通常到達することの無い隠しダンジョン扱いとなっている、ゴブリンの本拠地『緑の月』への遠征が可能となりました!!

 

 

 唐突過ぎる内容に言葉を失う一同。空に浮かぶ月に行けると言われてすぐに反応出来る人なんて――。

 

 

 

 

 

 

「準備にどの程度時間が掛かるか? 一度に転移出来る人数は? 装備はどの程度まで持ち込める?」

 

「まずはぼくたちがきょうこうていさつするほうがよくない? どっちかがのこってればしんでもふっかつするし」

 

「うん! あ、でもつきからかみさままでおいのりはとどくかなぁ……」

 

 

 

――いるさっ! ここに3人もなっ!!

 

 

「……どうどう、落ち着くのです。質問には順番に答えるのです」

 

 

 ガタッと立ち上がった3人に座るようジェスチャーを向け、落ち着かせようと試みる賢者ちゃん。瞳から真っ赤な光を発する3人の肩に眷属の3人が手を置き、無理矢理席に着かせてますね。

 

 

「まずは準備の時間ですが、門を起動するだけならいつもと変わらないのです。ただし、開いた先に待つのは未知の環境。ゴブリン以外の生物が準備も無しに生存出来るかは判らないのです」

 

「……そうか」

 

「転移可能な人数や装備も普段通り。つまり、一度に突入可能な人数は()()()()()()()()()()()。いくらウチの頭目(リーダー)やそこの2人が規格外であっても、単独で星ひとつを殲滅するのは無理なのです。かと言って()()()()()()()()()()()()ため何万人も送り込むのも机上の空論なのです」

 

「≪転移≫に要する時間を考えれば、やはり人数は多くても()()()()()()。しかも1人1人が頭目(リーダー)並みで無ければならないと」

 

「まるでおとぎ話に出てくる『()()()()』みたいねぇ……」

 

 

 その百の勇者、実際は万単位なんだよなぁ……。それはともかく、普段賢者ちゃんが持ち歩いている≪転移≫の鏡も1度に潜り抜けられるのは大きさ的に1人だけ。水の街の地下で発見した鏡でも精々3人といったところでしょう。()()()()()()()()()()()()()()突入速度は早まりそうですが、誰かがそういう冒険(セッション)を用意しないとまぁ見つからないでしょう。

 

 

「あぁ、片方が強行突入する自殺的偵察は止めたほうが良い。2人の距離が離れすぎてる上に、下手をすれば次元の壁に妨げられて復活出来ない可能性もあるからね」

 

「「は~い……」」

 

 

 カミカゼ偵察も銀髪侍女さんに却下されションボリする2人。うっかり復活に失敗したらそれこそキャンペーン終了のお知らせですからねぇ。やはりここはじっくり腰を据えて、四方世界の安定を恒久的なものにしてから……ん? なんですか覚知神さん、そんなニヤニヤして。この後面白いことが起こる? いや、今回はもうこれで終了の流れに決まって……。 

 

 

 

 

 

 

「――ひとつ、聞いても良いか」

 

 

 おや? ゴブスレさんの様子が……。

 

 

「大人数を一度に≪転移≫させることが出来れば、『緑の月』を攻めることは現実的になるのか?」

 

「まぁ、国内の安定や必要な物資の準備などがあるので年単位の時間は必要になるのですが……鏡に心当たりが有るのですか?」

 

「鏡そのものには無い。だが、その代わりとなりそうなものなら()()()

 

 怪訝な顔で訪ねてくる賢者ちゃんの声に、僅かに俯き考え込むゴブスレさん。愚者の妄言と取られるかもしれない、そんな逡巡を感じ取ったのか、彼の両手に小さな手が重ねられました。

 

 

「だいじょうぶ、だれもわらったりしないよ!」

 

 ――右手には太陽の如き温かさを秘めた吸血鬼君主ちゃんの手が。

 

「もしかしたら、それがみらいへの≪かぎ≫になるかもしれないよ!」

 

 ――左手には月の如き冷たさを秘めた吸血鬼君主ちゃんの手が。

 

 

「「――だからしんゆう、きみのかんがえをおしえて?」」

 

 

「……ああ、そうだな」

 

 

 温度の違う2つの手に後押しされ、グッと顔を上げるゴブスレさん。その口から放たれたのは……。

 

 

「凪いだ水面のことを『まるで()()のようだ』と言うだろう。大きな湖や、俺は見たことが無いが『海』というものの水面ならば大きさは申し分ないと思う。それに――」

 

 

 

 

 

 

「――満月の夜ならば、行く先がハッキリと水面に映っている。……駄目か?」

 

 

 

 

 

 

「……フフ、オルクボルグってばちょっと前からは想像も出来ないくらいロマンチストになったわねぇ。でも流石にそんな頓智みたいなものじゃ……」

 

 

 微笑ましいモノを見る目でゴブスレさんを小突く妖精弓手ちゃんの言葉が途切れた理由は明白、目を見開き思考が停止している賢者ちゃんと銀髪侍女さんというレアな光景が目の前に現れたからです。

 

 

「……さて、どう思う?」

 

「古来より海は此岸と彼岸を分かつ境界。その海面を鏡に見立て、向かう先は水月として此方に在り。……なんてことを思い付くのですか貴方は!?」

 

「やはり駄目か?」

 

「逆なのです! 儀式に必要な見立てとしては十分、物理的に鏡を用意する必要が無くなり、海岸線が全て門となるので突入時の制限すら無くなるのです!! ああもう、実現可能となる事がこれほど厄介とは思わなかったのです……」

 

 

 両手で頭を抱えてしまった賢者ちゃん、盤外(こちら)では万知神さんと覚知神さんがイェーイとハイタッチをしています。……あのーGM神さん、あれってアリなんですか? ≪真実≫さんは苦虫を噛み潰したような顔をしてますし、無貌の神(N子)さんなんてあの恐るべき邪神ぽんぽんぺいんに襲われてトイレから出られなくなった時とおんなじ顔になってますけど……。え、≪幻想≫さんが楽しそうだから通し? ……それなら仕方ないですね!

 

 

 コホン! えー、ゴブスレさんらしい常識破りの発想により、今後隠しダンジョンに挑めるようになってしまったわけですが……流石に現段階で乗り込むのは止めておいたほうが賢明でしょう。

 

 未だ王国の内外に混沌の勢力は残ってますし、後先考えずに冒険者や将兵を投入しても相手の規模が不明な以上戦力の逐次投入という死亡フラグになりかねません。……勇者ちゃん一行とダブル吸血鬼ちゃんだけで乗り込んでしまったらそれこそ別ゲーでやれ!って話になっちゃいますしね。

 

 それに、強烈なみなさんの推しによってパワーアップしているダブル吸血鬼ちゃんですが、四方世界の最高峰である剣の乙女ちゃんや聖人尼僧さんと比べれば一回り、勇者ちゃんと比べればそれ以上の戦力差がある状態です。流石にこれ以上の強化なんて……あの、なんで顔を背けるんですかGM神さん? 万知神さんと覚知神さん、それに現場の無貌の神(N子)さんがエロイ顔になってますし…。え、いやまさか、まだ何か隠し玉があるんですか!?

 

 

「その鍵については暫く他言無用で頼むよ。まぁ、聞いたところで信じられる話では無いけどね」

 

「はぁ……陛下には一応伝えておくのです。くれぐれも勝手に使ってはダメなのですよ?」

 

 

 ……お、どうやら≪銀の鍵≫の存在と能力は秘匿しておく事に決めたようです。2人の真剣さを滲ませた言葉に全員コクコクと頷いていますね。好奇心で≪鍵≫を起動したら目も当てられない事態になるでしょうし、ここは自重してもらいましょう。

 

 

「――あぁ、≪鍵≫の存在のせいですっかり忘れてたのです。もうひとつの用事も済ませるのです」

 

 

ダブル吸血鬼ちゃんをまとめて捕獲し、太陽と月の香りをいっぺんに吸って心の安寧を取り戻した賢者ちゃんが思い出したように呟きました。ダブル吸血鬼ちゃんを解放し、立ち上がりながら口にしたのは……。

 

 

「子どもたちの成長を調べるついでに、全員の健康診断をするのです」

 

 


 

 

「はい、大きく息を吸うのです」

 

「すぅー……」

 

 

 星風長女ちゃんの胸に手を当て、呼吸とともに身体を巡る魔力を調べる賢者ちゃん。どうやら子どもたち4人とも、ママの種族の平均よりも遥かに潜在魔力量が多いんだとか。眷属ママたちの母乳による成長促進の話を聞いた賢者ちゃんが宇宙猫顔になる一幕もありましたが、只人寮母さんが作成していたカルテを見てその効果が確かなものであると判断したみたいです。

 

 

「ふむ……森人(エルフ)の子たちは只人(ヒューム)の2歳程度まで成長しているようなのです。まだ1年も経っていないのに、随分大きくなったものです」

 

「確かに、牧場の経営者夫婦の双子に迫る勢いで成長しているようだ。……あの子たちもまだ1歳と少しでは無かったか? 既に3歳児くらいに見えるのだが」

 

 

 そう言われてみると、ゴブスレさん夫婦の双子ちゃんも成長が早いですね。2人ともしっかり会話出来てますし、森人3姉妹の面倒も積極的に見てくれてます。……おや? おずおずと手を上げているのは眷属ママたちです。訝し気な賢者ちゃんと闇人女医さんの視線を受け、もしかしたら……と前置きをしながら女魔法使いちゃんが話し始めました。

 

 

「奥さんの乳の出が悪い時に、私たちのを飲ませてあげてたの。まだ眷属に成る前だったけど、ひょっとしてあの時から既に普通の成分じゃ無かったのかも……」

 

 

 ああ、そういえば牛飼若奥さんが2人とも乳離れが早かったって言ってましたもんね。知らず知らずのうちに成長が早まり母乳卒業が前倒しになったのかもしれません。

 

 

「ふむ、面白い仮説なのです。丁度良いサンプルが居るので確かめてみるのです」

 

 

 ……確かめる? あっ(察し)。

 

 

「はい動かないでねー。痛くしたりはしないわよー」

 

「うぇっ!? ちょ、いきなりナニするんですかぁ!?」

 

 

 賢者ちゃんとアイコンタクトを交わし、油断しきっていた人物を後ろから拘束する女魔法使いちゃん。すかさず賢者ちゃんが服の裾を捲り上げ、零れ出たたわわを両手で受け止めました! 当然の凶行に抵抗を試みる妖術師さん(被験体)ですが、残念ながら吸血鬼(ヴァンパイア)の膂力に只人(ヒューム)が敵う筈もなく無く……。

 

 

 

「うぅ……吸われるならまだしも、手で搾られるなんて……ちょっと癖になっちゃいそう……

 

「矢張り推測は正しかったのです。元々2人が血液の代わりに吸うために母乳が出るよう身体を弄ったのですから、眷属に成る前の段階で既に変質しているのです」

 

 

 両手で胸を抑えながら荒い息を吐く妖術師さんの横で満足そうに頷く賢者ちゃん。妖術師さんの尊い犠牲により、ダブル吸血鬼ちゃんによる人体改造は眷属に成る前から始まっていたことが証明されましたね! その後も次々と検診を行い、とある()()を除いた全員の健康チェックは終わったみたいです。

 

 

「ふむ、子どもたちと母親に異常は無し。全員ばっちり健康なのです。問題は……」

 

 

 検診を終えた賢者ちゃんの視線の先には眷属ママたち。カルテとにらめっこしていた後に深くため息を吐きながら告げるのは……。

 

 

「なんでアンデッドなのに胸が成長してるのですか? 世の理に喧嘩を売るのは止めるのです!」

 

「「「……えっ?」」」

 

 

 ……どうやらアンデッドの法則が乱れているみたいですね。

 

 

 

「――つまり、エロガキの性癖のせいでサイズが変わるようになったってことなのね」

 

「まぁ、乱暴に言えばそういうことになるのです」

 

 

「「ごめんなさい」」

 

 

 正座で反省の姿勢を見せるダブル吸血鬼ちゃんを横目にこめかみを抑えながら女魔法使いちゃんが結論を口にしていますね。最初は吸血鬼の持つ【魔貌】の能力に因るものでは無いかと思われていたのですが、吸血鬼君主ちゃんの因子の影響か幼……若返る方向には自在に変身出来たものの、眷属化した時点の年齢以上には外見を変えることが出来ませんでした。

 

 じゃあ原因は何かとみんなで首を捻っていたところでしゅたっと手を挙げる1人の女性、こういう場面で真実を見抜くのは誰かといえば、やっぱり妖精弓手ちゃんですよね! 平坦な自分の胸の前でおっぱいを持ち上げるジェスチャーを披露しながら口にした推論は……。

 

 

「シルマリルとヘルルインが『ちゅーちゅー』しやすくするために、おっぱいがおっきくなるよう眷属のえっちな肉体(からだ)に働きかけたんじゃない?」

 

「「「……それだ!」」」

 

 

 まぁ、雪山の温泉の時に「吸うとっかかりが無い」なんて言われてましたもんね。ちゅーちゅーするときにホールドしやすく、顔をしっかりと受け止めてくれる大きさを無意識に求めた為に3人のたわわがより一層たわわになったというのが真相だったみたいです。……おや、どうも自分で口にした言葉で大ダメージを受けちゃったみたいですね。ハイライトさんの家出した瞳で金床を撫で擦りながらブツブツと呟いています。

 

 

「つまり、私も眷属に成ればおっきく……」

 

「「ダメ! ぼくたちのおひめさまはそのおおきさがいちばんすてきなの!!」」

 

「そ、そう? まぁ2人がそう言うんなら仕方ないわね!」

 

 ……本当にちょろ可愛いですね妖精弓手ちゃんは。

 

 

 

「さて、人体・・・・・・もといアンデッドの神秘を垣間見る一幕はありましたが、とりあえず3人とも身体に異常は無いのです。アンデッドに健康という概念が適用されるかは難しいのですが」

 

「よかった! これでみんなあんしん!!」

 

 

 記録ノートを閉じながらの賢者ちゃんの言葉に胸を撫で下ろした様子の吸血鬼君主ちゃん。これでおしまいと喜んでますけど……まだ検診を受けてない子がいるんじゃないですかねぇ?

 

 

「おやおやぁ? 何を勘違いしているのかな?」

 

「ふぇ?」

 

 

 吸血鬼侍ちゃんの細い肩をガシっと掴む小さな手。目で辿って行った先には、ニンマリと微笑む銀髪侍女さんの顔があります。

 

 

「貴女達は特別コースなのです。朝までじっくりと調べさせて貰うのです」

 

「そう言うことだから、済まないけど個室を借りるよ。……あぁ、そこの()()()()()も一緒に来てくれるかい? 一緒に2人の()()()()()を確かめようじゃないか」

 

「!! ……判りました、ご一緒させていただきます」

 

 

 銀髪侍女さんにお米様抱っこされ、毎度の如く2階へと連れて行かれる吸血鬼侍ちゃん。その後ろに吸血鬼君主ちゃんを小脇に抱えた賢者ちゃん、そして何処か硬い表情の剣の乙女ちゃんが続いていきます。

 

 

「はいはい、ごゆっくり~」

 

「まったく、ウチの旦那はおモテになる事で……」

 

 

 机にほっぺたを預けた姿勢でひらひらと手を振る妖精弓手ちゃんと、その隣で2階に消えていく4人を呆れた様子で眺める女魔法使いちゃん。他の女の子たちもやれやれという表情で見送っています。

 

 

頭目(リーダー)たち、まさかあの方にまで手を出しているとは……」

 

「まぁ昨夜に続いての連戦だし、ご主人様たちもそんなに頑張れないと思うよ?」

 

「では明日の朝は元気が出るものを用意いたしましょうか」

 

「じゃあ人参にしましょう! 人参は全てを解決します!!」

 

「「「やったー! にんじんだー!!」」」

 

 

「「「「だぁー!」」」」

 

 喜びの声を上げる兎人(ササカ)のおちびちゃんたちと、その真似をする子どもたちの声が響くリビング。でも先ずはおゆはんですよという若草祖母さんの声を合図にみんな夕食の準備に取り掛かっていますね。

 

 さぁ、果たしてダブル吸血鬼ちゃんはしわしわに干からびること無く明日のお日様を拝むことが出来るのでしょうか?

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございま……え? ()()()()()本番?

 

 いや、無貌の神(N子)さんがそういう映像ばっかり送ってくるもんだから最近≪真実≫さんのチェックが厳しいですし、視聴神さんたちも同じネタが続くと飽きちゃうんじゃないかなーって。

 

 ……え、今回は違う?

 

 ……ふむ、万知神さんや覚知神さんだけなら兎も角、太陽神さんまでもがそんな真剣に仰るんでしたらきっと何か理由があるんでしょう。それじゃあもう一度現場の無貌の神(N子)さんに映像を回してもらいますね!

 

 


 

 

「ふかふか……えへへ、いつもありがとう」

 

「ふふ、私の全ては貴女達2人のモノですから……」

 

「ん……あったかくていいにおい……」

 

「おやおや、こんな貧相で硬い身体でも構わないなんて、随分と守備範囲が広いものだね」

 

 

 ――お、現場の映像が届きました! ですがなんだか映像も音声もハッキリしませんね。来客用の寝室にある寝台(ベッド)に銀髪侍女さんと剣の乙女ちゃんが腰を下ろし、その膝上にダブル吸血鬼ちゃんが抱えられていますね。対面の寝台(ベッド)に腰掛ける賢者ちゃんが見つめる中でいつも通りイチャコラしているようにしか見えませんが……。

 

 

「――さて、そろそろ大丈夫かい?」

 

「うん、ばっちり! ()()()()()()()()()でこのへやにはだれもはいれないし、そとにはなにもきこえないよ!!」

 

素晴らしい(ハラショー)、ご褒美にお姉さんが撫でてあげよう」

 

 

 頭をわしゃわしゃと撫でられ「きゃー!」という喜びの悲鳴を上げる吸血鬼侍ちゃん。どうやら探知や侵入を妨害する用意が整うのを待っていたみたいですね。すっかり忘れていましたが、この家はダブル吸血鬼ちゃんが≪死王(ダンジョンマスター)≫で創り上げたものです。術者である2人が望めば覗き見や盗み聞きに対する防衛も可能でしょう。その効果が先程からの映像と音声の乱れに繋がっていたんですね。

 

 

「……こちらでも確認出来たのです。一党(パーティ)の皆は全員一階で夕食の準備をしているのです」

 

 

 4人の対面に座りながら周囲に他のものが居ないか探っていた賢者ちゃんが、自らの肩を叩きながらやれやれと言った感じで口を開きました。

 

 

「ちょっとわざとらしいくらいでしたが、あそこまで夜戦を匂わせておけば途中で乱入される心配は無いのです。矢張り日頃の行いがモノをいうのです。……まだ他の皆に話すつもりは無いのですか?」

 

「……うん。みんなにおはなしするのは、もうちょっとさきにしたいの」

 

冬至(ユール)の祭りに合わせて開催される迷宮探検競技。一般の方々が参加するそれとは異なる、()()()()()()()()()()を歓待する催し物の場で明かす予定ですの」

 

「成程。では改めて貴女達に確認しておきたいことがあるのです」

 

 

 剣の乙女ちゃんのたわわに埋もれるように背を預け、安心しきった表情で語る吸血鬼君主ちゃん。そんなダブル吸血鬼ちゃんを見定めるように観察していた賢者ちゃんの発した問いは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体いつから祈らぬ者(ノンプレイヤー)だった頃の記憶が戻っていたのですか?」

 

 

 






 ≪死の迷宮≫まわりの整合性を考えるので失踪します。


 GW中に書き溜めていたものが全て無くなってしまったので、次話は少し遅くなるかもしれません。ゆっくりとお待ちいただければ幸いです。

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。一言の感想が更新速度の向上に繋がるかもしれませんので、お時間が有りましたら頂けると嬉しいです。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその15 いんたーみっしょん


 書き溜めは無くなったけど新しく書けたので初投稿です。




 

 うわーまさかダブル吸血鬼ちゃんにはそんな秘密が隠されていただなんてー(棒)

 

 とまぁ白々しい前置きは兎も角、キャンペーン開始前から太陽神さんと万知神さん、そしてこの可愛い無貌の神(N子)さんが仕込んでおいた伏線に視聴神のみなさんもドン引き……もとい、言葉を失っているみたいですねぇ!

 

 あ、先程の真実につきましては次のセッションで明かされますので、ライブでご覧になってた視聴神さん方は本放送までネタバレ厳禁! ()()板やSNSなどへの投稿もダメですからね!!

 

 もし、この注意を受けて尚情報をリークしようとする(ひと)がいた場合……ほら、あそこにセッションに参加することを禁じられ、発言すらも許されずにただみんなが楽しそうに遊んでいるのを見ているだけの死灰神が見えますよね?

 

 

 アレがソイツの末路だ。

 

 


 

 

 後付け設定を伏線と言い張る実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 前回はこれからというタイミングで映像が途切れてしまい申し訳ありませんでした。

 

 個室で行われていた話し合いについて≪真実≫さんと≪幻想≫さん、そしてGM神さんと協議を重ねた結果、今後のキャンペーン進行に大きな影響を与える内容であったため、ネタバレ防止措置を行わせていただくことになりました。

 

 現状では太陽神さんと万知神さんがダブル吸血鬼ちゃんに≪託宣(ハンドアウト)≫を送り、次のセッションで2人の口からみんなに説明が行われる予定となっておりますので、視聴神のみなさんには彼らと同じタイミングで驚きの真相を目撃していただければ幸いです。

 

 

「あ、起きてきたわね」

 

「おはよう。シルマリルは大丈夫そうだけど・・・・・・ヘルルインはダメみたいね」

 

「おあ~……」

 

 

 さて、5人の密談の翌日、お肌ツヤツヤな銀髪侍女さんにお米様抱っこされた状態で干乾びている吸血鬼侍ちゃんを見て、夜戦の結果を確認した一行。同じくツヤツヤな賢者ちゃんから吸血鬼侍ちゃんを連れて王都に戻ることを告げられました。

 

 

「至急陛下に報告すべき案件が発生したのです。()()が深く関わっているので、ちょっと借りていくのです」

 

「なるべく原型を留めた状態で返すよう心掛けるよ」

 

 

 うーん、最早荷物扱いですね吸血鬼侍ちゃん。原型すら残らない可能性とは一体……。

 

 

「ではこちらはお弁当としてお持ちくださいませ」

 

「ありがと~。いってきま~す……」

 

 

 若草知恵者ちゃんが急ぎ包んでくれた鶏腿肉の麺麭挟み(チキンサンド)を受け取り、力無くお礼を言う吸血鬼侍ちゃん。密談の後、限界ギリギリまで絞られちゃったみたいですね……。

 

 

「いってらっしゃ~い!」

 

「陛下への報告、どうぞよろしくお願い致します」

 

 

 その一方で精気溌剌なのは吸血鬼君主ちゃん、『あの頃』形態な剣の乙女ちゃんの腰を抱き寄せながら反対の手で元気に手を振っていますね。ぺこりと頭を下げる剣の乙女ちゃんの肌艶も絶好調、た~くさん『ちゅーちゅー』させてもらって、い~っぱい『お返し』したんだろうなぁ……。

 

 

「少々慌しい朝になってしまいましたが、本日は日常業務のみで特別な予定はありませんし、朝食を済ませてゆっくりと準備を……」

 

 

 ≪転移≫の鏡に2人と荷物が消えた後、ポンと手を叩いて明るい声を響かせる若草祖母さん。残念ながら平和な日常というものは滅多に訪れないからこそ誰もが求めるものなんですよねぇ。

 

 

「……何かが慌しく近付いて来るんだけど……四つ足?」

 

「「「こわい!」」」

 

「あうー……」

 

 

 やっぱり一番最初に気付くのは妖精弓手ちゃんですね。長耳をピクピク動かしてその正体を確認しようとしてますが、イマイチ判断が付かない様子。杭を連続で地面に打ち込むような音が近付くにつれ大きくなる震動、怖がった子どもたちがママたちにしがみついちゃってます。両手をバンザイしたへそ天姿勢で寝ていた白兎四女ちゃんも驚いてベビーベッドから起き上がり、隣にいた白兎猟兵ちゃんに抱き着いてますね。

 

 

「まったく、朝っぱらから一体ナニよ……」

 

 

 やれやれといった様子で窓に近付く女魔法使いちゃん。その手にしっかりと杭打ち機(パイルハンマー)が握られているのは『今週の暴れ○○』とか『話の途中だが○○だ!』を警戒してのことでしょうか。撃鉄を起こしながら窓越しに視線を向けた女魔法使いちゃんが見たものは……。

 

 

 

 

 

 

「ぬおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 二足歩行であることを忘れたかのようにヨツンヴァインで全力疾走する鱗で覆われた巨躯。そのまま減速すること無く一党(パーティ)宅の玄関口をぶち破ってダイナミックエントリー! 暴走に気付いた女魔法使いちゃんが全員にドアから離れるよう叫び、血族(かぞく)の前に飛び出した吸血鬼君主ちゃんが翼を広げて盾にしなければ粉々に砕け散ったドアの破片が誰かに当たっていたかもしれません。

 

 秋風とともに姿を現した蜥蜴僧侶さん。牙の隙間からフシューっと白い息を吐き、荒く肩を上下させているところに吸血鬼君主ちゃんがとてとてと近付いて行きます。豪快なお邪魔しますに目を白黒させている子どもたちが見つめる中、ふわりと浮かび上がり鱗で硬い頬に自分のもちもちほっぺをスリスリ。やがて落ち着きを取り戻したのか、蜥蜴僧侶さんの瞳に理性が戻ってきました。

 

 

「――ムゥ、拙僧としたことが焦りのあまり我を忘れていたようで。面目次第も御座らぬ……」

 

「だいじょうぶ、おちついて。なにがあったの?」

 

 

 触れた肌を通じて伝わる太陽の温もり、その熱を以て蜥蜴僧侶さんに普段の冷静さを取り戻させることに成功したみたいですね。深呼吸を繰り返し心を落ち着かせた蜥蜴僧侶さん、深々と頭を下げながら口にしたのは……。

 

 

 

「先程妻が産気付きました。どうかお力添え頂きたく……!」

 

 


 

 

「あ、来た来た! 2階の一番奥の部屋だよ!!」

 

「わかった! ありがと~!!」

 

 

 再びヨツンヴァインで爆走する蜥蜴僧侶さんに先導され神官技能持ちが向かったのは療養所、入り口で待っていた新進農婦さんの声に従い女将軍さんが待つ個室へと一行が駆けて行きます。2階の廊下では同じく出産予定日が近い蜥蜴人の戦士さんと交易神の侍祭さんや元砂漠の冒険者と兎人(ササカ)の男の子ら異種族カップルが心配そうに奥の部屋のほうを見ていますね。部屋の中には荒く息を吐く女将軍さんと、その手を握る只人寮母さんの姿がありました!

 

 

「ハァ、ハァ……なんだお前たち、廊下は走るなと教わらなかったのか?」

 

「おそわったかもしれないけど、おぼえてないかな~。……ぐあいはどんなかんじ?」

 

「昨夜陣痛が始まって、さっき破水を確認した。陣痛の周期も短くなってきてるから、もう間もなくだと思う」

 

「――フム、だが万一ということも考えられる。念の為緊急帝王切開の準備はしておくぞ!」

 

 

 額に脂汗を浮かべながら軽口を叩く女将軍さん。只人寮母さんの言葉から察するに状況はそんなに悪くないみたいですね。……お、闇人女医さんの号令で動き出したみんなを確認した吸血鬼君主ちゃんが、落ち着かない様子で尻尾を振っている蜥蜴僧侶さんの手をとって奇跡を行使しました!

 

 

「≪たいようらいさん! ひかりあれ!≫……ん、これでキレイになった!」

 

 

 ≪浄化(ピュアリファイ)≫の奇跡で自分と蜥蜴僧侶さんの手を清め、ニッコリと笑う吸血鬼君主ちゃん。そのまま何倍も体格差のある彼を吸血鬼(ヴァンパイア)の膂力で引っ張り、そっと女将軍さんの手を握らせました。

 

 

「これからママになるひとにゆうきをあげるのが、パパになるひとのたいせつなやくめ!」

 

「……そうですな。拙僧としたことが、大切なことを失念していたようで」

 

 

 鋭い爪の生えた大きな手で鱗の無い手を優しく包み込み、寝台(ベッド)に横たわる女将軍さんと視線を合わせるように床に座り込む蜥蜴僧侶さん。寝台の反対側に回り込んだ吸血鬼君主ちゃんがもう片方の手を握り、こっそり≪賦活(バイタリティ)≫を唱えてますね。疲労が抜けたことに気付いた女将軍さんが「余計なお世話だ」と言いながら悪戯っ子の頭を優しく撫でています。

 

 

貴女(きじょ)の感じる苦痛、雄である拙僧には推察することすら出来ませぬ。今も只こうやって手を握るのが関の山という有様……」

 

「馬鹿モン、そんな顔をするな。こうやって手を握ってくれるだけで随分楽になっている。それに……」

 

 

 そっと蜥蜴僧侶さんの手を自分の顔に近付け、固い鱗を確かめるように頬を当てる女将軍さん。愛する人に向ける笑みは、悪戯が成功した童女のように軽やかですね……。

 

 

「出産に伴う苦痛は、男の身では耐えられぬ程だそうだ。折角だから半分くらい背負ってみるか、ん?」

 

「はっはっは、拙僧鍛錬以外の苦痛は可能な限り避けたい所存、謹んで辞退させて頂きたく……」

 

 うーんこのダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)とも一味違う馬鹿ップル。傍で聞いてる只人寮母さんも口いっぱいに砂糖を頬張ったような顔になっちゃってます。……おや? 夫婦揃って呵々と笑っていた女将軍さんの顔がなんだか引き攣ってきてますよ? もしかして……。

 

 

「あ、これは判る、間違いない。……産まれそうだ」

 

「!? 神官は全員集合! お湯とタオルの準備!!」

 

 

 俄かに慌しくなった療養所。そのドタバタは約二時間後、大きな産声が療養所いっぱいに響き渡るまで続くのでした……。

 

 


 

 

「おつかれさま~!」

 

「ああ、ありがとう。皆の協力にも感謝している」

 

 

 寝台(ベッド)から上体を起こし、丸めた毛布を背もたれ代わりにリラックスした体勢で寛ぐ女将軍さん。産後の処置も完了し、癒しの奇跡によってそのお腹はもとのゴリマッチョ……もとい、鍛えられたプロポーションを取り戻しています。また、例によって後産時に出て来た胎盤は吸血鬼君主ちゃんが美味しく頂いておりました。その場に居合わせた神官技能持ちである剣の乙女ちゃんと令嬢剣士さんもチラチラと視線を送っていたあたり、吸血鬼視点では生命力に満ちたご馳走に見えるのかもしれませんね。

 

 

「さぁ君主殿、是非抱いてやってくだされ!」

 

「いいの! ……えへへ、ありがとう!!」

 

 

 蜥蜴僧侶さんの掌に収まってしまいそうな赤ちゃんをゆっくりと受け取り、優しく抱き上げる吸血鬼君主ちゃん。豊穣の霊薬の効果で只人(ヒューム)の女の子であることは判っていましたが、その容貌にはしっかりとパパの特徴も顕れています。

 

 

 薄く生えた()()()()()()の下、おでこのあたりに見える小さな膨らみは蜥蜴人(リザードマン)が持つ皮膚に覆われた角の証。手首から先は硬質な鱗に覆われており、喉元にも一枚だけ煌めくものが。逆鱗っぽく見えますけど、あれもおそらくただの鱗でしょう。そして一番印象的なのは……。

 

 

「まるで宝石のよう……」

 

「ええ、とっても綺麗ですわ!」

 

 

 剣の乙女ちゃんと令嬢剣士さんが溜息まじりに見つめるのは、蒼玉(サファイア)の如き輝きを放つ大きな()()()。女将軍さんの瞳も同じ色ですが、より金属的な光を帯び自ら輝いているようにも見えますね。きめ細かなと合わさって将来美人さんになるのは間違いなさそうです!

 

 

「無事に産まれて良かったなァ旦那!」

 

「なに、次はそちらの番というもの。此処なら万全の体制で出産を迎えられましょうや」

 

「へへっ、待ち遠しいもんだ! ……にしても、なんつったかなぁ?」

 

 

 お、もう一組の美女と蜥蜴さんカップルがやって来ました! 大きく膨らんだおなかを愛おしそうに撫でる交易神の侍祭の隣で蜥蜴人の戦士さんが赤ちゃん――『半竜娘ちゃん』だと別の実況神さんが推している子と被ってしまうので、仮称『竜眼少女ちゃん』にしておきましょうか!――を覗き込んで首をかしげていますね。

 

 

「どうしたの?」

 

「いや、その赤ん坊を見た時何かを思い出しそうになったんだが……。額に印を刻まれた竜戦士じゃなくて、弓ひとつで数多の魔神を滅ぼした英雄と結ばれた竜の姫でも無くて……」

 

 

 ああ、竜と人の関わりを謳う伝説って四方世界にもけっこうあるんですね。グリグリと拳をこめかみにあてていた蜥蜴人の戦士さんでしたが、やがてポンと手を叩き晴れやかな顔になりました。

 

 

 

「思い出した! たしか王都の闘技場(デュエルスペース)で聞いた話だったか。凄腕の決闘者(デュエリスト)である只人(ヒューム)の神官と、その相棒の()()()()()()()()決闘者の王(デュエルマスター)と戦う冒険譚。その竜が人間形態になった時の姿っていう錦絵(ブロマイド)がちょうどこの子がでっかくなったような感じだったぜ!!」

 

 

 デュエリスト……ブルーアイズ……社長の嫁……あっ(察し)。

 

 

「はっはっは……可愛い娘をそんなどこの馬の骨とも判らんヤツに渡す気は無いぞ?」

 

「ううむ、いささか早すぎる話ではありませんかな???」

 

 

 (〇)馬(コ〇ポレーション)の(屋台)骨……ですかねぇ。額に青筋を浮かべる女将軍さんを必死に宥める蜥蜴僧侶さん。只人(ヒューム)と同じ成長速度なのかどうかは今後しっかりと記録していく必要がありそうですね。

 

 

 

「こらこら、あんまり騒がないで! 入所しているのはあなたたちだけじゃないんだよ?」

 

「えう……ごめんなさい」

 

「まぁまぁお嬢さん(フロイライン)、今日くらいは良いではありませんか。……御息女の無事な誕生、おめでとうございます」

 

 おっと、騒ぎ過ぎたために只人寮母さんに怒られちゃいました。腰に手を当てて「私、怒ってます」ポーズの寮母さんの後ろには苦笑を浮かべる軍服姿の男性が立っています。銅のような硬質な髪に鍛え上げられた長身の彼は金髪の陛下の下に集いし綺羅星の如き将星の1人、サラマンドルと名付けられた火竜を駆る騎乗兵にして、長銃の名手でもある竜騎将軍です!

 

 

「ああ、ありがとう。卿も腕の調子は良さそうだな」

 

「ええ、問題ありません。……まさか失った腕を取り戻し、再び銃を手に空を駆けられるようになるとは想像も出来ませんでした」

 

 

 そう微笑みながら袖に包まれた左腕を擦る竜騎将軍さん。混沌の勢力の差し向けた暗殺者によって左腕を失い、前線から下がることを余儀なくされていた彼ですが、闇人女医さんが構築した再生医療装置の被験者の話を聞いて真っ先に志願し、被験体第一号として粘体(スライム)の中で治療を受けていたんですね。

 

 毒短刀を受け肩口から先を切断せざるを得なかった為、再び手綱を握ることは出来ないと諦めかけていたところに陛下から齎された福音。粘体の中で少しずつ再生していく腕の違和感やガラス越しに記録を取られるストレスにも耐え、つい先日スライム風呂から出ることが出来ました!

 

 未だ掛かるコストの問題やメンテナンスに高度な知識が要求されるため量産は難しい状態ですが、奇跡による癒し抜きで四肢の再生が可能になれば戦争で傷を負った兵たちの治療に大きな進歩が見られるはずです。竜騎将軍さんと闇人女医さんのレポートが有意であると判断されれば、王国からの支援が受けられるようになるかもしれませんね!

 

 

 

 ……と、この辺りで察しの良い視聴神のみなさんはお気付きかもしれません。こういうイベントの時に必ずいる筈のあの子、彼女の姿が見えませんよね? そう、女神官ちゃんです。

 

 実は現在、女神官ちゃんは牧場に……というか、王国に居ません。塚人覇王(ワイトキング)の一件が片付いた後、金髪の陛下からの依頼で王妹殿下と一緒に砂漠の国へと出向いているのです。

 

 

 宰相一派を粛清し王国との併合に向けて内政に励んでいた砂漠の姫君でしたが、臣下たちの想像を超えて金髪の陛下にホの字だったらしく、なんと先日おめでたが発覚してしまいました。世継ぎを産むなら王国でという話になり、半森人局長さんらとともに王都を訪問、この時ちょうど同行していた彼女に結婚について相談していたみたいですね。

 

 その後、姫君の名代として砂漠の国に向かうことになった王妹殿下の補佐として、陛下が指名したのが女神官ちゃんでした。……王妹殿下の家出イベントが潰れていたために、実は2人が顔を合わせたのがこのタイミングが初だったという事実に驚きを隠せませんでしたね……。

 

 

 身体の一部以外が瓜二つな2人。最初はお互い戸惑いが見られたようですが、あっという間に意気投合。護衛に銀毛犬娘ちゃんと巡回力士さんたちを引き連れて世直し興行に取り組んでいるみたいです。巡回力士さんたちの荒々しくも神々しいぶつかり合いと、それを見事に引き立てる女神官ちゃんの実況は荒廃した砂漠の民たちの心とついでに土地を大いに潤し、今では実質的な砂漠の国の宗教のまとめ役みたいな扱いなんだとか。やっぱり人を惹き付ける魅力みたいなものがあるんですかねぇ?

 

 

 

「無事に産まれたか」

 

「わわ、かーわいいー!!」

 

「おお小鬼殺し殿に奥方も!」

 

 

 ……お、牧場夫婦も来たみたいですね! 吸血鬼君主ちゃんから竜眼少女ちゃんを受け取り、目を細める牛飼若奥さん。竜革鎧姿のゴブスレさんも興味深そうに彼女を見ていますね。

 

 

「ふむ、父親似だな」

 

「いやいや、鱗の部分しか見てないでしょ? 顔の輪郭とか、目元とかはおかあさんソックリだよ! ……じゃなくて、此処に来た元の理由忘れたの?」

 

「む……」

 

 

 牛飼若奥さんに指摘され口をつぐむゴブスレさん。……もしかしなくても戦友である蜥蜴僧侶さん夫婦の赤ちゃん誕生にテンション上がってたんでしょうか? 周囲からの生暖かい視線を振り払うように咳払いをすると、おもむろに吸血鬼君主ちゃんを抱え上げました。

 

 

「ふぇ?」

 

「お前を尋ねて客が来ている。家で待っているから早く行ってやれ、戦友」

 

「ん、わかった! ありがとう、しんゆう!!」

 

 

 コツンと拳を合わせた後、蜥蜴僧侶さんの大きな拳とも同じ挨拶を行いゴブスレさんの腕の中から抜け出す吸血鬼君主ちゃん。ぺこりと女将軍さんに頭を下げ、尋ね人が待っている自宅へと駆け出していきました。

 

 


 

 

「あ、帰ってきた! オルクボルグはちゃんと伝えてくれたみたいね」

 

「ただいま~!」

 

 

 一党(パーティ)宅まで帰ってきた吸血鬼君主ちゃんを迎えてくれたのは妖精弓手ちゃんですね。家の扉に背を預けた姿勢を崩し、胸元に飛び込んで来た吸血鬼君主ちゃんを両手で抱き止めました。気持ち良さそうに胸元に顔を摺り寄せる姿にほっこりしつつ、家の中へと入っていきます。

 

 

「今はおっぱい眼鏡たちが応対してるわ。……ふふ、シルマリルも驚くわよ~?」

 

 

 リビングへと続く廊下を歩きながら意味有り気に微笑む妖精弓手ちゃん。吸血鬼君主ちゃんはお客さんに心当たりが無いのか首をかしげてますね……と、そんな話をしているうちにもうリビングは目の前です。中からは談笑する複数の男女の声が聞こえてきてますが……お! その中に聞き覚えのある声があった吸血鬼君主ちゃんが妖精弓手ちゃんの腕の中から飛び出して行きました!

 

 

 

 

 

 

「……ム?」

 

「お?」

 

 

 突然大きな音を立てた開いたドアに驚き、リビングの入り口へ振り返る訪問者たち。首から下げられた認識票を見れば、彼らが冒険者であることは一目瞭然です。吸血鬼(ヴァンパイア)の鋭い聴覚で吸血鬼君主ちゃんたちの接近に気付いていた女魔法使いちゃんが机の対面から呆れた声を出しています。

 

 

「こーら、廊下は走っちゃダメでしょ。それもお客さんの前で、みっともない」

 

「えう……ごめんなさい」

 

「うわ、ちっちゃ。ホントにこの子がオタクらのご主人様なワケ?」

 

 

 軽く窘められてションボリな吸血鬼君主ちゃん。その様子を見ていた冒険者の1人が信じられないものを見たような声を出していますね。冒険者は合わせて4人。男女2人ずつの構成で、全員が銀等級の認識票を下げています。先程発言した冒険者は軽装の鎧姿で、腰に2本の刺突短剣(スティレット)を下げた何処かネコ科の猛獣を思わせる只人(ヒューム)の女性です。

 

 

「人を見かけで判断するのは良く無いお?」

 

「彼女からは強力な魔力と信仰を感じます。……貴女は凄まじい再生能力を持つと聞いてます、後で見せて頂いても?」

 

 

 軽戦士を諫めているのは小太りな男性、傍らに強い魔力を感じる杖を立てかけ、腰に呪文構成要素を入れたポーチを付けているところから考えて術師であることは間違いないでしょう。赤く染め抜いた軍服姿の女性は知的好奇心に満ちた瞳で吸血鬼君主ちゃんを見つめています。……先の軽戦士さんも立派なお山の持ち主でしたが、彼女はその上を行く大きさです。女魔法使いちゃん以上、もしかしたら剣の乙女ちゃんに匹敵する戦闘力を秘めているかもしれません。

 

 

 はい、視聴神のみなさんはもうお判りですね! 彼らはあの『悪魔殺し』の一党、魔神や来訪者などを狩る凄腕の冒険者パーティです! ということは勿論最後の1人は……。

 

 

「ハッハッハ! 子どもは太陽のように元気なのが一番!! ……久しぶりだな、貴公」

 

「うん、ひさしぶり! とってもあいたかった!!」

 

 

 太陽を描いた金属鎧に特徴的なバケツ兜(グレートヘルム)。首から下げた聖印は吸血鬼君主ちゃんと同じ、太陽神さんを信仰する証。みんな大好き聖騎士さん……だと、元新米戦士君と被ってしまうので、ここは原作をリスペクトして『太陽戦士』さんとお呼びしましょうか!

 

 

 暑苦しい熱い視線を交わし、スッとその場にしゃがみ込む2人を見てその場に居た他の大人たちは全てを察したことでしょう。同じ部屋の中で白兎猟兵ちゃんに遊んでもらっていた子どもたちがキラキラした目で見つめる中、もはや恒例となったポーズを決め……。

 

 

 

「「太陽万歳(たいようばんざい)!」」

\ Y  /

 

 


 

 

「……で、満足した?」

 

「むふ~!」

 

 

 久々に万歳出来てご満悦な吸血鬼君主ちゃん。女魔法使いちゃんのたわわに身体を預ける姿勢で悪魔殺し一党の対面に座っています。彼らが訪ねてきた目的は吸血鬼君主ちゃんらしく、まだ本題には入ってなかったみたいですね。

 

 

「――さて、では此度貴公を尋ねてきた理由を話すとしよう。俺たちは今、とある魔神を追っているのだ」

 

 

 そう来訪の目的を切り出す太陽戦士さん。先程までの軽い雰囲気は無くなり、重苦しい空気がリビングに満ち始めます。

 

 

「彼奴はこの四方世界にあらゆる病を振りまく存在。単なる風邪からあの黒死病、果ては精神を侵す心の病まで。地母神のと協力してその足取りを追っていたのだが、とうとう居場所が判明したのだ」

 

 

 ふむ、なかなかに恐ろしい魔神みたいですね。病気を司る存在となると、真っ先に思いつくのは黙示録の四騎士(フォーホースメン)青レンジャイ(ペイルライダー)ですが、≪死≫さんプロデュースのあの戦隊は5人目がなかなか決まらず空中分解したハズですし……。

 

 

「彼の者を滅ぼすには、あらゆる不浄を祓い清める太陽神への信仰が必要なのだ。貴公、手を貸しては貰えないだろうか?」

 

「えっと、ぼくはおてつだいしてあげたいんだけど……」

 

 

 太陽戦士さんの真摯な眼差しを受け、視線を泳がせる吸血鬼君主ちゃん。万聖節が終わったとはいえ、またすぐに冬至(ユール)のお祭りと迷宮探検競技が待っています。……そんな葛藤を察したのか、女魔法使いちゃんが膝上で俯いている吸血鬼君主ちゃんのほっぺを両側から引っ張り始めました!

 

 

「おあ~……」

 

「そんなに悩む必要なんか無いでしょうに。こっちは私たちに任せて、アンタはアンタのやりたいこと、アンタにしか出来ないことをやりなさい。しばらくしたらあの子も帰ってくるでしょうし、それなら何とかなるでしょ」

 

「!! ……うん、わかった!」

 

 

 女魔法使いちゃんの言葉に後押しされ、どうやら決心がついたみたいですね。周りのママたちも同じ気持ちなようで、吸血鬼君主ちゃんの視線に頷きを返しています。吸血鬼君主ちゃんの参戦を取り付け、悪魔殺し一党の表情にも安堵が見て取れます。そんなにヤバい相手なんですか……。

 

 

「そういえば、今回潰しに行く魔神ってなんて名前なの?」

 

 

 お、丁度良く妖精弓手ちゃんが聞いてくれてますね! ひとつ咳払いをした太陽戦士さんの口から隠し切れない敵意と僅かな畏れを孕んだ声で告げられた名前は……。

 

 

「ウム。肉体を蝕むだけに飽き足らず、人の心に入り込んでその思考と感情を操り、瞬く間に罹患者を増やしていく恐るべき魔神……」

 

 

 

 

 

 

「その名を、疫病撒き散らす拡大魔(インフルエンザー)というのだ」

 

 

 

 ……ちょっと? GM神さん???

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 ダイカタナとの設定の擦り合わせに難儀しているので失踪します。


 UA160000&お気に入り1111に到達致しました。たくさんの方に目を通していただき有難い限りです。

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。また、古い話の誤字報告をいただき申し訳なさとともに、新しく読んでいただけてるんだなぁと感じ非常に嬉しく思っております。

 評価や感想が更新の励みとなりますので、宜しければお願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその15.5-1


 変に暑かったり寒かったりなので初投稿です。




 

 さぁさぁ鍛冶神さん、大変お待たせいたしました! 推しの子である彼女の登場回ですよ!!

 

 "不死狩りの剣狼"、"無限に成長し続ける可能性の獣"、秩序・混沌の区別無く全てを飲み込む"始原の大渦()"。彼女が一体どんな成長を魅せてくれるのか、今から楽しみですねぇ!

 

 じゃあそんな彼女がどうやってみんなと出会うのか、登場シーンをダイスで決定しましょうか! 鍛冶神さん、ダイスの準備は宜しいでしょうか? では……運命のダイスロール!!

 

 

 ……うん、まぁ、そんなこともありますよね。なかなかにハードな初顔合わせになりそうですが、ファンブってゴブリンの孕み袋になっていたり、最初から死体でご対面なんかに比べれば大分マシだって、可愛い無貌の神(N子)さんはフォローしてみたり?

 

 


 

 

 弱った心の中で悪意は容易く増殖していく実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 

 前回、太陽戦士さんの所属する悪魔殺しの一党(パーティ)に助太刀を頼まれた吸血鬼君主ちゃん。血族(かぞく)みんなの承認を得て同行を決めたところまでお話ししていましたね。

 

 あの後ダブル吸血鬼ちゃん宅に一泊してから討伐に向かうことになったため、現在牧場のあちこちで冒険者たちが交流を深めているみたいです。まずは……一番大きな音が聞こえてくる場所から見ていきましょう!

 

 

 

「――ハァッ!!」

 

「くひっ! いいねぇお嬢ちゃん、その思い切りの良さは評価高いよ~!!」

 

 

 金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く広場では、令嬢剣士さんと女剣士さんの手合わせが行われていますね。令嬢剣士さんの斬撃を後方宙返りで躱し、ネコ科の肉食獣のような姿勢で着地した女剣士さんが楽しそうに歯を剥く笑みを見せています。発条(バネ)のようにしなやかな身体を駆使して得意な急所に一撃を叩き込む戦法(スッといってドス)で攻め立てる女剣士さんに対し、逆手に握った軽銀の双剣で待ち受ける令嬢剣士さん。珍しい二刀遣い同士の模擬戦は得難い経験となるでしょう!

 

 

 

「――成程、これがあれば治療の際に患者が暴れることも少なくなります」

 

「ウム。しかし効果に比して副作用も大きい。薬物依存の危険性を考えれば一般に流通させることは出来んよ」

 

「確かな知識と技術、そして倫理観を持った資格者のみの使用に限定すべきでしょう」

 

 

 テラスに設置された休憩所では闇人女医さんと治療師さんがテーブルの上に乗せられた薬瓶を挟んでお話し合いの真っ最中。どうやら闇人繁殖者(ブリーダー)の資料から作成した鎮痛剤(モルヒネ)の使用方法について意見を交わしているようです。戦場での治療時に、あるいは致命傷を負った将兵の苦しみを和らげるために有用でしょうが、同時に横流しや依存症に陥る危険性も孕んでいます。外科的治療法が広く認知されるまで世間に出すのは控えたほうが良さそうですね……。

 

 

 

「そうか、貴公も家庭を持ったのだな! 貴公とその家族、そして仲間たちの歩む道のりに、太陽の祝福あれ!!」

 

「たいようばんざい!」

 

「「「「「「ばんざ~い!!」」」」」」

 

「……太陽万歳」

 

 

「ばんざ~い! あはは、みんな真似しちゃって……」

 

 

 おお!? 牧草の刈り取りが終わった丘の上でゴブスレさんがしていますよ! 太陽神さんの信徒である2人の掛け声に合わせて子どもたちが一斉に太陽賛美のポーズ、みんなのキラキラした視線に負けたゴブスレさんも後追いでポーズを決めています!! 魅惑のたわわをたゆんと揺らしながら同じようにジェスチャーをしていた牛飼若奥さんが、無表情の裏で必死に羞恥心に耐えているゴブスレさんを優しい瞳で見つめていますね。……幸せな家庭を築いてゴブスレさんも随分と丸くなったものです。物語(キャンペーン)序盤の彼だったら多分無視してたんじゃないかなぁ。

 

 

 

 さて、最後は汎用主人公やる夫力術師さんですが……あ、いましたいました。隻眼鍛冶師さんの縄張りである鍛冶場に女魔法使いちゃんやUSAGIさんたちと一緒に集まってますね。垂れ耳兎さんが上着のポケットから取り出したものを隻眼鍛冶師さんが受け取り、繊細な手付きで分解しているのをみんな真剣な表情で眺めています。

 

 

「……こいつぁ(おでれ)ぇた。この小っちぇえ金属製の筒に一発分の火の秘薬(ブラックパウダー)弾丸(ブリット)、それに着火機構が組み込まれてンのか……!」

 

「ウン、それでその銃弾がこの弾倉(カートリッジ)に装填されていて……」

 

「へぇ、発射の反動を利用して次弾を装填する仕組みになってるのね。私の相棒にも組み込めないかしら」

 

「魔法使いの定義が壊れる……」

 

 

 ……はい、隻眼鍛冶師さんを牧場に招く餌のひとつであり、USAGIさんたちが熱望していた銃弾の補給計画、その第一歩に踏み出したみたいです。

 

 

 氷の魔女との一戦で自動小銃(M16)の弾を討ち尽くし、副兵装(サブアーム)短筒(ガバメント)を温存するために石弓などの現地武器でやりくりしていたUSAGIさんたちでしたが、子どもたちの結婚や孫の誕生を機にオーパーツである持ち込み武器の再使用を考え始めたみたいです。といっても四方世界に流通させるのでは無く、令嬢剣士さんの双剣のように代々伝わる伝説の武器的な扱いにして子どもたちに受け継がせるんだとか。非力な種族である兎人(ササカ)の護身用にはもってこいですからね。

 

 使用する弾丸については当面は賢者ちゃんにお願いして三千世界から調達するみたいですが、安定した供給には現地生産が一番。精錬技術等の問題もあるためそんな簡単にはいかないと思いますけど、現物を参考に隻眼鍛冶師さんには頑張ってもらいたいですね。……あ、ちゃんと技術を外に漏らさないよう彼とは契約を交わしてますし、試射は暴発してもなんてことないダブル吸血鬼ちゃんが担当するので安心ですよ!

 

 


 

 

 さて、そんな感じで迎えた翌日。≪疫病撒き散らす拡大魔(インフルエンザー)≫が潜伏している遺跡跡へ向け歩を進める5人と()()の姿が映っていますね。当初は吸血鬼君主ちゃん1人が同行する予定でしたが、早朝に出発する一行を牧場の門で白い毛むくじゃらが待ち構えていました。キリっと眉を立て尻尾をブンブンと振る姿から彼女?が行きたがっていることを察した太陽戦士さんの口添えもあり、狼さんも一緒に魔神退治へ向かうことになったみたいです。

 

 

「いやーキツかった! 急所をがっちり護りながら相討ち上等でカウンター狙ってくるんだもん。オマケに最後のほうはあたしの速度に追い付いて来てたしねぇ」

 

「ステップとたいじゅつのくみあわせのフェイントとガードのすきまをピンポイントにせめてくるスティレットはこわかったって、あのこもいってたよ!」

 

 

 狼さんの背中に跨った吸血鬼君主ちゃんと女剣士さんが話しているのは昨日の模擬戦についてですね。半森人夫人さん直伝の華麗な双剣術とは異なる、肉食獣が獲物を仕留める動きにも似た女剣士さんの刺突による急所狙いを主軸とした剣は、再生能力持ちの吸血鬼(ヴァンパイア)にとっても脅威みたいです。……え? アンデッドに急所攻撃は無効じゃないのかって? 心臓などの重要臓器狙いは意味を為しませんけど、眼球や関節狙いは普通に有効なんですよねぇ。再生までに一瞬の隙が生まれてしまうため、タツジン相手ではそれが命取りになるとかならないとか。おおこわいこわい。

 

 

闇人(ダークエルフ)たちが持つ知識と技術は、我々地上に住まう者よりもずっと先を行くもの……とても有意義な交流でした」

 

 

 パンパンに膨れ上がった鞄の位置を調整しながら呟く治療師さんの顔にも僅かに笑みが見えますね。同じ奇跡に頼らぬ医療を実践する者同士です、仲良くなるのは必然でしょう。闇人女医さんから提供された様々な水薬(ポーション)、最初は全部吸血鬼君主ちゃんがインベントリーにしまっておく予定だったんですが、「手の届く場所に無ければいざという時迅速に治療が行えません」という彼女の意思を尊重し、持てるだけ持った結果が現在のかばんちゃんの姿ですね。

 

 

 ……なお、昨夜剣の乙女ちゃんも交えた3人で『ゴブリン世界の病原菌説』というトンデモ仮説で大いに盛り上がっていたのは内緒です。他の種族にとっては寄生生物みたいなものですし、場合によっては≪浄化(ピュアリファイ)≫による滅却もOKなので実はあんまり間違ってもいなかったり……?

 

 

「おーおー、まったく女性陣はおっかないなぁ」

 

「ハッハッハ! そういう貴公も魔術師殿と随分話し込んでいたように見えたのだが?」

 

「まぁ、あの()との≪力矢(マジックアロー)≫談義は楽しかったかも。流石は学院出の秀才」

 

 

 ああ、そういえば2人とも≪力矢(マジックアロー)≫が得意技でしたっけ。女三人寄れば姦しいとは良く言ったもの、物騒な話題で盛り上がっている女性陣を溜息まじりに眺める力術師さんの肩を太陽戦士さんが叩いています。彼の言葉に呪文構成要素ポーチを弄んでいた力術師さんがニシシと笑い、女魔法使いちゃんからの()()を少年のような瞳で眺めていますね。

 

 

「ね~え~? 目的の遺跡まではあとどれくらいだったっけ~?」

 

「話では向こうに見える山の裏側辺りの筈。今日は山の中腹にある集落まで行く予定……ム?」

 

 

 おや? 女剣士さんの問いに答えていた太陽戦士さんが、吸血鬼君主ちゃんが歩みを止め何かを探っていることに気付いたみたいです。行く先に待つ森を三白眼で睨む吸血鬼君主ちゃんが狼さんから飛び降り、背中から翼を展開しました!

 

 

「うわっ!? ちょっと危ないって……女の子の悲鳴? それに……ッ!」

 

 

 翼の先端が鼻先を掠めたことに文句を言おうとした女剣士さんの耳にもそれは届いたみたいです。必死に抵抗するまだ幼い少女と思しき声と、耳障りの悪い醜悪な笑い声。その声の主は――。

 

 

「だれかがゴブリンにおそわれてる!!」

 

 


 

 

「「「「「GOBGOBGOB!!」」」」」

 

「嫌ッ……離して……」

 

 

 ゴブリンに組み伏せられた少女の声が虚しく響く薄暗い森。周囲にはゴブリンの死体がいくつかと、それらを生み出し根元のあたりで折れた剣が一振り。殆ど柄だけになった唯一の武器へ必死に手を伸ばす少女の腕を1匹のゴブリンが踏みつけ、残りのゴブリンたちが獣欲に満ちた瞳で少女を見下しています。

 

 少女を襲っているゴブリンの姿は一様に瘦せ細り、枯れ木のような手足と不気味に膨らんだ腹が餓鬼を連想させるほど。碌に食べていないにも関わらず、食欲よりも肉欲が優先されているあたりゴブリンの歪んだ生態が見て取れますね。

 

「ヒッ!? やだ……」

 

「GOBB……!」

 

 

 腰に巻いた襤褸布を内側から押し上げる逸物の存在に気付いた少女が悲鳴を上げるのを見て、ニヤニヤと悍ましい笑みを浮かべる群れのリーダーと思しきゴブリン。少女の纏う服を破り、穢れを知らぬ少女の聖域に己の欲望を突き込もうとしたところで……。

 

 

「そんなそまつな()()をじまんげにみせるな」

 

「GOB?」

 

 ――背後から突き込まれたヒヒイロカネ製の刀身が脳髄をかき回し、眉間から切先が飛び出るのを不思議そうに眺めながら、そのゴブリンは少女を孕み袋にする妄想を抱いたまま死体へとその姿を変えました。

 

 

「あ……え……?」

 

「ん、もうだいじょうぶ。ちょっとだけがまんしてね?」

 

 

 少女に血が飛び散らぬよう、剣を振ってゴブリンを遠くに投げ捨てる吸血鬼君主ちゃんを不思議そうに見上げる少女。あまりの急展開に意識が追い付いていないみたいです。そんな彼女を翼で包み込むように抱え上げ、吸血鬼君主ちゃんが安心させるように微笑みかけています。

 

 

「「「「GOBGOBGOB!?!?!?」」」」

 

 

 横から獲物を搔っ攫われ怒りの声を上げるゴブリンたち。背後に転がっている元リーダーのことなど頭の中から消え去っているのでしょうね。自分たちと変わらぬ背丈の吸血鬼君主ちゃんも纏めて慰み者にせんと2人を取り囲むように動いていますが、目の前の獲物にばかり気を取られているのは致命的な間違いなわけで。

 

 

「ガウッ!!」

 

「お、み~つけたっ! そんじゃ、スッといってぇ~……」

 

「「「GOGOB……!?」」」

 

 ゴブリンたちの背後に迫る二条の閃光。突然の咆哮に驚き振り向いた個体の喉元に喰らい付き、躊躇なく喉笛を噛み千切る狼さんの隣では、同じように女剣士さんが左右の双剣で2匹のゴブリンの喉元に風穴を空けています。

 

 自らの血で溺れ地面をのたうち回る3匹。生命の危機に瀕し原初の生存本能が刺激されたのでしょう、襤褸布の前面を股間から溢れさせた汚濁でぐっしょりと濡らし、露出の多い女剣士さんに獣欲に満ちた瞳を向けているゴブリンへと少女を抱えた吸血鬼君主ちゃんが近付き……。

 

 

「どくナイフをなげてきたりするかもしれないから、ちゃんとトドメをささないとね!」

 

 

 垂直に近い角度まで振り上げられた踵が次々とギロチンの刃の如くゴブリンの首元に落とされ、3匹の頸椎を粉砕。吸血鬼(ヴァンパイア)の膂力はその程度で勢いを殺すことは無く、地面を陥没させながら彼らの頭と胴体を永遠にオープンゲットさせました。

 

 

「GOBGOBGOB……!?」

 

 

 ……お、群れの仲間が鏖殺され、生存本能が性欲に勝ったのでしょうか? 最後の1匹が脱兎のごとく逃げ出して行きました! 彼が逃げた先は幸か不幸か吸血鬼君主ちゃんたちが来た方向。当然そこには彼女が来ているわけでして。

 

 

「おや、仕留めそこなったようですね」

 

「GOGOB!!」

 

 

 怜悧な美貌と分厚い軍服の上からでも判る豊満な肉体の持ち主である治療師さんの姿に一瞬前までの恐怖を忘れ、獣のように飛びかかるゴブリン。重装と体重の関係か太陽戦士さんと力術師さんの姿が見えないのも彼の蛮勇を後押しする要因になったのでしょう。眼前の雌を押し倒し孕み袋にするか、あるいは人質としてこの場を切り抜けようと考えているのか。希望の未来に向かって伸ばされた彼の右手は……。

 

 

 

「――無礼(なめ)られたものです」

 

 

 トン、といとも容易く彼女の左手で受け流(パリィ)され……。

 

 

「消毒ッ!」

 

 

 地を這うような軌道で繰り出された右のスマッシュがガラ空きのボディに炸裂! 血反吐を撒き散らしながら天高く打ち上げられ、重力に引かれ落下してきた醜悪な顔面に……。

 

 

「殺菌ッ!!」

 

 

 渾身の左ストレートが着弾!! 砲弾が炸裂したような音を響かせた一撃によってゴブリンの頭部は爆発四散!! 血の付いた手袋(グローブ)を綺麗な物と交換し、頭部ごと文字通り聞く耳を失った死体に塵芥(ゴミ)を見るようない視線を向ける治療師さんが最後に一言投げかけたのは……。

 

 

「山のように医薬品を持ち歩き、場合によっては自分よりも重い患者を担いで戦場を駆ける癒者(いしゃ)が非力なわけ無いでしょう、常識的に考えて」

 

 

 うーんこのマジレス神拳。強靭な肉体と豊富な医学の知識、そして緊急時に冷静な判断が出来る強固な精神性を兼ね備えた衛生兵をナメちゃあいけませんよねぇ。

 

 

「おお、もう始末は終わっているようだな!」

 

「ま、間に合って良かった……こっちは間に合わなかったけど……」

 

 

 お、ガッシャガッシャと鎧の音を響かせる太陽戦士さんと息を切らせた力術師さんも到着したみたいです。これで緊急クエストは完了! 無事に彼女を助けることが出来ましたね!!

 

 


 

 

「慌てず、ゆっくりと、良く噛んで食べて下さい。弱った内臓に負担を掛けてはいけません」

 

「スープのあとにはあま~いおかしもあるよ! つかれてるときはあまいものがいちばん!!」

 

「はい……ありが、とう……ございます……ッ」

 

 

 乾燥野菜と干し肉のスープが入った器を大事そうに抱え、ゆっくりと噛み締めるように食べる少女。おそらく満足に食べられていなかったのでしょう、空きっ腹に染みる温かく滋養に満ちた味にうっすらと涙を浮かべている彼女を、吸血鬼君主ちゃんと治療師さんが甲斐甲斐しくお世話しています。ゴブリンによって引き裂かれた服は残念ながら着られるような状態では無かったため、インベントリー内にしまってあった一党(パーティ)の着替えの中から一番体格が似通っていた若草知恵者ちゃんのものを引っ張り出し、現在は白いブラウスに黒のサロペットスカート、寒さ対策のアームカバーというなんちゃって朝〇型駆逐艦な格好になってますね!

 

 

 少女をゴブリンの魔の手から救出したは良いものの、明らかに通常の個体とは様子が異なっていたため死体を調べることにした一行。口元をマスクで覆いながら死体を検分した治療師さんの出した結論は、このゴブリンたちも魔神の撒き散らした疫病に罹患しているというものでした。

 

 

「死体を埋めるのも面倒だし、その後の消毒の手間を考えれば奇跡1回で綺麗サッパリするのはお得だよねぇ。ついでに装備や身体の汚れも落ちるし!」

 

「ウム、やはり貴公に同行を願ったのは正解であったな!」

 

「えへへ……!」

 

 

 2人に頭を撫でられてご満悦な吸血鬼君主ちゃん。戦闘による飛沫感染と新たな感染源になりかねない死体の処分を兼ねての≪浄化(ピュアリファイ)≫は大好評みたいです。女剣士さんの言う通り汗や土埃なんかの汚れも落とすことが出来るので冒険者の中では≪小癒(ヒール)≫や≪解毒(キュア)≫と同等、悪魔殺し一党のように水薬(ポーション)に困らない一党(パーティ)ではそれ以上に重宝される奇跡ですね。ガチ後衛の神官でも争奪戦が激しいというのに、前衛もこなせる君主(ロード)ともなればその価値は計り知れないわけでして……。

 

 

「ね~ぇおチビちゃん? この依頼が終わってもあたしたちと一緒に組もうよ~! い~っぱいサービスしたげるからさぁ?」

 

「だ、ダメだよ!? ぼくにはかえりをまっているつまとこどもたちがいるんだから……っ」

 

 

 猫のように豊満な肢体を擦り付け、ちょっぴり尖った耳元に甘く囁く女剣士さん。汗とは違う甘い体臭に顔を赤くしながら必死に抵抗する吸血鬼君主ちゃんですが、腋のスリットから差し込まれた手が動くたび、漏れ出る甘い声を抑えることが出来ない様子。半開きになった小さな口に肉食獣が獲物を見付けた時の顔をした女剣士さんのソレが徐々に近付いて行き……。

 

 

 

 

 

 

「冗談はその辺りに。彼女の教育に宜しくありません」

 

「「は~い」」

 

 

 両の拳を握りしめながらの治療師さんの言葉でイチャツキを止め、顔を真っ赤にしている初々しさに溢れる少女を見てハイタッチする2人。ふー良かった、不倫現場を生放送する事故は起きませんでしたね!

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ君のことを聞かせてくれないだろうか?」

 

 

 少女のおなかがいっぱいになり人心地付いたころ、彼女の事情を聞くことにした一行。太陽戦士さんの言葉に頷きを返した少女が語ってくれたのは、概ね次のような話でした……。

 

 

◆自分はこの先の村の出身で、傭兵崩れの父親と2人で暮らしていた。

 

◆先日村外れにある自宅に痩せこけたゴブリンが押し入ってきた。父親がゴブリンを殺したが、その夜に高熱を発し倒れた。自分は家から追い出され、放棄された納屋跡で風雨を凌いでいた。

 

◆父親の様子を見に行っても決して家に入れて貰えず、途方に暮れていた。

 

◆昨日、村人が異臭のする家を不審に思い扉をこじ開けて入ったところ、父は死亡していた。

 

◆なんとか埋葬しようと思ったが、感染を恐れた村人が家に火を放ち、亡骸ごと全て燃えてしまった。

 

 

「それで……焼け跡に残っていた剣を回収して、辺境の街に行こうって。『冒険者になって訓練場に入られれば、ご飯の心配は無い』って、前に村に来た冒険者さんが言ってたから……」

 

 

 村の男の子はそんなの嘘っぱちだ!って言ってたけど、と柄だけの剣を胸に抱えながら力無く笑う少女。うーむ、どうやら原作(オリジナル)に比べてハードモードみたいですね。冒険者たちは俯いてしゃくりあげる少女に痛まし気な視線を向けています。特に力術師さんにとっては他人事では無いでしょう。……彼の場合は故郷丸ごと焼かれてしまってますが。

 

 

「――あのね、ぼくたちはこれからそのびょうきをまきちらしているまじんをたおしにいくところなの」

 

 

 そっと少女の前にしゃがみ、小さな身体で彼女を優しく抱きしめる吸血鬼君主ちゃん。少しだけ星の力(核融合炉)の出力を上げたことでポカポカと温かくなった身体を使い、少女の冷え切った心と身体を温めてあげています。

 

 

「まじんをやっつけたら、ぼくたちのいえにこない?」

 

「……あなたの、おうち?」

 

 

 自分よりも小さな圃人(レーア)と思しき少女の申し出にキョトンした顔を見せる少女。彼女の涙が止まったのを見た吸血鬼君主ちゃんが、フンスと胸を張りながら言葉を続けます。

 

 

「うん! みんなやさしくて、とってもつよいぼうけんしゃで、たいせつなかぞく!! ぼうけんしゃのせんぱいとして、きみをおうえんしてあげられるよ!」

 

「ウム! あの牧場ならば心配は無用だな!!」

 

「環境も整ってますし、貴女の健康にも良い影響を与えるでしょう」

 

「子持ちのお母さんが多いから、女の子にとっても安心出来る場所だよね」

 

「ワンワン!」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの言葉に賛同するように深く頷き、優しい視線を少女へと向ける悪魔殺し一党の冒険者たち+わんこ。村人からは決して向けられることの無かった優しい眼差しに戸惑いを隠せない様子の少女でしたが、視線から逃れるように深く俯き、小さく絞り出すような口調で出した返事は……。

 

 

「……えっと、いちど……おためしでもいいです……か?」

 

「うん! だいかんげい!!」

 

 

 どうやら彼女には好意的に受け止めてもらえたみたいですね! おや、えへへ……と嬉しそうに頬擦りしている吸血鬼君主ちゃんを羨ましそうに眺めていた女剣士さんが、何かを思い出したように手を叩いてます。

 

 

「ちょっとちょっとおチビちゃん、いっちばん大切なコトをその()に言い忘れてんじゃな~い?」

 

「ふぇ? ……あ!」

 

 

 女剣士さんの言葉に目を見開き、慌てて少女と向き直る吸血鬼君主ちゃん。彼女と視線を合わせ、小さな口を大きく開きながら伝える言葉はもちろん……。

 

 

 

 

 

「あのね、ぼくともうひとりのぼく、それからパーティのはんぶんは、とってもこわ~いヴァンパイアなの! あ、でもむりやりちをすったりはしないから、あんしんしてね!!」

 

 

 

 

 

 

「……え、ええぇぇぇぇぇ!?!?」

 

 

 

 実情を知らなければ何処にも安心出来る要素が無いんだよなぁ……。今までのか細い話し方からは想像も付かない少女の叫び声が、薄暗い森の中に響き渡るのでした……。

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 


 

 

 ふぃ~。なんとか間に合って良かったですねぇ! ≪真実≫さんは残念そうな顔をしてますけど、≪幻想≫さんはニッコニコ笑顔で喜んでくれてます!!

 

 で、このあとはボス部屋に直行ですか? それとも何処かに寄り道?

 

 ……げ、そういうルートですか。これはまた≪幻想≫さんが曇っちゃいそうな展開が待っていそうな予感!

 

 まぁやり過ぎなければアンチ・ヘイトの注意は不要でしょうし、可愛い無貌の神(N子)さんも嫌いじゃありませんけどね。

 

 でもなんか最近、あんまり食指(触手)が反応しないんですよねぇ。……ひょっとしてこれが『かわいそうなのは抜けない』って気持ちなんでしょうか?

 

 

 





 梅雨が近付いてきたので失踪します。


 仕事関係の勉強で執筆時間が削られ、だいぶ遅くなってしまいました。

 次話はそれほど遅くならないと思いますので、お待ちいただければ幸いです。

 お気に入り登録や感想、いつもありがとうございます。更新速度の向上に繋がるかもしれませんので、お時間がありましたら頂けると喜びます。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその15.5-2


 トップガンが実にトップガンだったので初投稿です。



 

 前回、ゴブリンに襲われていた少女を救出したところから再開です。

 

 

「それじゃ申し訳ないけど、朝まで寝させてもらうから……グゥ」

 

「では、見張りの1直を宜しく頼むぞ! フゴーッ、フゴー……」

 

「ん、まかせて! ……て、もうねちゃった」

 

「2人とも寝付くのが早いんだよねぇ。まるで赤ちゃんみたいでしょ?」

 

 

 

 死体の後始末や一帯の消毒に時間を取られたため、当初予定していた少女の暮らしていた集落までの道のりを変更し、森の中で一夜を明かすことにした一行。睡眠不要の吸血鬼君主ちゃんが通しで見張りを担当し、女剣士さんと太陽戦士さんが分担して相方を務めてくれるみたいです。薬草採取やしたいの検分で疲労していた力術師さんと治療師さんにはゆっくりと睡眠をとってもらうみたいですね。

 

 

「夜の森は冷えます。互いの体温で温まり合い体力の消耗を抑える必要がありますので、此方へ。……あなたも入りますか?」

 

「あ、えと……おじゃまします……」

 

「ワン!」

 

 

 焚火の傍では治療師さんが少女を外套の中へと招き入れ、そのたわわに小さな身体を抱きしめてあげてますね。羨ましそうな視線を向けていた狼さんも併せて抱え込み、1人と1匹の温もりで少女が寒さを感じないように気を遣ってあげているみたいです。心身ともに酷く消耗していたのでしょう、あっという間に少女は眠りの神(ヒュプノス)さんの腕に抱かれ、小さく寝息を立て始めました。

 

 

「あのけむくじゃらはあったかそうだねぇ。それならあたしは……そぉい!」

 

「わわっ!?」

 

 

 お、どうやら女剣士さんは吸血鬼君主ちゃんを懐炉代わりにするつもりですね。毛皮の敷物の上に吸血鬼君主ちゃんを抱えて座り、両脚で小さな身体を絡めとるようにしてすっぽりと外套の中に包み込んじゃいました。しばらく内側でジタバタともがいていた吸血鬼君主ちゃんでしたが、やがて女剣士さんの胸元にある外套の合わせ目から顔だけを覗かせるように出て来ました。

 

 

「だいじょうぶ? あつくない?」

 

「おお? じんわりとあったかくなってきたよ~」

 

 

 星の力(核融合炉)の出力を調整しながら自分の頭頂部に顎を乗せている女剣士さんへと問いかける吸血鬼君主ちゃん。徐々に身体の温まる感覚が心地良いのか女剣士さんの口調は普段にも増して緩くなってますね。外套の裾からは幾つもの歪な金属球(勾玉)が飛び出してきて、2人の周りをクルクルと旋回中。不意に何者かがアンブッシュを仕掛けてきても迎撃する用意はバッチリですね!

 

 

 

 

 

 

「――んで、おチビちゃんはどう思う? 明日向かう集落のコト」

 

 

 パチパチと薪が爆ぜる音と、梟の鳴き声だけが寂しく響く森の中。女剣士さんが吸血鬼君主ちゃんへと声を掛けてきたのは他のみんなが完全に寝入った後のことです。視線を焚火に向けたままの女剣士さんの表情は外気よりも低い冷笑の色を帯びており、昼間に見せていたクルクルと変わる気まぐれな猫のような表情とは大きく異なっています。

 

 

「……ほんとうは、よらないほうがいいとおもう」

 

「だよねぇ。でもウチには医狂いと太陽馬鹿がいるし、なによりも……ねぇ?」

 

「うん。それに、かんせんしているのがあのこのおとうさんだけじゃないかも……」

 

 

 2人の視線の先には、採取した薬草でパンパンに膨れ上がった鞄を枕に力術師さんが鼾をかいている姿が。疫病で故郷の村を焼き滅ぼされた過去を持つ彼と病気絶対治すウーマン(シックスレイヤー=サン)である治療師さんが、病魔に侵された者がいるかもしれない集落を放置して魔神討伐を優先させるとは考えにくいですもんね。

 

 

「頭太陽な()()もなんだかんだで放っておけないって言うだろうし、そうなるとおチビちゃんくらいしかストッパーになりそうにないんだよねぇ?」

 

「ん、まかせて。……だれもかれもすくえるほど、ぼくたちのてはおっきくないから」

 

 

 外套の隙間からそっと小さな手を伸ばし、木々の向こうに顔を覗かせているまんまるお月様を掴むように拳を握りしめ、そっと呟く吸血鬼君主ちゃん。2人の話し合いは女剣士さんが太陽戦士さんと交代する時間が来るまで続けられたのでした……。

 

 


 

 

「――駄目だ。あの村はもう『終わってる』……」

 

 

 力術師さんが力無く呟きながら見つめる先、目的地であった集落を見下ろす丘の上に到着した一行が目にしたのはあまりにも冒涜的な光景でした。

 

 まだ太陽が頂点に達しない時間であるにも関わらず集落のあちこちに灯された無数の篝火。フラフラと覚束無い足取りで徘徊する住人の手には同様に燃える松明と、そして粗末な武具や農工具などの凶器が握られているのが見て取れます。なによりも彼らが正気を喪失しているのを証明しているのは……。

 

 

「あーあー、生半可に知識と判断力が有ったぶん酷いことになってるねぇ」

 

「なんと、惨い事を……ッ」

 

 

 ――村の広場に建てられた幾つもの奇怪なオブジェ。大小様々な人型の物体が括り付けられたソレは何れも黒く焼け焦げ、吸血鬼君主ちゃんの【脳の瞳】を通して見ればその表情がどれも苦悶に歪んでいるのが確認出来ます。恐らく、まだ息のあるうちに燃やされたのでしょう……お、磔にされた死体を見て吸血鬼君主ちゃんが何かに気付いたみたいですね。

 

 

「あのちいさなしたい、にんげんだけじゃない。ゴブリンもまじってる」

 

「……食糧を狙って押し寄せてきた感染済みのゴブリンを返り討ちにして、それが感染源となったのでしょう。集落を徘徊しているのは皆成人男性。恐らくは体力の無い女子供や老人から罹患し、感染拡大を防ぐために死体を焼却するうちに狂気が伝播して獣に堕ちたのだと考えられます」

 

 

 なるほど、体力に劣る人たちは病によって倒れ、余裕のある人々は心を侵されて狂気に墜ちる。≪疫病撒き散らす拡大魔(インフルエンザー)≫の能力は思っていた以上に厄介ですねぇ……。

 

 

「あの、みんなは……村の人たちはどうなるんですか? ()()()()()んですか……?」

 

 

 村から漂ってくる肉の焦げた臭いに耐え切れず、蹲って嘔吐していた少女がノロノロと顔を上げ、一行に縋るような視線を向けています。ふむ、あの惨事を目の当たりにしてなお彼らを『助けられる』のかを問いかけるとは……鍛冶神さんが目を付けるだけのことはありますねぇ。吸血鬼君主ちゃんも含め、皆驚いた表情で少女を見つめています。返事をしようとした吸血鬼君主ちゃんの肩を抑え、一歩前に出たのは太陽戦士さん。バケツ兜(グレートヘルム)の奥の瞳を悔し気に歪めながら、悲しい現実を彼女へと言い渡しました……。

 

 

「人の心は繊細なもの。心という器はひとたび、ひとたびひびが入れば二度とは、二度とは……」

 

「そんな……じゃあ、もう……」

 

 

 太陽戦士さんの言葉に項垂れる少女。地母神さんと万知神さんに確認したところ、ひとたび人間の領域から逸脱してしまった精神は≪治療(リフレッシュ)≫や≪蘇生(リザレクション)≫であっても元に戻すことは出来ないそうです。ちなみにダブル吸血鬼ちゃんやその眷属たちは人間を理解し彼らと寄り添うように社会生活を送っていますが、その精神はまごうこと無き化物のそれ。人間であった頃とかけ離れた精神構造は既に完成しており、奇跡などで『癒す』対象にはならないんだとか。

 

 

「私たちに出来るのは、これ以上病が拡大するのを防ぐことだけです」

 

「そしてその手段は、今彼らがしているのと同じ方法しかないからね」

 

 

 腰に下げた銃と呪文構成要素ポーチを改め、断固たる決意を秘めた眼差しで村を見る癒し手の2人。魔神(デーモン)と奴らのばら撒く災厄から人々を護ることを目的に冒険をしている悪魔殺し一党としては歯痒い気持ちでいっぱいなのかもしれません。

 

 

「我々は彼らを止めるために征くが……君は如何するかね?」

 

 

 装備を確認していた太陽戦士さんの言葉に俯く少女。ほとんど柄だけになった剣を強く握りしめ、勢いよく上げたその顔には悪魔殺し一党に勝るとも劣らない覚悟の意志が宿っていました。

 

 

「いろいろ意地悪されたり、仲間外れにされたこともあったけど……それでも同じ村で暮らしていた人たちだから。みんなが苦しんでいるなら、助けてあげたい……です」

 

「それじゃあきまりだね! ……おねがいしてもいい?」

 

「ワン!」

 

「え? ……ひゃんっ!?」

 

 

 少女の言葉に深く頷き、狼さんに目配せをする吸血鬼君主ちゃん。アイコンタクトの意味を察した狼さんが少女の襟元を咥えて空へと放り上げました! 突然の出来事に思わず目を瞑ってしまった彼女が瞳を開けば、そこは狼さんの背の上。吸血鬼君主ちゃんがインベントリーから取り出した歪な金属球(勾玉)が彼女を護るようにその周囲を飛び回っています。

 

 

「そのこのせなかがいちばんあんぜんなばしょだから、ぜったいにおりないでね?」

 

「は、はいっ!」

 

 

 あとコレもね!と言いながらヒヒイロカネの剣を狼さんの口元に差し出している吸血鬼君主ちゃんの言葉に慌てて頷きを返す少女。たしかに、今の状況ではそこが一番安全ですね!

 

  ……ん? 剣と勾玉を狼さんに渡しちゃいましたけど、吸血鬼君主ちゃん本人は何を使うつもりなんでしょう? 流石にこの状況で円盾()は微妙ですし、(ケイン)は火力過多な気がしますが……って、よりにもよってその装備!?

 

 

 

「おチビちゃんは準備出来たかな~……って、何ソレ?」

 

「貴公……」

 

 

 様子を見に来た女剣士さんと太陽戦士さんが絶句するのも無理はありません。普段の可憐な君主(ロード)装備からかけ離れた装いは塚人覇王(ワイトキング)を轢殺した時に見せた肌も露わな姿。頭部を覆い隠すとセットになっているのは、吸血鬼君主ちゃんよりも大きな木製の車輪です。背に担いだ車輪を吸血鬼君主ちゃんが回すと、≪疫病撒き散らす拡大魔(インフルエンザー)≫の病に罹患し、同じ村の住人によって殺された人たちの魂が悲し気な回転音に惹かれて次々と集まってきました……。

 

 

 

「これいじょうかんせんをかくだいさせないために、かならずここでこんぜつさせようね!」

 

 

 金のアルデオ越しのくぐもった声に強く頷きを返し、村へと駆け出す一行。――治療か、或いは虐殺か。決して冒険に成り得ない、讃えられること無き戦い(Unsung War)の始まりです!!

 

 


 

 

「「「Away(失せろ)! Away(失せろ)!」」」

 

「うっさいなぁ……。言われなくったって、テメェらを掃除したら出てってやるっつーのッ!」

 

 

 奇声を上げて襲い掛かってくる村人に愛用の刺突短剣(スティレット)を向けながら啖呵を切る女剣士さん。罹患者よりも余所者に対してのほうが敵意が強いようで、村に突入してきた一行を見るや否や一斉に集まってきています。片手に松明、反対の手に血や肉片のこびりついた四又鋤や鎌、山刀を持ち、誰もが獣性に蕩けた瞳で迫ってくる悪夢のような光景。理性や正気と一緒に肉体のリミッターも壊れてしまったのか、人間離れした膂力で粗末な得物を振り回していますね。

 

 

「ムウ……下手な攻撃は逆効果のようだな」

 

 

 どうやら痛覚も鈍くなっているようで、手足の1本を斬り飛ばされても怯むことなく一行に迫る姿に太陽戦士さんも兜の奥の瞳を見開いています。単筒による銃撃で肘から先を吹き飛ばされながらも歯を剥き出しにした表情で近寄ってくる村人の姿に、流石の治療師さんもその鉄面皮に微かな驚きと嫌悪感を滲ませていますね。

 

 

「やはり、急所を狙わねばなりませんか」

 

「いや、近寄るのは危ないからここは任せて……よ!」

 

 

 再装填の隙を嫌った治療師さんが銃をホルスターに納め、拳を固く握りしめましたが……お、彼女の前に力術師さんが進み出ました! 走り寄る村人に向かって彼が右手に持った杖を一振りすると、その()()が分裂し、蛇のようにのたうちながら村人に迫っていきます!!

 

 

「恨んでくれて構わない。でも、お前たちをこのまま放置することは出来ない」

 

 

 その体型からは想像出来ない素早い動作で仕込み杖を振るい、次々に手足の腱や血管を切り裂いていく力術師さん。痛みには強くても人体の構造上無視出来ない損傷を受けた村人は地面に倒れ、恨みがましい目で余所者たちを睨みつけています。ガキン!という変形音を響かせながら蛇腹剣をもとの杖状に戻した力術師さんが彼へと近付き、杖の先端、その鋭い切先を村人の頭部へと突き立てました……。

 

 

 

 うーん流石は悪魔殺し一党(デーモンスレイヤーズ)、危なげなく罹患者たちを倒していますね! 力術師さんの慈悲深きトドメを見た太陽戦士さんも、剣を握り直して襲い掛かる村人に立ち向かっています。先程までの牽制を主にした太刀筋ではなく確実に致命傷を叩き込むための一撃は、肉体能力以外は一般村人な罹患者たちでは防ぐことの出来ない剛剣に感じることでしょう。

 

 

 さて、吸血鬼君主ちゃんたちは……と。あ、いました! 焼け落ちた家の跡地らしき場所で、狼さんの背に乗った少女と一緒に……村人に囲まれていますね。何やら矢継ぎ早に罵声を浴びせかけられているみたいですが、どれどれ……?

 

 

「全部お前のせいだ! この呪われた獣め!!」

 

「お前のせいでみんな死んだ! 病気持ちの雌犬が!!」

 

「最初からお前なんかいなければ良かったんだ!」

 

「ち、ちが……わたしのせいじゃ……っ」

 

 

 うーんこの圧迫面接(違)。口の端から唾を飛ばしながら捲し立てる村人たちの勢いに呑まれ、言い返すことの出来ない少女。その様子を見て村人たちの罵声はヒートアップする一方です。

 

 

「お前の親父もそうだ! ()()()()()()()()()だか知らないが、仲間を見捨てて戦いから逃げ出してきた臆病者だ!!」

 

「最後はゴブリンと同じ病で死んだんだ、どうせその話も嘘だったんだろうさ!!」

 

「商売女に産ませたお前を連れてこの村にやって来た時、2人まとめて殺しておけば良かったんだ!!」

 

 

 ……んん? ひょっとして彼女のお父さんって元牙狩りだったんですか!? もしその話が本当だとすると、時系列的に該当するのは不死王(ノーライフキング)討伐戦あたりですかねぇ。でも半鬼人先生も傷あり司祭さんも、脱走者がいたなんて話はしてなかったですし……。

 

 

「ち……ちがいます! おとうさんは戦いから逃げたんじゃない、戦えなくなったから仲間と別れたって言ってた!! それに、おかあさんとは深く愛し合っていて……病気で長く生きられないおかあさんといっしょになって、最期にわたしを産んでくれたって……っ」

 

 

 目に涙を浮かべながら必死に両親の名誉を護ろうと反論する少女。しかし既に理性と正気を喪失している彼らにその言葉は届くはずもなく、悪意に満ちた言葉は留まることを知りません。そしてその罵声は少女だけではなく……。

 

 

「五月蠅い! 母親殺しの親不孝者め!!」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

 

 

 

「お前なんか……()()()()()()()()()()()()んだよ!!」

 

 

 

――吸血鬼君主ちゃんの逆鱗にも触れてしまいました。

 

 

 

「もういいよ、だまって」

 

「なんだお前、余所者が口出しを……」

 

 

 途中で遮られる村人の罵声。頭部に叩きつけられた車輪によって彼の口は永遠に閉ざされ、自己陶酔と被害妄想に満ち満ちた偽りの先覚的思考は停止しました。血に染まり回転を増す車輪から響く呪われた歓喜の声に村人たちは怯え、手に握る獲物を次々に吸血鬼君主ちゃんへと突き立てていきます……。

 

 

「あ、ああ……っ!?」

 

 

 狼さんの背中で声にならない悲鳴を上げる少女の視線の先で、串刺しになった吸血鬼君主ちゃんの身体を狩猟戦利品(トロフィー)のように掲げ、歓喜の声を上げる村人たち。しかし、得物の柄を滴る血が地面に落ちる前に、彼らの声は悲鳴へと変わりました。

 

 

「――そのこのおとうさんはうそつきなんかじゃないよ。だって、きばがりもヴァンパイアも、ほんとうにいるんだから」

 

 

 腹部に突き刺さった四又鋤を意に介さず、下方の村人たちを眺める吸血鬼君主ちゃん。一方で見上げる村人たちは仕留めた筈の圃人(レーア)の余所者が口を開く姿を見て恐慌状態に陥っていますね。

 

 

「ひとはみんな、うまれてきたことにいみをもってるはずなの。どんなうまれでも、それはけっしてかわらない。うまれるべきじゃないこなんて、ぜったいにいないもん」

 

 

 聖者のような清らかさで、生まれてくる生命の尊さを語る吸血鬼君主ちゃん。その表情が酷薄なものへと変貌し、獣へと堕した村人たちを塵芥を見る目で見下ろしながら続けられた言葉は……。

 

 

 

>「ただし、ゴブリンとケダモノをのぞいてだけど、ね?」

 

 

 ――彼らに向けた宣戦布告ではなく、一方的な死刑宣告でした。

 

 

 

「化物め、死ね! 死ねっ!!」

 

 

 身体を貫く刃を身を捩って強引に引き抜き、地面へと着地した吸血鬼君主ちゃん。怯えた表情で木の棒に包丁を括り付けた即席の槍を構える村人へと疾走し、突き込まれた穂先をステップで回避。身体を一回転させ勢いを乗せた車輪を体勢を崩している村人に叩き込み、地面の染みへと変えていきます。叩きつけた反動を利用して次々に染みを増やしていく吸血鬼君主ちゃんから悲鳴を上げて他の村人が逃げようとしますが、急に何かに足を取られたように皆転倒してしまいました。

 

 

「ひぃっ、なんなんだよコレは!?」

 

「クソ、離せ! 離せぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 彼らの足に絡みつき、動きを封じているのは吸血鬼君主ちゃんの影から伸びた触手、どうやら実戦に耐え得る強度を確保することが出来たみたいですね。必死に命乞いをする村人たちですが、能面のように無表情な吸血鬼君主ちゃんの顔を見て絶望に顔を歪ませています。

 

 

「ガルル……!!」

 

「なんだこの犬、邪魔をする……ギャアッ!?」

 

「ヒ、ヒィィィィ!?!?」

 

「ふぅ……くっ、うぅ……っ!」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんが無慈悲な狩りを行う傍らでは、少女に歪んだ正義をぶつけようとしていた村人たちが狼さんによって蹂躙されています。四本足を活かした軽快な機動力と口に咥えた剣、そして周囲を漂う歪な金属球(勾玉)に迎撃され、近寄ることすら出来ていませんね。見知った顔も居るであろう少女ですが、決して目を逸らすことなく村人たちの最期を脳裏に焼き付けているようです。そして最後の1人が返り血に塗れた吸血鬼君主ちゃんの手で倒されたのと同時に、村の入り口のほうから悪魔殺し一党が姿を現しました。

 

 

「やっほ~! 全員元気してる~?」

 

「貴公、怪我を……ウム、既に治っているようであるな」

 

 

 駆け寄ってくる4人も吸血鬼君主ちゃんと同様に血塗れ姿。このままでは感染の恐れがあるため、全員揃ったところで吸血鬼君主ちゃんが≪浄化(ピュアリファイ)≫を使用しました。……お、血と汚れが綺麗サッパリ無くなったので生存者の探索に向かおうとしていた女剣士さんを吸血鬼君主ちゃんが呼び止めてますね。

 

 

「ん~? まだなにかあるのかにゃ~?」

 

「うん、ねんにはねんをいれておくね」

 

 

 そう言いながら吸血鬼君主ちゃんが取り出したのは戦場遊戯の駒。怪訝そうな顔をしている一行の前で始まった詠唱は、奇跡でも真言でもない、吸血鬼君主ちゃんが習得している第三の呪文体系のものです!

 

 

「≪はこよりとびでるねずみがいっぴき、つきしたがうはしのおどり、きしはやぶれ、だいななのふういんはとかれたり≫」

 

 

 詠唱が完了すると同時に、吸血鬼君主ちゃんを中心に広がっていく不可視の領域。半径1kmに達するその領域内において病毒の活性を操作する死霊術の呪文である≪操疫(エピデミオロジー)≫ですね!

 

 

「成程、こういった事態においては非常に有効な呪文ですね」

「う、うん。いちおうびょうきにかかりやすくなるようにもつかえるけど……つかわないからね? ほんとだよ?」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんから呪文の効果を聞き、たわわの感触を味わうどころか眼球同士がくっついてしまいそうなガチ恋距離な治療師さんに吸血鬼君主ちゃんも若干引き気味な様子。やはりさいつよは病気絶対治すウーマン(シックスレイヤー=サン)なんですかねぇ……。

 

 

「ダメだねぇ。生き残りはゼロ、み~んな殺されるか狂うかしちゃってたみたいだよぉ」

 

 

 村の探索に出ていた女剣士さんが戻って来ましたが……残念ながら生存者はいなかったみたいです。治療する患者がいないのであれば、この村ですべきことはあと一つだけでしょう。≪浄化(ピュアリファイ)≫によって感染源は浄められたものの、死体をそのままにしておけば腐敗して別の病気の元になってしまうかもしれません。本来であれば土中に埋葬するのが慣例ではあるのですが……。

 

 

「すまないが、魔神を逃さぬためにもあまり時間を費やすことは出来ないのだ……」

 

「……はい。ですから……」

 

 

 太陽戦士さんの謝罪に対し涙を浮かべながら笑みを見せ、近くにあった松明を手に取る少女。吸血鬼君主ちゃんと女剣士さんが積み上げた村人だったものへと近付き……。

 

 

「すべてを、燃やしてしまいましょう。思い出も、辛い記憶も、みんな、みんなまとめて……」

 

 

 

 

 炎に焼かれ、輪廻の輪へと還っていく村人たち。身体の水分が抜けたことにより僅かに身じろぎするように動き、天に救いを求めるように手を伸ばす亡骸を見つめる一行。お父さんの形見となった折れた直剣を胸に抱いていた少女が、太陽神さんへの祈りを捧げていた吸血鬼君主ちゃんにそっと近付いています。気配を感じた吸血鬼君主ちゃんが祈りを終えたのを見て、言葉を紡ぎ始めました。

 

 

「みなさんが追っている魔神を逃せば、こんな悲劇が続いてしまうんですよね……」

 

「うん。だから、ぜったいににがさない。かならずほろぼすの」

 

 

 薄い胸を張って言い切る吸血鬼君主ちゃんを見た少女の顔に、微かに笑みが浮かびました。「帰る場所が無くなってしまったので、昨日話していたダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)宅にお邪魔しても良いか」という問いに吸血鬼君主ちゃんが大きく頷き、彼女の手を取ってギュッと胸元に抱きしめています。

 

 

 さぁ、いよいよ次回は元凶である≪疫病撒き散らす拡大魔(インフルエンザー)≫との決戦です! 吸血鬼君主ちゃんと悪魔殺し一党、そして少女の活躍にご期待ください! ……あ、もちろん狼さんも活躍しますからね!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 大神のボス戦をやり直しにいくので失踪します。


 お気に入り登録や評価、ありがとうございます。読了後に感想をいただけると次話の更新速度が向上するかもしれませんので、お時間がありましたらよろしくお願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその15.5-3


 原作15巻までのプロットが組み上がったので初投稿です。



 前回、少女の暮らしていた集落を浄化したところから再開です。

 

 ≪疫病撒き散らす拡大魔(インフルエンザー)≫のばら撒いた病に侵され獣へと堕した村人たちを輪廻へと還した一行。僅かばかりの休息の後、遂に魔神が潜伏している遺跡跡へと到着しました!

 

 

「貴公ら、準備は良いか?」

 

 

 若干くぐもった声をした太陽戦士さんの問いに頷きを返す面々。毒・病気に対する完全耐性持ちの吸血鬼君主ちゃんを除くみんなの顔には治療師さん謹製の面頬(マスク)が付けられています。疫病を司る魔神が相手ですので、毒や病気に対しての備えは欠かせませんね。遺跡前に到着した時点で吸血鬼君主ちゃんが≪操疫(エピデミオロジー)≫の呪文を掛け直しておりますので、余程運が悪くなければポジる可能性は低いでしょう。あ、ちなみに狼さんは動物ではなく使徒(ファミリア)という扱いなので、吸血鬼君主ちゃんと同じく毒・病気は無効なんだとか。道端で拾い食いしても大丈夫な理由はそんなところにあったんですねぇ。

 

 

「うわ、きったな!?」

 

 

 おそらく元はゴブリンたちが住処にしていたのでしょう、汚物に塗れた通路を見て女剣士さんが顔を顰めています。僅かに残っていた食料を巡り互いに殺し合ったと思われるゴブリンの腐乱死体があちこちに転がり、目に悪い紫色のカビが死体を斑模様に変えていますね。もし面頬(マスク)無しで呼吸をしたら……肺がどうなるかはちょっと考えたくはありません。

 

 一行の見える範囲では散乱している死体はゴブリンばかりで人間のものは無さそうですね。例年では収穫を終え一所に集まった実りを奪いに集落を襲うゴブリンたちですが、今年はUSAGIさん率いる訓練場上がりの冒険者たちが徹底的に駆除していたおかげで著しく数を減らしたため、襲撃という手段が採れず山野の恵みで食い繋がざるを得ない状況だったみたいです。

 

 幸か不幸か数が減ったために採集だけで群れを維持することは出来ていたようですが、繁殖用の雌を手に入れられずジリ貧なのは間違いありません。少女に襲い掛かっていたゴブリンたちも、そんな限界集団の一つだったのかもしれませんね。

 

 通路を抜けた先には朽ちた武器が散らばる部屋が。衛兵かそれに準ずる人たちの詰め所だったのでしょうか、ゴブリンが使うには大きすぎる剣や槍が打ち壊され、ストレス発散のために殴られ続けていたと思われる歪んだ鎧などが放置されています。おや、力術師さんが何かを見付けたみたいですね。

 

 

「お、金槌の聖印(シンボル)があるってことは……」

 

「フム……この遺跡、元はどうやら鍛冶神の神殿であったようだな」

 

 

 叩き割られた瓶や食器が打ち捨てられている一画を物色していた力術師さんが見付けたのは鍛冶神さんの象徴である金槌を模した聖印(シンボル)。なるほど、セッション開始から鍛冶神さんがずっとしかめっ面だったのはこれが理由だったんですね! ……え、違う? この顔はいつも通り? アッハイ。

 

 

「あいつら、こんなによごして……うん、きれいになった!」

 

 

 床から拾い上げた聖印を力術師さんから受け取った吸血鬼君主ちゃん、袖口でゴシゴシと汚れを拭きとってご満悦な様子。鈍い金属の輝きを持つ聖印を胸に祈りを捧げていますが……おや、何かを感じ取ったのか聖印を少女へと差し出しました。

 

 

「あのね、これはきみがもってたほうがいいみたい!」

 

「……え?」

 

 

 満面の笑みを添えて差し出された聖印を反射的に少女が受け取ると……おお! 聖印の輝きが増しました!! 灯りとしても使えそうなほどに光る聖印は熱も持っているようで、かじかんだ指先に広がる温かさに少女の顔がほころんでいます。

 

 

「えへへ……きっと『がんばれ!』ってかじしんさまがいってるんだよ!!」

 

「うむ、鍛冶神が貴公の冒険を応援しているのだろう、大事に持っていたまえ」

 

「……はいっ!」

 

「では落とさぬよう首から下げられるようにしましょうか」

 

 

 治療師さんが持っていた革紐を使って首飾りのように加工された聖印を胸に微笑む少女。さぁ、決戦の場はもうすぐ先でしょう! みんなには頑張って欲しいですね!!

 

 


 

 

 遺跡の最奥に広がっていたのは祭壇の置かれた大広間。かつては戦や困難に向かう者たちが鍛冶神さんへと祈りを捧げていたであろう神聖な場所は、魔神によって見る影もなく穢されてしまっていました……。

 

 

「周囲に纏う病魔の気配。あれが≪疫病撒き散らす拡大魔(インフルエンザー)≫で間違いありません」

 

「うわぁ、なんかすっごい硬そうなんですけどぉ?」

 

 

 女剣士さんが嫌そうな顔で眺める先には罰当たりにも祭壇に腰掛けている東方風の全身鎧を身にまとった巨体。全身に矢や剣が突き刺さっており、穿たれた穴からはいかにも身体に悪そうな緑色の気体が流れ出しています。あれが今回の標的である≪疫病撒き散らす拡大魔(インフルエンザー)≫……『エキビョウ』ですね! 隠れ家に入り込んできた一行を対し、身の丈と同じほどの長大な湾刀(カタナ)を向け、挑発するようにクイクイっと手振りを。会話を交わすという選択肢がハナから存在しない者同士、相手を黙らせるには暴力しか無さそうです!

 

 

「長期戦は病気が怖いしぃ、速攻でカタを付けるよぉ? 呪文で援護ヨロシクぅ!」

 

「了解! ≪セメル(一時)≫……≪キトー(俊敏)≫……≪オッフェーロ(付与)≫っ!!」

 

 

 まず飛び出して行ったのは女剣士さん。魔神へと一直線に駆ける背中に力術師さんが≪加速(ヘイスト)≫を飛ばし、叢雲狩人さんに匹敵する速度で迫っていきます。顔面に付き込まれた切先を金髪が数本斬り飛ばされるほどのギリギリで躱し、カウンター気味に両手のスティレットをガラ空きの胴体へと突き込みますが……。

 

 

「ありゃ? 手応えが……うぷぇっ!?」

 

 

 鎧を貫通する一撃をお見舞いしたものの、手応えの無さに首を傾げる女剣士さん。ぶち抜いた穴から緑色の霧が吹き出し、慌てて距離を取りました。穴から覗く鎧の内側は……気体が充満しているだけで魔神の肉体は見えませんね。通常の視覚では見えないのか、それとも……。

 

 

「VIRUUUUUUUUUUUUUS!!」

 

「ヌッ!? 何という速さッ!!」

 

 

 今度は此方の番だと言わんばかりに動き出した魔神(エキビョウ)、背に空いた穴からジェット噴射のように内部の霧を噴出し、その巨体からは想像出来ない速度で太陽戦士さんへと斬りかかっています! 太陽戦士さんは直剣と盾を巧みに用いてなんとか攻撃を受け流しているものの、魔神は関節部分からも気体を噴出することで攻撃後の隙を加速に変じ、驚異的な連撃を繰り出していますね。そして気体を噴出しているということは……。

 

 

「その霧を吸ってはいけません! おそらくそれが村人やゴブリンを狂わせた感染源です!!」

 

 

 単筒を構え隙を伺っている治療師さんの言う通り、あの緑色の気体こそが魔神(エキビョウ)の持つ力、心身を蝕む病気の引き金です! そしてそれなりに広いとはいえ戦闘を行っているのは屋内、徐々にですが部屋の中に気体が満ちていっています。≪操疫(エピデミオロジー)≫で抵抗を上げているとはいえ、このままでは不味いのでは?

 

 

「うぅ……霧が邪魔で良く見えません……」

 

「クゥン……」

 

 

 霧中で戦う悪魔殺し一党を確認しようと目を凝らす少女。次第に濃くなっていく霧が視界を奪うとともに、徐々にですが彼らの体力を蝕んでいくのを狼さんと並んで見守っています。流石にこのままではいけないと判断した吸血鬼君主ちゃんが霧を祓うべく≪浄化(ピュアリファイ)≫の詠唱に入りましたが……!

 

 

「!! VI……RUUUUUUUUUS!!」

 

「あうっ!?」

 

「ひっ!? だ、だいじょうぶ・・・?」

 

 

 霧を取り除かれることを察知した魔神(エキビョウ)が悪魔殺し一党を霧中で引き離し、吸血鬼君主ちゃんへと突っ込んで来ました! すんでのところで湾刀(カタナ)による一撃は避けたものの、鎧から突き出た刃に引っ掛けられた吸血鬼君主ちゃんは一瞬でズタズタに。慌てて駆け寄ろうとした少女の襟を狼さんが咥えて放り投げなければ、少女も続く連撃に巻き込まれていたことでしょう。

 

 

「VIRUUUUUUUUUS!!」

 

「うるさいなぁ……!」

 

 

 両手持ちの円盾()魔神(エキビョウ)の連撃を凌ぐ吸血鬼君主ちゃん。全身の切り傷は再生するに任せ、相手の正体を見極めようと内なる瞳を凝らしている様子。やがて何度目かの湾刀(カタナ)の攻撃を正面から受け止めた時、何かに気付いたみたいです。

 

 

「クソが! 逃げんじゃねえよ!!」

 

「スマン抜かれた! 貴公、無事か?」

 

 

 霧の海を掻き分けて姿を見せた前衛2人、絶妙なタイミングで繰り出された一撃でしたが高速で回避する魔神(エキビョウ)に当てることは出来ず、荒く息を吐いています。突撃に巻き込まれないよう分散していた力術師さんと治療師さんも集まってきて再び両陣営が対峙する形となった状況で、吸血鬼君主ちゃんが口を開きました。

 

 

「あのね、さっきカタナのこうげきをうけとめたとき、あいてのうごきがちょっとだけにぶくなったの。それからあんまりカタナをつかわなくなった。だから……」

 

 

 

「たぶん、あのよろいはみたままのからっぽ。まじんのほんたいは……あのカタナ!」

 

 

 ほほう、とするとあの鎧は元々神殿にあったものか何かで、魔神が本体に偽装して操っていたって感じなんですかね? ……あ、もしかして鍛冶神さんの機嫌が悪いのって。……あぁやっぱり、あの鎧、神殿に鍛冶神さんの信徒が奉納していたものだったんですか。そりゃあ怒るのも無理ないですねぇ。

 

 

「VI……RUUUUUUUUUS!!」

 

 

 ヒヒイロカネ製の円盾()で何度も受け止められ、耐久性に不安を感じたのでしょう。再び前衛に高速で斬りかかってきた魔神(エキビョウ)ですが、吸血鬼君主ちゃんに対しては自慢の湾刀(カタナ)を振るわず、鎧から突き出た刃を向けるに留まっていますね。これは吸血鬼君主ちゃんの考えが合っているのかも!

 

  とはいえ太陽戦士さんと女剣士さんも傷を負い続けているため吸血鬼君主ちゃんの奇跡はそろそろ打ち止めですし、耐久力の低い後衛2人や少女が病に罹患する可能性はどんどん増している状態。何か反撃に転じるきっかけがあれば良いのですが……。

 

 

「VIRUUUUUUUUUUUUUS!!」

 

「グッ!?」

 

「ぎぃっ!?」

 

 げ!? 前衛を先に排除することにした魔神(エキビョウ)が背に突き立っていた矢を打ち出し、不意を突かれた太陽戦士さんと女剣士さんが被弾しちゃいました! たっぷりと霧に浸かっていた鏃は妖しく緑色に発光しており、無理矢理引き抜いた2人の顔色がどんどん悪くなっていってます!! 2人を治療すべく駆け出そうとした吸血鬼君主ちゃんの足元にも矢が次々に突き刺さり、なかなか近付けないみたいです。

 

 

「ど、どうしよう。このままじゃ……」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんが劣勢に追い込まれているのをオロオロと見ている少女。何か自分に出来ることは無いのかと必死に考えを巡らせているようですが、残念ながら彼女には技術も知識も経験も不足しています。……そう、()()()()

 

 

「ふむ、あまり良い状況ではありませんね」

 

「まぁそれはいつもの事だし……」

 

 

 ザっと進み出たのは悪魔殺し一党の後衛2人。単筒を再装填しながら足場を確認している治療師さんの隣では、力術師さんが呪文構成要素ポーチから取り出した女魔法使いちゃんからの餞別を手の平で転がしています。気負った様子の無い2人の姿に少女が息を呑んでいる横で、狼さんが大きく欠伸をしていますね。

 

 

湾刀(カタナ)が本体という彼女の推察、確かめる価値はあるでしょう」

 

「申し訳ないのだけれど、君も協力してくれるかな? あ、そこの狼くんも」

 

 

 ベテラン冒険者から向けられる瞳に、ヒヨコどころかまだ孵ってすらいない冒険者未満の子どもに力を借りねばならぬ苦悩を感じ取った少女。2人のそんな気持ちを吹き払うように、決意を込めた瞳で大きく頷きました。

 

「……はい! わたしはなにをすれば良いでしょうか!!」

 

 


 

 

「VI、RUS!!」

 

「ああもう、じゃま……っ!」

 

 

 踏み込めば出鼻をくじく様に弓を打ち込まれ、足を止めれば刃に引っ掛けるべく突撃してくる魔神に苛立ちの視線を向けている吸血鬼君主ちゃん。ガチガチと牙を鳴らし、前衛を救うために周囲への被害を考えずに全力を出そうか考えているみたいですね。

 

 

「――足は私たちが止めますので、貴女は2人の救出と治療を」

 

 

 そんな吸血鬼君主ちゃんの背後から飛んできたのは、激情を鋼の意思に秘めた治療師さんの声と銃撃音。()()()()()()()()6発の弾丸は次々に魔神(エキビョウ)へと着弾。その動きを鈍らせています! 『チェーンファイア』と呼ばれる暴発現象を腕の力で抑え込み、しかも全弾バッチリ命中させる治療師さんの射撃の腕は素晴らしいですね!!

 

 背後に頷きを返し、即座に離脱する吸血鬼君主ちゃん。股の下をすり抜けられた魔神(エキビョウ)は忌々し気に視線を治療師さんのほうへと向けますが、すぐに湾刀(カタナ)を構え直しました。その理由は、緑色の霧の海に白い軌跡を残して疾走する狼さんと、その背に跨った少女を視認したからでしょう!

 

「ガルルルル・・・・・・ワンッ!!」

 

「や、やあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 唸り声を背後に置き去りにしつつ駆ける狼さん。その背に乗った少女も恐怖を忘れるためか、あるいは自らを奮い立たせるためか可愛らしい声を上げています。接近する1人と一匹を排除せんと矢が飛来してきますが、それらは全て狼さんが操る歪な金属球(勾玉)が迎撃しています。そして彼女たちに気を取られている魔神(エキビョウ)に向けて、霧越しに迫る幾つもの光弾が……!

 

 

「≪サジタ()≫……≪ケルタ(必中)≫……≪ラディウス(射出)≫ッ!!」

 

「VIRUS!?!?」

 

 

 湾刀(カタナ)を持つ右腕に着弾する魔力の矢。その衝撃は通常の比ではなく、頑丈な籠手(ガントレット)をベコベコに凹ませるほど。その理由は力術師さんの手に握られた物質要素にあります。

 

 

 「……鎧を貫通させるために硬い鋼の弾頭を用いるのではなく、あえて柔らかい弾頭にすることで着弾時の衝撃を増加させる。やっぱり都会の()はおっかねぇお……!」

 

 

 思わずお国言葉が出てしまってる力術師さん、≪力矢(マジックミサイル)≫大好き女魔法使いちゃんからの餞別はホローポイント弾じみた代物だったみたいです。四方世界において敵の指揮官狙撃や馬上の重装騎士をピンポイントで狙う際に用いられることの多い銃ですが、銃弾1発のコストが高いために貫通力と発射後の安定性を重視して鋼鉄を弾頭にすることが多いみたいです。そこをあえて貫通力を抑え殺傷能力を高めるとともに、着弾時の衝撃を増加させる柔らかい弾頭を選ぶのは至近距離での射撃に単筒を用いる暗殺者の考えですねぇ。

 

 ちなみに女魔法使いちゃんは銀髪侍女さん経由でこの弾丸の存在を知ったんだとか。おそらく出処は帽子をかぶった仕掛け人(ランナー)君あたりなんだろうなぁ……。

 

 

 半泣きになりながらも連続して≪力矢(マジックミサイル)≫を繰り出す力術師さん。3発目で魔神(エキビョウ)の親指が砕け、4発目で支えを失った湾刀(カタナ)が空中に投げ出されました。慌てて拾いに行こうとする魔神(エキビョウ)ですが、狼さんが体当たりをかまし、大きな音を立てて転倒。起き上がろうとしたところで顔に当たる部分に近寄ってきた狼さんが……。

 

 

「……わふぅ」

 

 

 嗚呼、あれこそは太陽神さんが生み出した最終奥義、大無礼講!

 

 無礼(ナメ)無礼(ナメ)きった態度と表情から繰り出された()()は美事魔神(エキビョウ)の顔面に着弾&大爆発! どんな知性の持ち主でさえ怒り狂うと言われるほどの超絶ヘイトコントロール技、是非とも吸血鬼君主ちゃんに修得して頂きたかったのですが……少々ビジュアル面に難があるため、≪幻想≫さんから「女の子は……ていうか、人型の子はゼッタイに使っちゃダメ!!」と禁止されてしまったそうです。残当。

 

 狼さんの身体を張った足止めによって動けない魔神(エキビョウ)の横をすり抜け、クルクルと宙を飛ぶ湾刀(カタナ)へ駆け寄る少女。限界突破(オーバーキャスト)からの5発目の≪力矢(マジックミサイル)≫を放ちながら、力術師さんが少女に向かって大きな声で合図を出しました!

 

 

「……刀身のど真ん中、思いっきり叩きつけるお!!」

 

「――はい! ……てやあぁぁぁ!!」

 

 

 両手で持ったヒヒイロカネ製の剣を大きく振りかぶり、湾刀(カタナ)の中心へと振り下ろす少女。彼女の顔を掠めるように飛来した≪力矢(マジックミサイル)≫が急激に方向を変え、彼女の一撃に合わせるように刀身の反対側から着弾! 同時に加えられた衝撃に耐え切れず、刀身には細かな罅が刻まれ、だんだんと大きく広がっていき……。

 

 

 ――パキィン

 

「VI、RUUUUUUS……」

 

 

 その悍ましい内面からは想像も出来ないほど澄んだ音を立て、≪疫病撒き散らす拡大魔(インフルエンザー)≫……『エキビョウ』の本体である刀身は、半ばから二つに分かたれました。

 

 

 

()ったぁ~。……ふひっ、あのジャリん子もなかなかやるじゃん」

 

「ウム、実に将来が楽しみだな!! ……で、これで終わったと思うかね?」

 

「いや~まだじゃな~い? だってほら、アレ……」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんに≪治療(リフレッシュ)≫の奇跡をかけてもらい、なんとか動けるようになった2人が視線を向ける先。全身から緑色の霧を噴出しながらガクガクと不穏な挙動を見せる巨大な鎧の姿がありますねぇ。

 

 

「こういうのってさぁ、フツーは本体を倒したら一緒に消えたりするもんじゃない?」

 

「あるいは制御を失って暴走するかだな。……今回はどうやら後者らしいが」

 

「――ん、ちりょうはおしまい! あと、あれはぼくにまかせて!!」

 

 

 お、2人の治療を終えた吸血鬼君主ちゃんがスッと立ち上がり、自身に満ちた笑みで2人に宣言しました! おなかにそえていた手を頭上に掲げれば、そこには太陽の光を凝縮したような輝きを放つ一振りの(ケイン)。外套に変じさせていた翼を羽ばたかせ、矢のような勢いで鎧へと吶喊! 胴の中央に突き立った杖を通じて流し込まれた星の力に耐え切れず、鎧に空いた穴からは次々に光が溢れていきます……。

 

 すべてのエネルギーを注ぎ終わり、杖を引き抜いた吸血鬼君主ちゃんが一欠(決めポーズ)する背後で鎧は爆発四散! 吸血鬼君主ちゃんたちの勝利です!!

 

 

 

 

 

 

「やっぱり太陽神の信徒はみんなおっかないお……!」

 

「うむ! 貴公、相変わらず良い太陽っぷりだな!! ……ん? どうしたのだ?」

 

 

 ……おや? 派手な爆発をバックに吸血鬼君主ちゃんみんなのところへ帰還する感動のエンディングシーンの筈なんですが、なんだか様子が変ですね。(ケイン)を体内にしまった後そのままおなかをおさえてフラフラと頼りない歩き方をしています。「怪我ですか! それとも急性の病気ですか!!」とダッシュで駆け寄ってきた治療師さんのたわわに身体を預けるように倒れ込む吸血鬼君主ちゃん。その口から微かに漏れた言葉は……。

 

 

 

 

 

 

「おなかすいた……もううごけない……」

 

 

 

 ですよねー。リ〇ルクラッシュは全エネルギーを相手に注ぎ込む文字通りの『必殺技』、体内のエネルギーを使い切っちゃったんですね。しかもここは屋内、おひさまの光は届きませんし、自慢の核融合炉(星の力)も燃料となる魔力が無ければ動きません。となると誰かから魔力を分けて貰わなければいけないのですが……。

 

 

「あ、あの。わたしから……吸って、ください」

 

 

 誰がちゅーちゅーされるかで話し合っていた悪魔殺し一党のみんなに対し、なんと少女が自分が吸われると手を上げてくれました! あ、別に悪魔殺し一党のみんなも吸われるのが嫌だから押し付け合っていたのではなく、帰りの行程や現在の消耗具合から誰が適任かを話し合っていたということは彼らの名誉と吸血鬼君主ちゃんとの友情にかけてお伝えしておきますね。

 

 

「……良いのかね? その、年端も行かぬ君には少々刺激が強いと思うのだが……」

 

「いえ……帰りの道中で一番役に立たないのは私だから、私が吸われるのがみなさんの消耗を抑えるのに繋がると思います。それに……」

 

 

 太陽戦士さんの心配する声に首を振り、考え無しに申し出たわけでは無いことを説明する少女。そして、続く彼女の言葉は……。

 

 

 

「その、これからお世話になる方の生命を支えてあげられるなら、私にとっても嬉しいこと、です」

 

「わぁお、随分と大胆じゃな~い! ……これは帰ったら他のお嫁さんたちにしっかり説明しないとだねぇ?」

 

「おあ~……」

 

 

 少女の大胆な発言にチェシャ猫のような表情を浮かべ、抱き上げた吸血鬼君主ちゃんをうりうりと撫でまわす女剣士さん。彼女の汗と甘い体臭の混ざった蠱惑的な匂いに思わず牙を突き立てそうになった吸血鬼君主ちゃんが両手で自分の口を抑えていますね。やっと拷問から解放され地上へと降ろされた吸血鬼君主ちゃんが、改めて少女へと確認の視線を向けています。

 

 

「ほんとうにいいの? なるべくいたくはしないけど、ちょっとチクっとしちゃうかもだよ?」

 

「はい、わたしは大丈夫です。……あ。でも、その……やさしく、お願いします」

 

 

 そう微笑み、吸血しやすいようにブラウスのボタンを外し()()を露出させる少女。フラフラと近寄ってくる吸血鬼君主ちゃんの前で膝立ちの姿勢になり、迎え入れるように両腕を広げています。やがて彼女の元へと到着した吸血鬼君主ちゃんがそっと首筋に顔を近付け……。

 

 

「――え?」

 

 

 少女の甘い匂いを堪能しながら慣れた手付きでブラウスのボタンをすべて外し……。

 

 

「――あの?」

 

 

 まだ下着を付ける必要の無い少女の未発達な胸に顔を擦り付け……。

 

 

「――え? えぇ???」

 

 

 頬に当たった小さな突起へと、ぬらぬらと光る舌を覗かせた桜色の唇を近付けていき……。

 

 

 

「いただきま~す」

 

 

 

 

 

 

「ぴゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 

 

 

 

「これは……まるで太陽の如き神々しさ……!」

 

「う、美しいお……!」

 

「いや、涙流しながら拝んでんじゃないっつーの」

 

「男性は向こうを向いていてください」

 

 

 悪魔殺し一党が周囲を警戒する中、吸血鬼君主ちゃんが満足するまで少女の悲鳴にも似た声は続くのでした……。

 

 


 

 

「――で、故郷を失って心の弱ってる女の子を傷物にしてお持ち帰りしてきたわけね」

 

「はい、そのとおりです……」

 

 

 はい、ちゅーちゅー以外は何事もなく帰路は消化され、牧場へと帰還した吸血鬼君主ちゃん。早急に魔神討伐の報告をしたいということで、悪魔殺し一党とは辺境の街でお別れしました。……当初はダブル吸血鬼ちゃん宅で打ち上げの予定でしたが、ちゅーちゅー事件による家族会議が想定されたため、また別の機会にということになったそうです。

 

 

 自宅のリビングでは絨毯の上に吸血鬼君主ちゃんが正座し、血族(かぞく)のみんながそれを囲んで座っています。まだ吸血鬼侍ちゃんは王都から帰ってきていませんが、吸血鬼君主ちゃんがヘルプを送っても>「がんばれ~!」としか返信が送られてこなかったとか。まぁ、そうなるな。

 

 

 子どもたちはそれぞれのママの膝上に座り、パパのことを興味深げに眺めています。話の内容は判らないようですが、パパが何かやらかしたことはママの気配から察知しているみたいですね。

 

 

「あ、あの……っ」

 

「ああ、貴女はなんにも悪くないわ。みんな貴女のことを歓迎してるし、これから一緒に暮らしていくのが楽しみよ。悪いのはぜーんぶそこのスケコマシだもの」

 

 

 膝上で困惑しっぱなしの少女を優しく抱きしめ耳元で甘く囁く女魔法使いちゃん。その口から覗く牙にちゅーちゅーを思い出したのか、真っ赤な顔でモジモジしちゃってます。

 

 

「ねぇシルマリル、今回はなんで怒られてるか判る?」

 

 

 口調こそ怒ってる時のものですが、顔は緩みっぱなしの妖精弓手ちゃんからの問い。既に答えは判っていたのでしょう、吸血鬼君主ちゃんはすぐに言葉を返しました。

 

 

「えっと、だれもかぞくをつれていかないで、じぶんひとりでいくっていってたこと」

 

「そう。今回はあえて誰も言わなかったけど、せめて1人はちゅーちゅーする相手を連れて行くべきだったわね」

 

 

 ……あ、そういえば妖精弓手ちゃん、今回は冒険なのに「私も行きたーい!」って言ってませんでしたね。まさかみんなと示し合わせて吸血鬼君主ちゃんから誰かを連れて行くかと言い出すかを見定めていたとは……!

 

 

「彼方の面子はみんな良い方ですし、万が一ちゅーちゅーが必要になった時は吸わせてくれると考え、良い機会だと思っていたのですが……」

 

「いやぁ、ご主人様の手の早さを過小評価していたみたいだねぇ」

 

「えぅ……」

 

 

 次々と向けられる言葉によってどんどん小さくなっていく吸血鬼君主ちゃん。一通りみんなからの言葉を浴びたところで、咳ばらいをした女魔法使いちゃんが再び口を開きました。

 

 

「さっきも言ったけど、この子を迎え入れるのに反対する血族(かぞく)は居ないわ。だから、アンタもキッチリ責任を取りなさい? 眷属にするかどうかを含めてね」

 

 

 そう言って抱きかかえていた少女を解放する女魔法使いちゃん。正座の状態で見上げてくる吸血鬼君主ちゃんの隣に膝を付き、少女がそっと吸血鬼君主ちゃんを抱きかかえました。

 

 

「わわっ!?」

 

「えっと、まだ眷属に成るかとか、これからの事とかはあんまり想像出来ません。でも、そうやって未来を考えることが出来るのは、あたなが助けてくれたからなのは私にも判ります。だから……」

 

 

 そこまで言い、そっと自らの唇を吸血鬼君主ちゃんのそれと重ねる少女。淡い恋人のような口づけを交わした少女が頬を染めながら……。

 

 

 

 

 

 

「――だから、これからよろしくお願いします、マスター」

 

 

 

 

 

 

「うわ、破壊力高すぎでしょ……」

 

「あらあら、おふたりとも顔が真っ赤ですね」

 

「私から見ればみんな同年代って言いたいところだけど……あれは反則ね」

 

「ねーママー、あたらしいママがふえるのー?」

 

「ふふ、さぁどうだろうか。ママになるかお姉さんになるかは、これから次第だね」

 

 

 少女の言葉に口々に意見を交わす奥様戦隊。叢雲次女ちゃんの言葉に対しての叢雲狩人さんの返答が血族(かぞく)みんなの思っていることかもしれません。

 

 さぁ、これでダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)もほぼほぼ完成! 春からの冒険が非常に楽しみ……おや? リビングの鏡の表面がぐんにゃりと……って、どうやら吸血鬼侍ちゃんが帰って来たみたいです! 驚いた表情を浮かべる少女を生暖かい目で眺める一行の前に、≪転移≫の鏡を抜けて吸血鬼侍ちゃんが……お、賢者ちゃんも一緒ですね! 五体満足で干乾びてもいませんし、ちゃんと約束は守ってくれたんですねぇ。

 

 

「ただいま~! おなかすいちゃった~!!」

 

「もう、あちらでも散々つまみ食いしてたのにナニを言ってるのです。……おや、そちらの頭目(リーダー)はまた新しい女の子を引っ掛けて……ッ!?」

 

「ん、ああこの子? お察しの通りそこのスケコマシが……って、なに、この子がどうかしたの?」

 

 

 ん? 吸血鬼君主ちゃんに抱き着いてゴロゴロと絨毯の上を転げ回る吸血鬼侍ちゃんに呆れの視線を向けていた賢者ちゃんの目が少女に釘付けになってますね。なんだか信じられないモノを見たような顔で固まっている彼女に女魔法使いちゃんが声を掛けてますが、それすらも耳に入っていないみたいです。ギリギリと油の切れた機械のようにゆっくりとダブル吸血鬼ちゃんに向き直り、絞り出すような声で問いかけたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体何処から見つけてきたのですか、あのような規格外な存在を。あの子は、ウチの頭目(リーダー)に匹敵するほどの特異点なのです」

 

 

 

 

 

 

 ……え???

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 


 

 ふぅ、なんとかこれで12人。やっとダブル吸血鬼ちゃんを頭目(リーダー)にした2パーティが編成できますね!

 

 しかし流石は賢者ちゃん、まさか一目で彼女の素質に気付くとは……ホントはもうちょっと先でばらしたかったんですけどねぇ

 

 まぁ王都で会合はなんとか上手く纏まったみたいですし、次セッションでダブル吸血鬼ちゃんの真実(裏が無いとは言ってない)が明らかになるでしょう! 鍛冶神さんと太陽神さんのプレゼントも彼女に送る準備が出来ましたし、いやー楽しみですねぇ!!

 

 おや、どうしましたか万知神さん? やっと原作15巻までのプロットが組み上がったーって裸踊りしてませんでしたっけ?

 

 

 

 

 

 

 ……え? また別の外なる神(困ったちゃん)がこっち見てる???

 

 





 セッションそのXX.5シリーズのネタを探しに行くので失踪します。


 評価や感想、お気に入り登録いつもありがとうございます。皆様に読んでいただけたという実感が湧き非常に嬉しいです。

 また、誤字脱字のご報告も感謝しております。読み返しても気付かない辺り深刻で笑えませんね……。

 評価や感想が次話へのモチベとなりますので、お時間がありましたら頂けると幸いです。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその16-1


 早速暑さにやられたので初投稿です。



 OK、落ち着きましょう。そのセッションに顔を出したがっている外なる神(困ったちゃん)は……あぁなんだ、あの方ですか!

 

 確かに少々羽目を外すきらいはありますけど、そんなに悪い(PL)じゃありませんよ? あの馬鹿(死灰神)と違って種族を挙げて崇められてますし、しっかりと四方世界に信仰が根付いていますから。

 

 んー・・・・・・流石に今回のセッションは難しいですから、次回から顔を出してもらいましょう! 原作で丁度良い感じの障害が配置されていますし、ダブル吸血鬼ちゃんがいることを加味してちょっぴりテコ入れしちゃいますか!!

 

 それじゃ、ちょっと交渉してきますね? なーに大船に乗った気持ちでセッションを進めていてください! この可愛いN子さん、口プロレスにおいては()()万知神さんにすら引けを取らないと自負しておりますので!!

 

 


 

 

 ついに明かされるダブル吸血鬼ちゃん誕生の真実ゥ! な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 

 冬至(ユール)のお祭りを数日後に控え、寒さも厳しさを増してきた西方辺境。久方振りの開催となる迷宮探検競技で迷宮支配者(ダンジョンマスター)を務める若草知恵者ちゃんと妖術師さんが迷宮の最終調整の真っ最中みたいです。知識神さんがプレゼントした不浄なる暗黒の書(エ(げつなく)ロ(くでもない)本)を2人で囲み、「ここはブラシ型触手で……」や「衝撃(インパクト)の瞬間に先端(ヘッド)が回転するのは……」などクッソ不穏当な会話を繰り広げていますね。……こら、そこ! ガッツポーズしない!!

 

 

「ぎゃ、ぎゃおー! たーべちゃーうぞー……!!」

 

「わぁー!」

 

「おにがきたー!」

 

「にげろー!」

 

 

 そんな腐った雰囲気漂う屋内を余所に、収穫を終えた畑では子どもたちが寒さそっちのけで元気に駆け回っています。どうやら今日は鬼ごっこらしく、吸血鬼(ヴァンパイア)っぽい格好をした()()()()()()の少女が恥ずかしさを滲ませた掛け声を上げ、対象を絞らせないよう散らばって逃げるちびっこたちを追いかけ回していますね!

 

 

 

 さて、前回のEDで賢者ちゃんに何やら不穏な台詞を投げかけられていた女の子……視聴神のみなさんのお察し通り原作でいうところの『嵐の名を背負った少女(@ちゃん)』ですが、どうやら我らが超勇者ちゃんに匹敵する才能を秘めているらしく、その可能性は賢者ちゃんが思わず真顔になってしまうほど。信徒に直接言葉を紡ぐことの無い鍛冶神さんの性格もあり此方からの声こそ届かないものの、推しの子に対しての奇跡と加護はまさに昇天ペガサスMAX盛り。これには他の推し活勢も生暖かい笑みを向けていました。

 

 とはいえ、今の彼女――これからの活躍に期待する意味を込めて『英雄雛娘ちゃん』と呼んであげることになりました!――は長年の栄養不足と生活環境の影響で、しっかりと身体が出来上がっていない状態。このまま訓練場に放り込んでも常時トレ失敗確率が2桁%あるようなもんです。

 

 そこで一党(パーティ)の頭脳派が集まり話し合った結果、来春までは食事療法と適度な運動、そして名前以外の文字修得を含めた座学をメインに行い、先ずは土台作りを優先することに決まりました!

 

 

 食事と言えば雑穀粥に屑野菜のシチューというのが当たり前だった英雄雛娘ちゃん。食卓に並ぶ豊富な蛋白源……豚や鶏、魚に目を丸くし、ほんとうに食べて良いのかと周りを窺う姿は小動物めいており、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)からほっこりとした顔で見られていました。あ、昆虫食に関しては集落でも貴重な蛋白源(きちょたん)として行われていたようで、お皿の上にこんもりと山になっている蚕の蛹にも抵抗なく手を伸ばしていましたね!

 

 

 食事療法と並行して行われているのは過酷な集落での労働で歪みを孕んでいる肉体の改善。素振りや走り込みといった本格的な訓練の負荷にまだ身体が耐えられないと教官視点から叢雲狩人さんが判断したため、実際に身体を動かす運動として先程視聴神のみなさんも見ていたような子どもたちとの触れ合い、遊びを通じてゆっくりと基礎作りが行われています。

 

 吸血鬼ママたちからたっくさんちゅーちゅーしていた子どもたちの身体能力は種族的な特徴を含めて非常に高く、英雄雛娘ちゃんも最初はまったく追い付けない日々が続いていました。しかしそこは英雄候補の凄いところ、徐々に追い縋るようになり、()()()()()()()()()()()もあって今ではしっかりと子どもたちをキャプチャー出来るようになりました! 画面では捕まえられた子どもたちが一斉に英雄雛娘ちゃんに飛びかかり、可愛らしいハグの嵐が行われていますね。

 

 

「あーう!」

 

「んー? みんなといっしょにあそびたいの?」

 

「もうすぐ終わりますんで、あとちょっとだけ我慢ですよぉ」

 

 

 お、近くの切り株に腰かけていた白兎猟兵ちゃんの膝の上で、白兎四女ちゃんが羨ましそうな顔でみんなのほうを眺め身を捩らせています……って、あれ?白兎猟兵ちゃんに全身をブラッシングされているみたいですけど、パラパラと散る茶と黒の混じった夏毛の下に見える冬毛は……座っている白兎猟兵ちゃんの背後から同じように夏毛を梳いているパパの髪色とおんなじ黄金です! どうやら吸血鬼侍ちゃんの因子はそこに反映されたみたいですね。いまはまだ首から下がふわふわの毛で覆われてますが、春になればこの子本来の毛の生え方に変わることでしょう!

 

 


 

 

「さ、みんなそろそろベッドに行こうか。パパとママたちにおやすみの挨拶をしたまえよ」

 

「「「「パパ、ママ、おやすみなさ~い!」」」」

 

「「おやすみ~!」」

 

 

 もっとも日の短いこの季節。あったかお風呂で身体の汚れを落とし、日没に合わせて早目の夕食を終えた子どもたちを叢雲狩人さんが寝室へと連れて行きました。寝る子は育つとは良く言ったもので、日を追うごとに成長する子どもたちを見るパパやママ、ひいおばあちゃんの顔には温かな笑みが溢れていますね。

 

 

「――うん、こんなところかな。(エネミー)(トラップ)の配置はこれで決まり」

 

謎掛け(リドル)も複数用意しましたので、挑戦を終えた方から聞き出しても無意味なよう配慮させていただきました」

 

「ふたりとも、おつかれさま! ぎゅ~っ!!」

 

 

 他のみんなが思い思いに寛いでいるリビングでは、卓上に広げた羊皮紙に迷宮(ダンジョン)の構造や障害の配置を書き込んでいた2人がハイタッチし、吸血鬼侍ちゃんがありがとうのハグをしていますね。初心者が安全に楽しめるよう絶妙な難易度で設計された迷宮、大いに盛り上がること間違いなし! ……なにやらウネウネとしたものが羊皮紙のあちこちに書き込まれているのは、きっと目の錯覚でしょう。

 

 

「それじゃヘルルイン、私たちは途中降参(ギブアップ)者や負傷者の対応をすれば良いのね?」

 

「ん! おおけがはしないようなしかけばっかりだけど、なにがおこるかわからないから」

 

「なに、痛くしなければ覚えないという嗜虐神の教えもある。痛みに耐えられぬなら冒険者なぞ成れるわけが無い」

 

「えぇ……? まぁ、痛みに耐えられるというのは立派な特徴ではありますけど……」

 

 

 ほほう、どうやら麗しき森人(エルフ)たち(長耳、闇、クォーター含む)は迷宮案内人(ダンジョンガイド)役を任されたみたいですね! 一般の暮らしでは滅多にお目にかかれない美姫たちの姿に、冒険者志望の若者たちの夢と()()が膨らむ姿が容易に想像できますねぇ。みんなAPP16(一流モデルやアイドル)以上ですし、妖精弓手ちゃんなんてSAN(正気度)チェックギリギリのAPP21(傾国の美女)くらいですからねぇ。……え? ダブル吸血鬼ちゃん? 怪異なのでAPPの能力が存在しないみたいです。神話生物かな???

 

 

 

「さて、子どもたちも寝たことだし……いらっしゃいな」

 

「は、はいっ!」

 

 

 お、ソファーに腰掛けていた女魔法使いちゃんがぽんぽんと隣を手で叩き、英雄雛娘ちゃんを呼び寄せていますね。彼女が頬を赤らめながら隣に腰を下ろしたのを見て、自らの寝間着のボタンを上から順番に外していきます。零れ落ちるように姿を見せたたわわに英雄雛娘ちゃんを抱き寄せ、ゆっくりとその後頭部を撫でながら囁くのは……。

 

 

 

 

 

 

「たくさん食べて、たくさん運動して、たくさん()()()……貴女が望む強さを手に入れなさい?」

 

 

 甘く蕩けるような言葉に顔を胸に埋めたまま頷きを返す英雄雛娘ちゃん。……はい、前述の吸血鬼ママによる手助けとは、英雄雛娘ちゃんへのちゅーちゅーだったんですね!

 

 

 

「――吸血鬼の母乳が子どもたちの肉体成長を促進させたのならば、その子の身体づくりにも良い影響を与えるのでは?」

 

「――ふむ、やってみる価値はありそうね」

 

「えええええ!?」

 

 

 

 闇人女医さんと女魔法使いちゃんの言葉が切っ掛けとなって行われたこの試み。当初は尻込みしていた英雄雛娘ちゃんでしたが、少しずつ増していく力と鬼ごっこでの実感もあり、3人の眷属から生命力をちゅーちゅーする行為に対しての抵抗がだいぶ薄れてきたみたいです。その生い立ちから母性に飢えていたということもあり、たわわに埋まる顔は母親に守護られる幼子のように安心しきったものですね。

 

 

「さ、次は(わたくし)のところへいらして……」

 

「ふふ、強さと優しさを兼ね備えた子になってくださいね」

 

「んちゅ……ふぁい……」

 

 

 女魔法使いちゃんのたわわを堪能した後、令嬢剣士さんに招かれるままふわふわとした足取りで近付き、胸元に顔を摺り寄せる英雄雛娘ちゃん。それを見る剣の乙女ちゃんの顔に慈母のような笑みが浮かんでいます。服の乱れを整えている女魔法使いちゃんの隣に吸血鬼君主ちゃんを抱えた妖精弓手ちゃんが腰を下ろし、ねぎらいの言葉をかけてますね。

 

 

「お疲れ。どう? 未来の妹分の具合は」

 

「素直でとても良い子よ。どっかのスケコマシには勿体無いくらい」

 

 

 そーっとたわわに伸びてきたちっちゃな手をぺしりと叩きながら微笑む女魔法使いちゃん。吸血鬼君主ちゃんを妖精弓手ちゃんごと抱き寄せ、優しく頭を撫でています。

 

 

「そんな情けない顔しないの。ほら、もうすぐアンタの出番でしょ?」

 

「あったく、あんな幼い()にするなんて……シルマリルってばホントに鬼畜よねぇ?」

 

「えう……」

 

「……ぷぁっ。ま、マスターは悪くないです。無理を言ってるのはわたし、ですから……」

 

 

 前後を異なる感触に挟まれながら項垂れる吸血鬼君主ちゃんを見て剣の乙女ちゃんのたわわから顔を離して声を上げる英雄雛娘ちゃん。剣の乙女ちゃんにくるりと向きを変えられ、背後から抱きしめられた体勢で言葉を続けます。

 

 

「も、もう……大切な人が傷つくのを黙って見ているしかない自分では居たくありません……。だから、強くなれるんだったら……そのためならなんでも……むぎゅっ!?」

 

「ダメですよ。女の子が簡単になんでもなんて言ってはいけません」

 

 

 あ、スッと伸びてきた白い繊手に口を塞がれ、英雄雛娘ちゃんが目を白黒させてます。口を封じた張本人である剣の乙女ちゃんが「めっ!」って顔をしてますね。

 

 

「いたずらに強さだけを求めていては、いつか自分の芯を見失ってしまいます。そうならないためにも、人との繋がり……絆は大切にしなければなりませんよ?」

 

 

 そう、その通り。ダブル吸血鬼ちゃんが祈る者(プレイヤー)となり人間社会に受け入れてもらえたのは、人との繋がりを大切にしたからに他なりません。そうでなければゴブリンと同じ人を利用して生存、繁殖する悍ましき怪物として滅ぼされていたかもしれません。

 

 

「強くなりたいっていう貴女の願いを否定するつもりは無いし、叶えてあげたいと思うわ。だからこそ、自分を大切にして?」

 

「……はいっ!」

 

 

 妖精弓手ちゃんからの言葉に強く返事をする英雄雛娘ちゃん。しかしその顔は続く「それじゃ、早速シルマリルに注いでもらいましょ!」という言葉によってあっという間に崩れてしまいました。

 

 

「眷属化に失敗しないよう心身の強度を上げるためにするんだから、そりゃ肉体改造にもなるわよねぇ」

 

「そんな不安そうな顔しなくてもだいじょーぶ! 私たちが手伝ってあげるし、ちょっぴり痛いのは最初だけだから!!」

 

「その、とても丁寧に扱ってくれますし、上手ですので心配は無用ですわ」

 

 

 三者三葉の言葉に顔を真っ赤に染め、グルグルお目目の英雄雛娘ちゃん。トドメとなったのは、彼女に狂おしいほど柔らかな感触を与えている剣の乙女ちゃんによる耳元への囁きでした……。

 

 

 

「甘く、脳髄まで蕩けてしまうほどの充足感と幸福感……一度味わったらもう戻れませんよ?」

 

 

 

 思考と排熱が追い付かず目を回してしまった英雄雛娘ちゃんを優しく抱き上げ、二階へ続く階段を上る剣の乙女ちゃん。吸血鬼君主ちゃんの首根っこを引っ掴んだ妖精弓手ちゃんがその後を追いかけ、一党(パーティ)の面々が卑猥なハンドサインで送り出してしばし。ギシギシと何かが軋む音とともに微かに聞こえてきたのは……。

 

 

 

「ふわぁ…これがマスターの……」

「なかなかご立派な魔剣でしょ? これで何人もの女の子を泣かせてきたんだから」

「えう……」

「うふふ……まだ本番は早いので、今日は此方で頑張ってみましょうね」

 

 

 

「ん……両手で刀身を撫でながら、切先を……はむ……」

「上手上手! ほら、シルマリルの顔がどんどん可愛くなってるわよ?」

「焦らず、ゆっくりで大丈夫。……そのほうがお好きですものね?」

「おあ~……」

 

 

 

「いいなぁ……」

 

「なーに羨ましがってるの。今回の案件が終わったら次はそっちの眷属化でしょうに」

 

「え、なにそれ聞いてない」

 

「……あの馬鹿、本人に伝え忘れるんじゃないわよまったく」

 

 

 天井を見上げて指を咥える妖術師さんに呆れた様子でツッコミを入れる女魔法使いちゃん。妖術師さんから返ってきた予想外のリアクションに違った意味で頭を抱えちゃってますね。

 

 

「そっかー・・・・・・ついに私も……ふへへ……」

 

「おや、随分と嬉しそうだな? 失敗して喰屍鬼(グール)に成り果てる可能性もあると聞いていたのだが」

 

「ん? いや、その時はサクッと滅ぼして貰うつもり。それに上手くいけば知識の探求に費やせる時間が永遠に等しく伸びるかもしれないんだよ? だったら試さない理由はないよね?」

 

 

 両手を頬に沿え、クネクネと身体をくねらす妖術師さんに奇妙な生物を見るような眼を向けていた闇人女医さんですが、返ってきた言葉に肩を震わせ始め、やがて堪え切れずにクスクスと笑いだしました。

 

 

「――っは。常識人気取りかと思っていたが、やはり貴様も此方側の人でなしだな。いいさ、もし喰屍鬼(グール)に成ったら私が飼ってやろう。良い実験体になりそうだ」

 

「えぇーっ!? 『私の手でぬか喜びの野に送ってやる』くらい言ってくれないの!?」

 

「……そこはせめて『大喜びの野』辺りにしておきませんの?」

 

 

 襟首を捕まれガクガクと揺さぶられながらも笑いを止めない闇人女医さん。妖術師さんも知識神さんが推しにするくらいにはアレな性格だったんだなぁ……。あと、頭の螺子の外れた面子に紛れてますが、こっそり令嬢剣士さんも愉快なこと言ってます。ひょっとして『喜びの野』という概念は四方世界にも流布しているんですかねぇ。

 

 

「まったく随分と賑やかになったものね。……これで私たちが子どもを授かったりしたら、さらに五月蠅くなるのよねぇ」

 

「でも、みんなえがお! ぼくもあのこも、こんなかぞくがほしかったの!! ……もしかして、いや?」

 

 

 子どもたちが防音完備の大寝室で寝てるのを良いことに大騒ぎな大人たちを半目で眺める女魔法使いちゃん。その腰に抱き着き不安そうな表情で見上げる吸血鬼侍ちゃんでしたが、優しく胸元に抱き締められトロンとした表情に。幸せそうに目を細めるもう1人の想い人に、そっと彼女が呟いたのは……。

 

 

「まぁ、嫌いじゃないわよ。アイツとあなたがいて、血と絆で結ばれた家族がいる。……だから、ちゃんと最期まで、私たち血族(かぞく)を愛してくれる?」

 

「ん~? もちろん! ぼくもあのこも、もしせかいがぜ~んぶてきになったとしても、かぞくはかならずまもるから!! だから、ずっとぼくたちのそばにいてほしいな? ……んちゅ」

 

 

 自身に満ちた顔でキッパリと言い切り、女魔法使いちゃんの唇を奪う吸血鬼侍ちゃん。不意の一撃に呆気に取られていた女魔法使いちゃんでしたが、あなたもエロガキみたいなことするんじゃないのと苦笑してますね。2人のいちゃつきに辛抱堪らなくなった若草知恵者ちゃんがソファーにダイビングしてきたところで、夜の家族計画を覗くのは地母神さんにお任せしちゃいますね!

 

 


 

 

「――ね、ねぇ。ホントにこれから会わなきゃいけないの?」

 

「まったく、昨日から何度も同じ事言わせないで頂戴。いい加減腹を括りなさいよ」

 

 

 さて、場面は変わりまして現在は冬至(ユール)のお祭り前日。朝から挙動不審な妖術師さんを女魔法使いちゃんが説得(物理)で黙らせようと自慢の拳を握りしめていますね。

 

 本番前日ということで英気を養うつもりだった一行。しかし昨日のおゆはんの席でダブル吸血鬼ちゃんが漏らした言葉によって、約束された勝利の休憩タイムはあっけなく崩壊してしまいました。

 

 

「そうそう、あしたのあさへいかがあそびにくるからね!」

 

「めいきゅうたんけんきょうぎのしさつで、ぎるどのえらいひとといっしょにくるって!」

 

 

 サプライズにしては相手がVIP過ぎるんだよなぁ……。≪死王(ダンジョンマスター)≫の呪文で建てられたとはいえ、生活感溢れる屋敷に陛下を招いては大問題。慌てて掃除や調度品の準備を行うとともに、2000歳児と森人(エロフ)の姉のほうが散らかした衣類や夜戦に使う予定の際どい下着なんかを吸血鬼君主ちゃんのインベントリーに纏めて放り込む突貫作業によって、なんとか体裁を整えることが出来たみたいです。

 

 

「……流石にちょっと狭いわね。ってか集まり過ぎじゃないかしら?」

 

「おはなしするばしょはちゃんとよういするからだいじょうぶ!」

 

「みんなでへいかをびっくりさせちゃおうね!」

 

 

 女魔法使いちゃんのぼやき通り、≪転移≫の鏡が置かれているリビングにはダブル吸血鬼ちゃん一家の他にもたくさんの人が集まっています。種族や生い立ち、社会的立場もバラバラですが、みんなダブル吸血鬼ちゃんを通じた縁で繋がった人たちですね!

 

 

「ふわぁ……こんな朝っぱらから集まってよぉ……別にテメェだけでも良かったんじゃ……」

 

「知らん。俺に聞くな」

 

「そりゃアレだ、俺ら金等級だろ? 国付きの冒険者なんだからこういう時には呼ばれるもんだ」

 

 

 まずは辺境三勇士であるゴブスレさんたちHFOの3人と彼らの奥さん、それにみんなの子どもたちが勢揃い。はじめてのおめかしにテンションMAXな子どもたちはダブル吸血鬼ちゃん一党のキッズと互いに可愛らしい衣装を見せあいっこしてます!

 

 

「成程、こうやって次代を担う冒険者が絆を深めるというわけですな」

 

「そうだな。いずれはこの子も彼らと友誼を結ぶ時が来るだろう」

 

 

 天井に頭がぶつからぬよう若干前屈みな蜥蜴僧侶さんの隣には、スヤスヤと寝息を立てる竜眼少女ちゃんを抱く女将軍さんの姿が。吸血鬼君主ちゃんの奇跡で再生した生身の腕でそっと愛娘の頬を撫でる顔には幸せが満ちていますね。

 

 

「チッ、なんで俺まで……」

 

「鱗のと金床が顔を出しとるんだ。鉱人(ドワーフ)も出張らにゃ面子が立たねぇだろうが」

 

 

 こちらは若干不機嫌な隻眼鍛冶師さんを鉱人道士さんが宥めています。どうやら朝まで鉄を打っていて、さぁ寝るかというところで引っ張り出されちゃったみたいですねぇ。眠気覚ましに度数の高い火酒を煽りながら表面が波打ってきた≪転移≫の鏡を眺めています。……お、向こう側の景色が浮かび上がって来ました! さて、最初に飛び出してくるのは……。

 

 

 

「イェーイ! ボク一番乗り……わわっ!? 可愛い子がいっぱいだぁ!!」

 

「朝から五月蠅くて済まない。お邪魔する」

 

「ほら、後ろがつかえているので早く出るのです」

 

 

 まず現れたのは我らが勇者ちゃん一行。子どもたちを目にした勇者ちゃんが瞳に☆を浮かべ、右腕に牧場の双子ちゃんを、左腕に太眉長女ちゃんと泣き黒子長男くんをいっぺんに抱きしめちゃってます。剣聖さんがペコリと頭を下げた際にたわわがたゆんと揺れるのを見た星風長女ちゃんがあざとい笑顔を浮かべながらお山に向かって吶喊、妖精弓手ちゃんの繰り出した溜息付きのアイアンクローで無事?捕獲に成功しましたね。

 

 

 続いて現れたのは2人の女性。片手にスキットルを持った小柄で存在感の薄い銀髪の女性は毎度お馴染み銀髪侍女さんですが、隣の背の高いスーツ姿の女性は初対面でしょうか。……おや? 彼女を見た牧場夫妻が驚きの表情を浮かべています。2人に気付いた女性は涼やかな笑みとともに夫妻へと歩み寄って行きます。

 

 

「久しぶりですね。……結婚、おめでとうございます」

 

「ひゃ、ひゃい!? ありがとうございます!」

 

「……(ペコリ)」

 

 

 彼女からの祝福の言葉に若干上ずった声で礼を言う牛飼若奥さん。その隣のゴブスレさんは……おお、なんと珍しい! 相手が陛下だろうと態度を変えないゴブスレさんが心持ち背筋を正してお辞儀をしています!! やっぱり昇級審査を担当してくれた彼女……査察官さんは、彼にとって新()さん……孤電の術士(アークメイジ)さん同様ある意味特別な人なのかもしれませんね。

 

 2人への挨拶を終えた査察官さんですが……おや? そのままダブル吸血鬼ちゃんへと近付き、目線を合わせるようにしゃがんで手招きをしています。彼女が姿を現した瞬間女魔法使いちゃんの後ろに隠れていた2人ですが、おずおずと影から出て来ましたね。どこか不安そうに手を伸ばしてきた2人を力強く抱き寄せ、ポンポンと後頭部を優しく撫でています。

 

 

「――あなたとは『はじめまして』ですね?」

 

「うん。あのころはまだはんぶんねむってるみたいで、ずっとかべをへだてたばしょからみてたかんじだから……」

 

 

  吸血鬼君主ちゃんにむける片側だけの視線はとても柔らかく、受付嬢さんや監督官さんが見たら腰を抜かしてしまうほどの優しさに満ちています。躊躇いがちに抱き返す吸血鬼君主ちゃんに頬擦りをした後、顔を向けるのは……。

 

 

「――あなたとは『また会いましたね』なのですが……覚えていますか?」

 

「……うん。しのめいきゅうにいったときにおもいだしたの。……あの、そのみぎめ……」

 

 

 壊れ物に触れるように手を伸ばし、査察官さんの右半面を覆う髪をそっと払う吸血鬼侍ちゃん。原作では瞳孔の無い右目と傷跡の残る顔でしたが――。

 

 

「――ええ。()()()()()()()()()()()()()()()。あの時のままです」

 

 

 ――そこに見えるのは傷一つない顔と、眼球の無い落ち窪んだ眼窩。どうやら吸血鬼侍ちゃんとは浅からぬ因縁があるみたいですね……。

 

 

 

「ちょっと、ヘルルインがやったって、それどういう……!?」

 

「私とこの子の関係は、この後の話の中で判ります。……上の森人(ハイエルフ)の姫、どうか今暫くお待ち頂きたい」

 

「……判った。でも、ちゃんと本当のことを話してよね?」

 

 

 聞き捨てならないと食って掛かる妖精弓手ちゃんを手で制し、深々と頭を下げる査察官さん。彼女の胸元から見上げるダブル吸血鬼ちゃんの無言のお願いもあってこの場での追及は止めてくれたみたいですね。新たに鏡に浮かび上がってきた人影に視線を向けながら、落ち着かない様子でトントンと爪先で床を叩いています。

 

 

「んで? あと何人でおしまいなの?」

 

「残るは本命だけだよお姫様。真打は最後に登場するのがお約束というものだろう?」

 

 

 妖精弓手ちゃんの呟きに律儀に言葉を返す銀髪侍女さん。彼女の言葉が終わると同時、鏡から3人の人影が……!?

 

 

 

 

 

 

 ――まず現れたのは獅子の如き豪奢な金髪の偉丈夫。

 

 しなやかさと逞しさを兼ね備えた肉体を煌めきを放つ衣(ラメ入り全身タイツ)に包み、頭部には特徴的な兜を模した頭巾(被り物)。誰もが声を失う中、若干くぐもった良い声で上げた名乗りは……。

 

 

 

「待たせたな諸君! 貧乏貴族の三男坊にして、みんなの英雄(ヒーロー)『金剛石の騎士』参上!! ……決して頭脳明晰で武勇絶倫な国王陛下では無いので間違えてはならんぞ?」

 

 

 

 ――続いて現れたのは2人の少女。ある一点を除き鏡写しのような背丈と顔立ちですが、その服装は大きく異なっています。

 

 一部が豊満な少女は肩を大きく露出させた法衣に身を包み、首には黄金の輝きを放つ太陽神さんの聖印(メダル)。腰に帯びたガンベルトから抜いたクッソヤバい(悲しみと炎の)オーラを放つ短筒(光線銃)をビシッと構え、すがすがしいまでのドヤ顔とともに上げた名乗りは……。

 

 

「同じく、貧乏貴族の三男坊の妹()()()にして、太陽の教えに導かれし神官銃士参上!! ……もちろん可憐さと清純さを兼ね備えた麗しき王妹殿下とは別人だからね?」

 

 

 

 そして一部が残念でなんだか見覚えのある少女。デザインこそ今までと然程変わらないもののずっと高品質になった法衣と、魔法の力を帯びた装飾品(アクセサリー)を全身に装備した何処に出しても恥ずかしくない大神官。一行から向けられる可哀そうな人を見る目に死んだ魚のような瞳で応じ、もうどうにでもな~れ!というヤケクソなノリで上げた名乗りは……。

 

 

 

「――貧乏貴族の三男坊の妹()()()にして、地母神様の教えに従い人々の安寧を守護(まも)る美少女神官参上!! ……私は決して吸血鬼殺し(ヴァンパイアスレイヤー)ではありません。これだけははっきりと真実を伝えたかった」

 

 

 

 なんだこれは……たまげたなぁ……。赤毛の枢機卿に自慢の鎧を取り上げられたために簡易KODちゃん姿で登場した陛下を始め、3人とも良い感じにダメになってますね。(精神的ストレスが)たまってる……ってやつなのかな? ……って、今サラッと女神官ちゃん凄いこと言ってませんでしたか?

 

 

「あの、陛下? 疲れてるんならこんなとこ来てないで可愛いお嫁さんに癒して貰ったらどうですか?? それに執務はどうしたんですか???」

 

「うむ、妃なら余の自慢の将軍たちの妻と昨夜パジャマパーティーを楽しんでいたので早朝から起こしてはいかんと思ってな。執務は宰相と枢機卿に丸投げしてきた、1日2日であれば余が居なくとも問題無かろう。それにだ……」

 

 

 一早く再起動した女魔法使いちゃんツッコミに律儀に返答する陛下。もう隠す気はサラサラ無いんですね。赤毛の枢機卿が短刀(包丁)片手に冷静さを欠こうとしている姿が目に浮かびます。銀髪侍女さんが差し出す上着を羽織り一行へと向き直った陛下の顔には先程までのふざけた空気は微塵も残っておらず、息抜きや遊びで訪れたわけでは無いことを無言で語っています。

 

 過去を振り返るように瞑目した後、陛下が視線を向けた先はダブル吸血鬼ちゃん。どこか絞り出すように紡がれた、先程途中で言い淀んでいた言葉の続きは……。

 

 

 

 

 

 

「我らが父にして先の国王、そして『死』を恐れるがあまり『死』に囚われてしまった哀れな男。自らを吸血鬼(ヴァンパイア)とするために多くの民を供物にし、己が妻すら生贄に捧げた大罪人。彼奴を王国の歴史から抹消するために『死の迷宮の吸血鬼(ヴァンパイアロード)』という虚像(ウソ)を創り出し、犠牲となった哀れな幼子へと押し付けた余の罪。……卿らが記憶を取り戻した今こそ、皆に真実を伝えるべき時なのだ」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 16巻でまたプロットが爆破されそうなので失踪します。

 ご感想いつもありがとうございます。いただいた感想から次のシナリオが生まれたり
思わぬ展開へと繋がったりするので、お時間がありましたら書き込んで頂けると幸いです。

 お気に入り登録や評価もお待ちしておりますので、よろしければお願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。


 



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セッションその16-2


 最新刊の匂い立つWiz臭に歓喜していたので初投稿です。


 ※いつにもまして残酷な描写、R17.9な表現が多いため、読まれる際にはその旨ご承知おきください。


 

 ……ハッ!? もしかしてもう配信始まってます?

 

 コホン、お待たせしました。前回、陛下が厄さマシマシな台詞を紡いだところから再開です。

 

 

「――ソレは、いったイ、どういう意味でしょうカ?」

 

 

 陛下からの突然の告白に理解が追い付かず呆然とする一行。ダブル吸血鬼ちゃんに両袖をクイクイされて女魔法使いちゃんが一早く再起動したみたいです。必死に感情を制御しようとしているようですが、いつぞやの元屑冒険者(福本モブ)新鮮な屍人(フレッシュゾンビ)解体(バラ)した時のように、瞳を攻撃色に染めガチガチと歯を鳴らし始めちゃってますね……。

 

 

「あのね、ここだとちょっとせまいからいどうしてもいい?」

 

「だれにもじゃまされずにおはなしできるばしょがあるの!」

 

「……いいわ。そっちの訳アリっぽいお姉さんについても一緒に話して貰うわよ?」

 

 

 ふぅ、左右からステレオで説得された女魔法使いちゃんがゆっくりと陛下から視線を外しましたね。……よく見たら吸血鬼君主ちゃんが抑えていた右腕の杭打ち機(パイルハンマー)引き金(トリガー)に指が掛かっています。まさに一触即発だったみたいですね……。

 

 

 

「あ、おはよう! 朝からお客様が大勢ねぇ」

 

 

 未だに瞳を煌々と輝かせている女魔法使いちゃんを森人義姉妹(エルフしまい)に預け、みんなを家の外へと連れ出したダブル吸血鬼ちゃん。外ではツヤツヤお肌の新進農婦さんが目覚まし代わりに演舞を行っていますね。肌を刺す朝の寒さもなんのその、ノースリーブのインナー姿で躍動する肢体は実に健康的且つエロいです。

 

 

「えっと、みんなでおでかけするから、こどもたちをみててほしいんだけど、いいかな?」

 

「ん、大丈夫よ。今日はお休みを頂いてるし、()()()()()()()()()()()()()アイツも昼間で起きてこないもの」

 

 

 ほら、みんなおいでー!という新進農婦さんの呼びかけに一斉に群がる子どもたち。真っ先にたわわに突撃して顔を埋める星風長女ちゃんに苦笑しつつ、スヤスヤと寝ている白兎四女ちゃんと竜眼少女ちゃんをママから預かっています。おゆはんまでには帰ってくるから~!というダブル吸血鬼ちゃんの声から察するに、そんなに遠出するわけでは無さそうですね。

 

 

 子どもたちに見送られながら出発した一行。向かった先は……あれ? おうちの裏庭ですね。令嬢剣士さんの相棒であるイボイノシシ(ワートホグ)の小屋を作ろうとしていたのですが、手乗りサイズになれることが判明したために整地した段階で中止。子どもたちのどろんこ遊び用に土が剥き出しになっている場所ですけども……。

 

 

「まんなかのあたりでいいかな~?」

 

「そうだね、まんいち()()()()()()()()()()たいへん!」

 

 

 綺麗に草が刈り取られ、丸く土が露出した地面の中心に近付くダブル吸血鬼ちゃん。みんなが見守る中、吸血鬼君主ちゃんがインベントリーから取り出したのは……。

 

 

「……薪?」

 

「うわぁ、師匠それまさか……!?」

 

「ふふ、みんなで沢山拾い集めましたものね」

 

 

 袖口から零れるように取り出されたのは女魔法使いちゃんの言うように薪にも見える白い棒状の何か。カラカラと音をたてながらどんどんと量が増し、大人が一抱えで持てるくらいになったところでダブル吸血鬼ちゃんが楽しそうに積み上げているそれを見た妖術師さんの顔が面白いように引き攣ってます。若草知恵者ちゃんが頬に手を当てながらニコニコしてるということは、彼女はブツの正体を知っているということでしょうか?

 

 やり遂げた顔で手招きをする2人に近付く一行。山から崩れ落ちていた小さな欠片を拾い上げた剣の乙女ちゃんの表情が驚きに変わりました。どうやら欠片が持つ微量な()()()()からその正体に辿り着いたみたいですね。

 

 

「これは、アンデッドの骨……?」

 

「せいか~い!!」

 

「ワイトキングやそのトークンをやっつけたときにあつめてたの!」

 

 

 ああ、そういえば各地で拾い集めてましたっけ。てっきり死霊術の触媒に使うものだとばっかり……いや、一度アンデッドになった存在は再び死霊術で操ることは出来ないんでしたっけ。そうすると、最初から使い方は決まっていってこと……?

 

 

「卿ら、準備は良さそうだな。……では、アレを2人に」

 

 

 お、陛下の呼びかけに賢者ちゃんが頷きを返してダブル吸血鬼ちゃんに近寄っていきます。四次元ポシェットに手を突っ込み、ズルリと取り出したのは1本の長剣。およそ実用的とは思えない()()()()()()で、火の粉のようにチラチラと魔力が漏れていますが……って。もしかしてその剣!?

 

 

「では、2人の魔力と意思を剣に込め、その力を解放するのです」

 

「「うん! ……いっせ~の、せっ!!」」

 

 

 賢者ちゃんの言葉を受け、2人掛かりで逆手に持った長剣を勢いよく()()()()()へと突き立てるダブル吸血鬼ちゃん。その瞬間、周囲を霧にも似た光が包み込みました! その粘性の高い光はどんどんと広がり、驚きで動けないみんなを飲み込んでいき……。

 

 

 

 ……

 

 

 

 …………

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 ……あの、すいませんGM神さん。みんな何処に消えちゃったんです?

 

 ただいま全力で捜索中? ってことは四方世界には居ないんですか!?

 

 ま、まさか次元の彼方に消えちゃったとかそういうことは……え、見つかった!?

 

 ふぅ~。よ、良かったぁ……! まさかこんな形で実況プレイ完!は流石に勘弁して欲しいですから!!

