魔法少女リリカルなのはVivid 漆黒の翼 (シンタ)
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第一話 始まりの日…St.ヒルデ魔法学院初等科4年生
はじめまして、僕は『アベル・ガーネット』です。
ミッドチルダに住んでおり、今日から『St.ヒルデ魔法学院初等科』の4年生になります。
僕の家族は母親と二人です。
だけど、母は時空管理局地上本部の幹部職員なので、家を開けている事がほとんどです。
事実、僕は家で一人暮らしをしています。
これは、アベルと魔法少女たちとの友情を書いた物語である。
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先程もアベルが説明をしたように、今日から彼は『St.ヒルデ魔法学院初等科』の4年生になる。
いつものように、アベルは一人っきりの朝食をすませ、学校に行く準備をしていたら、家の呼び鈴が鳴った。
「はーい!」
アベルはひとこと返事をし、玄関に向かいドアを開ける。
「アベルくん、おはよー!」
元気なあいさつと共にドアの前で待っていたのは、金色の髪を腰の辺りまで伸ばした少女。
名前を『高町ヴィヴィオ』という。
紅(ロート)と翠(グリューン)の鮮やかで特徴的な瞳をしている。
「うん、おはよー♪ヴィヴィオのお母さまもおはようございます。」
アベルはヴィヴィオと一緒いた女性にも丁寧に頭を下げた。
彼女は『高町なのは』。
栗色の長い髪をサイドで一つに纏めた笑顔が素敵な女性で、ヴィヴィオの母親でもある。
ちなみに、アベルの母親とも中学校時代から交友があるため、高町家とは家族ぐるみの付き合いをしていた。
「はい、おはよー♪」
なのはは笑顔であいさつを返す。
その後、登校の準備と自宅の戸締まりを終わらせたアベルは、高町家の二人と共に歩き出した。
「そう言えば、二人って今日は始業式だけでしょう?」
「え、まあ……」
「そうだよーあ、帰りにちょっと寄り道してくるけど……」
「だったら、今日の夜ごはんは4年生進級のお祝いモードにしよっか?ママもちょっとは早めに帰ってこれるからね♪」
「おおー!なのはママ、ナイスだよ!」
「じゃあ、決まりだね♪アベルくんも良いよね?」
「えっと……どういう事ですか?」
「アベルくんもウチで一緒に食べようよ♪」
アベルはなのはから、夕食の誘いを受ける。
「だけど、今夜はヴィヴィオと家族水入らずだし、僕がお邪魔するには………」
「そんなことないない!」
「むしろ、大歓迎!ねぇー!」「ねぇー!」
「じゃあ、お言葉に甘えて、ご馳走になります……」
「じゃあ、けってーだね♪」
その後、アベルとヴィヴィオはなのはと別れ学校に向かった。
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「ヴィヴィオー!」
「アベルくーん!」
二人は学校に着くなり、友人から声をかけられる。
長い髪を二つに纏めた落ち着いた雰囲気の少女『コロナ』と八重歯がチャームポイントの快活な少女『リオ』だ。
「あ、リオ!」
「コロナも……」
「ねぇ、クラス分けって、もう見た?」
「うん!見た見た!」
「4人一緒のクラス♪」
「「「イェーーーィ!」」」
ヴィヴィオ、リオとコロナはハイタッチをしている。
それを乾いた笑みを浮かべて見るアベル。
「ねぇ、アベルくんも一緒にしようよー!」
「そうだよー。アベルくんのいけずぅ~!」
「だって回りを見てみなよ。他の生徒たちに笑われているよ?」
確かに回りの生徒はヴィヴィオたちを見ながらクスクスと笑っていた。
「ね?だから、あえて僕はしなかったの……」
そう言って、アベルはさっさと自身のクラスへ向かう。
「あ、待ってよー!」
ヴィヴィオたちもアベルを追いかけて、クラスへ向かった。
そして無事に始業式を終えた、アベルは適当な理由を付けてヴィヴィオたちと別れると先に家路に着く。
アベルが自宅に着くと同タイミングで宅配業者がやって来た。
業者から荷物を受け取ったアベルは、家に入りリビングのソファーに座ると荷物の送り主を確認する。
送り主の名前は『エリス・ガーネット』。
アベルの母親だ。
「ママからか……手紙までいったい何だろう?」
アベルは手紙を読む。
内容は、母親としてアベルの体調の気づかいやエリス自身が滞在している場所のこと、アベルの進級に対してのお祝いの言葉が綴られてあった。
そして最後にはその箱がメインであり、お祝いのプレゼントであるとも書いてある。
アベルは一通り手紙を読み終えると、箱の包装を破り取り中身を見た。
「なんだコレ………」
中身を見たアベルの第一声がそれだった。
箱の中に入っていたのは30cmほどの幼い顔立ちの妖精のような姿をした女の子。
腰丈ぐらいに伸ばした漆黒の長髪をポニーテールに纏め、淡い紫色のインナーとプリーツタイプのミニスカート、その上に着るのは、縁の金ラインが映える黒基調のロングコートを纏っていた。
チャームポイントは胸の赤いハートをあしらった蝶ネクタイ。
また、背中には光沢がかった綺麗な青色の蝶のような羽根とお尻からはスラッとした肌触り良さそうなネコに近い尻尾を生やしていた。
アベルが彼女をじっと観察していると、その眠っていた女の子が目を覚ます。
「ふあ~ぁ……よく寝たですぅ……」
眠気眼をこすり女の子が「う~ん……」と背伸びをした。
彼女は箱の外に出ようとふわりと宙に浮く。
しかし、まだ寝ぼけているようで高さの調整がうまくいかないのか、爪先を箱の縁に引っ掛け顔面から机の上に突っ伏すような形で落ちた。
「ズベェ……ッ!!?」
「なんて声を出すんだか……」
アベルは内心呆れている。
「う~~失敗ですぅ……」
真っ赤に腫れた鼻を擦る女の子。
「だ、大丈夫?」
そんな彼女を心配したアベルは声をかける。
「まだ、鼻の頭がヒリヒリするけど何とか……初めまして、今日からマスターのお世話をします『生体型アームドデバイス“ADF-X01モルガン・ル・フェイ”』ですぅ!ヨロシクですよぉ♪」
妖精みたいな女の子こと『モルガン』は元気に挨拶をするのだった。
次回に続く。
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第二話 武装化“アームズ・アップ”!
その後、アベルはモルガンと話した。
モルガンは自分がどんなに凄いかを自慢している。
しかし、モルガンの自慢話にアベルは未だ半信半疑のようだ。
「あぁ〜!まだマスターはワタシのスゴさを疑っていますね?ワタシぷんぷんモード全開ですぅ!」
モルガンはまるでお餅のように頬っぺたをぷくぅっと膨らませている。
彼女が小動物のようで、なんだか可愛い……
「だってしょうがないじゃん?こんなカタログスペックだけ見せられてもさぁ?」
アベルは空間モニターを弄りながら、モルガンにぼやく。
「僕は実際に見て触って感じないと信じないタチなんだよ。」
「じゃあ、どうしたら信じてもらえるんですかぁ?」
「簡単じゃん。試しにキミをセットアップしてユニゾンしてみよう!」
「えッ!!?だけど………」
先程までの勢いが、今のモルガンにはまるでない。
だが、アベルはそんな彼女を気にすることなく、空間モニターに映し出された資料を見ながら、起動(セットアップ)の準備をする。
「これで良し!さあ!モルガン、いくよ!」
「本当にやるんですね?」
「もちろん!これで、キミのスゴさが分かるんだよ!良いことじゃないか。モルガン、武装化(アームズアップ)!」
アベルが叫んだ。
次の瞬間、彼とモルガンが眩い光りに包まれる。
「ADF-X01モルガン・ル・フェイ。システム起動!武装化(アームズアップ)!」
光りの中では、モルガンの姿が飛行型ガジェットのようなモノになり、一方でアベルの身体は光の粒子と化する。
「「融合((ユニゾン・イン))!!!」」
そして、光の粒子になったアベルは飛行型ガジェットに変身したモルガンの中に吸い込まれた。
融合が成功し、光りが晴れていく。
「これが、僕………確かこの形態は、空戦と超高速巡航に特化しファイターモードだよね?」
アベルとユニゾンしたモルガンは、魔力による重力干渉によってフワフワと浮いてる。
また彼が喋るとそれに合わせて機首のセンサーアイがチカチカと光っていた。
『はいですぅ。機首を中心に円錐状に展開された電磁バリアーで空気の層を分解しながら飛行します。重力下での最大船速はマッハ5……ミッドチルダでは最速だとアナタのお母さまも自負しておりました。さらには“SFS(サブフライトシステム)”としてアナタや第三者を背中に乗せて飛行することも出来ますぅ。』
「あとは、人型になれるんだよね?」
『そうですよぉ♪じゃあ、人型にトランスフォーメーション!』
モルガンはアベルと融合した機体を飛行型から人型に変形させた。
機体後部の排気ノズル下部のスペースから大地に立つための脚が展開され、逆に機首は二つに折れるように胸部に収まる。
機首が胸部パーツの一部となることで、そこに格納されていた頭部が露になった。
頭部には大型のブレードアンテナとV字アンテナの複合タイプが装着され、スリットタイプの赤いセンサーアイ怪しく光る。
両頬には、近接防御用の小型火器が搭載されていた。
両肩には、可変後退翼や大口径の連装砲を組み込み一体化した大型防護装甲板(シールド)があり、両手には射撃兵装を装備している。
また背中には8枚の黒い放熱板の様な翼と姿勢制御用のバーニアスタビライザーがあり、腰の姿勢制御用のスラスターが組み込まれたスカートアーマーには多重砲身の大型の射撃武器があった。
「おぉー!実際に見てみるとカッコいいね?なんて言うの?子供心をくすぐるデザインだし………あ、だけど、何だか動きが固いなぁ……特に節々の関節とか……」
『やっぱり、分かりますか?実はまだ、完全には調整が済んではいないんですぅ………アナタとの最終調整はお母さまのお帰りなった際にやるそうなんですよぉ。』
その言葉を聞いたアベルは、少し考えてから決断する。
「待てない!」
『え?………』
「待てないって言ったの!僕との最終調整は今、僕自身がやる!」
『えぇッ!!?ダメですよぉ!勝手にやるとお母さまに怒られちゃうですぅ!』
モルガンは彼のデバイスとして、アベルを止めようとした。
「いいの!僕は我慢弱いの!それに僕はエリス・ガーネットの息子だよ?任せて………」
しかし、アベルは聞く耳を持たない。
アベルは即興で自作の制御プログラムを構築し始める。
『はわわあぁ~何だかワタシ、身体中がムズ痒いですぅ……』
「もう、うるさいな……あと少しだから、頑張ってよ……」
『うぅ……だけど~。』
「もう少し…………あとはコレと……念のためにアレも組み込んでおこうかな…………っと、で~きた!うん、関節の動きもスムーズだし、全システム、オールグリーン!良しイケる!」
アベルは体を動かして各関節の調子を調べた。
予想以上の仕上がりにアベルも満足している。
「あとは飛行テストだけだね?」
『マ、マスターッ!!?さすがに空を飛ぶのは………!』
「大丈夫、大丈夫!キミのシステムはチェック済みだよ。僕を信じて!ね?さあ!」
アベルはリビングの庭に通ずる窓から外に出た。
「でも実際に飛ぶのは緊張するなぁ……ちょっと、練習ぐらいしとこうかな?モルガン、まずは出力10%でお願い。」
『了解ですぅ。』
背中のメインブースターとバーニアスタビライザー、腰のスカートアーマー、そして足裏のスラスターが甲高い音共に一気に火を噴いた。
「うわぁーっ!!?」
凄まじい加速度ともにアベルとモルガンは後方へ5mほど吹っ飛び、母親の大切していた花壇を完全に破壊する。
「痛ぅぅ……大丈夫?モルガン……」
『はい~なんとか……って、ちょっとマスター!これはマズイですぅ!花壇が……』
「あ〜あ、ヤっちゃったね……まあ実験には失敗は付き物さ。今度こそ上手くやるぞ!」
『まだやるんですかぁ?』
「もちろん!次は出力をさらに下げて1%~順に上げていってね。」
『了解ですぅ。』
再び各スラスターに動力が伝達される。
スラスターの噴射口から炎が吹き出し、アベルの足裏が地面からゆっくりと離れた。
出力計を見ると約3%ほどのチカラで安定して浮遊することが出来るようだ。
アベルは地面から2mを超える高さを浮きながら右へフラフラ、左へフラフラと動き回る。
「けっこう難しいね、バランス取るの……」
『当たり前ですぅ。あ~あ、庭がメチャクチャですぅ。』
モルガンの言う通り、エリスが丹精込めて造った庭は、スラスターから放出される高温のガスと強い風で見るも無残な姿になっていた。
あれほど右往左往していたアベルだが、10分しないぐらいで彼の身体は一定場所で浮遊して留まっている。
「いい感じ……慣れてきた。」
空を飛ぶコツを掴んだアベルは、一度着陸すると決心した。“次こそ上手く空を飛んでやる”と……
「モルガン、改めていくよ?覚悟はいい?」
『分かりました。じゃあ、まずはミッドチルダ上空の………風速とか他の飛翔体のようすを………』
「もう、そんな面倒なことはいらないよ。」
『ですが、空を飛ぶことは危険なことですぅ!それに空を飛ぶためには莫大な演算をしなきゃいけないですし………』
「いいの!昔から言うでしょ?慣れるより、慣れろ!歩く前にまずは走れってね♪」
『何ですかッ!!?それッ!!?聞いたことない……って、ひゃわああぁぁぁ〰〰ッ!!?』
アベルは青く清み渡る空へ飛翔する。
「スゴい!スゴいよ!僕、空を飛んでるッ♪アハハハ……♪」
アベルは心から感動していた。
「次はファイターモードに変形するよ。トランスフォーメーション!」
『了解ですぅ!トランスフォーメーション!』
アベルは飛行型(ファイターモード)に変形する。
「ねぇ、モルガン……?」
『はい、何でしょう?』
「今現在記録されている“高さ”の最大到達点ってどのくらい?」
『えっと……ちょっと待ってください…………ありました。管理局が開発した高高度極超音速実証試験機が叩き出した最大到達高度は27600mですね。』
「了解!」
一言そう言うとアベルは一気に高度を上げ始めた。
モルガンのデバイス性能はかなりの物で、理論上オプションパーツ無しの状態で宇宙空間に進出可能である。
「2000、2500、3000、4000………」
グングンと高度が上がっていく。
その景色は素晴らしいものだった。
雲を見下ろすと言う滅多に味わうことの出来ない体験……アベルとモルガンは、言葉に現せない感動を覚えていた。
だが最大到達点までは、これの5倍以上も昇らないといけない。
しかし、ここで問題が起きる。
『マスター!魔力変換式装甲が凍ってきてますぅ!このままじゃワタシの機能が……ッ!』
「もっと!もっと!もっとォォ〰ッ!」
しかし、記録を超えることに集中するアベルの耳にモルガンの発する警告は聞こえず、スラスター全開でさらに上を目指した。
『寒い………寒いですぅ………』
その結果、けたたましい警告音を最後に全てのシステムがエラーを起こした。
機体制御を受け持っていたモルガンは意識を失い、全ての機能が停止し操縦不能となる。
スラスターの勢いを無くしたアベルは物凄い速さで落下し始めた。
「うわあぁぁーッ!モルガン!どうしたのッ!!?返事をして!」
アベルが必死になって彼女に呼び掛けるが応答がない。
落下スピードは増しに増し、既に時速200キロを超えていた。
「こうなるんだったらモルガンの言うことちゃんと聞いとけば良かったな……って、後悔するのは後回しにして、まずは装甲に張り付いた氷をどうにかしないと……!」
アベルは人型に変形することで、装甲表面の氷を割ろうと考える。
錐揉み状に長らく降下していくアベル。
下にはミッドチルダ屈指の混雑ポイント首都クラナガンの幹線道路が走っている。
地面に激突するまで時間がない。
「激突まであと40秒!いい加減に……動けェェェーーッ!」
アベルの願いも天に届き、運良く人型に変形できた。そして、全身に張り付いていた氷が一気に砕け装甲表面から剥離する。
それと同時にモルガンの意識と彼女が司る全システムが一気に回復し、制御系もアベルの手に戻った。
「モルガン!起きて!」
『ふぇッ!!?』
「ふぇッ!!?……じゃないよ!スラスター全開!上昇!上昇!」
『りょ、了解ですぅ!』
「行っけェェェーーッ!」
ギリギリのところだった。
アベルは地面に激突をする寸前で並行飛行になる。
「イーーヤッホーーー!」
最高のスリルを味わいテンション爆上げのアベルは、幹線道路を高速で走る車の間を縫うように爆音と共に飛び去って行った。
その後、危機を脱したアベルとモルガンはそのまま首都クラナガンを抜け広い海上までやって来ていた。
「ふぅ~一時はどうなるかって思ったよ。」
『ふぅ~じゃ、ありません!私の警告を無視するからこういう目に会うんですよ……ッ?!!』
海面の水を切りながら超低空飛行しているアベルの眼下にはたくさんのイルカが泳いでいる。
「わぁー!イルカさんだぁ♪」
『本当ですぅ♪……って聞いてますかッ?!!』
「もう、ちゃんと聞いてるよ……分かってる。次からはこうならない為にも…………」
『ならないためにも……?』
「氷結対策を考えないとね……」
『えぇーッ!!?気をつけるとこはそこなんですかぁ〜ッ!!?』
「そんなことより、モルガンはイルカさん初めてじゃないの?」
『まぁ、確かに……』
アベルたちはしばし、イルカと戯れた。
『じゃあ、改めて私の全性能を教えておきますね。まずは動力源についてですが、ワタシは“魔力変換式縮退炉”と補助動力として“対消滅機関”を搭載していますぅ。』
「魔力変換式ってことはその動力炉にいく魔力は僕から供給されるんだね?」
『その通りですぅ。マスターの魔力は縮退炉によって潤沢なエネルギーに変換され、そのエネルギーは推進材や機体制御、おまけに次元跳躍も可能ですぅ。』
「次元跳躍?それって何?」
『次元航行艦よりも効率的かつ素早く世界移動できるんですよ~!』
「すっげ!」
『だけど、専用の外装オプションパーツが無ければ次元跳躍は愚か次元航行すら出来ません。』
「作れないの?」
『そもそも、このオプションパーツ自体がロストテクノロジーですからね……しかたありません。』
「でもさ、キミの記憶(データ)の中に残ってるんでしょ?だったら……」
『マスター、次元跳躍に関してのお話しはひとまず置いといて説明に戻っても良いですか?』
「………分かった。」
アベルはしぶしぶ諦めて今はモルガンの説明に耳を傾けることにした。
しかし、自身を魅了するモノには貪欲になるアベルはその性格もあって、モルガンの記憶の中に眠る次元跳躍を可能とするロストテクノロジーの設計書を見つけ、その後すぐに創りあげてしまう。
『良いですかマスター?動力炉で生成された魔力エネルギーは他にも熱や電気変換して各魔導兵装に転用されてますぅ。次に兵装についてですが………』
「さっき資料には目を通したけど、けっこうな量があったよね?」
