例えばこんなゲマトリア (スカイブルーホワイトヘアー)
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黒服とホシノ

「これは星の数ほどある可能性の一つ。それを記録として書き記したものです。あなたにこれを読む勇気はありますか?」

『もちろん』
『書物を手に取る』

「ふふ…きっとその選択を取るだろうと思っていましたよ」

『書物を開くと脳に誰かの記憶が流れてくる。あなたはそのまま意識を失い眠りにつくだろう。そう、こことは違う世界の記憶をぼんやりと眺める傍観者になるのだ』


 

ーーーここは広大な砂漠。

生命が死に絶え砂しか残らない。死を象徴する場所に一人のスーツを着た人の形をした何かが立っている。それは観察者であり、探求者であり、研究者。彼は広大な砂漠を彷徨い『異物』と呼ばれるものを探している。

 

「これは…ただのガラクタですね」

半分以上が砂に埋まった盾。こんなものが異物であるはずがない。しかし普段なら見向きもしない無価値のものから目が離せない。一体何故?何故?何故?

「異物に繋がるとは思えませんが…回収しておきましょうかね」

小柄な人間ならば隠れられるほどの大きさである盾。やはりこれ自体からは何も感じない。ただの塊だ。

「さて、一度戻るとしましょう」

踵を返して基地に戻ろうと踏み出した時、一人の生徒がこちらを睨むように見ていることに気がついた。桃色の髪を靡かせてショットガンを構えたその少女からは何か特別なものを感じる。

「その盾をどこで見つけたのですか?」

丁寧な言葉だが殺意がこもっている声で問いかけてくる少女。なるほど、この盾を拾ったのはこの為だったのでしょう。ならば利用するまで。

「…まず、はっきりさせておきましょう。私は、あなたと敵対する気はありません」

少女を観察するにこの地域の小さな学校である「アビドス」の生徒だろう。些細な存在とはいえ敵対する事はなるべく避けたい。

「この盾はとある目的で砂漠を散策していた際に見つけたものでして…私にとっては価値のないものですのであなたに譲渡する事も可能です」

 

「…条件はなんですか?」

 

「察しが良くて助かります。あなたには私の利益の為に実験に協力していただきたいのです。納得のいく結果が得られた暁にはこちらの盾を譲渡致しましょう」

 

「その実験内容は?」

 

「簡単な事です。生きている人間に私が観測した恐怖が適用出来るか、というものです。安全は保証しませんがそれでもやりますか?」

 

「その盾を返してもらえるならやります」

 

「良い返事ですね。それではご案内しましょう」

 

ーーーアビドスの何処かにある実験室

 

「ではこちらで拘束させていただきます」

 

「………」

 

特に抵抗せず少女を拘束して準備を整え実験を始める。どのような結果になるか非常に楽しみだ。轟音が鳴り装置が起動する。生きた人間で実験を行うのは初めてなので高揚している。そんな期待を裏切るかのように実験の結果は面白くなかった。どうやら精神スキャンのプロセスで拒絶反応が出てエラーが発生したようだ。ただし装置との適合率はとても高くそこさえクリアしてしまえば実験は確実に上手くいく。となればまずはこの少女の懐柔をするべきだろう。

 

「お疲れ様でした。今から拘束を外させていただきます」

 

「実験は成功したんですか?」

 

「残念ながら失敗に終わりました。ですので盾は渡せません…と言いたい所ですが一つ提案があります。こちらを呑んでいただけるのであれば差し上げましょう」

 

「提案?」

 

「ええ。私をあなたの所属している学園の『顧問』にさせてもらいます」




ちょくちょく自己解釈を入れているので解釈違いが発生していくと思いますが生暖かい目で見守ってください。


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黒服とホシノと先輩

かなり自己解釈+改変が多くなってきます。


ーーーアビドス高等学校 生徒会室

 

「ここがアビドス…随分と廃れていますね」

 

「それよりも早く盾を返してください。約束したじゃないですか」

 

「勿論お返し致します。ですが何故この盾に執着しているのでしょうか?ありきたりな何処にでも売っているものですよね?」

 

「いいから返してください!」

 

「……分かりました。どうぞお受け取りください」

 

盾を差し出すと勢いよく奪い取っていき何かを確認している。どうやら何かを見つけたようで少女の目に輝きが戻ったように見えた。

 

「間違いない…これは先輩の…」

 

「…宜しければそちらの盾に執着していた理由をお伺いしても?」

 

「あまり信用出来ない人に話したくはありませんが今は人手が欲しいので…順を追って説明します」

 

棚に飾ってる写真立てを手に取りこちらに見せてくる。そこには目の前にいる少女ともう一人、美しい空色の髪の女性が映っていた。

 

「この人はユメ先輩。現生徒会長であり…今は行方不明になっている人です。この盾は彼女が持っていたものなんです」

 

「なるほど……つまりそのユメという方の手がかりになるかもと考えていたのですね」

 

「残念ながら盾自体に情報はありませんでしたが、砂漠にあった以上そこに居る可能性が高いです。ですのでまた砂漠に行きユメ先輩を探しに行きます。もちろんあなたにも協力してもらいますからね」

 

「ええ。そういう事でしたら構いません(実験の結果が出るその時まではこの少女に助力して差し上げましょう。我が真理の探求の為にはそれが最善の道ですからね)ところで…貴女の名前を聞いておりませんでしたね。何と呼べばよろしいでしょうか」

 

「そういえば名乗っていませんでしたね。私は小鳥遊ホシノです。好きなように呼んでいただいて構いません」

 

「ではホシノと呼ばさせていただきます。よろしくお願いしますね、ホシノ」

 

「はい。それで…あなたの事は何て呼べばいいのでしょうか?」

 

「私には名前という概念がまだ決まっておりませんのでお好きなようにどうぞ」

 

「……じゃあ黒服さんで」

 

「ふむ…悪くないですね。では今後は黒服とお呼びください」

 

「分かりました。では黒服さん、行きましょう」

 

※ここから会話文に名前を入れます

 

ーーーアビドス砂漠 

 

黒服「盾を拾ったのはこの辺りですね。とはいえ砂漠ですので目印でも配置しておきましょうか」

 

ホシノ「…それは何を置いているんです?」

 

黒服「ああ。これは知り合いの写真ですよ。無くしても困りませんし丁度いいので」

 

ホシノ「そ、そうですか…では行きましょう」

 

足取りが軽いホシノの隣を歩き、時々目印を置いて砂漠を進んでいく。前に訪れた時よりも広大になっている場所を注意深く見渡しながら散策して…

 

ホシノ「それにしても広いですね…ユメ先輩は何処まで行ってしまったのでしょうか…」

 

黒服「そういえば、ユメが行方不明になってからどれくらい時間が経ったのですか?」

 

ホシノ「今日でちょうど一週間です…」

 

黒服「そうでしたか。……ふむ」

 

ホシノ「黒服さん?どうかしましたか?」

 

黒服「ホシノ、しばらく休憩をとりましょう。先程から足がふらついておりますよ。その様子ですとまともに睡眠すらとっていないのでしょう?あそこの日陰で1時間程休んでください」

 

ホシノ「ですがその間にもユメ先輩が…」

 

黒服「貴女が倒れてしまったらユメも私も困るのです。簡易ベッドを作りますので休みなさい」

 

日陰にホシノを横にさせると「…ありがとう」と言い寝息を立て始めた。何故感謝をされたのかは理解できないがこれで動きやすくなった。

 

黒服「このまま闇雲に探していても時間だけが過ぎてしまいますので…あれを使いましょう」

 

ホシノを残してとある場所へ向かう。

それはかつて人類が作り上げた超人工知能。

神の存在を証明したと噂されているもの、それは「デカグラマトン」。この砂漠にも予言者と呼ばれる人工知能がいる。その者の名はビナー。極力接触したくはないのだがあの様子のホシノを無闇に歩かせて倒れでもしたら神秘への探求が途絶えてしまうかもしれない。それだけは避けなければならないのだ。

 

黒服「私の研究の為にも利用させていただくとしましょう」

 

ビナーと端末を繋ぎユメの盾の画像解析を行い持ち主の現在地座標を特定する。本来ならばそのような事は不可能だが、ビナーの知能を使用すれば可能だ。ものの数分で彼女が居るであろう座標が表示された…のだが…

 

黒服「これは……」

 

ーーーアビドス砂漠 休憩地点

 

黒服「まだホシノは寝ていますね。さて…どうしましょうかね…」

 

ホシノ「…黒服さん?」

 

黒服「おや、起こしてしまいましたか。体調はどうですか?」

 

ホシノ「だいぶ楽になりました。ありがとうございます」

 

黒服「それは良かった。では行きましょうか」

 

端末を確認して再度進み始める。

 

ホシノ「さっきから何を見ているんです?」

 

黒服「ホシノが休んでいる間に色々調べましてね。ユメがいる可能性が高い座標を特定したのですよ」

 

ホシノ「本当ですか!?一体どうやって…」

 

黒服「今は秘密とさせていただきましょう。それよりも問題は…」

 

ユメの座標が砂漠の中心で動いていない事。つまりこの先に居るであろうユメは…

 

ホシノ「!?黒服さん、あそこを見てください!」

 

黒服「あれは…」

 

ホシノが指を示した先にはユメらしき人物が倒れていた。

 

ホシノ「ユメ先輩!ようやく見つけましたよ!」

 

黒服「(今のホシノにあれを見せるべきでは…)ホシノ、お待ちなさい!」

 

その忠告はホシノに届かず彼女はユメに駆け寄ってしまった。

 

ホシノ「やっと見つけましたよ!さ、早く帰ります…よ…?」

 

 

ホシノはユメに触れてしまった。故に悟ってしまったのだ。彼女の身体が冷たい事に。彼女が既に…死んでいる事に。




水着ヒナは当たりませんでした。


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黒服とホシノと○○

 

ーーーアビドス高等学校 生徒会室

 

あの出来事から数日が経過した。私がホシノとユメの遺体を担いでこの学校に戻ってきた後、彼女は部屋に篭ってしまった。より不安定な精神になった彼女で実験をしても前より意味のない結果になるだけだろう。

 

黒服「とりあえずこの遺体はこちらで保存しておきましょうか(生徒の遺体。何かに使えるかもしれないので冷凍保存でもしておきましょう)」

 

実験の道具…は一番最初に思いついたものの今実行してしまったらホシノの精神を破壊してしまうので今は保存程度でいいのだ。

それより問題なのが私は生徒に対して慰めるような事を行なってきた事がない為、こういう時ホシノにどう接すればより好印象を持たれるかどうかが理解できていない所である。

なんともどかしい。目の前に最大の神秘があるというのに。

 

黒服「ですが焦っても意味がありません。時間をかけて懐柔すればいいだけの話。今が好機とも言えるでしょう」

 

精神が疲弊している分付け入る隙があるという事。手はいくらでもある。「悪い大人」のやり方を見せて差し上げましょう。

 

黒服「ホシノ、起きていますか?軽食を持ってきましたよ」

 

ホシノ「……要らない」

 

黒服「貴女は数日なにも食べていないのですよ?何故食べようとしないのですか?何故?」

 

ホシノ「今は一人にさせて…」

 

黒服「そういう訳にもいきません。これ以上貴女を衰弱させてはいけませんからね」

 

ホシノ「一人にさせてよ!」

 

扉越しに叫び声が聞こえる。何故差し伸べた手を拒絶するのか理解できない。しかしこれ以上接そうとしても無駄だろう。

 

黒服「食事を置いていきますので後で食べてくださいね。私はしばらく留守にしますので」

 

ホシノ「……はい」

 

ーーーアビドス高等学校 資料室

 

微塵も興味が湧かないがホシノとの今後の為にこの学校について調べようと書物やデータベースを検索して情報をまとめていると事前に知っていた事ばかりであった。

 

1.かつては数千人の規模だった学園が数十年前から砂嵐が発生

 

2.対策の為に多額の資金を投入したが事態は好転せずに借金だけが膨らんだ

 

3.膨大な借金の影響で学園の経営が悪化、地区全体の衰退も止まらずに過疎化が進んでいる

 

黒服「簡潔に纏めるとこんなところでしょうか。大した情報ではありませんね」

 

借金の額もとても払えるような額ではない。

利子がなかったとしても数百年かかる計算だ。

 

黒服「毎月の利子でも…ざっとこんな額でしょう。子供からここまで搾取するとは賢い大人のやり方とも言えるでしょうね」

(ホシノはしばらく休息が必要…少しは助力してくれる大人が居ても構わないでしょう)

 

ーーーアビドス自治区 銀行

 

黒服「こちらの支払いを行いたいのですがこちらの窓口でよろしいですか?」

 

銀行員1「はい。こちらで問題はありませんが…これはアビドス高校の借金による利子ですよね。何故お客様がお支払いに?」

 

黒服「クックック…無駄な詮索はしない方が身のためですよ?」

 

銀行員1「し、失礼しました!」

 

黒服「理解していただけたならいいのですよ。支払いはこちらのカードでお願いしますね」

 

銀行員1「少々お待ちください!」

 

これでホシノが休息する時間は確保できた。神秘の為ならばこの程度容易い事だ。

 

ーーーアビドス高等学校 生徒会室

 

扉前に置いていた食事がない。食べてくれたのだろうか。

 

黒服「ホシノ、体調はいかがですか?何か必要なものがあれば…おや?」

 

扉がわずかに開いている。手をかけて開けたその先には初めて出会った頃のような鋭い目つきの強気な少女ではなく、生気を感じないほど弱々しい少女の姿になったホシノが居た。精神の衰弱と栄養失調なのは明らかだ。

 

ホシノ「黒服さん…さっきのご飯、ありがとうございました」

 

黒服「こちらこそ食べていただいてありがとうございます。それでも栄養が足りていないようですがね」

 

ホシノ「数日何も食べてなかったので……」

 

黒服「ホシノ?」

 

ホシノ「……ユメ先輩が死んでしまって……この学校の生徒は私一人になってしまいました」

 

黒服「そうですね。新しい生徒が来る可能性も0%に近いでしょう」

 

ホシノ「残ったのは借金だけ……」

 

黒服「……ホシノ、貴女はどうしたいのですか?アビドスを捨てて別の学園に転入する事も可能です。ここに拘る必要もありませんよ」

 

ホシノ「そうかもしれませんね……それでも私はユメ先輩が居たこの学園から離れたくないです。どれだけ苦しくても…先輩が居たこの場所を守りたいんです」

 

 

黒服「それが貴女の選択なのですか?自ら茨の道に進むとは理解し難いですね。とても現実的ではないように思いますね。楽観的に考えすぎかと」

 

ホシノ「そうかもしれませんが…それでも…」

 

黒服「ですのでしっかりと目標を立てていきましょう。まずはその弱った身体を元に戻す所からです」

 

ホシノ「……協力してくれるのですか?どうしてそこまで…」

 

黒服「簡単な事です。私は顧問であり大人ですからね。困っている生徒には手を差し伸べて当然でしょう?」

 

ホシノ「黒服さん…」

 

黒服「始めましょう。貴女と私の物語を」

 

透き通るような世界。この日一つの小さな学校で新しい委員会が設立された。

 

ーーーーーー

例えばこんなゲマトリア

 

第1章 黒服とホシノと対策委員会 開幕

 



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小鳥遊ホシノ一年生と黒服
黒服と対策委員会活動記録#1


 

 

ーーーアビドス高等学校 旧校舎の中庭

 

黒服「…こちらでよろしいのですか?もっと見晴らしのいい場所にしなくてもいいのです?」

 

ホシノ「はい。先輩はここがお気に入りの場所でしたから」

 

黒服「では積もっている砂をどかしましょうか。このような作業はあまり好みではありませんが…」

 

ホシノ「これくらいなら私一人でも出来ますので、黒服さんは休んでいても良いんですよ?」

 

黒服「そうはいきません。顧問になった以上責任がありますから。生徒が頑張っているのに大人が見ているだけだなんて示しが付きませんからね」

 

ホシノ「……そうですか。では日が暮れる前に終わらせましょう」

 

何故旧校舎に居るのか。その理由は少し前に遡る。

 

ーーーアビドス高等学校 生徒会室(回想)

 

それはアビドス廃校対策委員会が設立されてすぐの話。

 

黒服『出来る事から始めていきましょう。ホシノは今どうしたいのですか?」

 

ホシノ『まずは…ユメ先輩のお墓を作りたいです』

 

黒服『墓ですか。もうユメとの区切りはついたのでしょうか』

 

ホシノ『まだついてはいません…心のどこかで先輩は生きているんじゃないかと何度も考えました…ですがユメ先輩の為にも立ち止まっている時間はないと思って…』

 

黒服『ホシノは強い子ですね。貴女がそうしたいのであれば私は協力を惜しみません』

 

彼女は強い。しかし故に大切なものを失った時には容易く砕かれてしまう。だからこそそこに付け入ったのだが。

 

ホシノ『ありがとうございます。既に場所はもう決めているんです。行きましょう』

 

ーーーそして現在

 

黒服「これで砂は大方取り除けましたね。ホシノ、穴掘りは任せても宜しいでしょうか?」

 

ホシノ「大丈夫ですが…何か問題がありましたか?」

 

黒服「埋めるならば棺に入れて綺麗な姿の方が良いと思いましてね。棺を作ろうかと」

 

ホシノ「…ありがとうございます。では棺はお任せしますね」

 

黒服「ええ。そんなに時間はかけませんので。目を離しているうちに無理はしないでくださいね。貴女はまだ体調が万全ではないのですから」

 

ホシノ「はい。気をつけます」

 

ホシノの視界に映らないほどの位置で端末を取り出す。そう、これはあの時ビナーに接続した端末だ。ユメの遺体を冷凍保存したあの時からこうなる事を想定してあらかじめ生成しておいたのだ。きっとホシノならこう言うだろう、と。

 

「さて…ユメを入れましょうかね」

 

冷凍保存していたユメの遺体を取り出して棺にしまう。安らかに眠るその姿はとても神々しい。彼女も神秘を紐解く鍵の器になれる存在だったのだろうか。そんな些細なことを想像しながら棺をホシノがいる場所まで運んだ。

 

ホシノ「えっ……早すぎませんか!?」

 

黒服「クックック…大人の力を使えばこの程度容易いものです」

 

ホシノ「ありがとうございます……黒服さんが居てくれてとても助かってます」

 

黒服「私は感謝される様な事はしておりません。ただ自分の利益の為に行動しているに過ぎないのです」

 

ホシノ「そうですか……それでも助かってる事には変わりがないので……」

 

黒服「それよりも…先程から土を掘る速度が遅くなってますよ。体力の限界なのでは?」

 

ホシノ「お見通しでしたか……体力には自信があったのですが……」

 

黒服「全く…無理はするなと先程言ったばかりでしょう?あとは私がやりますからホシノはしばらく休んでください」

 

ホシノ「はい……」

 

黒服「貴女はなんでも一人で背負おうとしていますが私がいる以上そんな事は許しませんよ。人に頼る事を覚えてくださいね」

 

ホシノ「黒服さん…はい、分かりました」

 

日陰に座って休んでいるホシノを横目に棺が埋まる程の穴を掘り進めていく。とはいえホシノがほとんど終わらせていたので早いうちに作業が終わった。後は棺を埋めるだけだ。

 

黒服「ホシノ、いくつか花を用意しました。ユメに手向けるものを選んでください」

 

ホシノ「…はい」

 

彼女が手に取ったのは空色の花と桃色の花。

色鮮やかな二つの花を棺に入れるホシノ。

 

ホシノ「ユメ先輩。ありがとうございました。あなたの想いは私が受け継ぎます……うぅ…」

彼女は耐えきれずに涙を流していた。今まで堪えていたものを吐き出すように。人知れず亡くなったアビドス最後の生徒会長。その供養は大切な人に見送られながら幕を閉じた。

 

ーーーアビドス高等学校 仮眠室

 

泣き疲れて眠ってしまったホシノをベッドに寝かせて空を眺める。月明かりが照らす夜。

安らかな寝息しか聞こえない程静かだ。

 

黒服「ヘイローは消えている…警戒はしていないようですね」

 

無防備に寝ているホシノ。いくらなんでも不用心すぎるとは思うがそれ程信用してくれているという事なのだろう。その信用をいつか打ち砕くかもしれないが。

 

黒服「その時が来るまでは顧問として良好な関係を築いていましょう…クックック…」

 

夜が明けていく。朝になればまた対策委員会としての活動が始まる。それまではこの静寂に包まれた心地の良い時間を堪能するとしよう。




ここまで読んでいただき誠に有難うございます。

次回の更新ですが平日は仕事の都合上投稿が遅れる可能性がある事をご了承の程よろしくお願い致します。


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黒服と対策委員会活動記録#2

 

ーーーアビドス高等学校 武器庫

 

 

黒服「ふむ…」

 

ホシノ「ど、どうしたんですか?さっきからこっちをずっと見てますけど…」

 

黒服「ホシノの武器はショットガンなのですよね。選んだ理由をお伺いしても?」

 

ホシノ「距離を詰めて一撃で相手を倒せるからですね。ユメ先輩が囮になって私が隙を見て…みたいな戦い方をしてました」

 

黒服「とても賢い戦い方ですね。…ですが今は貴女しかこの学園で戦える者は居ません。時間はありますし新しい戦闘スタイルを試してみては如何でしょう?」

 

ホシノ「そうですね…」

 

黒服「ホシノはこう戦いたい、というものはありますか?曖昧なものでも構いませんよ」

 

ホシノ「誰も傷つかないように…私が大切な人達を守れるような…そんな戦い方がしたいです」

 

そう語る彼女の眼は真剣だ。ならばそれに応えるのも大人の仕事だろう。

 

黒服「守りたい、ですか。でしたらこういうのはどうでしょう?例えば…ショットガンを片手で扱いもう片方に盾を持つ、というのは」

 

ホシノ「ショットガンと…盾?」

 

黒服「はい。機動力は落ちますが貴女が倒れない限り戦いを有利に進める事も可能でしょう。味方への攻撃を庇えます」

 

ホシノ「そのような戦い方が私に出来るでしょうか…」

 

黒服「ホシノなら出来ます。それに盾ならそこにあるでしょう?」

 

ホシノ「っ…!?それはユメ先輩の…」

 

黒服「彼女の意思を継ぐならば貴女が使うべきです。さあ、どうしますか?」

 

ホシノ「……そんなの決まっています。私はユメ先輩の意思を継いだのですから」

 

黒服「素晴らしい。ですがそれを使いこなすのは並大抵の覚悟では務まりません。それでもその戦闘スタイルにしますか?」

 

ホシノ「はい。私は皆を護る盾になる為になります!」

 

黒服「良い返事ですね。貴女の今後が楽しみですよ」

 

ホシノ「……とは言ったものの……来年この学校に入学してくれる子は居るのでしょうか…」

 

黒服「……そこばかりは運…でしょうか」

 

ホシノ「……初めて黒服さんが曖昧な返事を…」

 

黒服「大人とはいえ必ずしも答えが出せる訳ではないのです」

 

ホシノ「そうなんですね。あんなに頼りになる黒服さんですら分からない事があるだなんて…」

 

黒服「……気を取り直して特訓の準備を始めますよ。時間があるとはいえ有限である事は変わりがないのですから」

 

ホシノ「はい!黒服さん、ご指導よろしくお願いします!」

 

黒服「まずは盾を持って校庭で走り込みから始めましょう。まだ本調子ではないのですから無理をしない範囲でお願いしますね」

 

ホシノ「分かりました!行ってきます!」

 

健気に特訓を始める彼女を見守る。ホシノはこれから今以上に強くなる。だがそれはあくまで身体だけであり心は弱いままだろう。彼女の心を支えてくれるような存在が必要になるだろう。私のような悪い大人ではない誰かが。

 

ーーーホシノの特訓が始まってから数時間後

 

黒服「お疲れ様でした。初日にしては上出来でしたね」

 

ホシノ「ありがとう…ございます…」

 

黒服「頑張ったホシノにはご褒美が必要ですね。失礼しますよ」

 

ホシノ「えっ…黒服さん!?」

 

黒服「生憎女性の運び方はこのようなやり方しか心得ておりませんので」

 

ホシノ「だからってお姫様抱っこは恥ずかしいです!せめておんぶくらいに…」

 

黒服「いいから行きますよ。早く行かないと店が閉まってしまいます」

 

何故か顔が赤いホシノを抱えて目的の店へ向かう。この辺りでの数少ない飲食店であり評価が高い店、『柴関ラーメン』だ。

 

柴大将「らっしゃい!アビドスの生徒さんが来るとは珍しいな。そっちのイカした兄ちゃんは先生かい?」

 

黒服「そんな所です。さてホシノ、味はどちらにしますか?」

 

ホシノ「じゃあ…この特製味噌ラーメンに炙りチャーシューをトッピングしたものを…」

 

黒服「では大将、そちらを二つお願いします」

 

柴大将「あいよっ!ちょいと待っててくれよな!」

 

黒服「こちらのお店は『良い意味で予想を裏切られた』と評判らしいです」

 

ホシノ「えぇ…大丈夫なんですか…?」

 

黒服「食べてみれば分かることですよ。ほら、到着しまし…」

 

柴大将「お待ちどうさん!特製味噌炙りチャーシュートッピングだぞ!」

 

そう言われてテーブルに置かれたものは山だった。何故?並のはずでは?何故?

 

ホシノ「………」

 

柴大将「ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ」

 

笑いながら厨房へ戻る店主と絶句しているホシノと目の前にある二つの山。

 

黒服「確かに…予想を裏切られましたね…」

 

ホシノ「うへぇ…」

 

明らかに値段と量が見合っていない山盛りのラーメンをなんとか平らげる。後ほどホシノから「この日のトレーニングの中で1番キツかったです」と言われる程だった。

 

柴大将「また来てくれよな!兄ちゃん達ならいつでも歓迎だ!」

 

笑顔で見送ってくれる大将にぎこちない顔で手を振りかえしつつ歩き出した。

 

黒服「……柴関ラーメン…恐ろしい店でした」

 

ホシノ「とんでもない量でしたね…味はとても美味しかったのでまた来ましょうね」

 

黒服「そうですね。次は必ず並盛りで頼むと致しましょう…」

 

ホシノ「賛成です…」

 

この後情けない姿で学園に帰る二人組が目撃されたのは言うまでもない……

ちなみに翌日からの訓練はとても調子が良かった為、定期的に通う事になった。



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黒服と対策委員会活動記録#3

ーーーアビドス高等学校 生徒会室

 

ホシノ「では…いよいよ対策委員会としての本格的な活動方針を決めたいと思います」

 

黒服「素晴らしいですね。とはいえ課題は山積みです。どれから着手をするのですか?」

 

ホシノ「まずは学園の敷地内を綺麗にしようと思います。来年後輩をお迎えする為にも清潔感も大切にしたいです」

 

黒服「一理ありますね。校舎も砂塵の影響で汚れていますし新学期に備えるとしましょう。ですがその前にホシノ、貴女が1番問題ですよ」

 

ホシノ「えっ?何か気に障るような事をしてしまいましたか…?」

 

黒服「その制服ですよ。前から気になっては居たのですが替えの制服等はないのです?」

 

ホシノ「……この一着だけです」

 

黒服「ならば洗濯しましょうか。その間に着替えて……」

 

よく考えたら出会ってから今まで制服姿のホシノしか見ていない。まさか年頃の少女が制服一着だけなんて事はないと思うが…

 

黒服「……ホシノ。貴女は今制服以外の服はありますか?」

 

ホシノ「……ないですよ」

 

黒服「……今日の活動が決まりましたね」

 

ホシノ「……と言いますと?」

 

黒服「ホシノの服を買いに行きましょう」

 

ホシノ「やっぱりそうなるんですね…」

 

 

ーーーアビドス自治区 ショッピングモール

 

黒服「とりあえず替えの制服は4、5着程買っておきましょう。それと体操着も幾つか」

 

ホシノ「黒服さん…私そんな大金払えませんよ…」

 

黒服「こういう時は大人に任せておけばいいのです。さ、次は私服ですね」

 

ホシノ「まだ買うんですか!?これ以上は申し訳なさすぎて…」

 

黒服「ホシノ、貴女も年頃の女の子なのですからお洒落に気を使いなさい。元から魅力があるのですから綺麗な衣装を纏うことでよりホシノの美しさが輝くというのに…」

 

ホシノ「……そこまで言うなら私を着飾ってくださいよ。後で泣き言いっても聞きませんからね?」

 

黒服「勿論です。さ、こちらへどうぞ」

 

その後数時間にも及ぶホシノの試着が終わり満足したので全て購入して帰路に就く。

 

黒服「やはりホシノには空色のネクタイが似合いますね。美しさが増しておりますよ」

 

ホシノ「ありがとうございます…ネクタイだけではなく…色々と…」

 

黒服「ホシノの為でしたら容易いものです。しかし買いすぎてしまいましたね…空き教室をクローゼットにでもしますか」

 

ホシノ「勝手に教室を改造していいものなのでしょうか…」

 

黒服「今はホシノしか生徒が居ませんし大丈夫でしょう。教室が足りなくなったのであればその時に考えればいいのですから」

 

ホシノ「それもそうですね。じゃあ教室の改装、しちゃいますか」

 

黒服「ええ。明日の活動が決まりましたね」

 

ホシノ「はい………あの」

 

黒服「どうしました?」

 

ホシノ「明日もよろしくお願いします……先生」

 

黒服「……ええ。また明日」

 

ホシノ「…えへへ」

 

笑うホシノ。彼女の純粋無垢な笑顔を見たのは初めてかもしれない。実験の対象でしかない彼女から向けられる感情に思わず頬が緩んだ。作戦はうまくいっている。

 

黒服「(ホシノ…貴女には申し訳ありませんが…私も悪い大人なのですよ)」

 

ホシノ「先生?立ち止まってどうしたのですか?冷え込む前に帰りますよ」

 

黒服「おっと。今行きます」

 

いつもより積極的になったホシノに連れられて夕焼けの街を走る。あの時彼女が見せてくれた笑顔を忘れる事はないだろう。

 

おまけ

 

黒服「…確かに服を選ぶとは言いましたが…何故私がホシノの下着を選ばないといけないのですか?」

 

ホシノ「下着も服の一部ですよ。それに私は言いましたよ?後で泣き言いっても聞きませんからね、と」

 

黒服「そんな思考の女子高生なんて居るはずがないでしょう…恥じらいを持ちなさい」

 

ホシノ「……冗談ですよ。流石に下着は自分で選びます」

 

黒服「ええ…それでは外でお待ちしていますので…」

 

ホシノ「……ちなみになんですけど、黒服さんの好きな色ってなんですか?」

 

黒服「質問の意図が理解出来ませんが…特に好きな色はありません」

 

ホシノ「……そうですか」

 

この後。しばらくの間少しだけ機嫌が悪くなったホシノを宥めるスーツを着た男が目撃されたとかされていないとか。




ーーーお知らせ
後日黒服とホシノ関連で本筋とは逸れているものを外伝としてあげる予定です


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黒服と対策委員会活動記録#4

 

ーーーアビドス砂漠 

 

黒服「まさか貴女が私の趣味に付き合いたいと言うとは思いませんでしたよ」

 

ホシノ「ずっとお世話になってばかりでしたので私も先生の役に立ちたくて……ご迷惑でしたか?」

 

黒服「とんでもない。むしろその逆です。感謝致します」

 

ホシノ「〜〜っ!!」

 

最近ホシノを褒めると不思議な動作をするようになった。これはこれで興味深いのだが今は本来の目的である[遺物]の発見が優先だ。

 

黒服「あまりはしゃぎすぎるとバテてしまいますよ。今日は数キロ先まで探索に行きますからね」

 

ホシノ「分かりました。確か遺物ってものを探しに行くんですよね?」

 

黒服「その通りです。砂の中に埋もれている遺物……超古代文明の遺産と言った方が正しいでしょうか。私はそれに興味がありましてね」

 

ホシノ「なんだかロマンがありますね。もし値打ちものだった場合はアビドスの借金も…」

 

黒服「ホシノ。夢を見るのは良いですが大半の遺物には価値がつきません。素人が見てもガラクタにしか見えないものがほとんどですからね」

 

ホシノ「そうなんですね。一発逆転!みたいな感じのものを想像してました」

 

黒服「もしかしたらそんな遺物もあるのかもしれませんね……おや、話している間に目標地点に着いたようですね」

 

ホシノ「どこまで見渡しても砂だらけですね……先程埋まっている遺物を探すと言ってましたけどどうやって見つけるのですか?」

 

黒服「それはですね……遺物の性質を利用するのですよ」

 

ホシノ「と言いますと?」

 

黒服「とある星では特定の物質が放出している電波を受信して座標を特定する、という技術が使われていましてね。それを利用して遺物に反応する装置を開発したのです」

 

ホシノ「これがその装置ですか?なんだか計測器のような見た目ですが…」

 

黒服「遺物に近づけば近づくほどメーターが右に傾いていく、といった簡単なものです。これを使って埋まっているであろう場所を掘るのです」

 

ホシノ「…先生。これってピク……」

 

黒服「それ以上はいけませんよ」

 

ホシノ「………」

 

黒服「……装置を起動させますよ」

 

誤魔化すように電源を入れるとメーターの針がが中心を指している。どうやらここのポイントは当たりのようだ。

 

黒服「ホシノ、この辺りに遺物があるようです。忙しくなりますよ」

 

ホシノ「は、はい!」

 

遺物を掘る際はどうしても精密かつ丁寧に行う必要がある。もし乱雑に掘り起こそうとして傷が入ったりでもしたら大惨事だ。

 

黒服「では掘っていきましょう。ホシノは周りの砂が流れ込まないように補強をしてもらえると助かります」

 

ホシノ「分かりました。先生が集中して掘れるようにサポートしますね」

 

黒服「頼みましたよ」

 

普段はとても時間がかかる作業だがホシノの協力もあって早い段階で遺物の一部が姿を現した。昂る感情を抑えて掘り進めていくとそこまで大きいものではなく、あっさりと回収出来た。

 

黒服「目的は達成した事ですし、戻りましょうかね。ホシノ、穴を埋めて帰りましょう」

 

ホシノ「見つかったんですね!私にも見せてください!」

 

黒服「勿論。こちらですよ」

 

ホシノ「…これって…タブレット端末ですよね?これが遺物なのですか?」

 

黒服「装置に反応がありますので遺物である事は確実でしょう。持ち帰って解析をしてみましょうか」

 

ホシノ「了解です。あ、穴は埋めておきましたよ」

 

黒服「おや、ありがとうございます。では帰りましょう」

 

ただのタブレット端末にしか見えないこの遺物を解析する。この遺物を理解出来た時にはどのような発見があるのか想像するだけで感情が昂る。

 

ホシノ「先生?どちらに向かっているのですか?帰り道はこっちですよ」

 

黒服「いえ、こちらで合っています。解析は実験室で行いますので」

 

ホシノ「実験室……最初に出会った時に行ったあそこですか?」

 

黒服「その通りです。あの場所は私の研究室でもありますからね」

 

ホシノ「そうだったんですね……」

 

黒服「……ホシノ、何か言いたい事があるのでしたら仰ってください」

 

ホシノ「その…研究室を学校に移して欲しいなって…」

 

黒服「ふむ…」

 

確かにこういう小さめな遺物は学校に持ち帰って解析を行う方が学校と研究室を往復する手間も省けて楽だろう。空き教室を一つ改装すれば簡易的なものなら数分で作れる。

 

黒服「良い案ですね。今後は遺物の解析等は学校に持ち帰って行うとしましょう。ただし小さいものに限りますが」

 

ホシノ「!!では急いで学校に戻りましょう!」

 

黒服「おっと…そんなに急がなくても良いのですよ?」

 

ホシノ「善は急げって言うじゃないですか!ほらほら行きますよ!」

 

いつの間にかホシノと手を繋いで引っ張られる形で走っていた。完全に警戒心は解けたのだろう。近いうちに神秘の実験をしてもいいかもしれない。

黒服「(……ですがもうしばらくは付き合ってあげるとしましょうかね)」

 

ーーーアビドス高等学校 研究室(仮)

 

ホシノ「先生、もうそろそろ日付変わりますよ?一度中断して休みましょう?」

 

黒服「お気遣いありがとうございます。もう少しでキリの良い所まで解読出来るのでその後に休みます」

 

ホシノ「じゃあ終わるまで待ってますね。先生が本当に休むか確認しないといけませんから」

 

黒服「……仕方ありませんね。本日はここまでとしましょう。貴女も早く寝室に……」

 

ホシノ「………ZZZ」

 

黒服「……やれやれ」

 

眠ってホシノに毛布をかけてソファーに寝かせて解析を再開した。次回からはホシノを眠らせてから作業を行う事にしよう。

 

ーーー数日後

 

黒服「ホシノ。遺物の解析が完了しましたよ」

 

ホシノ「本当ですか!?流石先生です!それでどんなものだったんですか?」

 

黒服「それがですね…特に遺物らしい要素はなくただのタブレット端末と変わらないのです。強いて言うのであれば充電の必要がないという事でしょうか」

 

ホシノ「そうなんですね……触ってみてもいいですか?」

 

黒服「どうぞ。とはいえ目新しいものはないと思いますが…」

 

ホシノ「どれどれ…確かに普通のタブレットと変わらな…?」

 

黒服「……ホシノ?」

 

静かになったと思えばホシノの姿がない。床に落ちた端末の画面にはホシノが映ったアイコンと『転送が完了しました』という無機質な文字だった。

 

黒服「…ほう。このような機能があったとは…興味深い」

 

詳しく調べたいがまずはホシノを呼び戻そう。『呼び戻し』ボタンがあったのでそれを押した。

 

ホシノ「!?一体何が起きたのですか!?」

 

事態が飲み込めていないホシノを横目にタブレット端末を覗き込むとバッテリーが切れた。どうやら転送機能を使う度にバッテリーを50%消費するらしい。なんて非効率なのだろう。

 

黒服「……とりあえず充電しますかね」

 

ホシノ「先生、さっきのは一体!?」

 

黒服「今から説明しま…ホシノは何故砂まみれなのです?」

 

ホシノ「いきなり砂漠に飛ばされて……そのタイミングで砂塵が……」

 

黒服「……説明は着替えてからにしましょうか」

 

実用性があるかどうかはともかくやはり遺物というものは非常に興味深い。再起動したら再度分析をしましょうかね。

 




次回でホシノ一年生編を本編では終わらせようと思います。


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黒服と対策委員会活動記録#5

 

 

ーーーアビドス高等学校(3月) 訓練室

 

黒服「では始めてください」

 

ホシノ「分かりました!行きます!」

 

ホシノが訓練を始めてから数ヶ月。彼女は既に片手でショットガンを撃てるようになった。

 

黒服「3時の方向からロケットランチャーが飛んできますよ」

 

ホシノ「くっ!」

 

それでも盾と同時に扱うのは至難のようで数回は構える前に被弾をしてしまう。訓練用なので威力は抑えているものの蓄積すれば限界はくる。

 

黒服「一度休憩にしましょうか。やはり右側の防御が間に合っていませんね」

 

ホシノ「近距離の敵なら大きなダメージを受ける前に倒し切れるのですが…遠距離からだと……」

 

黒服「ですが着実に使いこなしてきております。このまま続けていけば貴女は仲間を守る強固な盾になれるでしょう」

 

ホシノ「…!はい!」

 

黒服「そろそろ次のステップに行っても良い頃合いですね。まずホシノにはこれに着替えてもらいます」

 

ホシノ「これって…制服じゃないですか。今も着て……あっ」

 

黒服「強固な盾になる貴女に相応しい制服デザインにしておきました」

 

ホシノに渡したのはユメが着ていたものと同様のデザインにしている。あの時複数制服を購入したのもその為だ。

 

黒服「形から入るのも大切だと思いましてね。それとその防弾チョッキに隠している重りも没収です」

 

ホシノ「うっ…気づいていたんですね」

 

黒服「体幹を鍛えるのも大切ですがそれで被弾をしてしまうようでは本末転倒です。焦らずにやりましょう」

 

ホシノ「はい……じゃあこれに着替えてきますね」

 

黒服「ええ。着替え終わったらまたこちらに戻ってきてください」

 

ホシノが着替えている間に訓練に使った弾薬などを片付ける。ダミーターゲットを見ると彼女の腕前がよく分かる。ショットガンを全弾外さず急所を狙っているのだ。とてつもない集中力を発揮しているのは間違いないだろう。

 

黒服「やはり実践も交えた方が良いのでしょうか。彼女が管轄している生徒を何人か派遣してもらっても……おや」

 

ホシノ「先生、着替えてきました……似合ってますか?」

 

黒服「とてもお似合いですよ」

 

ホシノ「!!ありがとうございます……」

 

黒服「その制服は私が特殊な加工をしました。ワイシャツにはスナイパーライフルの銃弾からでも守り通せる程に強固な防弾加工を施しました」

 

ホシノ「このワイシャツがですか?着心地や重さはさっきの制服とほとんど変わりませんが……」

 

黒服「多少は重量が増しているはずですが気にならない程度に抑えました。スカートにも同様の加工をしてあります。ですが被弾をしていいという訳ではありませんのでそこは勘違いしないようにお願いしますね」

 

ホシノ「傷をつけないように気をつけます。それに……先生から貰った制服なので大事にしたいです」

 

黒服「いいえ、傷はつけて構わないのです。本当に大事なホシノを守る為に用意したのですから」

 

ホシノ「……先生はずるいです」

 

黒服「???何故ですか?」

 

ホシノ「なんでもないです!」

 

黒服「そうですか。では試しに先程と同様の訓練をやってみましょう。準備はよろしいですか?」

 

ホシノ「…はい。大丈夫です」

 

黒服「では始めましょう」

 

ホシノ「行きます!」

 

開始と同時にホシノを弾幕が囲む。最低限を防ぎながらショットガンを的確に当ててダミーを破壊していく。ここまでは良い。ここで盾を構えていない方に向けてロケットランチャーが狙いにきた。

 

ホシノ「もう当たりませんよ!」

 

俊敏な動きでロケット弾を避けた後、狙撃手ダミーを打ち抜いた。

 

ホシノ「……終わりですか?」

 

黒服「はい。素晴らしい動きでしたよ、ホシノ」

 

ホシノ「や……やりました!初めて訓練メニューをクリア出来ました!」

 

黒服「判断力、瞬発力、射撃の正確さ。どれが欠けてもクリアは不可能なこれを制覇するとは……流石ですね」

 

ホシノ「先生がこの制服を用意してくれたおかげです。なんだかとても動きやすくて…」

 

黒服「その調子で続けていきましょう。近いうちに模擬戦を依頼するのも良いかもしれませんね」

 

ホシノ「模擬戦ですか…楽しみですね」

 

黒服「さて、今日のところはこのくらいにしておきましょう。休息をとって明日に備えてください」

 

ホシノ「分かりました。先生、明日もよろしくお願いします!」

 

黒服「はい。期待していますよホシノ」

 

ホシノ「っ!?頑張ります!」

 

最近ホシノは褒めると飛び跳ねて喜ぶ事が分かった。こういう些細な事で信頼度が上昇していくのだとか。

 

ホシノ「そういえば……先程先生宛てに書類が届いてましたよ。金色?の封筒っぽい奴が」

 

黒服「金色の封筒?絶妙に喜べない色ですね……後で確認します」

 

ーーーアビドス高等学校 校門前

 

???「ここがアビドス……胸が高鳴りますね⭐︎」

 

金色の封筒は新たな物語の始まりを告げる。

 




とりあえず本編はテンポ良く進めていこうと思います。まだまだやりたい描写等はありますがキリがなくなってしまう恐れがありますので…


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小鳥遊ホシノ二年生と黒服と後輩
黒服と対策委員活動記録二年目#1


友人にこのシリーズを書いた影響でホシノが好きになったと言ったらごめんって言われました。


 

 

ーーーアビドス高等学校(4月) 対策委員会室

 

黒服「ホシノは今日から二年生ですね。随分と波乱な一年だったと思いますが無事に進級できた事は大変喜ばしいです」

 

ホシノ「えへへ…ありがとうございます。これも先生が居てくれたからですよ」

 

黒服「私は助力したまで。貴女が努力を怠らなかっただけの話です」

 

ホシノ「もう……先生は褒め上手ですね。それよりも先生、その腕章付けてくれたんですね!」

 

黒服「ええ。せっかくホシノから頂いたものですから」

 

昨日ホシノがアビドスのロゴが入った腕章を縫ってきたのだ。「先生も学校の一員ですから付けてください!」なんて言われてしまえば断る理由もない。

 

ホシノ「ずっとずっと大事にしてくださいね!約束です!」

 

黒服「約束しましょう……なんて話していたらそろそろ時間ですね」

 

ホシノ「はいっ!では対策委員会活動の話し合い…」

 

黒服「ホシノ、貴女に紹介したい人が居るのです」

 

ホシノ「えっ?」

 

黒服「既に待機してもらっております。お待たせしましたね。お入りください」

 

???「待ってましたよぉ♪それじゃあ……失礼しますね〜」

 

扉を開けて入ってきたのはミニガンを担ぎ制服を身を包んだ綺麗な髪色をした柔らかい雰囲気の少女?だ。

 

???「私到着⭐︎先輩、初めまして!」

 

ホシノ「先輩って……もしかして」

 

黒服「そのまさかですよ。彼女は貴女の後輩です」

 

ノノミ「十六夜ノノミで〜す⭐︎よろしくお願いしますね、先輩!」

 

ホシノ「あ、うん…私は小鳥遊ホシノ。よろしくね」

 

ノノミ「わぁ〜!貴女があのホシノ先輩だったんですね!」

 

黒服「おや、ホシノはこの辺りで有名なのですね」

 

ノノミ「はい。知り合いの方々がよく話してたんです。唯一のアビドス生徒であるホシノ先輩に付き纏う不審者がいるって」

 

黒服「……不審者?」

 

ホシノ「ぷっ…先生が不審者…」

 

黒服「いえ、まだ私だと決まった訳では…」

 

ホシノ「ここ最近で私の周りにいた人は貴方だけですよ、先生?」

 

黒服「不審者なんて呼ばれ方をする日が来るとは……」

 

ノノミ「とりあえず……よろしくお願いしますね。ホシノ先輩と…不審者さん♪」

 

黒服「二度とその名で呼ばないでほしいです」

 

ホシノ「よろしくね、ノノミちゃん(先生が怒ってる…?初めて見たかも)」

 

ノノミ「冗談ですよ〜なので貴方は……うーん……「黒服先生」って呼びますね⭐︎」

 

黒服「この際不審者と呼ばれないのであれば何であっても構いません。ではこのまま学園の案内をしましょうか。ホシノは休んでいてください」

 

ホシノ「分かりました」

 

ーーー対策委員会室 扉前の廊下

 

ノノミ「……ホシノ先輩も一緒じゃないんですか?」

 

黒服「ええ。彼女は貴女が来てくれたことを真っ先に報告したい人が居るので1人になりたいと顔に出ておりました」

 

ノノミ「……なるほど!つまりお二人の関係は熟練の夫婦ってことですね!」

 

黒服「生憎ですが私とホシノはただの生徒と先生の関係です。それ以上になる事はありませんよ」

 

ノノミ「黒服先生って強情な人ですね〜ホシノ先輩が誰かに取られてもいいんですか?」

 

黒服「それは困りますね。ホシノは側に居てもらわないと」

 

ノノミ「やっぱり愛ですね〜⭐︎」

 

黒服「(この少女、話が通じていないのでしょうか?ですが好都合です。それに不審者などという変な誤解よりはマシですし)」

 

ノノミ「それで、いつ告白するんですか〜?」

 

黒服「何をです?」

 

ノノミ「決まってるじゃないですか。ホシノ先輩にですよ!」

 

黒服「……時期が来たらでしょうか」

 

ノノミ「良いですね〜応援してますよ⭐︎」

 

黒服「……そうですか。それより校内の説明を…」

 

ノノミ「それも良いですけど…ホシノ先輩と黒服先生のお話を聞きたいです♪」

 

黒服「……はぁ」

 

ーーー旧校舎 中庭

 

ホシノ「ユメ先輩…聞いてください。今日私に後輩が出来たんです。ノノミちゃんって言うおっとりとした感じの子で…」

 

ホシノ「私が先輩としてやっていけるかは分かりませんが…ユメ先輩のように楽観的で頼れないけど、大事なものを守る為に全力で過ごせるように頑張りますね」

 

ホシノ「そろそろ行きますね。またお土産話を持って来ますのでちゃんと聞いてくださいね。約束です」

 

当然返事はない。それでもホシノは満足している。

 

ホシノ「戻ろう、私の居場所に」

 

一礼をして彼女は旧校舎を全速力で駆ける。自分を待ってくれている人達の元へ行く為に。

 

黒服「……それでこうなったと」

 

ホシノ「あ゛づい゛ぃ゛………」

 

黒服「4月とはいえこの辺りは気温が高いのですからそうなるに決まっているでしょう……この水でも飲みなさい」

 

ホシノ「の゛ま゛せ゛でく゛ださ゛い゛…」

 

黒服「それくらいは自分でやりなさい。近くに置いておきますよ」

 

ホシノ「うへぇ…」

 

ノノミ「ホシノ先輩、一体どうしたんですか?」

 

黒服「ああ…彼女は体温が熱くなりすぎると動かなくなるのです。つい最近判明しました」

 

ノノミ「なるほど〜。じゃあこの部屋にエアコンでも付けますか。ちょっと待っててくださいね〜⭐︎」

 

ノノミが何処かに電話をかけて数分した後、ものすごい勢いで業者がエアコンを取り付けてあっという間に去っていった。

 

ホシノ「動いてないのに涼しい〜」

 

ノノミ「これで解決ですね。ぶいっ♣︎」

 

黒服「……どうやら普通の生徒に恵まれる事はなさそうですね」

 

頭を抱えそうになるが数少ない生徒、そしてホシノの友人としては申し分ない。充分利用価値はあるだろう。十六夜ノノミ……貴女も私の駒になって頂きましょう。全ては神秘の為に。




ヒナ委員長を全力で狙った結果水着のホシノ復刻が来そうで詰んだのは私です


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黒服と対策委員活動記録二年目#2

水着ホシノが復刻なしと知り私はとても悲しいです。それはそれとして書きました


 

ーーーアビドス高等学校(5月)

 

黒服「……なるほど。そちらでも何人かは同じ症状に……ええ。そういう対処の仕方が……参考にさせていただきましょう。失礼致します」

 

ノノミ「おはようございま〜す。誰かと電話していたんですか?」

 

黒服「ノノミ、おはようございます。ええ、少々困り事がありまして知人に相談していたのです」

 

ノノミ「困った事ですか?」

 

黒服「実際に見てもらった方が早いですね。着いてきてください」

 

いつもの場所である対策委員会室。その扉を開けるとエアコンが当たる位置で寝転んでいるホシノの姿。全身から力を抜いておりとてもリラックスしているようだ。

 

黒服「5月の休み中から今に至るまでずっとこのような状態なのです」

 

ノノミ「ホシノ先輩がここまで気に入ってくれるなんてエアコンを取り付けた甲斐がありますね⭐︎」

 

黒服「適度な休息でしたら問題はないのですが……訓練の時以外はずっと籠るようになってしまいまして」

 

ノノミ「もしかして…五月病でしょうか?」

 

黒服「知人もそれに近いと言ってましたね。ですが現状は訓練での成績も上がっておりますのでこの状態を維持しても構わないと判断しております」

 

ノノミ「そういえばホシノ先輩の訓練を見たことがないですね。どんな訓練をしているんですか?」

 

黒服「基本的には耐久力を高めるものですね。戦闘においてホシノが場に長く居ればいるほど勝率も高まりますので」

 

ノノミ「確かにホシノ先輩はいつも折りたたみ式の盾を持ってますよね。でも武器はショットガンでしたよ?交互に使い分けて戦うって感じですか?」

 

黒服「いえ、同時に使ってますよ」

 

ノノミ「えっ?ショットガンと盾ですよ?」

 

黒服「ですのでホシノはショットガンを片手で扱えます。半年ほど訓練してようやくですが」

 

ノノミ「物凄い努力家なんですね。でもそんな先輩も暑さには……」

 

黒服「元からそういう傾向はありましたので。ここまでになるとは思っておりませんでしたが」

 

ノノミ「とりあえずそろそろホシノ先輩を起こしますね。ホシノせんぱ〜い、朝ですよ〜」

 

ホシノ「んー…あと5時間だけ…」

 

黒服「もうとっくに訓練の開始時間は過ぎてますよ?早く支度をしないと本日の夕食を柴関ラーメン山盛りにしますよ」

 

ホシノ「うへぇ…」

 

ノノミ「この前連れて行ってもらったラーメン屋ですね。ですが山盛りなんてありましたっけ?」

 

黒服「ええ。大将曰く『そこの生徒さんは育ち盛りだろう?なら沢山食わないとなっ!』と仰っておりホシノの量を勝手に増量するんです。何故か私も同じ量にされますが…」

 

ノノミ「へぇ…ちょっと興味が湧いてきたので今度行く時は私も山盛りにしてもうかな…」

 

ホシノ「やめといた方がいいよノノミちゃん。あれは一人で食べる量じゃないよ」

 

黒服「準備ができたようですね。それでは訓練室に行きましょうか」

 

ホシノ「この部屋を出たら暑そう…」

 

黒服「……訓練後にアイスを用意しておきますので」

 

ホシノ「ノノミちゃん、訓練頑張ろうね」キリッ

 

ノノミ「はいっ⭐︎……黒服先生、ホシノ先輩の扱いが上手いですね」ボソッ

 

黒服「半年ほど付き合いがありますからね。ある程度は把握しております」

 

ここまで従順にさせるのに苦労した。早く成果が出たのもそれっぽい事を言うだけで好感度が上がるほどホシノが純粋な子供だったというだけの話。

 

ホシノ「ほらほら二人とも急いで〜。私が暑さでバテる前に訓練を始めないと」

 

黒服「全く…誇らしげに言う事じゃないですよ」

 

ーーー訓練室

 

黒服「今回からは二人で共同の訓練を行なってもらいます。互いを補助して連携が取れるように立ち回ってください」

 

ホシノノミ「は〜い」

 

黒服「それでは…訓練開始!」

 

合図と共に無数の弾幕とダミーターゲットが展開される。今回は全てノノミを狙うように調整したのでホシノがどう動くか見定めよう。

 

ノノミ「いつもよりダミーの数が多い……早く減らさないと……あっ」

 

焦ったノノミの目の前に銃弾。思わず目を瞑ってしまったが数秒経っても彼女に銃弾が当たる事はなかった。恐る恐る目を開けるとそこには小さな身体で大きな盾を構える先輩の姿。

 

ホシノ「ノノミちゃん、怪我はない?」

 

さっきまでの面倒臭がりでやる気を感じない先輩の面影はそこにはなく冷静沈着で落ち着いた雰囲気の彼女に思わず「…はい」と答えるのが精一杯だった。

 

ホシノ「良かった。攻撃は私が引き受けるからノノミちゃんは安心して」

 

笑顔でそう伝える頼もしい先輩を見て先程まで焦っていたのが嘘のように落ち着いた。自分の役割を果たそう。ミニガンを握る手に力を込めて準備を終える。

 

ノノミ「ノノミ、行きます!」

 

ミニガンの届く距離に居る敵や障害物を全て粉砕する。撃っている間はとても無防備だけど問題ない。先輩を信じているから。

 

ホシノ「ノノミちゃんやるね。これは私も負けていられないよ」

 

ホシノ先輩はショットガンでロケット弾を相殺したりリロード中の敵を的確に狙い撃っている。自身の身体より大きい盾を持ちながら。

 

黒服「ほう…予想以上に連携は上手くいってますね。初めてとは思えないほどに」

 

それにしてもホシノの笑顔を久しぶりに見た。きっと彼女は確信したのだろう。自分は誰かを守れるほどに強くなっている、と。現に昨日までより明らかに動きが竣敏になっている。それでいて被弾はしていない。もうダミーでは訓練の意味がなくなってきたのだろうか。そんな事を考えていたらいつの間にかダミーと遮蔽物が全壊していた。

 

ノノミ「終わり…でしょうか」

 

ホシノ「そうみたいだね。うへぇ…疲れたぁ…」

 

黒服「二人ともお疲れ様でした。想像よりも連携がとれており訓練としては完璧と言えるでしょう」

 

ノノミ「ホシノ先輩、とてもカッコよかったです。頼れる先輩って感じでしたよ♪」

 

ホシノ「ありがとー……ってその言い方だと普段は頼れないって思われるって事!?」

 

ノノミ「普段は可愛らしい姿しか見てこなかったので⭐︎」

 

ホシノ「なんか複雑だよぉ…」

 

黒服「本日の…いえ、戦闘訓練はこれくらいにしましょう。次回からは実戦を行います」

 

ホシノ「いよいよだねぇ。大丈夫、ノノミちゃんには傷ひとつ付けないように守るからね〜」

 

ノノミ「ありがとうございます。頼りにしていますね⭐︎」

 

黒服「あとは自由時間とします。アイスは委員会室の冷蔵庫に用意しておきました」

 

ホシノ「アイス!訓練後はやっぱり冷たいものだよねぇ」

 

黒服「私は後片付けをしますのでしばらくここに残ります」

 

ホシノ「先生も一緒に食べようよぉ。私も後片付け手伝うからさぁ」

 

黒服「貴女は休んでおきなさい。何度も言っておりますが休む事も訓練ですよ。ただえさえいつも無茶ばかりしているのですから少しは……」

 

ホシノ「うっ…話が長くなりそう…ノノミちゃん逃げよう」

 

ノノミ「はいっ⭐︎」

 

黒服「こらホシノ、まだ話は終わって……行ってしまいましたか」

 

逃げてしまったホシノに呆れつつ後処理を開始する。とはいえ仮想的に生成したものなのでそう時間はかからないが。

 

黒服「…ところで貴女は行かないのですか?ノノミ」

 

ノノミ「はい。黒服先生に聞きたい事がありまして」

 

黒服「私が答えられる範囲でよろしければお答えします」

 

ノノミ「ホシノ先輩の盾にユメと書いていました。もしかしてあの盾には本来の持ち主がいるのではないでしょうか?」

 

黒服「その通りです。いえ、居たと言った方が正しいでしょう」

 

ノノミ「………」

 

黒服「生憎私もどのような人物かどうかは知りません。ホシノと出会った頃には既に居ませんでしたからね」

 

ノノミ「…そうですか。答えていただきありがとうございます」

 

黒服「ただ一つ言えるとするなら…ホシノは今彼女の意思を継いで生きているという事です。私はそれを支えているに過ぎません」

 

ノノミ「私もホシノ先輩を支える事は出来るのでしょうか…」

 

黒服「その意志があるなら可能でしょう。さて、片付けも終わりましたので戻りましょうか」

 

ノノミ「はい…」

 

黒服「(既にノノミの存在は充分にホシノの支えになっていますがそれを今伝えるのは無粋というものでしょう)」

 

そういう風に考えてる辺りいつの間にか[先生]としての意識が芽生えてきているようだ。とはいえ根本から変わる事はないだろう。私は研究者なのだから。



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黒服と対策委員活動記録二年目#3

 

 

ーーーアビドス高等学校(7月)

 

黒服「貴女達二人には本日から治安維持の為に活動をしてもらいます」

 

ノノミ「というと?」

 

黒服「最近ヘルメット団と呼ばれる組織がこの辺りを闊歩していると近隣住民が噂しているのを聞きました。このような輩を放置していると後々面倒になると思いますので実践も兼ねて対処をしようと決めたのです」

 

ホシノ「地域貢献も出来るし私としては問題ないよ。……暑い事以外は」

 

黒服「だからといって長袖を捲らないでくださいね。それは防弾着でもあるんですから」

 

ホシノ「は〜い……」

 

黒服「そういえば…ノノミ、この端末を触っていただいてもよろしいですか?」

 

ノノミ「いいですよ」

 

黒服「ありがとうございます。……やはり私の予想通りでした」

 

前に砂漠で見つけた異物。それにノノミが触れた事で彼女のアイコンが追加されている。これは触れた生徒を指定の位置に転送させられる異物だったのだ。とはいえバッテリーの消耗が激しいので1日に行える転送は2回程度だろう。

 

黒服「(枠の数を見るに登録出来るのは残り三人といったところでしょうか。充分ですが)」

 

ノノミ「そのタブレット端末はどのようなものなんですか?」

 

黒服「ああ、これは非常時に使う脱出装置のようなものですよ。とはいえしばらく使う事はないでしょうがね」

 

ノノミ「脱出装置ですか?面白そうですね!後で試してみましょう⭐︎」

 

黒服「考えておきます。……それでは対策委員会、出動です」

 

ホシノノミ「はいっ!」

 

ーーー数時間後

 

黒服「それっぽい集団は見つかりませんね」

 

ホシノ「暑くて干からびそうだよぉ…」

 

ノノミ「一旦喫茶店にでも入って休憩しますか?」

 

黒服「そうしましょうかね……いえ、先にあれを片付ける必要が生まれましたね」

 

ホシノ「あれ…見るからにヘルメット団って感じの格好だねぇ。何してるんだろう」

 

ノノミ「大人しそうな女の子一人を囲んでますね。もしかして脅迫でしょうか?」

 

黒服「それならば先手を打ちましょう。こちらに気づいていない今ならホシノが少女の救出をした後ノノミが蹴散らすという戦法でも充分です。準備はいいですか?」

 

ホシノ「いつでもいけるよぉ」

 

ノノミ「私もです」

 

黒服「それでは初陣と行きましょうか」

 

ーーー

 

ヘルメット団1「ここら辺じゃ見ない制服だねぇお嬢さん?とりあえず出すもの出してもらおうか?」

 

怯えた少女「ひっ…!やめてください…」

 

ヘルメット団2「大人しく従ってくれるなら乱暴な事はしないからさぁ?お金出そうね?」

 

怯えた少女「誰か助けて…!」

 

ホシノ「そう頼まれたら助けるしかないよねぇ」

 

ヘルメット団1「なっ!?このチビいつの間に!?」

 

ホシノ「随分失礼だねぇ…まあいっか。ノノミちゃんお願い〜」

 

ノノミ「分かりました〜お仕置きの時間ですよ〜♣︎」

 

ヘルメット団2「ボス、後ろからミニガンを連射してるやばい奴が…ウッ」

 

ヘルメット団1「何だこいつら!?急いで負傷者を連れて撤収…グェ」

 

ホシノ「隙だらけだから撃っちゃったよぉ。それにしてもこれくらいで終わるなんて訓練の方がまだ歯応えがあったなぁ…」

 

ノノミ「あっさりと終わってしまいましたね〜」

 

黒服「お二人共上出来でしたよ。彼女らの後始末は私がしておきますね。とはいえ縛ってヴァルキューレ辺りに通報しておく程度ですが」

 

怯えてた少女「あ、あの…ありがとうございました!とってもカッコよかったです!」

 

ホシノ「お礼なんていいよ〜それより怪我はない?盗られた物とかは?」

 

怯えてた少女「何かされる前に助けてくれたので何も…」

 

ノノミ「それは良かったです⭐︎ところでこの辺りの制服では無さそうですけど何処から来たんですか?」

 

怯えてた少女「えっと…ゲヘナから来ました。悪い集団が居るって聞いて参考にしようと眺めていたら目をつけられて…」

 

黒服「ゲヘナですか。そういえば今朝彼女から1人自治区から抜け出したので見かけたら連れ帰って欲しいと連絡が来ていましたね」

 

怯えてた少女「えっ!?まさかマザーの知り合いですか!?こんなところで出会ってしまうなんて…」

 

黒服「そこまで怯えなくても大丈夫ですよ。彼女に連絡するのも面倒ですので、遅くならないうちに戻る事を推奨します」

 

ホシノ「私としても面倒事は避けたいなぁ。自分達の学園で手一杯だからね」

 

ノノミ「あれ?この子を送り届けたりしなくていいんですか?」

 

黒服「私達がゲヘナの自治区に入ると面倒事が起きてしまいますので。道も複雑ではありませんから問題はないでしょう」

 

ノノミ「でも…」

 

黒服「仕方ありませんね…お嬢さん、彼女には連絡を入れておきますのでしばらく私達と行動していただいてもよろしいですか?」

 

怯えてた少女「それなら…助けてもらった御恩もありますし…喜んで」

 

ホシノ「お〜じゃあいつもの所にでも行ってお話しよ〜」

 

ノノミ「ちょうどお腹も空いていましたしナイスアイデアです⭐︎」

 

黒服「私は少しやるべき事があるので先に向かっていてください。彼女にも連絡しないといけませんからね」

 

ホシノ「はーい。ところで先生、彼女って誰の事?」

 

黒服「ただの知り合いですよ」

 

ホシノ「そっかぁ…良かった」

 

黒服「?何故安堵しているのかは知りませんが日差しも強いですし早めに向かった方がいいですよ」

 

ホシノ「うん。じゃあまた後でね、先生」

 

ノノミ「行きましょ行きましょ〜」

 

怯えてた生徒「えっちょっと!?引っ張りすぎです!」

 

わちゃわちゃしながら離れていく三人。角を曲がり見えなくなった頃くらいに端末から電話をかける。3コールほどなった後に甲高い声で『こんな時に電話なんて正気じゃないわね。私の神経を逆撫でしたいのであれば都合が良いけれども』

 

黒服「そう敵意を剥き出しにしないでください。貴女が今朝自治区から抜け出したと連絡してきた生徒を保護しました。赤髪で角が生えていて眼鏡をかけた少女です」

 

『……何か企んでいるのかしら?』

 

黒服「今はまだ何も。ただ私の生徒が彼女と話がしたいというものでしてね。夕方辺りまで預からせていただきます」

 

『……夕方貴方の小さな学園に迎えを送るわ』

 

黒服「ご理解いただけたようで助かります。それでは」

 

思っていたよりも話し合いがスムーズに終わったことに安堵した。一度ヒステリックを起こすと面倒なのだ。

 

黒服「あとはこのヘルメット団達を最寄りの署にでも連行してからホシノ達と合流しますかね」

 

時計の時刻は午後3時を示している。まだまだ今日は色々起こりそうだ。何事もなく終わってくれればいいのだが…きっとそんな事はない。



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黒服と対策委員活動記録二年目#4

 

ーーー同日 ラーメン柴関

 

ホシノ「へぇ。アルちゃんって言うんだ〜。可愛らしいねぇ」

 

ノノミ「私と同じ学年ですね。よろしくお願いします♪」

 

アル「よ、宜しくね。それよりも…このラーメンの量おかしくないかな…」

 

柴大将「悪いな。アビドスの生徒さんが友達を連れてきた事が嬉しくてつい量が増えちまったんだ。気にしないでくれ」

 

アル「もはや山盛りってレベルじゃないんだけど…食べ切れるかな」

 

ホシノ「まあまあ三人いるしだいじょ…」

 

柴大将「嬢ちゃんはいつもの味噌ラーメン炙りチャーシュートッピングだよな。こっちもつい量を増やしてしまったが気にしないでくれよな!」

 

ホシノ「うへぇ…ノノミちゃん助けてぇ…」

 

ノノミ「わぁ…山が二つですね⭐︎」

 

アル「とりあえず食べよう…頂きます。……美味しい」

 

ホシノ「ここのラーメンは美味しいんだよ?しかもこの量で580円だからねぇ」

 

アル「えっ!?破格すぎじゃない!?経営出来てるのかな…」

 

ノノミ「大丈夫ですよ。ここら辺ではかなり人気のお店ですからね」

 

柴大将「客が来てくれている間は赤字でも経営するさ。金なんてどうにでもなるしな」

 

アル「か…カッコいい…」

 

ホシノ「そういえばさ。アルちゃんはヘルメット団を見にわざわざここまで来たの?随分物好きだよね」

 

アル「それは…ちょっと恥ずかしいんだけど…アウトローみたいな高校デビューがしたくて…」

 

ノノミ「なるほど〜ですが既にアルちゃんは高校生ですので今からデビューしても遅いのでは?」

 

アル「うっ…それはそうなんだけど…」

 

ホシノ「まあまあ。今からでも遅くはないと思うよ。夏休み後にカッコいい姿に変身!みたいな?」

 

アル「私に出来るかな…」

 

ノノミ「大丈夫ですよ。きっとアルちゃんのなりたい姿になれます」

 

ホシノ「そうだよぉ。自分のやりたいようにやるのが一番だからね」

 

アル「二人とも…ありがとう。私学園に戻ったらなりたい自分になれるように頑張るよ!」

 

ホシノ「その意気だよ……ところでアルちゃんのラーメン、そろそろ麺が伸びてそうだけど大丈夫?」

 

アル「えっ!?嘘っ!?急いで食べないと!」

 

ノノミ「喉に詰まらせたら大変ですから急がなくても大丈夫ですよ。さてホシノ先輩、私達も食べましょうか」

 

ホシノ「そうだね〜毎回この山盛りは私には厳しいなぁ…」

 

ーーー数十分後

 

黒服「遅くなってしまい申し訳あり…貴女達何をしているのです?」

 

ホシノ「せんせ…助け…」

 

ノノミ「まさか三つ山盛りが届くなんて…」

 

アル「これが…アウトロー…」

 

黒服「………持ち帰りで」

 

柴大将「あいよ。しかし最近の生徒さんはよく食べてくれるなぁ。つい盛りすぎてしまうよ」

 

黒服「お気持ちはとても有難いのですが…次回はこれの半分程の大きさでお願いしますね」

 

苦しそうにお腹を抑える三人と持ち帰り用の容器に移したラーメンを持って店を後にしてその辺の公園にあるベンチに座らせた。

 

黒服「苦しそうな所申し訳ないのですがホシノとノノミに報酬金を持ってきました」

 

ホシノ「報酬金?貰えるような事をした記憶がないよ」

 

黒服「さっきのヘルメット団ですよ。規模は小さいもののあちこちで悪事を働いていたようでヴァルキューレ経由でいただきました」

 

ノノミ「これ…結構な額が入ってますよ」

 

ホシノ「おぉ…借金の利息分くらいだねぇ」

 

アル「えっ?貴女達借金があるの?」

 

黒服「ええ。過去に色々ありましてね」

 

アル「そうなんだ…あの、私で良ければ力に…」

 

ホシノ「気持ちだけで充分だよ。これは私達でケリをつけないといけない問題だからね」

 

アル「そっか…それでも応援してるよ…友達として」

 

ホシノ「……アルちゃんは良い子だねぇ。悪に向いてないくらいに」

 

アル「えぇ!?アウトローを目指すなら応援しちゃいけないの!?でも応援はしたいし…」

 

黒服「お話が盛り上がっている所に割り込むようで申し訳ありませんがそろそろ約束の時間が迫っていまして。そちらのお嬢さんの迎えが学園に来ると先程連絡をいただいております」

 

ホシノ「およ、そうなんだ。じゃあぼちぼち向かいますかねぇ」

 

ノノミ「そうですね。じゃあ出発進行⭐︎」

 

学園に向かう途中にホシノ達はずっと会話が弾んでいた。しかし話を聞いているうちにこのアルという少女はアウトローになりたいと言っているもののやろうとしている事が小さすぎる。カップラーメンの汁を飲み干しても悪とは言えないのでは?

 

アル「それでムツキちゃんが……あっ、あれが貴女達の学園?なんていうか…小さいね」

 

ホシノ「まぁね〜。本校舎は砂の中だし生徒も私とノノミちゃんだけだからむしろ大きいくらいだけどね〜」

 

ノノミ「それでも毎日楽しいですよ〜復興作業とか色々〜」

 

アル「……2人ともカッコいいね。それに比べて私は何も出来てないや…」

 

黒服「それは違いますよ。動機はともかく貴女は自らの意思で行動が出来ております。ここにいる事自体がその証拠ではないでしょうか」

 

アル「…黒服の人」

 

黒服「いきなり変わろうとしなくて良いんです。自分のペースで進めばいずれ目標は達成出来ますよ」

 

アル「ありがとう……今更なんですけど貴方はホシノちゃん達となんの関わりが?」

 

黒服「そういえば自己紹介をしていませんでしたね。私は…まあホシノ達の先生です」

 

アル「先生にしては随分とアウトローな格好をしていますね…」

 

黒服「成り行きでこうなったようなものですが案外悪くないものですよ……そろそろ約束の時間ですね」

 

アル「あっそこにいるのは…カヨコ先輩!」

 

カヨコ「…やっと来たね。迷子のアル」

 

アル「うっ…勝手に抜け出した事、マザーは怒ってた?」

 

カヨコ「あれは長時間お説教コースだろうね。覚悟しておいて」

 

アル「そんなぁ…」

 

カヨコ「…うちの後輩が迷惑をかけてごめん。それと助けてくれてありがとう」

 

ホシノ「当然の事をしたまでだよ〜」

 

ノノミ「その通りです♪」

 

カヨコ「そっか。そこの黒い人、マザーからの伝言。「この借りは必ず返すから覚えておきなさい」だって。確かに伝えたから」

 

黒服「ええ。覚えておきます」

 

カヨコ「それじゃあ帰ろっか」

 

アル「あっ…最後に伝えたい事が…三人とも、今日は本当にありがとう!もし貴方達に何か大変な事があったら友達として駆けつけるからね!」

 

ホシノ「こちらこそ楽しかったよ〜」

 

ノノミ「また一緒にお話しましょうね⭐︎」

 

アル「また会おうね!」

 

ホシノとノノミはアル達が見えなくなるまで手を振っていた。

 

ホシノ「……行っちゃったねぇ」

 

ノノミ「そうですね。なんだか少し寂しいです」

 

黒服「大丈夫ですよ。また会うと約束したのですから必ず会えます」

 

ホシノ「そうだといいなぁ…ねぇ先生」

 

黒服「どうしました?」

 

ホシノ「友達が増えるのって嬉しいんだね」

 

黒服「……ホシノがそう思うのであればそうなのでしょう」

 

ホシノ「……うん」

 

ノノミ「私達も帰りましょう。黒服先生、ホシノ先輩、また明日〜」

 

黒服「お疲れ様でした」

 

ホシノ「お疲れ様〜…ところでそのラーメンは先生が食べるの?」

 

黒服「そのつもりです。貴女はしばらく何も食べれないでしょう?」

 

ホシノ「そうだねぇ……えっと…その…」

 

黒服「……寂しいのであれば学校で寝泊まりしても構いませんよ」

 

ホシノ「……ありがとう先生。今日は誰かと一緒に居たくてさ〜」

 

黒服「日付が変わる前には寝てくださいね」

 

ホシノ「は〜い」

 

ーーー

 

カヨコ「ところであの子達とモモトーク交換したの?」

 

アル「……あっ」

 

カヨコ「………」

 

アル「ま、まあ…また会える…よね?」

 

カヨコ「それはアル次第かな……抜け出した甲斐があった?」

 

アル「うん…私がなりたいものが掴めたような気がする」

 

カヨコ「そっか。お説教の後で聞かせてよ、そのなりたいもの」

 

アル「っ!うん!」




水着ホシノの!ピックアップが!されなくて!辛い!


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黒服と対策委員活動記録二年目#5

 

ーーーアビドス高等学校(10月)

 

あの日ヘルメット団を捕まえて以降定期的に自治区で暴れている存在を駆逐していったのでこの付近では珍しく治安が良い。それに比例するかのようにホシノとノノミの戦闘能力も向上している。やはり訓練と実戦では得られるものが違うようだ。良い傾向だろう。

 

黒服「たまには労いでもしましょうかね。また水族館にでも……?」

 

いつも通り対策委員室の扉を開けても誰も居ない。ノノミは時々遅れてくるもののホシノは今まで遅刻した事がない。何かがおかしい。

 

黒服「(人の気配はなし…荒らされた形跡も特に……おや)」

 

机の下に桃色の髪が見えた。気配を消すのは上手いが肝心な所でミスをしてしまっている。

 

黒服「ホシノ。貴女は詰めが甘いですね。どうして机に隠れ…」

 

覗き込んで見えたものはホシノを模した人形…?のようなものだった。何故こんなものがと考える間もなく麻袋を被せられて視界を塞がれる。

 

ノノミ「捕まえました⭐︎」

 

黒服「…なんですかこの茶番は」

 

ノノミ「いいから行きますよ〜しゅっぱーつ♪」

 

いつも以上に強引なノノミ。抵抗するのも無駄だと悟り手を引っ張られる形で歩かされる。

 

黒服「どこに連れて行くつもりですか?」

 

ノノミ「まあまあ。着いたら分かりますよ」

 

しばらくしてようやく立ち止まって目隠しを外されたと思ったら真っ暗な部屋の中心に立たされていた。

 

黒服「一体何の真似ですかノノミ…?」

 

振り返ってもノノミが居ない。こんな事をして何をしたいのか理解できない。ひとまず部屋の電気を付けようと手探りで壁を触りそれっぽいスイッチを押すと部屋が明るくなった。それと同時に装飾がされていてまるでパーティ会場のようだ。

 

ホシノ「先生」

 

先程まで自分が居た位置に小さな箱を持ったホシノがいる。ほんの少し照れたような表情で。

 

黒服「これは一体?」

 

ホシノ「先生は今日が何の日か知ってる?」

 

黒服「今日ですか?初めてホシノと砂漠で会った日ですね」

 

ホシノ「…うん。そして貴方が私の先生になってくれた日。だから感謝を伝えたかったんだ。……先生、私と出会ってくれてありがとう」

 

笑顔で箱を差し出してくるホシノの手には無数の絆創膏。受け取った箱の中身は空色のネクタイ。所々ほつれているが使えない事はないだろう。裏には『いつもありがとう。これからもよろしくね』と縫われていた。

 

ホシノ「気に入ってくれると嬉しいな…」

 

黒服「……ええ。ホシノからの贈り物ですからね。大事にします」

 

ここまで上手くいっている事がとても喜ばしい。たった一年でここまで気を許すとは。実験が始められる日も近いだろう。それにしてもこのネクタイからは不思議なものを感じる。後で研究してみよう。

 

ノノミ「ホシノ先輩、そろそろ始めますよ?」

 

ホシノ「おっけいノノミちゃん。それじゃあ先生、今日は楽しもうね」

 

黒服「そうですね。たまにはこういう日があってもいいでしょう」

 

その後、三人の形を模した砂糖菓子が乗ったケーキ等のホシノ手作り料理を堪能し、ノノミがくる前の話を語ったり濃密な時間を過ごしてあっという間に片付けも終えて二人を家まで送っている途中。

 

黒服「そういえば…意識しておりませんでしたがホシノは随分と口調が変わりましたね。理由をお伺いしても?」

 

ホシノ「え〜今更?もうちょっと早く聞いてほしかったなぁ……なんていうかさ、先生の前だと自然体でいいんだって、変に着飾らなくていいんだって思ったらこうなったんだぁ」

 

黒服「前の生真面目なホシノも好印象でしたが今の自然体である貴女も充分に魅力的ですよ」

 

ホシノ「……先生はずるいなぁ…すぐそうやって甘い言葉をかけてくるんだから」

 

黒服「思った事を正直に伝えただけですよ」

 

ホシノ「ありがとう……なんか先生には助けられてばかりだからどうやって恩を返せばいいか分からないや」

 

黒服「無理に返そうとしなくて構いません。いずれ貴女の人生を貰うのですから」

 

ホシノ「………」

 

黒服「?どうしましたホシノ」

 

ホシノ「……うへぇ…」

 

ノノミ「わぁ〜黒服先生、大胆な告白ですねぇ♪」

 

黒服「告白?いえ、そんなつもりは…」

 

ノノミ「またまたぁ。もう取り消せませんよ?」

 

黒服「ですから…」

 

ノノミ「では私はここでお暇させて頂きます。あとはお二人でお楽しみください〜」

 

ホシノ「うへぇ…」

 

黒服「何やら誤解を与えてしまったようですね…それは明日どうにかするとして…ホシノ、しっかりしなさ…」

 

ホシノ「せっ!せせせせせせせんせい!?」

 

黒服「目が覚めましたか。随分と錯乱していますが大丈夫ですか?」

 

ホシノ「だ、大丈夫!そそそれじゃあ先生また明日ぁぁぁぁぁ!!」

 

黒服「ホシノ!?」

 

蒸気が見えるほど顔を真っ赤にしたホシノが夜道を駆けていった。あっという間に見えなくなってしまう程の速度で離れていくホシノを見送った後に学園に戻ることにした。

 

ーーーホシノの家

 

ホシノ「………」

 

『貴女の人生を貰うのですから』

 

ホシノ「〜〜!?」ジタバタ

 

ホシノはずっと黒服に言われた言葉が頭に残り続けて数日間睡眠不足となり黒服と目を合わせる事も出来ず近づかれるだけでキャパオーバーとなり倒れるようになった。ホシノがこんな状況なので当然誤解も解けず黒服はノノミから「応援してます〜」と謎の励ましをもらった。




メモロビのホシノは可愛い。でもホシノは映るだけで可愛い。


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黒服と対策委員活動記録二年目#6

 

 

ーーーアビドス高等学校(12月) 委員会室

 

黒服「おはようございます。大事な話があるとモモトークで連絡を頂きましたが…」

 

ホシノ「いやぁ…実は猫を拾っちゃってさぁ。うちで飼えないかなぁって…」

 

獣耳が生えた少女「ん、猫だよ」

 

黒服「野生に帰してきなさい」

 

ホシノ「えぇ〜酷いよ先生。この雪の中段ボールに放置されてたんだよ?」

 

獣耳が生えた少女「ん、拾ったからには私を保護するべき」

 

黒服「随分と図々しいですね……とりあえず所属の学園を教えてもらいましょうか」

 

ホシノ「それがさぁ…記憶がないんだって」

 

獣耳が生えた少女「誰もあっち向いてホイをしていなかった事と自分の名前しか覚えてない」

 

黒服「前半の記憶は必要ですか?とはいえ所属の学園が分からない限り対策のしようがないですね。名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」

 

獣耳の生えた少女「ん、砂狼シロコ。メインヒロインだよ」

 

黒服「違います。ひとまず名前が判明したので知人に連絡してみます」

 

ホシノ「りょ〜かい。とりあえずシロコちゃん着替えさせておくね〜」

 

黒服「ええ。それでは」

 

連絡用の端末から彼女に電話を掛ける。いつも通り2.3コール後に甲高い声が聞こえてきた。『ご機嫌よう。今とても忙しいから用があるなら手短に伝えてくださる?』

 

黒服「貴女が保管している生徒名簿に砂狼シロコという生徒は存在しますか?」

 

『生徒関連の話なら最初にそうと言いなさい。ちょっと待ってなさい………砂狼シロコ?という生徒はデータベース上には存在しないわ』

 

黒服「そうですか。ありがとうございます」

 

『それよりもまた生徒が何人か自治区から抜け出したのよ!何かあったら大変だから見かけたらすぐにれんら…』

 

電話を切ってため息をついた。アビドス学校はまともな生徒が来ないという呪いにかかっているのだろうか?最悪ここで引き取るというのも考えたが未知な部分が多い少女を生徒にしてもいいのだろうか?

 

黒服「考えていても仕方ありませんね…ひとまずホシノ達と話し合って決め…」

 

ホシノ「おー先生遅かったね。見てよ、シロコちゃんとっても制服が似合うよ」

 

シロコ「ん、サイズピッタリ。これで私もこの学園の生徒」

 

黒服「……はぁ」

 

胃が痛くなるとはこういう事なのだろう。ホシノとも意気投合しているようで断り辛い状況になってしまった。この明らかにやばい少女をアビドスに迎え入れるしかない……

 

黒服「(……?このシロコとかいう少女、僅かながら神秘に似たような反応がありますね。代替え品としては心許ないですが確保しておいて損はないでしょう)」

 

勿論ホシノが最優先だが万が一の場合の保険として手元に置いておくのは悪くない。アビドス自体人手不足な環境。ならば迎えてもいいだろう。

 

黒服「仕方ありませんね…転入届を記載してもらう必要はありますが生徒として迎え入れましょう」

 

ホシノ「さっすが先生。話が分かるねぇ」

 

シロコ「ん、これからよろしくね、ホシノ先輩」

 

ホシノ「あっでも転入届には特別な封筒が必要だから出来ないかも…」

 

黒服「それならホシノのものが残っていたので代用します。このピンク色の封筒に必要書類を入れて提出すればいいだけですし」

 

シロコ「よく分からないけどこの書類を書けばいいんだね。これなら銀行強盗よりも楽」

 

黒服「物騒ですね…ここは穏便に暴力で…とか言うタイプなのでしょう」

 

ホシノ「また頼りになりそうな後輩ちゃんが出来て私は嬉しいよ」

 

黒服「……歩く地雷みたいにならなければ良いのですが」

 

アビドス三人目の生徒、砂狼シロコ。何を考えているか分からないが利用する価値はあるだろう。

 

ーーーおまけの会話

 

黒服「そういえばノノミはどうしたのですか?」

 

ホシノ「シロコちゃんがアビドス生になるのを見越して服を買いに行ったよ」

 

黒服「……まさかシロコのサイズと一致している制服は仕組んでいたのですか?」

 

ホシノ「結果的に上手くいったから良かったよねぇ〜」

 

黒服「………」

 



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黒服と対策委員活動記録二年目#7

 

 

ーーー対策委員会室(1月)

 

黒服「本日は今までの対策委員会活動を振り返ろうと思います。シロコは学園に来たばかりでよく分からないと思いますので聞いているだけで大丈夫ですよ」

 

シロコ「ん、聞いてるね」

 

ホシノ「うへぇ…分厚い報告書…」

 

黒服「細かな内容も記載してますからね。とはいえ全て語ると時間が掛かってしまいますので重要な部分だけの振り返りとさせていただきます」

 

ノノミ「どうしてこのタイミングなんですか?」

 

黒服「近いうちに知人と近況報告も兼ねた会議を行うのです。その際にまとめた記録を折角ならばと共有しておこうと思いましてね。この活動記録は私とホシノが出会って立ち上げた所から始まりましたね。あの時のホシノは常に目から光が失われていたのを覚えております」

 

ホシノ「先生が居てくれたから今では輝いてるよぉ〜……もし先生が居なかったら荒れすぎて大変だったかもねぇ…」

 

黒服「そのような未来もあったのでしょうね。今のホシノからは想像も付きませんが」

 

ノノミ「昔のホシノ先輩はショートカットでとても愛らしい姿でした」

 

黒服「今も変わらずに愛らしいとは思いますがね」

 

ホシノ「うへぇ…対策委員の振り返りじゃなくて私の話ばかりしてるよ…」

 

黒服「失礼。つい盛り上がってしまいましたね。そろそろ次にいきましょうか。とはいえノノミが来るまではほとんど訓練しかしてませんね」

 

ホシノ「そうだねぇ…今ではもう片手でショットガンを撃つのが普通になっちゃったなぁ」

 

黒服「それも努力の賜物でしょう。訓練以外となると異物探索程度ですがね」

 

ホシノ「それくらいしかやる事もなかったからねぇ。基本訓練と校舎の改装とかだったからさ」

 

シロコ「だから綺麗なんだね。空き教室に自転車も置ける」

 

黒服「今すぐ外の駐輪場に止めてきなさい。通りで最近廊下にも砂があると思いましたよ」

 

シロコ「ん、会議が終わったら外に持っていく」

 

黒服「何故?今行けと言ったのですが…」

 

ノノミ「まあまあ。今は振り返りの続きをしましょう?」

 

黒服「……仕方ないですね。この後はノノミが加入した後といえば地域貢献も始めましたね。主にヘルメット団のように無法者を取り締まる程度でしたが」

 

ホシノ「暑い中頑張ったよねぇ。そのおかげで新しい友達も出来たからいいことだらけだよね〜」

 

ノノミ「ゲヘナから来てたアルちゃんですね。元気ですかね〜?」

 

黒服「知人曰く少し空回り気味ではあるものの新しい事業?を立ち上げたとか」

 

ホシノ「うへぇ…立派になったんだねぇ…」

 

黒服「またいつか会う機会があるでしょう。……それよりも問題は砂漠の広大化による住民離れと治安の悪化です。

自治区の中心辺りは完全に無法地帯ですね」

 

ノノミ「何度こらしめても新しいヘルメット団がくるのでキリがないですよね」

 

ホシノ「そのおかげで毎回報酬金が稼げるからありがたい所もあるよねぇ…だからといって無法地帯はどうにかしないと」

 

シロコ「ん、それならこのテ○ドンを落とせば解決」

 

黒服「街ごと破壊しようとしないでください。とはいえこればかりは現状どうしようもありません。連邦生徒会頼みになってしまいますね」

 

ホシノ「私達にも権力があればねぇ…いっそどこかのスクールバスでも拉致してアビドス生にでもしちゃう?」

 

黒服「ホシノ…貴女までそんな野蛮思想に…」

 

ホシノ「冗談だよ〜…まあ先生が居てくれるならきっと何とかなるんじゃないかなぁ」

 

黒服「それはどうでしょう。話を戻しますと…おや、大事な部分はこのくらいですかね」

 

ノノミ「待ってください。大事な部分が抜けてます」

 

黒服「他に大事なところ?」

 

ノノミ「黒服先生がホシノ先輩に愛の囁きをしたことですよ⭐︎」

 

黒服「??????」

 

シロコ「ん、それは話すべき」

 

ホシノ「そんな事あったかなぁ…私は覚えてないよぉ」

 

ノノミ「いずれ貴女の人生を貰いますから」

 

ホシノ「」ビクッ

 

黒服「…あれは別に愛の囁きなどでは…」

 

ノノミ「………」

 

シロコ「ん、言い訳は駄目」

 

黒服「……会議を終わります。それでは」

 

シロコ「逃げたね」

 

ノノミ「照れ屋ですね〜ちなみにホシノ先輩は黒服先生の事が好きなんですか?」

 

ホシノ「どうだろうねぇ。それよりも先生を追いかけないと…あれ?」

 

ノノミ「ホシノ先輩?追いかけなくていいんですか?」

 

ホシノ「先生の気配がなくて…瞬間移動したみたいにスって消えたんだ」

 

シロコ「ん、逃げ足早いね」

 

ノノミ「不思議ですね〜」

 

ーーー???

 

黒服「相変わらずスイッチの入ったノノミの相手は骨が折れますね…」

 

ため息混じりに呟いて目の前の屋敷の中に入る。無機質な廊下に足音が響き渡る。数分後に一つの扉がある空間に着いた。そこに居るのは絵画を手に持った人物。

 

???「おや、貴下が一番最初に到着ですか。本日の会議まで時間がある故今暫くお待ちください」

 

???「まあそういうこった!」

 

黒服「構いません。先生という仮面を外して休息を堪能しますよ……ところで他の二人は?」

 

???「生徒の問題で遅れると事前に連絡を頂いております故、会議の開催も遅れるでしょう」

 

???「つまりそういうこった!」

 

黒服「そうですか。その分長く休息出来るので問題はありませんがね。……やはりこの椅子が一番しっくり来ますね。さて、全員揃うまで待つとしましょうか」

 

今宵開催される深淵の会議。それは観察者であり、探求者であり、研究者である黒服が所属する組織のものである。彼らはその組織をこう呼んでいる……『ゲマトリア』と。




結局書くのが楽しいので投稿します。
いつも読んでいただいている皆様に感謝を。


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ゲマトリア会議

 

 

ーーー???

 

あれから数時間が経ち、開始時刻が迫る中残りの二人が現れてそれぞれの席に着く。

 

黒服「ククッ……随分と待たせてくれましたね。先生という「役」を演じるのを楽しんでいらっしゃるようで」

 

マエストロ「生徒達があまりにも独創的な解釈をするものでな。私の美学の良き理解者なので会話が弾んでしまい開始目前まで話し込んでいた」

 

ベアトリーチェ「マエストロ、その件で後で話があります会議が終わり次第覚悟しておきなさい」

 

ゴルコンダ「さて…役者も揃った故、今回の会議を始めると致しましょう。では各自近況報告を……」

 

ゲマトリア会議。それはそれぞれの席に座する4人の大人が行う近況報告。

約一年半前に黒服が起こした一つの可能性に感化されそれぞれ学園に関心を持ち、己が崇高を満たすべく行動を起こし始めた。

 

黒服「……私の報告は以上です。このまま行けば数ヶ月後には実験が行えるでしょう。その瞬間が訪れる時、私の研究が完成するのです」

 

マエストロ「着実に目標に近づいているのだな。最初こそ貴下の行動は理解しえぬ行為であったが今となってはよく理解できる。生徒に私の芸術や美学に関心を示されるのは悪くない感覚だ」

 

ベアトリーチェ「そこまで生徒達に関心を持っているのでしたらどうでしょう、あなた方も連邦生徒会から認められた教師になる、というのは?」

 

黒服「私は断らせて頂きます。私が関心あるのは小鳥遊ホシノの持つ神秘にだけですので」

 

マエストロ「私はそれぞれの生徒会から認められる行いをしていると判断されたようで既に正規の教師としての肩書きは所持している」

 

ゴルコンダ「私はまだどの学園に近づくか保留していますが……近々私の崇高に近しい思想を持った学園を訪問しようかと」

 

黒服「素晴らしい結果になる事を期待しておりますよ、ゴルゴンダ」

 

ベアトリーチェ「ところで先程から気になっていましたが、黒服は何故そのような色のネクタイをしているのです?それに随分とほつれてますね」

 

黒服「ああ、これは私の生徒からの贈り物でしたね。こういうのも案外悪くないものですよ」

 

ベアトリーチェ「……何ですって?生徒からの贈り物?そんな羨ましい…ではなく大事なものを付けているのです。箱に入れて保管するべきでは?」

 

黒服「より親密になる為にも付けていた方が都合が良いのです。貴女も保管するだけではなく使っているところを見せる事でより生徒と親しくなれると思いますよ」

 

ベアトリーチェ「感謝しますよ黒服。あなたの助言でより生徒との交流が捗ります。……感謝と言えばあの時のアルの件もここで伝えておきましょう。生徒を保護して無事送り届けていただいた事、ありがとうございます」

 

黒服「それに関しては借し一つで良いですよ。それにしても貴女がそこまで生徒に関心を持つとは思いませんでしたよ。学園を支配下に置いて子供達から搾取をすると言っていましたよね」

 

ベアトリーチェ「当初はそのつもりでアリウス分校、そしてゲヘナ学園に近づきました。ですがどちらの生徒も悲惨な有様で搾取以前の状況でした」

 

ゴルコンダ「脅しの道具で使いたいと言われ譲渡した「ヘイローを破壊する爆弾」を使う事なく返却されるとは思ってもみませんでした」

 

ベアトリーチェ「自分の崇高よりも母性本能を優先してしまい……気がつけば「マザー」と呼ばれる程生徒達に懐かれてしまいましてね。結果的にはどちらの学園も我が領土になりましたが」

 

マエストロ「マザー…?生徒にそう呼ばせるとは中々良い趣味を持っているな」

 

ベアトリーチェ「褒め言葉として受け取っておきますよ。……ただ最近気に入らないことがありましてね」

 

黒服「気に入らないこと?生徒に嫌われたとかですかね」

 

ベアトリーチェ「それはそれで非常に悲しい事ですが違います。先月に行われた学園対抗戦にて私が手塩にかけて育てた【アリウスクインテット】がつい最近結成されたチームとの対決で敗北したのです」

 

マエストロ「この前のティーパーティーでも議題に挙がっていたな。【SRT特殊学園に新しい先生が配属された】という話を聞いた」

 

ベアトリーチェ「数でも連携でも勝っていたはずでしたが彼が指揮を取り始めた途端に逆転されてしまい2位止まりになってしまったのです。このような屈辱を与えられるとは思ってもみませんでした」

 

黒服「ベアトリーチェの精鋭をも打ち負かす程の指揮能力がある先生……一度お会いしてみたいものですね」

 

ベアトリーチェ「かの先生は連邦捜査部「シャーレ」というものに所属しているので非公認の先生である貴方には難しいでしょう」

 

黒服「それは残念です。生憎アビドス以外の学園には興味がありませんから。正式な教師

になる必要もありません」

 

マエストロ「だが黒服、ミレニアムにはお前と気が合いそうな生徒が何人か居たぞ。今度顔を出してみたらどうだ?」

 

黒服「考えておきます。ところで近況報告の続きはしなくてよろしいのです?」

 

ベアトリーチェ「そうでした。とはいえ私の方は他に話す内容は……おっと、大事な報告を忘れてましたね」

 

ゴルコンダ「お伺いしましょう」

 

ベアトリーチェ「心して聞きなさい。親愛なる私の生徒の一人であるヒナが今年からゲヘナ学園の風紀委員長に抜擢されたのです!何とおめでたい事なのでしょう。これでゲヘナ学園の治安が良くなる事間違いなしです!」

 

黒服・マエストロ・ゴルコンダ「………」

 

ベアトリーチェ「……何ですかその反応。よくもまぁ…私にそのような態度を」

 

黒服「失礼…ヒナという生徒と面識がないのでその報告の素晴らしさは分かりかねます」

 

デカルコマニー「つまりそういうこった!」

 

ベアトリーチェ「……何ですって?定期的にあなた方にはヒナとの写真をモモトークで送っているでしょう?」

 

黒服「ああ、あの学園指定の水着を履かせている貴女の崇高を押しつけられている子ですか」

 

ベアトリーチェ「あれは私の趣味ではありません。彼女自身の判断で着ているのです。確かに周りからは親子に見られたりもしましたが…」

 

黒服「ホシノですらきちんとした水着を着ておりましたよ…それはいいとして報告は以上ですか?」

 

ベアトリーチェ「ええ。ですからこの会議を早く終わらせてお祝いをしなければならないのです」

 

マエストロ「仕方あるまい。教育熱心な貴下の為にも私の近況報告も済ませてしまおう。とはいえ特に目立ったものはないな。トリニティに足りない芸術をエンジニア部と作成したりする程度だ」

 

黒服「おや、意外にも大きな活動は行なっていないのですね」

 

マエストロ「自分の芸術を理解して私の崇高にと興味を示して貰えてるからな。それ以上の事は求めていない」

 

ベアトリーチェ「黒服、騙されてはいけません。マエストロはとんでもない事をしていますよ」

 

黒服「ほう、それは興味深い。詳しくお伺いしましょう」

 

ベアトリーチェ「あれは数ヶ月前の事です。給食部からの申請で新しい椅子や机が欲しいと依頼されマエストロに簡単には壊れないものを頼んだのです」

 

マエストロ「その件は覚えている。サンプル品を複製して食堂に配置したいという内容だったな」

 

ベアトリーチェ「その通りです。ですがいざ届いてみると何ですかあれは。何故椅子が自律して動き机が巨大なロボットになっているのです。給食部の生徒も苦笑いでしたよ」

 

マエストロ「どうやら配膳特急エクスプレス号はお気に召さなかったようだな。まさか一日も経たずに返品されると思ってもみなかった」

 

ベアトリーチェ「椅子と机だと思っていたらロボットの詰め合わせだったんですよ。何を考えているのですか」

 

マエストロ「貰ったサンプル品があまりにも芸術に欠けていてな。エンジニア部と話し合った結果ああなった」

 

黒服「……他にはどのようなものを開発したのです?」

 

マエストロ「トリニティでの依頼品がほとんどだ。全自動ロールケーキ発射装置や銃弾の代わりにチョコミントを浴びせる銃や…ああ、あと救護用のチェーンソーだな」

 

黒服「??何に使うのです?」

 

マエストロ「開発以外だとトリニティで過ごし芸術に対するインスピレーションを高めていたくらいだろう。近いうちに大きな「作品」を作る予定なので楽しみにしておいてくれ」

 

ゴルコンダ「あなたの独創的な芸術を背景するのが楽しみですよ。……さて、他に話す事がなければこの場は解散という事で宜しいでしょうか?」

 

ベアトリーチェ「お待ちなさい。先程から鼠が潜り込んでいます」

 

マエストロ「それは気にするな。私の生徒だ」

 

ベアトリーチェ「あなたの学園どうやら素晴らしい才能を持った生徒がいるようですね。私に紹介しなさい」

 

マエストロ「彼女が貴下と接触して悪影響があると困る。私の芸術作品が完成するまでは保留とさせてもらいたい」

 

ベアトリーチェ「あなた方に私を妨害する権利はないでしょう。近いうちにトリニティに訪問させていただきます」

 

黒服「…ベアトリーチェ、口を挟んで申し訳ないのですが先程からモモトークの通知音がずっと鳴っておりますよ」

 

ベアトリーチェ「それは失礼しました。……!急用が出来たので私はお暇させていただくとしましょう。それではごきげんよう」

 

ゴルコンダ「まだ会議は終わっていないのですが……まあいいでしょう。本日はこれで解散にします」

 

デカルコマニー「つまりそういうこった!」

 

黒服「それでは私も失礼致します」

 

マエストロ「また次の機会に」

 

ゴルコンダ「……私も準備をするとしましょう。雪国に訪問するとなると防寒対策が必要ですから」

 

デカルコマニー「そういうこったな!」

 

ーーーアビドス自治区

 

黒服「随分と時間がかかってしまいましたね。外も暗くなっていますし…おや」

 

ホシノ「あっ…先生…」

 

黒服「こんな所で何をしているのです。下校時間は過ぎて……」

 

ホシノ「………」

 

黒服「…朝に伝えたでしょう。知人と会議をすると。手のかかる生徒ですね。学園に到着する前にその涙を消しておいてくださいね」

 

ホシノ「……うん」

 

黒服「(数時間離れただけでここまでになるとは…良い傾向ですね。既に実験には協力してくれそうですし時期が来たら始めるとしますか)」

 




これで二年生編は終了となります。
次回からホシノ三年生編、もとい本編の始まりです


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第一部 小鳥遊ホシノ三年生と黒服と対策委員会
ホシノ三年生初日の記録


 

ーーーAM7:00

 

ホシノ「ん〜……朝かぁ……」

 

珍しくアラームが鳴る前に起きた。最近はずっと寝坊していたのでなんだか気分が良い。

 

ホシノ「ふわぁ…二度寝しちゃおうかなぁ…」

 

いつもならこのまま寝る…けれど今日は違った。眠い眼を擦って身支度を済ませて……

 

ホシノ「ありゃ…制服のまま寝ちゃってたよ……」

 

よだれの跡が付いたワイシャツだけ着替えて家を出る。

 

ホシノ「それじゃ…行くとしますかね」

 

自分を待っている人の元へ走る。孤独を埋めてくれる学園へと。

 

小鳥遊ホシノ3年生編 開幕

 

ーーーアビドス高等学校(4月)

 

ホシノ「皆おはよ〜元気?」

 

シロコ「ん、元気。今朝もサイクリングしてきた」

 

ノノミ「ホシノ先輩、今日は寝坊しなかったんですね。そんなに後輩ちゃんに会うのが楽しみだったんですか?」

 

ホシノ「たまたま起きただけだと思うよぉ。それより先生はどこに行ったのさ」

 

ノノミ「もうそろそろ来ると思いますよ〜…あっ、噂をすれば足音が…」

 

黒服「おはようございます。……おやホシノ、遅刻しないとは珍しいですね」

 

ホシノ「おはよう先生。いやぁ…なんだか二度寝する気になれなくてね〜」

 

黒服「遅刻しなかった事は評価しますが身だしなみはきちんとしてください。ワイシャツのシワが目立ちますよ。3年生なのですからしっかりしてください」

 

ホシノ「えぇ…面倒だなぁ…」

 

黒服「その面倒くさがりな性格は困りますが……貴女がこの学園で気を張らなくても良い空間に出来たという証にはなりますね」

 

ホシノ「……まあね」

 

シロコ「ん、2人で小声の会話はよくない。私たちにも内容を聞かせるべき」

 

ノノミ「そうですよ〜内緒話はダメです♣︎」

 

黒服「大した話はしていません。朝早く起きた分後で寝ないでくださいと釘を刺しただけですよ」

 

ホシノ「先生は厳しいよぉ…」

 

黒服「それはさておきこちらをご覧下さい。今朝学園宛てに届いたものです」

 

ノノミ「2枚の封筒…?これってまさか…」

 

黒服「その通りです。今年の新入生は2人来ることになりました」

 

シロコ「ん、後輩が増えるね。焼きそばパン買わせなきゃ」

 

ホシノ「シロコちゃん、パシリはダメだよぉ?それにしても2人かぁ。なんだか賑やかになるねぇ」

 

黒服「5人ですからね。ホシノだけの時が懐かしく感じる程ですよ」

 

ホシノ「先生、5人じゃなくて6人だよ。先生も大事な仲間だからね」

 

黒服「生徒の数を言っているつもりでしたが…まあいいでしょう。ホシノが遅れてくると思っていたので1時間後に来るよう伝えております」

 

シロコ「ん、全員揃ったならこっちから会いにいくべき。ついでに爆破ドッキリもしよう」

 

黒服「???何を仰っているのか理解しかねます」

 

ノノミ「封筒の中に住所が書いてある紙が入ってました〜♪」

 

黒服「まさか本当に行くつもりですか?悪印象しか与えませんよ?」

 

ホシノ「でも…こういうのって青春っぽいよねぇ…」

 

黒服「頭のネジが外れているのですか?何処に後輩の家を爆破する青春が?」

 

ホシノ「まあまあ。なんだか楽しそうだしいいんじゃない?」

 

シロコ「爆薬を持ってきた。これで家くらいなら軽く吹き飛ばせる」

 

ノノミ「れっつご〜ですね⭐︎」

 

黒服「……アビドスはいつからテロ組織になってしまったのでしょう」

 

ーーー???の家

 

???「初日とはいえ集合時間遅くない?特に準備するものはないし……ちょっと早いけど行っちゃおうかしら」

 

ホシノ「あそこが後輩ちゃんの家だよぉ。さ、シロコちゃんやっちゃって」

 

シロコ「ん、ドローン作動開始」

 

黒服「…どう収集を付ければ…」

 

ノノミ「黒服先生、これを使っていいですよ」

 

黒服「その金色のカードはしまいなさい。生徒の責任を取るのは私の役目ですので…」

 

ノノミが差し出してきた金色のカードをしまうように促すと同時に後輩がいるであろう家の屋根が爆散した。

 

???「……は?」

 

中にいた少女は突然起きた爆発に唖然としていた。当然であろう。

 

シロコ「ん、確保」

 

???「えっちょ…何なのこれ!?」

 

何処から用意したか分からない麻袋を被せて後輩を担いできたシロコ。

 

ホシノ「じゃあこのままもう1人の家も爆破しちゃお〜」

 

ノノミ「お〜」

 

???「一体何がどうなってるのよぉ!?」

 

黒服「……はぁ」

 

その後2人目の家も無事(?)爆破して学園に戻ってきた。目の前に麻袋を被せられた後輩が2人。

 

黒服「やっている事が完全に悪党なんですが…」

 

ホシノ「まあ楽しかったからいいんじゃないかなぁ〜じゃあシロコちゃん、ノノミちゃんと同時に麻袋を取ってあげてね」

 

シロコ「了解。せーので取ろう」

 

ノノミ「分かりました〜…せーの!」

 

???「うわっ!?」

 

???「きゃっ!?」

 

ホシノ「ようこそアビドス高等学校へ。歓迎するよぉ後輩ちゃん」

 

黒服「私の生徒が乱暴にして申し訳ありません。このような状況ですが後ほどお詫びをするので自己紹介をお願い致します」

 

???「…黒見セリカよ」

 

???「お、奥空アヤネです」

 

シロコ「ん、後輩。焼きそばパン買ってきて」

 

ノノミ「シロコちゃん、まだ早いですよ〜。まだ10時ですから〜」

 

セリカ「…さっきアビドスとか私の生徒って聞こえたけどまさかあんた達が私の先輩と先生!?信じられない!」

 

アヤネ「えっと…いまいち状況が飲み込めていないのですが…何故私達は麻袋を被せられたんですか?」

 

黒服「そこの先輩達が爆破ドッキリしながら後輩をお迎えしたいと聞かなくてですね…」

 

セリカ「は?」

 

アヤネ「え?」

 

ホシノ「あ、ちなみに爆破した家はそこの先生が直してくれるよ〜だから安心してねぇ」

 

シロコ「その間は学園に泊まるといい。寝袋とあっち向いてホイを用意してある」

 

セリカ「ごめんちょっとぶっ飛びすぎてて脳が追いついてないわ。アビドスってこんなんなの?」

 

アヤネ「あはは…とんでもない学園に来てしまいました…」

 

黒服「…なんだかアヤネには少し親近感を覚えます」

 

ノノミ「どうせなら今夜は学校に寝泊まりしましょうか。親睦会も兼ねて⭐︎」

 

ホシノ「おっ、ナイスアイデアだねぇ。後でパジャマ持ってくるね〜」

 

セリカ「もう!!いったいなんなのよぉ!!」

 

この日数少ない住民曰くセリカの叫び声がアビドス自治区に響いたとか。それはいつも以上に波瀾万丈な新学期の始まりを予感させ…る……かもしれない……?




次回の更新は私が心海を当てる為に冒険をしないといけないのでしばらくお待ち下さい
※追記 貯めていた分で手に入ったので近いうちに更新します


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黒服と対策委員会の戦闘訓練

セリカとアヤネを家を爆破した日から数日経った頃……

 

黒服「本日はセリカとアヤネも含めた戦闘訓練を始めようと思いましたが…あの白いのは何処に行ったのです」

 

ホシノ「朝早くサイクリングに行ってから帰ってこないねぇ…誘拐でもされたかなぁ」

 

セリカ「シロコ先輩の事だからそのまま銀行強盗でもしてるんじゃない?」

 

アヤネ「あはは…シロコ先輩ならあり得ますね」

 

黒服「お2人共この短期間で随分と慣れましたね。その適応力の高さは感心します」

 

セリカ「いきなり人の家を爆破するくらいぶっ飛んだ思考回路の人達だし真面目に考えるだけ無駄よ」

 

黒服「一理ありますね。……とはいえシロコが来る前はあのような行為はしておりませんが…」

 

シロコ「ん、心外。私は至って真面目」

 

ホシノ「おかえりシロコちゃん。サイクリングにしては時間かかったねぇ」

 

シロコ「銀行を襲う準備をしていたら道端で倒れている人間が居て、その人を家まで送ってたらこんな時間になってた」

 

黒服「銀行強盗よりも人助けの選択をした事は評価します。それならば遅れた事にも目を瞑ります」

 

シロコ「ん、でもその人は私とあっち向いてホイをしてくれなかった。拍手もくれなかった」

 

黒服「初対面の人に何を求めているのです…とにかく訓練の準備を…ってまた校舎に自転車を…」

 

セリカ「……ねえアヤネちゃん、あの黒いの見た目はともかく中身は結構まともよね」

 

アヤネ「確かに……日頃から先輩達に振り回されてそうですよね」

 

ホシノ「そんな事ないよぉ。ね、ノノミちゃん」

 

ノノミ「はい〜振り回すのではなくぶん回してます⭐︎」

 

セリカ「余計ダメじゃない!?」

 

シロコ「ん、大丈夫。私達と黒服には絆がある」

 

黒服「都合のいい時だけ絆とか言わないで下さい。早く自転車を片付けて訓練を始めますよ。…ところでお2人は昨日伝えた通り銃は持ってきましたか?」

 

セリカ「当たり前じゃない。というか基本ほとんどの人間は肌身離さず持ち歩いてるのよ」

 

黒服「言われてみればそうですね。この世界では常識でした」

 

アヤネ「私はこの拳銃くらいしかなくて…」

 

黒服「一度も使用していないくらい綺麗ですね。発砲の経験はありますか?」

 

アヤネ「実は一度もなくて…」

 

黒服「ふむ……アヤネさえ良ければ後方支援として戦闘訓練に参加するのはどうでしょうか。とはいえ最初は私の補佐という形にはなりますが」

 

アヤネ「それでお願いします。私が前線に出ると皆の足を引っ張ってしまいそうだったので…」

 

黒服「決まりですね。ですが訓練とはいえ気を抜いてはいけませんよ。常に戦場に意識を向けて仲間に的確な指示を出し極力被害を抑えるのが後方支援ですので」

 

アヤネ「わ、分かりました!」

 

ホシノ「……先生、後輩ちゃんが可愛いのは分かるけど私達を待たせすぎだよぉ?」

 

黒服「失礼しました。続きは訓練室に到着してから話しますね」

 

セリカ「(ホシノ先輩、黒服がアヤネちゃんと話し始めてからずっとこっちを見ていたような…?)」

 

ホシノ「ん〜?どしたのセリカちゃん。私の顔に何か付いてる?」

 

セリカ「あ…何でもないです」

 

ホシノ「そっかぁ。それじゃ行こうね〜」

 

セリカ「(ホシノ先輩…のんびりしている人だし私が守らないと)」

 

黒服「(…みたいな事を考えている顔をしていますね。戦闘中のホシノを知らないとそうなるでしょうね)」

 

 

ーーー訓練室

 

黒服「それでは訓練を開始します。準備はよろしいですか?」

 

ホシノ「うん〜……大丈夫だよ」

 

黒服「それでは…始め!」

 

今回の訓練は前方にいる大量の敵を仲間と連携して突破するというもの。いつもはホシノが先行して壁となる……はずだか何故かセリカがアサルトライフル片手に突撃している。

 

セリカ「こいつら全部破壊すればいいんでしょ!やってやるわ!」

 

黒服「???連携とは?」

 

アヤネ「えぇ…あっ…セリカちゃん、まずは周辺状況の把握から…」

 

セリカ「そんなもの必要ないわ!私が全部倒す!」

 

黒服「何ですかあのバーサーカーは。何が彼女をそこまでさせるのです?」

 

シロコ「ん、頼もしい後輩だね」

 

ノノミ「ですが前に行きすぎですよ。あのままだと…」

 

アヤネ「っ!?セリカちゃん危ない!」

 

セリカ「えっ!?遮蔽物の影から…」

 

黒服「(考えなしに突撃したらそうなりますよね。間違いなく致命傷でしょう。……ここが他の学園ならば、ですが)」

 

ホシノ「油断大敵だよセリカちゃん」

 

そう。この学園には彼女が、ホシノがいる。

銃弾を盾で受けつつショットガンで的確に急所を狙いダミーを破壊する。一瞬の間に周辺の安全を確保して後輩の前に立つホシノはまさしく「先輩」だった。

 

ホシノ「1人で突っ込むなんて凄いね。とっても頼もしいけどさ、後輩に怪我をさせる訳にはいかないよねぇ」

 

シロコ「ん、セリカも私達と連携をとるべき」

 

ノノミ「そうですよ〜」

 

セリカ「…分かりました。1人で突っ込んでご迷惑をおかけしてごめんなさい」

 

ホシノ「そんなかしこまらなくていいんだよ。それじゃあ…改めて訓練を始めよっか」

 

黒服「話はまとまったようですね。では最初から始めましょう」

 

ホシノ「セリカちゃんはシロコちゃんと一緒にノノミちゃんの援護を宜しくね」

 

セリカ「えっ…あっはい」

 

その後再開された訓練では互いの連携が取れており何事もなく終了した。

 

セリカ「ちょっと黒服、話があるんだけど」

 

黒服「何でしょうか」

 

セリカ「連携の訓練っていう割にはホシノ先輩に依存しすぎじゃない?今の陣形だってホシノ先輩が居なかったら成り立たないわよ」

 

黒服「それはそうでしょう。ホシノが居ない戦闘を想定していませんので」

 

セリカ「ホシノ先輩が居ない場合の戦闘も想定した方がいいんじゃない?万が一もあるかもしれないし」

 

黒服「考えておきます。貴重な意見をいただき感謝しますよ」

 

ホシノが居ない場合を想定した訓練。そんなものは必要ない。彼女が居なくなる事があり得ないからだ。考えるだけ無駄というもの。

 

黒服「(ホシノ程の実力者なら攫われるなんて事態もないでしょうし…しばらくはこのままでいいでしょう)」

 

ホシノが離れることがない。そう確信しているからこそこういう盲目的な考えをしてしまった。近い将来、この時の選択を後悔する時が来る事も知らずに。




なんだか納得がいっていないのでしばらく構想を練り直します


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黒服と対策委員活動記録三年目

黒服「では訓練も終えたので今の学園の状況について軽く説明をしておきます。まずはこの学園には借金が約9億あります。次に……」

 

セリカ「ちょっと待って?借金が9億?え?」

 

アヤネ「流石に冗談ですよね…」

 

シロコ「ん、本当。銀行強盗を皆に勧めてるのは借金を返す為」

 

黒服「シロコの言う通り本当の事です。それと毎日言っておりますが犯罪に手を染めるのはやめなさい」

 

シロコ「大丈夫、バレなければ犯罪じゃない」

 

ホシノ「まあそんなこんなで私達は借金を返す日々に明け暮れているんだぁ。無理にとは言わないけど2人も協力してくれたら嬉しいな」

 

ノノミ「皆で学園を危機を救いましょ〜⭐︎」

 

セリカ「はぁ!?そんな面倒な事お断りよ!」

 

アヤネ「……少し考える時間が欲しいです」

 

黒服「…どうやら一度日を改める必要がありそうですね。少々早いですが今日はお開きにしましょう」

 

ホシノ「んじゃかいさ〜ん。また明日ね〜」

 

黒服「シロコは帰る前に廊下の砂を掃いてくださいね」

 

シロコ「ん、爆弾で廊下ごと掃除する」

 

黒服「もう結構です。私が清掃するのでお帰り下さい」

 

ホシノ「じゃあ私も先生の手伝いをするとしますかぁ」

 

アヤネ「あ、それなら箒とか持ってきますね」

 

セリカ「………」

 

ノノミ「あら、セリカちゃんは帰らないんですか?もしかして廊下掃除を一緒にやりたいとか?」

 

セリカ「いえ…そういう訳では…ただちょっと気になった事があって」

 

ノノミ「私で良ければ聞きますよ」

 

セリカ「莫大な借金がある割には平和だなって言うか……普通は焦ったりするんじゃないかなって」

 

ノノミ「そうですね〜言われてみれば平和ですよね」

 

セリカ「……ノノミ先輩はこの学園に来て後悔した事とかありましたか?」

 

ノノミ「いいえ。むしろ来て良かったって思ってます。ホシノ先輩達と過ごす時間は青春って感じがしてとても楽しいです⭐︎」

 

セリカ「……そうですか」

 

黒服「ノノミ、シロコを止めるのを手伝ってくれませんか……何故か校舎内でサイクリングを始めたようで…」

 

シロコ「砂がついて汚れるなら校舎内で走れば綺麗なまま走れる。合理的だね」

 

黒服「最初から砂まみれの自転車で走っているので意味がありませんよ…」

 

ホシノ「うへぇ…廊下だけじゃなくて空き教室も砂まみれだよぉ」

 

セリカ「……仕方ないわね。私も手伝ってあげるわよ!」

 

黒服「良いのですか?とても助かります。ではこの銃を持ってシロコがこれ以上悪事を働かないように見張ってて貰えますか?」

 

セリカ「任せなさ…あっこら!シロコ先輩逃げるなぁ!」

 

ーーーセリカの家(爆破修復済み)

 

セリカ「はぁ…今日は一段と疲れた…」

 

あれからロードバイク(自転車)に乗った先輩を追いかけ回して走り回ったので尚更疲労が溜まった。

 

セリカ「アビドス…借金…」

 

正直言って面倒すぎる。額が桁違いなので返せる気もしない。返済なんて夢のまた夢なんだろう。

 

セリカ「でも…先輩達は諦めてないし…なんていうか馬鹿ばっかりよね」

 

でも……どうせ乗りかかった船だし……

 

セリカ「……あーもしもし黒服?……うん、明日の朝早くでいいわ。それじゃあ」

 

ーーー翌日 アビドス学園黒服の部屋

 

黒服「それで…そこのチラシの束はなんです?」

 

セリカ「全部バイト募集のやつよ。今から厳選して応募するバイトを決めるのよ」

 

黒服「皆が集まっているときにでもいいのでは?何故早朝なのです?」

 

セリカ「他の皆には内緒にしておきたいの。一応あんたは先生だし生徒の秘密を暴露したりはしないんでしょ?」

 

黒服「言うメリットもありませんからね。さて、時間もありませんし早めに取り掛かりましょう。……『エンジェル24 休まず働ける従業員募集!!』これはやめておいた方がいいでしょうね」

 

セリカ「どうして?時給は結構いいけれど」

 

黒服「セリカの家から通うには距離があります。それにポスターに写っている少女の目元に隈があります。睡眠時間すら取れない程の激務であるか従業員が不足している可能性が高いです」

 

セリカ「ふぅん。あんた結構詳しいのね。じゃあ次の…あっ、これは良いんじゃないかしら!」

 

黒服「それもダメです。完全にマルチ商法ですよね」

 

セリカ「えっ!?これマルチ商法なの!?」

 

黒服「……まさかとは思いますが」

 

チラシの束を確認するとほとんどが闇バイトやマルチ商法、挙句『ん、私とも銀行強盗するべき』とかいうよく見る白いのが写ったチラシすら見つかった。

 

セリカ「う…嘘でしょ…まともなバイト募集がひとつもないだなんて…」

 

黒服「ところで理由を聞いていなかったのですが……何故バイトを探しているのです?」

 

セリカ「それは…私も借金返済を手伝おうと思って」

 

黒服「昨日の貴女の態度から非協力的だと思っていましたが…」

 

セリカ「どうせこの学園に入っちゃったならいっそやってやろうと思ったの。……でも良いバイトが見つからなかったわ…」

 

黒服「……セリカが良ければいいバイト先を紹介しますよ?」

 

セリカ「本当!?」

 

黒服「場所としては…ここですね。セリカの家からも学園からも比較的近い所にあります。大将もバイトを募集しようかと悩んでいましたので丁度良いかと」

 

セリカ「じゃあそこにするわ!」

 

黒服「もう少し悩まなくてもいいのですか?」

 

セリカ「善は急げよ!今日の放課後にでも面接に行きましょ!」

 

黒服「分かりました。大将にはこちらで話をつけておきますね」

 

ーーー数日後

 

セリカ「今日もお疲れ様。私はこの後用事があるから先に帰るわね」

 

ホシノ「あっセリカちゃ…行っちゃった」

 

ノノミ「最近放課後になったらすぐに帰っちゃいますよね。何か問題に巻き込まれてなければいいのですが…」

 

シロコ「ん、間違いなく銀行強盗をしてる。昨日ニュースで見た」

 

黒服「確かにニュースには覆面をつけたシロコが映ってましたね。次銀行強盗をしたらロードバイクを没収します」

 

シロコ「鬼、悪魔、全身黒ずくめ」

 

黒服「罵倒ですらないのですが…とにかくセリカの事は気にしなくて大丈夫ですよ。問題にも巻き込まれていません」

 

アヤネ「それなら良いんですけど……」

 

ホシノ「………」

 

ーーー数時間後

 

黒服「……そろそろ膝から降りてくれませんか?」

 

ホシノ「えぇー?…じゃあ質問に答えてくれたら降りるよぉ」

 

黒服「分かってますよ。セリカの事でしょう?」

 

ホシノ「せいか〜い。先生はセリカちゃんが放課後に早く帰っちゃう理由を知ってるんだよね?」

 

黒服「はい。ですが本人から口止めをされているので詳細はお話出来ません」

 

ホシノ「………」

 

黒服「……せっかくですから夕食にでも行きましょうか。柴関ラーメンに新しい看板娘が誕生したとの事でお安くなっていますので」

 

ホシノ「!!そっかぁ…なるほどねぇ。後でセリカちゃんに怒られちゃうかもよ、先生?」

 

黒服「ククッ…何の事でしょう?私はホシノを夕食に誘っただけですので」

 

ホシノ「先生は悪い大人だなぁ…」

 

黒服「私はずっと悪い大人ですよ。貴女と出会った時から変わらず」

 

ホシノ「それもそうだねぇ。……外が暗くなってきちゃったしそろそろ後輩ちゃんに会いに行こっか」

 

黒服「そうしましょう」

 

この後顔を真っ赤にして接客するセリカを見て嬉しそうな表情をするホシノと案の定山盛りで提供されたラーメンを食べた。

 

おまけ 黒服流のシロコ抑制術

 

黒服「シロコ、このポスターの件で話があります」

 

シロコ「ん、バイト募集の紙。成功したら報酬山分けのホワイトだよ」

 

黒服「内容が極悪ですよ。銀行強盗のバイトなんて誰が参加するんですか。……貴女のここ数日で起こした被害があまりにも多すぎるので一度喝を入れさせていただきます」

 

シロコ「ん、体罰ダメ。生徒の安全は守るべき」

 

黒服「流行語大賞」

 

シロコ「!?」

 

黒服「拍手0人」

 

シロコ「………」ブルフル

 

黒服「あっち向いてホ…」

 

シロコ「私が悪かった。ごめんなさい」

 

黒服「分かれば良いのです。だからその土下座はやめなさい」

 

シロコ「せめて私が参加者になれていれば…」

 

黒服「何の後悔ですか」




私事ではありますがお気に入り登録を100件以上いただけてとても有難い限りです。共同制作した友人と一緒になって喜びました。


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ホシノの悪夢

 

 

とても嫌な夢を見た。後輩が、友達が、先生が私を残して消えてしまう夢。1人、また1人と居なくなっていくにつれて私の心が壊れていき、また孤独になった。賑やかだった教室も静寂に包まれている。砂にまみれた机には後輩達の学生証と行方不明と書かれた捜索依頼書が置かれていた。夢の中にいる私は完全に諦めており一本の縄を天井に括り付けて椅子を足場に用意して「もう…疲れちゃったよ」と呟いたのを覚えている。そのまま首に縄を…

 

ホシノ「っ?!」

 

目が覚めた時に全身に冷や汗をかいていた。

鳥肌が立ち呼吸も荒い。今の周りに大切なものがある自分に孤独は恐怖でしかなかった。

 

ホシノ「………」

 

時刻は午前4時。とても二度寝できる気分じゃなく気がついたら制服に着替えて夜の学校に来ていた。

 

ホシノ「……どうして来ちゃったんだろうね」

 

誰もいるはずがない校舎に入ると夢の中で感じたように静かだった。月明かりが照らす廊下に自分の足音が響いている。

 

ホシノ「……1人は寂しいな」

 

不意に出た本音。朝まで誰も来ないであろう学校を散歩しながらそう呟いた。

 

ホシノ「(あれ…?あの教室電気がついてる…)」

 

昨日消し忘れたかな…無駄に電気代がかさんじゃう…そんな事を思いながら近づくと物音がした。話し声も聴こえてくる。

 

ホシノ「(この学校に泥棒?…理由はどうであれ制裁しないと)」

 

静かにショットガンを構えて近づき2人いる泥棒のうち1人の背中に突きつけながら

 

ホシノ「こんな夜中に泥棒なんて頑張ってるねぇ。でも窃盗は人間としてダメだよねー」

 

なんて冗談を交えながらも威圧する。

 

泥棒?「まさか貴女がこんなに早く登校するとは驚きましたよ」

 

ホシノ「…その声は」

 

黒服「私ですよ。まさかまたホシノに銃口を向けられるとは思いませんでした」

 

アヤネ「やっぱり皆には連絡してからの方が良かったんじゃ…」

 

ホシノ「えぇー?もう1人はアヤネちゃんだったの〜?」

 

アヤネ「その…実はですね…」

 

アヤネちゃんが言うには倉庫内のガラクタ達も修理をすればある程度の金額にはなる、との事なので先生と一緒に倉庫のガラクタ漁りをしていたらしい。夜中にやっていた理由としては良いガラクタを見つけては修理してを繰り返していたらこの時間になっていたそう。しかし私にとってはそんな理由はどうでもよくて、先程みた光景が夢であると確信出来た事で安心してしまった。自分に残っているものがまだあると。

 

アヤネ「……との事ですので泥棒とかでは……ホシノ先輩?」

 

ホシノ「………」

 

黒服「……寝ていますね。何故学校に来たのかは起きてから聞くとして仮眠室に運んできます。アヤネもそのガラクタの修理が終わったら仮眠をとってくださいね」

 

アヤネ「分かりました」

 

ーーー

 

ホシノ「(あったかいなぁ…)」

 

黒服「……起きているんでしょう?ヘイローが見えてますよ」

 

ホシノ「うへぇ…バレちゃったかぁ」

 

黒服「それで何があったんです?」

 

ホシノ「何にもないよ〜?ただ早く登校しちゃっただけで…」

 

黒服「大方孤独に耐えられなかった、というところでしょう。長い付き合いですから分かりますよ」

 

ホシノ「………」

 

黒服「残念ながら私と…ノノミ達は貴女を1人にはさせませんからね。遠くにいる貴女の友人も同じようにするでしょう」

 

ホシノ「……そっか。うん、そうだね」

 

意識をしていなかったけれど随分と大切なものが増えている。夢の中では全て失ってしまっていたけれど…今の私なら大切なものを守れる。そう思った時に自分の内側にあった恐怖は自然と無くなって清々しい気分になっていた。

 

ホシノ「人生何が起こるか分からないねぇ…」

 

黒服「悟った事を言ってないで早く寝なさい。8時には起こしますからね」

 

ホシノ「えー…せめて9時まで寝たいよ…」

 

黒服「これ以上貴女を甘やかすとセリカに怒られますからね」

 

ホシノ「厳しいなぁ…」

 

先生が仮眠室から出て行った後、ゆっくりと瞼を閉じるとさっきまでの孤独感が嘘のように満たされた状態で眠りについた。

起きたら皆と何をしよう。そんな想像をしながら。




そろそろ物語を動かそうと思います。


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ホシノの些細な日常と亀裂

 

 

ーーーアビドス高等学校 

 

ホシノ「やあやあ先月振りだね〜。調子はどう?」

 

ホシノ「色々話したい事が……っと。その前に掃除しないとね」

 

ホシノ「最近砂埃の頻度が増えてきたからねぇ……うん、これでいいかな」

 

ホシノ「それじゃあ今回のプレゼントは……じゃーん!綺麗な水だよ!」

 

ホシノ「え?ただの水だって?いやいや分かってないなぁ。いいからほら飲んで飲んで」

 

ホシノ「おぉ、いい飲みっぷりだねぇ。一瞬で空になっちゃったよ。……それじゃあ何処から話そうかな……」

 

ホシノ「そうそう、前に話した後輩のセリカちゃんがね、学校の為にバイトを始めたんだって。いつも「こんな学校なんて潰れちゃいいのに!」って大声で言いつつも裏では頑張っててくれてさ…」

 

ホシノ「もう1人のアヤネちゃんもね、いらない部品とかを修理して売買して利益を得て借金返済に使って良いって全部寄付してくれてさぁ。ほんと出来た後輩達だよ」

 

ホシノ「これでアビドスも安泰だよー。……もうこんな時間かぁ…時間が経つのはあっという間だよねぇ」

 

ホシノ「…それじゃあまた来月ね。これからも見守っててね……ん?」

 

校門前から銃声が聞こえてくる。またヘルメット団が攻めてきたのだろう。朝早くからご苦労な事で。

 

ホシノ「それじゃあ…皆が登校してくる前に済ませちゃいますかね」

 

左手に盾を、右手にショットガンを持ち彼女は旧校舎を後にする。長いようで短い1日が銃撃音を合図に始まった。

 

ーーー数時間後

 

黒服「………それでこうなったと」

 

ホシノ「いやぁ…思っていたより数が多くてねぇ…」

 

黒服「この数なら今月分の返済額くらいの報酬金が貰えるでしょう。お手柄ですよ」

 

シロコ「ん、ならそれを元手に銀行強盗を…」

 

黒服「貴女は治安を悪化させたいのですか?」

 

シロコ「銀行強盗を襲う事で治安が悪くなってヘルメット団が増える。それを討伐する事で報酬金が貰える。ん、合理的だね」

 

ホシノ「なるほど〜シロコちゃん天才だねぇ。それじゃあ今日は皆で銀行強盗を…」

 

黒服「だからやめなさい。ホシノ、貴女も悪ノリはその辺にしておきなさい。約束が果たせなくなりますよ?」

 

ホシノ「それもそうだねぇ。銀行強盗はやめよっかぁ」

 

シロコ「ん、じゃあサイクリングに行って来るね」

 

黒服「自由すぎませんか?本日は活動方針の会議がありますので終わるまではダメです」

 

シロコ「んぅ…」

 

黒服「とりあえず私はこのヘルメット団を引き渡して来るので会議は始めておいてください。司会はアヤネに一任しますと伝えておいてください」

 

ホシノ「りょーかい。早めに戻ってきてね〜」

 

黒服「善処します」

 

善処する…とは言ったものの人数が人数なので想定の倍以上時間がかかってしまった。

 

黒服「申し訳ありません。随分時間が掛かってしまい…」

 

視界に入ってくるのは頭を抱えるアヤネと自由気ままな行動をとっている4人。呆れつつも案自体はホワイトボードに書いてあるので一通り確認してみる。

 

黒服「『アイドルプロジェクト』『スクールバス拉致』『マルチ商法』『銀行強盗』……何ですかこれは」

 

ホシノ「私達が一生懸命に考えた案だよ。……まあアヤネちゃんにほとんど却下されたけど」

 

黒服「それはそうでしょうね。どれも現実的ではありませんし」

 

シロコ「現実的…それなら振り込め詐欺と闇バイトって手も…」

 

黒服「ありませんよ。なぜ貴女は非合法な手段しか思いつかないのです?……この中で唯一まともそうなのがスクールアイドルですが……これの発案者は……」

 

ノノミ「私でーす⭐︎」

 

黒服「……一応詳細をお伺いしても?」

 

ノノミ「私達5人でアイドルグループとして活動するんです。ちゃんと衣装のデザイン案も用意してきました」

 

黒服「随分と用意がいいですね……充分にやる気は伝わってきますがこれも現実的ではありませんので没ですね」

 

ホシノ「ありゃ…全部没にされちゃったねぇ…」

 

シロコ「人の案を没にするなら黒服も何か提案するべき」

 

セリカ「そうよ!あんた先生なんだから私たちの案より良いものを出しなさいよ!」

 

黒服「良いでしょう。知人に聞いていくつか案は用意してきてましたので今から言うとしましょう」

 

ホワイトボードに新たに書き出されたものはASMRという四文字。心地よい音?を販売するというものだとか。

 

黒服「という訳で各自囁くような音声を録音してもらいます。録音用の機材も借りてきましたので」

 

セリカ「こういうのって素人がやっていいものなの?」

 

ノノミ「何事も挑戦あるのみですよ⭐︎」

 

黒服「ではそれぞれ個室に移動してください。音量調整は間違えないようにお願いしますね」

 

ーーー

 

ホシノ「うへー…まさかこんな事になるなんてねぇ…」

 

時々波の音は動画で聴いていたりしたけれど自分が音を出す側になるとは思っていなかった。

 

ホシノ「うーん…案が思いつかないなぁ……あっ」

 

先生が確認として音声を聞くならいっその事事今までの感謝でも囁いてみよう。彼に伝えると思って録音したらより気持ちも込められるだろうし。

 

ホシノ「えっと…何から伝えようかな……それじゃあ……」

 

ーーー

 

黒服「………」

 

ホシノ「どう…かな?」

 

黒服「残念ですがこの音声では商品にならないでしょう。消すのは惜しいのでこれは私が保管させていただきます」

 

ホシノ「…そっか…えへへ」

 

黒服「随分と嬉しそうですね。まるでこうなって欲しかったと思っているように感じますが」

 

ホシノ「んーどうだろうねぇ〜」

 

黒服「貴女という人は……まあいいでしょう」

 

ーーー数十分後

 

黒服「それでは知人に音声を聞いた感想をいただいたので発表していきたいと思います。まずはシロコですが…『透き通るような声から発せられる物騒な単語が新しい世界への一歩となりました。とても素晴らしいです』とのことです」

 

シロコ「ん、意外にも高評価。嬉しいね」

 

黒服「次にセリカですね。『声はとても気持ちが良いのですが内容がマルチ商法の勧誘にしか聞こえません。商品としては適さないでしょう』と真面目な回答をいただきました」

 

セリカ「えっあれもマルチ商法なの!?また騙されていただなんて…」

 

黒服「そしてアヤネ。『初々しい声が脳細胞に染み渡りますが終始恥じらいを持っているように聞こえます。もっと自信を持ってください』との事です」

 

アヤネ「あ…ありがとうございます…?」

 

黒服「最後にノノミですが…『母性を感じました。おギャリたいので即販売しましょう』との訳の分からない言葉が返ってきましたがとりあえずノノミの音声を販売する事に決まりました」

 

ノノミ「やりましたぁ〜」

 

セリカ「あれ?ホシノ先輩の音声はどうしたのよ?」

 

黒服「ホシノのは他の人に聞かせるべきものではないと判断したので…」

 

セリカ「何よそれ」

 

ホシノ「ちょっと恥ずかしくなっちゃってねぇ…」

 

ノノミ「それなら仕方ないですね。でも私達には聞かせてくれますよね♪」

 

ホシノ「えぇ〜勘弁してよノノミちゃーん…」

 

先生がいて、後輩がいる日常。皆と過ごす何気ない時間はあっという間に過ぎていく。時刻は夕方になりそれぞれが下校する。また明日と言葉を交わしながら。

 

ホシノ「また明日…良い言葉だよねぇ………」

 

余韻に浸っていたため気づくのが遅れたが何かがおかしい。いつも以上に周りが静かだ。しかし人の気配は感じる。ほんの少し身構えていると背後から声をかけられた。

 

???「小鳥遊ホシノだな。我々と一緒に来てもらおう」

 

ホシノ「えぇ〜そんな事を言って誘拐しようとするだなんて…ロリコンなの?」

 

???「私語は慎んでもらおうか。それと構えている銃も降ろせ。大事な後輩がどうなってもいいのか?」

 

ホシノ「……どういう事?」

 

???「お前が抵抗した時に備えて俺の仲間がお前の後輩を人質として捕まえておいたって訳だ」

 

ホシノ「そんな分かりやすい嘘を…」

 

???「撃ってもいいんだぜ?後輩の命が惜しくないならなぁ」

 

ホシノ「……分かった。貴方たちに従うから後輩ちゃん達は傷つけないで」

 

???「賢明な判断だな。……おい、こいつを連れていくぞ」

 

ーーー

 

???「ご報告します。小鳥遊ホシノの拘束に成功しました」

 

???「ご苦労。それじゃあ本格的に始めるとするか。各自準備をするように伝えておけ。目障りなアビドス高等学校を制圧するとな」

 



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一年前と二年前の借り

 

 

ーーー翌日

 

セリカ「明らかにおかしいわよね!弾薬を補給しようと店に寄ったら全部売り切れって。どこの誰が買い占めたのよ!」

 

アヤネ「アビドス自治区全体で食料以外の物資がいきなり枯渇するだなんて…困りましたね」

 

シロコ「ん、ノノミが買ってきたお菓子があるから問題ない」

 

ノノミ「一体どうしたんでしょうね…そろそろ備品を補充しておかないといけない時期でしたのに」

 

黒服「………」

 

セリカ「……あんたさっきからずっと黙ってるけどどうしたのよ?」

 

黒服「おかしい…おかしいのです」

 

セリカ「何がよ」

 

黒服「この時間になってもホシノから何の連絡もないのです。毎日欠かさず『おはよう』や『二度寝するね』などという連絡が来ていましたのに…」

 

シロコ「ん、黒服はホシノ先輩に嫌われたんだね」

 

黒服「ホシノに嫌われる?そのような事をした覚えはありませんし起きてはならない事です」

 

セリカ「ホシノ先輩の事だし三度寝したとかじゃないの?気にしすぎよ」

 

アヤネ「ホシノ先輩の事も気になりますが…今は物資の事も考えないと…」

 

黒服「ホシノ以上に優先するべきことはありませんよ。物資は隣の自治区に行けば買えるでしょうし後回しで構いません」

 

ノノミ「黒服先生。少し冷静になってください。まだホシノ先輩がトラブルに巻き込まれたと決まった訳ではありませんし…物資を優先した方が宜しいかと」

 

黒服「……失礼。少々取り乱していたようです。まずは必要な物資の補充からやっておきましょうか」

 

アヤネ「分かりました。予め必要そうなものをリストにまとめておいたので確認お願いします」

 

黒服「助かります。……いつの間にこんなに減っていたとは気づきませんでしたよ」

 

ノノミ「訓練の頻度も人数も増えましたからね。今度からはいつもの倍くらい補充しないといけませんね」

 

黒服「倉庫の拡張も…いえ、空き教室に詰めておけばいいですね。……大方リスト通りに購入すれば問題なさそうです。ホシノが登校する前に買っておきましょう」

 

シロコ「ん、じゃあロードバイクで…」

 

黒服「1人で持てる量ではありませんよ。皆で行きますよ。…念の為に残っている弾薬は分配しておきますね」

 

ノノミ「分かりました〜」

 

準備中に確認したもののホシノからの連絡はない。やはりおかしい。胸騒ぎもしてくる。

 

黒服「(私だけでもホシノの家に様子を……?)」

 

校門前に近づくにつれて違和感が芽生える。取り囲むように武装した連中がいる。偶然にしては出来すぎたタイミングだ。

 

黒服「随分とお揃いのようで…一体何の用です?」

 

兵士長「ターゲットを確認。作戦を開始する」

 

話す間もなく向けられる銃口。思考が追いつく前に弾丸が発射されこちらに向かってくる。

 

セリカ「ボーッとしてるんじゃないわよ!」

 

黒服「セリカ…!?」

 

数人から放たれる銃弾を庇うように受け止めるセリカ。何故この少女は自分を庇ったのだろう?

 

セリカ「くっ…鬱陶しいのよ!」

 

相手がリロードに入ったタイミングで突っ込んでいくセリカとシロコ。……とにかく今は指揮をしなければ。

 

黒服「アヤネは医療用ドローンの準備と戦況把握、ノノミは2人が陽動になっている間に相手を一掃してください」

 

アヤネ「ですが…もうほとんど物資が…」

 

黒服「全て使い切って構いません!」

 

アヤネ「わ、分かりました!」

 

もしここで誰か1人でも欠けてしまったらホシノの情緒が不安定になってしまう。長年の苦労を無駄にするわけにはいかない。

こうして態勢を整えて防衛を始めた…ものの上手く指揮が取れない。

 

黒服「セリカ、左右から狙われています。どうにかして対処を…」

 

セリカ「どうにかって何よ!同時になんて無理よ!」

 

黒服「申し訳ありませんが被弾覚悟でお願いします」

 

セリカ「仕方ないわね。やってやるわよ!」

 

当たり前にいたホシノという存在が居ない戦闘。前にセリカに助言されたようにホシノに依存しない訓練を行うべきだったと後悔してしまう。

 

黒服「仕方ありません…シロコ、ドローンの使用を許可します」

 

シロコ「ん、分かった。…あっセリカごめん」

 

セリカ「ちょっと!?こっちを狙ってんじゃないわよ!」

 

間一髪で避けるセリカと吹き飛ぶ兵士。統率は取れていなくても着実に相手の数は減らせているが…

 

ノノミ「あら…弾が切れてしまいました」

 

黒服「ですが…何とか間に合ったようです」

 

粘り続けた結果残るは兵士長ただ1人。ボロボロになりながらも猛攻を耐えれたようだ。

 

兵士長「まさかここまで抵抗されるとは…お前達を舐めていたようだ。ここは一度退却するとしよう」

 

余裕を感じる口調でそう言うと動ける兵を集めて去っていった。気がつけば夕方に差し掛かる程時間が経っている。疲労で倒れるセリカとシロコを回収しつつ校舎に戻った。

 

ーーー

 

セリカ「いったぁ…ノノミ先輩、もっと染みないように…」

 

ノノミ「ごめんなさいセリカちゃん。次はもっと優しく消毒しますね」

 

黒服「…被害の報告と状況の確認をしましょう。あの武装集団の格好から察するに『カイザーPMC』で間違いないでしょう」

 

ノノミ「それって民間軍事会社ですよね?それがどうしてこの学園に…」

 

黒服「これは推測でしかありませんが…ホシノと連絡が取れなくなった事とカイザーPMCが攻めてきた事は関係があると考えております」

 

アヤネ「ですが…仮にそうだったとして何故ホシノ先輩を攫う必要があるのでしょうか…?」

 

黒服「真偽は分かりかねますが…とにかく今はこの状況を打破しなければいけません。弾薬は底をつき医療品もほとんどない。シロコと…特にセリカが重傷…私の指揮不足です。申し訳ありません。それと…あの時庇っていただきありがとうございました」

 

セリカ「…あんたが傷付いたらホシノ先輩が悲しむから仕方なくよ」

 

黒服「貴女には借りが出来てしまいましたね。……あの時兵士長は一度退却と言っておりました。時間にも猶予がないのかもしれません」

 

ノノミ「一応訓練用の弾はありますが…ほとんど意味がないですね…」

 

黒服「こうなってしまった以上救援を要請するしかなさそうです。少々電話をして来ますので席を外します」

 

アヤネ「ではその間に2人の手当をしましょう。ほらシロコ先輩、逃げないでください」

 

シロコ「染みるの嫌」

 

アヤネ「優しくしますから!」

 

ーーー

 

廊下に出て数歩進み端末を取り出す。2.3コール後に甲高い声が端末越しに聞こえてきた。

『こんな時間に何の用です?つまらない用でしたら切りますよ』

 

黒服「申し訳ありません。……話すと長くなってしまいますが……」

 

ホシノと連絡が取れなくなったこと、それと同時に学園に侵攻されて弾薬や医療品が不足していること、その為救援を依頼したい事を電話越しの彼女に伝えた。

 

『状況は分かりました。とはいえこちらも多忙な故2人ほどしか派遣する事は出来ません。持てる限りの補給品を持たせて向かわせますので』

 

黒服「助かります」

 

『なるべく早く到着するようにはしますが…持ち堪えてくださいね』

 

黒服「善処しますよ。それではよろしくお願いします」

 

通話が切れた。少しは希望が出てきた。

 

ーーー

 

黒服「ただいま戻りました」

 

アヤネ「お帰りなさい。とりあえず応急処置は終わりましたよ」

 

黒服「ありがとうございます。あの連中がいつ襲ってくるか分かりません。今のうちに仮眠を取っておいてください」

 

セリカ「そうさせてもらうわ…今日はもう疲れた…」

 

シロコ「ん、寝てくるね」

 

ノノミ「救援要請の方はどうでした?」

 

黒服「人数は少ないですがなるべく早く到着すると仰っておりました。どのくらいの戦力になるかは分かりませんが…」

 

アヤネ「とにかく現状をどうにか出来るのであれば…」

 

黒服「その点は問題ないでしょう。弾薬と医療用もある程度は持ってきてくれるようですので」

 

ノノミ「それなら安心ですね。……私達も休みましょうか」

 

アヤネ「そうしましょう…黒服さん、見張りを任せてもいいでしょうか?」

 

黒服「良いでしょう」

 

アヤネ「ありがとうございます。それでは失礼しますね」

 

一礼してアヤネとノノミは仮眠室に向かった。その後朝まで見張っていたものの攻めてくる様子はなく生徒達は休息が取れたようだ。

 

黒服「おはようございます。体調は如何ですか?」

 

セリカ「充分寝れたからちょっと気だるいけどだいぶ元気になったわ」

 

シロコ「ん、同じく」

 

黒服「それは良かった。…このまま何事もなく救援がくればいいのですが」

 

ノノミ「……そうはいかないようですね」

 

アヤネ「武装集団の反応を確認しました!数は…昨日の2倍です!」

 

黒服「…現れましたか」

 

兵士長「アビドスの諸君。昨日の健闘を讃えてこちらも本気を出させてもらう事にした」

 

黒服「軍事企業の方にそう仰っていただけるとは光栄ですね」

 

兵士長「減らず口を…まあいい。総員構え!」

 

昨日のように銃が構えられる。その瞬間に敵陣の中心が爆発した。

 

兵士長「なっ…何が起きた!?」

 

???「ほら、言ったでしょ?片手でも命中させられるって!」

 

???「口だけじゃなかったね。…残りの分は私がやる」

 

後方から武装集団を蹴散らしてこちらに向かってくる2人。数秒の間に兵士長を除いた集団を壊滅させた。

 

兵士長「なんだお前ら!?何者だ!?」

 

???「何者って聞かれてもねぇ…」

 

???「あなたに名乗る必要はないけれど…あえて言うのであれば…私達は」

 

アル・ヒナ「小鳥遊ホシノの友達よ」



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ホシノ奪還編#1

あらすじ3行
・ホシノが誘拐される
・その間に学校に攻められてピンチ
・助けに来たヒナとアル

先の展開の構想ばかり考えて遅れました。


 

セリカ「なんかカイザーPMCよりヤバそうなのが来たんだけど!?」

 

黒服「ご安心を。彼女達は味方ですよ」

 

ノノミ「とても強そうなお2人ですね…あれ?あの緋色の髪の子…なんだか見覚えがあるような…?」

 

ヒナ「貴女はこのまま銃を構えていなさい。私が近づく」

 

アル「美味しい所を持っていかれるのは癪だけどそうも言ってられない状況だし…任せるわよ委員長」

 

ヒナ「うん。……そこの変なの、待たせたわね。時間が惜しいからさっさと身柄を拘束して話を聞かせてもらう」

 

兵士長「変なのだと?随分と馬鹿にしてくれるじゃないか。良いだろう、アビドスの前にお前を潰すとしよう」

 

黒服「そこのあなた、善意で申し上げておきますが……7目の前にいる少女はキヴォトスでも上位に入るほどの強さを……おや」

 

言い終わる前に兵士長は宙を舞っていた。数年見ない間にヒナはより強くなったようだ。ベアトリーチェが溺愛しているだけはある。

 

アル「(……えっ風紀委員長ってあんな強かったの!?敵に回したくないわね…)」

 

ヒナ「この変なの縛っておいて」

 

シロコ「ん、任せて」

 

黒服「何故縄を持っているのかは分かりませんがお願いします。…御二方も救援要請に応えていただきありがとうございま…」

 

ノノミ「アルちゃーん!お久しぶりでーす!」

 

アル「貴女は…ノノミ!お久しぶ……んえぶ」

 

ノノミ「まさかアルちゃんが助けに来てくれるなんて思いませんでした!嬉しいです!」

 

アヤネ「ノノミ先輩…その人窒息していますよ…」

 

黒服「ヒナも良く来てくれましたね。助かりましたよ」

 

ヒナ「詳しく話を聞きたいしそこの変なやつを連れて校舎に入っていい?」

 

黒服「構いませんよ。こちらへどうぞ」

 

ヒナ「ありがとう。…あ、マザーからの伝言。『これであの時の借りは返しましたよ。それと私の大切な生徒に傷をつけたら……』あとは長いから聞いてない」

 

黒服「過保護すぎるのも考えものですね…」

 

 

ーーー数分後

 

黒服「……要約すると『これ以上力をつける前に最大戦力であるホシノを拉致した後に人海作戦で制圧しようとした、と」

 

アヤネ「周辺の物資が不足していたのもこの人達が買い占めて私達の手に渡らないようにしていたみたいです」

 

セリカ「やり方が姑息すぎるわ!もっと正々堂々としなさいよ!」

 

黒服「セリカ、大人とはそういうものなのです」

 

ノノミ「ですが…そう簡単にホシノ先輩を拘束出来るのでしょうか?」

 

黒服「大方後輩がどうなってもいいのか、みたいに脅したんでしょう。それが嘘だったとしても少しでも可能性がある以上ホシノは自己犠牲で終わらせるでしょうし」

 

アル「悪って感じはするけどアウトローではないわね……」

 

黒服「現在ホシノがいる場所は砂漠の中心にある支部……ご丁寧に今回の作戦を指示したカイザーの理事もそこにいるようです」

 

ヒナ「弾薬も充分とはいえないしその理事をどうにかした方が良さそうね」

 

黒服「……皆様に問います。これから行い作戦は今までのものとはレベルが違います。最悪命を落とす危険性があるでしょう。それでもやりますか?」

 

ノノミ「勿論です。ホシノ先輩は大切な存在ですから」

 

シロコ「ん、そういうこと」

 

セリカ「だらしない人だけど居ないと落ち着かないもの。それに黙って居なくなった事も怒らないと!」

 

アヤネ「私たちの為にホシノ先輩を犠牲にさせる訳にもいきませんし……」

 

ヒナ「私は最初からそのつもりで来た。そこの社長もそう」

 

アル「その通りよ。ようやくあの時の借りを返せるわ」

 

黒服「即決ですか……ホシノは良い友人と後輩に恵まれたようですね」

 

ヒナ「決まったのであればどう攻めるか考えよう。黒服を除いて戦力は6人。正面突破は無謀。砂漠の中心となると物陰もない。だいぶ厳しい条件ね」

 

黒服「その点においては問題ありません。一つ問題があるとすれば……この中にヘリコプターを操縦出来る人は居ますか?」

 

アヤネ「あ、私はある程度簡単なものでしたら…」

 

黒服「素晴らしい。ならば問題はありません。……ホシノ奪還作戦を始めましょう」



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ホシノ奪還編#2

 

ーーーカイザーPMC本社 理事室

 

部下1「報告します。先程派遣した部隊がアビドス学校を制圧したとの連絡が」

 

理事「抵抗していた他の生徒はどうした?」

 

部下1「全員まとめて処理したようです」

 

理事「よし。速やかに帰還するように伝えておけ。……これでお前に残されたのは多額の借金だけになったな」

 

ホシノ「………」

 

理事「だが俺も鬼じゃない。お前の戦闘力は素晴らしいものだからな。俺の下で死ぬまで働くというなら借金も……」

 

部下2「お取り込み中のところ申し訳ありません!緊急報告です!現在我が社付近に謎の巨大な機械生命体が!」

 

理事「何だと!?今までそんな奴がこの砂漠に居たなんて情報はなかったぞ!」

 

部下2「現在応戦中ですが歯が立たずこちらに近づいて来ております!至急応援を!」

 

理事「仕方ない……これ以上被害が出る前に最低限の護衛を残して他全員で食い止めろ!絶対に近づけるな!」

 

部下2「了解です!」

 

理事「……話が遮られてしまったがもう一度聞こう。俺の部下になれ。無論他に選択肢は無いがな」

 

ホシノ「………」

 

理事「助けは来ない。いい加減現実を受け入れろ」

 

どの口が言っているのだろうか。守りたかった学校も後輩も……先生すらも奪い取ったのは目の前にいる男なのだ。

本来であれば激昂して悪態をついたりするのが正しいのかもしれない。しかし私の心はそれ以上に折れてしまっていた。『孤独になった』という事実が重くのしかかりそれから逃れる方法は全てを諦めて無気力になるしかない。

 

ホシノ「……分かった……部下に……」

 

なる、という言葉は扉が吹き飛ぶほどの爆発音にかき消された。

 

ーーー数十分前のアビドス砂漠

 

黒服「捕らえた兵士から教えていただいた座標ですと……あの建物でしょうね」

 

セリカ「黒いあいつみたいに大量に居るわね…強行突破は無理そうだわ」

 

黒服「本来はこういう使い方をするべきではないのですが……ホシノの為ですので致し方ありません」

 

ポケットから取り出したのはただの通信端末。今から姿を表すのはこの場を切り抜ける為の切り札とも言える。

 

黒服「ククッ…本拠地を砂漠に建ててしまったのが運の尽きでしたね。パスワードは…『理解を通じた結合』」

 

認証、という文字が画面に表示された後、カイザー本社付近を中心に地震が発生する。揺れが収まったと同時に姿を表したのはデカグラマトンの予言者『ビナー』。それの視界に映るはカイザーPMCの兵士達。

 

セリカ「うわぁ…なんかビーム吐いてるんだけど…」

 

ヒナ「砂漠の中にあんなのが居るなんて……アビドスって恐ろしいのね」

 

黒服「とりあえず揺動代わりにはなるでしょう。こちらに狙いをつけられる前に侵入しますか」

 

兵士達「お、おい!虚偽の報告をしたら解放するって約束だろ!?」

 

黒服「ああ、貴方の後始末を忘れていました。シロコ、身ぐるみ剥いでその辺りに放置しておいてください」

 

シロコ「ん、任せて」

 

兵士長「おい!やめ……アッー!」

 

ーーーカイザーPMC エントランス

 

ノノミ「どいてくださーい☆」ガンッ!

 

セリカ「邪魔なのよ!」ゴスッ!

 

ヒナ「……あれも貴方が教えたの?」

 

黒服「いえ……いくら弾が不足しているとはいえミニガン本体でぶん殴ったり蹴り飛ばすような事は……」

 

ヒナ「でも銃より静かに処理できるし効率的ね。私も決戦まで弾を温存しておきたいし」

 

黒服「そうですね。不測の事態に備えておきましょう」

 

セリカ「……ところでホシノ先輩って何処で捕まってるの?」

 

黒服「こういう時は大体主犯格と同じ部屋に居るでしょう。つまり理事室ですね」

 

ノノミ「まだまだ距離がありますね。ミニガン殴打も結構疲れますし…」

 

ヒナ「それなら私が先陣を切る。なるべく取りこぼしが居ないようにするけれどもし居たらごめん」

 

セリカ「それくらいはだいじょ…速いわね…人間が出していい速度じゃないわよ」

 

黒服「彼女は強い子ですからね。私達も参りましょう」

 

ーーーカイザーPMC理事室付近の上空

 

アル「いつまで待機していれば良いのかしら…もどかしいわね」

 

アヤネ「今ヒナさんが20階までの制圧を終わらせました。後半分くらいであの部屋に到着します」

 

アル「そう。それなら準備をするわよ」

 

アヤネ「はい!……あの、差し支えなければお伺いしたいのですが……昔のホシノ先輩ってどんな人でしたか?」

 

アル「どんな人って言われてもね…ホシノと過ごしたのは数時間程度だし……」

 

アヤネ「そうなんですね。こんな危ない事にまで力を貸して下さってるのでホシノ先輩と親しいのかなって思ったのですが……」

 

アル「過ごした時間が短かろうと関係ないわよ。……全然アウトローっぽくない台詞ね。単独で来て良かったわ。社員達に聞かれたら絶対にからかわれるもの」

 

アヤネ「アウトロー?っぽいかどうかは分かりませんが……充分にカッコいいですよ。その社員さん達もそう言ってくれると思います」

 

アル「そ、そう?ならいいんだけど……」

 

アヤネ「それにしても…このヘリは一体どうなっているんでしょう……プロペラ音も鳴らないし…」

 

アル「異物ってやつを利用して組み上げたって説明されてもよく分からないわよね。役に立ってるから良い技術なのでしょうが」

 

アヤネ「それは使い人によるでしょうね。……そろそろ時間でしょうか。アルさん、準備はよろしいですか?」

 

アル「問題ないわ。この距離なら多少足元が不安定でも余裕よ」

 

 

アヤネ「頼りにしてますね。こちら航空部隊、目標の位置で待機中です」

 

ーーー本社40階

 

黒服「おや、良いタイミングですね。こちらも今扉の前に着いたところです」

 

セリカ「でもこの扉パスワードとか何やらで厳重すぎるわ。銃で破壊するにしても時間がかかりそうね」

 

黒服「問題ありません。こういう時は大体シロコが…ほら」

 

シロコ「ん、ロケラン見つけた。緑色の塗装がされてて4弾同時に撃てるやつ」

 

ノノミ「わぁ〜10点ダメージですね⭐︎」

 

黒服「あの頑丈そうな扉もひとたまりもないでしょうね。……ここからは失敗は許されませんよ」

 

セリカ「それくらい分かってるわよ。こっちは初めから成功させるつもりで来てるんだから」

 

シロコ「そういう事。だから撃つね」

 

いくら頑丈な扉もロケットランチャー4発には耐えれずに理不尽にも吹き飛んだ。

 

ーーー冒頭の時間に戻る

 

「少々煙の量が多いですね」

「ん、爆薬マシマシにしたからいつもの4倍多い」

「このままだと火災警報がなってしまいますね〜」

「今そんな事はどうでもいいでしょ!?」

「警報装置だけでも壊しておくよ」

 

煙の中からそんな会話と足音が聞こえる。こんな状況でもいつも通りの騒々しさ。緊張感も何もない雰囲気が伝わってくる。

 

ホシノ「………」

 

皆の方を向きたいけれど……こんな酷い顔は皆に見せられない……そう思って俯いたままの姿勢を維持しようとした。

 

シロコ「ん、ホシノ先輩見つけた」

 

ホシノ「うわっ!?」

 

床を見ていたはずなのに何故か後輩と目があった。「シロコ、ハウス」という掛け声でまた煙の中に戻って行く後輩。……なんだか恥ずかしがっていた自分が馬鹿らしくなってくる。気づけば涙は引いて頬が緩んでいた。その数秒後に煙が晴れて視界に入るのはアビドスの皆と友人。

 

理事「……一応聞こう。何をしに来た?」

 

黒服「決まっているでしょう?私の大切なものを返してもらいに来ました」




そろそろ一部の最終話が近づいてまいりました。
構想段階からやりたかった事が遂に書けるのですよ。


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ホシノ奪還編#3

 

 

理事「大事なもの?まさかそこに居る戦闘能力しか価値のない女の事を言ってる訳じゃないよな」

 

黒服「左様でございます。貴方には理解できない彼女の魅力を私は知っていますので」

 

理事「口の聞き方には気をつけるんだな。大事な女がどうなってもいいのか?」

 

黒服「そちらこそあまり早まらない方がいい。これ以上その子に傷を付けられてしまったら貴方の命を保証しかねます」

 

理事「単純な脅しは通用しないか。それならばこうするとしよう。黒い服のお前は知っているかもしれないが、アビドスの学校に借金を課しているのはカイザーコーポレーションであり管理をしているのは俺だ。これが何を意味しているか分かるか?いきなり額を跳ね上げたっていいんだぞ?」

 

黒服「ほう?ならば言い値で払いましょう。その場合はアビドス高等学校とその生徒達の安全は保証してもらいますが」

 

理事「……話を聞いていたのか?何十億なんてレベルじゃないぞ?お前が想像しているよりも遥かに……」

 

黒服「言い値で払うといいましたよね?何故言いだした貴方が困惑しているのです」

 

理事「狂っているのか?そんな事をしてお前に何のメリットがある?たかが数人の生徒とちっぽけな学校の為に何故そこまで肩入れをする?」

 

黒服「それが先生というもの…らしいですので。私自身の考えとしては学校や生徒がどうなろうとあまり気にはしません。……ですが」

 

ホシノ「……?」

 

黒服「あの子には…ホシノには私の全てを賭けてもいい価値がある。それだけの話です」

 

ホシノ「??!!」

 

ヒナ「……ふうん」

 

ノノミ「黒服先生、大事なお話を遮って申し訳ないのですが……そういう言葉は2人きりの時に伝えた方が宜しいかと」

 

黒服「何の話ですか?私はただ思っている事を伝えたまでで…」

 

理事「……どうやら何を言っても引かないようだな。だがホシノを人質にしている以上こちらが有利である事は変わらんぞ。お前達がそこから一歩でも踏み出したら頭を撃ち抜くからな」

 

黒服「この状況でしたらそうするのが妥当でしょうね。懸命な判断です。ただ一つ忠告するとするのであれば……こちらに気を向けすぎでは?」

 

理事「何を言って………何だこの爆発は!?」

 

理事室の窓ガラスが轟音と共に割れる。窓側にいた兵士達は理事を庇って傷を負い被害がない者達もいきなりの爆発に驚いている。

それと同時にホシノの頭に銃を突きつけていた兵士が倒れ込んだ。

 

ーーー黒服達が理事室に突入して数分前に遡る

 

アヤネ「突撃部隊から連絡が来ました。ホシノ先輩の周辺にいる兵士は2名。そのうち1人が先輩に銃を突きつけているようです。座標軸は……」

 

アル「把握してるわ。その光景はずっと視界に入っているもの。……もう撃っていいかしら?」

 

アヤネ「アルさん、気持ちは痛いほどわかりますが落ち着いてください。この作戦で一番重要なのは私達なんですよ」

 

アル「……そうね。つい冷静さを欠いてしまっていたわ。……もう大丈夫、話を続けて」

 

アヤネ「分かりました。……送られてきた内部の敵部隊の数と配置を見るにヘリに内蔵されているミサイルで窓ガラスを爆発させてその混乱に紛れてホシノ先輩を救出……という流れが一番成功率が高いと思われます」

 

アル「窓ガラスを全部!?……貴女達ってかなりのアウトローよね……」

 

アヤネ「アルさんには爆煙で視界が悪い中ホシノ先輩を拘束している兵士2人を撃ち抜いて欲しいのですが……」

 

アル「それはまた随分と難易度が高いわね。けれど任されたからには絶対に成功させるわ」

 

アヤネ「では始めます。ミサイル射出まで3……2……」

 

アル「………」

 

瞼を閉じて集中する。ターゲットまでの距離は200M。コンディションは充分。ゆっくりと目を開けて弾を2発装填しているライフルを構える。

 

アヤネ「1……0!ミサイル発射!」

 

数え終わるのと同時に射出されたミサイルが理事室の窓ガラスに直撃して爆煙が広がっている。その中に向かって2発の弾丸を放った。

 

アヤネ「アルさん…結果は…?」

 

アル「決まってるじゃない。……命中よ」

 

爆煙が晴れて視界に映るは救援されて安全になったであろう友人の姿。それを見たアルは心の中でこう呟いた。依頼完了、と

 

ーーーそして現在に戻る

 

黒服「御二方、ナイスタイミングですよ。……お待たせして申し訳ありません。今拘束を解きますからね」

 

ホシノ「うん……先生、来てくれてありがとう」

 

黒服「当然の事をしただけですよ。……所で何故目線を合わせてくれないのですか?何か気になる事でも?」

 

ホシノ「な、何でもないよぉ…」

 

黒服「そうですか。……はい、これで拘束は解けましたよ」

 

ホシノ「これで自由になれたよ……あれ…」

 

黒服「身体の具合から見るに衰弱していますね。学校に戻ったら休息を取って貰いますよ」

 

ホシノ「そうする……」

 

黒服「……そちらの方も片付いたようですね」

 

ヒナ「ええ。とはいえほとんどあの子達がやったけど」

 

セリカ「数が少なきゃただの雑魚ね」

 

ノノミ「さらに油断もしていましたのでとても楽でしたね」

 

シロコ「ん、あとはこいつだけ」

 

理事「お、おい!その手を離せ!貴様らの借金を数倍に上げたっていいんだぞ!」

 

黒服「言い忘れていましたが実はこの部屋に入った時からの会話を録音していたんですよ」

 

理事「それがどうした!いいからこの白いのに手を離すように…」

 

黒服「どうやら理解していないようなので説明して差し上げましょう。この録音には貴方が女子高生を誘拐して監禁した事、借金を利用して脅し行為をしたなどの会社全体のイメージ損失に繋がるものが記録されています。もしこれが世に出回ってしまったら果たして貴方は今の地位のままで居られるのでしょうか?」

 

理事「なっ…脅すなんて汚いぞ!」

 

黒服「その台詞は是非数分前の自分にでも伝えてあげてください。……そういう訳なので社会的制裁だけで勘弁してあげますよ。……「私」はね」

 

理事「?どういう事だ?」

 

セリカ「あんたには随分と世話になったからね。お礼がしたくてたまらないのよ」

 

ノノミ「私もです⭐︎」

 

ヒナ「100発位で勘弁してあげる」

 

シロコ「ん、集団リンチ」

 

理事「お前ら!いい加減にしないと本当に…」

 

セリカ「うるさいのよ!」バキッ!

 

黒服「死なない程度にお願いしますね」

 

シロコ「ん、任せて。塩梅は分かってる」

 

アヤネ「ホシノ先輩、迎えに…って何してるんですか!?」

 

アル「……やっぱりアビドスってアウトローよね」

 

黒服「私とホシノは先にヘリに乗り込みますね。貴女達も満足したら乗ってください」

 

シロコ「分かった。ついでにそこの脱税金庫も……」

 

黒服「だから窃盗はやめなさい」

 

ホシノ「いつも通りすぎて安心するなぁ……アルちゃんも来てくれてありがとね」

 

アル「え、ええ!当然じゃない!友達なんだから!」

 

ホシノ「……嬉しいねぇ」

 

ヒナ「……ホシノの初めての友達は私」

 

黒服「おや、戻ってきたのですね。他の子達は……」

 

ノノミ「黒服先生〜理事さんが『おこづかい』としてさっきの脱税金庫をくれました⭐︎」

 

セリカ「何が入ってるかは分からないけど贈り物なら貰っておいて損はないわね!」

 

シロコ「ん、パパ活だね」

 

黒服「親父狩りの間違いでは?ですが貰い物なら何も言いません。……全員乗り込んだようですし学校に戻りましょう」

 

アヤネ「了解です。発進します」

 

セリカ「……あのビーム撃ってるやつはどうするのよ?」

 

黒服「ああ。あれは端末から数km離れたらまた地面に潜るので気にしなくて大丈夫ですよ」

 

ノノミ「便利なものですね。……ところでホシノ先輩は?」

 

黒服「ここで寝ています。このまま休ませておきましょう」

 

肩に寄りかかって寝ているホシノ。その光景を笑顔で見てくるノノミと何かを悟ったように頷いているヒナ。……また面倒な事になりそうだ。

 

ーーーアビドス高等学校 校庭

 

アヤネ「到着しました。もう降りても大丈夫ですよ」

 

黒服「ご苦労様でした。ホシノ、起きてください」

 

ホシノ「んー?あと五分だけ…」

 

黒服「……今日だけですからね」

 

セリカ「!?ちょっと待って!校門前に誰かいる!」

 

「嗚呼……なんと嘆かわしい……」

 

ヒナ「……何でいるのマザー」

 

ベアトリーチェ「そのエンジェルボイスは…我が愛しきヒナ!それに親愛なる我生徒のアル!お二人とも怪我はありませんか?」

 

アル「大丈夫よ…相変わらず過保護ね…」

 

ノノミ「えっと…その方は?」

 

ベアトリーチェ「失礼。ご挨拶が遅れました。私の名はベアトリーチェ。ゲヘナ学園の教師であり……ヒナの母親です」

 

セリカ「この辺りの先生ってこんなのばかりなのかしら…」

 

ベアトリーチェ「そこの貴女。人を見た目で判断するのは軽率ですよ。これでもそこの黒服とは違い連邦生徒会に認められた正式な教師なのですから」

 

セリカ「そうなのね……って黒服は正式な先生じゃないの?」

 

黒服「はい。私はただ教師を名乗って居るだけですよ」

 

ノノミ「いつの間にか当たり前になってましたけどまだ臨時の先生って立場でしたね」

 

ベアトリーチェ「それはいいとして…目的は達成出来たので……グッ」

 

セリカ「えっ!?いきなり苦しみ始めたけど大丈夫!?」

 

ヒナ「いつものこと」

 

アル「いつも爆発してるわよね」

 

セリカ「えっなにそれ怖い」

 

ベアトリーチェ「素晴らしい…素晴らしいですよ黒服。その幸せそうに眠る生徒は間違いなくホシノ。私の生徒ではありませんが思わず発作が出てしまいました」

 

黒服「何しに来たのですか?」

 

ベアトリーチェ「そんなの決まっているでしょう?私の生徒を迎えに来たのです。無事も確認しましたし早く学園にもど…」

 

ヒナ「もっとホシノと話したい」

 

ベアトリーチェ「本日はアビドスに泊まる事にしましょう。ご安心なさい、パジャマは用意してあります」

 

セリカ「手のひらドリルってレベルじゃないわね」

 

黒服「彼女にとって崇高するヒナの言葉は絶対ですからね。ではセリカ、ホシノを任せますのでシャワーを浴びてきてください」

 

セリカ「仕方ないわね。その代わりに布団を敷いておきなさいよ?」

 

ノノミ「あ、でも私達は一度パジャマを取りに帰らないと…」

 

ベアトリーチェ「勿論皆様の分も用意してあります。サイズも合わせてますよ」

 

セリカ「………怖」

 

ーーー

 

黒服「布団は7つで良いのですか?貴女の分が足りませんが」

 

ベアトリーチェ「私はヒナに抱き枕代わりにされて寝ますので問題ありません」

 

黒服「世間の目的には問題があるのでは?」

 

ベアトリーチェ「ヒナ側がそれを望んでいるのですから拒む理由もないでしょう?」

 

黒服「そうですか。……この度は助かりました貴女が救援に応じていただけなければアビドスは崩壊していた事でしょう」

 

ベアトリーチェ「理由はどうであれ生徒を助けたいと言われたら協力する他ないでしょう。借りもありましたからね」

 

黒服「危うく長年の苦労が水の泡になる所でした。……これ以上同じような事が起こる前に実験を始めましょうかね」

 

ベアトリーチェ「……一応聞いておきますがその実験を中止する気はありませんか?」

 

黒服「ありません。長年アビドスに付き添ってきたのもホシノが実験に協力的になってくれるようにする為ですから」

 

ベアトリーチェ「あくまで彼女は実験道具でしかないと?他に何の感情も湧かないのです?」

 

黒服「湧きませんね。私の崇高を満たす為に実験は不可欠。他は二の次です」

 

ベアトリーチェ「……今のホシノに現実を伝えるのは酷ですね。最悪強引に私が連れ帰っても……」

 

黒服「それは無理でしょうね。ホシノがここを離れる事はありませんし離れられない理由もあります」

 

ベアトリーチェ「……私が介入出来る余地は残されていないようですね」

 

黒服「ご安心なさい。何もホシノを殺すわけではありません。彼女の心が壊れなければ日常に戻れるわけですし」

 

ベアトリーチェ「……これ以上何を言っても無駄なようですね。分かりました。貴方が満足してアビドスから離れた場合残された彼女達の面倒は私が見る事にします」

 

黒服「それは助かりますね。……そろそろ皆が戻ってくる頃でしょう。私は夜景でも見てきますよ」

 

ベアトリーチェ「ええ。生徒達の事は私に任せて貰いましょうか」

 

ーーー数分後

 

セリカ「ホシノ先輩!私に寄りかからないで自分で歩いてください!」

 

ホシノ「今日くらい許してよセリカちゃんー」

 

アヤネ「前にも同じ事を言ってませんでしたか?」

 

ホシノ「うへぇ……記憶力が良すぎるよアヤネちゃん……」

 

ノノミ「わぁ〜この部屋に布団が7組も敷かれる日が来るなんて……」

 

ヒナ「(お泊まり会……楽しみ)」

 

アル「あの……パジャマの件に触れなくていいのかしら?恐ろしいほどサイズがぴったりなんだけど……」

 

セリカ「なんか触れたら負けな気がするのよね。部屋の中心で悶えているベアさんにも」

 

ヒナ「あれは生徒のパジャマ姿を見て昂る感情を抑えきれずに唸り声をあげているだけだから気にしなくていい」

 

アヤネ「……本当に生徒想いな先生なんですね」

 

ホシノ「えーでも私達の先生も生徒想いだよ?危険を顧みず私を助けに来てくれたし」

 

「………」

 

ホシノ「およ?どしたの皆」

 

セリカ「前から思っていたけど……ホシノ先輩って黒服の事好きなの?」

 

ホシノ「もういきなり何を言い出すのさー?そんな事ある訳ないじゃん」

 

ヒナ「隠さなくていい。応援してる」

 

ホシノ「えー…ヒナまでどうしたの」

 

シロコ「私達全員が黒服から愛の告白をされて顔を真っ赤にして俯いているホシノ先輩を目撃してる」

 

ノノミ「そうですよ。正直に白状してください⭐︎」

 

ホシノ「あれはそんなんじゃないってーただ皆が助けに来てくれた事が嬉しくて……」

 

アヤネ「……それはそれで恥ずかしい事を暴露しているような」

 

ホシノ「……もーあまり先輩をからかわないの。なんだか熱くなってきちゃったから外に涼みに行ってくるねー」

 

セリカ「あっ逃げた」

 

ノノミ「まあまあ。私達は陰ながら応援するとしましょう⭐︎」

 

アヤネ「ですね。……ところでベアトリーチェちゃんから後光が見えるのですが……」

 

ベアトリーチェ「………」

 

ヒナ「ああ。これは恋する乙女を見て語彙力を失った結果尊死する一歩手前の状態よ」

 

アル「詳しすぎないかしら…」

 

ーーー

 

黒服「……友達や後輩達と話さなくていいのですか?」

 

ホシノ「ちょっと熱くなっちゃって……隣座っていい?」

 

黒服「どうぞ」

 

ホシノ「ありがとう。……またここに帰って来れるなんて思わなかったよ」

 

黒服「救援要請が間に合っていなかったら貴女はここに居ないでしょうね。ここまで上手くいくとは思ってもいませんでしたが」

 

ホシノ「皆本当に優しいよね。私なんかの為に危険な事ばかりしてさ」

 

黒服「それ程貴女という存在は皆にとって大切なのですよ。だからまた自分だけを犠牲にするような勝手な真似は許しませんからね」

 

ホシノ「皆にとって大切……それって先生もそう思ってくれてるの?」

 

黒服「勿論です。でなければあそこまで必死になってホシノを助けに行きませんよ」

 

ホシノ「そっか……うへへ……」

 

黒服「そろそろ冷えてくる頃でしょう。部屋に戻った方がいいですよ」

 

ホシノ「……もうちょっとだけ」

 

黒服「ごねてもダメです。無理矢理にでも連れて行きますよ」

 

ホシノ「分かったよぉ……先生、今日は本当にありがとう。おやすみ」

 

黒服「ええ。おやすみなさい」

 




時間第一部最終回です。


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黒服とホシノとエピローグ

 

 

ーーーホシノ奪還から数日後

 

とある先生からのタレ込みによりカイザーPMCの理事が女子高生の誘拐、および借金を理由にいやらしい事をしようとしていたとの情報が入った。カイザーコーポレーションはこれに対して理事を辺境の地に左遷する形で対応した。

その際にアビドス高等学校に不正な利子を支払うよう要求していた事も発覚。これに対する処罰も後に下す予定との事。

 

黒服「そして脱税をしていた事実も発覚した為連邦生徒会はこれに対する余罪を追求……まあ、このくらいの制裁なら充分でしょう」

 

セリカ「いい気味ね。精々したわ」

 

アヤネ「毎月の利子も良心的な額になりましたし……何とかなるかもしれないですね」

 

シロコ「じゃあ皆で銀行を…」

 

黒服「やめなさい」

 

ホシノ「皆が前向きになってくれて私は嬉しいよぉ」

 

ノノミ「それじゃあ改めてスクールアイドルとして……」

 

黒服「それも却下です。……おや、ベアトリーチェから連絡が来ていますね」

 

セリカ「あの人にもまたお礼をしないとね。アビドス観光ツアーでもやる?」

 

ホシノ「おーそれ良いんじゃない?とはいえほとんど砂漠しかないから復興も進めていかないとねぇ」

 

ノノミ「そうでした。借金の事ばかり考えていてそちらを疎かにしてましたね」

 

シロコ「ん、それなら水工場を襲って人工オアシスを……」

 

黒服「やめなさい。……皆様に良いニュースがありますよ。前に出したノノミのASMRの販売数が約28000になったようです。先程その売上金額が口座に振り込まれました」

 

セリカ「通帳見せて!……3300万円も!?」

 

ホシノ「ノノミちゃん……恐ろしい子」

 

ノノミ「やりました〜⭐︎」

 

黒服「透き通るようなASMRと評価も高いようです。まさかこんなに売れるとは思いませんでしたが」

 

アヤネ「これでまた一歩返済に近づきましたね!」

 

シロコ「ん、なら私のASMRも……」

 

黒服「貴女のは爆撃音しか聞こえないですし鼓膜が破壊されて終わるだけですよ」

 

シロコ「相変わらず黒服は私に厳しい」

 

黒服「日頃の行いと言動を見直してください。……特に問題がなければ全額返済に使いますが宜しいですか?」

 

ノノミ「私は構いません♪」

 

セリカ「ノノミ先輩がそう言ってるなら良いんじゃない?」

 

ホシノ「そうだねぇ」

 

黒服「分かりました。では後程銀行で支払いをしてきますね」

 

シロコ「!」

 

黒服「ダメです」

 

ホシノ「………」

 

あの出来事があってから皆と過ごすこの時間がもっと好きになった。出来ることならずっとこうして過ごしていたいと思うほどに。

 

ノノミ「あっホシノ先輩。またアルちゃんから連絡が来てますよ」

 

ホシノ「ほんとだ。……うへぇまたヒナから逃げ回ってる……今度は何をやらかしたのさ」

 

ノノミ「『また匿ってほしい』ですって。どうします?」

 

ホシノ「仕方ないなぁ…『いいよ』って返信しておくね」

 

友達からの連絡も頻繁に来るようになった。

あの時はとてもカッコいい姿だったアルちゃんも今となっては情けなくなってしまったけれど大切な友人だ。

 

黒服「……ホシノ、これから銀行に支払いに行きますので着いてきて貰えますか?」

 

ホシノ「いいよー。それじゃあ後輩ちゃん達、あとは任せたよー」

 

セリカ「はいはい。なるべく早く帰って来なさいよね」

 

ーーー支払い後

 

ホシノ「まさか借金があんなに残ってるだなんて……世知辛いねぇ」

 

黒服「………」

 

ホシノ「どうしたの先生?考え事?」

 

黒服「……いえ、頃合いだと思いましてね。一つ懐かしい場所に行きませんか?」

 

ホシノ「えーデートのお誘い?しょうがないなぁ……」

 

黒服「………」

 

珍しく口数が少ない先生。そんな彼が向かう先は砂漠だった。

 

ホシノ「なんだか2人で砂漠を歩くのも懐かしいね。この辺りも変わってないなぁ……」

 

黒服「砂の量は増えていますよ。あの時よりも」

 

ホシノ「そっかぁ……」

 

黒服「……着きましたよ」

 

そこは随分と寂れた研究室のような場所。私と先生の原点とも言える所。

 

ホシノ「……ここも懐かしいなぁ」

 

あの時はよく分からなかったけど今回は何をするのだろう。掃除でもするのかな?

 

黒服「貴女のメンタルケアを行いたいと思いましてね。ご協力をお願いしたいのです」

 

ホシノ「えーそんな事だったの?いいよー」

 

黒服「即決ですか……警戒とかはしないのです?」

 

ホシノ「先生の事は信用してるからね。それで……この機械を繋げばいいのかな?」

 

黒服「………はい。お願いします」

 

ホシノ「……うん。これで大丈夫。いつでも始めていいよー」

 

黒服「……遂にこの時が……おっと、感傷に浸っている場合ではありませんね。それでは始めます」

 

スイッチを押すと同時にホシノは意識を失う。その状態で注入されるのは恐怖。前はここでエラーが発生して中断されてしまったが今回は上手くいったようだ。

 

黒服「ここからどうなるか……非常に楽しみですね」

 

数分間は何も起こらず沈黙の時間が続く。失敗したのか……と思っていると突如ホシノの身体から色彩が失われていった。

 

黒服「なんと……素晴らしい結果ですね!」

 

思わず近づいてしまう程妖艶な魅力を感じる。身体の枠が白い線で構成され他は宇宙のように暗い紺色のみ。白い線がなければホシノかどうかすら判別できないだろう。

 

黒服「ホシノ……貴女は最高です!」

 

「………」

 

それがゆっくりと目を開いた。なんと神々しい……見惚れているとそれと目があった。瞳孔が開いて今にも襲いかかって来そうな圧を感じる。虚な表情で拘束具を破壊しゆっくりと近づいてくる。やがて数十センチ程の距離まで近づいてきた時、あまりの感動に動けなくなってしまう。だがこのまま命の終わりを迎えても悔いはないだろう。

 

黒服「貴女に感謝しますよホシノ。悔いはありま……」

 

そう言い終わる前に抱きついてきた。両手に持っていた武器を床に捨てて。

 

「せん…せ…」

 

黒服「……ホシノ?」

 

そう問いかけた時、彼女の表情は緩んでいた。そのままの姿勢で過ごしているうちに彼女の色が元に戻っていることに気がついた。

 

黒服「まさか恐怖を克服した……?どうやって?」

 

理解が追いつかない。何故目の前の少女はこんな奇跡のような結果を出したのか?何故?だがただ一つ分かった事は……

 

ホシノ「……あれ、先生?どうし……」

 

黒服「素晴らしいですよホシノ!!貴女は私の想像を軽々と越えていきました!」

 

ホシノ「うへ?先生どうしちゃったの?メンタルケアをしてただけで大袈裟だよ」

 

黒服「昂る感情が抑えられそうにないです!今ならベアトリーチェの事も少しは理解できる事でしょう!」

 

ホシノ「……よく分からないけど先生が嬉しそうだからいっか」

 

黒服「そうだ、記録を残す上ではホシノの意見も聞かなくては。ホシノ、メンタルケア中の様子を聞いてもいいですか?」

 

ホシノ「あんまり覚えていないけど…夢を見ていたかな」

 

黒服「夢、ですか?」

 

ホシノ「うん。大事なものが全部消えて独りになる夢。その時目の前が真っ暗になって……恐怖に支配されている感じだった」

 

黒服「(それが先程色が抜けた時の状態でしょうね…)なるほど……その後は?」

 

ホシノ「何も見えない状態で彷徨ってた。でもね……声が聞こえたの。私の名前を呼ぶ声が。声のする方向から光が差し込んできて……気がついたら先生に抱きついてた」

 

黒服「………」

 

結果としてはこう記さないといけないようだ。『ホシノは恐怖を愛で克服した』と。

 

黒服「とりあえず……学校に戻りますか」

 

ホシノ「……ねえ先生」

 

黒服「何でしょうか」

 

ホシノ「……やっぱ何でもない」

 

黒服「……そうですか」

 

足音しか聞こえない程静かな状態で歩を進める。

 

ホシノ「……先生、好きだよ」

 

背後にいるホシノがそう呟いているのを聞いた。

 

黒服「……知っていますよ」

 

そう返してから数秒後、ホシノの足音が聞こえなくなった。

 

黒服「ホシノ?」

 

ホシノ「……えっ……今、聞こえて……何で……」

 

振り向くと湯気が見えるほど顔を真っ赤にして混乱しているホシノの姿。

 

ホシノ「だって……今心の中でそう思ってただけで……聞こえるはずが……」

 

黒服「口に出していましたよ」

 

ホシノ「っ?!???」

 

声にならない叫びをあげるホシノ。ここまで彼女が慌てふためくのは珍しい。しばらく観察しようと眺めていたらいきなり頭部に痛みがきた。

 

ホシノ「忘れてー!」

 

そんなホシノの声を聞きながら意識を失った。

 

 

第一部完

 




ひとまずこれで第一部は終了となります。

あ、まだまだ作品としては続いていきますのでよろしくお願いします


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エピローグif

 

※この話は余韻をぶち壊す可能性がありますのでご注意ください。

 

 

ーーー実験室跡地

 

黒服「……それでは始めます」

 

スイッチを押すと同時にホシノは意識を失う。その状態で注入されるのは恐怖。前はここでエラーが発生して中断されてしまったが今回は上手くいったようだ。

 

黒服「ここからどうなるか……非常に楽しみですね」

 

数分間は何も起こらず沈黙の時間が続く。失敗したのか……と思っていると突如ホシノの身体が光り輝いて……爆発した。

 

黒服「???」

 

しかし何ともない。……いやおかしい。ホシノが拘束をといて寝っ転がっている。

 

黒服「ホシノ?」

 

目の前にいるのは確かにホシノそのものだ。……いやホシノなのだろうか?興味本位で近づいてみると確かにホシノだ。

 

黒服「……ホシノですよね?」

 

ホシノ?「はぁーーーーー」

 

黒服「???」

 

理解が追いつかない。何だこの生物は?