 

 それじゃすぐに座標を送って、撮影担当の無貌の神(N子)さんに向かってもらいましょう!

 

 


 

 

「……ん。あれ、此処は……?」

 

「朽ちた、祭祀場のようですが……」

 

 

 ――お、映像が来ましたね! 一行が転移したのは古い祭祀場の跡地みたいです。階段のような構造物が同心円状に遺り、見下ろす中心には牧場に設置したものと同じ篝火。すり鉢状の建造物の各所にみんなが呆然と立っています。

 

 

「――此処は『何処でもない場所』。『裏世界(アナザーワールド)』や『理想郷(アヴァロン)』、『妖精の隠れ里(フェアリーガーデン)』や『箱庭宇宙(ポケットユニヴァース)』などと呼ばれることもある、我々が生活している四方世界とは異なる法則で運営されている異界なのです。今回のものは呪物を媒介に、2人の力を使って生み出された一時的なものなのです」

 

「≪死王(ダンジョンマスター)≫の呪文と似たようなものか」

 

 

 ゴブスレさんの呟きに大体そんな認識で良いのですと応じる賢者ちゃん。その言葉を聞いて、周囲を警戒していた一行にも安堵の表情が浮かんでいますね。星ひとつ無い暗く重苦しい空の下でめいめいが適当な場所に腰を下ろすのを見て、祭祀場の中心にある篝火の傍へと歩み出た銀髪侍女さんが懐から取り出したのは、例の決闘騒ぎの時に空中に映像を投影していた宝玉でしょうか?

 

 

「――さて、百聞は一見に如かずという。今からみんなに観てもらうのはこの王国の消された真実であり、私や陛下、そして彼女たち2人の知る光景を繋ぎ合わせた記憶を映像にしたものだ。……かなり衝撃的なものだから、観ないという選択は十分アリだと思うよ?」

 

 

 そこまで言うと言葉を区切り、一行をぐるりと見回す銀髪侍女さん。その顔に浮かぶ表情は憐憫、そして悔悟の色です。バラバラに頷きを返す一行に席を立つ意思が無いのを確認すると、手に持つ宝玉へと魔力を流し、起動させました。

 

 

「途中で言いたいことや問い質したいことが出ると思うけど、どうか最後まで観て欲しい。そして……願わくば、全てを知った後、それでも王国に、秩序の勢力に絶望しないことを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Now Loading...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Not Skip Movie――

 

 

 

 

 

 

「――ふふ、なんだか変な感じですね。自分よりも年上の息子がいるなんて」

 

 

 暗い空をスクリーン代わりに投影された映像。最初に映ったのはまだ10代半ばほどに見える1人の少女。慈愛と知性を秘めた瞳にゆるふわな金髪と明るい口調、その容姿は女神官ちゃん、そして王妹殿下と良く似ていますね。一人称視点の映像に驚く一行、最初に言葉を発したのは金髪の陛下です。

 

 

「先王……当時に合わせて以後は王と呼ぶが、奴が先妻である王妃を無くした後、門閥貴族たちはこぞって一門の子女をその後釜に収めんと蠢いていた。政治が腐敗し、腐り墜ちる寸前の王国とはいえ未だに王の力は絶対。縁戚関係になることで自らも権勢を振るわんと思うのは当然だろう」

 

 

 吐き捨てるように過去を語る陛下。幼少時から門閥貴族の在り様を見続けてきた彼だからこそ、王国の腐敗を取り除く決意を早々と固めていたのかもしれません。

 

 

「密約や裏切り、暗殺が縦横に糸を張り巡らせる陰謀劇が繰り広げられ、上級貴族の一門の女が後妻として王妃となった。だが、王がその偏愛を向けたのはとある下級貴族の長姉だった。王が側室として娶り、後に余の妹()()を孕むこの女性こそ、王国全体を巻き込んだ災渦の中心(Heart of the Maelstrom)にいた者なのだ」

 

 

 ははぁ、じゃあこの女の子―知識神さんがくれた資料によれば後に爵位を賜り伯爵夫人になるみたいなので以後はそう呼ぶことにしましょうか―が王妹殿下と女神官ちゃんのお母さんなんですね……って、どうやらこの物語(キャンペーン)では女神官ちゃんはロストロイヤルで確定なのかー……。

 

 

「王の寵愛を娘が受けるのは、貴族にとって栄誉であると同時に厄介なことでもある。他の貴族からのやっかみを受けることもあれば、露骨にすり寄ってくる輩も増えるのでな。彼女の父親は王宮という魔窟に娘を嫁がせるにあたり、傍仕えとして1人の侍女を一緒に送り出した。幼少時から遊び相手として宛がわれ、主従の関係を超えた繋がりを持つに至ったその少女が……」

 

 

 陛下の言葉に反応したかのように視点は伯爵夫人の横へと動き、その後さらに()()()()()。そこに映っているのは……

 

 

「えへへ……これから()しくお()()します!」

 

 

 

 

 

 

「嘘……アレ、どうみたって……っ!?」

 

 

 主の胸元までしかない身長に細く華奢な肢体をお仕着せに包み、太陽のように明るい笑顔で笑う圃人(レーア)の少女。おでこ全開の可愛らしい髪型と金髪に艶が有るか否かの違いこそありますが、特徴的な三白眼は見間違えようが無いほどに吸血鬼君主ちゃんにそっくりです。

 

 膝上に座る吸血鬼君主ちゃんに問いかけるような視線を向けた妖精弓手ちゃんでしたが、伯爵夫人さんを見て涙を流す彼女の表情に言葉を失いただギュッと抱きしめるばかり。篝火を挟んだ反対に目をやれば、吸血鬼侍ちゃんも叢雲狩人さんに抱きしめられながら無言で涙を流しているのが見えますね……お、どうやら視点が違う人物に切り替わるみたいです。一瞬の映像の乱れの後、映し出されたのは……。

 

 

 

「――大丈夫? やっぱりまだ身体に対する負担が大きすぎるんじゃ……」

 

「でも、陛下の寵愛を受け止め、世継ぎを産むことが側室の役目だもの。心配しないで? 私は大丈夫だから……」

 

 

 ふむ、どうやら圃人侍女ちゃんの視点みたいですね。青白い顔で寝台(ベッド)に横たわる伯爵夫人さんが画面いっぱいに映し出されています。心身の疲労が激しいのでしょうか、寝台(ベッド)横に置かれた机の上の食事は僅かに手を付けられた程度で、とても必要な量を食べたとは思えません。

 

 

「――王の伯爵夫人に対する入れ込みは常軌を逸していた。以前より漁色家の気はあったのだが、その欲望が1人に向けられた結果、正妻や他の側室たちの不満は高まり、彼女に対する嫌がらせは増す一方であったらしい。夜の務めと他の女たちからの憎悪……彼女が潰れずにいられたのは侍女の綱渡り的な立ち回りがあったからだ」

 

 

 うむむ、正妻からすれば自分こそ王の子を産むのに相応しいと思っているでしょうし、他の側室たちも王の寵愛を失えば実家の権勢が失われてしまいます。王宮で生き残るのに必死ならば伯爵夫人に対する攻撃は激しいものであったと考えられますね。映像では俯いていた圃人侍女ちゃんの顔が伯爵夫人さんによって持ち上げられ、少しずつ彼女の顔が近付いていますが……え、もしかして……!?

 

 

「ごめんね。僕がもっと上手くやれれば君にこんな辛い思いはさせずに……んむっ!?」

 

 

 うわ、うわわ……!? 画面いっぱいに広がる伯爵夫人さんの頬を染めた顔と絶えることなく響く湿った音。視点はそのまま女神官ちゃんと王妹殿下の中間位のたわわに吸い込まれ、祭祀場跡には伯爵夫人さんの甘い吐息が響いています……。

 

 

「貴女が傍に居てくれさえすれば、私はどんなことがあっても耐えられます。だから、ずっと一緒に……」

 

 

 

 

 

 

「「あわわわわ……!?」」

 

「「はぇ~すっごい大胆……」」

 

 

 まるで家族と茶の間でドラマを見ていたらいきなり濡れ場になった時の少年みたいに慌てる妖術師さんと英雄雛娘ちゃんに、自分と同じ顔をした少女の蕩けた顔を眼前に翳した両手の指の隙間からガン見する推定娘の2人。まるで王都で大人気な淑女草紙(レディコミ)の一幕のような展開に、他の面々は生暖かい笑みをダブル吸血鬼ちゃんへと向けています。

 

 

「幼少期から長い時間を共に過ごし、主従を超えた関係を育んできた2人。お互いしか頼れる相手がいない環境で何も起きない筈はなく……といったところかな」

 

「シルマリルねぇ……ホントにねぇ……っ」

 

 

 銀髪侍女さんのニヤニヤ笑いをバックに吸血鬼君主ちゃんのほっぺをむに~と引っ張る妖精弓手ちゃん。三つ子の魂百までとは言いますが、アンデッドに成る前からこんなんだったんですねぇ。いつもと変わらない雰囲気に一息入れる一行。しかし、笑うのをやめ真剣な眼差しになった銀髪侍女さんの言葉が場の空気を重苦しいものへと変えていきます。

 

 

「さぁ、ほんの小さな幸福の場面(シーン)は此処まで。この先は延々と続く人の悪意に満ち満ちた悲劇ばかり。……覚悟はいいかい?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()で宝玉を操作し、映像を再開させる銀髪侍女さん。流れ始めたのは僅かに膨らんだお腹に手を添え、安楽椅子に腰掛ける伯爵夫人さんを見る圃人侍女ちゃんの視点みたいですね。子を宿したことで過酷な夜の務めは終わり、血色もかなり良くなっているみたいですが……。

 

 

「寵姫が孕んだことで嫉妬の炎に焼かれ、直接手段に出ようとした正妻とその家が見せしめに潰された後、側室たちの嫌がらせも止み2人には束の間の平穏が齎された。だが、王は気付いていた。自らが抱く寵姫の愛は自分には向けられておらず、夜ごとの交わりが彼女にとってただの義務でしか無いということに、な」

 

 

 陛下の憎々し気な声とともに、映像では王の付き人に呼ばれた圃人侍女ちゃんが何処かへと連れられている映像が流れています。能面のように無表情な付き人に通された場所は薄暗い寝所。突き飛ばされるように部屋の中に入れられ、背後の扉がガチリと施錠される音が響きました。キョロキョロと不安げに視点が部屋中を彷徨う中、豪奢な寝台(ベッド)のほうから人影が近寄って来ます……。

 

 

「ヒッ!?」

 

 

 圃人侍女ちゃんが出掛かった悲鳴を噛み殺しながら見る先に居たのは、かつて偉大な王であったことを感じさせぬほどに変わり果てた男の姿。戦場を縦横無尽に駆けていた体躯は加齢とともに弛み、獅子の如きと謳われた瞳は酷く落ち窪んでいます。その洞に灯る光は、嫉妬と憎悪の入り混じった見る者に強い嫌悪感を与える悍ましい輝きを放っています。

 

 

「我が寵姫の周囲を騒々しく駆け回り、その心を乱す地べた摺り(ロードランナー)め。貴様のような塵芥(ゴミ)が、あの者に愛を注がれるなど……」

 

 腰を抜かして動けない圃人侍女ちゃんの襟首を掴んで寝台(ベッド)へと放り投げ、仰向けの彼女のお仕着せを乱暴に剥ぎ取る姿はただの暴漢にしか見えません。自らも乱雑に服を脱ぎ捨てた王の裸体が視界いっぱいに広がった後……。

 

 

 

 

 

 

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「痛い痛い痛い痛い痛い!!」

 

「おごっ、うっぶ、うげぇぇぇ!?」

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアア!?!?」

 

 

 

「ぎぃ……あ……う……」

 

 

 

 

 

 

 

 涙で滲む映像。響く悲痛な叫び、激しく揺れ動く視点。生々しい肉のぶつかり合う音に女性たちが顔を青褪めさせ、何人かは口元を抑え蹲ってしまっています……。男女の交わりと呼ぶにはあまりにも惨たらしいソレは、互いを尊重し愛を育む一行にとって信じられない光景でしょう。

 

 

「なんつー酷ぇことしやがる……っ」

 

「――奴にとっては寵姫の愛を横取りする侍女など、憂さ晴らしと性欲処理を兼ねた玩具程度の認識だったのだろう。この日から、侍女は昼夜問わず奴の呼び出しによって拷問じみた責め苦を味わい続けることになる。……余とその仲間が混沌の勢力の攻勢に拘束されていなければ、気付いてやれたかもしれぬ……」

 

 

 悔悟の念強く首を振る陛下。王が色に溺れている間、軍を率いて混沌の勢力と対峙していたのは若き陛下だったのでしょう。嫌悪と怒りの色を滲ませる槍ニキの呟きにそう漏らし、銀髪侍女さんに手振りで続きを促しています。

 

 

 映像の中では少しずつ大きくなるおなかを優しく撫でる伯爵夫人との幸せなひと時と、王の欲望を受け止める地獄の時間が交互に流れ続けています。口に出すのも憚られるほど悲惨な目に遭わされているというのにそれをおくびにも出さず、伯爵夫人に悟らせない立ち回りは流石としか言いようがありません。王が飽きるまで耐え抜けばこの地獄は終わる、そう信じることで耐えていたのかもしれませんね。

 

 

「――だが、骰子(ダイス)の出目はもっとも残酷な結果を導いた。卿らも知っているだろうが、只人(ヒューム)森人(エルフ)以外の種族の間に子どもが産まれる可能性は皆無か、或いは非常に低い。奴もそう考え無遠慮に侍女を凌辱していたのであろう。……彼女を穢す際に、その腹が僅かに膨らんでいることに気付くまでは……な」

 

「まさか性欲処理の玩具が妊娠するなど彼も考えていなかっただろうさ。さて、御令嬢。こういった場合、普通はどのような方法で対処するか……君なら判るだろう?」

 

「……王宮から密かに退去させ、神殿に預けるか。或いは……堕胎させるか、でしょうか?」

 

 

 最早素面では見ていられないとばかりに(ウォトカ)を煽り、問いを投げかけてくる銀髪侍女さんに対し考えを述べる令嬢剣士さん。その顔にはやるせなさと嫌悪感が満ちています。既に側室が子を宿している以上、お手付きの侍女が孕んだ子など後継者争いの火種にしかなりません。令嬢剣士さんの回答にうんうんと頷く銀髪侍女さんですが、その口から酒精(アルコール)の香りとともに吐き捨てられたのは王の採ったもっと悍ましい対処法です……。

 

 

「まぁ、常識的に考えればその辺りが穏当だろうね。万一側室の子どもに何かがあった際の()()としても使えるし、後継者争いから遠ざける意味もあるからね。でも、彼の採った方法は違った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り巻きである門閥貴族たちに彼女を散々嬲らせた挙句、王宮で彼らを誘惑し、風紀を乱した淫売として()()()告発したんだよ」

 

 

 

「何よソレ……そんな一方的な言い分が通ったっての……っ!?」

 

「勿論通ったさ。なんせ国王陛下と国の重鎮たる貴族たちの連名によるものだからね」

 

 

 令嬢剣士さんと剣の乙女ちゃんに左右から腕を抑えられた女魔法使いちゃんの絞り出すような声が響き、ソレを嘲笑うように銀髪侍女さんの声が被さる祭祀場跡。彼女が本当に嘲笑っているのは当時の腐敗した王国の在り方なのか、それともそんな腐敗を早々に切除出来なかった、当時の陛下を始めとする自分たち星屑の十字軍(スターダストクルセイダース)の無力さでしょうか。

 

 

「上辺だけの慈悲として、本来は即刻死罪であったところを税の未納者や重犯罪人と一緒に即席冒険者として≪死の迷宮≫送りとなった彼女。伯爵夫人と再会することも無く、馬車で城塞都市へと連れて行かれてしまった」

 

 

 また映像は切り替わり、薄暗い馬車の中に押し込められた人々を映し出しています。ガタガタと不規則に揺れる車内には先行きが見えず不安げにしている者、欲望にギラ付いた瞳で輝かしい未来を夢想する者、感情が抜け落ちたように呆けた表情の者など様々な表情の人が乗っており、その顔を舐めるようにゆっくりと視線が移ろっているみたいです。

 

 

「そんな……じゃあ、2人の原型になったこの子は、おなかに赤ちゃんがいる状態で≪死の迷宮≫に挑戦させられたの!?」

 

 

 信じられないといった顔で映像を眺めながら悲鳴にも似た声を上げる妖精弓手ちゃん。経産婦だからこそ判るその無謀さ、母子の生命に対する危険に長耳を震わせ、否定して欲しいというように腕の中の吸血鬼君主ちゃんに視線を向けています。ですが、篝火を挟んで向かい合うダブル吸血鬼ちゃんの顔には諦観じみた微笑みが。もしかして、まだ続くんですか……?

 

 

「あはは……」

 

「そのほうが、まだよかったんだけどね~……」

 

 

 映像には馬車から降ろされ、兵士の読み上げに応じて移動する人々が映し出されています。名前を読み上げるために紙片と睨めっこしていた兵士の顔が、ある一点を見た瞬間に厭らしく歪むのが圃人侍女ちゃんの視界に見えてますね。

 

 

「……おい、其処の圃人(レーア)のガキ! お前はこっちだ!!」

 

 速足で歩み寄り、問答無用に彼女の腕を掴んで何処かへ連れて行こうとする兵士。辿り着いた場所は兵たちの詰め所のようです。非番と思しき賭けカードを握っていた男たちの前に圃人侍女ちゃんを押し出した兵士が告げるのは――。

 

 

 

 

 

 

「こんなナリだがお貴族サマの懐剣をさんざん咥え込んできた淫売らしい! 冒険に出る前に、俺たちが剣のイロハを教えてやれだとさ!!」

 

 

 ――地獄の続きを告げる、あまりにも無慈悲な宣言でした。

 

 

 

 

 

 

「おねがい……もう、やめ、て……?」

 

 

 いつも泰然としている魔女パイセンが出したとは思えない、掠れた声が虚しく響く祭祀場跡。バキリという音に視線を向ければ、歯を食いしばり映像を睨みつけてる重戦士さんの握った石壁の一部が粉々に砕けています。

 

 首に力が入らずガクガクと揺れる視点。視界は醜悪な笑みを浮かべる男たちに埋め尽くされ、最早悲鳴すら出せず掠れた圃人侍女ちゃんの息遣いだけが響いています。何度も映像は暗転し、眼前に広がる男の下腹部が離れていったところで周囲の男たちが動きを止めました。

 

 

「オイオイ、乱暴に扱い過ぎだ。何処も彼処も裂けて血塗れじゃねえか」

 

「もうユルユルで締まりなんか微塵も感じねぇぞ」

 

「首絞めても反応しなくなってきたな……」

 

 

 ドサリという音とともに地面に打ち捨てられ、微かに揺らぐ映像。好き勝手己の欲望を放ち続けた男たちは未だ満足していないようで、獣欲を露わにしたまま圃人侍女ちゃんの周囲に群がっています。突き込み、握らせ、擦り付け、穢す。延々と続いていた()()が変化したのは、1人の男の悪魔的行為によってです……。

 

 

「チッ、もうこっちの穴も使えねぇ。そろそろ捨てて来るか?」

 

「馬鹿だなぁお前、()()()()()()()()()()()()()()()()? ちょっとソイツの頭持ってろ」

 

 

 映像の左右から伸びてきた指によって固定された視点。瞼を閉じられないように食い込んだ指の痛みに微かに声を上げる圃人侍女ちゃんですが、その眼前に迫る男の分身にただ絶望の吐息を漏らすばかりです……。

 

 

「ちょっと、嘘でしょう? まさか()()()()()しないわよね……?」

 

 

 イヤイヤと首を振り、この後訪れるであろう光景を必死に否定しようと叫ぶ妖精弓手ちゃん。しかし映像は既に規定された過去のモノ。興奮するケダモノたちの歓声だけが響く中……。

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあああああアアあああああ亜あああああ嗚呼ああああああAAあああああああアアあああああ亜ああああああ嗚呼あああああああAAあああああ!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ――ぶちゅり、という葡萄を潰したような音とともに、映像の右半分が血の色に染まりました。

 

 

 

 

 

 

「っぷ、うぇぇ……!」

 

「――貴様等地上の者は我らを邪悪なる種族と蔑むが、貴様等のほうが余程邪悪ではないか……」

 

 

 頭陀袋のようなものに押し込まれ、汚物でも見るような兵士の顔を最後に口を閉じられ真っ暗になった記憶映像。過去のトラウマを刺激され、蹲り嘔吐する若草知恵者ちゃんを介抱しながら淡々と呟く闇人女医さんの声に、誰1人として言葉を返すことが出来ません……。

 

 兵士たちの交わす声がした後、連続した衝撃とともに響く激突音。恐らく≪死の迷宮≫の入り口階段から放り捨てられたのでしょう。今にも途絶えてしまいそうな微かな呼吸音だけが、まだ圃人侍女ちゃんが生きていることを表しています。暫くすれば腹を空かせた追剝(ブッシュワーカー)たちによって骨も残さず解体されると考えたのでしょう。彼らの予想通り、血の匂いを嗅ぎつけた祈らぬ者(ノンプレイヤー)たちが血の滲む頭陀袋を見付けたようで、周囲が俄かに騒がしくなってきました。

 

 

「どうして? どうしてあの子があんな目に遭わなきゃいけないの……」

 

「……っ」

 

 

 最早立っていられずに崩れ落ちそうになる牛飼若奥さんを支え、瞳に真紅の輝きを灯しながら映像を睨みつけるゴブスレさん。彼のお姉さんがゴブリンにされた凌辱に匹敵する行為に憤りを隠せず、握りしめた拳からは血が滴り落ちています。……おや? お嫁さんに強く抱きしめられているダブル吸血鬼ちゃんの顔がキラキラと輝いてますね。僅かに身を乗り出し、何処かソワソワした様子にみんなが気付き、不思議そうな顔になっています。

 

 

「……ねぇアンタ、こんだけ酷い映像(過去)が続いたのに、なんでそんな顔してられるの?」

 

 

 妖精弓手ちゃんの膝上に座る吸血鬼君主ちゃんへと視線を合わせるようにしゃがみ、その瞳を覗き込みながら訪ねる女魔法使いちゃん。吸血鬼君主ちゃんの小さな瞳に映る彼女の顔は怒りと悲しみに満ち溢れ、目は泣き腫らした真っ赤なものになっちゃってます。

 

 

「ん~? えへへ、それはね……」

 

 

 愛する女性からの問いにニンマリとした笑みを浮かべ、そっと妖精弓手ちゃんの腕から抜け出す吸血鬼君主ちゃん。反対側では吸血鬼侍ちゃんも叢雲狩人さんのたわわから抜け出しており、2人はクルクルと篝火の周りを楽しそうに回り始めました。

 

 

「だって、これははじまりだから!」

 

()()がしんで、()()()()がうまれる、そのはじまり!」

 

「しにながらいきるみちをくれた、あのひととのであい!!」

 

「みんなとであい、いのちをつなぐことができるようになった、あのひととのであい!!」

 

 

 2人の声が響く中、映像のほうでは大きな爆発音が連続し、追剝(ブッシュワーカー)たちの断末魔の叫びが途絶えています。石の床を歩く足音が段々と近付き、何者かがしゃがみ込む布の擦れる音が続きました。やがて頭陀袋の口が開かれ、左半分しか見えない圃人侍女ちゃんの視界に見えたのは、1人の男性の顔。

 

 若い青年にも、年老いた老人にも見える不思議な顔立ち。深い叡智を秘めた瞳は金属的な(クロームの)輝きを帯び、袖に汚物が付着するのも構わずそっと圃人侍女ちゃんを抱き上げました。無残に潰された瞳や凌辱の限りを尽くされた肢体。そして必死に護っていた腹部の膨らみに手を当て、思案するように瞳を閉じています。

 

 やがて開かれた瞳とともに発せられた彼の声は外見に違わぬ高い知性を感じさせるもの。ゆっくりと語り掛けるように紡がれた言葉は、半ば機能していない彼女の耳にもハッキリと届くものでした……。

 

 

 

 

 

 

「――そのような姿になってもなお胎の子を護る、か。実に興味深い。……その胎の子、お前を()()とすれば救うことが出来るといったら、どうする?」

 

 

 それは、とても残酷な問い掛けでしょう。「お前を救うことは出来ない」と言っているようなものですから。ですが、()()の出す答えは最初から決まっています。

 

 

 

 

 

 

「――良いよ、こんなボロボロでもいいのなら、僕の全部をあげる。だから、この子に世界を……()()()()()()()を見せてあげて……?」

 

「――ハッ。私は死霊術師(ネクロマンサー)で、お前を外殻にこの子どもの魂を封じて創り上げるのは吸血鬼(ヴァンパイア)だぞ? なのに()()()()()()()とは……これは難題だな……!」

 

 

 そうハッキリと言い切り、力尽きて暗転していく視界。きっと彼女の顔には太陽のような笑みが浮かんでいたことでしょう。微かに聞こえる男の声には苦笑が混じっています。

 

 

「えっと、今のって……わひゃあ!?」

 

 記録映像の中に突然エントリーしてきた死霊術師(ネクロマンサー)を名乗る男に困惑を隠せない様子の妖術師さんの呟きは、此処に居る全員の気持ちを代弁しているでしょう。彼女の言葉を聞きつけ、クルクルと篝火の周りを周回していた2人が妖術師さんにダイブし、そのほどよいサイズのたわわに左右から頬擦り。一頻り素晴らしい感触を味わった後に、荒く息を吐く上気した顔の妖術師さんに次々と放った言葉は……。

 

 

 

 

「いだいなるまほうつかいにして、()()()()()()()()()()をうみだすことをめざすたんきゅうしゃ!」

 

「アミュレットのもちぬしにして、≪しのめいきゅう≫をつくりだした、()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 

「「ぼくたちをうみだしてくれた、()()()()()()()()()()!!」」

 

 

 

 どれもこれもみんなの常識を粉砕する、パワーワードだらけでした……。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 慣れない描写の連続に消耗したので失踪します。


 ちょっぴりランキングに入っていたらしく、お気に入り登録や評価が頂けて大変嬉しく思っております。あわせて誤字脱字もお伝えしていただき非常に有難い限り。

 次話の執筆速度に繋がるかもしれませんので、感想や評価、お待ちしております。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその16-3


 家の前の道路が渋滞していてお出掛けする気力が無くなったので、2日連続で初投稿です。

 何時の間にやら原作:ゴブリンスレイヤーで文字数が一番多くなっていました。このまま続いて話数も一番になれたらいいなぁ(願望)。


 ※前話と違い、今回はだいたいいつものちょいグロ&ちょいエロって感じです。



 

 ふっふっふ、漸く始まりの物語まで辿り着いたみたいですよ≪幻想≫さん、≪真実≫さん!

 

 ダブル吸血鬼ちゃん誕生に関わる前日談というだけあって、皆さん気合いの入り方がダンチですねぇ。

 

 ……向こうでは≪豊穣≫さんや≪死≫さんが法被に鉢巻きでバッチリ決めてますけど、そもそもダブル吸血鬼ちゃんを四方世界に誕生させた原因はあの()たちのはっちゃけなんですよねぇ……。「ちょっと頑張り過ぎちゃった(てへぺろ)」で混沌の勢力をマシマシにしたり「そろそろ混ぜろよ!」で死を振りまくもんだから、帳尻合わせのために可愛いN子さんまで化身(アバター)を送り込む羽目に……(トオイメー)。

 

 まぁ過ぎたことをあれこれ言ってもしゃーないですし、それよりも万知神さんに聞きたいことがあるんですよねぇ。

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんの生みの親(おとうさん)であるあの死霊術師(ネクロマンサー)、元ネタって多分某博士ですよね? 死霊術師ならもっと似つかわしい外見(ガワ)は幾らでもあると思うんですけど、なんでまたあの姿をチョイスされたんです?

 

 ……『アマテラス(太陽神さん)の推しを生み出すなら彼が一番相応しい』?

 

 なぁるほどぉ、確かにそれならあの姿が一番適任でしょうねぇ。元ネタでも人を超えた生命体の創造に自分の全てを賭けていましたし、創り出した娘たち(ファティマ)には深い愛情を抱いてましたから。

 

 ……それに彼、『アマテラス(太陽神さん)にとって()()()()()()()()()()()()』ですもんねぇ(ねっとり)。

 

 まったく、そうやって少数の友()にだけ甘い顔をするから、覚知神さんや死灰神が拗らせちゃうんですよ?

 

 


 

 

 前回、ダブル吸血鬼ちゃんによる『おとうさん』発言が炸裂したところから再開です。……まぁ他にも連鎖的に爆発はしていましたが。

 

 

 『〇の章(闇堕ちビデオ)』ばりに悪趣味極まりない映像を延々と視聴しだいぶグロッキーな一行。流石にこの状態で一気見は宜しくないということで休憩を挟むことにしたみたいです。みんなにインベントリーに収納していた軽食や飲み物をサーブするダブル吸血鬼ちゃんの表情は明るく、早く続きを観たい気持ちが見て取れますね。

 

 

「ぷはっ。……そういえばご主人様、結構長い間記憶映像を観ていたけれど、おゆはんまでには観終わるのかな?」

 

「あー……そうねぇ、あんまりあの子たちを任せっきりにするのも申し訳ないわよねぇ」

 

 

 香草や糖蜜入り炭酸水(ルートビア)で焼菓子を流し込んでいた叢雲狩人さんの言葉に相槌を打つ妖精弓手ちゃん。2人とも先程までは青白い顔をしていましたが今は大分良くなっていますね。2人の会話を聞きつけ、みんなにお菓子を配り終えたダブル吸血鬼ちゃんがぽてぽてと2人に駆け寄り、それぞれ好みのお山にダイビングしちゃいました。

 

 

「ん~……まだはんぶんくらいかな?」

 

「でもだいじょうぶ! ほとんどじかんはけいかしてないから!!」

 

「先程言ったように、この空間は独自の法則が適用されるのです。おそらく外界では一刻と経っていないのです……げふぅ」

 

 

 ほほう、確かにこの空間では長編映画2本分くらいの時間が経過してますけど、牧場では子どもたちが鬼ごっこの最初の鬼決めをしているところですね。まるで精〇と時の部屋みたいだぁ……。

 

 森人(エルフ)の纏う甘い香りを堪能する2人におかわりを要求しながらこの空間について補足説明する賢者ちゃんの顔色は視聴前から然程変わっていません。おそらく銀髪侍女さんと一緒に記憶の編集作業をしていた関係で、内容を先に観ていたからでしょうね。……お、吸血鬼君主ちゃんが丸ごとホールケーキを取り出すのを横目に、吸血鬼侍ちゃんが銀髪侍女さんのほうに歩いていきました。キャンディーをガリガリと噛み砕いていた彼女と二、三言葉を交わし、みんなに向かって声を掛けてます。

 

 

「それじゃあそろそろさいかいするけど、ここからはぼくがおはなしするね!」

 

 

 妖精弓手ちゃんの太股の間に座り、背面からハグされてリラックス状態な吸血鬼君主ちゃんと目配せ。再生を開始した記憶映像は、『吸血鬼侍』ちゃんが生まれ、成長していく過程を克明に映し出すものです……。

 

 


 

 

「――意識レベルの上昇を確認……目を開けられるか?」

 

 

 真っ暗な世界に響く男性の声。死霊術師(おとうさん)の呼びかけによってうっすらと(視界)が広がっていくところから映像は始まりました。『吸血鬼侍』ちゃんは簡易的な寝台(ベッド)と思しき場所に寝かされていたようで、その傍らには椅子に腰掛けた男性の姿が映っていますね。上下左右に顔を動かし部屋の中を見回す彼女を観察していた男性……死霊術師(おとうさん)が、落ち着きのある声で『吸血鬼侍』ちゃんに話しかけました。

 

 

「基本的な常識と一般教養は最初から身体に組み込んである。……何か話してみろ」

 

 

 じっと自分を見つめ、無言のままの『吸血鬼侍』ちゃん。死霊術師(おとうさん)はそれに対し、急かすことも無く彼女の反応を待っています。やがて何か思いついたのか、頷くように視界が縦に動き……。

 

 

 

 

 

 

はろー(Hello,)わーるど(world!)!」

 

「……上手いこと言ったつもりか馬鹿者。あとそのドヤ顔は止めろ」

 

 

 ……うん、まぁ、初回起動時のアイサツには相応しいとは思いますけど。クソデカ溜息を吐きつつ、ついてこいと踵を返す死霊術師(おとうさん)寝台(ベッド)からぴょんと飛び降りた『吸血鬼侍』ちゃんが連れられたのは大きな姿見の前。鏡に映る一糸纏わぬ『吸血鬼侍』ちゃんの身体は傷一つなく、血色が悪いことを除けば圃人侍女ちゃんと瓜二つですね。ん? 鏡に映ってるってことは……あ! もしかして既にこの段階で太陽神さんと万知神さんは協力してたんですか!?

 

 

「何処か違和感などは有るか?」

 

「ん~……」

 

 死霊術師(おとうさん)の問い掛けに従いペタペタと自分の身体を確認していた『吸血鬼侍』ちゃん。真剣な眼差しで彼を見上げ、答えを返します。

 

 

「このからだはおとうさんのしゅみ? あとなんではだかなの? おとうさんのせいへき?」

 

「お前を作るのに用いた身体の特徴なだけだ。全裸なのは服のデザインが決まっていないのと、お前の羞恥心の有無を確かめるためだ。性癖などでは無い」

 


 

「――うん、アレは間違いなくご主人様だね」

 

「えへへ……」

 

「いえ、決して褒められてはおりませんのよ???」

 

 

 うーんこのダブル吸血鬼ちゃんクオリティ。叢雲狩人さんの言葉に照れ顔な吸血鬼侍ちゃんに令嬢剣士さんが的確なツッコミを入れてます。映像の中では青筋を浮かべた死霊術師(おとうさん)にシーツを投げつけられた『吸血鬼侍』ちゃんがいそいそと身体に巻き付けていますね。

 

 

「このあと、おとうさんにいろんなことをおしえてもらったの。ぼくがつくられたりゆう、ぼくをたすけるためにおかあさんがじぶんをささげてくれたこと。それから……」

 


 

「――お前の魂は、あの瀕死の圃人(レーア)が最期まで護ろうとしていた胎児が基盤(ベース)となっている。だが、それだけではその身体を駆動させるには性能が足りん。不足を補うため、≪死の迷宮≫に取り込まれる前に回収していた母親の魂を併せて組み込んである。理解出来るか?」

 

「……あ~そういうことね。かんぜんにりかいした!」

 

「良いか、判らなければ判らないと言え。知識を焼き付けてあるとはいえ、お前は生まれたばかりの赤子。学ぶべきことは幾らでもある」

 

「はい! ぜんぜんわかりませんでしたおとうさん!!」

 

 

 シーツを身体に巻き付けた姿で寝台(ベッド)の縁に腰掛け、死霊術師(おとうさん)の説明を聞いていた『吸血鬼侍』ちゃん。やっぱり難しい話は理解出来ないみたいですねぇ。

 

 やれやれといった様子で慣れない手つきで『吸血鬼侍』ちゃんの頭を撫でる死霊術師(おとうさん)。いいか?という前置きの後に、彼女でも理解出来るように判り易い言葉で教えてくれました。

 

 

「お前の中にはあの圃人(レーア)の……母親の魂が眠っている。今は夢を見ているような状態だが、お前の成長とともにその意識は浮かび上がり、いつか目を覚ます。その関係は母娘では無いだろうが……まぁ姉妹のようなものだろう」

 

「おかあさんじゃなくて、しまい……?」

 

「ああ。だが覚えておけ。状況からの推測だが、お前の中に眠る圃人(レーア)は筆舌にし難い経験をしている可能性が高い。彼女の記憶を覗き、共感するのは良い。だが決してそれに呑まれるな。お前の母親は、日の当たる世界でお前が生きることを望んでいた……それだけは覚えておけ」

 

「……うん」

 

 

 薄い胸に手を当て頷く『吸血鬼侍』ちゃん。その時はまだ感じることの無かったもう1人の存在に想いを馳せているみたいです。

 

 なるほど、これが『吸血鬼侍』ちゃん誕生秘話! キャラ作の段階でここまで凝った設定を考えるなんて、やっぱり万知神さんはマニアックですねぇ……。

 

 


 

 

「へぇ……なかなか立派なお父さんじゃない」

 

「あの方が2人をお創りになられたのですね」

 

 

 日々のお祈り、礼儀作法、そして吸血の仕方……再生の続く記憶映像を観ながら女魔法使いちゃんと若草祖母さんが感心したように頷いています。死霊術師(おとうさん)の『吸血鬼侍』ちゃんに対する接し方はまごうこと無き父親のそれ、今のところ戦い方などの訓練は一切出て来ていません。

 

 ……お、丁度映像では顔が割れていないことを良いことに時折≪転移(マロール)≫の呪文でこっそり外出し、何食わぬ顔で城塞都市でお買い物をしてきた死霊術師(おとうさん)が帰って来ましたね。迷宮では自給できない食料や嗜好品と一緒に縫製に用いる素材や道具を調達し、『吸血鬼侍』ちゃん用の衣服を縫っています。ダブル吸血鬼ちゃんが大切に保管している典雅な衣装は彼のお手製だったんですねぇ。

 

 

「――こんなかんじで、ぼくはおとうさんにたくさんのことをおしえてもらってたの。たぶん、たたかいかたなんかはもっとあとにするつもりだったんじゃないかなぁ」

 

「ねぇシルマリル、シルマリルはこの時のこと覚えてるの?」

 

「んとね、まだねてたころだからちょくせつはしらないかな。このあとめをさましてからきおくのきょうゆうでおしえてもらったの。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

「え? それって……」

 

 

 どういう意味?と言いかけた妖精弓手ちゃんの言葉が途中で途切れた理由。それは胸に抱く吸血鬼君主ちゃんの身体から発せられる熱と怒りを感じ取ったからでしょう。篝火の傍に立つ吸血鬼侍ちゃんの瞳にも炎の赤とは異なる攻撃色が宿っているのが見て取れます。牙をガチガチと鳴らし、抑えきれぬ怒りを滲ませた声で、吸血鬼侍ちゃんが告げるのは……。

 

 

「あのクソッタレがけいやくした()()()があらわれて、おとうさんをころしたんだ……!!」

 

 

 ――≪死の迷宮≫を()()()()、四方世界に≪死≫を蔓延させようと企み、そして"六英雄(オールスターズ)"によって滅ぼされた邪悪なる()()の登場です……!

 

 

 

 

 

 

「かの魔人の説明をする前に当時の王国の状況を説明する必要がある。少し長くなるぞ」

 

 

 変形サム8語録は止めてもらえませんかねぇ陛下……と、どうやら次は王国内部の記憶映像みたいですね。混沌の軍勢との戦を終え、王都に帰還した陛下の視点のようですが……。

 

 

「……なんか、随分と荒んで見えるんだけど」

 

「みんな……なんだか疲れているみたいです」

 

 

 ふーむ、煌びやかな現在の王都しか見たことの無い妖精弓手ちゃんが指摘していますが、たしかに街並みに何処か荒廃の気配が感じられます。道行く人々はみな肩を落とし、身体を縮こませて目立たないように努めているようです。陛下たちに向ける視線も何処か卑屈さと諦観を感じるもの。それを英雄雛娘ちゃんは『疲れている』と表現したんでしょうね。

 

 

「当時の王国の状況は控えめに言って最悪であった。圃人侍女の一件から王の精神の均衡は徐々に失われ、王国の藩屏たる貴族たちの増長は高まるばかり。民たちは奴らの目に付かぬよう息を潜めるしかなかったのだ」

 

 

 何せ軍の総司令官であった余に直接武力革命(クーデター)の必要性を訴える将軍すらいたほどであるからな、と皮肉気に笑う陛下。うーんこの元ネタに忠実な状況、当事者たちには全く笑えませんね……。

 

 

「軍部に漂う空気は流石の王も感じていたようでな。旗印になる余を疎み軍から遠ざけ、冒険者として活動するよう命じてきた。まぁそれが金剛石の騎士(K・O・D)の始まりなのだから面白いだろう?」

 

「いや全然笑えないからね? あれが原因で軍との連携が絶たれ、あの男を始末するのが遅くなったんだから……」

 

 

 はっはっはと半ばヤケクソに笑う陛下に冷静なツッコミを入れる銀髪侍女さん。こういうところを見ると2人の絆の深さを窺い知れますね。周囲からの冷ややかな視線に咳払いで誤魔化を入れ、陛下が話の続きを語り出しました。

 

 

「――そして、王の精神にトドメを刺したのは側室である伯爵夫人の出産だ」

 

「それは何故でしょう? 陛下ご本人の前で申し上げる事ご容赦頂きたいのですが、有能で野心のあった陛下を排斥するならば、代わりの後継者が必要では?」

 

 

 陛下の言葉に訝し気に問うのは令嬢剣士さん。貴族の家に生まれた彼女ならではの視線ですね。

 

 

「うむ、卿の言い分もっともである。王とその取り巻きが望んでいたのは、現状を保つ程度に優秀で、既得権益を破壊しない程度に保守的な後継者。余など以ての外であっただろう」

 

 

 もっとも、腐れ墜ちる寸前の果実を維持することなど余にも不可能であったがな、と続ける陛下。王妹殿下と女神官ちゃんに視線を向け、王の脳を破壊するきっかけをみんなに告げました……。

 

 

「王が人の道を踏み外し、外道となった最大の理由。それは『産まれてきた子が()()()()()()()()()』こと。そして貴族の間に『男子が産まれなかった理由は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』という噂が流れたことだ」

 

 

 あー……ゴブスレさんや牛飼若奥さん、それにダブル吸血鬼ちゃんたちはまったく気にしてませんでしたが、社会的に、特に権力者にとって双子は忌み嫌われることが多いです。おまけに期待していた男児が産まれず、2人とも女児であれば倍率ドン!更に倍!!ってもんです。

 

 

「地母神からの≪託宣(ハンドアウト)≫によって出産に立ち会っていた神殿長と、私が個人的に仲良くしていた仕掛人(ランナー)の協力で殺される筈だった妹を辺境に匿い、出産現場にいた全員に口止めはしたんだけど……その後侍女の1人が行方不明になってね。おそらく拷問の後に消されたんだと思う。」

 

 

 映像では今と変わらぬ姿の聖人尼僧さんが産まれたばかりの赤ちゃんを抱き、伯爵夫人さんへと最初で最後のスキンシップのために優しく受け渡しています。額に汗で髪を貼り付かせた疲労困憊の顔で赤ちゃんを受け取り、喜びと悲しみの入り混じった複雑な顔で優しく愛娘の頬を撫でる伯爵夫人さん。

 

 やがて躊躇いがちにその手は離れ、聖人尼僧さんから部屋の隅に控えていた仕掛人(ランナー)……クソマンチ師匠へと託され、赤子を抱いた彼の姿は煙のように消えていきました。部屋に残る人々の瞳には固い決意が見え、伯爵夫人さんへの強い忠誠心を感じさせるものです。

 

 

「みんな王の変わりように危機感を感じ、伯爵夫人の境遇に共感していた者ばかりだった。説得や買収に応じたとは考えにくい。彼女を責めることは出来ないよ」

 

 

 帽子で視線を遮り、そう呟く銀髪侍女さん。秘匿が破られてしまったことに対する悔悟の念か、或いは消された侍女に対する後悔か。努めて平坦な声で語る銀髪侍女さんにとって、彼女に許しを請う資格など自分には無いと思っているのかもしれません。

 

 

「――侍女から真実を暴いた何処ぞの貴族は伯爵夫人を排斥し、今一度王の寵姫を自らの家から出そうとして噂を流したのだろう。だが、それは逆効果であった。事ここに至り自らの老いと衰えと自覚した王は、()()()()()()となる選択肢を選んだのだ。即ち、()()()()()()()()()()()()()……そんな愚かな選択をな」

 

 

 記憶映像が切り替わり、映し出されたのは……おそらく潜入していた銀髪侍女さんの視点でしょうか。王宮地下深くに存在する、奈落へと通じると噂される魔穴。その縁で一心不乱に何かに祈り続ける王の姿が遠めに見えています。周囲には門閥貴族と思しき男女が同じように頭を垂れ、邪悪なる儀式を執り行っているようです。

 

 

「迫る≪死≫を恐れ、≪死≫に媚びへつらい、自らから≪死≫を遠ざけるために民を≪死≫への供物として捧げる……これを邪悪と言わずして何が邪悪であろうか。そしてその悍ましき祈りの果てに、魔人は現れたのだ」

 

 

 ――奈落の穴から浮かび上がってきたのは、黒傘を被った魔術師風の男。彼の足元に跪き祈る男女からは、一国を治める権力者としての誇りなど微塵も感じられません。

 

 

「魔人が王に持ち掛けた契約は、自らを≪死の迷宮≫の主として認めることと、定期的に養分となる冒険者を送り込み続けること。その対価として、王とその取り巻きを≪死≫を恐れる必要の無い存在、人間を餌に仮初の永遠を保つ青褪めた血(ブルーブラッド)……吸血鬼(ヴァンパイア)へと再誕させることを提案した。その後は……ご想像通り、みんな我先とばかりに己の領地の民に無理矢理罪を被せ、即席冒険者として送り出し始めたよ」

 

 

 やれやれ、といった様子で肩を竦める銀髪侍女さん。永遠の生命という誘惑から逃れられるものは少ないですが、その代価として民を供物に捧げられる精神性はまっこと恐ろしいものがあります。長命種であるが故に冷笑的に聞こえた闇人女医さんの言葉ですが、善にも悪にも傾き易いのが只人(ヒューム)の特徴。『最高の聖人も最低の悪人も只人(ヒューム)から誕生する』とは良く言ったものです。

 

 

 

 ……どうやら、映像は黒傘の男……()()()()()()()()()()()()魔人が父子のところへアンブッシュを仕掛けた場面になったみたいですね。吸血鬼侍ちゃんが話し始めたので、そちらに注目してみましょう!

 

 


 

 

「んん~なかなかの感触。≪死≫の手招きを散々跳ね除けてきただけのことはあるじゃあないか」

 

「チッ、想定よりも早い登場だな……っ!」

 

 

 父と子の教育の場に突然乱入してきた殺戮者(マローダー)。ゆらりと≪転移≫で死霊術師(おとうさん)の背後に出現し、反応の遅れた彼に躊躇いなく背後致命(アゾット)。『吸血鬼侍』ちゃんに向かって彼を蹴とばすことで刀を引き抜き、血の滴る刀身に己の舌を這わせる男の手には強大な魔力を秘めたアミュレットが握られています。辛うじて即死はしなかったようですが重要臓器を貫かれた傷は深いようで、みるみる青褪めていく死霊術師(おとうさん)の顔を見た『吸血鬼侍』ちゃんは必死に傷口を抑え止血を試みていまね。

 

 

「おとうさん、しっかり……!」

 

「いや、無駄だ。この傷では最早助からん。それよりも……」

 

 

 胸元で泣きじゃくる『吸血鬼侍』ちゃんを抱きしめる死霊術師(おとうさん)。閉ざされた視界のなか、彼と襲撃者との問答が繰り広げられているようです。何事か言葉を交わした後、彼と『吸血鬼侍』ちゃんの身体が光に包まれていきます。次に視界が明るくなった時、『吸血鬼侍』ちゃんの眼前に見えたのは、今まさに生命の灯が消えようとしている死霊術師(おとうさん)の力無い微笑みです。

 

 応急処置をしようと動こうとする彼女を制し、その両肩を握る死霊術師(おとうさん)。瀕死の状態とは思えない力強さに驚く彼女に、ゆっくりと彼が語り掛け始めました……。

 

 

「……よく聞け。()()は≪死≫の化身。この世界に遍く死を撒き散らさんとする≪死≫の代弁者だ。おそらく……私の研究室である≪死の迷宮≫を乗っ取り、生者の悉くを滅ぼす算段だろう……」

 

「いいか、"迷宮に生者を喰わせるな"。ひとたび迷宮に取り込まれれば、その生命は死を増幅する原動力となる。だが……それを防ぐ方法は既に用意した」

 

 

 血の混じった咳をしつつ、ゆっくりと語る死霊術師(おとうさん)。いつの間にかその手には、見覚えのある刀が握られていました。

 

 

「『怪物(モンスター)を喰らい、己の糧にしろ』。『人を救い、迷宮を飢えさせろ』。お前の成長に比例して迷宮は痩せ細り、ヤツの企みは遅延する。もし生命を救えなかったとしても、迷宮に呑まれる前にお前が喰らうのだ……」

 

 

 血にまみれた手で『吸血鬼侍』ちゃんのサイズに合わせて鍛えられた湾刀……『村正』をそっと握らせ、不器用に微笑む死霊術師(おとうさん)。残された僅かな時間を使い、彼女に生きるための知識を与えているのでしょう。『吸血鬼侍』ちゃんもそれを察しているのか、涙が流れるまま泣き腫らした瞳でじっと彼の言葉を胸に刻んでいます。

 

 

「お前に戦い方を教えるのを後回しにしたのは失敗だったな……ゴホッ。断言しよう、お前はこれから死ぬ。何度も、何度も、数え切れぬほど。だが、お前は何度でも蘇る。奴に奪われたアミュレット……迷宮の制御装置ですら、お前を支配することは出来ない。そう、お前を造ったからな」

 

 

 その湾刀(村正)も、お前が強大なる吸血鬼(ヴァンパイアロード)になるまでは紛失(ドロップ)しないから安心しろ、と続けてますが……あの、(エネミー)ごとにドロップ品が異なるのってそういう意味じゃ無いと思うんですけど。……っと、そろそろ彼も限界の様子。残された力を振り絞り、『吸血鬼侍』ちゃんを抱き寄せて己の首筋に彼女の顔を押し付けていますね。あ、ちなみに視聴神さんたちが見ている映像に一人称視点以外の映像が混ざっているのは、万知神さんが映像記録装置(アカシックレコーダー)から別視点の映像をチョイスしているからですのであしからず。

 

 

「では、試しにやってみろ。このままでは私も迷宮に取り込まれるのでな……」

 

「……うん、わかった」

 

 

 死霊術師(おとうさん)の言葉に従い、そっと口を付ける『吸血鬼侍』ちゃん。ゆっくりと生命の熱を失い眠るように目を瞑る彼が、最期に『吸血鬼侍』ちゃんに掛けた言葉は……。

 

 

 

 

 

 

「……ずっと、お前の()()を見守っているよ」

 

「うん。ありがとう、おとうさん。……ばいばい」

 

 


 

 

「それで、おとうさんにいわれたようにつよくなろうとしたんだけど……」

 

 

 吸血鬼侍ちゃんの苦笑まじりの声が響く祭祀場跡。でも事情を知る何人か以外の視線は流れている映像に釘付けです。みんながあんぐりと口を開けてまま見ているその内容は……。

 

 

 

 

 

 

 

「ンンーーーーーーーーーー!?」(スライムに飲み込まれ溶解死)

 

「ちょ、やめ、ヤメローーー!?」(コボルトに囲んで棒で叩かれミンチ)

 

「アッーーーーーーーーーー!?」(落とし穴+槍衾のコンボから抜け出せず自決)

 

「ぷぎゅっ」(吊り天井に潰されてぺっちゃんこ)

 

「おなかすいてうごけない……」(満腹度ゼロで餓死)

 

 

 

 

 

 

 ――16分割&7.2倍速で上映される、『吸血鬼侍』ちゃんの死亡シーン集でした……。

 

 

 

「いや、いくらなんでも死に過ぎでしょ……」

 

 その死亡理由の種類と数の多さに思わず感想を口に出す妖精弓手ちゃん。時折グロシーンやR18なのも混ざっていますが、そんなの全然気にならないくらいのYOU DIED数に呆れかえっているみたいです。

 

 

「だって、おとうさんがおしえてくれたなかにかたなのつかいかたなんてなかったんだもん」

 

「いのらぬもののサムライやあのひと("君")からちゅーちゅーするまで、にぎりかたもわからなかったんだもん」

 

 

 ふふん!と自慢げに薄い胸を張るダブル吸血鬼ちゃん。それは万知神さ……もとい、死霊術師(おとうさん)の落ち度かもしれませんねぇ。映像では度々ソウルをロストしながらも少しずつ戦い方を覚えている『吸血鬼侍』ちゃんの何処か微笑ましい成長記録が続いています。

 

 

「それで、ちょっとずつつよくなって、めいきゅうがほんのすこしだけどちからをうしなってきて……!」

 

「めいきゅうでしにかけているひとをたすけて、いりぐちまでおくりとどけられるようになったころに……!」

 

 

 分割画面だった記憶映像を元に戻し、停止させた2人。お嫁さんの胸元から抜け出し、そこに映る人物の元へと2人揃って駆けて行きます。砲弾の如く突っ込んできたダブル吸血鬼ちゃんの勢いを難なく殺し、ふわりと抱きとめたその人は……。

 

 

 

「――はい、私が『彼女』と出逢いました」

 

 

 細身のスーツに鍛え上げた身体を包み、愛らしく頬擦りしてくる2人に対し怜悧な美貌を綻ばせて微笑む大人の女性、査察官さんのエントリーです! これはまた一波乱ありそうな予感!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 


 

 

 いや~、なかなか良いパパっぷりでしたねぇ万知神さん! でもちょぉぉぉぉっと盛り過ぎじゃありません?

 

 ほら見て下さい、アレな場面を編集で誤魔化してるって≪死≫さんが猛抗議してますよ?

 

 ほんへ(本編)では実況神さんが綺麗にスルーしてくれてましたけど、黒傘とパパの問答だって本当は……。

 

 ちょっ、レギュレーション違反はいかんでしょ?

「まったく、禁忌に手を染めてご満悦かね?」

  うっさい、お前らが先に好き勝手始めたんだろうが!

「どの口がほざく、天秤を傾けたのは誰だか忘れたか!」

 

  ……とか、

 

   キャラクターデータベースがお前らのチラシの裏書きで圧迫されてるんだよ、判る?

「密かにこのような場所を設けるなどと……それほどまでに四方世界に介入したいと?」

 推しの子の設定はどれだけ盛っても良い、古事記にそう書かれている

「見解の相違だな。私はこの子たちの成長を見守りたいだけだ」

 

 ……って感じだったじゃないですか!

 

 ほら、≪幻想≫さんも苦笑いしてますよ? いい加減に見栄を張るの止めて、みんなの推しの子を応援しません? そのほうがきっと楽しいですから!

 

 

 





 セッションの終わりが見えてこないので失踪します。


 ご感想、お気に入り登録ありがとうございます。

 ネタバレや話と関係無さそうな感想以外には返信させて頂いておりますので、感想お待ちしております。

 評価も今後の励みとなりますので、よろしければ是非。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその16-4


 今月中にその16を終わらせたいので初投稿です。




 

 前回、査察官さんがエントリーしてきたところから再開です。

 

 子猫がじゃれつくように甘えてくるダブル吸血鬼ちゃんを膝上に乗せ、祭祀場跡の階段に腰掛けた査察官さん。優しい手つきで2人の頭を撫でる姿は受付嬢さんや監督官さんが見たら腰を抜かすこと間違いなしです。銀髪侍女さんが記憶映像を再開させたのを見て、ゆっくりと口を開きました。

 

 

「――私が初めて彼女と出逢ったのは≪死の迷宮≫の地下四階、地下五階への階段が見つからず攻略が停滞していた時期の事です」

 

 

 査察官さんの声をバックに再生される迷宮探索の映像。白い輪郭線(ワイヤーフレーム)がぼんやりと浮かぶ通路を冒険者たちが進んでいますね。飛び出してくる徘徊する怪物(ワンダリングモンスター)を蹴散らしながら何か地下五階への手掛かりはないかと床面や壁を探索する光景が続いています。

 

 

「この時、殆どの冒険者は≪死の迷宮≫の攻略を諦めていました。宿の窓から見えるのは毎日のように送られてくる即席冒険者たち。迷宮を軽んじた結果、最初の遭遇(エンカウント)で半数が死に、残りの半数も命からがら逃げかえってくる始末。間近で感じた死の恐怖に怯え、二度と迷宮に足を踏み入れず城塞都市のゴミ漁りや売春婦に身をやつす者も多かったのです。そんな彼らを嘲笑い、上層でそこそこの稼ぎを得て散財する暮らしを繰り返す……真剣に攻略に臨んでいた一党(パーティ)は片手で数えるほどしかおりませんでした」

 

 

 ああ、原作やその元ネタの映像作品(OVA版)でもそんな感じでしたねぇ。怪物を倒して手に入る財貨は庶民の年収の何倍もあり、それを目当てに集まった商人たちによって城塞都市は歪な経済構造になっていたとかなんとか。

 

 初心者からの需要が高く、死体から拾って来たものが平気で売られている数打ちの長剣(ロングソード)の価格が外界の半額なのに対し、治癒の水薬(ヒールポーション)の価格は驚きの50倍! 冒険者たちの『いのちだいじに』の精神は理解出来ますし、輸送中に瓶が割れたりする恐れがありそれが値段に反映されるのも判りますが……流石にちょっとボッタクリ商店過ぎでは???

 

 

「私の所属していた一党(パーティ)は後者でした。陛下……もとい、金剛石の騎士(K・O・D)の率いる一党(パーティ)が探索を終えた後も、隠された落とし穴(ピット)や階層飛ばしの転移の罠(テレポーター)がないかを探し続けていたのです」

 

 

 うむむ、地下四階から先へ進むには地下一階の昇降機(エレベーター)を使う必要がありますが、乗るためには暗黒領域(ダークゾーン)を通り抜けなければいけません。進んだ誰もが戻ってこないと噂されるエリアに踏み込む前に他の場所を虱潰しに調べるのは間違いではないでしょう。……おや、映像が進むにつれて査察官さんの腕にかかる力が強くなっているみたいですね。たわわに顔を押し付けられる形になったダブル吸血鬼ちゃんが幸せそうな顔になってます。

 

 

「……ですが、私達も大多数の冒険者のように油断していました。迷宮とは決して心を許して良い相手では無いのですから」

 

 


 

 

「ガッ……!?」

 

「――ッ、しまっ……!?」

 

 

 査察官さんの呟きと同時、映像が激しく乱れています! 左右に大きく揺れる映像が捉えたのは喉元から夥しい血を流して崩れ落ちる僧侶と思しき男性と、その背後に立つ虎面の人影……あれは間違いなくニンジャですね!

 

 アンブッシュを仕掛けてきた3体のニンジャは迷宮の壁面を足場に高速で立体的に動き回り、呪文で迎撃しようとしていた女魔術師を巧みに攪乱。そのうちの1体が狙いを定められず視線を泳がせる彼女の背後を取り、その口を塞ぎながら短刀で喉元を掻っ切りました! ヒューヒューと空気を漏らす彼女を打ち捨てた後、短刀を抜き放った盗賊(シーフ)を次なる獲物に定め、駆け寄ってきた戦士と2人同時に相手取っています。

 

 残りの2体は査察官さんを脅威であると認識したようです。1体が前に立ち、その影に隠れるようにもう1体が東方の飛具(クナイダート)を構え相対している状態ですね。査察官さんがジリジリと動くのに合わせ背後の後衛に対する射線を自分の身体で塞いでいるあたり、相当なカラテの持ち主でしょう。

 

 

「不意を突かれなければ……というのは()()()()の話。2体を相手に防戦一方であった私の前で盗賊が倒され、残った戦士も敵と相打ちになってしまいました。崩れ落ちる2人を見て動揺し隙だらけの私に、後方の1体が毒を縫った飛具を投擲してきたのです……」

 

 

「ぐあぁ……!?」

 

 

 映像に迫る粘性の高い液体を塗布された東方の飛具(クナイダート)。視界いっぱいに広がったそれは映像の右半分を紅に染め、残る左半分も涙によって滲んでいます。片膝を付いた姿勢なのでしょうか、先程よりも低い視点から見える敵は弄ぶように飛具を回し、近付くことなく彼女を失血死、あるいは毒による衰弱死に追い込もうとしてるようです。

 

 

「まだ……まだこんな所で死ぬわけにはいかない。……来い、戦ってやる!」

 

 

 映像越しに響く査察官さんの咆哮。重傷を負っているとは思えぬその迫力に怖気付いたのか、ジリジリ後退し飛具を取り出す2体のニンジャ。指の間に挟んだ合計16本の毒刃を彼女に向かって構えた瞬間……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いただきます」

 

「!? ――――――ッ!?!?」

 

 

 ――通路の反対側から飛翔してきた小さな影が1体を翼で薙ぎ払って壁面に叩き付け、浮足立つもう1体の喉元にその牙を突き立てました!!

 

 

 喰らい付かれた瞬間に恐るべき膂力で頸椎を圧し折られ、力無く崩れ落ちるニンジャ。仰向けに倒れたその身体に馬乗りとなり、喉を鳴らしながら血と魂を喰らう『吸血鬼侍』ちゃんを呆然と眺めていた査察官さんですが、仲間が無残に貪り食われているのを見た残りの1体が震える手で飛具を構える姿に警戒の声を上げています。

 

 

「――危ない! 後ろ……ッ!?」

 

 

 しかし警戒を促す彼女の声は一瞬遅く、音も無く飛来し次々と『吸血鬼侍』ちゃんの小さな身体に突き刺さっていく毒に塗れた恐るべき飛具。その隙だらけな姿に虎面の奥で嘲りの声を上げる暗殺者でしたが……。

 

 

「……ぷぁ。もう、しょくじのじゃまをするのはマナーいはん!」

 

 

 その殆どが皮一枚貫き通すことが出来ずパラパラと床に墜ちる飛具に虎面のニンジャは声にならない悲鳴を上げ、一目散に逃走を図りました! 勝ち目が無いと見るや即撤退する判断は英断と呼んで良いものですが……残念ながら相手が悪過ぎました。

 

 

「えっと、こうかな……イヤーッ!」

 

「グワーッ!?」

 

 跳躍したタイミングで力任せに投げつけられた自分の飛具が直撃、着弾の勢いのまま迷宮の壁面に縫い留められた姿はまさにモッズ=サクリファイス(百舌の早贄)! 脱出しようと無様に藻掻くその背に近付く、おなかを空かせた恐ろしい吸血鬼(ヴァンパイア)……!! 恋人同士がじゃれ合う如くニンジャの首元へとその小さな手を伸ばし……。

 

 

「そのぎじゅつとちしき、ぼくがもらうね?」

 

「アイエエエ……」

 

 


 

 

「――2体の忍者を吸い尽くした後、彼女は私へと近付いて来たのです。口元を紅に染めた姿を見て、私は『いったいどれ程この吸血鬼(ヴァンパイア)は飢えているのだろう?』という場にそぐわぬ疑問しか浮かんできませんでした。そして、自分もすぐに彼らと同じ最期を迎えるのだと。ですが……」

 

 

 2人を撫でる手を止め、そっと自らの右眼を抑える査察官さん。若干顰められた顔は当時の痛みを思い出しているからでしょうか。映像では『吸血鬼侍』ちゃんがゆっくりと彼女に近付く姿が映し出されていますね。手を伸ばせば届くような距離まで近付いたところで『吸血鬼侍』ちゃんが床に座り込んでいると思われる査察官さんに目線を合わせるようにしゃがみ込み……。

 

 

「――ごめんなさい、もっとはやくこられれば、みんなをたすけられたかもしれないのに……」

 

「……は?」

 

 

 ……うん、まぁそんな反応になりますよねぇ。どう見てもヤバい級怪物(モンスター)吸血鬼(ヴァンパイア)がションボリした顔で頭を下げ、あまつさえ目に涙を浮かべてるんですから。僅かに視界の中心から外れた『吸血鬼侍』ちゃんの見ている場所は、たぶん傷付いた査察官さんの右眼ですね。この時はまだ思い出してはいないのでしょうが、かつて凄惨な責め苦の果てに潰された記憶が素体である圃人侍女ちゃんの身体に刻まれていたのかもしれません……。

 

 

「あのね……ぼく、どくとかびょうきにならないから≪げどく(キュア)≫のきせきをおぼえてないの。このままだとみぎめからどくがまわっちゃいそうなんだけど、だれかげどくやく(アンチドーテ)をもっていなかったですか?」

 

 

「えぇと……僧侶の彼が持っていると思いますが、転倒の衝撃で無事かどうか……」

 

 

 戸惑いまじりな査察官さんの言葉に急いで僧侶の荷物を改める『吸血鬼侍』ちゃん。ですが残念ながら解毒薬の瓶は割れてしまっていたようです。粉々になった瓶の欠片を手にトボトボと戻って来た『吸血鬼侍』ちゃんでしたが、何か決意したように査察官さんに向き直りました。

 

 

「このままだと、いりぐちにもどるまでもたないかもしれないの。でも、どくにおかされたみぎめをじょきょして、しゅうへんをきれいにすればもしかしたら……!」

 

 


 

 

「まさか、人を餌にする吸血鬼(ヴァンパイア)にそんなことを言われるとは想像も出来ませんでした。ですが、このまま何も為せずに死ぬよりは生き残る目に賭けるべきだとあの時の私は考えたのです」

 

 

 真剣な眼差しで訴えてくる映像の中の『吸血鬼侍』ちゃんを懐かしむように眺める査察官さん。躊躇うように下がっていた視点が真っすぐ『吸血鬼侍』ちゃんに向けられ、決断的な査察官さんの声が祭祀場跡に響きます……。

 

 


 

 

「――判りました。()()()()()()()()()()

 

「! いいの?」

 

「はい、このまま確実な死を待つよりは、貴女という不確定要素に賭けるべきと判断しました」

 

 

 驚きを浮かべる『吸血鬼侍』ちゃんの頭に手を伸ばす査察官さん。ゆっくりと頭を撫でる手付きは映像を観ている彼女と同じものです。気持ち良さそうに眼を瞑っていた『吸血鬼侍』ちゃんでしたが、まずは治療が先決と若干名残惜しそうではありますが頭に乗った手を抑え、そっと外しました。僧侶の鞄を漁った際に見つけた清潔な布を器用に裂いて包帯を作り、ちょっと持っててねと査察官さんに握らせていますね。

 

 

「それじゃあ、まずはいたみをやわらげるためにからだをまひさせるね。ちょっとだけチクっとするけど、がまんできる?」

 

「ふふっ、問題ありません。私は()()()()()()()()()()。どうぞご遠慮なく」

 

 


 

 

「あ、私この後どうなるか判っちゃった」

 

「あら奇遇ね、私もよ」

 

 

 映像を観ながらボソリと呟く妖精弓手ちゃん。女魔法使いちゃんも隣で頷いています。半目の2人に睨まれたダブル吸血鬼ちゃんがヘタクソな口笛で誤魔化そうとしてますが……駄目みたいですね。

 

 映像では麻痺噛みつきの効果が出てきたのか、視界がユラユラと揺れ始めました。ガクガクと震え始めた2人に苦笑しつつ、査察官さんが当時の心境を語ってくれています。

 

 

「――ええ、はい。私もてっきり右眼を抉り出されるものだとばかり。彼女にその外見からは想像出来ないほどの力で頭部を固定された時は、せめて苦痛に悶える情けない姿は晒すまいと固く決意したものです。しかし、実際の治療は私の創造を遥かに超えるものでした……」

 

 

 

 

 

 

「まさか、あれ程までに激しく身体の内側を蹂躙されるなんて……ね?」

 

 


 

 

「――んむっ!?」

 

 

 査察官さんが暴れないよう両頬を挟むように添えられた『吸血鬼侍』ちゃんの小さな両手。その左手の親指がそっと査察官さんの口に挿入された時点で彼女の決意はあっけなく崩壊しました。

 

 舌を噛まぬよう咥えさせられたソレは根元近くまで入り込み、舌だけにとどまらず敏感な内頬の粘膜も刺激していきます。本来であれば異物を感知し痛覚として警告を発するべき神経は『吸血鬼侍』ちゃんの噛みつきの作用で痛覚を快感と誤認。口腔を保護するために唾液が次々と分泌され、溢れた一部が口の端から糸を引く様に零れ落ちていますね。

 

 十分に彼女が麻痺しているのを見た『吸血鬼侍』ちゃんは顔を抑えていた右手のロックを外し、リラックスさせるように査察官さんの耳裏やうなじをマッサージ。身体から力が抜けたのを確認した後、次なる段階へと治療を進めます。

 

 

「ん……れる……っ」

 

「ふっ!? ふむぅ……っ!?」

 

 

 血溜りと化した査察官さんの右眼に舌を近付け、表面の血を除去。露わになった潰れた眼球と下瞼の境目に、ゆっくりと舌先を差し込んでいきます……。

 

 

「ちゅ……ちゅる……じゅるぅ……」

 

「――!? ふぁっ……!?」

 

 

 眼窩脂肪と下直筋の狭い隙間を奥に向かって進んでいくピンク色の蛇。同時に優しく吸引が行われ、毒に侵された眼球が体外……『吸血鬼侍』ちゃんの口内へと引き摺り出されていきます。眼球を支えていた筋組織が牙によってプツリ、プツリと切断されるたび跳ね上がりそうになる査察官さんの身体を、上半身に馬乗りになった『吸血鬼侍』ちゃんがロデオのように乗りこなしていますね。

 

 

「じゅるるぅぅぅ……ん、きれいになった」

 

「はっ……はっ……はぁ……。こ、これで終わりですか……?」

 

 眼球の摘出を終え、眼窩に溜まった血を残らず舐め取る『吸血鬼侍』ちゃん。舌の抜き挿しを繰り返し内側を綺麗にしたところでそっと口を離し、何度も上り詰めて息も絶え絶えといった様子の査察官さんとガチ恋距離で向き合っています。その口元から査察官さんの顔に生まれた窪みへと伸びる白いものは……もしかして視神経でしょうか? 荒い呼吸を繰り返し縋るような目で終わりの言葉を求めている査察官さんに対し、小さく首を横に振り、熱を帯び紅潮した頬を優しく撫でながらトドメとなる一言を放ちました……。

 

 

「……いままでがんばってたえてくれてありがとう。あとは、がんきゅうとからだをつないでいるせんをきればおしまい。ただ、これをきるとき、すっごいしげきをかんじちゃうとおもうの。いままでとはくらべものにならないくらい」

 

 

「ウソでしょ……?」

 

 

 散々味わってきた以上の刺激と言われ、上気した顔のままプルプルと震える査察官さん。ですが「でも、このままだと≪小癒(ヒール)≫がかけられないの」と言われ、覚悟を決めたようです。ギュッと残った左目を瞑り、耐衝撃防御を整えた査察官さんの決意に応えるように『吸血鬼侍』ちゃんは再びゆっくりとその艶めかしい舌を右の眼窩へと挿入していきます。行為の果てに誕生した空洞の最奥、舌先に骨の硬さを感じながら()()()()()をゆっくりと絡めとり……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぷつん

 

 

 

「――――――――――――ッ」

 

 

 

 ……声にならない査察官さんの声を最後に、映像は途切れてしまいました。

 

 


 

 

「――シルマリル、ヘルルイン」

 

「「はい」」

 

「正座」

 

「「……はい」」

 

 

 グロテスクな映像の筈なのに何故か違う感想しか出てこなかった査察官さんの記憶映像。王妹殿下と女神官ちゃんや英雄雛娘ちゃんなど初心(うぶ)な女の子の脳を破壊するのに十分過ぎる威力のそれによって過去回想はまたしても中断。現在ダブル吸血鬼ちゃんがみんなの前で正座させられちゃってますね。

 

 熱暴走してしまった英雄雛娘ちゃんは剣の乙女ちゃんのひんやりたわわで絶賛冷却中。妖術師さんは見聞きした内容を一言一句逃さぬ勢いでパピルス(メモ紙)に書きなぐってますし、査察官さんは女騎士さんと女将軍さん、魔女パイセンの奥様戦隊に包囲され対応に追われているようです。

 

 

「それで、とびきり凄いのをお見舞いされた後はどうなったんだ?」

 

「あのおちびちゃんのことだ、目覚めた時にその立派な胸部装甲に顔を埋めて一緒に寝ていたくらいはありそうだが……」

 

「むしろ、堂々、と、ちゅー、ちゅー……してたり?」

 

 

 うーんこの信頼っぷり。圧の強い3人に査察官さんが迫られてますけど、実際のところどんな感じだったんでしょう?

 

 

「ええと……。目が覚めた時、私は迷宮の地下一階……暗黒領域(ダークゾーン)すぐ近くに寝かされていました。右眼を覆うように包帯が巻かれ、手には仲間たちの冒険者認識票。枕代わりの頭陀袋には驚くほどの金貨や宝石。そして、ここに一枚の紙片(ハンドアウト)が挟まれていたのです」

 

 

 当時の状況を語る査察官さんの示す場所はその豊かな胸の谷間。妖精弓手ちゃんが凄い顔で犯人2人を見ている中で当時の映像が再生されています。右半分が暗い視界の中、上質な羊皮紙に流麗な筆致でしたためられた内容は……。

 

 

 

 

 

   いま しのめいきゅうはまじんにのっとられています   

 

   そいつは しをせかいじゅうにばらまくために ほんとうのあるじをころしました   

 

   どうかこのことをこんごうせきのきしにつたえてください   

 

   そえているかみのけとあわせてぼくのすがたをいえば   

 

   たぶんわかってくれるとおもいます   

 

   ふくろのなかみは そのいらいりょうです   

 

 

 

   ぼくはモンスターがめいきゅうからあふれないようにかりつづけているので   

 

   ここからでることができません   

 

   ダークゾーンのおく しょうこうきでおりたさきで まっています   

 

 

 

 

 

   みぎめをもとにもどしてあげられなくてごめんなさい   

 

   もっともっとつよくなって いつかかならずなおしにいきますので   

 

   どうかそれまでげんきでいてください   

 

 

 

 

 

 ふむふむ、折り畳まれた手紙には一房の金髪が挟み込まれていますね。金糸のような髪は自らの素材となった圃人侍女ちゃんと同じ色、それを以て自らの証明とするつもりだったんでしょうね。

 

 

「私は急ぎ地上へと帰還し、金剛石の騎士(K・O・D)一党(パーティ)を探しました。しかし、彼らは折悪く王都へ戻っており、城塞都市から離れていたのです」

 

「――同時期、王都では喰屍鬼(グール)吸血鬼(ヴァンパイア)が跳梁跋扈する魔都となっていたのだ。魔人が≪死の迷宮≫の主から奪い取った吸血鬼化の禁術を民を材料に実験していたものだが、軍を投入するわけにもいかなくてな。太陽神や地母神の神殿と協力して、夜な夜なアンデッドを狩って回っていたのだ」

 

 

 ウンザリといった様子で当時を思い返している陛下。まぁ王と不仲が噂される王子が軍を率いて王都に乗り込んだりしたら……傍から見ればクーデターにしか見えないでしょうねぇ。陛下にその気は(まだ)無くても、内乱勃発の引き金になりかねません。だから冒険者としての身分で動き、軍では無く神殿に協力を依頼したんですね。

 

 

「駅馬を何頭も乗り潰しながら駆けつけてきた査察官殿の言葉に余も己の耳を疑ったものよ。伝え聞いた吸血鬼(ヴァンパイア)の姿は疑いようも無く侍女のそれ。だが、王都の状況を鑑みれば彼女もまた魔人の走狗の可能性があったのでな……すぐには判断出来なかった」

 

 

 たしかに。魔人が吸血鬼(ヴァンパイア)を生み出している以上、『吸血鬼侍』ちゃんもその支配下にあると考えるのは自然です。王都から陛下を引き剥がす罠ということも十分にあり得る話ですね。

 

 

「だが……粗方吸血鬼を片付けた後、合流した一党(パーティ)の魔術師が同封されていた髪の毛を用いて占いを行ったところ……なんと吸血鬼の象徴である『月』と、アンデッドを滅ぼし夜明けを告げる『太陽』。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「占いってのは結構馬鹿にできなくってね、特に彼のものは。世界の持つ情報に接続(アクセス)するという点では、万知神の奇跡に通じるものがあるかもね」

 

 

 吸血鬼(ヴァンパイア)の身体の素材である圃人侍女ちゃん(太陽)と、その身体を動かす『吸血鬼侍』ちゃん()。あるいは魂の一部として融合していた赤ちゃんが『太陽』の暗示だったのでしょうか。いずれにしても、後に同族殺し(キンスレイヤー)吸血鬼希少種(デイライトウォーカー)として()()する未来はこの時点で暗示されていたんですねぇ。

 

 

「王都を神殿や他の冒険者に任せ、急ぎ城塞都市へ向かったのだが……残念ながら地下九階への一番乗りは逃してしまったのだ」

 

 

 おや、なんだかちょっぴり悔しそうに呟いている陛下。彼の視線の先を辿る一行の目に飛び込んできたのは……映像を観て当時の記憶に引っ張られてしまったのでしょうか、エロエロ大司教形態(モード)でもロリロリ省エネ仕様でもなく、女司教……口さがない連中が『鑑定』などという蔑称で呼んでいた≪死の迷宮≫に挑んでいた頃の姿をしている剣の乙女ちゃんです。

 

 眼帯こそ無いものの現在とはかけ離れたつるぺたな胸に手を当てて映像に見入っていた彼女ですが、みんなの視線に気付き慌てて向き直りました。どうやら陛下の様子を見て何の話題だったかを察したようで、当時の状況について話し始めました……。

 

 

「へい……金剛石の騎士(K・O・D)一党(パーティ)から地下五階へ続く階段が無いことを聞いた後、私たちも改めて他の階を探索しておりました。その最中で、ある噂を聞いたのです。『一階の暗黒領域(ダークゾーン)へと消えていく小さな人影』。そして『即席冒険者たちが全滅の危機に瀕した際、単独(ソロ)で活動している圃人(レーア)らしき少女が現れ、彼らの目の前で敵を駆逐していった』というものでした」

 

 

 ふむ、わざわざ昇降機(エレベーター)を使っていたとなるとまだ≪転移(マロール)≫は使えなかったんでしょうか? あるいは呪文の節約のためかもしれませんね……っと、そういえば地下十階は≪転移(マロール)≫での移動が禁じられていましたっけ。

 

 

暗黒領域(ダークゾーン)を抜けた先の昇降機(エレベーター)に乗り、地下四階の未探索区画へと至った私たち。進む道に敵の姿は無く、途中の部屋には『このさきでまっています』という書置きと共に青いリボンが置かれているだけでした。最奥にあったもう一基の昇降機(エレベーター)を乗り継いで未踏の地である地下九階へと辿り着いたのですが……探索を開始した直後に頭目(リーダー)(E8-N2)を踏み抜き、全員が最下層である地下十階に落ちた時は『わたしのぼうけんはこれでおわってしまう』のかと思いましたの……」

 

 

 胸元のブルーリボンを手で弄びながら何処か遠い目で語る剣の乙女ちゃん。"君"はおっぱい星人なだけで無く、ドジっ子属性まで持っていたのか……。

 

 万知神さんに確認をとったところ、迷宮に取り込まれた者たちの成れの果て(マーフィーズゴースト)でレベル上げを行っている際、魔人に唆されてやって来た女司教ちゃんを放置していた4人組冒険者と遭遇。話し合いの余地無く襲い掛かってきた彼らを返り討ちにし、美味しく頂いちゃったんだとか。

 

 先生ではなかなかレベルアップしなくなったところで外道冒険者という非常にうまあじな相手を知った『吸血鬼侍』ちゃん。死霊術師(おとうさん)から言われていたように、祈らぬ者(ノンプレイヤー)に堕した者や問答無用で襲い掛かってくる冒険者、迷宮内で死にたてホヤホヤな死体なんかを迷宮に喰われるより先にちゅーちゅーしてしまうことを学んだみたいです。

 

 なので4人組冒険者は"君"の一党(パーティ)と女司教ちゃんを賭けて争うことも無く、モンスター配備センターのガーディアン役には採用されなかったとのこと。魔人が用意していたガーディアンは配置するそばから『吸血鬼侍』ちゃんにちゅーちゅーされ、どんどん迷宮のリソースが削られてしまったために途中から置かれなくなってしまったそうです。

 

 

「敵襲や罠を警戒しつつ迷宮を進んでいた私たち。ですがこの階もまた敵の姿は無く、不気味な静謐を保っていました。そして何者とも遭遇しないまま幾つもの転移床(ワープポータル)を通り、最奥の玄室に辿り着いた時……私たちはその理由を知ったのです」

 

 

 剣の乙女ちゃんが指差す先では、"不在"(プレート)が掛かっている扉を蹴破り、"君"と女戦士さんを先頭に一党(パーティ)が雪崩をうって薄暗い玄室へ飛び込んでいく映像が流れて始めました。

 

 薄ぼんやりとした輪郭線(ワイヤーフレーム)の部屋。むせかえるような血臭に従姉さんが口元を覆い、築かれた屍山血河に半森人の斥候が顔を引き攣らせる中で、女司教ちゃんが一番最初に『吸血鬼侍』ちゃんの存在に気付きました。そしてそこから続くのは、総大主教(グランドビショップ)が引き起こした騒動の際に剣の乙女ちゃんが語ってくれた記憶そのままの光景です。

 

 

 上位魔神(グレーターデーモン)とんがり帽子(ハタモト)、ドラゴンゾンビなどの死体に囲まれた状態で、おなかいっぱいでウトウトしている場違いすぎるちいさな人影。温かな血の通う生命体の接近に吸血鬼(ヴァンパイア)の鋭敏な知覚が反応し、うっすらとその目を開けました。

 

 てっきり査察官さんにお願いしていた金剛石の騎士(陛下)が来たんだと勘違いしたんですね。武器を構え警戒する冒険者たちを見て驚きのあまり硬直している『吸血鬼侍』ちゃん。

 

 ですが、今まで返り討ちにしてきた連中とは違い、問答無用で斬りかかったりしない彼らに対話の可能性を見出したのでしょう。ぴょんと座っていた魔神の死体から飛び降りると、隊列の真ん中で松明を掲げている女性、女司教ちゃんへゆっくりと近寄っていき……。

 

 

 

 

 

 

「――ねぇ、おひさまってどんないろをしているの? ランタンのひかりよりもあかるいの? たいまつのほのおよりもあったかいの? ……ぼくをころすまえに、おしえてほしいな!」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 『吸血鬼侍』ちゃんを遍在させる理由を考えるので失踪します。


 ご感想いつもありがとうございます。バラまいてあるネタや伏線らしきものに反応して頂けると悶えて喜ぶので、一言頂けると幸いです。

 お気に入り登録もありがとうございます。UAと並び一番判り易い皆様に読んで貰えているという数値ですので、まだの方もよろしければ登録、評価して頂けると嬉しいです。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその16-5


 やっぱり7月中には終わらなかったので初投稿です。


 皆様にお読みいただき、UAも170000まで伸びました。

 あとちょっとだけダブル吸血鬼ちゃんのお話しは続きますので、お付き合い頂ければ幸いです(まだまだ続くフラグ)。




 

 うんうん、互いに愛し合う2人が初めて出逢った場面(シーン)、何度観ても初々しさに溢れてますねぇ!

 

 ……にしてもこの時の『吸血鬼侍』ちゃん、なんで真っ先に女司教ちゃんに向かっていったんでしょう?

 

 当時から素晴らしいたわわをお持ちだった従姉ちゃんや女戦士さんと違い、まだつるぺったんだった女神官ちゃん。

 

 この後、≪死≫さんの化身(アバター)との戦いの最中に唱えた≪降神(コールゴッド)≫によって至高神さんとの繋がりが深まり、『このおっぱいで乙女は無理でしょ』と言わんばかりのわがままボディへと成長したわけですが……。

 

 ――ほほう、女心に精通した地母神さん曰く、ゴブリンによって深く心身を傷付けられていた女司教ちゃんに運命的な何かを感じ、寄り添ってあげたいと考えたからだとか。この頃からスケコマシの兆候が見え隠れしてたんですねぇ。

 

 あ、ちなみに≪六英雄(オールスターズ)≫の頭目(リーダー)であるおっぱい星人()による格付けチェックでは問答無用の『映す価値ナシ』だったみたいです『吸血鬼侍』ちゃん。胸部を一瞥して残念そうに首を横に振り、それを見た従姉ちゃんに鉄拳制裁されてました。

 

 

 ……っと、そろそろ金剛石の騎士(K・O・D)一党(パーティ)が到着する場面(シーン)ですね! 可愛いN子さんによる迫真の演技にも是非ご注目下さい!!

 

 


 

 

 前回、運命の出逢いを果たしたところから再開です。

 

 無防備に女司教ちゃんへと近付き邪気の無い笑みを浮かべる『吸血鬼侍』ちゃんに≪六英雄(オールスターズ)≫もどう接して良いか判断出来ず、2人を囲むような陣形で固まってしまってますね。躊躇いなしに松明の火へと手を伸ばす小さな怪物を慌てて制止する女司教ちゃんの映像に、祭祀場跡で観ているみんなの間に気の抜けた空気が漂い始めました。

 

 

「なんと言いますか、とても『子どもらしい』反応をしていますわね」

 

「外見は母親譲りですが、中身はよちよち歩きの幼児とどっこいなのです。製作者(生みの親)によって必要な知識や一般常識は焼き付けられていても、実物を見聞きする機会は無かったはずなのです」

 

 

 感想を交わす令嬢剣士さんと賢者ちゃんの視線の先では、瞳がしいたけになっている『吸血鬼侍』ちゃんが蟲人僧侶さんによじ登って硬い外殻をペタペタ触ったり、半森人の斥候さんの耳をツンツンしたりと好奇心の赴くままにはしゃぎまわる姿が。それぞれ趣の異なる女性3人の胸部を見比べ、興味深そうに頬擦りしているのを見た頭目("君")が無言で血涙を流しているのが印象的です。

 

 

 ……お、どうやら一頻り好き勝手して満足した『吸血鬼侍』ちゃんが、自分のことや死霊術師(おとうさん)のこと、それに現在の≪死の迷宮≫などについて話し始めたみたいです。身振り手振りを交えての拙い言葉遣いから放たれる闇深案件と糞みたいな王国の腐敗、そして全ての元凶である魔人の存在を聞いた冒険者たちは全員揃って現場猫顔になっちゃってますねぇ……。

 

 

「――ちゅうことはアレか。この国のお偉いサンたちは、手前ェの有り金ぜぇんぶ纏めて叶うかも判らん永遠の命につぎ込みおったんか!?」

 

「自分の資産だけ溶かすなら自業自得だが、他人の懐に手を突っ込んで心臓まで引っこ抜くのは公正な取引とは言えんな」

 

 

 金で苦労してきた半森人の斥候さんのキレ芸に交易神の信徒らしい言い回しで応じる蟲人僧侶さん。国民、領民は国や貴族の管理下にあるとはいえ、その生命まで勝手に賭けられては当人たちは堪ったものではありません。税を代償に彼らの庇護下にある人々ですから、生命の保証が無くなれば土地を捨てて逃亡待ったなしです。……と言っても、当時の王国に安住の地など無かったわけですが。

 

 

「……それで、あなたはどうしたいのですか? 魔人の支配から逃れているとはいえ、あなたは生者を餌とする吸血鬼(ヴァンパイア)。こうして会話が成り立っていること自体奇跡的なものでしょう」

 

 

 胸元に抱えている天秤剣を握り直し、静かに尋ねる女司教ちゃん。彼女の立場からすれば、生者を憎むアンデッドは在るべき場所に還すのが当然ですからね。ですが問答無用で襲われたのならばともかく、こうやって会話が出来る相手を無理矢理浄化するのには抵抗があるみたいです。そんな彼女の葛藤を感じ取ってか、『吸血鬼侍』ちゃんがゆっくりと口を開きました。

 

 

「――あのね、いまぼくのなかにはたくさんのたましい(ソウル)がしまわれてるの。めいきゅうでしんだぼうけんしゃ(PC)のもの、めいきゅうにとりこまれたいのらぬものたち(NPC)のもの。かれらのたましいをつかってしょうかんされたモンスターのものもたくさん。それをあるべきばしょにかえすのは、ぼくもさんせいなの」

 

「でも、いまここでかいほうするとまためいきゅうにとりこまれちゃう。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。みんなのたましいをかいほうするには、まじんとクソッタレなおうのりょうほうをたおさなきゃダメだから」

 

 

 うーん、どうやら支配こそされていないものの、支配者の許可なくして≪死の迷宮≫からは出られないよう縛られていたみたいですね。そして今は幸運にも多くのソウルを貯め込んでますが、死に続けてロストしたら再び迷宮へと還元されてしまう可能性があると。難しいところですねぇ。

 

 

「つまり……王都とこの迷宮、両方を攻略する必要があるのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その通り!!」

 

「……誰ッ!?」

 

 

 突如部屋中に響いた胡散臭い大声。玄室の入り口に眼を向けた一行の前に姿を見せたのは……。

 

 

 

「――さぁ、ワタシがこの迷宮(ダンジョン)のボスですよ! カモンカモン!!」

 

 

 顔に白粉を塗りたくり、上から紅をさした道化の化粧。小柄な体躯にカラフルな衣装を纏った迷宮にはまったくそぐわない異質過ぎる存在。自分以外の全てを嘲笑うような表情に()()()()()()()()()を添え、卑猥な腰振り(グラインド)を繰り返す……。

 

 

 

 

 

 

「喧しいぞ道化。感動の再会を邪魔するでないわ」

 

「アフン!? ひどぉい……」

 

「よく言うよ、聖剣(ハースニール)で斬られてもピンピンしてた癖に……や、久しぶり」

 

 

 

 ロープでグルグル巻きにされた不死の蛞蝓(フラック)と、結ばれたロープの反対を握りながら彼を蹴倒す金剛石の騎士(K・O・D)。そして床に伸びた道化師を敷物に女戦士さんへアイサツする銀髪侍女さんの姿でした。

 

 


 

 

「うわ……うわぁ……」

 

「なにこの……なに……???」

 

「あれ? あの道化師、何処かで見たような……」

 

 

 〇クソシストも真っ青な仰向け姿勢で玄室中を這いまわる道化師(フラック)の映像にドン引きな一行。首を傾げている王妹殿下は当時の吸血鬼侍ちゃん、現吸血鬼君主ちゃんと〇ーマの休日ごっこをしている時に遭遇してましたっけ。……あ、「あなたと王都で逢瀬(デート)を楽しんでいたときでしたわ!」なんて大声で言うもんだから吸血鬼君主ちゃんが別室送りになっちゃってます。そんなドナドナされていく吸血鬼君主ちゃんにゴッドスピード!と敬礼を送っていた吸血鬼侍ちゃんが、曖昧な笑みを浮かべながら記憶映像に合わせて彼との関係をみんなに説明し始めました。

 

 


 

 

「……道すがらそこな道化に話は聞いていたが、やはり彼女(侍女)では無いのだな、お嬢さん(フロイライン)

 

「うん。おかあさんのきおくはやきつけられてるから、でんかのこともおねえさんのこともわかるけど、ぼくはおかあさんじゃないの。……ごめんなさい」

 

「君が謝ることじゃあないよ。彼女を救えなかったのは私たちの落ち度だからね」

 

 

 映像のほうでは新たに2人と1匹?が合流した迷宮の一室。『吸血鬼侍』ちゃんを見た陛下と銀髪侍女さんは驚きと悔悟の入り混じった複雑な顔をしています。

 

 狂いし王の凶行によって人としての尊厳を踏み躙られ、最期は1人迷宮の片隅で死んでいった圃人の侍女。道中で道化師(フラック)から事の顛末は聞いていたみたいですが、実際に吸血鬼(ヴァンパイア)に変じた姿を目の当たりにしたら曇ってしまうのも無理はありませんね。しかも今こうやってみんなと会話をしているのは圃人侍女ちゃん本人ではなく、再構成された身体を動かしている吸血鬼としての人格なんですから。

 

 圃人侍女ちゃん(おかあさん)の記憶を頼りに金剛石の騎士(王子殿下)へ言伝を頼んだものの、本人ではないため信用してもらえるかずっと不安だったのでしょう。俯く『吸血鬼侍』ちゃんの頬からはポタリポタリと雫が落ち、迷宮の床を湿らせています。その小さな身体を後ろからそっと抱きしめ、女司教ちゃんが未だに床上でピチピチトと跳ねている道化師(フラック)へ確認の問いを発しました。

 

 

「つまり、貴方はこの子を創造した死霊術師(ネクロマンサー)の知り合いであって、今迷宮を支配している魔人とは無関係ということですか?」

 

「ンンン~! だいたいそんなところです。まぁ『友人(とも)』を名乗ると彼が怒りそうなので……『親友(マブダチ)』の関係と主張しておきましょうかぁ!!」

 

「ほんとだよ。よくおとうさんのけんきゅうしつにやってきて、おやつをぬすみぐいしたりチャトランガ(盤上遊戯)をやってなぐりあいのケンカしてた。……なかよしだよね!!」

 

「フフーフ、そんなに褒めても粘液ぐらいしか出ませんよぉ?」

 

「いちいち言動が気持ち悪いわぁ……」

 

 

 床上をのたうち回りながら自慢のペラも回し続ける道化師(フラック)にスライムを見るのと同質の眼を向ける女戦士さん。まぁ有り体に言ってキモいですし、なによりも彼が纏う雰囲気(オーラ)はまともなものじゃありません。『吸血鬼侍』ちゃんも同じく『(イービル)』の雰囲気(オーラ)を発していますけど、何処かドライな死生観を感じさせる彼女のものと異なり身体中に纏わりつくような粘性の高いものであることが女戦士さんの嫌悪感を煽っているのかもしれませんね。

 

 

「皆様に判り易いように説明しますとぉ……迷宮を乗っ取っている魔人はこの階層の処女領域(E11-N19)の先にある転移門(ゲート)を使い、王都の地下に穿たれた魔穴と行き来して王やその取り巻きと接触していまぁす! 残念ながら支配者の証である護符(アミュレット)が無いと別の転移床(ワープポータル)に阻まれてしまうので、皆様が使う事は出来ませんが!!」

 

「今は彼の愛し子が横取りし続けたおかげで迷宮の資源(リソース)が枯渇し、怪物(モンスター)の配備が滞っている状態ですが……王都の魔穴とこの迷宮が繋がってしまったら、王都の住人は老若男女の区別無く魔穴へと放り込まれてしまうでしょうねぇ! そうなれば迷宮は全力稼働、あっという間に二穴から大量の怪物(モンスター)が溢れ出すこと間違いナシ!!」

 

「彼らの陰謀♂を止めたくば、二穴を同時に塞いでしまわねばなりません! どちらかが空いていれば彼らの逃亡を許すことになるでしょう!! さぁ、ここは皆様の力を合わせ彼らを苛烈に攻め立て……アフン!?」

 

「言い方が卑猥過ぎるのよぉ……!」

 

 

 顔を真っ赤にした女戦士さんに槍の柄を捻じ込まれ恍惚の表情を浮かべる道化師(フラック)は映像越しでもキモいですね! ですが彼の言い分を信じるならば残された時間は少ないでしょう。此処に集いし冒険者はみな一騎当千の強者ですが、圧倒的に数が足りません。それを分割して王都と迷宮を同時に攻略するのは至難の業と言わざると得ないでしょう。

 

 

「王都の魔穴は我らに任せるが良い……と言いたいところだが、此方の一党(パーティ)も損耗が激しくてな。此処に居る我ら以外は負傷しているため万全とは言い難いのだ」

 

 

 済まぬ、と冒険者たちに頭を下げる金剛石の騎士(K・O・D)銀髪侍女さん(7人目)のおかげで巨漢の魔術師がガォン!されたり赤毛の僧侶がドッバァー!!されることはなかったみたいですが、みんな相応に消耗しているみたいです。元気だったら迷宮まで同行している筈ですからねぇ……。

 

 

「ちゅうても、ワイらも6人で一党(パーティ)やさかい、誰か1人でも引き抜かれたら迷宮(こっち)の攻略がヤバいでぇ?」

 

 

 半森人の斥候さんが渋面で呟いていますが、連携の取れた一党(パーティ)の戦闘力は同じ能力の個人6人とは比較にならないほど高いもの。逆を返せば誰か1人でも欠けてしまうとそこから崩れる危険性も孕んでいます。そのリスクを負ってでも、消耗を抑え迷宮を探索出来るメリットを選んだからこそ冒険者の一党(パーティ)は6人が適正と言われているわけですね。

 

 

「となると、そっちに同行出来そうなのはおちびちゃんだけど……」

 

「うん、ぼくもそれがいちばんいいとおもうんだけどね……」

 

 

 女戦士さんが視線を向けるのはやはり『吸血鬼侍』ちゃん、ですが先程『吸血鬼侍』ちゃんが言っていたように、彼女は迷宮に縛られているために地上へと出ることが出来ません。

 

 ――そう、()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、だから……僕が代わりについていくね!!」

 

 

 

 

 

 

「ふぇ? ……ふわぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 ――玄室に響いたのは、場違いなほどに明るい可憐な少女の声。

 

 己の内側から発せられた声に驚く『吸血鬼侍』ちゃんの身体が眩い光に包まれ、輪郭線(ワイヤーフレーム)の浮かび上がる薄暗い部屋を明るく照らしていきます。

 

 やがて光が収まり、眼前を手で覆っていた冒険者たちが目にしたのは……。

 

 

「えへへ……吃驚させちゃったかな?」

 

 

 呆然とした表情で目の前に現れた自分と瓜二つ……いいえ、自分の身体の基となった姿の人物を見つめる『吸血鬼侍』ちゃんと、そんな彼女を優しく抱き寄せゆっくりと頭を撫でる1人の少女。鏡写しのようにそっくりな姿ですが、新たに現れた『吸血鬼侍』ちゃんの顔には溢れんばかりの母性と慈愛が満ちています。驚きのあまり声が出せないのを察し、そっとハグを解いて一歩二歩ステップ。外套(マント)の裾を摘まみ繰り出すカーテシーが、言外に彼女の正体を物語っています。

 

 

「よもや、このような形で再び相見えるとは思わなんだな……」

 

 

 その立ち居振る舞いで彼女が何者であるか悟ったのでしょう。様々な感情の入り混じった声で呟く金剛石の騎士(金髪の殿下)に深々と頭を下げた後、未だ再起動していない『吸血鬼侍』ちゃんを見てクスクスと笑う彼女。ようやく目の焦点が合ってきたところで、ニッコリと微笑みながら告げるのは……。

 

 

 

「こんにちは、僕の可愛い赤ちゃん。僕があなたのおかあさんだよ。 ……生まれてきてくれてありがとう!」

 

 

 ――生前、伝えることの叶わなかった、愛しい我が子に対しての生誕の祝福でした。

 

 


 

 

「――では、あまり長くは保たんということか」

 

「うん。あの子が蓄えていた迷宮の魔力(リソース)を使って構成された仮の身体……霊体だから、頑張って一戦闘が限界かなぁ」

 

 

 再開の挨拶もそこそこに圃人侍女(おかあさん)から告げられた時間制限に眉を顰める金剛石の騎士(金髪の殿下)。たしかに、受肉せずに霊体で活動する場合、活動時間や能力に制限が掛かってしまうことが多いですね。もしフルスペックで顕現しようものなら秒で内包エネルギーが尽きて霊体が崩壊してしまいますし(BASTAR〇!!並感)。

 

 

「それに、僕が分離したせいであの子にも負担が掛かっちゃうの。今は体内の魔力で無理矢理稼働してるけど、それが無くなったら一時的に行動不能……冬眠状態になっちゃうかも」

 

 

 ははぁ、本来吸血鬼ボディを動かすには『死霊術師(おとうさん)の作った吸血鬼の魂』『圃人侍女(おかあさん)の魂』『赤ちゃんの魂』の3つが必要なところ、圃人侍女(おかあさん)の魂が抜けたぶん諸々の処理に負担が掛かっちゃうのかな。その後はCPU()を休ませるために冷却期間が必要だと。

 

 では急がねばなるまいという金剛石の騎士(金髪の殿下)の声で攻略の準備を始める一行。やけに友好的(フレンドリー)道化師(フラック)曰く「魔人が拠点にしているのはこの迷宮と薄皮一枚隔てた場所に存在する異界でぇす!」らしく、迷宮に縛られていない彼が案内してくれるとのこと。つまり魔人討伐組は六英雄(オールスターズ)with『吸血鬼侍』ちゃん&道化師(フラック)という色物軍団になったわけですね!

 

 

「それじゃあ此方は先に地上へ向かわせてもらうよ」

 

「判ったわぁ。……気を付けてね」

 

「それはこっちの台詞だよ。君たちのほうが危険だろうからね」

 

 

 互いの無事を祈るように言葉を交わす女戦士さんと銀髪侍女さん。その向こうでは『吸血鬼侍』ちゃんと圃人侍女(おかあさん)がギュッと抱き合っています。

 

 

「まだ君の中で眠っているもう1人の子にもよろしくね?」

 

「うん……」

 

 

 頷きながらも手を放そうとしない『吸血鬼侍』ちゃん。心のどこかで()()()()()()()()()()()()を感じ取っているのかもしれません。背の変わらぬ我が子の頭を撫でながら、優しく諭すように圃人侍女(おかあさん)が口を開きました。

 

 

「ごめんね、母親らしいことを何一つしてあげられなくて。僕にはどうしても果たさなくちゃいけない約束があるの」

 

「……おひめさま?」

 

「うん。あの子はきっと魔穴にいる。あのクソッタレがあの子を傍らから離すわけないもん」

 

 

 そう牙を剥く笑みを見せる圃人侍女(おかあさん)の姿に、同じく鮫のような笑みを浮かべる『吸血鬼侍』ちゃん。やられたまんま泣き寝入りするほど大人しい性格の2人じゃありませんものね。

 

 

「あのまじんはぼくたちがやっつけるから、おかあさんたちもがんばって!」

 

「もちろん! ……大丈夫、あなたは1人じゃない。あなたの中にいるもう1人のあなたが、いつも一緒だから」

 

 

 そう言って頬に口づけをして、他の2人とともに地上行きの転移床(ワープポータル)へと消えていく圃人侍女(おかあさん)。ブンブンと手を振りながらそれを見送っていた『吸血鬼侍』ちゃんの背後から女司教ちゃんが声を掛けています。

 

 

「あの、なんだかもう逢えないような口ぶりでしたけど……」

 

「うん。ちじょうのたたかいがおわったら、おかあさんのたましいはほかのみんなのものといっしょにあるべきばしょへかえるの。ぼくのなかにしまってあるたましいもぜんぶたびだつから、ぼくもしばらくおやすみしちゃうかな」

 

「!? それでは……」

 

 

 何気ない口調に秘められた残酷な話に言葉を失う女司教ちゃん。他の六英雄(オールスターズ)も俯いたり天を仰ぎ見たりと様々な反応をしていますね。重苦しい空気に包まれ始めた一行を奮い立たせたのは、底抜けに明るい道化師(フラック)の声です。

 

 

「ンンン~? 何をそんなに沈んでいるんですかぁ? 先のことで悩むのは目の前の障害を排除してからのほうが建設的ですよぉ……アフン!」

 

「正論だけど貴方に言われるとなんだか腹立たしいわねぇ……!」

 

 

 蹴り倒され、股間の当たりを踏み躙られてもなお蠢くのを止めない道化師(フラック)の姿に青筋を浮かべる女戦士さん。男子諸君は股間を抑えてガタガタと震えています。沈鬱な空気は消え失せ、何処か楽観的な雰囲気になったのはきっと良いことでしょう、たぶん。お、女戦士さんの美脚からぬるりと抜け出した道化師(フラック)が汚れても居ない服の裾をはたきながら一行へと向き直りました。

 

 

「んではぁ、此方もそろそろ出発しましょうかぁ! 今入り口を作りますので少々お待ちくださいねぇ」

 

 

 そう言って彼が股間のポケットから取り出したのは1本の白墨(チョーク)。一行の訝し気な視線を軽く受け流しながらそれを『吸血鬼侍』ちゃんに差し出し、床に扉の絵を描くよう促しています。言われたとおりに彼女が玄室のそれと同じくらいの大きさの扉を描いたところで、おもむろに床面へと手を添えて……。

 

 

「そぉい!!」

 

 

 気の抜ける掛け声とともに、膨大な魔力を秘める実体化した扉を引き起こしました!!

 

 

「デタラメや」

 

 

 かいてもいない汗を拭う仕草を見せる道化師(フラック)にジト目で呟く半森人の斥候さん。これも迷宮の機構(システム)を応用した技術なんですかねぇ……? 突然現れた重厚な扉の周囲を警戒する冒険者たちに落ち着けとジェスチャーをしつつ、道化師(フラック)が扉について話し始めました。

 

我が友(マイフレンド)が精魂込めて構築したこの迷宮と違って、魔人が後付けで用意した異界はひっじょ~に甘い造りでしてねぇ。座標さえ判っていれば出入り自由なんですよ。ホントは全部で10ある異界を順番にクリアして戴くつもりだったんですが……彼女の時間制限もありますからねぇ。出血大大DIEサービスでボス部屋直行の転移門(ワンダーゲート)をご用意しましたぁ!!」

 

 

 追加10面……微妙な造り……ワンダーゲート……あっ(察し)。彼が転移門(ワンダーゲート)と呼んでいる扉には人体の縮図を表す曼荼羅(AMIDA)が描かれてますし、まさかWS版とはたまげたなぁ……。

 

 

「では皆様、出立の準備は……っと、アレ? 小さなレディは何方に? もしかしてお花摘みですかぁ!?」

 

 

 ……え? あ、言われてみればいつの間にか『吸血鬼侍』ちゃんの姿が見えません。現在のダブル吸血鬼ちゃんと違い、フラフラと1人で遊びに行っちゃうような精神的な成長……成長?はまだしてないでしょうし、何か気になることでもあったんでしょうか……お! 玄室の入り口から入って来ました! まったく、何処に行ってたんでしょう? 顔を見合わせる冒険者たちを代表して女司教ちゃんが話しかけていますね。

 

 

「あの、今何方へ行ってたのでしょう? みんな心配していたのですよ?」

 

「えう……ごめんなさい。モンスターにやられそうなひとたちがいたからたすけにいってたの」

 

 

 ……ん?

 

 

「なんやチビ、オマエ怪物(モンスター)のいる場所が判るんか?」

 

「めいきゅうになじむとわかんなくなっちゃうけど、さいはいちされたばかりのやつはなんとなく。まほうつかいっぽいおとこのひとがグレーターデーモンにやられそうになってた」

 

 

 あっ(全知)。

 

 

「はなしかけてもボーっとしててへんじがかえってこないから、みんなをまたせちゃいけないとおもってかえってきちゃった。……なんだかハァハァあらいいきをしながらぼくのことをジッとみてたけど、やっぱりちゃんとちじょうまでおくってあげたほうがよかったかなぁ?」

 

 

 やっぱりそのままにしてきたことが不安なのか、背後をチラチラと振り返る『吸血鬼侍』ちゃん。自分に迫ってきた危機にまったく気付いていない彼女に対する女性陣の反応は……。

 

 

 

 

 

 

「いいえ、何の問題も無いわ!」

 

「さ、早く魔人のところに向かいましょうねぇ?」

 

「よく……無事に帰ってきてくれました……っ」

 

 

 

 うん、まぁ、そうですよね。今までは何処か『吸血鬼侍』ちゃんへの警戒心を払拭出来ていなかった従姉ちゃんと女戦士さんでしたが、圃人侍女(おかあさん)との会話や先程の反応から彼女が幼い子ども同然の精神構造であると気付いてくれたみたいですね。そのたわわに『吸血鬼侍』ちゃんを抱きしめつつ、汚れた大人の視線を拭い去るように頭や頬を撫でています。突然のスキンシップに目を丸くしていた『吸血鬼侍』ちゃんでしたが、味わいの違う三種のたわわにすっかり骨抜きにされちゃった様子。……もしかしてこれが後のソムリエとなるきっかけだったのでは???

 

 

「……なぁ、えぇと……そろそろえぇか? 出発しても?」

 

 

 女性たちの目に毒な光景にチラチラと視線を向けていた半森人の斥候さんの咳払いで落ち着きを取り戻す冒険者たち。なお頭目("君")は女性たちに囲まれた『吸血鬼侍』ちゃんを血の涙を流さんばかりの表情で見つめていました。どんだけおっぱい星人なんですかねぇホント。

 

 

 すっかり意気投合?した冒険者と化物な2人。次回はいよいよ魔人、そして狂王との決着ですかね? 同時に進む王都の戦いも気になるところですが……どうやって進行させるかは次回までに決めることにしましょうか!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 どんどんお話しが伸びるので失踪します。


 誤字のご報告ありがとうございます。ご指摘を受けて気付く恥ずかしさと、読んでいただけた嬉しさの両方でテンションが激しく変動する今日この頃でございます。

 お気に入り登録や評価、感想お待ちしております。特に感想はダイレクトに読んでくださった方々の意見をお聞き出来ますので、よろしければお願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。




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セッションその16-6


 あとちょっと、あとちょっとで終わるから!なので初投稿です。




 

 前回、王都と異界の同時攻略に挑むところから再開です。

 

 

 狂王と魔人、どちらとの戦いを先に流すか関係神さんたちと協議した結果、まずは圃人侍女(おかあさん)サイドをお届けすることになりました! ダブル吸血鬼ちゃんの百合性癖の源流ともなった伯爵夫人さんとの遣り取りにも注目したいところですね!!

 

 

 さて、映像には王都に急ぐ一頭の白馬が映っていますね。手綱を握る金剛石の騎士(金髪の殿下)を騎手に背には銀髪侍女さん、前に圃人侍女(おかあさん)を乗せ、戦女神さんの使徒と同じ名を冠する駿馬(ブリュンヒルト)は速度を落とすことなく街道をひた走っています。

 

 

「――良かったのか? 迷宮組に残り、愛娘と共に最後の時間を過ごすことも出来たろうに」

 

 

 愛馬に指示を出しながら胸元にしがみつく圃人侍女(おかあさん)へと問いかける金剛石の騎士(金髪の殿下)。沈みゆく夕陽を見つめていた彼女が首を横に振って言葉を返しています。

 

 

「あの子なら大丈夫。素敵なお友達があの子を支えてくれるだろうから。それに、僕には果たさなければいけない約束があるの。……アイツが彼女を自分の傍から離すわけないもん」

 

「……ああ。双子の片割れは産まれて間も無く地母神のを通じて辺境に落とした。もう1人は此度迷宮を訪れる前に太陽神の神殿に預けた。たとえ招かれようとも立ち入ることは出来ぬだろう、あの吸血鬼(ヴァンパイア)どもにはな」

 

「実際貴族たちに攫われる寸前だったからね。間一髪ってところだったよ。……でも君の言うとおり、既に伯爵夫人の姿は無かった。他の後妻や寵姫、女官たちとともに、煙のように王宮から姿を消してしまっていたんだ。おそらくは……」

 

 

 むむむ、どうやら後の王妹殿下である妹ちゃんにも危機は迫っていたみたいですね。自らの娘である彼女を眷属として迎え入れるつもりだったのか、あるいは……。狂王の性格を考えると、あんまり楽しい考えにはなりませんねぇ。

 

 

「僕のことはいいから、殿下にはあの子のことをお願いしたいの。今は体内に宿したみんなの(ソウル)から知識や経験を借りてなんとか動いているけれど、その魂を開放したら半分眠ったような人形みたいになっちゃうと思う。もういちどあの子が祈りを得るまで、護ってあげて欲しいの」

 

 

 既に覚悟完了している圃人侍女(おかあさん)にとって、残る心配は愛娘である『吸血鬼侍』ちゃんのこれからについてだけ。真摯な顔で見上げてくる彼女の願いに、暫し瞑目していた金剛石の騎士(金髪の殿下)がゆっくりとその瞳を開き、深く頷きました。

 

 

「そうか……判った。あの幼子が祈りし者(プレイヤー)として目覚めるその日まで、揺り籠を護り続けよう。……なに、よくよく考えれば彼女もまた私の腹違いの妹のようなものだからな」

 

「ふむ、確かに。そうすると君は彼の義理の母親ということになるね」

 

「えへへ、それもそうだね! ……ありがとう、これで心置きなく彼女との約束を果たせるの」

 

 

 あ、そっか。その経緯はどうあれ、圃人侍女(おかあさん)の胎に宿ったあの子は王の血を継ぐ存在ではあったんですよね。ただ生まれる前に母体とともに死を迎え、死霊術師(おとうさん)の手で吸血鬼(ヴァンパイア)に変ぜられちゃいましたけど。まぁそのあたりは関係者の心の持ちようで如何様にも変わることでしょう。……ダブル吸血鬼ちゃんが女神官ちゃんに手を出さなかったり、王妹殿下に妙に紳士的に振る舞っていたのは、本能的に血の繋がりを感じ取っていたからなのかもしれませんね。

 

 

「――さて、王都が見えてきたけれど……すぐそこに夜が迫っている。これからは奴らの時間だけど、どうするんだい?」

 

 

 遠くに見えてきた夕焼け色に染まる王都を見据え、何でもないように呟く銀髪侍女さん。黒々と浮かび上がる王城のシルエットは何処か不吉さを感じさせるものですね。既に道中で話し合っていたことを再確認するような彼女の言葉に、互いに目を合わせ笑う3人。これから狂王の待つ魔穴に向かうとは思えない軽さで言い放つのは……。

 

 

 

 

 

 

「決まっているだろう? 『()()()()()()()()()()()()()』という代々我が家に伝わりし言葉。あの男がそれを歪め実行するのなら、此方も真正面から叩きつけてやるまでよ」

 

「勝ちを確信しているヤツの顔が歪むのを見るのって、とっても気持ち良いよね? 特にソイツが嫌いなヤツだったりすると」

 

「『最高のタイミングで横合いから思い切り殴りつける』。私の好きな言葉だね」

 

 

 

 とても良い子には見せられない笑みを浮かべ、それぞれの思いが込められた言葉を口にする悪魔が3体。狂王とその取り巻きがどんな目に遭うのか、今から楽しみですね(震え声)。

 

 


 

 

 ――王城の地下深くに秘匿されし魔穴。何処とも知れぬ大穴の先から吹き込む瘴気を孕みし風は壁面に擦れ、歓喜か悲嘆かの区別も付かぬ声を地下空間に響かせています。

 

 魔穴の淵に見えるは一組の男女。人骨で組み上げられた玉座に腰掛け、離れた場所で跪く取り巻きを面白くない顔で睥睨している狂王の傍には人形のように表情を失った伯爵夫人が俯き座り込んでいますね。

 

 

 取り巻きたちの表情が蒼白なのは吸血鬼(ヴァンパイア)と成った影響だけではありません。地上からこの魔穴へと繋がる地下通路に現れた侵入者がもうすぐ目の前まで来ているからです。やがて狂王がその視線を石造りの頑丈な扉へと向けた瞬間、眩い閃光と共に扉が内側へと吹き飛びました!

 

 

「――人間の配下に護りを任せ、自らは安全な場所に籠るとは。≪死≫を超越したと嘯くわりに随分と臆病なものだな?」

 

吸血鬼(ヴァンパイア)に成りたいがために尻尾を振る連中を使ってやったまでよ。所詮は我らが眷属にも餌にもなれぬ塵芥(ゴミ)の集まりに過ぎん」

 

 

 視線をぶつけ合う父と子。その間には温かみを感じさせる成分は微塵も含まれておらず、ただただ互いを否定する冷え切った感情が占めています。爪や牙を誇示し即座に侵入者を八つ裂きにせんと飛び掛かろうとする取り巻きを制し、狂王がその傲慢さを露わにします。

 

 

「散々邪魔をしてくれたな。双子の片割れを何処へと隠し、残りを忌々しい太陽神の従僕に渡しおって。……だが良い。父に頭を垂れ、その血を捧げることですべてを許そう。我が血を継ぐ者の血を取り込むことで、我は真なる不死、不死王(ノーライフキング)へと位階を上げるのだ!」

 

「話にならんよ老害。貴様は只の怪物(モンスター)で、怪物(モンスター)は人に滅ぼされるが必定。貴様は狂王として名を残すことも無く、歴史の闇の中へ消えるだけよ」

 

 

 狂王の戯言を一刀両断にし、聖剣(ハースニール)の切先を向ける金剛石の騎士(金髪の殿下)。祈りを捨てた王は、彼にとって最早父とは呼べぬ存在に成り果ててしまったのでしょう。狂王へと向ける感情には怒りすらなく、必滅という決断的な意志のみが感じられます。その視線を不快に感じた狂王が辛うじて引っ掛かっていた人間性をかなぐり捨て、吠えるように声を荒げます。

 

 

「つくづく忌々しいヤツよ。貴様は昔からそうだった! 我に向ける視線には微塵も敬意を感じず、いつも見下すような目で見ていた!! 貴様が簒奪を考えていたこと、我が気付かぬと思っていたか!?」

 

「気付いていながらも排除出来ぬから貴様は愚かなのだ。もっとも、排除していれば王国はとうの昔に滅び去っていただろうから、最初から無理な話であったろうがな。……ああ、今更親殺しがどうとか言ってくれるなよ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 うーんこの限界国家感。腐敗しきっていた王国がなんとか体裁を維持出来ていたのは、混沌の軍勢に立ち向かうための多種族連合の旗頭としてもっとも数の多い只人(ヒューム)が選ばれ、軍が精強を保てていたからなんですかね。迂闊に軍を掌握していた王子を粛清してしまっては連合が瓦解し、秩序の勢力は敗北していたことでしょう。そういう意味ではナイスな立ち回りをしていたんですね当時の殿下は。

 

 

「我を滅ぼすなどという戯言を! 貴様の周囲には誰が居る? ≪解呪(ディスペル)≫を唱えられる僧侶も、炎を操る魔術師も、破邪の力を秘めし銀の剣を振るう剣士も居らんではないか!!」

 

 

 そこまで口にしたところで、漸く傍に居る2人の少女に気付いた狂王が蔑みの笑みを深め、粘りつくような声色でかつて凌辱の限りを尽くした相手へと言葉の刃を振るい始めました。

 

 

「おお、其処にいるのは我が妻の足元に纏わりついていた地べた摺り(ロードランナー)ではないか。聞いておるぞ、胎の赤子ともども兵たちに()()()()()()そうではないか」

 

 

 彼の言葉によって起きた反応は3つ。嘲笑を浮かべるかつて圃人侍女(おかあさん)を嬲った貴族たち。赫怒の炎を瞳に宿す金剛石の騎士(金髪の殿下)と銀髪侍女さん。そして……。

 

 

 

 

 

 

「――嘘。どうして……」

 

「――君に逢いに来たよ。約束を果たすために……ね?」

 

 

 弾かれるように顔を上げ、幼い頃からずっと傍に居た存在を信じられないといった顔で見つめる伯爵夫人。変わり果てた姿でありながらも変わることの無い笑みを浮かべる圃人侍女(おかあさん)に口元を抑え堪え切れずに涙を流す彼女に対し、圃人侍女(おかあさん)の言葉は強く響いたみたいですね。

 

 

「……我を無視するとはなんと罪深い。だが遅かったな! 既にこの者は我が眷属と成った!! そこに居る愚息も、我が手の内より逃げ出した娘ももう要らぬ!」

 

 

「この吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)は我のモノだ、我だけのモノだ!!」

 

 

 そう咆哮し、優越に満ちた瞳を向ける狂王。見ればその足元には無数の干乾びた亡骸が転がっています。彼の言葉から察するに他の寵姫や女官たちのものでしょうね……。

 

 

「貴様の手札は己と侍女が2人、とても勝負にはなるまい。……諦めよ。諦めて跪き、己の無力さを噛み締めながら魔穴の解放されるその瞬間を見ておれ!」

 

「「「諦めろ!」」」

 

「「「「「諦めろ、人間(ヒューマン)!」」」」」

 

 

 己の絶対的優位を妄信し、嘲りの声を響かせる吸血鬼(ヴァンパイア)たち。その悍ましい合掌に伯爵夫人は耳を塞ぎ、縋るような視線を圃人侍女(おかあさん)へと向けています。地下空間に充満する絶望の声に対し、3人が出した返答は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「それがどうした!!!」」」

 

 

 ――祈りを持つ者(プレイヤー)なら誰もが心に秘めている、絶望を打ち払う魔法の言葉です!!

 

 

 

「『諦めろ』だと? 諦めなかったからこそ人間(ヒューマン)は此処まで歩いて来られたのだ」

 

「あまり人間を無礼(なめ)るなよ死にぞこない(アンデッド)ども。人は気合いと根性で≪死≫さえ退けられることを証明してあげよう」

 

 

 兜を脱ぎ捨て豪奢な金髪を露わにする金剛石の騎士(金髪の殿下)と、両手の指をパキポキと鳴らし据わった目で吸血鬼(ヴァンパイア)たちを一瞥する銀髪侍女さん。2人の間から歩み出るのは、()()()()()()輝く瞳で祈るように手を組む小さな姿です。

 

 

「フン、どうやら低能な貴様等には我の高尚な言葉は理解出来ぬようだな。それに、その地べた摺り(ロードランナー)も仮初の肉体しか持たぬ亡霊の成り損ないではないか。只の侍女でしかない貴様に何が……!?」

 

 

 そこまで口にしたところで異変に気付き、訝し気な視線を向ける狂王。やがてその視線が驚愕と恐怖を秘めたものへと変貌していきます。

 

 祈るように組まれていた圃人侍女(おかあさん)の手が解かれ、その間には光り輝く小さな太陽が。ゆっくりと瞳を開きながら、祝詞を唱えるように可愛らしい唇から言葉が紡がれていきます。

 

 

「そうだね。僕には剣を握ったり盾を持ったりすることは出来ない。この身体はガワだけの偽物だし、戦い方を知っている(ソウル)はみんなあの子のほうについてってもらったから」

 

 

「だから、僕の中にいる(ソウル)はみんなどこにでもいる人たちのもの。毎日を懸命に生きていた、当たり前の人生を送っていた人たちのもの。いきなり連れて来られた迷宮で何も出来ずに死んでいった人たちのもの」

 

 

「そ……そんな無価値な連中の(ソウル)に何が出来るというのだ! 我らの糧にすらなれず、せいぜいが迷宮の糧になる程度の(ソウル)に……!?」

 

 

 徐々に輝きを増し、地下空間を照らし始める光に後ずさりながら威嚇するように声を荒げる狂王。このまま圃人侍女(おかあさん)を放置しては致命的な何かが起きると本能的に察知した取り巻きの眷属たちが一斉に飛び掛かっていきますが……ちょっと遅いですね。

 

 

「でも、みんな日々の暮らしの中で神様に感謝の祈りを捧げてたの。好きな人と結ばれたり、取引が上手くいったり、今日も()()()()()()()()()。そんな小さなことでも、みんな神様に感謝しているの」

 

 

 肉体を失い、迷宮で磨り潰されるのを待つばかりだった魂たち。圃人侍女(おかあさん)の中という仮初の安住の地に集った彼らは確かに1人ひとりは無力かもしれません。ですが、肉体を持たずとも彼らに出来ることがあるのです。

 

 

 ――それは、祈ること。

 

 

 泣きたいことがあったり、怒りを感じたり、互いに笑い合ったり。愛を紡ぐ日もあれば、悲しい別れの日もあるでしょう。暗い夜が訪れ、恐怖を感じることがあるかもしれません、ですが、それでも、太陽と一緒に必ず明日はやってくるのですから!

 

 

 

 

 

 

「太陽礼賛!光あれ!」

 

 

 

 

 

 

「ギャアアアアア!?!?」

 

「か、身体が崩れ……!?」

 

「燃える……燃えてしまう……」

 

 

 太陽神さんへの祈りの聖句とともに発現した浄化の輝き。太陽神の信徒にのみ許された≪浄光(サンライト)≫と≪聖光(ホーリーライト)≫の同時詠唱は、襲い掛かってきた吸血鬼(ヴァンパイア)に致命的なダメージを与え、着地する前にその姿を灰へと変えていきます。即座の滅却を免れ岩陰に退避した運の良い取り巻きもいましたが、金剛石の騎士(金髪の殿下)によって遮蔽ごと両断されてますね。……お、向こうでは銀髪侍女さんが出口へと駆け出す吸血鬼(ヴァンパイア)の1体を組み伏せてます。両腕を奇妙に捩じくれさせ地面を無様に這いずる男は……圃人侍女(おかあさん)を嬲っていた連中の1人ですね。

 

「クソッ、俺の腕が……!? なんで治らないんだよぉ!?」

 

「おや、知らなかったのかい? 吸血鬼(ヴァンパイア)の再生能力は恐るべきものだけど、肉体が怪我と判断しないもの……例えば綺麗に外された脱臼なんかは再生しないんだよ」

 

 

 切り落としたほうが早く再生するね、と呟きながら男の首根っこを掴み、人外の膂力で輝きの中へと放り込む銀髪侍女さん。悲鳴を上げながら男の姿は光に融け、地面に僅かな灰を残すばかりになりました。 

 

 

糞ッ(ガイギャックス)、忌々しい地べた摺り(ロードランナー)め……」

 

 

 間一髪のところで伯爵夫人を抱え、光の範囲外に逃れた狂王。一瞬だけ浴びた輝きによって身体のあちこちから白煙を燻らせ、狂眼と呼ぶに相応しい瞳でゆっくりと近寄る圃人侍女(おかあさん)を睨みつけています。

 

 

「我が妻まで巻き込む所業、ど許せぬ! この者は貴様の主……否、想い人では無かったのか!?」

 

「そうだよ、だから取り戻すの。――その子はもう、吸血鬼の花嫁(おまえのもの)なんかじゃない」

 

「? 何を訳の判らぬことを……」

 

 

 訝しげな狂王の言葉を閉ざしたのは腕の中に感じた忌々しい温もり。まさかという視線を向けた彼の目に飛び込んで来たのは、潤んだ瞳で圃人侍女(おかあさん)を見つめる、()()()()頬の伯爵夫人さんです。

 

 

 ≪浄光(サンライト)≫と≪聖光(ホーリーライト)≫の同時詠唱が持つもうひとつの効果。それは光が照らす範囲内に存在する全ての対象が受けている呪いや呪文の効果から、()()()()()全てのものを取り除くというもの。つまり、伯爵夫人さんが吸血鬼(ヴァンパイア)であることを否定すれば、それは打ち消されるわけです。

 

 

「馬鹿な、奴が齎した眷属化の儀式はそう簡単に解呪出来るものでは……」

 

「僕ひとりだったら無理だよ。でも、みんなが応援してくれてるからね」

 

 

 圃人侍女(おかあさん)の言う通り! 彼女の中に居るたくさんの人たちの(ソウル)、その無数の祈りが束ねられ、≪聖歌(ヒム)≫のように奇跡の効果を押し上げているんです! 彼ら1人ひとりは無力かもしれませんが、その祈りは決して無力なんかじゃありません。『祈りは力なり、力は祈りなり』ってことですね!

 

 

「それじゃ、彼女は返してもらうよ?」

 

「グァッ!? こ、この灰鼠が……ッ!!」

 

 

 あ、圃人侍女(おかあさん)に気を取られていた狂王の隙を狙った銀髪侍女さんが美事に伯爵夫人さんを奪還しましたね! 両の肘を砕かれ唸る狂王、痛覚は無いかあっても鈍い筈なのに、その顔は苦々しいものになっています。

 

 

「さ、感動の再会というやつだね」

 

「あ、ああ……っ」

 

 

 軽々と人ひとりを抱き上げて戻って来た銀髪侍女さん。彼女に背中を押され、呪文を維持している圃人侍女(おかあさん)の傍に降ろされた伯爵夫人さんが堪え切れないように小さな想い人を横から抱きしめ、耳元で囁くようにその想いを口にします……。

 

 

「――本当に、貴女なのですね……!」

 

「もちろん。約束したでしょ? 僕たちは、ずっと一緒だって!」

 

 

 

「ふむ、どうやら上手くいったようだな。であれば、後は奴を滅ぼすだけよな」

 

 

 お、取り巻き連中を粗方斬り捨てた金剛石の騎士(金髪の殿下)もやって来ましたね! 疲れた様子も見せず宙に浮く狂王を見上げる様はまさに全盛期といった感じです。以前銀髪侍女さんが陛下はだいぶ(なま)っているみたいなこと言ってましたけど、比較対象がコレだと今でも十分やっていけそうな気がするんですが。

 

 さて、殿下の言う通りあとは狂王を始末すればおしまいなのですが……おや? ただでさえ青白い顔を真っ青にしてプルプルと震えてますね。何かを言おうとして怒りのあまり声が出ないようにも見えますが……。

 

 

「貴様……自分が何をしたのか判っているのか!? 吸血鬼化は不可逆な術式、ひとたび解呪してしまえば……ッ」

 

「つまらないこと聞かないでくれる? ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 指を突き付け吠える狂王を一瞥し、溜息まじりに応える圃人侍女(おかあさん)。片手で呪文を維持したまま反対の手を伯爵夫人へと伸ばし、ほっそりとした顎へと添えています。彼女の意図を察した伯爵夫人が目線を合わせるように屈み込んだところで……。

 

 

「ん……ちゅ……れる……」

 

「ん……ふぅ……はぁ……」

 

 

 狂王へ見せつけるように濃厚な口づけを交わす2人。重ねられた唇と絡み合う舌。粘膜の接触を介して送り込まれる魔力によって()()()伯爵夫人の身体に一時の熱が宿っていきます……。

 

 

「ぷぁ……すぐに終わらせるから、もうちょっとだけ待っててね?」

 

「ん……はい、待っています……貴女を……!」

 

 

 銀糸の橋を舌で絡めとりながら微笑む圃人侍女(おかあさん)と、顔を真っ赤にしながらコクリと頷く伯爵夫人さん。濃厚な百合に殿下と銀髪侍女さんも「いい……」「いいね……」とご満悦な様子。ですがこの場でただ1人、2人の愛を認められない存在がいるわけで……。

 

 

「……らぬ」

 

 

 

「……要らぬ」

 

 

 

「もはや何もかも要らぬ! 愚かな民も、役に立たぬ息子も、穢れた売女(ばいた)も!! 皆等しく魔穴の(ウロ)へと堕ちてしまえ!!!」

 

 

 おーおー、振られ間男が逆ギレしてますねぇ。背より展開した翼で魔穴の上空へと舞い上がり、再生した両腕の肘を脇腹に沿え、手を左右に大きく開いた支配者のポーズで呪文の詠唱に入る狂王。膨大な魔力を感じさせるそれは、魔術師の最大火力として名高い例の呪文です……!

 

 

「魔術師を連れてこなかったのが貴様の敗因よ! この呪文を止めるには≪抗魔(カウンターマジック)≫で打ち消すか、同じ呪文を以て相殺するほかは無い!! ……それとも尻尾を巻いて逃げるか? この地下空間から簡単に抜けられるとは思えんがな!」

 

 

 自らの勝利を確信し高らかに謳う狂王。こんな閉鎖空間でブッパしたら彼自身も只で済むわけは無いのですが、そこは≪邪な土≫の効果で自分だけ助かるつもりなのでしょう。詠唱を終え、万物を等しく滅ぼす核の一撃を放つ彼の顔は、しかし間もなく驚愕の色へと染まっていきます……。

 

 


 

 

 上空より迫る滅びの光を見据え、金剛石の騎士(K・O・D)はその手に握りし聖剣を大地に突き立てた。しかしそれは敗北を認めた諦めの境地でも、運を天に任せた捨て鉢な行動でもなく、掴み取るべき勝利への第一歩。

 

 愛しき伯爵夫人を侍女に託して隣に歩み出た小さな戦友と視線を交わし、背中合わせに立つ2人。その構えは実に奇怪なものであった。

 

 盾持つ側の金剛石の騎士(K・O・D)は右足を上げ、膨大な魔力を放つ籠手(ガントレット)を左の肩口で重ねた構え。呟かれる真言(トゥルーワード)は狂王が唱えし核の一撃とまったくの同一。

 

 剣持つ側の圃人侍女(太陽の使者)は両足を大きく開き、咲き誇る向日葵のように縦に合わせた両手を右腰に沿える構え。紡がれる聖句は何時如何なる時でも変わることの無い太陽賛美の祈り。

 

 籠手(ガントレット)に秘められし禁断の力と不浄なるものを滅ぼす聖なる稲光。青白と黄金、ふたつの光は螺旋を描いて一条の閃光に変じ、狂王の放つ破滅の光すら取り込み彼のものの命脈を断たんと突き進むのであった……。

 

 


 

 

「馬鹿な……我は……死を超越した……」

 

 

 ――伝説の籠手(コッズ・ガントレット)の特殊能力である≪核撃(フュージョンブラスト)≫と、太陽神さんの専用奇跡である≪霹靂(パニッシャー)≫の合体技。狂王もまさか君主(ロード)である金剛石の騎士(金髪の殿下)が≪核撃(フュージョンブラスト)≫を使えるなんて想像もしていなかったでしょうね。自身で語っていたように同じ呪文で相殺を取られ、詠唱後の硬直に≪霹靂(パニッシャー)≫が直撃。≪邪な土≫の発動なぞ許される筈も無く、狂王は灰すら残さずに消滅してしまいました。

 

 うーん、まさに『この威力!』。アンデッド絶対滅ぼすビームの異名は誇張でもなんでもなかったですね!! あと何気に陛下の≪核撃(フュージョンブラスト)≫発動モーションが野菜王子の〇ャリック砲なのは中の人繋がりなんですかね???

 

 天井にDB的な巨大クレーターを刻み込んでその役目を終えたごんぶとビーム。攻撃の余波で魔穴の周辺に溜まっていた瘴気も吹き飛び、一帯には静寂が戻ってきましたね。後の封印は赤毛の僧侶……枢機卿にお任せする流れみたいです。封印の要として地母神さんの杖が使われていましたから、ひょっとしたら聖人尼僧さんも協力していたのかもしれません。

 

 

「どうだったかな、僕の活躍?」

 

「えっと、すごく……すごかったですよ」

 

「えへへ……ありがとう!」

 

 

 不浄の一切を清める光を食い入るように見つめていた伯爵夫人さんのところへ圃人侍女(おかあさん)がぽてぽて近寄り、ふふんと薄い胸を張っています。ちょっと語彙力の低下した想い人からお褒めの言葉を貰い嬉しそうに笑みを浮かべる姿を見ていると、先程ゲロビをぶっぱしたうちの1人であるとはとても思えません。

 

 

「……おまたせ。それじゃ、そろそろいこっか?」

 

「――はい。何処までも、ずっと一緒に……」

 

 

 そう言葉を交わす2人の身体が徐々に光に包まれていきます。≪浄光(サンライト)≫と≪聖光(ホーリーライト)≫の複合効果である解呪、これは吸血鬼化を解くものではありますが、イコール人間に戻るというわけではありません。先程注がれた魔力によって辛うじて保っていましたが、伯爵夫人さんの身体は既に生者のものではないのです……。

 

 

義妹(いもうと)たちのことは心配無用。大っぴらに支援は出来ぬが、理不尽な待遇にはさせぬと約束しよう。安んじて逝かれると良い……2人の義母(はは)上」

 

「!! 私たちを、義母(はは)と呼んでくださるのですね……」

 

「えへへ、ちょっと恥ずかしいかも! ……みんなのこと、お願いします」

 

「良き旅路であることを祈っているよ。いつか、また……」

 

 

 たくさんの(ソウル)が抜け出し、2人の身体が徐々に透明に変わっていく中で旅立ちの挨拶を交わす4人。義母(はは)と呼ばれ感極まった伯爵夫人さんが殿下へと抱き着き、圃人侍女(おかあさん)が面白がって真似するのを銀髪侍女さんが(ウォトカ)の肴にしています。やがて2人の身体が掬い上げられるようにふわりと浮かび、他の(ソウル)とともに消えていきました……。

 

 

 

 

 

 

「さて、あとは向こう次第だけど……どうかな、彼らは勝てると思うかい?」

 

「言うまでも無かろう。たかが魔人の1体で世界が崩壊するなら、この世はとうの昔に暗黒に包まれている」

 

「まぁね。――世界の半分よりも姫との爛れた生活を選んだ背中で語る勇者に乾杯」

 

 

 スゴイ=シツレイなことをのたまいながらスキットルを傾ける銀髪侍女さんを半目で睨みつつ、騒がしくなってきた入口へと歩き出す金剛石の騎士(金髪の殿下)。包帯を巻いた赤毛の僧侶や犬人の戦士に手を挙げることで応じながら、既にその思考は今回の事後処理へと向けられているみたいです。

 

 

 さぁ、残るは魔人との決着のみ! 果たして六英雄(オールスターズ)with『吸血鬼侍』ちゃん&道化師(フラック)はどんな活躍を魅せてくれるのでしょうか? 次回、決着予定!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 やっと終わりが見えてきたので失踪します。


 評価、お気に入り登録ありがとうございます。また、誤字のご報告につきましても有難く思っております。どんどん発掘されてお恥ずかしい限り。

 感想を頂けると更新に対するモチベが上がりますので、お時間がありましたら是非に。可能な限り返信させて頂きますので、よろしくお願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。




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セッションその16-7


 とりあえず山場は越えたので初投稿です。




 

 はぁ……尊い……。何度観てもあの2人の関係は堪りませんねぇ! 秘密は甘いもの、アカシックレコーダーから引っ張り出した記憶映像の編集に全力を尽くした甲斐があったというものです!!

 

 ――フフ、万知神さんにとっても予想外だったんですよね。彼女が『吸血鬼侍』ちゃんから分離して王城へと向かったこと。本来は『吸血鬼侍』ちゃんの外付け記憶装置としてお母さんの(ソウル)を使う筈でしたもんね。

 

 映像記憶で死霊術師(おとうさん)吸血鬼(ヴァンパイア)と言っていましたが、あれはあくまで通過点。吸血も本来の生体維持に必要な機能ではなく、当時の技術でもっとも効率的な方法を採用しただけでしたし。吸血鬼稀少種(デイライトウォーカー)と見做されている吸血鬼君主ちゃんも、まだまだ発展途上の存在ですからねぇ。

 

 だって、万知神(おとう)さんが目指していたのは……光と、水と、そして人との絆で成長する新たな祈りを持つ者(プレイヤーキャラクター)。人々に寄り添い歴史を紡いでいく『永久に咲く花々(オートマチックフラワーズ)』なんですから!

 

 

 それが何故かお母さんが独立して動き出しちゃったもんだから、この後処理が追い付かずに『吸血鬼侍』ちゃんの活動に制限が掛かっちゃって。ほんへ開始直前まで機械的に秩序の敵と吸血鬼を狩る同族殺し(キンスレイヤー)モードと、戦うことを知らない甘えん坊さんモードの切り替え方式で過ごすことになったんですよねぇ。お互い我が子を想う母親の強さってのを、ちょっと過小評価しちゃってたかもしれませんねぇ……。

 

 まぁ、それに目を付けた太陽神さんの協力で1つの身体に2つの魂を搭載した前期型『吸血鬼侍(本体&分身)ちゃん』が生まれ、様々な出会いや交流を通じて成長、そして彼女たちと愛を育んだことで……お二方の愛し子である『吸血鬼君主ちゃん』『吸血鬼侍ちゃん』として新生したんですから、結果オーライってヤツですね!!

 

 ――っと、可愛いN子さんともあろう者がちょっと語り過ぎちゃいましたね。そろそろ実況も再開するみたいですし、振り返りはまたの機会ということで!

 

 


 

 

 前回、魔穴組の決着がついたところから再開です。

 

 『吸血鬼侍』ちゃんから分離し、大切な約束のために魔穴へと赴いた圃人侍女(おかあさん)。伯爵夫人さんと再会を果たし、狂王を塵ひとつ残さず消滅させて彼女とともに円環へと還っていきましたね。

 

 さて、残るは迷宮組による魔神討伐です。『吸血鬼侍』ちゃんと道化師(フラック)の加入?により原作に比べて戦力はアップしているように思えるかもしれませんが、実はそうでもありません。

 

 『吸血鬼侍』ちゃんが先着してしまったため、コントロールセンターにおける女司教ちゃんを置いてけぼりにした冒険者一行(ガーディアン)との戦いがまるまるスキップされてますし、魔人との顔合わせもしていないので女戦士さんの槍も神聖なる樫の木(ハードウッド)ではなく、上質な魔法の武器ですが単なる店売りのもの。分割詠唱による呪文節約術は会得しているみたいですが、個々の戦闘力は本来のものより若干低下していると考えるべきでしょう。

 

 そのため、魔人の待つ最奥を目指す曼荼羅を模した迷宮の探索は彼らの消耗を抑えるべく『吸血鬼侍』ちゃんが積極的に前に出ているのですが……。

 

 

「――なぁ、ワイらの力を温存するためっちゅうのは判るんやけどな?」

 

 

 通路は全て暗黒領域(ダークゾーン)、四辻には念入りに回転床の(トラップ)、玄室には死霊術師(おとうさん)『吸血鬼侍』ちゃん(ヴァンパイアロード)の劣化コピーがぎっしりという、そびえ立つクソのような迷宮の造りに辟易とした様子の半森人の斥候さんが遠い目をしながら呟いていますね。≪核撃(フュージョンブラスト)≫や≪吹雪(ブリザード)≫が飛び交い、硬質な剣戟の音が響く光景を前に呆れた様子で現在の心境を吐露しています。

 

 

 

「もうアイツだけでええんやないか???」

 

「ンンン~、実はそうも言ってられないんですよねぇ!」

 

 

 彼の呟きに反応したのは道化師(フラック)。必中である筈の≪力矢(マジックミサイル)≫を腰のグラインドで躱すという絶対に真似をしたくない神業を披露し、女戦士さんと従姉ちゃんからの絶対零度の視線を心地良さそうに受け止めながら、冒険者たちに『吸血鬼侍』ちゃんの欠点を告げています。

 

 

「今のあの()は底に穴の開いたバケツみたいな状態でして。ああやって斃した相手から(ソウル)を奪っている間は辛うじて動けますケド、それが尽きればあっという間に燃料切れ。赤子が眠りに落ちるようにいきなり活動を停止してしまうでしょう」

 

 

 呪文の詠唱に入った魔術師の首を村正で斬り飛ばし、撃ち込まれる魔法は呪文無効化と再生の能力で強引に突破。自分と同じ姿の吸血鬼(ヴァンパイア)の喉元に喰らい付き血液ごと(ソウル)を取り込む戦い方はあまりに痛々しいもの。思わずといった様子で天秤剣を握り駆け出そうとした女司教ちゃんの肩を頭目("君")が押さえ、黙って首を横に振っていますね。

 

 

「それに、いくら個としての力が皆さんより上であっても、この先で戦う魔人はそのさらに上! 個の力で敵わぬ以上、皆さんこそが勝利の鍵を握る存在なのデース!!」

 

 

 たしかに。たとえ相手が自分たちより強くとも、囲んで棒で叩いて打倒するのが弱者の戦法。そういう意味では対魔人戦における『吸血鬼侍』ちゃんの役割は露払い兼肉壁あたりが妥当ですね。

 

 

「えっと、じゃあなんであなたは動かないの? あの子を援護してあげたら?」

 

 

 うむ、従姉ちゃんの指摘はごもっとも。まるで最初の白金等級の冒険者一党(D〇3勇者御一行)にいたという遊び人ばりに何もしない道化師(フラック)にみんなの瞳が集中しています。疑惑の視線に応えるように仰け反りながら放たれた言葉は……。

 

 

「いえ、ワタクシこう見えて徘徊する怪物(ワンダリングモンスター)的存在でして。自分から()を出すのは禁じられているのですよ!」

 

「……やっぱりここに埋めていこうかしらねぇ、この変態はぁ……ッ」

 

 

 「いやん、こわ~い!」と野太い悲鳴を上げながらダバダバと駆けまわる道化師(フラック)を青筋を浮かべた笑顔で追い回す女戦士さん。他のみんなも呆れ顔ですが、いい感じに悲壮感や緊張は次元の彼方に吹き飛んでしまったみたいですね。

 

 

「けぷっ……ふぅ、おなかいっぱい!」

 

「あ、待って。……ほら、口元に血が付いてますよ」

 

「わわ……えへへ、ありがとう!」

 

 

 お、死体から血液と(ソウル)を補給していた『吸血鬼侍』ちゃんが戻って来ましたね! 女司教ちゃんに口元を拭ってもらい感謝のハグをしているのを頭目("君")がガン見して……あ、ニコッと笑う従姉ちゃんに見付かって「邪ッ」と鉄拳制裁されました。ロリ百合は尊いからね、仕方ないんです。

 

 

「ハァ……なんかアレコレ考えるんが馬鹿らしゅうなってきた。サッサと終わらせて冷えた麦酒(エール)で優勝するで!」

 

豹芋(ジャガイモ)と鶏の揚げ物もな。檸檬汁はかけておいてやろう」

 

「戦争の火種作るのやめーや!?!?」

 

 

 ……うん。やっぱりいいなぁ、冒険に挑む冒険者は――っと、どうやら決戦前の装備確認が出来たみたいですね。扉の奥から漂う怪しい空気と血の匂い。見た目は今までの玄室と違いはありませんが、間違いなく魔人はこの先に待っています。互いに顔を見合わせ、決意に満ちた表情で頷く一行。半森人の斥候さんと頭目("君")が両開きの扉を蹴り開け、決戦の場へと突入しました!

 

 


 

 

「前衛は一度後退、分割詠唱でアイツの≪抗魔(カウンターマジック)≫を削りにいくよ! おちびちゃん、暫く前をお願い出来る?」

 

「ん、まかせて!」

 

 

 絶対的価値観の相違から決裂した戦闘前の会話。≪死≫を体現したような黒傘を相手に『吸血鬼侍』ちゃんたちは驚くほど優位に戦闘を進めています。

 

 頭目("君")と女戦士さんが前衛となり黒傘の妖刀を2人掛かりで防ぎ、疲労が蓄積してきたタイミングで半森人の斥候さんと蟲人僧侶さんにスイッチ。後退する2人への追撃を妨害したタイミングで『吸血鬼侍』ちゃんが防御を捨てた一撃を黒傘に叩き込み、反撃を貰いつつ間合い(エンゲージ)から離脱。

 

 追加攻撃(セカンダリー)で防御の薄い中衛を狙う黒傘に向かって分割詠唱による≪核撃(フュージョンブラスト)≫が飛び、苦虫を噛み潰したような顔の魔神が≪抗魔(カウンターマジック)≫で呪文を打ち消し。機会攻撃回数(迎撃の備え)を使い切ったのを見計らって、呼吸を整えた頭目("君")と女戦士さんが前線に復帰。床に転がっていた『吸血鬼侍』ちゃんを女司教ちゃんへと放り投げつつ再び斬り結ぶサイクルが確立しています。

 

 

「ひゃんっ!? もう、わたくしみなさんのようなクッションは持っていないんですよ?」

 

「ん~? でもいいにおい……。ヨシ、なおった! いってきます!!」

 

「い、いってらっしゃい……?」

 

 

 深く抉られた脇腹をあっという間に修復し、むふ~! と漲った様子で黒傘の間合い(エンゲージ)に突っ込んでいく『吸血鬼侍』ちゃんを戸惑いながら見送る女司教ちゃん。一見巫山戯ているように思えますが、黒傘の表情を見る限りなかなか効果的みたいですね。

 

 自らの負傷を無視して重い一撃を繰り返す『吸血鬼侍』ちゃんを何故黒傘は放置しているのか。初撃(プライマリー)だけで彼女の生命力を削り切れていないという点もありますが、もっとも影響を与えているのは……。

 

 

 

「ええい鬱陶しい! 先刻から邪魔ばかり……君、やる気はあるのかねぇ!?」

 

「おお、こわいこわい! こわいからそれも打ち消しちゃいましょうねぇ!!」

 

 

 ――奇妙に身体を捩り、手に持つ杖を名状しがたい動作で振るう、道化師(フラック)による呪文妨害です。

 

 

 近接攻撃と呪文を両立させた上級職である『侍』。魔人『黒傘』の核となっている職業のため、奴もまた強力な呪文を唱えることが可能です。現に今も剣戟の合間に後衛に向け≪稲妻(ライトニング)≫を唱えようとしていますが……。

 

 

「ンンー……それは通せませんねぇ! マナ漏出(Mana Leak)!!」

 

 

 ぷしゅーという気の抜ける音とともに発動すること無く消費される呪文回数。≪力矢(マジックミサイル)≫は途中で進路を変え、まるでブーメラン(Boomerang)のように術者である黒傘自身に命中し、アンブッシュ狙いで展開された≪魔霧(マジックフォッグ)≫は雲散霧消(Dissipate)。打ち消し必須な≪核撃(フュージョンブラスト)≫にはもちろん、伝統と信頼の対抗呪文(Counterspell)! フルパーミッションとしか言いようのない嫌がらせに黒傘はストレスでマッハ。トレードマークのにやにや笑い(Grinning)も忘れ、道化師(フラック)に向かって怒鳴り散らしています。

 

 

「君、いい加減にしたまえ! 君は決闘をなんだと……ぬわーっ!?」

 

「すきあり~! ていっ!!」

 

「グワーッ!?」

 

 

 前衛を無視して道化師(フラック)を狙おうと踏み込んだ瞬間、足元に出現したぐるぐる(Twiddle)によって無様に転倒。直後上から降ってきた『吸血鬼侍』ちゃんにお返しとばかりに腹部に村正を突き立てられ、苦悶の声を上げています。床に縫い留められる形となった黒傘にクネクネと歩み寄る道化師(フラック)。黒傘の顔そばにしゃがみ込み、他のみんなからは顔が見えない角度で何事か囁いてますね。ちょっと音量を上げてみて、と……。

 

 

 

 

 

 

「おやおやぁ? よりにもよってアナタが『決闘』を口にするのですかぁ? ≪豊穣≫さんと一緒になってはっちゃけた挙句、四方世界(この卓)に総力戦という概念を持ち込んだ、他ならぬアナタが!」

 

 

 

 

 

 

「――個人の生命と誇りを賭けて行われていた『決闘(デュエル)』を単なる≪死≫の蒐集場所に貶め、己の信仰を獲得する場に無理矢理作り変えた無作法。ワタクシ(N子)、そういうの一番嫌いなんですよ」

 

 

 

 

 

 

 ヒエッ……表情、というか顔のパーツ全てが消失した暗黒フェイスで見下ろす道化師(N子さん)怖っ!?

 

 四方世界の理から外れたその言葉に相手の正体を見出したのでしょう。怒りを浮かべていた黒傘の表情が呆気にとられたものに変わり徐々に笑みへと移り変わっていきます……。

 

 

 

 

 

 

「――ハ」

 

 

 

「ハハハ……」

 

 

 

「ハァーッハッハッハ!!」

 

 

 

 魂を直接鑢掛(やすりが)けするような哄笑。その悍ましさを感じ取り、無意識に黒傘から距離を取る『吸血鬼侍』ちゃんと"六英雄(オールスターズ)"。腹部を貫通し迷宮の床面に突き刺さっている村正を置き去りに、漆黒の影がゆらりと立ち上がりました。

 

 

「そうか、それはたしかに私たちに非があるねぇ。だがいつまでも同じ遊び方ではいずれ飽きてしまう、違うかい?」

 

 

 謝罪ともとれる言葉を紡ぐ黒傘の足元には沸き立つように蠢く影。そこから次々に赤黒い輝きを放つ無数の霊体(闇霊)が立ち上がり、戦の歓喜に狂った瞳で冒険者を見つめています。

 

 

「それに、このまま何もせず逃げ帰っては()()に何を言われるか判ったものではない。だから……最後にひとつ遊戯(ゲーム)をしようじゃあないか!」

 

「……遊戯(ゲーム)やて?」

 

 

 周囲を警戒しながら集合し、油断せずに装備を確認していた半森人の斥候さんの呟き。それを耳聡く聞きつけた黒傘が楽しくて仕方が無いといった声で遊戯(ゲーム)規則(ルール)を話し始めました……。

 

 

規則(ルール)は簡単、すべての闇霊があるべき場所へ還るまで立っていることが出来たら君たちの勝ちだ! 死して尚心躍る闘争に興じる彼らを殺すことは絶対に不可能、彼らを消滅させるには神官による≪解呪(ディスペル)≫、そして……!」

 

「!? あぶないっ!」

 

 

 危機を察知した『吸血鬼侍』ちゃんの視線の先には、混沌の海から這い出した闇霊が彼女の背後に立ち上がり、手に持つ巨大な刃物(肉断ち包丁)を女司教ちゃんへと振り下ろす光景が!

 

 

「……え?」

 

 

 急転直下の事態が続き判断力が低下してしまったのでしょう。眼前に迫る錆びだらけの刃を呆けたように眺める女司教ちゃん。間に合わぬと知りながらも必死に手を伸ばす『吸血鬼侍』ちゃんの意思に応えるように、彼女の身体から暗月の蒼き光を纏った人影が飛び出して行きました!!

 

 

「――――!!」

 

「――――!?」

 

 

 女司教ちゃんをすり抜け、分厚い刃にその身を両断されながらも愛用の武器である突剣(レイピア)を闇霊へと突き立てる暗月霊。組み合うように倒れた2体の身体が光に包まれ、あるべき場所へと還っていきます。それを見た神官の顔は青褪め、視線で人が殺せたらという表情で黒傘を睨みつけていますね。

 

 

「なんて、酷いことを……っ」

 

「相手の実弾数が不明な状態での競りか。他人の命が賭けられていなければ面白いと笑うところだが……」

 

 

「もうお判りだろう、その吸血鬼(ヴァンパイア)が貯め込んでいる(ソウル)ならば彼らと相討ち、双方この迷宮から解放される。……彼我の(ソウル)の総量はほぼ同じ。私が確保していた(ソウル)は全て解き放った! ――さぁ、その忌み子が倒れる前に全ての闇霊を救ってみせたまえ!!」

 

 


 

 

「だめ、もっと一か所に闇霊を集めて!」

 

「ンなこと言われても……大将後ろ!?」

 

「――――!!」

 

 

 ――どれほどの時間が経ったでしょうか。長時間の戦闘で冒険者たちの動きは精彩を欠き、闇霊を≪解呪(ディスペル)≫する神官の呪文も尽きかけた状態。大ダメージを与えれば闇霊が一時的に混沌の海に還ることに気付き周囲を囲まれる恐れは無くなりましたが、その代償として前衛が浅くない傷を負ってしまいました。闇霊自体の数も減り、漸くの終わりが見えてきた冒険者たちの顔は一様に暗いものです。

 

 

「ていっ! ……あ、あれ?」

 

「!? もう無理に動いてはいけません!!」

 

 

 その理由は『吸血鬼侍』ちゃんの変調。危険な一撃からみんなを護るために暗月霊を用い、戦闘不能者を出さないよう立ち回っていたことで内包する(ソウル)はほぼほぼゼロ。なんとか根性で動いているものの限界なのは誰の目から見ても明らかです。これ以上の消耗は避けるべきだと考えた蟲人僧侶さんが≪解呪(ディスペル)≫の詠唱体勢に入りますが……。

 

 

「グッ……!?」

 

「ちょ、ちょっとぉ、これ以上の限界突破(オーバーキャスト)は魂が耐えられないわよぉ!?」

 

 

 既に常の回数を使い切り、限界突破(オーバーキャスト)まで行っていた蟲人僧侶さんが崩れ落ちるように膝を付き、女戦士さんが慌ててその身体を支えています。彼女自身も度重なる酷使で得物を失い頭目("君")から借り受けた短刀で戦っていたほどですので、その消耗っぷりが判っていただけるかと。

 

 

「どうしよう……あとちょっとなのに、どうしても手札(リソース)が足りない……っ」

 

 

 魔法では闇霊に有効な手が無く、≪粘糸(スパイダーウェブ)≫で前衛の援護を行っていた従姉ちゃんが爪を噛みながら必死に思考を巡らせていますね。蟲人僧侶さんがダウンし、女司教ちゃんも残る手段は限界突破(オーバーキャスト)という状況。生半可な方法では覆すことは出来ません。

 

 

「アナタがた一党(パーティ)が生き残るだけならば、あの()に全ての闇霊を押し付けるのが一番確実でしょうネェ」

 

「うっさい、ちょっと黙って! ……というか、貴方は何か出来ないの?」

 

「ンンン~、ワタクシ発動する呪文を打ち消すのは得意ですが、既に発動している儀式を消去するの苦手なんですよ」

 

 まぁ、青ですからねぇ。従姉ちゃんの見る前で闇霊をバウンスしてますが、すぐに何事もなかったかのように現れる姿を見て従姉ちゃんが溜息を吐いてますね……と、おや? 悩まし気に腰を揺らしていた道化師(フラック)がなんだか「ヤベッ」って顔に……って。

 

 

「かっ……はぁ……っ!?」

 

「――いやぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 

 悲鳴の先には闇霊の持つ大槍(グレートスピア)に腹部を貫かれ、高々と掲げられている『吸血鬼侍』ちゃんと、転倒した姿でそれを見上げる女司教ちゃん。どうやら彼女の≪解呪(ディスペル)≫に抵抗した闇霊が突撃してきたのを『吸血鬼侍』ちゃんが突き飛ばして庇ったみたいです。

 

 

「く……うううぅ……っ!」

 

 

 宙に掲げられたまま闇霊へと小さな手を伸ばす『吸血鬼侍』ちゃん。その手から浮かび上がるように暗月霊が顕現し始めますが、同時に彼女の身体から一気に力が抜けていくのが見て取れます。うむむ、活動限界はとっくに過ぎているのに今まで良く保ったというべきなんでしょうが……。

 

 

 

 

 

 

「……か」

 

 

 ……ん?

 

 

 

 

 

 

「……すか」

 

 

 

 

 

 

「何処かの誰かの幸せの為に、その身を、魂を、全てを削って抗う幼子ひとり救えずして何が英雄ですか!!」

 

 

 

 ――それは、初めての冒険で失敗し、ゴブリンに穢された少女の原点。

 

 『鑑定』と呼ばれ、邪険に扱われ、傷モノと蔑まれながらも迷宮を踏破する者に助力しようと抗ってきた冒険者の声。

 

 暗闇に怯え、他人の視線に恐怖し、それでも前に進もうと決意した、かつての自分を呼び覚ます再誕の叫びです……!

 

 

 手に握る天秤剣を一振りすれば幻のように消える闇霊。支えを失い落下する『吸血鬼侍』ちゃんを優しく抱きとめたその腕は、女司教ちゃんのものではありません。

 

 

「ンな……!?」

 

「ほう……!!」

 

「「綺麗……」」

 

「(デッッ!!!)」

 

 

 彼女の背後に現れし至高神さんの似姿。同性すら魅了する蠱惑的な肢体を薄衣で包み、眼帯とヴェールで顔の上半分を隠した美しい半透明の女性が、その豊かな胸元に『吸血鬼侍』ちゃんを抱きしめているのです……! あ、"君"は後で≪真実≫さんと一対一で面談です、イイネ?

 

 

「……んゆ?」

 

 

 (ソウル)まで蕩けるような柔らかな感触と温もり、そして甘い香りによって意識を呼び起こされ、たわわに顔を埋めたままキョトンした顔で女性を見上げる『吸血鬼侍』ちゃん。口元しか見えぬ女性が何かを囁き、それを聞いた『吸血鬼侍』ちゃんは安心したようにふたたびたわわへと顔を擦り付け始めました。

 

 

 一党(パーティ)の反応と背後のイチャコラに苦笑しつつ、黒傘へと向き直る女司教ちゃん。その顔には一切の迷いはなく、決断的な意志に満ち満ちています……!!

 

 

 

「生まれた命を祝福せず、あまつさえ賭博(ギャンブル)に巻き込むなど言語道断! 大人のすることではありません!!」

 

 

 天秤剣を肩に担ぎ、ゆっくりと黒傘へ歩み寄る女司教ちゃん。彼女が歩を進める度、足元の混沌が音をたてて蒸発していきます。彼女から発せられる神気(オカンちから)に当てられた闇霊たちも赤黒い顔を真っ青にして光となって消えていってますね……。

 

 

「ハハハ……まさかこんな形で盤面をひっくり返されるとはねぇ。これも君たちの脚本(シナリオ)通りなのかい?」

 

「まっさかぁ! 彼女が骰子(ダイス)を投じ、その目が決定的成功(クリティカル)だっただけですよぉ? ……それよりも、後ろ後ろ~!!」

 

「……え?」

 

 

 勝敗を認め、最後はつよつよムーブで退場しようとする黒傘。しかし世間はそんなに甘くないんだよなぁ。道化師(フラック)の声に振り返った黒傘の目に飛び込んで来たのは、天秤剣をフルスイングする女司教ちゃんの美しい一本足打法です!

 

 

 

 

 

「いつまでも遊んでないで、さっさと(盤外)に帰りなさいッ!!!」

 

 

「ガッ!?」

 

 

 側頭部をジャストミートされ、口からキラキラしたものを放出しながら吹き飛んでいく黒傘。玄室の壁にぶつかる前にその身体は消滅し、同時に床に広がっていた混沌の海も消え去りました。コツンと床に天秤剣の先端を打ち付け鼻を鳴らす女司教ちゃんに女性陣が笑顔で駆け寄り、男性陣が怯え交じりの表情でそれを眺めていますね。

 

 

「女とは、強いものだな」

 

「こっわ……ワイ、絶対にアイツを怒らせんようにしよ……」

 

「(――コクコク!!)」

 

 

 男性陣が心を入れ替えているその一方、女性たちのほうにも動きがありますね。黒傘を盤外ホームランした女司教ちゃんのところへ幻影の女性がゆっくりと近付き、抱きかかえていた『吸血鬼侍』ちゃんをそっと差し出しています。おずおずと手を伸ばした女司教ちゃんが彼女を受け取り、未だ成長前の胸元にしっかりとホールドしたところで……。

 

 

「んむ!?」

 

「「きゃー!!」」

 

 

 ――唐突な柔らかい感触に硬直する女司教ちゃん。口内を蹂躙する蛇に圧倒され、まったく身動きが取れなくなってます。暫くして満足したのか幻影の女性(至高神さん)が唇を離し、悪戯っ子のように微笑んでますね。アワアワと再起動した女司教ちゃんの頭をひと撫でし、その姿はゆっくりと消えて……あ、冒険者一党面していた道化師(フラック)に蹴りを入れて無言で何かアピールしてます! ヒンヒン泣きながら首肯する彼を満足そうに見て、今度こそ消えていきましたね……。

 

 

「えっと、あの人……人? 何を伝えようとしてたの?」

 

「アタタ……いえ、ワタクシがこの迷宮の後始末を押し付けられただけですよ? そんなことより、その()についてですが」

 

 

 蹴り上げられたケツを擦りながら立ち上がり、冒険者たちを見回す道化師(フラック)。今まで通りの巫山戯きった態度の中に僅かばかりの真摯さを滲ませた口調で『吸血鬼侍』ちゃんの今後について話し始めました。

 

 

「残存(ソウル)量は記憶(メモリー)を維持出来るギリギリのところ。おそらく記憶障害が残るでしょうねぇ。それに母親の(ソウル)が抜けた影響で、先程までのような性能は発揮出来ない可能性が高いです。なにより強制休眠状態(スリープモード)に入ってしまったので、次に何時目を覚ますかは……」

 

 

 矢継ぎ早に突き付けられる悲観的な情報の数々。ですが『吸血鬼侍』ちゃんを抱く女司教ちゃんの顔にはマイナスのそれは一切ありません。寝息を立てずに胸元に頬を寄せる小さな身体をギュッと抱え直し、眉を立てた強い笑みで宣言するのは……。

 

 

「この子は、私が冒険者として一番最初に抱いていた想いを呼び起こしてくれました。今度は、私がこの子の願いを叶えてあげます! だって……」

 

 

 

 

 

 

「だって、この子は私の大切なお友達(ひと)ですから!!」

 

 

 

 ――大切な想い人(ひと)の間違いなんだよなぁ……。

 

 

 

 さて、記憶映像はこれで終了ですね! 次回はダブル吸血鬼ちゃんの過去を知ったみんなの反応と、この祭祀場跡でダブル吸血鬼ちゃんがやりたかったことの2本をお送りする予定です!!

 

 ――え、肝心の迷宮探検競技はどうしたんだって? そ、その後に連続しての実況になりますから……たぶん、きっと、メイビー(震え声)。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 





 本来の予定ではここからがセッション16だったので失踪します。

 評価、お気に入り登録ありがとうございます。読んでくださった方の反応が感じられますと、やはり更新速度が上がりますね!