『はいですぅ。主兵装から説明させていただきますぅ。両手の射撃武器からですぅ。マスターの魔力を炎熱変換させて撃ち出す“ツインフレアライフル”。これは連結してさらにシールドとウイングを繋ぐことで長射程、超高出力の“フレアブラスター”になりますぅ。』
「確か“フレアブラスター”は連射できなかったよね?」
『凄い!短時間でそこまで理解していたのですね。』
「まぁね〜♪」
『その通りですぅ。一射ごとに強制的に排熱しますので、くれぐれも使い過ぎには気をつけてくださいね?』
「分かった。これは格闘専用の武器だね?」
『はい!これですぅ。“近接対装甲断砕刃(エクスカリバー)”!超高出力のプラズマアーク刃を1秒間に数万回発生させ、その刃を電磁フィールドで力場を固定させることで剣として実体化させた物ですぅ。』
「一撃必殺って感じだね?」
『はいですぅ!ワタシに搭載されている全ての武器は超科学の結晶なんですよ~♪次は背中の翼についてですぅ。』
「えっと、“モルガナイト機動兵装ウイング”だったけ?」
『そうですぅ。光波高機動ウィングシステムと無線誘導攻撃兵装と名付けられたモルガナイト・システムのプラットフォームとなっている背部の複合可変翼ですぅ。高品位・大容量のパワーコンジットを内蔵した強度の高い大型マウントアームによって本体と接続されてますぅ。コレを使いこなせば、相手を一方的にボコボコにできますよぉ!』
「この腰のスカートアーマーにあるでっかいのは?……」
『これは、“六銃身連装電動駆動式機関砲(デヒュージョン・ブラスター)”ですぅ。カートリッジシステムを転用した射撃武器で、弾速は各砲身毎分3000発、ベルト給弾式、左右それぞれのスカートアーマーに20000発の弾丸(カートリッジ)を内蔵していますぅ。』
「圧倒的じゃない。キミはスゴいよ!」
『エヘヘ♪』
モルガンは嬉しそうに照れていた。
『他にも固定及び内蔵式の魔導兵装がありますぅ。』
モルガンが魔導兵装の説明を一通り終えたその時だった。
彼女の持つ高性能レーダーがこちらに向かって急速に接近する飛翔体を確認する。
『マスター、何かが接近してますぅ!この反応は…………空戦魔導師ッ!!?推定Sランク!』
「えッ!!?いったい、誰なの?!!」
『待って下さい!管理局のサーバーに接続してます。えっと………分かりました!首都防空隊所属の“シグナム”二等空尉ですぅ!』
次回に続く。
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第三話 アベルと烈火の将
ここは時空管理局地上本部、そこに置かれている中央司令センターが慌ただしかった。
その理由として、首都クラナガン上空に謎の飛行物体が現れたのだ。
その謎の飛行物体に対して精鋭である首都防空隊が対処することになった。
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「こちら、シグナム……まもなく目標と接敵する。」
彼女はミッドチルダ首都クラナガン南東部に広がる海の上を猛スピードで、北上していた。
『了解。こちらも広域スキャンでそちらを確認しています。接敵まで時間にして約3分です。シグナム二尉、お気をつけて……』
「ああ、了解した。」
地上本部の中央司令センターの担当官との通信も良好だ。
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場所は戻り、アベルとモルガンは突如として現れた管理局員に驚いていた。
「首都防空隊とか地上本部の精鋭じゃん!しかも、ここに来るのがシグナム二等空尉だなんて……」
『知っている人なんですかッ?!!』
「知っているっていうか、ママの元同僚……元機動六課ライトニング分隊副隊長だよ。どうしよう?モルガン!」
『そんなことワタシに言われても分かりませんよぉ!まずはここから逃げることを考えないと……ッ!』
二人はこの場所から逃げること決める。
しかし遅かった!次の瞬間、アベルたちを落とそうとシグナムが放った斬撃が、旋回する二人の目の前を通り過ぎる。
「まさか、もう来ちゃったの!!?」
『あわわわッ!どうしよう、どうしよう!向こうは私たちの事を本気で撃墜しようしてますぅ!』
「多分、あの人は僕たちのことを分かってないんだ!話そう!そうすれば隙ができるができるから、その隙を狙って最大出力で逃げるんだ!」
『了解したですぅ。攻撃きますぅ!』
「はあぁぁぁーーッ!!!」
シグナムは再び剣を振るった。
刀身はムチのようにしなり、鋭い切っ先がアベルに襲いかかる。
「今だ!大型防護装甲板(シールド)、展開!」
『了解ですぅ!シールド展開!』
「何だとッ!!?ガジェットが言葉をッ!!?」
しかも、その飛行型ガジェットは瞬時に人型に変形した。
「変形までッ!!?コイツはいったい……!!!」
そして、シグナムの放った連結刃はアベルの左肩部から展開したシールドによって弾かれる。
機械であるガジェットを言葉を発し変形までした。
その事実は、シグナムの動きを一瞬でも止めるのに充分過ぎるものだった。
「よし!モルガン!離脱するよ!」
『了解ですぅ!トランスフォーメーション!』
アベルは再び飛行モードに変形すると翼を翻し、首都のある内陸部の方へ向かっていく。
「く!逃がしてなるものかッ!!!」
シグナムもアベルの後を追いかける。
「ああ、もうッ!あの人しつこい!ママが言ってた通りだ!」
『エリス様はそんなことを……ただいま、ワタシたちの後方を猛スピードで追って来てますぅ!スゴいですねぇ……』
「もー感心しないでよ!しょうがない!閃光弾(フラッシュバン)で目を眩ませよう。それで振り切れるはずだ。」
『ですが、コチラの姿は広域スキャンで向こうに筒抜けですよ?』
「大丈夫♪こういう時のために、魔力欺瞞(ジャミング)と光学迷彩を併用したアクティブステルスの機能を追加しといたから♪」
『いつの間にッ!!?』
モルガンは驚いていた。
「最終調整の時にちょちょいのちょいってね♪」
『さすが、マスターですぅ!』
「じゃあ、閃光弾(フラッシュバン)射出と同時に最大加速!」
『了解ですぅ!フラッシュバン射出と同時に最大加速!広域スキャン対策にアクティブステルス機能を発動させますぅ。』
飛行モードであるアベルの腰関節部に格納してある多機能ランチャーから4発の閃光弾を後方に発射した。
射出された閃光弾はさらに小弾頭に散らばり、後方から追いかけるシグナムの目の前で眩い閃光と爆音を発しながら次々と裂する。
「うあぁぁぁッ!!?」
シグナムはあまりの眩さに、その場に立ち止まり両手で目を押さえた。
彼女が足を止めをしている間に、アベルたちは遥か彼方の空に飛び去っていく。
『いったい、どうしたのですか!!?シグナム二尉!』
彼女を心配する管制官。
「な、何でもない!……それよりもヤツは……ヤツはそっちで追えているのかッ?!!」
『え、ええ……只今、対象は首都クラナガンの方へ飛行中です。ちょ、ちょっと待って下さい!これは………魔力欺瞞(ジャミング)!!?』
「何だと?ガジェットがそんな機能を持っているなんて聞いたことがないぞッ!!?」
『ですが、本当なんです!ダメです!追跡対象は光学迷彩までも………すみません………対象の反応、完全に消失(ロスト)しました。』
「了解した。一度、本部の方へ戻る………」
しばらくして視力が回復したシグナムは本部へ戻っていった。
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一方、シグナムを振りきったアベルたちは自宅のある住宅街の上空に戻って来ていた。
「なんとか撒いたみたいだね……」
『ふう、助かったですぅ……』
二人が一息ついていた時だった。
モルガンの光学レンズが地上に見知った人を捉える。
アベルの斜向いに住む、幼なじみのヴィヴィオだった。
「あ、ヴィヴィオだ……」
『ヴィヴィオ?……ああ、高町家のご息女の……』
「そうだよ。今晩はヴィヴィオのお家にお呼ばれしてるから、モルガンもお行儀良くしてね?」
『了解ですぅ!任せて下さいー♪』
アベルは自宅に戻って来た。
庭に着地しモルガンとの融合(ユニゾン)を解除する。
「一時はどうなるか内心ヒヤヒヤしたけど、けっこう楽しめたよ♪」
「ワタシもマスターと出会ったその日に、こんなことになるなんて予想もしていませんでしたぁ~」
「僕たち、いいコンビになりそうだね?」
「はいですぅ!改めましてマスター、ヨロシクですよぉ〜♪」
二人は正式に主とデバイスの契約を行った。
「さて……そろそろ、ヴィヴィオが帰って来るころかな……?」
「ただいまーー♪♪」
アベルの言うとおり、ヴィヴィオが帰宅する。
「うん、ナイスタイミング♪………」
「さすがマスター!スゴいですぅ!」
「じゃあ、僕たちもヴィヴィオの家に行こうか?」
「はいですぅ!」
アベルとモルガンの二人も、斜向いにあるヴィヴィオの自宅に向かった。
アベルがヴィヴィオ宅のインターホンを押す。
『はーーい!』
中からヴィヴィオの声が聞こえ、すぐにドアが開いた。
「あ、アベルくん!いらっしゃい!」
「おじゃまします。」「ですぅ!」
アベルとモルガンはヴィヴィオに案内されリビングに行く。
リビングにはもう一人女性の姿がいた。
金色の綺麗な髪を腰まで伸ばした清楚な女性……
彼女は『フェイト・テスタロッサ・ハラオウン』。
時空管理局、次元航行部隊に所属するエリート執務官であり、ヴィヴィオの母親『高町なのは』の親友でもある。
また、なのはとヴィヴィオが親子になる際には、二人の後見人となっている。
彼女もなのはを通じてアベルの母親『エリス・ガーネット』と友人である。
「いらっしゃい。アベルくん、なのはから聞いているわ。今日はゆっくりしていってね?」
「はい♪今日はお招きいただいてありがとうございます。フェイトおば様♪」
「お、おば様……ッ!!?ア、アベルくん!ちょっといいかな?」
「えッ!!?ちょ!ふぇぇぇ~ッ!!?」
「あ、マスター!!?」
アベルの言った『おば様』という単語に瞬時に反応したフェイトは、速さで彼だけを連れてキッチンに向かった。
いきなりの事で置いてきぼりのヴィヴィオとモルガンの二人……
「そう言えば、アナタは?………」
ヴィヴィオが隣でふわふわと浮くモルガンに聞いた。
「あ、ワタシはアベル・ガーネット様の生体デバイス“ADF-X01モルガン・ル・フェイ”です。マスターの進級祝いのプレゼントとしてマスターのお母さまから贈られ、マスターのもとで本日からお世話になってます。」
モルガンが答えた。
「そうなんだ。私は高町ヴィヴィオ♪アベルくんのヨロシクね?」
「コチラこそ…………」
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一方、フェイトに半ば強引に連れて来られたアベルはというと……
「フェイトおば様。いったい、どうしたの?」
「ううん、別に大したことではないけど………その“おば様”ってやめてくれないかな?私まだ24(才)だし、おば様は早いって思うんだ……」
「じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「やっぱり、私的には“フェイトさん”とか“お姉さん”って呼んでくれると嬉しいかな?」
フェイトは目線をアベルに合わせた上で、大人としてのプライドを丸投げに『おば様』と呼ぶのは止めてくれと頼み込む。
「うーん……………」
彼女の思いに答えて上げようと、アベルは十分思いめぐらして、的確な判断をしよう熟慮しとする。
「分かりました。」
「本当ッ?!!」
フェイトの瞳がキラキラと輝きを取り戻した。
「はい、次からはフェイトお姉さんと呼ばさていただきます!おば様♪」
「ガーーン!!!そ、そんな……言った傍から、おば様って言ってるし………」
しかし、癖というのは末恐ろしい。
容姿端麗、文武両道のエリート執務官を一撃でフォースの暗黒面に叩き落とす。
その後、なのはが帰って来るまで彼女は魂の抜けたように真っ白になっていた。
高町家でおいしい夕食をごちそうになったアベルとモルガン。
また、ヴィヴィオはなのはとフェイトから新しいデバイスを貰っていた。
彼女に贈られたデバイスはウサギのぬいぐるみの外装(アクセサリー)を纏っている。
ヴィヴィオは新デバイスとの契約をするために自宅の庭に出た。
それをテラスから見守るアベルたち3人……
「…………マスター認証、高町ヴィヴィオ。術式はベルカ主体のミッド混合ハイブリッド。私の愛機(デバイス)に個体名称を登録。愛称(マスコットネーム)は『クリス』……正式名称『セイクリッド・ハート』!」
成長した娘に笑顔を浮かべるなのはとフェイト。
アベルもいつもと違う雰囲気のヴィヴィオに思わずドキッとしていた。
「いくよ♪クリス!セイクリッド・ハート!セーーット・アーーーップ!!!!!」
ヴィヴィオが強い光り包まれ、次に彼女が現れた時には金色の髪をサイドポニーで纏めた、十代後半の姿に成長していたのだ。
「えッ!!!」
フェイトは自身の目を疑う。
「うん、完璧!やったよ♪ママ、ありがとうーッ!」
起動に成功して喜ぶヴィヴィオ。
「良かった、上手くいったねー♪」
「うん、決まったね♪カッコいいと思うよヴィヴィオ♪」
「本当ッ!!?」
「うん、本当♪」
「ありがとうーーッ♪」
ヴィヴィオは喜びを押さえられない。
「じゃあ、次はアベルくんの番だよ?」
「え?僕もやるの?」
「そうだよ?私、見てみたいなぁ~?アベルくんのバリアジャケット姿?……………」
「……………分かった。モルガン、やろうか?」
「了解ですぅ。」
次はアベルが庭に立った。
「モルガン、セットアップ!」
アベルが叫ぶ。
次の瞬間、彼とモルガンが眩い光りに包まれた。
「ADF-X01モルガン・ル・フェイ。システム起動……武装化(アームズアップ)。」
光りの中ではモルガンの姿が飛行型ガジェットのようなモノになり、一方でアベルの身体はエメラルドグリーンの粒子に変化する。
「「融合((ユニゾン・イン))!!!」」
そして、粒子化したアベルは飛行型ガジェットに変化したモルガンの中に吸い込まれた。
光りが次第に晴れていく。
光りの中から現れたのは少々無骨な戦闘機を模した漆黒の飛行ガジェット……
「これがアベルくんのバリアジャケット?」
ヴィヴィオが聞いた。
「まぁ、正確には空中での高機動戦に特化した飛行(ファイター)モードで……………」
アベルは説明しながら、次は人型に変形して見せた。
「へ、変形した!!?」
「す、スゴい………始めて見た……」
なのはとヴィヴィオは唖然としている。
「ふへぇぇぇ~~」
そして、フェイトはとうとう腰を抜かし、その場に座り込んでしまった。
「ど、どうしたの?!!フェイトママ!!?」
「だって、ヴィヴィオが、ヴィヴィオが……聖王モードになっちゃった〰〰ッ!!?それに、アベルくんも不良に〰〰!」
「も~、僕はフリョーじゃないよ~フェイトおば様はヒドいな~」
「また、おば様って言われた〰〰!」
完全にパニックのフェイト……
聖王モードのヴィヴィオ、融合(ユニゾン)したアベルに、再びおばさん呼ばわりの三段攻撃が彼女のパニックに拍車を掛けていた。
「ちょ、ちょっと、落ち着こうか?フェイトちゃん!これはね……」
その後、アベルとヴィヴィオ、なのはの三人はフェイトを落ち着かせるのに四苦八苦するのだった。
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ここは『陸士108隊』の隊舎……
時間は夜の8時を回っていた。
『……………連続傷害事件?』
ここの部隊員である『ギンガ・ナカジマ』は自身の自宅にいる姉妹たちと通信をしていた。
「えーっと、事件ってほどではないんだけど………」
『どーいうこと?』
「全容はこう……被害者は主に格闘系の実力者が狙われているの。そういう人に街頭試合を申し込んでは……」
『フルボッコってわけ?』
「そう、正解よノーヴェ………」
『アタシ、そう言うの知ってるッス!喧嘩師(ストリートファイター)って言うんッス!』
『もう、ウェンディ、うるさい……』
『うるさいとは、なんッスか!!!』
『ほらほら、二人ともケンカは良くないぞ?』
『ううぅ……だって、チンク姉ぇ〜ディエチ姉が~~』
『ああ、仕方ないな……ウェンディ、こっちにおいで……』
甘えるウェンディの頭を優しく撫でるチンク……
『すまない、話の節を折ってしまったな?』
「別に気にしてないわ。いつもの事だから……それでこの事件に関しては、まだ被害届が出てないから事件扱いしてないけど、みんなも襲われないように気をつけてね。」
『分かった……まぁ、アタシなら?逆にボコボコにしてやるけどな♪』
ノーヴェは鼻息荒く拳を握る。
『ノーヴェ、それは迂闊すぎだよ?』
やる気まんまんのノーヴェを半ば呆れながら、姉妹のディエチがたしなめた。
『大丈夫だっーて!』
『フム、それでこれが例の容疑者の映像か……』
「ええ……自身を“覇王イングヴァルト”と名乗っているわ。」
『確かに強いな……経験豊富な実力者を秒殺ってわけか。でも、覇王って……』
「そう古代ベルカの……それも聖王戦争時代の王様の名前よ。あともう一つ……これは全管理局員に対しての通告。今日の昼過ぎに首都クラナガン中心部上空から南東部の海上にて、謎の飛行型ガジェットが現れたわ。」
空間モニターに映っていたのは、首都防空隊のエリート魔導士シグナムの攻撃を回避する黒い飛行型ガジェットの姿。
『なんッスか?あの動き……』
『機械らしからぬ……まるで生き物みたいな機動だ。』
『生き物って、大げさだなチンク姉は……』
「でも、ノーヴェ?チンクの言っている事はある意味正解よ。接触したシグナム二尉によるとアレは言葉を発するんですって……」
『しゃべるガジェット……』
「いいえ……シグナム二尉に言わせれば、アレは特殊なバリアジャケットなんだって。しかもアレは人型に変形もする。」
空間モニターの映像はシグナムの攻撃を人型に変形し、シールドで守る映像に切り替わる。
「声からしてアレは子供……そして、あのガジェット型のバリアジャケットは“モルガン”と呼称されるそうよ。」
『モルガン……また、古代ベルカの有名人か……』
「ノーヴェ?正しくは古代ベルカのおとぎ話に登場する妖精の名前だよ?」
『別に間違っちゃいないよ。それにしてもこの期に及んで古代ベルカに関係する名前が多いなぁ。』
「ええ……“覇王イングヴァルト”に“聖王オリヴィエの複写素体(クローン)のヴィヴィオ”、今日現れた“妖精モルガン”とそれを扱う子供と聖王教会には“冥王イクスヴェリア”………」
『まさに、古代ベルカ有名人の大放出の大バーゲンだな?』
ノーヴェの言った何気ない冗談はのちに現実のものとなる事を、誰も知るよしは無かった。
次回に続く。
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第四話 覇王イングヴァルト現る!