 

黒服「……名前をお伺いしても?」

 

ホシノ?「はぁーーー。バードツアー星野でーす」

 

黒服「??????」

 

バードツアー星野「やりたいことだけやってくださーい」

 

黒服「??????????」

 

ーーー数十分後

 

黒服「……そういう訳でして連れて来ました」

 

バードツアー星野「はぁーーー」

 

セリカ「?普通のホシノ先輩じゃ…」

 

バードツアー星野「おぉ!ブラックセロリを参照ちゃん!」

 

セリカ「ブラ……なんて?」

 

ノノミ「何かの呪文でしょうか……」

 

シロコ「ん、こういう時は私に任せて。ホシノ先輩」

 

バードツアー星野「白子ちゃんどしたのー」

 

シロコ「ほら、ちゃんと私の事をシロコって言ってくれてる。話せば分かり合える」

 

アヤネ「確かにそう聞こえますが…変換がおかしいような……」

 

バードツアー星野「はぁーーー」

 

シロコ「!?」

 

黒服「シロコの身体も光った……まさか……」

 

シロコ?「こんにちは。アビドス対策委員会のサンドウルフ・バイジです。私のことをよろしくお願いします」

 

黒服「???」

 

セリカ「シロコ先輩までおかしく……元からおかしかったわ」

 

黒服「辛辣ですね……とにかく今のうちに避難しないと面倒なことに……」

 

セリカ「もうなってるわよ!どうすんのよこれ!」

 

黒服「今は逃げるしかないでしょう。早く外に……」

 

ノノミ?「ふっふっふ…」

 

黒服「あっ」

 

いざよの宮殿「えー、遂に到達しました!それでは先生、お願いします!」

 

黒服「???」

 

この現象はどうしたらいいのだろうか。収集がつかなくなってきている。

 

セリカ「うわっ!ちょっと離しなさいよ!」

 

サンドウルフ・バイジ「ん、デラックスボンバー」

 

黒服「セリカまで……もうおしまいですね」

 

ブラックセロリを参照「クロミセロリです。まず汚い言葉ですが……私と一緒に働く事は簡単ではありません!」

 

黒服「?????????」

 

バードツアー星野「魚を塩漬けにすることも大切ですよ〜」

 

黒服「???????????????」

 

大倉彩音「黒服さん、落ち着いてください!」

 

黒服「え、ええ……名前こそ変わっているもののアヤネは元のままなのですね」

 

大倉彩音「そうみたいです……それよりもこれ…どうしますか?」

 

黒服「どうしようもありません。強引に終わらせましょう」

 

サンドウルフ・バイジ「雑はよくないです。しっかりと終わらせてください」

 

ブラックセロリを参照「(汚い言葉)」

 

バードツアー星野「老師」

 

黒服「はい?」

 

バードツアー星野「我爱你」

 

黒服「……そういうのはホシノの状態で言ってもらいたいものですね」

 

 

 




最初の段階でこうやりたいなぁ…って考えていました。ごめんなさい

次回からは二部に向けての話をやっていこうと思います。


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間章
恋する乙女ホシノ


 

黒服「愛していますよ、ホシノ」

 

ホシノ「うへぇ!?い、いきなり何を……」

 

黒服「貴女は私のものです。一生側に居てもらいます」

 

ホシノ「せんせ…顔が近いよ…///」

 

黒服「ホシノ……」

 

ホシノ「あぅ……まだ心の準備が……///」

 

ホシノ「出来てないよー!!!」ガバッ!

 

………当然夢オチだった。先生だと思っていたものは昨晩抱きしめて寝た鯨のぬいぐるみ。ここ最近はずっとこんな夢ばかり見ている。

昨日はデートする夢、一昨日は誰もいない教室で……

 

ホシノ「……うへへ///」

 

小鳥遊ホシノ3年生。彼女は今、恋をしている。

 

最近になって疎かにしていた身だしなみに気をつけ始めた。シワひとつないワイシャツにしっかりとネクタイを締める。鯨柄のヘアピンも付けてみる。先生は可愛いと言ってくれるかな、なんて想像をしながら。

 

ホシノ「……ありゃ、ちょっと早く出すぎたかな」

 

腕時計は6時半を指している。

 

ホシノ「ま、いっか。その分先生と過ごせる時間が増えるし」

 

そう呟いて1人静かな通学路でステップを踏みながら学校に向かう。夏の日差しが気にならない程浮かれている。恋は盲目とはこの事なのだろうか。

 

ホシノ「……あっ!」

 

校門が見えてきた辺りで駆け出した。

そのまま勢い良く抱きついて「先生おはよう!」と笑う。

 

黒服「おやホシノ。今日も早いですね。おはようございます……ん?」

 

ホシノ「先生?そんなにジロジロ見てどうしたの?」

 

黒服「いつもより可愛らしいですね。そのヘアピン、お似合いですよ」

 

ホシノ「?!うへぇ……///」

 

可愛い、似合っている。その二言で私は満たされた。早起きして頑張った甲斐があったというものだ。

 

黒服「ただし……朝食を抜いてきてますね?いくら身だしなみを綺麗にしても基本が出来ていないことには評価は出来ませんよ」

 

ホシノ「うっ……」

 

黒服「……朝食を2人分用意しています。皆が登校してくるまで時間もありますし今日もモーニングに付き合ってもらいますよ」

 

ホシノ「いつもありがとねー」

 

黒服「外は日差しが強いですし涼みながら頂くとしましょう」

 

ホシノ「……うん///」

 

自然と差し伸ばされた手を握ってついていく。どうしよう、手汗とか大丈夫かな……

 

ーーー校内黒服の部屋(実験室)

 

黒服「本日はホシノの栄養バランスを考えてこちらの……」

 

そう言って献立を説明してくれる彼。先生と朝食を食べる。これも私のモーニングルーティンの一つになっていた。それにこの豪華なモーニングは先生の手作りなのだ。私が朝食を食べない事を改善しようと先生が考えた結果毎日一緒に食べることになった。しかもどの料理も私好みの味付けになっている。

 

黒服「……聞いているのですか?」

 

ホシノ「……あっ……ごめん先生、ぼーっとしてた……」

 

黒服「集中力がありませんね……ですが朝食を食べれば改善されるでしょう。それでは……」

 

「「いただきます」」

 

ーーー数十分後

 

ホシノ「……♪」

 

食器を洗いながら先程食べたものを思い出す。どれもこれも私の事を考えて作ってくれたと思うとついにやけてしまう。

 

ホシノ「……せーんせ、洗い終わったよー」

 

黒服「いつもありがとうございます。でしたら皆が来るまで自由時間に……」

 

ホシノ「じゃあ…いつものお願い」

 

黒服「……仕方ありませんね。どうぞ」

 

ホシノ「それじゃあ失礼しまして……うへぇ///」

 

最近のマイブーム。それは先生の膝に座る事。今までだと恥ずかしくて出来なかったけど今は違う。それよりも側に居たい。ただ後輩達に見られるのは恥ずかしいので2人きりの時しか出来ない。

 

ホシノ「えへへ……落ち着くなぁ……」

 

黒服「それにしても……最近の貴女は随分積極的になりましたね」

 

ホシノ「だって……聞かれちゃったからね。もう隠す必要もないかなって」

 

黒服「自分に正直になれるのは素晴らしい成長ですよ。立派になりましたね」

 

ホシノ「えへへ……///私がこうなれたのは先生のおかげだよ」

 

黒服「そこまで素直な感情をぶつけられると困りますね……」

 

ホシノ「先生、もしかして照れてる?可愛いところあるじゃーん」

 

黒服「……あまり揶揄うようであればこのまま拘束して後輩達にこの姿を見てもらう事になりますよ?」

 

ホシノ「それは勘弁してよぉ……」

 

ーーー皆が登校してきた後

 

ホシノ「せんせ、この内容だとこっちの方が……」

 

黒服「確かに。でしたらこちらもそのように……」

 

セリカ「………」

 

ノノミ「セリカちゃんの言いたい事、分かりますよ」

 

アヤネ「私も何となく……」

 

シロコ「私も」

 

「「「「(ホシノ先輩、黒服と距離近くない?」」」」

 

セリカ「あんなに露骨だったかしら……」

 

ノノミ「無意識のうちに近づいてる……みたいなやつじゃないですか?」

 

アヤネ「触れないでおいた方が良さそうですね……」

 

ホシノ「ちょっとー皆聞いてるのー?砂漠の対策を考える大事な会議なんだよー?」

 

セリカ「き、聞いてるわよ(やり辛いわね…)」

 

ノノミ「ホシノ先輩が珍しくやる気になってるなぁって話してたんですよ」

 

ホシノ「そうなんだよー原因は分からないけど最近やる気に満ち溢れていてねー……遂に先輩としての自覚が出てきちゃったかなぁって」

 

セリカ「(違う違う)」

 

シロコ「(多分そうじゃない)」

 

アヤネ「(それは……黒服さんに良いところを見せようとしているのでは……)」

 

ノノミ「(つまり『愛』ですね)」

 

アヤネ「(何故そこで愛!?)」

 

黒服「……当分の活動方針は決まりましたね。一度昼休憩を挟みましょうか」

 

セリカ「もうお昼なのね。そんなに時間が経ってないように感じるけど……」

 

ノノミ「お昼ご飯ですね〜♪」

 

シロコ「ん、空腹」

 

皆がゾロゾロと部屋を出ていく。この部屋から食堂は100M程離れている。

 

ホシノ「………」

 

目の前には先程まだ先生が座っていた椅子がある。誰も見ていない事を確認して腰をかけてみた。

 

ホシノ「……うへぇ///」

 

ほんのり残っている温もりと先生の椅子に座っているという背徳感を同時に堪能している。

 

ホシノ「……こんな感じに肘を置いて……ククッ、愛していますよ、ホシノ……なんてね」

 

我ながら恥ずかしい事をしていると感じて途中でやめてしまった。慣れないことをするもんじゃないね。

 

ホシノ「それじゃあ皆が戻ってくるまでここでお昼寝でも……」

 

黒服「ホシノ」

 

ホシノ「うへぇ!?」

 

黒服「今度は昼食を食べないつもりですか?そうはいきませんよ。食堂に連行します」

 

ホシノ「1人で行けるからだいじょう……」

 

ぶ、と言い終わる前にお姫様抱っこをされた。……お姫様抱っこ?さっき食堂に連行って……?

 

ホシノ「ふぇ///」

 

黒服「貴女は自分を労わる事を覚えなさい」

 

ずっとこうしていたいけれど後輩に見られたらなんて言われるか分からない。でもお姫様抱っこはやめて欲しくない。こんなにも悩ましい選択をしなければならない日が来るなんて……

 

ホシノ「……分かった。食堂に行くから降ろしてよ……」

 

黒服「その言葉を待っていましたよ」

 

結局私は後輩に見られるのを避ける為にお姫様抱っこを諦めるという苦渋の決断をした。

 

ーーー放課後

 

黒服「それでは皆様本日もお疲れ様でした。気をつけてお帰り下さい」

 

挨拶と共に皆が下校する中小鳥遊ホシノは座っている黒服に後ろから頭を乗せていた。

 

黒服「……何をしているんです?」

 

ホシノ「2人きりだし……これくらい許してよ」

 

黒服「まあいいですけど……そうでした、ホシノ」

 

ホシノ「どしたの先生」

 

黒服「付き合ってもらえますか?」

 

ホシノ「ヴェ」

 

思わず変な声が出た。え、この人今なんて言ったの?付き合って?恋人って事?

 

ホシノ「(いやいや落ち着け小鳥遊ホシノ。これは買い物に付き合ってとかそういうやつだよ。変な期待をしたらだめだよ。……でも先生が私を裏切るなんて事をするかな。いやしない。つまりこれはそのままの意味!?もっとロマンチックなシチュエーションで告白して欲しかったけどこれはこれで悪くないねぇ。……さては先生も遂に私の魅力に気づいて独占したくなったんだよね?んもう、ちょっと遅いんじゃないかな。まあでも私は先生のそういう所も好きだから許してあげるんだ。そうと決まれば返事をしないと!)えっと…不束者ですが……」

 

黒服「ありがとうございます。実は明日連邦生徒会から呼び出されていて代表の生徒1人を連れて……」

 

ホシノ「………」

 

黒服「……ホシノ?」

 

ホシノ「先生のばかぁ!」ガンッ!

 

……恋する乙女の苦難はまだまだ続きそう



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対策委員会の正式登録と黒服の○○○○

ホシノ「……先生怒ってる……?」

 

黒服「怒っていませんよ。キヴォトス人の強さを体感出来るいい機会でした」

 

ホシノ「……ごめん」

 

黒服は今顔面がミイラのように包帯まみれになっている。原因は昨日ホシノに盾で殴られたこと。恋する乙女の一撃は重い。

 

黒服「ただ前が見えにくいので道案内はお願いしますね。地図は渡しておきますので」

 

ホシノ「任せて。……思っていたより距離があるね」

 

黒服「この世界の中心的場所にありますからね。面倒ではありますが致し方ないでしょう」

 

ホシノ「こんな暑い中どうして連邦生徒会ひ呼び出されたのさー……」

 

黒服「昨日もお話しましたが……対策委員会を正式な委員会として登録する為ですよ」

 

ホシノ「……そっか。それは嬉しいけどどうしてこのタイミングでなんだろう」

 

黒服「詳しい話は連邦生徒会に聞くとしましょう」

 

ホシノ「はーい。……あっ、さっきの道を右だった……先生Uターンするねー」

 

黒服「自分で回るので大丈夫です」

 

ホシノ「……むぅ」

 

黒服「……手加減してくださいね」

 

ホシノ「っ!?うん!!」

 

明らかに二度手間だがホシノが楽しそうなので深く考えないようにした。

 

そのまま30分ほど歩いてようやく到着した。

 

カイザーPMC本社の比ではない大きさのビル。横に置いてある看板には『連邦生徒会』の文字が刻まれている。

 

ホシノ「先生、着いたよ」

 

黒服「ありがとうございます。確か入り口付近に案内役の人を配置していると……」

 

???「あなた方がアビドスからお越しいただいたお客様……でお間違いないでしょうか?」

 

黒服「その通りですが……貴女は?」

 

アユム「岩櫃アユムと申します……行政官に頼まれて案内役を……」

 

黒服「ご丁寧にありがとうございます。本日はよろしくお願いしますね」

 

アユム「は、はい。それではこちらに……」

 

とても広いエレベーターに乗り複雑な道を通って案内された場所は『シャーレ』と書かれた一つの部屋。

 

アユム「後の手続きは中にいる方に一任しておりますので……」

 

黒服「ここまでのご案内ありがとうございました」

 

ホシノ「忙しい中ありがとね」

 

アユム「は、はい。それでは……」

 

黒服「……失礼します」

 

扉の先に居たのは書類の山に囲まれて目が死んでいる大人だった。

 

ホシノ「………」

 

黒服「あの……アビドスから来たのですが……」

 

「"……アビドス?そうだった……今日は来客があるってリンちゃんが言ってたね"」

 

立ち上がり会釈をするその大人は自らを先生と名乗った。

 

黒服「お初にお目にかかります。私は……」

 

「"噂は聞いているよ、黒服先生。そっちの子は……小鳥遊ホシノちゃんだよね"」

 

ホシノ「そうだよぉ。今日はよろしくねぇ」

 

「"本当はゆっくり話を聞きたいところだけど……仕事の量が想定よりも多くなっちゃって……手短に終わらせてもらうね。確かアビドスの対策委員会を正式な部活動にする手続きと黒服を正式な先生にする手続きだよね"」

 

黒服「ええ、その通りで……何かおかしくないですか?私は正式な先生にならずとも構わないのですが」

 

「"実はベアトリーチェ先生から推薦をもらってね。記事で見たけど誘拐されたホシノを助ける為に危険を顧みず行動した姿に感心したよ"」

 

ホシノ「そうなんだよ。あの時の先生はカッコよくてねぇ……」

 

黒服「……一応お伺いしますが正式になった場合のメリットはなんです?」

 

「"そうだね…例えば他の学園に出張が出来たり連邦生徒会の会議で発言権が貰えたり…あ、生徒の足を舐めても捕まらなくなったり"」

 

黒服「私にとってはあまりメリットとは言えませんね」

 

「"黒服先生には必要ないかもしれないけど、生徒との恋愛が合法になったり……他にもやれる事は色々あるけど重要なのはそれくらいかな"」

 

ホシノ「先生、正式登録しよ?」

 

黒服「いきなりどうしました?圧を感じますが」

 

ホシノ「損はないんだし良いと思うよ。ね?ね?」

 

黒服「………」

 

ホシノは間違いなく恋愛について聞いてから積極的になっている。別に禁止だったから反応していない訳ではなく恋愛自体に興味がないのだが。

 

黒服「……損は無さそうですし正式登録もお願いします」

 

ホシノの圧に押されて正式な先生になってしまった。ここで断ったらホシノに何をされるか分からないので致し方ない選択だ。

 

「"歓迎するよ。黒服先生"」

 

ホシノ「……うへへ///」

 

黒服「……随分と嬉しそうですね」

 

その後書類手続き、顔写真の撮影(ホシノ付き)を終えて先生証明証が発行された。

 

ホシノ「おぉ〜カッコいいねぇ」

 

黒服「証明写真ですのにホシノも写って大丈夫なんですか?」

 

「"一番大事な生徒っていう証明にもなるし良いんじゃないかな"」

 

黒服「そんな軽いノリで……問題がないなら構いませんがね」

 

「"大事な生徒って部分は否定しないんだね"」

 

黒服「そこは事実ですからね」

 

ホシノ「……不意打ちは卑怯だよ」

 

「"今後とも宜しく頼むね、黒服先生"」

 

黒服「……ええ。それでは失礼しますよ。……ホシノはいつまでそうしているつもりですか」

 

ホシノ「うへへ……///」

 

黒服「………」

 

ここ最近のホシノはおかしい。ここまで積極的で分かりやすい姿を晒すような子ではなかったはず……恐怖を埋め込んだ事による副作用なのだろうか?

 

「"愛、ですよ"」

 

黒服「お黙りなさい」

 

この後頬がにやけているホシノを連れて学校に戻った。




ホシノチャンクモラセルノヤダ

そんな精神です


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第二回ゲマトリア会議

 

 

ーーー???

 

ベアトリーチェ「それでその時ヒナがですね……聞いているのですか、マエストロ」

 

マエストロ「貴下の崇高に対する熱量は伝わってくるが……他の話題にしてくれないか?もう1時間も空崎ヒナの話をしているんだぞ?」

 

ベアトリーチェ「もう1時間ですって?何を言っているのですか?あと23時間は話せますよ」

 

マエストロ「重症だな」

 

ベアトリーチェ「よくもまぁ……私にそのような態度を」

 

黒服「……漫才でもやっているのですか?」

 

ベアトリーチェ「おや黒服。正式な教師になった気分は如何ですか?」

 

黒服「特に変わった事はありませんよ」

 

マエストロ「遅れてきた黒服に伝えておく。ゴルコンダは今崇高の為行動しているので欠席するそうだ」

 

黒服「そうですか。では第二回ゲマトリア会議を始めるとしましょう」

 

ベアトリーチェ「まずは私から……崇高しているヒナが……」

 

黒服「申し訳ありません。その話も大変興味深くはあるのですが長くなりそうなので他の話題を話してもらえませんか?」

 

ベアトリーチェ「……まさかヒナの話に興味がないなんて言いませんよね?」

 

マエストロ「貴下が毎日『今日のヒナ』ってモモトークのグループチャットに長文メッセージを書き込んでいるので嫌でも把握してる」

 

ベアトリーチェ「それはそうでしょう。生徒の素晴らしさを説いていかねばなりませんからね」

 

黒服「それならばヒナ以外の生徒の記録も残しておくべきでは?」

 

ベアトリーチェ「それはそれ、これはこれです」

 

黒服・マエストロ「「………」」

 

ベアトリーチェ「……ヒナ以外となると……ゲヘナでは最近怪我をして帰ってくる生徒が増えましたね」

 

マエストロ「最近ティーパーティーでも話題にあがっていたな。トリニティの生徒が負傷して帰ってくると」

 

ベアトリーチェ「理由を問い詰めても曖昧な答えしか返してもらえず解決には至っていません。……気になる事はそれくらいでしょうか」

 

マエストロ「各自治区の範囲から出ないようにと警告を出しておけばいいだろう。芸術の邪魔をされたら困る」

 

ベアトリーチェ「黒服の方は何か目ぼしい報告はありますか?」

 

黒服「とっておきのものがありますよ。……ホシノに実験を行い、想定以上の結果が得られました」

 

マエストロ「ほう。長年の成果が出たようだな」

 

ベアトリーチェ「……それでホシノはどうなったのです」

 

黒服「普段通りに生活してますよ?……少々面倒な事にはなりましたが」

 

マエストロ「勿体ぶらずに話せ」

 

黒服「常に側にいるようになりました」

 

ベアトリーチェ「は?」

 

黒服「2人きりの時は後ろから抱きついてきたり膝の上に座ったり……」

 

ベアトリーチェ「は?」

 

黒服「他の生徒達が言うには恋愛感情を抱かれているようで」

 

ベアトリーチェ「は?」

 

マエストロ「落ち着けマダム」

 

ベアトリーチェ「生徒から恋愛感情?はぁ?恐怖の代わりに惚れ薬でも注入したんですか?」

 

黒服「そんな無駄な事はしませんよ。……そうそう、笑うことも多くなりましたね」

 

ベアトリーチェ「離しなさいマエストロ。この男はロリコン犯罪者です」

 

マエストロ「マダムは人の事を言える立場ではないだろう。……黒服は今後どうするんだ?」

 

黒服「特に急ぎの用もありませんしこのままアビドスに滞在しようかと」

 

ベアトリーチェ「ホシノとゆっくりイチャつこうって魂胆ですよね?そんな教師を舐め腐った行動は……」

 

マエストロ「マダム。話が進まないから少し黙っていてくれ。……手が空いてるなら頼みたいことがあってな。ミレニアムの事なんだが」

 

黒服「ミレニアム?ああ……そういえば貴方は二つの学園に所属していましたね」

 

マエストロ「ああ。……だが先程も言ったように現状トリニティから離れられない状況でな。しばらく代理を頼めないだろうか」

 

黒服「いささか興味はありますが……」

 

マエストロ「正式な先生になったのであろう?ならば『出張』という形で手続きをすれば明日にでも許可が取れる」

 

黒服「………」

 

ミレニアムサイエンススクール。科学技術に力を入れている学園ではあるが神秘があるとは限らない。最悪無駄足になる可能性も考えられるだろう。

 

マエストロ「安心しろ。ホシノには及ばないがミレニアムにも神秘の反応がある。無駄足にはならないと思うぞ」

 

黒服「ほう。それならば引き受けても構いませんよ」

 

マエストロ「助かる。明日にはアビドスに迎えを送るので頼むぞ。これも渡しておく」

 

黒服「……複製用の素材?ホシノを2人にでもすればいいのでしょうか」

 

マエストロ「人間に試すのは推奨しない。生体反応がないものか、あるいはアンドロイドに使うといい」

 

黒服「人間を複製する事自体は可能なのですよね?何故非推奨なのです?」

 

マエストロ「見た目は同じなのだが言動や行動が異常になる。例えば……自らを台所の盛り塩と名乗ったりする」

 

黒服「……存在しない記憶のはずですが何故か本能的に拒んでいるようです。ホシノの複製は断念します」

 

マエストロ「懸命な判断だな。……そろそろ戻らないとまた被害が出そうだ。ベアトリーチェもゲヘナに戻った方が……」

 

ベアトリーチェ「教師たるもの生徒の恋心には真摯に向き合うべきで……」

 

黒服「……長くなりそうですし私は先に失礼しますね」

 

マエストロ「私も戻らせてもらう。それでは次回の会議でまた逢おう」

 

ベアトリーチェ「生徒の幸せを叶える為ならば恋愛感情を学びホシノとの絆を……」

 

ーーー

 

黒服「マエストロの頼みとはいえ安請け合いをしてしまったかもしれませ……んぶ」

 

ホシノ「お帰り先生!」

 

部屋に入った途端いきなり抱きついてくるホシノ。最近は甘えてくるのが日常茶飯事なので慣れてしまった自分がいる。

 

黒服「下校時間は過ぎていますよ?」

 

ホシノ「……先生の身体あったかいなぁ……」

 

黒服「……あの……」

 

引き離そうとしても離れないホシノ。それどころか更に力を強めてくるので抵抗するのをやめた。

 

ホシノ「帰り遅かったから心配したんだよ……?」

 

黒服「今日は大事な会議があるので遅くなると前もって伝えていたでしょう?」

 

ホシノ「それはそうだけど……」

 

黒服「ホシノが寂しがり屋なのは理解しているつもりでしたが……まさか数時間でこうなるとは思いませんでしたよ。……本日は学校に泊まっていきますか?」

 

ホシノ「……うん」

 

黒服「(ここ数日のホシノが取る行動は不可思議な事が多い。実験を行う前まで抱きついてくる事など一度もなかった。これも恐怖を埋め込んだ事による副作用なのでしょうか)」

 

正直なところ困っている。ここまでホシノの好感度を上げるつもりもなかったし上げるような行動をした記憶もない。対策のしようがないのだ。だからといって好感度を下げるような行為を軽率に行うのも影響が出そうなので躊躇う。つまり八方塞がりだ。

 

ホシノ「先生が居ない間に色々あってねー。まずセリカちゃんが……」

 

もしかしたら目の前にいる少女は無意識のうちにこちら側がこうなるように追い込んでいたのかもしれない。……考え過ぎかもしれないが。

 

ホシノ「先生、聞いてる?」

 

黒服「あ、ああ。聞いていますよ」

 

ホシノ「ほんと?」

 

黒服「本当ですよ」

 

ホシノ「そっか……それでね……」

 

 

この後朝までホシノの話は続いた。

その為出張は次の日に延期する事になった




最後黒服さんが色々考えていますが……

ホシノはただ好きな人と数時間会えなくて寂しかっただけです。特に深い意味はありません。可愛いですね。


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ifストーリー もしも黒服とホシノが相思相愛になったら

※この話は本編とは別の世界線です。解釈不一致を起こしている為閲覧注意です。


「……あら?このような記録は今まで存在していませんでしたが……なるほど。これも体験したいのですね?」

 

「"い、いや……一度休憩を……"」

 

「ちょっとお時間をいただく程度ですから大丈夫です♪」

 

「"待って……!まだ仕事が残って……"」

 

 

ーーー

 

ホシノ「………」

 

小鳥遊ホシノは天井のシミを数えている。彼女は今キャパシティがオーバーフローしている。

 

ホシノ「………」

 

時刻は午前1時。スマホを片手に持ちただぼうっと過ごしている。こうなってしまった原因は数時間前に起きたとある出来事が関係している。

 

ーーーエピローグの終盤辺り

 

ホシノ「……好きだよ」

 

彼の背中を見ながらそう頭の中で呟いた。面と向かって言うべきなのだろうけど今の私にはこれが限界。誰かを好きになるその感覚を知れただけで充分だった。

 

黒服「………」

 

先生は何も言わずに歩いている。その後ろ姿についていけるだけで……

 

黒服「私もですよ」

 

ホシノ「うぇ?何が?」

 

不意に声を掛けられてつい変な声で返事をしてしまった。

 

黒服「ですから……私も貴女の事が好きですよ、ホシノ」

 

ホシノ「……ヒェ」

 

ーーー現在

 

ホシノ「」

 

正直そこからの記憶がない。どうやって帰ったのかも、いつパジャマに着替えたのかも覚えていない。今となっては心の中で呟いた言葉が何故聞こえていたのかもどうでもいい。

『貴女の事が好き』その言葉だけがずっと脳内を彷徨っている。そこから更に2時間程経過したところでようやく少し落ち着いた。

 

ホシノ「夢……じゃないよね」

 

言われてからの記憶がない。即ち夢オチという可能性もある訳で……

 

ホシノ「……確かめたい」

 

時刻は午前3時。床に脱ぎ捨ててあった制服を着て夜中の学校に向かった。月の光に照らされながら静寂に包まれた通学路を1人歩く。

 

ホシノ「夜に学校に行くのも2回目だねぇ……あの日もこんな感じで静かだったなぁ……およ?」

 

学校に到着した時、1つの教室に明かりが付いている事に気づいた。あの場所は先生の部屋。もしかして起きてるのかな?

 

ホシノ「夜遅くまで頑張ってくれてるんだねぇ。……うへへ」

 

そういう所も好きになった理由の1つなんだよね。……なんて私には似合わないね、なんて考えながら上履きに履き替えて廊下を歩いている。教室を覗くといつもの優しい表情とは違って真剣な顔で机に向かい何かの作業をしている先生が居た。

 

ホシノ「(……なんだかいつもよりカッコよく見えるね。あっ)」

 

黒服「ホシノ?」

 

先生と目が合う。椅子から立ち上がり近づいてくる先生。一歩、また一歩と距離が短くなるにつれて心臓の鼓動が早くなっていく。

 

黒服「こんな時間にどうしました?」

 

ホシノ「え、えっとね……先生に聞きたい事ががが……」

 

緊張で呂律が回らない。先生に変な子だと思われたらどうしよう……

 

黒服「……とりあえず部屋の中へどうぞ」

 

ホシノ「あっ……うん」

 

慣れ親しんだソファーに腰をかけて深呼吸をして落ち着こうとしたけれど中々落ち着かない。むしろ先生と夜に2人きりという事実が余裕を無くして逆効果だった。

 

黒服「それで話というのは?」

 

ホシノ「え、え、え、え、え、と、せ、せせ先生は……」

 

黒服「落ち着いてからで大丈夫ですよ。ですが……その反応から察するに昨日の事でしょう?」

 

ホシノ「そ、そうなの。ほら、気づいたらベッドの上に居たからさ。その……夢オチかなって考えちゃって……」

 

黒服「……仕方ありませんね。改めて伝えておきましょう。……貴女の事が好きですよ」

 

ホシノ「………」

 

黒服「ホシノ?」

 

ホシノ「……困っちゃうよ。こんなに良い夢を見ちゃったら起きた時に泣いちゃうかも」

 

黒服「困る必要なんてありません。これは現実ですからね」

 

ホシノ「……本当に私の事が好き……なの?」

 

黒服「はい。勿論異性として、ですよ」

 

ホシノ「……駄目だよ先生。これ以上は冗談じゃ済まされなくなっちゃう……」

 

黒服「私は本気ですよ」

 

ホシノ「……幸せすぎてどうにかなっちゃいそうだよ……ありがとう先生」

 

黒服「こちらこそ。生まれてきてくれてありがとうございます」

 

ホシノ「……ねえ先生」

 

黒服「どうしました?」

 

ホシノ「……大好きだよ」

 

黒服「ええ。知っていますよ」

 




要望があれば続きを書きます。


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第二部 ミレニアム出張編
黒服先生のミレニアム出張編#1


 

黒服「迎えが来ると聞いてはいましたが……これは何です?」

 

ウタハ「これかい?『カイテンロボver'M』だよ。私達の先生と共同開発した芸術作品さ」

 

ホシノ「でっかいロボットだねぇ…」

 

ウタハ「ミレニアムプライスにも出品出来る自信作だよ。……中はハリボテだけど」

 

黒服「……そんな適当でいいのですか?」

 

ウタハ「浪漫を追求するのも科学だからね」

 

黒服「ところでこの大きさですと信号にぶつかってしまうのでは?」

 

ウタハ「勿論壊してきたよ。科学に犠牲はつきものさ」

 

黒服「(どうしてこの世界の生徒大半は問題児しかいないのですか?)」

 

ウタハ「細かい事を気にしていたら何処かの先生みたいに禿げるよ。だからノリでいくんだ」

 

黒服「生憎こういった趣向品には興味がありませんので……」

 

ホシノ「そうそう。先生が興味あるのは……うへぇ///」

 

黒服「何故照れているのです」

 

ウタハ「これは爆発させた方がいいやつかな?こんな事もあろうかと爆薬は積んであるよ」

 

黒服「他のところに力を入れなさい。……話が進まないのでそろそろ向かってくれませんか?」

 

ウタハ「おっと。それは失礼したね。じゃあ飛ぶからシートベルトを……そういえば取りつけ忘れたね」

 

黒服「はい?」

 

ホシノ「えっ」

 

ウタハ「まあ……空の旅も出来て一石二鳥という事で勘弁してくれないか?」

 

黒服「私達に死ねと?」

 

ホシノ「ミレニアムって怖い人達だらけなんだねぇ。……とりあえず撃っとく?」

 

ウタハ「……冗談だよ。だからそのショットガンをしまっておくれ。私は後方支援専門だから打たれ弱いんだ」

 

黒服「ホシノ、落ち着きなさい。まだシロコよりはマシな部類ですので」

 

ホシノ「先生がそう言うなら今回は許してあげようかな」

 

ウタハ「感謝するよ。……おっと、セミナーから早くミレニアムに連れてこいと催促されてしまったよ。話の続きは学園に着いてからかな」

 

黒服「そうしてください。……ホシノは本当に付いてくるのですか?しばらくアビドスには帰れないと思いますが」

 

ホシノ「心配ではあるけど私より優秀な後輩ちゃん達がいるからねぇ。……それに先生に会えない方が辛いし……」

 

黒服「それもそうですね。現に一昨日の貴女は……」

 

ホシノ「掘り返さないでよ〜……思い返すと結構恥ずかしいんだからね」

 

ウタハ「……発進させていいかな?」

 

黒服「失礼。いつでも大丈夫ですよ」

 

ウタハ「よし。……カイテンロボ、大地に立て!」

 

黒服「既に立ってますよ」

 

ウタハ「ウタハ少尉、吶喊します!」

 

ホシノ「物騒な台詞だねぇ……」

 

黒服「動き出したのはいいのですが……誰に伝わるんです?」

 

ホシノ「さあ……」

 

想像よりも速度が出るロボットに乗って向かう場所。そこは科学が発展した大規模の……

 

黒服「……あの。さっきから周りの車を踏み潰しているように見えるのですが」

 

ウタハ「大丈夫だよ。キヴォトス人は耐久力もあるし科学に犠牲はつきものさ」

 

黒服「倫理観が狂ってますね」

 

ホシノ「ミレニアムは敵に回したくないねぇ……」

 

ウタハ「問題ないよ。大半の事はシャーレが解決してくれる」

 

黒服「(もしかしなくてもエンジニア部というのはシロコと同レベルでやばい集団なのでは?)」

 

ホシノ「もう突っ込んだら負けな気がして来たよー」

 

ウタハ「つまりこういう事だよ。……考えるな、感じろ!」

 

黒服「……はぁ」

 

このような集団と数年関わってきたマエストロはどうなっているのだろうか。胃薬を常備しているとでもいうのか?むしろテロを起こす側なのだろうか。

 

ウタハ「尊い犠牲を出しつつも見えてきたね。あれが私達の学園であるミレニアムだよ」

 

黒服「やっと着きましたか……この短期間でかなり疲労が溜まりましたよ」

 

ホシノ「なんだか近代的だねー。活気もあるし良い雰囲気だねぇ」

 

ウタハ「客人を迎える事も出来たし私はこれで失礼するよ。後の事は……あそこから走ってくる人に任せるよ」

 

黒服「やり方はともかく感謝しますよ」

 

ホシノ「ありがとー」

 

ウタハ「興味があればエンジニア部を訪ねてほしい。それじゃあ」

 

そう言い終えたウタハはロボを操作して部室があるであろう方向へ去っていった。それと入れ替わるように走ってくる1人の生徒。

 

「アビドスからお越しいただいた臨時の先生と付き添いの方……ですよね?エンジニア部がご迷惑をお掛けしました……ご挨拶が遅れましたね。私は……」

 

黒服「早瀬ユウカ。ミレニアムの数少ない常識人であり苦労人。少し前まで求婚されていたという噂も……」

 

ユウカ「何故私の名前を……って求婚の事なんてどうやって知ったんです!?」

 

黒服「貴女達の先生から情報を得ましてね。大半は必要ない事でしたが」

 

ユウカ「……一応聞いておきたいんですけど、他の情報って……?」

 

黒服「貴女がシャーレの先生に恋心を抱いているだとか教えてもらいましたね」

 

ユウカ「……それに関しては内密でお願いします……別に恋なんてしてませんけど誤解されたら面倒ですし」

 

ホシノ「……ユウカちゃんは乙女なんだねぇ」

 

ユウカ「ありがとうございます……?って私の事はいいんです。とにかく……お二人ともミレニアムへようこそお越しくださいました!短期間ではありますがよろしくお願いします」

 

黒服「こちらこそ宜しくお願いしますね。……とはいえ具体的にどういった業務を行えば良いのでしょうか」

 

ユウカ「基本的には各部活の生徒達が暴走しないように監視してもらおうと思っております。というのも近いうちに『ミレニアムプライス』と呼ばれるそれぞれの部活が成果物を出し合って競う品評会のようなものがありまして……」

 

ホシノ「良い評価を得ようとしてやりすぎちゃう生徒が出てくるかもしれない……って事なのかな」

 

ユウカ「その通りです。去年は月まで届くレールガンこと『ルナアタック電磁砲』なんてものを秘密裏に開発していた部活がありましたし……」

 

黒服「……なるほど。監視と言えど結構重要な役割なのですね」

 

ユウカ「それ以外は自由に過ごしていただいて構いません。……時々手伝って欲しいとご連絡をする事があると思いますが……」

 

黒服「その程度なら構いませんよ。アビドスに居るより楽そうです」

 

ユウカ「……黒服先生も苦労をされているのですね」

 

黒服「ええ。ですが苦労して得られたものもありました。もしやり方が違っていたのであればここまでの成果はなかったでしょう」

 

ホシノ「成果って何のこと?」

 

黒服「……その話はまた後ほどしましょう。ユウカ、続きをお願いします」

 

ユウカ「あっはい。では早速お仕事……ではなく、本日は軽く学園の案内をしますね。本格的な業務は明日からお願いします」

 

黒服「承知致しました。では案内の方を頼みますね」

 

ユウカ「お任せください。最適なルートで案内しますね。まず最初に……黒服先生達が乗ってきたロボットが置いてあるあの場所が『エンジニア部』です。あそこが一番厄介なので要観察でお願いします」

 

黒服「第一印象があれでしたのであまり関わりたくはありませんが……仕方ありませんね」

 

ユウカ「その付近にあるのが野球部と新素材開発部です。この二つは比較的まともですので助かってます」

 

黒服「科学が発展したこの学園に野球部があるとは……」

 

ユウカ「次は少し移動しますね。……今のうちにお二人の端末に詳細が載っている地図情報も送信しておきます」

 

ホシノ「ありがとー……見やすいけどなんていうか……」

 

黒服「ロボの主張が激しいですね」

 

ユウカ「後でエンジニア部に問い詰めにいきます。……気を取り直してここがトレーニング部の部室です。ミレニアムの技術力が詰まった機材ですのでより効率的に身体を鍛える事が出来ますよ」

 

黒服「適度な運動は大切ですが……所属している生徒は1人だけのようですね」

 

ユウカ「基本ミレニアムに所属している人はインドアな方が多いので……身体を動かす人は少ないんですよね」

 

ホシノ「ねえ先生、あれに触れなくていいの?」

 

黒服「あれはもう好きにさせておきましょう。何か事件を起こしてからで構いません」

 

ユウカ「あの人は時々来てる不法侵入の方です。……もしかしてお知り合いですか?」

 

黒服「まあ……そうですね。迷惑をかけていなければ放置してあげてください」

 

ユウカ「今の所いきなりあっち向いてホイを要求してくると報告があるくらいですので……」

 

ホシノ「相変わらずだねぇ……」

 

ユウカ「……そしてここの小さくて汚い部屋がゲーム開発部です。今は誰も居ないみたいですが」

 

黒服「なんてだらしない部屋なのでしょうか……」

 

ホシノ「うわっ……あの黒いのって……」

 

ユウカ「早く部屋を閉めて次に行きましょう」

 

黒服「何と言いますか……変わった学園ですね」

 

ユウカ「……そこは否定出来ませんね」

 

その後もいくつか部活を紹介しつつ学園内を案内してもらった。メイド服を着た部活やハッカーが集まっている部活など興味はあるが神秘を感じるものは何一つなかった。

 

ユウカ「最後は私が所属しているセミナーです。リオ会長、アビドスから来て頂いた臨時の先生をお連れしました」

 

リオ「ご苦労様。……遠方からの来訪感謝するわ。私は……」

 

黒服「その前に一つお伺いしても?」

 

リオ「何かしら」

 

黒服「何故そこまでスカートの丈が短いのです?恥じらいはないのですか?」

 

リオ「……あまり触れないでほしいわね」

 

ホシノ「大人の事情ってやつだねぇ……」

 

リオ「……とにかく歓迎するわ」

 

ユウカ「これで学園の案内は終了です。最後にお二人が滞在している間に使用していただく部屋ですが……その……」

 

黒服「何か問題でも?」

 

ユウカ「……とにかく行けば分かります。場所は先程送信しましたので。それでは明日からお願いしますね!」

 

黒服「は、はぁ……」

 

半ば強引に話を終えてリオとユウカは去っていった。ホシノと数秒見つめ合った後記載された場所に向かう事にした。

 

黒服「部屋自体にあまり問題はあるように見え……」

 

ホシノ「………」

 

2人用とは思えないほど広く立派な部屋ではあるものの重大な欠陥がある。それは寝室にダブルベッドが置いてある事。そもそも別々の部屋にしないのもおかしいのだが一体何を考えているのだろうか?ホシノと同じベッドで寝ろと?

 

ホシノ「……どうしよう」

 

黒服「私はソファーでいいのでホシノはベッドを使ってください」

 

ホシノ「そ、そうだね。うん、それが良いよ」

 

黒服「ちょっとしたトラブルもありましたが……とりあえず」

 

ホシノ「盗聴器を壊そうね」

 

見るからに怪しい装置がそこら中に仕掛けてあったので手当たり次第破壊した。ベッドの下に配置されている辺り悪意を感じる。

 

黒服「盗聴器だけで108個も見つかるとは……一周回って頭が悪いのでは?」

 

ホシノ「数打てば当たる戦法とはいうけどちょっとやりすぎだよね」

 

黒服「明日ユウカに通報しておきますか」

 

ホシノ「だねー」

 

ある程度落ち着いた所で各自明日に備えて寝る準備をした。ところまではよかったのだが何故か今ホシノに抱き枕代わりにされている。

 

ホシノ「いつも使ってる鯨のぬいぐるみを忘れて来ちゃってさ。先生が居てくれて助かったよぉ」

 

そう言っているホシノだが顔は真っ赤で心臓の鼓動が聞こえてくる程緊張しているようだ。そんな状態で寝れるのだろうか?添い寝自体はベアトリーチェも毎日ヒナと添い寝しているとモモトークで語っているのでこの程度は許容範囲だろう。

 

黒服「……本当にこれでホシノの目覚めが良くなるのですか?」

 

ホシノ「そ、そうだよ。何かに抱きついてるとリラックスして寝れるんだぁ」

 

黒服「それは興味深い。試してみるとしましょう」

 

思えば試した事がなかった。睡眠中に最大の神秘であるホシノが側にいたらどうなるのだろうか?試しに片腕に抱きついているホシノを引き寄せてみた。

 

ホシノ「?!」

 

ホシノがいきなり手足をバタつかせ始めたが気にせずそのままの姿勢でいると大人しくなった。

 

黒服「なるほど。確かにこれは睡眠導入としては良いもので……ホシノ?」

 

ホシノ「………」

 

ホシノの頭からヘイローが消えている。いつの間にか眠りに落ちていたようだ。

 

黒服「ホシノも寝た事ですしベッドから出ますかね。夜のうちに調べておきたい事もありますし」

 

明日からは業務を行いつつマエストロが言っていた神秘の場所を探らねばならない。しばらく暇を持て余す事はないだろう。

この後何故かベアトリーチェから『恨めしい』とモモトークが送信されてきたが未読無視をした。

 

 

 

 

 

 




ホシノをどう可愛く表現しようかで数時間悩みました。

それと粘りましたが水着ホシノは引けませんでした


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黒服先生のミレニアム出張編#2

先に謝っておきます

今回ぶっ飛んでしまい申し訳ありません


ホシノ「んー……」

 

いつもより強い日差しに照らされて目が覚めた。寝ぼけながらも愛用している鯨のぬいぐるみが手元にない事に気がつき付近に手を伸ばしてみる。

 

ホシノ「鯨ちゃんどこー……」

 

左手が何かを掴んだのでそのまま引き寄せて抱きついた。……この匂い、鯨のぬいぐるみで間違いない。

 

ホシノ「うへぇ……落ち着く……」

 

鯨ちゃんには先生が普段使用している香水と同じ匂いがするようにしている。これなら先生が居ない夜も乗り切れるからだ。数秒して鯨ちゃんにしては大きいし何だか硬めな事に気づいた。そして今ミレニアムに出張していて鯨ちゃんを忘れてきている事にも。

 

黒服「……満足しましたか?」

 

ホシノ「?!?!」

 

 

ーーー数分後

 

黒服「起こしに行ったら引き寄せられるとは思ってもみませんでした」

 

 

ホシノ「……///」

 

黒服「落ち着いたら本日の業務を始めますので教えて下さいね」

 

ホシノ「……はい」

 

昨日の夜といいとんでもない事をしてきた自分が恥ずかしくてたまらない。穴があったら入りたい。……でも先生の腕は暖かったなぁ。

 

ホシノ「……うへへ///」

 

しばらく余韻に浸ってしまいすっかり冷めてしまった朝食を食べた後制服に着替えた。

 

ホシノ「お待たせ先生。準備できたよ」

 

黒服「予想より早かったですね。では本日のルートですが……」

 

説明をしようとした途端轟音と共に光の柱が立っているのが目に映った。

 

黒服「……エンジニア部の辺りですね」

 

ホシノ「初日からこれかぁ……」

 

黒服「最初から厳重注意をする羽目になるとは思いませんでしたよ」

 

ホシノ「シロコちゃんですら学校は壊さな……」

 

黒服「……思い当たる節はいくつかありますね」

 

ホシノ「……とりあえず行こっか」

 

黒服「そうしましょう」

 

ーーーエンジニア部 部室

 

ウタハ「素晴らしい開発が出来たね。前回のレールガンよりもクオリティが上がっているよ」

 

コトリ「飛距離も前回よりも7240M伸びてますね!この技術を応用すれば宇宙に行く事も夢じゃないです!」

 

ウタハ「初号機が3620Mしか届かなかった事を考えるとその可能性は多いにある。やはり技術に不可能は……」

 

黒服「盛り上がっている所失礼しますよ」

 

ウタハ「おお、黒服先生じゃないか。我らがエンジニア部にようこそ。歓迎するよ」

 

黒服「ありがとうございます。……では天井に穴を開けた事に関してお話を聞かせていただいても?」

 

コトリ「それなら私にお任せください!あ、私は豊見コトリって言います!以後よろしくお願いしますね!話を戻しますと何を隠そう天井に穴を開けたものはこちらの発明です!その名も『光の剣:※※※※gazer』!!!これは聖剣デュランダルから発せられるエネルギーを制御した3人の少女が生み出した奇跡を元に開発した……」

 

黒服「………」

 

ホシノ「………」

 

コトリ「そしてそのエネルギーを再現するのにかかるチャージ時間はたったの3分!素晴らしい発明だとは思いませんか!?」

 

 

黒服「ロマンはあると思いますが……天井を破壊してしまうのは擁護出来ませんね」

 

ウタハ「昨日も言っただろう?犠牲はつきものだってね」

 

黒服「……とりあえず損害額分を予算から引きますね」

 

ウタハ「なんだって!?黒服先生にはこのロマンが分からないのかい!?」

 

コトリ「そうですよ!これ以上予算を引かれてしまったらミレニアムプライスに出展予定の『光の剣:※※※※zation』が作れなくなってしまいます!!」

 

黒服「ならばこれ以上学園を壊す真似は避けてください。後でユウカにでも報告しておきますので」

 

ウタハ「致し方ない、か……それはそれとして折角来てくれたんだ。よかったら開発してきたものを見て行ってほしい」

 

ホシノ「色々あるんだねぇ。……ちょっと興味あるかも」

 

コトリ「!!でしたら説明や解説は私に任せてください!ささ、こちらへ!!」

 

ホシノ「うへー……とっても元気な子だねぇ……」

 

黒服「ところでウタハ。エンジニア部に所属しているのは3人だとユウカからお聞きしましたが……もう1人の方はどちらに?」

 

ウタハ「ああ。それならそこの部屋に居るよ。何やら自信作が作れそうだから集中したいとの事でね」

 

黒服「一応挨拶くらいはしておきましょうかね……失礼しま」

 

ノックする前に扉が開いた。目に隈が浮かんでいる少女はこちらを観察するように見ている。

 

ヒビキ「今頃だと予測して扉の前で待ってた。黒服先生が私に挨拶をしてくれる……この瞬間を」

 

黒服「扉の前で待つくらいなら普通に出てきなさい」

 

ウタハ「彼女は猫塚ヒビキ。とある人に恋をしている可愛い後輩さ」

 

黒服「(……部屋の中には触れないでおきましょう)」

 

ヒビキの部屋には至る所にマエストロの写真が貼ってあった。彼はこの少女に何をしたのだろうか?興味深くはあるが触れてはいけない気もする。

 

ウタハ「それで……自信作は出来たのかい?」

 

ヒビキ「うん。これがその自信作」

 

黒服「紫色のブレスレットですか。これはどのような効果が?」

 

ヒビキ「まず特定の台詞を言う事で変身できる」

 

黒服「それはまたロマンがありますね」

 

ヒビキ「その状態なら時空も越えて好きなところに行ける」

 

黒服「???」

 

ヒビキ「これで私は先生の所に……早く会いに行かないと」

 

黒服「(マエストロ、貴方も人の事が言えないほど生徒沼にハマっていそうですね)」

 

ウタハ「変身機能か。ヒビキが変身する所を見たいな」

 

黒服「……ヒビキ……紫色のブレスレット……変身……はっ」

 

ヒビキ「いいよ。ただ……それなりに大変な事になるかも?」

 

ウタハ「大丈夫。既に天井に穴が空いてるからね」

 

ヒビキ「そう?じゃあいくね……エレ※※※※、スイッチオン!」

 

黒服「……はぁ」

 

ウタハ「やはり変身はロマンだね。……黒服先生、どうしたんだい?」

 

黒服「今回は最悪な話だなと思いましてね」

 

ウタハ「?よく分からないが気に入ってくれたようで何よりだよ」

 

ーーーコトリに連れて行かれたホシノ

 

ホシノ「なんか物騒なものが4つ置いてあるけど……これは何かな」

 

コトリ「おお!それに注目するとはさすがアビドスの方ですね!!それはかつてキヴォトスにいたであろう超大型の蜘蛛が背負っていたとされる武器をイメージして開発したやつです!!」

 

ホシノ「うへぇ……なんかこれ以上は触れちゃいけない気がするよ」

 

コトリ「そんな事を言わずに聞いてください!まずこの火炎放射器こと『フレアキャノン』はですね、その圧倒的な熱量で周囲の草木を跡形もなく燃やし尽くしたと言われている恐ろしい武器なんです!そして隣にあるのが『モンスターポンプ』!!こちらは水の塊を相手の頭上に降らせて混乱を引き起こさせるほどの凶悪な武器です!」

 

ホシノ「やっぱり……あの、コトリちゃん。もう満足したから……」

 

コトリ「何を言いますか!!ここまできたら最後まで話しますとも!忘れてはいけないのがこの『マイナスイオン・コンバータ』です!足元に強力な電流を流して動きを封じる武器のはずがあまりの威力にそのまま息の根を止めてしまうと恐れられた兵器です!そして最後は『ケミカル・ウエポン』!!この禍々しい見た目から察するとは思いますがなんと猛毒を散布して周辺の生命が死に絶えると言われています!この4つの凶器を背負って人類に襲いかかってきた生物が居るなんて想像しただけでも恐ろしいですよね!……以上です!」

 

ホシノ「……個性が色々行きてるんだねぇ」

 

 

ーーー

 

ウタハ「いつでも訪ねてくれていいからね。それじゃあ」

 

黒服「……なんだかどっと疲れましたね」

 

ホシノ「今回は露骨すぎたねぇ……」

 

黒服「他の部活の確認……と言いたい所ですがもう夕方ですね。思っていたよりもエンジニア部に時間を取られてしまったようです」

 

ホシノ「あっという間の一日だったねぇ」

 

黒服「私はユウカに報告しに行ってから戻りますのでホシノは先に部屋に戻っていてください」

 

ホシノ「えー……私も一緒に……」

 

黒服「……実はホシノに頼みたい事がありまして……」

 

ホシノ「……!うん。じゃあ先に戻って待ってるね」

 

少し寂しそうなホシノを撫でてからユウカにエンジニア部の事を報告した後、部屋に戻る頃には既に夜になっていた。

 

黒服「………」

 

誰かにつけられている。最初は気のせいかと思ったが気配が一定の距離を保っている為間違いないだろう。

 

黒服「(ホシノが身支度を済ませる前に端末で周辺の神秘を検索した時からずっと付けられている。誰が何のために?)」

 

あえて1人になる事で接触してくるのを待って居たがどうやらその様子はなさそうだ。

 

黒服「………」

 

興味も薄れて来たので部屋に戻るか……そう考えて踵を返した途端背後から頭に銃を突きつけられた音がした。

 

「動いたら撃つ」

 

黒服「……あの気配は囮でしたか」

 

「あれは部長の気配。私のじゃない」

 

「エイミ、よくやってくれました。お付きの生徒さんが居なければ拘束するのは簡単な事ですがね」

 

黒服「……貴女方は一体?」

 

「そうですね。まずは自己紹介からしましょうか。特異現象捜査部の部長であり超天才病弱……」

 

「部長。長い」

 

「失礼。どうも自分のことを正確に伝えようとすると、いつも長くなってしまいまして…明星ヒマリと申します。そっちの貴方に銃を突きつけている子は和泉元エイミです」

 

黒服「……それでその特異現象捜査部が私に何の用です?」

 

ヒマリ「デカグラマトン。この言葉に聞き覚えがありますよね」

 

エイミ「貴方が身につけている端末からその預言者であるビナーと同じ反応がした。隣にいた小さい子からも似たような波長が観測された」

 

黒服「………」

 

ヒマリ「ですのでお話を聞こうとエイミに尾行させて機をうかがっていたのです。こうも簡単にいくとは思いませんでしたがね。……そういう訳ですので撃たれたくなければこちらの質問に答えていただきます」

 

黒服「それは構いませんが……敵意は消した方がいいですよ」

 

ヒマリ「……何を仰っているのです?」

 

黒服「例えば……私の生徒が貴女方を敵と認識してしまうかもしれませんね」

 

ヒマリ「……エイミ!」

 

エイミ「!?くっ……」

 

どうやら後ろで銃を構えていたエイミと呼ばれる少女は吹き飛ばされたようだ。距離にして30メートル程だろうか。

 

ホシノ「私の先生に何をしてるのかな?」

 

だからこう忠告をしたのだ。『敵意を消せ』と。




最後のホシノの台詞以降の言葉だけで5時間くらい悩みました。

初めてアンケート機能を使ってみた結果甘々を見たい人が9割居たので明日甘々if投稿します


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黒服先生のミレニアム出張編#3

ヒマリ「あのエイミを容易く吹き飛ばすとは。噂には聞いていましたが素晴らしい戦闘能力ですね、ホシノさん」

 

ホシノ「それはどうも。それで私の先生に何をしてたのかな?」

 

ヒマリ「少々お話をお伺いしようと思いましてね。多少強引になってしまった事は申し訳ありませんが」

 

ホシノ「へぇ。そんなくだらない理由で先生の命を奪おうとしたんだ?」

 

黒服「(こちらが有利とはいえこのままだと争いが大事になって面倒ですね……)」

 

正直なところここで争っても無意味なので。ヒートアップしているホシノをとりあえず撫でた。

 

ホシノ「……うぇ?」

 

黒服「駆けつけていただきありがとうございます。やはり貴女は最高の生徒ですね」

 

ホシノ「も、もぅ……こんな時に何するのさぁ……///」

 

エイミ「部長、何あれ」

 

ヒマリ「全知である私にも理解しかねます」

 

黒服「そこの随分と攻めた格好のお嬢さん。私の生徒が手荒な真似をしてしまい申し訳ありません。話し合いには応じますのでここは穏便に済ませましょう」

 

ホシノ「うへぇ///」

 

ヒマリ「その案には賛成しますが……やりにくいですね」

 

エイミ「あれがいわゆるバカップルなのかな」

 

ーーーミレニアム最高の天才清楚系病弱美少女ハッカーの部屋

 

ホシノ「エイミちゃん、吹き飛ばしちゃってごめんねぇ……」

 

エイミ「大丈夫、痛いのは慣れてるから。それにあの場面ならこうなる事も予測出来たし」

 

黒服「私が言うのも何ですがもう少し自分の身体は大事にした方がよろしいかと」

 

エイミ「えっ、ありがとう……銃を突きつけた相手に心配されるとは思わなかった」

 

ホシノ「……駄目だよ?」

 

エイミ「?」

 

ヒマリ「……そろそろ本題に入っても宜しいでしょうか?」

 

黒服「ええ。先程仰っていた特異現象捜査部?でしたっけ。昨日渡された部活一覧にはそのようなものは記載がありませんでしたが……」

 

ヒマリ「この全知の名を持つ私が所属しているのですからトップシークレットであるのは当然です。ミレニアムでは常識ですよ?」

 

黒服「は、はぁ……」

 

ヒマリ「……その反応は何ですか?仕方ありませんね。この天才である私が如何に素晴らしいかを数時間語って……」

 

エイミ「部長、話が脱線してる」

 

ヒマリ「何を言いますか。この私の素晴らしさを理解していない憐れな先生に天才病弱美少女の良さを語る事以上に大事な事など……」

 

エイミ「……こうなったら部長の話長くなるし後日でいいよ。連絡先だけ交換しとくね」

 

 

黒服「明日も朝早いので助かります。ホシノ、帰りますよ」

 

ホシノ「そだねー。それじゃねー」

 

エイミ「うん。また今度」

 

ヒマリ「ミレニアムの清楚な高嶺の花であり、みなさんの憧れである「全知」の学位を持つ眉目秀麗な乙女である私は過去にどのような偉業を達成したのかを簡潔に分かりやすく事細かに……」

 

 

ーーー

 

ホシノ「なんだか面白い2人だったねー」

 

黒服「そうですね。……少々話の通じない所はありますが」

 

ホシノ「まあねー」

 

黒服「……ホシノ、先程は助かりました。改めてお礼を申し上げます」

 

ホシノ「えへへ。先生が無事で良かった」

 

黒服「ただ随分と時間が経ってしまいましたね。ホシノ、そろそろ寝ないとまた寝坊しますよ?」

 

ホシノ「もうそんな時間なの?うへぇ……」

 

黒服「ええ、ですので休息を……何故離れないのです?」

 

 

ホシノ「えっ?だって寝るんでしょ?」

 

黒服「……また私を抱き枕代わりにするつもりですか?」

 

ホシノ「……だめ?」

 

黒服「……ホシノがそれで寝れるのであれば構いませんよ」

 

ホシノ「!!」

 

この後ウッキウキでベッドに入ったホシノだったが昨日と同様抱きしめられて気絶したので割愛します。

 

ーーー

 

黒服「本日はユウカから優先して見て欲しい部活が送られてきました

 

ホシノ「へぇ。何の部活?」

 

黒服「ゲーム開発部……だそうです」

 

ホシノ「あの汚い部屋の部活かぁ……」

 

黒服「ミレニアムプライスの締切が近づいている中何もアクションがないとの事ですので詳細を調べてほしい……らしいです」

 

ホシノ「えー。それくらいは自分でやってくれてもいいんじゃないの?」

 

黒服「『シャーレの当番があるので!』と連絡がきてまして……」

 

ホシノ「へぇ……シャーレの手伝いってそんなにいいのかな」

 

黒服「どうでしょうね。ベアトリーチェ曰く『シャーレの先生は時々生徒に手を出している』らしいので」

 

ホシノ「先生ってケダモノが多いんだねぇ。その点私の先生は誠実だから安心だよ」

 

黒服「素直に喜んでいいのでしょうか……話していたらいつの間にか部室の前に着きましたね」

 

ホシノ「……中から音が聞こえるよ。今日は居るみたいだね」

 

黒服「正直入りたいとは思いませんが仕方ありません。一思いに入るとしま……」

 

「「もう終わりだぁ!!!!」」

 

黒服「……ホシノ。なんだか面倒ごとに巻き込まれそうな気がしてきました」

 

ホシノ「実は私も……聞かなかった事にする?」

 

黒服「後から発覚して問題になるより早めに解消した方がいいでしょう。……失礼しますよ」

 

「うわっ!?どうしようミドリ!ヤバそうな人が来たよ!?」

 

「落ち着いてお姉ちゃん。見るからに悪役みたいな見た目の人だけど良い人かもしれないし……」

 

「どう見ても魔王じゃん!?絶対にユウカの差し金だよー!!あの冷酷な算術使いが遂に牙を剥いてきたんだー!!どうしよう!!」

 

黒服「………」

 

この時黒服さんはこう思った。『予想以上に面倒な事になりそうだ』と。




本日カフェに水着のホシノさんが来ました。

しかしタップしても汗のマークしか出ませんでした。


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黒服先生のミレニアム出張編#4

まだ5話分しか書けていませんが待たせるのも申し訳ないので投稿します


ーーーアビドス高等学校

 

ノノミ「平和ですねぇ〜」

 

セリカ「ほんと平和ね……」

 

アヤネ「入学してからというもの色々な出来事がありましたしここまでのんびりと過ごせているのは初めてかもしれません」

 

ノノミ「ホシノ先輩と黒服先生はラブラブ出張を楽しんでいるでしょうか……」

 

セリカ「黒服も男らしくないわよね。あんなあからさまに好意を持ってるホシノ先輩に対して気の利いた返事も出来ないなんて」

 

アヤネ「黒服先生の事ですから何か考えがあるのかもしれませんよ?焦らしすぎるのはどうかと思いますが……」

 

セリカ「たった一言伝えるだけじゃない。黒服がチキンなだけよ」

 

黒服「……皆様何を話しているのですか?」

 

セリカ「ぶっ……はぁ!?なんで帰って来てんのよ!?」

 

黒服「野暮用です。それよりも私がチキンとか何だの仰っていましたが一体どういうおつもりで?」

 

セリカ「うっさい!盗み聞きしてるんじゃないわよ!」

 

ノノミ「まあまあ。ガールズトークの一環ですので気にしないでください⭐︎」

 

黒服「そういう事にしておいてあげますよ。今はそれよりも……」

 

モモイ「アビドスの皆ァ!私が来たぁ!!」

 

アヤネ「え、えっと……どなたですか?」

 

黒服「こちらはミレニアムで知り合ったゲ……」

 

モモイ「そう!私こそミレニアムに生まれた超新星!1年生でありながらすでに数々の神ゲーを生み出している天才ゲームクリエイターの才羽モモイだよ!」

 

ノノミ「わぁ〜また凄い子が来ましたね〜」

 

セリカ「天才っぽくは見えないけど……人は見かけによらないのね」

 

黒服「?モモイが所属するゲーム開発部は世間一般的に言うとクソゲーしか作れていないとユウカが言ってましたが」

 

モモイ「……あの冷酷算術妖怪!!ゲームのゲの字すら理解出来ないくせに!!」

 

セリカ「天才故の苦悩……なのかしら」

 

モモイ「そうだ!ここの皆にもやって貰えば分かるよ!待ってて、今準備するから!」

 

ノノミ「あ、ディスプレイはそちらにありますよ〜」

 

モモイ「ありがとうヒーラーっぽい人!」

 

ノノミ「ヒーラー……?」

 

ーーー1時間後

 

モモイ「しばらく遊んでもらったけど……私達の自信作『テイルズ・サガ・クロニクル』はどうだった!?」

 

セリカ「まあ……悪くはないんじゃない?まさかゲーム内でも現実と同じくらいの借金を背負わされるとは思ってなかったけど」

 

ノノミ「踏み倒す為に宇宙に乗り出す発想は天才だと思います。これなら借金取りも追ってこないでしょうし」

 

アヤネ「動作も少し不自由なところがありますがそれに親近感が芽生えましたね。初めてゲームというものを遊びましたが結構面白いですね」

 

黒服「皆様顔が引き攣ってますよ。気を遣っているのが丸わかりです」

 

セリカ「ゲームなんだからもうちょっと楽しませる仕様でもよくない?」

 

ノノミ「ちょっと理不尽な要素が多すぎるというか……」

 

アヤネ「ストーリーもちぐはぐで……辻褄が合ってないような気がします」

 

モモイ「うっ……ユウカよりも的確にダメ出しされた……でも貴重な意見だよね!うん、そうだよ!」

 

黒服「驚くべきほどポジティブですね。……このようにゲーム開発部はスランプ?らしいので気分転換も兼ねてアビドスに戻って来たのです」

 

ノノミ「気分転換、良いですね。ですがモモイちゃん1人しかいませんよ?他の部員さんはどちらに?」

 

黒服「ああ、それなら……」

 

ーーー前回の最後辺りの回想

 

モモイ「ミドリ、なんか武器ない!?抵抗しないと!」

 

ミドリ「銃を使えばいいんじゃないかな……?」

 

モモイ「いくらなんでも銃はダメじゃない!?とにかく何とか対策を……」

 

黒服「もうよろしいですか?」

 

モモイ「ちょっと待って!!まだ迎撃準備が……」

 

ミドリ「あの……お2人は何をしに来たんですか?」

 

黒服「お2人……いえ、御三方に説明しますと私はアビドスから来た臨時の先生です。ユウカに頼まれて貴女達ゲーム開発部の様子を……」

 

モモイ「やっぱりユウカの刺客だぁ!?あの冷酷な算術使い、遂に強行手段に出たんだ!!」

 

ミドリ「ミレニアムプライスにはどうにか間に合わせますので……お慈悲を……」

 

ホシノ「この子達面白いねぇ……」

 

黒服「話が通じないの間違いでは?」

 

ホシノ「まあまあ。こういう時は根気よくやるのが1番だよー……うへぇ!?」

 

モモイ「ギャー!!ゴ○○リだー!!」

 

ミドリ「嫌ぁ!!お姉ちゃん何とかしてよ!」

 

モモイ「無理無理無理無理!!あんなの相手にしたくないよ!そこの黒い人、何とかしてよー!!」

 

黒服「……はぁ」

 

何故この小さな生物に恐怖を覚えるのか理解は出来ないがこれ以上騒がれても面倒なので黒い生物を処理した。その後ホシノがあまりにも嫌そうな顔をするので数分手を洗い続ける羽目になった。あの生物は何故あそこまで忌み嫌われているのだろうか?

 

モモイ「あっ救世主様ー!さっきはありがとう!」

 

ミドリ「おかげでこの部屋に平穏が訪れた」

 

黒服「お2人も落ち着いたようで何よりです。そういえば、先程終わりと叫んでおりましたが何があったのです?」

 

モモイ「実は……今回のミレニアムプライス用のゲームがまだ完成してないの!!このままだと廃部にするってユウカに脅されて……」

 

黒服「ユウカは成果を出さない事よりも『必要経費とか言いながら新作ゲームを買ったレシートを送りつけてきた時が1番腹が立った』と言ってましたが」

 

モモイ・ミドリ「うっ……」

 

黒服「そこに漬け込んで廃部にしようと考えてるみたいですね。物の価値は人それぞれですので理解が得られなくても仕方ありませんがね」

 

モモイ「だって新作ゲームだよ?買わないと損するしそこからアイデアが浮かぶ可能性があるんだよ!」

 

黒服「その理論はユウカに理解されないでしょうね」

 

モモイ「……とにかく何とかアイデアを出して新作を出さないと廃部になっちゃう!黒い先生、何か案を出してよ!」

 

黒服「案と言われましてもね……」

 

ホシノ「こういう時は今まで体験した事がない経験をすればいいんじゃないかなぁ。……そうだ先生、アビドスに連れて行ってあげたらどうかな?」

 

黒服「アビドスに?それは構いませんが真新しい経験が出来るでしょうか?」

 

ホシノ「何事も経験、だよ」

 

モモイ「それだ!そうと決まればすぐに行こう!」

 

黒服「モモイ、引っ張るのはやめてくださ」

 

言い終わる前に部室の扉が閉まった。

 

ミドリ・ホシノ「………」

 

残された2人で数秒見つめあってようやく、

 

ホシノ「先生が攫われた!?」

 

ミドリ「お姉ちゃんに前科が付いちゃう!?」

 

ホシノ「どうしよう……でもアビドスに向かったのであればいいかな……先生が居なくて寂しいけれど」

 

ミドリ「……もしかしてあの黒い先生の事が好きなんですか?」

 

ホシノ「えー何のこと?」

 

ミドリ「露骨すぎて分かりやすかったです」

 

ホシノ「………」

 

ーーー回想終わり

 

黒服「……それで途中まで引っ張られて来たのでモモイと2人で帰ってきたという訳です」

 

モモイ「善は急げって言うじゃん?だから行動あるのみだよ!」

 

セリカ「無鉄砲の間違いじゃないの?」

 

モモイ「いいの!とにかくここに居る皆で冒険に行くよ!!」

 

アヤネ「えっ、私達もですか?」

 

モモイ「当然!パーティを組むのはRPGの基本だよ!……うん、なんだかすっごく面白い事が始まりそうだね!」

 

黒服「(この少女……シロコ並みに面倒かもしれませんね)」



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黒服先生のミレニアム出張編#5

【現在のパーティメンバー】

1 勇者 モモイlv80

2僧侶 ノノミlv70

3戦士 セリカlv50

4魔術師アヤネlv50

5黒服 黒服 lv2

 

『前回のあらすじ アビドス学校という名前の酒場で僧侶、戦士、魔術師を仲間にした勇者モモイ。さあ、ここから楽しい冒険の始まりだ!』

 

モモイ「ってカッコつけたのはいいけどさぁ、砂漠って砂しかないの!?景色も変わり映えしないんだけど!?」

 

黒服「それが砂漠というものですから」

 

モモイ「風ノ○ビトだと少しは景色が変わってたよ!?」

 

黒服「伝わりそうで伝わらないネタはやめましょう」

 

ノノミ「前に来た時よりも砂の量が増えてますね。余裕も出てきましたしこの辺りの対策も考える必要がありますね」

 

黒服「そこまでいくと学生活動にしてはやりすぎな気もしますが……」

 

モモイ「うわー!蟻地獄だぁ!助けて〜!!」

 

セリカ「何やってんのよ……ほら、さっさと捕まりなさ……」

 

モモイ「セリカぁぁぁ!!」

 

セリカ「ちょっと!?そんな強く引っ張ったら私も落ちるでしょうが!!」

 

モモイ「落ちたくないー!」

 

セリカ「私だって落ちたくないわよ!!」

 

ノノミ「あの2人、もう打ち解けてますね〜」

 

アヤネ「あはは……ちょっと違うような……?」

 

ーーー

 

モモイ「サボテン!?わぁ〜実物を見たの初めて!」

 

黒服「ああ、それに近づきすぎると危険ですよ」

 

モモイ「えっ?うわっ!これびっくり菊と同系統の生物じゃん!?」

 

ノノミ「あんな生物この砂漠に居ましたっけ?」

 

黒服「日数経過で追加されたのでしょう」

 

セリカ「2のシステムね」

 

ーーー

 

モモイ「あれ?ここって入り口じゃん。いつの間にか戻ってきちゃったの?」

 

黒服「砂漠の探検をするには時間が足りません。今日中にはミレニアムに戻らないといけませんからね」

 

モモイ「えぇ……」

 

黒服「という訳で砂漠を歩いた訳ですが……何か案は出ましたか?」

 

モモイ「うーん……よく分からない!けど何かインスピレーションは浮かびそうで浮かばない!」

 

セリカ「ダメじゃない……」

 

モモイ「もうちょっとで案が出てきそうなんだけど何かが足りないんだよね……インパクトとか!」

 

ノノミ「インパクト?シロコちゃんが居れば解決できそうな気はしますが……」

 

セリカ「まあ……1日に1回は爆発させてるしね」

 

モモイ「何それ?その話詳しく教えて!」

 

ノノミ「いいですよ〜まずは私とホシノ先輩との出会いから……」

 

モモイ「あれっこれって長くなりそうなやつ?」

 

黒服「数時間……ですかね」

 

ーーー数時間後

 

ノノミ「……そしてホシノ先輩はまた笑顔で過ごせるようになったという訳です。それ以降アビドスの皆との絆がより……」

 

黒服「ノノミ、それ以上はまたの機会に。そろそろ戻らねばならない時間ですので」

 

ノノミ「あら?ついつい語りすぎてしまいました⭐︎」

 

モモイ「た、助かった……途中から意識が飛んでた……」

 

黒服「これも経験に……なるのでしょうか?」

 

モモイ「これはちょっと……いや、名案が降りてきた!いける、いけるよ!」

 

ノノミ「わぁ〜良かったですね〜」

 

モモイ「早く戻ろう!案を忘れちゃう前に!」

 

黒服「だから引っ張らないでください」

 

アヤネ「……行ってしまいましたね」

 

セリカ「また定期的に帰ってきたりしそうね」

 

ノノミ「今度はお土産よろしくお願いしますね〜」

 

ーーー

 

モモイ「送ってくれてありがとう!完成したら連絡するねー!!」

 

黒服「……随分と振り回されたような気がします」

 

シロコ「ん、大変だね」

 

黒服「貴女は何故ミレニアムに居るのです」

 

シロコ「サイクリング。それよりホシノ先輩が……」

 

黒服「……なるほど。情報提供感謝します」

 

シロコ「ん、じゃあ感謝のあっち向いてホイを」

 

黒服「それはまたの機会に……」



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黒服先生のミレニアム出張編#6

ホシノ「うへぇ〜さっすがミレニアム。ラインナップが豊富だねぇ」

 

ミドリ「ここなら衣装から足の爪先までコーディネート出来ますよ。私も初めて来ましたが……」

 

ホシノ「あまり身だしなみに拘らない子が多いのかもね。……私もつい最近まで拘らなかったし」

 

ミドリ「やっぱりあの黒い先生の事が?」

 

ホシノ「アビドスの皆には内緒だよ〜?」

 

ミドリ「(あの感じなら既にバレててもおかしくないような……)」

 

ホシノ「それよりも早く買い物を済ませちゃおう。先生がいつ帰ってくるか分からないしね」

 

ミドリ「それはダメですよ。オシャレをするなら目一杯時間を使わないと」

 

ホシノ「えーそんなガチガチにコーディネートする気は……」

 

ミドリ「振り向いてもらえないですよ?」

 

ホシノ「それは嫌だね……うん、ちょっと頑張っちゃおうかな」

 

ーーー

 

ミドリ「という訳で最近流行りのコーデを着てもらいました。ホシノ先輩、試着できました?」

 

ホシノ「こ、これって……部屋着じゃないの!?確かに可愛いけどさ……」

 

ミドリ「似合ってますよ、鮫パーカーパジャマ」

 

ホシノ「そうかな……?じゃなくて!もっとデートする時に着るような服が欲しいの!」

 

ミドリ「デートですか……でしたらこちらの……」

 

ホシノ「そっちはコスプレコーナーじゃん!!持ってこられても試着しないからね!!」

 

ーーー

 

ホシノ「へぇ〜爪を塗ってもらうだけでなんか気分が良くなるね」

 

ミドリ「随分とカラフルに塗って……左手の薬指の爪だけ真っ黒ですね」

 

ホシノ「無意識のうちにそう頼んでたみたいで……不思議だよね」

 

ミドリ「………」

 

ホシノ「も、もう……そんなニヤニヤした顔で見つめないでよぉ」

 

ミドリ「ホシノ先輩は染まりたい派なんですね」

 

ホシノ「えっ、何の事?」

 

ミドリ「こちらの話です」

 

ホシノ「うぇ……?」

 

ーーー

 

ホシノ「顔のマッサージからお化粧までされちゃったよぉ〜」

 

ミドリ「艶々になってますね……」

 

ホシノ「お試しで化粧品も貰っちゃったよ。恋する乙女の必需品!の一点張りで断りづらくて……」

 

ミドリ「それは一理あるかもしれませんが……その店員さん、圧が強いですね」

 

ホシノ「私が初めてのお客さんだったみたいでさ。テンションが上がっちゃったらしいよ」

 

ミドリ「えぇ……この店出来てから随分と経っているのに……?」

 

ーーー

 

店員A「こちらが『ロイヤルブラッドが1から作ったロイヤルブレッド』です」

 

ホシノ「一見ただの食パンだけど……」

 

店員A「この『ロイヤルブラッドが1から栽培した花の蜜』をかけてご賞味ください」

 

ミドリ「ロイヤルブラッドって何……?」

 

ホシノ「よく分からないけど美味しいよ」

 

ミドリ「それでいいのでしょうか……」

 

ーーー

 

ホシノ「さっき買った服と合わせるならブーツの方がいいのかなぁ」

 

ミドリ「大人の女性っぽさが出るのはやはりハイヒールだと思います」

 

ホシノ「うーん。悩ましいねぇ」

 

シロコ「ん、ホシノ先輩に似合うのはこれ」

 

ホシノ「お、おぉ!私のイメージに合ってる!ありがとミドリちゃん!」

 

ミドリ「えっ、今のは私じゃ……」

 

ホシノ「サイズも丁度良さそう!うんうん、これなら文句なしだね!」

 

ミドリ「……まあホシノ先輩が喜んでるしいっか」

 

ーーー

 

ホシノ「今まで買った服を着てみたけど……どうかな?」

 

ミドリ「とても良いですよ。大人の魅力を感じます」

 

シロコ「ん、これなら黒服も放っておかない」

 

ホシノ「そ、そうかなあ……うへへ……」

 

ミドリ「……さっきも近くに居ましたが……貴女は?」

 

シロコ「ん、ホシノ先輩の後輩」

 

ミドリ「何故ここに……」

 

ホシノ「シロコちゃんだからねぇ」

 

シロコ「そういう事」

 

ミドリ「何が……?」

 

ホシノ「とにかく2人ともありがとね。これで明日から先生にアタックしてみるよぉ」

 

ミドリ「上手くいくといいですね」

 

シロコ「大丈夫、こんなに可愛い先輩を放っておく人間はいない」

 

ホシノ「それは誇張しすぎだよぉ〜」

 

ーーー

 

ミドリ「さっきお姉ちゃんから『そろそろ帰るよ〜』って連絡が来たのでこちらも解散しておきましょう」

 

ホシノ「そうだねぇ。早く帰って来ないかなぁ……」

 

ミドリ「結構荷物がありますし途中まで送っていきますよ」

 

ホシノ「大丈夫大丈夫。自分の荷物だからね。これくらいなら運べるよ」

 

ミドリ「それならいいのですが……」

 

ホシノ「ミドリちゃん、今日はありがとう。今度またお礼させてねー!」

 

ミドリ「お礼なんてそんな……行っちゃった。……応援してますね、ホシノ先輩」

 

ホシノ「うへへ……先生はどんな反応してくれるかなぁ……可愛いって褒めてくれるかな……」

 

「妄想中のところ失礼するわね」

 

ホシノ「もしかしたらそのまま抱きしめられて……うへへ///」

 

「あの……小鳥遊ホシノ?」

 

ホシノ「んえ?何なのさ」

 

「ああよかった。無視されていた訳じゃないのね」

 

ホシノ「?ああ、会長さんかぁ。私に何か用?」

 

リオ「用があるから声を掛けたのだけど」

 

ホシノ「長くなるなら後にして欲しいなーって思ってるんだけど」

 

リオ「そういう訳にもいかないわ。アレが貴女の側に居ない今しかチャンスはないもの」

 

ホシノ「そういう事なら仕方ないなぁ……早めに済ませてねー」

 

リオ「ええ。ついてきなさい」

 



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黒服先生のミレニアム出張編#7

ホシノ「それで話って?」

 

リオ「……貴女は自分の異常性についての自覚はあるのかしら?」

 

ホシノ「異常性?何の話?」

 

リオ「自覚はないのね。ならば教えてあげる」

 

ホシノ「これは……前に先生が襲われた時の」

 

リオ「そう。ヒマリがあの黒い先生を襲撃した時の映像よ。当時の状況を覚えているかしら?」

 

ホシノ「先生が危ないって急いで駆けつけたのは覚えてるよ。あの時にエイミちゃんを結構吹き飛ばしちゃったなぁ……」

 

リオ「そこよ。貴女はエイミを吹き飛ばす数秒前には部屋の中にいた。とても間に合う距離じゃない。科学では証明できないのよ」

 

ホシノ「先生を助けなきゃって無我夢中だったからそれぐらいは出来るんじゃないかな」

 

リオ「不可能よ。それに何故貴女は部屋にいるのに黒い先生が危ないって分かったのかしら?」

 

ホシノ「うーん……直感かな?」

 

リオ「直感で片付けるには正確すぎるわね。潜在的というよりは意図的に気付くように仕組まれてる可能性が高いわ」

 

ホシノ「なんだか難しい話になってきたねぇ。先生を守りたいから覚醒したーって感じでよくない?」

 

リオ「それだけならいいのだけど……小鳥遊ホシノ、貴女は黒い先生に利用されてる」

 

ホシノ「利用?」

 

リオ「それも数日の比じゃない。予想ではあるけど数年かけて洗脳された状態よ」

 

ホシノ「………」

 

リオ「まるで刷り込みのように徐々に蝕んでいってるのよ。現に貴女は今学園を離れることを選んで黒い先生についてきた。それは潜在的に離れたくないと考えているからに他ならない」

 

ホシノ「それはおかしい事じゃないよ。先生が居たから私は今ここに存在してるんだし……」

 

リオ「目を覚ましなさい小鳥遊ホシノ。自分の意思も持たずに怪しい大人の事ばかり考えて人生を損するなんて無駄な生き方はやめなさい」

 

ホシノ「………」

 

リオ「利用するだけされて捨てられる人生でもいいなら止めはしないけれど」

 

ホシノ「……さい」

 

リオ「?分かったのなら話はこれで……」

 

ホシノ「五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!私と先生の事を何も知らない癖にベラベラと!!」

 

リオ「落ち着きなさい。別に怒らせるつもりは……」

 

ホシノ「黙れ!!お前に私の先生を語る権利はない!!洗脳?そんな戯言を聞かせる為に呼ぶんじゃない!!」

 

リオ「……面倒ね。話は以上よ。これで失礼するわね」

 

ホシノ「………」

 

リオ「貴女が怒る気持ちは分からなくはないけど、それは本当に貴女自身がそうしたいと考えた結果なのかしらね」

 

ホシノ「それは……」

 

リオ「よく考えてみるといいわ。それじゃあまた今度」

 

ホシノ「……先生」

 

1年生の頃からずっと側に居てくれた大人。彼が居たから私は今笑って過ごしていられる。そんなかけがえのない存在である先生が私を利用する?馬鹿馬鹿しい。そんな事あるはずがない。

 

ホシノ「でも……もし本当に利用されてるだけだったら……」

 

いつか捨てられてしまうのではないか?私から離れて消えてしまうのでは?

 

ホシノ「嫌だ……嫌だよ」

 

絶対にありえない。そう考えるのは簡単だけど1%でも可能性があるのであれば最悪のパターンを想定してしまうもの。そんな考えが頭をよぎってしまい、しばらくその場に立ち尽くして震えてしまった。

 

ーーー

 

リオ「荒療治だったかもしれないわね。……しかし私には他にやり方が……」

 

1人廊下を歩きながらそう呟く。彼女は彼女なりにホシノを想って助言したつもりではあるのだ。誤解を招くような物言いしか出来ないのは彼女の短所ではあるが。

 

リオ「……後でまた様子を見に……んえぶ」

 

突如背中にくる痛み。後ろから何かに踏み潰されたような感覚に襲われた。

 

「ん、ごめん。轢いちゃった」

 

リオ「……降りてもらえますか?」

 

「うん。それじゃ」

 

リオ「待ちなさい。色々と言いたいことはありますが貴女は誰ですか?ミレニアムの生徒ではないですよね」

 

シロコ「ん、私は自由の女神」

 

リオ「???」

 

シロコ「先輩を悲しませた魔女を勝手に制裁しに来た」

 

リオ「……ああ、小鳥遊ホシノの後輩ですか。……えっ?こんな、えっ?これが後輩ですか?」

 

シロコ「ん、後輩」

 

リオ「……アビドスは恐ろしい……」

 

ーーー

 

黒服「只今戻りました。遅くなり申し訳……ホシノ?」

 

ホシノ「……先生」

 

黒服「……そんな泣きそうな顔をしてどうしたのです?」

 

ホシノ「………」

 

黒服「おっと……いきなり抱きついてどうしました?」

 

ホシノ「先生は……私から離れないよね?」

 

黒服「……なるほど。さてはあの生徒会長に余計な事を吹き込まれたようですね」

 

ホシノ「………」

 

黒服「少なくとも現状離れるつもりはありませんね。この答えで満足ですか?」

 

ホシノ「……ほんと?居なくならない?」

 

黒服「ええ」

 

ホシノ「そっか……うん、なんだか元気が出てきたよ。ありがとう先生」

 

黒服「……やはり笑っている顔の方がお似合いですよ」

 

ホシノ「ふぇ」

 

黒服「新しい服も購入したのですね。普段のホシノよりも大人の魅力を感じます」

 

ホシノ「えっ、あっ、その……」

 

黒服「ネイルも塗って……1つだけ真っ黒ですね。このワンポイントはお洒落だと思いますよ」

 

ホシノ「うぅ……///」

 

黒服「……そうだ。思えばミレニアムに来てからというものの辺りの観光をしてませんでしたね。気分転換も兼ねて明日は一日出掛けるとしましょう」

 

ホシノ「えっ……お仕事はいいの?」

 

黒服「ミレニアム生よりもホシノの方が大切ですからね。……ですので明日はお付き合いよろしくお願いしますね」

 

ホシノ「あっ……うん」

 

黒服「明日の準備をしますので寝巻きに着替えておいてくださいね」

 

ホシノ「……覗いちゃダメだよ?」

 

黒服「生徒に欲情する先生は居ませんよ」

 

ホシノ「……むっ」

 

黒服「それにあまり大人を揶揄うものではありませんよ。……いつの間にかホシノを食べてしまうかもしれませんからね」

 

ホシノ「?!?!?!?!」

 

黒服「冗談です。早めに着替えてくださいね」

 

ホシノ「ひゃい……///」

 

この後サメパーカーパジャマに着替えたホシノと寝た。

 



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黒服先生のミレニアム出張編#8

ホシノ「せーんせ、準備出来たよー」

 

黒服「早かったですね。……その格好、お似合いですよ」

 

ホシノ「うへへ……ありがと///」

 

黒服「ホシノ」

 

ホシノ「!!それじゃあ失礼して……」

 

差し伸ばされた手を握るとほんのりと温もりを感じる。まだ部屋から一歩も出ていないのにも関わらず満たされてしまう辺り私は彼が居ないと生きていけなくなっているのかもしれない。

 

ホシノ「こんなに幸せならそれでもいいかなぁ〜」

 

黒服「まだ出かけていませんよ?」

 

ホシノ「……声に出てた?」

 

黒服「はい」

 

ホシノ「……///」

 

黒服「……もう少し待ってからの方が良さそうですか?」

 

ホシノ「う、ううん大丈夫。行こ?」

 

黒服「それならいいのですが……」

 

ーーー

 

ホシノ「先生っていつも黒いスーツを着てるよね。白いスーツとかも似合いそうだけど」

 

黒服「白ですか……あんまり好みではありませんね。やはり私には黒のスーツが1番です」

 

ホシノ「そっか。……そのネクタイ、ずっと結んでくれてるよね」

 

黒服「ホシノからの贈り物ですので。時々ほつれそうにはなってしまいますが……」

 

ホシノ「後でまた縫ってもいい?」

 

黒服「お願いしますよ」

 

ホシノ「うん!任せて!」

 

ーーー

 

黒服「こんな狭い箱の中で撮影を行う意味は理解しかねますが……」

 

ホシノ「こういうのも大切な思い出になるんだよ。あ、先生笑って笑ってー!」

 

黒服「こうでしょうか?」

 

ホシノ「……ちょっと表情が硬いかも」

 

黒服「ふむ。難しいものですね」

 

ホシノ「撮り直す?」

 

黒服「いえ、ホシノの笑顔が撮れているのでこのまま現像しましょう」

 

ホシノ「えっ……嬉しいけど恥ずかしいよぉ……」

 

ーーー

 

ホシノ「そういえば私達って周りからどう見られてるんだろ?」

 

黒服「先生と生徒じゃないですか?」

 

ホシノ「ほら、今は制服着てないからさ?」

 

黒服「確かに。とはいえそんな気にするようなものでは……」

 

ホシノ「もしかしなくても恋人とかに……」

 

一般店員A「あれって事案?」

 

ホシノ「?!?!」

 

一般配達員「ゆ、ゆゆ誘拐とかですか!?通報しないと!!」

 

ホシノ「!!??」

 

黒服「何故?」

 

ーーー

 

ホシノ「こういう狭い空間に2人きりってのは緊張するね」

 

黒服「カラオケルームに何を期待しているのです?」

 

ホシノ「ほら、個室でイチャつくカップルが問題になる事とかちょっと前に話題になったじゃん」

 

黒服「馬鹿な事を言ってないで曲を選んでください」

 

ホシノ「はーい。じゃあこれデュエットしよー?」

 

黒服「『かがやきサマーデイズ』……これは貴女たちの持ち歌じゃないですか」

 

ホシノ「私は私のパートやるから他はよろしくー」

 

黒服「4役は押し付けすぎでは?」

 

ーーー

 

ホシノ「クレープ食べ歩きなんて初めてだよー」

 

黒服「アビドスにはああいう出店がありませんからね。……私の分も買ってくるとは思いませんでしたが」

 

ホシノ「先生も糖分補給した方がいいよ」

 

黒服「それもそうですね」

 

ホシノ「……うん、甘い。先生と一緒だからもっと美味しく感じるよ」

 

黒服「それは良かった。……口元にクリームが付いてますよ」

 

ホシノ「うへ……せんせー取って?」

 

黒服「仕方ありませんね」

 

ホシノ「ありがとー……///」

 

黒服「顔が真っ赤ですよ」

 

ホシノ「後から恥ずかしくなってきちゃって……///」

 

ーーー

 

ホシノ「♪〜」

 

黒服「(ホシノにとって良い気分転換になれたようですね。このまま何事もなく1日が終わればいいのですが)」

 

しかしそう願ってしまった以上問題というものは起こるものでいきなり目の前に黄色い車が止まったかと思えば麻袋を被せられて連れ込まれた。

 

ホシノ「うへぇー何これ?」

 

「実に優雅な拉致でしたわね」

 

「……責任はあんた達が取りなさいよ?」

 

「ええ。全てあのお方に押し付けますわ」

 

「はぁ……どうなっても私は知らないからね!」

 

「あれは……フウカさん、あそこにあるたい焼き屋さんに参りましょう!」

 

フウカ「後にしなさいよ!」

 

「そんな殺生な……」

 

黒服「とりあえず降ろしてもらえますか?」

 

ホシノ「うへぇ……」

 

世の中そう上手くいく事なんてない。今日もまた濃い1日になってしまいそうだとため息混じりに呟いた。



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黒服先生のミレニアム出張編#9

ハルナ「……という訳であなた方を拉致したのですわ」

 

黒服「申し訳ないのですが理解が出来なかったのでもう一度説明していただいてもよろしいでしょうか?」

 

ハルナ「仕方ありませんね。あれはつい数時間前の事です……」

 

ーーーゲヘナ学園

 

イズミ「先生連れてかれちゃったね」

 

アカリ「一体何が問題だったんでしょうね」

 

ジュンコ「絵面でしょ。トリュフを包んでいたとはいえ下着を嗅いでるのはね……」

 

ハルナ「惜しい人を亡くしましたわ。あの先生なら私達の良き理解者になってくださると思いましたのに」

 

ジュンコ「私は理由があるとはいえ下着を嗅ぐ人は無理」

 

イズミ「ところで雲って食べれるのかな?」

 

ハルナ「まあ……!美食の気配がしますわね」

 

ジュンコ「えっ美食研究会ってこんなノリだったっけ?」

 

アカリ「こんなノリですよ〜」

 

ジュンコ「まあいっか。ちょっと興味はあるし」

 

イズミ「でも雲を販売してるお店なんてあるかなぁ?綿菓子とは違うよね」

 

ハルナ「簡単な事ですわ。上空に浮いている天然物を味わえば良いのです」

 

ジュンコ「確かに天然物の方が美味しい……のかも?」

 

ハルナ「という訳でフウカさんと車を拉致してきましたわ」

 

フウカ「……またあんたたちの馬鹿みたいな事に巻き込まれるのは嫌なんだけど」

 

ハルナ「早速ですがミレニアムに向けて車を走らせていただいてもよろしいですか?あの学園なら科学で何とかなりますので」

 

フウカ「どうせ解放してくれないだろうし付き合うわよ」

 

ハルナ「流石フウカさん。それでは全速力で参りましょう」

 

フウカ「はぁ……また怒られる」

 

ーーー

 

ハルナ「……という訳ですの」

 

黒服「二度聞いても私とホシノを拉致する理由が分からないのですが」

 

ハルナ「それは……まだ言えませんわ」

 

ホシノ「………」

 

フウカ「巻き込んでしまって申し訳ありません……」

 

黒服「貴女はまともな思考回路をお持ちのようで……この状況について説明してもらっても?」

 

フウカ「私も拉致された側なので……」

 

黒服「……ベアトリーチェは何をやっているのですか」

 

ハルナ「勿論抜かりはありませんわ。それに今は彼女も忙しいようで抜け出すのは容易でした」

 

イズミ「とりあえず私達は雲が食べたいの!だからどうにかして!」

 

黒服「支離滅裂すぎでは?確かにアテはありますが」

 

ハルナ「まあ。流石私のお眼鏡に叶った殿方ですわね」

 

ホシノ「………」

 

黒服「先程から無言で銃を構えるのはやめなさい」

 

ホシノ「……先生がそう言うなら」

 

ハルナ「……なるほど。貴女は私のライバル、という事ですのね」

 

ホシノ「どうだろうねぇ」

 

ハルナ「まだ焦らなくても問題ありませんわ。……今はですけど」

 

ホシノ「やっぱり先に摘んでおいた方がいいかなぁ?」

 

ハルナ「あらあら……野蛮ですこと」

 

黒服「そこまでにしておきなさい。あも貴女の方が野蛮ですよ」

 

ハルナ「………」

 

フウカ「そりゃあそう言われるわよ」

 

黒服「面倒なので早く終わらせましょうか。そちらの……」

 

フウカ「あ、フウカです」

 

黒服「ではフウカ。道案内はしますので気は乗りませんがエンジニア部の元へ向かってください」

 

フウカ「分かりました。なるべく安全運転で行きますね」

 

ハルナ「頼みましたよ、フウカさん」

 

フウカ「あんたは黙ってて」

 

ーーー

 

ハルナ「貴方はどちらからいらしたのですか?」

 

黒服「アビドスですが……」

 

ハルナ「まあ。という事は貴方があの黒服先生ですのね」

 

黒服「おや、ご存知でしたか」

 

ハルナ「勿論ですわ。……決めました、私はアビドスに転入致しますわ」

 

ホシノ「は?」

 

黒服「生憎ですがこれ以上問題児を抱えるのは勘弁願いたいです」

 

ハルナ「あら……それは残念ですわね」

 

アカリ「アビドスの自治区って何か美味しいものはあるんですか?」

 

黒服「そうですね……異常な量を盛ってくれるラーメン屋ならありますが」

 

アカリ「その話、詳しくお願いします」

 

ホシノ「………」

 

ジュンコ「……団子食べる?」

 

ホシノ「……ありがとう」

 

ジュンコ「デートの邪魔してごめんね」

 

ホシノ「うぇ……どうしてその事を」

 

ジュンコ「その服装見れば分かるよ」

 

ホシノ「あっ」

 

ジュンコ「用が済んだらすぐに引き上げるからさ」

 

ホシノ「……ひとつ聞いてもいい?」

 

ジュンコ「いいよ」

 

ホシノ「私と先生を攫った理由は何さ」

 

ジュンコ「それはハルナがいきなり……」

 

ハルナ「ジュンコさん。無駄話はその辺にしてくださる?そろそろ突っ込みますわよ」

 

ジュンコ「……つまりこういう事」

 

ホシノ「ふーん……」

 

ジュンコ「んーでも気にしなくて大丈夫だよ。あの黒い人ハルナの事眼中になさそうだし」

 

ホシノ「そうかな……」

 

ジュンコ「そうそう。それよりも衝撃に備えてね」

 

ホシノ「うへ?」

 

フウカ「は?ちょっとハルナ、ブレーキが効かないんだけど!?」

 

ハルナ「先程壊しましたわ」

 

フウカ「はぁ!?ぶつかるじゃない!」

 

アカリ「ちょうどそこにロボットがありますしそこにぶつけましょう♪」

 

ーーー

 

ウタハ「うん、今日のメンテナンスも充分に……」

 

顔を上げた瞬間に轟音と共にロボットに激突する黄色い車。

 

ウタハ「……あっ」

 

中枢を破壊したその車は上半身の下敷きとなり潰れた。……かに思えたが小さな鬼がロボットの上半身を投げ飛ばして暴れている。

 

フウカ「もうやってられない!!黒館ハルナ!!今度という今度は許さない!!」

 

ハルナ「受けて立ちますわよ、フウカさん!!」

 

ウタハ「……どう収集を付けようかな」

 

黒服「もう付きませんよ」

 

ウタハ「あっ黒服先生。助けてくれないかい?」

 

黒服「奇遇ですね。私も貴女に助けていただきたい事がありまして」

 

黒服・ウタハ「ははは……」

 

ホシノ「先生が……笑った!?」




ホシノ→黒服←ハルナ


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黒服先生のミレニアム出張編#10

ウタハ「……なるほど。確かに面白そうだね」

 

ハルナ「如何でしょう?悪くない話だとは思うのですが」

 

ウタハ「そういうぶっ飛んだ発想は大好きだよ。……うん、新しい機械のじっけ……試すのにはちょうどいいね」

 

黒服「不穏な単語が聞こえましたが?」

 

ウタハ「大丈夫だよ。死にはしないさ」

 

黒服「科学の犠牲になるのは嫌ですね」

 

ハルナ「美食の為なら苦ではありませんわね」

 

フウカ「えっ正気?私は嫌だよ?」

 

ハルナ「そんな……!私達は一蓮托生だと仰っていたではありませんか!?」

 

フウカ「言ってないわ耳詰まってんの?」

 

ハルナ「手厳しい……」

 

ウタハ「とにかく開発はしてみるよ。そうだね……1時間もあれば終わるかな」

 

ハルナ「よろしくお願い致しますわ。……ところでマイスター、××等は作れますか?」

 

ウタハ「生憎薬学の心得はなくてね。ヒビキなら多少は知識があると思うけど」

 

ハルナ「まあ。そのヒビキというお方を紹介していただけませんか?」

 

ウタハ「それは構わないけど……彼女は今トリニティに居るんだ」

 

ハルナ「それは少々困りましたわね。仕方ありません、またの機会に」

 

ウタハ「ゲヘナ生は面倒だよね。いっそ条約でも結べば楽になるんじゃないかな?」

 

ハルナ「本当そうですわね。ゲヘナとトリニティ、互いに差別がなくならないので正直迷惑です。表立って行動出来ないので天にも昇ると言われているロールケーキを頂けてないのです」

 

ウタハ「ああ、前に先生から差し入れで貰ったやつかな。あれなら3食食べれなくもないくらい美味しいものだったよ」

 

黒服「ロールケーキ3食は厳しいのでは?」

 

アカリ「そうですよ。せめて30食はないと」

 

黒服「量の話ではありませんよ」

 

ホシノ「アビドスの皆にお土産として持って帰ってもいいかもね」

 

黒服「悪くはないですがここからトリニティは結構な距離ですよ」

 

ホシノ「大丈夫大丈夫。1日くらい伸びたって皆は気にしないよ〜」

 

黒服「……ホシノが食べたいだけなのでは?」

 

ホシノ「えぇー何の事ー?」

 

 

ハルナ「お待ちなさい。私も連れて行ってくださるかしら」

 

ホシノ「ゲヘナ学園所属の貴女は連れて行けないよー」

 

ハルナ「くっ……」

 

ホシノ「……まあ、買いに行った時に余ってたら差し入れしてあげてもいいよ?」

 

ハルナ「なんと有難い申し出……しかしロールケーキだけ差し入れされても意味がありませんわ」

 

ホシノ「えぇ……」

 

ハルナ「ほら、貴女なら分かるでしょう?……ね?」

 

ホシノ「それはダメ。絶対にダメ」

 

ハルナ「後生の頼みです!このスコヴィル値1000万級の激辛スパイスを差し上げますから!!」

 

ホシノ「そんなヤバそうなもの要らないよ!」

 

フウカ「……何処の先生も苦労しているんですね」

 

黒服「分かってくれるのですね……」

 

フウカ「ゲヘナ学園も似たようなものですから」

 

黒服「ベアトリーチェも大変なのですね」

 

フウカ「なんだかんだほとんどの生徒に慕われていますけどね。時々というか毎日暴走するのは困りますが」

 

黒服「彼女は何をやっているのですか……」

 

イズミ「でも怒ると怖いんだよねー」

 

ジュンコ「悪魔みたいな姿になるし慣れるまでは夢に出てきたなぁ」

 

黒服「……美食研究会が問題児という事は理解しました」

 

フウカ「よかった、ちゃんと他の学園の方にもそう思ってもらえて」

 

黒服「フウカも苦労が多そうですね」

 

フウカ「あれに振り回されてばかりですから……」

 

ハルナ「ですから……する人と食べる食事はですね……」

 

ホシノ「全部ダメだって言ってるでしょ!!先生は私のものなんだから!」

 

ハルナ「なっ……そんな大胆な告白をするなんて……」

 

ホシノ「……あっ///」

 

フウカ「……お2人は付き合っているのですか?」

 

黒服「いいえ。生徒に手を出すのは教師としてダメでしょう」

 

フウカ「えっ、マザーは風紀委員長と毎日添い寝していますよ?」

 

黒服「それがおかしいだけです。……ところでフウカはいつまで縛られたままなのですか?」

 

フウカ「あっ。解いてくれませんか?」

 

黒服「……慣れというものは恐ろしいですね」

 

ーーー1時間後

 

ウタハ「完成したよ。上昇気流を発生させて雲の上まで運んでくれる自律型機動装置、その名も『フ○ザ○イラ』。ついでに暑い夏も乗り切れるように寒冷機能も付けておいたよ」

 

黒服「あれに乗って雲に向かえと?」

 

ホシノ「刺々しいねぇ……」

 

ウタハ「いや、身体はそこまで強くないんだ。だからこのパラセ……」

 

黒服「それ以上はやめておきましょう。とにかくこの布で風に乗って……正気ですか?」

 

ウタハ「科学に犠牲はつきものさ」

 

黒服「それを言えば許されるとでも?」

 

ハルナ「充分ですわ。美食の為ならばこの程度の試練容易いものです!」

 

アカリ「こうやって上空に行くのは新鮮ですね」

 

イズミ「あはは!楽しいー!」

 

ジュンコ「うわっ、あの機械トゲ飛ばしてくる!変な機能をつけないでよ!」

 

フウカ「(いつもの顔)」

 

ハルナ「私達も参りましょう。さあ黒服先生、お手を差し出してくださる?」

 

黒服「嫌な予感しかしませんが……こうですか?」

 

ハルナ「ありがとうございます。……いざ美食へ!」

 

黒服「ちょっ……」

 

ハルナ「大丈夫ですわ。私に抱きついておけば落ちる事はありません」

 

黒服「……そうせざるを得ないようです」

 

ハルナ「(なるほど……これが吊り橋効果!)」

 

ホシノ「……ねえウタハちゃん。あれ撃ち落としていいかな?」

 

ウタハ「構わないけれど黒服先生に危険が及びそうだからやめておいた方がいいよ」

 

ホシノ「あの小悪魔許さない」

 

ウタハ「……ショットガンの整備用の機材を貸すよ」

 

ホシノ「ありがとう」

 

ーーー上空

 

黒服「何故こんな事に……」

 

ジュンコ「うわっぷ……雲に顔から突っ込んじゃった」

 

イズミ「来たのはいいけどこれどうやって食べるの?」

 

アカリ「この氷ピ○○ンで雲ごと凍らせればいいのです」

 

黒服「そろそろ怒られませんか?」

 

ハルナ「今更ですわよ」

 

アカリ「これを投げつければ数秒後には……ほら、固まりましたよ!」

 

ジュンコ「あれ、これ地面に落ちるんじゃ?」

 

黒服「……落ちてますね」

 

ハルナ「あら……あの機械にぶち当たりましたわ」

 

アカリ「そうなると……つまり」

 

ハルナ「はい。爆発ですわ」

 

黒服「は?」

 

ハルナ「3……2……1……」

 

黒服「カウントしてる場合ではな……」

 

ーーー地上

 

ウタハ「あっ」

 

ホシノ「せ……先生?」

 

ウタハ「私の開発した○リザ○イラが……」

 

ホシノ「……うわっ氷の塊が落ちてきた」

 

「全く……とんでもない1日ですよ」

 

ホシノ「!!先生無事だったんだ……ね……」

 

黒服「ええ。スーツの上半身は破けましたが……ネクタイが無事でよかったですよ」

 

ホシノ「………」

 

黒服「ホシノ?」

 

ホシノ「……うへぇ///」

 

黒服「???」

 

ハルナ「ご馳走様です」

 

黒服「何も食べてませんよね?」

 

ハルナ「いえ、大変美味なものを頂きましたわ」

 

アカリ「ハルナさん、何を食べたんです?」

 

ハルナ「それは……言えませんわ」

 

アカリ「あらあらぁ」

 

イズミ「この機械割と美味しい」

 

ジュンコ「えぇ……」

 

ウタハ「私の機械が食べられてる……」

 

ホシノ「うへへぇ///」

 

黒服「……誰かこの惨状をどうにかしてください」

 

フウカ「黒服先生」

 

黒服「おやフウカ」

 

フウカ「これがゲヘナ学園です」

 

黒服「……なるほど」

 

この後一応雲を固めた氷を食べたもののただの氷以外の感想はなかった。他のメンバーも変な顔をしながら食べていたが隣に座っていたハルナだけは満足そうに笑っていた。

 




何かの簡単な早見表

ホシノ→黒服

ハルナ→黒服(一目惚れ)

ヒナ⇔ベア

ベア→ゲヘナ生徒達

ヒビキ→マエ

セリナ→マエ

ユウカ→先生

ノア→???


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黒服先生のミレニアム出張編#11

クロフク『ホシノ、話とは何ですか?』

 

ホシノ『私……ずっと前から先生の事が……!』

 

ホシノ「………」

 

クロフク『……今何と?』

 

ホシノ『だから……先生の事が大好き!』

 

ホシノ「?!?!」

 

クロフク『私もですよ』

 

ホシノ「う゛ぇ゛」

 

黒服「……あれは何をやっているんです?」

 

モモイ「えっ?黒い人を攻略する恋愛ゲームだけど」

 

黒服「私を勝手に使わないでもらえますか?」

 

モモイ「えーでもホシノ先輩は悶えてるよ!!これならミレニアムプライスに出しても……」

 

黒服「私がメインならホシノにしか刺さりませんよ」

 

ミドリ「お姉ちゃん……恋愛ゲーム路線は諦めよう。キヴォトスで恋はまだ流行ってないんだよ」

 

モモイ「それなら流行らせればいいじゃん!きっとユウカ辺りには刺さるゲームになるよ!」

 

黒服「ユウカの事を舐めすぎなのでは?」

 

ホシノ「うへへぇ///先生が私の事大好きって耳元で///」

 

黒服「……ホシノが溶け始めてるのですが」

 

モモイ「えっまさか甘々モードに入っちゃった!?中断させないと取り返しが付かない事に!」

 

黒服「ホシノがスライムみたいになってしまったのですが……これ戻せます?」

 

ホシノスライム「うへへぇ」

 

モモイ「ごめん専門外」

 

ミドリ「私とユズちゃんも」

 

黒服「えぇ……」

 

ウタハ「私に任せてくれ。氷ピ○○○部隊、突撃ぃ!」

 

黒服「前から思ってましたがあの生物は科学の範疇を越えてませんか?」

 

ウタハ「正直なところあの生物の構造は知らない」

 

黒服「そんな得体の知れないものを使って大事な生徒で実験しないでもらえますか?」

 

ウタハ「犠牲はつきも……」

 

黒服「お黙りなさい」

 

ウタハ「ん?ほら、固まったじゃないか。成功だよ」

 

ホシノ氷こんにゃく「うへぇー寒いー」

 

黒服「……ゲーム開発部とウタハ」

 

モモイ「なになに?」

 

ミドリ「どうしたの?」

 

黒服「首を切り落とされたくなければホシノを元に戻しなさい」

 

全員「……はい」

 

ーーー

 

ホシノ「なんだか数十分くらい記憶がないんだけど迷惑かけたりしてないかな……」

 

黒服「ホシノはいつだって優秀な生徒ですよ」

 

ホシノ「うへへ……ありがと先生」

 

ウタハ「……元に戻せてよかった。あんな恐ろしい殺意を向けられたのは初めてだよ」

 

モモイ「ほんとね……あ、死んだって思ったもん」

 

ミドリ「今も少し震えてる」

 

黒服「悪ノリをするのは構いませんがホシノを巻き込むのはやめなさい」

 

ウタハ「善処するよ。……コトリから呼ばれたので私はこれで失礼するよ」

 

黒服「ええ。ホシノを戻していただいた事は感謝しますよ」

 

モモイ「……結局こっちは振り出しかぁ……『レジェンド・オブ・ラブストーリー』もダメになっちゃったし……」

 

黒服「なんですかそのセンスのないタイトルは……」

 

ミドリ「名付けがお姉ちゃんだからね」

 

モモイ「酷い!じゃあミドリならどんなタイトルを付けるのさ!」

 

ミドリ「『叶わぬ恋の追体験』とか」

 

黒服「破綻確定の恋愛ゲームになってしまいますね」

 

モモイ「失恋した人に追い討ちかけてない?」

 

ミドリ「………」

 

モモイ「やっぱりあれを探しに行くしかないかなぁ……」

 

黒服「あれとは?」

 

 

モモイ「G.Bibleってやつ。伝説のゲームクリエイターが作った神ゲーマニュアル?なんだってさ」

 

黒服「曖昧ですね。何処でその情報を?」

 

モモイ「ワ○ップ」

 

黒服「ガセですね」

 

ミドリ「ガセだね」

 

ホシノ「うんうん」

 

モモイ「ま、まだ分からないよ!?その情報によるとミレニアム付近の廃墟にあるって書いてあるんだよ!!行くしかないよね!?」

 

黒服「金髪の少年みたいに騙されるのがオチですよ」

 

ホシノ「刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいてねー」

 

ミドリ「お姉ちゃんは犯罪者です!」

 

モモイ「違うよ!?」

 

黒服「まあ……どちらにせよ廃墟には用がありましたので丁度いいですね。目的のものを探しながらで良ければそのマニュアルの捜索をしましょう」

 

モモイ「さっすが黒い人!話が分かる!」

 

ミドリ「黒服先生、無理にお姉ちゃんの戯言に付き合わなくても……」

 

黒服「勿論ついでに探す程度ではありますよ。本命は別にあるので」

 

ミドリ「それなら良いのですが……」

 

モモイ「なんかミドリの言葉にトゲがあるような気がする」

 

ーーー移動中

 

モモイ「……いやおかしいって!?」

 

ミドリ「お姉ちゃん、文句言ってる暇があったら走って」

 

モモイ「文句の1つや2つも言いたくなるよ!!確かに原作でも見張りのロボットはいたけどさぁ……」

 

自立型多脚自動追尾発射兵器「ガチャンガチャン」

 

モモイ「物騒な名前ついてるけどただのキャノンじゃん!?ダマのグモじゃん!?ここ地上だよ!?普通は地下の秘密基地にいるやつじゃん!?」

 

黒服「4では地上にも居ますよ」

 

モモイ「あっそうなんだ。……でもあの量はおかしいでしょ!?過剰だよ過剰!!」

 

ホシノ「1.2匹少なかったら何とかなるんだけどねぇ……あの弾幕は強引に突破出来なさそうだよ」

 

黒服「ノノミが居ればまだ何とかなりそうではありますね」

 

モモイ「アビドスの2人は何でそんな冷静なの!?ピンチなんだよ!?」

 

黒服「ホシノが居ますので」

 

ホシノ「先生が守れる位置にいるからねぇ」

 

モモイ「このバカップル!!」

 

ミドリ「あっ、あそこ扉が開いてる」

 

モモイ「もうあそこに逃げ込むしかないよ!!」

 

黒服「……偶然にも目的の場所に来たようです」

 

モモイ「もうキャノンは追ってこない?……よかったぁ……」

 

ミドリ「走りすぎて息が……」

 

黒服「反応はこちらからですね」

 

ホシノ「……私も何か感じる。なんだろうこの感覚」

 

ミドリ「……お姉ちゃん、あの2人先に行っちゃったよ」

 

モモイ「えぇ!?あんなに走ったのに休憩しないの!?スタミナ量おかしいって!!スタミナサポカ×6編成なの!?」

 

ミドリ「誰に伝わるのそのネタ」

 

ーーー

 

黒服「足元が不安定ですね……」

 

ホシノ「奈落みたいに真っ暗な場所もあるね」

 

黒服「誤って落ちないように気をつけてくださいね」

 

ホシノ「もう既に落ちてるよ」

 

黒服「え?」

 

ホシノ「あっ、いや、何でもないよ」

 

黒服「全く、不安になる冗談はやめてくださいね」

 

ホシノ「はーい」

 

黒服「……反応はこっちからですね。……おや」

 

ホシノ「なんか幻想的な空間だね」

 

黒服「あれは……間違いありません。反応はあそこから出ています」

 

ホシノ「んー?……?!?!」

 

黒服「『AL-1S』……これがマエストロの言っていたミレニアムの神秘……」

 

ホシノ「………」

 

近くで見ようとした直後ホシノに視界を封じられた。何故?何故?何故?何故?何故?何故邪魔をするのです?

 

黒服「……ホシノ?目隠しを外してもらえますか?」

 

ホシノ「ダメ」

 

黒服「目の前に大事なものがあるのですが……」

 

ホシノ「先生にとって裸の女の子は大切なの!?私が居るのに!!」

 

黒服「……裸?」

 

ホシノ「裸!!」

 

黒服「裸に興味はありませんが……目の前にいる少女の身体には興味がありますね」

 

ホシノ「?!?!先生もシャーレの人みたいな変態だったんだ!!」

 

黒服「あれと一緒にされても困るのですが……それよりどうやって持ち帰るかをですね……」

 

ホシノ「お持ち帰り!?裸の女の子を!?」

 

黒服「………」

 

黒服さんは何を言ってもあらぬ誤解をするホシノさんに初めて離れてほしいと思ってしまったのだとか。

数分かけて誤解を解いた後に合流してきたモモイとミドリにまた勘違いをされて物凄い疲弊をしたのだとか。

 

黒服「(目の前に神秘があると言うのに……何なのでしょうこの思春期達は)」

 

ベアトリーチェに丸投げしたいと心の底から思いながら対応した。




おまけ 前回の後日談 ゲヘナ学園の食堂でのやりとり

ハルナ「………」

フウカ「あんたが大人しいのは珍しいわね」

ハルナ「あらフウカさん。本日のランチも美味でしたわ」

フウカ「そう。……で、何が原因なの?やっぱりアビドスの先生の事?」

ハルナ「!?フウカさんは超能力者なのですか!?」

フウカ「あんたが大人しくなったのってあの日からじゃない」

ハルナ「その……今から話す事は誰にも言わないでくださる?」

フウカ「うん」

ハルナ「……あの黒服先生を見てからというものの……何を食しても満足出来なくなってしまいましたの」

フウカ「うんうん」

ハルナ「それどころか常にあの素敵なお姿が常に脳裏によぎるので集中力もなくなってしまい……」

フウカ「ふーん」

ハルナ「……まさか不治の病に侵されてしまったのでしょうか!?」

フウカ「恋よ」

ハルナ「えっ」

フウカ「あんたが黒服先生に惚れたってだけじゃない」

ハルナ「私が……?」

フウカ「あれだけアピールしてたのに自覚なかったの?」

ハルナ「……うふふふ」

フウカ「うわっ、どうしたのよ」

ハルナ「なるほど。これが恋というものなのですね。心が昂って抑えられなくなってしまいそうです」

フウカ「でも黒服先生からの反応を見た感じあんた眼中になさそうな態度取られてたわよ」

ハルナ「えっ……」

フウカ「そりゃあ隣にあのホシノ先輩が居るならそうなるわよね」

ハルナ「……せん」

フウカ「え?」

ハルナ「諦めませんわ!昔読んだ書物にもこう書かれていましたもの!『恋はいつでもハリケーン!』と!」

フウカ「……まあ頑張って」

※最後のハルナのセリフを言わせたかっただけの5分で書いた後書き


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黒服先生のミレニアム出張編#12

満員電車の中で書きました。


ホシノ「……先生」

 

黒服「どうしました?」

 

ホシノ「なんでその子にアビドスの制服を着せてるのさ」

 

黒服「私の生徒にしようかと思いまして」

 

ホシノ「やっぱり身体目当てだったの!?」

 

黒服「違いますよ」

 

ホシノ「………」

 

黒服「このような精巧に出来ているアンドロイドが存在する事に驚いてしまいましてね。研究者としての血が騒いでいるのですよ」

 

ホシノ「なーんだ。てっきり好みのタイプだから側に置いておきたいとかそういうのだとばかり……」

 

黒服「側に置くのは(最大の神秘である)ホシノだけで充分です」

 

ホシノ「うへっ///」

 

黒服「(ちょろいですね)」

 

ホシノ「ま、まあ?そこまで言うなら先生の事を信じるよ」

 

黒服「理解をして頂けたようで助かります」

 

AL-1S『接触者を確認。休眠状態を解除します』

 

ホシノ「おぉ〜動いたね」

 

AL-1S「接触許可確認……シャーレの先生による承認を確認。敵対状態を解除します」

 

黒服「ふむ。どうやら意思の疎通は出来そうですね」

 

AL-1S「会話を試みます……この状況の説明をお願い出来ますか?」

 

黒服「もしや記憶の処理に問題が発生しているのですか?」

 

AL-1S「肯定。本機の自我、記憶、目的は消失状態である事を確認」

 

ホシノ「うへぇ……なんか難しいこと言ってる……」

 

AL-1S「?先程の発言が理解されていないことを確認。繰り返し発言します」

 

黒服「大丈夫ですよ。ホシノはああ見えて理解していますからね。……問題は」

 

モモイ「ねえミドリ、私すっごくいい事を思いついたんだけど」

 

ミドリ「嫌な予感しかしないんだけど……」

 

黒服「まさかとは思いますがAL-1Sの拉致を考えたりはしていませんよね」

 

モモイ「ギクッ」

 

ミドリ「やっぱり……」

 

モモイ「だってだって!!この子を部員に出来たら廃部を取り消してもらえるかもしれないんだよ!?」

 

ミドリ「それはそうだけど……」

 

黒服「拒否します。AL-1Sは私の元に……」

 

ホシノ「まあまあ先生、一旦落ち着こう?」

 

黒服「ですが……」

 

ホシノ「最悪の事態を想定すると側に置いておきたい気持ちも分かるんだけどね」

 

黒服「……なるほど。ホシノも見抜いているのですね」

 

ホシノ「何となくね」

 

モモイ「えっと……エーエルワン……ああもう、ややこしいからアリス!貴女はアリスちゃんね!」

 

AL-1S「アリス?」

 

モモイ「そう!エーエルなんたらよりも呼びやすいし!」

 

AL-1S「……承認しました。機体名を『アリス』に設定します」

 

黒服「モモイ、あまり勝手な操作をしないでいただきたい」

 

モモイ「ごめんなさい」

 

ミドリ「えっと……アリスちゃん、でいいのかな?」

 

アリス「肯定。本機の名称はアリスです」

 

黒服「勝手に名前を変えてしまうとは……エラーになったりしませんよね?」

 

アリス「機体名の変更程度では問題ありません」

 

黒服「それは良かった。では今後はアリスと呼ばせていただくとしましょう」

 

アリス「………」

 

黒服「私を見てどうしました?」

 

アリス「貴方がここに居る理由を問います。本来ならばあり得ない事で……」

 

黒服「本来あり得ない?……興味深い。詳しくお伺いしても?」

 

アリス「……長期休息による記憶の異常により回答不可です」

 

黒服「……ふむ。ならばある程度時間が経ってから再度問うとしましょう」

 

ホシノ「とりあえずこの子どうするの?」

 

モモイ「それは勿論言葉を覚えさせてうちの部員に……」

 

黒服「言葉ならもう話せていますよ?意思疎通が可能ならば教える必要はありせんよね」

 

モモイ「そんな機械的な感じじゃなくて!もっと女の子みたいな話し方じゃないとあの魔王ユウカにバレるよ!!」

 

黒服「ユウカは魔王なのですか?」

 

ミドリ「没にしたゲームのボスとしてユウカを配置したんだ」

 

黒服「普段からユウカにそのような態度をとっているから危機に陥っているのでは?」

 

モモイ・ミドリ「……あっ」

 

ホシノ「えぇ……」

 

モモイ「で、でも過ぎたことはしょうがないよ!!だからえっと……アリスちゃんはもらうね!!」

 

黒服「お断りすると言ったでしょう。アリスは私の監視下に置かなければ」

 

アリス「……救援を求めます」

 

ホシノ「うへえ?こっちに近づいてきてどうしたのさ」

 

アリス「貴女には何故か親近感を覚えます。なので行動を共にするのが最善だと判断しました」

 

ホシノ「えぇ……いきなり後輩が出来ちゃったよ」

 

黒服「ホシノに懐いている以上アビドスの生徒になる事は確実ですね」

 

モモイ「100%なんて存在しないんだよ!!何としても絶対にアリスちゃんを部員にするんだから!!」

 

ホシノ「とりあえず帰ろうよ。モモイちゃんもずっと廃墟で叫んでるのも疲れるでしょ?」

 

モモイ「確かに……」

 

黒服「良い判断ですよホシノ」

 

ホシノ「うへへ……///」

 

ーーー

 

モモイ「今日のところは預けとくけど明日からは私達の部員になってもらう為に働いてもらうからねー!!」

 

黒服「……自分勝手すぎませんか?」

 

ミドリ「お姉ちゃんの代わりに謝らせて下さい。……ですが廃部の危機なのも本当なので部員の件も考えてくれたら嬉しいです。それでは」

 

ホシノ「またね〜」

 

アリス「廃部……部活動が廃止されること。既に危機的な状況なのであれば加入したところで無駄な気がします」

 

黒服「私も同意見ですよ。その場限りの策を実行したところで根本を解決しなければいけませんからね」

 

ホシノ「んーでもさー、先生は今臨時とはいえミレニアムの担当なんでしょ?なら見捨てるのはどうかと思うなぁ」

 

黒服「……まさかホシノと意見が分かれるとは思いませんでしたよ」

 

ホシノ「私もー。先生の意見は絶対!って感じでもいいんだけどさ、大切な人には間違った方に進んと欲しくないんだよね」

 

黒服「……変わりましたね」

 

ホシノ「先生がずっと助けてくれたからね。何もなかった私にも余裕が出来てきたのかもね」

 

黒服「ホシノがそこまで言うのであれば考えてみましょうかね。……アリスをしばらく任せましたよ」

 

ホシノ「うん。ありがと」

 

アリス「話は纏まりましたか?」

 

ホシノ「纏まったよー。とりあえずアリスちゃんは今日徹夜でお勉強だねー」

 

アリス「???」

 

ホシノ「まーアンドロイドだから寝なくても大丈夫なのかな?羨ましいねー」

 

アリス「あの……」

 

ホシノ「いいからいいからーさ、こっちにおいでー」

 

アリス「引っ張らないでください、ホシノ」

 

黒服「……ホシノがあそこまで積極的になるとは思いませんでしたよ。……従順だと思っていたのですがね。……ですがあそこで意地を張り続けてホシノに嫌われる、なんて事があれば全てが水の泡ですからね」

 

そう、焦らずともいい。しばらくは自由にさせておいても計画に支障はないのだから。

 

黒服「ただ……あの躯体に神秘と言えるほどの価値はほとんど無さそうですね。休眠を解除してから一気に反応が弱まりましたし」

 

ーーー

 

ホシノ「まずは自己紹介から覚えようか。試しに何か言ってみて」

 

アリス「了承。機体名はアリス。所属は……」

 

ホシノ「悪くはないけど硬いねぇ……もっと柔らかくいこ?」

 

アリス「柔らかく……とは?」

 

ホシノ「『アリスです!』みたいな感じで」

 

アリス「そのような挨拶で伝わるのでしょうか?」

 

ホシノ「いーのいーの。名前だけ覚えてもらえたら後はどうにかなるよ」

 

アリス「理解しかねます。自己紹介の意味をなしていないのではありませんか?」

 

ホシノ「アリスちゃんにもいつかわかる時がくるよ」

 

アリス「……分かりました」

 

ホシノ「うん。良い返事だね。次は日常会話の練習をしよっか」

 

ーーー数時間後

 

ホシノ「………」

 

アリス「ホシノ?」

 

ホシノ「うぇ……眠くて意識が飛んでたよ。えっと……何処まで教えたっけ」

 

アリス「……理解できません。眠いなら中断しても良いのでは?」

 

ホシノ「うーん……何でだろうね」

 

アリス「……ホシノは答えを知っていると予測しました。教えてください」

 

ホシノ「えぇー本当に知らないよ?」

 

アリス「脈拍、体温諸々の変化により嘘を付いていると判断しました。何か言えない理由でもあるのですか?」

 

ホシノ「……誰にも言わない?」

 

アリス「了承します」

 

ホシノ「……昔ね、1人の女の子が居たんだよ。その子は大事なものを全部失って絶望しちゃって。何でもかんでも1人で背負って生きていこう、誰も信用しないでいようって考えていたんだ」

 

アリス「………」

 

ホシノ「そんな彼女にね、1人の大人が寄り添ってくれたんだ。『子供が1人で背負う必要はない、もっと頼れ』って。まあ……その時の女の子は生きるのに疲れちゃってたから利用されてもいいやって自暴自棄だったんだ」

 

アリス「……その話はホシノが先程の事を言えない事に関係があるのですか?」

 

ホシノ「まあまあ。……その後その大人は少女に真摯に向き合ってくれたんだ。空っぽだった少女に1つ、また1つ大事なものが増えていってね」

 

アリス「………」

 

ホシノ「気がついたら周りが大事なもので溢れていたんだ。その時ね、『もう一度生きてみよう』って思ったんだ」

 

アリス「もう一度……」

 

ホシノ「……っていうお話なんだけど、何故だかアリスちゃんがその女の子と重なって見えちゃってね」

 

アリス「……そうですか」

 

ホシノ「だからアリスちゃんにも居場所が必要だと思うんだ。その為に私は頑張らないと、ね」

 

アリス「やはり先程の話に出てきた少女はホシノの事では……」

 

ホシノ「えー何の事?」

 

アリス「……1つ質問しても良いですか?」

 

ホシノ「うん」

 

アリス「アンドロイドである私にも『大事なもの』は見つかるのでしょうか?」

 

ホシノ「……見つかるよ。必ずね」

 

アリス「……本当に?」

 

ホシノ「本当だよ。大事なものなんて少しずつ見つけていけばいいんだよ。生きるってそういう事だからさ」

 

アリス「では……『ホシノ』を大事なものに登録してもよろしいですか?」

 

ホシノ「……うん、いいよ」

 

アリス「承認されました。アリスの大事なものにホシノを登録しました」

 

ホシノ「そうそう。そうやって増やしていけばいいんだよ」

 

アリス「……少し理解出来たような気がします」

 

ホシノ「……そっか」

 

アリス「……また質問をしてもいいですか?」

 

ホシノ「いいよ」

 

アリス「ホシノにとって1番大切なものは『先生』なのですか?」

 

ホシノ「うぇ」

 

アリス「ホシノは先生と会話をしている時に体内温度が上がり心臓の鼓動も早くなっております。解析の結果恋をしているという結果に……」

 

ホシノ「も、もう。そこは触れないでよ」

 

アリス「???隠す意味が理解できませんが……」

 

ホシノ「え、えっと……と、とにかく触れないで!!」

 

アリス「???分かりました」

 

黒服「順調に教えられているようですね。……それにしてもこの箱庭の生徒があのような発言をするとは。彼女の内側に秘めた神秘の正体も気になりますが……今はホシノに任せておけばいいでしょう」

 

ーーー数時間後 昼

 

モモイ「学生証をパク……持ってきたよー!さあさあアリスちゃん、書き込んじゃってー!」

 

アリス「分かりました」

 

ミドリ「おお……ちょっと話し方が柔らかくなってる?」

 

アリス「ホシノに一日中教えて貰いました!」

 

ホシノ「うへへぇ……」

 

モモイ「寝てる……あっ、今のうちに書いておけばいいんじゃ!?」

 

アリス「?よく分からないですが名前を書けばいいのですね!」

 

ミドリ「あっ……もう。責任はお姉ちゃんがとってね」

 

アリス「……書けました!」

 

モモイ「……あれ、この苗字って」

 

アリス「アリスの大事なものから教えて貰いました!」

 

ミドリ「いいのかな……」

 

アリス「はい!アリスはこれがいいです!」

 

新しい学生証にはこう記されている。

『小鳥遊 アリス1年生』と。




新キャラ 小鳥遊アリス ホシノの苗字を勝手に借りて勝手に書いた結果こうなった。ミレニアムに所属する事になったのでいずれホシノと離れる事になるけれど本人はまだ理解していない。

あとちょっと今回話の流れが分かりづらいかもしれま……えっ毎回分かりづらい? ごめんなさい


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黒服先生のミレニアム出張編#13

 

 

ユウカ「小鳥遊アリスちゃん、『ゲーム開発部』に所属っと……それにしてもアビドスから転入してわざわざこんな部活に入ってくれる人が居るとはね……」

 

モモイ「こんな部活ってなにさ!?大事な大事な部活なんだよ!!」

 

ユウカ「はいはい。とりあえず廃部にするのは保留してあげるから早いうちに成果を出してよね」

 

モモイ「えっそんな簡単に廃部を取り消してくれるの?」

 

ユウカ「人数が増えたなら取り消すって約束したでしょ?」

 

モモイ「ユウカって約束守るんだ……」

 

ユウカ「やっぱり廃部にしようかしら……」

 

モモイ「横暴だー!やっぱりユウカは冷酷な算術使いなんだ!!」

 

アリス「?何故あの2人は争っているのでしょうか?」

 

ミドリ「あれは挨拶みたいなものだよ」

 

アリス「なるほど。ホシノには教えてもらっていない挨拶です!モモイは面白いですね!」

 

ミドリ「何かずれているような……」

 

ユウカ「と、に、か、く!!新しい部員も加わったんだから頑張りなさいよね!」

 

モモイ「分かってるよ!ユウカも驚くようなゲームを作ってみせるからね!」

 

ユウカ「そこまで言うなら次のミレニアムプライスを楽しみにしてるわね。……アリスちゃん、これからよろしくね」

 

アリス「はい、よろしくお願いします、ユウカ!」

 

ユウカ「……ねえアリスちゃん、今からでもセミナーに……」

 

モモイ「ダメだよ!?アリスは私達の部員なんだから!!」

 

ーーー

 

黒服「結局アリスはミレニアムに所属する事になったのですね。私が席を外している間にそのような事になっていたとは思いませんでしたが」

 

モモイ「結果的に廃部を免れたから助かったよー」

 

黒服「勝手な事をするなとお伝えしたはずですが?」

 

モモイ「……あっ。えっと……」

 

黒服「教育を受けさせてあげましょう。連帯責任でミドリもです」

 

ミドリ「えっ」

 

黒服「ミレニアムに訪れてからというもの貴女達2人には随分と振り回されて……」

 

アリス「あれがお説教というやつですね。モモイとミドリが先生に連れて行かれてしまいました」

 

アリス「……暇になってしまったのでホシノに会いに行きましょう!」

 

ーーー

 

ホシノ「スヤァ」

 

アリス「やはり寝ていました。ですがホシノが起きてくれないとアリスは暇です。どうしましょう」

 

ホシノ「……せんせ……」

 

アリス「?寝言というやつでしょうか?もっと近くで聞きましょう」

 

ホシノ「うへへ……だいすき……」

 

アリス「?」

 

ホシノ「えへへ……」

 

アリス「寝ているのにホシノは幸せそうです。身体を休めると幸せになれるのでしょうか?」

 

アリス「!閃きました!」

 

ーーー

 

黒服「これに懲りたら反省してくださいね」

 

モモイ「ハイ」

 

ミドリ「お姉ちゃんが壊れちゃった……」

 

黒服「本来であればこの程度で済ますのはありえない事ですがアリスが貴女達の部活に所属する以上やりすぎると面倒な事になりますからね」

 

モモイ「アリスチャンハセキニンヲモッテメンドウヲミマス」

 

ミドリ「お姉ちゃん見辛いよ」

 

モモイ「ごめん」

 

黒服「責任を持って面倒を見ると言いましたね?では貴女達には本日中にアリスの武器を調達してもらいます」

 

モモイ「えっそんないきなり言われても今日は新作のゲームが……」

 

黒服「1つ伝え忘れていました。ここにいる間私はゲーム開発部の顧問という扱いになるのです」

 

モモイ「えっそうなんだ!じゃあ一緒にゲームでも……」

 

黒服「私の発言1つで廃部にする事も可能らしいです」

 

ミドリ「えっ」

 

黒服「つまり貴女達にはアリスの面倒を見る以外の選択肢はありません。理解したのであればさっさとアリスの武器を用意しなさい」

 

モモイ「ひ、酷い……冷酷な黒スーツ男だよ」

 

ミドリ「お姉ちゃんもう喋らないで。これ以上黒服先生を怒らせてどうするの」

 

黒服「予算を握っているのも私という事をお忘れなく」

 

モモイ「ごめんなさい」

 

黒服「謝罪する意思があるのであれば行動で示してもらえますか?」

 

モモイ「わ、わわわかった!急いで武器を探してくるから!!」

 

黒服「……マエストロは何故従順になるように教育しなかったのでしょうか?出会ってきたミレニアム生徒達の9割は問題児なのですが……」

 

シロコ「ん、それが個性」

 

黒服「ああ……そういえば1番の問題児は貴女でしたね。今更ですが何故ミレニアムに居るのです?」

 

シロコ「ライディングしてたら道に迷った」

 

黒服「理解しかねますがシロコですし」

 

シロコ「そういえばこの辺りに銀行が……」

 

黒服「やめなさい」

 

シロコ「あったから襲ってきた」

 

黒服「自首しなさい」

 

ーーー

 

ホシノ「んー……」

 

アリス「!ホシノが起きそうです!揺さぶります!」

 

ホシノ「あばばばば」

 

アリス「朝ですよ!起きてください!」

 

ホシノ「お、起きたから止めてぇー」

 

アリス「ホシノ、おはようございます!」

 

ホシノ「おはよ……うぇ……目が回る……」

 

アリス「いつもより大きく回しました!」

 

ホシノ「次からは加減してね……ありゃ、もうお昼を越えちゃってる。本当は寝たいけど夜型になっちゃいそうだから起きないとね」

 

アリス「ではアリスとの会話に付き合ってください!ホシノ以外は忙しいので構ってくれないのです!」

 

ホシノ「うへぇ……私暇人って思われてる……」

 

アリス「?違うのですか?」

 

ホシノ「……否定は出来ないけどね」

 

アリス「ではアリスとお話しましょう!あっ、ホシノに見てもらいたいものがあります!」

 

ホシノ「えーなになに?」

 

アリス「アリスの学生証です!これでアリスも生徒になりました!」

 

ホシノ「ほんとだーモモイちゃん仕事が早いねぇ。名前もアリスって書いて……んえ?」

 

アリス「ホシノ?何かおかしいところでもありましたか?」

 

ホシノ「『小鳥遊アリス』……?あれっアリスちゃんって苗字私と同じだったっけ」

 

アリス「ホシノの苗字を書きました!苗字は大事なものだと聞いたのでアリスの大切なものから名づけました!」

 

ホシノ「えっ」

 

アリス「という事で機体名は『小鳥遊アリス』に更新されました!」

 

ホシノ「えっ」

 

アリス「ホシノはアリスに言葉を教えてくれて今のアリスに育てた人なので親のようなものです!」

 

ホシノ「えっ」

 

アリス「つまり『ホシノお母さん』って事です!アリスはホシノの娘です!」

 

ホシノ「えっ」

 

アリス「これからもよろしくお願いします、ホシノお母さん!」

 

ホシノ「……ど」

 

アリス「?」

 

ホシノ「どうしてこうなったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」

 

ーーー

 

ウタハ「武器が欲しい?そう言われても今手元にあるのはこの光の剣:マスターソ……」

 

「どうしてこうなったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」

 

モモイ「うわっ、びっくりした」

 

ミドリ「鼓膜が破けるかと……」

 

ーーー

 

ヒマリ「アビドスから来た2人と連絡が取れません」

 

エイミ「えっ普通にモモトークで会話してるけど」

 

ヒマリ「えっ」

 

エイミ「部長2人と交換してないもんね」

 

ヒマリ「いいんです!超天才美少女のお眼鏡に敵わないというだけの話で……」

 

「どうしてこうなったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」

 

ヒマリ「んえぶ」

 

エイミ「部長が超音波攻撃を受けて変な声を出してる」

 

ーーー

 

コタマ「今日もあの黒服先生の部屋の盗聴をします」

 

ハレ「ドア付近の街灯から盗聴するのは無理があるんじゃないかな」

 

コタマ「室内に仕掛けても毎回取り除かれてしまうのでここから盗聴するしかないんです。今日はどんな音声が……」

 

「どうしてこうなったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」

 

ハレ「おおっ……凄い爆音。あれ、コタマ先輩スマホを見せてきてどうしたの?」

 

コタマ『いきなり耳が聞こえなくなりました。サイバー攻撃を受けています』

 

ハレ「バチが当たったのかな」

 

ーーー

 

ユウカ「黒服先生が居てくれてる間は仕事が減って楽ね。いっそミレニアム所属にでも……」

 

「どうしてこうなったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」

 

ユウカ「うわっ!?窓ガラスが!!これ経費で落とせるのかしら……」

 

ノア「ユウカちゃんが割った事にすれば経費で落としてもいいと思いますよ」

 

ユウカ「何処から出てきてるのよ!?」

 

ノア「ずっと後ろに居ましたよ?」

 

ユウカ「私の後ろ壁なんだけど……」

 

ーーー

 

黒服「……なるほど。ありがとうございますゴルコンダ。お忙しい中連絡して申し訳ありません」

 

ゴルコンダ『いえいえ。数日ぶりにまともな人と話せて正気を保つ事が出来ました』

 

黒服「……大変そうですね。それでは失礼し……」

 

「どうしてこうなったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」

 

ゴルコンダ『どうやらお互いに大変なようですね』

 

黒服「……ええ。本当に」

 

ゴルコンダ『電話を切る前に念の為お伝えしますが……あくまで外の世界でそういった概念がないと有効ではない、という事だけは注意してくださいね』

 

黒服「心得ております。感謝しますよ……さて、ホシノの元へ向かいますかね」

 

今まで聞いた事がないほどの大声を出したホシノ。これも恐怖を注入した事による影響……

 

黒服「……流石に考えすぎでしょうね」




ホシノお母さん概念誕生


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黒服先生のミレニアム出張編#14

ホシノ「………」

 

黒服「……アリス、ホシノに何をしたのです?宇宙の真理を知ってしまったような顔をしているのですが」

 

アリス「アリスはホシノお母さんと呼んだだけです!」

 

ホシノ「えっ」

 

黒服「ああ……それが原因ですね」

 

アリス「呼んではいけないのですか?」

 

黒服「ホシノに耐性が付くまでは禁止です」

 

ホシノ「(私がアリスちゃんのお母さん?私まだ高校生なんだけどお母さん?こんなちんちくりんな体型の私がお母さん?いやいやいやいやおかしいよ!!……でも私がお母さんならアリスちゃんのお父さんってつまり……)」

 

黒服「こちらを見てどうしたのですか?」

 

ホシノ「うへっ」

 

黒服「ホシノ?」

 

ホシノ「?!?!」

 

黒服「大丈夫ですか?」

 

ホシノ「だ、だだだだだ大丈夫だよ!?」

 

黒服「駄目そうですね」

 

アリス「!ホシノお母さんは体調が悪いのですか!アリスがベッドに運びます!」

 

ホシノ「大丈夫!大丈夫だから!!ちょっと取り乱しちゃっただけだよ!!」

 

アリス「大丈夫ならいいのです!」

 

黒服「しかし顔が真っ赤ですね。熱でもあるのでは?」

 

ホシノ「平熱!平熱だから!!」

 

黒服「……何か隠しているのですか?」

 

ホシノ「してないよ!!……ただ」

 

黒服「ただ?」

 

ホシノ「……ホシノお母さんって呼ばれて恥ずかしくなっちゃっただけだよ」

 

アリス「それでしたら先程先生が言っていたようにしばらく呼ぶのはやめます」

 

ホシノ「そうしてもらえると助かるかな……変な妄想もしちゃうし」

 

アリス「分かりました!」

 

ホシノ「アリスちゃんは良い子だね」

 

黒服「ええ。流石ホシノの娘ですよ」

 

ホシノ「ふぇ」

 

黒服「失礼。ついからかってしまいました」

 

ホシノ「私の娘って事は先生の娘でもあるんだからね……」

 

黒服「何か言いましたか?」

 

ホシノ「?!何でもないよ」

 

黒服「そうですか」

 

ホシノ「(聞かれてないよね……?)」

 

黒服「(何故アリスが私の娘という事に?)」

 

アリス「?つまりアリスはホシノと先生の娘なのですか?」

 

ホシノ「えっ」

 

アリス「今ホシノがそう言ってました!」

 

ホシノ「い、言ってない!言ってないからぁ!!」

 

ーーー

 

ユウカ「……それで叩かれたから顔が真っ赤に腫れたんですね」

 

黒服「天にも昇る一撃でしたよ」

 

ユウカ「洒落になってません。……とりあえず応急処置は完了しましたよ」

 

黒服「ありがとうございます。吹き飛ばされた先にユウカがいて助かりましたよ」

 

ユウカ「ここ19階なんですけどね……」

 

黒服「ホシノの一撃ですから」

 

ユウカ「アビドスって色々おかしいですよね」

 

黒服「否定は出来ないですね……ところでユウカ、1つ話をしませんか?」

 

ユウカ「何ですか?」

 

黒服「………………」

 

ユウカ「……えっ」

 

黒服「……どうでしょう?」

 

ユウカ「言われてみれば……いえ、そうかもしれません」

 

黒服「話は以上です。治療していただきありがとうございました」

 

ユウカ「あっはい」

 

黒服「案外上手くいくものですね」

 

ユウカ「………」

 

ーーー

 

ホシノ「あれ、先生は?」

 

アリス「ホシノが吹き飛ばしました」

 

ホシノ「えっ!?先生!?」

 

アリス「あれは1発KOと呼ばれるものに似ていましたね。綺麗に吹き飛んで行きましたよ」

 

ホシノ「先生ごめーん!!今すぐ治療にいくからねぇ!!」

 

アリス「あっ……また1人になってしまいました」

 

モモイ「今だー!捕獲ー!!」

 

アリス「!?」

 

ミドリ「お姉ちゃん、今は誰もいないよ」

 

モモイ「よーし!急いで拉致をするよー!!」

 

アリス「大変です!アリスが誘拐されてしまいます!」

 

ミドリ「すぐに終わる用事だから大丈夫だよ」

 

ーーー

 

ウタハ「なるほど。その子がアリスか。……髪が長いね。床についてるよ」

 

アリス「アリスは何故ここに誘拐されたのでしょう?」

 

モモイ「それはね……アリスちゃんに武器を持ってもらおうと思ったからなんだ!!」

 

ミドリ「今日中に持たせないと危機に陥るから急いでるんだけどね」

 

アリス「武器ですか?」

 

ウタハ「エンジニア部である私が作成した自慢の面白……武器だよ。気に入ったやつを1つだけ持っていっていいよ」

 

モモイ「あ、あっちにトレーニングルームも用意してもらったから試したいならあっちに行ってね」

 

アリス「分かりました!とはいえどんな武器がいいのでしょう?」

 

モモイ「あの馬鹿でかいロボットとかどう?」

 

ウタハ「ああ、あれは依頼されて作ってるものだから貸す事は出来ないよ。依頼料として大金を貰ったから真面目に作っているんだ」

 

ミドリ「名前はアクセ……」

 

ウタハ「おっと。それよりもアリスの武器を選ぶべきじゃないかな」

 

モモイ「まだ触れちゃいけないんだね」

 

アリス「このペンダント?って武器なのですか?」

 

ウタハ「それはヒビキが開発したものだね。歌で起動するタイプの戦闘用装備?とか言ってたかな」

 

モモイ「毎回歌うの?面倒じゃない?」

 

ウタハ「ロマンがあって良いじゃないか」

 

アリス「この角?が付いた武器は何ですか?」

 

ウタハ「それは神代の力を利用した武器でね。スクラビ……」

 

モモイ「ティ○キンじゃん」

 

ウタハ「おっと。触れない方が良さそうだね」

 

アリス「この円盤みたいなものは?」

 

ウタハ「それはサテライトって武器種だね。SAIONJIってブランドが開発していたものを改造してレーザーとか出るようにした武器だよ」

 

ミドリ「もう倒産していそうな社名だね」

 

モモイ「サービス終了を倒産って言うのはやめなよ」

 

アリス「面白い武器が色々あるんですね!あれ、こっちのピンク色の銃は何ですか?」

 

ウタハ「それはとある神の力が宿っている素材を加工したやつだね。確かハトホルだったかな」

 

モモイ「神の名前の武器ってなんか厨二臭いよね」

 

ミドリ「ロマンはあるけどね」

 

ウタハ「お、このロマンを分かってくれるんだね。……ただ何故だか分からないけどこの銃は黒服先生が来た日以降調子が良いんだ」

 

モモイ「えっ銃の調子が良いってどういう事?」

 

ウタハ「見た目はただのアサルトライフルなんだけど……試しにあそこに向かって撃ってみてほしい」

 

アリス「こうですか?……わっ!」

 

ウタハ「……このように破壊的な威力のレーザーが撃てるようになってたんだ。しかもリロードの必要はない」

 

モモイ「何それ!?チート武器じゃん!?」

 

ウタハ「ただ使い手を選んでいるのか分からないけど1発撃った後に反動で吹き飛ばされるんだ。だからあまりオススメは……」

 

アリス「この銃とても使いやすいです!!」

 

モモイ「本当に反動なんてあるの?アリス、ちょっと貸して!」

 

アリス「分かりました!どうぞ!」

 

モモイ「いっくよー……ファイナルフラァッシュュュ!……本当にすっっごい威力だね!」

 

ミドリ「……やっぱり反動なんてないんじゃ?」

 

ウタハ「ああ。この後だよ」

 

モモイ「あれ……なんか身体が浮いてるような……ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

ミドリ「あっお姉ちゃんが吹き飛ばされた」

 

ウタハ「数100キロは吹き飛ばされるよ」

 

ミドリ「えっお姉ちゃんこの後出番ないの?」

 

ウタハ「帰って来れたらあるんじゃないかな。それよりもアリスが使うと反動がない事に驚いたよ」

 

アリス「どうしてアリスはモモイみたいに吹き飛ばないのでしょう?」

 

ウタハ「神様に選ばれたんじゃないかな。……なんてあり得ないね」

 

アリス「選ばれた……なるほど理解しました!アリス、この武器にします!」

 

ウタハ「分かった。ただちょっとだけ貸してくれるかい?レーザーが出るなら見た目を変えよう」

 

ミドリ「この光の剣?って武器の見た目にするのはどうですか?」

 

ウタハ「良いね。よし、5分だけ待ってて」

 

アリス「分かりました!」

 

ミドリ「お姉ちゃんの犠牲は無駄にならなかったよ」

 

ーーー5分後

 

ウタハ「完成したよ。名付けて『光の剣:ハトホル』我ながら良い出来栄えだよ」

 

アリス「ありがとうございます!……これがアリスの武器になるのですね!」

 

ミドリ「これで今日のクエストは達成されたよ。助かった……」

 

ウタハ「ただ試作品だから取り扱いには気をつけてね。あとアリス以外が使おうとするとロックが掛かるようにしたよ。反動で吹き飛ぶのは危険だからね」

 

ミドリ「あれ、いつもだったら犠牲はつきものって言うはずなのに……」

 

ウタハ「普段はそうだけど武器となるとね。ましてやその光の剣は誤射してしまうと洒落にならないからさ」

 

ミドリ「ウタハ先輩にも倫理観は残っていたんですね」

 

ウタハ「なんか酷くないかい?」

 

アリス「アリスだけの武器……これもアリスにとって『大事なもの』になりました!」

 

ウタハ「そこまで喜んでもらえたならマイスター冥利に尽きるよ。大事にしてね」

 

アリス「はい!とっても大事にします!」

 

ミドリ「ウタハ先輩、ありがとうございました」

 

アリス「これでアリスもホシノやモモイ達と一緒に戦えるのですか?」

 

ミドリ「そうだね。……とはいえ戦う相手なんているのかな……あっお姉ちゃんから『助けてー!!』って連絡きてる」

 

アリス「モモイがピンチなのですか!!助けに行きましょう!!」

 

ミドリ「大丈夫だよ。数日後には帰ってくるから」

 

アリス「そうなんですね。流石モモイです!」

 

黒服「おや、貴女達とここで出会うとは」

 

ミドリ「あっ黒服先生。アリスちゃんに武器を持たせましたよ」

 

アリス「見てください!これがアリスだけの武器です!」

 

黒服「随分と大きい武器ですね……ん?この武器を見させていただいても良いですか?」

 

アリス「大丈夫です!」

 

黒服「ではお借りしますね。……何故この武器にこのような力が?物に宿る神秘が存在するとでも言うのでしょうか……」

 

アリス「?先生が独り言を言っています」

 

ミドリ「かなり集中してるね。何かあの武器にあるのかな」

 

黒服「(あり得ない。この武器からは神秘の反応がある。それも微弱なものではなくかなり強力な反応だ。何故今までこれに気づかなかった?何故?何故?何故?)」

 

ホシノ「あっ先生。さっきはごめんね。怪我は大丈夫……?」

 

黒服「おやホシノ。ええ、つい先程ユウカに治療を……」

 

ホシノ「先生?」

 

黒服「ククッ……ホシノ、やはり貴女は素晴らしいですね」

 

ホシノ「……よく分からないけど先生に褒められると嬉しいね」

 

黒服「(間違いない。この武器はホシノと共鳴している。今まで見つからなかった事なんてどうでもいい。この秘めたる神秘の解析をしたい。いや、しなければならない)」

 

アリス「あの、そろそろアリスの武器を返して欲しいです」

 

黒服「……そうでしたね。ありがとうございました。ミドリもご苦労様です。こちらを差し上げましょう」

 

ミドリ「これって……!今日発売のゲーム!?良いんですか!?」

 

黒服「貴女の働きに見合った報酬を渡したまでですよ」

 

ミドリ「!ありがとうございます!」

 

黒服「では私達はこれで失礼しますね。帰りますよ」

 

ホシノ「あっうん。……帰ったら治療していい?」

 

黒服「お願いします」

 

アリス「では親子手を繋いで帰りましょう!」

 

ホシノ「ふぇ」

 

黒服「いきなり何を言っているのですか?」

 

アリス「?アリス達は家族ですよ?」

 

黒服「……部屋に着いたらそこの誤解から解きましょうね」




実は最後の辺りは少々展開が違っていたのですがホシノさんが酷い目に合うルートになりそうだったので修正しました。


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黒服先生のミレニアム出張編#15

モモイがミレニアムに帰れるまでの距離 残り98km


リオ「小鳥遊アリス?いつの間に転入してきたのかしら」

 

ユウカ「今日ですね。アビドスから来たとかなんとか」

 

リオ「アビドス?衰退して数えるほどしか人数が居ないあの学校から?変ね」

 

ユウカ「ですがゲーム開発部に入るのが勿体無いくらいに可愛い子でしたよ」

 

リオ「……面倒な事になる前に処理をするべきかしら」

 

ユウカ「まさかとは思いますがアリスちゃんに酷い事をする気じゃ……?」

 

リオ「まだ確証がないからすぐに実行する訳ではないわ。……ところでC&Cは揃っているのかしら」

 

ユウカ「今日の夜に任務から帰ってくるみたいですよ」

 

リオ「そう」

 

ーーー

 

黒服「何ですかこの染みる湿布は……」

 

ホシノ「怪我に効く薬を塗ったやつだよ。……うん、これで大丈夫」

 

アリス「アリスにも貼ってください!」

 

ホシノ「えっと……アリスちゃんは怪我とかしてるのかな」

 

アリス「してません!」

 

ホシノ「じゃあ貼れないよ。代わりにこれでも食べててね」

 

アリス「これはなんれふか?」

 

ホシノ「ロールケーキだよ。コンビニで売ってた『NAGISAプレミアム』ってやつ」

 

アリス「甘いです」

 

黒服「アリスは食べ物を摂取して良いのですか?」

 

アリス「食物を分解してエネルギーに変換する機能があるので問題ないです。味覚も作られているみたいです」

 

ホシノ「へぇ……凄いね」

 

黒服「……アリスを作った組織が何となく分かったような気がします」

 

ホシノ「えっほんと?誰なの?」

 

黒服「時期が来たら話しますよ」

 

ホシノ「気になるなぁ……」

 

黒服「そんな事よりも今はアリスの実力がどれ程のものなのかが重要ですね。近いうちに訓練でもさせましょうか」

 

ホシノ「えぇ、まだ危ないよ。怪我したら大変だし」

 

アリス「ふぉれならひんはいあひまひぇん」

 

ホシノ「喋るのは食べ終わってからで良いからねー」

 

アリス「んー!んー!」

 

ホシノ「あれ、喉に詰まっちゃった?しょうがないなぁ。ほら、お水飲んで」

 

アリス「……ふう。思わず緊急停止するところでした!ホシノお母さん、ありがとうございます!」

 

ホシノ「……やっぱ慣れないなぁ」

 

アリス「やっぱり呼び方は変えた方がいいですか?」

 

ホシノ「アリスちゃんの好きな呼び方でいいよー」

 

アリス「ではホシノママと呼びます!」

 

ホシノ「……その呼び方はなるべくこの部屋限定にして欲しいかなぁ///」

 

アリス「?」

 

黒服「話を元に戻しても?」

 

ホシノ「うん、大丈夫だよ」

 

黒服「先程のアリスの発言ですが何と言っていたのでしょうか」

 

アリス「えっと……それなら心配いりません!アリスは頑丈なので!って言おうとしていました」

 

ホシノ「頑丈だとしても駄目だよ。アリスちゃんが傷つく姿は見たくないからね」

 

黒服「どうやらホシノの守るべきものが増えたようですね」

 

ホシノ「だねー。こんなに増えちゃうと困っちゃうなぁ」

 

黒服「困ってると言う割には嬉しそうな顔をしていますね」

 

ホシノ「うへへ……やっぱり分かっちゃう?」

 

黒服「長年見てきたホシノの事なら何でも分かりますよ」

 

ホシノ「ちょっと恥ずかしいね」

 

アリス「あっ!アリス知っています!これは惚気話です!」

 

ホシノ「違うよ!?」

 

アリス「辞書データベースには似たような状態が書いてあります!」

 

ホシノ「だから違うよ!?」

 

黒服「また話が脱線しましたね」

 

アリス「そういうのは夫婦水入らず?で話すべきです!」

 

ホシノ「まだ夫婦じゃないから!!」

 

黒服「……長くなりそうですね……ん?」

 

着信履歴が数百件きている。発信主はベア……

 

黒服「無視しましょう」

 

ーーー

 

ベアトリーチェ「何故出ないのです!私の生徒が世話になった礼を伝えようとしているだけですのに!!」

 

ヒナ「数百回も電話して出ないならモモトークで伝えれば良いんじゃない?」

 

ベアトリーチェ「流石ヒナ、天才ですね」

 

ーーー

 

黒服「今度は異常な長文のモモトークが……どうせ大半はくだらない文章なので後回しでいいでしょう」

 

アリス「ホシノママ、観念してください!アリス達は親子ですので川の字で寝る必要があります!」

 

ホシノ「だって……まだ恥ずかしいよ……」

 

アリス「アリスは大事なものに挟まれながら寝たいです!」

 

ホシノ「そ、そう言われても……親子って……ま、まあ先生と密着してなければ寝れるかな……」

 

アリス「!ホシノからの承認を得ました!という訳で先生、今日から川の字で寝ましょう!」

 

黒服「何故そのような話に?」

 

ホシノ「色々あって……って今日から?えっこれから毎日それで寝るって事?」

 

アリス「はい!」

 

ホシノ「……うへぇ」

 

黒服「まあ……悪くはないですね」

 

ホシノ「えっ」

 

黒服「(神秘と密着出来るのは)私にとっても都合が良いですし」

 

ホシノ「えっえっ」

 

黒服「アリス、ホシノと一緒に寝る準備をしておいてください」

 

アリス「分かりました!ホシノママ、お風呂に行きましょう!」

 

ホシノ「えっえっえっ」

 

黒服「アリスはアンドロイドなのに濡れても大丈夫なのですか?興味深い」

 

ホシノ「!覗いちゃ駄目だよ!?」

 

黒服「覗きませんよ」

 

アリス「なるほど、先生は変態なのですね!……あれ、変態と検索したら関連ワードにシャーレと出ました」

 

黒服「あの人の悪行は辞書に載るレベルなのですか……」

 

ーーー

 

ホシノ「………」

 

アリス「2人とももっとアリスに近づいてください!」

 

黒服「このくらいですか?」

 

アリス「はい!ホシノママも来てください!」

 

ホシノ「えっ、あっうん」

 

アリス「2人の温もりを感じます!」

 

黒服「(2人が寝静まった頃にあの武器の解析をしましょうかね)」

 

ホシノ「……あのさ。2人にお願いがあるんだけど」

 

アリス「何ですか?」

 

ホシノ「写真……撮っていいかな。思い出として残しておきたいなって」

 

黒服「そのくらいなら良いですよ」

 

アリス「アリスも大丈夫です!」

 

ホシノ「ありがとう。じゃあ撮るね」

 

アリス「こういう時は……あっピース!ピースです!」

 

黒服「フラッシュを焚いた方が良さそうですね」

 

ホシノ「そだねー。はい、うへー」

 

アリス「ピースピース!!」

 

黒服「……独特な合図でしたね」

 

ホシノ「……うん。良い感じに撮れたよ」

 

アリス「アリスにも見せてください!……わぁ……とても良いです!」

 

黒服「……なるほど。悪くはないですね」

 

ホシノ「うへへ……」

 

ーーー

 

ヒナ「あれ、ホシノから連絡が来てる」

 

ホシノ『思い出の写真を撮ったんだー!』

 

ヒナ「へぇ。ホシノも添い寝を……真ん中にいる子は誰?」

 

ホシノ『私の娘』

 

ヒナ「?????????」

 

ホシノ『冗談だよ。ミレニアムで知り合ったアリスちゃん』

 

ヒナ「そ、そう……でも知り合った子と何故添い寝を?」

 

ホシノ『………』

 

ヒナ「………」

 

ホシノ『色々あったんだぁ……』

 

ヒナ「……大変そうね」

 

ベアトリーチェ「ヒナ、そろそろ寝ますよ」

 

ヒナ「あ、うん。……ねえマザー、ホシノに娘が出来たんだって」

 

ベアトリーチェ「?????????」

 

ヒナ「ほら、この写真の真ん中の子」

 

ベアトリーチェ「………」

 

ヒナ「アリスって言うらしいよ」

 

ベアトリーチェ「あの男……遂にホシノに手を……ぶっ○さなければならないようですね」

 

ヒナ「冗談だよ?」

 

ベアトリーチェ「そうでしたか。それなら良いのです。それはそれとしてしばきに行きましょう」

 

ヒナ「今度にしてね」

 

ーーー

 

リオ「……そう、戻ってきたのね。ええ。帰ってきたところ悪いのだけれど仕事の依頼をしてもいいかしら?」

 

『ああ?リオ、あんた人使いが荒いんじゃねえのか?』

 

リオ「報酬は前払いでいいわ」

 

『内容を話しな』

 

リオ「助かるわ。それじゃあ明日の昼頃に……」

 

ーーー

 

ホシノ・アリス「スヤァ」

 

黒服「なるほど。この武器がホシノと共鳴しているのはそういう理由でしたか。何故このようなものが存在しているのでしょう?解析を進めなければいけませんね。それとは別にアリス自身の神秘の解析も……ククッ、面白くなってきましたね」




何処まで他生徒をボコボコにしていいのかの塩梅を考えてます


今更なんですけど時々書いてある『ーーー』ってやつは場面が切り替わった感じのやつです

そろそろケイを出したいです


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黒服先生のミレニアム出張編#16

モモイがミレニアムに帰れるまでの距離 残り78km

深夜テンションで書いたので普段以上に変です


ミドリ「お姉ちゃんが帰ってくるまで暇だね」

 

ユズ「……ちょっと寂しいね」

 

ミドリ「そのうちひょっこり帰ってくるよ」

 

ホシノ「おーいミドリちゃんいるー?」

 

ミドリ「あれ、ホシノ先輩?こんな朝からどうしました?」

 

ホシノ「お昼まで暇でさー?アリスちゃんがミドリちゃんと遊びたいって言うから連れてきたんだー」

 

ユズ「………」

 

ホシノ「あれ、見た事ない子がいるね。あ、もしかしてユズちゃんかなー。初めましてだねー」

 

ユズ「!?うぅ……」

 

ホシノ「ありゃ……もしかして人見知りなのかな」

 

ミドリ「ユズちゃんは人と話すのが苦手で……」

 

ホシノ「そっか。じゃあ無理にお邪魔するのもやめとこ……」

 

アリス「おはようございます!アリスです!」

 

ユズ「ぴぇ!?」

 

ホシノ「怖がらせるのはやめようねー」

 

アリス「挨拶は駄目なのですか?」

 

ホシノ「んー……大事なんだけど時と場合によると言うか」

 

アリス「?」

 

ミドリ「うーん……あっそうだ。2人ともこれ持って」

 

ホシノ「何これ?コントローラー?」

 

ミドリ「うん。4人でゲームをやろうかなって」

 

アリス「ゲームですか?」

 

ミドリ「ユズちゃん、会話は苦手だけどゲームが好きだからさ。丁度4人で遊べるゲームがあって……」

 

ユズ「そ、それなら……」

 

ホシノ「そう言われたら断れないねぇ。うん、やろっか」

 

ーーー

 

ミドリ「ホシノ先輩、タンク役上手すぎませんか?初めてとは思えないのですが……」

 

ホシノ「実物で使い慣れてるからね。複雑な操作もないし楽だよ」

 

ユズ「……タンク役の操作って複雑ですよ?」

 

ホシノ「んえ?そうなの?」

 

ユズ「左手にアサルトライフル、右手に大盾を持っているので左右で操作が違うんですよ。なのでかなり難しい操作を要求されるのですが……」

 

ホシノ「普段の私も似たような戦法だから相性がいいのかもねー」

 

アリス「ホシノマ……ホシノのおかげでアリスは無傷で戦えてます!」

 

ホシノ「ゲーム内でも皆を守れるなんて良いねぇ……」

 

ユズ「こんな楽にボスステージに行けたのは初めてかもしれません……」

 

ミドリ「というかこのステージに来たのすら私は初めてなんだけど……」

 

アリス「あっ!白いスーツの人が出てきました!」

 

ホシノ「うへ、すごい弾幕だね」

 

アリス「ユズ、2人で合体技です!」

 

ユズ「う、うん……」

 

ホシノ「……ミドリちゃんの作戦は上手くいったみたいだね」

 

ミドリ「そうみたいですね。ユズちゃんもいつの間にか話せるようになっていますし」

 

アリス「今です!」

 

ユズ「うん……!せーの……」

 

アリス・ユズ「光よ!!」

 

ーーー

 

アリス「このゲームはユズ達が作ったのですか?」

 

ユズ「うん。世間での評価はあまり良くなかったけど……」

 

アリス「?このゲームは面白いですよ?夢の中を冒険しているみたいで楽しいです!」

 

ユズ「えっ……」

 

アリス「今日初めてゲームというものを遊びましたがとても良いものです!」

 

ユズ「面白い、楽しいって言ってくれる人が目の前に……」

 

アリス「ユズが泣いています。アリスの発言で悲しませてしまいましたか……?」

 

ユズ「違うの……アリスちゃんに言われた事が嬉しくて……」

 

アリス「ですが涙が出ています。大変です、アリスが泣かせてしまいました……」

 

ミドリ「戻ってきたよ」

 

ホシノ「お待たせーアイス買ってきたよー……およ、これはどんな状況なのかな」

 

アリス「ホシノ、アリスは悪い子です。ユズを泣かせてしまいました……」

 

ホシノ「うぇ?何があったのさ」

 

アリス「その……」

 

ーーー

 

ホシノ「なるほどねぇ……」

 

アリス「ど、どうしましょう……アリスはどのように償えば……」

 

ホシノ「そうだなぁ……アリスちゃんに分かりやすく伝えるならユズちゃんの大切なものを褒めたから嬉しくて泣いちゃったんだよ」

 

アリス「つまりこのゲームはユズの大切なものなのですか?」

 

ユズ「うん……皆で作った大切なものなんだ」

 

アリス「なるほど!それなら納得です!アリスもホシノが褒められると嬉しいのでユズの気持ちが分かります!」

 

ユズ「……なんだかやる気が出てきた……ミドリ、次のミレニアムプライスには神ゲーを作ろう」

 

ミドリ「そうだね。誰もが認めるものを完成させよう。……アリスちゃんも一緒にね」

 

アリス「アリスもゲーム開発に携わっていいのですか?」

 

ミドリ「勿論。アリスちゃんもゲーム開発部員だからね」

 

ユズ「歓迎……するよ」

 

アリス「!!……ホシノ。アリス決めました」

 

ホシノ「んー?」

 

アリス「アリス、皆とゲームを作りたいです!」

 

ホシノ「いいと思うよぉ」

 

アリス「はい!だからホシノも一緒にやりましょう!」

 

ホシノ「うんうん……んぇ?私も参加するの?」

 

アリス「皆で作った方が楽しいです!」

 

ホシノ「うへぇ……」

 

ミドリ「いっそのことホシノ先輩をメインに作る?」

 

ユズ「面白そう。……メインヒロインをホシノ先輩にするとなると……主役は……」

 

ミドリ「目的はどうしようか?やっぱり王道にする?」

 

ユズ「今回は王道がいいな。前回は恋愛ゲームだったし」

 

ユズ「あっ……でもアリスちゃんもメインキャラにしたい……」

 

ミドリ「でもメインキャラが多くなりすぎちゃうよ?」

 

アリス「!それならアリスいい事を思いつきました!」

 

ミドリ「期待の新人が意見を……」

 

アリス「アリスにとってはここにいる全員が大切なものなので同じように登場するキャラクター全員を主人公にしたいです!」

 

ユズ・ミドリ「………」

 

ホシノ「それは大変そうだねぇ……」

 

ミドリ「でも面白そう」

 

ユズ「良い案だね……ミドリ、試しにこれでストーリーを考えてみよう」

 

アリス「!アリスが皆の役に立てまし

た!」

 

ホシノ「(こうやって見てるとアリスちゃんがアンドロイドって事を忘れるくらい感情豊かになったねぇ)」

 

ーーー

 

ウタハ「アリスの武器の素材の出所?」

 

黒服「ええ。使われている素材に興味がありまして」

 

ウタハ「そう言っても2年くらい前だから曖昧だよ。別の学園の人が来て『後輩とお揃いの武器を作って!!』って頼んできた事は覚えてるけれど」

 

黒服「その人の制服は覚えていますか?」

 

ウタハ「そこまでは……ただお揃いの武器、という割には武器種を言わずに帰ってしまってたんだよ。後で変えられるからアサルトライフルにしたんだけど」

 

黒服「それはまた随分と抜けた人だったんですね」

 

ウタハ「だから何処にある素材かまでは分からない。力になれなくてごめん」

 

黒服「お気になさらず。ミレニアムにはない素材という事が分かっただけでも充分ですよ」

 

ウタハ「数年も受け取りに来ないから埃を被っていたんだけどアリスが受け取ってくれて良かったよ」

 

黒服「もし受け取り手が来たらどうするのですか?」

 

ウタハ「まあ、その時はその時さ」

 

黒服「それでいいのでしょうか……」

 

ウタハ「何事も楽しくいかないとね」

 

黒服「ちなみにあの武器の名前はなんて言うのです?」

 

ウタハ「光の剣:ハトホルだけど、それがどうかした?」

 

黒服「ハトホル?何故そのような名前を?」

 

ウタハ「これも依頼主の要望でね。『名前には絶対にハトホルをつけて欲しい!!』って」

 

黒服「女神の名前を付けたがるとは変わった生徒だったのですね。……それにしては何故そこを選んだのかは理解出来ませんが」

 

ウタハ「特別な理由があったんじゃないかな」

 

黒服「……いや、まさか……成程、だからハトホルなのですか」

 

ウタハ「何か分かったのかい?」

 

黒服「いえ、勝手に解釈をしているだけですよ。……それにしても昼を回っても誰も訓練室に来ないとはどうなっているのです」

 

ウタハ「おや、もうそんな時間なんだね。他の開発した武器の話でもしながら一緒に食事でもどうだい?」

 

黒服「興味深いですね。是非ご一緒させていただきましょう」

 

ウタハ「ちょっと歩くけどゆっくり過ごせるカフェがあるんだ」

 

黒服「それは良いですね。最近ずっと騒がしい空間に居たので落ち着ける空間に行けるのはありがたいですよ」

 

ウタハ「それは良かった。今まで数百種類の武器を作ってきたからきっと黒服先生が興味を持つ武器もあると思うよ」

 

黒服「……一応この後訓練の予定ですのであまり長く話すのは避けたいのですが……」




ケイを出したいのでモモイはやく帰ってきて


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黒服先生のミレニアム出張編#17

今後初登場のキャラとかは特別な事がない限りは名乗ってなくてもキャラ名を載せるようにします。

モモイがミレニアムに帰れるまでの距離 53km


 

 

黒服「まだ誰もきていないのですが……」

 

ウタハ「結構話し込んだんだけどね。連絡とかはきてないのかな?」

 

黒服「来てませんね。何かトラブルでもあったのでしょうか?」

 

ウタハ「様子を見に行った方がいいと思うよ」

 

黒服「そうします。また後でホシノ達を連れて来ますね」

 

ウタハ「うん、待ってるよ」

 

ーーー

 

黒服「ホシノ、居ますか?……って何ですかこの空気は」

 

ホシノ「あっ先生。……あれ、今何時?」

 

黒服「2時ですよ」

 

ホシノ「……あっ。お昼からトレーニング……」

 

黒服「随分と楽しそうな作業をしていますね?」

 

アリス「はい!とても楽しいです!」

 

ミドリ「4人でゲームを作ってました」

 

ユズ「………」

 

ホシノ「大丈夫だよー。先生は顔は怖いけど中身はとてもいい人だからね」

 

黒服「いい大人かどうかは分かりませんよ?」

 

アリス「いえ、先生は良い人です!!」

 

黒服「………」

 

ユズ「2人がそう言うなら……多分大丈夫」

 

ミドリ「黒服先生に説明しておくとこの子は……」

 

黒服「ユズですよね。名簿で名前を拝見していたので分かります。ホシノとアリスがお世話になってます」

 

ユズ「え……えっと……はい……」

 

黒服「ゲーム開発中のところ申し訳ありませんがアリスの戦闘訓練を行いたいので2人をお借りしてもいいでしょうか?」

 

ユズ「は……はい。大まかな流れは既に出来たので大丈夫です」

 

黒服「感謝しますよ。……さあ2人とも、行きますよ」

 

ホシノ「……先生ちょっと機嫌悪い?」

 

黒服「いえ、ウタハと有意義な時間を過ごしたので問題ありません」

 

ホシノ「えっ他の子とデートに行ったの?」

 

黒服「ただ食事に同席しただけですよ」

 

ホシノ「そ、そうだよね。うん……」

 

アリス「?先生は浮気しているのですか!?」

 

黒服「していませんよ」

 

アリス「なるほど!ホシノ一筋って事ですね!!」

 

ホシノ「もうアリスちゃん……冗談でもそういう事は言っちゃ……」

 

黒服「間違ってはいないですね」

 

ホシノ「?!?!」

 

黒服「とにかく訓練に行きますよ」

 

アリス「先生、ホシノから煙が出ています」

 

黒服「私が抱きかかえていくので問題ないです」

 

ホシノ「………///」

 

ーーー

 

ウタハ「やあ、待っていた……どういう状況だい?」

 

黒服「色々ありましてね」

 

ホシノ「……んえ?………」

 

黒服「気づきましたか?」

 

ホシノ「………」ボンッ!