 ご感想もあわせてお待ちしております。感想の内容によって、だだ甘やねっとり、甘酸っぱい感じなど次話の方向性が変わったり変わらなかったりするかもしれません。よろしくお願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその16-8


 わー夏休みらーなので初投稿です。




 

 前回、とうとうダブル吸血鬼ちゃんのルーツが明らかになったところから再開です。

 

 長い長い記憶映像が終わり、徐々に明るさが戻りつつある祭祀場跡。誰ともなく深い溜息が漏れる中、"六英雄(オールスターズ)"と『吸血鬼侍』ちゃんのその後の軌跡が映されています。

 

 魔人討伐の功績で金等級に任ぜられたのち、王都を拠点に冒険を行い数多の混沌の野望を打ち砕く"六英雄(オールスターズ)"の輝かしい活躍。その裏では万知神さんからの託宣(ハンドアウト)を受け取るたび休眠状態(スリープモード)から覚醒し、野良や逃亡していた先王派の吸血鬼(ヴァンパイア)を狩り混沌の勢力の名前有り(ネームド)を殲滅し続ける人形のような『吸血鬼侍』ちゃんの密かな活動があったみたいです。

 

 お、映像では身体を維持する吸血をすべて狩りの対象で賄う不安定さを心配し、銀髪侍女さんや"六英雄(オールスターズ)"の面々が血を吸うよう促しても頑なに拒否する様子が流れていますね。王宮の一室に用意された小さな寝台(ベッド)で上体を起こした格好の『吸血鬼侍』ちゃんを従姉ちゃんが抱きしめ、自分からちゅーちゅーするよう説得していますが……ギュッと口を一文字に閉じて断固拒否の構え。少しでも処理を軽くするべく会話機能が制限されていたため意思疎通はジェスチャーだけですが、どうやら一度口を付けたら歯止めが利かなくなるのを恐れていたみたいですね。

 

 

 さて、映像ではおおよそ3年ほど時間が経過した辺りでしょうか。斬首戦術が徐々に効果を発揮し混沌の勢力の足並みが崩れ、秩序側の多種族連合が形に成り始めた頃。"六英雄(オールスターズ)"は一党(パーティ)を解散することになりました。といっても喧嘩別れや誰かが死んでしまったというわけでは無く、むしろおめでたい理由だったんですけどね!

 

 

「スマン! 流石にガキを産む時くらい傍に居てやりたいんや!!」

 

「フム……では俺もそろそろ故郷(くに)へ戻るか」

 

「うーん……残念だけど、『いつまでもみんな一緒』ってわけにはいかないもんね!」

 

 

 城塞都市で口説き落とした奥さんのおなかが大きくなったことで半森人の斥候さんが冒険者を引退する決意を固めたのを切っ掛けに、それぞれの道を歩むことになったそうです。

 

 蟲人僧侶さんは故郷である砂漠の国へと戻り、冒険のなかで"灯"の存在を知った従姉ちゃんは王国の南方にある港町(トーチ・ポート)という貿易港を拠点に知識の探求を続けることにしたみたいです。なお剣の道を追い求める"君"と彼についていく形で女戦士さんはラブラブ2人旅に出発したんだとか。

 

 そうやって皆が己の道を進む中、至高神の神殿から大司教の地位を提示された女司教ちゃんはその招きに応じ、拠点にしていた王都から水の街へと移ることに。映像では王宮の一室に寝かされている『吸血鬼侍』ちゃんを囲って新たに王となった金髪の陛下や銀髪侍女さん、そして女司教ちゃんが話し合っている映像が流れています。

 

 

「流石に吸血鬼(ヴァンパイア)入りの棺桶を持参して神殿に引っ越すわけにもいかないしね。休眠状態(スリープモード)の彼女は王宮に寝かせておいて、恋する乙女の地固めが終わってから引き渡す予定だったんだ」

 

 

 スキットル片手に事の顛末を語る銀髪侍女さん。この後起きる喜劇を想起し既にニヤニヤ笑いを浮かべています。記憶映像では女司教ちゃんが『吸血鬼侍』ちゃんの頭を撫でて退出した後、彼女を見守る定点カメラみたいな映像に切り替わっています。画面に付随する時刻が徐々に進んでいき、女司教ちゃんが出発して数日が経過したある日の夜明けが近付いた頃……。

 

 

「……んゆ?」

 

 

 寝台(ベッド)から上体を起こし、ゆっくりと目を開く『吸血鬼侍』ちゃん。その圃人侍女(おかあさん)譲りの三白眼には僅かに"灯"が煌めいています。キョロキョロと不安げに周りを見渡し、誰もいないことに気付いたその目に涙が浮かび始めました。

 

 

「グス……ヒック……」

 

「――ん? おや、こんな夜更けにどうしたんだい?」

 

 

 幼子がぐずるような声を聞きつけ、やって来たのは銀髪侍女さん。泣きじゃくる『吸血鬼侍』ちゃんを見て目を丸くしましたが、そっと寝台(ベッド)に近付き小さな身体を抱きしめました。うーうーと言葉にならない声を上げ続ける『吸血鬼侍』ちゃんの様子から只事では無いと感じ取り、ちょっと困った顔になってますね。その一方で撫でられている『吸血鬼侍』ちゃんも目の前の彼女の匂いがいちばん大好きなものではない事に気付き。スンスンと鼻を鳴らしていますね。

 

 

「うー……」

 

「……もしかして、彼女を探しているのかい? 困ったなぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 『暫くして向こうが落ち着いたら君を連れて行ってあげよう』と続く言葉は残念ながら『吸血鬼侍』ちゃんの耳には入らなかったみたいですね。『置いて行かれた』『捨てられた』と思い込んだ彼女の涙腺は完全に決壊、ギャン泣きまであと2秒といったその時……。

 

 

 

 

 

ギィ……ガシャン!!

 

 

「んなっ!?」

 

「……ふぇ?」

 

 

 突然音をたてて弾け飛ぶ鎧戸。『吸血鬼侍』ちゃんに日光が当たらぬよう厳重に固定されていた筈の防壁が部屋の内側へと落下し、ぽっかりと口を開けた虚から吹き込むまだ肌寒い春の空気が部屋の中に満ちていきます。風によってはためくカーテンの向こう、西()()()に設けられた窓から、まるで『吸血鬼侍』ちゃんを導く様に()()()()()()()()が差し込んでいます……!

 

 

「うー……うー!!」

 

「ちょっ、待ちたまえ!?」

 

 

 スルリと腕の間から抜け出し光に向かって進む『吸血鬼侍』ちゃんに制止の声をかける銀髪侍女さんの顔が驚愕の色に染まります。死霊術師(おとうさん)によって生み出された特異な存在であるとはいえ、吸血鬼(ヴァンパイア)である以上日光は最大の弱点の筈。しかし眼前の小さな吸血鬼(ヴァンパイア)はまるで()()()()()()()かのように光の海の中を進んでいるのですから。

 

 窓枠をよじ登り、背中から翼を展開した『吸血鬼侍』ちゃんが顔を出したのは王宮の外れにある古い塔。かつては罪を犯し、しかしその血を保つために死を与えられなかった王族の罪人が囚われていたという暗黒の塔から、西に向かって一筋の光が伸びています。その光が指し示す先に求める人物がいると確信する『吸血鬼侍』ちゃんが、躊躇せずに空へと羽ばたいていきます……。

 

 

「やれやれ、陛下にはどう伝えたものか。……まぁ、上手くやりたまえよ?」

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 

 王都を西に2日ほどの距離にある、王国最大の至高神の神殿を擁する水の街。着任の挨拶や街の有力者との顔合わせを終えやっとまともに休むことが出来た女司教ちゃん――いえ、もう剣の乙女ちゃんと呼んだほうが相応しいでしょうか――が眠る神殿の寝室。シーツに包まれた肢体は未だ幼さを感じさせるもので、今のエロ……ドスケベ……蠱惑的なプロポーションからはかけ離れたものです。心身ともに疲労しているものの習慣というものは怖ろしいもので、夜明けとともに目が覚めてしまったみたいですね。

 

 シーツを身体に巻き付け寝室のテラスから外へ出る剣の乙女ちゃん。肌に感じる空気は少々冷たく、彼女の意識を覚醒へと導いていきます。眼帯を外し薄ぼんやりとした視界の中、顔を覗かせ始めた太陽の光がゆっくりと身体を温めていく中で、物凄い速度で接近してくる何かに剣の乙女ちゃんが気付きました。

 

 太陽の光を背に自らを目指して飛翔する強大な魔力。月と、そして太陽の香りを纏ったその小さな人影は、彼女がとてもよく知っている相手です。衝突する直前で勢いを殺し、胸元に飛び込んで来た『吸血鬼侍』ちゃんを、驚愕の表情で受け止めました。

 

 

「そんな、どうして。いえ、それよりも……日光を浴びても平気なのですか?」

 

「うー♪」

 

 

 胸元に頬擦りする『吸血鬼侍』ちゃんに戸惑いながら問いかける剣の乙女ちゃん。返答が無いことに首を傾げていましたが、彼女の幼い振る舞いと嬉しそうな声にその正体に気付いたみたいです。

 

 

「そう……ですか。貴女が産まれることなく死を迎え、そして彼女の中で眠り続けていた子なのですね……」

 

 

 はじめての飛行で疲れてしまったのか、翼を格納しウトウトと頭を揺らす『吸血鬼侍』ちゃんを愛おし気に抱きしめ、そっと寝室へ運ぶ剣の乙女ちゃん。彼女を寝台(ベッド)に寝かせ、自らもその隣で横になりました。

 

 

「もう……勝手に飛び出して来たのでしょう? いけない子。……でも、嬉しいです」

 

 

 ひんやりとした小さな身体を抱き枕に穏やかな表情で夢の世界へと旅立った剣の乙女ちゃん。起きて来ない彼女を不審に思った侍女さんが抱き合うように眠る2人を見て大騒ぎになるまで、束の間の逢瀬は続くのでした……。

 

 


 

 

「いやぁ、駆け付けてみたら2人並んで正座させられているんだもの。アレには思いっきり笑わせてもらったね」

 

「えへへ……」

 

「お恥ずかしい限りです……」

 

 

 ドヤ顔の吸血鬼君主ちゃんの横で顔を赤くしてイヤンイヤンと首を振る剣の乙女ちゃんをチェシャ猫の笑みで揶揄う銀髪侍女さん。暴力的に揺れるたわわを見て鼻の下を伸ばしていた槍ニキが石段から蹴り落とされ、戦闘力の違いをまざまざと見せつけられた何人かが膝から崩れ落ちているのはきっと気のせいでしょう。

 

 新任の大司教の寝室に侵入したこと、身に纏う気配が明らかにアンデッドであることから神殿の聖騎士団に討伐されかけた『吸血鬼侍』ちゃんでしたが、剣の乙女ちゃんの必死の説得と巨漢の魔術師さんに≪浮遊(フロート)≫で抱えられながら駆けつけた銀髪侍女さんからの説明でなんとか疑惑は解消。首狩りで仕留めてきた名前有り(ネームド)吸血鬼(ヴァンパイア)の数々や、吸血鬼殺しで名高い牙狩りを壊滅させた"不死王"を喰らった"同族殺し(キンスレイヤー)"ことが判明すると逆に畏敬の目で見られるようになってしまいました。

 

 あ、ちなみに"不死王"を名乗っていた吸血鬼(ヴァンパイア)ですが、大方の視聴神さんが予想していた通り狂王によって吸血鬼(ヴァンパイア)に変じた貴族の生き残りだったみたいです。あの決戦からこっそり逃げ延びた後、自らの領地には戻らず辺境を渡り歩きながら少しずつ配下を増やしていたんだとか。逃げ足の才能は有ったみたいですが、調子に乗って勢力を拡張し過ぎたのが悪かったんですねぇ。

 

 

 

 

 

 

「至高神の神殿には彼女が大司教の剣であり、王国の抱える戦力であることを説明。万知神からの託宣(ハンドアウト)が届くたびに混沌の勢力の首狩りに勤しむ彼女の存在をなんとか許容させることに成功したんだ。もっとも託宣(ハンドアウト)が無い時の彼女は幼い子どもそのものだったから、そのうち聖騎士たちからも可愛がられることになったみたいだけどね。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……!?」

 

「ヒューッ……痛ってぇ!?」

 

「ちょっ!? 男どもは目を瞑る!!」

 

 

 わーお。妖精弓手ちゃんの大声で一斉に目を背ける男性陣。一瞬遅れた槍ニキがふたたび魔女パイセンに杖で石段から突き落とされてますね。陛下の妹2人や英雄雛娘ちゃんといった初心な女の子たちが真っ赤な顔を覆う指のガバガバな隙間からガン見しているのは……。

 

 

 

「ん!……もう少しゆっくり……」

 

 

 

「ふふ……上手になりましたね……?」

 

 

 

「ん……はぁ……っ。駄目、気持ち良くなってはいけないのに……っ」

 

 

 

 ――『吸血鬼侍』ちゃんにちゅーちゅーされるにつれどんどん今のエロエロ大司教の姿へと育っていく、剣の乙女ちゃんの愛と成長の記憶映像です。

 

 

 魔人との決戦時に≪降神(コールゴッド)≫を唱えたことで至高神さんとの繋がりが生まれていた剣の乙女ちゃん。代償として削れた魂を補うために至高神さんがはっちゃけ、幻影を通じての直接接触(キス)によって濃厚な神気(フレア)を送り込まれていたんですね。

 

 ゴブリンに穢されたトラウマで女性らしい成長を止めていた剣の乙女ちゃんの肉体でしたが、体内の神気(フレア)によって徐々に至高神さんの似姿に近いものへと変わりつつありました。それが『吸血鬼侍』ちゃんへのちゅーちゅーによって加速され、驚きの成長を遂げたわけです! 最初はぺたーんと胸にくっついていた薄布があっという間に押し上げられ、僅か数年でたわわが横から零れ落ちんとするまで育つとは……至高神さん、恐るべし!!

 

 うむむ、まさか剣の乙女ちゃんの急激な成長にはそんな秘密があったなんて……ん? 記憶映像はまだ続いているみたいですね。剣の乙女ちゃんが映像を中断させようとしているのを銀髪侍女さんと賢者ちゃんが妨害していますけど……お、また剣の乙女ちゃんが映りましたね。どうやらちゅーちゅーしてそのまま眠ってしまった『吸血鬼侍』ちゃんを寝台(ベッド)に寝かせている場面みたいですが……。

 

 

 

「ん……ふぅ……っ。ちゅ……れる……」

 

 

 シーツの海に仰向けになった『吸血鬼侍』ちゃんに覆い被さり、そのひんやりとした身体に己の肢体を絡みつかせる剣の乙女ちゃん。ぷにぷにのほっぺたやすべすべの首筋、そしてぺったんこな胸に長い舌を這わせ、もじもじと太股を擦り合わせる姿はあまりにも卑猥過ぎます。男性陣は目だけでなく耳まで塞がれ、自らの痴態を暴露された剣の乙女ちゃんは両手で顔面を覆いプルプルと震えています。そんな彼女の両肩に手を置くのは、とても良い笑顔を浮かべた女魔法使いちゃんと妖精弓手ちゃんです……。

 

 

「まぁ、みんな色々言いたいことはあるけど、とりあえずは私からね」

 

 

 最初に斬り込んだのは妖精弓手ちゃん。左手で剣の乙女ちゃんの右肩を抑えつつ、右手で彼女のたわわをたぷたぷしながら耳元で囁くのは……。

 

 

「――シルマリルとヘルルインがおっぱいのサイズに拘らないのは、間違いなく貴女のおかげね。感謝するわ。……はむっ」

 

「ひぁっ!?」

 

 

 純白のヴェールと金糸のような髪を掻き分け、露出した耳を舌で嬲りながらの告白にビクっと反応する剣の乙女ちゃん。駆け巡る快楽に震える身体を抑えるように女魔法使いちゃんの両腕が腰に絡みつき、反対側の耳にその口が寄せられて……。

 

 

「――神殿の浴場(サウナ)で私にあんな啖呵を切らせるくらいうじうじしてた癖に、あーんなことまでしてたなんて……このエロエロおっぱい乙女……ん……」

 

「んむぅ!?」

 

「あ、じゃあ私も……んちゅ……」

 

「――!?!?」

 

 

 いつぞや新鮮な屍人(フレッシュゾンビ)を解体した後の行為のような濃厚なスキンシップ。2人の触れ合いを見た妖精弓手ちゃんまで参戦し、剣の乙女ちゃんは息も絶え絶えといった様子です。腰砕けとなった彼女を満足げに見ていた2人に促がされ、剣の乙女ちゃんがその後について話し始めました。

 

 

「ふぅ……はぁ……。えぇと、この後は神殿に住むことになったので、王都と行き来がしやすいよう寝室に≪転移≫の鏡が設置されました。神殿の中だけでしたが自由に歩き回ることも出来、言葉こそ話せなかったものの神殿騎士や神官とも交流を深めていったのです」

 

「普段は甘えん坊の子どもみたいだったけど、私や局長が依頼を持ち掛けた時や託宣(ハンドアウト)が下った際にはあの人形じみた正確に切り替わっていたよ。今思えばあの時既に君たち2人の人格が生まれつつあったのかもしれないね」

 

 

 ほほう、死霊術師(おとうさん)が生み出した吸血鬼としての精神が『分身ちゃん』を経由して『吸血鬼侍ちゃん』に、圃人侍女(おかあさん)から産まれるはずだった圃人(レーア)の赤ちゃんの精神が『本体ちゃん』から『吸血鬼君主ちゃん』へと成長していったんですね! ひとつの身体にふたつの人格……魂があった理由がやっと判りました!!

 

 

「そしてある朝、私が目覚めた時にあの子は既に寝台(ベッド)から抜け出していました。窓が開いているのに気付いた私がテラスに出ると、そこにいた彼女が振り返り、太陽の光を全身に浴びながらこう言ったんです……」

 

 

 

 

 

 

「おはよう! きょうもおひさまがみんなをてらしてくれてるよ!!」

 

 

 なるほど、2人の魂がある程度育ち、互いを認めあえるようになった段階で祈りを持つ者(プレイヤー)へと至ったわけですか。その後は混沌の勢力狩りに精を出し、その功績を以て冒険者になる許しを得て『はじめての冒険』に繋がると……。

 

 


 

 

「いやぁ、なんつーか、もう言葉も無ェって感じだよなぁ」

 

 

 両の頬を真っ赤に腫らした槍ニキの言葉が祭祀場跡に集った冒険者たちの心境を代弁しているでしょう。想像を超えた悲劇の連鎖と四方世界の常識を打ち砕く物語のような戦いによって紡がれたダブル吸血鬼ちゃんの過去。咀嚼して飲み込むには時間が掛かるかもしれません。互いに感想を語る冒険者たちを見ながら、ダブル吸血鬼ちゃんが頷き合い、本来の目的を果たすために動き出しました。

 

 先に動いたのは吸血鬼侍ちゃん、眼球を抉り出された時の感想を細かに聞き出す闇人女医さんとその痛々しい描写にガクガク震えながらメモを取る妖術師さんと話している監察官さんへとぽてぽて近寄っていきました。

 

 

「……ん? どうかしましたか?」

 

「えへへ……」

 

 

 手を差し出せば何も言わず抱き上げてくれた監察官さんに頬擦りしながら微笑む吸血鬼侍ちゃん。その口から出てきたのは、かつての約束を果たすための祈りの聖句です……。

 

 

えいちもとめしわがちちよ(叡智求めし我が父よ) みちみうしないしがっきゅうのとに (道見失いし学究の徒に)にいまひとたび(いま一度 ) ちをおうひとみをさずけたまえ(知を追う瞳を授け給え)……!」

 

「――熱っ!?」

 

 

 奇跡を乞い願う祈りの後、そっと監察官さんの瞼に口づけを落とす吸血鬼侍ちゃん。にわかに熱を持った右眼を抑える彼女を吸血鬼侍ちゃんがぎゅっと抱きしめています。やがて彼女が手を離すと、そこには吸血鬼侍ちゃんと同じ紅に染まった瞳を持つ眼球が再生しています!

 

 

「えへへ……やくそくはちゃんとはたさないとね! ……ちょっといろがかわっちゃったけど、だいじょうぶ?」

 

「え、えぇ。まだ慣れていないからだと思いますが、皆の身体が靄のようなものに包まれて見えます……」

 

「んとね、それはそのひとがもつせいめいのちからなの! たぶんもうひとりのぼくとか、あのことかすごいことになってるんじゃないかな」

 

 

 吸血鬼侍ちゃんの言葉に従い吸血鬼君主ちゃんと勇者ちゃんを見た監察官さんが唖然とした顔になってますね。2人とも体内に太陽をもっているようなもんですし、下手に直視すると大佐状態になっちゃいそうです。……というか、ダブル吸血鬼ちゃんにはそんなふうにみんなが見えてたんですねぇ。効率良くちゅーちゅーするために備わった機能なのかもしれません。

 

 

「ふむ、10年以上経過していながら欠損部位を癒せるとは。実に興味深い」

 

「た、たぶん迷宮内で彼女の一部を摂取していたから、修復する際の手助けになったんじゃない……?」

 

 吸血鬼侍ちゃんの行為を見守っていた2人も興奮した様子で再生した監察官さんの瞳を覗き込んでいます。ひょっとしたら粘体を利用した再生槽に応用出来るかもしれませんし、闇人女医さんにとっては貴重なサンプルなのでしょう。妖術師さんは本来とは異なる機能を付与出来たことに何やら感動しているみたいですね。どうも最近魔力供給による人体改造についての研究にのめり込んでいるらしく、英雄雛娘ちゃんの成長をつぶさに観察している姿が目撃されています。彼女自身の眷属化も近いですし、何やら面白いことが起きる予感がしますねぇ!

 

 

 さて、吸血鬼君主ちゃんのほうは……お、どうやら蜥蜴僧侶さんのところに向かっているみたいです! 女将軍さんや陛下と一緒に混沌の軍勢との大規模戦闘の記憶映像を観ながら「恐らくこのタイミングで首狩りがおこなわれたのであろう」とか「成程、左翼が崩れたのはそれが原因か」みたいな感想戦を行っていますね。ぽてぽてと近付く小さな姿に気付いた蜥蜴僧侶さんが巨体を縮こませるように視線を下げ、吸血鬼君主ちゃんを迎えてくれました。

 

 

「如何しましたかな君主殿。拙僧に何か御用ありとお見受け致しますが」

 

「うん! あのね……やくそく、おぼえてる?」

 

 

 もじもじしながら問いを投げかける吸血鬼君主ちゃんを見て、首を傾げる蜥蜴僧侶さん。やがて思い出したのか、ポンと大きな拳を打ち付けながら口を開きます。

 

 

「フム、肌を重ねる……というのはお互い無理な話であります故、もしや『手合わせ』の約束ですかな?」

 

「せいかい! えへへ……おぼえててくれたんだ!!」

 

 

 ああ、そういえばいつか手合わせしたいって話してましたっけ蜥蜴僧侶さん。結構時間が経ってしまいましたが吸血鬼君主ちゃんも覚えていたんですねぇ。ですが戦いともなればテンションMAXな蜥蜴僧侶さんが、なんだかちょっぴり乗り気でない感じ。何か問題でもあるのでしょうか?

 

 

「ウムム……この身一つであれば迷うことなく頷くのですが、今の拙僧は家庭を持つ身。偉大なる竜に至るべく研鑽を積むが蜥蜴人(リザードマン)の生なれど、今この時ばかりはおいそれと誘いを受けるわけにもいきませぬ……っ!」

 

 

 ……ああ、妻子である女将軍さんと竜眼少女ちゃんが居ますものね。全力を尽くし戦の中で斃れるのが誉れと言えど、今の蜥蜴僧侶さんは只人(ヒューム)の社会で生きる身。自分の信念に従い戦った末に彼女たちに苦労を掛けるのは……という蜥蜴人(リザードマン)としては異端の、只人(ヒューム)としては頷くしかない考えに囚われてしまっているみたいですね。

 

 

 懊悩する蜥蜴僧侶さんを楽しそうに眺める一行を横目にトントンと彼の腕を叩く吸血鬼君主ちゃん。揺れる彼の意思を後押しするかのように、魔法のような言葉を囁きます……。

 

 

「だいじょうぶ! ぼくはしんでもだいじょうぶだし、とかげさんがしんじゃうことはぜったいにないから!! みててね……!」

 

「ん? 余に何か……」

 

 

 陛下のほうへと向き直り、ニッコリと笑う吸血鬼君主ちゃん。陛下が彼女の視線に気付き視線を向けた瞬間、吸血鬼君主ちゃんの翼の裾を握った手が翻りました。硬質化し名のある名剣に匹敵する切れ味を秘めたエッジが過たず陛下の首筋へと吸い込まれ……。

 

 

 

 

 

 

 ――黄金の鬣の如き髪を蓄えた首が、すぱんと宙に舞い上がりました。

 

 

 

 

 

「「「「「あ」」」」」

 

「「お、お兄様!?」」

 

「んなななななな、ナニやっちゃってんのよシルマリルぅぅぅぅぅ!?」

 

 

 コロコロと石造りの床を転がる首。あまりに鋭い切れ味故か、一滴の血も吹き出さずにうつ伏せに倒れる身体。突然の凶行に呆然とする一行の中で王妹殿下と女神官の悲鳴が響き、妖精弓手ちゃんが吸血鬼君主ちゃんのところへすっ飛んできました。

 

 

「い、いくら自分のお母さんを凌辱して孕ませた挙句クソ兵士たちの慰みものにまで貶めた男の息子だからって、殺しちゃダメでしょうが! それに一応2人の異母兄にあたるヤツなんだからもっとこう……」

 

「おあ~……」

 

 

 片手で吸血鬼君主ちゃんを掴み上げ、もう片方の手で地面に転がる首を指し示しながら捲し立てる妖精弓手ちゃん。色々本音が漏れてますが、流石にここまでやるとは思ってなかったみたいです。恐る恐る顔を下に向けて落ちている陛下の首へと近付いて行き……。

 

 

「はっはっは、スマンが上の森人(ハイエルフ)の姫よ。頭の向きを変えては貰えぬだろうか」

 

「喋ったー!?」

 

 

 くぐもった声で喋り出した陛下の首を、美しいフォームで蹴り飛ばしてしまいました……。

 

 

 

「まったく、最初に言った筈なのです。この空間は通常とは異なる法則で運営されている場所。時間の流れも、生死さえも生み出したものの能力次第で何とでもなるのです」

 

「しなないぼくたちがつくったから、このばしょではだれもしなないの! あ、でもたましいごとけしとんじゃうとふっかつできないからきをつけてね!!」

 

「そういう大事なことは最初に言いなさいよぅ……!」

 

 

 腰に手をあてて滔々と語る賢者ちゃんを恨めしそうに睨む妖精弓手ちゃん。その向こうでは「長年の肩こりが消えた!」と陛下が満面の笑みで2人の妹に笑いかけ、クロスボンバーで再び沈められています。ですが女神官ちゃんに「お兄様」と呼ばれた陛下は現在無敵状態、あっという間に復活していますね。

 

 

「……だが上の森人(ハイエルフ)の姫が言うことも至極真っ当。王国を運営する都合まことに死んでやることは出来ぬが、この場所でなら何度か殺されるのも仕方なきことだと思うが」

 

「むぅ……しないよそんなこと! ぼくたちがキライなのはあのクソッタレなおとこだけ、へいかはわるくないもん。それに……」

 

 

 怒った口調でそう言い放ち陛下の背後に視線を向ける吸血鬼君主ちゃん。こっそりと近寄っていた吸血鬼侍ちゃんが後ろから陛下にハグし、その耳元で囁きます。

 

 

「それに、ぼくたちにとってもへいかはたいせつなひとだもん。えへへ……"おにーいちゃん"?」

 

「ふぅ……どうやら余の可愛い妹は4人であったようだな!」

 

「も、もう! 陛下……っ」

 

 

 キメ顔で言ってのける陛下を見て慌てたように首を横に振る女神官ちゃん。残念ながら先程の『お兄様』発言はみんなにバッチリ聞かれており、もはや逃げることは出来ない様子。

 

 ……おや、女魔法使いちゃんや勇者ちゃんに揶揄われて顔を真っ赤にしている彼女を満足げに見ていた吸血鬼君主ちゃんでしたが、腹を抱えて笑っている女将軍さんへと抱き着き、その隣で宇宙蜥蜴顔でフリーズしていた蜥蜴僧侶さんのほっぺを小さな手でぺちぺちと叩き、意識を四方世界に呼び戻すのに成功したみたいですね。

 

 

「みてわかってもらえたとおもおうけど、ここではしんじゃうしんぱいはいらないの。だから、ぜんりょくでしょうぶ! もしとかげさんがかったら、ぼくからとっても()()()()をあげる!!」

 

「――ふむ。それは楽しみですな。ですが賭けとは互いに己の所有物を賭けるが道理。拙僧は何を賭ければ宜しいかな?」

 

 

ようやく事態を飲み込むことが出来、本来の思考が戻って来た蜥蜴僧侶さん。吸血鬼君主ちゃんの言う「とってもいいいもの」に釣り合うモノに見当が付かないのか、吸血鬼君主ちゃんに何が欲しいか尋ねています。どうやら勝っても何かを要求するつもりは無かったっぽい吸血鬼君主ちゃんですが、うんうん唸りながら何かないか考えています。その様子を微笑ましく眺めていた蜥蜴僧侶さんと女将軍さんですが、吸血鬼君主ちゃんが満面の笑みとともに出した答えに真顔になっちゃいましたね……。

 

 

 

 

 

 

「じゃあぼくがかったら……むすめさんがおっきくなったらちゅーちゅーさせて?」

 

 

 

 

 

 

「亭主殿……この戦い、決して敗北は許されんぞ?」

 

「うむ……負けられぬ戦いが、此処に在る!」

 

 

 

「あ、あれれ~?」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 


 

 

 いや~真っ赤になって悶える剣の乙女ちゃんは可愛いですね!

 

 それにしても至高神さん、信徒の降神(コールゴッド)に応えるだけじゃなくて、傷ついた魂の治療までしちゃうんだから優しいですよねぇ。

 

 ……まぁでもその優しさの裏には、至高神さんの本心が隠されているわけで。ねぇ至高神さん?

 

 おや? なにをそんなに憤慨していらっしゃるんですか? え? そんな邪な考えは無い? なるほどな~……。

 

 ところで此処に一冊の薄い本(ウス=異本)がありまして。今回の(カミ)ケットで販売されていたものなんですけど、なんと吸血鬼君主ちゃん攻め×剣の乙女ちゃん受けの砂糖まみれダダ甘本!

 

  参加神さんたちにも大好評で速攻完売だったんですが……ホラ、ここよーく見てみて下さい? 細かな服装や体型が、剣の乙女ちゃんとは微妙に違うと思いません?

 

 おやおや? どうしたんですかぁ至高神さぁん。泣きそうな顔になっちゃって。まるで『自分を題材に描いたナマモノ系薄い本(ウス=異本)をみんなの前で暴露されちゃったような顔』じゃないですか!

 

 いやまぁ個人の性癖をどうこう言うわけじゃありませんし、N子さんも大概他人には言えない性癖の持ち主ですけどね。……それにこの薄い本(ウス=異本)、ちょっと引くくらい出来が良いんですよねぇ。もしかして知識神さんあたりに手を借りました? え? 地母神さんにも? 

 

 

 

 ……えっと、そうしたら次は是非吸血鬼君主ちゃん×賢者ちゃん×吸血鬼侍ちゃんのみつどもえ本でお願いします。

 

 

 





 この連休中に〆まで持っていきたいので失踪します。


 評価、お気に入り登録ありがとうございます。週一ペースはなかなか厳しいですが、読んでくださる方がいる間は頑張っていきたいです。


 感想も併せてお待ちしておりますので、お時間がありましたら是非お願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその16-9


 続けられるときに続けたいので初投稿です。



 

 前回、蜥蜴僧侶さんを本気にさせてしまったところから再開です。

 

 

 祭祀場跡の中心にある石舞台に立つ2人の人物。名誉ある戦いを前に鱗で覆われた巨大な拳で奇妙な合掌の如き印を結び、唸り声にも似た祝詞を唱える蜥蜴僧侶さんと、上着やブーツを脱ぎ捨てサイドが大きく露出した白のインナーと黒いスパッツ姿で準備運動する吸血鬼君主ちゃんが、顔に肉食獣の笑みを浮かべながら闘志を漲らせています。

 

 互いに示し合わせたかのように一切の武器を帯びず素手素足という同条件。両者とも自己バフ以外の呪文を使う気はさらさら無いようで、まさに素手喧嘩(ステゴロ)という言葉を形にしたような様相を呈してまいりました!

 

 

 戦いの邪魔にならぬようほかのみんなは舞台を囲むように設置されている石段へと上がり、先程吸血鬼君主ちゃんがインベントリーから取り出した軽食や飲み物片手に観戦モード。思い思いに2人へとエールを送っていますね。

 

 

「では……参りますぞ!」

 

「うん! しょうぶ!!」

 

 

 一度コツンと合わせた後、全力で繰り出される2人の拳。大鎌の如き軌道を描く吸血鬼君主ちゃんの右スマッシュが蜥蜴僧侶さんの打ち下ろしの右(チョッピングライト)とぶつかり、花火が炸裂したような爆裂音が祭祀場跡に響き渡ります。アイサツは終わったとばかりにニヤリと笑う2人が、足を止めた打ち合いに興じていますね。

 

 

「――んでよ、どっちが勝つと思う?」

 

 

 お、トトカルチョの口火を切ったのはバトルジャンキーの気のある槍ニキですね。口元には笑みを浮かべていますが、真剣な目で2人のウォーミングアップを眺め、その調子を見定めようとしています。

 

 

「まぁ、何でもアリ(バーリトゥード)ならチビ助だろうよ。いくら死なねェとはいえ、あの(ケイン)を向けられて立っていられる自信は無ェ」

 

 

 干し肉(ジャーキー)を齧りながらの重戦士さんの言葉に頷く前衛たち。消耗が激しく連射は出来ないものの、勇者ちゃんの決め技に匹敵する熱量を秘めた一撃は石舞台はおろか祭祀場跡を消滅させて余りある威力を発揮することでしょう。

 

 

「それに吸血鬼(ヴァンパイア)の再生能力も厄介だな。≪聖光(ホーリーライト)≫で阻害しなければ、生半可な攻撃など再生が上回ってしまうだろう。神官の援護無しで相対するのは厳しいものがある」

 

 

 まぁ私は使えんがな! と続けてみんなの苦笑を誘う女騎士さん。魔法の武器、あるいは魔法を付与された武器以外の物理ダメージを半減する物理耐性と再生能力が組み合った吸血鬼(ヴァンパイア)の特殊能力のシナジーは魔法の武器に手の届かない中堅以下の冒険者にとってはまさに悪夢。殴る傍から回復され、スタミナ切れも起こさないという絶望感は半端ないと思います。吸血鬼君主ちゃん有利のコメントにうんうんと頷く妖精弓手ちゃん、若草知恵者ちゃん、白兎猟兵ちゃんは可愛いですね!

 

 

「ふふん、じゃあシルマリルが有利ってことよね!」

 

 

 薄い胸を張ってドヤる妖精弓手ちゃん。想い人の勝利を微塵も疑っていない顔でみんなを見渡しますが……。

 

 

 

「――3-7で戦友が不利というところか」

 

「まぁ、そのくらいだろうな」

 

「少々厳しい戦いになりそうですね……」

 

 

 ゴブスレさん、剣聖さん、剣の乙女ちゃんの分析を聞いて、むー!とふくれっ面になっちゃってますねぇ……。

 

 

 

「いいか森人(エルフ)の姫サン。まずはあの2人の能力(ステータス)の違いについてどう思う?」

 

 

 後衛組からのキラキラ視線に負け、唐突に始まりました槍ニキによる解説講座。王妹シスターズや英雄雛娘ちゃん、勇者ちゃんが興味津々といった様子で槍ニキの周りに集まっています。年下の女の子に囲まれてまんざらでもなさそうですが、あれはどちらかというと手のかかる妹を相手にするお兄ちゃんって感じですね。全員が飲み物と焼菓子を手にしているのを確認し、槍ニキが不満そうな顔をしている2000歳児に質問を投げ掛けました。

 

 

「んーと……まず敏捷(スピード)はシルマリルが圧倒的に速いわよね? 膂力(パワー)も若干上かしら。2人とも呆れるくらいの耐久力(タフさ)だけど、やっぱりシルマリルのほうが上じゃない?」

 

「正解。その3点に関してはチビのほうが上回ってるだろうさ。だが、戦いを左右するのはそれだけじゃあねェ。……嬢ちゃんは他に2人の違いは判るか?」

 

 

 妖精弓手ちゃんが指折り数えるのを聞きながら、首を左右に振る槍ニキ。傍らで耳をダンボにしていた英雄雛娘ちゃんに質問の矛先を向けると、うんうん考えながら答えが返って来ます。

 

 

「えっと、その……身体の大きさとか、重さとか?」

 

 

 周囲を見回しながら不安げに答えた英雄雛娘ちゃん。ベテラン冒険者たちの目が彼女に突き刺さり……。

 

 

「それもアリだ! 良く気が付いたな!!」

 

 

 グッと親指を立てながらの槍ニキの言葉に肩をなで下ろしながら嬉しそうに胸の前で拳をギュッとする英雄雛娘ちゃん可愛い! 重戦士さんと女騎士さんも微笑ましそうに彼女を眺めています。英雄雛娘ちゃんの背後に回り込んだ女魔法使いちゃんが彼女を抱き上げ、膝上に抱えながら補足説明を入れてますね。

 

 

「体格の差はリーチの差、体重の差は衝撃と踏ん張りの差に繋がるわ。あの子が攻撃を入れるには相手の間合いに飛び込まなきゃいけないし、下から掬い上げるような攻撃は体重の軽いあの子にとって明確な弱点。……ほら、始まったわよ」

 

 

 女魔法使いちゃんの指し示す先では地を這うような低姿勢の蜥蜴僧侶さんが繰り出したアッパーを防ぎ切れず、吸血鬼君主ちゃんが宙に打ち上げられる光景が。何時ぞやの手合わせで女騎士さんに手玉に取られた時と同じように、踏ん張りが効かずに押し負けちゃっていますね。なんとか体勢を整えようとする吸血鬼君主ちゃんですが、その隙を蜥蜴僧侶さんが逃す筈もありません!

 

 

「フンッ!」

 

「むぎゅっ!?」

 

 

 巨体からは想像も出来ない身のこなしで前転を披露する蜥蜴僧侶さん。断頭台(ギロチン)と見紛う踵はすんでのところで躱したものの、続く唸りをあげる尻尾が吸血鬼君主ちゃんをしたたかに打ち据えました! べちゃりと地面に落下した吸血鬼君主ちゃんを追撃することも無く、蜥蜴僧侶さんは悠然と構えていますね。

 

 

「普段からゴブリンを相手にしているアンタらにゃ判らねェかも知れんが、自分より極端に小せェヤツの相手ってのは意外と苦労するもんだ。一方チビ助は誰を相手にするにも自分よりデカいヤツばかり。つまり慣れてるってこった」

 

 

 大物喰らいを得意とする重戦士さんの言葉に頷く冒険者たち。巨人然り魔神然り、等級が上がれば上がるほど相手にする怪物(モンスター)は大きくなるのが常識、自分より小さな対象を相手取る頻度は少なくなるのが普通でしょう。反対に圃人(レーア)サイズのダブル吸血鬼ちゃんの相手は『おおきい』『すごくおおきい』『とってもおおきい』くらいの違いしかありません。であれば吸血鬼君主ちゃんの攻め方は悪くないと思いますよねぇ。

 

 

「ですが、実際は主さまが攻め立てられているように思えます。それは何故なのでしょうか?」

 

 

 頬に手を添え首を傾げる若草知恵者ちゃんの疑問はもっともです。もし相手が重戦士さんや槍ニキだったら吸血鬼君主ちゃんが有利に立ち回っていたことでしょう。ですが、何事にも例外というものがあるわけで……お、英雄雛娘ちゃんがその理由に気付いたみたいですね! 

 

 

「もしかして……()()()()()()()()()()()()……!」

 

 

 英雄雛娘ちゃんの呟きにニヤリと笑う前衛職のみなさん。妖精弓手ちゃんも遅れて気付いた様子。あっ!と声を上げ、蜥蜴僧侶さんを見つめながら自らの推察を口にしました。

 

 

「そっか……シルマリルと反対で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!!」

 

 

 

 

 

 

「おお、実に心躍る! なかなか拙僧では君主殿を捉えきれませんな!!」

 

「うう~……おっきいのはいいなぁ……っ!」

 

 

 唸りをあげて迫る巨腕を紙一重で躱し、懐へ潜り込もうとする吸血鬼君主ちゃん。ですが一歩踏み出した先には丸太のような蜥蜴僧侶さんの脚が待ち構えており、迂闊に飛び込めば先程のように空中へ蹴り上げられてしまいそうです。肘打ち、裏拳、正拳の三連撃を防いだのち返しの一撃を狙うものの、追加の尻尾によって間合いの(エンゲージ)外へ弾き出されてしまいました。うーむ、まったく隙がありません! ……おや、ハラハラした様子で2人の戦いを見守る妖精弓手ちゃんの隣に座る吸血鬼侍ちゃんが、自分たちの弱点についてみんなに話し始めたみたいです。

 

 

「あのね、ぼくたちのつかえるものって、どれもみんなおおあじなの。それがつかえるかんきょうならもんだいないけど、このたたかいみたいにげんていされたじょうきょうだとあんまりやくにたたないかな。それに……」

 

 

 好奇心でキラキラ輝く瞳で見つめるのは蜥蜴僧侶さん。その戦い方が変わってきたのを察知し、嬉しそうに言葉を続けます。

 

 

「ほら、とかげさんのうごきがかわってきた! あれは、ぼくたちをたおすためのたたかいかただよ!!」

 

 

 

 

 

 

「あうっ!?」

 

 

 あ! 先程までと同様に紙一重で拳を躱そうとした吸血鬼君主ちゃんの胴が裂け、血飛沫が上がってます!! 驚きで硬直する身体を大きな手が掴み、ガッチリとホールドされちゃいました。

 

 良く見れば吸血鬼君主ちゃんを握る蜥蜴僧侶さんの親指の爪が血に塗れています。ちょっとスローで再生して……むむむ、どうやら躱される直前で握り拳を開き、指を伸ばして吸血鬼君主ちゃんを引っ掛けたみたいですね。たかが指と思われるかもしれませんが、その鋭い爪と合わせれば伸びる射程は20cm以上、不意を突くには十分過ぎる長さです。

 

 

 親指に引っ掛かった吸血鬼君主ちゃんをそのまま握りしめ、万力のように締め上げつつ反対の手で吸血鬼君主ちゃんの右腕を包み込む蜥蜴僧侶さん。苦笑しながら首を縦に振る手中の相手に頷きを返しつつ、ゆっくりと力を込め……!

 

 

「君主殿、失礼仕る!」

 

 

 ――ごきん、という音とともに、吸血鬼君主ちゃんの右肩関節を引き抜きました。

 

 

「そう、それが対吸血鬼戦における効果的な戦術。単純に引き千切っては再生を許してしまうからね、意外と力加減が難しいんだよ」

 

「いやいやいや、アレは流石に痛いのでは……ん? 吸血鬼(ヴァンパイア)は痛覚が無いのだったか?」

 

「うーん、人間だった頃に比べれば鈍いけど一応あるわよ。あと≪聖光(ホーリーライト)≫は普通に痛いわね」

 

 

 したり顔で頷く銀髪侍女さんの言葉をバックに身震いする冒険者たち。力無く垂れ下がる右腕を見てその痛みを想像してしまったみたいです。闇人女医さんと女魔法使いちゃんが吸血鬼(ヴァンパイア)の痛覚について話してますけど、触覚や温感にも関係してくるから残っているんですね痛覚。

 

 

「そんで、アレが蜥蜴の旦那が有利な最大の理由。強者との戦いこそが人生と謳う蜥蜴人(リザードマン)の培ってきた戦闘経験は俺たちとは文字通り桁が違う。たとえ相手が規格外の吸血鬼だろうと嬉々として挑む連中だ、どうしようもねェ理由が無ければ連中とは()りたくねェぞ俺ァ……!」

 

 

 

 

 

 

「さて、もうおしまいですかな?」

 

「う~……まだまだ~!」

 

「ムッ!?」

 

 

 トドメとばかりに頭部へと手を伸ばしながらの蜥蜴僧侶さんの言葉に眉を立てた笑みで返す吸血鬼君主ちゃん、翼を強引に展開し、無理矢理拳による拘束から抜け出しましたね。その際無事な左手で蜥蜴僧侶さんの右腕を深く抉っているあたり、吸血鬼君主ちゃんもまだまだやる気は十分な様子。

 

 

「ハッハッハ! 流石は君主殿、拙僧もまだ甘さが残っていたようですな」

 

「えへへ……ほめられてもまけてはあげないよ……っと!」

 

 

 頑丈な鱗をものともせず骨まで達する傷を付けられながらも、牙を剥く笑みを見せる蜥蜴僧侶さん。使い物にならない右腕を引き千切りながら吸血鬼君主ちゃんも負けず劣らずの凄惨な笑みを見せています。右腕が元通りになるまで時間稼ぎをするなぞ面白くないと言わんばかりに突撃する小さな暴君、それを自慢の尻尾で迎撃せんと蜥蜴僧侶さんが身体を旋回させ、鞭のようにしなる一撃が吸血鬼君主ちゃんへと迫ります! 太く立派なブツを眼前に吸血鬼君主ちゃんが鮫のような笑みを見せ……!

 

 

「ほほう!」

 

「へへん、とかげさんのまねっこ!」

 

 

 腰部から伸びた触手を尻尾のように操り、打ち据えてくる一撃を捌いた吸血鬼君主ちゃん。そのまま間合いに踏み込むと、丁度正面を向いた蜥蜴僧侶さんの右膝をしたたかに踏みつけ粉砕しつつ跳躍、空中から体勢を崩し上を見上げている蜥蜴僧侶さんの両肩を2本の触手で貫き、ワイヤーを巻き取るように落下していきます!!

 

 

「っしゃー! いっけーシルマリル!! トドメの一撃よ!!!」

 

「おあ~……」

 

 

 吸血鬼侍ちゃんを振り回しながら叫ぶ妖精弓手ちゃん。決着の時が迫り彼女の興奮も最高潮に達してますね。目を回している吸血鬼侍ちゃんを令嬢剣士さんが回収しようと試みていますがなかなか近付けないみたいです。

 

 

「これで、おしまい!」

 

 

 残った左腕を黒く硬質化させ、固い鱗ごと全身を引き裂かんと迫る吸血鬼君主ちゃんと、それを見上げる蜥蜴僧侶さん。両肩を砕かれてなお彼の瞳には闘志が漲っています。優雅さの欠片も無いプリミティブな力と力のぶつかり合い、その勝敗を決定づけた要因は……。

 

 

「――獲りましたぞ!!」

 

「……ふぇ?」

 

 

 巨体を引き寄せる触手の力に逆らわず、自ら空中へと跳躍する蜥蜴僧侶さん。虚を突かれた吸血鬼君主ちゃんの爪を肩口で受け、鎖骨を割り砕かれながらもその(あぎと)で細い喉元に喰らい付き……。

 

 

 

「頭から抜け落ちていたな、戦友」

 

 

 

「竜の末裔の武器は……己が爪と尻尾、そして……牙だ」

 

 

 ――恐るべき咬合力で、骨ごと吸血鬼君主ちゃんの首を圧し折りました!

 

 


 

 

「すご~い! とかげさんかっこいい!!」

 

 

 溢れる鮮血を嚥下し、喉を鳴らす蜥蜴僧侶さんへと駆け寄る吸血鬼侍ちゃん。両腕の上がらない蜥蜴僧侶さんから吸血鬼君主ちゃんを受け取り、満面の笑みを浮かべています。どっかりと倒れ込むように腰を下ろした彼に神官たちが駆け寄り、癒しの奇跡をかけ始めました。

 

 

「ウム、まさに紙一重というところでしたな。先に右腕を使えなくしていなければ、拙僧のほうが革細工の原料になっていたやもしれませぬ」

 

 

 口元を真紅に染めながら呵々と笑う蜥蜴僧侶さん。文化の違いに付き合いの浅い面々は若干引き気味ですが、そのうち慣れると思います……と、ビクビクと痙攣している吸血鬼君主ちゃんを抱える吸血鬼侍ちゃんがゴソゴソ何か始めたみたいですね。吸血鬼君主ちゃんの血に染まったインナーを捲り上げ、露わになった薄い胸へと手を伸ばし……。

 

 

「それじゃあしょうぶにかったとかげさんへのプレゼントは……これ!」

 

「ぐえ~……」

 

 

 何の躊躇も無く硬質化した腕で胸を抉り、拳大の脈打ちながら輝く物体……核融合炉(心臓)を引っこ抜きました。

 

 

「えぇと侍殿? 君主殿は大丈夫なのですかな?」

 

「へーきへーき! こうやって……えいっ!」

 

 

 動かせるようになった手に核融合炉(心臓)を乗せられ困惑状態の蜥蜴僧侶さん。心配そうな視線をピクリとも動かなくなった吸血鬼君主ちゃんに送っているのを察した吸血鬼侍ちゃんが自らの影の中にその身体をシュート! トプンという音とともに身体が呑み込まれた後、波打つように影が蠕動し始め……。

 

 

「じゃーん! ぼく、ふっか~つ!!」

 

「「いぇーい!」」

 

 

 何事も無かったかのように、邪な砂の効果で吸血鬼君主ちゃんが復活してきました。

 

 

「相変わらず何度見てもデタラメよねぇ……」

 

「えへへ……たぶんみんなもふっかつするときはこんなかんじだとおもうよ?」

 

「可能な限り経験したくありませんわね……!」

 

 

 和やかなダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)と対照的に他の冒険者はみんなドン引き。まぁそうでしょうねぇ……。吸血鬼の不死性は耳にしていても、目の前であっさりと復活されては常識と死生観が壊れちゃいそうです。腕をグルグル回したり身体を左右に捻ったりと調子を確かめていた吸血鬼君主ちゃん、どうやら問題は無いみたいです。ぽてぽてと蜥蜴僧侶さんへと歩み寄り、いつものふにゃふにゃ笑顔で抱き着いちゃいました。

 

 

「えへへ……それが『とってもいいもの』で『ぼくのだいじなもの』! とかげさんにあげるね!!」

 

「フム、もしや最初からこれが目的で……?」

 

「うん。ほんとうはふつうにプレゼントしたかったんだけど、たぶんこうしないとうけとってもらえないかなって。あ、でもてをぬいてなんかないよ! ほんきでやったもん!!」

 

 

 ふむ、もしかして鉱人(ドワーフ)の都市を尋ねた際に退治した若き赤竜の心臓を蜥蜴僧侶さんが食べたのを覚えていたんですかね? 倒した相手の心臓を喰らい、その身に取り込む蜥蜴人(リザードマン)の作法。相手が生きて?いるのに心臓が手に入るというのは滅多に無い経験でしょうねぇ……。

 

 

「どうやら君主殿には気を遣わせてしまったようですな。――では、有難く頂くと致しましょう!」

 

 

 手のひらで脈打つ心臓と吸血鬼君主ちゃんを交互に見やり、暫し瞑目していた蜥蜴僧侶さん。やがて心が決まったのか、心臓を前に片手で合掌し、心臓をその大きな口へと運びました!

 

 

 

 

 

 

「――ム!? 身体が……熱く……!!」

 

 

 効果は間を置かずして現れました。蜥蜴僧侶さんの全身に罅のような模様が走り、そこから煙のように魔力が溢れ始めました。内からの圧力によって膨張するようにその身体は一回り巨大化し、緑青色だった鱗が黒く染まり、互いに癒着し合い分厚くなって魔力の吹き出し口を覆い隠しているようです。

 

 元より立派であった尻尾ですが、長さと太さを増すとともにその上部に硬質な鰭のような器官が発生。根元に近付くにつれ大きくなるソレはそのまま背中に続き、司祭服を突き破ってその存在を主張していますね。

 

 体内に取り込んだ核融合炉(心臓)の鼓動に同調し、鱗の隙間から漏れる真紅の輝き。やがて変異が完了し、蜥蜴僧侶さんがうっすらと瞳を開きました。

 

 

「おやおや、随分と大きく育ったものだな亭主殿。我らが愛の結晶に合わせて成長するつもりかな?」

 

「――元より我らは成長し続ける種族でありますれば。そう、いわば今の拙僧は遅れてやってきた思春期(中二病)真っ只中! この胸の滾り、抑えきれませぬな!!」

 

 

 女将軍さんの揶揄いに冗句で応じ、天に向けてその顎を開く蜥蜴僧侶さん。背中の器官が発光するとともに、その口元に膨大な魔力が集まっていきます! 臨界に達し放たれた光は、伝説に謳われし竜王のソレと同一の輝きです……!

 

 

「カァアアアアアアア!!!」

 

 

 

「うわ、すっご……」

 

「「かっこいい!」」

 

 

 光の奔流となり突き進む≪核撃・放射(フュージョンブラスト)≫。みんなが一様に見上げる中、天に伸びた破壊の輝きは異界の境界面まで達し……。

 

 

「あ、不味いのです」

 

 

 ……パリーンという力の抜ける音を響かせ、異界を支える術式を壊してしまいました。

 

 

「……オイ、こりゃヤバくねェか?」

 

「あはは、*いしのなかにいる*は勘弁して欲しいなぁ……!」

 

 

 ぐんにゃりと歪み始めた周囲の光景を横目に呟く重戦士さん。異界を行き来する頻度の高い勇者ちゃんたちの顔が良い感じに引き攣ってますねぇ……。慌てて螺旋の刀身を持つ(火継ぎの)大剣を引き抜いたダブル吸血鬼ちゃんも右往左往しちゃってます。賢者ちゃんの胸の谷間に手を突っ込んだ銀髪侍女さんが携帯型≪転移≫の鏡で牧場に帰還する(ゲート)を驚きの早さで展開し、周囲が光に包まれゆくなか一斉にみんなが(ゲート)へと飛び込んでいきました……!

 

 


 

 

「あら、おかえり。思ってたよりも早かったわね……ってデカ!?」

 

「うおぉぉぉぉぉかっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「くろいねー!」

 

「かたいねー!」

 

「ごりっぱー! ありがたやー……」

 

 

 ……ふへぇ、どうやらみんな無事に牧場に戻って来られたみたいですね! お日様の高さからみてお昼をちょっと過ぎたころでしょうか、一行に気付いた新進夫婦が子どもたちと一緒に迎えてくれました。何故か朝よりも一回り大きくなっている蜥蜴僧侶さんに新進農婦さんが驚きの声をあげる横で少年の瞳に戻った新進農夫君が大興奮。子どもたちも大好きなとかげさんのパワーアップに大喜び、一斉に進化した巨体によじ登っちゃてますね。立ち話もあれですし、とりあえずダブル吸血鬼ちゃん一党の自宅に戻って遅めのランチにする流れになりました。

 

 

 

「ふむ、最後は締まりのないことになってしまったが、余から話すことはこれで全て。何か聞きたいことはあるかな?」

 

「お兄様、口元にソースが付いてますわ」

 

 

 おゆはんまでの繋ぎということでパパっとサンドイッチを作った一行。優雅にマスタードを拭いながら陛下がみんなを見渡しています。立て続けに明かされた真実に胸焼けしそうとはいえ、おなかが空くのはしょうがないこと。大皿に山積みになっていた筈のサンドイッチは綺麗さっぱり貪り尽くされてますね。冒険者たちが互いに目配せをする中、紅茶の香りを楽しんでいた令嬢剣士さんがスッと手を挙げました。

 

 

「ではまず私から。先にチラッと話題に上がりましたが、頭目(リーダー)たちの身分はどうなるのでしょう?」

 

 

 まぁまず気になるのはそこですよね。狂王によって孕まされた圃人侍女さんの娘を元に生み出された『吸血鬼侍』ちゃん。彼女から分かれる形で成長し自己を確立したダブル吸血鬼ちゃんですが、陛下や王妹殿下、女神官ちゃんとは異母兄妹にあたる存在と……言えなくもないというかなんというか。ガワだけ受け継いでいるといえばそうですし、魂は赤ちゃんのものだから血縁関係だと強弁すれば推し通るような気もします。ぶっちゃけ面倒臭い案件なんですが、陛下としてはどう考えてるんですかね?

 

 

「……公式には、2人の存在を認めることは出来ぬ。地母神のに託し辺境に落とした双子の片割れを認めさせるのも綱渡りだったというのに、それに異母妹が追加となればまたぞろ不満を持つ貴族どもが口を挟んで来るであろう」

 

「加えて言うなら2人の体組織は既に大きく変質し、他の3人との血縁関係は失われていたのです。外見上似通った点はありますが、それも偶然の産物と言って良い程度なのです」

 

 

 ふーむ、つまり死霊術師(おとうさん)外見(キャラ絵)をデザインされた時点で血縁関係は消滅していたってことでしょうか。となれば後は互いの心持ち次第になる感じかな?

 

 

「だが、()個人としては卿ら2人をかけがえのない妹だと思っている。近い将来貴族に叙し、城塞都市跡を任せるのはその信頼の証と受け取って貰いたい。それに……」

 

「「……それに?」」

 

「……それに、いつか私や私の子孫が心を狂わせ、我が父のように道を踏み外した時。あるいは再生を遂げつつある黄金樹の如き王国がふたたび腐敗し災厄を撒き散らさんとした時……卿らに幕引きを任せたいのだ」

 

 

 ああ、やっぱりその発想に至りますよねぇ……。森人(エルフ)吸血鬼(ヴァンパイア)のように永遠に等しい時を重ねる種族が定命の者(モータル)を統治しようとしたら碌なことになりません、狂王がその最たるものでしょう。

 

 その一方、国の行く末を見定める監察官(インスペクター)として国の理念が揺らいだ際に是正を促す立場になるのは良いかもしれません。名君と呼ばれた王の施策を子孫が引継ぎ、国を発展させ続ける限りは無駄飯喰らい呼ばわりされそうですが、暗君が生まれてしまった時、あるいは権力者層が腐敗してしまった時には活躍出来そうですし。

 

 

「でも、ぼくたちだってなんかのひょうしにわるいこになるかもしれないよ?」

 

「『とるにたらないにんげんよ、しはいしてやるぞ!』とかいいだすかもしれないよ?」

 

 

 あまりにも似合わない悪役ムーブに失笑が湧いてますねぇ……。肩を震わせていた陛下が眦に浮かんだ涙を拭い、2人の頭にポンと手を置いて首を横に振り、ゆっくりと口を開きます。

 

 

「そうはならんさ。卿らを秩序に繋ぎ止める想い人が居る限り、卿らが暴君(タイラント)となる日は来ぬよ。それに……卿らは『辺境最悪』であろう? 卿らよりも悪い奴が現れた時にそ奴らを成敗すれば良いだけではないか!」

 

「「あ!? ……えへへ、そうかな?」」

 

 

 陛下の強引グマイウェイな物言いに思わず吹き出す2人。ですがそれで胸のつかえは取れたのでしょう、不安げな表情は何処へやら、にへら~という笑みが戻って来ましたね!

 

 

「それでも馬鹿なことしそうになったら、私たちがぶん殴ってでも止めてあげるわ」

 

「そうそう! なんたって2人を終わらせる権利は私たちだけのモノなんだから!!」

 

 

 背後からニュッっと手が伸びてきて抱き上げられる2人。初期メンバーである女魔法使いちゃんと妖精弓手ちゃんが縄張りを主張するように宣言する一方……。

 

 

「ズルいですわ! 私にもその()()()()()に対する権利を分けてください!!」

 

「え、ええと、どちらかといえば妹のような気がするんですが……」

 

 

 同じく『はじめてのぼうけん』から行動を共にしていた女神官ちゃんと、何やらおめめがグルグルしている王妹殿下まで乱入してきてもうしっちゃかめっちゃかです。あーあー、森人義姉妹(エロフしまい)や白兎猟兵ちゃんまで飛び込んでますねぇ……。

 

 

「あーもう滅茶苦茶なのです……!」

 

 

 収拾の付かなくなった有様に額を抑える賢者ちゃん。でもみんな、何か大切なことを忘れてませんかねぇ? 賢者ちゃんの横であらあらうふふと頬に手を添えて微笑んでいた若草祖母さんの言葉が、どったんばったん大騒ぎなリビングに響きます……。

 

 

「うふふ、みんな元気が有り余っているみたいですね」

 

 

 

 

 

 

「でも、迷宮探検競技の本番は明日ですよ???」

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「……あ!」」」」」」」」」」

 

 

 若草祖母さんの一言で痛いほどの沈黙へと変化した一行。恐る恐るといった様子でみんなが視線を向けた先には……。

 

 

 

 

 

 

 

「ふへへ……いいんだ、どうせ私が迷宮の主(ダンジョンマスター)だなんて盛り上がらないに決まってるんだ……」

 

「わ、私は忘れてなどおりません! 明日の準備は万全、あとは高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に参りましょう!!」

 

 

 

 ……はい! 次回はいよいよ視聴神さんお待ちかねの迷宮探検競技です! 妖術師さんと若草知恵者ちゃんのコラボで生み出された迷宮、いったいどんな素晴らしいものなのでしょうか、今から楽しみですね!! 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 あ、知識神さん鍛冶神さんもうちょっとだけお待ちください! 次こそはおふたりの推しが活躍するターンですから!!

 





 もう1話か2話くらい更新したいので失踪します。

 評価、お気に入り登録ありがとうございます。読んでくださる方がいると更新が捗って良い感じです。


 感想も併せてお待ちしておりますので、お時間がありましたら是非お願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその16-10


 連日投稿が間に合わなかったので初投稿です。


 何も考えずに投稿していたら120万字を超えておりました。ちょっぴり日間二次創作ランキングにも顔を出していたみたいで嬉しいですね。これからも皆様に読んでいただければ幸いです。

 ※8/17 みんなの等級が古いデータを参照していたため修正致しました。




 

 前回、うっかり迷宮探検競技が明日に控えていることを忘れていたところから再開です。

 

 

 リビングの隅で体育座りを始めてしまった妖術師さんをなんとか立ち直らせ迎えた冬至(ユール)当日。近頃の潤いぶりを聞きつけた人々が集まり、辺境の街は大いに賑わっています。大通りには出店が立ち並び、広場では吟遊詩人や大道芸人たちが己の技を競い合い、訪れた観光客たちを楽しませています。

 

 しかし今年の冬至(ユール)一番の目玉はやっぱり迷宮探検競技! ギルドの訓練場には噂を聞きつけた夢見る少年少女が大集合、来春から冒険者になろうと考えている彼ら向けに訓練場の施設見学や宿泊施設の説明などが開かれ、それにギルドの職員さんたちが駆り出されているみたいです。まぁ冬場は依頼の数が減り割と暇だったようで、忙しい忙しいと口にする職員さんたちの顔には笑みが浮かんでますね。

 

 

「……というわけで、女性の訓練生は短パンとブルマのどちらか好きなほうを選んで着用いたしますの」

 

 

 お、噂をすればなんとやら。ちょうど案内役の腕章を付けた令嬢剣士さんが冒険者志望の少女たちを引率していました! 小雪のチラつくグラウンドを走る訓練生を指し示しながら支給される運動服について説明しているみたいですね。判り易く丁寧な説明を受け、連れ添って歩いていた2人の少女は何度も大きく頷いています。熱心に聞き入る()()を見て、令嬢剣士さんが苦笑まじりに言葉を続けます。

 

 

「まぁ、()()()()にはあまり関係ないかもしれまんわね……」

 

 

「そんなことありませんわ! どのように税が使われているのか知るのも、私にとって大切な勉強ですもの!!」

 

 

 たゆんと揺れる胸を張りながらにこやかに笑う金髪の少女。その黄金にも負けぬ輝きを放つ太陽のメダルをたわわの上に乗っけている美少女は貧乏貴族の三男坊の妹一号ちゃん!……まぁ王妹殿下ですね。キョロキョロと物珍しそうに施設の内部を眺めては、ギルドの職員さんたちにアレコレ質問を投げ掛けています。査察官さんから予め話が通っているみたいですが、相手がこの国の王族ともなれば流石の監督官さんも普段のゆるーい態度ではなくデキる女ムーブで応対していますね。

 

 

「パンとスープはおかわり自由……ジャムも付け放題……!」

 

 

 王妹殿下の横で給食の内容を聞いて口の端から涎を垂らしそうになっているのは英雄雛娘ちゃん、今までずっと牧場での食餌療法と基礎トレだったため今日初めて訓練場にやって来ました。栄養豊富なごはんと適切な運動、それに吸血鬼君主ちゃん()()()ちゅーちゅーによってガリガリだった身体はもはや過去の話。身長は然程変わりませんが叢雲狩人さんに近いしなやかな筋肉を纏い、腰の左右にぶら下げた店売りの大小二刀に揺らぐことの無い体幹を会得したみたいです。

 

 ……なお、いっぱい食べて取り込んだ栄養が良い感じに胸部へ向かったようで、低身長でありながらも2人と同じように施設見学に来ている青少年たちの目が釘付けになる立派なトランジスタグラマーに成長しちゃってます。具体的に言うと、女神官ちゃんと妖術師さんが崩れ落ちるくらいですかねぇ……。「只人(ヒューム)が育つのは早いわねぇ」と言いながら彼女のたわわを揉みしだく妖精弓手ちゃんの味わい深い表情が印象的でした。

 

 

「ワン!」

 

  そんな2人の足元には視聴神さんたちも見慣れた白い毛むくじゃらの姿が。吸血鬼君主ちゃんにお願いされて護衛役としてついてきた狼さんですね。ナイスなたわわをお持ちの女性たちに尻尾をブンブン振りながら愛想を振りまく姿はとても使徒(ファミリア)には見え……主が吸血鬼君主ちゃんだから仕方がありませんね!

 

 


 

 

 さて、施設見学の後はいよいよ迷宮探検競技。訓練場内に用意された特別会場には参加者が集い、係員の案内に従って即席の一党(パーティ)を組んでいますね。1人で会場を訪れたボッチ一匹狼に躊躇うことなく声を掛け、妖精弓手ちゃんや叢雲狩人さんが手際良く迷宮へ送り出しています。

 

 

「さ、初めての冒険よ! みんなで力を合わせて頑張りなさい!!」

 

「万一の時には先程配布した音鳴り袋(クラッカー)を使い給え。救護担当が駆け付けてくれるからね」

 

 

 森人(エルフ)を見るのは初めてという人も多いことでしょう。物語の中から出てきたような麗しの美姫に微笑まれ男女問わず陶然となる挑戦者たち。故郷ではブイブイ言わせていた力自慢や己が大成すると信じて疑わない若者たちが、競技の後に自分と付き合うよう声を掛けてますが……。

 

 

「残念、私たちこう見えて子持ちの人妻なの。他をあたってちょうだい?」

 

「同じく。それに……悪いけど、キミたちでは私たちを満足させるのは無理だろうね」

 

 

 左の薬指に嵌めた()()()()()()の指輪を見せながら簡単にあしらわれてあえなく轟沈。未来の同業者、あるいは一党(パーティ)メンバーになるかもしれない逸材を見物しに来た冒険者たちの失笑を買っています。苦笑しながらそれを見ている令嬢剣士さんの左手にも同じ意匠の指輪がありますし、男避けと所有権を主張するのを兼ねてダブル吸血鬼ちゃんが作ったみたいですね。

 

 

「あら、やっと来たのね。先発組は迷宮に入り始めてるわよ」

 

 

 お、ヒラヒラと手を振りながら女魔法使いちゃんが来ましたね。ぴっちりスーツで強調されたたわわの間に挟まっている紅玉の認識票に、とんがり帽子と右手に装備したパイルハンマーのギャップも合わさって参加者たちの注目を集めていますね。

 

 ちなみに他のみんなの等級ですが、銀等級であるダブル吸血鬼ちゃんと妖精弓手ちゃんはそのままで、若草知恵者ちゃん、令嬢剣士さん、妖術師さんは女魔法使いちゃん、叢雲狩人さんと同じ紅玉に昇格。育児であんまり冒険に参加していなかった白兎猟兵ちゃんと偽装身分(カバー)に使うだけの剣の乙女ちゃんはこれまでと変わらず鋼鉄ですね。闇人女医さんは冒険に興味は無いみたいですが、登録しないと冒険に同行出来ないのでとりあえず登録だけ済ませてあるみたいです。

 

 

「あら、施設見学に時間を掛け過ぎてしまったみたいですね……」

 

「まだ出発の順番待ちしてるから問題無いわ。まぁでも丁度良かった。……2人とも、こっち来なさい」

 

 

 

「――はい、いま行きます! ……ほら、兄さん早く!!」

 

 

 おや? 女魔法使いちゃんの呼び声に応じて参加者と思われる2人組がやって来ましたね。年上っぽい男の子を引っ張ってきたのは八重歯が可愛い小柄な女の子、裾の短い法衣とミニのプリーツスカート姿で、ぺったんこな胸元には至高神さんの聖印が光っています。

 

 

「あだだだだ、もげるもげる!? 馬鹿力で引っ張るな!!」

 

 

 そんな彼女に引き摺られているのは吸血鬼君主ちゃんと同じ三白眼の長身、胸には女の子と同じ至高神さんの聖印が下がっており、彼女に捕まれているのと反対の手には魔術学院の生徒の証である紅玉の杖(ガーネットスタッフ)が握られていますね。呼びつけた女魔法使いちゃんに悪態を吐いて軽くあしらわれているあたり、もしかして知り合いなんでしょうか?

 

 

「コイツは私の学院時代の同期で愚弟の先輩筋に当たる魔術師。んで、隣がソイツの幼馴染の神官戦士見習いの子ね。どっちも迷宮探検競技に参加するために王都から来たんだけど、この性悪馬鹿のせいでまだ一党(パーティ)が組めてなくてねぇ……。悪いけど、組んでやってくれる?」

 

「誰が性悪馬鹿だこの冷血女(コールドブラッド)!? この偉大なる()()()()使()()に向かって……!」

 

「いい加減≪惰眠(スリープ)≫を遺失魔法って呼ぶの止めなさいよ……」

 

 

 ポンポン飛び交う罵倒と頭のおかしいパワーワードの数々、どうやら気の置けない仲なのは間違いなさそうですね。そんな遺失魔法使いさんをハラハラしながら見守っていた少女ですが、令嬢剣士さんたちの視線に気付き礼儀正しい挨拶を披露してくれました。

 

 

「はじめまして、至高神さまの導きに従い正義を為すことを目指しています! 本日はよろしくお願いします!!」

 

 

「「「おおー……!!」」」

 

 

 ビシッと敬礼を決めながらの挨拶に思わず拍手の3人。王妹殿下は彼女の性格に好印象を持ったみたいですが……令嬢剣士さんと英雄雛娘ちゃんは彼女のカラダから目を離せなくなっています。

 

 

「(なんて鍛え上げられた肉体……いえ、まだ成長の余地があるのですか……!?)」

 

「(うわ……すっごい力持ちっぽい……!)」

 

 

 ゴクリ、と唾を飲み込む2人を不思議そうに眺める少女……至高神の猛女ちゃんに慌てて挨拶を返す2人。彼女たちが何を考えていたのか察した女魔法使いちゃんがやれやれと首を振りながら言葉を紡ぎます。

 

 

「競技は最大6人までの一党(パーティ)で挑むルールだから、とりあえずこれで4人ね。……あなたを換算しても5人だから、もう1人くらい欲しいわねぇ」

 

 

 狼さんをわしわしと撫でつつ思案する女魔法使いちゃん。横で遺失魔法使いさんが「俺たちは犬並みかよ!?」と抗議してますが……ワンチャン狼さんのほうが上ですかねぇ、犬じゃありませんが。

 

 

「まぁ、単独(ソロ)で挑戦する物好きな方もおりますから、1人くらい足りなくても……あら?」

 

 

 ん? 残っている参加者たちを眺めていた令嬢剣士さんが誰かに目を留めてますね。相手も彼女に気付き、ゆっくりとみんなに向かって近付いてきました。堂々と歩く姿は独特な圧を醸し出し、彼の進む先から自然に人が避けていくほどです。やがて彼女の前に到着した大柄な人物が、その()を開きました……。

 

 

 

「カカカッ! 投資先の視察ついでに話題の訓練場に来てみれば、まさか赤枝(アカギ)の娘に出会うとは! これだから人生は面白いッ!!」

 

「ええ、お久しぶりですわ。御爺様もお元気そうで何より。……相変わらず殺しても死にそうにありませんわね」

 

「言うてくれる! 先に死んだのはお嬢のほうではないか!!」

 

 

 

 鋭い眼光に白い羽毛を後ろに流した総髪、()の相を持った老年とは思えないほどの強烈なオーラを放つ鳥人(ハルピュイア)の男性はどうやら令嬢剣士さんの知り合いみたいです。普段から礼儀正しい令嬢剣士さんには珍しく荒っぽい言葉遣いですが、男性のほうも気にしていない様子。暫く丁々発止とやりあっていた令嬢剣士さんですが、みんなのポカンとした様子を見て咳ばらいをひとつ、彼を紹介してくれました。

 

 

「――コホン。この方は数十年前に私の母と同じ一党(パーティ)で活躍されていた元冒険者で、今は王都を拠点に鉱山の運営や貴族の領地経営の相談役をされている……」

 

 

 

「馬鹿な貴族から金を毟り取り、民に贅沢の味を覚えさせる悪徳商人! ワシのことは尊敬と畏怖を込めて『鷲頭様(ワシズサマ)』と呼ぶが良い!!」

 

 

 

 ワシズ……アカギ……あっ(察し)

 

 


 

 

「えっと、勢いで案内しちゃったけど……ほんとうに参加していくの?」

 

「当たり前よ! 投資する先の動向を自らの目で確かめずして何が()資家か!!」

 

 競技の参加者記入用紙を差し出す女魔法使いちゃんにテンション高めに応じる鷲頭様(ワシズサマ)。元冒険者ということで参加はダメなのかと思いましたが、引退して認識票を返納してから随分と時間が経ってますし、お祭りイベントだからいいんじゃない?と監督官さんからオッケーが出たみたいです。……まぁ聞いた感じ訓練場に出資してくれるっぽいので断れなかったというのが正解でしょうか。職員さんたちがみんなおなか抑えて青い顔してますし。

 

 

「――はい、5人と1匹の参加を確認。これであなたたちは一党(パーティ)として登録されたわ」

 

「いよいよですね! 楽しみです!!」

 

 

 胸の前でギュッと拳を握り可愛らしく喜びを表現する至高神の猛女ちゃん。よく見れば上腕二頭筋がはち切れんばかりに隆起しています。腰に佩いた長剣(ロングソード)は背丈に合わせて通常より短いものですが、彼女の筋力に見合っているかと言われると……ねぇ?

 

 

「ふふ、『はじめてのぼうけん』、頑張りましょうね!」

 

「えっと、はい……頑張ります」

 

 

 王妹殿下に促がされ、彼女と拳を突き合わせる英雄雛娘ちゃん。ちょっぴり人見知りなので心配していましたけど、みんなダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)に匹敵する強烈な個性を持っているので逆に馴染んじゃったみたいです。

 

 

 さて、みんなの職業ですが……ふむ、用紙に書き込まれた各自の経歴(ステータス)を見る限り、結構バランスは良さそうです。

 

 

 王妹殿下は先に『神官銃士』を名乗っていた通り、太陽神さんの奇跡と謎の単筒が使えるみたいですね。……何故か武道家まで持ってますけど、これは蟲人英雄さんに手ほどきを受けたからなんだとか。軽装にもかかわらず異常に装甲値が高いですし、やはり〇ボ形態なのでは???

 

 英雄雛娘ちゃんはお父さん譲りの大小二刀アタッカー。鍛冶神さんの信仰にも目覚めていますがまだ奇跡は授かっていない様子。これからの成長が楽しみです!

 

 遺失魔法使いさんは言わずもがなの魔術師(ソーサラー)。こっそり修得している野伏(レンジャー)は生まれに因るものですね。その相方の猛女ちゃんは……うん、ガチガチの神官戦士ですね。筋力に装備が見合っていないのが残念ですが、重戦士さん並の荷重にも耐えられそうな能力をしていますよ彼女。

 

 さて、気になる鷲頭様は……お、武道家(モンク)斥候(スカウト)の兼業ですね! 空を飛ぶ関係で華奢な体つきな人が多い鳥人(ハルピュイア)ですが、軽い身のこなしと鋭い爪で武道家(モンク)の適性は割と高め。鷲頭様の場合背中に翼を持ち手に鋭い鉤爪が生えた鷲人(アクィラ)なので、現役時代はさぞ大暴れしていたことでしょう。

 

 最後に狼さんですが……うん、これは可愛いマスコット! というのは冗談として、流石は吸血鬼君主ちゃんの使徒(ファミリア)。背中に装備した大剣と爪、牙による連撃はなかなかの威力、もしタイマンなら小鬼聖騎士(パラディン)くらい倒しちゃいそうです。ちょっとコミュニケーション能力に難はありますが、女の子の言うことならホイホイ聞いてくれるんじゃないですかね?

 

 

 

 

 

 

「あ、来た来た!」

 

「ふふ、次は此方の方々をお願い致しますわ」

 

 

 迷宮の入り口で挑戦者を送り出していた麗しの森人(エルフ)2人のところへ案内される一行。令嬢剣士さんから彼らを引き継ぎ、妖精弓手ちゃんがみんなに音鳴り袋(クラッカー)を配っていますね。見た目はまんまパーティグッズのアレですが、独自の音と発光によって不測の事態を報せる優れものなんだとか。全員が受け取ったのを確認し、競技の内容について説明を始めました。

 

 

「この地下階段を降りたところから競技はスタートよ。途中いくつかの試練(チャレンジ)があって、最奥に待つ迷宮支配者(ダンジョンマスター)の課題を乗り越えられたら達成(クリア)! あ、途中の試練は達成出来なくても進めるから安心してね?」

 

「もちろん、試練以外にも罠や仕掛けがあるかもしれない。引っ掛かったら死ぬようなものは無いけれど、怪我くらいは覚悟しておきたまえ」

 

 

 案内役(ガイド)の説明を食い入るように聞く一行。猛女ちゃんなんか鞄から取り出したメモ用紙(パピルス)に2人の言葉を一生懸命書き留めていますね。一通り説明が終わったところで、妖精弓手ちゃんが近くの机に準備してあったあるものをみんなに差し出しました。

 

 

「見た感じ暗視持ちは居ないでしょ。はいこれ、迷宮は暗いから持って行きなさい! ……ふふ、壊したら弁償よー?」

 

 

 ニマニマ笑う妖精弓手ちゃんの差し出した角灯(ランタン)に注がれる挑戦者たちの視線。おずおずと受け取ろうとした英雄雛娘ちゃんですが、横から伸びてきた別の腕に持っていかれてしまいました。

 

 

「見たところオマエ剣士だろ? こういうのは手の空いている中衛が持つもんだ。オマエとウチの妹分が前衛で、俺とそっちのネーチャンが中衛。鷲のオッサンが基本後衛で、罠を探したりするときにオマエと交代……そんなとこだろ。ワンコは……まぁ勝手になんとかするんじゃね?」

 

「鷲頭様と呼べ若造。だが悪くは無いな。……別にワシが前に出突っ張りでも構わんぞ?」

 

「アンタに任せっきりじゃ競技になんねぇよ。あくまでこれは『遊び』。遊びは手を抜かず、真剣に楽しむもんだろ?」

 

 

 角灯(ランタン)を弄びながら嘯く遺失魔法使いさんの言葉にニヤリと笑みを返す鷲頭様。言葉遣いこそぶっきらぼうですが、なかなか気配りが上手ですね。即席一党(パーティ)頭目(リーダー)としては及第点と言えるでしょう!

 

 

 男性陣の遣り取りに目を丸くしていた英雄雛娘ちゃんでしたが、別に彼が怒っているのではないと判りペコリと頭を下げてますね。お、キョロキョロと周りを見回していた視線がある一点で止まりました。幾つも並べてある貸し出し用の角灯(ランタン)の横に隠れるように置いてあった棒状の物体を手に取り、叢雲狩人さんへ尋ねています。

 

 

「あ、あの……! これも貸してもらえるんですか?」

 

「ん? ……フフ、良く気が付いたね! 好きに持っていって構わないよ」

 

 

 英雄雛娘ちゃんが抱える()()を見て小さく笑う叢雲狩人さん。角灯(ランタン)があれば不要に思えて、松明には松明の利点もありますからね! いそいそと腰帯(ベルト)に挟む彼女を微笑ましいものを見る目で見ていた妖精弓手ちゃんと目が合い、小さくウインクをしていますね。一行が装備の確認を終えたのを見計らい、妖精弓手ちゃんが軽やかに宣言しました!

 

 

「それじゃ準備は良い? ……君たちの冒険はここから始まる! いざゆけ冒険者ー!!」

 

「「「「おー!!!」」」」

 

 

 元気良く声を上げ、地下への階段を下りる少年少女たち。鷲頭様と狼さんがその後ろに続くのを見送り、妖精弓手ちゃんが呟きます。

 

 

「やる気は十分、才能の有無は関係無し。でも、貴方たちはまだまだ足りないものばかり。それに気付くのが、この競技の一番の目的よ? ……ま、頑張りなさい!」

 

 

 

 

 

 

「――最初から良く判らんモンが出てきたな……」

 

 

 石造りの階段を下り切った一行。目の前には土を掘って出来た洞窟のような通路が伸びており、10mほど進んだ先には道を寸断する空堀が。堀の中にはぬらぬらとぬめりを纏い卑猥に蠢く触手がみっちりと詰まっており、その上に木製の橋が架かっています。橋のたもとには高札が掲げられており、何やら文章が書かれていますね。競技の序盤ということもあり、罠や仕掛けが無いかと恐る恐る近付いた英雄雛娘ちゃんがその文を読み上げます。

 

 

「えっと……『このはしわたるべからず』……かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしましょう兄さん!? これじゃ先に進めません!!」

 

 

「そんな……『わたしたちのぼうけんはこれでおわってしまった』なんて……!」

 

 

 

「クソッ、脳筋枠は1人じゃなかったのかよ!?」

 

 

 この世の終わりを迎えてしまったような叫び声をあげる2人を見て別の意味で頭を抱えてしまった遺失魔法使いさん。膝から崩れ落ち「せめて記念に……」と地面の土を持参した頭陀袋に詰め始めた2人を英雄雛娘ちゃんがオロオロしながら止めようと頑張っています。冗談のような光景を前に元冒険者である鷲頭様というと……。

 

 

「ほう、最初からなかなか良い試練(チャレンジ)ではないか!」

 

 

 ……ニカッと笑ってご満悦ですね。遺失魔法使いさんへと歩み寄り、その太い爪で彼を引っ掛け起こしながらノーキンズへ説明するよう促しています。

 

 

「ほれ若造、素直過ぎるお嬢さんたちに世の汚さを教えてやれ!」

 

「へいへい……。いいかオマエら、ありゃ『この橋を渡るな』じゃなくて『端っこ』……橋の手摺に近い場所を歩くなって意味だ」

 

「「なん……だと……?」」

 

 

 見てろよ?と言いながら橋に近付く遺失魔法使いさん。杖の先端で床板を突きパカッと開くさまを見せられ王妹殿下と猛女ちゃんが驚きのあまり硬直しています。橋の枠組みを挟んで愚か者が落ちてくるのを待つ触手の群れを英雄雛娘ちゃんが狼さんと一緒に恐々と覗き込んでますね。

 

 

「うわぁ……あれ? でも答えが書いてあるなら誰も引っ掛からないんじゃ……」

 

「わふ?」

 

 

 うーん、と首を傾げる英雄雛娘ちゃん。ですがそれは意外に難しいことなんですよねぇ。彼女の疑問に答えてくれたのは、手に小ぶりな石を持った鷲頭様です。

 

 

「そうでも無いぞ? もし一党(パーティ)の誰も文字が読めなかったらヒントの存在自体が無意味であるし、そんな連中は長くは生きられん。読めたとしてもそこの若造のように頓智が利かなければ、橋を渡る以外の方法を試そうとして……」

 

 

 そう言いながら手に持った石を前方に放る鷲頭様。触手の海を超える軌道を描く石は、堀の半ばあたりで素早く伸びてきた触手に絡めとられ、触手の海に飲み込まれていきました。

 

 

「もし飛び越えようと試みたり、堀に降りていたら……なかなか楽しい光景が見れたかもしれんのう!」

 

「せ、セクハラはダメです!」

 

「まぁそっちのネーチャンはともかくオマエが触手に纏わりつかれてても……グハっ!? おい押すな! 落ちる落ちる!?」

 

 

 ギリギリと手四つで押し切られ遺失魔法使いさんが堀に落とされかける一幕もありましたが、最後はみんな橋の真ん中を通って無事渡ることに成功! 最初の試練(チャレンジ)を突破しました!!

 

 おや? 荒く息を吐く遺失魔法使いさんに苦笑を向けつつ先へと進む一行に合わせて何か光る物が。……ふむ、どうやら迷宮のそこかしこに監視用の仕掛けが隠されているみたいです。せっかくなので妖術師さんたち迷宮支配者(ダンジョンマスター)側の様子も見てみましょうか!

 

 


 

 

 迷宮の最奥に設けられた大きな玄室(ボス部屋)。その裏には巧妙に隠された係員専用(スタッフオンリー)の扉を通じて迷宮支配者(ダンジョンマスター)の控室へと繋がる通路が伸びています。

 

 迷宮各地に配置された仕掛けを通じ挑戦者たちの動向を逐一把握できる監視装置(モニター)や非常用の通信設備が用意された一室には数人の男女の姿があり、その一部から発せられる湿った音と熱い吐息が部屋中に響いていますね。

 

 ふかふかの安楽椅子(リクライニングチェア)に腰を下ろす2人の迷宮支配者(ダンジョンマスター)。挑戦者が通るたびに(エネミー)(トラップ)を再生成する彼女たちのために軽食や飲み物が用意されており、競技の視察に赴いた陛下や査察官さんたちもそのご相伴に預かっているようです。

 

 

「ふむ、なかなかどうして見応えのあるものだな」

 

「ええ。私も初見ですが、陛下と同じ意見です」

 

 

 満足げに頷く陛下の横で葡萄酒(ワイン)を口に運ぶ査察官さん。その顔が赤みを帯びているのは酒精(アルコール)だけが理由では無いでしょう。大皿に山盛りのサンドイッチを貪っていた賢者ちゃんが呆れたように2人へツッコミを入れました。

 

 

「馬鹿言ってないで競技に集中するのです。いつまで義妹の濡れ場を見ているつもりなのですか」

 

 

 

 

 

 

「ん……ちゅ……ちゅっ……」

 

「んむ……ふぅ。主さま、ありがとうございます」

 

 

「ん……ぷぁっ! も、もう十分だから……んむぅ!?」

 

「ん~? ダ~メ、ちゃんと満タンまで補給するの……んちゅっ」

 

 

 

 背もたれを後ろへ倒し、仰向けに近い状態の妖術師さんと若草知恵者ちゃん。2人に覆い被さる姿勢でダブル吸血鬼ちゃんが魔力供給を行っています。食事で熱量(カロリー)は摂れるものの、呪文回数までは回復することは出来ません。そのためダブル吸血鬼ちゃんが魔力を送り込み、補給をしているわけですね! ……本当は()()を用いるのが一番効率的なんですが、流石に陛下たちの前ではちょっとというのと、火が点いて夢中になってしまうといけないので代わりに口づけで済ませているみたいです。

 

 

「その、想像以上に生々しいというか、情熱的というか……」

 

 

 なんとか目を逸らそうと試みるものの、幼い容姿に不釣り合いな情熱的行為から目が離せない査察官さん。一方で誰に憚る事無くガン見している陛下は……。

 

 

 

 

 

 

「――義母と呼べる女性と瓜二つな異母妹たちの艶姿、か。余、ちょっと好きかも……」

 

「妃に言いつけるのですよ???」

 

「ごめんなさい」

 

 

 

 日頃の激務に加え、昨日の告白で肩の荷が下りたのかフリーダムさに磨きがかかってますね陛下。火打石団を潰してからこっち、暴れん坊陛下が出陣する機会も無かったようなのでストレスが溜まっているのかもしれませんねぇ……。賢者ちゃんの脅しにキリっとした顔に戻った陛下が、英雄雛娘ちゃんたちを捕捉している映像に目をやりながら背後に向かって声を掛けました。

 

 

「しかし、御老体が参加するとは……当初はそなたが同行する予定だったのだがなぁ」

 

「まぁ良いじゃないか。彼の実力は疑いようも無いし、快く金を出してくれるなら万々歳さ。それに狼くんから枠を奪うのも悪いと思ってね」

 

 

 何時の間にか部屋の中に現れた銀髪侍女さんが、サンドイッチを摘まみながら肩を竦めています。どうやら鷲頭様も王妹殿下の正体に気付きつつも知らんふりをしてくれているみたいですね。

 

 

 ……お、どうやら次の試練(チャレンジ)に到着したみたいです! 次回は引き続き迷宮探検競技の模様をお伝えする予定ですので、視聴神のみなさんもご期待ください!!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 もう1話、せめてもう1話……なので失踪します。


 評価、お気に入り登録ありがとうございます。ランキングに顔を出すと嬉しくて筆が捗りますね。

 感想も併せてお待ちしておりますので、お時間がありましたら是非に。可能な限り返信させて頂いております。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその16-11


 業務の引継ぎやら何やらで遅れたので初投稿です。



 

 前回、『はじめてのぼうけん』がスタートしたところから再開です。

 

 最初の試練(チャレンジ)である『端を渡ってはいけない橋』をクリアし意気揚々と迷宮を進む一行。さぁ次はどんな仕掛けが待っているのかと心躍らせていましたが……。

 

 


 

 

ガボッ

 

「ンンンーーーッ!!!」

 

「に、兄さぁぁぁぁん!?」

 

「ほう? どうやら重さを感知して発動する罠だったようだの」

 

 

 感圧式の罠を猛女ちゃんが踏み抜き天井から落ちてきた粘菌(スライム)が遺失魔法使いさんの頭に命中、手に持っていた角灯(ランタン)が割れ……。

 

 


 

 

ガコン

 

 

「へ? キャー!?」

 

「え、待っ、うにゃあああ!?」

 

「あばばばば!?!?」

 

 

 突然上り階段が急坂に変化し、足を取られた猛女ちゃんの落下に全員が巻き込まれてゴロゴロ、ついでに2つめの角灯(ランタン)が割れ……。

 

 


 

 

スカッ

 

 

「あ、あれっ?」

 

「ひっ!?」

 

「のわぁ!? 危ねぇなおい!?」

 

 

 蛇の目(ファンブ)った猛女ちゃんの手からすっぽ抜けた長剣(ロングソード)が英雄雛娘ちゃんを掠めて飛び、射線上にいた遺失魔法使いさんの持っていた最後の角灯(ランタン)を粉砕し……。

 

 


 

 

「フハハハハハハハハハ!」

 

「えぇ……アレ全部引っ掛かるの……?」

 

 

 伝説の漂流者たち(ドリフターズ)ばりにベタな罠の掛かり方にドン引きな妖術師さん、これには陛下も大爆笑。映像では≪小鬼(クリエイトゴブリン)≫の呪文で生み出された模造小鬼(モブゴブリン)の群れに王妹殿下が突撃し、ちぎっては投げちぎっては投げの大立ち回りが映し出されています。腰の入った良いパンチは矮小なゴブリンの体躯をくの字に変形させる威力を秘め、時折着弾の瞬間に拳を捻り込み、モツ抜きに派生する多芸っぷりまでアピールしてますねぇ……。

 

 

「どっせぇぇぇぇい!!」

 

「MOB~!?」

 

 

 うわ、猛女ちゃんの一撃怖っ!? 必要筋力半分くらいの長剣(ロンソ)を大上段に振りかぶり、短剣で受け流そうとした模造小鬼(モブリン)を短剣ごと真っ二つにしちゃってます。攻撃後の隙を狙わんと駆け寄る模造小鬼(モブリン)はフォローに入った遺失魔法使いさんの弓に牽制され、返す刃によって同様の末路を辿りました。

 

 大暴れする神官2人が目立っていますけど、英雄雛娘ちゃんも負けてはいませんね! 通路では短剣に、玄室では長剣に持ち替えて危なげなく戦っています。斬るのではなく突きを多用した剣の扱い方はゴブスレさんや令嬢剣士さんに似た狭い場所での戦法……「小鬼殺し」に向いた戦い方と言えるでしょう。後方からみんなの戦いを観察している鷲頭様もそれに気付いたのか、ステップを駆使した一撃離脱戦法を意識するよう声を掛けています。

 

 

 

「ひぃふぅみぃ……全部で12匹か。囲まれたら厄介だろうが、正面切っての殴り合いならそうそう遅れは取らないみたいだな」

 

 

 おっと、話しているうちに玄室内に配置されていた模造小鬼(モブリン)はすべて倒されちゃったみたいです。粘つく水たまりに浮かんだ小鬼の歯を摘まみ上げながら肩をほぐすように回す遺失魔法使いさん。再利用出来ないか考えているみたいですが、一度触媒に使ったものは秘められた力を失ってしまうため残念ながらただの汚い小鬼の歯ですね。

 

 

「油断するなよ若造。彼奴らは姿を似せただけの人形、本物の小鬼は模造品のようにお上品ではない。汚泥の中に潜み、毒を使い、人質や罠を活用する。かすり傷一つが死に至る事も決して少なくは無いぞ?」

 

「それに……あいつらは殺すことよりも犯すこと、嬲ることを好みます。たった1人を両手の指以上のゴブリンが取り囲み、抵抗することすら出来ずに玩具にされることだって……」

 

「はは、そんな大袈裟な……」

 

 

 脅すような鷲頭様の言葉に頬を引きつらせる遺失魔法使いさん。続く英雄雛娘ちゃんの顔を見てそれが決して冗談では無いと察したみたいです。ぞわりと身体に走った悪寒を振り払うように身震いし、装備を確認する彼の表情からは油断の色は抜けたみたいですね。

 

 訓練場で学ぶのは肉体の扱い方だけではありません。座学では緊急時に食べられる野草や木の実、飲み水の確保の仕方などのサバイバル技術の習得や、怪物(モンスター)の特徴についての講習などが行われています。そしてその中にはゴブリンの悍ましい生態や女性に対しての行為についての話も含まれているのです。

 

 女性冒険者だけを集めて行われる勉強会。若草知恵者ちゃんや叢雲狩人さん、只人寮母さんなどから語られる生々しい現実に気絶や嘔吐する女性が多発するものですが、いつ何時自分がそういう目に遭うか判らない女性たちからの「知ることが出来て良かった」という声は多く、より一層新人たちがゴブリン駆除に邁進する要因となっているみたいですね。

 

 

 

「そろそろ私の出番ですね。主さま、行ってまいります」

 

「ん、いってらっしゃい!」

 

「がんばってね!!」

 

 

 お、若草知恵者ちゃんがダブル吸血鬼ちゃんに口づけをして部屋から出ていきました。競技者からは見えない位置にある専用通路を使って担当の玄室へと向かったみたいです。以前は謎掛け(リドル)を用意していると言ってましたが、はたして一行は謎を解くことが出来るのでしょうか!

 

 


 

 

「ようこそいらっしゃいました、未来の冒険者の方々。ここでは謎掛け(リドル)に挑んでいただきたいと思います」

 

「「「うわぁ、綺麗……!!」」」

 

「ワン!」

 

 

 女子たちの黄色い声が響く玄室。倉庫のような造りの部屋には所狭しと麻袋が積まれており、中央に据え付けられた机の上には大小2つの秤が設置されています。その傍らには奉納演舞の際に身に着けていた儀式装束姿の若草知恵者ちゃんが審判員(ジャッジ)として控え、訪れた挑戦者たちに蠱惑的な笑みを向けていますね。英雄雛娘ちゃんたちが席に着いたのを確認すると、ポケットから金貨を取り出して机の上に並べ始めました。

 

 

「まずは休憩を兼ねて頭の体操と致しましょうか。まず此方に8枚の金貨がございます。この中で7枚は本物なのですが、1枚だけ本物より少しだけ軽い偽物が混じっております。机の上に置かれております天秤を何回使えば偽物の金貨を見つけることが出来るでしょうか?」

 

 

 こちらに本物の金貨と同じ重さの分銅も用意してありますので、という若草知恵者ちゃんの言葉にめいめい考えを巡らせ始める一行。あ、鷲頭様は答える気が無いのか若草知恵者ちゃんにアイコンタクトを送って持ち込みの酒と干し肉(ジャーキー)で一杯始めちゃってますね。商いに携わっている人なら即座に解答に辿り着いてしまうでしょうし、ここは新人たちに華を持たせてくれるみたいです。

 

 

「はい! 片方に分銅を乗せて反対側に金貨を1枚ずつ載せるのを10回繰り返せば良いと思います!! 運が良ければ最初の1回で正解が出ます!!!」

 

「えっと、それじゃ謎掛け(リドル)にならない……かな?」

 

 

 うーんこの脳筋思考。運に自信があれば初回で偽物を引き当てることも可能でしょうが、それだと問題の体を為さないんだよなぁ……おや、首を捻っていた王妹殿下が何かに気付いたみたいですね。

 

 

「あの……この分銅は必ず使わなければいけないのかしら?」

 

「いいえ、使わなくても結構ですよ?」

 

「なるほど、であれば2枚ずつ載せて……いえ、もしかして……!」

 

 

 指で金貨を動かしながらブツブツと呟く王妹殿下。英雄雛娘ちゃんと猛女ちゃんはその動きに目を奪われちゃってます。どうやら遺失魔法使いさんも答えには到達しているようですが、空気を呼んで女の子たちの解答を待ってくれているみたいです。

 

 

「――判りましたわ!」

 

「はい、では実際に天秤を使って偽物を見つけ出してくださいませ」

 

 

 キラキラ笑顔で手を挙げる王妹殿下、若草知恵者ちゃんが差し出した天秤を受け取り、その前に金貨を並べていきます。

 

 

「ではまずこのように『3枚』()『3枚』()『2枚』()に金貨を分けますわ。そして『3枚』(①と②)のそれぞれを天秤に載せて……」

 

 

 左右の皿に金貨を載せる王妹殿下。すべてが本物なら天秤は釣り合う筈ですが、右側()の皿が浮いている状態になってます。左の皿から金貨をどかし、今度は①の中から抜き出した2枚を左右の皿に載せれば……。

 

 

「抜き出した2枚が釣り合っているということは、天秤に載せなかった最後の1枚が偽物ですわ。もしこの段階でどちらかが傾けばそれで正解が判りますし、最初3枚ずつ載せたときに釣り合っていたら、『2枚』()の内どちらかが偽物であることになります。いずれにしろ、2回天秤を使えば偽物を見つけられる、つまり答えは『2回』です!」

 

 

「「おおー!!」」

 

 

 たゆん、とたわわを揺らしながらの答えに感嘆の声をあげる英雄雛娘ちゃんと猛女ちゃん。「正解です」という若草知恵者ちゃんの声に王妹殿下が男らしいガッツポーズを披露していますね。微笑ましい光景に眦を下げていた若草知恵者ちゃんが本番の準備として、よいしょ、と可愛らしい声を伴いながら机の上に小さな袋を並べ始めました。

 

 

 

「それでは規則(ルール)について説明させていただきます。机の上には金貨が20枚入った袋が10袋、合計200枚の金貨がございます。ですが、そのうち1袋が泥棒によって偽物にすり替えられてしまいました。本物の金貨は1枚の重さが10g、偽物はそれよりも軽い9gとなっております。偽物の金貨が入った袋を見つけ出すのには、此方の秤を何回使えば良いと思われますか?」

 

 

 むむむ、これは有名な謎掛け(リドル)! 先の問題とは違い今度は大きな秤が使われるみたいです。魔法的な処置が施されており、載せたものの重さが数値として表される高価な代物ですね!

 

 

「えっと、今度は天秤じゃないから同じ方法は使えない……かな?」

 

「ふむふむ、重さが目で見てわかるならば、順番に全部載せれば……!」

 

「それじゃ問題にならねぇってさっき言われただろうが!?」

 

「クゥン……」

 

 

 腕を振り上げ力説しようとする猛女ちゃんに入る鋭いツッコミ。むー……と不満そうな猛女ちゃんが遺失魔法使いさんをジト目で睨みつけながら反論しています。

 

 

「そんなこと言うなら兄さんが答えて下さいよ! もちろんパパっと正解してくれるんですよね?」

 

「あー……いいのか?」

 

 

 猛女ちゃんに詰め寄られ視線を泳がせる遺失魔法使いさん。どうやら答えは判っているようですが、自分が答えてしまって良いのか踏ん切りが付かない様子。どうしたものかと王妹殿下と英雄雛娘ちゃんに視線を向けたところ……。

 

 

「ええ、此処はバッチリ決めてくださいな!」

 

「お、おねがいします……っ」

 

 

 妹分に良いとこを見せるように……じゃないですね。アレは2人とも考えるのを放棄している顔です。クソデカ溜息を引き連れた遺失魔法使いさんが猛女ちゃんを背中に張り付けたまま、無造作に置かれた金貨袋を横一列に並べ始めました。腰の呪文構成要素ポーチから取り出した炭で袋に順番に数字を書き込みながら口を開きます。

 

 

「いいか? まずはどれがどれだか判らなくならないように袋に①~⑩まで番号を振る。んで、それぞれの袋から袋に描いてある数字と同じ枚数金貨を取り出す。集めた55枚の金貨、全部本物なら550gになる筈だが……」

 

 

 秤の上に金貨が積み上げられ、徐々に増えていく秤の数字。55枚全て載せられたところで表示された数字は……『545』ですね。

 

 

「偽物の枚数分だけ軽くなる。つまり550から545を引いた数と同じ番号の袋が偽物の金貨が詰まった袋だ。つーわけで、答えは『1回』……だよな?」

 

 

 自信に満ちた瞳を若草知恵者ちゃんに向ける遺失魔法使いさん。ゴクリ、と喉を鳴らしながら女性陣が見守る中、若草知恵者ちゃんの口から出たのは……。

 

 

「お美事、正解で御座います!」

 

「「「おおー!!!」」」

 

「っしゃー! どうだこんなもんよ!!」

 

「カカッ、悪知恵は働くようだな小僧!」

 

 

 どうだと言わんばかりにドヤ顔を披露する遺失魔法使いさん。猛女ちゃんや英雄雛娘ちゃんからの尊敬のまなざしに鼻高々といった様子。普段は大人びて見えていても、こうやって感情を露わにしている時は年相応の青年って感じですね! 若者たちの挑戦を見守っていた鷲頭様もこれにはニッコリ、バンバンと遺失魔法使いさんの肩を叩いています。

 

 

「では、出口で参加賞と交換出来ますのでこの金貨袋をお持ちください。迷宮の外に持ち出そうとすると消えてしまいますのでそれだけはご注意の程……」

 

 

 微笑みを浮かべながら一行に金貨袋を差し出す若草知恵者ちゃん。猛女ちゃんがはにかみながらそれを受け取ろうとしますが……。

 

 

「――ちょい待ち。その金貨袋は一党(パーティ)に一袋で間違いないか?」

 

「ふふ、その通りでございます♪」

 

「うっし、ならこうするのも問題無いよな?」

 

 

 お、遺失魔法使いさんが橋のところで猛女ちゃんたちが土を詰めようとしていた頭陀袋片手に悪い笑みを浮かべてます。鷲頭様も彼の意図に気付いたのかニヤリと悪い顔になってますねぇ。猛女ちゃんの手から金貨袋を取り上げて中身を頭陀袋へと流し込み、鷲頭様と2人で続けざまに他の金貨袋も同じように頭陀袋へと中身を移しちゃいました。女性たちが唖然とするなか、ずっしりと重くなった頭陀袋の口を縛りながらやり遂げた男の顔の2人が向き直り、口にしたのは……。

 

 

「へへっ、これで一袋だな!」

 

「うむ、『冒険者たるもの強欲であれ!』 ……であろう森人(エルフ)のお嬢さん?」

 

「はい、なにも問題ありませんね♪」

 

「「「ええ……?」」」

 

 

 うーんこの強欲っぷり。ですが若草知恵者ちゃんの対応から察するに想定の範囲内みたいですね。せっかくの冒険で収支が赤字になってしまっては元も子もないですし、持ち帰ることが出来る分はギリギリまで持って帰るのはアリでしょう! にこやかに手を振る若草知恵者ちゃんに見送られて部屋を出たところで……あ、出口すぐに仕掛けられていた落とし穴に前衛2人が引っ掛かっちゃってますね。まさに油断大敵!ってことでしょう。遺失魔法使いさんの差し出した杖の先に掴まって引っ張り上げられた2人がシュンとなって反省しています。幸いにもクッションが敷いてあったために怪我は無いようですが、最後まで気を引き締めて頑張ってもらいましょう!

 

 


 

 

 その後幾つも仕掛けられていた(トラップ)を突破した一行。とうとう最奥の玄室前に到着したみたいです。互いに装備を確認し、覚悟を決めて扉をあける挑戦者たち。闇に包まれた玄室の中にへと松明片手に踏み込んでいきました。

 

 

「ウーム、この暗さは年寄りにはちと厳しいのう……!」

 

「いや、元々鳥目じゃねぇかオッサン」

 

「ここに迷宮支配者(ダンジョンマスター)が居るんでしょうか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その通り!よくご存じだ……」

 

 

 謎の声と同時に光に包まれる玄室。突然の輝きに目を覆った一行の前に現れたのは、典雅な貴族風の衣装に身を包み、付け牙を口元から覗かせた妖術師さん。ノリノリで支配者の演技(ロール)をしてますが、最初は恥ずかしさのあまり涙目になっていたのは内緒です。挑戦者が訪れる度繰り返すうちに吹っ切れたんでしょうねきっと。

 

 

「数々の試練(チャレンジ)を乗り越え、此処まで辿り着いたこと褒めてやろう! えらいぞ~!! だがしかし、キミたちの冒険はここでおしまいなのだ!!」

 

「……微妙に優しい言葉遣いなのが無理している感あって可愛いですわね!」

 

「あ、荒っぽい口調で威圧するのとか好きじゃないし……」

 

 

 あらやだかわいい。根が優しい妖術師さんにはあんまり向いてなかったかもしれませんけど、それでも精一杯悪役ムーブを頑張る彼女に向けられる挑戦者たちの視線は何処か優しさを孕んでいますね。長剣(ロングソード)を構えていた猛女ちゃんがちょっと困った様子で迷宮支配者へと声を掛けています。

 

 

「えっと、あなたを倒せば試練(チャレンジ)は達成ということなんですか?」

 

「え? あ、いや、みんなに相手してもらうのは……ゴホン! 『さぁ出でよ、我が最強のしもべ()()よ~』!!」

 

 

 猛女ちゃんの問い掛けに一瞬素に戻ってしまった妖術師さんでしたが、咳払いとともに練習していた台詞を宣言。それを合図に玄室が震動に包まれていきます。重々しい音とともに床の一部が開き、下からせり上がるように姿を見せたのは、見上げるほどに大きな2体の緑色の巨人です!

 

 絡み合う触手で構成された四肢は女性の腰よりも太く、頭部と思われる部分にはぽっかりと空洞があり、まるで虚ろな表情を浮かべているかのよう。そして何よりも挑戦者たちの目を釘付けにするのは……。

 

 

 

 

 

 

「「ぎゃお~! たーべちゃうぞ~!!」」

 

 

 触手に埋もれるような形で巨人の胸元から頭を覗かせている、ダブル吸血鬼ちゃんのドヤ顔でした……。

 

 

 

 

 

「さぁ、みごとこの『蔦の巨人(アイヴィージャイアント)』を倒し、その力を示してみたまえ~!!」

 

「いや、どう見たって触手じゃねぇか!?」

 

「そんな些細な事に拘っている場合ではありませんわ……っと!」

 

 

 遺失魔法使いさんの叫びが虚しく響く中でなし崩し的に始まった戦闘。勢いよく振り下ろされた拳をバックステップで躱す王妹殿下。床に叩きつけられた拳は「ぽにょん」という擬音が似合いそうな衝撃吸収能力を発揮し、当たっても大事に至らないよう配慮されていることが伺えます。

 

 しかしそこはエロイことに定評のあるダブル吸血鬼ちゃん&妖術師さん、前回挑戦者の落とし物と思しき床に落ちていた矢が触手に絡めとられ腕の中へと消えてしまいました。おそらく捕まってしまったら触手たちの歓待を受ける羽目になりそうですねぇ……。

 

 

「へっへっへ、にげられるとおもうなよ~!」

 

「発言がゲスいですわお姉様!?」

 

 

 後退する王妹殿下を追いかけるように歩を進め、左右の触手アームを繰り出す吸血鬼君主ちゃん。割って入った猛女ちゃんの大振りな一撃がその腕に吸い込まれ、束になった触手の半ば以上を切断しますが……。

 

 

「んぐぐ、抜け……抜け……あー!?」

 

 

 あ、絡めとられた長剣(ロングソード)を引き抜こうと力を込めていた猛女ちゃんですが、剣がその力に耐え切れずにポッキリと折れちゃいました。刀身半ばから先を失った剣を涙目で見つめていた猛女ちゃんを王妹殿下が回収し、拳の射程から離脱していきます。

 

 

「ええい、次から次へと生え変わりおって……!」

 

「うう……キリがないです……っ」

 

「ガウゥ……」

 

「えへへ、まてまて~!」

 

 

 その一方では鷲頭様と英雄雛娘ちゃんが戦闘中。触手の扱いに長けた吸血鬼侍ちゃん操る蔦の巨人(アイヴィージャイアント)の全身から伸びる触手の群れを切り払いながら鷲頭様が悪態を吐いています。卑猥に震動しながら迫る触手を左右の二刀で捌く英雄雛娘ちゃんの顔にも焦りの色が見えますね。こっそりと足元に迫っていた触手は彼女のフォローに専念している狼さんが斬り払い、英雄雛娘ちゃんのあられもない姿はお預けになっちゃいましたね、残念。

 

 

「ええい、こうなったら一撃必殺の遺失魔法で……!」

 

「止めてくださいよ兄さん! どうせ失敗するんですからぁ!?」

 

「うっせ! 黙って見てろっての!!」

 

 

 お、猛女ちゃんを抱えて下がってきた王妹殿下の前に進み出た遺失魔法使いさんが呪文の詠唱を始めましたね! 必死の形相で止めるよう説得する猛女ちゃんを横目に紡がれる真言(トゥルーワード)。彼女の予想に反してしっかりと発動した≪惰眠(スリープ)≫の霧は、みんなの身長よりも高い位置に存在するダブル吸血鬼ちゃんの顔をすっぽりと覆い隠し……。

 

 

 

 

 

 

「「まえがみえない~……」」

 

「あ、ありゃ?」

 

 

 残念ながら『生物』にしか効果を発揮しないため、視界を妨げることしか出来なかったみたいですね……。

 

 

 

「このままでは埒が空かんな……おい、巨人に埋まっとる嬢ちゃんたちは殴っても構わんのだろう!」

 

うひゃい!? え、えっと、はい。師匠たちの顔に一撃入れられたらこの試練(チャレンジ)達成(クリア)です……あ゛!?

 

 

 やっちまったという顔で一行を見る妖術師さん。鷲頭様の迫力に負けてクリア条件を漏らしちゃいましたねぇ……。

 

 

「聞いたか皆の衆! 巨人そのものを倒す必要は無い、あの2人の顔に一発入れたらワシらの勝利よ!!」

 

「……へっ、簡単に言ってくれるじゃねぇの。まぁ楽になったと思えばいいか!」

 

「あわわ……ごめんなさい師匠~!?」

 

「だいじょうぶ、ま~かせて!」

 

「やっとみえるようになってきたから……」

 

 

 鷲頭様の声に奮い立つ挑戦者たち。一方でやらかした側の妖術師さんはテンパり気味でダブル吸血鬼ちゃんに助けを求めています。漸く霧が晴れて挑戦者たちが見えるようになってきた2人ですが……。

 

 

「お許しくださいお姉様がた! ≪太陽礼賛! 光あれ!!≫

 

「「おあ~!?」」

 

「みぎゃ~!?」

 

 

 王妹殿下の≪聖光(ホーリーライト)≫による目潰しが炸裂! 核となっているダブル吸血鬼ちゃんに影響されているのか触手の再生もストップしていますね!! 顔を抑えてのたうち回る2体の巨人を見て好機を悟った挑戦者たちが一斉に動き始めました! あ、地味に妖術師さんも喰らっているみたいですね。

 

 

「さぁどうした、ワシは此処じゃぞ!」

 

「ワン!」

 

 

 足音も高く玄室内を駆ける鷲頭様と狼さん。聴覚頼りで撃ち込まれる触手の群れを躱し、ダブル吸血鬼ちゃんを翻弄しています。地を這うように走る狼さんを下に空中をクルクルと回転しながら飛ぶ鷲頭様。何やら視聴神さんたちから「出たー! ワシズコプター!!」って声が上がってますけど、あれどうやって飛行姿勢を維持しているんですかねぇ……。

 

 ――あ、縦横無尽に動き回る2人の陰に隠れるように英雄雛娘ちゃんと猛女ちゃんがこっそりと巨人に近付いていますね。長剣(ロングソード)を両手持ちした英雄雛娘ちゃんの隣で猛女ちゃんが抱えているのは金貨のたっぷり詰まった頭陀袋です……ん? まさか……。

 

 

「んゆ?」

 

「ふぇ?」

 

 

 少女2人の甘い香りにダブル吸血鬼ちゃんが気付いたようですが、時既に時間切れ。仰向けに倒れたまま触手を繰り出していた巨人の胸部、そこからひょっこりと顔を覗かせる2人目掛けて振り下ろされる剣の腹と黄金で出来た鈍器(金貨入り頭陀袋)をダブル吸血鬼ちゃんはポカンとした顔で見つめ……。

 

 

「マスター、ごめんなさい!」

 

「こんなかっこわるい方法は嫌ですー!」

 

 

 ズン、という重たい音とともに、巨人の身体を構成していた蔓は解けるように地面へと消えていきました……。

 

 


 

 

「えっと……ふはははは、よくぞ我が最強のしもべを倒したものだ! だが忘れるなよ? これはあくまでも競技、ほんとうの冒険の恐ろしさはこんなものではないのだーだーだー……

 

 

 セルフエコーを残しつつ突然床に開いた穴から逃げ出す(ボッシュートされる)妖術師さん、触手を巧みに操り目を回してダウンしていたダブル吸血鬼ちゃんも回収して一緒に落ちていきましたね。巨人の倒れていた場所には「Congratulation!」と書かれた紙がヒラヒラと舞っています。

 

 

「えっと、勝ったということで良いのかしら?」

 

「た、たぶん……?」

 

「そのようだの……ぐぉぉ、こ、腰が……っ!?」

 

「無理すんなよオッサン、もう若くないんだろ?」

 

 

 上空から舞い降りた鷲頭様ですが、やはりワシズコプターは無理があったのか魔女の一撃を貰ってしまったご様子。腰を抑えて蹲る彼を遺失魔法使いさんが担ぎ上げています。口ではアレコレ言ってますけど、やっぱり面倒見が良いですよね。

 

 

「あうう……私の相棒がぁ~」

 

「わふぅ」

 

 

 向こうでは無残な姿になった長剣(ロングソード)を抱きかかえた猛女ちゃんが滂沱の涙を流しているのを狼さんが慰めてますね。もとより筋力に見合っているとはいえない装備でしたし、これを機に自分の身体にピッタリの武器を探してみては……いや、高価で手が出ないかもしれませんね。

 

 

 さぁ、後はゴールに辿り着くだけ! 最後まで気を抜かずに頑張ってもらいましょう!!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 次回は早めに投稿したいと思いますので失踪します。


 評価、お気に入り登録ありがとうございます。やっぱりモチベが保てるのは読んでくださった方々から反応頂けるところが大きいですね。

 感想も併せてお待ちしておりますので、お時間がありましたらお願いいたします。可能な限り返信させて頂きたいと思います。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその16 りざると


 やっとこさセッションの〆になったので初投稿です。




 

 前回、敗北CG(触手祭り)回収をせずに済んだところから再開です。

 

 

 すべての試練(チャレンジ)を突破し、出口へと進む一行。いくつかの曲がり道を通過したところで見覚えのある光景が彼らの前に現れました。

 

 

「あれ? あの橋って最初に渡ったものじゃないですか?」

 

「どうやらそのようだの。――ほれ見てみい」

 

 

 爪先で通路の一部を指し示す鷲頭様。目を凝らしてみれば床面から壁面、天井にかけて継ぎ目が走っていますね。どうやらお化け屋敷なんかに設けられている切り替え式の通路になっていたみたいです。挑戦者が通過した後に見えない位置にあったボス部屋からの道に繋ぎ直し、ぐるっと迷宮を一周出来る造りに設計されていたんですね!

 

 

「お、帰ってきた! みんなおかえり~!!」

 

「その顔つきからすると、目一杯楽しんでもらえたみたいだね」

 

 

 石造りの階段を上ったところでは見目麗しい森人(エルフ)案内役(ガイド)が一行を迎えてくれています。お、猛女ちゃんが担ぐ金貨のみっちり詰まった頭陀袋を見て、妖精弓手ちゃんがニンマリと笑みを浮かべながら1人ひとりになにかを手渡し始めました。

 

 

「うん、ちゃ~んと金貨は持っているわね。それじゃあこれが参加賞!」

 

「これは……冒険者認識票? でもこんな素材の等級はあったかしら……?」

 

 

 上の森人(ハイエルフ)の姫に手渡された認識票を眺めて首を傾げる王妹殿下。冒険者認識票といえば等級ごとに素材が違い、通常金属もしくは鉱物で作られているものです。ですが今配られたものは何れの等級とも異なる素材、暖かみのある触感と表面に走る線はどう見ても木製ですね。

 

 

「ふふん! これはね、森人の里から株分けされた木の枝から作った特別な認識票! 表面に今日の日付が、裏面にそれぞれの名前が掘り込んであるわ。今日という日の思い出をカタチに残して持って帰ってもらうのにみんなで考えたんだから!!」

 

 

 薄い胸を張りながらドヤ顔の妖精弓手ちゃんの言葉に手渡された認識票をひっくり返す一行。そこには確かにみんなの名前が彫り込まれています。なるほど、受付で名前を書いてもらっていたのはこれを作るためでもあったんですね!

 

 

「金属を使うと認識票の偽造になる恐れがあったし、かといって普通の木じゃ長持ちしないからね。妹姫(いもひめ)さまが樹に頼んで素材を分けて貰ったんだよ」

 

 

 貝殻で作るという案もあったんだけど、時期的に難しくてねぇと続ける叢雲狩人さん。会場の外へ一行を連れ出し指し示す先には一仕事終わらせた鉱人道士さんと隻眼鍛冶師さんが木製のジョッキで乾杯する光景が。机の上に工具箱があることから察するに、2人が挑戦者たちの名前を彫り込んでくれていたみたいですね。会場の周辺では競技を終えた挑戦者たちが有志の準備していた振る舞い料理に舌鼓を打ちながら、めいめい競技の感想を話しているようです。

 

 

「さ、おなか空いたでしょ? 好きなだけ食べてらっしゃい!」

 

「ほんとですか!? よ~し、とりあえず一周しましょう兄さん!!」

 

「ちょ、もげるもげる!?」

 

 

「――ふふ、本当に仲の良い方々ですわね」

 

「フン! 生意気だが頭の回転は悪くない。生き汚い冒険者になるだろうよ」

 

 

 辺りに漂う良い香りに空腹感が刺激され、涎を垂らさんばかりの表情の猛女ちゃんが遺失魔法使いさんを引っ張って行くとすれ違うように現れた令嬢剣士さん。片手に持っていた地母神さんの神殿仕込みのワイングラスを鷲頭様に手渡しながら微笑ましい様子で2人を見ています。グラスの中身を一息で飲み干しながらの鷲頭様の言葉にも期待の色が見え隠れしていますね。

 

 

「水の街へ商いに向かう途中で視察のために立ち寄ったが、なかなか面白い余興だったぞ。赤枝(アカギ)のに誘われていた投資、本腰を入れても良さそうじゃな」

 

 

 呵々と笑いながらグラスを令嬢剣士さんへと返し、後ろ手を振りながら去って行く鷲頭様。他の参加者たちの視線を気にも留めず、聖光(ホーリーライト)対策の黒眼鏡(サングラス)を身に着けた黒服の操る黒塗りの高級馬車に乗り込み街を後にする姿は実に大物感が漂っています。……あ、ちなみに先程も鷲頭様が言っていた"赤枝(アカギ)"ですが、森人の里に侵入しようとする外敵から里を守護する氏族の呼び名なんだとか。やたら鮭料理の上手な剣士や二刀二槍を自在に操る泣き黒子のイケメンが有名らしいです。

 

 

「どうでしたか、冒険者体験は?」

 

「ええ、とっても面白かったです! こう、模造小鬼(モブリン)のどてっぱらをブチ抜いたり、迫りくる触手をちぎっては投げちぎっては投げ……貴女にも私の活躍を見て欲しかったわ!!」

 

「うーんこの脳筋な妹その1。余、ちょっと嫁の貰い手に心配になっているのだが???」

 

 

 お、控室から戻って来た陛下が女神官ちゃんと一緒に王妹殿下と話していますね。興奮冷めやらぬといった様子で空気を震わせる拳を繰り出す妹一号を見る妹二号の目は優しく、お兄ちゃんの顔は現場猫のそれに近しいものになっています。

 

 

「ご心配には及びませんわ! 何故なら私、既に心に決めた方が居りますもの!!」

 

「「……え?」」

 

 

 そんなお兄ちゃんを安心させるように笑う王妹殿下、すわ何事かとダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)のみんなが集まって来ました。頭上に『?』を浮かべるきょうだいの前で()()()()()()()、王都での逢引(デート)を切っ掛けに冒険譚やコイバナ、爛れた夜会話やトドメの母親同士の友情を越えた繋がりの記録映像などで蝶よ花よと育てられていた彼女の新しい扉を開いてしまった……。

 

 

 

 

 

 

「……んゆ?」

 

「私の騎士であり、お母様の想い人の写し身でもある()()()。お兄様とお義姉様の間に世継ぎが産まれるのがほぼ確実な以上、後継者争いの火種となる私()()は早々に立場を鮮明にしたほうが良いですものね♪」

 

 

 ――ちっちゃな口いっぱいにふかし芋を頬張っている、吸血鬼君主ちゃんでした。

 

 


 

 

「――それじゃあ、冬至(ユール)のお祭りの成功と迷宮探検競技が無事に終わったことを祝して……かんぱ~い!!」

 

 

 例によって例の如く妖精弓手ちゃんの音頭で始まった打ち上げの宴会。王妹殿下のやらかしで騒然となった会場に居るわけにもいかず、牧場へと避難した一行。一緒に競技に参加していた猛女ちゃんと遺失魔法使いさんも女魔法使いちゃんに誘われて一緒に来ています。

 

 さて、打ち上げに参加しているのは……まずはダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)に牧場の関係者。陛下と勇者ちゃんたち王都組と冬至(ユール)を機に春まで休養&子どもたちとの触れ合い期間に入る金等級家族2組に加え、圃人剣士ちゃんと圃人巫術師さんの圃人(レーア)コンビの姿も見えますね。……秋口までに貯めていた依頼報酬を頭金に「足りない分はカラダで払いますから、春までみっちり鍛えてほしいんです!」という圃人剣士ちゃんの言葉に「ん?」「いま」「なんでもとは仰っていませんよ?」と子持ち人妻森人(エロフ)3人娘が反応していたのは内緒です。

 

 

 子どもたちも乳離れし、ちゅーちゅーするのがダブル吸血鬼ちゃんと眷属たちだけになったということでママたちも飲酒が解禁。元々お酒に弱い妖精弓手ちゃんは果実水ですが、イケル口の若草知恵者ちゃんと叢雲狩人さんは久しぶりの葡萄酒を楽しんでいるみたいです。

 

 

「おまたせ~! にんじん焼きににんじんのグラタン、それからにんじんたっぷりのポトフさんだよ~!!」

 

「すりおろした人参を練り込んだにんじん麺麭と、あま~く煮たにんじんのグラッセもありますからね」

 

 

 牛飼若奥さんと若草祖母さんによってテーブルに並べられる数々の料理は、艶やかな赤色が目立つ人参のフルコース。大好物の山を前にうさぎさんたちはパパたちを含めみんな万歳しちゃっています! ……おやおやぁ? 喜びの歓声に沸き立つリビングで1人だけ渋面を隠せていない人がいますねぇ。まるまる1本の人参をそのまま調理したにんじん焼きを前にナイフとフォークを持った姿勢で硬直しているのは……。

 

 

 

 

 

 

「……もしかして、にんじんきらいなの?」

 

「はっはっは、この国を治める頭脳明晰で武勇絶倫な余がそんなわけなかろう! ……ただちょっと苦手なだけだ

 

 

 ああ、王子様(ベ〇ータ)MSオタク(ウ〇キ中尉)ニンジン(カカ〇ット)が苦手ですもんね……と、ナイフとフォークを行ったり来たりさせている陛下の周りに兎人(ササカ)のおちびちゃんたちが集まって来ました。ヒソヒソと囁かれる「きんげのおにいさん、たべないのかなぁ……」とか「にんじんおいしいのに……」という声と邪気の無い視線に耐え切れず、青い顔になりながらにんじんと格闘し始めました。饗応の場でも予め献立から除外するほどの人参嫌いな兄が、死んだ魚の目でにんじん焼きを頬張る姿に妹1号2号はニッコリ、主の漢らしい振る舞いに銀髪侍女さんも袖で涙を拭っております。

 

 

 

「はわわ……まさか先代様とお会い出来るなんて……!?」

 

「他の方には内緒にしておいてくださいね? 一応隠遁したことになってますから」

 

「迂闊に漏らしたら物理的に消えてもらうから、頭の片隅に留めておきなさいな」

 

「イヤ怖ぇよ!? 本気で言ってるのが判るから猶更タチが悪いぞオイ!?」

 

 

 別の卓ではエロエロ大司教モードになった剣の乙女ちゃんを見た猛女ちゃんが大興奮していますね。世間的には聖女ちゃんに大司教の座を譲り渡した後は表舞台から姿を消したことになっていますし、おなじ至高神さんを信じる猛女ちゃんにとっては憧れの存在と言えるでしょう。まぁ隣では骨を砕かんばかりの力で女魔法使いちゃんに肩ポンされている遺失魔法使いさんが悲鳴を上げていますが、コラテラルダメージってヤツでしょう、たぶん。

 

 そんな猛女ちゃんの傍らには重戦士さんのだんびらに匹敵する大きさの木剣が立て掛けられていますね。試練(チャレンジ)の最中に折れてしまった長剣(ロングソード)の代わりと賢者ちゃんがくれたこの剣、東方の侍が「練り」と呼ばれる一振りに30分も時間を掛けて素振りをする鍛錬の際に用いられるものなんだとか。"ソードフィッシュ(かじき)"の異名を持つこの木剣なら猛女ちゃんの怪力にも耐えてくれますね!

 

 

 

「しかし、蜥蜴のダンナも男前っぷりに磨きがかかったもんだなァ」

 

「デカい、固い、黒い。三拍子揃ってるしな」

 

「俺もあやかりたいなぁ……」

 

 

 おやおや、金等級家族と新進夫婦、それに鉱人の吞兵衛たちは蜥蜴僧侶さんを肴に盛り上がっているみたいですね。星の力(核融合炉)を取り込んだことで位階を高めた蜥蜴僧侶さんの姿は男の子の夢をこれでもかと詰め込んだ浪漫の塊、少しづつではありますが伝説の竜王に似てきています。みんなに囃し立てられて背鰭のような器官がピカピカ明滅しているのはご愛敬というものでしょう。

 

 

 

 さて、騒ぎの要因となった王妹殿下は……お、吸血鬼君主ちゃんを膝上に抱え、甲斐甲斐しく料理を食べさせてご満悦みたいです。雛鳥のように口元に差し出されるにんじん料理を平らげる吸血鬼君主ちゃんを対面に座る妖精弓手ちゃんと令嬢剣士さんが「しょうがないなぁ」って顔で眺めていますね。

 

 

「――で、会場での言葉、どこまで本気なのかしら」

 

「すべて本気ですよ? 互いの母親同士の想いに中てられたことは否定しませんけど、それは最後の後押し。お姉様を愛する気持ちに偽りはありませんわ」

 

 

 妖精弓手ちゃんの問いに膝上の想い人を抱き上げ、その頬に唇を寄せながら応じる王妹殿下。もし吸血鬼君主ちゃんが圃人(レーア)のままだったら、異母姉妹とはいえ近親関係にあるため血が濃くなる危険性があったでしょう。しかし吸血鬼(ヴァンパイア)に成ったことで血縁関係は消失し、当人同士の気持ち以外の障害がなくなったことが彼女の背を押す決め手になったようです。

 

 

「そう遠くない将来、私()()は何処ぞの貴族と繋がりを深めるために政略の道具として嫁ぐか、神殿に入り生涯独身を貫くかの二択を迫られます。もちろんそれが王族の責務であり、お兄様の治世を安定させるために必要なことであることも理解してますわ。実際見合いの話もひっきりなしに届いておりますし」

 

 

 うむむ、陛下と砂漠の姫君が結ばれ懐妊が認められた今、陛下の妹である王妹殿下と女神官ちゃんの役目は王国の安定に貢献すること。そのためには有力な貴族や武官に嫁ぐのが通例といえるでしょう。

 

 

「ですが、混沌との繋がりを持っていた貴族たちが粛清され、恭順派の貴族たちの多くは急な領地拡大と王国の施策変化についていけず混乱している状態。下手に何処かの家を選んでは他家の僻みを買い、その家も増長し先王派の二の舞になりかねませんわ」

 

 

「成程、そこで選択肢として浮かんだのが頭目(リーダー)たちなのですね」

 

 

 王妹殿下の言葉に納得したように頷く令嬢剣士さん。いまいち判っていないような妖精弓手ちゃんに気付き、補足の説明をしてくれるようです。頭目(リーダー)たちの現状について、貴族たちの認識はどうなっていると思いますか?という問いに暫く考え込んでいた妖精弓手ちゃんがつらつらと考えを口にし始めました。

 

 

「んと……まずは秩序に与する『吸血鬼(ヴァンパイア)』でしょ。『銀等級の冒険者』にして『森人(エルフ)』を始めとする只人(ヒューム)以外の種族との関係も深いわよね。それから『上の森人の姫君(わたし)』や王国上層部と蜜月な『貴族令嬢(あなた)』を正妻に、多くの優秀な人材を現在進行形で……側室として抱き込んでるわね」

 

 

 やはり血族(かぞく)の間に序列を設けるのは不満なのでしょう、側室と口にした際の妖精弓手ちゃんは面白くなさそうな顔をしていますね。外面的なものとはいえどうしても納得は出来ないみたいです。そんな妖精弓手ちゃんだからこそ、令嬢剣士さんと王妹殿下も好ましく思っているんでしょうね。

 

 

「その認識で問題無いかと。"大いなる力には、大いなる責任が伴う(With great power comes great responsibility)"。逆に言えばその力を秩序の守護に用いる限り、【辺境最悪】の名が貶められることはありませんわ」

 

「つまり……これまで通りシルマリルとヘルルインが秩序の社会(にんげん)に絶望したりしないよう、私たちが護ってあげれば良いのよね?」

 

「はい。そして王妹であるお二方が血族(かぞく)となれば王国との繋がりは盤石となります。余程の愚物でなければ私たちを排斥しようなどと考えたりはしないでしょう」

 

 

 北狄に対する備えとして貴族位を授け、城塞都市跡を復興させて領地とする王国上層部の案はもうすぐ実現するところまで来ています。そこに王妹である2人が降嫁してくればダブル吸血鬼ちゃんとその血族(かぞく)の立場はより強固なものになるでしょう。秩序の護り手たるみんなを妬み、ちょっかいをかけてくるようなお馬鹿さんなんているわけ……無いとは言えないのが貴族たちの恐ろしいところですよねぇ。人の欲望に限りは無く、他者を妬むのは人が持つどうしようもないサガなのかもしれません……。

 

 

「そういうわけで、私()()と致しましてはお姉様がたに嫁ぎたいな~なんて」

 

「いや、さっきから私()()って言ってるけど姉妹の気持ちは……って……」

 

 

 にこやかに言ってのける王妹殿下にジト目を送っていた妖精弓手ちゃんの視線がキョトンとしたものに変わった理由、それは先程から会話に参加していなかった女神官ちゃんが原因ですね。正妻2人の対面、王妹殿下の隣に座っていた筈の女神官ちゃんですが……。

 

 

 

 

 

 

「うう……いつもいつも2人して私のことを揶揄ってばっかり! そんなに私のことがキライなんですか!? それに()()()指輪で他の子たちを虜にして……私だって、私だってぇ……っ!」

 

 

 

 葡萄酒の酒精で赤らんだ顔を吸血鬼侍ちゃんの太股に乗せ、グリグリと擦り付けながら心情を吐露する女神官ちゃん。その首元には地母神さんの聖印と一緒に例の欠陥品の指輪が同じ鎖に通された状態で揺れています。子猫が甘えるように振る舞う彼女を髪を優しく撫でる吸血鬼侍ちゃんの顔は、なんだかいつもよりちょっとだけ大人っぽく見える気がしますね。

 

 

「……心身ともに深く傷ついた女性たちを癒す行為なのは私だって判ってます。でも、互いに産まれたままの姿になって、毎回違う女性と3人で同衾する処女(おぼこ)の気持ち、ちょっとでも考えたことがありますか? 邪な想いを抱かぬよう必死に自分を抑えて、治療の後に昂った心とカラダを鎮めるため自分を慰める時、誰の顔を思い浮かべてるか判りますか?」

 

 

 とめどなく溢れる秘匿されていた想い。言葉ととも零れる涙は怒りの表れか、それとも羞恥心の発露でしょうか。

 

 

「異母姉妹であると教えられた時、私、安心したんですよ? 『ああ、これでこの想いは届かない。この感情は家族に対する愛情だったんだ』って。……なのに、血の繋がりは無い、他人の関係に変わっていたなんて……! そんなコト知ってしまったら、もう自分の気持ちに嘘を付けないじゃないですか!?」

 

 

 後頭部を太股に預けたまま、喘ぐように手を伸ばす女神官ちゃん。2本の伸びた手が細い首をギリギリと締め上げるのを見た妖精弓手ちゃんが慌てて振り払おうとするのを視線で制した吸血鬼侍ちゃんが、首を絞められたままそっと指で女神官ちゃんの涙を拭い、自らの口へと運んでいきます。ペロリと舌で舐め取る姿を見て僅かに手の力が緩んだところで女神官ちゃんの頭を両手で掴み……。

 

 

「――――ッ!?!?」

 

 

 有無を言わさぬ勢いで唇を奪い、貪るように何度も口づけを行う吸血鬼侍ちゃん。舌、頬の粘膜、歯茎の裏まで蹂躙され、啜られ、そして送り込まれる唾液を喉を鳴らして嚥下する女神官ちゃんの見開かれていた瞳は快感に蕩け、首を絞めていた手は吸血鬼侍ちゃんの後ろへと回されその小さな頭をかき抱くような体勢へと変わっていきました。彼女の思いの丈を聞きつけた一行が固唾を呑んで見守る中、長い時間を掛けて交わされた愛の交歓は終わりを告げ、銀糸の橋を口の端から渡したまま吸血鬼侍ちゃんが女神官ちゃんをそっと抱き寄せました! 荒い呼吸を繰り返す女神官ちゃんを落ち着かせるように背中を優しく撫でながら、彼女の想いに応えるべく言葉を紡ぎます……。

 

 

「――ごめんね。きみのきもちにはきづいていたけれど、どうしてもこたえてあげられなかったの。ぼくのもつきみにたいする『すき』ってきもちが、ほんとうにきみにたいしてのきもちなのか、それともぼくのおかあさんがきみのおかあさんにいだいていたきもちののこりがだったのか、かくしんがもてなかったから……」

 

 

 なるほど、圃人侍女(おかあ)さんが伯爵夫人さんに抱いていた愛が、彼女の身体を素材として生み出された吸血鬼侍ちゃんに引き継がれ、女神官ちゃんを伯爵夫人さんと誤解して抱いていた可能性を危惧していたんですか。人違いで愛を囁くのは流石に失礼過ぎるのでその心配はなんとなく理解できますね。ですがその可能性が払拭された今、2人の間にしがらみや障害はありません!

 

 

「でも、ぼくのおかあさんがきみのおかあさんをあいしていたきおくは、ふたりがあるべきばしょにかえるときにぜんぶふたりがもっていってたの。だから……きみのことをすきなのは、ぼくじしんのおもい。 ――ぼくは、きみがすきです。きみをあいしています」

 

 

「――はいっ! 私も、貴女のことが大好きです!! 心から貴女を愛しています!!!」

 

 

 花開くような笑みとともに強く抱き合う2人。話の行く末を固唾を呑んで見守っていた吸血鬼君主ちゃんと王妹殿下はイェーイとハイタッチ、ほかのみんなも安堵の表情を浮かべ素直になれた2人に対し次々に祝福の声を投げ掛けています。可愛い異母妹たちの選んだ結末を見た陛下はと言えば……。

 

 

 

 

 

 

「どうしよう、余の可愛い異母妹が別の異母妹と幸せなキスをする光景を見て胸中に湧き上がるこの気持ち。義母2人の愛を見た時に心に芽生えたモノにも似たこの感情、余はこれになんと名を付ければ良いと思う?」

 

「マザコン、シスコン、ロリコンの三属性に加え、百合豚とは……つくづく陛下も業が深いよね」

 

 

 トゥンク…してる陛下に冷静にツッコミを入れる銀髪侍女さん。仕える王族のやらかしで今日もお酒が美味しいみたいですね……。

 

 


 

 

「――では年明けの依頼、よろしく頼むぞ」

 

「ああ」

 

「「へいかもよいおとしを~」」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんとゴブスレさんに見送られながら≪転移≫の鏡へと消えていく陛下。その後に王妹殿下と、酔い潰れた女神官ちゃんを抱えた銀髪侍女さんが続いていきます。新年早々に陛下直々の指名依頼、これぞ金等級って感じですね!

 

 宴会も終わりの時間を迎え、それぞれの宿泊場所へと帰って行く一同。王妹殿下も泊まりたがっていましたが、女神官ちゃんが酔い潰れてしまったのと「せめて2人が貴族に叙されるまでは清い関係でいなさい!」という陛下(おにいちゃん)の言葉に渋々帰ることを承諾していました。

 

 

 牧場菅関係者と金等級家族が去り、残っているのはダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)と勇者ちゃん一行、それに今日から逗留予定の圃人(レーア)コンビといったところ。当初は猛女ちゃんと遺失魔法使いさんもお泊りの予定でしたが、猛女ちゃんの情操教育に非常によろしくない為2人はゲストハウスのほうに泊まることになりました。

 

 さて、本格的な片付けは明日にして今日はもう休もうかというところで、な~ぜ~か~リビングに緊張感が広がっていますねぇ(白目)。

 

 

 令嬢剣士さんと白兎猟兵ちゃん、英雄雛娘ちゃんに連れられて一足先に寝室へ向かい、子どもたちはスヤスヤと寝息を立てています。その一方、唐突な告白の罰として自主的に正座をしている吸血鬼侍ちゃんの見上げる先には迷宮探検競技の功労者である若草知恵者ちゃんの頬を染めた艶やかな笑みが。両隣には額を抑える女魔法使いちゃんと苦笑を浮かべる叢雲狩人さんもセットですね。今回頑張ったご褒美に、なにか欲しいものややりたいことはあるかという吸血鬼侍ちゃんの申し出に対し、若草知恵者ちゃんの出した返答はみんなの予想の斜め上を行くものでした。

 

 

「えっと……ついさっきほかのおんなのこにこくはくしていたわりとサイテーなぼくだけど、ほんとうにいいの?」

 

「はい。主さまを愛する私の想いには聊かの翳りもございません。ですので……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回のご褒美は『主さまと上姉様、下姉様による3人同時魔力供給』でお願いいたします」

 

 

 うーんこの夜の白金等級。華奢な肢体をもじもじさせながらのおねだりの破壊力は蜥蜴僧侶さんの核撃・放射(フュージョンブラスト)に匹敵する威力。勇者ちゃんや剣聖さん、圃人(レーア)コンビが黄色い悲鳴を上げる中、女魔法使いちゃんが確認するように問いかけます。

 

 

「……それはつまり『私たち3人をその子が愛する』んじゃなくて『私たち3人掛かりで貴女を愛して欲しい』ってこと?」

 

「はい。かつて捨て鉢だった私を昼夜問わず愛し抜いてくださった時のように。そして、今回お姉様たちにも()()()使()()()()()()()()()()

 

「えっと、妹ちゃん? ご主人様は兎も角、使い慣れていない私たちがこれを着けたら、たぶん抑えが利かなくなってしまうと思うのだけれど……」

 

 

 胸元から取り出した指輪を示し、生唾を飲み込みながら問う叢雲狩人さん。普段からダブル吸血鬼ちゃんに襲い掛かることはありますが、あれはあくまでスキンシップ。指輪を用いての深い繋がりはごく初期を除いて行っていなかった筈です。慣れない人はその衝動に呑まれ激しい行為に及んでしまううえに、ほぼ1回でチャージ切れを起こしてしまう魔力供給を行うことに躊躇いを感るのも無理はありません。やんわりと考え直すよう説得する叢雲狩人さんでしたが……。

 

 

「望むところで御座います。枯渇している魔力を注いで頂き、さらに義姉妹の絆を深めることが出来る。まさに一石二鳥です。それに……お姉様がたに愛して頂くのは久しぶりですので……」

 

 

 堕ちたな(確信)。淫魔(サキュバス)顔負けの誘い文句に3人の理性はあえなく決壊、女魔法使いちゃんが若草知恵者ちゃんを、叢雲狩人さんが吸血鬼侍ちゃんを担ぎ上げて2階へと消えていくのを敬礼で見送る一行。若草祖母さんが「我が孫ながら大胆ですねぇ」と頬に手をあて微笑んでますが、間違いなくおばあちゃんの影響だと思います。「さ、3人同時にって……」「女には3つの……」とヒソヒソ話す耳年増な同僚に拳骨を落としていた賢者ちゃんが、緊張に身を固くしている妖術師さんへと話しかけました。

 

 

「まぁ、こうなるのは想定の範囲内なのです。それに、本題はこれからなのです。……本当にやるのですか?」

 

「う、うん。ちょうど魔力が枯渇してるからいっぱい注いで貰えるし、吸われる時間も短くて済むから失敗する可能性は低いかな。それに、なるべく多く師匠の因子を取り込みたいし……」

 

 

 厳しめに問いかけられオドオドと返答する妖術師さん。ですが、挙動に反してその瞳に迷いの色は無く、失敗のリスクも踏まえたうえで眷属化の儀式に臨むつもりみたいです。その決意の固さを確認した賢者ちゃんが剣の乙女ちゃんと闇人女医さんに視線を送り、2人が頷きを返してますね。

 

 

「では、2人にはそれぞれ途中の補給役と儀式の記録を任せるのです。時間がもったいないので早速始めるのです」

 

「はい。――さぁ、行きましょう?」

 

「実に興味深い。今後の為にも詳細なデータを取らせてもらうとしよう」

 

 

 剣の乙女ちゃんに促がされ、ぴょんと椅子から飛び降りる吸血鬼君主ちゃん。ガチガチに緊張している妖術師さんへと近付き、ちっちゃな手でそっと彼女の手を包み込んでいます。やわらかな手から感じる温かみに顔を上げた妖術師さんに触れるだけのキスを送り、そっと手を引いて立ち上がらせると彼女のたわわに顔を埋めるように抱き着いちゃいました。突然のにアワアワしていた妖術師さんでしたが、意を決したように吸血鬼君主ちゃんを抱きしめ、そのまま残りの面子へと向き直りました。

 

 

「えっと、その……行ってきます!」

 

「頑張ってくださいね!!」

 

「うふふ、もし失敗したらちゃんと始末してあげますから、安心してくださいね?」

 

「いや、不安になるようなこと言わないでよ……」

 

 

 口々にかけられる応援?に眉を下げた笑みで応じ、階段途中で待っていた賢者ちゃん達と合流する妖術師さん。耳が痛いほどの沈黙に耐えかねて、勇者ちゃんが場を取り繕うように言葉を発します。

 

 

「えっと……う、上手くいくといいね!!」

 

「あー、無理に取り繕わなくていいわよ? ヤってることに変わりは無いし、まぁどっちも悪い結果にはならないでしょ」

 

 

 顔を赤くした勇者ちゃんの言葉に手をヒラヒラと振りながら応じる妖精弓手ちゃん。果実水を啜りながら長耳をピクピクさせ、「あ。義姉のほうが暴発したわね」なんて2階の状況を実況しています。防音とはいったい……。

 

 

「しかし、聞いた話だとわざわざ儀式の難易度を上げるようなことをしているようだが……」

 

「あの子、自分を過小評価しがちだし、勘違いから来る劣等感の塊でしょ? 色々誤解されがちな死霊術師(ネクロマンサー)ってのもあって面倒な気持ちを抱えてるから、そんな自分を変えてみたいって思ったんじゃないかしら」

 

「でも、それで失敗したら……」

 

 

 失敗したら喰屍鬼(グール)に変貌するかもしれない儀式。その難易度を自ら上げる彼女に2人は不安を感じているみたいですね。でもきっと大丈夫です。()()()()()()姿()()()()()()()()()、ダブル吸血鬼ちゃんの愛は変わったりはしないでしょうから!

 

 


 

 

 

 

 

 

「ヒャハハハハハハァーッ!!!」

 

 

「んななななななに!?」

 

「んぅ……うるさいですねぇ……」

 

 

 ようやく太陽神さんが顔を出し始めた早朝に響き渡る奇声。冬の間宛がわれた部屋でぐっすりと寝ていた圃人(レーア)コンビが何事かと飛び起きてしまってますね。寝ぼけ眼のまま廊下から顔を出せば、同じように顔を覗かせている英雄雛娘ちゃんと目が合いました。奇声の発生源はちょうど2組の間に位置する部屋のようですね。無言のハンドサインを交わし、静かに真ん中の部屋へと近付いていく3人。僅かに開いた扉の隙間から中を覗くと……。

 

 

 

 

 

 

「やった! 成功した!!」

 

 

 儀式の残り香が漂う部屋の中には複数の人影。寝台(ベッド)の中央に産まれたままの姿で仁王立ちし、全身で喜びを表現している()()()()()()が声の主のようです。隙間から覗く3人の気配を察知し振り返った姿は、金髪のメカクレにぺったんこなお胸を持つ、何処からどう見ても圃人(レーア)の少女……。

 

 

「あ、ねぇねぇどうかなこの姿? 師匠の因子を先輩たちより多く取り込むことで吸血鬼(ヴァンパイア)と成る前の種族を書き換えることに成功したんだ! そのままだと只人(ヒューム)の子どもに変わる筈だけど、圃人(レーア)だからほら! 全身のバランスが大人に近い状態で体格だけが縮小してるの! 想定では元の身体と同じサイズのおっぱいが残る筈だったんだけど、たぶん師匠の因子に引っ張られたからかな? でもちっちゃくても全然かまわないし、師匠とお揃いだからむしろ嬉しいかも! あ、さっき試しに日光を浴びてみたけど問題無かったから吸血鬼稀少種(デイライトウォーカー)には成れたみたい。初めての吸血は中々難しかったけど、真っ先に師匠からちゅーちゅーさせてもらって親の支配は解除してもらったんだ! 種族による差か属性(アライメント)によるものかは判らないけど、人によって血の味は違うみたい! そうだ。せっかくだから検証も兼ねて3人の血も吸わせて……」

 

 

 

 

 

 

「げんきだね~……ちゅ~……」

 

「ん……ええ、成りたてとは思えませんね」

 

「というか少々性格が変化してないですか?」

 

「いや、あれは所謂"血に酔っている"状態なのでは?」

 

 

 剣の乙女ちゃんのたわわに顔を埋め、ちゅーちゅーしながら新しい眷属を眺める()()()()()()()()。息継ぎ無しでしゃべり続ける圃人(レーア)姿の()()()()()を大人しくさせるべく賢者ちゃんと闇人女医さんが嗜虐神から賜った拘束プレイ用の縄を構えてますが……あ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、随分と愛らしい姿になって……」

 

 

 

 

 

 

「そうやって私を誘惑しているのでしょう? ぶち犯してあげますね♪

 

 

 枢斬暗〇子さんかな??? 物理法則を無視する勢いで妖術師さんを寝台(ベッド)に押し倒し、種族による膂力の差など知ったことではないと言わんばかりに出来たてホヤホヤの圃人(レーア)ボディを蹂躙していく少女巫術師さん。途中から相棒である少女剣士ちゃんと吸血鬼君主ちゃんも加わり、先程までの奇声に変わって正気を取り戻した妖術師さんの悲鳴にも似た嬌声が一党(パーティ)のおうちに響き始めました。

 

 賢者ちゃんたち3人が無言で圃人(レーア)のみつどもえを記録し、顔を真っ赤にした英雄雛娘ちゃんが指の隙間からガン見する中、吸血鬼侍ちゃんたち3人を枯らしツヤツヤお肌な若草知恵者ちゃんが遅めの朝ごはんが出来たことを報せに来るまでどったんばったんおおさわぎは続くのでした……。

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 次は誰得な日常回予定なので失踪します。

 評価、お気に入り登録ありがとうございます。モチベ維持に繋がりますので、まだの方は評価、登録して頂けると幸いです。

 感想も併せてお待ちしておりますので、お時間がありましたら是非に。ネタバレに繋がるもの以外はなるべくお答えさせて頂きます。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその16 いんたーみっしょん


 のんびり日常回は筆が進むので初投稿です。




 

 平穏な日常で人間性(ヒューマニティ)を回復させる実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 冬至(ユール)が過ぎ、新しい年を迎えた四方世界。年末よりチラついていた雪が本格的に降り始め、西方辺境は一面の銀世界へと姿を変えています。厳しい寒さから身を護るために屋内で過ごす時間が多くなり、にわかに読書や刺繍の趣味に目覚める人が増える時期でもありますね。

 

 ですが、冒険者には冬の間に引き篭もるような暇はありません。依頼の数がグッと減り、冬越しの資金を稼げなかった冒険者たちは内職で糊口を凌いでますし、懐の温かい者は身体が鈍らないよう鍛錬に勤しむ毎日。

 

 もっとも、今年は訓練場が雪かきと街道整備の日雇い仕事を手配しているため、例年見受けられる橋の下などで冷たくなっている冒険者は幸いなことに発見されていないとのこと。身体を鍛えられて三食しっかり食べられると、駆け出したちには好評みたいです。

 

 

 数日前にささやかな新年を祝う宴を催していた牧場も、昨夜降った雪によって美しい雪化粧姿に。そんな純白の光景に一筆書きで線を引くように、声を張り上げながら走り回る一団が見えてきました!

 

 

「そら、声を出せ! いざという時仲間に危険を報せることが出来なければ、一党(パーティ)全滅の危機に直結するぞ!!」

 

 

 先頭に立ち良く響く声で発破をかけているのは運動着(ジャージ)姿の女騎士さん(ゴリウー1号)。力強く雪を踏みしめながら、後ろに続く小さな冒険者たちの通り道を作り上げています。一番キツイ立ち位置のはずなのに普段と比べて殆ど速度が落ちていないのは、普段から重装で冒険していることで下半身が徹底的に鍛え上げられているからでしょうか。

 

 

「多くの荷を抱えたまま、より早く、より長く、より遠くまで走れるものこそが戦場(いくさば)で生き残る! それは兵士だろうと冒険者であろうと変わらん!!」

 

 

 最後尾から参加者を監督している女将軍さん(ゴリウー2号)も同じく運動着(ジャージ)姿。拳大の石をパンパンに詰め込んだ背嚢(ランドセル)を背負い、歯を食いしばって走る雛鳥たちの背に容赦無く怒声を浴びせていますね。白い湯気を立ち昇らせる体操着姿の彼女たちに向ける表情と纏うオーラは、何処からどう見ても鬼教官そのものです。

 

 

「いやぁ懐かしいですねぇ。ちっちゃな頃お父さんたちの後を追って走ってたのを思い出しますよぉ」

 

「ハッ、ハッ……そ、そうなんだ……っ」

 

 2人のゴリラに挟まれて走る集団は全部で7人。女騎士さんの後ろについている1人は他の子よりも頭ひとつ大きい英雄雛娘ちゃん。真剣な表情で女騎士さんの教えを身体に刻み込んでいるみたいですが、その体操着(ブルマ)背嚢(ランドセル)の組み合わせはちょっとえちえちすぎやしませんかねぇ?

 

 彼女の隣で雪と同じ真っ白い毛で覆われた長耳を揺らしながら走る白兎猟兵ちゃんはまだまだ余裕そうです……。他の子よりも大きな背嚢(ザック)を背負っているにも関わらず、パパから教わったと思しき卑猥ソングを鼻歌で歌ってるくらいには。

 

 

「ぐぬぬ……これが根発子(コンパス)の差……!!」

 

「あんまりほはばをひろげてはしるとつかれちゃうし、すべってあぶないの。むりせずにこまかくきざんでこ?」

 

 

 流石に雪は冷たいのか、珍しくブーツを履いている圃人の少女剣士ちゃんが前を行く2人を羨ましそうに見つめています。体操服を押し上げるナイスなたわわと、短パンとブーツの間に顔を覗かせる健康的な生足がとっても魅力的です。種族の違いによる体格差に焦って足を速めようとする彼女を抑える吸血鬼侍ちゃんは、いつぞやのブートキャンプの時と同じくブルマ装備。後方の吸血鬼君主ちゃんと違い、体操服の裾はブルマに入れるタイプみたいですね。

 

 

「はぁ……ふぅ……こんなに、走るのは、久しぶりかもです、ね……っ」

 

「まほうつかいもたいりょくがだいじ。もしものときにいきぎれしてじゅもんをとなえられなかったらたいへん!」

 

 

 普段のおっとりとした表情はそのままに、頬に浮かんだ汗を拭いながら走る圃人の少女巫術師さん。あんまり寒いのは好きじゃないのか、短パンとブーツに厚手のストッキングを合わせ、下半身をがっちりガードしています。体操服の裾から可愛いおへそをチラリズムさせながら並走する吸血鬼君主ちゃんの言葉に頷きを返しつつ、薄い笑みを浮かべながら背後に顔を向けました。

 

 

「――だそうですよ? 吸血鬼(ヴァンパイア)の身体を手に入れたのに元の体力不足でドベを驀進しているエセ圃人(レーア)ちゃん???」

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ヒィ……も、もうむ~りぃ……おっぶぇ!?」

 

「……体格が大きく変化したとはいえ、これは酷いな。腰を据えてかからねばならんかもしれん」

 

 

 ちょっと映像に出すにはアレな表情で雪原に倒れ込む妖術師さん。眉間に皺を寄せた女将軍さんが首根っこを引っ掴んで持ち上げ、やれやれといった様子で白目を剥く彼女を敷物の上へと放り投げました。

 

 自らの望む姿を手に入れた妖術師さんですが、やっぱり無理には代償がくっついてくるというもの。眷属になった後に行われた身体能力の測定では見事に筋力、敏捷、持久力で眷属中ワーストを獲得していました。また、只人(ヒューム)から圃人(レーア)へと元の種族が変化して事で背丈や手足の長さが大きく変わり、感覚との齟齬も浮き彫りに。肉体と精神の差を埋めるためにこうやってトレーニングに強制参加させられていたのですが……まだまだ時間は掛かりそうですね。

 

 

 

 

 

 

「オーイ!」

 

「あ、お父さんたちが帰って来ましたよぉ!」

 

 

 お、走り終わってクールダウンを行っているみんなに向かって上空から声が。ロリ形態(モード)の女魔法使いちゃん、剣の乙女ちゃん、令嬢剣士さんに抱えられた白兎猟兵ちゃんのパパと友人たちが大きく手を振っています。みんなにインベントリーから取り出したタオルを配っていた吸血鬼君主ちゃんが雪塗れの6人にもタオルを手渡してますね。

 

 

「どう? けっこうみつかった?」

 

「ん、昨日今日合わせて18箇所くらいかしら。予想通り生きた人間は居なかったわ」

 

「巣穴に籠っていたゴブリンはドイツもコイツもガリガリだったからね。想定通り飢えてると思うよ!」

 

 

 受け取ったタオルで顔を拭きながら吸血鬼君主ちゃんの問いに答える女魔法使いちゃん。尻尾に付着していた雪をプルプルと払い落としていた垂れ耳のおじさんも同意するように頷きを返しています。……察しの良い視聴神さんなら彼らが何をしていたのかもうお判りですね。

 

 

 夏の終わりから始まったゴブリンの駆除作戦。ベテラン兎人(サカカ)3人の参加によって西方辺境から一時的にゴブリンを駆除し、その後も他の地方から流入してくる群れを狩り続けていたわけですが、収穫を終え食料が倉庫に仕舞われた後は少々事情が変わってきます。

 

 秋口までは繁殖を目論んで農作業中の女性が攫われたり、街道を行き交う行商人が荷を狙われるケースが多いのですが、それ以降は厳しい冬を乗り越えるために収穫され集落の中に保管されている食料を狙って集団で人家を襲う可能性が高くなります。孕み袋に喰わせるほど食料に余裕は無いため、攫われた人の多くがゴブリンの胃袋に収まるのもこの季節の特徴と言えるでしょう。

 

 事態を見越してギルドでは偽の輸送隊を組織し、ゴブリンを誘引して駆除する依頼を出していたのですが、雪に閉ざされてしまった今の状態ではそれも難しいもの。年を越し知恵を付けたゴブリンが来春動き出したら、また被害が出てしまうかもしれません。

 

 そこで、探索能力に優れた元陸軍特殊部隊群(グリーンベレー)の3人とダブル吸血鬼ちゃんの眷属が協力し、巣穴に籠り寒さに耐えているゴブリンたちを潰して回っていたんですね!

 

 雪に埋もれた糞や食べかす、捨てられたゴミなどから白兎猟兵ちゃんのパパや友人2人が的確に巣穴の位置を割り出し、囚われた人がいないことを確認した後に眷属たちと一緒に巣穴を制圧。凍り付いた死体や共食いなどで辛うじて命を繋いでいたゴブリンを徹底的に潰して回っていたみたいです。ネックだった兎人(ササカ)の燃費の悪さも力持ちでたくさんの食料を持ち運べる吸血鬼(ヴァンパイア)とタッグを組むことで克服した殲滅チームはその恐ろしさを遺憾なく発揮し、冬の終わりを待っていたゴブリンに永遠の眠りをプレゼントして回っていたわけですね。

 

 

「技術を継承させなければ、アイツらはいつまでも同じ事しか出来ないし、考えられない。何年か続けていれば、ゴブリンっていう種族全体の質が低下してくるハズさ!」

 

 

 可愛く胸を張りながらなかなかに恐ろしいことを言ってますね垂れ耳兎人(サカカ)さん。横で聞いていた女将軍さんも「局地での探索能力に戦略的思考、あの猪にも見習ってもらいたいものだな」と頷いています。まぁ彼の良いところはその圧倒的な攻撃力と旺盛な戦意にありますから、ね?

 

 

 

「ふへ~。みんな頭を使ってるんだなぁ……へぷちっ!?」

 

「あらあら、風邪をひかないうちにお風呂で温まったほうが良さそうですね」

 

 おや可愛いくしゃみ。身体が冷えてきちゃったのか少女剣士ちゃんが鼻を啜り上げてますね。寒そうに二の腕を擦る姿を見た吸血鬼君主ちゃんが背後から首筋に顔を埋めるように抱き着き、翼で身体を包み込みながら星の力(核融合炉)の出力を上げ、冷え切った彼女の身体を温め始めました。

 

 

「どう? あったかいかな?」

 

「あ、あったかいですけど……その、いま汗かいてるから……っ」

 

 

 恥ずかしそうに翼の中で身体を捩る少女剣士ちゃんを不思議そうな顔で見る吸血鬼君主ちゃん。彼女の言わんとしていることを理解し、その上で……。

 

 

「みんなのあせのにおい、ぼくはすきだよ? だって、それはみんながいきてるってあかしだもの! ……ぺろ」

 

「ひゃん!?」

 

 

 首筋に舌を這わせながら囁かれ、可愛い声を上げる少女剣士ちゃん。その頬が紅潮しているのは翼の向こう側で吸血鬼君主ちゃんの手が腋やたわわの南半球の汗を拭きとっているからでしょうか。彼女の甘い香りとほんのりしょっぱい味を楽しむ吸血鬼君主ちゃんを女魔法使いちゃんが呆れた顔で見ていましたが、好奇心が勝ったのか女魔法使いちゃんもその鼻を彼女へと近付けていきました。

 

 

「――あらほんと。なんていうか、美味しそう?」

 

「でしょ? せいめいりょくにあふれててとってもみりょくてき! ……はむっ」

 

「ひぁぁ……」

 

 

 あらあら、女魔法使いちゃんも一緒になってprprし始めちゃいましたね。周りを見渡せばバッチコーイな白兎猟兵ちゃんに吸血鬼侍ちゃんが頬擦りしてますし、エロエロ大司教モードの剣の乙女ちゃんに抱え上げられ真っ赤になってる英雄雛娘ちゃんを令嬢剣士さんが苦笑しながら眺めています……お、敷物の上で潰れたカエルみたいに伸びていた妖術師さんがいつの間にか起き上がり、チラチラと視線を少女巫術師さんへと向けてますね。

 

 

「ふへへ……わ、私もprprしたいな~なんて……」

 

 

 

 

 

 

「なに勘違いしていやがりますか? prprされるのは貴女のほうですよ???」

 

「ヒエッ……」

 

「……それだけ元気ならお前だけ追加で走るか?」

 

 

 ……うん、今日も牧場は平和ですね!(メソラシー)

 

 


 

 

 朝風呂に入ってさっぱりし、ご機嫌な朝食を済ませたダブル吸血鬼ちゃんたち。ごちそうさまの声を上げた子どもたちが競うように防寒具へと身を包み、既に外で待っていた牧場の双子ちゃんや新進夫婦の姉弟たちのところへ駆け出していくのをパパママたちが見送ってますね。護衛兼遊び相手に英霊さん二柱と狼さんがいるので安全対策もバッチリです。

 

 

「あ、そうだ。さっき樽っ(ぱら)の2人が来て『頼まれてたブツが出来た』って言ってたわよ」

 

「! やった……!」

 

 

 良かったわねぇ、と妖精弓手ちゃんの蜂蜜を垂らした紅茶を口に運びながらの言葉に喜色を露わにする英雄雛娘ちゃん。新年早々から鍛冶場を備えた工房は稼働し、金属を鍛える音が響いていました。昼夜問わずの音に騒音の訴えが出るかもと思っていましたが、そこは夜営に慣れた冒険者たちと赤ちゃんの泣き声で鍛え上げられたママたちなので特に問題は無かったみたいです。

 

 ソワソワしている英雄雛娘ちゃんに注がれるみんなの視線は優しく、命を預ける相棒を迎える喜びを祝福しているように感じられます。子どもたちが遊んでいる間にみんなで行きましょうかという女魔法使いちゃんの声で工房へと向かい始めました。

 

 

 

 

 

 

「「おはよ~!!」」

 

「応、待ってたぜ」

 

「なんだ、耳長も来たんか。ちょいとそこに横になったら金床と区別が付かなくなりそうだの」

 

「むむむ……自分だって酒蔵にいたら並んでる樽と区別が付かない癖に~!」

 

 

 いつものやりとりを交わしつつ、工房へと足を踏み入れた一行。様々な工具や製作途中の武具などが所狭しと並ぶ鍛冶場にはほのかに太陽炉の熱が残っており、上着を着ていなくても問題無い室温となっているようです。挨拶もそこそこに一同が眼を向けた先には、未だ熱を放ち続ける二振りの剣の姿がありました。

 

 令嬢剣士さんがおかあさんである半森人夫人から譲り受けた大小二刀とも、悪魔殺し一党(パーティ)の女剣士さんが愛用している揃いのスティレットとも異なる一対の剣。片手で振るうには大きすぎるように見える右手の特大剣と、敵対者の剣を受け止め砕き折る左手のパリングダガーの組み合わせは牙狩りであった英雄雛娘ちゃんのお父さんの戦い方を受け継ぐためのもの。

 

 

「嬢ちゃんの親父さんが使っていた『直剣の柄』と魔神(デーモン)の本体だった刀を素材に、太陽炉の聖なる熱で鍛え上げた双剣。素材の持っていた疫病の呪いは病気や毒に対する祝福へと変わり、牙狩りの業は不死や異界由来の存在に対する特攻に昇華されとる筈だ。……ほれ、ぼさっと見とらんで握ってみんか!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 隻眼鍛冶師さんの岩のような拳で背を叩かれ、剣のもとへと近付く英雄雛娘ちゃん。熱を帯びた柄に躊躇いがちに手を伸ばしますが、その熱は彼女を焼くことなく新たな使い手を受け入れているかのよう。重さを感じさせない様子で右手の特大剣を真っすぐ伸ばした右腕の延長、地面と平行になるよう構え、逆手のパリングダガーを右腕に交差させるよう握った姿は歴戦の冒険者が息を呑むほどに完成されています。……さ、鍛冶神さん! いい加減意地張るのをやめて、可愛い推しに一言送ってあげて下さい!!