高町家での楽しい夕食会もお開きとなり、満足顔のアベルと愛機のモルガンが自宅に帰宅した時には、すでに夜の9時を回っていた。
「ふぅ……なのはさんとフェイトおば様の晩ごはん、おいしかったね~♪」
「はいですぅ……私もついつい食べ過ぎちゃいました~♪食後のキャラメルミルクも最高でしたし、ワタシ的には星三つですぅ♪」
「そうだね~お腹いっぱいで眠くなっちゃった。」
「次の日から学校も通常授業になりますし、早くお風呂に入って寝ましょう。」
アベルはお風呂に入り、明日の準備をしてベットに潜り込む。
モルガンも専用のベッドに横になった。
「お休み、モルガン………」
「マスターもお休みなさいですぅ………」
時間は経ち、深夜の1時頃……
アベルは悪い夢に苛まれていた。
「ん〰マスター、どうしたんですか?」
モルガンは、まだ眠たい目を擦りながら主であるアベルを見る。
アベルは物凄い量の寝汗をかき苦しそうな表情を浮かべていた。
「ッ!!?マ、マスターッ!!?どうしたんですか?マスター!」
驚き焦るモルガンは、アベルを必死になって起こす。
その甲斐あって、アベルは目を覚ました。
「ハッ!………モルガン………」
「大丈夫ですか?マスター……スゴい魘されてましたよ?」
「ゴメン、心配かけたね。」
「いいえ、マスターがご無事ならそれで良いんですぅ。あと差し支えなければ、マスターが見ていた夢がどんなモノか教えてくれませんか?」
「うん………あのね…………」
アベルが見ていた夢は、戦いの夢………
それも戦っているのは、知っている人たちばかりだった。
なのはにフェイト、大人モードのヴィヴィオ………
その時アベルは、夢の登場人物の一人に憑依していた。
その憑依した人物は、この騒動を企てた張本人………
「そうでしたか……それはツラいモノでしたね。」
「ゴメン……ちょっと、水を飲んでくる……………」
そう言ってアベルは、自室を出ていった。
それを見送るモルガンは少し笑っている。
「どうやら、順調ようです……エリス様にご報告をしなければなりません……」
いつもと口調の違うモルガン……
こちらが彼女の本心というのだろうか………
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その後、アベルは何事もなく日常を送った。
そして週末になった。
今日はヴィヴィオと引率者数人で聖王教会に行く。
そこには、ヴィヴィオの友達『冥王イクスヴェリア』が眠っているという。
「この子がヴィヴィオの友達の………」
病室のベッドには10歳前後の少女が横になり、静かに眠っていた。
「そうだよ、この子がイクスヴェリアだよ。」
「ワタシが見た感じ、バイタルも正常で健康そのものですぅ。」
お見舞いを終えたアベルとヴィヴィオは、他の引率者たちと合流する。
そして聖王教会をあとにしたアベルらは、ミッドチルダ中央市街地まで戻ってきた。
そこで待っていたのは、クラスメイトのリオとコロナ………
「あ、ヴィヴィオー!アベルくーん!」
「リオ、コロナ!おまたせー!」
「そう言えば、リオは二人とは初対面だったよね?」
「うん!はじめまして!去年の学期末にヴィヴィオさんとお友達になりました、リオ・ウェズリーです!よろしくお願いします!」
リオは引率者である、ノーヴェとウェンディに元気よく挨拶をする。
「こちらこそ、私はノーヴェ・ナカジマ。そいでこっちが………」
「その妹、ウェンディっス♪」
「ウェンディさんは、ヴィヴィオのお友達で………」
「こちらのノーヴェさんはヴィヴィオやコロナに格闘技(ストライクアーツ)を教えてるんだよ。」
「そう!私たちの先生!」
「よッ!師匠!」
自分の姉をからかうウェンディ………
「なに言ってんだ!二人ともッ////ウェンディも姉貴をからかうのはやめろ!」
照れているのか、ノーヴェは顔を赤くする。
「先生だよね~♪」
「教えてもらってるもん♪」
「私も先生と二人から伺ってます!」
ヴィヴィオとコロナも口を揃えて、ノーヴェはいい先生だと言い、リオは尊敬の眼差しを彼女に向けていた。
「だって、ノーヴェ先生?」
アベルが止めを刺すようにはにかむ。
「うっせ……私は本当にそんなんじゃない……アベル、大人をからかうのもいい加減しろ。」
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場所は変わり、ここは市街地にある公民館。
ヴィヴィオとコロナは、ここでノーヴェの指導のもとストライクアーツに励んでいた。
そして、リオは発参加でワクワクが止まらない。
ウェンディはベンチスペースに座り、四人のトレーニングを見学し、アベルはウェンディの隣でモルガンと共に空間モニターを弄っていた。
「いつも思っていたけど、どうしてアベルはヴィヴィオたちと一緒にストライクアーツをしないんッスか?」
ウェンディがアベルに聞く。
「う~ん、何でだろう?別に興味がないってこともないよ?一応、ルールは頭に入ってるから………」
モニターを弄りながら、アベルが応えた。
「じゃあ、どうして………」
「だって、僕のモルガンって格闘技向きじゃないし………」
「格闘技向きじゃない?」
「そう……モルガン、ウェンディさんに分かりやすく説明して上げて?」
「はいですぅ。そもそもワタシは重装甲・高機動・高火力による一方的な魔法戦をコンセプトにしてますぅ。」
そう言って、モルガンは魔導兵装のページをウェンディに見せる。
「例えば、この“六銃身連装電動駆動式機関砲(デュヒュージョン・ブラスター)”……発射速度は全兵装の中ではダントツなんですよぉ。ヴィヴィオちゃん達が接近戦を挑もうとする前に完膚無きまでにブチノメしちゃいますからぁ……」
「まあ……撃ち始めるまでに2~3秒のタイムラグが掛かるのと、取り回しが悪いのが欠点なんだけどね。」
「なんだか、物騒なモノが多すぎッス………」
「それと今は、モルガンの新しい変形機構のシステムを構築しているんだ。空戦特化型・人型………そして、陸戦に特化した“四足歩行獣化形態(ビーストモード)”……コイツには悪路での高速かつ安定した走破能力を持たせてる。」
「いったい、アベルはそこまでして何を求めているんッスか?」
「何って……“最強”の二文字さ……」
アベルはニヤリと笑う。
「あれ?マスター?この項目、初めて見ますねぇ………」
モルガンが空間モニターに記載されているデータ欄を開いて驚愕した。
「こ、これは………ッ!!?マスター!もしかしてッ!!?」
「この前、話してくれたじゃん。次元跳躍を可能にしてくれるという外装式のオプションパーツ♪見つけちゃったんだよね?キミの“記憶の海(データバンク)”からさ……データのサルベージもしたし、今は製作中だよ♪」
空間モニターには、データとともに完成予定の画像が乗っていた。
そのオプションパーツ名は“アヴァロン”といい、赤紫色のカラーリングで合体変形式のモノとなっている。
成人の4〜5倍ほどの大きさだった。
とんでもない代物の説明をモルガンに話す無邪気なアベルに、隣で座るウェンディは少し恐怖を覚えていた。
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ヴィヴィオたちがトレーニングが終えた頃には、すでに日が落ちていた。
「今日も楽しかったねー♪」
「て、言うか、色々と驚きの連続だったー!」
余韻覚めやらぬヴィヴィオたちは楽しそうに話しており、その様子をノーヴェとウェンディが笑顔で見ていた。
一方のアベルとモルガンは、彼女たちの後ろを着いてきている。
しかし、アベルの表情は険しい。
何かに警戒しているようだ。
「ねぇ?モルガン……気付いてる?」
「ええ……性別までは分かりませんが、確実にワタシたちの後を着けているですぅ………」
モルガンの髪の毛がアンテナのようにピンっと立っている。
「誰が狙いなのか分からないし、僕たちが動いてみようか?」
「もし、相手が釣れたら捕まえて理由を聞くつもりですね?」
「うん、そのとおりだよ。」
「おい、アベル。遅れているぞ?どうかしたのか?」
急にノーヴェが振り向いた。
「あ、いえ……あ、さっきまでいた公民館にちょっと忘れ物したみたいで………」
いきなりのことでアベルは慌て話しをはぐらかす。
「なんだって?」
「本当なの?アベルくん………」
「うん……だから、今から取りに戻ってくる。」
「今からかッ!!?」
「さすがに遅いんじゃない?」
「そうッスよ。」
みんなが心配する。
「大丈夫、すぐ追いつくから……モルガン!行くよ!武装化(アームズアップ)!」
「了解ですぅ!アームズアップですぅ!」
アベルとモルガンは強い光に包まれ、光が晴れると黒いロボットのような鎧を纏った姿になった。
「これがアベルくんのバリアジャケット……」
「かっこいい!」
アベルのバリアジャケットを始めて見たコロナは唖然とし、リオは目をキラキラと輝かせている。
そして、ノーヴェとウェンディはその姿を見て直ぐに思った。
「まさか!先週、ギン姉が言っていた変形する飛行型ガジェットって………おい、アベル!お前………!」
「じゃあ、ヴィヴィオ行ってくるね♪」
アベルは新しい変形機構『四足歩行獣化形態(ビーストモード)』になると、あっという間にミッドチルダの闇夜に消えていく。
「アベルくん、行っちゃった………」
「ねぇ、ノーヴェ……いきなり、どうしちゃったの?ウェンディも顔色が悪いよ?」
「あ、イヤ………何でもねえ………」
「アタシも大丈夫ッス………」
**************************************************************************************************
「どう?モルガン?……」
『はい……この形態、加速力が半端じゃないですぅ。それと例の追跡者は……どうやらワタシたちを追ってきてますね。』
「じゃあ、直ぐそこに広場があるからそこで出迎えよう。」
『了解ですぅ。』
アベルは路地を曲がり、人気のない広場まで来ると人型になった。
「さてと……ねえ!隠れてないで出てきたらーッ!」
アベルが叫ぶ。
すると広場に植えられていた木の陰から一人の女性が姿を現した。
年齢は十代半ば~後半。
髪の色は碧銀、腰ぐらいの長さをツインテールに纏めている。
そして、彼女は顔を隠す為にバイザーをしていた。
謎の女性が口を開く。
「アナタにいくつか伺いたい事と確かめさせて貰いたい事が………」
「ねぇ、質問する前にさぁ!その似合ってないバイザー取って自己紹介をしたら?」
「そうですか………(私的には似合っていると思っていたのに……)失礼しました。」
そう言って、彼女はバイザーを外した。
彼女の瞳はヴィヴィオと同じような左右で色の違う虹彩異色………
「カイザーアーツ正統…“ハイディ・E・S・イングヴァルト”……『覇王』を名乗らせて貰ってます。」
月夜を背景に凛とたたずむ自称覇王と名乗る彼女は、凄まじいオーラを醸し出していた。
次回に続く。
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第五話 アベルの実力
「私は、カイザーアーツ正統……“ハイディ・E・S・イングヴァルト”……『覇王』を名乗らせて貰ってます。」
満月を背景に覇王を名乗る彼女が話す。
「それで、その覇王さんが僕に何のようなんですか?」
「アナタに聞きたい事は二つ、先ず一つ目です。私は人を探しています。聖王オリヴィエの複製体(クローン)と冥府の炎王イクスヴェリア……アナタはその両方の所在を知りませんか?」
「知ってるよー聖王オリヴィエのクローンかどうかは分からないけど、その人と同じ瞳の子は僕の友達にいる。冥府の炎王イクスヴェリアについては今日会ってきた。彼女は聖王教会付属の病院にいるよ?これでいいかな?」
アベルは知っていることをペラペラと彼女に話した。
「では、二つ目です。その鎧(デバイス)をどこで手に入れたのですか?」
「モルガンのこと?これはこの間、四年生に進級したお祝いにママがプレゼントしてくれたんだよ?かっこいいでしょー♪」
モルガンを彼女にまんべんなく見せる為にクルリと一回転するアベル………
「はっきり言わせてます。そのデバイスは危険なモノです。コチラに渡して貰いませんか?」
彼女は手を出す。
「嫌だね!これは僕のモノさ!そもそも僕のモルガンをどうする気なの?」
アベルは彼女の要求をきっぱりと断った。
「今言ったようにそれは危険なモノ……完全に破壊します!」
今の言葉で両者の間に亀裂が入る。
「何だか一方的な言い分だね?キミ、フルボッコけってー!」
怒ったアベルは、右手に持ったフレアライフルを彼女向けトリガーを数回引いた。
「ならば、そのデバイス……力づくでいただきます!」
アベルの先制攻撃を皮切りにモルガンを巡った二人の戦いの火蓋が切られる。
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「ったく!アベルのヤツどこに行きやがったんだ?」
一方、ノーヴェは引率者の責任としてアベルを心配したのか周辺を探し回っていた。
次の瞬間、大きな爆発音が辺りに鳴り響く。
「な、何だッ!!?今のは………あっちか!…………」
ノーヴェは音の聞こえた方に走った。
そして、アベルのいる広場にたどり着く。
そこで見たものに彼女は驚愕した。
なんとアベルは、傷つき倒れている碧銀の若い女性の頭を踏みつけていたのだ。
「アベル!!!お前は何しているんだッ!!!」
ノーヴェが怒りの声を上げる。
その声に気づいたアベルが、彼女の方へ振り向いた。
「ん?あぁ、ノーヴェさん……いったい、こんな所で何をしているんですか?」
「何をだと?……それはこっちのセリフだ!お前を心配して探しに来てみれば………!」
ノーヴェは怒りで震えている。
しかし、アベルは普段通りに接した。
「別に探して欲しいとは、僕、言っていませんよ?」
「うるさい!ソイツは噂の通り魔!!?」
「彼女のことを知ってるんですか?」
「ああ……」
ノーヴェが覇王を名乗る彼女について説明する。
「ふーん……この人って、そんなに有名人なんだ……まあ、僕にはどうでもいい事だけど……」
アベルは覇王イングヴァルトの頭から足をどけたかと思うと彼女の腹部を強く蹴った。
「な……ッ!!!」
アベルに蹴られた彼女は一度バウンドするとそのままノーヴェの足元へ転がる。
その一部始終を目の当たりにしたノーヴェの中で何かが弾けた。
「この、バカったれがぁぁーーッ!!!ジェット・エッジ!!!」
『セットアップ………』
ノーヴェはバリアジャケットを纏う。
「アベル!どんな理由があるのか、私には分からねぇッ!だけど、お前はやり過ぎだ!」
「え?なになに?今度はノーヴェさんが相手になってくれるのッ?!!」
頭部装甲でアベルの表情は分からないが、声のトーンからして彼は興奮しているようだ。
「いい加減にしろォォォーー!!!」
ノーヴェとアベルの戦いが始まる。
先に動いたのは、ノーヴェ………
自慢の機動力を生かしアベルに肉薄した。
「はああぁぁーーッ!!!」
ノーヴェ渾身の右ブローがアベルの体を捕らえた瞬間、凄まじい金属音が響く。
「があぁぁああッ!!!な、何だってんだ!拳がぁぁッ!」
「わぁ!凄いな!今の一撃……♪モルガンの構築した魔力変換装甲が変形しちゃった♪だけどノーヴェさんの拳も使い物にならなくなったね?」
悶絶するノーヴェを心配するどころか、アベルはさらに興奮している。
「じゃあ、次は僕の番だよ!」
アベルの右手から三つの薬莢(カートリッジ)が射出されると紅く光り出した。
「一撃で終わらせて……あ・げ・るッ!」
ノーヴェに迫る深紅の掌は一層の輝きを放つ。
「くッ!………」
本能的に危険を感じとったノーヴェは、咄嗟にアベルの右手を蹴り上げた次の瞬間、その右手から砲撃にも似た魔力エネルギーが空を切る。
アベルが外してしまったのは“プラズマ・ラム”……
正式には『零距離(ゼロレンジ)超高出力収束魔力砲』と言い、両手に一発ずつ計二発限定の魔導兵装である。
また一回にカートリッジを三本分を利用して放つこの砲撃魔法は一撃必殺の威力があり、相手のバリアジャケットの耐久値に関係なく、絶大な魔力ダメージを与える事ができた。
『マスター。今のでプラズマ・ラムの残弾はゼロになるですぅ。』
「やっぱり、ノーヴェさんって凄いんだね!僕の“プラズマ・ラム”を本能的に往なすなんて……」
「ああ、直感で分かったよ………今のヤバいって………」
「まあ!プラズマ・ラムは今ので打ち止めだけど、僕の魔導兵装はまだまだあるんだよね!!!」
次に取り出したのは『六銃身連装電動駆動式機関砲(デュヒュージョン・ブラスター)』であった。
ちなみに武装形態(アームズアップ)中のアベルは2mを超える身長になる。
このデュヒュージョン・ブラスター全体は、その身長の1/3以上の大きさを誇っていた。
「ノーヴェさん!こっちもかなりヤバいよ!」
電動音とともに砲身が回転し始める。
そして、砲身が回転し始めて2秒後……両手に持ったデュヒュージョン・ブラスターからは猛烈な勢いで魔力弾が発射された。
「うわあぁぁッ!!!」
ノーヴェは発射される前に回避運動を取ろうしたが間に合わず、魔力弾による圧倒的な暴力に晒される。
「アハハハハ………ッ!!!」
アベルは高笑いしながら、デュヒュージョン・ブラスターのトリガーを引き続けた。
『マスター!爆煙で目標が見えない!』
火器管制を担当するモルガンはアベルに警告したが、とうの彼は無視して引き続ける。
この一斉射は20秒近く行われた。
爆煙が晴れると、そこにはバリアジャケットがボロボロに破損し、倒れているノーヴェの姿が……
「あ~あ、終わったね…ノーヴェさんも意外にも呆気なかったなぁ〜」
勝ち誇ったような態度のアベルは不用意に倒れているノーヴェに近づいた。
その時だった………
「まったく………ツメが甘いぞ?アベル!」
「エ……?」
次の瞬間、倒れて気を失っているはずのノーヴェがカッと目を見開き、素早く立ち上がるのと同時にアベルを蹴り抜いた。
不意を突かれたアベルは、顔面にノーヴェの蹴り『リボルバー・スパイク』が直撃、数メートル吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
「ぐッ!……ガッ!…………」
苦しみながらも立ち上がるアベル。
しかし、その立ち上がる姿は壊れかけのロボットの様で、破損した頭部装甲からはアベルの顔の一部が見えていた。
「い、今のは……か、なり効いたよ………モ、モルガン……フルパワーだ………ッ!」
『了解ですぅ……マスター、あんまりムチャしちゃダメですよぉ?』
アベルは飛び上がり、一度ノーヴェから距離をとる。
上空で飛行型に変形と同時に全身から炎熱変換された深紅の魔力が彼の全身を包んだ。
その姿は燃え盛る紅蓮の鳥のよう。
そして急加速しノーヴェ目掛けて再度向かって来た。
「ジェット……まだ、いけるか?」
『もちろんです!スタン・ショットをスタンバイします!』
ノーヴェもまた気合いを入れ直し、さらには左拳に魔力エネルギーが集中し強力な電撃を帯びる。
「いくぞ、アベル!お前の目を覚まさせてやる!」
「アハハ!……何を言っているの?僕の目は完全に覚めているよ!今度こそ終わらせてあげる!勝つのはこの僕だ!」
ノーヴェは、自身の魔力で生み出した道『エアライナー』の上を猛スピードで移動しアベルを迎え撃つ。
「必殺!天熾鳳!フェニックス・ブレイブ!!!」
「うおぉぉぉ!雷撃必中!スタン・ショットォォ!」
そして、ノーヴェ渾身の『スタン・ショット』とアベル必殺の『フェニックス・ブレイブ』が正面からぶつかり合った。
**************************************************************************************************
アベルとの戦闘を終わらせたノーヴェは仰向けになり、夜空を見上げていた。
一方、アベルはうつ伏せに倒れたまま起きない。
どうやらデバイスのモルガン共々、ノックアウトされ気を失っているようだ。
「ふぅ……マジでやり過ぎちまったな。大丈夫か?ジェット……」
『はい……何とか………』
「それにしても、アベルの奴、本当むちゃくちゃだよ……いてて……体も自由に動けん。」
ノーヴェは痛む体にムチを打ち、どこかに連絡を取り始める。