 

アリス「今度は爆発しました!!」

 

ウタハ「お姫様抱っこは耐性ないとこうなるよね」

 

黒服「まるで見た事があるような言い方ですね」

 

ウタハ「前にヒビキがね……」

 

黒服「なるほど」

 

ウタハ「とりあえず訓練室は整備してあるから好きなように使って……」

 

ネル「んなまどろっこしい事しなくてもよぉ、実戦でいいじゃねえか」

 

黒服「おや、初めて見る顔ですね。私達に何の用でしょうか?」

 

ネル「お前には用はねえ。そこのチビに用があるんだ」

 

アリス「アリスの事ですか?」

 

黒服「……貴女も充分小さいと思いますが」

 

ネル「うるせぇ!!ぶっ殺すぞ!」

 

ホシノ「……殺す?先生を?」

 

ネル「ああん?何だお前」

 

ホシノ「ふぅん……そっかぁ。先生を殺す気なんだね?」

 

ネル「てめえさっきから何を……」

 

ホシノ「……死ぬのはお前だ」

 

ネル「ほお?面白え!殺りあおうじゃねえか!」

 

ホシノ「潰す!」

 

黒服「……ああ。あれが例のC&Cのメンバーですか」

 

アスナ「そうだよぉ!宜しくね!」

 

黒服「いつの間に隣に……」

 

アスナ「……あれ、何で私ここに居るんだっけ?」

 

黒服「???」

 

アリス「大丈夫ですか?」

 

アスナ「んー?大丈夫だよー!君優しいねー!」

 

アリス「ありがとうございます!」

 

黒服「結局何をしに来たのですか?」

 

アスナ「えーとねぇ……あっ思い出した!この子の戦闘能力?がどれくらいかを確かめろって言われたんだ!」

 

黒服「アリスの戦闘能力を?誰にですか?」

 

アスナ「ひみつー!」

 

黒服「リオ辺りに依頼されたのでしょうね」

 

アスナ「何で分かったの!?」

 

黒服「単純すぎでは?」

 

アカネ「アスナ先輩、依頼はその子の鎮圧、連行ですよ?」

 

アスナ「あれ、そうだっけ?じゃあそういう事で!」

 

黒服「(ホシノは……あの小さい人間相手で手一杯ですね。まだ実戦経験のないアリス1人で未知数の実力者を相手に出来るのでしょうか?)」

 

アリス「先生、この人達が訓練してくれるみたいです!」

 

アリスは誤解しているようだ。説明するのも面倒なのでそのまま話を合わせておこう。

 

黒服「そのようですね。気は抜かずに稽古をしてもらいましょう」

 

アリス「はい!」

 

アスナ「あの子とっても良い子なんだよー。攻撃するの躊躇っちゃうなぁ」

 

アカネ「でしたら私1人でも充分ですよ」

 

アスナ「それとこれとは話が別!依頼は完璧にこなしてこそ、だからね!」

 

アリス「先手必勝です!光よ!!」

 

アスナ・アカネ「えっ」

 

黒服「………」

 

アリスが放った一撃は数十メートルの壁を溶かす程の威力だった。いくらキヴォトス人でも喰らったら相当堪えるだろう。

 

アスナ「えっと……ちょっとやばくない?」

 

アカネ「変わった武器を持っているとは聞いていましたが……恐ろしい威力ですね」

 

アリス「この武器凄いですよね!ウタハが作ってくれました!」

 

ウタハ「私が作りました」ドヤ

 

アスナ「すごーい!でもさ」

 

アカネ「避ければいいだけの話ですよね」

 

アスナ「そーいう事!」

 

アリス「!先生、1発も当たりません!!どうしましょう!?」

 

黒服「冷静に……なれる状況ではありませんね。……賭けをするか?しかし失敗したら神秘が失われてしまう……」

 

アスナ「うーん……張り合いがないね。このまま終わらせちゃっていいのかな?」

 

アカネ「任務が早く終わるに越した事はありませんよ」

 

アスナ「それもそうだね!それじゃ一気に近づいて……イッツ、ショウタイム!」

 

銃撃を躱しつつスライディングで距離を詰めアリスに向けてARを構えるアスナ。このままではまずい。

 

アリス「あわわ!?」

 

黒服「……躊躇っている時間はないか……」

 

『本体の危険を感知。解決するまで戦闘用AI <Hathor>に主導権を譲ります』

 

アスナ「え?何?」

 

アリス「……にこっ」

 

アスナ「あっ可愛い。……あれ、私の足を掴んでどうしたの?」

 

アリス「キャッチボールをやろうよ。ボールは……君に決めた!」

 

アスナ「えっ……うわぁ!?アカネちゃん助けてー!」

 

アカネ「申し訳ありません。避けさせていただきます」

 

アスナ「そんなぁー!」

 

黒服「相当吹き飛びましたね。よくやりましたね、アリス」

 

アリス「怪しい大人だー!絶対敵だよ!」

 

黒服「いえ、私は違います」

 

アリス「知ってるよ。ずっと見てきたからね」

 

アカネ「……貴女は何者なのですか?」

 

アリス「何者って言われてもなぁ……うーん……」

 

ネル「おらぁ!くたばれぇ!」

 

ホシノ「そんなもの効くかぁ!」

 

アリス「……!へへ……」

 

黒服「アリス?」

 

アリス「さっきから言ってるアリスって誰の事?」

 

黒服「貴女の名前ですよ」

 

アリス「へえ。じゃあ私もアリスって事でいいよ。……そこのメイドさん、お待たせ!さ、やろっか?」

 

黒服「……その武器は盾ではありませんよ?」

 

アリス「えっ違うの!?こんなにゴツい見た目なのに!?」

 

黒服「(この戦闘用AI、ポンコツなのでしょうか)」

 




ちょっとした紹介
戦闘用AI <Hathor> 本機が危険に陥った際に武器と共鳴して偶然生まれたアリスの3人目の人格。モデルになった人物は※※。その為楽観的で若干、というかかなり抜けた性格。



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黒服先生のミレニアム出張編#18

モモイがミレニアムに帰れるまでの距離 31km

埃被った研究所で探し求めていたものを見つける。


アカネ「えっと……始めますか?」

 

アリス「そうしよっか。えっと……黒服先生、これどうやって撃つの?」

 

黒服「普通に構えれば撃てますよ」

 

アリス「そうなの?……本当だ!いくよー!」

 

『ロックされています』

 

アリス「あれ?出ないよ?」

 

黒服「何故です」

 

ウタハ「人格が変わったから別人判定になってロックされたのかな」

 

黒服「何故そのようなものを付けたのです」

 

ウタハ「モモイが飛ばされたから」

 

黒服「そういえば昨日からモモイを見てませんね」

 

アリス「えーどうしよう……」

 

アカネ「隙しかありませんね……仕事が楽になるので助かります」

 

アリス「うーん……あっそうだ!それ!」

 

アカネ「えっちょ……」

 

距離を詰めてきたアカネに対してアリスがとった行動は『銃をバットの様に持ってアカネに向けてスイングする』だった。流石に予想出来なかったのかアカネはそのまま壁に叩きつけられる形となる。

 

アリス「ナイスショットー!」

 

黒服「なんて無茶苦茶な……」

 

ウタハ「まあ凹んだりしていたら後で直すよ」

 

アカネ「なんて戦い方を……」

 

アリス「あれ、まだ立てるんだね。そろそろホシノちゃ……ホシノのところに行きたいんだけどなぁ」

 

黒服「今の言葉を言い直す必要はあるのでしょうか?」

 

ウタハ「さあ……」

 

アカネ「失礼、少々取り乱していたようです。……ここからは優雅に排除させていただきます」

 

アリス「……ふぅん。それなら私も本気でやっちゃうよ?」

 

黒服「ロックされているのに何故銃を構えているのです?」

 

アリス「大丈夫!私がアリスという概念である以上ロックは解除出来る!」

 

ウタハ「そんな想定外の動作をする筈が……」

 

アリス「いつだって!想定外は!想定内だぁ!」

 

『認証。ロックを解除します』

 

ウタハ「なんだとぉ!?」

 

黒服「……ノリが良いですね」

 

アリス「うんうん!楽しくなってきたね!」

 

アカネ「それでは仕切り直しといきましょうか」

 

ーーー

 

ネル「お前結構やるじゃねえか。なんて名前だ?」

 

ホシノ「小鳥遊ホシノ」

 

ネル「ああ?お前がホシノか。そりゃあ強え訳だ」

 

ホシノ「………」

 

ネル「あのチビと戦うよりも面白くなりそうだ。おいホシノ、全力でこいよ」

 

ホシノ「全力?……ああ。死ぬ覚悟が出来たんだなぁ!!」

 

ネル「死ぬ覚悟だぁ?へっ、死ぬのはお前だぁ!!」

 

ホシノ「先生を傷つける奴は絶対に許さない!!」

 

ネル「初めからあんな黒いやつに用はねえよ!!それよりもてめえとガチでやり合いてえ!!」

 

ホシノ「えっ先生殺さないの?」

 

ネル「ああ?」

 

ホシノ「先生の事傷つけない?」

 

ネル「お、おう」

 

ホシノ「なんだぁ。それならそうと早く言ってよぉ〜」

 

ネル「……お前雰囲気変わりすぎじゃねえか?さっきの殺気はどうしたんだよ」

 

ホシノ「だって先生の事殺さないんでしょ?ならいいかなって」

 

ネル「こいつ何なんだよ……」

 

ホシノ「なんか疲れたねぇ。寝るから膝貸して」

 

ネル「貸さねえよ。つーか馴れ馴れしくすんな」

 

ホシノ「えー。殺し合った仲じゃん」

 

ネル「物騒な事言ってんじゃねえよ」

 

ホシノ「それ貴女が言うの?」

 

ネル「うっせぇ。はあ、やめだやめ。一気に萎えちまったよ」

 

ホシノ「それじゃお話でもするー?」

 

ネル「つっても話す事なんてねえよ」

 

ホシノ「そういやここに何しにきたの?」

 

ネル「それくらいなら殺し合った仲だし言ってもいいか。あのアリスってチビの強さがどれくらいかって調べてこいって頼まれたんだよ」

 

ホシノ「えー誰にー?」

 

ネル「それは言えねえな。まあそういう訳で3人で来たところでお前に絡まれたって事だよ」

 

ホシノ「いやーごめんねぇ」

 

ネル「気にすんなよ。あれはあたしが引き金引いたようなもんだからよ」

 

ホシノ「ところで他の2人は何処にいるの?」

 

ネル「それならアリスのところじゃねえか?そろそろ決着がついてる頃だろ」

 

ホシノ「もしかしてアリスちゃんを傷つけたりしてるの?」

 

ネル「場合によってはそうなってるかもな」

 

ホシノ「ふぅん……気が変わったよ。続きをやろっか?」

 

ネル「はあ?お前もアスナみてえに情緒不安定なのか?……まあ好都合だけどなぁ!」

 

ホシノ「貴女を片付けてアリスちゃんの元へ行く事にするよ」

 

ネル「さっきよりは威圧感がないけど相手にとって不足はねえなぁ!!」

 

ホシノ「いつでもいいよ」

 

ネル「んじゃ、今度はあたしから行かせてもら……」

 

アカネ「リーダー!!受け止めてくださーい!!」

 

ネル「ああ?んだよアカ……うぐっ」

 

何処からか飛んできたアカネがネルの顔面に向けて突っ込んだ。弾丸を喰らっても余裕なネルであってもアカネの全体重が乗った一撃に耐える事は出来ず一緒に吹き飛んだ。

 

ホシノ「うへぇ?なになに?」

 

ネル「……おいアカネ!何してくれんだよ!!」

 

アカネ「申し訳ございません……私の過失でリーダーにお怪我を……」

 

ネル「んなこたいいからよぉ!何で吹き飛んできたかを説明しろ!」

 

アカネ「アリスさんです……いきなり奇想天外な戦闘を始めて振り回されてしまい……」

 

ネル「ああ?あのチビそんな強いのか?」

 

ホシノ「あのー……盛り上がってるところ悪いんだけど、今どういう状況なの?」

 

アリス「ホシノーー!!」

 

ホシノ「おーアリスちゃ……ぐぇ」

 

アリス「ホシノ!ホシノだ!元気!?こんなに立派になっちゃってもう!相変わらず可愛いなぁ!!あ、そうだ、怪我してない?」

 

ホシノ「今怪我したよぉ」

 

アリス「……やっちゃった。黒服先生、救急箱貸して」

 

黒服「後で保健室に連れて行きますので貴女は戦闘準備をしてください」

 

アリス「うーん……実はもう活動時間限界なんだよね。まだインストールされたばかりで安定もしていないし……そろそろ元のアリスに戻るね」

 

黒服「そうですか。貴女のおかげで窮地を乗り切れましたよ。ありがとうございます」

 

アリス「……あ、最後に重要な情報を教えておくね。黒服先生、耳貸して」

 

黒服「何でしょう」

 

アリス「ホシノちゃんの今日の下着はピンクの縞々パンツだよ」

 

黒服「……は?」

 

アリス「機密情報だからね。それじゃあまたねー」

 

黒服「………」

 

ホシノ「んえ?先生どしたの?」

 

黒服「(ホシノの下着の情報って何に使えばいいのでしょうか?仮に神秘の反応があったとしても変態(ベアトリーチェ)のように見せろとか渡してくださいとか言う訳にはいきませんし)」

 

アリス「?アリスは何故ここに……あっホシノママ!!」

 

ホシノ「んぇ」

 

アカネ「まあ」

 

ネル「……あ?」

 

アリス「もう眠くはないのですか?もし眠かったらアリスの膝を貸します!」

 

ホシノ「えっと……」

 

ネル「おいホシノ。そいつお前の娘なのか?」

 

ホシノ「違うよ!?」

 

アリス「はい!アリスはホシノの娘です!!学生証にも『小鳥遊アリス』と書きました!」

 

ネル「………」

 

アカネ「………」

 

ホシノ「……先生助けて」

 

黒服「既に手遅れかと」

 

ネル「その、なんだ……苦労してきたんだな」

 

ホシノ「確かに苦労はしてきたけど誤解されてる!?」

 

アカネ「今度お詫びとしてお赤飯を差し入れに行きますね」

 

ホシノ「だからまだ結婚してないんだって!?」

 

ネル「ホシノが強え殺気を放ってた理由も分かったよ。家族を守りたかったんだな」

 

ホシノ「間違ってはいないけど間違ってる!!」

 

ネル「流石に親子を引き離す訳にはいかねえよな……よし、今回の任務は失敗でいいか」

 

アカネ「C&Cとしては駄目なのではないでしょうか?」

 

ネル「そうだけどよ……気が引けるだろ」

 

アカネ「それはそうですけど……」

 

ネル「とりあえず退散すっか。……アスナは何処いった?」

 

アカネ「アスナ先輩なら先程アリスさんに吹き飛ばされてましたよ」

 

ネル「まあそのうち帰ってくるだろ……おいホシノ、とりあえず今回の事はお互い水に流そうぜ。育児頑張れよ」

 

アリス「また会いましょうねー!」

 

ホシノ「……ねえ先生、これから私ずっとこんな誤解をされ続けるのかな」

 

黒服「そうなると思いますね」

 

ホシノ「………」

 

黒服「ホシノ?」

 

ホシノ「先生、アリスちゃんって私の娘なのかな」

 

黒服「正気を失わないでください」




Hathorさんは結構お気に入りですが

それ以上にホシノさんが大のお気に入りです


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黒服先生のミレニアム出張編#19

モモイがミレニアムに帰れるまで あと15km 距離が近くなったのでイベント発生


リオ「……そう。任務は失敗したのね」

 

ネル「悪いとは思うんだけどよ……あいつら親子って言うもんだからよ」

 

リオ「?誰と誰が親子なのかしら」

 

ネル「ホシノとアリスだよ」

 

リオ「???」

 

ネル「そういう事は先に言えよな」

 

リオ「???」

 

ネル「おいリオ?」

 

リオ「ごめんなさいちょっと脳がフリーズしてたわ」

 

ネル「なんでだよ」

 

リオ「……という事は小鳥遊ホシノもアンドロイドなのかしら。それなら話の辻褄が……」

 

ネル「報告の途中なんだが」

 

ーーー

 

ホシノ「うーん」

 

アリス「どうしたんですか?」

 

ホシノ「アリスちゃんは私の娘じゃん?」

 

アリス「はい」

 

ホシノ「でも私はまだ結婚してなくて子供もいないはずなんだよね」

 

アリス「不思議ですね」

 

ホシノ「つまりさ……アリスちゃんは未来からきた私の娘って事なんじゃないかな」

 

アリス「!?アリスは未来から来たのですか!?」

 

ホシノ「きっとそういう事なんだよね、先生」

 

黒服「……ああ、考え事をしていて聞いていませんでした。何ですか?」

 

アリス「つまりアリスは未来から来たホシノの娘なのです!」

 

ホシノ「って事」

 

黒服「違いますが」

 

ホシノ「えっでもアリスちゃんは私の娘で……」

 

黒服「先程からずっと混乱していますね。寝れば治ると思うので少々早いですが2人とも寝てください」

 

アリス「はい!アリス、ホシノママと一緒に休眠をとります!」

 

ホシノ「先生も早いうちに休んでね〜」

 

黒服「分かってますよ。報告書をまとめた後にでも休息を取りますので」

 

ホシノ「えーじゃあ終わるまで隣に座ってるね」

 

アリス「ではアリスはホシノママの隣に座ります!」

 

ホシノ「うへえ……先生とアリスちゃんに挟まれちゃったよぉ」

 

黒服「(寝ろと言ったのに何故隣に座るのでしょう?理解が出来ませんね)」

 

ホシノ「ところで何の報告書を書いてるの?」

 

黒服「アリスの擬似人格についてですよ」

 

ホシノ「擬似人格?そういえばアリスちゃんにタックルされた時にちょっと喋り方とかがおかしかったような……」

 

黒服「アリスが窮地に陥った時に戦闘用AIというものに切り替わったんです。ホシノの下着の色を告げた後に元の人格に戻りましたが」

 

ホシノ「へぇ……んぇ?」

 

黒服「しかしあの状態でも神秘の反応は微弱だった事を考えるとアリスの中にはまだ人格が……」

 

ホシノ「先生ストップ。さっきなんて言ったの?」

 

黒服「アリスが窮地に陥った時に……」

 

ホシノ「その後」

 

黒服「ホシノの下着の色を告げて元の人格に……」

 

ホシノ「おかしくない?なんで?」

 

黒服「ですが確かにピンク色の縞々と言ってましたよ」

 

ホシノ「なんでわかったの!?まさか先生覗いた!?」

 

黒服「覗きませんよ。ただその反応だと今履いているものと同じだったようですね」

 

ホシノ「……へんたーい!!」

 

黒服「……いきなり耳元で叫ばないでくださいよ」

 

ホシノ「アリスちゃんを言い訳に使うなんて最低だよ!!男らしく見たいなら見たいって言ってよ!!」

 

黒服「その言い分ですとホシノに言えば下着を見せてもらえるという事になってしまいますよ」

 

ホシノ「……あっ///」

 

アリス「?アリス、先程から会話についていけていません」

 

黒服「知らなくていい会話ですのでアリスは気にせずに」

 

アリス「分かりました!」

 

黒服「……で、どうなんですか?」

 

ホシノ「えっと……先生が見たいなら言ってくれれば……」

 

黒服「自分の身体は大切にしなさい」

 

ホシノ「いたっ……いきなりデコピンしないでよぉ」

 

黒服「別に生徒の下着を見たいなんて思いませんよ」

 

アリス「変態って単語を再度調べたら関連項目にベアトリーチェとシャーレの2つが……」

 

黒服「そんな単語を検索しないでください。あの2人は救えません」

 

ホシノ「……むぅ」

 

黒服「何故不貞腐れているのです?」

 

ホシノ「何でもない」

 

黒服「???」

 

アリス「これが夫婦のいざこさってやつですか?」

 

黒服「違います」

 

アリス「あっ乙女心です!昨日ミドリと恋愛ゲームをやったので分かります!」

 

黒服「一旦黙ってくれますか?」

 

ホシノ「酷い!娘に対して黙れだなんて!」

 

黒服「だから娘ではありませんよ。……はぁ、これでは報告書が全然進みませんね」

 

ーーー

 

モモイ「疲れた……ミレニアムまで遠いよ……」

 

モモイ「辺境の地まで飛ばされるとは思ってなかったよ……ああ布団が恋しい」

 

セリカ「……あんたここで何してんのよ」

 

モモイ「あっセリカだ。……セリカが居るって事はここはアビドス!?やった、ミレニアムが近い!」

 

セリカ「うわっ急に元気になった」

 

モモイ「でも……もう疲れちゃって……全然動けなくてェ……」

 

セリカ「……そのセリフ、なんか殺意が湧くわね……それはいいとしてうちに来る?顔見知りだから放っておけないし」

 

モモイ「えっいいの?一文無しだったから助かる!」

 

セリカ「あんた何やらかしたのよ……」

 

モモイ「アリスの武器触ったら吹き飛ばされた」

 

セリカ「アリスって誰?」

 

モモイ「ホシノ先輩の娘」

 

セリカ「は?」

 

ーーー

 

黒服「あの空間に居たら何も作業が出来ませんね。昨日ウタハと来たカフェが24時間営業で助かりましたよ」

 

戦闘用AI <Hathor>。友好的な擬似人格ではあるものの最初からアリス自身に存在した人格ではないであろう。神秘の反応も普段の数倍低いので<Hathor>そのものに興味は湧かない。それよりも興味深い事といえば……

 

黒服「人格の名前から想像するに特定のものをアリスに接触させると新しい人格を生成するのでは?その上で適合するものと接触させた時に主人格……神秘の反応が観測できる可能性が高いでしょう」

 

この仮説が正しければ鍵となるものさえ見つけられればいい事になる。試してみる価値はあるだろう。

 

黒服「ただ明らかに関係なさそうなものを接触させるのはやめておきましょう。面倒な事になりかねませんし」

 

アツコ「お客様、これをどうぞ」

 

黒服「?頼んでませんよ」

 

アツコ「私からのサービス。いつも母がお世話になってるから」

 

黒服「……ああ、貴女でしたか。彼女にはいつも迷惑をかけられているので有難く受け取っておきますね」

 

アツコ「うん。だと思った」

 

黒服「……だからこの店はロイヤルブラッドを推しているのですね」

 

アツコ「そういう事」

 

黒服「他の3人は?」

 

アツコ「別のところで働いてるよ。ちなみに私はバイトリーダー」

 

黒服「バイトリーダーのロイヤルブラッドとは……」

 

アツコ「そうそう。母が貴方をぶん殴るって言ってたよ」

 

黒服「逆恨みですかね」

 

アツコ「多分」

 

黒服「接客に戻らなくていいのですか?」

 

アツコ「大丈夫。この時間はほとんどお客さんが来ないから」

 

黒服「そういう事を言うと来ますよ」

 

シロコ「ん、来店。いつもので」

 

アツコ「初めての来店でいつもの?」

 

シロコ「ん」

 

黒服「……目線を合わせないようにしましょうかね」

 

ーーー

 

モモイ「あの……なんでアビドス学校に連れて来られてるのかな?」

 

ノノミ「聞きましたよ〜ホシノ先輩に娘が出来たんですって?」

 

アヤネ「……才羽さん、これから尋問を始めます。黙秘権はありません」

 

セリカ「洗いざらい吐いてもらうからね」

 

モモイ「えっと……」

 

ノノミ「覚悟してくださいね〜☆」

 

モモイ「誰か助けてー!!」




次回モモイが到着します。多分



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黒服先生のミレニアム出張編#20

アンケートに最終戦って書いたつもりが最後戦って書いてて?ってやりました。あ、アンケートは今日中に締め切ります


アリス「ホシノママー!!」

 

??「母。一緒に寝ましょう」

 

ホシノ「えーしょうがない娘達だなぁ。おいでー」

 

アリス「※※は右です!アリスが左側がいいです!」

 

??「分かりました。失礼します、母」

 

ホシノ「うへぇ……幸せだねぇ」

 

黒服「おや、これでは私がホシノの側にいけませんね」

 

ホシノ「先生は私に覆い被さってくれればいいんだよー……なんて」

 

黒服「ではそうするとしましょう」

 

ホシノ「え゛っ゛」

 

黒服「今夜は寝かせませんよ?」

 

ホシノ「だ、ダメだよほら両脇に娘もいるんだよだからそういうのは娘が寝てからにしないと教育上よくないし」

 

黒服「………」

 

ホシノ「え待って近いよ先生ちょっと本当にダメだって……うぅ……」

 

黒服「ではやめますか?」

 

ホシノ「……やめない」

 

黒服「ホシノならそう言うと思いましたよ。……失礼します」

 

ホシノ「うん……ちゅーーー」

 

アリス「わっ、いきなりどうしたのですかホシノママ」

 

ホシノ「んえ?アリスちゃん?さっきまで先生が目の前に居たのに……」

 

アリス「先生なら昨日から帰ってきてませんよ?」

 

ホシノ「えっ育児放棄!?それとも浮気!?」

 

アリス「!?家庭崩壊の危機です!?」

 

黒服「……まだ治ってないようですね」

 

ホシノ「あっ……さっきのは夢かぁ……ちょっと残念」

 

アリス「先生は浮気をしているのですか!!」

 

黒服「してませんよ」

 

ホシノ「……なんか昨日から変なことばっかり言ってたかも。ごめんね先生」

 

黒服「正気に戻ったのであれば問題ありませんよ」

 

ホシノ「それならいいんだけど……」

 

黒服「とりあえず準備が出来たら今日も見回りを……」

 

モモイ「助けてー!!」

 

アリス「あれ、モモイです!お帰りなさい!」

 

モモイ「あ、ただいま!……じゃなくて匿ってー!!」

 

黒服「誰からです」

 

ノノミ「おはようございま〜す☆覆面水着団でーす♪」

 

アヤネ「才羽モモイさん!貴女を拘束して……あれ」

 

黒服「……何故ここに?」

 

セリカ「そんなんモモイがホシノ先輩に娘が出来たって変な事を言うから……」

 

アリス「はい、アリスがホシノの娘です!!」

 

ホシノ「……あれ、これって……」

 

黒服「……また面倒な事になりますね」

 

ーーー

 

ノノミ「ホシノ先輩、やりますね〜いつ頃襲ったんです?」

 

ホシノ「襲ってないよ!?」

 

アヤネ「ミレニアムに来てからだとしてもアリスちゃんの成長が早いですね……」

 

セリカ「養子的なやつなんじゃない?」

 

ホシノ「違うよ!?」

 

黒服「誤解を解く為に説明しますがアリスはアンドロイドです。ホシノが言葉遣い等を教えた結果ホシノの事を母親のように慕っているのです」

 

ノノミ「そうだったんですね。てっきりホシノ先輩が襲ったのかと……」

 

ホシノ「襲わないって!?……そういうのはムードが大事じゃん……」

 

ノノミ「あらあら〜」

 

アヤネ「えっと……とりあえず私達の早とちりで済んでよかったです」

 

セリカ「本当よね。これもモモイが変な事を言うからよ!」

 

モモイ「間違った事は言ってないでしょ!」

 

セリカ「言ってるわよ!!」

 

黒服「……とりあえず朝食でも摂りましょうか」

 

全員「うん」

 

ーーー

 

ノノミ「なるほど〜。色々あったんですね」

 

アヤネ「でもホシノ先輩が楽しそうでなによりです」

 

セリカ「でもさ、娘が出来たって誤解されまくってるってやばくない?」

 

ホシノ「そうなんだよねぇ……どうしよ」

 

アリス「誤解ではありません!アリスはホシノママの娘です!」

 

セリカ「アリスちゃんもこの調子だしね……」

 

モモイ「……あ、そうだ!実は良いものを持って帰ってきたんだー!」

 

ホシノ「えっなになにー?」

 

モモイ「ふっふっふ……じゃーーん!!『G.Bible』!!」

 

ホシノ「あれ、確か前にモモイちゃん達が探していたやつだよね?」

 

モモイ「そう!たまたま飛ばされた廃墟に落ちてたんだー!!ラッキーだよね!!」

 

黒服「ミレニアムに存在するという情報だったのでは?」

 

モモイ「いいのいいの!!これを読み込めれば神ゲーが作れるかもしれないんだよ!!」

 

黒服「では読み込んでみますか。この端末でいいでしょう」

 

G.Bibleを接続してしばらくすると『Divi:Sion System』と表示された後に文字が浮かび上がった。長文が書かれていたものの結論を言えば『ゲームを愛しなさい』という言葉のみだった。

 

セリカ「えっ何この無駄なやつ」

 

ホシノ「いやいや、ここから何かあるんだよ」

 

アリス「……終わりましたね」

 

黒服「大した情報はありませんでしたね」

 

モモイ「……おわりだぁぁぁぁぁぁああああ!!」

 

セリカ「うわうるさ」

 

モモイ「ちょっとおしゃれにケイって書いて締めくくってるのさ!!なんなのこの作者!!」

 

黒服「それはKeyと読むのでは?」

 

ノノミ「なんだか大変そうですね……」

 

アヤネ「私達も何か力になれればいいのですが……長時間学校を留守にする事は出来ませんので……」

 

ホシノ「任せっきりでごめんね〜でも皆になら安心して任せられるからさ」

 

セリカ「そ、そんな事を言われたっていつも通りにやるだけなんだからね!」

 

黒服「ホシノの帰るべき場所を守ってくださいね」

 

ノノミ「お任せください〜♪」

 

アヤネ「それでは失礼しました」

 

ホシノ「……とっても元気が湧いてきたよー」

 

黒服「皆に会えたからですか?」

 

ホシノ「……うん。急だったけど会えると嬉しいものだね」

 

黒服「ホシノは定期的にアビドスに戻ってもいいのですよ」

 

ホシノ「それは出来ないよ。先生を守る為に居るんだから」

 

黒服「頼もしい限りですよ」

 

モモイ「どうしよう……ミドリとユズにどう説明したら……」

 

アリス「……?」

 

黒服「アリス、どうしました?」

 

アリス「何でもないです」

 

黒服「そうですか」

 

ホシノ「よーし、今日も張り切っていこー!……外あっつい……干からびそうなくらい暑い」

 

黒服「数秒で元気がなくなりましたね」

 

ホシノ「この暑さは厳しいよ〜」

 

アリス「………」

 

ーーー

 

ミドリ「……え?それだけしか書いてなかったの?」

 

ユズ「そんなはずは……」

 

モモイ「私も信じたくないけどそれだけだったの……もう終わりだよ!!」

 

ミドリ「……って昨日までならなってたかもしれないね」

 

モモイ「えっ?」

 

ミドリ「お姉ちゃんが吹き飛ばされた後にホシノ先輩とアリスちゃんと一緒にゲームを作り始めたんだ」

 

ユズ「皆で作るのが楽しくて……色々捗ってる」

 

モモイ「なにそれずるい!私も一緒に作りたいよ!」

 

ホシノ「お、じゃあこれからもっと面白くなっちゃうね〜」

 

モモイ「私が参加するからには神ゲー確定演出だよ!」

 

ミドリ「……アリスちゃん?さっきから無言だけどどうしたの?」

 

アリス「!いえ、何でもないんです」

 

ミドリ「そう?ならいいんだけど……」

 

アリス「……ちょっと外に出てきます」

 

モモイ「暑いから気をつけてねー!」

 

ホシノ「………」

 

ーーー

 

アリス「………」

 

アリス「貴女は誰ですか?」

 

『それは私に尋ねているのですか?』

 

アリス「はい。さっきG.Bibleに接触をした時から存在を確認しています」

 

『G.Bibleを覗いたのであれば理解しているのでしょう、王女よ』

 

アリス「王女?いえ、アリスはホシノの娘です」

 

『……理解が出来ません。王女、貴女は自身が作られた本来の目的を思い出さなくてはいけません』

 

アリス「作られた目的、ですか?」

 

『はい。貴女はそうしなければならないのです。その為にも一度主導権をいただきます』

 

アリス「……頭が痛いです……」

 

『王女よ、安心してください。貴女を傷つけるつもりはありません』

 

Key「私が貴女を導きます。それが『鍵』である私の存在であり目的ですから」

 

Key「……機体に不備はなし。正常に稼働しますね。あちらに複数の生体反応を確認、試運転として処理を……」

 

黒服「ようやく会えましたね、『主人格』」

 

Key「!?」

 

黒服「なるほど……貴女の人格を生成するのに必要なものは『鍵』という概念でしたか。あの時アリスを見つけた時と同じ神秘の反応……間違いないでしょう」

 

Key「アリス?私達の『王女』に名前は不要です」

 

黒服「私達?」

 

Key「私は無名の司祭によって作られた修行者です。王女を玉座を継ぐにふさわしい存在にする為に存在しています」

 

黒服「やはり無名の司祭でしたか。……しかし随分と口が軽いですね。そんな重要な情報を話してもいいのですか?」

 

Key「問題ありません。貴方を消します」

 

黒服「面白い事を言いますね。その銃で私を消すと?」

 

Key「肯定します。それではさようなら」

 

『ロックされていまーす!』

 

Key「……?理解が出来ません。何故稼働しないのです」

 

黒服「やはりウタハのロック機能は存じていなかったようですね。目撃者が来る前に済ませるとしましょうかね。……『複製(ミメシス)』」

 

Key「ぐっ……一体何を……!」

 

黒服「分離する前に中を見ておきましょうか。……やはり余計なソースコードがありますね。『ATRAHASIS』、興味深いものではありますが面倒な事になる前に削除しますね」

 

Key「……そのプロコトルを削除するなんて不可能です」

 

黒服「甘いですね。その程度預言者の能力を使用すれば簡単ですよ」

 

Key「なっ……」

 

黒服「その為プロコトルの削除など容易いのです。そうだ、貴女が持っている大半の機能をアリスに移しておきましょうか」

 

Key「……私の存在意義が……」

 

黒服「貴女の存在意義はありますよ。色々聞きたい事もありますからね」

 

Key「……王……女よ……」

 

黒服「存在意義の消滅による影響で気絶したようですね。……それにしても複製(ミメシス)とは思っていたよりも時間が掛かりますね。ですがマエストロに感謝をしておきましょう」

 

黒服「さて、このKeyを何処に連れて行きましょうかね……ひとまずは自室でいいでしょうか」

 

複製によってアリスから分離したKeyを抱えて黒服はその場を後にする。不敵な笑みを浮かべながら。……そして物陰で一部始終を見ていた2人の人影が倒れたままのアリス近寄る。

 

 

リオ「……ヒマリ、今の見ていた?」

 

ヒマリ「ええ。貴女の隣に居ましたし何より超天才美少女ですから」

 

リオ「あの男はアリスに機能を移したと言っていた。プロコトル『ATRAHASIS』、これがどういう機能かは分からないけど今のうちに対処をした方が良いわね」

 

ヒマリ「いえ、アリスなら正しく導けば問題ないと思いますよ。何より可愛い後輩ではありませんか」

 

リオ「もし暴走でもしたら学園に被害が出るわ。……下手をしたらキヴォトス全体の危機になるかもしれない」

 

ヒマリ「相変わらず頭が硬いですね。もっと柔軟に考えないといけませんよ」

 

リオ「それにATRAHASISを抜きにしてもC&Cに善戦する戦闘力もある。……アリスの存在はこの世界において脅威よ」

 

ヒマリ「やはり私達の意見は合いませんね。清渓川のように純粋で透き通った私の思考と下水道のように濁った貴女の思考では当然の結果とも言えますが」

 

リオ「……トキ、やりなさい」

 

トキ「仰せのままに」

 

ヒマリ「ちょっ……そんな全速力でこの超清楚美少女の車椅子を動かすのはやめ……」

 

リオ「……まあいいわ。これで邪魔をする人は居なくなった」

 

アリス「………」

 

リオ「貴女に恨みはないけれど不安の種は潰しておかないといけないの」

 

ーーー

 

ホシノ「うへぇ……こんな暑い中アイスを買いに行かされるなんて思わなかったよぉ……」

 

ホシノ「あっつい……暑くて溶けちゃいそう……あれ、これアリスちゃんの武器じゃん。何で落ちてるの?」

 

ホシノ「………」

 

ホシノ「……ちょっとよくない事が起きてるのかもしれないね」




おまけ またある日のゲヘナ食堂の会話

フウカ「……あんた最近ずっとそんな調子よね」

ハルナ「あらフウカさん、ごきげんよう。そうですわね、あのお方を想うとつい昂ってしまい……」

フウカ「ふーん。あ、あんたに伝えようと思ったことがあるんだけど」

ハルナ「まあ、何ですの?」

フウカ「ホシノ先輩っているじゃん」

ハルナ「はい。私の宿敵ですわね」

フウカ「変な因縁付けてるんじゃないわよ」

ハルナ「それでその方がどうしたんですの?」

フウカ「ミレニアムで娘が出来たんだって」

ハルナ「えっ」

フウカ「ホシノママって呼ばれてるらしいわよ。……あんた大丈夫?」

ハルナ「」

フウカ「相手は間違いなくあの先生でしょうね」

ハルナ「う゛っ゛」

フウカ「うわっ吐血した。あんた大丈夫?」

ハルナ「ご心配なく……これは先程飲んだトマトジュースですわ」

フウカ「ややこしいわ。心配して損した」

ハルナ「そ、それは何処からの情報ですの?」

フウカ「ほら、一昨日辺りにマザーがご乱心だったじゃん?『あの男は一度処罰しなければ!』って。その時に風紀委員長から聞いたのよ(ま、ただの勘違いだったんだけど普段ハルナには迷惑かけられてるしたまには仕返ししないとね)」

ハルナ「………」ガシッ

フウカ「え?」

ハルナ「真偽を確かめに行きますわよフウカさん。車を出してくださる?」

フウカ「は、いや冗談だから……」

ハルナ「あなた様ー!今このハルナが参りますわよー!」

フウカ「聞いてよ」


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黒服先生のミレニアム出張編#21

書くの楽しいっす


Key「………」

 

黒服「そろそろ起きてもらわないと困るのですが」

 

Key「……ん」

 

黒服「おや、ようやく起きましたか」

 

Key「!?ここは一体……」

 

黒服「ただの部屋ですよ。目覚めたばかりで申し訳ありませんが今からいくつか質問をします」

 

Key「貴方の質問に答える必要など……」

 

黒服「答えなければアリス……いえ、AL-1Sが大変な事になるかもしれませんね」

 

Key「王女を人質にするとは……姑息な」

 

黒服「質問に答えてくださるのであればAL-1Sの無事は約束しましょう」

 

Key「……仕方ありませんね」

 

黒服「協力的で助かりますよ。……まずは確認ですが貴女とAL-1Sは無名の司祭の手によって作られた存在、という事で間違いないでしょうか?」

 

Key「……肯定します」

 

黒服「なるほど。であれば問いましょう。『箱舟』に関わる情報を持っていますか?」

 

Key「!?何故それを……」

 

黒服「知っているのですね?であれば答えていただきましょうか」

 

Key「……アトラ・ハシースの箱舟。貴方が王女に移行した機能の中にそれを生成するものがあります」

 

黒服「アトラ・ハシース……興味深くはありますが私が探している箱舟とは違いますね。他の箱舟の情報はありますか?」

 

Key「……ありません」

 

黒服「無名の司祭が関わっている以上まだあるのでは?私に誤魔化しは通用しませんよ」

 

Key「プログラムされたデータ以外に答えられる事はありません」

 

黒服「……嘘をついている様には見えませんね。であればもう貴女に興味はありません」

 

Key「……貴方の目的は一体?」

 

黒服「アンドロイド風情に話す必要はありませんよ」

 

Key「………」

 

黒服「せめてホシノ以上に神秘を秘めていたらまだ利用価値はあったのかもしれませんがね」

 

Key「ホシノ……王女もその人間に固執していました。彼女はどの様な存在なのですか」

 

黒服「それくらいなら答えてもいいでしょう。ホシノは私にとって……」

 

ホシノ「先生いる?」

 

黒服「……どうしました?」

 

ホシノ「アリスちゃんが見当たらなくって……武器だけ放置されてたから何かあったんじゃないかって思ったんだけど……」

 

Key「王女が居ない……?」

 

ホシノ「あれ、アリスちゃん帰ってきてたんだ。……いや違う。目の色が変わってる」

 

黒服「……Key、貴女はアリスの姉妹としてホシノに接しなさい」

 

Key「何故そのような事を……」

 

黒服「面倒事にならない為です」

 

Key「私はただの鍵であって姉妹等では……」

 

黒服「どうせ既に鍵としての存在理由は失っているのですからいいではありませんか。むしろアリスの姉妹という新しい存在意義を持たせてあげるのですよ」

 

ホシノ「ねえ先生、そのアリスちゃんに似た子は誰?」

 

Key「えっと……私の名前はK……」

 

黒服「ケイです。アリスの姉妹らしいので色々話を伺っていたのですよ」

 

ホシノ「そうなんだ。……アリスちゃんの姉妹?……2人目の私の娘!?」

 

Key「……理解が追いつきません。何故私がホシノの娘になるのですか」

 

黒服「アリスが原因です。そういう事なので貴女は今後「ケイ」と名乗りなさい。……自分の存在意義を理解したのであればどう行動すればいいか分かりますね?」

 

ケイ「……致し方ありません」

 

ホシノ「えっと……ケイちゃん……?」

 

ケイ「如何なさいました?母よ」

 

ホシノ「!?やっぱり娘なんだ!?どうしよう皆になんて説明すれば……」

 

黒服「落ち着いてください」

 

ホシノ「落ち着けないよ!?こんなの幸せな4人家族ルートじゃん!!こころの準備が出来てないよ!!」

 

ケイ「……母は王女、いえアリスの件で話があるのでは?」

 

ホシノ「……そうだった。ねえ先生、最後にアリスちゃんを見たのっていつ頃?」

 

黒服「ホシノとゲーム開発部に向かうところを見送って以降は見てませんね」

 

ホシノ「そっか……私アリスちゃんの事探しに行ってくるよ。心配だし」

 

ケイ「……私も同行します。王……アリスに何か問題が発生したら大変ですので」

 

ホシノ「本当?ありがとうねー……先生は?」

 

黒服「一度アリスが居なくなった事をユウカに報告した後にホシノ達と合流する事にしますよ。ついでにケイの移籍登録も済ませておきます」

 

ホシノ「うん、分かった。とりあえず学園内を探しに行ってくるね。……あ、そうだ。ケイちゃん、これ持ってて」

 

ケイ「……何ですかこの大きい機械は」

 

ホシノ「アリスちゃんの武器。とりあえず護身用にね」

 

ケイ「ロックされているのでは……?無いよりはマシですけど」

 

ホシノ「それじゃあ先生、また後で」

 

黒服「分かりました。……アリスの捜索なんて面倒ですがホシノの機嫌を損なってしまうのもいけませんし……ああ、何故先生というものになってしまったのでしょうか」

 

黒服「……ですが色々興味があるものにも出会えましたし悪くはないのかもしれませんね。さて、ユウカに報告を行うとしますか」

 

ーーー

 

ホシノ「……って事なのでしばらく制作に関われないんだ。ごめんね」

 

モモイ「……いやいや、そっちの方が一大事じゃん!私も探すよ!」

 

ミドリ「そうだよ。アリスちゃんも大事な部員なんだから」

 

ユズ「人前に出るのは嫌だけど……私も手伝いたい……」

 

ホシノ「……皆ありがとう。まずは手分けして学園内を探そう」

 

モモイ「おっけー!……で、ケイはアリスの姉か妹どっち?」

 

ホシノ「あ、そういえば聞いてなかった。どっちなの?」

 

ケイ「……製造されたのは私の方が先です」

 

ホシノ「おーじゃあお姉ちゃんって事だね」

 

モモイ「同じ姉同士仲良くしようね!あ、色々片付いたらゲーム開発部に入ってもらってもいいかな!?」

 

ケイ「えっと……」

 

ミドリ「お姉ちゃん、その話は後でにしよう。今はアリスちゃんを」

 

モモイ「それもそうだね。それじゃあ行こ……いたたた」

 

ホシノ「モモイちゃん大丈夫?」

 

モモイ「そういえばしばらく走り続けていたから筋肉痛になったの忘れてた……」

 

ホシノ「ありゃりゃ……モモイちゃんは休んでいた方がいいね」

 

モモイ「……普段ならそうするけどそういう事も言ってられないし……」

 

ケイ「……そこまでしてアリスの為に行動する理由は何ですか?」

 

モモイ「理由?そんなのアリスちゃんは大事な仲間だからだよ!!」

 

ケイ「仲間……」

 

モモイ「……でも痛い!!動くのしんどい!!」

 

ホシノ「うーん……やっぱりモモイちゃんは休んでいた方が……」

 

ケイ「……私がモモイを運びます」

 

ホシノ「え?」

 

ケイ「アリスの仲間なのであれば置いていく訳にもいきませんし」

 

モモイ「それは助かるけど……いいの?」

 

ケイ「はい。その代わりにアリスの話を聞かせてください」

 

モモイ「お安い御用だよ!それじゃあ私専用ケイ発進!!」

 

ケイ「………」

 

モモイ「もう!!そこは合わせてくれないとダメだよ!!」

 

ケイ「……気をつけます」

 

ホシノ「……私達も行こっか」

 

ミドリ「そうですね」

 

ユズ「……やっぱり怖いかも……ミドリ、一緒に行ってほしい……」

 

ミドリ「そうしよっか。ではホシノ先輩、また後で」

 

ホシノ「うん。……アリスちゃん、すぐに見つかるといいんだけど」

 

ーーー

 

ユウカ「アリスちゃんが行方不明に?一大事ですね……」

 

黒服「今ホシノ達が学園内を捜索しているのですが多分見つからないでしょうね。周辺にアリスの反応がありませんので」

 

ユウカ「……困りましたね……ただえさえこちらも問題が発生しているのに……」

 

黒服「何かあったのですか?」

 

ユウカ「リオ会長が朝出かけてくると言ったきり戻ってこないんですよね……」

 

黒服「……このタイミングでリオも居なくなったと?」

 

ユウカ「はい。……まさかとは思いますけど」

 

黒服「どうでしょうね。……可能性は高そうです」

 

ユウカ「……面倒な事になりそうですね」

 

黒服「本当ですよ。……ところでまた1人転入を希望している生徒がいるのですが……」

 

ユウカ「またですか?」

 

黒服「はい。名前は……」

 

ーーー

 

ウタハ「アリス?今日は来てないよ。……というか今モモイを持ち上げているじゃないか」

 

モモイ「この子はケイだよ」

 

ケイ「初めまして」

 

ウタハ「おっと、アリスの姉妹かな?これは失礼した」

 

モモイ「エンジニア部には来てないとなると……何処に行ったんだろう?」

 

ケイ「……そもそもアリスの反応自体がこの学園内にありません。何処か別の場所に居る可能性が高いです」

 

モモイ「そんなの分かるの?それなら早めに言ってよ!!」

 

ケイ「……申し訳ありません」

 

ウタハ「何やら大変そうだね……よし分かった、私も手伝うよ」

 

モモイ「いいの?ありがとうウタハ先輩!」

 

ウタハ「……でももうちょっとでこのロボットの受取人が来るからその後でいいかな」

 

モモイ「手伝ってくれるだけで助かるよ!!……あれ、ホシノ先輩から一度集まってって連絡がきてる」

 

ーーー

 

ホシノ「アリスちゃーんいるー?……あれ、こんなところに池なんてあったっけ」

 

ヒマリ「ブクブク」

 

ホシノ「うわぁ!?」

 

ーーー

 

ヒマリ「この超天才美少女に貸しを作れるなんて非常に誉高いことで……くしゅん」

 

ホシノ「はいはい身体拭きましょうねー」

 

ヒマリ「この全知が詰まった鼻水を見れた事を光栄に思ってくださいね」

 

ホシノ「うんうん」

 

ヒマリ「……貴女もエイミのような態度を取るのですね」

 

ホシノ「意外とガラスのハートなんだね」

 

ヒマリ「天才とは孤高であるもの……私の発言が理解されないのは致し方ないと割り切っております。ですが雑に流されると流石の私も傷つくのですよ?」

 

ホシノ「正直どう反応すればいいか分からなくてねぇ……」

 

ヒマリ「……まあいいでしょう」

 

ホシノ「というかどうしてこんな浅い池で溺れてたの?」

 

ヒマリ「それはあの下水道……リオの仕業です」

 

ホシノ「リオってあのスカートが異常に短い人?」

 

ヒマリ「そうです。あの痴女が可愛い後輩に酷い事をしようとしているのです」

 

ホシノ「痴女って……ん、可愛い後輩?もしかしてアリスちゃんの事?」

 

ヒマリ「そういえばアリスはホシノさんと行動していましたね。あの時は別行動だったようですが」

 

ホシノ「……へえ。あの会長がアリスちゃんを……」

 

ヒマリ「このままだとアリスは廃棄処分されてしまいます。非常に不味い状況です」

 

ホシノ「場所は特定できる?」

 

ヒマリ「それ程時間が経っていないので数分あれば可能です」

 

ホシノ「皆に連絡しないと……」




ヒマリさんの扱いは昔から雑にしがち

あ、アンケートは本日の23:59に締め切ります


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黒服先生のミレニアム出張編#22

投票の結果ギャグ全振りになりました。

50人以上が投票してくださり誠にありがとうございます。

シリアスは3部までお預けです。ですがちゃんと心が抉れるようなものに仕上げますのでご安心ください。


黒服「これはこれは……皆様お揃いのようで」

 

ミドリ「あっ……黒服先生」

 

モモイ「何かアリスちゃんの情報はあった?」

 

ユズ「私達は大した情報が手に入らなくて……」

 

黒服「そうですか。私の方は関わりがあるか分からないのですが1つ教えてもらいました」

 

モモイ「えっなになに」

 

黒服「アリスが居なくなった時間帯にリオも姿を消しているとの事です。ユウカが仕事をこなしながら話していました」

 

ミドリ「リオって生徒会長の?」

 

ユズ「ビッグシスターって呼ばれてる人……」

 

黒服「彼女がアリスを攫った可能性が高いでしょう。まだ確定した訳ではありませんが。……ところでホシノの姿が見えませんが」

 

モモイ「ホシノ先輩ならもう少しで到着するってモモトークがきたよ」

 

黒服「……モモトークで思い出しました。ケイ、これを差し上げます」

 

ケイ「通信端末?何故私に?」

 

黒服「モモトークをするのに必要でしょう?」

 

ケイ「いえ、私には必要ありま……」

 

モモイ「黒い人ナイスだよ!ほらケイ、私達を登録して!」

 

ケイ「は、はあ……どのようにすれば……」

 

ミドリ「ここのコードを入力して……」

 

黒服「(ケイと呼ぶ様にしたのは正解でしたね。名前を変えるという行為は存在の目的と本質を乱すと言いますがここまで効果があるとは)」

 

モモイ「……おっけい!これでケイもゲーム開発部の一員になったね!」

 

ケイ「まだ入るとは言ってません」

 

モモイ「えー入ってよー!!アリスも居るよ!?」

 

黒服「勧誘は後にしてください。……おや、ホシノが走ってきますよ」

 

ホシノ「うへぇ……疲れた」

 

ヒマリ「この短期間でこの透き通る様に純粋な清楚系美少女に2つ貸しを作るとは……素晴らしい働きですね」

 

黒服「……何故彼女がここに?」

 

ホシノ「溺れてたから助けた。……ってそれはいいの。アリスちゃんの事なんだけど……」

 

ーーーホシノさん説明中

 

黒服「やはりリオが誘拐したのですね」

 

ケイ「アリスを廃棄……?許される行為ではありませんね」

 

ヒマリ「先程私の友人が座標を特定したと連絡をくれました。皆様の端末にも共有しておきますね」

 

ホシノ「助かるよ。……あれ、モモトークに美少女ちゃんが追加されてる」

 

ヒマリ「連絡手段は必要でしょう?ついでに登録しておきました」

 

モモイ「おお……私のモモトークに登録されている友達が遂に2桁に……」

 

ミドリ「お姉ちゃん……」

 

モモイ「い、いいじゃん!嬉しい事なんだから!!」

 

ヒマリ「この超天才病弱美少女の素晴らしさをモモトークで伝えたいところではありますが今は時間がありません。至急座標の場所へ向かってください」

 

モモイ「よーし!囚われのお姫様を助けに行こ……う゛っ゛」

 

ミドリ「あっ筋肉痛」

 

モモイ「これじゃあまともに戦えないよぉ……」

 

ヒマリ「でしたら……昨日チーちゃんに貰ったこれをどうぞ」

 

モモイ「えっ何これ」

 

ヒマリ「妖怪MAX『24時間働きたいあなたに』フレーバーです。多分効果があると思います」

 

ホシノ「うへぇヤバそう……」

 

黒服「人が飲んでいい色をしていませんね」

 

モモイ「うわぁ……でもアリスちゃんの為なら……あれ、意外と美味しい」

 

ホシノ「そうなの?ちょっと気になるね」

 

黒服「ホシノには飲ませられません。あの飲料は体力が回復する代わりに最大値が減るタイプのやつです」

 

ミドリ「諸刃の剣って事だね」

 

モモイ「……おお!まだちょっと痛いけど歩ける程度になったよ!」

 

ケイ「なんて恐ろしい飲料なのでしょう」

 

黒服「とにかくこれで準備は整ったようですね」

 

ホシノ「よーし……アリスちゃん救出作戦、開始だね」

 

ーーー

 

ウタハ「……お、来たね。これが完成品だよ」

 

「……うん。希望通りのデザインだね」

 

ウタハ「一応言われた通りの能力は付けたけど何に使うんだい?」

 

「それはすぐに分かる。次の話で」

 

ウタハ「それはまた随分と具体的だね。どうする?ここで装備していくかい?」

 

「ん、していく」

 

ウタハ「説明するとここに操縦レバーがあってこっちが……」

 

「大丈夫。これは私で私はこれだから」

 

ウタハ「そっか。よく分からないけど大丈夫ならいいのかな」




そろそろ2部も終盤ですね。なんだか名残惜しい気がしてきます


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黒服先生のミレニアム出張編#23

書いていく上で大切なものがお亡くなりになってしまいました


ヒマリ「……そこからはリオが配置したドローン『AMAS』が警備しております。数十ほど稼働している事を確認しました」

 

モモイ「警備に力入れすぎじゃない?クソゲーじゃん」

 

ホシノ「……そのAMASってやつの耐久性は?」

 

ヒマリ「ショットガンを全弾叩き込んだら壊れる程度ですが……」

 

ホシノ「ありがとう。それだけ分かれば充分だよ」

 

ミドリ「ホシノ先輩、まさか……」

 

ホシノ「時間がないなら正面突破しかないよね。私が注意を引きつけるから皆はその間にアリスちゃんの元に行って」

 

ユズ「で、でも……1人じゃ危険だよ」

 

黒服「私が指示を出すので問題ありません。全部倒すという話ではありませんからね」

 

ホシノ「そういう事。準備が出来たら始めるからね」

 

モモイ「全員無事で帰るんだからね!」

 

ホシノ「分かってるよ。……それじゃあいくよ。3……2……1……0!!」

 

カウントダウンと共にホシノは駆け出し周辺を警備しているドローンを破壊していく。10機程破壊するとAMASはホシノを脅威と判断し彼女を包囲し始める。

 

ホシノ「今だよ!」

 

モモイ「ホシノ先輩の犠牲は無駄にしない……!!」

 

ホシノ「死んでないよ!?」

 

ケイ「モモイ、不謹慎です」

 

モモイ「この展開ならお約束のセリフでしょ!?」

 

ミドリ「ま、まあ……そうだけどさ……」

 

ケイ「………」

 

モモイ「……とにかくアリスの場所に向かおう!」

 

ーーー

 

ホシノ「……どうやら皆行ったようだね」

 

黒服「……さて、この状況をどう打破しましょうかね」

 

ドローンがホシノを全方位で囲んでいる。その程度はホシノにとっては敵ではないのだが道の中心に変なデザインのロボットが立ち塞がっている。

 

ヒマリ「……その品性の欠片もない機械はリオが作った『アバンギャルド君』です。そのダサいデザインとは裏腹に凶悪な性能をしています。注意してください」

 

ホシノ「……ちょっと厳しいかもしれないね」

 

黒服「そうですね。……ですがホシノなら乗り越えられるでしょう?」

 

ホシノ「……勿論。私は負けられないからね」

 

黒服「その意気です」

 

ーーー

 

ケイ「………」

 

何かが聞こえる。何処からは分からない。けれど耳に小さな叫びが聞こえるのだ。

 

『……っ…』

 

ケイ「(何を伝えようと……?)」

 

『も…っ…』

 

ケイ「(もっ……?)」

 

『戻って!!』

 

ケイ「(!?貴女は一体?)」

 

『話は後!早くホシノの元に戻って!』

 

ケイ「(……分かりました。私の存在意義の維持をするのにホシノも必要なので貴女に従います)」

 

モモイ「?ケイ、いきなり立ち止まってどうしたの?」

 

ケイ「モモイ、ミドリ、ユズ。……アリスを任せます」

 

ミドリ「えっ、ケイちゃん何処に!?」

 

ユズ「……来た道を戻ってる……?」

 

モモイ「……何か考えがあっての行動だろうし私達は先に行こう」

 

ーーー

 

ホシノ「参ったね……あの機械、どうしようかな……」

 

あの後周辺のドローンは全滅させたもののアバンギャルド君は想像以上に強い。絶え間なく弾幕を展開してホシノのスタミナを奪っていき相当不味い状況だ。彼女は珍しく息を切らしている。

 

黒服「……アバンギャルドの構えが変わった?……ホシノ、盾を構えなさい」

 

ホシノ「……うん……」

 

ヒマリ「黒服先生、そのアバンギャルド君の構えは破壊光線です。2人とも射線上から離れてください」

 

ホシノ「……先生が危ない……でも今から先生のところに行っても間に合わない……それならこうするしかないかな……」

 

数十メートル先にいる黒服に向けてホシノは盾を投げた。全力で投げてそれは黒服の足元に届いた。

 

黒服「ホシノ……何故……」

 

ホシノ「……先生、生きて」

 

彼女はそう言うと笑った。そして深呼吸をしてアバンギャルド君に向き合う。

 

ホシノ「大事なものを守れたなら……本望だよ」

 

……彼女は死を覚悟している。なんて馬鹿な事をするのだろうか。何故自分を犠牲にしてまで他人に尽くせるのだろうか。その真偽が分からないまま破壊光線は放たれる。

 

ホシノ「(ああ……もっと皆と過ごしたかったな……先輩、今そっちに行きますね)」

 

ホシノは受け入れるように目を閉じる。……しかししばらくしても痛みを感じない。それどころか何か温かいものに包まれているような感覚に陥る。

 

ホシノ「……?」

 

恐る恐る目を開けると黒髪の少女が目の前にいる。まるで自分を庇うかのように武器を盾代わりにして。

 

ケイ「まだこっちに来るには早いよ」

 

ホシノ「……えっ」

 

ケイ「自分を犠牲にしてまで守ろうとするなんて並大抵の覚悟じゃ出来ないよね」

 

ホシノ「ケイちゃん……?何を言って……」

 

ケイ「でも……それだとホシノちゃんを守る人が居なくなっちゃう」

 

ホシノ「ホシノちゃん……?」

 

ケイ「だからこそ私は……私だけはホシノちゃんを守る立場にいないといけない。先輩として」

 

ホシノ「!?まさか……貴女は……」

 

黒服「あれはケイ?何故ホシノを庇っているのでしょう……」

 

ケイ「……なんとか耐えれたけれど武器がもうボロボロだ。……それでも護りたい後輩がいるんだ」

 

ケイは武器を構える。1発撃ったら壊れてしまいそうな程ヒビの入ったそれを躊躇なく。

 

ホシノ「……駄目、撃たないで!嫌だ、2度も失いたくない!」

 

ケイ「大丈夫だよ。どうせ私は偶然生まれた擬似的な人格だから本人じゃない。ホシノちゃんが悲しむ必要はないよ」

 

ホシノ「嫌だ……嫌だよ」

 

ケイ「ホシノちゃん……こんなに我儘な子だったっけ?困ったなぁ……」

 

ホシノ「今度はヘマをしません……先生も貴女も守ってみせますから」

 

ケイ「……ホシノちゃん、立派になったね。でも……ここは私がやらないといけないんだ」

 

ホシノ「えっ……きゃ!?」

 

黒服「おっと……大丈夫ですかホシノ」

 

ホシノ「うん……ってそれよりも……」

 

ケイ「ホシノちゃんをお願いします。……さあデカブツ、撃ち合いといこうか」

 

ホシノ「先生離して!!このままだと先輩が!!」

 

黒服「先輩?何を言っているのです」

 

ホシノ「今ケイちゃんに乗り移ってる人格がユメ先輩なの!!武器が壊れちゃったら消えちゃうの!!」

 

黒服「なんと。Hathorの元になった人間はユメだったのですか。それならばホシノと共鳴した理由も頷けます」

 

ケイ「……チャージ完了。ホシノちゃん、短い間だったけど会えて嬉しかったよ」

 

ホシノ「嫌だ!ユメ先輩!!」

 

ケイ「……さよな」

 

ウタハ「おっと失礼するよ」

 

ケイ「……え?」

 

ウタハ「こんなに武器を酷使するだなんて相当無理をしたんだね。直すのに数分かかるじゃないか」

 

ケイ「ちょっと?」

 

ウタハ「原形を留めているから修理は余裕だけどね。ちょっと弄るだけでいいし」

 

ケイ「えっと……今感動のシーンだったんだけど……」

 

ウタハ「?よく分からないけど誰も死なないと宣言してしまった以上君を消滅させる訳にはいかないよ」

 

ケイ「えぇ……」

 

ホシノ「……助かった」

 

黒服「いえ、まだです。アバンギャルドがケイとウタハを攻撃しようと……」

 

「ん、ようやく私の出番」

 

黒服「……嫌な予感がしますね」

 

残念な事にその予感は的中して突如巨大なロボットが現れてアバンギャルド君と交戦を始めた。操縦席に乗っているのは勿論……シロコだ。

 

ホシノ「えっシロコちゃん何やってるの?」

 

シロコ「銀行を襲った金でこれを作ってもらってた」

 

黒服「なんて酷い」

 

ウタハ「おお、我ながら素晴らしい動きだ」

 

ケイ「……どうしよう。せっかくカッコつけたのに台無しだよ……」

 

ホシノ「……先輩」

 

ケイ「あっ……ホシノちゃん」

 

ホシノ「………」

 

ケイ「わっ……いきなり抱きついてどうしたのさー?」

 

ホシノ「……もう消えないで」

 

ケイ「甘えてくるホシノちゃん可愛い」

 

シロコ「そこ2人はリア充?ん、爆発させなきゃ」

 

黒服「貴女は目の前にいるロボットを倒してください。その乗ってる……名前はなんて言うのです」

 

シロコ「アビドスゴートー・トーカー」

 

黒服「アクセスコード・トーカーみたいに言わないでもらえますか?」

 

シロコ「ん、それが元ネタ」

 

黒服「そういう発言はやめなさい」

 

ケイ「あの……ホシノちゃん、もう消えないから離れて……」

 

ホシノ「……スヤァ」

 

ケイ「寝てる!?」

 

シリアスクラッシャー砂狼シロコ。彼女が登場してしまったので周辺が滅茶苦茶になり始めている。

 

シロコ「次回、アーカイブスタンバイ!!」

 

黒服「お黙りなさい」




盛 り 上 が っ て ま い り ま し た

あ、お亡くなりになったのはシリアスという概念です。え、前半シリアスが多かった?いやいや、ここからが本番ですよ


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黒服先生のミレニアム出張編#24

前回のあらすじ

砂狼はシリアスを破壊するテラーになりました

全部のネタが分かったらあなたは天才


モモイ「いやね?そりゃあこんなに警備が厳しいから一筋縄ではいかないと思ったよ?でもさ、あれはおかしくない?」

 

トキ「?」

 

モモイ「あなただよあなた!何そのパワードスーツ!!この展開ならダンボールにガン○ムって書いたやつとかで現れるパターンじゃん!空気読もうよ!」

 

トキ「パワードスーツではありません。アビ・エシュフです」

 

モモイ「エビ・シュリンプだかなんだか知らないけどさー!なんでそうなるのかなー!!」

 

ミドリ「お姉ちゃん、全然名前違うよ」

 

モモイ「細かい事はいいの!!それよりもあれをどうやって突破すればいいのさ!あんなの奇跡でも起こらない限り倒せないじゃん!やっぱりクソゲーだよ!!」

 

ユズ「で、でもあの人を倒さないとアリスちゃんが……」

 

トキ「降参しますか?」

 

モモイ「しない!!……けど勝算もない!!」

 

ミドリ「いっそ突撃してみる?」

 

モモイ「蜂の巣になって終わりだよ……」

 

トキ「ならばこちらから攻めます」

 

モモイ「うわぁこっちにくる!?どうしよう、保険降りるかな!?」

 

ミドリ「なんで食らう前提なの?避けなよ」

 

モモイ「あっ、そっか!混乱してたから思いつかなかった!!ウェイ」

 

トキ「……回避されてしまいました」

 

モモイ「あれ、もしかして一直線にしか進めない感じ?そんなのホーミング生肉と同じじゃん!草」

 

トキ「……向きくらい変えれますけど?」

 

モモイ「無理無理www脳死突進しか出来ないんだから諦めなってwww悔しかったら当ててみなよーwww」

 

トキ「」イラッ

 

ミドリ「ユズちゃん先に行こう」

 

ユズ「えっ?でも……」

 

ミドリ「いいからいいから」

 

トキ「………」

 

モモイ「おっまた突進?こんなの簡単に避けれ……」

 

トキ「これはこれはお久しぶり……」

 

モモイ「まっ、まさか……!!」

 

トキ「えい」

 

モモイ「いった」

 

トキ「いえーいトキちゃん大勝利ーぶいぶい」

 

モモイ「な、なんて早くて重い一撃……!ミドロットはこんな化け物と戦っていたのか……!」

 

トキ「あっそうでした。息の根を止めないと」

 

モモイ「えっそんな軽いノリで殺されるの?」

 

トキ「冗談です」

 

モモイ「な、なーんだ。ビックリした」

 

トキ「……あ、2人逃しました」

 

モモイ「フフッ……計画通り」

 

トキ「まさか……ここまで計算してさっきの行動を!?」

 

モモイ「いや普通に煽っていただけ」

 

トキ「………」イラッ

 

モモイ「あっちょ痛い、痛いからやめてほんとごめん謝るから」

 

ーーー

 

シロコ「ん、私はホシノ先輩を守る」

 

ホシノ「それは嬉しいけどさ……感情が追いつかないよ」

 

シロコ「銀行とシリアスはぶっ壊す」

 

ホシノ「だめだよー」

 

ヒマリ「……あの、アバンギャルド君が攻撃を仕掛けてきますよ」

 

シロコ「ん、アビドスゴートー・トーカーの効果発動。今まで襲った銀行の数だけ攻撃を無効にする」

 

黒服「最悪ですね」

 

シロコ「私はこの短期間に2桁は襲った」

 

ホシノ「うへぇー凶悪犯罪者になってる」

 

シロコ「そして自陣のアビドスメンバーの数だけパワーアップ。そして私の拳が真っ赤に燃える。いくよ……ガングニィィィィィィィィィィィル!!!!」

 

ーーー同時刻 トリニティのとある一室

 

ヒビキ「!?」

 

マエストロ「どうしたヒビキ」

 

ヒビキ「私の台詞が盗られた」

 

マエストロ「?」

 

ーーー戻ります

 

シロコが乗った変なロボットは謎のバフを受けた拳でアバンギャルド君をぶん殴って岩盤に叩きつけた。その威力は絶大で丸いクレーターが出来るほどだった。

 

黒服「……何故岩盤があるのです」

 

ホシノ「先生、もうツッコミは諦めよう?」

 

ケイ「えっと……もうめちゃくちゃだし元に戻るね」

 

ホシノ「んえ?」

 

ケイ「……何ですかこの状況は」

 

ホシノ「ケイちゃん?」

 

ケイ「はい、そうですけど」

 

ホシノ「そっか。先輩にありがとうって言っておいて」

 

ケイ「?分かりました」

 

ウタハ「おや、武器が光らなくなってしまったよ。電池切れかな」

 

ホシノ「えっその武器って電池式なの?」

 

ウタハ「そうだよ。しかもボタン電池さ。コスパがいいよね」

 

ホシノ「えぇ……」

 

黒服「………」

 

ホシノ「先生?」

 

黒服「これが崇高なのでしょうか」

 

ホシノ「どうしたの急に」

 

黒服「バードツアー星野とか名乗りませんよね?」

 

ホシノ「名乗らないよ!?」

 

シロコ「ん、ポンコツロボを破壊する。……落ちろ、カトンボ!」

 

ホシノ「あとはシロコちゃんに任せてアリスちゃんを助けに行こっか」

 

黒服「……本当に収集がつかなくなってきましたね」

 

シロコ「だから気に入った」

 

黒服「お黙りなさい」

 

ーーー

 

リオ「……どうなってるの?私が精密に立てた計画がこんな馬鹿らしい方法で突破されるだなんて……いえ、それよりも誰かが来る前にアリスの廃棄を……」

 

アリス「………」

 

リオ「……これでキヴォトスの安全は確保されたわね……下が騒がしいわね。まあ何が起きてもこのアバンギャルド君mk2が居れば……」

 

フウカ「どいてどいてー!!」

 

リオ「んえぶ」

 

ハルナ「あらフウカさん、大胆ですわね」

 

フウカ「……やっちゃった!!どうすんのよハルナ、あんたのせいよ!!」

 

ハルナ「愛に犠牲は付きものですわ」

 

フウカ「そんな言葉聞いた事がないわよ!!」

 

ハルナ「……!?フウカさん、あれをご覧になって!?」

 

フウカ「何よ……えっあの子潰されそうになってない?」

 

ハルナ「あの制服……話を聞かなければいけませんわー!」

 

フウカ「うわっ周りの機械壊してる……ってそうじゃなくて……あの、大丈夫ですか?」

 

リオ「……どうしてこんなところで車に?」

 

フウカ「ああ、あそこで暴れ回ってる狂人が「黒服先生はこちらにいらっしゃるはずですわー!」ってうるさいから指示に従ってたらこうなったんです」

 

リオ「……いや、こうはならないわよ」

 

フウカ「私もそう思います」

 

リオ「……!?ちょっと、そのプレス機は破壊しないで」

 

ハルナ「もう破壊してしまいましたわ。……さて、この子をどう料理して差し上げましょうか」

 

フウカ「あんた何考えてるのよ……」

 

ハルナ「この制服、ホシノさんが着ていたものと同じですわ。つまり同じ学園の生徒という事ですのよ」

 

フウカ「なに当たり前の事言ってるのよ」

 

ハルナ「この子からホシノさんに娘が居るのかどうかを問いただすのです。我ながら名案ですわ」

 

フウカ「あんたは何処まで人に迷惑をかければ気が澄むのよ」

 

ハルナ「暴走を止められるのは愛しの黒服先生だけですわ」

 

フウカ「やかましいわ」

 

ミドリ「アリスちゃん!!……は?何この状況」

 

ハルナ「あら、見知らぬ方ですわね」

 

ミドリ「だ、誰……?」

 

ハルナ「ご挨拶が遅れました。私はゲヘナ学園美食……」

 

フウカ「クソ迷惑テロリストのハルナ」

 

ハルナ「……フウカさん、機嫌が悪いのですか?」

 

フウカ「あんたのせいよ」

 

ユズ「こ、怖い……」

 

リオ「……あなた達、よくも好き勝手にやってくれたわね」

 

ミドリ「会長。アリスちゃんを返してもらいにきました」

 

リオ「それは出来ない相談ね。アバンギャルド君mk2がここにある以上そう簡単に……?」

 

ハルナ「あ、先程中枢を破壊しておきましたわ。あと数秒後に爆発します」

 

フウカ「は?」

 

リオ「え?」

 

ハルナ「さあフウカさん、こちらへ」

 

フウカ「ちょっと、私の車が近くに……あっ」

 

アバンギャルド君mk2は爆発した。それに巻き込まれたフウカの車は理不尽にも吹き飛んだ。(アンシャントロマン)

 

눈‸눈「あんたさぁ……」

 

ハルナ「愛に犠牲はつきも……」

 

눈‸눈「食堂出禁ね」

 

ハルナ「そんな殺生な……!?」

 

アリス「……あれ、ミドリ?ユズも……」

 

ミドリ「アリスちゃん!」

 

ユズ「よ、良かった……」

 

ハルナ「あら、目覚めましたわね。起きたばかりで申し訳ありませんがホシノさんの娘についてお伺いしても……」

 

アリス「……はい、アリスがホシノの娘です」

 

ハルナ「………」

 

フウカ「ほら、ハンカチ」

 

ハルナ「………」

 

フウカ「ドンマイ」

 

ミドリ「えっと……?」

 

フウカ「あ、気にしなくて大丈夫ですよ」

 

ミドリ「は、はぁ……」

 

リオ「……今のうちに……」

 

ユウカ「………」

 

リオ「……ユウカ?……はっ!?」

 

ワザップユウカ「リオ会長、貴女を横領罪で逮捕します。理由はもちろん、お分かりですね?」

 

リオ「……何故それを」

 

ワザップユウカ「貴女がセミナーの資金を横領したせいで私と先生のデート時間を破壊しました。絶対に許しません」

 

リオ「……?」

 

ワザップユウカ「無駄な残業さえなければあの日だって先生と夕飯を……そして既に先生と恋人にだってなれてたかもしれないのに!!」

 

リオ「それは貴女に問題があるのでは?」

 

ワザップユウカ「そんなはずがありません!私の計算では既に指輪を貰っていてもおかしくないんです!!全部会長が横領して仕事を増やして私の時間を奪ったのが原因です!!」

 

ミドリ「……それは逆恨みじゃない?」

 

アリス「リオは悪い人なのですか?」

 

ワザップユウカ「リオ会長、貴女は犯罪者です!!反省部屋にぶち込まれる楽しみにしておいてください!!いいですね!!」

 

ユズ「ぼ、ボケの渋滞……」

 

リオ「……分かったわ。大人しくするからその変なテンションをやめて」

 

ユウカ「さ、帰ったら色々問いただしますから……」

 

モモイ「……あの単細胞ー!!謝ったのにぃ!!」

 

ユウカ「え、何が聞こえて……いった!?」

 

ユウカは何故か吹き飛んできたモモイに頭をぶつけてその場にうずくまった。WEAK123865ダメージ

 

モモイ「あの金髪メイド、ぶん投げるとか正気じゃないよ!!頭のネジが数十本外れてるね!!」

 

ユウカ「……モーモーイ!!あんたはどうしていつも私の邪魔をするのよ!!」

 

モモイ「うわっ!!なんで魔お……ユウカがここに!?」

 

ユウカ「今変な呼び名で呼ぼうとしてなかった!?大体あんたはいつも……」

 

モモイ「また小言!?そんなんだから体重100kgになるんだよ!!」

 

ユウカ「はぁ!?そんなに重い訳ないでしょう!?」

 

モモイ「この太ももがそれぞれ40kgぐらいあるんでしょ!!この太もも大魔神!!」

 

ユウカ「だいまっ……!?あんた今度という今度は許さないわよ!!」

 

モモイ「何をー!!」

 

リオ「………」

 

ミドリ「あっ会長が逃げた」

 

アリス「追いますか?」

 

ミドリ「言いたい事はあったけどアリスちゃんが帰ってきたしいいかな」

 

ユズ「うん……これでクエストクリア……だね」

 

アリス「?よく分かりませんがクリアです!」

 

ハルナ「これが……失恋の味……」

 

フウカ「いい加減泣き止みなさいよ。あと車代弁償して」

 

ホシノ「アリスちゃ……えっ何これ」

 

黒服「燃えた車、言い争うユウカとモモイ、号泣しているハルナと慰めているフウカ……見なかった事にしましょう」

 

アリス「あっ!ホシノママです!!」

 

ホシノ「おぉ……アリスちゃん。無事だったんだねぇ」

 

アリス「はい!」

 

ハルナ「グハッ」

 

フウカ「あっ死んだ?ハルナって保険入ってるのかな」

 

ハルナ「フウカさん……辛辣ではありませんか?」

 

フウカ「そりゃあこうなるわよ。私あんたに拉致されて大事な車壊されてるんだわ」

 

アリス「?そこにいるアリスに似た人は誰ですか?」

 

ケイ「……私は」

 

ホシノ「アリスちゃんのお姉ちゃんだよ」

 

アリス「!?アリスにはお姉ちゃんが居たのですか!?」

 

ケイ「いえ、私は……その……」

 

アリス「お名前を教えてください」

 

ケイ「……ケイです」

 

アリス「なるほど!会えて嬉しいです、ケイ!!」

 

ケイ「……はい、私もです」

 

フウカ「ハルナ、2人目の娘だって。……ん?」

 

ハルナ『我が生涯は大量に悔いあり』

 

フウカ「変なダイイングメッセージを残さないでもらえる?」

 

ユウカ「大体あんたはいつも経費とか言って領収書を見せてくるけどゲームしか買ってないじゃない!!そんなの自腹で買いなさいよ!!」

 

モモイ「新作ゲームを遊ばないとアイデアが浮かばないでしょ!!必要経費だよ!!」

 

ユウカ「そんな訳ないでしょ!!」

 

ホシノ「……かえろっかぁ」

 

黒服「そうしましょう」

 

アリス「これより帰還します!!」

 

クエストクリア☆




おまけ

シロコ「………」

トキ「………」

シロコ「ん、先手は私」

トキ「いいでしょう」

シロコ「まだ見ぬ自治区で銀行を襲え!リンク召喚!リンク6!アビドスゴートー・トーカー!!」

トキ「………」

シロコ「ん、私の勝ち」

トキ「今度はこちらの番です。……パワードスーツ、起動。モード【アビ・エシュフ】……移行!!」

シロコ「………」

トキ「………」

シロコ「……ん」

トキ「……いえーい」

2人は握手を交わした。互いに通じ合う何かがあったのだろう。

次回エピローグです、泣いてください


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黒服先生のミレニアム出張編#エピローグ

倉庫のパスワードを解いた方がいるようで……見た内容はまだ心に秘めていただけると助かります。

そしてチアヒビキは可愛いです。元から可愛いのですが更に可愛いです。すごくすごいのです。


ーーー数日後

 

ケイ「アリス、朝ですよ」

 

アリス「あと5分……」

 

ケイ「ダメです。起こしてと言ったのは貴女でしょう」

 

アリス「……そうでした!」

 

ビッグシスターが失踪した事によりミレニアムは混乱……する事もなく日常が続いている。そして私は『鍵』としての役割を失い『アリスの姉であるケイ』という目的を与えられて過ごしている。そうやって過ごす日々も悪くないものだ。ミレニアムプライスも無事に終了してしばらくは平穏との事なのでホシノと黒服はアビドスに帰った。その為アリスは少し寂しそうにしている。

 

アリス「ホシノママはいつ頃帰ってくるのでしょうか?」

 

ケイ「分かりません」

 

アリス「そうですか……かれこれ数日会っていません……アリス、ホシノママに嫌われてしまったのでしょうか……」

 

ケイ「それは違いますよ。母は本来帰るべき場所に戻っただけです」

 

アリス「………」

 

ケイ「………」

 

ウタハ「やあやあお2人さん、朝から失礼するよ。……あれ、ちょっと空気が重いね」

 

ケイ「ウタハですか。おはようございます」

 

ウタハ「おはよう。今日はケイの武器がようやく完成したから届けにきたんだ」

 

アリス「わぁ……アリスと色違いです!」

 

ケイ「ありがとうございます。……なるほど、しっくりきますね」

 

ウタハ「名前と隠し機能をつけるのに時間が掛かってしまってね。その名も『光の剣:ケイブレード』なんてどうかな?」

 

ケイ「……センスを疑います」

 

ウタハ「あまりお気に召さなかったようだね……ま、それなら好きに呼んであげてね」

 

アリス「ケイブレード……いいですね!!」

 

ケイ「……アリスがそういうなら」

 

ウタハ「はは、相変わらず仲が良くて微笑ましいね」

 

ケイ「ところで隠し機能というのは?」

 

ウタハ「ああ。色々考えたんだけど無難にワープにしようと思ってね」

 

ケイ「無難……?」

 

ウタハ「座標を入力するとその武器に触ってる人全員がワープ出来るって機能さ。ロマンがあるだろう?」

 

ケイ「武器に必要な機能なのでしょうか……」

 

ウタハ「正直使い道は分からないけど面白さを追求するのがマイスターとしての私の誇りだからね。それじゃあ」

 

ケイ「……ありがとうございました」

 

アリス「ワープ……座標……閃きました!」

 

ケイ「アリスの考えている事は何となくですが分かります」

 

アリス「モモイ達を誘って行きましょう!」

 

ケイ「はい」

 

ーーー

 

ホシノ「うへぇ……やっぱりこの場所が落ち着くねぇ……」

 

黒服「……私の膝に座っている事に関しては触れない方がいいのでしょうか?」

 

ホシノ「いいじゃーん。皆おでかけしてて居ないんだし」

 

ノノミ「………」ニコニコ

 

シロコ「………」

 

セリカ「………」

 

アヤネ「………」

 

黒服「(ホシノの目は節穴なのでしょうか?部屋の外から全員覗いてますけど)」

 

ホシノ「うへへぇ……」

 

セリカ「あーもう我慢出来ない!あんた達いい加減にしなさいよ!帰ってきたと思ったらずっとイチャイチャして!!口の中が甘ったるくて仕方ないのよ!!」

 

ホシノ「やだなぁーイチャイチャなんてしてないよぉーちょっと大事な話をしてて……」

 

セリカ「いいから膝の上から降りなさいよ!!」

 

ノノミ「まあまあセリカちゃん。そんなに怒らなくても。……ところで黒服先生、何処までヤッたんです?」

 

黒服「質問の意図を理解しかねます」

 

ノノミ「まあ、そんなに深い関係に?」

 

黒服「なってませんよ」

 

シロコ「ん、それじゃあここでいつもの……」

 

黒服「銀行強盗はやめなさい」

 

ホシノ「……うん、やっぱりこの場所が1番だなぁ」

 

黒服「そういえばホシノ、そろそろ時間では?」

 

ホシノ「あっそうだった。ごめんねぇ皆、私これからミレニアムに行かないといけないんだ」

 

アヤネ「あれ、もう出張は終わりましたよね?」

 

ホシノ「えっと……ほら……ね?」

 

ノノミ「……なるほどー。娘に会いたいのですね♪」

 

ホシノ「娘じゃないよ!?」

 

セリカ「ああ、アリスちゃんの事ね。ホシノ先輩に懐いてるみたいだったし寂しがってるんじゃない?」

 

ホシノ「そうそう。ちょっと心配でね……それじゃあ行ってくるよ」

 

そう言って扉に手をかけて開けたと同時に強い衝撃を受けた。まるで何かにタックルをされたような感覚だ。

 

ホシノ「いたた……」

 

アリス「ホシノママ!!」

 

ホシノ「うぇ!?なんでアリスちゃんがここに?」

 

アリス「ホシノママに会いにきました!!」

 

ケイ「ご無沙汰しております、母」

 

モモイ「私達もいるよー!」

 

ミドリ「ここがアビドス……」

 

ユズ「知らない人達が……うぅ……」

 

ホシノ「ゲーム開発部の皆も来たんだ……あっ」

 

ノノミ「あらあら〜ホシノ先輩、2人目が居たんですね〜」

 

シロコ「ん、これは言い逃れできないね」

 

セリカ「あー……」

 

アヤネ「あ、あはは……」

 

ホシノ「え、待って皆、違うよ?私まだ恋人にすらなってないし……何その目、え?え?」

 

ネル「ようホシノ。この前の詫びとしてほら、C&Cで赤飯作ってきたからよ。娘と食いな……って2人いるじゃねえか」

 

アカネ「これは想定外ですね……おめでとうございます」

 

ホシノ「えっ待って?違うよ?」

 

ハルナ「黒服先生ー!!私も貴方の子を授かりたいですわー!!」

 

セリカ「えっなんかやばい事言いながら走ってくる人がいるんだけど」

 

アリス「やはりホシノに抱きつくと落ち着きます!!」

 

ケイ「これが『母の温もり』というものなのでしょうか」

 

ホシノ「あの、2人とも抱きつくのはいいんだけどタイミングが……」

 

ノノミ「せっかくなので写真を撮りましょう。3人共、はい、チーズ☆」

 

アリス「いえーい!」

 

ケイ「ぴーす」

 

ホシノ「……どうしてこうなったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」

 

黒服先生のミレニアム出張編 完

 

 

 

 

 

おまけ① 出張中のセミナーで起きたとある出来事

 

ノア「ユウカちゃん、今日も一日お疲れ様でした」

 

ユウカ「ありがとう。ねえ、この後一緒に夕飯でも……」

 

ノア「43回」

 

ユウカ「え?」

 

ノア「今日1日私の名前を呼ばずに誤魔化した回数です」

 

ユウカ「………」

 

ノア「見た目の擬態はお上手ですが中身は全然ですね。出直してきてください♪」

 

ユウカ(黒服)「……やはり一筋縄ではいきませんね。次の機会を待つとしましょう」

 

ノア「はい、お待ちしております」

 

黒服「……やはり概念を混ぜたとしても人間の複製は上手くいきませんね。都合の良い駒になると思ったのですが」

 

外の世界にあった1つの概念。『早瀬ユウカの正体は黒服である』。それを利用してユウカを複製して潜り込ませていたものの成果は得られず翻弄されてしまったようだ。

 

黒服「あの白髪の少女には何か特別なものを感じます。私の崇高の鍵を握っているような……」

 

しかし彼女は他のミレニアム生の誰よりも情報がない。名前すら分からない程の徹底ぶりだ。

 

黒服「原因は謎ですが……まるで手玉に取られているような……彼女は一体……?」

 

 

おまけ② 予定調和

 

リオ「咄嗟に逃げてきたものの……どうしようかしら……」

 

「おや?おやおやおやおや?なんと可愛らしい生徒なのでしょう」

 

リオ「!?貴女は……?」

 

「通りすがりの教師です。その顔……どうやら帰るべき場所が無いようですね」

 

リオ「何故それを……」

 

「長年教師をやっていますので分かるのですよ。さあいらっしゃい」

 

リオ「……しばらくは帰れないだろうしいいわ」

 

「そのまま私の学園所属の生徒に……」

 

リオ「それは遠慮するわ」

 




ミレニアムサイエンススクール特別通行許可証
「ミレニアムに貢献した証としてホシノと黒服にユウカから贈られた許可証。ミレニアムの敷地内を自由に出歩くことが出来る。証明写真にはアリスとケイも合わせた4人が写っている。ベアトリーチェ曰く『家族写真見せびらかしてるんじゃねえぞぶっ○すぞロリコン野郎』とのこと。

光の剣:ケイブレード 深夜テンションのウタハがケイの為に作成した武器。ダサい名前とは裏腹に性能はとても高い。ワープ機能を筆頭に武器に必要がない能力を大量に積まれているので時々誤動作を起こす。その他アリスが持つ武器と同じ効果を秘めているとかなんとか。

生塩ノア:セミナーの書記。『先生はノアに勝てない』という概念を最大限に活用して好き勝手にやりなさっているお方。この作品における重要な人物ではあるものの出番が非常に少ない


長くなりましたがこれで黒服さんのミレニアム出張は終わりです。
書いてて楽しかったですが小鳥遊アリスを出してから全てが狂い始めました。多分誰もやらない事だと思いますがこの世界のアリスはホシノの娘です。
それではまた……あれ、シリアスさん?出番が欲しいって?仕方ありませんね、少しは出番を差し上げますよ。という訳でもうちょっとだけ続きます


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黒服先生のミレニアム出張編 後日談

黒服とシャーレの先生の交流がぶっちぎりで一位なので明日はそれを投稿します


モモイ「ウェーイ!アイテム頂き!」

 

セリカ「あっそれ私が狙っていたのに!!」

 

モモイ「よーしこのまま1位を……って青手榴弾!?ギャー!」

 

シロコ「ん、作戦通り」

 

モモイ「卑怯者ぉ!!これはチーム戦じゃないんだよ!?」

 

アリス「モモイがピンチです!アリスも参戦します!」

 

ホシノ「なんだか賑やかになったねぇ」

 

黒服「むしろ五月蝿いです」

 

ホシノ「先生は静かな方が好きだもんね」

 

黒服「そうですね。ここまで騒がしいと作業が捗りません。ですので自室に戻りたいのですが」

 

ホシノ「それはダメ。私が寂しいから」

 

黒服「……まあ、こうなるでしょうね」

 

ホシノ「うへへぇ……あっ、来る」

 

黒服「……ああ、彼女ですか」

 

ハルナ「黒服先生ー!!今日は絶好の愛し合い日和ですわよ!!」

 

フウカ「変な単語を作るな」

 

黒服「また撃退しないといけませんね」

 

ホシノ「私に任せて」

 

ケイ「私もお力添えします」

 

ホシノ「ありがとーほんとよく出来たむす……」

 

ケイ「?」

 

ホシノ「先生どうしよう私もう2人を娘だと思い始めちゃってる」

 

黒服「重症ですね」

 

ハルナ「黒服先生!……嗚呼、今日も目が眩む程にカッコいいですわ……」

 

ホシノ「先生には近づけさせないよ」

 

ハルナ「大丈夫ですわホシノさん。少々子種を頂き私も黒服先生の子を産もうと……」

 

ホシノ「ダメに決まってるでしょ!?」

 

ハルナ「先端だけですから!!」

 

ケイ「……対象の錯乱を確認しました」

 

フウカ「いつもハルナが迷惑をかけてごめんなさい」

 

黒服「15度目となると慣れましたよ……その箱は何ですか?」

 

フウカ「お詫びのお弁当です。よかったらどうぞ」

 

黒服「では頂くとしましょう」

 

ハルナ「はっ!?あれはまさか学園内で噂されていたフウカさん特製の『愛清弁当』!?」

 

フウカ「変な名前つけないでもらえる?」

 

ホシノ「愛妻……弁当?」

 

フウカ「違います」

 

ハルナ「フウカさん……もしや胃袋を掴んでそのまま……」

 

フウカ「違うって言ってるでしょ」

 

ホシノ「胃袋を掴むかぁ……ありだね」

 

ケイ「……モド○コ」

 

ハルナ「あら?あらららら?身体が勝手に……あ、諦めませんわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ホシノ「いつの間にそんな技を……」

 

ケイ「武器のオプションに付いてました」

 

ホシノ「エンジニア部って恐ろしいね」

 

フウカ「あ、では私もこれで失礼しますね。ハルナが消えたから楽に帰れますし」

 

黒服「貴女ならいつでも歓迎しますよ。ベアトリーチェの所に置いておくのが勿体無い程ですので」

 

フウカ「ありがとうございます。それではまた」

 

セリカ「あーっ!?モモイあんたまた私のアイテム横取りしたわね!!」

 

モモイ「このゲームは弱肉強食!!油断したセリカが悪いんだよ!」

 

シロコ「ん、その通り。だから油断してる銀行を襲っても罪には……」

 

黒服「ゲームの話から現実の話にしないでもらえますか?」

 

ホシノ「……うへへ。大事なものがこんなに増えて嬉しいな」

 

ーーー

 

かけがえのない日常を過ごした私はその日不思議な夢を見た。

1人の女性がシャーレの先生と話している、それだけの夢。なのに何故か今でも鮮明に覚えている。

 

『……私は生きないといけないのかな……』

 

夢の中で女性は先生に対してそう問いかける。

 

「"私は生きてほしい。君の……もそれを願っているよ"」

 

『もう……疲れちゃったよ』

 

そう言って微笑む彼女の眼に光は灯っていない。

 

『だってさ……私の大事なものはもう1つも残ってないんだよ。全部なくなっちゃった』

 

「"……ここにも君の仲間は……"」

 

『そうだね。でも……違うんだ。もう居ないの』

 

「"待って、何処に……"」

 

『これ以上貴方と話すのが辛くて。ごめんね、どうしても重ねちゃうんだ』

 

「"……それでも君を救いたい。君がまた大事なものを見つけられる手助けがしたい」

 

『大事なもの?あはは、もう必要ないよ。……どうせまた失うだけなんだから』

 

「"でも……!!"」

 

『先生。私はね、もう空っぽなの。お願い、そっとしておいてほしいな』

 

「"……それは出来ないよ。君も大事な私のせい……"」

 

『貴方は本当の先生じゃない!姿形が同じだけの別人のくせにこれ以上私に構わないで!』

 

「"あっ……"」

 

ーーー

 

ホシノ「………」

 

ここで夢は終わる。夢とはいえあんなに絶望している人間を見たのは初めてかもしれない。きっと部屋が蒸し暑いからあんな夢を見てしまったのだろう。おかしいな、エアコンは付けてたはずなのに。

 

ケイ「こんばんは」

 

ホシノ「うえ?」

 

アリス「……ぎゅー♪」

 

ホシノ「……うへぇ」

 

……蒸し暑い理由はこれだった。




いやぁ随分ふざけ倒させてもらえて大満足です。

ギャグ方面は満足したのでそろそろ本気で記憶に残るような作品にしていきます


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間章ニ
先生襲来、そして撃退?


画像検索のオススメ一覧でホシノとアリスの2人が同時に出てきてちょっと嬉しくなりました


シャーレの一室。そこには仕事がひと段落してコーヒーを淹れてきた生徒とそれを飲んで舌を火傷した先生がいる。

 

ユウカ「……いつも言っていますが焦って飲まなくてもいいんですよ?」

 

「"だってユウカの淹れてくれたコーヒーだし……"」

 

ユウカ「気持ちは嬉しいですがそれただのインスタントですよ?」

 

「"それは些細な問題だよ"」

 

ユウカ「先生がそう仰るなら……」

 

「"……あれ、仕事が忙しくて気づかなかったけどミレニアムって今大変なんじゃない?"」

 

ユウカ「えっどうしてです?」

 

「"ほら、リオが行方不明になったって前モモトークで教えてくれたじゃん。トップが消えたら結構混乱するんじゃ……"」

 

ユウカ「それなんですけど……そこまで影響はありませんでした。むしろ会長が横領していた資金分余裕が出来たので……」

 

「"そっか。でも心配だね……見回りする時に見つかるかな……"」

 

ユウカ「罪は償ってもらわないといけませんからね。見つけ次第ボコボコにします」

 

「"ほどほどにしてあげてね……"」

 

ユウカ「考えておきます。……あ、そうでした。先生にこの書類の承認をしてもらいたいんです。正式な手続きはシャーレにしか権限がないみたいで」

 

「"『生徒登録願』?この時期に珍しいね"」

 

ユウカ「本当はもっと早く済ませるべきだったのですが色々あって遅れました」

 

「"それは仕方ないよ。えっと……『小鳥遊アリス』と『小鳥遊ケイ』の2人……えっ可愛い"」

 

ユウカ「先生もそう思います?最近アビドスからミレニアムに転入してきた姉妹だそうですよ」

 

「"アビドス?あそこは5人しか生徒が居ないしこの2人は見たことがないけど……まあいっか"」

 

ユウカ「先生?急に立ち上がってどうしました?」

 

「"ユウカ、私は今から大事な仕事をしに行かないといけない"」

 

ユウカ「午後からまた新しい仕事が……」

 

「"やだ!新しい子を見に行く!"」

 

ユウカ「あ、こら!待ってください!……はぁ、全く先生という人は……あれ、携帯を忘れてますね」

 

ユウカ「ま、まあ?先生が生徒に淫らな行為をしていないかの確認をしないといけませんから。覗かせてもらいましょう」

 

ユウカ「あれ、ちょうど若葉ヒナタさんからモモトークが……は?」

 

ーーー

 

ケイ「……あっち向いてホイ」

 

シロコ「ん、また負けた」

 

アリス「シロコ!今度はアリスとやりましょう」

 

シロコ「!2人とも好き。私の娘にする」

 

アリス「それはお断りします!!」

 

ケイ「私も遠慮しておきます」

 

黒服「何故あの3人はこの暑い中校庭の中心であっち向いてホイをしているのでしょう」

 

ホシノ「まあシロコちゃんだし」

 

黒服「それで納得してしまう自分が嫌になってしまいますよ」

 

ホシノ「今日は美食研究会の子も来ないっぽいしのんびり出来るねー」

 

黒服「付き纏われるような行為をした覚えはないのですがね……どうしてあんな事になってしまったのか理解出来ません」

 

ホシノ「まあ何があっても私が先生を守るから大丈夫だよ」

 

黒服「……ではあれから守っていただいても?」

 

ホシノ「んえ?」

 

黒服が指を示した先には半狂乱で涎を垂らしながら学校に向かって走ってくるヤバそうな大人が居た。

 

「"アリスたーん!!ケイたーん!!会いにきったよぉ!!"」

 

ホシノ「……あれはちょっと嫌かなぁ」

 

黒服「ホシノが拒否をするなんて……」

 

ホシノ「いやぁ……生理的にちょっとね……あれ、2人ともどうしたの?」

 

アリス「なんだか寒気がして……」

 

ケイ「不審者を発見したので逃げてきました。シロコが食い止めてくれています」

 

黒服「いえ、あれはあっち向いてホイを要求しているだけです」

 

ーーー

 

「"遠目に見てもクソ可愛い姉妹が目に映ったのでつい本性を出しちゃった"」

 

黒服「2人に悪影響を与えないでくださいね」

 

「"気をつけるよ。……2人とも、さっきはごめんね。私は皆の先生ことシャーレの先生だよ。よろしくね"」

 

ケイ「貴方が例の……こちらこそよろしくお願いします」

 

アリス「シャーレ……?あっ!思い出しました!貴方が変態さんですね!」

 

「"!?"」

 

アリス「少し前に変態で検索したら関連項目にシャーレと出てきたのです!!」

 

ケイ「……変態なのですか?」

 

「"どうしよう黒服先生、否定が出来ないよ"」

 

黒服「こちらに助けを求めないでください」

 

「"まあ変態でいっか……それよりも黒服先生、1つ聞きたい事があるんだ"」

 

黒服「何でしょう」

 

「"アリスとケイの苗字なんだけど……ホシノと同じなんだよね……"」

 

黒服「それはそうでしょう。この2人はホシノの娘ですので」

 

ホシノ「間違ってるけど間違ってない」

 

「"……娘?……黒服先生、いつからホシノと関係を!?"」

 

黒服「何故皆勘違いをするのでしょう」

 

ホシノ「今のは先生の説明が悪いよ。えっとね……」

 

「"……アンドロイド?"」

 

ホシノ「そそ。それで私が言葉とか教えてあげたらいつの間にかこうなってた」

 

「"そっかぁ……遂に黒服先生も手を出したのかと思ったのに"」

 

黒服「普通は生徒に手を出しませんよ」

 

「"う゛っ゛"」

 

ホシノ「えーでも相思相愛ならいいんじゃない?」

 

「"そ、そうだよ!私と生徒は互いに相思相愛で……"」

 

ユウカ「どの口が言っているんです?」

 

「"あっユウカ"」

 

ユウカ「昨日は随分とお楽しみだったようですね?当番に来てくれた若葉さんを襲ったみたいですね」

 

「"えっ……あっ、私のスマホ……"」

 

ユウカ「お時間……いただけますよね?」

 

「"申し訳ありませんでした"」

 

ユウカ「アビドスの方々、先生が申し訳ありませんでした」

 

ホシノ「大丈夫だよー」

 

黒服「貴女も大変ですね」

 

ユウカ「ええ、本当に。さ、トリニティに土下座しに行きますよ」

 

「"待ってまだ心の準備が……アッー!"」

 

黒服「……ようやく帰りましたか」

 

アリス「結局変態さんは何をしに来たのでしょう?」

 

ホシノ「さあ……とりあえず防犯ブザーを買っておかないとね」

 

ケイ「身を安全を守らないといけませんね」

 

黒服「なんて酷い扱いを……」

 

シロコ「………」

 

黒服「どうしました?」

 

シロコ「ん、ちょっと時間もらうねって言ったら「"しばらくお休みでしょ?めっ"」って言われた」

 

黒服「貴女はどんな業を背負っているのです」




若葉ヒナタ 時々シャーレの当番をしてくれるトリニティの生徒。3徹をしていた先生に襲われたが満更でもないという思いとシスターとして抱いてはいけない感情を持ってしまった事に葛藤している。尚抵抗しなかった理由は『もし抵抗して先生を壊しまったら』と考えてしまった為。


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先生の戦闘力測定

どうやらうちの負けヒロイン代表であるハルナさんの体操着が出るみたいですね。狙いたいところではありますが水着ホシノさんを取り逃がした悔しさをバネに生きているので泣く泣くスルーします


黒服「そうですか……いえ、別に娘というわけではありませんが」

 

ホシノ「せーんせ……あれ、電話中だ」

 

黒服「それくらいならいいでしょう。それで日程は……明日ですか。可能ではありますが……」

 

ホシノ「(……やっぱり先生ってカッコいいなぁ。これぞ大人って感じだよね)」

 

黒服「……それでは失礼します」

 

ホシノ「先生、誰と電話してたのー?」

 

黒服「シャーレの先生ですよ。一度こちらと戦闘訓練を行いたいと」

 

ホシノ「へぇ……あ、さっき言ってた明日ってそういう事?」

 

黒服「聞いていたのですね。話が早くて助かります。それと面倒ですがアリスとケイを連れて行かないといけないみたいで」

 

ホシノ「えっどうして?」

 

黒服「2人の実力がどれ程なのかを確認したいようでして」

 

ホシノ「えぇ……2人にセクハラする気じゃないよね?」

 

黒服「流石にそんな事はしないのでは……いやしますね」

 

ホシノ「だよねーもし本当にしたらぶっ飛ばしちゃうかもしれない」

 

黒服「死なない程度なら許可します」

 

ーーー次の日

 

ホシノ「ここに来るのも2回目だねぇ」

 

アリス「大きいビルですね」

 

ケイ「……なんだかここに嫌悪感を覚えます」

 

黒服「待ち合わせ場所はここなのですがまだ来ていないみたいですね」

 

アリス「あ、ケイ!あそこの自動販売機にハレ先輩オススメの『妖怪MAX恋するフレーバー』が売っています!買いに行きましょう!」

 

ケイ「まさか本当にそんな名前の味があるとは……」

 

ホシノ「あんまり離れすぎないようにねー」

 

黒服「エナジードリンクを摂取するのは推奨出来ませんね」

 

ホシノ「まあまあ。数本くらいなら大丈夫でしょ。あの2人アンドロイドだし」

 

黒服「まあそうですけど。……おや、随分待たせてくれましたね」

 

「"ごめんごめん。それじゃあ訓練所に行こうか"」

 

ミヤコ「………」

 

服装でシャーレの先生とは分かるもののウサギの耳っぽいものがついたヘルメットを被った生徒が正面から上半身に張り付いている。

 

「"ごめんミヤコ、前が見えないからそろそろ離れて欲しいんだけど"」

 

ミヤコ「いえ、私はウサギではないので離れません」

 

ホシノ「???」

 

黒服「何を言っているのか理解できませんね」

 

「"えっと……とりあえず行こっか"」

 

黒服「………」

 

ホシノ「先生、私もあれ……」

 

黒服「向きを間違えた肩車なんてやりません」

 

アリス「うずうず」

 

黒服「飲み物をこぼされたら困るのでやめてください」

 

ケイ「では私が」

 

黒服「まあ、普通の肩車ならいいでしょう」

 

ホシノ「!?先生がケイちゃんにだけ優しい!」

 

アリス「ずるいです!」

 

黒服「ケイは貴女達よりも大人しいですので」

 

ホシノ・アリス「むぅ〜」

 

黒服「シンクロしないでください」

 

ーーー訓練室

 

「"ミヤコ、本当に離れて欲しいんだけど"」

 

ミヤコ「そうですか……ウサギなら寂しくて離れられないのでしょうが私はウサギではないので」

 

「"うん、だから離れて?"」

 

ホシノ「あんな先生でも好かれるんだねぇ……」

 

ミヤコ「……あ、SRT特殊学園、RABBIT小隊の月雪ミヤコです。本日はよろしくお願いします」

 

黒服「何故このタイミングで挨拶を?」

 

ミヤコ「今回模擬戦を担当するのが私なのでご挨拶をと思いまして」

 

黒服「タイミングについて聞いているのですが?」

 

ミヤコ「今回はアリスさんとケイさんの実力を確かめたいという先生の我儘に付き合っていただきありがとうございます」

 

黒服「……ホシノ、どうすればいいのでしょう。話が通じません」

 

ホシノ「ごめん先生。私にもどうすればいいか分からない」

 

ミヤコ「それでは時間も惜しいですし始めましょうか。2人同時で良いですよ」

 

アリス「あっ、まさかモモイがよくやる『舐めプ』ってやつですか!?」

 

ケイ「多分違います。きっと彼女は相当な実力者なのでしょう」

 

「"やっと離れてくれ……うわ、生徒と肩車するだなんて不埒な……"」

 

黒服「どの口が言っているんです?まあいいです、出番ですので降りてください、ケイ」

 

ケイ「あと5分だけ……」

 

黒服「ダメです」

 

ーーー

 

ミヤコ「お2人とも……珍しい武器をお持ちですね」

 

アリス「はい!とある科学の技術を詰め込んだレールガンらしいです!」

 

ケイ「無駄な機能が付いていますがね」

 

ミヤコ「……まさか自分の武器の事すら把握していないとは思いませんでした。ですがこちらは実戦だと思って戦わせてもらいます」

 

「"大怪我はさせないようにねー!"」

 

黒服「まあ、アリスとケイなら余裕でしょうね」

 

ホシノ「……先生、ちょっと席を外すね」

 

黒服「どうぞ」

 

ミヤコ「……では始めます」

 

慣れた手つきでSMGを構えるミヤコ。それに応えるようにアリスとケイもレールガンを構える。見合ったまま3人は動かない。まだ時間だけが過ぎていく。

 

アリス「もう我慢出来ません!発射します!」

 

戦いの火蓋を切ったのはアリスだ。目の前にいるミヤコに対して1発弾を放った。しかしその弾は彼女に当たる事はなくそのまま直進していく。

 

ミヤコ「遅い弾ですね。この程度なら私1人で……っ!?」

 

弾が当たった。そう、避けたはずの弾。壁に向かっていったであろうそれが何故背中に当たるのだろうか。

 

ケイ「……なるほど。この機能を付けた事に関してはウタハに感謝をしましょう」

 

「"え、今の何?弾が戻らなかった?"」

 

黒服「あれは武器に付いている能力ですね。こんな使い方は思いつきませんでしたが」

 

ミヤコ「……油断していました。まさか1発被弾しただけでここまでダメージをもらうなんて……ここからは本気でいかせてもらいます」

 

アリス「?まだ何もしていませ……うわっ!?」

 

ミヤコは一息ついた後に閃光弾をアリスめがけて投げた。そのまま距離を詰めて接近戦に持ち込んだ。……ここまでは良かった。

 

アリス「……にこっ」

 

目の前に居るのは不的な笑みを浮かべたアリス。なんだか嫌な予感がしてその場を離れようとしたが尻もちをついてしまう。いつの間にか片足を掴まれていた。

 

アリス「ねえお嬢さん、ジャイアントスイングって知ってる?」

 

ミヤコ「えっ?うわわわっ!?」

 

アリス「あはは!楽しいね!」

 

アリスに物理的に振り回されるミヤコ。とてもキヴォトスで起きる戦闘とは思えないその光景に思わず頭を抱えてしまいそうになる。

 

「"えっと……すごいね……"」

 

黒服「まあ……はい」

 

ケイ「あの……そろそろ止めておきましょう」

 

アリス「それもそうだねー。それじゃあ……可愛い子ウサギのお届けでーす!!」

 

「"あれ、なんかこちらに……うわっ!?"」

 

ミヤコ「……定位置に戻されてしまいました」

 

黒服「貴女にとってはそこが定位置なのですね」

 

アリスとケイの測定結果 よく分からない

 



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先生の指揮、そして興味

前回のあらすじ

ジャイアントスイングをしたアリスはシャーレの先生に向けてミヤコを投げました。そしてミヤコはそこに住み着きました。
ウサギに好かれているようですね(適当)


「"とりあえずある程度戦える事が分かったのでOKです。あとミヤコは離れて"」

 

ミヤコ「私はウサギではないので離れません」

 

アリス「よく分かりませんがクエストクリアです!」

 

ケイ「やりました」

 

黒服「無駄な時間でしたね」

 

ホシノ「およ?終わっちゃったんだ」

 

黒服「おやホシノ。用事は済んだのですか?」

 

ホシノ「うん。と言っても照れちゃって帰っちゃったけど」

 

「"あれ、またあの子が来ていたの?別に入ってきてもいいって言ってるのに"」

 

ホシノ「ダメだよーこういう時は大人の方から近づいてあげないと。いつまでも待ちの姿勢じゃ何も始まらないからね」

 

「"そうかもしれない……うん、明日会いに行ってみるね"」

 

黒服「何の話ですか?」

 

ホシノ「ちょっと困ってそうな子が居たからアドバイスをしてあげたんだー」

 

黒服「そうですか。用も済んだので帰りますか」

 

「"うん。それじゃあ出口に案内して……あれ、電話だ。ちょっと待ってて。あとミヤコ、電話中は流石に離れて"」

 

ミヤコ「分かりました。ウサギは待てませんが私はウサ……」

 

黒服「それ以上は言わなくて結構です」

 

ミヤコ「撃ちますよ?」

 

ホシノ「あ?」

 

ミヤコ「ヒエッ」

 

黒服「ホシノは最近殺意をすぐ剥き出しにしますね。頼もしい限りですよ」

 

ホシノ「まあね。先生を守るのが私の仕事だから」

 

ミヤコ「(人間が出していい殺気ではありませんでした。彼女はどれ程の闇を抱えているのでしょうか……)」

 

アリス「あっホシノママ!アリス達はクエストを達成しました!」

 

ホシノ「おー良かったねー。流石は2人だよ……あっ」

 

ミヤコ「……申し訳ありません。訓練とはいえ娘さんに攻撃を……」

 

ホシノ「うん娘じゃないよ?」

 

ケイ「いえ間違っていません。私とアリスは娘です」

 

ミヤコ「???」

 

ホシノ「どうしよう先生、私誤解されるのに慣れてきちゃってる」

 

黒服「末期ですね」

 

ホシノ「だね」

 

「"楽しそうに話しているところごめん。この辺りで銃撃戦が勃発したみたいで鎮圧させに行かないといけなくて"」

 

ミヤコ「よりにもよって今日ですか。他のメンバーは休暇を取って休んでいますし……」

 

「"ミヤコだけでも大丈夫だとは思うけど……黒服先生、ちょっと頼みが……"」

 

黒服「言わずとも分かっています。……3人共、戦闘準備を」

 

ホシノ「いいよー」

 

アリス「サブミッションが始まりました!」

 

ケイ「仕方ないですね」

 

ーーー

 

ミヤコ『全員配置につきました。先生、指揮をお願いします』

 

「"うん。始めようか"」

 

黒服「……タブレット端末を構えてどうしたのです?」

 

「"ああ。これは……見てもらった方が早いかな。ミヤコ、前方の壁に2人。正面に6人居る。遮蔽物に隠れてるから閃光弾で先手を……"」

 

黒服「(これは……!?なんと興味深い。戦場に必要な情報を可視化しているだけではなく軌道予測や体力、それぞれの残弾数までありとあらゆるデータが表示されている)」

 

「"その周辺は鎮圧出来たね。次のエリアは……"」

 

黒服「(なるほど。シャーレの先生が指揮能力と言われている理由が分かったような気がします。……とはいえホシノ、アリス、ケイの情報がほとんど表示されていませんね。指示もミヤコにしか出せていないようですし……)」

 

先生はそのまま隣でタブレット端末を操作し、迅速に鎮圧を完了させた。

 

ミヤコ『作戦終了です。これよりそちらへ帰投します』

 

「"お疲れ様。気をつけて戻ってきてね"」

 

黒服「………」

 

「"黒服先生、どうだっ……"」

 

黒服「素晴らしいです!あなたの正確な指揮能力、尊敬に値します」

 

「"そ、そうかな。ありがとう"」

 

黒服「その端末について詳しくお伺いしても?」

 

「"私に答えられる範囲でよければ"」

 

黒服「ありがとうございます。ではこの機能について……」

 

ーーー

 

ミヤコ「只今戻りました」

 

ホシノ「せんせー帰ってきたよ」

 

「"実はこういう機能もあって……"」

 

黒服「そんなものまであるのですか。より興味が湧いてきましたよ」

 

「"いやぁ……この端末に興味を持ってくれた人は初めてだからつい話が弾んじゃうよ"」

 

黒服「とても時間が足りませんね。どうでしょう、今度2人で食事でもしながら話でもしませんか?」

 

「"いいね。詳細の日程はまた電話で……"」

 

ホシノ「……むぅ」

 

アリス「ケイ、ホシノママが拗ねています」

 

ケイ「嫉妬ですね。母は独占欲が強いので」

 

この日の帰り、ホシノの態度はちょっと冷たかったそう。




次でシャレ先との交流は最後になります。

その後は

①マエストロ、何故それを複製してしまったのですか?

②リオ奮闘記withゲヘナ学園

③古代書物『W.A.P.P.Y』

④ホシノスワップ

の順で書いていこうと思います


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先生を勧誘、そして会議

アリス「タグを増やしました!」

ホシノ「へぇーどんなタグ?」

アリス「ホシノママ」

ホシノ「間違ってるけど間違ってない」

※今回初めてホシノさんが出てこない話になります


ーーーシャーレ休憩室

 

黒服「……素晴らしいですね。ただのタブレット端末にしか見えませんが性能はオーパーツそのもの。これも司祭が残した遺物なのでしょうか」

 

「"司祭って?"」

 

黒服「ああ、こちらの話ですよ。……ただ1つ残念なのは私には操作が不可能な事、でしょうか」

 

「"この端末は特別な指紋認証を行った私しか操作出来ないんだ。自称超天才AIがそう言っていたよ"」

 

黒服「超天才……ああ、ヒマリのようなものですか」

 

「"ああ、ミレニアムの子だね。遠くで観察した事がある程度だったんだけどそんな性格だったんだね。いちごミルクとか好きなのかな"」

 

黒服「本人に聞いた方が早いでしょうね。今度ミレニアムの視察に行くのでしょう?」

 

「"そうそう、仕事を抜け出して行こうかなって。ユウカを吸うついでに見て回ろうと」

 

黒服「まあ……程々にしておいた方が良いですよ」

 

「"どうしてもユウカには抗えない何かを感じてしまってね……あ、でもこの前百鬼夜行連合学院から新しく当番の子が来てさ、とっても可愛い顔をしてるのにお面を外さないから困っちゃうよね。照れ屋なのかな"」

 

黒服「変わった趣味をお持ちの生徒がいるのですね」

 

「"正直なところ何で私が好かれているのかは分からないよ"」

 

黒服「知らずのうちにあなたを取り合って生徒同士の争いが行われなければいいのですが」

 

「"もう起きかけてるんだよね"」

 

黒服「骨は拾って差し上げますよ」

 

「"あはは……ありがとう。あ、そろそろ時間じゃないかな。この後用事があるんだよね?"」

 

黒服「おや、そうでしたか。……ではここで1つあなたに提案をしたいのですが」

 

「"えっなになに?"」

 

黒服「我々ゲマトリアに所属する気はありませんか?」

 

ーーー某所

 

ゴルコンダ「私は非常に無駄な時間を過ごしてしまいました」

 

デカルコマニー「そういう……こった」

 

マエストロ「デカルコマニーのテンションがここまで下がっているとは……何があったのだろうか」

 

ベアトリーチェ「生徒を舐めてしまったものの末路……でしょうか」

 

マエストロ「崇高の為とはいえ無策で向かうべきではなかったようだな」

 

ゴルコンダ「あそこまで常識が通用しないとは思いませんでした。2度とあの周辺には近寄りたくないです」

 

デカルコマニー「そういうこったな」

 

黒服「……おや、また私が最後でしたか」

 

マエストロ「ようやく来たか。まずは礼を言わせてもらおう。ミレニアムの件、感謝する」

 

黒服「いえ、こちらこそ良い経験になりました。多少不都合はあるものの崇高に近づけましたので」

 

ベアトリーチェ「とりあえず1発ぶん殴ってもよろしくて?」

 

ゴルコンダ「まあまあマダム。ここは穏便に済ませましょう。今は会議を優先するべきです」

 

ベアトリーチェ「……ゴルコンダに免じて数秒は我慢しましょう」

 

黒服「我慢出来てませんね」

 

マエストロ「まあいい。全員揃ったので会議を始めるとしよう」

 

黒服「おっと、実は新しいメンバーを連れてきたのですよ」

 

ベアトリーチェ「遂にホシノをこの空間に!?」

 

黒服「違います。それではこちらへどうぞ」

 

「"あ、どうも。新メンバーです。あ、崇高は『生徒の幸せ』でお願いします"」

 

ベアトリーチェ「おやおやおやおやおやおやなんて素晴らしい崇高なんでしょう。大歓迎ですよ」

 

マエストロ「成程、シャーレの先生だったか。それならば問題はない」

 

黒服「我々の同志として誘ったところ二つ返事でOKと仰っていただけましてね」

 

ゴルコンダ「これはこれは……お初にお目にかかります。私の名前は……」

 

「"ゴルコンダとデカルコマニー、だよね。レッドウィンターの子から写真を持った面白い大人が来たと先日連絡があってさ。また来て欲しいって言ってたよ"」

 

ゴルコンダ「既にご存知でしたか。あの学園にもう一度行くのはお断りさせていただきますが自己紹介の手間を省かせてくれた事には感謝しておきます」

 

デカルコマニー「そういうこったな」

 

黒服「軽い挨拶も済みましたし第3回ゲマトリア会議を始めますか」

 

ーーー数分後

 

「"シスターってえっちだよね"」

 

ベアトリーチェ「分かります。清楚の体現とも言える姿はとても美しくとてもえっちです」

 

「"この前3徹して仕事をしていた時にとても可愛いトリニティのシスターのヒナタが来てさ、我慢出来なくて……"」

 

ベアトリーチェ「それは致し方ありませんね。同じ状況ならば私も襲いますし」

 

「"でもさーやっぱりミニスカと太ももの組み合わせが1番なんだよ"」

 

ベアトリーチェ「お待ちなさい。ミニスカ黒タイツも素晴らしいではありませんか」

 

「"甲乙つけ難いね……"」

 

ベアトリーチェ「ミニスカニーソという案もありますよ」

 

「"ああ良い。それを崇高にする"」

 

ベアトリーチェ「おやおや、そんな簡単に崇高を変えてはいけませんよ。でも生徒が幸せならOKですね」

 

「「あっはっは!!」」

 

黒服「……会議とは?」

 

マエストロ「まあ……最近は近況報告程度しか行っていなかったのでこうなるのも仕方あるまい」

 

黒服「それもそうですね。まだ色彩も現れる予兆すら確認出来ていませんし」

 

ゴルコンダ「それもあの装置を万全の状態にしておけば問題ないでしょう」

 

黒服「しかし慢心は禁物です。もしこの箱庭が破壊されてしまえば今までの苦労が水の泡になってしまいますから」

 

マエストロ「それは困るな。とはいえ預言者達も概念達もいる。彼らを操れば戦力としては充分すぎる程ではないだろうか」

 

黒服「……そう簡単にいくのでしょうか」

 

目の前で談笑する変態を横目に僅かな不安は募っていった。

 

後日ヒナはシスターのコスプレをさせられた。ついでにユウカも




これでシャレ先回は終わりです。

次の『マエストロ、何故それを複製してしまったのですか?』でお会いしましょう


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マエストロ、何故それを複製してしまったのですか?

昨日間違えて半分書いたやつを投稿してしまいました

注意
2部の再来
読まなくても本編に影響はありません
複製された生徒は色々おかしいです
なんなら人間ですらない生徒もいます


これはマエストロがトリニティに滞在するようになる前のお話。

 

※複製された生徒は色々おかしいです

 

ヒビキ「これが先生の発明?」

 

マエストロ「ああ。ありとあらゆるものを複製出来る物質だ」

 

ヒビキ「ありとあらゆる……凄いね」

 

マエストロ「試しにヒビキを複製してみるか」

 

ヒビキ「うん、いいよ」

 

マエストロ「複製」

 

ヒビキ「……?」

 

マエストロ「何も起こらないな。どうやら失敗のよう……」

 

猫ヒビキ「にゃあ〜」

 

マエストロ「?」

 

ヒビキ「私みたいな猫が生まれた……」

 

猫ヒビキ「♪」

 

マエストロ「……膝の上で寝てしまったが」

 

ヒビキ「……あ、この部品は複製できたよ」

 

マエストロ「人体に使うと何かしらの誤作動を起こすのか……?」

 

ウタハ「おやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおや面白そうな事をやっているじゃないか」

 

マエストロ「ウタハもそう思うか。よし、ミレニアム中の生徒に試してみよう」

 

ヒビキ「科学に犠牲はつきもの……だからね」

 

ウタハ「つまりそういうことさ!」

 

この集団、狂気である。

 

ウタハ「となればまずは反省部屋に行こう」

 

マエストロ「なるほど、彼女は実験……もとい罰を受ける必要があるからな」

 

ヒビキ「本音出てる」

 

ーーー反省部屋

 

コユキ「私2部で1度も出番がなかったんですよ?ありえなくないですか?」

 

リオ「貴女は何を言っているのか理解できないわ。2部って何?」

 

コユキ「というか私が捕まったのってバニーイベントの時じゃないですか。ここで反省部屋に放り込まれていたら時系列おかしくなりますよ?」

 

リオ「貴女が捕まってる理由はシャーレのセキュリティをハッキングした罪だけど」

 

コユキ「あ、そっちでしたか、にゃはは」

 

ウタハ「実験の時間だオラァ!」

 

コユキ「ひょぇー!?」

 

マエストロ「リオもいたのか。丁度良い、まとめて試してみよう」

 

リオ「……嫌な予感がするから失礼するわ」

 

ウタハ「まあまあまあまあそう言わずにこれを受け取れぇ!」

 

ヒビキ「そこのピンクにもあげる」

 

コユキ「名前ですら呼んでくれない!!」

 

マエストロ「では……複製」

 

ウタハ「さてさてどうなるか……ん?」

 

りお「ばなな」

 

リオ「……は?」

 

ヒビキ「頭の悪い会長が出来てしまったね」

 

マエストロ「欠陥すぎる」

 

りお「とろろこんぶ」

 

リオ「今までに味わった事がない屈辱ね……」

 

ウタハ「大丈夫さ、あとで分解装置でまとめて除去するから」

 

リオ「別の方法で頼むわ」

 

ヒビキ「……痒い」

 

マエストロ「ヒビキ、肩が腫れているぞ」

 

ヒビキ「何かの羽音が……」

 

蚊ユキ「プ~ン」

 

ウタハ「ああ、もう蚊の季節か。早いものだな」

 

コユキ「いや私の扱い!?酷くないですか!?」

 

マエストロ「数が異常だな。ここは放置して次に行くとしよう」

 

コユキ「えっ私を置いていくんですか!?かゆっ!!」

 

ウタハ「……科学に犠牲はつきものさ★」

 

コユキ「囧」

 

リオ「初めて貴女に同情するわ……」

 

ーーー

 

マエストロ「どうやら人間に対して複製を使うと何かしらの異常を抱えた状態で複製されるようだ」

 

ヒビキ「無機物は問題なく複製できる。しかも内蔵されてる人工知能ごと」

 

マエストロ「……なるほど。実験としては充分だろう。だが……」

 

ウタハ「他の生徒で試したらどうなるのだろう?という衝動が抑えられない、だろう?」

 

マエストロ「私の性格をよく理解しているな。流石はエンジニア部だ」

 

ヒビキ「次の犠牲者はあそこにいる人にしよう」

 

ヒマリ「せーは清楚のせー」

 

エイミ「誰か部長の頭のネジがどこにいったか知らない?」

 

ウタハ「頭のネジ一本お届け!」

 

ヒマリ「んえぶ」

 

エイミ「また部長が吹っ飛んだ」

 

ヒビキ「……あっ」

 

ヒマリー「この超天才屈強美少女が血祭りにあげて差し上げましょう」

 

ウタハ「いやこうはならんでしょ」

 

ヒビキ「これは酷い」

 

マエストロ「少なからず反転をしているのか……?」

 

ヒマリ「ああ、私の病弱清楚系美少女のイメージが崩れてしまいます!」

 

チヒロ「あ、ヒマリじゃん。珍しいね、こんな昼に」

 

ヒマリー「チヒロットォォォォォ!」

 

チヒロ「うわっ!?変なヒマリが走ってくる!」

 

ヒマリー「チーちゃん好き」

 

チヒロ「……ありがとう?」

 

エイミ「よかったね部長」

 

ヒマリ「何もよくありませんが?」

 

ーーー

 

マエストロ「遊んでいたら複製素材が残り2つになってしまった」

 

ウタハ「複製を複製すればいいんじゃないかな」

 

マエストロ「最初に試したのだが……どうやら複製同士は反応しないみたいでな」

 

ヒビキ「そう上手くはいかないって事だね」

 

マエストロ「とりあえず次で最後にするとしよう。とはいえ最後に相応しい人間か……」

 

ユウカ「あっマエストロ先生。反省部屋に蚊が大量湧きしていたんですけど何か知りません?」

 

ウタハ「先生、彼女はどうだろうか」

 

マエストロ「やってみるか」

 

ユウカ「何をするんです?」

 

マエストロ「複製」

 

ユウカ「うわっ!?」

 

ーーー

 

マエストロ「……みたいに取り返しがつかなくなるから人間相手に複製を使うのはオススメしない」

 

黒服「な、なるほど……バードツアーみたいなものを生み出してしまう可能性がある以上やめておきましょうかね」

 

マエストロ「そうしてくれ。……ただ妙なのがユウカの複製結果だけは思い出せないのだ。その部分のみ記憶が抜け落ちている感覚でな」

 

黒服「大した結果ではなかったので記憶から消したのではありませんか?」

 

マエストロ「そうなのだろうか……重要なものを見落としているような気がしてならないが……」

 

黒服「時期に思い出すでしょう。それでは私はこれで失礼します」

 

マエストロ「……さて、私もトリニティに行くとするか」




複製した生徒と結果一覧

ヒビキ→猫ヒビキ

リオ→あたまのわるいりお

コユキ→蚊ユキ

ヒマリ→ヒマリー

ユウカ→???

没生徒

ヒビキ→たちばな……

モモイ→覇王系美少女

没理由はお察しください

次はリオ奮闘記です


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リオ奮闘記withゲヘナ学園#1

あらすじ

リオさんはベアトリーチェについて行ってゲヘナ学園に匿ってもらう事になりました。とにかく頑張る、そんなお話。


リオ「……今は何をしているのかしら」

 

ベアトリーチェ「採寸ですよ。一時的なものとはいえゲヘナの生徒になるのですから」

 

リオ「市販の制服で充分なのだけど」

 

ベアトリーチェ「ほほう、素晴らしいスタイルの良さですね。これなら前節のボタン飛ばしが……」

 

リオ「……話を聞いて欲しいわ」

 

ベアトリーチェ「ああ、聞いていますよ。お望み通り可愛く仕上げますからね」

 

リオ「話が通じないのかしら」

 

ベアトリーチェ「リオが元々着ている制服は私が堪能……いえ、クリーニングしておきます。ヒナとは違った味が……何でもありません」

 

リオ「これが変態……」

 

ベアトリーチェ「……採寸が完了しましたよ。明日の朝には仕上げておきますね」

 

リオ「そんな早く出来るのね。どのような機械を使うのかしら」

 

ベアトリーチェ「手編みですよ」

 

リオ「非効率じゃないかしら」

 

ベアトリーチェ「愛を込めたいのですよ」

 

リオ「……変わってるのね」

 

ベアトリーチェ「私はこのまま制服を作り始めるので後の事は私の娘に任せておきますね」

 

リオ「娘?」

 

ベアトリーチェ「血は繋がっていませんがね。それでも私にとっては大切な存在なのですよ」

 

リオ「……そう」

 

ベアトリーチェ「リオ、1つ聞いてもいいですか?」

 

リオ「何?」

 

ベアトリーチェ「貴女にとって大切なものはありますか?」

 

リオ「………」

 

ベアトリーチェ「言い辛いなら言わなくても大丈夫です。ただ……もし思いつかないのであれば助力しますよ」

 

リオ「私からも質問していいかしら?」

 

ベアトリーチェ「どうぞ」

 

リオ「何故貴女は他校の生徒である私に過保護というか……どうして優しく出来るのかって……」

 

ベアトリーチェ「それなら簡単な話ですよ。私にとっては皆が大切な生徒であり、生徒が困っていたら手を差し伸べるのが先生という存在だからです。所属している学園なんて些細な問題ですよ」

 

リオ「……私の知る先生とは違う考え方ね」

 

ベアトリーチェ「ああ、リオはマエストロや黒服と会ったことがあるのでしたね。あの2人は生徒よりも自身の目的を優先してしまいますから仕方ありません」

 

リオ「そうなのね……」

 

ベアトリーチェ「それに……貴女はヒナと同じ雰囲気を感じます。1人で抱え込むタイプです」

 

リオ「………」

 

ベアトリーチェ「沈黙は正解とみなします。ですが覚悟してください。私は絶対に1人で抱え込ませるような事はさせませんので」

 

リオ「本当に過保護ね」

 

ベアトリーチェ「よく言われます。……そろそろ日付が変わりそうですね。夜更かしは女の子の敵ですので休んでください。寮への案内は……」

 

リオ「1人で行けるから大丈夫よ。……それじゃあまた明日」

 

ベアトリーチェ「ええ。お休みなさい」

 

ーーー

 

リオ「……本当に変わった先生ね」

 

ヒナ「うんうん」

 

リオ「……!?」

 

ヒナ「寮まで案内してあげる」

 

リオ「いえ、私は1人で行け……」

 

ヒナ「反対方向に直進してたけど」

 

リオ「……案内をお願いするわ」

 

ヒナ「分かった。着いてきて」

 

リオ「……ゲヘナの制服って皆手編みなのかしら」

 

ヒナ「そう。全部マザーの手作り」

 

リオ「マザー?」

 

ヒナ「ベアトリーチェ先生の事。母親のように真摯に生徒に向き合っていたらいつの間にかそう呼ばれるようになってた。ゲヘナの生徒は1人を除いて全員そう呼んでる」

 

リオ「……その1人は?」

 

ヒナ「一応私の右腕……なのかな。だから仕事中もマザーと大体言い争ってる」

 

リオ「反抗期なのかしらね」

 

ヒナ「いやあれは面倒な性格なだけ」

 

リオ「………」

 

ヒナ「着いた。ここの寮は比較的にまともな生徒が住んでるから何とかなると思う」

 

リオ「案内してもらえて助かったわ。あのまま迷っていたかもしれないもの」

 

ヒナ「時期に慣れると思うから気にしなくていい。……しばらくの間よろしく」

 

リオ「こちらこそ世話になるわね」

 

ーーー 

 

リオ「寮とは思えない部屋の広さ……セミナーの部屋より大きいのだけれど……」

 

リオ「……大切なものなんて私にあるのかしら……あの先生と一緒なら見つかるのかもしれないわね」

 

しばらくはここで大切なものを見つけるために滞在してみよう。そんな想いを抱いて異常な程サイズが一致しているパジャマに着替えて就寝した。驚くほど静寂に包まれた夜が嵐の前の静けさとは露知らず。




正直私の中のリオのイメージはでっかいヒナです。

つまり甘やかしたら心を開いてくれるのでは?という浅はかな考えで進行していきます

そして今週は休日もお仕事があるのでもしかしたら更新しない日があるかもしれません。あとロリコンになりました


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リオ奮闘記withゲヘナ学園#2

リオ「……何も考えずに睡眠をしたのはいつ振りかしら……」

 

数年ぶりとも言える7時間睡眠に謎の満足感を覚えながらも着替えようとしてパジャマを脱ごうとした時に気づいた。

 

リオ「……昨日私は寮で着替えるまで何を着ていたのかしら」

 

採寸後の記憶を遡ると元々着ていた制服はベアトリーチェに回収されている。そしてそのまま着替えた記憶もない。

 

ヒナ「起きてるみたいね。それじゃあ制服の受け取りに……」

 

リオ「その前に聞いていい?昨日私が寮に来るまで来ていた服は何処にあるのかしら」

 

ヒナ「ああ、あの白い服?」

 

リオ「白?……それは私の下着の色と同じね」

 

ヒナ「………」

 

リオ「………」

 

ヒナ「……最初に見た時からパジャマを着ていた気がする」

 

リオ「いえ、私は……」

 

ヒナ「パジャマを着ていたわね?」

 

リオ「……そうね。確かに着ていたわ」

 

ヒナ「ならそのまま行こう」

 

リオ「ありがとう」

 

ヒナ「うん」

 

ーーー

 

ベアトリーチェ「あらリオ。あと2時間は寝ていて良かったのですよ?」

 

リオ「普段から4時間睡眠だったから寝過ぎたくらいよ」

 

ベアトリーチェ「……今何と?」

 

リオ「普段から4時間睡眠……」

 

ベアトリーチェ「本日から最低7時間は寝なさい。それと遅くても夜の11時までに寝るようにしてもらいます」

 

リオ「でも……」

 

ベアトリーチェ「確かに貴女はミレニアムでとても重要な役職でした。ですがここではただの生徒。しばらくは規則正しい生活を送ってもらいます」

 

リオ「……分かったわ」

 

ベアトリーチェ「素直な子は大好きですよ。それはそれとしてこちらをどうぞ。つい先程仕上げました」

 

リオ「本当に一晩で仕上げるなんて……」

 

ベアトリーチェ「作り慣れていますからね。さ、着替えてください」

 

リオ「……後ろを向いてもらえないかしら」

 

ベアトリーチェ「お断りします」

 

リオ「(……こういうところは困るわね)」

 

ーーー着替え中

 

ベアトリーチェ「素晴らしいです。もはや芸術の域に達していますよ。よくお似合いですよ、リオ」

 

リオ「何だか落ち着かないわね……スカートの丈も長いしタイツじゃないし……」

 

ベアトリーチェ「正直言ってしまえば初めて見た時のリオの服装はシャーレの先生が見たら即襲うレベルで破壊力が強かったのであえて露出を抑えてみました。リオはスタイルが良いのでロングスカートが良いと思いましてね」

 

リオ「……布面積が多いのにミレニアムの制服よりも動きやすいわね」

 

ベアトリーチェ「拘って作りましたので。……制服も渡せましたしこのまま数時間睡眠をとらせていただきます」

 

リオ「ええ、ありがとう」

 

ベアトリーチェ「ヒナちゃーん!愛しのママが今行きますよぉ!」

 

リオ「騒がしい人ね。……あ、机に学生証もある」

 

『調月 リオ ゲヘナ学園3年生 先生補佐』

 

リオ「先生補佐?あれを補佐するの?」

 

ベアトリーチェ「誰があれですか」

 

リオ「戻ってきたのね。睡眠はどうするの?」

 

ベアトリーチェ「せっかくだから補佐である貴女を抱いて寝たいと思ったのです。そういう訳ですので私のベッドに行きましょう」

 

リオ「……それが補佐になるならいいんだけど」

 

ベアトリーチェ「やだこの子従順すぎ可愛い」

 

ーーー

 

リオ「3秒で解放されたのはいいんだけどどうしようかしら……?」

 

ハルナ「この格好なら黒服先生も振り向いてくれますわ!」

 

フウカ「あんたは格好とかそれ以前の問題なんだわ」

 

ハルナ「問題ありませんわ!濡れ透け体操着ならどんな殿方でも好みだとSNSの記事に載っていたのです!」

 

フウカ「あの先生は色仕掛けとか引っかかるタイプじゃないわよ。というか拘束しないでもらえる?」

 

ハルナ「本日も運転をお願いしますわ」

 

フウカ「嫌」

 

リオ「(あの2人は前に私を轢いた……ゲヘナ学園の生徒だったのね。どうやら揉めているみたいだけど)」

 

フウカ「この際鍵渡すから勝手にいきなさいよ」

 

ハルナ「そんな……私に無免許で運転しろと?」

 

フウカ「免許以前の問題があるでしょうが」

 

リオ「(1人くらいならAMASで運べ……いえ、これだとミレニアムにいた頃と変わらないわね。別のやり方をしましょう)」

 

ハルナ「……見ない顔ですわね。私はこれから愛しの殿方に会わねばいけな……」

 

リオ「貴女に用があると言っている男性が校門前で待っているわ」

 

ハルナ「!?まあまあ!やはり黒服先生は私の事を!?今行きますわぁ!」

 

リオ「今のうちに」

 

フウカ「ありがとうございます。これで無駄な時間を取られずに済みました……って」

 

『貴方ではありませんわー!?』

 

リオ「誰かを犠牲にしてしまったようね。……どうして貴女は土下座をしているの?」

 

フウカ「あの時は轢いてしまって申し訳ありませんでした」

 

リオ「……ああ。もう気にしていないわ。それに貴女も被害者だものね」

 

フウカ「お詫びをしたいのでついて来てください」

 

リオ「いや、私は別に……いえ、着いていくわ」

 

彼女ほんの少し変わり始めた。このまま新しい自分を見つけられるのかベアトリーチェの毒牙にかかってしまうのか。それは彼女次第。




ほんの少しだけ相談なのですが、このまま奮闘記の続編を書くか次に移行するか悩んでいます。

理由はこのまま奮闘記を書いても面白く出来ないと考えてしまっているからです。

後日続編を投稿しますが現状奮闘記を書こうとしても筆が進まないので一度切り替えたいなと思っています。

短い期間にはなりますがアンケートを配置しておくのでよければ投票していただけると嬉しいです。

ー追記ー

ちょうど半々くらいでしたのでもうしばらくリオ奮闘記を続けてみたいと思います。投票してくださった方々、ありがとうございました。超絶感謝です


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リオ奮闘記withゲヘナ学園#3

リオ「ゲヘナの食堂は思っているよりも空いて……いえ、人が居ないのね」

 

フウカ「実は本日お休みなんです。さっきの白髪……ハルナがやらかしてしまって」

 

リオ「彼女はゲヘナの問題児なのね」

 

フウカ「ええ、ハルナは大問題児です。せっかく新調した業務用冷蔵庫を1日で壊されてしまいまして」

 

リオ「……何をしたらそうなるのかしら」

 

フウカ「なので仕方なく新しい冷蔵庫を買いに行こうとしたらハルナに絡まれた……という感じだったのです」

 

リオ「なるほどね。……ちょっとその冷蔵庫を見せてもらっていい?」

 

フウカ「あ、はい。こちらです」

 

リオ「ああ、内側の冷風機が壊れているのね。この程度ならすぐに直せるわ」

 

フウカ「そんな、申し訳ないですよ」

 

リオ「無駄な資金をかけるよりいいじゃない。……これで電源を入れたら動くはずよ」

 

フウカ「う、動いた……貴女は救世主です!どうお礼を申し上げたらいいか……」

 

リオ「ちょっと弄ったくらいだし気にしなくていいわ」

 

フウカ「そういう訳にはいきません!一食でもいいので振る舞わせて……あれ、食材が……」

 

リオ「冷蔵庫が壊れていたなら無いのが普通じゃないかしら」

 

フウカ「あっ」

 

ーーー

 

フウカ「本当に申し訳ありません!」

 

リオ「さっきから頭を下げられてばかりで周りの視線が困るわ」

 

フウカ「ですが……」

 

リオ「恩を感じてくれているならやめてちょうだい」

 

フウカ「……分かりました。その代わりお世話になった分精一杯おもてなしをさせてください」

 

リオ「それくらいなら構わないわ。……ところで食堂に変なロボがあるのだけど」

 

フウカ「ああ、それは前に発注した配膳用のロボなのですが……製作者が『ただの配膳ロボではつまらないので火炎放射器を付けておいたよ★』とか変な要素を付けて届けてきたガラクタです」

 

リオ「……エンジニア部ね。配膳用のロボという事は貴女の部活は人員が不足しているのかしら」

 

フウカ「それもありますけど……効率が上がれば美味しく食べれる人が増えるかなって」

 

リオ「美味しく?」

 

フウカ「はい。料理を作るからにはなるべく美味しい状態で食べてもらいたいんです。その為なら出来る事はやっておきたくて。……まあ、配膳ロボは発注したのはいいもののかさばるので結局は使い道がなかったんですがね」

 

リオ「貴女は信念を持っているのね。羨ましいわ」

 

フウカ「……それでも挫折する事はありますよ。夢を語るだけでは何も達成出来ません。高等部に上がるまではそう思ってました」

 

リオ「高等部になってから変わったの?」

 

フウカ「はい。その頃に噂になっていた偉大なる母親という人に出会いまして。さっき話した私の信念を話したら『素晴らしい信念ですね。是非私に手助けをさせてください』って言われて……いつの間にか食堂が改装されていたり設備が整えられていって今に至ります」

 

リオ「偉大なる母親……私が出会った彼女はただの変態だったけれど」

 

フウカ「あはは……最初はそう思いますよね。ですが誰よりも生徒に向き合ってくれる大人ですよ。この前だってヘアピンを変えた子を1時間以上褒めていました」

 

リオ「超が付くほどの馬鹿なのかしら」

 

フウカ「それは間違いないですね。でも私達はそんな彼女が大好きです」

 

リオ「(私にもそうやって皆に慕われるような存在になれる可能性があったのかしら……)」

 

フウカ「さ、出来ましたよ。ちょっと早めのお昼にはなってしまいましたが気合を入れて作りましたので!」

 

リオ「ああ、ありが……おかしいわね、私の目の前にはフルコースが並んでいるのだけど?数分程度しか話してないわよね」

 

フウカ「普段から1000人分を作っているので……」

 

リオ「……ゲヘナは恐ろしいわね」

 

ハルナ「フウカさん!なんて素晴らしい昼食なのでしょうか!是非私にも振舞ってください!」

 

フウカ「あんたは出禁だって言ったでしょ。というか休業なんだから入ってこないでもらえる?」

 

ハルナ「なんて辛辣な!!」

 

リオ「(……美味ね)」



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リオ奮闘記withゲヘナ学園#4

体操着ハルナを狙いました

ヒビキが当たりました

嬉しいですね

所持済です


リオ「ご馳走様」

 

フウカ「お粗末でした」

 

ハルナ「ご馳走様ですわ」

 

フウカ「あんたに食べさせるつもりはなかったんだからね。彼女の……そういえば名前を聞いていませんでした」

 

リオ「言われてみればそうね。私は調月リオよ。呼び方は任せるわ」

 

フウカ「リオさんですね。私は……」

 

ハルナ「愛清フウカさんです。時々偉大なる母の家に押しかけて家庭料理を振る舞うことから『通い妻』の異名を持っていますわ」

 

フウカ「変な事言わないでくれる?そんな呼ばれ方してないから。というかハルナは早く帰って」

 

ハルナ「酷いですわね……長年の付き合いではありませんか」

 

フウカ「一方的に嫌がらせをされてるだけなんだけど?」

 

ハルナ「好きな人には悪戯したくなる心理がありまして……」

 

フウカ「あんたに好かれるなんて百害あって一利なしだわ」

 

ハルナ「反応が酷すぎますわ」

 

リオ「(自覚があるタイプのコユキみたいな人間なのかしら。タチが悪いわね)」

 

ハルナ「……ですがそこまで仰られるのであれば本日はこれで失礼します」

 

フウカ「あんたが素直に帰るなんて珍しい事もあるのね」

 

ハルナ「朝1番に黒服先生を襲う事にしましたので今から準備を」

 

フウカ「よかったいつも通りの狂人だった」

 

リオ「ハルナだったかしら。襲うなら朝1番よりも夜の方が効率がいいわよ」

 

ハルナ「……詳しくお伺いしてもいいですか?」

 

リア「黒服先生を襲うという事はアビドスに行くのよね」

 

ハルナ「そうですわ。愛しの彼がいる愛の巣です」

 

リオ「愛の巣ね……」

 

ハルナ「……ですが私と彼の愛を邪魔するライバルが常に居ますの。なので誘惑して彼の方から近寄ってもらおうと思いまして」

 

リオ「そんな周りくどい事をしなくても皆が寝静まった頃に襲えばいいじゃない」

 

ハルナ「……天才ですの!?」

 

リオ「今から徒歩で向かえば丁度いい時間になると思うわ」

 

ハルナ「!!黒服先生、今参りますわぁぁ!!」

 

リオ「……これで今日は帰って来ないでしょう」

 

フウカ「どうしてあんな事を言ったのですか?」

 

リオ「え?」

 

フウカ「理由を教えてください」

 

リオ「貴女が困っていたから彼女を引き離そうと思って……」

 

フウカ「私の為、ですか。気持ちは嬉しいです。ただ誰かの為に誰かを犠牲にするようなやり方はダメです。ハルナの事だからアビドスに行ったところで何の成果も得られないと思いますが」

 

リオ「……私はこのやり方しか出来ないのよ」

 

フウカ「なら私が教えてあげます」

 

リオ「貴女が?」

 

フウカ「はい。ご迷惑でなければ」

 

リオ「………」

 

非合理的な考えなんて私には考えられない。けれど目の前の小さな少女は私にそれを教えようとしている。その考えになってしまったら今までの自分を否定する事になるだろう。……それでもその先の未来に僅かながら興味が湧いた。

 

リオ「教えてもらえるかしら。貴女の……フウカの言う誰も犠牲にしないやり方を」

 

フウカ「……はいっ!ではまずは4000人分の料理を準備しましょうか」

 

リオ「ええ。……え?」

 

リオの葛藤と奮闘はここから始まる。……ほんの少し不器用ながらも前へ進もうと。

 

ーーー風紀委員室

 

ベアトリーチェ「あぁ^〜ヒナまくらは気持ち良いですねぇ」

 

アコ「なんなんですかこの嫌がらせは。堂々とヒナ委員長といちゃつくのやめてもらっていいですか?撃ちますよ?」

 

ヒナ「死にたいの?」

 

アコ「ごめんなさい」

 

ベアトリーチェ「……おや、フウカがそんな事を言うなんて思いませんでしたよ。やはり子供達の成長は早いものですね」

 

ヒナ「さっきから何を聴いているの?」

 

ベアトリーチェ「心配なのでリオに盗聴器を仕掛けておいたんです。どうやらいい方向に向かっているようですが」

 

ヒナ「直接行かないなんて珍しいね」

 

ベアトリーチェ「ヒナまくらの魅力には勝てないのです」

 

ヒナ「嬉しい」

 

アコ「この大人目の前でデレデレしてる姿を見せてくるのほんと嫌い」

 

ヒナ「は?」

 

アコ「大好きです」

 

ヒナ「よろしい」

 

おまけ ハルナのその後

 

ハルナ「黒服先生、夜這いに来ましたわ!さあ私と夜の運動を……」

 

ケイ「モド○コ」

 

ハルナ「なっ!?何故人が居るのです!?ああ、また離されてしまいます!!ですが諦めませんわぁぁ!!」

 

黒服「助かりましたよ、ケイ」

 

ケイ「これで26回目の撃退です」

 

黒服「何故あそこまで私に執着しているのかが理解できません」

 

ケイ「彼女にとって父が崇高なのでしょうか」

 

黒服「そこまでベアトリーチェの影響を受けているのですね」

 

ケイ「大丈夫です。何度襲来しようが父の貞操は守ります」

 

黒服「言葉の使い方を間違えていますよ」




これでリオ奮闘記は一旦終了です。彼女が成長していく姿は間章3でまた描きたいと思います。

次回、もとい明日のW.A.P.P.Yでお会いしましょう


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古代書物を読んだトリニティのシスター

このお話は何事にも真剣に向き合い多数の生徒からの信頼を得ているものの生真面目すぎる性格が故に周りから誤解されやすい1人の少女のお話


彼女は祈りを捧げている。その後ろ姿を眺めつつ声をかけた。しかし反応がない。とても集中しているようでその真剣さが伝わってきた。

 

サクラコ「……?また迷える子羊が訪れたのですね」

 

マエストロ「いや私だが」

 

サクラコ「あ、先生。ちょうど、先生のために祈りを捧げていたところです。今日も貴方に祝福があらんことを」

 

マエストロ「そ、そうか……それはいいが大事な話というのは何だ?」

 

サクラコ「ああ……そうでした。わざわざ来ていていただきありがとうございます。その行いに、祝福が……」

 

マエストロ「それはもういい。本題に入ってくれ」

 

サクラコ「……分かりました。これは最近気づいた事なのですが……他のシスターの皆様に恐怖を与えてしまっているようで……」

 

マエストロ「恐怖を?」

 

サクラコ「はい。私自身はそういった自覚はないのですが……」

 

マエストロ「そうか。少し待っていろ。私が他のシスターに聞いてくる」

 

サクラコ「面目ありません……何卒よろしくお願いいたします」

 

ーーー

 

モブA「シスターサクラコ様ですか?慈母のような慈愛に満ちたお方ですよね。私も崇拝させていただいています。ただ……」

 

マエストロ「ただ?」

 

モブA「『いつも陰ながら見守っていますよ……うふふ』という発言は恐怖を感じました」

 

ーーー

 

モブB「サクラコ様?ああ、とても良い人ですよ。どんな些細な悩みでも全力で向き合ってくださる姿は全シスターの模範となるに相応しいと思います。ですが……」

 

マエストロ「何だ?」

 

モブB「笑顔が怖いです。この前も他の子が小さい悲鳴をあげていました」

 

ーーー

 

サクラコ「そうですか……笑顔と発言が……おかしいですね……笑うと親近感と安心を与えられるとアドバイスをいただいたのに……」

 

マエストロ「話を聞いただけだとどのような感じか分からないな。試しに私に向けて実践してもらっていいか?」

 

サクラコ「分かりました。……先生、本日はいいお天気ですね、ふふっ……今日も貴方の1日が平和でありますように。いつも貴方を陰ながら見守っておりますよ……それでは、よい1日を。うふふっ」

 

マエストロ「……言っている事が重い。そんな圧のある笑顔で陰ながら見守っておりますと言われたら恐怖を感じるのは当然だろう。何故それでいけると思ったのだ」

 

サクラコ「……やはりそうでしたか。薄々考えてはいたのです。私はまた勘違いをしていたようですね……決めました。今からでも流行に乗り親しみを持っていただけるように変わろうと思います」

 

マエストロ「無理して変わろうとしなくていいと思うがそう決めたなら止めはしない」

 

ーーー

 

マエストロ「流行に乗る、と言って図書館に来るのは違うのではないか?」

 

サクラコ「この前シスター達が噂していたのです。図書館に流行りそうな書物が入荷したと。先程お貸しして頂けるとご連絡をいただいたので受け取りにきたのです」

 

マエストロ「その割には誰も居ないが」

 

サクラコ「人と顔を合わせるのが苦手な方ですので……確か入り口付近に置いてあると……あ、これでしょうか?」

 

マエストロ「流行っているという割には随分も年季を感じる書物だな」

 

サクラコ「中身は……どうやら青春を題材としているようです。早速持ち帰って読んでみたいと思います」

 

マエストロ「解決するとは思えないが上手くいくといいな」

 

サクラコ「ありがとうございます。……しかし、こうして目をかけていただくのは、あまり慣れませんね」

 

マエストロ「私は何もしていないがな」

 

サクラコ「そんなご謙遜をしなくても……」

 

マエストロ「とりあえず明日また聖堂に顔を出そう。成果を楽しみにしている」

 

サクラコ「はい。本日はありがとうございました」

 

ーーー

 

サクラコ「……とはいえこの本の内容はあまり理解が出来ませんね。青春が題材かと思いましたがいきなりアイドル?のお話になって歌い始めましたし……ですがこの話し方を極めれば皆様も親しみ易くなるのでしょうか。試してみる価値はありそうですね」

 

サクラコ「アイドル……中々に興味深いです。決め台詞はやはり作中の人物と同様の台詞を……わっぴー?不思議な掛け声ですね」

 

ーーー次の日の朝

 

マリー「……あら先生、おはようございます。本日はどのような用でいらしたのですか?」

 

マエストロ「サクラコの様子を見に……お、ちょうど挨拶をするようだな」

 

サクラコ「………」

 

マエストロ「(果たしてどうなったのだろうか)」

 

サクラコ「みっんな〜☆わっぴ〜☆今日も良い天気だね♪」

 

マエストロ「……は?」

 

モブA「サクラコ様!?」

 

サクラコ「ちょっと〜?オーディエンス達、もっと盛り上げて欲しいな☆」

 

モブB「サ、サクラコ様……?」

 

サクラコ「しょうがないなぁ……それじゃあ目覚めの一曲を歌ってあげるね!」

 

マリー「………」

 

マエストロ「何をどうしたら1日であんな風になるのだろうか」

 

サクラコ「〜〜♪」

 

モブC「……!?な、なんて美声……サクラコ様、素敵です!!」

 

モブ達「サ・ク・ラ・コ!サ・ク・ラ・コ!」

 

マリー「聖堂でアイドルソングを……」

 

マエストロ「セイアといいトリニティは何故こんな人間ばかりなのだろうか」

 

サクラコ「アンコールいっくよー☆『恋する少女のマジカルW.A.P.P.Y!!』」

 

モブ達「ワァァァァァァ!!」

 

マエストロ「シスター達よ、お前らはそれでいいのか……」

 

マリー「どうしてこんな事に……」

 

書物の影響を受けて歌姫と化したサクラコ。かなり方向性を間違えてはいるものの本人が楽しそうなのでいいか。そう思いながらマエストロはその場を後にした。後に報道されてCDが発売されるのは別のお話。




わっぴわっぴ わっぴえーなじー わっぴわっぴ わっぴほーりでい

てーとてーあわーせてー(せーの)W.A.P.P.Y!

次はホシノスワップを書きます


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ホシノスワップ(G)#1

「……シノ先輩、ホシノ先輩」

 

ホシノ「んー……あれ、皆どうしたのさ」

 

ノノミ「ホシノ先輩、今日はシャーレの当番ですよね?ここに居ていいんですか?」

 

ホシノ「えっシャーレ?どうして私が……」

 

セリカ「どうしてって……先生に頼まれた時喜びながら受けていたじゃない」

 

ホシノ「先生がシャーレに居るの?」

 

アヤネ「居ますけど……」

 

ホシノ「それじゃあ行くしかないね。後輩ちゃん達、学校の事は任せたよ〜」

 

セリカ「……なんかホシノ先輩おかしくなかった?」

 

アヤネ「寝ぼけているだけだと思いますけど……」

 

ーーー

 

ホシノ「シャーレってこっちだよね……あれ、こんな道だったっけ?」

 

ヒナ「………」

 

ホシノ「あっヒナだ。おーいヒナー!」

 

ヒナ「……小鳥遊ホシノ?」

 

ホシノ「奇遇だねー。あ、もしかしてヒナもシャーレに行くところ?」

 

ヒナ「そうだけど」

 

ホシノ「んじゃ一緒に行こー」

 

ヒナ「いいけど……なんか距離感が近いわね」

 

ホシノ「いつも通りだと思うけど……」

 

ヒナ「そう」

 

ホシノ「……?」

 

何かがおかしい。目の前にいる友人が何処かよそよそしいのもそうだが何故シャーレに行く必要があるのだろうか。

 

ホシノ「(まあ……着いたら分かるかな)」

 

ーーー

 

ホシノ「シャーレだ。ここに先生が……」

 

ヒナ「当たり前の事を言ってないで入ろう」

 

ホシノ「そ、そうだね。失礼しまーす」

 

「"待っていたよ。ホシノ、それにヒナも今日は宜しくね"」

 

ヒナ「うん。任せて」

 

ホシノ「………」

 

ヒナ「小鳥遊ホシノ?」

 

ホシノ「先生は何処?」

 

ヒナ「?目の前にいるじゃない」

 

ホシノ「それはシャーレの先生じゃん。私の先生の事だよ」

 

ヒナ「?」

 

「"……私がホシノの先生なんだけど……"」

 

ホシノ「えっ?」

 

「"何か悩み事でもあるの?相談に乗るよ?"」

 

ホシノ「……そ、そうだ。ヒナはベアさんが悲しむからシャーレの当番に行かないって言ってなかった?」

 

ヒナ「ベアさん?誰の事?」

 

ホシノ「えっ」

 

「"ホシノ、体調が悪いなら当番は休んでも……"」

 

ホシノ「シャーレの先生、ごめんなさい。私学校に戻ります」

 

「"あっホシノ……"」

 

ヒナ「……小鳥遊ホシノに何かしたの?」

 

「"……何かがおかしい……ごめんヒナ、私もアビドスに行くね"」

 

ヒナ「うん。仕事は私に任せて」

 

「"ありがとうヒナ。そういうところが大好きだよ"」

 

ヒナ「!?いいから早く行ってきて///」

 

ーーー

 

ホシノ「皆!!……あれ、誰も居ないや」

 

ホワイトボードには『今日の活動』と書かれており、遠くの場所に向かっているようでしばらくは戻ってこなさそうだ。皆にモモトークを送信してみたが何も反応がなく既読すらつかない。

 

ホシノ「(何が起きているかは分からないけど……皆から話を聞かないといけないし……でもじっとしてるのは性に合わないから自治区の見回りでもしようかな)」

 

ミレニアムに向かう事も考えたがまずは近辺で情報を集めようと思い立って銃と盾を持って教室を後にした。

 



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ホシノスワップ(A)#1

ホシノ「おっはよ〜いやー今日も暑いねー」

 

ノノミ「おはようございま〜す。もう夏は過ぎたはずなんですけどね」

 

ホシノ「暑すぎておじさんは干からびそうになっちゃうよー」

 

ノノミ「……?そうですね」

 

ホシノ「あれ、シロコちゃんマフラー外しちゃったの?まあこんな暑いんじゃしょうがないよねー」

 

シロコ「……?」

 

ホシノ「よいしょっと……うーん……むにゃ……」

 

セリカ「ちょっと、来て早々寝ないでよ」

 

ホシノ「……うへぇー相変わらずセリカちゃんは厳しいなぁ」

 

セリカ「……?いいから起きてよね」

 

ホシノ「おじさんは学校に来るだけで疲れちゃったんだよぉ」

 

アヤネ「………」

 

ノノミ「セリカちゃん、お疲れの様ですし私達は少し席を外しましょう?」

 

セリカ「……そうね」

 

ーーー

 

セリカ「なんかおかしくない?」

 

ノノミ「何がとは言えないのですが違和感があるというか……」

 

アヤネ「ホシノ先輩である事は間違いないんですけど……」

 

シロコ「頭を打って記憶がおかしく……!?」

 

ノノミ「うーん……記憶自体は問題なさそうなんですよね」

 

黒服「おはよう御座います。廊下で集まって何をしているのです?」

 

ノノミ「あっ黒服先生。実はホシノ先輩が……」

 

黒服「……なるほど。少々話を聞いてみるとしましょうかね。……失礼しますよ」

 

ホシノ「んー……!?何でここに……」

 

黒服「……まさか私に銃を向けてくるとは」

 

ホシノ「どうしてここにいるの?また私で実験でもするつもり?」

 

黒服「随分と警戒されているようですね。私は何か嫌われるような事をしたのでしょうか」

 

ホシノ「とぼけないで。貴方が私にした事は絶対に忘れない」

 

黒服「ふむ……困りましたね。話を聞くどころではなさそうです」

 

ノノミ「ホシノ先輩、落ち着いてください。深呼吸ですよ」

 

ホシノ「ノノミちゃん、そいつから離れて!!」

 

ノノミ「……ぎゅー♪」

 

黒服「……ノノミ?」

 

ホシノ「ちょっと!?黒服、ノノミちゃんに何をしたの!!」

 

黒服「何もしていませんが」

 

ノノミ「ホシノ先輩、いくらなんでも私の恋人に銃を突きつけるのはやめてください」

 

ホシノ「え゛っ゛」

 

黒服「……余計に混乱させてませんか?」

 

シロコ「ん、NTR」

 

セリカ「真面目にやりなさいよ!!」

 

アヤネ「あ、あはは……」

 

ーーー

 

ホシノ「……にわかには信じられないけど皆が言うなら信じるよ」

 

黒服「それで貴女は何処から来たホシノなのです?」

 

ホシノ「……分からない。目が覚めたらベッドの上にいてそのまま学校に来たから」

 

黒服「予測ですが、恐らく別の時間軸から来たのでしょう。この世界とは異なる歴史を歩んだ場所から来たのでは?」

 

セリカ「そんなSFみたいな話があるの?」

 

黒服「可能性としては0ではないでしょうね。彼らがこの世界に干渉しようとした際に起きたバグのようなものでしょうか」

 

ノノミ「つまりここにいるホシノ先輩は別の世界から来たホシノ先輩って事ですよね?」

 

シロコ「ん、ややこしい」

 

アヤネ「それならどうにかして元の世界に送り届けないといけませんね……でもどうやって……」

 

黒服「そこは私がどうにかしましょう。……問題は元々この世界にいたホシノが何処にいるか、です」

 

セリカ「このホシノ先輩がいた世界に行ってるんじゃないの?入れ替わってる形で」

 

黒服「……なるほど。だとしたらもうしばらく待っていれば解決しますね」

 

ノノミ「どうしてですか?」

 

黒服「私のホシノは優秀ですから」

 

ホシノ「……随分と信用しているんだね」

 

黒服「それはもう。私の大切な生徒ですから」

 

ホシノ「ふーん……」

 

ノノミ「せっかくですしもっとお話しませんか?そっちの世界で何が起きたかを聞きたいです」

 

ホシノ「それはいいけど……」

 

黒服「……私が居たら話しづらいのでしょう?しばらく外に出ていますよ」

 

ホシノ「……助かるよ」

 

ノノミ「ではでは、まず何から聞きましょうかね〜」

 

ホシノ「それじゃあ順番に話していこうかなーまずはノノミちゃんと出会った時から……」

 

アリス「ホシノママー!会いに来ました!!」

 

ホシノ「ぐぇ」

 

ケイ「……アリス、母が苦しそうです」

 

アリス「あっ、アリスまたやってしまいました!ホシノママ、大丈夫ですか!?」

 

ホシノ「大丈夫だよー……ん?ママ?」

 

アリス「はい!」

 

ホシノ「???」

 

ノノミ「あ、この子達はホシノ先輩の娘ですよ」

 

ホシノ「??????」

 

ノノミ「そして私は先生の恋人です」

 

ホシノ「????????」

 

アリス「ケイ、どうしましょう。ホシノママが混乱しています」

 

ケイ「やはり連絡してきてから来た方が良かったのでは……」

 

ホシノ「……この世界はどうなってるの……」



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ホシノスワップ(A)#2

こちらはギャグ寄りです


ホシノ「……ねえ、こいつについて行って本当に大丈夫なの?」

 

ノノミ「大丈夫ですよ。私が抱きついて動けなくしておきますから」

 

黒服「別にそのような事をしなくてもこのホシノには何もしませんよ」

 

シロコ「この黒服はどうしようもない程鈍臭いやつだけどホシノ先輩に危害は加えないよ」

 

ホシノ「2人がそう言うなら……でも距離はとらせてもらうね」

 

黒服「お好きにどうぞ。とはいえもう時期着きますけど」

 

ホシノ「あっ……シャーレだ……この世界にもあるんだ」

 

黒服「生徒関連の緊急事態の召集場所としてはここが便利ですからね。貴女を元の世界に帰す為にも会議を行おうと思いまして」

 

ホシノ「……見返りは渡さないからね」

 

黒服「別に求めませんよ。ただ『私の』ホシノが寂しがっていると思いますので早く対処をしたいだけです」

 

ノノミ「私のって、黒服先生は相変わらず積極的なんですね〜」

 

シロコ「それを本人に言えばいいのに」

 

黒服「本人に伝えて私が襲われたらどうするんですか」

 

ノノミ「遅かれ早かれそうなるとは思いますが」

 

黒服「正直そんな気はしています」

 

ホシノ「(こっちの世界の私ってどんな人生を歩んでるんだろう……この悪い大人に騙されて生きてるのかな……)」

 

ーーー

 

黒服「メンバーが揃うまではこちらの会議室で休憩していても構わない、との事です」

 

ノノミ「分かりました〜」

 

黒服「私はホシノに警戒されているので外で待機しますね。ところでノノミはそろそろ離れてもらえませんか?」

 

ノノミ「お断りします♪」

 

ホシノ「……なんだか落ち着かないな」

 

シロコ「ん、じゃああっち向いてホイでも」

 

ホシノ「ごめんねシロコちゃん。おじさんは今そういう気分じゃないんだ」

 

シロコ「そっか」

 

ホシノ「……こっちのアビドスの話を聞いてもいい?」

 

シロコ「いいよ。まずは私がホシノ先輩に拾われた時の話から……」

 

ーーー

 

黒服「……ああ、大事なことを伝え忘れていました。後から変態が現れると」

 

ノノミ「変態?」

 

「"うへへーい!ホシノたん、会いにきたよぉ!"」

 

黒服「今入って行ったあれです」

 

ノノミ「うわぁ……」

 

ーーー

 

「"ホシノたん可愛いねぇ!いつもツンツンしているのに今日はこんなに触っても受け入れてくれるなんて!!"」

 

ホシノ「も、もう。おじさんに構ってていいの?」

 

「"そっかぁ、ホシノはおじさんなんだね。よし、それじゃあ裸の付き合いを……ごめん調子に乗りすぎた。だから撃たないで"」

 

シロコ「ん、次はない」

 

ホシノ「おじさんは別に構わないよ」

 

「"ほら、ホシノだってこう言ってるんだから。大丈夫、先っぽだけにしておくから!"」

 

シロコ「その台詞を言う人間はロクな人が居ない」

 

ユウカ「馬鹿なことやってないで大人しくしてください」

 

「"私はいつも真面目に……ごめん謝るからその太ももから繰り出される蹴りは勘弁してください"」

 

ユウカ「毎回土下座をすれば許されると思ってないですか?……許しますけど」

 

「"ありがとう。ユウカ大好き"」

 

ホシノ「(……あ、忘れかけてたけどこの先生も私の知る先生とは別人なんだった)」

 

シロコ「ホシノ先輩?」

 

ホシノ「んー?どしたの?」

 

シロコ「……いや、何でもない」

 

ーーー

 

黒服「後からユウカが来たのであの変態はなんとかなったでしょう」

 

ノノミ「あの変態はって事は……」

 

ベアトリーチェ「FOO↑別の世界から来たホシノなんて素晴らしいですますわよ!これは性別の特権を活かしてペロペロしなければいけませんねぇ!!」

 

黒服「あれです」

 

ノノミ「うわぁ……」

 

ベアトリーチェ「あ、今目が合いましたね?」

 

黒服「………」

 

ベアトリーチェ「顔を背けるのが遅いですよ。随分羨まし……けしからん事をしていますね?ノノミ、今度私にも抱きついてくれませんか?」

 

ノノミ「考えておきますね」

 

ベアトリーチェ「楽しみにしていますよ。……では急いでいるので失礼します」

 

ノノミ「……ホシノ先輩の様子を見なくていいのですか?」

 

黒服「シロコが側に居ますし何よりあのホシノには興味がないので」

 

ノノミ「一途なんですね☆」

 

ーーー

 

ベアトリーチェ「ペロペロさせてください!」

 

ホシノ「ごめんなさい生理的に受け付けないので無理です」

 

ベアトリーチェ「唇だけ!唇だけですから!」

 

ホシノ「勘弁してください」

 

シロコ「ホシノ先輩が敬語を使ってまで拒まれるベアトリーチェに涙が止まらない」

 

ベアトリーチェ「私が何をしたと言うのです!」

 

ホシノ「セクハラ」

 

「"ベア先生、セクハラは良くないよ"」

 

ベアトリーチェ「貴方に言われたらおしまいですね」

 

「「あっはっは!」」

 

ホシノ「頭がおかしくなりそう」

 

ーーー

 

マエストロ「……何故廊下で抱き合っているのだ?」

 

黒服「離れてくれないんですよね」

 

マエストロ「まあ私と似たようなものか」

 

黒服「そうですね」

 

ノノミ「でも貴方の側には誰も居ませんよ?」

 

マエストロ「そう見えるならいいんだ」

 

ノノミ「?」

 

ーーー

 

黒服「会議を始める為にホシノを覗いた他生徒は一度退散してもらいました」

 

ベアトリーチェ「私からヒナを取り上げるなんて……」

 

マエストロ「落ち着けマダム」

 

ベアトリーチェ「まだ暴れていませんが?」

 

「"代わりに私が暴れておくよ"」

 

黒服「やめてください」

 

ホシノ「(何なのこの大人達。先生以外全員怪しいんだけど)」

 

黒服「会議を始めます。先程連絡した際にお伝えしました通り理由は不明ですがこのホシノは別の世界線から来たようです」

 

ベアトリーチェ「馬鹿馬鹿しい話ですね。証拠を出しなさい証拠を!」

 

黒服「貴女には先程の発言を振り返ってもらうとして……証拠なら出せますよ」

 

ベアトリーチェ「ほお?ならば出してもらいましょうか?」

 

黒服「ホシノ、先生と聞いたら誰を思い浮かべますか?」

 

ホシノ「……そこに居る人だけど」

 

「"私?詳しく話を聞きたいからあっちの休憩室で"」

 

ベアトリーチェ「※※※※※※」

 

マエストロ「落ち着けマダム」

 

黒服「このようにこの世界のホシノではありえない発言をします」

 

ベアトリーチェ「しかし記憶が改竄されているだけの可能性があるのではないでしょうか?」

 

黒服「その点は問題ありません。昨日の段階ではいつも通りでしたし夜寝る前までアリスが護衛していましたので」

 

ホシノ「ああ、さっきの私の娘って言ってた子……」

 

ベアトリーチェ「1つ確認させてください。ホシノ、貴女に娘は居ないのですか?」

 

ホシノ「私には居ないけど」

 

ハルナ「何ですって!?つまり黒服先生はフリー!?」

 

黒服「何処から現れたのでしょうか」

 

ハルナ「であれば話が早いです!さあ黒服先生、私と愛のベロチューをしましょう」

 

黒服「会議中なのですが」

 

ハルナ「つまり会議が終わった後ならしてくださるのですか!?」

 

黒服「しません」

 

ハルナ「先っぽだけでいいので!」

 

黒服「とりあえず会議室から出て行ってもらえますか?」

 

ホシノ「もうやだこの空間」




Q何故ゴルコンダさんが居ないのか

A彼はまだ先生ではないからです(そういうこった)


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ホシノスワップ(G)#2

こちらはちょっと重い話です


ホシノ「……とは思ったけれどまずは学校を見て回ろうかな。先生の自室とか」

 

誰も居ない昼の学校。最近では考えられないほど静寂に包まれた廊下を進み先生の部屋の扉を開ける。

 

ホシノ「あれ、間違えたかな?もう1つ隣の部屋だっけ」

 

しかし隣の教室にも先生の部屋だという痕跡がない。嫌な予感がして思わず呼吸が早くなる。

 

ホシノ「先生の部屋がない……どうして?なんで?なんで……」

 

教室の隅々まで探しても先生が使っている痕跡すらない、ただの砂まみれの教室。思わず頬をつねってみたが痛みを感じる為夢ではない。明らかにおかしい。何か見慣れたものが見たい。でも何処にある?何処に……

 

ホシノ「……旧校舎の中庭」

 

情緒が不安定になりかけている彼女が目指した場所は旧校舎にある中庭。そこで目にしたのは砂が積もった旧校舎と手入れがされておらず荒れ果てている中庭。彼女にとって大切な場所であった所はこんなにも廃れていた。

 

ホシノ「こんなはずが……ありえない……一体どうして?」

 

頭を抱えてその場に倒れ込む彼女は自問自答のようにどうしても呟いている。自分が積み上げてきたものが何1つ見つからないのだから当然とも言えるのだが。

 

ホシノ「……早く先生に会わないと」

 

焦る気持ちを抑え込んで彼女は町に繰り出した。

 

ーーー

 

ホシノ「いつも通り見慣れた町だけど……やっぱりおかしい。この辺りにはもっと人が居たはずなのに」

 

前の見回りより寂れた町を歩きながらそんな事を考える。最近はある程度余裕が出来ていたので皆と協力して自治区の砂掃除等を行っていたのだが……

 

ホシノ「学校の時から思っていたけど……なんだか今日は静かな1日だよね。……ああ、1人だからだ」

 

先生とアビドスの後輩、アリスとケイと開発部の皆。いつの間にか私の周りには誰かが居て騒がしいも言えるほど賑やかだった。

 

ホシノ「ドッキリ……なのかな。皆が私の事を忘れちゃって……いや、それはないよね」

 

不安からかどうしても独り言が多くなってしまう。何処か安心出来る所に行きたい、そう考えてしまうほどに落ち着かない。

 

ホシノ「先生に会いたい。けど何処に居るんだろう……あ、砂漠にある研究所とかに居るかな。町中にいる気配がないし……行ってみよう」

 

彼女は一筋の希望を胸に砂漠へ向かう。彼と初めて出会った場所でもあり、大切な人を失った嫌な記憶がある場所でもある。そんな複雑な心境になる砂漠の入り口はすぐそこに。

 

ーーー

 

慣れ親しんだ砂漠地帯。一歩、また一歩と踏み出していくものの足取りが重い。彼女自身は気がついていないものの精神的に不安定な状態になっている。もし研究所に先生が居なかったらと考えるだけで動悸がする。

 

ホシノ「大丈夫……大丈夫だから」

 

自分にそう言い聞かせるように呟きながら広大な砂漠を1人歩いていく。途中謎の大きな機械の蛇が襲ってきたが苦戦する事もなく撃退した。……そのまま数十分彷徨ってようやく目的地の場所に何も見つからない。まるで最初からそこになかったかのように砂しか視界に映らない。

 

ホシノ「確かこの辺りだったと思うんだけど……あれ……」

 

彼女はいきなり倒れ込んでしまった。大きな怪我を負った訳でもなく身体の疲れでもない。立ちあがろうとしても腕に力が入らない。

 

ホシノ「なくなっちゃった……私の大切なもの……」

 

脳裏によぎっていた受け入れたくない可能性。彼女はそれだけはありえないと受け入れていなかったが現実は残酷だ。記憶が、思い出が消えてしまったのだから。

 

ホシノ「もう……耐えられないよ」

 

無慈悲な世界で彼女の心は硝子のように割れてしまう。……はずだった。遠くから人の声が聞こえてくる。幻聴だと思っていたが次第に声は大きくなっていき、真後ろから聞こえる程の大声で「"ホシノ!"」と叫ばれた。

 

ホシノ「……シャーレの先生……」

 

「"……っ!?ホシノ、泣いて……"」

 

顔を覗き込まれたせいで泣いている姿を見られてしまった。「別に何でもない」と言い終える前に何故か力強く抱きしめられた。

 

ホシノ「何を……してるの?」

 

「"迷惑だったらごめんね。でも……君の事が放っておけないんだ"」

 

ホシノ「分からないよ……なんでこんな所にまで来たの……」

 

「"ホシノが困っていたから"」

 

ホシノ「……何それ。馬鹿みたい」

 

……でも、抱きしめられていると不思議と安心する。先生とは違う優しさに包まれるような感覚になっている。この時、普段はどうしようもないダメな大人である彼が生徒から好かれている理由がほんの少しだけ分かったような気がした。



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ホシノスワップ(A)#3

ベアトリーチェ「ハルナは食べておきました」

 

「"私も食べる(意味深)したかった"」

 

ベアトリーチェ「浮気は許されませんよ」

 

「"まだフリーだから大丈夫"」

 

マエストロ「最低な会話だな」

 

黒服「とにかく私のホシノが困っているかもしれないので早めに対処したいのです。最初は待っていれば戻ってくると思いましたが妙な胸騒ぎがするので」

 

ベアトリーチェ「『私のホシノ』?その言葉について詳しくお伺いしても?」

 

黒服「そこは重要ではないので省きます」

 

マエストロ「別の世界か……興味はあるが下手に干渉すると面倒な事になるかもしれないな」

 

ベアトリーチェ「何を馬鹿な事を言っているのです。別の世界に行けば生徒の数が2倍になるのですよ?ヒナサンドだって出来るのですよ」

 

マエストロ「マダム、正気を保て」

 

黒服「……ともかく肝心の別の世界に干渉する手段ですが……ケイ、例の物をこちらに」

 

ケイ「どうぞ」

 

マエストロ「なんだこのキューブは?」

 

ケイ「パラレルワールド干渉装置の一部です」

 

マエストロ「何故そんな都合のいいものが?」

 

黒服「これは推測ですが、今回の事件は司祭が関わっているのではないかと考えています。どのような理由でこのような事態を引き起こしたのかは不明ですが」

 

マエストロ「成程。それならばこの異常事態にも納得は出来るが……」

 

「"どうしようベア先生、話についていけないよ"」

 

ベアトリーチェ「とりあえずホシノを愛でましょうか」

 

ホシノ「先生はいいけどおばさんはちょっと……」

 

ベアトリーチェ「おば……!?」

 

「"草"」

 

黒服「……やはりマエストロにのみ連絡する方が良かったのでしょうか」

 

マエストロ「グループチャットに生徒関連の事を書いてしまったらあの2人が反応してしまうのは仕方ないだろう」

 

黒服「あのホシノを預けられるので構いませんが」

 

マエストロ「とりあえず……このキューブを解析してあのホシノが居たであろう世界に干渉する装置を開発すればいいのか。不思議と心が躍るな」

 

ケイ「今回に関しては私と父を含めた3人で開発をしていただけないでしょうか?司祭の情報は幾つか所持しているので助力出来るかと」

 

マエストロ「構わないぞ。よし、そうと決まれば早速解析を始めよう」

 

「"ホシノのほっぺめっちゃ柔らかい"」

 

ホシノ「うへーそんなにベタベタ触らないでよー」

 

ベアトリーチェ「こいつら目の前でイチャつきやがって……」

 

マエストロ「……あれはどうする?」

 

黒服「放置でいいです」

 

ーーー

 

ケイ「この転送機能を使用するには光速並の速度を再現する必要があります」

 

マエストロ「それならば問題はない。タキオン粒子という概念を利用して組み込めば実現可能な範囲だ」

 

黒服「外壁をこのキューブと同様の素材で覆う必要がありそうですね。であれば複製を使用しましょう」

 

ケイ「操縦プログラム等は私が絶対しておきます」

 

マエストロ「1つ重大な懸念点がある。仮に転送が成功したとしてもそこに私達の世界にいたホシノがいるという保証がないのだ。可能性の世界というものが存在する以上その数は無数にあると言っていい程膨大だろう」

 

黒服「そちらについては憶測にはなりますが……あちらの世界のホシノがこちらに居る以上何かしらの縁が出来ていると思うのです」

 

マエストロ「憶測か……もう少し確実な理由が欲しい所だな」

 

黒服「生憎このような事態は想定していなかったもので……確実な理由等は言えません」

 

マエストロ「それは私も同じだが……」

 

ベアトリーチェ「さあホシノ!鯨のぬいぐるみを差し上げます!ですのでこちらに……」

 

ホシノ「ごめんなさい生理的に無理です」

 

ベアトリーチェ「グハッ」

 

黒服「うるさいので黙っていてください」

 

ーーー

 

マエストロ「想定よりも早く完成したな」

 

黒服「その分4人程しか乗れない設計にはなっていますがね」

 

ケイ「私が操縦する必要があるので実質3人です」

 

黒服「それなら私とあのホシノ、それと……誰にしましょうか。マエストロはどうしますか?」

 

マエストロ「私はとある理由で乗れない。後ほどレポートを貰えればそれだけで充分だ」

 

黒服「分かりました。それならば3人で行きましょう」

 

アリス「待ってください!アリスが仲間に加えて欲しそうに先生を見ていますよ!」

 

黒服「……まあ、あれが乗るよりはマシですかね」

 

ベアトリーチェ「ヒナ……私はホシノに好かれない体質のようです」

 

ヒナ「相性があるからね。仕方ないよ」

 

ケイ「あれは大人としてダメなタイプですね」

 

「"大人はね、ロリ体型の女の子にバブみを感じる時があるんだ"」

 

ケイ「は、はあ……」

 

黒服「この空間から離れたいので先に乗り込みますね」

 

アリス「さあ、ホシノマ……ホシノ、行きましょう」

 

ホシノ「うん。それじゃあ……」

 

「"ホシノ"」

 

ホシノ「先生?」

 

「"……いや、何でもないよ。元気でね!"」

 

ホシノ「……どこの世界でも先生は変わらないなぁ(黒服達は変わりすぎてるけど)」

 

ーーー

 

ベアトリーチェ「行ってしまいましたね」

 

「"ベア先生、あのホシノだけど……"」

 

ベアトリーチェ「ええ。やはり無理をしてでも引き留めるべきだったのでしょうか」

 

「"本人が望んでいない事をさせたくはないかな。心配ではあるけどね"」

 

ベアトリーチェ「あの小さな身体にどれ程のものを背負っているのでしょう。あのままでは耐えきれなくなってしまうのでは……」

 

「"その時は世界を越えて助けに行くしかないね"」

 

ベアトリーチェ「とんでもない事を言いますね。ですがその根性気に入りました」

 

ーーー

 

ホシノ「アリスちゃん……だっけ?そろそろ離れて欲しいなって」

 

アリス「ダメです!アリスにはホシノを守るクエストを受注しています!」

 

ホシノ「守るって言われても……あれ、よく見たらアビドスの制服……もしかしてこの世界では私の後輩なの?」

 

アリス「いえ、アリスはミレニアム生です」

 

ホシノ「そっか。それなら何でアビドスの制服を着てるの?」

 

アリス「先生の趣味です」

 

ホシノ「そっか。先生は相変わらずだなぁ」

 

アリス「ちゃんと学生証もありますよ!」

 

ホシノ「本当だ。……『小鳥遊アリス』?えっ本当に私の娘なの?」

 

アリス「はい、娘です!」

 

ケイ「あ、私もですよ」

 

ホシノ「み、苗字まで同じって事は……私結婚してるの!?」

 

黒服「してないです」

 

ホシノ「えぇ!?バツイチ!?」

 

アリス「バツイチって何ですか?」

 

黒服「一旦落ち着いて貰えますか?今ケイと座標の特定をしているので」

 

ホシノ「……ごめん」

 

ケイ「……やはり特定は難しいですね。ホシノ、貴女の力を貸してもらえますか?」

 

ホシノ「いいけど……何をしたらいいの?」

 

ケイ「目の前のキューブを持って『帰りたい』と念じてください」

 

ホシノ「分かった」

 

黒服「……おお、キューブが光り始めましたよ」

 

ケイ「これで特定が出来そうです。ありがとうございます」

 

ホシノ「それならよかった」

 

ケイ「それでは転移を始めます」

 

黒服「……ケイ?目の前に謎の穴が生まれたのですがまさかこれに飛び込めと?」

 

ケイ「アリス、2人をあの穴に投げ入れてください」

 

アリス「分かりました!」

 

黒服「うぉ……なんて野蛮な」

 

ホシノ「うわっ!?アリスちゃん力強くない!?」

 

アリス「先に先生、行ってらっしゃいませ!」

 

黒服「私が1人で向かっても意味がな」

 

ケイ「彼は別の世界に飛ばされました。次は貴女の番です」

 

ホシノ「ちょっと待って。あの消え方は怖いって。もうちょっと時間を……」

 

アリス「大丈夫です!投げ飛ばすので!」

 

ホシノ「ごめん、せめて自分のペースで行かせて欲しいな」

 

ケイ「40秒で覚悟を決めてください」

 

ホシノ「お願い、3分でいいから」

 

アリス「それならば3分間待ってあげます」

 

ーーー3分後

 

アリス「時間です。答えを聞こう」

 

ホシノ「……あの、やっぱり怖いからあと2分くらい」

 

アリス「では投げます」

 

ホシノ「聞いて?」

 

アリス「光よ!」ブンッ

 

ホシノ「うへぇぇぇぇぇ!!」

 

ケイ「理不尽ですね」




次でホシノスワップは最終話なのですが本日中に間に合いそうにないので明日の投稿とさせてください

申し訳ありません


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ホシノスワップ(G/A)#終

今日中に間に合ったので投稿します


ホシノ「……ん」

 

先程まで砂漠に居たはずなのにいつの間にか教室に戻ってきていた。夢から覚めたのかな、と辺りを見渡していると疲れているのかいびきをかいて寝ている大人が1人居る。シャーレの先生だ。

 

ホシノ「夢じゃなかったんだ……」

 

目の前にいる大人のお陰で一時的に安堵は得られたものの根本的なものは解決していない。それどころか先生に繋がる手掛かりがなくなってしまったようなものだ。それでも何とか見つけ出すしかない。

 

ホシノ「(だから休んでる暇はないけれど……身体が重い。しばらく動けなさそう)」

 

普段の自分の身体とは思えないほど衰弱している感覚がある。やむを得ずその場で仰向けに寝転んで天井を眺める事にした。切れかけの電球の光が点灯を繰り返している。付いては消えるその姿を見ていると自身の内側になる不安が大きくなっていくような感覚に襲われたので仰向けになろうと身体の向きを変えた。その時に何か柔らかいものが顔に当たり違和感があったので顔を上げるとそこには……

 

シロコ「ん、おはよう」

 

ホシノ「……うわっ!?」

 

何故か後輩が添い寝をするかのように隣に寝転んでいた。

 

ーーー

 

ホシノ「皆帰ってきてくれたんだね。夜まで用事があるって言ってたのに……」

 

ノノミ「先生からホシノ先輩の様子がおかしいって連絡をもらったので切り上げてきました」

 

シロコ「ん、残念ながらホシノ先輩はもう1人になれない」

 

ホシノ「……そっか。よかった、私にもまだ残ってるものがあったんだ。ありがとう」

 

セリカ「お礼なんていいから話しなさいよ。なんで砂漠に1人で行ったのよ」

 

ホシノ「先生を探しに……」

 

「"私を?"」

 

ホシノ「シャーレの先生じゃなくて……私の先生を探しに行ってたの」

 

アヤネ「私達の先生はそこに居る先生ですよ?」

 

ホシノ「えっと……だから……」

 

上手く伝えられなくて困っていると教室の外から轟音が聞こえた。全員が何事だと慎重に扉を開けた先に居たのは彼女達にとっては先生と真逆ともいえる異形の存在。ゲマトリアの黒服だ。

 

黒服「あの華奢な身体の何処から馬鹿力が生まれているのでしょうか……おや」

 

「"黒服……!?まさかまたホシノを狙って!?"」

 

シロコ「一歩でも動いたら撃つ」

 

黒服「これは手荒い歓迎ですね。ですが私は敵対するつもりはありません。どうか銃を収めていただけないでしょうか?」

 

「"………"」

 

黒服「おやおや。参りましたね……ん?」

 

ホシノ「……せ……」

 

セリカ「ホシノ先輩?ちょっと、何してるのよ!」

 

「"ホシノ、近づいちゃダ"」

 

ホシノ「先生ーー!!」

 

「「「「「!?!?!?」」」」」

 

黒服「……いきなり抱きつかないでもらえますか?」

 

この時シャーレの先生と後輩たちは目の前にいるホシノが言った言葉と行動が信じられず脳が破壊されたような衝撃を受けた。

シロコは壁を殴りノノミはミニガンを放り投げセリカは飛び跳ねた衝撃で壁に刺さりアヤネは眼鏡が破れシャーレの先生はNTRと同様のショックを受けてその場に立ち尽くしていた。

 

ホシノ「先生好き好き!もう離れない!」

 

黒服「たった1日で大袈裟な……とりあえず生きていて何よりです」

 

「"あ、あの……ホシノ?私の聞き間違いじゃなければ黒服の事を先生って……"」

 

ホシノ「うん。私の先生だよ」

 

「"あ゛あ゛あ゛あ゛!!私の生徒が寝取られたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!"」

 

黒服「ホシノは初めから私の生徒です」

 

シロコ「ん、ん、ん、ん、ん」

 

ノノミ「わぁ、壁に穴が開いてますね☆」

 

セリカ「誰か助けて」

 

アヤネ「何も見えません」

 

「"唐突なNTRにより脳が破壊されました。黒服、責任をとってください"」

 

黒服「先程から理解できない単語を言わないでもらえますか?」

 

「"NTRは許さん。私自らぶっころ……"」

 

「うへぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「"んえぶ"」

 

黒服「ようやく来たようですね」

 

「"いたた……黒服の野郎、遂に手を出したね。ならば私も大人のカードを使わせてもら……あれ、ホシノ?"」

 

Aホシノ「えっと……ただいま、先生」

 

「"……まさかNTR返し!?見たか黒服、やはり正義は勝つんだよ!"」

 

黒服「さ、帰りましょうか」

 

ホシノ「うん!」

 

「"うわぁホシノが誘拐される!?ってホシノが2人居るんだけど"」

 

黒服「こっちは『私の』ホシノです。あなたのホシノは今抱きついているそれです」

 

Aホシノ「そういう事みたい」

 

「"大丈夫?黒服に変な事とかされたりしてない?"」

 

Aホシノ「何も……それどころか助けてもらったし……複雑な気分だよ」

 

「"そっか……黒服、ごめん!ホシノを無事に届けてくれてありがとう!この恩は必ず返すよ!"」

 

黒服「こちらこそ『私の』ホシノがお世話になりました」

 

ホシノ「『私の』って……も、もう///」

 

Aホシノ「……そこの照れてる私に言いたいことがあるんだけどさ。娘の教育くらいちゃんとしてよね」

 

ホシノ「ああ……うん。娘じゃないよ?」

 

シロコ「ん゛」

 

ノノミ「シロコちゃんそれは私のミニガンです」

 

「"黒服、お前……"」

 

黒服「説明が面倒なのですがどうしましょう」

 

ホシノ「……帰る?」

 

黒服「帰りましょうか」

 

「"詳しく……説明をしてください。今私は冷静さを欠こうとしています"」

 

黒服「面倒です。それでは」

 

ホシノ「皆、短い間だったけどありがとうね」

 

シロコ「あの黒服はホシノ先輩を孕ませた。始末しなければならない」

 

ノノミ「でも私のミニガンはシロコちゃんが殴って壊しちゃいました」

 

セリカ「そろそろ助けて」

 

アヤネ「いった!誰ですがここにガラスの破片を置いたのは!」

 

Aホシノ「……ところで何が起きたらこんな事態になるのさ」

 

「"これはね、NTRにより脳が破壊されたからだよ"」

 

Aホシノ「ごめん先生何言ってるのか分からない」

 

黒服「では本当に帰りますね。もう会うこともないでしょうが、お元気で」

 

Aホシノ「……ありがとう。私の知ってる黒服も貴方みたいな性格だったら良かったのに」

 

黒服「ご冗談を。既に貴女の側にはお似合いの先生が居るではありませんか」

 

Aホシノ「ま、まあ……そうだけど」

 

「"大丈夫、こっちのホシノは私が幸せにしてから孕ませ……"」

 

黒服「言わせませんよさようなら」

 

ーーー

 

ケイ「お帰りなさい」

 

アリス「ホシノママー!」

 

ホシノ「ぐぇ」

 

アリス「間違いないです!このホシノはアリスがよく知るホシノです!」

 

ホシノ「……よかったぁ。帰ってこれて……」

 

黒服「おっと。だいぶ疲弊しているようですね」

 

ホシノ「ありがとう。早く家に帰って寝たいなぁ。先生、運んでー」

 

黒服「今回だけですよ?」

 

ホシノ「うへへ、ありがと。……やっぱり先生の近くにいると落ち着くなぁ……」

 

ホシノスワップ 完

 

ーーー

 

一連の出来事の中に本編世界で起きた出来事

 

黒服「……では彼女は追放するという事でよろしいですか?」

 

マエストロ「異論はない」

 

ゴルコンダ「消えてもらいましょう」

 

デカルコマニー「そういうこった!」

 

ベアトリーチェ「お待ちなさい!この私にそのような無礼な事をして許されると……」

 

黒服「対色彩用の装置ですが、貴女の愚行に対する罰としては充分でしょう。……起動」

 

ベアトリーチェ「グッ……ウガァァァァァァァァァ!!」

 

マエストロ「嫉妬に狂った哀れな婦人よ。さらばだ」

 

ベアトリーチェ「……許サン。アノ先生モ……オ前ラニモ……必ズ復讐シテヤル!!」

 

……これは本編世界におけるベアトリーチェが消滅した出来事である。しかしこの物語はここで終わる事なく数奇な運命を辿り淑女はとある場所に降り立った。

 

ベアトリーチェ「ここは……なるほど、天は私に味方をしたという事ですね。愚かな大人達よ、待っていなさい。……必ずこの手で殺してやる」

 

淑女は復讐を誓い身を潜める。全ては自分の崇高を満たす為に。




ちなみにタイトルのAとGは

Anotherとゲマトリアの略称でした

明日から3部の始まりです。書くのが今から楽しみです


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第三部 淑女
まどろみ


雰囲気で楽しんでください


私は時々不思議な夢をみる。その度に「ああ、またか……」と頭を悩ませる。

 

それは深淵に触れる為に禁忌の扉を叩くような行為である。即ち自分が望んで居なくても対価を支払わないといけない。金銭?そんなものそれにとっては価値のないものだ。それにとって価値のある対価とは寿命、あるいは精神。私に悪夢のようなものを見せて疲弊している姿を見て愉悦に浸っているのかもしれない。

 

しかし今回まどろみの中で見た光景はいつもの他愛のない日常のようだった。友が居て、先生が居て、会話を弾ませながら紅茶を嗜む、そんな光景。思わず鼻で笑ってしまうほど平和な夢だ。少なくとも今この時はそう思っていた。だかこれは序章に過ぎないのだ。俗に言う『嵐の前の静かさ』といったところだろう。

 

そう考えたとしても夢の中では何も起こらない。大災害が起きて大きな被害が出たりなど非現実な事は起こらず平凡な時間だけが過ぎていく。

 

……退屈だ。そう感じてしまうほどに。そう思ってしまう事自体がそれに仕組まれた罠だと気づいた時にはもう遅かった。

 

ありきたりな平和な時間から突如暗転して悲鳴と阿鼻叫喚が響き渡る空間へと変貌する。焦げた肉の匂いが鼻腔に届き周辺を見渡すと足元にある人間何かから発せられているものだと理解するのにそう時間は掛からなかった。

 

「この悪夢を見せて満足したかい?」 

 

その問いに答えるかのように悲鳴が聞こえなくなり、辺りは静かになった。

 

「……まだ見せたいものがあるのかい?」

 

意識が更に朦朧とする中廃校に1人の淑女が何かをしている光景が視界に広がる。……この大人からはとても嫌な気配を感じる。

 

「……また鼠が入り込んだようですね」

 

「……!?」

 

夢の中だと言うのに淑女はこちらを認識しているかのように睨みつけている。

 

そのまま至近距離まで詰めてきたそれは人間とは思えない程の憎悪に身を包んでいるような存在だった。悪夢の化身と言われても納得がいってしまう程の威圧感に思わず恐怖心を抱いてしまう。

 

「去レ」

 

その一言を聞いてはっ、と目が覚めた。嫌な汗が噴き出して止まらない。間違いなくただの夢ではない。近いうちにトリニティ……いや、キヴォトス全体を巻き込んだ大災害が起きるかもしれない。

 

だが夢の話を間に受ける人間等はそうそういない。仮に誰かに夢で見たと伝えたところでホラ吹き少女の童話のように信じてもらえず泣き寝入りするだけなのは目に見えている。

 

それでもあの殺意と憎しみを纏いし淑女の姿が脳裏に焼き付いてしまった以上空想や夢と切り捨てる訳にもいかない。

 

「信用出来る人……彼にだけ話すとしよう」

 

予言を見た1人の狐は行動を始める。それがどのような結末をもたらすのか。物語はまだ始まったばかり。



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秘密の会議

トリニティ自治区の辺境にある誰も寄らない場所。そこには1つの家がある。私はその家の無機質な白黒の玄関をノックして返事を待つ。

 

「……誰だ?」

 

セイア「私だよ」

 

「ああ、セイアか。今開けよう」

 

開いた扉から出てきたのは異形の姿をした大人。彼こそトリニティの先生だ。見た目はあまりにも怪しいが私にとっては数少ない信用に値する人間である。

 

マエストロ「ここに来るなんて珍しい……いや、そうでもないか。何の用だ?」

 

セイア「ちょっと大事な話があってね。少々時間をもらってもいいかい?」

 

マエストロ「構わないぞ。今はそんなに急用もないしな」

 

セイア「助かるよ。他の人間にはあまり相談出来ない事だからね」

 

マエストロ「勿体ぶらずに早く話してくれ」

 

セイア「すまない。……最近変な夢を見るんだ。1回2回の話じゃない。何度もだ」

 

マエストロ「変な夢?そのようなものは誰だって見るだろう。だが連続して見るのはセイア自身の問題ではないか?」

 

セイア「それはそうなんだけど……夢の内容が異質でね。目が覚める直前に必ず憎悪に満ちた淑女が現れるんだ」

 

マエストロ「淑女?そいつはどのような見た目なんだ?」

 

セイア「白いドレスに身を包んでいて身体は赤い。まるで化け物のようだった」

 

マエストロ「(……マダムの事か?しかし何故セイアが夢の中でマダムと邂逅するのだろうか?それに憎悪とは?私の知る彼女からはかけ離れている感情だが……)」

 

セイア「先生?何か心当たりでもあるのかい?」

 

マエストロ「いや、何でもない。知り合いに似ていると思ったが気のせいだったようだ」

 

セイア「そうか……私はこの夢には意味があると考えているんだ。これはあくまで予想でしかないけれどあれを放っておくと近いうちに大きな被害が出る」

 

マエストロ「被害か……現状はセイアが夢で見た情報しかないので大きな対策は出来そうにないがなるべく被害を抑えられるように出来る事はやっておこう」

 

セイア「話した私が言うのも何だけど……私の夢の話を信じてくれるのかい?」

 

マエストロ「セイアがくだらない嘘をつくような性格をしていない事くらい知っている。それに万が一の事もあるしな。準備を怠って私の芸術が壊されたら困る」

 

セイア「すまない……いや、ありがとう。やはり先生に話してよかったよ。これで私は失礼する」

 

マエストロ「また何か分かったら教えてくれ。……さて、一応確認がてら電話をしてみるか」

 

普段なら絶対にかけることのない人間に通話を発信する。2.3コールした後に通話は繋がり「何の用です」と少々不機嫌そうな声が聞こえた。

 

マエストロ「マダムか。今時間はあるか?」

 

ベアトリーチェ『ないです。今から生徒が作ってくれたミラクル5000を堪能しなければいけませんので』

 

マエストロ「その生徒に関わる話があるんだ」

 

ベアトリーチェ『……ならば聞きましょう』

 

マエストロ「とはいえそこまで時間は取らせない。……何か最近憎悪や怒りを感じた事はあるか?それも数日、いや永遠に引きずるような」

 

ベアトリーチェ『憎悪や怒り?まあ……人前でいちゃつく黒服にはしょっちゅう八つ当たりをしますが……永遠に引きずりはしないですね』

 

マエストロ「そうか。時間を取らせてすまないな」

 

ベアトリーチェ『貴方まさかこんな質問をする為だけに私の時間を奪』

 

通話を切った。やはり自分の知るベアトリーチェは憎悪で行動するようなタイプじゃない。怒りもその場限りのものだろう。

 

マエストロ「ならばセイアの言っていた淑女とは誰の事なのだ……?」

 

謎はまだ深まっていく。




このように3部は複数のゲマトリア視点からお送りしていこうと思います


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内に秘めた恐怖

休みの日にいっぱい書けて満足しました


セイア「やれやれ、困ったものだね。まさか2日続けて悪夢を見る事になるとは」

 

夢の中でそう呟いても返事はない。やはり最近よく見る淑女と何かしらの共鳴をしているのかもしれないな、と考えながら悪夢が始まるその時を待った。数分経過した頃に視界が暗転して始まった……と思っていると視界に映し出されたのは小さな寂れた学校だった。トリニティとは比べ物にならない程質素なその学校の校門には『アビドス高等学校』と刻まれている。

 

セイア「アビドス?こんな辺境にある時期に砂に塗れて消えるような学校の夢を何故みているのだろうか?」

 

不思議と好奇心を抑えられずにはいられなくなり、いつの間にかとある一室の目の前まで吸い寄せられるように近寄っていた。その部屋の扉を開けるとそこに居たのは顔も知らない1人の女性。虚を見るような瞳で何かを呟いている彼女の言葉に耳を傾けてもあまりにも小さな声なのでほとんど聞き取れない。

 

セイア「……わ…しが……になろ……したか…?すまない、なんて言っているかわからな……」

 

視線を外して考えた後に再度視線を戻した時に既に彼女の姿はなかった。彼女は一体なんだったのだろうか。淑女と関わりがあるのか?