 

 

「!? ……はい、やってみます! ≪鍛冶神さま 私の息吹が鋼を輝かせるところ どうぞご覧ください≫!!」

 

 

 特大剣の刀身にダガーを研ぐように擦り付けながら唱えられたのは鍛冶神さん専用奇跡である≪赤熱(ヒートメタル)≫。本来は金属を溶かしたり、相手の装備している鎧や武具にかけて熱によるダメージを与える奇跡ですが、英雄雛娘ちゃんが対象に選んだのは自らが持つ特大剣。赤熱化する刀身はやがて炎を纏い、かつて雷鳴とともに現れ世界を救ったと言われている伝説の騎士が所持していた三種の神器のひとつ『炎の剣』を彷彿とさせる姿へと変わりました!

 

 

「ね、ねぇ。それ、熱くないの?」

 

「えっと、はい。大丈夫です。おひさまの光を浴びている時みたいな温かさは感じてますけど、熱くはない……です」

 

 

 恐る恐る尋ねる妖精弓手ちゃんに向き直り、首を傾げながら答える英雄雛娘ちゃん。どうやら鍛冶神さんの加護によって、金属を通して伝わる熱は彼女に害を与えることは無いみたいです。剣と一緒に用意されていた鞘に二刀を納め、背中と腰に装備した姿で嬉しそうに微笑んでますね。

 

 ……ん? あの鞘なんか見覚えのある光沢と色をしてる気が。もしかして……。

 

 

森人(エロフ)姉とおっぱい娘のだけじゃなくて、その子の装備にまでシルマリルの身体が使われてるのよねぇ……」

 

「えへへ……みんなのやくにたててうれしいし、きょうしんはんのうでどこにあるかもわかるおやくだちきのうつきなの! ……ほしかったらあげようか?」

 

「うーん、遠慮しとく。使う当ても無いし、あったまるだけならこうやって抱き上げれば良いんだしね!」

 

「ふわぁ……すべすべ……いいにおい……」

 

 

 あ、やっぱり。セッション外の映像を記録している無貌の神(N子)さんに確認したところ、みんなからちゅーちゅーさせてもらいながら吸血鬼君主ちゃん身体の一部を一党(パーティ)の装備強化に使用してたみたいです。今回の鞘以外にも魔女パイセンの研究素材として提供したり、叢雲狩人さんの火炎放射器(インフェルノ・ナパーム)や令嬢剣士さんの魔剣(アヴェンジャー)の動力源として組み込むために星の力(核融合炉)を用いていたんだとか。なるほど、祭祀場跡で心臓を抉り出した際に一党(パーティ)のみんなが慌てる素振りを見せなかったのは、既に何度も実践していたからだったんですね!

 

 

 

「それと……オイ、そっちのちっこいの2人。お前さんたちにも渡すモンがある」

 

 

 ……と、おや? 隻眼鍛冶師さんが圃人コンビに声を掛けてますね。鍛冶場の奥から戻って来た隻眼鍛冶師さんの手には大振りな湾刀(カタナ)と金属片を繋ぎ合わせて作られた外套(クローク)のような物が握られています。駆け寄ってきた2人に手渡すそれは、浮遊神殿(フロートテンプル)で倒した魔神の意匠が色濃く現れた魔法の装備のようです。

 

 

 隻眼鍛冶師さんの説明によると、少女剣士ちゃんの背丈と変わらぬほどの長さの真紅の刀身を持つ大型の湾刀(オオタチ)牛の魔神(赤カブト)の甲冑と湾刀(カタナ)を素材にして鍛えられたものだそうです。その特徴はなんといってもその頑丈さ。特殊な機能は無い代わりに刀身の腹で甲冑を叩いても歪むことは無く、刃を立てれば一刀両断。洞窟や屋内など狭い環境で振り回しても障害物ごとぶった切る切れ味の良さも持っているんだとか。切れ味を恐れ鍔迫り合い(バインド)に持ち込まれても相手の武器ごと切断出来ると隻眼鍛冶師さんの太鼓判付きです。なお魔神(デーモン)を素材としているため非実体に対しても物理ダメージを与えられるらしいです。なにそれこわい。

 

 少女巫術師さんの受けとった外套(クローク)は予想通り双魔神を素材としていました。黄金魔神(モシレチク)の核をベースに白銀魔神(コタネチク)の翼の破片を組み込んだことで限定的な時間制御を可能とし、なんと自身を狙う攻撃の速度を半分に、自身の反応速度を2倍にすることが出来るんだとか! ただし反動で身体にダメージが入るため、乱用は禁物だそうです。体格の小ささに似合わず頑強な圃人(レーア)でなければ自滅するほうが早いかもしれない、一癖ある逸品に仕上がったみたいですね。なお外套(クローク)に仕立てられたのは時計(クロック)と掛けたからだという噂が囁かれてますが……きっと偶然でしょう。

 

 

「えっと、いいんですか? こんな凄いものを貰っちゃって……」

 

 

「いいの! ふたりはぼくたちにとって、はじめてできたレーアのおともだち!!」

 

「たいせつなはじめてをくれたおれいでもあるし、これからいっしょにぼうけんをするのにもっててほしいの!」

 

「「――だから、うけとってくれる?」」

 

 

 

「もう、そんな顔で言われたら断れませんよ? それに……」

 

「うん、こんな良いものを持ってるのに訓練場卒業で認定された黒曜のままじゃカッコつかないもん! いっぱい食べて、いっぱい鍛えて……」

 

 

 

「「い~っぱい魔力を注いでね、我らが愛しの頭目(リーダー)!!」」

 

 

 あらあら、2人からほっぺにちゅーされてダブル吸血鬼ちゃんが赤くなってます。普段はもっとエロイこと平気でやってるのに、こういう時だけ妙に初心なダブル吸血鬼ちゃんなのでした……。

 

 


 

 

 丸三日寝てないという鉱人2人にお礼を言って工房を後にした一行。久しぶりにお日様が顔を覗かせた青空の下では子どもたちが雪遊びに興じていますね。

 

 

 牧場長女ちゃんと星風長女ちゃんは真っ白な白毛に生え変わっている白兎猟兵ちゃんの弟妹たちと一緒にかくれんぼ。雪の中に隠れたおちびちゃんたちを探し、2人手を繋いで雪原を駆けまわっています。もぞもぞと身じろぎしている一か所だけ目立つ金毛をそっと後回しにしているのは、白兎四女ちゃんに対する優しさの表れかな?

 

 

 牧場長男くんと泣き黒子長男くんは雪の山をくり抜いてかまくらを作ろうとしているみたいですね。もうちょっとで完成……というところで雪山の登頂を目指していた太眉長女ちゃんが見事に天井を踏み抜き、内部へと落ちていきました。不意打ち気味に現れた彼女にビックリして半泣き状態の牧場長男くんでしたが、慌てた様子の太眉長女ちゃんに抱きしめられてなんとか涙は流さなかったみたいです。……なんというか、盤外(こっち)から見てても守護ってあげたいオーラが漂ってるんですよね彼。先程から地母神さんと知識神さんが鼻から神気を垂れ流しっぱなしですもん。

 

 

 おや、何処からか見つけてきたのでしょう。橇に立ち乗りしているのは叢雲次女ちゃんですね。若草三女ちゃんと新進長男くんを同乗者に、精霊さんにお願いして手に持ったシーツを帆代わりに風の力で雪原を楽しそうに爆走しています。お守りを引き受けてくれた英霊さんたちが追い付けてないってことは、結構な速度が出てますねアレ。その後ろを新進長女ちゃんを背に乗せた狼さんが必死になって追いかけてますが、寒くなってからの食っちゃ寝が祟ったのか、少々肥えた身体では厳しそうですね……。

 

 

「あはは! みんな楽しそうだね」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 小高い丘の上では牧場夫婦を始めとするパパママたちが集まっていますね。身を切るような寒さの中元気にはしゃぐ子どもたちを、みんな優しい目で眺めています。蜥蜴僧侶さんの腕の中でみんなを見ていた竜眼少女ちゃんが自分も遊びたいといった感じでむずがっていますが、ま~だちょっと早いかな?

 

 

 

「あ、おねえちゃんのだんなさまといもうとさまだー!」

 

「ほかのみんなもいっしょだー!」

 

 

 お、ダブル吸血鬼ちゃんたちに気付いた兎人(サカカ)のおちびちゃんたちがわらわらと集まってきましたね。何か言おうとしてもじもじしている男の子たちのケツを長女ちゃんが引っ叩き、何事か促しているみたいです。ヒリヒリと痛む尻を擦りながら、長男くんが口を開きました。

 

 

「おねえちゃんのだんなさなといもうとさま! おねがいがあります!!」

 

「「いいよ~! あいたっ」」

 

「こら、ちゃんと話を聞いてから返事しなさいっていっつも言ってるでしょうが。……で、どうかしたの?」

 

 

 うーんこのいつもの光景。ダブル吸血鬼ちゃんの頭にでっかいたんこぶを拵えた女魔法使いちゃんの問いに顔を見合わせていた兎少年たちでしたが、意を決したように「お願い」を切り出しました……。

 

 

「あの、どうしてもおさかながひつようなんです!」

 

「パンもおにくもみんなたべられなくなっちゃって……!」

 

「ミルクをのんでもすぐにきもちわるくなっちゃうみたいなんです!」

 

 

「……もしかして、キミらの奥さんたちか?」

 

 

 闇人女医さんの言葉にコクコクと頷くおちびちゃんたち。もしかして……おめでた? 必死になって説明するおちびちゃんたちの言葉を繋ぎ合わせた結果、なんとなく事態の全容が浮かび上がってきました。

 

 

 忙しい収穫期を乗り越え牧場全体が落ち着いた頃、大好きなお嫁さんたちとイチャコラしていた結果見事におめでたとなった3組の可愛いカップル。最初は問題無かったのですが、お腹のふくらみが目立つようになって例のアレが襲い掛かってきました。……そう、悪阻です。

 

 人によって症状に差異はありますが、彼らのお嫁さんたちの場合はまず動物の肉とその加工品がダメに。血の匂いを連想して吐き気を催してしまったそうです。次に普段食べている硬麺麭。どうやら発酵による僅かな酸味がダメだったみたいです。野菜の類は食べられるみたいですが、コクを出すために使う牛乳がアウトなため単なる水煮に近いものに。蛋白源が不足して体重が落ちてしまったお嫁さんたちになんとか食べてもらおうと考えた結果、残るは魚しかないという結論に至ったみたいです。

 

 

「ほしたさかなをこまかくちぎって、ふわふわにしてスープにうかべたのはたべてもらえたけど、もうぜんぶなくなっちゃったの……」

 

「しおづけはにおいとしょっぱさがダメで、たべてもすぐにもどしちゃった……」

 

「できればクセのない、たべやすいさかながほしいんです……!」

 

 

 必死の訴えに対し考え込む一同。悪阻の辛さはママたちが良く知ってますし、なんとかしてあげたいところですが……。

 

 

「うーん……時間を頂ければ入手することは可能でしょうが、今は時期が……」

 

「どの店も『悪くならないうちに』って年末に売り切っちゃってるから、在庫が残ってるかどうか……」

 

 はい、冬至(ユール)のお祭りには、あまり日持ちのしない保存食の処分という側面もありまして。出店なんかで安く売られている軽食の材料はそんなところが出処なんですね。令嬢剣士さんが実家を当たって見ると言ってくれてますが、どうしても時間はかかってしまいそうです。なんとかして魚を手に入れられないものかと頭を悩ませる一行の前に現れた救世主は……。

 

 

 

 

 

 

「――話は聞かせてもらったよ。もしかしたら力になれるかもしれない」

 

 

 牧場を義娘夫婦に譲り、悠々自適の釣りキチ生活を満喫しているお義父さんのエントリーだ!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 釣りキチ三平を見返す作業に入るので失踪します。


 評価や感想いつもありがとうございます。お気に入り登録も1200が見えてまいりました。もしお読みになられた方で登録されていない方がいらっしゃいましたら、登録して頂ければ幸いです。

 更新速度が向上しますので、感想も併せてお待ちしております。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその16.5


 読み返して名作であることを再確認したので初投稿です。



 

 グルメスピンオフの様相を呈してきた実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 兎人(ササカ)の少年たちからのお願いに頭を悩ませていた一行の前に現れた救世主、なんとそれは牧場夫婦のお義父さん! 牧場を義娘夫婦に譲って肩の荷が下りたのでしょう、眉間の皺は綺麗さっぱり消え去り、兎人(ササカ)のおちびちゃんたちをはじめとする牧場の従業員に日々農作業の指導を行う姿は精神的余裕に満ちていました。

 

 セッション外での様子を観察している無貌の神(N子)さんからの情報によると、ちょっと前から只人寮母さんと良い感じになっており、休みの日を合わせては2人で釣りに出掛けたり辺境の街でデートしたりしているんだとか。そう遠くない未来、彼らにも春が訪れるかもしれませんねぇ。

 

 では、そんなお義父さんとともにおちびちゃんたちの願いを叶えるべく牧場からすぐの川へと集まった勇者たちを紹介いたしましょう!

 

 

「うぅ、さぶ……シルマリル、あっためてよぅ……!」

 

「いいよ~。ぎゅ~……」

 

 

 まずはガタガタと震えながら吸血鬼君主ちゃんを懐炉代わりに抱きしめている妖精弓手ちゃん。昨年浮遊神殿(フロートテンプル)調査用に準備していた防寒着に身を包み、風邪を引いて参加出来なかった蝲蛄(ザリガニ)釣りのリベンジと息を巻いていましたが……開始前から「こんな寒いとは思わなかった」って顔ですね。体脂肪が控えめなのも寒さの原因なのかもしれません。

 

 

「毎年のことだから仕方ねぇとはいえ、同じモンばっかり喰ってるのも飽きてきたしなぁ」

 

「寒空の下で塩をきつめに効かせた焼き魚で一杯ってのも悪かねェな。テメーもそう思うだろ?」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 続いては我らが辺境三羽烏三勇士! 手には円匙(スコップ)を持ち、傍らに直径20cm程ある丸木の杭を転がしていますね。彼らを含め誰も釣り竿を持っていませんが、今回は竿を使わないで魚を獲るんだとか。うーむ……いったいどんな方法なんでしょう? 楽しみです!

 

 

「うぇぇ……生きてる魚とか触ったことないのに……」

 

「これもくんれん! がんばって!!」

 

「は~い……」

 

 

 体操着(ブルマ)からいつものフード付きローブ着替えた妖術師さんは魚と聞いて浮かない顔。死霊術を学んでいるということで死体と接する機会は多そうですが、生き物が苦手とは意外ですね。獲れた魚を入れる大きな木桶を抱えた吸血鬼侍ちゃんに応援され、なんとかモチベを保っているって感じですね。

 

 ちなみに妖術師さんのローブは他の眷属のみんなとおんなじで自らの魔力で編まれた特別製。彼女の場合不浄本から学んだ影の触手を操る呪法を利用しているようで、袖口や裾からほつれのように触手がチラチラと顔を見せています。

 

 眷属のなかで最も身体能力が低い妖術師さんですが、操影術と再生力に関してはずば抜けて高く、その再生速度はダブル吸血鬼ちゃんの一分(1ラウンド)につき14点を超える驚きの20点(盤外(サークル)調べ)! 半身を吹き飛ばされるような一撃を受けても半ば身体と融合している触手で穴埋めし、あっという間に元通りになっちゃうんだとか。攻撃に転用した場合の恐ろしさは……ちょっと太陽神さんの高いうちは口に出来ませんね!

 

 残りの面子は釣りの歓びに目覚めた英霊さん2人に狼さん、そしてお義父さんといういつもの顔ぶれ。おちびちゃんたちも来たがっていたのですが、あんまり泳ぎの得意でない彼らが万が一冬の川に落ちたら大変なので、お義父さんに説得されておうちでお留守番してもらっています。

 

 

 

「さて、みんな集まってくれてありがとう。今回は釣りというよりは、この雪を利用した漁になる。互いの安全に注意して臨んでもらいたい」

 

 

 牧場夫婦のお義父さんの言葉に頷きを返す一行。みんなが居る場所は川の本流から少し離れた場所、流れによって地形が浸食され盲腸から飛び出た虫垂のように行き止まりになっているところです。分厚く雪に覆われた川縁から覗き込めば、ほとんど水の流れが無いことが見て取れますね。

 

 

「冬場は魚にとっても厳しい季節。水は冷たく動きは鈍り、餌も少ない。だからこういう流れの緩やかなところに集まって、じっと動かないことが多いんだ。餌に対しての反応も悪いから、普通の方法で魚を獲るのは難しい。そこで……」

 

 

 判り易く冬場の説明をしながら、手に持っていた円匙(スコップ)を掲げるお義父さん。みんなが興味深そうに見守る中、本流との境界の部分に近付き水上に迫り出した雪を突き崩し、流れをせき止めていきます。

 

 

「さ、力自慢の男子諸君は手伝ってくれ。流れを完全にせき止めたら、そのまま雪をどんどん川の中へ投げ込んでいくんだ」

 

「判りました、義父さん」

 

「よっしゃ、任せろ!」

 

「冷えた身体があったまるってモンよ!」

 

「「……!」」(エイエイオーのジェスチャー)

 

 

 お義父さんに続いて雪と格闘を始めた辺境三勇士&英霊さん。冒険や牧場での作業で鍛えられた身体能力に物を言わせ、雪のブロックを切り出しては次々に川の中へと放り込んでいきます。本流から完全に切り離され、溜池のようになったところでダブル吸血鬼ちゃんも参戦。翼を器用に使って自分よりも大きな雪の塊を川に向かって押し出してます。

 

 

「みんな、がんばりなさ~い」

 

「が、頑張れ~!」

 

「わふぅ」

 

 

 妖精弓手ちゃんと妖術師さんは……2人とも狼さんをハグしながら完全に観戦モード。双璧に暖房代わりにされている狼さんはそこはかとなく物足りなさそうな表情を浮かべているような気がしますね。おおよそ30分ほどで前準備は完了し、円匙(スコップ)の腹で叩き固められた雪で川は地面と変わらない高さまで均されました。

 

 

「みんな、おつかれさま~!」

 

 

 額に汗を浮かべた男性陣に振る舞われているのは蒸留酒(ブランデー)入りの紅茶ですね。インベントリーに入れておいたおかげで温かさを保っていたそれを口にするみんなの顔には笑みが浮かんでいます。一息入れたところでいよいよ本番。懐炉代わりの吸血鬼君主ちゃんを抱えたままの妖精弓手ちゃんが固められた雪の上を歩き回り、耳を澄ませて何かを探っていますね。やがて雪上のある一点で立ち止まり、お義父さんへと視線を向けました。

 

 

「ん、ここね。ここに力が集まってる!」

 

「ああ、ありがとう。これがこの漁で一番重要なところなんだ。上手くヘソを見つけられないと失敗してしまうからね」

 

 

 妖精弓手ちゃんの立っていた場所に翼で印をつけ、杭を担いだゴブスレさんと入れ替わりにその場を離れる2人。周りから十分にみんなが離れたのを確認したゴブスレさんが、両手で持った杭を大きく振り上げ、尖らせた先端を印目掛けて勢いよく突き刺しました!

 

 

「……ッ!?」

 

 

 執拗に叩き固められた雪は非常に硬く、思うように刺さっていかないみたいですね。槍ニキと重戦士さんを交え代わる代わる杭を突き刺すこと数十回。半ば以上が雪中に埋もれるようになったあたりで……。

 

 

「……お? これはいったか!?」

 

 

 持ち前のタフネスっぷりを発揮し3人の中で一番回数を稼いでいた重戦士さんが感じる手応えに歯を見せる笑みをみんなに向けてますね。グリグリと杭を回し貫通したのを確認すると、勢いよく雪中から抜き取りました!

 

 

「「ほわぁ~!!」」

 

「うわ、なにこれ凄い!」

 

 

 穿たれた穴から川の水とともに飛び出てくる大小様々な魚たち。雪上で跳ね回るそれを手で捕まえ、みんなで木桶へと放り込んでいきます。直接触れるのがイヤなのか、妖術師さんは両の指の数を超える触手を袖口から展開して圧倒的な速度でピチピチと跳ねる魚たちをゲットしてますね。

 

 

「――そうか。雪で押し固めたことで水圧が増し、それが穿たれた穴から吹き出てきたのか」

 

「ほー、意外と理に適ってたってワケか!」

 

「なかなか少人数では難しいからね。皆の手を借りなければ出来なかったよ」

 

 

 ありがとう、と腰に手をあてながら義息子とその親友にペコリと頭を下げるお義父さん。どうやら魔女の一撃が腰を掠めたようで、吸血鬼侍ちゃんが後ろで≪小癒(ヒール)≫をかけてますね。只人寮母さんとのナニもあるかもしれませんし、腰をいわしてしまったら大変ですから気を付けないといけませんねぇ。

 

 

「あるぇ~?」

 

「出てこないわねぇ……」

 

 

 おや? 吸血鬼君主ちゃんと妖精弓手ちゃんの言う通り、水も魚も出て来なくなっちゃってますね。触手で詰まりを取り除こうとする吸血鬼君主ちゃんに≪小癒(ヒール)≫による治療を終えたお義父さんが声を掛けました。

 

 

「ああ、そうしたらみんなで一斉に跳躍して皆底に圧を加えてみるといい。絞り出すように残っていた水が出てくるだろうからね」

 

「は~い! みんな、あつまれ~!!」

 

「それじゃいくよ~? せ~のっ!」

 

 

 冒険者一同に英霊さん2人が加わり、総勢9人による跳躍&踏みつけ。二度三度と繰り返すうちに内部の圧力が高まり……。

 

 

「キャン!?」

 

 あ、鼻を鳴らしながら穴を覗き込んでいた狼さんに平べったい何かが命中しました! のたうち回る狼さんの傍に落下したのは……冬眠中だった(すっぽん)です!! メリメリと穴を広げながら飛び出して来たその大きさは40cm越えの大型、それ以外にも30cmほどの大きさのものが何匹も雪上に姿を現しました。どうやらこの場所は彼らの冬眠地でもあったみたいですね。穴を塞いでいた栓が抜けたことで残りの水も吹き出し、持ってきた木桶は獲物でいっぱいです!

 

 

(すっぽん)は病み上がりや妊娠時に特に良いとされている。運が良かったね」

 

「……え、コレ食べるの……?」

 

「多少見た目は異なるが、魚や蛙と変わらん。何も問題無い」

 

「ドラゴンだって喰っちまうのが俺たち只人(ヒューム)だからなぁ……」

 

 

 予想外の獲物に頬を緩ませるお義父さんにマジで……?という顔を見せる妖精弓手ちゃん。亀やその仲間を見たことはあっても肉食文化の無い森人(エルフ)には食べるという発想は無かったのでしょう。ゴブスレさんや槍ニキのいうように割となんでも食べちゃうのが只人(ヒューム)の強みでもあり、度し難い点でもあるわけで。あと蜥蜴僧侶さんがいたらゴブスレさんの発言には異議を唱えるかもしれませんね、進化論的な意味で。

 

 

「魚は食べやすいように臭み消しを行うし、(すっぽん)は泥を吐かせないといけないからね。食べるのは数日後になる。後は……」

 

「明日へ繋がる糧を分け与えてくれた自然に感謝を……」

 

「「ちぼしんさま、ありがとうございます……!」」

 

 

 使用した道具を片付け川縁に並ぶ一行。貴重な恵みを頂いた感謝を自然と地母神さんに捧げています。森人(エルフ)の里の奥にあった城塞を巡る冒険、その最中に≪模倣(イミテーション)≫を経由してダブル吸血鬼ちゃんから≪聖歌(ヒム)≫の奇跡を乞われてからこっち2人に熱っぽい視線を送っていた地母神さんでしたが、先日の女神官ちゃんの告白によって2人に対する好感度は天元突破。『亡者(アンデッド)諸君、命あるものを無礼(なめ)るなよ。ただしダブル吸血鬼ちゃんは別だ』という迷言とともに虹色に発光し、知識神さんと一緒に尊死しかけていたのは記憶に新しいところです。

 

 さぁ、あとはおちびちゃんたちのお嫁さんに食べてもらうだけです! ちょっとだけ時間を進めてみましょうか。万知神さん、お願いしまーす!!

 

 


 

 

「それでは調理を開始します。皆、しっかりと手は洗いましたね?」

 

「「は~い!」」

 

「よろしい、終わったら頭を撫でてあげましょう」

 

「「わ~い!!」」

 

 

 療養所の調理場に集まったみんなの前に立っているのはエプロン姿が素敵な半森人夫人さん。令嬢剣士さんから事情を聞き、王都で干し魚をかき集めて≪転移≫の門で駆け付けてくれました! 只人(ヒューム)森人(エルフ)、どちらの料理も知っている彼女が中心となって悪阻に苦しむ女性向けの料理を作るみたいです。

 

 

「食欲不振の原因は食材のにおいが多くを占めています。なので、生臭さや血の匂いを極力取り除いた調理方法が必要なのです」

 

 

 調理台の上には数々の食材。先日川で獲った獲物以外にも牧場産の豹芋(ジャガイモ)や近くの森で採取された香草類が所狭しと並んでいます。西方辺境ではあまり見かけない食材としては長葱がありますね。森人(エルフ)の食文化では大蒜(ニンニク)(ニラ)と同様に薬草扱いの葱をどう調理するのか、妖精弓手ちゃんも興味津々な様子です。

 

 

「まずは魚のほうから始めましょうか。事前に下準備をしておいたものが此方です」

 

 

 そう言いながら半森人夫人さんが取り出したのは黄色い半透明の液体に浸された魚の切り身。漂う香りから考えると、蒸留酒に柑橘類の果汁を絞ったものに酢や香草を加えたマリナード(マリネ液)みたいですね。果汁に含まれる酸と酒精(アルコール)の力で淡水魚特有の臭いを打ち消し、ついでに風味を付ける一石二鳥の方法です!

 

 

「漬け汁を綺麗に拭き取ったらお皿に並べ、それを蒸し器に入れて蒸しあげます。この後追加で熱を加えるのであまり長く蒸さなくても大丈夫ですよ」

 

「ん……けっこう難しいわね。身が柔らかくなっているから崩しちゃいそう」

 

「ふふ、多少形が崩れても問題ありませんよ? それにゆっくりやっても手から熱が移る心配もありませんし」

 

「あー……まぁそっか、アンデッドだものねぇ」

 

 真剣な表情で漬け汁を拭き取る女魔法使いちゃん。マリナード(マリネ液)には食材を柔らかくする効果もあり、無理な力が加わると身切れしてしまうため慎重になっているみたいです。一緒に作業をしている若草祖母さんが力を抜くよう話してますが……うん、流石はおばあちゃん。手早く正確に鱒の身をお皿に並べてますね。

 

 

「魚を蒸している間に(すっぽん)も火にかけてしまいましょう。捌くのは……ふむ、素晴らしい出来栄えです」

 

「ああ、言われた通り部位ごとに切り分けたぞ。胆嚢も潰さないよう取り除いてある」

 

「「ちはおいしくいただきました~!」」

 

 

 フンス!と立派なたわわを張る闇人女医さんの前には綺麗に処理された(すっぽん)が並んでいます。亀の仲間でありながら柔らかな甲羅を持つ(すっぽん)は殆どの部位が食べられるのですが、捌く際に「苦玉」と呼ばれる胆嚢を潰してしまうと身全体に苦みが移ってしまうため、生物の構造に詳しい闇人女医さんが下処理を引き受けてくれました。沸騰しない程度の熱湯に潜らせ表面の薄皮を剥がしてある身は爪や甲羅を除けば鳥肉と変わらない見た目と匂いですね。

 

 ……なお、野生の(すっぽん)の生き血には有害な微生物が含まれている可能性があるため、視聴神のみなさんはダブル吸血鬼ちゃんの真似をしないようお願いいたします。

 

 

(すっぽん)だけでも良いのですが、今回は香りづけに生姜と葱の青いところも一緒に入れましょうか。強火で一気に煮るのがコツです」

 

 

 身や内臓、えんぺらと言われる甲羅の柔らかい部分を鍋に入れ、強火で煮ることしばし。芳醇な香りが漂い始めたころに鍋の蓋を開ければ、そこには黄金色に輝く極上のスープが出来上がっているではありませんか! 塩胡椒で味を調え、一口味見した半森人夫人さんの顔を見てみんなゴクリと唾を飲み込んでいます。

 

 

「見た目で嫌がるといけませんので、彼女たちにはスープだけにいたしましょう。……なので、残りの具は美味しく頂いてしまいましょうか」

 

「「「「「ヒャッハー!」」」」」

 

 

 妊婦さんたち用に溶き卵を入れた汁を取り分けた後、肉や内臓が浮かぶ大鍋をみんなに向ける半森人夫人さん。食いしん坊たちが差し出された器へと群がり、一斉に口へと運びます……。

 

 

「うっま!?」

 

「なにこれ……なにこれ……?」

 

「なんていうか、すごく、すごいです!」

 

 

 口に含んだ瞬間、爆発するように広がる快楽。極上のコンソメ・ドゥ・ブフ(コンソメスープ)に勝るとも劣らない複雑な旨味に脳を焼かれ、みんな語彙力が著しく低下しちゃってますね。舌の上で崩れるほどに柔らかくなった身もけっして出し殻などではなく、ゼラチン質なえんぺらとともに部位ごとに異なる味を提供してくれています。まったく臭みの無い肝臓(キモ)には肉食を好まない妖精弓手ちゃんすらほっぺたが落ちそうな顔を見せています。

 

 

「さぁ、どんどん作っていきますよ。次は豹芋(ジャガイモ)のパンケーキ。これはとっても簡単です」

 

 

 すりおろした豹芋(ジャガイモ)に薄力粉と卵、塩を入れて混ぜたタネをフライパンで焼いていく若草祖母さん。地域によっては砂糖を入れて甘くすることもあるみたいですが、今回は付け合わせということで薄い塩味に仕上げているみたいです。表面カリッと中はサクサク、作り方も簡単ですし、これなら兎人(ササカ)のおちびちゃんたちにも作ることが出来そうですね!

 

 ……お、そうこうしているうちに魚が蒸しあがったみたいです。ふっくらと蒸された切り身の上に剣の乙女ちゃんが白髪葱と生姜ををたっぷりとのせたところで、小鍋片手に叢雲狩人さんが近付いていきます。鍋の中身は……煙が上がるほどに熱された油です! ジュジュっと音をたてる油が身に触れた瞬間、鮮烈な香りが立ち昇りました!

 

 

「おぉ……こりゃまた美味そうな……!」

 

「油を多く使うので少々高くつきますが、王都の高級店でも提供されている調理法なのです」

 

「へぇ、食い意地が張ってるぶん詳しいのねぇ……って、いつの間に現れたのよ!?」

 

「最初からいたのです。……というか、私が≪転移≫の鏡を起動していたのですよ???」

 

 

 重戦士さんの隣で涎を垂らしながら食い入るように料理を見つめる賢者ちゃんに驚きの声を上げる妖精弓手ちゃん。言われてみれば、王宮にある≪転移≫の鏡を起動出来るのは賢者ちゃんか銀髪侍女さんですもんね。先程から響いていたゴゴゴゴゴ……という地鳴りのような音は、彼女のおなかに生息する妖精さんの出す音だったんですね。

 

 盤外(こちら)では清蒸(チンジョン)と呼ばれる魚の調理法。まるまる一匹を用いることが多いですが、切り身でやってもじつにうまあじに仕上がります。東方の交易商人から伝わり、魔法で鮮度を保った状態で運ばれた大型の海水魚を用いたそれは王都でも最高級の料理なんだとか。ちなみにお刺身に類する食べ方は無いみたいです。鮮度と寄生虫が怖いですからねぇ……。

 

 

「はい、これで完成です。……さぁみんな、奥様たちのところへ持っていってあげてくださいな」

 

「「「ありがとうございます! おねえちゃんのだんなさまのおかあさま!!」」」

 

 

 鱒の清蒸と(すっぽん)のスープ、そして豹芋(ジャガイモ)のパンケーキ。心を尽くした料理の数々が乗ったお盆を受け取り、慎重な手付きで運んでいく小さなおとうさん候補生たち。やがてお嫁さんたちが入院している大部屋から驚きと歓喜の合わさった声が響いてきました。調理場から漂ってくる馥郁たる香りに久しく抱いていなかった食欲を刺激され、何が出てくるのかとワクワクしていたらしく、運ばれてきた料理に目を輝かせていますね。甲斐甲斐しく口元に運ばれてくる美味なる料理に夫婦みんな笑顔になってます。良かった、上手くいったみたいですね!

 

 

 

「悪阻と上手く付き合うコツは無理に食べようとしないことと、一度に食べる量を減らし、代わりに回数を増やすことです。個人差はあるかと思いますが、それで解決することが多いですね」

 

「成程ねぇ……。雇い主(オーナー)んトコはみんなあっという間に産んじゃってたから悪阻は無かったし、勉強になるわぁ……」

 

 

 今後に備え、半森人夫人さんの助言をメモ紙(パピルス)に書き留める只人寮母さん。ダブル吸血鬼ちゃんたちは追加の魔力供給で成長ブーストしちゃってましたし、銀等級ママたちや牛飼若奥さんはケロっとした顔をしてましたからねぇ……一般的な夫婦の場合のモデルには程遠いです。それに……今後彼女自身もそうなるかもしれませんし、ね?

 

 

 

「いやぁ美味かった! この米を入れた粥みてェなのも汁の旨味を吸って最高だよな!!」

 

「冬の間は暇だし、また今度捕まえに行くか?」

 

「はは……あまり繁殖力は強くないから、ほどほどにしておいたほうが良いだろうね」

 

 

 身を綺麗に食べ尽くし、〆の雑炊まで堪能して満足そうな一行。槍ニキの誘いに同意していた重戦士さんですが、牧場夫婦のお義父さんの言葉にそういうものかと頷いています。冬眠期間の長い(すっぽん)は成長速度が遅く、今回美味しく頂いた大きさになるまで3年から4年、一番大きい個体はそれ以上の時を重ねていたと考えられます。欲望のままに乱獲してしまっては、あっという間に姿を消してしまうことでしょう。

 

 

「フム……養殖という手もあるな」

 

「あはは、面白そうだね! せっかくだからやってみる? 療養所のごはんにも向いてそうだし」

 

「ああ。だがそのためには生息環境や餌についてもっと詳しく知らねばならん」

 

 真剣な表情でメモ紙(パピルス)片手に考え込むゴブスレさん。彼を背後から抱きしめ、柔らかな肢体を押し付けながら覗き込む牛飼若奥さんの顔には苦笑の色が見て取れます。ガンギマリな顔でゴブリンゴブリン言ってた頃を思わせる昔の彼を思い出しているのでしょうか? ……ほんの数年前までそうだったんですよねぇ……。

 

 

「まーたオルクボルグが夢中になってる。……ねぇ、親戚として何か知らないの?」

 

「いやぁ、拙僧只人(ヒューム)の社会に染まった後、親戚付き合いを疎かにしておりましたからなぁ」

 

「しんせきってことは、とかげさんからもおいしいおだしが……」

 

「じゅるり……」

 

「こらこらおちびちゃんたち、私の亭主をそんな目で見るのは止めてもらおうか」

 

 

 女将軍さんにガッチリとホールドされ、たわわに顔を押し付けられるダブル吸血鬼ちゃん。鋼のように鍛え上げられた筋肉の上に搭載されている胸部装甲は、剣の乙女ちゃんの『ふかふか』や女魔法使いちゃんの『ふわふわ』、闇人女医さんの『どたぷ~ん』とも異なる『むっちむち』な触り心地。触れれば弾き返すような感触に負けた2人が骨抜きにされちゃってますね。

 

 

「まったく2人して……ああそうだ、アンタもご飯を集りに来ただけじゃないんでしょ? さっさと本題に入りなさいな」

 

「げふぅ、御馳走様なのです。……もうちょっと食後の余韻に浸っていたいところなのですが、仕方が無いのです」

 

 

 半目で睨む女魔法使いちゃんをいなしつつ、ぽっこりと膨らんだおなかを満足そうに擦りながら向き直る賢者ちゃん。四次元ポシェットから取り出した封書には陛下直々の案件の証明である封蝋が施されており、金等級以上への依頼であることが伺えます。封筒の宛名に書かれているのは……ゴブスレさんの名前ですね! そういえば昨年末に陛下が遊び視察に来た帰り際に依頼の話をしてましたっけ。

 

 封蝋を砕きながら開封し、中の手紙に目を通すゴブスレさん。一通り読み終えた後、賢者ちゃんに視線を向けコクリと首肯。彼に頷きを返した賢者ちゃんが、依頼の内容について話し始めました……。

 

 

「彼の了承も得られたので、依頼の内容を伝えるのです。――依頼内容はまず第一に要人護衛。陛下の妹君2人を北方辺境に暮らす入り江の民の頭領、彼女たちの叔父の元へと連れて行くことなのです」

 

 

 ほほう、王妹殿下1号と2号を伯爵夫人(おかあさん)の弟である頭領(ゴジ)に逢わせてあげるんですね! 原作(ほんへ)では父親の負債を返済するために北方辺境へと赴いていましたが、この物語(キャンペーン)でも同様の理由なんでしょうかね?

 

 

「第二に顔合わせ。新しき金等級である『辺境最優』と秩序の護り手たる『辺境最悪』に、北狄と戦う彼らと交流を深めてもらいたいのです」

 

 

 なるほど、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の活躍で王国の財政、戦況は安定していますし、支援を求めるというよりは有能な人材を紹介する感じなんでしょうか。近い将来城塞都市近郊を領地として貴族の家を立ち上げるダブル吸血鬼ちゃんにとってはご近所さん(近いとはいってない)になるわけですし、仲良くしておくのは大切でしょう。

 

 冒険者ギルドがない北方辺境において認識票は意味をなしませんが、逆に言えば実力を認めてもらえば出自でとやかく言われることもありません。ダブル吸血鬼ちゃんたち吸血鬼(ヴァンパイア)を新たな秩序の種族として認めてもらう良い切っ掛けになれば良いですね!

 

 

「第三に調査。昨年秋口から入り江の民によってもたらされる交易品が減少しているのです。香辛料や装飾品など嗜好品が多いので直ちに日常生活に支障が出るわけではありませんが、商人たちの間で不安の声が上がっているのです。状況を把握し、可能であれば原因を排除して欲しいのです」

 

 

 ふむふむ、これまた重要な案件ですね。喫水の浅い船を駆り、漁業や交易を生活の糧にしている勇敢なる蛮族である入り江の民(ヴァイキング)。彼らの交易が滞ることは流通全体の流れが停滞することを意味します。放置していれば生活必需品にも影響が出かねませんので、しっかりと原因を突き止める必要がありそうです。

 

 

「――頭領とその奥方との親交を深める都合上、『辺境最悪』の正妻2人は同行願いたいのですが、それ以外の細かな人選は『辺境最優』に任せるのです。……誰が行くのかで喧嘩しないよう、しっかりと考えて欲しいのです」

 

「……ああ、判った」

 

 

 ヒソヒソと声を交わす賢者ちゃんとゴブスレさん。正妻2人ということは妖精弓手ちゃんと令嬢剣士さんは確定ですね。ダブル吸血鬼ちゃんに王妹2人、ゴブスレさんを合わせて現在7人が選出済み。戦闘能力以外にも移動や交渉能力なんかも考慮しないといけませんし、あまり人数が多くても動き辛くなってしまうかも。これはなかなか難しそうな予感がします。栄養満点なご飯を食べたばかりなのにキリキリと痛むのか、ゴブスレさんが胃のあたりを押さえてますねぇ……。

 

 

「……ふぅン、妹姫(いもひめ)様と後輩君は確定。そうなる同行者はあと2、3人てところかなぁ?」

 

「北方辺境では嗜虐神信仰が盛んと聞く。……実に興味深い」

 

「流氷に極光(オーロラ)……見てみたいなぁ……」

 

 

 ――さぁ、聴覚の鋭い森人(エルフ)吸血鬼(ヴァンパイア)のお嫁さんたちが内緒話を聞きつけ、場は既に混沌が溢れてきています! 英雄雛娘ちゃんもチラチラと視線を送ってますし、一党(パーティ)面子ではない圃人(レーア)コンビまでワンチャンあるかもという顔をしていますよぉ!! 

 

 

「……!!」

 

 

……あ! 緊張感に満ちた場に耐えかねてゴブスレさんが戦略的撤退を選択しました!! 断固たる決意で駆け出したゴブスレさんを見目麗しい女の子たちが追いかける光景を前に、槍ニキがボソリと呟きます……。

 

 

「カワイ子ちゃんたちに追いかけられてるっつーのに、なんて羨ましく無ェ光景なんだ……」

 

「変わってやったらどうだ? 英雄になる夢を叶えた『辺境最強』さんよ」

 

「絶っ対にノウ! お前こそ変わってやれよ、『辺境最高』の頭目(リーダー)?」

 

 

 

 

 

 

「「……いや、俺は遠慮しとく……」」

 

 

 エロエロ大司教モードの剣の乙女ちゃんによって大蛇に巻き付かれた獲物の如く拘束されたゴブスレさんを眺め、晴れやかな笑みを浮かべながら彼を見捨てる決意を固めた2人。麗しい男の友情を確認したところで、次回は試される大地への冒険です! いったい誰が残りの席を確保するのでしょうか? 私も楽しみです!!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 同行者を決めるダイスを振るので失踪します。


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セッションその17-1


 連休中にとっかかりまで書けたので初投稿です。



 

 ふぃー、なんとかセッションに間に合いましたねぇ。駒の配置にギミックの整合性、なんとか辻褄合わせが出来ましたよ……。

 

 まさか蛸神さんの配置した駒が流れの料理人に文字通り『料理』されちゃうなんて……。≪真実≫さんが別卓に流用してPCを全滅させた揺り戻しか何かなんでしょうかねぇ。

 

 蛸神さんも爆笑してましたし、代わりに信徒たちが登場するから許して貰えましたけど……これ一歩間違えば油の時と同じレベルの案件になるとこだったのでは?

 

 それにあの料理人、なんだか(N子さん)と同じ気配を感じるような……もしかして別の(わたし)だったのかも……。

 

 ……まぁ過ぎたことは置いておいて、今はダブル吸血鬼ちゃんたちの物語(キャンペーン)に注力しましょう! 視聴神のみなさんお待ちかね、サードシーズン最大級の活劇(アクション)でお送りするセッション、いよいよ開始です!!

 

 


 

 

 

 決戦!北海の大怪獣な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 陛下からの依頼で北方辺境へと赴くことになったダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)。王妹殿下と女神官ちゃんを叔父さんに逢わせてあげるためでもあり、新たな金等級である『辺境最優』ゴブスレさんならびに親愛なる隣人(Friendly Neighborhood)となった『辺境最悪』ダブル吸血鬼ちゃんとその眷属を、北狄と対峙している入り江の民(ヴァイキング)と交流させるためのものでもあります。また、近頃滞り始めた流通の原因を突き止めるという副目標もありますので、そちらも忘れずに達成してもらいたいですね。

 

 さて、目的地である入り江の民(ヴァイキング)の集落は王都の遥か北、城塞都市跡を経由して山脈を越えた先にあります。……実はダブル吸血鬼ちゃん、割と近くまで行った事があるんですよねぇ。もちろん視聴神のみなさんはお判りですね? ――そう、白兎猟兵ちゃんとそのパパたちが暮らしていた防衛陣地跡を利用した集落です!

 

 

「イヤー悪いねー。便乗させてもらっちゃって!」

 

「ボク達の足じゃ何日もかかるし、寒いぶん普段よりも沢山食料を持たなきゃいけないからさー」

 

「ふふ、問題ありませんわ。旅は人数が多いほうが楽しいですもの!」

 

 

 巨大化したイボイノシシ君が牽く馬車の荷台から長耳を突き出し御者を務める令嬢剣士さんに話しかけているのは、白兎猟兵ちゃんパパの戦友の垂れ耳と黒毛の兎人(ササカ)おじさん。集落の様子を見るついでに冬山での訓練を行うために、希望者を募って途中まで乗せてもらっているところですね。

 

 訓練に参加するのは牧場に逗留中だった圃人(レーア)コンビに……おや、叢雲狩人さんもいますね。秋口に元陸軍特殊部隊群(グリーンベレー)の3人に翻弄されたのが相当悔しかったらしく、この訓練で野伏(レンジャー)スキルを磨いてリベンジを目論んでいるみたいです。それから、馬車に並んで歩く彼もですね!

 

 

「あの、朝から歩き通しですが休憩は必要ありませんの? 昨日もずっと並走されておりましたが……」

 

「心配有難く。されど気遣いは無用、君主殿より譲り受けた星の力(核融合炉)の加護で、消耗はすぐさま回復しております故」

 

 

 幌を被せた大型の馬車に匹敵する体躯。背面の大きく開いた衣装からは背鰭のような器官が突き出し、体内で生み出された熱が齎す白い湯気をたなびかせて闊歩する、全身を分厚い黒き鱗で覆った偉丈夫。先日竜王(ゴ〇ラ)に続く道へ大きな一歩を踏み出した蜥蜴僧侶さんです!

 

 体内に取り込んだ星の力(核融合炉)を馴染ませるべく日々鍛錬に励んでいた蜥蜴僧侶さん。今回の話はまさに渡りに船といった様子で参加を表明、一回り大きくなった体格では許容人数的に馬車に乗るのが難しいため同行は厳しいと思われていたのですが……。

 

 

「まさか徒歩でついて来るだけじゃなく、段差に引っ掛かった荷馬車を1人で持ち上げちゃうなんてねー」

 

「ふふん、私の亭主殿は凄いだろう?」

 

「すご~い!」

 

「かっこい~!」

 

 

 はい、快適な道では通常の馬車の最高速度に近い時速40kmで走るイボイノシシ君と並走し、昼休憩や夜営準備以外は休憩なしでもケロっとした顔。ぬかるみに嵌った馬車をダブル吸血鬼ちゃんが持ち上げようとするのを制し、ファイト一発ソロ救助。苦手だった低温も体内で発生する熱量が増加したことで克服した超蜥蜴(スーパーリザード)人へと変わっていたのです!!

 

 これには奥様の女将軍さんもニッコリ、ダブル吸血鬼ちゃんも大好きな蜥蜴僧侶さんの活躍に大喜びです。あ、ちなみに竜眼少女ちゃんを妹である女騎士さんに預け、女将軍さんもブートキャンプに参加することになってます。本人曰く、妊娠中に鈍った身体に活を入れるのに丁度良いらしいのですが……いきなりハードルが高過ぎません?

 

 なお、当初はダブル吸血鬼ちゃんと眷属を総動員して参加者全員を空輸するという案もあったのですが、女魔法使いちゃんが半鬼人先生のところへ、剣の乙女ちゃんが水の街の古巣へそれぞれ年始の挨拶と近況報告に行くということで廃案に。つまり2人は今回不参加ということですね。では残りの面子の中で誰が同行しているのかといえば……。

 

 

「ホラ、此処がボクたちが暮らしていた集落だよ! みんな、久しぶり!!」

 

「「「「「おじさん、ひさしぶり~!」」」」」

 

「わぁ……ふわふわの兎人(ササカ)さんがいっぱい……!」

 

 

 雪原のあちこちに掘られた穴から次々に飛び出してくる真っ白な冬毛の兎人(ササカ)たちを見て目を丸くしているのは英雄雛娘ちゃん。「未知の場所を見てまわるのも冒険だろう」というゴブスレさんの推薦で参加者に選ばれました。厚手のタイツと若草祖母さんが編んでくれた毛糸のマフラーがとっても可愛いですね!

 

 

「こう一面純白だと流石にキツイな……偏光眼鏡を用意しておいて正解だった」

 

 

 2人目の同行者は闇人女医さん。嗜虐神さん信仰が行われている地域であると聞いて調査のために参加を表明。いつもの軍服にも似た民族衣装の上から牛革のロングコートを羽織り、地下暮らしの影響で光に敏感な目を護るためのサングラスをかけた姿はどう見てもヤ〇ザかマ〇ィア。なお嗜虐神さんがプレゼントした魔法の縄がしっかりと服の下に装備されていることを確認済みです。

 

 

「だいじょうぶ?」

 

「きょうはここにおとまりさせてもらうから、ゆっくりやすめるよ!」

 

 

 ……お、ダブル吸血鬼ちゃんが最後の1人を馬車から降ろしてますね。2人に両側から支えられ、苦悶と恍惚半々というなかなか味わい深い表情を浮かべているのは……。

 

 

「ひ、暇だからって揺れる馬車の中で不浄本なんか読むんじゃなかった……うぷ

 

 

 ――ただでさえ血色の悪い顔を真っ青にしている、妖術師さんですね!

 

 

「まったく、わたしたちと一緒に訓練したほうが良いのでは?」

 

「や~だぁ……幽霊船(ナグルファル)の存在を確かめる絶好の機会だし……」

 

 

 背後から浴びせられる少女巫術師さんの呆れた声にもめげず、ギラギラと知識欲に塗れた瞳を北へと向ける妖術師さん。死霊術師の間に伝わる伝説のアンデッドを見てみたいという想いで手を挙げた彼女ですが、鋭敏になった感覚が乗り物酔いを引き起こしグロッキー状態です。あ、ちなみに幽霊船(ナグルファル)は北海で沈んだ交易船に乗っていた死者の怨念で動いている存在とか、死して尚戦い続ける歓びを得たいと願った入り江の民(ヴァイキング)の戦士が変じたものだとか言われてますね。

 

 というわけで、英雄雛娘ちゃん、闇人女医さん、妖術師さんの3名を加えた総勢10名が今回北方辺境の先、暗い夜の国へと赴くメンバーです! 若草知恵者ちゃんと白兎猟兵ちゃんは若草祖母さんといっしょに子どもたちの面倒を見るために牧場へ残ってくれました。いつもお留守番だったり後方支援だったりする彼女たちにも、そろそろ冒険を楽しんでもらいたいですねぇ……。

 

 

 

「何度か痩せ細ったゴブリンが攻めてきたけど、誰も怪我すること無く追い返したってさ。たぶん来る途中で潰した巣のヤツらじゃないかな」

 

「そうか」

 

 

 訓練の拠点に使わせて欲しいことを告げ、使用料代わりにインベントリーに詰めて持ってきた保存食の山を運び込んだ後、山肌を彫り上げて作られた居住区画で歓待を受けている一行。サイズ的に入られなかった蜥蜴僧侶さんは、女将軍さんと吸血鬼君主ちゃんといっしょに幌馬車にお泊りです。空を行けばあっという間の行程ですが、陸路となればやはり時間が掛かるわけで。何度か夜営を挟んだ道中では日々の鍛錬以外にもイベントがありました……。

 

 ――そう、ゴブリン駆除です。

 

 パっと見何も無い雪景色に思えても、見るものが見れば判るゴブリンの痕跡。誰もが"小鬼殺し"を名乗れるメンタルと技量を兼ね備えた集団にかかれば巣穴の特定など容易いもの。厳しい寒さを凌ぐために被せられた粗末な(むしろ)をひっぺがし、御宅訪問(ハック&スラッシュ)を繰り返していました……。

 

 


 

 

「ねぇ、ほんとにいいの? みててもおもしろくなんかないし、つらいものをみるかもしれないよ?」

 

 

 巣穴を前に振り返り、心配そうな声をあげる吸血鬼君主ちゃん。ゴブリン駆除に同行しようとする()()を気遣い、その決意を再確認しています。

 

 

「――ええ。お姉様と添い遂げると決めた以上、避けて通ることは出来ませんし、私自身が許しません。だから、お願い……」

 

「私からもお願いします。己の目で見定めなければ、判らないこともあると思うんです」

 

 

 半身ともいえる双子の姉妹からの後押しに強く頷き、拳を握りしめる王妹殿下……ここでは神官銃士ちゃんと呼びましょうか。鈍い色を放つ籠手(ガントレット)は微かに震え、隠し切れぬ緊張と恐怖を露わにしています。一緒に突入する圃人(レーア)コンビと英雄雛娘ちゃんも同意見のようで、彼女の手に己の手を重ね不安を取り除いてあげてますね。

 

 

「迷宮探検競技の話を聞く限り、素人(ヌーブ)ではあるまい。お前が付いていれば大丈夫だろう、戦友」

 

「うん……」

 

 

 突入部隊の指揮を執るゴブスレさんの言葉に頷く吸血鬼君主ちゃん。白磁等級の冒険者とは比較にならないほど恵まれた状況でのゴブリン退治、これで失敗するようではどのみち生き残れないという話ではありますが、姉妹でもあり恋人でもある存在を危険に晒すことに抵抗を感じるのは当然かもしれません。決心がつかず俯いていた吸血鬼君主ちゃんでしたが、そんな彼女を不意に抱き上げる人物が。黄金に輝く籠手を嵌めたその人物とは……。

 

 

「王妹殿下の気持ちも察してやれ、おちびちゃん。お前を慕う女たちは、ただ守護(まも)られるだけの弱い存在なのか?」

 

「はがねのおねえちゃん……」

 

 

 厳しくも温かい目で吸血鬼君主ちゃんの顔を覗き込み、優しく問いかける女将軍さん。大きく首を横に振るのを見てそっと頭を撫でています。

 

 

「ならば好きにさせてやれ。己の生命の賭け時は己自身で決めるものだ。お前を愛し、お前が愛する女たちがそうしたように……な?」

 

「そうそう! 私が自分の全てをシルマリルとヘルルインにあげたみたいにね!!」

 

「おあ~……」

 

 

 女将軍さんに促がされ顔を向けた先には、待機組となった妖精弓手ちゃんの眉を立てた強い笑み。同じく待機組の吸血鬼侍ちゃんを抱きしめながら薄い胸を張る姿に漸く心が決まったのか、ぴょんと女将軍さんの抱擁から抜け出して神官銃士ちゃんへと抱き着きました。

 

 

「わかった、いっしょにいこう! でも、ぜったいむりはしないでね?」

 

「――はい、お姉様!」

 

「ふふ、良かったですね!」

 

 

 神官銃士ちゃんの咲き誇る向日葵のような笑顔と、我が事のように喜ぶ女神官ちゃんの春を告げる菜の花にも似た微笑み。趣は異なりますが、どちらもとても魅力的ですね。愛しい花たちの笑みに吸血鬼君主ちゃんも気合いを入れ直し、「あぶないとおもったらすぐによんでね!」とやる気になったみたいです。

 

 

「では、ご武運を」

 

「ああ、行ってくるよ」

 

 

 コツン、と互いの拳をぶつけ合い微笑む蜥蜴僧侶さんと女将軍さん。軍勢同士が争う戦場とはまた違った戦いですが、纏う空気は同じもの。防寒着に籠手だけを装備し、手には鞘に入った光剣という軽装で駆除に挑む姿は言葉に出来ない「威」に溢れていますね。

 

 

「まんがいちなかからにげてきても、ここでぜんぶしまつするからあんしんしてね!」

 

「ありがとう! ……それじゃ、いくよ~!!」

 

 

 パァンと手を打ち合わせ、巣穴へと歩を進める吸血鬼君主ちゃん。その後に少女剣士ちゃんと英雄雛娘ちゃんが続き、真ん中に双子の神官姉妹と少女巫術師さんを挟んで最後尾に女将軍さんとゴブスレさんと言う隊列ですね。

 

 周辺の出入り口にトーテムは無く、妖精弓手ちゃんと叢雲狩人さん、兎人(ササカ)のおじさんたちが見張っています。一番使われているこの出入り口にはサイズ的に入られなかった蜥蜴僧侶さんと、後輩に出番を譲ったに令嬢剣士さん、そして青い顔の妖術師さんと彼女を介抱している吸血鬼侍ちゃんがスタンバっているという万全の布陣。絶対に知識を身に着けたゴブリンを逃さないという殺意に満ちた構成は、見ていておっかないですねぇ……お、中からゴブリンの声が響いてきました! 巣穴の内部に場面を切り替えてみましょう!!

 

 

 

「≪いと慈悲深き地母神よ、闇に迷える私どもに、聖なる光をお恵みください≫」

 

「「「「「GOB!?」」」」」

 

 

 女神官ちゃんの唱えた≪聖光(ホーリーライト)≫に目を潰され、のたうち回るゴブリンたち。あえて匂い消しを行わないことで飢えたゴブリンの暴走を誘発し、罠や不意打ちを企む理性を奪う作戦は見事に成功。それは同時に、一斉にゴブリンの群れが押し寄せてくることを意味しますが、通路いっぱいに広がる悪夢のような光景も何人か以外にとっては見慣れたもの。油断せず、しかし余裕を持って挑めば容易く対処出来る程度の脅威です。

 

 

「きしゅうじゃないから、おとをたててもきにしなくてだいじょうぶ! むしろきかせてやるくらいのきもちでいいよ~!!」

 

「判りましたわお姉様! ……(シャ)ァ!!

 

「GO!?」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの声に後押しされ、猟犬の如き歩法(ステップ)でゴブリンへ近付く黄金の残光。掬い上げるような左のボディブローでゴブリンを打ち上げ、宙に浮かんだその頭を右手でキャッチ。巣穴の壁面に叩きつけられ西瓜(スイカ)のように頭部が爆発四散したその個体を別の一匹に投げつけ、断頭台(ギロチン)の刃の如く振り下ろした踵で諸共に粉砕しているのは神官銃士ちゃんですね。

 

 突き出された毒短刀(ナイフ)を籠手でパリィし、そのまま頭部を掴み上げる姿はまさに制圧前進系神官。格闘の基礎は蟲人英雄(ブラッアールエッ)さんに教えてもらったと本人は言ってましたけど、どちらかといえば赤い通り魔(レッドファイッ!)な気が。その腰に下げた光を放つ短筒(ボルテックシューター)は飾りでは……あ、太陽神さんが「こんな狭いところで使ったらダメ!」って託宣(メール)を送ってたみたいです。どんだけヤバいんですかねぇ……。

 

 

「狭い場所では斬るよりも突く、斬るよりも……えいっ!」

 

「GO……B……」

 

 

 令嬢剣士さんや半森人夫人さんの二刀流の先達から教わった内容を復唱しながら立ち回っているのは英雄雛娘ちゃん。剣の腹で足を払い、倒れ込んだゴブリンの心臓目掛け的確に切先を突き刺しています。背面まで貫通させた後に手首を捻り、しっかりとトドメを刺しているところに教育の成果が見えますね。

 

 

「「「「「GOBGOBGOB!!」」」」」

 

 

 青い果実の香りに誘われにじり寄るゴブリン、リーチの差を活かし水平に構えた特大剣で牽制して近付かせない立ち回りは重戦士さんに指導してもらったものですね。突き付けられた切先によって攻めあぐねていたゴブリンですが、一斉にかかれば組み伏せられると考えたのでしょう。自分は狙われない、他のヤツが斬られている間に押し倒せば良いという根拠のない自信に突き動かされ口の端から涎を振りまきながら飛び掛かったところで……。

 

 

 

 

 

 

「――いや、空中(そこ)は逃げ場がないじゃん」

 

 

 幾筋も煌めく紅の剣閃。英雄雛娘ちゃんの陰に潜んでいた少女剣士ちゃんの大太刀が跳躍していたゴブリンを斬り刻み、肉片と臓物が地面にブチ撒かれました。≪聖光(ホーリーライト)≫の輝きで照らされた壁面や床には何本もの線が走っているのが確認出来ます。その厚みは少女剣士ちゃんの持つ大太刀と同じ……なんと巣穴ごとゴブリンを解体していたのです! 刀身に付着した血を振り払い次の獲物に向かっていく2人は優秀な狩人になれそうですね!

 

 

「あらあら、みんな張り切っちゃって」

 

「だが誰1人として油断はしていない。個人の技量に依存しているが故に兵士には向かんが、皆良き冒険者ではないか」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 頬に手をあてうっそりと微笑む少女巫術師さんの隣で、血と暴力を振りまきゴブリンに恐怖を与えながら巣穴を制圧していく冒険者たちの姿に満足そうな女将軍さん。新米をフォローするために備えていたゴブスレさんも肩の力を抜いて……おや? なんだか奥のほうが騒がしいですね。キィキィというゴブリンの声を伴いながら大きな何かが向かってきて……。

 

 

 

 

 

 

「HOBGOBGOB!!」

 

田舎者(ホブ)か。どうやら巣全体が飢えていたようだな」

 

 

 威圧するように咆哮を上げながら現れたのは大小鬼(ホブゴブリン)。ですがゴブスレさんの言う通りその姿は常のものとは大きく異なり、肋骨の目立つ痩せこけたもの。自分の力を誇示するように持ち歩いている大金棒はその手に無く、粗末な大棍棒(ラージクラブ)です。そして反対の手に握っているのは不快な悲鳴を漏らすゴブリン。戦闘態勢を維持している一行を前に大小鬼(ホブゴブリン)は……。

 

 

 

「HOB!!」

 

「GOB!?!?」

 

 

 握っていたゴブリンを頭から喰らい、不味そうに嚥下し骨と皮だけの足を吐き捨てました。

 

 

「GOBGOBGOB!?!?」

 

 

 群れの仲間?の無残な最期を目撃したことで恐慌状態に陥り、我先にと逃げ出すゴブリンには目もくれず、一行を舐めるように見回す大小鬼(ホブゴブリン)。男と小さい雌は餌に、大きな雌は孕み袋にしようという魂胆なのでしょう。仲間にそんな下卑た視線を向けられたことで瞳に攻撃色を宿した吸血鬼君主ちゃんが牙を剥く笑みを浮かべ、ギチギチと爪を伸ばし始めたところで背後から制止の声がかかりました。

 

 

 

「そう熱くなるなおちびちゃん。ちょっとこれを預かっていてくれ」

 

「わわっ!? ……うん、まわりのけいかいはまかせてね!」

 

 

 女将軍さんにポンと頭に手を置かれ、手渡された光剣と彼女の顔を交互に見る吸血鬼君主ちゃん。女将軍さんが静かにキレているのを察し、この場は彼女に任せるつもりのようです。剣を手放し無手で近付いてくる雌に対し嘲笑を浮かべる大小鬼(ホブゴブリン)。股座をいきり立たせた姿でゴブリンの血に塗れた手を無造作に伸ばし、女将軍さんを掴み上げようとしますが……。

 

 

「――なんだそれは。相手が無手の女というだけで油断するとは愚か者め」

 

「HOB!?」

 

 

 優美な曲線を描きながら繰り出された上段蹴りが、田舎者(ホブ)の側頭部を打ち抜きました。

 

 激しく脳を揺さぶられたことでたまらず膝を着いた巨体に繰り出される蹴打の嵐。肉を潰し骨を砕く拳と蹴りによって痩せた身体はみるみるうちに膨れ上がり、反対に股間にぶら下がるモノは縮こまっていきます。飛び散る血が頬に付いても構わずに繰り返される一方的な蹂躙にみんな目を丸くしていますね。

 

 

「うわ……容赦ない……」

 

「奴らに容赦なぞ不要だ。だが……」

 

 

 ゴブリンがどんな悲惨な目に遭おうと何の痛痒も感じないゴブスレさんですが、女将軍さんの無双っぷりには少々困惑気味な様子。彼の問い掛けるような視線に気付いた吸血鬼君主ちゃんが、攻撃色の収まった瞳に笑みの色を浮かべて答えました。

 

 

 

 

 

 

「むかし、てあしやめがかけたじょうたいでとかげさんとごかくになぐりあってたから、ごたいまんぞくならあれくらいよゆ~よゆ~!」

 

「……そうか」

 

 

 え、なにそれこわい。いったい2人の過去にナニがあったというのでしょうか……。股間を踏み潰し、首から頭部を捩じ切ったところで蹂躙劇は終了。一方的な展開にみんなドン引き……してるのはゴブスレさんだけですね。他の女の子たちは揃いも揃ってキラキラした目で満足げに胸を張る女将軍さんを見つめています。これが女子力(物理)ってヤツなんですかねぇ……。

 

 

 

 巣穴の主である田舎者(ホブ)を駆逐し、残敵掃討に移った一行。横穴から逃げようとしたゴブリンたちですが、出口を抑えているみんなによって無慈悲に追い返され、巣穴の奥へ奥へと追い詰められています。何故自分がこんな目に遭わなければならないのだ!というゴブリン特有の自分勝手な怒りと、他のヤツを差し出して自分だけは助かってやるという根拠の無い楽観に満ちた最奥の部屋に足を踏み入れた一行が見たものは……。

 

 

 

「――成程、これがゴブリンが齎す光景か」

 

「あの時マスターに助けてもらわなかったら、私も……っ」

 

 

 おそらく食糧庫兼繫殖場だったのでしょう。汚物と食い残しの散乱した広間には生き残りのゴブリンが集まり、自分が集団の内側に潜り込もうと血を流すおしくらまんじゅうの真っ最中。吸血鬼君主ちゃんたちの視線に匹敵する、氷室のように冷え切ったその壁面には、元は鎖で繋がれていたであろう女性の遺体が残っていました。……()()()()()()()()()()()

 

 散々嬲られた末に息絶えたのでしょう。腐敗しやすい内臓は真っ先に喰われ、胴体から下は背骨が残るのみ。近くに打ち捨てられている大腿骨には無数の歯形が刻まれています。そして何よりも悍ましいのは……。

 

 

「ねぇ、アンタたちどんなアタマしてたらこんな酷いこと出来るの? そのクソの詰まった中身見せなさいよ……!」

 

 

 生前は可愛い顔立ちだったであろう女性の顔に、何層にも重なって塗りたくられた汚らしい体液。唯一残っていた手は言うに及ばず、その顔の穴という穴に穢された跡が残っている無残な光景です。

 

 過去にダブル吸血鬼ちゃんの受けた凌辱を祭祀場跡で観たことで、若干の耐性が出来ていた神官銃士ちゃんですら口元を抑え蹲るほどの衝撃。喰うものが無くても性欲を抑えきれなかったのか、乾ききらずに粘つく光を帯びた亡骸は常人には耐えられないほどのもの。……ですが、ゴブリンの巣穴に潜るということは、このような惨状を何度も見る可能性があるということです。

 

 

「――すぐに綺麗にしてあげますからね……」

 

 

 足元の汚物を一顧だにせず遺体へと近付いていく女神官ちゃん。慈悲を乞い、媚びへつらうゴブリンたちには目もくれずそっと彼女を抱き上げます。その無防備な背中を見て人質にしようと何匹ものゴブリンが殺到しますが、その悉くが影から伸びた触手に貫かれ無様なダンスを踊る羽目に。神官銃士ちゃんを連れて背後に降り立った吸血鬼君主ちゃんに感謝を述べ、手を重ねてきた双子の姉妹とともに紡ぐの聖句は、もはやゴブリンを生命とは見做さず、世界を侵蝕する穢れであると断ずる≪浄化(ピュアリファイ)≫の奇跡……!!

 

 

「≪いと慈悲深き地母神よ、どうかその御手で、我らの穢れをお清めください≫」

 

「≪太陽礼賛! 光あれ!≫」

 

 

 2人を中心に広がる輝き。広間から巣穴全体を満たすほどの光の奔流が収まった後には、汚物もゴブリンの姿も無く、ただ清らかな水があるだけ。そして……。

 

 

「――ずっと寒い場所に居て、辛かったですよね。……彼女を送って頂けますか?」

 

「うん、まかせて!」

 

 

 綺麗に浄められた女性の亡骸を女神官ちゃんから受け取り、優しく抱きしめる吸血鬼君主ちゃん。その身体が徐々に光へと変わり、天井をすり抜けて消えていきました。善き死霊術師(ネクロマンサー)の証である死者との対話により彼女にゴブリンを殺し尽くしたことを伝え、あるべき場所へ還ってもらったんですね。

 

 

「これがお姉様の、みんなの見てきたものなのですね……」

 

 

 緊張の糸が切れたのか、しゃがみ込んでしまった神官銃士ちゃん。慌てて駆け寄ってきた吸血鬼君主ちゃんを抱きしめ、震えながら心情を吐露しています。

 

 

「うん。まえにもはなしたよね? ぼうけんはたのしいことや、きれいなものばかりじゃないって。……いやになっちゃった?」

 

「いいえ……いいえ! そんなことありません!! 美しいものもそうでないものも、すべて合わせての冒険ですもの。だから、私は前に進みます! お姉様やみんなと一緒に!!」

 

 

 浮かんだ涙を拭い、高らかに宣言する神官銃士ちゃん。中の様子を見に来た吸血鬼侍ちゃんたちにも届くような声が、洞窟中に響き渡るのでした……。

 

 


 

 

「――とまぁ、中はそんな感じだったよ亭主殿」

 

「フム、流石は巫女殿の半身ともいえる方。心の強さは相当のものですな」

 

 

 巣穴での顛末を蜥蜴僧侶さんへと語る女将軍さん。幌を閉じ、隙間を毛布で塞いだ馬車の中に縮こまるように入っている姿はちょっとユーモラスですね。愛用していた炬燵に入るには身体が大きくなりすぎてしまったため、星の力(核融合炉)の出力を上げて車内の温度を上げているみたいです。温度調節に苦心する彼を見て笑う女将軍さんの膝の上には神妙な顔つきの吸血鬼君主ちゃんが抱っこされてますね。

 

 

「えっと、その……」

 

「ん? どうした?」

 

「やっぱりぼく、あっちにいこうか? ふうふみずいらずのほうがいいんじゃない?」

 

 

 ああ、竜眼少女ちゃんを預けてきたことで久しぶりに2人の時間がとれたのに、自分が一緒にいて良いのか不安だったんですか。おずおずといった様子で見上げてくるちっちゃな戦友の様子に顔を見合わせていた2人ですが、示し合わせたかの如く同時に吹き出しちゃいました。

 

 

「あいや失礼! ですがそれは杞憂というもの。我ら2人とも、君主殿を我が子のように思っております故」

 

「ふぇ?」

 

「なにをそんなに不思議そうな顔をしている? どちらのおちびちゃんも私たちにとっては戦友にして恩人。邪険に扱うわけ無いだろう……そらっ」

 

「ふむぅ!? んむ……ちゅー……」

 

 

 呆けたように開いていた口に吸い口を押し付けられ、反射的に吸ってしまう吸血鬼君主ちゃん。口内に感じる生命の雫と優しく頭を撫でられる感触にトロンとした瞳になり、やがて目を瞑って眠るようにちゅーちゅーし始めました。恐るべき吸血鬼(ヴァンパイア)には見えないあどけない表情に、頭上で向き合う2人も柔らかな笑みを浮かべていますね。

 

 

「これが王国の……秩序の勢力の盾となる集団の頭目というのだから実に世界は面白いな。亭主殿もそう思うだろう?」

 

「然り。……先日の勝負にて君主殿の口から出た言葉。真剣に考えるべきやもしれませぬな」

 

 

 あ、竜眼少女ちゃんが成長したら『ちゅーちゅーする』……『眷属に迎え入れる』って話でしたっけ? 蜥蜴僧侶さんをやる気にさせるための方便だった筈ですが、なにやら真実味を帯びてきてますねぇ……。

 

 

「あの()が成人するのが何年先なのか見当も付かんが、私もあと100年は生きる予定だからな。それ以降は亭主殿に任せるとしよう」

 

「はっはっは、100年とは剛毅ですな! ……拙僧もいつ戦場で斃れるか判らぬ身。されど、能う限り貴女(きじょ)とともに歩むこと、此処に約束致しましょう」

 

 

 硬さの異なる口同士の触れ合いとともに交わされる約束。寿命の差という越えられない壁がありますが、2人には出来るだけ幸せな時間を一緒に過ごしてもらいたいですね!

 

 さぁ、明日は訓練組と別れていよいよ国境の山脈越えです! 滑落や雪崩に注意しながら暗い夜の国入りを目指しましょう!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 筆のノリが割と良いので失踪します。

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 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその17-2


 東北弁が難解過ぎて諦めたので初投稿です。




 

 前回、吸血鬼君主ちゃんの光源氏計画がパパママ公認になったところから再開です。

 

 兎人(ササカ)の集落で歓待を受けた翌日。肌を刺す寒風と雲一つない青空の下、ダブル吸血鬼ちゃんたちが訓練組と一旦お別れして出発する準備を整えていますね。

 

 

「それじゃあ、かえりにまたよるからね!」

 

「うむ、宜しく頼む」

 

()()()()()()()()()()()()()()、君主殿も道中気を付けて下され」

 

 

 リラックスしながらちゅーちゅーさせてもらって吸血鬼君主ちゃんは元気いっぱい! 蜥蜴僧侶さんと女将軍さんにブンブン手を振って行ってきますのご挨拶をしていますね。雪で反射するおひさまの光の影響か、雲の多い日よりもテンション高めです。

 

 

「みんな、くんれんがんばってね!」

 

「ああ、勿論だともご主人様。期待していてくれたまえよ」

 

「むふ~……ふわふわ……」

 

 

 お、叢雲狩人さんのたわわに顔を埋めてスキンシップしている吸血鬼侍ちゃんも肌艶は良いですね。令嬢剣士さんもキラ付けが完了してますし、2人揃ってちゅーちゅーさせてもらっていたのでしょう。

 

 

「うぅ……あそこまでやって寸止めなんて……酷いです……っ」

 

「まぁまぁ。お兄様だって意地悪で清い関係でいろと仰ってるわけじゃありませんし、もう少しの辛抱よ!」

 

 

 おおう、王妹殿下1号2号こと女神官ちゃんと神官銃士ちゃんも真っ赤なお顔。どうやら吸血の副次的効果でムラっとしたままお預けだったみたいです。む~と膨れている女神官ちゃんを慰める神官銃士ちゃんはちょっぴりお姉さんっぽく見えますね!

 

 

「雪上で使う装備は用意してある。残りは荷馬車と一緒にしまっておけるか?」

 

「ん、だいじょうぶ。すぐとりだせるようにしておくね!」

 

「せっかく用意してきたんだもの、使わなくちゃつまらないものね!」

 

 

 此処から先は徒歩ということで大きな荷馬車をインベントリーにしまっている吸血鬼君主ちゃん。その隣でゴブスレさんが並べているのは……2枚1組で括られた細長い板ですね。先端が反り返った形をしたそれを妖精弓手ちゃんが拾い上げ、受け取った吸血鬼君主ちゃんがどんどんインベントリーに格納しています。あの形状、もしかして……。

 

 

「えっと、大丈夫ですか?」

 

「うぅ……だいじょばないぃ……なぐさめて……あまやかしてぇ……」

 

「ひゃん? ……もう、悪戯はだめですっ」

 

 

 お、うさぎさんたちのおうちの扉から英雄雛娘ちゃんが出て来ましたね。背中にはカタカタと震えている妖術師さんを背負っています。紅潮しツヤッツヤな肌とは対照的に、何故か死んだ魚のような目をしてますが……。

 

 

「あらあら、始める前はあんなに持久力(タフさ)を自慢していたのに……よわよわ過ぎません?」

 

「いやこっちは2人掛かりだったし……でも、頭目(リーダー)さんはいつもあんな気持ちだったんだ……」

 

「ふふ、今度頭目(リーダー)さんたちに()()()()してみましょうか」

 

「……うん」

 

 

 2人に続いて現れたのは、熱の籠った視線で妖術師さんを見る少女巫術師さんと下腹部に手をあててモジモジする少女剣士ちゃん圃人(レーア)コンビ。2人の首から下げられたチェーンには、見覚えのあり過ぎる()()が通されて……あっ(察し)。

 

 

「げに恐ろしきは圃人(レーア)の生命力か……アイツ、最後のほうは半分気絶してなかったか?」

 

 

 うーむ、闇人女医さんが呆れ半分畏れ半分で圃人(レーア)コンビを見ているあたり、だいぶ激しかったんだろうなぁ。まぁ英雄雛娘ちゃんに背負われながら彼女の成長著しいたわわをふにふにしていますし、妖術師さんも大概だと思いますけど。

 

 

 さて、「ふへへ……」とアレな笑みを浮かべる妖術師さんをイボイノシシ君の背に乗せたらいよいよ出発です! 徒歩でおおよそ3日の行程、いったいどんなイベントが一行を待ち受けているのでしょうか?

 

 


 

 

「Bmooooooooooooo!!」

 

「Bearrrrr!?!?」

 

「「Gigaaaaas……!?」」

 

 

 圃人(レーア)がすっぽり埋まってしまうほど降り積もった雪ですら吸収しきれぬ咆哮が響く山中。妖精弓手ちゃんの腰回りを越える太さの牙を用いたしゃくりあげが直撃し、純白の雪を朱に染めながら痙攣する灰色熊(Grizzly Bears)に対しイボイノシシ君がトドメの踏みつけをキメました。自慢のペットが一撃でやられてしまい、気軽な略奪のつもりで襲い掛かってきた単眼巨人(キュクロプス)たちも浮足立っていますね。

 

 原作では鉱人の城塞(ドワーフフォートレス)跡を通り抜けていた山越えの道のりですが、VIPの護衛依頼であり、戦力的にも物資的にも余裕があるため比較的安全な山間のルートを選択した一行。ダブル吸血鬼ちゃんや圃人(レーア)コンビが見上げるほどに積もった雪はイボイノシシ君がその巨体で掻き分けてくれ、足元に潜むクレヴァスも目視しやすくなり非常に快適な進み具合でした。

 

 

「――みんな注意して、何かが近付いてくる。……巨人(ジャイアント)かも」

 

 

 太陽神さんが傾きかけ、夜営の準備を始めていた一行。辺りに漂う獣臭にいち早く気付いたのは妖精弓手ちゃんでした。火起こしの手を止め武器を構える一行の前に姿を現したのは、ヘラジカ(ムース)の毛皮で局部を隠し、手に丸太にしか見えない巨大棍棒(グレートクラブ)を握った単眼の巨人(キュクロプス)がなんと12体。勲章のつもりなのか、襲った相手の鎧や兜に鎖を通して首飾りのように身に着けています。

 

 そして彼らに付き従い唸り声をあげる大きな熊。西方辺境に生息する個体よりも大型ですが、巨人の傍に居ては飼い犬サイズにしか見えません。ダブル吸血鬼ちゃん一行の持つ食料と女の子たちを狙いらしく、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら熊を嗾けてきたのです!

 

 

「てをだしてきたのはそっちなんだから、なにされてももんくはいわないよね?」

 

「すぐにおわらせるから、ちょっとまっててね!」

 

「連中手慣れてるみたいだし、中途半端はダメよ?」

 

「「は~い!!」」

 

 

 妖精弓手ちゃんからのGOサインを受け、サメのような笑みを剥き出しに単眼の巨人(キュクロプス)の集団へと飛び掛かるダブル吸血鬼ちゃん。体重を軽減させているおかげで雪に足を取られる事無く駆ける姿に巨体が慌てて巨大棍棒(グレートクラブ)を振り下ろしますが……。

 

 

「そんなおおぶり、あたらないよ~だ!」

 

「あしもとがおるすだよ!!」

 

 

 サイドステップで一撃を躱し、外套(マント)に偽装していた翼を展開して上空へと舞い上がる吸血鬼君主ちゃん。巨人の一体の顔面に両手で持った円盾()を叩きつけ、前が見えねぇ状態にしつつその頭を足場に次の獲物へと向かっていきます。顔を押さえて絶叫する仲間に気を取られている隙をついて、一際大きなボスと思われる巨人を村正と魔王剣(サタンサーベル)の二刀流で足元から順番に斬り刻み、解体していく吸血鬼侍ちゃん! ボスが倒され統率を失った巨人たちに令嬢剣士さんの放った魔剣の一撃が後方から降り注ぎ、集落(コロニー)一つを簡単に滅ぼす巨人の群れは3分足らずで物言わぬ屍へと姿を変えるのでした……。

 

 


 

 

「――ん、ぜんぶはいになるまでもやしたから、これでアンデッドになるしんぱいはないよ!」

 

「おつかれ~!!」

 

 

 女神官ちゃんが祈りをささげた後、血刀で巨人の死体を燃やし尽くした吸血鬼侍ちゃん。討伐の証として巨大棍棒(グレートクラブ)と悪趣味な首飾りは回収していました。ペットの熊は肉と毛皮が利用出来そうなので、入り江の民(ヴァイキング)のみなさんへのお土産にするつもりみたいですね。

 

 戦の始末をした後は中断していた夜営の準備。インベントリーから取り出した大きな帆布(キャンバス)を広げ、適当な場所に風よけを設営。同じく取り出した荷馬車を設置すればあっという間に今日のお宿の完成! やっぱり便利極まりないですねインベントリー、借りパクする形になった代価を身体で支払い続けているだけのことはあります。

 

 ほんじつのおゆはんは冒険中らしく簡単シチュー。雪を沸かして作ったお湯に牧場から持参していたスープストック(豚の脂身や皮を煮出した汁を小麦粉で練り上げた半固形物。ゼラチン質でプルプル)を溶かしこみ、乾燥野菜や干し肉を細かく刻んだものを投入。汗をかいて水分と一緒に失った塩分の補給を兼ねて塩味濃い目に味付けすれば出来上がり! 黒麺麭(パン)硬麺麭(ビスケット)の好きなほうを添えればディナーの準備はおしまい、妖精弓手ちゃんや神官銃士ちゃんにも作れるお手軽さがウリですね。

 

 

「それでは……地母神様、本日も命の恵みを頂きます」

 

「「いただきま~す!」」

 

 

 大鍋からよそったシチューを美味しそうに頬張る冒険者たち。各々が持参していたドライフルーツや干し魚、ナッツなんかを交換しあう温かなおゆはんの光景ですね。今日も頑張ってくれたイボイノシシ君もお皿に顔を突っ込むようにシチューを食べてますが……それ、共食いになりません?

 

 

「美味いな」

 

「はい、あたたかくておいしいです!」

 

「おかわりはいっぱいあるから遠慮しないで食べてね!」

 

 

 がっつくことなくシチューを口に運ぶゴブスレさん。あっという間に一杯目を食べておかわりをよそう英雄雛娘ちゃんを見る()()()()()()()()()()()()()()()。……まさかゴブスレさんが冒険中の食事の際に兜を外すとは予想外でした。長時間の着用は凍傷の危険性があるとはいえ、休息中に素顔を見せたことに以前の彼を知る古株の面子は唖然とした顔になっちゃってます。

 

 気を抜いているわけでも油断しているわけでも無く、ダブル吸血鬼ちゃんや妖精弓手ちゃんといった探知能力に長けた仲間を信頼し、精神的な余裕が生まれた結果なのかもしれませんね。

 

 

 おゆはんが終われば今日の疲れを癒し、明日に備えるために早目の就寝です。原則睡眠が不要な吸血鬼(ヴァンパイア)がゴロゴロいる一党(パーティ)ですが、使用した呪文回数の回復には休息が必要です。10人を3組に分け、順番に見張りをすることになりました。話し合いの結果、組み分けは以下のようになりました。

 

 

 早番 吸血鬼君主ちゃん ゴブスレさん 女神官ちゃん 神官銃士ちゃん 英雄雛娘ちゃん
 中番 吸血鬼侍ちゃん 令嬢剣士さん
 遅番 妖精弓手ちゃん 闇人女医さん 妖術師さん 

 

 

 人数に偏りがあるのは野営に慣れていない神官銃士ちゃんと英雄雛娘ちゃんを一番楽な早番に集めたからです。睡眠時間が短くても問題無い森人(エルフ)の2人には早起きしてもらい、中途半端な睡眠時間で一番きつい中番はタフな2人に任せる構成ですね。野営の経験を積んでもらうという意味でも早番の3人は指導員として適任と言えるでしょう。中番と遅番のみんなが馬車へ乗り込むのを見送った後、女神官ちゃんが硝子の小瓶を手に立ち上がり、馬車を中心に円を描くように瓶の中の透明な液体……聖水を振りまき始めました。10分かけて防御円(サークル)を作り上げ、最後に唱えられる聖句は範囲内の人を悪意から保護する≪聖域(サンクチュアリ)≫の奇跡を願うものです……。

 

 

「≪いと慈悲深き地母神よ、その御手にて、どうぞこの地をお清めください≫」

 

 

 女神官ちゃんからの真摯な祈りを受け、地母神さんが恍惚の表情でビクンビクンと震えながら奇跡を承認。みごと決定的成功(クリティカル)で発動した≪聖域(サンクチュアリ)≫によって、馬車の周囲は暖かな光に包まれました。これで悪意をもった存在が侵入してきた際に、寝ている人たちも自動的に目を覚ますことが出来るわけですね!

 

 

 焚火を中心に10フィート(だいたい3m)ほど距離を取って向かい合うように座る早番の5人。女神官ちゃんと神官銃士ちゃんは同じ毛布にくるまって暖を取り、ゴブスレさんはフゴフゴ(いびき)をかいているイボイノシシ君に背を預けて周囲を警戒していますね。

 

 

「寝ないように注意して、でもそれに集中してたら周りの警戒が疎かになっちゃうから……」

 

 

 初めての本格的な野営の見張りということで緊張した様子の英雄雛娘ちゃん、キョロキョロと落ち着きなく周りに視線を向けていますが、それだとあっという間に疲れちゃいますね。ゴブスレさんとアイコンタクトをとった吸血鬼君主ちゃんが彼女の背後からそろ~っと近付き、翼で包み込むように抱き着きました。悲鳴をあげかけて慌てて口元を抑える英雄雛娘ちゃんの顎に手を添え、ゆっくりと彼女の顔の向きを左右に動かしています。

 

 

「あのね、めをうごかすんじゃなくて、しかいぜんたいをうごかしてみて? それでいわかんをみつけたら、あらためてそこにちゅうもくするの……どう?」

 

「……あ、何か動きました! あれは……マスターの影?」

 

「せいか~い!」

 

 

 王妹2人の毛布包みの背後に視線を向けていた英雄雛娘ちゃんが指差した先には焚火によって生み出された影に紛れてユラユラと揺れる1本の触手。元を辿れば吸血鬼君主ちゃんの影から伸びているのが判りますね。同じようにゴブスレさんの背後に伸ばした触手に神官銃士ちゃんが気付いてガバっと毛布を跳ね除け、慌てて女神官ちゃんが回収しています。

 

 

「熟練の野伏(レンジャー)は視覚以外……聴覚や嗅覚で敵の存在を察知し、使い魔(ファミリア)と契約している術者はその使い魔と相互に感覚を共有し周囲の状況を把握することが出来る。そのどちらでもない俺たちは複数人で互いの死角を補うことが必要だ」

 

「なるほど、だから互いに向き合うような配置で座っているのね! お姉様たちと違って、後ろに目は付いていないもの」

 

「え……マスター、背中に目が付いているんですか?」

 

「ついてないよ!? なんとなくわかるだけ」

 

 

 ついてるのは背中じゃなくて脳に(比喩)なんだよなぁ……。それはさておき、どうしても疎かになりがちな背後を互いに補完しあうことで安全を確保することはとっても重要です。ギルドの訓練場が稼働してからは実地訓練として教官から教わるようになりましたが、それまではベテラン冒険者に師事したり生まれが狩人の冒険者に聞いたりしなければ判らなかったことです。

 

 何も知らずに1人ずつ野営番を決めていたら途中で寝落ちしてしまったり、最悪なのはアンブッシュから口を塞がれて1人ずつ消えていったりという恐ろしい目に遭う新人もしばしばいたんだとか。新人は4人以上、出来れば6人で一党(パーティ)を組むことを推奨されているのはそういう理由もあるみたいです。

 

 

「お前はまだまだ殻の付いた雛鳥だ。学ぶべきことは多い。そして、お前はいつでも冒険者を辞めることが出来る。何故ならば、冒険とは誰かに強制されて挑むものでは無いからだ」

 

「……はい」

 

 

 軽銀製の兜の奥に揺れる紅蓮の炎に見つめられ、身を固くする英雄雛娘ちゃん。彼に怒られていると思っているみたいですが、それは違いますね。クスクスと女神官ちゃんが笑っているのがその証拠です。

 

 

「ふふ……ゴブリンスレイヤーさん、貴女を教え子みたいに思っているんです。今の言葉も『学ぶ気概があるのなら積極的に聞くと良い、覚えることはいくらでもあるぞ』って言いたかったんだと思いますよ?」

 

「才能に溢れた教え甲斐のある後輩、すっごく期待しているけど自分は怖がられていそうだし、そもそも年の離れた少女にどう接して良いか判断が付かない……そんな感じがしますわね!」

 

「…………」

 

 

 あ、これは図星ですね。居心地悪げに身じろぎし、誤魔化すように焚火に枯れ枝を放り込むゴブスレさんを見て英雄雛娘ちゃんの顔に理解と安堵の色が現れました。頬擦りしながら笑みを浮かべる吸血鬼君主ちゃんに頷きを返し、ペコリと彼に向かって頭を下げて……。

 

 

「はい! これからもいっぱい勉強させてもらいます、先生!!」

 

「……先生は止せ」

 

「えへへ……しんゆうってば、てれてる~!」

 

 

 おやすみ中のみんなを起こさないよう密やかに笑う冒険者たち。中番の2人が馬車の陰から後方先輩面で覗いているのに気付くまで、ゴブスレさんは少女たちに弄られっぱなしなのでした……。

 

 


 

 

「おっはよ~! ほらみんな起きなさ~い!!」

 

「今日は良いお天気だよ~」

 

「朝食の準備は済んでいるぞ。黒豆茶(コーヒー)が欲しいものはコップを出せ」

 

 

 普段はなかなか起きないのに冒険中は寝起きが良いんですね妖精弓手ちゃん。遅番組は夜明け前から朝食の準備をしていたようで、大鍋にはミルクと蜂蜜で味付けされた麦粥がたっぷりと出来上がっています。熾火の傍には串を打たれた腸詰やベーコンが刺さっており、滴る脂が食欲を刺激する香りを放っていますね。灰の中には丸のままの豹芋(ジャガイモ)が埋められ、こちらからも良い匂いがしています!

 

 さて、馬車の中はどんな様子でしょうか……お、吸血鬼君主ちゃんは女神官ちゃんと神官銃士ちゃんに湯たんぽ代わりにされて3人纏まって毛布の海に呑まれていますね。妖精弓手ちゃんの呼びかけに目を覚ました女神官ちゃんが2人より先に起きだし、配膳の手伝いに向かいました。

 

 英雄雛娘ちゃんは……おやおや、ゴブスレさんの膝枕でグッスリです。ゴブスレさんは既に起きていますが、ギリギリまで寝かせてあげようと起き出すまでじっと動かずに待ってあげてたみたいですね。

 

 

「ん……んく……ぷぁ。えへへ……ごちそうさま」

 

「もう、朝食の前につまみ食いはダメといつも言ってますのに……」

 

 

 あーあー、吸血鬼侍ちゃんは令嬢剣士さんのたわわにむしゃぶりついてました。口では怒ってますけれど、令嬢剣士さんの顔には隠し切れない悦びの色が。ちゅーちゅーし終わって甘えるように胸元に頬擦りする小さな想い人を優しく撫でる仕草からはとびっきりの甘やかしオーラが漂っています……。

 

 

「んゆ……くぁ~……おはよ」

 

「はい、おはようございますお姉様! さぁ、今日も太陽神様にご挨拶しませんと!!」

 

 

 寝ぼけ眼の吸血鬼君主ちゃんを抱え上げ、馬車の外へと飛び出して行く神官銃士ちゃん。山間から顔を出した太陽神さんに向かって2人並んで太陽万歳! 今日もバッチリの角度です!!

 

 

 

 朝食を終え、火やゴミの始末を終えた一行。もうちょっとで山越えは終わり、あとは入り江の民(ヴァイキング)が暮らす街まで下るだけといった感じです。イボイノシシ君が踏み固めた雪道をゆっくりと踏破し、一気に視界が開けたのがお昼前。冬場では珍しい晴れ間が広がる冬空の下に見えるのは……。

 

 

「――あれが、『海』か」

 

「ひろ~い!」

 

「おっきい!」

 

「うわぁ……あれがぜんぶしょっぱい水なんですか?」

 

 

 ――荒々しく白波をたてる大海原。初めて海を目にした子たちはみんな瞬きすら忘れた様子で眼前に広がる雄大な景色に見入っています。海から吹いてくる風に乗って漂ってくる潮の香りも新鮮さを感じさせるのに一役買っていることでしょう。

 

 

「――さて、此処で眺めているのも良いのですが、私たちの目的地はあの湾のあたりですわ。頭目(リーダー)、アレを出して頂けますか?」

 

「ん、いまだすね! よっ……と!!」

 

 

 令嬢剣士さんの言葉に頷きを返し、吸血鬼君主ちゃんがインベントリーから取り出したのは例の木の板。真ん中あたりにいくつか穴の開いたそれをブーツに宛がい、ずれないように革紐でしっかりと固定すれば……。

 

 

「「できた~!!」」

 

 

 雪上を飛ぶように滑走する、スキー板の装着完了です!!

 

 

 

 

 

 

「せっかくだから、雪上でしか楽しめない遊びをやってくるのです」

 

 

 依頼の封書を持ってきた際に賢者ちゃんが用意してくれていたスキー板、貴族階級の間ではウインタースポーツとして行われることもあるようですが、どちらかといえば冬季の狩猟の際に用いられることが多いアイテムですね。移動補助用の(ストック)を使わない、分類的にはスキーボードなどと呼ばれる短めのスキー板を装備した一行。飛行可能な人員が4人いるので他の全員を運ぶことは可能ですが、冒険は楽しむもの。みんなで斜面を下って入り江の民(ヴァイキング)の集落まで行くつもりみたいです。

 

 

「それじゃ、しゅっぱ~つ!」

 

 

 吸血鬼侍ちゃんの掛け声でゆっくりと滑り出した一行。はぐれたり転んだりしないように全員の腰にはダブル吸血鬼ちゃんの触手が巻き付いています。いざという時には触手をアンカー代わりに氷へと打ち込んで強制的に止まるつもりなのでしょう。

 

 

「いやっふ~! コレ楽しいわねぇ!!」

 

 

 まず先頭に躍り出たのは妖精弓手ちゃん。天性の身のこなしであっという間にコツを掴み、グングンと加速していきます。雪原の凹凸を柔軟な身体で吸収し、時には華麗にジャンプ! 前に出過ぎたと思ったら勢いそのままにUターンして戻ってきたりとその振る舞いはまさに雪の妖精。比類なき美貌も合わさって生ける芸術品のようです。

 

 

「お、お姉様! ゆっくりですよゆっくり!?」

 

「わかってるって! ……そ~れ!!」

 

「あわわ……は、速いですよ~!?」

 

 

 王妹殿下1号2号は腰に巻き付いた触手を掴み、吸血鬼君主ちゃんに引っ張られる形で滑走中。何度かバランスを崩して転びそうになりましたが、触手が支えてくれてセーフ! 段々速さに慣れてきて自分からカーブしてみたり2人で手を繋いだまま滑ったりと楽しんでいるみたいです。

 

 

「ふむ。……嗚呼、そうか」

 

「んゆ? どうしたの?」

 

「いや、昔姉さんと一緒に納屋の戸を外したものに乗って、雪の積もった裏山を滑り降りたのを思い出した。あの頃から変わり者だったな……」

 

 

 お、吸血鬼侍ちゃんとゴブスレさんは幅広い一枚板に両足を固定したスノボースタイルですね。危なげなく滑る2人の視線の先には橇に乗った闇人女医さん、妖術師さん、英雄雛娘ちゃんの姿が。令嬢剣士さんの跨ったイボイノシシ君の胴回りに幾重にも触手を巻き付け、犬橇のように引っ張ってもらう算段だったようですが……。

 

 

「あばばばば……ぶつかるぶつかる!?」

 

「大丈夫! あの程度の木、正面からブチ折りますわ!!」

 

「ええい、早く正気に戻れ! 痛みは祝福だが、不運(ハードラック)と踊るのは御免だぞ!?」

 

「ひぁぁぁぁ……」

 

 

 ……驀進の波動に目覚めてしまったイボイノシシ君が盛大に加速。ジェットコースターなみの速度で木々の間をすり抜け、時にはへし折りながら降るエクストリームスポーツに妖術師さんが悲鳴を上げ、使徒(ファミリア)の興奮が伝染したのか令嬢剣士さんも妙にハイテンション。闇人女医さんの声も届いていない様子。半泣き状態の英雄雛娘ちゃんは吸血鬼侍ちゃんが伸ばした触手で回収してあげてますね、これで一安心!

 

 


 

 

『……ん? あれは……』

 

 

 嫁取りの狂騒が落ち着き、祭りの齎した被害を確認して回る1人の女性。手に槍を持ち、厚手の鎖帷子でも隠し切れぬたわわを揺らし山間に向ける瞳はただ一つ。妖精弓手ちゃんに匹敵する美貌の持ち主が疑問の呟きを漏らす先には珍妙極まりない集団の姿が。あ、入り江の民(ヴァイキング)の方たちの言葉は盤外(こっち)に送られる際に自動的に翻訳されてますのであしからず。……決して変換するのが難しかったわけじゃありませんよ?

 

 

『なんだなんだぁ?』

 

『馬鹿でっけぇイノシシだぁ』

 

『後ろに橇がくっついてるぞ?』

 

『ゴブリンか、ゴブリンなのか?』

 

 

『みんな落ち着いて。山の向こうからの旅人でしょう』

 

 

 祭りの興奮冷めやらぬ戦士たちを制し、ほっそりとした指を顎に宛がい考え込む女性はこの地を治める頭領(ゴジ)の妻……奥方(フースフレイヤ)ですね。イボイノシシ君と橇の後ろから雪原を滑走してくるダブル吸血鬼ちゃんたちを見て『あらまぁ可愛らしい』と目を丸くしています。

 

 

『随分面白い人たちのよう。……もしかしたら旦那様の言ってた王国の使いの方々かも』

 

 

 ぱん、と手を叩き戦士たちの注目を集める奥方(フースフレイヤ)。にっこりと誰もが見惚れる笑みを浮かべ、桜花の花弁の如き色の唇から紡いだ言葉は……。

 

 

『どのような方々であれ、旅人は()()()()()()()のが我らが習わし。先ずは"挨拶"からです』

 

 

 高々と槍を掲げながらの、なんだか物騒な予感を伴うものでした……。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 『』内の台詞をなんJか論者にするかで悩んでいたのは内緒なので失踪します。


 評価や感想、お気に入り登録いつもありがとうございます。

 おかげさまで頂いた感想数が500件にまでなりました。読んで頂いた反応が目に見えると嬉しいので、引き続きお待ちしております。

 また、誤字の報告も頂き感謝と申し訳なさが半々。なんとか無くしていきたいところです……。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその17-3


 何故『ゴブリンスレイヤーのそり乗り(Goblinslayer Sledder)』にしなかったのか反省中なので初投稿です。


 UAが180000まで伸びました。多くの方に目を通して頂き嬉しく思っております。これからもダブル吸血鬼ちゃんたちの冒険を楽しんで頂ければ幸いです。




 

 前回、奥方(フースフレイヤ)に補足されたところから再開です。

 

 

 入り江の民(ヴァイキング)が暮らす港町と向き合うように純白の肌を陽光に晒す小高い丘陵。その斜面を軽快……軽快?に滑走し、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)は防護柵に覆われた街の入り口まで……。

 

 

「いかん、このままでは突っ込むぞ!?」

 

「いやぁぁぁぁ死にたくないぃぃぃぃぃ!?」

 

「安心なさって! 私と貴女は既に死んでおりますわ!!」

 

「えぇ……?」

 

 

 ……どうやら勢いが付き過ぎたのか、減速しきれずに突き進んでいくイボイノシシ君と後ろの橇。街の周囲は除雪され岩肌が剥き出しになっているため速度は低下しましたが、その代わり激しい震動が橇に乗った3人を襲っているようです。

 

 少しでも速度を落とそうと妖術師さんが自分の影から展開した触手を地面に突き立て制動をかけようと試みていますが……ちょっと重量差があり過ぎますかねぇ。突き立てたそばから抜け落ちてしまい、妖術師さんの顔がちょっと視聴神のみなさんには見せられない感じになっちゃってます。

 

 

「――シルマリル、ヘルルイン! ……なんとかして!!」

 

「わ~いムチャぶりだー!」

 

「ぼくたちムチャぶりだいすき~!!」

 

 

 あ、妖精弓手ちゃんの号令に応えてダブル吸血鬼ちゃんまで突っ込んで行きました。ブーツに板を固定していた革紐を爪で切り、背中の翼をはためかせて飛来した2人は砂煙を上げながらイボイノシシ君の前方に左右に分かれて着地。互いに頷き合いタイミングを見計らって、無数の触手を影から生み出しランディングネットのように編み込みました!

 

 

「プギィィィィィィ!?」

 

「橇と乗員は頭目(リーダー)に任せましょう! 私たちは……!!」

 

 

 令嬢剣士さんの指示に従い、ネットにぶつかる寸前で方向転換に成功したイボイノシシ君。4本の足を巧みに使いスピンターンを決める様は流石元神の乗騎と言うべきワザマエ。イボイノシシ君が進路を空ければ残るは暴走する橇だけです! 追加の触手を地面に打ちこんで固定具代わりにしたダブル吸血鬼ちゃんが、段差に乗り上げ橇から放り出された3人をネットで絡めとることに成功しました!! ……あ、もちろん橇も一緒に回収してますね。そのまま街に突っ込ませたら襲撃と間違えられちゃいますし。

 

 

「全員無事のようだな」

 

「だ、大丈夫ですか~? もう、()()()ですよゴブリンスレイヤーさんっ」

 

「殿方に向かって()()()だなんて、ちょっとはしたなくありません???」

 

「はしたないのは貴女でしょうに……まぁいっか。2人ともえらい!」

 

「「ふわぁ……ほかほか……いいにおい……」」

 

 

 お、後続も到着しましたね! ゴブスレさんが先行して進みやすいルートを探し、その後ろを王妹殿下1号と2号がおっかなびっくり追従してきたみたいです。スキー板を外した妖精弓手ちゃんは頑張ったダブル吸血鬼ちゃんに駆け寄ってご褒美のハグ。運動後の熱を帯びた頬と沸き立つ林檎の如き甘い香りに2人ともメロメロですねぇ……。触手ネットに引っ掛かっていた3人も自力で脱出し、これで全員の無事が確認出来ました!

 

 

 

「――さて、そろそろ向こうさんとお話ししましょうか。なんか待っててくれてるみたいだし」

 

 

 両脇に抱えるダブル吸血鬼ちゃんを二度三度とキュン死させて満足した妖精弓手ちゃんがクルリと向きを変え、歩を進めるのは街の門のほう。門前には手に武器を携えた鉱人(ドワーフ)を一回り大きくしたような屈強な戦士たちが、奇妙な生物を目撃してしまったような顔で一行を眺めています。妖精弓手ちゃんを先頭に、無防備に歩み寄ってくる異邦人たちに警戒する彼らでしたが……。

 

 

『おい、まさかアレ……』

 

『間違いねぇ、アールヴ(エルフ)だ!』

 

『あっちには黒曜石(オブシディアン)みてぇな肌をしたアールヴ(エルフ)もいるでねぇか!?』

 

『なんちゅう美しさじゃ……』

 

『(結婚したい……)』

 

 

 絵巻物の中から抜け出してきたような2人の森人(エルフ)、天上の美とエキゾチックで危険な魅力に心を奪われ半ば放心状態ですねぇ。我に返ったあとも誰が話しかけるのか後ろ手で牽制し合い、会話はなかなか始まろうとしません。女性に免疫の無い男子高校生のような反応に妖精弓手ちゃんが首を傾げていると、彼らの後ろから若い女性の声が響いてきました……。

 

 

『こら、いい年した男が何照れてるの! ……すみません、ウチの連中が失礼を』

 

「「ほわぁ……」」

 

 

 妖精弓手ちゃんに抱えられたまま、感嘆の溜息を漏らすダブル吸血鬼ちゃん。妖精弓手ちゃん以外の女性陣も戦士たちの間から現れた女性に目を奪われているようです。みんなが言葉を失っているのは彼女の口から飛び出した独特な方言を理解しきれていないだけではなく、剣の乙女ちゃんや今目の前で頭に?を浮かべている妖精弓手ちゃんに匹敵するその美しさに因るものですね。

 

 

「「きれいなおね~さんだ……」」

 

『あら、ありがとう可愛い旅人さん。良かったらこの街を訪れた理由を教えてもらえる?』

 

 

 ニッコリと微笑む奥方(フースフレイヤ)の言葉にコクコク頷き口を開きかけたダブル吸血鬼ちゃんですが、ハッと大切なことを思い出し可愛く両手で口を押さえました。言わざるのポーズで顔を向けた先に見えるは黒と紅に彩られた禍々しい鎧に身を包んだ金等級冒険者。そう、今回の依頼を引き受けた特別一党(パーティ)頭目(リーダー)は2人ではなく、ゴブスレさんですからね!!

 

 

「王国からの依頼で、この国の頭領の姪にあたる者を護衛してきた冒険者だ。依頼の詳細は此方に記してある」

 

『ああ、これはどうもご丁寧に』

 

 

 ゴブスレさんが取り出した王家の蝋印が刻まれた封書を見て納得したように頷く女性。自らを頭領(ゴジ)の妻……奥方(フースフレイヤ)であると名乗った片目を布で覆い隠した彼女は、差し出された封書を受け取り……中を確認しようとせず、そのまま一行を眺めていますね。

 

 

「えっと、中身を見なくて良いの? それとも頭領に直接見せるつもり?」

 

『いえいえ、ちゃんと確認させてもらいますよ? でも、それよりも重要なことがありますから』

 

 

 おや、なにやら剣吞な雰囲気になってきましたね。奥方(フースフレイヤ)の言葉に続き戦士たちが分厚い刃を備えた斧や槍を構えるのを見て、令嬢剣士さんや英雄雛娘ちゃんが同じように武器に手を掛け……ゴブスレさんに無言で制止させられました。刃を抜かなかった一行を見て、奥方(フースフレイヤ)が先程の続きを話し始めます。

 

 

『王国とは違い、ギルドの無いこの地では冒険者という職業は信用がありません。何色の認識票を身に着けていようと、それは単なる飾りでしかないのですよ』

 

 

 この手紙も本当の使いから奪い取ったもので、皆さんも本当は野盗か旅芸人に扮した詐欺師かもしれませんし、と冗談めかして笑う隻眼の麗人。……先の醜態を見られた以上、何も否定出来ませんね!

 

 

「――では、何を以て証とする」

 

『この地はただ生きるだけでも【力】が求められる厳しい土地。険峻なる道を踏破しこの地まで辿り着いた【力】を示し、己の証とするのが習わしなのです』

 

 

 ああ、腕っぷしでも頭の回転でも良いから、自分の力を示せってことでしょうか。奥方(フースフレイヤ)がさっと手を振り上げれば一斉に進み出る5人の戦士。どうやら彼らを相手に力を示すことを求められているみたいですね。嫁取りの余韻で良い感じに猛っている入り江の民(ヴァイキング)の戦士たち、本来ならばここで友情を育むための殴り合い開始なんでしょうが……。

 

 

「丁度良い。戦友、()()を出せ」

 

「は~い。あ、みんなちょっとはなれてね!」

 

 

 森人(エルフ)の小脇に抱えられた圃人(レーア)?の娘に促がされ、門前にスペースを確保する戦士たち。彼らが十分離れたところで吸血鬼君主ちゃんがインベントリーから取り出したのはもちろん……。

 

 

「てれれってれ~! キュクロプスのぶきとペットのくまさん!! ……それと、あいつらがじまんげにぶらさげてた、おそわれたひとたちのいりゅうひんもあるよ」

 

『んなっ!?』

 

『こりゃあ山に住み着いてた巨人どもの……』

 

 

 黒く変色した血のこびりついた12本の巨大棍棒(グレートクラブ)とイボイノシシ君にKOされた灰色熊の死体、それから巨人がトロフィーのように身に纏っていた犠牲者たちの装備です。虚空から突如出現した物騒な品の数々に入り江の民(ヴァイキング)の戦士たちも驚きを驚きを隠せない様子ですね。蛮用の跡も生々しい巨大棍棒(グレートクラブ)に触れ、紛い物でないことを認めた戦士の1人が吸血鬼君主ちゃんに問い掛けます。

 

 

『嬢ちゃん、あの山に陣取っていた単眼巨人(キュクロプス)をやっつけちまったんか?』

 

「そうだよ。たびのひとをおそってたみたいだし、()()()()()()()()()()にいやらしいめをむけてきたから、ぜんいんやっつけた!!」

 

『うん? ()()()って……お前さんたち、双子の嬢ちゃんじゃなくて坊主だったんか?』

 

「??? ぼくたちはおんなのこだよ?」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの『俺の嫁』発言に首を傾げる戦士たち。まー普通はそういう反応ですよねぇ。入り江の民(ヴァイキング)の困惑した表情に一様に苦笑を浮かべた一党(パーティ)、妖精弓手ちゃんが吸血鬼侍ちゃんを令嬢剣士さんに手渡し、ふふんと薄い胸を張りながら高らかに宣言します。

 

 

「2人とも女の子だけど、()()()の大切な旦那様よ!」

 

「一応こちらの上の森人(ハイエルフ)の姫と私が正室という扱いになっておりますが、実際には両手の指以上の女性を平等に愛してくださってますの」

 

「あ、ちなみに既に子持ちが4人いるわ。私もそうだけど」

 

 

 うーんこの砂漠の国の王様もビックリな大所帯。てれてれと頬を赤くした英雄雛娘ちゃんやまんざらでもなさそうに頬を掻く闇人女医さん――アレな笑みを浮かべている妖術師さんは平常運転ですね!――たちの表情から嘘ではないと悟ったのでしょう。幾度も死線を乗り越えてきた歴戦の戦士たちが次々に膝から崩れ落ちていきます……。

 

 

『済まねぇ奥方(フースフレイヤ)様……俺たちは此処までのようだ……』

 

『心の中の(オス)が敗北を認めちまったよ……』

 

『(子持ち人妻百合森人(エルフ)……うっ! ふぅ……)』

 

 

 悔し気に拳で地面を叩く者、両手を組み祈るように頭を垂れる者、欲望を解き放ち賢者モードに突入する者……。反応は様々ですが、闘争の空気は霧散してしまいましたね。後方親友面していたゴブスレさんが決着を見届けた後、ほのかに頬を朱に染めている奥方(フースフレイヤ)に向き直りました。

 

 

「――これで良いか?」

 

『え? ええ……山越えの交易路を塞いでいた単眼巨人(キュクロプス)を退治したとあれば、勇者の証として十分でしょう。……その、都会の方は進んでいらっしゃるのですね?

 

「……あいつらが特殊なだけだ」

 

 

 ほう、と熱っぽい吐息を伴った奥方(フースフレイヤ)の言葉を即座に否定するゴブスレさん。ダブル吸血鬼ちゃんたちを王国の標準だと思われたら大変ですからね。あと後方彼女面している王妹殿下1号2号は自分たちがこの冒険の主役であることを思い出して???

 

 

 

 

 

 

『本音を言うと、とても有難かったんですよ。みなさんが単眼巨人(キュクロプス)を退治してくださったのは』

 

 

 頭領(ゴジ)の待つ石造りの御殿を目指し小高い丘陵を歩く一行。案内してくれている奥方(フースフレイヤ)がチロリと舌を出すお茶目な仕草とともに語ってくれたのは、近頃交易が滞っている原因の一端について。

 

 昨年の冬あたりから単眼巨人(キュクロプス)が現れるようになり、あの辺りを縄張りに狩人や商人を襲い始めていたそうです。なんでも()()()()()()()()()()()がいなくなったために地域に棲息していた怪物(モンスター)の統制が失われ、次第に好き勝手し始めたんだとか。

 

 ……はい、もうお判りですね。封印され身動き出来ない状態でありながらも配下を使って山を支配していた氷の魔女が、ダブル吸血鬼ちゃんに美味しくいただかれちゃったのが原因でした!

 

 そんな事情なぞ露知らず、感謝の言葉を紡ぐ奥方(フースフレイヤ)に味わい深い表情で笑みを返すダブル吸血鬼ちゃん……おや? 隠し切れない好奇心を全身から発し、奥方(フースフレイヤ)の護衛の戦士に矢継ぎ早に質問を投げ掛けていたゴブスレさんがグリンと首を奥方(フースフレイヤ)に向け、新たに浮かんだ疑問を口にしました。

 

 

入り江の民(ヴァイキング)の交易は海路が主と聞いていたが、違うのか?」

 

「ええ。多くは港まで自分たちの舟でやってきて、直接商人と交渉されるものですが……」

 

 

 ああ、確かに。入り江の民(ヴァイキング)といえば喫水の浅い舟で何処までも漕ぎ出し、川を遡上したり時には舟を担いで陸路を進んだりというイメージが強いです。丘から海岸を眺めれば何艘もの舟が港に繋がれているのが見えますし、嫁取りに押し掛けてきた親戚一同も舟で乗り付け、そして帰っていきましたからね。家の関係で商売にも詳しい令嬢剣士さんも同様の疑問を感じているみたいです。

 

 2人の視線を受けた奥方(フースフレイヤ)は苦み走った顔で『それに関しては旦那(おど)様……頭領(ゴジ)が話してくれますよ』とだけ口にし、一行を御殿の大扉の前まで導いてくれました。うーむ、なかなか深刻な事態に陥ってそうな気がしてきましたよ!

 

 

 

 薄暗く、炉から立ち昇る煙によって見通しの悪い母屋(スカーリ)に通されたダブル吸血鬼ちゃんたち。護衛の戦士たちとは大扉で別れ、ひとり残った奥方(フースフレイヤ)が一行を案内してくれています。キョロキョロと異文化の歴史を見落とさぬよう観察するゴブスレさんに微笑ましいものを見る目を向け、彼に合わせるようにゆっくりと進んでくれているので、コンパスの短いダブル吸血鬼ちゃんや妖術師さんでも遅れずについていけてますね。

 

 

「わぁ……!」

 

 

 おや、英雄雛娘ちゃんの可愛らしい声が。煙る視界の向こう、太い柱に刻まれた浮き彫り(レリーフ)の中に鍛冶神さんの姿を見つけたからですね。独眼独脚の厳めしい姿、炉から取り出した鋼を見つめ、今まさに槌を振り下ろそうという瞬間をダイナミックに切り取った彫刻は見る者を圧倒する迫力に満ちています。

 

 

「む、あれは嗜虐神様か! ……伝わりしそのお姿は異なれど、やはりこの地域でもかの女神は崇められていたのだな」

 

『おや、貴女()闇の慈母さまを信仰していらっしゃるのですか?』

 

()、ということは奥方もか! 自身の在り方に迷い、また兄を止められず悪戯に自分を傷付けていた私を、我が主へと導いてくださったのだ」

 

『それは……とっても素敵ですね! 私も旦那(おど)様と初めて逢ったのは……』

 

 

 同じ嗜虐神さんの信徒である闇人女医さんと奥方(フースフレイヤ)は予想通り意気投合。互いの伴侶との出会いについて乙女トークを繰り広げています。苦痛を尊び人を傷付ける混沌の神である嗜虐神さんで盛り上がる2人に女神官ちゃんは困り笑顔。

 

 まぁ吸血鬼侍ちゃんや若草知恵者ちゃんが信仰している万知神さんもバッチリ混沌に属する神ですし、色々と因縁のある覚知神さんだって、ゴブスレさんのお姉ちゃんが信仰していましたからねぇ。神の善悪ではなく、神を信じる者を見て判断しようという考えは四方世界では理解され難いと思いますけど、これから多くの種族、信仰と出会うみんなにはその気持ちを忘れないでいて欲しいですね。

 

 

 

『あー……奥方(かが)? 盛り上がっているところに水を差すようで申し訳ないが、そろそろ客人を紹介してもらえないだろうか』

 

『ひゃん!? ……これは失礼をば、すぐに参りますっ!』

 

 

 炉床の反対側からの声に可愛らしい反応を示し、しずしずと玉座に向かう奥方(フースフレイヤ)。赤い顔で俯く彼女の髪に触れ、優しく撫でるのは、群れを率いる狼王の如き精悍な若者です。玉座から立ち上がりゆっくりと歩み寄る体躯はゴブスレさんを越え、重戦士さんと肩を並べるほどの堂々たる美丈夫ですね! 煙越しにも互いの顔がハッキリ判るほどに近寄った彼が、その見た目を裏切る少年のような笑みを浮かべながら訛りの皆無な共通語を紡ぎます……。

 

 

「やぁ。遠いところをようこそ、冒険者諸君。彼の右腕たる忍びから話は聞いているよ」

 

「……どうやら立て込んでいるところに来てしまったようだな」

 

「ははは、構わないさ。交易路を復活させるために助力を願ったのは此方だからな。それに……」

 

 

 一党(パーティ)の代表たるゴブスレさんと挨拶を交わし、歓迎の意を示す頭領(ゴジ)。言葉を区切って向けた視線の先には、緊張した面持ちの女神官ちゃんと神官銃士ちゃん。ゆっくりと近付き、視線を合わせるように膝を屈めて2人の顔を交互に見つめています。

 

 

「――うん、良く似ている。きっと笑った顔なんかはそっくりなんだろうね……はじめまして。君たちの母親の弟……叔父を名乗るには少々威厳が足りないかな?」

 

「そ、そんなことないですっ。こちらこそはじめまして!」

 

「はじめまして、伯父様。……それとも、お義兄(にい)様のほうがいいかしら?」

 

「はっはっは! 可愛い義妹は大歓迎だが、奥方(かが)は見た目に因らずやきもち妬きでね。叔父で勘弁して欲しい」

 

『もうっ、旦那(おど)様ったらっ!』

 

 

 ぷくーと頬を膨らませながら否定しても説得力はありませんねぇ……。ぽかぽかと頭領(ゴジ)の肩を叩く奥方(フースフレイヤ)の可愛らしさに一行もニッコリ。同盟関係にあるとはいえ、ある種弱みともいえる場面を見せてくれているのは信頼の証なのかもしれません。

 

 

 

 

「……さて。もう2人、挨拶をしなければいけない子がいるね」

 

 

 一頻り笑った後に表情を真面目なものに変え、土間に片膝を着いて大きく屈む頭領(ゴジ)。女神官ちゃんと神官銃士ちゃんの後ろに見え隠れしている小さな姿に手招きをすれば、記憶に刻まれた人物と瓜二つの顔の2人がおずおずと彼に近寄っていきます。

 

 

「はじめまして、で良いのかな?」

 

「うん、おかあさんからうけついだきおくのなかに、おねえさんといっしょに3にんであそんだおもいではのこってるの」

 

「でも、それはおかあさんたちのたいせつなおもいで。ぼくたちじしんのきおくじゃないから……」

 

 

 俯く2人の頭にポンと手を乗せ、不器用に撫でる頭領(ゴジ)。2人の顔が僅かに顰められたのは、右腕から漂う血の匂いのためでしょう。心配そうに見上げる2人に大事ないと首を横に振り、彼がゆっくりと語り出します……。

 

 

「姉が狂王に嫁ぐことが決まった時、俺は止めることが出来なかった。王宮の風紀を乱した売女(ばいた)として彼女が告発され、姉の傍仕えとして王宮に送った父が連座で処刑された時も、俺はこの地で傭兵紛いの出稼ぎをしていた。忍びが新たな王の即位とそこに至るまでの顛末を語ってくれるまで、何も知らずに剣を振るっていたんだよ……」

 

 

 なるほど、乱れに乱れていた当時の王都に彼が戻っていたら、狂王や取り巻きの貴族たちの良い餌食になっていたことでしょう。すべてが終わるまで何も報せず、北領に留めておいたのは英断ですね。でもそれは金髪の陛下や義眼の宰相の都合であって、伯爵夫人の弟である彼にとっては除け者にされたと感じてもおかしくないことです。

 

 

「姉も、彼女も救えなかった俺に出来るのは、代替わりの隙を狙う混沌の軍勢を王都に近付かせないことだけだった。ひたすらに剣を振るい、戦場を駆け抜ける間に……素晴らしい伴侶を得ることが出来た」

 

 

 そう言って視線を向けるのは麗しの奥方(フースフレイヤ)。『もう、人前で恥ずかしい……』と頬を染める彼女に微笑みかける姿は幸せに満ちています。王国から遠く、試される大地で幸せを見つけることが出来た彼の姿にダブル吸血鬼ちゃんも安堵の笑みを浮かべてますね。そっと頭上の手を取り胸元に抱き寄せ、2人が想いを口にします……。

 

 

「きっと、おかあさんもおねえさんも、ふたりのしあわせをしゅくしてくれてるよ!」

 

「だから、およめさんをかなしませるようなまねはしちゃダメ! このケガもすぐになおすの!!」

 

「う、うむ。強引なところまで彼女にそっくりだな……」

 

 

 そう言い放ち、返事を待たずに癒しの奇跡を唱え頭領(ゴジ)の傷を癒すダブル吸血鬼ちゃん。戦士たちを優先し自分を後回しにしていた彼ですが、ずっと堪えていた痛みが消えたことで僅かに寄っていや眉間の皺が無くなり、どこか少年めいた幼さが見えて来ましたね。腕を擦る彼を満足そうに見た後、目を丸くしている奥方(フースフレイヤ)の手を取り眉を立てた笑みを見せました。

 

 

「あのね、まちをまわってけがをしているひとをなおしてもいい?」

 

「いやしのきせきをつかえるひとはいっぱいいるし、それいがいにもみんな『げかてきしょち』ができるよ!!」

 

『それは……ほんとうなの?』

 

「ああ、我が主を筆頭に変わり者だらけでな。今冒険者ギルドの訓練場では、傷口の切開や縫合を含んだ応急手当を教えている。それに、こんなものまで自分たちで作るぐらいだ」

 

 

 奥方(フースフレイヤ)の問いにニヤリと笑みを返し、鞄に手を入れる闇人女医さん。取り出したのは硝子の瓶に入った無色透明の液体です。促されるままに瓶の口を開け鼻を近付けた奥方(フースフレイヤ)の顔が驚きの色に染まりました。

 

 

『これは……まさか……!?』

 

「ああ、蒸留を繰り返して度数を高めた高純度の酒精(アルコール)だ。他の酒と混ぜて飲むのも良いが……奥方なら別の使い道があるだろう?」

 

 

 液体の正体は牧場で仕込まれた鉱人コンビ渾身の逸品である(ウォトカ)! 銀髪侍女さんも太鼓判を押すその味もさることながら、特筆すべきはその度数の高さ。初年度に作られたうちの殆どをお土産にするべくインベントリーに詰め込んでいた吸血鬼君主ちゃん、頭領(ゴジ)奥方(フースフレイヤ)もあんぐりと口を開けたまま積み上がって行く瓶の山を眺めています。瓶の金字塔(ピラミッド)が完成したところで令嬢剣士さんが進み出て、吸血鬼君主ちゃんの頭を撫でながら頭領(ゴジ)へと切り出したのは……。

 

 

「今回は試供品としてお持ち致しましたの。是非、私たちの自信作の味と効果をお試し頂きたいのですが……」

 

「――はは、ならば(ドレッカ)の準備をせねばいかんな! 奥方(かが)、一先ず客人を休める場所に案内してくれ。その後は……」

 

『はい、皆に声を掛けて盛大な(ドレッカ)にしませんとね!』

 

 

 頭領(ゴジ)の張りのある声に、ポンと両手を合わせ微笑みながら応じる奥方(フースフレイヤ)。どうやらお土産は気に入ってもらえたみたいですね! 闇人女医さんの嗜虐神さんトークで心象を良くし、たたみかけるような(ウォトカ)攻めは効果抜群! 王妹殿下1号2号とダブル吸血鬼ちゃんとの対面も何事も無く終わって良かったですね。

 

 宴まで時間はあると思うので、その間は信仰の暴力で癒しまくりタイムです! ゴブスレさんと英雄雛娘ちゃんがソワソワしてるので、辻ヒールついでに街中の観光もしちゃいましょうか!!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 文化がちがーう!を上手く表現したいので失踪します。


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セッションその17-4


 業務の引継ぎに手間取っているので初投稿です。




 

 前回、宴の前に一仕事すると決めたところから再開です。

 

 

 さて、母屋(スカーリ)を辞し、怪我人が集められている居住区への道を進む一行。宴の準備を厨房に命じた奥方(フースフレイヤ)が先頭に立って案内をしてくれていますね。……彼女が鎖帷子を着たままなのは治療を終わらせるまでが戦いの一部ということなんでしょうか? 知らない者が見れば拷問器具にしか見えない医療器具を収めた革の巻物を手に雪の覗かれた砂利道を鼻歌まじりに歩いていきます。

 

 

『さ、皆様。ここが怪我人の集められている病床です』

 

「「おじゃましま~す……」」

 

 

 泥炭を積み上げて作られた家の中に獣革の風よけを捲り入れば、そこには戦場に付き物な呻き声の大合唱。腕や足を失い血の滲んだ包帯姿の戦士たちが、突然の闖入者に驚きながらもみっともない姿を見られては敵わんと必死に脂汗の浮いた笑みを見せていますね。

 

 

『おんや奥方様、そちらの別嬪さんたちは旅人かい?』

 

『王国からいらした冒険者の方々です。皆さんの治療の手伝いを申し出てくださいました』

 

『そんな大袈裟な、こんなモン唾でもつけとけば……イテテ』

 

 

 うーんこの意地っ張りたち。民族舞踊(フォークダンス)の際に女子と手を繋ぐのを恥ずかしがる男子の如く首を左右に振る戦士たちですが、傷が痛むのか寝台(ベッド)の上で奇妙なダンスを披露していますね。やっぱりこういう時には強引に行くのが常套手段というもの。≪浄化(ピュアリファイ)≫の奇跡を唱えみんなの手を浄めた女神官ちゃんが、腕まくりをして一喝します。

 

 

「怪我人は痛みを隠さず素直に痛いと言いなさいっ!! ……つまらない傷が原因で死んでしまっては、勇敢な戦士を迎える戦女神さまも、きっと呆れてしまわれますよ?」

 

 

 まだ幼い顔つきの女神官ちゃんですが、その信仰と意志の強さは折紙付きです。髭面で人相の悪い戦士たちが思わず背筋を正してしまう、そんな『威』に満ちた言葉を皮切りに、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)による治療がスタートしました!

 

 

 

「それじゃ、まずはますいから……かぷっ」

 

「チクっとするけど、あばれないでね~……かぷっ」

 

「「ふおぉぉぉぉぉ……!?」」

 

 

 まず最初は丸太のように太い戦士たちの首筋に牙をあてがい、失血を最小限にするべくほんのちょっとだけちゅーちゅーするダブル吸血鬼ちゃん。吸血の量が少ないためか戦士たちもガクガクと震えるだけで槍ニキや不良闇人さんのように暴発までは至らずに済んでいる様子。彼らの目が陶然となり、痛みを堪える素振りを見せなくなったところで次は英雄雛娘ちゃんの出番です!

 

 

「いいか? 出血を止めるには傷口を縫合するのが一番良いが、道具が無い場合や緊急を要する際は焼いて塞ぐのが手っ取り早い。普通なら焼かれる痛みで暴れる患者を抑えつけねばならんが、我らが主たちが先に手を打ってくれている。焼く部位は最小限に、だが躊躇うなよ?」

 

「は、はいっ! ≪鍛冶神さま 私の息吹が鋼を輝かせるところ どうぞご覧ください≫……!!」

 

 

 腹の破れた戦士の傍に立ち、鍛冶神さんへの祈りを紡ぐ英雄雛娘ちゃん。傷口から顔を覗かせていた腸を闇人女医さんが腹の中に押し込み、穴の周辺の皮膚を寄せたのを確認し、赤熱化した短剣の腹をそっと近付けていきます。肉の焼ける臭いが立ち昇り、戦士が患部を見ないよう顔を押さえつけていた闇人女医さんが彼女の手際を見て満足そうに頷いていますね。

 

 

「うむ、良い仕事だ。(はらわた)が破れていたら≪浄化(ピュアリファイ)≫を使わねばならなかったが、これなら≪小癒(ヒール)≫だけで問題ない」

 

 

 ああ、雑菌塗れのブツが漏れてたら菌血症待ったなしですもんね。焼かれた傷口に手をあて、≪小癒(ヒール)≫を唱える闇人女医さん。失った血こそ元には戻せませんが、これで生命の危機は脱したと見て問題無いでしょう!

 

しかし、麻痺噛みつきで痛みが軽減されているとはいえ泣き言ひとつ言わないとは、流石勇敢なる入り江の民(ヴァイキング)の……あ、これ違いますね。戦士の目は分厚いジャケットと白衣によって窮屈そうに押し込められている闇人女医さんのナイスたわわに釘付けになってます。たゆんと押し付けられていた果実に夢中で傷口を焼かれていることにすら気付いてなかったみたいですね。寝台(ベッド)の頭側で治療の一部始終を記録している奥方(フースフレイヤ)が額に青筋を浮かべているのが何よりの証拠でしょう……。

 

 

「では、折れた骨の位置を戻しますので、舌を噛まないよう布を咥えててくださいね……むんっ!!」

 

『ムグー!!!』

 

「我慢しろ。歪んだままくっつけば二度と斧を振るえなくなる」

 

 

 お、隣の寝台(ベッド)では神官銃士ちゃんが腕の骨が折れている戦士を治療していますね。ダブル吸血鬼ちゃんの麻痺嚙みつきでも完全に痛みは誤魔化せなかったのか、ズレた骨を矯正する苦痛に悶える戦士をゴブスレさんが抑え込んでいます。額に脂汗を浮かべながらも痛みに耐えた彼に≪小癒(ヒール)≫を唱え、神官銃士ちゃんが「よく頑張りましたね!」と汗を拭いてあげてますね。

 

 

「ええと、この人の腕は……うん、これだ」

 

「ありがとうございます。では、傷口に宛がってくれますか?」

 

 

 戦士の切断された腕の傷口に鼻を近付け、スンスンと匂いを確認する妖術師さん。道すがら触手で拾い集めていた腕の中から当人のものを選び、女神官ちゃんの指示に従って切断面を合わせるように押し付けています。女神官ちゃんが≪聖域(サンクチュアリ)≫を唱える際にも使用した聖水を傷口に振り掛け、地母神さんへ祈りを捧げれば……。

 

 

『おお……腕が、腕が動く!』

 

「接合が馴染むまで重いものを持ったりするのは控えてくださいね?」

 

 

 拳をグーパーして動きを確かめ驚きの声を漏らす戦士にニッコリと微笑みながら無茶をしないよう釘を刺す女神官ちゃん。その際くっついたばかりの腕に両手を添えているところにあざと可愛さを感じますね! 判っててやってるならナイス悪い子ですが、きっと無意識なんだろうなぁ……。

 

 

 ――さて、何故奇跡で癒すのに外科的処置を施しているのかという疑問を持った視聴神さんもいらっしゃるかと思いますので、軽く補足説明をさせていただきます。

 

 まず前提として、同じ癒しの奇跡を唱えても、術者によって効果がまちまちなのは皆さんもご存知のことでしょう。乱数(ダイス目)によって左右されるのもありますが、ここで注目していただきたいのはそれ以外の部分、所謂『固定値』ですね。これには術者の能力や技能以外にも様々な要素が絡んでいるのです。

 

 ≪小癒(ヒール)≫を例に挙げると、見習いの神官と経験豊富な大神官が同じ≪小癒(ヒール)≫を唱えたとき、大抵の場合より高い効果を発揮するのは大神官の唱えた≪小癒(ヒール)≫でしょう。これは2人の信仰の理解度や精神的な豊かさに大きな差があるため、大神官のほうがより高い達成値を出せるからですね。

 

 また、怪我やその回復に対する術者の理解度によっても≪小癒(ヒール)≫の効果は大きく変動します。ただ漠然と『傷が治る』よりも『折れた骨が繋がり、周囲の筋肉の断裂が元通りになる』のほうが、より具体的に傷が治る過程をイメージ出来ているわけです。つまり、人体構造に詳しいほど治療効果は発揮されるということですね。

 

 嗜虐神さんや地母神さんの信徒が癒しの奇跡に長けているのは、それぞれ医術や拷問、出産など人の身体をつぶさに観察する機会が多いからという点が大きいと言われています。一部の人体マニアな知識神さんの信徒や、戦場で治療に携わることが多々ある従軍神官たちも同様の理由で優秀な癒し手になることが多いですね。

 

 ……その一方で「おひさまはみんなに元気を分けてくれる!」と無邪気に信じている頭太陽なサムシングたちがクッソ有能な癒し手なのも事実。信仰の力は偉大ですね!

 

 まぁ長々と説明してしまいましたが、「医術と奇跡を併用すると効果は抜群だ!」とだけ覚えておいて頂ければ大丈夫です。修得が困難な≪治療(リフレッシュ)≫を必要とする重傷を≪小癒(ヒール)≫で代用出来れば、より多くの生命を救うことが可能ですからね!!

 

 

「ふぅ、これでぜんいんちりょうできたかな?」

 

「≪そせい(リザレクション)≫がひつようなひとがいなくてよかった!」

 

 

 おっと、負傷者に麻痺嚙みつきした後それぞれ治療に奔走していたダブル吸血鬼ちゃんも戻って来ましたね! 今日の奇跡の回数は使い切ってしまったみたいですが、限界突破(オーバーキャスト)には至らなかったみたいです。2人とも≪治療(リフレッシュ)≫を授かっているので骨折や部位欠損でも問題無く治療出来るのが強みですね。口の周りに血が付いているのは元の持ち主に許可を得て生え変わり前のパーツをおやつに貰ったからでしょう、カラカラの干物のような物体が丁寧に部屋の隅に置かれているのが見えますね。

 

 

「はーい、それじゃシーツや包帯を回収するわよ!」

 

「それから、負傷された方々には此方を。頭目(リーダー)が保存していた竜血(スタドリ)を牧場産の(ウォトカ)で割ったものになりますわ」

 

 

 癒しの奇跡が使えない2人は洗濯などの裏方に回ってくれていたみたいですね。大きな木桶に汚れ物を回収する妖精弓手ちゃんの後ろを何本もの小瓶を持った令嬢剣士さんが付いて歩き、治療を終えた戦士たちに経口補水液代わりの飲み物を配っています。手渡された小瓶を呷る戦士たちの顔が綻んでいるあたり、味の方も上等みたいですね。

 

 なお、竜の血を一般人が摂取して問題無いのかという意見が出そうですが、竜殺しの伝説にあるように竜の血には強い力があり、その身に浴びれば硬い外皮の如き強靭さを、体内に取り込めば竜の生命力を得られるとのこと。採取してから時間が経過しているのと(ウォトカ)で薄めているのでそこまでの効果は無さそうですが、怪我で弱った生命力を賦活させるには十分でしょう!

 

 

『もうじき戦乙女の迎えが来ると思っとったが、まさかこんなめんこい娘っ子たちに救われるとはのう……』

 

『うう……なんという柔らかさ……いかん、アレは崇高な医療行為! 消え去れ闇のワシ……!』

 

『死ぬ前に本物のアールヴ(エルフ)を拝めるなんて……俺もう死んでもいいや……!』

 

『こら、せっかく拾った命を簡単に投げ捨てるもんじゃありません!』

 

 

 突然現れて治療を施した謎の美女&美少女集団に面食らっていた戦士たちもその鮮やかな手際と(ウォトカ)によってすっかり骨抜きに。治療の際に感じたたわわの感触を反芻しながら小瓶を飲み干すだらしねぇ姿に奥方(フースフレイヤ)が罵声を浴びせてますが……残念ながらそれすら彼らにとってはご褒美らしく効果は望めない様子。兜越しのゴブスレさんの視線が若干悲しそうなのは見なかったことにしてあげましょうね。

 

 


 

 

『まったく! 戦場(いくさば)では鬼神もかくやという戦士たちが、どうしてこう……』

 

「あはは……」

 

 

 酒精(アルコール)と疲労で高鼾をかき始めた戦士たちを寝かしつけ、居住区を後にした一行。ゴブスレさんが興味津々な起重機(クレーン)の設置してある岸辺への道を歩きながら、肩を落とす奥方(フースフレイヤ)の隣で女神官ちゃんが苦笑しています。戦士たちの家族と思しき人たちから向けられる視線は当初の好奇に満ちたものではなく、感謝と畏敬を感じさせるものへと変化していますね。

 

 

「まぁまぁ。常に気を張っていては疲れてしまいますし、心に余裕を持つのは良いことでは?」

 

『ですが、客人であるみなさんにあのような目を向けるのはちょっと……』

 

 

 ……まぁ、彼らも精気漲る男子。祭りで昂っていたところに怪我が重なり、生命の危機を感じたとなれば本能がムクムクとおっきくなっても不思議じゃありません。傷口に触れる指先、押し付けられる魅惑の果実、耳元に感じる甘い吐息……。幸いにも暴発(複数の意味で)する者はいませんでしたが、当人ではない奥方(フースフレイヤ)が感じるほどそういう(性的な)目で見られていたのは事実ですねぇ。

 

 

「別に気にしちゃいないわよ、減るもんじゃないし。そりゃ直接触られたりしたら引っ叩いたかもしれないけど、みんな紳士的に見るだけだったもの。それに……」

 

 

 ひらひらと手を振りながら応じた妖精弓手ちゃんの視線の先には余った竜血の水割りをクピクピと飲み干しているダブル吸血鬼ちゃん。けぷっと可愛らしいげっぷをする2人を手招きし、近寄ってきた2人を抱き上げました。

 

 

「「ふわぁ……」」

 

 

 半ば条件反射のように目を細め、胸元に顔を擦り付けるダブル吸血鬼ちゃん。小さな腕でしがみつく2人を愛おし気に撫でる妖精弓手ちゃんが奥方(フースフレイヤ)に向き直り、誰もが見惚れる笑みで言ってのけるのは……。

 

 

「他の男たちがどんなに想像で私たちを好き勝手しても構わないわ。だって……これから先の未来永劫この子たちが私たちに与えてくれる幸福(しあわせ)のほうが、そいつらの想像よりずっとず~っと素敵だもん! ……そうでしょう、私たちの愛しい旦那様?」

 

『はぁ……なんだか暑くなってきちゃいましたね……』

 

 

 永遠に等しい寿命を持つ上の森人(ハイエルフ)ならではのクッソ重たい惚気に思わず襟元を緩めパタパタと仰ぎ出す奥方(フースフレイヤ)。妖精弓手ちゃんの言葉にてれてれなダブル吸血鬼ちゃんもそれに応えるように口を開きます。

 

 

「えへへ……もちろん! みんなのココロもカラダも、ぜ~んぶぼくたちのもの!!」

 

「こわさないようたいせつに、ずっとずっとあいしてあげる! だから、ぼくたちのことも……わぷっ」

 

「――ええ、永遠に愛して差し上げますわ。2人の素敵な頭目(リーダー)?」

 

 

 おっとここでもう1人の正妻のエントリーだ! 妖精弓手ちゃんから吸血鬼侍ちゃんを受け取り、後頭部に顔を埋めるように抱き締める令嬢剣士さん。これまた激重な感情の発露に一同もドン引き……する筈も無く、うんうんと後方愛人面で頷くばかり。王妹殿下1号2号ちゃんたちまでもが羨ましそうに指を咥えて見ている有様に、盤外(こっち)で視ている知識神さんと地母神さんのテンションゲージも天元突破しております。

 

 

 重力異常が発生しているのかと錯覚するほどの激重空間に流石の奥方(フースフレイヤ)も困り顔……じゃないですね。『都会の人は進んでるんだなぁ』という顔で興味津々、そっとこの空間から撤退しようとしていたゴブスレさんを目を爛々と輝かせながら捕まえ、身を乗り出しながら問うのは……。

 

 

『やっぱり、小鬼殺し様も複数の妻をお持ちなんですか?』

 

「それは戦友たちだけであって、王国でも一夫一妻が常識だ」

 

 

 奥方(フースフレイヤ)が誤解しないよう決断的に言葉を返すゴブスレさん。そーなのかーという顔で彼の言葉を反芻する奥方(フースフレイヤ)を横目に、それに……と言葉を続けます。

 

 

「――俺には()()()だけでも荷が重い。それ以上は子どもたちしか抱えられん」

 

『まぁ……! ふふ、御馳走様です』

 

 

 奥方(フースフレイヤ)の揶揄いまじりの言葉を背にダブル吸血鬼ちゃんたちへと歩み寄るゴブスレさん。正妻たちから2人を取り上げ、お米様抱っこのまま断固たる歩みで起重機(クレーン)へと向かう彼をみんなが追いかけていくのでした……。

 

 


 

 

「うわ、近くで見ると迫力あるわねぇ」

 

「すごく……すごいおっきいです……!」

 

 

 夕焼け色に染まる桟橋に並び立ち、長い影を生み出す起重機(クレーン)を見上げ感嘆の声を上げる冒険者たち。相変わらず語彙力の低下している英雄雛娘ちゃんは可愛いですね。

 

 入り江の民(ヴァイキング)の生業である交易を支え、円滑な物資の積み下ろしを担う木製の威容。長年の使用により擦り傷や汚れはありますが、丁寧に整備され製造の古さは感じさせません。潮風に弱い金属部分にはしっかりと獣油を加工して作られた潤滑油が注されており、独特な臭気を漂わせていますね。

 

 

「交易によって集まった物資はこの起重機(クレーン)を用いて王国行きの船に積み直され、貴族や商人の手に渡っているのですね……」

 

『ええ、この子が街一番の働き者ですよ。なんせ戦が無くても働きっぱなしですから』

 

 

 令嬢剣士さんに頷きを返し、優しく櫓の表面を撫でる奥方(フースフレイヤ)。素早い物資の積み下ろしには必要不可欠な起重機(クレーン)入り江の民(ヴァイキング)にとって船と同じくらい重要な財産であり、交易で各地を巡る彼らにとって故郷の象徴なのでしょう。

 

 

「――で、これが操作装置だな」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんを地面に降ろしたゴブスレさんが喰い付いたのは起重機(クレーン)の巻き上げ機構。何本もの丸太が石臼から生えたような外見は車輪にも似ており、多くの力自慢の奴隷(スレール)によって動かされる重量構造物です。内部に複雑な機構が組み込まれているそれは、女魔法使いちゃんがいたら嬉々として覗いていたかもしれませんね。

 

 

「――ッ!!」

 

 

 奥方(フースフレイヤ)に断りを入れ、装置を回転させる棒に手を掛けるゴブスレさん。渾身の力を込め棒を押しますが、装置はピクリとも動きません。息を整え、踏ん張り方を変えてみますが結果はやはり同じです。ほんのちょっぴりの残念さを胸に隠し、満足したように力を緩めようとした瞬間……。

 

 ギィ……

 

 

「!?」

 

「ふぬぬぬぬ……!」

 

 

 先刻まで微動だにしなかった装置が軋みを上げたことに驚きを隠せないゴブスレさん。気付けば隣には真っ赤な顔で棒を押す英雄雛娘ちゃんの姿がありました。彼女を見て何かを察知した彼が顔を上げ、周囲を見渡せば……。

 

 

「てがとどかない~」

 

「こんなこともあろうかと~」

 

 

 身長が足らず手が届かない為、丸太に触手を巻き付け引っ張るダブル吸血鬼ちゃんが。

 

 

「さぁお姉様、双子ならではの連携(コンビネーション)をご照覧あれ!」

 

「地に足が着いているということは、即ち地母神様の加護があるということです……!」

 

 

 鼻息荒く丸太を押す神官銃士ちゃんと、その隣で謎のボイルド=エッグ(ゆで)理論を展開する女神官ちゃんが。

 

 

「まったく、なんという論理的(ロジカル)でない試み……!」

 

「あら、死体が動いて喋っている以上今更では?」

 

 

 袖をまくった細腕で懸命に丸太を押す闇人女医さんと、頭に手乗りサイズになった相棒を乗せたまま丸太に手跡を刻まんばかりに力を込める令嬢剣士さんが。

 

 

「ほらほら、か弱い私のぶんまで頑張ってちょうだい!」

 

「うう……限界を超えて力を発揮出来る自分の身体が憎いぃ……!」

 

 

 そして、ブチブチと四肢から嫌な音が響くも即座に再生することに半泣き状態の妖術師さんと、装置にふわりと腰を下ろし、みんなに声援を送る妖精弓手ちゃんが。

 

 

「えへへ……ひとりじゃむりでも、みんなでやればできるかも!」

 

「だから、もっとぼくたちにたよっていいんだよ!」

 

「……そうか、そうだな。手を貸してくれ、戦友」

 

「「うん! まかせて、しんゆう!!」」

 

 

 気合いを入れ直し、各々一番力を発揮出来るポジションに付く一行。妖精弓手ちゃんの音頭で一斉に力を込めれば……!

 

 

 ズズ……

 

 

『凄い、力自慢の荷役奴隷が20人以上で動かす巻き上げ装置を……!』

 

 

 口元に手をあて驚きの声を上げる奥方(フースフレイヤ)の前で少しずつスムーズに回り出す巻き上げ装置。起重機(クレーン)の顎から伸びた綱が徐々に短くなり、やがてぶつかり防止の布袋が長い首の先端にくっつき、装置は停止しました。

 

 

「ど~よオルクボルグ、満足した?」

 

「ああ、礼を言う」

 

 

 一行が手を離せば、自動で既定の位置まで戻っていく巻き上げ装置。ぴょんと軽い身のこなしで装置から飛び降りた妖精弓手ちゃんの言葉にゴブスレさんは満足そうに頷き、みんなにペコリと頭を下げてますね。

 

 

『みなさん凄い力ですね! 同じ人数なら本職達でも巻き上げられるかどうか……』

 

「いや、あくまで今のは後先考えない1回きりの挑戦だ。仕事として日に何度も行える本職には遠く及ばんだろう」

 

 

 興奮した様子の奥方(フースフレイヤ)に対し首を横に振るゴブスレさん。他のみんなを見てみれば、何人かが疲労困憊といった様子で装置の周りにしゃがみ込んじゃってますね。船の修繕や繁忙期には1日に両手足の指では数えられないほど稼働するであろう起重機(クレーン)を動かす人たちはまさしくその道のプロフェッショナルなのでしょう……おや? おなかに手をあてたダブル吸血鬼ちゃんがぽてぽてと奥方(フースフレイヤ)に近寄っていってますね。如何しましたか? と屈んで目線を合わせる彼女に対し2人が口にしたのは……。

 

 

「「えへへ……おなかすいちゃった!」」

 

『あらあら! そろそろ準備も出来ているでしょうから母屋(スカーリ)に戻りましょうか』

 

 

 あざと可愛くおゆはんをおねだりする2人の頭を撫で、優雅に立ち上がる奥方(フースフレイヤ)。鎖帷子越しにも確認出来るほどたゆんと揺れる人妻たわわに目を奪われていたダブル吸血鬼ちゃんが、にこやかに笑う妖精弓手ちゃんにアイアンクローをお見舞いされなんとも形容しがたい悲鳴?を上げています。か弱いとはいったい……。

 

 夕日に浮かび上がる母屋(スカーリ)のほうからは奥方(フースフレイヤ)の言葉を裏付けるように炊事の煙がモクモクと立ち昇っています。普段食べ慣れている王国のものとは趣を異にする入り江の民(ヴァイキング)の料理、宴の作法なんかは大丈夫なのでしょうか? ちょっと心配ですね……。

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 


 

 

 

 うーむ……こっちのほうが彼女らしいけど、こっちも捨て難いですねぇ……。

 

 あ、どうも知識神さん。え、何をそんなに唸ってるのかって?

 

 いやぁ、このあと宴のシーンじゃないですか。宴に席に付き物なものと言えば? そう、場を盛り上げる歌です!

 

 推しの子に歌ってもらいたい曲は皆さんから聞いているんですけど、これがなかなか絞り切れなくてですね?

 

 ちょっと知識神さんも一緒に考えてもらえます?

 

 

 

 ――おおう、そうきましたか……! 確かに、この選曲はN子さん1人では思いつかなかったでしょうねぇ。

 

 推しの子ラブ勢に確認を取って、OKならこれでいきましょう! いや~視聴神さんたちの反応が今から楽しみですよぉ!!

 

 

 





 次話で趣味と性癖がバレそうなので失踪します。


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セッションその17-5


 連休は良い文明なので初投稿です。




 

 前回、一仕事終えてアトラクションを楽しんだところから再開です。

 

 

 歓待の準備を確認するために一旦母屋(スカーリ)へ向かった奥方(フースフレイヤ)と別れ、宛がわれていた住居へと戻ったダブル吸血鬼ちゃんたち。エチケットとして武装を解除し、ゴブスレさん以外は軽装の身になって会場へと向かっていますね。

 

 

「「こ~んばんわ~!!」」

 

「おお、来たか! 外は寒いだろう、早く中に入ると良い」

 

 

 頭領(ゴジ)の一行を招く声に顔を見合わせ笑うダブル吸血鬼ちゃん。分厚い両開きの扉を開けた先には、異国の空気が満ちた盛大な宴の場が広がっていました。

 

 炉床を挟んで並べられた長椅子には入り江の民(ヴァイキング)の戦士たちが並び、酒瓶を手にした女性たちがその合間を縫うように大皿に盛られた料理を次々と配膳。さながら戦場の如き活気に満ちた光景を前に、ゴブスレさんと英雄雛娘ちゃんの瞳がキラキラと輝いていますね!

 

 

『ささ、みなさまの席は此方ですよ!』

 

『おお、我らが命を救いし乙女たちの登場か!』

 

『戦神の愛娘たる白鳥人(ヴァルフェー)の顔を拝めんかったのは残念じゃが、戦死者の館(ヴァルハラ)に行くのを天女様がたに止められちまったのだから仕方ないのう!』

 

 

 ちょいちょいと手招きをする奥方(フースフレイヤ)に向かい歩を進める一行、その途中で何人かの戦士がみんなに向かって杯を掲げ、仕事を奪われた戦乙女を揶揄う乾杯の声を上げています。彼ら、ついさっき治療を終えた怪我人たちですよね? なんでもう復活しているんですかねぇ……?

 

 

「驚かせてしまったら申し訳ない。入り江の民(ヴァイキング)の戦士は死を恐れぬが、拾った命は大切にするものなのだ」

 

『すみません、みんな「絵巻物の戦乙女よりも美しいモンは初めて見た!」って興奮しっぱなしなんですよ……』

 

 

 荒々しくも温かな声に包まれながら母屋(スカーリ)の中央まで進めば、そこには高座に腰を下ろし苦笑を浮かべた頭領(ゴジ)の姿。ダブル吸血鬼ちゃんが強引に治療した右腕に微笑みを浮かべた奥方(フースフレイヤ)が両手を絡ませおり、戦士たちがその仲睦まじい姿を囃し立てていますね。

 

 2人の対面に用意された席にみんなが腰を下ろしたところで頭領(ゴジ)が指で合図をすれば、両手に何本も酒壺を抱えた戦士が現れ一行の前に次々とそれらを並べていきます。硝子瓶とは違い、中身の見えない壺から僅かに漂う香りにダブル吸血鬼ちゃんがワクワクし始めたところで、頭領(ゴジ)が訊ねてきたのは……。

 

 

「さて、この地では己の杯は己で準備するのが流儀なのだが……何か杯は持っているかな?」

 

 

 

 ……あ、鉱人道士さんがいないから、もしかして宴の作法を知ってる人いない!?

 

 

 

「……ねぇシルマリル、なんか杯になりそうなもの持ってないの?」

 

「野営で使う木のコップでは……少々無作法ですわね」

 

 

 ダブル吸血鬼侍ちゃんを膝上に抱えた正妻2人がヒソヒソと声を交わす中、頭領(ゴジ)の背後に控えている奥方(フースフレイヤ)が『すいません、伝えるの忘れてました!』とアイコンタクトを送ってきています。

 

 うーむ、これちょっと……いやかなり不味い状況かもしれません。入り江の民(ヴァイキング)の戦士たちからすれば『こっちの流儀も知らんで来たのか?』って目で見られかねませんし、頭領(ゴジ)の立場としても『王国からの使者(姪っ子)に恥をかかせてしまった』という風に感じてしまうかもしれません。

 

 同じ考えに至った女神官ちゃんと神官銃士ちゃんの顔がみるみるうちに引き攣って……おや? 吸血鬼君主ちゃんが妖精弓手ちゃんの膝から飛び降りてなにやらインベントリーから出そうとしています。やがて目当ての品を見つけたのか、にぱっと笑いながら並べ始めたのは……。

 

 

 

 

 

 

「ねぇシルマリル? なんかこの杯、みんな危険な力を感じるんだけど……」

 

 

 眼前に並べられた()を見て頬を引き攣らせる妖精弓手ちゃん。一見何の変哲もない金属製の杯ですが、その全てが怨念じみた瘴気を放っています。目に見えるほどに物質化したオーラを纏うその表面には、妖精弓手ちゃんとの初めての冒険で訪れた遺跡の壁画に刻まれていたのと同じ文字が見て取れます。あの時は女魔法使いちゃんが解読して視聴神さんたちが発狂してましたけど、今回は……あ、妖術師さんが読めるみたいですね。並べられた杯の文字を順番に読み上げて……。

 

 

「??? なんだろう、意味のある単語じゃないみたい。ええと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「9kv8xiyi、naapatbx、wyknbf8i、4pvc5kka、by68zgaj……」

 

 

 

 

 

 全盛り聖杯じゃないですかやだー!?

 

 

 

「ええと頭目(リーダー)? この杯は何処から……」

 

「えっとね、ダンジョンをつくるときにこの()()()()をおいておくといいことがあるよ!ってしりあいのピエロが……」

 

 

 ちょっと無貌の神(N子)さん? ナニ道化師(フラック)経由で特級呪物じみたブツを渡しちゃってるんですか???

 

 太陽神さんと万知神さんはを被って<ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!って叫びながら卓の周りを走り回ってますし、覚知神さんは全身から血の棘が生えて発狂中、知識神さんに至っては「血晶あたためますか……あたためますか……」ってブツブツ呟いたまま宇宙から帰って来ませんよ!?

 

 

「すぐにしまいなさい」

 

「は~い」

 

 

 おっと、実況に戻りますね。真顔の妖精弓手ちゃん言葉に従いいそいそと死臭・腐臭・呪い(全盛り)聖杯をインベントリーに格納する吸血鬼君主ちゃん。何か代わりになるものは無いかと考えているその視線が、頭領(ゴジ)の傷が癒えた右手で持っている杯へと注がれています。

 

 

「ん、これか? これは獣角を加工して作られた杯だ。()()の牙を素材にしたものとともに、この地では良く見られる品だよ」

 

()()()()()の……そうだ!」

 

 

 たぶん()()違いを想像している吸血鬼君主ちゃんが取り出したのは1フィート(約30センチ)を越える長さの大きな()。人数分取り出したソレを敷布の上に乗せ、吸血鬼侍ちゃんと一緒に黒く硬質化した爪で中をガリガリと削っていきます。素材の()()()に気付いた妖術師さんの「削りカスは魔術の触媒になるから捨てないで!?」という叫びをバックに内部を綺麗にくり抜いた後、署名代わりに杯の縁に噛み跡を付ければ……。

 

 

「できた~!」

 

()()()()()()()のきばはいのかんせ~い!」

 

『『『『『……え?』』』』』

 

 


 

 

「――同胞と友、そして新たなる隣人に!」

 

「いつでもみんなをみまもってくれているおひさまに!」

 

「みんなのゆめをあとおししてくれるかみさまたちに!」

 

 

 めいめいが自分の好きな言葉を叫び、始まった盛大な(ドレッカ)入り江の民(ヴァイキング)は牧場産(ウォトカ)の口当たりの軽さと度数の高さに驚嘆の声を上げ、ダブル吸血鬼ちゃんたちも王国では珍しい林檎酒や蜂蜜酒に舌を躍らせていますね。あ、飲酒には寛容な四方世界ですが、流石に英雄雛娘ちゃんはまだ早いということで、彼女は南洋産の神の実(カカオ)を使ったお砂糖たっぷりのホットチョコレートを飲んでいますのでご安心を。……冒険中に飲む水で薄めた葡萄酒はノーカンということでひとつ。

 

 

「うわぁ、貝の中身がこんなにどっさり……っ!」

 

『ここいらの海は豊かでの、こんなモンいくらでも獲れるわい!』

 

 

 山羊の乳と潰した豹芋(ジャガイモ)をベースに二枚貝の剥き身やベーコン、キャベツを入れて煮込んだクラムチャウダーを頬張り幸せそうな神官銃士ちゃん。王族という出自から一般人には手の届かない高級な食材に慣れ親しんでいる彼女ですが、こういった地元ならではの料理というのはまた格別なもの。陛下が見たら顔を顰めるような大口を開けて食べる姿を見て、強面の戦士たちも顔を綻ばせています。

 

 

「さ、魚を生で食べるんですか……!?」

 

『おうよ! まぁ生っつってもいっぺん凍らせてあるから腹中虫(寄生虫)の心配はせんでええぞ』

 

 

 大皿に綺麗に盛り付けられた鮭のルイベにおっかなびっくり手を出す女神官ちゃん。周りのニヤニヤ笑いを見て覚悟を決めて一口にパクリ、シャリシャリとした食感の後、口の中で融けていく脂の乗った味わいに陶然とした表情になってますね。

 

 おや、ダブル吸血鬼ちゃんと令嬢剣士さん、それに妖術師さんは戦士たちに混ざって一際大きな皿の周りに座ってますね。男たちの不安げな表情を余所に小刀で茹でた肉塊から一口大に肉を切り取り、白っぽい何かと一緒に口へと運んでいます。自分が食べるのを忘れたようにその様子を見ていた男の1人が、恐る恐るみんなに訊ねるのは……。

 

 

『な、なぁ。無理に食わんでもええぞ? 馴鹿(トナカイ)と違って、海豹(アザラシ)の肉は癖が強いもんでな?』

 

 

 ああ、あんまり見たこと無い肉だと思ったらアザラシだったんですね! かつて野菜が手に入らなかった頃はビタミン補給のために生で食べられていたこともあるアザラシですが、非常に生臭く火を通すと固くなるという性質を持っているんだとか。慣れない人が食べると栄養豊富過ぎてお腹を壊すこともあるそうですが……。

 

 

「「おいし~!!」」

 

「言われた通り、生の脂肪を添えると味わいが増しますわね!」

 

「わざわざ生臭くしてるだけの筈なのに、なんでこんなに美味しいんだろう……?」

 

 

 どうやら吸血鬼(ヴァンパイア)的にはOKみたいです。瞬く間に消えていく肉塊を前に困惑しっぱなしの戦士たちでしたが、自分たちの料理を美味しそうに食べてもらえば悪く思う訳は無く、そんなら腹いっぱい喰わせてやるかと次々にお代わりを用意してくれています。あ、誰かが昔は生で食べていたことを口を滑らせたのか、ダブル吸血鬼ちゃんが茹でる前の肉にまで手を出し始めちゃいました。まぁ一度屋外で凍らせてますし、毒病気無効なのでぽんぽんぺいんになる心配はありませんから大丈夫でしょう、きっと!

 

 さて、肉を好まない森人(エルフ)の2人は……あ、いました! 炉床から離れたちょっと寒いところで2人とも若い男たちの背後から何かを覗き込んでいます。座り込んだ男たちの輪の中心に置かれている金属製のボウルの中には……おおう、なんかピンク色の卑猥な物体が沢山。これモザイクかけたほうが……あ、駄目ですね、余計卑猥に見えちゃいます。

 

 

『その、なんだ、アールヴ(エルフ)のお嬢さまにゃちょっと刺激が強いと思うんじゃが……』

 

「そう? 幼虫とか普通に食べてるし、別に気にならないけど」

 

「いや、多分そういう意味ではないと思うぞ???」

 

 

 海の中にも虫はいるのねぇと興味深げにボウルの中身を観察する妖精弓手ちゃん。そんな彼女とは対照的に、若い男たちは何処か落ち着かない様子でチラチラと妖精弓手ちゃんを見ています。男たちの心情を察知した闇人女医さんが呆れたとばかりに首を振ってますが……いや、これは仕方が無いでしょう。ねぇねぇこれなんて名前の虫なの? という致命の一言に男たちが凍り付き、互いに目配せをし合う緊張に満ちた空間。やがて視線の圧に負けた1人が顔を赤らめながらその名を口にしました……。

 

 

 

 

 

 

『ええとな、お嬢さま。こいつぁその……〇enis fish(〇んこ魚)って呼ばれとるんだ』

 

「え、これ魚なの!?」

 

 

 違う、そうじゃない。

 

 

 

 

 

「なんだ、そんなコト気にしてたの? 一児の母なんだから別に騒いだりしないわよ!」

 

『いや、そう言われても……なぁ?』

 

『『『『『――!!(無言で頷いている)』』』』』

 

 

 闇人女医さんから彼らの心情を聞き、あっけらかんと笑う妖精弓手ちゃん。気まずそうに顔を見合わせる男たちですが、物語か春画の中でしか想像したことの無い森人(エルフ)への淡い幻想をもうちょっと大切にしてあげても良いんじゃないですかねぇ……。

 

 というわけで、彼らが調理しようとしていたのはちん……もとい、ユムシと呼ばれる生き物ですね! その見た目から共通語(コイネー)以外でもだいたいおんなじ意味の名前が付けられるというある意味レジェンドな生き物ですが、冷たい海に面した地方では食材として認識されている軟体動物です。大きさは10~30センチほど、頭と肛門を切り落とし、中身を扱き出して綺麗に洗った身はほのかに甘く、貝に似た食感が楽しめるんだとか。シンプルに塩で頂くのも良いですが、胡麻油や柑橘の汁を絞っても美味しいそうです。

 

 

「あら、柔らかいと思ってたけど意外と硬いのね」

 

上の森人(ハイエルフ)の姫ともあろう者がまたそんな……」

 

 

 好奇心に満ちた瞳でボウルの中のユムシに触れる妖精弓手ちゃん。僅かに膨らんだ先端を突いたりツツーと表面に指を滑らせる絵面は完全にアウト。闇人女医さんの溜息まじりの声が虚しく響く中、男衆の視線は妖精弓手ちゃんの艶やかな手付きに釘付けです。ですがそんな彼らの心を粉砕する一言が、一番大きな個体を親指と人差し指で挟み込むように擦っていた妖精弓手ちゃんの口から発せられました……。

 

 

 

 

 

 

「ん~……でもシルマリルとヘルルインの魔剣ほどおっきいのはいないのね」

 

「そういうとこだぞ、姫様」

 

 

 言葉も無く前のめりに崩れ落ちた男たちを不思議そうに眺める妖精弓手ちゃん。なおこの後調理されたユムシはダブル吸血鬼ちゃん一行が美味しく頂きました。

 

 

 

 いやぁ、無自覚妖精弓手ちゃんは強敵でしたね……と、そういえばゴブスレさんは楽しんでいるのでしょうか? 原作(ほんへ)よりは心身ともに余裕があり、牧場の後継者として、また騎士位を授与された金等級冒険者として活動しているため、コミュニケーション能力は鍛えられていると思うんですが……あ、いました! 何時の間にか高座から降りて戦士たちの輪の中に座っています。なかなか会話が盛り上がっているみたいですし、ちょっと聞いてみましょうか!