すぐに連絡した相手先から反応があった。
『はい、スバルです。』
通信に出たのは『スバル・ナカジマ』……ノーヴェの姉である。
四年前、訳あって二人は敵同士だったが今は中の良い姉妹の関係になった。
「ちょっと頼まれてくれないか?喧嘩して動けねぇ………」
『ええッ!!?……』
驚くスバル。
「相手はアベル・ガーネット………お前なら知ってるよな?」
『アベル・ガーネット………ガーネットって、もしかして本局の特捜班の班長“エリス・ガーネット”一佐の……』
「そう、一佐の息子だ。」
『ええッ!!?ちょっと、何してるのッ!!?』
スバルは妹のやらかしたことに冷や汗が止まらない。
本局幹部のご子息をぶっ飛ばしたのだから……
「ああぁッ!とにかく理由はあとから話すから!それに例の通り魔“覇王イングヴァルト”もすぐ近くにいる……頼んだ。」
その後、ノーヴェ、アベルと覇王イングヴァルトを名乗る女性の三人は、駆けつけたスバルとそのである親友『ティアナ・ランスター』によって保護され、スバルの自宅に向かうのだった。
次回に続く。
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第六話 アベルと覇王
アベルとノーヴェが激しい喧嘩をした明くる日の朝……
否、あれは喧嘩と言って良いのやら………朝日の心地よい日差しを浴びたアベルは目を覚ます。
「うーん……よく寝た……って、ここは……?ウチじゃない?知らない天井だ……」
アベルはボーッと天井をなんとなく見つめたかと思うとおもむろに横を見た。
彼の横には、可愛らしい寝顔で寝息をたてる少女が……見るかぎり自身よりも少しばかり年上のようだ。
「可愛い////………年上みたいけど。」
どうやら、アベルは眠っている少女に少しときめいてしまったようだ。
アベルがそう思いながら、眠っている少女を見ていると、その娘が不意に目を覚ます。
「「あ…………」」
二人の時間が止まる。
二人は目をパチくりとした。
そして二人の時間が急に動き出す。
先に動いたのは、少女の方………寝ていたベットから脱兎ごとき素早さで飛び起き、サッと身構えたのだ。
「え////どうして?ここはッ!!?」
自分の置かれた状況が分からず、少女は少しパニックになっているそんな時だった。
スライド式のドア開き、ノーヴェとティアナ、一緒にモルガンが部屋に入ってきた。
「よう、やっと起きたな?ねぼすけども。」
「おはよう、アベルくん……それから………」
「自称、覇王イングヴァルトさんですぅ!おはようございますよ、マスター♪」
朝から元気いっぱいのモルガン……昨夜、アベルと共にあれだけの大立ち回りをしたとは思えない。
「ねぇ、この人が本当にあの覇王さんなの?瞳は確かにあの人と同じだけど………?」
「そうですぅ。えっと本名は………」
「本名は“アインハルト・ストラトス”……」
「St.ヒルデ魔法学院中等科一年生……ごめんね。コインロッカーの荷物、出させてもらったわ……大丈夫、ちゃんと全部持ってきたから……」
「それにしても、制服と学生証を持ち歩いてっとは、ずいぶんトボケた喧嘩屋だな?」
「仕方ないでしょう。学校帰りだったんです……」
「それで?僕に喧嘩売って、戦って、負けちゃったわけ?」
「もう、余計なことは言わないで下さい……////」
アインハルトは顔を赤くした。
再びスライドドアが開き、両手に朝食を持ったスバルが現れる。
「あ、アベルにアインハルトも起きたんだ♪おはよう♪さあ!みんな♪お待ちかねの朝ごはんだよー♪」
「おおー!ベーコンエッグ!私の大好物じゃねえか!姉貴、分かってる!」
子供のようにテンション高めのノーヴェ。
「ほら、ノーヴェ……少しは落ち着きなさい。野菜スープこぼすわよ?」
そんな彼女をたしなめるティアナ。
「あ……はじめましてだね?アインハルト……アベルもこうして直接話すのは、始めてだったかな?私はスバル・ナカジマです。よろしく♪」
「はい、アインハルト・ストラトスです。はじめまして……」
「アベル・ガーネットと………」
「ADF-X01 モルガン・ル・フェイですぅ。」
アベルたちは、スバルに頭を下げた。
「お互いに事情とか色々あるとは思うけど、まずは朝ごはんでも食べながら、お話しを聞かせてくれたら嬉しいな♪」
モルガンを含めた五人は、スバル特製の朝食を食べる。
「食べながらで良い……二人とも聞いてくれ。ここはコイツ、私の姉貴……スバルの家。」
「うん、そうだよー」
「で、その姉貴の親友で本局執務官の………」
「ティアナ・ランスターです。」
「私を含めたお前たちを保護して介抱したのは、この二人なんだ。感謝しろよ………」
ノーヴェに促され、アベルとアインハルトはぺこりと頭を下げる。
「でも、ダメだよノーヴェ?いきなりの事だからって、こんなちっちゃい子にヒドイ事しちゃ……」
「何言ってるだよ、姉貴……こっちだって思いっきりヤられてまだ全身が痛いだぞ。なぁ、アインハルト?」
「ブッ!!?……ケホッ、ケホッ……い、いきなり何をッ?!!……」
ノーヴェにいきなり話題をフラれたアインハルトは、思わず吹き出した。
「………ふぅ、確かに……彼の…アベルくんのチカラには目を見張るモノがありました。実際に私の拳ではアベルくんにダメージを与える事ができませんでしたし……」
「あぁ、アベルの装甲の強度はシャレにならなかった。」
「魔法道具って言っても良いのでしょうか?……彼の使うアレは?………」
「そんなに凄いの?アベルくんのバリアジャケットって……」
「凄いってモンじゃない。めちゃくちゃなんだよ……」
ノーヴェとアインハルトの話しを聞きながら、静かに食事をしていたアベルがついに口を開く。
「知りたいの?だったら、モルガン……説明してあげなよ。キミの凄さをさ……」
「分かりましたぁ。」
モルガンが空間モニターを広げた。
「まず装甲についてですが、はっきり言いますぅ。皆さまの言うアレはバリアジャケットではありません………マスターが纏っているのは、私が変化した“武装鎧(アーマージャケット)”ですぅ。魔力転換装甲と呼ばれる装甲盤は理論上、最大火力の収束砲を一発なら防げますぅ。」
「最大火力の収束砲って……」
「スターライト・ブレイカーですよ……知ってるでしょう?スバルさんとティアナさん二人を育て上げた魔法戦のプロの一人で、僕の幼なじみヴィヴィオの母親……なのはさんが使う最強の砲撃魔法だよ……」
みんなは唖然としている。
モルガンはさらにモニターの画面を変えた。
「あと僕が使っているのは、ただの魔法道具じゃないよ。」
「正式には魔導兵装って言いますぅ。ワタシは大昔にベルカ地方の僻地に封印されていました。ある日マスターのお母さまが率いる考古学チームに発掘され、その後ワタシは研究のために覚醒させられ、研究の際にデータバンクの中にあったモノを再現、実装しました。」
「モルガンちゃんの話しって、なんだか物騒だね?」
「そうですかぁ?良く分んないですぅ。」
「アベルは何か知っているの?」
「さあ?そこについては僕も始めて聞きましたし……詳しいことは分らないですね。」
「そうか……なら、仕方ないな……じゃあ、次はアインハルトだな?」
「あなたが格闘家相手の連続襲撃犯って言うのは本当なの?」
「…………はい。否定はしません。」
「じゃあ、どうしてこんなことを繰り返して来たのか、理由を聞かせて貰えるかな?」
アインハルトが手に持っていたフォークを置き、少し俯きながら話し始める。
「私は覇王イングヴァルトの血を色濃く引いています。この碧銀の髪や虹彩異色の瞳、それに覇王の身体資質に覇王流(カイザーアーツ)……あと断片的ではありますが、彼の記憶も受け継いでいます。古代ベルカの戦乱時の話です……当時、武技において最強を誇った一人の王女がいました。名前を“オリヴィエ・ゼーゲブレヒト”……後の『最後のゆりかごの聖王』です。」
アインハルトは自身の思いの丈を、ノーヴェたちに訴えた。
「だいたい、分かったよ……お前の中では、大昔のベルカの戦争がまだ終わってないのか……」
「私は、古きベルカのどの王よりも覇王のこの身が強くあること……それを証明できればいいだけで……」
「と言うことは、聖王家や冥王家に恨みがあるわけではないんだな?」
「はい……もちろんです。」
「そう……なら、良かった。」
スバルは胸を撫で下ろし優しそうな笑みを浮かべる。
「スバルはね、その二人と仲良しなもんだから……」
「そーいうこと♪」
「はあ………」
「あとで近くの署に一緒に行きましょ?被害届は出てないって話だし、もう路上で喧嘩しないって約束してくれたらすぐに帰られるはずだから……」
「なあ、ティアナ……今回の事は私も同席するよ。私も含めてみんなが悪い……喧嘩両成敗ってやつにしてもらおう。お前らもいいな?」
「……はい、分かりました。」
「はい、ありがとうございます……」
「だけど、アベルくんに関しては別の案件で聴きたい事があるから、直ぐには帰れないわよ。」
「え、直ぐには帰れないの?別の案件って、モルガンは心当たりとかある?」
「いいえ。何もないと思いますよぉ?」
「ほら、この間……一週間ぐらい前よ。アナタたちミッドチルダの上空を許可なく勝手に飛び回ったでしょう?」
ティアナに言われて、ようやくアベルは思い出した。
「あ、その事……」
「そうよ。あの後、地上本部は大騒ぎになったんだから。アナタたちのした行為は航空法に違反するれっきとした犯罪よ。分かる?ミッドチルダの上空はたくさんの飛行機が飛んでいるの。万が一の事があったらアナタたちは責任が取れないでしょ?」
「だけど……」
「だけどじゃありません!この案件は私が受け持ちます。アナタたちには、きちんと反省してもらうからね!」
その後アベルは、こっぴどくティアナに叱られるのであった。
****************************************************************************************************
ここは、“湾岸第六警防署”……
アベルとアインハルトは大人組に付き添われる形でここに来て、事後処理をしていた。
アインハルトは警防署職員から厳重に注意を受け、ティアナはアベルと別室で事情聴取を受けている。
ノーヴェは二人よりも早く処理が終わり、スバルと三人を待っていた。
「悪かったな姉貴、折角の非番だっていうのに……」
「ううん、別に気にしてないよ。」
「しかし、姉貴ってばベルカ関係のヤツとよく知り合うよな?」
「そうだねー♪ヴィヴィオにイクス、アインハルトにモルガンとその使い手アベル……なんか運命を感じるな♪あの子達、特にアインハルトは色々と抱え込んじゃってるみたいだし、このまま放ってはおけないかも……」
「そうだな。そこはアベル共々、私が責任を持って面倒を見るよ………お、アインハルトが終わったみたいだな。悪いけど、ちょっと行ってくる……」
「うん、分かった♪」
そう言って、スバルはノーヴェを見送る。
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事後処理を終えたアインハルトは通路に置かれたベンチに腰掛け考え事をしていた。
「(私は、何をやってるんだろう……やらなきゃならない事がたくさんあるのに………)」
そんな彼女に忍び寄る影が………
「よう?終わったか?」
それはノーヴェだった。
キンキンに冷えた缶ジュースを考え事するアインハルトの頬に当てる。
考え事をしていた彼女にとっては堪った物ではなかった。
「ひゃわあッ!!?」
「ハハ……隙だらけだぜ?覇王様♪」
不意を突かれ、あわあわとするアインハルトを見てノーヴェは笑っている。
ノーヴェはアインハルトの隣に座り彼女に話しかけた。
「なあ、アインハルト。ウチの姉貴やティアナは、局員の中でも結構すごいヤツらなんだ……古代ベルカ系に詳しい専門家もたくさん知っている。お前の言う“戦争”がなんなのか、アタシは分かんねぇけど、協力できる事があんなら私たちが手伝ってやる。だから……」
「聖王たちには、手を出すな……と?」
「違ェよ……あ、いや違わくねぇか?何だかワケ分からん。とにかくお前に一つだけ言いたい事がある。お前、格闘技(ストライクアーツ)が好きだろ?」
「え?いきなり何を……」
「私もまだ修行中だけど、コーチの真似事もしてっからよ。才能や気持ちを見る目だけはあるつもりだ。と言ってもお前の場合、防犯カメラの映像を見ただけだがな……違うか?好きじゃねぇのか?」
少し考えてアインハルトは口を開く。
「分かりません。そういう気持ちで考えた事がありません……覇王流(カイザーアーツ)は私の存在理由そのものですから……」
「そうか……これに関しては難しいな。まあ、ゆっくり考えていこうか……お、アベルも終わったみたいだから、そろそろ行こうか。」
「はい。」
ノーヴェとアインハルトはみんなと合流した。
「よし、二人とも無事に終わったな?これからどうする?学校に行くか?」
「もちろん行きます。」
「よし、真面目でけっこう。アベルは?」
「先輩(アインハルトさん)が行くのに、後輩の僕がサボるわけにはいかないでしょ。」
「うわぁ〜ちっとも可愛げねぇなぁ〜」
「よけいなお世話です……」
「まあ……理由はアレだけど、アベルもいい子だね♪ご褒美にこのスバルお姉さんがナデナデしてあげる♪ホレぇー!」
スバルはアベルの頭を撫でまわす。
「ちょっと、スバルさん!恥ずかしいから子供扱いしないでくださいッ////」
アベルは恥ずかしさから、スバルのもとから離れ、ティアナの後ろにサッと隠れる。
「あ、アベルのイケず……」
「フン、子供扱いするなって言われてもねぇ~」
ノーヴェはアベルのことを鼻で笑っていた。
「でも、アベルくんは制服はどうするの?」
スバルが聞く。
「あ、そうだった。僕、制服持ってなかったんだ。どうしよう?空を飛べたらなぁ〜」
アベルがティアナに目配せした。
「ダメよ。アベル………私と約束したわよね?」
「でも〜」
「大丈夫。私が送るわ。」
分署の外に出た5人とモルガンは駐車場へ……
そこでティアナの車とスバルの車に分かれる。
「さあ乗って。」
「分かりました。」
アベルとモルガンはティアナの車の後部座席に乗りみ、シートベルトを装着した。
「準備は良いわね?」
「はい、大丈夫です……」
ティアナは車のスタートボタンを押す。
電動機(モーター)が起動し、ティアナはアクセルを軽く数回踏んだ。
アクセルを踏むたびに、モーターが力強く唸る。
「さあ!行くわーよ!」
ティアナはギアをドライブに入れ、アクセルを踏み込むと爆発的な加速であっという間にスバルたちの前から去って行った。
「あの……ティアナさんの運転はいつもあんな感じなんですか?アベルくんは大丈夫でしょうか?」
アインハルトはあ然とし、同乗しているアベルを心配する。
「相変わらずだな、ティアナの走りは………」
「未だに走り屋のアニメにハマってるからねぇ〜♪酔い止めの薬、渡しとけば良かったなぁ〜」
アインハルトとは逆に冷静な二人……
そして、アインハルトとノーヴェを載せた車は、スバルの安全運転でアインハルトの学校へ向かうのだった。
次回に続く。
勝手なイメージです。
ティアナの車は NISSAN GT-R 色はオレンジ。
また、KTMのリッターバイクに乗っててほしい。
スバルの車は SUBARU ステラ 色はスカイブルーメタリックです。
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第七話 すれ違う想い
アベルはノーヴェたちと別れた後、ティアナの攻めた運転で自宅に戻って来た。
「ほらほら〜チャッチャと降りて、サッサッと準備して戻ってくる!」
「うぅ……気持ち悪い………吐きそう………」
「ワタシもですぅ……」
アベルとモルガンの顔は真っ青とおり越して真っ白になっている。
「な~に、弱気なこと言ってんの!ほらぁ〜急いだ急いだ~!」
アベルはモルガンを肩に乗せ、フラフラと自宅に入っていった。
そして10分後……学校の制服に着替えたアベルが再びティアナの元に戻る。
「用意は出来たッ?」
「え?えぇ………」
「じゃあ、乗った乗った!」
ティアナはアベルとモルガンに早く車に乗るように急かせた。
しかし、アベルたちは一向に車に乗ろうとしない。
「どうしたの?アベル?早く………」
「イヤだ………」
ボソッとアベルが呟くように拒絶する。
「え?何いってんのよ?学校は?」
「行くけど……ティアナさんの運転は荒くてイヤなんです!」
彼の言葉に呼応したモルガンがデバイスとして起動、モルガンは黒い飛行ガジェットのような姿になった。
「よいしょっと……!」
飛行ガジェットに変身したモルガンの上に肩幅に足を広げて立つようにアベルが乗る。
「ちょっと、アベル!あなた、いったい何をッ!!?」
慌てた様子のティアナ。
「ここからは自分で行きます!」
そういうとアベルを乗せたモルガンが少し宙に浮く。
「まさか……ッ!!?」
「ここまでありがとね、ティアナさん。」
アベルはティアナに対して一応のお礼を言うと、自分の通う学校に飛んでいった。
「コラァーー!降りていらっしゃいー!」
ティアナが下から叫んでいるが、とうのアベルは気にする様子もない。
いつもは30分近く掛かる道のりも、モルガンの空中輸送能力で5分足らずで到着する。
学校の屋上に降りたったアベルは、自身のクラスへと向かう。
そして教室に入るなり、ヴィヴィオを筆頭するクラスメイトたちに色々聴かれ、アベルは昨晩から続く一連の出来事を正直に話した。
正直に話したら話したで、アベルはヴィヴィオに怒られる。
同い年の二人ではあるが、ヴィヴィオがまるでアベルのお姉さんように見える。
彼女の親友のリオやコロナ、また仲の良い他のクラスメイトもまたかと苦笑い……
それに気づいたアベルとヴィヴィオは顔を赤くしていた。
****************************************************************************************************
昼も14時を過ぎた頃。
ここは街中のとあるカフェテラス……
ノーヴェとスバル、ティアナはそこでお茶をしている。
「ったく……アベルったら、あれほど忠告したのに!」
不機嫌なティアナは、一緒のテーブル座るスバルとノーヴェにボヤキが止まらい。
「しかたないよー。ティアナの運転攻めすぎだし……アベルくんの気持ちも分からなくないよ?」
「だけど、私は執務官として……!」
「まあまあ、ティア。紅茶でも飲んで少し落ち着こうよ。」
「でも、二人ともせっかくの休暇だろ?無理にこっちに付き合わなくても良かったのに……」
「あははー♪」
「別に気にしなくてもいいわよ。それにアインハルトやアベルの事も気になるしね♪」
「そうそう♪何だか二人とも目を離せないないんだよねー♪」
「まぁ、それはありがたいけど問題はさ………」
そう言って、ノーヴェが別のテーブルを見る。
「なんで、お前らまで揃ってんのかってことだ!チンク姉だけだぞ私が呼んだのは!」
そこにいたのはノーヴェの姉妹たち……ウェンディは用意されたサンドイッチをこれでもかとドカ食いし、ディエチは紅茶をすすり、時代を越えた聖王と覇王の出逢いに思いを馳せている。
また、聖王教会から赴いたオットーとディードはヴィヴィオの護衛らしい。
「すまないなノーヴェ。一応、姉も止めたのだが……」
チンクが手を合わせ、ペコりと頭を下げた。
「うぅ……」
そんな姿を見たノーヴェはしぶしぶ了解するしかない。
「まぁ、見学自体は構わねえけど、余計なチャチャは入れんなよ?」
ノーヴェが姉妹たちに忠告をするが……
「「「「「はーーーい!!!」」」」」
チンク以外の姉妹たちは、子供のような元気に返事をするだけで、本当に彼女の忠告を聞いているのやら……
みんなが集まり、お茶をしながら待つこと30分余りが経った頃……
「ノーヴェ!みんなー!」
「「こんにちわー!」」
そこへ学校を済ませたヴィヴィオたちがやって来た。
ヴィヴィオたちの中にアベルを見つけたティアナがいの一番に席を立つ。
「アベルーッ!」
そしてアベルの前までに来ると、ティアナは彼のほっぺたをぎゅうぅぅッと抓った。
「ッ!!?いたい、いたいよ〜!」
ティアナに抓られた挙げ句に引っ張られて、アベルは痛そうにもがいている。
「あぁ〜もう、ティア?よしなよ。」