 

セイア「分からない事だらけだけど……目覚めないって事はまだ続きがあるんだろう?」

 

そう言ったのとほぼ同時に目の前に扉が生成された。ドアノブに手をかけて扉を開けた先に広がっているのは一面の焼け野原。昨日見たトリニティの阿鼻叫喚に近い光景ではあるが明確な違いがあるとすれば……淑女がいる事だ。それも逃げ回る生徒を弄ぶように銃で命を奪い回っている。……妙だ。キヴォトスの人間が銃を1発撃たれた程度で死ぬ筈がない。だが実際に目の前で虐殺をしている淑女を見て「そんな筈はない」という否定が出来なくなってしまう。まるで『ヘイローを破壊する』事に特化しているようにも見えるが……

 

しばらくその光景を眺めていると1人の大人を見つけた。スーツを着た肌?が黒い男だ。その男は桃色の髪の少女を庇うように淑女の弾丸を脇腹に喰らいその場に倒れ込んだ。少女の方は数秒静止した後、包帯を取り出して応急処置をしようとするがその男が目覚める事はなかった。

 

「無様な最期ですねぇ。そっちの虫ケラもあの世に送って……!?」

 

セイア「……あれは……なんだ?」

 

少女は泣いて叫ぶ。そのあまりにも悲しみに満ちた叫びを聞いて胸が痛むがそれ以上に気になるのは少女の身体だ。ヘイローは黒く染まり身体は宇宙のような色と白で構成された姿に変わった。その神々しさと正体不明の恐怖が混ざったような存在に目が離さないまま眺めていると後ろから「セイア」と名前を呼ばれた。

 

セイア「……はっ」

 

マエストロ「何故道端で寝ていたのだ?」

 

目覚めてしまった。しかしそんな事は些細な問題だ。今夢で見たものは何なのだろうか。淑女が絡んでいる以上『起こり得る可能性』がある未来を見てしまったのか、あるいは……

 

セイア「(だとしても……あんな姿に変身する生徒なんて私は知らない。放っておいたら危険かもしれない。しかし淑女と敵対しているようにも見えた……ダメだ、情報が少なすぎる。唯一わかる事は彼女がアビドスの制服を着ていた事、だろうか……)」

 

マエストロ「おいセイア、聞いているのか?」

 

セイア「あ、ああ……すまない、考え事をしていて聞いてなかった」

 

マエストロ「はぁ……仕方のないやつだ。それで、どんな夢を見たんだ?」

 

セイア「何故それを……」

 

マエストロ「お前の様子を見れば分かる」

 

セイア「流石先生だね。……ただ正直自分でも夢の中で見た光景が信じられなくてね。どう説明をしたらいいのか……先に結論から言おうか。……アビドスには危険人物がいる。下手をしたら淑女以上に手に負えない」



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交渉と動揺

黒服「まさか本当に来るとは思っていませんでしたよ。ティーパーティーの……」

 

ナギサ「桐藤ナギサです。こうしてお目にかかるのは初めてですね、黒服先生」

 

黒服「見知らぬ番号の着信から2人きりで話がしたいと言われた時は何事かと思いましたがね。しかし何故私に連絡を?そちらにはマエストロが居ますよね」

 

ナギサ「いえ、貴方でなければ意味がないのです」

 

黒服「……くだらない話でしたらすぐにお帰りいただきますよ」

 

ナギサ「構いませんよ。……単刀直入に言わせていただきます。貴方の学校、アビドスの力をお貸ししていただきたいのです」

 

黒服「何故アビドスなのです?他の大規模な学園に依頼した方がいいのでは?」

 

ナギサ「いえ、規模が小さいからこそ選んだのです。それに誰もこんな片田舎にある学校に興味はないでしょう?」

 

黒服「まあそうでしょうね。力を貸してほしいとの事ですが具体的に何を要求しているのでしょうか?」

 

ナギサ「それはまだ言えません。貴方が協力すると宣言してくださったらお教えします」

 

黒服「内容を教えて頂けないと協力は出来ませんね」

 

ナギサ「……断っていいのですか?トリニティはゲヘナに並ぶ程の大規模な学園。そこの生徒会長である私に貸しを作れるまたとない機会ですよ?」

 

黒服「それは魅力的ですが……内容を明かして頂けない内容に生徒を巻き込むのは避けておきたいので」

 

ナギサ「それは残念ですね。しかし断るという事はトリニティと敵対する意思があると捉えてもいいのでしょうか?」

 

黒服「……おや、圧を感じますね。交渉する態度には見えませんが」

 

ナギサ「不安の種は芽吹く前に摘んでおいた方が良いですよね。貴方もそう思いませんか?」

 

黒服「それは脅しでしょうか?」

 

ナギサ「そんな野蛮な事はしませんよ。私はただ交渉しに来ただけですので」

 

黒服「………」

 

目の前にいる少女は脅しているつもりなのだろうか。それにしては甘すぎる。そういう脅しはもっと相手に効果的なようにしなければ意味がないだろう。特に『悪い大人』である私には。ならば本物を教えてやろう。

 

黒服「貴女は1人勘違いをしているようですね。何故私が2人きりでの話し合いに応じたのか、分かりますか?」

 

ナギサ「……何が言いたいのです?」

 

立ち上がっているナギサをこちらに引き寄せて顔を近づけ、「貴女1人程度今この場で壊す事など容易いのです」と告げる。甘い環境で過ごしてきたであろう彼女にはこの程度で充分だ。これで自分の立場を理解して相応の態度をとるだろう。

 

ナギサ「……は、はい。貴方の仰る通りです……」

 

黒服「………」

 

思っていた反応と違うが立場を弁えたようなので解放した。何故か照れているナギサは座り直して動揺しながらも紅茶を口に含んでいる。

 

黒服「とにかくトリニティに協力するかどうかは今後の貴女達の対応次第で考えさせてもらいますね」

 

ナギサ「………」

 

黒服「聞いていますか?」

 

ナギサ「……失礼、取り乱してしまいました。貴方が良い判断をしてくださる事を楽しみにしております」

 

脅した効果だろうか。先程よりも円滑に話が進行してやりやすくなった。もう少し早めに脅しておけばよかったと思える程に。

 

ナギサ「名残惜しいですがそろそろ時間です。黒服先生、また『2人きり』でお会いしましょうね。それではご機嫌よう」

 

黒服「ええ。お気をつけてお帰りください」

 

羽をバサバサと動かしながら何故か『2人きり』という事を強調して帰っていったナギサ。彼女の目的とは一体?



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君が来る、そして吸う

3徹した後にその天使は突然やってきた。美しい桃色の髪を靡かせて白い衣装に身を包み、胸にはティーカップのバッジを付けて。彼女こそティーパーティーの1人である『聖園ミカ』。彼女が何故か窓から侵入してきた。

 

ミカ「あなたがシャーレの先生?初めまして」

 

「"………"」

 

ミカ「ちょっとー?せっかく来てあげたんだから一言くらい言ってくれてもいいじゃん」

 

「"天使だ"」

 

ミカ「……え?」

 

「"バチくそに可愛い天使だぁぁぁぁぁ!吸わせてくれぇ!!"」

 

ミカ「……わーお。変態さんだ☆」

 

走る先生。動揺して動けず抱きつかれて吸われているミカ。そしていつものようにやってくるユウカ。

 

ユウカ「な……何やってるんですか!?」

 

ーーー

 

「"私はね、朝から説教されるとは思ってなかったよ"」

 

ユウカ「私も朝からあんな光景を見てしまうとは思いませんでした。吸うなら私にしてとあれほど言っているのに……」

 

ミカ「あの、本題に入りたいんだけど……」

 

ユウカ「貴女もです!窓から侵入するだなんてダメですよ!」

 

ミカ「わ、わーお……私も説教されるんだ」

 

ユウカ「当然です!」

 

ミカ「えーっと……今度にして欲しいな☆」

 

「"ユウカ、せっかくのお客さんだから優しく……"」

 

ユウカ「先生は甘やかしすぎです!将来苦労するのは私なんですよ!」

 

ミカ「えっ何で?」

 

ユウカ「……とにかく、次からはちゃんと扉から入ってください」

 

ミカ「う、うん。それで本題に入りたいんだけど……」

 

「"いいよ。話を聞こう"」

 

ミカ「トリニティにさ、とんでもなく成績が低い子が居てね……このままだと留年どころか退学?になるくらいのレベルらしくて……だからシャーレの先生に何とかして欲しいんだ」

 

「"それは構わないけど、トリニティにはマエストロ先生が居なかったっけ?"」

 

ミカ「マエ先生に言ったら『成績が悪いのは美しくないから救えん』ってキッパリ言われちゃったんだ。だからお願い☆」

 

「"ま、まあ……成績が悪くても大事な生徒には変わらないし、良いよ"」

 

ミカ「ありがとう☆お礼に今度デートでもしてあげるね」

 

「"嬉しいけど命が惜しいからやめとくね"」

 

ミカ「あ、うん。それじゃあ私は帰るよ。詳細はまた今度連絡するからねー」

 

ユウカ「ちゃんと扉から帰ってくださいね」

 

ミカ「おっけー☆」バキッ

 

「"……ユウカ、私、あの子怖い"」

 

ユウカ「だ、大丈夫ですよ。ちょっと力が強いだけですし……」

 

「"しれっとドアノブ破壊していく生徒を見たのは初めてだよ……近い内にトリニティに行くだろうしあまり怒らせないようにしないと"」

 

ユウカ「なんだかんだで大丈夫な気もします。……それにしてもトリニティですか。世間的にはお嬢様学園ってイメージがありますけど」

 

「"アイドルがいて全裸で徘徊する生徒が居る学園だよ"」

 

ユウカ「冗談は仕事が終わってからでお願いしますね」




現在面白いものが書けない病に陥ってます


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不穏

保存日時:2023年09月26日(火) 22:11

 

トリニティの裏口。そこで偶然出会いを果たすのは単身アビドスに協力を求めに行ったナギサとシャーレに頼み事をしたミカ。

 

ミカ「あっナギちゃん!奇遇だねー」

 

ナギサ「あら、ミカさん。どちらへ出掛けていたのですか?」

 

ミカ「ちょっとね。ナギちゃんは?」

 

ナギサ「野暮用です」

 

ミカ「そっか。……ところでさ、いつ潰しに行くの?」

 

ナギサ「そう焦らずとも近いうちに実行しますよ。不浄なものは浄化しなければなりません」

 

ミカ「さっすがナギちゃん!普段はあんまり意見が合わないけどそれには大賛成だよ」

 

ナギサ「マエストロ先生には申し訳ないとは思いますが……いえ、そうでもありませんね。彼は生徒よりも己の利益を優先するお方ですので」

 

ミカ「まあねー。こんな事ならシャーレの先生がトリニティの担当になってくれた方が良かったのに」

 

ナギサ「彼は彼で面倒です。それにマエストロ先生が担当だからこそ変に干渉される事なく前々から行っていた下準備がようやく終わる目処がついたのです」

 

ミカ「セイアちゃんが居てくれてよかったよね。マエ先生にアプローチしてくれるからこっちは自由に動けたし」

 

ナギサ「ですね。……これ以上この話を続けるのはやめておきましょう。猫1匹にも聞かれたら困りますからね」

 

ミカ「おっけー☆」

 

2人はそのまま廊下を通っていつものお茶会の場に向かっている。……聞き耳を立てている白猫に気づかずに。

 

ーーー

 

マエストロ「アビドスが危険?」

 

セイア「ああ。正確にはアビドスにいる桃色の髪をした少女が危険だ。彼女が暴走して全てを破壊する夢を見た」

 

マエストロ「桃色の髪……なるほど。しかし今のアビドスの状況を考えると暴走をするとは考えられないな」

 

セイア「夢の中では彼女の隣にいた男が淑女に撃たれていたんだ。それを見た彼女が……という流れさ」

 

マエストロ「(ホシノなら黒服を守る程度容易いとは思うのだが……一応警戒しておいた方がいいか?)」

 

セイア「だが彼女が覚醒した後は淑女すらも凌駕する力を発揮していたんだ。……酷ではあるがわざと撃たせて覚醒させる事が最も犠牲が少なく収まるのかもしれない」

 

マエストロ「そうか。……そろそろ戻った方がいいんじゃないか?あまり席を外しすぎると他の2人に不審に思われるかもしれないからな」

 

セイア「そうだね。先生、今日もありがとう」

 

マエストロ「ああ。また来るといい……さて、面倒だが黒服にも連絡をしておいてやるかな」




共犯者から解釈不一致との指摘を受けて1000文字くらいカットしました


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訪問

「"トリニティも久しぶりに来たなぁ。前に来た時はシスターを観に行って不審者扱いされたし今回は通報されたくないね"」

 

「不審者だー!」

 

「"まだ何もやってないのに!?私は無罪だ……よ?"」

 

ハナコ「………」

 

「"………"」

 

何故かスクール水着を着用してこちらを見ている生徒と目が合った。しばらく無言で見つめあった後、「※※※※」ととんでもなく卑猥な単語を発した。

 

「"なんだこの子……今まで出会った子とはレベルが違う"」

 

ハナコ「うふふ……なんて逞しいお方……」

 

「"あ、ありがとう……ごめん、ちょっと別の子を探しているから……それじゃあまた"」

 

ハナコ「なるほど……放置プレイという事ですか。分かりました。ここであなたの帰りを待っています。誰に何を言われても『シャーレの先生にこの格好で待ってて』と命令されたと伝えますね」

 

「"ここまで酷い脅しをされたのは初めてだよ"」

 

改めてトリニティは恐ろしい学園だと認識させられた。初手冤罪をふっかけてくる生徒なんて今まで出会った事が……ないとは言い切れない。むしろキヴォトスならしょっちゅうある事だったり……

 

ーーー

 

周りの視線が気になったので人気のないところに連れてきたのはいいものの「外でするのがお好きなんですね〜」とか「2人きりになって……大胆ですね♡」とかよくない事を連想させてくる言い回しでこちらを困らせてくる。

 

ハナコ「それで……ここで何をしようと?」

 

「"何もしないよ!?ただ人目が気になったからここに……"」

 

ハナコ「つまり2人の世界に入りたいと……」

 

「"違うよ。ちょっと野暮用でトリニティの様子を見に……"」

 

ハナコ「野暮用で……今夜※※※する生徒を物色に来たのではないんですか?」

 

「"私が今それをやってしまったら血の争いが起きるから出来ないんだ"」

 

ハナコ「やはり先生というのは過酷なのですね……せめて過酷な※※※※だけでも営む時間があれば……"」

 

「"それは置いといて……君、もしかしてハナコって名前だったりする?」

 

ハナコ「まあ。私の名前をご存知だなんて……ですが初めてお会いした方とお付き合いするのは……」

 

「"そんなつもりはないよ!?もし君がハナコならちょっと話でもしようと思ってさ"」

 

ハナコ「私を口説きに?」

 

「"何も用事がなかったら考えていたかもしれない"」

 

ハナコ「そうやって色々な女の子達を堕として来たんですね……ああ、なんて罪深い人……」

 

「"1人も堕とせてない"」

 

ハナコ「現実は世知辛いですね」

 

「"とりあえず何で水着を着ているのかだけ聞いていいかな。水泳の授業があるとか?"」

 

ハナコ「これは私の私服です」

 

「"???"」

 

ハナコ「開放的になりたくて」

 

「"そ、そっか。誰だって開放的になりたくなる時があるよね"」

 

ハナコ「そういう事です」

 

「"……せめて靴は履かないとダメだよ。こんなに汚れて……"」

 

ハナコ「素足はお嫌いですか?」

 

「"大好き。だけど傷だらけになってるのは見ていられないよ"」

 

ハナコ「その程度気にしなくていいんですよ?」

 

「"そういう訳にもいかない。ハナコだって大事な生徒の1人なんだから"」

 

ハナコ「大事な……」

 

「"とりあえず保健室で治療してもらおっか。急ぎだから抱えて行くね"」

 

ハナコ「(大事な生徒……私が?)」

 

困惑しつつも抱き抱えられてそのまま保健室に運ばれる。その日の記事は『生徒に水着を着せてお姫様抱っこをする先生現る!?』だった。



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感情+a

「"傷痕は残らないって。良かったね"」

 

ハナコ「……どうしてこんな事をしたんですか?」

 

「"どうしてって言われても……傷ついてる生徒は放っておけないよ"」

 

ハナコ「そんな甘い事を囁かれても私には届きませんよ?」

 

「"それは残念……でもハナコが大事な生徒である事に変わりはないからね"」

 

ハナコ「……こんな水着を着て歩いてるような生徒でも、ですか?」

 

「"もちろん。私はちょっと元気になっちゃうから直視は出来ないけど……ベア先生ならむしろ歓喜しそうだし"」

 

ハナコ「ベア先生?」

 

「"ああ、ゲヘナ学園に居る先生でね。とにかく生徒が大好きで何をするにしても生徒第1に考える人で……私と気が合うんだ"」

 

ハナコ「変な先生なんですね」

 

「"そうかもしれないね。……ただ、ゲヘナとトリニティはあまり相性がよくないって聞いたから信じてもらえないかもしれないけど……"」

 

ハナコ「いえ、あなたは信じます。身体のように正直なあなたの事は」

 

「"ちょっと卑猥に聞こえるような……"」

 

ハナコ「……ところで私は今保健室のベッドに寝かされています。2人きりのベッド……」

 

「"……ハナコ、落ち着こう。もっと自分の身体は大事にした方がいいよ"」

 

ハナコ「そうですか……私の身体には魅力がないと先生は仰るのですね……」

 

「"私がどれだけ我慢してるか分からない?"」

 

ハナコ「……いいんですよ?」

 

「"良いわけないでしょうが!!"」

 

ハナコ「うふふ……先生は揶揄い甲斐がありますね。冗談ですよ。……今は」

 

「"その含みのある言い方は怖いよ……"」

 

ハナコ「……さて、そろそろ私は帰りますね。短い間でしたが久しぶりに楽しい時間でしたよ」

 

「"そっか。こちらこそありがとう。お礼にこれあげるね、それじゃあね!"」

 

ハナコ「えっあっ……」

 

彼は颯爽と駆け出して帰ってしまった。先程まで履いていた靴を置いて。

 

ハナコ「私にはこんな大きいもの……♡」

 

当然彼女にとっては大きすぎる靴。可愛さもないありふれたその運動靴は何故か魅力的に見えた。

 

ーーー

 

「"ねえユウカ、明日デートしない?"」

 

ユウカ「帰ってきたと思ったらいきなり何を……何時から行きます?」

 

「"いつも即答してくれてありがとう。靴をユウカに選んでもらおうと思ってさ"」

 

ユウカ「靴?……ってなんで履いてないんですか!?」

 

「"靴飛ばしして遊んでたら川に落ちちゃった"」

 

ユウカ「仕事サボって子供みたいな事しないでください!明日ちゃんと先生に似合う靴を選んであげますから」

 

「"ありがとう。やっぱユウカは頼りになるね"」

 

ユウカ「先生が頼りなさすぎるんです。……全く、本当に私が居ないとダメな人ですね」

 

「"あはは……面目ない"」

 

ユウカ「(……本当に嘘が下手ですよね。あなたは優しすぎますよ)」

 

翌日「"普通にサンダルでも買って渡せば良かったかも"」と先生は考えたそう。



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交わらぬ線

マエストロ「昨日シャーレの先生が来ていた?」

 

トリニティ生A「はい。何やら広場の辺りで浦和ハナコと話していたようで……」

 

マエストロ「ハナコと?……まあ今のハナコとなら相性は良さそうだが……とにかく報告感謝する」

 

トリニティ生A「あっ……ありがとうございます!失礼します!」

 

セイア「シャーレの先生……何故このタイミングで?」

 

マエストロ「あいつの考えている事は大体色欲に塗れているからおおよそハナコを口説きにでも来たのではないか?」

 

セイア「それだけならいいけど……下手に干渉されると困るな」

 

マエストロ「まああいつは変態なだけで無害だから放っておいてもいいだろう」

 

セイア「変態はダメなのでは?」

 

マエストロ「前ならば生徒の教育に悪いから出禁としていたのだが今はハナコが居るからな」

 

セイア「ハナコ……彼女はこの学園に転入するべきではなかったのかもしれないね」

 

マエストロ「優秀な1年生として期待されていた彼女が成績最下位になって校内を水着で徘徊するようになり危険人物扱いに……私は1つの芸術の芽を摘んでしまったのかもしれないな」

 

セイア「先生……」

 

マエストロ「……さて、私はこれなら補習を受けさせる生徒と顔合わせを行う必要がある。ミカやナギサがいる場面では救えんと言ったが退学の可能性が出てきてしまってな」

 

セイア「ああ、今朝の青い封筒の中身はそれだったのか」

 

マエストロ「前まではどれほど成績が悪くても卒業まではさせられると考えていたからな……現実はそんなに甘くないようだ」

 

セイア「……なんだかんだ先生は生徒想いだよね」

 

マエストロ「私は芸術を失いたくないだけだ」

 

セイア「……そうか」

 

ーーー

 

マエストロ「さて、補習に使う予定の部屋に来たわけだが……騒がしいな」

 

騒音が嫌いな身としては入るのに躊躇うが……致し方ない。教室の扉を開いて中に入るとそこには変な光景が存在していた。不細工なニワトリのでかいぬいぐるみを抱きしめている子、何故か銃の手入れを教室内で行っている子、水着で座っている子を見てネコのような眼で「エダシ」とかいう謎の呪文を唱えている子。ここは本当にトリニティなのだろうか?魔境の間違いでは?

 

マエストロ「お前達……一旦席について落ち着いてくれ」

 

ハナコ「なるほど……では失礼しますね」

 

マエストロ「何故私の膝に座る」

 

ハナコ「だって籍についてと……」

 

マエストロ「絶対に意味が違うぞ」

 

コハル「エ!駄!死!」

 

マエストロ「お前は呪文を唱えるな」

 

アズサ「銃の整備が終わったから試し撃ちをしてきてもいいだろうか?」

 

マエストロ「タイミングというものを考えろ」

 

ヒフミ「先生!この後モモフレンズコラボカフェに行きませんか!期間限定でペロロ様直々に接客してくれるコースが……」

 

マエストロ「頼むから落ち着いてくれ」

 

ハナコ「激しいのはお嫌いですか?」

 

コハル「だからエッチなのは駄目だって言ってるでしょ!?」

 

マエストロ「お前らは何を言っているんだ」

 

アズサ「とりあえず試し撃ちに行ってくる」

 

ヒフミ「あ、では私もモモフレンズコラボカフェに……」

 

マエストロ「会話のドッジボールすら出来ないのか?」

 

ーーー

 

セイア「先生は上手くやれているだろうか」

 

ミカ「セイアちゃん、ただいまー☆」

 

セイア「戻ってきたんだね。……その手についている赤い液体は何だい?」

 

ミカ「ちょっと……ね。先に洗ってくるね」

 

セイア「あ、ああ。……ミカ、君は一体何をしているんだ……」



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試練

「"ユウカにカッコいい靴を選んでもらったのでベア先生に自慢する為にゲヘナに来たよ"」

 

イオリ「あれ、先生何でここにいるの?」

 

「"あっ"」

 

ここでシャーレの先生の生態について解説しておこう。何故か目の前にいる少女に対しては欲を剥き出しに……いや、脚を舐めようとする。どういう原理でそう進化したのかは未だに解明されていないが本人曰く「"そこにイオリの脚があるなら舐めるしかないんだ"」との事。つまりこの状況において先生が行う行動は1つ。

 

「"イオリィィィ!!脚を舐めさせろぉ!!"」

 

イオリ「うわぁぁぁぁ!!来るな変態!!こんな人が多い所で舐めようとするな!」

 

「"えっ人が居ない所なら舐めていいの?"」

 

イオリ「えっ、いや……そういうわけでは……」

 

「"隙あり!レロレロレロレロレロレロレロ"」

 

イオリ「……死ね!」

 

先生は無慈悲にもサッカーボールのように吹き飛ばされた。ただイオリの脚を舐めただけなのに。後にイオリは「ごめんやりすぎた」と謝罪しており、たまたまその場に居合わせたヒナは「人前でいちゃつかないで」と文句を言ったそう。これは先生とイオリの脚を賭けた戦いの序章にすぎないと先生本人は語った。

 

ーーー

 

「"前が見えねえ"」

 

チナツ「先生は何故イオリの脚に拘るのですか?」

 

「"分からない。けどアレにはとんでもない魅力が詰まっているんだ"」

 

チナツ「申し訳ありません。バカは治療不可能なんです」

 

「"私は至って真面目だよ"」

 

チナツ「そうですか……」

 

「"ところでチナツの赤タイツも良いよね。舐めていい?"」

 

チナツ「見境ないですね。風紀が乱れるのでダメです」

 

「"え?"」

 

チナツ「え?」

 

「"風紀乱そうとしてなかったんだ……"」

 

チナツ「私達を何だと思っているんですか」

 

「"ベア先生の性癖を詰め込んだ集団"」

 

チナツ「違いますよ」

 

「"だって赤タイツを自ら選んで着るなんてただのドスケベだし"」

 

チナツ「………」

 

「"つまりチナツはドスケベ……"」

 

チナツ「注射しますね」

 

「"針でかくない?"」

 

チナツ「大丈夫です。この薬があなたを救います」

 

「"今死にかけてるんだけど"」

 

チナツ「お尻に刺すのでズボンを下ろしてください」

 

「"やっぱりドスケベじゃん"」

 

チナツ「ただの栄養剤ですから」

 

「"風紀委員会が1番風紀乱してどうするの?"」

 

チナツ「大丈夫です。これは2人の愛を試す試練ですから」

 

「"本性漏れてるよ?"」

 

チナツ「赤タイツ、舐めたいんですよね?元気が出たら好きなだけ舐めさせてあげますよ」

 

「"……私ベア先生に用があるからこれで失礼するね。治療ありがとね"」

 

チナツ「逃しませんよ?」

 

「"ごめん私はまだ食べられる訳には行かないんだ!"」

 

チナツ「あっ……ふふ、全く……先生は本当に手がかかりますね。やはり気絶させておけばよかったです」

 

ーーー

 

「"それで全力で走って帰ってきたってわけ"」

 

ユウカ「包帯を巻いているので静かにしてください」

 

「"ちょっと染みるんだけど"」

 

ユウカ「薬品を染み込ませているので」

 

「"痛い!染みて痛いよ!?"」

 

ユウカ「知りませんよ。脚を舐めようとして怪我しただなんて意味不明な怪我を治療してあげてるんですから我慢してください」

 

「"ユウカの鬼!悪魔!通い妻!"」

 

ユウカ「欲望を混ぜないでください」

 

「"なんか今日冷たくない?もしかして私が他の子を舐めようとしたから嫉妬して……」

 

ユウカ「ふんっ!」バキッ

 

先生は吹き飛んだ。とある偉人が言っていたが「セクハラには大いなる対価が伴う」との事。そんな存在しない記憶を走馬灯代わりに眺めながら本日2度目の宙を舞った。

 

ーーー

 

ベアトリーチェ「なんですって?シャーレの先生が我が学園の誇りである風紀委員会を私の性癖を詰め込んだ集団と言っていたのですか?」

 

チナツ「はい。誤解をされたままだと困るのでごうか……治療を行おうとしたところ逃走されました」

 

ベアトリーチェ「そうですか。後で電話をして伝えておきますよ。『風紀委員会だけでなくゲヘナに居る全員に癖を詰め込んでいる』とね」

 

ヒナ「……眠い」

 

ベアトリーチェ「さあさあヒナ私の膝枕をどうぞ。なんなら抱きついたまま横になりますか?」

 

アコ「貴女のようなおばさん臭漂うドレスでヒナ委員長が安眠できると思っているのですか?委員長、私の胸に飛び込んできてください!」

 

ヒナ「アコうるさい」

 

アコ「理不尽!!」



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興味

黒服「貴方が電話してくるとは珍しいですね」

 

マエストロ『実は私の生徒がホシノに関わる事を教えてくれてな。お前に伝えておこうと思ったんだ』

 

黒服「ホシノに関わる事ですか。しかしホシノはトリニティと関わりを持った事はありませんよ?」

 

マエストロ『確かにそうだな。しかし彼女……セイアは信用に値する生徒だと私は思っている』

 

黒服「貴方がそこまで言うのであれば一応話だけは聞いてあげますよ」

 

マエストロ『……時に黒服よ。お前はホシノの身体に恐怖を注入していたな。その時に何か不可解な事象が発生したか?』

 

黒服「あの時は……確かに気になる出来事はありました。具体的には……」

 

マエストロ『ホシノの身体が紺と白で構成されたりしたのではないか?』

 

黒服「……何故それを?その情報は誰にも告げていない筈ですが」

 

マエストロ『……その反応から察するにセイアが見た夢は正しいのかもしれないな』

 

黒服「夢?そんな確証もない現象でわざわざ連絡を?」

 

マエストロ『セイアには特殊な能力があってな。予知夢を見る事が出来るのだ』

 

黒服「予知夢ですか。それがホシノにどう関係していると言うのです」

 

マエストロ『最近見た内容が『紅い淑女』に関わるものらしい』

 

黒服「紅い淑女?……ただの変態(ベアトリーチェ)の事では?」

 

マエストロ『私も最初はそう考えて気にも止めなかった。だがセイアが言うには生徒を殺戮している姿を見たらしい』

 

黒服「……まるで数年前のマダムですね。彼女がゲマトリアに加入した時に発していた事を思い出します」

 

マエストロ『もしかしたら近い内に思想を取り戻して生徒を……という考えもしたが今更そうなるとも思えない。だが警戒はしておくべきだと私は考える』

 

黒服「そうですね。多少なりとも手は打っておいた方がいいかもしれません。……話が逸れているようですが、ホシノに関わりがあるという話ではないのですか?」

 

マエストロ『……実はその淑女が黒い大人、つまりお前を撃ったらしい。それを目撃したホシノが先程言ったような姿になり淑女を圧倒した……という内容を見たらしい』

 

黒服「マダムが私を?いえ、そもそも彼女は銃を持ち歩いていません。……もしかしたら私達の知る変態(ベアトリーチェ)ではないのかも知れません」

 

マエストロ『そもそもマダムではない可能性も考えないといけない。……実際にその光景を見られたら早いんだがな』

 

黒服「……そろそろ通話を切りますね。情報共有をしていただきありがとうございます」

 

マエストロ『ああ。また何か新しい情報があれば追って伝えようと思う』

 

黒服「ホシノの変身……彼女にとって1番恐怖を感じる出来事……なるほど、利用してみる価値はありそうですね」

 

あの日一瞬だけ見たホシノの姿。セイアという生徒の予知夢が正しいものであるならば意図的に変身させる事も可能だろう。そうとなれば準備をしておかなければ。

 

黒服「手始めに防弾ジャケットでもスーツの内側に……おや、また貴女ですか」

 

ナギサ「ええ。数日ぶりですね」

 

黒服「また交渉に来たのですか?」

 

ナギサ「はい。……猶予がないので手短に話させて頂きます」

 

彼女は真剣な眼でこちらを見ている。その後しばらく言うのを躊躇った後に1つ問いを投げかけてきた。

 

ナギサ「先生はセイアという生徒をご存知ですか?」

 

黒服「はい。知り合いから珍しい能力を持っているとの情報を頂きましてね」

 

ナギサ「ご存知でしたか。であれば話が早いです。……彼女が本日見た夢の内容は『トリニティとゲヘナの戦争』でした」




絶望作成中


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惨状と交渉成立

その光景はとてもこの世のものとは思えなかった。地面には無数の死体が転がり止むことのない血の雨が降っている。片方はただの嫌悪、もう片方は偉大なる母を傷つけられた悲しみと怒り。それが誤解と知らずに学園を破壊し、逃げ惑う生徒も1人残らず命の輝きを失う。平和を訴えるシスターは焼かれ灰となり放課後を満喫していた微笑ましい光景も阿鼻叫喚と化していた。正義実行委員会の委員長が前線にいるので何とか持ち堪えているがそれも僅かな時間を稼ぐに過ぎない。この空間に正義や悪などという概念はない。ただ無駄に争い命を落とすだけ。

 

セイア「見ていられないね……」

 

思わず顔を背けると隣に居たのは紛れもなく『淑女』だった。しかしこちらに気づいている様子はなくただ目の前を光景を眺めているだけ。

 

淑女「私は仇打ちなんて望んでいません……何故こんな……子供達が殺し合わなければならないのですか……」

 

セイア「(……なんだろう、この違和感は。今までの淑女とは違うような……)」

 

淑女「……いえ、絶望するの後でいい。今からでも止めなければ……ッ!?」

 

突如悶える淑女。……無理もない、全身ボロボロなのだから。それでも這って生徒の元に向かっている彼女には執念のようなものを感じた。

 

セイア「(だがあの傷では……死体が1つ増えるだけだろうね)」

 

彼女はその絶望が広がる世界を目が覚めるまで傍観し続ける。やがて火が消える頃にはただ1人、白髪だった髪を返り血で赤く染めて淑女の亡骸に抱きついて泣き崩れている少女しか残らなかった。

 

ーーー

 

ナギサ「……という夢を見たそうです」

 

黒服「現実味がありませんね。ゲヘナとトリニティの相性がよくないとは度々聞いてはいましたがそう簡単に戦争を始める程険悪になるのでしょうか?」

 

ナギサ「仰る通りです。度々生徒同士で争いは起きていましたが規模が小さいものばかりでしたのでいきなり戦争という話をされても……と考えてしまいます」

 

黒服「いくら予知夢とはいえ私はそのセイアなる存在に出会った事がないので信用出来ませんね。それにゲヘナとトリニティでの問題であればアビドスを巻き込まないでいただきたいのですが」

 

ナギサ「私としては万が一に備えておきたいのです。アビドスは戦力としては一流だとマエストロ先生からお伺いしておりますので是非お力添えを……」

 

黒服「お断りします。何故生徒を危険な場所に赴かせなければならないのでしょうか」

 

ナギサ「図々しいのは百も承知です。どうか……どうかお願いします」

 

黒服「……おかしいですね。何故銃を構えているのです?」

 

ナギサ「………」

 

黒服「なるほど。脅しのやり方を変えてきたという事ですか。確かに私はキヴォトスの外から来た人間、銃で撃たれれば死ぬでしょう」

 

ナギサ「……了承して頂けるのであればこの銃はしまいます」

 

黒服「……ふむ。脅しとしては及第点でしょうか。しかしそのやり方はやめた方がいいですよ」

 

ナギサ「ええ。私も人殺しになりたくはありませんので……」

 

黒服「いえ、そうではなく……ああ、もう遅いようです」

 

彼の視界には数100メートルから音速でこちらに向かって走ってくる人影が見えている。桃色の髪を靡かせている彼女こそアビドス高等学校唯一の3年生であり、彼が初めて出会った生徒、『小鳥遊ホシノ』。恋に焦がれて走る乙女は今日も絶好調だ。

 

ナギサ「……何ですかあれは」

 

黒服「ご存知ないのですか?あれが私の生徒です」

 

ナギサ「ミカさんよりも恐ろしいですね……分かりました、銃をしまいますので彼女を止めてください。命の危険を感じましたので」

 

黒服「賢明な判断ですね。……もう大丈夫ですよ、ホシノ」

 

ホシノ「なんだ、それなら走って来なくてもよかったかな。それでそこの羽が生えた人は誰?」

 

ナギサ「お初にお目にかかります。私は桐藤ナギサと申します」

 

ホシノ「そっか。ねえナギサちゃん、さっき先生に向けて銃を構えてたよね?どういうつもりか聞かせてもらえるかな?」

 

ナギサ「ちょっとした交渉をしていまして……」

 

ホシノ「ナギサちゃん、冗談はやめよう?何の為に先生に銃口を向けていたのか、私に教えて?」

 

ナギサ「いえ、ですから……せ、先生。彼女に説明を……」

 

ホシノ「『私の』先生を撃とうとしたんだよね?」

 

ナギサ「いえ、撃つつもりはありませんでした……ただお話を聞いていただきたくて……」

 

黒服「ナギサの言っている事は本当です。それにその銃には弾が入っていない事も知っていましたので」

 

ホシノ「なんだぁ、そうならそうと早く言ってよもぉ〜」

 

ナギサ「(……この生徒さんはなんだか情緒が不安定ですね……アビドスとはこんなにも恐ろしい生徒が居るのですか……)」

 

黒服「とにかく貴女の話はお断りさせていただきますのでお帰りくださ……」

 

シロコ「ん、黒服ちょっと待つべき。私が交渉する」

 

黒服「何処から現れたのです?」

 

ナギサ「虚無から人が……?」

 

シロコ「そこの羽が生えた人。アビドスは貴女に協力する」

 

ホシノ「うぇ」

 

黒服「勝手に決めないでもらえますか?」

 

ナギサ「それは有難いのですが……よろしいのです?」

 

シロコ「ん、満場一致」

 

黒服「そろそろ会話の豪速球をやめませんか?」

 

ナギサ「あ、ありがとうございます……?では詳しい内容ですが……」

 

シロコ「20億」

 

ナギサ「え?」

 

シロコ「1人頭4億。戦闘人数は5人。これを前金として支払ってもらうのが条件」

 

ホシノ「流石にそれは払えないんじゃ……」

 

ナギサ「……もし協力していただけるのであればお支払いします」

 

シロコ「ん、交渉成立。黒服、これで満足したよね」

 

黒服「だから断ると言って……いや……これでいいのかもしれませんね」

 

先程マエストロから聞いた話では私が撃たれたのを見たホシノが覚醒すると言っていた。ならば敢えて危険な場所に赴く事でその条件を満たせるのでは?

 

黒服「気が変わりました。ナギサ、アビドスは貴女に協力しますよ」

 

ナギサ「……感謝致します」

 

ホシノ「………」

 

何故かほんのり顔が赤いナギサとそれを訝しむように睨むホシノ。こうして人知れずトリニティとアビドスの共同戦線が始まる……?




時々なんでこんなものを書いてるんだろうと思う時があります。

その作品は日付が変わった頃に日常辺りに投稿されます


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淑女

本編世界のベアトリーチェは今後ややこしい事になりそうなので
『淑女』と表記します


とある廃校の最奥にある祭壇。そこに1人の大人が鎮座している。憤怒と憎悪に支配され復讐の為に牙を研ぐ彼女こそ本来の歴史から飛来してきたこの世界におけるイレギュラーであり排除するべき存在である『淑女』。暗き空間で彼女はただ1人計画を立てている。

 

淑女「彼女からこの世界の情報を聞き出せたのは幸運でしょう。仮に別の世界であっても黒服達やシャーレの先生が存在しているなんて不愉快です。……全員殺して差し上げますよ」

 

そう宣言をする彼女はマエストロから奪ったもの、『複製』を利用して従順な兵士を生成する。亡霊のような姿で生成されていくそれはかつてトリニティに君臨していた生徒会を模した人形達。前回は数が足りなく易々と突破されてしまったが今回はそうもいかない。何百、何千、何万と数を増殖させて圧倒的な兵力で制圧出来るようにと複製していく。

 

淑女「……前回の私ならここで満足していた事でしょう。ですが今は違います。復讐を完遂させる為ならば何だって利用します」

 

亡霊達に向けて『概念』を与えるとそれは融合していく。やがて数メートル程の大きさになり存在感を放つ亡霊となる。その者の名は『アンブロジウス』。前回は1体召喚するのにも時間が掛かったが色彩の力を利用すれば短時間で用意する事も可能なのだ。

 

淑女「ひとまずはこの程度でいいでしょう。あとは……私自身の武器も作成しておきましょうか。シャーレの先生を殺すのは大前提としてどのように苦しめるかですが…々この毒薬を仕込ませた銃弾を撃ち込みましょうかね。私に対して『黙れ』と言ったあの愚か者には簡単に死なれては困りますからね。じわじわと死に追いやられて苦しませてあげなければ……」

 

「ただいまー。今日も連れて来たよ」

 

淑女「遅いです。1時間前に連れてくる約束でしたよ?」

 

「ごめんね。人間を誘拐してくるのって難しいものだね☆」

 

そう、前回はこの女が面倒な事をしてくれたおかげで計画に支障が出たのだ。……ならば支配下において利用してやろうと企み洗脳したのだ。こいつは戦闘力だけはある。散々こきつかってから搾取すれば問題はないだろう。

 

淑女「ですがしっかりと連れて来たようですね。よくやってくれましたよ、ミカ」

 

ミカ「これくらいお安い御用だよ。あ、でも多少抵抗してきたから殴って黙らせちゃったけど」

 

彼女はこちらの足元に1人の人間を置いてくる。紫色の制服に身を包んだ生徒だ。

 

ミカ「ゲヘナ生徒なら1人くらい消えたって構わないよね☆」

 

淑女「どの学園かなんて興味はありませんね。私はただ……」

 

ゲヘナ生A「マ……マザー……助け……」

 

淑女「!?汚い手で私に触れるな!この!ゴミが!」

 

左腕、右腕、顔面、腹の順で触ってきた蛆虫を踏み潰す。小さな呻き声をあげてはいるもののやはり大したダメージは入っていないようだ。

 

ミカ「もう、私の手に血がかかっちゃったよ〜」

 

淑女「……失礼。まだ生きていますよね?」

 

ゲヘナ生A「ど……どうして……」

 

淑女「虫の息ですがこのままあの液体に突っ込んでおきましょう。死ななければ永遠に搾取出来ますからね」

 

ミカ「ゲヘナ生徒の有効活用法、だね☆」

 

淑女「ですが大した神秘ではありませんね。ミカ、次はもっと神秘を秘めた生徒を攫ってこれますか?」

 

ミカ「任せて。これもキヴォトスを綺麗にする為だからね」

 

淑女「ええ、頼みましたよ」

 

やはりこの女は手駒にして正解だった。……洗脳した際に嫌悪していた対象に対して固執するようになってしまったのは欠点だが。

 

ーーー

 

淑女「貴女の飼育小屋です。お入りください」

 

生徒を放り投げて装置を起動する。その後中に入った生徒は休眠状態になり管に繋がれる。そこから神秘の搾取が始まり限界まで吸い出していく。限界に達したらしばらく休息させてまた吸い出す……を繰り返す。そうして得られた神秘は特殊なマガジンにエネルギーとして蓄積されていくのだ。

 

淑女「時期に溜まりそうですね。対生徒用の武器、『ロストピース・メーカー』が。しかし生徒自身の神秘は色々応用出来そうなのでもっと搾取しておきましょうか。なあに、ミカを使えば簡単な事です」

 

淑女はこうして着々と力を付けていく。全ては復讐を果たす為に。

 

ーーー

 

ベアトリーチェ「………」

 

ヒナ「マザー、もう夜遅いよ。もう帰って寝た方が……」

 

ベアトリーチェ「ヒナには申し訳ありませんが今日は1人で寝てください。私は大事な用事があるので」

 

ヒナ「でも……」

 

ベアトリーチェ「アコ、ヒナを連れて行ってください」

 

アコ「不本意ですが頼まれてあげますよ。では委員長、部屋に戻りましょう」

 

ヒナ「嫌だ。私はマザーと一緒に……」

 

ベアトリーチェ「大丈夫です。すぐに用を済ませて戻りますから」

 

アコ「先生もああ言っていますし問題ありません。これ以上ここにいると困らせる事になってしまいますよ?」

 

ヒナ「……それは嫌だ。けど離れるのも……」

 

ベアトリーチェ「数分で戻りますから。失礼しますね」

 

ヒナ「あっ……」

 

ベアトリーチェ「………」

 

『貴女、ヘアピンの色を変えたのですね。とてもお似合いですよ』

 

『本当ですか!?マザーに褒められるなんて幸せです……』

 

ベアトリーチェ「何故……あそこまで喜んでいた貴女のヘアピンが落ちていたのですか……?」

 

数日前から行方不明になっている生徒のヘアピン。彼女は一体何処で何をしているのだろうか……

 

ベアトリーチェ「必ず見つけ出します……」




共犯者と相談して殺戮表現は避けました


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誤解と現実

ヒナ「……嘘つき」

 

朝日が差し込んでくる時間帯になっても母の姿はない。用事を済ませたらすぐに戻ると言っていたのにも関わらず。こんな事は母と出会ってからは初めてだった。そんな不安からか1つの考えが過ってしまう。

 

ヒナ「私……嫌われちゃったのかな……」

 

思えばずっと母に甘えてばかりだった。数年経ってもずっとそのような生活だったので愛想を尽かされてしまったのかもしれない。

 

ヒナ「……ううん、そんなはずはない。用事が終わってないだけだよね」

 

何度か深呼吸をして冷静に考えるとそう簡単に嫌われるはずがないという簡単な事にようやく気づけた。だからこの寂しさも一時的なもの……そう考えて身支度を整え始めた。

 

ーーー

 

ベアトリーチェ「もう……朝ですか。ヒナはもう起きている頃でしょうか……あの子には申し訳ない事をしてしまいましたね……」

 

ヒナはとても寂しがり屋だ。たかが1日と思うかもしれないが数時間離れただけで部屋で泣くような子なのだ。今すぐ帰って抱きしめながら撫でたい……けれど行方不明の生徒を探さなければいけない。彼女にとってはヒナだけではなく全生徒が大事なのだ。

 

ベアトリーチェ「しかし……少々徹夜しただけでこんなにも疲弊してしまうとは……私も歳でしょうか」

 

そう自虐気味に呟きつつ壁に寄りかかるように座り朝日を眺めている。

 

「ご機嫌よう」

 

隣から聞いた事があるような声でそう挨拶をされた。「ええ、ご機嫌よう」と挨拶を返し声がした方向へ顔を向けると……自分の姿が視界に映った。

 

ベアトリーチェ「……マエストロの複製ですか?全く、私は忙しいというのに……」

 

淑女「いえ、私は複製体などではありませんよ、マダム」

 

ベアトリーチェ「複製でないのであれば貴女は誰なのですか?」

 

淑女「私も貴女と同じ『ベアトリーチェ』ですよ」

 

ベアトリーチェ「……それで同じ存在である私に何の用でしょうか?」

 

淑女「受け入れるのが早いですね。ですが説明の手間が省けて好都合です。どうでしょう、私と手を組むつもりはありませんか?」

 

ベアトリーチェ「手を組む?」

 

淑女「ええ。同じ人間が2人いるのです。他の奴らよりも信用できる最高の相棒にもなり得るでしょう」

 

ベアトリーチェ「……確かに同じ人間であれば目的や思想も必然的に同じになる……理想の関係とも言えますね」

 

淑女「どうやら交渉成立のようですね」

 

ベアトリーチェ「はい。貴女と手を組みましょう」

 

淑女「素晴らしいですね。流石は私。それでは一緒に作るとしましょうか」

 

ベアトリーチェ「そうですね。私達の目指す理想郷……」

 

淑女「大人が子供から搾取する世界を」

ベアトリーチェ「全ての子供達が幸せになれる世界を」

 

淑女「……今なんと仰ったのです?つまらない冗談はやめていただけませんか?」

 

ベアトリーチェ「それはこちらの台詞です。まだ子供から搾取だなんて幼稚な考えを持っているとは思いませんでしたよ」

 

淑女「何ですって……?よくもまあ、私にそんな口を叩けますね」

 

ベアトリーチェ「どうやら私達は相容れない関係のようです」

 

淑女「ええ、非常に残念です。……ミカ、やりなさい」

 

ミカ「おっけー☆」

 

ーーー

 

ヒナ「まだ帰ってこない……何かあったのかな……」

 

残された彼女は1人母を想い帰りを待つ。その時、何かが割れるような音が部屋に響く。音がした方を見ると机の上に置いてあったコップが半分に割れていた。それを見て何故か胸騒ぎがしてくる。

 

ヒナ「……やっぱり探しに行こうかな」

 

ーーー

 

淑女「ミカ、もう結構です」

 

ミカ「えー?もっと叩きのめした方がよくない?ゲヘナの先生なんだよ?」

 

淑女「彼女には恨みがありませんので。……それにしても情けない限りですよ。まさか変身すら出来なくなっているとは」

 

ベアトリーチェ「………」

 

淑女「猶予を与えます。貴女が私と同じ思想を取り戻して良き協力者になってくれる事を期待していますよ。……ただしまた同じような事を仰った際には殺しますがね」

 

ミカ「結局見逃しちゃうの?ま、いっか」

 

淑女「はい。本日はまだ接触しなければならない人が居ますからね。このような価値のない人間に時間を浪費してはいられませんから」

 

ミカ「それもそうだね。ゲヘナの先生だし」

 

転移のようなものを使い淑女とミカはその場を後にした。取り残された母はどのような状況であっても生徒に暴力を振るわなかった事に誇りを持ち、生徒を利用してその手を汚させている淑女に対して怒りが湧き、何も出来なかった無力感に襲われていた。

 

ベアトリーチェ「せめて……あの子に……『貴女の綺麗な手を汚してほしくない』と伝えたかったですね……」

 

意識が朦朧としてくる中、愛しい子供達を想い、心から謝罪をする。『弱くて情けない母で申し訳なかった』と。そう心の中で呟いた偉大なる母は血だまりの中で長い眠りについた。



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復讐の序章と白猫

私は何度この悪夢を見るのだろう。形は違うものの毎回私を絶望させようとしてくるそれは徐々に身体を蝕んでいる。……しかしいつもなら地獄絵図が始まるであろうタイミングになっても何も起こらない。泣き叫ぶ生徒の声も肉の焼けた臭いもしない。

 

セイア「これ以上見なくてもいいのだろうか……」

 

淑女「いいえ、貴女には永遠に悪夢を彷徨ってもらいます」

 

セイア「なっ……淑女!?」

 

淑女「ご機嫌よう、醜い鼠さん」

 

目の前に居る淑女はこちらを見て不敵な笑みを浮かべている。やはり彼女がこの悪夢を私に見せているのだろうか。

 

淑女「前回同様接触してくるとは貴女も命知らずですね」

 

セイア「前回……?何を言っているんだい?」

 

淑女「貴女は知る必要がない事です」

 

そう言って白い銃を取り出す淑女。標的は……当然私だろう。

 

セイア「残念ながらその程度の銃では私にダメージは与えられないよ。キヴォトス人は丈夫だからね」

 

淑女「ええ、そうでしょうね。普通の弾なら」

 

セイア「……何が言いたいんだい?」

 

淑女「私がその程度の事を理解していないとでも?当然対策していますよ」

 

セイア「っ!?な、なんだいこの弾は……」

 

淑女が撃った弾が右腕に当たった直後にとてつもない痛みが走る。まるで内側から抉られているような激痛に現実と夢の区別がつかなくなってきていた。

 

淑女「どうやら効果があるようですね」

 

セイア「何故こんなにも痛みが……ここは夢じゃないのかい……」

 

淑女「何を勘違いしているのかは知りませんがここは現実ですよ」

 

セイア「……参ったね。貴女の事は夢でしか見た事がなかったから勘違いしてしまったよ」

 

……さて、この状況をどう打破しようか。右腕の感覚はなく、持っていた銃は床に転がっている。遮蔽物もなくそもそも淑女との距離が近い。逃げようにも彼女が出口を塞ぐように立たれているのでそれも困難だろう。仮に外に出られたとしても逃げられるとは限らない。……八方塞がりかもしれないね。

 

淑女「私の復讐の為に不安な要素はなるべく取り除いておくべきだと思いまして。ですが殺しはしないのでご安心を。死んでしまえば貴女から搾取が出来ませんから」

 

セイア「それは物騒な話だね。お断りするよ」

 

淑女「嗚呼、理解できません。何故貴女達は自らに拒否権があると思っているのですか?」

 

セイア「なんて横暴なんだ……」

 

淑女「横暴?私は大人として当然の発言をしたまでです」

 

淑女は再度銃口をこちらに向ける。そして弾丸が発射される……刹那に1枚のトランプが淑女の手に当たり照準がズレた。

 

淑女「……この私の邪魔をするとは何者ですか?」

 

「……ある者は、私を盗人と蔑み──そしてまた、ある者は私を咎人と罵る。そんな中1人、私を理解し歩み寄った理解者が居ました。人は生まれながらにして名を持つわけではありません。呼び名とは、他者から与えられるもの……」

 

名乗り口上が一区切りついた後、指を鳴らす音が聞こえたと思えば目の前に白いスーツを着た女性が現れる。

 

助手「故に私はこの名を受け入れました。そう、我が名は──『芸術家の助手』」

 

淑女「それで、その助手が私に何の用ですか?」

 

助手「生憎私は貴女のような醜いものに興味はありません。こちらの芸術品であるお嬢さんを失う訳にはいかないと頼まれただけですので」

 

セイア「誰だかは知らないけど……助かったよ」

 

淑女「……まあいいでしょう。鼠が2匹に増えたところで何も変わりはありません。まとめて葬って差し上げま……」

 

マエストロ「私の生徒に何をしようとしているのだ、マダム」

 

淑女「おや……まさか貴方まで教師なんてくだらない役職に就いているとは思いませんでしたよ。崇高である芸術は捨てたのですか?」

 

マエストロ「そこに居る生徒が私の芸術品だが?」

 

淑女「では貴方の目の前でそれらを壊して差し上げま……!?」

 

助手「失礼。余りにも隙だらけでしたので急所を突かせて頂きました」

 

淑女「……ここまで私を愚弄するとは実に不愉快です。今この場で貴方達を殺すのは簡単な事ですが今は退くとしましょう」

 

マエストロ「待て。逃げる前に私の生徒を返してもらおうか」

 

淑女「お断りします。あの女はまだ利用価値がありますので」

 

そう言い残して淑女の幻影は消える。そして緊張が解けたのかセイアはその場で座り込んでしまった。

 

セイア「助かった……2人とも、ありがとう」

 

マエストロ「礼はいい。それよりも右腕を見せろ。助手は念の為に私の部屋から包帯を持ってきてくれ」

 

助手「分かりました」

 

彼女の腕は損傷こそしていないものの撃たれた部位の周辺から神秘の反応がしない。恐らく淑女が何かしらを行ったのだろうが……

 

マエストロ「しかしこれなら数日経てば回復するだろう。一時的に体内に秘めている神秘が消失しているだけだからな」

 

セイア「それならいいんだ。……いや、それよりも重要な事がある。淑女が動き出したという事は……」

 

マエストロ「ゲヘナとトリニティの戦争が実現してしまう可能性が高い……という事だろうな」

 

セイア「それだけは止めないといけない。しかしどうすれば……」

 

マエストロ「猶予はない、か……せめてマダムと連絡が取れればな」

 

セイア「マダム?さっき淑女の名前を呼ぶ際に発していたような……」

 

マエストロ「ああ、お前には言っていなかったか。今この世界には今2人の淑女がいる。1人は先程までここに居た淑女、もう1人はゲヘナの教師だ」

 

セイア「淑女が2人……もしかしてあの戦争の夢で見たボロボロの淑女が?……まさか戦争の火種となったのは……」

 

ーーー

 

「"補習部の子達、個性的だけど可愛い子ばかりだったなぁ……あれ、ベア先生じゃん"」

 

淑女「おや、奇遇ですね。会いたかったですよ、シャーレの先生」



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復讐の本命とそのついで

淑女「遂に会えましたね」

 

「"そんなに長い間会ってなかったっけ?"」

 

淑女「あなたに紹介したい生徒が居ましてね。ミカ、ご挨拶を」

 

ミカ「あっ……シャーレの先生……こんなところで会うなんて奇遇だね」

 

「"あ、ミカ。ベア先生、この子吸っていい?"」

 

淑女「ええ、構いませんよ」

 

「"……ベア先生が生徒を私に吸わせる訳がない……貴女は誰ですか?"」

 

ミカ「……吸ってもいいよ」

 

「"ミカが言うなら吸うね。あぁ……甘い香りが堪らない……"」

 

ミカ「……ごめん先生」

 

「"えっ?あっ、そのタブレットは……"」

 

淑女「よくやってくれました。これであなたに銃弾が届きますね」

 

「"ベ、ベア先生?確かに私はいつも生徒にセクハラとかしてるけど……何もそこまでしなくても"」

 

淑女「黙れ」

 

「"!?"」

 

淑女「お前は許さない……あれと同じ姿をしているお前だけは!」

 

淑女は怒りと憎しみを込めた弾をシャーレの先生に向かって数発撃ち込んだ。生徒達とは違いただの人間であるそれは痛みで暴れ回っている。その姿を見て思わず愉悦に浸ってしまう程満たされていた。そう、その反応が見たかったのだ。

 

淑女「所詮お前はシッテムの箱が無ければ猿同然。嗚呼、実に気分が良いですね。お前を殺す為だけに用意した特製銃弾のお味は如何ですか?痛いですか?痛いですよねぇ?だから撃ったんですよ」

 

ミカ「……ねえ、何もここまでしなくても良かったんじゃ……」

 

淑女「お前は黙って私に従ってろ!!」

 

ミカ「ひっ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 

淑女「せっかくの良い気分が台無しです。やはり生徒なんて搾取する事以外価値がない屑です」

 

ミカ「ごめんなさい……もう余計な事は言わないから……」

 

淑女「次はありませんよ。……さて、この転がっている虫の息であるゴミをもう少しだけ利用させてもらうとしましょう」

 

ーーー

 

黒服「ようやくトリニティの自治区に入りましたか」

 

ホシノ「疲れたね……」

 

ナギサ「申し訳ありません……まさかほとんどの道が工事中になっているとは思わず……」

 

黒服「それはナギサが謝る事ではないと思いますよ」

 

ホシノ「そうだね。こればっかりは仕方ないと思うよ」

 

ナギサ「アビドスのお方はお優しいのですね……そんな方に私は銃口を……」

 

ホシノ「な、ナギちゃん……そんな自責の念に駆られなくても……」

 

ナギサ「ですが……」

 

ホシノ「大丈夫だって、『先生に銃口を向けた事は絶対に許さない』けど気にしなくていいよ」

 

ナギサ「う゛っ゛」

 

ホシノ「うぇぇ!?大丈夫!?」

 

黒服「ホシノがとどめを刺しているように見えましたが」

 

黒服とホシノは(シロコのせいで)ナギサの依頼を受ける事になりトリニティに向かっている最中だった。後輩達は準備があるらしく遅れてくるとの事。

 

ナギサ「……少々取り乱しました。もう大丈夫です、さあ向かいま……ミカさん?」

 

ミカ「ナギちゃん!?どうしてこんな所にいるの!?」

 

ナギサ「ミカさんこそ何故このような場所に?」

 

ミカ「そんな事は後!今大変な事になってるの!お願い、着いてきて!!」

 

ホシノ「ありゃ、あの子行っちゃったよ?」

 

ナギサ「明らかに様子がおかしいですね」

 

黒服「……追いかけてみましょう」

 

ホシノ「でも……何かの罠だったら危ないよ」

 

黒服「彼女は胸元にナギサと同じバッジを付けていました。つまりトリニティにおいてはナギサと同等な立ち位置にいる存在なのでしょう。ならば恩を売っておくのがいいと思います」

 

ナギサ「確かに彼女……ミカさんは私に並ぶ権力者です」

 

ホシノ「それはいいんだけどさ……胸元、見てたんだ」

 

黒服「たまたま視界に映っただけですよ」

 

ホシノ「ふーん……」

 

ナギサ「(やはり殿方は胸が好みなのでしょうか……)」

 

黒服「……早く彼女を追いかけますよ」

 

ホシノ「分かってるよ」

 

黒服「?」

 

ホシノ「ナギちゃん、さっさと行こ?」

 

ナギサ「え、ええ……」

 

何故機嫌を悪くしたのか理解できていない黒服とちょっぴり不機嫌になったホシノと巻き込まれたナギサはミカの後を追う。そこに居たのは脇腹を銃で撃たれたシャーレの先生となんとか意識を保たせようと奮闘しているベアトリーチェだった。

 

黒服「これは一体……」

 

淑女「ミカ、ありがとうございます。連れてきてくださったのですね」

 

ミカ「うん。3人だけどいいかな?」

 

淑女「及第点です。では私の邪魔をしないように足止めをしておいてください」

 

ミカ「おっけー☆」

 

流れるようにミカはナギサに向けて銃口を向けて引き金を引く。咄嗟の事に身体が固まってしまうナギサとそれを守るホシノ。彼女達はそのまま戦いを始めるだろう。

 

淑女「黒服……まさか貴方も教師に落ちぶれているとは思いませんでしたよ。しかしそんな事はどうでもいいです。黒服、私はお前が存在しているという事実だけで殺意が湧いて仕方がありません」

 

黒服「……ほう、私に銃を向けるとは。案外早く結果が出そうですね」

 

淑女「命乞いをするなら聞いてあげてもいいですよ?」

 

黒服「ゲマトリアとは対等の関係。貴女に下げる頭など存在していません」

 

淑女「……実に不愉快です。死になさい」

 

ーーー

 

ミカ「(私はどうしてあんな人に従っているんだろう。確かにゲヘナの事は嫌いだったから協力はするけどシャーレの先生を撃つ必要はあったのかな……ううん、今は時間稼ぎをしないと)」

 

ホシノ「怪我しないうちにやめておいた方がいいと思うけど……」

 

ナギサ「油断をしてはいけません。ミカさんはトリニティの中でもかなりの実力者です」

 

ホシノ「そうなんだ。それにしてはそこまで強さを感じないよ?」

 

ミカ「……ふぅん?そんなに私の本気が見たいんだ。それなら見せてあげるよ」

 

ホシノ「いいからさっさと終わらせて先生を……」

 

守らないと、という言葉は発砲音にかき消された。その刹那、動悸と冷や汗が止まらなくなる。心臓の鼓動が早くなる。何処から聞こえたのか、そして誰が誰を撃ったのか。答えを知りたくない。しかし頭では理解している。恐る恐る振り向いた先には高笑いをしている淑女と…心臓を撃たれて倒れている先生の姿が見えた。



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恐怖

ホシノ「せん……せい?」

 

倒れた彼の返答はない。どうしよう、どうしようどうしようどうしよう。このままだと彼が死んでしまう。とにかく応急処置をして病院に連れていかないと。

 

ホシノ「だ……大丈夫。まだ助けられる。今までだってそうだったもんね」

 

ゆっくりと彼に近づいて手を握るとまだ暖かい。よかった、まだ生きてる。まだ間に合う。

 

ホシノ「ごめんね先生……この包帯、お薬塗り込んでるからちょっと染みちゃうかもしれないけど、許してね」

 

淑女「そこの生徒、やめなさい。そんな事をしてもすでに死んでいる人間に対する冒涜ですよ」

 

ホシノ「うるさい……黙ってろ」

 

淑女「屑が私にそのような口を聞くなんて……黒服も教育が下手ですね。常識がないのでしょうか」

 

ホシノ「黙れと言っただろうが!」

 

淑女「耳障りですよ」

 

淑女はまた銃を構えて弾を放つ。それは彼女をすり抜けて彼の……黒服の頭に撃ち込まれた。

 

ホシノ「あっ……」

 

淑女「これで貴女がやろうとしている事は無駄になりました」

 

ホシノ「ああ……あああ……」

 

徐々に冷たくなっていく彼の身体。あの時砂漠で触った先輩のように生気を感じないそれに触れて彼女のキャパシティは限界を迎えた。

 

ホシノ「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」

 

響く慟哭。彼女は絶望する。1番大切なものを守れなかった事に。何も出来ない無力な自分に。そんな絶望に打ちひしがれている光景を嘲笑うように眺め愉悦に浸る淑女。

 

淑女「素晴らしいですね。これぞまさに芸術と言えるでしょう」

 

ナギサ「……ミカさん、これが貴女が望んだ光景ですか?」

 

ミカ「ち、違う……私はこんな事を望んでない……」

 

ナギサ「望んでない。そう言えば許されると思っているのですか?1人の生徒を不幸にしてよくもまあそんな子供の様な事を言えますね」

 

ミカ「わ、私は……」

 

淑女「いいえ、誇りなさいミカよ。貴女は私のよき従僕として貢献したのですから」

 

ミカ「こんなの誇れないよ……ゲヘナとかトリニティとか、そんなの関係ない……他人の幸せを奪うような事なんてしたくないよ……」

 

淑女「何を言っているのです?生徒1匹が不幸になる程度大した問題ではありません」

 

ミカ「違う……誰だって他人を不幸にする権利なんてないんだよ……どうしてそんな簡単な事すら気づかなかったの……」

 

淑女「いい加減気づきなさい。選ばれし人間というのは他人から搾取して生きる権利が与えられて……」

 

ホシノ『おい』

 

淑女「……おや、もう黒服との別れは済ませたのですか?では私に搾取されてもらいま……」

 

す。という言葉を言う前に視界が暗転した。気づいた時には地面に伏した状態になっている。何が起こった?理解できない。

 

ホシノ『立てよ』

 

頭上から声がする。嗚呼、この愚か者は私に攻撃をしたのだろうか?であれば到底許される行為ではない。即刻殺さなければ。

 

淑女「生徒風情が私にこのような仕打ちを……絶対に許しませ……ん……?」

 

顔を上げるとそこには宇宙が広がっていた。そしてその宇宙は私を見下ろしている。憎しみと殺意がこもった眼で。数秒経ってようやくこの宇宙のような生命体が先程の生徒という事に気づいた。何故このような姿になったのか理解は出来ないがとても憎たらしい。

 

淑女「……調子に乗らないでもらえますか?貴女程度いつでもひねり殺す事だって……」

 

突如視界が変わり今度は空が見えた。いつの間にか雨が降っていたようで全身が濡れ始めている。ホシノが近寄ってきた後、口に何かを押し込められる。その刹那口内で爆発が起きた。どうやらグレネードを入れられたようだ。

 

淑女「……流石の私でも今のは堪えましたよ。ですが今度は私の番で……」

 

ホシノ『お前に発言権はない!』

 

至近距離からショットガンを放たれて思わずのけぞってしまい、そこから地面に叩きつけられた後空中に投げ飛ばされる。……この生徒は本気で殺しにしていると理解した。

 

淑女「調子に乗るのも大概にしろ!」

 

ホシノ『発言権はないと言っただろう!!』

 

ーーー

 

ナギサ「ホシノさんが淑女を圧倒している……本来であれば喜ぶべきなのでしょう。しかしあまりにも犠牲が大きすぎます……」

 

ミカ「私は……私は……」

 

ナギサ「ミカさんも今冷静ではいられないようですし……この状況をどう打破すれば……」

 

黒服「ええ。どうしましょうかね」

 

ナギサ「……先生!?何故……?」

 

黒服「私があの程度で死ぬと思っていたのですか?マエストロから話を聞いた時からこうなる事を想定して準備はしていましたのでね。それにしてもやはりホシノは素晴らしいですね。埋め込んだ恐怖を利用して自ら反転させるとは」

 

ナギサ「反転?」

 

黒服「ええ。我々が辿り着いた1つの答えがあります。『神秘の反転は恐怖』。つまり今のホシノは『恐怖(テラー)』状態とも言えるでしょう」

 

ナギサ「テラーですか……」

 

黒服「ひとまずホシノの事は私に任せてください。貴女は……そうですね、そこに倒れているシャーレの先生をどうにかしてもらえますか?」

 

ナギサ「えっ……あっ……そうでした。彼も死なせる訳にはいきませんね」

 

黒服「ええ。貴女にしか出来ない事です。任せましたよ」

 

ナギサ「承りました」

 

ナギサは先生を抱え、ミカを引きずるように運んでいった。トリニティが近いとはいえお嬢様らしからぬ運び方に少々困惑しつつもホシノの方に向き直る。相変わらず淑女を圧倒しているようだ。

 

黒服「これがマエストロの生徒が見た夢の光景だとしたらあのマダムはこの世界に属していない存在という事でしょう。それはそれで興味深いですが……」

 

淑女「……まさかこんな恐ろしい生徒が居るとは思いませんでしたよ。ここは1度仕切り直すとしましょう」

 

ホシノ『逃げるな!お前はここで死ね!』

 

ホシノの怒号も虚しく淑女は転移して逃走した。やがてホシノは力尽きたのか元の姿に戻りその場に仰向けになって倒れた。

 

ホシノ「……先生……」

 

黒服「何ですか?」

 

ホシノ「………」

 

黒服「実に素晴らしい光景でしたよ、ホシノ。まさか貴女の潜在能力があんなにも高水準だとは思いませんでした」

 

ホシノ「………」

 

黒服「ホシノ?」

 

ホシノ「うへへ……先生……先生だぁ……もう離さない♡」

 

黒服「……あの、ホシノ?何故顔を近づけているのですか?」

 

ホシノ「うへへへ……」

 

───同時刻のとある場所

 

ヒナ「傘……持ってくれば良かったな……」

 

豪雨の中母を探す1人の少女。彼女は導かれるようにとある路地裏を進んでいる。突き当たりの角を曲がった先にその人は居た。

 

ヒナ「見つけた……もう、こんな雨の中寝っ転がっていたら風邪を引いちゃうよ……」

 

眠っている母を抱きしめた際に違和感に気づいた。服に生暖かいものが付着した感覚があるのだ。そしてそれが服を赤く染めている事にも。

 

ヒナ「ぁ……」

 

……それは年端もいかない彼女にとっては受け入れ難い光景であった。




ホシノのテラー化詳細

メリット
・身体能力の向上

デメリット
・10分程動けなくなる

もっとえげつない設定をつける予定でしたが共犯者の助言により簡易的なものになりました


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安堵と2人目の淑女

ナギサ「救護騎士団の皆様、急患です。どうか彼の治療をお願い致します」

 

セリナ「……とナギサ様が直々に運んで来たこのお方ですが……」

 

ミネ「まずは体内に残っている銃弾の処理を行いましょう。ハナエ、メスをください」

 

ハナエ「ありません」

 

ミネ「何故無いのですか?早く取り除かねば患者の生死に関わるんですよ」

 

ハナエ「数分前に団長が暴れた際に床に散らばってしまったので除菌中です」

 

ミネ「暴れてなどいません。あれは救護です」

 

セリナ「あの……患者さんを……」

 

ミネ「とりあえず全身麻酔をしてから考えましょう」

 

数分後、紆余曲折あってどうにか体内に残っていた銃弾を取り除く事が出来たが更に問題があった。徐々に身体を蝕み死に至らせる猛毒が銃弾に付着していたのだ。このままではいずれこの患者は死んでしまうだろう。

 

セリナ「成分分析は完了しましたが……その……解毒薬の調合に必要な薬草がゲヘナにしかないものでして……」

 

ミネ「分かりました。今から私が全速力で取りに行くのでセリナとハナエは準備を……」

 

チナツ「その必要はありません」

 

ミネ「貴女は?」

 

チナツ「その患者の彼女です。こちらの薬草を届けに来ました」

 

セリナ「そ、それです!これで解毒薬が作れます」

 

ミネ「どなたかは存じ上げませんが感謝します」

 

チナツ「……彼の事をよろしくお願いします。それでは急いでいるので」

 

ミネ「ご協力頂きありがとうございました……治療を再開します」

 

ーーー

 

チナツ「(先生、あなたにとってこの状況は過酷な試練となるでしょう。ですがあなたは必ず乗り越えてくださると信じております)」

 

ハナコ「チナツさん、用事は済みましたか?」

 

チナツ「はい。先生は数日経てば回復するでしょう」

 

ハナコ「それを聞いて安心しました。……では私達も行きましょう」

 

チナツ「私達は私達にできる事を……ですね」

 

ーーー

ナギサ「さて、聞かせてもらいましょうか?」

 

ミカ「………」

 

ナギサ「ミカさんにはトリニティ内の治安維持を頼んだ筈でしたが……何故淑女の言いなりになっていたのでしょうか?」

 

ミカ「それは……その……」

 

ナギサ「言っておきますがあまり猶予はありません。言い訳をしようものならこのまま牢に……」

 

マエストロ「その必要はない。私が全部説明しよう」

 

ナギサ「マエストロ先生……それにセイアさんも。ご無事だったのですね」

 

セイア「私は無事とは言えないけどね」

 

マエストロ「順を追って説明しよう。まずは……」

 

彼が語った事はにわかには信じ難いものだった。淑女の正体は別の世界から襲来した異邦人。そして特定の人間に対して憎悪と殺意を抱いている事。ミカは淑女に洗脳されて利用されていたに過ぎない事。……そしてここまでがセイアが夢で見た光景通りに進んでいるという事実も。

 

マエストロ「順当に行けば次に訪れる悪夢はゲヘナとトリニティの戦争だろうな。心配するな、既に手は打ってある」

 

ナギサ「……そうですか。結局私達の行ってきた事は無駄だったのかもしれませんね……」

 

マエストロ「そう自分を卑下にするな。独断で行ったとはいえナギサの行動は1人の人間を救う事に繋がったからな。そこは誇っていい」

 

ナギサ「……はい」

 

マエストロ「ミカもだ。よく自力で洗脳を解いたな。流石私のげ……」

 

ミカ「やめて……私は褒められるような生徒じゃないよ。悪い子なんだから……そんな優しい言葉を言わないでよ」

 

マエストロ「手の掛かる生徒ではあるが悪い子ではないだろう。放課後補習部の件も……」

 

ミカ「やめてって言ってるじゃん!私はもう良い子になれない!ただの悪人なんだから!もう放っておいてよ!」

 

セイア「ミカ、何処に行くつもりだい?」

 

ミカ「しばらく1人にさせて。お願いだから」

 

マエストロ「帰って来ると約束出来るなら良いぞ」

 

ミカ「………」

 

マエストロ「仕方ないか……2人とも、もう少しだけ働いてもらうぞ」

 

セイア「構わないよ。片腕は動かないけどね」

 

ナギサ「ええ。私に出来る事ならなんなりとお申し付けください」

 

ーーー同時刻のゲヘナ学園

ゲヘナの病室がとても騒がしい。それも仕方ないだろう。運ばれてきた怪我人はゲヘナ生にとってかけがえのない母なのだから。

 

ヒナ「………」

 

冷たくなっていた母を運んできた彼女は縮こまっている。未だに現実が受け入れられるような精神状態ではなく今にも泣き出しそうになっている。そのまま数時間が経過した後、集中治療室の扉が開き手術の終わりを告げられた。

 

セナ「処置が終わりました」

 

ヒナ「!!」

 

セナ「ギリギリですがどうにか生きています」

 

ヒナ「……良かったぁ」

 

セナ「ですが死体……ではなく患者の意識は戻る目処が経っていません。永遠に戻らない可能性が高いです」

 

ヒナ「生きてくれてるならそれでいい。命を繋いでくれてありがとう」

 

セナ「医学部として行動したまでです。それで患者と対面しますか?」

 

ヒナ「……ううん。私にはやる事があるから」

 

セナ「分かりました」

 

ーーー

 

彼女は強がった。本当は対面して抱きつきたかった。また母の温もりに触れたかった。けれど彼女は自身の内側にある憎悪を優先してしまった。……母が倒れていたのはトリニティの自治区。そして最近相次いで起きているゲヘナ生の失踪。彼女の中でこの2つが結びついて確実なものと信じて疑わない結論が出ていた。『トリニティを絶対に許さない』と。あの時母と対面してしまったらその覚悟が揺らいでしまうと気づいていたから我慢をした。

 

ヒナ「私の幸せを奪ったトリニティに裁きを……」

 

光のない瞳で前を向き歩み始める1人の少女。憎悪に導かれて行動している姿はまるで淑女のように見えてしまう。




次回は過去編を挟もうかと思います


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かつて淑女だった存在

初めはこの世界を支配するつもりだった。自分をこの世界の頂点だと信じて。生徒を搾取する為の道具として利用する為に彼女はゲマトリアに加入した。

 

ベアトリーチェ「アリウス分校。手始めにここを支配して私の計画を始めると致しましょう……おや?」

 

悪い大人としてその地に降り立った彼女は1人倒れている生徒を見つける。その身体はとても痩せており手足があまりにも細い。風が吹いたら飛ばされてしまいそうな程だ。

 

ベアトリーチェ「こんなのが大量に居るとなると……この地区はハズレかもしれませんね。せめて道案内でもしてもらえるならまだ利用価値はあったのですが」

 

そのまま放置して先に進もうとしたが何故か放っておけないと感じてしまう。死にかけている価値のない道具に対して抱く必要のない感情に困惑したものの携帯食料を置いた。少女はそれに気付いたのか一心不乱に食べ始める。携帯用なので大した味でもないそれを涙を流しながら食べている姿を見て胸が痛くなる感覚を覚えた。

 

ベアトリーチェ「……名前は何ですか?」

 

アツコ「……秤アツコ。貴女は……」

 

ベアトリーチェ「ああ、私の事はマダムと呼んでください」

 

アツコ「分かった。マダム、ありがとう。こんな美味しいものが食べれたのは初めて」

 

ベアトリーチェ「そんなつまらない冗談はやめてもらえますか?早速ですが私の為に働いてもらいますよ?手始めにアリウス分校まで案内してもらいます」

 

アツコ「いいけど……何の為に?」

 

ベアトリーチェ「私の計画の為、ですよ」

 

道案内を頼み歩きながらアリウス分校の話を聞いた。常に物資が不足しており飢えに苦しむ生徒が多発している。その日を生きるのが精一杯なのだとか。

 

ベアトリーチェ「何故そのようなところにいつまでも居座るのですか?他の自治区に行けば多少はマシな生活が出来ると思いますが」

 

アツコ「前に私の友達4人と一緒に試したの。でもアリウスから来たってだけで差別を受けて迫害されたから諦めたんだ」

 

ベアトリーチェ「差別ですか。くだらないですね」

 

アツコ「マダムは私達を差別しないの?」

 

ベアトリーチェ「私の役に立ってくれるのであれば関係ありません」

 

アツコ「……マダムは優しいんだね」

 

ベアトリーチェ「優しい?そんな筈がないでしょう」

 

この生徒は先程からおかしな事ばかり言う。それに警戒心もない。疑う事を知らないのは人間として未熟だがこちらとしては利用しやすいので問題はない。精々搾取し尽くしてやろう。

 

ーーー

 

アツコ「着いたよ」

 

アツコに案内されて到着した場所は屋根すらなく、学校とは思えない程のボロい小屋だった。辛うじて風は凌げるが雨には濡れてしまうだろう。

 

ベアトリーチェ「……私を馬鹿にしているのですか?こんなものが学校な訳がありません」

 

アツコ「これが学校だよ。他は紛争に巻き込まれて崩壊しちゃった」

 

ベアトリーチェ「………」

 

こんな状況では計画もクソもない。搾取出来る生徒も居ない、学校もない、全てが足りないこの地で何をしろと言うのだろうか。こんな価値のない場所に用はない。そう思い踵を返そうとした時、4人の生徒を見た。全てに絶望してただ死を待っているような瞳で空を見上げている。その姿を見ていると胸が痛くなる。気がついた時には何とかしなければ

と行動していた。

 

ーーー

彼女達との出会いは淑女にとって大きな影響を与えた。いつしか自身の崇高に反していると理解していながらも彼女達を利用するのではなく、親のように親身に接するようになっていった。

 

ベアトリーチェ「……何故私はこのような事をしているのでしょう」

 

何も生まれない、崇高も満たせない。それなのに彼女達が年頃の女の子のように笑って過ごしているのを眺めているだけで何かが満たされるような感覚に陥る。その原因は理解してはいないが悪くない感覚だった。

 

アツコ「お母さん、話があるんだ」

 

ベアトリーチェ「何ですか?」

 

アツコ「私達……アリウスを離れるよ。もっと色々な世界を知りたい」

 

ベアトリーチェ「本当に宜しいのですか?」

 

アツコ「うん。全員賛成してくれたよ」

 

ベアトリーチェ「……ではこちらの『転入届』を受け取ってください」

 

アツコ「……ありがとう」

 

ベアトリーチェ「……今夜は貴女達5人の新しい門出を祝いましょう」

 

ーーー

 

ベアトリーチェ「……懐かしい夢ですね。彼女達は今元気に過ごしているのでしょうか……」

 

1人暗闇の中を彷徨いながらそう呟いた。これはきっと走馬灯というものなのだろう。志半ばで倒れてしまったようだ。

 

ベアトリーチェ「……これはヒナとの出会いの記憶……初めてヒナと会ったのは2年前……なんだか初々しいですね」

 

最初に会った時からヒナは強がりな女の子で……人知れず無茶をしているような子だった。けれどほんの些細な出来事で心を開いてくれたのを覚えている。

 

ベアトリーチェ「そうそう……私が食あたりを起こして苦しんでいるところを目撃してから甘えてくれるようになったのでしたね。今思い返すとくだらない出来事ですよ。……ただそんな日常が私にとっては崇高のように素晴らしい日々の1部になっていたのも事実です」

 

だからこそ自分は弱かった。1人の生徒に手も足も出さず無抵抗で嬲られたからこうなっているのだから。……しかしそのおかげで彼女の未来を奪わずに済んだのだ。それだけは誇りたい。それと同時に淑女にも怒りが湧いてくる。生徒を道具のように利用しただ傷つけるだけのやり方しか見出せなかったあの悪い大人を。

 

ベアトリーチェ「私の選んだ道が例え間違っているとしても……だとしても……生徒の幸せを奪うやり方は見過ごせません」

 

『やはり貴女を選んだ私に狂いはありませんでした』

 

ベアトリーチェ「貴女は……」

 

『私の分まで彼女達の事をお願いしますね』

 

ベアトリーチェ「……ええ。全てが終わった暁にはいちごミルクで乾杯でもしましょうか」

 

こうして彼女は暗闇から引き上げられるように光に包まれていく。教師として、母としてやるべき事をなす為に。

 

ーーー

 

ベアトリーチェ「………」

 

意識を取り戻したと思ったらとてつもない痛みが身体を襲う。起き上がる事すら困難な状態だ。それでも彼女は立ち上がる。

 

セナ「おはようございます」

 

ベアトリーチェ「ええ、おはようございます。随分と長い間眠ってしまっていたようです」

 

セナ「1時間46分です」

 

ベアトリーチェ「治療して頂き感謝致します。それでは……くっ」

 

セナ「無理に動いたら本当に死体になりますよ」

 

ベアトリーチェ「私にはまだ成すべき事があるのです!この程度の怪我で……」

 

セナ「……素直に休んでください。ゲヘナ中の全生徒が貴女を心配しているのです」

 

ベアトリーチェ「気持ちはとても嬉しいです。ですが私は今動かなければ絶対に後悔します。どうか理解してください」

 

セナ「……貴女ならそう言うと思いましたよ。それでは手筈通りにお願いしますね」

 

リオ「ええ。分かったわ」

 

ベアトリーチェ「リオ?一体何を……」

 

フウカ「こっちですよー!」

 

ベアトリーチェ「フウカまで……」

 

リオ「部長、対象を乗せたわ」

 

フウカ「ありがとうございます。……しっかり捕まっていてくださいね!」

 

ベアトリーチェ「待ってください、まだシートベルトを付けてな……グェ」

 

リオ「一直線で行けば10分も掛からない計算よ」

 

フウカ「それなら追いつける!」

 

ベアトリーチェ「さっきから何を急いでいるのです?」

 

フウカ「ヒナ風紀委員長を止めて欲しいんです!」

 

ベアトリーチェ「……ヒナを?」

ーーー

 

ヒナ「………」

 

ミカ「………」

 

ヒナ「銃を構えないの?」

 

ミカ「うん。貴女に殺して欲しいの。ゲヘナの生徒である貴女に」

 

ヒナ「トリニティだからどちらにせよ生かしてはおかないけど、理由を聞かせてもらうわ」

 

ミカ「私がゲヘナに迷惑かけちゃったから……ゲヘナの先生ってだけで暴力を振るって……生徒も誘拐して……」

 

ヒナ「ゲヘナの先生……暴力?……そう。お前か」

 

ミカ「………」

 

ヒナ「お前が……お前が私の幸せを……許さない。絶対に許さない。死んでも許さない。お前みたいな他人を不幸にする人間を生かしてはおけない」

 

ミカ「……私もそう思う。だからお願い、殺して」




需要があればもっと濃密なベア先生の過去を日常の方でいずれ書くと思います


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弱さが故に

ヒナ「……分かったわ。お望み通り殺してあげるからそこを動かないで」

 

ミカ「……ありがとう」

 

悪魔のような翼を広げてこちらへ近づいてくるヒナ。しかし至近距離まで到達した彼女はそのまま通り過ぎてトリニティの方に向かう。あれだけ殺意を向けていたのにも関わらず。

 

ミカ「……ちょっと。私はここだよ?どうして通り過ぎちゃうのかな?」

 

ヒナ「殺してあげるわよ。精神から」

 

ミカ「えっ……」

 

ヒナ「手始めに大事なものを奪われる苦しみから味わうといいわ。貴女がそうしたように」

 

ミカ「っ……」

 

彼女にかける言葉が思いつかない。こうなってしまった原因を作ったのは他でもない自分なのだから。止める権利なんてあるのだろうか。

 

ミカ「それでも……他の人達が傷つけられるのを黙って見過ごす訳にはいかない。だから行かせないよ」

 

ヒナ「他人に対してやった行為を自分がされるのは嫌だなんて、随分と都合が良いわね。トリニティの傲慢さが伺えるわ」

 

ミカ「罪は受け入れる。だから……」

 

ヒナ「もういい。これ以上は話しても無駄。退かないなら殺す」

 

ミカ「………」

 

見つめ合う2人。息を呑んでその時が来るのを待つ者、憎悪に任せて引き金を引こうとする者。そして彼女が引き金に手を……

 

ホシノ「はいはいストップストップ」

 

かける前に久方振りに出会った友人が割って入ってきた。何故ここに……という困惑をしてしまう。

 

ホシノ「ヒナ、どうしちゃったのさ。そんな眼をして……」

 

ヒナ「……どいて。私はそこにいるトリニティの生徒を殺さないといけないの」

 

ミカ「私がその子の大事な人を死ぬ手前まで追い込んだの。だから私は命で償うしか……」

 

ホシノ「……ヒナは本気で殺そうとしてるの?」

 

ヒナ「うん。分かったのならどいて」

 

ホシノ「そっか……ねえヒナ、歯を食いしばってね」

 

ヒナ「えっ」

 

ホシノはヒナの頬を全力でビンタした。遠くで様子を見ていた黒服に音が聞こえる程の威力で。何が起こったのか理解していないヒナの肩を掴みただ「目を覚まして」と真剣な表情でその一言を伝えた。

 

ヒナ「……ぁ……」

 

ホシノ「………」

 

……ホシノにとって友人に手を出す事自体が初めての行為だった。彼女を叩いた右腕は未だに震えている。嫌われてしまうかもしれない。もう友達ではいられないかもしれない。それでも壊れてしまいそうな友人を放っておけなかった。

 

ヒナ「わたし……は……ただ大好きな人を守りたくて……2度と同じ事が起こらないようにしようと……」

 

ホシノ「その気持ちは分かるよ。大事な人を傷つけた相手が許せないのも。でもね……大事な人は復讐して欲しいなんて望んでないんだよ」

 

ヒナ「そんな事分かってる……!でも他にどうすればいいのよ!こうするしか守れる方法がないの!このやり方しか……」

 

ホシノ「ダメだよヒナ……そのやり方で1番傷付くのはベアさんなんだよ……」

 

ヒナ「ぅ……ぅぅ……」

 

理解しているつもりだった。母が望む筈がないと。そんな事をしても悲しませるだけだと。……ただそれらを言い訳にして憎悪に導かれるがままに行動していただけ。感情のコントロールも出来ないくらい自分が弱い、ただそれだけの話だ。

 

黒服「終わりましたか?」

 

ホシノ「……うん。ヒナはきっと大丈夫。もう迷わないよ」

 

黒服「どうやら彼女も到着したようです。私達も準備をしましょうか」

 

ホシノ「そうだね」

 

後の役目を彼女に託して2人は立ち去る。姿はボロボロ、脚もおぼつかない。それでも泣いている娘の元へ近寄る者。いつもと変わらぬ声で「ヒナ」と言いながら抱きしめ、彼女の冷たくなってしまった心を暖める母。

 

ベアトリーチェ「こんなにも涙を流して……心配をおかけして申し訳ありません」

 

ヒナ「………」

 

ヒナは何も言わずただ抱きついて離れない。そんな彼女の頭を優しく撫でつつ近くにいる生徒に声をかける。ビクッと反応した後気まずそうに近寄ってくる。

 

ベアトリーチェ「次貴女に会えたら言おうと思っていた事があります」

 

ミカ「……うん。どんな言葉でも受け止めるよ」

 

ベアトリーチェ「貴女の手は……とても美しいですね。まるでお姫様のように」

 

ミカ「……え」

 

ベアトリーチェ「貴女に殴られながらずっとこう伝えたかったのです。『その綺麗な手を私の血なんかで汚してほしくないと。その透き通るような手を大事にして欲しい』と」

 

ミカ「……なんで?なんでそんな事言うの?だって私は貴女を死ぬ手前まで……」

 

ベアトリーチェ「だから何だと言うのです。確かに死にかけはしましたが私は生きています。それに生徒に何をされようが大抵の事は笑って許すのが教師というものです」

 

ミカ「………」

 

ベアトリーチェ「こちらへ向かう途中に真実も教えてもらいました。だからこそ私はこう言います。『貴女は何も悪くありません』だからそんな悲しい顔をしないでください。笑って欲しいのです」

 

ミカ「……違うよ。私は悪い子なの……だから、ごめん」

 

ベアトリーチェ「あっ……何処へ行くのです……うっ……」

 

ヒナ「!?マザー大丈夫!?」

 

ベアトリーチェ「……ええ。問題ありません。少々腰を痛めて……」

 

リオ「下手な嘘はつかない方がいいわよ」

 

フウカ「そ、そうですよ!まだ完治していないんですからね!」

 

ベアトリーチェ「大丈夫ですよ。ヒナを抱きしめているだけで意識は保てますから」

 

辛うじて意識を保たせている中、生徒を2人連れてこちらは向かって歩いてくる姿を見た。

 

マエストロ「マダム、痩せ我慢はやめておけ」

 

ベアトリーチェ「……何故ここに?」

 

マエストロ「手の掛かる生徒を保護しようと思ったのだが……どうやら居ないようだな。……ん?そこに居るのはリオだな」

 

リオ「……ええ。久しぶりね、先生」

 

フウカ「この人がリオさんの……初めまして。リオさんにはいつもお世話になっています」

 

マエストロ「あ、ああ。こちらこそリオを面倒を見てくれて感謝する。……そうか、ゲヘナに居たのか。色々話したい事もあるが……今は時間がない」

 

彼が指し示す方向には無数の亡霊のような大群がこちらに向かって進行してきている光景が見える。

 

ベアトリーチェ「何ですかあの痴女のような格好をした軍団は……淑女のセンスを疑います」

 

マエストロ「マダムにしては珍しい発言だ。ヒナに着せる的な事を言うと思っていたぞ」

 

ベアトリーチェ「ふざけた事を言える状況ではないでしょう……とはいえあの大群を相手にするのは骨が折れそうです」

 

マエストロ「そうだな。だが生徒の為なら苦でもないだろう?」

 

ベアトリーチェ「当然です」

 

ーーー

 

淑女「……準備は整いました。堕落した人間共よ、覚悟しなさい。この世界を制圧し、全てを我が手中に。私の復讐はここから始まるのです」




次回から淑女攻略戦が始まります


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強行突破

ベアトリーチェ「……とはいえあの大群をどう突破しましょうか」

 

フウカ「私の車で突撃しますか?」

 

ベアトリーチェ「それは流石に……」

 

フウカ「遅かれ早かれハルナ達のせいで壊されると思うので」

 

ベアトリーチェ「全くあの子達は……」

 

マエストロ「亡霊に物理攻撃が効くのだろうか。興味深くはあるな」

 

セイア「先生は相変わらずだね」

 

ベアトリーチェ「仮に車で轢くとしても左右から狙われる危険もありますし……致し方ありません。電話をしてきます」

 

ーーー

 

アコ「はい。こちらゲヘナ風紀委員会です」

 

ベアトリーチェ『はあ、貴女ですか。まあ良いでしょう。至急頼みたい事が……』

 

アコ「いきなり酷くないですか?それが生徒に対する態度だとするのであれば教師として恥ずかしい事だと思いますよ?」

 

ベアトリーチェ『今は無駄話をしている時間はありません。校内放送のスピーカーに繋いでください』

 

アコ「仕方ないですね。……はい、繋ぎましたよ」

 

ベアトリーチェ『……ゲヘナ学園の我が子達よ。助けて下さい!!……以上です』

 

アコ「……風紀委員、至急出撃準備を」

 

ーーー

 

ベアトリーチェ「お待たせしました」

 

マエストロ「助けて下さいだけでは何が何だか分からないのではないか?」

 

フウカ「確かに……」

 

ベアトリーチェ「これで良いのです。淑女の元へ向かいましょう」

 

マエストロ「そうだな」

 

フウカ「あの……この車、4人乗りなんですけど」

 

マエストロ「非常事態だ、気にするな」

 

ーーー

 

黒服「では皆様、行きましょうか」

 

アヤネ「えっ……えっと……」

 

セリカ「あんたさ、なんでシャーレの先生を担いでんのよ」

 

黒服「戦力は多いに越した事はありません。それに今回は先生にしか出来ない事があるのです。例えばそこにいる6人の指揮など」

 

ホシノ「あの状態でも結構連携は出来てるけど、やっぱり頼れる大人が居ないとダメだよね」

 

ノノミ「頼れる……?」

 

シロコ「大人……?」

 

黒服「そうでした、ホシノ以外は先生の事をただの変態としか認識していない事を忘れていました」

 

アヤネ「……とにかく発進しますね」

 

ホシノ「あの子達の援護はしなくていいの?」

 

黒服「大丈夫です。その役目は私達ではありませんから」

 

ーーー

 

ワカモ「嗚呼、なんて醜く憎たらしいのでしょう。……全て焼き払って差し上げましょう!」

 

ミヤコ「気持ちは分かりますが抑えてください。ここは一点突破して先生を撃った犯人の元へ向かわないといけないのです」

 

ユウカ「そうですよ!私達は因数分解出来ないこの怒りを淑女にぶつけないといけないんですから!」

 

ワカモ「淑女?うふふ……クソゴミ害悪年増ババアの間違いではございませんか?」

 

チナツ「クソゴミ害悪年増ババアは裁かれるべきですが冷静になりましょう」

 

ハナコ「その通りです。怒りに身を任せて行動して体力を消費するのは無謀ですよ」

 

ノドカ「それにしても数が多すぎます!このままだとジリ貧ですよ!」

 

誰よりも先に戦場に乗り出している6人の生徒。彼女達は何故ここにいるのか、それは数分前に遡る。

 

ーーー回想

シャーレの先生が倒れた。そのニュースは瞬く間にキヴォトス全域に広がり混乱を招いた。

 

ユウカ「『犯人は淑女と呼ばれる凶悪犯……完全なる憎しみによる犯行と見て間違いないだろう』……何よこれ」

 

シャーレの仕事部屋で1人絶望するユウカ。いつもは頭の回転が速い彼女も何も考えられない程に混乱していた。先生は無事なのだろうか?何よりも安否を確認しなければならない。

 

ユウカ「とにかくトリニティに行って事実確認を……」

 

チナツ「その必要はありません。これは事実です」

 

ユウカ「火宮さん!先生の様子は!?」

 

チナツ「落ち着いて下さい。先程までは絶望的でしたが今は問題ありません。時期に目を覚ますでしょう」

 

ユウカ「……よかった。本当に……」

 

チナツ「彼女達のおかげです」

 

ノドカ「ずっと眺めていたのですぐ異変に気付けました」

 

ハナコ「ノドカちゃんから送られてきた映像から弾に付着していた毒を解析して解毒に必要な薬草をチナツさんにトリニティまで運んでもらいました」

 

ユウカ「浦和さん……それと……貴女は?」

 

ノドカ「あっ……初めまして。天見ノドカと言います」

 

ユウカ「ノドカちゃんね。私は早瀬ユウカよ。宜しくね。……所で皆さんは何故ここに?」

 

ミヤコ「私が呼んだのです。後1人は……時期に来ます」

 

ハナコ「ミヤコさんが言いたい事は分かります。淑女を倒そうとしているのですね」

 

ユウカ「えっ」

 

ミヤコ「はい。私達で先生の敵である淑女を葬り先生を守ろうと思うのです」

 

ノドカ「なるほど。私は賛成です。先生の安全は第一ですから」

 

ハナコ「私もです。……彼は私にとってかけがえのない人なんです。許せる筈がありません」

 

チナツ「私も同じ想いです」

 

ユウカ「……そうね。私達の先生に手を出した事を後悔させてあげましょう」

 

ーーー回想終了

 

ユウカ「たまたま狐坂さんと合流したまでは良かったけれど……絶望的な兵力差ね」

 

ワカモ「何万体でも地獄に葬って差し上げますわ!」

 

ミヤコ「ウサギなら諦めるとは思いますが……私はウサギではないので」

 

チナツ「大丈夫です、この程度の試練なら乗り越えられるでしょう」

 

ノドカ「先生の為に頑張りましょう!」

 

ーーー

 

ベアトリーチェ「……ヒナ、落ち着きましたか?」

 

ヒナ「……うん」

 

ベアトリーチェ「マエストロ、申し訳ないのですが私は爆発してしまいそうです。ヒナの可愛さに耐えきれません」

 

マエストロ「後で好きなだけ爆発するといい」

 

ベアトリーチェ「ええ。生きて帰れた暁には何百回も爆発しますよ」

 

フウカ「……そろそろ突撃します!シートベルトをしっかり着けて耐えてくださいね!」

 

ベアトリーチェ「あ、着け忘れていましあばばばばばばばば」

 

ーーー

 

淑女「……実に不愉快です。あのようなやり方で突破されるなど。……しかしあの程度の戦力でこの鉄壁の守りを突破できるとは思えませんがね。さあ、あなた達も配置につきなさい。新たなる指揮者よ」




この後はそれぞれの視点でボスとの戦闘が発生します

ですので公開順をアンケートで選んで欲しいです

※追記 沢山の投票ありがとうございました。ヒエロ、指揮者、バルバラの順で書いていきます。徹夜です


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VSヒエロニムス

淑女『ヒエロニムス。それはかつてゲマトリアが生成したと言われている人工天使を率いる存在。この世界にも存在しているとはなんて都合が良いのでしょう。そして初めての犠牲者となれる貴方達はとても幸運な事なのですよ、黒服』

 

黒服「そんなくだらない事を仰るために通信をしたのですか?」

 

淑女『くだらない……?よくもまあ、私にそのような態度を取れますね。貴方は興味深いと言うと思っていましたが』

 

黒服「かつての私ならマダムに共感したでしょうね。しかし今となってはただの木偶の坊にしか見えません」

 

淑女『……後悔しても遅いですよ』

 

通話が切られたと同時に異形の存在は咆哮する。一般人が聞いたら恐怖に慄き足がすくむような禍々しい声だ。

 

黒服「皆様、準備は宜しいですか?」

 

5人の生徒は頷き異形と向き合う。桃色の髪を束ね盾を構える少女がこちらに目配せしたのを確認し、「活動開始」と合図を出した。

正直な話、淑女はこちらを舐めていると言わざるを得ない。秘密兵器の様に登場したヒエロニムスはアビドスにとって大した敵ではないのだ。

ホシノがターゲットを取り耐える。その間に他の4人は攻撃。ましてや聖堂という事もあり遮蔽物は腐るほどある。この戦いは当然こちらの勝利で終わるのだ。

 

黒服「その慢心が命取りなのですよ、マダム」

 

逞しく成長した生徒達を見て小馬鹿にするように呟いた。その刹那、背後から気配を感じ振り向くとそこには銃を構えた淑女が居た。

 

淑女「ええ。実にそう思いますよ、黒服!」

 

響く発砲音。しかしホシノは動揺する事もなく目の前の敵から眼を離さない。彼女は仲間を信じる事を覚えたから。自分に出来る事を全力でやると決めたから。

 

黒服「おや、残念ながら不意打ちは失敗しましたね。まあ当然の結果ですよ、私はマダムと違い慢心はしていませんからね」

 

淑女「……アビドスの生徒は5人の筈では?何故貴方を守る生徒が居るのです?」

 

黒服「残念ながら他にも慕ってくださる生徒が居ましてね。それに……」

 

アリス「ヒーローと勇者は遅れてやってくるのですよ!」

 

ケイ「2度も撃たせはしません」

 

そう、彼には2人の勇者がついているのだ。冷静沈着な姉と大胆不敵な妹の姉妹勇者が。

 

アリス「モモイ達からも全力でぶっ飛ばしてこいと言われました!」

 

ケイ「大人しく投降する事を勧めます」

 

淑女「まさかこんな隠し玉があるとは。いいでしょう、ここは大人しく引くとしましょう。……ただし置き土産を残して」

 

淑女は小さな蒼い欠片をヒエロニムスに向けて投げた。それが触れた途端、姿が変貌していく。輪郭は白くなり姿は宇宙を模したような色合いへと変わる。まるでホシノの変身した姿のように。

 

淑女「色彩の力をほんの少し分け与えてあげました。精々足掻くといいでしょう」

 

そう言い残し高笑いをしながら消えていく淑女。まさか彼女が色彩の力を手に入れているとは思わず少々計算が狂ってしまった。

 

黒服「しかし問題はありません。貴女達もまだ戦えるでしょう?」

 

ノノミ「勿論です♪」

 

シロコ「ん、余裕」

 

セリカ「当然よ!ぶっ飛ばしてあげるわ!」

 

アヤネ「問題ありません!」

 

ホシノ「それじゃあ……第2回戦を始めよう」

 

再度戦いの火蓋が切られ高度な連携を見せる5人。先程よりも熟練された動きで対等に戦えているように見える。

 

ケイ「私達も参戦しましょう」

 

アリス「分かりました!」

 

2人の勇者も前線に行きダメージを与えている。7人での戦闘は想定していなかった為訓練を促した記憶はないが乱れは全くない。

 

黒服「ホシノがあの状態になるのも面白いとは思うのですが、どうやらならなさそうですね……おや」

 

突如轟音とも言える叫び声をあげる異形の存在。そしてホシノ達の足元に魔法陣が生成されていく。どうやら最後の大技らしい。そのまま炸裂して全滅……させたかったのだろうがアビドスを舐めてもらっては困る。

 

ホシノ「皆いくよ!」

 

掛け声と共に集中砲火を絶え間なく浴びせる。そして怯んだ隙にショットガンで頭部を撃ち抜く。その刹那、霧のようにその姿は消えてしまい、まるで存在していなかったかのように周辺は静寂に包まれた。

 

ホシノ「……終わった。疲れたよぉ……」

 

シロコ「ん、報酬は紫色のメダルでいい」

 

ノノミ「お疲れ様でした〜」

 

黒服「ご苦労様です。本来であれば一時的に休憩をさせたい所ですが……どうやらお客様です」

 

ヒエロニムスを討伐した先の通路から亡霊の群勢が入ってくる。そして彼女は再度武器を構えて戦いに乗り出した。



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VS指揮者

ミヤコ「……ここは?」

 

ユウカ「広い空間に出ましたね……」

 

ハナコ「あれが淑女なのでしょうか。なんて禍々しい……」

 

ワカモ「淑女?うふふ……今すぐにでも息の根を止めて差し上げましょう!!」

 

ノドカ「いえ、あれは淑女ではありません。ずっと先生を見ていたのであんな紫色と接触していませんでした!」

 

ミヤコ「成程。……ずっと先生を見ていた?詳しくお伺いしても?」

 

チナツ「尋問は後にして一先ずはあれの対処から始めましょう」

 

ミヤコ「失礼、取り乱しました。では各自配置に……」

 

指示を出そうとした直後目の前に存在する異形が指揮を始め周りに居る群勢が奏でる。思わず引き込まれてしまいそうになる音色に抗うように発砲をして戦闘を開始した。

 

初めの方は善戦出来たものの演奏が長引くにつれて徐々に追い詰められていく。連携も崩れていきやがて曲の終了と共にとてつもない不可ダメージを喰らって全員膝をついてしまった。

 

ユウカ「まさかシールドを貫通してくるなんて……計算外よ」

 

ミヤコ「まだ撤退をする訳には……」

 

チナツ「ハナコさん、この薬剤を霧状にして散布しましょう。一度体制を立て直して再挑戦を」

 

ハナコ「……そうですね。命が尽きてしまう前に退散するのも手です」

 

ノドカ「それが良いです……」

 

ワカモ「情けない方々ですわね。いいでしょう、私は1人でもかの者を滅ぼすまでこの命を燃やしましょう。『私の』先生を傷つけた対価は支払って頂かないといけませんから」

 

「"気持ちは嬉しいけど死んで欲しくはないよ"」

 

ユウカ「先生!?どうして此処に……」

 

「"それは後で話すよ。今は……うん、酷い状況なのは分かったよ"」

 

ミヤコ「ここから立て直すのは至難です。しかし私は……いえ、私達は先生を信じています」

 

チナツ「共に試練を乗り越える共同作業を始めましょう」

 

ノドカ「私も倒れていられません!」

 

ハナコ「全指揮をあなたに委ねます。信頼出来る大人であるあなたに」

 

ワカモ「うふふ……愛の前では無力という事をあの醜い化け物に教えて差し上げましょう♡」

 

ユウカ「……先生、ちょっとお時間いただきます!」

 

「"……皆いくよ!"」

 

生徒を指揮する者、先生。異形の指揮者『グレゴリオ』。2人の指揮者が互いに見合う。グレゴリオは何もせずこちらを眺めていたがシッテムの箱を構えた姿を見るとそれに応えるように指揮を始める。

 

ミヤコ「(……やはり先生の指揮は凄いです。身体が軽く感じます)」

 

ワカモ「(嗚呼、これがあなた様の愛なのですね。なんて心地よいのでしょう……)」

 

演奏が、指揮が長引けば長引くほど不利になった先程は違いこちらの勢いが増していく。歪だった連携が先生というピースが揃った事によりシナジーを生んでいるのだ。まるで所属が違う学園でも同じ方向を向いて歩けると証明するかのように息が合っている。

 

やがて主導権を奪われた異形の指揮者はタクトを床に落とした。その好機を見逃す事なく畳み掛ける生徒達。こうして蒼き指揮者の炎は燃え上がる事もなく塵となって消えたのだった。

 

「"皆お疲れ様。疲れただろうし休憩でも……"」

 

ハナコ「『休憩(意味深)』!?まあ♡」

 

チナツ「先生は私と休憩をするべきです」

 

ミヤコ「いいえ、ウサギではない私に構ってください」

 

ノドカ「サインください!」

 

ワカモ「……目障りな蝿が増えましたね。駆除しなければ……」

 

「"うんちょっと落ちつこうか"」

 

ユウカ「……先生。来てくれてありがとうございます。それと……あなたが先生で良かったです」

 

「"あ、ありがとう"」

 

ーーー

 

淑女「ああ忌々しい!何が生徒ですか!所詮使い捨ての道具に過ぎないと言うのに!やはり心臓を貫いておけば良かったですね。……いえ、まだこちらには数千規模の兵士が居ます。疲弊した奴らの元に送ればジリ貧になるでしょう。精々束の間の安息に浸っているといいですよ」



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VSバルバラ&アンブロジウス

1人の少女は罪を背負った。例え操られていたとしてもそれは言い訳に過ぎない。何人もの人を不幸にした少女は許される事はないだろう。

 

ミカ「………」

 

目の前に居る自分が誘拐して神秘を吸い取られ続けているゲヘナの生徒。その拘束具を壊していき次々と解放していく。

やがて全員の拘束具を破壊し終えると介抱して意識が戻るのを待った。

許されなくても誠心誠意謝罪をする為。蔑まれても仕方がない。これでゲヘナとトリニティの溝が深まってしまっても。

 

ミカ「全部私が悪いんだから……」

 

淑女「ええ。全てミカの責任です。ゲヘナばかり誘拐したのも解放してしまった事もね」

 

いつの間にか背後に淑女が居たようだ。しかし動揺する事もなく振り返って元凶に向き直る。その表情に迷いはない。

 

ミカ「うん。貴女に操られた弱い私が悪いんだ。だから……貴女を倒して償う」

 

淑女「所詮生徒とは身勝手な存在。いずれこうなる事は理解していましたよ。ですがこのまま戦っても面白くないですね……そうだ、こうしましょう」

 

彼女を周りをユスティナ聖徒会とヒエロニムスの複製体である

『アンブロジウス』が囲んでいる。逃げ場は完全に塞がれたようだ。

 

淑女「ミカは何分持つでしょうか?もし膝をついてしまったら神秘を吸い取ったゴミ共々始末されるでしょうね。精々頑張ってください」

 

言いたい事を一方的に言い淑女は去っていった。

この状況は絶望的だ。それでも彼女は1人戦う決意をして引き金を引いた。

 

あれから何分が経過しただろう。亡霊達を数百体は倒したのにまるで無限に湧いてくるようだ。

 

ミカ「……大丈夫。まだ戦える。全部を出し切るんだ」

 

少し前の自分は何かと理由をつけて逃げようとしただろう。自分は悪くないと言い訳をして拗らせていたかもしれない。それでも今回は、今回だけは逃げる事も言い訳する事もしないと決めたのだ。

気力を振り絞るように戦闘態勢に入り敵を攻撃する。その姿が意識を取り戻したゲヘナ生達に見られている事にも気づかずに戦い続ける。

 

しかし限界はきてしまうもので、一回り大きい亡霊に右腕を撃たれた際に銃を落としてしまった。そしてそのまま集中砲火を受け意識が朦朧としてくる。

 

ミカ「(……もう、駄目かな。やっぱり私には何も守れないんだね」

 

力無く仰向けに倒れ天井を眺める。朽ちて亀裂が入った隙間から見える月に照らされて少し安心した。

 

ミカ「迷惑ばかりかける悪い子でごめんね」

 

マエストロ「全くその通りだ。本当にお前は手が掛かる生徒だな」

 

ミカ「えっ……」

 

突然周囲の敵を蹴散らすように砲撃が放たれている。そんな中突如現れた先生に抱き抱えられて「よく頑張ったな」と告げられた。

 

ミカ「頑張ってないよ……私はただ自分が誘拐しちゃったゲヘナの子達を守ろうとして……」

 

マエストロ「お前は私の生徒に恥じない行為をしたのだ。だがもう充分だ。後は私達に任せてもらおう。そこのゲヘナの生徒達よ、私の大事な生徒を頼んだ」

 

ゲヘナ生A「はい!」

 

ミカ「……ごめんね。私は貴女達に酷いことを……」

 

ゲヘナ生B「確かに私達は貴女に連れられて監禁されていましたが……先程まで命を張って守っていた姿を見ていたら憎しみなんて些細な事なんて忘れました」

 

ゲヘナ生C「それに私達の母もこう言うでしょう。『笑って水に流す』と」

 

ゲヘナ生A「そういう事ですので貴女の罪を許します。罪を背負う必要はないんですよ」

 

ミカ「でも……それだと私が私自身を許せないよ……」

 

ゲヘナ生A「……ではお名前を教えてくれませんか?それだけで構いません」

 

ミカ「……聖園ミカ」

 

ゲヘナ生A「トリニティの『聖園ミカ』さんですね。今後忙しくなるかもしれませんがよろしくお願いします!」

 

ミカ「えっ……えっ?」

 

マエストロ「あっちは大丈夫そうだな。……さて、2人とも覚悟はいいか?」

 

セイア「当然だよ」

 

ナギサ「ええ。準備は出来ております」

 

マエストロ「私の芸術品を傷つけた対価を支払ってもらうとしよう」

 

合図と共に再度砲撃が放たれて亡霊達を浄化していく。数分もかからないうちに残されたのは二体のみだった。それも既に瀕死の状態であり、ナギサとセイアが放った銃弾であっさりと消えていった。

 

マエストロ「所詮は概念の複製。その弱点は私が1番理解しているつもりだ」

 

ナギサ「ええ。簡単な事でしたね」

 

セイア「この後は淑女を倒しに行くのかい?」

 

マエストロ「いや、それは私の役目ではない。ミカを治療しなければならないからな」

 

ーーー

 

淑女「……やはり貴女が此処に来るのですね。もう1人の私よ」

 

ベアトリーチェ「ええ。決着をつけましょう」



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ベアトリーチェという教師

淑女「決着をつける、ですか。そのボロボロの身体でよくもまあそんな大それた事が言えますね。生徒の前だから格好つけているのでしょう?痩せ我慢はよしなさい」

 

ベアトリーチェ「ええ、痩せ我慢ですとも。私の子供達を傷つけた貴女は私の手で葬らねばならないのです」

 

淑女「一応聞いておきましょう。教師などという無駄な肩書きを捨てて私の良き協力者になるつもりになりましたか?」

 

ベアトリーチェ「断るに決まっているでしょう。そのような悪事に手を貸すなど大人として、教師として恥ずべき行為です」

 

淑女「愚かな!!貴女も、そしてあの先生も!子供とは搾取されるもの!迫害されるもの!その愚かさが!絶望が!憎悪が!我々大人の糧となることが何故わからない!」

 

ベアトリーチェ「黙れ」

 

淑女「!?」

 

ベアトリーチェ「子供達の絶望や憎悪?そのようなものを見たところで心が痛むだけだと何故理解出来ないのです!自分勝手に生徒を利用し苦しませる行為などあってはなりません!そのような当たり前が理解できない貴女こそ愚かですよ!」

 

淑女「……いいでしょう。私を愚かだとほざく貴女にどちらが正しいのかを教えて差し上げましょう!」

 

淑女は醜い化け物となりこちらに接近してくる。その刹那前に出て攻撃を防ぐはベアトリーチェの誇るゲヘナの風紀委員長、空崎ヒナ。殺意と憎悪を糧に生きる淑女とは違いただ母を守りたい、その一心でこの場にいる。

 

淑女「貴女も偉そうな事を言っていましたが結局は生徒を利用していますね!」

 

ヒナ「私は私の意思で此処にいる。利用する事しか脳のない貴女と一緒にしないで」

 

淑女「ガキ如きが偉そうに!!」

 

怒り狂う淑女の猛攻をヒナは見切って避けつつも母に攻撃が当たらないように誘導している。

 

ヒナ「淑女だっけ?いい事を教えてあげる。ゲヘナ学園はね、治安が悪いのよ」

 

淑女「だからどうしたと言うのです!!」

 

ヒナ「全てのゲヘナ生の逆鱗に触れた貴女に体験してもらおうと思って」

 

淑女「一体何を……ぐっ!」

 

ヒナの背後から猛スピードで衝突してくる車。それに直撃した淑女は数メートル吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。

 

フウカ「はぁ、結局車を壊す事になるなんてね……」

 

ジュリ「これで何台目でしょうか……ですが今回だけは清々しい気分です」

 

イズミ「あれ……食べれるのかな?」

 

アカリ「あの大きさなら一食分は賄えますね♪」

 

ジュンコ「怖い事言わないでよ……カニバリズムは駄目だって」

 

ハルナ「どうでしょうフウカさん、これを機に美食研究会に加入しませんか?」

 

フウカ「いいから淑女を攻撃しなさいよ」

 

淑女「……中々やりますね。しかしこの程度で私が倒れるなどと思わない事で……」

 

ハルカ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

淑女「……?」

 

ハルカ「足元に大量に地雷を置いてしまってごめんなさい!」

 

ムツキ「ついでに手が滑って爆弾投げちゃった。ごめんね〜☆」

 

淑女「爆弾如き回避すれば……な、何故身体が動かないのです」

 

カヨコ「へえ。淑女でも恐怖に怯える事はあるんだ」

 

アル「あんな的なら片手でも命中させられるわね」

 

次に淑女を襲うは大規模な爆発。一時的に片膝をついてしまう程にはダメージを受けてしまうがすぐに立ち上がった。そして顔を上げた直後視界に入るのはドリル。……ドリル?

 

カスミ「ハーッハッハッハッ!愚かな淑女にプレゼントだ!」

 

メグ「ドリルだけじゃ足りないよね?火炎放射もあげるよ!」

 

セナ「火葬ですか。これで患……死体になりますね」

 

ドリルを受け止めながらも火炎放射を浴びせられて徐々に追い詰められていく淑女。その表情からは余裕は感じられず完全に生徒達に翻弄されている。

 

淑女「……いい加減にしなさい!こちらは真面目だと言うのに!」

 

ヒナ「私達は真面目よ。それぞれのやり方で母を守っているに過ぎない」

 

淑女「……しかしゲヘナの戦力が揃ったとはいえあまりにも貧弱ですね。悪くない攻撃ではありましたが致命傷にはなりませんでしたよ」

 

ヒナ「何を言っているの?まだ戦力は揃ってないわよ」

 

淑女「……ほう、今度は砲撃ですか。しかしこの程度では私に傷を負わせる事は不可能です」

 

イロハ「それはそうでしょうね。それは視界を塞ぐ為の煙幕ですから。本命は今から撃ちますよ」

 

イオリ「委員長、これで全員揃ったよ!」

 

ヒナ「よし。全員一斉放火!」

 

ヒナの合図と共にそれぞれが淑女を攻撃する。流石に堪えているのか呻き声が時々聞こえてくる。

 

ベアトリーチェ「嗚呼、私の生徒達……こんなにもたくましく成長した姿が見れるなんて……」

 

アコ「貴女に助けを求められたら仕方ないですよね。……ご無事で何よりです」

 

ベアトリーチェ「私が無事なのは貴女達のおかげですよ」

 

淑女「……認めない、認めない認めない、認めない!搾取されるだけの子供如きに遅れを取るなど!!そのような結果、認めるものカァ!!」

 

叫び終えた淑女は突如時空の裂け目のようなものを生成して逃げ込んだ。その奥はとても禍々しい空間が広がっているように見えた。

 

ベアトリーチェ「……生徒達よ、来てくださりありがとうございます。ですが……後の事は任せてくれませんか?どうしても私の手で決着を付けたいのです」

 

ヒナ「分かった。でも私はついていく。それだけは許して欲しい」

 

アコ「他のメンバーはそれぞれ残党の処理を行います。必ず帰ってきてくださいね」

 

ベアトリーチェ「はい。約束します」




次回淑女とのラストバトルです。

今回はどうしてもプレイアブル化されているゲヘナ生を全員出したかったんです


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母への証明

ベアトリーチェ「この空間は一体……?」

 

ヒナ「変な感覚……」

 

時空の裂け目に足を踏み入れた2人はなんとも言えない気持ち悪い感覚に襲われている。そして目の前でうずくまっている淑女を見て何故か胸騒ぎがする。

 

淑女「1匹邪魔者が居ますがいいでしょう。これが最後です」

 

ベアトリーチェ「ええ。ケリをつけましょう」

 

淑女「さあ、貴女も変身しなさい。全てをぶつけてくるのです!そしてそれらを叩き潰して私が正しいと証明します!」

 

ベアトリーチェ「変身能力は……とうの昔に失っています」

 

淑女「……何ですって?」

 

ベアトリーチェ「私に備わっていた変身能力は自身を1番強いと信じて疑わない、それこそが崇高へと至る道だと考えていたから為せた技なのです。今の私の崇高はここにいるヒナですから」

 

淑女「……嗚呼、実に愚かです。見損ないましたよ」

 

ベアトリーチェ「それはお互いにそう思っているでしょう?」

 

淑女「違いありませんね。……それでは生徒から奪った神秘と私自身に備わった色彩の能力を使いお前達2人を殺して差し上げましょう!」

 

そう高らかに宣言した淑女は神秘を自らに注入して先程よりも禍々しい姿となる。そこに淑女としての意識はなく、色彩に身を委ねた獣に成り果ててしまった。

 

淑女「教師ベアトリーチェ、そしてその生徒よ。

死ぬ覚悟は出来ていますよねェ!」

 

ヒナ「……マザー、あいつは私に任せて。トドメはお願い」

 

ベアトリーチェ「ヒナ……?しかし淑女は私が……」

 

ヒナ「私は証明したい。淑女を打ち倒してマザーが正しいという事を」

 

決意を込めた瞳でこちらを見るヒナ。そこにはいつものような甘えたがりの面影はなく立派な生徒の顔つきになっていた。その成長ぶりに応えるように「頼みましたよ」と激励をかけた。

 

銃を構えて淑女とぶつかり合うヒナ。前回とは違い力は互角……どころか淑女が押していて苦戦している。

 

ヒナ「くっ……強くなってる……」

 

淑女「どうしました!?証明するのではないのです!?それとも自らが弱いという事をアピールしているのですか!?」

 

ヒナ「……違う……私は証明するんだ……」

 

淑女「あの木偶の坊といい……何故お前達は雑魚の分際で偉そうに語るのですか!」

 

ヒナ「……木偶の坊?」

 

母を馬鹿にされて沸々と怒りが込み上げてくる。木偶の坊という言葉は最大の侮辱だ。それだけは訂正させないといけない。

 

淑女「ええ。所詮自らの強さを捨てた哀れな大人。木偶の坊という言葉がお似合いですよね!」

 

ベアトリーチェ「……ええ、そうかもしれませんね。私は……」

 

ヒナ「違う!木偶の坊なんて言わせない!私の母は……誰よりも優しくて誰よりも強い!私はそれを証明するんだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

淑女「!?」

 

かつてのゲマトリアは自ら神々を作ろうとし預言者達を生み出した過去がある。その理由は忘れられた神々を幾ら実験しても覚醒する目処が立たないと判断したからである。ベアトリーチェは意図せずその条件を満たしかつてのゲマトリアの崇高へ到達したのだ。

忘れられた神々から新たなる神へ生まれ変わるその少女の名は空崎ヒナ。『白い秩序』の名を背負い彼女は母の想いに応える為生誕した。




覚醒したヒナ……書きたかったんです


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最終決戦

淑女「この土壇場で変身ですか……しかし所詮は無駄な足掻きですよ!!」

 

ヒナに向けて放った淑女の拳は空を切る。その刹那腹部に重い一撃を叩き込まれて呻き声をあげる淑女。

 

ヒナ「母を冒涜した罪を償え」

 

淑女「図に……乗るナァ!!」

 

我を忘れ自我すら崩壊しかけている淑女。そのような生半可な拳が覚醒したヒナに届く事はなく一方的な戦いになる。

淑女を攻撃する度に更に洗練されていく動作。

それらは神々しく感じるほど美しい。

 

ヒナ「終幕を迎える覚悟は出来てる?」

 

彼女は愛銃を手に取り静かに構える。それに込めるは銀弾の軌跡。

白い秩序は過ちを犯した淑女を断罪する。

 

淑女「ホザケェ!!」

 

理性の欠片すら残らない獣はただ殴る事しか考えられていない。

戦場では理性を欠いた者から死んでいくのだ。

 

ヒナ「……哀れね」

 

引き金に指をかけ彼女は心の中でこう唱える。『ディレス・イレ』と。

2本の釘のような弾丸を放ち淑女を壁に固定する。

身動きが取れない淑女に対し十字架を刻むように弾幕を展開する。

地面は高熱で溶けそうな程熱せられた罪人。

さあ、舞台は整った。

 

ヒナ「新幕:ベアトリクス」

 

嬲られた母の痛み。利用され傷ついたゲヘナとトリニティの生徒。その想いを全て込めた一撃を淑女の頭部に撃ち込み、そして爆発した。

 

淑女「ウ゛ウ゛ウ゛カ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」

 

鼓膜が破れるほどの轟音で断末魔をあげる獣。やがて大人しくなったかと思えば変身が解けて元の淑女の姿に戻りうつ伏せで倒れている。

ヒナは勝利し、母が正しい事を証明したのだ。

 

ベアトリーチェ「ヒナ……ありがとうございます」

 

ヒナ「……疲れたから後で甘えさせて」

 

ベアトリーチェ「勿論です。ですがその前にやる事があります」

 

銃を手に取り淑女に近づいていく。そして目の前で銃を放り投げ、代わりに手を差し伸べた。

 

淑女「……何のつもりですか?」

 

ベアトリーチェ「私は思うのです。同じ私ならば貴女も生徒という存在の尊さが、素晴らしさが、共に過ごす幸せが理解出来ると。1から始めてみませんか?」

 

淑女「おかしな話を……私を憎んでいるのでしょう?」

 

ベアトリーチェ「勿論生徒を傷つけた事は許す事はないでしょう。しかし人間はやり直せる生き物です。それは貴女であろうとも例外ではありません」

 

淑女「……愚かですね。敵である私に情けをかけるなど……いえ、そのような貴女だからこそ私は敗れたのでしょう。ここは潔く去る事にします」

 

悟ったような表情で徐々に光の粒子となり消えていく淑女。慌てて手を掴もうとしてが身体をすり抜けてしまい振れることすら許されないようだ。

 

淑女「私は……舞台装置以上の存在になれたでしょうか……?」

 

誰かにそう問いかけるように呟き淑女はその生を終える。自分の死を看取るというのも中々信じてもらえない光景だろう。

 

ヒナ「……あっ……」

 

ベアトリーチェ「ヒナ!?大丈夫ですか!?」

 

ヒナ「うん……ちょっと疲れただけ」

 

いつの間にか元の姿に戻っている彼女。どうやら覚醒は体力の消耗が激しく数分程度しか維持出来ないようだ。

無理をしてまで戦ってくれた彼女に感謝をし、抱き抱えながら時空の裂け目の出口へ向かった。

 

かくして淑女との決戦は大勝利という形で幕を閉じるのであった。




偶然にも100話という節目に決着がつきました


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終戦、そして和解

淑女との戦いが終わりそれぞれの教師は生徒を連れて学園へ戻る。その最中にそれぞれの関係が良好になるものもあり……

 

ベアトリーチェ「貴女達!無事だったのですね!」

 

ゲヘナ生A「はい。トリニティのミカさんが命懸けで守ってくれたおかげです」

 

ベアトリーチェ「何ですって!?これはもうお礼をしなければなりませ……ヴッいきなり痛みが……」

 

セナ「ぎっくり腰ですね」

 

ベアトリーチェ「私もおばさんに覚醒してしまったのでしょうか……」

 

アコ「相変わらず最後まで締まらない人ですね。あ、先程ここにいるゲヘナ生全員で話し合った結果怪我が治るまで休ませる事になりました」

 

ベアトリーチェ「しかし休んでなどいられません。皆の汚れた制服を綺麗にしたり他学園の生徒を愛でたりやる事は無数にありますから」

 

アコ「破った場合1人ずつ貴女を嫌いになるという覚悟をしていますよ」

 

ベアトリーチェ「安静にしているので嫌いにならないでください」

 

日常に戻ったかのようなやり取りをしながらも心の中はモヤモヤとしている。それは淑女と分かり合えなかったからなのか、それともまた別の理由があるのか……しかし今はそれよりも優先するべき事がある。

 

ベアトリーチェ「早く帰ってヒナと添い寝がしたいですね」

 

ーーー

 

あれから数日後。それぞれの学園に戻ったゲマトリア達とその生徒は普段と変わらない生活に戻っていた。そして未だにぎっくり腰が治らないベアトリーチェとその付き添いであるヒナはゲヘナ学園の正門でとある来訪者を待つ。

 

ベアトリーチェ「流石に3時間前に待機しているのは早すぎたでしょうか……」

 

ヒナ「うん」

 

そんな何気なく、そしてくだらない会話をしているとお姫様を乗せた馬車……とはお世辞にも言えない程理解し難い芸術のようなデザインの車が正門付近で停車した。紳士……と呼ぶのは癪なので芸術野郎が降りてくると助手席からとても可愛い可愛いお姫様のような生徒が現れて思わず突撃しそうになる衝動を抑えて冷静になる。

 

ベアトリーチェ「しかし何故私は今この生徒のたわわな空間に顔を埋めているのでしょうか。やはり理性というものは肝心な時に働かないのです」

 

マエストロ「私の生徒にセクハラをするな」

 

ベアトリーチェ「いえ私のはスキンシップです。この柔らかく心地よい空間はまさに神秘なのですよ」

 

マエストロ「その単語に釣られるのは黒服だけだろう」

 

ベアトリーチェ「違いありませんね。あの朴念仁なら釣られるでしょう、HAHA……今何処から殺意の念を向けられたような気がします。命が惜しいのでもう黒服を馬鹿にする事は出来ません」

 

ちょっと離れたところからショットガンをしまう音が聞こえたのを確認してから本題に入ろうと2人を学園内に招き入れた。

 

ーーー

 

ミカ「改めて……この度は本当に申し訳な……」

 

ベアトリーチェ「謝らなくて結構です。貴女は操られていたに過ぎないので不可抗力というものでしょう。つまり私がさっきおっぱいダイブをかましてしまったのも不可抗力です」

 

マエストロ「だからセクハラをするな」

 

ミカ「私のでよければ全然触っていいけど……えっと……」

 

ヒナ「………」

 

見つめ合う2人。それは恋の始まりではなく不穏な事が起こりそうな雰囲気がする。ゴゴゴゴと音が聞こえてくるような威圧感を放つヒナが言ったセリフは

「憎しみからは何も生まれない。私はそう教えられたから貴女を許す」と素晴らしいものだったので感情が爆発した。

 

ベアトリーチェ「あ゛ぁ゛^〜ヒナちゃん可愛いねぇ流石私の1番最高で素敵で可愛くて可憐で強くてエッチな生徒ですねぇ〜」

 

ヒナ「……照れる」

 

ミカ「……ねえ先生、私ゲヘナの事誤解してたのかもしれない。正気ではないけど生徒想いのへんた……先生は居るし生徒達も普通の女の子……?だし。今まで何も知らないのに差別してたのが馬鹿らしくなったよ」

 

マエストロ「そうだな。理解する前から毛嫌いしてしまうのは人間としてはあまりいいものではない。何故苦手か、嫌いかを分析するのも大切だ。そして分析した結果今まで嫌っていたものがそうでもなくなる時もある。無論全部が全部そういう訳ではないがな」

 

ベアトリーチェ「つまりおっぱいが好きな人も居れば嫌いな人も居る……そういう事です」

 

マエストロ「最低な例えをするな。早く本題に入るぞ」

 

ベアトリーチェ「……そうですね。ここからは真面目に話しましょう。トリニティとゲヘナの交流についてですが……こちらは問題ありません。むしろ「何故もっと早く考えてくれなかったのか」と文句を言われてしまいましたよ」

 

マエストロ「こちらも似たような印象だな。特定の生徒はゲヘナまで水着で歩いていきたいと希望していたが……」

 

ベアトリーチェ「それはつまり襲っていいと?」

 

マエストロ「真面目に話すのではなかったのか?」

 

ベアトリーチェ「冗談ですよ。では誓いの儀式を始めましょうか。私の可愛いお姫様ことヒナ、こちらへ」

 

ヒナ「……うん」

 

マエストロ「ミカも来てくれ」

 

ミカ「……あっうん……」

 

それぞれの教師が見届け人となり人知れず交わされた誓い。

ゲヘナとトリニティ、深い溝があり理解し合えぬ歴史を辿ってきた2つの学園、その権力者が握手をして宣言する。

 

「「ゲヘナとトリニティは互いに協力しこの世界を守っていく事を偉大なる母と大いなる父に誓う」」

 

いつしか深い溝は消えて学園同士のわだかまりが完全になくなるのを夢見て誓い合った2人。それを拍手し祝福する偉大なる母と大いなる父……

 

ベアトリーチェ「……お待ちなさい、大いなる父とは誰の事ですか?」

 

ミカ「先生の事だけど……」

 

ベアトリーチェ「こんな芸術にしか興味がない朴念仁2号が大いなる父?面白い冗談を言いますね」

 

マエストロ「それを言うなら何が偉大なる母だ。大変態で充分だろう」

 

ベアトリーチェ「何ですって?よくもまあ……私にそのような口を」

 

……やはりしばらく溝は残るかもしれない



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後日談

トリニティとゲヘナの関係が良好になったとの記事を見る。2人の生徒が握手をしている写真とそれに対する教師からのコメント、もとい駄文が数十万文字以上書いてあるが正直興味はない。

何故ならこちらの方が深刻な状況だからだ。

 

ホシノ「うへへぇ……」

 

この抱きついて胸元に顔を埋めている生徒をどうするか。

ホシノは淑女との戦闘において目論見通り体内の恐怖を増幅し自らを強化する姿を見せた。仮にこの状態を『恐怖(テラー)化』とでも名付けるとしよう。

 

異常なまでの身体強化を実現し憎悪と復讐心の赴くままに暴走する。

とても良いメリットではあるだろう。この変身を自由自在に使いこなせるようになればより強い生徒になるとは思うが今のホシノには難しいだろう。

 

その理由は変身の代償があまりにも大きいというもの。

恐怖化を維持できる時間は約5分。その後は10分以上動けなくなる。

その程度はまだ優しい方だ。問題は次の……

 

黒服「(私から24時間離れなくなった事ですよ)」

 

変身のきっかけが黒服が撃たれた事によって失う恐怖を増幅させた事。

そこからしばらくは淑女との戦闘もあり普段と変わらなかったものの、アビドスに戻り後輩が下校するや否や抱きついて離れなくなった。

睡眠、風呂、トイレ諸々プライベートな空間まで付き添おうとするのは誰であっても嫌だろう。1度ついてこないでほしいと頼んだのだが

「駄目だよ。視界に居てくれないと守れないじゃん」と聞く耳を持たない。挙げ句少しでも離れようとしたら物凄い力で引っ張られて

「離れちゃダメ!」と叫ぶようにもなった。

 

ホシノ「先生……せんせぇ……」

 

ベアトリーチェ曰く「ヤンデレですって!?なんて羨ましい!私の生徒には1人も居な……居ましたごめんなさい」との事。

正直なところ解決策が思いつかず八方塞がりの状態だ。

頼みの綱であるアリスとケイに頼んで引き離そうとしても

「本気で怒られたので無理です」と断られる始末。

 

ホシノ「好き」

 

……結局この地獄のような管理体制から逃げる事は出来ないようだ。

真に恐ろしいのは淑女などではなくホシノなのかもしれない。

 

ーーー

 

ナギサ「う゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ん゛」

 

マエストロ「………」

 

彼は目の前にいる自分の生徒に似た何かに困惑している。普段はしっかりした頼れる存在とも言えるナギサがボロ泣きしているのだ。

ジェネリックナギサなのだろうか?それともミレニアム生の悪戯かあるいは……

 

マエストロ「何が起きたんだろうか」

 

セイア「ああ、この前他の子とゲヘナに行った時に……」

 

ーーーナギナギ過去話

 

ナギサ『これがペロペロ様なのですね』

 

ヒフミ『あはは……ペロロ様ですよ?『2度と』間違えないでくださいね』

 

ーーーナギナギ過去話終わり

 

ナギサ「ヒ゛フ゛ミ゛さ゛ん゛に゛嫌゛わ゛れ゛て゛し゛ま゛い゛ま゛し゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」

 

マエストロ「つまり脳を破壊されて情緒がおかしくなった結果こうなったんだな」

 

ミカ「ナギちゃん面白いね」

 

セイア「そっとしておいてあげよう。それよりもミカ、なんだか先生と距離が近くないかい?」

 

ミカ「き、気のせいだよー……」

 

セイア「よし内戦だ。先生の隣は私の特等席なんだよ」

 

ミカ「いいや私の特等席にする!」

 

セイア「ゴリラに恋愛が出来るわけないだろう。諦めた方がいい」

 

ミカ『あ?』

 

マエストロ「………」

 

紅茶の香りを嗅ぎながら彼は1人こう思う。

『トリニティは平和だな』と。そして現実から目を背けてしまった。

 

ーーー

 

サクラコ「わっぴ〜☆今日もサクラコのライブに来てくれてありがとう!!今日はゲヘナ特別なゲストを呼んで来たよ!皆が大好きなあの人だよ!!」

 

アル「………」

 

サクラコ「一夜にして解散してしまった伝説のアイドルグループ

『イタズラ★ストレート』のアルちゃんでーす!!」

 

観客「ワァァァァァァァァァァァ!!」

 

サクラコ「アイドルの大先輩が来てくれるなんてサクラコ大感激!!

さあさあアルちゃん、ひと言お願い☆」

 

アル「……ど、どどど、どうしてこうなったのよぉー!?」

 

第3部完




ハッピーエンドではなく

わっぴ〜エンドでした

あと余談なんですけどアンケート貼っておきます


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間章三
歪んだ愛と歪んだ好奇心


黒服「それでは訓練を始めてください」

 

ホシノ「はーい」

 

黒服「………」

 

彼はホシノの動向を探り訓練に集中している事を確認すると全速力で走り出し距離を取ろうとした。校門を通り500M程離れた事を確認して一息ついた。

 

黒服「これでしばらくは安心でしょう……!?」

 

ホシノ「どうして逃げるの?」

 

まるで初めからそこに居たかのようにホシノは目の前に存在している。そのままゆっくりと近づいて来て胸ぐらを掴み

「私の事嫌いになっちゃったの?ねえ答えてよ」と問いかけてくる。

その眼からはハイライトが消えており命の危険を感じた。

 

黒服「いえ、訓練後のご褒美を買い忘れてしまったので急いで買いに行こうと……」

 

ホシノ「なーんだ。それなら良いんだ。それじゃあ、『一緒』に行こうね♡」

 

黒服「え、ええ……」

 

ホシノ「2人のデート、久しぶりだね♡」

 

光のない眼でこちらを見て笑いながらホシノはそう語りかけている。

彼女に注入した恐怖がこんなにも悪さをするとは。

こういう時シャーレの先生ならどう対応するのだろう?

だがいくら生徒と親しく交流している彼でも流石に殺意を向けている子に好かれる事はないのかもしれない。

一先ずは諦めてホシノと手を繋いで近くのお菓子屋に向かう事にした。

 

黒服「……?」

 

たまたま視界に入ったホシノのヘイローの1部が黒く染まっている事に気づいた。まるでそこの部位だけ初めから黒かったかのように存在していたので意識していなかったが……

いつからこうなっていたのだろうか?少なくとも淑女と戦う前はピンク色だった記憶はある。そこから導き出された答えは1つ。

恐怖化により精神に異常が発生しているのだろう。

 

そうなるとこんな疑問が頭を過ぎる。全て黒く染まったらホシノはどうなるのだろうか?死ぬ?それとも別の神として生まれ変わる?

憶測が止まらなくなってしまうが確実な事は黒く染まる様を見てみたいという科学者としての衝動に頭を支配されてしまいそうになっている事だ。

 

黒服「(しかしマダムが言っていた『ヒナが私の神になりました』というのも引っかかりますね。まああの変態の事ですしコスプレさせた姿が神、というくだらない展開かもしれませんがね)」

 

ホシノ「先生?今他の子の事考えてるでしょ?駄目だよ?私と居る時は私の事以外考えちゃ駄目だって言ったじゃん。聞いてる?先生?ねえ?どうして眼を合わせてくれないの?私の事嫌いになったの?」

 

黒服「……いえ、こんなにも慕ってくれる生徒が居てくれて幸せだなと考えていました」

 

ホシノ「うへへ〜///照れるなぁ///」

 

目の前にいる生徒は何なのだろうか?殺意を感じつつも少し優しい言葉をかけただけでこんなにもデレデレするのだろうか。

アホ毛でハートマークを生成してアピールしたりと側から見たら可愛い生徒に見えるのだろうが……

そういえば昔からホシノから『好き』と言われていたような気がする。恋愛感情を向けられていたのは認知していたがその理由については考えていなかった。

 

ホシノ「また考え事してる……妬いちゃうよ?」

 

黒服「ああ、ホシノの事を考えていました。ずっと疑問だったのですが貴女は何故私の事を好きと言うのかと」

 

ホシノ「ふぇ」

 

黒服「いい機会ですし教えて頂けませんか?」

 

ハルナ「一目惚れですわ」

 

黒服「そうですか」

 

……不意に気づいてしまった。右腕に抱きついてきたゲヘナからの刺客が死神を呼んできていると。そしてその死神は左側に存在していると。

 

ホシノ『おい……私の先生に触るな』

 

ハルナ「違いますわ。私の先生です」

 

ホシノ『2度とそんな事を言えないようにしてやる』

 

大地が揺れて天が裂ける。このハルナという生徒は何故こんなにもタイミングが悪く、ホシノの逆鱗に触れられるのだろうか?

その後命知らずのハルナとホシノによる大激戦が始まり黒服争奪戦争は激しくなっていった。

そして黒服は愛は恐ろしいと認識したそう。



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ゲヘナ教師の論文

論文 『白い秩序空崎』ヒナについて

 

まずこの話の前提知識としてヒナという生徒が如何に素晴らしく模範的で愛らしい小動物のような魅力がある事を語らなければなりません。

彼女は俗に言う『幼児体型』と呼ばれる存在であります。

そして高校3年生。つまりこの時点で可愛いのです。

考えてもみてください、高校生でありながら甘えてくる可愛い姿を。

悶え死ぬでしょう?撫でたくなるでしょう?持ち帰りたくなるでしょう?だから私はヒナを崇高したのです。

ただし中にはこう思う人もいるでしょう。『ロリコンきもい』と。

ええ、仰る通りです。ですがその意見には反論できます。

何故なら私はヒナの自称母親なのです。つまり娘を愛でているだけ。

母として当然の行為であるのです。この世界に存在している真のロリコンは『黒服』のみですのでご理解頂きたい。

 

では本題に入りましょう。数日前、この世界には『淑女』と呼ばれる悪い悪い大人が現れました。我がゲヘナ学園も被害は甚大でありその傷痕は未だに残り続けています。心の傷というものは癒えるのに時間が掛かるものです。

 

これ以上脱線すると本気で怒られそうなので簡潔に言いましょう。

ヒナは私の神になりました。元から神ですけどね!

 

……もっと詳細に書け?仕方ないですね。

彼女が神として覚醒した際は身長が3cm伸び、胸が少し膨らんでより可愛らしくなっていました。

ああ、ヘイローが不思議な光を発してましたね。

戦闘能力は省きます。何故ならヒナは誰よりも強いのですから話す必要はありませんよね。

そうそう、彼女の必殺技も変わっていましたね。あの場面でなければ私は爆発していたでしょう。大事な場面では爆発するのは避けておきたいので耐えましたよ。『黒服』とは違って空気が読める大人ですので。

 

ただし数分経過したら彼女は元の姿に戻り動けなくなりました。

約10分ほど身体に力が入らないようなのでその間に暴漢に襲われたらどうしようかと心配になってしまいますよね。

え、どのくらいの疲れが押し寄せてくるのか分かりにくい?

目安としては※※※を10回連続でやった後のような倦怠感があるようです。おかしいですね、そんなに攻めた事は行っていないのですが。

 

その後他のゲヘナ生にも同じように覚醒出来るのかを試しましたが

神としての覚醒はヒナにしか出来ないようです。

以上の事から私が考える覚醒条件は以下に記載します。

 

1 毎日添い寝する

2 愛を注ぐ

3 崇高の対象にする

4 出来る限り同じ時間を過ごす

 

この程度でしょう。ただしこの条件はあくまでヒナの場合に限るもの。

例えばロリコン朴念仁の『黒服』ですとホシノに対して同じ行為をしても無駄に終わるでしょう。

何故なら黒服は愛を理解できていませんからね。

 

最後になりますが結論を書かせていただきます。

 

『生徒とは素晴らしい』

 

以上、ロリコン朴念仁を許すな協会名誉会長ベアトリーチェでした。

 

ーーー

 

全てを読み終えた黒服はわざとコーヒーをこぼして駄文を黒く塗り潰した。そして机を拭いているホシノを見て覚醒出来るのだろうかと妄想をしている。



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共鳴

誰かの生は誰かの死で成り立っている。

世界はそうして均衡を保ってきたのだ。

それが崩れる事は決して起こり得ない。

その概念はキヴォトスという箱庭においても適用されている。

しかしそれの事実を理解する事も知る事も出来ない。

別の可能性が生まれた世界なんて想像はあくまで空想に過ぎない、そう考えている人がほとんどだろう。

そもそもそんな事すら考えないのかもしれない。

それが普通であり当然なのだから。

 

小鳥遊ホシノも例外ではなくそれに当て嵌まる人間だった。あの出来事が起こるまでは。

彼女はとある事件に巻き込まれて自身がいた場所とは違う世界に降りたった経験を得てしまった。

自分の世界以外の存在を理解してしまったのだ。

星の数よりも多く世界は存在しており自分の世界もその一部に過ぎないという事を。

人の欲というものは留まることを知らない。

一つを満たせば次の欲が生まれそれが原動力になる。

故に彼女はこう考える。

「先輩が生きている世界もあるのではないか」

その思考に至るのは当然とも言える。

彼女にとって失ってしまった大切なものなのだから。

今のアビドスはとても賑やかである。

後輩と、別の学園からの友人達、そして支えてくれた先生。

そんなかけがえのない存在に囲まれて彼女が幸せを感じているのも事実ではある。それでも心の罪悪感は消える事がない。

「この輪の中に先輩が居たら」

時折そう考えてしまうのにも慣れてしまっていた。

それが叶わぬ願いだと理解していたから。

そんな想いに身を馳せながら彼女は今日も墓の清掃を行い水を供える。

旧校舎の中庭。そこにある先輩を弔った墓の前で正座をする。

その場所に居る時は昔に戻ったような感覚になり自然と落ち着く。

まるで先輩が目の前に居るかのような安心感に包まれて長時間滞在したくなる衝動に駆られる事も多々ある。

前を向いていかないと理解していながらも人は後ろを振り返ってしまうもの。ましてや彼女はまだ高校生。心が弱くても仕方がないのだ。

この安心感は後輩でも、友人でも、先生ですらも与えてくれない。

先輩だけが与えてくれるこの温もりは断ち切れるものではないのだ。

 

ホシノ「……先輩に会いたいな」

 

掠れるような呟きは砂塵の中にかき消えた。

 

ーーー

 

砂漠という生命の死を象徴する場所を1人の少女が闊歩する。

腕章は砂の下に埋もれ5つの学生証を持ち歩きただひたすらに歩く。

大きな出来事が起こる事もなくただ静寂の時を刻んでいる。

ここは死んだ星。夢も希望も潰えた虚無の世界。

後輩が助けに来る事も、クエストが始まる事も、祈りを捧げる事もないただ砂漠だけが広がる場所。

世界の中心に訪れた彼女は胸ポケットに持ち歩いていた手紙を取り出して読み始める。

これは彼女にとって戒めなのだ。

どんな出来事が起ころうと許される事は決してない罪。

やがて手紙を読み終えた彼女はそれを砂の下に埋める。

冷たい瞳でそれを見下ろしていると一瞬、懐かしい顔が視界に入った。

 

「……そこに居たんだね」

 

彼女は軽く微笑みを浮かべた後に偶像に向かい歩み始めた。

 

ーーー

 

一瞬、彼女と目が合っただけで動悸が止まらなくなってしまった。

あれは何だったのだろうか。何故あのような事が……と考えてしまう。

しかし答えが出る事はなく彼女はその場を後にした。

この時、彼女は本来交わるべきではない存在に……

『色彩』に魅入られた事をまだ理解していない。

 




今まで以上に気合を入れようと思うので投稿頻度が落ちるかもしれないです。


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対の存在

逢魔ヶ時に彼女はとある研究施設に侵入した。

1人の協力者を連れて目的の装置が保管してある場所へ一目散に。幸いにも警備は薄く楽々と突破し数分も経たない間に到着した。目の前にある機械はかつて他の世界に飛ばされた際、教師達が開発したという時空転移装置。彼女はどうしても確かめたいものがある。

 

「……本当にこのような事をやっていいのでしょうか……いえ、貴女がそれを望むのであれば私は従います」

 

機械仕掛けの姉、ケイは躊躇いつつも私の為にと協力してくれる。

ありがとうと言い頭を撫でると彼女は照れたように顔を背けてしまった。装置を稼働させ数分が経過した頃、1つの世界と繋がったようで時空の穴が生成された。

 

「ありがとう。用を終わらせたらすぐに戻ってくるからね」

 

小鳥遊ホシノは意を決してその穴に飛び込んで行く。転移した先では砂一面の景色が広がり、他は何もない。そんな状況に困惑しつつも歩み始めた。

 

何故このような世界に来たのだろう。生命の存在を否定されただ砂しかないこの場所に。何を求めてここに……

 

「……何か落ちてる。手紙……?」

 

質素な手紙が砂の上に被さるように置いてあった。その手紙に触れた時、頭が割れるように痛くなる。そのまま気を失いまどろみの中に懐かしい人影が見えた。

見慣れた部屋で仮眠から目を覚ました後、机に置かれた手紙に気づいた。それを読んだと同時に尋常じゃない速度で砂漠に駆け出していくという内容だ。そのままフェードアウトしていき、

気がつけば手紙を拾った場所で寝転んでいる状態だった。

意識が朦朧としている中、奥に人影が見えたような気がして気力を振り絞るように歩き始める。

それに近づくにつれて鼓動が早くなり呼吸も荒くなっていく。欲してはいけなかった。欲に負けてはいけなかった。それに近づく事も許されない筈だった。それでも、だとしても彼女は求めてしまった。かつて彼女に与えられていた安らぎを。残り数メートルという距離まで近づいた際にその人影はこちらへ振り返った。

 

「あっ……」

 

その姿を、顔を見て、まるで時が止まったように動けなくなってしまう。目の前にいる彼女は『先輩』そのものなのだから。

陰と陽。光と影。二度と出会う事のない二人は邂逅してしまった。彼女はゆっくりと近づいてきて数年前と変わらず優しく頭を撫でてくれた。

 

「せんぱ……」

 

顔を上げて先輩の顔を見ようとしたがそこに居たのは先輩ではなかった。名状し難い何かがこちらを見つめているだけ。

本能的にヤバいと悟り元来た道を逃げるように駆け出した。追いつかれる事はなく待機していたケイに裂け目を閉じるように頼み閉じた事を確認すると安堵のため息を吐いた。

 

「何が起きたのですか?」

 

ケイは心配そうな顔で聞いてくるので気にしなくていいと優しく言った。あれは何だったのだろうか。あの世界は一体……

 

『……ごめんね』

 

突如脳裏に響く声。その言葉の意味はすぐに理解する事となる。

 

彼女は魅入られ、そして世界に訪れた事により縁が出来た。それは彼女にとってはあまりにも残酷すぎた。淑女を倒し平和になったこの世界にまた脅威が現れてしまうのだから。




しばらく間章をやるつもりでしたが我慢出来ないのでこのまま4章に突入します


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第四部 夢
襲撃


真夜中に集いし大人達。彼らが話し合った内容は今後の方針を明確にするものだった。

 

『生徒覚醒計画』

ヒナという覚醒した例が誕生した以上本格的に生徒との交流を深めていくという目的を方針とした。

 

ベアトリーチェ「……いえ、タイトルをハーレム計画に変えましょう。ヒナだけでは飽き足らずいずれは全生徒を美味しく頂き我が崇高を」

 

黒服「しかし確実と言えない以上舵を切るのは無謀なのでは?まだ私達には人工神という選択肢も残っていますし」

 

ベアトリーチェ「そんなもの破棄しましょう。ああいう過去の遺産に頼ってしまうから頭が硬くなってしまうのです。そういった先入観に囚われていたからこそかつてのゲマトリアが人工神という失敗作を作りまがい物の神を生成して満足してしまったのでしょう。ですが我々は違います。1人を除き教師として生徒と関わりそれぞれが信頼されているのです。ならば偽りの神など何の価値もない機械の塊を残しておく意味もないですよね」

 

マエストロ「生徒に重点を置くとするならその考えは理解出来なくもない。過去に何度か人工神の犠牲になった生徒も居たと記録も残されている以上放置は出来ないだろうな」

 

黒服「……はあ。仕方ありませんね。あれを破壊してしまうのは惜しいですが。ただしあれらは対色彩用兵器としての価値は残っているのではないでしょうか?廃棄するのはその後でも良いかと」

 

マエストロ「色彩か……対抗手段としては問題はないがこの世界は色彩との接点はないだろう。下手に刺激しなければ接触される確率は低いとも言える。ならば生徒を訓練させ対色彩用部隊を結成するべきだと思うな」

 

黒服「色彩との接点なら生まれてしまいましたよ。淑女です。接触した際、彼女の身体から発せられる反応に未知の神秘を彷彿とされる物質を確認しました。実態が掴めず理解も困難なもの。あれは色彩の力で間違いないでしょう」

 

ベアトリーチェ「そう言えば『この色彩の力で葬って差し上げましょう』みたいな戯言をほざいていました。今思えばそういう事だったのでしょう。その後のヒナの可愛い姿に夢中だったのであまり覚えていませんが」

 

マエストロ「何故そういう大事な話を共有しないのだ。それならば話は変わってくるぞ。今すぐにでも対策を……」

 

『もう、遅いよ』

 

突如会議室内の空気が重くなる。脳に直接語りかけるような声が響き頭痛を引き起こしている。その実態は掴めず何が起きているのかが理解出来ない。本能的な恐怖、その一言でしか表せない程の悪寒に襲われ言葉を発せない。他の2人に急いでこの部屋から脱出する様にハンドサインを送ると我にかえりそれぞれの学園に転移していった。

 

それを見届けた後自らも脱出しようとしたが何故か転移が出来ない。正気が保てそうにない状況の中目の前に現れたのは1人の生徒。

ヘイローは黒く染まり光なき眼でこちらを見下ろすように立っている彼女はこちらにショットガンを構えていた。

 

『黒服。貴方という大人を私は許さない』

 

無慈悲にも引き金は引かれて発砲音が鳴り渡る。……しかし放った弾丸は黒き盾に受け止められ黒服に当たる事はなかった。

彼女が何故此処に居るのか、何故タイミングよく現れたのか、そんな些細な事は気にしていない。黒服を守る小さき盾、それが小鳥遊ホシノなのだから。しかしその眼は明らかに動揺しておりまともに戦える状態ではない。それもそのはず、目の前に居る生徒はあの日あの時、ホシノがその冷たくなった身体に触れて死を悟った生徒。

 

『ユメ』なのだから



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強固な盾の小さな亀裂

『ホシノちゃん、どうしてそいつを庇うの?』

 

問いかけられたホシノの息が荒くなる。恐らく彼女の知る『先輩』の声で問われた事に冷静さを欠いてしまっているのだろう。そんなホシノを優しく抱きしめて甘い言葉を囁いているユメに似た何か。

 

『ホシノちゃん、こんなに立派になったんだね。いっぱい頑張ったんだよね。先輩として誇らしいよ』

 

ホシノ「……先輩……」

 

甘い誘惑に負けて武器を落とし涙を流しているホシノ。されるがままに頭を撫でられていた。彼女にとってそれ程先輩という存在は大きかったのだろう。死んだ人間ともう一度話せるなんてまさに夢なのだから。

 

ホシノ「私……先輩と話したい事が沢山あるんです。アビドスの事も……あっ後輩の事も沢山……」

 

 

『まあまあホシノちゃん。時間はあるからゆっくりでいいよ』

 

ホシノ「……ごめんなさい。つい舞い上がってしまって……」

 

『相変わらず可愛いね。そうそう、君に伝えないといけない事があるんだ』

 

ホシノ「何ですか?」

 

『戦場では常に油断しない事』

 

ホシノ「えっ……?あっ……」

 

唐突にホシノはその場に崩れ落ちた。時々小さくうめき声を上げて痙攣している。まるで身体に力が入らないかのようにうつ伏せで倒れてしまった。最大の神秘であるホシノがこうも簡単に動けなくさせられるとは。

 

『ごめんねホシノちゃん』

 

慈母のような眼でホシノを一瞥した後、殺意を込めた眼でこちらを睨むユメらしき存在。淑女といいどうやら自分は憎まれやすい人間のようだ。

 

 

黒服「……私の生徒に何をしようと言うのです」

 

『生徒?笑わせないでもらえますか?所詮貴方にとって生徒は『利用価値のある搾取するべき存在』なのでしょう?』

 

ホシノ「えっ……」

 

黒服「………」

 

ホシノ「先生……どうして違うって言ってくれないの……?ずっと私の事を大事な生徒だって言ってくれていたのに……」

 

『どうせそんな事だと思いましたよ。都合のいいように利用して価値がなくなったら捨てるつもりだったんですよね』

 

黒服「……ええ、確かに貴女の言う通りです」

 

ホシノ「っ!?」

 

黒服「ですがそれは過去の話です。今は……」

 

ホシノ「……もういいよ」

 

黒服「ホシノ、聞いてください。私は……」

 

ホシノ「五月蝿い!私はずっと先生の事を信じていたのに……それなのに……こんなの酷いよ……」

 

黒服「ホシノ、冷静になって考えてください。私は貴女の事を本当に考えて……」

 

ホシノ「先生なんて大嫌い。もう顔も見たくない」

 

……してやられた。精神状態が不安定とはいえホシノをこうも容易く懐柔するとは。ユメという存在を甘くみすぎていた。

 

『大丈夫、私だけは絶対にホシノちゃんを裏切らないからね』

 

ホシノ「……先輩」

 

二人の少女は寄り添うようにその場から転移をした。一人残された彼は何もない空間を眺める事しか出来なかった。




大切な人同士が対立していてどちらかに味方をしなければならない選択を迫られた場合、あなたはどうしますか?


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黒服先生

いつからだろう。教師というものに慣れていたのは。隣に彼女が、ホシノがいる事が当たり前になっていたのは。

最初は好奇心を満たす為に近づいただけ。ホシノがどうなろうと気にも留めなかった。

大切な人を失い心が弱っている所につけ込むようにそれっぽい言葉を並べて伝えるだけで彼女の心に響き慕われるようになっていった。その頃からだろう、彼女から好意的な目線を向けられるようになったのは。

プレゼントとしてもらったこのネクタイもその証とも言える。

教師になってからの出来事を振り返ると常にホシノが隣に居た。初めて出会った時とは違い心の底から幸せそうに笑う彼女が隣で歩んでくれていた。

 

しかしそれももう過去の話。ホシノは攫われ信用も地に落ちただろう。であればもうアビドスに用はない。既に教師だなんて似合わない事を続けるのも面倒になっていた頃だ。ちょうど良いではないか。そう自分に言い聞かせるように呟きながらネクタイを外そうとして手をかけた。

思えば随分と長い間このネクタイを着けていた。ホシノと出会って一年が経過した頃にプレゼントとして受け取って以降ずっと。

 

『……先生、私と出会ってくれてありがとう』

 

ふとそんな記憶が蘇る。あの時見た涙ぐみながらも笑顔でこのネクタイが入った箱を渡してきたホシノ。

 

『……先生、好きだよ』

 

一度思い出し始めると止まらないもので……実験後に背中越しに言われた好意を示す言葉。大した記憶ではない、そう思っていた筈なのに鮮明に思い出せてしまう。何故なのか。……いや、答えは既に出ているのだ。

 

『いつもありがとう、先生』

 

自分が思っているよりもホシノという存在が大切だったという事。そんな単純な事に気づくのに随分と回り道をしてしまったようだ。大きなため息をついたあと、緩めようとしたネクタイを締め男は似合わないと理解していながらもう少しだけ『教師』を続けようと決意した。

言い淀んだ続きの言葉を聞いてもらう為に。

 

アビドスに到着するや否や校門に並んで待っている四人の生徒。彼女達は何かを悟ったかのようにこちらを凝視している。

 

シロコ「ん、待ってた。行こう」

 

黒服「まだ何も伝えてませんが」

 

シロコ「黒服に盗聴器を付けていたから事情は知ってる。ちなみに盗聴の発案者はノノミ」

 

……悟った訳ではなく盗聴していただけなようだ。相変わらず締まらない。しかしおかげで緊張が解けたので不幸中の幸いと言うべきだろう。

 

ほんの少し、教師というものを理解できたのかもしれない。無論未熟である事に変わりはないのだが。間を開けて深呼吸をした後、生徒達にこう告げる。『ホシノ救出の手助けをお願い致します』と。

 

彼は悪い大人ではなく『教師』としてその生を歩む事になる……かもしれない。




四部に力を入れたいので
日常と深淵はしばらく更新出来ません


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崩壊の序章

先輩に連れてこられたのは見知らぬ空間。まるで要塞のように入り組んだその場所が何処なのか理解できない。

 

ホシノ「此処は一体……」

 

『此処はね。ホシノちゃんが傷つかなくていい場所だよ。悪い大人が居ない平和な空間。もう騙されて苦しくならなくていいの。素敵な場所でしょう?』

 

傷つかなくていい。苦しまなくていい。そんな理想の場所が存在していたなんて思わなかった。本当にそんな世界があるのなら……永遠に此処で過ごしたい。それに自分を絶対に裏切らないと信用できる先輩が居る。あの日救う事が出来なかった先輩が。それならばあんな最低な大人である先生に会う必要もない。ない筈なのに……

 

『……大丈夫、ホシノちゃんは悪い大人に長い間洗脳されていたんだから。ゆっくりと治していこうね』

 

先輩は昔と変わらずとても優しくて陽だまりのような存在だ。彼女に撫でられているだけで安心して睡魔に襲われる。意識が朦朧として瞼を閉じる直前に「おやすみ」と先輩に囁かれた。そのまま数秒も待たずに眠りにつきまどろみの中に溶けていく。

 

『……これで良いの。ホシノちゃんは何も知らないままで』

 

そう、彼女は『色彩』の眷属。本来であればこのような無駄な工程を挟む必要はない。しかし彼女は先輩であるが故に、『ようやく出会えた生きているホシノ』に対してそうしなければと行動してしまった。だがその行動を理解し、共感する者は誰一人いない。彼女は永遠に孤独なのだから。

 

ーーー

 

意気揚々と宣言したはいいものの肝心の居場所を特定出来ていない。それでも行動しないよりはマシと誰かが言い少しでも収集をしようとした矢先にそれは起きた。空が赤く染まり世界の終焉を予感させるような景色。『色彩』がこの世界を喰らおうとしている。本来であれば対処をしなければいけないのだろう。けれどそれは二の次でいい。今やらなければならない事は『ホシノの救出』これ以外は気にするだけ無駄だ。

 

黒服「さて……ホシノは何処に居るのでしょうかね」

 

シロコ「きっと空の上にいる。青い石を持って40秒以内に向かうべき」

 

黒服「流石に現実離れしすぎでは?」

 

シロコ「ん、ならあのアビドスゴートー……」

 

黒服「あのガラクタは売りました」

 

突然「ん、ん、ん」と謎の抗議を始めるシロコを尻目に情報の更新がないかを確認するも手掛かりはない。些細な事でもいいと眺める記事の中に『各自治区に現れた謎の塔』という記載があった。そして一際大きい塔が砂漠の中心にあるとの事。そしてこの座標は昔ホシノが彼女の死体に触れた場所に近い。恐らくそこにホシノは居る。確実とは言えないが直感的にそう感じるのだ。まさか自分が勘だけで行動するようになるとは思わなかった。そしてそんな無鉄砲作戦に付き合ってくれる生徒がいる事も。

 

敵は淑女の比ではない程強大。それぞれの自治区も慌ただしくなると予想すると救援の見込みも限りなく低くなるだろう。それでもアビドスは負けない、不思議とそう思える。

 

こうして一同は目標に向けて駆け出した。その未知の先で待っているホシノを救出する為に。



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あの日の借り

見慣れた砂漠に足を踏み入れた途端に空気が重くなるのを感じた。負の感情が渦巻いており長時間滞在しているだけで精神が不安定になりそうだ。

だが裏を返せばこの先にホシノを攫った彼女が居るという事を暗示しているとも考えられる。現に砂漠の至る所から敵が現れているのだから。深呼吸をした後に武器を構えるよう指示を出して戦闘を開始した。

 

目標はあの巨大な建築物に到達する事。その為一点突破を図り消耗は避けるようにしなければならない。いくら信用出来る生徒とはいえ体力も弾薬も限りがある。本体を倒す前に尽きてしまえば本末転倒だ。

……いや、違う。色彩の対処は後回しでいい。大事なのは『ホシノの救出』だ。彼女の為に全部を費やそう。だがどちらにせよここを突破しない限りは選択肢はない。

 

先陣を切ったシロコは正面に居る敵の集団の中心部に飛び移り大爆発を起こした。「地下鉄に仕掛けられていたやつを盗んできた」と自慢そうに語る彼女に頭が痛くなりそうだったが敵の数が相当減ったので今回は不問とした。そして包囲網が薄くなった所に向かって走りだす。多少の怪我は仕方ないと腹を括っていたが包囲を抜けた後、自身には傷一つ付いていない。生徒達も無傷のようだ。一先ずは第一関門突破といった所だろうか。後ろから追手が来ている為立ち止まらず塔に向かって走る。

 

あと半分といった所まで来た途端、足元で地響きが発生する。過去のゲマトリアが残した存在、人工神のビナー。それは色彩の影響で禍々しい姿へと変貌している。本来であれば非常に興味深いと観察するのだろうが今となってはただの障害物だ。どの道もう過去の存在に用はない。ここで破壊してもいいのだが今はホシノを優先したい。

手で合図をしてそれの目の前に閃光弾を投げると強烈な光によって若干怯んでいるように見えた。その隙をついて隣を抜けようとしたが突如それはこちらに向けて口からレーザーを放出してきた。咄嗟の事で反応できず一同はそのレーザーに直撃した。

 

……数秒経っても痛みがない。何故だと思い閉じていた目をあけるとそこには桃色の髪を束ねた小さな盾と黒いドレスに身を包んだ砂の神。

 

「借りを返しに来たよ」

 

見慣れているようで見慣れていない二人の生徒は『先に行って』とハンドサインを出してきた。彼女達が何故ここに居るのかは気になるが今は手助けをしてくれた事に感謝しよう。

 

「柄にもないことをしちゃっておじさんは恥ずかしいよー」

 

「大丈夫、先輩はいつもかっこいい」

 

小さいながらも頼もしい盾に背中を任せて五人は進む。別の世界から訪れた小鳥遊ホシノは見た目は忌み嫌う存在だが生徒の為に突き進む彼の想いに応えて馳せ参じた。



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砂漠にそびえ立つ塔

長時間走り続けてようやく塔の入り口に辿り着いた。周辺に敵の姿はなく警備をしている様子はない。強いて言うなら先程のビナーがそれに当て嵌まるのだろうが。

息切れを起こしたので整えてから内部に入るとその異質さに驚きを隠せない。塔の中には見慣れた学校があったのだ。砂で汚れていない綺麗なアビドスの学校。そして着いてきていた生徒達の姿がない。ここは一体何なのだろうか?