 

 

『ほほう、そんじゃオルク(ゴブリン)を絶滅させるのがお前さんの夢なのか』

 

「そうだ。ゴブリンは弱い。だが放置していれば際限無く増え、人々の生活を脅かす。奴らに知恵を持たせず、時間を重ねて数を減らし、この世から根絶させる。それが俺の……」

 

 

 途中まで言いかけたところで自らに注がれる視線に気付き、言葉を区切るゴブスレさん。見ればダブル吸血鬼ちゃんたち冒険者が頬を膨らませて彼を見ています。その様子を見たゴブスレさんが微かに苦笑しながら続けたのは、呪いじみた使命感ではなく、自ら望む未来を見据えた決意です。

 

 

「いつか、誰もがゴブリンに脅かされることの無い生活を送れるような世界を作る。それが俺()()の目指す『めでたしめでたし』だ」

 

 

『……そうか。難しいとは思うが、そんな世界が来ることをワシらも願っておるよ』

 

 

 ちょっと呆れたような、でも断固たる決意を応援するような戦士の言葉にヘヘンと鼻の下を擦るダブル吸血鬼ちゃんたち。たとえゴブスレさんの代でそれが敵わなくとも、既に土壌は出来つつあります。歩む速度が遅くとも、確実に世界を良い方向へ変えていくでしょう!

 

 

 

 

 

 

『ちと聞きたいんだがの。お前さんの着ているその鎧下、もしかして竜革を使っておるのか?』

 

『そういやその杯も竜の牙だったの。 もしやお前さん竜殺し(ドラゴンスレイヤー)なのか!』

 

 

 良い感じに酔いが周り、砕けた雰囲気になってきた頃。顔を赤らめた戦士たちがゴブスレさんの装備に興味を示し始めました。()鬼の姫から譲り受けた"小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)"の魔剣こそ置いてきたものの、竜革の鎧(ドラゴンハイドアーマー)真銀(ミスリル)にダブル吸血鬼ちゃんの血を混ぜて生み出された部分金属鎧の組み合わせである複合素材鎧(コンポジットアーマー)、そして砂漠の赤竜戦で役目を全うしたのち、その赤竜から新たに作られた竜革の外套(ドラゴンハイドクローク)。竜素材で固められたそれらは戦場に身を置く入り江の民(ヴァイキング)たちの目にも素晴らしい装備に見えるようです。戦士たちからの熱い視線に若干気圧された様子のゴブスレさんでしたが、グイと杯を傾けた後ゆっくりと口を開きました。

 

 

「いや、この鎧は結婚祝いに戦友が用意してくれたものだ。だが、この外套は戦友と……同じ冒険者の()()()()と協力して倒した赤竜を素材にしている」

 

『おお、そんならやっぱり竜殺し(ドラゴンスレイヤー)でねぇか! 是非そん時の話を聞かせてくれい!!』

 

『いやいや、せっかくだからお前さんたちの「冒険」っちゅうやつも話してくれ!』

 

 

 おお、予想以上の喰い付きにゴブスレさんの目が泳いでますね! 助けを求めるように視線を彷徨わせてますが……残念ながらダブル吸血鬼ちゃんたちはニヨニヨしているばかりで味方は1人もいない様子。いつの間にか高座から降りて来ていた頭領(ゴジ)奥方(フースフレイヤ)まで集まってきて、もはや逃げ場はありません。

 

 

「俺は、話下手だ。上手く伝えられるかは判らんが……」

 

 

 そう前置きし、語り始めたゴブスレさん。途中途中で補足や茶々が入りながらの冒険譚は、淡々とした口調でありながら臨場感に溢れ、冒険、そして『冒険者』と縁遠い入り江の民(ヴァイキング)を夢中にさせるほどに魅力的なものでした……。

 

 

 

『なるほど、「冒険」っちゅうのは血沸き肉躍るもんじゃのう!』

 

『こいつぁ負けてはいられんぞ! ワシらの武勲歌(サガ)を聞けぃ!!』

 

 

 

 ゴブスレさんの冒険譚で火が点いたのか、戦士たちが歌い出したのは入り江の民(ヴァイキング)の間で伝わる古の歌。伴奏も無く、ただ声のみを重ねて紡がれる雄々しい歌声に冒険者たちも息を呑み聴き入っています。杯と酒壺を持った頭領(ゴジ)がどっかりとゴブスレさんの隣に座り込み、牙杯に林檎酒を注ぎながら話しかけています。

 

 

「この地は生きるのに厳しい場所だ。夏は短く、暗い夜と寒さが容易く人の生命を奪っていく。だが、それでも此処には人の営みがある。強く生きる人々がいる」

 

「ああ、そうだな。此処は誰もが強く在る場所だ。互いに助け合い、共に戦い、そして次代に営みを繋いでいく……」

 

 

 普段よりも少しだけ饒舌なゴブスレさん、吞み慣れぬ林檎酒が酔いを齎したのかもしれませんね。高らかに歌う男たちを見る目は憧れにも似た光を湛え、いつも見せる攻撃色とは異なる色合いを見せています……おや? 戦士たちの歌が終わったところでスクっと立ち上がるあの薄いシルエットは……!

 

 

「よ~し、それじゃ次はこっちの番ね! あ、ちょっとその弓貸してちょうだい!!」

 

 

 そう言って手を伸ばしたのは入り江の民(ヴァイキング)たちが使っている短弓。普段彼女が愛用しているイチイの弓とは異なる動物の腱や骨を組み合わせて作られた合成弓(コンポジットボウ)を手に高座へと優雅に座り、ちょいちょいと闇人女医さんを手招き。やれやれといった様子の彼女が隣に腰掛けたところで弓の弦を爪弾き始めました。

 

 

 bon  bon  bon……

 

 

 何度か感触を確かめた後、静かに響き渡る鳴弦の音。それに合わせるように闇人女医さんさんが爪先でリズムを刻み始めます……。

 

 

 bon ti bon  bon bon bon ti bon……

 

 

 誰もが見惚れる笑みを周囲に向け、目配せをする妖精弓手ちゃん。自然に発生した手拍子(ハンドクラップ)母屋(スカーリ)全体に波及したところで、2人の歌が始まりました……!

 

 

 

 夜が来て(When the night has come)

 あたりが暗闇に包まれ(And the land is dark)

 

 

 甘く響くハスキーなアルト。普段はムッツリと無表情なことが多い闇人女医さんですが、内に秘めた情熱は決して他の子たちに引けを取りません。吸血鬼侍ちゃんへと向けられた視線の流れ弾に当たり、歴戦の戦士たちも思わず前屈みになっちゃってます。

 

 

 月明かりしか見えなくなったって(And the moon is the only light we'll see)

 だいじょうぶ 怖くなんてないわ(No I won't be afraid Oh I won't be afraid)

 あなたが隣にいてくれればね!(Just as long as you stand, stand by me)

 

 

 後に続くのは伸びやかなソプラノ。爪弾く指先はそのままに、首を緩やかに振ってリズムを取りながら楽しそうに歌う姿はまさに動く芸術。歌に聞き入っているみんなの頭も自然に動いてしまっています。サビを前に視線を交わした2人が、ダブル吸血鬼ちゃんを視界の中心に捉え、旋律に想いを乗せて歌い上げていきます……!

 

 

 だから ダーリン(So darling, darling)

 隣にいて わたしの隣に(Stand by me, oh stand by me)

 いて欲しいの 私の隣に(Oh stand, stand by me)

 私の隣に(Stand by me)

 

 

 今が暗くても、行く先が見えなくても、ずっと一緒にいるよという想いのこもった歌に、声を失い聴き入っていた一同。終わりを告げる弦の響きによって、我に返ったように拍手が沸き起こりました! むふ~と満足げな妖精弓手ちゃんが次に目を付けたのは……。

 

 

「ほら、次はそっちの3人! 場はあっためておいてあげたわよ!!」

 

「「「……え?」」」

 

『おお、次はお嬢ちゃん達か!』

 

『都会の歌はきっとスゲェんだろうなぁ』

 

 

 突然矛先を向けられ硬直する令嬢剣士さん、妖術師さん、英雄雛娘ちゃんの3人。まさか自分たちに振られるとは思っていなかったようで、周囲からの期待に満ちた視線によってプレッシャーに弱い妖術師さんは既に血の気の引いた……は元からですね。半笑いのような引き攣った表情になっちゃってます。

 

 

「どどどどどうしよう!? 私人前で歌ったことなんて無いってば!?」

 

「私だってありませんわ!? それに、この3人全員が知ってる歌なんて……」

 

 

 あ、それは重要なとこですね。生まれも育ちも大きく異なる3人、知っている歌も違うでしょうし、そもそもそういうものに馴染みの無かった可能性も考えられます。動揺を隠せない様子の眷属2人と……お、なにやら英雄雛娘ちゃんが決意に満ちた表情になってます。2人に顔を寄せてヒソヒソと何かを伝えているみたいですが……。

 

 

「確かに、その歌でしたら私も知っていますわ」

 

「で、でもちょっとこの場にはそぐわないような……」

 

「――でも、時間を空けたらせっかく盛り上がった場の空気が醒めてしまいます。だから、ここは勢いに任せましょう!」

 

 

 おお……先輩相手にどキッパリと言い放ちましたね英雄雛娘ちゃん! その力強さに2人も覚悟を決めたようで、揃って母屋(スカーリ)の中心へと進み出る3人。何度か深呼吸をした後、裏打ちの手拍子とともに始まったのは、王国の子どもたちならみんな知っているあの歌です……!!

 

 

 

花やくさきとおはなしが できたらうれしいとか

 

空をとびたいなんて まかせておくれ簡単さ

 

 

 まず先陣を切ったのは令嬢剣士さん。凛とした姿から繰り出される可愛らしい歌詞は破壊力抜群! 何処からか≪託宣(ハンドアウト)≫を受け取ったのか、一部の戦士たちが両手に小さな松明(サイリウム)を持ち歌声に合わせて振り出しています。

 

 

 

うかんだ雲をわたがしに かえて食べちゃうことも

 

できるよ チョット待ってね ポケットをさがしてみるよ

 

 

 続いてガチガチに緊張した面持ちの妖術師さん。本人はすっかり頭から抜け落ちているようですが、今の姿はダブル吸血鬼ちゃんをトレースした圃人(レーア)形態。お遊戯会の如き微笑ましさに奥方(フースフレイヤ)も顔を綻ばせ、その美貌を笑みの形に変えてます。

 

 

 

きかせて その大きな夢を せいいっぱいキミの声で

 

その夢 忘れないでいてね そうボクが かなえてあげるよ

 

 

 トリを務めるのは英雄雛娘ちゃん。一生懸命歌う彼女の視線の先には……目を丸くしているゴブスレさんが! どうやら先程の決意表明に対する彼女からのメッセージみたいですね。牧場に身を寄せてからこっち何かと英雄雛娘ちゃんを気に掛けていたゴブスレさん、もしかしたら彼女のことを妹か娘のように見ているのかもしれませんね。

 

 

「――ああ、懐かしいな。昔、姉さんと()()が歌っていたのを思い出したよ」

 

旦那(おど)様……』

 

 

 ひとり目を瞑り過去に想いを馳せる頭領(ゴジ)化狸(タヌキ)……じゃなかった、耳の無い猫人(フェリス)と気弱だけどやる時はやる只人(ヒューム)の少年が織り成す冒険譚は、とても古くから親しまれている子供向けのお話し。伯爵夫人(おねえ)さんと圃人侍女さんが知っていても不思議ではありません。眦に浮かんでいた涙を奥方(フースフレイヤ)に指先で拭われたことでハッと我に返り、心配そうに見つめる彼女を優しく抱き寄せていますね。

 

 

「「「あ、ありがとうございました~!」」」

 

『『『『『ウオォォォォォォ!!』』』』』

 

「ふっふっふ、それじゃあそろそろ貴女たちの出番よ~?」

 

 

 野太い歓声に若干引きつつも合いの手や応援に感謝を伝える3人が母屋(スカーリ)の中心から離れたところで不敵な笑みを浮かべる金床P。残る面子は王妹殿下1号2号とダブル吸血鬼ちゃん! 宴の盛り上がりが最高潮に達しつつある状態で、果たしてどんな活躍を魅せてくれるのでしょうか!!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 連休明けは悪い文明なので失踪します。

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。数値として見られるとモチベが上がって更新が早くなりそうです。

 次話への励みになりますので、お時間がありましたら感想を頂けると幸いです。評価やお気に入り登録も併せてお願いいたします。


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セッションその17-6


 なんとか半期〆の業務が片付いたので初投稿です。




 

 

 前回、入り江の民(ヴァイキング)にアイドル文化を伝播させたところから再開です。

 

 しっとりと愛する人への激重感情を歌い上げた森人(エルフ)コンビと、可愛らしい振り付け(ダンス)とともに無茶ばかりする夢追い人への応援歌を披露してくれた英雄雛娘ちゃんたち3人娘によって宴のボルテージは最高潮。ダブル吸血鬼ちゃん&王妹殿下1号2号に対する期待はいや増すばかり! 何処から調達してきたのか、入り江の民(ヴァイキング)の戦士たちも背中に嗜虐神さんの聖印(シンボル)を染め抜いたド派手な法被と鉢巻き姿で応援の準備はバッチリみたいです。

 

 

「――というのはどうでしょうか?」

 

「「おもしろそう!!」」

 

「うう……ちょっと恥ずかしいですけど、頑張ります!」

 

 

 さて、先に歌うのはどちらの……おや? 4人で集まって何やら相談してますね。神官銃士ちゃんの言葉に頷きを返し、炉床の周囲ではなく宴会の席の間に散らばるような立ち位置に付く4人。左右に大きく開いた手を頭上で打ち鳴らし、ゆっくりとしたリズムを刻み始めました。

 

 

「それではみなさま~」

 

「おてをはいしゃく~」

 

「えっと、ちょっと意味が違うような……」

 

「細かいことは気にしない! ――さぁ皆様、ご一緒に手拍子をお願い致しますわ!!」

 

 

 神官銃士ちゃんの張りのある声にまず反応したのは冒険者たち。同様に戦士たちの間に分散すると、4人に合わせるように楽し気に手拍子を始めます。こういうのには慣れて無さそうなゴブスレさんも英雄雛娘ちゃんに引っ張られ、彼女の隣で躊躇いがちに手を叩いてますね。

 

 

「ふむ。では率先垂範(example by leadership)といこうではないか」

 

『はい、旦那(おど)様!』

 

 

 高座から降りてきた頭領(ゴジ)奥方(フースフレイヤ)がそこに加わり、戦士たちも2人に続くようにその節くれだった頑丈な手を打ち鳴らします。会場の空気が整ったところで、眉を立てた笑みを浮かべた4人が一斉に歌声を紡ぎ始めました……!

 

 

 

うじゃけた顔してどしたの

 

つまらないなら ほらね

 

輪になって踊ろ みんなで

 

遊びも勉強もしたけど

 

わからないことだらけ なら

 

輪になって踊ろ 今すぐ

 

 

 ――それは、混沌の軍勢に立ち向かうべく秩序の勢力が結成した多種族連合軍の間で歌われていたもの。言語も文化も社会規範も異なる彼らが互いを尊重し、認めあう中で紡がれた友誼の証。

 

 

悲しいことがあればもうすぐ

 

楽しいことがあるから

 

信じてみよう

 

 

 過酷な戦場において、傷付いた仲間に手を差し伸べる勇気を、戦功を挙げた者を称え、命を散らした勇者を悼む優しさを忘れないよう心に刻むための誓いの言葉。全ての種族に伝わるよう、判り易い共通語(コイネー)の歌詞とメロディーによって織り込まれたそれは、平和と安寧を求める人々の間に瞬く間に広がっていきました。

 

オーオー さあ輪になって踊ろ

 

ララララ すぐにわかるから

 

オーオー さあ輪になって踊ろ

 

ララララ 夢を叶えるよ wow

 

 

 ちっちゃな身体をのびのびと動かし、ステップを踏みながら大きく腕を左右に振るダブル吸血鬼ちゃん。女神官ちゃんと神官銃士ちゃんの歌声に合わせ、聴き入っていたみんなに向かって意味深なウインク。一度見れば誰でも簡単に真似出来るそのシンプルさに惹かれ、1人また1人と立ち上がり、踊りに参加していきます……。

 

 

 

大好きな娘がいるなら

 

はずかしがってちゃダメね

 

輪になって踊ろ みんなで

 

大人になってもいいけど

 

忘れちゃダメだよ いつも

 

輪になって踊れ いつでも

 

 

「成程、単純な旋律と平易な歌詞が集団帰属意識を生み出し……ひゃん!? な、なにをする我が主!」

 

「むずかしくかんがえちゃダメ、いっしょにおどって?」

 

「わ、判った! 判ったから胸から手を……んっ」

 

 

 後方解説面をしていた闇人女医さん、いつの間にか忍び寄っていた吸血鬼侍ちゃんに背後から抱き着かれ、可愛い悲鳴を上げちゃってますね。厚手の布越しにもハッキリとわかるナイスたわわを下から掬い上げるように揉みしだかれ、艶めいた吐息が唇から漏れています……あ、令嬢剣士さんがエロ吸血鬼を引っぺがして、むくつけき男たちの中心に投げ混んじゃいました。イケメンよりも武骨な男性がタイプな吸血鬼侍ちゃんは好みの男衆に囲まれ胴上げされて大喜びですね。

 

 

一人ぼっちの時でさえも

 

誰かがいつも君を

 

見ててくれる

 

 

「ほ~ら、そんな顔してないの! こういう時は楽しまなきゃ、ね?」

 

『お、おう……!』

 

 

 いかつい顔に似合わぬ繊細な心の持ち主らしく、なかなか踏ん切りがつかない若き戦士の手を取るのは妖精弓手ちゃん。誰もが見惚れる笑みで彼を立ち上がらせ、すでにノリノリで踊っている輪の中に彼を導いていますね。物語の中から抜け出してきたような上の森人(ハイエルフ)の姫を間近に見た戦士は陶然としたまま仲間たちと合流し、彼らから向けられる羨まし気な視線にも気付かず頬を赤らめて踊っています。

 

 

オーオー さあ輪になって踊ろ

 

ララララ すぐにわかるから

 

オーオー さあ輪になって踊ろ

 

ララララ 夢を叶えるよ wow

 

 

「えへへ……どう? たのしいかな?」

 

「はい、とっても!」

 

「――ああ、悪くない」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの問いに満面の笑みで返す英雄雛娘ちゃん。ぎこちないながらもみんなを真似て鎧兜姿でダンスを披露していたゴブスレさんも楽しんでくれているみたいですね! 種族も性別も、生者と死者の違いもあるみんなが同じ気持ちを共有することが出来た魔法の時間は、酔いが回ってみんな潰れるまで笑い声を伴いつつ続くのでした……。

 

 


 

 

「――つまり、鰓人(ギルマン)たちの後継者争いの影響で交易船の運航が止まっちゃったってコト?」

 

「うむ、簡単に言えばそういうことだな……うむぅ……」

 

『もう! 飲み過ぎはいけませんとあれ程言いましたのに……っ』

 

 

 騒がしくも温かな宴の翌朝、宴の料理で発生した魚のアラと干し蕃茄(トマト)のシチューを手に首を傾げる妖精弓手ちゃん。彼女の言葉に頷きを返す頭領(ゴジ)の顔色は悪く、どうやら二日酔いみたいですね。隣の奥方(フースフレイヤ)がぷんすこと怒りながらも甲斐甲斐しく氷嚢を首筋に当てたり貝の煮汁を飲ませたりしています。

 

 北の海は生者に厳しく、交易に携わることは命がけの仕事。潮流や風を読み違えればあっという間に流され、季節によっては氷に閉じ込められてしまう危険だってあります。見渡す限りの氷原に取り残されてしまったら採れる手段は極僅か。

 

 救助を信じ日々減っていく食料を横目に耐えるか、あるいは何処にあるかも判らぬ人里を目指し自殺的な行進に臨むか。どちらにしろ生き延びる可能性は骰子(ダイス)目次第といったところでしょうか。

 

 そのような厳しい環境であるため、船乗りたちの多くは海中に暮らす鰓人(ギルマン)たちと契約し、比較的安全な海路を案内してもらったり不足した食料を調達したりするんだとか。大抵の場合海域に差し掛かったところに彼らは待機していて、積み荷の1割かそれと同等の貴金属を代価に案内人(ナビ)を引き受けてくれるそうです。

 

 危険を冒して運んできた荷物を渡すことを渋りガイドを雇わない者もいるそうですが、たいてい航路の何処かで沈み積荷は海中に消えてしまうため多くの船乗りは案内人(ナビ)に払う報酬を惜しまないんだとか。鰓人(ギルマン)たちにとっても海産物以外の良い外貨獲得手段であるため、わりあい誠実に仕事をしてくれていたらしいのですが……。

 

 

「なんでも彼らの信仰する神の落とし子がとんでもない怪物だったらしくてな、そいつを鎮めるべく赴いた族長は頭から喰われ、怪物が眠っていた彼らの神殿は酷い有様。流れの料理人(コック)によって退治されるまで付近の海域は船が近寄ることすら出来なかったらしい」

 

「……なんで料理人(コック)が落とし子を退治してるのかという疑問はありますが、怪物が居なくなった以上海域は安定したのではないのですか?」

 

 

 蜆エキスが効いてきたのか顰め顔が薄らいできた頭領(ゴジ)の言葉に曖昧な笑みを浮かべながら疑問点を指摘する女神官ちゃん。跡目争いが起きていたとしても、傾きかけた暮らしを支えるには案内人(ナビ)の仕事は欠かせない筈。他にも何か理由があるんでしょうか?

 

 

「……禁制の品を運んでいた連中が、案内人(ナビ)無しでその海域に入り込んだそうだ。当然無事に通過できるわけも無く、積荷諸共海に沈んだらしいのだが……」

 

「……なにか、あぶないものをつんでたの?」

 

 

 令嬢剣士さんの膝上に乗り黒豆茶(コーヒー)を楽しんでいる吸血鬼侍ちゃんの言葉に同意の頷きを見せる冒険者たち。ビンビン感じるイヤ~な予感は残念ながら正解です。

 

 

「ああ。現場の近くで救助されていた水夫が口を割ったよ。なんでも船の倉庫の最奥には鉛で出来た分厚い宝箱があり、積み込むのに相当難儀したらしい。積み込んだ後に船長が中身を確認している現場を偶然目撃したそうだが……」

 

 

 

 

 

 

「――仄かに青白く光る見たことも無い貨幣がギッシリ詰まっていたらしい」

 

 

 ……んん? 四方世界で貨幣といえば金貨(gp)銀貨(sp)、それと銅貨(cp)ですよね? よっぽど大きな街でなければ金貨の使用は釣銭の関係でイヤな顔をされたり贋金を疑われて使用を断られてしまいますし、銀貨や銅貨も縁を削り取られた粗悪なものが出回ったりと散々な代物。冒険者ギルドで報酬として支払われる新貨幣が一番信用されている有り様という、陛下の頭を悩ませる多くの問題のうちのひとつです。

 

 他に考えられるものといえば……四方世界を形作る基盤(元ネタ)のひとつであるダ〇ジョンズ&ド〇ゴンズに登場する白金貨(pp)くらいしか思いつきませんが……

 

 

 

 

 

 

 ……まさかとは思いますがGM、もしかしてプルトニウム貨(新和版の誤訳ネタ)!?

 

 

「族長が死亡し統率を失った鰓人(ギルマン)の一部が海底に沈んでいたその貨幣を奪って逃走、神殿跡を根城に悍ましい怪物の群れを使役して海域を荒らしまわっている。新たに族長となった者もなんとか奴らを抑えようとしているが、残念ながら上手くいっていないのが現状だ」

 

『交易にも出られず漁も満足に行えない親戚一同が、嫁取りにかこつけて食料と金をせびりに来たのが昨日の祭りなんです……』

 

 

 ふむふむ、それで王国に入ってくる交易品が激減していたわけですね。このまま放置していては入り江の民(ヴァイキング)たちの生活が立ちいかなくなり、北方の護りが喪失してしまうかもしれません。早急に何とかしなきゃいけませんよ!

 

 

「我らとしてもこのままでは生活が危うい。そこで鰓人(ギルマン)たちと共同で暴れ回っている連中を止めるべく奴らの根城に赴くことになっているのだが……」

 

 

 そこで言葉を区切り、姪っ子たちに視線を向ける頭領(ゴジ)。王国と同盟を結んでいるとはいえ、それは従属ではなく対等な関係。迂闊に頭を下げてしまっては彼らの面子に関わってきます。とはいえダブル吸血鬼ちゃんたちが貴重な戦力であることも事実、上手いこと落としどころを見つけなければ……。

 

 

 

「――判った、引き受けよう」

 

「ん、そうだね!」

 

「がんばろ~!!」

 

 

「ちょっと、そんな簡単に……!?」

 

 

 フンスと鼻を鳴らしやる気満々な3人の姿に慌てた様子の神官銃士ちゃん。下手に引き受けて今後の王国と入り江の民(ヴァイキング)たちの関係に問題が生じるのを恐れているのでしょう。ですが、その心配は無用というものです! 吸血鬼君主ちゃんを抱き上げ頬擦りしている妖精弓手ちゃんが、そんな彼女の疑問を打ち砕いてくれます。

 

 

「あら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ここまでは王国の使者として、そしてこれからは【辺境最優】と【辺境最悪】としての仕事です。……それでよろしいですね、殿下?」

 

「――ヨシ!」

 

 

 暫しの葛藤の後、晴れやかな笑顔とともにちょっと許されざる角度でポーズをキメながら追認する王妹殿下1号……もとい神官銃士ちゃん。立場なんてものは使いよう、状況に応じて使い分ければ良いってことは暴れん坊陛下(お兄様)が証明してますからね!

 

 昨夜の宴で気力体力共に充実した冒険者たちの瞳には、未知なる環境での冒険に挑む悦びの光が宿っています。爛々と眼を輝かせる彼らを呆気にとられた表情で見ていた頭領(ゴジ)ですが、やがて堪え切れぬとばかりに笑い出しました。

 

 

「はは……! そうか、冒険者とはそういうモノであったな!! ならば諸君、共に北海の怪物退治に出航だ!!」

 

「「「「「おー!!」」」」」

 

 

 傷の癒えた右腕を高く掲げ狼の如く吠える頭領(ゴジ)に合わせ、勇ましい掛け声を上げる一同。そこには冒険者と戦士の違いは無く、ただ困難に向かい漕ぎ出す挑戦者たちの姿があるのでした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あ、そうだ。ちょっといいですか? 船で向かうなら試してみたいことがあって」

 

 

 おや、妖術師さんの様子が……。

 

 


 

 

『なんとまぁ……』

 

「まさか、これほどのモノを呼び出すとは……!」

 

 

 頭領(ゴジ)奥方(フースフレイヤ)、そして入り江の民(ヴァイキング)たちが言葉を失うのも無理はありません。集落の港には交易船が短艇(カッター)にしか見えないほどの大型船が停泊し、一行が乗り込んで来るのを()()()()()()()()が今か今かと待ち構えているのですから!

 

 全長は約150フィート(40m以上)、大型の帆と二段式の櫂を備えた威容は入り江の民(ヴァイキング)の様式よりも南洋の船に近く、船首に優美な櫓と巨大な衝角(ラム)を備えた美しい木造の船体を惜しげも無く晒しています。船員とともに沈んだ船の魂を基礎とし、仮初の船体を構築したため様々な船の構造が合わさった造りになったのかもしれませんね。

 

 桟橋に横付けされた短艇(カッター)に分散して乗り込み、船へと招かれる一行。死してなお戦いを望む戦士たちが敬礼を捧げるのは、彼らをこの地に召喚した妖術師さん……ではなく。

 

 

『えっと、よろしくお願いしますね?』

 

 

 入り江の民(ヴァイキング)にとってのトップアイドルである、嗜虐神さんに愛されし奥方(フースフレイヤ)ですね!

 

 

 

「どうして……?」

 

「彼らにだって推しを選ぶ権利くらいあるってコトじゃない?」

 

「言霊の力と戦い続ける歓びに溢れた彼らの思念を最大限引き出して、やっとの思いで成功させたのに……船体や霊体の維持も私がしてるのに……」

 

 

 現場猫顔で固まる妖術師さんに容赦なくトドメを刺す妖精弓手ちゃん。魔力とともに大切な何かを失い膝から崩れ落ちる彼女を見て溜息をひとつ吐き、パチンと指を鳴らせば背後から現れる小さな影が2人ぶん。甲板に手を付き咽び泣く妖術師さんを左右から挟み込んで……。

 

 

 

「もう、そんなになかないで? きみがとってもがんばってくれたこと、ぼくたちはちゃ~んとしってるから!」

 

「まりょくをつかいきっちゃったよね? いまからしっかりほきゅうしてあげる! ……もちろん、()()()()()()()、ね?」

 

「ふぁっ!?」

 

 

 さほど身長の変わらぬ妖術師さんを左右から2人掛かりで抱き上げ、半透明の船員の誘導で船内へと消えていくダブル吸血鬼ちゃん。やがて船内の一室からは湿った音と必死に快楽を押し殺す妖術師さんの艶めいた息遣いが響いてきました……。

 

 

 

「……んっ、んむぅ……ひぁぁ……!?」

 

「おおきなこえをだすと、みんなにきかれちゃうよ?」

 

「それとも……きかれたいの? ん~……ちゅっ」

 

「やっ、そんな……だめぇ……」

 

 

 漏れ聞こえる声の方角をガン見する王妹殿下1号2号の背後では、妖精弓手ちゃんが英雄雛娘ちゃんの耳をピッチりと塞ぐ教育的な配慮をしていますね。思春期真っ只中な反応を示す2人に苦笑を隠せない様子ですが……おや? 悪戯を思い付いたのか英雄雛娘ちゃんを闇人女医さんに預け、ピコピコと長耳を動かしながら息も荒く夢中になっている彼女たちの背後に近付いて……。

 

 

「フフ、ああなった2人は()()わよぉ? 相手を幸せにするのに夢中になっちゃって、こっちの言うことなんてち~っとも聞いてくれないんだから。おまけに……」

 

 

 

 

 

 

「『待って』は『はやく』に、『ダメ』は『いいよ』に、『無理』は『もっと』だと思ってるから、相手がトロトロになっちゃうまで絶対に……あら?」

 

 

 あ~あ、耳元で囁かれた刺激的な内容に王妹殿下1号2号の精神はオーバーヒート、茹蛸みたいな顔で失神しちゃってますね。2人を見て慌てて駆け寄ってきた令嬢剣士さんに神官銃士ちゃんを任せ、妖精弓手ちゃんは女神官ちゃんを抱きとめてあげてます。

 

 

「もう! あまり揶揄ってはいけませんよ? 頭目(リーダー)たちも()()()()()()()()()()ですのに……」

 

「あ、やっぱり判る?」

 

「当たり前ですっ。それに……どんなに夢中になっていても一言『嫌だ』『やめて』と言えばすぐに止まってくれますもの、あの可愛らしい2人の暴君は」

 

 

 良かった、昼間からおっぱじめてたわけでは無いんですね! どうやら妖精弓手ちゃんはその鋭敏な聴覚で吸血の音から、令嬢剣士さんは微かに漂う2人の血の匂いから何をしているのかを把握していたみたいです。最近自分の気持ちに素直になり過ぎている2人をちょっとだけ落ち着かせるには丁度良かったかもしれませんね。

 

 

「いやーやっぱ師匠たちの直吸いは効くなぁ……げふぅ」

 

 

 お、妖術師さんがツヤツヤになって帰って来ました。唇の端っこに血が付いてるあたりダブル吸血鬼ちゃんからちゅーちゅーしてたのは間違い無さそうです。

 

 

「ただいま~……あれ?」

 

「ふたりともねちゃったの?」

 

「んー? 昨日はしゃぎ過ぎて疲れが抜けてなかったのかもねぇ。――それよりもほら、2人ともいらっしゃい?」

 

 

 王妹殿下1号2号の様子に首を傾げるダブル吸血鬼ちゃんを呼び寄せ、そっと吸い口を露出させる妖精弓手ちゃん。2人も素直にちゅーちゅーしてますし、結構な血を吸われてたのかもしれませんね。女神官ちゃんを膝枕しつつ2人を抱き寄せる妖精弓手ちゃん、その全身からは溢れんばかりのオカン(ちから)が感じられます。

 

 魔力を補給したところで妖術師さんがサッと手を挙げれば、帆を張ると同時に動き出す無数の櫂。半透明の船員と生身の戦士たちの視線を受けた頭領(ゴジ)が出航の号令を高らかに宣言しました!

 

 

「微速前進! これより本船は鰓人(ギルマン)の族長との邂逅予定地である北東の岩礁地帯……寄群(よぐ)へと向かう!!」

 

 

 寄群(よぐ)……ヨグ……ああ、やっぱり今回はそっち方面なんですね……。

 

 


 

 

 寒風を帆に受け、荒波を切り裂いて進む大型船。幽霊船(ナグルファル)の伝説にあやかって召喚されたことでその帆にはいつでも最適な向きの風が当たり、また荒れた海上にありながらもまるで海面に吸い付いたように船体は揺れること無く同じ姿勢を保っていますね。森人(エルフ)の森では船酔いに悩まされていたダブル吸血鬼ちゃんもケロっとした顔をしていますし、乗り心地は抜群みたいです!

 

 

「実に良い船だ! 船員の練度も高く、何より揺れが少ないのが良い!! ……俺も船酔いしやすい体質でね、航海中は碌に食事が喉を通らないのだ」

 

『此方に来たばかりの頃の旦那(おど)様、船の上ではそれはもう酷い顔色でしたからねぇ……』

 

 

 船内を見回っていた頭領(ゴジ)奥方(フースフレイヤ)も快適な航行に満足げな様子。婿入り当時を思い出し苦い顔をする夫と、クスクスと笑う妻。最初は文化の違いからお互い戸惑うことも多かったでしょうが、今では周囲の者が砂糖まみれになるほど立派な甘々夫婦に進化したんですね。

 

 

「どうだろう召喚士(サマナー)殿、(いくさ)を終えた後もこの船を維持することは出来るだろうか?」

 

「うーん……ちょっと難しいかな。航海途中で沈んだ船やその乗組員の無念が核になってるから、無事に港まで戻れたら満足して還る魂が多いと思う。その後も付き合ってくれる物好きがいれば船は維持出来るだろうけど、船の大きさはだいぶちっちゃくなるかも」

 

「そうか……漕ぎ手奴隷でも無い者に航海を強制するわけにもいかんしな。その物好きが多いことを願うとしよう」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんをちゅーちゅーした後も維持コスト支払いのために竜血(スタドリ)を飲み続ける妖術師さんによる解答に残念そうに首を振る頭領(ゴジ)。船酔いしない船は彼にとっても喉から手が出るほど欲しいでしょうしねぇ……。

 

 

 

「――そういえば、これから会う鰓人(ギルマン)ってどんな種族なのかしら?」

 

「ん~?」

 

「たぶんあったことないかなぁ……」

 

 

 特製の焼菓子をみんなに振る舞いながらの妖精弓手ちゃんの問いに首を傾げるダブル吸血鬼ちゃん。一緒に焼菓子を頬張っている英雄雛娘ちゃんや闇人女医さんも首を横に振っていますね……お、竜血(スタドリ)片手に焼菓子を貪っていた妖術師さんは知ってるみたいです。指に付いた欠片を舐め取り、びっしりと付箋や書き込みが顔を覗かせる年季の入った怪物図鑑(モンスターマニュアル)を鞄から取り出し、ペラペラとページを捲り始めました。

 

 

「ええと……『鰓人(ギルマン)。水中に暮らす種族で魚に似た顔を持ち、多くが鱗に覆われた身体を持つ。族長である男性と複数の女性を中心とした家族社会を形成しており、銛や投網を用いての漁法はそのまま恐るべき戦闘術となる。その特異な外見から別名【海ゴブリン】とも呼ばれ』……」

 

「ゴブリンか?」

 

「……『ることもあるが、所謂小鬼(ゴブリン)とはまったくの無関係であり、秩序にも混沌にも属する可能性のある蜥蜴人(リザードマン)のような立ち位置である』」

 

「ゴブリンではないのか……」

 

鰓人(ギルマン)の方々を海ゴブリンと呼ぶのは、圃人(レーア)に対しての地べた摺り(ロードランナー)呼びと同じくらい喧嘩を売ってますので、十分に注意してくださいね?」

 

 

 ゴブスレさん、ステイ! ちょっとは落ち着きなさいと妖精弓手ちゃんに兜の後頭部をぺしりと叩かれ、大人しくなるゴブスレさん。令嬢剣士さんの捕捉に黙って頷きを返しています。ちょっと見た目が変わっているとはいえ鰓人(ギルマン)も立派な人型種族(ヒューマノイド)、ゴブリンなんかと一緒にするのはスゴイ=シツレイです。

 

 陸で難儀していた使い魔(ファミリア)の亀を助けてくれた只人(ヒューム)を海底の御殿に案内し、盛大に歓待したという物語があるくらい彼らは受けた恩にはそれ以上の礼を返す種族。もっとも面子を重視する傾向もあるので、馬鹿にされたり誇りを傷付けられたと感じたら全力で報復するのもまた事実。お調子者の兎人(ササカ)が彼らを足場代わりにして皮を剥がれた話もまた四方世界で語られる説話のひとつですね。

 

 

 

「――さて、そろそろ彼らの斥候が姿を現す頃合いだが……」

 

 

 船が進むことおよそ半日、島というには小さすぎる岩が無数に頭を覗かせる岩礁地帯が進行方向に見え始め、船上は俄かに慌しさを見せ始めています。ダブル吸血鬼ちゃんたちも念の為装備を身に着け、甲板の上に集まっていますね。

 

 

「おっ、見えましたぜ!」

 

 

 1人の戦士が指差す先、海面に何本も突き出た銛の先端が並んでいます! 少しずつ伸びる銛の根元からは鱗に覆われた手、そして鍛え上げられた肩口が顔を覗かせていきます。船の航路を塞ぐように2列の縦陣を組み、鰓人(ギルマン)たちが上半身を海面から出した状態で姿を現しました!! 奥方(フースフレイヤ)を伴って船首から姿をさらした頭領(ゴジ)が、張りのある大きな声で彼らへと呼びかけます。

 

 

「船上から失礼! 北の海を荒らすものに対抗すべく、勇敢なる戦士を連れて参った!! 其方の族長殿は何方に?」

 

 

 

 

 

 

「――あら、噂に違わぬ良いオトコ! 今そっちに行くわねン!!」

 

 

 瞬間、爆ぜるように水飛沫を上げる海面。鰓人(ギルマン)たちの中から飛び出した何かが上空高く舞い上がり、鈍い陽光を反射しながら甲板へと降りてきます! ちょうど入り江の民(ヴァイキング)組と冒険者組の間に着地したその威容に、みんな言葉を失っています……。

 

 スッと立ち上がるその身の丈はおよそ8フィート(2メートル半)。深く割れたシックスパックの腹筋は白く細かな鱗に覆われており、そこから徐々に桃色に変化して全身に広がっています。ポタポタと雫を滴らせる身体はダブル吸血鬼ちゃんが見惚れるほど鍛え抜かれており、咄嗟に妖精弓手ちゃんが2人の首根っこを掴んでいなければ頬擦りに突撃していたこと間違いなしです。

 

 魚の相を強く感じさせる頭部は何処かユーモラス。大きな瞳には深い叡智と慈愛を称え、キラキラした瞳で自分を見つめるダブル吸血鬼ちゃんに対しバチコーンとウインク。水中でも視覚を確保出来るように透明な瞼があるみたいです。ん~と伸びをする仕草から何とも言えぬ色気を放ちつつ、族長と思しき鰓人(ギルマン)がぷっくりとセクシーな唇を開きました……。

 

 

 

「はじめまして、陸に棲むオトモダチたち(フレンズ)! アタシがこの辺りを仕切っている族長よン!! ……って、ゴメンナサイね? ついこの間までオンナだったもんだから、まだオトコとしての振る舞いに慣れていないの」

 

 

 クネクネと身体をくねらせながら野太い声で笑う鰓人(ギルマン)の族長。これまで遭遇してきたなかで一二を争うほどに濃いキャラに硬直する一行、ダブル吸血鬼ちゃんを除いて一番早く復帰したのは女神官ちゃん。今まで培ってきた異種族コミュニケーション能力を発揮し、若干引き攣り気味の笑顔で彼?に話しかける姿からはベテラン地雷処理のオーラを感じさせます。

 

 

「ええと、はじめまして。私たちは入り江の民(ヴァイキング)の方々に協力している王国の冒険者です。その、この間まで女性だったというのはいったい……?」

 

「あら、可愛い冒険者さん! アタシたちは1人の夫に対し複数の妻がいる一夫多妻制なんだけど、何らかの事情で夫が死んだ場合、妻の中の1人が新しい夫になって群れを引き継ぐのヨ。その際、性別もオンナからオトコに変わるってワケ!!」

 

 

 まぁ見た目は殆ど変わらないけどネ!としゃがみ込んで女神官ちゃんに目線を合わせながら笑う族長……えぇと、蛸神さんより彼?のことは族長姉貴兄貴と呼んで欲しいと要望がありましたので、以後はそう呼称するということでひとつ。魚にはメスからオスに性転換する種類もいるみたいですし、群れを維持するためにそういった進化を遂げてきたのかも……あ、進化論は四方世界的には異端でしたっけ。まぁその辺りは深く追求しないようにしましょう!

 

 族長姉貴兄貴に続いて屈強な鰓人(ギルマン)の戦士たち――みんな女性なんですよね――も次々に甲板へと飛び移ってきました。楽々と海面から飛び出してくるあたり身体能力は高そうですし、水中における戦闘能力は四方世界の人型生物でもトップクラス! 一部の蜥蜴人(リザードマン)鳥人(ハルピュイア)が対抗できるかどうかというレベルですので、その恐ろしさが判っていただけると思います。

 

 

 さて、無事に鰓人(ギルマン)たちと合流出来ましたし、後は北海を荒らす不届き者を懲らしめるだけです! 彼らが根城にしている神殿跡、まったくもって嫌な予感しかしませんが、みんな頑張って欲しいですね!!

 

 

今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





月末〆の業務が待っているので失踪します。


評価や感想、いつもありがとうございます。

もうすぐダブル吸血鬼ちゃんの冒険も2年を迎えそうなところまでやって来ました。お読みいただいた方からの感想や評価の後押しが無ければ何処かでエタっていたかもしれません。

もしよろしければ、引き続きダブル吸血鬼ちゃんたちの冒険にお付き合いいただければ幸いです。


お読みいただきありがとうございました。



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セッションその17-7


 ブラックサンが気になって仕方が無いので初投稿です。




 

 前回、族長姉貴兄貴率いる鰓人(ギルマン)たちと合流したところから再開です。

 

 

 不吉過ぎる名前の岩礁地帯を後にし、海域を荒らす謀反人たちが根城にしている神殿跡へと舵を切った幽霊船(ナグルファル)。船の周囲には鰓人(ギルマン)の女戦士たちがローテーションで周囲を警戒しており、航海は順調といったところです。甲板では挨拶もそこそこに頭領(ゴジ)夫婦と冒険者たちが族長姉貴兄貴から北海の近況を聞いていますね。

 

 

「そもそもの発端は、前の族長であるアタシたちのダンナが()()気持ち悪い落とし子を目覚めさせちゃったからなのよ……」

 

 

 肌が乾燥しないよう大きな木桶に海水を張り、バスタブのように浸かった姿で嘆息する族長姉貴兄貴。彼の言葉には只人(ヒューム)に馴染みの薄い独特な表現が多く、ダブル吸血鬼ちゃんにはちょっと難しいみたいですね。あとで判りやすくお話ししますねいう令嬢剣士さんの言葉に頷きを返し、吸血鬼侍ちゃんは闇人女医さんのたわわに後頭部を預ける姿勢でその胸元に収まり、吸血鬼君主ちゃんは自らの爪で傷付けた指先を妖術師さんの口に突っ込んでちゅーちゅーさせています。

 

 

「ねぇ可愛らしいお嬢さん。見た感じ地母神の神官っぽいけれど、どうして人は神を信じると思う? 深く考えず、アナタの言葉で話してちょうだい?」

 

 

 ヒレの付いた指先をつい、と向けた先は女神官ちゃん。族長姉貴兄貴の口調こそ軽いですが、神を信ずる神官にとっては非常に重要な問い掛けですね。突然の指名に驚いた様子の女神官ちゃんでしたが、胸の前に手を合わせ、己の内から零れる思いをそのまま口にします。

 

 

「えっと……私たちの暮らしを見守り、作物や野山の恵みを豊かにして下さることに対して感謝の気持ちをお届けするためでしょうか?」

 

「そう、その通り! 言い方は乱暴だけど、信仰を捧げる代わりに何らかの恩恵……地母神なら豊穣や怪我、病気の治癒なんかが得られるから人は神を信ずるのよね」

 

 

 もちろん、祈りが先か加護が先かなんて()()()どっちが先に産まれたのかと同じで結論は出ないでしょうケド、と続ける族長姉貴兄貴。彼の言う通り、推したちの祈りに応えて加護を授けたり奇跡を発現させるのが盤外(こちら)から四方世界を除いている存在の在り方。思うように祈りが集まらなければ加護は薄れ、忘れ去られてしまうことだってあります。破壊神さんの側面のひとつである『栄纏神』もそんな歴史の中で消えゆく神の一柱でしたが、令嬢剣士さんの活躍によって王国の将兵の間でもその信仰が広まり、徐々に往年の力を取り戻しつつあるみたいです。

 

 

「アタシたち鰓人(ギルマン)が大いなる蛸神を信仰しているのは、ひとえに子孫繁栄のため。長生きすればするだけ、たくさん食べれば食べただけ大きくなるアタシたちだけど、大人になるまで成長出来るのはほんの僅か。荒れ狂う海の中で生きていくには強い生命力が求められるの。だからアタシたちは強いオスと(つが)ってたくさんの卵を産み、より強い子が産まれるよう神に祈ってるの」

 

 

 それなのにねェ……と肩を落とす族長姉貴兄貴。どうやらよっぽど酷い目に遭ったみたいですねぇ……と、話し合うみんなのところへ1人の鰓人(ギルマン)が近寄ってきました。警戒ローテから戻ってきた彼女が差し出す木桶を族長姉貴兄貴が受け取り、そこから摘まみだしたのは……おお、大きなエビです! 好奇心の塊である妖精弓手ちゃんが覗き込めば、木桶の中にはどっさりとエビが入ってますね。人によっては虫のように見た目で敬遠されることもありますが、そこは昆虫食を推進している森人(エルフ)。特に蝲蛄(ザリガニ)が好物の妖精弓手ちゃんからすれば宝の山に見えることでしょう。涎を垂らさんばかりの顔な2000歳児を見て、族長姉貴兄貴が食べ方を教授してくれています。

 

 

「死ぬとすぐに臭みが出ちゃうから、出来るだけ鮮度の良いものを選ぶのがコツよ? (オカ)で食べる時は火を通すみたいだけど、ここではこうやって……」

 

 

 口で説明しつつ、鋭い爪の生えた指で器用にエビの頭をもぎ取る族長姉貴兄貴。そのままペリペリと殻を剥がし、プリっとした身を取り出しました。身に残っている汚れや殻の欠片を木桶の中の海水で洗い、バチコーンとウインクをキメながら艶やかな身を妖精弓手ちゃんへと差し出します。

 

 

「ささ、人目なんか気にしないでパクっと一口でいっちゃいなさい!」

 

「え、ええ……!」

 

 

 寄生虫が怖いため、生食はご法度なことが多い淡水生の魚介類に慣れている王国民にとって生のエビはなかなか勇気がいるかもしれません。受け取ったエビの尻尾を摘まみ、小さな口を恐る恐る近付ける妖精弓手ちゃん。僅かに伸ばした舌先に弾力のある身を乗せ、尻尾の付け根辺りまで咥え込んでちゅるりと口内へご案内。ギュッと眼を瞑った状態で咀嚼していましたが……。

 

 

「うわ、何コレ!? プリッとした歯応えも良いけど、身の甘さが海水のしょっぱさで引き立ってすっごい美味しい!!」

 

「ンフフ、でしょう? 海に生きる者しか味わえない、特別な美味ってヤツよ! みんなも遠慮せずに食べてみてちょうだい?」

 

 

 初めての生の味わいに瞳を輝かせる妖精弓手ちゃん。族長姉貴兄貴の進めるまま手を伸ばす冒険者たち、我先にピチピチ跳ねるエビの頭をもぎ、その殻を剥いて……あ、流石に神官銃士ちゃんはちょっと及び腰ですね。吸血鬼君主ちゃんが剥いたヤツをそっと手渡しています。海水に浸し、フルフルと震えるエビの身を口へと運び……。

 

 

「ふわぁ……!」

 

「「あま~い!!」」

 

「これは……果実の甘さとも肉の脂の甘さとも違う、今まで味わったことの無い甘さですね……っ!」

 

『フフ、私たちも滅多に口にすることの出来ない珍味ですから……あ、頭は捨てないでくださいね? とても良い出汁が取れますので!』

 

 

 恍惚の表情を浮かべる冒険者たちを優しく見守る奥方(フースフレイヤ)、エビの頭を回収する椀を持っているのはポイント高いですよ! あとで干し魚や乾燥野菜と合わせてスープにしますからという声にダブル吸血鬼ちゃんも大喜びですね!

 

 

 

「北海の幸は美味しいでしょう? 子孫繁栄とともにアタシたちが望んでいるのは大漁祈願。さっきも言ったケド、アタシたち鰓人(ギルマン)が大きくなるにはたっくさんの食料が必要なの。だから、子宝と大漁を約束してくれる限りアタシたちは大いなる蛸神とその眷属を祀り奉じているのよ」

 

 

 あっという間に無くなったエビの山に満足そうに頷く族長姉貴兄貴。エビの頭を摘まみながら語られるのは彼らが抱く信仰に対する思いの内です。利益第一の考えと思われるかもしれませんが、ダブル吸血鬼ちゃんをはじめとする神官の技能持ちが奇跡を行使できるのも信仰を捧げた代価ですし、四方世界的に不思議なことではありません。

 

 

「そんな感じで長い間信仰を捧げてきたアタシたちだけど、何が切っ掛けだったのか、神殿で深い眠りについていた落とし子が目覚めちゃったのヨ。奉ずる神の眷属なら丁重に扱わなきゃってんで、一族の戦士を連れて前の族長……アタシたちの元ダンナが供物を持って拝謁に赴いたんだケド……」

 

「「あっ(察し)」」

 

 

 ()()()がまぁとんでもないヤツだったのよね~と肩を落とす族長姉貴兄貴。その後の展開が読めたのか、ダブル吸血鬼ちゃんの目が死んだ鰓人(ギルマン)みたいになってますね。

 

 

「そのクソッタレな落とし子は、供物と一緒に族長含めた一族の戦士を『捧げもの』と思ってみ~んな食べやがったの! アタシたちが祈りを捧げてたヤツは、子孫繁栄どころかあたしたちをただの『餌』としか見てなかったワケ!! ……そしたらもう後は戦争しか無いわよね?」

 

 

 一族存亡の危機に族長を失いながらも立ち上がり、神の眷属に戦いを挑んだ鰓人(ギルマン)たち。多くの仲間を失いあわやというところで偶然通りかかった流れの料理人(コック)によって落とし子は調()()され、その死体は生き残ったみんなで分け合って食したそうです。なお、その料理人は只人(ヒューム)の男性っぽかったそうですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……種族が違いますし、他人との区別が付かなくても不思議じゃありませんね!(白目)

 

 その後、新たな長となり放置していた海路の整備と関係者へのあいさつ回りに奔走していた族長姉貴兄貴。以前と同じ……とは流石にいきませんが、なんとか体裁を整えることが出来たところで身内からの離反者発生&モヒカン化。鱗と粘液に覆われた顔からその心情は判り難いですが、だいぶお疲れみたいです。(おか)の種族と協力することを決めたのも鰓人(ギルマン)だけでは対処しきれないと判断したからなのかもしれませんね。

 

 

 

「それで、海域を荒らす離反者たちの戦力は如何程なのでしょうか?」

 

 

 愚痴交じりな鰓人(ギルマン)たちの状況を把握した後、これからの事について話し合う一行。口火を切ったのは戦に長けた神格を信奉する令嬢剣士さんですね。手持ちの札と相談しながら出来るだけ少ない被害で勝利しなければいけませんので、戦い前の段取りはとっても重要です。さて、敵戦力の規模は……。

 

 

「まず、首謀者は元第二夫人だったヤツよ。しきたりを無視して勝手に雄化した挙句、自分の子どもや子飼いの連中を引き連れて集落を飛び出して、あの落とし子がいた神殿を拠点にしてるわ。正直オツムは大したことないケド、海底に沈んでいた怪しい硬貨の影響か、連中メチャクチャ強靭な身体に変化してるの」

 

 

 ふむふむ、どうやら族長姉貴兄貴が第一夫人だったみたいですね。族長である夫を失い、新たな群れの指導者となる際雄に変化するのは次に力を持った雌の筈。勝手にポンポン雄になられたら群れの維持も出来ないでしょうし、今回の討伐作戦には種族の秩序を乱した落とし前をつけるという面もあるみたいです。

 

 

「それから、従えている怪物も厄介ね。どいつもこいつも通常より大きく、そして凶悪になってるわ。自らの弱点を克服した奴らもいるし、海中はもちろん海上でも油断は禁物よ!」

 

「そ、それはもしかして空を飛ぶサメがいたりとかですかっ!!」

 

 

 うわ、神官銃士ちゃんめっちゃ喰い付きが良い。キラキラした瞳の圧に冒険者たちは若干引き気味です。しかし空飛ぶサメ、王国デートの時に話題にしてましたっけ。南方には生息しているみたいですが、まさかこの北の海にいるなんてそんな……。

 

 

 

 

 

 

「アラ、良く知ってるわね! いるわよぉ……空を飛ぶだけじゃなく、口から火や雷のブレスを吐いたり、竜巻の中を集団で泳いでるやつらがそりゃもうわんさか!!」

 

 

 え、いるんですかやだー!?

 

 

「サメだけじゃあ無いわ、体表のトゲを撃ち出して来る海栗(ウニ)とか頭の先端に綺麗なチャンネーの疑似餌(ルアー)を付けた鮟鱇(あんこう)なんかも……」

 

 

「どんだけ魔境なのよこの海は……」

 

 

 水かきの付いた指を折り曲げながらウキウキと話す族長姉貴兄貴にドン引きの妖精弓手ちゃん、実に同意見ですね。一体だれがこんな混沌とした海を生み出(設定)したんでしょうか? ……ですよね蛸神さん、≪豊穣≫さん?

 

 

「流石のアタシたちも空を飛ばれちゃうと手出し出来なくてねェ。アナタたちにはそっちの対処をお願いしたいの」

 

「「は~い!!」」

 

 

 族長姉貴兄貴のお願いに元気良く応えるダブル吸血鬼ちゃん。幸い飛行可能な人員と飛び道具持ちは多いですし、残りは神官なので問題は……あ。

 

 

「ふむ、そうすると俺たちが若干浮き駒になってしまうかな」

 

「其方は指揮官だろう。俺は……まぁ幾らでも手はある」

 

 

 ちょっぴり残念そうなHFOの2人。頭領(ゴジ)は全体の指揮を執るとして、ゴブスレさんは投擲メインか≪水歩(ウォーターウォーク)≫をかけて貰っての近接ってとこですかね……っと、おや? そんな2人にダブル吸血鬼ちゃんがニコニコしながら近付いてますね。背後をとって首筋に抱き着きながら、そっと耳元に口を近付け……。

 

 

「えへへ……しんぱいごむよう!」

 

「ふたりへのしえんはちゃ~んとかんがえてるの!」

 

 

 ムフー! と自信ありげに眉を立てた笑みを浮かべてますけど、いったいどんな考えがあるんですかね? この場で話すつもりは無いみたいなので、本番に期待しましょうか!

 

 


 

 

「さぁ到着よ! あそこが落とし子の眠っていた神殿、外見がボロボロなのは戦闘の余波の影響なの」

 

「う……なんて淀んだ空気。精霊たちも苦しそうですわ……!」

 

 

 令嬢剣士さんが眉を顰めるのも無理はありません。船上の一行の前に現れたのは、ただ見ているだけでもSAN値を削りそうなほどに歪んだ光景。見る度に角度を変える外壁や直線と曲線が不条理に交わる石畳の参道、そして四方世界の生物の造形からかけ離れた醜い石像の数々です。族長姉貴兄貴の言葉通り幾つかは壊れ無残な姿を晒していますが、それらがより現実離れした空間を形作るのに貢献しているように思えます。

 

 

「――ホラ、どうせ覗いてるんでしょう? さっさと姿を見せなさい!!」

 

 

 大きな木桶(バスタブ)から船の縁まで移動し、侮蔑と怒りに満ちた声を張り上げる族長姉貴兄貴。その声に応じるかのように、船首側の海面が大きく渦巻いていきます! 同時に海底から響くような悍ましき声が、みんなの耳に飛び込んできました……!!

 

 

「……フン、相変わらず耳障りな声だ。尾鰭を巻いて逃げ出し、今度は鰭無し共に泣き付いたのか? なんと情けない……!」

 

 

 渦を突き破るように出てきたのは……粘液と鱗に覆われた大きな腕! 指1本が人間ひとりと同じくらいある巨大な腕が海面から現れました!! 内に秘めた筋肉で隆起した山脈の如き腕に続き、肩、そして頭が海面から生えていきます。

 

 どこか愛嬌のある族長姉貴兄貴とは違い、どこまでも酷薄そうな鋭い瞳に細く面長な頭部。裂けるように開いた口元には無数の鋭い牙がぞろりと並び、自らがこの海の頂点捕食者であることを無言で主張しているかのようです。甲板に立つ冒険者と入り江の民(ヴァイキング)たちを睥睨するその大きさは、見えている半身から考えても船と同等かそれ以上ありそうですね……。あまりのサイズに言葉を失っている一行を見て、さも愉快そうにその巨大鰓人(ギルマン)が言い放ちます……!

 

 

 

 

 

 

「どうした、力の差を感じ取り声を失ったか! フハハハハハ!!」

 

 

 

 ……えっと蛸神さん、あのでっかい鰓人(ギルマン)の呼び名は……あ、やっぱり秋刀魚頭(サンマーヘッド)ですか。

 

 

「すごく……大きいです……!」

 

「いや、デカ過ぎるでしょ……」

 

 

 哄笑けたたましい秋刀魚頭(サンマーヘッド)を見上げ、呆然と呟く英雄雛娘ちゃんと妖精弓手ちゃん。大きさ=強さではありませんが、巨体に備わった膂力と生命力は的の大きさを補って余りある利点です……お! 群れを率いる元彼女(モトカノ)現在彼氏(イマカレ)秋刀魚頭(サンマーヘッド)に続き一回り小さな……それでも巨大な鰓人(ギルマン)たちが船を囲むように海面に浮上してきました!!

 

 

「「「「「怖いか人間よ!! 己の非力を嘆くが良い!!」」」」」

 

 

 (彼らから見て)矮小なる存在を見下し、その魚眼に酷薄な光を浮かばせ、口々に叫び声を上げる鰓人(ギルマン)たち。歴戦の戦士たちですら気圧されるほどのプレッシャー、強大な竜が持つ『畏怖すべき存在』にも似た威圧感に晒された一行は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ぜ~んぜん?」」

 

「まぁ、そうだな」

 

「そもそも師匠たちの放つオーラのほうが怖いですし……」

 

「その巨体、人型である必要はあるのか? むしろ海中で動く邪魔になりそうだが???」

 

 

 自分より大きな脅威に立ち向かうなんてこと、冒険では日常茶飯事ですからね! 全く動じないダブル吸血鬼ちゃん達を見て浮足立ちかけていた戦士たちも平静を取りもどし、頭領(ゴジ)奥方(フースフレイヤ)の号令に従い戦闘配置に着きました!! 絶望に染まる顔を見て楽しむつもりだった秋刀魚頭(サンマーヘッド)たちもこれには大激怒、器用に鱗越しに血管を浮き上がらせてますねぇ。

 

 

「この……鱗無しどもがぁ……っ!」

 

 

 忌々し気な呟きの後、甲高い奇声を上げる秋刀魚頭(サンマーヘッド)鰓人(ギルマン)以外には耳障りな音にしか聞こえぬそれはおそらく召喚の呪文だったのでしょう、海面が波打ち、次々と恐ろしい怪物が浮かび上がってきました! 無数に生えた棘を威嚇するように打ち鳴らす住居ほどもある大きさの海栗(ウニ)に、何処からともなく現れた竜巻の中を泳ぎ回るサメの群れ、そして極めつけは……!

 

 

「ZGOOOOOOOOOK!!」

 

「あらヤダ、あの馬鹿ったら魔蟹(MSM-07)まで投入してきたわ。しかも激レアな赤いヤツ(MSM-07S)までいるじゃないの」

 

「まがに……カニさんなの?」

 

「ええ、図体に似合わない俊敏さと陸上でも活動できる適応力を持った巨大蟹よ。大きくて鋭い爪はヒトガタ(RGM-79)の分厚い皮膚を一撃でブチ抜くし、ハサミからは光線も発射するわ。ちなみに生でも火を通しても美味しいわよ」

 

「ほんとう!? ・・・・・・じゅるり」

 

 

 進化の過程で変化した巨大な単眼をぐぽ~んと光らせ、威嚇するように振り上げたハサミから謎の蟹光線(biim)を放つ蟹の群れに食欲塗れの瞳を向けるダブル吸血鬼ちゃん。獲物がいたぜと言わんばかりに飛び出そうとする2人ですが、妖精弓手ちゃんに首根っこを引っ掴まれて宙ぶらりんになってますね。

 

 

「こ~ら、2人とも欲望で動いちゃダメでしょ! ……んで、どうするの? なんだかんで言ってもサイズ差は如何ともし難いし、どいつもこいつも急所以外抜けそうになくて面倒なんだけど」

 

 

 それ急所なら抜けるってことですよね妖精弓手ちゃん。流石は一矢で飛竜(ワイバーン)を二枚抜きする技量の持ち主というところでしょうか。みんなからの視線を受けたダブル吸血鬼ちゃんが、空を飛ぶサメにも負けない牙を見せた笑みを浮かべながら作戦を話し始めました。

 

 

「まずは、おふねをまもるのをだいいちに! あながあいてもさいせいできるけど、ひっくりかえされちゃったらたいへん!!」

 

「おっきいやつらをちかづけないように、そらをとべるひとはなるべくふねからあいてをひきはなすようにしよう!!」

 

「うん、ちょっとくらいの損傷なら直ぐに修復できるから、そう簡単に沈まないと思う。任せて」

 

「仰せのままに、頭目(リーダー)!」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんと令嬢剣士さんの飛行ユニット隊は巨大鰓人(ギルマン)の気を引いて船から引き剥がすことを優先するみたいですね。いくら力持ちなダブル吸血鬼ちゃんたちでも乗員全員を運ぶことは出来ないので、船が沈んでしまったら大惨事確定です。アンデッド特有の再生能力もあるのでそう簡単に幽霊船(ナグルファル)も沈まないでしょうが、油断せずにいきましょう!

 

 

「しんかんのひとは、≪せいへき(プロテクション)≫でとびどうぐをふせぎつつふしょうしゃのちりょうをおねがい!」

 

「妥当な判断だ。万一船に乗り込まれても私に任せておけ、我が主よ」

 

「わ、わかりました!」

 

「お姉様、私は援護に回らせて頂いてもよろしいでしょうか。≪聖壁(プロテクション)≫はまだ授かっておりませんが、代わりに此方がありますので」

 

「ん……わかった! でも、むりしないでね?」

 

 

 胸の谷間から神編の綱紐(SM〇ープ)を引っ張り出し妖艶に笑う闇人女医さんと、その光景をガン見しながら頷く女神官ちゃん。神官銃士ちゃんは……とうとう腰に下げたヤバい銃のお披露目みたいです! 太陽神がヤンチャしてた頃に作ったトンデモ神器の威力が明らかになりますねぇ!

 

 

「ええと、私もまだ≪聖壁(プロテクション)≫を使えないのですが……わぷっ!?」

 

「だいじょうぶ、きみはせいれいさんのちからをかりてかいめんをあるけるようにしてもらうから、おもうままにたたかってみて!」

 

「あぶなくなったらちゃんとフォローするから、ぜんりょくでいってみよう!!」

 

「……はい、頑張りますマスター!!」

 

 

 おずおずと手を挙げ、不安げな表情を浮かべる英雄雛娘ちゃんですが、ダブル吸血鬼ちゃんにハグされてほわほわ顔に、令嬢剣士さんの≪水歩(ウォーターウォーク)≫で海面を疾走出来れば彼女の機動力と火力が存分に活かせるでしょう! 早速ゴブスレさんと頭領(ゴジ)を含めた3人に呪文を掛けるために令嬢剣士さんが精霊に話しかけてますね。

 

 

「呪文による援護感謝する。……これで鎧の重さで沈む情けない最期は迎えずに済みそうだな!」

 

「ああ。あとは立ち回り次第で……ん? どうした戦友」

 

 

 おや、≪水歩(ウォーターウォーク)≫をかけてもらったHFOの2人の袖をダブル吸血鬼ちゃんが掴んでニコニコと笑ってますね。もしかしてさっき話してた追加の支援ですかね?

 

 

「えへへ……あのね、『じぶんがおっきくてつよい!』っておもってるやつのあたまをおさえるのって、すっごくそうかいだとおもわない?」

 

「ん? ああ……そうだな。油断している相手の横っ面を殴りつけるのと同等の気持ち良さはあると思うが……」

 

「だよね! じゃあふたりとも、ちょっとくすぐったいけどがまんしてね?」

 

「――待て戦友。一体何をするつもり……!?」

 

 

 発言途中で唐突に途切れる2人の言葉。僅かに露出する素肌に触れたちっちゃな2人の手から流れ込む膨大な魔力の引き起こす快感にも似た衝動に、上がりそうになる声を必死になって耐えています。

 

 吸血鬼侍ちゃんの唱えた万知神さん専用奇跡の≪教授(ティーチング)≫によって異界から探し出(サーチ)されたのは、叢雲狩人さん()少女巫術師さん()、を基盤(ベース)大量の魔力(合計5マナ)を消費して唱えられる儀式魔法(Enchantment)。呪文の対象に竜の如き(8/8)膂力(パワー)生命力(タフネス)に変化させ、相対したものを蹂躙する巨体(Trample)まで与えるという、その名も判り易い≪巨身化(Gigantiform)≫の呪文(スペル)です! おまけに吸血鬼君主ちゃんからパスを通じて供給される追加の魔力(キッカー4マナ)によって、呪文の数がプラス1回!! この効果でHFO2人を纏めて対象にとったんですね!

 

 

「身体が大きくなっても反応速度はそのままか。悪くないな」

 

「ああ、これなら普段通りに剣を振るえそうだ」

 

「んな!? ……この私を見下すとはなんたる不遜! 許し難し!!」

 

 

 下半身を海中に沈めた状態で頭の上から見下ろされたことに激怒した秋刀魚頭(サンマーヘッド)、ざばーんと全身を露わにし、2人と同じように海面に立ちましたね。呪文によって大きくなったことで、2人の頭部はおおよそ秋刀魚頭(サンマーヘッド)の腹部あたり。手乗りサイズだったことを考えれば十分に対処可能なサイズ差になったといえるでしょう! オーなんとかさんと戦った時はもっとサイズ差がありましたからねぇ……。

 

 

「あーあー、オルクボルグも張り切っちゃって……」

 

 

 やれやれと苦笑しながら矢をつがえる妖精弓手ちゃん……ん? そういえば≪巨身化(Gigantiform)≫を彼女にもかければ東方の強弓武者ばりの威力が出るんじゃ……アッハイ、巨女vs巨大鰓人(ギルマン)の絵面はB級過ぎて禁止なんですね……っと、巨大HFOを送り出したダブル吸血鬼ちゃんがまだ何か企んでますね。2人で手を揃えて掲げているのは金属の(カード)みたいです。裏面には複雑な紋様が刻まれており、表面には……蜥蜴僧侶さんの肖像画(ポートレート)? あ、まさか……!

 

 

「あの、師匠? その膨大な魔力を感じる(カード)は……?」

 

「えへへ……いままではぼくたちがしょうかんされてばっかりだけど、とうとうよぶがわになったの!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ぼくたちとのあいだにつながりがあるの!」

 

 

 

「たすけて、とかげさ~ん!!」

 

 

 天高く放り投げられた(カード)を中心に、爆発的に広がる眩い光。その場にいる全ての者が目を覆うほどの輝きがおさまった後、甲板にズシリと着地するのはもちろん……!

 

 

 

 

 

 

「拙・僧・参・上!!」

 

 

 黒く硬質な鱗で全身を覆い、その隙間から蒸気のように余剰魔力を放出する偉丈夫。星の力(核融合炉)の稼働率が上昇するに従い、その身体に力が満ちていくのが見て取れます! パスを通じて状況は把握しているのか、吸血鬼君主ちゃんが差し出す高純度の竜血(スタドリ)を飲み干した彼の身体がみるみるうちに大きくなり、巨大HFOを越える高さにまで到達しました!!

 

 

「こんなにも早く声が掛かるとは実に僥倖! 拙僧の相手はあちらの硬派な者たちで宜しいですかな?」

 

「うん、よろしくおねがいします!」

 

「とってもおいしいみたいだから、せんどをおとさないようにたおしてね!」

 

「ハッハッハ! それはまた難しい注文ですな!! 戦神官殿、拙僧にも呪文をお願いしても?」

 

「ええ、すぐに。……ご武運を!!」

 

 

 蜥蜴僧侶さんが船から飛び降り、吸血鬼3人が飛翔したところで次回は決戦! 巨体同士のぶつかり合うダイナミックな戦闘に期待ですね!! 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 ゴチックメードを観に行くので失踪します。

 お気に入り登録数が1200に到達しました。たくさんの方に目を通して頂き嬉しい限りです。

 評価や感想もいつもありがとうございます。3年目に入る前にキリの良い話数まで書けたらいいなぁと思っております。更新速度が向上するかもしれませんので、お時間がありましたら是非お願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその17-8


ブラックサンで発狂し、ゴティックメードでSAN値を回復してたので初投稿です。



 

 前回、蜥蜴僧侶さんが吶喊したところから再開です!

 

 令嬢剣士さんの支援を受け、前傾姿勢で海面を疾駆する巨体。その速度は非常に速く、秋刀魚頭(サンマーヘッド)の部下たちが足止めを試みても反応しきれないほど。一直線に魔蟹(まがに)の群れへと突き進む蜥蜴僧侶さんの背後から秋刀魚頭(サンマーヘッド)の焦りを孕んだ怒号が響きます。

 

 

「ええい、目障りな……! やれ、魔蟹ども!!」

 

「「「「「ZGOOOOOOOOOK!!」」」」」

 

 

 召喚者の命に従い、威嚇のために振り上げていた両の鋏を迫る蜥蜴僧侶さんへと向ける魔蟹たち。そこから一斉に放たれた無数の蟹光線(biim)が次々と彼に着弾し、黒煙に包まれてしまいました! 獲物の姿が消え勝利のポーズを決める魔蟹たちですが、黒煙の中から浮かび上がるシルエットに気付き、ブクブクと口から泡を吹き出し始めてますね!!

 

 

「温い、温過ぎる! 斯様な攻撃では拙僧の鱗一枚焦がせぬと心得よ!!」

 

 

 相対した者の精神を折るような咆哮を上げ迫る蜥蜴僧侶さんに再び蟹光線(biim)を乱射する魔蟹。ですが無数の光の矢は彼の身体に触れる直前にその殆どが弾かれるように霧散し、僅かに不可視の障壁を突破したものも減衰がひどく、かすり傷すら与えることが出来ていません。吸血鬼君主ちゃんから星の力(核融合炉)を譲り受け、竜への階を登り始めた蜥蜴僧侶さんには恐るべき竜や吸血鬼君主ちゃんが持つ呪文抵抗(Iフ〇ールド)が追加されたんですね!

 

 

「次は此方の手番(ターン)ですな! コオオオオオオ……!!

 

 

 蟹光線(biim)が効かないと判断し鋏を振り上げながら押し寄せる魔蟹の群れを見て、深く息を吸い込む蜥蜴僧侶さん。背中部分にスリットのある新衣装から突き出た背鰭が紫電を帯びて明滅、同時に大きく開かれた彼の口内に膨大な熱量がチャージされていきます。独特な発射音とともに繰り出されるのは、怒れる竜神の放つ破壊の息吹(ブレス)……!

 

 

 

「カァアアアアアアア!!!」

 

 

 

 海面を割り、魔蟹へと伸びる極太の閃光。隊列端の1体を蒸発させた破壊の奔流は蜥蜴僧侶さんの首の動きに連動し、蟹歩きで回避しようとする他の魔蟹たちを次々に飲み込んでいきます。輝きが通過した後に残るは僅かな鋏や脚の先端のみ、両手の指を超える数の魔蟹が≪核撃・放射(フュージョンブラスト)≫の一撃によって海の藻屑へと姿を変えました!

 

 

「「「「「ZGOOOOOOOOOK!!」」」」」

 

 

 おっと、海中に退避して≪核撃・放射(フュージョンブラスト)≫から逃れた魔蟹たちが蜥蜴僧侶さんの背後に回り込んでますね。鋭い爪なら強靭な外皮を貫けると考えているのでしょう。ブレスのチャージタイムを狙う目の付け所は悪くありませんが、残念ながら蜥蜴僧侶さんに隙はありません!

 

 

「まだまだ未熟! ――(シャ)ァッ!!」

 

 

 背鰭に溜まっていた紫電を尻尾へと流し、豪快に振り抜く蜥蜴僧侶さん。音速を超える尾の先端から射出された光刃は魔蟹の強固な殻を紙のように切り裂き、偶然射線上に存在していた神殿跡の尖塔までも両断……あ、透明になって撮影の補助をしていた扁桃頭(アメンドーズ)の1体が不運にも巻き込まれて地面に落下しました。N子さん、みんなにバレないうちに回収お願いします!

 

 

「おっと、拙僧うっかり。これでは過食部分がなくなってしまいますな」

 

「Z、ZGO……!?」

 

 

 ぼたぼたと海面に落下する魔蟹のパーツを前にてへぺろな蜥蜴僧侶さん。両手の爪をカチカチと鳴らしながら最後に残った赤い魔蟹(シ〇ア専用ズゴック)へとにじり寄っていますね。仲間の惨状に恐慌状態に陥った魔蟹の振り回す鋏をガッチリと抑え、海中からその全身を引き摺り出しました。残る四対八本の脚でなんとか逃れようと藻掻く魔蟹の腹部、ふんどしと呼ばれる部分に噛みつき、一気に引き千切ります!

 

 

「ZGOOOOOOOOOK!?!?」

 

「死ぬとすぐに臭みが出る故、活けで持ち帰るのが上策というもの。……フム、あちらも派手にやっているようですな」

 

 

 ブクブクと口から泡を吹きぐったりとした魔蟹を背に抱え船へと眼を向ける蜥蜴僧侶さん。魔蟹は殲滅しましたので、次は幽霊船(ナグルファル)防衛戦を見てみましょう!

 

 


 

 

「次、11時方向から来るわ!」

 

「はい!! ≪いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守り下さい≫」

 

 

 揺れる船上という不安定な足場をものともせず得意の弓で前衛を援護していた妖精弓手ちゃんの声を受け、≪聖壁(プロテクション)≫を展開する女神官ちゃん。数々の冒険で鍛錬を積み重ね、帝王切開の技術確立のために技術や知識を吸収した彼女の神官としての位階は並の神殿長を超え、聖人尼僧さんに匹敵するもの。放物線を描いて飛来する巨大海栗の棘の着弾にも揺らぐこと無いその護りは、ダブル吸血鬼ちゃんたちとともに険しい道を歩むことを決めた彼女の決意を表しているのかもしれません。

 

 

「どうした、そんな襤褸船さっさと沈めてしまえ!」

 

 

 ゴブスレさんと頭領(ゴジ)相手に巨大な三又槍(トライデント)を振るう秋刀魚頭(サンマーヘッド)の怒声が響くと、それに呼応して俄かに泡立つ船の周囲。急浮上してきたのは人間とほぼ同じ体格の鰓人(ギルマン)、若干丸みを帯びた顔立ちから恐らくは若魚と思われる集団が船に群がり始めました。彼女たちにとって秋刀魚頭(サンマーヘッド)の命令は絶対なのか、入り江の民(ヴァイキング)の戦士や半透明の乗組員たちの矢で隣の個体が海に落下してもよじ登るのを止めようとはしません……あ、船側面から突き出した櫂に取り付いた鰓人(ギルマン)が腰に下げた袋から見るからに危険な色をした液体の入ったガラス瓶を取り出しました! 十中八九毒であろうそれを船内に放り込むべく腕を大きく振りかぶったところで……。

 

 

『――今です!』

 

「き、()()()()()()()、起動ッ!!」

 

 

 タイミングを見計らっていた奥方(フースフレイヤ)の号令で妖術師さんが秘密兵器その1を起動! 船の側面に並んだ櫂が一斉にぐにゃりと姿を変え、吸盤の付いた触手へと変貌しました!! 足場にしていた櫂が急に姿を変えたことで姿勢を崩した鰓人(ギルマン)が海面に落下していくのを太い触手が打ち据え、彼女を真っ赤なシミに変えてしまいました。他の触手もそれぞれが独自の意志を持つかのように動き、鰓人(ギルマン)たちを打ち据え、貫き、絞り上げ、次々に屠っていきます……!

 

 

「オノレ、ヨクモ若魚タチヲ……!」

 

 

 若魚たちの無残な姿に怒り狂った大型鰓人(ギルマン)の1体が矢継ぎ早に指示を出す奥方(フースフレイヤ)を司令官と判断し、触手の届かない船首から近付いてきました! 海面から高い位置にある甲板からでも見上げるほどの巨体、何本もの矢が命中していますが、全身を覆う鱗と粘液に阻まれ掠り傷にもなっていませんね……。船主に据え付けられた()()()()()()()()()()()の傍に立つ彼女にむかって、水かきの付いた手を伸ばしてきます。

 

 

「忌々シイ鱗無シメ。神ヘノ供物ニ……イヤ、コノママ踊リ食イシテクレルワ!」

 

 

 恐怖を煽るように大きく顎を開き、鋭い牙の並んだ口を見せる鰓人(ギルマン)。ですが残念ながらその口に収まるのは瑞々しい奥方(フースフレイヤ)の肢体ではありません。船内から重低音が響くとともに、少しづつ震動が船首に向かって近付いていきます。掴んだ船の縁からその振動を感じ取った鰓人(ギルマン)が訝し気に瞬膜を瞬かせていますが、既に彼女の運命は決まっています。大きく腕を前に突き出した奥方(フースフレイヤ)が、秘密兵器その2の使用を高らかに宣言します!

 

 

『――船首火炎舌(フレイムタン)、発射ッ!!』

 

 

「ギャアアアアアアアアアア!?」

 

 

 獅子の口から伸びた火炎放射によって口内を焼かれ、のたうち回る巨大鰓人(ギルマン)。海水で火を消そうと海面に頭部を突っ込みますが……それは最悪な選択なんだよなぁ。

 

 

「ミ、水ヲ……!?」

 

 

 『メディアの火』に含まれる成分と水が激しく反応し、辺り一帯に響き渡る爆音と衝撃。寒風によって煙が吹き散らされた後には、焼き魚の臭いを放つ頭部を失った巨体が力無く海面にプカリと浮かんでいました……。

 

 

「うわ、えっぐ……っと、そろそろ栗みたいなのに接敵しそうね。――頑張りなさい!」

 

 

 ≪聖壁(プロテクション)≫の効果範囲外に着弾しそうな棘を矢で迎撃するという神業を披露していた妖精弓手ちゃんが、巨大海栗に向かって疾走する英雄雛娘ちゃんを援護しながら歯を剥く獰猛な笑みを浮かべてますね。先の宣言通り眼部や鰓を狙って放たれた矢は既に何体もの巨大鰓人(ギルマン)を斃しています。ジャイアントキリングを繰り返す彼女を狙って若い鰓人(ギルマン)たちが投網や銛を投げつけてきますが、メインマストを中心に蜘蛛の巣のように張り巡らされた黒い紐を足場に、空中を駆けるように位置を変える妖精弓手ちゃんを捉えることは出来ません。しかも、張り巡らされているのは目に見えているものだけではありません……。

 

 

「ギィ!?」

 

「随分とあの幼娘(おさなご)に無茶をさせるものだな……ふむ、これで()()()達成か」

 

「鱗に覆われている外側は硬いけど、内部はけっこう脆いのかな……オラァッ!」

 

 

 なんとか這い上がってきたところで神編の綱紐(SM〇ープ)からこっそりと枝分かれしていた極細の糸に絡めとられ、甲板に倒れ伏す鰓人(ギルマン)。巣の主である闇人女医さんが慈悲の短剣片手に無造作に近付き急所である首筋の鰓蓋に切先を突き入れると、ビクンと痙攣した後に動きを止めました。まわりには同じように鰓から血を流す鰓人(ギルマン)たちの死体が幾つも転がっていますね。彼女の言葉が確かならば撃破数は()()()……つまり(ここの)つを超え(とお)に達したみたいです。隣に降り立った妖精弓手ちゃんに呆れたような視線を向けながら、短剣に付いた血を拭っています。

 

 船尾側にはこっそりと登ってきていた鰓人(ギルマン)のボディに重い一撃を叩き込んでいる神官銃士ちゃんがいますね。周囲には口から血を吐いて倒れ伏す鰓人(ギルマン)が数体、彼女の両手には隻眼鍛冶師さんの作品であるヒヒイロカネ製の鎧貫(ナックルダスター)が握り込まれてますね。素材の提供者……といいますか素材そのものである吸血鬼君主ちゃん曰く「ヴァンパイアのAC(アーマークラス)だってぬけるよ!」らしいので、なかなかにヤバイ代物っぽいです。

 

 

「あら、あの()だって私たちとおんなじシルマリルとヘルルインのお嫁さんよ? この先も2人と肩を並べるなら、このくらいの脅威なんて笑いながら突破して貰わないと!」

 

「ハァ……まぁ即死さえしていなければ如何とでもなる。最悪手足の1本までは授業料といったところか」

 

 

 うわぁ……なんか怖いこと言ってますね2人とも。まぁ自分よりも強大な相手にローリスクで挑む機会なんてそんなにありませんからね。痛くしなければ覚えないことだってあるでしょう! ちょうど巨大海栗の前に辿り着きそうですし、次は英雄雛娘ちゃんのシーンです!

 

 


 

 

「やぁあああああッ!!」

 

 

 自らを奮い立たせるように雄叫びを上げ、前に進む少女。上空から大口を開けて突っ込んでくるサメを前ステップで避け、水平に飛んでくる海栗の棘を首を傾げることで躱し、立ち塞がろうとする鰓人(ギルマン)が妖精弓手ちゃんの放った矢に貫かれ倒れる横をすり抜け、ただひたすらに前へ、前へ、前へ! みんなの援護のもと英雄雛娘ちゃんの進撃は何者にも阻まれる事無く完遂され、今まさに巨大な海栗の前へと辿り着きました!

 

 射出した棘を補充するように内側から次々に棘を生やす異形を前にして、恐れることなく剣を構える英雄雛娘ちゃん。そびえ立つ壁のような巨大海栗は上半分を海面上に露出したドームのような見た目ですね。特大剣を右腕の延長として海栗を指し示すように水平に、逆手にパリングダガーを握った拳を右肩に触れさせる独特な構え。それは鎧による防御が意味をなさない人狼や吸血鬼と言った人外の存在を滅するために磨き上げられた牙狩りの業、その血統を受け継ぐものです。

 

 

「――≪鍛冶神さま 私の息吹が鋼を輝かせるところ どうぞご覧ください≫」

 

 

 特大剣の刀身にパリングダガーを擦らせながら鍛冶神さんへの祈りを唱え、二刀に炎を纏わせる英雄雛娘ちゃん。周囲の温度を上昇させるほどの赤熱化した刃ですが、使い手である彼女を害することは決してありません……あ、熱を感知した巨大海栗がゆっくりと彼女に向かって転がり始めました!

 

 眼前の小さき存在を轢き潰そうと迫る巨大海栗。ですが彼女に迫った瞬間、何か硬いものにぶつかったように水飛沫を上げながらその動きを止めました。宙を舞う海水が収まった後に見えてきたのは、突き付けた特大剣の切先によって巨大海栗が転がりを止められている驚きの光景。よく見れば切先を中心に透明な壁が展開され、巨大海栗を受け止めているのが判ります。……そう、英雄雛娘ちゃんの唱えた≪聖壁(プロテクション)≫が、自身より何十倍も大きい巨大海栗を完全に抑え込んでいます!

 

 

「まずは、棘をなんとかします!」

 

 

 巨体であるが故に初動が遅いという弱点を抱えてる巨大海栗の分厚い外皮へと≪聖壁(プロテクション)≫越しに剣先を突き刺す英雄雛娘ちゃん。突き立った部分を始点に剣から炎が燃え移り、巨大海栗の外皮を焼いていきます。悶え苦しむように棘を蠢かせる巨大海栗ですが燃え盛る炎を消すことは出来ず、やがて炭化した棘がボロボロと海面に落下し、デコボコの本体が露わになりました。悪足掻きなのか、海面下にあったために炎から逃れていた半面を海面から出そうと巨大海栗がゆっくりと回転し始めますが……。

 

 

「これで……終わりッ!!」

 

「urrrrrchiiiiin……!?」

 

 

 半分ほど回転したところで鍔元まで特大剣を突き立てられ、断末魔の悲鳴……悲鳴?を上げる巨大海栗。英雄雛娘ちゃんが狙った部分は偶然にも巨大海栗の口部分、そこから体内を焼き尽くす炎が送り込まれ、消化管を通じた反対側の出口……肛門からも炎が噴き出しています。一際強い磯の香りを残し、黒焦げになった巨大海栗は海中に沈んでいきました!

 

 

「やった!……っと、まだ終わってないよね。いったん船に戻ったほうがいいかな……!?」

 

 

 おっと、可愛らしくちっちゃなガッツポーズをしていた英雄雛娘ちゃんが上空から落下してきたサメの死体を慌てて避けてます。1匹や2匹といった数ではなく数十匹単位で降り注ぐサメはどれも皆穴だらけ。ということは……ちょっと映像を巻き戻して確認してみましょう!

 

 


 

 

「「「「「Shaaaaaaaaaaark!!」」」」」

 

「「おあ~……」」

 

「ああもう、鬱陶しいですわね!? 頭目(リーダー)も遊んでいてはいけませんわよ!!」

 

 

 弾幕のように飛来するサメの群れに向かってお嬢様らしからぬ悪態を吐く令嬢剣士さん。海面から渦巻き天高く伸びる巨大な竜巻に風を乱されてしまい、上手く飛べないみたいですね。軽量なダブル吸血鬼ちゃんは竜巻にキャプチャーされ、グルグルと渦の外周を回っています。風の勢いを利用してとんでもない速さで体当たりを仕掛けてくるサメたち、回避されてもそのまま海へと落下し、竜巻に入り込んで上空まで帰ってくる頭脳プレイに3人は翻弄されちゃってますねぇ。オマケに順番待ちのサメは口から炎や雷のブレスを吐いて嫌がらせまでしてくる始末、製作者の悪意が感じられますよクォレハ……。

 

 

「「ただいま~!」」

 

「ハイハイおかえりなさいませ! で、如何いたしますの? 竜巻が邪魔して思うように動けませんし、魔剣もブレてしまいますの……」

 

 

 お、影の触手をしゅぽ~んと伸ばして令嬢剣士さんに巻き付かせ、ダブル吸血鬼ちゃんが竜巻の中から脱出してきましたね。胸元に顔を擦り付ける2人に塩対応しつつ、大口を開けて突っ込んできたサメの横っ面を魔剣の刀身でぶん殴りながら竜巻を睨む令嬢剣士さん。まずは竜巻を何とかするのが攻略の第一歩でしょうか。

 

 

「ふかふか~……うん、チャージかんりょう! たつまきはぼくにまかせて!!」

 

「よろしく~! ふわぁ……ふかふか……」

 

 

 お、たわわ補給を完了した吸血鬼君主ちゃんがフンスと眉を立てた笑みで竜巻に向かっていきました! それを見送る吸血鬼侍ちゃんは昼間なのでちょっとおねむらしく、令嬢剣士さんのたわわに後頭部を預けた姿勢で彼女の胸元にすっぽりと収まっちゃいました。現状一党(パーティ)内で一番日光に弱いのは吸血鬼侍ちゃんなので仕方ないですね!

 

 

「「「「「Shaaaaaa……aark!?」」」」」

 

 

 空中でガ〇ナ立ちする吸血鬼君主ちゃん目掛け殺到するサメたちを突如襲う衝撃。鼻っ面を強打し海面へと落下していく彼らを見送るように吸血鬼君主ちゃんの周囲を歪な金属球(勾玉)が旋回しています。どうやら詠唱を邪魔されないよう自動迎撃状態にしているみたいですね。なおも飛来するサメたちを勾玉に任せ、吸血鬼君主ちゃんが唱えるのはもちろん、その場の天候を雲ひとつない晴天へと変更する太陽神さん専用の奇跡です!

 

 

「≪たいようらいさん! ひかりあれ!≫」

 

 

 祈りの形に組んだ両手の間に生み出された翠玉色の光球を、竜巻目掛け勢いよく投擲する吸血鬼君主ちゃん。荒れ狂う風塊と接触した輝きは達成値争いに勝利し、鈍色の雲に覆われていた空を冬晴れへと変え、同時に巨大竜巻を消滅させることに成功しました! 流石は≪晴天(サニーデイ)≫、天候に関する現象なら問答無用で晴れにする浪漫と実用性を兼ね備えたナイスな奇跡ですね!!

 

 速度を生み出していた竜巻を失い、自力で飛行しなければならなくなったサメたち。そもそも自力飛行している時点でどうかと思うという意見は聞こえません。尾鰭を振って加速していますがその速度は目に見えて落ちています。巨体に付随する重さを活用した突撃は脅威ですが、当たらなければ意味はありませんよね? 追い討ちを掛けるように銀閃が煌めき、尾鰭を始めとする各部位の鰭を斬り裂かれたサメたちがその動きを鈍らせていきます。

 

 

「ふわぁ……こんなかんじでいい……?」

 

「ええ、十分ですわ! ――さぁ、お仕置きの時間です!!」

 

 村正と暗月の剣(サタンサーベル)の二刀を肩に担ぎ欠伸をする吸血鬼侍ちゃん。風に流されないよう令嬢剣士さんに触手を巻き付け、ふよふよと眠たげに浮遊する姿に苦笑しながら令嬢剣士さんが魔剣に魔力を注ぎ込み始めました。どうやら触手を通じて吸血鬼侍ちゃんも魔力を供給しているらしく、いつもより多く銃身が回転している気がしますね。迫りくる死の恐怖に怯えたサメが破れかぶれに繰り出すブレスを鋼の如き強靭さを持った翼で打ち払い、令嬢剣士さんが魔剣の切先をサメたちへと向け、キメ顔で言い放つのは……!

 

 

 

「――これが、『栄纏神官魂』です(How do you like me now)!!」

 

 

 ヒューッ! 毎分3900発の魔弾の雨によって次々に撃ち落とされていくサメたち……と、そういえば落ちてく死体はどれも原形を保っていますね。どうやら威力を落とす代わりに装弾数、連射時間を延長することに成功したみたいです! これには視聴神席に座っている破壊神さんもニッコリ、何もかも吹き飛ばす最大出力モードと切り替えることで汎用性が高まり、一層の活躍が期待できそうですね!!

 

 

「う、嘘だ、こんなことはあり得ない! これは何かの間違いだ!?」

 

「――『ありえない』なんて事はありえない。戦友(侍ちゃん)の好む言葉だな」

 

「はは、この世界の真実に迫る名言だなそれは!」

 

 

 魔力を帯びた巨大な三又槍(トライデント)を振り回しながら、辛うじて聞き取れるほどに歪んだ共通語(コイネー)で絶叫する秋刀魚頭(サンマーヘッド)。兜の奥で仏頂面をしているであろうゴブスレさんの呟きを耳にした頭領(ゴジ)が豪快な笑い声を上げています。2人とも無傷というわけにはいかず身体の彼方此方に血が滲んでいますが、飛来するサメや棘を避けながらの戦いでこの程度の負傷は、十分に褒め称えられるレベルの善戦でしょう!

 

 

「狂いの原因である硬貨を引き渡し、降伏しろ。これ以上の戦いは此方としても望まん」

 

 

 太刀の切先を海面に向け、静かに言い放つ頭領(ゴジ)。多くの雌と若魚たちを失い、もはや群れとして再起するのは不可能な損耗でしょう。死兵による損害を厭う頭領(ゴジ)の発言は至極まっとうなものですが、その言葉が届くほど秋刀魚頭(サンマーヘッド)の正気度は残って……。

 

 

「まだだ、まだ終わってなどいない! (わたし)さえ生きていればいくらでも群れは再起できる!! ……どうした雌ども、群れの危機ぞ!立て、立って戦え!!」

 

「「「ギィ……アァァ……ッ!」」」

 

「アンタたち、もうおよしなさい! そんな奴の言うことなんて聞く必要ないのヨ!?」

 

 

 秋刀魚頭(サンマーヘッド)の声に従い、操り人形のようにふらつきながら立ち上がる生き残りの鰓人(ギルマン)たち。その痛ましい姿に族長姉貴兄貴や配下の戦士たちも穂先を向けるのを躊躇っていますね……。

 

 

「駄目だな。アイツを()らねば戦いは終わらん……グッ!?」

 

「クソ! 民の命を預かる長のやることか、それが!?」

 

 

 あ、鰓人(ギルマン)たちに視線を向けていたゴブスレさんが秋刀魚頭(サンマーヘッド)の繰り出した横殴りの一撃を貰っちゃいました!? 辛うじて盾は間に合ったみたいですが、大きく後方へと弾き飛ばされてしまいました。横を吹き飛んでいったゴブスレさんに視線を向ける暇もなく、完全に正気を失った瞳の秋刀魚頭(サンマーヘッド)の連撃を頭領(ゴジ)が受け流していますが、先程まで2人で防いでいたものを単独で、しかも理性を失い全力で動き続ける相手に防戦一方、これは不味いですよ!? 上段から連続で振り下ろされる重い連撃に膝が落ちそうになる頭領(ゴジ)、それを隙とみた秋刀魚頭(サンマーヘッド)三又槍(トライデント)の穂先を彼に向けた刹那、背後から2つのモノが飛んできました。

 

 

「――後ろに跳べッ!!」

 

 

 ひとつはゴブスレさんの声。その声に応じ太刀で三又槍(トライデント)を打ち払い、後方へと飛び退る頭領(ゴジ)。忌々し気に舌打ちし追撃の構えをとった秋刀魚頭(サンマーヘッド)へともうひとつのモノが飛来し、柄尻でそれを迎撃すると……油壺いっぱいに詰められていた燃える水が秋刀魚頭(サンマーヘッド)の全身に降り注ぎ、追撃の黒火炎壺が彼を火達磨に変えました!

 

 

「があああああ!?!?」

 

「……どうやら呪文の対象になった時に身に着けていた物は、身体から離れても暫くはそのままの大きさを保つらしいな!」

 

 

 全身を保護していた粘液を失い、直接肌を焼く痛みにのたうち回る秋刀魚頭(サンマーヘッド)。海中に逃げ込もうとしたその身体を頭領(ゴジ)の太刀が貫き、火を消すのを妨げています。チリチリと身に纏う毛皮が焦げるのも厭わず、歯を食いしばって暴れる巨体を抑え込む膂力は驚嘆に値しますね! 後方からゴブスレさんが駆け付けた時には、皮が焦げ身の焼き上がった状態で、ヒクヒクと痙攣を繰り返すだけになっていました……。

 

 

「――あのオーなんとか並の生命力だな」

 

 

 まだ覚えてなかったんですねゴブスレさん……。頭領(ゴジ)が身体を縫い留めていた太刀を引き抜くと、海面に触れてジュッ……という音を立てる秋刀魚頭(サンマーヘッド)の身体。これで決着が付いたというところですが……船上から戦いを見守っていた族長姉貴兄貴が叫び声を上げました!

 

 

「まだヨ! まだ終わってないわ!!」

 

 

「キャアアアアア!!!」

 

 

 背後から響く突然の金切り声に振り返る2人。全身を燻らせている秋刀魚頭(サンマーヘッド)が熱によって白濁した瞳でゴブスレさんや、族長姉貴兄貴、冒険者たちを睥睨しています。震える手で腰に下げていた取り出したのは、巨体の掌に収まるほどの大きさの脈動する赤黒い器官です。あれって、まさか心臓……!

 

 

「偉大なる蛸神の落とし子よ! この身を苗床に、再びこの世界に顕現したまえ!! ギィ、ギャアアアア!!!」

 

 

 己の胸を抉り、肉体を失ってなお動き続ける落とし子の心臓をその身に埋め込む秋刀魚頭(サンマーヘッド)。心臓から突き出た血管が全身を侵蝕し、肥大する肉体が内側から彼の身体を引き裂き、悍ましい落とし子が再誕を果たしました!! 産まれたばかりで空腹であろう落とし子は眼下に駆け付け跪く鰓人(ギルマン)たちで腹を満たそうとねじくれた腕を伸ばし……。

 

 

 

 

 

 

「――いいえ、もうおしまいです」

 

 

 幽霊船(ナグルファル)から響く凛とした声に凍り付いたように、その動きを止めました。

 

 

 船主に並び落とし子を見つめる女性たち。その中心にいるのは決意に満ちた表情を浮かべた神官銃士ちゃんです。ゆっくりと腰帯から引き抜くのは清浄な神気(オーラ)を感じさせる短筒、蟲人英雄さんから託された、吸血鬼君主ちゃんが持つ(ケイン)とともに太陽神さんの神器として名高い伝説の武具です!

 

 

『あなた、それ……!?』

 

「このくらい……なんでもありません!」

 

 

 膨大な力を制御する反動か、両の目から涙のように血を流しながら片手で銃を構え、照準を定める神官銃士ちゃん。心配そうな奥方(フースフレイヤ)に笑顔を返し、戦場に満ちる悲しみを感じ取り、その元凶を討つために引き金を引く姿は神々しささえ感じさせるものです。

 

 銃口から放たれた光の奔流は砂漠の国で吸血鬼君主ちゃんが赤竜の翼をもぎ取ったあの一撃を超える輝き……光の海に飲まれた落とし子は、その細胞の一片たりとも四方世界に残すことなく浄化されていきました……!

 

 

 

 さて、ラスボス後のイベント戦闘が終わったところで次回はエンディングです! プルトニウム硬貨の回収もしなきゃいけませんし、帰り道で訓練組とも合流しないとですね。それに突然召喚されて兎人(ササカ)の集落から姿を消してしまった蜥蜴僧侶さんについても説明しなければいけませんし、やることが……やることが多い……!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 ちょっと2周年までに150話は難しそうなので失踪します。

 評価や感想、お気に入り登録いつもありがとうございます。もしお読みになられてまだ登録されていない方がいらっしゃいましたら、登録して頂ければ幸いです。また誤字報告も頂いており、非常に助かっております。

 もうちょっとで投稿開始から3年、ちゃんと完結まで持っていきたいところさんですね!

 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその17 りざると


 区切りが良いところまで進めたので初投稿です。


 3年目に突入する前になんと150話まで辿り着いてしまいました。ここまで続くとは思っておらず、途中でエタってしまうだろうなぁというのが正直な気持ちでした。

 150話、130万字以上という長さになるまで続けられましたのも、お読みくださった皆様から感想や評価を頂けたことが一番だと思います。

 キャンペーン終了までの道筋は完成していますが、ネタが思いつく限りは途中途中に番外を挿入していく予定ですので、お付き合い頂ければ幸いです。




 

 前回、イベント戦闘を悲しみの一撃(ハードショット)でフィニッシュしたところから再開です。

 

 落とし子を浄化した後ガクリと膝を着く神官銃士ちゃん。やはり神器を扱った反動は大きかったみたいです。サメを片付け急降下してきた吸血鬼君主ちゃんが彼女を抱き起し負傷の度合いを確認していますが……どうやら極度に疲労しているだけで命に問題は無さそうです。胸の中で荒く息を吐く神官銃士ちゃんの頭を撫でながら、そっと頬を伝う血涙に舌を這わせ、ゆっくりと血を舐め取っていますね。

 

 

「ん……ぺろ……もう、むりしないでっていったのに……!」

 

「うぅ、面目次第もありませんわ……」

 

「――でも、ありがとう。みんながのってるふねをまもってくれて!! ……んちゅっ」

 

「ふむぅ!? ん……んく……れる……」

 

 

 血涙を舐め取り終えた舌にそのまま口内へと入り込まれ目を白黒させる神官銃士ちゃん。甘い唾液とともに注ぎ込まれた≪賦活(バイタリティ)≫の奇跡による活力のおかげで、青白かった顔に朱が戻って来ましたね! 術者と対象の接触が必要なことにかこつけて舌を絡ませあう2人を女神官ちゃんが羨ましそうに見ています。神官銃士ちゃんが1人で立ち上がれる程度に回復したところで、降伏した鰓人(ギルマン)たちを見ていた族長姉貴兄貴が声を掛けてきました。

 

 

「お熱いトコ邪魔して悪いのだケド、降伏してきた子たちの証言で例の硬貨の場所が判明したわ。ただ、対策ナシに近付くとあのたわけの二の舞になりそうなのよねぇ……」

 

 

 ああ、とっても肉体と精神に悪そうですもんねプルトニウム硬貨。となると回収に向かうのは……。

 

 

「――フム、ならば拙僧と君主殿で向かうのが宜しいかと」

 

「あ、とかげさん! おかえりなさい!!」

 

 

 お、魔蟹を担いだ蜥蜴僧侶さんが帰って来ましたね! たしかに星の力(核融合炉)を体内に持つ2人なら問題無く回収出来るでしょう!! どうやら硬貨の入った鉛の箱は神殿内部の海水に満たされた空間に移送、保管されているとのこと。では負傷者を治療している間にちゃっちゃと回収しちゃいましょうか!

 

 


 

 

 見通しの悪い海中を躊躇いなく進む大小2つの人影。尻尾をくねらせ器用に泳ぐ蜥蜴僧侶さんの手にはゴブスレさんが貸してくれた水中呼吸の指輪が嵌められていますね。呼吸不要な吸血鬼君主ちゃんは最初は可愛らしくバタ足をしていましたが、途中で触手を適当な岩に打ち込んで進むほうが速いことに気付き水中ワイヤーアクションを披露しています。両者とも暗視持ち、吸血鬼君主ちゃんに至っては【脳の瞳】の能力で視線さえ通っていれば2kmまで見通せるので暗い海の中でもへっちゃらです……っと、蜥蜴僧侶さんが海底のほうを指差してますね。映像越しにも青白い光が見えていますので、おそらくあそこにプルトニウム硬貨が……って、それってつまり蓋開けっ放し……ってコト!?

 

 

「……ありましたな」

 

「あったね~」

 

 

 淡い輝きを放つ硬貨の山を前に呟く2人。周囲には強化を目論んだと思しき奇形化した鰓人(ギルマン)の稚魚たちが物言わぬ屍となって漂っています。両手を祈りの形に組んだ吸血鬼君主ちゃんから放たれた≪浄化(ピュアリファイ)≫の光によってあるべき場所に還る彼女たちを見送った後、蜥蜴僧侶さんが腕を伸ばし頑丈な爪の先で硬貨を摘まみ上げました。眼前に翳したそれを背中に貼り付いた吸血鬼君主ちゃんと一緒に暫し眺めた後、2人の見せた行動は……。

 

 

 

「「(……ゴクリ)」」

 

 

 ……え? ちょっと2人とも???

 

 

「……ひとつくらいたべてもバレないよね?」

 

「ウム。皆にとっては害にしかならぬモノ故、むしろここで我らが処分しても良いのではありませぬかな?」

 

 

 いや、まぁ、竜は自らの位階を高める際に己の財を喰らうこともありますけど……本当に食べて大丈夫なんですかソレ? 摘まんでいた硬貨を吸血鬼君主ちゃんの口元に差し出し、反対の手でもうひとつ摘まみ取る蜥蜴僧侶さん。2人視線を交わし、同時に硬貨を……パクリ! ボリボリという咀嚼音が続いた後、クワッと2人の目が開きました!!

 

 

 「甘露!」

 

「かんろ!」

 

 

 口から味〇様光線を吐きながら感動に打ち震える2人。なけなしの理性でそれ以上は食べずに踏み止まりましたが、もし全部食べていたら大変なことになっていたかもしれませんね。名残惜しそうに蓋を閉めたところで蜥蜴僧侶さんが吸血鬼君主ちゃんに問いかけました。

 

 

「して君主殿、この厄介な宝物は如何されるおつもりですかな? 封印するのが一番安全かとは思いますが、少々勿体のう気もしますな」

 

「えへへ……あたらしいおともだちに、とっておきのプレゼント!」

 

 

 お、なにやら腹案があるみたいですね。ニンマリと笑う吸血鬼君主ちゃんが鉛の宝箱に手を翳し……え、えぇぇぇぇ!?!?

 

 


 

 

「……で、強力で危険な力を持つコインの山を()()に加工しちゃったってワケ?」

 

「うん! このふねをいじするどうりょくげんにしたの!!」

 

 

 唖然とする一同を前にドヤ顔な吸血鬼君主ちゃん。その眼前には5フィート(1.5メートル)四方くらいの大きさの金属塊が鎮座しています。表面に埋め込まれた出力値と思しき計器は一定の数値を示しており、内部に高エネルギーが充填されていることを表していますね。

 

 

「えっと、それじゃあ格納するね……?」

 

 

 妖術師さんが指示を出すと甲板に穴が開き、内部から顔を出した触手たちが金属塊を持ち上げ船の内部へと運んでいきました。甲板の穴が塞がって少々間が空き、やがて「ドクン……」という鼓動が船全体に響いた後、肩の荷が下りたように妖術師さんがその場に座り込みました。

 

 

「ふひぃ~……船を維持する魔力の供給が私からあの魔力炉に切り替わった。これで私が呪文の維持を止めても船は消えないよ」

 

「なんと! ではこの船はこのまま……!?」

 

「うん! せんいんさんたちはぼうけんにまんぞくしたらかえっちゃうけど、ふねはまりょくろがあるかぎりうごきつづけるよ!! ひょうめんをヒヒイロカネでおおってあるから、こわれるしんぱいもなくてあんしん!」

 

 

 うわ、もしかして原子炉もどきを作っちゃったんですか!? けっこう多めに素材を消費したのか、ちょっぴり背が縮んだ吸血鬼君主ちゃんがふふんとぺったんこな胸を張っています。吸血鬼侍ちゃんと並ぶと連載初期と平成版のア〇レちゃんくらい差がありますねぇ……え、それちゃんと元の身長に戻るんですよね?

 

 

「まったく、トンデモないおちびちゃんたちねェ。でも海を穢していた厄介な代物が航海の役に立つんだから、結果オーライね!」

 

 

 グッとサムズアップする族長姉貴兄貴に同じく親指を立てて返すダブル吸血鬼ちゃん。幸運にも味方鰓人(ギルマン)に死者は出ておらず、秋刀魚頭(サンマーヘッド)の支配から逃れた若魚たちも全員降伏し、群れの仲間に戻るみたいです。秋刀魚頭(サンマーヘッド)を筆頭に老害たちが海の藻屑になったことで彼女らの争いも収まり、無事北の海は平穏を取り戻すことが出来ました! 交易路の安全が確保されれば再び王国にも世界各地の名産品が入ってくることになるでしょう。陛下からの依頼もこれで完了ですね!

 

 

「さぁ、帰ろう! 帰ったら北海の平和を祈る(ドレッカ)だ!!」

 

『族長様たちも是非参加していってくださいね!』

 

「アラ素敵! そしたら行き掛けに海の幸を集めましょ!! みんな、気張っていくわよぉ~」

 

 

 (ドレッカ)と聞いて一気にテンションMAXになる入り江の民(ヴァイキング)の戦士たち。新たな交易船も手に入ったことで(ドレッカ)の前からみんなお祭り騒ぎです。戦が終われば宴で酒を飲み交わすのが北の国の作法、厳しい環境では恨みを引き摺り続けていては生きていけませんから、ね?

 

 

「フム、何か珍しいチーズがあれば良いのですがな……」

 

『お、なんだチーズが好きなのか大蜥蜴さんよ。そんならとっておきを出してやらぁ!』

 

「ほほう! それは如何様なチーズなのですかな」

 

『ふっふっふ、西の海を越えた国で作られている特別製よ!カース・マルツゥつってな……』

 

 

 それ絶対ヤバいやつ!? いや、蜥蜴僧侶さんやダブル吸血鬼ちゃんならイケるか……?

 

 

 

 冒険者、入り江の民(ヴァイキング)、そして鰓人(ギルマン)によって盛大に盛り上がった(ドレッカ)。蜥蜴僧侶さんが美味しそうに齧り付くチーズをひとくち分けてもらった妖精弓手ちゃんが盛大にお腹を壊したことで、滞在日数がちょっぴり伸びたのは内緒です。

 

 


 

 

 交易が止まり出荷出来ずに取り置かれていた塩漬けの鱈や干した海老などをたっぷりとお土産に貰い北の国を後にしたダブル吸血鬼ちゃんたち。行きに通った道を戻る形で兎人(ササカ)の集落に辿り着いた一行を迎えたのは……。

 

 

 

「いくら事前に聞いていたとはいえ、虚空に消えながら『ちょっと一狩り行ってくる!』の一言で何日も妻を待たせる亭主がいるらしいが……さて、どう思う?」

 

「申し訳ありませぬ」

 

 

 ゴゴゴゴゴ……と擬音を背負いながらニッコリと笑みを浮かべている女将軍さんでした……。

 

 

 3人でお泊りしていた夜に召喚については話していたものの、実際に目の前で消えていく姿を見送ったらそりゃ心穏やかではいられないでしょう。妖精弓手ちゃんのやらかしで数日余計に時間がとられたのも心配に繋がったことでしょう。巨体を縮こませ頭を下げる蜥蜴僧侶さんをダブル吸血鬼ちゃんをはじめとする北の国訪問組が必死に擁護する姿が印象的でした。

 

 

「訓練は良い感じに終わったよ! 途中で空きっ腹を抱えた雪男(サスカッチ)の群れが襲撃をかけてきたけど、みんながあっという間に蹴散らしちゃったし!!」

 

 

 茹で上げた魔蟹の身を頬張りながら垂れ耳おじさんが自慢げに笑うおゆはんタイム。どうやら冬山訓練は大成功だったみたいです。雪焼けした圃人(レーア)コンビや叢雲狩人さんの顔にも自信の色が見て取れますね。カタカタと震える妖術師さんの隣に座った圃人巫術師さんが何か耳元で囁いてますが……どうやら彼女の消耗を察知して魔力供給(意味深)を企んでいるみたいです。妖術師さんも只人(ヒューム)形態になれば弄ばれることも無いでしょうに、やっぱり誘い受けなんですかねぇ……?

 

 

「足を取られる雪上での踏み込みは難しかったですけど、なんとなくコツを掴んだ気がします!」

 

「えへへ、かえったらてあわせしようね……ふわぁ……」

 

 

 離れていた分を取り戻すように吸血鬼侍ちゃんに抱き着き、柔らかな肢体を密着させる少女剣士ちゃん。吸血鬼侍ちゃんも安心しきった顔で身体を預け、その温もりを堪能しています。体格差からダブル吸血鬼ちゃんにとっては大き過ぎて、手が埋まったり沈み込んでしまうことの多い一党(パーティ)のたわわラインナップですが、少女剣士のモノはちょうど2人のちっちゃな手に収まるナイスな大きさ。ダブル吸血鬼ちゃんから丹念に愛されることで艶を増しつつある逸品でございます。

 

 

「それで、教官の皆様を見つけることは出来ましたの?」

 

「まぁ一応ね。といっても随分手加減してもらってようやく及第点といったところだけど」

 

「あぁ成程。だから肩口や頭上でみんなドヤ顔しているのですね……」

 

 

 訓練中に仕留めたライチョウを直火で炙りつつ、令嬢剣士さんに苦笑を返す叢雲狩人さん。自分の力だけでは元陸軍特殊部隊群(グリーンベレー)の3人を見付けられず、なんと今までぞんざいに扱っていた精霊さんたちに土下座を敢行! レーダー(探知機)のように彼らの力を借りてなんとか発見できたそうです。

 

 

「今までずっと生業の影響で嫌われているのだと思い込んでいたけど、それは違ったよ。私が彼らのことを信じていなかっただけなんだ。……すまない、今まで胡散臭い目で見たりして」

 

「フフ……それに気付けたのなら、もう彼らとは仲良しですわね!」

 

 

 肩に腰掛けている精霊さんに指を差し出し、そっと頭を撫でる叢雲狩人さん。森人(エルフ)の森を荒らす外敵を排除する狩人という血生臭い生き方をしていたが故に精霊たちと真っ直ぐ向き合えなかった彼女ですが、ようやく悪戯好きな隣人たちと判り合えたみたいですね!

 

 

「なに? 単眼巨人(キュクロプス)に巨大鰓人(ギルマン)、オマケに邪神の落とし子だと!? やはり私もそちらについていけば良かった……ッ!」

 

「相手にした身としてはもう勘弁ですわ……」

 

「あはは……」

 

 

 向こうでは(ウォトカ)の瓶片手に女将軍さんが王妹殿下1号2号から北の国での戦いを聞いて心底羨ましそうに地団駄を踏んでますね。兎人(ササカ)のおじさんたちとのかくれんぼや少女剣士ちゃんを扱くのは楽しかったみたいですが、雪男(サスカッチ)では歯応えが無さ過ぎたようです。そんな彼女や村の兎人(ササカ)たちのおしりの下には真新しい毛皮の敷物が何枚も。……いっぱい押し寄せて来たみたいですけど、それでも満足していないのか……。

 

 

「とかげさん、だいじょうぶ?」

 

「はは、心配ご無用。ただ少しばかり痺れが……ぬおお……っ」

 

「……妻は怒らせるものではないな」

 

 

 硬い床で正座をしていたために言うことを聞かない足を擦り巨体を悶えさせている蜥蜴僧侶さんの隣で吸血鬼君主ちゃんが心配そうに声を掛けてますね。女将軍さんの笑みを浮かべたお説教を間近で見ていたゴブスレさんはしみじみと頷いています。そんな彼の横には上等な布に包まれた細長いものが置かれています。姪っ子2人と顔を合わせることが出来たお礼に頭領(ゴジ)から贈られたプレゼントですね!

 

 

「小鬼殺し殿はそちらの品で奥方の機嫌を取られるつもりなようで……」

 

「ああ。随分と長く家を空けてしまった。慎重に対応せねばなるまい」

 

「……やっぱり、めいわくだった? へいかに『しんゆうもいっしょにさそって』っておねがいしたこと」

 

 

 ああ、やっぱり陛下にお願いしていたんですか吸血鬼君主ちゃん。新しい金等級は3人ですし、誰が行っても問題は無かったでしょう。そんな中で一番『冒険』を望んでいたゴブスレさんを指名するようこっそり働きかけていたんでしょうね。

 

 

「……いや、とても良い冒険だった。礼を言う、戦友」

 

「ほんとう? えへへ……!」

 

 

不安げに見上げる吸血鬼君主ちゃんの頭にポンと籠手(ガントレット)に包まれた手を乗せ、不器用に撫でるゴブスレさん。物語に謳われる入り江の民(ヴァイキング)の戦士たちとの交流。幽霊船(ナグルファル)での航海、そして邪神の信者との戦い……どれも一級の冒険で間違いないでしょう! ほっとした様子の吸血鬼君主ちゃんはそのままゴブスレさんの膝上に腰掛け、彼に背を預け楽しそうに鼻歌を歌い始めました。いつぞや『姉なのるもの』ことゴブスレさんのお姉ちゃんと一緒に歌っていたソレを聞いたゴブスレさんがハッと兜の奥の目を見開きましたが、やがて彼も吸血鬼君主ちゃんに合わせるように小さく歌い始めました……。

 

 

「あら、この歌は……?」

 

「あ、私知ってます! よくギルドで酔っぱらった冒険者が歌ってますよね!!」

 

 

 おっと、2人の歌を聞きつけたみんなが続々と参加してきました! 寒く太陽神さんが顔を出す時間も短い冬ですが、地中に設けられた兎人(ササカ)の家は温かさに溢れています。訓練最後の夜は歌声に満たされたまま……。

 

 

 

 

 

 

「あー!? シルマリルが浮気してる!」

 

 

 終わらないんだよなぁ……。真っ赤な顔でゴブスレさんを指差す2000歳児の背後には空っぽになった(ウォトカ)の瓶を片手に頭を抱える闇人女医さんの姿が。どうやら冒険が終わったことで気が大きくなり、お酒に弱いのに(ウォトカ)を口にしちゃったみたいです。のっしのっしと2人に近付き、グルグル渦巻く目をしながら吸血鬼君主ちゃんをゴブスレさんから奪い取りました。

 

 

「あによシルマリルぅ! い~くら硬い胸が好きだからって、オルグボルグは無いでしょうよ! ほら、こっちにしなさいこっちに!!」

 

「おあ~……」

 

 

 はだけた胸に吸血鬼君主ちゃんの顔を押し付け、鼻息荒らく捲し立てる2000歳児。酒精(アルコール)の力で体温が上昇したことにより普段よりも増して感じられる林檎にも似た上の森人(ハイエルフ)の芳香と、唇や頬に触れる()()()の感触が齎す誘惑を必死に耐える吸血鬼君主ちゃん。それが不満なのか、むーと膨れた妖精弓手ちゃんがいっそう強く想い人を抱きしめていきます。甘い吐息と汗ばんだ肌、そして()()()から漂う生命の雫の匂いに吸血鬼君主ちゃんが負けそうになったその時……!

 

 

 

「そのへんにしておきたまえ妹姫(いもひめ)様。……ていっ!」

 

「へぷっ!?」

 

 

 背後に回り込んだ叢雲狩人さんによって絞め落とされスヤァ・・・と崩れ落ちる妖精弓手ちゃん。彼女の衣服の乱れを直しつつ膝枕をする吸血鬼君主ちゃんを見て満足そうに頷いてますね。

 

 

「えっと、いつの間にそんな技を?」

 

「はっはっは、何度も妹ちゃんから受けているうちに自然と身に付いたんだよ」

 

「ドヤ顔で言うことか馬鹿者……」

 

 

 ああ、よく若草知恵者ちゃんから喰らってましたもんね。無駄に高等な体得(ラーニング)術を披露する叢雲狩人さんに呆れた様子の令嬢剣士さんと闇人女医さん。咄嗟に顔を背けていた男衆にもう大丈夫と声を掛けています。

 

 

「えへへ……だいすきよ、シルマリル……ヘルルイン……」

 

「もう! ずるいです!!」

 

「ちょっとだけ仕返し……えい、えいっ!」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの膝枕で幸せそうに眠る妖精弓手ちゃんのほっぺを2人掛かりでつつく王妹殿下1号2号。口調こそ怒っているものの、その顔は緩み切っちゃってます。だらしなく涎を垂らしてもなお陰ることの無い美貌はやはり反則でしょう。他のみんなもしょうがないなぁという顔で彼女の寝顔を眺めていますね。やがて睡魔に襲われた順に雪男(サスカッチ)の毛皮に潜り込み、長い夜は更けていくのでした……。

 

 


 

 

「「ただいま~!!」」

 

「あ、みんなおかえり~!」

 

 

 ぱからぱから……じゃなくて、のっしのっしとイボイノシシ君が牽く馬車に揺られ牧場まで戻って来たダブル吸血鬼ちゃん一行。最初にお迎えしてくれたのは早朝の見回りを兼ねた狼さんのお散歩中の牛飼若奥さんでした!跳び付いて来た2人をやさしく受け止め、防寒着越しにもハッキリと存在を主張するたわわの虜にしています……あ、ぽふぽふと人妻たわわを堪能する2人の後ろから伸びて来た手が2人を引っぺがしました。

 

 

「こ~ら、帰ってきて早々人妻に突撃とはなかなか良い根性してるじゃない。なに? お仕置きして欲しいの?」

 

 

「えへへ……ごめんなさい」

 

「それから、ただいま!」

 

「ん。みんな無事みたいね。それにその様子だと訓練も成功だったのかしら」

 

 

 甘えるように胸元に顔を埋める2人を優しく撫でながら女魔法使いちゃんが視線を向けたのはブートキャンプに参加していた女性たちです。ドヤ顔な叢雲狩人さんにヘヘンと鼻の下を擦る圃人(レーア)コンビ、たわわを押し上げるように腕を組む女将軍さんも良い感じに研ぎ澄まされた雰囲気を纏っていますね。兎人(ササカ)のおじさんたちも白兎猟兵ちゃんとその弟妹に出迎えられており、一気に場のふわふわ感が増してきました。

 

 

「こちらが今回の収支および頂き物の目録(リスト)です。確認をお願いしても?」

 

「はい、承りました。……あら、干し鱈に干し海老がこんなに!」

 

「悪阻を乗り越えた皆様に美味しいご飯をお出し出来ますね」

 

 

 令嬢剣士さんが差し出した冊子に目を通し、顔を綻ばせる若草のおばあちゃんと孫娘。一党(パーティ)の資産管理に留まらず、療養所の経営や牧場へのアドバイスも引き受けてくれている2人は間違いなくこの集団の生命線です。いつも笑みを絶やさず頑張ってくれている2人にも何かお礼をしてあげたいところさんです。

 

 

「ふふ……おふたりとも、大きく成長されたみたいですね」

 

「はわわ……!?」

 

「ぬ、抜け出せないし、抜けたくない……!?」

 

 

 おおう、エロエロ大司教モードの剣の乙女ちゃんに王妹殿下1号2号が捕まっちゃってますね。女性としてひとつの完成形ともいえる抜群のプロポーションと、トラウマを克服したことによって本来の明るさと茶目っ気を取り戻した魅力の相乗効果は協力無比、初心な2人はされるがままですね……。

 

 

 

「あはは、みんな元気だね! ……どう? 冒険は楽しかった?」

 

「ああ、多くの未知を知ることが出来た」

 

「ふむふむ、それは是非聞かせて欲しいなぁ?」

 

「ああ。だがその前に渡す物がある」

 

 

 温かくも騒々しいやり取りを見ながら言葉を交わす牧場夫婦。ゴソゴソと荷物の中からゴブスレさんが取り出したのは例の包みです。差し出されたそれを受け取った牛飼若奥さんが美しい刺繡が施された布を開くと、その中には1本の角が入っていました。螺旋状に筋の入った白く真っすぐなそれは、おとぎ話の中で語られる神聖な生き物の角……。

 

 

「わわ!? これてもしかして一角獣(ユニコーン)の?」

 

 

 

 

 

 

「――いや、偽物……でもないな、別の生き物の牙だ」

 

 

 ですよねー。四方世界でもアストラルに近い聖域などに僅かに生息している一角獣(ユニコーン)ですが、その性癖……もとい習性だけが1人歩きして色々と風評被害が甚だしい存在でもあります。その角には万病を癒しあらゆる傷を消し去る効果があると言われ、昔から死病に侵された者や富豪たちが追い求める品でありました。そんな中で良く偽物として使われていたのが、この海に住む鯨の仲間である『一角(イッカク)』の牙ですね。

 

 

「え。これ牙なの!? 不思議な形だね……!」

 

「ああ。入り江の民(ヴァイキング)の頭領から譲ってもらった。夫が漁に出ている時、家に残る妻を守護してくれるらしい」

 

 

 おおっと、ゴブスレさんにしては珍しいチョイスですね! かつて金のインゴットをそのまま差し出したのと同一人物とは思えません。彼もまた成長しているんですね……!

 

 

「ふふ、ありがと! でも、やっぱり君が無事に帰ってきてくれたのが一番嬉しいよ!!」

 

「――そうか」

 

「そうだよ。……おかえりなさい」

 

「ああ、ただいま」

 

 

 そっと牛飼若奥さんを抱き寄せ、無事の帰還を告げるゴブスレさん。静かに兜を外し、そっと彼女へと顔を近付け……。

 

 

 

 

 

 

「あ、パパかえってきた~!」

 

「おかえりなさい、パパ!」

 

 

 母屋から駆け寄ってくる双子に気付き、慌てて顔を離しました。静かに2人を見守っていたギャラリーもそのヘタレっぷりに舌打ち、呆れ顔、クソデカ溜息と悪態を露わにしてますねぇ……。

 

 

「んちゅ……ちゅ……しんゆう……」

 

「そこはきめるとこじゃないかなぁ……んちゅー」

 

「いや、2人はもうちょっと自重しなさいね???」

 

 

 女魔法使いちゃんに左右から抱き着きちゅーの嵐を巻き起こしていた2人に呆れ顔でツッコむ妖精弓手ちゃん。兎人(ササカ)の集落で見せた醜態の記憶は綺麗さっぱり残っていないみたいです。なお星風長女ちゃんたち森人(エルフ)三姉妹がダブル吸血鬼ちゃんの行為をガン見しているのはここだけの話です。

 

 

 さて、無事に我が家へと帰ってきたところで冒険は終了! まだまだ寒さは厳しいですし、しばらくはゆっくりと春を待つことになりそうですね!! 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 そろそろ人物紹介も作ろうかなぁと思っているので失踪します。

 評価や感想、お気に入り登録いつもありがとうございます。もしお読みになられてまだ登録されていない方がいらっしゃいましたら、登録して頂ければ幸いです。

 日間ランキングに入った影響で一気にUAが伸びて休憩時間にビックリしました。多くの人の目に留まってくれるので嬉しいですね。見てくださった方が読み続けようと思えるようなお話を継続出来るよう頑張りたいですね。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその17 いんたーみっしょん


 設定まとめに時間がかかりそうなので初投稿です。




 

 いやぁ、随分とロングキャンペーンになりましたねぇダブル吸血鬼ちゃんたちの物語も! 視聴神さんたちからの評価も上々ですし、まとめ動画の再生数も良い感じみたいですねぇ。

 

 ……とはいえ、いつまでも彼女たちのお話しを続けるわけにもいきませんし、そろそろ広げた風呂敷を畳む時期が近付いてまいりました。

 

 次回は太陽神さん提供の脚本(シナリオ)で、その次が鍛冶神さんと戦女神さんが監修された脚本(シナリオ)……ふむ、そうするとその次あたりにしましょうか。

 

 

 

 ――さぁ。いい加減見ているだけで口出しできない境遇に飽きてきたんじゃないですか? そんなアナタに優しい優しいGM神さんが素敵な機会(チャンス)をくれるそうですよ?

 

 万知神さんと覚知神さん、そしてこの可愛いN子さんによる厳しいチェックを乗り越え、みごと最終話の脚本(シナリオ)を書き上げることが出来ますかね? ……死灰神さん?

 

 

 


 

 

 触れ合う肌の温もりが幸せの証明な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 新しい年を迎え、寒さが厳しさを増して来た辺境の街。太陽神さんが顔を覗かせていれば兎人(ササカ)のおちびさんたちや子どもたちが元気に銀世界を駆けまわっているのですが、ここ1週間ほどはずっと吹雪の日々が続いております。さて、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の自宅にカメラを向けてみると……

 

 

「はぁ……今日も一日中吹雪ねぇ……」

 

 

 お! 長耳を力無く垂れさせている妖精弓手ちゃんが、窓から外を眺めつつクソデカ溜息を吐いてますね。魔神の核(デーモンコア)を動力源にした温水暖房設備のおかげで家の中は一定の暖かさに保たれているため、腋を大きく露出させたインナーとホットパンツ(パンツははいてない)というなかなかに攻めた格好です。胸元には星風長女ちゃんを抱きかかえており、上の森人(ハイエルフ)にしてはちょっぴり先端の丸い彼女のお耳をくにくにとマッサージしてあげていますね。

 

 特殊な代謝の影響で汗や呼気などが『芳香』と呼ぶに相応しい香りな森人(エルフ)ですが、特徴的な長耳はその形状から外因性の汚れが溜まりやすくなっています。耳を清潔に保つことは身だしなみの一環として厳しく躾けられ、また慣れないうちは両親が丁寧にケアしてあげるのが習わしなんだとか。

 

 ダブル吸血鬼ちゃんもお嫁さんたちの耳掃除やマッサージを良くしてあげてますし、代謝が止まっている吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)たちに対してもマッサージや耳舐めを繰り出しているとかなんとか。うーん……じつにえっちですね!

 

 

「うー……つまんないー!」

 

 

 そんなママの膝の上でお外に出られずぷく~と頬を膨らませている星風長女ちゃん。連日の吹雪によって牧場各施設の住人には外出禁止令が出され、牧場の双子ちゃんや金等級カップルの子どもたちもみんなそれぞれのおうちに絶賛引き籠り中。遊びたい盛りのちびっこたちはみんなそろって不満たらたらみたいです。

 

 その一方で、悪天候続きを活用するママの姿も見えますね。若草祖母さんはママたちの恰好に似せた三姉妹の衣装を手縫いしていますし、闇人女医さんは古びたレシピ本片手に神代の煮込み料理を再現すべく白兎猟兵ちゃんと挑戦中。彼女から預かった白兎四女ちゃんを英雄雛娘ちゃんが膝上に抱え、その黄金の毛並みを丁寧に梳いています。春になれば生え変わりとともにどのくらい毛に覆われた部分が残るか判明するので楽しみですね!

 

 

「それじゃあ続きを読みましょうか。知識はどれだけ身に着けても嵩張りませんし、重くもありませんからね」

 

 

 ソファーに腰掛けた若草知恵者ちゃんの広げている怪物図鑑(モンスターマニュアル)を左右から覗き込んでいるのは叢雲次女ちゃんと若草三女ちゃんです。生まれついての才能か、あるいは吸血鬼ママたちからいっぱいちゅーちゅーした影響か、星風長女ちゃんも含め3人とも既に共通語(コイネー)森人(エルフ)語の読み書きはマスターしているとのこと。経験値ブーストが効果を発揮しているのは間違いなさそうですね。

 

 

「はーい!」

 

「……?」

 

 

 おやつ休憩を終えた叢雲次女ちゃんは若草ママに抱き着きながら楽しそうに図鑑を眺め、反対側に座っているぽややんとした若草三女ちゃんは……あ、窓から中の映像を撮っていた扁桃頭(アメンドーズ)に気付いて手を振ってます。他のみんなは啓蒙が足りていないのか困惑顔の扁桃頭(アメンドーズ)が見えていないらしく、虚空にジェスチャーをしている三女ちゃんを不思議そうに見ていますね……っと、種族森人(エルフ)な面々の長耳が同じタイミングで外からの音を聞き付け、一斉にピクリと反応しました。家の扉が開き、吹き込む雪と寒風を従えて姿を現したのは……。

 

 

「ただいま~……へぷっ!?」

 

「おかえりなさいパパ~! わっ、つめた~い!?」

 

 

 外套(マント)代わりの羽根に付着していた雪を掃っていたところでいきなりパパ大好きっ子な叢雲次女に跳び付かれ、床に押し倒されているのは吸血鬼君主ちゃん。吹雪による視界不良を【内なる瞳】で無効化し、万一遭難しても死ぬことの無い吸血鬼(ヴァンパイア)な面々が何組かに分かれて牧場内の各施設を巡回しているんですね! どこの施設も一党(パーティ)の家と同様暖房は完備ですが、急病人や暖房の故障が発生していないか朝昼夕の3度牧場のあちこちを見回っているそうです。

 

 

「療養所は問題ありませんでしたわ。妊婦の皆様もお元気でしたし、パートナーの子たちも……ひゃん!?

 

「えへへ……ひんやりふわふわ~」

 

「あ、こら! 今大事なお話ししてるんだから邪魔しちゃダメでしょ!? ……まったく、そのたわわ好きはいったい誰に似たのかしらねぇ?」

 

 

 あらあら、吸血鬼君主ちゃんと一緒に回っていた剣の乙女ちゃん(エロエロ大司教モード)のご立派なたわわにママの金床から瞬時に抜け出した星風長女ちゃんがダイビング。冷え切った身体を暖めてあげるようにむぎゅっと抱き着いちゃいました。頬をヒクつかせながら娘を引っぺがそうとしている2000歳児がジト目で吸血鬼君主ちゃんを睨んでますが……そういう妖精弓手ちゃんも大概たわわ好きですよね? 女魔法使いや妖術師さんのたわわを堪能していましたし。

 

 ソファーに座り、星風長女ちゃんが冷えて風邪をひかないよう彼女を巻き込むようにブランケットで身体を覆った剣の乙女ちゃんの話しによると、療養所に現在泊まっているのは元砂漠の国の冒険者3人娘とそのパートナーである兎人(ササカ)の男の子たち。その他の白兎猟兵ちゃんの弟妹たちも全員療養所に集まり、みんなまとめて只人寮母さんが監督してくれているとのこと。体温を維持するためにモリモリご飯を食べる兎人(ササカ)のおちびさんたち用に追加で食料を置いてきたそうです。食事抜きが死に直結する種族ですし、今後も注意が必要ですね。

 

 

「またあしたたべもののへりぐあいをかくにんして、ついかでおいてくるね……へぷちっ」

 

「あ~あ~、病気にならない筈なのに鼻水なんか垂らして……今日の見回りはおしまいでしょ? お風呂湧いてるから2人とも入ってきなさいな」

 

 

 可愛いくしゃみとともに現れた鼻水をハンカチで拭い、苦笑しながらお風呂のほうを指差す妖精弓手ちゃん。素直に頷いた吸血鬼君主ちゃんが、同じく冷えきっている剣の乙女ちゃんの手を取りぽてぽてとお風呂に向かう背後には小さな3つの人影が……。

 

 

「パパといっしょにおふろはいる~!」

 

「わたしもはいる~!!」

 

「……あわあわ……ぬくぬく……!」

 

 

 うむむ、どうやらお勉強よりもパパママとのスキンシップのほうがお望みみたいです。やれやれと肩を落とす妖精弓手ちゃんにニッコリと微笑みながら、完成したばかりの三姉妹の着替えを手渡す若草祖母さん。一緒に妖精弓手ちゃんの着替えも用意されており準備は完璧ですね! 「ええい、全員まとめてあわあわの刑に処してやるわよ~!!」という2000歳児の声が脱衣場へと消えていったところで他の吸血鬼(ヴァンパイア)組の様子も見てみましょうか! さて、みんな何処に居るかな~?

 

 


 

 

「あはは、くすぐったい~!」

 

「こんなにたくさん、すごいっ!」

 

「あ~ぅ!!」

 

 

 ――お、2組目は冒険者たちの長期宿泊所にいました! 各階に家族単位で寝泊まり出来る部屋が設けられ、炊事や洗濯は共有の場所で行う類の方式な宿泊所。談話室に集まっている冒険者の子どもたちが無数の触手に絡めとられ歓声を上げていますね。

 

 

「ふひ……こんなに小さな子たちにモテるなんて……やはり触手は正義……ッ!」

 

 

 触手の群れの中心には、ちょっと放送出来ないレベルの〇ヘ顔を晒している妖術師さんの姿が。プルプルと震えるダブルピースをちびっこたちに向けつつ、繊細な触手さばきでくすぐったり高い高いしている様は完全に事案にしか見えません。

 

 

「熟練冒険者の姿ですか? これが……」

 

「これじゃ、わたし……先輩を尊敬したくなくなっちゃうよ……」

 

 

 冒険者としては先輩であり、圃人(レーア)としては後輩な彼女の残念な有り様に思わず霧が濃くなりそうな言葉を零す圃人(レーア)コンビ。牧場での自主トレ後のおゆはんなどはダブル吸血鬼ちゃん宅でご馳走になる事の多い2人ですが、普段寝泊まりしているのはこちらの宿泊所ですね。……月1くらいの頻度でダブル吸血鬼ちゃんの寝台(ベッド)に潜り込み、ちゅーちゅーしたりされたりなのは公然の秘密ってヤツです。

 

 

「なぁオイ、良いのかよアレ?」

 

まぁ 落としたりは しねェ だろう から……!!

 

「左様。怪我をする心配はありませぬし、子どもたちも喜んでおります故……フム、王手(チェック)

 

「あら、これ、は……」

 

「んげ!?」

 

 

 戸惑うような槍ニキの言葉に上半身裸で腕立て伏せをしながら返す重戦士さん。背中へ完全装備の女騎士さんをウェイト代わりに乗せた光景に槍ニキがドン引きしています。彼の対面には蜥蜴僧侶さんと女将軍さんが座り、隣にゆったりと腰を下ろす魔女パイセンを合わせた4人の真ん中には遊戯盤の置かれたテーブルが。夫婦で交互に指す変則的な対戦みたいですが……どうやら蜥蜴僧侶さんの一手で決着がついたみたいですね。盤面を見て瞬時に詰みと判断した魔女パイセンが両手を降参のポーズにする横で槍ニキが天を仰いでいます。

 

 

「あら、勝負ありですのね。――はい、熱いので気を付けてね?」

 

「わぁ、良い香りー!」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 キッチンから姿を現したのはエプロン姿が眩しい令嬢剣士さん。両手で持つ円形のトレイの上にはどろりと濃い赤褐色の液体の入ったカップが湯気を放っています。近年南方から輸入される事の増えた神の実(カカオ)から作られた飲料、いわゆるホットチョコレートですね! その甘い香りに釣られ、太眉長女ちゃんをはじめとする子どもたち3人も触手から解放されて駆け寄ってきました。子どもたちを下ろしやれやれと肩を叩く妖術師さんに、令嬢剣士さんが微笑みながらカップを手渡しています。

 

 

「ふふ、お疲れ様です。みんな元気があって良いですわね!」

 

「いやぁ、みんな可愛くて最高だよね! 目つきの悪さも緩和されるし、やっぱ圃人(レーア)になって良かった! 師匠万歳!!」

 

 ヒャッホウ最高だぜぇ~!と言わんばかりにカップを掲げる妖術師さん。陰のあるメカクレクールビューティは何処か遠いところへ消え去り、代わりに生えてきたのは限界オタク的な笑みを浮かべる外見圃人(レーア)のへんたいふしんしゃさん。どうしてこうなったんでしょうね……と、おや? 口の周りに立派なチョコのヒゲを付けた太眉長女ちゃんがとてとて妖術師さんへと近寄っていきましたね。まだカップには中身が残ってますし、触手のおかわりという感じでは無さそうですが。

 

 

「あの、触手のおねーちゃん! ちょっときいてもいいですか?」

 

お、おねーちゃん……えへへ……ゴホン! な、なにを聞きたいのかな? おねえさん、今なら()()()()答えちゃうよ!」

 


「ん?」

「「いま」」

「「「なんでもって」」」


 

 はいはい、変態視聴神さんたちは自分の席に座りましょうね? 背後で圃人(レーア)コンビが不審な動きを見せた瞬間に拘束しようと構えているのに気付かず、ハァハァと荒い息を吐きながら太眉長女ちゃんと目線を合わせるように膝を曲げる妖術師さん。好奇心に満ちたキラキラの瞳で純真無垢な幼子が訊ねたのは……。

 

 

 

「えっと、わたしたちのパパとママはおとこのひととおんなのひとなのに、なんでおねーちゃんたちのおうちではパパとママがりょうほうおんなのひとなんですか???」

 

 

 

「「カハァ!?」」

 

「ああっ、2人が盛大に吐血したぁ!?」

 

「し、神官! 癒しの奇跡が使える神官は何処ですか!?」

 

 

 穢れなき致命の一撃(マジレス神拳)が直撃し崩れ落ちる吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)たち。盛大に血を吐く姿に泣き黒子長男くんが怯え、竜眼少女ちゃんが血の匂いに反応しキョロキョロと周りを窺う中、慌てて駆け付けた圃人(レーア)コンビがピクピクと痙攣しているクソ雑魚吸血鬼を抱き起こしました。衛生兵(メディック)よろしく神官を呼んでますが、残念ながらその2人に使うとダメージが入っちゃうんだよなぁ……。

 

 

「はぁ、はぁ……なんて鋭い一撃。吸血鬼(ヴァンパイア)じゃなければ即死だった……!」

 

「いえ、そもそも一党(パーティ)に加入した時点で手遅れだったのでは???」

 

 

 あ、復活した。流石は吸血鬼の再生能力(嘘)! 口元の血を拭いつつ立ち上がり、フラフラと揺れる身体で回答を待っている太眉長女ちゃんへと相対する妖術師さん。その顔には浮かぶはずの無い汗がびっしりと見て取れます。『子どもの疑問に答える』、『一党(パーティ)の爛れた生活をなんとか誤魔化す』。『両方』やらなっくっちゃあならないのが【辺境最悪】の一員のつらいところですね。(自主規制(ピー)音を入れる)覚悟はいいか? N子さんは(たぶん)できてる!

 

 

 

 

 

 

「そ、それはもちろん師匠が操る触手の超絶技巧(テク)と、ご立派な魔剣から注がれる濃厚な魔力でみんな腰砕けにカヒュッ

 

「ふぅ、危ないところでしたわ……!」

 

 

 ギリギリアウトなんだよなぁ……。笑顔のまま絞め落とされてスヤァ・・・と崩れ落ちる妖術師さんを後方に投げ捨て、やりきった顔で額に滲んだ出る筈の無い汗を拭う令嬢剣士さん。しかし彼女にはまだ大切な役目が残っています。突然の茶番に目を丸くしていた太眉長女ちゃんは未だに質問の解答を待っている状態、幼子の純真な心を傷付けず、なおかつ穏当な着地点を見付けなければいけません! ベテラン冒険者たちが固唾を飲んで見守るなか、令嬢剣士さんの出した答えは……!

 

 

「――いいですか? たしかに「パパ」は普通男の方です。でもよく考えてみてください」

 

 

 

 

 

 

「自分のお嫁さんだけでなく、他のママたちからもちゅーちゅーするようなパパが普通だと思いますか? 違いますよね? そう、つまり普通じゃないから「パパ」が女の子でも良いのです!」

 

「そうかな……そうかも……」

 

「そもそもおひさまの光を浴びて平気な時点で普通の吸血鬼ではありませんし、細かいことを気にしてはいけませんわ!!」

 

「……そうだね! ありがとう、おねーちゃん!!」

 

 

 圧倒的……ッ! 圧倒的説得力……ッ!! 栄纏神に仕える神官特有のゴリ押し=ジツによってなんとか子どもの夢を護り、年長者としての威厳も保つことが出来ました! ……代わりにダブル吸血鬼ちゃんの尊厳値(DP)がガリっと削れた気もしますが、コラテラルダメージというヤツでしょう、きっと、たぶん、メイビー。真実は大きくなったらパパとママが教えてくれると思いますから。

 

 ……おっと、宇宙猫顔なパパママたちからツッコミが入る前に妖術師さんを小脇に抱えた令嬢剣士さんが撤退を始めましたので、そろそろ他の場所を見てみましょうか。

 

 最後はえぇと……吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんのペアですね! 撮影班が既に居場所を確認しているそうですので、早速様子を見てみましょう!!

 

 


 

 

 さて、吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんがいるのは……お、どうやら牧場で飼育されている動物たちのところにいるみたいです。毎日新鮮な卵を産んでくれる雌鶏や、蜥蜴僧侶さんの大好物であるチーズの原料となる乳を提供してくれる乳牛を寒さから護るための厩舎に牧場夫婦と一緒にいるとのことですが……あ、あれは! 

 

 

「わふぅ……!」

 

「――――!!」

 

 

 英霊さんと協力して牧場の子どもたちを密かに見守っている透明な(メルゴーの)乳母さんが、狼さんと並んで窓に齧り付くように厩舎の中を覗いていますね。狼さんは尻尾をブンブンと振り息も荒く、乳母さんは透明な8本の腕で( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!と大興奮中、いったい中では何が起きているのでしょうか……!

 

 

 

 

 

 

「ほわぁ……やっぱりおっきぃ……!」

 

「でしょう? ……それじゃ、はじめよっか!」

 

 

 魔神の核(デーモンコア)を利用した暖房設備によって防寒具が不要なほどに暖かな厩舎の中。眼前のたわわに目を奪われている吸血鬼侍ちゃんの小さな手を取り、牛飼若奥さんがそっと柔らかなふくらみに手を添えました。そのまま重ねた手を動かし、ずっしりと重量感のある乳房を撫でていきます……。

 

 

「――まずは全体を優しく擦るの。ゆっくりと……ね?」

 

「えっと、こう……かな?」

 

「そうそう、上手だね! そうすると身体が反応して準備を始めるから……」

 

「わわっ!? さきっぽからにじんできた!」

 

 

 重ねられた手の温もりにドキドキしながら、牛飼若奥さんの導きのままに山の麓から頂きに向かって円を描くように揉みしだく吸血鬼侍ちゃん。アンデッド特有の冷たい手が刺激となりぷっくりと反応した先端から生命の雫が滲むのを見て、本能的に口を近付けそうになるのを必死に堪える彼女の頭を牛飼若奥さんが空いているほうの手で優しく撫でています……。

 

 

「あーあー、夢中になっちゃってもう……!」

 

 

 2人の行為を火照った顔で見ている女魔法使いちゃんの対面にはいつもの竜革の鎧(ドラゴンハイドアーマー)姿のゴブスレさんが敷き藁の上に腰を下ろしています。既に露わになっているたわわを前にいつも通りの仏頂面のまま、手を伸ばすのを躊躇っている女魔法使いちゃんへと声を掛けました。

 

 

「どうした、やらないのか?」

 

「うぅ……けど、私にだって心の準備ってものが……」

 

「……向こうが気になるのは判るが、今は自分のほうに集中しろ。やらないのなら……」

 

「や、やるわよ!? ああもう……ッ!」

 

 

 無造作に手を伸ばすゴブスレさんを制し、覚悟を決めた表情でたわわに触れる女魔法使いちゃん。ずっしりとした量感たっぷりのそれを下から支えるように持ち上げ、ゆっくりと刺激を与えていきます。彼女の意志とは関係無く反応する身体に真っ赤な顔になりながらも手は止めようとしません……。

 

 

 

「――そのくらいで十分だろう」

 

「う、うん。じゃあ……」

 

 

 すっかりと出来上がったたわわを見て、熱っぽい吐息を漏らす女魔法使いちゃん。前準備が終わったところでゴクリと唾を飲み、そのほっそりとした指先を鉤状に曲げ、今か今かと準備万端で待ち構えている先端へとあてがい……!

 

 

 

「――んっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、こんなに勢いよく出てくるのね……!」

 

「あはは、最初に見た時はみんなビックリするんだ~!」

 

 

 パンパンに張った牛さんのおっぱい。垂れ下がるように存在をアピールする乳首をやさしく握り、肌越しに感じる脈動とそこから出る乳の量に目を丸くする女魔法使いちゃん。牛飼若奥さんに補助されながら同じく乳搾りを体験している吸血鬼侍ちゃんも、驚きでちっちゃな口が開きっぱなしになっちゃってますね。

 

 

「うしさんのおっぱい、まいにちしぼってあげなきゃいけないんだっけ?」

 

「ああ。搾乳を怠ると体調が悪くなったり病気にもなりやすい。搾り過ぎも良くないが、そこは牛の状態を見ながらだ」

 

 

 搾乳を続けながら吸血鬼侍ちゃんが牛さんの顔を見れば、たしかにどこかスッキリとした顔をしているような気がします。連日の吹雪で従業員の出勤が危険なために人手が足りず、乳房がパンパンになっていた牛さんたちを見て見回りに訪れた2人が協力を申し出たんですね!

 

 

「うん、今日はこのくらいで大丈夫かな! 2人とも、手伝ってくれてありがとう!!」

 

「助かった、礼を言う」

 

 

 あっという間にバケツいっぱいまで溜まったミルクに運ぶ途中でゴミや雪が入らないよう蓋をして満足げに微笑む牛飼若奥さん。牧場の経営は順調とはいえ乳牛は貴重な財産、体調管理には気を遣わなければいけませんからね。寝藁を手早く取り換えたゴブスレさんと一緒に感謝の言葉をかけられ、慌てたように女魔法使いちゃんが首を横に振っています。

 

 

「そんな、むしろ足を引っ張っただけって感じだったし……!」

 

「てでしぼるのははじめてだからむずかしかったね~。ちょくせつちゅーちゅーするのはとくいだけど……あたっ」

 

「このエロガキってば、もう……ッ!」

 

 

 横から抱き着き、ふにゅりとたわわに顔を埋める吸血鬼侍ちゃんの頭をぺしりと叩く女魔法使いちゃんの顔は真っ赤ですね……と、おや? そんな乳繰り合う2人を見ていた牛飼若奥さんが悪い顔になってますねぇ。ゴブスレさんとアイコンタクトを交わすと抜き足差し足吸血鬼(ヴァンパイア)2人へと近付き、2人の頭をその豊満なたわわに埋もれさせるように抱きしめました!

 

 

「もがっ!?」

 

「むぎゅっ!? ふわふわ……!」

 

 

 双子ちゃんを出産した後、今もなお成長を続けるドリームたわわに顔を塞がれ目を白黒させる2人。溺れるような柔らかさの剣の乙女ちゃんとは異なる弾き返すようなハリを感じさせる健康的な胸部装甲に吸血鬼侍ちゃんだけでなく女魔法使いちゃんもやられてしまったみたいです。

 

 蕩けた表情ですとんと腰を落とした2人に視線を合わせるようにしゃがみ込みながら、トレードマークであるオーバーオールの隙間に手を差し込み、内側のセーターをたくし上げていく牛飼若奥さん。やがて零れ落ちるように現れた魅惑のたわわ、未だ焦点の定まらぬ2人の頭をやさしく抱き寄せ、色素の薄い吸い口を口元に近付けながら……。

 

 

 

 

 

 

「牛のお世話を手伝ってくれたお礼だよ! ……実はわたしも結構張っちゃってて苦しいんだ。だから……楽にしてくれると嬉しいな?」

 

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 

「ふふ、妹ちゃんと違って、2人は赤ちゃんみたいな吸い方なんだね~!」

 

「けぷっ。ごちそうさまでした!」

 

 

 ――いやぁ、凄い絵面でしたねぇ……。スッキリ!という顔で笑う牛飼若奥さんとちゅーちゅーさせてもらって元気いっぱいな吸血鬼侍ちゃんとは対照的に、女魔法使いちゃんは絶望の表情を浮かべ膝を着いて崩れ落ちています。

 

 

「ひ、人妻……しかも子持ち相手に我を忘れて本気吸いとか……恥ずかしくて死にたい……」

 

 

 啄むような吸い方をする吸血鬼君主ちゃんとは異なり吸い口とその周辺を口いっぱいに頬張る本気吸いだった2人、やっぱり日光浴で回復する吸血鬼君主ちゃんが例外なんでしょうか。ガタガタと震える彼女の肩を抱くのは、ちゅーちゅーされた当人である牛飼若奥さんです。ゆるゆると顔を上げる女魔法使いちゃんにニッコリと微笑みながら口にしたのは……。

 

 

「そんなに気にするほどのことじゃないよ? むしろ双子ちゃんに吸ってもらった後って、こう、身体が火照っちゃって……ね?」

 

「……そうだな」

 

 

 捕食者の眼光で旦那をロックオンする肉食系若奥様。吸血鬼(ヴァンパイア)との行為は背筋が凍るほどの快楽を齎すと言われてますが、どうやらちゅーちゅーされるだけでも昂ってしまうみたいですね。地母神さんからの情報によりますと、ダブル吸血鬼ちゃんにちゅーちゅーされた日の夜は金等級夫婦たちや蜥蜴僧侶さんのところも大いに盛り上がっているんだとか。カタカタとゴブスレさんが震えているあたり、今夜は寒さを吹き飛ばすほど激しくなりそうですね。

 

 外に出ることは出来なくても、人との繋がりは感じられる。そんなある冬の一日の模様をお送りいたしました……。――え? さっきのちゅーちゅーシーンは流さないのかって? いや、アレは≪幻想≫さんが熱暴走しちゃうくらいには刺激的でしたし、2人にちゅーちゅーさせながらゴブスレさんを見る牛飼若奥さんの表情がえちえち過ぎたのでちょっと……ね?

 

 


 

 

「はれたー!」

 

「おそとだー!」

 

「おひさま、あったかーい!」

 

 

 何日も続いていた吹雪が漸く収まり、静謐な銀世界がやってきた牧場。ずっとおうちの中で不満が溜まっていた子どもたちが我先にと一面真っ白な外へ飛び出し、同じように我慢の限界だった兎人(ササカ)のおちびさんたちと楽しそうに駆け回っています。白兎猟兵ちゃんに抱かれていた白兎四女ちゃんもママの腕の中からぴょんと抜け出し降り積もった雪の中へダイブ、金色の尻尾が気持ち良さそうに揺れていますね!

 

 

「溜まってた洗濯物、まとめてやっつけちゃわなきゃねぇ……」

 

「はい、下姉様! 汚れは≪浄化(ピュアリファイ)≫で消えますが、急患に備えて奇跡は温存しておきたいですし、洗い終えた物は主さまの熱を用いて乾かすことも可能ではございますが……」

 

「やっぱりお日様にお願いするのが一番ね!」

 

 

 ママたちの持つ籠の中には洗濯物が山盛り! お風呂場で温水を利用して濯ぎまで終え、あとは干すだけという状態ですが……うん、なんというか、妖精弓手ちゃんが洗濯している姿はとても新鮮でしたね。原作(ほんへ)では精霊さんに任せっぱなしであることが語られ、その後も姉妹ともに汚部屋の主であることが判明している彼女が鼻歌を歌いながら衣類を泡だらけにしているのは成長の証でしょう。……なぜか一糸纏わぬ姿で危険な部分だけ泡で隠し、いっしょにいたダブル吸血鬼ちゃんも泡だらけになっていたのはたぶん目の錯覚です。

 

 

「よっし、それじゃ手早く片付けてみんなで雪合戦でも……あれ?」

 

「おてがみちゃんととどけましたもん……」

 

 

 おや? 妖精弓手ちゃんの頭上にひらひらと落ちてくるものが。この季節には珍しい緑の濃い大きな一枚の葉っぱです。上を見ればギザ歯に真っ青なツインテールの精霊が息も絶え絶えに手を振っているのが見えますね。どうやら彼女が運んで来てくれたみたいです。

 

 

「あ、ねえ様からだ! なになに……」

 

 

 分厚い葉の表面を見て顔を綻ばせる妖精弓手ちゃん。そうでした、あれは森人(エルフ)たちの用いる葉書ですね! 流麗な筆致で書かれた文に目を通す妖精弓手ちゃんの顔がどんどんと喜色に染まっていくのが見て取れます。長耳をピコピコと動かしながら読み進める彼女に気付いたみんなが集まってくるなか、二度手紙を読み返した妖精弓手ちゃんが勢いよく顔を上げ、喜びいっぱいの表情で吉報を皆に報せました!

 

 

 

 

 

 

「ねえ様とあに様との間に女の子が産まれたって書いてあるわ! 私たちの子の顔も見たいから、遊びに来なさいだって!!」

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 森人の里の描写を推敲し直すので失踪します。

 評価や感想、お気に入り登録いつもありがとうございます。もしお読みになられてまだ登録されていない方がいらっしゃいましたら、登録して頂ければ幸いです。

 番外編を挟みつつ、そろそろキャンペーン終了に向けて動き始める頃合いになって参りました。もうちょっとだけ続きますので、ダブル吸血鬼ちゃんたちの冒険にお付き合いいただければと思います。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその17.5-1


4回目の副反応でダウンしていたので初投稿です。




 

 親戚付き合いは大切に!な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 

 森人(エルフ)の里からの手紙が届いた数日後、冬晴れの空を斬り裂いて飛翔する小さな影。めいっぱい広げた翼で太陽神さんからの(フレア)を受け取りながら、妖精弓手ちゃんをお姫様抱っこした吸血鬼君主ちゃんが楽しそうに天を舞っています。

 

 

「シルマリルの力はこんなもんじゃないでしょ? もっと速く、もっと高く飛んで()()()!!」

 

「あいまむ! しっかりつかまっててね~!!」

 

 

 久々の好天にご機嫌な吸血鬼(ヴァンパイア)の様子を見て輝くような笑みを浮かべている妖精弓手ちゃん。お気に入りの防寒具で身を固め、露出している顔は吸血鬼君主ちゃんの首筋にスリスリ。星の力(核融合炉)が齎す温もりを気持ちよさそうに受け取ってますね。

 

 

 お姉さんである花冠の森姫改め花冠の女王から女の子が産まれたとの手紙が届き、久しぶりに里帰りすることにした妖精弓手ちゃん。ダブル吸血鬼ちゃんとお嫁さんたちとの間に産まれた子どもたちはまだ森人(エルフ)の里に行った事が無く、お姉さんも逢いたいと希望しているためみんなで遊びに行く事になりました。

 

 とはいえみんなまだまだ体力のない幼女ばかり。真冬に長距離の旅をするのは難しいため、まずは吸血鬼君主ちゃんと妖精弓手ちゃんの2人だけで先行することに。残りのみんなと暇を持て余している牧場関係者及び冬季逗留組は後から()()で合流する予定になっています。

 

 なお裏技を準備するにあたり、王宮に突然押し掛けられ協力を迫られた賢者ちゃんは凄い目で吸血鬼君主ちゃんを見ていましたが、里で森人(エルフ)の伝統料理をおなかいっぱいに振る舞うことに加え、里帰り後に一晩ダブル吸血鬼ちゃんを貪る権利で了承してもらったみたいです。

 

 

「ふふ、あの子を授かってからまだ1年も経ってないのよねぇ……ん? どうしたのシルマリル?」

 

「ふぇ!? な、なんでもないよ?」

 

 

 おやぁ? 里の上空に近付いて来たところで吸血鬼君主ちゃんの様子が変ですね。瞳を覗き込んで来る妖精弓手ちゃんから尖り耳を朱に染め必死に顔を逸らしています。頭上に?を浮かべていた妖精弓手ちゃんですが、どうやら思い当たる節があるみたいですね。ニンマリと悪い笑みを浮かべながら想い人の頬を両手で挟み、自らのほうへと向けさせました。あわあわと眼を泳がせる吸血鬼君主ちゃんの様子から予想が確信に変わったのでしょう、瑞々しい桜色の唇を尖り耳にそっと近付けて……。

 

 

 

「――『揺り籠』のこと考えてたんでしょう? シルマリルのえっち♪」

 

「ふぁっ!?」

 

 

 空中で翼と両足をピーンと伸ばすという器用なことをしながら硬直する吸血鬼君主ちゃんを見て、ますます笑みを深める妖精弓手ちゃん。なるほど、経験豊富な吸血鬼君主ちゃんにとっても『揺り籠』での子を授かる儀式は特別だったんですね!

 

 閉ざされた空間で互いの求めるままに繰り返される愛の交歓、しかもお相手は永遠の美を体現した存在である妖精弓手ちゃん。言葉と魔力を交わしながら交わりを重ね、時には獣のように貪り合う生命の営みは≪真実≫さんの目を釘付けにし、神ケット用に執筆が進んでいた知識神さんの新刊を予定の2倍の厚さにするほどの艶姿でしたからねぇ……。

 

 空中で静止したまま真っ赤な顔でプルプル震える想い人の首に両手を回し、猫が甘えるように顔を擦り付ける妖精弓手ちゃん。チロリと姿を見せた舌が細い首筋を這う度に小さな身体がビクンと跳ねています。体内に溜まった熱を排出するかのように吸血鬼君主ちゃんが熱い吐息を漏らし始めたところで、追い討ちを掛けるように妖精弓手ちゃんの囁きが続きます。

 

 

「求めてくれるのは嬉しいけど、私との子作りは()()ダメよ? 王妹の2人やド変態女医、圃人(レーア)コンビに猟犬(フアン)ちゃんだってシルマリルとヘルルインのことを待ってるんだから。それに……若草のおばあちゃんもね?」

 

「えぅ……」

 

 

 これ見よがしに指折り数える妖精弓手ちゃんの攻勢にもはや半泣きに近い状態の吸血鬼君主ちゃん。名目上の正妻である存在の口から立て続けに他の女の子の名前が出るとか本来なら流血沙汰待ったなしですけど、そこは特殊過ぎるダブル吸血鬼ちゃんたちの血族(かぞく)関係。眷属にするか、生命を繋ぐか、どちらを選ぶにしろ中途半端にせずさっさと血族(かぞく)として迎え入れろという有難いお言葉ですねぇ。特に女神官ちゃんなんて例の指輪を手に「こうなったら私がパパに……!」と呟く姿が複数人に目撃されているくらいですし、早急に対処しないといけませんよ?

 

 冬の寒さもなんのその、空中でイチャイチャする2人の熱はいや増すばかり。反撃に転じようと吸血鬼君主ちゃんが妖精弓手ちゃんの唇を奪おうとしたところで……おや? 眼下の森から空に向かって何かが飛び出してきました。2人の滞空している高さを越えた物体は重力に引かれて弧を描き、グングンと下降していき……。

 

 

「むむむ……あたっ」

 

「えっ? なに???」

 

 

 風の流れを読み切って放たれた矢は、過たずに吸血鬼君主ちゃんの秘匿されたおでこに命中。先端の鏃が潰されトリモチが付けられてなければ吸血鬼君主ちゃんの頭はぱっかーんと割れていたこと間違いなしです。突然眼前の額に矢が生えたことに混乱していた妖精弓手ちゃんでしたが、矢に細長い葉が巻き付けられていることに気付き、そっと取り外しました。矢鴨ならぬ矢吸血鬼と化した吸血鬼君主ちゃんと一緒に覗き込めば、そこには流麗な森人(エルフ)の文字でデカデカと……。

 

 

 

 

 

 

【イチャついてないでさっさと降りてこい、この馬鹿義妹 (#^ω^)】

 

 

「おこってるかおがじょうずだね!」

 

「あに様、昔から詩作はイマイチだけど絵は上手だったのよねぇ」

 

 

 え? ツッコむところそっち???

 

 どうやら超ト〇ルキン人(ハイエルフ)にとっては地上からでは点にしか見えない程の対象に矢を中てることなどベイビーサブミッション、赤子の手を捻るが如き容易い技みたいですね。眼下の森から漂う怒りのオーラに顔を見合わせた2人は苦笑し、ゆっくりと従兄殿が仁王立ちしている樹上へと降下していくのでした……。

 

 


 

 

「――まったく、見回り中に姿が見えた故いつ合図の矢を放つかと待っていたが、まさかあのような破廉恥な行為に及ぶとは……!」

 

「あはは……」

 

「おあ~……」

 

 

 冬でありながらも緑濃き森人(エルフ)の里外縁部の森。矢継ぎ早に小言を繰り出す従兄殿と胸元に吸血鬼君主ちゃんを抱えた妖精弓手ちゃん、それに斥候と思しき森人(エルフ)たちが樹上を駆けています。枝から枝へと飛び移る様はまさにマシラの如く、森人(エルフ)という種族の身体能力の高さが見て取れますね。

 

 

 精霊たちの加護によって冬でも枯れることの無い森林は動物たちにとっても生命を繋ぐ貴重な食料の宝庫であり、他の季節に比べて猛獣が入り込む可能性も高くなります。そのため、里に危害を加える()が入り込まないよう定期的に巡回しているんだとか。従兄殿自ら動いているのは予想外でしたけど、手紙の返事を見てここ数日見回りに加わっていたとのタレコミが地母神さんからありましたので、判り難いツンデレの可能性が浮上してきました。

 

 

「結婚して少しは慎みというものを身に着けると期待していたが、どうやら見込み違いだったようだな……」

 

「なに言ってるのあに様、たった1年やそこらで森人(エルフ)が変わるわけないでしょ?」

 

 

 クドクドと続く説教を苦笑しながら聞き流していた妖精弓手ちゃんですが、ある一言を耳にした瞬間その纏う空気が一変しました。周りで貴き上の森人(ハイエルフ)の聞くに堪えない言葉を聞き流していた斥候たちが思わず弓に手を掛けるほどの怒りを誘発させたその一言とは……。

 

 

 

「お前も()()()()となったのだから、いい加減に落ち着きというものを――」

 

「――あに様」

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。間違えないで」

 

「――――!!」

 

 

 長耳を限界まで引き絞り、内なる怒りを押し堪えて言葉を紡ぐ妖精弓手ちゃん。天上の美と称される相貌から放たれる『威』は斥候たちが無意識に跪いてしまうほどの迫力に満ちています。己の失言に気付いた従兄殿は目を見開き、やがて肩を落とし謝罪の言葉を口にしました。

 

 

「――そうだな、そなたたちは血の交わりで結ばれた血族(かぞく)。誰の胎から産まれようとも、それは皆の子であったな。……すまぬ、星風の娘よ。そして小さき不死者殿」

 

「……ごめんねあに様、これだけは譲れないの。シルマリルとヘルルイン、2人と共に歩むと決めたその時から、この子たちが生んだ全ての命は、みんな私の子どもなんだってことだけはね!」

 

「えへへ……まだまだふえるよていだから、たくさんめいっこができるよ、おに~(義兄)さん!」

 

「貴様、まだ娘を増やすつもりなのか……!?」

 

 

 絶賛順番待ち状態ですからねぇ……。子孫繫栄に熱心な吸血鬼君主ちゃんに戦慄を隠せない従兄殿、やはり森人(エルフ)男子は草食性みたいですね……と、話している間にどうやら里の中心に到着したようです。妖精弓手ちゃんの抱っこから抜け出した吸血鬼君主ちゃんがインベントリーをゴソゴソ、おもむろに取り出したのは……そう、≪転移≫の鏡です! 地面に設置し予め聞いていたキーワードを吸血鬼君主ちゃんが唱えると、鏡に映る景色が波打ちながら移り変わっていきます。やがて鏡の向こう側には見慣れた景色とメンバーの姿が見えてきて……。

 

 

「「「パパ―!」」」

 

「わぷっ」

 

 

 弾丸のように飛び出して来た三姉妹がパパに突撃! 受け止める形になった吸血鬼君主ちゃんは勢いを殺し切れず、4人ひと塊になってゴロゴロ転がっていっちゃいましたね。従兄殿以下森人(エルフ)たちが呆然とその光景を見る横で、鏡の中からは次々と人が現れていきます。

 

 

「ん、門は安定しているみたいね。……お疲れ様、だいぶ寒かったんじゃない?」

 

「ぜ~んぜん! シルマリルがポカポカだったし、久しぶりに2人だけの時間を過ごせたもの」

 

「……後続が詰まっているから早くそのデカい胸と尻を退かすのです」

 

 

 まず出てきたのは女魔法使いちゃん。今回≪転移≫の鏡を起動したのは彼女らしく、術式が安定しているのを確認しほっと肩を撫で下ろしています。その後ろからは賢者ちゃんの声が、どうやら女魔法使いちゃんが上手く起動出来るか見守ってくれていたみたいですね。……背後から女魔法使いちゃんのたわわを鷲掴みして顔を赤くした彼女にギリギリと締め上げられてますけど、大丈夫なんですかね?