スバルに止められて、ティアナはようやくアベルを開放した。
「大丈夫?アベルくん……」
アベルの腫れた頬をスバルが優しく撫であげている。
「良いのよ、スバル!これはお仕置きよ!逮捕されないだけ、ありがたく思いなさい。」
「大人気ないよ。ティア……」
「うるさい!」
「あーやかましくて悪ィな……ヴィヴィオ」
「ううん、私は大丈夫。あ、だけど聞いたよ?~昨日のアベルくんと喧嘩したんだってね?」
「あ、まあ……」
「もう、驚いちゃった。それでどうだった?アベルくん、強かった?」
「ああ、けっこう強かったぞ。まあまあだった……」
この言葉にアベルが反応する。
「まあまあ?何を言っているの?ノーヴェさん……僕が敗けたみたいな言い方はやめてくださいよ。昨日の喧嘩はあくまでも引き分けでした!」
年上のノーヴェに強気のアベル……彼の瞳には、強い闘争心がみなぎっていた。
「何だとッ!!?百歩譲って引き分けだったとしても、あの引き分けはお前のデバイスの性能があって言えの引き分けだ!私もゼッテーに負けねェッ!」
お互いに顔を近づけいがみ合う二人。
一触即発の雰囲気に慌てて二人の間にヴィヴィオとモルガンが割って入る。
「ケンカはダメだよ!ノーヴェ!」
「そうですぅ!落ち着いてください、マスター!」
しかし、二人は止まらない。
困り果てるヴィヴィオとモルガン……そこに思わぬ形で助け船が入った。
「ISレイストーム……」
そう、オットーである。
アベルとノーヴェは、彼女のIS(インヒュレート・スキル)によって捕縛されたのだ。
光り輝くヒモ状の物が二人を縛り上げる。
「いい加減にして下さい、二人も……陛下たちが困っております。」
オットーに言われ、二人がヴィヴィオとモルガンを見た。
二人は涙目でおどおどしている。
「悪かった……ちょっと、アツくなりすぎたよ……」
「僕も………ごめんなさい。」
アベルとノーヴェは、ようやくおとなしくなった。
場も落ち着きを戻す。
「あ、お昼にメールで“紹介したい娘がいる”って言ってたけど……」
「そう言えばそうだったな……そろそろ待ち合わせの時間だ。もうすぐ来るぞ……」
「それで、その娘って何歳?流派は?」
嬉しさを抑えられないヴィヴィオは矢継ぎ早にノーヴェに聞いた。
「お前の学校の中等科の一年生……先輩だ。流派はまあ………旧ベルカ式の古流武術だな。」
「へぇー」
「それとあれだ……お前と同じ虹彩異色だ。」
それを聞いたヴィヴィオの表情が明るくなる。
「ほんとーッ!!?」
「まあ、ヴィヴィオ座ったら?」
「そうそう♪」
「あ、そうですよね!………」
ヴィヴィオたちがノーヴェに促されて席に着こうとしたその時、アインハルトが待ち合わせの場所にやって来た。
「失礼します……ノーヴェさん、皆さん、アインハルト・ストラトス参りました。」
彼女の凛とした姿を見たヴィヴィオは少しの間見とれてしまった。
ヴィヴィオが見とれている間、アインハルトはノーヴェたちに挨拶をしている。
そして、アインハルトはヴィヴィオの前にやって来て握手を求めて右手を差し出した。
「アナタが高町ヴィヴィオさん?初めましてベルカ古流武術、アインハルト・ストラトスです。」
「あ、すみません……私、ミッド式格闘技(ストライクアーツ)をやってます高町ヴィヴィオです!コチラこそよろしくお願いします♪」
ヴィヴィオとアインハルトが握手を交わす。
「(小さな手……脆そうな体……だけど、この紅と翠の鮮やかな瞳は、“覇王(わたし)“の記憶に焼き付いた間違うはずもない聖王女の証………)」
アインハルトはヴィヴィオと握手しながらそんなことを考えていた。
そんな彼女を心配したヴィヴィオは、アインハルトに声を掛ける。
「あの、アインハルトさん?……」
「………い、いえ、失礼しました。」
「まあ、二人とも格闘技者同士ごちゃごちゃ話すよりも、手合わせした方が良いだろう?場所は私が押さえてあるから、早速行こうぜ!」
ノーヴェの取り計らいにより、アインハルトとヴィヴィオ達は区民センターに移動した。
****************************************************************************************************
アインハルトとヴィヴィオは、動きやすい服装に着替えコートの真ん中に向かい合うように立ち、ウォーミングアップをしている。
「んじゃ、そろそろスパーリングを始めようか?」
「はい!」「はい………」
「4分1ラウンド、射砲撃や拘束(バインド)はナシの格闘オンリー……」
いよいよ始まる、アインハルトとヴィヴィオの記念すべき第一戦目……二人は身構えた。
外野(ギャラリー)のアベルたちも息を飲んで見守る。
「レディ・ゴー!」
ノーヴェの掛け声と共に、ヴィヴィオが先手を取った。
一気に間合いを詰め、アインハルトの懐に潜り込むと鋭い右拳打を繰り出す。
しかし、アインハルトはその一撃を正面から受け止めた。
この瞬間、ギャラリーから歓声が上がる。
ヴィヴィオの繰り出す連撃を、アインハルトはすべて防御と受け流しで受けきっていた。
「ヴィヴィオって、変身前でもけっこう強いッ!!?」
「まあね♪師匠(ノーヴェ)と一緒に練習頑張ってるからね♪」
ヴィヴィオを幼い頃から知っているティアナは彼女の成長っぷりに驚く。
一方、防御に徹するアインハルトは……
「(本当に……本当に、この娘が覇王の拳を……覇王の悲願を受け止めてくれるのだろうか?……)」
彼女はそんなことを考えていた。
「(いや、ダメだ……いくらヴィヴィオさんが聖王女のクローンでも違う!彼女ではない!だから!……)」
そして、アインハルトはヴィヴィオの隙を突き、掌底で突き飛ばすとヴィヴィオに背中を向ける。
一方的にスパーリングを止めたのだ。
「お手合わせありがとうございました。」
その場から去ろうとする彼女の背中からは寂しさが感じ取れる。
それにいち早く気づいたヴィヴィオは、彼女に声を掛けた。
「あ、あの!すみません!私、何か失礼なことを……?」
「いいえ………」
「じゃ、じゃあ……あの、私……弱すぎました?」
「いいえ、まっすぐな拳、まっすぐな瞳に心……充分過ぎるにお強いです。“趣味と遊びの範囲の内”でしたら………」
アインハルトの言った『趣味と遊びの範囲内なら充分に強い』……この言葉がヴィヴィオの心に深く突き刺さる。
「申し訳ありません……私の身勝手です。」
再び歩を進めようとしたアインハルトをヴィヴィオが呼び止めて頭を下げた。
「あの、すみません!今のスパーが不真面目に感じたのなら謝ります!だからッ!…………」
その時だった………深紅の魔力弾が、アインハルトの顔の直ぐ脇を掠めて壁に着弾する。
アインハルトは咄嗟に魔力弾の飛んで来た方に向き直った。
そこに立っていたのは、“ツインフレアライフル”の片割れを右手に持ち構えるアベル。
ライフルの銃口からは熱気が上がっていた。
ヴィヴィオを始めその場のみんなの表情が凍りつく。
「僕のヴィヴィオを傷つけて何様のつもり?アインハルトさん、返答しだいじゃ許さないよ?」
「アナタには関係ないこと……放って置いて下さい。」
そう言って、アインハルトは立ち去ろうとする。
だが、アベルは彼女を逃がさない……
ツインフレアライフルを再び放ったのだ。
「そう言って自分の心を誤魔化して全部から逃げてきたんだね?アインハルトさん……いや、“覇王イングヴァルトの亡霊”………!」
アベルの言葉にアインハルトが激昂する。
「違いますッ!私は……私は覇王の亡霊なんかではありませんッ!!!」
そして、アインハルトがバリアジャケットを纏い、アベルに襲い掛かった。
凄まじい突進力で間合いを詰めるアインハルト。
アベルも素早く武装化(アームズアップ)をすると彼女の打撃をフリーの左手で受け止める。
「おい!お前ら何を勝手に!………」
ノーヴェが二人を制止しようとした。
「うるさいッ!これは僕とアインハルトさんの問題です!ノーヴェさんは黙っていて下さい!」
「何だとッ!!?オットー!」
「ええ!分かってます。ISレイストーム!」
オットーが再びレイストームを発動した。
アインハルトとアベルが拘束される。
アベルは二回目だ。
しかし、今回はアベルも黙っていなかった。
「邪魔を………するなぁぁーーッ!!!」
アベルが叫ぶ。
その瞬間、彼の各間接部からカッター状の魔力エネルギーが吹き出しレイストームの拘束を切り裂いた。
オットーは自身の目を疑う。
子供相手の手加減モードで使ったとはいえ、二人を取り押さえるには充分な威力だった。
しかし、アベルはそれを瞬時に破ったのだ。
「外に出なよ、アインハルトさん……昨日の続きをしようか……」
「望むところです……ッ!」
二人は外に出る。
コートが入っている公民館の外には広場があった。
そこで闘争心剥き出しの二人は構える。
「やめて!アベルくん!アインハルトさんも!」
ヴィヴィオは二人を止めようとした。
「………ヴィヴィオも黙ってて!これはキミためにやってるんだよッ?!!分からないッ?!!」
「そんな……私、こんなの望んでないよッ!!!」
ヴィヴィオは涙を流す。
それ以降、アベルは闘いが終わるまでヴィヴィオと話さなかった。
「アインハルトさん、約束して下さい……僕がこの闘いに勝ったら、もう一度、ヴィヴィオと手合わせをしてやって下さい。」
「………分かりました。」
「今日は魔導兵装は使いません……正々堂々、お互いの拳のみでやり合いましょう。」
そう言うと、アベルは外装をパージする。
外装を外したアベルは、黒いボディスーツに深紅のコートを纏ったとてもシンプルな物だ。
「どちらから行きます?先手を譲って上げても…………って、わァッ!!?」
アベルが言葉を言い終わらない内にアインハルトはいっきに肉薄し、鋭い右ストレートを放つ。
「昨日は遅れを取りましたが、今回は負けませんよ!はっきり言って隙だらけです!」
彼女の放った渾身の打撃がアベルの顔面にクリーンヒットした。
この一撃は重たく、アベルはふき飛び数回バウンドしてそのまま地面にひれ伏す。
誰もが終わったと思ったが、アベルはおぼつかない足で立ち上がった。
「まだやるんですか?純粋な格闘技なら私は負けませんよ!」
立ち上がったアベルを再度沈めようと、アインハルトは攻撃の手を休めない。
アベルは彼女の凄まじい連撃を防御しようとするが、防御をくぐり抜けた打撃や蹴打が次々と炸裂する。
「もう、やめて!アインハルトさん!このままじゃ、アベルくんが………ッ!!!」
「アベルもさっさとギブアップするんだ!」
「そうだよ!アベルくん!」
ヴィヴィオやノーヴェを始め他のギャラリーからも声が上がるが、アベルはそれらを一切無視してアインハルトに食らいついた。
「なぜですッ?!!どうして諦めないのですか?ギブアップすれば楽になれるものを……ッ!」
アインハルトもアベルとやり合いながら、ギブアップを進める。
「諦めない!アインハルトさんとヴィヴィオが仲良くしてもらうためにも、僕は諦めることはできないんだァァァッ!!!」
アベルが思いの内を叫んだ瞬間、彼の中で何かが弾けた。
アインハルトの打撃を避けると同時に、彼のカウンター彼女の顎を穿った。
彼のカウンターが入ったアインハルトは、ふらつきながら数歩後ろに下がる。
「何?今の………意識を持って逝かれそうだった。」
アインハルトは頭を振って意識を保とうした。
アベルはここぞと言うチャンスを見逃さない。
一気に彼女との勝負に出る。
アベルは、アインハルトに対して猛烈なラッシュを繰り出した。
アベルの拳や蹴りが次々とアインハルトにヒットする。
「見える!アインハルトさんの動きが僕にも見えるッ!!!」
アベルは、何かに覚醒したかのように動きが劇的に変わった。
この瞬間を見ていたギャラリーは………
「何てヤツだ……」
「うん、動きが変わった。」
「すごい、アベルくん……あれはヴィヴィオの“俊足の追い足(ジェット・ステップ)”ッ!!?」
「次は私のスタンショットだ。」
「どうして?アベルくんはストライクアーツをしてないのに……」
「たぶん見て覚えたんだ。聞いたことがある……観とり稽古ってやつだな。」
「そんなことできるのノーヴェ?」
「スバル、それは分からない……だけど、現にアイツはアインハルトを押している!」
そして、お互いの勝敗が決まる時が来た。
満身創痍の二人が魔力を集中させる。
「モルガン!全力全開!」
『了解ですぅ!魔力エネルギーを両手に集中させますぅ!』
「こちらも行きますッ!!!」
一度間合いを取っていた二人が、一気に間合いを詰めた。
「一撃必殺!ファイル・デッド・エンド!」
「覇王流、断空拳!」
アベルの放つ深紅の爪と、アインハルト渾身の一撃が真正面からぶつかる。
猛烈な爆風と衝撃波が起き、ヴィヴィオたちも耐えるのに必死だった。
場も静けさを取り戻し、ヴィヴィオは目を開けて目を疑う。
アインハルトの拳がアベルの腹部にめり込んでいたのだ。
一方、アベルの魔力爪はアインハルト眼前で止まり、あと一歩のところで届かなかった。
アインハルトが拳を抜くと、アベルが力なく彼女に向かって倒れかかる。
「アベルくん!……」
ヴィヴィオは闘いを終えたアベルを支えるアインハルトのもとへ急いで駆け寄った。
「アベルくん!アベルくん!……」
アインハルトからアベルを受け取ったヴィヴィオは、心配し彼に声を掛ける。
「大丈夫です、ヴィヴィオさん……防護(フィールド)は抜かないように加減はしました。」
そう言って、アインハルトはヴィヴィオの肩に手を置いた。
「あ、ありがとうございます。」
「それと彼に伝えといて下さい。アナタの力はあと一歩、私に届きませんでしたが、約束は守ります。と………」
「分かりました。伝えときます………」
「では皆さん、私はこれで……」
アインハルトはバリアジャケットを解除すると、自宅に帰って行くのだった。
次回に続く。
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第八話 いざ!旅行へ!
アベルとアインハルトの格闘戦をやってから十日ほどが過ぎた。
拳で語り合ったせいか、二人の仲は異常に良く、またヴィヴィオたちもすっかり仲良くなっていた。
そして、ただいま“St.ヒルデ魔法学院”を含めたミッドチルダ中の学校が一学期の前期試験の真っ最中である。
「今日も試験だよー!大変だよー!」
「大丈夫かなぁ~」
アベルたち四人はヴィヴィオの席に集まって、試験前の最後のあがきをしていた。
そして最終日のテストも終わり、四人はヴィヴィオの家に来て、なのはやフェイトと話している。
ちなみに、今回テストのある主要教科5つ(国語・数学・理科・社会・基礎魔導学)の成績を良い順に並べると、アベル=コロナ>ヴィヴィオ>リオとなった。
「みんな、スゴいスゴいーッ♪」
「これなら、もう堂々とお出かけ出来るね♪」
なのはとフェイトは、四人に称賛の言葉を贈る。
四人は褒められて照れくさそうだ。
アベルたちは、なのはとフェイトが中心の引率で今日から無人世界『カルナージ』にオフトレ兼春の大自然満喫ツアーに行く。
「じゃあ、リオちゃんとコロナちゃんは一旦お家に戻って、旅行の準備をしようか?」
「「はいッ!」」
「私、お家の方にもご挨拶したいから車出すね。」
「うん、お願いフェイトちゃん♪」
ガレージの車を出そうとフェイトが玄関に行こうとした時だった。
高町家のインターホンが鳴る。
「ん?誰だろう?はーい!」
なのはは、一度返事をして玄関に向かった。
彼女のあとに続いてフェイトやヴィヴィオ、アベルたちが続く。
なのはが玄関のドアを開けると、そこには、サングラスを掛けた長い黒髪の艶美な女性が立っていた。
「久しぶりね、アベル……」
「えッ!!?まさか………ママッ!!?」
そう、高町家を訪ねて来たのはアベルの母“エリス・ガーネット”である。
半年ぶりの再開に、アベルは母親である彼女に抱きついた。
「あらあら////甘えん坊さんね?ほら、みんなが見てるわよ?」
彼女の言葉にハッと我に返ったアベルは直ぐに離れる。
恥ずかしさからアベルは顔を赤くしていた。
それを見てなのは達は、優しい笑みを浮かべている。
「まあ、ちょっと上にあがってお茶でもどう?エリスさん……」
「あら?そう?じゃあ、お言葉に甘えて……」
エリスは上にあがり、お茶をご馳走になった。
「それにしても、いきなりでしたね?エリス一佐……」
「もう、フェイトちゃん。一佐なんて呼ばないでよ……今はプライベート中♪」
「は、はあ………」
「仕事も一段落したから有給貰って戻ってきたの。それで、なのはちゃん?今からみんなで行く旅行って、私も同行しても良いのかしら?」
エリスからの思わぬ申し出に、なのは達は驚く。
「あら?ダメなの?大丈夫よ、アナタ達には迷惑かけないから……」
「あ、別に迷惑じゃないですよ?」
「そうです。ちょっと、驚いただけですから……大歓迎です!」
「じゃあ、決まりね♪アベル、それにモルガン?……私たちも準備のために一度戻りましょうか?」
「あ、うん………」
「了解ですぅ。」
ガーネット一家は、準備のため自宅に帰っていった。
久しぶりに自宅に戻ったエリスは、荒れ果てた庭を見て愕然とした。
「ア、アベル~?いったい、コレはどういうことか説明してくれるかしから~?」
彼女の表情はニッコリ?としているが、口もとはひきつり、こめかみがピクピクと動いている。
あぁ〜相当、怒っているようだ。
「えっと……コレは…………」
さっきとは違う母親に恐れをなしたアベルは言葉が詰まる。
「アベルーッ!!!」
「ふえェェーーん!ごめんなさーい!」
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「ふぅ……なのは、相変わらずスゴい行動力だったね。」
「うん……メガーヌさんも連絡しなきゃ。」
高町家でも慌ただしく準備が始まる。
途中、ノーヴェとアインハルトが合流し一緒に準備した。
準備が終わる頃、再びガーネット家が高町家に集まる。
「じゃあ、私たちはティアナちゃんとスバルちゃんを拾って行くから♪」
「お願いします、エリスさん♪」
そして、高町家の車とガーネット家の車に分譲して乗り込み、次元航行船の集まるターミナルへ向かった。
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場所は変わり、ここは無人世界カルナージ……
無人世界といっても、ここにはアルピーノ一家がホテルを経営しながら住んでいる。
「じゃあ、アベル・ガーネットくんの保護者、エリス・ガーネットさんが追加で人数確定ね。」
『はい!お世話になります、メガーヌさん♪』
「いいえ~じゃ、待っているわね~♪」
なのはとの通信が切れた。
「さあ、忙しくなるわよ~ッ!」
メガーヌは改めて気合いを入れる。
そして、外では彼女の娘“ルーテシア・アルピーノ”が不敵に笑っていた。
「ふふ………うふふふ………ねえ、ガリュー?私、自分の才能がちょっと怖いかも……」
彼女は近くにいる人の形をした無骨な虫型生物に話し掛ける。
ちなみにその“ガリュー”と呼ばれる虫型生物は、ルーテシアが全幅の信頼を寄せている召喚虫だ。
彼女の言葉に、一度だけガリューが頷く。
「なんと言っても、今回のおもてなしは過去最高ッ!レイヤー建造物で組んだ訓練場は、陸戦魔導士の練習に!…私とガリューの手作りアスレチック場は、みんなのフィジカルトレーニングに!……」
誰に説明しているかは分からないが、彼女の興奮は収まるところをしらない。
「我が家横に建築した宿泊ロッジも、内装・外装ともにパワーアップ!設計、私ッ!…テキトーに掘ったら出てきた天然温泉も癒しの空間に大変身!設計、もちろん私ッ!!!……完璧!パーフェクト!もと六課の皆さんもヴィヴィオ達も、我が家にドーーーンとおいでませェェーーッ!!!!!!」
最終的にルーテシアは自宅兼ホテルの屋根の上で仁王立ち、高笑いを上げていた。
「ルーテシア~♪スープの味見、手伝って~~♪」
そこにやって来たルーテシアの母親メガーヌ……
「はーーい、ママ♪」
メガーヌに呼ばれたルーテシアは召喚虫のガリューと共に屋内に戻っていった。
いよいよ、四日間の素敵なイベントが始まります!
次回に続く。
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第九話 ようこそ無人世界カルナージ!