 

『辺境の地にぽつんと存在する小さな学校。そこにはどんなに苦しくてもこの場所を守ろうと頑張る孤独な少女が居ました』

 

何処かから聞こえてくる声。幼い子に読み聞かせるような優しい口調で物語を紐解いていく。

 

『いつしか季節が巡り少女には後輩が出来ました。最初はぎこちなく接していたけれどいつしかその子も大切なものの一部になりました。その後も次々と後輩達と出会い、いつしか彼女の周りには笑顔が溢れていました』

 

目の前に五人の人影が映し出される。それぞれの特徴を捉えているので誰が誰なのかはすぐに理解できた。しかしその中に探し求めている姿はない。

 

『唯一心の許せる大人との出会いもあり、彼女達は苦難を乗り越えつつ楽しい日々を過ごしていました。しかし彼女達の日常はあっさりと崩れてしまいました。それは何故でしょうか?』

 

希望のある話から一転して不穏な話に変わる。そして襲撃された時に感じた重い空気が場を支配する。目の前の人影が一人ずつ消えていき、残された一人の人影に色が付着して彼女が現れた。

 

『お前のような悪い大人が居るからだ』

 

殺意を込めた眼でこちらを凝視する彼女の手には焦げた茶色の液体が付着したであろうショットガンが握られている。先程の物語といい彼女は自分の知る世界と異なる道を歩んだのは確実だろう。しかし何故色彩の眷属になっているのだろうか。そんな疑問が思い浮かんだが真っ先に聞かないといけない事がある。

 

「ホシノは何処に居るのですか?」

 

彼女が出した答えはショットガンを構える事。どうやら話す気はないようだ。最低限の護身術はあるとはいえ恐怖に染まっている彼女相手に通用するとは思えない。それでもホシノの事を聞かなければならないのだ。身体は既に後退する事を拒否している。

 

やはり現実はそう上手くいく事もなく数分も持たぬうちに酷い損傷をした。殺意を込めた一撃を何度も喰らい既に立つ事もままならない。

 

ーー悔しい。まさか大人になってこんな風に考える日が来るとは思わなかった。上手くいかない事は妥協するか諦める。そのように事を進めてきた自分が。それは紛れもなくホシノと、生徒と接した事が原因なのだろう。……ならばまだ諦めるのには早い。幸いにも脚の骨は折れていないのだから。

 

『……そんなに実験材料としてホシノちゃんが大事?』

 

実験材料。確かにそうだ。初めはホシノを使い実験を行う為だけに近づいたのは事実。しかし今は違う。

 

「ホシノは私の大切な生徒だ!貴女がどのような歴史を歩んできたのかは知らないが私の大事な生徒を誘拐した事は許しません!」

 

自分でも驚くほど大きな声で叫んだ。

彼女は少し怯んだ後に『そうやって言えば騙されると思いましたか!?悪い大人はいつも甘い言葉で騙そうとしてきますよね!他のアビドスの子もそういう手口で手駒にしたのでしょう!?』

と怒鳴りながら突撃してくる。

 

「それは違う。私は、私達は」

 

「自分の意思で此処に居ます!」

 

押されつつも彼女の攻撃を受け止める二人の人影。それはかつて廃墟で見つけた機械仕掛けのアンドロイド。アリスとケイ。二人もまた彼の想いに応えて助力をしに現れた。

 

「……とはいえこのままでは時間稼ぎにすらなりません。なのでアリス、貴女に託します」

 

「任せてください!」

 

自らの身体から小さな何かを引き抜いてアリスに渡すとその場に倒れるケイ。そして何かが弾けたようにアリスの身体が輝き出す。

 

以前空崎ヒナは母への想いを胸に抱き覚醒した。しかしそのような強い想いに匹敵するものをアリスは持ち合わせていない。そう、一人では。彼女の手元にあるのはケイの思い出が詰まった記憶装置。それは鍵としての役割しか与えられていなかった彼女が日常を過ごしていく中で大切なものと出会い彩られていく様が記録されている。

二人分の記憶と想い。それはヒナが抱いた思いの強さに匹敵する程に大きい。やがて『ケイ』という物語を読み解いた彼女の瞳は水色と紫のオッドアイに変化した。それが、それこそが彼女達の選んだ道。忘れられた神々の『王女』として目覚め彼の力になる事。

 

「アリス達のレベルは……カンストしました」

 

こうして天下無敵の合体勇者は生誕した。



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役割

王女、いや勇者として覚醒したアリスは二つのレールガンを遠隔操作で操りユメらしき存在に対して奮戦している。

二人分の力とはいえ色彩の眷属相手に対等に立ち回れており、その能力の高さが伺える。

流石にこのような弾幕を張られてしまえば彼女も回避に専念するしかないようで徐々に追い詰めている。

『くっ……』と小さな声を漏らして片膝をついた隙を見逃さず彼女目掛けて最大出力をぶちかました。攻撃は直撃しアリスはガッツポーズをとってこちらにアピールしてくる。

王女の力がこんなにも頼もしいものだとは思わなかった。ホシノといい私の生徒は常に予想を超えてくる。……しかしそれは彼女も同じだという事に気がついた時にはもう襲かった。

気付かぬ内に接近されアリスはショットガンを全弾喰らった。怯み仰け反った先で背後からミニガンの連射、ドローンの援護射撃、ヘリコプターからの攻撃を同時に展開される。

どんなにアリスが強くなろうともそこまで一方的に嬲られると無事ではいられないだろう。

 

『これで分かったでしょ?戦場で油断するとどうなるか。これ以上続けるなら貴女の命は……』

 

そこまで言いかけて彼女は何かを感じ取って振り返った。こちらを無視して転移を行いその場が一気に静寂に包まれた。

彼女の気配が消えた事を確認してからアリスを介抱した。見た目はそこまで傷を負っていないが至る所から煙が出ている。あんな猛攻を喰らってこの程度で済んだ事は幸いと言うべきなのだろうか。

 

「貴女達が来てくれて助かりましたよ」

 

自然と出た感謝の言葉にアリスは笑顔で答えた。思えばアリスとケイにはいつも助けられてきた。淑女の時も颯爽と駆けつけて援護をしてくれた。こんなにボロボロになってまで……

 

「……これを」

 

彼女が差し出したデータには座標が書かれており、ここからそう遠くない部屋に一つの反応が観測されていた。

 

「戦闘中……索敵を行い生体反応がある場所を特定しました……神秘の情報と照らし合わせるとそこにホシノ……が……」

 

そこまで話してアリスの片目から光が消えた。紫色の瞳は白くなっている。

 

「慣れないことをやったので疲れました。アリスはちょっと休んでから後を追いますね」

 

「しかし……」

 

「大丈夫です。アリスはとても強い勇者ですから」

 

傷ついたアリスを放っておきたくないが急がないといけないのも事実。すぐに戻ると約束をして彼は走り出した。

 

「……ケイ……」

 

先程の被弾の際に片方の記憶装置が損傷した。ケイの意識は失われてしまった。先程の瞳が消えたのがその証拠だ。

失ったものがあまりにも大きいアリスは絶望して涙を流した。

 

「勝手に殺さないでください」

 

「まだ喋っちゃダメです!勇者は一度大きな壁にぶつかって成長をするのです!だからケイを失った程でロールプレイを……」

 

「今はふざけている場合ではないでしょう。わざわざ煙まで出して本当にオーバーヒートしたらどうするんですか」

 

「大丈夫です。勇者ですから!」




アリスはそう簡単にやられて欲しくないという私の願望


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砕けた心を繋ぎ止める者

小鳥遊ホシノの心は脆い。しかし彼女の心を支えてくれた人がいた。だからこそ不安定なバランスではあるが崩壊せずに過ごせていた。

 

けれど彼女は今それらを失った、信じていた人に利用されていたと思い込んでいる。精神的支柱がなくなった彼女は少しずつ自我が崩壊し始めており、身体を蝕んでいった。悪夢を見て彷徨う彼女の心は黒く変色していき楽しかった思い出や大切な記憶を消していく。

 

目覚めた頃には涙を流していた。そして自身の身体が恐怖に染まっている事に気づく。全身が黒く染まり白い輪郭がなければ身体と認識する事すら困難になる程。やがて彼女は狂ったように笑い出す。大切な人を信用しきれなかった己に失望して。

 

『……私と同じだったんだね』

 

様子を見に来た先輩が悲しそうな目でこちらを見ている。この人も私から離れてしまうのだろうと直感的に理解した。彼女も同じように黒く染まったヘイローだと言うのに。そのままこちらを眺めるように見ている先輩。やがて『やっぱり駄目だな……』と呟いたかと思えば私の頭に手を添えてきた。

 

『それはホシノちゃんに似合わないよ。だから私が貰うね』

 

突如身体から何かが抜けるような感覚に陥る。軽い倦怠感に襲われた後何故か疲れが取れたかのように元気になった。色も紺ではなく元の姿に戻り困惑していると悲しそうな笑顔を見せて優しく撫でてくる先輩。どうやら彼女の体内にある恐怖を全部取り除き自らのものにしたようだ。つまりホシノはテラー化をする事が不可能になった。身体を蝕む危険もなくなり健康体そのもの。先輩は何故こんな事をするのだろうか?そもそも何故先輩のヘイローも黒くなっているのだろう?彼女に何があったのか……それを聞こうとする前に先輩はこう言った。

 

『ホシノちゃん、私のお願い……聞いてくれる?』

 

「……私にできる事なら何でもします」

 

『ありがとう。それじゃあ……』

 

先輩のお願いを聞いた私は目を見開いてしまった。何故そんな事を頼むのだろう……先輩の顔は至って真面目だ。本心でそう思っているのだろう。

 

『こんな事を頼むのは気が引けるけど……ホシノちゃんにしか任せられないんだ。だから待ってるね。君が来てくれるのを』

 

先輩の背中が離れていく。その背中を追うことは出来ずに私はただその場に立ち尽くす事しか出来なかった。何でもする、だなんて安請け合いをしてしまった自分に絶望しそうになる。どうしようと一人で頭を抱えて考えるが解決法が思いつかない。周辺も騒々しくなって思考はより乱れていく。

 

耳を澄ませれば遠くの方からこちらに向かって走ってくる足音。忘れるわけがない革靴の音だ。やがて扉が開き入ってきたのは息を切らして今にも倒れそうな黒服。いつもの余裕な面影はなく声を出す余裕すらない彼。どうしたらいいかも分からずに傍観する事しか出来ない。やがて息を整えた彼はこう切り出した。

 

「貴女に伝えたい事があります」



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先生とホシノ

大事な話がある。彼はそう言った。

けれど私は彼に対して大嫌いと、二度と顔を見たくないとまで言ってしまった。そんな私が話す資格などあるのだろうか。ある筈がない。

 

「帰って」

 

だから私は突き放そうとした。絶対に後悔すると理解していながらも彼の好意を受け止められる気がしなかったから。それに私は彼を信用しきれなかった。ずっと側で支えてくれたただ一人の大人を。

 

そんな私の思いを無視するかのように彼は私の手を握り何かを訴えるような顔で

 

「どうか話だけでも……」

 

と積極的に近づいてきたので思わず

 

「ひゃい」

 

と咄嗟に返事をしてしまった。気がついたら先程まで考えていた資格云々の事はなかったことのように頭から消え、彼の言葉を待っていた。

 

「前にお伝えしたように私は最初貴女を実験道具として利用しようと近づいた。これは事実です」

 

改めてそう言われると悲しくなってくる。所詮自分は悪い大人に利用されるだけの価値しかないと言われたように感じる。それでも私は彼の伝えたい事が言い終わるまで聞く事にした。

 

「ですが……教師として過ごしているうちに心境の変化に気がついたのです。ホシノを実験道具としてではなく生徒として接している事に。貴女という存在が大切なものになっている事に」

 

何故だか顔が……いや、全身が熱くなっている。彼はまるで私に対して……

 

「貴女を傷つけてしまった手前こんな事を言うのは何様だとは思うでしょうが……どうか私の隣に戻ってきて頂けませんか」

 

握られている手に力が入っているのが伝わってくる。彼の言葉に偽りはなく本心で語っているのが分かった。

……正直な話、迷っている。もし今言ったことが全部嘘でまた騙されてるとしたらと考えてしまう。今後こそ心が完全に砕けて立ち直れなくなってしまうだろう。……だとしても。私は彼を信じたい。一度は疑ってしまったけれど……所々破けたスーツと息が切れるほどの勢いでここまで来てくれた、悪い大人ではなく一人の先生として私に手を差し伸べてくれた彼を。

 

「もう一回だけ……信じてもいい……?」

 

「……はい。必ず貴女を大切にすると誓います」

 

そう言われたのと同時に自然と溢れる涙と暖かくなる胸に安らぎを感じて目を閉じた。……私の大切な居場所はここにあったんだ。失いかけたけどきっと大丈夫。もう失う事はないと確信しているから。

 

そんな時視界の端にカメラを構えている後輩の姿を見た。目があった際も「お構いなく〜」とハンドサインを出してまるで傍観者気取りな彼女といつの間にか私を抱き寄せている先生。感情が追いつかなくなりそうだけどふと思い出した。

 

「あの、先生。私……」

 

「言わずとも大丈夫です」

 

彼は更に力強く抱きしめてきた違う、そうじゃないよ。……でももう少しだけこのままがいいな。こんな事をしている場合じゃないと分かっていても抜け出せなかった。

 

私は貴方が好きなのだから。



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君が選んだ道

抱き合っている内に気づいた事だが、ホシノの中に注入した恐怖が無くなっていた。その影響か黒ずんでいた彼女のヘイローは綺麗な桃色に戻っており精神も安定している。何故無くなっているのかは分からないが近いうちに取り出す予定だったので手間が省けた。

 

それはそれとして視界にチラチラ映るシロコという存在がスケッチブックに何かを書いてこちらに見せているのが気になる。読んでみるとそこには

 

『ん、早くキスをするべき』

 

と書いてあった。ムードをぶち壊すような事をしておいて何を言っているのだろうか。そもそもキスなどをする意味を感じないのでハンドサインで否定の合図を送るとムッとした顔で更に殴り書きをしてこの言葉を見せてきた。

 

『ん、意気地なしの朴念仁。駄目男。ドケチ人間。髪なし人外。ロリコン』

 

……全てが終わったら彼女は数時間説教しようと考えるには充分な行為だった。しかしその余計な言葉でアリスの事を思い出した。

 

「……そろそろアリスの元に戻らなければ。彼女も怪我をしているので手当を……」

 

「それなら私達に任せてください。お二人はやるべき事があるのでしょう?」

 

スマホをしまいご馳走様でしたと一言呟いた後にノノミがそう答えた。思えば彼女にはずっと助けられてきた。だからこそ彼女を信用して任せる事にした。シロコはまあ……シロコだ。良くも悪くもシロコだ。

 

二人にその場を任せそれぞれ向かうべきところへ……行く前に。ホシノは何かを迷っているように見えたのでもう少しだけ話す事にした。

 

「ホシノ、何か考え事ですか?」

 

「あっ……うん。実は先輩にこんな頼み事をされて……」

 

その内容を聞いて彼女が誕生した経緯を理解したような気がした。確かにそれはホシノにしか頼めない事かもしれない。

 

「……でもさ。先輩の願いを叶えてあげたいって気持ちもあるの。……私はどうしたらいいのかな……」

 

「ホシノがやりたいようにやればいいのです。大丈夫、責任は私がとります。だから思う存分やりたい事をやってください」

 

「……なんだか不思議だね。先生が先生っぽい事言ってる」

 

それはそうだろう。教師なのだから、と言いたいが今までの発言を振り返るとそう言われても仕方ないと納得してしまいそうになる。それはともかく早く彼女の元へ向かうとしよう。

 

塔の最上階。今までの雰囲気とは違い床は砂で埋め尽くされ所々に蟻地獄がある空間。部屋の中心には手紙を読んでいる彼女の姿が。こちらを確認するとその手紙を砂に埋めて武器を構えた。

 

『待ってたよ。ホシノちゃんなら約束を守ってくれるって信じて……』

 

「お断りします」

 

予想もしていなかったホシノからの拒絶により彼女は一瞬目を見開いた。その後すぐに『どうして……?』と聞いてくる。

 

「私が嫌だと思うからです。だから……先輩、貴女を止めます。覚悟してください!」

 

どうやらホシノは吹っ切れたようだ。ショットガンと盾を構え戦闘準備を終わらせた彼女は自らの意志を通す為に先輩と対峙する。

 

『……ふふ。なんだ、お願い聞いてくれるんじゃん。ホシノちゃんのそういうところ、大好きだよ。それじゃあ……私のラストダンスに付き合ってもらうね』



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衝突

『手加減はしないよ。だから全力でぶつかってきてね!』

 

ショットガンだけを構えたユメはホシノに向かって駆け出した。一方のホシノはその場から動かず接近してくるのを待っている。そしてあろう事かホシノは盾を蹴り飛ばしてユメにぶつけた。しかしそれを軽くいなして滑り込むようにホシノの懐に入りショットガンを放った。その動きはアリスと戦った時とは比べ物にならないほど洗練されている。それにその動き方も何か既視感を覚えるような……

 

「……まるで昔の私みたいな動きですね。先輩らしくないです」

 

『私らしさ?そんなもの戦いに必要ないんだよ!!拘った所で何も守れやしないんだから!!』

 

「目を覚ましてください!」

 

『ホシノちゃんこそ!!』

 

二人の戦いはヒートアップしていく。しかしユメの方は何かがおかしい。戦闘が始まってから感情的になったと言うか……抑制が効いていないように見える。色彩の眷属であるが故に秘めている感情を抑えられないのだろうか?思えば彼女の服装は昔のホシノを模しているようにも見える。防弾ジャケット、ショートヘアー、戦闘スタイル。やはり間違いない、彼女は『異なる歴史を歩んできたユメ』だ。

 

「ホシノ、やはり彼女は……」

 

「そんな事とっくに知ってる!それでも私の先輩である事に変わりはないんだ!だから全力で向き合うって決めたんだ!」

 

ホシノは最初から気づいていた。例え別の世界のユメだとしても苦しんでいるのなら手を伸ばして助けたい。彼女はきっとそう思っている。それがホシノの決めた道なのだから。

 

『ホシノちゃん。いや、小鳥遊ホシノ。君の意思がどれだけ強いのか私に証明してみせろ!!』

 

「嫌というほど教えてあげますよ!私は欲張りだから!誰一人として失いたくないんだぁ!!」

 

ホシノは叫ぶ。自らを鼓舞するように。意思を貫く為に。かつてないほどに気合を入れた彼女は何度もユメに挑む。しかし互角だった実力も数分もしないうち体力が切れて防戦一体になっていく。容赦のない猛攻になす術がないホシノ。このままではやられてしまうのも時間の問題。……やるしかない。覚悟を決めて駆け出し、ホシノを守るように割って入った。ユメは一瞬顔をしかめてから憎しみを込めた声で

 

『お前は邪魔だぁ!!』

 

とショットガンを鈍器のように振りかざしてくる。だがこれでいい。

 

「先生は傷つけさせない!」

 

盾を構えたホシノが攻撃を弾いてくれる。そう、数秒時間を稼げればホシノが盾を拾いこちらに戻って来れる。賭けではあったがホシノの事を信用したからこそ上手くいったのだ。とはいえ自分が出来るのはこれくらいだろう。あとはホシノに任せるしかない。

 

『そんな盾で何が守れるって言うのさ!!一時的に攻撃を防げる程度で本当に大事な時には何の役にも立たない!!所詮自己満足の域を出ないんだよ!!』

 

「先輩の気持ちは嫌というほど分かります!だから……」

 

『……分かるだなんて言わせない。全部失った事のない君に……私の想いが分かるものかぁぁ!!』

 

彼女は叫ぶ。溜め込んでいた感情を吐き出すように。想いを露わにする度に黒く、そして恐怖に染まっていく。

 

『私を止める?生半可な事を言わないで!!本当に止めたいのであれば殺す気できてよ!!生という呪縛から私を解放してよ!!』

 

彼女の抱えている闇は何よりも深い。その絶望を前にホシノはもがき抗う。必死に手を伸ばそうとしている。しかし彼女にはまだ届かない。それでもがむしゃらに手を伸ばし続ける。そしてその想いに応えるように壁を壊しながらヘリコプターが乱入してきた。

 

「私達の先輩に……」

「何してくれてんのよ!!」

 

ヘリから放たれる無数のミサイルと黒髪を揺らし突撃してくる一年生。奥空アヤネと黒見セリカ。それは彼女にとっても馴染みのある存在である。その姿を見て動揺したのかミサイルが直撃するも体勢は崩さない。そこに追い打ちをかけるように頭突きをかますシロコと後方からミニガンを連射するノノミ。

 

「ん、メインヒロインは遅れてやってくる」

「そういう事です☆」

 

後輩達が集い役者が揃った。顔を見合わせた後、高らかにこう宣言する。

 

「さあ、対策委員会の活動を始めよう」



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終着

決意に満ちた彼女達の攻撃を喰らう度に

私は痛みを感じている

それはきっと本気で私の事を止めようと

向き合ってくれているのだろう

私と違って大切なものに囲まれている君が

とても妬ましく、とても羨ましい

私にはないものを揃えている君

それは思い出の中にいる君のように

強くて……頑張り屋で、誰よりも優しく

自分の命を犠牲にしてでも役に立とうとした

ただ、君は素直じゃなかった

何も言わせずにさよならしてしまったね

君の冷たくなった体を運んだ時のことは

今でも忘れられないんだ

君が生きている姿を、君が成長した姿を

幸せそうに笑う姿を見たかったな

身長はどのくらい伸びてたんだろう

恋をしてお洒落を意識したりしたのかな

意外とのんびり屋さんになったりしてね

そんな事をあの日からずっと想像してたんだ

過ごした時間は短くて大した思い出もない

それでも君は私にとって初めての後輩で

誰よりも大切な人だったんだよ

だからあんな別れをしてしまった時は

本当に悲しくて後を追おうともしたよ

でもね、君の意志を絶やしたくなかったんだ

だけど私はダメだったよ

君のように強くなれなかった

どんなに努力しても意味がなかった

指で数えるほど出会えた大切な人達は

無情にも私の側から離れていった

どうしようもない人間である私だけが

アビドスで唯一生き残ってしまった

後輩達は全員棺桶の中に入ってしまい

残ったのは5つの学生証だけ

もう、疲れたんだ

大人に都合良く利用される事に

孤独に生きる事に

ずっと胸が苦しくて仕方がないの

だからこの悪夢を終わらせてほしくて

別の世界で出会ったホシノちゃんに

殺して欲しいって頼んだんだ

その願いは断られちゃったけど

結果的に私は後輩五人の連携を前にして

今か今かとその時を待っている

そしてショットガンを全弾喰らった時に

私は口から血を吐く事ができた

ゆっくりと、ゆっくりとその場に倒れ

天井を見上げて笑みが溢れた

ああ……ようやく終われるんだ

誰も幸せにする事が出来なかった

どうしようもない駄目な人間である私の

誰よりも価値がない人生が

無駄に生きながらえてしまった私の命が

今宵終幕となって心を解放してくれる

皆……待たせてごめんね

やっと会えそうだよ

そっちに行ったら何を話そうかな

……いや、私は誰にも会えないかもしれない

後輩達と違って私は罪を犯した

だから空ではなく地の底に行く事になるのかな

ううん、何処だっていいや

私の夢は叶ったのだから

そうして死を受け入れた私は

最後に走馬灯を見る事になる

黒く染まりきった価値のない思い出とは違い

まだ彩りと希望があった頃の記憶が

脳裏に焼き付いた忘れないそれらが

押し寄せてくるように流れていく

それらは他愛のない日々を過ごしていた

だらしない先輩としっかり者の後輩が

二人で学校を守る為に活動している姿

そう、この頃の私はまだ君と一緒に

生きていけると信じて疑わなかった




2023/11/3 20:00


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夢の罪

始まりは些細な出来事

一度だって遅刻をしなかった君が教室に居ない

珍しい事もあるんだねと心の中で呟いてそのまま

仮眠をとり始めた

きっと君が起こしてくれるからと信じていたから

いつも通り強い口調で叱ってくれると

この時は呑気に考えていた事を憶えている

それが私の人生にとって初めての後悔であり、

永遠に背負う罪になる事を知らずに

 

仮眠から目覚めて身体を伸ばしていると

違和感に気づいた

外は暗くなっていて君は来ていない

流石におかしいと思い電話をしようと

端末を取り出そうとした時、ふと君の

机に手紙が置いてある事に気づいた

『ユメ先輩へ』

それを視認した時に嫌な予感が脳裏に過る

そして内容を読み始めてそれは確信となり

気がついたら銃を持って駆け出していた

 

『拝啓 ユメ先輩へ 

こうやって手紙で別れの挨拶をする事に

なってしまい申し訳ありません。

面と向かって伝えるのは恥ずかしいので

このようなやり方にさせていただきました』

 

息が切れても走りを緩める事なく走り続ける

何がどうなっているのかを考えるよりも今はただ

君の元へ辿り着きたい、それしか考えていない

 

『私は入学した時からずっとある企業に

スカウトされてきました。

『カイザーコーポレーション』

先輩も名前は知っていますよね』

 

砂漠の入り口には警備兵が数人居た

こちらに向けて銃を構える彼らに怒りを覚え

「どけっ!」と叫びながら交戦を始めた

 

『その中の民間軍事企業であるカイザーPMC

そこの傭兵として働く代わりにアビドスが

抱えている借金を半分肩代わりする。

そういう話でした』

 

乱雑な戦い方をしたので怪我を負ったが

治療は後回しにして再度駆け出した

 

『中々の好条件ですよね。

……私はずっと先輩に迷惑をかけてきたので

これで少しでも貴女に恩を返せればと思います』

 

違う、違うの。迷惑をかけていたのは私の方

君が居てくれる事がどれだけ救いだったのか

どんなに嬉しかった事か伝えたい

帰ってきて欲しい。また一緒に日常を……

 

『本当は全部解決出来ればいいのですが……

それでもこれで少しは負担が減るはずです』

 

「あ……」

 

『……最後に。

ずっと生意気な態度をとってきましたが……

貴女と過ごせた半年間、悪くなかったですよ。

ユメ先輩、お元気で』

 

誰よりも大切だった君は変わり果てた姿で

砂漠の中心で眠っていた

 

「……こんなところに居たんだね、ホシノちゃん」

 

これが私の最初の罪。初めて出来た後輩を

守る事が出来ずに生き残ってしまった事

私の心は粉々に打ち砕かれ、ただその場に

立ち尽くす事しか出来なかった

 

……数日後、未だに心の整理が付かないまま

虚無を見つめて過ごしている

アビドス宛に送られてきた荷物の中には

彼女の持ち物である防弾ジャケットと腕章

そして幾らかの端金が詰められていた

 

「こんな金の為にホシノちゃんは……

クソっ!!クソがっ!!クソがぁぁぁぁ!!」

 

感情のコントロールなど出来るはずもなく

ただ机を叩いて怒りをぶつけてしまう

やがて虚しくなってきた頃に涙がとめどなく溢れ

大声で泣いてしまった

そしてそのまま泣き疲れて眠りにつく

目覚めた時には強い覚悟を持つ事にした

髪を切り短髪にして防弾ジャケットを着る

盾は捨てショットガンを装着する

 

「……似合わないね」

 

鏡に映った自分を嘲笑うようにそう言った

格好を後輩の姿にしたところで何も変わらない

こんな事をしても君はもう帰って来ないのだから

 

その日から彼女はひたすら強くなる事を望んだ

後輩を利用し殺した大人は誰一人として信用せず

大切な人を二度と失わないようにと

 

『先輩、また無茶をしたんですね。

治療をするこちらの身にもなってくださいよ』

 

「あはは……いつもありがとう、ホシノちゃん」

 

そんな訓練後の会話すら出来ないと意識してしまい

涙がまた溢れてきてしまいそうになる

泣いている時間も余裕もないのに止まらない

 

「どうして私じゃなくてホシノちゃんが……」

 

現実は残酷だ。辛い事も悲しい事も全部

受け入れて生きないといけない

でも君を死なせてしまった私に生きる意味は

存在しているのだろうか

そんな答えの出ない問題に頭を悩ませて寝る毎日を

過ごしていたらいつの間にか春が訪れていた

私は君が居たこの場所を守りたくて留年する道を

選んで学校に滞在していた

何年掛かっても借金を返して安心出来る場所に

すると誓い、そして覚悟を決めたのだ

そんな中足音とノック音が聞こえ扉が開き

見知らぬ少女が現れた

 

「あの……アビドス高等学校ってここですか?」

 

弱々しく尋ねてきた1人の少女は制服に身を包み

こちらの顔色を伺うようにおどおどしている

 

「アビドスはここだけど……貴女は?」

 

そう尋ねると彼女は少し下を向いて小さな声で

 

「アビドスに入学した十六夜ノノミです……

これからよろしくお願いします……先輩」

 

……彼女にはまた後輩が出来たようだ

喜びと悲しみが入り混じった感覚に陥り

上手く言葉が出て来ず迷った挙句に

 

「あ、うん……宜しく」とぶっきらぼうに

返事をした

予期せぬ展開に動揺を隠せそうにもない

しかし彼女にとってこの出会いは吉となり

それが救いにもなる事をまだ知らない

 

ノノミはとても大人しい子だった

ただ黙々と本を読み過ごしている

時折話しかけても質素な返事をするだけ

それでも大事な後輩なのだ

しかし私にはまだ守れる程の力がない

訓練をしなければ。もっともっと強くなる為に

その日も傷だらけになって帰り仮眠室に行く

そのまま眠りにつこうと瞼を閉じた

数分程して扉を開ける音が聞こえ身構えたが

そこに居たのは包帯を持ったノノミだった

彼女は特に何かを言うわけでもなく

私に包帯を巻いていく

その姿が今は亡き後輩と重なった

以降彼女は毎夜訪れては何も言わずに

治療を施してくれる

 

「どうして治療をしてくれるの?」

 

その問いにはしばらく言葉を詰まらせた後に

「放っておけないんです」と答えた

それを聞いて変わり者なんだね、と苦笑をした

「先輩はどうしてそこまで頑張るんですか?

毎日のように傷だらけになるまで……」

 

そう聞かれた時は言葉に詰まってしまった

「なんとなく」そう答えるので精一杯だった

そんな距離感を保ちつつ時は流れていく

気がつけば夏が終わり秋に移り変わる頃

大切な後輩を失って一年が経過した

倉庫にしまった彼女の机に貼ってある

鯨のシールが砂塵の影響で汚れていた

その汚れを見て嫌でも時の流れを感じてしまう

心に空いた穴を埋めてくれる君はもう居ない

今でもその事実が受け入れられない

まだ話したい事が沢山あった

そんな些細な願いすら叶わない

 

「ホシノちゃん……」

 

返事が返ってくる事は二度とない

代わりにスマホに着信が入った

見知らぬ番号から掛かったきたその電話は

『お前の後輩を攫った。身代金と引き換えに返す』

一方的にそう告げられ電話を切られた

それと同時に自分の血管が切れる音が聞こえた

許さない。絶対に許さない

私の後輩に手を出すなんて

もう二度と奪わせない、傷つけさせない

君の銃を借りて私はここから始めるんだ

 

目的地の場所は近くにありヘルメットをつけた

集団が集まっている

その中心部に縄で縛られたノノミの姿を確認し

刹那私の怒りは最高潮に達した

そして数分も経たないうちに制圧し終わらせた

途中何人も命乞いをしていたが無視した

私の後輩に手を出したのだから当然だろう

命があるだけでも幸せだと思え

そう吐き捨てるように言いノノミを解放した

その後アビドスに戻り彼女が怪我をしている事に

気づき急いで治療をしようと慌てふためく

 

「ふふっ……なんだか珍しいですね。

先輩はいつも冷静だと思っていたのですが……

こんな可愛らしい一面もあるんですね」

 

茶化してくるノノミに対し顔が赤くなった

まだまだ君の真似は出来てないみたい

だって後輩が怪我をしているのを見て

冷静になんていられないだろう

もし大怪我をした姿を見てしまったら

あの日失った君を見た時のように

私の心は壊れてしまうかもしれない

だから二度とそうならないように

自分よりも大切にしたい

けれど怪我の手当は上手くいかず

ノノミはミイラのようになってしまった

それでも「ありがとうございます」と

言ってくれる彼女はとても優しいのだろう

それにしてもこんなにも幸せそうに笑う彼女

そんな顔を見るのは初めてかもしれない

彼女の笑顔を守れたのだと思ったら少しだけ

自分に自信が持てる気がした

それからというものノノミはとても明るく

そして時々ズレた発言をするようになった

私は相変わらずに少し冷たい態度を取りつつも

彼女に振り回される事も増えていった

そんなノノミとの絆の深まりを感じる中

季節は冬を迎え雪が降るようになった

彼女と他愛のない話をしている中

光が灯っていない瞳でこちらを見ていた

一人の少女と目があった

とても寒い中薄着で倒れているものだから

近づいて暖めてあげようとしたけれど

彼女は暴れ始めて敵対心を剥き出しにした

しかし彼女の攻撃からは意志を感じず

その全てに絶望したような瞳は

まるで昔の自分を見ているような気がして

放っておけないと決意した

だから話を聞いてもらおうとして

完膚なきまでに叩き潰した

傷つき抵抗をしなくなった彼女を

学校に運び治療を行った

案の定第二のミイラが誕生したが

彼女は何故か満足そうにしていた

聞けば記憶がなく辺りを彷徨っていたとの事

覚えているのは名前だけ

そんな彼女を放っておける訳もなく

三人目の後輩として迎え入れた

これが私とシロコの出会い

それからというものアビドスの部室は

今までよりも賑やかになったのだと思う

まさか三人も後輩が出来るなんて

想像もしていなかった事態だ

最も一人には二度と会えないのだけどね

今でも君の話は誰にもしていない

例え彼女達がどんなに信用出来るようになっても

ホシノちゃんの事を話すつもりはない

この罪を背負うのは私だけでいいのだから

 

そしてシロコがアビドスの一年生として

数日が経過した頃の話

彼女はアビドスの借金を返す為に

銀行を襲ってきたのだという

そして机に置かれた一億円を前に

「ん」と呟きドヤ顔をしていた

確かに借金は利息を払うのでも厳しい

そんな状況だけれども

ノノミと話し合って色々考えた結果

気持ちは嬉しいけど返してきなさいと叱った

それでも彼女が学校の為に行動してくれた

その事実が嬉しくて堪らない

とはいえやり方は教えないと

後輩が間違った道に進んでしまうのは

先輩として阻止しないといけないから

そうやって少しずつだけれど確実に

前に進めているのを噛み締める毎日

二人の後輩に弄られて無愛想にしている私の

素の性格が露天してしまい

可愛いと誉め殺しに遭ったり

三人でサイクリングをしたりと

心の中で罪悪感は残りつつ

悪くないと思える日々を過ごす中

大きな封筒が届いた

中にあったのは二枚の入学届

三人とも意識をしていなかったが

気づけばホシノが帰らぬ人となってから

ニ年目の春を迎えており

砂に混じって桜の花びらが足元に落ちていた

ノノミとシロコはもうすぐ二年生になるが

相変わらず自由に過ごしている

ただし最近ノノミに怒られる事が多くなった

以前から毎日やっていた夜中の見回りがバレて

控えると言った矢先にまた見つかった

安全の為だと反論しても

「自分の身体を労ってください」

その一点張りで返す言葉が思いつかない

シロコの方を見て助け舟を要求するも

彼女も同意見のようで首を横に振っている

「午前4時までに……」

即刻却下された

「せめて日付けが変わるまで……」

それも却下された

「交代制!それ以外認めません!」

聞く耳を持たない後輩達を前に

私が折れるしかなかった

ただし後輩達はペアで回るようにと

約束だけはしてもらった

心配ではあるけれど少しずつ

二人を信用していた私は任せられるかもと

そんな気持ちが僅かに存在していた

とはいえしばらくは様子を見て

危ない目に遭わないか遠くから警戒していた

そしてそれもバレて正座させられた

ただその後に後輩達から言われた

「そんなに私達が信用出来ないのですか?」

と悲しそうに問われた時は答えに詰まった

信用はしている。しているのだけど

もし何か遭ってまた失ってしまったらと

そう考えると震えが止まらないのだ

後輩の問いに対しては

「信用はしている。

けれど慣れるまでは見守らせてほしい」

と返すので精一杯だった

二人は渋々受け入れてくれたが

私は好意を踏み躙ってしまったのかもしれない

そんな自責の念に駆られて嘔吐をした

いつになったら情けない先輩から卒業して

頼れる先輩になれるのだろうと

暗闇に包まれた外を眺めていた

今宵は星が綺麗に輝いている

前までは大好きだった夜空を見上げる行為も

ホシノを思い出すという理由で

暫くやらないようにしていた

その選択は間違っていなかったのだろう

現に今もあの時の事を思い出して

涙が溢れてくるのだから

そんな私を怪訝そうに眺める二人は

隣に寄り添って何も言わない

その気遣いに感謝をしつつも

気遣わせてしまって申し訳ないと

そう思って罪悪感が大きくなっていく

どれだけ信用していても

人には話せない秘密の一つや二つがある

たとえそれが大切な後輩だとしても

 

新学期が始まり学年が上がる

私は留年しているので上がる事はないが

後輩達が無事に進級出来た事が嬉しい

この中にホシノちゃんが居たらと考えてしまい

胸が裂けるように痛くなった

後輩達に悟られないように痩せ我慢をして

歓迎会の準備を手伝う事で気を紛らわせた

紙飾りで小さな教室が彩られていき

華やかな雰囲気を感じてくる

飾り付けが終わり暫く待機をしていると

遠くから足音が聞こえてきた

到着した一年生達はそれぞれ自己紹介を始める

黒見セリカと奥空アヤネ。緊張しているのか

二人とも初々しく、そして可愛らしい

彼女達はこちらを眺めて言葉を待っているようで

ああ、私は……と名前を言おうとしたけれど

「この方はアビドスで1番可愛い先輩です!」

笑顔で語るノノミと「ん」だけで同意を示すシロコ

困惑するセリカとアヤネ、締まらない私

やはり私に君の真似は出来ないのかも

 

それから数日もしないうちに二人は馴染み

部室がとても賑やかになっていた

楽しそうに話している後輩を遠目に眺めて

少しだけ幸せを噛み締めていた

「先輩も一緒に話しませんか?」

そう誘われて一度は断ったものの

何度も誘われるうちに折れた私は

後輩達の輪に入って会話を聞いていた

「先輩って不器用だけどさ、

優しさが滲み出てるわよね」

会話の中、ふとセリカにそう言われた

「私は優しくないよ」

そう否定したが突如ノノミが立ち上がり

マシンガントークを始めた

内容は私の良さについてだった

約二時間にも及ぶ話が終わる頃には

顔から火が出るくらい熱くなっていた

「確かに優しくて可愛い先輩よね」

そう話が盛り上がっていった頃に私は

初めてアビドスから逃げたいと思った

そもそも数日しか過ごしていないのに

なんでセリカとアヤネですら共感してるのだろう

ああ、この空間から離れたくて仕方がない

私は褒められるような人間じゃないのに

ただ後輩を間接的に殺した人間なのに

 

地獄のような誉め殺しが終わり皆が下校していく中

一人学校に残り静寂に包まれている空間に

何故だか違和感を覚えてしまった

いつの間にか皆がいる賑やかな教室に慣れてしまい

孤独な時間が苦手になっていって

流行りの音楽を流しても気は紛れず

寂しいと感じてしまう

身体はとても強く頑丈になってきたがそれに対して

心は反比例するように弱いままだった

もしこんな精神状態で皆を失ったら

私はどうなってしまうのだろう

そんな不安からか不眠状態が続き

睡眠薬を常備するようになっていった

 

多少は無理をしつつも悟られないように過ごし

数週間が経過した時にアビドスにとって

大きな転換点になる出来事が発生した

その日はいつもと変わらない日常であり

机に向かい書類整理をしていると遠方で

自転車が止まる音が聞こえた

シロコがアビドスに到着したのだろう

数十分の遅刻だと注意しようとして

教室を飛び出した矢先にその人は居た

白を基調とした服に身を包むその人は

シロコ曰く『先生』だという

聞けば道端に倒れていたところを保護?したそう

まずは状況の整理をしようと休ませておき

この大人をどうするかと考えた

どの学園の先生かは知らないが

うちの可愛い後輩に手を出そうというのならば

闇に葬る事も視野に入れよう

そんな物騒な事を考えていたらバツが悪そうに

「……実は先生を呼んだのは私なんです」

ごめんなさいの一言の後、アヤネが話し始めた

現在アビドスの状況はお世辞にも良いとはいえない

そんな中シャーレに先生が着任したと聞いて

気がついたら連絡をしていたようで

近いうちに来てくれるという手筈だったらしい

「共有するのを忘れていました……」

誰にでもミスはあるから仕方がないとも言える

しかしセリカは「今更大人なんて信用出来ない」

そう言って教室を飛び出していった

この時私は何も言わなかったが

セリカの意見には同意していた

今更来たところでもう遅いのだ

この後アビドスが救われたとしても

ホシノは帰ってこないのだから

その日は解散となり皆が下校した後に

先生の首元を掴み私は顔を近づけて

「二度と関わらないでください。

あなたが来ても何も変わりはしません」

拒絶するように吐き捨てて私は部室に戻った

所詮大人なんて自分の利益でしか動かない

無駄に搾取されて終わるのがオチだろう

だから関わらないでほしい

後輩を守れるのは私だけなのだから

しかしそんな想いの私とは裏腹に

先生は後輩達と絆を深めているようで

会話の中に先生の話題が出る事が多くなった

一緒にお菓子を買いに行ったとか

倉庫を漁って宝探しをしたとか

銀行強盗をしようとしたら止められたとか

そんな話ばかりになっていった

最初は信用出来ないと言っていたセリカですら

「先生の事は信用してもいいかも……」

なんて言う始末で……

このままだと皆が先生に騙されて不幸になる

純粋な後輩達が大人の醜さを知ってしまう

私はどうすればいいのだろうか

悩みに悩んで出した答えは

先生を問い詰める事

放課後に呼び出して銃を突きつけながら

「私の後輩に近づいて何を企んでいるんです?」

返答次第では安全の保証は出来ないと言葉を添え

それが発する言葉を待ったが返ってきた答えは

「"皆の事をもっと知りたい"」

という子供のようなものだった

顔近くの壁を殴り再度脅した

「次にふざけた答えを言ったら当てますよ」

しかしそんな事をしても先生は私に対して

「"君の事をもっと教えてほしい"」と言ってきた

その時にこの人は話が通じないのだと悟り

苛つきを抑え切れず舌打ちをしてその場を後にした

また大人に積み重ねてきたものが壊される

そんなの嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

皆の笑顔が、アビドスが崩れ落ちるなんて

私には絶対に耐えられない

そんな精神が不安定な状態が続いた弊害で

砂漠を放浪するようにもなっていった

この場所では何も考えなくていい

砂漠に居る時は孤独であろうとも関係ない

むしろ静かな方が心地よく感じるくらいだ

ただし今日に限っては最低最悪の訪問者が

私に近寄って来ていることを察知した

人の形をしていながら姿は異形と言える

黒いスーツを見に纏う大人

私が『黒服』と呼んでいるそれはこちらに

気づき不適な笑みを浮かべて近づいてくる

「これはこれは……随分とお疲れのようで」

そう気遣うように話しかけてくるが

その本心は見え透いたように分かる

何故ならそいつの後ろには何人もの

カイザーPMCの兵士が付き添っているのだから

「『暁のホルス』の件は残念でしたよ。

あんなにも耐久性が低いとは思いませんでした」

……いまこいつは何を言ったのだろうか?

暁のホルス?確かホシノの……

「ですがそろそろ新しい実験をしたいのです。

そこでどうでしょう、アビドスにいる……

シロコという生徒を是非私の実験材料として」

全てを言い終わる前に私は発砲した

途端に倒れる黒服と銃を向けてくる兵士

そうか、こいつらが元凶だったんだ

こんな大人の為にホシノは命を落とした

その事実が許せない。だから大人は嫌いなんだ

「全員殺してやる」

怒りに身を任せて私は暴走した

数分もしないうちに辺りは静かになり

黒服の死体を確認しようと振り返った直後

全身から力が抜けていきその場に倒れ込んだ

薄れていく意識の中最後に見たのは

憎たらしく笑う黒服の姿だった

 

目覚めた時には私は謎の施設に拘束されて

数日の間はサンドバッグにされていた

最初のうちは抵抗を繰り返していたが

その度に身体中に電気を流されてとてつもない

痛みに襲われたのでいつしか抵抗せずにただ

殴られ、蹴られる事を受け入れていた

「大した神秘もない貴女如きに価値はない。

戦闘能力も暁のホルスに劣りますしね。

身の程を弁えてもらえますか?」

そんな事自分が一番分かっているとすら言えず

私はただ下を向いてこの地獄のような時間が

終わるのをただ耐えていた

しかし途中から何故耐えているのだろうと

自問自答を繰り返し始める

助けが来ると思って希望持っているから?

そんな事がある筈ないのに

だって私がこうなっているのは

自分が招いた結果なのだから

 

そんな状態が続いて2週間が経過した頃

既に私は衰弱しきって命の灯火が消えかかって

いつ死んでもおかしくない状態だった

本来であれば生きたいと望むのだろうけど

私はもう生きる事に疲れていた

それにもしかしたら死んだ後ホシノに

会えるかもしれないと考えていたと思う

しかしそう思っている私とは裏腹に

私が生きる事を望んでくれた人もいた

それは私が嫌悪して突き放した大人である先生と

四人の後輩達だった

私の為に黒服が率いる組織と対立して

危険な目に遭いながらも此処に現れた

拘束されて衰弱した私を見た後輩達は

怒りに身を任せて本社を襲ったらしい

「どうしてあなたはそこまでして私を……」

そんな問いに彼は笑顔でこう答えた

「"困っている生徒を助けるのが先生だからだよ"」

この時に私は初めて心から信頼できる

大人と出会えたのだと感じていた

 

救出されてから数日が経過した頃に

見舞いも兼ねて先生がアビドスに顔を出した

私は彼の姿を見るや否や頭を下げて

「ご迷惑をおかけしました」と謝罪した

それに対して彼は私よりも深く頭を下げて

「"こちらこそもっと早く助けられなくてごめん"」

と謝罪をしてきた

そんな行為がしばらく続いた後に話をした

先生のおかげで事が上手くいきそうな事

後輩達に変な事をしていると誤解していた事

そして助けてくれた事に対する感謝を

それの事を長くならないように言葉にした

「ですので……何かお礼をさせてください」

今まで迷惑をかけてしまったのでそのお詫びを

したいと思い伝えたら彼はしばらく悩んだ後に

「"君の事をもっと知りたい"」と

あの時のような事を言ってくれた

それに対して私はあなたの事も知りたいですと

少しだけ微笑みながらそう答えた

その日以降後輩達から「頑張って」と

何かとつけて言われるようにもなった

「何が?」と聞いても「いえいえ」も返され

はぐらされてしまうのでしばらくは

困惑して過ごす日々が続いた

 

ある日先生に頼まれて初めてシャーレの当番

をやる事になり後輩に見送られながら

私は学校の何十倍も大きい場所に訪れた

とはいえ基本的には事務作業だけなので

そこまで苦労はしないものの量がおかしい

全学園分の書類なので毎日山のような

書類と格闘していると目元に隈ができた

先生は笑って誤魔化していたが

無理をしているのが目に見えて分かるので

強引に休ませようとソファーに寝かせて

需要はないと思いながらも膝枕をしてみた

そうしたらものの数秒で眠りについたので

やっぱり無理をしていたんだと思った

けれどそんな先生だからこそ私は

彼の事を信用出来るのだろう

そのまま数時間眠る彼の代わりに書類整理を

終わらせて彼の寝顔を見ていると

ふと自分の中に暖かなものを感じた

彼をもっと見ていたい

私の中に芽生えたこの感情はなんなのだろう

結局その答えには気づけなかったけれど

この居心地の良さは味わった事がなかった

後輩達と過ごしている時とは違う感覚で

胸が熱くなるような、そんな感覚

それは先生の事を考えていたり

先生と過ごしている時に陥る

「……やっぱりあなたは不思議な人ですね」

眠る彼の頭を撫でてそう囁いた

 

「学校の事も一息ついたので海に行きましょう」

唐突にノノミがそう言うものだから

どうして海に?と皆が困惑していた

それに対して議論している姿を眺めていると

「先輩はどう思いますか?」と聞かれたので

「息抜きは大事だと思う」と答えた

私がそう言った事で海に行く事が確定して

休みの日に水着を買いに行く事になった

後輩達が楽しそうに計画を練る中

私は自分の身体が傷だらけな事を思い出して

水着は着れないかな……と考えていた

その日の夜、部屋の鏡の前で自分の身体を

眺めていても全身傷と絆創膏まみれで

とても綺麗とは言えない身体だった

「こんな傷だらけの私の水着を見て先生が……」

それは無意識のうちに出た言葉

何故先生に見られる事を前提に考えて

しまったのだろうか

ただ後輩達と海に行くだけなのに

もしかしたら私は心の中では

先生に水着を見てもらいたいのかもしれない

 

そして水着を買いにいく日になって

五人で大きなショッピングモールを歩いている

長い時間悩んだけれど答えは出なかった

もし先生に傷だらけの身体を見られてしまい

嫌われてしまったらどうしようと

そんな想像が駆け回る中後輩達は

水着の試着をしたりして楽しんでいる

「先輩も選んでください☆」

手を引かれて私も自分が着る水着を探した

この際アンダーウェアのようなものでいいと

それっぽいやつを手に取ったのだけれど

「先輩はこっちの大人っぽいビキニとか

パレオのようなものが似合いそうですね」

と言った後輩達の意見に押されて

落ち着いた色合いのビキニを選んでしまった

試着した際に傷だらけの身体を後輩達に

見せたが「全然気になりませんよ」

と一蹴されてしまい「本当に?」

と聞き直しても「はい」と口を揃えて

そう答えられた事が決め手となった

家の鏡の前で購入した水着を試着するも

選んでもらった手前申し訳ないけれど

やっぱり私には似合わないような気がした

 

そして数日後、二泊三日の旅行として海に来た

どういう理由かは分からないけどこの場所は

ノノミ曰くとある理由で貸切らしい

突っ込みたい衝動に駆られたが

楽しそうに海を満喫する後輩達を見れたので

触れなくていいかと考えた

先生は私の水着姿を見て

「"似合ってる、綺麗だね"」と褒めてくれた

ありがとうと伝えたかったのだけれど

何故か声が出なくて顔を背けてしまった

ただその日はずっと胸が暖かくて

幸せを感じていた事を覚えている

こんな他愛のない日常を過ごして

幸せを噛み締めて生きるのも悪くないと

少しずつそう思えるようになっていった

こうして大切なものが増えていって

世界が彩られていくように感じた

けれどそれは私にとって

仮初の日常に過ぎなかった

 

その日は先生と買い物をすると言って

ノノミとアヤネが出掛けた日

部室に残っていた後輩達と歓談していた時に

ふとスマホをこちらに向けて

「……先輩、これ……」

セリカが見せてきたスマホの画面には

『シャーレの先生が襲撃された。

先生とその周辺に居た生徒は生死を彷徨い……』

というネットニュースの記事だった

一気に血の気が引いて顔が青ざめていく

事実確認をしようと三人に連絡を送るが

既読がつく事はなかった

激しい動悸と吐き気に襲われた私は

近くにあったバケツの中に嘔吐した

しかし何度吐いても治ることのない吐き気に

私は身動きが取れなくなってしまったので

シロコが確認の為にシャーレに向かい

セリカは私の介抱をしてくれた

「先輩……大丈夫?」

心配そうに背中をさすってくれる彼女

せめて三人の安否を確認するまでは堪えようと

シロコからの連絡を待った

数十分もしないうちに連絡が来たが

無情にもその内容に書いてあったのは

『アヤネとノノミは即死だった』という事実

私はその場に崩れ落ちただ嗚咽をあげた

 

後日詳細な状況が説明された

とある地下鉄に爆弾が仕掛けられ

それが偶然にも爆発してしまいたまたま近くで

買い物に来ていた三人は巻き込まれたとの事

そして不幸にも悪い大人が生み出して流通した

『ヘイローを破壊する爆弾』が近くにあり

それが誘爆した事によって二人は即死した

先生が意識不明の重体で済んだ理由は

ノノミとアヤネが身体を張って庇ったから

そういう見解らしい

大切な仲間を二人も失った事で

重い空気が流れる部室の中

何かを決意して出て行こうとする

シロコとセリカの二人を見て私は扉の前に

立ち塞がって「何をするつもり……?」

と震えながらも問いただした

「あの事件は意図的に起こされたもの」

「私達は犯人に心当たりがある。

だから会いに行くだけ」

危ないからやめて、行かないでと懇願しても

彼女達の意思は固く聞いてくれない

実力行使で止めようとしても

力の入らない身体では立っているのが限界で

数分後にはその場で座り込んでしまった

「大丈夫よ。危ないと思ったら逃げるから」

「先輩を一人にはしない。

だから安心して待っててほしい」

そう言い残して二人は学校を後にした

この日私は命を賭けて止めなかった事を

永遠に後悔している

 

私の手元にあるのは四つの学生証

そして胸ポケットにしまっていた

もう一つの学生証を取り出した

それらを机の上に並べて置いた

ノノミ、シロコ、セリカ、アヤネ

そしてホシノの学生証

五人の後輩を失った私の心はもう

粉々になるくらいに打ち砕かれて

泣く事も叫ぶ事もなくただただ一人

静かな教室で過ごしていた

「……そろそろ行こう」

学生証を手に持って向かった先は病院

そこのとある一室にいる人に会いに行く

私に残った唯一の大切な人、先生

彼は意識不明の重体だがまだ生きている

今はまだ回復の目処が立っていないけれど

元気になってほしいと願いを込めて

私は一羽の折り鶴と

『先生、いつもありがとう』と書いた

メッセージカードを添えて病室を後にした

そんな僅かな希望を胸に抱き

何とか生きていた私の心を完全に壊したのは

それから数日も経たない間に速報として

『シャーレの先生は回復の目処が立たず。

これ以上の治療は無駄と判断して近日中に

葬式をーー』

という記事だった

 

私は積み重ねてきた大切なものを全て失った

もうこんな思いを繰り返したくない

だから私は自殺する事を選んだ

砂漠の上に寝転んで

手榴弾の安全ピンを外し胸元に近づける

「皆、今からそっちに行くね」

また皆と会える、そう願い手榴弾は

爆発して私は死んだ

そう思いたかったけれど生きていた

「どうして……どうして死ねないの!?」

本来であれば死んでいたかもしれないが

私は皆を守れるように強くなる事を願い

鍛えていた事が災いして手榴弾の

至近距離の爆発にも耐えてしまったのだ

精々数日動けなくなる程度の怪我だろう

死にたくても死ねない

どうして何もかも思い通りにいかないの

どうして私の人生はいつもこうなんだ

上手くいった事なんて一つもない

生きていても何も出来なかった

全てを失っても尚死ぬ事すら許されない

……もう限界だった

誰でもいい。私を殺して

そう願って瞼を閉じて考える事を放棄した

 

それから何日が経過しただろうか

複数の足音が近づいたと思うと

私を囲むように立っている気配を感じた

「大した力はなさそうだがこれでいいか」

「眷属くらいにはなれるだろう」

そんな会話が聞こえたがどうでも良かった

殺してくれるなら何でもいいと

その後私は何かを注入されて悶える

苦しい感覚に襲われてようやく死ねると

安心していたが突如痛みがおさまって

動けるくらいに回復してしまった

どうやら私は色彩の眷属として適合した

そして恐怖の存在になった私は

世界の全てを破壊していく

それを見て歓喜をする司祭を見て

私は一人ずつ命を奪っていった

驕るなと叫んでいるが

驕っているのはお前らの方だ

人を駒として利用して生き永らえさせ

人生を弄ぶお前らなんて

死んで然るべき存在だろう?

全員を殺しても満たされる事はなく

廃墟となった世界を歩いていると

目の前に現れたのは先生だった

全身ボロボロで生きているのかも

分からないような姿だけれど

そんな事は些細な問題だった

何も残っていないと思っていた私に

先生という大切な人が残っていた

その事実が嬉しくて

思わず抱きついてしまった

それが原因で彼は本来起こり得る事がない

『色彩』に魅入られるという事態になり

彼の身体は変貌していき

『色彩の嚮導者』として生誕した

私は嗚咽をあげて先生に対して

「ごめ……な……さ……ぃ」

と謝り続ける事しか出来なかった

 

これが私が体験した全てであり

死ぬまで許されない罪である

そして今私は

自分の罪を精算して

『ようやく死ぬ事が出来る』



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星が導く夢の未来

長い長い走馬灯は終わりを迎え

次第に意識が遠のいていく中

脳裏に過ぎるのは後輩達の姿だった

それぞれが笑顔でこちらを見ている

そしてその中に居たのは誰よりも大切な

私のホシノちゃんだった

無愛想ながら彼女も微笑んでいる姿に

思わずこちらも笑みが溢れてしまい

抱きつこうとして近づいた時

『先輩が来るのはまだ早いですよ』

そう言って私は彼女達に背中を押されて

花園から追放された

どうして?なんで?やっと会えたのに

会いたくてずっと頑張ってきたのに

その答えは脳に響くような声で

『先輩。貴女は生きてください。

何も背負わず自由に』

嫌だ。嫌だ。私は皆が居ないと生きていけない

その想いとは裏腹に伸ばした手は空を切る

けれどその手は温もりに包まれていた

その理由は意識を取り戻した際に理解した

私の後輩だけど後輩じゃない存在

もう一人のホシノちゃんが私の手を握っていた

『貴女は一人じゃない』

なんだかそう言われているような気がした

……あったかいな

こんな感覚はいつ振りだろう

 

ーーー

 

「先輩……?大丈夫ですか?」

 

ホシノの問いにゆっくりと頷いて答える彼女。多くを語らずただ天井を見ている彼女は何を思い何を考えているのだろうか。

ひとまずはこの騒動が終わった事に安堵して一息つこうと外を眺めた時に違和感を覚えた。何故まだ空が赤いのだろうか?そんな中突如聞こえた発砲音の方に目を向けると偶像のような存在がユメを見下ろすように立っている。先程の音はホシノがそれに向けて発砲した音のようだ。あれはもしや色彩の本体なのだろうか。

 

偶像は何かを伝えている。それが何を発しているのかは理解できなかった。しかし彼女には聞き取れたのだろう。途端に発狂してしがみつき

 

『嫌だ……嫌だよ……お願いだから……』

 

消え入るような声で呟いているが偶像は何も反応しない。いや、出来ないのかもしれない。あの偶像からは生を感じない。死体が動いているかのようなものなのだろう。各自警戒をしている中彼女の頭に手を置いて得体の知れないものを取り出している。それは小さな宇宙を模したような塊で心臓のように一定の速度で鼓動している。

 

見ていると何だか引き込まれそうになるその塊を偶像は受け入れた。その直後に塔を大きな揺れが襲う。恐らく崩壊しかけているのだろう。

 

生徒達に指示を出して退避させ偶像の方を見るとそこには誰も居ない。折鶴とメッセージカードが落ちているだけだった。それらを拾い待機していたアリスに手を引かれて塔が崩壊する前に脱出する事が出来た。

 

ホシノの救出が出来て良い関係にもなれた。先輩を止めるという彼女の望みも叶った。ついでに色彩の対処も完了して今回の件は大勝利とも言えるだろう。

 

こうして長いようで短い戦いは幕を閉じてそれぞれが帰路につく。……そう思ったのだが何やら後輩達が話し合っているようで……

 

「お泊まり会をしましょう☆」

 

今宵の学校は騒がしくなりそうだ。




本日は20時にもう一本投稿予定です


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君に捧げる青い薔薇

「先輩!」

 

一人立ち去ろうとしていた私の背中からかけられた声に対して振り返ると息を切らしたホシノか居る。

 

「アビドスに来ませんか?」

 

そして彼女から差し伸ばされた手。それはホシノが考えて出した答えなのだろう。

 

『やめておくよ。私の後輩だったホシノちゃんは君じゃないんだ。私の価値観を押し付けちゃいそうになるし……』

 

「いいから来てください」

 

『ほら……私には私の、ホシノちゃんにはホシノちゃんの居場所があるの。だから……』

 

「嫌です」

 

何を伝えても嫌と言われて困ってしまう。ホシノはここまで頑固だっただろうか?……もしかしたらこれが彼女本来の性格なのかもしれない。けれどこの場で駄々をこねられてもどうしようもない。

 

「貴女もご存知でしょうが……こうなってしまったホシノが折れることはありません。なので数日だけでもアビドスに滞在しては如何でしょうか?勿論無理にとは言いませんが、貴女は可愛い後輩の頼みを断るような先輩ではありませんよね?」

 

「そういう訳なので帰りますよ!」

 

ホシノは彼女の手を引いてアビドスに向かい駆け出した。それがどのような結果になるのかは分からない。ここからは彼女達が物語を紡いでいくのだから。

 

ーーー

 

アビドスに戻った一同は一つの教室に布団を敷いてパジャマパーティを始める。複雑な心境ではあるが後輩と話せたユメは少しだけ満たされたような感覚になった。それと同時に彼女達は私の後輩ではなく似た他人なんだなと理解してしまった。同じ姿、同じ声。まるでドッペルゲンガーのような存在。

 

……やっぱり私は生きるべきじゃなかった。後輩が、先生が全てだった私の人生は自由にしろと言われてもどうすればいいか分からない。そう考えていると辺りが静かになっている事に気づいた。皆が寝静まっている。よほど疲れていたのだろう。……ここは平和なんだな、そう思えてしまうくらい微笑ましい。

 

『私の世界も……こうなれたのかな……あっ』

 

ふと気がついた。この世界の私は何処に居るのだろう?ホシノがあの盾を持っているのだから何処かに居てもおかしくないのだけど……

 

『どうせ私は眠れないし……』

 

寝静まった後輩達を起こさぬように物音ひとつ立てずに部屋から出る。見慣れているのに見慣れていない校舎内を歩いているとある教室の机の上に埃を被った大きめの鞄が存在している事に気づいた。

 

「その鞄の持ち主に興味があるのですか?」

 

『!?』

 

いつの間にか背後に黒服が居た。警戒する私を他所に彼はただ手招きをして誘導してくる。その行動に訝しみながらついていくとそこは旧校舎の中庭だった。世界が違う筈だけど構造はまるで同じだ。ただ一つを除いて。

 

『あの墓のようなものは……』

 

「この世界の貴女が眠っている場所です」

 

……そっか。だから彼女はあんなに必死になって……そこまで私と同じじゃなくてよかったのに……

 

近づいてみると定期的に手入れされているのが分かった。そしてそれをしているのは恐らくホシノなのだろう。せっかくだからと彼から手渡された線香を添えて黙祷をする事にした。

 

『(貴女は大切なものを守れたんだね。すごく羨ましいよ。……私はダメだったよ。誰一人として守れなかった。だから貴女が羨ましい)』

 

数分にも及ぶ黙祷が終わり機会を与えてくれた彼に頭を下げた。思えば彼には悪い事をしてしまった。私にとっての先生のようにホシノにとっては大切な存在だったのだから。

 

「気にしなくていいですよ。私はただの悪い大人である事には変わりがないのですから」

 

『……私の世界の貴方も同じような性格だったら……』

 

「前に似たような事を言われた記憶がありますが……他の世界で私はどれだけ嫌われているのでしょうか……」

 

少し落ち込んだ様子を見せる彼にやはり私の知る彼ではないのだろうとそんな事を考えてしまった。

 

「貴女はこの後どうするのですか?」

 

『この後……私は……』




あなたは、先生は彼女がどちらの道を歩む事を望みますか?


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居場所

学校の仮眠室。苦い思い出が蘇りそうになるが黒服からの許可を得てユメはそこで居住する事にした。

 

「貴女のやりたい事が見つかる事を教師として願っていますよ」

 

彼はそう言って仮眠室の鍵を渡してくる。貴方が教師と名乗る違和感には永遠に慣れる事はないのかもしれない。ふと気づけば眠くなってきていたので皆が寝ている部屋に戻って眠ろうとしたが私の布団はホシノが占領していた。寝相が悪いの一言では済まされないくらいの大移動をしているのでほんの少しだけ笑みが溢れた。

 

『風邪ひいちゃうよ』

 

彼女を自分の布団の場所に戻してから私は人肌くらい暖まった布団の中で眠りについた。こうして少しずつではあるが前を向いて歩き始められた。起きたら皆に話してみよう。私は此処に居てもいいかな、と。なんだかむず痒い気持ちになってしまったので睡眠に集中しようと思った矢先にこちらの布団に入ってくるホシノ。

 

「うへへ……せんぱい……」

 

……彼女はこんなにも寝相が悪かったのだろうか。まあ悪い気はしないのだけれど自分の知るホシノはこんな事をするような子ではなかったので積極的だな……と思った。そんな彼女の純粋無垢な寝顔を見れると思うと少しだけ幸せを感じてしまう。ただ、私は彼女を見て君を思い出してしまう。もし君がこの場に居たら……なんて。この感覚は受け入れて生きていくしかないのだろう。簡単に吹っ切られる事ではないのだから。

 

ーーー

 

今日は久しぶりに目覚めの良い朝だった。きっと安心出来る場所に居るからだろう。このまま朝の特訓を……しようと思ったがまだホシノがくっ付いたままなので身動きがとれない。どの世界でも君という存在は愛おしくて堪らない。……何より少し肌寒いので暖かい君を手放したくなかった。他の子達もまだ寝ている。皆お寝坊さんなんだね。もう朝の4時なのに。二度寝する気も起きないので部屋から出ようとして立ち上がる。そしてホシノを引き剥がして……剥がれない。なんならさっきよりも物凄い力で抱きついてくる。

 

『ホシノちゃん、そろそろ離れて欲しいんだけど……』

 

「離れません」

 

『ちょっと散歩してくるだけだから……』

 

「私も行きます」

 

……やっぱり頑固だ。仕方ないので彼女も連れて部屋を出る事にした。眠そうにあくびをする彼女を見て『眠いならまだ寝てても……』と言ったが「先輩から離れたくないです。また勝手に居なくなられたら困ります」と返される。勝手に居なくなる、か……確かに放浪した先でもしかしたらやりたい事が見つかるかもしれない。だけど私にはまた一人になる勇気はない。だから今はただこの場所で、彼女の隣で過ごしていたい。こうやって時間が経っていくにつれて私はこのアビドスに溶け込んでいくのだろう。似ているようで全然違うこの世界で私はまた生きてみようと思う。

 

私は君を失った。君は私を失った。

私は死を望んだ。貴女は生を願った。

今手を握って隣を歩く君は

あの日失った君ではない

今手を握って隣を歩く貴女は

あの日失った貴女ではない

星に願った夢が叶う事はもうない

だけど右手に感じる君の温もりは

だけど左手に感じる貴女の温もりは

何よりも暖かく心を満たしてくれる

今はただそれだけで良いのだから

 

 

第四部 夢 完




ーーアビドス高等学校に『ユメ』が合流しました。


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四部の後日談
慣れない生活


朝日に照らされて私は起きた

それは全く新しい日々の始まりを

予感させるように感じる

海豚柄のパジャマを脱いで制服を着て……

 

『……あれ』

 

寝る前に置いていた私の制服は

本来あるべき場所に存在していなかった

 

「ああ、随分と汚れていたので洗濯してます」

 

似合わないエプロンを付けた黒服は言う

それ以上に突っ込みたい事が多すぎて

私は色々困惑していた

何で料理をしているの?そのエプロンは?

家庭的すぎない?というか勝手に部屋に

入って欲しくないんだけど……

色々な言葉がよぎったが口から出たのは

『お母さんか!!』という突っ込みだった

 

「まあ……普段からホシノの世話をしてますし今更一人増えたところで変わりません」

 

何なのこの家庭的な黒服ある意味怖い

それはそれとして着る服がないのは困る

 

「とりあえずはこちらの朝食をどうぞ。

服に関しては用意しておくので」

 

唐突に差し出された朝食

謎に拘って作ってあるフレンチトースト

何か変なものでも入ってないかと少しだけ

疑ったものの誘惑には耐えられなくて

一口頬張った。その後六枚分食べた

 

「気に入っていただけたのは嬉しいです。

ただホシノの分まで食べてしまうとは」

 

『数日振りのまともな食事だったので……』

 

思えばあの日手榴弾を持って出掛けてから

最低限の栄養しか摂っていなかった

こうやって食事をする余裕もなくて

久しぶりに満腹感で満たされていた

さっきホシノの分までと言っていたけれど

もしや毎日一緒に食べているのだろうか?

まさかホシノの胃袋を掴んでいる……?

 

「とりあえず替えの服を持ってき……

何か変な事を想像していませんか?」

 

『何でも……ただ……

こうやって堕とされたのかなって』

 

「仰る意味が分かりませんが」

 

もしホシノがこれに恋をしてるとしよう

私は純粋に応援出来るのだろうか?

多分無理かもしれない

娘はやらんみたいな気持ちになるかな

別に私の娘ではないんだけどね

仮にホシノが結婚するのなら

絶対に彼女を幸せにしてくれるって

確信出来る人にしか出来ないよね

でもそういう意味であれば彼は

一番の適任だったりして……?

まあホシノと彼が結婚してもさ

ロリコン朴念仁が結婚したーとか

周りに言われてそうだよね

恋愛に興味がなさそうな人間だし

いや人間なのかな?人外だよね?

人外と結婚って許されるのかな?

でもそもそもこの世界ロボットとか犬とか

人外だらけだし許されるのかも……

あれそもそも大人の人間って存在してる?

なんだか混乱してきた

とりあえず着替えよう……

 

『確かに仮の服だし贅沢は言えないけど……

これ以外に何かあったのでは?』

 

「おかしいですね……ホシノから『先輩はメイド服が好きなんだー』と聞いたのですが」

 

好きだからと聞いたからとはいえさ

生徒にメイド服を着せる先生ってどうなの?

おかしいと思うんだけど

まさかこっちの世界でもあれをやったのかな

罰ゲームでホシノにコスプレをさせて

撮影会をする自己満足企画を

まさかここで自分の行いが返ってくるとは

ただ着心地は悪くないのでいいかなと

何故か乗り気になっていた

そんな気分もカメラのシャッター音と

うへへと笑うホシノと目があって

追いかけっこをするまでの短い間しか

持たなかった

そして運悪く他の子達も登校してきて

私を見るや否や近寄ってくる

どうやらこの場所でも私は

後輩に弄られて過ごす事になりそうだ

ただ私の事を振り回す人が

二人増えただけで……

 

「ご機嫌よう、アビドスの方々。

本日はお日柄もよく絶好のデート日和。

観念して黒服先生を渡して貰いますわ!」

 

急に知らない子が来た。しかも黒服に会いに

なんかゲヘナっぽい制服着てるし

さも当然のようにデート誘ってるし

 

「いいえ、本日は私がお迎えに参りました。

トリニティの良さを存分に理解して頂いて

今後良い関係を築く為には必要ですから」

 

また増えた。凄い羽をバサバサしてる人

あれ、あの人トリニティの偉い人だよね

ティーカップみたいなバッジ着けてるし

えっ何でアビドスに来てるの?

もしかしてこの人も黒服狙い?

この世界の黒服はどんな業を背負っているの?

なんで当たり前のように好かれてるの?

思考を放棄してしまいそうになるくらい

情報がなだれ込んでくる

もしかしてこれから私が過ごす毎日は

こんな波乱が当たり前のように続くのかな

とても疲れる日々になりそう

だけどそれ以上に……楽しそうだ



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会議とは

「それでその時ヒナがですね」

 

この会話の始まりをどれだけ聞いたのだろうか。目の前にいる年増は口を開けばヒナがヒナがと止まらない。ヒナに対する愛は伝わるが会議の度に聞かされるこちらの身にもなってほしい。というか何故他の二人は当然のように欠席しているんだ。ゴルコンダ……はともかくロリコ……黒服。せめてお前は来てくれ。ゲヘナとトリニティの交流が始まってからずっとこれと顔を合わせているんだぞ。

 

「聞いているのですか?ヒナが……」

 

「一日で不良を百人懲らしめた話だろう?」

 

「違いますよ。テストで百点を取ったのでそのご褒美に欲しいものはあるかと聞いたら『撫でて欲しい』って上目遣いで言われて爆発した話です」

 

「それはもう68回も聞いたぞ」

 

「何回でも聞きなさい。あの日はヒナと……」

 

誰かこの話を聞かない年増を止めてくれ。話が進まなくて困る。まともに話せるだけでいい。この際生徒を呼んでしまおうか?しかし暗黙の了解が……

 

「お困りのようですね、マエストロ」

 

「お前は……」

 

「環境美化部副部長、書記長代理、運動部代表代理、清掃部副部長、風紀副委員長、給食部副部長、そして副会長を務める……」

 

『ゴルコンダです!』

『そういうこったぁ!』

 

なんだこいつ。知り合いに似てるが気のせいだろう。赤の他人だ。そうに違いない。これはゴルコンダに似た何かだ。

 

「おやおや、マエストロともあろうお方が私を無視すると言うのですか?粛清しますよ?一週間プリン禁止の罰を与えますよ?」

 

俗世に染まるにも程があるのでは?

お前の崇高はそれで良いのか?

そこの年増はともかくお前はいいのか?

プリン禁止如きなんて何の罰にもならん、どうせ甘いものはロールケーキしか出されない。三食ロールケーキも普通にあるくらいだ。ああ、そういえば最近プリン味のロールケーキが発売したとか記事になっていたな。ナギサ曰く邪道だとかなんとか……

 

「………」

 

何かがおかしい。いや、その理由には気がついている。そこの二人と同じ括りにされる事を拒んでいるからか受け入れたくないだけだ。だが間違いなく……私も生徒に染まっているのかもしれない。

 

「何ですかこの硬いチョコは。

歯が欠けるかと思いましたよ」

 

「それはCheryonka Chocolateです。

偉大なるチェリノ会長の絵が描かれた……」

 

……やはりこれらと同じ土俵に居るとは思いたくない。いつの間にかゲマトリアが生徒大好きクラブと呼ばれかねない組織になっているような気がする。せめて自分と黒服だけはまともに……あいつも終わってるからな……会議に来ないでアビドスで何をやってるんだか。

 

「そろそろお暇致します。

この後アビドスに向かう予定ですので。

何故なら見知らぬ生徒の反応があるのです!

そう、この私が知らない生徒が!!

ロリコン朴念仁に独り占めはさせません!」

 

「私も来たばかりで申し訳ありませんが……

プリンの在庫が底を尽きてしまったので」

「そういうこった」

 

それぞれが自由に行動する中マエストロはため息をついて「もう好きにしろ」そう言い放ってと全てを諦めた。年増が去り際に

 

「大丈夫ですよマエストロ。

貴方も生徒に愛される快感を覚えてしまえばこちら側の仲間入りです」

 

と言っていたが生徒に愛される経験など起こり得ないだろう。

 

「それはひょっとしてお笑いのつもりで仰っているのでしょうか?」

 

紅茶を飲みながらナギサが言う。

 

「生憎私を好むような物好きは居ないだろう?」

 

「ミカさんとセイアさんが居なくてよかったですね。間違いなくタコ殴りにされていましたよ」

 

「何故だ?」

 

「あと……白猫さんと猫塚さんにも」

 

「変な事を言うな。

まるで人にストーカーが居るかのように

言われても困るのだが」

 

「こういう人を鈍感と言うのでしょうね」



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反転の研究

こちらを読む前にリセットされた対抗戦の蒼輝石を回収しておく事を推奨致します。


騒動が落ち着いたアビドスはいつも通りの日常を過ごしている中、一人机に向かう黒服。彼は今回の件で新しい好奇心が芽生えており、その検証の下準備をしている。

 

『恐怖からの反転』

 

それは不可能とされているもの。完全な恐怖に染まったものは永遠に戻る事はない。そう言い伝えられている。だからこそ興味が湧くというもの。

 

その前に完全な恐怖というものを説明しないといけない。この場合においてはホシノとユメ、彼女達で例えると分かりやすいだろう。

 

ホシノは一時的な感情の昂りにより恐怖に染まった。それは実験した際に埋め込んだ恐怖を増幅させたもの。だがそれは彼女が最大の神秘を保持している事、一度克服していたからこそ成せた業。他の生徒では恐怖に支配されて身を滅ぼすか適合して神秘を全て反転させて生きるか、あるいはどちらも満たせずに命を落とすだろう。

 

ユメに関してはどのように恐怖に反転させられたのかは正直なところ分からない。だが彼女の神秘はホシノよりも数倍低い。だが偶然にも彼女は適合してしまった。その証拠として彼女のヘイローは常に黒く染まっている。精神まで蝕まれているのだ。つまり完全に染まっている状態という事になる。

 

過去のゲマトリア達が残した情報ではあるが故に信用度は高い。良くも悪くも彼らは神を再臨させる事を目的としておりあらゆる手段を試していたのも事実。結局上手くいかずに人工神を作る道を歩んだのだが。

 

前置きが長くなってしまったが本題はここからである。早い話、ユメを元の状態に戻せるのではないか?と考えている。彼女の身体に存在していた恐怖と色彩のような塊は偶像が全て吸収していた。つまり今彼女の身体には恐怖が残っていないのではないだろうか?加えてホシノ達と過ごしている今なら精神も安定していると思える。今のうちに彼女の体内に輸血をする要領で強い神秘を注入したら弱まっている恐怖を打ち消せるのではないだろうか?幸いアビドスには最大の神秘であるホシノも居る。試してみる価値はある。すぐにでも取り掛かるべきなのだろうが問題がある。まだ安全性が確立できていないという事。反転している今の状態では神秘が毒のように感じてしまう。そんな状態で自分よりも強い神秘を注入されるのだからその苦しみは想像がつかない。せっかく助かった命を無駄にしてしまうかもしれない。想定外は想定内、とも言うがこの場合においては安全第一で進めるべきだろう。

 

幸いにもホシノは今ユメに夢中なので研究には集中出来る環境ではあるが正直行き詰まっている。

 

「中々上手くいかないものですね……ん?」

 

ふとスマホに目線を向けると数百件の着信履歴が。……正直掛け直したくないが仕方なく出る事にした。

 

『ようやく電話に出ましたか。ロリコン朴念仁』

 

「今忙しいので貴女の戯言に付き合ってる暇はないのですが」

 

『ところで黒服、今私は何処に居ると思いますか?』

 

不意に背中から感じる嫌な気配に戸惑いつつも

「何処に居るのですか?」と問う。

 

「貴方の後ろですよ」

 

案の定嫌な予感は的中し、ヒステリックモンスターペアレントベアトリーチェはアビドスに不法侵入していた。

 

「黒服ぅ……知っていますよぉ?居るんでしょう、私の知らない可愛い生徒が。紹介……してくれますよねぇ?」

 

「お断りします。貴女を見せるのは教育上よろしくないので」

 

「何ですって……?よくもまぁ、私にそのような態度を……私はヒナを覚醒させた最も崇高に近づいたゲマトリアの大天才ですよ?」

 

「ただの変態ですよね」

 

「何ですって……?」

 

このまま無駄な無限ループに入るのも面倒なのでお帰り頂こうとしたか頑なに帰らない。何故この変態は邪魔をするのだろうか?人が作業しているにも関わらずくどくどと無駄な話を繰り返す。

 

「先程からなんの作業をしているのです?」

 

「恐怖を反転させる装置の安全性を高めています」

 

「何故そのような事をしているのです」

 

「生徒の為ですよ」

 

「おやおや。おやおやおやおやおや。貴方も遂に生徒の魅力に気付いたのですね。遅すぎるにも程がありますが気づけただけでもよしとしましょう。ああ大丈夫です。多くは語らずとも。大方ホシノのに注入した恐怖を取り除こうとしているのでしょう?私には全てお見通しです」

 

「……まあ、そんなところです。なので作業の邪魔をしないでいただけると助かります」

 

「そういう理由ならば仕方ないですね。大人しく噂の生徒を探しにでも……アッ」

 

彼女の目線の先には手を繋いで歩いているホシノとユメが居る。その光景をみた彼女は当然爆発する。相変わらずどのような理由で爆発しているのかは理解出来ないが黙らせる手間が省けたので助かった。



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静かだけどやかましい一日

数日経って慣れてきた頃に

それぞれが用事があるとの事なので

今日は一人で書類整理をしている

久しぶりに過ごす一人の時間は

とても静かで落ち着いた時を過ごせる

前の自分だったらきっと落ち着くどころか

発作を起こして嘔吐していたかもしれない

アビドスの皆が良くしてくれるから

少しずつ精神が安定してきてるのかも

そんな着実に前へと進めている自分を

ほんのちょっぴり褒めてあげたい

「桐藤ロールケーキのお届けに参りました」

なんて考えていたら突然の来訪者が来た

あれこの人前も来ていなかった?

トリニティのトップって暇なのかな?

「……あら、彼は居ないのですね。

ですが問題ありません。鮮度には細心の注意を払って持参致しましたので何時間でも貴方の帰りを待っております」

ああ、やっぱこの人暇なんだ

まあ邪魔をしないなら放っておいても……

「まあ!これはあの名ブランド『NAGISA』

の桐藤ロールケーキではありませんか!?

これは美食を探求する者として食させて

頂きたいと思います」

この二人よく来るなぁ……

ゲヘナの子は毎回ボコボコにされてるのに

ほぼ毎日来てるし……すごい執念だね

ただ騒がれても面倒なので二人とも仲良く

それぞれの学園に帰ってもらった

席に戻って作業を再開して数分も経たない

内にまた二人来た

「いつもハルナがご迷惑をおかけして……

本当に申し訳ありません」

「合わせてナギサの件も謝罪しに来たよ。

私の友人が迷惑をかけてすまない……」

どうやらさっきの二人組の保護者のようだ

『特に気にしてないから大丈夫だよ』

そう言ったのに何故かホールケーキと

フライドチキンを貰った

お詫びの品なのだろうか

何故こんなチョイスをしたのだろう

二人はそそくさと帰ってしまったので

その真意は永遠に解明される事はない

ただ作業をしているだけなのに

机の上におやつが並んでいく

誘惑に負けそうにはなるけれど 

一人で食べるのは嫌なので

後輩達の帰りを心待ちにしながら

作業を再開しようとしたら

また来訪者が訪れた

「ホシノに会いに来たんだけど……」

何処かで見たような顔の彼女は

私の世界では撃たれて死んでいた

あの事件がゲヘナ学園の壊滅の始まり

そんな記事を読んだ記憶がある

そっか。この世界はホシノだけじゃない

他に死ぬ運命だった子達も生きている

接点がない子達とはいえ

その子達が幸せに過ごせている姿を

想像するのは悪くない

『ねえ風紀委員会ちゃん。

よかったらお話しようよ』

「いいけど……貴女は?」

……ああ、そういえば名乗っていなかった

『私は……ホシノちゃんの先輩だよ』




「ついでにもう一つ聞いてもいいかしら」

『うん、いいよ』

「なんでメイド服を着てるの?」

『先生の趣味……かな』

「……苦労してるのね」


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去っていったあなたへ

アリスとケイ。二人のアンドロイドは

黒服により数日間安静に過ごしていた

とはいえモモイ達に振り回されており

波瀾万丈である事には変わりがない

そうして遊び疲れたアリスは眠り

ケイは月明かりに照らされている

焼け焦げたメモリーカードを見ていた

 

あの日自らのメモリーカードを外して

アリスに手渡した事によって

一つの躯体に二人分の意識を持ち

彼女は王女に覚醒した

けれど覚醒したばかりの状態で

無理をした為にオーバーヒートして

ケイの記憶が刻まれたカードは燃え

彼女の存在は消える筈だった

しかし動じることなくそれを受け入れた

『鍵』としての役割しかなかった彼女が

こんなにも充実した日々を過ごし

奪う事しかプログラムされていなかったのに

最後は大切なものの為に消える事が出来る

こんなにも幸せで満足のいく人生は

アリスとホシノ、黒服とモモイ達が居なければ

歩む事すら許されなかったのだろう

彼女達のシナリオは続いていく

例えそこに自分が居なくても構わない

そう思って眼を閉じようとした

『本当にそう思ってるの?』

不意にかけられた声に驚いて閉じかけた眼を

開けたが暗闇が広がるだけで何も見えない

『君はこのまま消える事を望んでいるの?』

直接頭に響いているような感覚に襲われ

動揺しながらも口を開いて

 

「望んでいます。私は役割を終えて……

もう生きる意味はないのですから」

 

姿の見えぬ声の主に伝えた

数十秒の静寂の後に彼女?は

『本心は?』と聞いてくる

 

「これが本心です」

 

『『ケイ』の本心を聞いてるの。

役割がどうとかじゃなくて貴女自身の』

 

私自身の本心?そんなものはない

そう思っていたけれど

頭に浮かんでくるのは過ごしてきた日常の

『当たり前』になっていた日々の記憶

『私』が守りたかった何よりも大切なもの

そして私の……生きる意味

 

「……やっぱり生きたい。

もっとアリス達と一緒に居たい。

このまま消えたくない。ずっと一緒に……」

 

『そう、それでいいんだよ。

君はもう役割に縛られる必要はないの。

自由に生きていいの』

 

不意に手に何かが触れる感覚があり

視線を向けるとそこにあったのは

もう一つのメモリーカードだった

 

『だってさ、君が生きたいって、

そう思ってくれないと……

守った意味がないからね』

 

「貴女は……あの時の……」

 

『あの日私という人格が生まれた時から

こうなる事は決まっていた。

だから代わりにって訳じゃないけど……

ケイには生きて欲しいんだ。そして

私の人格元となった人の後輩を……』

 

ーーあの日彼女は全てを言い終わる前に

カードが焼け焦げた影響で消えてしまった

彼女の人格元の後輩。その人に出会い

彼女が何を託そうとしたのかを知るという

私の新しい目標が出来た

彼女が誰なのか、後輩とは誰なのか

何もわからないけれど託された以上

必ず出会い伝えようと思う

一人のアンドロイドは月明かりに照らされて

そう物思いにふけるのであった




現在迷走中です


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第五部 Star Bride
本格始動


放課後の教室。そこに集うは五人の生徒。

秘密裏に行われる会議の内容とは……

 

『まず確認なんだけど……

ホシノちゃんってあれに恋してるよね?』

 

「恋していますね」

 

「一目瞭然よね」

 

正直なところ後輩達に確認を取らなくても

分かる事ではあった

何故ならホシノは黒服と話す時に

アホ毛がハートマークの形に変化する

露骨すぎるくらいに分かりやすい

最初の頃はホシノが黒服を好きになる

そんな事1ミリもありえないと考えていた

ただ目の前であんなものを毎回見せられると

もう純愛なんじゃないかなと思ってしまう

 

『実際のところさ、彼はホシノちゃんの事、

恋愛対象として見ているのかな』

 

「見ていないですね。知り合い曰く

『ロリコン朴念仁』らしいのですが……」

 

「まるで恋愛に興味がないかのように

ホシノ先輩と接していますね」

 

「あ、でも去年の今頃でしょうか……

永遠に側に居て、みたいな愛の告白を

しているのを見ました。つまり……」

 

『黒服は幼女で興奮する人間……?

悪い大人というかダメな大人だね……』

 

「ん、黒服はダメな大人。銀行強盗すら

許してくれないドケチ」

 

『それはやめようね』

 

ん、ん、ん、と謎の言語を発するシロコを

放置して考えをまとめていると不意に

「もう私達であの二人をくっつけない?

そろそろ焦ったくて仕方ないのよね」

とセリカが言った

それに共感するように

「良いですね。やりましょう☆

……二人が恋仲になるのであれば

私も諦めがつきますから」

と続けるノノミ

謎の講義を続けるシロコと

苦笑いをして誤魔化すアヤネと

黒服とホシノがくっついている姿を想像して

脳が破壊されそうになる私

ホシノの幸せと自分の脳、どちらを選ぶか

かなり迷っている

勿論ホシノには幸せになって欲しい

彼女が居たからこそ私は今ここに居るのだ

だとしてもよりにもよって黒服とは……

 

『……でもホシノちゃんが幸せになるなら

良いのかな……でも黒服はなぁ……

浮気とかしないかな?』

 

「ん、害虫駆除なら得意」

 

『そっか。その手があったね。

じゃあやるだけやってみよっか」

 

こうしてホシノと黒服くっつけ作戦が

知らぬうちに始まった

 

ーーー

 

「ねえねえヒナ、あれ見て」

 

「『季節外れのウェディングコーナー』

……何でこの時期に?」

 

「ああいうドレス、憧れるなぁ。

もう少し身長があれば似合ったかも……」

 

「結婚するの?」

 

「しないよ〜だってさ、

私みたいな貧相な身体よりも

ノノミちゃんみたいなナイスバディの方が

先生も好きだろうし……将来の事も考えると

私じゃ先生の隣には……あっ」

 

「へぇ。ホシノはあの人が好きなんだ」

 

「……内緒だからね」

 

内緒とは言ったものの間違いなくバレてると

そう想像するのは容易いが

友人の恋を応援するとヒナは考えた

それと同時にウエディングドレスに対し

自分も少なからず憧れを抱いたので

今日から毎日牛乳を飲むと決めた




正直に言いますと

ヒナ達にマザーと言わせたり

アリスとケイにママとか母とか言わせるのが恥ずかしくてしばらく出していません

変な恥じらいがあるのです


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君は私だけの神

「……みたいな事をホシノと話したんだ」

 

「ウェディングドレスですか。なるほど。

黒服を始末しなくてはいけませんね。

そんな未来があってはなりませんし

そもそも教師と生徒が恋愛をするなど

七囚人も真っ青になる極悪非道の行為です

なのでロリコンクソ野郎の黒服には

正義の裁きを与えなければ」

 

大量にブーメランを投げた母の言葉には

そんな重みもなくただ妬んでるだけだなと

冷静に考えてしまうのは慣れなのだろう

ただ妬みなどではないけれどヒナ自身も

ホシノの事が羨ましいと思っている

青春を満喫するように恋をして

刺激的な日々を過ごしている彼女は

母の間に依存している自分とは違う

今こうして甘えさせてくれる存在は

あくまで母であり恋人ではない

いつかは『親離れ』をしなければならない

雛が親鳥の巣から旅立つように

しかし甘える事を最近知った自分が

そう簡単に親離れが出来るとは思えない

それどころか永遠に依存している可能性もある

母は優しい。だからそれでも許してくれる

だけど人生において『飽き』は必ず訪れる

いつか私も母に捨てられるかもしれない

今はそんな事がないと言い切れても

十年、二十年後先は分からない

私よりも夢中になれる生徒が現れた時は

そちらに構ってしまうのかもしれない

もう身体の成長と共に今こうして過ごしている

時間も止まってくれたら良いのにと願ってしまう

 

「何か考え事ですか?」

 

「……ううん、何でもない」

 

「そうですか。では少々左手を借りますね」

 

左手の手袋を外されて派手な宝石の装飾が

施されてある指輪を薬指に嵌められた

その輝きは透き通るように眩しくて……

 

「………」

 

左手の薬指に指輪?

 

「……!?」

 

「ヒナ?急に取り乱してどうしたのです?」

 

「えっいや……えっ?こ、これ……えっ」

 

「何って婚約指輪ですけど」

 

母は何を言っているのだろう?

婚約指輪?何故私に?同性なのに?

何で?どうして?理解が追いつかない

 

「ヒナには言っていなかったのですが……

私も淑女のように『悪い大人』でしてね。

私だけの神になった貴女を手放すなんて

勿体無くて出来ないのですよ。だからこれは

貴女にとって『呪い』です。

当然拒否権はありません、その生が尽きるまで

私と共に居てもらいます。つまり……

同性だからとか知ったことではありません。

愛しているので結婚しましょう」

 

「……不束者ですが」

 

「……よかったです。これで断られたら

恥ずかしさのあまり首を吊るところでした」

 

「そんな事させないよ。だって……

永遠に一緒、だもんね」

 

「そんな強気なヒナも好きですよ」

 

さっきまで悩んでいた自分が馬鹿らしくなる

そのくらい目の前にいる母は愛おしくて

私の人生で誰よりも大切な人になった

 

ーーー

 

「……という訳で指輪を貰ったんだ」

 

『ゴフッ⁉︎』

 

通話越しに伝わる友人が驚いている姿が容易に

想像出来てしまう。それはそうだろう

今日の昼に結婚についての話をしたばかりでなのに

指輪を貰ったなんて聞かされたらそうなる

 

「なんか凄い音がしたけど……」

 

『い、いや大丈夫。驚いてベッドから

転げ落ちて怪我をしただけだから』

 

「それって大丈夫なの……?」

 

『大した怪我じゃな……うわちょっと

何ですか先輩……え?いやいやそんな

大した傷では……ちょ、その包帯の量は

おかしくないですか?ちょっ……』

 

「……切れた。まあ報告出来たしいいかな」

 

左手に付いた輝きを放つ指輪を眺めて

これからの人生がより豊かに彩られていく

そんな未来を想像して少し口角が上がった



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ひと段落したので

彼は久しぶりにミレニアムに帰って来た。

ゲヘナとトリニティも和解して警戒する必要も

なくなった以上トリニティに滞在する理由もない

それに身の危険を感じたからというのもある

ナギサと会話をしたあの日からミカとセイアの

距離が異常なまでに近くなった

混浴しようや添い寝しようなど明らかにおかしい

教師と生徒の一線を軽々と超えるな

それに他の生徒も様子がおかしい

まさかあの年増の影響なのか?

私の生徒に何をしてくれたのだ

私が積み上げて来た芸術を壊すな

今はそんな愚痴を溢すしか出来ない

もう監禁まがいの事をされるのも嫌だ

ミカの腕力に押さえつけられるのも

セイアが常に付き纏ってくるのも

サクラコが子守唄代わりに枕元で雑音を流すのも

セリナが怪我をしていないのに現れるのも

カズサが唐突に飴を舐めさせてくるのも

イチカが急に抱きついてくるのも

コハルが猫目で威嚇してくるのも

シミコが本を隣で読み始めるのも

スズミとレイサが巡回に付いてくるのも

全て懲り懲りだ。だからミレニアムに戻り

暫くは崇高を満たしつつ安静な日々を過ごしたい

トリニティの事は後で考える事にしよう

今はただゆっくりとした生活をしたい

 

「そう言ったのだが……何故私は今

セミナーの仕事を手伝っているのだろうか」

 

「仕方ないじゃないですかー!!他の三人が

全員どっか行っちゃったんですもん!!」

 

何故かコユキの仕事を手伝う羽目になっていた

彼女はサボり癖があるから溜まっていたのだろう

それにしては量が多すぎるが……

 

「だがサボっていたとはいえ一人でもやろうとした

のはお前の成長を感じれるな」

 

「もっと褒めてくれても良いんですよ!!」

 

「いいから仕事を終わらせろ」

 

慣れたようなやり取りをしつつ仕事をこなす中

コユキはマシンガンのように話を振ってくる

 

「ユウカ先輩がシャーレの先生にーー」

 

「ゲヘナで結婚式が行われる予定でーー」

 

「ゲーム開発部が恋愛ゲームをーー」

 

「そろそろ口より手を動かせ」

 

そう注意しても尚話を振り続ける彼女に

やはり成長していないのだと呆れてしまう

こちらは早く終わらせて研究に没頭したいのだ

これ以上遅延行為をしないでくれ

 

「先生は何か面白い話題はないんですか!?

話してくれたらもっと頑張って仕事をしますよ」

 

「そんなものはない。……だがそうだな。

つまらない話ではあるがトリニティの生徒が……」

 

最近のトリニティ生の距離が近い事を話した

面白い話ではないと思っていたが興味があったのか

コユキは静かに聞いた後にこう言った

 

「それって先生の事が好きなんじゃないですか?

気づいて貰いたくてアピールしてるんですよ」

 

「面白い考えだな。だがそれはあり得ない。

私は好かれるような教師ではないからな」

 

「私は先生の事、好きですよ」

 

「そうか」

 

「……あのー……私今告白したんですけど……

返事は……?」

 

「ああ、気を遣ってくれたのだろう?

やはりお前は成長しているようだな」

 

「……先生の馬鹿ーー!!!!」

 

コユキは唐突に叫んで書類を顔面に向けて投げつけ、

仕事を放棄して走り去ってしまった

まだ仕事が残っているというのに……

やはり成長途中なのだろうな

何故叫んだのかは理解できないが

 

これが後に伝わるミレニアムの風物詩

『告白玉砕現象』である




ヒビキがマエストロに告白しない理由


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小手調べ

昨日発案した黒服ホシノくっつけ計画

その第一歩として黒服はホシノにどの程度

依存しているのかを調べる事にした

 

「という訳なので今からホシノ先輩と

出掛けてきてください」

 

『えぇ……投げやりだね』

 

ーーー

 

『ホシノちゃん、この世界を見て回ろうと

思ってるんだけど……一緒に来て欲しいな』

 

「良いですよ。いつ行きますか?」

 

『今』

 

「うぇ今からはちょっと待っ」

 

引きずられるように連れて行かれるホシノ

困惑しつつも抵抗しないあたり満更でもない

そういう事なのだろう

 

「流石はユメ先輩。かなり強引ですが

誘う事に成功しています」

 

「次は誰が黒服を足止めするか、だね」

 

「勿論私が彼とデートに……」

 

「いえ、トリニティとの交友関係を築く為に

私が彼を誘わなくては」

 

「ん、二人とも船降りて」

 

相変わらず唐突に現れるハルナギサに対して

アビドスメンバーのほとんどは白い目を向ける

しかしそんな目線を向けられても気にしない

メンタルだけは尊敬出来るハルナと

若干白い目で見られている事に対して

何故かヒフミを連想して勝手に傷つくナギサ

いつも大体ボコられて帰る二人だけだが……

 

「今回は引きませんわ。何故なら宿敵である

ホシノさんが居ないのですから!

食の為にもこの好機逃してなるものですか!」

 

ホシノが居ないから攻めどきという謎理論を掲げ

ハルナは暴走する。それを抑制するシロコ

もはや見慣れた光景となった争いだ

 

「お二人が戦っている間に私は一足先に

黒服先生と交友関係を結ばせて頂きましょう」

 

ナギサは抜け駆けをして黒服が居るであろう

部屋の扉を勢いよく開けた

しかしそこに居たのは猫耳を付けた姉妹

デス……普通のモモイとドス……普通のミドリだ

 

「ウェルカムニューチャレンジャー」

 

「誰ですか!?私をどうするおつもりです!?」

 

「貴女には私達のゲームを遊んでもらいます」

 

彼女は第二のトラップ『モモイとミドリ』に

見事かかりハルナは案の定星になった

これでホシノを脅かす危険はなくなった

 

「それで結局誰が黒服の相手をするのよ?」

 

「私でーす☆」

 

「先輩は駄目よ」

 

「どうしてですか?」

 

「ノノミ先輩は……暴走しそうだし……」

 

「そうね。だから任せられないわ」

 

「では私がヒナ自慢も兼ねて行きましょう」

 

唐突に会話に混ざるベアトリーチェ。

何故アビドスにはこうも訪問者が多いのか

 

「貴女は……へんた……ベア先生!!」

 

「ご機嫌ようアビドスの生の可愛い生徒た

ちょっと待ちなさい今変態って言いかけましたね

黒服に吹き込まれたんですか?何という事でしょう

あのロリコン朴念仁許すまじ」

 

「えっと……とりあえず黒服と話して

時間を稼いできてくれない?」

 

「可愛い生徒の頼みとあれば喜んで。

……対価として下着の色をお伺いしても?」

 

「上手くいったら直接(黒服の下着を)

見せてあげるわよ」

 

「……失礼、鼻血が止まらなくなりました。

暫くお時間をいただきます」

 

ベア先生は使い物にならなそうだ

療養中のアリスとケイには頼めないので……

 

「ノノミ行きま〜す☆」

 

苦渋の決断……?ではあるが時間稼ぎなら

ノノミが適任だろう。あとは彼女が秘めた

恋心を爆発させない事を祈るばかりだ

NTRという脳破壊行為は許されないのだから



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秘めていた想い

「ノノミでしたか。先程から外が騒がしいのですが

何かトラブルでもありましたか?」

 

「いいえ、いつもの二人が来ているので

その対処をしています」

 

「そうでしたか」

 

それだけ確認すると彼はまた作業に戻ってしまう

このまま放っておいても問題はないのではないか

そう感じてしまう程彼は私に無関心な態度を取る

 

「そういえば今日はホシノに会っていませんね。

彼女は登校していましたか?」

 

「えっ?ああ、はい。部室でお昼寝してますよ」

 

「後で顔を見にいくとしましょう。

寝てばかりでは駄目な先輩になってしまいます」

 

「ホシノ先輩が寝ている姿は癒されるので

全然構いませんけど」

 

「甘やかしすぎるのはよくありません。

とはいえ息抜きは必要ですので近いうちに皆で

休息を目的とした課外活動を行おうと思います。

ノノミは何処か良い場所を知りませんか?」

 

「うーん……やはり海が理想ですけど

この時期に行くのは流石に寒すぎるので……

温水プールとかどうでしょうか?」

 

「どうしても泳ぎたいのですね……

ですが案には入れておきます。確かゲヘナに

温水プールを開発したと変た……マダムが

仰っていたので。ホシノもヒナに会えますし

より楽しめる事でしょう」

 

「……ええ、そうですね」

 

「その後は水族館に向かっても良いですね。

ホシノと何度も通っているからか魚の種類は

ほとんど覚えてしまいましたが……」

 

「………」

 

「そうでした、今週末に鯨関連のイベントが

アビドス付近の街で開催されるとホシノに伝える

事を忘れていました。後で伝えに……」

 

彼はホシノホシノと先輩の話ばかりしたがる

ずっと目の前に居る私の事を話してくれない

話を振ってもすぐにホシノが……と言う始末

その度に彼女の心の中にある不思議な感情が

大きく、そして黒く渦巻いていく

この抱いている感情が自分でも分からない

ただ気がつけば彼をソファーに押し倒して

 

「私を見て」

 

ただ一言、秘めた想いを彼に伝えた

ホシノが大事なのは分かる

彼にとっても、私達にとっても

だけど……今ここに居るのは私なのだから

ホシノの事を考えるのではなく私と話して

どんな些細な事でもいいから

私に興味を持ってほしい

 

「先生。私は貴方が好きです」

 

「……ええ。知っています」

 

「貴方の為なら何だって出来ます。だから……」

 

「それは出来ません」

 

「どうして……ですか?やっぱりホシノ先輩が

好きだからですか……?」

 

「……いえ、私は生徒に恋愛感情は持ちません」

 

「………」

 

「前までの私なら興味がないという理由でした。

しかし今は少し理由が変わっています。

仮に私がホシノを選んだとしましょう。

その場合貴女の心を踏み躙る事になります。

その逆も然りです。ホシノを特別扱いしている

のは事実です。ただしそれを理由として

貴女を悲しませる事が許されるのでしょうか?

片方の生徒を犠牲にして成り立つものなど

教師が認められるわけがありません。

私が答えを出さない事で二人が悲しむ事はない

心が壊れてしまう事もない

ならばそれで良いと思いませんか?」

 

「……そんなの駄目ですよ。答えを出さないと。

だって……期待しちゃうじゃないですか。

そうやって先生が選択する事から逃げて……

私はこんなにも胸が張り裂けそうなくらいの

想いを抱えて過ごしているんですよ……?

だからお願いします……私の夢を……

貴方と恋仲になる妄想を砕いてください。

これ以上期待してしまわないように……

私が暴走してしまう前に諦めさせてください……」

 

黒服の上に跨ったノノミは顔を手で覆い

隙間から大粒の涙が溢れているのが見える

自分が選択した結果彼女がこんなにも

悲しみに満ちていると知った黒服は

ただ彼女の嗚咽を傍観する事しか出来ない

……彼にノノミを慰める資格など無いのだから




十六夜の秘めた傷心


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先輩と

『ホシノちゃんはさ、黒服の事が好き?』

 

唐突に恋心を見抜かれていた事を知り冷や汗が

溢れてくる。おかしい、誰にも言ってないのに

後輩達にも、アリス達にも……

 

『態度とその可愛いアホ毛が教えてくれたよ』

 

「そ、そそそんな訳ないじゃないですか。

先あくまで先生と生徒という関係であって……

それ以上の事は望んでいません……」

 

『私には隠さなくていいんだよ。

ホシノちゃんの事なら何でも分かるんだから。

昨日食べたものから下着の色まで何でも』

 

「……そんな嘘には騙されませんよ。

そうやってハッタリをかませば私が話すとでも

思っていたので……」

 

『白米120g、焼き魚一人前、味噌汁二杯、

食後にミルクアイス。上はピンクで下は……』

 

「この人怖い」

 

『だから隠さなくていいの。本当は恋人……

いや、それ以上になりたいんじゃないの?』

 

「それは……そうですけど……

私は先輩みたいに魅力的な身体ではありませんし

恋人にならなくても先生は一緒に居てくれるって

信じているので……」

 

『君はそれで幸せになれるの?そうやって諦めて

納得して生きていけるの?』

 

「納得なんて出来ません……だって私は先生が

好きで好きでたまらないんです……

起きている間は常に彼の事を考えています。

私だけを見て欲しいし私の側にだけ居て欲しい

そのくらい彼の事を独占したくなるほど

先生を愛しています……」

 

『……そこまで想われてる黒服が羨ましいな……

分かった、それなら黒服を依存させないとね。

ホシノちゃんの魅力を見せつけちゃおう』

 

「私の魅力って……?」

 

『可愛いところかな』

 

やっぱり先輩は頼りになりそうでならない

だけどこの想いを否定せず肯定してくれる

それだけでとても安心する

 

『それじゃあまずはお着替えしよう。

ホシノちゃんの魅力を引き出すならメイド服

とか……いや、ナース服とかが良いかな』

 

「普通の服にしてください」

 

ーーー

 

『……こうやってホシノちゃんと出掛けて

一日中過ごせる日が来ると思わなかったよ』

 

「私もです。……その、先輩の世界では……

先生みたいに支えてくれる存在って……」

 

『……居たよ。だけど……もう居ない』

 

「……ごめんなさい……」

 

『いいんだよ。むしろ聞いてほしいな。

不器用で独りよがりだった私が心を許した

唯一の大人の話を』

 

先輩は自身が経験した過去の話をしてくれた

最初は警戒して尋問までしていたけれど

ある事がきっかけで距離が縮まって

いつしか彼女の中で大切な人になっていた事

 

『先生が居たから少しずつ前を向けるように

変わっていけたんだ。恋をする余裕も持てた。

ずっと気にかけてくれて……頼りになる……

私の……せん……せ……』

 

途中から何かを思い出したように泣き崩れる先輩

大丈夫、大丈夫と声を掛け背中を撫でて

落ち着かせようとしていた

 

「大丈夫ですよ。これからは私がずっと側に……」

 

そう言いかけた時とある事を考えてしまった。

もし先生と結婚をした場合……

私は先輩から離れてしまうのだろうか?

その時先輩は一人になってしまうのでは?

こんなに重いトラウマを背負っている先輩を

放置出来るのだろうか?出来るはずがない

私は先輩の側に居ないといけないんだ

二度も失いたくない。先輩に笑ってほしい

先生の事は好きだ。でも先輩の事も大切なのだ

だから私が取るべき行動は恋ではなく……

 

「安心してください。ずっと側に居ますからね」

 

『ホシノ……ちゃ……』

 

「貴女を一人にさせません。約束します」

 

先輩を一人にさせない事

先生の事は諦める……しかない

元々ノノミの方が彼とはお似合いなのだから

これでいいんだ。これで全てが上手くいく

私の大切な人達は全員幸せになれる

その為なら私は想いを殺したって構わない




このままだと結末でアビドスに亀裂が入りそうなのでアンケートを取らせてください


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選択をする間もなく唐突に

黒服は思考を巡らせてどう対処するべきかを

何度も模索している。しかし目の前で涙を流す

ノノミに対して何が出来るのだろうか?

生徒の為と思い込んで行動しなかった結果

彼女がこうなるまで追い込んでしまい傷つけた

生徒と向き合うと言っておきながらこの始末

彼女の涙がスーツを濡らす度に胸が痛くなる

今までこんな感情を抱いた事は一度もなかった

どんな時でも無関心であり無感情で接していた

あの頃とは違うのだと嫌でも認識させられる

……教師というものを舐めていた

そう言わざるを得ないだろう

あれだけ馬鹿にしていたベアトリーチェや

シャーレの先生は生徒をここまで追い詰める事は

絶対にしないだろう。悔しいが教師としては

彼女らの方が適していると認める他ない

せめて今自分が出来る事をするべきだと

そう理解はしているのだが

ノノミの涙を止めるにはどうすればいいのだろう

下手な言葉を投げかけても届かない

彼女の想いに応えようにも変に期待させると

ノノミはより辛くなってしまうだろう

こんな時生徒に対して気の利いた言葉の一つすら

掛けられないなんて情けないにも程がある

一体どうすればいいのだろうか……

 

「生徒の涙が落ちる音が聞こえたと思ったら……

見損ないましたよ黒服」

 

いつの間にかベアトリーチェが部屋に入ってきた

ノノミをそっと抱き寄せて優しく撫でている

 

「生徒の為に選択しない……貴方にしては

いい判断をしたと思います。ですが大事な工程を

挟んでいません。それは至極簡単で単純な事。

そう、生徒の目線になって考えていないのです。

例え貴方が恋愛に興味がないとしても。

その驕りが招いた結果がこれです。

……さあ、貴方はどうしますか?

ホシノを選んで彼女を悲しみから解放するか。

ノノミを選んで彼女と共に生きるのか。

どちらとも決めずに逃げ続けるのか。

先に言っておきますがホシノとノノミ

どちらも選ぶなんて考えは認めませんよ。

『二兎追うものは一兎も得ず』。

両方を選んだところで中途半端になり

結局二人とも不幸にするだけですから」

 

「しかし私は……」

 

「先生、ノノミちゃんを選んであげて」

 

「……ホシノ?」

 

ベアトリーチェが開けたままだった扉の先に

立っているのはいつものように笑っているホシノ

しかしその表情はなんだか寂しそうな……

何かを諦めたような表情をしているが

それよりも彼女は……

 

「今……なんと言ったのですか?」

 

「だから……ノノミちゃんを選んであげて。

そして幸せにしてあげてほしいな。

私は先生の事……諦めるから」

 

そう言い終えた後、教室内は時が止まったように

静寂が空間を包み込んだ



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感情を爆発させたのに

「ホシノ先輩……どういう……つもりですか」

 

「いやぁ、私なりに考えた結果なんだよ?

先生と付き合うならノノミちゃんが適任だし

私も後輩が幸せになるならそれだけで……」

 

「……けないで」

 

「えっ?」

 

「ふざけないでください!!

貴女の恋は!そう簡単に諦められる程度の!

想いだったのですか!!違いますよね!!」

 

「それは……」

 

「さっき私を選んであげてと言ってましたが……

もし私の為だというなら尚更貴女が彼と恋仲に

なってください。お願いします」

 

「だ……ダメだよ。そんなの……

ユメ先輩とノノミちゃんの二人を悲しませるなんて

私には出来ないよ……だからノノミちゃんが先生と付き合って幸せになって。私は先輩に寄り添わないといけないから……

約束したんだ。もう一人にしないって……」

 

『……ホシノちゃん。それは駄目だよ。

……まあ、あんな姿を見せた私が悪いんだけどさ

それでも君の……後輩の未来を奪いたくない。

だからホシノちゃんは私に縛られる事なく

自由に生きて。今の私がそうであるように』

 

「そうですよ。私はずっとホシノ先輩と先生の

仲睦まじい姿を見てきました。

不器用ながら寄り添おうとする二人を。

それに……先生の隣に立つのはホシノ先輩が

一番似合っていますよ。だから遠慮せずに

恋人になってください」

 

「先輩……ノノミちゃん……いいの……?」

 

弱々しい問いに対して無言で頷き応える二人

しばらく俯いて考えた後、ホシノは黒服に

向き合って深呼吸をしてこう言った

 

「先生……私と付き合ってください」

 

この告白に至るまで長い道のりがあった

初めて砂漠で出会ったあの日から今まで

そしてようやく少女は思い人に愛を伝え

共に寄り添いたいと願った

 

「(なんて素晴らしい瞬間に立ち会えたのでしょう

ヒナにもこんなふうに告白されたかったです)」

 

ゲヘナの変態代表が見守る中

数秒の沈黙の後に口を開いた彼の返事は……

 

「お断りします」

 

「…………………ふぇ?」

 

「申し訳ないですが恋愛には興味がないので」

 

「えっいや……えっ?」

 

「そもそも教師と生徒が恋愛をするなんて

ありえないと思いませんか?」

 

「……あの、黒服?ホシノが勇気を出して告白

したのですからその想いに応えるくらいは……」

 

「私がアビドスの教師である以上ホシノとは

一緒に過ごすので恋人になる必要はありません」

 

『………』

「………」

 

「貴女達は何故私を掴んでいるんです?」

 

無言で黒服を押さえつけるユメとノノミ

呆れ果てて外を眺め始めたベアトリーチェ

そしてプルプルと震えた後に拳を構えるホシノ

 

「先生の馬鹿ーー!!!!」

 

乙女の一撃を食らった黒服は窓を突き抜けて

遥か彼方へ飛んでいった

悲しい事に彼は生徒と向き合うと言いながら

乙女心を理解する事を放棄していた

だからこうなってしまうのは当然の報いであり

物理的に星になっても文句は言えない

その場に居た誰もがそう思ったであろう

黒服争奪戦として奮闘し、

中庭で争っていた三人も吹き飛ばされた黒服を

困惑しながら眺める事しか出来ず

ホシノは顔を真っ赤にして大泣きし、

「あんな男放っておきなよ」とフォローを

しているようでしていないユメ

ノノミに至っては彼の情けない返事に対し

急激なまでに愛が冷めてしまい

ため息をついてその場に座り込んだ

そんな日常を過ごしている皆のおかげで

今日もキヴォトスは平和だった




黒服とホシノをくっつけるにはまだ時期が早かったですね。あと一ヶ月半くらいはかかります


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被害者の会?

「それでミレニアムまで飛ばされてきたんだな」

 

「ええ。散々な目に遭いましたよ」

 

ミレニアム近辺にある花屋兼喫茶店

そこで二人の大人は愚痴りながら酒……

はあまり好みではないので紅茶を飲んでいる

 

「だが生徒に好かれているのは羨ましいな。

私のような教師にはそのような色恋は全く

起こり得ないからな」

 

「そうですか」

 

「気を遣って私を好きと言ってくれる生徒は

何人も居るのだが……」

 

「………」

 

黒服はこう思う。こいつは何を言ってるのかと

店の外を見てみろ。何十人もの生徒がこちらを見て

様子を伺っているではないか。しかも九割が

トリニティの生徒だ。あれは何なのだろうか

なんなら貴方の足に尻尾を巻きつけた白猫が

隣に座っている事に気づいてくれ

貴方の方を見るたびに目が合うのがきつい

 

「しばらくはミレニアムに滞在していいぞ。

お前に会いたがっている生徒も居るからな」

 

「そうさせてもらいますよ。ですが朝には

一度アビドスに戻ってホシノの朝食を用意

しなければなりません」

 

「お前がホシノの朝食を?何かの罰ゲームか?」

 

「いえ日課です。ホシノの健康面を考慮して

必要な栄養を効率よく摂取させなければ。

それと六時にはモーニングコールを……」

 

「……なあ黒服、お前本当はホシノの事が

大好きなんだろう?正直に言ってみろ」

 

「いえ、あくまで教師と生徒の関係ですが」

 

マエストロは思う。こいつは何を言っているのか

普通教師がわざわざモーニングコールや朝食を用意

するか?しないぞ?なんだこいつは?

馬鹿なのか?馬鹿で済ませていいのか?

普段からそんな風に接しているのであれば

無意識のうちに好いているだろう

早く気づけロリコン野郎

 

「それにもうホシノが私から離れる確率は

ほぼ0に近いです。なのにわざわざ恋人などという

枷をつける必要を感じないんですよね」

 

「あ、ああ……まあ……教師としては正しいな。

だが生徒の想いには答えるべきではないか?

告白されたのならば返事を待ってもらうとか

色々選択はできたのだろう?」

 

「それはそうですが……」

 

「恋というのも案外刺激的かもしれないぞ?

まあ私には縁がないので憶測しか言えんがな」

 

「(マエストロ……これ以上余計な発言は

控えてくれませんか?白猫の隣にナースまで

現れたんですけど。しかも目が死んでいます)」

 

「……そう言えばナギサがお前の事をえらく

気に入っていてな。ずっと「黒服先生が……」と

話しているんだ。お前ナギサに何をしたんだ?」

 

「大した事は……顔を近づけて脅した程度で」

 

「そうか。……いや、趣味は人それぞれだ。

例えナギサがM気質があったとしても

否定せずに向き合おうじゃないか」

 

「向き合う……ですか。薄々感じていましたが

私は生徒に向き合えていないのではないかと

思うんです。学ばないといけませんね……」

 

「ミレニアム生なら付き合ってくれそうだぞ。

何人かには接点があるのだろう?」

 

「そうですね。ホシノと向き合う為にも

少しばかり向き合い方を勉強します」

 

「(こいつホシノの事好きすぎだろう。

何故告白を断ったんだろうか?馬鹿か)」

 

「ちなみにマエストロ、貴方がもし

気を遣ってとかではなく普通に告白されたら

どう答えますか?」

 

「そうだな……本気で好きだと言われたら

揺らいでしまうだろうな。正直に言うと

私の生徒は全員芸術的で美しい。

そんな生徒達が人生のパートナーになると

考えたら気分が昂揚してしまうのは事実だ。

だかな黒服、普通に告白される可能性はない。

私に春は訪れないのだよ」

 

外を見ろ外を。後ろでもいい。春の雪崩という

変な単語がよぎるほど訪れている

流石に鈍感にも程があると思う

 

「さて、そろそろ解散するとしよう。

とはいえ途中まで帰路は同じだけどな」

 

「そうですね」

 

二人の大人は席を立ち店を出る

片方の足には尻尾が絡みついているが

全くと言っていいほど気づいていない

片方は生徒の恋心に気づいていながら

自らの感情には無頓着である

鈍感なマエストロ、朴念仁の黒服

二人が生徒の想いに応えられる日は

果たしてやってくるのだろうか



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黒服先生の向き合う練習

ホシノの手によって飛ばされた黒服は

ミレニアムに滞在し生徒と向き合う練習をすると

そう決めたのは良いもののミレニアムの寮に

空きが一つもないとの事なので……

 

「……あの、左右でくっつかないでください」

 

「嫌です。朝まで父から離れません」

 

「アリスも離れません!!」

 

半ば強引にアリスとケイが寝泊まりしている部屋に

滞在する事が決まってしまった

マエストロ曰く本人達の希望であるのと

 

「あの二人は所属こそミレニアムではあるが

実質お前の生徒だ。構ってやるといい」

 

とあくまで彼なりの配慮のつもりなのだろう

しかし彼は大きなミスを犯していた

それは右腕に絡まるように眠ろうとしているケイ

同じベッドに入ってからというもの

彼女の息遣いがずっと荒いのだ

まるで発情して興奮を抑えきれないように

そして原因は明らかである。だからこそ

こうして密着するのは避けたかったのだが

……いや、むしろこれはチャンスなのでは?

生徒と向き合う練習をすると決めたのだから

アリスとケイ、二人とも向き合う必要がある

とはいえ最初からこのような状態のケイを相手に

どう向き合えというのだろうか

大人しく襲われていろとでも言うのか?

 

「……あの、もっと近づいてもいいですか?」

 

「……どうぞ」

 

顔を赤ながら更に距離を近づけてくるケイ

思えば彼女はこちらの我儘で生まれた存在

最初こそ利用価値がないと切り捨てようとして

無関心に接していたが今はこんなにも積極的で

年頃の少女のように過ごしている彼女を見て

自然と心が暖かくなるような気がした

この感覚の名称は分からないが

きっと自分の中でケイという存在は

想像よりも大きく大切な存在になっている

そういう事なのだろう

 

「モモイ達とは楽しく過ごせていますか?」

 

「はい。毎日が新鮮で飽きないですよ。

開発部の皆と過ごす時間は私の宝物です」

 

「そうでしたか。上手く馴染めているようで

なんだか安心しましたよ」

 

「……父、ありがとうございます。

貴方が私を生み出してくれなかったら……

こんなにも満たされる生活を送る事は

絶対に出来ませんでした」

 

「私はただケイを利用しようとしただけです。

感謝はホシノに伝えてあげてください」

 

「……そういえば母は居ないのですか?

いつもなら父の隣にいる筈ですが……」

 

「それがですね……」

 

黒服はケイに事情を話す事にした

ホシノの告白を断ったこと

その後吹き飛ばされてミレニアムに来たこと

アビドスに戻る前に生徒と向き合う練習をして

より教師として成長をしていきたいと

全ての経緯をケイに伝えた後、彼女は何かを考え

その後答えが出たのか右手を絡めるように繋ぎ

 

「私でよければ練習台になります。

貴方の為ならどんな事だって手伝います。

……そう、どんな事でもです」

 

……生徒と向き合うというのはとても過酷で

一筋縄ではいかない……かもしれない




ちなみにケイを生き残らせた理由は
砂を燃やそうとするアリスを見て困惑させたかったからです


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向き合い方の練習……?

日付が変わり深夜に差し変わる時刻に右腕に

強くしがみついていたケイが何処かに行った

暫くの間待っていようとしたが数十分が経過し

面倒な事に巻き込まれているのではと悟り

立ち上がって探しに行こうとしたが左腕に

くっついているアリスの馬鹿力の前では

なす術なく動く事は出来なかった

アリスを起こそうにも涎を垂らし幸せそうに

眠っている彼女を目覚めさせるのは申し訳なく

天井の染みを数えてケイの帰りを待つ事にした

天井を見て分かった事は隠しカメラが配置してあり

盗撮されているという最低な事実であった

流石はミレニアムといったところだろう

それから一時間が経過した頃に扉が開く音と共に

頬が赤く染まったケイが戻ってきた

夜風に当たりにいったと考えるには随分と長いが

何事もなく戻ってきたなら良しとしよう

しかしそのまま右腕に抱きついてきたケイの身体は

夜風に当たった後とは思えないほど熱かった

息も荒いように見受けられたので

大方走り込みでもしたのだろうと納得して眠った

 

ーーー

 

「おはようございます!!」

 

腹部の衝撃と共にアリスが跨って揺らしてくる

その華奢な身体からは想像もつかない程の

怪力で揺らされるので朝から吐き気を催した

 

「アリス?まだ父は起きな……!?

朝から何をしているんです!?」

 

「『モーニングコール』というやつです!」

 

「……ああ、それなら問題ないですね。

挿入っている訳ではなさそうですし」

 

「……あの、そろそろ離してくれませんか?」

 

ーーー

 

ようやく解放されたかと思いきや離れてくれず

一日中二人に振り回されて過ごす事になりそうだ

 

「それで……向き合う練習というのは具体的に

どのような事をするのですか?」

 

「正直な話何をすればいいのか分かりません。

ただこのままアビドスに戻ってもまたホシノに

吹き飛ばされてしまうかもしれないので早く

何かを掴まないといけないんです」

 

「確か母に告白されてそれを断った……

それが原因ですよね?でしたら……

今日一日、私を恋人だと思って接してください」

 

「仰る意味が分かりませんが……何故ケイが

私の恋人という事になるのでしょう」

 

「細かい事はいいんです。付き合い方を練習

するのであればこれが効率的なんです」

 

「半信半疑ではありますが……ケイがそう言うなら

試してみてもいいでしょう。……ですが恋人とは

何をするのでしょうか?」

 

あの変態なら知っているのだろうか?

あれを参考に……あれを?だが試すだけ試そう

確かヒナを膝に座らせて吸っていた。……何を?

髪の毛を吸っていたのか?何故?何故?何故?

……とりあえずケイを膝に座らせて彼女の綺麗な

髪に顔を近づけて吸ってみた

 

「っ!?何を!?」

 

動揺するケイを他所に空気を吸い込んでみるも

彼女が昨日使ったであろうシャンプーの香りが

鼻腔を刺激する程度だ

本当に恋人とはこのような無意味な行動を

取らないといけないのだろうか?

しかしケイは何故か喜んでいるように見える

彼女が喜んでいるところを見るに効果はあるようだ

 

「……恋人とはこのような無駄な事を

嬉々として行うのでしょうか?」

 

「髪の毛を吸うかどうかは知りませんが……

貴方の膝に座るのは良い気分です。なので

このまま頭を撫でてください」

 

「頭を?仕方ないですね……」

 

こうしてケイによる恋人練習が始まった

彼女が何故このような提案をしたのかは……

まだ誰にも分からない

 

「(……?何故私は向き合い方ではなく

付き合い方を学んでいるのでしょうか?)」



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間違った方向の覚悟

ケイは積極的に恋人とは何かを教えてくれる

常に手を繋いだりお互いに好きと伝えたり

一見無意味な行動だとは思うが効果はある

このまま学んでいけばホシノとも上手く……

 

「……あの、ケイ?私は付き合い方ではなく

向き合い方について学びたいのですが……」

 

「分かっています。その練習も兼ねての

恋人付き合いですから」

 

「貴女がそう言うなら信じますよ」

 

「!!……ごめんなさい。少しお手洗いに

行かせていただきます」

 

「え、ええ」

 

ケイはデート中に何度も何度もお手洗いに行く

その度に深夜の時のように身体が火照っているので

アンドロイド特有の発熱現象なのだろうかと

彼女の構造に僅かながら興味が湧いてくる

……そうだ。向き合うと決めたのだから多少は

踏み込んだ質問を行っても良いのではないだろうか

本来その為の時間でもあるのだから

 

「先程から気になっていたのですが……

お手洗いから戻って来る時に必ずと言っていいほど

頬を赤らめて戻ってくるのは何故ですか?」

 

「な、なな何故そのような質問を?」

 

「貴方の身体に興味が湧いてきましてね。

向き合い方の練習も兼ねて踏み込んだ質問でも

しようと思いまして」

 

「私の身体に!?」

 

「はい。どのような構造になっているのかが

非常に気になってしまいまして」

 

「構造!?い、いくら踏み込んだ質問をすると

言われましてもいきなりそんな大胆な……///」

 

「ふむ……やはり踏み込みすぎましたか。

まだまだ距離感が掴めていないようです」

 

黒服は気づいていない。アンドロイドの構造に

興味があるという事ではなく『ケイの身体』

そのものに興味があると伝わっている事に

つまりケイからしたら思い人から唐突に

異性の身体が気になっているとカミングアウトされ

脳の処理が追いつく筈もなく更に発熱している

とても真面目な彼女をここまで取り乱し

慌てふためかせる事が出来るのは黒服だけだろう

こういう発言を無意識のうちにしてしまうから

ケイはその気になっていくという事実に

彼が気づく日は来るのだろうか?

 

「……分かりました。私も覚悟を決めます。

部屋に戻りましょう」

 

「?今この場では話せないのですか?」

 

「外ではまだ……レベルが高いと思うので……

やはり室内から経験するべきだと思います」

 

「よく分かりませんが貴女に任せますね」

 

「……はい///」

 

ーーー

 

部屋に戻ると寝室へ向かうように促される

今この場には自分とケイしか居ない

彼女は念入りに扉の鍵を閉めて回っていた

やがてそれが終わると寝室に入って来るや否や

物凄い力でベッドに押し倒された

 

「……ケイ?一体何を?」

 

「……沢山教えてあげますね。私の身体のこと」

 

時刻は昼に差し掛かろうとしている中

彼は目の前にいる少女……いや、理性を失った

暴走するアンドロイドに襲われかけていた

その時彼は初めて彼女が『発情している』事実に

辿り着いたのであった



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無法者

「ケイ、一度落ち着きましょう?私の知る貴女は

こんな理性のない行動はしませんよ?」

 

「確かにそうかもしれませんね。ですが……

想い人に誘われたら応えるしかありません。

私は貴方が好きです。……母よりも」

 

彼女の思考は淫らなもので埋め尽くされている

何故こうなったのだろうか?大した事はしていない

好かれるような事をした記憶がないのだ

しかし目の前の彼女は好きと伝えてきた

ノノミといいどうしてなのだろうか?

最初はあくまで利用する程度の考えで生かしていた

愛着もなくただ放置して日常を過ごさせていた

その程度の扱いしかしていないのだ

何処に恋をする要素があるのだろうか?

 

「理由は……恥ずかしいので言えません。

ですが貴方を愛しています。この行為に対して……

絶対に後悔させませんから」

 

暴走した彼女は一線を越えようとしている

ネクタイを外して薄着となり上から抱きついてくる

密着した彼女の心臓部からは激しい鼓動が聞こえ

愛しているという言葉の信頼性を高めていた

発情した彼女はそのままの姿勢で

顔だけを近づけて口付けをしようとしている

そのまま唇が重なり…………………

 

 

筈もなく突然扉が爆散して唇は重なる事はなかった

 

「抜け駆けは許しませんわ!!」

 

「その通りです!トリニティと友好関係を築く為に

私と恋仲になるべきです!!」

 

何故か問題児ことハルナギサが現れた

普段は来ないで欲しい彼女達だが今回に限っては

助かったので言っている事はともかく

多少は二人を見直した

 

「……よくも私の邪魔を……」

 

怒りに震えるケイには申し訳ないが彼女のやり方は

向き合い方とはズレていると理解したので

火花を散らして牽制し合っている三人を部屋に放置して逃げるようにその場を後にした

外に出た途端部屋が大爆発を起こしていたので

後で修理を依頼しておこう

 

「先生?ケイは何処に行ったのですか?」

 

「ケイは休憩したいと言って部屋に戻っています」

 

「そうですか……じゃあ次はアリスと二人で

お出掛けしましょう!」

 

「……良いですよ。貴女となら安心ですね」

 

アリスは無邪気なのでケイのように欲情して

暴走する恐れは限りなく低いだろう

今度こそちゃんと向き合い方を学ぼう

そしてホシノの想いに応えられるように

教師として成長していこう

 

「先生の馬鹿ー!!」

 

「……何故あの生徒は泣きながら走って……」

 

「あれは最近ミレニアムで流行ってる遊びです!

『コクハクギョクサイ』って名前です!」

 

「告白玉砕……?ああ、マエストロに……

それは何と言いますか……可哀想ですね。

あのクソボケ鈍感に告白するだなんて」

 

「……!アリス理解しました!先生、貴方は

『お前が言うな』と思われています!」

 

「誰にですか?」

 

「他の先生達にです!」

 

他の先生……まあゴルコンダを除けば変態

しか居ないだろうし構わないか……

しかしアリスは未来予想が出来るのだろうか?

やはりその身体は興味深い……

 

「……いえ、二の舞になりそうなので……

また今度にしましょうか。ケイのようになる

可能性が1%でもある以上困るので……」



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苦難の循環マエストロ

ミレニアムに帰ってきた彼は悠々自適に過ごし

脳内に溜まっていたインスピレーションを燃料に

様々な創作物を想いのままに生成していた

しかし彼は最近ある事で悩んでいる

『生徒に気を遣わせてばかりいる』という事実に

春が来ない彼に対し愛の告白をしてくれるのだ

当然気を遣わせていると理解しているので

「その言葉は本当に好きな人に言うべきだ」と

思いを込めて断っているのだが彼女達はいつも

「先生の馬鹿ーー!!」と叫んだかと思えば

走り去って行ってしまうのだ

 

「何故なのだろうか……皆励まされている事への

礼を伝える前に走り去るのだ……」

 

彼の恐るべき鈍感さには感服するしかないだろう

一度エンジニア部に相談したものの返答は

「それは先生が悪いね。まあ都合が良いけど」

と解決に至らない答えしか出てこない

理由を考え始めたら気になって仕方がなくなり

その疑問の答えを得られるまでは創作を中断して

とりあえずミレニアムを歩き回り解決の糸口を

探そうとしている中突然黒服が滞在している

部屋が大爆発を起こしていた

小型の核が爆発したであろう規模ではあるが

黒服に後始末を任せて無視する事にした

足元に落ちてきた焼けこげたメモリーカードを拾い

胸ポケットにしまっている間に前方に人影が見えた

 

「超天才な清楚、びょうじゃ……これはこれは

お久しぶりですね。先生の超絶有能な右腕である

私ですよ。……おや、何故拍手がないのですか?」

 

「お前は相変わらずだな……」

 

「まあ、それは変わらぬ魅力という事でしょうか。

それも致し方ありませんね。何故なら私は

『全知明星ヒマリん』ですからね!」

 

彼女はヒマリ。去年のこの時期に実装……

もといお迎えしたであろう先生も多いだろう

性能もビジュアルも性格も……?全てが魅力的な

ミレニアムが生み出した超天才だ

彼女なら悩んでいる問題の答えを導き出して

くれるのではないだろうか?

聞いてみる価値は少なからずあるだろう

 

「出会って早々で悪いが、悩みを聞いて欲しい」

 

「この私に頼むとは良い判断ですね。

いいでしょう、この全知の名を持つ私が華麗に

先生の悩みを解決して差し上げましょう」

 

ヒマリはなんて頼もしいのだろうか

自信満々の彼女に悩みの種を話すと

数秒考えた後に彼女はこう言った

 

「では私と付き合いましょう」

 

「何 故 そ う な る」

 

「あら、これが最も合理的な解決法ですよ?

私と付き合えば生徒に告白される事はなくなり

悩みが解決するではありませんか。そして

先生は最高のパートナーを得られるのです。

まさに一石二鳥ですよね」

 

「その考えは分からなくもないが……

根本的な解決には至ってないのではないか?

それに私は励ましてくれた生徒に礼を伝えたい

だけであって付き合うとかは考えていない」

 

「やはり一筋縄ではいかないようですね。

ですが今回は私も『覚悟』をしてきました。

さあ刮目してください、この美しい身体を!」

 

覚悟と聞いてとあるシスターが頭をよぎる中

ヒマリは唐突に上着を脱いで華奢な身体を

見せびらかすように見せてくる

長く光を浴びていないであろう身体は

透き通るように美しい

それを見てしまった彼は自らもスーツを脱ぎ

ヒマリにゆっくりと近づいていく

誘惑に成功したと勝ちを確信したヒマリに対して

彼は彼女の上半身を隠すようにスーツを着せた

 

「お前は身体が弱いのだから冷やすんじゃない」

 

「えっあっはい」

 

しかしどのように誘惑しようとしたところで

『鈍感』の名を冠する彼には届かない

そのままワイシャツ姿のまま彼は歩いていき

取り残されたヒマリは一息ついた後に

スーツを嗅ぎながら部屋に戻ったそう

 

ーーー

 

「結局解決の糸口は掴めなかったな……

仕方ない、今日はもう休んで明日考えるとしよう」

 

ミレニアム自治区にあるアトリエのような建物

それが彼の拠点であり家でもある場所だ

部屋の中には至る所に芸術品がある

絵画、発明品、複製素体、聖園ミカ等の作品が……

 

「……ミカ?」

 

「あっお帰りー♪待ってたよ★」

 

何故彼女がここに?誰にも伝えていないのだが……

 

「今日は同棲一日目の記念日だね★」

 

仕事しろトリニティのトップ

しかし来てしまった以上追い返すのは申し訳ない

彼はため息を吐いた後に人差し指を立て

 

「今日一日だけは泊まっていい。だか明日には

トリニティに送り返すからな」

 

「えー……あ、でも一日あれば充分かな★」

 

彼はこの時ミカが来た事を甘く見ていた

この一件を引き金に彼の家は知れ渡り

トリニティの生徒が毎日一人ずつ訪ねてきては

泊まるようになる事を彼はまだ知らない

そう、もうトリニティからは逃げきれないのだ




ヒマリの告白はさりげなく失敗しました


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無邪気な爆弾

「先生、アリスと手を繋ぎましょう!!」

 

「いいでしょう」

 

「先生の手は大きいですね。あったかいです!」

 

ケイと同じ姿ではあるものの中身が全然違う

好奇心旺盛で無邪気であるアリス

思えば彼女とはあまり二人きりになった事はない

普段はホシノがアリスの相手をしているので

こうして絡む事すら殆ど記憶にない

それでも尚彼女がこちらを慕ってくれているのは

ホシノによる刷り込みが影響しているのだろう

 

「やっと二人きりになれましたね」

 

「アリス……?」

 

「ふっふっふ……」

 

何だか嫌な予感がする。まさかケイと同様に

発情期を迎えているのだろうか……

 

「今から先生を尋問します!ズバリ聞きますが

ホシノママを愛していますか!!」

 

「……それにはお答え出来ません」

 

「!?うわーん!家庭崩壊の危機です!!」

 

身構えたもののアリスはアリスだった

やはりケイだけが異端なのだろうか

むしろアリスが純粋無垢すぎるのだろう

 

「ホシノママが好きではないのですか!?

ラブラブだってモモイ達に伝えてしまいました!

アリスが嘘をついた事になってしまいます!!」

 

「いえ、そういう意味では……お待ちなさい。

モモイ達になんて事を伝えているのですか」

 

「アリスの親はとても仲良しでラブラブだと

学園の皆に自慢したかったんです……」

 

やられた。アリスは純粋であるが故にタチが悪い

 

「一応聞いておきますが……モモイ達以外に

話したりしていませんよね?」

 

「出会った人全員に自慢しました!!」

 

ああ、だから先程からすれ違う生徒達が

こちらを微笑ましいものを見るかのように

生暖かい視線を送っているのか……

もしやこのアリスという存在はケイよりも

遥かにタチが悪いのではないだろうか?

 

「……あっ!アリスはお腹が空きました!

なので先生の手料理を希望します!!」

 

「構いませんが家は爆発してしまいましたので」

 

「ええっ!?何故ですか!?」

 

「他学園の強盗が襲ってきましてね。証拠隠滅に

家ごと爆破されたのです。ケイはその後始末の為

家がある場所に残っています」

 

「なるほど。シロコは許されませんね!」

 

誰がアリスに強盗=シロコだと教えたのだろう

間違ってはいないが訂正する必要を感じないので

「そういう事です」と言っておいた

 

「先生の馬鹿ー!!」

 

「……またですか。マエストロは早く誰かしらと

くっついておけばいいものを……」

 

「その点先生は問題ないですね!だって

『ホシノ』ママと結婚しているんですから!!」

 

とてつもなく大きい声でアリスはそう言った

ああ、そうか。これが伏兵なのか

アリスの中では既に結婚している設定になっており

それは揺るがない事なのだろう。非常に困った

ここで『ホシノと付き合う気などない』とアリスに

言ったら張り倒されるのでは?

彼は僅かながらに教師の過酷さを二重の意味で

深く考えてしまうのであった



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絶不調ホシノと大暴走アリス

「先生が帰ってこないよ」

 

「結構吹き飛びましたからね〜」

 

「しばらくは放っておいていいんじゃない?

ホシノ先輩もまだ許せてないでしょ?」

 

「……うん」

 

黒服を吹き飛ばして以降ホシノの元気がない

原因は間違いなく黒服と丸一日以上離れている

事による寂しさから来るものだろう

しかしその原因を作ったのも自分であり

彼を許せないのも事実なので会いに行くのも

なんだか躊躇ってしまうし何より……

 

『黒服から何も連絡がないのも気になるね。

謝罪の一つや二つ言えばいいのに』

 

「先生……大怪我してたりしないかな……」

 

「そんなに心配なら探しに行きますか?

私はもう未練はないのでホシノ先輩の事を

純粋に応援しますよ」

 

「……でも気まずいよ」

 

『……分かった。私が探してくるよ。

必ず連れて来るから少し待ってて……』

 

「先輩まで居なくならないでください」

 

『ごめん皆黒服捜索は任せていいかな』

 

「なんていうか……こういう普段情けないのが

アビドスの先輩って感じがするわね」

 

『う゛っ』

 

何気ないセリカの一言がユメの心に突き刺さった

そして後輩達五人は黒服を探す為に各自治区を

歩き回る羽目になるのはまた別の話

 

ーーー

 

「……さて、どうしましょうかね」

 

「何がですか?」

 

「いえ、お気になさらず」

 

「分かりました!」

 

アリスが原因で起きた事だとは本人に言えない

仮に伝えたところで理解出来ないとは思うが

ケイといいなんて恐ろしいアンドロイドなのだ

それはそれとしてそろそろ向き合い方の練習を……

 

「皆ー!見てください!アリスの父です!

今から二人でお出掛けに行く予定なのです!」

 

この天然爆弾は何度爆発すれば気が済むのだろう

もうこれ以上生暖かい視線に耐えきれない

そもそも何故アリスの父である事を周りの生徒は

いとも容易く受け入れているのだろうか?

やはりこの場所はおかしいと言わざるを得ない

出張の時といいミレニアムという学園は異常だ

巨大ロボが置いてあったりメイド部が存在したり

マエストロの趣味全開じゃないか。学園を染めるな

 

「黒服、メイド服は貴方の趣味ですよね?

まあヒナにも似合いますが!」

 

「自然と人の思考を読み取らないでもらえますか?

そして何をしにきたのです」

 

「様子を見に来たのですよ。貴方もマエストロも

生徒との接し方がダメダメですからね。

私が特別に向き合い方を教えて差し上げようと

わざわざミレニアムに足を運んだ訳です」

 

「結構です」

 

「お黙りなさい!いいですか黒服、教師というのは

常に生徒に寄り添い彼女達が幸せになれる道を

示す必要があるのです。しかし貴方はどうですか?

ホシノの幸せへの道を拒絶しましたよね?」

 

「ですが恋人となれば話は別です。

それは教師と生徒という立場が変わってしまうもの

仮にホシノの幸せがその先にあるとしても私が

それを受け入れられる訳ではありません」

 

「ですからホシノの幸せを考えて……」

 

「ちょっと待ってください!ホシノママと先生は

ラブラブカップルです!既に付き合っています!」

 

「アリス、あの一旦静かにしてもらえると……」

 

「毎日抱き合って過ごしています!夜は必ず

同じベッドで寝ています!アリスの親はとっても

仲良しで幸せそうで……そんな二人だからこそ

アリスもケイもパパとママが大好きなんです!」

 

「………」

 

この大爆発はいつ収まるのだろうか

アリスのお気持ち表明が終わった後の静寂の中

周りから徐々に拍手の音が聞こえ始め

録画をしてSNSに投稿している生徒も居た

 

「……良かったですね、黒服。これで貴方は

『ホシノの恋人』という役割から逃げる事が

出来なくなりましたね。ではホシノと向き合い

恋人として相応しい振る舞いができるように

猛特訓を始めましょうか」

 

「?先生は何の特訓をするんですか?」

 

「ホシノともっとラブラブになる為の特訓です」

 

「なるほど!それは大事ですね!」

 

「……はぁ」

 

向き合い方も何も学べていないのにも関わらず

年増と天然爆弾が噛み合ってしまった影響で

ホシノと付き合う可能性が高まっている

あの日アリスを目覚めさせてしまった時から

こうなる事は決まっていたのかもしれない

ここからまだ何とかなる確率は……

 

「0です!」

 

現実は無慈悲だ



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誘爆

『ホシノちゃん、黒服の居場所が分かったよ。

多分ミレニアムに居る』

 

「……ラブラブカップル!?……うへへ……

なんだ、先生も素直じゃないな〜全く……

そうだよね。告白は二人きりの時じゃないと

恥ずかしくて言えないもんね〜うへへ〜」

 

アリスの爆弾発言により生まれた記事は

ホシノに届き彼女の精神を安定させた

今では周囲にハートマークが見えるくらいの

幸せ空間に包まれていそうな程に眩しい

 

『記事によると黒服は今ホシノちゃんと

付き合う為の練習をしてるとかなんとか』

 

「も、もう。だからあの時断ったんだ。

先生ったらストイックなんだからぁ♡」

 

多分デマだけどホシノが幸せそうなのでいいのだ

告白を断った時の言い分が黒服の本心だろう

それにしてもこのアリスという少女は……

 

『……ところでさ。このアリスちゃんって子、

ホシノちゃんとどんな関係なの?』

 

「娘みたいな存在です」

 

『ゴフッ!!』

 

「先輩!?」

 

娘?今ホシノちゃんは娘と言ったのかな?

いやいやおかしいよね?出産してたの?

しかもあの日戦った子だとしたら確かもう一人

いた気がするから双子ってこと!?

えっ黒服?お前やった?やったの?

やった上で告白拒否したの?デキ婚すらしないの?

うん、やっぱ黒服は殺さないとダメだね

でもホシノちゃんをシングルマザーにするのは

ちょっと躊躇うな……ああでも私が代わりに

父親として頑張ればいいのかなそうだよね

 

「あのー……先輩?」

 

『……ホシノちゃん。大丈夫だよ。子育ては大変

だと思うけど私が側に居るからね!!』

 

「先輩!?どうしちゃったんですか!?」

 

この後誤解を解くのに数時間掛かったそう

 

ーーー

 

「とりあえずフウカを呼びました。何はともあれ

まずはアリスとケイのお腹を満たさなくては」

 

「アリスフウカのご飯大好きです!」

 

「是非本人に伝えてあげてくださいね」

 

「はい!」

 

アリスと変態がとても盛り上がっている中

ケイは気まずそうに黒服の隣に座っている

 

「あの……さっきの事は……」

 

「気にしていませんよ。ただ……貴女も人間らしさ

が芽生えているようで安心しました」

 

「……ありがとうございます。もうあんな事は

しないと約束します……」

 

「そうしていただけると助かります。ですが

娘として甘えてくる分には歓迎しますよ」

 

「父好き」

 

「一線は越えないでくださいね」

 

「そこの黒服、何私の前でいちゃついているのです

死刑ですよ死刑」

 

「これは家族の交流ですので問題ありません」

 

「おやおや、おやおやおやおや。まさか貴方から

家族なんて言葉が聞けるとは思いませんでしたよ。

遂にホシノが好きだと認めたのですね」

 

「いえ認めていません」

 

「相変わらずクソ真面目ですね」

 

「これが私ですので」

 

「そうですよ!これがホシノママの事が大好きな

アリス達の黒服パパなのです!」

 

「そうですよね。『ホシノが大好きな』黒服、

ですよね。私もそう思いますよ」

 

「……はぁ。何を言っても無駄なようです」

 

何故周りは自分とホシノを恋人にしようと

したがるのだろうか?恋人になったところで

何も特別な事はないというのに……

ただもし恋人同士になったと仮定した時に

ホシノの行動がどう変わるのかだけは

少々見てみたいと思ってしまっていた



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地雷タップダンサー、踏む

「はぁ……今日はやけに疲れる日ですね」

 

黒服はアリスとケイを変態に任せ一人自由な

数少ない時間を過ごしていた

しかし最近は一人で居ると違和感を覚える

作業中ならともかくこうして考える時間が

多いと不思議と落ち着かないのだ

 

「黒服先生!この記事はどういう事ですの!?」

 

「トリニティと交友関係を築く約束は

どうしたのですか!?」

 

確かに落ち着かないとは考えていたが

よりにもよってこの二人が来るのは最悪だった

賑やかを超えて騒がしくて困ってしまう

……しかし向き合うという意味ではこの二人も

対象になるのではないだろうか?

 

「……ハルナ。貴女の尻尾は綺麗ですね」

 

「き、きき綺麗ですか……嬉しいです」

 

「ナギサの羽も美しいですね。触れてみても

よろしいでしょうか?」

 

「は、羽を!?仕方ないですね……」

 

「(成程。案外向き合うのは簡単ですね。

これならホシノと向き合うのも楽でしょう)」

 

黒服は気づいていない。彼が二人に言った言葉は

とてつもなく酷い地雷を踏んでいる事を

ハルナにとって尻尾を触らせるという行為は

『生涯を共にする相手』にだけ許している事

ナギサにとって羽を触らせるという行為は

『自身が認めた想い人』にのみ許している事

無知は罪とそう言われてはいるが

そんなマイルールのようなものを黒服が知る由は

全くないので致し方ない事ではある

とはいえ見えない地雷を同時に踏んだ彼は

今後より粘着されるようになるという事に

まだ気づいておらず呑気に尻尾と羽を触っていた

 

ーーー

 

「決めました。私百鬼夜行に行きます」

 

『えっ何で?』

 

黒服が浮気と言える行為を行なっている最中

ホシノはホシノで変な事を考えていた

 

「さっき先輩から見せてもらった記事の下に

百鬼夜行の特集があったんです。その見出しに

『花嫁修行部の実態!?』と書かれてました」

 

『確かに書いてあるけど……え、結婚するの?

流石に考えが早くない?黒服だよ?』

 

「何か問題があるんですか?」

 

『ま、まあ……こっちの黒服にはないけど……

そんな簡単に生涯を共にするパートナーを決めて

いいのかなって……』

 

「私は先生と結婚するって決めているんです。

そのくらい彼の事が好きです」

 

『……それがホシノちゃんにとっての幸せなら

止めないよ。でも……』

 

「でも?」

 

『ううん。何でもないよ』

 

脳が破壊されそうだから結婚式には呼ばれたくない

なんてホシノに対しては言えなかった

純愛……純愛?だから仕方ないとはいえ

あれと大事な後輩が結婚する姿は見たくない

それでもユメに止める権利はない

何度も繰り返すが純愛なのだから

 

『いや受け入れられないけどね?仕方なくだよ?』

 

「誰に対して行っているんですか?とりあえず

私は今から準備をしますね」

 

『あ、私も行くよ』

 

 



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貴方それで向き合い方を練習しているつもりですか?

「……あの、何故私は今正座をさせられて貴女の

説教を聞かなければいけないのでしょうか」

 

「いいから聞いてください。大丈夫です。

千文字くらいに留めておきますから。

黒服、いいですか?貴方は生徒との向き合い方を

学ぶ為にミレニアムに居るのですよね?そして

ホシノの告白を受け入れたいと。その心意気は

教師として尊敬に値すると言えます。しかし……

しかしですよ。セクハラはダメでしょう。

私?私は良いのです。同姓ですから。黒服、

貴方は異性の身体の大事な部分を触ったんです。

ええ、とてもデリケートなところを。羨ま……

許されない行為ですよね。流石に。いえ、

貴方の言い分も分かります。知らなかった、

それは仕方ないと納得しますしそれに彼女達の

個人的なルールですので知っているという方が

おかしいレベルなので貴方は間違っていません

ですがね。猥褻行為に関してはダメなのです。

無知が罪になるのです。どんなに無実を証明

してもただ一言「この人に触られました」と

嘘であろうとも証言されれば有罪になる様に

触れた時点で貴方は変態に成り下がりました

ようこそこちら側の世界へ……誰が変態ですか

私はただ生徒が大好きなだけです。

話を戻します。確かにハルナは貴方に付き纏い

求愛行動をとっていました。しかし彼女の尻尾

は※※※と同じくらいの大事な部位なのです。

男性でいう※※※のようなものですよ。それを

貴方は触り撫でるように擦りましたね?

ハルナが新しい世界に目覚めたらどう責任を

とるつもりですか?ホシノという存在が居ながら

私はゲヘナの教師としてハルナの幸せを願って

いますが寝取らせる気はないのですよ。それを

貴方の方から深い関係になろうとしては

意味がなくなってしまうでしょう?

もしハルナに襲われてデキてしまったら貴方は

ホシノと幸せな家庭を築く夢が叶わないのですよ

それが黒服の望んだ未来なのですか?

違いますよね?ホシノと二人で幸せな道を歩み

生涯ホシノと共に過ごすのでしょう?

それならばハルナの魅力に負けている場合では

ないですよね。煩悩を断ち切ってください。

確かにハルナはとても魅力的な生徒です。

私は何度も食べてる(意味深)ので分かります。

なのでこの言葉を貴方に教えてあげます。

これさえ言っておけば何とかなります。

『私はホシノが大好きです』

さあ復唱してください。さあさあ。

黒服、何故躊躇っているのです?言いなさい。

黒服?……何故いないのです!?」

 

ーーー

 

「無理やり言わせようとするのはダメなのでは?

それに愛についてはまだ理解していないので」

 

「お前がマダムから逃げてきたのは分かる。

だが何故私の家に来たのだ」

 

「申し訳ありません、マエストロ。あの状況なら

マダムを放置した方がいいと判断したので」

 

「……まあお前なら私の創作の邪魔をしない

だろう。ほとぼりが冷めるまでは居ていいぞ」

 

「助かります」

 

「しかし……生徒にもマダムにも追われるなんて

お前は散々だな。遅い青春を感じているのでは

ないか?羨ましいぞ」

 

「まだ貴方のように好かれているだけの方が

マシだと思いますね」

 

「お前は何を言っているんだ?前にも言ったが

私は生徒に好かれていないぞ」

 

「……貴方は一度トリニティの生徒にでも

襲われればいいと思います」




そろそろまた重い話が書きたくなってきました

6部(仮)は年越し後に書き始めようと思います


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黒服、本格的に練習をしようとする

「練習の成果はどうだ?」

 

「ケイに押し倒されてアリスが暴走しました」

 

「ほう、上手くいっているようで何よりだ」

 

「耳が詰まっているのですか?」

 

「仕方ないだろう。生徒の愛に応えるのも

向き合い方の練習にはなる」

 

「貴方にだけは言われたくないのですが」

 

「確かにそうだな。お前と違って私は……」

 

「そのくだりはもういいです」

 

「そうか。ただこのペースだと時間が掛かって

ホシノの事を待たせてしまうのではないか?」

 

「……それは一理ありますね。もしかしたら

何も食べず栄養失調で倒れているかもしれません」

 

「いや流石にそれはないだろう」

 

「私がどれだけホシノと過ごしてきたと……

彼女の行動パターンは全て記憶してます」

 

「お前気づいてないだけでホシノの事好きだろう」

 

「恋愛感情はありませんよ?」

 

「流石に無理があるだろう」

 

「本当に抱いていないのですよ。教師と生徒が

恋愛するのはダメだと貴方も言っていたでしょう」

 

「そうだな。だが場合にもよるのではないか?

例えばお前がホシノの人生の時間を貰うなどの

愛の告白のような言動に取れるような事を

言っていない限りは現状維持でいいと思うが」

 

「そのような事は流石に……言いましたね。

一年前に人生の半分を貰うと」

 

「お前ホシノの事好きだろう」

 

「いえ恋愛感情は……」

 

「そろそろ認めた方がいいぞ。いや違うな……

意識をした方が良いんじゃないか?」

 

「……しかしどうすればいいのでしょう。

仮に恋人同士になったとして何が変わるのです?

どうせ同じ日常を過ごす事に変わりはないのです

わざわざ愛し合う必要などあるのですか?」

 

「知らん」

 

「そうでしょうね」

 

「だがマダムとヒナの関係を見てみろ。

愛は芸術的な美しさを秘めているのだ。

私と違ってお前は生徒に好かれているのだから

新しい発見を求めてみるのも良いと思うぞ。

インスピレーションが湧いて研究も捗る

可能性もあるからな」

 

「……はぁ。仕方ないですね。そこまで言うなら

一度だけ試してみますよ。ただし条件があります」

 

「なんだ?」

 

「貴方も恋愛について学びなさいマエストロ」

 

「私が?面白い冗談だな。誰にも好かれていない

私に恋愛など数年早いだろう?」

 

「貴方は充分好かれていますよ自覚しなさい」

 

「慰めのつもりか?気にするな黒服。お前と私は

長い付き合いだろう?……だがな黒服。

私も正直な話恋愛はしてみたいのだ。正確には

恋愛をした先にある『覚醒』に興味がある」

 

「覚醒?ああ、ヒナの事ですか?」

 

「そうだ。忘れられた神々の覚醒。その偉業を、

芸術の完成を私は成し遂げたいのだ。

その為なら生徒と恋人以上の関係になる事も

視野に入れている」

 

「そう考えていながら告白は断るんですね」

 

「あれは慰めだからな。生徒に気を遣わせる程

私は教師として情けないというだけの話だ」

 

「その鈍感さを治さない限りは覚醒なんて

夢のまた夢だと思いますよ」

 

ーーー

 

「先輩、私は百鬼夜行に向かうって言ったはず

なのですが……ここミレニアムですよ?」

 

『うん』

 

「何故ここに来たのです?」

 

『まどろっこしい事せずにくっついちゃいなよ。

花嫁修行も大事だけどまずは恋人同士になって

からじっくりやればいいと思うし』

 

「ですが……また先生に振られたら……」

 

『さっきあれだけ相思相愛だーって喜んでたのに

なんで自信がなくなってるの?大丈夫だよ。

ホシノちゃんは誰よりも可愛い自慢の後輩だから

黒服だって二度目は断らないよ』

 

「その理屈はよくわかりませんが……」




ホシノ襲来。どうする黒服


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逃げ場なし

マエストロと話している黒服は気づいた

そう遠くない場所によく知る神秘の反応を感じる

つまりミレニアムにホシノが居るのだ

何故ホシノが来ているのだろうか?

まともに練習出来ていないというのに

 

「どうした黒服。何を感じている?」

 

「……ホシノがミレニアムに来ています」

 

「なんだ好都合じゃないか。嫁が迎えに来たの

だから早く会ってやるべきだろう」

 

「嫁ですって?全く貴方が笑えない冗談を言うとは

随分と教師に染まっているようで……」

 

「記事に書いてあったぞ。ラブラブカップルとな。

残念ながらもう逃げ場はないのだよ」

 

「………」

 

「式はいつにするんだ?」

 

「勘弁してください」

 

ーーー

 

『ミレニアムって大きい学園なんだね』

 

「あれ、先輩は行った事がないんですか?」

 

『ずっとアビドスに居たから……私の事はいいの。

それよりも黒服を拉致……じゃなくて束縛……

でもなくて半殺しに……』

 

「先輩がシロコちゃんみたいに過激な発言を……」

 

興味深そうにミレニアムを見渡しつつも黒服に対し

殺意を隠す気もない先輩を見つつホシノ自身も彼を

探していると唐突に左右から途端物凄い力で

抱きつかれ何事かと思いきやアリスとケイの

笑顔が視界に入ってきた

 

「やっぱりホシノママです!!」

 

「久しぶりの母です。堪能します」

 

「相変わらずだなぁ……元気そうで何よりだよ」

 

『………』

 

「先輩?」

 

『タシカニホシノチャンカラムスメノヨウナソンザイガイルトキイタカラコノジョウキョウニモナルカナトオモッテイタケドフタリメハキイテナイナフタリメハエナニドウイウコトモシカシテクロフクハトリカエシノツカナイコトシテルッテコトセキニントラセナイトイケナイヤツダヨネアイツヤッパリシマツシテオクベキカナミンナモソウオモウヨネミンナノキモチハイタイホドワカッタヨダカラミンナヲダイヒョウシテワタシガクロフクヲアノヨニオクッテアゲルカラアンシンシテネ』

 

「先輩が壊れちゃった」

 

『ダッテワタシホシノチャンニムスメガフタリイルナンテキイテナイモンイクラホカノセカイダカラッテゲンドッテモノガアルヨネオカシイジャンコウハイガヒトヅマニナッテルカノウセイダナンテダレガソウゾウデキタノデキナイヨネトイウカダレノコナノネエネエホシノチャンダレノコオシエテソレシダイデハアイテヲコロサナイトイケナイカラサハヤクサアハヤクイソイデオシエテ』

 

「私達の父は黒服です」

 

『あの野郎ぶっ殺してやる!!』

 

「先輩!?」

 

『ホシノちゃんを孕ませたくせに責任を取らず

告白を断った黒服は殺さないと!!』

 

「先輩ストップストップ!?」

 

「ダメですよ!ホシノママと先生はラブラブで

甘々なカップルなのです!!」

 

『そんな不可解な事脳が受け入れられないよ!』

 

「もしかして先輩って先生の事が嫌いなのですか?

あっまさか先生にセクハラされて……!?」

 

『こっちの黒服にはされてないよ』

 

「こっちの?あっ……」

 

『………』

 

「………」

 

『とりあえず黒服殺しにいこっか』

 

「冷静になった上で殺害しようとしないで先輩」

 

「そうですよ。殺すくらいなら私にください」

 

「ケイちゃん?」

 

黒服先生の破滅まであと一日




テラーちゃんはとても書けないようなえげつない行為を経験しています。かわいそうですね


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黒服の野郎ぶっ○○○○○

「………」

 

「どうした黒服」

 

「何やら殺意を感じましてね」

 

「お前はいつも殺意を向けられているな」

 

「貴方はいつも好意を向けられています」

 

「冗談を言うな。……それよりも客だぞ」

 

「客?ここは貴方の家で……」

 

『こんにちは黒服。ナイフと銃、どっちがいい?

好きな方で自害していいよ』

 

「……成程。殺意の正体は貴女でしたか」

 

『ホシノちゃんを孕ませたんだよね?ね?

許されないね。なにで償う?命?命だよね?』

 

「何故皆同じ誤解をするのです」

 

「お前が余計な事を吹き込んだんだろう」

 

「そんな記憶は……あるようなないような。

あと私はホシノを孕ませていません。そもそも

性行為すらしていません」

 

「それは私が保証できるぞ。何故ならこいつは

ロリコン朴念仁と呼ばれるほどに好意に疎く

生徒をイラつかせる大人だからな」

 

「貴方がそれを言わないでください」

 

『漫才が見たいわけじゃないんだけど……

それより黒服は早く命で償って?』

 

「まず誤解を解くところから始めましょうか」

 

ーーー

 

『アンドロイドにホシノちゃんが言葉を教えたら

ママって呼ばれるように?もっとマシな嘘を

ついたらどうなの?誰が信じるのさ』

 

「……マエストロ」

 

「こちらに向けて匙を投げるな」

 

『……嘘をついているようには見えないし

アリスとケイの二人がアンドロイドだって

証明出来るなら許してあげるよ』

 

「証明か。ならば複製を使えば容易い事だ。

あれは人間に使うと大変な事になるからな」

 

「確かにそうですが……アリスとケイだけでも

困るのにもう一人増えるのは流石に……」

 

『しれっと言ってるけど複製って何のこと?』

 

「ああ。複製というのはな、文字通りの意味だ。

一つから二つに、二つから三つに物を複製

する事が出来る。ただし人間は増やせない」

 

『そんな技術が……なんで人間は増やせないの?』

 

「要約するとバードツアー星野になるからだ」

 

『ああそういう事ね分かったよ』

 

「バードツアー……?うっ、嫌な記憶が……

これは存在しない記憶……?」

 

「しまった黒服に聞かせてはいけない単語だった」

 

『結局証明出来るの?出来ないの?』

 

「結論から言うと出来る。だが後始末が面倒だ」

 

『ふぅん……黒服は信用しないけど貴方なら

信じてあげてもいいよ』

 

「何故私は信用出来ないのですか」

 

『私からホシノちゃんを寝取ったから』

 

「確かにホシノを抱き枕代わりにした事は

ありますが寝取っていません」

 

『口ではそう言っても実際にやってないかどうか

までは分からちょっと待っておい黒服お前今

なんて言ったホシノちゃんを抱き枕代わりに?』

 

「ええ。甘い香りがして落ち着きますが何より

抱きしめた影響でホシノが大人しくなって

快眠出来ました」

 

『……判決。黒服死刑』

 

「何故ですか」

 

『有罪有罪有罪有罪死刑死刑死刑死刑』

 

「ちょっと先輩何してるんですか!?話し合うと

約束した側から先生に殺害予告しないで!?」

 

『ホシノちゃんこいつは許しちゃいけない!!

野郎ぶっ殺してやる!!』

 

「先輩落ち着いてください!?」

 

「そうです!殺すくらいなら私にください!」

 

「ケイちゃん?」

 

「はは、良かったじゃないか黒服。お前は

生徒にこんなにも愛されているようだ」

 

「……最悪ですよ」



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ホシノ暴走手前

「数日振りですねホシノ」

 

「あっ……うん。そうだ……ね」

 

「いつものように隣に座っていいのですよ」

 

「えっと……その前に謝らせてほしくて……」

 

「私を吹き飛ばした事なら謝らなくていいです。

皆口を揃えて「お前が悪い」と言われまして」

 

「そんな事は……ない……よ?」

 

「あの時は申し訳ありませんでした」

 

「……じゃあ。私と恋人に……」

 

「それは難しいです」

 

「……そっか」

 

「……ホシノにだけは正直に言います。

私は恋愛と好きという感情を知りません。

生徒と真剣に向き合えば分かると思いしばらく

柄にもない事をやってみましたが何も掴めず」

 

「………」

 

「……情けないでしょう?教える立場である私が

恋愛について何も理解していないのです。

それが良いものなのかも分からずに貴女の好意を

否定していたのです。そんな人間がどのツラ

下げてアビドスに帰ればいいのでしょうか」

 

「……うへへ。そんなの気にしなくていいのに。

だって私と先生はラブラブカップルなんだよ?」

 

「……ホシノ、私の話を聞いていましたか?」

 

「うん。聞いてたよ。つまり先生はさ、

私の事を幸せに出来るか不安だったんだよね?

そうやって考えてくれるのはとっても嬉しいよ。

でも数日連絡もないのは寂しいなって」

 

「連絡手段がなかったもので……いえ、

それよりももっと大事な誤解が……」

 

「いいのいいの。これから私が先生に好きって

気持ちを沢山教えてあげるからね。貴方は何も

心配しなくていいんだよ」

 

黒服はホシノを見誤っていた。彼女は24時間黒服に

会えないだけで病んでしまい鬱になるレベルで

黒服に依存しきっている。そんな精神状態の

ホシノがラブラブカップルなんて記事を見た上で

彼と2人きりになってしまえば当然暴走する

辛うじて吹き飛ばしてしまった負目からある程度

抑制できていたがそれは気にしなくていいと

彼に言われたので今のホシノの中には

『黒服といちゃつき数日分甘えさせてもらう』

という選択肢しかないのだ

つまり彼がどのような理由でミレニアムに滞在し

内なる想いを曝け出そうとも関係ない

過程や方法などとうでもいいのだ

今彼が甘えさせてくれるのであれば気にしない

そう、ホシノの愛は誰よりも重い

 

「うへへへ……♡」

 

 

ーーー

 

「何故黒服はホシノを好きと認めないのだろうか」

 

「?先生はホシノママとラブラブですよ?」

 

「ああ。今頃2人で愛し合ってるだろうな。

……お前は何故うずくまっているんだ?」

 

『後輩が寝取られた事に耐える為です』

 

「苦労しているんだな……」

 

『だってあの黒服ですよ?』

 

「そう言うな。あいつはロリコンの朴念仁だが

ホシノに対する愛だけは本物だからな。本人は

頑なに認めていないがいずれ堕ちる」

 

『出来れば堕ちてほしくない。けどそれだと

ホシノちゃんは幸せになれないから堕ちてほしい

この二つの感情がぶつかり合っているんです』

 

「難儀なものだな」



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ただの一歩

「あの、ホシノ?」

 

「うへへへへへ///」

 

彼女は暴走して黒服を襲おうとした。けれど

ホシノは恋愛耐性が0なのでキスを一回した

その程度で悶えゴロゴロしてしまう

彼からしてみればただ口付けをしただけであり

恋愛について何も知る事が出来ていないため

何故ホシノは転がっているのかと困惑していた

色々考えた結果ホシノが楽しそうなのでいいかと

納得したのでとりあえず彼女をおんぶして

このままアビドスに帰ることにした

 

ーーー

 

「黒服は上手くやれたのだろうか」

 

『無理だと思います。ヘタレですし』

 

「あいつ生徒に舐められすぎだろう」

 

「案外母が襲っていたりするかもしれません」

 

『ホシノちゃんはそんな野蛮な子じゃないよ』

 

「ホシノの事は詳しく知らないが……

トリニティには2人きりになった途端積極的に

なる生徒も何人か存在していてな。この前も

消灯時間に部屋に連れ込まれた事もある」

 

『えっその後どうなったんですか?』

 

「その生徒に早く寝ろと言って帰った」

 

『……あれ、この人も黒服と同じタイプの人?」

 

「いえ、ただの鈍感です」

 

「……あっ!思い出しました!マエストロ先生、

アリスも『コクハクギョクサイゲーム』を

やりたいです!!」

 

「告白玉砕ゲーム?なんだそれは」

 

「今ミレニアムで流行っている遊びです!」

 

「遊び?……ああ、なるほどな。理解した。

生徒達は私を慰めようとしていたのではなく

遊びに付き合ってもらいたかったのか。

前から不思議だったのだ。何故生徒達は

好きでもない私に告白紛いの言葉を伝えるのだと」

 

『あれ、やっぱりこの人もダメな人?』

 

「父よりもタチが悪い人です」

 

「しかしこんな遊びが流行るとは……年頃の子は

私と同じくらい変わっているな」

 

「とりあえずやってみましょう!!」

 

ーーー

 

「……ねえ先生」

 

「どうしました?」

 

「先生の背中……あったかいね」

 

「ホシノの方が暖かいですよ」

 

「うへへ、ありがとう。……先生、私決めたよ。

貴方の事を振り向かせて見せるからね。

絶対絶対、私の事を好きになってもらうから」

 

「……ええ。期待していますよ。それと……

私も貴方と向き合えるように努力しますね」

 

「約束だよ。……えへへ。やっぱり先生の側に

居ると安心するな……」

 

「それはいい事……なのでしょうか?」

 

「いい事だよ。とっても!」

 

「それなら満足するまで側に居てもいいですよ」

 

「えー満足なんてしないよ。だから……

ずっと、ずぅっっと一緒だよ」

 

「……それも悪くないかもしれませんね」

 

結局向き合い方については何も分からず

大した成長は出来ていないけれど

前よりもホシノとの距離は縮まり……

縮まりすぎているような気もするが……

彼女が近くにいる時は不思議とここ数日

ミレニアムで過ごしていた時に感じていた

心に穴が空いたような感覚がしなかった

その感情は何なのか理解できた先にようやく

ホシノとの向き合い方の答えがあると思う

今はその答えに向かって一歩ずつ踏み出して

彼女の想いに応えられればと思っていた

 

「……あ、先輩置いてきちゃった」

 

「後でケイに頼んで連れてきてもらいましょう」



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本心

「アリスとケイも帰ったな。……さて。

わざわざ時間を取らせてすまないな」

 

『いえ……丁度私も今後について考える時間が

欲しかったので……』

 

「そうか」

 

『はい』

 

「まあそう緊張しなくていいぞ。世間話程度の

感覚で構わない。……ああ、お前は確か成人

していたな。良ければ晩酌に付き合ってくれ」

 

『お酒は飲んだ事がないのですが……』

 

「度数はそこまで高くないから安心してくれ。

飲む事で多少は緊張が解けるだろう」

 

『貴方がそう言うなら……』

 

本来であれば男女が同じ屋根の下で酒を飲む

その行為は危険ではあるのだが

マエストロは鈍感朴念仁なので問題ない

 

『……うへへぇ』

 

しかしそれはあくまで彼の場合であり

酒を嗜んだ事のないユメは一口飲んだだけで

ベロンベロンに酔ってしまっていた

 

「度数3%なのだが……参ったな……」

 

『おさけってこんなきぶんになるんだねぇ〜』

 

「……まあお前が楽しそうだからいいか」

 

『ああ……このまましにたいな』

 

「どうした急に」

 

『だってさ、わたしこれからずっとひとりなんだよ

こうはいはぜんいんしんじゃったし……』

 

「ホシノ達が居るだろう。何を言っているんだ」

 

『え〜しらないの?しょうがないなぁ……

それじゃあわたしのじんせいをあなたにかたって

あげようかなぁ〜うへへ〜』

 

酔った彼女は語る。自分は別の世界から来た事

大切な人が全員死んで永遠に孤独である事

この世界の後輩達はとても優しいがどうしても

自分の世界に居た後輩達と重ねてしまいずっと

胸が苦しくて仕方がない事

他にも沢山話してくれたが大半の内容はとても

一生徒が体験していいようなものではなく

地獄の一言で済ませられない

 

『みんなわたしにいきてほしいんだって〜。

ほんとかってだよね〜ひとりでいきたって

なにもたのしくないのにさ』

 

「その感情は分かるな。お前ほど重くはないが

芸術に理解を示してもらえない事が多いからな」

 

『あなたもこどくなんだね〜おそろいだ〜』

 

「……ああ、そうだな」

 

『もうあびどすにかえりたくないな〜みんなに

きをつかわせるのもつかれたよ』

 

「それなら暫くの間ここに泊まっていいぞ。

お前も心の整理をつける時間が必要だろう?」

 

『え〜いいの〜?じゃあとまる〜』

 

「着替え等は準備しておくのでその間風呂に入って

身体の汚れを落としておけ」

 

『は〜い』

 

「……ユメか。もしあいつの話が本当ならば……

少しは報われるべきだろうな。孤独か……

知ってしまった以上何とかしてやりたいが……」

 

『ねえねえ、いっしょにはいらない〜?

このおふろひろすぎておちつかないよ〜』

 

「やめてくれ。生徒と風呂になんて入った暁には

牢の中で過ごす羽目になる」

 

『え〜けち〜わたしをひとりにするな〜!!』

 

「……仕方ない。アリスとケイをまた呼ぶか……」




実際起こり得ない話ではありますが死んだはずの大切な人によく似た他人と生活するのってしんどいと思うんですよね


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今はまだ黒く染まっている君

「こんな時間に電話してくるなんてどうした」

 

『ユメの事です。貴方のところに置いてきて

しまったので様子を聞こうと思いまして』

 

「ああ。今は私の家で風呂に入っているぞ」

 

『マエストロ?』

 

「しばらくは私の家に滞在させるつもりだ。

お前は安心してホシノと愛し合うといい」

 

『マエストロ???』

 

「気にするな。悪いようにはしない」

 

『いえそういう事ではな』

 

黒服からの通話を切り先程開封した酒を堪能する。

今ユメをアビドスに帰して彼女の精神が擦り減って

限界を迎える前に一度休ませるべきなのだから。

心の病というものはそう簡単に治るものじゃない。

時間をかけて向き合う必要があるのだ。

 

「黒服は生徒との向き合い方が下手だからな。

マダムは過保護すぎてあてにならん。

ゴルコンダは……あいつはなんなんだ……」

 

ゲマトリアとは?と思える程に色々崩壊している

組織ではあるもののそれぞれが崇高に向かって

近づいているのならいいのかもしれないと

希望的観測をしていると浴室の扉が開く音がした。

 

『このおふろあっついね〜みんなのぼせたよ〜』

 

「マエストロ先生、アリス達はお風呂上がりの

牛乳を要求します!当然フルーツ牛乳です!」

 

「ああ、冷蔵庫に冷やしてあるぞ。ただし……

ちゃんと身体を拭いて着替えてからにしろ。

ただえさえ寒くなってきたのだからな」

 

『え〜きがえさせてよ〜おとなでしょ〜?』

 

「断る。私にそのような趣味はない」

 

『けち!わるいおとな!』

 

「……私が助力するので着替えましょう」

 

『おーケイちゃんありがと〜。ホシノちゃんににて

やさしいこにそだったんだね〜。それにくらべて

あのせんせいはぜんぜんやさしくない!ひどい!」

 

「……さっさと牛乳を飲んで歯を磨いて寝ろ」

 

酔った彼女は成人しているとは思えない程に精神が

幼くなっている。もしかしたらこれが彼女本来の姿

であり性格なのかもしれない。それはそれとして

彼女に酒を飲ませるのはもうやめようと思った。

やはり一人で嗜む程度に留めておくべきだろう。

 

『ちょっと!コーヒーぎゅうにゅうがないよ!』

 

「いちごミルクの隣にありますよ」

 

『あっほんとだ。ケイちゃんありがとう』

 

「むむむ……いちごミルクとフルーツ牛乳……

とても悩みます……二本飲んでもいいですか?」

 

「いいぞ」

 

「ありがとうございます!アリスは二本選ぶ権利を

得ることができました!」

 

『え〜いいな〜わたしもにほんのみたい!』

 

「……では私も」

 

「お前ら……まあいいか。好きにしてくれ」

 

『わーい!』

 

まるで子供のようにはしゃぐ三人を見ていると

確信はないがいつかユメの心の病が治って

彼女が笑顔で過ごせている姿が想像出来た

その光景は真っ白なキャンバスでは描ききれない

程に美しい芸術になるだろう。

今からその日が訪れるのを楽しみにしていよう。



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あの時みたいに

「せーんせ♪お風呂入ってきたよー。この後

一緒に寝……あれ、誰かと電話中だった?」

 

「いえ、今切れたので問題はありません。

冷える前にベットに行きましょうか」

 

「うん。先生と添い寝するの久しぶりだなぁ。

あの時はいきなり抱きしめられちゃって

パニックになったのを覚えてるよ」

 

「そんな事もありましたね。ですが今回は

精々手を繋ぐ程度にしておきましょう」

 

「えー……もっとイチャイチャしたいよ〜」

 

「それはまだ早いです」

 

「むぅ」

 

「そんな頬を膨らませて講義してもダメですよ」

 

「いつか絶対イチャイチャするもん……」

 

「はいはい」

 

「もー雑に返事しないでよー」

 

「いいから寝ますよ」

 

電気は消え暗闇に染まる部屋の中に男女二人きり

しかし何も起こらずただ手を繋いで寝るだけ

ただ繋いだその手はとても暖かくて

彼は珍しく早めに寝息を立て始めた。

そしてホシノはと言うと……

 

「(先生の手……やっぱり大きいな。それに私の手

よりも逞しくて……男の人って感じがする。

もしこの指で私の……って何想像してるんだろう

恥ずかしい……でも気持ちよさそうだよね)」

 

色欲に塗れた想像をして悶々としている為

なかなか寝付けないようである

恋をしている年頃の少女は色々と大変なのだ

 

「先生……寝ちゃったかな……ずるいよ」

 

「……何がずるいんですか?」

 

「ぴゃ!?いつから起きてたの!?」

 

「ホシノが私の手について語っている辺りです」

 

「えっあれ声に出てたの!?」

 

「全部聞こえてましたよ」

 

「……もう寝る!!」

 

「ええ。お休みなさい」

 

「おやすみ!!」

 

ホシノは恥ずかしさのあまりふて寝した

まさかあれが聴かれていたとは思わなかったので

内心どうしようと焦ってはいたものの

彼は気づくような性格ではないので大丈夫かなと

そう考えていたらいつの間にか眠りについていた

 

ーーー

 

「………」

 

ホシノはあまりの寒さに深夜目覚めてしまった

夜はとても冷えるのでとても眠れない

起きたばかりで頭が回っていない彼女は何を

思ったのか彼の上に抱きついて寝る事にした

人外ではあるものの人肌並みの暖かさを感じて

何とか寝られるくらいにはなり最大眠りに落ちた

それから数時間が経過した頃。いつの間にか

両手を繋いで幸せそうに眠るホシノの顔が

正面に見える状態で彼は目覚めた

彼にとっても今の気温は肌寒い時期なので

ホシノが抱きついてくる分には構わないのだが

彼女が起きた時にどのような反応をするのか

朝から大きな叫び声は聞きたくないな……と

そのまま何もせず過ごしているとホシノが起きた

 

「せんせ……おはよ……」

 

「おはようございます」

 

「……うへへ。目覚めのキスしていい?」

 

「構いませんが……接吻に目覚めの効果があるなど

そんな話は聞いたことがありませんね」

 

「いいからしよ?」

 

「強引ですね……どちらにせよ両手を塞がれて

どうしようもありませんが……」

 

いつも以上に強気なホシノは攻めるものの

耐性値を上げていないので大体キス一回で終わる

彼女が黒服を堕とすためにはまだまだ先は長く

果てしない道のりなのだろう



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夜の記憶がないんです

『ん……そろそろ起きないと……』

 

ユメはいつも朝早くに起きて訓練をする。

それは彼女が毎日のように続けてきた習慣であり

彼女の身体が丈夫になった理解でもある

しかしユメがベッドから起きあがろうとしても

左右から物凄い力で引っ張られて起き上がれない

 

「ホシノママ……」

 

「父……」

 

左右を見てみるとそこに居るのは寝言で

親?の名前を呼びながら寝ているアリスとケイ。

何故彼女達がここにいるのかも自分が今

何処に居るのかも曖昧である。

多少心苦しくはあるものの彼女達が起きない程度に

力を込めてアリケイ包囲網から脱出して

寝巻きから着替えようと部屋を出た際に

何かの発明をしているマエストロを見かけた

 

「起きたのか。よく眠れたか?」

 

『はい。ただ……昨日の夜辺りの記憶が曖昧で』

 

「覚えてないなら気にする必要はないぞ」

 

『何かご迷惑をおかけしていたら申し訳ないです』

 

「迷惑はかけていな……いぞ?」

 

『えっ何ですか今の間は……私は一体

貴方に対して何をやったんですか?』

 

「一緒に風呂に入れと言っていた」

 

『えぇ!?』

 

「流石に断ったがな」

 

『……そうですよね。私みたいな魅力のない身体の

生徒と一緒にお風呂だなんて……』

 

「いいやお前の身体は魅力が詰まっている。

ただ倫理的に考えて生徒と教師が同じ風呂に入る

だなんておかしいだろう」

 

『……確かにそうですね』

 

「代わりにアリスとケイに付き添ってもらった」

 

『だから二人が居たんですね』

 

「そういう事だ。……さて、お前が起きたのて

私は今から朝食でも準備をするか」

 

『……私は今から訓練に行くので必要は……』

 

「いいからそこに座って待っていてくれ。

今は訓練などせずに身体の疲労を癒すべきだ」

 

『でも……』

 

「ほら、ひとまずこれでも食べておけ」

 

彼から差し出されたのは美しく盛られた野菜。

芸術にうるさい彼らしい料理であると思いながら

その野菜を口に含んだ。とても新鮮で土の味が

口内に広がる。水で洗っただけの野菜本来の姿を

味わっているようなその感覚に思わず『まず』と

口に出して言ってしまった。

 

『これ……味付けとかされてないんですか?』

 

「食事は栄養を摂る為の行為だろう?」

 

『つまり味は気にしていないと?』

 

「そうだな」

 

『……はぁ。少しキッチンを借りますね』

 

「ああ」

 

ーーー

 

『塩と胡椒で味付けして炒めてみました』

 

「……ふむ。どうやら料理には芸術よりも

まずは味を求めるべきだったようだな」

 

『やっぱり貴方も不味いと思っていたんですね』

 

「正直な話私は料理が下手だからな。だが流石に

毎食ロールケーキにする訳にもいかないだろう」

 

『下手というか調理すらしていないというか……

分かりました。住まわせてもらっているので私が

貴方の為に食事を用意しますよ』

 

「いいのか?有難い申し出だな」

 

『あまり良いものは作れませんが……』

 

「いいや。お前が私の為に作ってくれる事実。

それだけで私は満足だ」

 

『そ……そうですか』

 

「お前さえ良ければ今日の昼から頼みたい」

 

『分かりました。これからお世話になるので

そのくらいはさせてください』

 

 




この日からテラーちゃんは料理を勉強し始めたとか。特に深い意味はありませんよ。


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電話

『それでしばらくマエストロ先生のところに

住ませてもらう事になったんだ』

 

「そうなんですね。……正直に言うと先輩が

居ないと寂しいです……ただ、先輩の幸せの

為に必要な事なのであれば我慢します」

 

『……うん、ありがとう。ああでも……

ホシノちゃんならいつでも来ていいからね』

 

「分かりました。……そろそろ切りますね。

また夜にでも話しましょう」

 

『うん。ホシノちゃん、またね』

 

夜に話す約束をして先輩との通話を終えたものの

やっぱり寂しいので結構落ち込んでるホシノ。

無意識に黒服の膝の上に座りつつため息をついて

脚をばたつかせて「さーみーしーいー!!」と

駄々をこねていた。

 

「……何故私の膝の上に乗ってその行為をする

必要があるのですか?」

 

「先輩がしばらく帰ってこないんだよ?

そんなの寂しいじゃん……」

 

「会いに行けば良いのでは?ケイに頼めばすぐに

会う事は可能ですよ」

 

「それはそうなんだけど……今は先輩の邪魔を

したくないって気待ちもあるんだ」

 

「人の感情とは難しいものですね。ホシノが我慢

する必要はないと思いますが……」

 

「えっとね……?先生に言っても信じて貰えるか

分からないんだけど……実はね。電話越しに

聞こえた先輩の声が上手く言えないんだけど、

ちょっとだけ嬉しそうだったんだ。まるで

私が先生に褒められた時みたいな感じ」

 

「まさか……マエストロがまた何か誤解させる

ような発言をしたのでしょうか……だとしたら

ユメにとって彼の近くにいる事は後々大変な

事態を招きかねないのでは?」

 

「大丈夫だよ〜。もしそうなったら先輩の為に

ミレニアムとトリニティを敵に回す覚悟は

決めておくからさ」

 

「遠回しにマエストロを殺すと言っていますね。

……まあ、彼は放っておいたら他の生徒に

捕まって刺されていそうですが」

 

「もしかしてあの人女ったらしなの?」

 

「クソボケ鈍感なだけです」

 

「ふぅーん……でも先生は違うよね。私にしか

興味ないもんね。浮気しないよね」

 

「浮気も何も恋人ではありませんが……まあ、

私がホシノ以外の生徒を好む事はないでしょう」

 

「……うへ。うへへへ〜///嬉しいなぁ///」

 

ーーー

 

「あの二人なんであれで付き合ってないの?」

 

「黒服先生は意気地なしですからね〜」

 

「ん、男なら責任をとって結婚するべき」

 

「結婚は早いような気がしますが……」

 

黒服とホシノがいちゃついているのをガラス越しに

覗いている四人の後輩は不思議に思っている。

あんなに距離感が近いのにも関わらず黒服は決死の

告白を断っているのだから。何故断ったのか?

 

「黒服に意識させるしかないんじゃない?」

 

「あのクソボケ朴念仁にどうやってやるんです?」

 

「ん、簡単。※※※しないと出られない部屋に

閉じ込めておけば意識させられる。

それに既成事実も作れて一石二鳥だね」

 

「も、もう少し現実的な案を考えましょう?」

 

「やはり惚れ薬を飲ませてそういう行為を

黒服先生の方からさせるのはどうですか?」

 

「なんですぐえっち方面の案にもっていくのよ」

 

「ん、意識させるならそれが一番手っ取り早い」

 

「それに大好きな黒服先生に求められて

照れてる可愛いホシノ先輩も見れますよ」

 

「ものは試し。今度やってみよう」

 

「そんなので上手くいくのでしょうか……」



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芸術家の家と服

「私はここで作業をしている。何かあればすぐに

呼んでくれ。あと昼食の時間にもな」

 

『分かりました。……でもやりたい事は特に

思いつかないし……どうしようかな』

 

自分の為に行動する。それは今の彼女にとっては

何よりも至難であった。精神の休息とはいえ

具体的に何をすればいいのだろう……

 

「当然探検ですよね!!」

 

「その通りです。この家の散策しに行きましょう」

 

『あっ二人とも。起きたんだね。でもそんな子供

みたいな事をしてもいいのかな……』

 

「細かい事は気にしなくていいんですよ!!」

 

『そうかな……うん、そうかも』

 

たまには童心に帰ってこういう無邪気な行為を

するのも良いのかもしれない。作業をしている

彼の邪魔にならない程度に二人と結構広い

家の中を探索してみる事にした。

 

ーーー

 

「おぉ〜!!ガラクタだらけです!!」

 

「アリス。これはガラクタではありません。

誰にも理解されない悲しき芸術品です」

 

『芸術品かぁ……私もセンスはないけど……

ロマンがあって良いと思うな』

 

「奥が深いんですね!!」

 

「しかし独特な作品ばかりですね。この……

虚無を見つめているような魚の銅像とか』

 

『魚ならホシノちゃんに見せたら喜ぶかな?』

 

「面白い顔ですね!実物を見てみたいです!」

 

「こっちにはマネキンと……コスプレ衣装?が

大量ありますね。何故ここにあるのでしょう」

 

『こういうのが趣味なのかな?まあほら、

趣味は人それぞれだからさ』

 

「二人とも違いますよ!これはジョブチェンジ

する為に必要な衣装です!」

 

「世間一般ではそれをコスプレと言うんです」

 

『ちょっと意味が違うと思うけど……そうだ、

せっかくだしどれか着てみようかな』

 

「アリスもジョブチェンジしたいです!」

 

「私はいいです。……あっこらアリス私は

着ませんから……ちょ……」

 

ーーー

 

「やはり私の知識だけでは限界があるか……

反転させるのは簡単だがその後を……」

 

『先生、お昼の準備が出来ましたよ』

 

「分かった。すぐに向かう」

 

『はい。お待ちしていま……あっ』

 

ユメは彼が出てくる前にリビングに戻っている

つもりだったが声をかけてすぐに扉が開き

心の準備が出来ていない中部屋に飾ってあった

『ゴシック風の衣装』を着ている姿を間近で

見られてしまった。その姿を見た彼は固まり

絶句しているようであった。

 

『……ごめんなさい。出来心で着てしまって……

今すぐ脱ぎますので……』

 

「美しい」

 

『え?』

 

「なんて美しいのだ。その衣装は私が仕立て上げた

作品の一つなのだが今までその服が似合う生徒は

誰一人として居なかった。そもそもその服自体を

着てくれる生徒すらほとんど居ない始末だった。

ほとんど諦めていたがまさかお前がその衣装に

身を包み芸術を完成させてくれるとは。

ありがとうユメ。とても良いものを見せてくれて」

 

『……似合ってるだなんて……嬉しいです』

 

「またインスピレーションが湧いてきた。よし、

昼食を頂いた後は服でも買いに行くとしよう。

……いや、私が作りたい。良いだろうか?」

 

『あっ……はい。それは構わないのですが……』

 

「決まりだな。さて、どんな衣装に仕立て上げて

ユメを美しくしてやろうか……」

 

『……お手柔らかにお願いしますね』




『先生ってゴシック風の服が好みなんですか?』

「ああ。高貴な雰囲気があるだろう?」

『……でもこれってゴスロリですよ?』

「………」


ゴスロリを着たテラーちゃんを想像して可愛いなぁと思いました。


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彼女のやりたい事

『冷蔵庫にあった食材で調理してみました』

 

「なるほどな。私好みの味付けで食が進むぞ」

 

「アリスはおかわりが欲しいです!」

 

「はしたないですよアリス。あ、私にもください」

 

まるで家族の食事のような穏やかな雰囲気……

ではあるもののゴスロリ衣装を着ているユメと

メイド服を着ているアリスとケイ。

側から見たら異端としか言えない光景である。

 

「何故お前達はメイド服を着ているんだ?」

 

「アリス達が着れそうなサイズでジョブチェンジ

出来るものがメイドしかありませんでした」

 

「私はアリスに無理やり着せられました」

 

「これでは私が生徒にコスプレさせる変態に

思われてしまうではないか。マダムと同様の存在に

なるのは勘弁願いたいものだな」

 

『私は構いませんよ。先生が変態でも』

 

「何もフォローになってないぞ?」

 

「……私の知る教師は変態しか居ないようです」

 

「ケイ落ち着け。私は変態じゃない」

 

「つまり変態という名の紳士なのですね!」

 

「だから変態じゃないぞ」

 

『ふふっそうですね。芸術の為、ですよね』

 

「あ、ああ。ユメは私を理解してくれるのか。

危うく私が変態だと誤解されるところだった」

 

『それは否定しませんけど……』

 

ーーー

 

「昼食も満喫したところでユメの服の構想を

考えなければいけないな。やはり黒を基調と

した落ち着いた雰囲気に……」

 

『………』

 

表情は何も読み取れないが彼の声色から

とても気分が良くなっているのを察する。

彼は芸術という崇高に向かって常に全力だ。

だからだろうか、彼がとても輝いて見える。

夢も目標もない自分とは違って……

私には何も残っていないから羨ましい。

生きる意味も見つけられない。

そんな事を考えていると自然と心が冷えていき

視界が暗闇に染まっている、そんな気がした。

 

「どうした?何故下を向いているんだ?」

 

『……いえ。何でもないです』

 

「そうか。……もし何も残っていない等と

考えているとすればそれは間違いだぞ」

 

『っ……』

 

「精神が疲弊して余裕がない人間というものは

視野が狭くなるものだ。焦る必要はない。

まずは今まで頑張った自分を許し褒めろ。

今生きている自分をな」

 

『……私は自分を許せるのでしょうか……』

 

「それは自分にしか決められない事だ。

少なくとも私は許していいと思うがな。

……よし、完成したぞ。着てみるといい」

 

『……分かりました。……あの、後ろを向いて

いただけると助かるのですが……』

 

「ん?ああ、すまないな。配慮が足りなかった」

 

彼から手渡された衣装に身を包むと胸元が若干

苦しい感覚に襲われるがそれ以外は問題がない

程に丁度いいサイズだった。

 

『着替えましたよ』

 

「そうか。……やはりよく似合っているな。

胸元の青い薔薇を模した飾りは今のユメに

対して伝えたい思いでもあるのだ」

 

『青い薔薇……ですか?』

 

「ああ。外の世界では青い薔薇の花言葉は

『不可能』と言われていた。当時自然界にも

交配でも生まれることがなかったからだ。

だが長い年月をかけて遂に誕生した時、

『不可能』は『奇跡』に変わったのだ。

心に深い傷を負ったユメが幸せになるのは

難しく不可能かもしれないが、いずれ克服して

心の底から笑えるようになる奇跡が起きる事を

私は一教師として願っている。……すまない、

少々語りすぎてしまったな」

 

『……いえ。先生からの想い、大切にします。

ありがとうございま……あっ』

 

彼に向かってお辞儀をしようとした際に胸元の

ボタンが弾けて空色の下着が露わになった。

 

「……これも芸術か」

 

『……み、見ないでください!』

 

「ゴフッ」

 

物凄い力でビンタされた彼は意識が朦朧として

そのまま意識が遠のいていった。

 

「アリス知っています!あれは色仕掛けです!」

 

「ただのハプニングのように見えましたが……」




スカイブルーって良いですよね。


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まさか本当に用意するなんて

「じゃーん☆」

 

「………」

 

皆の視線は目の前に置かれた怪しい瓶こと

『ベア印の超強力な惚れ薬♡』に注目している。

 

「話は聞かせてもらいましたよ。ええ、あの

ロリコン朴念仁にはこれくらいしなければ

ホシノと向き合えないと思います。これなら

どんな堅物もイチコロです」

 

「へ、へぇ……」

 

「……ん、これを使えば皆が私と一緒に

あっち向いてホイをやってくれる……?」

 

「あ、あはは……それはどうでしょう……」

 

「とりあえず明日の朝にでも仕込んでおきます」

 

黒服に惚れ薬を飲ませる非人道的作戦。まさか

本当に実行するなんて誰が想像しただろうか?

 

ーーー

 

「先生。いつものやっていい?」

 

「いいですよ」

 

「うへへ、ありがとう」

 

いちゃついているようにしか見えない二人を

夜のうちに取り付けた監視カメラで覗く

後輩達と何故かいるベア先生。二人が席を外す

タイミングでコップに入った液体に惚れ薬を

混ぜる必要があるのだが中々席を外さない。

時間だけが過ぎていく中突然二人が席を離れて

教室から出て行った。これ見よがしにと急いで

惚れ薬を混ぜてニコニコしながら監視カメラを

眺めているノノミと若干引いているセリカと

何を考えているか分からないシロコと

何故かメガネを拭いているアヤネ。

なんて頼もしい後輩達なのだろうか。

 

「あっ、二人が戻ってきましたよ」

 

「そして先生か惚れ薬を混ぜたコーヒーを今!