 

 

「わわ、あったかいですねぇ!」

 

「精霊たちのおかげで、冬でも上着は不要でございます」

 

「むしろ冬毛では少々暑いかもしれませんね」

 

 

 続いて現れたのは金毛に覆われた白兎四女ちゃんを抱っこした白兎猟兵ちゃんに、氏族の衣装を身に纏った若草知恵者ちゃん、そして幾重にも長衣を重ね着している若草祖母さんですね。室内にいる時と変わらぬ服装で森の中の暖かさに目を丸くする白兎猟兵ちゃんに祖母孫コンビが森の加護について話してあげています。毛色が珍しいのか、四女ちゃんの周りに精霊たちが集まってきてふわふわの毛並みにダイブしちゃってますねぇ。

 

 

「うわぁ、ホントに森の中に街がある!」

 

「ああ、前回は妊娠中で連れて来られなかったからな」

 

「えるふのひとがいっぱい!」

 

「すごーい!!」

 

 

 お、牧場家族も来ましたね! 長女ちゃんを抱っこした牧場若奥さんが里の光景に目を輝かせ、長男君の手を引くゴブスレさんがさらっと惚気ています。前回はタイミングが合わず同行出来なかった牛飼若奥さんですが、今回は子どもも大きくなり、≪転移≫の門で旅程が大幅ショートカット出来たので無事に参加が叶いました! 双子ちゃんも始めて見る西方辺境以外の景色に喜びを露わにしていますね。

 

 

 その後も次々と人が続き、最終的に揃った面子はダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)に金等級の3家族、それから半ば一党(パーティ)入りしているような圃人(レーア)コンビとなかなかの大人数です。残念ながら鉱人道士さんは隻眼鍛冶師さんと一緒に火を入れた釜から離れられず欠席、女将軍さんと王妹殿下1号2号は王国の仕事があるので一足先に王宮へ≪転移≫し、蜥蜴僧侶さんと竜眼少女ちゃんもそちらに同行しています。

 

 鉱人(ドワーフ)蜥蜴人(リザードマン)が居なくても個性的な種族が集まった面々。良い意味で注目を集めているのは森林地帯では見かけることの少ない兎人(ササカ)の白兎猟兵ちゃん親子。彼女たちとは対照的に、悪い意味で注目されているのは……。

 

 

 

 

 

 

「――警戒と猜疑心と、侮蔑の籠った視線……フフ、悪くないな!」

 

「無敵かな? まぁ、私もあまり人のことは言えないんだけどねぇ……」

 

 

 その肌の色から斥候たちに警戒の目を向けられ、恍惚の笑みを浮かべながら自らの蠱惑的な肢体を抱きしめる闇人女医さんと、それを見た精霊たちが一斉に逃げ出すほどの首飾り――相棒である『(L.E.D.)』の召喚鍵ですね――を手で弄ぶ叢雲狩人さんの2人です。最近仲良くなった精霊さんだけが彼女の頭上に乗り、心配そうな顔をしていますが……同胞からの視線も何処吹く風といった様子ですね。その視線に気付いた妖精弓手ちゃんが声を上げようとしたところで、背後から小さな影が跳び付き、2人を纏めて抱きしめました。

 

 

「――ふたりとも、ぼくたちのたいせつなかぞくなの! だから、そんなめでみないでほしいの……」

 

 

 月の香りを纏う小さな暴君……吸血鬼侍ちゃんに見つめられ慌てて視線を逸らす斥候たち。そのうちの何人かは赤い顔になってますが……あ、彼ら初訪問の時にちゅーちゅーされた人たちっぽいです。うーうー可愛く唸る姿に毒気を抜かれたような顔の叢雲狩人さんと闇人女医さんがそっと吸血鬼侍ちゃんを抱き上げ、ひんやりとしたほっぺに自らの頬を擦り付けています。

 

 

「まったく……可愛いなぁご主人様は!」

 

「うむ、不意の一撃で思わず下腹が疼いてしまった。どう責任を取ってくれるのだ、我が主よ?」

 

「おあ~……」

 

 

 しなやかな肉食獣の如き肢体にもみくちゃにされ困惑の声を上げる吸血鬼侍ちゃん。過激なスキンシップを見せつけられた草食系森人(エルフ)たちも、思わず生唾ゴックンといった様子ですね。……ひっじょーに教育に悪い光景を前に、ママたちが一斉に子どもたちの目を手で覆っているあたり日常茶飯事なんでしょう、きっと。

 

 

「……妻が迎賓樹で待っている。そろそろ行くぞ」

 

 

 お、頭を抱えていた従兄殿が何処か吹っ切れた様子でズンズンと進み始めました。放置していればいつまでも進展しないと悟ったんでしょうね。途中で伸びてきた蔓に捕まったダブル吸血鬼ちゃんがポイポイ投げられる一幕があったりもしながら、一行は花冠の女王が待つという大樹へと進んでいきます……。

 

 


 

 

「こりゃ凄ェ……!」

 

「でっかーい!」

 

森人(エルフ)の暮らしを外の方々に説明するには、実際に我らの居住様式を見て頂くのが一番ですから」

 

 

 太眉長女ちゃんを肩車した重戦士さんが感嘆の声とともに見上げている威容。外からの使者をもてなすための迎賓館としての役割を持つ大樹に案内された一行を迎えてくれたのは、妖精弓手ちゃんのお姉さんである花冠の女王。上の森人(ハイエルフ)らしいほっそりとした体型はそのままに、出産を経てより母性的な魅力を増した美貌は金等級3組の夫婦どちらもが一瞬見惚れてしまうほど。その腕には黄金の輝きを放つ髪をした赤ちゃんが抱かれています。森人(エルフ)の王族の証である長い耳を持った、次代の女王となる女の子ですね!

 

 

 血族(かぞく)以外の森人(エルフ)を間近で見るのは初めてな子どもたちは女王とその腕の中の赤ちゃんに興味津々、それぞれのママの背後に身を隠しながら様子を窺う姪っ子たちに微笑む女王がまず最初に声を掛けた相手は牛飼若奥さんです。ほけ~っと麗しの森人(エルフ)を見上げている双子ちゃんの頭を優しく撫でた後、深々と頭を下げました。

 

 

「里を離れ、外の世界で生きる同胞の(いえ)を管理されている方と聞いております。いつも妹が迷惑をかけているようで……」

 

「め、迷惑だなんてそんな!? 私の方こそ牧場の仕事や子育てを手伝って貰ってばっかりですから……!」

 

 

 ああ、そこが一番の心配の種だったんですね……。女王としてではなく2000歳児の姉として振る舞う彼女に慌てて頭を上げてもらう牛飼若奥さん。全力でそんなことはないですよアピールをした後、そっと手を彼女の抱く赤ちゃんへと伸ばしていきます。ゆっくりと近付いてきた指先にちっちゃな手を伸ばすプリンセスを優しく撫で、祝いの言葉を送りました。

 

 

「ご出産、おめでとうございます。無事に産まれてくれて良かったです!」

 

「ええ、ありがとうございます。外界の寒さもこの森の中には届きません。どうぞ、ゆっくりと楽しんでいってください」

 

 

 牛飼若奥さんを皮切りに里を訪れた冒険者たち全員と言葉を交わしていく花冠の女王。鼻の下を伸ばす槍ニキを魔女パイセンが笑顔で燃やしたり、豊穣な大地を想起させるそのたわわに目の色を変えた星風長女ちゃんが吶喊したりとハプニング満載でしたが、なんとか挨拶は終わったみたいです。良い感じにお茶の時間ということで、そのまま迎賓樹でお茶会が開かれることになりました。

 

 


 

 

「……いえ、いつか呼ばれる日が来るのは判っていたのですが……」

 

「なぁにあね様、そんなに落ち込むこと? あの子たちに"おばさま"って呼ばれたの。それとも"女王さま"って呼ばれるほうが良かった?」

 

「そんな他人行儀なのは嫌ですっ! でも……はぁ……」

 

 

 女王お手製の焼菓子(レンバス)を御茶請けに始まったティーパーティー。栗鼠のようにほっぺをパンパンに膨らませたダブル吸血鬼ちゃんが「子どもたちが真似するから止めなさい!」と女魔法使いちゃんに叱られ、只人(ヒューム)の男の子が珍しい侍女たちに泣き黒子長男くんと牧場長男くんが可愛がら(性癖を破壊さ)れているのを背景に、どんよりとした空気を纏った8000歳児がガチ凹みしています。親愛の意を込めてそう呼んだはずなのに何故か元気を失った女王の様子に???な三姉妹を、ママたちが困った顔で見ていますね。

 

 

「「おじさまー!」」

 

「"おじさま"……いいな……」

 

「へへ、いいだろ……?」

 

「ああ……いい……」

 

「お前たちは何を言っているんだ?」

 

 

 一方では太眉長女ちゃんと牧場長女ちゃんの只人(ヒューム)女子コンビに膝上に座られ、感極まり涙する従兄殿の肩を抱き、槍ニキと重戦士さんが木製のコップを打ち鳴らし3人で乾杯中。対面に座したゴブスレさんの兜の奥の表情は宇宙猫になっていることでしょう。パパ呼びでじゃれついてくる実子も良いけど、"おじさま"と元気に、或いははにかみながら呼ばれることに対する喜びはゴブスレさんには判らないみたいですね。盤外(こちら)でも後方おじさん顔して頷く万知神さん、太陽神さん、覚知神さんに対し、酒造神さん、正道神さん、奪掠神さんがドン引きしております。≪幻想≫さん的には……うーん、ギリギリアウトだそうです!

 

 

「えぇと、その……」

 

「なんだか悩んでいるように見えるわね……」

 

「まぁ、理由は明白ですけれども……」

 

「こ、この動き……熟練の業を感じる……ッ」

 

 

 うーん、一番カオスなのは眷属ママたちの周辺ですね。先程の道すがらダブル吸血鬼ちゃんをポンポン放り投げていた蔓たちが女魔法使いちゃんたち4人を取り囲み、先端を悩まし気にくねらせながら肌に触れるかどうかのギリギリを攻め続けています。アンデッドなのは間違いありませんが、4人とも太陽に愛されし吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)。はたして放り投げて良いものか審議中みたいです。

 

 やがて森の中で結論が出たのか、蔓が大きくうねり創り出したサインは……『〇』! ふぅ、妖精弓手ちゃんの家族と認識してくれましたね!! となると、ダブル吸血鬼ちゃんが放り投げられていたのは……ああ、地母神さんからの情報によりますと、新しい森の娘をなかなか連れてこなかったことに対する抗議の表れだったそうです。あと妖術師さんは影の触手を出して技を盗もうとするのは止めたほうが宜しいかと。侍女さんたちが凄い顔で見てますし。

 

 

 

 

 

 

「さて、今夜は宴を催すつもりだ。準備が整い次第改めて声をかけるので、一度この場は……ん?」

 

 

 おや? 木漏れ日が朱色に変わり始めた頃になり、従兄殿がお茶会を解散させようとしたタイミングで1人の森人(エルフ)が飛び込んで来ました。非礼を詫びつつ従兄殿へと近付き、何事かを耳打ちすると、従兄殿の顔がみるみるうちに険しいものへと変わっていきます。嗅ぎ慣れた厄介事の臭いに冒険者たちも表情を変え、従兄殿へと視線を向けています。やがて状況を整理した従兄殿が一度瞳を閉じ、再び開けた後、努めて明るい声で語り出したのは……。

 

 

「――フム、子どもたちも慣れぬ環境で疲れたことだろう。すまんが一足先に苗木たちを部屋へと案内して貰えるか?」

 

 

 ……子どもたちには聞かせられないことが起きているという、不器用なアピールでした。

 

 

「では、私たちが案内いたしましょう」

 

「さぁみんな、一緒に来てくださいね」

 

 

 一早くそれを察知し、子どもたちに声をかける若草の2人。ママとひいおばあちゃんに連れられて子どもたちが部屋から出た暫く後、長耳を澄ませて十分に彼女たちが離れたのを確認した従兄殿が冒険者たちに向き直りました。口を開く前に彼が視線を向けたのは、ゴブスレさん、ダブル吸血鬼ちゃん、そして……叢雲狩人さんです。その行為が何を表しているのか、賢明な視聴神さんたちならもうお判りでしょう。

 

 

 

 

 

 

「集落外縁部の複数個所に、小鬼(オルク)の群れが集結している。……我らだけでも十分に対処出来るが、奴らの狙いは何なのか、被害を減らすには如何様な対策をすべきか。貴公ら小鬼殺し(オルクボルグ)の意見を聞かせて欲しい」

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




 いまいち体調が戻らないので失踪します。

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 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその17.5-2


 視聴神のみなさま、明けましておめでとうございます。本年もダブル吸血鬼ちゃんたちの冒険にお付き合いいただければ幸いです。

 野郎だらけのクリスマス会(プレゼント交換もあるよ!)に参加したり、実家に帰省していたりしたので初投稿です。


 

 

 前回、小鬼の群れが集まっていることを聞いたところから再開です。

 

 青褪めた顔の森人(エルフ)の報告を受けた従兄殿によって迎賓樹から出た一行。樹上とは思えないほど広々とした空間に着いたところで彼がパチンと鳴らすと、するすると無数の蔦が集まってきました。また情け容赦の無いポイ捨てプレイが楽しめると勘違いしたダブル吸血鬼ちゃんがキラキラと瞳を輝かせていますが……今はちょっと遊んでいる場合じゃないんだよなぁ。

 

 

「「あたっ」」

 

 

 2人の秘匿されたおでこをペチンと叩いた蔦は互いに絡みつき徐々に立体的な造形へと変わり、やがて一行の前には見事な集落の模型が出来上がりました! ……お、別の種類の枝がニョキっと横から顔を出し、模型の外側でブルブル身震いをして実を落としていますね。集落を包囲するように蒔かれた実は毒々しい赤色、ひょっとしてゴブリンを表しているんでしょうか? その数を見て顔を顰めた従兄殿が冒険者たちに顔を向け、口を開きます。

 

 

「――言わずとも知っているだろうが、我らが暮らす森は精霊たちによって護られており、四季を通じて安定した環境となっている。そのため、冬が訪れると小鬼(オルク)共が森の外縁に集まり、その恵みを掠め取らんとするのだ」

 

 

 無論木々を荒らしたり一歩でも里に足を踏み込んだら処理するがな、と続ける従兄殿。ふむふむ、厳しい冬をなんとか生き延びるためにゴブリンが集まる理由は判りました。……にしては、少々数が多い気がするんですが。

 

 

「だが、例年はこれほどの数が集まることは無い。違うか?」

 

「……その通りだ、小鬼殺し(オルクボルグ)殿。常に見られるのはせいぜいが十数匹から多くとも数十匹。だが、ごく稀に今回のように夥しい数の小鬼(オルク)が押し寄せることがある」

 

 

 忌々し気に端正な顔を歪める従兄殿。大量のゴブリンが集まる理由、それは誇り高い森人(エルフ)には屈辱でしか無いのでしょう。兜の顎の部分に手を当て至高の海に沈んでいたゴブスレさんと、蔦に身体を絡めとられた体勢で空中から模型を俯瞰していたダブル吸血鬼ちゃんが、6つの瞳に赫怒の炎を宿らせながらその理由を呟きました。

 

 

「「――()()()と、()()()()()」」

 

「――雲霞の如き数で侵攻し、豊富な食料と丈夫な孕み袋(エルフの雌)を獲得する。弱い個体は間引かれ、生き残った強い個体は経験を積んだ状態で越冬。……春には強壮たる群れの出来上がりだ」

 

 

 ひっ……という恐れを孕んだ声は侍女さんのものでしょうか。ダブル吸血鬼ちゃんの短い言葉に込められた悍ましさに身を震わせ、続くゴブスレさんの言葉でアイデアロールに成功してしまった彼女たちの顔は青褪めています。その一方で、『小鬼殺し』たちと同じ、狂気にも似た熱に頬を紅潮させる一団も……。

 

 

「――嗚呼。やはり私は、冒険よりも狩りのほうが好きみたいだねぇ」

 

 

 猫科の猛獣を想起させるしなやかな肢体を自らの腕で抱きしめ、抑えきれない高揚感に身を震わせる叢雲狩人さん。

 

 

「それは違いますよ上姉様。――狩りではなく、()()で御座います」

 

 

 困ったように頬に手を添え、しかし宝石のような瞳を爛々と輝かせる若草知恵者ちゃん。そして……。

 

 

「まぁまぁ、あの()たちが怯えてしまってますよ? 綺麗な顔が台無しです……」

 

 

 ギルドの訓練所で叢雲狩人さんの狂顔を見て以来若干トラウマになっているっぽい圃人(レーア)コンビと、初めて見た暴走気味の彼女の殺気に怯えっぱなしの英雄雛娘ちゃんを指し示す剣の乙女ちゃん。にこやかな笑みを浮かべていますが……既にエロエロ大司教モードとなり、右手に太陽の直剣、左手に主に捧げし忠義の砲剣(レイテルパラッシュ)の二刀流。一番ガチな彼女を見てドン引きしている一行に向かって言い放つのは勿論……。

 

 

「ともあれ、ゴブリンは滅ぶべきと考える次第ですわ」

 

「「「お、おう……」」」

 

 

 方向性の違いこそあれ、上の森人(ハイエルフ)に勝るとも劣らない美貌の持ち主である剣の乙女ちゃん。吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)に変じた影響で人外の色気を獲得し、異性はおろか同性でさえ理性を失いその肢体にむしゃぶりつく衝動を抑えるのに苦心するほどですが……ゴブスレさん以外の男子3人は何故か引き攣った顔になってますねぇ。「うふふ……」と凄絶な笑みを浮かべていた3人ですが、妖精弓手ちゃん、女魔法使いちゃん、令嬢剣士さんの精神分析(物理)によってなんとか正気に戻ったみたいですね。

 

 


 

 

「――状況を整理する。ゴブリンの数は大凡3()0()0()0()。3つの群れに分かれ、それぞれが人喰鬼(オーガ)と思しき大型に率いられ里に向かい進行中。弓兵(アーチャー)は居ないが呪文使い(マジシャン)呪術師(シャーマン)及び大型種の存在を確認。斥候役と思しき乗り手(ライダー)が群れを先導している」

 

「あいつらのもくてきは、しょくりょう、はらみぶくろ、なぶるおもちゃのみっつ。うしろのふたつはさいしゅうてきにはしょくりょうだけど、もりのたべものがあるかぎりはもてあそばれちゃうとおもう」

 

「こっちのしょうりじょうけんは、だれひとりとしてエルフのみんなにぎせいをださず、いっぴきもにがさずにあいつらをみなごろしにすること。ぜったいに、はるまでいきのこるこたいをだしちゃダメ」

 

 

 決断的に言い放つ『小鬼殺し』の3人。一騎当千の戦士(レ〇ラス級)が護っているとはいえ、非戦闘員も数多く暮らす森人(エルフ)の里。外縁に近い場所で暮らしている者は既に避難を始めているようですが、1人でも捕まればゴブリンはあっという間にその数を増やしてしまいます。繁殖力の低い森人(エルフ)にとって、たとえ1人が100匹のゴブリンを斃しても、仲間の1人が殺されたり孕み袋にされてしまったら彼らの負けと言えるでしょう。

 

 そして、戦場で経験を積んだ一匹でも逃がしてしまっては、ソイツが渡りとなって知識を広めてしまう可能性が出てしまいます。ゴブリンを率い森人の里を繁殖場にしようと目論んだ指揮官ごと鏖殺しなければいけません。そのためには出来るだけ森を傷付けずに里の中心近くまで引きずり込み、逃げられないようにすることが重要。つまり、ゴブリンを誘引する餌が必要です。

 

 

「――それは、危険だ。いくら貴公らが熟練の冒険者とはいえ、森の中では我らほどの速さで動くことは出来まい。それに……」

 

 

 冒険者たちの提示した作戦に眉を顰める従兄殿。たしかに里への被害は最小限、森人(エルフ)たちの犠牲が出る心配もありませんが、一行へ掛かる負担を心配してくれているみたいです。ですが、そんな彼の言葉に妖精弓手ちゃんは首を横に振り、強い意志の籠った瞳を伴い言葉を返します。

 

 

「ううん、あに様。これは私たちがやらなきゃならないこと。里に小鬼(オルク)が押し寄せたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

「!? ……それは、どういうことなのかしら」

 

 

 妖精弓手ちゃんの言葉に驚愕の表情を浮かべる花冠の女王。王国がゴブリンを森人(エルフ)の里に放つなんてことはないでしょうが、妹の言葉に苦いものが含まれていることは察したみたいです。妖精弓手ちゃんが言葉を紡ごうとしたところで小さな手が伸びてきて彼女を制し、代わりにその手の持ち主……吸血鬼君主ちゃんが理由を明らかにしました。

 

 

「こんなにあいつらがあつまったのは、ぼくたちがへんきょうじゅうのごぶりんをころしまわったから。かずがへってあせったこんとんのぐんぜいが、のこったゴブリンをかきあつめてぜんぶとうにゅうしてきたんだとおもう」

 

「へんきょうではいまもすあなにかくれてるゴブリンをみんながころしてまわってるから、はるまでいきのこるやつはいないの。だから、あったかくてえさもほうふなこのもりをねらったんだとおもう。……ごめんなさい」

 

 

 ……はい、ゴブスレさんやダブル吸血鬼ちゃんたちによって始まった計画的なゴブリン殲滅作戦ですが、みんなが想像していた以上に混沌勢力にとっては致命的だったみたいです。初年度こそ潰し切れずに生き残りがいたものの、昨年秋から白兎猟兵ちゃんのパパ(USAGIさん)たちが加わったことで精度は飛躍的に向上。砂漠の国からゴブリンが違法放流されるまでの短い間ですが、西方辺境から完全にゴブリンを駆逐することに成功していたほどです。

 

 これに頭を抱えた混沌勢力の上層部。普段なら放置していれば際限なく増えるゴブリンが、いくら放流しても即座に殲滅されて兵力が回復しないんですから。勇者ちゃんに代表される英雄ユニットが一騎当千の活躍をする四方世界とはいえ、戦場でモノを言うのはやはり数。雑兵の枯渇に焦った混沌勢力が乾坤一擲の策として打ち出したのが森人(エルフ)の里への侵攻だったわけですね。

 

 

「だから、あに様たちは里のみんなの避難と援護をお願い! 大丈夫、私たちに任せ……」

 

 

 未だ納得しかねた様子の従兄殿に対し、薄い胸を張り眉を立てた笑みで相対する妖精弓手ちゃん。ですが、彼女が議論を押し切ろうとしたところで……。

 

 

 

 

 

 

「――ちょっと待つのです。彼の言う通り、私たち冒険者に許されているのはあくまでも助言だけ。直接戦闘に参加することは出来ないのです」

 

 

 沸き立つ冒険者たちの熱意を一気に冷ます賢者ちゃんの言葉によって、重苦しい静寂が訪れました……。

 

 

 

 

 

 

「オイオイ、そりゃどういうこった。なんで俺達が出張(でば)っちゃいけねぇんだよ?」

 

 

 努めて明るい表情で賢者ちゃんに訊ねる槍ニキ。ですが、その顔に貼り付いた笑みは肉食獣が牙を剥くのに似たソレです。並の冒険者なら失禁してしまうほどの圧を放つ彼ですが、対する賢者ちゃんは涼しい顔でその怒気を受け流しています。口元に付着していた焼菓子(レンバス)の欠片をペロリと舐め取りながら彼女が告げるのは、冒険者であるが故の制約です……。

 

 

「――いいですか? ここは森人(エルフ)の里、()()()()()()()()()。冒険者ギルドも無ければ、認識票すら確かな証明にはならない異国なのです。ましてや貴方は金等級、国家の危機に動くべき王国の重要な戦力である一方、他国でその力を行使するには()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そう、混沌勢力に対抗する為同盟を組んでいますが、王国と森人(エルフ)は対等な関係。妖精弓手ちゃんや森人義姉妹(エルフしまい)がダブル吸血鬼ちゃんのお嫁さんになったり、交易を通じて交流があったりもしますが、あくまでも別の国なのです。そこで国営組織である冒険者ギルドに所属している冒険者、しかも国家レベルの難事に投入される金等級が勝手に活動するのは余計な軋轢を生む原因になってしまうかもしれないのです。

 

 

「ぐっ……オイお前ら、お前らはこのまま何もせずに黙っているつもりなのかよ!」

 

 

 淡々と突き付けられた事実にグッと退きかけた槍ニキ。援軍はいないのかと周囲を見回しますが、辺境三英雄の残りの2人、そして女騎士さんと魔女パイセンも沈黙を保ったままです。その様子に堪え切れなくなった槍ニキが首元に光る金色の認識票に手を掛けかけたその時……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、その……ちょっといいかな?」

 

 

 

 もう1人の金等級の伴侶がおずおずと手を挙げました。

 

 

「――何でしょうか、【辺境最優】の奥方殿? 冒険者でない貴女なら参加は可能でしょうが、奴らの孕み袋になるのがオチなのです」

 

「あはは……うん、そうだね。私じゃたぶん何の役にも立たないと思う」

 

 

 普段の大食いキャラからは想像も出来ないほどの冷たい視線に射抜かれながらもフニャっとした笑みのままポリポリと頬を掻く牛飼若奥さん。みんなの視線が集まるのに緊張を隠せない様子ですが、コホンと咳ばらいをして何かを確認するように言葉を紡ぎ始めました。

 

 

「えっと、冒険者が他国で活動するには、その国と王国双方の許可が必要なんだよね? だったら先ずは……」

 

 

 彼女が顔を向けたのは、事態を見守っていた森人(エルフ)の族長夫婦。心配そうに妹を見ていた女王にペコリと頭を下げ、問題解決に向けた一言を発しました。

 

 

「お願いします! 私の夫と、その仲間のみんながこの国で冒険者として活動する許可をください!!」

 

「!! ――ああ、認めよう。迫る小鬼禍の解決のため、貴公らの力を貸して欲しい」

 

 

 一瞬の驚きの後、力強く頷いた従兄殿にもう一度頭を下げ、再び賢者ちゃんへと向き直る牛飼若奥さん。対する賢者ちゃんは先程までとは違い、生徒の試験を採点する先生のような表情になっていますね。彼女の期待に応えるように、牛飼若奥さんがもうひとつの許可を引き出す魔法の言葉を口にしました……!

 

 

「王国と同盟関係にある森人(エルフ)の方々に災禍が迫っています。両国の友好関係を維持するためには、金等級冒険者である【辺境三英雄】と、秩序の守護者たらんとする【辺境最悪】の力が必要です! 秩序の勢力の中に暮らす1人として、また王国騎士位を持つ者として、小鬼禍を解決するために即座に冒険者を投入すべきだと進言します!!」

 

 

 

「……ところどころ言葉が怪しいですが、まぁ良いのです。『――同盟関係にある森人(エルフ)に迫る危機を解決するには冒険者の投入が有効だと、()()()()()()()()()白金等級である私が判断しました。以後発生する全ての責任は代理人たる私が負うものとします。』……冒険者よ、能う全ての力を使い、親愛なる隣人に迫る脅威を排除するのです」

 

 

「「「「Yes, Your Majesty(御意)!!」」」」

 

 

 朗々と告げる賢者ちゃんに対し、最敬礼を持って返す冒険者たち。まだ等級の低い圃人(レーア)コンビと英雄雛娘ちゃんはちょっと遅れて真似しています……おや、槍ニキだけは事の成り行きについて行けず、呆然とした表情で三羽烏の2人を眺めていますね。

 

 

「……は???」

 

「――友好国に国難が迫り、王との連絡が困難な際。白金等級の冒険者がその代理として冒険者の活動を承認出来る」

 

「金等級に昇格したとき、俺ら全員口酸っぱく説明されただろうが……」

 

「忘れて、たの、ね? まったく、もう……!」

 

「しかし良く覚えていたなぁ! 私も忘れていたぞ!!」

 

「えへへ……経営や法律の勉強をしているときに、『覚えておくと良いのです』って言われてたんだ!」

 

 

 うーんこの槍ニキフルボッコ。覚えていた面子に合わせて沈黙を保っていた女騎士さんですが、忘れていた素振りも見せないとはある意味彼女らしいですね。

 

 ……というわけで、他国において冒険者が依頼抜きで活動する場合、金髪の陛下や宰相、枢機卿といった面子と連絡が取れない場合は代わりに白金等級の冒険者が許可を出してくれるそうです。もちろん王の名を使う責任は重く、その活動において損害が発生した場合、全てを白金等級の冒険者が負わなければならないという責任も発生します。そのため、よっぽど能力的にも人間的にも信頼出来る相手じゃないと許可が出ることは無いんだとか。そういう意味では【辺境三英雄】と【辺境最悪】は信頼されていると言って良いでしょう! 色々とズブズブ(意味深)な関係ですしねぇ。

 

 

「それじゃみんな、がんばっていこー!」

 

「つかまっているひとがいたら、かならずたすけてあげて!!」

 

「応、チビ助たちも気を付けろよ?」

 

「うごご……」

 

 

 石化したままの槍ニキを重戦士さんが担ぎ上げ、一斉に計画に沿って移動を始める冒険者たち。勝利条件は困難ですが、ダブル吸血鬼ちゃんたちならきっと達成してくれるでしょう! 

 

 みんなそれぞれ所定の場所に散っていきましたが……先ずは上空へ飛翔していった2人を見てみましょうか。無貌の神(N子)さん、映像をお願いしまーす!

 

 


 

 

「うわぁ、うじゃうじゃいる……」

 

「本当、全てを喰い荒らす飛蝗のよう……」

 

 冬晴れの空に浮かびながら、木々の切れ目に見えるゴブリンの群れを見て顔を顰める吸血鬼君主ちゃん。ちょっぴりよわよわな太陽神さんの光もあってご機嫌は宜しくないようです。そんな吸血鬼君主ちゃんをあやすように頬に手を伸ばすのは、彼女に抱かれた若草祖母さん。閉じたままの瞳と薄い微笑みのまま森の中を蠢く小鬼(オルク)に向けるのは、複雑に絡み合った重々しい感情の塊です。

 

 

「……ねぇ、おばあちゃん。いま、おこってるよね?」

 

 

 頬に触れる指先から伝わる感情を察知し、そっと呟く吸血鬼君主ちゃん。普段と変わらぬ表情に見える若草祖母さんですが、吸血鬼君主ちゃんには丸わかりなのでしょうね。

 

 

「はい、怒ってますよ。可愛い孫を嬲り、心身に消えぬ傷を刻んだ悪鬼共。それを率いる混沌の勢力。そして……そんな孫を助けてあげられなかったかつての自分自身に対して」

 

 

 彼女を支えるために胸元で交差するように組まれた腕から伝わるのは、その心情を表すように激しく鼓動する心臓の音。内に籠る熱を吸い取るように、吸血鬼君主ちゃんが若草祖母さんの細く白い首筋に顔を寄せ、舌を這わせていきます。喉元から下あごを経由し、唇に到達した桃色の蛇をもう一匹が迎え、温かくぬめりを帯びた住処へと導きます……。艶めかしく淫靡に絡み合う二匹を通じて、吸血鬼君主ちゃんから若草祖母さんへと膨大な魔力が流れ込んでいるのが映像越しにもハッキリと感じられますね。

 

 やがて二匹は名残惜し気に別れ、一筋の銀糸が2人の口元を繋ぐだけに。愛おしいものを口にするようにソレを舐め取った若草祖母さんが、ちょっとだけ申し訳無さそうに囁きました。

 

 

「ん……ぷぁ。ごめんなさいね、ほんとうはもっと良い雰囲気のときにするつもりでしたのに……」

 

「ううん、とってもうれしい! おばあちゃんとつながって、そのきもちをわけてもらえて!! ……ちゅ……んちゅっ」

 

 

 先ほどまでの情熱的なものとは違い、啄むような口付けを繰り返す吸血鬼君主ちゃん。お遊びのようなソレに付き合っていた若草祖母さんですが、幾度目かの交わりの後、そっと指で吸血鬼君主ちゃんの唇を抑えました。物足りないのかむ~とした顔の孫婿に苦笑し、そっと耳元に口を近付け囁くのは……。

 

 

 

 

 

 

「今はこれでおしまい。――今宵、続きを致しましょう……()()()

 

「!? いいの?」

 

「はい。……こんなおばあちゃんに火を点けたこと、後悔させてあげますね♪」

 

 

 うわぁ……剣の乙女ちゃんや女魔法使いちゃんみたいな視覚の暴力的な色気とも、妖精弓手ちゃんの放つ宝石のような色気とも異なる、まるで足を踏み入れたら抜け出せなくなる底なし沼の如き背徳的な色気ですねぇ……! 若草知恵者ちゃんといい、若草の氏族はみんなサキュバスか何かなんでしょうか? ……え? あの2人だけ? なにそれこわい。

 

 

 

 ……おっと、あまりの色気に視聴神さんたちが前屈みになっている間に若草祖母さんが両手を空に掲げてますね! 周囲に集まってきた精霊たちも彼女の一挙手一投足に興味津々らしく、クルクルと2人の周りを飛び回っています。そして……なんと! 若草祖母さんの、瞳が! 瞳が!!

 

 

「ふわぁ……きれい……!」

 

「ふふ、ありがとうございます。……これは、≪読心(マインド・リーディング)≫の呪文のように対象の感情を見通す妖精眼(グラムサイト)。外交の場で使うのは礼に反するため、普段から閉じておりますが……ああ、なんて悍ましい色なのでしょう。食欲と性欲、そして嫉妬に満ちた斑だらけの……!」

 

 

 虹色に輝く光彩の瞳で眼下を見下ろし、自らの肩を抱くように震える若草祖母さん。そんな彼女を温めるように、吸血鬼君主ちゃんが翼でその華奢な肢体を包み込みました。

 

 

「だいじょうぶ。あいつらのあくいは、ぼくがぜんぶはねかえしてあげる! だから、ぜんりょくでやっちゃって!!」

 

「……ええ、そうですね。悪鬼共を逃がすわけには参りません。――精霊たちよ

 

 

 ――彼女が呼び掛けた瞬間。ドクン、と鼓動のようなものが森全体に響き渡りました。森に宿り、生命の営みを見守ってきた精霊たちが、血と汚濁と欲望を撒き散らす侵入者を明確に『』であると認識したのです。2人が見守るなか、森の表情が徐々に変化していきます……!

 

 

 寒い冬を乗り越えるために必死に生きる動物たちを優しく包み込み、シェルターのように形を変える大樹の虚。春を待つ種子を隠すように地面を覆い尽くす苔の仲間。そして……森を穢す害虫を逃さぬよう、根が! 蔓が!! 枝葉が!!! 地下茎が!!!! まるで監獄(ジェイルハウス)であるかのように格子状の植物で覆われ、上から籠を被せたように森全体をすっぽりと取り囲んでいます!

 

 

「GOBGOBGOB!?」

 

 

 孕み袋を求めて先を急ぐ連中を尻目に、美味しいところだけ狙おうと後方で油を売っていたゴブリンの一部が異変に気付き、慌てて徐々に狭まる格子を抜けて森から逃げ出そうとしますが……。

 

 

「GOB!?」

 

 

 勢いよく伸びてきた蔓がその首に、腕に、足に巻き付き、微塵も容赦無く締め上げていきます。窒息などという生易しいものではなく、首を含む複数個所の骨を折られゴブリンは地面へと落下していきました。同様の光景が外縁部の至る所で発生し、それを見た後方有能面ゴブリンたちが悲鳴を上げて森の奥深くへと駆けて行く光景があちこちに見えますね……。一個の巨大な生物と化したような森の脅威にゴブリンたちが蹂躙される姿を見て、見開いていた瞳を閉じた若草祖母さんがほうっと熱の籠った吐息を寒空に放っています。

 

 

「……ふぅ。これで外へ逃す心配は無くなりましたね」

 

「おつかれさま。……もうちょっとほきゅう、する?」

 

「あら、いけないひと。でも……今は、もう少しだけ温かさを分けてください、あなた……」

 

 

 消耗を回復するべく?再び唇を重ねる2人。2人を見守っている太陽神さんの日差しがちょっぴり暑くなるほどの光景に、盤外(こちら)の≪幻想≫さんも指の間からガン見状態です!

 

 さぁ、逃げ場を失い前に進むしかなくなったゴブリンたち。果たして彼ら混沌の軍勢を待ち受けているのは、どれほど悪辣な罠(小鬼殺し監修)なのでしょうか!!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 





 プレゼント交換で頂いたディランザ(ボブ専用機)のプラモを組むので失踪します。

 投稿期間が空いてしまいましたが、なんとか書くことが出来ました。そしておそらくカテゴリー最大話数に到達いたしました。みなさまに読んでいただき、モチベーションが維持出来たのが一番の理由ですね。

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 お読みいただきありがとうございました。今年もよろしくお願いいたします。。


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セッションその17.5-3


 部屋の中でも吐く息が白いので初投稿です。




 

 前回、悪鬼絶対逃がさないおばあちゃんが爆誕したところから再開です。

 

 ゴブリン殲滅作戦の第一段階として、混沌の軍勢を閉じ込める檻を完成させた冒険者たち。一部の戦意の低い個体や狡賢いヤツを排除することに成功しましたが、殆どのゴブリンは自分たちが脱出不可能な檻の中に居ることになど気付いておらず、餌と孕み袋を求めて森人(エルフ)に向かって絶賛侵攻中。そこで、閉じ込めに続くゴブスレさん考案の次なる一手が繰り出されようとしています……。

 

 


 

 

「ゴブリンは愚かだが馬鹿ではない。有能で冷徹な者に率いられた群れは、ゴブリンだけの集団とは比較にならない脅威度となる」

 

 

 臨時の指揮所となった迎賓樹前の広場。リアルタイムで推移する森の状況を再現している模型を睨むゴブスレさんが話すのを、花冠の女王やお付きの侍女さんたちが長耳を震わせながら聞いています。精霊たちとの対話を担当している若草知恵者ちゃんが指揮者(コンダクター)のように手を振るたび、精霊たちが持ち場で待機している冒険者の元へと指示を伝えに飛び去って行くのが見えますね。上空より降りて来た精霊から包囲が完成したことを聞いた若草知恵者ちゃんの視線を受け、ゴブスレさんが決断的に言い放ったのは……。

 

「――先ずは指揮官を()る」

 

 

 おっと、どうやら次は2か所同時に仕掛けるみたいですね! 先に妖精弓手ちゃんと従兄殿の上の森人(ハイエルフ)コンビが動くみたいなので、そちらを見てみましょうか!!

 

 


 

 

「……チッ、いくら『あのお方』の命とはいえ、何故俺がゴブリンどもの世話役など! 将を名乗るならば、己1人で面倒を見れば良いものを……」

 

 

 暴力と性欲の昂りにギャーギャーと騒ぎ立てるゴブリンたちをねめつけながら、大きな舌打ちをする巨躯の人喰鬼(オーガ)。苛立ちを向ける先は憔悴しきった顔で自分ともう1人の人喰鬼(オーガ)にゴブリンの三分の一ずつを割り振ってきた将軍(ジェネラル)に対してです。本来は同格である自分たちを見下しておきながら、いざゴブリンが手に負えなくなれば泣き付いてくるなど……と随分とご立腹な様子。

 

 雑兵に過ぎぬとはいえ、混沌の軍勢の大多数を占めるのはゴブリンとその派生種。その枯渇は秩序の勢力との争いにおいて致命的なものになりかねません。そのため、人喰鬼(オーガ)曰く『あのお方』とやらの命令でゴブリンを増やすべく彼らが森人(エルフ)の里攻めに駆り出されたのでしょう。

 

 強く命じれば媚びた顔でペコペコ(へりくだ)り、内心では己の欲望を叶えることしか考えていないゴブリンたち。自分の力を過信している田舎者(脳無し)英雄(勘違い)が露骨に反抗的な態度を見せてくるのも彼の神経を逆撫でする要因になっているのでしょう。見せしめに何人か殴り殺してみたものの、死んだ連中をせせら笑うだけで反省の態度なぞ見せないのがゴブリンらしいといえるのかもしれませんが。

 

 

「「「「GOBGOBGOB!!」」」」

 

 

 耳障りな声にうんざりしながら人喰鬼(オーガ)が見れば、そこには誰かが隠し持っていたひと握りの餌を巡って殺し合うゴブリンたちの醜い姿が。堪忍袋の緒が切れ、「いい加減にしろこの馬鹿共!」と怒鳴り声を上げようとしたその瞬間……頭上を覆う木々の合間から飛来した1本の矢が、大きく口を開き声を張り上げようとしていた彼の上半身を爆散させました!

 

 

 

「うーん、相変わらずあに様の一撃は派手ねぇ!」

 

「フン! これでも森を傷付けぬよう手加減している。本気で射ればヤツの下半身も残らん」

 

「そりゃそっか……っと、次に狙うのは呪文を使うやつだったわね!」

 

 

 力を失い地面に崩れ落ちた人喰鬼(オーガ)の下半身を一瞥し、再び矢をつがえる従兄殿。木芽鏃の矢を次々と放ち呪文使い(マジシャン)呪術師(シャーマン)を射抜く妖精弓手ちゃんを一瞥し、次に狙うのは巨大棍棒(グレートクラブ)を振り回し襲撃者を威嚇している小鬼英雄(チャンピオン)。引き絞られた弓から放たれた矢はまるで一条の光線(biim)、胴体に大穴を穿たれ背骨を失った小鬼英雄(チャンピオン)は上体を支えきれず、ふたつに折り畳まれたような姿勢で地に伏しましたね。混乱する小鬼(オルク)の群れを睥睨していた妖精弓手ちゃんにふよふよと精霊が近寄り、残り2つの集団の様子を伝えています。

 

 

「――ん、ありがとうね! ……オルクボルグの指示通り、一番偉そうな人喰鬼(オーガ)()()()。もう1匹も仕留め終わって次の段階に移行するって」

 

「そうか。ならば奴らを追い立てる準備を進めておこう」

 

 

 そう言って頷き合い、先程からの続きと言わんばかりに矢を放つ2人。優先して狙うのは膂力に長けた個体や呪文能力持ちなど『()()()()()()()()()()()()()()()()』を持ったゴブリンばかり。ワンチャンすら残させないゴブスレさんのエロい(えげつない、ろくでもない、いやらしい)作戦に盤外(こちら)の視聴神さんたちも……みんな「知ってた」って顔してますね。

 

 オホン! それはともかく、もう1匹を仕留めた際の映像を無貌の神(N子)さんが押さえてくれていましたので、そちらも見てみましょうか! こちらは……令嬢剣士さんと英雄雛娘ちゃんの2人みたいですね。いったいどんな方法で……。

 

 

 な ん で 英 雄 雛 娘 ち ゃ ん が タ イ マ ン 張 っ て い る ん で す か ?

 

 


 

 

「――本気か?」

 

「は、はい。その、マスターや皆さんについてくには、もっともっと強くならないといけないんです。だから……!」

 

 

 強い意志を秘めた言葉に俯いて黙考するゴブスレさん。指揮官は令嬢剣士さんの魔剣を用い大型個体ごと一掃する予定で、英雄雛娘ちゃんにはその後を任せるつもりだったところに舞い込んで来た無茶振りにどうしたものかと考えている様子。作戦の成功と彼女の成長を天秤に掛け、出した結論は……。

 

 

「決して無理はするな。危うい時には介入する。……頼めるか?」

 

「ええ、お任せあれ。万一の時には彼女を救出しつつ強引に包囲をこじ開けて突破、所定の位置まで群れを誘引いたしますわ!」

 

 

 魔剣を掲げながらの言葉に頷きを返し、英雄雛娘ちゃんの頭に籠手(ガントレット)に包まれた手を置くゴブスレさん。生命に危機が及びそうなとき、あるいはゴブリンが雪崩れ込んで来た際には令嬢剣士さんが手を出すことを条件に彼女のお願いを認めてくれました! 隣で心配そうに見守っていた牛飼若奥さんが、その豊満なたわわに彼女を抱きしめながら頑張ってね!と応援してくれるなか、たわわに埋まって真っ赤な顔の英雄雛娘ちゃんが持つ、その白磁の認識票から見たら無謀でしかない望みとは……。

 

 


 

 

「――ドーモ、オーガ=サン。冒険者です」

 

「ドーモ、冒険者=サン。……礼儀を弁えているようだな、只人(ヒューム)の小娘。だが、何用だ? 見たところどちらも剣士のようだが……」

 

 

 文字通り空から降って湧いた2人の姿に沸き立つゴブリンたちを制し、眼前に現れた理由を問いただす人喰鬼(オーガ)。令嬢剣士さんの背に見える翼は呪物の一種であると判断したのか、余裕のある表情を崩しませんね。退屈な任務に暇潰しの材料が出来たと思っているのかもしれません。英雄雛娘ちゃんが大小二刀を抜き放ちつつ高らかに言い放った言葉は、そんな彼をさらに喜ばせるものです……。

 

 

「ゴブリンを率い、森人(エルフ)の里を襲わんとする貴方に、一対一の真剣勝負を申し入れます!」

 

「……俺の前で簡単に『真剣』という言葉を使うなよ、戦いと遊びの区別もつかぬ小娘。それに貴様のような弱者と剣を交える価値など無い、精々がゴブリン共の玩具(オモチャ)に過ぎぬわ!」

 

 

 頬を厭らしく歪めつつゴブリンに合図を出そうと手を挙げる人喰鬼(オーガ)。しかし、英雄雛娘ちゃんが二刀を赤熱化させ、腕を交差させる独特の構えを見た瞬間、その目つきが変わりました。

 

 

「――成程、ただの小娘というわけでは無さそうだな。だが相手が悪かったな! その藁のように細い四肢を砕き、胎が裂けるまで犯し、全身余すところ無く喰らってやろう!! ……ゴブリン共、邪魔をしたら殺す! 貴様等はそちらの剣士と遊んでおれ!!」

 

「「「「GOBGOBGOB!!」」」」

 

 「さっすが~、オーガ様は話がわかるッ!」と言わんばかりに歓声を上げ、令嬢剣士さんへと群がるゴブリンたち。眼前の雌を犯し、孕み袋にすることしか考えていないその表情は醜悪の極みであり、そんなゴブリンが雲霞の如く押し寄せてくる光景は女性からすれば悪夢そのもの。……ですが、既に一般女性の範疇から逸脱している令嬢剣士さんにとっては日常にも等しい眺めです。

 

 

「――舐められたものですわね。ですが、あの子の勝負の間くらいはお付き合いして差し上げましょう!」

 

「「「「「GOB!?」」」」」

 

 

 半森人夫人さんから託された軽銀の二刀が煌めくたび、鮮やかに両断される複数のゴブリン。誤射など考慮されずに撃ち込まれる矢玉や投石を背の翼で打ち払いつつ、呪文を唱えようとしてる個体に向けて疾走。人外の速さに驚愕の表情を浮かべたまま、ぽーんと宙を舞う呪文使い(マジシャン)の首。

 

 

「GOGOGOB!!」

 

 

 仲間が蹂躙されている間に詠唱を終えた別の呪文使い(マジシャン)が杖先から飛ばしたのは≪火矢(ファイアボルト)≫。間抜け共が死んでいる隙に呪文を撃ち込む頭脳プレイ。今までも何度も成功させてきた必勝法に会心の笑みを浮かべていたゴブリンですが……。

 

 

「お生憎ですが、効きませんわ……よっ!」

 

「GOB!?」

 

 

 吸血鬼(ヴァンパイア)の持つ呪文抵抗の前に自慢の術が無効化され呆然としている顔に、令嬢剣士さんの投擲したゴブリンの上半身が衝突。人外の膂力で投げつけられたソレは見事に彼と死体両方の頭を熟した果実を落としたように弾けさせました。足の遅い大型個体が漸く彼女に追い付き、雄叫びと共に振り下ろして来た得物を交差させた双剣で受け止め、逆に押し返す姿にゴブリンたちは恐怖を隠せていませんね……。

 

 

「グァッ!? この、ちょこまかと……!」

 

「身体が大きいから強いわけじゃない、声が大きいから強いわけじゃない、そんなのは、強さとはぜんぜん関係ない……!」

 

 

 さて、華麗な蹂躙劇を見せている令嬢剣士さんですが、本命の英雄雛娘ちゃんのほうは……おお、3倍以上も差のある巨体相手に優勢に立ち回ってますね! 斬撃と同時に傷口を焼くことで再生能力を阻害しつつ、関節部や太い血管の走る部位を狙う長期戦の構え。あ、今やった大振りの攻撃を誘っての回避行動……あれはダブル吸血鬼ちゃんが良くやっている立ち回り方ですね! 圧倒的な体格差を逆に利用して相手の攻撃を振り下ろしか薙ぎ払いに限定、焦れた相手が繰り出す次の攻撃は……。

 

 

「懐に飛び込まれるのを嫌った前蹴りか、掴み掛かりっ!」

 

「ガァァ!?」

 

 

 丸太のような足から繰り出された前蹴り(ヤクザキック)をサイドステップで躱し、すり抜けざまに親指とその周辺をゴッソリと斬り飛ばす英雄雛娘ちゃん。踏み込みや踏ん張りに重要な部位を喪失したことで目に見えて人喰鬼(オーガ)の動きが悪くなります。自分の膝くらいの身長しかない英雄雛娘ちゃんに一方的に攻め立てられ、再生能力も阻害された人喰鬼(オーガ)。忍び寄る『死』の影に恐れた彼が無理やりにでも彼女を引き剥がそうと自爆覚悟の呪文詠唱を始めました!

 

 

「ええい邪魔くさい! ≪カリブンクルス(火石)≫……≪クレスクント(成長)≫……なっ!?」

 

 

 胸元で印を組み、広げた両手の間に火球を生み出した人喰鬼(オーガ)が驚愕の表情で見た光景。それは、火球が最も大きくなったところで、英雄雛娘ちゃんが投擲した飛礫が火の玉と触れる瞬間です。真言の最期の一句を言い終わる前に、彼の両手の中で火球がその牙を術者に向けました……!

 

 

Kaboom(ドカーン)!!

 

 

「あ……が……」

 

 

 両腕の肘から先と、顔を含む上半身前面の肉をゴッソリと失い仰向けに倒れる巨体。常とは比較にならないほど遅い再生によって辛うじて復活したその目に映るのは、長剣を両手で掲げ、今まさに首を断たんとする小さな英雄の姿です。

 

 

「み、見事だ……小さきものよ……俺の首を獲ったこと、誇りと思え……!」

 

 

 憎しみと怒り、そして幾許かの称賛を孕んだ彼の言葉に無言で頷きを返し、剣を振り下ろす英雄雛娘ちゃん。恐怖と暴力によって辛うじて統率を維持していた彼が斃れたことでゴブリンたちも戦意を失い散り散りに……。

 

 

「「「「GOBGOBGOB!!」」」」

 

 

 なるわけがないんだよなぁ……。威張り散らしていたデカブツが死んだことで押さえつけられていたゴブリンたちの欲望は全開放、焼け焦げた元上司に矢玉を撃ち込んだり足蹴にしたりと今までの鬱憤を晴らすように死体を辱めています。やがて気が済んだのか、今度は獣欲に満ちた視線を2人に向け始めました。

 

 

「色々思うところはあるでしょうが、今は作戦の遂行が第一です。良いですわね?」

 

「……はい、わたしの我儘に付き合ってくれてありがとうございます」

 

「では、しっかり掴まっていてくださいね!」

 

 

 最後に人喰鬼(オーガ)の死体を一瞥し、ゴブリンを蹴散らしながら令嬢剣士さんの胸元に飛び込む英雄雛娘ちゃん。彼女をしっかりと抱きとめた令嬢剣士さんが翼で周囲を薙ぎ払いつつ空へと舞い上がります。獲物を逃すまいと追いかけてくるゴブリンたちが見失わない程度の速度で飛行し、統率を失った連中をそれとなく誘導していきます。血走った目で2人を見上げるゴブリンたちは気付いているのでしょうか? 周囲の地形が目に見える速度で変化し、自分たちを殺し間へと誘っていることに……。

 

 


 

 

「限定された閉鎖空間……洞窟や廃墟の中であれば俺1人で百匹を相手取るのも容易いが、開けた場所ではそうもいかん。戦場における『数』の優位さを覆すことが出来るほど俺は優秀ではないからな」

 

 

 

「でも、一人じゃダメな時はみんなが助けてくれる、でしょ? あの時だって、そうだったよね!」

 

「……ああ、そうだな」

 

 

 指揮官や重要目標を表す大きな実が取り除かれる盤面を眺めつつ、淡々と事実だけを述べるゴブスレさん。実際ダブル吸血鬼ちゃんや女神官ちゃんたちと出会うまではそうやって1人でゴブリンを殺して回っていましたし、自分だけでは対処出来ないからこそ牧場攻防戦ではみんなに助力を依頼した彼の言葉は説得力に満ちていますね。

 

 牧場に迫るゴブリンの兆候を見つけた時の絶望感を思い出し、かすかに俯くゴブスレさんの腕を包み込む暖かな感触。隣に寄り添う牛飼若奥さんが彼の腕を取り、ギュッと抱きしめてあげています。鎧越しに感じるぬくもりに顔を上げたゴブスレさんが、先程の続きを話し始めました。

 

 

「だが、そんな場所であるならば少人数でゴブリンの群れを潰すことは容易い。奴らに主導権を与えず、こちらが待ち構えているなら猶更だ。だから、次は奴らを分断し個別に対処する。……やってくれ」

 

「はい、オルクボルグ様!」

 

 

 ゴブスレさんの言葉を受け、花咲くような笑みを浮かべて模型へと手を伸ばす若草知恵者ちゃん。彼女の指先の動きに沿って土地が隆起し、木々がその幹をしならせ、森の中に幾筋もの道を生み出していきます。その分かれ道には群れを誘引するための生餌を表す青い実が置かれ、ゴブリンたちを待ち構えていますね。……どうやら先頭の群れが接触する模様。早速映像を観てみましょうか!

 

 


 

 

「――っ!」

 

「「「「GOBGOBGOB!!」」」」

 

 

 ()()()()()()視界に入っていた背の高い人影を追い立てるゴブリンたち。目深に分厚い外套(マント)を被っているためその姿は確認出来ないものの、布地から漂う()()()()()()()()は先程馬鹿な奴らを一方的に射殺していた上の森人(ハイエルフ)のソレ。彼らの理性を奪い去るにのに十分過ぎる代物です。何故樹上を華麗に跳躍出来る森人(エルフ)が地面を走っているのか、もう1人は何処へ行ったのか、そんな疑問を頭から失わせるほどに強烈な雌の匂いに誘われ、口の端から涎を垂れ流すゴブリンの群れは欲望のままに人影を追い立てます。

 

 森中では不自然な傾斜の獣道を全速力で下り、狭まった道の先は地層が丸見えの崖に覆われた行き止まり。その中心に追いかけていた人影がいるのを見て醜悪に口元を歪ませるゴブリンたち。ですが、追い詰めた!と笑う彼らの表情はすぐに変わりました。

 

 

 

 

 

 

「いや~、姫さんの匂いは効果覿面じゃねぇの! こんなに簡単に釣れるとはな!!」

 

「走り方、いつもの、まま、だったのに、ね。……まぁ、そこまで、みてない、かし、ら?」

 

「うぅ……なんかフクザツな気持ち……」

 

 

 しっかし暑いなコレ!と言いながら勢いよく()()()を脱ぎ去った下から出てきたのは長身にイケメンの偉丈夫。上空から杖に跨り降りて来た魔女パイセンに防寒着を手渡し、入れ替えに愛用の得物を受け取った槍ニキです! 雌が増えたと喜んでいたのも束の間、片方が男であったことに「騙された!」とゴブリンたちがキィキィ喚いてますね。見事に引っ掛かったゴブリンたちをニヤニヤと眺めていた槍ニキが穂先でちょいちょいと指し示す先には崖上から顔を覗かせる上の森人(ハイエルフ)コンビ、そして退路を塞ぐように立ちはだかる重戦士さんと女騎士さんの姿が! 崖上から手を振り次の群れを釣りに行った2人を見送り、剣を抜き放ちながらゴブリンへと進んでいきます。

 

 

「おーおー、見事に普通のヤツばっかだな。1匹くらいデカブツが残ると思ってたンだが」

 

「それだけ間引きが上手くいったということだろう。そら、お代わりが来る前に片付けるぞ!」

 

「あいよ。……大物が居ないんなら、あいつ等にゃ剣と盾の練習台になってもらうか」

 

 

 愛用のだんびらを地面に突き立て、黒騎士の鎧(バッシュ・ザ・ブラックナイト)を身に纏う重戦士さん。どうやらいつもの大剣スタイルでも超攻撃的な二刀流でもなく、騎士剣と盾の正統派スタイルで相手にするみたいですね。同様に騎士剣と盾を構える女騎士さんと並び立つ姿に後ずさるゴブリンたちですが、背後にも肉食獣のような笑みを浮かべた槍ニキと指の間に竜牙の矢を挟んで微笑む魔女パイセンがいるのを忘れてはいけません。今いるゴブリンの数はだいたい百をちょっと超えたくらいでしょうか。お代わりも含めて4人でどれだけキルスコアを稼ぐのかなぁ……。この後は一方的な絵面が続きそうですので、他の殺し間までの道のりとその参加者を見てみましょうか!

 

 

 

「さぁさぁ、こっちですよぉ?」

 

「「「「GOBGOBGOB!!」」」」

 

 

 緑生い茂る森の中で一際目立つ白い長耳を左右に揺らし、ぴょーんぴょーんと飛び跳ねながらゴブリンたちを挑発する白兎猟兵ちゃん。焼菓子(レンバス)をおなかいっぱいご馳走になったことでスタミナ切れの心配も無く、ゴブリンたちを先導するように足場の悪い獣道を駆けています。時折振り向きざまに石弓を放ち、追いかけることに頭がいっぱいなゴブリンを斃しつつヘイトを稼いでますね。

 

 やがて彼女が飛び込んでいったのは地面にぽっかりと口を開けた洞窟の中。あからさまに怪しい場所に流石のゴブリンたちも入り口で一旦動きを止めましたが……。

 

 

「GOB……?」

 

「「「「――GOBGOBGOB!!」」」」

 

 

 洞窟内から漂ってきた極上の雌の匂いに理性を無くし、我先にと洞窟へ飛び込んでいくゴブリンたち。3匹がやっと並べそうなほど細い洞窟内、足元が不自然な石造りに変化していることなど気にも留めずハナを奪った先頭集団が真っすぐな通路に差し掛かったその瞬間……。

 

 

「「「GOB!?」」」

 

 

 ≪霊壁(スピリットウォール)≫で作られていた偽の床面が消失。急傾斜が齎す高さによって落下するその先には、待ち構えるように鋭い先端を向けた根の数々が。出遅れた後続集団が急坂を下った先で見たものは……。

 

 

「「「GO、GOB……」」」

 

 

 忌々しくも先を奪っていった連中が串刺しになり、即死しきれなかった者たちが悲痛な呻き声を上げる光景。しかしそれだけでは終わりません。太い根が蠕動を始めると、死体、まだ死んでいないものの区別なくその身体が干からびていくのが見て取れます。体中の血液を吸い尽くされミイラのようになった死体の森の向こうでは、これ見よがしに≪ライト(光明)≫の呪文によって光る冒険者認識票を首から下げた白兎猟兵ちゃんが手招きをしていますね……。

 

 

「「「「GOBGOBGOB!!」」」」

 

 

 殺してやる、あるいは犯し尽くしてやる、だいたいそんな意味であろう声を上げながら再び追跡を始める後続集団。先頭集団の無残な死に方を見て多少は冷静になったのか、周囲の様子を窺いながら洞窟の奥深くへと進んでいきます。長いこと走らされ、肉体的精神的にも披露した彼らの良く着いた先。そこには、切り立った石壁に囲まれた20m四方ほどの空間が広がっていました。

 

 部屋の中心には乱雑に置かれた何処か見覚えのある衣服の数々。ゴブリンたちを狂わせた芳香はそこから漂っています。争うように服を奪い合うゴブリンたち。かぐわしき衣類の山に夢中な彼らの耳には、頭上の岩陰から響く≪酩酊(ドランク)≫の詠唱は届きません。

 

 やがて一匹また一匹とゴブリンは崩れ落ち、全てのゴブリンが上の森人(ハイエルフ)を好き勝手に弄ぶ夢に囚われたところで巫術師ちゃんをお姫様抱っこした白兎猟兵ちゃんと圃人の少女剣士ちゃんが壁面の僅かな出っ張りを足場に降りてきました。

 

 ゴブリンたちが掴む衣服に血が付かぬよう、だらしなく眠りこける無防備な連中を丈夫な紐で絞殺していく3人。念のために離れた場所で少女剣士ちゃんが全員の頭と胴体を切り離したところで鏖殺は完了、やり遂げた表情をしていた3人でしたが、やがて堪え切れずに一斉に吹き出しました。

 

 

「いやぁ、妹さまから洗濯前の服を渡された時はすわ何事かと思いましたけど、『こうかはばつぐんだ!』でしたねぇ!」

 

「脱ぎ散らかしていた本人は真っ赤な顔になってましたけど、自業自得ですよねぇ……」

 

 そう! 3人の勝利の鍵となったのは、床に落ちていたものを吸血鬼君主ちゃんがインベントリーにしまい、そのまま遊びに来ちゃったことで洗濯に出していなかった妖精弓手ちゃんの使用済み衣類でした!! いくら閉鎖空間とはいえ、風の精霊が起こした風で洞窟の入り口までその芳香を届かせるとは……上の森人(ハイエルフ)とは怖ろしい存在ですね(白目)。

 

 

「――それにしてもほんと良い匂いですよねぇ。ぼかぁ洗濯のたびに顔を埋めたくなっちゃって……あ」

 

 

 あ、次のウェーブに備えて服を重ねていた白兎猟兵ちゃんの手からホットパンツが落ちちゃいました。あんぐりと口を開けた彼女の視線の先には、グルグルお目目で1枚のシャツに顔を擦り付ける圃人(レーア)コンビの姿が。どうやら誘惑に負けて少女巫術師ちゃんがこっそり1枚懐に隠していたのを少女剣士ちゃんが目ざとく見つけ、我慢出来ずにhshsし始めちゃったみたいです……。

 

 

「はふぅ……林檎にも似た鮮烈な香りと、甘いミルクの匂いのマリアージュ……」

 

「あ、ヤバ。なんか変な気分になってきちゃった……」

 

 

 うわぁ……シャツの前後を挟んで顔を寄せあい、恍惚の表情でモジモジし始めた圃人(レーア)コンビ。寄せ餌が無くてもゴブリンが集まって来そうな盛り上がりっぷりです……おっと、漂い始めた危険な空気を白兎猟兵ちゃんがなんとか払拭しようとしているところで≪真実≫さんからイエローカードが出されちゃいました。この先は残念ながらお預けです!

 

 

 

 さて、他に動きがありそうなところは……お! 現場の無貌の神(N子)さんから妖術師さんがゴブリンの群れと接触したとの連絡が入りました!! 早速現在の様子を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヤァァァァァ!? だぁれぇかぁたぁすぅけぇてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 ……えっと、その。あれ、演技なんですよね? なんか迫真過ぎる気がするんですけど???

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 今年初の灯油を買いに行くので失踪します。

 久しぶりにオンセが出来そうでwktkが止まりません。インチキマカロニウエスタンはまかせろー! ……あ、PLではなくGMです。

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セッションその17.5-4


 迫りくる雪が怖いので初投稿です。


 

 前回、対小鬼最終兵器が火を噴いたところから再開です。

 

 迫真の悲鳴を上げゴブリンの群れから逃げる妖術師さん。誘引用の使用済み妖精弓手ちゃん上着を纏ったその姿はお気に入りの圃人(レーア)ボディではなく、ミステリアスな大人の魅力を感じさせる只人(ヒューム)のもの。おそらくゴブリンへのアピールを高めるためなのでしょうが……色々と台無しですねぇ。

 

 女将軍さんによるブートキャンプの効果か走る姿は様になっており、狼(吸血鬼君主ちゃんの使徒(ファミリア)である狼さんとは似ても似つかぬ獣性の塊ですね)に跨った小鬼騎兵(ライダー)の攻撃を危なげなく躱し、後続の群れとあわせて『殺し間』へとトレインしています。彼女が進む先の周囲は徐々に変化し、木々の隙間から差し込む太陽神さんの光は消え、暗黒の森へとその顔を変えていきます……。

 

 

 

「フフ、どうやら小鬼(オルク)共もお前の魅力に気付いたらしいな。予想よりも数が多いぞ」

 

「ヒィ、ヒィ……ま、まったく嬉しくないっての……!」

 

 

 目的地に到着した妖術師さんの頭上から響く涼やかな声。音も無く着地した闇人女医さんが荒く息を吐く妖術師さんの肩を抱き、労いの言葉をかけています。原作(ほんへ)にも同様の構図がありましたが……やっぱり闇人女医、妖術師さんに対する距離感が近いですねぇ。闇人(ダークエルフ)の蠱惑的な肢体でしなだれかかり、耳元で囁く姿は恋人同士の睦事にしか見えません。

 

 

「「「「「GOBGOBGOB!!」」」」」

 

 

 そんな百合百合しい光景を見せつけられて「もう辛抱堪らん!」なゴブリンたちの興奮は最高潮。どいつもこいつも股間を膨らませて2人を欲望でギラついた瞳で舐めるように見ていますね……あ、自分こそが最も美味しいひと口目を味わうべきだ!と考えた個体が、他の連中を出し抜き2人に向かって駆け出しました! 粗末な短刀(ナイフ)二振り(装備部位は片手と股間)を振りかざし、雌を恐怖で竦ませようと奇声を上げて飛び掛かり……!

 

 

 

 

 

 

「――無粋な奴め。黙ってそこで見ていろ」

 

「GOB!?」

 

 

 闇人女医さんの一瞥と同時に身体中を斬り裂かれ、部位(パーツ)単位で地面に落ちるゴブリン。目に見えないほどに細く引き伸ばされた神縛の綱紐(SM〇ープ)が暗黒の森の中に蜘蛛の巣のように張り巡らされ、空中で触れたゴブリンをその自重だけで物言わぬ肉塊へとジョブチェンジさせました。

 

 

「「「「「GOBBB……!?」」」」」

 

 

 迂回しようとして糸に触れ指や腕を落とす者を見て悔し気に唸るゴブリンたち。獲物を前に手を出せないことに怒り、なんとか近寄れないかと考えているようです。諦めて後退すればほんの少し命を長らえることが出来たでしょうが、残念ながらそれが出来ればゴブリンとは呼べないでしょう。忌々し気に地面に落ちている石を拾い上げ2人に向かって投擲しようとしたところで、再び闇人女医さんの声が暗黒の森に響きます……。

 

 

「ああ、そういえば言ってなかったな。既に貴様らに逃げ場は無い」

 

 

 ――その声が放たれた瞬間、一斉に蠢き始める暗黒の森。木々の表面が波打つように蠕動し、ひび割れた内部から飛び出していたのは……無数の黒い触手です! 木々を覆い隠し、その存在を秘匿していた妖術師さんの操る影の触手が喜びに吠えるように震え、状況を理解出来ない哀れな獲物……ゴブリンたちを絡めとっていきます!!

 

 

「「「「「GOB!?」」」」」

 

「ああ、引き千切るのは無理。影を消すことが出来るのは光だけ。ここにはそんなものないよ」

 

 

 四肢に巻き付き肉と骨を軋ませる苦痛に悲鳴を上げ、なんとか抜け出そうと足掻くゴブリンに対し無感情に言い放つ妖術師さん。ゴブリンを眺める目には怒りも恐怖も無く、ただただ害虫を駆除する手間に対しての面倒臭さしか感じられません。聞くに堪えない声を黙らせようと触手たちにゴブリンの喉元を締め上げるよう指示を出そうとしたところで、それを制するように闇人女医さんが己のたわわに妖術師さんの顔を埋めさせました!

 

 

「むぎゅっ!?」

 

「まぁそう焦るな。少々試したいことがある。此処は私に譲ってくれるな?」

 

 

 厚手の布地ですら隠し切れぬ胸部装甲に埋めた妖術師さんの頭部を優しく縦に動かし、問答無用で了承させた闇人女医さん。早く離せと腕をタップする動きを華麗にスルーし、くるりと彼女の向きを半回転。後頭部をたわわに預けた姿勢で真っ赤な顔の妖術師さんに向けた笑みは、まごうこと無き加虐心に満ちたものです。

 

 

「ぷぁっ。な、ナニをするつもり……!?」

 

「いやなに、我が主のモノになってからこっち、あまり『苦痛』を捧げられていなくてな。主に願っても>「だれかをいたくするのはあんまりすきじゃないの……」と言われてしまうし、自らを鞭打ってもイマイチ物足りんのだ」

 

 

 ああ、捧げる苦痛は自分が受けるものでも誰かに与えるものでも良いんでしたっけ。嗜虐神さんからプレゼントされた神縛の綱紐(SM〇ープ)を常時身に着け、秩序の勢力からの猜疑の目を向けられ続けてなお不足している奉納点をここで稼ぐつもりみたいです(俺屍並感)。なおダブル吸血鬼ちゃん曰く>「すきなひとにいたいおもいをさせるのは、はじめてのときと、あかちゃんをうんでもらうときだけ!」とのこと。触手や噛みつきを用いるときも細心の注意を払ってましたし、痛みを伴うプレイは好みじゃないんですねぇ。

 

 

「そのまま楽にしていろ。少々刺激が強いかもしれんが、お前なら耐えられるさ」

 

 

 ホールドした妖術師さんの肢体に手を伸ばし、圃人(レーア)形態時には存在しない確かな膨らみをやわやわと揉みしだきながら耳元で囁く妖術師さん。ダブル吸血鬼ちゃんや圃人(レーア)コンビによって開発済な妖術師さんは与えられる刺激に抵抗出来ず、指を噛んで必死に声を抑えていますね。雌同士の濃密な絡みに我慢の限界を超えたゴブリンが次々に暴発する悪夢的光景が広がるなか、片手に針を持った闇人女医さんが妖術師さんのたわわを下から支えてる反対の腕にそれを突き立てました!

 

 鋭い痛みと流血を触媒に、彼女が唱えるのは嗜虐神さんに捧げる祝詞。抱き合う2人を中心に、触手に拘束されたゴブリン全てを対象とした恐るべき苦痛の奇跡です……!

 

 

 

 

 

 

「――≪夜の御方よ痛みの母よ、二つ目の矢を彼の者に≫」

 

 

 

 

 

 

「「「「「GO……ッ!?!?」」」」」

 

 

 暗い森の中に響く絶叫。全身を絶え間無く襲う痛みに耐え切れず喉が破れんばかりに悲鳴を上げるゴブリンたち。その不協和音を加虐的な笑みを浮かべた闇人女医さんが心から楽しむように耳を傾けています。

 

 

「どうかね小鬼(オルク)諸君、普段獲物にしている仕打ちを自らの身体で受ける気分は。……ああ、私は親切だからな。雄しかおらん貴様等にも判り易いよう、女が受けた屈辱はちゃーんと()()で味わえるよう変換してやったぞ? 堪能してくれたまえ」

 

 

 指を折られ、耳を削がれ、目を潰され、内側から身体が裂ける()()に悶え苦しむゴブリンたち。嗜虐神さん専用奇跡である≪幻刺(ファントムペイン)≫によって齎される苦痛はすべて幻。ですが痛みを受け取る身体はそれを真実と誤認し、痛みを傷として現実化させていきます。やがて全身の穴という穴から液体を垂れ流した状態で、ゴブリンたちは蔓に実る腐った果実のような姿と変わり果てました。

 

 無数の奇妙な果実を前にご満悦の闇人女医さん。でもたしか≪幻刺(ファントムペイン)≫って「対象:すべて」でしたよね? つまり今回の効果範囲だと術者である彼女もですが、その胸元に拘束されていた妖術師さんもバッチリ奇跡の効果を受けてたんじゃ……。

 

 

「フフ、久しぶりに良い苦痛を捧げることが出来たな! ……どうだ? 意識はあるかね?」

 

 

 たわわに後頭部を預けた状態でグッタリしている妖術師さんを抱え直す闇人女医さん。出る筈の無い汗まみれの肌に貼り付いた髪をそっと持ち上げ、覗き込んだ先には……。

 

 

 

 

 

 

「す、すごかった……」

 

 

 

 ……痛みに歪んだものではなく、ダブル吸血鬼ちゃんにちゅーちゅーされた後とよく似た妖術師さんの顔がありました。

 

 

 

「痛覚は鈍くなってるからそんなに痛くなかったし、眷属に成る時に比べたらなんてことなかったけどさぁ……っ!」

 

 

 真っ赤な顔で闇人女医さんを吊し上げ、ギリギリと締め上げる妖術師さん。口には出していませんが、ローブの中は大変なことになっているみたいですね。まさか圃人(レーア)コンビにいぢめられていた影響がこんなところに現れるなんて……! 一頻り締め上げた後衣服の乱れを整えようとする彼女の手を取りそっと握ったのは、首元のボタンが外れ深い谷間も露わな姿の闇人女医さんでした。また悪戯されるのではと身構える妖術師さん、ですが手を握る闇人女医さんの顔は真剣なものへと変貌していました。

 

 

「なに? これからさっさと死体の山を片付けないといけないんだけど……おぉ!?

 

「フフ、やはりお前は良い女だよ。我が主よりも前に出逢っていたら、きっとお前を自分のモノにしようとしていただろうな。それに、皆がお前を愛する理由も判ったよ」

 

「え、ちょ、まっ……!?」

 

 

 不意の告白に目を丸くする妖術師さん。ガチ恋距離に接近してきた闇人女医さんのグンバツな脚が彼女の間に滑り込み、彼女の身体を持ち上げています。背中を木に預けた姿勢で太股に跨る形になった彼女の頬を闇人女医さんがゆっくりと撫で、囁くように告げたのは……。

 

 

 

 

 

 

「皆がお前を愛した理由。それは、お前が小鬼(オルク)に対して何の感情も抱いていないからだよ」

 

 

 ――妖術師さんが気付いていなかった、一党(パーティ)の最終安全装置としての役割です。

 

 

 

「え? いや、私だってゴブリンは嫌いだけど?」

 

「フフ……! ああすまん、お前を馬鹿にしたわけじゃない。だがそんなところもお前が愛される要因なんだぞ?」

 

 

 何を当たり前なことを、首を傾げる妖術師さん。微笑む闇人女医さんを見て馬鹿にされたとムッとした顔になりましたが、そんな仕草すら愛おしいとスキンシップはいや増すばかり。消耗か、あるいは気の緩みからか圃人(レーア)ボディに戻ってしまった彼女を抱きしめ、地面に腰を下ろした闇人女医さんが先の言葉の意味を語り始めました。

 

 

「我が主に見初められ、共に歩むことを選んだ者は大別すれば以下の2種類となる。小鬼(オルク)に尊厳を踏み躙られた者と、それに憤る者。そのどちらも小鬼(オルク)を滅ぼすことを第一に考えているが……()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

「え? うん。()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 そう、ゴブリンによって心身に深い傷を負った過去を持つ女性を愛し、彼女たちのような悲劇を生まないために活動するダブル吸血鬼ちゃん。そしてその思想に感化(汚染)され、四方世界からゴブリンを滅ぼさんと動いているこの一党(パーティ)。剣の乙女ちゃんや叢雲狩人さん、それに若草知恵者ちゃんはもとより、未遂ではありますが圃人の少女剣士ちゃんや英雄雛娘ちゃんが前者の代表であり、女魔法使いちゃんや妖精弓手ちゃん、令嬢剣士さんが後者の代表でしょう。

 

 直接の被害を受けていなくてもダブル吸血鬼ちゃんの放つ光に脳を焼かれ殲滅思想に染まった集団の中で、唯一といっていい例外が妖術師さんです。あとは圃人の少女巫術師ちゃんも一応後者ですかね。白兎猟兵ちゃんは……ほら、癒し枠だから!

 

 原作(KUMO)神様も何度か話題に上げていますが、『ゴブリンは最弱の怪物』であり、ダブル吸血鬼ちゃんたちが保有する一国すら滅ぼしてのけるその強大な力をゴブリン殲滅だけに用いるのは非常に危険な考えです。魔神(デーモン)や恐るべき竜、そして混沌の勢力といった脅威が蔓延る四方世界、金髪の陛下や賢者ちゃんが時折案件を持ち込むのは一党(パーティ)がしっかりと国に対して貢献していることを知らしめるためでもあるのです。

 

 

「師匠やみんなが張り切ってるから付き合うけど、そうじゃなかったらゴブリンなんて関わりたくないよ。死体から採れる歯は呪文の触媒になるけど、買ったほうが手間も掛からないし」

 

 

 闇人女医さんに抱きかかえられた体勢のまま、器用に触手を操りゴブリンの死体を手元に寄せる妖術師さん。大口を開けて絶命している死体から淡々と歯を引っこ抜き、抜き終えた死体を一か所に放り投げる姿は何処までも事務的なもの。≪幻刺(ファントムペイン)≫で死に行くゴブリンを見ていた時もその顔に悦びや達成感の色は無く、ただ不快な害虫を大量に駆除した時の安堵にも似た表情だけが浮かんでいました。そしてそれこそが、ダブル吸血鬼ちゃんや一党(パーティ)の仲間たちが妖術師さんを愛している一番の理由なのです。

 

 

「お前のその感情、態度が『小鬼殺し(オルクボルグ)』に囚われた者たちにとって、日常を想起させる重要な役割を担っているのさ。……断言しよう、お前は間違いなく正気(まとも)だ。だからこそ、狂気に身を浸す我が主たちの安らぎとなっているんだ」

 

「過分な評価どーも。私は冒険しながら知識の探求が出来ればそれでじゅうぶ……もがっ!?

 

「そのつれない態度もいいな。……(しとね)で可愛がるのも良いが、まずは消耗を回復させてやろう。そら、牙を立てても構わんぞ?」

 

 

 片手で器用にボタンを外し、抑えつけられていた豊満なたわわを解放した闇人女医さん。妖術師さんの顔をむぎゅっと押し付け、後頭部を完全にホールドしちゃいました。上目遣いに抗議の視線を送っていた妖術師さんも口内に溢れる生命の雫の誘惑には勝てず、黙ってちゅーちゅーし始めました。せめてもの反抗か、ふわふわの乳房と硬くなった吸い口、そして周辺のぷるぷるをいっぺんに頬張り乱暴に吸い上げてますが……嗜虐神さんの信徒(筋金入りのドM)である闇人女医さんには逆効果、より一層優しい手つきで頭を撫でられちゃってます。

 

 

「「「「「GOBッ!?」」」」」

 

 

 盛り上がる2人の匂いに惹かれ、次々に暗黒の森へと足を踏み入れる別集団のゴブリンたち。ですが、2人の姿が見える距離に達した瞬間その五体はバラバラに斬り裂かれていきます。ゆらゆらと蠢いていた影の触手たちは、その姿を大きく変えていました……。

 

 闇人女医さんに抱かれている妖術師さんから伸びた影、極薄の刃のように姿を変えたソレは感覚器官を有しているのか表面に無数の赤い目と牙の生えた口が出現し、ガチガチと歯を鳴らしながらつまらなそうにゴブリンの死体を見下しています。身体能力と引き換えに眷属の中で最も操影術の適性が高かった妖術師さんですが、まさかこんな隠し玉を身に着けていたとは……。

 

 本人は目を瞑ってちゅーちゅーに専念しているようにも見えますが、瞼越しに目が忙しなく動いているあたり触手と五感を共有しているのかもしれません。いずれは捕食した対象の知識や技能まで奪い取れるようになるのかも、知識の探求の為に人の身を捨て、永遠を手にした彼女らしい能力であると言えるでしょう!

 

 

 さて、これで残るは人喰鬼将軍(オーガジェネラル)と直卒のゴブリンのみ! その前に立ちはだかる3人は……絶対に優しくないですよ?

 

 


 

 

「ええい、なにを悠長に遊んでいるのだ! あの2人は!!」

 

 

 抑えきれぬ苛立ちを牙の隙間から漏らし、忌々し気に進路の邪魔な木々をなぎ倒す異形の巨躯。『報・連・相』を理解出来ないゴブリンが大勢を占めるこの作戦において現在の状況を判断することは非常に難しく、せいぜいが炸裂する呪文の爆発や喚声の位置から侵攻度合いを推し量る程度。ですが先んじて呪文持ちを殲滅したことでそれらが聞こえることは無く、反抗的な態度が目に付く部下2人に預けた部隊の現状は判らずじまい。人喰鬼将軍(オーガジェネラル)の怒りはいや増すばかりといったところでしょうか。

 

 

「やはりゴブリン共を分散させたのは悪手……いや、この数ですら制御がおぼつかぬのだ、それが三倍もいたら……!」

 

 

 うーん、どうやら混沌の勢力にとってもゴブリンは扱い辛い駒みたいですね。命令は効かず好き勝手に動き、劣勢に陥れば持ち場を離れて逃げることに躊躇いなし。実は下手に操ろうとせず、放置して集落などを襲う普段の生活をさせていたほうが秩序の勢力にとっては厄介なんじゃないですかねぇ。……まぁそれはダブル吸血鬼ちゃんたちが殲滅しているんですが。

 

 そんな彼の様子を見てせせら笑うゴブリンたち。偉そうに指図してくるデカいやつが頭を抱えているのが面白くてしょうがないんでしょうね。ギロリと睨まれ一旦は口を閉じますが、チラチラと盗み見ては微かに野卑な笑みを浮かべています。

 

 彼らが進む道は木々によって邪魔されているものの、地形的には集落に向けて一本道。時間こそ消費していますが、別動隊が先着して森人(エルフ)たちを消耗させていれば御の字といったところでしょうか。森人(エルフ)の精強さは彼らも血の代償を払って知っているでしょうが、数だけは多いゴブリンが防衛線をすり抜けて集落に入り込めば一気に形成を逆転できる、別動隊はそのための捨て石と割り切っているみたいです。よく見ればゴブリンたちも僅かながら他の部隊よりも血色が良いですし、一応は優秀な個体を手元に残しておいたんでしょうね。

 

 

「「「「「GOBGOBGOB!!」」」」」

 

「五月蠅いぞ役立たず共! 逃げ遅れでも見つけたのか……!?」

 

 

 思索の海に沈んでいた将軍(ジェネラル)を現実に引き戻したのは耳障りなゴブリンたちの興奮したような声。思考を邪魔されたことの怒りを隠そうともせずゴブリンたちを怒鳴り付け、その視線の先へと瞳を向けた彼の見たものは……。

 

 

「――人喰鬼(オーガ)1、大型30、呪文持ちそこそこ。あとは普通のゴブリンでしょうか」

 

 

 蠱惑的な肢体を薄布に包み、腰に直剣を佩き胸元を強調するように突剣(レイピア)を掻き抱いた只人(ヒューム)の女と……。

 

 

「じゃあぼくはあいつがまきこまれないように()()するね!」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を持ち、ゴミの中から僅かに値が付きそうなものを見つけたときの顔で彼を眺める圃人(レーア)の小娘と……。

 

 

「ああ、頼んだよご主人様。誰かを対象から外せるほど、私も()()()も器用じゃないからねぇ」

 

 

 悍ましい魔力を感じさせる長柄を愛おし気に擦る女森人(エルフ)の3人が、背筋が凍るような笑みを浮かべて立ちはだかる光景です……。

 

 

「なんだ貴様等!? ……だが丁度良い! 四肢を捥ぎ取り情報を吐かせた後、ゴブリン共を増やす孕み袋に……!?」

 

 

 威圧的に舌戦を繰り広げようとした将軍(ジェネラル)、ですがその言葉は最後まで発せられることはありませんでした。背の高い2人を侍らせ、真ん中に陣取っていた圃人(レーア)の小娘が手に持つ剣を地面に突き立てた直後、木々に覆われていた筈の周囲の光景が一変しました……!

 

 


 

 

「な、なんなのだこれは!?」

 

 

 変わり果てた景色を前に慌てふためく|将軍《ジェネラル。白い霧によって視界を奪われた後、眼前に広がったのは木々はおろか草や石のひとつも見えない無彩色の光景。一面を砂……否、灰に覆われた何も無い空間に投げ出された彼らを『小鬼殺し(オルクボルグ)』たちが見つめています。

 

 

「「「「「GOBGOBGOB!!」」」」」

 

 

 鼻を刺す焼け落ちた臭いの中に森人(エルフ)の芳香を嗅ぎ取ったゴブリンたちがいち早く再起動し、現状の認識よりも雌を組み伏せ孕ませることを考え、醜悪な笑みを浮かべながら足元の灰を踏み荒らし駆け出そうとしたその瞬間、瞳に可視化するほどの殺意を浮かべた女森人(エルフ)……叢雲狩人さんの持つ火炎放射器(インフェルノ・ナパーム)が、ゴブリンたちへとその切先を向けました。

 

 

「あ、アレはマズい!? ゴブリン共、さっさと散れ……!?」

 

 

 どんなに無能な部下であっても無駄に死なせるのは指揮官の恥。ゴブリンたちに散開するよう命を下そうとした将軍(ジェネラル)ですが、そんな彼に鋭角な軌跡を描きながら突っ込んでくる一筋の閃光が。迫る小さな影が背に蝙蝠に似た翼を生やした圃人(レーア)であると脳が認識した時には、すでに彼の四肢は吸血鬼侍ちゃんの持つ血刀と暗月の剣(サタンサーベル)によって切断され、頭部と胴体だけとなった巨体は触手に拘束され吸血鬼侍ちゃんとともに空へと上昇していきます。

 

 

「がぁぁ!? 貴様、吸血鬼(ヴァンパイア)か! 同じ混沌に属する者が何故……!?」

 

 

 

 

 

 

「――かってになかまづらするな。それよりも……ていっ」

 

「がぁぁ、がぁぁ!?」

 

 

 切断面を炎、あるいは魔力によって焼かれ再生を阻害され苦悶の声を上げる将軍(ジェネラル)。痛みに耐えながらも吸血鬼侍ちゃんに疑問を投げかけた彼の顔が恐怖に染まります。能面のような吸血鬼侍ちゃんの顔から見て取れるのは、濃密な殺意だけ。声を失った将軍(ジェネラル)の頭部を掴み、頸椎を圧し折る勢いで彼の顔を地上へと向けさせました。激痛に滲む視界で将軍(ジェネラル)が見たのは……。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、ご主人様の異界作成能力には本当に感謝だね」

 

 

 

 

 

 

やしてはいけないものがあっても、一緒にやしてしまうから」

 

 

 遮蔽となる障害物が何一つない空間で必死に逃げ惑うゴブリンたちが、炎の槍に飲み込まれ跡形も無く焼却されていく光景でした。

 

 

「あらあら、これだと私のぶんは無さそうですね」

 

「すまないねぇ。でも君にはこの後大事な役目があるだろう? それで勘弁して欲しいな」

 

 

 煌々と瞳を紅く輝かせながらゴブリンを焼く叢雲狩人の隣で、頬に手を当てちょっぴり不満げな剣の乙女ちゃん。万一ゴブリンが接近してきたときに備え叢雲狩人さんの護衛をしていたのですが、剣の間合い(5フィート)はおろか中距離(100フィート)まで近寄ることが出来たゴブリンも居ませんでしたね。ぷくーと頬を膨らませる彼女に汚物を消毒し終えた叢雲狩人さんがひらひらと手を振って返しています。

 

 

「おつかれ~! すごかったね!!」

 

「ああ、お帰りご主人様。()()を効果範囲外に除けてくれて助かったよ」

 

 

 お、2人の傍に上空から吸血鬼侍ちゃんが降りてきました! 叢雲狩人さんの胸元に着地し、ほっぺをスリスリ。その後は剣の乙女ちゃんにもハグしてあげてます! あ、触手に捕まえていた将軍(ジェネラル)は降下の勢いそのままに灰の山へと落下し、苦し気に咳き込んでますね。

 

 

「むふ~! それじゃつぎは……」

 

 

 一通りスキンシップを楽しんで満足した吸血鬼侍ちゃん、ぽてぽてとうつ伏せに倒れる将軍(ジェネラル)に近付き、足で彼を半回転させ仰向きの体勢に。口内に溢れる灰でむせている将軍(ジェネラル)の逞しい胸板に乗り、彼の瞳をずっとハイライトさんが帰宅していない瞳で覗き込んでいますね。なんとか咳の止まった彼が恐怖に引き攣った顔を見せたところで、甘く蕩けるような声で問いかけるのは……。

 

 

 

「えっとね、ぼくごうもんってすきじゃないし、やりたくないの。だから、しってることをすなおにぜんぶはなしてくれるとうれしいんだけど……」

 

 

 おずおずと話す姿は言葉の内容さえ聞こえなければ幼子の可愛らしいおねだりにしか聞こえないでしょう。その愛らしさに襲い掛かろうとする叢雲狩人さんを剣の乙女ちゃんが絞め落としているのを背景に返事を待つ吸血鬼侍ちゃん。ですが彼から帰ってきたのは望む回答ではありませんでした。

 

 

「ハァ、ハァ……ハッ! あの吸血鬼(ヴァンパイア)が人間に飼われているとは、なんと滑稽な! 大方その2人の淫乱な肉体に溺れて誇りを失ったようだが……」

 

「おやおや、なにか勘違いしているみたいだねぇ」

 

 

 叢雲狩人さんと剣の乙女ちゃんに下卑た視線を向け嘲笑を上げる将軍(ジェネラル)でしたが、不意に脇腹に走った激痛が彼を黙らせます。未だに熱を帯びている火炎放射器(インフェルノ・ナパーム)の切先を突き立てた叢雲狩人さんが胸板の上でガイナ立ちしている吸血鬼侍ちゃんへとその顔を近付け、貪るように口付けをしています。

 

 

「この子に溺れているのは、私たちのほうですのに」

 

 

 反対側からは剣の乙女ちゃんがそっと身を寄せ、そっと胸元を覆う薄布を中央に寄せて片方のたわわも露わな姿に。口元に近付けた吸い口をそっと啄む吸血鬼侍ちゃんを優しく撫でながら、突如眼前で始まった淫靡な光景に目を奪われている将軍(ジェネラル)へ蔑むような視線を向けてますね……。

 

 

「ん……ぷぁっ。あのね、ぼくたちは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。でもゴブリンはみんなをきずつけてそれをじゃましてくるの。だから、()()()()()()()()()。なんぜんねん、なんまんねんかかってもかまわない。ゴブリンがこのせかいにいるかぎり、ぼくたちは『こおにごろし(ゴブリンスレイヤー)』でありつづけるの」

 

「く、狂ってる……!? コイツも、貴様らも……ガッ!?

 

 

 2人の重い愛を十分に堪能し、ガチガチと恐怖に震える将軍(ジェネラル)の首筋へと顔を近付けていく吸血鬼侍ちゃん。足音高く迫る生命の危機と眼前の行為の相乗効果によって腰巻の前を汚濁でビチャビチャにした彼の口を手で押さえ、牙を見せつけるように口を開きます。有用な情報を吐くことでなんとか命乞いを!という将軍(ジェネラル)の考えはあっけなく否定され、ただ最期の時を待つばかり。その耳に届いた吸血鬼侍ちゃんの言葉は、彼を絶望の底に突き落とすには十分過ぎるものです。

 

 

「いったよね、ぼくごうもんってすきじゃないって。だから、すなおにはなしてくれたら()()()()()()()()()()()()。でも、もうダメ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ぞぶり、と首筋に刺さる牙の感触に身を震わせる将軍(ジェネラル)。跳ね回る胴体の下方からはとめどなく汚濁が噴出し、予め2人に離れるよう吸血鬼侍ちゃんが手で示していなければ撒き散らされる汚濁が2人の美貌を穢していたかもしれません。徐々に深くめり込んでいく小さな口が齎す快感に痛みを忘れ、将軍(ジェネラル)は陶然とした表情を浮かべています。

 

 ……ですが、快楽の代価は彼の(ソウル)そのもの。ダブル吸血鬼ちゃんに取り込まれた(ソウル)は輪廻の輪には戻れず、2人が滅びの時を迎えるまで解放されることはありません。

 

 

「ぷぁっ。えぅ……おおあじでいまいち……」

 

「おや、それは残念。帰ったら()()()()()を食べさせてあげるからね」

 

 

 全ての血と(ソウル)を奪い尽くした吸血鬼侍ちゃんが首筋から口を離し、取り込んだ(ソウル)から得た情報を脳内で整理し始めました。ぽえ~と虚空を見上げながらアップデート中の彼女の口元を叢雲狩人さんが拭いている間に周囲が再び白い霧に覆われ、やがて元居た森の風景が戻ってきました。3人が通常空間に帰還したことを察知した若草知恵者ちゃんが精霊を通じて他のみんなの戦果を伝えていますね。……うん、どうやら3人の蹂躙戦が最後で間違いないみたいです!

 

 

「では、後始末を済ませてしまいましょうか」

 

「ん、おねがいね!」

 

「アイツらを森にブチ撒けたままじゃ、また妹姫(いもひめ)様が怒るからねぇ。……さて、血と()()()、今日はどちらの気分かな?」

 

「フフ、では今日はこちらで……ん……ちゅ……」

 

 叢雲狩人さんのインナーを指でずらし彼女の細い首筋を露出させ、そっと唇を寄せる剣の乙女ちゃん。突き立てられた牙は痛みよりも快感を生み、叢雲狩人さんの口からは熱の籠った吐息が発せられてますね。こくり、こくりと剣の乙女ちゃんの喉が動くたび、叢雲狩人さんの身体も快感に打ち震えているようです。

 

 

「はぁ……とても美味でした」

 

「あ、ちょっとだけのこってる! ……ぺろ」

 

「こらこら、意地汚いよご主人様。……後で好きなだけ飲んでいいから、ね?」

 

 

 ちゅーちゅーしたのはおよそグラス1杯ほどの量でしょうか、血を提供した叢雲狩人さんの顔色が悪くなることもなく、吸い跡に残った血を舐め取りつつ傷を癒している吸血鬼侍ちゃんを苦笑して眺めつつ、剣の乙女ちゃんは作戦最後の奇跡の詠唱を始めました。森の至る所に散乱している侵入者の残骸、森の養分にするには穢れ過ぎているゴブリンの死体を清浄な水へと変換する【辺境最悪】御用達の奇跡はもちろん……。

 

 

「≪裁きの(つかさ)、天秤の君よ、罪ある者、咎なき者、遍くへ平等に水を≫」

 

 

 四方世界最高峰の神官にして、至高神さんと直結(意味深)した経験もある剣の乙女ちゃんによる≪浄化(ピュアリファイ)≫の奇跡は当然フルで効果を発揮! 小さな湖や街をすっぽりと収めるほどの効果範囲によって、森人(エルフ)の集落周辺の戦いの痕跡は綺麗さっぱり無くなりました!! ……あれ、至高神さんどうしました? え? 最近≪浄化(ピュアリファイ)≫がゴブリン殲滅か()()の痕跡消しにしか使われていない気がする? ま、まぁダブル吸血鬼ちゃんたちですし、そこはしょうがないんじゃないですかねぇ……。

 

 

 ……コホン! 森人(エルフ)の集落へ侵攻してきた混沌の軍勢の殲滅が完了したところで以下次回!! 濃密な交わりが多数発生することが予想されておりますので、いつもの面子に加えて嗜虐神さんと知識神さんも記録の準備をお願いしますね! 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 対雪装備を揃えに行くので失踪します。


 ……なんとUAが20万を越えました。投稿期間が空いてしまい存在を忘れられてしまうんじゃないかという思いが募るなか、皆様にお読みいただけて感謝しております。

 今後も間が空いてしまうことはあると思いますが、気長にお待ちいただければ幸いです。

 評価や感想、お気に入り登録がモチベに繋がりますので、正座してお待ちしております。

 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその17.5-5


 湯沸し器が凍って悲惨な目にあっていたので初投稿です。



 

 前回、鏖殺を完了したところから再開です。

 

 剣の乙女ちゃんの≪浄化(ピュアリファイ)≫によって死体も消え去り、湿気を孕んだ空気が流れる森人(エルフ)の森。若草の2人が展開していた結界もその役目を終え、森の木々は本来の姿へと戻っていますね。迎賓樹前の広場では、森の模型を解除し精霊たちにお礼の言葉を伝えていた若草知恵者ちゃんがゴブスレさんと話しているみたいです。

 

 

「精霊たちが探してくれましたが、森の中及び外縁に小鬼(オルク)の姿は確認されませんでした」

 

「そうか。此方の被害は?」

 

「皆様、消耗はされているようですが負傷と呼べるものは無いそうです」

 

 

 耳元でこしょこしょと囁く精霊さんからみんなの無事を聞き、嬉しそうに告げる若草知恵者ちゃん。フィールドコントロールを任されていた重圧は相当なものであったことでしょう。胸に手を当て深く息を吐く仕草からも精神的疲労の度合いが伺えます……と、周囲の木々が枝葉を揺らす音がするとともに複数の人影が樹上から降りてきました! シュタっと華麗に着地する妖精弓手ちゃん(揺れていない)の隣には眉間の皺が薄らいだ従兄殿、そして斥候と思しき森人(エルフ)たちも一緒です。

 

 

「ただいまー! 里のみんな全員の無事が確認できたって!!」

 

「斥候たちが避難誘導に専念出来たのは貴公らの助力の御蔭だ、感謝する」

 

 

 おお、それは良かった! 斥候からの報告をゴブスレさんに伝える従兄殿の顔には安堵の色が見え、駆け寄ってきた花冠の女王や侍女たちの顔も明るいものですね!! 人族の女性、特に見目麗しい森人(エルフ)に対するゴブリンの嫉妬心は深いものであり、執拗にその美貌を穢し続ける傾向が強いのは周知の事実。叢雲狩人さんや若草知恵者ちゃんのように長きにわたって凌辱に晒されることも珍しくありません。多くの同胞がそんな責め苦を負わされる危機が去ったことで、みんなほっと胸を撫でおろしています。

 

 

「こちらとしても森人(エルフ)に被害が出なくて良かったのです。陛下の名を出した以上、失敗は許されなかったのです」

 

「まぁ最悪の時は私たちが特攻する予定だったわけで。……おかげで私はずっとここで待機だったもの」

 

 

 

 おや、こちらもほっとした顔の賢者ちゃんと、やれやれといった様子で自分の肩を叩いている女魔法使いちゃんもやって来ました。万が一包囲をすり抜ける集団が発生した場合に備え、眷属の中で最も高速で飛行出来る女魔法使いちゃんが賢者ちゃんを輸送し、最終防衛ラインになる算段だったみたいです。前線に立てず消化不良気味な女魔法使いちゃんでしたが、するりと背後に回り込んだ賢者ちゃんにたわわを持ち上げられ、耳元で何か囁かれてますね。どれどれ……?

 

 

「まぁ良いではないのですか。たっぷりと()()に蓄えた魔力を今夜2人に振る舞う絶好の機会なのです。……というか、()()、もしや大司教よりも大きくなっているのでは? 手のひらに感じる重量感が増したような気がするのです」

 

「あぁ、うん。最近また装備を調整しないといけなくなって……って、気安く揉むんじゃないわよ」

 

 

 なん……だと……!?

 


 

 ……ちょーいちょいちょい地母神さん、今現在の一党(パーティ)戦闘力(おっぱい)ランキングってどうなってます?

 ……え。いや、まさか……こんなことになっていたなんて……!?

 


 

 ……えー、視聴神の皆様に大切なお知らせがあります。

 キャンペーンを通じて成長を見守ってきた一党(パーティ)の女の子たちの胸部装甲。肉体や精神の成長に伴い豊かに実ったものや、断固たる決意でその生き様を貫くもの。さまざまなお山が揃っておりますが……登場時より不動の1位を保っていた剣の乙女ちゃんのたわわを女魔法使いちゃんが僅差で上回り、なんと一党(パーティ)トップの大きさに成長していました!

 

 剣の乙女ちゃんと女魔法使いちゃんの圧倒的ワンツーだったランキング。サイズはなかなかですが高身長の影響でカップサイズで差の付いた叢雲狩人さんと形も大きさも整っていますがボリューム面で一歩半及ばない令嬢剣士さんがそれに追随。種族的に数値では太刀打ち出来ずとも全体のバランスで見れば驚くほどグラマラスな少女剣士ちゃんと、未だに成長を続け双子の姉妹から吸い取ってる疑惑のある神官銃士ちゃんが遅れての参戦。叢雲狩人さん並の背丈に彼女を越える肉感的な肢体の持ち主である闇人女医さんの登場によって上位陣に変動があるのではという噂は囁かれていましたが……。

 

 あ、ちなみに反対側のランキングは絶対王者であるダブル吸血鬼ちゃんが不動の最下位。圃人(レーア)ボディ形態の妖術師さんがブービー賞で、その上にみんなが愛する金床ちゃん。若草の祖母孫と女神官ちゃん、少女巫術師さんと続いて、うさぴょい効果でサイズアップした白兎猟兵ちゃん、ブービーからあっという間に成長し、一気にランキングを駆け上がっている英雄雛娘ちゃんとなっています。妖術師さんも只人(ヒューム)形態なら令嬢剣士さんと同ランクなんですが……本人は昔の姿はあんまり好きじゃないみたいですね。

 

 なお参考記録として、賢者ちゃんと女騎士さんは上位3名と中堅を隔てる境界あたり、魔女パイセンと牛飼若奥さんは文句無しの最上位とのこと。一般女性とは思えない破壊力、やっぱり牧場ママがさいつよなのでしょう、きっと。

 

 

 ……おっと、貴重な情報を頂いている間に続々とみんなが戻って来ましたね! 見事なドヤ顔の女騎士さんは黒騎士の鎧(バッシュ・ザ・ブラックナイト)を身に纏い身体能力を向上させている重戦士さんにお姫様抱っこで運ばれ、箒で空飛ぶ魔女パイセンには槍ニキがぶら下がっています。

 

 未だにシャツを離そうとしない圃人(レーア)コンビと蕩け顔で風呂敷に顔を埋めている白兎猟兵ちゃんはサイズアップしたイボイノシシ君の背中の上。令嬢剣士さんから預けられた彼?は、連絡係兼護衛として少女巫術師さんの胸元の余剰スペースに待機していたそうです。3人の人様に見せられない顔を見た妖精弓手ちゃんが頭を抱えてますねぇ……。

 

 

 

「パパ、おかえりー!」

 

「「ただい……おあ~」」

 

 

「おかえりなさーい! とぉぉぉぉう!!」

 

「あ、あらあら……」

 

「ちょっと? ママの金床じゃ不満だっての???」

 

 

 強烈なタックルでダブル吸血鬼ちゃんを吹き飛ばす叢雲次女ちゃんと一目散に剣の乙女ちゃんのたわわに吶喊する妖精長女ちゃんを先頭に、一斉に駆け寄ってくるたくさんの子どもたち。花冠の女王や森人(エルフ)の子たちと一緒に避難していましたが、戦いに赴いていたみんなの無事な姿を見てあちこちから歓声が上がっています。胸に愛の結晶を抱いた花冠の女王が従兄殿へと歩み寄り、力強く従兄殿に抱きしめられてますね。僅かな時間で打ち解けたのでしょう、冒険者の子どもたちもすっかりミニ森人(エルフ)たちと仲良しです!

 

 

「パパ、けがしてない?」

 

「ゴブリン、やっつけたの?」

 

「ああ。皆と一緒に()っつけてきた」

 

 

 心配そうに見上げる牧場の双子ちゃんの頭に手を置き、不器用に撫でるゴブスレさん。「ゴブリンの血に塗れた手で撫でる資格なぞ……」なんて考えていたのでしょう。一瞬手の動きに躊躇いが見えましたが、子供たちの背後でニッコリと威圧的な笑みを浮かべている牛飼若奥さんのプレッシャーに負けたみたいです。今回は指揮に専念してたので物理的にも汚れてませんし、森人(エルフ)の集落を救ったんですからもっと胸を張っても良いと思いますよ……と、おや? ダブル吸血鬼ちゃんがミニ森人(エルフ)たちに包囲されてますねぇ。また2人がナニかやらかしたんでしょうか?

 

 

「みんなのパパさん、かわいい~!」

 

「ちっちゃくって、とってもかる~い!」

 

 

 あらあら、外見年齢ローティーンくらいの森人(エルフ)娘ちゃんたちがダブル吸血鬼ちゃんを代わりばんこにお人形さん抱っこしてますね。体重はしっかり軽減させているのか、2人とも細身の女の子たちに軽々と持ち上げられています。……つむじやうなじに顔を埋め吸血鬼吸いを楽しんでいるのを、彼女らのママたちが羨ましそうに見ているのは気のせいでしょう、きっと。

 

 女児たちに人気のオモチャと化したダブル吸血鬼ちゃん、ですがそれを面白く思わない子もいるわけでして……。

 

 

「フン! そんなチビたちがホントにパパなのかよ。……だいたいなんでパパがおんななんだ、おかしいだろ!」

 

 

 小生意気そうに噛みつく森人(エルフ)娘ちゃんたちと同い年くらいの男の子。どうやら彼が世代のボスなのか、周りの男の子たちも「そ~だそ~だ!」の大合唱、チラチラとダブル吸血鬼ちゃんをだっこする女の子に視線を向けているのを見ると、好きな女の子が自分以外の誰かに構っているのが面白くないんでしょうねぇ。

 

 

「はぁ……ガキはこれだから……」

 

「なにお~!? おまえらだってガキのくせに! このまないた!!」

 

「んな!? そっちこそキヌガサダケのくせに!!」

 

「そそそそんなわけねーし!? ご立派なマツタケだし!!」

 

「おとこのこはおとこのこどうしで、おんなのこはおんなのこどうしでれんあいすべきだとおもうの」

 

「「おあ~」」

 

 

 ……うーん、最近のお子様は進んでますねぇ。あと最後の女の子は地母神さん好みの素質がありそうです。左右から腕を引っ張られ微妙な声を上げるダブル吸血鬼ちゃん。真ん中から裂けて4人に増えることは無さそうですが、子どもたちの争いはヒートアップするばかり。女魔法使いちゃんたちが「また馬鹿やってる……」という表情で見守るなか、ミニ森人(エルフ)たちを止めたのは……。

 

 

 

 

 

 

「きさまら~、その2人が私()()のだんなさまであると知っての狼藉か~!」

 

「うわぁ、いもひめさまだ!?」

 

 

 我らが2000歳児のエントリーだ!!

 

 

 

「――というわけで、シルマリルとヘルルインは私たちの大切な人で、あの子たちのパパなの。わかってくれた?」

 

「はい、ごめんなさい……」

 

「あなたたちも、あんまり男の子のことからかっちゃダメよ? 男の子のハートはけっこう脆いんだから」

 

「わかりました……」

 

「あと、貴女良い趣味してるわね。ウチに来て変態エセ圃人(レーア)吸血鬼を可愛がる権利をあげるわ」

 

「あれ、なんかこっちに流れ矢が……!?」

 

 

 左右の小脇にダブル吸血鬼ちゃんを抱え、子どもたちを「めっ」と叱りつける妖精弓手ちゃん。お姉さんのような威厳は無くとも、何処か従いたくなってしまう不思議なカリスマがありますね。流れ矢に被弾した妖術師さんが悲鳴を上げてますが、まぁ誤差みたいなもんでしょう。

 

 

「さ、お説教はおしまい! そろそろおゆはんが出来上がる頃よ、みんなで食べましょ!!」

 

「その言葉を待っていたのです。もう胸と背中がくっつくところだったのです」

 

「そんなに存在を主張させながら、イヤミかきさま~!!」

 

「……まったく、慎みという言葉をいったい何処に置いてきたのだ……っ」

 

 

 辺りに漂ってきたおゆはんの匂い、妖精弓手ちゃんの声に子どもたちが明るい顔を取り戻し、これ見よがしと下から持ち上げたたわわを揺らす賢者ちゃんに妖精弓手ちゃんが怪鳥蹴りを叩き込むのを呆れた顔で眺める従兄殿。里の危機を救った冒険者を持て成す宴は、はしゃぎまわる子供たちが寝落ちするまで続くのでした……。

 

 


 

 

「げふぅ、満足なのです」

 

「そりゃあんだけ食べれば満足でしょうよ。それで食べたものはぜーんぶ()()に行くんだからズルいったらありゃしないわ」

 

 

 宴が終わり、迎賓樹へと戻った一行。はち切れんばかりにおなかを膨らませた賢者ちゃんが満足そうに頷く横で、妖精弓手ちゃんが彼女のたわわを揉みしだいています。はしゃいでいた子どもたちは宴の途中でスイッチが切れたようにダウン。ふかふかの草で出来た寝台(ベッド)の上でみんな仲良く夢の世界に出発。子供たちの面倒を見ていた白兎猟兵ちゃんと英雄雛娘ちゃんも早々に寝てしまい、剣の乙女ちゃんと令嬢剣士さんが添い寝をしてあげてますね。

 

 

「――で、シルマリル、ヘルルイン。準備はどう?」 

 

 

 きさま~と唸りながらたわわを堪能していた妖精弓手ちゃん――きさま~が気に入ったみたいですね――が手を離し、声をかけた先。そこには女魔法使いちゃんのたわわに顔を埋めるダブル吸血鬼ちゃんの姿がありました。後頭部を優しく支えられた体勢で、ちっちゃなおててでお山を揉みしだきながらちゅーちゅーする姿……うーむ、凶悪な吸血鬼(ヴァンパイア)には見えませんよねぇ。

 

 

「ん……ちゅー……ぷぁっ。ごちそうさまでした」

 

「ぺろ……だいじょうぶ? いたかったり、ヒリヒリしたりしてない?」

 

「はいはいお粗末様。別に痛くもなんともないわよ」

 

 

 吸い口から唇を離し心配そうに見上げる2人の頭をくしゃりと撫で、笑みを返す女魔法使いちゃん。左右のほっぺに口付けをする2人を解放し、ほっと肩の荷が下りたように息を吐いています。その顔がスッキリしたものに見えるのは、タンクが空っぽになるまでダブル吸血鬼ちゃんがちゅーちゅーしたからでしょうね。ぽてぽてと近寄ってくる2人の様子に満足げな笑みを浮かべた妖精弓手ちゃんが、2人の背中を後押しします。

 

 

「ん、問題無さそうね。……それじゃ2人とも、バッチリ決めてきなさい! あの子たちの居場所は判るわよね?」

 

「だいじょうぶ! においでおいかけられるもん!!」

 

「それじゃ、いってくるね! ……あと、()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 ドヤ顔の吸血鬼君主ちゃんの隣でちょっぴりお困り顔の吸血鬼侍ちゃん。その視線の先には妖精弓手ちゃんの引き締まったウエストにぶら下がるようにしがみつく小さな2つの人影が。……とうとう服では物足りなくなった圃人(レーア)コンビが白い肌に直接顔を擦り付けて荒い息を吐いちゃってますねぇ。

 

 

「だーいじょうぶ! こっちの心配はいいから、2人は自分たちのすべきことを……ね?」

 

「「……うん! いってきます!!」」

 

 

 太股に抱き着かれ、お腹のあたりに熱っぽい息を感じながらも涼しい顔の妖精弓手ちゃん、ヒラヒラと手を振ってダブル吸血鬼ちゃんを送り出しました。2人が部屋から出ていったところでむんずと左右の圃人(レーア)コンビを掴み上げ、その顔を覗き込みます。蕩け切った表情でモジモジと内またを擦り合わせる様子に苦笑し、潤んだ瞳で見つめる2人に美しい顔を寄せ……。

 

 

「――とうっ!」

 

 

 上の森人(ハイエルフ)の芳香にメロメロな2人を勢いよく投擲しました! ぽーんと放物線を描いて宙を舞う2つの影、その行く先に待つのは……。

 

 

「わわわっ!?」

 

「あら、森人(エルフ)にしては上手い投擲ねぇ」

 

 

 油断していたところにいきなり飛んできた少女巫術師さんを慌てて受け止める大人形態の妖術師さんと、正確な軌道で胸元に落ちてきた少女剣士ちゃんを魔力からっぽでふわっふわなたわわでキャッチした女魔法使いちゃんです。突然の空中散歩に目を白黒させている圃人(レーア)コンビ、そんな彼女たちの耳に届いたのは、脳を蕩けさせるほどに甘い上の森人(ハイエルフ)の問い掛けです……。

 

 

 

「さて、2人とも。貴女たちは今魔力空っぽの吸血鬼(ヴァンパイア)に掴まってるわけだけど……」

 

 

 

 

 

 

「直接血液をちゅーちゅーされるのと、()()()()()()ちゅーちゅーされるの。どちらか好きなほうを選びなさい?」

 

「「…………」」

 

 

 女魔法使いちゃんの膝上で横抱きされた少女剣士ちゃん、熱に侵された瞳で捕食者を見上げながら、そっと自らのインナーを捲り上げていきます。妖術師さんにお姫様抱っこされている少女巫術師さんのほうは……うわぁ、躊躇いなく指輪を嵌め、スカートの裾を両手でゆっくりとたくしあげてます! 小さな2人の艶姿にゴクリと喉を鳴らす魔力切れの吸血鬼(ヴァンパイア)、抑えきれぬ衝動に突き動かされ、懐に捕らえた獲物へとその牙を……これ以上は視聴制限が掛かってしまいそうですので、先程部屋を出たダブル吸血鬼ちゃんのほうに映像を切り替えてくださーい!!

 

 


 

 

 ぽてぽてと迎賓樹の外周に突き出た足場を上っていくダブル吸血鬼ちゃん。木々の合間から差し込む月光によって照らし出された光景は幻想的であり、見慣れた牧場の風景とは異なる新鮮さを感じさせてくれますね……と、仲良く手を繋いでいた2人ですが、迎賓樹てっぺんが見えてきたところでその足が止まりました。2人の前にはぽっかりと口を開けた大きな樹洞(うろ)が、どうやら吸血鬼君主ちゃんの目的地はここみたいですね。吸血鬼侍ちゃんと別れ、足を踏み入れたその先は……。

 

 

「ふわぁ……!」

 

 

 ――最初に感じるのは水の匂い。樹洞(うろ)の内壁から染み出た水によって内部は苔類に覆われ、吸血鬼君主ちゃんの足元近くまで水が溜まっています。不思議と水は温かいのか、内部は薄着でも問題無い温度になっているようです。

 

 

「――(あるじ)さま、どうぞお召し物を御脱ぎになって、こちらへ……」

 

 

 次に目に入るのは薄衣に身を包んだ若草知恵者ちゃん。水気を含んだ苔の寝台(ベッド)に腰掛け両手を広げて愛する主を招くその美しさは、儚さと妖艶さの入り混じったまさに『妖精』といった姿です。

 

 促されるままに魔力で編んだ服を分解し、足首まで水に浸からせながら彼女へと歩み寄る吸血鬼君主ちゃん。その背後では苔が蠢き、樹洞(うろ)の入り口を閉ざしていきます。月明かりが消え暗闇に覆われた内部ですが、やがて淡い輝きが灯り始めました。どうやらヒカリゴケ……しかも自ら光を放つものが灯りの役割を担っているみたいですね。

 

 差し出された手に身を預け、優しく抱き上げられる吸血鬼君主ちゃん。温水であたためられた若草知恵者ちゃんのぬくもりを堪能する間も無く、さらなる驚きが彼女の前に現れました。

 

 

 

 

 

 

「うふふ、そんなに見つめられると照れてしまいますね……」

 

「きれい……」

 

 

 普段は幾重にも纏った長衣に覆われ秘匿されている肢体。水気を吸いピッタリと肌に貼り付く薄衣はその一切を隠さず、若草祖母さんの美しさを引き立てています。慎ましやかな胸、折れてしまいそうな細い腰、そして美しい曲線を描く安産型のお尻……当たり前ですが、若草知恵者ちゃんとソックリな体型ですね!

 

 

「ふふ……身長も、女らしさも、すっかり貴女に抜かされてしまいましたね♪」

 

「お、お祖母様!? そのようなこと……」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんを挟み込むように身を寄せ、孫娘の頬を優しく撫でる若草祖母さん。たしかに、牧場攻防戦の頃から比べると出産前後からグッと女性らしいラインになりましたもんね若草知恵者ちゃん。肉体の損傷と精神的なトラウマが癒されたことで身体が成長したのかもしれません。

 

 

「んむ……ぷぁっ。でも、おばあちゃんはなんだかとってもいいにおいがする……ふたりともよくにてるけど、おばあちゃんのほうがもっととろけちゃうかんじ……」

 

「年を重ねた森人(エルフ)は徐々に肉の身体から霊界(アストラル)へと存在が変わっていくのです。そしていずれは肉体を失い、森へと還る……ふふ、まぁ加齢臭みたいなものですよ」

 

 

 祖母孫サンドにクラクラしている吸血鬼君主ちゃんの言葉に囁きで返す若草祖母さん。現世への拘り、未練の薄れた森人(エルフ)は物理的な存在から徐々に精神的な存在へと変わっていくみたいです。それを『死』と呼ぶか、『あるべき場所へ還る』と考えるかは種族差があるのかもしれませんね。

 

 

「孫娘の幸せな姿を見られて、もう思い残すことは無い。そう思っていたのですが……ふふ、まだおばあちゃんにも執着があったみたいです……ん……ちゅ……」

 

「お祖母様、お綺麗でございます……ん……はぁ……」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんのちっちゃな手を取り、己の胸にあてがいながら口付けをする若草祖母さん。若草知恵者ちゃんも膝上で快感に震える吸血鬼君主ちゃんの身体に手を添え、抜剣へと導いていきます。魔剣が抜き放たれたところで若草祖母さんが手に取ったのは……そう、豊穣の霊薬です。

 

 

「ん……ごく……はぁ、胎を焼くほどに甘いのですね……」

 

 

 喉を鳴らしゆっくりと瓶の中身を飲み干す姿に目を奪われていた吸血鬼君主ちゃんですが、若草の2人が折り重なるように苔の寝台(ベッド)に横たったところで我に返ったようです。艶然と仰向けに横たわる若草祖母さん、彼女に覆い被さるような体勢の若草知恵者ちゃんを挟み込むように身体を預ける吸血鬼君主ちゃん。背に感じる魔剣の熱に身体を震わせる若草知恵者ちゃんの耳を舐め上げた後、孫娘の蕩けた表情に見入っていた若草祖母さんの耳元へと顔を近付け、そっと囁いたのは……。

 

 

「せいいっぱいやさしくするからね、おばあちゃ……ううん、――――」

 

「はい、あなた……」

 

 

 彼女を『みんなのおばあちゃん』ではなく『ひとりの女性』として愛するという気持ちを込めた決意の一言でした。

 

 

 やがて樹洞(うろ)の中に響き出す壁面から滲み出る水とは違う湿った音と幸福に満ちた声。3人の愛を交わす姿を見ているのは空に浮かんだ赤い月だけ……って、あれ? これもしかして先に進んだ吸血鬼侍ちゃんに聞こえているんじゃ……。

 

 

 

 

 

 

「フム、どうやら祖母殿も堕ちたようだな。いや、この場合は幸せを手にしたと言うべきか」

 

「向こうは随分と甘いやり取りを交わしているみたいだねぇ。此方と違って」

 

「えぅ……」

 

 

 迎賓樹の頂点にほど近い場所、テーブル状に変化した枝に腰掛け下から聞こえる遣り取りに傾けている2人の長身の森人(エルフ)。間に座る吸血鬼侍ちゃんはもうひとりの自分の口から出る甘々な言葉に顔を真っ赤にしていますね。

 

 叢雲狩人さんと闇人女医さんのたわわに挟まれ身動きのとれない吸血鬼侍ちゃん。身体に触れる2人の手は優しくも艶めかしく、あれよあれよという間にインナーだけの姿に剥かれちゃいました。ほっそりとした二の腕に舌を這わせる叢雲狩人さん、肩口を経由して腋まで進出する彼女の反対側では、闇人女医さんがうっすらと浮かびあがる肋骨に唇を寄せ、骨の在り処を探るように歯を当てています。フルフルと快感に耐えるように身体を震わせる吸血鬼侍ちゃんですが、攻めっ気が強い反面自分が攻められるのには弱いみたいですねぇ。

 

 

「ぷは……ねぇご主人様、いい加減彼女の願いを叶えてあげたらどうだい? 『痛み』は辛いものだけじゃない、好きな人から与えられるものは心地よいんだよ?」

 

「でも……ひゃう!?」

 

 

 なるほど、どうやら吸血鬼侍ちゃんは闇人女医さんが求める『苦痛』を与えるのに躊躇っているみたいです。嗜虐神さんを信仰する彼女にとって『苦痛』は欠かす事の出来ない供物、他人に与えるのも良いですが、自らに課すことも大切な祈りの表れなんですね。つい、と目を逸らす吸血鬼侍ちゃんですが、捲り上げられたインナーの内に隠れていた先端を闇人女医さんに甘噛みされ、可愛い悲鳴を上げちゃいました。

 

 

「いいか、我が主。同じ苦痛でも、悪戯がバレて仕置きされてる時のモノと、かつて御母堂が受けた拷問のようなモノは違うだろう? 前者には相手に対する愛があるが、後者には弱きものを貪る悪意しかない。私がお前に求めているのは前者なのだよ。そう、このように……」

 

 

 互いに目配せを交わし、身を寄せる森人(エルフ)の美姫。艶やかな褐色のたわわに叢雲狩人さんが顔を近付け、北半球の真ん中に犬歯を、背に回した手の爪を肩甲骨の辺りに突き立てました! 幾筋も背に浮かび上がる朱色の線。ですがそれが齎す『苦痛』は闇人女医さんとっては祝福そのものです。

 

 

「ほわぁ……んむ!?」

 

 

 舌を伸ばせば届く距離で行われる美しくも淫猥な光景に目を奪われていた吸血鬼侍ちゃん、それを見た叢雲狩人さんが褐色のたわわに滲む血を強く啜り上げ、そのまま吸血鬼侍ちゃんの唇を奪いました。目を丸くする想い人に嗜虐的な視線を向けながら口内の血を送り込み、同時に己を舌を牙に強く押し当て、自らの味も確かめさせていますね。2人の口の間に朱色の橋が架かる頃には、吸血鬼侍ちゃんも完全に出来上がっちゃいました。

 

 

「さぁ、我が主よ。先ずは私に『初めての苦痛(しあわせ)』を与えてくれ。既に準備は出来ているぞ?」

 

 

 上気した顔で吸血鬼侍ちゃんが目を向けた先には、見覚えのある空き瓶を片手で振る闇人女医さんの艶姿。蔓が自ら絡み合って生み出された天然の寝網(ハンモック)に身を預け、蠱惑的な表情で小さな主を招いています。

 

 

「ふふ……可愛いなぁご主人様。さ、私も一緒に可愛がってくれたまえ。義妹(いもうと)ちゃんたちの声を聞いていたら私も欲しくなってしまったんだ……」

 

 

 流し目を送りながら闇人女医さんの隣に寝そべり、手招きをする叢雲狩人さん。口の端から血の混じった唾液を零しながら2人を見る吸血鬼侍ちゃんの理性はもう限界を迎えています。そして、最後の一線を越える言葉が獲物(ふたり)の口から囁かれました……。

 

 

 

 

 

 

「自然の力で育まれた美味なる果実と……」

 

「大地の力で磨かれた華美なる宝石……」

 

 

 

 

 

 

「「――さぁ、食べ比べてみては如何かね?」」

 

 


 

 

 明朝、様子を見に来た従兄殿と花冠の女王を襲った衝撃は、げっそりとした顔の圃人(レーア)を抱えるお肌ツヤツヤな吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)。そして、おなかを大きくした森人(エルフ)2人の幸せに満ちた表情と……。

 

 

 

 

 

 

「やったわね、あに様、あね様! 可愛い姪っ子が増えるわよ!!」

 

 

 あーあ、またやっちゃってるよ……という顔の冒険者に囲まれながら薄い胸を張る2000歳児渾身のドヤ顔であったそうな……。

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 


 

 

 いやぁ、今回も放送できない部分が多かったですねぇ! 幼年期を終えている視聴神さんでしたらプレミアム会員特典で未放送部分を視聴できますので、詳しくは知識神さんか地母神さんまでお願いします!!

 

 さて、次セッションは春が舞台でしたっけ。白兎猟兵ちゃんの弟たち夫婦も出産間近ですし、新たな生命がたくさん芽吹きそうですね!

 

 それで……次は太陽神さん提供の脚本(シナリオ)ですよね。ちょっと見させてもらっても良いですか?

 

 ふむふむ……ほほう! たしかにこの問題はダブル吸血鬼ちゃん卓ならではですし、面白そうですね!!

 

 期待してますよぉ? 勇者の血統を証明するために泥まみれになって足掻く、美しき『(キング)』の活躍に!!

 

 

 





 春を呼びに行くので失踪します。


 前回の更新時に気付いてませんでしたが、総文字数が140万字を越えてました。キャンペーン終了までに何処まで伸びるのか、楽しみでもあり不安でもあります。お付き合いいただければ幸いです。

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。読んでくださった方からの反応がモチベに繋がりますので、是非にお願いいたします。。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその18-1


 なんだか心身ともに疲労しているので初投稿です。




 

 ふふんふふん、ふふふふふーん! ……いやぁ、ウィニングライブは人類の生み出した文化の極みですねぇ!!

 

 凛々しく、可愛く、力強く躍動する肉体の美しさと、キラキラみんなを笑顔にする善性に満ちた人間性(ヒューマニティ)。いやはや、陰の者に属するN子さんにはちょーっと眩しすぎますよぅ……。

 

 しかし、誰もがそんな輝く舞台(ステージ)に立てるわけではありません。その裏で涙を流し、心折れそうになっている子は決して少なくないのですから。

 

 そして! そんな子たちを導き、誰よりも泥臭く夢に向かって駆ける『(キング)』!! ――クヒ! 嗚呼、その決して頭を下げない気高き矜持(プライド)を圧し折り、曇らせたくなる欲望が抑えきれ……!?

 

 あ、いえ、違うんです太陽神さん話を聞いてくださいあくまで曇らせはハッピーエンドに向けたひとつまみのスパイスであって決してダブル吸血鬼ちゃんの泣き顔が見たいわけでh(ここで音声は途絶えている)

 

 


 

 

 『(キング)』の生き様を見よ!な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 

 寒く厳しい冬が終わり、待望の春が訪れた辺境の街。新たな生命が芽吹く時期であるこの季節、ダブル吸血鬼ちゃんたちが間借りしている牧場にもたくさんの新しい命が生まれました!

 

 まずは蜥蜴人の戦士さんと交易神の侍祭さんの異種族カップル。豊穣の霊薬の力を借りたため赤ちゃんが女の子なのは確定でしたが、パパの特徴である頭部の角が赤ちゃんにも有り、それが産道を傷付けてしまうというハプニングがありました。

 

 幸い癒しの奇跡を使える神官が待機していた為大事には至りませんでしたが、通常では誕生しないイレギュラーなハーフの出産には想定外の出来事が起こるという教訓になったみたいです。現在は母子ともに健康そのもの、療養所で待つ妻子の為にと蜥蜴人の戦士さんも気張って依頼をこなしているそうです。

 

 

 次に白兎猟兵ちゃんの弟3人と砂漠の国の元冒険者3人娘の仲良し夫婦たち。こちらは霊薬に頼らぬ自然受胎ですので、産まれてくる子たちの性別は地母神さんのみ知るというところだったのですが……。

 

 

「おんなのこだね!」

 

「うん、キミとお揃いの可愛い耳してる!」

 

「あれ、ぜんぜんけがはえてない。……もしかしてびょうきなの?」

 

只人(ヒューム)の赤ちゃんはだいたいこんな感じだから、心配しなくても大丈夫よ、パーパ♪」

 

「ママとおんなじ、きれいなはだのいろしてるね!」

 

「フフ、3人ともお耳は揃ってパパと同じなんですね」

 

 

 長男君と元武闘家の少女ちゃん――悪戯をした兄弟たちを叱る時いつも「げんこつ!」なので、『鉄拳ママ』とお呼びしましょうか――の赤ちゃんは女の子、二男君と褐色姉妹のお姉さん……ダブル吸血鬼ちゃんや子どもたちにダンスを教えてくれている『踊り子ママ』の赤ちゃんと、占いが得意な妹さん……『占術ママ』と三男君の赤ちゃんは男の子でした!

 

 占術ママの言う通り、3人ともヒトミミのある部分に兎さんの垂れ耳が生えている愛らしい姿。特に垂れウサミミ褐色バニーボーイな下の子2人は、ショタコンの戦女神さんがガタッと立ち上がるほどの破壊力。将来年上のお姉さんたちにモテモテになる予感が漂っております。

 

 昼はせっせと農作業、夜はおっきなおなかのお嫁さんとイチャイチャするリア充生活を送っていた弟君達も、パパになったことでグッと大人っぽくなりましたね。愛の結晶を抱く奥さんからの声援を背に受け、雪の下で硬くなってしまった土を毎日元気に掘り起こしているそうです。夢は白兎猟兵ちゃんに対抗してやきうチームが組めるくらいの大家族とのこと……頑張って欲しいですね!

 

 

 それから、なんと新しい夫婦が牧場に誕生しました! 以前から仲が良く、互いを大切に想っているのはみんな知っていたのですが、それぞれが負い目を抱えていたためになかなか一線を越えられず、周りがヤキモキしていた2人……そう、牧場夫婦のお義父さんと只人寮母さんです!!

 

 義理の娘と同年代の女性という年齢差に引け目を感じていたお義父さんと、ゴブリンの傷物であることで相手が不快に思わないかと心を痛めていた只人寮母さん。互いに相手を好きであるが故にすれ違っていた2人を後押ししたのは、ゴブスレさんと牛飼若奥さんでした。

 

 

「私たちに遠慮なんかしてないで、自分の幸せを掴んで欲しいな、お義父さん。……大丈夫、()()()()()()()()なんて、あの子たちと比べたら誤差みたいなものだよ!」

 

「ゴブリンに穢された女を蔑むような性格であれば、戦友やその嫁たちが義父に懐くわけが無いだろう。それが判らぬお前ではあるまい」

 

 

 やたら説得力のある言葉に背を押され、一晩かけて胸の内を語り合った2人。夜が明ける頃には2人の手はギュッと繋がれ、地平線から覗いていた太陽神さんが思わず顔を隠したくなるほどのラブラブっぷり。心配していたみんなからの祝福の言葉を受け、幸せそうに微笑む新たな夫婦。これを機にお義父さんは正式に自宅と牧場をゴブスレさんへと譲り、自身はダブル吸血鬼ちゃん謹製の新居へと只人寮母さんと一緒にお引越し。牧場の指導は続けながら彼女の手伝いをしつつ、悠々自適の引退生活を満喫するみたいです。

 

 そんな2人は現在おなかの大きな若草祖母さん、闇人女医さんと一緒に子どもたちのお相手中。長くお外で遊べなかった鬱憤を晴らすように緑の地面を駆け回るちびっ子たちを見守るその手はしっかりと恋人繋ぎになってますね。冒険者なパパママの多くが出払ってしまっていますが、英霊さん二柱をはじめ透明な(メルゴーの)乳母さんや撮影補助の扁桃頭(アメンドーズ)君が常に目を(物理的に)光らせてますので、暴漢や野盗が来ても安心です!

 

 あ、ちょうど春の作付けが始まってしまったため年の差カップルの結婚式は暫くお預け。少し手の空く6月頃に式は行うんだとか。それまでに只人寮母さんのおなかが大きくならない保証は……無いでしょうねぇ。以上、新しい生命に溢れる牧場の近況でした。

 

 


 

 

「はいはーい、冒険者登録をしたい子は順番に並んでね!」

 

 

 ところ変わって監督官さんの快活な声が響く冒険者ギルド、春の訪れとともにカッコいい冒険者を夢見る新人たちも辺境の街の支部へと集まってきています。せいいっぱい背伸びをして揃えたピカピカの装備の子、実家に眠っていたであろう年季の入った長剣を大事そうに下げている子、誰もがキラキラと輝いた瞳をしていますね。

 

 

「はい、じゃあこれが認識票です。この後はどうしますか?」

 

「えっと、くんれんじょう?ってとこに行きたいんですが……」

 

「では向こうにいる紅玉等級の先輩のところへどうぞ。ある程度人数が集まったら連れて行ってくれますから。……去年迷宮探検競技に参加してたよね? 頑張って!

 

「!? ――はいっ、ありがとうございます!」

 

 

 受付嬢さんの言葉に頬を紅潮させ、元気に返事をする新人君。最近モデルチェンジして肩掛け式から背負い式(ランドセル)に変わった冒険者セットを揺らしながら、ヒラヒラと手を振る美貌の森人(エルフ)……叢雲狩人さんのところへと駆け出していきました。周りには同じように訓練場行きを希望する新人が集まり、早速お互いの自己紹介が始まっていますね。

 

 ダブル吸血鬼ちゃんたちの強引なテコ入れで始まった訓練場。冒険に役立つ知識や技術を学び、期間中の衣食住が保証された新人にとって非常に有難い施設です。また、一党(パーティ)を組む仲間を探す場としても有用であり、一緒に学ぶことで気の合う面子が集まり一党(パーティ)を結成する流れも出来つつあるようです。

 

 

「そんなん良いって! それよりも早く依頼を受けさせてくれよ!!」

 

「――では、あちらの掲示板から白磁等級向けの依頼を選んでください」

 

 

 ……まぁ、訓練場は強制ではありませんし、掛かる費用もそれなりにあるわけでして。周りへの迷惑も考えずに大声を出す若者に向ける受付嬢さんの表情は営業スマイル以外の何物でもなく、新人の品定めをする冒険者たちの目も冷めたものに変わっています。同じように依頼を探していたHFO2人と組んで窓口まで持ってきた依頼は……。

 

 

「――初めての依頼でしたら、下水道のどぶ攫いなどが良いと思いますが……」

 

「は? そんなん戦士(ファイター)のする仕事じゃないって! それよりもやっぱコイツを振るえるようなヤツじゃなきゃ!!」

 

「……判りました。ではこちらの『ゴブリン退治』で宜しいですね?」

 

 

 昨年あれほど駆除したというのに、また何処からか湧いて出たダブル吸血鬼ちゃんたちの最大の目標であるゴブリン。餌と孕み袋を求めて人里近くへ出てきたところを目撃され、既に何件もの討伐依頼がギルドに届いています。そのうちのひとつを受付嬢さんへと突き出し、自慢の相棒を手で示しながら自信ありげに頷く3人のHFO。そのまま追加の面子を募集することも無くギルドを後にする姿に、ギルドのあちこちから溜息が漏れてますね……。

 

 

「どうよ、今の3人」

「いやーきついでしょ。術師とは言わないけど、せめて斥候くらいは探さないと……」

「判り易いように首から聖印をぶら下げてたけど、ダメだったかー」

「ま、無事に戻ってきたら俺たちの目が節穴だったってだけさ」

 

 

 訓練場に行かず、すぐさま冒険に出る新人に対する最後のセーフティネットであるベテラン冒険者たち。彼らに一瞥を向けることも無く意気揚々と出て行った彼らの運命は、骰子の目次第でしょう。問いかけられれば答えるために待機していたベテランたちもやれやれと首を振ってますねぇ。冒険中の出来事はすべて自己責任、冒険が成功するかどうかは彼ら次第ということでしょう。

 

 

 

 なお半日後1人だけが半死半生で逃げ帰り、昨年訓練場で『洗礼』を済ませている黒曜等級たちが歯を見せる笑みを浮かべて後始末に向かったところ……粉々に砕かれた剣や鎧の残骸と、貪られて2人ぶんからだいぶ体積を減らしたミンチだけが見つかったそうです。ピカピカだった認識票は無残に歪み、戦利品(トロフィー)としてゴブリンが身に着けていたのを彼らが回収して来てくれました。

 

 


 

 

「そらヒヨッ子ども、走れ走れ! いくら『待ってくれ』って言ったところで敵は待っちゃくれねぇぞ!!」

 

「「「「「ひぃぃぃぃ!?」」」」」

 

 

 訓練場の外周をひたすらに走る新人たち。その後ろで木製の戦斧を頭上で振り回しながらサドい笑みを浮かべているのは元妖術師さんの同僚、現在はギルドの教官である戦斧士ですね! まだ肌寒いというのに新人たちは滝のような汗を流し、少なくない数の子はそれ以外の液体も流しちゃってます。ボロボロになり崩れ落ちる彼らに補給食を差し出す白鳥人(ヴァルフェー)は彼の奥さんでしょう、夫婦で飴と鞭を使い分けるナイスなコンビプレイです。

 

 

「――というわけで、文字が読めないばかりに借金を背負わされたり、農奴として劣悪な環境で働く羽目になる冒険者は後を絶たぬのです。努々お忘れなきよう……」

 

 

 講義室では同じく元同量の武僧さんが、読み書きの苦手な新人に対する書き取り授業の真っ最中。一党(パーティ)で誰か1人が読めれば良いじゃないかという声が上がるなか「その1人が報酬をちょろまかしていた際、気付くことが出来ますかな?」という迫真の返しが光っております。初級以上の科目である古代文字や他の種族の文字、言葉、文化などに関しては引き続き若草知恵者ちゃんが担当しているみたいですね。

 

 

 

「いいかー、美味いメシってのは降って湧いてくるこたぁねぇ。欲しけりゃ腕の良い仲間を見つけるか、自分で作るかのどちらかだ!」

 

「んでもって、料理の腕が良いヤツは同業者から一目置かれる。料理だけじゃあ()ェ、『アイツ自分と同じ等級なのに、なんでアイツばっかりチヤホヤされてるんだ』って時ぁ、そういう些細なところで差が付いてンだよ」

 

「……いざという時、目の前のモノが喰えるか食えないかの判断が出来るかどうかで一党(パーティ)の生存率が大きく変わる。それを覚えておけ」

 

 

 おお、食堂に併設された調理場では『辺境最強』と『辺境最高』、そして『辺境最優』による調理実習が行われています! 金等級夫婦3人に半森人軽戦士さん少年斥候君を加えた豪華面子で作っているのは牧場産のベーコンを主に据えた野草のスープでしょうか。うっかり食べられないポジ持ち植物を入れてしまったらすべてが台無しになってしまうリスクはありますが、やはり身体を温め容易にかさ増しの出来る汁物は大正義。ギルドから毎日支給される底の平たい麺麭(コッペパン)といっしょに新人たちが美味しそうに食べています。食堂で塗り放題の甘いジャムだけでなく、将来は揚げ物なんかを買って挟めるようになれると良いですね!

 

 

 ふむ、ギルド周りはこんな感じでしょうか。他の主だった面子に関しては、女魔法使いちゃんは英雄雛娘ちゃんを連れて、元牙狩りだった彼女のお父さんのことを訪ねに半鬼人先生のところへ。賢者ちゃんを通じて禁書の閲覧許可が出た妖術師さんはお目付け役の少女巫術師さんと一緒に知識神の文庫(ふみくら)に。白兎猟兵ちゃんは弟妹揃って畑をにんじん一色に染めんばかりの勢いで種蒔きに勤しんでいるそうです。

 

 というわけで、残った面子はダブル吸血鬼ちゃん、妖精弓手ちゃん、令嬢剣士さん、剣の乙女ちゃん、そして少女剣士ちゃんの6人。彼女たちが今何処に居るのかというと……。

 

 


 

 

「お逢いしたかったですわお姉様ぁぁぁぁぁっ!!」

 

「むぎゅっ!? ふわぁ……」

 

 

 ≪転移≫の鏡を抜けた直後にタッチダウンを決められた吸血鬼君主ちゃん。犯人のたわわに潰され藻掻いてましたが、やがてその柔らかさに敗北して静かに息を引き取りました。

 

 

 というわけで6人が顔を出したのは最早見慣れた王宮の一室・鏡の配置された部屋には賢者ちゃんに王妹殿下1号2号、半森人夫人さん、そして鷲頭(ワシズ)様の姿が。みんな先制攻撃を決めた神官銃士ちゃんを生暖かい目で見守って……。

 

 

 

 

 

 

「――聞きましたよ。一党(パーティ)に新たな生命を宿した方がいらっしゃると……」

 

「ヒエッ……」

 

 

 背後からの声にビクリと身体を震わせる吸血鬼侍ちゃん。ゆるゆると抱きしめる手付きは丁寧で、触れた指先から感じる熱は少女特有の温かいもの。獲物として見定められた草食獣のように身動きの取れなくなってしまった吸血鬼侍ちゃんの耳元に、甘く優しい囁きが……。

 

 

 

 

 

 

「えるぴょい、しましたね?」

 

「あ……う……」

 

 

「えるぴょい、しましたね?」

 

「えっと、その……」

 

 

 

「えるぴょい、しましたね?」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

「――ふふ、おめでとうございます!」

 

「……ふぇ?」

 

 

 全身から放たれていたプレッシャーが一瞬にして霧散し、クスクスと笑う女神官ちゃん。半泣き状態の吸血鬼侍ちゃんを優しく抱き寄せ、子どもをあやすように頭を撫でています。

 

 

「ちょっと悔しいし、とっても羨ましいですけど、愛する者同士が育んだ奇跡は祝福されて然るべきです! だから、お母さんも赤ちゃんも、ちゃーんと幸せにしてあげてくださいね?」

 

「……うん!」

 

 

 良かった、「えるぴょいしたんですか、私以外の女と……」なんて言い出す女神官ちゃんなんていなかったんた! どうやら脅かすのは事前に知らされていたようで、ダブル吸血鬼ちゃん以外のみんなはニヤニヤした顔で吸血鬼侍ちゃんを眺めていますね。

 

 担がれたことに対しぷくーとほっぺを膨らませて遺憾の意を示していた吸血鬼侍ちゃんですが、半森人夫人さんにナデナデされてあっという間に御機嫌吸血鬼(ヴァンパイア)になっちゃいました。義理のママに甘えるもうひとりの自分を見て羨ましくなったのか対抗して神官銃士ちゃんのたわわに頬擦りする吸血鬼君主ちゃんに苦笑を向けつつ、令嬢剣士さんと剣の乙女ちゃんが口を開きました。

 

 

「では、後は宜しくお願い致しますね」

 

「ちゃんとみんなの言うことを聞いてくださいね、頭目(リーダー)?」

 

「「はーい!」」

 

 

 そう言って頭を下げ、一足先に部屋を後にする2人。その後をに賢者ちゃん続いていきます。剣の乙女ちゃんは賢者ちゃんと一緒に陛下を始めとする王国の首脳陣との会合、令嬢剣士さんは軍からの要望で栄纏神さんの神殿建設と信徒の洗礼の為にお呼ばれされているそうです。

 

 放蕩貴族(アホボン)の一件や塚人覇王(ワイトキング)による死者の軍勢の騒動において一気に広まった栄纏神さんに対する信仰。その雄姿と活躍から将兵のなかに信徒が大量発生したのですが、現状奇跡を授かっている神官と呼べるのは令嬢剣士さんだけ。その信条がただ行動によって示されるとはいえ、せめて信徒として認めて欲しいということで洗礼の嘆願が数多く令嬢剣士さんへと寄せられていました。砦防衛戦に参加していた兵たちからたくさんの寄付が集まり、それを基に新たな神殿の建設が認められたんですね!

 

 運営方針としては傷痍軍人や教官職を辞した人を事務方として雇い、戦史研究や次代の戦略方針の立案、それから戦場で心を患った将兵のケアなどを担う事になる予定とのこと。いずれは令嬢剣士さんに続いて奇跡を授かる秩序の護り手が現れるかもしれません、楽しみですね!

 

 

「では私たちもそろそろ向かいましょうか、それで、その……」

 

 

 おっと、残りのメンバーも出発するみたいですが、半森人夫人さんの視線がとある2点を行き来してますね。

 

 一方は背中に少女剣士ちゃんを乗せた、吸血鬼君主ちゃんの使徒(ファミリア)である狼さん。とあるイベントに向け騎乗技能を磨いているため、ちょっと前から2人は行動を共にしています。吸血鬼君主ちゃんよりもちょっぴり重いですが、彼女には無いナイスたわわによって狼さんのテンションはいつでも絶好調、背中に感じるお尻の柔らかさも相まって非常にだらしねぇ顔をしていますねぇ。

 

 

 そしてもう一方は女神官ちゃんのハグから解放された吸血鬼侍ちゃんが跨っている奇妙な物体です。サイズは大きめのバランスボールくらい、吸血鬼侍ちゃんが全身を使ってしがみついてピッタリの大きさで弾力のある球形をしています。表面は柔らかく、黒っぽい半透明の内部には2つの黄色い(コア)のようなものが……。

 

 

「それ、もしかして粘体(スライム)ですか?」

 

「えへへ……うん、『エルダーブラックウーズ(古き漆黒の粘体)』! かみさまがくれたファミリアなの!!」

 

 

 ちょっと?万知神さん???

 

 

 

 

 

 

「ほう、これはなかなかの触り心地!!」

 

「でしょう? ひょうめんについたよごれはすぐぶんかいしちゃうからいつでもせいけつ! あかちゃんがかじってもあんしん!!」

 

「これは……人をダメにする柔らかさですね……」

 

「にゅにゅにゅ!」

 

「……あれ? いまこの子喋ってませんでしたか???」

 

「まさか! 粘体(スライム)が喋るわけありませんわ!!」

 

 

 みんなから興味深げにつつかれ身体をくねらす万知神さん特製の使徒(ファミリア)。神官銃士ちゃんなんか思いっきり顔を埋めてますが、吸血鬼侍ちゃんの言う通り溶かされる心配は無さそうです。

 

 とはいえそこは粘体(スライム)最上位種、アホみたいな属性耐性と物理攻撃をほぼ無効化する防御力は驚異的ですし、敵に対しての溶解攻撃はもちろん健在。普段は頭上の吸血鬼侍ちゃんが零した食べかすなんかを処理してくれてますが、主に似たのか駆除されたゴブリンなんかも嬉々として栄養に変えてくれる心強い相棒だそうです!

 

 ……他のみんなよりも啓蒙が高い女神官ちゃんは彼?の出す声を聴いてしまい宇宙猫みたいな顔に。ふふんと薄い胸を張る吸血鬼侍ちゃんを上に乗せた姿は可愛らしいスライムナイト……もといスライムサムライ! グッズ化したら売れそうなくらい可愛いですね!!

 

 

 

「みんな満足した? そろそろ行きましょ?」

 

「……はふぅ。そうですね、年甲斐も無く夢中になってしまいました」

 

「いや、私のほうが年上なんだけど……」

 

 

 満ち足りた顔で妖精弓手ちゃんへと微笑みかける半森人夫人さん。最後の方は吸血鬼侍ちゃんのおなかに顔を埋めつつ両手でウーズ君を揉みしだくという欲張りプレイをかましておいででした。ジト目の妖精弓手ちゃんに咳払いで答えつつ、キリッと真面目な顔になって立ち上がりました。

 

「会場までの馬車を手配してありますので、まずは門まで向かいますわ」

 

「えっと、ヘルルインが決闘した場所が会場だっけ」

 

「はい、皆さんそこに集まってますよ!」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんを胸元に抱いた王妹殿下1号2号を先頭に王宮を闊歩する色物集団。割と常識と羞恥心の残っている少女剣士ちゃんは真っ赤な顔で狼さんのもこもこに顔を埋め、妖精弓手ちゃんはウーズ君に騎乗してご満悦。ぽよんぽよんと上下しながら移動する上の森人(ハイエルフ)を見てしまった王宮勤めの役人たちが揃って前屈みになっているのはたぶん気のせいでしょう。

 

 王族仕様の立派な馬車に揺られること暫し、会場が近付くにつれ歓声や力強い掛け声が聞こえてくるようになってきました。いち早く察知した妖精弓手ちゃんが我慢出来ずに窓から顔を出した先には……。

 

 

 

 

 

 

 

「でやぁぁぁぁぁ!!」

 

「ほう、良い打ち込みだ! そのまま30本続けて見ろ!!」

 

「はいっ!」

 

 

 兵士を模した人形に力強い一撃を繰り出す下半身が馬の姿の若き男子。周りには順番を待っている男女が瞳を輝かせ出番を待っています。そして……。

 

 

 

 

 

 

 ワァァァァァァァァァ!!

 

 

「ただいまの試験(レース)、一着は4番! 途中まで先頭だった7番を抜き去り強烈な末脚を見せつけました!! 三着は2番、スタートの出遅れが響いてしまったみたいですね!」

 

 

 兵たちの外周では最速を競い、己の全てを賭けて走る少年少女たちの姿が! そう、此処は夢見る馬人(セントール)たちの試験会場です!!

 

 


 

 

「いやー、やっぱり馬人の女の子(ウマ娘)の走る姿はカッコいいわね!」

 

 普段のレースよりも近くで彼女たちの走りを見て興奮に長耳を震わせる妖精弓手ちゃん。そういえば以前も吸血鬼君主ちゃんと一緒にレースを観に行ってましたね。賭けは大負けだったみたいですが、とっても楽しんでいたと吸血鬼君主ちゃんが話していました。一着の子のところにはたくさんの勧誘人(スカウト)が集まり、誇らしげに自らの夢を語っているようです。

 

 

「おお、ようやく来たか! 待ちかねたぞ!!」

 

 

 お、この大きな声は……! 数人の騎士を引き連れ姿を現したのはオレンジ色の毛並みが特徴の獣人、王国が誇る最精鋭である黒色槍騎兵を率いる猪武人さんです!! 今回の試験を統括する責任者であると同時に、次代の黒色槍騎兵となる人材を自らの眼で確認しようと張り切っているみたいです。

 

 

「翁と夫人も一緒か。勧誘のほうは良いのか?」

 

「ええ、そちらは目利きに任せてありますので」

 

「カカカ、儂は元より売れ残り狙いよ! 安く雇った選手が自称識者の予想をひっくり返すほうが楽しいからのう!!」

 

 

 なるほど、2人が同行していたのは馬人競争の選手をスカウトするからだったんですね。少数をじっくり育てる半森人夫人さんと、広く選手を集めて埋もれた宝石を探す鷲頭様。方針に違いこそあれ2人とも選手を大切に扱うオーナーみたいで良かったです!

 

 

 

 馬と人の相を併せ持つ馬人(セントール)。その姿は多様であり、二脚、四脚の違い以外にも体格や筋力などによって個体差が大きいのが特徴です。一方で男女による能力の差は小さく、筋力自慢の只人(ヒューム)を赤子の手をひねるように組み伏せる馬人の女の子(ウマ娘)も珍しくありません。その血統に誇りを持ち、生来の臆病な性格を過酷な訓練で克服し、戦場を駆ける勇者を生み出す。そして、その血を次代へと繋ぐことが至上とされる独特の価値観を持っているのも重要な点ですね。

 

 そんな彼らと協力し、兵として雇い入れることを始めたのが十数年前に軍の指揮権を握っていた金髪の陛下でした。混沌の勢力との戦いを経て今では同盟といっても差し支えない関係を築いた王国と馬人(セントール)たち。特にその性質上獣人の割合が多い黒色槍騎兵は彼らにとってあこがれの存在であり、重層鎧に身を包み矢でも魔法でも止まらない漆黒の槍は敵対する者にとって恐怖の象徴です。

 

 なお前線でのトラブルを防ぐべく女性の参加を認めていない黒色槍騎兵ですが、彼らを支える輜重部隊を希望する体格に優れた馬人の女の子(ばんえいウマ娘ちゃん)も多くいるそうです。見上げるほどに大きく、筋肉モリモリの姿でありながらも純朴な笑みを浮かべて糧食を運んで来てくれる彼女たちに性癖を破壊される兵士は多く、退役後はお嫁さんとして引く手数多なんだとか。

 

 そんな馬人(セントール)たちが憧れるもうひとつの職業は、視聴神さんたちも大好きな競技者の道! 華麗な勝負服に身を包み、汗と涙を流しながら駆ける馬人競争は王国でも大人気。上記のように強い女性に抱きしめられたい男性人気はもちろん、男性競技者も女性たちのアイドルです。コースを周回する間に各々が繰り出す挨拶に黄色い悲鳴が飛び交うのは日常茶飯事。昨年人気投票で一位になったのは年間レースすべてで最下位の『麗らかな春』を思わせる馬人の女の子(ウマ娘)だったそうです。

 

 

 

「むふ~! ごわごわ~」

 

「それで、ぼくたちをよんでくれたりゆうって?」

 

 

 猪武人さんに跳び付き、スキンシップを堪能する2人。吸血鬼侍ちゃんの言葉を信じるなら、今回2人を招いたのは彼なのでしょう。首にしがみつく2人をそっと引き剥がし地面に降ろした彼の表情はこれまでになく真剣なもの。みんなの視線を受け、猪武人さんがその理由を語り始めました……。

 

 

「……卿ら、あそこの少女が見えるか? 彼女を見てどう思う?」

 

 

 猪武人さんの太い指が示す先、そこには二脚の馬人の女の子(ウマ娘)の姿がありました。

 

 

「てやぁぁぁ!」

 

 

 掛け声とともに振り下ろされる木剣。しかし人形を打つ一撃には他の馬人が有する重さは無く、せいぜいが只人(ヒューム)の兵士と同程度。休息もそこそこに続けて競技者選抜の試験(レース)にも参加しますが。やはり他の選手に比べるとその速度は見劣りがします。滝のように汗を流しながらもキッと前を睨む目には強い意志を感じますが……おや、もしかして……。

 

 

「うーん……アレ? あの子なんか違う……」

 

 

 お、一番最初に気付いたのは妖精弓手ちゃんですね。彼女が見ているのは少女の足元、他の子が素足なのに対し、少女だけが頑丈そうなブーツを履いています。それに気付いた吸血鬼君主ちゃんが少女の正体に思い至ったようですね。

 

 

「もしかして、ハーフなの?」

 

「うむ。馬人(セントール)の女王と只人(ヒューム)の冒険者の間に産まれた、ただ1人の王族。王国周辺の部族を取り纏めている馬人たちの代表だ」

 

 

 猪武人さんの視線に気づき、ゆっくりとクールダウンしながら歩み寄る少女。汗と泥に塗れながらもその歩みは決して止まることはなく、身体の内より生ずる活力は光背(ヘイロー)のように少女を輝かせています。集団の中に王妹殿下1号2号がいることに僅かに驚きを見せましたが、すぐに優雅な一礼をするあたり礼儀(エチケット)に対しても長じているのが判りますね。

 

 卒なく挨拶を交わした後、下からの視線に気付いた彼女の目にはキラキラした顔で見上げるダブル吸血鬼ちゃんが。その尊敬に満ちた顔に対し少女がとった行動は……。

 

 

 

 

 

 

「ふふ、どうやら私のファンの子みたいね! ――いいわ、あなたたちにこの『(キング)』を称える権利をあげる!!」

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 


 

 

 ええ、ええ、はい……そこは十分に注意してますから! どうぞご心配なく!!

 

 ふぃ~。まさかGM神さんと並んでセッション進行における絶対の権利を持つGL(ガイドライン)神さんから連絡が来るとは……!

 

 普段はR18になりそうな時にだけ顔を出す方ですが、流石に今回は出張ってきちゃいますよねぇ……。

 

 というわけで、今セッションの重要キャラである彼女は残念ながら攻略対象ではありません!

 

 ……でも、同じ『(キング)』を名乗る者同士、仲良くなるのは良いですよね? ね?

 

 





 温泉でリフレッシュしてくるので失踪します。

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。読んでくださった方からの反応がモチベに繋がりますので、是非にお願いいたします。。


 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその18-2


 職場環境が激変していたので初投稿です。



 

 前回、『(キング)』が華麗に登場したところから再開です。

 

 額に貼り付く前髪もそのまま、自身に満ちた笑みで言い放つ馬人の女の子(ウマ娘ちゃん)動きやすい服装(体操着&短パン)でありながらも何処か優雅な佇まい、その動きの端々からは気品が感じられます。

 

 良く鍛えられた肉体は瑞々しい生命力に溢れており、同じ自然が生み出した芸術である妖精弓手ちゃんをはじめとする森人(エルフ)たちが持つ静的な美しさとはまた違った美しさを観る者に抱かせるもの……お、彼女の声を聞いた馬人(セントール)たちが集まって来ましたね!

 

 

「やりました! おれ、黒色槍騎兵隊の入隊試験に受かりました!!」

 

「私もスカウトされました!」

 

 

 息を切らせ、汗まみれの顔で誇らしげに笑う少年少女。夢への第一歩を踏み出した子たちがいる一方、結果を出せなかった子もいるわけでして……。

 

 

「すみません、『まだお前では力不足だ』って言われちゃいました……」

 

「グスっ、スタートで出遅れちゃって……」

 

 

 堪え切れぬ悔しさで俯き、涙を流す勝利を掴めなかった子たち。勝者と敗者、どちらも集まってくるあたり彼女が如何に慕われているかが伺えますね。明暗分かれた顔ぶれを前に、『(キング)』を自称する馬人の女の子(ウマ娘)――以後は光背王(キング)ちゃんと呼びましょうか――は大きく息を吸い、そして……。

 

 

「みんな、まずはお疲れ様!」

 

 

 一息に放たれた力強い声。聴衆を引き込む威厳と少女特有の可憐さを併せ持つそれは天性の魅力(カリスマ)と言えるでしょう。皆の視線が集まったところで、彼女は言葉を紡いでいきます。

 

 

「上手く結果を残せた子はおめでとう! でもこれは終着地点(ゴール)じゃないわ。今日の勝利に慢心せず、常に自らを磨き続けなさい!!」

 

「そして、残念な結果になった子たち。負けたことは悔しいかもしれないけど、必要以上に落ち込んじゃダメよ。その悔しさを力に変えて、次に備えなさい!」 

 

 

 激励の言葉に顔を上げる夢叶わなかった馬人(セントール)たち。浮かぶ不安を一掃するように、眉を立てた笑みで光背王(キング)ちゃんが宣言するのは……。

 

 

「――大丈夫、あなたたちなら出来るわ。だって、みんながとっても頑張っているのを私はずっと見てきたもの! それとも、この『(キング)』の言葉は信じられないかしら?」

 

 

 

 

 

 

「もちろんです! ぜったい諦めたりしません!!」

 

「次の機会(チャンス)に備えて、みっちり鍛え直しますッ!」

 

「おれたちだって! 此処が出発地点(スタート)なんだ!!」

 

「夢を掴み取るまで、走り続けますッ!」

 

 

 次々に叫ばれる決意の表れに笑みを深める光背王(キング)ちゃん。皆の盛り上がりが最高潮に達したところで始まったのは……!

 

 

「さぁ、皆を信じる私はーっ!?」

 

 

光背(ヘイロー)を受け継し血統っ!」

 

「みんなが憧れる一流のウマ娘(セントール)!!」

 

「我らが『(キング)』ッ!」

 

 

「「「「キーング! キーング!! キーング!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

「……あの子、ただの兵士にするのは勿体無くない???」

 

「お兄様とはちょっと違いますが、あれもまた『王の器』というものなのでしょうね」

 

 

 会場中に響き渡るキングコールに目を丸くする妖精弓手ちゃん。いつのまにやら馬人(セントール)だけでなく、黒色槍騎兵隊の将兵や競技(レース)関係者までコールに参加しています。ちっちゃな身体をぴょんぴょんさせながら一緒に盛り上がっているダブル吸血鬼ちゃんを微笑まし気に眺めつつ、女神官ちゃんが光背王(キング)ちゃんの類稀なる素質を見抜いていますね。

 

 

「そういえば、なんで『女王(クイーン)』じゃなくて『(キング)』なのかしら? 女の子なのに」

 

馬人(セントール)は性差による身体能力の差が殆ど無くてな。それに部族の長の呼び名は周りが適当に言い出したもので決まるようで、かつては『(キング)』以外にも『帝王(エンペラー)』や『(プリンセス)』、『若造(ボーイ)』なんてのもあったらしいぞ、上の森人(ハイエルフ)の姫よ」

 

 

 おお、隊員に馬人(セントール)が多いからか詳しいですね猪武人さん。キングコールが落ち着いたのを見計らって光背王(キング)ちゃんを大声で呼ぶと、くるくる周りを回るダブル吸血鬼ちゃんを衛星のように引き連れて戻って来ました。

 

 

「御免なさいね、待たせてしまって。落ち込んでた子たちもこれで大丈夫でしょう」

 

「みんなえがおになってたね!」

 

「おうさまはすごいね!!」

 

「ええ、そうよ! 思い悩む子たちを導いてこその『(キング)』ッ! 『(キング)』は決して諦めたりしないわ!!」

 

 

 

 

 

 

「――で、あれば。お前もまた『王』に導かれるべきだ、若き馬人(セントール)の長よ」

 

 


 

 

「――つまり、この私に冒険者の真似事をしてみろってこと?」

 

「そうだ。……ハッキリと言わせてもらうが、(俺達)ではお前を並の兵士にすることは出来ても一流には鍛えられん。それは競技(レース)に関わる者たちだってそうだろう。どちらも只人(ヒューム)、或いは馬人(セントール)に対する教えしか持ち合わせていないからな」

 

「……混ざり者(ハーフ)の私じゃ、一流にはなれないって言いたいのかしら」

 

 

 猪武人さんの言葉に長耳を後ろに絞り、無意識のうちに爪先で地面を削る光背王(キング)ちゃん。瞳に浮かぶ怒りの奥には僅かながらの諦念が見え隠れしています。自分を慕う馬人(セントール)たちに混ざって受けた試験において平均以下の結果しか残せなかったことが彼女の心中に暗い影を落としているのでしょう。そんな光背王(キング)ちゃんの様子に猪武人さんは首を横に振り、彼女の勘違いを否定します。

 

 

「いや、そうではない。お前を一流に出来ないのは俺たちの力不足が原因だ。――だからこそ、卿らに彼女を任せたいのだ。……頼む」

 

 

 鬣のような剛毛に覆われた頭を下げた先は、ダブル吸血鬼ちゃんを始めとする冒険者一党(パーティ)。ダブル吸血鬼ちゃんが周りを見渡せば、グッとガッツポーズを返してくる王妹殿下1号2号と少女剣士ちゃん。ニヤニヤと笑う鷲頭様の隣では半森人夫人さんが卑猥なハンドサインを……って、光背王(キング)ちゃん相手にそれは絶対にダメですからね!?