無人世界“カルナージ”……
そこはミッドチルダ首都クラナガンから臨行次元船で約四時間。
標準時差は七時間、一年を通して温暖な気候で大自然の恵み豊かな世界である。
ただいま、なのはたち御一行は次元航行船に乗っている。
目的地に着くまでの間、各々自由な時間を過ごしていた。
そして、七時間後………
なのはたちは、無人世界カルジーナに到着する。
そのまま、みんなは宿で押さえてある“ホテル・アルピーノ”に向かった。
「みんな、いらっしゃ~~い♪」
「ようこそ、ホテル・アルピーノへ!」
ホテルを切り盛りする主人のメガーヌとその娘ルーテシアが、なのはたち一行を出迎える。
「こんにちはー♪」
「お世話になりまーす♪」
メンバーを代表してなのはとフェイトが挨拶を返した。
「みんな、来てくれて嬉しいわ♪美味しい食事もいっぱい用意したから、ゆっくりしていってね♪」
「わぁー楽しみ!ありがとうございます!」
「お久しぶりですね?メガーヌさん……こうして、直接会うのは二年ぶりですか?」
「そうですわね。JS事件でエリスさんに保護されて……その節はお世話になりました。おかげさまで体の調子も良いですよ♪」
「いいえ~良かったです。時間が開いたら久しぶりに私のフィジカルチェックを受けてみませんか?」
「え?エリスさん、良いんですか?」
「私は大丈夫ですから……今夜あたりにね?」
「じゃあ、お願いします♪」
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「ルーちゃん!」
「ルールー!久しぶり~♪」
「うん、久しぶりだね。ヴィヴィオ、コロナ♪リオは、直接会うの初めてだったね?」
「うん、今までモニター越しだったもんね。」
「やっぱり、モニターで見るより可愛い♪」
そう言って、ルーテシアはリオの頭を撫でる。
「エヘヘー////嬉しいな~♪」
「それにアベルも久しぶりだね?その娘が新しいデバイス?」
「そーだよー♪モルガン、自己紹介してあげて?」
「はいですぅ!私、“ADF-X01モルガン・ル・フェイ”と言いますぅ!最新式の生体型アームドデバイスですぅ!ヨロシクですよぉ♪」
「モルガンちゃん……古代ベルカの妖精の名前だね。コチラこそよろしく!」
「あ、ルールー!こちらがメールでも話した私たちの先輩で……」
「初めまして、アインハルト・ストラトスです……////」
アインハルトは、緊張しながら頭を下げた。
「ルーテシア・アルピーノです。ここの住人でヴィヴィオたちの友達の14歳♪」
「アインハルトさん、ルーちゃん歴史とかスゴいんですよ~!」
「ほぉ~~」
関心するアインハルト。
「えっへん!そうなのだ~~♪」
コロナに言われ、ドヤ顔のルーテシア……子供たちもルーテシアと仲良く話している。
「あれ?そう言えば、エリオとキャロはまだでしたか?」
エリオとキャロに早く会いたかったスバルは辺りをキョロキョロと見回しているその時だった。
「お疲れさまでーす!」
スバルたちには、聞き覚えのある女の子の声が聞こえる。
声が聞こえた方を見ると、そこには薪を抱えたエリオとキャロの姿があった。
「エリオ!キャロ♪」
二人の保護責任者……
早い話、親代わりであるフェイトが笑顔になる。
二人と直接会うのは約一年ぶりだった。
「おー!エリオ!見ない間に背も伸びて、また一段と大人っぽくなったね!」
「それに比べ、キャロは相変わらずお子さま体形のままね……」
ティアナはキャロのことを鼻で笑う。
「ぶぅー!失礼な!ただいま私は、大人の女性へ脱皮中なんです!見ててください、いつかティアナさんを超えるグラマスなレディになりますから!」
キャロは鼻息荒く、ティアナに宣戦布告した。
「アインハルト、紹介するね?」
「あ、はい……」
「二人とも私の家族で………」
「エリオ・モンディアルです。」
「私はキャロ・ル・ルシエ……それと、飛竜のフリードヒです♪」
「クキュ~~♪」
「まあ……いちおう言っとくけど、私たち三人で同い年なの。一人お子さまがいるけどね♪」
「なんですとッ!!?私は成長期!1.5cmも伸びましたー!」
この日キャロの人格が崩壊したが、また別の話である。
その後、突然現れたルーテシアの召喚虫ガリューにアインハルトが驚いたりと色々あった。
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それぞれ、割り当てられた部屋に荷物を置いたメンバーはロッジに再び集まる。
大人組はお昼前の軽いトレーニング、ノーヴェとルーテシア、子供たちは近くの川で遊ぶことになった。
川遊びにアインハルトは乗り気ではなかったが、ヴィヴィオやノーヴェの誘いを断ることも出来ず着いて行くことに……
一方のアベルは、ヴィヴィオ達の誘いを断ってモルガンと共に大空を自由に飛び回っていた。
「やっぱり、何もない大空を自由に飛ぶのって、気持ちいいねぇ♪」
『はいですぅ!』
「じゃあ、アフターバーナー出力最大ッ!極超音速飛行ッ!!!」
『了解ですぅ!極超音速飛行!ただいまM5+を記録してますぅ!』
白い飛行機雲を引きながら、アベルは高々度を猛スピードで飛んで行く。
「ねえ、モルガン?……」
『はい、何でしょう?マスター……』
「今のうちに飛行型時の魔導兵装を試そうか?明日の練習会で使ってみたいからさ♪」
『え?マスター、明日の練習会は陸戦試合のみでしょう?四足歩行獣化形態(ビーストモード)は使いますが、飛行型(ファイターモード)は使う必要が………』
「モルガンは分かってないなぁ〜僕はフェイトおば様かなのはさんのどちらかを……あわよくば、両方を空に誘い出して空戦を挑もうと思ってるんだ♪」
『ええーッ!!!む、ムリですよ!マスター!お分かりですかぁ?!!マスターが相手にしようと思っているのは、管理局屈指のエリート執務官とあの“エースオブエース”ですよぉ?!!』
「知ってるよ、だからこそ燃えるんだ!」
『うーーーーん………分かりました。マスターの言うとおりにしますぅ……では、戦闘機動が可能な速度までスピードを落とすですぅ。』
「うん、了解♪」
徐々にアベルのスピードが落ち、それにともない高度も低くなった。
「じゃあ、始めようか……対空魔導兵装展開!」
『対空魔導兵装、起動するですぅ!』
アベルの声に反応してモルガンは“極超音速誘導魔力弾(テンペスト)”が起動させる。
両方のエアインテーク上部に秘匿されていた砲が姿を表した。
「起動・発射可能までのタイムラグ……0.087秒。うん、完璧♪次は“多目標追尾型高機動魔力弾(MLRS)”だよ!」
『了解ですぅ!MLRS起動しますぅ!』
腰のスカートアーマー部に搭載しているMLRSのシステムが起動する。
「うん、これも大丈夫みたいだね♪」
その他にも、“無線誘導攻撃兵装(モルガナイト)”の射出動作の確認などを行った。
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魔導兵装システムのチェックを一通り終えた、アベルとモルガンはホテル上空まで戻って来ていた。
「じゃあ、モルガン……ヴィヴィオたちの所に行こうか?」
『はいですぅ♪………って、マスター?ヴィヴィオちゃん達は何をしているんですかぁ?』
モルガンが聴く。
アベルが画像を拡大するとヴィヴィオたちが楽しそうに右の正拳突きで川面の水を切っていた。
彼女たちの身長の倍以上の高さがありそうな水柱が前へ進みながら起こっている。
「あれは“水切り”だね。遊び感覚でできる打撃チェックなんだって。ヴィヴィオたちは相変わらずスゴいね♪アインハルトさんは……初めてなのかな?あんまり上手くいってないみたい……」
ヴィヴィオたちの上空を旋回しながら、アベルはモルガンに水切りを教えていた。
その時アベルは、ふと悪知恵を働かせる。
「そうだ。僕たちもちょっと水切りをしてみない?」
『え?ええ……ワタシは構いませんよ?』
「じゃあ、行こうか…………僕流の水切り見せてあげる。」
アベルは不敵に微笑むのだった。
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場所は変わり、こちらはヴィヴィオたちが遊ぶ川辺……
ヴィヴィオたちはアインハルトと“水切り”を楽しんでいる。
「水切り……なかなか難しいですね。」
「だけど、さっきよりも少し前に進みましたよ!」
「じゃあ、もう一度……ッ!!!」
アインハルトは精神を集中し、再び右の正拳突きを放った。
最初より二回目、二回目より三回目と回数を追うごとに、アインハルトは水切りを上達させていく。
そんな時、ヴィヴィオたちのもとへアベルから通信が入ってきた。
『ヴィヴィオたち楽しそうだねー♪僕も混ぜてもらって良いかな?』
「え?ぜんぜん良いけど……アベルくん、どこにいるの?」
『………ヴィヴィオたちの真上だよ♪』
「「「「「「え?………………」」」」」」
彼に言われ『?』マークを浮かべた五人が上を見ると、ファイターモードのアベルがヴィヴィオたちのもとへ急降下してくる姿が見えた。
「見せてあげる……僕流の“水切り”ッ!!!」
急降下してきたアベルは川面に激突するギリギリのところで体勢を立て直し、超低空でヴィヴィオたちの頭上を飛び去る。
「バカ野郎ぉぉぉッ!!!あぶねぇだろうがぁぁーーーーッ!!!」
彼女たちの頭上を通過した時に、ノーヴェが何か叫んでいたけど気にしない……アベルが彼女たちの頭上を通過して数秒後、爆音と衝撃波が川面を凪ぎ払う。
「「「「「きゃああぁぁーーーッ!!!!!!」」」」」
ヴィヴィオたちは吹き飛ばされないように必死だった。
その後アベルは、なのはにフェイト、エリスから盛大な“O☆HA☆NA☆SI”を聞かされるのだった。
次回に続く。
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第十話 温泉!サプライズ☆アタック!
ヴィヴィオたち子供組は、お昼ご飯を食べて少し休ん
だあと、ノーヴェとルーテシアの案内で大人組の陸戦訓練の見学に行くことになった。
しかし、その中にアベルの姿がない……
なぜかと言うと、母親のエリスに外出禁止令を出されたからだ。
なのはやフェイトたちは『そこまでする必要はない。』とアベルを擁護したが、エリスが『これは家庭の問題です!』と頑なに拒否して今に至る。
アベルは、母親の言い付けを守り自室に籠っていた。
「うぅ………暇だよーーッ!」
「自業自得ですぅ!マスターの言ってた自分流の“水切り”がまさかあんなモノだったとは………」
「まあ〜僕的には、ほんの冗談のつもりだったけど……ちょっと、やり過ぎちゃったのかな?」
「はい!やり過ぎですぅ!今日はきちっと反省しましょう?」
「そうだね。今日溜まったうっぷんは明日の模擬戦で晴らせてもらおうっと!そのためにも、魔導兵装の調整を手伝ってね?モルガン♪」
「了解ですぅ。」
**************************************************************************************************
場所は変わり、ヴィヴィオたちはというとルーテシア特製の演習場へ行く道中であった。
「え?ヴィヴィオさんのお母さま方も、模擬戦に?……」
「はい!もう、ガンガンやってますよ!」
「はぁ〜驚きです。お二人とも家庭的でほのぼのとしたお母さまで素敵だなって思ったんですが、魔法戦にも参加されてるんですね。」
なのはとフェイトのイメージを語るアインハルトの後ろで、ノーヴェが必死に笑いを堪えている。
「えっと、参加しているって言うか………うちのママは航空武装隊の“戦技教導官”なんです。」
ヴィヴィオのが説明が終わったくらいに目的地である演習場に到着した。
『セイクリッド・クラスター、スタンバイ……』
着いた時にはなのはの拡散攻撃に対して、ティアナの指示のもとスバルがカウンターコンビネーションを決めようかとしているところ。
「拡散攻撃(クラスター)、来るよ!ティア!」
「オーライ!カウンターコンビネーション、クロスシフト行くわよ!!!」
「「シュート……ッ!!!」」
お互いの魔力弾がぶつかり合い、激しく爆ぜた。
その中からウイングロードが飛び出し、その上をスバルが滑るようになのはに肉迫する。
「おおおおおッ!!!!!!」
スバルがなのはに攻撃。
六課解散から四年が経つが、絶妙なコンビネーションは衰えることはなく未だ健在……それどころか更に磨きが掛かっていた。
しかし、流石は“エースオブエース”のなのは……彼女たちよりも一枚も二枚も上手である。
苦手分野の近接攻撃を読んでいたかのように意図も簡単に防いだ。
その激しい攻防に驚くアインハルト……
「あっ、みんな来たんだ♪」
ヴィヴィオたちに話しかけたのはバリアジャケット姿のフェイトだった。
すぐ隣には巨大な飛竜フリードリヒに股がるキャロがいる。
「あの大きいのは、アルザスの飛竜ッ!!?」
「キャロさんは竜召喚士なんです。」
「エリオさんは竜騎士!あっちで……あれはアベルくんのお母さんですね。二人で打ち合ってますよ。」
アベルの母“エリス・ガーネット”は特殊犯罪捜査班の班長でもあり凄腕の剣士だ。
彼女の纏うバリアジャケットは、防御を捨てたスピード&機動性特化型の羽織袴タイプ……デバイスはインテリ型、二対のサムライブレード“雲龍・蒼龍”である。
ちなみに六課出向時、当時のライトニング分隊の隊長フェイトと副隊長シグナムを相手に壮絶な模擬戦を展開、二人を完封なきまでに叩きのめした。
そして、全管理局員の中で唯一なのはの収束砲“スターライト・ブレーカー”を切り裂いて防いだ人物でもある。
「それで、フェイトママは空戦魔導師で本局で執務官をしています♪」
ヴィヴィオたちが一通りの説明を終えた頃に、なのはたちも模擬戦を終わらせて一息いれて次のメニューに移る。
「皆さん凄いです。ずっと、動きっぱなしで……」
「そうだな………」
「魔法訓練だけじゃない。あんなフィジカルトレーニングまで………管理局の方たちは……皆さんここまで鍛えていらっしゃるんでしょうか?」
「ですね。」
「まあな……スバルは特殊災害も担当したりする救助隊だし、ティアナは凶悪犯罪担当の執務官……他のみんなも頻度の差はあっても全員が命をかけて働いてるわけで、力が足りなきゃ救えねぇし、自分の命だって守らなきゃならねぇからな……」
「ノーヴェさんも救助訓練はガッツリやってますもんねー♪」
「ま、まあ……////」
その後、ヴィヴィオとアインハルトはうずく気持ちを抑えることが出来ず、見学メンバーから抜けて二人でミット打ちに励んだ。
そして、なのはたちの訓練が終わる頃にはすっかり日が落ちていた。
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一方“ホテル・アルピーノ”に残ったアベルは、あまりの暇さからメガーヌの手伝いをしていた。
今は帰ってくるメンバーの為に夕飯の支度をしている。
メガーヌは、アベルの手際の良さに驚いていた。
「アベルくんって凄く手際が良いのね?私、驚いちゃった♪」
「まあ、普段は一人暮らしだから……ママは仕事が忙しくてたまにしか帰ってこないし、パパは僕が物心着いた時には居なくて……お母さんが言うにはパパは有名な“科学者”なんだって……」
両親の話しをするアベルの表情は少し寂しそうだ。
年相応の反応かもしれない。
「あ、メガーヌさん、そのお肉を取ってくれます?」
「あ、はいはい♪」
「おーい、アベルー!こっちも終わったぞー!」
「マスター次は何をしましょうかぁ?」
食堂からセインとモルガンが顔を出す。
セインはもとナンバーズで、今は聖王教会に所属している。
彼女は昼過ぎに、聖王教会から野菜などの食材を差し入れに来たところをアベルに捕まり夕飯の準備の手伝いをさせられていた。
「モルガンはもう良いよ。先にお風呂でも行ってきたら?メガーヌさんがここの温泉は最高だって♪」
「わーい、やったですぅ♪じゃあ、お言葉に甘えて行ってくるですぅ~♪」
モルガンは目にも止まらぬ速さで温泉に向かう。
「セインさん、次はこのお皿を並べといて~!」
アベルは歳上のセインにどんどん指示を出す。
「何で私だけッ!!?お前、けっこう人使いが荒いなッ!!?」
セインはたじろいでいた。
「でもセインちゃんは、このまま帰る気もないんでしょ?」
「ま、まあ……それはそうなんだけど!せっかくだから軽く温泉ドッキリの一つでも仕掛けて、みんなを楽しませてやろっかな~とは思ってるけど……」
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大人組が陸戦訓練を終えてホテルに戻る時、子供たちとノーヴェから出迎えられる。
しかし、その中にヴィヴィオとアインハルトの姿が見えない。
スバルが子供たちに聴くと、二人はウズウズが止まらず、別の場所でミット打ちに励んでいると言う。
それから、すぐにヴィヴィオとアインハルトも彼女たちに合流した。
「やっぱり、ずっとやってたんだ。」
「あははーちょっと、気合い入っちゃって~」
「どうだ?アインハルト……近代格闘技のミット打ちもなかなか面白いだろ?」
「はい………良い練習と経験になりました。」
「そう言えば、ママたちは?まだ?……」
「あ、なのはさんとフェイトさん、エリスさんは少し残って練習の仕上げだって……」
「三人で空でも飛んでるんじゃないかな?……」
「さて、もうすぐホテルに到着するけど、お楽しみはまだまだこれから!ホテル・アルピーノ名物“天然温泉大浴場”にみんなで集合ね!」
エリオ以外のメンバーは、ルーテシア自慢の大浴場に集まる。
そこへタイミングよく、モルガンもやって来た。
「あ、ヴィヴィオちゃん~!皆さん~!」
「モルガンちゃん?アベルくんはまだお手伝いしてるの?」
「はいですぅ♪マスターは全部終わらせないと気がすまいたちなので………」
「そうなんだ。じゃあ、仕方ないね……」
脱衣場で服を脱いだヴィヴィオたちは大浴場に出た。
そして感激する。
ルーテシアの自慢にも頷けた。
「あ~~スッゴく、良いお湯加減~~」
「本当ですね~~」
ティアナとキャロは先に湯船に入りくつろいでいる。
スバルとノーヴェの姉妹は汗を流してから湯船に入った。
「あっちの岩造りのところが熱~いお湯ね。」
「わーい、熱いの好き~♪」
リオは熱めのお湯が好みらしく、その湯船に入って足を伸ばす。
「で、向こうの滝湯はぬるめだから、のんびりできるよ♪」
「「滝湯ッ!!?」」
ルーテシアの滝湯発言にヴィヴィオとコロナは目を輝かせ心踊らせた。
そして、モルガンは体の大きさの関係からお湯を張った風呂桶に入ってくつろいでいる。
「はい、着いたわよ♪どうかな?新しく作った滝湯は……?」
「スゴイ!スゴイよー!ルールー!」
「見てください!アインハルトさん!……」
「修行!」「修行!」
ヴィヴィオとコロナの二人は、滝湯に当り合掌をし精神統一をしている。
「はぁ……アナタたちは、いったい何をやっているんですか……意味がわかりません……」
アインハルトは頭を抱えてため息を吐いた。
「スバルとノーヴェはお湯加減はどう?」
「もう、サイコーだよ~♪」
「ああ~まったくだよ、お嬢……しかし、アレだな……前に来た時よりまたパワーアップしてんな。」
「建築デザインとか、設備設計をやってると楽しいんだよね♪ま、この温泉もロッジの改装も、お遊びレベルだけど♪……これ、設計図だよ♪」
このすべてのレイアウトがルーテシアの趣味の領域だから凄い。
「いやいやいやッ!!!」
「ありえねぇって!!!」
スバルとノーヴェは、全力で否定する。
「まあ、みんなに評判良いのは嬉しいな♪泊まりに来てくれたみんなが笑顔になってくれたら、さらに嬉しい!」
「んなもん、めちゃめちゃ笑顔だっつーの!な、スバル!」
「ほんと、ほんと♪」
三人は湯船に浸かり、楽しそうに話していた。
しばらく、みんなが楽しそうに湯船に浸かっている。
その時だった。
「ふぇッ!!?」
キャロは何か違和感を感じ、湯船から立ち上がる。
「キャロ、どうかしたの?」
ティアナがキャロに聴く。
「何かこう柔らかいモノがもにょっと………」
不安になったキャロは、キョロキョロとお湯の中を見ながら、ティアナに応えた。
そして、またお湯に浸かる。
『もにょっ………』
次は確かに感じた。
柔らかく、何か生暖かいヌルっとしたモノを……
「ひゃッ!!?」
それは、ティアナにも触れた。
「ふわぁッ!!?」
二人は、急いで湯船から上がる。
「本当に何かいるッ!こう何かヌルっとしたヤツが…!」
「でしょ!でしょッ!!?」
二人はパニックなる。
そんな時、ちょうど二人の近くをルーテシアが通りかかった。
「ねえ、ルーちゃん!湯船の中で何か飼ってたりしないッ?!!」
「えー?別に何も飼ってないよ~?」
「何、言ってんの?!!本当に何かいるんだって!」
「だって、そんな珍しい動物がいたらソッコーで捕まえてみんなに紹介するよ~♪」
「「((確かに、そうだ!!!!!!))」」
笑顔のルーテシアに、二人は納得する。
彼女の性格だ。やりかねない……
ヴィヴィオがいる滝湯付の湯船では、アインハルトとコロナが一緒にいる。
「ねえ、ヴィヴィオ?何だか向こうが騒がしいね?」
「野生の動物とかが出たのかな?……」
「分かりません……」
騒ぎのもとを作っている謎の物体は、次のターゲットをヴィヴィオたちに絞っていた。
そして、魔の手が彼女たちに伸びる。
ヴィヴィオの太もも………
コロナのおしり……
アインハルトの胸と触っていった。
「はわわッ////」
「きゃあッ!!?」
「この………変態が〰〰ッ!」
アインハルトのキレ方は半端ではなかった。
その勢いで放った掌底が、皮肉にも水切りを成功させてしまう。
「あ、水切り出来ました……」
「(あーびっくりした~あの娘がウワサの覇王っ子か……しかし、このセインさんの敵じゃーないね♪)」
そう、この騒ぎを起こしている張本人はセインであった。
彼女の固有能力『ディープ・ダイバー』がこのイタズラを可能とさせている。
「(フフフ♪みんな、驚いてるな?残りはあと四人!行くぜぇッ!ヒャッハー!)」
「(ルーお嬢にスバル!そして、ノーヴェ!)」
「あッ!!?」
「ふぇッ!!?」
「うわッ!!?」
セインによるセクハラ被害者が次々と増えていく。
「(コンプリートまで、あと一人!残りはヴィヴィオの友達の元気っ子!…………がおぉぉぉッ!!!!!!)」
最後のターゲットであるリオに襲い掛かったセイン。
しかし、これがマズかった。
セインは後ろからリオに抱きつき、さらに胸を数回揉んだのだ。
脱衣場に置いてきたリオのデバイスが、彼女の危険を感知、緊急起動をする。
いきなりのセットアップ、雷と炎に変換された魔力が彼女の周囲のお湯を吹き飛ばし、セインの姿を露にした。
「ええーーーッ!!!!!?」
ここから起きたことは早く、バリアジャケットを纏い少し成長した姿になったリオは、セクハラを働いたセインの右手首を掴むと力いっぱいブン投げる。
「チ、カァァァーン!………“絶招炎雷炮”ッ!!!!!!」
「どうして、こうなるのぉぉぉぉーーッ!!!」
リオが放った渾身の蹴り技を受けたセインは夜空の彼方に消え、そして星になった。
「な〜んだ、セインじゃないか………」
「まあ、だろうと思った……♪」
ジト目で空を見上げるノーヴェ、だいたいの目ぼしが付いていたのかやたら落ちているルーテシア、スバルはリオの能力に言葉が出ず唖然としている。
「リオ!」
「リオ、大丈夫ッ?!!」
ヴィヴィオたちもリオのところに集まってきた。
「…………ううぅ、誰かアタシの心配もして………」
チカラなく、まるでクラゲのように湯船を漂うセイン。
そこに助け船が現れた。
「ならば、妾が助けてやろうぞ………」
漂うセインの前には、風呂桶を被った銀髪のプロポーション抜群の美女が仁王門立ちしている。
「へッ!!?アンタ、誰ッ!!?」
**************************************************************************************************
温泉大浴場での騒ぎは、アベルたちの居た食堂まで伝わってきた。
謎の衝撃でホテル自体が揺れる。
「えッ!!?地震ッ!!?」
「いや!これは魔法によるモノだ!ストラーダ、どこからの反応か分かる?」
『少々お待ちを………この反応は温泉大浴場が発生源です。』
「何があったのかしら?エリオくんとアベルくん、ちょっと様子を見に行って来てくれる?」
「分かりました。」
「行こう!エリオお兄ちゃん!」
二人は温泉に急いだ。
向かう途中にエリオは“ストラーダ”を、アベルは遠隔詠唱で魔導兵装“ツインフレアライフル”を召喚し、両手に装備する。
大浴場に到着した二人は脱衣場を抜け、何も考えないで露天風呂に突撃した。
アベルとエリオが向かった先に待ち受ける光景。
「いったい、何があったんだ?」
「どうしたの、みん……な………あ……あぁぁぁッ!」
アベルは全裸姿のヴィヴィオたちと目が合う。
ヴィヴィオは、顔を赤くして口をパクパクさせて………
「きゃああぁーーッ!アベルくんのエッチぃぃーッ!」
「どうして、エリオくんがッ!!?」
「わあぁぁあーーッ!キャロ、ゴメン!」
「ここは女湯だぞぉぉぉ!出ていけぇぇーーッ!」
顔を赤くしたノーヴェたちは、シャンプーやリンス、ボディーソープに風呂桶をアベルとエリオに向かって投げつけてきた。
特に射撃の名手ティアナ・ランスターの命中率は凄まじかったという。
その後、この騒ぎを起こした張本人ことセインは、遅れて帰ってきたなのは達から地獄も生温いと思えるほどの扱いを受けるのだった。
「全力全開!“スターライト・ブレーカー!”」
「天罰降臨!“トライデント・スマッシャー”!」
「我流二刀剣術!最終奥義“妖華狂月爪”!」
「瞬間凍結!“絶対零度(アブソリュート・ゼロ)”!」
「「「「合体攻撃!“星喰い(ディメンション・イーター)!”」」」」
なのはの桜色、フェイトの金色、エリスの藤色、そして謎美女の桔梗色と四色の魔力が混ざり合い漆黒となった魔法攻撃にセインは真正面から飲み込まれた。
「ぎょえぇぇえーー!何だかとってもやな感じぃぃーッ!」
次回に続く。
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第十一話 陸戦試合!