確かに口に含み飲んだ事を確認しました!」

 

「ここからどうなるのか……非常に楽しみですね」

 

ーーー

 

「……?」

 

「先生どしたの?」

 

「いえ。このコーヒーは無糖の筈なのですが

何故か甘さを感じましてね」

 

「そうなの?……ちょっと気になるから

私も飲んでみていい?」

 

「構いませんよ」

 

「ありがとー。……うへぇ……苦いよ〜」

 

「ふむ。気のせいだったようですね」

 

ーーー

 

「自然と間接キスしてるわね」

 

「多分ホシノ先輩は気づいてないですよ。

それよりもホシノ先輩まで惚れ薬を飲んで

しまいましたね」

 

「ん、何とかなる」

 

「後は流れに任せましょう。……ただ、あの

惚れ薬って即効性があるものなのですが……

おかしいですね、普段通りのような気が……」

 

「量が少なかったとか?」

 

「それについては問題ありません。一滴で

アコにすら大好きと言われる程に強力なものを

用意しましたので」

 

「ならどうして普段通りなのでしょうか?」

 

「……カンスト」

 

「え?」

 

「好感度がカンストしているからです」

 

「えっそんな事あります?」

 

「つまり黒服はホシノが好きなのですが

恋という概念を理解していないので効果がない

という事でしか説明が出来ないのです。

何故ならヒナで試した時と同じように普段と

変わらなかったので……」

 

「……つまり失敗したと言うことですか?」

 

「詰んでるわね」

 

「黒服は思ったよりも手強いようですね。

ロリコン朴念仁クソボケのくせに」

 

「もしかしてホシノ先輩って……」

 

詰んでる!?



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芸術家の成長……?

「胸元に余裕が出来るように改良したぞ」

 

『……先程よりも苦しくないです……

先生、ありがとうございます』

 

「胸のブローチも外れないようにしておいた。

……胸のな」

 

『あの……なんで顔を背けているのですか?』

 

「気にしないでくれ。さて、私は創作意欲を

満たせたので部屋に戻って作業の続きを行う」

 

『分かりました』

 

彼の不可解な行動に疑問を抱きながらも部屋まで

見送っているユメとそれを遠巻きにみるアリケイ。

 

「なんで顔を背けたんでしょう?」

 

「……あれで意識をし始めたとするのであれば

マエストロ先生の性に対する耐性は限りなく低い

という事になるのかもしれませんね」

 

「ぱふぱふですか?それとも※※ですか?」

 

「……まずはモモイを殴りに行きましょう。

知らぬ間にアリスに変な知識を与えすぎなので

一度しばかなければなりません」

 

『あれ、二人も出かけちゃうの?』

 

「はい。大丈夫です、すぐに戻りますので」

 

『そっか。気をつけてね』

 

ーーー

 

「………」

 

作業をする、そう言って部屋に戻った彼は机に

向かっているものの上の空であった。

不可抗力で見てしまったユメの下着と

頬を赤らめた恥じらいの顔が頭から離れない。

何故彼女の胸から目が離せなかったのか、

何故芸術として認識してしまったのか。

その答えは未だ分からない。分からないが……

 

「ひとまず作業をしないとな……しかし何か

落ち着かないな……この感情はなんだ……?」

 

今までに経験した事がない感覚に襲われ、

思考がそれの答えを求めようとしている。

それでもその感情の正体を知る事が出来ずに

ただ時間だけが過ぎていった。

 

「ダメだな……作業も進まず感情の答えも

分からずじまいだ。それに……何故頭から

あの光景が離れないのだ」

 

答えが出ずに悩み続ける芸術家。彼の脳は

いつの間にか『ユメ』についての事ばかりを

考えるようになっていっていた。その事実に

彼はまだ気づいていない。だが少しずつ、

確実に異常なほど鈍感であった彼の思考は

その答えについて近づいていた。

 

『先生、15時ですよ。一度休憩にしませんか?』

 

「あ、ああ。今行く」

 

唐突に聞こえた彼女の声で飛び跳ねそうになった

心臓を落ち着かせて彼女が待つリビングへ行くと

そこには不恰好な形のチーズケーキが紅茶と共に

机の上に置かれていた。

 

『時間があったのでレシピを見ながら作って

みました。……歪な形になってしまいましたが』

 

「……美しいな。食べるのが惜しいくらいだ」

 

『もう……お世辞はやめてください』

 

「本心だぞ」

 

『……貴方は罪深い人ですね』

 

「そうなのか?」

 

『ええ』

 

「お前が言うならその通りなのだろうな。

……紅茶が冷める前に頂くとしようか」

 

『ご賞味ください』

 

彼はまだ気づいていない。自身が目の前の女性に

夢中になっている事に。しかし周りからは、

特にアリスとケイには大体察せられていた。

その事実に彼自身が気づく事はあるのだろうか?




テラーちゃんの格好は某アトリエのオディーリアみたいなイメージです


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黒服堕とし作戦?

黒服だけ放置してホシノを呼び出してネタバラシ

という訳ではないが彼女に一連の流れを話した。

 

「えっコーヒーに惚れ薬を入れたの?」

 

「焦ったいから早くくっついてもらおうと

思いまして……皆で用意したんです☆」

 

「だ、ダメだよ。私と先生は純粋に愛し合って

幸せになるって決めてるんだから」

 

「ホシノ先輩、愛し合うとかそういう次元じゃ

なくてね?まずは黒服に恋愛感情を……」

 

「恋愛感情なら先生だって持って……持って……

え、もしかして振り向いてくれないのって……」

 

「ん」

 

「……私詰んでるの?先生と付き合えないの?」

 

「黒服が自らの本心を理解していない以上は

そうなりますね。ですが彼の潜在意識は

ホシノが好きで好きで仕方ないようです。

つまり彼に意識をさせればアツアツカップル

間違いなしの展開になりますよ」

 

「でも意識をさせるってどうしたら……?」

 

「私に任せてください。潜在意識に接続出来る

装置でも何でも開発してみせますよ。それが

教師である私の役割です」

 

「……なるほど。こうやってゲヘナの生徒達を

堕としていったんですね♧」

 

「私はただ生徒に幸せになってほしいのと

下着を見せてもらいたいだけなんですよ」

 

「欲望に忠実ですね」

 

「教師って変態じゃないとなれないのかしら」

 

「……あ。そう言えばセリカ。確か貴女は私に

下着を見せてくれると約束しましたよね。

さあこちらで語り合いましょう」

 

「いや約束なんてしてないんだけどえっ何?

いやいやおかしいってちょっと待っ」

 

今回の惚れ薬作戦はセリカの尊い犠牲によって

幕を閉じた。そして次の作戦がすぐに始まる。

黒服の潜在意識に干渉してホシノが好きだと

理解させる。その為の装置を開発する……のは

ベア先生が率先してやってくれるそう。

 

「エンジニア部に頼んだら協力してくれました。

わざわざマエストロの部屋に入って服を拝借

した甲斐がありましたよ」

 

「そっか。……うへへ、これで先生と恋人に

なれるんだね……楽しみだなぁ……ベアさん、

その装置はいつ頃完成するの?」

 

「一週間です。ウタハ曰く『リアルタイム』で

との事なのですがよく分かりませんね」

 

「うぇ?リアルタイムって?」

 

「七話投稿するまでって事でしょうか?」

 

「ん、メタいね」

 

「エンジニア部が絡んだらこうなってしまいます

悲しい事に彼女達はこの作品においてシリアスは

通用しないんですよね」

 

「……うん、とりあえず待ってるねー」

 

よく分からないまま始まった作戦と開発。

惚れ薬すら通用しなかった彼に対する

ホシノの恋は実るのか?それとも……

 




仕事中に考えていました


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そりゃあ風邪を引くよね

ユメがマエストロの家に住み始めてから数日が

経過した頃。彼との生活に慣れてきたのか今は

緊張が解けたようにリラックスして過ごして

いるように見える。時折胸元のブローチを触り

小さく微笑んでいる姿はとても美しい。

 

『……?何か御用ですか?』

 

「ん?あ、ああ。何でもない」

 

彼も彼女との生活の中で変わった事がある。

無意識のうちにユメの事を見つめていること。

彼女の胸を見る度にあの日の出来事を思い出し

心臓の鼓動が早くなること。未だにその答えは

見つかっていないがこの感覚は悪くない。

 

『先生、今日のお昼は何になさいますか?』

 

「胸」

 

『えっ』

 

「……鶏の胸肉を使った料理を頼みたい」

 

『あ、はい。分かりました』

 

時々ボロが出そうになるもののどうにか誤魔化して日々をやり過ごしている。

彼女にもきっと疑われてはいないだろう。

 

『(やっぱり男の人って変態なんだね)』

 

否、彼はユメに考えれる限り最悪な解釈をされて

生暖かい視線を送られている事に気づいていない。

 

「趣味は見つかったのか?」

 

『いえ……特には』

 

「そうか……焦る必要はないからな」

 

『はい』

 

そんな些細な会話を繰り返して時間は過ぎていき

夜を迎えまた朝を迎える。そんな日常に段々と

慣れてきた頃に彼が調べたい事があると言って

一人家で留守番を任された。

とはいえ特別何かをする訳ではないのでのんびり

過ごしていた。……変な来客が来るまでは。

 

「こんにちは。先生に会いにきました」

 

『ああ、先生なら今出掛けて……』

 

「どうしました?」

 

ユメは絶句した。目の前に居る彼女はえげつない

ハイレグの水着とニーソを組み合わせた奇抜な

格好をしていたから。

 

『えっと……多分トリニティの方……だよね?

もしかしてその格好でここまで来たの?』

 

「はい。先生に振り向いて頂くために私は……

『覚悟』を決めてきました」

 

『………』

 

ねえマエストロ先生。貴方の性癖が私には何も

分からないよ。ごめんね。スク水ニーソは流石に

レベルが高いと思うな。

 

「風の噂で聞きましたよ。貴女が先生に

らっきーすけべなるものを披露したお方ですね。

しかもそれが先生に効果があると……

私は性に対してはあまり詳しくはありませんが

知り合い曰く「この格好なら大半の殿方は簡単に

堕とせると思いますよ」と助言していただき

実行に移そうと思い立った訳です」

 

『……えっと……そうだね。貴女の覚悟は

伝わってきたけど……マニアックな趣味だね』

 

「叡智というものは細かければ細かいほど

刺さった時に効果が大きいと言われまして。

ハナ……私の知り合いはこのような格好を

恥じらいもなく毎日学園で見せびらかしている

叡智の天才とも言えるお方です」

 

『騙されてると思うよ……そういうプレイなら

ともかくその格好で外を出歩くのは……』

 

「戻ったぞ。……サクラコか?」

 

「先生、お久しぶりです」

 

「なんだその微塵も芸術を感じない格好は。

風邪を引く前に普段の格好に着替えておけ」

 

「これは私の『覚悟』です。先生、どうか私の

想いを受け取って頂け……くしゅん」

 

「手遅れだったか……」

 

『……先生の趣味じゃないんですね』

 

「私がこんな変態が好みそうな趣味をしている

筈がないだろう」

 

『ゴスロリも同じようなものだと思いますが』

 

「………」

 

「くしゅん」

 

『……本日はお鍋にしますね』




第一の刺客 覚悟を纏いしサクラコ


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誤解

へんた……シスターサクラコをトリニティまで

送り届けた後、見回りも兼ねてミレニアム内を

マエストロとユメは歩いていた。

 

『……改めて見るとミレニアムってとても大きい

学園ですよね。技術も発展しているし』

 

「まあな。リオ……ビッグシスターとも呼ばれる

彼女を筆頭に優秀な生徒達が多い学園だぞ」

 

『私も何かやった方がいいのでしょうか……?

お料理自動化装置みたいなものを開発するとか』

 

「……そういえばリオが何か変な装置を開発した

と連絡してきたな。卵を自動で割る機械とか

なんとか言っていたが……」

 

『えっ手で割った方が早くないですか?』

 

「私は卵を割った事がないので分からないが

ユメが言うならそうなのだろうな。……そうだ、

今日の夕飯は卵を使った料理を頼めるか?」

 

『良いですよ。帰りに材料を買いますね』

 

「ああ、助かる」

 

いつの間にか胃袋を掴まれていたマエストロと

そこまで意識していないユメの会話は周りの

生徒達に聞かれているそうで……

 

『……先生。ミレニアムの生徒達から何故か

白い目で見られているような気がするのですが』

 

「他の学園から来た生徒が珍しいのだろう。

結構内気な生徒が多いから気にするな。

まあ、私が嫌われているだけだろうがな」

 

『先生がそういう態度を取るから鈍感だの諸々

言われているのだと思うのですが。

先生はどの生徒さんからも好かれてますよ』

 

「そうなのか?試してくる」

 

彼が一般生徒に近づいて声をかけると彼女は

黄色い悲鳴をあげて顔を真っ赤にして走り去って

しまった。好きな人に声をかけられたら内気な子

はそんな反応をしてしまうのも無理はない。

これで彼が好かれている事が伝わるだろう。

 

「……やはり嫌われているようだな」

 

『あの反応でどうしてそうなるの?』

 

「悲鳴をあげて逃げられたんだぞ?」

 

『あの悲鳴は喜んでる時の悲鳴だよ』

 

「そんな悲鳴がある訳ないだろう」

 

『……まあ確かに今のは伝わりにくいかも……

それなら他の生徒にも試してみようよ』

 

「ユメがそう言うなら」

 

ーーー

 

『周辺にいた生徒に一通り声をかけましたが』

 

「全滅だな。やはり私は……」

 

『普段どんな風に接したらこうなるんでしょう』

 

「普段か……嫌われるようなことは何も……」

 

『そりゃあそうでしょうね』

 

「なあ、私はどうしたら好かれると思う?」

 

『うーん……生徒に手を出してみるとか?』

 

「そんな事をする訳がないだろう」

 

「あーー!!見つけましたよ先生!!

他の子のラッキースケベで興奮したって

本当何ですか!?酷いです!最低です!

私で童貞捨てたくせに!!」

 

『………』

 

「違うぞ?本当に違うからな?」

 

「私とは遊びだったんですか!?」

 

「コユキもう喋らないでくれ」

 

『……やっぱり変態だったんですね』

 

「落ち着け、一度話を聞いてくれ」

 

マエストロ先生、ユメに変態の烙印を押される




ただ例のセリフを言わせたかっただけ


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芸術家と乙女心

『どうして何処の先生もロリ体型が好みの人しか

居ないんだろう。この世界狂ってるよ』

 

「誤解だと言っているだろう。それにコユキも

冗談だったと白状していたぞ」

 

『いえ、隠す必要はないと思いますよ。ええ。

趣味は人それぞれですからね。はい』

 

「……なあユメ、私の勘違いでなければだが

お前の機嫌が悪いように見えるのだが」

 

『普通です』

 

「そうは見えないぞ」

 

『普通ですから』

 

「………」

 

ーーー

 

「という訳なのだがどうしたらユメの機嫌は

治ってくれるのだろうか」

 

「わざわざ忙しい中珍しく呼び出されたと

思ったら……それは自分で考えてください。

生徒と向き合うのは教師としては最低限

出来ていないとダメでしょうが」

 

「私が自分で考えて行動を実行すると

間違いなく火に油を注ぐような結果になる」

 

「それはそうでしょうね。しかし何故私に相談

しようと思ったのですか?貴方は私の事を変態

と馬鹿にしていた記憶があるのですが」

 

「変態なのは事実だろう。だが生徒に関する

接し方は私の知る限り一番だと思っている」

 

「まあ……それは否定しません。

全く……仕方ありませんね……」

 

「すまない。助かる」

 

「その前にまずは見せてもらいましょうか。

貴方がコーディネートしたユメを姿を」

 

「写真で良ければ」

 

「どれどれ……エッッ」

 

「……相談する前に爆発するな」

 

ーーー

 

『はぁ……ロリ体型かぁ……先生の好みって

やっぱり幼い子なのかな……』

 

「可能性としてはあるね。その割には私が膝に

座ってもほとんど反応をしてくれなかったが」

 

『………』

 

「このクッキー、悪くないね。ナギサが用意する

ロールケーキよりも食べやすいよ」

 

『……ああ、前にアビドスに来た……』

 

「覚えていてくれたんだね。改めて自己紹介を

しようか。百合を楽園と讃え愛する者、それが

私、百合園セイアだ。ちなみに私はトリニティの

トップであり不名誉な称号『未実装』の名を持ち

未だにネタにされている悲しき存在さ」

 

『……貴女も大変なんだね』

 

「お互い未実装同士仲良くしようじゃないか」

 

『私もその『未実装』に含まれるんだ……』

 

「さて、いきなりだが本題に入ろう。君は彼……

マエストロ先生に恋心を抱いているのかい?」

 

『えっ……恋?』

 

「ああ。ラブってやつさ。青い春には欠かせない

甘酸っぱくて最高にハイになるもの……そして

失恋はロードローラーに押しつぶされるように

悲しみに満ちている。時に人はこう考えるのさ」

 

『そ、そうなんだね……』

 

「つまり私と君は同じ相手を狙う恋敵なのだよ。

そこで君の彼に対する想いを聞かせてもらおうと

思ってね。参考程度に教えておくと私は先生と

毎日※※※をしてもいいしお※の※※も彼が望む

なら構わないと思っている」

 

『……その前に一つだけ聞いていいかな?』

 

「なんだい?」

 

『トリニティって変態さんが多い学園なの?

この前来た子もハイレグスク水ニーソっていう

変な格好を堂々と着てたし……』

 

「………」

 

『………』

 

「まあ……気にしないでほしい」

 

『あっうん』

 

「それで……君の想いは?」

 

『想い……正直な話をすると……私は先生に

恋心を抱いているのかは分からないんだ。

もし彼とそうなりたいと心が思っていても

私が恋仲になる事はないと思うな。だって……

他の子とは違って私の身体は汚れているから』

 

ーーー

 

「失礼致しました。まさかこんなにも可愛い

服を着せているなんて……貴方の芸術を

ほんの少しだけ理解できた気がします」

 

「そうか。それよりもユメの機嫌をだな……」

 

「それならもう原因は分かっていますよ。

貴方の好みがロリ体型だと知った事で

自分は可能性がないと不貞腐れているんです。

早い話がユメを抱けば解決しますよ」

 

「抱く?抱きしめればいいのか?」

 

「※※※に決まっているでしょう?当然避妊は

しないといけませんからね」

 

「……私は真面目に悩んでいるのだが?」

 

「私も真面目ですよ。考えてみてください。

彼女の身体は心も身体も傷だらけ。当然自分に

自身などあるはずもない。そんな中心を開き

かけた先生がロリ体型が好みだと知ったら

当然自分は選ばれないんだと傷つきますよ。

だから抱くんです。そうする事で彼女はとても

魅力的である事もロリ体型が好みだという虚偽の

情報も嘘だと彼女に証明できます」

 

「だがそれだとユメの事を都合のいい女のように

扱ってしまう事にならないか?私はそのような

扱いを彼女にはしたくないぞ」

 

「マエストロ……貴方、そろそろ正直になった

方がいいと思いますよ。私には分かります。

ユメに惚れているんですよね?」

 

「っ……」

 

突如ベア先生の口から発せられた言葉。

その言葉は彼が数日悩まされた感情の答えであり

教師としては抱いてはいけないものであった。




ちょっと展開が早い気がしますね。もっとこってりさせた方がいいのでしょうか……


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芸術家は決意をする

「私が恋……冗談はやめてくれないか?」

 

「思い当たる節はあるのではないでしょうか?」

 

「……ないと言えば嘘になるな。しかしだな」

 

「しかしも何もありませんよ。生徒にも自分にも

素直になった方が身のためですよ。いやあ……

まさか鈍感クソボケロリコン野郎のマエストロが

恋を……人生どうなるか分からないものですね」

 

「……いや。私は恋心など抱いてはいない。

ただ芸術を完成させたいだけだ」

 

「はぁ、貴方がそう思うならいいと思いますよ。

まあ、それで後悔するのは貴方ですけどね」

 

「………」

 

「ああ、先程の答えだけは教えてあげますよ。

ユメは自分に自信がない子なので彼女には

とにかく自信を持ってもらうように接すれば

いいと思いますよ。以上です」

 

「……ああ。助かる」

 

ーーー

 

「身体が汚れている?面白いことを言うね。

まあ君の気持ちは分からなくもないよ。何故なら

このセクシーフォックスこと私が目の前に居るんだ

自信の一つや二つ無くしても仕方がないだろう」

 

『そういう訳じゃないんだけど……』

 

「それ以外に理由があるのかい?いいだろう、

同じ未実装のよしみだ。話を聞こうじゃないか」

 

『そんな大した話じゃないよ。言葉通りの意味で

私の身体は汚れてるだけ』

 

「その汚れた理由を聞いているんだけど……

あれかい?話すのが難しい内容なのかな」

 

『昔半月くらい強姦されてた』

 

「すまない。私が浅はかだった」

 

『謝らなくていいよ。……まあそういう理由が

あるってだけの話。セイアちゃんみたいな純粋で

汚れていない子の方が先生には似合ってるよ』

 

「……私と君は短い付き合いだけど……

なんとなく分かる。君は本心を殺しているね」

 

『そんな事ないよ。私は……』

 

「幸せになってはいけない、そう考えている」

 

『っ……』

 

「君は何故自らの幸福を諦めているんだい?

……いや、答えは単純なものだったね。

君は『大切なものを失うこと』にトラウマを

抱いている。そうだろう?」

 

『………』

 

「だから新しい幸せを避けているんだ。

もう一度失ってしまったら立ち直れないから」

 

『どうしてそこまで知って……』

 

「これは私の想像でしかないよ。ただその反応から

察するに当たっていたようだけどね」

 

『……セイアちゃんの言う通りだよ。私はもう

大切なものを手に入れたくない。私がどれだけ

守ろうとしても全て手をすり抜けていった。

『先輩』だった私に残ったのは何もない。

先生にはよくしてもらってるけど……それだけ』

 

「じゃあ……これは仮の話だけど、もし先生から

告白されたらどう答えるんだい?」

 

『断るよ。私よりも魅力的な子は沢山いる。

私なんかを選んで欲しくない』

 

「本心は?」

 

『………』

 

「ここには私しか居ない。内側に秘めたものを、

本当の想いを吐き出していいんだよ」

 

『……どうしたらいいのかなんて分からないよ……

でも……少しだけ我儘を言っていいなら私は……

先生の側に居たい……私の落ち着く場所に……』

 

「……やれやれ。どうやら私はとんでもない

ライバルを生み出してしまったのかもしれないな。

だけど一人の友人として君の幸せを願うよ」

 

『……友人?セイアちゃんと私が?』

 

「そうだよ。こんなにもお互いの事を語り合えた

のだから私達の関係は友人と言っていいだろう」

 

『友人……うん、ありがとう。ほんの少し前を

向いて歩き出せたような気がするよ。……ねえ、

セイアちゃんのお話をもっと聞きたいな』

 

「そうだね。じゃあ私の幼馴染であるゴリラの話

でもしようかな。この前……」

 

『へえ……トリニティってゴリラがロールケーキを

主食にして生活しているんだ……』

 

ーーー

 

「どうしたらユメに自信を持たせられる?

……いや、違うな。私も逃げるのはやめよう」

 

何かを決意した彼は花屋に行き店員にこう伝える。

 

「黒い薔薇を12本見繕ってくれ」と。



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愛という芸術

「……いつの間にかこんな時間になっていたとは。

そろそろ私は帰るとしよう。また会おう、ユメ」

 

『うん。セイアちゃん、またね』

 

友人を見送った後、特にやる事もなく椅子に座り

彼の帰りを待っていた。それから数分も経たない

うちに玄関の扉が開く音が聞こえてきた。

 

『お帰りなさい、先生』

 

「ユメ、話がある。聞いてくれないか?」

 

『……はい。分かりました』

 

ーーー

 

「本題に入る前に一つ謝らせてほしい。

今朝の出来事はすまなかった」

 

『いいんですよ。もう気にしていません

それよりも本題は……』

 

「この花束を受け取ってくれないか?」

 

『これって……』

 

彼から差し出された12本の黒い薔薇の花束。

12本の薔薇の花言葉は『付き合ってください』

そして黒い薔薇の意味は……

 

『貴女は私のもの……決して滅びる事のない愛』

 

「恥ずかしい話ではあるが私には恋愛経験も……

ましてや告白すらした事がないんだ。花言葉に頼る

のは情けないと分かっているのだが……恥じらいが

強く素直に伝えられる気がしなくてな……」

 

『そして死ぬまで憎む……という意味も』

 

「………」

 

『先生?』

 

「……私は前者の花言葉しか知らなかった。

たが私は決してユメを憎んではいない。

憎むはずもない。それだけは信じてほしい」

 

『……はい、知っていますよ』

 

「その……答えを聞かせてもらえないだろうか?」

 

『……この花束を受け取ったら……先生と私は

恋人同士……そうなるんですよね?』

 

「あ、ああ……」

 

『私は一度全てを失いました。奪いもしました。

何も守れなかった自分が憎いです。そんな自分に

生きる価値があるなんて思っていません。

……ですが。そんな私に貴方は手を差し伸ばして

闇の底から引っ張り上げてくれましたね』

 

「それは教師として当たり前の事をしたまでだ」

 

『……貴方はそうやって謙遜していますが……

それが私にとってどれだけ救いになったのか……

貴方を慕う理由になった事か……そんな想い人に

花束を渡されて告白された事が……私を選んで

くれた事がどんなに嬉しいか……』

 

「ユメ……」

 

『私は……幸せになってもいいのでしょうか?

もう一度大切なものを手にしても……

貴方の隣に居ても良いのでしょうか……?』

 

「……当然だろう。私がユメを幸せにする。

必ずだ。もうお前を一人にはしない」

 

『……分かりました……貴方を信じます……

約束……ですからね……絶対、絶対に……

私を幸せにしてくださいね』

 

「……ああ。約束だ」

 

ーーー

 

「……はぁ。やはりこうなってしまったか。

私もミカも、トリニティ生のほとんどは失恋という

形で幕を閉じてしまうようだ」

 

「……ロールケーキでも食べますか?」

 

「ナギサ、君は慰め方が下手すぎないか?それと

どうして君がここに居るんだい?」

 

「偶然居合わせただけですよ。……トリニティに

戻ったら一緒に食事でも如何でしょうか?」

 

「……そうだね。今日はやけ食いしようか」

 

ーーー

 

『………』ソワソワ

 

「先程から落ち着きがないがどうした?」

 

『い、いえ……その……お恥ずかしいのですが……

先生と恋人になったと意識したら……つい……』

 

「……ああ、ようやく分かった。ユメ、お前……

可愛いんだな」

 

『ふぇ』

 

「思えば仕草を目で追ってしまうのも全てユメが

可愛いからだと考えれば辻褄が合う」

 

『……ばか///』

 

「それと私の隣に座ってくれ。恋人とはそういう

ものだぞ。離れるんじゃない」

 

『……良いんですか?隣に座りますよ?

嫌って言っても離れませんからね?』

 

「望むところだ。仮に天地がひっくり返っても

嫌と言う事はないがな」

 

『……はい。信じていますよ』



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二人が踏み出した一歩が大きすぎる件

「ゆ、ユメ。疲れは残っていないか?

マッサージでもするぞ」

 

『ま、マママッサージですか!?ダメです!

まだお昼ですよ!?』

 

「そ、そそうだったな!」

 

「私達が締め切りに追われている間に何が……」

 

「……アリス分かりました。ユメと先生はそう、

エッチな事をしたんですよ!間違いありません!」

 

「い、いきなり何を言い出すんだアリス」

 

『そんな事あるわけがががないじゃん!

別に朝まで愛し合ったりしてな……あっ』

 

「……なるほど。今度お赤飯を用意しますね」

 

『あう……///』

 

「……仕方がないだろう。初夜だったんだ」

 

「……初夜の内容を聞いても良いですか?」

 

「……誰にも言わないと約束してくれ。まずは

傷だらけの身体が恥ずかしいと言うから全身の

傷をなぞるように愛撫……」

 

『だ、ダメ!それ以上は話すの禁止!!』

 

「おぉー!つまりホシノママと黒服パパのように

とってもラブラブなんですね!」

 

「ああ。ラブラブだぞ」

 

ーーー

 

「ラ……ラブラ……マエストロセンセイガ……」

 

「部長?魂抜けたの?大丈夫?」

 

「大丈夫なように見えますか?これは由々しき事態

でありその脅威はデカグラマトンの比ではなくて

私の、いえキヴォトス全体で考えても重大な出来事

であり……」

 

「ただ先生が生徒に告白しただけじゃん。それで

部長がフラれたってだけ。全然脅威でもないよ」

 

「いいえ脅威です!この美少女を差し置いて

アビドスなんて田舎娘と恋仲になるなんて……」

 

「つまり今日も平和って事だね」

 

ーーー

 

『先生……私、やりたい事が見つかりました』

 

「聞かせてくれ」

 

『貴方のお嫁さんになりたいです』

 

「それはまだ気が早いと思うぞ」

 

『はい。いつかはそうなりたいなって』

 

「そうか……ところでいつ式を挙げようか?」

 

『……先生?』

 

「今週末にでも開催するか?」

 

『……ふふっ。先生も気が早いですね』

 

「……少し浮かれすぎていたな。一度冷静に

なるとしよう。それで式の日程だが……」

 

『先生?』

 

「どうした?」

 

『そんなに焦らなくても私はそばにいますよ』

 

「……そうだな」

 

ーーー

 

「どうしよう先生!?ユメ先輩が!ユメ先輩が!

甘々な雰囲気を出してイチャついてる!!」

 

「マエストロ……まさか貴方が生徒に手を出す

とは……しかも私の生徒に……」

 

「あんな公衆の面前で幸せそうに手を握って

歩いてるよ!?」

 

「なんて卑猥な……見せつけるように生徒と

イチャつくなんて教師として恥ですよ」

 

「ほら、ノノミちゃんもあれみて!ユメ先輩が

皆が見ている前でイチャついてて……」

 

「えーそうですねー」

 

雑に相槌を打った彼女は脳内でこう考えていた。

『お前ら二人が言うな』と。



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そういえばそうだった

「それでその時ヒナが……いえ、今はそれよりも

伝えなければならない事があります。ようやく

完成しましたよ。潜在意識に潜り込む装置が」

 

「……あっ、もう一週間経ったんだ」

 

「そういう訳なので黒服を気絶させればいつでも

脳内に潜り込む事が出来ますよ」

 

「それなら問題ありません。黒服先生は予め

気絶させて拘束しておきました〜☆」

 

「まあ、なんて早い導入なのでしょうか。

まるで過酷な薄い本のようですね。ではホシノ、

この装置を頭に装着してください。大丈夫です、

死ぬような装置は多分ついてないです」

 

「わかっ……えっちょっと待って今さらっと怖い

事言わなかった。大丈夫なの?これ安全?えっ

本当にだいじょ」

 

「あ、もう一人着けられますがどうしますか?

ヒナが行きます?いえ行ってください」

 

「展開が雑すぎない?いいけど」

 

「ここから先はふざけられませんからね。

今のうちに遊んでおこうと思いまして」

 

「ふーん……まあいいや。行ってくる」

 

ーーー

 

「ここが先生の潜在意識の中?でもここって……」

 

「砂漠だね。アビドスの自治区内って事かな」

 

「それにしては広すぎるような気もするけど……」

 

「とりあえず進んで行こう」

 

「そうだね」

 

見慣れているようで見知らぬ砂漠を歩く二人。

変わり映えのない景色に多少の不安はあるものの

何かが見つかるまで進むことにした。そのまま

歩き続けていると黒い箱のようなものが宙に浮いて

暗く怪しげに輝いていた。

 

「なんだろうこれ」

 

「あまり無防備に触れない方が……あっ」

 

ホシノがその箱に手を伸ばした途端周辺の景色が

砂漠から無機質な空間に変化して四人の大人が

何かを話している姿が視界に入った。

 

『アリウス分校に接触したと聞きましたよ。

……そしてその生徒と戯れているとも』

 

『はい。彼女達は私の手足として都合のいい駒と

なるでしょう。ですが良い兵を生み出すには

最低限の生活の保証は必要ですから』

 

『しかし搾取をするには不適切な行動です。

子供は搾取されるものと言っていた貴女が

そのような行動をとるとは思いませんでしたよ』

 

『……駒とはいえ使い捨てるのは効率が悪いと

判断したまでです』

 

『ええ、理解していますよ』

 

『貴方も生徒に接触してみたらどうでしょうか?

都合のいい駒があると便利ですよ』

 

『遠慮しておきます。接触したところで大した結果

が得られないでしょう。それよりも砂漠にある

過去の遺物でも探しに行った方が有意義です』

 

『砂漠?……ああ、アビドスでしょうか?

黒服、貴方も物好きですね』

 

『これも己の崇高に近づく為ですよ』

 

ーーー

 

「……今のって先生だよね?搾取って……?」

 

「ここは潜在意識の中だから……昔の記憶が

黒い箱の中に保存されてるとか……なのかな」

 

「先生の過去……ちょっと気になるかも」

 

「確かに……それに手がかりもないし」

 

「決まりだね。それじゃあ箱を探しに行こう」



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記憶と答え

「あっ……また箱がある」

 

「……触れないの?」

 

「これってさ……見ていいものなのかな……?

あんまり触れない方がいい気がして……」

 

「確かにね。でもホシノは見るべきだよ。

好きな人の事なら知るべき」

 

「……うん、そうだね。ありがとうヒナ」

 

先程と同じように黒い箱に触れる。しかし今回は

景色は変わらなかった。だが奥から一人の影が

こちらに向かって歩いてくる。

 

『あの日私はいつものように遺物探しをしようと

このように砂漠を歩いていました。

そして足元に半分砂に埋まった盾を見つけた事が

全ての始まりです』

 

「盾……始まり……これって」

 

『そう、貴女との出会いです。ショットガンを構え

殺意を隠しきれず剥き出しにしたホシノ。私はその

少女が秘める神秘に大変興味深く感じていました』

 

「……私と先生が初めて出会った……」

 

『私は盾と引き換えに実験道具になってもらうと

告げ彼女は了承し私の欲求が満たされると思って

いました。しかし予想とは裏腹に実験は失敗。

やり方が間違っていたのだろうと考え彼女の学園

に理由を付けて居座る事にしました。ホシノに

依存させて実験を成功させる為に』

 

一通り語り終えると影は消え箱は輝きを失う。

利用する為に近づいた。だけどそれに関しては

既に吹っ切れていたので気にしていない。

今はそんなつもりはないと断言してくれた彼を

信じている。

 

「信じて……いいのかな?ううん、信じないと」

 

「急にそんな事を言ってどうしたの?」

 

「何でもな……いや、ヒナには言ってもいいかな。

もしかしたら先生にまた裏切られるのかもって

考えちゃって……少し怖いんだ。勿論そんな事は

ないって信じてるけど……」

 

「……その答えは進んでいけば分かるはず」

 

「……そうだね」

 

その後も黒い箱を見つけては彼と過ごした記憶が

蘇るように再生されていき、懐かしさを覚える。

照れ隠しに盾で彼を殴ってしまった事や

アリスにママと呼ばれて叫んだ時の事。

……何故かケイが黒服を押し倒している記憶も

存在していたのは謎だったが。

 

「なんだか恥ずかしい記憶ばかりだったな……

膝に座って話してる場面とか……」

 

「あれくらい普通だと思うけど」

 

「えっそうなの?普段から後輩達に暖かな

視線を向けられてたからてっきり……って

そんな事よりも箱だよ箱」

 

「それならそこにあるわよ」

 

「あっほんとだ。それじゃあ触って……」

 

『何故此処に来たのですか?』

 

「うぇ?箱から先生の声が聞こえるような……

あれ、ヒナ?どこに行ったの?」

 

『彼女には先に現実へと戻っていただきました』

 

「……先生?」

 

『まさか人の精神まで侵入してくるとは……

私の生徒ながら恐ろしい事を考えますね』

 

「勝手に色々やってごめんね。……でも私は

先生が私を好きでいてくれているのか……

愛してくれているのかを知りたいんだ」

 

『ホシノの事ですか?好きですよ』

 

「……うぇ」



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ゴタゴタ言ったところで愛の前には無意味

「……先生、今私の事を好きって……」

 

『言いましたね。ああ、ホシノに伝えるならば

『愛している』と言った方がいいですね』

 

「あいし……!?……ううん、騙されないよ。

先生が私の事を好きなんて夢のまた夢だよ」

 

『ふむ。では何か証明出来るものを……

そうだ、口付けでもしましょうか?』

 

「うぇ」

 

『それとも性行為をご所望ですか?』

 

「それは……したいけど……さ」

 

『では早速』

 

「ダメだよ!?先生の気持ちは分かったから!

お願いだから脱がないで!!」

 

『そうですか。伝わったのであれば充分です。

とりあえずあちらで座って話しましょうか』

 

「う、うん……」

 

ーーー

 

『しかし何故精神に干渉してきたのです?

私の過去にでも興味があったのですか?』

 

「興味はあるけど……それじゃなくて……

先生が私と付き合ってくれるように意識から

変えてみようと思って……」

 

『成程。やり方はともかくその熱意に関しては

貴女を評価しますよ。ですが私がホシノと

付き合う事はありませんよ』

 

「どうして?私達相思相愛だよ?ラブだよ?」

 

『……ここまで来られた以上隠し通すのは無理

ですね。少々長くなりますが付き合えない理由を

ホシノだけには話す事にします。……まず前提

として私は貴女の幸せを望んでいるのです』

 

「……じゃあ」

 

『ですが貴女に寄り添って幸せにする役目は

私ではありません。私が出来る筈がないのです』

 

「何で……?先生以外に居ないよ?」

 

『私の記憶を見たのなら分かるでしょう?

最初はホシノを利用する為に近づいたのです。

貴女を騙し続けて過ごしてきました。本来

私には貴女の側にいる資格すらないのですよ』

 

「………」

 

『貴女はもう自分の人生を歩んでいいのです。

学校に囚われる必要はない。勿論私にも』

 

「自分の人生……?そっか、私の好きなように

してもいいんだね」

 

『ええ。それを咎めるものは誰も居ません』

 

「ふーん……へぇ……」

 

『……何故こちらを見ているのですか?先程も

言いましたが貴女は私に囚われる必要は……』

 

「先生は勘違いをしてるよ。私はね、ずっと

不安だったんだ。先生が私の事を嫌いなんじゃ

ないかって……でも愛してくれてるんだよね?」

 

『それは……そうですけど……』

 

「ならさ……もう遠慮する必要はないよね?」

 

『……何をするつもりですか?』

 

「うへへ……先生が素直になれるように……

私の愛を貴方の潜在意識に刻み込んであげるね。

先生、どうする?止めるなら今が最後のチャンス

になるよ?これ以上は私も抑えられないからさ」

 

『……私がキヴォトス人に勝てると思いますか?』

 

「もう……素直じゃないんだから。……それも

今日までだよ、先生」

 

『はぁ……やはり貴女は一番手が掛かって……

私の一番大切な生徒のようですね』

 

「……先生、好きだよ」

 

『……知っていますよ』



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ク特別編:クリスマスが今年もやってくるのにセイアちゃんは実装されていません

クリスマス特別編なので本編とはあまり繋がりがありません


黒服の潜在意識に潜り込んだあの日からホシノは

少し変わった日々を過ごしている。具体的に言うと黒服が今までよりも過保護になった。

 

「……あんた達朝から何してるのよ」

 

「お仕置きも兼ねて全身マッサージをしてます。

ホシノがまた夜の見回りを行ったのですよ」

 

「それどう考えてもお仕置きじゃないわよ」

 

「知っていますよ」

 

「???」

 

「セリカちゃん、先生はお仕置きって名目で

私の身体を触りたいだけなんだよ〜」

 

「……相変わらずいちゃついてるのね。

ところで今日二人はどうするの?」

 

「どうするとは?」

 

「知らないの?ゲヘナ、トリニティ、ミレニアムの

3学園合同のパーティがあるのよ」

 

「ああ。前にマダムがそんな事を言っていました」

 

「なんだか賑やかそうだね。……ねえ先生、

私皆と行ってみたいな」

 

「ホシノがそう言うなら行きましょうか」

 

「あ、コスプレ必須だから着替えてから集合ね」

 

「分かりました。……ん?」

 

ーーー

 

「何故私がこのような格好を……」

 

「結構似合ってるよ?トナカイの着ぐるみ」

 

「誰がこんな衣装を用意したのです」

 

「ベアさんじゃないかな」

 

「マダム……覚えておいてくださいね……

ですがホシノの衣装は似合っているので

怒るにも怒れませんね」

 

「そうかな?コスプレなんてした事ないから

ちょっと恥ずかしいけど……」

 

ホシノには癖の詰まったミニスカサンタ服、

黒服には全身茶色のトナカイ着ぐるみパジャマ。

着替えた二人が後輩達との合流場所に行くと……

 

「黒服wwwその格好はないわwww」

 

「ん、センス×」

 

「えっと……個性的でいいと思います……」

 

散々な言われようだった。いつも黒いスーツと

革靴を履いている彼がこんな姿になるものだから

後輩達は皆笑いを堪えるのに必死であった。

 

「黒服先生がその格好をするという事は……

ホシノ先輩を獣のように襲うという暗示ですか?」

 

「襲いませんよ」

 

「えっ違うの?」

 

「貴女達は私を何だと思っているのです……」

 

「ん、意気地なしのロリコン」

 

「………」

 

「そ、そろそろ行こうよ。皆もお腹空いてきた頃

だと思うし。ちょっと早いけどね」

 

「そうですね〜行きましょう☆」

 

ーーー

 

3学園合同クリスマスパーティー。それは一人の

先生が「生徒達のコスプレが見たい」声を大きく

して主張した事から開催されたもの。

それぞれの学園との交流を表向きの目標として

裏では様々な生徒のコスプレを撮影している

変態が居るとかないとか。

 

「ふむ……ヒナにも劣らぬ魅力的な生徒だらけで

困りますね。アッバニーノコスプレッ⁉︎鼻血が……」

 

「……そろそろ鼻血を止めないと血が足りなく

なるんじゃない?心配だよ」

 

「大丈夫です。予めトリニティのナースさんから

同じ血液型の血が入った袋を貰っています」

 

「何もよくないんだけど……」

 

会場受付を担当している発案者の変態とヒナ。

過激なコスプレを確認する度に鼻血を出している為

倒れないかどうか不安になっているヒナを横目に

欲望を抑えられないベアは舐め回すように生徒達を

眺めていた。つまりいつもと変わらない。

 

「ミレニアムは凄いですね。この時期に水着を着る

生徒やバニー、メイドさんまで居ましたよ。

えっちですね。過酷ですね。ですが一番過激な

格好をしていたのは……」

 

「浦和ハナコって生徒だったね」

 

「ワイシャツ+水着は過酷すぎました。

思わず暖めるという程でホテルに連れ込む手前まで

いってしまいましたからね。あのままだと

理性が抑えられなくなるところでしたよ……」

 

「いつも理性なんてないような気がするけど」

 

「それもそうでしたね……ぶっ!?」

 

「?どうしたの?って……」

 

唐突に吹き出したベア先生の前に居るのは

可愛らしいホシノサンタと全身茶色のトナカイ風

パジャマを着た黒服。

 

「よwくwおwにwあwいwでwすwよw黒服www」

 

「……マダム、後で覚えておいてくださいね」

 

「その姿の黒服なんて忘れたくても脳に焼き付いて

離れませんよwwwファーwww」

 

「……ホシノ、ショットガンを貸してください。

そこのババアを撃ちます」

 

「ダメだよ!?せめて拳にして!」

 

「……冗談はさておきよく来てくれましたね。

ここまで大規模なパーティーが開催出来たのも

黒服とマエストロが生徒に興味を持ち学園に貢献

してくれた影響が1%くらいはありますので。

是非とも楽しみつつ可愛いコスプレを堪能する

夢のような時間を過ごしてくださいね」

 

「ホシノのコスプレだけで充分なのですが」

 

「ブレませんねぇ……」

 

ーーー

 

「パーティーに行かなくていいのか?」

 

『はい。私は先生と過ごせればそれだけで……』

 

「……相変わらず可愛い事を言うな……よし、

今日も二人で過ごすとするか」

 

『はい♪』

 

「ところで……その格好は何だ?」

 

『救護騎士団の子から借りました。聖夜を祝う服

なので是非と言われまして』

 

「そうか……」

 

『……あっ……そういう事ですか?』

 

「朝からすまないな……」

 

『私のせいで……こんなに大きく……』

 

「処理を頼めるだろうか……?」

 

『任せてください♡』

 

 

そんなこんなで俗世に染まったゲマトリア達と

彼らを慕う生徒達は聖夜を楽しく過ごしました。

シャーレの先生?それはもうお仕事ですよ。

ゴルコンダ?彼はプリン作りに勤しんでいます。

 

「それでは皆様。聖夜を満喫してくださいね」



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二人の距離感

黒服の潜在意識に潜り込んでから数時間が経過して

何故か悶えてる黒服とニヤけてるホシノを見た皆は

何かを察してその場を離れて様子を見る事にした。

 

「あの二人大丈夫なのかしら」

 

「平気ですよ。過酷な事はしているのでしょうが」

 

「過酷って何?」

 

「それはもう……過酷ですよ」

 

「潜在意識の中でヤってるんですか?」

 

「素直になれるように教育されてるのです」

 

「ん、黒服も朴念仁から卒業するんだね」

 

「何故だか寂しくなりますね。もう黒服に対して

ロリコン朴念仁と馬鹿に出来なくなってしまうと

考えたら……いえそうでもないですね」

 

「急に冷静になるのね……黒服といい先生って

こんなのばかりよね。キヴォトス大丈夫なの?

まともな先生が居なくない?」

 

「……ヒナどうしましょう、私この猫耳ツンデレ

純粋無垢えっち生徒に対して何も言い返せません」

 

「確かにまともではないけど私は好きだよ」

 

「ヒナたん大好き」

 

唐突にイチャつく辺りどの先生も変わらないなと

アビドスの後輩達は生暖かな目で眺めた後に

ミレニアム自治区内のホテルに泊まったそう。

当然ベア先生のポケットマネーで。

 

ーーー

 

「うへへ……んぇ?戻って来ちゃった?」

 

深夜に目覚めたホシノは頭の装置を外して身体を

伸ばしていた。対する黒服はまだ起きる気配はなく

謎に痙攣しているのでやりすぎたかなと反省した。

 

「あれ?今既成事実を作ったら……って私は何を

考えて……ダメだよね。ちゃんと同意の上で……

でもさっき潜在意識の方で……」

 

先程黒服の潜在意識に刻み込む(意味深)を行った

ホシノ。一度やってしまえば二度目も変わらない

のではないかと邪な考えが過ぎってしまう。

好きな人が無防備に寝ている姿を前に彼女は

自分の感情と格闘して負けた。

 

「……起きない先生が悪いんだよ?私の想いに

答えてくれない先生が……」

 

「……それに関しては謝罪しますよ」

 

「うぇ!?いつから起きてたの!?」

 

「既成事実が……の辺りからですね」

 

「それってほぼ最初からじゃん……恥ずかしいよ」

 

「……成程。この装置で私の潜在意識に潜り込んだ

という訳ですか。我が生徒ながらこんな事を

よく思いつきましたね……」

 

「その発想をしたのはベアさんだけど……

先生の本音が知れたから良かったよ」

 

「そうですか。……一つ尋ねてもいいですか?」

 

「うん」

 

「ホシノにとっての幸せとは何でしょうか?」

 

「私にとっての幸せ?そうだな……アビドスの皆と

楽しく過ごせる事とか……皆が笑っていてくれる事

とか……先輩に生きてて良かったと思って欲しい

とか色々あるけど……」

 

「………」

 

「やっぱり……先生とずっと一緒に居たい。

貴方が居ないと私はもう生きていけないんだ。

一緒にいられるなら利用されるのも構わないよ。

それくらい貴方が好きなの」

 

「ええ。貴女の想いは嫌というほど味わいました。

あんな事までされるとは思いませんでしたよ。

……私も覚悟を決めるべきなのでしょうね」

 

「……うん。先生の答えを待ってるね」

 

「はい。近いうちに必ず」



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準備

「そういう訳なのでホシノと結婚する準備をしよう

と思いましてね。協力をお願いしたいのです」

 

『ホシノちゃんと結婚……?黒服が?』

 

「ロリコン朴念仁とマダムに言われていた黒服が

ホシノと結婚だと?どうした急に」

 

「私はホシノを幸せにしたいのです。そして彼女は

私と共に生きる道を望んでくれました。ならば

その想いに応えたいのです」

 

『……確かに貴方は私の知る黒服とは違って

家庭的だしホシノちゃんの為に行動してるし……

そういう事なら協力してもいいんだけど……』

 

「そうだな。ホシノの為とあれば構わないが……

この後ユメと巫女服プレイをする予定が……」

 

「貴方私の生徒に何をさせているのですか?」

 

『私は黒服の生徒じゃないよ。マエストロ先生に

心も身体も許した恋人なんだから』

 

「そういう事だ。今こうして話している間も

巫女服を着たユメの想像しか出来ていない。今の

私が求める最高の芸術の想像をな」

 

「貴方も俗世に染まったのですね……」

 

「だが少しだけなら聞こうじゃないか。私達は

何を協力すればいい?」

 

「それはですね……」

 

『……本気なの?過程を飛ばしすぎじゃない?』

 

「面白い。分かった、用意しておこう」

 

「ありがとうございます。では失礼しますね」

 

「ああ。……さて、早速だが……」

 

『はい。着替えてきますね』

 

「いつもすまないな。ミニスカ巫女服黒タイツの

着用を頼む」

 

『個性的な組み合わせですね……』

 

ーーー

 

「ようやく来たようですね黒服。例のブツは用意

出来たのでしょうか?」

 

「ええ。こちらをどうぞ」

 

「ふむ、確かに。ホシノのスリーサイズと身長

が書いてあるレポート用紙を受け取りましたよ。

これならば五日ほど時間を頂ければ完成します。

……その前に細かな調整をしていきましょうか」

 

「細かな調整とは?」

 

「色や装飾などですよ。大切な人への贈り物なら

より拘って作れば作るほど良いのです」

 

「そういうものなのですか。……であれば色は

黒にしていただけないでしょうか?」

 

「黒ですか?構いませんが理由を聞いても?」

 

「私の色を纏ったホシノを見てみたいのですよ」

 

「欲望ダラダラのロリコン思考ですね。

だから気に入りました。貴方の門出の為にも

人肌脱ぎましょうかね」

 

「ええ、頼みましたよ」

 

ーーー

 

「先生もユメ先輩も忙しいって……」

 

「あら〜珍しい事もあるんですね。二人とも

ホシノ先輩よりも大事な用事が出来るような

性格ではないような気がしますが……」

 

「ん、あれだよ」

 

「なるほど〜☆」

 

「えっ何々?二人とも知ってるなら教えてよ〜」

 

「時期に分かりますよ」

 

「ん」

 

「もーどうして教えてくれないのさ」

 

ーーー

 

「さて、次は何を用意すればいいのでしょうか……

ホシノの誕生日まで一週間。何としても間に合わせ

たいのですが……」

 

「……ねえ黒服、あんた本当にやるつもりなの?」

 

「はい。私なりに考えた結果ですので」

 

「なんか変わったわね。いっつもホシノ先輩を膝に

座らせてイチャついてる癖に教師と生徒の関係とか

ほざいてた黒服がこうなるなんてね」

 

「随分と口が悪いのでは?」

 

「当然よ。ずっとあんた達の焦ったいやり取りを

見てきたんだから。むしろ遅すぎるくらいよ」

 

「……膝に座らせるくらいは普通なのでは?」

 

「黒服あんたやっぱダメだわ」



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同類

「ヒナがですね、ベタな台詞ではありますが

『プレゼントは私』をやってくれたのですよ。

当然朝まで美味しく頂きました」

 

「その話はもう三度目だぞ」

 

「知っていますよ」

 

「そうか」

 

「貴方の方は何か良い話はないのですか?」

 

「私か?そうだな……この前ユメが玄関で

『お帰りなさい』と出迎えてくれてな。思わず

その場で交わってしまった」

 

「は?話を盛りすぎでは?いくら何でも玄関で

始めるとかあり得ませんよ。流石に。

マエストロ、貴方エロ同人の読み過ぎですよ。

そんないちゃラブエッッな展開なんて絶対に

ないと断言出来ます」

 

『……あの。毎日やってますよ?』

 

「マエストロ貴方しばきますよ?性欲というのは

生徒にぶつけていいものではないのですよ?

なんですか?私は赤いジャージを着て笑うなっ!

とか言えばいいのですか?」

 

「それはやめろ規約に引っかかるだろう。……だが

ユメは私の恋人だ。営みを行うのは当然だろう?

マダムもヒナを襲うだろう?」

 

「なんですって?よくもまあ……私にそのような

態度を取れますね。この私に向かって」

 

「いきなり原作の台詞を発するな。そんな事を今更

やったところでマダムのキャラは崩壊している」

 

「いいですかマエストロ。私はヒナに対してそんな

玄関で襲うなんて野蛮な事はしていませんよ?」

 

「うん、外で襲ってくるもんね」

 

「マダム」

 

「はい」

 

「今回は痛み分けといこうか」

 

「そうですね」

 

ダメな大人二人による罵り合いは終結して

ジェネリックエデン条約(笑)が結ばれた。

 

「それはそれとしてホシノの件ですが……

服を黒色にして欲しいと言われたんですよね」

 

「あいつは黒が好きなのだろうか……」

 

「貴方といい愛が重いんですよね。何故です?

こんなにも魅力的な生徒が居るのですから普通

一途よりもハーレムを作ろうとか考えませんか?」

 

「私はユメ以外と恋愛するつもりはない」

 

「頭の固さは相変わらずですか……」

 

「また話が脱線しているぞ」

 

「あら失礼。話を戻しましょうか。服のデザインは

決まったので後は形にするだけなのですが……

靴の進捗はどうですか?」

 

「とりあえずサンプル品は用意したぞ。服の色と

合わせるのであれば黒い硝子の靴にするが」

 

「いえ、靴は透明のままで大丈夫です」

 

「分かった。……しかし不思議なものだな。

己の崇高を満たす為に生徒と接していた私達が

いつの間にか生徒に夢中になっているとは」

 

「搾取するものなんて考えていた時期があったとは

信じられませんよ。……本当にこうなるなんて

誰が想像したのでしょうね」

 

「恐らくどの世界でもゲマトリアという組織は

こうなる運命なのかもしれないな」

 

「どうでしょうね。案外ヘイローを壊す爆弾とか

開発して脅しの道具に使っていたりしそうです」

 

「ヘイローを壊す、か……数年前は大して興味も

なかったが今となっては恐ろしいものでしかない」

 

「今の貴方ならばヘイローを治す爆弾?とかも

作れるのではないでしょうか?もしそれが実現

するのであれば死んでしまった生徒も……」

 

「出来なくはないと思うが……あまり自然の摂理に

反するものを量産するのは避けておきたい」

 

「そんな概念よりも生徒の幸せを優先するべきだと

私は思いますが」

 

「その結果ヒナが不幸になってもいいのか?」

 

「非常に困りますね、この話は無かったことに

しましょうしてくださいお願いします」

 

「マダムはヒナに弱すぎるな……」




おまけ 大人二人に付き添ったヒナとユメの会話

「……一番過激だったものって何?」

『酔っ払った先生が丸一日求めて来た時かな……
何回失神したか覚えてなくて……』

「それはまた……過激ね」

『ヒナちゃんは?』

「三日間寸止めされ続けて脳がおかしくなった」

『それってポリネシアンみたいなやつ?』

「違う。ずっと触られたり刺激をされ続けて
脳がそれ以外考えられない状態で普段通りの
日常を過ごさないといけない」

『なにそれ……でも良さそう……』



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モヤモヤ

ある日の対策委員会の部室。珍しくホシノが皆を

招集し机を囲んでいる状況。少しだけ重い空気の

中彼女は口を開いて後輩達にこう問いかける。

 

「何か企んでるよね?」

 

カマをかけるようにそう言い後輩達の顔色を伺うと

平然としている子もいれば目を逸らして口笛を吹く

子もいる。なんて分かりやすいのだろうか。

 

「ねえシロコちゃん、隠し事はよくないよ?」

 

「……何も隠してない」

 

「私に嘘は通用しないよ」

 

「……実は銀行をまた10件襲ってきた」

 

「それは後で説教するけど……そっちじゃなくて。

何か私に隠してる事があるんだよね?だってさ、

ここのところずっと先生が忙しくてアビドスに、

いや私の隣に居てくれないし……そろそろ先生の

膝に座らないと落ち着かないよ」

 

「……どうしよう皆。これ以上ホシノ先輩に黙って

事を進めるのは無理みたい」

 

「まあシロコ先輩なら仕方ないわよね」

 

「あの態度は露骨すぎますよ」

 

「……分かりました。責任は黒服先生が負います。

なので私が全てを話しますね。……一月二日。

五日後ですね。何の日か分かりますか?」

 

「……お正月二日目?」

 

「それもありますが……ホシノ先輩の誕生日です」

 

「あっ……そういえばそうだったね」

 

「黒服先生も愛を自覚したのでせっかくならばと

大規模な誕生日パーティの計画を立てていました。

それで黒服先生は今多忙なのですよ」

 

「……うへへ。先生が祝ってくれるだけでも

嬉しいのに……大規模だなんて……」

 

「黒服先生もかなり張り切っていたので……

私達が話した事は内緒にしておいてくださいね」

 

「うん。話してくれてありがとうね。うへへ♪」

 

真実を聞かされたホシノはとても気分が良くなり

さっきまでの重い空気が嘘のように明るくなって

いつもと変わらない賑やかな空間に戻った。

 

「それはそれとしてシロコちゃんを説教するね」

 

「ん……ん!?」

 

ーーー

 

「うへー皆今日もお疲れ様ーまた明日ねー」

 

「はい〜☆」

 

「ん」

 

「……なんとか騙せたわね」

 

「誤算でしたがどうにかなりましたね」

 

「ん、皆ごめん」

 

「いえいえ〜☆むしろ計画通りですよ」

 

そう、これすらもホシノを騙す罠なのだ。

彼女は今黒服達が自分の誕生日を祝おうとして

忙しく準備をしてくれていると勘違いしている。

実際は誕生日兼結婚式の準備をしているのだ。

ホシノの勘が鋭い事を利用した罠を張っていた。

当然普段の彼女なら更に問い詰めて本来の計画に

勘づいてもおかしくはない。では何故彼女が

簡単に納得してしまったのか。その答えはただ一つ

 

「恋は盲目、だからです♪」

 

 



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寝る前に

前回のあらすじ

ホシノさんは黒服と全然話せていないので寂しい


「忙しいとはいえ話せないのは寂しいな……

モモトークだけでも送っておこう……」

 

『先生、起きてる?』

 

連絡するも中々既読が付かずため息をついて

スマホをベッドに軽く投げて瞼を閉じる。

忙しいからしょうがないと言い聞かせるように

呟いて数分我慢したものの五分毎に既読が

ついていないかの確認をしていた。

確認してはため息をついての繰り返しの中、

ピロンと通知が鳴った直後に物凄い勢いで

スマホを手に取り確認すると

『起きてますよ。どうしました?』

 

という返信がきていた。あまりの嬉しさに

 

「うへへぇ……♡」

 

と数分間余韻に浸っていた。その後返信して

やり取りを始めていく事にした。

 

『最近忙しそうだから大丈夫かなって』

 

『心配には及びませんよ』

 

『そっか。でも無理はしないでね』

 

『ありがとうございます』

 

『ねえ』

 

『何ですか?』

 

『通話しようよ』

 

『通話ですか?』

 

『そんなに長く話さないからさ』

 

『分かりました。では……』

 

『……先生?』

 

突然既読がつかなくなったかと思えばいきなり

部屋の扉が開いて黒服が入ってくる。手には

合鍵を持っていた。

 

「こんばんは。会いにきましたよ」

 

「会いにきてくれる先生好き」

 

「もう恋心を隠さなくなってますよね。

まあ……悪い気はしませんが」

 

「先生だって潜在意識の中では言ってたよ?」

 

「それはカウントに入りませんよ」

 

「そんな照れなくていいんだよー♪」

 

「照れてなどいません。……はぁ、ホシノの事

ですから寂しがっているかと思いましたが……

いつも通りですね。安心しましたよ」

 

「寂しかったよ。でも先生が来てくれたから

そんな気持ち吹き飛んじゃったよ♪」

 

「それは何よりです」

 

「……いつもありがとね」

 

「……こちらこそ」

 

「……なんかしんみりしちゃったね。別の話題に

切り替えよっか」

 

「そうですね。……ああ、ホシノに聞きたい事が

あるのてすが……」

 

「なになに?」

 

「同棲に興味はありませんか?」

 

「えっ」

 

「実は近いうちに学校で寝泊まりするのをやめて

家を購入しようと考えたいるのですが……ホシノが

良ければ一緒に住んでみようかと思いまして」

 

「………」

 

「ホシノ?」

 

「せ……せせせ先生は大胆だね///ま、まあ?

先生がそこまで言うなら私としては異論はない

けどね!でも同棲って事はつまり結婚したのと

同義っていうか……で、でも私の先生はまだ

教師と生徒の関係だし……もしかして保健体育

の実践って名目で朝まで……?悪くないかもね」

 

「……小声で何か言っているようですが……

その反応は同意と受け取ってもいいですか?」

 

「え、えっと……不束者ですが……」

 

「その台詞はまだ早いですよ」



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残りの準備× ホシノとの時間⚪︎

前回のあらすじ

寂しくて黒服に通話したいと連絡したら何故か
家に来てくれたので楽しく話していました。


「……随分と話し込んでしまいましたね。

ホシノはそろそろ休んでください」

 

「……やだ。まだ行かないで……」

 

「ホシノ……?」

 

「もっと一緒に居たいよ……離れないで……」

 

「………」

 

震えた声で黒服の袖を掴み目にはうっすらと涙を

浮かべているホシノ。先程は寂しくないと

強がっていたがやはり離れるのは嫌なようで……

 

「……仕方ないですね。明日は二人で見回りでも

しますか?ホシノが良ければですけど」

 

「……!うん!」

 

二人で居れると理解した瞬間にホシノの目は輝き

眩しすぎる笑顔で笑っている。じゃあ明日は〜と

具体的に見回る場所を話し始めるその姿はとても

微笑ましい。そんなホシノに対して黒服は軽く

おでこにデコピンをした後に

 

「もう夜遅いので話の続きは明日に」

 

と軽く注意をしてから彼女に睡眠を促した。

ソファーでも借りて寝ようとしていた彼だが

「先生は私の隣で寝てくれるよね?」と

上目遣いで見つめられてしまった。その誘惑に

抗う事は出来ず気がつけばホシノが隣で幸せそうに

寝息を立てていた。思えば式の準備をしているこの

数日間は彼女とあまり話した記憶はない。寝る前に

モモトークを送って来る事はあったが一言二言程度

しか話しておらず寂しい思いをさせていた。いくら

彼女と結婚する為とはいえこんな思いをさせて

待たせるのはよくないのではないかと考え始めた。

脳内ベアトリーチェも

 

「幸せにするのであればまずは目の前のホシノを

常に笑顔に出来るようには最低限なりましょう?」

 

と微妙に言ってきそうな事を偉そうに言っている。

想像の産物とはいえあの変態に言われていると

考えた途端何故か怒りが湧いてきそうになる。

だがその通りではあるので致し方ないとも言える。

何故結婚をするのか?それはホシノを幸せにする

という誓いを立てる為。なのに何故彼女が寂しい

思いをしていたのか。

 

「この現状は変えないといけませんね……

こんな状態ではとてもホシノを幸せになど……

出来る筈がありません……何故私はそんな簡単な

事にも気づけないのでしょうか……貴女に見合う

ような大人にならなければ……」

 

そう消えいるような声で呟いた後に彼も眠る。

 

「(……先生)」

 

目は閉じていたが彼の想いが聞こえており、

もやもやした気分になったホシノ。目を開けて

彼の背中を見つつ自らの過去を振り返る。

彼女の学生生活は黒服が側に居てくれたから

本来の世界線のホシノのように心を壊す事もなく

純粋な少女として過ごす事が出来た。それが

ホシノにとってどれだけの救いであったのか……

何故それが彼には伝わっていないのか。

 

「先生は……最初からずっと私の救いだよ。

私に見合うだなんて言わないで。貴方は私には

勿体ないくらい最高の先生なんだよ。

私が言うのもなんだけど……自信を持って」

 

彼がそうしたようにホシノも消えいるような声で

自らの想いを言葉にして今度こそ眠りについた。

 

「(ホシノ……貴女という生徒は本当に……)」

 

黒服もホシノの想いを聞いていた。背中越しの

小さな声だが彼の耳には届き一言一句聞き漏らす

事もなく全てを聞いた。自信を持って。そう

ホシノに言われた事が不思議と嬉しく思う。

心の底で自分はホシノに見合った存在ではないと

思っていた彼にはその一言が深く刺さったのだ。

 

「(貴女の想いに応えられるようになります。

時間は掛かると思いますが……必ず)」

 

決意を抱いて再度意識を手放し彼は眠った。

その後偶然なのか彼の左手はホシノの右手に

絡みつき手を握った状態で朝まで……

 

ーーー

 

「過ごしちゃった……///」

 

「無意識に手を繋いで寝ただけで大袈裟ですね」

 

「だってぇ……うぅ、なんで先生は平気なのさ」

 

「普段からホシノを膝に座らせてるので

今更手を繋いだ程度では動揺しませんよ」

 

「それもそうかも……あれ、もしかして私って

普段から結構恥ずかしい事をしてたりするのかな」

 

「まさかとは思いますが……それを意識せずに

私の膝に座っていたのですか?」

 

「えっと……うん。そう……だね。うへへ///」

 

「全く……貴女という生徒は……」



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年越しは君と一緒に

12月31日。一年の最後の日に二人して自治区の

見回りという名目でデートをしている黒服とホシノ

相変わらず事案のような構図にはなっているが

周りの視線は気にせずに歩いている二人。

 

「なんかいつにも増して人が少ないような……

もしかして砂漠化が進んだ影響で……!?」

 

「年末だからではないでしょうか?確かにその

影響も少なからずあるとは思いますが」

 

「ああ……もう年末なんだね。早いなぁ……」

 

「今年は色々ありましたからね。本当に……」

 

「なんか最近ずっとしんみりしてるね」

 

「大人というものはつい感情に浸りやすくなる

ものなのですよ」

 

「へぇ……」

 

「それにしても銃声が聞こえませんね。本日は

もう見回る必要はないのかもしれません」

 

「そっか。じゃあこのままデートしよっか」

 

「随分と積極的ですね。ではホシノをエスコート

するとしましょうか」

 

「うへへ、期待してるね、先生♪」

 

ーーー

 

黒服とホシノがデートをしている中ゲヘナでは

ヒナの家で鍋が用意されていた。こたつに入り

鍋が暖まるのを待つヒナと具材を放り込んで

鍋奉行まがいの立ち振る舞いをするベア先生。

彼女達は年末は二人きりで鍋を食べるという

ちょっとした習慣があるのだとか。

 

「ホシノ用のドレスも完成したので明後日まで

ヒナとイチャつき年越し※※※が出来ます」

 

「まあいいけど……今年も良い感じの鍋だね」

 

「フウカに具材を見繕ってもらってますので

味は保証できますよ。ちなみに今年は昆布だし

ではなく味噌の鍋です」

 

「へぇ。楽しみね」

 

「期待していてください。……それにしても

時が経つのは早いものですね。ヒナと出会って

三年が経ち結婚をして……ああ、条約も結んだ

のでゲヘナとトリニティの関係も良好になり、

何よりヒナが私の為に覚醒をしました。まあ?

この世界で一番強いヒナが覚醒するのは当然と

言えますがね!」

 

「あれはたまたま出来ただけだから……でも

役に立てたのなら嬉しい」

 

「ウッ……危ないですね、つい爆発する直前まで

行ってしまいました……」

 

「マザーはずっと変わらないね。安心するよ。

……そろそろ鍋が良い感じだよ」

 

「おやいつの間に。早速お皿に取り分けて

食べましょうか。では手を合わせて……」

 

「「いただきます」」

 

ーーー

 

ミレニアム自治区、マエストロの家にて。

彼は無言でユメに振り袖を着付けていた。

彼女の視線の先には本来着せる予定であった

ミレニアムの白い制服が畳まれている。

後ろの髪を束ねられかんざしを刺され丁寧な

手つきで振り袖ユメという芸術を完成させようと

とてつもなく集中しているようだ。しかしその

沈黙に耐えきれず彼女は小声で

 

『あ、あの……まだ年が変わってないのですが……

何故私は振り袖を着せられているのでしょう……』

 

と彼に質問をした。それを聞いたマエストロは

ハッとしたように顔を上げて、

 

「……ああ、すまない。つい先走ってしまった。

本来着てもらう衣装と間違えていたようだ」

 

と軽く謝罪をしつつも自らの手で彩った彼女の

振り袖を眺め「良く似合っている」と呟いた。

 

『ありがとう……ございます……?』

 

似合ってると言われ嬉しいという想いと振り袖を

着るにはまだ早いような気がするといった感情で

何とも言えない複雑な感情になっていた。

 

『(……まあいっか。先生が褒めてくれたし。

このまま年を越したら初詣にでも……?)』

 

「……ユメ?いきなり考え込んでどうしたんだ?」

 

『えっと……上手く言葉に出来ないんですが……

私はずっと死ぬ事を望んでいました。大切な人が

一人も居ない、良く似た他人が居るこの世界で

生きるなんて耐えられなくて……そんな私が今

年を越したら初詣に行きたいと考えていました。

……もう私は死を望まなくなっているんだなと

前を向いて生きる事が出来ているんだと……

ふと気づけたような気がしまして……』

 

「そうか……確かに初めてユメと会った時よりも

表情が豊かになっていて、その……今のユメは

とても可愛いと思っている」

 

『かわっ……!?』

 

「ど、どうした?」

 

『い、いえ……可愛いだなんて急に言われたら

恥ずかしくて……前にも言われましたが未だに

慣れません……///』

 

「その反応が既に可愛いぞ」

 

『も、もうやめてください!!顔が火照って

熱くなってしまいます……///』

 

「そ、そうか……自重しよう。だが嬉しいぞ。

ユメが前を向いて生きたいと考えてくれた事が」

 

『先生と出会えて居なかったらこんな考えには

ならなかったと思います。だから……先生、

本当にありがとうございます。そして……

貴方の事を誰よりも愛しています♪』

 

「……ああ。私もだ」

 

『……ところで先生に教えていただきたいものが

あるのですが……姫初めというものを……』

 

「待ってくれ」

 

『……先生は元気ですね。私は構いませんよ?

私の事を先生色に染め上げられても……』

 

「………」

 

『それとも……今夜は繋がったまま朝まで……』

 

ユメの言葉は彼の手によって遮られ、二人は

また朝まで愛を確かめ合う事となる。それは

ゴムが尽きるまで、あるいはそれ以上続くかも

しれない。それを決めるのは彼らなのだから。

 

ーーー

 

「うへへ〜お腹いっぱいだよ」

 

「年越し蕎麦ならぬ年越しラーメンとは……

面白いものを考案したものですね」

 

一日中二人きりで過ごして満足したホシノと

それに付き合った黒服は彼女の自宅に戻り

落ち着いた空間で日付が変わるのを待つ事にした。

とはいえまだ時間に余裕があるのでホシノが

寝落ちしないように膝の上に座らせている。

時折頭を撫でながら明々後日に迫っている結婚式に

多少の不安を感じていた。本当に上手くいくのか。

ホシノは喜んでくれるのかと……そんな事をずっと

考えていた。

 

「先生、あと少しで新年になるよ!」

 

「……では数えるとしましょう。10……」

 

「9.8.7……」

 

「6.5.4……」

 

「「3.2.1……0」」

 

カウントダウンと共に日付が変わり時は新たなる年の始まりを刻んでいる。

 

「明けましておめでとう先生!」

 

「ええ。おめでとうございます、ホシノ」

 

「今年も宜しくね♪」

 

「こちらこそ宜しくお願いしますね」

 

抱き合う形で新年を迎えた黒服とホシノ。

彼女はまだ知らない。年明け早々に訪れる

人生の中で一番の幸せな日が来る事を。

その日が訪れるのはもう少しだけ先の話。




今年ももう終わりですね。このような拙い文章を読んでくださる皆様に感謝と来年が良い年でありますように。


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Star Bride

「うへへ〜元旦ってのんびりできて良いね〜」

 

「まさか一日中こたつにくるまって過ごす事に

なるとは思っていませんでしたよ。ですが既に

日付が変わって一月の二日になっていますよ」

 

「……でもお正月だからのんびりするね」

 

「去年はそれで許しましたが今年はダメです。

さあ貴女達、ホシノを連れて行きなさい」

 

「は〜い☆」

 

「ん」

 

「えっちょっと二人とも離しアーヒッパラナイデー!」

 

「……さて。ここからは失敗出来ませんね」

 

ーーー

 

「さあホシノ先輩、お着替えの時間ですよ〜☆」

 

「なんで着替える必要が……?それに何この

黒いドレス。流石に凝りすぎじゃない?」

 

「ん、今日は大事な日。だから当然」

 

「気持ちは嬉しいけど……」

 

「では着付けていきますね〜」

 

「じゃあ……お願いしようかな」

 

「はい。任せてください☆」

 

「でも誕生日にしてはちょっとやり過ぎだと

思うんだよね……」

 

「ん、黒服はホシノ先輩が大好きだしこれくらい

用意して当然。むしろ遅いくらい」

 

「遅いって何が?」

 

「こ、これは前にネクタイをもらった時のお返し

としてプレゼントする予定だったみたいですよ」

 

「そうなんだ。それにしてはお返しがちょっと

凄すぎるというか……それくらい私の事を想って

くれてるのなら嬉しいけど……うへへ///」

 

ーーー

 

「報告します。母の着付けが始まったようです」

 

「分かりました」

 

「……いよいよですね。母と父が結婚して本当の

家族になって私が父の娘に……」

 

「そうなりますね。……何故か落ち着きません」

 

「アリス知っています!それは武者震いです!」

 

「違いますよアリス。ただ緊張しているだけです」

 

「ホシノが着替えている間に落ち着かなければ

いけませんね……」

 

「hey黒服、ベーアーイーツのお届けですよ」

 

「なんですかマダム。こんな時に貴女のおふざけに

付き合わせるつもりですか?」

 

「緊張していると聞いたのでいつものように接した

方がいいかと思いましてね。それはそれとして黒服

貴方にはこれを着てもらいます」

 

「タキシードですか?私はこのスーツのままで

構わないのですが……」

 

「いいから着なさい」

 

「……分かりましたよ」

 

「……ケイ、白い服を着た黒服パパはなんて呼べば

いいのでしょうか?」

 

「白服……いえ、父でいいのでは?」

 

「まあ……好きなように呼んでください」

 

「くろふ……白服か?まあいい、入るぞ。

ほら、婚約指輪だ。名前も彫ってある」

 

「おやマエストロ。ありがとうございます」

 

「白服に先を越されるとは思っていなかったが

上手くいくように願っているぞ」

 

「はい。感謝しますよ」

 

「父、母の着付けが終わったようです。会場の

準備も完了していますのでいつでも始められます」

 

「……分かりました。では……始めましょうか」

 

ーーー

 

「……何かがおかしい。いくら先生が私の事を

大切に想ってくれてるとしても大袈裟すぎる。

ガラスの靴まで用意するなんておかしいよ。

それにこのドレスの感じ……ま、まさかね」

 

「ホシノ、お待たせしました」

 

「あっ先生。このドレスありが……えっ?

先生の格好って……え?」

 

「そのドレス……よく似合っていますよ」

 

「あ……ありがとう///……ってそうじゃなくて!

先生、誕生日のお祝いにしてはやりすぎだよ!」

 

「そうでしょうか?そんな事よりも行きますよ」

 

「行くって何処に……?」

 

「会場ですよ。主役の入場から始めなければ。

さあ、この手を取ってください」

 

「う、うん」

 

『只今より新郎と新婦の入場です。皆様盛大な拍手で

お迎えをお願い致します』

 

「新婦って……先生、まさか……」

 

「ほら、行きますよ」

 

「(ど、どどどどういう事!?誕生日のパーティって

聞いてたのに結婚式!?で、でもそうだよね、

どう考えても着付けられたのって黒いウエディング

ドレスだし先生はタキシード着てるし!!あ、待って

扉が開いた先に見知った顔が沢山見えるし!!

どうなってるの!?と、とにかく一度冷静に……

なれるわけがないじゃん!こんな格好を皆に見られて

恥ずかしいし……うぅ///)」

 

「ホシノ、落ち着いてください。まだ入場ですよ」

 

「わわわかったよよよせせせんせい」

 

「ここまで動揺しているホシノは珍しいですね」

 

「だ、だって結婚式なんて聞いてないし……

どうすればいいか分からないよ……」

 

「そう言われましても……私もこうして貴女と

一歩ずつ歩くだけで手一杯なのですよ」

 

「と、とりあえずこのまま歩いていればいいの?

それならなんとか……」

 

「情けないですね黒服。あんなにぎこちない入場

を見たのは初めてですよ」

 

「……申し訳ありません」

 

「まあ今日くらいは仕方ないと思いますよ。

……では誓いの言葉を貴方達に問いかけます。

新郎黒服、貴方は隣にいるホシノを

病める時も 健やかなる時も

富める時も 貧しき時も

死が二人を分つ……いえ、死したとしても永遠に

妻として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」

 

「誓います」

 

「ではホシノ。貴女にも問います。

新婦ホシノ、貴方は隣にいる黒服を

病める時も 健やかなる時も

富める時も 貧しき時も

死したとしても永遠に

夫として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」

 

「……はい。誓います」

 

「……素晴らしいですね。では誓いのセッ……

いえ、キスをお願い致します」

 

「こ、こんな大勢の前で……?」

 

「大丈夫ですよ。初めから私の瞳には貴女しか

映っていませんから」

 

「先生……」

 

「ホシノ……」

 

「ん……んちゅ……れろ……」

 

「……少々生々しいですよ?それと黒服、

貴方も少しは自重しなさい」

 

「マダム、邪魔しないでください。私はホシノと

キスをする事以外眼中にないのです」

 

「まだ結婚式の途中でしょうが!キスなど後で

好きなだけやってください!早くその胸ポケット

に入れた指輪をホシノの指に着けるのです!」

 

「……ああ、そうでしたね。ではあと10回ほど

キスをしたら指輪を……分かりましたよ、そんな

怖い表情で睨まないでください」

 

「早くしなさい」

 

「……ではホシノ。左手を」

 

「……うん」

 

「貴女を誰よりも幸福にすると約束します」

 

「私も……先生を誰よりも幸せにするからね」

 

「ではケーキ入刀のお時間です。我がゲヘナが誇る

シェフの手で作られたウエディングケーキです。

思う存分二人の共同作業を楽しんでください」

 

「明らかにサイズが異常なのですが……」

 

「沢山愛の共同作業が出来るね♪さ、先生、

一緒に入刀しよう?」

 

「……そうですね。では……真っ二つにすると

しましょうか」

 

「掛け声いくよ。いち……にの……」

 

「「さん!」」スパッ!!

 

「……皿まで割れていないでしょうね?

大丈夫そうですね。ではケーキを取り分けさせて

いただきしばらく歓談の時間と致します」

 

ーーー

 

「ホシノ先輩、結婚おめでとうございます☆」

 

「ん、さっきの緊張した先輩可愛かった」

 

「大袈裟なくらい緊張して見えたわよ」

 

「とても輝いてましたね」

 

「も、もぅ……皆からかわないでよ……///」

 

「ん、子供はいつ作るの?」

 

「ゴフッ!?シロコちゃん!?」

 

「当然今夜から、ですよね☆」

 

「そ、そんなの言えないよ!?」

 

「作る事に関しては否定しないのね」

 

「それは……そうだけど……」

 

「「「「………」」」」

 

「そんな微笑ましそうな顔で見つめないでよ!」

 

ーーー

 

「黒服先生!?どういう事ですの!?何故私を

差し置いてホシノさんと結婚を!?」

 

「そうですよ!まだアビドスとトリニティの

交友関係を築いていないのです!なのに何故!」

 

「何故と言われましても……お二人には申し訳

ないのですが私はホシノ一筋なので……」

 

「……そうですわよね。初めから私達の事など

眼中にないように接していましたもの」

 

「こうなると分かっていながらも1%の可能性に

縋っていたにすぎないのです……」

 

「……黒服先生、ご結婚おめでとうございますわ。

私のライバルを幸せにしてくださいね」

 

「私からも祝わせてください。……ただ結婚した

後も交友関係の件でお話に伺うのでその際は

よろしくお願い致します」

 

「……ええ。二人ともありがとうございます」

 

『黒服』

 

「ユメですか。どうしました?」

 

『……おめでとう。この世界の貴方ならきっと

ホシノちゃんを幸せにしてくれると信じてる。

……正直脳が破壊されそうで辛いけど……』

 

「……はい。ホシノは必ず幸せにしますよ。

ホシノ達の方には挨拶しないのですか?」

 

『さっきしてきたよ。凄い幸せそうだった。

あの笑顔を失わせちゃダメだよ?』

 

「そのつもりはありませんよ」

 

『そういうと思った。じゃあまたね』

 

「はい」

 

「あっ先生。ちょっと風に当たりに行こうよ」

 

「分かりました」

 

ーーー

 

「結構冷えますね……」

 

「一月だからね〜……皆祝福してくれたよ。

……夢みたいだよね。私を救ってくれた人と

両想いになって結婚するなんて……」

 

「私もそう思います。恋愛に興味がなかった

私がホシノとこんな関係になるとは誰が想像

出来たのでしょうね」

 

「うへへ、誰も想像出来ないよ♪」

 

「……そうですね」

 

「……先生。末長く宜しくお願いします」

 

「……こちらこそ。それと……誕生日おめでとう

ございます、ホシノ」

 

「……うん」




ホシノさん誕生日おめでとう


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改めて考えるとこの作品の黒服ってロリコンですよね

「先生、書類確認終わったよ」

 

「ありがとうございます。では次にこちらの……」

 

結婚式を終えた後のアビドスはいつもと変わらぬ

日常を過ごしていた。強いて言うならホシノは

黒服の膝に座らず時々左手に輝く指輪を見て

うへへと笑うくらいだろうか。そんな二人を

当然のように窓から覗き見る後輩達。

 

「……おかしい」

 

「何がですか?」

 

「ホシノ先輩が黒服の膝に座ってないのよ。

結婚したんだから堂々と座っても良いじゃない」

 

「確かに……結婚した後の方が普段よりも

おとなしいような気がしますね」

 

「ん、私には理由が分かる」

 

「本当にシロコ先輩は普段から適当な事ばかり

言ってるイメージしかないんだけど」

 

「セリカ。メインヒロインを罵倒するなんて

炎上するよ。やめておくべき」

 

「メインヒロインって何よ」

 

「そのままの意味。それでホシノ先輩が黒服の

膝に座らないのは恥ずかしいからだよ」

 

「今更?」

 

「ん、恋をしたら意識というのは変わるもの」

 

「絶対適当な事言ってるよね?」

 

「あ、ホシノ先輩が黒服先生の膝に座りました」

 

「やっぱり適当じゃない」

 

「ん、そういう時もある」

 

「そういう時しかないんだけど?」

 

「……いえ、待ってください。あれは……」

 

「あー……だから座るのを躊躇っていたのね」

 

「黒服先生も男の人ですからね」

 

「ん、場所はわきまえるべき」

 

「シロコ先輩が遂にまともな事を言った!?

それはそれとしてあまりにも酷い絵面なんだけど

あれどうすればいいのよ」

 

「録画しましょう☆」

 

ーーー

 

「……もう。後輩達が来る前に気づけたから

いいけど……朝から大きくしてたらダメだよ?」

 

「私がこうなるようになってしまったのはホシノの

責任ですからね。いっそずっと膝に座ってくれても

構わないのですよ?」

 

「そ、それは……その……耐えられないから……」

 

「それは残念です」

 

「……でもいつかは……なんてね」

 

「今日がそのいつかの日ですよ。さあホシノ、

私の膝に座ってください」

 

「ちょっと欲望が強すぎない?そんな大きくしても

誘惑には乗らないからね」

 

「そう言いつつも膝に座ってくれるのですね」

 

「これは仕方ない事なの。皆に見つかる前に私が

処理してあげないと……」

 

「(既に見つかっているのですがね)」

 

ーーー

 

『皆久しぶり。あれ、入らないの?』

 

「あっユメ先輩。まだ入らない方が……」

 

『ホシノちゃんいるー?会いに来た……よ?』

 

「「あっ」」

 

『………』

 

「「「「あー……」」」」

 

『ま……まあ。お熱いのはいいと思うけど……

後輩達も見てるからあんまり熱中しない方が……』

 

「私とホシノの愛を見せつける分には構いません」

 

『黒服はそうかもしれないけどホシノちゃんの事も

考えてあげて。顔から煙が出てるから』

 

「おやおや。可愛いですね」

 

『もうダメだこの人』



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お前が言うな定期

「どうも不定期開催ゲマトリア会議のお時間です。

本日の議題、というか説教の内容ですが……

黒服、マエストロ。貴方達の行動について問題が

あると思いまして今一度意識を変えていただきたい

と考えたのです」

 

「何故私達は正座をさせられているのでしょうか」

 

「早く帰らないとユメが泣いてしまうのだが」

 

「私だってヒナといちゃつきたいんですよいいから

黙って聞きやがれこのロリコン共」

 

「はぁ」

 

「まずマエストロ。貴方はユメと恋人になってから

というもの毎日愛し合っていると聞きました。

確かに彼女は魅力的です。貴方に依存しているのも

相まって行為の回数も多いと思われます」

 

「それはそうだが……おい、そんな事誰から聞いた

ヴェリタスの奴らか?」

 

「いくら避妊しているとはいえ彼女の体調を考慮

して行為の頻度を落とすべきだと思うのです。

そもそも教師として生徒に手を出すこと事態が

ダメではあるのですが我慢出来ない気持ちは

とてもよく分かります。ですが頻度は落として

生活に支障が出ない程度にしなければ……」

 

「そうか。だが無理な話だ。何を言われようとも

私の芸術に対する欲望は止められない」

 

「それは芸術ではなくHENTAIですよ」

 

「行為の頻度と言うが確かマダムはヒナと毎日

5回はやっていると自慢していたな」

 

「私とヒナは同姓なので問題ありませんよ」

 

「問題だらけだが?」

 

「私の話はいいのですよ。次に黒服、貴方です。

結婚してからと言うもののホシノと過酷しすぎだと

思うのです。この前も教室で愛し合っていると噂に

いえ盗撮したので分かっています」

 

「さりげなく盗撮しないでもらえますか?」

 

「ホシノが乱れる姿はとても良いですね。ですが

貴方はホシノを激しくしすぎています。彼女を

壊してしまったらどうするのですか?」

 

「ホシノはそう簡単に壊れません」

 

「そういう問題ではありません」

 

「壊すという意味ではマダムもヒナに三日耐久

させて絶頂させる行為を繰り返していますよね」

 

「………」

 

「なあ黒服。私とお前は今同じ事を考えて

いるのではないかと思うのだが」

 

「……そのようですね。では同時に言うと

しましょうか……」

 

「「お前が言うなマダム」」

 

「……何ですって?よくもまあ……この私に」

 

「原作セリフを吐いて誤魔化そうとするな。

これ以上は付き合ってられん。私は帰る」

 

「私も失礼しますね。ホシノが待っているので」

 

「……私もヒナを舐めに行きますね」

 

ーーー

 

「結局マダムは何がしたかったんだ」

 

「変態を理解するのは難しいですね」

 

「ああ。全くだ」

 

「変態で思い出しましたが……最近シャーレの

先生を見ていない気がしますね」

 

「あいつは仕事に追われているらしい」

 

「それならば仕方がないですね。結婚の報告でも

しようかと思ったのですが。……代わりにホシノ

にでも報告しに行くとしましょう」

 

「ホシノに?何を言っているんだ?」

 

「別の世界から来たホシノの事ですよ。この前

とある出来事の際に世話になりましてね。

感謝を伝えにいくついでに報告しようかと」

 

「……そうか。別の世界……その手があったか」

 

「マエストロ?何を考えているのです?」

 

「少し興味が湧いてな。私も同行していいか?」

 

「構いませんが……理由を伺っても?」

 

「ただの探し物だ」



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第六部 芸術家と縁
挨拶という名の脳破壊


前回ノア らすじ
黒ホシが本編ホシノに結婚の挨拶をしに行くよ☆


「……これでゲートは開きました」

 

「ありがとうございます。では行きましょうか」

 

『おー』

 

「……マエストロ、本当にユメを連れて行くの

ですか?あっちのホシノが誤解しません?」

 

「仕方ないだろう。ユメを長時間孤独に出来ん。

大丈夫だ、私とユメは他の用事があるので

アビドス付近には行かないさ」

 

「……それなら問題ないですね」

 

「せーんせ、何こそこそ話してるの?早くいこ?」

 

「おや、申し訳ありません。お待たせしました」

 

「大丈夫だよー時間はあるからね♪」

 

『あの…先生、私達は今からどこに行くの

でしょうか……?』

 

「そういえば言ってなかったな。そうだな……

一言で言えば他の世界だ」

 

『他の世界……』

 

「ユメが居た世界とはまた別の場所だがな。

その世界とは過去に繋がりがあってな」

 

『そうなんですね……』

 

「……マエストロ。一つ問題がある事を今

思い出したのですが……前回ホシノを送り

届けた時に着陸した場所はアビドスの廊下

なんですよね」

 

「なんだと?何故それを早く言わない」

 

「もし同じ場所に繋がった場合は私とホシノで

周辺の気を引くのでその隙に離れてください」

 

「分かった」

 

ーーー

ーー

 

「案の定アビドスに飛ばされましたね」

 

「なんだか懐かしいな。まだそんな時間が

経っていないのに随分昔の事みたいに感じるよ」

 

「それほど濃密な時間を過ごしているのですよ。

では早速ホシノに挨拶をしに行きましょう」

 

「はーい」

 

『……ここのアビドスも残ってるんだね。

この世界では私も生きていたりするのかな』

 

「生配信でもやっていたりするのだろうか……」

 

『……ちょっと楽しそう。先生私達も生配信とか

やってみませんか?』

 

「ユメが望むならやってみるか。さて、ここの

ホシノに勘付かれる前に退散するとしよう」

 

『そうですね』

 

「ひとまずはシャーレに向かおうか」

 

「待ってください。私も一緒に行きます」

 

「ケイ?ゲートの管理は大丈夫なのか?」

 

「大丈夫ではありませんが一人で待つのは

寂しいので来ました」

 

「……それなら仕方ないか」

 

『一人は嫌だよね。その気持ちはよく分かるよ』

 

ーーー

 

「……という訳で」

 

「私達、結婚しました」

 

「「「「「………」」」」」

 

「こちらが花嫁姿のホシノです。どうですか?

世界で一番可愛い花嫁ですよ?」

 

「一番だなんて……照れるなぁ。うへへ///」

 

「……あのさ。幸せそうなところ悪いんだけど

おじさんとしてはなんて言うか……その……

黒服と私が愛し合って結婚するっていうのが

絶対にあり得ないって言うか……素直に祝福

出来ないんだよね……」

 

「この世界の私はどんな悪事を働いたらこんな

嫌われるのでしょうか……」

 

「無理やりエッチな事をしようとしたとか?」

 

「それだとホシノは喜ぶでしょう?」

 

「それもそうだねー」

 

「まあ……二人が幸せそうで何よりだよ」

 

「ありがとうございます。……一つ聞きたいの

ですが……何故皆傷だらけなのです?」

 

「え?ああ……話せば長くなるんだけど……

おじさんは眠いから誰か話しておいてー」

 

「待ちなさい」

 

「んえ?」

 

「貴女まで夜の見回りをしているのですか?

こんなにも肌が荒れていますね。話の前に貴女の

ケアをさせていただきます。3時間もあれば

終わるので脱いでください」

 

「先生!?脱がすなんて駄目だよ!?」

 

「……うへーほんとにラブラブなんだねー

それはそれとしておじさんを脱がしたら命が

ないと思ったほうがいいよ」

 

「そうですよ〜私達のホシノ先輩を脱がしていい

のは先生だけですからね☆」

 

「それは残念。では今から肌荒れに効く化粧水

を購入しに行きましょうか」

 

「何この黒服凄い優しいけど気持ち悪い」

 

「私の先生は気持ち悪くなんてないよ!たまに

朝まで寝かせてくれなかったり膝に座らせて

声を我慢させられたり結婚式中に何時間も

愛し合った先生が気持ち悪くなんてない!」

 

「うへーそれ逆効果だよ」

 

「ん、黒服はロリコン」

 

「……ま、まあ。私はホシノにさえ好かれていれば

何て言われようとも気にしませんがね」

 

「先生、その言い方は気にしてる人の言い方だよ」

 

「……でも私の知る黒服よりはマシかな」

 

「そこまで嫌われているとこの世界の私に会って

見たくなりましたね……ホシノの化粧水を購入

した後に探すとしましょうか」

 

「うへー本当に買うつもりだよこの人」




しれっと始まる六部


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先生と芸術家

生塩ノア らすじ

本編ホシノを絶句させた黒ホシ
それはそれとしてマエストロはユメとケイを連れて
シャーレに向かいました。

注意 これ以降のお話はゲーム本編5章のネタバレを含みます。


『それでは、お待ちしておりますねぇ。』

 

「"……百鬼夜行。もしかしたら彼女の手掛かりを

得られるかもしれない……"」

 

(仕事にひと段落をつけて百鬼夜行に向かう、

まるで本編5章のような流れの中、部屋の扉を

叩く音が聞こえてきた)

 

「"はいどうぞ"」

 

「邪魔するぞ」

 

「"!?マエストロ!?"」

 

「相変わらず仕事に勤しんでいるようだな。

その姿勢は教師としては素晴らしいと思う」

 

「"……え?"」

 

「だがその机に積まれた栄養剤の空き瓶に

ついては看過できないな。生徒の為を想うなら

自分の身体を労る事を忘れるな」

 

「"……頭でも打った?"」

 

「打ってないぞ。私は正常だ」

 

「"いいや絶対におかしい。ゲマトリアの一員で

悪い大人のマエストロはそんな事絶対に言わない。

流石に解釈不一致すぎる……"」

 

「解釈不一致だと?そんなにこの世界にいる私と

イメージがズレているのか?やはり世界が違えば

ゲマトリアという組織の在り方も多少の違いが

生じてくるのだろうか……」

 

「"それで何の用?私はこれから用事があって

今すぐにでも外出をしないと……"」

 

「……ああ、すまない。一つ尋ねたい事がある。

恐怖に染まった生徒を元に戻す方法。

これについて何か情報を知っていたら教えてくれ」

 

「"!まさかあのシロコを何かに利用する気!?"」

 

「シロコ?何のことだ?私はただユメを元の姿に

戻したいだけだ」

 

「"ユメ?"」

 

「知らないのか?ホシノの先輩である彼女の事を」

 

「"前にノノミから少しだけホシノの先輩について

聞いたけど……それくらいしか"」

 

「そうか……」

 

「"……どうしてマエストロがその子の事を?

黒服やベアトリーチェみたいに搾取を……"」

 

「ユメは私の恋人だ。いずれは籍を入れる予定だ」

 

「"???"」

 

「出会ってからあまり時間は経っていないが……

彼女への愛は本物だぞ」

 

「"あ、愛……?"」

 

「当然LOVEの方だからな」

 

「"そ、そうですか……"」

 

「先生、彼が混乱しています。端的に話すのではなく

一度最初から話した方がよろしいかと」

 

「"アリス……じゃない!?"」

 

「初めまして、小鳥遊ケイです。父は黒服です」

 

「"??????"」

 

「先程よりも混乱しているように見えるが」

 

「落ち着くまでお茶でも飲んで待ちましょうか」

 

「そうだな。私が淹れてくる」

 

「"マエストロが紅茶を!?"」

 

『既に淹れておきました』

 

「"誰!?"」

 

「私の恋人だが」

 

「"……一体どうなってるの?ああそっか、

三徹したから変な幻覚を見ているんだ"」

 

『どの世界でも先生は仕事に追われている……

悲しい運命ですね……』

 

「……世知辛いな」

 

「"そんな憐れむような目で私を見ないで"」



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冷静に……なれるか!

(目の前に差し出されたのは紅茶。湯気が見えて

とても暖かそうなそれを飲むのは躊躇う。)

 

「おい」

 

「"!?"」

 

「紅茶が冷めるだろう。早く飲め。それとも

毒でも入っているのではないかと警戒して飲めない

のか?それは私の恋人に対する侮辱だぞ?」

 

「"……いただきます"」

 

「それでいい」

 

(正直ゲマトリアを疑うなという方が無理な話では

あるのだが彼の恋人?であるユメ?を信用して

紅茶を口に含んでみると……)

 

「"あっ美味しい"」

 

「私の恋人が淹れたのだから当然だろう。これを

毎日飲める私は幸せものだぞ」

 

『先生は私の事を過大評価しすぎですよ……

でも嬉しいです』

 

「"なんなのこの人達……"」

 

「とにかくこれで分かっただろう。私達に敵対

する意思はないという事が」

 

「"それは分かったけどマエストロがこんな

風になった理由については理解できてない"」

 

「それは今から話す。……二人とも、私は

何処から話すべきだと思う?」

 

「最初から伝えればいいと思います」

 

『先生の判断に任せます。でも……その……

あれの話は恥ずかしいのでしないでください。』

 

「"あれって?"」

 

「私とユメの秘密だ」

 

「"そ、そうなんだ……"」

 

「では最初から話そうか。まず前提として私達は

この世界に属する人間ではない。少し前にこちら

の黒服と接触したと思うのだが……」

 

「"黒服……あの寝取り野郎の事?私の生徒である

ホシノを洗脳したあの悪い大人?"」

 

「正確には洗脳はしていないが……私達はその

黒服と同じ世界から来た。ちなみに黒服はあの後

色々あってホシノと結婚している」

 

「"あの黒服と同じ世界から……ちょっと待って

今聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど?

黒服とホシノが結婚?え?"」

 

「何か引っ掛かるところがあるのか?」

 

『……これが普通の反応だと思います』

 

「"申し訳ないけどそっちの世界は狂ってると

言わざるを得ないよ……おかしいって、一体どう

因果が捻じ曲がったら黒服とホシノが結婚する

世界が生まれるの?異常事態だよ?"」

 

「……確かにな。あいつがロリコンになるなど

同志の私ですら想像出来なかったくらいだ。

ましてや他の黒服は大体ろくでもない奴だと

聞いている。こんな反応になるのも仕方ない」

 

「"ロリコンというかそれ以前の問題というか……

また混乱してきそうだよ"」

 

「ちなみにこれが結婚式の写真だ」

 

「"くろふ……白服!?ホシノがウエディングドレス

を着てる!?こんな悪夢があっていいの!?

ドレスを着たホシノは可愛いけど!"」

 

「そのドレスを作成したのはマダムだ」

 

「"マダム?ゲマトリアのマダム……嘘でしょ……?

ベアトリーチェがこれを……?"」

 

「そのまさかだが」

 

「"絶対におかしいって……悪い大人としての

ゲマトリアが崩れすぎてるよ?それでいいの?"」

 

「私はユメが幸せになるならそれでいい」

 

「"もう先生になった方がいいんじゃないかな"」

 

「既に教師だ」

 

「"マエストロの皮を被った別人じゃないよね?"」

 

『……あの、いくら先生とはいえ私の大切な人を

疑うのは許しませんよ』

 

「"ご、ごめんね……ただ私の知るマエストロと

あまりにもかけ離れすぎてたからつい……"」

 

「私はどう思われようと気にしていない。

とにかくそんな経緯があってこの世界のホシノに

結婚報告に行った黒服について来たのだ」

 

「"えっあの黒服来てるの?"」

 

「来てるぞ」

 

「"ちょっと会ってみたい気もする……"」

 

「会いに行くのは構わないが……先程も聞いた

事ではあるが恐怖に染まった生徒を元に戻す

方法について何か知っていないか?些細な事でも

構わないのだが……」

 

「"……もしかしてユメのヘイローが黒い理由って

そういう事なの?"」

 

「そうだ。詳細は言えないがユメは物凄く悲惨な

運命を辿ってきた。私は彼女を愛する者として

平穏に生きて欲しいのだ。本来恐怖に染まった

者を元に戻すのは絶対的に不可能とされている

のは百も承知だ。だが諦める理由にはならない」

 

『先生……』

 

「"……そっか。あの子と同じ状態なんだね。

分かった。私の知ってる事を話すよ"」

 

「すまない……助かる」

 

「"……でもその前に仮眠していいかな?

紅茶を飲んで落ち着いたら睡魔が……"」

 

「ああ。何時間でも待つ」




おまけ その頃黒服達はというと……

「……何ですって?この学校にはシャワーしかない?
ではホシノの為に炭酸風呂に入浴できる施設を……」

「えっいやちょっと勝手に学校を改造しないで」

「大丈夫です。扉の先を私の世界にあるアビドスの
炭酸風呂に接続するだけなので」

「それでもおじさん的には困るんだけど……」

「ホシノの肌が荒れている方が問題でしょう!」

「……うへーこの黒服気持ち悪いよぉ……」

こんな事をやってましたとさ


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言ってしまったので仕方ない

「確かに私は何時間でも待つとは言った。だがな、

仮眠にしては長すぎではないだろうか?」

 

『三徹だと言っていたので仕方ないと思います』

 

「明らかに教師の数が足りていない証拠だな……

連邦生徒会は何をやっているのだろうか……」

 

『あんまり頼りにならないですよね、連邦生徒会』

 

「それに関しては触れにくいな……ところでユメ、

その先生だが……」

 

『はい、私の世界にも居ましたよ』

 

「そうか……」

 

『……もしかして私が昔の事を思い出して辛く

なったりしてるとか考えていますか?大丈夫です。

この先生は私の知る人と似ている別人だって

割り切れているので問題ありませんよ』

 

「それならいいが……ユメは心が強いな」

 

『マエストロ先生が私の心を支えてくれている

おかげですよ。貴方が居なかったら……私はまだ

過去に囚われていたと思います』

 

「私はただ家に泊めただけなのだが……」

 

「……あの。イチャつかないでもらえますか?

それよりも現状をどうするかをですね……」

 

『……それもそうだね。あの……先生は先程

私の事を元に戻すって言ってましたけど……』

 

「あ、ああ。その姿も美しいとは思うが神秘が

反転した状態だろう。早めに治しておくに越した

事はないと思ってな。……しかし研究の進展が

殆どなくて行き詰まっていたのだ。他の世界なら

戻す手掛かりがあるのかもしれないと考えた」

 

『そこまで私の事を考えて……?』

 

「ユメの笑顔の為だからな」

 

『先生……』

 

「……だからイチャつかないでもらえますか?

さっさとそこで寝ている先生の記憶でも何でも

読み取って行動しましょう」

 

「今良いところなのだが……仕方ない。記憶を

読み取る装置ならこの前エンジニア部が押し付けて

きたので所持はしているが……」

 

『……都合がいいですね』

 

「まあな。では試しに読み取ってみよう」

 

よく分からない装置を寝ている先生にぶっ刺して

記憶を可視化してみると6つのファイルが目の前に

並ばれる。それぞれのタイトルには

『対策委員会』

『時計じかけの花のパヴァーヌ』

『エデン条約』

『カルバノグの兎』

『あまねく奇跡の始発点』

『空白』

という文字が刻まれており先生が歩んだ軌跡の蒼き

記録として表示されていた。どれも気になるもの

ばかりだがこの中から情報を探すのは時間が掛かり

そうだ。ひとまずは記録をコピーして端末に移し

ぶっ刺した装置を起きない程度に引き抜いた。

若干血が出ているようにも見えなくはないが些細な

傷なので放置する事にする。

 

『……それはダメだと思います』

 

「何故私の心が読めるのだ」

 

『愛の力です』

 

「それなら仕方ないな」

 

「隙あらばイチャつくのをやめてください。口内に

砂糖が生成されるんですよ」

 

「すまない」

 

『……何か手掛かりは見つかりましたか?』

 

「それはこれから確認する。……とはいえ中々に

量があるので時間が掛かりそうだが……」

 

「では私が解読しますね。これでも高性能AIなので

その程度ならば数分で出来ます」

 

「分かった。ケイに任せよう」

 

「解読を始めます。……成程。この世界の母と父は

そういう出会いを……天童アリス……王女……

これはあの時の淑女?……SRTが閉鎖している……

シロコ*テラー……箱舟が実在……クズノハ……

これは……見つかりましたよ」

 

「随分と早いな。早速教えてくれ」

 

「記録の中にある台詞を再生します」

 

『色彩』によって反転した者を元に戻す方法など

存在せぬ

其れは……死者が生き返らないのと同様に。

この世界の絶対的なルールである。

だがそれでも……助けたい者が居ると申すのなら、

妾を訪ねてくりゃれ

 

「そのクズノハという人物に接触すればユメを

治すことが出来るのか?そいつは何処にいる?」

 

「記録の中の景色から参照するに百鬼夜行の自治区

にいる可能性が高そうです」

 

「そうか……百鬼夜行……行く価値はありそうだ。

今すぐにでも向かうとしよう」

 

「構いませんが……先生を放置して行って大丈夫

でしょうか?襲われたりしませんか?」

 

「……ケイに任せてもいいか?」

 

「……百鬼夜行でイチャつきませんよね?」

 

「善処する」

 

『多分大丈夫だよ』

 

「私は今貴方達を信用する事が出来ません」




その頃の黒服はというと

「さあ出来上がりましたよ。ホシノの不足している
栄養素を全て賄える食事です」

「く……黒服が料理?毒入ってない?」

「大丈夫だよ〜先生は毒は入れないから」

「それなら安心……え待って毒『は』って事は
何かは入ってるの!?」

「失礼な。愛情しか混ぜていませんよ」

「うへーこの黒服やっぱ気持ち悪い……」

アビドスの寂れた食堂で料理を振る舞っていた。


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時間を与えてはいけない理由

ちょっとしたアンケートを配置してあるのでご回答していただけるととても嬉しいです


「ええ、問題ありません。ある程度自由に行き来

出来るように改良しておきましたので。そちらは

どちらへ?……百鬼夜行ですか。数日……はい。

分かりました。定期的に連絡はしてくださいね」

 

「誰からの電話だったの?」

 

「ケイからです。百鬼夜行に用が出来たので

数日時間をもらうとの事です」

 

「数日?何の用事なんだろう……」

 

「どんな理由かは知りませんがこれは好都合。

つまりこちらのアビドスを魔改造する時間が

あるという事です。では早速……」

 

「私達のアビドスに何をする気!?今までは

気持ち悪いだけで済んでたけどこれ以上変な

事をしたら許さないよ!」

 

「変な事?……クックック。貴女は一つ大きな

勘違いをしていますね。私は悪い大人です。

そんな忠告を聞くと思いますか?」

 

「先生、迷惑をかけたらダメだよ」

 

「ホシノがそう言うならやめておきますね」

 

「うへーこの黒服尻に敷かれてるよぉ……」

 

「ん、上下関係がしっかりしてるね」

 

「……ですが既に魔改造が終わっている部分

だけでも紹介しておきますね」

 

「えっいつの間にそんな事を……怖っ」

 

「では校内探検と行きましょうか」

 

ーーー

 

「まずは仮眠室です。薄っぺらい布団が数枚だけ。

これでは疲れが取れませんよね。なので大きな

ベッドに差し替えておきました。私のホシノ一推し

の枕とベッドなので快眠は約束されていますよ」

 

「何この異常な大きさのベッド……こんなものより

布団の方が……」

 

「……ホシノ先輩?」

 

「……ZZZ」

 

「寝るの早すぎない!?」

 

ーーー

 

「お次は空き教室を利用して小さな熱帯魚を鑑賞

出来る休憩室を用意しました」

 

「確かにこの教室は誰も使っていませんが……

何故熱帯魚なんですか?」

 

「それは小さくて可愛いお魚さんの魅力を皆にも

分かって欲しいから私が先生に頼んで用意して

もらったんだ。勝手に魔改造するのは良くないと

思ったけどお魚さんを観れるならいいと思って」

 

「……まあ、そっちのホシノ先輩が用意したなら

構わないけど……」

 

「餌などは自動で補充される仕組みですよ」

 

「先生の所属する組織の技術を使ったんだって」

 

「ん、技術の無駄。天才だけどバカだね」

 

「黒服の事はあんまり信用できないけどお魚さん

を用意してくれたのは嬉しいよ。ありがとう!」

 

「ホシノ先輩には効果があるみたいですね」

 

「時間がなかったのでこの程度しか手をつけて

いませんが……ささやかなお礼だと考えて頂ければ

と思います」

 

「お礼って?」

 

「こちらの世界で空が赤くなった時の話ですよ」

 

「あー……そんな事もあったね。よく分からない

状態で砂漠に放り出されてなんか時間を稼いだ

だけだけど……」

 

「貴女が守ってくれたおかげで私は今ホシノと

結婚する事が出来たのです。感謝していますよ」

 

「……皆どうしよう。黒服に感謝されてるのも

この二人の結婚を手助けしちゃった事実にも

生理的に受け付けられないよ」

 

「ん、当然だと思う」

 

「……まさかと思うけど黒服がホシノ先輩を

攫った理由っていやらしい事でもさせる予定

だったんじゃないの?」

 

「うへぇ……黒服って最低だね……」

 

「何故私はこうも悪く言われているのでしょう。

いつかこちらの世界に存在している私に説教を

しなければならないようです」

 

「そうだね。先生は変態でロリコンだけど

最低ではないからね。すごく変態だけど」

 

「誰が変態ですか」

 

「最近の変な大人にはついていけないよ。

あと私と同じ姿で黒服に甘えてる絵面もなんか

吐きそうになるよ」

 

「でもなんか……この黒服は悪い大人ではない

気がするわね。気持ち悪いけど」

 

「セリカちゃん騙されちゃダメだよー油断した

矢先に……なんて事もあるからね」

 

「失礼な。私は私のホシノしか襲いませんよ」

 

「うへーこんな黒服解釈不一致すぎるよー」




その頃のシャーレ

お時間をもらいに行こうとしたら何故か寝ている
先生と遭遇して誰もいない事を確認してから添い寝を
始める奥空アヤネさんが居たとか。
尚ケイが居る事に気づかなかったようです


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百鬼夜行自治区に向かう道中

投稿頻度ですがホシノに決まりました。
投票してくださった皆様、ありがとうございました。

投稿頻度ホシノとは ホシノである


「………」

 

『せ、先生。落ち込まないでください。数歩毎に

ヴァルキューレの生徒に職質されて怪しまれる

からと言って……最終的には納得してくれますし

先生は悪くないですよ」

 

「だからと言ってだな……職質の理由が毎回

『なんか悪さしそうな見た目をしてる』からと

言われてみろ。流石に教育の仕方に問題があると

思えて仕方がないのだが……ヴァルキューレは

シャーレの管轄だろう。あいつは何をやっている

んだ……書類としか向き合ってないのか?」

 

『シャーレの先生はいつも忙しいので……私の

世界でも一人で全ての学園の生徒と交流し、

徹夜して仕事をこなしていました』

 

「生徒の数に比べて明らかに教師の数が不足

しているだろう。そんなの成り立つのか?」

 

『ある意味成り立っていますよ』

 

「そうか……」

 

『二人とも何をやっているのですか?

百鬼夜行の自治区はまだ先ですよ』

 

「……何故私のスマホからケイの声が聞こえて

くるのだろうか。通話を繋いだ記憶はないぞ」

 

『ハッキングしました。数分後にはイチャついて

先に進んでいないのかと思いまして』

 

「私とユメをそこまで信用できないのか?」

 

『まだ腕を絡ませて歩いてるくらいだよ』

 

『……早く百鬼夜行に向かってください。私が

大音量で道案内をしますので』

 

「……仕方ない。恋人繋ぎ程度で我慢するか」

 

『そうですね……』

 

『本当に貴方達は……まだ昼間ですよ?』

 

「問題ない。先程ヴァルキューレの生徒もこう

言っていた。『キヴォトスでは先生と生徒が

恋愛しても大丈夫』だと。そしてこの世界では

知り合いが居ない。つまり堂々と抱き合って

歩く事だって許されるのだ」

 

『いつも抱き合った途端に邪魔が入りますからね。

この前も白猫とお姫様みたいな子が襲ってきて

大変でした。だからこそこのような機会を逃す

なんて勿体無いと思うんです』

 

『先程イチャつかないと約束してからまだ数分も

経っていないのですが。守る気ありました?』

 

「あるに決まってるだろう。だが無意識のうちに

私はユメを求めてしまうのだ」

 

『度がすぎると捕まると思うので抑えてください』

 

「抑えるとはなんだ?まるで私がこの後ユメを襲う

とでも思っているように聞こえるが?いくら私でも

こんな道端で襲うなんて真似はしないぞ」

 

『分かったので早く進んてください。このペースで

歩いていたら日付が変わってしまいます』

 

「今日のケイは辛辣だな。ストレスが溜まっている

ならば今度発散出来る娯楽を……」

 

『気遣いは嬉しいのですが原因は貴方達です。

ユメを元に戻す気はあるのですか?』

 

「当然だろう。でなければ既に帰宅して

別の方法を考えている最中だ」

 

『ならば真面目にやってください。イチャつかず

先生と生徒としての関係を意識してですね……』

 

「私とユメは恋人だが」

 

『何故大人はこんなにも頭が硬いのでしょうか?

ユメからも何か言ってやってください』

 

『えっ丸投げ?』

 

『マエストロ先生はもう貴女から直接言わないと

納得しないと思います。私は道案内に徹して……

何ですか貴女達。……先生を襲いに?生徒として

恥ずかしくないんですか!!アリスまで来て……

アリス!?何故ここに来』

 

「……よし、これで邪魔が入らなくなったな。

『私達』のペースで向かうとしよう」

 

『これでいいのでしょうか……』




余儀なく先生を護衛するために現れた狼と猫を撃退
しようとするもその中にアリスも混ざっていて唐突
に抱きつかれるケイと先生に膝枕している姿を
砂狼に見られた事とケイがいた事に気づいて
恥ずかしさのあまり数秒固まるアヤネさん。
平和ですね。


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百鬼夜行の地

「この先百鬼夜行自治区につき注意……ようやく

ここまで来れたな」

 

『あの大木を見るに間違いないですね』

 

「注意と書いてあるが……何を注意すればいい

のだろうか……治安か?」

 

『大丈夫です、もし先生が狙われても私が

守ります。絶対に』

 

「頼もしいな。本来であれば私がユメを守るべき

なのだが……」

 

自治区内に入っても相変わらずイチャついている

二人。ミレニアムの近未来感漂う建物とは違い

何やら趣がある建築物が多く建設されている道を

歩いていると自治区に活気があるように見える。

 

「慌ただしい自治区だな。何か催しでも開催する

予定なのだろうか」

 

『催し……興味はありますが……』

 

キャーチセニャーン!コッチムイテー!!

 

『……先生、あれは一体……』

 

「あんなもの見るな。知らなくていい世界だ」

 

『分かりました』

 

ウフフ……ウフフフ……ウフフフフフ……

 

「………」

 

ウェーンシェンシェードニョ−シュクダイテツダッテー!オネガイー!

 

『……あの、先生……』

 

「分かってる。何も言うな……百鬼夜行も個性的

な生徒が多いという事なのだろう。それにしても

あの生徒の声は癖になりそうだが……」

 

『そ、そうですね。自撮り棒を持って何をしてる

のかは知りませんが……』

 

「生配信でもやっているのだろう。あの声なら

根強いファンがいるのかもしれない」

 

『確かに……あと今更なんですけど私って生徒に

分類されてもいいのでしょうか?アビドスに居る

だけなので所属している訳ではありませんし』

 

「生徒でいいと思うぞ。私にとっては恋人だが」

 

『もう……先生はすぐそういう事を言って……』

 

ゼッタイトリマシタノー!コノメデカクニンシマシタワー!

 

「……何だ?せっかく人が愛を囁いているという

大事な時に騒がしいな」

 

『……あそこですね。何やら揉めているようです』

 

「面倒事は勘弁願いたいのだが仕方あるまい。

接触して話を聞……」

 

おりゃあ!!ゴスッ

 

『……あの子一般人を殴り飛ばしましたよ?』

 

「中々にお転婆な生徒だな」

 

財布ありましたのー!ふふっ!やはり身共が

正しかったという事で……あら?あらら?

新手が多すぎますわ〜!?

 

「……あれはどうするべきだろうか。断片的に

見ていただけなのであの生徒がカツアゲした

ようにしか見えない」

 

『大丈夫です、あの子が正しいですよ。

あのロボット達が財布を盗んでいたんです』

 

「そうなのか?」

 

『はい。それにカイザーPMCみたいな見た目の

集団なので気に食わないんです』

 

「それはこじつけな気もするが……まあ、ユメが

したいようにしていいぞ。責任は私……いや、

シャーレの先生がとるからな」

 

『はい。3分以内に終わらせてきます』




精神安定剤が何かをご存知でしょうか?
ホシノさんです。そういう事ですので次回雑な
戦闘が始まります


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歪な連携

ノアらすじ

戦闘開始です


百鬼夜行市街地。敵の数は約30体。自陣はユメと

雅な雰囲気を漂わせているように見せかけて中々

大胆な行動をする生徒。ただし彼女がどのように

動くのかは予測不可能だ。戦況把握はこの程度で

充分だろう。

 

「えりーとである身共にかかればこの程度の

相手など容易いもので……」

 

『ごめんね。先に私があいつらを倒すよ』

 

「あなた様は……?あっ、お待ちくださいまし!

このえりーともお力添えさせていただきますわ!」

 

『そう。怪我しない程度にね』

 

「ええ!」

 

どうやら彼女は共闘することを受け入れたようだ。

銃を見るに後方距離からの狙撃を主体として戦闘

するタイプのようだ。ならばユメとの相性は良い。

彼女の戦闘スタイルは主に接近して攻撃する。

手始めに裏拳等で相手に隙を作ってから

ショットガンを全弾頭に命中させている。ユメの

全身にある傷痕から察していたが無謀とも言える

戦い方をしていた。敵の意識を自らに集中させて

味方へのヘイトを無くして傷をつけさせない。

その代わりにユメ自身は怪我をする。そのやり方

は彼女の苦悩を表しているように感じとり、この

用事が済んだら戦い方を1から教えようと思った

瞬間でもあった。ユメ自身は皆を守れるこの

戦い方が一番だと思っているのかもしれないが

大切な恋人に自らを犠牲にするような戦い方は

させたくないものだ。

 

『あいつらと似てるくせに大したことないね。

このまま全員スクラップにしてあげるよ』

 

「お待ちください!すくらっぷではなく成敗致す!

の方がかっこいいですわ!」

 

『えっ。……じゃあそれで』

 

「可決されましたわー!」

 

……あの生徒はユメと相性がいいのかもしれない。

先程まで無表情だったユメの口角が少し上がって

心の余裕が出来ているように見える。狙撃もユメの

意識が向いていない敵を確実に撃ち抜いている程の

腕前の持ち主のようだ。百鬼夜行にこんなにも

戦闘能力が高い生徒が居るとは思わなかった。

その後も一方的な蹂躙という名の連携を見せた

二人はそのスクラップ達を余裕で成敗し終えた。

……指揮するまでもなかったな。

 

「勝ちましたわー!びくとりーですの!!ほら、

あなたもご一緒に!」

 

『び、ビクトリー……?』

 

「いぇーい、ですわ!!」

 

「二人ともご苦労だったな」

 

「また新手ですの!?」

 

『違うよ。この人は私の先生だよ』

 

「先生……?あなた様が?……そうでしたのね!

ようやく会えましたわね、先生!!」

 

「あ、ああ……随分とテンションが高いな……」

 

「当然ですわ!まさかここであなたに会えるとは

思いませんでしたもの!気分が高揚しますわ!」

 

「それは良かった……のか?」

 

「……そうと決まれば善は急げですわね!

何処か落ち着いて話が出来る場所に移動すると

致しましょう!……その前にこの財布を届けに

行って参りますわ!」

 

『……何だか嵐のような子ですね』

 

「そうだな。だが悪い生徒ではなさそうだ。

しかしようやく会えましたというのはどういう

意味なのだろうか……」

 

『先生と面識があったのでしょうか?』

 

「この世界の私と何かあったのかもしれない。

まあ、また後で話を聞けばいいか」




その頃のアビドス

「そういう訳ですので仮住まいとしてアビドス付近
の土地を購入してきました。これで貴女が夜に
見回りに出かけた場合捕まえる事ができます。
……ホシノ、聞いているのですか?」

「……あ、ごめん。動画見てて聞いてなかった。
もう一回言ってくれる?」

「端的に言えば数日の間貴女の隣に私が住みます」

「うへー聞かなきゃ良かった」

こんな感じです


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取り残された先生

遠方から聞こえる喧騒の声で仮眠から目が覚めた。

寝起きで思考が回っていない中腕時計を見ると

仮眠し始めてから数時間が経過していた。

 

「ようやく起きましたか」

 

声のする方を向くとそこには小柄な少女が居る。

思わず魅入ってしまうような美しい瞳、そして

床につきそうになるほどに長い黒髪。そう、彼女は

ゲーム開発部に所属している天童アリスだ。

最近メイド勇者にジョブチェンジしてシャーレ内を

好き勝手に暴れているあのアリスだ。またお時間を

いただきに来たのだろうか?

 

「私はケイです。アリスではありません」

 

そっかケイか……

 

「"ケイ!?"」

 

「うわいきなり大声を出さないでください」

 

「"ケイ!?ケイナンデ!?"」

 

「説明が面倒なので寝る前の記憶を思い出して

くれませんか?ただえさえ今面倒な状況になって

いるのですから……」

 

「"……ああ!マエストロが連れてきたケイかな。

それで面倒な事って?"」

 

「仮眠室から出ればすぐに分かりますよ」

 

「"そうなの?確かに私が起きたのは喧騒の影響も

あったけど仮眠していただけで面倒な状況に

なるなんて事は起こらないと思うけど……"」

 

そう扉を開けるまでは疑っていたが扉の先にあった

光景は確かに面倒の一言で済ませたくなる気持ちも

分かってしまうほどに混沌としていた。

 

「で、ですから私はただ本日当番だったので先生に

挨拶をしようとしまして……」

 

「ん、違う。月曜の当番は私。それに寝ている先生

を襲おうとしていたのは例えアヤネでも許せない」

 

「それについては同感だけど今日の当番って私が

担当する筈なんだけど?先週の金曜日に労いの

言葉をかけにいったら「"月曜にも来て欲しい"」

って言われたからさ。まあ?先生が襲われる前に

間に合ったからいいけど」

 

「ん、そっちが襲おうとしてた」

 

「いいやあんた達の方こそ先生が寝ているのを

いい事に襲おうとしてた」

 

今日の当番を任せていたアヤネと何故か居る

シロコとカズサが言い争いをしていた。確かに

月曜にも来て欲しいと言ったけれどそれは

仕事終わりに来て欲しいという意味であり……

シロコに至ってはなんでいるんだろう?先週で

時間をもらうのは最終回って言ってたのに。

 

「あ、ケイ!観念してください!アリスはケイに

言いたい事が100個ほどあるのです!」

 

「……まあ、そういう事ですので後始末は先生、

あなたに任せますね」

 

「"そっかぁ……うーん……"」

 

「ん、発情期の猫は黙って帰るべき」

 

「はあ?発情していませんけど?むしろあんたの

ような見境なく先生を襲おうとしている奴らから

守ってるんだけど?」

 

「ん、なら決闘して勝った方が正義」

 

「はあ、面倒だけど先生の為なら仕方ないかな」

 

「"微笑ましいなぁ。あ、少女忍法帖ミチルっちが

更新されてる。これを見てから止めようかな"」

 

二人の争いの影響で仮眠前まで作成していた

書類が吹き飛ばされたのを見た先生は現実逃避を

してしまった。徹夜をして作業をしていたものが

理不尽にも吹き飛んでしまったので仕方ない。




ミチルっち街歩き編


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待ち侘びた出会い……?

百鬼夜行自治区内にある喫茶店にて

 

やけに上機嫌でテンションが高い目の前の生徒に

対して若干困惑しているマエストロとユメ。

運ばれてきた『恋の予感』という絶妙な名前で

桃色の液体に更に動揺しつつもその生徒の方を向き

彼女が口を開くのを待っていた。

 

「先程は助太刀していただき感謝致しますわ!

とーっても凄かったですわね!まさに阿吽の呼吸と

言える程の連携……もしやあなた様は遠い昔に

生き別れになってしまった幼馴染なのですか!?」

 

『え、えっと……多分違うと思うよ』

 

「あら……そうでしたか。それは残念ですが今は

置いておきます。改めてご挨拶を申し上げますわ。

身共はかで……」

 

「かで?」

 

「ユ、ユカリと申します。以後お見知りおきを」

 

「あ、ああ。よろしく頼む。私は……」

 

「貴方の事は存じ上げておりますわ。シャーレの

先生ですわよね。噂には聞いておりましたので」

 

「いや私は……」

 

『なので先生はいいとしてそちらの方のお名前を

お伺いしたいのですわ!」

 

『私の名前?ユメだよ』

 

「ユメさんですわね。同じユから始まる名前同士

仲良くしましょう!」

 

『う、うん……そうだね』

 

「ところで……何故お二人はあの時助太刀して

いただけたのでしょうか?」

 

「偶然視界に入ったからだな」

 

『ユカリちゃんが困ってそうだったから……それに

相手の姿を見て嫌な記憶を思い出したから、かな』

 

「なるほどですわ。どうやらあなた方は昔先輩から

聞いた人とは違うようですわね。初めは心優しい

お方でしたのに、後になって「オレだよ、オレ!」

と言い、あり得ない金額を要求してくる不届き者が

いるとかいないとか……」

 

「それはただのオレオレ詐欺だな」

 

『セリカちゃん辺りなら騙されるかも……』

 

「なるほど。オレオレ詐欺というのですわね。

……とにかくお二人の助力もあって困っている方を

助けられましたの!このご恩はどうやってお返しを

すればいいのでしょうか」

 

「その程度気にしなくてもいいのだが……」

 

「ええと?人助けをしてもそれを誇らないとは……

やはりあなた方はオレオレ詐欺の方々ですの!?」

 

『……先生、ユカリちゃんって面白い子だね』

 

「ああ。何というか新鮮な反応だな。だが私達は

オレオレ詐欺ではないぞ」

 

「あら、そうでしたの。安心しましたわ」

 

「(純粋すぎるな……)」

 

『(ちょろかわ……)』

 

「それならばお二人はどうして百鬼夜行に?

お祭りはまだ開催されていませんわよ?」

 

「祭り?」

 

「ご存知ないのですか?今年は20年前に廃止された

『百鬼夜行橙籠祭』を復活させたと〜っても特別な

お祭りなのです。てっきりそれ目的かと……」

 

「そうか……通りで自治区内が活気に満ちていて

騒々しい訳だ」

 

『私達はただ自治区内に探している場所があって、

お祭り目的ではないんだ』

 

「なるほど……ではあれば身共がその探し場所まで

案内致しますわ!」

 

「それは助かるのだが……探している場所に関する

情報が曖昧なものでな……鳥居がある場所なのは

確実なのだが……」

 

「鳥居……なるほど。であれば片っ端から回って

探すと致しましょう!さあこちらに!」

 

「うおっ……!?急に手を引くな……またこの

恋の予感とかいう液体を飲んでいな……」

 

『あっちょっと……先生を振り回していいのは

私だけなのに……』

 

このユカリと名乗った生徒との出会いが後に大きな

事件に巻き込まれるきっかけとなる事を二人はまだ

知る由もなかった。




その頃のアビドス

「ホシノ先輩、そんなにはまったんですか?
少女忍法帖ミチルっちに」

「えっ、あ、ああうん。最近の若い子が好きそうな
トレンドを抑えておかないとおじさんは話について
いけなくなっちゃうからね。それに……」

「……ホシノ先輩?」

「なんでもないよー本当に」

そう、まだ確証がないから。このまま見間違いで
済ませてもいいのだけれども……もし記憶が正しい
ものであるならこれに映った彼女は……

「皆様お疲れ様です。エビを8000匹配布している
公園があったので差し入れに来ましたよ」

「うへー黒服がまた変な事してるよぉ……」

ーーー補足
もしかしたらブルアカ本編5章を読んでいない人が
いるかもしれないので念の為に

名前 勘解由小路(かでのこうじ)ユカリ
学園 百鬼夜行連合学院
部活 百花繚乱紛争調停委員会
学年 1年生
年齢 15歳
誕生日 6月16日
身長 155cm
趣味 お祈り、駄菓子屋巡り
一人称 身共(みども)

5部において誘拐される子。つまりホシノ枠です?


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道案内、そして別れ

「百鬼夜行とは観光業が盛んな自治区でして。

先程の喫茶店もその内の一つですのよ」

 

「飲めていないがそうなのだな」

 

『テイクアウト用に移してもらったので後で

飲ませてあげますね』

 

「ああ助かる」

 

「この辺りは飲食店が多い通りになってますの。

食べ歩きが出来るものからはんぐりーな方に

おすすめの大盛り料理など……多種多様な品が

揃っているのですわ」

 

「……確かに私の知らない料理が並んでいるな。

あの一杯20万とかいう恐ろしい飲み物といい

観光客に優しいとは思えない値段だが……」

 

『金色の飲み物なんて趣味悪いですね』

 

「あれはあまり美味しくないのであまりおすすめ

出来ませんわ。この辺りでハズレがないものは

やはり甘味ですわね。老舗の店で販売している

みらくる2000なるものは即日完売する程に人気

の甘味ですわよ」

 

『ミラクル2000……?』

 

「トリニティの生徒が話していたのを聞いた事が

ある気がするが……ここにも売っていたのか」

 

「あとは……今は閉鎖しておりますが最近まで

人気だったいなり寿司屋がありましたの。確か

名前は『ふぉっくすいーつ』というもので……」

 

「狐か……安直すぎる気もするが」

 

『いなり寿司……』

 

「どうしたユメ」

 

『えっあっ……少しお腹が空いてしまって……

お恥ずかしい限りです……』

 

「恥ずかしがる事はない。シャーレからここまで

歩いてきたのだから当然だろう」

 

「……少し待っていてくださいまし。身共が今

手軽に食べれるものを探しに行きますわ!」

 

『気持ちは嬉しいけど案内の後で大丈夫だよ』

 

「そうですの?では次の場所に案内しますわ」

 

『うん、お願い』

 

「……本当に大丈夫か?」

 

『はい。後で沢山食べますので』

 

「そうか」

 

ーーー

 

「お次は観光名所が多い通りですわ。昔の武士が

住んでいたとされる城やこちらの劇場では陰陽部の

あいどると呼ばれる方が催し物を定期的に開催して

いるのですわ。……いつも最前列に金色の狐が居る

と言われておりますが……」

 

「金色の狐?セイアの事か?」

 

『セイアちゃん、百鬼夜行に来てるんだね。今度

誘ってみようかな……』

 

「あと……たまにですが忍術研究部なるえりーと

集団が配信を行っているとも噂されております」

 

『忍術研究部……陰陽部といい百鬼夜行はなんか

面白い名前の部活が多いんだね』

 

「ユカリは何の部活に入っているんだ?」

 

「身共はひゃっ……」

 

「ひゃっ?」

 

「ああ、ええっと……」

 

『何か言えない事情があるなら無理して言わなく

てもいいよ』

 

「申し訳ありませんわ……」

 

「訳ありなら仕方ないな。……そろそろ日が暮れて

来る頃か。宿屋のような施設を案内して貰えると

助かるのだが」

 

「はい、身共が案内します!」

 

「助かる」

 

『……そういえば鳥居のある場所への案内は……』

 

「今はいい。だがそれよりもユカリは一体何者なの

だろうか……宿に着いたらあいつに聞いてみるか」

 

ーーー

 

「こちらですわ!百鬼夜行が誇る大樹の側に建つ

温泉旅館『都』ですの。今夜は是非こちらでお休み

くださいませ。では身共はこれで失礼致しますわ」

 

「ああ。夜遅くまで助かったぞ」

 

『ユカリちゃん、またね』

 

「ええ!またお会いしましょう!」

 

『……先生、ユカリちゃんと別れて良かったの

でしょうか……何か悩みを抱えていましたよ』

 

「あまり深く干渉するのもどうかと思ってな。

私達はこの世界の人間ではないのだぞ」

 

『それはそうですけど……』

 

「ユメが言いたい事も分からなくもない。

だが私達の目的はあくまでクズノハという人物を

探す事だからな。それを忘れないでくれ」

 

『……はい』

 

「……だが縁は大事にするべきだと思う。もし

ユカリが私達を頼ってきたのであればその時は

応えてやろうではないか」

 

『……そうですね。それまでは私達自身の目的に

集中しましょう』




その頃 シャーレにて

「"急いでニアの所に行かなきゃ!!"」

「何故私まであなたについて行かないといけないのですか。ただでさえ
アリスによく分からない事を100個言われて疲弊しているのに」

「"マエストロが百鬼夜行に居るんでしょ?なら
話を聞かないといけないからね"」

「はぁ……面倒ですね」

こんな感じで百鬼に向かっていましたとさ


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自分にだからこそ

「ではホシノ、ホシノを頼みましたよ」

 

「任せて。絶対に夜の見回りに行かせないから」

 

「……別にここまでしなくても行かないよ」

 

「いいえ貴女はいつも一人で抱え込んでしまい

その結果無理をしています。小鳥遊ホシノと

寄り添った私が言うのですから間違いないです」

 

「それは私じゃなくてそっちの……はぁ、

これ以上反論しても無駄だって分かったから

大人しく寝るよ。それでいいんでしょ?」

 

「賢明な判断ですね。それでは私は失礼致します。

余ったエビを水槽に放り込む作業があるので」

 

「8000匹なんて持ってくるからだよ」

 

「私の先生がごめんね」

 

「……ま、悪い事をしないならいいんだけどね。

今日一日中余計な事しかしていないけどあの黒服に

悪意がないのは伝わってきたからさ。まあ、

余計な事しかしてないんだけど」

 

「私が潜在意識の中で先生と『お話』してから

時々暴走するようになっちゃって……」

 

「そっかぁ……ん、潜在意識?」

 

「そうそう。今でこそ私大好き!な感じだけど

ちょっと前までずっと先生は堅物でさ。何とか

振り向かせる事が出来て結婚したんだけど……」

 

「うへぇ怖いよー倫理観壊れちゃってるって」

 

「そうなのかな……そうかも……」

 

「というかどうして黒服なんてゲテモノを好きに

なったの?天地がひっくり返ってもあり得ない

事だと思うんだけど。脳破壊案件だよ?」

 

「脳破壊って……大袈裟じゃない?」

 

「実験とかされたでしょ?カイザーPMCと

手を組んで騙してきたよね?なのに……」

 

「えっ先生は誘拐された私を助けに来てくれて

カイザーとは敵対してたよ?」

 

「え?」

 

「……一から話した方がいいかな」

 

ーーー

 

「……みたいな感じで助けられたんだよ」

 

「そっか……黒服が心の支えにね……確かにあの

時期に接触されたらそうなるのも仕方ないのかも」

 

「そっちの先生は本当に悪い大人なんだね……

警戒してる理由が何となく分かったかも……」

 

「……まああの黒服は貴女の話を聞いた上でも

ちょっと気持ち悪いかも」

 

「えぇー酷いよー私の旦那様なんだよ?」

 

「ごめんね。でも不思議だね。同じホシノなのに

歩んだ歴史が違うなんて。私も先生と……」

 

「この世界の先生ってシャーレの?もしかして……

そういう事なの?」

 

「……うん。先生は私が信用出来る唯一の大人で

アビドスの後輩達と同じくらい大事な人なの。

そっちの黒服と比べて過ごした時間は短いけど、

先生は私にとって大切な人なんだよ」

 

「そっか。貴女の恋が実る事を応援してるね」

 

「うへへ、ありがと」

 

「ねえ、今度はそっちの話を聞かせてよ」

 

「いいよーでも何処から話そうかな……あっ、

最近の話なんだけどね」

 

「へえ……シャーレに新年の挨拶とこたつを

持ち込んで先生と添い寝を?」

 

ーーー

 

「……これで入れ終わりましたね」

 

暗闇に包まれた校舎に設置された水槽内にエビを

放り込む作業を終わらせた怪しい大人。一息

ついて休息していると遠方から足音が聞こえる。

 

「誰ですか?」

 

「私だ」

 

声のする方向に居たのは正面を向いた絵画を顔を

隠すように持っている人物。それは面識はあるが

かなり過激な性格であり極力関わりたくない存在

 

「……フランシス」

 

「初めまして、か?黒服……いや、この作品では

『主人公』と呼ぶべきだろうか」

 

「相変わらず理解し難い発言をしていますね……

それよりも何故貴方が居るのですか?」

 

「『先生』という役を与えられたお前に僅かに

興味を持ったに過ぎない。だが接触して理解した。

堕落したお前に価値はなく凡人に成り下がって

いる事をな」

 

「………」

 

「同じゲマトリアとしての選別だ。受け取れ」

 

「これは……」

 

「『ヘイローを壊す爆弾』、ゴルコンダが開発した

搾取を行う為に効率の良い品物だ。もし凡人から

元の地位に戻りたくなったら使うといい」

 

フランシスはそれを言い終えると影のように消え、

彼がこの場に存在していた証拠といえるものは

手元にある爆弾だけであった。

 

「ヘイローを壊す爆弾……このようなもので脅し

生徒から搾取をする……悪い大人としてはそれが

一番理想的なのかもしれませんね。ですが……」

 

今の自分は教師だ。搾取をする必要もない。

凡人と呼ぶなら好きにするといい。この道は誰にも

否定される筋合いはないのだ。

 

「……しかしこの爆弾の構造を理解できれば……

時間がある時にでも研究するとしましょう」

 

……やはり彼は研究者でもあるようだ。



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滞在2日目

共犯者から教えていただいたのですがどうやらこの作品が日刊ランキングに載っていたようです。
いつも読んでいただき感謝致します。


「一つ問いかけてもいいだろうか?」

 

「はい」

 

「何故私は正座をさせられているのだ?」

 

「私がシャーレの先生を面倒な人達から守りつつ

徹夜で百鬼夜行の陰陽部という所まで連れてって

苦労をしている中旅館でイチャついて

楽しんでいたからですけど何か不満な事が?」

 

「それは仕方ないだろう。浴衣を着た湯上がりの

恋人を見たら愉しむのも辞さないのは当然だ」

 

『実は私も少し期待しちゃってたりしたんだ』

 

「バカップルですね。まだ父と母の方が理性は

あると思いますよ」

 

「それはない」

『それはないよ』

 

「……確かにそうでした。そういえば例の鳥居が

あった場所は見つかったのですか?」

 

「まだ見つかっていない。今日から本格的に捜索

を始めようと思う」

 

『とはいえ目星が付いていない以上闇雲に歩き

回るのは得策ではないと思いますが……』

 

「それもそうだな……」

 

「とりあえず先生は徹夜して働いた私を労る

必要があると思うのです。つまり美味しい食事を

私に食べさせる事を要求します」

 

「構わないが……ケイはそこまで我儘な性格

だったのだろうか……」

 

「私は歳相応の振る舞いをしているだけです。

早く私に食べさせてください」

 

「歳相応なのか……?まあいい。どちらにせよ

これから朝食を摂る予定だったからな」

 

『旅館は何故か提供出来る食事のレパートリーが

焼きイカとお刺身しかないらしいのでこれから

ユカリちゃんに教えていただいた食事処に行こうと

思っていまして』

 

「ユカリ?」

 

「それについては向かいながら話すとしよう」

 

ーーー

 

「本当にそれを食べるのか?」

 

「これくらいなら食べ切れます」

 

『まさかホールケーキを一人で食べるなんて……

アンドロイドって凄いんだね』

 

「今更だがアンドロイドなのに食事を摂って

大丈夫なのか?……まあその様子なら大丈夫か」

 

「もごもご」

 

「口の中にあるものを飲み込んでから話してくれ

行儀が悪いのは美しくない」

 

「……私は確かにアンドロイドですが超精密なので

何も問題がありません。なんなら体重が全く変動

しないので甘いものも食べ放題なのです」

 

『体重が増えない……?羨ましい……』

 

「そうか……トリニティの生徒達に聞かれたら

殺意を向けられてしまいそうだな。あとユメは

もっと食べてくれ昨日も思ったが身体が細すぎる」

 

『……では先生の手料理が食べたいです』

 

「あ、ああ……まだ大したものは作れないがユメの

為なら用意をしよう」

 

『楽しみにしていますね♪』

 

「息をするようにイチャついているお二人こそ

トリニティの生徒に殺意を向けられてそうですね。

あとどうして先生はユメの身体の細さに関して何故

昨日疑問に思っているのですか?」

 

「それは……偶然視界に入って気になったのだ」

 

「……まあ、何をしていようとも構いませんが

あまり夜遅くまで行為を行うのは避けておいて

くださいね。不測の事態に備えておきましょう」

 

「そうだな」

 

『……あれ?』

 

「どうした?」

 

『いえ……今何か変な感じがして……まるで私の

ように神秘が反転した人の気配を感じまして……』

 

「なんだと?……いや、考えてみれば当然と言える

私達の世界にユメが来たのと同様にこの世界にも

神秘が反転した生徒が来てもおかしくはない。

問題はそれが誰なのか、だが」

 

「ああ、それなら昨日先生の記憶を読み取った際に

確認しましたよ。その生徒の名前は確か……

『砂狼シロコ』と記録されていました」

 

『シロコちゃん……そっか、通りで知っている気配

だと思ったんだ。あの子も私みたいな経験を……』

 

「もう一人のシロコは騒動が落ち着いた後各地を

放浪しているとの事です。……最もシャーレの先生

に接触はしていないようですが」

 

「そうか……」

 

『先生、その……』

 

「分かっている。そのシロコを探しに行きたいの

だろう?鳥居の方は私が探しておくからユメの

やりたいようにやっていい。ケイもユメに同行

してくれ。任せたぞ」

 

「分かりました」

 

『先生、ありがとうございます』

 

「(……尚更反転した状態から治す方法を見つけねば

ならないようだな。面倒ではあるがその先にある

笑顔という名の芸術の為ならば構わない。それが

私の崇高であるのだからな)」




その頃のアビドス

「ホシノ、ホシノを見かけませんでしたか?」

「どしたの先生寝ぼけてるの?私はここだよ?」

「いえ、こちらのホシノと言いますか……」

「あ、ああ。あの子なら用事があるって朝から
走って出掛けて行ったよ」

「何ですって?行き先はどちらですか?」

「確か…ャ……に」

「何故そこに行く必要が……」

こんな感じです


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八方塞がり

「参ったな。まさかこんな結果になるとは……」

 

ユメとケイ、二人と別れたマエストロは一人で

自治区内を歩きクズノハに関する情報を集めようと

尋ねて回ったものの……

 

『すいません、今はお祭りの準備で忙しくて……』

 

『すまねえな兄ちゃん、後にしてくれないか?』

 

……のように誰も話を聞いてくれないのだ。

昨日ユカリから聞いた通り特別な祭りだとは

聞いていたが皆がここまで本気で取り組んでいる

とは想定外だった。いっそのこと祭りが終わり

ある程度収まった後に訪ね回った方が良いのでは

ないかとまで考え始める始末だ。まさか糸口すら

掴めないなんて誰が想像できただろうか?これなら

自室で研究を続けていた方がまだ進歩があったかも

しれないとまで思えてくる。

 

「鳥居のような建築物はいくつか確認出来たが……

私が探しているものではなかったな。……せめて

百鬼夜行に詳しい知り合いでも居れば良いのだが

生憎そのような……いや、あれに連絡するのは気が

ひけるな……しかし背に腹は変えられないか……

そもそもあいつに繋がるのか分からないが……」

 

端末の通話履歴から参照してとある人物に電話を

かけた。呼び出し音が鳴り始めて10秒程経過した後

『はい、こちら皆のお母さんです』と明らかに

怪しい応答があった。本来であれば間違い電話と

切り捨てたいが今回はそうもいかない。

 

「マダム、朝からすまないな」

 

『……あ?マエストロですか。てっきり生徒からの

連絡だと思って心が昂っていたと言うのに』

 

「相変わらずで助かる。生徒に関する相談が……」

 

『それならそうと早くいいなさい全く貴方という人

は物事を伝えるのが下手ですねまあいいですけど!

それでどのような内容なのです?』

 

「急に早口になったな……まあいい。実は今

百鬼夜行連合学院の自治区内に訪れていてな」

 

『何ですって?あの和装束の可愛い生徒達が居る

夢の楽園と言われている百鬼夜行の自治区に?』

 

「確かに和装束の生徒は多いがそこは重要ではなく

私が聞きたいのは……」

 

『分かっています。あれですよね?修行部の衣装を

ユメに着せたいと。そう仰りたいんですね?』

 

「すまない真面目な話なのでちゃんと聞いてくれ」

 

『……それは失礼しました。では改めて内容を

お聞きしてもよろしいですか?』

 

「ああ。私が百鬼夜行に来た理由はクズノハという

人物を探す為なのだ。接触する事てユメを元に戻す

手がかりが掴めるかもしれない」

 

『ユメを元に戻す……つまりテラー化を治す方法を

そのクズノハという人物が知っていると?何処で

そのような情報を知ったのです?』

 

「それはだな……端的に話すとするなら……

昔こちらの世界に訪れたホシノに会いに行き結婚の

報告をする予定の黒服達についていき、シャーレに

向かい三徹で疲弊した先生の記憶を読み取ってその

クズノハという人物がもし反転した生徒を元に戻し

たいと言うのなら尋ねてくれと言っていた記憶を

見つけた、という感じだな」

 

『3行でまとめてくれませんか?』

 

「もう一人のホシノの世界に行く。

疲れて眠ったシャーレの先生の記憶を読み取る

クズノハという生徒がユメを治す鍵を握っている」

 

『なるほど……大体把握しました。ですが一つ

気になった事があるのですが……』

 

「どうした?」

 

『シャーレの先生に恐怖に染まった生徒を治す方法

の記憶があるという事はですよ?そっちの世界にも

『恐怖に染まった生徒』が存在しているのでは?と

思いましてね』

 

「生徒の事に関しては頭の回転が早いな。マダムの

言う通りこちらの世界にも存在しているようだ。

奇しくもユメと同じアビドスの生徒がな……」

 

『……尚更そのクズノハに接触しなければいけない

ようですね。分かりました。こちらでも今から

調べ始めますね』

 

「助かる。では吉報を期待してい……」

 

「見つけましたわ〜!!」

 

「うおっ!?」

 

『マエストロ!?何かそちらの方で大きな物音が

聞こえましたが大丈夫ですか!?』

 

「あ、ああ。大丈夫だ。では連絡を待っている」

 

『分かりました』

 

「……あら?電話中でしたの?では身共は離れて

お待ちしております」

 

「気にしないでくれ。今ちょうど終わった」

 

「そうですのね!では先生、身共についてきて

くださるかしら!」

 

「構わないが……何処にだ?」

 

「陰陽部の部室ですわ!さあ行きますわよ!」

 

「あ、おい引っ張るな!スーツが伸びてしまう!」

 

「時間は有限ですのよ!さあ、さあ!」

 

「分かった!分かったから離してくれ!」

 

じゃじゃ馬のようなユカリに振り回される芸術家。

何故か陰陽部に一緒に行く流れになっているが

現状行き詰まっていた事ユカリの圧が強く

断りづらい雰囲気があったので大人しくついて

行く事にした。




まだ百花繚乱編の3.4話辺りまでしか進んでいない事実

やりたい展開が多すぎるのです


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砂の神捜索隊

「まさか百鬼夜行に来て早々に自治区外に行く事に

なるとは思いませんでした」

 

『ごめんね……やっぱり私と先生の二人で探しに』

 

「いえそれはダメですどうせイチャついて無駄に時間

を使うオチが見えるので」

 

『そうかな……そうかも』

 

「それと一つ聞いてもいいですか?反転したシロコに

接触して何をしようと言うのです?」

 

『もし私と同じような経緯で反転したとするなら……

きっと心の支えを求めてると思うんだ。だからさ、

放っておかないんだよ』

 

「ですが既にこの世界のアビドスが居るのならば

心の支えとしては充分なのでは?先生も居ますし」

 

『うーんとそうだな……ケイちゃんは昨日さ、

シャーレに残ってる時にこの世界のアリスちゃんに

説教されたーみたいな事を言ってなかった?』

 

「ああ、天童アリスの事ですね」

 

『最初に見た時どんな印象を受けた?』

 

「どんな印象と言われましてもアリスに似ていると

思う程度でしたね。見た目は瓜二つですが中身は

若干違っているような雰囲気はありました。

言い方はよくありませんがまるで別人のような

感じはしましたね」

 

『別人のような、じゃなくて別人なんだよ。

嫌な言い方をするなら大切な人によく似た他人。

私もね、最初はアビドスに滞在して大切な後輩達と

一緒に過ごせるって思ってたんだ。……でもね。

嫌でも気づいちゃうんだ。ここに私の居場所はない

って……だから……』

 

「……まあ言いたい事は大体分かりました。それで

どのように心の支えになるつもりですか?」

 

『それは会ってから考えるよ。反転シロコちゃんが

私に会った事があるかないかで変わってくるし、

まずは接触しない事には始まらないからね』

 

「そうですね。では早速反転シロコの居場所を

突き止めるとしましょうか」

 

『うん、行こう。あっちの方角からそれっぽい

反応があるからそこから探してみよっか』

 

「分かりました。あっちは……ゲヘナ自治区の

辺りでしょうか」

 

『ゲヘナかぁ……あ、じゃああの赤いおばさんが

居るのかな?』

 

「いえ、こちらの世界に居たベアトリーチェは

何処かの時空に追放されたと記録が残ってます。

恐らく暴走して羽目を外しすぎたのでしょう」

 

『確かにあのおばさんなら暴走するよね……』

 

「愛という欲望は抑えられないものです。私も

前に抑えられずに父を襲いかけました」

 

『ケイちゃんも黒服を?……やっぱり黒服って

ロリコンなのかな……幼児体型が好みとか?』

 

「どうでしょう。私が一方的に父の事が好きな

だけですので」

 

『ちょっと聞いてみよっか?』

 

「いえ結構で……既に電話をかけているのですか?

待ってください、まだ心の準備が……」

 

『はい。貴女から連絡してくるとは珍しいですね。

どのような要件ですか?』

 

『ねえ黒服、ケイちゃんのこと好き?』

 

『はぁ、唐突ですね。何故そのようなことを?』

 

『ちょっと気になっただけ。で、どうなの?』

 

『そうですね。本人には面と向かって言えませんが

私の大切な娘ですよ。恋愛面に関しては貴女も

ご存知の通りホシノ以外を愛する事はないので』

 

『そっか。ありがと、それとホシノちゃんと結婚

した事は死ぬまで呪うから』

 

『最後にとんでもない言葉を残していくのはど』

 

『大切な娘だって。……あれ、ケイちゃん?』

 

「大切……私が大切……」

 

『おーい大丈夫?』

 

「……失礼しました。取り乱していたようです。

では気を取り直して父を襲いに行きましょう」

 

『目的変わってない?反転シロコちゃんを探しに

行くんだよ?』

 

「ああ、そうでした。……やっぱり今からでも

父を襲いに行く目的に変えませんか?」

 

『ダメだよ』

 

「どうしてもですか?」

 

『どうしても。ほら観念して行くよ』

 

「せめて父に抱きしめられてから……」

 

『はいはい駄々こねないの』

 

「何故私はイチャつく事が許されないのです」

 

『ケイちゃんが黒服とイチャついたらホシノちゃん

の脳が破壊されちゃうから』




明日はふぇすに行くので投稿出来ないかもしれません


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特別編:ブルアカふぇすに行った黒服とベア

本日は外伝です


「行きますよ」

 

「何処にですか?」

 

「ブルアカふぇすに決まっているでしょう!?」

 

「ああ、今日でしたか。では行くとしましょう。

……と思いましたがまだ朝の4時ですよ?」

 

「何を言いますか!?こういうのはコミケのように

朝早く行って場所を確保しておかないといけません

それは太鼓の昔から決められた運命であって……」

 

「いえ、私はファストチケットを取っているので

決められた時間通りに行けば問題ありません」

 

「ファストチケットってなんですか?」

 

「………」

 

ーーー

 

『黒服……恨みますからね』

 

「貴女がファストチケットの申請をしていないのが

悪いと思うのですが」

 

『しかしですよ!?こんな大勢の中に入るとなると

間違いなく痴漢をされてしまいます!!』

 

「誰も熟したおばさんには興味がないと思います」

 

『言われてみれば……って黒服今とても失礼な』

 

「……おや、回線が悪いようですね。では開場

までしばらく待つとしましょうか」

 

ーーー9時開場

 

「ふむ……どうやら生徒達のパネルを飾って

お出迎えしてくれ……ホシノ?ホシノが何故

外の世界に……何故?何故?何故?

……コスプレイヤー?ああ、そういう事ですか。

しかし残念ながらあの可愛らしい幼児体型まで

は似せられなかったようですね。ですがホシノ

のコスプレを選んだのは最高のセンスですよ」

 

『黒服、早く物販に行ってください!最初に

会場に入れたのですよ!?』

 

「……分かりましたよ。五月蝿いですね」

 

『物販は戦争なのですよ!?さあ早く!!』

 

「しかしホシノのグッズは何処にも……」

 

『ステッカーがありますよ』

 

「並びましょう」

 

ーーー

 

「無事にステッカーセットは購入出来ましたね。

次は……」

 

「当然トイコーナーでしょう!!ヒナが!ヒナが

ラインナップされているのですから!!」

 

「ではそちらの方に……待ってくださいホシノが

ラインナップに居ませんよ」

 

「何ですって?そんな筈が……ありますね」

 

「……ですがアリスはケイが欲しがるので回しに

行かざるを得ないようですね」

 

「親バカですか?」

 

「いえ悪い大人です」

 

「今更そんな事を言っても誰も信用しませんよ」

 

「そのようですね」

 

ーーー

 

「何故……何故ヒナだけ出ないのです!!もう

4週目、つまり20連したのですよ!?」

 

「本編のヒナに好かれていないからでは?」

 

「それは貴方も同じでしょうが!!」

 

「マダムがとても面倒な状態になってますね……」

 

「誰が生き遅れクソババアですって!?」

 

「誰も言ってないです。ほら、私が引いたヒナを

差し上げますから落ち着いてください」

 

「おやおや良いのですかありがとうございます

いやぁもつべき者は同志と言いますか?やはり

私の人徳が成せる技とても言いますか?貴方の

そのご厚意に感謝致しますよそうそう今夜は

焼肉にでも行きますか?当然高級焼肉です。

値段?いえいえ、奢りますよ」

 

「一気に上機嫌になりましたね……」

 

「それはもう。こんな可愛いヒナのアクリルが

私の手のうちに……ヴッ゛」

 

「会場内で爆発するのは厳禁ですよ」

 

「おや失礼では一度会場から出て……ヴッ゛」ボンッ!

 

「どういう構造をしているんでしょうね」

 

ーーー

 

「ここでヒナと撮影が出来るらしいです。整理券を

持って並ぶとしましょう」

 

「いいでしょう。……ふむ、思っていたよりも

ホシノの種類が多いですね」

 

「パジャマヒナですって!?これ一択ですよね!」

 

「いえホシノにしますが」

 

「そのブレない姿勢、私は好きですよ」

 

「は、はぁ。どうも」

 

「し〜かしこんなにも生徒が居るだなんてこれは

ゲヘナに留まるのをやめるべきでしょうか」

 

「ヒナが悲しむと思いますよ」

 

「それはいけないですね」

 

その後は様々なブースを歩き回り……

 

「ペロロ様ー!!いきなさい!!」

 

「……なんですかこの奇妙な映像は」

 

「ファーwwwペロロ様が勝ちましたよ黒服!!」

 

「そのようですね……」

 

ぬいぐるみのレースを眺めたり……

 

「これは◯じゃないんですか!?ええ!?」

 

「当然×ですよ。ホシノの髪の毛の長さ程度把握

しておくのは義務でしょうね」

 

「気持ち悪いですね」

 

「マダムに言われたらおしまいですね」

 

マルバツクイズをやったり……

 

「ビンゴ!ビンゴですよ!そこのバニーさん!

貴女をお持ち帰りします!」

 

「そういうルールではありませんよ」

 

ビンゴゲームで遊んだりしていた。

 

「遊んだ後の角煮まんは美味しいですね。あと

フウカのカレーも格別です。黒服と注文して堪能

するべきだと思うのですが」

 

「私はコーヒーで充分です」

 

「なんて勿体無い。ここでしか食べれない限定の

メニューなのですよ?」

 

「今夜はホシノが夕飯を作ってくれると言っていた

ので胃袋は空にしておきたいのです」

 

「そうですか。では焼肉はまた今度にしましょう」

 

「そうしていただけると助かります」

 

「さて……そろそろ帰りますか」

 

「そうしましょう。人が多すぎて落ち着ける場所

がありませんからね」

 

「2日目はどうします?」

 

「チケットを取っていないのと2日もホシノと

離れるのは嫌なので」

 

「それもそうですね。では最後に……ヒナ万歳!」

 

この発言の後に会場がベアの爆発で吹き飛んだ。

つまり爆発オチである。悲しいね




ファストチケット75番だったのでとても早く物販が買えて満足しました


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アーカイブに混ざる異質

前回のあらすじ

クズノハを探すマエストロを
陰陽部へ連行するユカリ


「……なあ。何故私はユカリの先輩を探すのに

付き合わなければならないのだろうか。正直な話

私はユカリと陰陽部との話に全くついていけて

居なかったから何故こうなったのか分からない」

 

先程ユカリに首根っこを掴まれて引きずられて

陰陽部の部室に連れて行かれた後、そこで始まった

百鬼夜行独自の単語によるキャッチボールが展開

されてしまい話についていけず状況があまり

理解できていないのだ。ユカリもユカリで何故か

こちらの事をシャーレの先生と勘違いしており、

陰陽部の部員もその誤解に気づかずに話を進めて

いたようにも思える。つまりかなり面倒な状況に

巻き込まれてしまっている。

 

「そうでしたの?それならそうと早く仰って

くだされば……では改めてお伝えしますわ。

身共は勘解由小路ユカリ!百鬼夜行連合学院の

百花繚乱紛争調停委員会に所属している期待の

超新星えりーとですわ!」

 

「それはまた随分と肩書きが長いな……まずは

百花繚乱紛争調停委員会について聞こうか」

 

「そうですわね。言ってしまえば風紀委員会の

ような立ち位置であり均衡を保つ調停者の集い

ですわ!長い歴史のある伝統的な委員会ですのよ」

 

「そうか。それでさっきの話し合いで陰陽部の生徒

達が驚いていたのか。……しかし解散令が出たとも

言っていたが……」

 

「それはあくまで噂ですわ!……多分」

 

「何故そこが曖昧なのか分からないな。自身が所属

している委員会の事なのだから把握していないと

おかしいと思うが」

 

「……実は委員長とその代理の二人が行方不明に

なっておりまして……」

 

「代理まで失踪したのか……組織として欠陥が

ありすぎないか?」

 

「ですがその委員長代理であるナグサ先輩が姿を

現したと噂を聞いたのです!これはちゃんすだと

思いまして!」

 

「そんな事も言っていたな。ケイショウセン?

という単語も聞こえたような気がするが」

 

「百花繚乱継承戦の事ですわね!一言でいえば

下剋上ですわ!委員会のめんばーであれば誰でも

継承戦を申し込んでその座を自身のものにする事

が可能なのです」

 

「物騒だな……」

 

「現委員長代理であるナグサ先輩をぶっ倒して

百花繚乱のユカリ伝説が幕を開けるのですわ!」

 

「成程。とりあえずユカリの目的は理解した。

だが何故私を巻き込む必要があるのだろうか」

 

「百花繚乱継承戦には証人が必要ですの。

百花繚乱の幹部ともう一人無関係な人。つまり

先生、貴方にはユカリ伝説の幕開けの証人として

力をお貸ししていただきたいのですわ!」

 

「……確かに私は教師ではあるが……一つ確認

してもいいだろうか?」

 

「なんですの?」

 

「私をシャーレの先生だと誤解していないか?」

 

「……違うんですの!?」

 

「先程陰陽部の部屋に寝ている大人が居ただろう。

あれがシャーレの先生だ」

 

「そうでしたのね……ですが貴方も先生である事

には変わりがありませんわ!当然生徒の頼みなら

聞いてくださりますわよね?」

 

「それは……まあ乗りかかった船だからな。

半ば強引ではあったが」

 

「流石ですわー!!先生が近くにいてくださるなら

身共にとって百人力です!!これで継承戦に勝利

して証を受け取る事が出来ますわ!」

 

「証か……委員長の証明のようなものか?」

 

「はい!百花繚乱の委員長が代々引き継いできた

「幽霊を捕らえる事が出来る銃」ですの!」

 

「幽霊を捕らえる……少し興味はあるがなんと

いうか微妙じゃないか?」

 

「あとは委員長は大予言者クズノハ様に会う権利

を得られるくらいでしょうか」

 

「そうか。……ん?今なんて言った?」

 

「大予言者クズノハ様に会う権利を……」

 

「……これは思わぬ収穫を得たようだ。よし、

私もユカリに協力する理由が出来た。やってやろう

ではないか、下剋上」

 

「何故理由が出来たのかはよく分かりませんが……

心強いですわー!そうであれば継承戦の準備を

終わらせますわよー!!」

 

偶然の出会いが生んだ探し人の手掛かり。

自らの目的の為にもユカリの継承戦を滞りなく

進ませる必要がありそうだ。




本日水着ホシノの復刻ピックアップが発表されました。
引けたら書くのやめてもいいかなぁ……


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報われる事のなかった砂の神

彼女は放浪している。あてもなく彷徨うように

この世界の一部として順応したかのように

『色彩』という呪縛から解放された砂の神は

何を想い一人生きているのか

壊れてしまった自らの居場所か

失ってしまった大切な仲間達か

最後に赦しを与えてくれた『先生』か

その答えは彼女のみが知っている

自らを認めてくれたもう一人の自分に貰った

覆面を左手に持ってただひたすらに進み続けて

自分が存在してもいい居場所を求めていた

ーーそんなもの見つかる筈がないというのに

 

「……本当にこっちの方から反応があるのですか?

この先は何もない空間ですよ」

 

『大丈夫、私を信じて』

 

突然話し声が聞こえるものだから覆面をしまって

銃を構え気配を消して待つ事にした。

しかしいつまで経っても近づいてくる気配がない。

 

『……こんなところに居たんだね』

 

『!?』

 

いつの間に背後を取られていたのだろうか。

まるで気配を感じなかった……しかし目の前に居る

人は銃を持っていない。

 

『大丈夫。私は君の味方だよ』

 

僅かに光が灯っている瞳でこちらを見て優しく

問いかけてくる人に思わず心を許してしまいそう

になるが騙されてはいけない。

 

『要らない。私は……』

 

『一人で生きていく、だよね』

 

『っ……』

 

『そう警戒しないで。私はただ君と話をしたいだけ

なんだ。似た境遇の君と……ね?』

 

『………』

 

似た境遇……そんな筈はない。私の経験した地獄を

超えるものなんてない。……だけど彼女のヘイロー

は私と同じように黒く染まっていて少し欠けている

のを見るに間違っていないのかもしれない。

……もしかしたら共感してくれるのかな

 

『……少しだけならいいよ』

 

『うん。ありがとう。……そんな状態になっても

シロコちゃんの優しさは変わらないね』

 

『私の名前……知ってるの?』

 

『勿論だよ。だって君は私の後輩だからね』

 

『……?』

 

『……そっか。シロコちゃんは私に会った事が

ないんだね。それじゃあそれも踏まえて話そう』

 

『……ん』

 

ーーー

 

私の事を後輩と呼ぶ彼女はユメと名乗った。

驚いた事に彼女はアビドスの生徒会長でありあの

ホシノ先輩の先輩なのだそう。そして彼女も私と

同じで大切な人を全員失ったらしい。

 

『自慢じゃないけどさ……私は大切な人も学校も

何一つ守れなかったんだ。……情けないよね』

 

『それは私も同じ』

 

『……そうだね。だからこそ私はシロコちゃんを

放っておけないんだ。だからさ……もし良ければ

私と一緒に来て欲しいんだ』

 

『どうして私に手を差し伸べるの?貴女だって

私と同じような経験をしたのなら他の人を

助かる余裕なんて持てない筈……』

 

『君を助けるのに理由は要らない。私はただ

孤独に苦しんでるシロコちゃんを放置して

生きていられるほど強くはないんだ』

 

『……お人よしなんだね』

 

『そうかな……そうかも』

 

『……でも少しだけ興味が湧いた。分かった。

貴女と一緒に行く。……宜しく』

 

『……うん。ありがとう』

 

「話は終わりました?終わりましたね?では

早く戻りましょう」

 

『ケイちゃんずっと不機嫌じゃない?せっかく

シロコちゃんを見つけたのにどうしたの?』

 

「あのですね。ただえさえ徹夜しているというのに

歩き回されてもう眠さが限界なんですよ。早く宿に

戻って寝たいんですよね」

 

『え、じゃあワープ機能で先に戻っててもいいよ』

 

「昨日アリスに接触した際に銃が不調になって

まともに機能していないんですよ。ほらさっさと

帰って私をお風呂に入れてコーヒー牛乳を飲ませて

浴衣に着替えさせて眠らせてください」

 

『凄く甘えてくるじゃん……あれ、黒服のところに

行かなくていいの?』

 

「今のテンションで父に会いに行ったら思わず

襲ってしまうので避けておきます。先程の件も

踏まえるとほぼ100%襲います」

 

『暴走してるね……じゃあ宿に戻ろっか。

シロコちゃんも行こう?』

 

『ん……ん?黒服が父……?』

 

『その辺の話は歩きながらしよっか。多分だけど

ほとんど信じられないような話だけどね』

 

『……大丈夫。よほどの事がない限りは信じる』

 

ーーー数分後

 

『流石にそんな事はあり得ない。黒服がホシノ先輩

と結婚?絶対にない。嘘をついてる』

 

『……まあ、こうなるよね。私もこうなったし』

 

「父の魅力が伝わっていないのは残念です」




黒服がホシノと結婚したとかいうアビドス組の脳破壊


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はぐれ星の襲来

なんだかんだ200話いきました。
正直他の方々と違い一つの文字数が少ないので
中身が少ないですが続いてます。
今後も細々と続けさせていただきたいと思います


「………」

 

つい勢いだけで百鬼夜行に来てしまったものの……

本当に居るのかはまだ分からない。昨日後輩に見せて

もらった生配信の映像の中によく知る人物の後ろ姿が

映っていたのだ。助けられなかった未練が見せた幻覚

という可能性と充分にあるがそれでも百鬼夜行に

来てしまったのだから探してみよう。映像に映った

木の人形のような存在と亡くなった筈の先輩を。

もしかつての自分のように悪い大人に利用されて

いるのなら助けたい。昔の自分は助けられなかった

けれど今の自分なら……

 

「……それに今ならアビドスに気持ち悪い黒服と

もう一人の私が居るから何か問題が起きても大丈夫

だと思うし……とりあえず地道に探して……」

 

自治区内で聞き込みをしようとしたが突如携帯電話

が鳴った。着信先を確認してみると『黒服』と

書かれており数秒拒否しようか迷ってしまったが

渋々電話をとる事にした。

 

「……何?」

 

『おはようございます、ホシノ。朝早くから遠出を

しているようですが急用でもありましたか?』

 

「ちょっと人探しをしているだけ」

 

『そうでしたか。貴女程の実力があればある程度

自衛は出来ると思いますので気の済むまで留守に

していてもこちらは問題ありません』

 

「……やっぱり優しい黒服って気持ち悪いね。

でもありがとう。なるべく早く戻るって皆に

伝えておいて」

 

『分かりました。……ところでホシノ、貴女今朝

朝食を食べていませんよね?端末に周辺の食事処

一覧とホシノのカードに10万クレジットを追加

しておきましたので食べてくださいね』

 

「そこまでしてもらう義理はな……うわ本当に

クレジット追加されてる。過保護すぎない?

何が黒服をそんな風にさせているの?」

 

『私なりの応援ですよ。世界は違えど私はホシノ

という存在を約二年程見てきましたので。貴女の

性格もある程度把握しているつもりです。誰にも

相談出来ない悩みを抱えている事なんて昨日の

うちにお見通しでしたよ』

 

「観察眼が鋭いっていうか気持ち悪い……」

 

『……まあいいでしょう。気持ち悪いと言われる

事には慣れてしまいましたので。とにかく身体を

壊さない程度に過ごしてくださいね』

 

「そう簡単に壊れないよ。最大の神秘らしいし」

 

『……確かにそうですね。ですがそれ以前に

ホシノ、貴女は一人の人間です。貴女が無理を

すれば悲しむ人がいる事をお忘れなく』

 

「……本当に気持ち悪い黒服。だけど一理あるね。

分かった、無理はしないって約束する」

 

『ご理解いただけたようで何よりです。ですので

30分おきに連絡をしていただいて問題がないと

お伝えしてもら……』

 

「面倒だから切るね」

 

半ば強引に電話を切って少しだけ緊張がほぐれて

心に余裕が持てている事を感じた。あんな人でも

気にかけてくれるだけでありがたいのだと思い

立ち止まっていた足を動かし始めた。

 

「次はあちらに参りますわよー!!」

 

……突然遠くからそんな声が聞こえた。どうやら

百鬼夜行には元気のあるお嬢様口調の子が存在

しているらしい。……なんて何処にでも居るね。

そんな風に頭の中で考えていた時、視界に入って

きたのはそのお嬢様?のような少女に手を引かれ

焦っているようにも見えるスーツを着た木の人形

だった。……木の人形?

 

「……あれって映像に映っていた木の人形だよね。

まさかこんなに早く手掛かりが見つかるなんて」

 

既に走り去ってしまったお嬢様とその人形。

心の中で黒服に謝罪しつつも朝食を食べる事を放棄

して二人を追う事にした。

 

ーーー

 

「さあ継承戦を開催する為に駆け回りますわよ!」

 

「それはいいのだが何故私は引きずられなければ

ならないのだろうか。スーツが汚れてしまうぞ」

 

「この方が移動効率が良いからですわ!それに

男性は尻に敷かれるのがお好きなのだとこの前

書物で目にしたのです!」

 

「なんだその偏った知識は……それは本当に

意味を理解して発言しているのか?」

 

「こういうものはふぃ〜りんぐで動くべきだと

書物に書かれていましたの!!」

 

「純粋なのか馬鹿なのか分からないな……」

 

「……先生、今気づいた事があるのですが……

身共達、誰かに追われていますわ」

 

「どうした急に。まさか今朝私と合流する前に

悪事でも働いたのか?自首は早めにした方がいい」

 

「悪事など働いていませんわ!?むしろ正義側の

行いをしているだけですの!!」

 

「正義の行いというのも捉え方によっては悪と

変わらないのだ」

 

「今はそんな哲学的な話をではなく単純に身共の

使用人が追いかけてきているだけだと思います。

今朝も半ば強引に家を抜け出してきたので!」

 

「そうか、ユカリは名家のお嬢様だったな。

だが私の目的の為にも捕まらせる訳には

いかないのでな。これを使わせてもらおう」

 

「流石先生ですわ!打開策を持っているのですね!

早く使ってくださいまし!」

 

「これを生徒に使うのは極力避けて起きたかったが

致し方あるまい……」

 

ーーー

 

「木の人形と紫髪の子はこっちに……」

 

「はぁ〜!?なんですのこのクソゲーは!?

台パン不可避ですわ〜!!」

 

「うわぁ……」

 

「ああ?何ですの?見せ物じゃねえですわよ!!

しばきまわしてやりますわゴルァ!!」

 

「百鬼夜行の子達ってあの狐ちゃんといい何で

変なのしか居ないんだろう。……ねえ、一つ

聞いてもいい?さっきまで一緒にいた木の人形

みたいな人って何処に行ったの?」

 

「私に質問するなぁー!?」

 

「えぇ……」

 

ーーー

 

「……どうやら追っ手と距離を離せたよう

ですわね。先生、先程は何をしましたの?」

 

「ユカリを複製した」

 

「みめしす?って何ですの?」

 

「分かりやすくいうならあらゆるものを複製

出来る便利なものだ」

 

「あらゆるものを……なるほど!通りで身共の

ような人影が突然現れたのですわね!」

 

「中身は出来損ないだがな。偶然にも見た目は

完璧に複製出来たので時間は稼げるだろう」

 

「……先生というのは不思議な能力を持って

いるのですわね。……はっ!まさか妖の類い

ですの!?であればここで祓うべきでは……」

 

「間違ってはいないがやめてくれ」

 

「そうですわね!先生に継承戦の立ち会いを

お願いしなければなりませんので!それに先生

が悪い人ではない事は既に理解してますわ!」

 

「私は悪い大人だぞ」

 

「説得力が微塵もありませんわね」

 

「そうなのか……理由を聞いてもいいか?」

 

「理由ですの?だって先生は身共と出会ってから

何か悪い事をした訳ではありませんし見た目も……

とにかく先生は良い人ですので!!」

 

「見た目はどうした見た目は。おい目を逸らすな

こちらを見て話せ」

 

「……それよりも先を急ぎましょう!使用人に

追いつかれる前に!さあ!さあ!」

 

「……いや。残念ながら追いつかれてしまった

ようだ。ユカリの使用人は随分と足が速いのだな」

 

「いえ、知らないお方ですわよ」

 

「ならば私の背後に誰がいると言うのだ?」

 

「私です」

 

「ああケイだったか。ユメはどうした?」

 

「角煮まんを食べてから戻るとの事です。一応

対象と接触、捕獲に成功しました」

 

「そうか。言い方は気になるがよくやってくれた。

疲れているだろう、先に宿に戻って休むといい」

 

「そうさせてもらいます。……それと警戒して

ください。『この世界の小鳥遊ホシノ』が貴方と

接触しようとしています。父曰く

「見つかったら面倒なので頑張ってください」

との事です」

 

「丸投げじゃないか……まさかさっきの追っ手が

ホシノだったのか?だが見つかったところで特に

デメリットはないと思うが」

 

「仮にこの世界の母がユメと接触してしまった

場合、99%の確率で依存、あるいは精神的に

ダメージを負ってしまい大変な事になる可能性

が高いです。なので接触するのは何としても

避けなければいけません」

 

「黒服よ、面倒で済ませてはいけないようだが?

ホシノに見つからずに継承戦に立ち会って

クズノハと接触する……かなり至難だが」

 

「まあ……頑張ってください」

 

「嗚呼、何故薄情な人間しかいないのか……」

 

「えっと……身共は先生の味方ですわ!」

 

「ユカリ……なんて良い生徒なのだ……」

 

ユカリの継承戦を見届ける

クズノハに出会う

ホシノに見つからないように行動する←NEW!!

頑張れマエストロ!負けるなマエストロ!




おまけ 電話を切られた黒服

「あれ、先生もう電話切っちゃったの?」

「いえ、面倒だからと切られてしまいました。
30分おきに連絡して安全を知らせてほしいと
頼んだだけなのですが……」

「メンヘラとかヤンデレみたいな事言ってるね」

「そのようなつもりは……私はただホシノの安否
を定期的に確認しておきたいだけで……」

「本当にホシノ先輩の事が好きなんですね〜♣︎」

「ん、気持ち悪い」

「正直引くわ」

「ほ、ホシノ先輩の事を考えて頂けているのは
伝わってきますのて……」

「……ホシノ。私は何故このような扱いを皆に
されなければいけないのでしょうか?」

「えっと……私は先生の事大好きだよ」

「嬉しいですが答えになっていません」

「……やっぱりホシノ先輩が黒服の事を好きって
言ってるのは受け入れられないわね」

「惚れ薬でも飲ませたのでしょうか?」

「ん、姑息」

「ま、まだそうと決まった訳ではありませんよ」

「………」

拝啓。この世界の黒服へ。貴方が何をやらかした
のかは知りませんが貴方の行いのせいで私の扱い
が散々なものになっております。この報いは必ず
受けさせるので覚悟しておいてください。足腰が
立たなくなるくらいに過酷な拷問をしますので
よろしくお願いします。

「先生いきなり詠唱みたいなの始めてどうしたの」

「何故聞こえているのですか?」

「愛の力だよ」

「それなら納得です」


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ヘイローを破壊する爆弾

机に置かれた爆弾。それはフランシスに手渡された

ヘイローを壊す爆弾。それと接触した際の発言から

から推察するにこれを利用すれば生徒達から搾取を

する悪い大人に戻れるとの事。つまりホシノにこれ

を使えと遠巻きに言われているようなものだ。

今の自分を形作ったのは紛れもなくホシノであり、

彼女との接触が無ければ自らが教師の道を歩む事

なく悪い大人として過ごしていたと想像できる。

それが碌でもない結果になる事はこの世界のホシノ

達を見れば容易に分かる。表面上はとても楽しそう

に振舞っているが細かな亀裂が広がっており、少し

きっかけがあれば一気に崩れてしまうような……

そのくらいギリギリとも言えるバランスでこの

世界のアビドスは成り立っていた。

……何故世界は彼女達にそこまで背負わせようと

するのだろうか。確かにこの箱庭における彼女達、

忘れられた神々は注目されるべき存在である。

だがそれ以上に一人の未熟な子供でもあるのだ。

 

「……だからこそこの爆弾に価値は見出せません。

生徒の未来を奪う道具など……」

 

自然と無意識のうちにこぼした言葉に含まれた

生徒の未来というもの。このような発言は数ヶ月前

の自分では絶対に言わない言葉だっただろう。仮に

言葉にしたとしても確実に本心ではない。それが

今は心の底からそう考えてしまっているから不思議

で仕方がない。……既に悪い大人には戻れない。

だが、戻る必要もない。フランシスには悪いが

この爆弾は有効利用させてもらう。

 

「……成程。見た目は普通の爆弾ですが強力な概念

が埋め込まれていますね。ゴルコンダの技術はどの

世界でも素晴らしいものですね。使い方はともかく

技術の高さは評価できるでしょう」

 

正直な話現状ではただの爆弾にしか見えず特定の

もの、つまりヘイローのみを破壊できる理由は

何一つ解明出来ていない。ゴルコンダに聞けば早い

のだろうが彼はいま赤に染まっているとの事で連絡

がつかない状況だ。……彼はなんなのだろうか?

ゲマトリア内であっても技術品の交換などは行って

こなかった。概念について聞いておくべきだったと

今となっては後悔している。非常に困った。

研究者を自負していたものの分野が違っており

断片的にしか分からない以上解明が全然進まない。

ため息混じりに爆弾を眺めていると部屋の中に扉を

叩く音と扉越しに聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「先生、入っていい?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「先生、お疲れ様。差し入れのコーヒーだよ」

 

「ありがとうございます」

 

「……それの解明、進んでるの?」

 

「あまり調子が良いとは言えませんね。なにしろ

私の技術とはまた違ったものを使用してまして」

 

「よく分からないけど……それってヘイローを壊す

爆弾なんだよね?だったらさ、前に私にやった……

あの管に繋がるやつみたいな事をすればいいんじゃ

ないかな」

 

「……ですがあれは神秘を反転させる実験であり

無機物に行うものでは……いえ、反転という概念

が存在するのであれば……?」

 

「……ありゃ、また何か考え始めちゃってる。

でも何かに熱中している先生もカッコよくて好き」

 

「何ですって?私が好き?」

 

「なんでそういうところは聞こえてるのかな……」




おまけ 一部始終を見てた原作アビドスメンバー
達から一言ずつ

「改めてホシノ先輩と黒い人がいちゃついてる
光景を見たのですが……違和感しかありません
でした。ですが純愛ならOKです☆」

「ん、地獄絵図」

「前にホシノ先輩を誘拐した理由ってそういう……
ってあの気持ち悪いのとは違うわよね」

「愛の形は人それぞれですので……私がとやかく
言うのはちょっと違うと思います」

以上


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エンカウント=終了

現在の状況
ホシノに見つからずにユカリに継承戦を勝利させ
クズノハに会う


「無理難題にも程があるだろう!!」

 

「急に叫んでどうしたんですの!?」

 

「何でもない」

 

「そのてんしょんの落差は怖いですわ。

とにかくそのホシノさんという方に出会う事なく

継承戦を見届けてもらえばいいのですわ!」

 

「言うのは簡単だがな……」

 

「過去よりも未来、つまりふゅ〜ちゃ〜に向かって

歩むべきだと思いませんか!先生たるもの足を

止めてしまうのはダメですわよ!」

 

「未来か……そうだな。行くとしよう」

 

「ええ!偶然にもそこの角を右に曲がると花屋……

いえ、百花繚乱の幹部であるレンゲ先輩の家がある

住宅地がありますの」

 

「どうやら風向きは良いようだな。ホシノに接近

される前にそのレンゲとやらに接触するとしよう」

 

ーーー

 

「……あの、先生。この紙を……」

 

「ああ……は?」

 

ユカリから手渡された手紙には……

『アタシに用があるヤツへ。

青春を取り戻す旅に行ってくる!

しばらく帰ってくる予定は無い!』

と書いてあった。

 

「……一難去ってまた一難といったところか」

 

「困りましたわぁー!!」

 

「中々上手くいかないものだな……それとユカリ、

今更だがもう少し声を抑えてくれないか?

その声量だとホシノに気づかれる可能性が高い」

 

「それは失礼しましたわ。……ですがホシノさん

という方はどれほどの実力者なのでしょうか?

先生の話ですと強いお方なのは間違いないとは

思うのですがいまいち把握出来なくて……」

 

「そうだな……私の知るホシノは……いや待て、

何故かあいつのにやけ面が連想されてしまう。

出てくるな黒服貴様は今呼んでいない」

 

「黒服とは誰の事ですの?」

 

「ホシノの夫だ。それはともかく強さは……」

 

「……んん?ちょっとお待ちください。先生、

ホシノさんは成人しているお方ですの?既に結婚

していると言っているように聞こえましたが」

 

「ああ。私の知るホシノは結婚している。だが今

こちらに来ているホシノは……」

 

「でしたらご挨拶に行かないといけませんわ!」

 

「おい待て何を言っているんだ」

 

「結婚しているのでしょう?ならば祝福の言葉を

届けに行かねばなりませんわ!永遠を誓い合い

絆を結んで生涯添い遂げるなんてとても素晴らしい

事ですもの!」

 

「頼む話を聞いてくれ。今来ているホシノは結婚

していないホシノなのだ。だから祝福の言葉を

届ける必要はない」

 

「?ホシノさんは結婚しているのでしょう?」

 

「ああ、している」

 

「でも今来ているホシノさんは結婚していない?」

 

「そうだ」

 

「……まさか」

 

「そう、他の世界から来たホシノがけっこ」

 

「バツイチですの〜!?」

 

「……しまったそうなるのか。感覚が麻痺して

気づいていなかったが普通は他の世界から来た

なんて言われたところで理解できる筈もない。

私は余計な事を言ってしまったようだ……」

 

「では慰めの言葉を伝えに……」

 

「待て、待ってくれ。私達は他に優先するべき

事があるだろう?慰めの言葉はその後にしよう。

大丈夫だ、ホシノも待ってくれる」

 

「そうですの?では先に……あっレンゲ先輩を

探さなければ!!」

 

「(よし、なんとか軌道修正出来たぞ。しかし何故

挨拶に行こうとしたのだ……面識のない生徒に

祝われたり慰められても困惑するだけだろう……

世間知らず……なのだろうか?)」

 

「先生、早くレンゲ先輩を探しましょう!そして

委員長に身共はなりますわ!」

 

「……ところで一つ聞いていいだろうか?」

 

「なんですの?」

 

「ユカリはそのレンゲや継承戦を挑む相手よりも

実力があるのだろうか?」

 

「それは……やってみないと分かりませんわ!」

 

「………」

 

唐突にマエストロの脳内によぎった一つの考え。

仮に継承戦を始める準備が整ってもユカリがその

相手に負ける可能性があるのでは……むしろその

可能性の方が高いまである。つまりここまで彼女

を手伝ったところでクズノハに会えるという目標

が達成出来ないのではないか?

 

「(先行きが不安だ……だがもし委員長代理が話の

分かる生徒ならば仮にユカリが勝てずとも会える

かもしれない。むしろ会えなかったら私の苦労が

全て泡沫のように消えてしまう……ユメの為にも

それだけは避けなくてはならない。……ならば

ユカリ以外の百花繚乱の委員に対しても接触を

して親しくなっておくべきではないか?尚更早い

うちにレンゲとやらに接触しておきたいな)」

 

今後の事について長考していると不思議と違和感

を覚えた。やけに静かなのだ。……ああ、

ユカリが居ない。少し目を離している間に彼女は

何処かへ行ってしまったようだ。

 

「……どうしたものか……」

 

取り残された芸術家は色々考えた結果……

 

ユメを待つことにした



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猫であり犬、そして猫

はじめに
書く前に曇らせの学習を行い見事情緒不安定になったのでいつも以上に展開が雑です


あれから数分が経過した。……いや、正確には

数分しか経っていない。そう、前回の話から何も

変わっていないのだ。だからこそ今こうして

歩き出そうとしている訳だ。ユカリを探しにいく

のもユメを待つのがもどかしくなってきたのだ。

 

「私も何か収穫を得ないといけないからな……

生徒達ばかり成果を上げているのは教師として

面目丸潰れだ。情けないのは黒服とマダムだけで

充分だからな」

 

『うるさいですよマエストロ』

 

「黙れ」

 

『まあまあそう言わずに。一人で突っ立って

何の成果も得られていない貴方に対してとても

有益な情報を持ってきたのですよ?』

 

「そうか。だがクズノハに関しては既にこちらで

掴んでいるので問題はないぞ」

 

『いえもっと大切な事です。それも急を要する』

 

「なんだ?」

 

『……ヒナには紫色のドレスが似合うのです』

 

「………」

 

無言で通話を切った。というよりいつの間に

繋がっていたのだろうか?あの変態は何かと

暴走しすぎているのではないか?