 

 

「さて。シルマリル、ヘルルイン。困っている女の子が目の前にいるけど……どうしたい?」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんの肩に手を置き、悪戯っ子のように笑う妖精弓手ちゃん。2人の返事はもちろん……。

 

 

「わかった! ぼくたちにまかせて!!」

 

「ぜんりょくでおてつだいするね! いっしょにがんばろう!!」

 

 

 矢よりも速く飛び出し、左右から光背王(キング)ちゃんを抱きしめるダブル吸血鬼ちゃん。そりゃもう汗まみれになって頑張る女の子なんてダブル吸血鬼ちゃんの大好きなタイプですものね! 唐突なハグに目を白黒させていた光背王(キング)ちゃんも瞳に力を取り戻したみたいです。

 

 

「――ふふ、いいわ! あなたたちに『(キング)』を鍛える権利をあげるわ!! 遠慮なんかいらない、トコトン鍛えてちょうだい!」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんを左右に抱え、高らかに宣言する光背王(キング)ちゃん。一頻り2人をぶん回して満足したところで、思い出したように彼女が問いかけたのは……。

 

 

「……そういえば、さっき『王』に導かれるべきだって言ってたわよね。知らなかったわ、私と陛下以外にもこの国に『(キング)』がいるなんて」

 

「そうだね~」

 

「ぼくたちもみたことないかなぁ。……みんなはあったことあるの?」

 

 

 ……え?

 

 

「えっと、お姉様?」

 

「さすがに冗談ですよね?」

 

 

 2人に視線を向けられ、頬を引き攣らせる王妹殿下1号2号。妖精弓手ちゃんと半森人夫人さんは頭を抱え、少女剣士ちゃんと鷲頭様は我慢出来ずに笑い転げています。緊迫した空気の中、隊員に背中を押された猪武人さんがみんなを代表してダブル吸血鬼ちゃんに真実を告げます……。

 

 

 

「――『不死王』を名乗る吸血鬼(ヴァンパイア)や恐るべき死霊術師(ネクロマンサー)であった『塚人覇王(ワイトキング)』を滅ぼし、王国の平和と秩序を守護する善き吸血鬼(ヴァンパイア)。『昏き太陽の子(ブラックサン)』『暗月の騎士(シャドームーン)』の呼び名とともに、2人の吸血鬼の『王』(ヴァンパイアロード)の存在は混沌の連中にとって『死』と同義なのだぞ、卿ら……」

 

「「えへへ……そうなんだー」」

 

「ふぅん、あなたたち2人が吸血鬼の王(ヴァンパイアロード)……って、えええええ!?

 

 

 またしても何も知らないダブル吸血鬼ちゃん(1X)。知らないのは2人だけなんだよなぁ……。

 

 2人のぽわぽわっぷりに一同が言葉を失うなか、光背王(キング)ちゃんの驚愕の声が会場に響くのでした……。

 

 


 

 

 あの後なんとか落ち着きを取り戻した光背王(キング)ちゃんを説得し、半森人夫人さん&鷲頭様と別れ自宅へと帰還した一行。剣の乙女ちゃんは泊まり込みで会議のため別行動、令嬢剣士さんは実家に泊まりながら暫くは栄纏神さんの神官として軍での布教活動……いや、あれはもはや軍事教練ですね……に従事するそうです。久々の休みを勝ち取った王妹殿下1号2号はダブル吸血鬼ちゃんを抱えてご満悦。しばらくは此方に留まるつもりみたいですね。

 

 ≪転移≫の鏡で酔うことも無く、牧場へとやってきた光背王(キング)ちゃん。まずはみんなに挨拶を、と自宅から外にでたところ……。

 

「あ、パパとママかえってきたー!」

 

「しらないおねえちゃんがいっしょだー!!」

 

「みたことないおみみとしっぽだー!!!」

 

「え、ちょっ、うにゃあぁぁぁぁぁぁ!?

 

 

 ……ちょうど外で遊んでいた子どもたちと鉢合わせ。ウサ耳でもエルフ耳でもない長耳を見たみんなは大興奮、我先にと彼女に群がりあっというまに芝と砂だらけになっちゃいました。慌てて割って入ろうとしたダブル吸血鬼ちゃんも子どもたちのパワーには勝てず押し倒され、一緒くたにドロドロになってますねぇ。

 

 

 

「こーら! お客様に失礼しちゃダメでしょ。ちゃんとおねえちゃんに『ごめんなさい』して?」

 

「「「「「ごめんなさーい」」」」」

 

「え、ええ! 『(キング)』は寛容だからその謝罪を受け入れてあげるわ!! でも、流石に身を浄めたいのだけど……」

 

 

 試験会場から直で来たうえにちびっこのタックルをもろに受け、泥化粧の似合う光背王(キング)ちゃんも汚れが気になるみたいですね。……おや、頬に付いた草を摘まみ上げる彼女の周囲をちびっこたちが取り囲みました。どうやら泥んこにしたお詫びに、自慢のお風呂へ案内するみたいです! 浴室へと連れて行かれる光背王(キング)ちゃんの後を着替えを持ったダブル吸血鬼ちゃんたちが追いかけていきました。

 

 

 

 

 

 

「――怪我の治療で湯に浸かることはあっても、こうやって身を浄めるために入るのは初めてね……」

 

「ふふ、気持ち良いでしょ? まぁ私も最初はビックリしたんだけどねぇ」

 

 

 例によって洗いたがりな妖精弓手ちゃんの手で全身余すところなく綺麗にされ、赤くなった顔で浴槽へと身を沈める光背王(キング)ちゃん。やり遂げた顔の2000歳児(子持ち)がその隣に腰を下ろし、ふにゃりと蕩けた顔で全身を弛緩させています。

 

 

「つーかまーえた!」

 

「えい、あわあわー!」

 

「「きゃー♪」」

 

 

 洗い場では大きな木桶に『あわあわ』を準備したダブル吸血鬼ちゃんが、子どもたちを1人ずつ捕まえて泡塗れにしています。森人(エルフ)秘伝の『あわあわ』は全身洗いに対応した優れもの、目に入っても沁みず、髪の毛やデリケートな長耳も『あわあわ』だけで大丈夫なんだとか。吸血鬼君主ちゃんに耳を丁寧に洗ってもらっている星風長女ちゃんが気持ち良さそうに鼻歌を歌っていますね。

 

 パパ大好きな叢雲次女ちゃんはパパに対して身体を用いた全身洗いを要求、吸血鬼侍ちゃんが泡だらけの叢雲次女ちゃんを抱きしめ、四肢やぺったんこな胸で全身を洗ってあげています。全身泡塗れになった子たちは少女剣士ちゃんが頭から湯をかけて『あわあわ』を落とし、浴槽の縁で待機していた王妹殿下1号2号にパスしてますね。

 

 

「えぅ……あし、つかない……」

 

「大丈夫、私と一緒に入りましょうね」

 

 

 女神官ちゃんにしがみついているのは白兎四女ちゃん。冬の間は全身を覆っていたふわもこは夏毛に変わり、とうとう毛並みが判明しました。ママである白兎猟兵ちゃんと同じで、長耳と尻尾だけが獣の相を残しています。……原作(ほんへ)では四肢の先端も毛に覆われていましたが、銃器を使いやすいように設定改変があったみたいですね。

 

 

「驚いたでしょ? こーんなに私たちの血族(かぞく)が多くって!」

 

「そうね……私たちの場合、より良い血を残すために近しい者同士で結ばれることが多いのだけど。……まさか種族の違う、それもアンデッドと子を為すなんてね」

 

 

 妖精弓手ちゃんから聞いたダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)爛れた特異な繋がりに驚きを隠せない様子の光背王(キング)ちゃん。血統主義に傾倒した馬人(セントール)からすれば、異なる種族同士の婚姻は血が薄まる原因にしか見えないのかもしれません。

 

 

「でも、先代の長である私の母は只人(ヒューム)の父を(つがい)の相手として選んだ。2人とも早くに亡くなってしまったから後継ぎは私しかいないのだけど、母はどうして父を選んだのかしら……ひゃん!?」

 

 

 おっと、考え込んでいた光背王(キング)ちゃんのたわわに神官銃士ちゃんの腕から抜け出した若草三女ちゃんが衝突しちゃいました。器用に浴槽内を泳いできた三女ちゃんですが、顔の下半分をたわわに預けた状態でなにやら考えているみたいです。引き剥がして良いものか考えている光背王(キング)ちゃんの眼下でスンスンと鼻を鳴らしていましたが、やがて確信を得たのかたわわの持ち主と視線を合わせました。

 

 

「おねえちゃん、パパと、それからあっちのおねえちゃんとおんなじ、おひさまのにおいがする。……このにおい、すき♪」

 

 

 たわわに顔を埋めながら三女ちゃんが示したのは、吸血鬼君主ちゃんと神官銃士ちゃん。……つまり、光背王(キング)ちゃんも太陽神さんの信徒ということなんでしょうか? 彼女の言葉で何かに気付いた光背王(キング)ちゃんが手を伸ばしたのは、自身の右耳飾り。丁寧に外されたそれは表面の擦り切れた小さな金色のメダルです。サイズこそ異なるものの、それは吸血鬼君主ちゃんや太陽戦士さんが持つ聖印(シンボル)とよく似ていますね。

 

 

「これは、父の形見なの。王都の冒険者ギルドに問い合わせても判らないほど等級が低かったらしい父の、唯一の手掛かりなのよ」

 

 

 ふーむ、猪武人さんは『父親は冒険者』って言ってましたけど、そんなに有名な人じゃなかったんですかね? どうやら冒険者登録票が無いうえに名前も平凡だったため、該当する人物が多過ぎて特定出来なかったみたいです。

 

 

「私が物心ついた時、母は既に亡くなっていたわ。父も私が産まれる前に……。生前母は友人に『混沌の軍勢との戦いの最中、危ういところを助けてもらったのがあの人との出逢いなの』って話してたみたいだけど、本当は……私は、愛する2人の間に産まれた生命じゃなかったのかもって……」

 

 

 聖印を胸に掻き抱きながら滔々と語る光背王(キング)ちゃん。試験会場で見た王気(オーラ)満ちた姿とは異なる、自らの出生に悩む1人の少女の姿が其処にはありました……。

 

 

 

 

 

 

「――よし! じゃあ探してみましょ、あなたのお父さんを知る人を!!」

 

「……え?」

 

 

 勢いよく湯から立ち上がり、宝石のような肢体を惜しげも無く晒しながら言い放つ妖精弓手ちゃん。色々見えちゃいけないところまで見せちゃってる彼女から目を逸らしながら、光背王(キング)ちゃんは力無く首を横に振ります。

 

 

「そんな、軍や冒険者ギルドでも判らなかったのよ。それに父が冒険者だったのは20年近く前の話、それを知っている人なんて……」

 

 

 出来る限りの手は既に打ったのでしょう。否定の言葉を紡ぐ彼女。しかしそれをよしとしない者こそが……。

 

 

 

 

 

 

「――おもいなやむこをみちびいてこそのキングッ!」

 

「キングはけっしてあきらめたりしない!!」

 

 

 

「「……それとも、このキングのことばはしんじられない?」」

 

「あ、あなたたち……っ」

 

 

 ――そう、『(キング)』と呼ばれるのですから!

 

 


 

 

「――というワケで、この子のお父さんのこと、お父さんを知っている人をみんなで探しまーす!」

 

「はぁ……また勝手にそんなコト決めて……」

 

 

 お風呂から上がり、泊りの人以外が揃ったおゆはんの席でそうのたまう妖精弓手ちゃんに対し、呆れた様子で額に手を当てる女魔法使いちゃん。……口ではそう言ってますが、その口の端が緩んでいるのがバレバレですねぇ。

 

 

「でもさ、ギルドに記録が残ってないんじゃ探すの難しくない?」

 

「冒険者の活動期間は然程長くはない、それが只人(ヒューム)なら猶更のことだ。数年なら兎も角、20年近く前となると既に引退している者が多いのではないか?」

 

 

 妖精弓手ちゃんが感情で突っ走っていると判断し、冷静に指摘する妖術師さんと闇人女医さん。2人の指摘はもっともです。短期間で驚くほどの成長を遂げる反面、能力の低下が早いのも只人(ヒューム)の特徴。とくに入れ替わりの激しい低等級ともなれば昨日見た顔が居なくなっていることも珍しくありません。ですが2人の冷静な意見を聞いてなお、妖精弓手ちゃんの自信ありげな表情を保ったままです。

 

 

「そうね、『記録』は当てにならないと思う。だから、本命は『記憶』よ」

 

「『記憶』……当時を知る冒険者を探すということでしょうか?」

 

「うん。冒険者もそうだけど、それ以外にも繋がりは残ってると思うの。そうね……例えば、私たちみたいな長命種(エルダー)だったり、おなじ太陽神の信仰だったりとか」

 

 

 なるほど! 冒険として記録されていなくても、何らかの活躍をしていればそれは誰かの記憶に残っているかもしれません。神話の時代から世界を見続けてきた上の森人(ハイエルフ)らしい発想ですね!!

 

 

「となると、話を聞く相手はまずベテランの冒険者、それに各種族の名士たちでしょうか……」

 

「太陽神の信徒ということでしたら、神殿長様も何かご存知かもしれませんわ!」

 

「あとは……あ! 旦那さまのお友達の太陽万歳な方とかもどうでしょうか!!」

 

「白金等級の皆さんも何かご存知かもしれませんね!」

 

 

 次々に出てくる調査対象の数に目を丸くする光背王(キング)ちゃん。部族の中、あるいは軍部だけでは知ることの無かった世界に驚きを隠せていない様子です。浮かんできた涙を慌てて袖口で拭い、赤くなった瞳で一行を見回し深々と頭を下げました。

 

 

「みなさん……ありがとう……っ!!」

 

「いいのいいの! 私たちが好きでやるんだもの、だから頭を上げてちょうだい?」

 

 

 明るく笑う妖精弓手ちゃんに促がされても、なかなか頭を上げようとしない光背王(キング)ちゃん。そんな彼女に近付く小さな影が……。

 

 

「む~……おうさまらしくない!」

 

「もっとカッコよく、しけんかいじょうのときみたいなのがいい!!」

 

「……ふふ! ええ、そうね。それじゃあ私らしく……!」

 

 

 左右にダブル吸血鬼ちゃんをぶら下げ、大きく胸を張る光背王(キング)ちゃん。そして高らかに言い放つのはもちろん……!

 

 

「――いいわ、あなたたちにこの『(キング)』を支える権利をあげる!!」

 

 

 

 

 

 

「え、なにあの可愛い生命体? 滅茶苦茶に撫でくり回したいんだけど???」

 

「すごいですよね、みんなに慕われるのが良く判ります」

 

「あぁ、我が主に気に入られる理由が魂で理解出来たよ……!」

 

 

 ……うん、一党(パーティ)からの反応は上々ですね!(白目) どうやら光背王(キング)ちゃんのカリスマ()によってみんなメロメロになっちゃったみたいです。ダブル吸血鬼ちゃんのが始めたコールを子どもたちが真似して、自宅はキングを称える声でいっぱいになっています。

 

 

「それじゃあ、明日からみんなで手分けして……」

 

「いや、それは許可出来ない」

 

 

 ……おっと、妖精弓手ちゃんの音頭に割り込むように手を挙げたのは闇人女医さんですね。膨らんだおなかをニットワンピースに包み、その上から白衣を着たセクシーな服装です。ヒラヒラと動かしている片手にはおゆはん前に光背王(キング)ちゃんを診察したときのカルテを持っています。カルテを皆に見えるように机に並べ、診断内容を示しながら彼女の口から出たのは……。

 

 

 

 

 

 

「無茶な訓練(トレーニング)と休息不足で貴様の身体はボロボロだ。最低でも一ヶ月は訓練(トレーニング)を禁止させてもらう。もしそれが嫌だというのなら……」

 

 

 ちょいちょいと光背王(キング)ちゃんを手招きし、近寄ってきた彼女の耳元で何事か囁く闇人女医さん。その言葉を聞いた光背王(キング)ちゃんの顔がみるみるうちに真っ赤になっていきます。

 

 

「さぁどうする? 休息期間をちゃんと守るか、それとも()()()()()()()()()……」

 

 

「わわわわ判ったわ! ちゃんと休む!! それにそういうのはホラ、愛し合う者同士でするものでしょう!?」

 

 

 あっ(察し)。蕃茄(トマト)の如く真っ赤な顔で休むことを誓う光背王(キング)ちゃんの後ろでは、太陽神さんと万知神さんさんからの託宣(メッセージ)を受け取ったダブル吸血鬼ちゃんが安堵の表情を浮かべています。

 

 ……GL(ガイドライン)神さんの設けた禁止事項に抵触してしまったら最後、物語(キャンペーン)はひっそり幕を閉じることになってしまいますので……。

 

 

 闇人女医さんとの話し合いの結果、まず一ヶ月間はしっかりとご飯を食べ、よく眠り、子どもたちと遊ぶことに。その後は畑仕事などと並行して軽い負荷から開始するそうです。

 

 

「まぁ気長にいきましょ? 私の探してる相手もいつ現れるか判らないし、みんなそれぞれ依頼や教官の仕事もあるし」

 

「まずはリフレッシュしてから!」

 

「みんなのつくるごはんはおいしいから、ふとりすぎちゅういだよ!」

 

「まさか! この『(キング)』に限ってそんなコトありえないわ!!」

 

 

 

 

 

 

 ――半月後、借りていた部屋着からお腹がはみ出したため、闇人女医さんに土下座して訓練(トレーニング)開始を前倒ししてもらった『(キング)』の姿があったそうな……。

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 今後の働き方について考えるので失踪します。


 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。モチベーションの低下が酷く更新に時間がかかってしまいました。やる気アップに繋がりますので、感想や評価を是非お願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその18-3


 大変お待たせいたしました。転職活動で忙しかったので初投稿です。


 

 前回、光背王(キング)ちゃんがBS:太り気味になっちゃったところから再開です。

 

 時計の針がちょっとだけ進み、緑色濃くなった西方辺境。牧場も青々とした牧草に覆われ、畑に植えられた作物はグングン成長しています。日ごとに背を伸ばす彼らに追い付かんと、子どもたちもどんどん大きくなってますね!

 

 

「それじゃあ、あされんをはじめま~す!」

 

「じゅんびうんどうはしっかりとね~!!」

 

 

 太陽神さんが『もう辛抱たまらん!』と顔を出し始めた頃、牧場に響き渡るダブル吸血鬼ちゃんの声。夜明け前の澄んだ空気の中、お揃いの運動着に身を包んだ集団が協力してストレッチをしていますね。

 

 

「ふわぁ……昨晩もご主人様が激しかったから、まだ眠いんだけどねぇ……」

 

「ナニ言ってんの。一晩中あの子を貪ってたのは自分でしょうが、馬鹿義姉(ばかあね)

 

 

 半分寝ているような顔つきで地面に座り、上体前屈をしている叢雲狩人さん。その背を押している女魔法使いちゃんが呆れたようにツッコミを入れてます。上体がペタリと地面に付くほどの柔軟さとその背に押し付けられたゆんと形を歪めるたわわを見せつけられ、体操服&ブルマ姿の王妹殿下1号2号が崩れ落ちていますね。

 

 

「うう……また昨日もお預け……ッ!」

 

「こんなの、生殺しですのよーッ!!」

 

「「「わーい、かけっこだー!!」」」

 

 

 ……どうやら連日の交渉の結果『ほっぺすりすり』や『ちゅー』『あむあむ』までは達成できたものの、本番までには至らず2人とも欲求不満みたいですね。悶々とした感情を発散させるように駆け出すその背中を、ちょうちんブルマ姿の眩しい白兎猟兵ちゃんの妹たちが楽しそうに追いかけています。

 

 

「ったく、朝から元気なこって。――姫サンもいい加減慣れてきたみてぇだな?」

 

「そうね。最初は驚いたけど……より良き血を繋ぐために複数の相手と(つが)うのは、私たち馬人(セントール)も同じだもの」

 

「……マジか」

 

「でもそれももう限界。近親での交配が進み過ぎて、怪我や病気に罹りやすい子が増えてきているの。――濃くなり過ぎた血を薄め、新たな活力を得る。お母様が只人(ヒューム)のお父様と(つが)ったのにはそういう意図もあったんだと思うわ」

 

 

 兎人(ササカ)のおちびさんたちに追い付かれもみくちゃにされている王妹殿下1号2号を眺めながら呟くのは、色違いの青い運動着(ジャージ)に身を包んだ槍ニキですね。念入りに柔軟運動を行う光背王(キング)ちゃんに軽口を向け、返ってきた馬人(セントール)の夜戦状況にちょっと引いているみたいです。

 

 彼女の言う通り、馬人(セントール)の社会は血統を重視し優秀な者同士での交配が進むあまり、無数にあった氏族はいまや片手で数えられる程度。遠くない将来血の行き詰まりが発生するのは避けて通れなくなっています。遠い地方から別の氏族を招き、血を交換するなど対策を講じてはいるようですが、環境が変わり体調を崩したり、なかなか子を授かれないなど上手くいっていない様子。

 

 

「なるほど、そこで、『豊穣の秘薬』の、出番なわけ、ですね~」

 

「そっか! 種族はそのまま、相手の特徴……新たな因子を、継承出来る!!」

 

「女の子、しか、産まれないのは、まぁ、仕方ないです、けどね~」

 

 

 2人の傍で納得がいったように頷いているのは、背中合わせになって担ぎ合いをしていた圃人(レーア)コンビですね。少女剣士ちゃんが上になるたび、ちっちゃな体格でありながらしっかりと存在を主張するお山が体操服を押し上げています。それを目撃した光背王(キング)ちゃんが真っ赤になって目を逸らした先は2人の足元ですね。

 

 

「やっぱり、走るのに適した脚をしているのよね、2人とも……」

 

「うん、まあね。靴を履かずに素足で駆け回るのが圃人(レーア)だから」

 

「すっごいカチコチなので、頭目(リーダー)さんみたいなプニプニが羨ましいんですけどね~」

 

 

 羨望交じりの言葉を受け、面映ゆそうな顔で足裏が見えるようにポーズを取る圃人(レーア)コンビ。圃人剣士ちゃんは見事なI字バランスですし、圃人巫術師さんも軽々とY字バランスを決めてます。頑強さと柔軟性を併せ持つナイスな圃人(レーア)ボディですね!

 

 王都の試験会場で見た通り、只人(ヒューム)馬人(セントール)のハーフである光背王(キング)ちゃんの脚は只人(ヒューム)のそれ。ウマ耳と尻尾以外は只人(ヒューム)との外見的差異は殆どありません。だからこそ軍では彼女の才能を磨くことが出来ないと判断され、ダブル吸血鬼ちゃんたちに託されたわけです。俯いて自らの足元を見つめる光背王(キング)ちゃん。前髪で隠れ表情の見えない彼女に、槍ニキが挑発的に声を掛けます。

 

 

「……だが、そこで諦めるのは性に合わない。だろう?」

 

「――そうよ、私は『(キング)』! 躓き転び、泥に塗れても、決して頭を下げたりなんかしないわ。この身に流れる血が一流であることを証明するために!!」

 

 

 勢いよく上げた顔には眉を立てた笑み。実績も、何の根拠が無くても、その内に抱く誇りと放たれる『王気(オーラ)』は人を惹き付けるカリスマに満ちています。……お、光背王(キング)ちゃんの獅子吼を耳にして散らばっていたみんなが集まって来ましたね! 放牧地に目印となる旗を立ててまわっていた女魔法使いちゃんがスタート地点の印となる白色のロープを地面に置き、本日のメインイベントの参加者を整列させました。

 

 

「みんな準備は良いみたいね。それじゃ、王様のその言葉が嘘でないところ、しっかりと見せてもらいましょうか」

 

 

 

 

 

「それではみなさん、いちについて~……!」

 

「よ~い……!!」

 

「「「どん!!!」」」

 

 

 王妹殿下1号2号、そして白兎猟兵ちゃんの妹たちの合図で一斉に駆け出す走者たち。放牧地を利用した即席のレース場は長さ約1マイル(1600m)、目印として点々と置かれた旗の外側をU字型に走る大型トラック半周に似た設定ですね。

 

 

「ハッハァー! 【辺境最強】の名は伊達じゃねぇところを見せてやるよ!!」

 

 

 見事なスタートダッシュを決めたのは槍ニキ。長い脚を発条(バネ)のようにしならせ、ストライドの広い走りでグングンと加速していきます。ひとたびバランスを崩せば顔面から転倒してしまいそうな前傾姿勢を維持出来るのは鍛え上げた肉体の賜物でしょう!

 

 

森人(エルフ)が機敏に動けるのは樹上や自然の中だけじゃあない。地上だってなかなかのものだよ?」

 

 

 その背後にピッタリと追従するのは叢雲狩人さん。槍ニキと同じ脚幅の広い走りですが、彼が蹴り脚を主にしているのに対し、踏み込んだ爪先をフックに全身を前に引っ張る走り。まるで猫科の肉食獣が獲物を追いかける時のような走り方です。あえて先頭(ハナ)を譲り背後から槍ニキに圧を掛けているのも実に狩人らしいですね!

 

 

「今回のコースは約1マイル(1600m)、今までで最も距離が長いコースです。道中のコーナーは高低差も大きく、持久力(スタミナ)はもちろん、位置取りがカギとなります」

 

「どうしたのよ急に」

 

「前走で1着だった【辺境最強】様ですが、その際のコースは0.5マイル(800m)の直線。彼の走法を見る限り、コーナーは苦手としている可能性が高いですわね。おそらくそれは追従する彼女も同様と思われますわ……」

 

「貴女までどうしたのよ???」

 

 

 唐突に解説面に目覚めた王妹殿下1号2号に対し、左右からダブル吸血鬼ちゃんにハグされた状態でツッコミをいれる女魔法使いちゃん。困惑した視線をレースに向ければ、先行する槍ニキと叢雲狩人さんがちょうどカーブに差し掛かったところです。速度を維持したままコーナーに突入する2人ですが、女神官ちゃんと神官銃士ちゃんの言葉通り遠心力に引かれて位置取りが外へと膨らんでいきます。そして、隙間の生まれた内側に切り込んで来る小さな影が!

 

 

「どうりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

「そう、体格で劣る以上相手の土俵で戦う必要はありません。圃人(レーア)の持ち味を生かすのです!」

 

 

 水分補給のお茶を用意しつつレースを見守っていた圃人巫術師さんの声に応えるが如く、目印となる旗を掠めるほどに内側ギリギリを疾走する圃人剣士ちゃん、小さく歩幅を刻み、細かく方向を修正しながら最短距離を駆けて行きます! コーナーの終わりに差し掛かった時点で先頭は彼女に移り、抜かれた槍ニキと叢雲狩人さんの瞳に驚きと喜びの色が浮かんでいますね。

 

 

「――さて、この時点でまだ最下位。ここから抜き返せるかしらね」

 

 

 呟く女魔法使いちゃんの視線の先には、ようやくコーナーの中程を過ぎたあたりを走る光背王(キング)ちゃんの姿。先頭の圃人剣士ちゃんとは10バ身(25m)以上離れていますが、その顔に焦りの色は見えません。女魔法使いちゃんの言葉を耳にしたダブル吸血鬼ちゃんがたわわに預けていた顔を上げ、確信に満ちた表情で答えました……。

 

 

「だいじょうぶ! もんだいなし!!」

 

「いまのおうさまなら、()()()()()()()()()()()!!」

 

「「「おうさまー! がんばえー!!」」」

 

 


 

 

馬人(セントール)の力を只人(ヒューム)の脚では受け止められず、身体が無意識に制限を掛けている。自分が思うほど速度が出せないのはそれが理由だろう」

 

「そんな……ッ」

 

 

 ある日の訓練(トレーニング)終了後に行われた診断の際、闇人女医さんに言い渡された言葉に愕然とする光背王(キング)ちゃん。無理に全力を出せば容易く砕け散ってしまう自らの身体の真実を知り、その眦に涙が浮かんでいます。いっしょに診断結果を聞いていた一行にも不安の色が見えますね……。

 

 

「既に骨格は完成している以上、無暗に筋肉だけ増やしても負担が増えるだけだ。むしろ脚を痛める原因となる可能性が高い」

 

 

 淡々と告げられる言葉に耳を絞り、落ち着きなく尻尾を揺らす光背王(キング)ちゃん。ですが、一度ギュッと瞑った後に開かれた瞳には、既に断固たる決意が満ちていました。

 

 

「……たとえそうだとしても、それが歩みを止める理由にはならない。無理のひとつやふたつ乗り越えられずして、なにが『(キング)』よ!」

 

「そうだ、その言葉が聞きたかった! 苦難の道を進む貴様に渡すものがある。――鍛冶師殿」

 

「応よ!」

 

 

 闇人女医さんの呼びかけに応え一行の中から進み出たのは、黒光りする巌のような体躯に自信に満ちた表情を浮かべた隻眼の鉱人(ドワーフ)。訓練場に卸す武具を生産する傍らでダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の装備の開発、整備、牧場の蒸留施設を運営している隻眼鍛冶師さんです! その手には光背王(キング)ちゃんの使っている競技用の靴と、片手で持てるくらいの木箱が抱えられていますね。

 

 

「お前さんの靴、見させてもらったぜ。……これまで何足も履き潰してきてんだろ?」

 

「え、えぇ。様々な素材のものを何種類も試してみたけど、肌に合わず怪我をしたり、逆にすぐにダメにしてしまったり。やっぱりわたしの走り方が悪いのかしら……」

 

「いや、そうじゃねぇ。()()()()()()()()()()()()()()。お前さんの脚は特別製だ。店売りのモンはもとより、専門の業者に頼んでも変わらんだろうよ」

 

 

 隻眼鍛冶師さんの言葉に目を丸くする光背王(キング)ちゃん。どうやら馬人(セントール)向けに頑丈に拵えたものでは肌が負けてしまい、只人(ヒューム)用では耐久力が足りなかったみたいです。訓練(トレーニング)もそうですが、ハーフである彼女に適したものが必要だったんですね。呆然とする光背王(キング)ちゃんにニヤリと歯を剥く笑みを見せ、隻眼鍛冶師さんが手に持つ木箱を押し付けます。促されるままに光背王(キング)ちゃんが開けたその中身は……。

 

 

「うそ、これって……!?」

 

 

 艶めかしい光沢を放つ黒革のレッグ。靴紐(シューレース)は金糸を編み込んだように煌びやかで、鳩目もどこかで見たことのある気がする金属製。そして、一際目を惹くのは蹄鉄を模した造りの靴底(アウトソール)。艶の無い黒地に赤い紋様が描かれたそれは、ゴブスレさんの鎧につかわれているのと同じ素材です。つまり……!

 

 

吸血鬼(ヴァンパイア)由来の素材に稀少な真銀(ミスリル)を贅沢に使用した、世界に一足しかないお前さん専用の競技靴だ!」

 

「な、なな……」

 

 

 

 

 

「なんてものをつくってるのよーーーーー!?!?」

 

 


 

 

吸血鬼(ヴァンパイア)の皮膜を幾重にも重ねた素材は強くしなやかで、繊細な脚を保護しつつ通気性も抜群。力が掛かる部分を真銀(ミスリル)で補強し、2人の髪の毛をより合わせて作った靴紐は呆れるほど頑丈で走ってる間に切れる心配も無し」

 

「最も強度が要求される靴底には自動修復機能を持つ合金を使用。それ以外の箇所も真銀(ミスリル)製ですので、摩擦や衝撃に対しての備えもバッチリですわ!」

 

「それでいて魔法的な効果は持っていないので、競争規約(レギュレーション)には抵触していないのがズルいですよね。……上等な魔法の武具以上のコストがかかっていますけど」

 

「そのあたりはちゃんとかんがえてるからだいじょうぶ!」

 

「レースのきやくは『やっちゃダメ』なことがかいてあるの。だから『ダメってかいてないものはぜんぶおっけー!!』」

 

 

 女魔法使いちゃんのたわわを堪能した後、王妹殿下1号2号に肩車してもらいながらドヤ顔でのたまるダブル吸血鬼ちゃん。すべすべの太股で両頬を挟まれ、太陽と月の香りが直撃している姉妹の顔が大変なことになってますねぇ。

 

 あ、そうだ(唐突)。吸血鬼侍ちゃんの発言、万知神さんの信徒らしいアレな言い分と思われるかもしれませんが、これ結構重要なんです。

 

 所謂『ポジティブリストとネガティブリスト』の違いってヤツで、競争規約(レギュレーション)には『競争(レース)では【魔法効果を持つ装具を】【使用してはならない】』とは書いてありますが『競争(レース)では【特別な効果を持たない装具を】【使用すること】』とは何処にも書いてありません。つまり素材由来の効果や非魔法的な機能は問題ないわけでして。複数の素材を使用したり、特殊な加工で耐久力や使い心地を改良するのが職人さんたちの腕の見せ所さんというわけです。

 

 ……それを『競争(レース)では【特別な効果を持たない装具を】【使用すること】』だと勘違いする人が意外と多く、高額な素材、装具を使用することに対し根拠の無い批判を浴びせたり『公平ではない』などと言い出す者が出てくるという。……何処かで聞いたことがある気がしますねぇ?

 

 

 ――おおっと、話が横道に逸れてしまいましたね! 競争(レース)は最終局面、コーナーで稼いだマージンを食い潰しながら先頭を行く圃人少女ちゃんを槍ニキと叢雲狩人さんが捕捉しかけています。直線に入り猛然と加速する2人の圧を感じながらも振り返ることなく走っていますが、徐々にその差は縮まっていくばかり……。

 

 

 

 ミシィ……

 

 

「「「――!?」」」

 

 

 

 

 

 ――ドゴォッ!!

 

 

 

 突如背後から響いた炸裂音に息を乱す3人の走者。連続する≪火球(ファイアボール)≫の着弾にも似たソレは瞬く間に接近し……!

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 汗と土埃、そして撒き上がった草を化粧とし、ただゴールだけを見て駆ける光背王(キング)ちゃんが、地面を抉るほどの豪脚を魅せ、瞬く間に3人を抜き去っていきました!!

 

 

 

 

 

「「「すごーい! おうさまがいっちゃくだー!!」」」

 

「はぁ、はぁ……ちょ、ちょっと? 今は酷い有様だからくっついちゃダメよー!?」

 

「そんなことないよ? ぎゅー!」

 

「いまのすがたがいっちばんきれい!! ぎゅー!」

 

 

 大差でゴールに飛び込んで来た光背王(キング)ちゃんに群がるふわふわおちびさん&ダブル吸血鬼ちゃん。息が整う前の攻勢に為す術も無く押し倒され、ふわもこ塗れになっちゃってますね。彼女から遅れて他の3人も走り切りました。最後の伸びで槍ニキが2着、僅かの差で圃人剣士ちゃんが3着。驚きで呼吸が乱れた叢雲狩人さんが4着というレース結果でした。

 

 

「いや、速ぇなオイ! それが負荷を気にせずに出せる本気の走りってワケか!!」

 

「抜かれる時、間違いなく地面が揺れてましたよ……!」

 

「うーむ、これは完敗だねぇ……!」

 

 

 纏めて撫で切られた3人の顔に悔しさの色は無く、本来の走りを見せた彼女への驚嘆と祝福に満ちています。女魔法使いちゃんの差し出す手を取り立ち上がった光背王(キング)ちゃんが、いまだに実感が湧かないのかキョロキョロとみんなを見回してますね。

 

 

「えっと、私……勝ったの?」

 

「ええ、貴女が1着よ」

 

「素晴らしい走りでした!」

 

「まさに【王の誇り(Pride of KING)】って感じでしたわ!」

 

「――――ッ!!」

 

 

 女魔法使いちゃん、そして王妹殿下1号2号の祝福の言葉と表情を見て、ようやくこれが夢ではないと感じたのでしょう。フルフルと全身を震わせ、声も無く両腕を天に突き上げる姿にみんなが笑顔で拍手を送っています。うんうん、まさに一流の走りでしたね!

 

 

「さて、喜ぶのはそれくらいにして疲労抜きに軽く流してきなさい。そしたら改めて靴の調整を……」

 

 

 お? 闇人女医さん製作の訓練メニューを見ていた女魔法使いちゃんが空を見上げてますね。すっかり顔を出した太陽神さんの照らす空、辺境の街方面から向かってくるのは2組4人分の人影です。1組は触手を編み込んだような翼を展開している妖術師さんと、彼女に抱えられている妖精弓手ちゃん。その後ろから飛んできている硬質な翼の令嬢剣士さんが抱えているのは1人の男性です。まだ地面まで30フィート(9m)ほどある高さで妖術師さんの腕の中から抜け出した妖精弓手ちゃんが華麗に着地、駆け寄ってきたダブル吸血鬼ちゃんを抱きとめながら涼やかに口を開きます。

 

 

「や~~~っと捕まえたわよ、貴女のお父さんを知ってそうなヤツ!」

 

「今日までほぼ一ヶ月、普段は毎日ギルドに入り浸っているクセに、用がある時に限って捕まらないぃ……」

 

 

 うんざりといった様子の妖術師さん、まぁ無理もありません。彼が顔を出すまで交代で夜通しギルドに通い、()が現れるのを待っていたんですから。ゆっくりと降下してきた令嬢剣士さんの胸元から抜け、一行に一礼するのは洒脱な身なりの男性。背中に背負った相棒の琴と若くも老いても見える不思議な相貌、そして……。

 

 

 

 

 

「いやぁ、どうもお待たせしてしまったようで申し訳ない。皆さんのご活躍は聴衆の方々にとても好評、私も随分稼がせて頂いておりますよ」

 

 

 聴く者の耳を孕ませるとまで言われている落ち着きのある魅惑の低音! 視聴神の皆様はもうお判りですね。妖精弓手ちゃんや鉱人道士さん、蜥蜴僧侶さんたちがゴブスレさんと出会う切っ掛けとなった歌を歌っていたあの人、吟遊詩人(CV:速水奨)さんです!!

 

 


 

 

 整理運動と後片付けの後、他のみんなが起床したところであさごはんタイムな一行。良いお天気なので庭に敷物を敷き、牧場夫妻や新進夫婦家族も一緒ですね! お野菜たっぷりのスープに焼き立ての麺麭、身体作り中の光背王(キング)ちゃんと英雄雛娘ちゃんには産みたてのものを使った茹で卵が添えられています。仕事上がりの一杯をキャンセルして連れて来られた吟遊詩人さんも相伴に預かっている様子、ちゃっかりしてるなぁ……。

 

「なるほど、それで私を探していらしたわけですか……」

 

「うん。ギルドでもさがしようがなくて、ほかにしってるひともいなかったの」

 

「たいようしんでんでもきこうとおもったんだけど、ずっとおでかけちゅう……」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんの言葉にふむふむと頷く吟遊詩人さん。どうやら妖精弓手ちゃんってば碌に事情も話さず引っ張ってきたみたいで、何故自分を探していたのかの説明もされてなかったみたいです。そして他の手掛かりとなりそうだった蟲人英雄さんとは連絡が取れず、調査は行き詰っていたっぽいですね。

 

 

「話は理解しました。記録に残らずとも記憶に残る冒険者、幾つか思い当たる節があります」

 

「ほんとぉ~? あの時のオルクボルグの歌も実際とはけっこう違ってたんだけど???」

 

 

 若干の胡散臭さを感じる笑みに対し、ジト目を向ける妖精弓手ちゃん。ま、まぁアレはアレでけっこう好評ですし。「物語性を重視すべく、若干の脚色はありましたねぇハッハッハ!」と言ってのける吟遊詩人さんも大概にタフだと思います……お、じゃあ早速と言いかけた妖精弓手ちゃんを吟遊詩人さんが制しましたね。

 

 

「お話しするのはやぶさかではありませんが、私もコレ()を生業とする身。つまり何が言いたいのかと申しますと……」

 

「あーはいはい、報酬を払えってコトね」

 

 

 うーんこの吟遊詩人。ニッコリと笑いながら両手を突き出す仕草は愛嬌があり、同時に絶妙なイラっとさを感じさせます。青筋を浮かべる妖精弓手ちゃんに両側から頬擦りしつつ、ダブル吸血鬼ちゃんがくりっと可愛らしく首を傾げています。

 

 

「えっと、ほうしゅうじゃたぶんおかねじゃないよね?」

 

「となると、ここはやっぱり……」

 

「はい。皆様の冒険について、生の声を聞かせて頂けますかな? 砂漠の国ので大立ち回りまで(シーズン2)の話は巷で大好評! ぜひともその続きを題材に歌を生み出したいのです」

 

 

 おお、これはなんとも吟遊詩人さんらしい報酬ですね。それじゃあ前払いねという言葉とともに、ダブル吸血鬼ちゃんが語り出したのは冒険の思い出の数々。冒険から離れていた新進夫婦や、日常に暮らす牛飼若奥さん、そして子どもたちが2人の冒険譚を夢中になって聞いています。

 

 

「そっか、2人にはそんな過去があったんだね……」

 

「きっと2人のママも、遠いところで親友と仲良くしてるわよ!」

 

「「ふわぁ、ふかふか……」」

 

 

 特に圃人侍女(おかあ)さんと伯爵夫人の深い絆には奥様2人も感じ入るものがあったようで、ダブル吸血鬼ちゃんを抱きしめそのたわわでトロトロに甘やかしちゃってますね。

 

 

「素晴らしい! 愛憎複雑に絡み合う物語、堪能させていただきました。良いでしょう、私の知る全てをお話しします!!」

 

 

 なんやかんやと3組のヒトウサカップルや牧場夫婦のお義父さんと只人寮母さんの新婚カップルまで集まってきた冒険譚はランチタイムを挟んで半日続き、吟遊詩人さんもその内容には大満足なご様子。おゆはんを済ませた後、星明りの元で彼の知る『記録に残らない冒険者』の話をしてくれることになりました! 果たして吟遊詩人さんの知る人物は本当に光背王(キング)ちゃんのお父さんなのでしょうか? 次回、乞うご期待!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 引っ越しの準備をするので失踪します。


 投稿まで随分と間が空いてしまいました。モチベが下がったわけではないのですが、仕事関係で色々と時間を取られなかなか筆が進まずこの体たらく。悲しいなぁ……。

 また次話の投稿まで暫く時間が掛かるかもしれませんが、続きは気長にお待ちいただければ幸いです。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその18-4


 引っ越し&ジョブチェンジが無事に終わりましたので初投稿です。



 

 前回、吟遊詩人さんのゲージがMAXになったところから再開です。

 

 太陽神さんが名残惜しそうに地平線へとその輝きを隠し、空に星が瞬き始めた辺境の牧場。見る者の気分を落ち着かせる篝火の周りにはおゆはんを済ませた面々が集まっていますね。

 

 

「えへへ、ママのおひざにいちばんのりー!」

 

「じゃあわたしはパパといっしょ!!」

 

「ぷるぷる……もちもち……」

 

 

 抜群のスタートを決めた星風長女ちゃんが女魔法使いちゃんに突撃し、吸血鬼侍ちゃんを抱き枕にした叢雲次女ちゃんはパパごと叢雲狩人さんの膝上に。むにっと形を変えて平べったくなったスライム君の上には若草三女ちゃんと牧場の双子ちゃんが乗っています。他の子たちもそれぞれ両手で毛布(ブランケット)を抱え、パパやママの近くでお気に入りの場所を確保したみたいですね。

 

 さて、今宵の主役である光背王(キング)ちゃんは……お、期待と不安の入り混じった表情で若草知恵者ちゃんの淹れた黒豆茶(コーヒー)を啜ってますね。隣に座る吸血鬼君主ちゃんが緊張気味な彼女の顔を覗き込んでいます。

 

 

「ドキドキしてる?」

 

「……ええ、そうね。ずっと知りたかったお父様のことが判るかもしれないのだから」

 

「ぼくもおんなじだよ。ほら」

 

 

 そう言って光背王(キング)ちゃんの手を自らのぺったんこな胸へと導く吸血鬼君主ちゃん。薄い布地越しに感じられる太陽の温もりと、常より早い鼓動が彼女の手に……。

 

 

「ん、あったかい――って、吸血鬼(ヴァンパイア)の心臓が動いているわけないでしょー!?」

 

 

 HAHAHA、ヴァンパイアジョーク!! ……悪戯が成功しニヤリと笑う吸血鬼君主ちゃんをギリギリと締め上げる彼女の顔からは負の感情が消えたみたいですね。子どもたちがヒソヒソと言葉を交わし、お星様に負けぬほどにキラキラと瞳を輝かせ始めた頃……。

 

 

「さて、準備は宜しいですかな?」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんの冒険譚で創作意欲が天元突破している吟遊詩人さんによる、『記録に残らない冒険者』の始まりです!

 

 

 

 

 

「――私の知る彼は、文字通りの只人(ただびと)でした。特別な生まれでもなく、恵まれた体躯を持つわけでもない、何処にでもいるごく普通の若者。そして誰よりも『諦め』を知らぬ、実に只人(ヒューム)らしい少年だったと言えるでしょう」

 

 

 愛用のリュートを片手に淡々と語られ始めた『記録に残らない冒険者』の生い立ち。爪弾くリュートの音を触媒として唱えられた≪幻影(ビジョン)≫の呪文によって、一行の前に1人の少年の姿が浮かび上がりました。何処かぽややんとした雰囲気を放つ彼の首には、光背王(キング)ちゃんと同じ太陽神さんの聖印が下げられています。

 

 

「これといって特徴のない農村に生まれ、他の若者と同じように冒険者に憧れ、生まれ育った地を離れた少年。体格こそ少女と見間違うほどであったものの、太陽神の声を聴き、癒しの奇跡を授かっていた彼は同じ新人たちと一党(パーティ)を組み、初めての冒険へと赴いたそうです」

 

 

 冒険者になる前から奇跡を使えたとは、なかなかの信仰心を持っていたみたいですね。当時は混沌の軍勢との戦争の真っ只中、戦場で信仰心に目覚める兵士は多かったみたいですが……。

 

 確認したところ、家の手伝いで農作業を行う際に毎日欠かさず太陽神さんに祈りを捧げてくれていたそうです。無垢な祈りを捧げてくれる推しの子が冒険者になりたがっていると知り、思わず声をかけちゃったんだとか。 一歩間違えたら声掛けの事案じゃないですかねそれ。

 

 

 太陽神さんが当時の記録を持っていましたので、視聴神のみなさんには吟遊詩人さんの語りと並行してそちらも見ていただきましょうか! 映像には両腰に湾刀(イースタンサーベル)を佩いた只人(ヒューム)の少女と石弓を片手に決めポーズをとっている半森人(ハーフエルフ)の少年と一緒に、兵士と思しき屈強な2人の男性と挨拶をしている彼の姿が見えますね。

 

 

「二刀流の女剣士と軽装の射手、3人で受けた依頼は軍の駐留する砦への物資搬送でした。初めての冒険に向かう彼らの心は期待と緊張に溢れていたことでしょう。軍からも歴戦の斥候(スカウト)が2人派遣されておりましたし、頼れる大人の存在は彼らには眩しく見えていたと思います」

 

 

 ふむふむ、どうやら軍だけでは人手が足りず、冒険者を後方支援に用いていたのでしょう。混沌の勢力が攻勢を強めていた時期でもあり、多種族連合軍の成立までは至っていない頃合いでしょうか。緊張のあまり鯱張って歩く3人を斥候(スカウト)の2人が笑いながら指導していますね。

 

 

「道路は整備され、道中の安全は保障された新人向けの依頼と言って良いものでした。熟練の斥候(スカウト)から野営の技術や戦場での心構えを聞きながらの3日間の行程。こうやって実績を積み重ね、いずれは金等級まで……そんな夢を抱いていた彼らが目にしたのは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――夥しい数の怪物(モンスター)によって蹂躙され、砦が陥落する瞬間だったのです」

 

 


 

 

「な、なんなんだよ……なんなんだよアレ!?」

 

 

 その重厚な防御力と兵士たちの高い練度によって王国の盾として名を馳せていた鉄壁の偉丈夫。難攻不落を謳われていた砦は既に過去のもの、幾本もそびえ立ち全方位に目を光らせていた櫓は全てが半ばから倒壊し、分厚い城門は突破され、内部に入り込んだ混沌の軍勢が懸命に戦う将兵を蹂躙する様を見た半森人の射手が目の前の現実を受け止めきれずに悲鳴をあげています。

 

 

 牛頭人(ミノタウロス)の剛腕で押し潰され、合成獣(キメラ)の爪で引き裂かれ次々に斃れる兵士たち。その背後から無数の小鬼(ゴブリン)が押し寄せ、数の暴虐で兵士たちを無残な肉塊へと変えていきます……。

 

 

小鬼(ゴブリン)どもめ、よくも……ッ!」

 

「待て!」

 

 

 引き倒された兵士を助けようと、斥候(スカウト)の制止も聞かず飛び出す女剣士。抜き放った湾刀(イースタンサーベル)で2、3匹の小鬼(ゴブリン)を斬ったところで群れに飲み込まれ、やがて小鬼(ゴブリン)たちの悍ましい歓声と尊厳を踏みにじられる彼女の声が残った4人の耳に届きました。

 

 

「あ、ああ……」

 

「お、おい、早く逃げようぜ!? 俺らがいたところでなんの役にもガッ!?

 

 

 恐怖で立ち竦む少年の腕を取り、逃げようと提案する射手を撃ち抜いたのは人外の膂力で投擲された短槍(ショートスピア)。崩れ落ちる身体を少年が支える横で斥候(スカウト)2人が視線を向けた先には、ニヤニヤと笑みを浮かべる複数の魔神(デーモン)の姿が。上手く的に当てたのを喜ぶ醜悪な姿を見て、斥候(スカウト)の2人が視線を交わし、腰の剣に触れながら背後の少年に語り掛けます。

 

 

「――すまんな新人(ルーキー)。もっと面倒を見てやりたかったんだが、ちとそれは難しくなってしまった」

 

「……代わりにひとつ、頼みがある」

 

 

 魔神から目を逸らさないまま、少年が身じろぎしたのを感じ取った短く刈り込んだ金髪の斥候(スカウト)。冷たい汗を流しながらも獰猛な笑みを浮かべた彼が告げたのは……。

 

 

 

 

 

「いいか、合図と同時に一目散に引き返せ。そしてなんとか街まで辿り着いて、この惨状を伝えてくれ」

 

 

 ――少年1人で逃げろという、あまりにも残酷で優しい頼みでした。

 

 

「そんな、僕も一緒に戦います!」

 

「ダメだ。ソイツの言っていた通り、新人冒険者など足手纏いにしかならない」

 

 

 少年の言葉を正論で封じるもう1人の斥候(スカウト)。深く被った帽子で目元を隠しながらの突き放すような口調にグッと唇を噛む少年。そんな彼の頭にポンと大きな手のひらが乗せられます。

 

 

「あー……こいつは口下手でな? なに、アイツらを斃し、戦友たちと合流したらすぐに追いかけるさ。だから、お前さんは先に出発してくれ!」

 

「でも……!」

 

「いいからホラ行った行った!! ……良いか、絶対に振り向くんじゃないぞ?」

 

 

 強く背を押され蹈鞴を踏む少年。射手の亡骸を下ろし、振り返ることなく一目散に駆け出した彼をやれやれといった様子で見送った2人は、厭らしい笑みを浮かべたままその遣り取りを眺めていた魔神の集団へと剣を抜き放ち吶喊していきました……。

 

 


 

 

斥候(スカウト)の言葉を信じ、休むことなく駆けた少年。3日掛かった行程を休むことなく夜通し走り、翌日の朝には出発した街へと辿り着いたのです。邪魔な装備は全て捨て、聖印と水袋だけを身に着けた姿でギルドに現れた時の事を、私は今でも鮮明に覚えております。……それが、私が彼と最初に出会った瞬間なのです」

 

 

 そこまで語ったところで区切りを付け、聴き入っていた一行を見渡す吟遊詩人さん。初回からハードモード過ぎる冒険にみんな言葉を失ってしまってますね。

 

 

「フム……たしか夜闇に乗じた飛頭蛮(ペナンガラン)によって監視が無力化され、城門が内側から開かれた戦と記憶してますな」

 

「ああ、只人(ヒューム)の視覚の限界を突かれ、大きな被害を被った。森人(エルフ)鉱人(ドワーフ)など夜目の利く種族の重要性が認識され、多種族連合が成立する切っ掛けになった戦いでもある」

 

 

 当時を思い返すように言葉を紡ぐ蜥蜴僧侶さんと女将軍さん。蜥蜴僧侶さんはともかく女将軍さん、何歳から従軍していたんですかねぇ……。

 

 

「彼の持ち帰った情報によって砦の陥落は迅速に伝わり、すぐさま増援が送られました。依頼こそ失敗に終わったものの、その功績は十分に評価されるものでした……本来であれば、ですが」

 

 

 いつのまにか普段の胡散臭い笑みから陰鬱な笑みへと変貌していた吟遊詩人さん。その変わりように一同も訝し気な表情を浮かべています。みんなからの視線に促がされるように続けて彼の口から出てきたのは……。

 

 

「ギルドで訴える必死の言葉と僅かな休息だけで増援に同行する彼に興味を覚え、詩の題材になると軽い気持ちでついていった当時の私は若く、あまりにも愚かな存在でした。軍が砦に駆け付けた時、既に混沌の軍勢の姿は無く、代わりに敷地内には奇怪なオブジェが乱立しておりました……」

 

 

 

 

 

「生きながらにもぎ取られた四肢によって築かれた山、内臓を貪られぽっかりと空洞の生まれた胴体。そして、地面より生えた槍先に突き立てられた、夥しい数の兵たちの首。そのどれもが苦悶に満ち、凄惨極まりない方法で殺されたことをありありと物語る戦利品(トロフィー)だったのです……」

 

 

「「うぇぇ……」」

 

「オルク……こわい……きらい……!!」

 

「そうね、パパもママも小鬼(オルク)が大っ嫌い。だからあいつらを滅ぼすためにみんな頑張ってるの!」

 

 

 吟遊詩人さんのリアルな描写にうんざりとした表情なダブル吸血鬼ちゃん。小鬼(ゴブリン)のやることはどれも陰惨で救い難いものばかり。記録映像では斥候(スカウト)2人の首を前に泣き崩れる少年の姿が映っています。耳を引き絞りパパのようにガチガチと歯を鳴らす星風長女ちゃんを落ち着かせるように、妖精弓手ちゃんが優しく撫でてあげてます。

 

 

「初の冒険で失敗したことと、仲間や兵を見捨てて1人で逃げてきたという謂れなき言葉が彼の心身を深く傷付けたのでしょう。兵たちの埋葬を手伝い現場の状況を報告し、僅かな報奨金を受け取ったそれ以降、彼が冒険者ギルドに姿を見せることはありませんでした」

 

 

 あー、だから冒険者ギルドにも記録が残っていなかったんですね。初回で失敗しそれ以降顔を出さなくなる新人……失意のまま故郷に帰ったか、何処かで野垂れ死んだと思われるだけでしょう。

 

 

「やがて彼の存在は忘れられ、冒険者たちの間で話題になることもなくなりました。……数年後、辺境を渡り歩いていた私は馬人(セントール)の集団と出会いました。そして、その中には仲睦まじき馬人(セントール)の姫と、彼の姿があったのです」

 

 

 おお、これは素晴らしいボーイミーツガール! 次はそんな2人の出会いのシーンですね! それでは当時の映像をご覧ください!!

 

 


 

 

「「「GOBGOBGOB!!」」」

 

「く……このような場所でなければ貴様らなぞ一蹴してやったものを……ッ」

 

 

 ふむふむ、どうやら場所は山間の映像みたいですね。小鬼(ゴブリン)の群れに囲まれているのは後ろ髪を尻尾のように結った四脚の馬人(セントール)の女の子。斜面を滑落したのか右の前肢が奇妙に曲がり、苦痛を堪えた表情で小鬼(ゴブリン)たちを睨みつけています。

 

 右手の(ハチェット)で何体か斃しているようですが、やはり多勢に無勢。にじり寄る小鬼(ゴブリン)たちの獣欲に満ちた瞳に嫌悪感から身を捩っていますね。食いでのある獲物に涎を溢れさせた小鬼(ゴブリン)が飛び掛かってくるのを見て(ハチェット)を向けますが、負傷した脚が身体を支えきれずに転倒してしまいました。バランスを崩した拍子に彼女の手から零れ落ちる(ハチェット)、好機と見たゴブリンが一斉に襲い掛かってきたその瞬間……!

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「GOB!?」

 

 

 横合いから繰り出された蹴りで吹き飛ぶ矮小な体躯。胸部に命中したソレは華奢な肋骨を圧し折り、小鬼(ゴブリン)は肺に突き刺さったことで血の海で溺れています。地面に落ちていた(ハチェット)を拾い上げ、襲撃者たちに向けているのは……もちろん太陽神さんを信仰している少年です!

 

 刃の付いた武器は不得意なのか、(ハチェット)を寝かせ分厚い刀身で小鬼(ゴブリン)を殴りつける少年。撤退することなど頭に浮かばない集団をなんとか全滅させ、血と汗と泥に塗れた姿で馬人(セントール)へと駆け寄ります。突然の闖入者に目を丸くしている彼女の負傷を見て、躊躇うことなく太陽神さんさんへ癒しの奇跡を願う祈りを唱えました!

 

 

「≪太陽礼賛、光あれ!≫」

 

「そなた、神官だったのか……っておい! どうした、しっかりせぬか!?」

 

 

 馬人(セントール)にとって死に直結しかねない脚の怪我。それを瞬く間に治療した癒しの奇跡で飛び込んで来た只人(ヒューム)の少年が神官であると察した彼女が感謝を述べようとしますが、緊張の糸が切れたのか彼女のバ体にもたれかかるように気を失ってしまったみたいです。

 

 状況の推移について行けず困惑した表情の馬人(セントール)でしたが、やがて何かを決心した表情で彼を()()()()()()()、ゆっくりと歩き始めました……。

 

 


 

 

「えっと、たしか馬人(セントール)が自分の背に人を乗せるのって……」

 

「信頼、あるいは親愛の証ですね!」

 

 

 匂い立つアオハルに黄色い声を上げる女性陣。剣の乙女ちゃんや妖精弓手ちゃんも混ざっているあたり、何歳になっても女の子は恋バナが好きなんですねぇ……。

 

 吟遊詩人さんが再会までの話を少年から聞き出した際にも随分と惚気話を聞かされたらしく、次から次へと出てくる2人のラブラブな思い出話に女性陣はもう首ったけ。両親の駄々甘い過去をみんなに知られた光背王(キング)ちゃんも真っ赤な顔を両手で隠してますが、残念ながら尻尾がブンブン振れているのでまったく隠し切れていませんね!

 

 

「背に只人(ヒューム)の少年を乗せて帰ってきた姫の姿に馬人(セントール)たちは大騒ぎ。ざわつく一族の者たちを前に姫はこう宣言したそうです。『私はこの者にふたたび大地を駆ける機会を与えられた。ならば、私はこの者が駆けるための大地となり、この者を私が駆ける大地としよう!』……つまり、彼を自分の夫にすると、ね?」

 

 

「「「「「きゃー♪」」」」」

 

 

 やだ……光背王(キング)ちゃんのママってば男前過ぎ……!

 

 気絶している間に婿入りが決まってしまい当初は困惑していた少年でしたが、自然の中での暮らしと馬人(セントール)たちの穏やかな心によって傷付いた心身が少しずつ癒され、徐々に生来の明るさを取り戻していったそうです。

 

 そのぽややんとした性格で他種族との交易の際に助言者として立ち会ったり、また彼らにとって希少な癒しの奇跡を使えたりと有用さを見せたこともあり、他のウマ娘ちゃんたちからも熱い視線を向けられていたんだとか。……危うく争奪戦が勃発しそうになったりもしたそうですが、光背王(キング)ちゃんのママ一筋だとアピールし続けて回避したそうです。

 

 

馬人(セントール)只人(ヒューム)の番か……興味深いが、ひとつ疑問があるな」

 

 

 お、黄色い声を上げる女性陣のなかで唯一沈黙を保っていた闇人女医さんがスッと手を挙げました。一同が注目する中、彼女が口にしたのは……。

 

 

 

 

 

「――どうやって2人はうまぴょいしたのだろうか」

 

「「「「「!!」」」」」

 

 

 ひとたび思いたったら考えずにはいられない、生命の神秘についてでした……。

 

 

 

 

 

「さて、続きを話してちょうだい?」

 

 

 ニッコリと笑う妖精弓手ちゃんのお願いにガクガクと頷きを返す吟遊詩人さん。彼女の背後では頭頂部から煙を上げる闇人女医さんがスヤァ・・・とソファーに身を預けています。

 

 

「――彼が馬人(セントール)たちと暮らすようになって数年、多種族連合の結成に伴い、只人(ヒューム)以外の種族が並び立って戦場へと赴く機会が増えていきました。馬人(セントール)はその突破力を買われ、後の黒色槍騎兵隊の母体となる部隊に配属されていきます。戦いは馬人(セントール)にとって誉れですが、それを見送る彼の表情は明るいものではありませんでした」

 

 

 多種族連合の結成により、混沌の軍勢を押し返し始めた秩序の勢力。戦線は膠着状態に陥り、決定打を欠いた状況が続いていた時期ですね。

 

 

「そしてある朝、彼は太陽神からの≪託宣(ハンドアウト)≫を授かりました。それは、あの初めての冒険の時、砦で遭遇した以上の惨劇が引き起こされようとしているという、神からの警告だったのです。同じ太陽神の信徒と協力し、恐るべき魔神を滅ぼせと……」

 

 

 吟遊詩人さんの言葉に込められた圧に押し黙る一同。そんなみんなの耳に強く地面を踏みしめる足音が入って来ました。少女剣士ちゃんに撫でられて気持ち良さそうに目を瞑っていた狼さんが跳ねるように顔を上げ、闇の中から現れた人物へと駆け寄って行きました。同時に太陽神さんからの≪託宣(ハンドアウト)≫を受信した吸血鬼君主ちゃんが光背王(キング)ちゃんの手を取り、狼さんの後を追うように人影へと導きます……。

 

 

「ワン!」

 

 

 ――現れたのは3名の男女。誰もが太陽の香りを纏い、決意に満ちた表情を浮かべています。

 

 駆け寄ってきた狼さんをその豊満なたわわで受け止め、ゆっくりと撫でているのは腰に短筒を下げた神官銃士ちゃん。光背王(キング)ちゃんを真ん中の人影の前に誘い、彼女の手を離して抱き着いてきた吸血鬼君主ちゃんを受け止めたのは黒と濃緑の外骨格に身を包み、腰帯(ベルト)太陽石(キングストーン)を闇の中で輝かせる蟲人英雄さん。そして……。

 

 

「あ、あなたは……!?」

 

「最後に会ったのはまだ君が小さい頃だったが、覚えていてくれたのか……」

 

 光背王(キング)ちゃんと視線を合わせるように腰を落とし、バケツ兜の奥から優しい瞳で彼女を見つめる太陽戦士さんです!

 

  突然の3人の登場に驚きを隠せない一行。いち早く再起動したのは妖精弓手ちゃんでした。

 

 

「あー!? ずっと探してたんだからね!」

 

「すまない、事情があって彼とともに神殿を離れていたんだ……」

 

 

 妖精弓手ちゃんの声にギチギチと牙を鳴らしながら申し訳なさそうに答える蟲人英雄さん。むぅーっと頬を膨らませる彼女を見てた吸血鬼君主ちゃんが慌てて飛び移り、もちもちほっぺを擦りつけてぷしゅーと空気抜きをしています。

 

 

「えっとね、かみさまがごめんねって。どうしてもしんでんちょうさんじゃなきゃダメだったんだって」

 

「むぅ……まぁそういうことなら。で、その事情ってのはなんなのよ?」

 

「――それは、俺が話そう」

 

 

 首筋に抱き着いていた吸血鬼君主ちゃんを胸元に抱え直し、吸血鬼吸いで気分を落ち着けた妖精弓手ちゃんに応える太陽戦士さん。吟遊詩人さんへと視線を向け、頷きが返ってきたのを確認した彼が告げるのは……。

 

 

「かつて、俺と神殿長、そして彼……『絢爛舞踏(ダンシングブレーヴ)』の3人で立ち向かい、彼がその命を以て封印した魔神が復活しようとしている」

 

 

 

 

 

「数多の魔神を率い、無尽蔵に怪物(モンスター)を生み出す混沌(カオス)そのもの。蝗人(ローカスト)を狂わせ、神殿長の親友を奪った元凶。あの大悪竜(オロチ)やエキビョウでさえ、奴にとっては単なる使い捨ての道具に過ぎぬ存在」

 

 

 

 

 

奈落ノ底(アバドン)黒イ太陽(アルシエル)、あるいは常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)。万物を照らす太陽を飲み込み四方世界に闇を齎そうとする恐るべき大魔神を滅ぼすため、貴公らの力を借りたいのだ!!」

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 参考資料の大神を遊び直すので失踪します。


 なかなかタイトなスケジュールで時間がとれず、更新が遅くなってしまいました。

 研修が終わり、仕事に慣れるまで時間が掛かりそうですので、また次話までは時間を頂戴することになりそうです。

 評価や感想、お気に入り登録が更新の原動力になりますので、よろしければお願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその18-5


 大変お待たせいたしました。

 夜勤に慣れなかったりルビコンに出掛けていたりゴブスレ2期が放送されたりしたので初投稿です。



 

 前回、恐るべき魔神の存在が明らかになったところから再開です。

 

 太陽神官3人がダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)を訪れた日から半月ほど。夜明けを前に牧場では慌しく人が動き回っています。

 

 太陽戦士さんたちが掴んだ魔神……『常闇ノ皇』ですが、どうやら四方世界に侵入するためには適切な星辰の位置が必要らしく、その顕現に合わせて大規模な日蝕が発生する可能性が高いとのこと。

 

 ある程度予測可能な盤外(こちら)のものとは違い、大規模な魔術儀式や神々の降臨で引き起こされるソレは混沌の勢力にとって逆撃に打って出る絶好の機会。王国を筆頭とする秩序勢力の軍は大規模な侵攻に備えなければならないそうです。

 

 また、後方攪乱を目的にゴブリンが放たれる可能性が高く、西方辺境で鍛え上げられたゴブリン狩りに特化した冒険者の投入も行われるんだとか。ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)や辺境三勇士は彼らを統率し、軍では手の回らない部分を補うことが期待されています。そのため『常闇ノ皇』と相対する面子を残し、他のみんなはギルド支部を拠点に活動することになりました。

 

 吟遊詩人さん曰く『常闇ノ皇』には他の魔神を召喚することが可能らしいので、みんなには不意にポップしてくる野良魔神討伐も期待されているみたいです。なお集団の中には兎人猟兵ちゃんのパパとその親友たちの姿も……これは本気ですねぇ!

 

 

「それじゃみんな、いってらっしゃーい!」

 

「はいはい、アンタも頑張んなさい……んっ」

 

「では、留守を頼む」

 

「うん! ……みんな、怪我しないで無事に帰ってきてね?」

 

 

 夜明けを待たずに出発する面々を見送る吸血鬼君主ちゃん。女魔法使いちゃんにむぎゅっとハグし、そのたわわをたっぷりと堪能していますね。いつもと変わらぬ甘えん坊さんを引き剥がした女魔法使いちゃんが情熱的な口付けを披露し、女性陣からは黄色い歓声が上がっています。その隣ではゴブスレさんと牛飼若奥さんが兜越しのキス。うーん……口から砂糖が出そうな光景です!

 

 

「――みんな、戦うのが怖くないのかしら……」

 

 

 街道を歩いていくみんなの背を見ながら呟く光背王(キング)ちゃん。族長として仲間を率いるためある程度の訓練は積んでいるものの、今まで実戦経験の無い彼女からすれば、軽口を叩き合う辺境三羽烏や半分眠ったままたわわに埋もれている吸血鬼侍ちゃんの姿は余裕があるように見えるのかもしれませんね。

 

 

「んとね、みんなこわくないわけじゃないよ?」

 

「そうだな。恐れを知らぬ戦士は強いが、同時に酷く脆い。僅かな危険を見落とし、自分のみならず仲間を危機に追いやることになる」

 

「恐れを知り、そして恐れと向き合う。恐怖も己が感情の一部であると認め、共に歩むことが重要なのだ」

 

 

 そんな彼女に戦士としての心構えを語る後方先輩面な3人。うんうんと頷いている吸血鬼君主ちゃんですが、神官銃士ちゃんに抱っこされている姿からは威厳というものが欠片も感じられませんねぇ。

 

 

 さて、現在牧場に残っている面子は絶賛妊娠中の若草祖母さんと闇人女医さん。魔神討伐に向かう太陽神官ズである4人に加え、太陽神さんの託宣(ハンドアウト)が送られた光背王(キング)ちゃん。それから……。

 

 

「ふふ、主さまとの冒険は久しぶりで御座いますね♪」

 

 

 悦び抑えきれぬと長耳をピコピコさせる小柄でスレンダーな立ち姿。久々のメインパーティ参加となる若草知恵者ちゃんです!

 

 


 

 

「――ウーム、やはりもう1枚切り札が欲しいところだな……」

 

 

 バケツ兜を傾かせながらウンウン唸る太陽戦士さん。『常闇ノ皇』と戦う面子を選出する際、光背王(キング)ちゃんを頭数に入れてもどうしても太陽神さんの信徒が1枠足りないということでみんな頭を悩ませていた時のこと。

 

 狼さんが尻尾をブンブン振ってますが、残念ながら今はただのわんこなので乗騎としては兎も角戦力としてカウントするのはちょっと厳しいところさん。いっそ核武僧さんならどうかという意見もありましたが、周辺被害を考えるとちょっと……ということで残念ながら見送りに。誰か適任はいないものかというタイミングでスッと手を挙げたのが……。

 

 

「そのお役目、是非とも(わたくし)にお任せください!」

 

 

 森人(エルフ)の森の一幕を例外に、冒険お預け期間の長かった若草知恵者ちゃんでした。

 

 視聴神さんたちもご存知の通り、若草知恵者ちゃんは太陽神さんではなく万知神さんを信仰する神官です。今回のミッションに必要なのは太陽神官なので彼女では条件を満たせないのでは?という意見が出て来そうですが、そこは万知神官のエロイところ。

 

 油まみれのダムを攻略した際にダブル吸血鬼ちゃんが用いた手段……そう、万知神さんを通しての間接的な祈りです! 真言、奇跡、死霊、精霊の四系統に習熟し、≪模倣(イミテーション)≫を経由しての専用奇跡へのアクセスも可能なガチ後衛である彼女の参加によって、『常闇ノ皇』討伐メンバーが決定しました!

 

 


 

 

「っし! 今日は万歳のキレも良い感じですわね、お姉様!!」

 

「うん、みんなバッチリだね!」

 

「背筋が伸びて、『やるぞー!』って気持ちが湧いてまいりました、主さま♪」

 

 

 ようやく顔を出した太陽神さんに向かっていつものポーズを決めていた一行。たゆんとご立派なたわわを揺らす神官銃士ちゃんの隣では、一緒にばんじゃーいしていた若草知恵者ちゃんがちょっと恥ずかし気に初体験の感想を口にしていますね。表情の読めない複眼&バケツ兜な年長者二名からも『ドヤァ・・・』というやり遂げた男のオーラが溢れている気がします。

 

 

「フム、それにしても……」

 

 

 身体の調子を確かめるように様々なポージングをしていた蟲人英雄さんが呟く先には、緊張した面持ちでステップを踏む光背王(キング)ちゃんの姿。視線に気が付いた彼女が首を傾げるのを見てウンウンと満足そうに頷いています。

 

 

「俺のような武骨者ですら一目見ただけで逸品だと判ったが、そうやって朝日に照らされるとまさに陽光を編んで作られたように輝くんだな!」

 

「ウム! 斯様な衣装を半月足らずで完成させるのだから驚きである!!」

 

 

 見事!と後方保護者面で語る大人組。まぁ彼らが褒めちぎるのも無理はありません。光背王(キング)ちゃんが身に着けているのは何時ぞやの練習着でも冒険者らしい実用一辺倒な装備でもなく……。

 

 

「『せんそーぶとーふく』っていうんだっけ? かっこかわいい!」

 

「ええそうよ! これこそ一流の馬人(セントール)が戦いに赴く際に身に纏う一流の勝負服、馬人競争(レース)の時に着る衣装の元にもなった一流の証、『戦争舞踏服(ウォードレス)』よ!!」

 

 

 白を基調としたノースリーブのインナーに肩口を露出させたカクテルドレス風の上着を合わせたデザイン。ほっそりとした葦を包む黒の二―ソックスはショートスパッツの裾にガーターベルトで留められており、光背王(キング)ちゃんのイメージカラーである緑をベースに纏められたデザインに特注のブーツが良く似合っています!

 

 もともとは己の人生を賭けた勝負に赴く際に自らの手で縫っていたみたいですが、今ではそれも少なくなり専門のデザイナーに依頼することがほどんど。ちょっぴり若草祖母さんの手を借りたとはいえデザインから縫製までをこなしてしまうとは……光背王(キング)ちゃん、やはり一流か。

 

 戦いに向いているとはとても思えない見た目ですが、そこはやる気が出力に直結する馬人(セントール)。不思議な加護によってAC(アーマークラス)に対する鎧ボーナスはマシマシ。フルプレートを凌駕するカチカチっぷりを発揮するため、部隊長クラス以上の馬人(セントール)は隊の士気向上効果も兼ねて戦争舞踏服(ウォードレス)姿で戦場を駆けるんだとか。

 

 

 「いやまったく! 次々に新鮮なフレーズが浮かんできますなぁ!!」

 

 

 そしてもうひとり、太陽神さん信仰でないのにこの場に残っていた人物。パピルス紙に筆を走らせ悦に至っているのは良い声の吟遊詩人さんです。

 

 魔神討伐という一大イベントを前に座して待つことなど出来ぬと同行を申し出た彼。当然のことながら危険過ぎるのでみんな止めるよう説得したのですが……。

 

 

「英雄譚をこの目で見る権利……それは俺のものだ……俺だけのものだ……!」

 

 

 ――とおめめグルグルさせながら断固拒否。自分の身は自分でなんとかするのを条件にオッケーが出た感じです。

 

 題材を求めて四方世界を流離う吟遊詩人さん。ある程度の自衛能力はありそうですが、魔神相手には流石にちょっと……と思っていたのですが……。

 

 

「此方の準備は完了です。さぁ皆様、心躍る冒険へと参りましょう!」

 

 

 テンション高めにみんなを急かす吟遊詩人さん。戦闘には参加しないこともあり微妙に浮いた存在になってますね。……()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――吟遊詩人さんを背に乗せ、ふわりと空中を飛行する真紅のボディ。強固な外骨格は重装鎧以上の防御力を秘め、巨大な鋏と尻尾は武器としても振るえる優れもの。背中に跨った吟遊詩人さんの左右には秘密道具満載のバックパックまで背負っています。眼前を優雅に浮遊するアレな存在に、とうとう我慢出来なくなった光背王(キング)ちゃんが……。

 

 

「な、な、なんでそんなお化けみたい(ファンタズマ)な巨大蝲蛄(ザリガニ)が空を飛んでるのよー!?」

 

 

「はっはっは! 長い旅のなかで苦楽を共にし、幾度となく窮地を救ってくれた私の自慢の相棒ですので!!」

 

 

 飛行する説明になってないんだよなぁ……。まぁ一行のなかで驚いているのは光背王(キング)ちゃんだけ。蟲人英雄さんと太陽戦士さんは「まぁ偶に見るよね、何故か空を飛ぶへんなの」って顔してますし、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)は空飛ぶサメを筆頭にトンチキな怪物は見慣れてますからねぇ。……あ、そこ! ダブル吸血鬼ちゃんが一番トンチキとか言うのは禁止です!!

 

 閑話休題(それはそれとして)、対『常闇ノ皇』一行の目的地はとある遺跡。かつて疫病の魔神が召喚されたことのある古い神殿跡に再び魔神が現れるとの≪託宣(ハンドアウト)≫が太陽神さんより配られております。え? 何処かで聞いたことがある? まぁそうですよねぇ……。

 

 


 

 

「私が皆と初めて冒険に赴いた場所が、いま再び魔神降臨の場所になるとはなぁ……」

 

 

 かつて仲間とともに足を踏み入れた遺跡の入り口を前に、しみじみと呟く太陽戦士さん。予定日より早く到着し早速討伐の準備をしようとする一行でしたが、その眼前には見慣れたいつものヤツが……。

 

 

「……トーテム、で御座いますね」

 

「わふぅ……」

 

 

 頬に手を添えながら溜息混じりに声を漏らす若草知恵者ちゃん。その傍らでは『やれやれだぜ……』と言いたげな狼さんが首を左右に振っています。どうやら本番前に一仕事しなければいけないみたいですねぇ。

 

 

「おふたりの護りは私にお任せください! 指一本触れさせたりはしませんわ!!」

 

「ん、おねがいね」

 

 

 両の籠手を打ち鳴らし、フンスと胸を張る神官銃士ちゃん。白兵戦の不得手な若草知恵者ちゃんと冒険に慣れていない光背王(キング)ちゃんの護衛に付いてくれるみたいですね。暗視持ちの吸血鬼君主ちゃんと蟲人英雄さんが前衛、神官3人を真ん中に太陽戦士さんが背後を固めてくれる安定感のある隊列です。

 

 

「あんまり緊張しないでね? 後ろにはいかせないようにするから!」

 

「ええ、でもいざという時はこの(キング)が守護らなきゃダメ。それが王たるものの務めよ!」

 

「フフ、頼りにさせていただきますね♪」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの言葉に頷きを返す光背王(キング)ちゃん。左右の手には隻眼鍛冶師さん謹製の武器が握られています。棒状の金属から垂直に握り(グリップ)の伸びた独特な形状、敵の攻撃を受け流す盾であり打突武器としても優秀な旋棍(トンファー)ですね!

 

 

「では皆様、頑張ってください! 私は上から応援しておりますので!!」

 

「貴公……いや、そのほうが安全であるか……」

 

 

 ニッコニコ笑顔の吟遊詩人さんは相棒と一緒に天井近くをホバリング。どうやら元は大型種族・あるいは魔神が出入りしていたためか、遺跡全体が大型種族用のサイズになっているのでザリガニさんも飛びやすそうです。

 

 呆れた様子の太陽戦士さんの隣では狼さんが若草知恵者ちゃんを背に乗せ、彼女のナイスなおしりの感触にご満悦な様子……と、おや? 何か大切なことを思い出したように、神官銃士ちゃんが吸血鬼君主ちゃんを抱き上げました。胸元で不思議そうに見上げる吸血鬼君主ちゃんの頭を撫でながらそっと法衣の合わせを開き……。

 

 

「今日はお義母(かあ)様のお乳だけで、まだ血を吸われてませんわよね。戦いの前にしっかり補給しておきましょう!」

 

「むぎゅっ。……ん、それじゃあいただきます……ちゅっ」

 

 

 顔いっぱいに押し付けられた豊満な膨らみ。丹念に舌と唇でご挨拶すれば、可愛らしい吸い口がぷっくりと存在を主張し始めます。柔らかい果汁飴(グミ)のようにプルプル震える周りごとツンと尖った吸い口をちっちゃなお口に含み、そっと牙の先端を当て……。

 

 

「んっ……お味のほどは如何ですか、お姉様……?」

 

 

 ゆっくりと、パートナーに負担を掛けないようちゅーちゅーする吸血鬼君主ちゃん。遠慮がちな小さな暴君の後頭部を神官銃士ちゃんが優しく撫で、もっと吸うよう促しています。ゆらゆらと左右にリズムよく身体を揺らし、胸元に抱いた小さな想い人をあやすような立ち居振る舞い……実に背徳的ですねぇ! 上空で見ている吟遊詩人さんも、ペン先から白煙が上がる勢いで二人の艶姿を書き記しています。

 

 

「――ぷぁっ、ごちそうさま。……だいじょうぶ? きぶんわるくなったり……むぎゅっ!?」

 

「大丈夫、鍛えておりますので。……それよりも、次はお姉様からお願いいたしますわ!」

 

 

 ふむ、ちゅーちゅータイムはそこそこ長かったですが、吸血量は僅かだったみたいですね。貧血で青くなることもなく上気した顔の神官銃士ちゃんに応えるように、吸い口に感謝のキスを繰り返す吸血鬼君主ちゃん。そのままんーっと背伸びをして、期待に満ちた表情の神官銃士ちゃんへと顔を近付け……。

 

 

「えっと、その……やっぱりちょっとえっちすぎじゃないかしら?」

 

「ふふ、主さまに良し、吸われる側も良し。『うぃんうぃんの関係』というものです!」

 

 

 指の隙間からガン見している光背王(キング)ちゃんの隣で後方お嫁さん顔な若草知恵者ちゃん。無意識なのでしょうが、己の下腹部に手を当て撫でる姿はあっちの二人よりも余程えっちなんですがそれは……と、口づけで魔力胸供給をしていた吸血鬼君主ちゃんが神官銃士ちゃんの胸元からぴょんと飛び降り、インベントリーからヒヒイロカネ製の剣を取り出しました!

 

 

「むー……ちゅーちゅーしたあとのおはなしあいが、ふうふえんまんのひけつなのに……!」

 

「もう、()()夫婦ではありませんわよお姉様?」

 

 

 手早く服装を整え、神官ズを護衛する位置へ戻る神官銃士ちゃん。吸われる前よりも動きのキレが良くなっているあたり、即効性もあるみたいですね、ちゅーちゅー。

 

 

「質はともかく数は多そうだ。通常個体だけならば大した手間にはならないが……」

 

「ぼくしってるよ、そういうの『フラグ』っていうんだよね?」

 

「「「GOBGOBGOB!!」」」

 

 

 

 赤く明滅する複眼が睨む先、暗闇の向こうに見えるのは無数の獣欲に塗れ濁った黄色い光。雌の匂いを嗅ぎつけた無数のゴブリンが押し寄せてくるいつもの光景。ですが、その構成は普段とは異なるようで……。

 

 

「おやおや、呪術師(シャーマン)呪文使い(マジシャン)がこれほどの数揃っているとは……」

 

 

 暗視付与の黒眼鏡(ゴーグル)越しに群れを見ていた吟遊詩人さんの呟きに顔を顰める一行。新人冒険者にとって脅威となる田舎者(ホブ)戦士(ファイター)ですが、ベテランにとっては状況をひっくり返せる手段を持たない与しやすい相手。むしろ追い込まれて何をしでかすか判らない呪文持ちのほうが厄介です。

 

 たとえ練度の低い呪文でも数を撃ち込まれれば抵抗に失敗する可能性がありますからね。何か教材となるものがあったのか、あるいは渡りで知識と技術を教えてまわっているレアな個体でもいたのか。……まぁどちらにせよやることは変わらないのですが。

 

 

「――では、先ずは厄介な呪文を封じることにいたしましょう」

 

 

 そう言葉を紡ぎながら、聖句を唱え始めたのは若草知恵者ちゃん。()()()()()()()()()に展開される儀式呪文(エンチャント)は、相対した呪文使いにとって死刑宣告に等しい効果を発揮します……!

 

 

「GOB!」

 

「「「GOBGOBGOB!!」」」

 

 

 酋長(チーフ)と思しき羽根飾りを身に着けたゴブリンの号令に従い、一斉に詠唱を始める後衛のゴブリンたち。呪文の種類はてんでバラバラ、効果範囲に突出した前衛が含まれていても構い無しに発動するあたり、通常個体に肉壁以上の役割を期待していないのでしょう。

 

 ≪石弾(ストーンブラスト)≫や≪火矢(ファイアボルト)≫、≪火球(ファイアボール)≫が乱れ飛ぶなか、こっそりと≪惰眠(スリープ)≫を唱える酋長(チーフ)。精霊術だけでなく真言まで使えるあたり優秀な個体なのでしょう。目に見える脅威に気を取られ、≪惰眠(スリープ)≫に対する警戒を忘れさせるとは随分と考えたものですね。温存という考えを持たない初撃から全開の呪文が馬鹿な冒険者たちと肉壁どもへと殺到し……。

 

 

 

 

 

 ――吸血鬼君主ちゃんたちを覆う形で空間に刻まれた≪神聖の力線(Leyline of Sanctity)≫によって、前衛のゴブリンが壊滅したという結果だけが残りました。

 

 

「これで小鬼(オルク)たちの呪文は此方を対象とすることは出来ません。地面や物体を目標に選ぶ呪文は防げませんが……」

 

「十分過ぎる効果ですわ!?」

 

 

 ほぅっと艶やかに一息を入れつつ一行に微笑む若草知恵者ちゃん。何故防がれたのか理解出来ず、再び呪文を一斉射するゴブリンたちに向ける瞳には憐れみも蔑みの色も無く、ただただ塵芥(ゴミ)を見るソレ。三度目の呪文斉射が無駄に終わったあとには、文字通り全滅した肉壁だった何かの山と、呪文を使い切り呆然と此方を眺める後衛たちの姿しかありません。そして、状況をひっくり返せる手段を失った彼らに残された未来は……。

 

 

「――ぜったいにあいつらをにがしちゃダメ。ここでいっぴきのこらずころす、ころしつくす。どんなにじひをこうても、どんなにあわれになきさけんでもかんけいない。ここでころさないと、ほかのだれかがあいつらのせいでけがされちゃう」

 

 

 視認出来るほどの殺意を纏い、にじり寄る小さな姿に恐慌状態となるゴブリンたち。じりじりと後ずさり隙を見て逃げ出そうというところで、上空から男の声が響きます……。

 

 

「成程、では私も少々お手伝いを。――吟遊詩人の呪歌(まがうた)、存分に聴いていただきましょう!」

 

 

 大型種が行き来出来るほどに広大な通路に朗々と響き渡る吟遊詩人さんの歌声。冒険者が好む英雄譚(サーガ)とも、従軍神官が戦場で披露する戦歌(バトルソング)とも違うソレに聴き入る吸血鬼君主ちゃんたち。冒険者たちが足を止めたのを見たゴブリンたちが一斉に逃げ出そうとしたところで、彼らは呪歌(まがうた)の恐るべき効果を知ることになりました……。

 

 

「GO、GOB!?」

 

「「「GOBGOBGOB!?!?」」」

 

 

 一刻も早く逃げねばという意思に反し、力強く冒険者たちに向かって駆け出す己の脚。発動体である杖やナイフを握る手には力が漲り、悲鳴を漏らす精神とは裏腹に勇ましい声が彼らの喉からとめどなく溢れています。敵に逃走を許さず、文字通り死ぬまで戦うことを強制する恐るべき呪歌(まがうた)。禁じられたその名は……。

 

 

「――≪突撃行軍歌(ガンパレードマーチ)≫。混沌の軍勢との戦いの最中、秩序の勢力が追い詰められ存亡の危機に瀕した時に生み出されたとされる呪歌(まがうた)です。本来は聴く者の勇気を奮い立たせ、恐怖に打ち勝つための歌だったのですが……」

 

 

 敵味方問わず聴く者に逃走を許さず、どちらかが全滅するまで戦う禁断の歌となってしまいまして、とのたまう吟遊詩人さん。……最初から一向に退く気が無かったので良いですが、これ一歩間違えれば大惨事ですよね!?

 

 

「ヌゥ……絶対に負けられぬ戦いというのは確かにあるが……」

 

「栄纏神の神官殿の前では、決して歌ってはならんな……!」

 

 

 足並みを揃えることもなく突っ込んでくるゴブリンを始末しながら言葉を漏らす大人組の二人。確かに、令嬢剣士さんのいる場所で歌ったらブチ切れ待ったなしですねぇ……。

 

 

「ですが、使い方を誤れば危険なのは他の呪文も一緒。すべては使いようで御座います」

 

「そうかな……そうかも……」

 

「ぜったいに拘束を緩めちゃダメよ! ぜったいなんだからね!?」

 

 

 顔面から様々な液体を垂れ流しながら死への一本道を突き進むゴブリンたちを恍惚の表情で眺める若草知恵者ちゃん。その腰には影の触手が巻き付き、前線に行かないよう吸血鬼君主ちゃんがしっかりと拘束していますね。その隣では同じく触手に絡めとられた光背王(キング)ちゃんが青褪めた顔で前を見ています。タッチの差で拘束を免れた神官銃士ちゃんが大人組に交じって残存ゴブリンを殲滅する姿を見て、改めて一党(パーティ)のトンデモっぷりを確認しちゃったみたいですね……。

 

 

 この後、ゴブリンを殲滅したことで呪歌(まがうた)の効果が切れ、やり遂げた男の顔で吟遊詩人さんが降下してきて……。

 

 

「教育的指導ッ!!」

 

はわわ……やはり怒っていらっしゃ……へぶし!?」

 

 

 蟲人英雄さんからSEKKYOUを喰らい、相談なしに呪歌(まがうた)を使わないよう約束させられておりました……残当。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 ジマーマンとスタンニードルランチャーに変わる相棒を探しに行くので失踪します。

 ちょっとずつ書いては消し書いては消しを繰り返しているうちに随分と間が空いてしまい、期待してくださっていた方には申し訳ありませんでした。

 モチベが下がったわけではなく、書きたいという意欲はあったのですが……どうにも納得がいかず、更新が遅くなってしまいました。

 なるべく間を開けずに次話を更新したいと思いますので、応援して頂ければ幸いです。


 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその18-6


 急に肌寒くなってきたので初投稿です。




 

 前回、吟遊詩人さんが再教育センター送りになりかけたところから再開です。

 

 遺跡内のゴブリンを一掃し、『常闇ノ皇』出現に備える吸血鬼君主ちゃんたち。祭壇のある広間には強大な魔力の鼓動が響き渡り、空間が軋みを上げ悍ましき魔神降臨が迫っていることを示しています。

 

 

「そろそろか……君たち、準備は大丈夫か?」

 

 

 吸血鬼君主ちゃん、太陽戦士さんとともに祭壇の中心を囲む位置に立つ蟲人英雄さんが、振り返りながら問う先には三人の乙女の凛々しい立ち姿。小柄な若草知恵者ちゃんの左右に神官銃士ちゃんと光背王(キング)ちゃんが並び、床面に突き立てた螺旋の剣の柄に全員の手を合わせています。

 

 

「はい、問題はございません」

 

「準備オーケーですわ!」

 

「あとは、魔神の出現に合わせて……ッ」

 

 

 適度な緊張はあれど、彼女たちの顔には不安の色は見えません。フンスと胸を張る三人を微笑ましそうに見ていた前衛たちですが、ビキリ……と空間に亀裂が入ったのを確認し、それぞれの得物を構えます。

 

 

「じかんぴったり!」

 

「ウム、託宣(ハンドアウト)通りであるな!」

 

 

 おお、太陽神さんがみんなに送っていた集合時間は間違っていなかったみたいですね! 遺跡の内部にいる吸血鬼君主ちゃんたちには見えませんが、現在王国を中心とした地域では皆既日食が始まっています。

 

 予め布告を出していたおかげで王国内での混乱は起きていませんが、混沌、あるいは外なる神から神託を受けた混沌の神官たちによって日食が来ることは混沌の勢力にも伝わっているため、最近の劣勢を覆すべく乾坤一擲の攻勢に。『常闇ノ皇』とその配下である魔神たちも戦力として当てにしているのか、この一戦で王国を攻め落とさんと魔神将と思しき異形が直卒を率いて進軍しているのが盤外(こちら)から見えています。

 

 

 中指を立てている太陽神さんを嘲笑うかのように、その姿を隠していく『黒き月』。光さえ歪める超重力の(ゲート)が空を穿つ穴となった瞬間……!

 

 

「でたな、『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』!!」

 

 

 ――四方世界を永劫の闇に包まんとする恐るべき魔神が、星辰の彼方より顕現しました。

 

 

 罅割れた空間を押し退け、ひり出されるように現れたのは漆黒の球体。表面に刻まれた紋様は見る者の精神を狂わせるように赤く明滅し、その内から染み出た魔力が徐々に空間を己の領域に塗り潰さんと浸食していきます。自らの存在を四方世界に生きる全ての存在に知らしめるよう、産声と呼ぶには余りにも悍ましい咆哮を上げようとしたその瞬間……!

 

 

「「「――太陽あれ(Long may the sun shine)!!!」」」

 

 

 ――光背王(キング)ちゃんたちが持つ螺旋の剣を中心に発生した白い霧が、先んじて『常闇ノ皇』を異界へと引きずり込んでいきます!!

 

 

 

 

 

「DEMOOOOOON!?!?」

 

「「「「「GOBGOBGOB!?」」」」」

 

 

 『常闇ノ皇』が四方世界から切り離されたことで日食は中断し、闇に乗じて攻めようとしていた混沌の軍勢は浮足立つばかり。太陽神官たちの策が成功したことを察した王国軍の士気はいや増し、拠点に籠って防衛に徹していた将兵が一斉に反攻に向けた準備を始めていますね。

 

 

『は? まだとうじょうしーんなんだが!?』

 

 

 己の展開しようとしていた異界を塗り潰され、困惑ともとれる唸りを上げる『常闇ノ皇』。完全に白い霧へと取り込まれる前に複数の魔力塊を生み出し、遺跡の天井を突き破って外界へと放ちました。陽光に焼かれながらも飛翔する魔力塊はその姿を変えつつ『常闇ノ皇』の信徒を目印に降臨。土煙の晴れた地に立っているのは……。

 

 

「DORARARA!!」

 

『かったな、ふろはいってくる』

 

『よばれてとびでて……』

 

『じゃじゃじゃじゃーん!』

 

「VIRUUUUS!!」

 

 

 八つ首の大悪竜、赤備えに二刀の牛頭、機械仕掛けの双子梟、そして全身から緑色の瘴気を放つ大鎧。かつてダブル吸血鬼ちゃんたちが倒した魔神たちが、再び姿を現しました!

 

 

 

 

 

『ムービーにわりこむとか……』

 

『ゆるされないんだよなぁ!』

 

「むふー、おこってるおこってる!」

 

「これで魔神が無限湧きする心配は無くなりましたわね、お姉様!!」

 

 

 魔神の種を放出したところで完全に異界に取り込まれた『常闇ノ皇』。四方世界への侵入を邪魔されたことに怒りを感じているのか、ブルブルと震えながら吸血鬼君主ちゃんたちへプレッシャーを放っています。以前ダブル吸血鬼ちゃんによって創り上げられた異界は二人の特性を反映した不死の闘技場。ですが、今回鍵となったのは敬虔なる太陽神さんの信徒、つまり……。

 

 

『うぉおおおおあっちぃいいいい!?!?』

 

 

 雲ひとつない蒼天に燦然と輝く(ドヤ顔ダブルピースな)太陽神さん。太陽神さんの信徒である吸血鬼君主ちゃんたちにとって最も有利となる戦場です!!

 

 

「よし、手筈通り削っていくぞ!」

 

「前回と同様、ヤツは形態変化を繰り返すだろう。力は温存するのだ!」

 

「了解ですわ!!」

 

 

 見上げるほどに巨大な魔神に対し、臆することなく立ち向かう前衛たち。飛蚊を潰すかのように転がり、あるいは腕部を展開して振るう『常闇ノ皇』の攻撃を躱しつつ攻撃を重ねていきます。周囲に纏わりつく前衛に焦れた魔神が両腕を展開、変形させ、回転鋸のような刃を振りかざしたところで……。

 

 

「踏み込みが足りないわよ!!」

 

 

 踏みしめた大地が割れるほどの前ステップで懐に潜り込んだ光背王(キング)ちゃんの旋棍(トンファー)一閃! その細身からは想像出来ない程の筋力の乗った掬い上げるような一撃は巨大な球体を見事にカチ上げ、地響きとともに地面へと沈めました!! 度重なる衝撃で行動不能(スタッガー)状態となった魔神に対し、容赦ない追撃が叩き込まれます。

 

 

「師匠直伝、『閃光脚(フラッシュキィィィィィック)』ッ!!」

 

 

 空高く跳躍し、後光を背負って急降下する神官銃士ちゃん。はためく法衣から惜しげもなく太股を晒しながらもそれ以上は見せない高等な謎の光を伴って繰り出されるのは、まだ黒一色(BLACK)だった頃の蟲人英雄さんが得意としていた必殺技です! 祈りのパワーを込めた飛び蹴りは、見えそうで見えない絶対領域を見上げる身動きの出来ない魔神にジャストミート! 吹き飛ばされた『常闇ノ皇』は金髪の陛下が良く見せてくれる岩盤浴を披露し、小刻みに震えています。

 

 

「おーらいおーらい……わぷっ」

 

「あん♪ お姉様ったらもう……」

 

「ふふ、こちら補給用の竜血(スタドリ)でございます」

 

 

 おや、蹴りの反動でとんぼ返りをしていた神官銃士ちゃんのナイスなおしりを吸血鬼君主ちゃんが顔面キャッチ。そのままtoloveる的にもつれ合っちゃってますね。吸血鬼君主ちゃんの顔面に乗った体勢のまま若草知恵者ちゃんの差し出すドリンクを一気飲みする神官銃士ちゃんの姿に「不潔よー!?」という光背王(キング)ちゃんの叫びが虚しく響いています。

 

 

『ひとをほうちしてイチャコラしやがって……!』

 

 

 お、岩盤浴をしていた『常闇ノ皇』が動き始めました! 表面に亀裂が走ったと思えば、新たな形態へと変形するみたいです。ふむ……まーだ時間掛かるみたいですので、ちょっと映像を外に切り替えてみましょうか! 無貌の神(N子)さん、お願いしまーす!

 

 


 

 

「敵、超大型魔神複数出現!」

 

「魔神将と思しき指揮個体も確認されています!!」

 

 

 慌しく伝令が行き交う王国軍の本陣。暗黒に包まれた空が明るさを取り戻したことで反撃に出ようとしていた矢先に舞い込んだ魔神出現の報に腰を浮かせかける将軍たち。彼らを抑えたのは金髪の陛下の言葉です。

 

 

「なに、まだ慌てるような状況ではない。――計画に基づき、彼らに出撃の要請を」

 

「承知いたしました」

 

 

 恭しく頭を下げる義眼の宰相。顔を上げた彼が目配せするのは、やっとこさ砂漠の国のデスマーチから解放された半森人局長さんと銀髪犬娘さんです。陛下の傍らにいた銀髪侍女さんと三人連れ立って本陣を後にするのを綺羅星の如き将軍たちが見送っていますね。

 

 

「……うむ、いや、しかし、何とも歯痒いものですね。民を護るべき軍人が彼らを頼るというのは……」

 

「――当代の勇者殿然り、金等級以上の冒険者というものは王国……否、秩序の勢力にとっての鬼札(ジョーカー)。機を読み違えては文字通り無役だが、使い時を誤らなければ比類なき切り札(トランプ)となるだろう」

 

 

 悔しさと無念さの入り混じった複雑な感情を吐露する疾風狼人さんをフォローしているのは王国軍の秩序維持と国内の治安活動を統括している憲兵総監さんですね! 『赤い手』の騒動の際に現れた兄弟魔神を追い詰めたり、二重魔神(ドッペルゲンガー)から神官銃士ちゃんこと王妹殿下1号を護ったりと実況には映っていないところで大活躍しているナイスガイです。

 

 

「では、金等級である【辺境三勇士】とともに【辺境最悪】の一党(パーティ)にも参戦を要請したのは……」

 

 

 二人に続いて呟くのは牧場での治療の後、現場に復帰した竜騎将軍さん。理解の色を浮かばせた彼の顔を見た金髪の陛下が悪戯が成功した子どものような顔となり、その隣の赤毛の枢機卿がまったく……という顔をしていますね。

 

 

「うむ! ここらでダメ押しの功績を稼がせ、金等級に上げてしまおうと思ってな。貴族にして金等級の冒険者ともなれば、我が妹たちの相手に不足なし、小五月蠅い貴族共も口を噤むであろう」

 

 

 実力と人格に問題無し、後は箔付けだけよとのたまい呵々と笑う陛下を見て苦笑する将軍たち。まぁダブル吸血鬼ちゃんたちの有用性はこれまでも散々アピールしてますし、みんな好印象を抱いてくれてますが……王妹殿下1号2号に対してダダ甘ですよねぇ陛下。

 

 

「実際、上位魔神や魔神将に兵を当てるわけにもいかん。卿らの言う通り、軍には軍の、冒険者には冒険者の役割があるというものだ。だからこそ……」

 

 

 

 

 

「あの愛らしき義妹とその眷属を、この国に必要不可欠なものとして周知せねばならんのだよ」

 

 


 

 

「へぷちっ」

 

「あら、夏風邪? それとも誰かが噂でもしてたのかしら」

 

 

 

 上空で戦場の様子を窺う大小ふたつの人影。可愛らしいくしゃみをする吸血鬼侍ちゃん鼻に女魔法使いちゃんがハンカチをあてがってますね。

 

 太陽神さんが顔を出し、秩序の勢力が反撃に出ようとしたタイミングでの再生魔神到来。援軍の登場で混沌側が勢いを取り戻そうとしていますが、それを挫くように戦線の両翼から強大な魔力が発生しました! 畏敬の念を抱く兵士たちの間から進み出て、津波のように押し寄せる混沌の軍勢に対し臆することなく武器を構えるのはもちろん……。

 

 

「ここは、通しませんわ!」

 

 

 秩序の守護者(ガーディアン)であり、将兵からの人気急上昇中な栄纏神さんの信徒である令嬢剣士さんと……。

 

 

小鬼(ゴブリン)は皆殺しだ』……フフ、あんまり似てないかな?」

 

 

 ――瞳を紅く輝かせ、鮫のような笑みを浮かべた叢雲狩人さんです! ふたりの相棒がその力を解放し、軍勢を消滅させていく様はまさにMAP兵器。戦場での情報伝達が未熟なため密集隊形を取らざるを得ない混沌の軍勢に対しての効果は抜群ですね!

 

 

「すごーい! みんなまんなかにあつまってるね!!」

 

「相変わらずえげつないわねぇ……ま、味方の損害も抑えられるし丁度良いでしょ」

 

 

 両翼端からの圧によって中央に押し込められつつある混沌の軍勢。集団の密度が上がったことでその速度は鈍化し後退もままならないみたいですね。進退窮まった状況を打破すべく再生魔神を切先として正面突破を試みようとしていますが、恐るべき魔神を迎え撃つ準備は既に整っています。

 

 

「竜退治って、とっても冒険者よねぇ! 小鬼(オルク)退治とは大違い!!」

 

「そうか。……アレは外套(マント)の素材になるだろうか」

 

「そういやお前、砂漠で借り物を駄目にしてたか。あの時は多対一だったが、あんだけ首がありゃ多人数で()っても文句は出ねぇだろ」

 

「んじゃ、誰がいっとう多く首を()れるか賭けようぜ!」

 

「ぼくも負けませんよぉー!」

 

 

 フンスと薄い胸を張る妖精弓手ちゃんを先頭に、八つ首の大悪竜(ヤマタノオロチ)に対峙するのはゴブスレさん、重戦士さん、槍ニキと、それから白兎猟兵ちゃん。

 

 

「っし! アイツを斃して、もう一本大太刀(オオタチ)を鍛えてもらうぞー!!」

 

「私は小刀が欲しいかなぁー」

 

「わ、私も新しい脚甲が……!」

 

 

 真紅の全身鎧と立派な二刀に粘つく視線を向けられガタガタと震える赤カブトには、物欲に塗れた圃人剣士ちゃん、圃人巫術師さん(ふたりともダブル吸血鬼ちゃんの魔剣で立派なレディになったので『少女』表記は無くす方向でひとつ)、英雄雛娘ちゃんの三人が。近くでは吸血鬼侍ちゃんの使徒(ファミリア)である黒スライムくんが丈夫な肉壁として待機しています。

 

 

「うぅ……いくら病気に罹らないからって、アレの相手をするのはなぁ……」

 

「まぁまぁ、これも眷属の務めということにいたしましょう」

 

 

 鍛冶師さんの鎧ではなく、何処かで調達してきたと思しき深緑色の大鎧を依り代に気炎を上げているポジ持ち魔神(エキビョウ)には、死んだ目をしている妖術師さんと妙にウッキウキな剣の乙女ちゃんの眷属コンビが。エロエロ大司教モード&太陽の直剣とレイテルパラッシュの二刀流で張り切ってますねぇ。

 

 

「部品は親方たちのお土産にしたいから、あんまり派手に壊しちゃダメよ?」

 

「うん、わかった! コアもほしいからていねいにしょりするね!!」

 

 

 そして、空を舞う双子梟は上空で待機していた吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんが担当するみたいです。なお女神官ちゃん、女騎士さん、魔女パイセンはリザーバーとして後方で応援中。負傷者は不意の乱入者に備えてくれていますね! 恐れることなく立ちはだかる冒険者たちに、再生魔神たちが咆哮を上げながら襲い掛かって来たところで戦闘開始です!!

 

 


 

 

「まずは一本……(フン)ッ!!」

 

「DORA!?」

 

 

 黒騎士の鎧を身に纏い、鋭い呼気とともに放たれた斬撃によって早々に斬り飛ばされたのは黒竜の首。装備品を痛める酸のブレスは冒険者から蛇蝎の如く嫌われているため、ブレスを吐かれる前に胴体とお別れさせられちゃいました。同じく酸のブレスを操る緑竜の首は怯えたように縮こまり、他の首を前面に押し出してますねぇ。

 

 

「『小鬼殺し(オルクボルグ)』じゃ首切りは難しいでしょ? 今狙いやすくしたげる!……あ、もちろん技量じゃなくて剣の刃渡りのことだからね?」

 

「……ああ」

 

 

 妖精弓手ちゃんの言葉にちょっぴり気落ちした様子のゴブスレさんですが、眼部を始めとする鱗の薄い部分に木芽鏃の矢が次々と突き刺さり地面に倒れ込んで来た白竜の首に狙いを定め、その逆鱗に『小鬼殺し』を突き立てました。ビクリと震え動きを止めた首を一瞥し、次なる目標へと駆け出していきます……と、どうやら白兎猟兵ちゃんが大立ち回りをしているみたいですね!

 

 

「三本目と……四本目ですよぅ!」

 

「DORA!?」

 

「GO……!?」

 

 

 断末魔の声を上げ地面へと落下する二本の首。一閃二斬首を成し遂げた白兎猟兵ちゃんの手には奇怪な形をした武器が握られています。手数重視のノコギリと威力重視のナタに変形するソレは、視聴神さんたちもなじみ深いやーなむちほーの特産品。ギルドの訓練場で新人たちが殺しに慣れるためにダブル吸血鬼ちゃんを攻撃する際に用いられ、ふたりの血を吸い続けたことで霊的な存在すら攻撃可能な逸品に。だから青竜とともに半実体である霊竜の首が落ちているんですね。

 

 なおダブル吸血鬼ちゃんを始めとする眷属たちの血を精製して作られる血昌石を嵌め込むことで更なる強化も可能なんだとか。現在は訓練場で吸血鬼侍ちゃんからドロップした「物理の攻撃力を高める+27.2%」が3個嵌められているそうです。……普通だな!(白目)

 

 

「ハハ、やるじゃねえか嬢ちゃん! 俺も格好良いところ見せねぇとな!!」

 

「DORARA!?」

 

 

 白兎猟兵ちゃんの活躍に触発され、獰猛な笑みを浮かべる槍ニキ。吹き付けられるブレスをひらりと躱し、突っ込んでくる竜の首を足場に跳躍を繰り返していますね。滞空時間中に見定めた獲物は一番目立つ赤竜の首、噛みつきにきた黄竜の下顎を蹴って加速し、頭部を貫通する一撃を決めました! これで残りはあと三本、仕留めるのは時間の問題でしょうし、ちょっと他の組の様子を見てみましょうか!

 

 


 

 

『ふろはいってるばあいじゃねぇ!?』

 

 

「五月蠅いなぁ、なに言ってるかわかんないけど」

 

「きっと熱烈な愛の告白ですよ」

 

「えっと、違うんじゃないかなぁ……」

 

 

 視点は変わって物欲三人娘対赤カブトの戦いですね。圃人巫術師さんの唱えた≪泥罠(スネア)≫に足を取られ思うように動けない魔神の全身には無数の斬撃の痕が刻まれており、自慢の二刀も半ばから折れてしまっています。英雄雛娘ちゃんは圃人巫術師さんの護りに専念しているため、ダメージディーラーは圃人剣士ちゃん。彼女の振るう武器は目の前の赤カブト由来であり、隻眼鍛冶師が手を加えたとはいえ強度にはそれほどの違いはない筈。何故こんなに一方的なのかと言えば……。

 

 

「「にゅにゅにゅっ!」」

 

「わ!? あぶなかった……」

 

「うふふ、素敵な騎士様(ナイト)ですね」

 

 

 ひとつは鉄壁のディフェンスを披露しているスライム君の活躍。物理攻撃を無効化するうえに牛頭の吐く炎のブレスもその属性耐性でほぼノーダメージ。真っ二つにされてもそれぞれが独自に行動し、今は三人に各欠片(パーツ)がくっついて生体防壁みたいになってますね。そして、もうひとつの理由が……。

 

 

「『構え』『抜刀』『納刀』、『構え』『抜刀』『納刀』……ッ!」

 

「にゅー!」

 

 

 鞘に納めた状態から繰り出される無数の剣閃……武器の素材が同じならば、あとは扱う者の技量の差が勝負を決めるだけ。雪山で鍛えられたぬかるみをものともしない強靭な足腰から生ずる踏み込みと、吸血鬼侍ちゃんから手取り足取り&魔力供給で継承された抜刀術の精緻なる組み合わせはある種の美しさを秘めています。

 

 

「――(シャア)ッ!!」

 

 

 ヤバレカバレに繰り出される薙ぎ払いを紙一重で避け、そのまま反撃の一閃! 納刀の音とともに赤カブトの腕がボトリと落ち、次の瞬間にはその頭部がぽーんと宙に舞っていました!!

 

 里で学んでいた叩き切る剣とは異なる『斬る』ことに重きを置いた大太刀(オオタチ)に最初は戸惑っていた彼女ですが、度重なる冒険の間に武士道(ブシドー)に目覚め、今では立派な前衛に。原作(ほんへ)のような薩摩隼人(ぼっけもん)ではありませんが、ダブル吸血鬼ちゃんも良く口にしている『馬鹿にされたらわからせる(舐められたら殺す)』という思想はそのまんま、生命の取り合いも辞さないそうです。……次話の展開が見える見える。

 

 

「ふぅ……よし、討伐完了! まだ体力に余裕あるし、他のところの手伝いに行こっか!!」

 

「は、はいっ!」

 

「あらあら、張り切っちゃって。まぁあとで頭目(リーダー)さんのご褒美(ちゅーちゅー)が待ってるものねぇ」

 

 

 無事に赤カブトを斃し、そのままオロチ組の応援に走る三人娘。うーん、元気ですねぇ……と、妖術師さんと剣の乙女ちゃんの眷属コンビのほうも決着が付きそうですね! 次回は凸凹吸血鬼(ヴァンパイア)ポジ持ち魔神(エキビョウ)の戦いから再開です!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 バズーカ4本持ちが胸キュンなので失踪します。

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 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその18-7



学生時代の先輩たちと美味しい海の幸をおなかいっぱい食べたので初投稿です。



 前回、再生魔神をボコボコにしているところから再開です。

 

 赤カブトを斃し、大悪竜(オロチ)の首を五本落とした対魔神戦線。本日最初のカードは剣の乙女ちゃん(エロエロ大司教)妖術師さん(メカクレ陰キャ)vsポジ持ち魔神(エキビョウ)という色物異色の対決。さて、戦況はどんな感じで……。

 

 

「VIRUUUUS!」

 

「グワー!?」

 

「VIRUUUUS!!」

 

「グワー!?!?」

 

「VIRUUUUS!!!」

 

「グワー!?!?!?」

 

「ふふ、あの子たちに匹敵……いえ、凌駕するほどの再生力、素敵ですね♪」

 

 

 うわぁ、鎧の各所から緑煙を噴射して超加速した魔神の突撃を躱し切れず、妖術師さんがAパーツとBパーツに分かれては瞬時に再合体するアレな光景を頬に手を添えた剣の乙女ちゃんが楽しそうに眺めてますねぇ……。時折飛来する槍や太矢をレイテルパラッシュで撃ち落としながらも積極的に攻めようとしていないあたり、妖術師さんに経験を積ませるつもりなんでしょうか。

 

 

「VIRUUUUS……!」

 

 

 何度斬撃を浴びせてもあっという間に元通りな妖術師さんに向け、焦れたように本体の切先を突き付ける魔神。吸血鬼君主ちゃんと悪魔殺し一党(パーティ)が滅ぼした時よりも二回りは大きな鎧&湾刀(カタナ)姿、その姿に比例して攻撃力も増大しているのですが……妖術師さんを殺し切れず攻めあぐねている様子。一方で真っ二つにされ続けていた妖術師さんのほうはといえば……。

 

 

「あのさぁ……もうちょっと手助けしてくれてもよくない???」

 

「私が手を出すと一撃(ワンパン)で斃してしまい、貴女の戦闘経験になりませんので。それに……()()()()()()()()()()()()()?」

 

「いや、まぁそうだけどさぁ……!」

 

 

 うーんこの圧倒的余裕っぷり。流れ矢を迎撃し続けながらの言葉に「ま……まあ、あんたほどの実力者がそういうなら……」という顔で頷く周りの将兵たち。少女のように微笑む剣の乙女ちゃんをジト目で睨み抗議していた妖術師さんですが、その三白眼を迫りくる魔神へと向けました。

 

 

「VIRUUUUS!」

 

「まぁ、どう言い繕ってもわたしは後衛で、身体能力も吸血鬼(ヴァンパイア)の底辺。だけど……」

 

 

 鎧の背部から勢いよく緑煙を放出し、強襲突撃(アサルトブースト)で仕掛ける魔神。その分厚い刃が妖術師さんの頭上へと振り下ろされ……!

 

 

 

 

 

「――『()()()()()()()』。あらゆる挙動を解析される前に殺しきれなかったのがそっちの敗因。おまえの繰り出す攻撃は、もう『()()()()()』」

 

 

 ……妖術師さんの髪を掠め、大地に深い斬撃の痕を刻みつけるだけに終わりました。

 

 

「本来は前衛や生み出した従僕(サーヴァント)に時間を稼がせ、その間に対象を分析するのでしょうが……自身の不死性を利用し、最前線で観察することで大幅な短縮が実現したのですね」

 

 

 二刀を納めた剣の乙女ちゃんが呟く先、将兵たちが驚きの目を向けているのは妖術師さんが一方的に魔神を封殺する光景です。振り下ろされる刃は紙一重で避け、撃ち出される太矢は射出直後に影の触手が迎撃、距離を取ろうとすれば脚甲に無数の骨がしがみ付き、後退を妨害しています。

 

 知識神さんが注目するほどの知力の高さに加え、死に覚えゲーのように相手の攻撃を喰らって学習する割り切りの良さ。そして判っていても竦んでしまうような一撃に身体を晒す躊躇いの無さ……うーん、まるでフ〇ムゲーの主人公みたいですねぇ。知識神さん曰く『痛くしなければ覚えませぬ』だそうですが……。

 

 眷属中もっとも再生力が高く、万が一耐久力の限界を超えるダメージを受けても邪な土で復活可能ということで、ある意味ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)で一番敵に回してはいけないのが妖術師さんですね!

 

 なお描写は省略していましたが、敵の攻撃を喰らって覚えている際はダブル吸血鬼ちゃんも使用可能な『大規模ダメージを部位欠損に置き換える』小技を駆使ししており、見た目は派手に吹き飛んでもダメージは最小限に抑えていました……あのマンチ技、実は眷属で使えるの妖術師さんだけなんだとか。剣の乙女ちゃんですらダメージを特定部位に置換するのは極度の集中が必要なため戦闘中に行うのは難しいそうです。

 

 

「VI……RUUUUS!」

 

 

 おっと、足元に縋りつく骨を踏み砕き、魔神が突撃の距離を取りましたね。身体中に突き刺さっていた槍や太矢も残り少なく、ここで勝負を決めないとジリ貧だと判断したみたいです。無防備に立っている妖術師さんに向かいEN(緑煙)残量を無視した突撃を敢行した魔神は……!

 

 

 

 

 

「――うん、知ってた。わたしを殺すには加速を乗せた一撃しかなく、足の拘束を解除すれはそれを繰り出すって。……でもさ、それにわたしが付き合う必要は無いよね?」

 

 

 ――妖術師さんの足元から長く伸びた影より乱立した極薄の刃、その剣林に自ら突っ込み、己の速度によってバラバラに斬り刻まれました。

 

 

 

 

 

「……お美事!」

 

「「「お美事に御座りまする!!」」」

 

「え、ちょ、ぬわー!?」

 

 

 おや、緊張が解けてエセ圃人(レーア)ちゃん形態になっちゃった妖術師さんが絵面の変わった(シグルイ風味な)兵たちに胴上げされちゃってますね。剣の乙女ちゃんの援護があったとはいえ単独での超級魔神討伐、これって……誉れですよね?

 

 グルグルおめめで胴上げされている妖術師さんを羽根を展開した剣の乙女ちゃんが空から回収したところで、お次は吸血鬼侍ちゃん&女魔法使いちゃんvs双魔神です! 高速展開が予想されますが、さて戦況はどうなっているでしょうか?

 

 


 

 

『おいおいおい』

 

『しんだわおれら』

 

「……なんか、悲壮感漂ってない?」

 

「ナンデダロウネー」

 

 

 どったんばったんおおさわぎな地上とは打って変わって静かな上空、ガタガタと震える双魔神を見て首を傾げる吸血鬼侍ちゃんたち。まぁ魔神が怯える理由はふたりの手に握られた殺意マシマシの得物のせいなんですけどね。

 

 

「きょうかそざいはいくらあってもいいよね!」

 

「なるべく傷付けないように、(コア)だけ潰すわよ」

 

 

 なんて言いながパイルハンマーを取り出す女魔法使いちゃんの姿に魔神はしめやかに失禁! 駆動部からオイルを漏らしながらヴァンパイアリアリティショック(VRS)を発症する姿に盤外(こちら)からも同情の声が上がるほど。なお吸血鬼侍ちゃんは両手を黒く硬質化させ、素手で解体する気満々のご様子、うーんこの蛮族っぷり。

 

 

『やってやる!やってやるぞ!』

 

『あぁたれぇ!』

 

 

 おお、()られる前に()れと言わんばかりに硬質化した羽根を飛ばしてきましたね。鋭い刃のように変質した無数の羽根、時間操作能力も併用して緩急入り混じった回避困難な攻撃を前に吸血鬼(ヴァンパイア)ふたりの採った行動は……。

 

 

「にくをきらせてコアをくだーく!」

 

「なんだかんだ言って、暴力で解決出来ることは暴力で済ませるのが手っ取り早いのよね……」

 

『うわぅ!うわあぁぁぁぁぁあ!』

 

 

 刃の嵐に被弾面積を最小限に突っ込み、加速能力を持つ白銀魔神(コタネチク)を先に仕留めることでした。

 

 前に出た吸血鬼侍ちゃんが翼を盾に肉壁となって女魔法使いちゃんをガード、羽根の操作に加速能力を使ってしまい隙だらけの魔神にそのまま突撃(チャージ)し空中での姿勢を崩すことに成功。慌てて体勢を立て直す魔神の背後に回り込み、その翼を力任せに引き千切りました!

 

 

『がぁぁ!ぱわーがちがいすぎる!』

 

 

 翼を捥がれ地面へと落下していく白銀魔神(コタネチク)、そこに迫るのは赤熱化した切先を輝かせ、鋭角的な角度で飛行する女魔法使いちゃんです! ≪ラディウス(射出)≫の真言(トゥルーワード)とともに放たれたヒートパイルは過たずに魔神の(コア)を直撃、力を失った魔神の亡骸を吸血鬼侍ちゃんが下から受け止め、ゆっくりと地面に降ろしています。

 

 

『つ、つよい!つよすぎるぅ!』

 

 

 相棒が斃され狼狽を隠せない黄金魔神(モシレチク)。他の魔神と合流し劣勢を覆そうと考えたのでしょう、一目散に大悪竜(オロチ)がいる戦域(エンゲージ)へ離脱を試みますが……。

 

 

「――あら、知らなかったのかしら?」

 

「ふしおうからはにげられない!」

 

 

 しかしまわりこまれてしまった!!

 

 

『アイエエエ……』

 

 

 イヤイヤと首を振る黄金魔神(モシレチク)へにじり寄る吸血鬼(ヴァンパイア)。ドカン!という音が響いた後、地上には魔神の亡骸が二体ぶん並びました……合掌ばい!

 

 


 

 

「六本目、いっただきー!!」

 

「これで、七本目です……ッ!」

 

「DORA!?」

 

「GO!?」

 

 

 おっと、対大悪竜(オロチ)戦線もそろそろ大詰めを迎えているみたいですね! 合流した圃人剣士ちゃんと英雄雛娘ちゃんが地竜と雷竜の首を落とし、残るは緑竜のみ。序盤に怯え状態となって他の首の影に隠れていたのが幸いし最後まで残っていましたが、それももうおしまいです……ん?

 

 

「GUUUUU……」

 

 

 おや? 緑竜の様子が……。

 

 

「GOAAAAAH!!!」

 

 

「ッ!? 全員ソイツから離れなさい!!」

 

 

 上空から戦場を俯瞰していた女魔法使いちゃんの慌てた声に反応し一斉に後退する冒険者たち。緑竜の咆哮が響くと同時に、戦場に斃れていた魔神たちの残骸が浮かび上がり、緑竜へと集まっていきます! 膨れ上がる魔力と暗黒の輝きが収まった後、緑竜の姿は大きく変貌していました!!

 

 

「――JA……」

 

 

 ――鋼と肉の混じり合った巨躯。分厚い装甲で覆われた二本の脚で立つ姿は巨人のようでありながら、大剣を握る上半身は悪意に満ちた魔神のそれ。

 

 

「――GD……」

 

 

 大きさこそ桁違いですが、芸術品の如き出で立ちは何処か叢雲狩人さんや重戦士さん、女将軍さんの相棒である鎧にも似ています。……ですが、眼前の存在から感じるのは視覚のみならず五感すべてに訴えかけてくる圧倒的な『暴威』のオーラ。

 

 

「――AGD……!」

 

 

 何よりも目を惹くのは、その背に装備された双塔(ツインタワー)の如き長大な砲。太陽神さんの紛い物でありその権能を劣化させつつも行使できる『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』、その切り札がこの迫撃魔神(デモーターヘッド)――。

 

 

 

 

 

「JAAAAAGD!!!」

 

 

――駆逐する幻影(ヤクトミラージュ)です!

 

 

 

「うお、危ねぇ!?」

 

「その間合い(リーチ)は反則だろオイ!!」

 

「……厄介だな」

 

 

 

 大地を砕く振り下ろしの範囲から逃れつつ合体魔神を見上げる辺境三勇士。秋刀魚頭(サンマーヘッド)を越える巨体でありながらその動きは俊敏であり、吸血鬼侍ちゃんの集団的祝福(バフ)がなければ誰か被弾していたかもしません。踏み込む一歩ですら回避必死の攻撃であり、胴体部分を伸縮させることで上半身が自在に動き広範囲に斬撃を叩き込めるみたいです。また、防御面も隙がありません……。

 

 

()ッ!? かったーい!」

 

「分厚過ぎて、刃が通らない……ッ」

 

 

 対呪文処理が施され、大砲の直撃すら弾くほどに重厚な足回り。大型を攻める定石である足狙いの攻撃を繰り出した圃人剣士ちゃんと英雄雛娘ちゃんの顔に苦痛が浮かんでいます。確かに斬撃の痕は残っているのですが、装甲に阻まれて駆動部分に届いていないみたいですね……と、効果的なダメージを与えられない一行を無視して駆逐する幻影(ヤクトミラージュ)が動き始めました!

 

 副腕(サブアーム)を地面に打ちこんで姿勢を固定し、背の砲を向ける先は金髪の陛下がいる後方の司令部。高密度に圧縮され半ば物質化した魔力が砲身内を駆け抜け、戦場全体に響く轟音とともに二発の光弾が発射されました!

 

 

「一発はなんとか相殺するから、もう片方を頼むよ!」

 

「は、はい! 地母神様、どうかご加護を……!」

 

 

 おお! 補給のために後方に下がっていた叢雲狩人さんが光弾の片方を火炎放射器(インフェルノ・ナパーム)で迎撃しました!! ですがジェネレーターに負荷が掛かったのかガックリと膝を着いてしまってますね。もう一方の光弾は女神官ちゃんの三枚張りした≪聖壁(プロテクション)≫が阻止、角度を変えて展開された障壁によって跳ね上げられた光弾は雲に大穴を穿ち上空へ……あ、危なっ!? 盤外(こっち)にまで飛んできて破壊神さんの頬を掠めましたよ!? うわ、破壊神さんめっちゃキレてる……って令嬢剣士さんと()()()()()()()直接託宣(ダイレクトメッセージ)送ってますけど、止めなくて良いんですかGM神さん? 怖くて止められない? ですよねー!

 

 

「――! なるほど、判りましたわ!!」

 

「すっごくこわいけど、頑張りますよぉ!」

 

 

 お、破壊(栄纏)神さんからの託宣(メッセージ)を受け取ったふたりが動き始めましたね! 令嬢剣士さんは呪文遣い(スペルスリンガー)の冒険者や将兵に呼びかけ呪文詠唱の構え。白兎猟兵ちゃんは上空の吸血鬼侍ちゃんと女魔法使いちゃんを呼んで……わぁお! 濃厚な≪賦活(バイタリティ)≫で消耗を回復し、続けざまに女魔法使いちゃんのたわわをちゅーちゅーしています!!

 

 

「ん……んく……ぷぁっ。ごちそうさまでした!」

 

「ん、お粗末様。大丈夫? 満腹になったかしら」

 

「はい! これでもうひと頑張りできますよぉ!!」

 

「きをつけてね……ちゅっ」

 

 

 ふたつのたわわをしっかりと堪能し、元気いっぱいおなかいっぱい状態になった白兎猟兵ちゃん。濃密な百合を目撃した将兵たちの士気も天井知らずに上がってますね! 名残惜しげに口付けをする吸血鬼侍ちゃんを女魔法使いちゃんへと託し駆逐する幻影(ヤクトミラージュ)に向かって駆け出す白兎猟兵ちゃんを飛び越え、術者たちの呪文が魔神へと殺到します!

 

 

「「「≪アルマ(武器)≫……≪フギオー(逃亡)≫……≪アーミッティウス(喪失)≫!」」」

 

「「「≪テラ(大地)≫……≪ユビキタス(遍在)≫……≪レスティンギトゥル(消去)≫!」」」

 

「「「≪ウェントス()≫……≪クレスクント(成長)≫……≪オリエンス(発生)≫!」」」

 

 

 女神官ちゃんと従軍神官(ウォープリースト)たちの展開した≪聖壁(プロテクション)≫で安全を確保し、接近した従軍魔術師(ウォーメイジ)たちによる≪無手(クラムジー)≫によって地面を掴んでいた副腕(サブアーム)を引き剥がされる駆逐する幻影(ヤクトミラージュ)。体勢が不安定になったところに足下で≪流砂(クイックサンド)≫が発動し、追撃の≪突風(ブラストウインド)≫が魔神の巨体をぐらつかせます! 転倒を防ごうと上体を前に持っていこうとする魔神に令嬢剣士さんが放った魔剣の連射が着弾し……。

 

 

「JAAAAAGD!?」

 

 

 地響きとともに、魔神が大地にその身を横たえました!

 

 

 

「フム、そういうことか」

 

「お、なんだゴブリンスレイヤー。そんな得心がいったような顔……顔?しやがって」

 

 

 魔神から離れた位置で戦況を見守っていた冒険者一行。槍ニキの指摘にゴブスレさんが指差すのは、転倒の衝撃であちこちが砕けた魔神の上半身です。

 

 

「強固な脚部は自分より小さな敵の攻撃を防ぐため、攻撃の届かない上半身は装甲を薄くして軽量化。……恐らくだが、構造的な弱点だったのだろう」

 

 

 おお、鋭いですねゴブスレさん。星団最強の兵器と名高い迫撃神(モーターヘッド)の数少ない弱点が『転倒すると自重で大破してしまう』こと。人間が纏うようにダウンサイジングされたものならいざ知らず、原作に近しい大きさなら……御覧のとおりです。

 

 

「JA……GD……」

 

 

 ≪無手(クラムジー)≫の効果で手放した大剣を掴もうと必死に動く上半身、その首元に近付く迷彩服を着た人影が。装甲版に鉈を突き立て()()の原理で引っぺがし、制御中枢である(コア)を覗き込んでいるのはもちろん白兎猟兵ちゃんです。憐れみを誘うように明滅する(コア)にノコギリ形態に変形させた得物を何度も何度も振り下ろし、完全に砕け散ったところで……。

 

 

()ったどー!!」

 

 

 勇ましくも可愛らしい咆哮が響き、同時に戦場の趨勢が決しました!

 

 


 

 

「ま、これ以降は軍に任せたほうが良いだろうさ」

 

「掃討戦が一番相手を削れるけど、わたしたちじゃ兵隊さんとの連携も難しいもんねー」

 

 

 潰走する混沌の軍勢に対する追撃戦に移行し、静寂さが訪れた戦場。負傷者の後送を手伝っていた冒険者たちに漸くの休息が訪れました。

 

 

「ふぅ……今回は流石に疲れたよ。もうしばらくこうしていても良いだろう?」

 

「ん、よくがんばりましたー!」

 

 

 武装を解除したピッチリパイスー姿で吸血鬼侍ちゃんを抱える叢雲狩人さん。うなじに顔を寄せ吸血鬼吸いをする姿には疲労の色が濃く現れています。向こうでは同じくグロッキー状態の女神官ちゃんが剣の乙女ちゃんに捕まり、頬を赤く染めながらひんやりとしたたわわに顔を埋めちゅーちゅーしていますね。

 

 死者、重傷者こそいないものの、飛散した岩石の欠片や攻撃の反動で打ち身や捻挫程度の軽傷者がいるため司令部の一画を借りて一休み。当初は休憩後に魔神たちのドロップ素材を拾いにいく予定だったのですが……。

 

 

「まさかぜーんぶ()()になっちゃうとはねー」

 

「いやぁ、なんかすみませんねぇ……」

 

「で、でもすごくすごい強そうですね、その()()!」

 

 

 圃人剣士ちゃんと英雄雛娘ちゃんの見つめる先には申し訳なさそうに頬を掻く白兎猟兵ちゃん。その装いは今までの迷彩服から大きく変化しています……えっと、本当にあげちゃって大丈夫ですかGM神さん? え、酷いレベルでバランスが取れてるから平気? それたぶん平気って言いませんよね???

 

 

「まぁ、()()()()()がくだすったものですし、これでもーっと旦那さまのお力になれますよぅ!」

 

 

 ――はい、勘の良い視聴神さんたちならもう予想がついていることでしょう! しなやかな肢体を覆うピッチリパイスーの上には緑色の装甲、悪魔を模した兜は長耳を覆うように可愛くアレンジされ、その背中にはついさっき見た双塔(ツインタワー)が……。

 

 

 おめでとう!白兎猟兵ちゃんは駆逐猟兵ちゃんにクラスチェンジした!

 

 

 今回大活躍だった白兎猟兵ちゃんに対する破壊(栄纏)神さんからのプレゼント。胴体の伸縮機構はオミットされていますが、それ以外は四方世界でも最高級の鎧といって間違いないでしょう。

 

 特筆すべきはやはり背中の殲滅兵器(バスター・ランチャー)。威力こそ魔神が使用した時より大幅に下がっていますが、各砲身22発のカートリッジ式で最大44連射可能というちょっと意味のわからない性能。何よりも本人の魔力に依存しないところが一番ヤバイでしょう。カートリッジの充填は寝る前に呪文回数の余った人が行えばいいみたいですし、左右の副腕(サブアーム)が盾を持てば防御面も安心。本人が言う通り吸血鬼侍ちゃんの隣で戦うに相応しい……加減しろバカぁ!

 

 

 

 ……ゴホン、失礼取り乱しました。まぁGM神さんがオッケーって言ってますし、そろそろ終盤戦も近いのでインフレしても大丈夫でしょう、きっと!

 

 さて、再生魔神をしばき終わったところで次回は『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』戦の続きです! どんな決着(蹂躙)となるか、今から楽しみ(おっかない)ですね!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 モツ煮込みが美味しい季節になったので失踪します。

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。モチベーション維持とやる気アップに繋がりますので、感想や評価をお待ちしております。

 誤字報告も併せてありがとうございます。なかなか読み返しても気付けないので非常に助かっております。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその18-8


 妖精弓手ちゃんの動く姿が可愛すぎたので初投稿です。



 前回、合体魔神をボコボコにしたところから再開です。

 

 さて、再生魔神軍団との決着が付いたところでメインターゲットである『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』のほうはどうなっているでしょうか。原作でのムーブと太陽戦士さんの台詞から察するに一定のダメージを与えるごとに変身……変形?を繰り返すことが予想されますが……ん?

 

 

 

 

 

「主さま!? 主さまぁぁぁぁぁ!?!?」

 

「近寄っちゃダメ! あなたまで取り込まれてしまうわ!!」

 

 

 ファッ!? 悲痛な叫び声を上げる若草知恵者ちゃんを光背王(キング)ちゃんが必死に抑え込んでます!

 

 

「くっ、剣も呪文も効かんとは……!」

 

「いったいどれだけ変身を残しているんだ……ッ!」

 

「お姉様……っ」

 

 

 蟲人英雄さんと太陽戦士さん、神官銃士ちゃんが消耗した様子で膝を着き睨みつける先には白と黒が不規則に入り混じった巨大な球体が、一行を嘲笑うかのように悠然と浮かんでいます。いったいナニがあったんでしょうか、ちょっと映像を巻き戻してくださーい!

 

 


 

 

「――走れ雨馬(ケルピー)矢の如く、土から森川、海から空へ……!」

 

『うぇぇ……したまでびしょびしょだよぉ……!』

 

「良いぞ森人(エルフ)のお嬢さん! トオォォォォォ!!」

 

 

 全身に炎を纏い、火球となって迫る『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』に降り注ぐのは恵み齎す清らかなる雨。若草知恵者ちゃんの≪雨乞(コールレイン)≫によって火を消され行動不能(スタッガー)状態となった魔神に蟲人英雄さんがジャンプキックを決め、再び岩盤浴を強要していますね。幾度目かの再起動を果たした魔神が幅広く身体を変形させ、不規則に回転する絵柄を展開してきましたが……。

 

 

「絵合わせで御座いますね。それでしたら……!」

 

『おま、それはひきょうすぐるでしょう!?』

 

 

 必中の≪力矢(マジックミサイル)≫は狙った絵柄に命中! ポンポンポンと発射された火球が一行に迫ってきて……。

 

 

「一流の蹴りを見せてあげるわ!」

 

投手(ピッチャー)返しです!」

 

「グワァラゴワガキィーン!」

 

「追撃もあるぞ! ≪太陽礼賛! 光あれ!≫」

 

 

 バッチコーイな三人によって跳ね返された火球が着弾し地上へと落下する『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』。衝撃で露出した内部に太陽戦士さんの≪霹靂(パニッシャー)≫が降り注ぎ、魔神の内部機構がバチバチとショートしていますね。

 

 

 ……ふむふむ、どうやら若草知恵者ちゃんの活躍もあって戦況は優勢に進んでいたみたいですね。再起動を繰り返すたびにその姿を変える魔神ですが、先に情報を知っていたおかげで好き勝手に行動させず攻めを継続できているようです……と、スタン状態から復帰した『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』がまた変形しましたが、これは……!

 

 

「大きな手、でしょうか……?」

 

「ひとたび掴まれれば脱出は難しそうだな……!」

 

 

 球体の一部が展開し現れたのは巨大な手。赤黒く明滅する紋様が掌へと集まり、分厚い装甲の一部が開きました。透明な素材でできた(コア)と思しき球の中、全身を液体に浸しプカプカと浮かぶのは胎児にも似た異形の姿。肥大した頭部にある大きな瞳を見開き、欲望に満ちた目でソレが見つめる先は……。

 

 

『――おまえがままになるんだよ!!』

 

 

 出産を経験しながらも少女のような可憐さを保っている、若草知恵者ちゃんの下腹部です!

 

 

「ひっ!?」

 

 

 言葉こそ理解出来ないものの、そこに秘められた意味が伝わるには十分過ぎる視線に晒され悲鳴を上げる若草知恵者ちゃん。直接視線こそ向けられてはいませんが、場に充満する悍ましい気に神官銃士ちゃんと光背王(キング)ちゃんも身を隠すように後ずさりしています。ふたりを庇うように進み出た蟲人英雄さんと太陽戦士さんが何かに気付いたように顔を見合わせ、怒りに身を震わせ始めましたね……。

 

 

「そうか、奴め彼女の胎を使って自らを産み直させようとしているな!」

 

「傷付いた身体を捨て現世に降臨するつもりか……許せんッ!!」

 

 

 剣と拳を構え直し、魔神と相対する二人。ですが、もっとブチ切れている娘がいるんですよねぇ……。背後より飛来した緑光が魔神に激突したのはその直後です!

 

 

『あがががががが!?』

 

 

 鋭角的な軌道を描きながら上空へと魔神を打ち上げていく緑色の閃光。上空から応援していた吟遊詩人さんをあっという間に通り過ぎ、手を収納し防御態勢となったことなど関係無いと装甲を歪ませていきます。

 

 異界の生成上限ギリギリまで上昇したところで繰り出された〆の一発は強烈な打ち下ろし! 地上に大穴を空けながら帰還した『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』を見下ろすのは、怒りゲージが振り切れたために無表情となった吸血鬼君主ちゃんです。

 

 歪になった装甲に手を当て、取り込んだ呪物の権能を行使すればだらりと垂れ下がってくる魔神の手。抵抗するように震動する外殻を無理矢理こじ開け、透明な素材越しに目の合った魔神に放つのは……。

 

 

 

 

 

 

「…………!」

 

 

 言葉ではなく、必ず殺すという決意のみ……と、黒く硬質化した拳を叩きつけられ、徐々に罅割れていく最後の壁を見た魔神が慌てたように動き始めました。自分にダメージが入るのも構わず放たれた衝撃波によって弾き飛ばされた吸血鬼君主ちゃんを、空高く跳躍した蟲人英雄さんが受け止め格好よく着地しました。集結した一行の前で『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』が変形していくのは、冒頭で観た白黒の入り混じった姿です……!

 

 

『さあ、どこからでもどうぞ……!』

 

「おそらくアレが最終形態だろう……!」

 

「みんな、気を抜くな! 慎重に攻めるぞ!!」

 

 

 今までの形態とは違い、自ら攻めることなく悠然と浮かぶ姿に警戒を促す太陽戦士さんと蟲人英雄さん。神官銃士ちゃんは太股のホルスターから短筒を引き抜き、吸血鬼君主ちゃんはおなかに手を当てて(ケイン)を取り出すポーズ。若草知恵者ちゃんを庇うように光背王(キング)ちゃんが構えたところで青い顔の若草知恵者ちゃんが呪文を唱え始めました。

 

 

「≪サジタ()≫……≪ケルタ(必中)≫……≪ラディウス(射出)≫!」

 

 

 牽制として放たれたのは先ほども使用した≪力矢(マジックミサイル)≫。術者の力量によって増大する本数と必中という特性から初手に選択されることの多い呪文。形態変化によって呪文抵抗を持ったかどうかを確かめるのにも向いた魔法ですが……。

 

 

『かかったなあほが!』

 

「!? 消え……きゃあっ!?」

 

「なに!? 脚が、動かな……ッ!?」

 

 

 魔力の矢が命中する直前に球体は突如消失。直後、若草知恵者ちゃんの真上に出現しました! 陽光が遮られたことで異変に気付いた若草知恵者ちゃんの悲鳴にみんなが目を向ければ、泥沼に踏み入ってしまったかのように若草知恵者ちゃんと光背王(キング)ちゃんの足が地面へ沈んでしまってます。

 

 

「まってて、いまたすける!」

 

 

 状況の変化にいち早く動いたのは吸血鬼君主ちゃん。即座に泥沼の上へと飛翔し、漆黒の泥からふたりを引き上げました……あ! 獲物を逃がさんと言わんばかりに泥中から無数の触手が生えてみんなを絡めとろうとしています!

 

 

「ふんぐぎぎ……ていっ!」

 

 

 翼を振り回して触手を引き千切り、なんとか若草知恵者ちゃんと光背王(キング)ちゃんを泥沼の淵まで接近していた蟲人英雄さんと太陽戦士さんに投げ渡すことに成功しましたが、その代償として全身に触手が巻き付いてしまった吸血鬼君主ちゃん。吟遊詩人さんが相棒に指示を出し接近しようとしますが……触手の海には近付けず、救出は難しい様子。やがて小さな手がトプンと消え、脱出しようと藻掻いていた吸血鬼君主ちゃんは完全に引きずり込まれてしまいました……。

 

 


 

 

 ――と、ここまでの状況を確認しましたが……え、これ不味くないですか!? 若草知恵者ちゃんの≪核撃・爆裂(フュージョンブラスト)≫や太陽戦士さんの≪霹靂(パニッシャー)≫、神官銃士ちゃんの悲しみの一撃(ボルテックシューター)を叩き込んでも球体がダメージを受けている気配がありません。おまけに晴天だった異界の空が徐々に薄暗くなってきています……。

 

 

「これは、面倒なことになりましたね……」

 

「どういうこと? 早く助けなきゃいけないのは判るけれど……」

 

 

 上空から降りて来た吟遊詩人さんの真剣な眼差しを見て問いかける光背王(キング)ちゃん。一行の視線が向けられた吟遊詩人さんが口にしたのは、四方世界にとって最悪な想像です……。

 

 

「彼の頭目(リーダー)殿は陽光の加護授かりし日の当たる道を歩むもの(デイライトウォーカー)。彼女を取り込むということは太陽の簒奪であり、日食の再現でもあります」

 

「そうか! 同士の持つ星の力(核融合炉)を使い、次元に穴を空け(プレーンズウォークす)る算段なのだな!!」

 

 

 うぐぐ……たしかに! 吸血鬼君主ちゃんの心臓である星の力(核融合炉)の出力は膨大であり、その力を利用すれば再度四方世界へと降臨可能です。日食の再現というのも以前太陽神さんが破壊神さん(スサノヲ)の乱暴にキレて引き籠った例のアレを再演していると言えるでしょう。一刻も早く吸血鬼君主ちゃんを助け出さなければいけません!

 

 

「でも、どうやってお姉様を……っ」

 

「いくら攻撃しても効果はありませんし、何か方法は……」

 

 

 なんとか落ち着きを取り戻した若草知恵者ちゃんを胸元に抱きしめたまま俯く神官銃士ちゃんと、必死に思考を巡らせる若草知恵者ちゃん。停滞した場を動かしたのは、顎に手を添え考え込んでいた吟遊詩人さんです。

 

 

 

 

 

「――私に良い考えがあります」

 

 

 それ失敗するヤツじゃありません???

 

 

 

「先程から魔神を観察していたのですが、ひとつ気付いたことがありまして。アレほど苛烈な攻撃を行っていたのに、今は防御一辺倒……どうでしょう、違和感を感じませんか?」

 

「言われてみれば……お姉様を取り込んでからは此方が何をしても無反応ですわね」

 

「それにあの球体……呪文抵抗を抜けずに消失したり耐性で減衰されることはあっても、必中である≪力矢(マジックミサイル)≫が外れるなど通常考えられないことです」

 

 

 状況を確認しながら推論を述べる吟遊詩人さん。どこぞの道化師(フラック)のように理不尽な理由(ギャグ補正)で躱されることはあっても、四方世界の理を書き換えでもしない限り≪力矢(マジックミサイル)≫が必中なのは確実です。もしそんな例外もなく外れるのだとしたら……。

 

 

「――『狙う対象が間違っている』……ということでしょうか」

 

「はい、つまり上空のアレは『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』であって『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』ではない。言わばその()の如きものではないでしょうか」

 

「では、魔神の本体は……!」

 

 

 興奮を隠せぬ神官銃士ちゃんの言葉に頷きを返し、吟遊詩人さんが指差したのは球体の下に広がる漆黒の沼。つまり吸血鬼君主ちゃんを飲み込んだ影こそが本体ということですね!

 

 

「このまま世界が闇に閉ざされれば、魔神の(本体)はこの異界を覆い尽くし、やがて四方世界まで広がるでしょう。ですが、裏を返せばそれは……」

 

(本体)を消してしまえば、ヤツはその存在を保つことが不可能になる!!」

 

「ええ。そして、その鍵を握るのは……」

 

 


 

 

「――さて、心の準備はよろしいですか?」

 

 

 不規則に模様を変化させる本体()の上空、空飛ぶ蝲蛄(ファンタズマ)に跨る吟遊詩人さんが問いかけるのは同じく背に乗っていた光背王(キング)ちゃん。彼女の周りを精霊たちが楽しそうに回り、若草知恵者ちゃんの唱えた≪降下(フォーリング・コントロール)≫がバッチリ効果を発揮していることを伝えています。

 

 

「ええ、大丈夫。ここまでお膳立てしてもらったんだもの、完璧にやり遂げて魅せるわ!」

 

 

 パチンと両手で頬を叩き立ち上がった彼女を見て、四方から(本体)を囲うように立っていた神官たちが祈りの聖句を唱えます。万知神さん経由な若草知恵者ちゃんを含めた四人が唱えた≪聖歌(ヒム)≫が闇に覆われつつある異界に響き渡るなか、空飛ぶ蝲蛄(ファンタズマ)の背から空中へと光背王(キング)ちゃんが足を踏み出しました。

 

 

「んんー、なんと素晴らしき歌声。では私もご一緒させていただきましょう!」

 

 

 ご機嫌な様子で吟遊詩人さんが爪弾くのは、何処か寂しげな旋律。その音色に合わせて、光背王(キング)ちゃんが歌い始めます……!

 

 

ひとりきり暗闇の中 君の涙の意味を知った

願う場所踏み出したけど 誰も傷つけたくなくて

 

 

 光背王(キング)ちゃんの歌声に呼応するように、地上より立ち昇ってくる淡い光。ひとつひとつは小さいソレが、融け合うようにひとつになっていきます。

 

 

海を渡す風は今日も 迷わずに明日に向かうのに

心はどうして 動き出せない

 

 

『な、なにをするだぁぁぁぁ!?』

 

 

 頭上に集まる魔力に危機を察知した『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』が(本体)を波打たせ触手を伸ばそうと試みますが、ほんの僅かに伸ばしたところでその目論見は潰えます。

 

 

「そうはいきませんわ!」

 

「今だ、祈りをひとつに!!」

 

「「「「太陽礼賛! 光あれ!」」」」

 

『うぉおおおおあっちぃいいいい!?!?』

 

 

 四方から同時に唱えられた≪聖光(ホーリーライト)≫が(本体)を照らし、その存在を本体()の下へと押しやっていきます! 白黒の模様も苦痛に悶えるように乱れ不安定な震動を起こす中、力強さを増した歌声が降り注いてきました!

 

 

どんな運命が 待っているんだろう

悔やみたくないよ 生まれたこと

悲しみの中に 勇気がある

輝きつかむと 信じている

 

 

 精霊たちを引き連れながら、空中で華麗に歌い踊る光背王(キング)ちゃん。やがてその手に光が集い、一振りの剣へと姿を変えました!

 

 

「我は夜明けを齎す者にして、光背(ヘイロー)の血統と絢爛舞踏(ダンシングブレーヴ)の称号を受け継いだ一流のウマ娘(セントール)! さぁ、あしきゆめよ。私たちの太陽を返してもらうわ!!」

 

 

 『勇者』が冒険者における頂点であり、『栄纏神の神官』が兵士たちの心の支えであるならば、『絢爛舞踏』は力無き人々の眠りを護り、明日を呼ぶ希望の象徴。その足音は騒々しく夜明けを告げ、その手に握る剣は闇を祓う一筋の光なのです! ≪降下(フォーリング・コントロール)≫を解除した光背王(キング)ちゃんの一撃は過たず本体()を斬り裂き……。

 

 

『いでぇよぉぉぉぉぉ!?!?』

 

 

 地上で蠢く(本体)の至る所に亀裂が入り、同時に本体()から血のように赤い魔力が吹き出しました!

 

 

 

おお(Ooh)素晴らしい(Majestic)! これぞまさに『叙事詩に残る一撃』と言えるでしょう!!」

 

 

 興奮冷めやらぬ様子で降下してきた吟遊詩人さんと合流し、眼前の魔神を見つめる一行。地上の(本体)は干ばつに遭った大地のように深く罅割れ、宙に浮かんだ本体()からは夥しい魔力が零れ落ちていますが……。

 

 

「お姉様……ッ」

 

「主さま……」

 

 

 どうしたんでしょう、吸血鬼君主ちゃんが出てこないですね……流石に取り込まれてしまってはいないと思うのですが……おや? 本体()の様子が……。

 

 

「んしょ、んしょ……いまもどるねー!」

 

 

『らめぇ、さけちゃうぅぅぅぅ……ひぎぃ!?』

 

 

 鈍い音とともに本体()から突き出てきたのはちっちゃな手。メリメリと裂け目を押し広げられ悲鳴にも似た声を上げる『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』を嘲笑うように上半身を覗かせ、何かを抱えた状態で(本体)の上に降り立つ吸血鬼君主ちゃん。着地の衝撃で(本体)は灰と化して崩れ去り、破裂した本体()からは魔力の残滓が血雨のように地上へと降り注いでいます……。

 

 

「お、おかえりなさいませ主さま!」

 

「ん、ただいまー!」

 

 

 服が血の色に染まるのも構わず吸血鬼君主ちゃんを強く抱きしめる若草知恵者ちゃん。彼女を安心させるように頭を撫で、ほっぺにちゅーする吸血鬼君主ちゃんですが……他のみんなの視線は反対側の手で捕まえているモノに釘付けですねぇ……。

 

 

「貴公、それはもしや……」

 

「うん、アイツのほんたい! またにげようとしてたからつかまえてきた!!」

 

 

 若干小さくなったようですが、それでも吸血鬼君主ちゃんが持つと半分以上引き摺るサイズの胎児にも似た魔神……強固な鎧でその身を覆い、太陽神さんの権能を横取りしていた『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』の本体が、温かな液体から引き摺り出された姿で震えていました。

 

 

「きみは、ソイツをどうするつもりだい?」

 

 

 懐から細身の刀剣(バイオブレード)を取り出し、怒りのあまり外骨格を青色に変化させながら問う蟲人英雄さん……あ、(ケイン)とは別物扱いなんですねソレ。 極々一部の存在を除き、決して判り合えないのが魔神という存在です。もし吸血鬼君主ちゃんが魔神を見逃すというのなら内部侵入&破壊(バイオアタック)も辞さない構えですが……。

 

 

『やめて……ひどいことしないで……!』

 

 

 憐れみを誘うようにか細く鳴き声を上げる魔神を両手で捧げ持ち、目を合わせる吸血鬼君主ちゃん。その目に宿るのは……。

 

 

「あんしんして、ころしたりなんかしないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しにたいっておもっても、ぜったいにしねないようにするだけだから」

 

 

 相手を資源(リソース)としか見ていない、背筋が凍るほど無機質な光です……。

 

 

 

『やめろーしにたくなーい! しにたくなー……!?』

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの手から逃れようと身を捩る『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』の身体に突き立つ幾本もの影の触手。残った魔力を吸い上げながら逆に送り込んでいるのは星の力(核融合炉)で熱せられ液体と化したヒヒイロカネでしょうか。肉を焼く液体金属を流し込まれ内部から改造される痛みに苦痛の叫びを垂れ流す魔神の身体が徐々に皺だらけとなり、やがて幼虫が蛹となるようにズルリと皮が剥け落ちました。

 

 

「でーきたっ!」

 

 

 ()()していた触手を抜き取り、満足そうに頷く吸血鬼君主ちゃん。その小さな手に残ったのは、膨大な魔力を放つ漆黒に染まった金属球です。コツンと叩いて太陽神さんの力を盤外(こちら)へ返し、あとに残った魔神を燃料()に稼働している星の力(核融合炉)をみんなへ自慢げに見せてますね!

 

 

「えへへ……これをあのこにあげればおそろいのパワー! そとのせかいにかえしたわけじゃないから、まじんがふっかつするしんぱいもないよ!」

 

「二度とこの世界に現れることがないのは良いことだが、ウーム……」

 

 

 ドヤ顔でヤベーイ代物を掲げる吸血鬼君主ちゃんを見て頭を抱える太陽戦士さん。うん、まぁ、ダブル吸血鬼ちゃんが同時にピチューンでもしなければ復活することはないでしょうし、目の届くところにあるからある意味安心じゃないですかね?

 

 蟲人英雄さん的にはどうなのか……あ、「おそろいのパワー!」のところで親友を思い出したのか、目を真っ赤に腫らして涙を……って、元から真っ赤な目でしたね!

 

 ≪浄化(ピュアリファイ)≫で穢れを浄めた後、気が抜けたように立ち尽くしていた光背王(キング)ちゃんに近付いていく吸血鬼君主ちゃん。むぎゅっと正面から抱き着き一流のたわわを堪能しながら、彼女の頭を撫でています。

 

 

「あいつのなかにいるときに、おうたがきこえてきたの。とってもじょうずだったよ!」

 

「――当然よ! だってわたしは(キング)、一流のウマ娘(セントール)なのだから!!」

 

 

 お山から吸血鬼君主ちゃんを引っぺがし、改めて抱え直した光背王(キング)ちゃん。コツンと額同士をくっつけながら、ふにゃりと年相応の笑みで呟きます。

 

 

「ありがとう、小さなおうさま。ちょっとだけ、王の在り方ってのが判った気がするわ」

 

「……うん、どういたしまして。ぼくも、きみみたいにみんなからすきっていわれるおうさまになりたい!」

 

「ふふ、そうね! お互い足を止めている暇はないわよ!!」

 

 

 額を触れ合わせたまま笑い合うふたり。どちらからともなくその唇が近付いていき……って、まずいですよ!?

 

 

 

 

 

「むー! ズルいですお姉様、私もご褒美が欲しいです!! 主にお姉様の温かくて濃いーい魔力とか……!」

 

「そちらは陛下から止められていらっしゃいますよね? ……でも、今日は(わたくし)も随分と消耗しておりまして……ちらっ♪」

 

「んなっ!? あ、あなたたち不潔よ!? それにそういうのはもっと慎み深く……!」

 

 

 慌てた拍子に取り落とした吸血鬼君主ちゃんに伸びる肉食女子の魔の手を見て真っ赤なお顔の光背王(キング)ちゃん。ちょっとHな雰囲気のBGMを演奏し始めた吟遊詩人さんが蟲人英雄さんに再び教育的指導され、太陽戦士さんが遠い目になっているところで空間に罅が入り始めました。どうやら通常空間に戻る時間が来たみたいですね! いかん危ない危ない……。

 

 

 さぁ、戻ったら戦後の処理と吸血鬼侍ちゃんのパワーアップイベントです! 長かったセッションもようやくリザルト、編集完了まで少々お待ちください!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 圃人剣士ちゃんの再登場を待ち望んでいるので失踪します。

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。そろそろ原作に追い付きそうですが、番外編の構想もありますので気長にお待ちいただければ幸いです。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその18 りざると


 カツとカレーの組み合わせは悪魔的美味しさだったので初投稿です。




 前回、太陽を盗んだ魔神を薪にしたところから再開です。

 

 『常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)』の封印(加工)を終え、異界から帰還した吸血鬼君主ちゃん一行。権能返還のお礼にちょっぴり太陽神さんが手助けしてくれたため、四方世界の帰還ポイントは吸血鬼侍ちゃんのところです。

 

 

「あ、おかえりー!」

 

「ただいまー! これおみやげー!」

 

「わーいおみやげだー!」

 

 

 なーんてあたまゆるゆるな会話とともに差し出された星の力(擬似太陽炉)を見て何人かが宇宙猫顔になったり、白兎猟兵ちゃんの身に纏った鎧を見て「めっちゃカッケーですわ!」と王妹殿下1号が興奮する一幕があったりしましたが……。

 

 


 

 

「――人界の秩序と平和のため、勇敢に戦っていった将兵たちに……敬礼!」

 

 

 戦の痕が残る平原に朗々と響く猪武人さんの声。それに続いて捧げられるのは一糸乱れぬ敬礼……戦いの中で命を落とした将兵たちを送り出す、葬送の儀にダブル吸血鬼ちゃんたちも参加しています。

 

 

 疾風狼人さんと金銀妖瞳半森人さんの双璧コンビの追撃によって混沌の軍勢に痛撃を与えた王国軍。西方辺境の冒険者たちの熱心なゴブリン狩りとエルフの森における殲滅戦の結果、戦力の補充が困難になった混沌の勢力はしばらく攻勢には出て来られないだろうというのが軍上層部の出した結論です。

 

 ですが、軍勢の衝突が発生して損害無しとはいきません。MAP兵器で数をゴッソリ減らしたものの、やはり数というものは脅威であり、少なくない将兵が戦場で散っていきました……。

 

 折悪く季節は初夏。遺体を放置して腐敗が進めば疫病の発生源となり、また悪しき死霊術師(ネクロマンサー)によって尊厳が傷付けられてしまう可能性もあります。本来であればそれを防ぐために遺体は戦場で荼毘に付され、遺族の元へは認識票と運が良ければ遺品だけが戻るのですが……。

 

 


 

 

「あのね、インベントリーにしまえばふはいさせずにかぞくのところにかえしてあげられるの……ものあつかいしちゃうことになるけど」

 

「ふむ……」

 

 

 戦後の処理に頭を悩ませていた金髪の陛下、思わぬ申し出に暫し考え込んだ後、懸念事項を口にします。

 

 

「その場合、彼らの魂はどうなる?」

 

「からだをしまうまえに、むくなるたましいとしてえんかんのことわりにかえるようみちびいてあげる」

 

「たましいさえかえしてあげれば、のこったからだをわるいネクロマンサーにあやつられるしんぱいもなくなるの!」

 

 

 ちっちゃなからだで大きく身振り手振りしながら懸命に理を説くダブル吸血鬼ちゃん。ふたりの声に耳を傾けていた陛下が大きく頷き、そっとダブル吸血鬼ちゃんの頭に手を乗せました。

 

 

「成程。よし、そなたたちの提案を是とする。……兵たちを家族の元へ帰してくれるか?」

 

「「うん! まかせて、おにいちゃん!!」」

 

「……ふぅ、やはり義理の妹は何人居ても良いものだな!」

 

「馬鹿言ってないでさっさと将軍たちに伝えなよ。丁重に遺体を集めろって」

 

 

 抱き着いてきた義妹ふたりを両手にイイ笑顔を見せる陛下。銀髪侍女さんに後頭部を引っ叩かれ慌てて伝令兵に指示を出しました……っと、陛下の膝上で甘えていたダブル吸血鬼ちゃんが何やら悪い顔に。陛下の耳元に顔を近付け何か囁いてますねぇ。

 

 

「……なんだけど、どうかな?」

 

「判断は当人たちがするであろう。余がそれを止める理由はあるまいて」

 

「えへへ……ありがと! じゃあきいてみるね!」

 

 

 陛下からGOサインを貰って満面の笑みになったダブル吸血鬼ちゃん。いったいナニをするつもりなんでしょうか(白目)。

 

 


 

 

 軍勢に踏み固められ土面の多い平原に整然と並べられた遺体たち。欠損部位を補うことは出来ませんが、装具や肌に付着していた血や汚れは≪浄化(ピュアリファイ)≫で綺麗に浄められ、その表情も穏やかなものに整えられています。

 

 ちなみに混沌側の死体に関しては容赦なく身ぐるみを剥がされ、魔法の武具や情報伝達書などを根こそぎ回収された後に叢雲狩人さんによって遺伝子の欠片まで焼き尽くされてました。普段は兵たちが埋めたり従軍神官たちが嫌々≪浄化(ピュアリファイ)≫しているのですが、叢雲狩人さんのおかげでそのリソースを亡くなった戦友たちに使えるとみんな大喜び。なお戦場に付き物の死体漁りが一切見られないあたり、王国軍のモラルは非常に高いですね!

 

 

 猪武人さんが仮設の演説台から離れ、続いて将兵たちの視線を集めながら壇上に姿を見せたのはダブル吸血鬼ちゃんと若草知恵者ちゃん、そして妖術師さんの善き死霊術師(ネクロマンサー)組。一同とともに死者への黙祷を捧げた後、この場にいる()()に聞こえるよう、ゆっくりと言葉を紡ぎます……。

 

 

「みんな、おつかれさま。これでおうちにかえれるよ」

 

「なくなったみんなのたましいは、ちゃんとあるべきばしょにみちびいてあげる」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんの言葉に惹かれるように、遺体から浮かび上がる淡い光。ふたりの背後に立っていた若草知恵者ちゃんと妖術師さんが、ダブル吸血鬼ちゃんに続いて彼らへと語り掛けていきます。

 

 

「その上で、皆様にお願いしたいことがございます。……もしこの世界に未練がおありでしたら、(わたくし)たちと一緒に戦っていただけないでしょうか」

 

屍人(ゾンビ)になってくれって言ってるわけじゃない。轡を並べた戦友たちを、街に暮らす人々を、そして、君たちの家族を護る手助けをして欲しいんだ。無理強いはしないし、いつでもあるべき場所に還ることが出来る。転生するまでの待機時間の有効活用って言ってもいいかな」

 

 

 それは、仮初の霊体(からだ)でなお護るべき者のために戦う()霊への誘い。顔を見合わせるようにふよふよと浮かんでいた光たちでしたが、やがてその肉体は鎧姿へと変わっていきます。王国軍の武具に身を固めた白き兵たちが集い、傅く先にいるのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、(わたくし)ですの!?」

 

「「だよねー!」」

 

 

 ――王国の将兵たちのアイドル、令嬢剣士さんですね!

 

 

 

「その、お気持ちは嬉しいのですが……」

 

 

 死してなお推しの子に尽くそうとするファンの鑑たちに困惑気味の令嬢剣士さん。困ったような顔で死霊術師(ネクロマンサー)組に助けを求めますが、返ってくるのは生暖かい笑みばかりです。

 

 

「だれでもさいしょははじめてだからヘーキヘーキ!」

 

「むしろみんなきょうりょくてきだからラッキー?」

 

(わたくし)たちが手取り足取りお教えいたしますので♪」

 

「いや、むしろ吸血鬼(ヴァンパイア)なんだから死霊術使えて当たり前なんじゃ……」

 

 

 そんな遣り取りをしている間に白霊さんたちは何やら集まって相談中の様子。やがて話し合いに決着が付いたのか、ひとりの白霊さんがダブル吸血鬼ちゃんのところにやってきました。恭しく片膝を着きふたりに差し出すのは、今回白霊となったメンバーが記載された目録ですね!

 

 

「えへへ……ありがとう!」

 

「じゅんばんによぶから、みんなまっててね!」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんの言葉にジェスチャーで返し、召還エフェクトを伴って消えていく白霊さんたち……あれ? 何柱か還らない白霊さんがいますね。

 

 鎧姿の他の白霊さんとは違い、動きを阻害しない軽装姿。相棒と思しき半透明の馬を隣に令嬢剣士さんへと近付くその背中には()()()()()を背負っています。ひょっとして彼ら、竜騎兵――この場合は火竜将軍さんとは違って銃火器を装備した騎兵のほうですね――でしょうか? 

 

 煙のように姿を変えた彼らが目指す先は、令嬢剣士さんが背負う魔剣。どうやら魔剣の命中精度を高めるべく内部で支えてくれるみたいです! 状況が呑み込めず令嬢剣士さんが首を傾げていますが、彼ら推しのすぐ傍に居られると喜んでますし、良いんじゃないですかね?