AM6:00……
アベルとモルガンは朝早くから、陸戦場で仮想標的(ターゲット)を相手取り汗を流していた。
「いや~昨日は驚いたよ。モルガンの変貌ぶりには……」
時間は昨日の夜までさかのぼる。
セインが起こした温泉での騒ぎだ。
アベルとエリオが駆けつけた時、セインは見知らぬ美女にバインドで締め上げられていた。
その美女というのが、何とアベルのデバイス『モルガン・ル・フェイ』だったのだ。
モルガンいわく、普段は余計な魔力を消費しないように省エネモードだと言う。
昨晩はさすがにやり過ぎなセインにお灸を据えてやろうと真の姿に戻ったようだ。
その時の彼女は、女王様気質の性格になる。
『ごめんなさいですぅ~マスターのお母さまに黙っとくように言われていたもので………』
「まあ、その事はもういいよ。キミはキミでしょう?僕は気にしてないよ……♪」
『ありがとうございますぅ!』
「さあ、そろそろ朝ごはんだし戻ろうか?」
『はいですぅ♪』
二人はホテルへ戻り、全員で朝食を摂る。
少し休んだあと、陸戦場に集合したアベルたちは試合プロデューサーのノーヴェから説明を受けていた。
チーム分けはご覧のとおり……
●赤チーム『フェイト、ティアナ、ノーヴェ、キャロ、アインハルト、コロナ』
●青チーム『なのは、スバル、エリオ、ルーテシア、ヴィヴィオ、リオ』
ちなみにアベルとモルガンは、第三軍黄色チームとして両チームを相手に戦う。
最初はなのは達に反対されたが、エリスが「これは命令♪」と無理やりに決めた。
まさしく鶴の一声、職権乱用だ。
「じゃあ、赤チームのみんな!元気にいくよー!」
「青チームもせーーの!」
「「「「「「セーーット・アーーップ!!!!!!」」」」」」
両チームが一斉にバリアジャケットを纏う。
遅れてアベルもモルガンを起動した。
「モルガン、僕らも行こうか!」
「はいですぅ!」
「モルガン、アームズ・アップ!」
アベルは武装鎧(アームド・アーマー)化したモルガンを纏い、漆黒のロボットの姿になる。
両チームのリーダーは、各メンバーと最後の打ち合わせをした。
『それでは、皆さん準備は良いですか~?』
『では、元気に~♪』
『『試合開始~ッ!』』
この旅行二日目の大イベント!大人と子供入り乱れた総力戦“陸戦試合(エキシビション)”が始まる。
「ウイング・ロード!!!」「エアライナー!!!」
スバルとノーヴェが先行して魔力で道を作り出した。
「行くよ!リオ!」
「オッケー!ヴィヴィオ!」
「コロナさん!リオさんの足止めお願いします!」
「分かりました!任せてください!」
四人は魔力で構成された道を駆けて行く。
また、アベルは四足歩行獣化形態(ビーストモード)で移動しながら試合の戦略を考えていた。
「おお!ヴィヴィオたち、相変わらず元気が良いねぇ♪」
『まったくですね♪』
「さあ、先ずはどこから潰すかな?………メインはもちろん、なのはさんかフェイトおばさま!でも、ここから一番近いのは………スバルさんとノーヴェさんだね♪」
アベルは狙いを彼女たちに絞る。
『では、お二人に攻撃を開始するですよぉ!』
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アベルがターゲットを吟味している頃、ノーヴェとスバルは互いの拳を交えていた。
「「おおおおおおッッ!!!!!!」」
「さすがにやるね♪ノーヴェ!!!」
「ったりめーよ!!!仕事じゃともかく、格闘戦技(ストライクアーツ)じゃ………ッ!」
『リボルバースパイク、スタンバイ……』
「とはいえ、アタシもお姉ちゃんだから………ッ!」
『キャリバーショット!』
「負けねーーッ!!!」「負けないッッ!!!」
二人の蹴りは凄まじく、大気が震えるそんな感じがした。
そんな良い勝負を繰り広げる二人に水を刺すように、彼女らの間を深紅の魔力エネルギーが奔る。
「くッ!今の攻撃は!」
「アベルだね!」
二人が魔力エネルギーの出だし源を見るとツインフレアライフルを構えたアベルが立っていた。
「ねえ!その戦い、僕も混ぁーぜてぇーッ♪」
アベルは両手に装備したフレアライフルを二人に撃ちながら向かって来る。
「ノーヴェ!!!」
「応よッ!任せろ!」
一瞬、アイコンタクトをしたかと思うとノーヴェがアベルの関心を自身に惹いた。
アベルは、スバルから視線を外す。
その隙をスバルは見逃さなかった。
「もらった!剛腕爆砕!ディバイン………」
スバルがアベルとの間合いを一気に狭めながら、拳を振るう。
「バスタァァァァーって!!?エェ〰ッ!!?」
しかし、その一撃はアベルに届かなかった。
彼の左側から攻撃を仕掛けたスバルは、モルガンが大型装甲板(シールド)内から展開した“対装甲破砕爪(エクスブレード・クロー)”に捕まっていたのだ。
「残念だったね?スバルさん……まずは一人!」
アベルが止めを刺すためにクローに圧力をかける。
スバルは苦しそうな声をあげて、そのまま気を失った。
試合開始から2分……
アベルがスバル、ノーヴェに攻撃を仕掛けてから35秒
スバル、意識消失により戦闘不能……
「なんてヤツだ!試合が始まって、まだ3分も経ってないんだぞ!クソ……!」
ノーヴェは、改めてアベルの恐ろしさを知った。
そんな時、左翼ガードウィングを担当するフェイトから通信が入る。
『ノーヴェ!援護するから、一度下がって!』
「りょ、了解ッ!……」
ノーヴェはフェイトの指示に従い、合流ポイントに向かった。
「逃がさないよ!」
アベルはすぐさまノーヴェの追撃に移る。
ビーストモードに変型し、ウイングロードやエアライナー、地面を縫うように彼女のあとを追いかけた。
「ヤベぇ!マジでヤベぇッ!」
後方から射撃走行をしながら追いかけて来るアベルは驚異だ。
ノーヴェも始めて味わう恐怖に危機感を募らせていく。
しかし、ここでようやく逃げるノーヴェに対して援護が入った。
オレンジ色の魔力弾がアベルに向かって延びて行く。
「あれは、ティアナの誘導弾!これならアイツも………」
ティアナの援護射撃が追撃中のアベルに着弾した。
その瞬間、アベルは爆風と立ち上る粉塵の中に消える。
ノーヴェは、足を止めて後方を振り返った。
それと同時に、フェイトとアインハルト、そして青チームのフロントアタッカーのヴィヴィオが合流する。
「大丈夫?ノーヴェ………」
ヴィヴィオが聞いた。
「あ、ああ……大丈夫だ。それにしてもアイツ、姉貴を開始3分で撃墜しやがった!」
「うん……私も驚いた。あの子たちを少し侮ってたよ。」
四人が話していると粉塵の中からアベルが歩いて出てきた。
あれだけの攻撃を受けて彼のライフの減りは微々たるものだった。
「いや~ちょっと、避けそこなったね~?」
『ごめんなさいですぅ。弾道予測の処理が追いつかなかったですぅ……』
「仕方ないか……まあ、そこら辺は要改良だね♪スバルさんは戦闘不能にしたから良しとしよう。あと残り人数は11人……」
スバルを戦闘不能にしたとはいえ、11対1。
未だに不利な状況が続いている。
目の前には、ノーヴェ、ヴィヴィオ、アインハルトの各チームのフロントアタッカーが三人。
その後ろに、自慢の機動性を生かした赤チームのガードウイング担当のフェイトが待機している。
また、青チームのガードウイング担当のエリオもアベルを背後から狙っていた。
各チームの射撃と司令塔を担うなのはとティアナも、後方からアベルの動向を伺っていた。
完全に追い込まれたアベル……
そこへ、ルーテシアから通信が入ってきた。
『アベル、ワナにかかったわね!全部計算どおりにっては行かなかったけど、ここでゲームセットよ!』
「アハハハ!面白いこと言うね?ルーお姉ちゃん……決ーめた。次はルーお姉ちゃんを潰してあ・げ・る♪」
アベルが動いた。
ノーヴェの撃墜を止めたアベルは、方向を180度転換してルーテシアのいる場所へ向かう。
「ルールーはやらせない!」
エリオがストラーダで高速突きを連続で放った。
しかし、アベルは彼の攻撃が見えているかのよう回避すると反撃に至近距離からエリオにフレアライフルの集中砲火を浴びせた。
激しい砲撃に晒されたエリオはその場に倒れる。
「はい、二人目~♪」
アベルは倒れているエリオを見下して薄ら笑いを浮かべていた。
試合開始から4分……
エリオ撃墜、残り10人……
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場所は変わり、外野席で試合を見ているメガーヌとエリス、セインの三人は………
「あらあら、アベルくんは元気ね~♪」
「私も、あんなに楽しそうにしているアベルを見たのは久しぶりだわ♪……」
エリスからも、思わず笑みがこぼれる。
「でも、メチャクチャだなアベルは……あのフェイトさんと互角に戦っているよ。」
フェイトは、愛機のバルディッシュを双剣型に変化させた“ライオット・ザンバー”で嵐のような斬撃をアベルに放つ。
一方アベルも、ツインフレアライフルから持ち変えた“対装甲断砕刃(エクスカリバー)”で受け止め、往なし、隙あらば反撃を繰り出した。
だが、フェイトと戦うアベルの回りをフロントアタッカー組がぐるりと取り囲む。
「これで万事休すだな……」
「あら、それはどうかしら?………」
戦局の映し出された空間モニターを見ながら、アベルの母親のエリスは不適に笑っていた。
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「なかなかやるね!アベルくん!」
「フェイトおばさまこそ!」
二人の攻防は激しさを増していく。
アベルのテンションは最高潮、ヴィヴィオたちには目も繰れていない。
そこに漬け込むように、ヴィヴィオたちが襲い掛かる。
「スタン・ショット!」
「覇王流、断空拳ッ!」
「アクセル・スマッシュ!」
しかし、アベルの対応は彼女たちの予想の斜め上をいっていた。
フェイトの放つ左からの横凪ぎをビーストモードに変形して緊急回避したのだ。
「私の斬撃をかわしたッ!!?あり得ないッ!!?」
彼女の魔力刃(やいば)から繰り出される、鋭い横凪ぎが空を切る。
「きゃあッ!!?」
変形した勢いを殺さず、そのままフェイトを体当たりで突き飛ばしたあと、左右から迫り来るノーヴェとアインハルトに向けて“六銃身連装電動駆動式機関砲(デュヒュージョン・ブラスター)”を掃射した。
一分間に約3000発、一秒に50発を超える驚異的な発射速度を持つ“デュヒュージョン・ブラスター”は、瞬時に二人を無力化する。
試合開始から6分48秒……
ノーヴェ、アインハルト撃墜……
残り8人……
「ノーヴェ!アインハルト!」
崩れ落ちる二人にフェイトが目をやった隙を、アベルは見逃さなかった。
「隙あり!ストライク・レーザークロー!」
炎熱変換された赤々と猛る爪はフェイトの防護服(バリアジャケット)を紙切れのように引き裂き、そのまま彼女に馬乗りになると、フェイトをズタズタになるまで執拗に攻撃を加える。
「いやあぁぁあーーッ!!!!!」
恐怖に駆られたフェイトは、ろくな抵抗も出来ず泣き叫ぶことしか出来ない。
また攻撃を受けるフェイトの直ぐ側にいたヴィヴィオは、足が竦み何もできないでいた。
結局フェイトは甚大なダメージを受け戦闘不能になる。
試合開始から7分、フェイト戦闘不能……
残り7人………
「フェイトママ!ノーヴェ!アインハルトさん!」
あ然としていたヴィヴィオは我に返り、思わず叫んでしまう。
圧倒的不利な状況をひっくり返す破竹の勢いのアベルに、ヴィヴィオは血相を変えて逃げ出した。
「あ、逃げた!ねえ?ヴィヴィオ?自分だけ逃げるなんて、ズルいんじゃない?」
アベルはヴィヴィオを追いかける。
「こ、このままじゃ私も……!今の私じゃアベルくんには敵わない!」
「ほらほら〜ヴィヴィオ♪もっと頑張って走らなくちゃダメだぞ♪」
逃げるヴィヴィオの横にアベルが並んだ。
そして、彼女にデュヒュージョン・ブラスターの砲身を向ける。
「じゃあね♪」
ヴィヴィオが撃墜を覚悟したその時!
桜色の魔力砲撃がアベルの目の前に着弾した。
着弾した瞬間、衝撃波と共に膨大な量の粉塵が舞い上がる。
「今のは、なのはママのディバインバスター?助かった……」
『ヴィヴィオ、大丈夫?』
「うん、ママありがとう……」
『ヴィヴィオ、こちらルーテシア!その建造レイアウトは中に入ることができるから、立体的に動いて戻って来て!態勢を立て直すよッ!』
「りょ、了解!」
ヴィヴィオの近くの建物の中に飛び込んだ。
一方のアベルは粉塵の中でヴィヴィオを探し、がむしゃらにデュヒュージョン・ブラスターを撃っている。
「どこだぁぁッ!ヴィヴィオぉぉぉーッ!」
『落ち着いてください!マスター!私のセンサーアイには温度を視覚化して関知するモードが登載されています。』
アベルの視界モニターが切り替わり、温度を視覚化するサーモグラフィックになった。
無機質な壁を透視し、熱源であるヴィヴィオの姿が露になる。
「見いつけたぁぁあ♪」
アベルはデュヒュージョン・ブラスターを仕舞って、ツインフレアライフルと右側の“大型防護装甲板(シールド)”さらに“光波高機動ウイングシステム”を連結させた超砲身を持つ“超射程収束魔力砲(フレアブラスター)”を作り出した。
『魔力エネルギーチャージ中………!』
フレアブラスターからジリジリと不快な音が漏れる。
彼は狙いを定め、トリガーを引くタイミングを図っていた。
アベルの行動を観察していたなのはは、少し違和感を感じる。
「(あの様子だとアベルくんは、ヴィヴィオの動きを完璧にトレースしているはずなのに、どうして撃たないの?)」
なのはは考えた。
「確かこの方向には、ティアナとキャロがいたず………」
長年の経験を生かしなのはは脳をフル活用する。
そして、アベルのやろうとした事に気づいてしまった。
「まさか、建物の中を移動しているヴィヴィオごとティアたちを撃ち抜く気ッ!!?」
彼女は正直『ありえない』と思った。
15年間、管理局員として第一線で活動してきたなのはとしても初めて見る光景……
「ティア!キャロ!コロナちゃん!アベルくんから砲撃が………ッ!」
なのはがティアナとキャロに警告をしたが、時すでに遅し……
『魔力圧縮率97%!マスター!発射準備、完了したですぅ!』
「了解!フレアブラスター!いっけぇーーッ!」
魔力エネルギーの充填を済ませたアベルがフレアブラスターのトリガーを引いた。
高濃度に圧縮・収束された深紅の魔力エネルギーが、建物の壁を撃ち抜き中にいたヴィヴィオを飲み込む。
「そ、そんな………」
そのまま赤チームのティアナとキャロ、コロナの三人がいる方に向かって伸びた。
「マジッ!!?あり得ない!」
「いったい、どうすれば……ッ!!?」
「私に任せて下さい!」
コロナが叫ぶ。
そして開口一番、構築していたゴーレム“ゴライアス”をフレアブラスターの射線上に仁王立ちをした。
「いくよ!ゴライアス!私流だいぼうぎょ!」
コロナの指示で、アベルのフレアブラスターをゴライアスが両腕を広げて受け止める。
「やるじゃない!コロナ!」
「本当だよ!コロナちゃん!」
コロナはティアナとキャロから称賛を贈られ、鼻たかだかだ。
「これでこの模擬戦のMVPは私のモノ…………」
コロナはニヤニヤが止まらない。
しかし、コロナのデバイス“ブランゼル”が警告を発する。
『マイスター。耐久限界値です。』
「そんな、もうちょっと頑張ってよ!ブランゼル!」
『無理なモノは無r…………』
次の瞬間、ゴライアスを破壊したフレアブラスターがコロナたち三人を飲み込んだ。
「そんな~!私のMVPが~ッ!!?」
「エェッ!!?悔やむのそっちぃぃーッ!!?」
試合開始から8分15秒……
ヴィヴィオ、ティアナ、キャロ、コロナ戦闘不能……
これにより、赤チーム全滅……?