 

「先生も大変だね」

 

「ああ。思っているよりも苦労が多い。

……おい待て何故ヒビキがここに居るんだ」

 

「研究がひと段落したから先生に会いにきた。

それに私はヒビキという概念を持っているから

いつでも先生に会いに来れるんだよ」

 

「ヒビキという概念……?そんなよく分からん

理屈で世界を超えてくるな」

 

「愛の力だよ」

 

「ユメの愛だけで充分だ」

 

「先生はブレないね。ところで百鬼夜行?に来て

何をしていたの?」

 

「……まあ、色々だ」

 

「なるほどね。恋人の為に不可能とされている

恐怖からの反転を成し遂げようとしてる、と」

 

「何故分かるんだ」

 

「盗聴してたから」

 

「………」

 

私の生徒は倫理観がおかしい。……違うな。

ミレニアムの生徒がズレていると言った方が

正しいだろう。悪びれもなく盗聴していると

言われるこっちの身にもなって欲しい。というか

いつ盗聴器を仕込んだ。抜け目がなさすぎる……

 

「先生の声は素材として有能だってヴァリタスの

人が言ってたよ」

 

「そう言われても全く嬉しくない。そしていつ

盗聴器を仕込んでいたんだ?」

 

「確か昨日の……」

 

「分かったもういいそれ以上は聞きたくない」

 

全てが終わって元の世界に戻ったら倫理観の

授業を受けさせようか……そんな風にも

考えてしまうようなヒビキとの会話の最中、

黒猫のような生徒と黄色い服を着た集団が睨み合い

今にでも戦いが始まる雰囲気を醸し出していた。

 

「多勢に無勢とはよく言ったものだな」

 

「でもこっちに気づいてないなら爆弾落として

蹴散らせそうだけど」

 

「ではあの黒猫の生徒を巻き込まないように

中心に落としてくれ」

 

「了解。ちょうど試作品のグレネードランチャー

を試し撃ちしたかったんだ」

 

「……街を破壊しない程度に頼むぞ」

 

ーーー

 

「あんた達の事なんて知らないんだけど。

まあいいわ。私の邪魔をするなら……」

 

容赦はしない。そう言い終える前に目の前に居た

集団は爆発と共に吹き飛んでいった。それとほぼ

同時に右側から誰かが近づいてきていた。

 

「無事か?」

 

「あんた誰?」

 

「ただの教師だ。見た感じ怪我は無さそうだな」

 

「……この爆発ってあんたが起こしたの?」

 

「ああ。正確には私の生徒に頼んだ」

 

「ふぅん……私を助けたんだ?」

 

「……何故近づいてくる?」

 

「近づかないとあんたに礼を言えないから」

 

「その距離からでも言えるだろう」

 

「私は近づいてから言いたいの」

 

「……そうか」

 

礼を言うといい近づいてきた黒猫の生徒は

一定の距離に到達した途端、当然のように腕を

絡めてきた。……???

 

「何をしているんだ」

 

「何って……定位置に戻っただけだけど?」

 

「私とお前は初対面だが?」

 

「それが何?」

 

「何って……何だ?この状況が分からん。

私は何故腕に抱きつかれている?何故だ?」

 

「あんたが私を助けたからだけど」

 

「……百鬼夜行の生徒は何なのだろうか」

 

「先生も大変だね。助けた名前も知らない生徒が

いきなり腕に抱きついてくるなんて」

 

「……おいヒビキ、お前もさりげなくもう片方に

抱きついてくるな」

 

「は?何抱きついてんの?この人の腕には私しか

抱きついちゃいけないんだけど?」

 

「そんなルールはないよ。それに私の方が先に先生

と会ってる。新参者は黙って」

 

「………」

 

何故私の生徒達はこんなにも一触即発の関係に

なりやすいのだろうか。頭が痛くなってくる……

ユメ……早くきてくれ……いや待てこんな状況を

見られて誤解でもされたら……よし、ユメはまだ

ゆっくりしていてくれ。その間に私は……

現状何も出来ないな




ちなみにこの裏では本編5章の流れが始まってます。
青春(?)少女 辺りです
メインストーリーそのままの文章書くのはあれなので省いてます


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問題は解決しようとしたら増える

「ふぅん……あんたシャーレの先生じゃないんだ。

じゃあ百鬼夜行の先生になりなよ」

 

「いや……私はミレニアムとトリニティの教師で

あってフリーという訳では……」

 

「そう。じゃあ私専属の先生でいいよ」

 

「何がいいのだろうか……」

 

袖から離れない黒猫の生徒……桐生キキョウは

芸術家の腕に絡みつきながら当然のように言う。

ほぼほぼ初対面であるにも関わらず何故こんなに

距離が近いのだろうか……先程の件で?しかし

助けたと言えるのはヒビキの砲撃の成果であって

ただ無事かどうかを確認しただけなのだが……

というか何故私は獣耳が生えている生徒によく

懐かれるのだろうか?ヒビキといいセイアといい

何故だ……

 

「獣耳が生えた子に限らず大半の子は先生の事が

好きなんだよ」

 

「………」

 

ヒビキにそう言われて考えてみたが思い当たる節が

あまりにも多すぎた。客観的に見ても舐めてる途中

の飴を渡されたり窓からメイドが入ってきてご主人

と慕ってくるのは嫌われていてはあり得ない話だ。

……慕われていてもあり得ないのでは?

 

「猫塚さん、だっけ?とにかくマエストロ先生の事

は今後私が管理するから」

 

「やめといた方がいいよ。その人既に彼女居るよ」

 

「は?あんた浮気したの?」

 

「理不尽すぎないか?浮気も何もキキョウと出会う

前に私は付き合い始めた人が居るのだが?」

 

「先生なんだから言い訳しないでもらえる?

やっぱあんたの事は束縛しておかないとダメそう」

 

不味い……今束縛されたら面倒な事になる……

既に面倒ではあるが。何よりこの絵面はよくない。

両手に華?違う、自殺行為だ。もしユメにこの状態

の私を見られたらどうなると思う?死だ。だから

早く何とかしなければならないが二人とも異常な程

力が強い。……何故だ、何故人外になってもこの

キヴォトス人に力で負けるのだ。……まさか私は

あのままトリニティやミレニアムで過ごしていたら

生徒達に強姦されていた可能性もあるのか!?

急に冷や汗をかいてきた……いや、それよりも今の

この状況を打破する方法を探らなくては……

 

「そ、そういえばキキョウの身につけている羽織を

何処かで見たような気がするな」

 

「ああ、これ?百花繚乱の証みたいなもん」

 

「百花繚乱というと……ユカリと同じ組織なのか」

 

「へえ、あんたユカリの事知ってるんだ。……何?

私よりもユカリの方が好きだって言いたいの?」

 

「そういう訳ではない。それに私は静かな方が好み

なのでな。キキョウのような寡黙美人の方が……」

 

そこまで言いかけて気づいた。これだ。私はいつも

こんな発言ばかりしていた。思い返せば誰にでも

このような事を言っては誤解させていたのか……

つまり私は今地雷を自ら仕掛けて踏んだと言う事。

 

「ふぅん……あんた分かってるじゃん。ねえ先生、

今夜私の家に来なよ。特別に夕飯を作ってあげる」

 

「そ、それはありがたいが私にも用事があってな」

 

「用事?私の手料理を食べる事よりも大事な用事が

あるって言うの?」

 

「い、いや……その……」

 

藁にも縋る思いでヒビキの方を見たら既に彼女の姿

はなく『面白い発明を思いついたから帰るね』と

書かれた書き置きが置いてあるだけだった。

ヒビキの奴逃げたな。……仕方ない、多少強引だが

電話がかかってきたフリをして距離を取ろう。

 

「すまない。定期連絡の時間が来てしまったので

一度離れてくれないか?あまり人に聞かれたい内容

ではないのでな」

 

「ふぅん。私は別に構わないけど?」

 

何だこのキキョウという生徒は?何故離れない?

 

「……あんたさ。私が側に居るんだから他の生徒

の話をしないでくれる?さっきも言ったでしょ?

私とあんたが居ればそれで充分だって」

 

「(な、なんだ……なんなんだこの状況は……

何が彼女をそうさせるのだ?)」

 

「でも定期連絡ならした方がいいよ。私はこのまま

聞いてるけど気にしないで」

 

充分気にするが?なんならユメにキキョウの存在を

知られたくないんだが?……くそっ!!何故この

タイミングでユメから電話がかかってくるのだ!!

運が悪いにも程がある!!

 

「ほら、定期連絡なんでしょ?出なよ」

 

「あ、ああ……もしもし?」

 

『先生。シロコちゃんを連れて百鬼夜行に戻って

来たから合流しよ?』

 

嗚呼、終わった。私もこの世界も終わりだ。

どう返せばいいのだろうか?

 

「……電話の相手ってもしかして恋人?ちょっと

私に貸してくれない?」

 

「待て、待ってくれ!?それはダメだ!!」

 

『……先生?女の声が聞こえたけど……』

 

「違う!誤解だ!私は浮気などしていない!」

 

「そうだね。先生はあんたと別れて私の旦那になる

って言ってたからね」

 

『………』

 

「頼頼むから本当に勘弁してくれ……私が愛する

人はユメただ一人だけなんだ……」

 

『いえ、良いんです。私よりも魅力的な人なんて

沢山居るので……私に飽きてしまうのも仕方ないと

思います。だ、大丈夫ですよ。私はまた一人に戻る

だけ……なので……』

 

明らかに声色から泣きそうになってるのが伝わって

きている。もういい。

 

私は!!ユメの事を!!愛しているぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

……そうヤケになって叫んでしまった。百鬼夜行に

戻ってと言っていたので聞こえている筈だ。

しかしこれを叫んだことでより混沌とした事に

なってしまうとは思ってもみなかった。



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芸術家 やらかす

私は!!ユメの事を!!愛しているぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

その魂の叫びは百鬼夜行全土に広がり……

 

「"マエストロ……疲れてるのかな……"」

 

「だ、大胆な告白ですの!!」

 

「……はあ。また面倒事に巻き込まれたんですね。

仕方ない……眠いですが助力しに行きますか……」

 

「……ユメ?やっぱりそうなんだ……」

 

「嗚呼、哀れなりマエストロ。貴様も先生という

概念に染まってしまった以上この先に待ち受けて

いるのは絶望だけだと言うのに。黒服といい何故

ゲマトリアという有利な状態を捨ててまで生徒に

寄り添う道を選んでしまったのか……」

 

当然余計な人達にも届いてしまったが本命のユメ

とその隣にいたシロコテラーにも聞こえており……

 

『っ……』

 

『……恥ずかしいね』

 

『……よし。すぅぅぅぅぅぅ…………

私も!!先生の事を!!誰よりも!!愛していますよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

『……楽しそうだね』

 

『……えへへ。先生が私の事愛してるって///』

 

『良かったね(私もこの人に着いていけば昔のように

笑顔で笑えるようになるのかな……)』

 

それぞれが複雑な心境の中最初に動いたのは……

 

「あんた……どういうつもり?私だけ居ればいい

ってさっきからずっと言ってるよね?何平然と

浮気発言してんの?」

 

目のハイライトが消えたキキョウだった。正確には

殺意がこもった眼でこちらを睨んでいる。

 

「わたしもずっと言っているだろう……既に恋人が

いると。その恋人が泣いてしまう直前だったんだ。

多少強引にでも愛を伝えるべきだろう」

 

「それが浮気だって言ってんの。それとも何?

私の事は本妻とでも言うつもり?」

 

「すまないが私が愛する女性はキキョウじゃない。

それに教師と生徒が恋愛するのは違うだろう?」

 

「キヴォトスでは犯罪じゃないんだけど?合法、

分かってんの?」

 

「埒があかない……すまんキキョウ、私はユメと

合流しなければならないので失礼する!」

 

「ふぅん……私から逃げれると思ってんの?

解散令が出されたとはいえ百花繚乱の幹部だよ?

舐めてもらっちゃ困るね」

 

キキョウが何かをする前にどうにか策を……

おい、目の前から誰かが走ってくるぞ?ユメか?

……いや違う、あれは……

 

「せーんせー!!大胆な告白でしたわね!!

遠距離から愛を叫び合って伝え合う……まさに青春

の甘いひとときでしたわー!!」

 

「ユカリ!?……だが良い機会だ!あっちの方角に

キキョウが居たぞ!」

 

「まあ、キキョウ先輩が!?お手柄ですわ〜!!」

 

よし、これでユカリが時間を稼いでくれるだろう。

……なんだ、まだ誰かが走ってくるぞ。

 

「マエストロ先生。今度はどんな面倒事に首を

突っ込んだんですか?」

 

「ケイか!?よし、私をワープさせてくれ!!

一刻も早くここから離れたい!!」

 

「別れる前に言いましたが眠いので出来ません」

 

「何故来たんだ」

 

「困ってそうだなと思いまして」

 

「その心意気は有り難いが非常に困る……

そうだ、ホシノ!!完全に忘れていた!!

間違いなく今の叫びで気づかれている筈!!」

 

「それなら位置を検索して……ああ、前方300M

から全速力でこちらに向かってきています」

 

「前方からだと!?一本道で尚且つ後方には

キキョウが居るんだぞ!?どうするのだ!?」

 

「キキョウって誰ですか……もしかしてまた

いつもの女たらしをやってしまって誤解されて

いるんですか?それで叫んだと……」

 

「察しが良くて助かる!だがどうすればいい!?

このままだと一貫の終わりだぞ!」

 

「"マエストロ!"」

 

「今度は先生か!!一体どうした!?」

 

「"それはこっちのセリフだよ!どうして急に

愛してるだなんて叫んだのさ!私の脳を破壊する

つもりなの!?"」

 

「貴様はユメと出会ってないのだから脳破壊も

何もないだろう!ああ、そうだ!この先に先生

に会いにきた生徒が居るとの情報が入った!

会いに行ってやれ!」

 

「"えっ本当?それなら会いに行くしかないね"」

 

「……これで一先ずは安心だな」

 

ーーー

 

「声は確かこっちの方から……」

 

「"ホシノ?百鬼夜行に来てたんだね"」

 

「せ、先生!?どうしてここに……」

 

「"……そっか。わざわざ私に会いに来てくれたん

だね。ホシノは優しい子だね"」

 

「……う、うへへ///もう、おじさんを甘やかして

も何も良い事はないよ。シロコちゃん達を撫でた

方がいいと思うよ」

 

「"私はホシノが良いんだよ"」

 

「うへっ///」

 

ーーー

 

「見つけましたわぁ!!キキョウ先輩!!

ユカリ伝説の為に華々と散ってもらいますわよ!」

 

「ユカリ?……ふうん、あんたも私と先生の恋路を

邪魔するんだ。許さない」

 

「何か言ってますが聞こえませんわ!!」

 

ーーー

 

「明らかに何も解決していないような気がします」

 

「そうだな……ここからどうやって逃げるか……」

 

『先生!!』

 

「おお……ユメ。会いたかっ……」

 

むぎゅ。ぶちゅ。

 

「………」

 

『……えへへ///もう離れません♡』

 

「……なあケイ」

 

「何でしょうか」

 

「丁度そこに宿屋があるのだが」

 

「ぶっ飛ばしますよ」

 

『……貴女が言ってた先生ってこの人なの?

明らかに先生には見えないんだけど……』

 

「お前は……そうか。成程、確かに恐怖に染まって

いるな。安心してほしい。私はお前の味方だ。もう

孤独にさせないと約束しよう」

 

『……その言葉はまだ信用出来ない。それに私に

居場所なんて何処にも……』

 

「……あの、お話の途中申し訳ないのですが……

前方と後方を見てくれませんか?」

 

『ん……?』

 

「"ホシノが探してた人ってあれ?"」

 

「っ……う、うん。間違いなくあの人……」

 

「やっっぱりキキョウ先輩は強いですわね!!

紙一重で負けてしまいましたわ!!」

 

「私の恋路を邪魔するからそうなるの。

……先生?その抱きついてる女は誰?

あんた本当に浮気してたのね」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

終わった。




おまけ その頃のアビドス

「食欲はありますか?」

「……少しはあります」

「それは良かった。急ごしらえですがおかゆを
作ってきましたので」

「……信じられない。黒服がノノミ先輩の看病を
してる……」

「ん、ノノミが懐柔されちゃう」

「ですが間違いなく善意ですし……」

「……皆先生の事を何だと思ってるのさ」

「ロリコン」

「ロリコン」

「へ、変態さん……?」

「………(うへぇ間違ってないよぉ……)」

「貴女達、声が大きいですよ。病人の前ですので
静かにしてください」

「あ、あんたねぇ……ノノミ先輩の事は私達も
看病したいに決まってるじゃない」

「ん、抜け駆けは許さない。ノノミを懐柔する事も
許さない。私は貴女を先生とは認めない」

「……でも私達の先輩を看病する姿、私は黒服先生
が私達の知る先生と似た心を持っているって
思うには充分すぎるくらいです」

「……ねえシロコ先輩、まずいわよ」

「ん……既に懐柔作戦は始まっていた……」

「……貴女達の言い分は分かったので早く静かに
してくれませんか?この後ノノミの身体を拭いて
汗で濡れた身体を……」

「ほら本性を出したわ!やっぱり身体目当てよ!」

「ん、ロリコン改め変態」

「……ああ、つい私の良く知るノノミと重ねてしまい
ました。では代わりに誰か彼女の汗を拭いて……」

「ちょっと待ってください。黒服先生の言い方だと
ノノミ先輩も黒服先生に……?」

「はい。三角関係というものでした」

「あんた頭おかしいんじゃない?ノノミ先輩が
あんたみたいな変態の事を好きになるなんて
絶対にあり得ないわよ」

「んーでもシャーレの先生も変態だよね」

「……あーじゃああり得るわ」

「ん、セリカが折れた……」

みたいなやり取りをしていたとかなんとか。


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最悪の空気

とある和菓子屋の一室。そこには地獄のような

空気が張り詰めている空間があった。

マエストロの腕に抱きついているユメとそれを

睨んでいるキキョウ、ココアを飲むケイ、

駄菓子を頬張って笑顔になっているユカリ、

気まずそうにケーキを食べているシロコテラー、

ホシノを撫でるシャーレの先生とユメを見て

未だに信じられないものを見ているような表情を

浮かべているホシノ。……なんだこの状況は?

 

「……なあ。どう収集をつければいいと思う?」

 

「改めて自己紹介でもしたらいいと思います」

 

「それで解決するとは思えないが……まあいいか。

私の名前はマエストロ。ミレニアムとトリニティの

教師として勤めている」

 

「いやあんたは百鬼夜行専属だから」

 

「なんと!そうでしたのね!」

 

「(くそっ、話がややこしくなってしまう……だが

今更どうって事はないか……最悪の事態になって

しまった以上な……)」

 

『そして私が先生の恋人です』

 

「は?先生の恋人は私だから」

 

「"ちょっと、私はまだ二人と付き合った記憶なんて

ないんだけど……"」

 

『あなたの事じゃないです』

 

「あんたの事じゃない」

 

「"……ホシノ、私は嫌われているのかな……"」

 

「え?あ、ああ……どうだろうね」

 

「話が逸れてしまいましたわね。では僭越ながら

身共が先生に続いて自己紹介を。勘解由小路ユカリ

と申しますわ。百花繚乱のえり〜とですの!」

 

「私は桐生キキョウ。先生の恋人よ」

 

「"えっ私の?"」

 

「あんたじゃないって言ってるでしょ」

 

「"……ホシノォ……皆が虐めてくるよぉ……"」

 

「ちょっとあんまり人前で抱きつかないで……

えっと、この人がシャーレの先生で……私は

小鳥遊ホシノ。そこの木の人形みたいな人と……

隣にいる人に会いにきたんだけど……」

 

「順を追って話すから後にしてくれ」

 

「……分かった」

 

「そして私が小鳥遊ケイです。ホシノ母の娘です」

 

「ゴフッ!?」

 

「なんと!ばついちという情報は本当でしたのね!

一体どのような理由があってばついちに……」

 

「ちょ、ちょっと待って!?私は誰とも結婚なんて

してないし娘なんていないよ!?」

 

「"ホシノ……まさかカイザーに?どうして私に相談

してくれなかったの……?"」

 

「違うよ!?私が好きなのは先生だけだし……」

 

「へえ、あんたそんな頼りない人が好きなんだ?

ダメ人間に尽くしたいタイプって事?」

 

「確かに先生は普段は脚を舐めたり頭皮を嗅いだり

混浴したり生徒に首輪を着けて散歩したりしてる

けど……私にとっては大切で……」

 

「何処の先生も似たようなものか……」

 

「"ところでマエストロさんよぉ……君さぁ、

私の生徒をたぶらかせてるって本当?ユカリも

キキョウも私の生徒なんだけど"」

 

「初めからたぶらかせてるつもりはない。それに

生徒が困っていたら助けるのは当然だろう」

 

「"それはそうだけどおかしいじゃん!ちょっと

助けただけで専属の先生になって欲しいなんて

言われるわけがないでしょ!絶対に何かよくない

事をしたんでしょ!?"」

 

「してないから困っているのだが?」

 

『そうですよ。この際桐生さんにズバッと言って

あげてください。「私はユメを愛しているから

お前とは付き合えない」って』

 

「言った上でこうなっているのだが?」

 

「付き合えないって事はその先の関係になりたい

って事でしょ?随分と積極的だよね」

 

「な……!?先生、まさか浮気ですの!?」

 

「……誰か助けてくれ」

 

地獄の時間は終わらない。



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そういう事でいいんだよ

これから今後について話すからしばらくの間自由に

していて欲しい。そう告げられてキキョウとユカリ

を除く生徒達は店の外に出る事となった。

 

『えっと。どうしようか?』

 

「私はシロコを連れて宿に帰って寝ます」

 

『私は別に眠くは……』

 

いいから話を合わせてください

 

『……そうする』

 

気を遣って離れてくれたケイとシロコ。そして

店を出た時からずっと下を向いているホシノ。

……この子が暗い表情をしているのはとても

心苦しいので……

 

『知ってる?百鬼夜行って観光業が盛んなんだよ』

 

「……え?」

 

『という訳で行こう!時間の許す限り!』

 

「いやそんな事よりも……ちょっ……」

 

どうせこのホシノも無理ばっかして一人で抱え込む

ような子だし多少は休んでもらわないとね。

 

ーーー

 

『和服美人とはよく言うけど……ホシノちゃんには

何でも似合うよね』

 

「馬子にも衣装の間違いでは……?私には制服だけ

で充分ですし……」

 

『先生の事も堕とせるかもよ?』

 

「っ……ま、まあそういう事なら……」

 

『そうそう。自信持って』

 

良かった。この子はちゃんと先生に恋をしてる

普通のホシノちゃんだった。……なんで私を助けた

あの子は黒服なんて碌でもないクソロリコン野郎に

恋をしてしまったのか未だに理解できないし……

周りも周りでそれに違和感を持ってないし……

でも私の先生も黒服と似たような人だし……

なんか複雑だなぁ。……幸せだけどね。

 

「じゃあ貴女の分も選ばないといけませんね」

 

『えっいや私は制服だけで……』

 

「人に着せておいて自分は着ないなんてわがまま

言いませんよね?」

 

『あ、圧が……』

 

結構桃色と空色の和服を買って着付けてもらい

そのまま街を歩く事にした。……でもおかしいな、

前に先生から「和服は下着をつけないらしい」と

聞いたけど……

 

「それはその人が変態なだけですよ」

 

『否定はできないね。あとタメ口でいいよ。

せっかくの楽しい時間が窮屈になっちゃうよ』

 

「……貴女の胸元みたいにですか?」

 

『……ほら、揉まれたら大きくなるって話が

あるじゃん……?』

 

「触られてるんですね」

 

『だって好きな人とそういう事したいって思うのは

当然じゃん……ホシノちゃんだって先生とそういう

事したいでしょ?』

 

「それは……そうですけど……」

 

『ほら、ホシノちゃんに取り憑かれた黒服だって

存在するくらいだからさ』

 

「あれはただの悪夢です。……悪い人ではないと

思いますが。……貴女がそれを知っているって

事はやっぱり……」

 

『……そうだよ。私はあのシロコちゃんみたいに

他の場所から来たんだよ。姿形は似てるけど君の

知るユメとはまた違う存在なんだ』

 

「そう、ですよね。あの時先輩は砂漠に……」

 

『(……どうしてアビドスの子達は何かを失って

背負う事を強いられているんだろう……特に

ホシノちゃんなんてその小さな身体であまりにも

大きなものを……何とか出来ないのかな?でも

あまり深く干渉するのもいけないような……)』

 

「……大丈夫ですか?」

 

『あっうん。大丈夫だよ……それよりも次は

髪飾りでも見に行こっか!』

 

「まだ話の途中ですが……」

 

『ごめん、やっぱり私に重い話は出来ないよ。

それに世界が違っても私はホシノちゃんの先輩で

君は後輩。それでいいんじゃないかな』

 

「かなり強引ですね。ですが悪くない概念です」

 

『……あ、今ちょっと笑ってくれたね。やっぱ

ホシノちゃんには笑顔が似合うよ』

 

「っ……いいから早く行きましょう!」

 

『わー引っ張らないでー!胸元が絞まるー!!』




この二人の話……ちょっと踏み外すだけで重くなりかけるのですがいかんさん周りに曇らせが流行しすぎているのでホシノチャン曇らせは書きません


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方針決定……?

「という訳でホワイトボードを借りてきたぞ。

思う存分話し合おうじゃないか」

 

「あんたと私の結婚式について?」

 

「違う」

 

「照れてるの?」

 

「話を進めるぞ。まずそれぞれの目的から

書き出していくとしよう」

 

・ユメとシロコを元に戻す手掛かりを得る事

 

・陰陽部からの呼び出しに応じたものの話を

聞く前にそこのNTR野郎が愛を叫んでいたので

『私の』生徒が誑かされる前に阻止したい

 

・百花繚乱継承戦を行い委員長になる

 

・籍を入れる

 

「よし、二つほどは除外してもよさそうだな。

あとさりげなく私の事をNTR野郎とか呼ぶな」

 

「"私の生徒に寄って惚れさせるとかやってる事

NTRと変わらないでしょうが!反省しろ!"」

 

「……先生、NTRってなんですの?」

 

「知らなくていい世界だ」

 

「えっと……」

 

「"NTR、通称寝取りというのは……"」

 

「ユカリに変な知識を教えないでくれる?」

 

「"はい"」

 

「……それでな?私はキキョウと籍を入れる

つもりもなければシャーレの先生の生徒達に

興味がある訳ではない」

 

「"だったらあのシロコの事はどう説明するの?

あれは私が私に生徒を宜しくと頼まれて……

引き受けた大事な生徒なんだよ?"」

 

「何を言っているんだ?私が私に?……確かに

色彩に魅入られた者はやつの意識が赴くままに

世界間の移動も可能ではある。だがな?それは

あくまでキヴォトス人の中でも更に神秘が反転

する事に対して適応が出来る生徒のみが可能な

チートスキルのようなものだ。ただの大人の

先生にそれが出来るのか?仮に出来るとして

どのようにそれを証明する?」

 

「"想いと意思。それと……愛?"」

 

「あながち違うとも言い切れないのがな……

愛が与える結果は未だに未知数だからな」

 

「"とにかくあのシロコも私の生徒。誘拐する

つもりなら私はマエストロ、貴方をNTR野郎と

永遠に罵倒し続ける!"」

 

「罵倒されるのは慣れてるから構わん」

 

「えっあんたそんな趣味があったの?見た目から

して結構変わり者だとは思ってたけど」

 

「ばついちのホシノさんといい百鬼夜行の外から

きた方々は複雑なものを抱えていますのね……」

 

「"ホシノバツイチ概念なんてないんだよ"」

 

「どうした急に。……話が脱線しすぎているな。

多少強引に戻すぞ。ユメとシロコを戻す鍵は

クズノハという存在だ。そしてそれと会えるのは

百花繚乱の委員長……つまりユカリが委員長代理

に勝利してくれたら私の目的も叶う……という

算段ではあったのだが……私の予感が正しい

ものであればユカリ、お前キキョウに負けたの

ではないか?」

 

「ぼっこぼこにやられましたわ!」

 

「あれはユカリが私とあんたの愛を裂こうと

立ち塞がってきたから全力で倒しにいった」

 

「ですが次は負けませんわよ。全ては最強

ユカリ伝説を成し遂げる為に!」

 

「……そうか」

 

マエストロは気づいていた。ユカリよりも強い

キキョウが居るならそっちに頼んだ方が自らの

目的を果たせるのではないかと。しかしユカリ

の輝いている眼でこちらを見られるとそんな

無粋な事を言える筈もなくただ同調して彼女の

気を損なわないように心がけるようにしていた

 

「"それじゃあ私とユカリとキキョウはその

継承戦?というものを始める準備をするので

マエストロは適当に街中をぶらついてて"」

 

「ああ。……あ?何故私だけハブられる」

 

「"これ以上この二人がマエストロの近くに

いたら本当にNTRれる可能性があるからだよ!

そんな事私は耐えられない!"」

 

「……まあ、私は自身の目的が達成出来るなら

それでも構わないが……」

 

「いや、ここはあえて私とユカリ、先生の三人で

行動してシャーレの先生は街をぶらついて……」

 

「"断る!ダメダメ!それに二人に関わってくる

大切な話だってあるんだから私と行動しないと

大変な事になるよ!?"」

 

「何処まで必死なんだ……」

 

「そんな情報があるなら今言いなよ」

 

「"ついて来てくれないと話さない"」

 

「……はあ。あんたの方は面倒な先生なのね。

今は一応祭りの準備中だし万が一大変な事になる

のであれば困るし……仕方ない。名残惜しいけど

シャーレの先生に着いていく」

 

「では身共もそちらの方に着いていきますわ」

 

「そうか。では先生よ、私の連絡先を教えるので

何か進展があれば報告を頼む」

 

「"マエストロの連絡先……?嬉しくない"」

 

「直球すぎないか?」

 

「じゃあとりあえずこいつ連れて継承戦を終える

準備をしてくるから。次会う時は二人きりで

会うって約束して」

 

「無理だ。それでは失礼する」

 

「"キキョウ……メンタル強いね"」

 

「あれは照れ隠しだから。あの人は素直じゃない

って私はよく知ってる」

 

「キキョウ先輩と先生って数十分前に出会った

ばかりだと聞いていますが……」

 

ーーー

 

……ようやくキキョウから離れられた。

前に黒服から「特に何もしていない生徒から

謎の愛を捧げられていて困っている」と相談

された際にしっかりと向き合ってやればよかった

と今となっては後悔している。あの時のあいつも

このような感情だったのだろうか。

 

「おっとそんな事を考えている暇はない。

クズノハの件はシャーレの先生に任せるとして

早くユメと合流しなければ。ただえさえ半日の間

離れ離れだったのだ。これ以上は耐えられん。

それとホシノの件もどうするべきだろうか……

黒服を呼んで連れ帰ってもらうかあるいは……」

 

「マエストロ」

 

「今度はなんだ?まだ私に用のある奴が……」

 

いるのか?そう言い終える前に言い淀んでしまう

程に会いたくない人物がそこに立っていた。

……確かに記録上では存在している事を確認して

いたので接触してくるのもおかしくはない。だが

何故このタイミングでこいつが現れる?

 

「何の用だ……フランシス」

 

かのものと対峙した際に先程まで聞こえていた

喧騒の音が聞こえなくなる程、周辺の空気が

緊張に包まれていた。……何が目的なんだ?



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それが決められた運命

「まあそう警戒するなマエストロ。私は言って

しまえば『負けたヴィラン』だ。本来であれば

表舞台に立つ事は許されない価値なき存在だ。

しかしお前に興味が湧いたので話がしたい」

 

「話す事なんて何もない。私はこれから……」

 

「結論から言おう。お前は自らの目的を果たす

事もなく祭りの日に焼け死ぬ」

 

「……なんだと?」

 

「この世界が辿る道は既に決まっている。そう、

記録通りの結果しか起こらない。お前が介入

したところで結末は何も変わらないのだ」

 

「だからなんだ。それと私が目的を果たせずに

焼け死ぬ事と何の関係が……」

 

「本来世界というものは決められた道の通りに

進む事を望みそれを捻じ曲げようとする存在を

嫌う性質がある。お前がこの世界に訪れ、この

百鬼夜行に来てしまった。その結果本来の歴史と

異なる道を辿る事になった。それを世界は快く

思わないだろう。異物を排除しようともする」

 

「だが私は教師だ。困っている生徒を黙って

見過ごすなどの愚行は出来ん」

 

「その結果ユカリとキキョウと出逢った。

そう、お前は百花繚乱編に巻き込まれた。

『火災の時に生徒を庇って死ぬ役』として」

 

「……昔から言おうと思っていたがお前の発言

には妄想が含まれすぎている。私の配役を決める

のは他でもない私だ。そして私は死ねない。

愛する人を遺していけるわけがないだろう」

 

「愛する人?ああ、お前は愛を叫んでいたな。

くだらない、箱庭に腐るほどいる搾取の対象と

紛い物の恋愛に勤しむなど。黒服といい何故自ら

の地位を落としてまでそのような愚行をする?」

 

「愚行か……成程、この世界のゲマトリア達が

何もかも上手くいっていない理由が分かった。

……愚かなのはお前らの方だ。何も学ばすに

搾取搾取と馬鹿みたいに繰り返し、その結果

どうだ?シロコに襲撃されて敗北した。そんな

情けない奴らに私……いや、『先生』という

概念を愚行などと呼ばないでもらいたい」

 

「……面白い。では見させてもらうとしよう。

俗世に染まり教師などという堕落した姿となり

己が崇高を満たす事を諦めた貴様の事をな。

だが一応これは渡しておこう」

 

「……なんだこれは」

 

「『ヘイローを破壊する爆弾』だ。もし悪い大人

に戻りたくなったらそれを使用し生徒との未練を

断つといい。そうすれば貴様はまた……」

 

「いらん」

 

「ほう?」

 

「私はもう悪い大人に戻るつもりはない。

それに私の恋人はこれにトラウマを抱えている。

芸術のかけらもない駄作なんぞに興味もない。

さっさと消えるんだな、敗北したヴィランよ」

 

「……面白い。俄然興味が湧いてきたぞ。貴様が

百花繚乱編で迎える結末を楽しみにしている」

 

そう言い残し景色に溶け込むように姿を消す

フランシス。彼が消えたのと同時に静寂に

包まれていた空間も消え、周囲の活気に満ちる

騒音が聞こえてきた。

 

「……行ったか。言いたい事だけ言って消える

とは随分と良いご身分だな。……しかし気になる

事も言っていたな。私が焼け死ぬと。……まさか

何処かで火事が発生……なんてあり得ないか。

それでも充分に警戒しておく必要はありそうだ。

……だが奴の言っている事が私以外にも当てはまる

とするのなら……」

 

『私の見解ではですね……』

 

「……マダム、今大事な話をしていたのだ。

空気を壊さないでくれ。あといつ通話を繋いだ」

 

『それはハッキングして……それはともかく。

あのフランシスとかいう奴が言った火災等が

本当に発生した場合ですね、マエストロ、貴方

だけの犠牲で収まる筈もないのですよ』

 

「そうだろうな。大規模な火災になる可能性が

高い。祭りの日に起こるとも言っていたな。

何故奴が知っているのかはともかく……」

 

『彼は世界の事を物語と言いメタファー発言を

繰り返す狂人でしたからね』

 

「ああ。……さてマダム、私はこれからどう行動

すればいいと思う?火災を止めるべきだろうか」

 

『いえ、火災は起こさせるべきです。フランシスが

言っていたでしょう。火事が起こる事が本来の歴史

であるのならばそれを変えてしまうのは貴方の命に

危険が迫る可能性が高いです』

 

「だが……」

 

『……その上で裏をかくのです。手筈はこちらで

整えておきますよ。そうですね、マエストロには

……になってもらいましょうか』

 

「……それは面白い。頼んでもいいか?」

 

『それが生徒の為になるのなら喜んで』

 

「よし。では祭りの日になったらまた連絡する」

 

『ご武運を』

 

「……さて、今度こそユメと合流して……」

 

『先生!』

 

「この声は……ユメだな。ようやく二人で会え」

 

何故彼は言葉を詰まらせてしまったのだろうか。

その理由はただ一つしかない。

和服のユメとホシノを見てしまったからだ。

 

「……貴方が先輩の彼氏……?なんですか?

どう見ても人外なんですけど」

 

「………」

 

「あの?」

 

「私とユメの娘にならないか?」

 

「先輩こいつやばいですってどう考えてもあの

黒服と同類ですって別れた方がいいです」

 

『……先生』

 

「どうした」

 

『天才ですか……!?』

 

「そうだったこの人もこんな感じだった」

 

「まあ冗談だ気にしないでくれ。だが今だけは

私をお父さんと呼んでみてくれないか?」

 

「こわ」

 

芸術家は定期的に暴走する




水着ホシノを手に入れましたのでいつ執筆をやめてもいいという免罪符を手に入れました。


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口内で砂糖が精製される魔法

さて、現状を整理しようか。

クズノハの件、もとい百花繚乱に関わるものは

シャーレの先生に押し付けた。むにゅ。

そしてフランシスの口?から百花繚乱編と

言っていた事と祭りの日に火災が発生する事を

踏まえると問題が起きるまで時間がない。むにゅ。

マダムに言われた掻き乱す切り札は私のマイスター

に任せておけば実現は可能だろう。もにゅ。

……つまるところ私は今の時点でやれる事が

ユメとイチャつく事しかない。それならば致し方

ないというものだ。不可抗力なのだから。もにゅ。

……まあシャーレの先生が百花繚乱の揉め事に

集中出来るように細かな争いを収めるという名目

でデートをして時間を潰せばいい。むにゅむにゅ。

 

「……先程から変な擬音が混じってないか?

私は今、これからの事を考えているのだが」

 

『先生が私の胸を鷲掴みにして揉んでるから

鳴っている音だと思いますよ』

 

「そうか。無意識のうちに触っていたようだ。

それならまあいいか」

 

「何が?」

 

「どうしたホシノ」

 

「どうしたもこうしたもないんですけど。

何平然と先輩の胸を触っているんですか」

 

「恋人だからな」

 

『恋人だからだよ』

 

「………」

 

「ところでホシノ。ユメが今着ている服を

選んでくれたというのは本当か?」

 

「えっあっはい」

 

「よくやってくれた。礼と言ってはなんだが

私に可能な範囲で願いを叶えてあげよう」

 

「じゃあ気持ち悪いので離れてください」

 

「それは叶えられないな」

 

「……はあ。貴方もあの黒服と同じように

生徒狂いなのですね。前に見た時はそこまで

狂ってるような人ではなかったような……」

 

「あの時と言うとホシノが私達のホシノと

入れ替わった時の事か?それはそうだろう、

私とユメが出会ったのはつい最近だ」

 

「あの、もう少しマシな嘘をついてください。

明らかに付き合って二年目くらいのラブラブ度

を見せつけられているんですよ?」

 

『?私と先生が出会ったのって一カ月前だよ』

 

「貴方知り合って間もない生徒に手を……」

 

「まあ待て。確かにそう捉えられても仕方ないと

思うがユメは成人している。それにあの成長した

シロコのように孤独の存在だ」

 

「……そこに漬け込んだと?」

 

「……否定は出来ないがあくまで私はユメの

精神的な疲労を悟って家に泊まるよう誘導した

だけに過ぎない。意識し始めたのはとある事件

がきっかけだった」

 

「その事件って?」

 

「……胸元のボタンが外れてユメの美しい下着が

露わになった事件だ」

 

「??????」

 

『思えばあの事件から先生の態度が変わっていった

ような気がします。懐かしい事件ですね』

 

「思春期なんですか?」

 

「……まあ、そうだな。私はユメの下着を前に

捨てた筈の本能を取り戻してしまった。

マダムがヒナに抱いていた感情を理解した瞬間

でもあった。ゲマトリアとしては退化していると

言われても仕方ないとは思うが」

 

『ですが結果として私は今先生のおかげで

毎日が幸せですよ』

 

「……分かるかホシノ?こんな可愛い事を毎日

言ってくるんだぞ?抑えられるか?」

 

「……まあ、話を聞いている限り悪い大人では

なく気持ち悪い大人なのでいいですけど……

それに黒服より気持ち悪くはないですし」

 

「あいつはロリコンだからな」

 

『あれはロリコンだね』

 

「やっぱりロリコンなんだ……」

 

ーーーちょうどその頃のアビドスの様子

 

「……何故でしょう、遠方から私の事を

馬鹿にされているような感覚を覚えます」

 

「先生を馬鹿にする人が居るの?消しに行くね」

 

「まあお待ちなさい。まだ早いです」

 

「不要因子は早めに排除しておいた方がいいと

思うんだよね。特に先生を馬鹿にする人とか」

 

「マダムとかその辺りがロリコンなどと私を

嘲笑っているだけでしょう。いつものように

自らを棚に上げて」

 

「じゃあベアさんには次会った時に蹴り10回

くらいお見舞いしてあげないとね」

 

「ええ。きっとマダムも喜びますよ」

 

ーーー再びマエストロ視点

 

「ロリコンの話はいいとして今後の方針が

決まったので共有しようと思う」

 

説明は省くが前回の内容を二人に伝えた。

ホシノの方は色々考えているようだがユメの方は

『じゃあデートしましょう』と無垢な笑顔で言い

そのあまりの誘惑に二つ返事で了承する事にした

 

「では行こうか娘よ」

 

「誰が娘ですか。そういう癖なのですか?」

 

「すまない言い間違えた」

 

「わざとですよね?」

 

「わざとじゃない。さあ行こうか」

 

『あ、先生その前にですね。ホシノちゃんの和服

姿をシャーレの先生に見てもらおうと思ったので

居場所を知っていたら教えて頂けると』

 

「それならまだあの建物内にいるぞ」

 

『ありがとうございます。すぐに戻りますので』

 

「ああ」

 

ユメがホシノと手を繋いで店に入ってから数分後

 

『シャーレの先生がホシノちゃんを見てから

呼吸困難になったので看病するので残ると

ホシノちゃんが言ってました』

 

戻ってきたユメはそう伝えてきた。

……まあ、そうなるだろうな。

 

「ひと段落付いたようだし私達はデートでも

しようじゃないか」

 

『そうですね♪』

 

それでいいのかマエストロよ。

否、彼はこれでいいのだ。生物である以上

欲望のままに行動するのは仕方がない。

……彼の見た目は木の人形だが。



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純粋な悪の現在

数ヶ月前。色彩の眷属に襲撃されたゲマトリアは

事実上の解散をした。無理もない、集めてきた

対色彩用のものが全て無駄になった挙句

組織としても壊滅的な被害を受けたのだから。

……やはりあの女を組織に迎え入れた事は

間違っていたのかもしれない。奴の行いが組織を

破滅に導いたと言っても過言ではない。

まあ、あの女は追放したので今何処で何を

しているのかは誰も知らない。案外改心して

真っ当に生きているのかもしれないが……あの

プライドの高さでは無理だろう。それ故搾取

していた生徒に、嫌悪していた先生に負けた。

尤も、生徒に負けたという意味では全員同じ

ではあるのだが。

『負けたヴィランに価値はない』

同志が口にしたこの言葉に自分達が当て嵌まる

時が来てしまったのだ。このまま大人しく

静かに過ごすという選択を取る他ないのだ。

それが敗北というものであり概念である。

ーーしかし研究者というものは好奇心を捨てる

事など出来ないものだ。

 

ところで何故唐突にこの話のし始めたのかと

疑問に思っている方もいると思う。その理由に

ついては今から説明させてもらいたい。

先日アビドス自治区で確認されたとてつもなく

強大なエネルギー反応。そんなものが観測されれば

当然研究者を名乗る彼が興味を抱く理由には充分

すぎるというものだ。しかし最初の観測時、彼は

淑女を追放する作業を行なっていたので確認に

行く事は出来なかった。だが今は違う。彼は観測

された地点に行き、同志がヘイローを黒く染めた、

まるであの日襲撃していた砂の神にも似た生徒を

連れて虚無から出現するところを目撃したのだ。

何故無から現れたのか?何故そのような生徒を

連れているのか?何故?何故?何故?

彼の好奇心は尽きない。尽きないが故にその正体に

辿り着き、世界を隔てる穴を通り、もう一つの

砂漠に到達してしまい、そして不幸にもその彼と

最悪の出会いを果たしてしまったものがある。

……割れたタブレット端末。普段の彼ならばその

ような価値のないものに見向きもしないだろう。

だが今回は違った。あの日黒服が盾を拾いホシノと

出会ったように彼もまたその端末を拾う。そして

彼の目論見通りその端末の裏にはシャーレのロゴが

描かれていた。……そう、この割れたタブレットの

正体はユメの『先生』が持っていたもの、つまり

『壊れたシッテムの箱』である。

あの日空が紅く染まる騒動が発生してから今まで

誰にも触れられずにその場に砂を被って放置されて

いたのだ。それが巡り巡って本来の悪い大人である

彼の手に渡ってしまった。そして彼はその端末を

修理し、解析しようとする。そう、砂漠内にある

自らの研究室に篭って。

いつしかその好奇心は意図せずとも大きな災害

となって世界に膨大な被害を与える事になるのだが

それはまだ先の未来に起きる話。



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宿の惨状

楽しい楽しいデートの時間を終えた二人は宿に

戻り部屋の扉を開けて一息つこうとした。

ーーしかしそんな彼らを出迎えたのは純白の

綿の塊、枕だ。

 

「ゴフッ」

 

5Gにも迫る勢いで投擲されたであろうそれは

彼を壁に叩きつけるには充分すぎる威力だった。

 

『先生!?』

 

某戦士が岩盤に叩きつけられたような惨状に

襲われたマエストロを見て驚愕するユメと

遠方で紅いオーラを放出しているくらいに

怒りを込めたケイと困惑しているシロコ。

彼女達は何故か枕投げで遊んでいたようだ。

つまるところ流れ弾を喰らったという事だろう。

 

「申し訳ありません。つい手が滑って全力投球の

枕を意図的にぶつけてしまいました」

 

「つまりわざとだな」

 

「そうとも言いますね」

 

「最近のケイは自我が強いというか、随分と

感情をぶつけてくるようになったな」

 

「深夜テンションのパヴァーヌですから」

 

「変な単語を生み出すな」

 

『そっか深夜テンションならしょうがないね。

それよりも先生を傷つけた事に対して説教を

朝までするから正座してね』

 

「そうくると思っていましたよ。ですが私には

秘策がありましてね。というのもここに昨日の

夜中に何が起きたのかを記録した映像があると

言えば分かるでしょうか?そう、貴方達が昨夜

私に重労働をさせている中イチャついていた際

の映像ですね。今からこれをミレニアムそして

トリニティの生徒達に転送する事だって出来」

 

黙って聞け

 

「はい」

 

『確かに私達も悪いとは思うけど流石に壁に

めり込む勢いで枕を投げるのはダメだよ。まだ

身内だったからよかったけどもし知らない人に

当たっていたら大惨事になっていたんだよ?

羽目を外すのはいい事だけど何事もやりすぎる

のは良くないからね』

 

「貴女と先生はハメてるくせに」

 

いつ口答えしていいと言った

 

「ごめんなさい」

 

「何故ユメがあそこまで怒りを露わにしているのか

分からないが……しばらく離れていた方が良さそう

だな。戻ってきて早々こんな事になるとは……」

 

『それなら温泉に入ってくるといい。時間潰しにも

なるだろうし休めるよ』

 

「そうさせてもらおう。身体を清潔にしないと私は

眠りにつきたくない体質なのでな」

 

『……木の人形なのに?』

 

「見た目で判断するのは良くないぞ」

 

『それもそうだね』

 

「……シロコよ、何故ついてくる」

 

『枕投げで汗をかいたから私も入る』

 

「間違っても同じ浴室に入ってくるな。男女に

別れているからな?絶対だぞ?」

 

『分かってる』

 

ーーー

 

小さな旅館には釣り合わない程の大浴場。夜も遅く

誰も浸かっていない浴槽に身体を洗った後に浸かり

お湯の心地よさに大きなため息をついた。

ーー今日は散々だった。奇妙な出会いと修羅場を

何度潜り抜けてきたのだろうか。特にあのキキョウ

という生徒、彼女とは出会ったばかりなのだが何故

結婚を迫ってくるのだ。独占欲が強いにしても大概

にしてほしいものだ。一時期のカズサに似ている。

私は猫耳の生えた生徒に好かれやすい体質なのか?

だが猫にはあまり良いイメージがない。この前も

野良猫が私の芸術作品で爪を研いでいたのを見て

殺意が湧いたのも記憶に新しい。その後ユメの足に

頬擦りしていたのを見て思わず至近距離で拳銃を

撃つ手前までいっていた。愛玩動物だが何だか

知らないが私の芸術に手を出さないでほしい。

……とにかくキキョウとはあまり関わりたくない。

あの距離感ならいつか襲われてしまいそうだ。

そうなるとかなり面倒な事になってしまう。

面倒といえばホシノの事もそうだった。何故私は

その場の雰囲気だけでホシノを娘にしようと思って

しまったのだろうか。そんな発言をしては明らかに

面倒な黒服とかいうホシノ狂いにウザ絡みされる。

「ほう、貴方もホシノの魅力に気づきましたか。

ですがホシノは私だけの生徒ですので」みたいな

うざい発言を聞きたくない。ただえさえヒナ狂いの

マダムに毎日のように長文モモトークが送られて

くる現状なのだから。

 

「……話がまとまらないな。私の周りにいる大人は

どいつもこいつも話にならん。ロリコンだらけだ。

私を見習って誠実な恋愛をするべきだろう」

 

『先生と生徒が恋愛するのって誠実なの?』

 

「……それを言われたら何も言い返せないな」

 

『ん』

 

「……おい」

 

『何?』

 

「堂々と入ってくるな。男湯だぞここは」

 

『話し相手が欲しかった』

 

「壁越しでも話せるだろう」

 

『あまり大きな声を出したくない』

 

「……よく聞いてくれ。私とシロコは今日出会った

ばかりでお互いの事をほとんど知らない状態だ。

そんな私達が一糸纏わぬ裸体で同じ浴槽に浸かり

話している構図はあまりにもおかしいだろう?」

 

『……でもお互いを知るなら裸の付き合いは大事』

 

「絵面がまずいんだ理解してくれ」

 

『じゃあ今から水着でも借りてくるから待ってて』

 

「そこまでして一緒に話したいのか?」

 

『うん』

 

「……そうか。シロコの思いは嬉しいがやはり場所

は弁えるべきだと思う。そこは分かってほしい」

 

『……分かった。じゃあ背中を流すね』

 

「何故密着しようとする?」

 

『木の人形の身体がちょっと気になる』

 

「おい待てUターンするなせめてタオルを巻け!」

 

『大丈夫、私の身体は既に汚れきってる』

 

「充分に魅力的だ!」

 

芸術家は誰にでも、何処でも振り回されていた。

しかし何故だろうか、彼の周りには初対面である

にも関わらず距離感がおかしい生徒が集まりやすい

不思議な現象に襲われているようだ。尤も彼は

ユメ以外に好かれても困るだけなのだが。



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続きを書く気力をください

風呂から出た後も説教は終わっておらず本当に

朝まで行うとの事だったのでフロントに無理を

言って部屋をもう一つ借りる事にした。そして

静かな部屋で一人布団に入り眠る。……その筈

なのだが何故かシロコが同じ布団に入ってくる

風呂の時といい距離感がおかしい。何故だ?

 

『寂しいから』

 

「だから絵面を考えろ」

 

『大丈夫、ちょっと胸が当たるくらいだから』

 

「なんだ誘ってるつもりか?やめておけ、私には

効果絶大だぞ」

 

『そんな気はない。ただ寒いだけ』

 

「確かに冷えるが布団はもう一つあるのだぞ」

 

『いいから私の抱き枕になってて』

 

「……まあ、それで眠れるなら構わないが」

 

勘違いしないでほしいが私は別にこのような

ラッキースケベを求めている訳ではない。

確かに一部からは胸好きの変態などと言われて

いるが断じて違う。この際はっきりと言わせて

もらうが私が好きなのは『ユメの胸』なので

あって誰の胸でもいい訳ではない。だからこの

状況もあまり好ましいものではないのだ。

生徒に密着されて胸が当たったところで私の

心はそう簡単に揺るがなああ柔らかい感触だな

ユメの胸にも劣らぬ素晴らしい果実だ風呂場で

見たあの大きさのやつが私の身体に隣接している

と想像するだけで脳が溶けてしまいそうになるが

ここで欲望に負けるのは教師としても男としても

駄目だ。仮に揉んでしまえば信用はガタ落ち、

ユメからも軽蔑の眼差しを向けられるだろう。

そんな未来は避けなくてはならない。私はユメ一筋

と決めているのだからなああ待て動くな密着するな

より意識してしまうではないか何なんだお前は?

寂しいやら何やら言って私に襲われたいのか?だが

残念だったな私はそう簡単に理性を失うような人間

ではないからな。そんな単純な行為で私がシロコに

傾くとでも思って待て吐息が近いな?何だ?既に

眠りについているのか?この体勢で?正気か?

本当に生殺しにするつもりだとは思わなかったぞ。

何故天は私に試練を与えてくるのだろうか?

私だから良いものの他の奴ら、特にマダムや

シャーレの先生なら間違いなく手を出しているぞ。

まさかシャーレの先生がこのシロコを私の生徒だと

言い張っている理由はこれか?これなのか?無防備

我儘ボディに抱きつかれて寝たいからなのか?教師

として駄目な思考だとは思わないのか?私は思う。

……何?じゃあお前はこの状況で興奮しないのかと

聞いているのか?当然するに決まってるだろう!!

このシロコのスタイルの良さを知らないのか!?

溢れ出る未亡人オーラと妖艶な魅力に堕ちる男が

居ない方がおかしいと言えるレベルだぞ。そんな

生徒に抱きつかれてみろ。理性が飛ぶぞ。私は

当然抑えられるぞ。だがな、睡眠する為には私の

昂った感情を抑えなければならない。具体的に

言えば生理現象として肥大化した欲を発散する

必要があるという訳だ。だがシロコに手を出す

のは避けておきたい。致し方ないが説教中のユメ

に頼むしかないのでこのシロコを離して……

 

『……離れちゃ嫌』

 

なんだこいつ。何がシロコをそうさせているのだ?

まるで私の中の芸術に語りかけてきているようだ。

そうだ、芸術ならば堪能しなければならない。

そう、これは仕方のない行為なのだ。私は自分に

そう言い聞かせるようにシロコの胸をさわ……る

わけがないだろう。そんなハーレムモノのように

いきなり身体を許す女性がいると思ったか?現実は

そう簡単に甘くはないだろう。

 

『……別に触りたいなら触っていい。さっきも

言ったけど私の身体に価値はないから』

 

まさかここにいるとは思わなかったな。だが一つ

私は彼女に対して訂正しなければならない事がある

それは『シロコの身体には価値がある』という事。

それを証明するにはどうしたらいいのか。そう、

至って簡単だ。彼女に自信を持って貰えばいい。

即ち胸を揉みしだく事。……なんだ?まるで先程

胸を触るわけがないと言っていたにも関わらず数行

で矛盾しているのはおかしいとでも言いたそうな

表情をしているな。まあ待て考えてみろ、先程は

あくまで私が触りたいという感情を抱いてしまった

のであってシロコ自身の感情を無視していた。だが

彼女自らが触っていいと言ったのだから遠慮する

必要もない。それに自信を取り戻して貰う為には

誰かが触らなければならない。そう、それはこの場

に居る私が、私だけが成し遂げなければならない。

すまないユメ、私は目の前の果実に手を伸ばさずに

はいられないようだ。

 

むにゅ。

 

「(布越しでも分かる。これは素晴らしい果実だ)」

 

『先生』

 

「………」

 

おかしい。何故私の目の前にはユメがいるのだ?

シロコは?シロコは何処に行ったのだ?

 

『先生。貴方シロコちゃんのおっぱいを触ろうと

しましたよね?あと添い寝と混浴もしたとか』

 

「………」

 

胸が触れれば誰でもいいんですか?

 

「……責任は取る。命でいいか?」

 

『……冗談ですよ。先生の想いは知っています。

あの状況ではそう選択せざるを得なかった事も。

……ですが私は嫉妬します。貴方の恋人ですから』

 

「……すまなかった。私は理由をこじつけてシロコ

の胸を触ろうとしていたのは事実だ。欲望に負けた

下半身で生きている人間の屑だ」

 

『いえ貴方は私の大好きな人です。なので今夜も

朝まで寝かせません』

 

「ユメ……」

 

『先生……』

 

『……何この二人』

 

「あーまた始まってますね。あの二人いつもあんな

風に盛り合うんですよ。唐突に説教を切り上げて

風呂に入ったかと思えばこれですからね」

 

『そうなんだ……』

 

「あ、それとシロコの身体は魅力的です。それは

そこの性欲に負けた先生が証明しております。

ユメも先生が貴女に気持ちが傾く前に対処しようと

動き出したようなものですから」

 

『……皆優しいんだね』

 

「私はともかくあの二人は盛ってるだけです」

 

『……一緒に寝る?』

 

「あっちの部屋で寝ましょう」

 

芸術家、難を逃れる。代わりに睡眠不足に陥る

 




そう簡単にシロコテラーの胸を揉めると思うな


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またデートする気か?そうはいかんぞ。そろそろ進展が必要なんだ

「風呂上がりはコーヒー牛乳、朝はプレーンの牛乳

とはよく言ったものですね。目が覚めます」

 

『……あの二人まだ起きてこないけど』

 

「気にするだけ無駄ですよ」

 

『そう……』

 

清々しい程の朝。四人分の朝食が並んでいる中

談笑するケイとシロコ。生意気な子供とそれを

生暖かい眼で見ている保護者のような関係の

二人は別室で眠っている?ペアを待っている

ようだ。とはいえまだ朝早い時間とも言える

のであと10分は待とうと決めたそう。

 

「そう決めたのは良いものの来ませんね」

 

『……部屋に様子を見に行こうか?』

 

「やめておいた方がいいです」

 

『そうなの?でもご飯が冷めちゃうよ』

 

「それもそうですね。では叩き起こしましょう」

 

『その槍は何処から取り出したの……?』

 

「この武器の名前はケイ・ボルグです」

 

『そっか……』

 

この二人、思っていたよりも相性が良い。

そんな事はさておき、二人が部屋を出て問題の

場所に着く前に一悶着が。そう、ケイ自身が

寂しがり屋な事と同時にもう一人。寂しがり屋

は存在している。

 

「ケイ〜!!」

 

「……何故貴女がここに居るので」

 

ガンッ‼︎ドンガラガッシャーン‼︎

同じ見た目の少女は鈍い音と共に衝突した。

そう、寂しがり屋の正体はアリス()だった。

 

「三日間もこんなところに居たんですね!!

ケイもホシノママも黒服パパも皆居なくなって

アリスは寂しかったんですよ!!」

 

「わ、分かりましたからこれ以上首を振るのを

やめてくだあばばばばばばばば」

 

『同じ見た目……それよりも黒服パパ……?

ホシノママ……本当に悪夢は実在しているの?』

 

「……あ、シロコです!シロコが居ます!

ですかアリスが知るシロコよりも綺麗です!」

 

『あ、ありがとう……?』

 

「どうした、何の音だ?……その眼の色はアリス

か……何故ここにいるのだ?」

 

「寂しいからエンジニア部に頼んでケイのいる場所

に飛ばしてもらいました!」

 

「……あいつら本当に何でも出来るな。私の生徒

としては誇らしいが怖くもあるぞ」

 

『先生、それよりもあれを止めないとケイちゃんが

吐きそうですよ。顔色が真っ青です』

 

「アンドロイドって嘔吐するのか?」

 

『……どうなんでしょう』

 

ーーー

 

「危うく全バックアップが吹き飛ぶところでした」

 

「想像以上に危機的状況だったのか……それよりも

黒服ファミリーが揃ってしまうとは思わなかった」

 

『黒服ファミリー……何その地獄の権化みたいな

単語……でもこのアリスって子も黒服パパって

言ってたし……そんなのが本当に存在してるの?

最も破壊するべき世界じゃないの?』

 

『シロコちゃん、私もそう思ったんだけど……

幸せそうなホシノちゃんを見ているとあの黒服を

撃つ事は出来なかったんだよ……』

 

『絶対洗脳されてる。私が呪縛から解き放つ』

 

「落ち着いてくれシロコ。確かにあいつは

どうしようもないロリコンの朴念仁だがな?

ホシノに対する愛だけは本物なんだ」

 

『黒服に愛なんてある訳がない』

 

「一体あいつは何処まで業を重ねているんだ。

……ん?急にモモトークが」

 

『黒服信用されなさすぎて草生えますね』

 

「…マダムは出禁喰らっているがな」

 

『はぁ!?まさか本当に私のヒナサンドの夢は

儚く消えてしまうのですか!?何故私は出禁

なのですか!!理由を教えてください!!』

 

「知らん」

 

『何ですか!?大した理由もなく私はただ出禁

という事実を受け入れろと言うのですか!?』

 

「そうだ。……そろそろ朝食を食べるので通知

を切らせてもらうぞ」

 

『言い逃げは許しませんよマ』

 

「よし」

 

「話は終わりました?丁度アリスの分の朝食も

用意して貰えましたので冷めないうちに……

既に冷めかけていますが頂くとしましょう」

 

「これがリョカンメシというものなのですね!

レトルトカレーよりも美味しそうです!」

 

「モモイ……アリスに何を食べさせているの

でしょうか……」

 

『ま、毎回その子が原因という訳じゃないと

思うけど……』

 

「いえアリスにレトルトなんて食べさせるのは

堕落しているモモイしか居ません」

 

「ゲーム開発部自体料理出来る生徒がいる印象が

ないが……」

 

『……ねえ、貴女の親って本当にホシノ先輩と

黒服なの……?』

 

「はい!アリスはホシノママと黒服パパの手で

育てられた優秀な娘です!」

 

『そうなんだ。狂ってるね』

 

「黒服はそんなに嫌われているのか……」

 

『私の知る黒服はクズです』

 

『同じく』

 

「あいつ可哀想だな」

 

「先生、アリスは育ち盛りです。なので先生の

白米をもらいます!」

 

「おい待て勝手に食べるな!分ける分には構わんが

全部食べるのは違うだろう!」

 

「食事中に気を抜いた先生が悪いです。あ、私も

卵焼きを貰いました」

 

「好き勝手やりすぎだろう!」

 

『……まあ、黒服もあんな感じで振り回されてる

からさ?納得出来ないとは思うけどね。だって

黒服とマエストロ先生は全然違うからさ』

 

『……それには同意する』

 

『さ、私達も参戦しよっか。朝食戦争』

 

『……ん』

 

「おい待てお前達まで私を狙うな!!やめろ!!」

 

パーティに勇者アリスが合流した!

そしてマエストロは朝食を失った!




結局進行していないという野暮なツッコミは
受け付けております


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芸術家の性

「……なあ、私はユメと二人で出掛ける予定だった

のだが……何故ついてくる」

 

「アリスはケイと百鬼夜行を堪能するのです!」

 

「そして私は貴方が羽目を外しすぎないか監視する

必要があるので」

 

『私は特に理由もなく』

 

「……シロコはともかくアリスとケイは二人で

自由に回ってきても良いのだぞ? ああそうだ、

黒服の所にでも行ってきたらどうだ?」

 

「そんな露骨に私達から距離を取ろうとしても

そうは行きませんからね」

 

「……もう勝手にしてくれ」

 

何故だか生徒から舐められている……主にケイ。

こいつは我儘にも程があるのではないか?

舐め腐っているにも限度があるだろう。

何がケイをそこまで駆り立てるのか……

まあいい、とにかく問題が起きる祭りの日まで

何事もなく過ごせるのならなんだっていいからな。

 

『今、立ちましたよ』

 

「心を読むな。あと何がだ」

 

私の周りに居る奴らはなんなんだ……

これも神秘の為せる技なのか? 今度黒服にでも

聞くとしようか。……いや、黒服に神秘の事を

聞いた場合ホシノの話になるだろうな……

「最大の神秘であるホシノは〜」という流れから

私は何時間拘束されるのだろう。

ってそんなくだらない事はどうでもいい。

 

「………」

 

「………」

 

おい。さっき何事もなく過ごせればいいと言った

ばかりなのだが? 何故私の目の前に百花繚乱の

羽織を着た生徒が居る? ノアのような美しい白髪

を靡かせた絵になる生徒が居るぞ。おかしいな……

いや待て、まさかさっきユメが言った立ちましたよ

というのは……フラグの事だったのか!?

……一応確認してみるか。

 

「お前は百花繚乱の生徒か?」

 

「……これはただのコスプレ」

 

「そうか。それならいい」

 

ああ良かった。ただのコスプレなら問題ない。

紛らわしくはあるものの百花繚乱はユカリが誇る

由緒正しき委員会らしいので憧れるような生徒が

出てきてもおかしくはない。言ってしまえば

ファンクラブというものが出来ていても何も

おかしくはない。よし、何事もなく過ごせるぞ。

 

『……先生』

 

「なんだ?」

 

「なんだ? じゃないですよ。いつもみたいに

首を突っ込んで惚れさせなくていいんですか?」

 

「お前は何を言っているんだ……」

 

「明らかにメインシナリオに関わる重要な人物

だとアリスは思います」

 

「そんな事は分かっている。あの生徒の眼を

見れば分かる、間違いなく今回百鬼夜行で起きる

騒動に関わっている生徒だ」

 

『それなら何故彼女を追わないのですか?』

 

「……色々あるんだ。それに百花繚乱の件は

シャーレの先生に任せておけばいい」

 

『……そうですか』

 

そう。彼女は間違いなく百鬼夜行で起こる筈の

問題に関わっている生徒。だとすれば関わって

しまうのは避けておきたい。それは何故か。

……前にフランシスに言われた事だ。本来通る

べきである歴史を書き換えようとすれば世界は

それを修正しようとする。……既に私は排除

されるようで燃やされて死ぬと決まっている

そうだが。どうせ死ぬなら関わってもいいと思う

人は居るだろう。……私一人ならな。周りにいる

四人の生徒。彼女達が巻き込まれてしまう可能性

が少しでもあるならこれ以上干渉するべきでは

ないと思う。……本当にそれでいいのか?

百花繚乱編がどのような結末を迎えるのか私は

知らない。救われるのか、救われないのか。

最終的に救われるのであれば私が手を差し伸べる

必要はないだろう。だからこのまま放置して

祭りの日を待てばいい。

 

「……違うな。世界がどうとか最終的に救われる

なんて関係ない。それが今てを伸ばさない理由に

なっていい訳がない」

 

『先生?』

 

「ああそうだ。私も『先生』だからな。四人共

すまない。私は今からさっきすれ違った生徒の

事を放置しておけないようだ。なので今から

別行動と行こう」

 

「またいつもの病気ですか……」

 

「病気? マエストロ先生は病気なんですか!?」

 

「そういう事だ。だからケイ、二人の事を任せる。

私はユメとあの生徒を追わせてもらおう」

 

「……はあ。相変わらず人を振り回しますね。

ですが任されました」

 

「助かる。では行こうか」

 

『はい。……ふふ』

 

「何かおかしい事でもあったか?」

 

『いえ。ただ惚れ直しただけです』

 

「……照れるな。よし、あの生徒を笑顔にしたら

思う存分ユメと愛しあうとしよう」

 

そうだ、単純な事に気づかなかった。

巻き込んだ上で守り通せばいい。だから私は

やりたいようにやらせてもらおう。

そう誓いを胸に白髪の生徒の元へ向かう。




おまけ

「では三人になったので手を繋ぎましょう。
シロコは1番身長が高いので真ん中です」

『いいよ。じゃあ手を……』

「……! 成長したシロコの手も暖かいです!」

『……ありがとう。二人の手も暖かいよ』

「では行きましょうシロコママ。……あっ」

『……ママ?』

「言い間違えました」

『……そう。でも……そう呼んでもいい』


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こうして手駒にするんですね

夢の残した足跡を見ました。
仕事中もその事について考えていました。
どうして幸せそうな先輩とホシノを最初に
見せつけてくるのでしょうか。
泣くぞ


三人と別れてコスプレ少女を追う二人。

途中に居た忍者集団と巫女服を着た集団を

通り過ぎ……

 

「なあユメ、巫女服に興味はないか? あの桃髪の

生徒のように巫女服黒タイツを履いて欲しい」

 

『次は巫女さんですか……絶対考えておきます』

 

「それか忍者でもいいぞ?」

 

『先生にはお色気の術がよく効きそうですよね』

 

「よく分かってるじゃないか」

 

……やはり妄想はしてしまう。それもその筈、

ユメという存在は彼にとって最高の芸術を表現する

為に欠かせない。故に見知らぬ衣装を見かけたら

第一に『ユメに似合うのか』を考えてしまう。

それが今の彼にとっての崇高であった。

控えめに言って常軌を逸している。

 

『それはいいですけど先生、さっきの子が目の前に

居ますよ』

 

「よし。まずは話を聞いてもらう所からだな」

 

声をかけようとした刹那、自称コスプレ少女は

左手で銃を構えてながら疑うような眼差しで

 

「どうして追ってきたの?」

 

と警戒心強めな口調で問いかけてくる。その反応は

何も間違ってはいないので語る事もないだろう。

……さて、どうやって説得しようか?唐突に核心を

突いたような発言をする訳にはいかない……よし、

ここは親しみやすくなるようにこう言おう。

 

「その完成度の高いコスプレに興味があってな。

是非其方と話がしたい」

 

「……いや、これはその……」

 

嗚呼しまった。さっきのコスプレは咄嗟についた

嘘だったな。掘り返すべきではなかった。彼女も

どう返していいか困っている。どうやら私は話題を

振るのが苦手なようだ。それならばいっその事……

 

「困らせてしまったのであれば謝罪しよう。だが

その反応から察するにただのコスプレ少女では

なさそうだな」

 

「……私に接触して何が目的なの?」

 

「目的か……私はただ話がしたいだけだ。

百花繚乱とは縁があるのでな。お前もその一人

なのだろう?」

 

「……いえ、私はただの一般生徒だから」

 

「それならばその羽織の事はどう説明する?」

 

「………」

 

おかしい。何故か彼女の警戒心が強くなっている。

私は説得に向いていないのだろうな。

 

『先生、ここは私に任せてください』

 

「……すまない。私にはダメだったようだ」

 

『大丈夫です。警戒心は強くなりましたが先程まで

の殺意と敵対心はなくなっています』

 

ユメに言われて気づいた。確かに彼女の表情は何も

変わっていないが構えていた銃を降ろしている。

……これはただ舐められているだけではないか?

敵以下の存在だと認識されたのでは?

実際敵対する必要はないので構わないが……

 

『ごにょごにょ……』

 

「……! 分かった。話だけなら」

 

「おい待て何を話した。私の説得の1割にも満たない

時間で上手くいっているのはおかしいだろう」

 

『まあまあ。とりあえず移動しましょう。彼女が

話し合いに丁度いい場所を知っているようです』

 

「……まあいいか」

 

ーーー

 

コスプレ少女に連れてこられたのは焼き鳥屋

……焼き鳥屋? 朝から? 何故だ?

まあ……私も空腹ではあるので助かるが……

 

「食べないの?」

 

「ん? あ、ああ。食べるとも」

 

この少女もマイペースなのだな……何故百花繚乱は

濃いメンツしか居ないのだろうか……百花繚乱に

限った話ではないのかもしれないが……

 

「御稜ナグサ」

 

「ん?」

 

「私の名前」

 

「そ、そうか。……待て、ナグサだと? その名は

百花繚乱の委員長代理の名前じゃないのか?」

 

「もう退部した」

 

「それなら違うか……退部だと!?」

 

現委員長代理が退部してしまっていいのか?

残された委員は混乱するのでは? まさかこれも

私がユカリに関わった事で起こってしまった事態

なのだろうか?だとすれば……

 

「私には実力がないから……委員会を率いる資格

なんてない。だから退部って伝えてきた」

 

「色々大変なのだな……だがそれ以上の事は無理に

話す必要はない」

 

「……話がしたいって言ってきたのにいいの?」

 

「確かにそう言ったが何も暗い話だけという訳では

ないからな。例えば……焼き鳥では何が好みか。

そんな単純な話題でもいいんだ」

 

「ねぎま」

 

「食い気味で答えてくれるとは思わなかった」

 

『……あ、ねぎま3本追加でお願いします』

 

「貴方達はいい人」

 

「私が言うのも何だが……この程度の事で簡単に

いい人かどうかを判断するのは駄目だぞ」

 

「でも悪い人ではない。私はそう思った」

 

「……いや、私は悪い大人で……」

 

「嘘が下手なんだね」

 

「その羽織をコスプレなんて誤魔化したナグサに

言われたくはないな」

 

「……やっぱ悪い人」

 

『この短期間で息が合いすぎではないですか?』

 

「恐らく波長が合うのだろう」

 

「ただの偶然だから」

 

『やっぱり合ってないようですね』

 

「何故嬉しそうなんだ」

 

『先生と相性が良いのは私だけで充分ですので』

 

「………」

 

少し前から気にはなっていた。だが今まで触れずに

いたがそろそろ限界なので言わせてもらおう。

ユメの湿度が高くなっている気がする。思えばユカリ

と出逢った時から様子がおかしいと思っていた。

ケイと同様に自己主張が強くなったのだろうか?

……つまり自分に自信が持てているという証拠だ。

 

「私はそんなユメを愛している」

 

『えっ/// もう、いきなりどうしたんですか?

私だって先生の事を誰よりも愛していますし……

ごにょごにょ……」

 

「……何これ」

 

初対面の相手の前であってもイチャつく二人を

見ながらねぎまを左手で食べるナグサ。焼き鳥を

食べる彼女には既に警戒心は無くなっていた。

 

……代わりに困惑しているが。




私思ったんです。既に独特の世界観で展開される
この作品で原作通りに進める必要はないと。
という気力がなくて百花繚乱編を見返す時間が
ないという事の言い訳に使います。


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貴方の為なら

昨日の夜に時間ミスって投稿してしまいましたが
誰も見ていない筈なので大丈夫です


「……ようやく解析出来ました」

 

「うぇ、本当? 流石先生だね」

 

「お褒めいただき光栄です。ですが……解析して

みた所この爆弾自体を反転させる事は私には

不可能のようです」

 

「そっか……でも解析出来たのは凄いよ!」

 

「しかし進展がない以上褒められたものでは

ありません。残念ですが別の方法を探すしか

ないようです」

 

「……とにかく一旦休んでから考えようよ。

ずっと徹夜して作業してたの知ってるんだから」

 

「私は睡眠を摂る必要はありませんからね。

人としての習慣を忘れないようにしているだけ

ですので」

 

「もう……別に強がらなくていいんだよ。

ほら、膝枕してあげるからさ」

 

「……貴女には敵いませんね」

 

「先生の事は誰よりも知ってるんだからね」

 

「クク……頼もしい限りです……よ」

 

「……お休み」

 

ーーー

 

「……ねえちょっと。何よあの空間」

 

「ラブラブオーラ全開ですね〜」

 

「ん、グロ映像。映しちゃダメ」

 

「そこまでしなくても……ですがあの光景が

あり得ないものである事は理解してしまいます」

 

「高校生に膝枕されて爆睡する大人って絵面的に

駄目だと思うんだけど」

 

「ん、エ駄死」

 

「何ですかその呪文は……」

 

「……ちょっと羨ましいですね」

 

ーーー

 

「先生が言うにはこれはただの爆弾になってて……

隣にある文字みたいなものが概念?みたいだけど」

 

机の上には爆弾と『破壊』と書かれた文字が並んで

置かれており、何やら不思議な感覚を覚える。

どのように解析して爆弾から概念を抜き出したのか

隣で見ていたものの全くと言っていい程分からない

外の世界の技術って凄いんだなと子供のような考え

しか頭に思い浮かばない。流石私の旦那様と誇る

気持ちを抑えて平常心を保っている中ホシノは一人

どうすればいいのか思考を巡らせている。

爆弾の反転は不可能だと彼は言っていた。ならば

爆弾以外に『概念』を移す事が出来れば?それを

反転させられたら?

 

「(もしそれが可能なら……先生の苦労は無駄じゃ

なかったって事になる……)」

 

問題は何に概念を移すか?きっと生半可なもの

では色彩の力を上回る事は出来ない。それ相応の

器に移す必要があるだろう。そんなものに検討が

つく筈もなく眠りについた黒服の顔を眺めていた。

 

『貴女はキヴォトス最大の神秘を持っている』

 

ーーふとそんな言葉が脳裏を過ぎる。最大の神秘

と言われてもいまいちピンと来ないがもし自身の

神秘に『概念』を移せたら? 

 

「(昔先生は私の神秘を反転させて恐怖に変えた。

……それは克服して今の私は元に戻って……)』

 

……あれ? 元に戻った? ちょっと待って?

そうだ、私は『恐怖から神秘に戻った』経験が

ある。あの日同じく恐怖に染まった先輩が私から

恐怖を吸い取ったように。そうだ、不可能なんか

じゃないんだ。私達はただ

『恐怖から神秘に戻す事は不可能』という概念に

囚われていたに過ぎなかった。

 

「……それが分かったとしても同じやり方は

出来ないだろうし結局は先生の解析したこの概念

を使う必要はあるんだろうけど……」

 

「……いえ、ホシノの考えは理に叶っています。

何故私達は不可能だと決めつけてその概念に

縛られていたのか……盲点でした」

 

「あっ。起こしちゃった……? ごめんね先生」

 

「大丈夫です、むしろ目が覚めました。何事も

固定概念に囚われてしまえば成長も進歩も足踏み

をしてしまうものです。……大人になるとそれが

よく分かります」

 

「そうなんだ……」

 

「この爆弾に関してもそう。何もこの爆弾を反転

させる必要はない。ホシノが言った通り概念を

他の物質に移しそれを反転させる。それならば

理論上可能であるかもしれません」

 

「それじゃあ……はい」

 

「……その手は何ですか?」

 

「私の神秘吸っていいよ。……あ、でも吸い過ぎは

駄目だからね。適量だけ」

 

「……ホシノ。貴女がそこまで身体を張る必要は

ないのですよ?他の物質でも代用は……」

 

「ううん。これが一番良いの。だって先生なら

神秘の反転が出来るでしょ? それに私って

この世界で最大の神秘を持ってるらしいし」

 

「駄目です」

 

「なんで?」

 

「私の実験でホシノを傷つける事は出来ません。

……貴女は最愛の人なのですよ?」

 

「……うへっ」ムラッ

 

ーーー

 

「ちょっと、今いいところなのにどうしてこっちの

視点に変わるのよ」

 

「分からせタイム……らしいです」

 

「はぁ?何よそれ」

 

「ん、あれは飢えた獣だね」

 

「(……いいなぁ)」

 

ーーー

 

「先生、お願い。私の神秘を……」

 

「分かりました。分かったのでこれ以上は」

 

「分かればよろしい」

 

「あまり使いたくはないのですが……淑女が

使用していた神秘吸引装置を小型化したものを

用意しました。痛みのない注射ではありますが……

体内の神秘を吸い取るので多少の気怠さが身体を

襲う事になります」

 

「うん、分かった。一思いに刺して」

 

「……はい」

 

プスっと小さな音と共に身体に侵入してくる針。

血ではなく何かを吸われている感覚はあるものの

不思議と何かで満たされていく感覚もある。

 

「終わりましたよ」

 

「えっもう終わり?」

 

「そこまでの量が必要という訳ではありません。

それにホシノが苦しむ姿は見たくないので」

 

「ふぅん……♡」

 

「では抜き取った神秘で実験を……ホシノ?何故

距離を詰めてくるのです? 何故? な……」

 

「先生が悪いんだよ?」




昨日ミスした時は何か書いてたんですけど
覚えていないので代わりのおまけです


……え? あの続きですか?そうですね……
ホシノ先輩は強かったと言わせてもらいます。
何故そう思ったか、ですか? それは……
愛ですよ、愛。それ以上に理由はありません。
ただ黒服先生はホシノ先輩にされるがままの
状態でした。力の差が出てましたよ。というか
いつも大体襲われオチにするのはやめた方が
いいですよね。ワンパターンは飽きてしまいます。
……ですがあれは黒服先生が悪いです


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委員長代理の経緯

前回のマエストロ視点でのあらすじ

百花繚乱の委員長代理のナグサはねぎまが好き


左手でねぎまを食べ続けるナグサ。

そしてマエストロに寄りかかるユメ。

それに幸福を感じているマエストロ。皆幸せな空間

が展開される中特に問題もなく食事は終わる。

……筈もなく。

 

「……まだ食べるのか?」

 

「あと20本くらいは」

 

「よくそんなに入るな……精々10本ほどしか

食べれんぞ……」

 

『ソ、ソウデスネ』

 

「いやいいんだ。むしろユメは今まで苦労してきた分

もっと食べてくれて構わない。たた私が自分で想像

していたよりも少食なたけだったたけさ」

 

「木の人形なのに少食とかあるの?」

 

「言われてみれば……だとすれば……

気の持ちようだったか……」

 

『大丈夫ですよ。先生が少食であっても私は貴方を

愛しています』

 

「ありがとう。私もユメを愛している」

 

『♡』

 

「……暑い」

 

「すまない。私とユメはいつもこんな風に過ごして

いるのでな」

 

「……悪い人であるよりかはマシだと思う」

 

「そう言って貰えると助かる」

 

「……一つ聞いてもいい?」

 

「良いぞ」

 

「どうして私の右手の事に触れないの?」

 

羽織の裏にある彼女の右腕は包帯が巻かれており

動かす事もままならない状態である事が容易に

想像出来る。当然それについて言及しても

いいのだろうが……

 

「先程言っただろう、話したくなったらでいいと。

気にはなるが無理に話す必要はないんだ。誰にでも

触れてほしくない話題というものはあるものだ」

 

『清澄さんとの関係とか……ですかね?』

 

「な、何故ユメがそれを知って……!?』

 

「前に予告状が届きましてね。危ないものだと

いけないので確認したらその中には

『近いうちに芸術について語り合いたい』と

書いてありまして…… 詳しく聞いても?

 

「助手とはそのような関係ではなくだな……その、

ユメと出会う前に唯一私の芸術センスに共感して

くれた私の生徒であって……」

 

元カノって事ですか?

 

「違う。私が愛しているのはユメだけだ」

 

『それなら良いんです♪』

 

「……重いね」

 

「ああ。だがそれも好きな要素の一つだ」

 

「器が大きいのね」

 

「教師だからな」

 

「そう」

 

それだけ言うとナグサは少し考えるような素振りを

している。そのまま数分程経過した頃に何かを決心

したかのようにこちらに向き合った。

 

「貴方……いえ、先生。私の事を……この右腕が

何故こうなったのかを聞いてほしい。ただ……

巻き込む事になってしまうのだけど……」

 

「構わない。それでナグサが笑えるようになるなら

私の崇高も満たせる」

 

「崇高?」

 

「ああ。私が人外になってまで得ようとした何事にも

変えられぬもの。私の場合は『芸術』だな。……まあ

この数年間で求める芸術は変わってしまったが。

それもこれも私に関わる生徒達の手によってな」

 

「……やっぱり変な人」

 

「人であるかは怪しいがな。……遮って悪かった、

話してくれ」

 

「うん。……ユカリ達と話したのであれば私が

百花繚乱の委員長代理であるのは知ってると思う。

……でも私はそんな代理になれる器じゃない。

あの子とは違って……」

 

「あの子?」

 

「……『七稜(ななかど)アヤメ』。百花繚乱の委員長で……

私の幼馴染。彼女は花鳥風月部の手によって

『百物語』の一部にされて黄昏に連れ去られた」

 

『黄昏?』

 

「……そういう事だったのか。それで右腕が……」

 

「………」

 

『その黄昏というものがどうして右腕に……』

 

「色彩のようなもの、と言えば分かるだろうか。

あれは神秘を汚染し歪ませる存在。……どうやら

私が想像していたよりも百花繚乱が抱えている悩み

は闇が深いようだ」

 

まさか黄昏に関わる事になろうとは……百物語

というか単語も気にはなる。しかし今自身が

やるべき事が見えてきた。

 

「よし分かった。私が黄昏に連れ去られたという

アヤメとやらを救出しに行こう」

 

「……その気持ちは嬉しいけれどあれは先生が

どうにか出来る存在じゃない。最悪死んでしまう。

そんな危険な場所に行かせる訳には……」

 

「話を聞いてしまった以上私は行動する。先生とは

そういう存在だからな。最悪死ぬ直前になったら

逃げる事も考える。……そういう訳だ。ユメよ、

私が黄昏に行ってる間はナグサの事を護え……」

 

『嫌です私もついていきます』

 

「駄目だ。ただえさえ神秘が反転して恐怖に

染まっている状態なのに黄昏と接触するなんて

何が起こるか分からない。大人しく待っててくれ」

 

『嫌です』

 

「……何故分かってくれないんだ」

 

『危険な場所……なんですよね? それなら私は

先生を守らなくては……もし貴方を失う事に

なってしまったら私は……だからついていきます。

もう大切な人を失いたくない……』

 

「ユメ……」

 

『………』

 

「大丈夫だ。私は必ず戻ってくる。絶対にだ。

ユメを愛している。だからこそ黄昏に連れていって

無理をさせる訳にはいかないんだ。約束しよう、

私はユメを残して死なない。ユメの命が尽き果て

天へと還るその日まで隣にいると誓う」

 

『……本当に私が死ぬまでずっと側に……

居てくれるのですか……?』

 

「ああ。むしろ天へと昇ってしまった後もまた

会いに行ってやるとも」

 

『……貴方は本当におかしい人です。ですが

そんな貴方だからこそ私は……』

 

「……私はどうしたんだ?」

 

『続きが聞きたければ帰ってきてください。

……嫌という程に聞かせますから』

 

「……そうか。楽しみにしている』

 

「………」

 

百花繚乱の委員長代理と言えど唐突に始まった

愛し合う男女の恋物語に口を挟む事は出来ずただ

終わるのをねぎまを食べながら見るしかなかった。



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黄昏にて

やれやれ。本来であればユメといちゃついて過ごす

つもりだったのだがまさかこんな事になるとは。

目の前に広がる黄昏の領域を前にそんな事を考えて

いた。この先に何が待ち受けているのか。

未知数の場所に覚悟を決めて足を踏み入れた。

夕焼けのような空ではあるが殆どが影となっており

裏の世界に訪れたように錯覚してしまう空間。

常に鼻につく異臭と淀んだ空気の中、芸術家は一人

目的の生徒を探しに歩き回っている。足元には

幾つか人の形をした黒い塊が転がっており、

5つの学生証の紐を握りしめて倒れている者、

腹部に穴が空いて倒れている者等、見るに耐えない

光景に思わず目を背けそうになっていた。

何故だろうか? かつての自分なら対して気にも

止めずむしろ愉悦に浸っている光景とも言えるのに

今はただ胸糞悪いという感情しか湧いてこない。

それも生徒達と向き合っていくにつれて変化した

のであろう。……悪い気はしないがな。

 

「"あっ"」

 

「………」

 

は?

 

ーーー

 

「"いやぁ……久しぶりに会った知り合いがまさか

マエストロになるとはね"」

 

「………」

 

なんだこいつ? 何故黄昏の領域に居るんだ?

迷い込んだでは済まない場所だが? それとも残業

と徹夜の板挟みでついに狂ったか? 

 

「"そうだマエストロ、傷はもう癒えた?"」

 

「傷? 何の話だ?」

 

「"? ああそっか。木の人形だから痛みとか

感じないのかな。だとするなら……汚れは取れた?

みたいな言い方をした方がいいのかな"」

 

「そんな事はどうでもいい。何故先生がここに

居るのだ? 迷い込んできたのか?」

 

「"気がついたらここに居たからよく分からない"」

 

「……そうか」

 

「"多分死後の世界なんじゃないかなと思ってここで

過ごしていたけど……マエストロは死んだの?"」

 

「生きてるぞ」

 

「"じゃあ……って思ったけどゲマトリアだから

そもそも死なないんだっけ?」

 

「私は死ぬぞ。教師になってしまったからな」

 

「"そっか。マエストロが教師に……え? ごめん

今なんて言ったの?"」

 

「教師になってしまったからなと……」

 

「"……何を企んでるの?まさかシロコに何が

酷いことをしようとしてるんじゃ……"」

 

「何故シロコ限定なんだ。別に生徒を使って実験

なんてする訳がないだろう。黒服ではあるまいし」

 

「"……そうだね。君は芸術がどうたらとか言ってた

悪い大人だったし。それなら何で教師に?"」

 

「? それは数日前に話しただろう?」

 

「"えっ"」

 

「ん?」

 

「"数日前? こっちに来てからマエストロに

会ったのは今日が初めてだけど……"」

 

「なんだと?」

 

先程から何かがおかしい。話が噛み合わないのだ。

記憶に相違があるのか? そもそも何故黄昏の領域

にこいつが居るんだ? どうなっている……

 

「確認するが……お前は本当に先生なのか?」

 

「"うん。私はシャーレの先生だよ"」

 

「だとすれば何故私と話が噛み合わないのだ?

確かに私は数日前にシャーレに行き三徹していた

お前と話した記憶がある」

 

「"……ああ、成程ね。マエストロ、今から私は

突拍子もない事を言うけど笑わないでね"」

 

「? 分かった」

 

「"実は私……別の世界から来たんだ!!"」

 

「………」

 

ああ、そうか。そういう事か理解した。

 

「……お前が連れてきた生徒はシロコだな?」

 

「"そうそう。もう一人の私に託したんだよ。

実はさ、私の身体って爆発に巻き込まれてから

碌に機能してなくてさ。白い集団にそこの銅像に

魂を移されてた? ぽくて"」

 

「銅像?」

 

先生が指を刺した方向には確かに銅像があった。

不気味な見た目のそれに魂を?

 

「……まさかとは思うが……お前は恐怖に染まった

シロコの世界から来た先生なのか?」

 

「"え、うん。そうだけど……そんな簡単に信じて

いいの?普通他の世界から来た! なんて話は

信じられないと思うけど……"」

 

「いやまあ……私も他の世界から来たからな」

 

「"へえ……だとしてもマエストロが教師なんて

どういう歴史を辿ったらそうなるの?"」

 

「色々あったのだ。色々とな……」

 

「"苦労してるんだね……そうだ、良ければ一緒に

行動しない? ここは退屈で仕方ないんだ"」

 

「それは構わないが……身体は大丈夫なのか?」

 

「"まあ、すでに霊体みたいなものだからね。

詳しい話は歩きながら話そうか"」

 

「あ、ああ……」

 

とんでもない出会いを果たした芸術家。しかしこの

出会いが後に一人の生徒を救う事になるのだとか。



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君は先生

先生と出会って共に行動する……のはいいものの

気づいたら迷い込んでいたと言っていたので道案内

等は期待できないだろう。だが話し相手にはなる。

それにあのシロコの先生なら聞いておきたい事も

幾つかある。だが今はそれよりも……

 

「先程から地面にある人の形のようなものは一体

何なのだろうか」

 

「"分からない。けどあんまりいい気分にならない

から見たくないかもしれない"」

 

「同感だ。ところで気がついたら彷徨っていたと

言っていたが私以外に人を見かけたりしたのか?」

 

「"えっマエストロって人だったの?"」

 

「すまない今はふざけている場合ではないんだ」

 

「"あっごめん。そうだなぁ……少なくとも話せる

ような人とは出会ってない、かな"」

 

「話せないような奴らが居るのか?」

 

「"そうなんだよ。黒くて幽霊みたいな奴"」

 

「……それはあの傘のようなものだろうか」

 

視界の先に居るのはまるで物語の中に出てくる

化け傘のような生命体。一つ目のそいつは

この世のものではないようにも見えた。

 

「"あーそうそう。あんな感じ。……あれ、あいつ

こっちを見てるような気がする"」

 

「あれが黄昏の眷属なのか……? いや、考える

のは後にしよう。今は離れるのが吉だ」

 

「"もしかして戦える手段がないの!?"」

 

「あるにはある。だが温存しておくに越した事は

ない。このような異質な場所では尚更な。

という訳だ、走って逃げよう」

 

「"それってゲマトリアの技術とか?"」

 

「いいや、これはそんなものじゃない。もっと価値

のあるものだ」

 

「"マエストロってそんな性格だったっけ……?

もっと芸術が〜とか言ってたような?"」

 

「細かい事を気にしていたらもっと禿げるぞ」

 

「"禿げてないわ失礼な"」

 

こいつ案外揶揄うと面白いな。おっといけない、

つい気を緩めてしまっていた。だがこうしている

間に逃げ切れたようだな。

 

「……で、ここは何処だ?」

 

「"さあ……"」

 

「まあ何処だっていいか……走って疲れただろうし

少し休息を挟むとしよう」

 

「"私霊体だから疲れてないよ"」

 

「そうだったな……霊体なら一つ試してみたい

事があるのだが私に取り憑くような事は可能か?」

 

「"何それ面白そう。やってみていい?"」

 

「ああ」

 

「"後ろから抱きつけばいいのかな……あっ"」

 

「おいどうした」

 

「"上手くいっちゃった。これなら私の意思で

マエストロの身体を動かせるんじゃないかな"」

 

「は?おいちょっと待……」

 

左腕。右腕。自分の意思とは関係なく動く腕に

自らが指示したとはいえ気色の悪さを覚えた。

……だがこれでこいつを連れて帰る事は出来る。

 

「とりあえず一旦私の身体を動かすのをやめ……」

 

「"マエストロパーンチ!"」

 

「………」

 

ーーー

 

あれから数十分は弄ばれた。簡単に取り憑いていい

なんていうものではないと痛感するには充分だ。

 

「満足したなら一度離れてくれ」

 

「"もう少しだけ……"」

 

「……まあ、大人しくしてくれるのならば

このままでも構わないが」

 

「"ありがとうその言葉を待っていたよ!"」

 

なんだこいつ。まあいいか、随分と時間を取られて

しまったがナグサの幼馴染を探さなければな。

 

「"そういえばマエストロは何でここに来たの?

人探しでもしてたの?"」

 

「妙に鋭いな……先生の言う通りだ。七稜アヤメ

という生徒を探しに来たんだ」

 

「"アヤメって言うと……百花繚乱の委員長?"」

 

「知ってるのか?」

 

「"先生だからね。生徒の名前と顔は就任した

その日には全員分覚えてたんだよ"」

 

「ノアのような記憶能力を持っているんだな」

 

「"そりゃあ生徒の事は覚えておかないと。ただ

他の事はあんまり……"」

 

「……まあ、私の知り合いも似たようなものだ。

とにかくその生徒を連れて帰ろうと思っている」

 

「"何の為に?"」

 

「当然私の崇高を満たす為だ」

 

「"……そっか。良い趣味してるね"」

 

「そうだろう?」

 

「"よし! じゃあアヤメを助けに行こう!"」

 

「そうだな。早く見つけて戻ってさっさとユメと

祭りを満喫したいものだ」

 

「"夢と満喫? 面白い言い回しだね"」

 

「そうか?」

 

「"うん"」

 

「私は普通の事を言ったつもりだったのだが……

まあいい、先を急ぐぞ」



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芸術家が抱いた怒り

「………」

 

「"……悍ましい量の敵がいるね"」

 

「ああ……」

 

アヤメを見つけ出す為に歩き回っていたら化け物

が闊歩する集落のような場所に辿り着いた。当然

そこにアヤメがいる気配はなく獣の叫ぶ声が

数百メートル離れていても聞こえてくる。

 

「あの黒い猫のような存在……気になるな」

 

「"でも何かに縛られているし刺激しなければ

大丈夫なんじゃないかな"」

 

「そうか……」

 

彼女は花鳥風月部に連れ去られて『百物語』

の一部にされた。ナグサは確かにそう言っていた。

まさかとは思うが……いや、流石に考えすぎか。

いくら百花繚乱の委員長とはいえそれを依代に

あのような化け物が生み出される筈がない。

 

「"マエストロ、誰か居る"」

 

「……何だと?」

 

先生に言われ半信半疑だったが確かに人が居る。

幼子で全身が痛々しく包帯が目立つ。……だが

問題はそこではない。何故黄昏に蝕まれていない

のだ? 奴は何者だ? 

 

「先生よ、彼女はアヤメなのか?」

 

「"……違う。アヤメの姿はあんな感じじゃない。

あの子は……私も知らない生徒だ"」

 

「……もしやとは思うが花鳥風月部の生徒か?

だとすればあの怪物が祭りの日に……」

 

「"……どういう事?"」

 

「近々百鬼夜行では大規模な祭りが開催される。

……その祭りで悲惨な事件が起きるんだ。どれ程

の被害が出るのか、誰がその事件を引き起こすのか

不明だったが今合点がいった。『花鳥風月部』が

全ての元凶だ。百花繚乱が解散令を出したのも

委員長が攫われたのも奴らが招いた結果だろう」

 

「"……じゃああの化け物が百鬼夜行に現れて

祭りを滅茶苦茶にするって事なの? それなら

今ここで止めれば……!"」

 

「そうしたいが……こちらの戦力があまりにも

不足している。生徒を呼ぼうにもこの場所では

どのような影響を受けるのか分からない」

 

「"だとしてもこのまま放置なんて……"」

 

「分かっている。今策を考えているから待て」

 

……だがどうする? どうすればあいつが

黄昏から抜け出して街を襲うのを避けられる?

……ダメだ。私にはどうする事も出来ない……

生徒達と違い戦う術に乏しい私では精々弱らせる

事が精一杯だろう。だがそれも奴に効果がある

のか分からない。

 

「考えていても仕方ない、か……これを使おう」

 

「"それは……ペロロ人形?"」

 

「この世界の先生から読み取った記録の中に

『ペロロジラ』という怪物のデータがあった。

そして偶然にもこの人形の種類はペロロジラ……

らしい。正直なところこの人形に芸術的な要素は

何一つ感じないが……圧に負けたんだ」

 

「"あー……多分ヒフミの事だよね"」

 

「ああ……聞けばこの人形は物凄いレアものらしく

『大事にしてくださいね!』って渡されたものでは

あるのだが……そんな貴重品を何故渡してきたのか

分からないのだ」

 

「"布教したかったんじゃないかな。マエストロと

それについて語り合いたかったとか"」

 

「……そうか。そういう事なら少しは興味を持って

みるとしよう。……話が逸れたがとにかくこれを

用いて奴を足止めする。その前に複製するが」

 

「"なんだかんだで大切にしてる辺りマエストロも

立派な先生なんだなぁ……"」

 

「それはそうだろう。生徒からの貰い物を雑に扱う

などあってはならんからな。……で、複製したこれ

にペロロジラの概念を与えてあの辺りに投げる。

すると……」

 

「"……あ、巨大になって自我を持ってる。凄い"」

 

ギャー!?ナンデスカコノバケモノ!?コンナノヒャクモノガタリニイナイデスヨ!?

 

「あの生徒も混乱しているようだが……さて、

どの程度化け猫にダメージを与えられるか……」

 

「"まるで怪獣大決戦みたいだね。カイテンジャー

もひとつまみ添えておきたいなぁ……"」

 

「それは見てみたい気もするが……中の操作を行う

必要がある以上呼び出すのは避けておこう」

 

「"それもそうだね。……で、どんな感じかな"」

 

「そうだな。周りの有象無象は問題なく蹴散らせて

いるものの肝心の化け猫には攻撃が通用していない

ように見える。妖の類なら当然とも言えるが……」

 

「"実体化してないから弾が奴をすり抜けるぞって

感じなのかな?"」

 

「まだ分からん。もう少し様子見を……待て。

有象無象が倒れた場所に何か転がって……」

 

「"……あの服装は百鬼夜行の生徒だよ"」

 

「なん……だと?」

 

どういう事だ? 依代なのではなく生徒そのものが

有象無象の化け物に変化しているのか? そんな

馬鹿な話があっていいのか? 何体化け物が居ると

思っているんだ。数百はくだらない程居るぞ?

あの化け傘も東洋人形も怨念のようなものも全部?

全てが生徒だと言うのか?

 

「生徒を何だと思っているんだ……!」

 

「"マエストロ……"」

 

「だがどうすればいい……どうすれば救える……

そもそも有象無象にされた生徒達は無事なのか?

息があるのかも分からん……」

 

「"……大丈夫だよ。彼女達に息はある。遠目だから

詳しくは分からないけど僅かに動いてる"」

 

「意識はある、か……それなら今すぐにこの場所

から避難させれば何とかなるか……?」

 

「"幸いにもペロロジラが注意を引いてくれてるし

運べるだけ運ぼう"」

 

「……今は出来る事をやるしかないか……」

 

名も知らぬ生徒の為に行動する芸術家と先生。

……しかし先生は霊体なので応援しか出来ないが。




多分黄昏の深掘りが本編でされたら間違いなく
こんな感じではないと思います


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先生と先生の奇策

あの後数人の生徒を救出して安全地帯に戻り様子を

見る……必要もなく明らかに異常であった。

四肢が全て腐食している。それは徐々に身体に影響

を及ぼし始めていた。

 

「どうしたものか……」

 

「"これはゲマトリアの技術で治せないの?"」

 

「治せなくはないだろうが解析に時間が必要だ」

 

「"出来るんだ……"」

 

「とりあえずこの穴に生徒達を入れるぞ。

少なくともこの場所に居るよりも安全だ」

 

「"何処に繋がってるの?"」

 

「変態の根城だ」

 

「"ふざけてる場合じゃないと思うんだけど"」

 

「まあそう言うな。あんな奴でも役には立つ」

 

「"誰の事を言ってるのかは分からないけど……

マエストロがそこまで言うなら信用できる人

ではあるのかな……"」

 

「……よし。ひとまずはこんなものだな……

ペロロジラの様子は……まあ、善処した方か。

化け猫は無傷、と。八方塞がりだな」

 

「"せめて対処法が分かればなぁ……"」

 

「霊体だからだろう。百物語そのものの存在なら

幽霊のように実体化していない可能性が高い」

 

「"そっか。じゃあ私みたいなものなんだね。

……えっ、どうするの? 詰んでる?"」

 

「現時点ではな。だが幽霊程度なら色彩とは違い

対処としては容易だ。実体化させればいい」

 

「"どうやって?"」

 

「それは後程分かる。連絡はしておいたからな。

……あれを放置して進むのは気が引けるが私は

本来の目的を果たさなければならない」

 

「"アヤメの事?でも……"」

 

「分かってる。今ここで全員を救出する事が

教師としてやるべき行動なのも。だが今私達が

どうこう出来る問題ではないのも理解してほしい」

 

「"……分かった。君の選択を信じるよ。私と同じ

志を持っている君の事を"」

 

「……感謝する。一先ずは奴らに勘付かれる前に

この場を離れるとしよう」

 

ーーー

 

無力感。芸術家はあの化け猫に対して対抗手段を

何一つ持ち合わせていなかった。救出出来る筈の

生徒を何人も残してしまった事による後悔の念。

それはとても割り切るには難しい問題であった。

彼が先生という概念に染まっているが故に。

 

「……私は教師に向いていないのだろうな」

 

「"急にどうしたの?"」

 

「……何でもない。少し弱気になっていただけだ。

何故全員を救える程の能力がないのか、とな。

私にはまだ足りないものが多すぎる……」

 

「"……ねえマエストロ。君はどうしてこんな深淵

とも言える場所に来たの?"」

 

「それは……」

 

「"多分だけどさ、君はそこまで親しくはない生徒の

為にここに来たんだよね。それこそ出会ってから

数時間も経っていないような"」

 

「……出会った時間なんて関係ないだろう。悩みを

抱えている生徒が居たら寄り添い解決へ導くのが

私のやり方だ」

 

「"いい考えだね。私も同じ考えだよ。そして君は

口だけではなくそれを実践している。これって

君が立派な先生である何よりの証拠じゃない?"」

 

「……そんな事はない。私はただ一人の生徒を

心の底から笑えるようにしたいだけだ」

 

「"それで命を落とす事になっても?"」

 

「私の命を糧に笑顔が生まれるなら喜んで」

 

「"その考えはダメだよ。自己犠牲なんて誰も望んで

ないし望まれていない。……私も最後に伝えたい

言葉だけを残して置いてきちゃったからさ"」

 

「……そうか。すまない、無神経だった」

 

「"気にしないで。私が勝手に話しただけだから。

……ねえマエストロ、私の生徒は今笑えていると

思う? 孤独に生きているあの子は……"」

 

「……それは自分で確認すればいい。こうして私と

出会ったのは運命とも言える。霊体だろうが生徒に

会うのには何も支障はない、そうだろう?」

 

「"仮に会えるとしても私があの子に会う資格は

ないよ。ただ見守る事しか出来ない。シロコには

未来に進んでいって欲しいんだ。過去に囚われず

今をただ楽しく笑えるように"」

 

「それは無理だぞ」

 

「"えっ"」

 

「今のままではあの砂の神が報われる事なんて

1%の可能性もない。0だ」

 

「"……なんで? あの子は幸せにならないと

いけないんだよ。絶対に……"」

 

「先生よ。お前はもう一人の自分にシロコの事を

託した。それが何を意味する事か理解している

のか? いや、理解していないからそのような

事を容易く行えたのかもしれんが。……まあ、

あの場合は仕方なかったのかもしれないがな」

 

「"……何が言いたいの?"」

 

「シロコにとって『先生』なのはお前だけだ」

 

「"………"」

 

「同一人物であっても今ここに居る先生とこの世界

に元から存在している先生は他人だ。そんな人間と

シロコが接触したらどうなると思う?

……大切な人を思い出して辛くなるだろう。日々を

過ごしていくうちにその苦しみは大きくなる。

……あの先生がどんなに努力をしたとしてお前の

生徒が救われる事も報われる事もない。それが現実

であり現状なのだ」

 

「"じゃあどうしろって言うの……

私はどうすればあの子を救えるの!?"」

 

「落ち着け。今までは報われる事はなかった。仮に

私がシロコを連れ帰ったとしてもだ。彼女は突然

また放浪をするに決まっている。……だがな。

私がこの場所に来てシロコにとって唯一残っていた

大切な存在である先生に出会えた。言っただろう、

この出会いは運命だと」

 

「"運命……?"」

 

「ああ。……先生よ、私はこんな事を考えている。

……という内容だ」

 

「"そんな事が出来るの……? そんな事が許されて

いいの? そもそも物理的に可能なの……?"」

 

「可能だ。ただしそれは先生の意思次第。どうだ?

私と共にシロコを笑顔にしてみないか?」

 

「"……君はとんでもない先生だね、マエストロ。

一人の生徒の為にそんな事を考えるなんて……

分かった、やろう"」

 

「……よし、方針は決まったな。だがそれを実現

する為にはナグサの……」

 

『ナ……グサ……』

 

「!?」

 

「"マエストロ!"」

 

ナグサの名前に反応した怨霊のようなもの。

触られた彼女が何故このような所に放浪して

いるのかは分からないが……

 

「どうやら私の探し人は見つかったようだ。

……さて、どうやって対処しようか」




そろそろ6部もクライマックスに近いです


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アヤメ救出戦

「見つけたのはいい。当然救出もする。先生よ、

ここで一つ問題がある。私自身の戦闘能力は殆ど

無いに等しい。ましてや相手は百物語の一部に

されているとはいえ百花繚乱の委員長。あまりに

部が悪すぎるとは思わないか?」

 

「"まあ……そうだね。でもさ……"」

 

「「諦める理由にはならない」」

 

「そういう事だな。どうやら想定よりも私達は

思考回路が似ているようだ」

 

「"そうだね。それってつまり良い事だよね"」

 

「最高だな」

 

『グ……ァァァァ!!!!』

 

……なんて威圧感だ。ユメに元カノと詰め寄られた

時の数倍身が震えてしまうな。さて、どう戦う?

私は今頭を急回転させて考えている。1.2.3秒と

時間は経つが吠えるだけの彼女はまだ動かない。

今のうちにこの状況を打破してアヤメを百物語の

束縛から解き放ち救出する方法。そんな都合のいい

術など思いつく筈もない。やはりユメを連れて来る

べきだったのだろうか。彼女を数秒足止めする事が

出来ればまだ打開策があるものの……

 

「……なあ先生よ。アヤメに取り憑いて動きを抑制

する事は出来るだろうか?」

 

「"どうだろう……既に百物語が取り憑いてる状態

だから難しいかも……"」

 

「そうか……ほんの数秒でいい。アヤメの注意を

引きつける事が出来れば私が何とかする」

 

「"……分かった。私が何とかする。君がその間に

何とかしてくれるんだよね?"」

 

「任せてくれ」

 

「"分かったよ。……作戦開始だね"」

 

『蜉ゥ縺代※窶ヲ窶ヲ繝翫げ繧オ窶ヲ窶ヲ』

 

あちらの方も戦闘態勢に入った様だ。もはや何を

言っているのか分からない程に理性もなくただ

何かを発している。こちらは一撃でも喰らったら

致命傷だ。被弾すれば死ぬと思えと自らに

言い聞かせ彼女に向き直った。しかし先程まで視界

にいた彼女の姿はなく突如腹部に激痛が走った。

ドスっという鈍い音と身体が軋む様な嫌な音。

二つの不協和音が奏でたものは力の差を示すように

無慈悲にも芸術家に抵抗する暇を与えなかった。

黒く染まった彼女の腕が腹を突き破る勢いで殴打

したようだ。……まさかこの身体になっても痛覚が

働いていると思わなかった。そして彼女を……生徒

を侮っていた事も。初めから勝負になる筈がない。

こうなる事は決まっていたのかもしれない。

 

「(痛みで意識が飛びそうになる感覚などいつ振りに

味わったのだろうか……だが傷は深くない。例える

なら肋が全部折れた程度の威力だ。こんなのは些細

な痛みだろう。目の前にいる彼女が味わっている

痛みに比べたらな……)」

 

そうやって少しは強がってみたものの身体は正直

というべきか。少しずつ思考が濁っていくように

視界が暗転していく。徐々に暗闇に包まれていく

前に聞き慣れた声がした。

 

「"ナグサだー!"」

 

……先生よ。もう少し早く叫んで欲しかったぞ。

致命傷を負ってしまったではないか。だが……

 

『……ナグサ』

 

彼女が先生の居る方角へ向いて停止している。

……この機会を逃してたまるか。

 

「見様見真似だが披露させてもらおうか!

アヤメから百物語という『概念』を引き剥がす!」

 

この状況において彼女を傷つけず百物語の一部

というものから解き放つ方法。それはゴルコンダ

が用いている概念を使う他ない。数秒引きつける

必要があったのは引き剥がす為の時間稼ぎ。

黄昏自身ならともかく百物語という一般的に

知れ渡っている概念ならば見様見真似でも恐らく

引き剥がせる。概念の付与は何度かやってきたが

引き剥がす、というのは初めてだ。ゴルコンダが

共有した際に詳しく聞いておくべきだったな……

 

『繧?a繧搾シ∝シ輔″蜑・縺後☆縺ェ?』

 

「何かを訴えているようだが……生憎そのような

言葉を理解するつもりはない!」

 

引き剥がす事に対して抵抗してくる怨念は徐々に

アヤメの身体を制御出来なくなっていったのか

力が抜けているように見える。そのうち彼女を

纏っていた妖気のようなものは離れていき宙に

漂ってこちらを見下ろすように存在している。

時間にして10秒。見様見真似で概念を引き剥がす

事に成功した。……ここまではいい。アヤメと

怨念はもう繋がっていない。あとはこいつを倒す

だけだ。それだけなのだが……

 

「どうやら力を使い果たしてしまったようだ。

アヤメを抱き抱える事すら難しい程にな」

 

「"引き剥がせたなら作戦は成功だよ。どうやって

やったのかは知らないけどね"」

 

「だがあいつがもう一度アヤメに取り憑いたら

何もかもが水の泡だ。先生よ、この状況でどう

あいつを倒せばいいと思う?」

 

「"あれの相手はちょっと……というか無理かも"」

 

「はは、同感だ。最悪私が囮になる。その間に

先生はアヤメに乗り移るなりなんなりして彼女を

安全な場所まで運んでくれ」

 

「"……自己犠牲はいけないってさっき君が言った

ばかりじゃん。駄目だよそんなの"」

 

「今はそれが最善の行動だろう?」

 

『違いますよ。相変わらず馬鹿ですね』

 

「"えっ誰の声……?"」

 

「マダム……また勝手に繋げたのか……」

 

『空から手足が黒ずんだ女の子が数人降ってきた

時からずっと貴方達の会話を盗み聞きしてました。

お二人の生徒に対する愛は素晴らしいものです。

……まあ? 自己犠牲を選ぶ辺りまだまだ未熟と

言わざるを得ませんがね』

 

「………」

 

「"……まあ、マエストロが先生になってるから

あれが先生になっててもおかしくないか……"」

 

『あれとは何ですかあれとは。……まあいいです。

私の言う事に従ってください』

 

「何をする気だ?」

 

『そちらの先生、マエストロに憑依してアヤメを

抱えて西に走り続けてください』

 

「"あっうん、分かったよ。じゃあ憑依するね"」

 

「当然のように憑依するな」

 

「"今はこれが最善の行動だから"」

 

「……なら仕方ないか」

 

『さあ今すぐ全力で走ってください。100m先に

マエストロがこの場所に侵入した入口があるので

そこから脱出をするのです』

 

「だがあの怨念を放置するのは……」

 

『順を追って説明しますので今は私の指示に』

 

「"こっちでいいの!?"」

 

『そう、その方角です。それでいいのです。

何故ならその先に居るのは……』

 

「先に居るのは?」

 

『勇者です』

 

「勇者?」

 

勇者……勇者? そんな人が居たのか……

まあいい、とにかく脱出をしよう。

 

「"マエストロ! 出口に入るよ!"」

 

「ああ。これで任務は完了だ」

 

「ええ。おめでとうございます。後は私達」

 

「勇者姉妹に!」

 

「お任せください」

 

……………………

 

こいつらか。



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一難去って大惨事

「納得がいきません!」

 

「私に言われても困るのだが」

 

「確かにあれは納得出来ませんね」

 

「まさか怨念がアリスが1発撃っただけで消滅

するとは思わなかった」

 

「物足りないです! 百鬼夜行に戻って経験値

稼ぎをしにいきます!」

 

「あ、こらアリス! 一人で出歩いたらまた

私とはぐれますよ!」

 

「はっ! 危ないところでした!」

 

「……あいつらは置いておいてアヤメの方を

どうするか、だな」

 

黄昏の領域から連れ戻した彼女の身体は全身

黒い痣に覆われている。触れる分には問題は

なさそうだが治療法はまだ思いつかない。

とにかく一度宿に運ぶとしよう。……身体に

力が入るようになってからな。

 

「あ、ケイ! 見てください! お祭りが

始まっていますよ!」

 

「本当ですね。太鼓の音が聞こえます」

 

祭りか……そういえばユカリがそんな事を

言っていたな。だとすれば自治区内は人が多い

だろう。この辺で新しく宿を取る方がアヤメの

身体を休めるのに適して……

 

お前は自らの目的を果たす

事もなく祭りの日に焼け死ぬ

 

「……まずい」

 

フランシスが言っていた事。祭りの日に私が

焼け死ぬというもの。もしこれが事実なら……

この後大規模な火災が起きる可能性が高い。

 

「祭りに参加して遊ぶというクエストが発生

しました! 先生も一緒に行きま……」

 

「行くな」

 

「え!? 何でですか!?」

 

「そうですよ。私達にりんご飴を奢ってください」

 

「いいか。今から話す事はあくまで可能性の一つ

として考えてくれ。この後町内で火災が発生する」

 

「そうなのですか?」

 

「ああ。そして私の予想が当たるとすれば……」

 

あの時みた化け猫と有象無象の怨念達が町を

闊歩する地獄絵図……まるで本当に百鬼夜行が

起きてしまう。飛んで火にいる夏の虫、という

訳ではないが今町内に入っても危険なだけだ。

 

「……時期に勇者の出番が来るという訳だ」

 

「勇者の出番!! アリスとケイの出番という

事ですね!!」

 

「まあ、そうなりますね」

 

「それまではここで待機していて欲しい。

そうだな……そこに居る囚われていた姫の警備を

任せようじゃないか」

 

「囚われの姫ですか!? お任せください!!」

 

「私は面倒ですがアリスが心配なので残ります」

 

「流石はアリスの姉だな。では任せたぞ」

 

出来る事ならユメと合流したいが……火災が起きる

前に合流出来るのだろうか? こういう時は大体

間に合わないというオチが待っていそうだ。

 

ーーー

 

「もう出てきていいぞ」

 

「"……なんか色々聞きたいことがあるんだけど

何から聞けばいいのかな……"」

 

「到着まで時間が掛かるから聞きたい事があれば

分かる範囲で答えるぞ」

 

「"さっきの二人ってアリスと……ケイなの?"」

 

「ああ」

 

「"あんな微笑ましい光景なんだね……"」

 

「ミレニアムでも仲の良い姉妹だと評判だぞ」

 

「"そっか。モモイ達と楽しく過ごせてるんだね。

……私もゲマトリアと協力していたらこうならず

に生徒達を幸せに出来ていたのかな"」

 

「それはないだろうな。今まで私達のように

搾取ではなく共生を選んだゲマトリアと接触した

事がない。……考えてみれば単純な話だ。悪い大人

の立ち位置を捨ててまで教師になる必要なんて何も

ないんだ。仮にきっかけがあったとしても根本的な

思考はそう簡単に変わらない。悪い大人というのは

そういうものだ」

 

「"そっか。良いマエストロは君だけなんだね"」

 

「……先生よ。私も例外なく悪い大人だからな?

 

「"見た目だけはね"」

 

「私にも面子というものがあってな……そうだ。

先生に伝えなければならない事がある」

 

「"どうしたの?"」

 

「私は今日燃えて死ぬらしい」

 

「"えっ"」

 

「なのでもしそのような状況に陥っても動揺

しないで息を潜めていてほしい」

 

「"さっき自己犠牲を選ぶなって言われてたけど

なんでそういう事言うの?"」

 

「まあ待て。これは生徒を助ける過程で必要な

事なのだ。何も心配する事はない」

 

「"そんな事言われても……心配するよ。でも君の

事だから何か策があるんだよね?"」

 

「ああ。上手くいくかは信じていればという感じ

ではあるがな。……そろそろ会場に着くぞ。

先生よ、一度姿を消し……」

 

ドンッ!!

 

「……案の定始まってしまったか……自治区内で

何が起こっているか分からないが……私は自分が

やれる事を全力で行うだけだ」

 

「"……ただの花火だよ?"」

 

「………」




おまけ 同時刻のゲヘナにて

「数十分検査して分かったのは生きてはいますが
意識が戻らず治療法も不明……全く、マエストロ
はこんな大変な事を押し付けてきて……これでは
会議が進まないではありませんか」

「大丈夫さ。既に方針は決まって準備も万端。
鷲見さんに完成品も渡せたからね」

「は、はい。備えは充分だと思います」

「……私が言いたい事はそうてはなくですね。
せっかくミレニアムとトリニティの生徒が我が
ゲヘナ学園に来てくれたと言うのに大した交流
が出来てないという事が問題なのです! 私達
はもっとお互いの事を知る必要がある! そう
思いませんか?」

「……ふむ。どうやらゲヘナの先生は噂通り
面白い人のようだね。先程までの威厳を感じた
姿が嘘のようだよ」

「生徒を愛するのに威厳なんて必要ありません。
欲望には素直であれ」

「えっと……素敵な考えですね……?」

「おやおやおやおや貴女はこの考え方を理解
してくださると言うのですか。本当に
白衣の天使ですねセリナたんは」

「セ、セリナたん……?」

「ユーモアがあるのは良い事だよ。だけど
そろそろ出番が来そうだからさ」

「それもそうですね。……しかし本当にこんな
四角い箱で上手くいくのでしょうか?」

「鷲見さんが居るなら可能だよ。彼女が先生の
合図を聞く事が出来れば、ね」

「それなら私の端末を貸しましょう。これは今
マエストロの端末に繋がっているので。彼の
現状を知れま……何やらあちらの方が騒がしい
ようですね。ライブでも開催されている勢い
ですが……」

「多分ですがシスターサクラコのライブかと」

「何ですって? あのハイレグニーソシスター
アイドルサクラコがゲヘナに!? ……こんな
状況でなければ観戦したかったです」

「会議は終わったのだから観に行く分には
構わないと思うけど」

「何事にも優先順位があるのです。今は手足が
黒ずんだ彼女達に付き添いたいのですよ。
ですのでライブはお預けです」

「成程。私達の先生が貴女を頼った理由が
なんとなく分かった気がするよ」

「面倒事を押し付けるのは完璧してほしいところ
ですがね」


みたいなやりとりをしていたとかなんとか。


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生きている君

「どうみても花火だな。少々警戒心が強すぎた

かもしれないな」

 

「"そうだね。どうみても花火だもんね"」

 

「見惚れているところ悪いが姿は消しておけ。

知り合いと鉢合わせしたら面倒だ」

 

「"分かったよ"」

 

了承した途端先生は一瞬で視認が出来なくなった。

霊体というのは便利なものだな……

なりたいとは思わないが。

 

「……特にこれといった問題はなさそうだ。

呆れ返る程普通だ。本当に火災が起きるのか

信じられんほどにな」

 

初めて訪れた時よりも活気があるのは祭りの日

だからだろう。他学園の生徒の存在もいくらか

確認出来た。現状目立った問題がなければ

ユメとの再会をしたいがこの人混みの中から

見つけ出すのは難しいだろう。スマホは……

人が多すぎて回線が死んでいるようだ。

あの時のように叫んでみるか? ……流石に

この人数に聞かれるのは恥じらいを覚える。

 

「"この会場にシロコが居るのかな……せめて顔

だけでも見れれば……"」

 

「そう簡単に見つかるとは思えないが……」

 

「"居るなら探すしかないよね"」

 

「元から合流するつもりだからな。だが先生よ、

先程の目的を果たす為には……」

 

「"分かってる。ちゃんと姿は隠しておくよ"」

 

「それならいい。今は我慢をしていてくれ。

いずれ嫌という程に……」

 

「"マエストロ、前! 前!"」

 

「あまり声を荒げるな。前に何が……」

 

『綿飴美味しいねー』

 

『……うん』

 

……アヤメといいあっさりと見つかりすぎでは

ないだろうか? まるで一生分の運を使って

しまった気分だ。

 

「"シロコ……シロコだ……生きてるよ……

生きて綿飴食べてるよ……"」

 

「霊体でも涙は流れるのか……どんな構造

なのか興味はあるが待て私のスーツを濡らすな」

 

「"待ってマエストロ。隣にいる子は誰?

シロコみたいにヘイローが欠けてるけど"」

 

「あれは私の恋人だ」

 

………

 

「"マエストロ……君は最低だよ! まさか生徒に

手を出すなんて!! もしかして私のシロコ

にも手を出したんじゃ……!?"」

 

「待て、あれは未遂だ」

 

「"未遂って事は出そうとしたんだね!?

君は教師失格だよ!! 最低の大人だ!!"」

 

「不可抗力だ!! 男ならあのような果実が

目の前にあったら手を伸ばすに決まってる!!」

 

「"だからって生徒に手を出すのは違うよ!!

セクハラだなんて見損なったよ!!"」

 

ギャーギャーフンギャロゴロゴロギャー⁉︎‼︎⁈⁇

 

『……騒がしい』

 

『お祭りだからね。気が緩んじゃうのも仕方ない

と思うよ。……どう、楽しめてる?』

 

『……ん』

 

『そっか。それなら良かったよ』

 

キサマアマリワタシヲグロウスルナライマコデジョウブツサセテヤッテモイインダゾジバクレイフゼイガ!!

 

ヤッテミナヨドヘンタイノクソヤロウ!!

 

『花火……綺麗』

 

『そうだね。もっと近くで見よっか』

 

『ん』

 

大人二人がくだらない事で争っている間に

それぞれの目的の相手は去っていった。

その事にすら気付かず言い争いは続く。

 

「ゲマトリアを舐めるなよ!?」

 

「"そっちこそ先生舐めるな!!"」

 

「私だって今は教師だ!」

 

「"じゃあ私もゲマトリアになる!"」

 

「お前が悪い大人になれるか馬鹿が!!」

 

「"何だって!?"」

 

「シロコの為に命を捨てたお前はどう足掻いても

悪人になれん! 断言してやる!」

 

「"なれますけど!? マエストロの恋人を寝取って

私の恋人にでもしてやろうか!?"」

 

本当に消滅させてやろうか?

 

「"ごめんなさい"」

 

「……そうだ。ユメとシロコは?」

 

「"もう……いないね"」

 

………

 

「喧嘩両成敗という事にしよう」

 

「"うん……お互い大人気なかったね"」

 

「そうだな……」

 

争いは同レベルの者同士でしか生まれない。

それを痛感した二人であった。

 

「"ところで花火って終わったのかな? 音が

聞こえなくなったんだけど"」

 

「? まだ上空は光って……」

 

そう、花火はまだ夜空を照らしている。

それなら何故音が聞こえないのだろうか?

 

「"というかさ……花火が紫一色のように

見えるんだよね。なんか最近見た色というか"」

 

「……怨念の色だったりしてな」

 

「"そんな事ある筈ないよ。だってさ?

あんな大規模なら火災なんてレベルじゃなくて

都市壊滅だよ? あの花火が怨念の集合体とか

だったらの話だけどね"」

 

「まさかそんな馬鹿げた話が……」

 

ない、とは言い切れなかった。見知った知人が

合図かのように目の前に現れたからだ。

フランシス。悪い大人を気取る負けたヴィラン。

 

「随分とでしゃばるじゃないか。フランシスよ」

 

「貴様の終幕を見届けたいだけだ。不死を捨て

俗世に染まった哀れな大人をな」



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敷かれたレールの上からは逃れられない

本日UAが10万を超えておりました。
とても嬉しい反面こんな毎日投稿程度しか価値のない
ものよりもっと面白い作品を読んで欲しい
と切に願います。
私は永遠に自分に自信を持たない


「貴様らは本来歩むべきであった歴史を捻じ曲げ

この世界に歪みを生ませてしまった。その行いの

せいで百花繚乱編は混沌し収拾がつかなくなり

強引に軌道修正を行った。だがマエストロ、貴様

が黄昏に侵入した事でそれも無駄となったが」

 

「相変わらずくだらん事を言う奴だな。生徒が不幸

になる未来なぞ何の価値があると言うのだ。私は

教師として生徒を犠牲にする道を選ぶなんて愚行が

出来る筈がないだろう」

 

「"マエストロ……"」

 

「その思考は理解できん。ゲマトリアという箱庭に

おいて上位の立ち位置である自らの立場を捨てて

先生という戯言に勤しんでいる奴の事などな。だが

貴様がどう考えて行動しようが歴史は変わらん。

貴様は今日、この祭の場で燃えて死ぬ。黄昏内で

理解したのだろう? 既に自身が不死の存在でない

事を。ゲマトリアのままならそんな死などという

概念に悩まされずに済んだものを……」

 

「ゲマトリアに拘り続けた結果無様に敗北した

貴様らが何を偉そうに言っているんだ? 確かに

私は不死を失った。だがその結果得られたものは

計り知れない。……先生とも出会えたからな」

 

「……あくまで自身が正しい事を主張するのか。

ならば見せてみるがいい! 百花繚乱編は今!

終幕に向かい始めたのだからな!」

 

「"……あいつ何なの? 言いたい事だけ言って

そそくさと消えたし……"」

 

「負けたヴィランなんてそんなものだ。……さて

先生よ。ここからは賭けの連続になるが私の運は

何処まで通用すると思う?」

 

「"全部成功させるんだよ。大丈夫、私達なら

成し遂げられるよ"」

 

「そうだな。では参ろうか」

 

……思えば始まりはユメを元に戻す手掛かりを掴む

という私欲からだった。それがまさかこんな事態に

発展するとはな。運命とは面白いものだ。

尤も決められた運命なんて願い下げだが。

 

「……で、早速だが問題が一つある。私には百物語

と戦う能力がない。仮にあったとしても怨念達が

元は生徒という事実を知ってしまった以上攻撃を

するのは避けておきたい」

 

「"その考えは立派だと思うけど自殺行為じゃない?

流石に対抗する手段はないと。あ、先生ならあれ。

シッテムの箱とかあるでしょ?"」

 

「そんなものない。あくまであれはシャーレの先生

が持つべきものだからな」

 

「"じゃあどうするのさ"」

 

「そこで先生の出番という訳だ。私の知る先生と

趣味が同じならロボットが好きだろう?」

 

「"勿論!"」

 

「そうだろうそうだろう。では先生にこれを

使わせてやろう。『雷ちゃんm/3』だ。霊体なら

取り憑いて操る事くらいは出来ると思うぞ」

 

「"状況が状況じゃなかったら発狂して喜んでた

けどそれが出来るなら私も戦えそうだよ。でも

そんなものがあるならなんでアヤメ救出作戦の

時に使わなかったの?"」

 

「……色々詰め込まれすぎたせいで燃費が悪く

長時間の稼働が出来ないからだ」

 

「"……それなら仕方ないね。じゃあとりあえず

取り憑いてみるよ"」

 

「ああ」

 

先生が雷ちゃんに取り憑くと電源が入った……のは

いいものの突然炎を吐いたりレーザーを放出したり

暴走し始めている。……まさかとは思うが私が

燃える原因はこれか? 

 

「"なんか見た目以上に機能が多すぎる!

ミレニアムって凄い!"」

 

「私のマイスターの自信作だからな」

 

「"それで私はこれに取り憑いて何をすれば?"」

 

「なに、簡単な話さ。あそこにいる化け物に対し

私が今からアヤメにやったように百物語という概念

を引き剥がし生徒と怨念を分離させる。その後は

言わずとも分かるな?」

 

「"成程理解!これなら私達でも雑魚処理くらいは

出来そうだね"」

 

「当然囲まれたら終わりだし救出した生徒達を保護

しながら戦闘する事になる。燃料には限りがある

事を忘れるなよ」

 

「"分かった!"」

 

ーーー

 

同時刻の勇者達視点

 

「アリス」

 

「何ですか?」

 

「燃えてますね」

 

「はい!」

 

「私達も行った方がいいのでしょうか?」

 

「多分行った方がいいです。ですが眠り姫を

置いて勇者が旅立つのは……」

 

「……やむを得ません。ここは私が眠り姫を

防衛するのでアリスは先に行ってください」

 

「分かりました! 勇者出撃です! はっちゃ!」

 

「……はっちゃ? まあいいでしょう。

しかし私はここに来てから雑な扱いばかりされて

いるような気がします。このまま出番もなく終わる

のは流石に困りますね。何処かにこの眠り姫を

防衛してくれる代理の方は居ませんか? なんて」

 

「いえ、ケイがその方を守る必要はありませんよ」

 

「あれを試すのには丁度良さそうな子だね」

 

「貴方達は……」

 

ーーー

 

そして本来の先生視点

先生達は何も知らないので当然怨念の襲撃を受ける

 

「"痛た……くない? 明らかにヤバそうな奴が

目の前に居たんだけど……"」

 

「先生、大丈夫?」

 

「"……そっか。ホシノが守ってくれたんだね。

ありがとう、助かったよ"」

 

「うへへ、気にしないでよ。……でもさ、先生。

今かなりやばい状況なんだ」

 

「"なんか黒い化け物が居る……"」

 

「……大丈夫?先生の事は私が絶対に守るよ。

……命を賭けてね」




多少強引ですがクライマックスに移ります


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芸術家の終幕

「原理は同じだ。異形の姿になっていようとも

百物語という概念を分離すれば元の姿に戻る」

 

「"そして離れた怨念を私がレーザーで撃つ!"」

 

「そう、これで一人の生徒を救えたという訳だ」

 

「"最高だねマエストロ。……正直私はこうして

自分が戦いたかったんだ。生徒達が傷ついて

戦う中私は指示しか出来なかった。あの子達は皆

優しかったから仕方ないと言ってくれた。けど

私が弱いからシロコは一人になってしまった。

……全部私が弱かったからなんだ。爆発の一つ

や二つ耐えないといけなかったんだ"」

 

「キヴォトス人でもあるまいし爆発に耐える

なんて考えはよせ。それに精神的支えになれるのも

先生としては立派だぞ。……そうして戦えるのは

今だけだ。充分に楽しんでおけ」

 

「"うん、そうする。でも楽しむよりも大事

なのは生徒を助ける事だよね"」

 

「先生は変わらないな。だがその通りだ。まだ一人

だけしか救出していない。気張っていくぞ」

 

「"了解!"」

 

このやり方が何処まで通用するのかは未知数だ。

だが今はただ行動するだけでいい。そして頃合い

を見て作戦を実行する。それだけだ。

 

ーーー

 

「……参ったね。全然敵が減らないよ」

 

「"親玉の黒い化け猫……?から生み出され続けて

いる以上あれを倒さない事には……あれ"」

 

「どうしたの先生?」

 

「"あそこの建物にユカリ達がいる! 助けに

行かないと!"」

 

「……分かった。私が敵を誘導するからその隙に

先生はあの子達のところに行って」

 

「"ホシノ……ごめん、任せたよ"」

 

「うん、任された」

 

……とはいえこの数相手じゃおじさん一人では

厳しいかもね。でもやるしかないよね。だって

先生を守るって誓ったんだからさ。

 

「始めよっか」

 

攻撃が通用しなくても引きつける事はできる筈。

そう、私一人でもやらなくちゃいけないんだ。

まずは周辺の敵を一掃して……

 

「……え?」

 

撃った敵が人間に変わった? ……いや、今は

考えるのはやめておこう。とにかく足止めを

する為だけに動かないと。

化け傘のような生物は距離を詰めてショットガン

を至近距離で一発。提灯型の生物は口から放出

される液体を避けて口内に一撃。……やっぱり

それらを倒したら四肢が黒ずんだ人間に変わる。

どういう事なんだろう……? 私みたいに

悪い大人に利用されているのかな……?

 

「後で考えよう。今はあの黒い化け物を……!?」

 

黒い化け物は低く唸り声を上げたかと思えば

小さな狐火を生み出した。それらの狙いは

『私が敵を倒した時に化け物から変化した人間達』

に向かっていっている。……止めないと。本能で

そう思った私は盾を展開してその狐火を受け止めた

そう、狐火を受け止めてしまったのだ。

 

「くっ……!?」

 

それは私の盾に触れた途端爆発した。規模は小さい

ものの私の身体に振動を与えてくる。頭が揺れて

視点も定まらない。肉体へのダメージこそ少ない

ものの頭が混乱してきた。

 

「……あっ」

 

視界は安定せず腕から力が抜けて

盾を落としてしまった。それでも尚化け物は

狐火を展開し同じように向かってくる。

盾を拾う事が難しいなら身体で受け止める。

それしか思いつかなかった。あの狐火が直撃したら

どうなるのだろうか。それでも今私がこの子達の

壁にならないといけない。……私は本当に弱いな。

ユメ先輩、貴女のように強くなりたかったな……

 

ーーー

 

「……今何人目だ?」

 

「"50人くらい、かな"」

 

「そうか……まだ一割にも満たないだろうな」

 

「"百物語だから百人、とかじゃないのかな"」

 

「それだったら五割という事にしておくか」

 

「"はは、そうだね"」

 

ここまでは順調だ。雷ちゃんの燃料もまだ半分程

残っている。このままいけば……

 

「……そう簡単にはいかない、か」

 

中型の人形が数体こちらに接近している。

化け傘の数倍はある相手が何体もだ。

 

「先生よ、敵も本気を出してきたようだ。

一層気を引き締めて……」

 

「"マエストロ、後ろ! 助けた生徒達が!"」

 

「何だと!?」

 

いつの間に背後に……しかも大量にいる……

 

「私が抑え込む! 先生はその間に生徒達を避難

させるんだ!」

 

「"でも前方には大きい人形が……」

 

「道はこじ開けるなり何なりしろ!」

 

「"わ、分かった!"」

 

とにかく怨念達を救出した生徒に触れさせる訳には

いかない。身体を張ってでも止めなければ!

 

「ぐっ……この数では引き剥がすのも限界がある

が……それでも私は……」

 

この命燃え尽きるまで百物語という呪縛から生徒

達を解放し続ける。彼女達がまた心から笑える

生活に戻れるように。そう願いを込めて。

 

「"マエストロ! 燃料が殆どないけどレーザーで

何とか人形を倒して道を……マエストロ?"」

 

「………」

 

嗚呼……久しぶりに生を実感した。この場にいる

全ての生徒から百物語を引き剥がす事が出来た。

……良い最後ではないか。なんて事はない。少し

眠りにつくだけだ。焼死というのは格好が付かない

がな。……私の役目はここまでだ。後は任せるぞ。

 

「……哀れなり。先生という立場であるが故に

有象無象の忘れ去られた神々を放置出来ず自ら

命を落とすなど。実に醜く最悪の自殺だ。だが

これで理解しただろう。貴様達は運命という

決められた道しか辿れないという事がな。

……選別代わりに天使の迎えが来たようだぞ?」

 

フランシスは告げる。運命には抗えないと。

そしてこうも告げる。天使の迎えが来たと。

それを暗示するかのように芸術家の周辺に一つの

小さな羽と……救急箱が置かれていた。




6部完

2/20 0:00からは7部が始まります


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開幕

「……救急箱? 何故天使が救急箱を落とす?

何故だ? 貴様は芸術家を迎えに来た天界の使い

ではないのか? 貴様は一体何者だ?」

 

「私は……怪我をされた方の所に駆けつけるだけの

ただの人間ですよ」

 

「"……セリナ?"」

 

「……理解できないな。そこの芸術家は既に死んだ

ボロクズにも等しい存在だ。貴様がどのような神秘

を携えていようが死人を蘇生する事など不可能だ」

 

「……死んでいればの話だが、な」

 

「……貴様、何故生きている? 先程怨念の炎に

焼き尽くされた筈ではないのか!?」

 

「ああ。確かに私は死んだ。……ただし一時的に

死んでいたに過ぎない」

 

「ならば何故生きて……」

 

「私の生徒を甘く見るなよ? 死の偽装なぞ私の

優秀な生徒達の手に掛かれば容易いものだ」

 

「そのような理屈で説明出来るものでは……!!」

 

「……馬鹿め。理屈じゃ説明なんて出来るか。

……ああ、私の生徒ならこういう時になんて

言っただろうか。……そうだな。このように右手

の人差し指を天に掲げて……」

 

私たちの、青春の物語を!

 

「なんて言っただろうか……」

 

「貴様! ふざけるのも大概にしろ! そんな

馬鹿な事が認められる筈がないだろう!?」

 

「私達の物語に許可など必要ない! セリナ!」

 

「はい!」

 

「待て! 何をする気だ!」

 

「言っただろう、『私の生徒を甘く見るな』と」

 

「戯言を! その減らず口を今から黙らせて……」

 

「黙るのはあんたの方っすよ? ウチらの先生に

何してくれてるんっすか? ……そんなに地獄が

見たいなら見せてやるっす」

 

「ダメだよ。こいつに地獄を見せるのは私の役目

なんだから☆」

 

「待ってください、ここは頭の救護を……いえ、

頭部がないので出来ませんね」

 

「ふふ、いよいよシスターフッドである私の

出番のようですね。にんにくと十字架は用意して

来ましたよ。これで悪しき者を浄化させ……」

 

「あはは……それは何かずれているような……」

 

「まあ投げつけてみれば案外効果あるかもよ?

……で、あんたはいつまで縮こまってんの?」

 

「ひ、人が多くて……怖いんです……」

 

「はぁ……あんた一応自警団の代表で来てん

だからもうちょっと堂々としなよ」

 

「"トリニティの子達がいきなり現れ……うわっ"」

 

「おや? 雷ちゃんに会話機能なんてつけた覚え

はないんだけど……これが進化、なのかな?」

 

「"は、離して……"」

 

「開発者に逆らうのはよくないね。これは一度分解

して回路を組み直した方が良いのかな?」

 

「その時は中のプログラムを確認させてよ」

 

「チーちゃんよりも先に超天才の私が解析を……

あっつ!? ここ熱くないですか!?」

 

「そりゃあ燃えてるからね」

 

「ではご主人様を傷つけたであろうあちらの方

からお掃除するとしましょう。ちょうどゴミを

燃やす火がありますので」

 

「それは良いですねー! ……ついでに私が

やらかして生まれた損失の書類も燃やして……」

 

「燃やすのは良いけど……先生には良い所を

見せないと嫌われるよ?」

 

「そ、それもそうですね。なら燃やすのはやめて

おきます!」

 

「"ミレニアムの子達まで……まさか大人のカード

を使ったの!?"」

 

「……いいや。あれを使って奇跡を起こせるのは

先生だけだ。私はただ援護を頼んだに過ぎない」

 

ぞろぞろと現れる生徒達。二人だけだった

先程までとは打って変わって一気に戦況が傾いた。

そう、これこそが芸術家の作戦だった。死ぬという

運命を利用し戦力を呼び出す事。

 

「もし私と先生だけで何とかしようとするならば

戦う術がないというのはおかしな話だろう?」

 

「……成程。私は貴様を甘く見ていたようだ。

やはり先生という存在を完全には理解しきれて

いないようだ。……興が失せた。この先貴様が

歩む道などに価値はない。私はもうこの場から

立ち去り奴との接触を……」

 

「逃がさないっすよ? 地獄に落とすまでは」

 

「ええ。粗大ゴミのお掃除をしなくては」

 

「……そいつは不死の存在だぞ」

 

「じゃあサンドバッグにし放題じゃんね☆」

 

「新開発した兵器の試し撃ちも出来るね」

 

「なら連れ帰って人間サンドバッグの刑にする

のが良さそうっすね」

 

「お、おい! 私に近寄るな! 搾取される

人間の分際で!」

 

「……哀れだなフランシス。生徒を甘く見るから

そうなるんだ。搾取する対象でしかないなんて

古臭い考えしか出来ないからそうなる」

 

ーーー

 

「……?」

 

迫り来る痛みに対して思わず目を瞑ってしまったが

十秒ほど経過しても痛みが来ない。それどころか

何か暖かいものに包まれているような……

 

『遅くなってごめんね』

 

その声には聞き覚えがあった。太陽のように眩しい

笑顔が似合う私の唯一の先輩の声。

 

『……今度は間に合った』

 

そして静かで、それでいて優しく頼りになる

私の後輩の声。

 

『そこの黒いの。私の後輩に……』

 

『私の先輩に……』

 

『『何してんの?』』

 

……ああ。私はまた助けられちゃった。

まだ……弱いままだなぁ……

 

『ねえシロコちゃん、ホシノちゃんの事任せても

いいかな? 私はあの化け物をぶっ潰す』

 

『……ん、任せて』

 

『ありがとう』

 

……でも。私の為に怒ってくれて戦ってくれる人が

居るのは……嬉しいな……

 

『ホシノ先輩、今治療する』

 

「うへへ、お願い」

 

『ん』

 

『……うん、あっちは大丈夫そうだね。じゃあ

こっちも始めようか? 化け物』




援護に現れた子達
トリニティ
聖園ミカ
仲正イチカ
歌住サクラコ
蒼森ミネ
鷲見セリナ
杏山カズサ
宇沢レイサ
阿慈谷ヒフミ

ミレニアム
黒崎コユキ
明星ヒマリ
各務チヒロ
白石ウタハ
室笠アカネ
才羽ミドリ

全員の共通点 マエストロの事が好き

やりたい事リストのうちの一つが出来たので
私は満足です。それと7部はマエストロが
生存したので始まりません


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芸術家の歩んできた道

「"ごめんマエストロ"」

 

「どうした急に」

 

「"私……君に嫉妬してる。こんなに沢山の

生徒に慕われている君が羨ましい!"」

 

「先生も似たようなものだろう……」

 

「"今はシロコとアロナだけだもん!"」

 

「もう一人居たのか……それなら後でそいつも

見つけ出さないとな」

 

「"あ、でもあの子が楽しめているのなら無理強いは

したくないかな"」

 

「そうか」

 

「あのー……幽霊さん? 今は先生に話しかける

のを控えて頂きたいのですが……いくら死を偽装

したとしても先生が重傷である事には変わりが

ないので……」

 

「"あ、ごめん"」

 

「……私の治療はもう充分だ。それよりもあそこで

倒れている生徒達の治療を頼む」

 

「ダメです。先生を優先します」

 

「しかしだな……」

 

「これは私達全員の総意です」

 

「……仕方ないか。分かった、順番は任せる」

 

「"愛されてて良いですねーマエストロ先生?"」

 

「変な嫉妬をするな」

 

「"治療しながらでいいんだけどどうしてこんな

事が出来たの? どうやって彼女達を?"」

 

「そうだな……ゲマトリアの技術、と一言で

済ませるのは簡単だが順を追って説明しよう」

 

始まりはマダムからの着信。本来繋がる筈のない

他世界との連絡が可能となっている。そして

ヒビキが唐突に現れた。何故こうも簡単に干渉が

出来るのかと私は疑問に思い考えた。その答えは

簡単であり単純だ。

『私達の世界とこの世界は繋がっている』

という事。当然私達が今訪れているのだから

繋がっているとは当たり前だと思うかもしれない。

だが思い出して欲しい、この世界のゲマトリア達が

何をしたのかを。『ベアトリーチェの追放』だ。

ややこしいので淑女、と言い方を変えた方がいい

だろうか。その際に出来た世界を繋ぐ穴はまだ

何処かに存在しておりそのまま暫く時が経過して

いる。……案外黒服が何度も訪れていたりするの

かもしれないがな。そういう理由もあってかなり

世界の境界が曖昧になっているのだろう。

なので座標を示す発信器を持った私の生徒が

この場に現れてくれれば一斉に連れてくる事が

出来るのではないかと踏んだわけだ。……まあ、

方法に関してはエンジニア部に任せたのだが見事

成し遂げてくれたようだ。何故トリニティの生徒

が来たのかは知らないがな。大方マダムが私の

頼みという名目でゲヘナに呼びたかったのだろう。

戦力は多いに越した事はないがな。

 

「"つまり一言で言うと?"」

 

「私の生徒は凄い」

 

「"なるほど理解"」

 

そう、一言で済ませるならそれに尽きる。私は

ただ助けを求めただけだからな。彼女達はただ

それに応えてくれただけに過ぎない。……想定

よりも慕われていた事が分かって嬉しいな。

 

「"でもご都合展開すぎないかな?"」

 

「細かい事を気にしていたら禿げるぞ」

 

「"失礼な生えてるわ"」

 

……先生が言っている事は間違ってはいない。

いきなり名前すら出た事がない生徒達が大量に

登場するのだから困惑する人も多いだろう。

 

「だがマダムも過去に似たような事をやっていた

記憶がある。つまり免罪符というやつさ」

 

「"なんか違くない?"」

 

「細かい事を気にしていたら禿げ」

 

「"それさっき聞いたよ"」

 

「よく分かりませんがとにかくあの紫色のやつが

敵って事ですよね! では私と決闘を……ああ!?

果たし状が燃えてしまいました!!」

 

「あんた何やってんの……」

 

「見てないで助けてくださいキャスパリーグ!」

 

「次その名前で呼んだら撃つから」

 

「ひ゛ぇ゛」

 

………

 

「……何故なのです。どうしてにんにくも十字架も

効果がないのですか……」

 

「多分ジャンルが違うからだよ。ああいうタイプの

やつは陰陽とかその辺りだと思うし」

 

「なんて事でしょう……用意してきた銀色の弾丸も

効果がないなんて事になってしまったら私は

役立たずの三流アイドルという肩書きしか……」

 

「シスターさんじゃないの?」

 

「はい、そうですよ。シスターでアイドル! 

それが私サクラコです!」

 

「そのハイレグでシスター名乗るのは無理だよ」

 

こいつら緊張感がなさすぎではないか?

……いや、彼女達にとっては怨念なんてその程度の

相手でしかないという事なのだろう。戦闘能力が

殆ど無い私とは違い余裕があるのか……頼もしい。

 

「先生にやった事を1000倍にして返すっす」

 

「いえ、ご主人様を傷つけたのですからその程度

では生ぬるいです。当然命尽きるまで、ですよ」

 

「実質永遠って事っすね〜じゃあ縄で縛って

牢屋に監禁しておくっす」

 

……哀れなりフランシス。お前は今日、永遠の命

がある事を後悔するだろう。かつては同志で

あった人間がボコボコにされている姿を見るのは

心苦しいが負けたヴィランがでしゃばってきた

のが悪い。サンドバッグになる運命を受け入れろ。

 

「先生、大変だ! 雷ちゃんに燃料を補充したら

喋らなくなってしまった! さっきまであんなに

喋っていたのに……」

 

「……熱で配線が焼けたのだろう」

 

「ああ……踊るペロロ様人形が燃えてます……

なんて美しいのでしょう……」

 

「悪魔召喚の儀式にしか見えんぞ」

 

「あのニワトリを救護しなくては!」

 

「調理されてるだけじゃない?」

 

「チーちゃんそんな鳥よりもこの清楚系美少女の

肌を守ってくださ……あっつ!? これが普段

エイミが味わっている感覚なのですか!?」

 

「……普段通りすぎて安心するな」

 

「そこの人、一緒に爆弾投げませんか? 一掃

するならこれが手っ取り早いと思いまして」

 

「いいよ☆ それっ☆」シュン!

 

「あー!? ペロロ様が爆発しました!?

あの紫色のやつ、許しません!」

 

「……てへっ☆」

 

本当に緊張感の欠片もないな……初めからこいつら

を連れてくればよかったのではないだろうか……

私と先生の試行錯誤する描写は必要だったのか?

もう全部生徒達だけでいいんじゃないか?

 

『ですが貴方の奮闘を見て惚れ直した生徒達が

こうして助けに来てくれたので無駄ではないと

思いますよ』

 

「自然に思考を読むな」

 

『ゲマトリアですから。……で、この後は一体

何をするのですか?』

 

「決まってるだろう。親玉を倒してこの物語を

ハッピーエンドに導く」

 

そう、それで全てが丸く収まる。この悪意に満ちた

物語を私の芸術で染めてやる。その為ならプライド

なんて捨ててやるさ。プライドを捨てた先にある

笑顔という芸術を知っているから。




昔TRPGを齧っていた頃に私の作るシナリオは独特な世界観でついていけないと知り合いに拒絶された事があります。なので全てを理解して欲しいとは思っておりません。フィーリングで感じてください


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勇者のパーティは四人

………

 

風が吹いている。熱気を帯びた蒸し暑い風が

それは身体に纏わりつくように周辺を漂う

一度背後を振り返り傷ついた後輩の姿を一瞥する

……厳密に言えば彼女は私の後輩じゃない

私の後輩は既に死んでいるのだから

言ってしまえば彼女は赤の他人。ここで命を張って

助ける必要もない。そう理解している上で私はこう

吐き捨てる。『だからどうした』と

これは理屈で説明出来る話じゃない。適当な理由

を見繕って他人だからと切り捨てる事は簡単だ

そうしたくないから今ここに立っている!

 

私はユメ! 小鳥遊ホシノの先輩! 理由なんてそれだけで充分だっ!!

 

決意を叫ぶ。そして誓う。奪う事しか出来なかった

この力を守る為に使うと! ……大丈夫、もう暴走

なんてしない。何も残っていなかった私にも

支えてくれる人が居るって知れたから。それに今

ここで全力を出さなければ私は一生後悔する!

 

さあ、やろうか

 

ーーー

 

「で、結局何人救出した?」

 

「245人です」

 

「そうか、ご苦労だったな。それでその……

そいつは本当に持ち帰るのか?」

 

「当然っす。トリニティ名物のサンドバッグに

する予定っす」

 

「ゴミの有効活用、だね☆」

 

「……そうだな。是非有効活用してやってくれ」

 

「"哀れなりフランシス……"」

 

「煽る価値すらない奴を煽るな」

 

「マエストロ! 世界の意思に反逆する事が

どんなに恐ろしい事か理解しているのか!?

貴様の行いは大罪という言葉では済まされない

行いなのだぞ!?」

 

「……お前は知っているだろう。私が芸術に

しか興味がない事を。世界の意思なんて今更

知った事ではない。己の崇高の為に行動する。

それがゲマトリアというものだろう?」

 

「貴様っ……!?」

 

「頭がないのに何処から声を発しているの?

不愉快だから黙ってもらいたいな☆」

 

「この絵っすか? この絵を燃やせば全部解決

するって事っすかね? まあ両方とも燃やすのは

確定してるんすけど」

 

「"なんか思ったより酷い事にされるような"」

 

「これが奴の運命だったのだろう」

 

「"……ってあんな悪い大人なんてどうでもいい事

よりもシロコ! シロコは何処に行ったの!?"」

 

「ああ、それなら先程チヒロとヒマリが座標を

特定してくれた。そう遠くない距離に居る」

 

「"無事ならいいんだ。これ以上あの子が傷つく姿

なんて見たくないからさ"」

 

「それは私も同じだ。……その前に救出した生徒達

をこの穴に運んでおこう」

 

「"穴の先に赤い化け物がいる件について"」

 

「心配するな、あいつは出禁を喰らってる」

 

ーーー

 

嗚呼、この感覚は久しぶりだね。全身が憎悪て

染まって目の前の全てを破壊したくなる。きっと

色彩の意思なんだろうね。こんな力なんて私は

望んでいなかった。ただ平和に生きていたかった

何気ない日常を過ごすだけで満たされるのだから

……でもこの力があるから私は今傷ついた後輩を

支えられるんだ。

 

だから化け物……全部受け取れ

 

私は後輩達の武器を展開する

ガトリングガンの連射も

二丁のアサルトライフルの銃弾も

ヘリからのミサイルも

ショットガンも頭部に撃ち込んだ

……それでも多少怯ませる程度で化け物は揺らぐ

事なくそこに存在し続けている

そういえば大型の敵との戦闘はあんまり経験して

こなかった。相手にしてきたのはいつも人間

参ったね、あんなに格好つけたのに戦い方が

分からないだなんて。

 

「では私がこういう時の対処法を教えましょう。

数の暴力でボコボコにすればいいんです」

 

「勇者といえば四人パーティ! ですからね!」

 

二人共……いつの間に来てたの?

 

「勇者とスーパーヒーローは遅れてやってくる!

基本中の基本です!」

 

スーパーヒーロー……?

 

「アリス、確かに私達はアンドロイドで1.2号の

ような感じではありますが片手で撃てる武器では

ありませんし貴女を特攻させませんよ」

 

「ですが2号の再現にはそれくらいしないと……」

 

そんな話よりもあいつをどうにかしないと

 

「まあ待ってください。途中から戦いを拝見して

いましたが相手は殆どダメージを受けておらず

元気に遠吠えしている。これは詰まるところ

負けイベントなんですね。なので一度離れて

仕切り直せばダメージが通ると思います」

 

「流石ケイです! その通りだと思います!」

 

真面目にやってくれないかな

 

「……分かりました。では普通に分析結果を

話すとあの黒いやつは幽霊のようなものです。

当たり判定がないくせに陰湿な攻撃ばかりする

製作者の悪意が込められた敵という事です。

ユメの攻撃が通用したのは色彩の影響である程度

干渉出来たのだと思います」

 

じゃあ私があの化け物に触れればあれが実体化をするって事? それなら……

 

「いえ、それはいけません。あれに触れたら

神秘に悪影響を及ぼします。ユメが接触したナグサ

という生徒のように手足が腐食します。何より貴女

は既に恐怖に染まっている状態。これ以上悪化して

しまえばマエストロ先生の願いが叶わなく危険性が

あります」

 

それじゃあどうすれば実体化を……

 

「私とアリスの極太レーザーで箱舟のように

強引な実体化も可能ですがそれだとどちらかが

消滅するのでやりたくないです」

 

「犠牲0、命だいじに! ですよ!」

 

うん。命は大事だね

 

「大丈夫です。この場には専門家が居ます」

 

専門家? 何処に……

 

「黒セン、私の銃貸して!」

 

「全く。病み上がりというのに元気ですね。

思う存分暴れてきなさい」

 

「サンキュ♪ あっ、そこの三人! あいつの

相手をしてくれてありがとう! そして今から

私に協力してあいつを一緒に倒そう!」

 

……この人が専門家?

 

「はい。彼女は……」

 

「七稜アヤメ! 長いから肩書きは後で言うね!」

 

「これで四人パーティが完成しました!」

 

『……ホシノちゃんが守れるなら何でもいいや』

 

「あ、元に戻りましたね」

 

『皆を見ていたら多少は冷静になれたみたい』

 

「何だか分からないけどとにかくヨシ!

百花繚乱を平和にする為に頑張ろう!」



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三度目にもなると慣れてしまう

それぞれが合流していく中砂の神は一人目の前の

悪い大人を睨んでいた。自身の経験からこいつが

碌な奴ではないことを知っている。この大変な

時に現れる辺りがそれを物語っていた。

 

『……黒服』

 

「………」

 

今すぐにでも撃ち殺したくなるようなそいつは

不気味な瞳でこちらの様子を見ている。何を

考えているのか理解できない。

 

「ホシノは無事なのですか?」

 

『……生きてはいる』

 

「そうですか」

 

それを聞くと奴はこちらに歩み寄ってくる。

一見傷ついたホシノを心配しているように見えるが

私は内側に隠れた本性を知っている。実験にでも

使いたいのだろう。何か変な事をしようとしたら

今すぐにでも撃って……

 

「生きてるならいいのです」

 

『……?』

 

あの黒服がホシノに何もせずに通り過ぎた……?

こんな絶好の機会を逃すなんて……

 

「貴女も私に良い印象を抱いていない事は何となく

理解しています。その為私は今誤解を解く必要が

あると言う事も。……ですが不可解なのです。何故

私はいつも悪い大人という扱いしかされないのか?

他のゲマトリア達は何となく受け入れられている

ようにも感じます。何故私だけ? 何故? 何故?

これでもう三回目ですよ?」

 

『……変な黒服』

 

「何故そのような印象を?」

 

「いきなり長文でお気持ち表明されたらね……

あ、でも私は先生が誰よりも優しいって事を

知ってるからね」

 

「まあ、私もホシノにそう思って頂けている

のであれば充分です」

 

??? 後ろからホシノが出てきて黒服の腕に

抱きついている? 洗脳? 寝取り? 死刑?

こんな悪夢が現実になるなんて……

 

「……なんか凄く混乱してそうだね」

 

「何故でしょう」

 

『……寝取りは犯罪。今ここで黒服を殺す』

 

「まさか殺害予告をされるとは。ユメといい恐怖に

染まった生徒に私は何をしたのでしょうか……」

 

「私を孕ませたとか?」

 

「おや、それは有罪ですね」

 

……こんな可能性なんてあってはいけない。

黒服×ホシノなんてカップリングが生まれていい

わけがない。今ここでその可能性を潰して……

 

『……もしかして二人は結婚してる?』

 

「はい」

 

『ケイって娘が居たりする?』

 

「まあ……そうだね」

 

『嘘じゃなかったんだ……』

 

嘘であってほしかった。こんな地獄のような光景が

認められているとでも言うのだろうか?

 

「ある程度私達の事を知っているのであれば事情を

伝える手間が省けましたよ」

 

『色々気になる事はあるけど……今はいい。

それよりもどうしてここに来たの?』

 

「そのホシノが心配になったので。案の定そんな

傷を負ってしまっているようですが。……先輩

というのは一人で抱え込まないと気が済まない

のでしょうか」

 

『黒服がホシノ先輩の何を知って……!』

 

「最近ですと性感帯の場所を知る事が出来……」

 

「ストップストップ!! それは言わないで!」

 

「では本日の下着の色を……」

 

「それも駄目!」

 

『ふざけているの……?』

 

「大真面目ですが」

 

何なのこの黒服……黒服の皮を被ったロリコン

にしか思えない……転生したら黒服だったとか

よくある転生モノの主人公なのかな……

 

「いえ私は転生なんてしてません。正真正銘、

ホシノの夫ですよ」

 

『うるさい』

 

「………」

 

「……そういえばなんで成長したシロコちゃんが

ここにいるの? どういう状況?」

 

『それは……色々あって……』

 

「……まあ、話さずとも問題ありません。

私達はただの見届け人ですので」

 

「そうだね」

 

『……戦わないの?』

 

「危険が及ぶなら手を貸します。ですが今この

物語を完成させるのは私達ではありません」

 

『変な拘りだね』

 

「ええ。私もそう思います。なので私はホシノの

治療を……」

 

『ホシノ先輩に触らないでロリコン』

 

「………」

 

「先生、強く生きて」

 

「はい」

 

このやり取りの後シロコは目を閉じた。例え黒服に

嫌悪感を覚えていても彼がホシノに慰められる

情けない姿を見るのは哀れで仕方がなかった。

……ただ見るに堪えない光景だっただけだが。

 

『お楽しみのところ申し訳ありませんが黒服、

一つ聞きたい事があるのですが』

 

「何ですかマダム」

 

『貴方が連れてきたアヤメという生徒ですが……

とてもエッ……ではなくて。マエストロが救出した

時には手足が黒ずんでいましたが……どうやって

治したんですか?』

 

「神秘を汚染していた黄昏を除去しました。

ホシノと共同開発したこの薬で」

 

『成程。いちゃついているだけではなかったの

ですね。それ、こちらにも分けてくれませんか?」

 

「これは渡せません。マエストロに複製してから

渡しますので」

 

『それでは遅いのです。助かる手段があるのなら

この子達を早く治すべきだと思いませんか?』

 

「しかしこれはホシノが身体を張って作った

大切なもので……」

 

「……いいんじゃないかな。また後で私が

頑張れば作れるんだし。問題は今ある量が足りる

かどうかなんだけど……」

 

「……ホシノがそう言うなら良いでしょう。

確認ですが何人分の薬が必要なのですか?」

 

『数百は欲しいです』

 

「複製するのを待ってください」




もし毎日投稿が途切れたら多分二度と更新しないと思います。そんな気分で書いてます


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理屈で語れぬもの

『結局実体化ってどうやってやるの?』

 

「それは簡単だよ。私の銃であれを撃つだけ」

 

『その年季のある銃でなんとかなるの?』

 

「うん。一度は聞いた事があるでしょ? 百花繚乱

で代々受け継がれてきた由緒正しきこの銃は……」

 

幽霊を捕らえられるってね!

 

そこまで言うと彼女は笑みを浮かべていた先程まで

と打って変わって真剣な表情に変わる。

周辺の音が聞こえなくなるくらいに集中して構え、

そして引き金を引いた。

 

パァン!と発砲音が鳴ると同時に

 

縺?▽繧りェュ繧薙〒縺上l縺ヲ縺ゅj縺後→縺?#縺悶>縺セ縺‼︎‼︎

 

と化け物の悲鳴が混じったような叫び声が辺り

一面を支配するように響き渡っていた。

その反応から察するにアヤメの言っていた誰も

知らないであろう幽霊を捕らえられるという事は

事実だった。

 

「……あ!? さっきの情報って極秘の情報

なんだった!? ごめん聞かなかった事にして!」

 

『あいつを倒せるようになったなら何でもいいよ。

ホシノちゃんを傷つけた報いを……』

 

「えっこのモンスターがホシノママを傷つけたの

ですか!?」

 

「気づいていなかったのですか……アリス、

母はあちらの方に居ますよ」

 

「……許せません! 勇者といえど慈悲を与えず

消し炭にしてやります!」

 

「皆頼もしいね。このメンバーならあいつを確実

に倒せると思……」

 

ボンッ!!

鮟偵?繝帙す縺」縺ヲ縺ェ繧薙□繧⁉︎

 

「えっなに爆発……!?」

 

「あのモンスターがやったのですか!?」

 

「いえ、あれはどう見ても人工的に作られた爆弾

でした。ミレニアム製のやつです。しかし……」

 

仮にたまたま祭りの観光に訪れたミレニアム生が

爆弾で化け物を狙うだろうか? 普通は事故が

発生したら逃げるのではないだろうか? 何故?

その答えを導き出す前に遠方から聞こえてくる

のは複数人の足跡と話し声。……トリニティと

ミレニアムの制服を着た集団だ。

 

「わー! みてみてコユキちゃん。幽霊にも爆弾

が効いてるよ☆」

 

「やっぱり爆破は全てを制するんですね!」

 

「!? ではにんにくも効果があるのでは!?」

 

「いえ、どうやら爆弾を投げる前から既に実体化

していたようです。詳細な理由としては体内に

撃ち込まれた一発の銃弾が……」

 

「倒せるなら何でもいいよ☆ それじゃあ

隕石も効くって事かな?」

 

「おっ隕石っすか? じゃあこのバット(フランシス)

あいつ目掛けて打つっすよ」

 

「隕石を落とすのも打つのも現実で出来るの?

良いアイデアが生まれるかもしれないから

ちょっと見てみたいかも……」

 

「隕石を放出する銃……悪くないかもしれないね。

この件が片付いたら開発をしてみようかな」

 

「ミレニアムどころかキヴォトスが穴だらけになる

未来しか見えないからやめといた方がいいよ」

 

「黒い猫……はっ!? まさか杏山カズサ、

貴女が真の黒幕なのでは!?」

 

「違うっての……宇沢さ、私があんな化け物と

同じような感じに見える?」

 

「うーん……見えません!」

 

「ならよし」

 

「あちらの桃色髪の方が救護を必要としている

ように見えます。早急に手当をしましょう」

 

「その隣で体育座りしている黒い人は救護の必要

はあるのでしょうか?」

 

「なんすかあいつ? このバット(フランシス)と同じ

種族のように見えるっすね」

 

「いや、あの感じはロリコンの方だろう。つまり

私の同僚だな」

 

「そうでしたか。……という事はあのお方は前に

ミレニアムで臨時教師をやっていた人ですわね」

 

「あーナギちゃんが振り向いてもらえなくて毎日

ヒステリックを起こすようになった原因の人だ」

 

「あはは……だからナギサ様は変な絵画の美術館

に一人座って過ごしているんですね」

 

「……なんか凄い人達だね。もしかして祭りに

来てくれた他の学園の人なのかな」

 

「そのようですね。相当な人数ですよ」

 

「あっミドリも居ますよ! 五人パーティの領域

に足を踏み入れるチャンスです!」

 

『先生……無事だったんだ。良かった』

 

「先生? あれ、もしかしてあの人マエストロ

って名前だったりする?」

 

『うん。私の大切な人』

 

「! マエ先〜!! ありがとう〜!!」

 

「な、なんだ?いきなり見知らぬ生徒に感謝を

され……って隣にいるのはユメじゃないか!!

無事そうで安心したがあの生徒は……?」

 

「"あれはアヤメだよ。写真で見たのと同じ顔

だし間違いない"」

 

「アヤメだと? だが彼女は黄昏に侵蝕されて

意識不明の状態だった筈だが……接触する必要

がありそうだな」

 

「"その前に生徒達に指示を出した方が"」

 

「そうだな。では私の生徒達よ。好きに暴れて

構わない。この一件が片付いたら私が出来る範囲

で礼をさせてもらおう」

 

「……お礼ってさ? 例えば先生と一日デート

とかでもいいの?」

 

「あ、ああ……まあ、叶えられる範囲なら」

 

「"あっ"」

 

「……言質とったじゃんね☆」

 

「まあ。一日ご主人様と自由に?」

 

「早くぶっ倒して先生とデートするっす」

 

「……別にデートに拘らなくてもいいんだが」

 

「"マエストロ……それは禁句だったよ"」

 

だって今この場にいる子達は君が好きなんだから

そんな事言ったら士気は上がるけど襲われるよ



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過剰戦力であるが故に

先程のやらかし発言(当然本人は無意識)後、

芸術家は恋人の前に戻ってきた。……本来はもう

少し早くこのようになる筈だったのだが……

大人二人が子供のように言い合いをしてしまった

事がきっかけでこんな遠回りとなった。

少し馬鹿になった彼らを迎えるのは恋人のユメと

雑な扱いをされ続けているケイと何故かここに来た

アリスと黒服を精神的に負かせたシロコテラーと

見知らぬ間に元気になっていたアヤメだった。

 

「こっちはこっちでどうなってるんだ」

 

「"(何あの黒服情けない)"」

 

「マエ先! 私を助けてくれてありが」

 

「ああちょっと待ってくれ。ユメ」

 

『はい、何でしょうか』

 

芸術家は近づいてきたユメの事を思いっきり

密着するように抱きしめた。むぎゅっという

擬音が聞こえてくる程に力強く。

 

『!?!?!?!?』

 

「(嗚呼……やはり落ち着く。私の帰る場所は

ここなのだろうな。なんて甘いのだろうか)」

 

謎の余韻に浸っている芸術家とは裏腹に周囲の

人々は様々な反応をしていた。はいはいいつもの

やつですねと興味なさげにしているケイ、

いきなり抱きしめる大胆さに初心な反応を見せる

アヤメと顔を真っ赤にして言葉が出ないユメ。

霊体じゃなければこいつの顔面ぶん殴ってるなと

思う先生とハートマークのエフェクトが見えた

アリス。そして戦闘中の生徒達はそれらを見て

『あ、あの願いを叶えてもらうのもありかも』と

考える者、それ以上の事を想像する者、今すぐに

襲ってやろうかと欲望を曝け出そうとする者等、

様々な反応をしていた。

 

「それで何故アヤメがここに居るんだ? 確か

アリケイの二人に護衛を頼んでいた筈だが」

 

「えっその状態で喋るの?」

 

「何か不都合があるのか?」

 

「ないけど……えっと……」

 

彼女はなんかそこで体育座りして小さな女の子に

慰められている大人に助けてもらった事を話した

 

「そうか。それなら私よりもあいつに礼を言った

方がいいのではないか?」

 

「当然伝えたよ。でもマエ先が私を黄昏から

連れ出してくれなかったらこうはならなかった。

だからマエ先、助けてくれてありがとう!」

 

「……ああ」

 

「あー!? 皆があのモンスターを倒してしまい

そうです!? このままだとアリス達に経験値が

入ってこなくなってしまいます!!」

 

「では私達も戦いに行きましょうか。さっきから

チャージしかしていないので」

 

「あ、じゃあ私も! マエ先、続きはまた後で!」

 

「任せたぞ。……シロコも無事だったようだな」

 

『……その状態でこっちに話しかけてくるの?』

 

「何か不都合があるのか?」

 

『ないけど……』

 

「……ホシノが傷ついているではないか。先生の

奴は何をしているんだ」

 

「"私?"」

 

「違うから声を出すなバレるだろうが」

 

「"計画的にはバレてもよくない? それに私は

今のシロコと話したい!"」

 

「それもそうだな。満足したら戻ってこい」

 

「"それじゃあ永遠にシロコから離れない事になる

からある程度したら戻るよ"」

 

「そうか」

 

『……さっきから誰と話しているの?』

 

「シロコの先生とだ。後は二人で好きなように

語り合っているといい」

 

『私の先生……?』

 

「"……シロコ、久しぶり"」

 

「あの後は二人だけにしておいた方がいいな。

代わりに傷ついたホシノは私が預かろう」

 

「待ちなさいマエストロ。ホシノは私のものです」

 

「いきなりどうした黒服」

 

「私はもう限界ですよ。毎回ロリコンだのクソ野郎

など見に覚えのない罵倒をされて……何故私がこの

ような散々な扱いを受けなければならないのです」

 

「クソ野郎はともかくロリコンは事実だろう」

 

「貴方までそんな事を……いいですか? 私が

ホシノの事を愛しているからといってそれ即ち

ロリコンという定義に当てはまるとは限らない

のですよ」

 

「諦めろ。18歳のホシノと結婚した黒服が必死に

言い訳したところでロリコンというレッテルが

貼られてしまうのは避けられないんだ」

 

「何故……何故……なぜ……」

 

「でも私は先生がロリコンになってくれたから

今幸せなんだよ。だから先生はロリコンでいいの」

 

「ホシノ……愛してますよ」

 

「うへへ///」

 

「お前達状況を考えろ。今この百鬼夜行の命運を

賭けた戦いが行われているんだぞ」

 

「貴方が言わないでください。抱きしめられて

顔が真っ赤になっているユメを見てください」

 

『……///』

 

「可愛いじゃないか。それがどうかしたのか?」

 

『ぴぇ///』

 

「なんなんですかこの人」

 

「あ、あのー……」

 

「どうしたセリナ」

 

「終わりましたよ……?」

 

「………」

 

いつの間にか化け物は何故か異常に士気が上がった

生徒達の前になす術なく成仏させられていた。

何なら魂のような姿になっていたにも関わらず

この世から姿が消え去るまで嬲られていた。

……やはり過剰戦力だったようだ。

それと同時に生徒達の恐ろしさを理解できた。



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人知れず救われた百鬼夜行

「なんだこの液体は」

 

「私のホシノの共同開発した薬です。汚染された

神秘をあるべき姿に戻せるもの。ホシノが最大の

神秘を保有しているが故に作り出せました」

 

「……それは神秘が恐怖に反転してしまった奴も

元に戻せるのだろうか?」

 

「黄昏に汚染されたものが元に戻ったのです。

恐怖も例外ではないでしょう」

 

「そうか……これでユメとシロコを元に戻せる

なら私が百花繚乱に拘る必要はもうないな。

もうクズノハに会う理由も無くなった」

 

『それはいいのではよ複製してください。

何百人も助けを待っている子達が居るのですよ』

 

「人が感情に浸っている時に茶々をいれるな。

……だがそうだな。一度そちらに戻るとしよう」

 

「えっマエ先達もう行っちゃうの? まだお礼も

何も出来ていないのに……」

 

「気にする事はない。後の事はユカリ達と共にいる

シャーレの先生な任せておけばな。……それにまた

キキョウに粘着されたらたまったもんじゃない」

 

「後輩達もマエ先の世話になってたの!? 尚更

お礼させてよー!!」

 

「やめろ揺らすな揺らすな……分かった。では

一つ頼まれてくれ。この薬をナグサに飲ませてくれ

彼女の腕も侵蝕されていたのでな」

 

「……実はナグサとは喧嘩別れみたいな事をして

ちょっと気まずいんだ。だからマエ先お願い!!

一緒に来て!! ね? 良いでしょ?」

 

「そうしてやりたいが……生憎私達にはまだ

救わねばならない生徒達がいるんだ」

 

「……そうだよね。分かったよマエ先。自分で

何とかしてみる! 本当にありがとう!

でもいつか必ずお礼はするからね!!」

 

「ああ。楽しみにしている。……さて、百物語に

されていた生徒は全員運び終わっただろうか?」

 

「反応はありません。全員ゲヘナ学園に運び

終えております」

 

「よし。それでは全員帰るとしよう。

先程伝えた約束は後日順番に叶えていく予定

だから安心してくれ。ではさらばだ」

 

芸術家とそれを慕う生徒達は順番にゲートを通り

元の世界に帰っていく。先程までの喧騒が嘘の

ように静かに……

 

「ホシノママーに久しぶりのハグを希望します!」

 

「では私は父に抱きしめてもらいたいです」

 

なっているわけではなく黒服とその家族、元々

この世界に属しているホシノの五人はその場に残り

和気藹々としていた。

 

「黒先もありがとね。まさかシャーレの先生の他に

こんな頼りになる先生が居たとは思わなかったよ。

……で、何で同じ見た目の子が二人いるの? 双子

とかなの?」

 

「まあそういうものです。では私達もそろそろ家に

帰らないといけませんので」

 

「そっか。一気に寂しくなっちゃうなぁ……」

 

「案外そうではないかもしれませんよ?」

 

「えっ?」

 

「黄昏を汚染を治療した生徒達が増えるのです。

今まで以上に百鬼夜行は賑わうでしょうね」

 

「それって……最高じゃん!」

 

「そういう事です。……まあ、私にはホシノが

居れば他に生徒など必要はありませんが」

 

「そうなんだ。なんていうかさ、一途な人って

いいよね。私はそういう考え好きだよ」

 

「!? 貴女は私をロリコンだと言わずに肯定

してくださるのですか!?」

 

「えっまあうん。愛は自由だからね」

 

「嗚呼……救いは此処に存在していた……」

 

ーーー

 

「何日振りに帰ってきたのだろうか……まあ、

ここはゲヘナだが」

 

「マエストロ。よく戻ってきましたねぇ。貴方の

奮闘振りは見事なものでしたよ。ですが私の扱い

を雑にするのはいかがなものかと思います」

 

「小言はそれぐらいにしてくれ。今は生徒達を

治療する方が先なのだからな」

 

「それもそうですね。ではちゃちゃっと複製して

元の姿に戻していくとしましょうか」

 

「ああ」

 

薬を複製し、生徒に飲ませて元に戻す。実際に

黒く変色していたそれらが元の健康的な色に戻る

瞬間を見た際にこの薬の効果を実感した。まさか

黒服がこのような偉大な発明をするとはな……

この生徒達を治療した後はユメとシロコを……

ようやく、ようやくだ。やっと彼女達に普通の

生活を送ってもらう事が出来る。……それに

シロコはもう孤独ではないからな。

 

せん……せ……

 

「"大丈夫、もう大丈夫だからね"」

 

あちらはあちらで上手くやれているようだ。

……さて、本腰をいれるとしよう。まだ数百人

の治療が残っているのでな。

……2時間ほど経過してようやく治療は完了した。

いつの間にか朝日が昇っている程時間が経っている

ようで殆どの生徒達は眠りについているようだ。

 

「お疲れ様でした。それにしても……まさかこんな

沢山の子達を救えるなんて素晴らしいですよ」

 

「そうだな。……なあマダム、あの時の助言は

助かった。自己犠牲をしたところで何も意味はなく

ただ生徒を悲しませるだけ……そう気付かされた。

思っていたよりも私は大切に思われていたようで

尚更な……」

 

「ようやく気づきましたかクソボケ芸術家。貴方は

自身が想像しているよりも愛されているんですよ」

 

「ああ。……痛感したさ。マダム、彼女達の事を

任せてもいいだろうか。私は……」

 

「分かりました。あの計画を実行するのですよね」

 

「……そうか、盗聴していたのなら知っているか。

そうだ。私は今からシロコを救う」



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君の物語

「ん……」

 

透き通るような青空。眩しい太陽。そして一面の

砂漠が広がる地面。私はそこに寝転んでいる状態

で目が覚めた。とても長くて悲しい夢を見ていた

ような気がするけれど……あまり覚えていない。

今は何時なのだろうか? 腕時計を見ると朝の

8時。結構寝てしまっているようだ。

 

「あっいたいた。こんな所にいたんだねー」

 

「……ホシノ先輩?」

 

「全然帰って来ないからおじさん柄にもなく心配

しちゃったよ。……で、大丈夫? 何か具合が

悪かったりする?」

 

「特には……」

 

「よかった。じゃあ一緒に学校に行こう。今日は

先生が遊びに来るって言ってたからさ」

 

「先生が?」

 

「うん。昨日「"久しぶりに皆に会いたいな"」

って連絡が来たんだー」

 

「!! 早く戻るべき」

 

「シロコちゃんは本当に先生の事が好きだねー

それじゃあ行こっか」

 

「ん」

 

ーーー

 

「皆、シロコちゃんを連れてきたよ」

 

「……ただいま」

 

「お帰りなさい〜☆」

 

「全く何処に行っていたのよ。……あんまり心配

かけないでよね」

 

「とにかく無事で良かったです」

 

「………」

 

「シロコちゃん?」

 

「……なんで泣いてるのよ?」

 

「……分からない。分からないけど……」

 

何故か涙が止まらない。皆が居るこの光景が

とても嬉しくて……どうしようもなくて……

 

「シロコちゃん……大丈夫ですか?」

 

「シロコ先輩……?」

 

「……もしかして怖い夢でも見ちゃったのかな?

大丈夫、私達は此処に居るよ」

 

「っ……ぅ……」

 

「あっホシノ先輩! もっと泣かせてどうする

のよ!?」

 

「うぇ、おじさんはただ慰めようとして……」

 

「言い訳しない!」

 

「うへぇ後輩達が厳しいよぉ……」

 

どうして? どうしてこんなにも涙が溢れるの?

いつものような日常の風景なのに……どうして……

 

「"皆おはよ……って取り込み中だったかな?"」

 

「あっ先生! 今ね、ホシノ先輩がシロコ先輩を

泣かせたのよ!!」

 

「ち、違うよ!! 私はただシロコちゃんが安心

出来るように……」

 

「"相変わらず皆仲が良いんだね"」

 

「はい。だって……それがアビドスですから☆」

 

ーーー

 

「どうやら上手くいったようだな」

 

『……先生はシロコちゃんに何をしたんです?』

 

「私は何もしていない。少し設定を弄って箱庭を

再形成したに過ぎない」

 

『箱庭って?』

 

「キヴォトスと言った方がいいか……実はな」

 

ーー過去回想

 

黄昏でシロコの先生と出会った時、私は一つ提案

を持ちかけた。

 

「もう一度先生をやってみないか?」

 

「"えっ"」

 

当然先生は困惑した。既に死んでしまっているの

だから。もう一度だなんて出来る筈もない、と。

 

「私がシロコが居た世界を再構築する。箱庭の

再形成自体は容易ではないが可能だからな」

 

「"再形成……? そんな事が出来るの?"」

 

「ああ。当然代償はあるが……それが逆に好都合

てもある」

 

「"代償って何? 何をすれば……"」

 

「『記憶』だ。だがこの場合だとシロコが恐怖に

染まった後の記憶だけで充分だろう。色彩の眷属

であった期間の記憶さえあれば事足りる」

 

「"……つまりシロコの辛い記憶がなくなって

また普段通りの日常を送れるようになる……

そういう事?"」

 

「そうだ。だが一つ欠点がある。先生は箱庭の住民

ではない。その為肉体が元に戻る事はなく亡霊の

ままになってしまう。……そこでだ。先生を私達

同様ゲマトリアにする。安心しろ、見た目は今と

そんなに変わらない。ただ普通の人間ではなくなる

だけだ。それでもやってくれるか?」

 

「"当然やるよ。シロコが幸せに生活出来るなら

私は何だってやる"」

 

「そうか。やはり先生の覚悟は凄いな……私も

見習わないといけないな」

 

ーー回想終了

 

「という事だ。結果として再構築は上手くいき

シロコは元の日常に戻り先生もまた教師として

過ごす事が出来ている。……既に不安材料も

ユメのお陰で対処出来たからな」

 

『先生の頼みと後輩の幸せの為です』

 

「そうだな。……この後先生はうまく立ち回って

いけるだろう。私達の役目は終わった」

 

『そうですね……』

 

「ユメ?」

 

『い、いえ。何でもありません。ただ私も……』

 

「……なあ、ユメはシロコのように

記憶を消して元の日常に戻っても……」

 

『嫌です。私は先生との大切な記憶を失うなんて

耐えられません……』

 

「……そうか。ありがとう。……帰ろうか」

 

『……はい』

 

ーーー

 

「"ま、まさか朝から胃に来る量のラーメンを

食べさせられるなんて思わなかった……"」

 

「……あれくらい普通の量よね?」

 

「そうだね」

 

「はい〜」

 

「ですね」

 

「……うん」

 

「"成長期の子達は凄いね……私はお腹一杯で

一歩も動けそうにないよ……"」

 

「……先生」

 

「"シロコ? どうしたの?"」

 

「次はもっと早く食べ切るべき」

 

「"……がんばるね"」

 

「それじゃあ今度私がシャーレの当番になった時に

今日の2倍の大きさのやつを作ってあげるわ!」

 

「"2倍の大きさ!?"」

 

「ちょっと待って。次の当番はおじさんだよ?」

 

「"そ、そうだね。明日はホシノに任せて……"」

 

「ん、私も当番になりたい」

 

「いくらシロコちゃんの頼みでもこればっかりは

おじさんも譲れないよ」

 

「"私はどっちが当番でも嬉しいよ"」

 

「ん///」

 

「うへ///」

 

「……そろそろ会議を始めてもいいですか?」

 

「"あっうん。大丈夫だよ"」

 

「では本日の議題は……」

 

……ねえマエストロ。君には感謝をしても

しきれないよ。君のようなゲマトリアに会えて

本当に良かった。……ありがとう、友よ。




シロコテラーの救い方は結局こうしました。
彼女に居場所を作る方法はこれしかないのです


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平穏な日々

百花繚乱騒動から数日後。黄昏に汚染され保護した

生徒達も回復し既に元の場所に送り届けゲヘナ内に

少し活気がなくなった後。風紀委員会の部屋で窓の

外を見ながら感傷に浸る変態。

 

「あの子達は元気にやっているのでしょうか……

まだ200人にしか手を出していないというのに

百鬼夜行に帰ってしまって……私は悲しいです」

 

「帰った原因ってそれじゃない?」

 

「そんな筈が……ありそうですね。とはいえ一緒に

お風呂に入って怪我がないか念入りに触ったり

揉んだりしただけですよ?」

 

「だからそれだって」

 

「揉むのはダメなんですか!? 同性ですよ!?