 

 

「うわ、アイツらクッソ羨ましい……」

「死んでからも一緒に戦えるとかどんなご褒美だよ……」

「ちっちゃい身体でハグされてからプニプニほっぺの頬擦りコンボ……うっ! ふぅ……」

 

「はっはっは、どうやら我が軍の兵は酔狂な者ばかりのようだな!」

 

「そりゃそうだよ。なんせ吸血鬼(ヴァンパイア)と共同で混沌の軍勢と戦うくらいなんだからさ」

 

 

 笑う陛下の視線の先では魂の抜けた遺体をひとりひとり抱きしめ、感謝を告げながらインベントリーへと格納していく()()()()()()()()()の姿。いいなぁと指を咥える兵士たちをジト目で銀髪侍女さんが睨んでますねぇ。

 

 

「みんながんばったね! ぎゅー……」

 

「これからもよろしくね! ぎゅー……」

 

 

 魂は既に離脱しているはずなのに、どことなく嬉しそうな表情でインベントリーへとしまわれていく遺体の皆様。通常の戦に比べれば少ないものの数百人の将兵が亡くなっており、吸血鬼君主ちゃんひとりでは結構な時間が掛かってしまいます……そう、()()()()()。次々に遺体をしまっていく()()()の姿を眺める妖精弓手ちゃんの言葉が、現在の状況を的確に表しているでしょう。

 

 

 

 

 

「――星の力(擬似太陽炉)を作るときにシルマリルのからだを素材に使ったからって、まさかヘルルインまでアレが使えるようになるとはねぇ……」

 

 

 


 

 

「それじゃあ、れっつそうにゅー!」

 

「がんばえー!」

 

 

 手渡された星の力(擬似太陽炉)を胸元に押し当て、祈るように抱きしめる吸血鬼侍ちゃん。トプンと漆黒の球体が彼女の体内に格納された直後、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の面々に変化が現れました。

 

 

「ん……っ」

 

「これは……!」

 

「とても、あたたかな……」

 

 

 不意に訪れた感覚に自らの身体を抱きしめる女の子たち。ダブル吸血鬼ちゃんから供給される魔力量が増えたことに身体が反応し、艶っぽい表情になっちゃってます。熱の籠った視線を供給源であるダブル吸血鬼ちゃんに向ければ、そこには驚きの光景が広がっていました。

 

 

「なじむ じつに! なじむぞー!!」

 

 

 ほっぺを指でむにむにしつつご満悦な吸血鬼侍ちゃんは体内を循環する魔力の多さにテンアゲMAX。吸血鬼君主ちゃん成分がたっぷり配合されたヒヒイロカネの効果で擬似的な吸血鬼稀少種(デイライトウォーカー)へと変貌し、気持ち良さそうに太陽神さんの光を浴びています。

 

 

「ふわぁ……ぱわーがたかまる……あふれるぅ……!」

 

 

 ……なんか伝説の超野菜人みたいなことを言ってる吸血鬼君主ちゃん。活動維持のために常時吸血鬼侍ちゃんへ行っていた魔力供給の必要がなくなり、星の力(核融合炉)の出力全てを自分に使えるようになって肩の荷が下りたような感じみたいですね。

 

 

「……あの、おふたりとも? 何か光ってませんか?」

 

「こ、これはもしや進化の前兆!?」

 

 

 一番最初に気付いたのは、他の女の子たちと違って魔力が供給されていないため羨ましそうに指を咥えていた王妹殿下1号2号でした。ストレッチをするように調子を確かめていたふたりの身体が白と黒の光に包まれていきます。

 

 輝きが収まり、手で光を遮っていたみんなが眼を向けた先には……。

 

 

「「いぇーい、ぱわーあっぷ!」」

 

 

 ふよふよと浮かびながらドヤ顔でポーズを決めるダブル吸血鬼ちゃんの姿が!! ……ですがふたりを見るみんなの目の多くは???な感じです。

 

 

 

「はて、どこが変わったんだいご主人様?」

 

「内包する魔力量は跳ね上がったみたいですが……」

 

「むー、みてすぐにわかるでしょ!」

 

「こんなにかわったのに!」

 

 

 困惑の表情を浮かべる叢雲狩人さんと令嬢剣士さんに対しブーブーと不満の声を上げるダブル吸血鬼ちゃん。たしかにこちらで観測している魔力量(戦闘力)は大きく上昇していますが、あんまり変わったようには見えませんねぇ……と、おや?どうやら妖術師さんと英雄雛娘ちゃん、それに圃人(レーア)コンビは変化に気付いた様子。首を傾げている面々にマウントを取ってドヤ顔を披露してますね。

 

 

「……もしかして。ふたりとも、ちょっとこっち来なさい」

 

「「はーい……むぎゅっ!?」」

 

 

 おっと、わかりみ面子のドヤ顔を見ていた女魔法使いちゃんが何かに気付いたようにダブル吸血鬼ちゃんを手招き、ぽてぽて近付いてきたふたりをたわわに抱き寄せました。お山に顔を埋めて幸せそうなふたりの身体をペタペタと撫で、その変化に気付いて頬を緩めながら話しかけます。

 

 

「ちょっとだけ背が伸びたのね。あっちのコンビと同じくらいかしら」

 

 

 はい、女魔法使いちゃん正解! 圃人剣士ちゃんより頭半分くらい小さかったふたりですが、今はなんと同じくらいまで大きくなってます! ほんのり顔つきも大人っぽくなった気がしないでもないですし、圃人侍女(おかあ)さんの姿に似てきた感じですかね。なおふたりのお胸は彼女と異なり、見事なまでにまっ平らなままです。

 

 

「……ぷぁ。せがのびただけじゃないよ、みて!」

 

 

 たわわから顔を上げた吸血鬼侍ちゃんの掲げた手に握られているのは一枚のシャツ。それを見た圃人(レーア)コンビが目の色を変えて飛び掛かるのを妖精弓手ちゃんが空中でアイアンクロー。匂いフェチコンビを元保護者である重戦士さんにブン投げつつ、真っ赤な顔でシャツを回収しちゃいました。

 

 

「えへへ……ぼくのからだにじゅうぶんなじんだそざいをつかったから、ふたりともつかえるようになったの!」

 

「……うん、まぁ便利になったから良いんじゃない?」

 

「もうちょっとマシなことに使いなさいよヘルルイン!?」

 

 

 そのへんに脱ぎ散らかしてたのが悪いのでは?(名推理)

 

 


 

 

 とまぁ、そんな感じで吸血鬼侍ちゃんもインベントリーが使えるようになったおかげで遺体の収容速度も二倍、おおよそ一刻(二時間)で完了しました。ちなみにインベントリーの中は共有しているため、どちらが入れても自由に出し入れできるそうです。……なんか流通にとんでもない影響が出る予感がしますが、悪用されるのは冬が近付いてからでしょう、きっと。

 

 さて、遺体の収容は終わりましたが兵士たちは会場に残ったまま。先程までの厳粛……厳粛?な雰囲気は何処かへと吹き飛び、浮ついた空気が一帯に満ちています。常ならば上官に注意されるのでしょうが、その上官たち……どころか、金髪の陛下や将軍たちまでもが期待に胸を膨らませていますね。

 

 戦闘糧食(レーション)を加工して作られた揚げ菓子やワインが兵たちに振るまわれ、祭りの気配が色濃くなる会場。期待が最高潮に達したところで壮麗な衣装に身を包んだ一団が足音高く現れました!

 

 

「それじゃみんな、気合いれていくわよ!」

 

「りょうかーい!」

 

「がんばるぞー!」

 

「こんなこともあろうかと、持ってて良かった一張羅!」

 

 

 土煙を置き去りにする勢いで舞台(ステージ)へと駆けてきたウマ娘(セントール)たち。彼女たちが身に着けているのは、一人前として認められ、故郷を離れる際に氏族から贈られたひとりひとりの特別な装束。

 

 競技(レース)戦争(ウォー)関係なく、彼女たちが負けられない戦いに挑む際に誇りとともに身に纏う文字通りの勝負服です!

 

 二脚の娘、四脚の娘。スラリとした体躯の娘、見上げるほどに立派な恵体の娘。頭部が馬の形状の娘、何故か厚紙で出来たウマ耳と尻尾を付けている娘……最後の娘は本当にウマ娘(セントール)なのか?

 

 ゴホン、みんな姿は違えども、内に秘めた情熱はおんなじです! 普段見慣れた鎧姿とのギャップに目を丸くする戦友たちに向かって舌をペロペロ見せながら流れるように所定の位置へ。軍楽隊と指揮者からのアイコンタクトに頷きを返した光背王(キング)ちゃんが大きく息を吸い込み……。

 

 

「生者も死者も関係ない、みんな大切な戦友だもの! だから……!」

 

 

 

 

 

「わたしたちの歌を聴きなさーい!!」

 

 

 ――ウイニングライブの開始を宣言しました!!

 

 

 

 

 

「皆戦いで疲弊しているだろうに、それを一切感じさせないとは……!」

 

「ウム、誰もが太陽のように輝いているな!!」

 

 

 センターでみんなを引っ張るように踊り、歌う光背王(キング)ちゃんを見ながら呟く大人たち。そこには思うように力を発揮出来ず悔し涙を隠していた少女の面影は無く、見る者を魅了しその脳を焼き焦がす【(キング)】の姿があるだけです。普段の朴訥とした仕事中に道草を食む(物理)姿からはかけ離れた可憐な大柄な馬人の女の子(ばんえいウマ娘ちゃん)によって少なくない兵たちの脳が焼かれ、あちこちから煙が昇ってますねぇ。

 

 軽快な歌、静かな歌、勝利を祝う歌、戦死者を悼む歌……曲目が変わるたびに新たな面を見せるウマ娘(セントール)たち。女子には負けられないとウマ息子(セントール♂)たちが乱入し、破損した装具を打楽器に見事な演奏を披露しています……あ、我慢できなくなった吟遊詩人さんも相棒の空飛ぶ蝲蛄(ファンタズマ)から飛び降りて参加しちゃいましたね。

 

 

 やがて演目はすべて終わり、興奮の熱が残る会場に弛緩した空気が戻ってきました。いつものふにゃりとした表情に戻った大柄な馬人の女の子(ばんえいウマ娘ちゃん)のところへ脳をこんがりと焼かれた兵士たちが押し寄せ、求婚合戦があちこちで勃発しております。

 

 

「おつかれさま! もう立派な王様じゃない!」

 

「とってもかっこかわいかったよ! ぎゅーっ!!」

 

「ちょ、だから汗まみれのときに抱き着いたらダメって……うにゃあぁぁぁ!?

 

 

 恒例のキングコールに応え、やり遂げた表情で戻ってきた光背王(キング)ちゃんに勢いよく抱き着く2000歳児&その夫。うにゃうにゃ悶える汗と泥まみれの姿は妖精弓手ちゃんに負けない美しさを感じさせるものです。

 

 

「……それで、長年の悩みは消えたかしら?」

 

「ええ、もう迷わない。――私は、私を信じ一緒に走ってくれる子がいるかぎり、(キング)であり続けるわ!」

 

 胸を張り、眉を立てた笑みでそう宣言する光背王(キング)ちゃん。その熱量はダブル吸血鬼ちゃんの野望()に引けを取らないものでしょう! これには後方王様面な陛下もニッコリ、隣の猪武人さんは男泣きしています。

 

 

「うむ、そなたが己の道を見つけることが出来てなにより。……そうだ、余としてはちょっと聞きたいことがあるのだが」

 

 

 おや、ゆるゆるだった表情の陛下が何やらキリっとした顔に。唐突なシリアスに場の緊張が高まってきましたね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、どちらの義妹を伴侶とするのかね? できれば子作りは妹たちより後にしてくれたほうが余としても王国としても嬉しいのだが……」

 

「こ、子作りって、そんな……ッ!?」

 

「「お、お兄様!?!?」」

 

 

 うーんこの貧乏貴族の三男坊。顔を真っ赤にした妹ふたりにギリギリと締め上げられる陛下を前に頬を染める光背王(キング)ちゃん。ん、でも今の言い方だと……?

 

 

「落ち着きなさいふたりとも。お兄さんの言葉をよーく考えてみなさい?」

 

 

 吸血鬼ぱわーで陛下からふたりを引き剥がした女魔法使いちゃんに促がされ、うーうー唸るのをやめて先ほどの言葉を反芻するふたり。徐々にその顔が驚きのものへと変わるのを見て、陛下が皆聞くがよいと語るのは……。

 

 

「今回の魔神討伐の功績を以て、【辺境最悪】の頭目(リーダー)ふたりは金等級へ昇格となる。同時に貴族位を授け、城塞都市跡を中心とする領地を任せる。……叔父たち入り江の民(ヴァイキング)と協力し、北狄から王国を守護する盾となってくれるな?」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんが土地持ち貴族となり、完全に秩序の勢力としての任を担うということ。それは同時に……。

 

 

「砂漠の国を安定させ、門閥貴族を黙らせ、混沌の勢力を削る。そなたらを嫁がせる下地を作るのに随分と時間が掛かってしまった、すまぬ」

 

 

 ――女神官ちゃんと神官銃士ちゃんの婚姻を、陛下が、王国が認めるということです!

 

 

「それは……っ」

 

「お、お兄様……!」

 

 

 不意の言葉に心が追い付かず、呆然としたままのふたり。……ですが、周りがそれを放っておくはずがありませんよね?

 

 

「おめでとうございます!」

 

「おめでとう!」

 

「ふふ、良かったわね」

 

「これでおふたりも血族(かぞく)ですよぉ!」

 

「わたしたちも続かなきゃ……!」

 

「乗るしかない、このビッグウェーブに……!」

 

 

 押し寄せる奥様戦隊に担ぎ上げられ、あれよあれよという間に胴上げされる王妹殿下1号2号。美しい華ばかりですがその何割かは吸血鬼(ヴァンパイア)、すごい高さまで飛んでますねぇ。

 

 

「あわわわわ………」

 

「ちょ、怖……きゃんっ!?」

 

 

 お、20フィート(6メートル)ちかく打ち上げられ可愛らしい悲鳴を上げるふたりを小さな影がキャッチしました! お姫様抱っこでふたりを抱え、翼を広げてゆっくりと地上へ降り立つのはさっきちょっぴりおおきくなったダブル吸血鬼ちゃんです。静かにふたりを地面に立たせ、眦に浮かんだ涙を舐め取りニッコリ笑顔。そのままギュッとそれぞれをハグし、朱に染まる耳元で囁きます……。

 

 

「「えへへ……ぼくたちと、かぞくになってくれますか?」」

 

「「――はいっ! ずっと、ずっといっしょです!!」」

 

 

 祝福の声が飛び交うなかで熱い抱擁を交わす新たな血族(かぞく)。途中でダブル吸血鬼ちゃんを交換してハグやちゅーをしているあたり、他のお嫁さんたちと同様どちらか片方ではなくふたりを伴侶として受け入れてくれているみたいですね!

 

 

「むふー! ……あ、そうだ」

 

 

 おや、女神官ちゃんを背中から抱きしめていた吸血鬼侍ちゃんが悪戯っ子の顔をしてますね。女魔法使いちゃんの胸元に右手を伸ばし、地母神さんの聖印(シンボル)と一緒に首から下げていた例の指輪を弄んでいます。左手は女神官ちゃんの左手を取り、ゆっくりと自分のぺったんこなボディラインを喉元から下腹部に向かってなぞらせています……。

 

 

「あのね、あのこがコピーしてくれたのはインベントリーだけじゃないの。てのまがものもそうだし、それに……」

 

 

 星の力(擬似太陽炉)の影響で上昇した体温を感じさせる内股へと導かれた女神官ちゃんの左手。震える指先に触れるのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――まけんもそうびできたんだ。だから、このゆびわはもういらないよね?」

 

 

 

 

 

 ……至近距離で炸裂した核撃発言による被害は甚大です。

 

 万歳三唱をして倒れる剣の乙女ちゃん、鼻から溢れるお嬢様分を必死に抑える令嬢剣士さん、英雄雛娘ちゃんは瞬時に沸騰し、妖精弓手ちゃんの薄い胸に受け止められています……あ、白兎猟兵ちゃんが妖精弓手ちゃんを背中から強襲し、はむっとその長耳に致命の一撃(クリティカルヒット)を叩き込みダウンさせました。

 

 若草知恵者ちゃんと圃人(レーア)コンビは「着☆剣!着☆剣!!」と叫びながら重戦士さんの拘束から抜け出してダブル吸血鬼ちゃんへと飛び掛かり、妖術師さんの触手と珍しく正気を保っている叢雲狩人さんが阻止……ふたりとも吹っ飛ばされたー!?

 

 

「あ、あわわ……落ち着きなさいわたし、(キング)は狼狽えない!」

 

 

 収まりの尽きそうにない場をなんとか鎮めようと光背王(キング)ちゃんがあわあわしてますが、残念ながら経験が足りず失敗しちゃってます。崩れ落ちる彼女の肩に手を当て、代わりに場を強制的に落ち着かせたのは……。

 

 

 

 

 

「――他の人の迷惑になるから、そういうのは家に帰ってからにしなさい。……返事は?」

 

「「「「「ごめんなさい」」」」」

 

 

地面をパイルで穿ち、震動と轟音で正気を取り戻させることに成功した女魔法使いちゃんでした……。

 

 


 

 

「ムッツリさんを挑発するようなことしちゃダメでしょ? ただでさえ色々溜まってるんだから」

 

「えぅ……ごめんなさい」

 

「アンタも同罪。しばらくちゅーちゅーするの禁止。子どもたちと一緒に寝ること、いいわね?」

 

「はーい……」

 

 

 ≪転移≫の鏡を通って牧場へと帰還した一行。遺体は一時ダブル吸血鬼ちゃん預かりとし、王都の受け入れ態勢と遺族との連絡がとれ次第小出しに進めていくことになりました。

 

 鏡を抜けてきたみんなですが、辺境三羽烏とその奥様以外のあたまにはおっきなたんこぶができてますね。「義妹(いもうと)君、今回私は悪くないだろう!?」という叢雲狩人さんの抗議は黙殺された模様、残当と言わざるを得ませんね。

 

 件の金等級昇格や貴族位授与については後日また改めてということで陛下から解散を告げられ、将兵たちの大きな歓声に見送られて戦場から戻ってきたわけですが……おや? ご立派なたわわをたゆんたゆんと揺らしながら走ってくるのは牛飼若奥さんですね。狼さんと英霊さんを引き連れ療養所のほうから近寄ってきました。

 

 

「今戻った……なにかあったのか?」

 

 

 ゴブリンか?と目を紅く光らせるゴブスレさんを手で制し、呼吸を整える牛飼若奥さん。大きく息を吸う度揺れるお山に持たざる者たちが膝から崩れ落ちるのはいつもの光景ですね。

 

 

「はぁはぁ……うん、おかえり……じゃなくて! あのね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妊娠中のふたりのおなかが()()()()()()()()、産気付いちゃったみたいなの! 今はお義母(かあ)さんが看てくれているんだけど、原因が判らなくて……」

 

 

 

 

 

「「……あ」」

 

 

 

 

 

「ぜ、全員集合! まずは残り体力と呪文回数の申告、それから≪浄化(ピュアリファイ)≫による消毒です!!」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 冷蔵庫の中身がすっからかんなので失踪します。

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。モチベーション維持とやる気アップに繋がりますので、よければ感想や評価をお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。


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セッションその18 いんたーみっしょん


 仕事先の試験が近付いてきたので初投稿です。




 

 あいたたた……GL(ガイドライン)神さんのお説教ってば長スギィ! N子さん自慢の三本脚が痺れちゃいましたよ。

 

 まぁ、うまぴょい寸前まで好感度が上がっちゃってたので仕方ないんですけどね!

 

 ……とまれ、そろそろキャンペーンを畳む時期が迫ってきたわけで。最終回に向けてちょっと単発を挟んだほうが良いかもですねぇ。

 

 まずは辺境の街での身辺整理と、ギルドへのアイサツまわり、それから後任への引継ぎなんかも必要でしょうねぇ。

 

 うーん……一話で済ませるにはちょっと勿体無いですし、まずは前回のやらかし清算と頑張った子へのご褒美からにしましょうか!

 

 というわけで、地母神さん、知識神さん、記録はお願いしますねー!

 

 


 

 

 産めよ、増やせよ、地に満ちよ。な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 

 季節はまたちょっぴり移り変わり、夏の空気が漂い始めた西方辺境。連日降り続いていた雨が夜明け前に止み、牧場はしっとりとした空気に包まれています。

 

 普段であれば太陽神さんが顔を出す頃になるとみんな農作業や家畜の世話を始めるのですが、本日は狼さんと牧場付きの英霊さん二柱が先の戦の後に白霊へとジョブチェンジした新人さんたちに巡回指導をしている姿しか見えません。

 

 住居からは慌しく動き回る人の気配がしており、中からは炊事の煙と子どもたちの明るい声が漏れてますね。やがて太陽神さんの全身が地平線から出てきた頃になって……。

 

 

「はれたー!」

 

「いいおてんきだー!」

 

「けっこんしきびよりだー!」

 

 

 我慢の限界と言わんばかりに勢いよくそれぞれの家から飛び出てくる小さな姿。子どもたちが牧場の中心にある広場に集まり、めいっぱいおめかしした姿を互いに見せあってますね!

 

 

「ほれチビども、テーブルを並べるから端っこに寄りな!」

 

「こいつぁ朝メシ代わりだ、式の最中に腹ン中の妖精を鳴かすんじゃねぇぞ?」

 

 

 丸いテーブルを抱えた槍ニキを先頭に椅子や食器を持って現れたパパママたち。重戦士さんの持つ籠の中にはふかした豹芋(ジャガイモ)がぎっしり! 軽く塩を振ってあるおいもさんを美味しそうに頬張る姿に盤外(こちら)の皆さんもおもわずニッコリ、戦女神さんの撮影の音が止まりません。

 

 

「まるつくえはこのへんでいいかな?」

 

「あとはポールをあっちとこっちにたてて……」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんがインベントリーから次々に会場設営に必要なものを取り出り、それを手際よく並べる一同。みんなの額に汗が浮かぶ前に、手作り感たっぷりの結婚式会場が完成しました!

 

 

 

「――それでは、新郎新婦の入場です。皆様、暖かい拍手でお迎えください!」

 

 

 ちょっぴり緊張した様子な司会進行役の新進農婦さんの声に続き、会場に響く拍手の音。広場の中心には木製の壇が設けられ、法衣姿の女神官ちゃんが本日の主役たちを待っています。拍手と歓声の海を泳ぐように歩いてきたのはガチガチに緊張している牧場夫婦のお義父さん。そして……。

 

 

「あはは、とっても素敵だよ!お義母さん!!」

 

「そ、そうかな……?」

 

「――義父さん。もう少しこう、笑顔など」

 

「まさか君にそんなことを言われる日が来るとはなぁ……!」

 

 

 ……あのクソ真面目なゴブスレさんが親しい人を揶揄うという奇跡の瞬間を横目に照れ臭そうに笑う只人寮母さん。ふたりの前後には白兎猟兵ちゃんの下の弟妹たちが並び、リングボーイとフラワーガール役を立派にこなしていますね!

 

 

「こちら、おねがいします!」

 

「ハイ、確かに受け取りました。ありがとうございます」

 

 

 三男くんが大事に運んできた小箱を受け取り、主役のふたりに向き合う女神官ちゃん。朗々と誓いの言葉を紡ぐ姿は可憐さとともに確かな『威』を内包したものであり、誰もが背筋を正したくなるような風格を発揮しつつありますね。

 

 

「では、夫婦となるふたりは指輪の交換を……」

 

 

 女神官ちゃんが差し出す小箱の中には、朽ちぬ輝きを放つ黄金の指輪が入っています。牧場夫婦の指に嵌められているものと酷似したデザインのソレは、ゴブスレさんが牛飼若奥さんにプレゼントした金のインゴットから新たに鉱人道士さんと隻眼鍛冶師さんが作った逸品。互いの指に指輪を通し、女神官ちゃんの祝福の言葉を受けて口付けを交わすふたりに盛大な拍手が送られました!

 

 


 

 

「うぅ……我が妹があんな立派に務めを果たすとは……!」

 

「お兄様! ご覧になられる相手が違いますわよ!!」

 

 

 何事もなく式が終わり、食事会へと姿を変えた会場。ダバダバと涙を流しながら拍手をしているのは、仕事を抜け出して出席した金髪の陛下……ではなく、牧場夫婦に貴族のイロハを教えてくれた貧乏貴族の三男坊さん。隣で大皿に料理を山盛りにしている王妹殿下1号……もとい、彼の妹さんが呆れたように溜息を吐いています。

 

 

「とってもあたたかかな式でした。……この子も、あんなふうに笑いあえる友人と出会って欲しいですね」

 

 

 ふたりの漫才じみた遣り取りを見てクスクスと笑い、胸元に抱く赤ちゃんの頭を撫でる妹さんと反対側に座る女性。砂漠の国の窮状を訴え、ダブル吸血鬼ちゃんたちの活躍で窮地を救われた砂漠の姫君……おっと、陛下と結婚されたので王妃様ですね!

 

 昨年の秋に懐妊が認められていた彼女ですが、先頃無事に出産を終えたそうです。お父さん譲りの金髪にお母さん似の薄い褐色の肌を持った赤ちゃんの性別は男の子。王国に世継ぎが産まれたことで、王妹殿下1号2号がダブル吸血鬼ちゃんと結ばれる後押しにもなりました。

 

 

「心配ご無用ですわお義母様! 辺境三勇士のお子様も、お姉様の子どもたちも、みんな良い子ばかりですもの!……ちょっとばかし肉食系女子が多いですけど、がんばって欲しいですわね!」

 

「うむ! 是非ともこの子の嫁になってもらいたいものだな!」

 

「いやはや、随分と気の早い……とは、言えないのが世知辛いものだね」

 

 

 呵々と笑うロイヤル兄妹の後ろでやれやれと首を振る銀髪侍女さん。ダブル吸血鬼ちゃんの存在によって原作(ほんへ)よりは随分マシですが、宮廷の中核を成しているのは冒険者時代の仲間であり、綺羅星の如き軍の将星たち。火打石団のアレな事件によって門閥貴族の力を大きく削ぐことは出来ましたが、王国の運営が武断的なものに寄ってしまうのはあまりよろしくありません。

 

 出自の貴賤にとらわれず、優秀な人材を登用することで旧勢力に対抗しようというのが陛下を中心とする王国中枢の考えみたいですね。

 

 

「そういうことだ。であるならば、早速妃候補の顔を見に行こうではないか」

 

「もう、陛下ったら……」

 

 

 貧乏貴族の三男坊らしい(ロールプレイに合わせた)質の良いシャツにスラックス姿で王妃の肩を抱きながら陛下が向かう先には、芝生にシートを敷いた特等席に集まる子どもたち。その中心には赤ちゃんを抱いたふたりの新たなママの姿が見えますね。

 

 

「あ、へーか!」

 

「おうひさまだー!」

 

「あかちゃんもいっしょだー!」

 

「はっはっは。良い子の諸君、此処に居るのは王国で一番ハンサムでかっこいい陛下ではなく、パパたちの先輩にあたる貧乏貴族の三男坊だ。いいね?」

 

「「「「「はーい! わかりました、へーか!!」」」」」

 

 

 ……ダメみたいですね! ダブル吸血鬼ちゃんよろしく抱き着いてくる子どもたちを上手くあしらいながら辿り着いた先では、安楽椅子に腰を下ろした若草祖母さんと闇人女医さんが、胸元に愛の結晶を、膝上にダブル吸血鬼ちゃんの頭を乗せた姿でふたりを迎えました。

 

 

「……あの先王を交渉で打ち負かすほどの女傑が、これほどまでに柔らかな笑みを浮かべるとはな。やはり余の義妹(いもうと)の魅力は素晴らしいな!」

 

「あら、暗愚では如何にもならぬとその後の交渉を担った陛下がそのようにおっしゃるとは……ふふ、(わたくし)照れてしまいます♪」

 

「母子ともにお元気そうでなによりです。皆様の研究のおかげで、私も無事にこの子を腕に抱くことが出来ました、重ねて感謝申し上げます」

 

「ああ、そちらも健康状態に問題は無さそうだな。念のため後で診察しておこう」

 

 

 王妃が抱いている赤ちゃんを前に出すのに合わせて自らの赤ちゃんをそっと掲げるふたり。互いを不思議そうに見つめる赤ちゃんたちをダブル吸血鬼ちゃんが瞳を輝かせながら見てますね。

 

 

「へーかのあかちゃん、とってもかわいいね!」

 

「でも、ぼくたちのあかちゃんもまけてないよ!」

 

「うむ、そうだな。それから此処での陛下呼びは止めてもらいたいのだが?」

 

「「はーい、おにーちゃん!」」

 

「か、かわいい……っ!」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんのお兄ちゃん呼びで尊死した陛下のとなりでは、カワイイの直撃によって王妃がノックアウト寸前。慌てて王妹殿下1号2号が後ろから支えてあげています……と、画面に登場しましたし、そろそろ新たな血族(かぞく)を紹介してあげましょうか!

 

 


 

 

 星の力(擬似太陽炉)を獲得したことで増大した一党(パーティ)への魔力供給。その力が赤ちゃんに影響を及ぼし、妊娠中の若草知恵者ちゃんへ吸血鬼侍ちゃんが直接魔力を注いでしまった時のように、赤ちゃんが急成長してしまった結果が前回のラスト。

 

 予定日よりも早く産気付いてしまった若草祖母さんと闇人女医さんでしたが、常駐していた神官による迅速かつ的確な対応が功を奏し、ダブル吸血鬼ちゃんたちが帰還するまで容体を安定させることに成功! 帝王切開の必要は無く自然分娩にて出産は行われ、その日のうちにふたつの産声が牧場に響くのでした……。

 

 

「ママとおんなじひとみをしてるね!」

 

「はい、どうやら(わたくし)妖精眼(グラムサイト)を受け継いだみたいですね」

 

 

 ほんのちょっぴり長耳の先が丸い森人(エルフ)の女の子を胸に抱き、幸せそうに微笑む若草祖母さん。じっとパパを見つめる愛の結晶の瞳は虹色に輝いており、ママの持つ異能が継承されたことを主張しています。吸血鬼君主ちゃん因子の発露か僅かに三白眼気味ですが、将来は美人さんになること間違いなしです! なお、彼女をなんと呼ぶかについては視聴神さんたちの意見をお待ちしてります。

 

 

「産みの苦しみとは、こうも甘美なものだとは! ……なぁ我が主よ、早々に次の家族計画をだな?」

 

「えっと、ほかのみんなとおはなししてからね?」

 

 

 たわわに顔を埋め生命の雫を堪能する赤ちゃんを撫でつつ、恍惚の表情を浮かべる闇人女医さん。「泣いて叫んで唸って喚いて、精魂尽き果ててからが本番」なんて言うママさんもいる出産の苦痛ですが、闇人女医さんにとっては最高の捧げものだったみたいですね。

 

 一心不乱にちゅーちゅーしている艶やかな褐色肌の赤ちゃん、産まれた当初は吸血鬼侍ちゃんっぽい外見が見当たらなかったのですが、結婚式が近付くにつれ伸びてきた髪の毛が白金と陽光色の斑になっていました。太陽神さんの光が当たると眩い輝きを放つそれは、吸血鬼侍ちゃんが陽光を克服したことに対しての太陽神さんからの贈り物だそうです。彼女につきましても呼び名は募集中です。是非素敵な呼び方を考えてあげてください!

 

 

 

 

 

「それでは、こんかいの『がんばったでしょう』のせんしゅつをはじめまーす!」

 

「みんながんばってたけど、『このこがいちばん』ってひとをおしえてね! もちろんじぶんでもおっけー!!」

 

 

 無事に赤ちゃんが産まれ、ほっと胸を撫でおろした一行。戦いの疲れを取るために数日ゆっくりと休み、療養所からふたりが帰ってきたところで今回の論功行賞が始まりました! ……とは言っても自分の功績を認めさせるためのものではなく、頑張った後輩への先輩からのご褒美みたいなものみたいです。

 

 ですので剣の乙女ちゃんや妖精弓手ちゃんなどが選ばれることはなく、フレッシュな面々がMVPに選ばれるのが毎回の流れとなっています。なお毎回叢雲狩人さんが自薦する光景もお決まりで、その後女魔法使いちゃんにアイアンクローでお仕置きされるまでが様式美です。

 

 普段はダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)内でから自薦、他薦されるのですが、今回は一緒に戦った金等級面子も推薦者にお呼ばれしていました。互いの戦いを振り返り、感想を交えながらの楽しい議論の末、今回受賞したのは……。

 

 

「えへへ……やっぱり褒められるってのは嬉しいもんですねぇ!」

 

 駆逐する幻影(ヤクトミラージュ)にトドメを刺し、その鎧を継承した白兎猟兵ちゃん! そして今回は特別にもうひとり……!

 

 

 

「私たちが戻るまで≪賦活(バイタリティ)≫の奇跡で陣痛に苦しむおふたりを癒し、奇跡が尽きた後も励まし続けた頑張りを称え、ここに表彰します!」

 

「わぁ……! ほんとうにいいんですか!?」

 

 

 女神官ちゃんから手作りの勲章を首にかけてもらい、長耳をフルフルと震わせながら周囲に視線を泳がせる小さな姿。お姉ちゃんである白兎猟兵ちゃんより頭一つ小柄でありながら、その胸部装甲は令嬢剣士さん並というトランジスタグラマーな兎人(ササカ)の女の子。

 

 兎耳三兄弟と砂漠の冒険者三人娘によるうさぴょい事件の際、吸血鬼君主ちゃんを背負って家に飛び込んできた次女ちゃんが、お姉ちゃんとともにMVPに選ばれました!

 

 日々の農作業や家畜の世話に積極的に取り組み、白兎猟兵ちゃんが冒険で不在の際には他のきょうだいたちの取りまとめ役として頑張っていた彼女。うさぴょいゴールインのあとはぐっとお姉さんっぽくなり、只人寮母さん――牧場のお義父さんと結婚したので牧場寮母さんですね!――に療養所の運営について質問したり、妊娠して暇を持て余していた闇人女医さんに医術の手ほどきを受けておりました。

 

 何事にも全力で取り組む彼女を盤外(こちら)の皆さんが放っておくはずもなく、誰が推しになるのか熾烈な争いが勃発。最終的には彼女の恋愛事情も鑑み、とある()が奇跡を授け彼女の後援者となったわけです。

 

 

「それじゃあふたりとも、なにか欲しいものとか、してもらいたいことはあるかしら?」

 

「シルマリルとヘルルインにできることならなんでもオッケー! それ以外でも、みんなが全力で叶えてあげるわ!!」

 

 

 トロフィー代わりのダブル吸血鬼ちゃんを手渡し、優しく微笑む女魔法使いちゃんと妖精弓手ちゃん。過去の例としては女魔法使いちゃんが吸血鬼君主ちゃんに学園の制服(胸も袖もダダ余り)を着させて半鬼人先生に見せに行ったり、蜥蜴僧侶さんから上級魔神(グレーターデーモン)養殖術の話を聞いた英雄雛娘ちゃんが圃人剣士ちゃんといっしょにわくわくパワーレベリングを決行したりなどがあるそうです。

 

 

「んー……立派な鎧をいただいたばかりですし、とくに欲しいものとかは……あ!」

 

「なにかおもいついた?」

 

「はい! 山のみんなに持っていく量を増やしたいので、夏まきの人参の作付け面積を増やしたりとかは……」

 

 

 チラチラと視線を向ける先には、牧場のオーナーであるゴブスレさんと牛飼若奥さん。作付けの計画もあるため急な変更は難しいと思うのですが……。

 

 

「問題無い。もとより拡大するつもりだったからな」

 

「うさぎちゃんたちの家族も増えたもんね!」

 

 

 なんと最初から計画の内だったみたいです! うさぴょい三夫婦の出産もあり、これからも増加が予想される兎人(ササカ)たちの要望に応えるべく、牧場夫婦も考えていたんですね。

 

 

「あら、それならお願いは使わなくても良さそうね。他に欲しいものはある?」

 

 

 どうやらお願い消費はノーカウントと見做されたようで、女魔法使いちゃんがふたたび白兎猟兵ちゃんに欲しいものがないか聞いてますね。吸血鬼侍ちゃんを抱えながら考えること暫し、ぱぁっと顔を輝かせた彼女が欲しがったものは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ……それなら、ぼかぁ()()()()が欲しいですねぇ♪」

 

「が、がんばります……!」

 

 

 ……まぁ、たしかに授かりものですね。豊穣の霊薬で当選確実ですけど。

 

 

「んふふ……おねえちゃんはああ言ってるけど、あなたはどうする?」

 

 

 吸血鬼侍ちゃんを抱えたままクルクルと嬉しそうに踊る白兎猟兵ちゃんを示しながら、ニンマリと笑う妖精弓手ちゃん。どうやら次女ちゃんの『お願い』に見当がついている様子。

 

 真っ赤な顔の次女ちゃんがリビングの床に吸血鬼君主ちゃんを降ろし、ゆっくりと大きく深呼吸。胸元の金のメダル(聖印)が窓から差し込む陽光を反射し輝くなか、吸血鬼君主ちゃんにお願いすることとは……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おねえちゃんのだんな様のいもうと様! わたしを、いもうと様のお嫁さんにしてください!!」

 

 

 ……大胆な告白は女の子の特権ですよねぇ!

 

 

 

 さて、マ〇クスコーヒーより甘く、天〇のこってりよりもドロッとしたダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の夜事情ですが、いくつかのお約束(ルール)が設けられています。

 

 代表的なものとしては『お嫁さんは公平に愛すること』『満月が近付いたら我慢しないこと』『ダブル吸血鬼ちゃんや眷属の子が消耗している時は、無理をしたりそれを隠したりせずに必ず伝えること』などがあります。まぁ時折叢雲狩人さんが暴走したり賢者ちゃんが乱入して大変なことになったりもしますが、概ねみんな守ろうとしているものですね。

 

 そんなわりとふんわりゆるゆるなお約束が多い中で例外的なものがひとつ。そのお約束とは『眷属になることを選ばず、自然に生きる道を選んだ定命の者(モータル)が子を為すことを望んだ時、みんなが協力して全力で支援すること』です。長命種(エルダー)である森人(エルフ)は対象外なので、現在の面子ですと只人(ヒューム)圃人(レーア)、そして兎人(ササカ)の子が該当するわけですね。

 

 以前浮気云々と妖精弓手ちゃんが話していましたが、森人(エルフ)にとって百年などあっという間。限られた時を生きる女の子たちの望みを叶えてあげたいという彼女たちの優しさが感じられます。

 

 

 吸血鬼君主ちゃんと同じ太陽神さんの信徒となった兎人(ササカ)の次女ちゃん――太陽神さんから『日向兎娘ちゃん』と呼んであげてと託宣(メッセージ)が届きました――ですが、お姉ちゃんと同様眷属に成るつもりはなく、代わりに子孫を繋いでいきたいと考えているみたいです。

 

 まだ本番に至っていない英雄雛娘ちゃんや、漸く陛下の許しを得た王妹殿下1号2号も日向兎娘ちゃんのある意味割り込みともとれる『お願い』に反対することもなく、むしろ黄色い歓声を上げる始末。奥様戦隊は無敵ですねぇ……。

 

 

「えっと、ほかのみなさんみたいに一緒に冒険に行ったりは出来ないですし、石弓や銃もあんまり巧く扱えません。でも……!」

 

 

 言い募ろうとする彼女の口を塞いだのは吸血鬼君主ちゃんの口付け。優しく後頭部を撫でながらのソレは、お嫁さんたちと交わすような情熱的なものではなく相手を安心させる落ち着いた触れ合いです。力が抜けてくたっと崩れ落ちる日向兎娘ちゃんの身体を支えた吸血鬼君主ちゃんが、頬擦りをしながら彼女の不安を拭い去っていきます。

 

 

「あのね、ぼうけんからかえってきたときに『おかえり』っていってもらえるのって、すっごくしあわせ! みんながかえるばしょになってくれるのも、とってもうれしい! これからも、どうぞよろしくね!!」

 

「――はい、わたしのだんな様!」

 

 

 喜びの涙を零しつつ、むぎゅっと愛する人を抱きしめる日向兎娘ちゃん。ご立派なたわわに包まれ昇天しかけている吸血鬼君主ちゃんですが、その背後に近付く人影が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――うさぴょい、するんですね?」

 

「お嫁さんとしてお迎えするのに賛成なのと、おふたりを羨ましいと思うことは矛盾しませんわ、お姉様……」

 

「おっきくなっても怖くないか、確かめてみたいかなーって!」

 

「うふふふふふふ……」

 

 

 

 

 

猟犬(フアン)ちゃんはいいの? あの子たちみたいにアピールしなくて。……それに、このあいだ来たんでしょう? ふたりの赤ちゃんを産める(初潮)が」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんを抱えたまま逃げ回る兎人(ササカ)姉妹を追いかける婚活女子たちを味わい深い表情で眺める妖精弓手ちゃん。本番希望の王妹殿下1号2号と一緒に駆け出すと予想していた英雄雛娘ちゃんが動かずにいた理由を不思議そうに訊ねてますね。美の極致ともいえる上の森人(ハイエルフ)に至近距離から覗き込まれ、慌てたように顔を上げる英雄雛娘ちゃん。

 

 

「ひぁっ!? あ、えっと、わたしまだ子どもだから、お母さんなんて想像できないですし。それに……」

 

 

 一党(パーティ)に参加してからこっち成長を続けている胸に手を当て、彼女が言葉を続けます。

 

 

 

 

 

「眷属にしてもらうなら、もっと(背が)大きくなってからがいいかなって……」

 

「もっと(おっぱいが)大きくなってからって、これ以上成長しそうにない私に対するイヤミかきさまー!」

 

「え、(もう十分背が高いのに)まだ大きくなるんですか!?」

 

「うがーっ!!」

 

 

 うーんこのアンジャッシュ感。ダブル吸血鬼ちゃんの与り知らぬところで勃発した悲しき争いは、カッコ内を的確に察知した魔女パイセンと女騎士さんによる身体を張った(おっぱい)ブロックでふたりが尊死するまで続くのでした……。

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 






 試験内容を見直すので失踪します。

 UAが23万を超え、総文字数も150万が見えてきました。そろそろラストスパートなので、もう少しお付き合いいただければ幸いです。 

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。モチベーション維持とやる気アップに繋がりますので、よければ感想や評価をお願いいたします。また、誤字報告もありがとうございます。

 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその18.5-1



 無事に試験が終わったので初投稿です。




 

 立つ鳥跡を濁さずな実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 

 太陽神さんのテンションが頂点に近付き、暑さが増してきた西方辺境。辺境の街へと続く街道をゆっくりと進む二台の荷車が見えますね。

 

 

「もう少しで街に着くけど、交代しなくて大丈夫かしら?」

 

「はい! ずっと平らな道でしたから、まだまだ余裕です!!」

 

 

 牧場で生産された乳製品や新鮮な野菜を満載した荷車を曳いているのは艶やかな黒髪が美しい英雄雛娘ちゃん。隣を歩く女魔法使いちゃんに笑顔で返事をしつつ、元気いっぱいな様子です。

 

 前回の終わりに妖精弓手ちゃんが言ってましたが、英雄雛娘ちゃんに月のものが訪れるようになり、本格的に魔力供給が行われ始めました。育った環境の影響で成長が阻害され加入時にはガリガリだった身体ですが、食育とトレーニング、眷属ママたちからのちゅーちゅー、そしてあむあむごっくんな魔力供給の結果、驚くほど改善されました!

 

 身長はグングン伸びて女神官ちゃんを超え、冒険者セット(ランドセル)を背負いながら大小二刀を振り回してもブレない体幹と槍ニキに匹敵する踏み込みを搭載したボディは猟犬の如きしなやかさ。

 

 さらに本番が解禁されたことで肉体改造は加速し、グッと女性らしいプロポーションに大変身! 剣聖さんに勝るとも劣らない恵体は瑞々しい生命力と魔力に満ちており、ギルドや訓練場でその姿を見た新人冒険者たちの劣情を煽りっぱなしみたいです。

 

 

「ねぇねぇ、わたしもたまには曳きたいんだけどなー?」

 

「……いや、ここは俺に任せろ」

 

「パパ、がんばって!」

 

 

 後ろの荷車を曳いているのはダブル吸血鬼ちゃんたちから贈られた装備に身を固めたゴブスレさん。牧場長男くんを胸に抱く牧場若奥さんの繰り出す上目遣いのおねだりに塩対応しつつ、黙々と英雄雛娘ちゃんの荷車に続いてますね。ダブル吸血鬼ちゃんのインベントリーを利用すれば高速でたくさんのものを運べますが、受け渡しのやり取りやコミュニケーションも大事なお仕事。緊急事態でもなければこうやって荷車でえっちらおっちら運ぶのがいつもの光景です。

 

 二台の荷車が進む道は王都に続く石畳のソレとは違い、土が剥き出しになったもの。一見草を刈って踏み固めただけにも見えますが、実はけっこう手間が掛かっているんです。ちょうど去年この道を造っているときの映像がありますので、ちょっと見てみましょうか!

 

 


 

 

「ではみなさん、作業をはじめてください!」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

 

 防寒着に身を包んだ受付嬢さんの声に元気よく返事をする冒険者たち。訓練場で学ぶ新人たちに加え、秋~春にかけて依頼が減り日々のごはんに困り始めた低級たちの姿もちらほら。ギルドから支給された円匙(スコップ)を手に踏み固められた道の左右を掘り、集めた土を道の上に撒いていきます。

 

 

「さーてヒヨッコ共、その有り余ってる力を存分に発揮してもらうぜぇ?」

 

 

 悪い笑みを浮かべているのは訓練場の教官に就職した戦斧士さん。ガタイの良い前衛たちと一緒にひとり一本丸太を担ぎ、土の撒かれた道を丸太の断面で叩き平らに均していきます。地面が均等に突き固められたところで、今度は大量の麻袋に土を詰め始めました。

 

 ぎっしりと隙間なく並べられた土嚢を丸太で叩き締め、さらに土を被せて丸太でもう一叩き。地均しと土嚢の敷設の組み合わせによって道は固くて丈夫に、以前に比べて4インチ(10センチ)ほど高くなったため雨水は掘り下げた道の左右へと流れる仕組みになっています。雨が降りぬかるみができると馬車や荷車が立ち往生し流通が滞ってしまう原因になりますので、排水はとっても重要なんですね!

 

 また、未知の左右を掘り下げたことで視界が良くなり、野盗やゴブリンを発見しやすくなる点も見逃せません。使用した資材は土と麻袋だけですので修繕も簡単、力仕事が不得意な後衛や未亡人などに麻袋の縫製を依頼することで雇用の創出にも繋がり、冬を越せない人を減らすことにも繋がりました。道を造り終わってもその後の保全作業が見込めますので、持続的な産業になったと言えるでしょう!

 

 なお麻袋の素材となる繊維は半森人夫人さんが安価に提供してくれているため、ギルドの財政を圧迫することはありませんでした。数の暴力によって今年の春には辺境の街~牧場間は無事開通、こうやって荷車が快適に通れるようになりました!

 

 


 

 

 のんびりゆったりと進む二台の荷車。血に飢えた冒険者たちによってゴブリンは依頼の取り合いになるほど最優先で駆除されていますが、そこは危険に満ちた四方世界。突然空から野良赤竜(レッドドラゴン)が襲ってきたり、そうでなくても野党の類が現れても不思議ではありません。

 

 女魔法使いちゃんが傍に居るとはいえ、一行はとっても少人数。荷車を曳いていては咄嗟に動けないとゴブスレさんなら言い出しそうですけど、そこはご安心ください。上空から荷車を見下ろす位置に、小さな影が浮かんでいますから!

 

 

「とってもたかーい! ほら、あんなにみんながちっちゃくみえるよ!!」

 

「ほんとだねー。……だいじょうぶ? たかくてこわくない?」

 

「ぜーんぜん! おねえちゃんがささえてくれてるから、こわくないもん、ぎゅーっ!!」

 

「えへへ……ぎゅーっ!」

 

 

 お父さん譲りの灰色の髪を風に靡かせ、全身で喜びを表す牧場長女ちゃん。心配そうに訊ねる吸血鬼君主ちゃんに笑顔で返し、お姫様だっこされている姿勢のまま感謝のハグをしていますね!

 

 「子どもには自分の好きなことをさせてやりたい」というパパの教育スタイルから、頻繁にダブル吸血鬼ちゃん一行(パーティ)をはじめとする冒険者一家のところへ顔を出している牧場長女ちゃん。若草祖母さんの勉強会にも積極的に参加したり、鉱人道士さんや隻眼鍛冶師さんのところで刃物の扱い方を教えてもらったりと積極的に活動しています。

 

 太眉長女ちゃんや泣き黒子長男くんを引き連れ、年上である新進長女ちゃんも引っ張って行く姿はボス気質に溢れているともっぱらの評判、眷属ママからのちゅーちゅーによって成長も早く、既に五歳児相当の肉体と精神になっているみたいです。

 

 そんな彼女の最近のお気に入りは吸血鬼君主ちゃん。胸元までしか届かない体格差(まだ吸血鬼君主ちゃんのほうが大きいです)をものともせずにじゃれつき、おひさまの匂いをすみずみまで堪能。「しょうらいははおねえちゃんのおよめさんになる!」と言ってゴブスレさんを真顔にさせたり、「じゃあわたしもなる!」と叢雲次女ちゃんに対抗意識を芽生えさせたりと毎日がおおさわぎなんだとか……いろんな意味で将来が楽しみですね!

 

 

 

 

「とうちゃーく!」

 

「この子と遊んでくれてありがとうね! ぎゅーっ!」

 

「ふわぁ……」

 

 

 そんなこんなで辺境の街に到着した一行。片手に地図を持った神官たちが其処彼処で走り回り、街はお祭りでもないのに喧騒に満ちています。預かっていた牧場長女ちゃんを牛飼若奥さんへとお返しし、ご褒美のハグで尊死した吸血鬼君主ちゃんを呆れた様子の女魔法使いちゃんが摘まみ上げてズンズンと先導、向かう先は冒険者ギルドです。

 

 

「下姉様、此方で御座います」

 

「ん、おまたせ。後輩はもう出た後かしら」

 

「はい、主さまとご一緒に下水道の入口へと向かわれました」

 

 

 ギルド前にはたくさんの神官たち。信仰する神格もバラバラ、冒険者登録票を下げていない神殿付きや農家へ就職したまで集まっています。彼らを取り仕切り、指示を出しているのは戦斧士さんと同じくギルドに就職した武僧さんですね。

 

 

「さぁさぁ、自身の担当する箇所が判らぬかたはいらっしゃいますかな? 困った時は恥ずかしがらずに助力を求めましょうぞ……おや」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんたちに気付き、にこやかに一礼をする武僧さん。困ったちゃ……もとい、妖術師さんを引き取ったことで非常に感謝されているみたいです。先に到着していた若草知恵者ちゃんが差し出す地図を吸血鬼君主ちゃんと英雄雛娘ちゃんが受け取り、自分の担当場所を確認していますね。

 

 

「それじゃ私はゴブリンスレイヤーたちとギルドに顔を出して来るから、三人とも頑張ってらっしゃい」

 

 

 ヒラヒラと手を振りながら荷車を片手で曳きギルドの裏手へと向かう女魔法使いちゃん、ゴブスレさん一家もその後に続いていきます。その場に残った神官クラス持ちは集団とともに自分の受け持つ場所へと移動し、始まりの合図に備えています。

 

 辺境の街を網羅するように散開した神官たち。みんなが持つ紙片に記されているのは街の地下に張り巡らされている古代文明の遺産……下水道の見取り図です。それぞれの習熟度を考慮して間隔を空け、下水道の直上にて待機することしばし。街の中心からシュポンと花火が打ち上げられたのを合図に、それぞれが信仰する神へと祈りが捧げられます!

 

 

「「「≪いと慈悲深き地母神よ、どうかその御手で、我らの穢れをお清めください≫」」」

「「「≪我らに、飲み水を≫」」」

「「「≪鍛冶神さま、我が穢れを払う姿を見るがよい≫」」」

「「「≪太陽礼賛! 光あれ!!≫」」」

 

 

 地面目掛けて唱えられた≪浄化(ピュアリファイ)≫の奇跡は盤外(こちら)からの『いいね!』によってクリティカルで発動! 長年にわたって堆積していた汚泥や塵芥を水へと変え、下水道に住み着いていた巨大鼠(ジャイアントラット)大黒蟲(ジャイアントローチ)肥喰らい(スライムイーター)といった怪物(モンスター)を巻き込みながら下水の出口へと押し流していきます!!

 

 

「お、そろそろ飛び出て来そうだねぇ」

 

「みな、落ち着いて処理してくださいね!」

 

「どくをもってるやつがおおいから、かまれたりひっかかれないようきをつけてね!」

 

 

 そして街の外に複数ある下水出口で待ち構える冒険者たち。冬に土を掘るのに活躍した円匙(スコップ)は今度は怪物退治に大活躍。濁流に揉まれ息も絶え絶えな怪物(モンスター)に容赦なく振り下ろされていきます。駆除された怪物(モンスター)は一か所に集められ叢雲狩人さんがまんべんなく焼却(がががー!)。疫病の原因となる目に見えぬ存在(細菌)まで焼き尽くしてしまいました。

 

 

「……ふむ、どうやら上手くいったようですな」

 

「はい。初回は人数を多めに動員いたしましたが、次回からはもう少し人数を絞っても問題は無いと思います」

 

 

 やれやれと肩の荷が下りたように笑う武僧さんと、彼に用意していたお茶を手渡す若草知恵者ちゃん。道路整備に続き、今回試していたのは神官による下水道の清掃です! ≪小癒(ヒール)≫、≪解毒(キュア)≫に続いて修得している神官の多い≪浄化(ピュアリファイ)≫。ひとりひとりの効果は小さくても、みんなで唱えればカバーできることが証明されました。

 

 仰する神格が異なる場合でも問題無く効果が発揮されるため、≪聖歌(ヒム)≫を用いた増幅(ブースト)が不要というのも良い点。また神官同士の連帯感も生まれるため、マイナーな神格や混沌に属する神格を信仰する神官への理解も深まることでしょう! ……なお浄化漏れがないよう若草知恵者ちゃんも唱えておりましたが、彼女ひとりで街全体をカバーしていたのは内緒です。

 

 

 

 さて、下水の詰まりが解消されたこというとは排水可能な水量も増加したということ。街外れに建設された真新しい大きな建物の前で、浄化完了の連絡を受けた妖精弓手ちゃんが軽やかに声を上げています。鮮やかな色彩で描かれた浴槽神さんを看板に掲げたその施設の正体は……。

 

 

「さぁさぁ、魔神の核(デーモンコア)を利用したたっぷりのお湯に足を伸ばして浸かれるお風呂! 入浴料はひとり銀貨1枚……なんだけど、今日は開店記念でみーんなタダ!! 蒸し風呂(サウナ)もあるし、冷やした檸檬水や麦酒も売ってるわよー!」

 

 

 魔神養殖で腐るほど手に入った核をふんだんに活用した大型公衆浴場……つまり銭湯です!

 

 先だってギルドの訓練場に建設した風呂が実に気持ち良いとの噂が生まれ、街から視察しに訪れた役人がホカホカになって帰っていったりと評判になった銭湯。ぜひ街にも建設して欲しいとの要望があったのですが、排水処理とお湯を沸かす燃料の問題があり開業には時間が掛かっておりました。

 

 しかし最大のネックであった湯沸し問題が解決したことで事態は加速。訓練場の修繕時に風呂を満喫し銭湯員と化した大工さんたちの頑張りもあって、本日辺境の街にスーパー銭湯が誕生したわけです。

 

 普通の家庭や宿では湯に浸かる入浴は一般的ではなく、水や湯で身体を拭く程度で銀貨1~2枚。風呂場がある宿屋でも宿泊料とは別に銀貨3~5枚ほどの料金が掛かってしまいます。そんな状況で設定された入浴料は驚きの銀貨1枚! これには宿屋からの猛反発が……と思われるかもしれませんが、大多数の宿屋からは歓迎の声が上がっています。

 

 

「正直銀貨1~2枚程度じゃ手間に見合わないんだよねぇ」

 

「風呂に入れない新人たちを泊めてると、どうしても部屋に匂いがね……」

 

「人前で肌を晒したくない人はそもそも金に糸目を付けないし、棲み分けが出来て良いと思うよ」

 

 

 ……という感じで、宿屋は湯を沸かす手間がなくなり冒険者が清潔になってニッコリ。冒険者と街の人は安価に入浴できてニッコリとwin-winな関係に収まりました。残り湯を使って自分で洗濯するほか併設された洗濯屋も利用可能なので、依頼で訪れた先で服装や身体の不潔さに顔を顰められることもなくなるとギルドは考えているそうです。

 

 

 ここ数年で一気に生活レベルが上昇している辺境の街、ダブル吸血鬼ちゃんたちの稼ぎや活躍で経済が回り、訓練場の運営が成功したことで冒険者の質もグーンと良くなりました。

 

 そこにダメ押しという感じで行われている開発ラッシュの理由。それはダブル吸血鬼ちゃんたちが辺境の街から離れる前に、自分たちを受け入れてくれた街のためにできることをやっておこうという思いが切っ掛けなのでした……。

 

 

 

 

 

 ……さて! 荷車組のほうはどうなっているでしょうか。荷受け場として用いられているギルド裏手の空きスペースにやってきたゴブスレさんたち。そこには監督官さんと受付嬢さんが品物の到着を待っていました。

 

 

「お、来た来た! いつもありがとねー……っと」

 

 

 元気よく手を振る監督官さんの横を通り過ぎる緑色の疾風。営業スマイルとは違う心からの笑みを浮かべた受付嬢さんが向かう先はもちろんゴブスレさん……ではなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちわ! えっと、これがきょうもってきたしなもののいちらんになります!!」

 

「はい、こんにちわ。それでは一緒に確認をしましょうね♪」

 

 

 お母さんと同じ赤いふわふわヘアーと、半ズボンから覗く生足が眩しい、牧場長男くんのところでした。

 

 

 

 

 

吸血鬼(わたしら)が言えたことじゃないけど、アレ良いの? だいぶ拗らせてると思うわよ?」

 

 

 太陽神さんも高いうちからイチャコラしている年の差カップルを示しながらゴブスレさんに問い掛ける女魔法使いちゃん。牧場長男くんの肩に手を置き、たわわを押し当てつつ香水の良い匂いを漂わせながら目録をふたりでチェック。高い場所の品を確認する時には脇に手を入れて抱き上げ、自然にボディタッチをする受付嬢さんとそれを自然に受け入れている牧場長男くんの間に漂うのは既に熟練夫婦の域に達した雰囲気です。

 

 ゴブスレさんへの恋に破れ、表面上は復活しながらも酒の席では延々と愚痴っていた受付嬢さん。ゴブスレさんが帝国騎士に叙された挨拶回りの際、彼に手を引かれて不安そうに周囲を見回す牧場長男くんを見た瞬間、新たな恋の対象を見つけたそうです。

 

 双子の姉である牧場長女ちゃんとは違い、大人しく争いを好まないタイプの牧場長男くん。みんなのパパママたちといっしょに牧場を駆けまわるよりも、家畜の世話をしたり妖精弓手ちゃんや蜥蜴僧侶さんからそれぞれの種族に伝わる物語を聴いたりするのが好きというなんとも草食系な性格に。僅かなりとも闘争の気配を孕む冒険者な女性よりも、争いの匂いがしない女性に懐くのは自然な流れだったのかもしれません。

 

 

「当人同士の問題だ。俺が口を挟むことではないだろう」

 

「うんうん! ……たしかあの人も貴族のお嬢さまだよね? 家の都合で誰かと結婚するよりは、好きな人と結ばれて欲しいかなって」

 

 

 牧場夫婦的にはふたりの関係は問題ないみたいです。まぁお義父さんと牧場寮母さんも親子くらい年が離れてますし、自分と同年代の()()()()ができても……いや、文字にすると凄い言霊ですねコレ。

 

 

「――それに、彼女にも()()()()()()()()()。俺達にしているのと同じ()()を」

 

「処置って……たしかにあんまり公然と言えるようなことじゃないわね」

 

「お、やっぱ判る? 私たちも頭目(リーダー)ちゃんたちにしてもらってるんだよねー」

 

 

 ゴブスレさんの言葉に応えたのは監督官さん。品物の確認が終わったところで受付嬢さんが牧場長男くんをお茶に誘い、恋人繋ぎでギルドの中へと消えていくのを生暖かい笑みで見送った後、ポリポリと頬を掻きながら残った面々に向き直りました。

 

 

「『だいすきなひとたちには、ずっとずっとげんきでいてほしい。そのほうがおいしくちゅーちゅーできるから!』……まったく、ふたりとも傲慢と言うには可愛らし過ぎるよねぇ」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんが施している処置……はい、勘の良い視聴神の皆様ならもうお判りですね! 牧場夫婦をはじめとするお世話になっている面々や王国の関係者、それに受付嬢さんと監督官さんにしていること……それは『生命力譲渡による抗老化(アンチエイジング)』です!

 

 接触面を経由して生命力を相手に送り込むダブル吸血鬼ちゃんの得意技。夜会話ほどの効果はありませんが、ちゅーちゅーさせてもらったお礼に牛飼若奥さんや魔女パイセン、女騎士さんに行ったところ肌艶の向上や血行の促進が発覚。賢者ちゃんまで動員して調査した結果、確かな効果があることが証明されました。

 

 ちゅーちゅーしたあとのほっぺすりすりに秘められた効果に女性陣が即座に反応。寿命こそ延びないものの若さが維持できるとあって、首を傾げる旦那も巻き込んで一斉に処置開始。金等級三家族を皮切りに新進夫婦や牧場夫婦のご両親、陛下と王妃に加え、牧場長男くんをロックオンしている受付嬢さんとそれを応援している監督官さんにもダブル吸血鬼ちゃんによるほっぺすりすりが行われました。

 

 今はまだ変化は見られませんが、賢者ちゃんの予想では半年に一度程度の処置で今後天に召されるまで20代前半~30代前半くらいの肉体を維持し続ける見込みなんだとか。途中で中断しても急に老化したりはしないそうですし、『おいしさながもち!』とダブル吸血鬼ちゃんも大喜び。みんなには健康で長生きしてもらいたいですからね!

 

 

 ……そういえば、以前ダブル吸血鬼ちゃんに大量の釣書が届いているというお話をしたのを覚えていらっしゃいますかね?

 

 永遠の生命というものに魅力を感じない定命の者(モータル)は少なく、吸血鬼(ヴァンパイア)の眷属となることで仮初とはいえ手にすることの出来る禁断の果実。あの売国奴を筆頭にダブル吸血鬼ちゃんを取り込んで不老不死を目論む貴族は多く、つい先ごろまで様々な手を使って一党(パーティ)に圧力を掛けてきていました。

 

 しかし、先の戦の活躍によって金等級に昇格し、同時に貴族として叙されることを金髪の陛下が布告。同時に半森人局長さんが裏で「陛下が王妹ふたりを『辺境最悪』へと嫁がせ地盤を盤石なものとし、邪魔な門閥貴族を滅ぼす算段を始めた」という噂を流したことで大混乱。

 

 火打石団の件で急所を抑えられていた家は慌てて土下座し、そうでない貴族は互いに連絡を取り合いつつ軍備を増強しているんだとか。混沌との戦いが優勢になった途端にこの始末というのが何とも言えませんが、『兵を集める』という行動自体は銀髪の宰相、そしてダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)の頭脳担当たちにとっては好都合なのです。何故ならば……。

 

 

『――民の暮らしを向上させるには戦の在り方を変えねばならぬ。膨大な血と鉄の浪費を伴う数による総力戦ではなく、突出した個による代表戦。……時代錯誤と笑う者は好きにさせよ。すべての兵士(ゴブリン)を失ったときに、彼奴等は自らの過ちをその生命で贖うことになるのだからな』

 

 

 精鋭による斬首戦術と大量破壊兵器による戦場支配、そして非正規戦に特化した集団による残党狩り。四方世界からゴブリンを駆逐した後に目指すのは、かつて強大な魔法使いたちがその術を競い合っていた時代にも似た決闘方式。ダブル吸血鬼ちゃんたちが目指す戦いの姿が、その先にあるのですから!

 

 

 

 ……コホン、ちょっと話が脱線してしまいましたね。要約すると陛下をはじめとする王国中枢とダブル吸血鬼ちゃんたちの意見は一致し、兵を無駄に消耗させずダブル吸血鬼ちゃんたちを用いて混沌の軍勢に相対するという方針です。そのための金等級昇格と貴族位の授与であり、また王妹殿下1号2号をお嫁さんとしてお迎えするわけです。

 

 そうそう、北の城塞都市を領地として任されるにあたって、ダブル吸血鬼ちゃんには陛下から課題が出されました。その内容は『貴族の本分である領地の経営に加え、そなたたちには駐留部隊の練兵に冒険者ギルド支部の誘致と建設、それから入り江の民との交易拠点の建設も任せる』というもの。

 

 一見ムチャぶりにも程があるように見えますが、実際は『知り合いに声をかけ、手伝ってもらいなさい』という陛下からの助言です。その第一歩として声をかけられたのが……。

 

 

 

 

 

頭目(リーダー)ちゃんたちのお願い、引き受けることにしたよ! 後任はあの子が問題無く引き受けてくれそうだし、支部の新規立ち上げ、私に任せなさーい!!」

 

 

 やきうと麦酒(おビール様)と吸血鬼吸いをこよなく愛する監督官さんなのでした!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 年末年始が勤務なので失踪します。

 前話で総文字数が150万を超えていました。200万字には届かないと思いますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。 

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。モチベーション維持とやる気アップに繋がりますので、感想や評価をお願いいたします。重ねて誤字報告もありがとうございます。

 お読みいただきありがとうございました。



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セッションその18.5-2


 年末年始が夜勤続きで、生活のリズムがボロボロになっていたので初投稿です。

 ※コンピューター様(Bing Image Creator)による挿絵を入れてみました。これは人間が支配されてもしょうがないかもしれませんね……。




 

 前回、アンチエイジングを流行らせていたところから再開です。

 

 

 監督官さんと一緒にギルドの中へと足を運ぶゴブスレさん夫婦&女魔法使いちゃん。辺りを見回せば膝上に牧場長男くんをキープしている受付嬢さんがテーブル席で手を振っていますね。

 

 

「この子がゴブリンスレイヤーのところの……」

 

「やだ、超カワイイ……!」

 

「この生足と半ズボン……スケベ過ぎるッ!!」

 

 

 ……ふたりの周りには息も荒い女性冒険者が灯りに引き寄せられる蛾のように群がり、亡者の如く手を伸ばしています。お姉様方の邪な感情に気付かぬ牧場長男くんを守護(まも)りながら、受付嬢さんが迫真の『あげません!』顔を披露していますねぇ。

 

 

「ほら散った散った。あんまりしつこいと嫌われるわよ?」

 

「ぶーぶー! ちっちゃかわいいショタ&ロリの独占はルール違反っスよ!!」

 

「でしたら代わりに頭目(リーダー)ちゃんたちのミニスカ給仕(メイド)服を要求いたしますわ!」

 

「はいはい、また今度ね」

 

 

 流石は訓練場卒のお嬢さまたちだ、面構えが違う。右手の杭打ち(パイル)を変形させる女魔法使いちゃんに一頻り抗議しつつもちゃっかりと約束を取り付けるあたり、なかなか侮れませんね。ゴブスレさんが獣人女給さんに軽食と飲み物を頼み、注文の品が揃ったところで先程のお話しの続きとなりました。

 

 

「訓練場のマニュアルは完成、あとは実際の運用に合わせて改訂ってとこかなー」

 

「地域によっても変更が必要でしょうし、取引先の選定などは別途考えないといけませんけれど」

 

 

 ギルド職員ふたりの言葉に頷きを返すゴブスレさん。知識だけの頭でっかちでは実際の現場に対応しきれない可能性はありますが、知識なしに冒険に挑むのは勇気ではなく無謀というもの。体系だった教えが確立されればそれだけ生存率も上がるというものです。

 

 

「それから、ゴブリンスレイヤーさんが心配されていた件ですが……」

 

「――ああ、どうなった?」

 

 

 ゴブスレさんの真剣な眼差しに微笑みを返し、膝上の牧場長男くんをむぎゅっと抱きしめる受付嬢さん。くすぐったそうに身を捩る年下の想い人を優しく撫でながら、肩の荷が下りた表情で発したのは……。

 

 

 

 

 

「新人冒険者および各集落にゴブリン対策の冊子を配布する案は、無事に()()()()()()()!」

 

 

 一度聞いただけではゴブスレさんの考えを否定するような、実際は彼の望んでいた結論が得られたという報告でした。

 

 


 

 

『……あの、なんで教わったことを書き記しておいちゃダメなんですか?』

 

 

 それは訓練場の運用が開始されてから幾度となく繰り返されてきた疑問。ゴブスレさんや叢雲狩人さん、若草知恵者ちゃんをはじめとする教官たちの教えは懇切丁寧、判らなければ判るまで教えてくれるのですが、ひとつだけ彼らが決して許さなかったことが。それが『教わったことを文字や絵という形で記録すること』でした。

 

 初期のうちは訓練場からの持ち出しを禁じていたのですが、屑冒険者(福本モブ)に絡まれ紙片(メモ)を奪われる事態が発生した後は全面禁止に。なお加害者については例のナッツクラックの件よりも前に行方不明(物理)になっております。

 

 

「ゴブリンは馬鹿だか間抜けではない。文字が読めぬ者でも判るということは、奴らでも判るということだ。術者(キャスター)の一部や(ロード)なら文字を理解することすらある」

 

 

 想像してみろ、そいつらが知識を他の個体に広めた先のことを、というゴブスレさんの言葉に震えあがった新人たち。脳裏に学んだことを刻み付けた後、広場で持っていた紙片(メモ)を灰になるまで燃やす彼らの瞳には学びへの必死さと狂気が浮かんでいたそうです。これには知識さんと万知神さんもニッコリ!

 

 

 西方辺境におけるゴブリン駆除の飛躍的な進歩を知った他地方の冒険者ギルドも訓練場のノウハウを仕入れるべく辺境のギルド支部へと職員を派遣してきましたが、彼らが真っ先に書かされたのは『文字や図案等記録に残る資料はギルド保管とし、冒険者には決して配布せず、また冒険者がそれらの記録を残すことを絶対に見逃さないこと』という誓約書でした。

 

 持ち帰る資料も魔女パイセンをはじめとする熟練の術者によって厳重な封印処置が施され、高位の術者でなければ解呪できないようにされてたんだとか。不平を漏らす他支部の職員は訓練場の人造迷宮(ダンジョン)にご案内。新人たちと一緒にゴブリンの巣穴チャレンジに参加してもらったところ、快く承諾してくれたそうです。

 

 

 また、冒険者を目指す新人たちですら識字率は残念ということは、一般の農村のそれはお察しというもの。文字を廃したイラスト形式でゴブリン対処法を各集落へ配布し知識を広めるという案が提出されていましたが、ギルド各支部からの猛烈な反対意見によって無事に却下。代わりにギルドへ依頼を出す方法や緊急時に冒険者へ依頼を出した際の金額など村が負担する報酬の目安を明確にした冊子が配られることになりました。これによって村が緊急時に足元を見られることも、冒険者が相場よりも低い報酬で働かされることも少なくなると予想されています。

 

 

 なお、一部界隈では『知識の独占は公平ではない! 平等に広めるべきだ!!』という意見が叫ばれているそうです。匂い立つなぁ……

 

 


 

 

 辺境の街の大掃除から数日後、太陽神さんが本気を出し始めた日差しの照らす王都にダブル吸血鬼君主ちゃんたちの姿がありますね。≪転移≫の鏡を潜り抜け、もはや顔馴染みとなった宮廷勤めの官僚たちと挨拶を交わしながらそれぞれの目的へと向かっています。

 

 

「たいようしんさま、げんきいっぱい!」

 

「そうねぇ、だいぶ気温も上がってきたし。……大丈夫、暑くない?」

 

「はい、このくらいへっちゃらです!!」

 

 

 狼さんの背中で気持ち良さそうに背伸びをする吸血鬼君主ちゃんといっしょに歩いているのは、いつものピッチリスーツを懐かしのえちえち冒険者姿に変化させている女魔法使いちゃん。杖の代わりに杭打ち(パイル)付きの籠手を装備し、せっしょん1のころに比べてはるかに破壊力を増したお山の北半球を惜しげもなく見せつけながら英雄雛娘ちゃんに声をかけていますね。

 

 吸血鬼君主ちゃんを挟んで反対側を歩く英雄雛娘ちゃんは大小二刀を佩いたフル装備姿。剣の重さに負けて身体が傾いていたのは昔の話、大きな石のいっぱい詰まった冒険者鞄(ランドセル)に加え、腰には投擲用の投げナイフ(クナイダート)が収められた特製のナイフシース。軽装鎧のベルトによって強調されたお山が胸当てごとたゆんと揺れております。

 

 

 さて、三人と一匹が向かっているのは女魔法使いちゃんの出身校である魔術学院。元牙狩りであったお父さんの関係で英雄雛娘ちゃんが半鬼人先生と話したのを切っ掛けに、ちょくちょく女魔法使いちゃんといっしょに訪れることもあり、学院までは既に知った道。顔パスで門を通り抜け、ジャンルの違う三種のお山で勉強漬けの男子生徒たちの性癖を破壊しながら向かった先は半鬼人先生の講義室です。あらかじめアポをとっていたのか部屋の中には一般生徒の姿は無く、半鬼人先生とお目当ての人物たちが待っていました。

 

 

「おっすおじゃましまーす……あたっ」

 

「だから、それ止めろって言ってるでしょ」

 

「し、失礼します!」

 

「ああ、よく来たね。新年に顔を出してくれてから半年振りくらいだろうか。先ずはお茶にしよう、先日良い茶葉を頂いたんだ」

 

 

 三人に椅子を示し、手ずからお茶を淹れてくれる半鬼人先生。狼さんにも小振りのオレンジを用意してくれているのは流石紳士と言わざるを得ませんね。皮ごとペロリと平らげるのを優しい瞳で見守った後、椅子を軋ませないようそっと腰を下ろしました。しばし無言でお茶を楽しむ一行。みんなのカップが空になったところで、女魔法使いちゃんの対面に座っていた彼女と同じ赤毛の少年……傍らに大剣を、その背後に半透明の妻子を漂わせた少年魔術師君が口を開きました。

 

 

「……で、俺とクソ先輩を呼び出した理由は何? 俺達もそんな暇じゃないんだけど」

 

「偉大なる先輩をクソ呼びとは偉くなったもんだなクソ後輩。……まぁソイツの言ってることも間違いじゃあ無ぇんだけどよ。あとエロい同郷は元気してるか?」

 

 

 猜疑心に満ち満ちたジト目で一行を睥睨する彼の隣には、同じように背後に真っ赤なツインテールをくねらせる半透明の妻子を伴った不良闇人さん。付け加えるように闇人女医さんのことを訪ねるところに捻くれた優しさを感じますね。吸血鬼侍ちゃんとの愛の結晶が産まれたことを聞いてマジか……と戦慄している彼を横目に、狼さんをモフっていた女魔法使いちゃんが言い放ったのは……。

 

 

 

「アンタたち、北の城塞都市で公務員ね。陛下と先生からは許可もらってるから」

 

「おきゅうりょうはたっぷり、ふくりこうせいもばっちりだよ!」

 

「「……は???」」

 

 

 ――縁故採用による人材確保の宣告でした!

 

 

 

 

 

「なんで俺たちがそんなコトしなきゃならねぇんだよ!?」

 

「ただでさえ人生の墓場に片足以上突っ込んでるんだ、これ以上束縛されてたまるか!」

 

 

 頬を引き攣らせ叫ぶ不良闇人さん。まぁ今まで勝手気ままにエンジョイしていたところで突然定職に就けと言われればそうもなるでしょう。半鬼人先生もいる手前部屋から逃げ出したりはしませんが、全身から不満のオーラが立ち昇っています。少年魔術師君もお姉ちゃんの外套の襟元を引っ掴んでガクガクと揺らして……あ、縦横無尽に揺れるたわわに目を奪われていた不良闇人さんが炎上しましたね。吸血鬼ぱわーで弟の腕を引き剥がし、逆に関節技を極めながら女魔法使いちゃんが説得を始めました。

 

 

「まぁまぁ、考えても見なさいな。衣食住の保障に満足な給料、鍛錬の相手には事欠かないし、おまけに就業時間はキッチリ決まってる。毎日旦那が定時に帰ってきて、その後は好きなだけイチャイチャ……どうかしら?」

 

「あ、姉ちゃんまたアイツらに……ぐえっ!?」

 

 

 おおっと、むにゅりと押し付けられたたわわの感触に赤くなっていた少年魔術師君の顔があっという間に真っ青に。実体化した女幽鬼(レイス)さんと娘さんが「kwsk」とアピールをする向こうでは燃やし祭りを開催していた精霊さん母娘もお耳ダ〇ボ状態に。吸血鬼君主ちゃんが提示した就業規則・給与規定を見て目をキラキラ輝かせています。母娘四人で顔を見合わせ、出した結論は……。

 

 

 

 

 

『『パパ、就職おめでとう!』』

 

『『これで冒険者(フリーター)卒業ね!!』』

 

「「ガハァッ!?」」

 

「うむ、これで奥方とお嬢さんも心安らかになるでしょう」

 

「ワン!」

 

 

 ふかふかの絨毯に崩れ落ちる教え子を眺めながら満足げに頷く半鬼人先生。みごと有能な人材をゲットできましたね!

 

 

 

 ……とまぁ、各々が持つコネクションを通じて領地運営に必要な人材をスカウトしてまわっているダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)。では現在の勧誘状況を確認してみましょうか!

 

 まず妖精弓手ちゃんたち森人(エルフ)組は、故郷の森で冒険に出たがっている同胞を勧誘。いずれは冒険者として活躍することを希望している彼らに対して外界の常識や儀礼(エチケット)を学ぶ場所を提供する代わりに、ちょっとの間(森人(エルフ)基準)城塞都市に滞在してもらうことに。そうすると自然に鉱人(ドワーフ)たちが張り合ってきて彼らも参加するというまさに一石二鳥な計画ですね。

 

 蜥蜴人(リザードマン)たちには蜥蜴僧侶さんを通じ『北方辺境(このへん)にぃ……北荻とバチバチやり合う(美味い)戦場あるらしいっすよ?』と話を持ち掛け、戦士たちを大量招集。ダブル吸血鬼ちゃんたちとの手合わせも出来ると聞いてたくさんのぼっけもんが尻尾を立てたそうです。

 

 白兎猟兵ちゃん&パパとそのフレンズは、里の近くにおなかいっぱい食べられる職場が出来ることを里のみんなにお知らせ。個人所有という概念がちょっぴり残念な兎人(ササカ)ですが、駐留部隊に支給したものであればある程度は問題ないでしょう、たぶん。兵站さえ潤沢ならば優秀な狙撃手として活躍してくれますからね!

 

 そうそう、前回の冒険で親交を深めた馬人(セントール)たちもこの話に乗ってきてくれました。(キング)ちゃんの勧めもあり、軍や競技で活躍の難しい、あまり闘争本能の強くない子たちが輸送や建築に対する労働力の提供、それから娯楽としての歌や踊りを披露してくれるそうです。なお輸送や物資の話を耳にした鷲頭(ワシズ)様のチャレンジ精神に火が点いたらしく、半森人夫人や現王宮に協力的な貴族と手を組んでガッツリ資本を投入している模様。……これは旧王派が黙っていませんよぉ?

 

 

 そんな感じでスカウト活動を継続すること暫し、一通りの勧誘が終わり牧場の自宅に集まった一行。いつもの面子に加え、今日は受付嬢さんと監督官さんも遊びに来ていますね。各自の成果を報告しているところで、リビングに設置している≪転移≫の鏡が起動したことに妖精弓手ちゃんが気付きました。

 

 

「あ、帰ってきたみたい!」

 

 

 妖精弓手ちゃんの声によって鏡に向かうみんなの視線。波打つ鏡面から現れたのは吸血鬼侍ちゃんです。ぴょんと元気よく飛び出てきた彼女の後ろからは大きな鞄を手に持ち涼やかな雰囲気を纏うひとりの女性の姿が。男物のスーツに身を包み、真紅の右眼を誇らしげに輝かせる査察官さんですね!

 

 

「申し訳ありません、少々準備に手間取ってしまいました」

 

「いいのいいの! それよりも、完成したの?」

 

「ええ、こちらに」

 

 

 頭を下げる査察官さんの手を取り、リビングへと引っ張って行く妖精弓手ちゃん。ふかふかのソファーに彼女が腰を下ろし、その膝上に吸血鬼侍ちゃんが座ったところで査察官さんが傍らの鞄から何かを取り出しました。上質な羊皮紙と思われる紙の束が机に広げられ、我先にと覗き込む一行。色鮮やかに彩色の施されたそれは……。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「うわぁ、良く()()()()じゃない!」

 

「おふたりとも、お澄ましさんですね」

 

「かわいい……♪」

 

「「えへへ……」」

 

 

 陛下にお願いして特別に撮影してもらった、吸血鬼(ヴァンパイア)な面々の魔導写真(ポートレート)です!

 

 

 肉体と魂の結びつきが弱いため、鏡や映像に映らないとされている吸血鬼(ヴァンパイア)。ですが太陽神さんが背後(バック)に付いている吸血鬼稀少種(デイライトウォーカー)なダブル吸血鬼ちゃんたちはそんなことはなく、普通に姿鏡で身だしなみを整えたりしています。

 

 そんなみんなのことを良く知ってもらおうと、半森人局長さんの発案で執り行われた一大撮影会。持ち運びが出来ないほど巨大なアーティファクトを用いての撮影は随分と魔力(コスト)が掛かりましたが、無事に成功してなによりです。なお本来は白金等級に昇格した冒険者の姿を記録するために使われるものだそうで、金等級内定中のダブル吸血鬼ちゃんやその眷属が対象になるのは異例中の異例といえるでしょう。

 

 

「こちらが個別に撮影されたもので御座いますね」

 

 

 若草知恵者ちゃんがその繊細な指先で個人別の魔導写真(ポートレート)を机上に広げていくのを期待に満ちた表情で待つ一行。ママたちのあいだからは子どもたちが顔を出し、パパとママが映る羊皮紙を不思議そうに眺めています。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「パパが描いてある!」

 

「そっくり~!」

 

「うんうん、実物と同じでとっても可愛いね」

 

 

 パパのキメ顔を見て笑いあう子どもたち。普段見ているぽわぽわ顔とのギャップに大喜びです。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「いや、これはエロ過ぎでしょ……」

 

「ちょ、ちょっと恥ずかしいですね」

 

 

 あの頃形態(モード)の剣の乙女ちゃんは背中の大きく開いたドレス姿。これには妖精弓手ちゃんも生唾ゴックンといった様子です……。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「身長は私と変わらないくらいなのに、やっぱりおっきいなぁ……」

 

「貴女もすぐ大きくなるわよ。エロガキ共が弄り回してるんだし」

 

 

 落ち込んだ様子で胸に手を当てる英雄雛娘ちゃんをそっと励ます女魔法使いちゃん。なおその背後では王妹殿下の小さいほうが膝から崩れ落ちていることをお伝えしておきます。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「「か、かっこいい……っ!」」

 

「軍からの強い要望があったため、此方のみ先行して量産。栄纏神の神殿と各部隊に配布されるそうです」

 

「そ、そうなんですの……?」

 

 

 魔剣(アヴェンジャー)を構え、凛々しい表情の令嬢剣士さんの写真は将兵たちから聖印(シンボル)として扱われるらしく、ひっきりなしに問い合わせが来ていたとのこと。色々と露出が激しい格好ですが、そういう目で見てしまった将兵は自らに罰を与えているとの噂も聞こえています。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「や、やっぱり私みたいな地味子なんて撮らなくても……ひゃんっ!?」

 

「あら、可愛いじゃないですか♪」

 

「そうそう、ちゃんと魅力をアピールしておかないとね!」

 

 

 ネガティブオーラに飲まれかけていた妖術師さんに襲い掛かったのは視聴神さんたちの予想を裏切らない圃人(レーア)コンビ。いやぁ、愛されてますねぇ妖術師さん……。

 

 

「陛下や宰相からも好評をいただいておりますので、次回は皆様の撮影も行われると思います」

 

「ほんと!?」

 

 

 査察官さんの言葉に瞳を輝かせる妖精弓手ちゃん。たとえ写真だとしても上の森人(ハイエルフ)の美貌は破壊力高過ぎだと思うんですけど(名推理)。ママの喜びようにちみっこエルフたちもなんだかわからないまま一緒になって喜んでますね、カワイイ!

 

 

 一頻り写真で盛り上がり、落ち着いたところでふたたび査察官さんに集まる視線。みんなの眼差しを受け止め、コホンと咳ばらいをしたさ査察官さんが口を開きました。

 

 

「さて、先程の魔導写真(ポートレート)が今回皆様を訪ねたひとつめの要件です。ふたつめの要件ですが……」

 

 

 そこで言葉を区切り、膝上の吸血鬼侍ちゃんに視線を向ける査察官さん。笑みを浮かべる彼女に釣られるように頬を緩ませ、言葉を紡いでいきます。

 

 足繫く熱心に通いつめ、吸血鬼侍ちゃんが彼女を口説き落としたその成果とは……。

 

 

「――すべての引継ぎを済ませ、本日冒険者ギルドを退職してまいりました。叙勲に伴う家令としての招聘、そして眷属化……謹んでお受けいたします」

 

 

 査察官さんを血族(かぞく)に迎え入れ、眷属としてともに永遠を歩んでもらうことでした!

 

 

 

 

 

「いやぁ、やっぱりパイセンも頭目(リーダー)ちゃんの毒牙にやられちゃったんですねぇ!」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんを胸元に抱えた体勢でニヤニヤと笑う監督官さん。新しい血族(かぞく)の歓迎パーティーと化した家の中は明るい笑い声でいっぱいになっています。隣に座る査察官さんの胸元には吸血鬼侍ちゃんがホールドされ、査察官さんの差し出すクッキーを美味しそうに頬張っています。

 

 

「まぁ文字通り牙を突き立てられたこともありますし、そこは素直に頷いておきます。……そういう貴女こそ、不死という呪いを授かるつもりなのですか?」

 

「んー……実は、まだそこまで考えてないんですよ。おばあちゃんになって、まわりのみんなの姿が変わらないのを見た時にどんな気持ちになるか、ぜんぜん想像出来なくって」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんのつむじに顔を埋めながら滔々と呟く監督官さん。まぁ眷属化は加齢は出来なくとも若返りは出来ますし、アンチエイジングも行っているので暫くは保留で良いんじゃないでしょうか……っと、真剣だった彼女の顔が悪戯を思い付いた猫みたいになってますね。後頭部でお山をポフポフしつつお菓子を貪っていた吸血鬼君主ちゃんをくるりと一回転させ、口元からはみ出ていたクッキーをぱくり。そのまま口を近付けて……。

 

 

「ん……はむっ……あむぅ……」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんのちっちゃな口に侵入した桃色の蛇は縦横無尽に口内を蹂躙。優しく後頭部を撫でられながらの攻撃に足ピンな吸血鬼君主ちゃんを存分に味わい、銀糸を残しながら口を離す監督官さん。奥様戦隊がやんややんやと囃し立てるなか、コツンとおでこを合わせて心情を表明しました。

 

 

「でも、赤ちゃんは早めに欲しいかな! ……順番がつかえているんだから、バシッと決めちゃいなって!!」

 

 

 そう言いながら査察官さんに目配せをし、頷きが帰ってきたところで宙を舞うダブル吸血鬼ちゃん。監督官さんと査察官さんの見事な投擲が向かった先には圃人(レーア)コンビを膝上に抱え、虚ろに笑う王妹殿下1号2号の姿がありました。

 

 

「うぅ……切ないですわお姉様……」

 

「このサイズ感、とても快いのにどうして涙が……」

 

((頭目(リーダー)さん、早くなんとかして……っ!))

 

 

 優しく愛撫されているはずなのに、何故か冷や汗を流しガタガタと震えていた圃人(レーア)コンビ。ダブル吸血鬼ちゃんが飛来するのを見てスルリと王妹殿下1号2号の拘束から脱出! 獲物を逃したふたりの胸元に、想い人がすっぽりと収まりました。

 

 

「お姉様……」

 

「……お姉ちゃん」

 

 

 おおっと、女神官ちゃんの『お姉ちゃん』呼びにざわつく奥様戦隊。頬を赤らめ眦に涙を浮かべるふたりを見て、ダブル吸血鬼ちゃんも決意を固めたみたいです。柔らかな太股を跨ぐように椅子上で膝立ちとなり、義妹とも呼べる存在と視線を合わせます。そっと両目の涙を吸い取り、そのまま言葉が出掛かっていた口を自らのそれで塞ぎました。

 

 溢れそうになっていた彼女たちの想いを奪い取るように舌を絡め、口内に沸き立つ雫を啜り上げる小さな暴君たち。獲物の肢体から力が抜けたところで口を離し、酸素不足と快感で意識が朦朧となっているふたりの耳元で囁くのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「――こんや、ふたりをぼくたちのものにするね」」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 





 念願のパスファインダーキャンペーンに参加できそうなので失踪します。

 またしばらく間が空いてしまいました。エタることはありませんので、気長にお待ちいただければ幸いです。 

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。モチベーション維持とやる気アップに繋がりますので、感想や評価をお願いいたします。重ねて誤字報告もありがとうございます。

 お読みいただきありがとうございました。




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セッションその18.5-3


 1月中に更新出来なかったので初投稿です。

 ※前話に続き、コンピューター様(Bing Image Creator)による挿絵が入っております。


 

 前回、ダブル吸血鬼ちゃんが捕食宣言をしたところから再開です。

 

 「ぼくたちのものにするね」発言を受け、俄かに慌しくなったダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)宅。はじめてを完璧なものにするべく準備が始まりました。

 

 

「おゆはんは精のつくものにしないとね……オルクボルグ!」

 

「ああ。先日釣って泥を吐かせた鰻がいる、待っていろ」

 

猟犬(フアン)ちゃん!!」

 

「このあいだ山で掘った自然薯とか、どうでしょうか?」

 

「お祖母(ばー)ちゃん!!!」

 

「うふふ、任せてくださいね♪」

 

 

 一党(パーティ)の正妻である妖精弓手ちゃんの声に次々と動き出す面々、王妹殿下1号2号が呆然としている間に段取りが決まり、子どもたちがママといっしょに食材集めに駆け出していますね。台所の机の上には新鮮な野菜や果物、牧場産のベーコンや乳製品に加え、先日廃用となった乳牛の塊肉まで並んでいます。滅多に見ない牛肉を前にダブル吸血鬼ちゃんが涎ダラダラ状態ですねぇ。

 

 

「おばあ様、献立は如何いたしますか?」

 

「そうですね……牛肉は塊から切り出してから摩り下ろした玉葱に漬け込んで、柔らかくしてから焼きましょう。豹芋(ジャガイモ)の冷たいスープには炙りベーコンをトッピングして、自然薯は人参といっしょに細く刻んだサラダに。それから摩り下ろしたものを魚のお出汁と合わせましょうか」

 

「そのメニューですと麺麭(パン)と麦粥どちらにも合いそうですね、両方準備いたしましょう」

 

 

 腕まくりをしながら食材の山に向かう若草祖母孫コンビ。令嬢剣士さんや闇人女医さんも手伝いに入り、手際よく調理を進めていきます……え、妖精弓手ちゃんですか? ダブル吸血鬼ちゃんや叢雲狩人さんといっしょに、子どもたちを引き連れて作業の邪魔にならないようお外で仲良く遊んでます。

 

 

「えっと、こうやって装置に触れながら魔力を流すと……」

 

 

 おや、本日の舞台となる寝室(大)で妖術師さんがなにやらガサゴソしていますね。王妹殿下1号2号が食い入るように見つめるなか、特大寝台(ベッド)の傍にある端末に触れ、慎重に魔力を流し込んでいるみたいですが……お、なにやら部屋全体が震動しています! 壁の一部に光の線が走り、スライドするように開いた向こうにはもうひとつの寝室(大)が。ダブル吸血鬼ちゃんの≪死王(ダンジョンマスター)≫によって建てられたお屋敷に隠された機能のひとつ、大部屋に模様替えですね!

 

 

「それで、こうやって寝台(ベッド)をくっつければ……」

 

 

 妖術師さんが影の触手で寝台(ベッド)を引き寄せ、持っていた特大のシーツをかければキング×キングサイズな巨大寝台(ベッド)が完成! ママのあいだにパパと子どもたちをサンドイッチすれば全員寝られる規格外の大きさは夜の多人数協力プレイにも対応しており、満月近くでダブル吸血鬼ちゃんが辛抱堪らなくなっちゃった時にはちょっとお見せ出来ないレベルのレイドバトルが繰り広げられているそうです。

 

 

「わぁ……すごくおおきい……!」

 

「なるほど、これでお姉様たちと……!」

 

 

 夜のマルチぴょいを想像し、ぎゅっと拳を握りしめる王妹殿下1号2号。なお寝台(ベッド)傍にあった端末の下にある箱型の容器には水で薄めた葡萄酒や檸檬水、柔め薄め少なめの蜂蜜水(はちみー)が冷やされており、夜戦途中の水分補給の用意も万全とのこと。用意が良いですねぇ……。

 

 


 

 

「「ごちそうさまでした~!」」

 

「はい、お粗末様でした」

 

「片付けはこっちでやっておくから、ふたりは子どもたちと先にお風呂を済ませちゃいなさい」

 

「は~い」

 

「じゃあみんな、タオルをもってとつげきー!」

 

「「「「とつげきー!!」」」」

 

 

 鰻の白焼き柑橘ソース仕立てとシャリアピンステーキを主菜(メイン)に、ヴィシソワーズとサラダ、とろろ汁を添えた精力増進おゆはんを綺麗さっぱり平らげ、子どもたちを引き連れてお風呂へと向かうダブル吸血鬼ちゃん。若草のふたりが丹精込めて作り上げた絶品の数々は舌の肥えている神官銃士ちゃんも大満足、麦粥が進み過ぎた圃人(レーア)のふたりはボテ腹状態で妖精弓手ちゃんが膝枕。ウンウン唸るふたりのぽっこりお腹を受付嬢さんと監督官さんが興味深そうに撫でまわしていますね。

 

 

「「さっぱり~!」」

 

「「「「おきがえー!!」」」」

 

 

 おっと、タオルを身体に巻き付けた集団がほかほか湯上りスタイルで帰ってきました。暑い時期は『あわあわ』で身体を洗ったあとに『すーすー』も使うため、みんなの身体からは清涼感のある香りが漂っています。着替えを持って待ち構えていた眷属ママのお山に飛び込み、吸血鬼(ヴァンパイア)のひんやりボディを満喫していますね。

 

 

「次は貴女たちの番よー?」

 

使徒(ファミリア)をお借りいたしますね、頭目(リーダー)

 

 

 お風呂セットを頭上に乗せ、王妹殿下1号2号の手を引いて風呂場へと消えていく妖精弓手ちゃん。その後ろを吸血鬼侍ちゃんの使徒(ファミリア)である粘体(ウーズ)くんを連れて令嬢剣士さんが続いていきます。

 

 

「さてと……んっ」

 

「さ、いまのうちに……」

 

 

 四人が浴室に入ったのを確認すると、おもむろに胸元の布地をずらす女魔法使いちゃんと剣の乙女ちゃん。零れ落ちるように現れたたわわに突撃しそうな星風長女ちゃんを若草祖母さんがやんわりと捕獲し、リビングに持ち込んだ簡易寝具の中へと引きずり込みました。

 

 

「「あーう?」」

 

「ふわぁ……」

 

「おやすみなさーい……」

 

 

 布団の中にはすでにおねむな赤ちゃんふたりの姿が。彼女たちに導かれるように子どもたちは次々に眠りの神さんの領域へと誘われ、可愛らしい寝息を立て始めました。

 

 子どもたちが寝入ったのを確認し、改めてダブル吸血鬼ちゃんへと流し目を向けるふたり。顔を見合わせたダブル吸血鬼ちゃんは何か悪戯を思い付いたような顔をしてますねぇ。両手を広げ待ち構えているたわわの持ち主目掛けぴょーんと飛び出し……。

 

 

 

 

 

「「えへへ……ちゅー」」

 

「ちょ、こら、なんでふたりともこっち来るのよ!?」

 

 

 ふたり合わせて女魔法使いちゃんへとダイビング! 予想外の展開に驚く女魔法使いちゃんのたわわにそっと唇を寄せ、生命の雫をわけてもらうダブル吸血鬼ちゃん。ズルズルとソファーの背もたれからずり落ち、脱力してしまった女魔法使いちゃんを存分に味わい、真っ赤な顔でプルプル震える彼女のほっぺにお礼のちゅーをした後、次なる獲物へと飛び込みます。

 

 

「ん!……りょうほういっぺんなんて欲張りです……」

 

「きょうはぼくがひとりじめ……はむっ」

 

 

 梯子を外されほっぺを膨らませていた剣の乙女ちゃんの膝上に陣取り、圧倒的な存在感を放つたわわをちっちゃな手で寄せ、左右の吸い口をまとめて頬張る吸血鬼君主ちゃん。その甘い快感に艶やかな吐息を漏らしながら、剣の乙女ちゃんが小さな暴君の後頭部を優しく撫でています。

 

 

「んふふ……じゃあぼくは、こっち!」

 

「ひゃん!?」

 

「ひぁぁ……!?」

 

 

 吸血鬼侍ちゃんは満腹で動けない圃人(レーア)コンビをグイッと抱き寄せ、趣の異なるたわわを交互にちゅーちゅー。敏感な吸い口を啄まれるたび可愛らしい声が上がっています。

 

 

「「…………っ」」

 

 

 次は自分の番かと身構える色取り取りの花々。蜜を求めて飛ぶ蝶が如くダブル吸血鬼ちゃんが渡り歩き、それに呼応するように響く甘い嬌声……と、どうやらお風呂のほうでも動きがあったみたいですね。映像は難しいみたいですが、音声は拾えるかな?

 

 

 

『うう……隅々まで洗われちゃいました……』

 

『フッフッフ、まだ終わりじゃないわよー?』

 

『へ?……ひゃあん!?』

 

『大丈夫ですわ。力を抜いて、粘体(ウーズ)に身を任せて……』

 

『ひぁぁ……そこは入れるところじゃ……!?』

 

『あら、私たちはぜーんぶあげちゃったわよ? ここも、こっちも……みーんなね!』

 

『ですから、しっかりと清めておきましょう。それとも≪浄化(ピュアリファイ)≫のほうが……』

 

『『そんなことに奇跡を使っちゃダメですっ! あっあっあっあっ……』』

 

 

 

 ……うん、準備は万端みたいですね! ……あ、地母神さんと太陽神さんが残念そうな顔してる。そんなに≪浄化(ピュアリファイ)≫を唱えて欲しかったんですか(ドン引き)。

 

 

 

「おまたせー! ピッカピカに磨き上げてきたわよー!!」

 

『『うう……もうお嫁にいけない……っ』』

 

「おつかれさま!」

 

「ありがとうね!」」

 

 

 お、お肌ツヤツヤでやり遂げた女の顔をした妖精弓手ちゃんが帰ってきました! 後ろに続く王妹殿下1号2号はのぼせたように真っ赤な顔、最後尾の令嬢剣士さんに抱えられた粘体(ウーズ)くんもどことなく誇らしげなオーラを放っています。床に戻された粘体(ウーズ)くんをトランポリンのようにしてダブル吸血鬼ちゃんがジャンプ、妖精弓手ちゃんと令嬢剣士さんの胸元に飛び込みました。ほかほかボディに一頻りスキンシップを楽しんだ後にしゅたっとヒーロー着地、いよいよその時が迫ってまいりました。

 

 

「バッチリ決めてきなさい。……幸せな記憶にしてあげられなかったら酷いわよ?」

 

「ずっと待っていたんですから、優しくしてあげてくださいね?」

 

「だいじょうぶ、そのために私たちがいるんだから!」

 

「必ずや、成功させてみせます!!」

 

 

 卑猥なハンドサインとともに投げかけられた女魔法使いちゃんと剣の乙女ちゃんの激励に引き攣った笑みを返し、女神官ちゃんと神官銃士ちゃんの手を取るダブル吸血鬼ちゃん。二階の特設会場へと向かうその後には、後方正妻面をした妖精弓手ちゃんと令嬢剣士さんが続いています。どうやら王国首脳に半ば無理矢理任命された正室の座を利用して、ふたりがちゃんと幸せに満たされるか見届けるつもりみたいですねぇ……。

 

 

「えっと、みなさんいつもこんな感じで?」

 

「左様で御座います。主さまを愛する方を新たな血族(かぞく)として迎え入れる時はいつも盛り上がりますので♪」

 

「うんうん、そこで横になってるふたりやお祖母(ばあ)様たちの時も似た感じだったものだよ」

 

「たまげたなぁ……」

 

 

 辺境の街はおろか王都にまで広まっている一党(パーティ)の爛れた生活を目の当たりにして頬を引き攣らせるギルドのふたり。……牧場長男くんにお熱な受付嬢さんはともかく、監督官さんはじきに我が身なんだよなぁ。

 

 

「さて、ふたりはこの後どうする? 客間は用意してあるけど」

 

「んー……ここでおちびちゃんたちと雑魚寝がいいかな!」

 

「そうですね、私もそちらが良いです!」

 

 

 スヤスヤと眠る子どもたちを見ながら答えるふたり。若干受付嬢さんの目つきがアレなのは見なかったことにしておきましょう……おっと、それじゃ私たちもお風呂ねーと用意を始めた女魔法使いちゃんに迫る人影が。ワキワキと指を動かしながら背後を取り、肩越しに囁きながら一党(パーティ)トップのお山に手を掛けました!

 

 

「ヌフフ……せっかくだから、このご立派なスポンジで洗って欲しいかなーって!」

 

 

 おお、なんたるセクハラ=ジツ! しかし相手は歴戦の吸血鬼(ヴァンパイア)、揉みしだかれた瞬間こそ硬直したもののすぐさま反撃! お山を変形させることに夢中な監督官さんの手に自分のそれを重ね、逃げ場を封じる女魔法使いちゃん。

 

 

「あ、あれ?……うひぃ!?」

 

 

 場の雰囲気が変わったことに監督官さんが気付くも時既に時間切れ。女魔法使いちゃんを抱きしめた姿勢のまま、さらに背後からの抱擁が彼女を襲います。ふわりと漂う蠱惑的な香りと、溺れてしまいたくなるような冷たく柔らかな肢体。己と同じ至高神さんの信徒であり、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)における最大戦力(様々な意味で)な剣の乙女ちゃんが、エロエロ大司教モードで監督官さんをサンドイッチ! 前後から感じる幸せにおめめグルグルな彼女に吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)が囁きます……。

 

 

 

 

 

「あの子たちの影響で、同性でも抵抗なくなっちゃったの、私たち」

 

「ふふ……血族(かぞく)になるんですもの、もっとお互いを知りませんと……ね?」

 

「アイエエエ……!?」

 

「うわ、うわぁ……」

 

 

 左右をたわわに挟まれ浴室へと連行される監督官さん。それを見送る受付嬢さんの顔には畏怖と若干の羨ましさが滲んでいますね。安心してください、ちゃんと受付嬢さん特攻の子が待っていますから。

 

 立ち尽くす彼女の背後から音も無く忍び寄るのは茶色い夏毛を短く整えた白兎猟兵ちゃんと日向兎娘ちゃんの兎人(ササカ)姉妹、左右から同時に受付嬢さんへ抱き着き、自慢のおみみで彼女の頬をナデナデ。トドメとなる一撃は……。

 

 

 

 

 

「――ふわふわ、お好きでしょぉ?」

 

「いっぱい、サービスしますよ?」

 

 

 

 

 

「うむ、流石は繁殖欲の強い種族。アレに耐えられるものなどそうはいないだろう」

 

義妹(いもうと)ちゃんもだけど、みんな押しが強いからねぇ」

 

 

 ふわふわの罠に捕らわれた獲物を見送りながら言葉を交わす叢雲狩人さんと闇人女医さん。普段なら自分から突っ込んでいきそうなふたりですが、今夜は子どもたちといっしょにフートンの中。やがて浴室からはあられもないギルド職員の声が響いてきました……これ、賄賂とかそういう類に該当したりはしないんですかね?

 

 

「「す、すごかった(です)……」」

 

 

 あ、戻ってきましたね。王妹殿下1号2号に負けず劣らず磨き上げられたふたりの顔は真っ赤っ赤、犯人たちはツヤツヤお肌でやり遂げた顔になっています。そそくさとフートンに潜り込み、消化が進んでおなかが引っ込んできた圃人(レーア)を抱き枕にして寝る体勢に入っちゃいました。

 

 他の子たちもそれぞれ好きな場所に潜り込み、起きているのは女魔法使いちゃんと剣の乙女ちゃんだけ。みんなの寝顔を眺めつつ、地母神さんの神殿から貰った葡萄酒で乾杯しています。

 

 

「……ま、これであの子たちの立場も固まってきたでしょ」

 

「ええ、只人(ヒューム)以外の種族との繋がりも生まれ、信仰と経済の面からも王国に対する貢献度は高まったといえるでしょう」

 

「となれば、あとは感情面の問題よねぇ……」

 

 

 血のように赤い液体の入ったグラスを手で弄びながら呟く女魔法使いちゃん。例の集団の話は辺境の街にも届いており、旧王派貴族の領地や王都の一部では他種族に対する只人(ヒューム)の優位性を声高に主張する者さえ出始めているとか。ほぅ、と悩まし気に息を吐きつつ剣の乙女ちゃんも頷いています。

 

 

「外なる脅威が弱まった途端にこの有り様……変わりませんね、人というモノは」

 

「だからって、このまま黙って排斥されるつもりはないわよ。ゴブリンをこの世から滅ぼすまでは図々しく居座ってやるわ」

 

「……ふふ、せっかくですし、あの緑の月をゴブリンから奪い取ってみんなで引っ越してしまいましょうか」

 

「あぁ、いいわねそれ。あれだけ大きければ子どもが何人いても大丈夫でしょ。そのためには……」

 

 

 空になった杯に葡萄酒を注ぎ、ふたたびグラスを合わせるふたり。酒気を帯び熱の籠った口から紡がれる言葉はもちろん……。

 

 

 

「「ともあれ、ゴブリンは滅ぶべきと考える次第である」」

 

 


 

 

「ふふ……お姉様♪」

 

「おねえちゃん……♪」

 

「「おあー……」」

 

 

 異母姉妹同士が結ばれた翌日。幸せいっぱいの王妹殿下1号2号にお願いされ、≪転移≫の鏡を起動するダブル吸血鬼ちゃん。金髪の陛下への報告と、先日査察官さんが話していた他のみんなの魔導写真(ポートレート)撮影のために王宮へと向かうみたいです。おめかしした子どもたちもママといっしょに鏡の中へ。おや、ギルド職員のふたりもですね!

 

 ……え? いつものドキドキ夜会話の試聴版(サンプル)はどうしたのか、ですか? えっとですね、今回は地母神さんが滅茶苦茶張り切ってまして。≪幻想≫さんに直談判して、なんと特別編(saga的なやつ)を製作するんだとか。現在太陽神さんと共同で編集&ナレーション挿入を開始しているとのことですので、そちらを楽しみにお待ちください!

 

 

 圃人(レーア)を抱えた王妹ふたりを先頭に王宮内を闊歩する子連れの集団。忙しそうに廊下を行き来する官吏たちもその異様な光景に――。

 

 

「おや、殿下。おはようございます。【辺境最悪】の皆様もご一緒ですか」

 

「はい、おはようございます! ちょっとお兄様に用事がありまして!!」

 

 

 ……もう慣れてしまい、普通にアイサツを交わしてますね。侍従長に取次ぎを頼み、控えの間で待つこと暫し。一行が通された執務室には陛下のほかに赤毛の枢機卿と義眼の宰相、そして銀髪侍女さんの姿がありました。王妹ふたりの様子を見て察しのついた銀髪侍女さんが卑猥なハンドサインとともに祝福の言葉を紡ぎます。

 

 

「フフ、昨晩はお楽しみだったようだね。おめでとう」

 

「ええ、もう心も身体も幸せでいっぱいですわ!」

 

「ウム、そうか。そうか……」

 

 

 晴れやかに笑う妹の姿に感慨深げな陛下。瞑目の後「で、どんなプレイだったか詳しく……」と言い始めたところで赤毛の枢機卿が絞め落とし、重厚な椅子にスヤァ・・・と身体を預けています。

 

 

「まったく……あぁすみません、貴女がギルドの新規支部立ち上げに協力してくださる方ですね。今回は引き受けていただきありがとうございます」

 

「あ、はい。微力ながらお手伝いさせていただきたいと思います、ハイ」

 

 

 流石の監督官さんも目の前で繰り広げられたトンチキ空間にすぐには順応できなかったみたいですね。ニッコリと笑う枢機卿に対しいつもの調子を発揮出来ず、借りてきた猫のように大人しくなっています。

 

 

「……訓練場の卒業者と将来有望な中堅を核に引き抜くとはいえ、甘い汁を吸うことしか考えない連中(福本モブ)が集まることも考えられる。何かあれば軍も協力を惜しまない故、力を尽くしてほしい」 

 

「――はい!」

 

 

 おお、流石は宰相。浮ついた空気を打ち消す雰囲気に監督官さんもビシッと決めましたね! 支部の新規立ち上げに際しての打ち合わせや受付嬢さんの昇格の辞令発行等があるということで、ふたりとはここで一旦お別れ。ダブル吸血鬼ちゃんたちは撮影部屋へと案内されています。

 

 

 

 

 

「――では皆様。お化粧は衝立の向こう側で、軽食や飲み物も用意しておりますので、ご自由にお楽しみください」

 

「みんなのいしょうやそうびはここにおくね!」

 

「いちばんみりょくてきにうつるよう、がんばろうね!」

 

 

 さて、撮影部屋に到着した一行。室内の半分近くを占有する魔道具(アーティファクト)を見て子どもたちは歓声を上げ、ママたちがいそいそと着替えを始めています。持ってきた衣装を広げあーだこうだと話す姿は何処にでもいる女の子。強いて違うところをあげるとすれば吸血鬼(ヴァンパイア)のお嫁さんってとこかナー。

 

 

 衣装を変え、ポーズを変え、入れ代わり立ち代わりの撮影タイムが終わり、みんなで選んだベストショットを現像してもらった一行。さて、その出来栄えは如何でしょうか! まずは森人(エルフ)の面々からです!!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「……エロいわね」

 

「エロいですねぇ」

 

「ちょっとえっちすぎじゃない???」

 

 

 ちょっとトップバッターから破壊力高過ぎじゃありませんか??? 先陣を切ったのは若草知恵者ちゃん。。薄手の伝統衣装に身を包み微笑む姿は女神かあるいは淫魔(サキュバス)か、匂い立つ色気がたまりませんねぇ!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「こうやって見ると、やはり姉妹にしか見えませんわね……」

 

「うふふ、お恥ずかしい限りで♪」

 

 

 孫娘よりは重ね着していますが、それでも隠し切れないスレンダーな肢体が蠱惑的な若草祖母さん。森人(エルフ)の神秘ですねぇ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「つよそう!」

 

「かっこいい!」

 

「どうだいご主人様、惚れ直したかな?」

 

 

 おや、叢雲狩人さんは相棒の鎧を纏った姿ですね。引き締まったボディーラインを演出しつつも機能美を見せつける素敵な一枚に仕上がっています。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「うーん……やっぱりすごい美人さんですよね!」

 

「うんうん、『美少女』じゃなくて、これぞ『美女』って感じ!」

 

 

 圃人(レーア)コンビが羨ましそうに呟くのも無理はありません。豪奢な金髪とエキゾチックな魅力を感じさせる褐色の肌、そして紫水晶(アメジスト)の如き瞳。闇人(ダークエルフ)の魅力にやられ陰謀の片棒を担ぐ羽目になる者が後を絶たないのも頷けます。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「かわいいですわ!」

 

「みんなママにそっくりですね」

 

「あ、でもパパに似てるところもありますよ!」

 

 

 あら可愛い! こちらは自分たちも撮って欲しいとおねだりしていた子どもたちですね。若草祖母さん謹製の衣装が可愛いですね!

 

 さて、問題は次の一枚ですが……。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

「いや、ちょっと? なんでみんな黙っちゃうの???」

 

 

 普段見慣れたへそ出しルックではなく、おなかを冷やさないようにと半森人夫人さんが贈ってくれた衣装。王都の有名デザイナーが考案した流行の半歩先を行く代物らしいのですが……。

 

 

「ズルいです! こんなに着崩してるのにバッチリ決まってて、それでいてちょっと危ない魅力まで発揮してて……」

 

「少年のようにも見える経産婦とか、犯罪的過ぎるでしょ……ッ!」

 

 

 うーんこれはギルティ。流行の半歩先ってことは世間一般では異端扱いされる代物の筈。それをここまで見事に着こなすとは……上の森人(ハイエルフ)の姫、伊達ではありませんね!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「うわ、これはヤバいわね……」

 

「ええ、思わず食べてしまいたくなりますわ……」

 

「「ヒエッ」」

 

 

 続いては女魔法使いちゃんと令嬢剣士さんから捕食者の眼光を向けられ震えあがる圃人(レーア)コンビ。ダブル吸血鬼ちゃんのとは異なる生命力に溢れた魅力が写真からも感じられますね!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「なんで鎧を纏うと冬毛になるのかしらねぇ」

 

「なんでですかねぇ?」

 

 

 首をくりっと傾げる茶色い髪の白兎猟兵ちゃん。破壊神さん曰く「そのほうがかっこいいからだ」だそうです。古のMS〇女というか、メ〇ミデ〇イスというか……男の子の好きそうなデザインですよね、やっぱり。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「「はぇーすっごいおっきい……」」

 

「デカ過ぎんでしょ……」

 

「あはは……」

 

 

 うーんでかい! これまた男の子が好きそうな格好ですね。大小二本の剣だけでなく、ご立派に成長したお山や太股なんかも実に素晴らしい! なおまだまだ成長途中とのコメントが鍛冶神さんより寄せられております。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「おねえちゃんたち、とってもきれい!」

 

「おはなしにでてくるおひめさまみたい!」

 

「「ええっと……」」

 

 

 お姫様(ガチ)なんだよなぁ。互いに手を取り合い、鏡合わせのように向き合う双子の姉妹。ちょっと片方が盛られている気がしますが、たぶん目の錯覚です。

 

 

「みんな、とってもきれいだね!」

 

「みんなちがって、みんないいの!!」

 

 

 血族(かぞく)の写真を両手で抱え、ご満悦なダブル吸血鬼ちゃん。陛下にも見てもらおうと執務室に向かおうとしたところで何やら廊下が騒がしいことに気が付きました。扉越しに漏れてきたのは居丈高な男性の声、そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故陛下は理解されないのだ!? 今こそ混沌の勢力と和平を結ぶ絶好の機会だというのに!!」

 

 

 

 

 

 ……隠し切れない、喉にへばり付くような灰の臭いです。

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 もうそろそろ最終せっしょんなので失踪します。

 終わりの見えてきたダブル吸血鬼ちゃんたちのキャンペーン。最後までお付き合いいただければ幸いです。 

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セッションその19-1


 なんとか2月中に更新できたので初投稿です。

 ※今回もコンピューター様(Bing Image Creator)による挿絵が入っております。




 

 ――さてサブマスターの皆様、シナリオに目を通した感想は如何でしょうか?

 

 ……ふむふむ、なかなか好感触みたいでなにより。必死に頭を下げて万知神さんと覚知神さんに協力してもらったんですから、あの死灰神(たわけ)も少しは改心したみたいですねぇ!

 

 そろそろダブル吸血鬼ちゃんのキャンペーンも〆に入るところさん。彼女たちの物語を『めでたしめでたし』で終わらせるためにも、ここいらで盤面を綺麗にしませんと。

 

 ……というわけで、【彼】には頑張ってもらいましょう!

 

 『愛と正義』の代弁者たる聖騎士(パラディン)様なら、きっと四方世界に新たなる秩序を齎すこと間違いなしです!

 

 

 

 ……そうそう、これは以前知識神さんから聞いた話なんですけどね。

 

 

 

 

 

 ――消極的な善人はみんなから感謝されますけど、積極的な善人は自分以外のだれも満足させないらしいですよ?

 

 


 

 

 やっぱり最後はが勝つ!な実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 

「「はっ! はっ! はっ! はっ!」」

 

 

 夏の日差しが強く照り付ける西方辺境、朝早くから牧場にダブル吸血鬼ちゃんの可愛らしい掛け声が響き渡っています。

 

 

 間隔を空けた左右横並びに立ち、伸ばした腕を大きく半回転させながら互いに近付いていく小さな姿。外側に振った両手を相手に向け、タイミングを合わせて指先をくっつける動作を繰り返しているみたいですね。ビシッとポーズを決めたところで周りから湧き上がる拍手、ふたりを指導していた踊り子ママが満足そうに頷いています。

 

 

「うん、息もピッタリだし問題無いでしょう! ごうかーく!!」

 

 

「「わーいやったー!」」

 

「「「「「やったー!」」」」」

 

 

 ぴょんぴょん跳ねるふたりを真似して跳び回るこどもたち。朝からキツい日差しもなんのその、今日も元気いっぱいですね!……と、むふーとドヤ顔なダブル吸血鬼ちゃんを両脇に抱え上げたのは女魔法使いちゃん。ひんやりたわわに顔を埋め甘い香りを堪能しているふたりをまんざらでもない顔で見下ろしています。

 

 

「良い感じに仕上がったみたいね」

 

「うん、ばっちり!」

 

()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「まぁ、最初は()()しまっくってたものねぇ……」

 

 

 遠い目をしながらふたりの頭を撫でる女魔法使いちゃん。子どもたちの前で練習できるようになったのはつい最近、それまではしょっちゅう爆発四散してましたからねぇ。

 

 さて、何故ふたりが謎の特訓をしていたのか。その説明をする前に今の王国の状況を理解する必要がある(サム8)。というわけで、ちょっと過去へと映像を巻き戻してみましょうか!

 

 


 

 

「何故陛下は理解されないのだ!? 今こそ混沌の勢力と和平を結ぶ絶好の機会だというのに!!」

 

 

 ――扉越しに聞こえてきた決して看過できない言葉。

 

 スッと無表情になる者。ギリっと歯を食いしばる者、咲き誇る毒花の如き笑みを浮かべる者……反応は様々ですが、声の主に対する好感度は底辺固定間違いなしでしょう。

 

 

「「――――――ッ!!」」

 

 

 ガチガチと牙を鳴らし、扉をブチ抜き推定スゴイ=キライなヤツにアンブッシュを仕掛けようとしたダブル吸血鬼ちゃんですが、背後から伸びてきた腕がその首根っこを掴み、ジタバタと暴れるふたりを捕獲しました。

 

 

「はいはい、ちょっと落ち着きなさいって」

 

 

 赫怒の炎で真紅に輝く瞳のふたりをみんなのほうへと放り投げたのは女魔法使いちゃん。ぽーんと投げられたふたりの落下地点にはエロエロ大司教モードの剣の乙女ちゃんと鎧を解除しピッチリパイスー姿の叢雲狩人さんが待ち構えています。

 

 

「ふふ……怒ってくれるのは嬉しいけど、今はまだその時じゃないかな」

 

「もう、相手の素性も判らないまま喧嘩を吹っ掛けてはいけませんよ?」

 

 

 怒りに震える想い人に頬を寄せ、ゆっくりと後頭部を撫でるふたり。やがて攻撃色のおさまったダブル吸血鬼ちゃんが気まずそうに手を伸ばし、おずおずと二人を抱きしめ返しました。

 

 

「ん……もうだいじょうぶ。あばれたりしないよ」

 

「えう……ごめんなさい」

 

 

 落ち着いたところで床に降ろされ、みんなに頭を下げるダブル吸血鬼ちゃん。後先考えずに飛び出そうとしたことを窘める声が上がりますが、その顔には隠し切れない笑みの色。自分のために怒ってくれたことを嬉しく思わない女の子なんていませんよね……と、どうやらもうひとりブチ切れている子がいますねぇ……。

 

 至高の美に浮かんだ青筋を闇人女医さんの胸の谷間から抜き取った偏光眼鏡(サングラス)で隠し、限界まで後ろに絞った長耳を震わせているのはもちろん……。

 

 

「それじゃ、相手が誰か突き止めてみましょ? 幸いこの国のことに一番詳しい相手が親戚にいることだしねぇ?」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの正室にして上の森人(ハイエルフ)の姫君である、妖精弓手ちゃんです!

 

 

 

 

 

「――で、誰よあのクッソ失礼なヤツ? まさか王宮勤めの騎士なんかじゃないでしょうねぇ、お・()()・さ・ま・?」

 

「うむ、お義兄様呼びは嬉しいがどうか落ち着いて欲しい、上の森人(ハイエルフ)の姫よ」

 

 重厚な机にスラリと長い脚を掛け、胸倉を掴んできた眼前に迫る美貌に冷や汗を流しながら宥める金髪の陛下。執務室に雪崩れ込んできたダブル吸血鬼ちゃん一行の様子から何があったのかを察した赤毛の枢機卿と義眼の宰相も、妖精弓手ちゃんの暴挙を止めようとはしていませんね。

 

 

「ハァ……あんまり君たちを巻き込みたくはなかったんだけど、()()の存在を知ってしまった以上は協力してもらったほうが良さそうだね」

 

 

 ギリギリと陛下の首元を締め上げる繊手に手を添えそっと解きほぐしたのは、酷く疲れた表情の銀髪侍女さん。応接間に移動し、お茶を淹れた後に彼女が語ってくれたのは、声の主によって齎された冒険(災厄)の数々でした……。

 

 

「アレは、所謂『遍歴の自由騎士』ってヤツでね。もとは隣国で活動していたんだけど『王国の危機』を知りわざわざ駆けつけてきたらしい。道中で立ち寄った集落でも住民たちから歓迎され、数々の問題を解決してきたそうだ」

 

 

 呆れた声とともに長机に放りだされたのは上質な紙に綴られた報告書の束。広げたそれを覗き込んだ一行の顔がどんどん渋くなっていくのが容易に見てとれます。互いに視線を交わした一行のなかで最初に声を上げたのは頬を引き攣らせた令嬢剣士さんです。

 

 

「ええと、まずこの『国庫に納める税を誤魔化していた領主を告発し、適正な税を指摘した』ですけれど……」

 

「陛下黙認で積み立てていた備蓄を暴き立て、声高に税逃れを流布したことだね。おかげで領主の領民たちに対する非常時の持ち出しが不可能になったよ」

 

「では、こちらの『森を支配していた魔物を討伐し、危険と隣り合わせの集落を解放した』というのは……?」

 

 

 おお……もう……という感じに肩を落とす令嬢剣士さんを横目にシュッと挙手したのは若草知恵者ちゃんですね。隣に座る若草祖母さんは既に「あっ(察し)」って顔になっているところから視聴神さんたちも想像がついているかと思います。

 

 

「里山のボスだった魔獣を殺し、森の力関係をボロボロにしたことを彼の言葉ではそういうみたいだね。ちなみに鹿が大量に流れ込んできて近隣の農作物に被害が出たことも付け加えておくよ」

 

 

 ですよねー。机に突っ伏した孫娘の背中をおばあちゃんが優しく擦ってあげています。まだまだ続く功績(暴挙)の数々。討伐依頼の出ている怪物(モンスター)を冒険者が相手取っている時に横殴りして仕留め冒険者の行動の遅さを批判したり、ギルドに依頼を出そうとする集落に介入し、大型の怪物(モンスター)を退治したは良いが、残った死体の処理もせずに悠々と歩き去ってしまったりと酷い有様です。

 

 冒険者の行動が遅いのは依頼内容に対して適正な報酬かギルドが判断し、それを冒険者が請け負うためです。また、依頼で討伐した怪物(モンスター)の死体についてもゴブリンのように証明が口頭のみで大丈夫な例外もありますが、基本は特定部位を確保した後埋めるか焼くかすることが依頼に含まれています。それをそのまま放置するとは……と、一枚の紙と睨めっこしていた妖精弓手ちゃんの眉が危険な角度になってますね。深く息を吐き、なんとか気持ちを落ち着けた後に、ピシャリと目を通していた報告書を長机に叩きつけました。

 

 

「この『不当に搾取されていた馬人(セントール)を解放し、違法な労働を強いていた雇用主を連行した』ってのは……」

 

「北方海路の復活と冷蔵技術の進歩で可能になった【鮮魚特急便】の輸送を阻み、雇用主を拘束して王都まで拉致。高給で雇われていた馬人(セントール)は報酬の支払いも無しに放置され、残った荷車は腐敗した魚を満載にしたまま街道に置き去りといった感じだよ」

 

 

 うーんこの。せっかく頭領(ゴジ)奥方(フースフレイヤ)が原子炉の余剰出力を使って冷蔵技術を実現させ、王都まで鮮魚の輸送が可能になったというのに……ちなみにこの数日後、「ウチの子が『お給料貰えませんでしたー!』って泣きながら帰ってきたんだけど!?」と≪光背王(キング)≫ちゃんが王宮に怒鳴り込んできたそうです。

 

 

 

「それで、不幸な雇用主を王都まで連れてきたその足で陛下に面会を求めてきたってわけ」

 

「衛兵からの報告で厄介極まりない類の相手と判ったのでな。放置するよりはと思い早急に顔を拝んでみたのだが……」

 

 

 うんざりとした顔で「ナイナイ」と手を横に振る金髪の陛下。どうやら『早目の爆弾処理』を『自らを待ち望んでいた』と勘違いし意気揚々と乗り込んできた様子。隣国だけに飽き足らず王国にまで足を伸ばすそのバイタリティこそ感心しますが、やっていることは王国にとって害のあるものばかりです。

 

 

「あのさぁ……なんかこう、別件で逮捕とかそういうの出来ない??? 正直言って害悪極まりないじゃないの」

 

「難しいな。実際の現場に居合わせたなら兎も角、伝え聞くだけならば彼の者の行為は正義ともとれる。一部の平等主義者の間では【解放騎士(リベレーター)】などと呼ばれ、持て囃されているとの情報も入っている」

 

「……なに、その【平等主義者】って?」

 

 

 陛下と言葉を交わす度にハイライトさんが死んでいく妖精弓手ちゃんの瞳、トドメとなったのはやっぱり()()の存在でした。輝きの失せた翠玉(エメラルド)に気圧されつつ、陛下が一行へと説明していきます。

 

 

「【背が高いもの】【力が強いもの】【足が速いもの】……様々な種族間での差を【悪】であると断じ、定められた規律の元で平等に生きることを主張する連中の集まりだ。一見すると余が主導する多種族協調路線に沿っているように思えるが、実際は只人(ヒューム)の思想を他種族へ押し付ける善意の押し売りというヤツよ」

 

「規模こそ小さいけど、そういう連中に限って声が大きくてね。やれ『種族専用の椅子を使わせるのは差別だ』だの『耳を隠す意匠(デザイン)の服装は差別だ』だの、本人たち以外の誰も得をしないことばかり主張してるんだよ。一方では空を自由に飛翔する鳥人(ハルピュイア)に対して『飛べない種族に配慮して飛ぶのを控えろ』なんて言ってるんだからお笑い草だよね」

 

 

 いや、まったく笑えないんだけど、と続ける銀髪侍女さんの言葉に「うわぁ……」という顔しか見せないダブル吸血鬼ちゃん一行。

 

 かの先王の時代、王国とは只人(ヒューム)の国家であり、他種族はすべからく『異邦人(エイリアン)』として扱われていた過去があるそうで。多種族連合軍の結成を嚆矢に金髪の陛下が即位してから様々な種族が見られるようになった王国ですが、今でも門閥貴族の間における只人(ヒューム)以外の種族に対する扱いは決して良いものではないんだとか。火打石団の件で半森人夫人さんが触れていましたが、他種族……しかもハーフを迎え入れるなど彼らの常識からすれば言語道断だったことでしょう。

 

 

「そんな連中のなかにも派閥があってね。今回アレと接触しているのは『只人(ヒューム)こそ最も優れた種族であり、遅れている他種族は自分たちが教え導かなければならない』なんて妄想に囚われている馬鹿ばっかさ。あいつら『肌の色で闇人(ダークエルフ)を差別するな』とか『サーカスで圃人(レーア)を働かせるのは彼らに対する侮辱だ』みたいなことを真顔で主張するんだよ?」

 

「……くだらんな。自分らの物言いこそが差別だと気付かんのか、その阿呆どもは」

 

「気付いてたらあんな恥ずかしいこと言えるわけないんだよなぁ……」

 

 

 怒るのも馬鹿馬鹿しいと額に手を当てる闇人女医さんに曖昧な笑みを返す銀髪侍女さん。王都を駆けまわり情報収集をするなかで【平等主義者】たちの馬鹿さっぷりを見続け相当参っているみたいですね……。

 

 

「――で、そんな馬鹿たちが担ぎ上げようとしている大馬鹿は何を考えて和平を結ぶなんて言ってたのかしら?」

 

「本当に聞きたい? 正直に言って、今の段階でも君たちに教えたくないんだけど……」

 

 

 ウンザリした顔で先を促す女魔法使いちゃんに対し、執拗なまでに確認を重ねる銀髪侍女さん。ですがダブル吸血鬼ちゃん一行の意思は固く、ジッと視線で先を促しています。視線の雨にとうとう負けを認めた彼女が懐からスキットルを取り出し、素面では話せんとばかりにラッパ飲み。げふぅと酒精を孕んだ吐息とともに零したのは……。

 

 

 

 

 

『先の常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)との戦いを含め、混沌の民たちを殺し過ぎだ! あのような虐殺をおこなった連中は彼らの生命を何だと思っているのか。彼らだって我らと同じこの世界に住まう存在であり、互いに歩み寄り、理解し合い、未来に向かって良き関係を築けるというのに!!』……だってさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……は?」」

 

「「……ふぅン?」」

 

「「……(ギュッ)」」

 

「「へぇ……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「――――――あはぁ♪」」

 

 

 

 

 

「うわぁ……」

 

 ……ダブル吸血鬼ちゃんはもとより、血族(かぞく)みんな(約一名(妖術師さん)除く)を本気で怒らせるのには十分過ぎる台詞でした。

 

 

 

 

 

「――さて、そろそろ話を進めても良いかね?」

 

「「はーい」」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんの怒りゲージが沈静化したのを見計らって切り出したのは義眼の宰相さん。未だ怒り心頭でギリギリと歯軋りをしている妖精弓手ちゃんを横目で眺めつつ、長机の上に広げたるは上質な羊皮紙の巻物(スクロール)です。びっしりと細かい文字が書き込まれており、それを見た瞬間にダブル吸血鬼ちゃんと叢雲狩人さんが机に突っ伏しちゃいましたね。内容を確認する一行に対し、怜悧な口調で話し始めました。

 

 

「例年、王都では馬上槍試合(トーナメント)が開催されているのは知っているかね?」

 

「はいはい知ってます! 私の故郷の(しょう)でも予選が開かれてました!!」

 

「うむ。各地で行われた予選を勝ち抜いた者が王都に集まり、その腕を競い合う。多くの観客が押し寄せ、それを目当てに商人たちも店を出す非常に盛り上がる祭典であるな」

 

 

 小柄な体躯からは想像も出来ないたわわを揺らしながら元気よく答えるのは圃人剣士ちゃん。うんうんと頷く陛下の横では王妹殿下1号2号が冷たい目で陛下を見ていますね。各種族毎に部門が分けられ、体格などによる差が生まれないよう配慮されているものですが……。

 

 

「……『種族差を理由に部門を分けるのは平等ではない』『みな同じ舞台上で競い合うべきだ』なんて声が出始めているんだよ」

 

 

 まぁ君たちの想像している連中だよ、と続ける銀髪侍女さん。どうやら他種族との接触が少なく、それでいて発言力を持っている人々……所謂上流階級の女性が発信源だそうです。

 

 現場の実情を知らず、華美に装飾された宮廷物語に耽溺している女性たちに目を付けた【平等主義者】。資金も発言力も持つ彼女らを取り込むのに【解放騎士(リベレーター)】の英雄譚は最適だったようで、軍の構成が貴族の私兵連合から志願兵を中心とした国軍にシフトしたことも相まって『互いを滅ぼすような争いは止め、未来に向けた関係を構築するべきだ』などと言い出す自称【先進的思想家】も現れているとかなんとか。

 

 

馬上槍試合(トーナメント)の出資者である以上、彼らの声を無視することは出来ぬ。今月の末に各神殿の代表、財界の有力者などが集まり方針を決定するのだが、そこにあの【解放騎士(リベレーター)】が御意見番(オブザーバー)として参加することとなった」

 

「絶対ロクなことにならないわね、馬鹿義姉(ばかあね)の隠し持っている蜂蜜酒を賭けてもいいわ」

 

 

 キッパリと言い放つ女魔法使いちゃんの背後では、勝手に私物を賭けの対象にされ「えー!?」と叫ぶ叢雲狩人さん。まぁ全員同じ側にしか賭けないので賭けは不成立なんですけどね。

 

 

夫人(フラウ)の言う通りだ。馬鹿共の玩具にされぬよう備えておく必要がある……で、なのだが」

 

 

 言葉を切った陛下の視線の先には、激おこ状態が解除され代わりに空腹状態になっていた彼の愛しき義妹たち。少々お行儀悪く焼菓子を口に放り込んでいた彼女たちが視線に気付き、慌てて

口内のものを嚥下しま……あ、吸血鬼侍ちゃんが喉に詰まらせたみたいですね。

 

 

「んぐ!? ……ぷぁ~」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ん、へーきへーき……おまたせ、へーか」

 

「うむ、気を付け給えよ。……さて、余の愛しき義妹(いもうと)たちよ」

 

 

 

 

 

「――そなたたち、()殿()()()()()()()()()()?」

 

 


 

 

「地母神様の代表は巡回牧師(巡業力士)さんたちと地方巡業に出向いていて、太陽神様の神殿長は常闇ノ皇(プリンスオブダークネス)との戦いで負った傷を癒すために療養中……」

 

「はい、ですのでわたしが代理として出席することになりました」

 

「おなじく、(わたくし)神殿長(コーチ)の名代ですわ!」

 

「はー、だからおふたりが此処に……」

 

 

 時間は現在へと移り、場所は御前会議の間。神殿の代表に相応しい装いの王妹殿下1号2号を見て頷いているのは至高神さんの神殿の代表として来ている至高神の聖女ちゃんです。

 

 剣の乙女ちゃんが来ていたのと同じエロ装束大司教の衣を纏い、その肢体は更に成長。神官銃士ちゃんと互角に渡り合えるたわわとなっております。背後に控えている聖騎士君が何故かやつれているように見えるのは、王宮に前泊していたこととは無関係でしょう、きっと。

 

 既に円卓には多くの出席者が集まり、挨拶を交わしたり近況を語り合ったりと情報取集に余念がない様子。令嬢剣士さんも栄纏神さんの信徒代表としてこの場に来ており、今は知識神さんのところの名代――まぁ賢者ちゃんなんですが――と会話を楽しんでいますね。なお交易神さんの神殿の代表の後ろには何処かで見たことのある緑衣の少女が控え、視線の合った至高神の聖女ちゃんにヒラヒラと手を振っています……と、広間の外から歩幅の広い足音が聞こえてきましたね。

 

 

「……っ」

 

「うわ、やっぱり……」

 

「はぁ……やれやれなのです」

 

 

 出席者の内の何人かが顔を顰めているのは、それが誰であるか感じ取ったからでしょう。

 

 嗅いだことのある者にとって耐えがたい、喉にへばり付く灰の臭いとともに【解放騎士(リベレーター)】が姿を現しました!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 堂々たる体躯を白銀の鎧に包み、甘いマスクには自身に満ちた表情。大仰な身振りで出席者に挨拶をする姿はたしかに貴族の子女からは人気が出るのも頷けます。財界の代表者の一部からは感嘆の溜息が漏れていますが……。

 

 

「酷い臭い……」

 

「鼻がもげるのです……」

 

 

 不審に思われない程度に顔を顰め、思わずといった感じで呟いてしまった女神官ちゃんと賢者ちゃん。緑衣の従者ちゃんは解放騎士に視線が集中しているのをいいことに思いっきり鼻を摘まんでますねぇ……。

 

 

 出席者と挨拶を交わしながら陛下の元へと近付き、騎士の礼を取る解放騎士。両脇に赤毛の枢機卿と義眼の宰相を控えさせた陛下の顔は判り易く無表情です。形ばかりの挨拶を終えたところで解放騎士が出席者へと振り返り、人を惹き付ける仕草を伴いながら声を発しました。

 

 

「さぁ皆さん、早速会議を始めましょう! この国の未来を決める重要な議題です、必ずや有意義なものに……」

 

 

 本人にそのつもりはないのでしょうが、会場のイニシアティブを握るパフォーマンスと思われても仕方がない有様。そもそも御意見番(オブザーバー)である彼には議決権がないのですが……。

 

 

 

 

 

「――いや、まだ全員揃っておらぬよ。それに、卿の席は其処ではない」

 

 

 おおっと、ここで金髪の陛下がインターセプト! 空いていた女神官ちゃんの隣に座ろうとしていた解放騎士を制し、示した先は財界人たちの集まる側の末席。やんわりと手を振る女神官ちゃんに見送られながら指定された席へ座るその顔は赤くなっていますね。隣にイケメンが来た奥様は喜んでいるみたいですが、当の本人は先程座ろうとした席を睨みつけています。

 

 

「この重要な会議の場に遅刻とは、いったい何を考えているのだ! そのような者こそ世の中の平等を乱す『悪』そのものではないか!!」

 

 

 うーんこの、自分もギリギリになって到着したというのにこの言い草。まぁ人目を惹くために最後に入室するのを狙っていたんでしょうが、上手くいきませんでしたねぇ。

 

 

「女性の身支度には時間が掛かるというもの、それがお嬢さん(フロイライン)ならば猶更のこと。卿はもう少し心に余裕を持ったらどうかね?」

 

「何を仰る! 『女性だから』など、それこそが女性蔑視だと思われないのか!?」

 

 

 ……御前会議の間に広がる白けた空気。衛兵たちの顔には青筋が、神殿サイドの表情には呆れと蔑みの表情が浮かんでいます。一部同意するように頷いているのはおそらく【平等主義】の思想に染まった人たちでしょうね。

 

 

「……ええい、まだ来ないのか! いったいどれだけ待たせる気で……っ!?」

 

 

 居丈高に声を荒げ、会場の空気をさらに悪くさせる解放騎士。ですが彼がその言葉を紡ぐ最中、静かに広間の扉が開きました。

 

 

 

 

 

「「「「「――――!?」」」」」

 

 

 

 

 

 ――毛足の長いカーペットをゆっくりと進むひとりの少女。

 

 ほっそりとした肢体を典雅な法衣で包み、手には信仰の証たる古びた事典。

 

 黄金を思わせる豊かな髪を靡かせ歩む姿は見る者の目を奪い、過ぎさまに鼻をくすぐるのは微かな星の香り。

 

 女神官ちゃんと令嬢剣士さんの間に残る最後の席へと静かに腰を下ろし、声を失ったように見つめてくる出席者に向け遅参を詫びる声を発したのは……。

 

 

 

 

 

>『――万知神を奉ずる者の代表として参りました。……身支度に手間取り到着が遅れたこと、深くお詫び申し上げます』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ――王妹にして地母神さんと太陽神さんの信徒であるふたり、女神官ちゃんと神官銃士ちゃんによく似た顔つきの、美しい【只人(ヒューム)の少女】です……。

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 今年中には完結させたいので失踪します。

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セッションその19-2


 一角獣の覇王にド嵌まりしたり、コロナでダウンしたりしていたので初投稿です。



 

 前回、謎の美少女神官が登場したところから再開です。

 

 

>『……如何なさいましたか、皆様?』

 

 

 こてん、と可愛らしく首を傾げる万知神の神官の動きに反応し、呆然自失としていた参加者たちはなんとか再起動。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている解放騎士が口を開く前に、金髪の陛下が会議の開催を宣言しました。

 

 議題の中心はやはり部門分けについて。種族間の融和が進み、多くの種族が参加することが予想されるなか『種族による身体能力の差を考慮し各種族毎に分けるべき』という意見もあれば、『コスト面からそれは難しい。例えば種族ではなく個々の体重による区分などはどうだろうか』という階級制を導入する意見も出ています。しかし、一番()()()()()のは……。

 

 

「種族で部門を分けるなどまさに差別そのもの! あらゆる種族が同一の条件で競い合ってこそ、真の平等たりえるのです!!」

 

 

 声高に自説を叫ぶ解放騎士。一見耳障りの良いそれに一部の支持者(シンパ)は陶然としていますが、多くの顔には呆れと侮蔑の色しか見えません……と、これまで発言をせず見に徹していた万知神の神官がスッと挙手をしましたね。発言を許可した陛下に一礼し、解放騎士の意見にどのような反論をするか期待の視線を集めた彼女が発したのは……。

 

 

 

 

 

>『――素晴らしい意見ですね。万知神の神殿は()()()()()()()()()()に賛成いたします』

 

 

 

 

 

 ……まさかの解放騎士への賛同表明でした。

 

 

「おお、判っていただけますか! やはり吸血鬼(ヴァンパイア)などという()()を信徒として迎え入れられるほどの懐の深さをお持ちなだけのことはある!!」

 

>『ふふ……もちろんです。()()の種族がともに生き、その知を高めていくことが万知神の教えであります故……』

 

 

 新たな支持者のエントリーに解放騎士もご満悦。ドヤ顔を隠そうともせず他の意見を出した者たちを嘲るように見回していますね。その有様を見て王妹殿下1号2号はげんなりとした、賢者ちゃんは能面のような無表情を浮かべています。

 

 

>『そうですね……『あらゆる種族』を謳っておりますが、例えば巨人や竜といった方々が参加される場合、()()()配慮が必要ではありませんか? そういった方々のことを考えて、()()()()を設立するのは如何でしょう?』

 

「おお! 貴女は実に判っていらっしゃる、是非とも特別部門を設立するべきだ!!」

 

 

 その後は解放騎士の独壇場、場の主導権を握った彼の意見が()()通る結果となりました。時折万知神の神官が口を挟み、彼の()()を的確にフォローしたことで彼女に対する好感度も急上昇……解放騎士の表情を見るかぎり『コイツ最初から俺のことが好きだったに決まってる』なんて考えていそうですががが。

 

 


 

 

「まこと有意義な時間だった! 蒙を啓かねばならぬ者ばかりななかで、貴女のような聡明な淑女がいるとはな!!」

 

 

 細かな規約については()()()()()ということで、解放騎士の独演会with万知神の神官のヨイショで盛大に精神をやられ屍者(ゾンビ)の如き呻き声を上げながら退出していく参加者たち。会議室に残っているのは王宮の面々と賢者ちゃん、それに自身の意見が通り上機嫌な解放騎士と、机に突っ伏している王妹殿下1号2号を介抱している万知神の神官です。

 

 背後の屍者(ゾンビ)たちを華麗にスルーし万知神の神官の元へと足音高く歩み寄る解放騎士。……彼女の手を取り口付けをする様を王妹殿下1号2号が凄い顔で見ていますけど、どうしてなんですかねぇ(すっとぼけ)。

 

 

「おっと、これは失礼! 決して可憐なる花のことを蔑ろにしているわけではありませんよ。むしろ姫君の()()()には感謝しております」

 

 

 ふたりから向けられる視線を都合よく解釈したのか、大仰なジェスチャーを交えてペラを回し始める解放騎士。献身という言葉に首を傾げていたふたりの顔が、直後の彼の発言によって変貌しました……。

 

 

 

 

 

「人と交わらねばその身を保てぬ吸血鬼(ヴァンパイア)と愛を交わしたという事実。それこそが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に正しき知識を()()、互いを理解し合う心を()()()ることで、人と共存()()()()()()()()()という証明なのですから!!」

 

 

 彼の言葉の意味を理解した瞬間、瞳に赫怒の炎を宿すふたり。怒りの声が漏れなかったのは背後に回り込んだ万知神の神官がふたりの口をそっと塞いだからですね。

 

 ……会議に一党(パーティ)の面々を出席させなかったのはこれを予想していたんですね。たぶん誰が聞いていてもその場でアンブッシュだったでしょうから。ちなみに背景ではブチキレ顔の賢者ちゃんが≪分解(ディスインテグレータ)≫を唱える準備をしてますし、赤毛の枢機卿と義眼の宰相が必死に陛下の肩を抑えていることを捕捉しておきます。

 

 

>『なるほど、良く判りました。……そうだ、此度の催し、ゴブリンにも参加していただくというのは如何でしょう? ()()()()()()()()()()彼らが大会で活躍する様を目撃すれば、民たちもきっとゴブリンが良き隣人であると判ってくれるのではありませんか』

 

 

 真っ赤な顔でモガモガと声にならない罵声を上げる王妹殿下1号2号をそっと抱き寄せ、鈴の転がるような声で告げる万知神の神官。解放騎士の自尊心をくすぐるツボを的確にとらえた提案に……。

 

 

「――おお、それは名案! 開催まであまり時間が無い、早速ゴブリンの勇者を探し出さねば!! こうしてはおれん、失礼する!」

 

 

 バサリと外套(マント)を翻し、颯爽とその場を後にする解放騎士。会議室に漂うのは、どうしようもない徒労感と、濃密な殺意の残滓です。両肩を抑えていた枢機卿と宰相にもう良いと伝えた陛下が、クソデカ溜息を吐きながら深く椅子へと身体を預け、ボソリと呟きます。

 

 

「――余、がんばって我慢したのだが? 王たる余に挨拶も無しに退出とか無礼討ちでも良かったんだが???」

 

「はいはい良く我慢されましたね陛下、偉い偉い」

 

「……判っていたとはいえ、あそこまでの愚物であろうとは」

 

 

 顎肘姿勢でぶーたれる陛下を宥める枢機卿ですが、解放騎士の出て行った扉を見る目は常の穏やかさなど微塵も感じられないものです。義眼を抑え痛みを堪えるように眉間を指で揉んでいた宰相にも絶対零度の視線が宿っていますねぇ。

 

 

「……もうすぐ馬鹿が王宮から出るのです。あといい加減手を離さないとふたりが大変なことになるのです」

 

 

 おっと、たしかに万知神の神官に抱き寄せられている王妹殿下1号2号の顔色が怒りとは違う朱に染まっちゃってますね。潤んだ瞳でモジモジと肢体を動かすさまはあからさまに卑猥! このままでは健全な実況が不可能になりそうです……え、健全だった試しがない?

 

 

>『あら本当、それじゃあ……』

 

 

 そう言うなり淡い光を放ち始める万知神の神官。輝きが全身を包み、一際大きく輝いた後に現れたのは……!

 

 

 

 

 

「「がったいかいじょー!」」

 

「「ふんむぅ……あむ、れるぅ……」」

 

 

 女神官ちゃんと神官銃士ちゃんに背後から抱き着き、愛する異母姉妹兼お嫁さんに頬擦りをしながらその可愛らしい口元に手を添えたダブル吸血鬼ちゃんです! ……どうして王妹殿下1号2号は、口元に添えられている小さな指を美味しそうに舐めまわしているんでしょうか(戦慄)。

 

 

「そなたらの想い人が止めてくれたから良かったものの、あそこで爆発されていたら計画が水泡に帰すところであったな」

 

「はい、申し訳ありません……」

 

「でも、だって、お兄様……!」

 

 

 膝上にダブル吸血鬼ちゃんを抱きかかえながら、陛下の叱責を受け止める姉妹。俯くふたりの頭に手を伸ばし、ダブル吸血鬼ちゃんが優しく頭を撫でていますね。

 

 

「よくがまんしてくれたね、ありがとう! ぎゅーっ」

 

「ぼくたちの……かぞく(血族)のためにおこってくれたんだもんね? ぎゅーっ」

 

「「あっあっあっあっ」」

 

 

 こうかは ばつぐんだ! あっという間に臨界状態なふたりを一頻り愛でた後、ぴょんと膝上から降りた吸血鬼君主ちゃん。陛下に枢機卿、宰相と賢者ちゃんを順番にハグし、満足そうに頷いています。

 

 

「むふー、じゅうでんかんりょう! それじゃまずぼくがいってくるね!」

 

「ええ。馬鹿の撒き散らす災厄が広まらないよう、しっかりと処理するのです」

 

「ん、まかせて! ……ちゅっ」

 

 

 おおっと、賢者ちゃんとのハグの終わり際に彼女の唇を奪った吸血鬼君主ちゃん。真っ赤な顔の賢者ちゃんが放つ≪力矢(マジックミサイル)≫を呪文抵抗(Iフ〇ールド)で防ぎ、勢いよく窓から飛び出して行きました。羨ましそうに見つめてくる神官銃士ちゃんをジト目で制しつつ、女神官ちゃんの控えめなお山を堪能している吸血鬼侍ちゃんを摘まみ上げましたね。

 

 

「異母兄の新たな性癖の扉を開くのはあとにするのです。……あらかじめ聞いていたとはいえ、先程までの姿には驚いたのです」

 

「えへへ……ふたりからわけてもらったいんしから、『おかあさんたちのあいだにこどもがうまれたら』ってすがたをけいさんしてみたの!」

 

 

 ああ、成程! 女神官ちゃんたちに似ていると思ったら、伯爵夫人さんと圃人侍女さんの愛の結晶をシミュレーションしてたんですね! 映像を見返してみると金髪に隠れた耳の先はほんのり尖っていましたし、お山の大きさはママふたりの中間……女神官ちゃんよりちょぴり大きいくらいですし。

 

 

「あのこにほしのかけらをもらって、ふたりのしゅつりょくがおんなじになったからできたしんひっさつわざ! がったいすることでしゅつりょくが2ばい! ようりょうも2ばい! おまけにからだもヒュームサイズになるの!!」

 

 

 首根っこを摘まみ上げられながらフンス!とぺったんこな胸を張る吸血鬼侍ちゃん。合体し身体を構成するヒヒイロカネが増加すると物理的におっきくなれるみたいです。なおツインドライブの設計を担当した万知神さん曰く「まだまだ新機能がある」とのこと。残りの機能についてはいずれ明らかになることでしょう……。

 

 

「……ふむ。ではあの姿の時の理知的な話し方、あれも合体による機能なのですか?」

 

 

 あ、それすごく気になります。普段のふたりからは想像もできないほどちのうしすうの高い口調でしたし、解放騎士の意見を否定せずに上手いこと舵取りをしていた話術もなかなかのものでしたからね! 賢者ちゃんの問いに吸血鬼侍ちゃんは可愛らしく首を傾げ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「……へ?」

 

「「ほ、ほ、ほわぁぁぁぁぁ!?」」

 

 

 キェェェェェェアァァァァァァメチャクチャリュウチョウニシャァベッタァァァァァァァ!!

 

 

 

 

 


しばらくそのままでお待ちください……


 

 

 

 

 

 えー……お見苦しいところをお見せして大変申し訳ありませんでした。

 

 吸血鬼侍ちゃんの発言に盤外(こちら)も阿鼻叫喚の地獄絵図。つい先ほどまで「どういうことだってばよ……」や「説明しろGMゥゥゥ!?」という声が飛び交っておりましたが、現在は主犯である万知神さんと共犯神の覚知神さんの説明によってなんとか沈静化したところでございます。ちょうど盤面(シーン)でも説明が行われてますので、視聴神の皆様にはそちらをご覧いただきたいと思います。

 

 

 

「……つまり、貴女本来の口調はあの姿の時のものなのですね?」

 

「うん。ほら、ぼくのちしきっておとうさんにやきつけてもらったり、うまれてからおしえてもらったものだから。あのこよりもずっとながくかつどうしてたしね?」

 

「で、でも、それなら何故お姉様と同じ口調を?」

 

「それはほら、ぶんしんのときはあのこときおくとかなんやらをまとめてへいれつかしてたからひっぱられちゃってたし、そのあともなんとなくつづけたてかんじ。それに……」

 

 

そこで言葉を区切り、スッと目を閉じる吸血鬼侍ちゃん。やがてゆっくりと開いた瞳には、普段とは違う匂い立つような妖艶さが漂っています……。

 

 

>「――此方の口調よりも、いつもの話し方のほうが可愛らしい、そうは思わないかしら?」

 

 

 

 

 

「「エッッッッッッッッッッ」」

 

圃人(レーア)の姿でその色気……スケベすぎるのです」

 

「どうしよう、余の義妹が傾国の美女だった件について」

 

「正気にお戻りなさい、陛下」

 

 

 うーんこの大量破壊兵器。「合体時以外はその口調は禁止なのです!」という賢者ちゃんに対して「ふーん……ベッドのうえでもきんしなの?」と返す吸血鬼侍ちゃん、怖ろしい娘っ!

 

 女神官ちゃんは自分の頬に手を当てたままビクンビクンと痙攣してますし、神官銃士ちゃんは「ぜひお姉様にも無理矢理真似してもらって『こ、こんなかんじ?』ってはにかみながら上目遣いで見て欲しいですわ!!」と絶賛暴走中……あ、陛下を含めた全員の頭に枢機卿と宰相の『げんこつ!』が炸裂しました。みんなが正気に戻ったところで陛下がオホンと咳払い、今後の計画について口を開きました。

 

 

「……さて、愛しき義妹のおかげで彼奴はしばらく帰って来ることはあるまい。馬鹿の汚染が広がるのを阻止している間に、我らも為すべきことを為さねばな」

 

「うん! ()()()はしっかりととったし、ついかのひようはぼくたちがふたんするからもんだいなし!! ……まんちしんさまのしんとにルールをまかせることのおそろしさ、しっかりとおしえてあげないとね?」

 

 

 おお、こわいこわい。いつもの可愛らしい口調なのに、浮かべているのは一片の好意すらも含まれていない咲き誇る毒花のような凄絶な微笑み。子どもたちや新人冒険者が見たらトラウマになること間違いなしです。

 

 

「ええ……それにあの男、よりにもよってお姉様たちを『ゴブリンと同じ』なんてぬかしやがりましたわ!」

 

「私たちの培ってきた大切な繋がりを『ゴブリンと判り合える証明』だなんて……っ」

 

 

 うーむ、王妹殿下1号2号もガチギレですねぇ。ようやく結ばれたダブル吸血鬼ちゃん、そして血族(かぞく)みんなとの絆をそんなふうに言われたらさもあらんってところです。怒りに拳を握るふたりを見た吸血鬼侍ちゃんといえば……。

 

 

「えっとね、『そんざいするのにひとがひつよう』ってところはまちがって……」

 

「「冗談でも、ゴブリンと同じだなんて言わないでくださいっ!!」」

 

「おあー……」

 

 

 前後からきつく抱きしめられ何ともいえない声を上げる吸血鬼侍ちゃん。ウカツな発言にみんなからの視線は氷点下、ガクガクと震える羽目になっちゃってます。

 

 

「流石に今の発言は聞き捨てならんな。もしそなたの言うことが正ならば、余は自らの義妹ふたりをゴブリンに嫁がせた、狂王にも劣る愚王ということになる」

 

「訂正するのです。ともに世界を救ってきた大切な仲間をゴブリンと同列に扱うなど、絶対に許さないのです」

 

 

 陛下と賢者ちゃんにも詰め寄られ、逃げ場を失った吸血鬼侍ちゃん。ギャン泣きしながらの「へんきょうさいあくのヴァンパイアは、ゴブリンなんかとはちがうたいせつなちつじょのいちいんです!」によってようやくみんなの激おこ状態は解除されましたが、扉の外で待機していた銀髪侍女さんと緑衣の従者改め勇者ちゃんの「お仕置き部屋の準備はできてるよ」の声で再び涙目になっちゃいました。

 

 

「馬鹿追跡の順番が回ってくるのは4日後なのです。それまで徹底的に搾り取ってやるのです」

 

「おねえちゃんがいけないんですよ? あんな、自分を……大切な血族(かぞく)を貶めるようなことを言うおねえちゃんが……」

 

「ねぇねぇ、ボクも見学していい? 後学のためってヤツ?」

 

「もちろんですわ! むしろいっしょに混ざっていかれても……」

 

 

 四人に四肢を優しく拘束され運ばれていく吸血鬼侍ちゃん。それを見送った陛下の顔には合点がいったという表情が浮かんでいます。

 

 

「どうしたのさ陛下、なにか世の真理に気付いたような顔をしてるけど」

 

「うむ、余の義妹は泣き顔すら可愛いなと……いうのは冗談としてな?」

 

 

 スッと傍らの枢機卿がキラリと光るナニかを懐から抜くのを見て慌てて言葉を続ける陛下。少女たちが出て行った扉を見る彼の目に浮かぶのは、憐憫と、僅かな怒りでしょうか。

 

 

「……姿通りの子どもである太陽に愛されし義妹とは違い、あの()は既に大人なのだと思い込んでいた」

 

 

 

 

 

「――だが違った。アレは……早く大人にならざるを得なかった、半身と変わらぬ幼き子であったのだな……」

 

「……そうだね。王位を簒奪してから随分と働いてもらっていたけど、その恩を王国(わたしたち)は返し切れていないからね」

 

 

 両肘を机に乗せ、組んだ手のひらで顔を覆ったまま呟く陛下の肩に手を置く銀髪侍女さん。反対の手に持つスキットルは既に空であり、呷ったところで一滴も出さないソレを懐にしまい込みながら陛下の言葉に答えています。

 

 

「……ですが、それも今回で最後。此度の件が片付けば、彼女たちを排斥せんとする者たちは一掃できます」

 

「左様。あの者たちが稼いだ時間、一秒たりとも無駄には出来ませぬ」

 

 感情の籠った枢機卿と、感情の籠らぬ宰相の声。しかしそのどちらもが、今回の件に対する並々ならぬ熱意を秘めているのが判ります。ふたりの声に呼応するように上げられた陛下の顔には、既に迷いの色は微塵も残っていませんね。

 

 

「――うむ、卿らの意見を是とする。では先ずは……」

 

 

 ……ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)がキャンペーンの主役であるため、なかなか映像では見られませんけど、陛下も、将兵も、商人や職人、農民たちであっても、それぞれの物語の主役なんですよね。こうやってみんながそれぞれの役割を果たしているからこそ、ダブル吸血鬼ちゃんたちに王国内での居場所を作り上げることができたんですから!

 

 


 

 

 そして時計の針はまた少し進み、夏の終わりが感じられるようになってきた頃。王都の入り口である城門の前では、大型の幌馬車を曳く巨大なイボイノシシが同じく受付に並ぶ人々の度肝を抜いています。その周囲には様々な等級の認識票を下げたこれまた様々な種族の冒険者たちが立ち、さらにその背後には馬というかUMAのような何かに曳かれた普通サイズの幌馬車まで並んでいますね。

 

 

「ええと……次の者たち、前へ!」

 

 

 明らかにヤベー集団相手に自らの職務を全うせんと頑張る衛兵。そんな彼に対してのご褒美が御者台からふわりと降り立ち、首から下げた冒険者認識票と胸元に輝く聖印を示しながらにこやかに話しかけます。

 

 

「お勤めご苦労様です。人数が多いので此方であらかじめ台帳を作成しておきました。照会をお願いしても?」

 

「は、ハッ! 只今確認させていただきます、()()()()()()()!!」

 

「えっと、ゆっくりで構いませんからね? ……それじゃあみんな、馬車から降りて整列!」

 

 

 鯱張って敬礼する衛兵さんに困った笑みを向ける令嬢剣士さん。パンパンと手を叩きながら号令をかけた直後……。

 

 

「ついたー!」

 

「せいれーつ!」

 

「まえーならえ!」

 

 

 わらわらと幌馬車から出てきたのは種族も年齢もバラバラな子どもたち。馬車の横にピシッと二列横隊に並ぶ速さは衛兵が思わず二度見するほど。練習の成果を発揮できてみんな揃って見事なドヤ顔、上や横に耳が長い子たちは無意識のうちにピコピコと動いちゃってますね。

 

 

「うわ速っ!?ってかアンタもさっさと降りなさいよ!」

 

「いや、昨日のアレで腰が……」

 

 

 子どもたちに続いて降りてきたのはお肌ツヤツヤ健康的な色気を振りまく新進農婦さんと、何故か腰を押さえている若干煤けた新進農夫さんのラブラブ夫婦。昨晩は子どもたちが大部屋で雑魚寝したのを狙ってずいぶん盛り上がっていたみたいです。

 

 

「さ、手を貸して。ゆっくり降りるんだ」

 

「えへへ……ありがとね、あなた♪」

 

「ふふ、わたしが妊娠してる時のキミとおんなじことしてる!」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 後ろの馬車から姿を現したのは牧場家族ですね! 真剣な表情で手を差し出すお義父さんと、はにかみながらその手を握る只人寮母さん。牛飼若奥さんの言葉から察していただけると思いますが、彼女の腹部がなだらかな曲線を描いているのが見てとれます。ゴブリンに凌辱された過去を乗り越え夫婦となった彼女に、ついに愛の結晶が宿ったんですね!

 

 ひとりだけ完全装備の姿にギョッとした表情を浮かべた衛兵ですが、その首に下げられた金色の認識票を見て疑いの言葉を投げかけるのは止めたみたいです。なお周りには金等級がもうふたりに、銀等級以下ヤバイオーラを纏った冒険者たちが照会を待っている模様。

 

 

 ……というわけで、二台の馬車に子どもたちと非冒険者+αを乗せ、のんびり牧場から歩いてきたある意味はた迷惑な集団の正体は、ダブル吸血鬼ちゃんと愉快な仲間たちでした! ちなみに妖精弓手ちゃん、鉱人道士さん、蜥蜴僧侶さんはそれぞれの種族の代表を迎えるために先んじて王都入りしており、吸血鬼侍ちゃんと若草知恵者ちゃんは悪巧みのため王宮詰め。

 

 そうそう、ぽわぽわちのうしすうな吸血鬼君主ちゃんは解放騎士が無事に王都入りし(起こした問題の処理を完了させ)た後、グロッキー状態で発見され王妹殿下1号2号に手厚く看病し(たっぷりちゅーちゅーさせ)てもらっているそうです。

 

 

「お、来た来た! おーいこっちこっち!!」

 

 

 無事に衛兵の胃壁を破壊しながら城門を通過した一行に届く明るい女性の声。一行を迎えに現れたのは三人の女性です。ブンブンと大きく手を振る呼び声の主は監督官さん。その隣には姿勢よくお辞儀をする査察官さんと、押し寄せる子どもたちの波に飲み込まれ悲鳴とも嬌声ともとれる声を上げている受付嬢さんは……駄目みたいですね。

 

 

「依頼通り、全員で泊まれるようイイトコの宿屋を借り切っておいたよー……あたっ!?」

 

「仕える主に向かってその態度はいただけませんね。……大変失礼いたしました」

 

「あー……まだ正式に契約が始まったワケじゃないし。それにホラ、雇用主はウチのエロガキどもなんだから、そんな厳しくいかなくてもいいんじゃない?」

 

 

 監督官さんに『げんこつ!』を落とし、深々と頭を下げる査察官さんに若干引き気味の女魔法使いちゃん。公の場ではしっかりとしてましたし、大丈夫だと思うんですけどねぇ……。

 

 

「本日はこのまま宿に御泊まりいただきます。明日は大会に参加される方は登録へ、それ以外の皆様は王都観光を楽しんでいただく予定となっております」

 

「大人から子供まで楽しめるようバッチリ考えたから、期待しててねー?」

 

 

 なるほど、≪転移≫の鏡を使わず馬車で王都まで来ていたのは、子どもたちや牧場関係のみんなに対する慰安旅行という一面もあったんですね! 子どもたちはもちろんのこと、仕事でしか王都を訪れたことのない新進夫婦や牧場一家も……おそらく兜で表情の見えないゴブスレさんも喜んでくれているみたいです。

 

 さて、楽し気な王都観光と、どう考えてもひと悶着ありそうな大会登録、どっちも目が離せませんね! それに陛下や吸血鬼侍ちゃん、若草知恵者ちゃんが考える悪巧みも気になるところです! 待て次回!!

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 ダイナさんのおかげで新たな性癖に目覚めそうなので失踪します。

 UA24万に到達いたしました。たくさんの方に読んでいただき嬉しく思います。

 評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。モチベーション維持とやる気アップに繋がりますので、よろしければ感想や評価をお願いいたします。

 あわせて誤字脱字報告もありがとうございます。なかなか自分で読み返す勇気がなく、放置していたのでありがたい限りです。

 お読みいただきありがとうございました。



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