青チーム残り、なのは、ルーテシアのみ……
「あと二人……♪」
『ルーちゃんの撃墜ついでに赤チームを潰しちゃうなんて、やっぱりマスターはスゴいですねぇ♪』
「僕だけがスゴいじゃないよ。僕とモルガンがスゴいだよ♪」
『マスター。』
アベルの言葉にモルガンは目を潤々としていた。
「ほら!まだ模擬戦は終わってないよ!さっさとルーお姉ちゃんを倒して、なのはさんに空戦を挑むよ!」
『はい、了解ですぅ!』
フレアブラスターを解除したアベルは、“光波高機動ウイングシステム”のスラスター全開でなのは達に突っ込む。
『マイスターなのは、彼が来ます。』
「うん!ルーテシアも気をつけて!」
「は、はい!」
二人は警戒する。
建造物レイアーの影からアベルが飛び出した。
「レイジング・ハート!フォトンブラスター、セット!」
『了解。フォトンブラスター、エネルギーチャージ………完了。』
「シューーート!」
桜色に輝く射砲撃がアベルに向かって伸びる。
このままでは直撃は必至だ。
しかし、アベル避ける素振りもなく真っ直ぐ来る。
「えッ!!?」
「そんな、避けないのッ!!?」
次の瞬間、二人は驚いた。
なのはの放った魔法が当たる刹那、アベルは飛行形態(ファイターモード)に変形する。
なのはの魔法を螺旋状に回りながら急接近した。
「な、何ッ!!?こんな機動見たことない!」
「アハハハ!なのはさんは最後だよ!まずは、ルーお姉ちゃんから……ッ!」
アベルはなのはを無視、素通りすると人型になりながらルーテシアの前に立つ。
大量の魔導兵装を搭載する漆黒の魔法鎧を纏うアベルの姿には、どこか異様な恐ろしさがあった。
スリッド状のセンサーアイで睨まれるルーテシアは、萎縮して動けない。
「これで、ルーお姉ちゃんは終わりだよ。」
アベルの右腕から三発のカートリッジが射出される。
射出されると右手に魔力が充填、収束した。
『“零距離超高出力収束魔力砲(プラズマ・ラム)”、いつでも行けますぅ!』
「じゃあね。ルーお姉ちゃん♪これはお姉ちゃんが考えついたつまらない作戦に対しての僕からのプレゼントだよぉぉぉッ♪」
「ヒ………ッ!!?」
ルーテシアはアベルの中に潜む悪意の片鱗を見て恐怖する。
臨界まで収束され、深紅に輝く右手がルーテシアの腹部に当てられると同時に絶大なる威力の魔力エネルギーの衝撃が彼女を襲った。
「がはぁぁッ!!!!!」
彼女は200m以上弾き飛ばした。
吹き飛ばされたルーテシアが、ぶつかった二棟の建造物レイアーは衝撃で土煙を上げて倒壊する。
試合開始から9分……
ルーテシア、戦闘不能。
残り、高町なのは一名……?
「さてと……残りはなのはさんだけ……」
アベルがなのはに向き直った。
「強いね……圧倒的戦力差だったのに、ひっくり返されちゃった。」
「でしょ〜?褒めてくれる?」
「ううん、褒めないよ……むしろ、私は認めない!こんな戦い方は間違ってる!」
「どうして?これは模擬戦(ゲーム)だよ……要は、勝てば良いの!勝てば……ねぇぇッ!」
アベルはツインフレアライフルを撃ちながら、彼女との間合いを一気に詰める。
なのはは彼の射撃から逃げるために、アクセルフィンを発動し空へと舞い上がった。
「釣れた……!」
アベルは不敵に笑う。
なのはとの空戦を確実なモノにするために、さらに追い討ちを仕掛けた。
「まだまだぁぁ!行って!モルガナイト!」
“モルガナイト”とは、全部で8基ある“光波高機動ウイングシステム”のプラットフォームに搭載れている“無線誘導魔力砲塔”のことをいう。
また、この魔導兵装は使用者の任意で射撃と刺突、斬撃をマルチにこなすことができる。
このシステムを扱う為には高次元の空間把握能力が必要だが、アベルは潜在的にこの能力を持っていたので、何の支障もなく扱えた。
射出されたモルガナイトが鋭い機動でなのはに襲いかかった。
なのはは必死になってモルガナイトの攻撃を避ける。
「スゴい!スゴいよ、なのはさん!僕のモルガナイトが一撃も入らないや……♪」
魔力エネルギーが切れたモルガナイトが、アベルのもとに戻り、エネルギーの最充填を始めた。
「はあはあ……管理局の教導官は伊達じゃないよ!」
「そうだよね!そうこなくっちゃ!」
アベルの興奮も最高潮。
飛行形態になり、深紅の魔力粒子を撒き散らしながら飛翔する。
「じゃあ、見せて貰おうかな?“管理局の白い悪魔(エースオブエース)”の実力ってモノを♪」
アベルは、なのはに一対一の決闘を挑むのだった。
次回に続く。
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第十二話 なのはバスター
「じゃあ、見せて貰おうかな?“管理局の白い悪魔(エースオブエース)”の実力ってモノをさ♪」
アベルのテンションも最高潮……
飛行形態となり、深紅の魔力粒子を撒き散らしながら、なのはの脇を掠めるように飛んでいく。
『ほら、どうしたの?もっと遊ぼうよ!』
アベルはなのはをさらに挑発した。
「行くよ!レイジング・ハート!」
なのははアクセルフィンを羽ばたかせるとアベルを追跡する。
ここから、二人の音速を超えた激闘が始まるのだ。
まず、先手を取ったのはなのはだった。
アベルの後方に着けた彼女は、自身の回りに桜色のスフィアを展開する。
「アクセル・シューター!」
『アクセル・シューター……』
展開したスフィアの総数は、自身の限界の半分である16個……なのはは、長年の経験から全力を出さなくても十分に勝てると思っていた。
「シューート!!!」
なのはの放った攻撃が、アベルに向かって伸びる。
『マスター!来たですぅ!総数16……!』
「りょーかい♪子供だからって、僕のことバカにしてるね……こうなったら、なのはさんに本気を出さてあげる!」
アベルがスピードをさらに上げた。
そして、機動のみで彼女の攻撃を回避し始める。
上から、下から……
右から、左から……
縦横無尽、嵐のように襲い掛かる16個ものスフィアをまるで見えているように……否、実際には見えている。
彼の見ている視覚モニターには、弾道予測をされたアクセル・シューターの軌跡が表示されていた。
その予測をもとに避けて避けて避けまくる。
『自壊を7まで確認!8個目!残り半分ですぅ!』
「こんなのよゆうだよ!よゆう!」
アベルの機動になのはは驚きを隠せない。
本気では無いとはいえ、あの数で攻めて一発も当てらないのだ。
「す、凄い……あんな機動、見たことない……」
『まるで生き物みたいですね。』
しかし、なのはとレイジング・ハートは観察を欠かさない。
アベルの動きをじっくりと見極め、フォトンブラスターを撃つ。
桜色の速射砲が彼に迫った。
『マスター!砲撃来ます!』
「大丈夫。任せて!」
アベルは水平飛行中に進行方向と高度を変えずに機体姿勢をピッチアップし迎角を90度近くに変える。
猛烈な空気抵抗が、飛行形態のアベルを失速寸前のレベルまでスピードを落とした。
空戦機動の一種、“プガチョフ・コブラ”である。
失速したアベルが、なのはと激突しそうになった。
「あ、危ないッ!!!」
なのはから冷や汗が流れる。
一方のアベルは、水平飛行中の“コブラ”から機首を前方に戻さず、後方に一回転させ水平姿勢に戻した。
空戦機動、“プガチョフ・コブラ”から“クルビット”への連続技……彼はそのまま彼女の後方に着ける。
アベルの視覚モニターに表示されたターゲットマーカーがなのはを追跡し、マーカー内に彼女を捉えた。
飛行形態のアベルの装甲、左右のエアインテイクの上部に砲らしき物が現れる。
『ターゲットロックオン!』
「“極超音速誘導魔力弾(テンペスト)”!ファイヤー!」
アベルの言葉に反応した右舷の砲が一発の魔力弾を放った。
次の瞬間、なのはを強烈な魔力爆発が襲う。
「きゃあッ!!?」
ダメージから体勢を崩し墜ちていく彼女だったが、すぐに立て直した。
「何なのッ!!?」
『分かりません。砲撃でしょうか?とにかく気をつけて下さい。』
アベルの攻撃に流石のなのはとレイジング・ハートもお手上げのようだ。
彼の攻撃を再度受けないように、彼女は空をランダムに動き回る。
「フフフ……なのはさんも考えたね。だけど、甘いんだよなぁ~モルガン、テンペストの起爆タイミングを替えてくれる?」
『了解ですぅ。接触起爆から近接起爆に切り替えるですよ。』
「これで、エースオブエースも終わりだね♪」
再び“テンペスト”が放たれる。
それも一発ではない。
左右の砲から連続で発射された。
テンペストはなのは自身に当たらずとも、彼女の周囲まで来ると勝手に炸裂する。
『マイスター、炸裂タイミングが変わりました。これは先程とは違って近接で起爆します。』
「く!レイジング・ハート、プロテクション!」
『了解、プロテクション。』
次の瞬間、なのははテンペストの魔力爆発に飲み込まれた。
「やったね……♪」
不敵に笑うアベルは、瞬時に人型に変形するとフレアライフルを構えてその場に留まる。
しかし、巻き上がる粉塵の中からなのはの速射砲がアベルのフレアライフルの片方を撃ち抜いた。
アベルが左手に持っていたフレアライフルの片割れが、青白いスパークをあげたあとに爆発する。
「うわぁッ!!?」
粉塵が晴れると、中から息の上がっているなのはが現れた。
彼女のバリアジャケットは、あちこちが焼け焦げ、損壊し破れている。
「ハアハア……どう?エースオブエースは、伊達じゃないって分かった?」
なのはの言葉を無視して、アベルはうつむき何かブツブツと呟いている。
「よくも………よくも………」
「どうかしたのかしら?あの子、何だかおかしい……!」
『ええ、注意して下さい。』
レイジング・ハートが注意を促し、なのはがデバイスを構えた。
その時、アベルが大声で叫ぶ。
「よくも、僕のフレアライフルを壊したなぁぁぁぁッ!!!」
どうやら、フレアライフルを彼女に破壊されてキレたようだ。
「許さない……高町なのは!」
「なッ!!?呼び捨てッ!!?」
小学生に呼び捨てされたなのははアベルを注意する。
「こらぁッ!大人を呼び捨てしちゃダメじゃない!」
「うるさい!モルガン!本気で行くよ!EDI-SYSTEM起動して!」
『どうして、それをッ!!?』
「昨日、キミを調整中に弄ってたら見つけた。」
『ダメですぅ!このシステムは危険ですぅ!マスターがマスターで無くなってしまうかもですぅ!』
「構うもんか!僕はアイツを倒したい!だから、早くッ!!!」
アベルの気迫にモルガンは気圧されてしまう。
『うーーん……了解しました……縮退炉内、魔力値安定。補助機関、正常に稼働中……EDI-System起動ッ!これよりマスターの脳波に干渉するですぅ!』
しぶしぶ了承したモルガンは、素早く各機能のチェックを済ませ隠し玉である『EDI-System』を起動した。
システムが起動した瞬間、アベルの纏っているアーマージャケットの装甲色が黒から純白に変わる。
そして、複雑な魔法陣が模した呪印のような模様がジャケットの隅々まで行き届き定着した。
また通常時は、禍々しいほどに紅かった魔力光と各センサー部もシステム起動と同時に清々しいエメラルドグリーンに変化した。
※ちなみに『EDI-System』とは……理性と呼ばれる精神の箍(たが)を外し、闘争心・破壊衝動などの原始的欲求を優先させることによって使用者の戦闘力を飛躍的に上げるシステムである。
また、このシステムによりモルガン自身も情報処理能力や機動性・火力等が通常の約3倍になるのだ。
最後にスリッド状のセンサーアイにバイザーが降り、ツインアイに変わる。
「何だろう……怖い………」
なのはの体に悪寒が走った。
「これはEDI-SYSTEMって言ってね?潜在能力を解放して戦闘力を爆発的に上げるんだよ♪」
さらにアベルの頭上に一際大きな召喚魔法陣が展開、その中から赤紫の巨大な甲冑が出現する。
『マスター、これって………』
モルガンもあ然としている。
「ア、アベルくん……これは………?」
「戦術機動魔導兵装“アヴァロン”。ようやくお披露目できるよ…………」
アベルはアヴァロンと合体シーケンスに入る。
両肩のシールドはエクスブレードクローに変形し、腰のサイドスカートも変形して脚部を構成するパーツとなる。
そして、甲冑のようなアヴァロンはパーツごとに別れ、コアとなるアベルに次々と装着された。
光波高機動ウイングシステムと一つになった肩部、胸部、下半身と………アベルは最初よりも5倍近い大きさとなる。
アヴァロンと合体し、さらにEDI-SYSTEMの効果により好戦的、破壊的な性格になったアベル。
「これはアンタに勝つためのチカラ……“なのはバスター”だよ!」
両方の“エクスブレードクロー”の指先に魔力が収束し、なのはに向かって一斉に放たれる。
「レイジング・ハート!」
レーザーのように襲い掛かる10本の射撃魔法をなのはは回避しながら、フォトン・ブラスターをアベルに向けて幾度となく撃ち込んだ。
爆煙の中に消えるアベル……「やった!」となのはは確信する。
しかし、アベルは彼女が予想した行動の斜め上の行動を取った。
「そんな、攻撃で“なのはバスター”が誇る鉄壁の装甲を抜けるとでもおもってるのッ?!!」
なんとアベルは全くの無傷……
「なんて装甲なの……ッ!!?」
「また僕の番かなッ?!!」
アベルはその巨体から想像できないほどの加速力で間合いをつめると、なのは目掛けて鋭いエクスブレードクローを振り下ろす。
なのははその一撃を紙一重で避けた。
だが彼の振るった渾身の一撃が、彼女のバリアジャケットを掠めとる。
「くあッ!!?」
なのはが再びよろけた。
それに追い打ちを掛けるように胸部装甲内にある2門の火線砲から強力な砲撃が発射される。
「きゃあぁぁあーー!」
無防備のままなのはは、砲撃に飲まれた。
しかし、なのはは至近距離の砲撃に耐えてみせるが、彼女のバリアジャケットはボロボロに損壊し、クローの掠めた部分はキレイに無くなって白い柔肌が見えている。
「しぶといね〜♪でも、そんなにボロボロじゃあ流石のエースオブエースも顔なしってとこだね!どうする?降参する?」
「降参?するわけないよ!私が立ってるなら、まだ負けてない!私のかくし球を見せてあげる!」
次の瞬間、召喚された数個の魔方陣から桜色のチェーンが現れてアベルの四肢に絡みついた。
「なッ!!?バインド!!?」
「そうだよ!カウンターバインド!これが勝利への布石!レイジング・ハート!ブラスター1ッ!」
『了解、マイスター。ブラスター1……』
「スターライト………!」
なのはのレイジング・ハートに膨大な魔力が収束されていく。
『マスター!収束砲が来るですぅ!』
「フン!こんなバインド、今の僕には……ッ!」
次の瞬間、アベルの四肢に絡みつくバインドがエメラルドグリーンの『魔力噴出刃(カッター)』によって切られた。
「ブレイカーーッ!!!」
そして、なのはが収束砲を放つと同時に、アベルは防御態勢をとる。
篭手になったシールドに搭載れている『AMF発振器』がフル稼働し、彼女の必殺である『スターライトブレイカー』を真正面から防御、耐えきる。
彼女の収束砲を真正面から受け止めた装甲は、『AMF発振器』が損失、装甲表面の対魔力コーティングが融解、剥離していた。
『マスター!アンチマギリングフィールドが展開不能ですぅ……このままでは!』
「かまうもんか!コイツさえ倒せば僕の………」
その時だった。
「破アァァァァッ!!!絶招遠雷砲ッ!!!」
背後からリオの声と共に、彼女渾身の蹴撃がアベルの腰辺りに入る。
「ガハッ!!!」『きゃあ!!!』
アベルの巨体は、激しい衝撃と共に下から突き上げられる形でダメージを受ける。
彼は何とか体勢を建て直し、攻撃を受けた方を見る。
なんと建造物レイヤーの屋上で残心を取り、呼吸を整えるリオ・ウェズリーがいるではないか………
「ど、どうしてッ!!?アイツ以外は全員倒したと思ったのに!」
「リオちゃんはずっと、ティアの幻影魔法で隠れてたの。」
なのはが種明かしをする。
「モルガン!気づかなかったの?」
『ごめんなさいですぅ……でも、ティアナさんを撃墜した時点で効力も無くなってしまうんですが………』
「って事は、リオって案外、存在感がないんだね!」
アベルの言葉にリオは軽いショックを受けた。
「ガーン!!!、ち、違うもん!私が隠れるのが上手いだけだもん!」
頬を膨らせたリオが、アベルに向かって突撃をする。
「ダメ!リオちゃん!」
なのはがリオを止めようとしたが時既に遅し、リオの右拳に炎熱変換された魔力が集まっていた。
「これで決めるよ!春光拳奥義!烈火閃光拳ッ!!!」
アベルの腹部に、リオの燃え盛る拳が吸い込まれる。
「本当に詰めが甘いな。リオは……」
アベルが不敵に笑ったかと思った瞬間、彼の体はエメラルドグリーンに光る粒子なって消えた。
「えッ!!?消えたッ!!?」
リオは、初めての見た光景に混乱している。
「リオちゃん!後ろッ!!!」
なのはは声を上げたが、彼女に届くはずもなく、リオ背後にエメラルドグリーンの粒子が収束し再びアベルの姿を形成した。
「うそッ!!?いつの間にッ!!?……きゃあ!!!」
リオの背後に瞬間移動したアベルは、彼女を掴み振りかぶるとお返しと言わんばかりに、建造物の1つに投げつける。
叩き付けられたリオの衝撃で建造物に激突、そして彼女は貫通し地面に叩きつけられ気を失う。
「今のは、いったい何?粒子化したッ!!?」
『このような事例は、初めてです。』
「隙あり!」
「しまった!!?」
今の戦いに気を取られたなのはが、一瞬だけ隙を見せた。
「これで僕の勝ちだね!」
その隙を見逃さなかったアベルは、粒子化能力でなのはの背後を取り、残された必殺の魔導兵装『零距離超高出力収束魔力砲(プラズマ・ラム)』でなのはを撃墜し、この陸戦試合はアベルとモルガンの勝利で幕を降ろすのだった。
最終結果
試合時間、19分30秒。
青、赤両チーム戦闘不能。
黄色チーム、アベル、モルガン生存。
次回に続く。
後半登場したなのはバスターことアヴァロンのイメージは、食玩シリーズ FW GUNDAM CONVERGE EX31 『ノイエ・ジールII 』に足を生やした感じで良いです。
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