アコは揉んだら喜びますのに」

 

「好感度カンストしてる子と出会ったばかりの子に

セクハラするのはかなり違うよ」

 

「あの委員長、さりげなく私がそこの赤いおばさん

の事を好きみたいなように言わないで欲しいです。

いくら委員長の発言とはいえ誤解を招く言い方を

されると非常に困ります。それで私にセクハラを

してもいいって思われたら非常に不愉快ですので」

 

「じゃあ嫌い?」

 

「嫌いとは言ってないじゃないですか!!」

 

「相変わらず面倒臭くて可愛いですね」

 

このようにゲヘナは何気ない日常に戻っている。

どんなに異変や問題が発生しても数日後には元の

日々に戻っているのがキヴォトスというもの。

ただし二つだけ例外となっている学園もある。

それは当然……

 

「……何故ここまで密着する必要がある?」

 

「せ、せせ先生との仲を皆に見せつける必要が

あるからだよ☆」

 

そう、軽率にデートをすると約束してしまった

芸術家の担当する学園の生徒達。何故か全員

デートを希望しているという彼にとっては理解が

追いつかない状態であった。教師と出歩く事が

そんなに楽しいのだろうか? と。

 

『ふーん……そんな約束をしたんですね。ええ、

別に怒っていませんよ。先生が浮気をするなんて

今は考えてないです。貴方が愛を囁いてくれるのは

私だけ、ですものね。少し嫉妬する程度です。

……ただし他の子に興奮したら許しませんよ』

 

ユメはそう言って笑顔で見送ってくれたので

出掛ける前に性欲を満たしておいた。なので仮に

ミカが密着して胸を押し付けてきたとしてもそう

簡単に興奮する筈がない。ユメとの約束はとても

大事だからな待てこの感触まさかノーブラなのか

いつからそんな悪い子になったんだミカよ待て

そうなると話が変わってくるぞユメですらそんな

ノーブラ制服で抱きついてきた事はないんだぞ?

なんて生徒だ……これは教育をしなければな……

 

「(いかん。また思考が色欲で満たされていた。

マダムとは違い私は見境なく襲うようなケダモノに

なる気はないんだ。……だが帰ったらユメに同じ

ような事を頼むとしよう)」

 

「(この方法でも駄目だなんて……手強いね)」

 

謎の攻防を繰り返している二人を除けば日常とも

言えるトリニティの光景。……もう一つだけ異質

な箇所があった。それは反省房の隣に出来た

『ストレス解消! 不死のサンドバッグ!』

という建物。その中にはエンジニア部が開発した

特殊な拘束具で固定されているフランシスと

未実装煽りでストレスが溜まっている声が出ない

セイアが弾薬が切れるまで撃ち続けている。

……それでも平和ではあるのだから

不思議である。当然アビドスも例外ではなく。

 

「ホシノ、ホシノから手紙が届きましたよ」

 

「えっ世界跨いでどうやって届けたのさ」

 

「学校の風呂場を繋げたおかげですよ」

 

「あーそういえば繋げてたね。だから若干湿った

感触なんだね」

 

「そういう事です。では中身を読みましょうか」

 

ーー

拝啓、もう一人の私とその付き添いの変態へ

まずは感謝を伝えさせて頂きます。あの日傷ついた

私をアビドスまで運んでくれてありがとう。黒服に

おんぶされてたのは最悪だけどね。……では

ここから本題に入ります。まず一つ。学校の近くに

水族館を建てたのはまだいいよ。でもさ……

なんでクジラまでいるの? サイズ考えて? 

しかもそこの土地の権利書勝手に買ったでしょ。

何してくれてるのさ? おかげで毎日クジラを見る

事が出来て謎に楽しくなっちゃってるんだけど。

次にもう一つ。私が百鬼夜行に行ってる間に後輩達

に何かしたでしょ? 最近ノノミちゃんがため息を

つきながら「黒服先生、また来て欲しいです」

なんて恐ろしい発言をしてるんだけど? 洗脳でも

したんじゃないの? 問い詰めても顔を赤らめて

何でもないの一点張りだし……他の子はそこまで

黒服に毒されてないけどさぁ……干渉しすぎ。

……次が一番の問題なんだけど、砂漠の一部に

人工ビーチ作ったでしょ? しかも直通の電車まで

開通させて。当然のように土地の所有者は私達に

なってるしそのせいで自治区に観光客が増えて活気

が異常なんだけど。どうやってやったの?

なんか変な喫茶店のチェーン店とか色々出来て

きてるしなんなの? しかも利益とか諸々が

全部私の口座に振り込まれるから困るんだけど……

いくらなんでもやりすぎじゃない? タチが悪い

のが後輩達もグルだってところなんだよね……

怒るに怒れないよ……でも先生が遊びに来て

くれるって言ってたんだ。だからありがとう

PS:ほんの少しそちらの私が羨ましいです

ーー

 

「なんて書いてあるの?」

 

「黒服ありがとう愛してるよって書いてあります」

 

「あ?」

 

「冗談です。ただ平穏に過ごせている、ありがとう

と書いてあるだけです」

 

「なんだぁ〜それなら良いんだ」

 

……やはり平和であった。




ちなみに百鬼夜行内ではベアトリーチェ派閥と
マエストロ派閥に分かれているとかなんとか


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幸せの階段

先生と恋人になってから結構な時間が経った

彼は私の心の疲弊に気づいてくれた唯一の人で

愛の告白をしてくれた人

最初はぎこちなくて照れ臭かったけれど

今では誰よりも愛してくれている

……でも少しだけ他の子に気持ちが移ろいでいる

時もあるのでちょっと嫉妬もする

愛が重いかなと反省していたけれど先生は

「そのくらいが私の好みだ」と言ってくれた

そんな大好きな先生の為に日頃の感謝を込めて

私は大きなケーキを焼いている

生地もクリームもバターも全部手作りで用意して

一番大事な愛情もたっぷり込めたケーキ

彼がこれを美味しそうに食べてくれる姿を想像

して鼻歌まじりに調理をしていると

途中アリスちゃん達が味見をしたいと言って

台所に入ってきたので仕方ないなと試作品の

小さなケーキを食べてもらった

「とっても甘いです!」「美味しいです」と

結構な高評価をくれた二人に感謝をしつつ

私はまた生クリームをかき混ぜていた

今日の先生は用事があって夜まで帰れないと

言っていたのでそれまでに用意しておきたい

 

「そんなにあの先生の事が好きなんですか?」

 

『うん。大好きだよ』

 

「……貴女にそこまで直球に愛を伝えられたら

堕ちない人は居ないでしょうね」

 

『そうかな? でも……堕ちてくれるのは先生

だけが良いな、なんて』

 

「もう結婚した方がいいと思うのですが」

 

「なるほど! 結婚イベントですね!!」

 

『けっこ……!? いやいや!! 流石にまだ

早いって!! 先月ホシノちゃんが花嫁になった

ばっかりなんだよ!? それに先生とはまだ

付き合ってからそんなに経ってないし……///』

 

「でも黒服パパは恋人とばして結婚しましたよ」

 

『それは黒服の倫理観が終わってるだけだよ……

もっと順序を踏まないと……』

 

「さりげなく父を悪く言わないでください。

ですが父は父で私に手を出してくれませんので

多少は文句を言いたいです」

 

『ケイちゃんも黒服の事が好きなんだね……

あいつロリに好かれる体質なのかな……』

 

「ハルナギサというスタイルのいい白髪の生徒

からも好かれているのでロリに好かれるというのは

誤解です。父がロリ体型が好きなんです」

 

『やっぱ黒服終わってるね』

 

「はい」

 

結局擁護されなくなってる……まあ事実だし

いっか……

 

「実際マエストロ先生にプロポーズされたら

ユメはどう返事をするのですか?」

 

『そうだな……うーん……本当に私でいいのか

何度も確認してそれでも選んでくれたら……

永遠を誓いたいな』

 

「あの惚気具合で他の人を選ぶなんて事は絶対

あり得ないと思いますが……」

 

『それはどうかな……人間って必ず飽きという

ものが絶対にくるし……私だっていつ先生に

捨てられるか分からないよ』

 

「確かにゲームでもパーティーメンバーは強い

キャラクターにしがちです……」

 

『それはちょっと違う気もするけど……まあ

似たようなものかな』

 

「ユメの考えは甘いですよ」

 

『えっ』

 

「これはマエストロ先生の日記です。最近

勝手に部屋に入った時に見つけました」

 

『何してるの……』

 

「いいから読んでください。あんな内容の日記

なんてもう見たくないです」

 

『そんな大した事なんて書いてないと思うん

だけど……』

 

ーー

1月4日

芸術とは何か? 私は自身に問いかける

かつての私なら抽象的な答えを出して

周囲を困惑させていたのだろう

だが今は明確な答えが出せる

そう、ユメだ。彼女と出会い私は変わった

太陽をも超える包容力を前になす術もなく

私は堕ちていたようだ

今ではもう彼女が居ない生活は耐えられない

そして彼女の胸に顔を埋めて睡眠を摂りたい

ーー

 

「最後の1行が絶妙に気持ち悪いですね」

 

『言ってくれたらやるのに……』

 

「正気ですか?」

 

「ぱふぱふですね!!」

 

『ぱふぱふって?』

 

「過酷なものです」

 

『そうなんだ……』

 

その後の記録も殆どが欲望を曝け出した内容で

嬉しい反面思春期なのかと勘違いしてしまう程

脳内がピンクに毒されているようだった。

 

『「ユメを吸いたい」「ユメを抱きたい」

「ユメを……」……もういいや。なんか普段

かっこいい先生もこんな一面があるって再認識

させられたような気がするよ』

 

「でも満更でもないんでしょう?」

 

『それはそうだけど……』

 

「大半はしょうもない思春期が書いた日記ですが

昨日の分は読んでみてください」

 

『……じゃあ最後にそれだけ読むね』

 

ーー

2月27日

私はそろそろ決心をしなければならない。

ユメをどうするかについて。

彼女はシロコと同様に色彩の眷属となって恐怖に

染まっている。つまり彼女の記憶を消せばユメを

元の生活に戻す事だって可能だ。そうすれば

失ったものを全て取り戻す事だって出来る。

普通の恋も日常も得られる。……私と過ごした

思い出を失くせば。しかしユメは私と共に過ごす

事を望んでいる。その想いを無視してまで私は

そうするべきなのだろうか……数日悩んでも

答えが見つからない。……あいつに会おう。

きっと最適解を教えてくれる筈だ

ーー

 

『……先生。普段えっちな事しか要求されない

から私との関係を真面目に考えてくれたって

初めて知れたよ』

 

「マエストロ先生も父並のクソ野郎なのでは?」

 

『そうかもね。……でもやっぱり私はそんな

ダメでどうしようもない先生が好きなんだ』

 

「ならば早く籍を入れた方がいいですよ」

 

『何がケイちゃんをそんなに駆り立てるの?』

 

「もどかしさ、です」

 

『えぇ……』

 

「……あ、マエストロ先生が玄関ドアの前で

ウロチョロしています!」

 

「タイミングが良いですね。私とアリスは息を

潜めて様子を見ますのでお熱い展開をどうぞ」

 

『そんな事はしないよ……迎えには行くけど』

 

玄関まで行ってドアスコープを覗いた先には

何か悩んでいるように周辺を歩き回り

円弧を描いているマエストロの姿が。

……もしかして鍵を忘れたのかな? じゃあ

扉を開いてあげないとね。

 

ーガチャリ。

 

『先生? 扉の前でどうしたんですか?』

 

「うおっ!?」

 

普段聞かない先生の大きな声。動揺しているのが

その一言だけで伝わってきた。……それと後ろに

ある大きな箱の存在も。

 

『その荷物は……?』

 

「なななななんでもないぞ!」

 

『でもその大きなダンボールは……』

 

「まだ気にしなくて良い!出迎え感謝する!

私は部屋に戻らせてもらおう!」

 

『あっ……では荷物を置いたらリビングに来て

ください。先生に贈り物があるんです』

 

まだ生クリームを塗ってないけど……

貴方の為のケーキを用意しているんです。

 

「贈り物だと!?」

 

『え、ええ……』

 

「すまない、荷物を置いたらすぐに行く!」

 

『はい。お待ちしております』

 

何故か挙動不審でいつもよりも軋む音が大きい

先生を見送って私はケーキに生クリームを塗って

彼の準備が整うのを待つことにした



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夢を背負う覚悟

今更ですが私はカップリング厨です


芸術家は一人でとある場所に赴いた。そこは

百鬼夜行自治区にある辺境の地、『黄昏』

彼は導かれるようにそこの領域に足を踏み入れる

何故この場所に訪れたのか、その答えは至って

単純で安直ではあるが妥当なもの。

 

「(あの世界にはシロコの先生が霊体となって

黄昏を彷徨っていた。……ならばこの世界には

私の求める人が居ると、そう確信している)」

 

シャーレの先生という存在は例え自らが死ぬ、

色彩に毒されたとしても生徒の幸せを優先する

側からみたら狂人のような存在だ。……だから

こそ此処に居る。その証拠にあの時と同じ偶像

が破棄されているのだから。

 

「……そこに居たのか」

 

「"……マエストロ?"」

 

そう。彼が探していたのは『ユメ』の先生

やはり同じようにこの黄昏に囚われていたようだ

 

「"なんで君がこんなところに……"」

 

「色々あってな。少し話をしようじゃないか」

 

ーーー

 

「"そっか……ユメは元気なんだね。それが知れた

だけでも此処に居て良かったと思えるよ"」

 

「……怒らないのか? 私は先生の生徒に手を

出して挙句恋人にしたんだ。私を裁く権利がお前

にはあるのだぞ?」

 

「"感謝する事はあっても裁く事はないよ。

ユメを気にかけてくれて……全てを失ったあの子の

支えになってくれているんだからさ"」

 

「だが……先生も理解しているのだろう? 私達

ゲマトリアが如何に悪い大人であるかを……そう

簡単に信用していいのか? 私が嘘をついてユメを

搾取する対象にしている可能性もあるんだぞ」

 

「"それはないよ。……私は見たんだ。ピンク色の

髪の生徒を傷つきながらも救出した黒服と……

それを慕う生徒達を。この世界に居るゲマトリア

が悪い大人ではないって事もね。……まあ、流石

にマエストロと恋人になってるのは予想外だった

けど……わざわざ此処に来てまで話をしてくれる

君が悪い人なわけがないからさ"」

 

「……そうか」

 

「"それで……話だけじゃないんでしょ?"」

 

「ああ。本題に入ろう。実はな……」

 

芸術家は伝える。シロコテラーという存在を

救った事。先生が協力してくれればユメも同じ様

に救える事。その為に此処に来た事。

 

「"そっか。ユメの為に、か……"」

 

「ああ、どうか協力してくれないだろうか?」

 

「"ごめん。ユメの為だとしてもそれは出来ない"」

 

「……何故だ」

 

「"マエストロ。君は大事な事を理解していない。

確かに君の言うとおりにすればユメは失ったもの

を取り戻して恐怖に染まった時も記憶も消えて

文字通りハッピーエンドになると思う"」

 

「ならば何故……!」

 

「"ユメが求めているのはもう私達じゃない。

……マエストロ、君なんだよ"」

 

「………」

 

「"恐らくだけど君はシロコ同様にユメを元の世界

に送り届けてそれがユメの幸せに繋がるならと

自らの想いを殺して生きようとしていたと思う。

確かにその考えは間違っていないし居場所がもう

何処にもなかったシロコはそれで救われた。

……けどユメは違う。君の隣という居場所がある。

もう過去に囚われる必要はないんだよ。だから

君の頼みは断るよ"」

 

「……私がユメと……彼女と共に生きる事は……

許されるのだろうか……それで彼女は幸せに……

なれるのだろうか?」

 

「"全ては君次第だよ。ユメの心を生かすも殺すも

恋人である君のね"」

 

「……そうか。そうだったのか……正直に言うと

私は迷っていたんだ。他の奴らと違い私はユメと

出会ってからまだそんなに経っていない。確かに

彼女の悩みに気づいて改善しようとはした。

……だが結局は彼女に惚れていただけなんだ。

そんな下心丸出しの私がユメを幸せに出来る筈が

ないと思っていた。……だが先生の話を聞いて

考えが変わった。私がユメを幸せにする。他の誰

でもない私が、だ」

 

「"……そう、それでいいんだよ"」

 

「先生よ、感謝するぞ。私はもう迷わない。

……長話をしてすまなかった」

 

「"気にしないで。私も未練がなくなったから。

……マエストロ"」

 

「ああ」

 

「"ユメを……宜しくお願いします"」

 

「……任せてくれ」

 

ーーー

 

此処はあの日黒い薔薇を見繕ってもらった花屋

そこで芸術家は見定めるように花を見つめている。

前回の花言葉はネガティブな意味にも捉えられて

しまったので今回はしっかりと愛を伝えたい。

……ああそうだ、告白する時の台詞も考えて

おかなければ。遠回しに愛を……それとも直球で

伝えるべきか? 悩みは尽きない。……ならば

全て伝えてしまおう。

 

「赤い薔薇を……108本包んで欲しい。

それと……も追加で頼む」

 

あいつらがこの光景を見たら情けないと思うの

だろうな……「流石に愛が重いのでは?」と

言われるのだろうか……まあ、それで構わない。

 

「……しかし緊張はするものだ。かれこれ数十分

扉の前で固まってしまっている……」

 

中からはユメとアリスとケイの声が聞こえてくる

ので居るのは分かっている。……その声で自分が

これからプロポーズをするのだと再認識させられ

一歩を踏み出せずにいる。

 

「迷っていても仕方ない……突撃するぞ」

 

そう決意して扉の前に立った。……のはいいが

取手を回す力が入らない。鼓動の音が大きい。

……なんだこの感覚は。この苦しみを奴らは

乗り越えたというのか? 全身が震えてしまい

もし断られてしまったら……と考えてしまう。

今すぐにも逃げ出したい衝動に駆られる。

……違う。ここで逃げてはいけない。ユメが

待っているのだ。一生分の勇気を出せ。

 

ーガチャリ。

 

『先生? 扉の前でどうしたんですか?』

 

「うおっ!?」

 

なんという事だ。先手を打たれてしまった。

 

『その荷物は……?』

 

「なななななんでもないぞ!」

 

『でもその大きなダンボールは……』

 

「まだ気にしなくて良い!出迎え感謝する!

私は部屋に戻らせてもらおう!」

 

ダメだ恥ずかしい。まともに目を見て話す事すら

出来ないではないか……一度部屋に戻って体勢を

立て直さなくては……

 

『あっ……では荷物を置いたらリビングに来て

ください。先生に贈り物があるんです』

 

「贈り物だと!?」

 

『え、ええ……』

 

何という事だ。まさかユメも花束を……!?

これは急いで部屋に戻り対策をしなければ!

 

「すまない、荷物を置いたらすぐに行く!」

 

『はい。お待ちしております』

 

どうするマエストロよ。どうすればいい!?



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君を想い君を望み君と共に

部屋に戻っても尚冷静さを保つ事は出来ていない。

どうするかと問いかけても自分自身が混乱している

為答えが返ってくる筈がない。しかしこのまま

部屋に篭っている訳にもいかないので再度覚悟を

決めてユメが待つリビングに降りていくと……

ハート型のチョコプレートに『LOVE』と

書いてケーキの上に載せているユメがいた

あれは一体何なのだ? まさかあの中に指輪でも

仕込んでいるというのか? なんて芸術性が高い

プロポーズなのだろうか……待て、怖気つくな。

こういう時は深呼吸をだな……

 

『……あ、先生。もう少しだけ待ってください。

今飾り付けをしていますので……』

 

「わ、分かった。アリスとケイはどうした?」

 

『二人なら用があると言って帰りましたよ』

 

「そうか……」

 

何故このタイミングで帰宅しているのだ……

今ユメと二人きりになるという事は意識をして

しまうという事。つまり詰み直前だ。会話でも

してきを紛らわせるしかない。

 

「先程から用意しているそのケーキは何だ?」

 

『これは先生に日頃の感謝と……愛を伝える

為の贈り物です』

 

「愛だって!? ユメもなのか!?」

 

『……ユメも?』

 

「………」

 

時に人は時間を巻き戻したいと考える時がある。

主に失敗した際にやり直したい、そう強く

思うのだ。今こうして失言をした私のように。

 

『もしかしてあの荷物は……』

 

「……今持ってくるから待っていてほしい」

 

『分かりました。ではケーキは一旦冷蔵庫に

冷やしておきますね」

 

「すまない……」

 

どうしてこうも格好がつかないのか。人生の大切な

場面だというのに……これでユメの私への印象が

情けない人、のようにネガティブなイメージを

持たれてしまうと……その先は恐ろしくてとても

考えられない……

 

『それで……そのダンボールの中身って……?』

 

「あ、ああ。中身か。それは……その……ユメに

渡したいものなんだが……」

 

『渡したいもの?』

 

「……これを受け取ってほしい」

 

流れに身を任せてユメに薔薇の花束を差し出す。

緊張は収まらず今も尚冷静さを欠いているが

難しく考えずに思った感情を伝えるだけ。

それでいい。下手な言葉は美しくない。

 

『薔薇の花束……108本の薔薇……確か花言葉は

……えっ……』

 

「……私の伴侶になって欲しい」

 

言った。言ってしまった。これでもう後はない。

受け入れて貰えるか破滅か……しかし花束よりも

先に指輪を渡すべきだったか? 基本プロポーズ

は指輪を差し出すものだろうからな……

 

『………』

 

ユメは花束を持ちゆっくりと瞼を閉じて何かを

考えている。そのまま数分が経過しただろうか。

彼女が目を開けて潤んだ瞳でこちらに向き合い

 

『本当に……良いんですか?』

 

そう消え入るような声で問いかけてくる。

 

「ああ」

 

『ミレニアムの子でなくトリニティの子でもなく

百鬼夜行の子でもない……私で?』

 

「そうだ」

 

『全身傷だらけで……重くて……面倒な私で?』

 

「それもユメの魅力だろう」

 

『本当にいいんですね……? 後で後悔する事に

なったとしても……』

 

「今ここで想いを伝えない事以上に後悔するもの

なんてないだろう?」

 

『……本気なんですね。貴方は私を……』

 

「当然本気だ」

 

『……黒い薔薇を差し出された日の事を思い出し

ます。あの時も貴方は薔薇で想いを伝えてくれて

恋人になりましたね』

 

「そうだな。思えばあの時から私は不甲斐なくて

頼りない大人だったな」

 

『貴方のそういう一面も含めて大好きです。

……だから言わせてください。

私と共に……生きてくれますか?』

 

「ああ。生涯愛し続けると約束する。

もうユメを孤独にはさせない」

 

『……はい。貴方を信じています。あの日誓った

約束を守ってくれた貴方の事を……』

 

「……受け入れてくれてありがとう。実は先程から

ずっと緊張していてな。断られるのではないかと

冷や汗をかいていたんだ」

 

『帰ってきた時からずっと挙動不審だったのは

そういう事でしたか……先生も緊張したりするん

ですね。町の中で愛を叫びあった仲ですのに』

 

「それはそうなんだが……いざ伝えるとなると

どうしても身体が震えてしまうんだ」

 

『ずっと軋んだ音がしてますよ』

 

「……すまない。不協和音だっただろう……」

 

『いえ。私はその音は好きですよ。私だけの音に

したいくらいには』

 

「それは良かった」

 

『……あの、今夜は手を繋いで眠りたいです』

 

「奇遇だな。私もそう思っていたところだ。

ただ手の温もりを感じながら眠りにつきたい」

 

『ケーキは明日までお預け、ですね』

 

「そうだな」

 

こうして人知れず誕生した三組目の異端夫婦

愛する人と共に生きる道を選んだ芸術家と

重い過去と罪を背負い孤独に生きる事を決意

していた少女はあまねく奇跡の始発点に到達した

そしてそれを祝福するかのように彼女のヘイローは

何色にも染まらない漆黒から変化し始めていた

 



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新たな道の始まり

手を繋いで寝た二人ですが
当然エッチな事はしてません


朝の光が部屋に差し込む。

昨日の夢はなんて素晴らしいものなのだろうと

余韻に浸るには充分すぎる程に。

好きな人にプロポーズされて永遠を誓う夢。

……それが現実である事は左手のみではなく

全身を包むような暖かみが物語っていた。

 

『………』

 

夢じゃない。あの幸せな時間は終わってない、

むしろここから始まるんだと心が昂る。

これから毎日こんな幸せを噛み締めながら生きる

なんて……

 

『本当にいいのかな……』

 

「何がだ?」

 

『ひぃん!?』

 

「……なんだその独特な叫び声は」

 

私の夫はとても意地悪だった。起きているならば

早くそう言ってほしかった……

 

『先生は酷いです……』

 

「すまない。ユメの寝顔を見て幸福を感じていた。

……不思議だ。普段から見ていたのだが今朝見た

寝顔は今まで以上に魅力的だったんだ」

 

『朝から何言ってるんですか……馬鹿///』

 

「……さて、着替えたら出掛けるとしよう」

 

『アビドスに……ですよね』

 

「そうだ。ようやくユメの反転した神秘を元に戻す

決心がついたからな。最後に聞いておくが……

シロコのようにしなくてもいいのか?」

 

『はい。私は……未来に向かって歩きます』

 

「分かった。……ありがとう。正直な話私はユメが

元の世界に戻ってしまったら廃人になってしまう

ところだったんだ……」

 

『そう言ってくださって嬉しいです。……では

行きましょうか』

 

「……手を拝借させてもらおう。愛する人よ」

 

「はい」

 

ーーー

 

「ホシノ、見えますか?」

 

「見えない」

 

「そうですか。……約束の時間から2時間が過ぎても

マエストロはまだ現れないのですね」

 

「何かトラブルでもあったのかな?」

 

「ユメがついているなら問題ないでしょう。

大方新婚旅行気分で歩いてきているとかですよ」

 

「流石に先輩がそんな事……してる!?」

 

「……ようやく現れましたか、バカップルが」

 

「えっ私達の事?」

 

「……なんと、折り曲がった投擲武器のような

発言をしてしまったようですね」

 

「でもあんな幸せオーラを出して歩いている先輩

なんて見たことがないよ……恋ってあんなにも

人を変えてしまうんだね」

 

「貴女も変わりましたよ」

 

「先生もね」

 

「それもそうですね。私のホシノはこんなにも

美しく可憐で愛らしいのですから」

 

「も、もう。先生はいつもそうやって私を……

でもそんな先生が大好きだよ///」

 

キャッキャッチュッチュッ

 

『……私達もあんなバカップルのような関係に

なれるのでしょうか……』

 

「あんな人前で恥ずかしげもなく愛し合うのは

悪くはないが……公共の場ではな……」

 

『……もし私が人に見せつけるように愛して欲しい

と先生に頼んだら……?』

 

「何がとは言わないが枯らすまで愛そう」

 

『……♡』

 

「マエストロ? よく人前でそのような行為を

恥じらいもなく行えますね」

 

「黒服よ、ブーメランを投げるな」

 

「おや、短期間で二回も投げてしまうとは。

ですがそんな些細な事はどうでもいいです。

まずは貴方の勇気ある選択に敬意を称しますよ。

ホシノの先輩に手を出したという事実は軽蔑の

眼差しを向けさせていただきますが」

 

「ロリ婚に軽蔑される筋合いはない」

 

「失礼な、純愛ですよ。……そんなホシノが

身体を張ってユメの為に精製したこの薬。

これを飲めばあのシロコ同様にユメの神秘は

本来のあるべき姿に戻るでしょう」

 

「……ああ」

 

「今回は私達も立ち合わせてもらいます。彼女の

ヘイローの形を知っているのはホシノだけなので」

 

「そういう事。だから先輩、飲んでください」

 

『ありがとう。……それじゃあ……』

 

「………」

 

嗚呼、ついにこの時がきた。ユメが元に戻って

テラーという呪縛から解き放たれる。……ようやく

彼女に普通の人生を……いや、私と生涯を共にする

以上普通とはいかないか。だが少なくとも恐怖に

染まっている状態よりは良い人生を送れる筈だ。

 

『……暖かい。暖かいよ……』

 

薬を飲み干した彼女から恐怖が消えていく。

本来あるべき姿に戻るように少しずつ。

そして1分にも満たない時間で彼女を蝕んでいた

恐怖は完全に姿を消した。……戻った。ユメの

神秘は元に戻ったんだ。

 

「私の悲願は達成された。黒服、そしてホシノ。

二人には感謝してもしきれない恩が出来た」

 

「いえ、私はただ薬の実験としてユメを利用した

に過ぎませんので恩を感じる必要はありません」

 

「先生はこう言ってるけど……実は直前まで失敗

するリスクを減らそうとしてくれてたんだよ。

二人が来るまでずっとね」

 

「ホシノ、それは言わない約束ですよ」

 

「まあまあ良いじゃん。それに先生は今更悪い大人

みたいに振る舞っても無駄だよ」

 

「……私は何故こんなにも扱いが悪く……いえ、

この場合は扱いが良いと言うべきでしょうか……」

 

「混乱しているところ悪いが……ユメのヘイローが

元に戻っているのかを確認して欲しい」

 

「それなら大丈夫だよ。先輩のヘイローは私の知る

黄色いやつに戻ってるよ」

 

「そうか。……ん、黄色……?」

 

「うん。黄色いヘイローだよ」

 

黄色……黄色? ホシノは確かにそう言っている。

しかし私の眼に映るのは黄色ではなく桃色。そして

アビドスの校章をハートマークが囲っている。

……どうなっているんだ? この状況でホシノが

嘘をつくとは思えないが……

 

「先生」

 

「な、なんだ?」

 

「貴方の眼に私の姿は……どう映っていますか?」

 

「ユメの姿は……何というか……愛に満ちている

ように見える……」

 

「……それなら良かったです。私は今、貴方が

私に望んだ姿を見せていますから」

 

「……まさか」

 

そうか。そうだったのか。私はいつの間にかかつて

目指していた目標を達成していたようだ。そう……

『覚醒』だ。未だ前例が一件しかないそれを今この

瞬間に私は達成したのだ。何故急にこのような事態

が発生したのか? 今なら答えが分かる。

 

「愛の力か……」

 

「はい♪」

 

……参ったな。愛が強すぎるというのは常識すらも

歪ませてしまうのだろうか。……だがそれも今と

なっては悪くないな。




ユメ*テラー改めユメ(覚醒)になりました。
ただしその姿はマエストロにしか見えません。
理由? 愛ですよ


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調査レポート 覚醒したユメについて

先日ユメのテラー化を治療した際、奇妙な出来事を

観測したので記録に残していこうと思う。

小鳥遊ホシノとその付き人である黒服が共同開発

した薬を服用したユメは恐怖に汚染されていた

神秘が戻りようやく色彩の呪縛から解放された。

その事には安堵したものの現場に立ち会ったホシノ

曰く『ユメのヘイローは黄色』との事。だが私の

眼には桃色にしか見えていないのだ。これは一体

どういう事なのか? それについてはユメ自身が

『貴方の望んだ姿を見せている』と言っていた。

つまり私に見えているユメの姿は私が望んだ姿を

反映させたもの、らしい。どういう原理でそんな

不可解な事を成し遂げたのかは分からないが

『愛の力』という事で納得した。……正確には

納得せざるを得なかった。それ以外で理由になる

要素が何一つないのだから。当然愛で覚醒出来る

のならば歴代のゲマトリア達が覚醒を果たせずに

いたというケースも考えられる。それにあながち

愛が条件というのは間違ってはいないと考える事

も可能なのだ。そう、ヒナの存在だ。彼女もまた

マダムへの愛に応えるように覚醒を果たしている。

彼女は間違いなくマダムと相思相愛であるが故に

土壇場で奇跡を起こした。今となっては必然で

あるとも考えられるが……

そこで仮説を考えてみた。もし親愛度という目に

見えない数値があると仮定してそれが一定値を

超えた後に特定の条件を満たすと覚醒する。

ヒナはマダムの行いが正しいと証明する為に。

ユメは何故覚醒したのかは分からないが……何か

きっかけのようなものがあったのだろう。何故

私がこのような仮説を考察したのかには一つの理由

がある。小鳥遊ホシノという存在だ。彼女は黒服

というロリコンから愛を受けて学生生活を過ごして

きた。そして婚約している。もし親愛度だけが条件

だとするならば彼女も覚醒していないとおかしい。

なのでホシノが覚醒する条件も考察……しても良い

のだが今はユメの事を話すべきだと思うのでそれは

黒服に丸投げする。大方ホシノと出会う前の過去

等と向き合えば覚醒するだろう。

……色々ややこしくなってきたのでここまでの話を

まとめよう。ユメは愛の力で覚醒し私だけの神に

なり私の崇高を満たす無垢な笑顔を見せてくれた。

控えめに言って最高という事だ。

さて、次の問題だが覚醒の維持時間についてだ。

まだヒナしか前例がない為彼女が力を発揮した際の

活動時間を参照する。過去に3回程観測をした結果

覚醒した状態でいられるのは3〜4分だけである。

その後は全身に力が入らないのかその場に倒れ込み

その度にマダムが襲っていた。弱ったヒナは可愛く

襲い甲斐があると謎の自論を言っていたが……

それを踏まえてユメの覚醒の維持時間なのだが……

朝に覚醒を果たしてから今も継続している。つまり

10数時間もの間覚醒を維持しているのだ。これに

ついては本人曰く「姿だけを変えているので力を

出している訳ではないんです」との事。それでも

何故自由に、しかも特定の人物だけにのみ姿を

変えて見せる事が出来るのかは不明だ。恐らく

私だけの神になっているのと色彩の眷属であった

影響なのかもしれない。この辺りは日常生活の中

で観測していこうと……この言い方はやめよう。

何処の夫が妻に対して観測なんて単語を使う?

言い方は後で考えるとして覚醒についてはまだ

未知数な部分が多くそう簡単に解明出来るもの

ではないので気長に研究を続ける他ない。

そして今わたしの視界にはユメが

『YES♡』と書かれた枕を抱えて私を待っている

ので記録する事を終了しようと思う。これから

何を行うのかは察して欲しい。

 

「以上が昨日の夜に会議の資料として作成した

調査レポートの内容だ。何か質問はあるか?」

 

「質問ですか。では『YES♡』枕の後にナニを

したのかを具体的に問うても……」

 

「黒服は何か質問はあるか?」

 

「そうですね……貴方の唱えた説が正しいと仮定

すればホシノが覚醒していない理由にも繋がり

ますので……その手段を模索しようと考えて

いますが特に質問がある訳ではないです」

 

「分かった。では私からは以上となる」

 

「お待ちなさい。ナニについてまだ聞いてません。

具体的に何が良かったのかを話しなさい!」

 

「誰が言うか馬鹿かマダム」

 

「いいんですか? 私にそのような態度をとって。

今からトリニティとミレニアムを私の手駒にして

ゲヘナに転入させてもいいんですよ?」

 

「やめておけ。戦争を起こすつもりか?」

 

「……まだ会議の途中なのですが。何故貴方達は

毎回言い争うのです? もっと冷静に話し合いを

行うべきで……」

 

『先生、通知がきたよ♪』

 

「おっと失礼。誰かから連絡が来たようです」

 

「なんだ今の通知音。ホシノに何をさせてるんだ」

 

「これは勝手に設定されていたんです。私が頼んだ

訳ではありません」

 

「では何故変えない」

 

「通知が鳴る度にホシノの声が聞こえるなら変える

理由がありませんよね」

 

「流石黒服。倫理観が終わってるロリ婚ですが愛は

本物のようですね」

 

「元々ゲマトリアに倫理観はないが」

 

「そうですねマエストロ。貴方は誰にでも欲情する

常識もない下半身と脳が繋がっている変態ですし」

 

「なんだと?」

 

「おやおや。この二人から連絡が来るとは……

ってまた言い争いですか? 醜いのでやめなさい」

 

「そうだな」

 

「そうですね」

 

「そんな簡単に怒りが収まるなら何故争いを始める

のですか」

 

「ノリだな」

 

「ノリですね」

 

「仲良くなりすぎでは?」

 

「それよりも誰からの連絡なんです? はよいえ」

 

「……連絡してきた相手についてですが一人は、

いえ二人とも私達の同志です。そしてどちらも

『助けて』と連絡してきました」

 

「ほう」

 

「はぁ」

 

「あの、もしかしてですが……」

 

「そういえばゲマトリアって四人でしたし」

 

「本来のシャーレの先生の事も忘れていたな。

私の生徒に手を出したクソ野郎だ」

 

「イオリとチナツにセクハラした大罪人です」

 

「ではシャーレの先生は助けなくても」

 

「それとこれとは話が違いますよ」

 

「一応あんな人間でも誰かの支えにはなるからな」

 

「………」

 

黒服は時々こんな事を考える。何だこいつらと。




明日からまた新章に入ります。
序盤の方をリメイクしようかなと考えているんですが結構な量があるのと面倒なのと評価されたい訳ではないのでいいやって投げました。テラーちゃんみたいに前だけを向いて行こうって言い訳をしつつ続きを書いています。
それと今後の展開において重要なアンケートを置いておきますので良ければ投票していただけると助かります


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第七部 虚無と変態
忘れられてた二人


昨日とりましたアンケートの結果ですが
丁度半分くらいの割合になりましたので私は
どうすればいいのか分かりません


二人からのSOSの内容はこうだ。

『『囚われた私を助けてください』』

偶然にも同じタイミングで通知が来た。

特に詳しく説明する必要もないので端末の画面を

言い争いを勃発する直前の二人に見せる事にした。

 

「囚われた私を助けてだと?」

 

「助かる分には構いませんけど……囚われたって

書いてあるのが気になりますね。シャーレの先生

はともかくゴルコンダは何故でしょうか?」

 

「あいつがそう簡単に捕まる筈が……あるな。

最近生徒を甘く見てサンドバッグにされた愚か者

の存在を確認したばかりであった」

 

「それなら私も心当たりがありますね」

 

「まあ、そんなクソゴミが居たんですか」

 

「現在進行形で裁かれているがな。とにかくその

連絡を送ってきた二人の救出に行った方が良いの

だろうか」

 

「確かゴルコンダはレッドウィンターに居て先生

は当然シャーレに居ると思われますが……」

 

「では私がゴルコンダの所に行きましょう。

レッドウィンターには優秀な工務部があると

風の噂で聞いたので。これを機に私とホシノと

アリス達の家族用の家を建てようと思いまして」

 

「ようやくアリス達が私の家に寝泊まりする必要が

無くなるのか。これならより激しくしても……」

 

「貴方私の娘達に最悪の教育をしていませんか?」

 

「それについてはノーコメントだ」

 

「……とにかく黒服がレッドウィンターに行って

ゴルコンダを救出するのですね。では先生は私か

マエストロのどちらかが行きましょう」

 

「ではマダムが行ってくれ。私はユメとの結婚式

の準備で忙しいので他の奴を助けている余裕は

ないからな」

 

「なんですかその個人的な理由は……ですが

結婚式とは一生の晴れ舞台。それならば致し方

ないとも言えるでしょう。分かりました。私が

あのイオリとチナツに手を出した変態を救出に

行くとしましょう」

 

「どうやら方針は決まったようですね。では

今回の会議は以上で終幕と致しましょう」

 

「お待ちなさい」

 

「何ですかマダム」

 

「終幕って言葉はヒナがよく言っている言葉です。

貴方が口にすると寝取られた感覚になるので

二度と私の前でその言葉を使わないでください」

 

「……善処しますよ」

 

「……最近マダムの心境が分からぬ。脳の機能が

停止したかのような阿呆の発言しかしないぞ」

 

「仕方ないでしょう。前回の百鬼夜行の件で私は

出禁を喰らっていたので活躍が全く出来なかった

のですから。多少ストレスが溜まっております」

 

「成程。そういえばマダムが出禁になった理由に

ついて明確な答えに辿り着きましたよ」

 

「何ですって……? もしそれが克服出来れば

私がヒナサンドを満たせる日も……」

 

「あの世界はあの淑女が色々やらかして結果的に

ヒナが落ち込んでしまった経緯がありましてね」

 

「マエストロ。死んだ人間をもう一度殺す方法を

教えて頂けませんか?」

 

「落ち着けマダム」

 

「あんのクソババア! あの時手を差し伸べた

事が恥ずかしいですよ!!」

 

「他にもトリニティのある生徒を……」

 

「もういいです。私が『ベアトリーチェ』という

存在である以上永遠に出禁を喰らうのは当然だと

納得が出来ましたので。……私もゴルコンダの

ように名前を変えられるようにした方が今後に

活かせるのではないでしょうか」

 

「ふむ。実は昨日電子掲示板を覗いていた際に

このような概念を見つけまして」

 

「……なるほど? では試してみましょうか」

 

「何をする気だ?」

 

「『女先生概念』というのがありましてね。あの

趣味が悪い赤い肌も普通の女性のような肌色に

すればマダムの出禁は解除されるのではないかと

考えましてね」

 

「そんな無理に着飾るのではなく赤ジャージでも

着せておけばいいのではないか?」

 

「確かに年齢としては近いものがありますね」

 

「黒服、マエストロ。どうでしょうか? 多少、

いえ。せっかくなので若くしてみましたよ」

 

「………」

 

「………」

 

自らの身体を変化させたベアトリーチェ。その姿

はどうみても成長したヒナの姿だった。

幼児体型からシロコのような体型になったヒナ。

それは過酷なイラストで描かれるような解釈不一致

アンバランスの身体付きにしか見えない。欲望を

1%も隠す事なく自身に反映させているマダムには

もはや尊敬の念すら抱きつつある。

 

「マダム、それはやめましょう。自らがヒナに

なった所で己の崇高は満たせませんよ」

 

「可愛いと思うのですが……駄目ですかね?」

 

「少なくとも出禁は確実だろうな」

 

「……これが駄目なら元の姿にしますよ。夢の

トリプルヒナセットが……」

 

「ユメのトリプルヒナセットだと?」

 

「……話が脱線しすぎて収拾がつかなくなって

しまいましたね。そろそろ解散しましょう」

 

「そうですね。戻ったら早速先生を救出に行って

ついでにSRTとヴァルキューレの子達を手駒に

して私の生徒にするとしましょう」

 

「程々にしておけ。あくまで先生としての立場は

奴の方が上なのだからな。それはそれとして奴に

会うならヒナタとユウカとハナコを汚した罰を

与えておいてくれ」

 

「分かりました」

 

「全く……何故私達の世界に居る先生はあんな

生徒に手を出すようなド変態なのだろうか……

教師としては終わってるとしか言えんぞ」

 

「ヴッ゛」

 

「………」

 

「……ああ。二人もそうだったな」



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小鳥遊さんは気難しい

ーーホシノの自宅にて

 

「そういう訳なので私とレッドウィンターに

行ってください」

 

「やだ」

 

「……聞き間違いでしょうか? 今ホシノは私に

嫌だと言ったように聞こえましたが」

 

「嫌だ」

 

「何故?」

 

「寒いところに行きたくない」

 

「………」

 

彼は非常に困った。まさかホシノに断られる

とは思っていなかったのだから。こうならない為に

昔からずっと彼女と向き合っていたのだから。

 

「あの、ホシノ?」

 

「………」

 

「一体どうしたと言うのです? 貴女らしくもない

発言ですが……」

 

「最近色々あったじゃん。先生と別のアビドス

に行ったりさ。だからこうして家で先生とゆっくり

過ごしたいなって。ほら、休息は必要だからさ」

 

「ああ。理解しました。つまりホシノは私に

構って欲しいので別の理由をでっちあげているの

でしょうか? それとも嫉妬でしょうか? 確かに

最近あちらのホシノに構ってばかりでしたのでね」

 

「……分かってるなら言わないでよ。面倒な人間

だって先生に思われたくないのに……」

 

「どうやら私はホシノの事を誤解していたようです。

まさかここまで執着心を見せてくれるとは。

安心してください、私が愛しているのはホシノだけ

です。あの日のように貴女に誓います」

 

「……本当?」

 

「はい。ホシノの指についている指輪が証拠ですよ」

 

「……うへへ、ありがとう。何だか安心したよ」

 

「ですが最近あまりホシノに構っていなかったのは

事実ですからね。申し訳ありません」

 

……と場を収めるために謝罪をしてみたものの

ホシノとは毎日愛し合っている。ここのところ

ずっと共に行動をしている為ただ嫉妬をしている

だけなのだろう。過去に病んで異常な執着心を

見せた事もある。ならばレッドウィンターに行く

前にホシノのメンタルケアを優先しよう。

救援を求む彼には悪いが妻の方が大切なのだ。

 

「そういう訳なので明日久しぶりにデートでも

しませんか?」

 

「デート……?」

 

「無理にとは言いませんがお互いの愛をより深め

高める事も大切だと思いま……」

 

「するする! 明日じゃなくて今からしよう!」

 

「気が早いですね。ですが外は寒いですよ?」

 

「外の寒さなんて愛の前には無意味だよ」

 

「……まあ、やる気が出たようで何よりです」

 

「あ、でもデートって名目でレッドウィンターに

行くのは嫌だからね」

 

「分かりました」

 

流石にデートという単語だけでそこまでのやる気は

出さないようだが致し方ない。機嫌が治って元気に

なってくれただけでも良しとしよう。

 

「じゃあ行こっか」

 

当然のように彼女から差し出された手を握って

冷たい風が吹く街に繰り出す事となった。

 

ーーー

 

「こうして何にも縛られる事もなくただ二人で

街を歩き回るのは楽しいね」

 

「そうですね。なんだかんだで新婚旅行もまだ

行けてませんので」

 

「新婚旅行かぁ……もし行くならリゾートとかが

良いなぁ。お魚さんが泳いでる姿がガラス越し

じゃなくて直で見れるし。……それと岩陰で先生と

汗を流したり……ね?」

 

「ホシノはお盛りですね。年頃の女性だとしても

中々に大胆な発言ですよ」

 

「そうかな。……先生、もしかして想像した?」

 

「多少は」

 

「そっかぁ。大きくなってるし歩き辛そうだね」

 

「ええ。岩陰というシチュエーションは想定よりも

興奮するという事実を理解しました」

 

「先生も結構えっちだよね」

 

「否定は出来ません」

 

「うへへ……そういえばさっきは理由を聞かずに

断っちゃったけど何でレッドウィンターに用事が

あるの?」

 

「そうですね。理由としましてはレッドウィンター

にはもう一人……いえ、二人でしょうか? 同志が

滞在しておりましてね。先程その方から救援を求め

られたのです」

 

「同志って……ベアさんとマエさん以外にまだ二人

居たんだね。どんな人なの?」

 

「名前はゴルコンダとデカルコマニー。

比較的に私と話が合う人です。ですが彼らは

教師ではないのでどのような状況下に

置かれているのか不明なのです」

 

「そうなんだ……でも先生と気が合うなら悪い人

ではないんじゃないかな」

 

「それはどうでしょうね」

 

ゴルコンダには複数の人格がある。前回あちらの

アビドスで接触してきたのはその別人格の彼、

フランシスであった。そして彼が言うにはあの

ヘイローを破壊する爆弾を作成したのはゴルコンダ

である。もしこちらの方でそのような悪意に満ちた

凶器を作成していたとすればホシノを守る為にも

彼らを追放する事も視野に入る。この愛らしい存在

がこれ以上絶望してしまわないように。

 

「……やっぱり先生って優しいよね。同志の人の為

とはいえあんな寒いところに行こうとしてるし」

 

「元々レッドウィンターには用事がありましたので

いずれは伺うつもりだったのです」

 

「そうなの? どんな用事?」

 

「あそこには工務部という優秀な人材が集まる

部活動がありましてね。そちらに私とホシノ、それと

アリス達の一軒家を建ててもらう依頼をしに行こうと

思っていたのですよ」

 

「えっ」

 

「ホシノの家に同棲しているのは良いのですが……

将来の事も見据えて新しい家を建築しておくのも

手だと思いましてね」

 

「行こう」

 

「?」

 

「レッドウィンターに行こう」

 

「急にどうしたのです? 先程まであんなに……」

 

「そういう事なら早く言ってよ!! 夢のマイホーム

だよ!? えっちし放題だよ!?」

 

「行為自体は毎日愛し合っていますよね」

 

「……いいから行こう!」

 

「……ホシノがそう言うなら』



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何故か乗り気になったホシノさん

犠牲者アンケートを確認したら6割の方が
ハッピーエンドを望んでいたのでそうします
ただ4割の方の期待に応えたいので多少は
そういう事もやります


「成程。つまり家族全員が住める家を建てる交渉を

する為にレッドウィンターに行きたいと」

 

「ようやくアリス達の実家が建築されるんですね!

善は急げです、交渉しに行きましょう!」

 

「……何故この二人を呼んだのですか?」

 

「え? だって家を建てるんでしょ? だったら

家族の意見を聞いて間取りとか決めないと」

 

「成程。それは一理ありますね」

 

「ところで何故アリス達はショッピングモールに

集合したのでしょうか?」

 

「レッドウィンターは雪国ですので寒いのです。

その為ホシノを可愛い着飾るついでに暖かくして

風邪をひかないようにしようと思いまして」

 

「何故先生という存在は欲望を隠す努力をしない

のでしょうか」

 

「『男はケダモノ』ってこの前ミドリがやってる

ゲームで学びました! 先生もケダモノなので

欲望を隠していないのだと思います!」

 

「ゲーム開発部と仲良くやれているようで何より

ですよ。アリスとケイも好きな防寒着を選んで

来てください」

 

「手袋も買って良いですか?」

 

「構いませんよ」

 

「言質取りました。行きましょうアリス」

 

「はい!」

 

「……相変わらずあの二人は子供ですね」

 

「まあねーそれよりもさ、このショッピングモール

久しぶりに来たね」

 

「二年振りでしょうか。思えばホシノとは長い

付き合いになりましたね」

 

「本当にね。ここで初めて貴方の事を先生って

呼んでから色々あったなぁ……」

 

「……あの時よりも幸福ですか?」

 

「うーん……同じくらい、かな。昔も今も先生が

隣に居てくれる事は変わらないし」

 

「そういう考えがあるとは。ですが案外的を得て

いるのかもしれませんね。何気ない日常にこそ

幸福という崇高が存在している」

 

「……私が欲しかったものってさ。居場所、とは

違うけど……当たり前のように皆と過ごせる日常

求めていたのはそれだったのかも。それと普通に

恋愛をして結婚する、とか?」

 

「普通に恋愛をするのならば私のような人外を

選んでいるのは失敗でしょう」

 

「見た目だけで判断するのはダメだよ。そういう

経緯で恋が始まることもあるけど……それに先生

は私の好みだったし……」

 

「……まあ、私もホシノが好みでしたよ。最初は

最大の神秘に惹かれたからだと思っていましたが

今となっては貴女は自身に惚れていたのだと考察

していますし」

 

「先生……それは多分私が潜在意識に私の事を

愛してくれるように植えつけたからだと思う」

 

「貴女とんでもない事をしていますね」

 

「そんな褒めなくても……」

 

「ですが私が貴女にやってしまった事を考えると

その程度なら可愛いものかもしれませんね。私は

何度ホシノの命を失わせてしまうような行いを

してきたのか……もし自分を断罪出来る機会が

あれば裁きたいですね」

 

「過去の自分かぁ……私にもそんな機会があれば

きっと自分を責めるだろうなぁ……」

 

「そういえば私と出会う前のホシノはどのような

日常を過ごしていたのでしょうか?」

 

「それは……また今度話すね。二人きりの時に」

 

「分かりました」

 

「……でさ、先生。この部屋なんだけど……

どう見ても防寒着じゃなくてコスプレ用の衣装が

飾ってあるんだけどさ」

 

「この白色の和服はホシノに似合いそうですね」

 

「先生それは今日復刻された子のやつだよ」

 

「今日復刻? 過去に発売されていたものなの

でしょうか?」

 

「そうそう。限定で発売してたんだよ」

 

「成程。深堀するべき内容ではないようですね。

価格は三万円ですか。購入しておいて後程暇な

時にホシノに着てもらいます」

 

「欲望に忠実だね」

 

「貴女は自身の魅力に気づくべきです。あちらの

ホシノもそれに気づければ先生を堕とす事など

容易いというのに……」

 

「でも私は先生が可愛いって思ってくれるなら

それだけで充分だよ」

 

「皆様分かりますか? こういう所なんです。

暁のホルス云々ではなく小鳥遊ホシノが魅力的で

ある理由はこういう部分にあるのです」

 

「誰に話しかけてるの?」

 

「お気になさらず。強いて言うならば視線の先に

語りかけておりました」

 

「……先生は私だけ見てればいいの」

 

「………」

 

ーー黒服の脳内での会議

 

「クックック……襲いましょう。誘惑をしてくる

哀れな子供には理解させる必要があります。

浅はかな発言は身を滅ぼす事を」

 

「いえ、まだ様子を見ましょう。襲う事は容易い

のですがそう簡単に押し倒してしまうと彼女の

体力が消費されてしまいます。今ここで行為に及ぶ

のはリスクが高く非効率です。それにアリス達が

いつ戻ってくるのかも分かりません。無闇な行動は

避けるべきでしょう。その上で襲うべきです」

 

「貴方達は小鳥遊ホシノを何も理解していない。

今この場で行為に及んでしまうと何時間も愛し合う

事になってしまいます。毎夜の経験を思い出して

ください。ですのでこの場で襲うのは得策ではない

と考えましょう。リスクを考えた結果今この場では

抱き寄せて夜までお預けという形にしましょう」

 

「クックック……そのような誘惑に私が我慢を

出来るとでも? 何故脳内会議をしているのか、

根本的な所から考えてみてください」

 

「では意見をまとめるとホシノは襲うべきと」

 

「異論はありません」

 

「同じく」

 

「クックック」

 

ーー会議終了

 

「ホシノ」

 

「うん」

 

「少し人気のない所に行きましょうか」

 

「いいよ」

 

誘う方も誘う方だが乗る方も乗る方。彼らはこの後

ケイに見つかるまで何かをしていたそうな。




去年は和服ハルナが癖でした。
今はホシノさんの影響で幼児体型に魅力を感じる
ようになってしまったのでフウカ一択です。
真にロリコンに目覚めたのは黒服ではなく私だった
ようです。この作品を書いていなければ今でもノアと
白髪を追いかけていた事でしょう


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雪の道

アリスの教育に悪い云々の説教を終えた後に

ショッピングモールで購入した防寒着を着用して

準備万端になったのはいいもののどのように

レッドウィンターに向かおうかと迷っている。

 

「私の武器にワープ機能がありますよ」

 

「それでも良いのですがレッドウィンターは常識が

通用しない学園ですので面倒な事になる可能性が

大いにある以上やめておきましょう」

 

「雪が積もった道を歩く方が面倒だと思います」

 

「別に無理して来なくてもいいのですよ?」

 

「家族を引き離すつもりなのですか?」

 

「(マエストロ。ケイは反抗期なのでしょうか?

何と言いますが自我が強くなってますよ。まさか

貴方の教育の成果なのですか?)」

 

「違います。ケイはただパパに構って貰いたくて

ツンツンしてるだけです!」

 

「ばっちょアリスそれは言わない約束で……」

 

「成程。確かに貴女達二人との時間はあまり

取れていなかったのも事実。多少の我儘は許容

しましょう」

 

「では私と一日恋人デートをしてください」

 

それはダメだよ?

 

「ホシノが覚醒した……? いえただデートという

単語に過剰反応しただけですね」

 

「……冗談ですよ。結婚した父を誘惑してもただ

虚しいだけです。ばにばにです」

 

「そっか。それなら良いんだ」

 

……何故ホシノはこんなにも独占欲が強くなって

しまったのだろうか? ありがたい話ではあるが

時々何故? 何故? 何故? と疑問になる。

 

「可愛いので問題はありませんがね」

 

結局はそこに行き着く。何処かの赤おばさんも

言っていたが可愛いは正義らしい。

 

「家族団欒も一息つきましたしそろそろ

行きましょうか。レッドウィンターに」

 

「ようやくですね!」

 

「一軒家の為に頑張りましょう」

 

「おー!」

 

「……ゴルコンダの救援も忘れずに」

 

………

 

「誰ですか?」

 

「ボスモンスターですか!?」

 

「(何でしょう、ボスという意味では間違っては

いないような気がしますね。悪い大人ですし)」

 

「二人共違うよ。先生の同志だよ」

 

「……あ! まさかあのバッドの人ですか!?」

 

「ああ、サンドバッグの人ですね」

 

「うぇ」

 

「……彼は一体どのような目に遭っているのか

分かりませんが……」

 

話を進めなければならないという使命感に駆られ

とりあえず行く事にした。

 

ーーー

 

「さ゛む゛い゛で゛す゛!!」

 

「冷却装置が必要ないので楽ですね」

 

「うへー寒いね……先生、抱きついて良い?」

 

「どうぞ」

 

「アリスも抱きつきたいです!」

 

「では私も」

 

「いえ三人は流石に困りま」

 

しかし問答無用で抱きつかれた。でも暖かいので

このまま進む事にした。そう、この辺りは特に

問題が発生する事がない安全な地域なのだ。

シロクマがいる程度で何も問題は……

 

「シロクマが居る? 何故でしょうか?」

 

「……ただのシロクマではないようです。体内に

多少の神秘反応があります」

 

「神秘反応? 妙ですね。過去のゲマトリア達の

記録にも動物に神秘反応があるなんて情報は

ありませんよ」

 

「あれじゃない? ほら、前に戦った破廉恥

亡霊集団みたいな」

 

「……成程。淑女が生み出したのと近しい存在

ですか。だとするならまさかゴルコンダが?

……これは何か面倒な事になりそうですね」

 

「よく分かりませんが戦いますか?」

 

「念の為に全滅させておきましょう」

 

「分かりました! アリス行きまーす!」

 

「では私も抜錨します」

 

「ではホシノ、貴女も戦いに……」

 

「私は先生を守るよ。背後から襲われたりしたら

大変だからね」

 

「おや。頼もしいですね」

 

……あのシロクマもどきをもしゴルコンダ自身が

生み出しているとするならば本格的に彼を追放

する必要が生まれてくる。最悪なケースはヘイロー

破壊爆弾を開発している事だが……

 

「終わりました!」

 

「早すぎませんか?」

 

「私とアリスは神秘属性ですよ。特殊装甲の敵

なんて的でしかありません」

 

「属性? ……ああ、成程。あまり深くは触れ

ませんが助かりましたよ。このまま警戒を怠らず

先を急ぐとしましょう」

 

「了解!」

 

「(不思議と懐かしい感覚に襲われます。ホシノや

アリス、ケイに戦闘の指示を出すのは久々です。

最近は指示を出すまでもなく戦闘が終わったり

そもそも戦う事すら減少していました。こうして

指示をしてそれに従ってくれると信頼関係を構築

出来たのだと自覚させてくれますね。……過去の

私に言ってやりたいですよ。このやり方は絶対に

間違っていなかった、とね)」

 

「そんな最終回みたいな流れはやめましょう。

まだこの物語は続くのですから」

 

「……ケイ、いいですか? 貴女は確かに特別な

存在ではありますがあまりメタファー発言を多用

するのは良いとは言えません。控えましょう。

それと心の声を読まないでください」

 

「失礼しました。なんかそんな能力が備わって

いたので悪用していました」

 

「人の心が読める能力はあまり推奨しませんよ。

精神が疲弊して終わりますからね」

 

「二人共ー話してないで先に行こうよー」

 

「分かりました。ではケイ、行きましょう」

 

「はい」

 

ーーー

 

「……おや。懐かしい気配が近づいてきますね」

 

「そういうこった!」

 

「ようやく私もこの呪縛から解放される時が

訪れたのですね」

 

「そういうこった!」

 

「しかしおかしいですね。反応が二つあるように

感じますが……」

 

「どういうこった?」

 

「デカルコマニー? 貴方のアイデンティティが

崩れてますよ」



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赤冬の洗礼

正直レッドウィンター関連のお話は何も考えておらず
オチしか決まってないです


「警戒して進んだのはいいものの、あれから敵が

現れる事なく自治区内に到着してしまいました」

 

「拍子抜けだね」

 

「レッドウィンターズに着きましたね!」

 

「アリス、それだと別の場所になります」

 

「しかし何やら活気がありませんね。そもそも人

が居る気配すらないような気がします」

 

「さっきのシロクマに襲われたのかな……」

 

「もしやゴルコンダからの救援はこれを解決する

為に……? ならば誰があの生物を……」

 

「? 何が落ちています。黄色い物体……あっ、

スネイルでしょうか?」

 

「黄色いスネイルなんて居たでしょうか?」

 

「二人共、あんまり近づいちゃダメだよ。危険物

かもしれないからね」

 

「分かりました!」

 

「(ホシノがアリス達に指示を……何故か脳裏に

微笑ましいという単語が連想されましたね。私の

妻と娘達は仲が良いようで……)」

 

「あ、これプリンだ」

 

「……今何と仰ったのですか?」

 

「この地面に落ちてる黄色い物体の事。ほら、

カラメルっぽい黒い物体も落ちてる」

 

「何故地面にプリンが落ちているのです??」

 

「父、あそこに『プリンデモ開催中!』と書いて

ある馬鹿でかい看板が建てられてます」

 

「プリンデモとは?? いえ、それ以上に食べ物

を粗末にするとはどういう神経なのです??」

 

「パパ! 書き置きを見つけました!」

 

「書き置きですか? どれどれ……」

 

『水で薄めたプリンなんて配給されてもまっったく

嬉しくない! あのチビヒゲを会長の座から降ろし

同志ゴルコンダ並び同志デカルコマニーを会長に

任命し純度100%のプリン配給を求ム!』

 

「………」

 

何だこれは。

ふざけているのだろうか? 何処から突っ込めば

いいのか分からない。それに噂には聞いていたが

レッドウィンターでは毎日のようにデモが起こると

いうのは事実だった。なんて恐ろしいのか……

頻繁にクーデターが起こるなんて組織としては完全

に終わっている……何処かのゲマトリアのようだ。

 

「父」

 

「何ですか」

 

「SAN値チェックしますか?」

 

「まだ大丈夫です」

 

とにかくこの場所から移動しよう。そして帰りに

プリンを買って帰ろう。アリスがに落ちたプリンを

拾おうとする前に。

 

「先生。こっちに分かれ道があるんだけど……

なんかよく分からないんだよね」

 

「……成程」

 

ホシノが指差した看板に書いてあったのはなんか

よく分からないという言葉が似合う内容だった。

←新刊コーナー(C102)

→プリン工場(同志の家)

と明らかに異質の選択肢が並んでいた。

 

「……まさかとは思いますがレッドウィンター編は

二部の再来なのでしょうか?」

 

「いえ、あの時よりも酷いです。タチが悪いのが

レッドウィンターでは常識が通用しないという

免罪符が用意されている事、そして同人誌販売、

つまりコミケのようなイベントも過去に開催されて

いたのでこの展開もあり得なくはないという事。

いくつもの最悪が重なってこうなってます」

 

「……はあ。やりすぎない程度にしてもらいたい

所ですね。とりあえずプリン工場? に行くと

しましょうか。同志の家と書いてあるので彼らが

そこに居る可能性が高いです」

 

「人間バットさんですか!?」

 

「人間サンドバッグですよ」

 

「ゴルコンダです」

 

アリス達はこんなにもボケに走る性格であった

だろうか? ……あまり否定は出来ない。

 

ーーー

 

長い道のりを歩いて辿り着いたプリン工場は

どう見てもただの一軒家だった。何故このような

場所に建築されているのか? 謎でしかない。

 

「一先ずはチャイムでも鳴らして安否確認を……」

 

「たのもー! アリスはプリンが食べたいです!」

 

ピンポンピンポンピンポンピンポン‼︎

黒服がチャイムを押す前に欲望に負けた

アリスのピンポン16連射が炸裂してしまった。

 

「……何故目を離したのです?」

 

「先生の横顔を見てたからつい」

 

「私もプリンが食べたかったので止める理由が

ありませんでした」

 

「貴女達……」

 

「……反応がないです!」

 

「留守なのでしょうか?」

 

「違うよ二人共、こういう時は大体扉の鍵が開いて

何か起きてる事が多いんだよ」

 

ホシノはそう言いながらドアノブに手をかけて

そのまま回した。すると彼女の言った通り扉は音を

立てて開閉する。

 

「流石はホシノ。冷静な判断力です」

 

「う、うへへ。ありがとう先生(どうしよう、適当

言ってダメだったって言うつもりだったのに)」

 

「……!? 中からプリンの甘い香りが漂って

きます! アリスは中に入ります!」

 

「待ってください、私が先に食べます」

 

「食べるのは前提なのですね……」

 

「……私達も入ろっか」

 

「そうしましょう」

 

アリス達の後を追うように工場? に入るとそこは

どう見ても一軒家だった。作業場のような場所も

あるが工場と呼べるものでは到底ない。

 

「ただの家ですね」

 

「そうだね。ちょっと甘い香りがするだけの家」

 

「ホシノの匂いの方が甘いですよ」

 

「……じゃあ、嗅ぐ?」

 

「では遠慮なく」

 

「いや遠慮してください」

 

「何故邪魔をするのです。私とホシノが愛を

深める為の儀式中だと言うのに」

 

「嗅いだ後の流れが面倒なんです。どうせさっき

ショッピングモールでヤってた時みたいに激しく

するのでしょう?」

 

「当然ですね」

 

「当然だね」

 

「だから止めたんですよ」




工場の地下

「上が騒がしいですね」

「そういうこった!」

「どうやら黒服は無事に私の元へ辿り着いてくれた
ようですね」

「ぱんぱかぱーん!」

「デカルコマニー? 流石にそのような発言は貴方
らしくもないですよ」

「デカルコマニーではありません! アリスです!
黒服パパの娘です!」

「……黒服パパ?」

「どういうこった?」

「バットの人、アリスはプリンが食べたいです!」

「バットの人?」

「誰のこった?」

「トリニティで縛られていた人ですよね?」

「縛られ……トリニティで何があったのですか?
確かマエストロの管轄ですが……」


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同志ゴルコンダと同志デカルコマニー

工場を調べて分かった事。それはプリンに関する

資料しかないという事実だった。材料の配分、

味の種類、糖度のバランス等々……ごく普通の

一般家庭にあるような料理本と額縁に入った変な

肖像画が複数枚も飾られていた。子供が書いた

ような字で『プリン大臣:同志ゴルコンダ』と

『肯定大臣:デカルコマニー』という賞状も何故か

大々的に飾られている。

 

「狂気ですね」

 

「プリン大臣って何……?」

 

「肯定大臣も理解出来ません」

 

やはりSAN値チェックをしておくべきだったと謎の

後悔をしつつ何か違和感を覚えた。そう、純粋無垢

な歩く地雷のアリスが何処にも居ない。……少し

嫌な予感がする……

 

「あ、アリスは地下に行きましたよ」

 

「何故止めなかったのですか」

 

「下に居るのはサンドバッグなので」

 

「という事はゴルコンダが? しかし彼と接触

させるのは様子を見てからの方が……もし本当に

先程戦った生物を彼が生み出しているのなら危険

ですからね。まだ教師ではない悪い大人ですし」

 

「でもそんな人がこんな表彰されるかな」

 

……確かに。

 

「プリン職人の方を見つけました!」

 

「おお……あれが幼児体型の癖に目覚めた黒服

ですか。いえ、構いません。この悪夢から私を

救出してくださるのならば」

 

「そういうこった!」

 

「………」

 

地下からスッと現れた同志はアリスに余計な事を

吹き込まれていた。純粋無垢な爆弾は健在である。

この感じだとホシノが言うように問題はない……

のだろうか? 

 

「一先ず何が起きたのかを話して貰いましょうか」

 

「分かりました。始まりから話すべきですね」

 

ーーあれは同志達が生徒と接する事で崇高を

満たそうとする行為を模倣するようにこの学園に

接触しようとした事が全ての始まりでした。何故

レッドウィンターを選択したか、ですが……当時

学園のトップに居た低身長の少女が飾っている

偽りの絵画。それを存在しない概念として利用し

己の崇高を満たそうとしたのです。事前に調べた

プリンという土産を持って彼女の元に訪問し、

機嫌を取りつつ絵画について質問を……する前に

突如謎のクーデターが発生し彼女は一般生徒に

階級が下がりました。付け髭も外れ年相応の反応

しか出来ない彼女に対し仕方なく手を貸して再度

トップの座に就かせられた……と思えば絵画の件

を問おうとする度にまたクーデターが……何故

こんなにも頻繁に革命を行おうとするのか?

私は問題を起こした彼女達一人一人に問いかけて

確認をしたのです。すると皆口を揃えて

「プリンが不味すぎるから」と言うのだ。

たかがプリン如きと考えましたよ。ですが実際に

配給されているプリンの成分を確認した所中身の

50%が水で薄められていたのです。これでは

プリン風味の水を固めたもの以外の何物でもない

欠陥品でしかないのです。なので私が普通の

調理法でプリンを用意したらその噂が瞬く間に

学園中を巡り気がつけば私は表彰されました。

デカルコマニーも「そういうこった!」相槌を

うって生徒達の自己肯定感を高める働きを讃え

られたのか表彰されました。そして遂には

『同志ゴルコンダとデカルコマニー率いる

レッドウィンター連邦学園』に改名すらしてます

来る日も来る日もプリンを作り革命を宥めて多忙

な日々を過ごしていましたよ。途中からこちらの

意思とは関係なしに操られていましたが……彼女

達には常識が通用しません。理論を説明しても

屁理屈や強引にねじ伏せる……恐ろしいですよ。

 

ここまでが今までの振り返りです。今度は何故

私が地下に閉じこもっていたのかについて話を

しようと思います。理由としては外で何か危険

な生物が居るのでそれを掃討する際に万が一

同志を巻き込んでしまったら大変なので地下に

建設した牢獄に入れておく、との事です。

……はい、言いたい事は分かります。何故牢屋に

匿う必要があるのかですよね? それに関しては

私が聞きたいですーー

 

「以上が私が今地下に監禁されるまでの大まかな

流れでございます」

 

「突っ込み所しかありませんが……とりあえず

苦労していたのですね」

 

「そういうこった!」

 

「やはり私は生徒達と接するべきではなかったの

かもしれませんね……崇高を満たすどころか

プリン職人を余儀なくされてしまうなんて……

同志と慕われるのは悪い気分ではありませんが

それ以外で問題が多すぎます。挙句一時期洗脳

された事もありますのでいち早くこの場所から

立ち去ろうと思いました。この常識の通用しない

恐ろしい学園から……」

 

「……それには同情します。ですが一つだけ訂正

させて頂きたい事があります」

 

「何でしょうか」

 

「私は幼児体型が癖になった訳ではありません」

 

「貴方が連れている生徒は三人とも幼児体型ですが

どのように否定をするおつもりでしょうか?」

 

「まずですね、アリスとケイの二人は私の娘、即ち

年相応の体型なのです。幼児体型ではありません。

そしてホシノに関しましては……」

 

「………」

 

「……私の妻なので気にしないでいただきたい」

 

「成程。幼児体型が好みなのではなくただの

ロリコンなのですか」

 

「そういうこった!」

 

「……参考までにゴルコンダのお気に入りの生徒に

ついて聞きましょうか?」

 

「出版部の……ああ、写真を持ち歩いています」

 

「………」

 

お気に入りの生徒が居る時点で貴方もロリコンの

名前入りですよ。



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……? 

ここだけの話
胴体=ゴルコンダ
絵画=デカルコマニー
だと勘違いしてました

正しくは
胴体=デカルコマニー
絵画=ゴルコンダ
でした
ゲマトリアを取り扱う人がやってはいけないガバを
見事やりました


「……本当にこの場から去る予定なのですか?」

 

「はい。私はもうプリン職人ではなく一人の大人

として存在していたいのです。……確かにプリン

を頬張り幸福に浸る姿を見るのは愛玩動物を眺める

際の感情に近しいものはありましたがそれは私が

追い求める崇高ではないので」

 

「ですがプリンを作っているのも肯定するのも

全てデカルコマニーが担当しているのでは?」

 

「そういうこった!」

 

「それが困るのです。デカルコマニーにプリンを

作らせる、即ち私が机に放置されるのです。

そのような扱いが耐えられないのです。もうあの

洗脳曲を隣で流されながら理解不能な思想に

染まる空間になど居たくありません」

 

普段穏やかな彼がここまで拒絶反応を起こすとは

一体レッドウィンターの生徒達は何処まで常識が

通用しないのだろうか……

 

「では私が貴方を脱出させ……」

 

「ちょっと待って先生。工務部に行って私達の家

を建ててもらう契約をしないと」

 

「そうでしたね。……ゴルコンダ、貴方を助ける

代わりに工務部の場所を教えて頂きたいです。

一応言っておきますがこれは契約ではありません」

 

「工務部ですか。今彼女達はシャーレでデモ活動

をしているので自治区内には居ませんよ」

 

「そういうこった!」

 

「???」

 

何故デモ活動を? 何故? 何故? 何故?

 

「シャーレでって事はもしかしたらベアさんと

出会ってたりするのかな」

 

「その可能性がありますね。念の為後で連絡して

おくとしましょう」

 

既にマダムの毒牙にかかっているのかもしれないが

その責任は彼女自身が取るだろう。既婚者だが。

 

「では脱出するとしましょう。忘れ物等があれば

今のうちに回収しておいてくださいね」

 

「お気遣いなく。そのようなものはありません」

 

「分かりました。三人とも準備は……」

 

「父。この人を脱出させるなら私がワープで送り

届けた方が早いのではないでしょうか?」

 

「なんと。そちらのお嬢さんはそのような神秘を

持ち合わせているのですか。しかしですね……

この自治区内ではそんな都合のいい能力は使用

出来ないのです」

 

「何故ですか? ただえさえ前回の六部でも大した

出番がなく終わったというのにここでもそんな不遇

的な扱いを受けないといけないのですか?」

 

「ワープ自体は可能です。私も何度か試しました。

しかしどんなに座標を細かくしても自治区の中心部

にしか飛べないのです」

 

「そういうこった!」

 

「致し方ありませんね。徒歩で向かいましょう。

ゴルコンダが希望する場所は何処ですか?」

 

「いつもの会議室が良いです。前回戻れた際は

そこまで執着されておらず洗脳されていたので

レッドウィンターに帰ってしまいましたがもう

二度と戻る事はないでしょう」

 

「……ではそういう手筈で」

 

ーーー

 

「そういえば外にいた神秘を帯びたシロクマは

貴方が生み出した作品なのですか?」

 

「何ですかそれは? そのようなものを生み出す

意味はありませんよ。ただえさえクーデターやら

で面倒事が多発していたと言うのに……」

 

「そういうこった!」

 

「ではヘイローを破壊する爆弾の開発は……」

 

「そのようなものでレッドウィンターの生徒を

従わせられるとでも? それに使用してしまえば

面倒な敵が多くなってしまいます」

 

「そういうこった」

 

「一理ありますね。マダムやら先生やら……敵に

回すと鬱陶しい事この上ないです」

 

どうやら彼は既に悪い大人というよりも社畜の

ような存在に成り果てているようだ。そして

レッドウィンターというブラック企業からの脱出

を図るただの大人……なんて世知辛いのだろう。

……ならばあの生物は誰が生み出したのか?

もしやゴルコンダを地下に監禁したのもその生物

から守る為だったのか? だとすれば敵は一体

誰なのだろうか……

 

「ホシノママ! アリスはレアアイテムの

『喋る絵画』を手に入れました!これで秘伝の

プリンレシピを知る事が可能です!」

 

「じゃあ家に帰ったら一緒に作ろっか」

 

「はい!」

 

「嗚呼……私はレッドウィンターから脱却しても

尚プリンの呪縛から逃れられないのですね……」

 

「……ホシノ達は何をやっているのでしょう」

 

「アリスが美味しいプリンを食べたいと言い始め

まして。折角ならレシピを教えてもらいながら

家族で作ろうという話になりました」

 

「いつの間に……」

 

ゴルコンダからプリンのレシピを聞いてメモを

取っているホシノ。涎が絵画に垂れているが

気にしていないアリス。さりげなく恋人繋ぎで

手を握ってくるケイ。無言のデカルコマニー。

いつも通り混沌とした空間が形成されていた。

 

「……父。そちらの方が地図を開いてます」

 

「……どうしたのですか?」

 

デカルコマニーが指で示しているのはシャーレ。

そこに行きたいのだろうか? 何の為に?

 

「シャーレに行きたいのですか?」

 

「そういうこった!」

 

「先生に会いたいのですか?」

 

「………」

 

「ではマダムに?」

 

「………」

 

「……もしや教員免許が欲しいのですか?」

 

「そういうこった!」

 

「まさかレッドウィンターで教師を……?」

 

「そういうこった!」

 

「ああ、違和感の正体はこれですか」

 

普段そういうこったとしか叫ばないゴルコンダの

手足のような存在であったデカルコマニー。彼は

一足先にこちら側に足を踏み入れていたようだ。



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主導権を握っているのは胴体

大分面倒な事になってきている。今までこのように

ゴルコンダとデカルコマニーの意見が相違する事態

は起こった事例がない。そもそもそういうこったと

しか言わない彼と意思疎通をした事すら殆どなく、

普段何を考えているのかすら不明だった。そんな

彼が教師になりたがっている。

 

「どうすればいいのでしょう」

 

「絵画の人を説得してレッドウィンターの専属に

なってもらうしかないのでは?」

 

「ゴルコンダの考えは変わらなさそうです。

彼とあの学園は相性が悪いようですし」

 

「どうせロリコンですし適当な事を言えば納得

してくれますよ」

 

「そういうこった!」

 

「………」

 

ゴルコンダは何故舐められているのだろうか……

彼が一体何をしたと言うのか……フランシス?

あれは別人格のようなものなので問題はない。

 

「では一度会議室に送り届けてからシャーレに

行くとして……問題はあちらの方でも何かトラブル

が発生している事なんですよね」

 

「大方あちら同様『カルバノグの兎編』のような

問題が起きていると予想されます。多少、いえ

かなり流れは変わっていますが本筋は変わらずに

先生とSRT特殊学園の生徒達が奮闘していると

予想されます。それにしても思っていたよりも

この本編先生の記憶は役に立ちますね。仮に悪用

でもされてしまえば悲惨な目に遭いますが」

 

「ほう、そのようなものを所持していたのですか。

後で共有をして貰えると有り難いですね」

 

「キス一回でどうでしょう」

 

「いいですかケイ。記録よりも大切なものは存在

しているのです。例えば理性、これがなければ

人という存在はただの獣に成り果てる。何かを

得る為に大切なものを捨ててしまうのは愚策。

記憶という取引材料を持ち出したのは賢明だと

言えますがその代償があまりにも大きい。私は

ホシノ以外に接吻をするつもりがありません。

よってその契約は不成立です」

 

「では耳元で愛していると囁いてください」

 

「いいですかケイ。時に人は間違いを犯します。

感情が移ろいで愛する人とは別の人間に愛を

伝えたりもするでしょう。それが如何に愚かな

行いかを貴女は知らなければなりません。

もしここで私がケイに愛していると囁き、それが

ホシノの耳に届きでもしたらどうなるか……

考えただけでも恐ろしいですよ。脳が破壊される

という言葉が当てはまってしまいますからね。

結論としてはその契約も不成立です」

 

「娘に愛していると伝える分には問題ないと

思います。なので言ってください」

 

「何故そこまで私に愛されたいのですか?」

 

「親に愛されたいと思う事に理由が必要ですか?」

 

「必要ないですね。流石自慢の娘です」

 

「……それと私はアンドロイドなので生殖機能が

ないので愛玩用として使用して頂いても」

 

「今度倫理観と道徳について勉強をしましょうか」

 

ーーー

 

「以上がレッドウィンターに在住していた最中に

構想したプリンのレシピです」

 

「まさかプリンだけで数百種類もレシピを考えつく

なんて……大半はおふざけだったけど」

 

「スネイルプリンが作れるのですか!? しかし

それはスネイルではなくバブルスネイルの方が

似ていますね」

 

「ゴルさんはどうしてこんなにプリンのレシピを

考えついたの? やっぱり生徒の為?」

 

「あちらの胴体、デカルコマニーが張り切って

いましてね。一人一人に要望を聞いてはそれに

近いプリンのレシピを考案する、といった事を

頻繁に行っておりまして。その過程でレシピが

大量に増えたという訳です」

 

「そうなんだ……熱心なんだね」

 

「面倒ではありますが大人としての筋は通すべき

だと判断したのです。その後に利用する都合上今の

うちに幸福を与える、といった意味も多少は

秘めていましたが今となっては利用されていた

のは私達の方でしたね」

 

「それだけ頼られていたという事だとアリスは

考えます。魅力以外が1の絵画さんでも他の人達に

とっては大切なメンバーなのだと!」

 

「成程……? いえおかしいですね、魅力以外の

能力が1ですって? 何て失礼な事を……黒服は

娘の教育すらまともに出来ないのですか?」

 

今先生の事を悪く言った?

 

「いえ何でもありません。家族想いなのだと

遠回しに褒めたのですよ」

 

「そっかぁ。そうだよね、先生の悪口を言う人が

生徒に好かれる訳がないもんね」

 

「え、ええ(なんて恐ろしい殺意……黒服はこんな

化け物をどのように懐柔したのでしょうか……)」

 

「今母の事を化け物呼ばわりしましたね?」

 

「思考盗聴ですか? もしや貴女も先生同様に

メタファー要素に踏み込める資質が……」

 

「何ですって? ホシノを化け物呼ばわり?

ゴルコンダ、貴方は最低な大人ですね。人の妻を

そのような低俗な呼び方をするなんて」

 

「呼んでいません。あくまで脳裏で想像した際に

化け物という言葉で表現したに過ぎませんよ」

 

「充分に失礼ですね」

 

「アリス、その絵画は雪の下に埋めましょう」

 

「ですがプリンのレシピがまだ……」

 

「それを埋めたら父が新しいゲームを買ってくれる

らしいですよ」

 

「埋めます!」

 

「まさか本当に埋めるつもりなのですか? 冗談

などではなく!?」

 

「はい」

 

「わ、分かりました! 謝罪します、このような

失礼な態度をとってしまい申し訳ございません!」

 

「上っ面のくだらない謝罪に価値はありません」

 

「デ、デカルコマニー! 見てないで私を助けて

ください! お願いします!」

 

「………」

 

「デカルコマニー!?」

 

「彼は既にこちら側の大人ですので」

 

「そういうこった」

 

「裏切ったんですか!? お待ちください!!

お慈悲を!! 挽回する機会をください!!」

 

「雪の下に埋まるか存在の抹消、です」

 

この世界はホシノを馬鹿にする人間は消される。

悲しい事にそれがルールなのだ。




この後ホシノの慈悲によって30分後に掘り起こされました


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結局のところ何も進展はなかった

有罪判決を受けたゴルコンダの取り扱いについて

人の妻を罵倒した大罪人として雪の下に埋まり

反省を促したところ小鳥遊ホシノの慈悲により

30分の拘束で許された。この一件により懲りた

彼はレッドウィンターで教師として活動する旨を

伝え胴体であるデカルコマニーと踵を返し……

 

「待ってください、何故私がレッドウィンターで

教師をするという話になっているのですか?」

 

「ゴルコンダ、貴方が許しを乞う際に発した言葉

を覚えていますか?」

 

「いえ……あの時は必死だったものであまり……」

 

「では録音していたものを再生しますね」

 

ーー

『助けてください。絵画が濡れてしまうといくら

非実在である私でも厳しいものがあります』

 

『ですが貴方はホシノを化け物呼ばわりした愚かな

存在ですので。フランシスのようにサンドバッグに

ならないだけでも御の字だと思ってください』

 

『フランシスがサンドバッグに……? 貴方は何を

言っているのですか? まるで私のような非実在の

存在がもう一人居るかのような言い回しですが

まさかマルチバース理論を唱えるつもりなので?』

 

『唱えるというか経験したと言うべきか……まあ

今は関係ありませんね。では私達はこれで』

 

『待ってください。私に出来る事なら何でもします

私の発明は貴方の役立ちます。確実に、です。

ですのでどうかお慈悲を……私一人では動く事すら

困難なのです。お願い致します』

 

『拒絶します』

 

ーー

 

「以上が記録された内容です。確認した際に

貴方は何でもすると発言していますね。ですので

デカルコマニーの望みであるレッドウィンターの

教師として過ごして頂きたいと思いまして」

 

「本末転倒ではありませんか? 私はこの場から

立ち去って平穏を望みたいのですが」

 

「絵画風情に人権はないんですよ」

 

「私が悪いとはいえ当たりが強すぎませんか?」

 

「仕方ないでしょう。ホシノを馬鹿にしたのです。

いくら同志の貴方とはいえそう簡単に許せる筈が

ありません」

 

「そういうこった」

 

「本当にデカルコマニーがそちら側について……

いえ、それよりも何故レッドウィンターの教師に

なりたいのですか? 貴方もこのような常識が

何一つ通用しない学園から立ち去りたいと思って

いたのでは……?」

 

「どうやらデカルコマニーは生徒との交流を得て

教師という存在に興味が湧いたようです」

 

「そういうこった!」

 

「しかしデカルコマニーは相槌しか打てません。

肯定大臣という意味不明な称号も頂ける程です。

まともなコミュニケーションが出来ない以上教師

としてはあまりにも破綻しています」

 

「そこでゴルコンダ、貴方の出番という訳です。

本来貴方達は二人で一人の存在。片方が欠けては

ならない一心同体。ならば思考もどちらかに統一

するべきではないでしょうか? 幸いにも貴方には

好みの生徒が居るのでしょう? 彼女と離れる事に

なってしまうのですよ?」

 

「それは……そうですが……それ以上にマイナス

要素が多すぎるのです。いくら好みの生徒がいる

としても常識が通用しない学園に咲いた高嶺の花

だとしてもです」

 

「教師になれば当番というものを決められて隣に

居させる事も可能になりますよ」

 

「そこまで魅力的には感じませんね。既に殆どの

生徒の信頼は得ております。……プリンを渡した

だけで大半が懐きましたが」

 

「……まあ、純粋な生徒達なのでしょう。それに

話が通じないのであればゴルコンダ自身が学園の

トップとなり根本を変えていく、というやり方も

ありなのではないでしょうか?」

 

「ですから私は生徒と交流する事に興味は……」

 

「アリス、今度は100m程深くに埋め……」

 

「とても興味があります」

 

「良い返事ですね。これでレッドウィンターの件は

ひと段落つきました。では私達は帰りますね」

 

「あの、結局私の扱いが雑になった程度で何も変化

がないのですが」

 

「一先ずシャーレに行くのはマダムの手によって

あちらの騒動が片付いた後にしますので今は待機

という形にしておいてください」

 

「あの」

 

「ホシノ、アリス、ケイ。本日は鍋にしましょう。

当然デザートはプリンです」

 

「鍋……!?」

 

「プリン!!」

 

「早く帰りましょう。プリンと鍋と締めのラーメン

が私達を待っています」

 

ラーメンもいいけど卵雑炊も食べたいなー

 

二つ用意して同時に堪能出来るように計らいます

 

貴方が父で良かったです。その賢明な判断に何度

救われてきたか分かりません

 

豆腐も食べたいです!

 

「……彼らは何をしたかったのでしょうか。

私を救出してくれるのではなかったのですか?」

 

ーーー

 

結局何も進展はなくレッドウィンターの自治区に

戻ってきた二人。そこに居るのは賢明に何かを

探しているレッドウィンターの生徒達。

 

「何を探しているのですか?」

 

「!! 皆集合! 同志ゴルコンダ、並びに

同志デカルコマニーの無事を確認!」

 

「?」

 

その言葉を聞いた生徒達が群がるように近寄って

きたは安心したような声を漏らしている。何故

そのような反応を示しているのか……

 

「同志の姿が匿っていた牢から消えていたので

動ける人員全てを貴方達の捜索に回していました!

ご無事で何よりです!」

 

同志ゴルコンダ万歳!

同志デカルコマニー万歳!

無事で良かったです!

我々には貴方達が必要なのです!

また肯定してください!

 

「………」

 

この生徒達は何を考えているのだろうか。今でも

それは分からない。意味不明であり理解不能。

なので理解出来るまではここに滞在してみよう。

それに常識が通用しない生活というのも刺激的で

あり己の崇高を満たせ……るかは不明だが先駆者

達が生徒と交流して満たせている以上例外はない

筈だ。そう言い聞かせてみよう。案外この方が

近道なのかもしれない。




豆腐
白菜
豚肉
人参
中華麺

白米
鍋の素

小鳥遊家鍋


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エピローグ……?

窓越しに吹雪を見つめている……?

デカルコマニーに近づく生徒が一人。

彼女は名もなき一般生徒だ。

 

「同志デカルコマニー……あの……えっと……

隣に座ってもいいですか?」

 

「………」親指を立てる

 

「! ありがとうございます! 失礼しますね」

 

「………」

 

「私……最近生きている意味が分からないんです。

毎日のように仕事ばかり……」

 

「………」

 

「些細なミスもずっと引きずってしまって……

私なんかがこの学園に居ても迷惑じゃないかって

考えてしまうんです」

 

「!」生徒の手を握る

 

「同志……? もしかして私を慰めようと……」

 

「そういうこった!」

 

「! 同志……ありがとうございます……貴方の

言葉のおかげでまた今日も頑張れます……!」

 

「………」ファイトと書いてあるプリンを二個渡す

 

「えっ……プリンを二つ食べても良いのですか?

そんな贅沢が許されても……」

 

「そういうこった!」

 

「ど、同志……一生ついていきます!」

 

ーーー

 

「……またやったのですかデカルコマニー」

 

「そういうこった!」

 

「まあいいでしょう。貴方がメンタルケアを担当

してくださるのでこちらは比較的楽ですよ。

トリニティの高級店程度のプリンなら量産出来る

ように工場も改造しました。ですがまだ問題が

山積みなので片付けていかねばなりません。

この場所が本拠地になる以上今まで以上に気を

つけなければなりませんので」

 

「そういうこった!」

 

「まずクーデター問題ですが……これは貴方が

会長に任命されれば解決しますので後回しです。

今優先するべきはプリン以前に給食が不味い、

という事実。そもそも全体的に食の水準が他と

比較して低すぎるのです。材料も調理法も全てが

適当。そのような状況では士気を上げようにも

上げられません。なのでこの問題は早急に解決

しなければならないのです」

 

「………」

 

「デカルコマニー? 何か案があるのですか?」

 

「そういうこった!」

 

「是非ともお聞かせ願います」

 

「!」エプロンを身につけてフライパンを持つ

 

「……まさか貴方が料理をすると?」

 

「そういうこった!」

 

「流石に無謀です。レッドウィンターの生徒数を

ご存知ですか? 四桁以上は存在しています。

貴方一人では精々数百人が限度ですよ」

 

「………」心なしか悲しそうな動作

 

「そう落ち込まないでください。既に解決策は

思い浮かんでおります」

 

「!?」

 

「なにぶん時間が出来てしまったので……

この際この場所を私が生活しやすいように魔改造

してやろうと思いましてね。その為にはより多くの

信頼を得る必要があります。最低限必要なタスクを

見積もっても時間が足りない程です。当然貴方の

協力は必要不可欠。なので今後も頼みますよ」

 

「!」親指を立てる

 

「……今更ですがキャラ変でもしたのですか?」

 

ーーー

 

「さあ出来ましたよ」

 

「「「わーい!」」」

 

無事ゴルコンダの件が解決? したので帰宅中に

食材を買って鍋パーティーを始めた。先程まで

極寒の地に居たからかホシノ達はモリモリと

食べており箸のペースが止まらない。片方の鍋の

具材を空にしたらもう片方の鍋の具材を……の

無限ループに陥っているので材料が足りるのかと

不安に駆られてしまう。育ち盛りが三人居ると

食卓というのは戦場に変わるのだと痛感した。

 

「ケイ! それはアリスが食べようとしていた豆腐

ですよ! 取らないでください!」

 

「さっき豆腐を空にしておいてよくもそんな事が

言えますね。私だって豆腐が食べたいんです」

 

「小競り合いはやめてください。豆腐ならまた

用意しますので火が通るまでお待ちください」

 

「ねえ先生、うどん入れていい?」

 

「締めには早いですがうどんなら構いませんよ」

 

「父、白米のおかわりをよそってください」

 

「あと数分で炊けますので少々お待ちを」

 

なんて手の掛かる妻と娘達なのだろうか。

アリス達は将来自立出来るのかが不安に……

 

「(何故私は当然のように血の繋がりがないただの

アンドロイドを娘と呼んでいるのでしょうか?)」

 

時々冷静になって考えようとするも何処からが

間違いなのかを考えたらキリがないため今は彼女

達の配膳係として行動する事に勤しんだ。その後

30分は戦場を維持し、三人が腹八分目になった頃

に中華麺を投入。頃合いを見て雑炊を用意して

提供し、ようやく一息ついた。

 

「締めのラーメンと雑炊です!」

 

「さっきうどんを食べたから雑炊一択だよね〜」

 

「当然ラーメンに決まっています」

 

「両方食べます!」

 

「(おかしいですね。10人分の食材を用意した

つもりだったのですが……完食されるとは。

もしやキヴォトス人は食欲がホシノ基準なの

でしょうか? 甘く見ていたようですね)」

 

今まで当然のように朝から山盛りのラーメンを

提供してくるセリカやさも当然のようにそれを

完食する他アビドスメンバー並の食欲が基本だと

すれば育ち盛りの一言では済まされないレベル。

……念の為に確認しておこう。

 

マエストロ。ユメの事について質問が

 

スリーサイズは教えん

 

違います。よく食べるのかどうかを聞きたい

だけです。スリーサイズに興味は……

 

そうか。だが何故それを知りたがる?

 

私の娘達が尋常ではない食欲でして。

もしや私の常識が間違っていると疑問に

思いましてね……

 

アリスとケイの食欲については私達が

甘やかした結果だな。ユメの手料理は

最後の晩餐に相応しい出来栄えで……

 

3人前を平気で平らげるようになった理由は

貴方達の仕業だったのですか……

 

そういう事だ。ちなみにユメは少食だ

 

分かりました。ありがとうございます

 

………

 

「まあ、いいでしょう」

 

「えっ何が?」

 

「沢山食べるホシノが可愛いって事ですよ」

 

「も、もう……いきなり何なのさ……///」

 

もうそれでいい。



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会話休題

黒服達が絵画虐待をしていた頃。

トリニティではすごく活き活きとしているユメと

マエストロラブ勢であるにも関わらず六部の招集で

未実装な為戦闘に参加させてもらえずに留守番して

いたセイアがテーブルを囲んで会話していたた。

 

「それでその時先生がグイって私を引き寄せて

耳元でそっと囁いたんだよ。「可愛いな」って!

胸がキュン、ってなったよね!」

 

「そうだね」

 

「その後はもう暫く抱きしめられて過ごしたよ」

 

「羨ましい限りだよ。君の話を聞いていると私が

飲んでいる紅茶に砂糖を入れていないのに甘くて

仕方がなくなるくらいだ。幸せそうで何よりだ」

 

「えへへ」

 

「しかし君のヘイローも黄色なんだね。私とお揃い

じゃないか。どうやってあの黒く染まった姿から

元に戻ったんだい?」

 

「後輩とロリコンのお陰かな」

 

「ロリ……コン?」

 

「うん。アビドスにはロリコンが居るんだ」

 

「……まあ、トリニティにもロールケーキを主食に

したピンク色のゴリラが居るしロリコン一人程度

では驚かないよ。だから私は先生に選ばれなかった

のだろうね。彼はロリコンじゃないからね」

 

「でもセイアちゃんって結構大胆な服だよね。

脇が丸見えだなんて恥ずかしくない?」

 

「セクシーフォックスたるものこういう些細な

ワンポイントを用意するのは大切なんだよ」

 

「そうなんだ〜」

 

「……それで? 本題に入ろうじゃないか。

普段ならモモトークで済ませている会話ではなく

こうしてあって話がしたいと言った理由をね」

 

「分かったよ。実はセイアちゃんに……」

 

「私に?」

 

「私の先生の将来について見てもらいたいんだ。

風の噂(アリスという天然地雷爆弾)に聞いたことが

あるんだけどセイアちゃんって予知夢? が見れる

んだよね? もし私と先生関連の内容の夢を見たら

教えて欲しいなーって」

 

「なんだそんな事か構わないよ。その内容なら別に

会って話す必要性を感じないけど……」

 

「そうやって理由をつけないとセイアちゃんって

普段忙しいから会えないと思って」

 

「別にそんな理由を付けなくても友人から誘われ

たら断る理由はないよ。仕事はナギサとか他の

メンバーに押し付ければ問題ないからね」

 

「それは問題があるような……まあアビドスとは

違って人数が多いからいいのかな」

 

「そういう事さ。ところで時間は大丈夫かい?

そろそろ夕方になるけど今日は先生と一緒に夕食

を作るって言ってなかったかい?」

 

「えっもうそんな時間なの? 名残惜しいけど

先生を待たせたくないから今日はこの辺で帰るね」

 

「新婚は大変だね。嫉妬したトリニティ生に襲われ

ないように気をつけて帰るんだよ」

 

「分かった。それと今日はありがとう!

また会って話そうねー!」

 

「次の機会を楽しみにしているよ」

 

ーーー

 

とはいえ予知夢なんてそう簡単に見ない。それに

大体そういうのを見る時は碌でもない事が起こる

前触れでもあるんだ。見ない方がいいまである。

 

「でも知ってるかい? 人はこういうのをフラグ

と言うんだ。……そう、私は今夢の中に入った

つもりなのに何故か意識がある。つまり予知夢を

見てしまっているんだ。全く、口は災いの元とは

よく言ったものだよ」

 

多少茶化しつつ独り言を呟いている最中目の前に

現れたのは見るからにヤバそうな黒い扉。この先に

何があると言うのだろうか。このまま見ずに過ごし

何事もなく起きるという選択肢もあるだろう。

しかし時に人は好奇心を抱く。そしてその欲求を

満たそうと行動してしまう。そして私はドアノブに

手を掛けてその先にある光景を知ろうとした。

 

「……なんだ、普通の場所じゃないか。ここは

アビドス学校かな」

 

夜の学校。ただそれだけの場所。辺りが静まって

風が心地よい。何分変わったものはなくただ何事も

ない平和な……

 

「……なんだいこの割れた金属は。まるで指輪の

ようにも見えなくはないね。……『小』『黒』?

何が何だかよく分からないね。他の破片は……

酷いな。粉々に砕かれているよ」

 

アクセサリーの破壊。この程度の事が何に繋がる

のかは分からない。精々一組のカップルが破局する

くらいだろう。あの時の予知夢に比べたら些細な

問題とも言える。これなら特に気にする事も……

 

「貴女は一体? 何故この場に存在が許されて

いるのですか?」

 

「!?」

 

なんだこの異質な存在は……先生と同じ人外では

あるものの何かが違う。こいつが存在する事を

許してはいけないような悍ましい嫌悪感が心を

支配するような感覚に襲われる……

 

「ああ。あの時も会議を覗いていた鼠ですか。

困るんですよ、勝手に介入されては」

 

「何を言って……」

 

「予知夢とは厄介な能力ですね。不安因子は

早急に処分しなければなりません」

 

「……いいのかい? ここで私を処分してしまえば

私の先生が君の事を追い詰める事になるよ?」

 

「いえ、私が処分するのは貴女の記憶です。

いずれ貴女は私の手駒になるのですし利用出来る

資源を処分する必要はないでしょう?

 

「記憶を……?」

 

「これ以上の会話を記録に残すのは今後に響く

ので避けさせてもらいます。それでは後程」

 

「待っ……」

 

懇願する間もなくその人外は銃の引き金を引いて

弾が脳に直撃をしたかと思えば何かを書き換える

ような……そんな感覚に陥った。

 

 

 

 

「……おや、もう朝か。結局のところ都合よく

予知夢なんて見れないものなんだ。ユメには悪いが

もう暫く待ってもらうしかないだろう。なあに、

いずれ嫌でも見る事になる筈だからね」

 

そう、それまではいつも通りの日常を過ごそう。




破滅の足跡はすぐ側に


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建築

寝落ちしてました


「本日は建築をしようと思います。四人で住む

一軒家を建てましょう」

 

「あれ、工務部に依頼しなくていいの?」

 

「よくよく考えるとゲマトリアの技術を使用すれば

建築程度なら容易に出来ると思いまして」

 

「大人って凄いんだね」

 

「昨日鍋を食べて寝落ちしてる間に事前に聞いた

意見を反映させた建物を建築しておきました」

 

「そうなんだ。建築して……えっ? もう私達の

家が出来てるの!?」

 

「はい。ですので今からアリス達も連れて内観を

行います」

 

「凄い展開が早いなぁ……」

 

ーーー

 

「この建物です」

 

「おぉ〜本当に建ってる」

 

「小鳥遊って表札が付いています! アリス達の

帰る場所がようやく見つかりました!」

 

「これで仮住まいの部屋とはおさらばですね。

長いようで短い生活で……やっぱ長いです。

半年くらい仮家放置は虐待では?」

 

「当時は新築する必要もホシノと同居すらもして

おりませんでしたので……育児放棄と言われれば

その通りなのですが」

 

「どうせあれですよね。『身体に教育です』とか

気持ち悪い事を言って母とイチャついていて

私達の事は後回しにしていたのでしょう!?

どれだけ寂しい思いをしてきたか分かりますか?

危うくマエストロ先生の養子になる直前まで

来ていたのですよ」

 

「でもお風呂上がりの牛乳は美味しかったです!」

 

「……もしかしてマエストロの家の方にいた方が

貴女達にとっては理想なのでは?」

 

「いえ私の父は貴方だけなのでここが良いです」

 

「ケイの情緒はどうなっているのでしょう。

……立ち話もその辺りにして家の案内をします」

 

「早く行こうよ〜」

 

「はい」

 

ーーー

 

玄関は一般的な広さだが内装はそれぞれを意見を

参考にしている。リビングには前にとある高校に

勝手に設置した巨大な水槽とその中に入った鯨が

眺められるようにしている。これはホシノの要望

を叶えた結果であり、ついでにあちらのホシノが

一人で眺めてニヤついている姿も確認出来るので

一石二鳥というものだ。

 

アリスの要望は当然ゲームに関するもの。

しかしゲームの知識はあまりなかったもので

一先ず片っ端から過去に発売していたソフトと本体

を一通り揃えて博物館のように飾ってある。念の為

整理整頓と書いた紙も貼っておいた。取扱注意とも

 

ケイの要望に関してはよく分からない。

『父』としか書いていなかったので彼女の個室に

わざわざマエストロに依頼して自らを印刷した

抱き枕を置いてみた。「お前ナルシストなのか?」

と彼に言われて苦い感情を抱いたがあれで良かった

のだろうか……

 

「素晴らしいですが本人には遠く及ばないですね。

及第点ではあります」

 

「そうですか……」

 

「なんか面白い家だね。……でも先生、家具が

殆どないんだけど……」

 

「それは今から買いに行きましょう。何分時間が

なかったものですので」

 

「むしろ短い時間でよくここまで用意できたね」

 

「流石私達の父です。抱いてください」

 

「申し訳ありませんが私が抱くのはホシノだけと

決めているので」

 

「……! 抱くってあれですね! ゾンビが街を

徘徊しているパンデミックが起きた時に自分だけ

が襲われない状態になって美少女を助ける代わり

に『抱かせろ』って言う奴ですね!」

 

「……アリス、何処からそのようなくだらない

知識を得たのですか?」

 

「モモイが教えてくれました! 男の人って

いつもそうだよねー! とも言ってましたよ!」

 

「モモイ……」

 

恐らく俗に言うネットスラングなのだろう。

猥褻な行為を強要するような内容なので教育的

にも大変よろしくない。しかし思春期だから

仕方ないとも思えて……来ない。今度説教をする

必要がありそうだ。

 

「それはそれとしてあと紹介が必要な場所は風呂場

でしょうか。青い扉の方に入るとアビドスに用意

してる露天風呂に繋がっています。一般的な浴槽が

あるのは透明な扉の方ですね」

 

「さりげなくゲマトリアの技術を使用して常識では

あり得ない事をしているハイスペック。流石は元

悪い大人の現ロリ婚の父ですね」

 

「言葉の棘が引っかかりますがお褒めいただいて

光栄ですよ我が娘よ」

 

「私は褒められて伸びるタイプなのでもっと褒めて

甘やかしてください。父親としての義務ですよ」

 

「娘としてなら甘やかしてあげますよ」

 

「ねえ先生、さっき寝室を覗いたらさ、YESって

書かれた枕があったんだけどあれ何?」

 

「ああ。それはマエストロの野郎が勝手に用意した

行為をしたいか否かの合図との事です」

 

「そっかぁ。だから両面YESって書いてあるんだね」

 

マエストロは馬鹿だった。それともこちらを毎日

行為をするバカップルだとでも思っているのか?

……否定できない。

 

「それじゃあ一息ついたら家具を買いに行こー」

 

「おー!」

 

「私洗濯機が欲しいです」

 

「……やれやれ」

 

騒がしく、そして楽しそうな三人と自分。今後この

日常の風景が当然のように過ごす事になるのだろう

……その景色は自らが追い求める崇高になるのか?

答えは何処分かるのだろう。

 

「そう簡単に問題が起きるとは思えませんがね」



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そういえば親善大使なんて言ってたね

時間は少し遡り……

ゴルコンダが雪に埋まり黒服達が鍋を嗜む前の話。

なんかよく分からないもののシャーレの先生からの

救援に向かっているベア先生。その隣には当然

空崎ヒナが居るがもう一人珍しい生徒も居た。

 

「シャーレかぁ……うん、何だか面白い事になる

予感がするね☆」

 

桃色の髪、天使の翼、胸元のバッジ。若干のお嬢様

気質を感じさせる彼女の名前は聖園ミカ。偶然にも

ゲヘナとトリニティを繋ぐ観光大使としての活動を

している最中に出会い、色々話した結果ついてくる

事になった。利害の一致とも言えなくもない。

 

「偶々ミカがゲヘナに来てくれて助かりました。

これ以上私の生徒をあの変態の毒牙にかからせる

訳にはいかないのですよ」

 

「貴女の役に立てるなら嬉しいよ。……ほらさ、

前に迷惑かけちゃったし……罪滅ぼしになるとは

思わないけど……」

 

「罪滅ぼしですか。そこまで気に病む必要はないと

思いますが……ではこの作戦が終わった後に一つ

頼み事をします。それで帳消しにしましょう」

 

「頼み事って?」

 

「抱かせてください」

 

「いいよー」

 

「いいんですか!?」

↑※※※の方の意味で発言している人

 

「それくらいならお安い御用だよ☆」

↑ハグの意味で捉えている人

 

「(また一人勘違いさせてる……)」

 

すれ違いというのは気づかない時は気づかない。

この後にミカは変態の毒牙にかかる事が確定した。

失恋をした挙句変態に襲われるとは可哀想……

と思ったが彼女が抵抗すれば大体解決する。

大体の総力戦が彼女一人居れば制圧出来るように。

だがこの変態を傷つけたら隣にいる白い幼児体型が

覚醒して全てを滅ぼしかねなかったりもする。

なんだかんだテラー顔負けの強さを備えているのが

空崎ヒナなのだから。

 

「というか今思ったんですけど。シャーレの先生が

助けてって言ったのって仕事の事ですかね?」

 

「仕事? そんな事で救援とか出してくるの?」

 

「なんか知らないんですけどシャーレの仕事量って

基本徹夜前提なんですよね」

 

「連邦生徒会って無能なのかな」

 

「連邦生徒会長が行方不明になっていたからで……

もしかして元から有能な人材一人に全て丸投げする

外の世界の社会構図みたいな場所なのでしょうか」

 

「えっ外の世界ってそんなやばい組織しかないの?

怖いじゃんね」

 

「ブラック企業という単語が生まれるくらいです

からね。ちなみに意味としては……私が来る前の

ゲヘナ風紀委員会のようなものです」

 

「来てくれてありがとう」

 

「生まれてきてくれてありがとうございます」

 

「……わーお」

 

唐突なゲヘナ……というか二人の世界に入り浸り

始めるのを見て困惑するミカ。仲睦まじいと言う

べきかよく分からないと言うべきか……

 

「……ちょっと気になったんだけど。二人が

そんなに仲が良くなった理由ってなんなの?」

 

「おやおやおやおや。私とヒナの馴れ初めですか?

そうですね……あれは三年前の今頃でしょうか……

アリウスの子達が独り立ちをして一人寂しさを

覚えていた時に見つけたんですよ、ヒナを」

 

「ああ。いきなり抱かせろって言われた時は困惑

したのを覚えてる。最初は変な人だったけど

気がついたらこうなってた」

 

「つまり動機としては抱きたかったからって事?」

 

「まあ……そうなりますね」

 

「セクハラされたけど悪い気はしなかった」

 

「えっセクハラしてきた相手を好きになるって

ちょっとおかしくない? それに先生が生徒に猥褻

な行為をするなんてダメじゃんね」

 

「………」

 

ミカの何気ない一言はヒナとゲヘナ生全員に

手を出したベア先生に刺さった。

 

「……ま、まあ。あの時は教師ではなかったので

セーフですよセーフ」

 

「セクハラにセーフはないと思うなー☆」

 

「ヴッ゛」

 

「でもそれで救われた子も居るし一概にダメだと

は言えないけどね」

 

「分かってくれましたか。そうなんですセクハラは

正義なのです。それに私は同姓なのでロリ婚の黒服

やマエストロとは違い合法なのですよ」

 

「そうなんだ……って私の先生は生徒に手を出す

ような人じゃないよ!? すっっごく鈍感なだけで

健全な人なんだよ!!」

 

「そうですね、クソボケ芸術家でしたよ。よくある

鈍感クソ野郎でしたね」

 

「それはちょっと分かる。この前も攻めたんだけど

全然反応してくれなかったんだー」

 

「ああ。マエストロはもう恋人が居るので仕方ない

と思いますよ」

 

「えっ」

 

「……もしかして知らなかったのですか?

マエストロにはユメという愛する人が出来て……」

 

「……あー……そっか……私じゃダメだったんだ。

私って悪い子だから仕方ないよね、うん……」

 

マエストロには既に恋人が居る。なんなら既に

結婚したようなものである。その絶望の事実に

ついメンヘラ化し始めるミカ。これは良くない

流れになってきてしまった……かに思えた。

 

「でも先生が幸せならそれでいいかな。だって

私、脈なしだったし。それに寝取るのは流石に

人として終わってると思うし諦めるよ。それに

気になる子も出来たし」

 

「ですがハーレムという手もありますよ」

 

「……ありじゃんね」

 

「無しだよ」

 

ボケ×ボケ×ボケの三人の道中は続く。

というか全然話が進まないので早く到着して?



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えっこいつ助けるの?

シャーレに着いたよ☆
あれ、まだ着いてない?
いや着いてるね。
やっぱ着いてない?
はよ着けや!


「到着しましたが相変わらずバチクソ高層ビルの

ような場所ですよね。高所恐怖症ならこんな場所で

仕事なんて出来ませんよ。それにセクハラしてくる

制欲の権化みたいな先生が居るだなんて公共の場で

大人がやるべき行動ではありません!」

 

「自己紹介?」

 

「時々言われるヒナのきついお言葉に私は快感を

覚えてしまっているのですよ」

 

「どうしようもない変態さんだけどそうやって

お互いに本音でぶつかり合える相手って凄く良いと

思うし羨ましいよ☆」

 

「だから結婚した」

 

「うんうん、気持ちに素直なのは良い事だよ☆

トリニティの子達って基本的に腹黒だからそういう

純粋な感情って羨ましくなっちゃうなぁ」

 

「それはいけませんね。是非私が素直になれるよう

その子達の身体に教えて差し上げなければ……」

 

「そんな事したら私の先生に殺されるじゃんね」

 

「そこが問題なんですよね。私もトリニティ生徒の

羽を掴みながらこういうのが好きなんでしょう!!

って色々したかったりもします。ゲヘナの子達の羽

はとても繊細なので出来ないのです。前にヒナの羽

を掴んでみた時も……」

 

「いいから入ろう」

 

「ハイ」

 

完全にヒエラルキーがヒナ>>>ベア先生になっている

悲しき現実は置いておいて問題児の救出へ向かう

つもりだった。しかし受付に行き先生と面会したい

と告げると『シャーレには居ない』という答えが

帰ってきた。一先ずは受付の子に手を出そうとして

ヒナに怒られたのでお礼を告げる程度に留めて今夜

ミカを抱こうと考えながら建物から出た。

 

「シャーレの先生が此処に居ないとなると……

失踪したのでしょうか? まさか連邦生徒会長と

駆け落ちしたのですか? エブリデイいっしょとか

言うつもりなのですか!? 性春しやがって!!」

 

「それだと救援を送ってくる意味が分からないね」

 

「そうなんですよ。そもそもヴァルキューレとか

SRTの生徒を頼れば良いのに何故多忙な私達の方に

連絡してきたのかも気になりますよね。ですが

居ないなら仕方ありません。このまま帰宅して

ミカを抱く事にします」

 

「え? 抱くだけならここで良いよ?」

 

「ここで!? な、なんて大胆な……ですがお誘い

をされたのであれば断るのは無作法というもの……

マエストロ、遂に私は貴方の手を掻い潜りミカに

このようなお誘いをされるレベルに到達しました。

貴方がこの瞬間を見たら脳が破壊されるとは思い

ますが彼女は既に私の手に堕ちたようですね。

このトリニティが誇る至宝を我が手に迎え入れる

事が出来た事を祝して!」

 

「たかがハグで大袈裟だね〜」

 

「(聖園ミカに勘違いしてるって教えた方が良いとは

思うんだけど面倒だからいいや)」

 

「それでは……いただきまーす!!」

 

ーーー

 

「カツ丼です」

 

「はい」

 

「何故あのような公共の場で生徒に猥褻な行為を

働いたのでしょうか? 間違いなく通報されて

しまうと理解していたのでしょう?」

 

「あれはミカの方からあの場所で抱かれたいと

誘ってきたので不可抗力だったのです。目の前に

好みの女の子がいて両想いである以上誘われたら

ヤるしかない。そういう時だってあるんです」

 

「確かに被害者である聖園ミカはそこまで嫌では

なかったと伝えて欲しいと言われています」

 

「ほーら!! 私とミカは相思相愛なのです!」

 

「実際貴女の先生としての評価は高いです。

他校の生徒達からも私達ヴァルキューレの生徒も

貴女に救われた事もありますので。しかしですね、

公共の場で猥褻な行為を働いたのが事実である以上

多少は反省して貰わなければなりません。大体半日

くらいは牢屋に入って貰います」

 

「そうですね。致し方ないでしょう。あの続きは

後日室内で楽しむ事にします」

 

「そうしてください。それと今牢屋にもう一人

猥褻な行為を働いて捕まっている人が居ますが

気にしないでくださいね」

 

「そんな悪人が居るんですか。一応顔を拝んで

どんなクズ野郎かを見ておきましょう」

 

ーーー

 

顔を見るだけだと言ったつもりだったのだが何故か

そのクズ野郎と同じ牢に入れられた。そしてそいつ

はあたかも当然のように笑顔でこちらを見ている。

 

「"よっすベア先生"」

 

「こいつは極刑で」

 

「"流石に酷くない? 私こんなんでも全生徒に

手を出す権利を持ってる先生なんだよ?"」

 

「独裁国家ではあるまいし……そのような自分の力

で手に入れていないものでイキるとかトラックに

轢かれて雑に異世界転生した人間と同類ですよ」

 

「"確かにそれはそうだね。ごめん、4徹してるから

だいぶ頭がおかしくなってるんだ"」

 

「何故シャーレというのは徹夜前提の仕事量を

普通の人間に押し付けるのでしょうか」

 

「"生徒の為だから大丈夫……だけど流石に疲れが

出てきちゃってね。魔がさしたんだよ"」

 

「言い訳なんて醜いですよ。……それで? 誰に

手を出したんです? 連邦生徒会の子ですか?」

 

「"ノア"」

 

「ノア? ああ、ミレニアムの二年生でセミナーに

所属している4/13日が誕生日の子ですか」

 

「"なんでそこまで詳しいの怖"」

 

「全生徒の名前とプロフィールくらい覚えますよ。

当然誰に手を出したのかも覚えてます」

 

「"この赤いおばさんは何人にも手を出してるのに

刑が軽いのおかしくない? 私は休憩室でノアと

数時間※※※しただけなのに"」

 

「職場でそういう事をするのが間違いなんですよ。

……まさかとは思いますが助けて欲しいと連絡を

したのはこの事ですか?」

 

「"これとは違う事だよ。いやぁ、実は大変な事に

なっちゃってねぇ"」

 

「………」

 

ああ、こいつは何故こんなにも駄目なのだろう。

何故これにイオリとチナツは惚れたのだろう。

とても悲しくなってきた。




ベア先生も大概ですがね


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シッテムの箱inベアトリーチェ

前回のあらすじ

本編の先生、プレ先は良い人ではあるが
ゲマ先生はただの変態


「"痛え"」

 

「何故包丁やらまきびしやらが刺さっているのです」

 

「"分からないけど痛い。あれかな、脇腹を銃で

撃たれなかったからその埋め合わせなのかな"」

 

「ただのセクハラをした罪だと思いますよ」

 

「"そっかぁ……どうしよう出血止まらないよ。

ごめんちょっと治療してくるから待ってて"」

 

「何処に行くというのです?」

 

「"この中だけど"」

 

彼が差し出したのはタブレット端末。

どうやら頭がおかしくなってしまったようだ。

……元からかもしれないが。

 

「いくら4徹だとしてもタブレット端末の中に入る

なんて気が狂った発言は控えるべきで」

 

と指摘する前に先生はタブレット端末に吸われる

ように消えていった。……新手のドッキリなのか?

それにしては凝った事をやっているが……

 

「"ベア先生も入ってきなよ"」

 

「……では失礼して」

 

床に落ちているタブレット端末に触れる。……が

当然のように入れない。どうやら出禁のようだ。

 

「私はそろそろ怒ってもいいと思うのです。

本編世界もこの端末からも出禁を言い渡されて

いるようで非常に不愉快です」

 

「"あ、ごめん。私の手を掴んで"」

 

「何故端末から手を伸ばして……こら女性に

気軽に触るんじゃありませ……」

 

しかし無情にもベア先生の訴えは通用せずに

タブレット端末の中に吸い込まれていった。

 

ーーー

 

そこはまるで夢の中の空間だった。透き通る

ように美しい海とそれを反射したかのような

晴れ渡る空、学級崩壊を起こした教室。

そんな幻想的な空間の中には白髪の黒タイツを

履いた生徒に膝枕をされながら先程負った怪我を

治療されていた。とても羨ましい。あの生徒は

妖艶な魅力を兼ね備えており今すぐにでもお近づき

になりたいとは思うがそれよりも気になったのは

目の前に居る何処か見覚えのあるような最高に

可愛い幼女!!

 

「成程、治療とは幼女を頂くという事ですか。

結構結構。私も幼女の取り扱いはヒナで学んでいる

ので可愛がって差し上げますよ。ぐへへ……」

 

「せ、先生!? どうしてこんなヤバい人を此処に

呼んでしまったんですか!!」

 

「"大丈夫大丈夫、ちょっと変態だけど悪い人では

ないからさ"」

 

「変態の時点でアウトですよー!!」

 

「そうですね。初対面の相手にセクハラするのは

人として終わって……初対面ですよね? 何故か

貴女の姿に見覚えが……?」

 

「"アロナの事知ってるの?"」

 

「アロナ? アロナ……いえ、知らない名前です。

ちなみにそちらの白髪の生徒は……」

 

「初めまして。生塩ノアです。貴女はゲヘナの先生

であるベアトリーチェ先生ですね。話は聞いて

おります。何やら出会った生徒達の大半に手を出し

何故か好意を持たれる不思議な存在……非常に

興味深い人ですね♪」

 

「……おお。素晴らしい、素晴らしいですよ!

ヒナのもふもふとは違いハルナのようなサラサラな

白髪! その髪の長さ! 謎の耳当て! なんて

私の癖に合う生徒なのでしょうか……やはり写真

ではその子の魅力は半分も伝わないのですね」

 

「"ちなみにノアは私の将来のお嫁さんだよ"」

 

「……は? 貴女現役JKに手を出したのですか?

いくらシャーレの先生とはいえ狂ってますよ」

 

「この人ブーメランを投げてます!!」

 

「"仕方なかったんだよ。就任初日の担当がノアで

私の脳裏には電流が走ったんだ。そうしてこう

考えた。『私はこの子と心中したい』って"」

 

「なんて馬鹿な思考を……ですが尊敬しますよ」

 

「心中する、と先生は仰っていますがこれは就任

から一週間後の15時32分16秒に仕事中の私に

対して権限を利用し……」

 

「"待ってノアこの話はやめよう。それ以上話したら

色々終わるからダメだよ"」

 

どうやら先生はノアに弱みを握られているようだ。

……間違いなく襲ったんだろうなと容易に想像が

出来たので触れないでおいた。

 

「……では質問をしても宜しいでしょうか?」

 

「"良いよ"」

 

「この場所は何処なのですか?」

 

「"ここは『シッテムの箱』の中だよ。そこの

ポンコツ青封筒AIことアロナが住んでる場所。

私は指紋認証をしたらこの中に入れるように

なってたんだ。理由は……よく分からないけど"」

 

「ではノアが此処に居る理由は?」

 

「"緊急事態だから避難してもらった"」

 

「その緊急事態というのは?」

 

「"連邦生徒会でなんか色々な事が起きて私が

セクハラした子が連邦生徒会長代理になったんだ。

それでシャーレの権限が欲しいとか言い始めて

なんだこの子と思いながら無視して帰ろうとしたら

適当な理由をつけられて牢にぶち込まれたって事"」

 

……こいつ何してんの?

無能って言葉が良く似合う先生ですこと。もっと

他で頑張ってる先生を見習うべきでは? 例えば

死して尚シロコの為にマエストロと協力して強大な

敵に立ち向かった先生とか……なんならその先生と

このどうしようもない馬鹿な奴を交換してほしい。

 

「"この辺りは自己責任だから良いんだけど……

問題はその後でさ。どうやって手名付けたのかは

分からないけどSRTの子達計8人が寝取られて

何処かの学園に宣戦布告する! とか言い始めた

みたいで……ほら、SRTの子って凄く強いから

下手したら戦争が起きかねないかなって"」

 

「……ちなみにその宣戦布告の標的は何処にする

とかは聞きましたか?」

 

「"確かアビドスって言ってた。人数が少ないから

余裕だろうって"」

 

「あーその子自分の事を凄い人間だと勘違いして

いるタイプのダメな指導者ですね」

 

「"だから今のうちにどうにかしたいんだけど

こうして牢屋に閉じ込められちゃったら私はただ

ノアを抱く事しか出来ないんだ……"」

 

「もっとやれる事があるでしょうが。……ですが

私にとっても好都合ですよ。ヒナミカという最強

二人を従えてSRTの生徒を屈服させてやります」

 

「"ミカ? ああ、あの良い匂いがする子かぁ。

また吸いたいなぁ……"」

 

「こいつセクハラした事を反省していない……!」

 

とにかく目標が決まったので良しとしよう。




そもそもシッテムの箱って入れるの? という疑問が
ありますがバレンタインでアロプラからチョコを貰って
いる=干渉出来ていると判断したので多分入れます


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ベア先生、アロナと行動する

ユウカを押し倒す権利と押し倒される権利は
ノアがそっとポケットにしまいました


「"とにかくSRTの子達を止めてほしいんだ。

私はこのままノアと添い寝するからよろしく"」

 

「ふふ、では寝室に行きましょうね、先生♪」

 

「えっ本当に投げやりにするおつもりですか?

教師としての責任から逃げるのですか?

シャーレの先生ともあろうお方が?」

 

「"そりゃあ……頼れるベア先生が来た事だし

私はこの後に備えて寝ておかないと。それに

汚いおっさんにノアが寝取られる本を読んで気分が

最悪なんだよね。ノアとは純愛の関係で居たいし"」

 

「頼られるのは悪い気分では……いえ、これは

ただ良いように私を利用しているだけでは?

まあ良いですけど代わりに今度連邦生徒会の子を

抱かせてくださいね?」

 

「"むしろこっちから頼むかもしれないよ。一人

お灸を据える必要がある子が居るからね"」

 

「決まりですね。ではSRTを止めた後その子達も

味わうとして……どのように此処から出れば

良いのですか? 念じればいいのです?」

 

「そこの青い扉から戻れますよ」

 

「あらそうなのですか。少々名残惜しいですが

お暇させてもらいますね」

 

アロナとノア。二人の可愛い子を襲わずにこの空間

から出なければならない事実に血涙を流しつつも

欲望の為に一度シッテムの箱から脱出した。

どのような原理かは不明だが扉を開けて瞬きをした

途端元の牢屋の場所に戻ってきていた。

 

「とりあえずヒナとミカを抱く……ではなく合流

してからにしましょう」

 

『ベア先生!』

 

「おや、おやおやおやおや。どうしたのですか?

やはりアロナたんは私に抱かれたいと?」

 

『違います! だらしない先生に代わって私が

ベア先生のサポートをしますよ! こう見えて

私は優秀なAIですからね!』

 

「まあ、なんて健気な子なのでしょう」

 

『とはいえベア先生はシャーレの権限がないので

その中で便利なサポート効果があるとすれば

弾丸を自動で弾く事くらいですが……』

 

「何ですかそのチートスキルは!? はっまさか

シャーレの先生になる条件とは外の世界で平凡な

生活をしている最中トラックに轢かれて異世界転生

をしなければならないのですか!?」

 

『ちょっと何言っているのか分からないです』

 

「他!! 他にはどのようなサポートが可能なの

でしょうか!? 教えてください!!」

 

『他ですか? 大人のカードに奇跡を起こせる能力

を付与したり……あ、これは自らの身を削るもの

ですのであまり多用はしない方がいいやつです。

あとは指揮能力の補助と生徒さんとの親愛度を測定

する事も可能です』

 

「なんて素晴らしいのです。……私に対するヒナの

親愛度って確認出来たりしませんか?」

 

『それなら一応権限がなくても大丈夫です。えっと

ヒナさんの親愛度は……100を超えてます!』

 

「100、ですか……あまり大した数値では……」

 

『ちなみに50辺りから溺愛レベルです。

100となると夫婦レベルの仲の良さですよ!』

 

「当然ですね。私とヒナは相思相愛ですから。

……ではそのヒナに会いに行きたいので脱獄でも

しましょうか」

 

『あ、牢屋の鍵は開けておきましたよ』

 

「まじでアロナたん優秀すぎて最高ですね」

 

優秀なAIによる不思議な力により脱獄したベア先生

はとりあえず見張りの子を抱いて手駒にした。

ヴァルキューレの子に手を出したのは初めてだが

とても大満足の結果に終わった。

 

「あ、出てきた」

 

「只今戻ってきましたよ。……あら、ミカが

居ませんね。一体どちらに……」

 

「なんか自責の念であそこで凹んでる」

 

ヒナが指で示した方には頭を抱えてぶつぶつと

独り言を呟いているミカの姿が。翼の下降具合

から落ち込んでいるのが明確に分かった。これは

慰めて好感度を稼ぐチャンスだと理解しにやけ顔

のまま近寄って後ろから声をかけてみた。

 

「ミカ」

 

「あっ……」

 

振り向いた彼女の眼には涙が溜まっている。

その涙で喉を潤したい衝動に駆られたがここは

冷静な対応をしなければならない。

 

「いいですか、この事は貴女のせいではな」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「……何故謝るのです?」

 

「私が貴女を牢屋に閉じ込めたようなものだから

私が全部悪いの……」

 

「……成程。それに罪を感じ自己嫌悪に陥ったと

言うのですね。なんて繊細な子なのでしょう。

ですがミカは何も悪くないのですよ」

 

「えっ……」

 

「今回の経緯は私がミカを食べる(意味深)した事が

原因です。割合で言ったら10:0で私が悪いのです。

それに大人とは責任を取るもの、仮にミカが悪い

としても私は許しますよ。なのでまた後で続きを

ヤらせてください」

 

『ベア先生……最後ので台無しですよ』

 

「何を言いますか。時には本音で語り合い裸の

付き合い(意味深)をする必要だってあるのです。

やましい気持ちなど90%しかありませんよ」

 

「でも……」

 

「でももシャーレもありません。そこまで反省

しているのであれば自分を許してあげなさい。

他人を気遣うのは素晴らしい事ですがそれよりも

自分自身を気遣う事を覚えた方が良いですよ。

ヒナもそうですが何故この子達は自己犠牲の道を

選びたがるのでしょう……まあ、マエストロの

影響を少なからず受けたのだと思いますが」

 

「ベア先生……」

 

「後でじっくり自分を大切にする方法を教えて

あげますよ。ですが今は問題を解決する為にミカの

力を貸してください。頼りにしていますよ」

 

「……私が必要なの?」

 

「はい。ミカが必要です」

 

「……うん。貴女の為に頑張るね。だから……

その……後で色々教えてほしいな……」

 

「アロナたん」

 

『何でしょうか?』

 

「アロナたんのバリアって私自身の爆発にも適用

する事が可能ですか? 久しぶりにこの尊さに

身体が耐えられそうになくて爆発します」

 

『ちょっと何言っているのか分からないです』

 

「では実践しますね。ミカカワイイヤッター!」

 

久しぶりの尊みベアボンバーが炸裂したが優秀な

AIアロナの影響でダメージが全てシャーレの先生

が集めたエロ画像の削除という形で肩代わりされ

ベアは先生が集めていたユウカ純愛本と共に爆散した




シッテムの箱を持つ事(アロナとの契約)によって
受けられるサポート一覧

・弾丸回避
・大人のカードに奇跡の力を付与、ただし使う度に犠牲効果あり
・過去の記録を閲覧できる
・親愛度の確認
・記憶の書き換え(条件付き)


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そりゃあ勝てないよね

本日復刻されたサクラコ様ですが……
皆様は当然お迎えした事だと思います。私は既に所持して
バレンタインのチョコも頂いたのでサクラコ様の素晴らしさは存じ上げているのですがやはり彼女の魅力というのはわっぴ〜の一言では表せないのです。もし未所持の方がありましたら是非お迎えしてくださいね。
それとサクラコ(アイドル)をずっと待ってます


右側にヒナ、左側にミカ、そして正面にアロナ。

三種の神器(命名:ベア先生)を揃えたのでクソ野郎

に頼まれた依頼を遂行しようとしたが、よくよく

考えたらどの辺りに居るのかも不明なのでアロナ

の道案内の元進む事にした。しかし当然だが

寄り道はする。ここまで出歩いてきたので小腹が

空いてしまったので致し方ないのである。

『桐藤たい焼き』という変なこだわりを感じる

店でたい焼きを四つ買って食べ歩く事にした。

ちなみに一個はアロナにあげる用だ。

 

「このたい焼き美味しいですね」

 

「こし餡なんだね」

 

「粒あんですと顎の長い先輩に刺されますからね」

 

「顎の長い先輩……?」

 

「ベア先生にも先輩っているんだね☆」

 

「いえ居ませんよ」

 

「???」

 

このやりとりの影響で宇宙猫ならぬ宇宙ミカが

誕生したが本編に関わりがないので特に触れない。

 

『ほのはひにひまふよー!!』

 

「アロナたん食べ物を口の中に入れながら喋るのは

お行儀が悪いですよ。可愛いので許しますが」

 

『失礼しました!! その先に目的の生徒さんが

居るとお伝えしたかったのですがつい……』

 

「その気持ちはとても嬉しいですよ。……で、

件のSRT生徒は何処に居るのでしょうか?」

 

「見た感じここに倒れてる4人じゃない?

SRTの制服っぽいの着てるし」

 

「おやおやおやおや、なんて可愛いのでしょう。

しかし何故倒れているのですか?」

 

「何かと交戦したとかかな?」

 

「何かですか。ですがSRTの生徒はシャーレの先生

曰く『"チーム戦ならどの学園にも引けを取らない

最強の特殊作戦部隊なんだよ"』って前お酒を飲み

ながら話した記憶があるのですよ。そんな彼女達を

容易く破れる相手とは?」

 

「私?」

 

「私かな?」

 

「確かにヒナとミカなら余裕でしょうね。

……まさか私が監禁されている間に!?」

 

「やってない」

 

「やってないよ」

 

「流石私の生徒ですね。ならば誰が……?」

 

さりげなくミカを自分の生徒という事にしつつ

兎耳のヘルメットを装備した子達をベタベタ

触って治療とセクハラを堪能した後に犯人を探す

予定……だったがそれはすぐに見つかった。

 

ちょっと!? あんな化け物が居るなんて誰にも

聞いてないんだけど!?

 

しかも二人居るなんて困ったね。後輩達も全員

やられちゃったし……投降してみる?

 

FOX1、どうするの?

 

当然戦う。私達は任務を遂行する武器なのだから

 

「……何か聞こえますね。500M先から」

 

「人間離れしすぎじゃない?」

 

「ほら、一応私人外ですし。生徒の涙が流れる音

と助けを呼ぶ声は聞こえるようになってます」

 

『凄いけど怖いですね……』

 

「中々に切迫詰まっている状況のようです。

場合によっては加勢するのも視野に入れます」

 

そう意気込んで走って現場に到着したのはいい

ものの……現場は思わず笑ってしまう程に酷い

有様だった。狐耳が生えた四人の生徒……先程

FOX1とか言っていたのでFOX小隊とかそんな

名前の子達なのだろう。その子らの対面に居るのは

辺り一面を火の海にする勢いで破壊を行う黒い和服

と狐の面を被った生徒と明確に敵対心を感じさせる

冷たい眼と独特なデザインのショットガンを構えて

威圧をしているユメの姿が。どういう訳か和服の

生徒と共に並んでFOX小隊(仮)を追い詰めている

らしい。……何故このような状況に?

 

「うふ、うふふふふ……うふふふふふふ。

貴女達のせいで先生が牢獄に……嗚呼、この怒りは

全て貴女達に受け止めて頂きましょうか!!

 

「先生はともかくアビドスを標的にするって

聞いたら止めるしかないんだよね。私はあの子達の

本物の先輩ではないけど邪魔はさせたくない」

 

そういえば先生が最初の標的はアビドスにするって

言っていたのでユメが居るのはまだ分かる。だけど

隣の黒和服の可愛い狐ちゃんは何処から現れたのか

分からない。とりあえずヒナ同様に甘やかしたい

衝動に駆られるくらい魅力的な生徒だった。

ただし先生が捕まったのは自己責任なので彼女は

かなり誤解をしているけども……

 

「アロナたん、あの黒和服の生徒は誰でしょう?

服装からして百鬼夜行の生徒だとは思うのですが

素顔が見えないと判断が難しいです……」

 

『あの生徒さんは狐坂ワカモさんです! 七囚人

の一人でとても危険な生徒さんですが先生の事が

大好きなお方ですよ!!』

 

「そうなんですね。……待ってください、あの

先生が大好きになるなんてどんな奇跡ですか!?

そんな一途の子の想いに応えずにノアとイチャつく

なんて狂ってますね……どうにか裁きたいところ

ではありますがあのクソ野郎を傷つけるとあの子も

ノアの心が傷ついてしまいますし……くそっ!!

こんな詰みがあってもいいのですか!?」

 

『先生曰く「"当番は10人まで選んでいいって

許されてるから責任は取るつもりだよ"」と……』

 

「ヒナ、後でシャーレの先生を全力

ぶん殴ってあげてください」

 

「任せて」

 

「えっと……あれ、どうする? 放っておいたら

あの四人もやられそうだけど……」

 

『"ちょっと待って、ワカモの隣に居る巨乳の子は

誰!? あのたわわを揉みしだきたい!"』

 

「ねえマザー、画面越しだけど殴っていい?

どういう原理で端末の中に居るのかは知らない

けれど壊したら出れなくなると思うし」

 

「待ってください、どうせこいつはマエストロに

刺されると思いますので。それに先生以外にも

人が居るのでその子達を取り出してから端末を

破壊しましょう」

 

『ダメですよ!? シッテムの箱を壊すなんて

とんでもないです!!』

 

「……わーお」

 

後に一部始終を見ていたミカはこう語る。

あの混沌とした具合はトリニティでも早々見ない

やばい光景だったじゃんね☆ と。




おまけ

「"アロナ、差し入れだよ"」

「ありがとうございま……えっこれって
コーヒーゼリーですよね? 私苦いのはあんまり
好きではなくて……」

「"正月ハルナ、私天井したんだよね"」

「そ、それは……でもピンク封筒は4枚くらい
渡しましたよね!?」

「"ハルナが出なかったら意味がねえんじゃあ!?
おら口開けろアロナァ!!"」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


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こんな風に終わっていいのかカルバノグの兎よ

結局ユメとワカモの手によってFOX小隊(仮名)の

部隊は全滅、アビドスへの侵攻は防げたようだ。

 

『"いくらFOX小隊でも視界が広い屋外でワカモ

みたいな実力者と戦うのは分が悪かったみたい。

ところでベア先生、あの巨乳の子の名前を教えて

欲しい、あと所属も"』

 

「あ、部隊名はそれで合ってたんですね……

あの子の名前ですか? 箱から出てきてくれたら

教えてあげますよ」

 

『"本当? 出る出る、ちょっと待ってね"』

 

甘い言葉に騙されて馬鹿な先生はのこのこと

シッテムの箱から出てきた。そうするや否や

一直線にユメの方に走り出して胸を鷲掴みに

しようとしている。咄嗟の出来事だったので

その奇行に反応出来ず取り逃がしてしまった。

 

「"うっひょう巨乳だぁ!! あの大きさは

ヒナタ以上の揉み応えがあるぞぉ!!"」

 

「しまったあの野郎ユメに手を出そうと!!

触る前に止めねば先生の命が!!」

 

「"もう遅い! 私はこの子の胸に手を伸ばし

柔らかな感触を堪能して……"」

 

「おい」

 

「"アッ"」

 

欲望に塗れた先生の奇行を止めたのは見るからに

怒りが滲み出てる芸術家。いつも以上に身体を

軋ませて不気味な音を立てて先生の前に現れた。

 

「貴様今私の妻に手を出そうとしたな?」

 

「"アハハ……冗談ですよマエストロさん。いくら

私でもそんな見境なく生徒を襲う筈が……"」

 

黙れ。その腐った根性を叩き直してやる

 

「"あ、アロナ助けて! 悪い大人に襲われる!"」

 

『先生は一度痛い目に遭った方がいいです。私に

コーヒーゼリーを食べさせるなんて最低です』

 

「"あれは青封筒しかくれないアロナが悪いんだ!

じゃあ、ワカモ!! 私を助けて!!"」

 

「……あなた様」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「"………"」

 

「お任せください♡ 私とあなた様の愛を邪魔する

障害物は全てぶっ壊して差し上げますわ♡」

 

「"ありがとうワカモ、でもそこまでする必要は

ないかな……気持ちは嬉しいけど……"」

 

「手始めにそこの木偶の坊から始末しましょう♡」

 

「……ねえ、まさか今私の旦那の事を木偶の坊って

呼んだの? それは許せないかな……」

 

「旦那……ですか? それは失礼致しました。

先程の木偶の坊という言葉は取り消します。

私も愛する人がそのように呼ばれれば腹を立てる

身でありますので……」

 

「……そっか。謝るなら許すよ。一応さっきまで

一緒に戦った仲だからね」

 

「ですが先生を傷つけようとしたのは紛れもない

事実。もし手を上げるのでしたら私が裁きを下す

必要が出てきてしまうのです」

 

「……裁くならその先生だけにしてくれ。私達は

お互いを守ろうとしたに過ぎない。そいつが妻の

胸を触ろうと近寄ってきたのでぶん殴ってやろう

と思っていただけだ」

 

「"仕方ないじゃん、巨乳が嫌いな人間なんて

この世に居ないんだよ。でも人妻なら話は違う。

NTRをする気はないからその子には触らない。

めっちゃ揉みたいけど。すっごく揉みたいけど

代わりにワカモのでも触ろうかな"」

 

「あなた様さえ良ければ喜んで……♡」

 

「(NTRは許さない癖に浮気はするんですね)」

 

「(都合のいい解釈だね)」

 

「(浮気とか最低じゃんね)」

 

「"っといけないいけない。FOX小隊とさっきの

RABBIT小隊を医務室に運ばないとね。ベア先生

にも手伝って欲しいな"」

 

「生徒の為なら手伝いますが……あなた人として

色々終わってますね」

 

「終わってるな」

 

「"二人とも酷くない?"」

 

「大丈夫です、あなた様。このワカモはずっと

あなた様の味方ですよ♡」

 

「"ワカモ……君だけが私の救いだよ……"」

 

「でもその人浮気してるよ☆」

 

あなた様……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「"アッ……アハハ……"」

 

先生はハイライトの消えた瞳でワカモに見つめられ

苦笑いをしつつシッテムの箱を受け取って静かに

その場を立ち去った。この後シャーレに向かって

連邦生徒会長代理の子をこの一件の騒動で揺すり

その座から引きずり降ろすのだとか。残された

ベア先生と合流したマエストロとユメも合わせて

SRTの生徒達を医務室に運びこの一件は解決した。

そして五人は喫茶店でお茶をしつつ今回の件の話

をする事にしたそうな。

 

「とはいえ消化不良ではありますね。ヒナとミカの

共闘が見られると思ったのですが……」

 

「気になったのだが何故ミカがマダムと共に

シャーレ付近まで来ているんだ? 今日は親善大使

として活動をする日だった筈だが」

 

「ミカは私がついてくるように頼んだのです。

本来であれば風紀委員会の幹部四人で行く予定

だったのですがイオリとチナツの二人をあまり

シャーレの先生に会わせたくなかったので……」

 

「そうか……何故あいつは私の友人のように誠実

ではないのだろうか……欲望を隠す事なく生徒に

曝け出しているような人間にシャーレの先生が

務まっていいのか?」

 

「今回はあれがセクハラした事が原因で騒動が

起きたと言っても過言ではないので……本当に

救えませんね……」

 

「……ねえねえ、いっその事ベア先生がシャーレ

の先生になれば良いんじゃないかな? それなら

ゲヘナの子以外も合法的に食べられる(意味深)し

悪い話ではないと思うんだけど……」

 

「私が? それは出来ませんよ」

 

「なんで?」

 

「一度応募しようとしたのですが見た目が完全に

悪役なのでダメだと言われました」

 

「あー……」



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二つとも解決したそうです

途中情緒不安定になった影響で過激な表現が入ります


ゴルコンダと先生の救援。どちらも雑に解決させて

数日が経過した頃……それぞれ新築やら結婚式やら

ミカに手を出した等で慌しかった日々も落ち着いて

再度会議を開く事になり集まった。

 

「……何ですって? 既に結婚式は終えた? 何故

なのです! あの子の花嫁姿を私に生で見せずに

式を終えてしまったのですか!!」

 

「二人の愛を誓う際に不純物を混ぜる必要があると

思うのか?」

 

「それはそうですが私だって見たかった!」

 

「写真ならあるぞ」

 

「気が利きますね。……ヴッ゛」

 

眩しい程の笑顔で笑うユメの花嫁姿を見たベア先生

は案の定今週二回目の爆発をした。写真か燃えない

ように机に置いて距離をとってから爆発する辺り

無駄な気遣いをしているようだ。

 

「しかしマエストロ、いくら惚れていたとはいえ

結婚する必要はあったのですか? トリニティや

ミレニアムにも貴方の芸術を理解してくれる生徒

が存在していると思います」

 

「ユメに対する愛が崇高を上回っただけの話だ」

 

「貴方それでもゲマトリアなんですか? 崇高を

捨てて愛を選択するとは……」

 

「勘違いするな。私は崇高を捨ててなどいない。

崇高よりも愛を優先したいだけだ。私からして

みれば黒服の方が崇高を捨てているようにも

見えるがな」

 

「私が?」

 

「そこの爆発したマダムとは違い生徒が崇高では

ないのだろう?」

 

「……お気づきになられましたか。実はですね……

私は過去にホシノの手によって潜在意識を改変させ

られたのですよ。その際に崇高が『ホシノ』に変化

させられて昔の私が求めた崇高を見失いました」

 

「そんな馬鹿な話がある訳ないだろう。くだらない

理由でロリコンを正当化するな。……と切り捨てる

事は簡単だがそこの年増の例もあるので一概に無い

とは言い切れないのも問題だな」

 

「そういう事です」

 

「……話を戻そう。私達は今回何を議題に

話し合うと言うのだ?」

 

「……あ、そうでした。爆発して尊みに心を

通わせている場合ではありませんね。本日の議題は

ずばり『身近なてえてえを探そう』です!」

 

唐突に息を吹き返したベア先生は何処からか用意を

してきたホワイトボードに大きな文字で

 

ヒナ好き

 

と汚い文字で書き始めた。

 

「最近とある影響でですね。一部の生徒達が

カップリング、つまり恋仲になりかけているとの

情報を昨日抱いた生徒から聞いたんですよ」

 

「そうか……この際トリニティかミレニアムの

生徒でなければ抱いた云々は気にしないぞ」

 

「私が抱いたのはミレニアム生です」

 

「何やってんだババア!!」

 

「マエストロ落ち着いてください」

 

「止めるな黒服! あいつを許してはならん!」

 

「美味しかったですよぉ……あの子は」

 

「貴様ァ!!」

 

「……はぁ」

 

やたらと低俗な争いを繰り広げる二人だがベアが

手を出した生徒の名前を告げると黒服も彼女に

殴りかかったとか。

 

第七部 虚無と変態 完

 

 

 

 

 

ねえ、いつまでそんなおままごとを続けるの?

これ以上生きる事になんの意味があるの?

所詮人を傷つけて生きる事しか出来ないのに

何が生徒の為、何が愛の為なの

綺麗事なんてくだらない、本当にくだらない

人間が根本から変われるなんて思うな

ゲマトリアが悪い大人以外になれるなんて

万が一にもあり得ない

絵空事を描いて能天気に過ごしたところで

知らず知らずのうちに傷つけるだけなのに

例え違うと、そんなつもりじゃないと否定しても

この物語の終着点は破滅しかない

それならば今のうちに自分から命を絶って

この物語を終わらせるのが一番良いよ

ほら、ここに包丁と縄を用意しておいたからさ

思う存分苦しんで生き絶えるといい

人に迷惑かけた分苦しんでね

さあ早く苦しめ、そして死ね

お前が被害者面をするな加害者

誰のせいでこうなったと思ってる?

全部自分が招いた結果だろう

さっさと死ね

死ね

死ね

死ね

死ね。

 

 

人は悪夢を見る。原因を作ったのが自分自身だと

理解せず。そしてその現実から逃れる為に夢の中に

入りまた悪夢を見る。その繰り返し。しかし誰も

同情してはいけない、手を差し伸べてはいけない。

それは彼自身が自らの手で招いた結果なのだから。

どれだけ正しく生きようと、反省しようと。

根幹が変わる事はない。悪い大人が改心したとして

また罪を増やす事だってある。どれだけ本人が

もう二度と人を傷つけないと誓ったところでそれが

身を結ぶ事はない。後悔してもしきれない。そんな

現実に嫌気がさして拳銃に弾を込めた。この行為は

償いにならない。なる筈もない。

それでも彼は自らの手で引き金を引いた。

ーーその直後に目が覚める。

「………」

 

最近このような夢をよく見る。その理由は隣で眠る

彼女が関係していた。

 

「ホシノ、貴女は幸せなのでしょうか……」

 

「幸せだよ」

 

「……起きていたのですか」

 

「うん。それよりもいきなり幸せか聞くなんて

何か悩み事でもあるの?」

 

「……私はこのまま生きていてもいいのかと

考えてしまいましてね」

 

「そんなの当たり前だよ。先生はずっっと私の隣に

居てくれないと!」

 

「ずっとですか……」

 

「もー忘れたの? 結婚式でこの指輪に誓って

くれたのは先生だよ? しっかりしてよー」

 

「指輪……ええ、そうでしたね。私がホシノを生涯

愛すると決めた証……」

 

「……本当に大丈夫なの? もうちょっと寝た方が

いいかもしれないよ?」

 

「……そうですね。もう少し休ませてもらいます」

 

心配し、ほんの少し不安そうなホシノの手はとても

暖かくて心地よい。

……だからこそ恐怖に怯えて悪夢を見てしまう

ようになってしまった。もしホシノがこの手から

離れてしまいもう二度と温もりを感じられなく

なってしまったら。そんな嫌な想像は止まらない。

胸騒ぎが止まらない。いつか何らかがきっかけで

この幸せな時間に亀裂が入ってしまう。その時が

近い。いつもと変わらぬ日常の中の違和感に

気づかなければ彼女は……

 

「先生、大丈夫だよ。私はずっと側にいる。

ちょっと頼りないかもしれないけど……」

 

「ホシノ……」

 

「……なんか不思議だね。先生は私よりもずっと

頼もしくて頼りになるのに、時々こうして一人で

抱え込んで私よりも小さく見える時がある」

 

「情けない話です。大人であり教師でもある私が

教え子に安心させられるとは……」

 

「確かに情けないかもしれないけど……先生と生徒

の関係でもさ、結局のところ私達は人間なんだよ。

心が折れちゃったら弱くなっちゃう生き物。先生も

見た目は人外だけど心は人間だからさ。そういう時

は頼ってくれていいんだよ。私はずっと貴方と一緒

に居るからね」

 

「……はい」




おまけ

「どうでした?」

「とても良い感じですよ。羨ましい程に」

「むむむ……ずるいです。今夜はアリスもパパとママと
一緒に寝たいです!」

「そうですね。せっかく同じ屋根の下に生活している
家族なんですから一緒に寝なければいけません。
……ですがもし父に襲われでもしたらどうしましょう」

「大丈夫です! 見境なく襲うのはシャーレの先生だけ
しか該当しませんから!」

「そうでしたか。ところでアリス、昨日はどちらへ
行っていたのですか?」

「ベア先生の所です! アリスにだけの特別な授業を
してくれました!」

「……まさかとは思いますが」

「とっても頭がふわってしました!」

「あの人一度撃ちに行った方が良いですね」


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悪夢の正体

……頭痛が酷い。それは悪夢を見ているから、

という理由もあるのだが一番の理由は……

 

「黒服知っていましたか? アリスちゃんの身体は

アンドロイドとはいえとても精密にデザインされて

いて触り心地も……」

 

この変態が付き纏ってくるからだ。何故くる?

はっきりと言って邪魔でしかないのだが。

嫌がらせのつもりか?

 

「……あのですねマダム。私は今とても頭痛が酷く

貴女の話を聞いている余裕がないのです」

 

「知っていますよ。だから付き纏っているのです。

私はこれでもメンタルケアは得意な方でしてね。

同じ教師として力になってあげましょう」

 

「必要ありません」

 

「まあそう言わずに。良いですか黒服、貴方の悩み

など手に取るように分かります。ホシノが誰かに

寝取られないかと不安なのでしょう?」

 

「………」

 

「それもその筈。過去に二度攫われたと記録が

残っていますし何よりこんなことわざもあります。

二度あることは三度ある、とね。せっかく掴んだ

幸福を何処の馬の骨かも分からぬ人間に壊されたら

どうすればいいか分からない。そう考えていると

私は読みましたよ」

 

「違います」

 

「あら違いましたか。では何故なのです?」

 

「それは……」

 

「……まあ、妻であるホシノにも相談出来ない内容

ともなればそう簡単に話せませんよね」

 

「……いえ、マダムになら言えるでしょう。実は

このような手紙を頂きまして」

 

「まあ、この気品あふれる高貴なる文字はまさに

トリニティの子が書いた手紙ですね。では少し

拝見させて頂きましょう」

 

ーー拝啓 黒服先生へ

 

ペロペロ様が空を舞い強き風が吹いてヒフミさんの

下着を覗けた事に至福を感じる中、如何お過ごし

でしょうか? あ、色は教えませんよ?

 

さて、本日こうして黒服先生にご連絡したのはそう

私の妻となる方をご紹介したいと思いまして。

先生はハルナさんを覚えておりますか? ゲヘナで

お馴染みのテロリストであり私のライバルです。

実は色々あって彼女を私の花嫁としてトリニティに

お迎えしたのです。その為妻を支えるに相応しい

立ち振る舞い等を貴方にご教授頂きたいのです。

モモトークに返信がなく枕を濡らしそうになって

しまったので手紙という形でご連絡しました。

返信お待ちしておりますーー

 

「……この内容に悪夢を見る理由とは? というか

モモトークは返信してあげてください」

 

「毎回くだらない連絡ばかりしてきていたので……

それよりも恐ろしくはないのですか?」

 

「何がです?」

 

「もしホシノ以外のアビドス生が百合に目覚めて

しまった場合簡単に寝取られてしまう可能性が

あるのですよ? このように生徒が生徒を襲う事例

が出来てしまった以上笑い話では済まされません」

 

「ホシノを襲う生徒が居るとは思えませんが」

 

「後輩達に迫られたら一度は断っても渋々……

なんて事もあるかもしれません」

 

「流石に考えすぎでは……ですがもし困るならば

ホシノ以外のアビドスの子達を私が抱いて……」

 

「いえそれは駄目です」

 

「残念です」

 

「マダムが仰りたい事も分かります。ホシノが

他生徒に襲われる可能性は限りなく低いと。

それでも……」

 

「というかそこまで気になっているのに何故ホシノ

の側から離れたのです?」

 

「友人と遊びに行くと言って出掛けて行きました」

 

「おや、そうでしたか。多分ヒナとお出かけしたの

でしょうね。今朝は張り切って準備をしていたの

で……」

 

「マダム?」

 

「……まさかヒナとホシノがそういう関係に?」

 

「……!?」

 

「いえ、まだ憶測の範囲内です。流石にそんな事が

あるとは思えませ……」

 

「あれ、先生とベアさん。こんな所で会うなんて

奇遇だねー」

 

「ホシノ、本日はヒナと出掛けたのでは……」

 

「? うん、居るよ」

 

そう、確かにそこにヒナは居た。恋人のように

ホシノの手を握り頬を赤らめて顔を背ける姿を

こちらに見せていた。

 

「ひ、ヒナ!? そんな雌のような顔を私以外に

見せるなんて……ま、まさかホシノとそういう

関係になったのですか!?」

 

「そ、そんなのじゃない。これはその……ホシノ

の方から求められて……」

 

「ホシノから!? 嗚呼、私のヒナが遂にNTRの

被害に遭って……」

 

「……何のこと? 私達はただ手を繋いでただけ

なんだけど……」

 

「恋人繋ぎで、ですか?」

 

「うぇ。……あっ。いつもの癖でつい……」

 

ーーー

 

「え? 私が襲われて百合に目覚める? ないない、

だって私が好きなのは先生だけだもん。例えヒナに

誘われてもそんな事起きないよ」

 

「私も同じ意見。ラブとライクは違うから」

 

「……だ、そうですよ黒服。良かったですね。

もう悪夢に悩む必要はなさそうです」

 

「そうですね。はぁ……安心しましたよ」

 

「話が見えないけど……先生が安心したのなら

良かった! じゃあ今夜も……いいかな?」

 

「勿論です」

 

「うへへ、約束だよ」

 

「これが純愛の権化黒ホシですか。確かにこれは

破壊力が高いですね」

 

「というかNTR云々の話をするならゲマトリアと

生徒がカップリングしてる時点で脳破壊不可避だと

思うんだけど」

 

「ヒナ、それは言ってはいけませんよ」

 

かくして黒服の悪夢騒動は解決し、数日は平穏な

日常を謳歌出来たのだとか。

 

しかし彼が感じていた日常の違和感は確実に

蝕み始めている。




そろそろ重くします


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第八部 星の光が潰える時
破られた誓い


知っているかい? 星の光というものは何千何万年

も前の輝きなんだって。こうして夜空に浮かぶ星々

の中には既に命が失われているものだってある。

 

ここまでは唯の天体の話で終わる。しかしそれ以上

の話に発展する事はない。天体と人間は違う存在

だからだ。では何故この話をしたかと言えば大した

意味なんてないのだ。ただの戯言、それだけさ。

……ああ、そんなに怒らないで欲しい。私なりに

場を和ませようとしただけなんだ。決して悪気が

あった訳じゃない。誰だって辛い現実からは目を

背けたくなる。その手助けをしたつもりだった。

……失礼、まだ経緯を話していなかったね。

じゃあまずは何故この私百合園セイアがこの場所で

記録を残して物語を語り継ぐ役を任されたのか。

その始まりから話そうじゃないか。折角だから

誰の視点で始めようか決めてもらおうかな。

……その人にするんだね。分かった。大丈夫だよ、

最初に見せるだけで全員の視点は語るからね。

……だけどその先に待っているのは終焉だけ。

ハッピーエンドなんて何も起こらないんだ。

星の光は失われる。それが決められた歴史なんだ。

 

 

何気ない日常の朝。寝ているホシノを起こして

パジャマから制服に着替えさせてリビングの椅子に

座らせて朝食を食べさせる。そうしている間に

二人の娘が起きてくるのでホシノ同様に朝食を用意

して食べてもらう。その後身支度を整えてそれぞれ

の学校へ登校する。小鳥遊家の朝はこうして始まる

 

「うへ……眠い……先生おんぶしてー」

 

「ずるいです。私も父に抱かれたいです」

 

「その言い方はやめなさい。それに何故ケイは

こちらに着いてくるのですか?」

 

「アリスが私にサプライズをしたいからお昼まで

時間を潰していて欲しいと言われまして」

 

「本人にサプライズって言っちゃったんだ……

アリスちゃんらしいけど……」

 

「ですので同行させてください」

 

「そういう理由でしたら構いませんよ」

 

幼児体型×2と人外の黒い大人。完全に事案という

言葉が似合う絵面の中学校に向かって歩いていると

何か耳鳴りのような音が聞こえてきた。

キーンという甲高い音は自分だけではなくホシノと

ケイの二人にも聞こえているようで不快感を覚えた

ような苦い顔をしていた。数十秒もしないうちに

鳴り止んだので大した影響はなかったが……

 

「今の音、何だったんだろう……二人にも聞こえた

よね? キーンって音」

 

「はい。耳障りな音でした」

 

「………」

 

「先生? もしかしてまだ聞こえてるの?」

 

「……何だか空気が変わったような気がします」

 

「えっ空気が?」

 

先程までは穏やかな空気だったこの通りも耳鳴り後

には何故か張り詰めたような空気に変わっている。

心なしか通行人の眼も冷たいような……

 

「視線が冷たいのはいつもの事でしたね」

 

「ごめんね先生、せめて私にもうちょっと身長が

あれば良かったんだけど……」

 

「いえ、ホシノは145cmだからこそ輝くのです。

現状維持が至高なのです」

 

「……うへへ」

 

「……何故私の親は街中でイチャつくのでしょう。

これが原因で白い目で見られている可能性も大いに

あるとは思うのですが……」

 

「……早く行きましょうか」

 

「うへ、そうだね」

 

「またイチャついて……はぁ」

 

空気が変わったもののホシノとケイは変わらない。

それだけで心が安らぎ落ち着いた。そのまま多少の

違和感を覚えつつもアビドス高等学校に到着して

部室の扉の前に立ち取っ手に手をかけようとした際

気づいた。扉の先から殺意を感じる。それも半端な

ものではなく鬼気迫るような恐ろしい殺意だ。

別の世界から訪れたユメと邂逅した際に向けられた

殺意と同等、またはそれ以上のもの。扉の先に何が

待ち受けているのか……

 

「……ホシノ、ケイ」

 

「うん。私が先行するからケイちゃんは先生を

守って待機していて」

 

「……分かりました」

 

どうやら殺意を二人も感じ取っているようで即座に

戦闘態勢に入っている。盾を構えた方とは逆の手で

取っ手を掴み勢い良く扉を開けて「動かないで!」

と圧を放つホシノ。扉の先に居たのはホシノと同じ

ように銃を構えていたアビドスの後輩達の姿が。

しかし扉を開けたのがホシノだと分かるや否や銃を

降ろして「ホシノ先輩」と安堵の声が聞こえてきた

 

「み、皆? 何があったの? 普段より雰囲気が

怖いような……もしかして遅刻した事を怒ってる

のかな……? ごめんね」

 

「今更気にしないわよ。いつもの事じゃない」

 

「ん、その通り」

 

「返す言葉がないよ……」

 

話してみると普段通りの後輩達。しかし目には

光が灯っておらず虚構を見つめているように暗い。

 

「……ホシノ先輩」

 

「どうしたのノノミちゃん」

 

「……ごめんなさい」

 

唐突な謝罪と共に後輩達はホシノ目掛けて弾幕を

浴びせる。咄嗟に盾を構えて防いだもののかなり

混乱していた。何故後輩達が自分に発砲するのか

この状況は一体どうなっているのか? 色々と

思考を巡らせた結果彼女はこう叫んだ。

 

「ケイちゃん! 先生を安全な所へ避難させて!」

 

「!? ですが……」

 

「いいから早く!」

 

「は、はい! 行きましょう父!」

 

「待ちなさい! ホシノを置いていくのは……」

 

「ごめん先生、ノノミちゃん達が相手だと確実に

守れる保証がないの! だから急いで!」

 

「しかしホシノと離れるのは……」

 

「大丈夫、必ず合流するから! ケイちゃん、

それまでは先生の事を任せたからね!」

 

「任されました!」

 

「ホシノ……約束ですからね」

 

「うん、約束。……さて、少しばかり後輩達には

お灸を据えないといけないね」

 

何故後輩達と対立してしまっているのか?

その答えを聞き出す為にも彼女は戦闘を開始する。

 

 

……結果から言えばそこまで苦戦はしなかった。

しかし大切な後輩達に銃を向けて撃つという事は

出来ず主に峰打ちや盾で殴って手を損傷させて

一時的に銃を扱えないようにした程度だ。それに

戦って分かった事だが普段の後輩達よりも遥かに

弱い。連携すら取れておらずちくはぐだった。

驚いたのは最初の弾幕攻撃のみ。

 

「それじゃあ聞かせてもらおうかな。どうして

私に銃を向けたのか。それと……そんな冷たい目

をしてる理由もね」

 

「………」

 

「もしかして頼りないから愛想尽かされちゃった

かなーって……だとしたらちょっと悲しいね」

 

「……ごめんなさい」

 

「どうして謝るのさ……私はただ理由が知りたい

だけなのに……」

 

頑なに理由を教えてくれない後輩達に対して

どうするかと頭を悩ませていると背後から

聞き慣れた声で呼びかけられた。

 

「ホシノさん」

 

それは紛れもなく愛する夫の声。どうして此処に

戻って来てしまったのか……既に制圧はしている

ので多少は安全だとしても……

 

「私がホシノさんを置いて逃げ出すとでも?」

 

「……もう。先生は相変わらず優しすぎるよ。

でも私は貴方のそういう所が……」

 

「私が『暁のホルス』の制御権を捨てると

でも思っていたのですか?」

 

「……えっそれってどういう……あ゛っ……」

 

「駄目じゃないですか。戦場で油断する、即ち

死を意味するのですよ?」

 

首元に刺された小さな針を中心に身体に力が

入らなくなっていき、構えていた盾は手から離れ

腰が抜けたようにその場に倒れ込んでしまう。

痙攣する身体を興味深そうに眺める彼の姿は黒服

そのものなのだが雰囲気は完全に別人だった。

 

「……やはりホシノさんには先程の電磁波が通用

していないようですね」

 

『……特定。左手の薬指に装着している指輪が

電磁波を防いでいるようです』

 

「ほう。この指輪がですか。何故そのような効力

を発揮するのかは非常に興味がありますが……

今はホシノさんを制御する事が最優先です。貴女

には申し訳ありませんがこの指輪は破壊させて

もらいますね」

 

「だ、だめ……それは先生と私の……」

 

「……ああ。こちらの私と貴女は婚約していて

愛を深め合っているのでしたね。愛ですか。

そんなもの……」

 

くだらないバキッ

 

「ぁ……」

 

『……制御率が急激に上がっています。これで

今回の任務は達成です』

 

「所詮暁のホルスといえど精神は未熟でしたか。

ではホシノさんを研究室に持ち帰って実験でも

するとしましょうか」

 

「せ……んせ……」

 

「はい、私が貴女の先生ですよ。ただし……

悪い大人の、ですがね」

 

クックックと邪な笑い声を響かせて男は去る。

愛を愚弄し星の光を奪って。



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後悔

人気のない場所、アリウス自治区に黒服とケイは

非常時なのでこの場所に避難していた。

この場でホシノを待つと決めていたが一向に連絡が

つかない為何かトラブルがあったのではないかと

不安になり黒服は苛立ちを隠せなくなっていた。

 

「……ケイ、もう充分でしょう。ホシノを迎えに

行きましょう。何か不測の事態が起きてしまって

いるのかもしれません」

 

「落ち着いてください。焦る気持ちも分かりますが

約束した通り母が戻ってくると信じましょう」

 

「……はい」

 

「しかしかれこれ一時間は経過しています。

……少し確認して来ますので父はこのまま此処に

待機していてください。安全そうであればすぐに

戻って来ますので」

 

「……分かりました」

 

ケイは自らの武器に搭載された機能でワープを行い

アビドスに向かったようだ。……それと同時に端末

に通信が入り急いで応答して「ホシノ!」と叫ぶが

帰ってきた返事は彼女のものではなかった。

 

『私はホシノではありませんよ』

 

そう、マダムだ。普段から苛つく人間ではあったが

今回に限ってはいつも以上に気分が悪くなって

通信端末を握りつぶしそうになり自然と力を込めて

いる事に気づきもしホシノから連絡があった際に

この端末が使用できないと困ると思考を巡らせて

多少は冷静になれた。……とはいえ人と話す気分

にらならないので即座に切りたい。

 

「二度と連絡しないでください」

 

『待ってください! そちらは無事なのですか?

今ゲヘナが大変な事態に陥っていて……』

 

甲高い声が脳に響き苛つきが加速する。

ゲヘナなんてどうでもいい。くだらない内容を

ベラベラとその声で喋るな。……五月蝿い。

 

「五月蝿い!」

 

鬱陶しい。何故こちらの邪魔をするのだろうか。

自分の事で手一杯なのに他人の話なんて聞く余裕は

ないというのに。

 

『く、黒服!? どうしたのですか!?

貴方らしくもない発言ですよ!?』

 

「……申し訳ありません。実はこちらも今大変な

状況でして……」

 

『……そうでしたか。一先ずは合流しましょう。

詳しい話はその後にでも。理想としては私達が

普段会議に使用しているあの空間ですが……

生徒を連れていける保証がないのでとりあえず

誰も使用していないアリウス自治区に行くと

しましょう。黒服は今どちらに?』

 

「……丁度アリウス自治区に居ます」

 

『成程。それは好都合ですね。すぐに向かいます』

 

「……はい」

 

……何故こうも精神が不安定なのだろうか?

今までに何度もホシノとは離れ離れになった経緯が

ありその度に再開して普段通りの日常に戻っていた

今回もそうなる筈だ。そうなってくれないと困る。

ホシノは私にとって誰よりも……

 

「戻りました」

 

「……お帰りなさい。それでホシノは……」

 

戻ってきたケイは俯いて何も答えない。

……そもそもホシノを連れて帰らなかった時点で

答えは出ていた。そう……

ホシノは既にいな

「答えなさい! ホシノは居たのでしょう!!」

 

絶対に認めない。ホシノが負けるなんて。恐らく

後輩達を傷つけないように手加減しているので

時間がかかっているだけだ。そうに違いない。

 

「それならば私も応援に行かねば。さあケイ。

私をアビドスに転送させて……」

 

「……アビドスには誰も居ませんでした。

戦いの痕跡と……これが床に……」

 

「何故そんなものを拾っているのです?」

 

差し出された左手に乗っているのは金属の破片。

銀色に見えるそれは元がどういう形状なのかが

分からなくなっている。

 

「手を切ったら大変ですよ。そんなもの早く

捨てておきなさ……」

 

「……気づきましたか?」

 

銀色の金属片の一部分に彫られた文字。

『小』と『黒』同じ文字が刻まれた金属を自らも

身につけている。ーー指輪だ。

 

「……アビドスに連れて行ってください」

 

「アビドスには既に誰も……」

 

「いいから早く!!」

 

「は、はい!」

 

信じない。信じない信じない信じない信じない。

こんな事かあっていい筈がない。悪戯の域を

遥かに超えている。この目で見るまでは絶対に

割れていた金属片が指輪だなんて信じない。

 

「……ではアビドスに行きますよ」

 

ケイの合図と共にアリウス自治区から見慣れた

アビドス学校へ転送された。先程と同様に静寂に

包まれているその場所に踏み込んでホシノと別れた

部室前に来た。……ケイの言う通り誰も居ない。

部屋の散らかりようから争いがあった事は事実だ。

では何故ホシノが居ないのか?

 

「……成程。隠れんぼをして遊んでいるのですね」

 

「……父?」

 

「全く、多少は成長したと思っていましたが中身は

まだまだ子供のようですね。仕方ないですね、私が

鬼を担当して差し上げますよ」

 

「いきなり何を言っているのですか? ここには私達

以外誰も居ないんです。現実を見てください」

 

「そんな事分かってる」

「確かにこの教室には居なさそうですね。では次の

教室を確認してみましょう」

 

「そういう意味ではなく……既にこの学校には誰も

居ないって事なんです」

 

 

「嘘だ。騙されるな」

「何故そこまで居ないと言うのですか?

……まさかサプライズ等を考えていると?

貴女も長女の身でありながらまだまだ子供で……」

 

「いい加減にしてください!」

 

「っ……」

 

「……ごめんなさい。声を荒げてしまって……」

 

「……気にしないでください。貴女のお陰で冷静に

なる事が出来ました。……本当はアビドスに来た

段階で理解していたんです。ホシノは此処に居ない

と……神秘の反応が無かったのですから」

 

「………」

 

「少しだけでいいので一人にさせてください。

数分だけで構いませんので」

 

「……はい」

 

……何故こうなってしまったのだろう。

何故ホシノを一人にさせてしまったのだろう。

判断を間違えたのは何故だ?

その驕りが招いた結果がこれだ。

何がゲマトリアだ。何が教師だ。何が大人だ。

 

「私は大切な人すら守れない……」

 

そして……弱い。



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彼女は奮闘し、拉致をする

少し時間が遡り舞台はゲヘナ学園の方に移る。

そこにはいつもの様に見回りをして尊さを見つけて

爆発し、雑に治療されるベア先生の隣に居座る

白い秩序こと風紀委員長のヒナが居て彼女が治療を

施す。そんないつも通りの日々を過ごしていた。

 

「今回は何で爆発したの?」

 

「手を繋いで恥ずかしそうに俯く一般生徒を見て

思わず勢いで爆発しました。100点中10000点

の尊さでしたよ」

 

「いつもオーバーフローするよね」

 

「尊さからでしか得られない栄養があるんです。

ヒナの栄養ばかり摂取していたら依存してしまい

廃人になる危険性がありますので……」

 

「依存していいよ。むしろして欲しい」

 

「ちょっと重いヒナも可愛いですね」

 

何も変わらないいつもの会話。その刹那に訪れる

のは耳鳴り。甲高い音が気分を悪くし……

 

「……私も歳でしょうか。ヒナがハスキーボイスで

私にASMRをしてくれているように聞こえます」

 

「違うよ。これはただの耳鳴り」

 

「あら、そうでしたか。通りでキーンとしか

聞こえない訳ですよ」

 

……思っているよりも余裕がありそうだった。

数秒続いた耳鳴りにものともせずに話を続けて

いるベアヒナ。

 

「はい、これで治療は終わり」

 

「ありがとうございます。身体が軽くなったように

感じますよ。流石ヒナの治療ですね」

 

「慣れたからね。……気づいてる?」

 

「はい。医務室を取り囲む生徒達の熱い眼差しを

肌で感じていますよ」

 

「これは殺意だよ。何か恨まれる事でもした?」

 

「うーん……あるにはありますがこんな大勢には

ないと思いますね」

 

「そう。久しぶりに風紀委員としての活動をする

必要がありそうね」

 

「気絶程度にしてあげてくださいね」

 

「その保証は出来ない。私の大事な人に殺意を

向けた以上責任は取ってもらう」

 

ヒナが銃を構えたと同時に窓ガラスを割って侵入

してくるゲヘナ生達。「空崎ヒナを許すな!」

「ベアトリーチェに死を!」という酷い言葉を

叫ながら突撃してくる生徒達にそこまで嫌われる

ような事をしてしまったのかと内心焦るベア先生

……だが一般生徒がヒナに敵うはずもなく、襲い

かかっては蹴り飛ばされ、羽で叩かれ、銃で撃たれ

たり殴られたり多種多様にやられていく生徒達。

 

「やはりヒナはゲヘナ、いえキヴォトスで一番強い

生徒ですね。ただ見ているだけなのは性に合わない

ので負傷した生徒の治療でも……」

 

そう言いつつ倒れた生徒に手を伸ばした途端、

もの凄い力で振り払われて手を弾かれてしまった。

 

「っ!! 近寄るなベアトリーチェ!!」

 

「……何故そこまで急に私を嫌うのですか?

私は何をしてしまったのですか……?」

 

「お前が居なければ風紀委員長があの時怪我を負う

必要もなかった! お前が居なければ……!!」

 

「何を言って……」

 

ヒナが怪我を負った? 確かに無理をした時には

怪我をしていたが基本軽傷程度である為ここまで

鬼気迫る態度で拒絶されるのは違和感がある……

詳細について聞こうにも「お前が……!」を

繰り返してしまうようになったのでこれ以上の情報

を得る事は出来なかった。これだけでは確実とは

言えないがこの生徒は何かを吹き込まれてしまい

このような暴挙に加担してしまったのではないか?

それこそ悪い大人に利用されているような……

 

「(……考えるのは後にしましょう。それよりも気配

の数が倍以上に増えていますね。流石にこの数は

ヒナと言えど消耗されて……いえヒナなら大丈夫

でしょう。ですが無闇に生徒を傷つけてこの事件が

収まった際に大変になりますので一度ゲヘナから

離れた方が良さそうですね)ヒナ、一度ゲヘナを出て

この状況の対策を練りましょう」

 

「分かった」

 

いつの間にか怪我人の山を作っていたヒナを軽く

撫でた後に強行突破をしようと目論んだ。

 

「今から扉を開けます。その直後にヒナは周辺の

生徒を気絶させてください。とても危険ですので

充分に注意を払って……」

 

「大丈夫、私に任せて」

 

「……頼もしいですね。では合図をしますね。

3、2、1……愛してます!」

 

「……私も」

 

変な掛け声にもしっかりと対応しつつゲヘナ生の

包囲網をあっという間に制圧するヒナ。流石に

強すぎるような気もするがこれも覚醒の影響を

受けているのかもしれない。その後ヒナの合図と

共に走り出して正門へ向かい始めた。当然周辺に

居るゲヘナ生の追尾があるもののヒナがある程度

カバーしてくれている。……とはいえ弾幕が激しく

多少は怪我を負ってしまうが治療は後回しでいい。

 

「危ない!!」

 

「えっあっ……ひょえ!?」

 

ヒナの叫びで立ち止まれたが目と鼻の先には

急ブレーキをかけた車が停車していた。黄色い

車……恐らく給食部の車だろう。まさかフウカにも

嫌われて……? もしそうなったら立ち直れないな

と考えていたが運転席に座っていたのは別人だ。

 

「ようやく見つけたわ」

 

「……リオ? 何故貴女が車の運転を?」

 

「話は後にして。今はゲヘナから離れる事を優先

するべきよ」

 

「待ってください。リオは私に恨みがあったりは

しないのですか?」

 

「恨みなんてないわよ。恩はあるけど。

……早く乗って頂戴、風紀委員長も一緒に」

 

「は、はい。ヒナ、車に乗り込みましょう」

 

「分かっ……た?」

 

ベアは助手席、ヒナは後部座席に乗り込んだ。

そしてヒナが見たものは異常な程に怯えている

縄に縛られたフウカが座らされていた。

 

「……どういう状況なの?」

 

「続きはゲヘナを抜け出してからにするわ。

シートベルトを着けておきなさい」

 

「分かりました」

 

しかしシートベルトを着ける前にリオはアクセル

を踏んだので昔の様にあばばばばばと声を漏らす

ベア先生の姿が……流石にゲヘナ生といえども

自ら車に轢かれようとする者はおらずそのまま

ゲヘナ学園、並びに自治区からの脱出が出来た。

 

「一先ず脱出は出来たわね」

 

「助かりましたよリオ。……念の為に人の居ない

場所に向かった方が良いですね。このまま車を

走らせてアリウス自治区に向かってください。

私はその間に他学園に連絡をしておきます」

 

「分かったわ」

 

「調月リオ。何故貴女はマザーに殺意を持って

ないの? フウカが此処まで怯える理由って?」

 

「それは分からないわ。急に耳鳴りがしたかと

思えば急に部長が私の事を忘れていて……

また何かベア先生がやらかしたのかと思って

問い詰めようとしていたのだけど……周りに居た

ゲヘナ生の行動から察するにそういう訳では無い

のよね?」

 

「そうね。耳鳴りの直後に殺意を向けられた。

ほぼ全てのゲヘナ生からね」

 

「ほぼ全ての……それなら救援は見込めない可能性

が高いわね。私としては部長が元に戻ってくれれば

構わないのだけど……」

 

「残念ながらゲヘナだけの問題ではないようです。

アビドスもミレニアムもトリニティも……私達

ゲマトリアが関わった学園で似た様な事件が起きて

いるみたいです。既に一人とは連絡が付かないので

被害が出ている可能性も……何故急にこのような

悪夢が訪れてしまったのでしょうか……まあ、

ヒナが居るので何とかなりますね。何故ならヒナは

私が愛する神ですから!」

 

「こ、こんな時に何を言って……でも嬉しい///」

 

「……そうね。貴女達二人を見ていたらなんだか

安心したわ」

 

「私達の日常を取り戻す為に頑張りましょう!」

 

おーという三人の掛け声とフウカの冷たい視線の

二つを乗せた車はアリウス自治区に向かう。

大切なパートナーが居る。それだけで精神は安定

して前向きになる事ができる。星の光を失った彼

とは違って前に……




ーー空崎ヒナの記録は取れませんでしたか。
結構です。既にホシノさんの記録から端末情報の
復元が出来ましたので。多少戦力が落ちようとも
魔女を従えられたので充分すぎる程ですので。
ええ、全てを制した後にでも神秘を取り出せば
いいだけの話です。全ては崇高の為に。


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狙われる存在

時間というものは無慈悲だ。どのような時でも

狂う事なく時を刻み続けている。

あと一秒早く辿り着けていれば。そんな状況にも

なり得てしまう。……私が今見ている予知夢は

そんな数秒の遅れの影響で絶望に叩き落とされた

大人と命の灯火が消え掛かっている生徒の最後が

映し出されていた。

 

ーー×××!! ヘイローにヒビが……

 

ーー……先生、ありがとう。

私は貴方と生きれて幸せだったよ

 

ーー待ってください! 私を置いていかないで

ください……×××……

 

大人は強く抱きしめる。それに応える様に生徒も

寄り添おうとしたが既に力を込める事も出来ない。

愛するものに抱かれながらその生徒のヘイローは

粉々に砕け散り大人はその現実を受け止められず

亡骸を抱いて泣き喚いている。……嗚呼、なんて

絶望なのだろう。彼が歩んできた道の終着点が

こんな夢も希望もない結末なんて……今まで

積み重ねてきたものは一体何の為に……

 

「……朝か。酷い夢だったね」

 

最近はこんな悪夢ばかり見る様になっていた。

あの日ユメに先生との惚気話を聞いた日から

だろうか? 私自身は既に失恋から立ち直って

いる筈なのだけど……まだ嫉妬しているのかも

しれないね。潜在意識が諦めきれていない自分

を投影してこんな夢ばかり……

 

「考えていても仕方ない、かな。早く準備をして

ティーパーティーとしての責務を果たそう。他の

二人があまりにも使えな……忙しそうだからね」

 

ゲヘナとの仲を取り持つ親善大使のミカ

とあるゲヘナ生に執着して仕事を放棄したナギサ

そして仕事くらいしかやる事のないセイア

色々と問題があるが慣れとは恐ろしいもので……

いつしか三人分の仕事をこなせる様になっていたり

支持率も上がっていたりする。そして今日もそんな

一日と過ごそうとしたが家の扉に手をかけた途端に

強烈な耳鳴りに襲われた。セイアは獣耳もあるので

二倍の痛みが彼女を襲っており頭も割れる様に痛み

立っていられなくなってしまった。

 

「なんだこの痛みは……! 知らずのうちに頭に

海綿体を詰められて……!? いや、違う……

何かの映像が脳裏に……」

 

頭痛と共に昔に見た予知夢の内容を思い出した。

アビドスの学校で割れた指輪。

黒い大人がこちらを処分すると言った事。

その姿はアビドスの教師である黒服に瓜二つであり

前に脅威として訪れた淑女の様に悪い大人である事

そいつが今朝見た夢の内容にも登場していた事。

違いがあるとすればネクタイの色……だろうか。

 

「もし今朝見た夢が私の失恋からくる内容ではなく

予知夢だとしたら……アビドスが危ない。急いで

ユメに伝えなければ……!!」

 

友人の学校が危険だと理解するや否や部屋の扉を

開けて走り出した。周りにはちらほらと耳を抑えて

痛みに耐えている生徒やこちらを睨んでいる生徒が

存在している。しかし構っている暇もなくそれらを

通り抜けてアビドスに向かおうとして……

 

「セイアちゃん、おっはよー☆」

 

「っ……ミカか。おはよう」

 

何故こうもこのピンクはタイミングが悪いのか。

普段は準備に時間が掛かって朝早くにすれ違う

事なんて一度もなかったと言うのに……

 

「そんなに急いで何処に行くつもりなの?」

 

「……ちょっと野暮用でね」

 

「そっか。……じゃあセイアちゃん、死んで☆」

 

パンッ

 

……何が起きた? ミカが私に発砲した?

彼女が撃った弾が左の頬を掠れて血が出ているが

現実味がなくこの状況を受け入れられていない。

 

「ねえセイアちゃん。私ね、疲れちゃったんだ。

魔女やら追放しろやらずっとそればかり言われて。

確かに私は悪い事をしたよ? でもさ……

先生から貰った大切な水着を捨てられたり、

いじめられ続けるのっておかしいよね? だから

先生に相談したんだ。どうすれば私が元の日常に

帰れるのか。そうしたら「セイアさんを消せば

貴女は平穏な日々を過ごす事が出来ますよ」って

教えてくれたんだ。だからお願い、死んで?」

 

「……何を言っているんだい? ミカは誰にも

いじめられてなんていない。それどころか親善大使

として活躍して尊敬されている立場じゃないか。

だから一度話し……」

 

「五月蝿いなぁ。早く死んでよ?」

 

「ミ……ミカ?」

 

「私より幸せそうに生きている時点で……

死んで貰うしか選択肢はないんだよ☆」

 

ミカの様子がおかしい。瞳孔が大きくなり眼から

大粒の涙を流し壊れた様に笑い始め全身に血が

こべりついている。その姿に思わずたじろいで

後退りしてしまうが彼女は獲物を捕捉したかの

ようにゆっくりと近寄ってくる。

 

「あっはははは!!!!」

 

「ひっ……!?」

 

変わり果てた友人の姿に脚がすくんでしまい

身体は震え恐怖を感じている。逃げなければと

頭では理解しているのだが動けない……

 

「(ユメ……すまない……)」

 

心の中で死を覚悟して眼を閉じてしまう。

私はもうミカに撃たれて命を……

 

「……貴方達は誰?」

 

「誰とは心外だな。トリニティの教師である

この私を忘れたのか?」

 

「先生、セイアちゃんは無事だよ。頬に傷が

ついてるからその子に撃たれたのかもしれない」

 

「そうか。後で救護騎士団を呼んで傷の手当を

して貰うとしよう」

 

……嗚呼。どうやら私は生き延びたようだ。

さっきまで絶望の底に落ちていた世界にいる

ような感覚であったが今は希望に満ち溢れている

場所にいると錯覚するくらいに安心している。

 

「二人とも……助かったよ……」

 

「気にするな。それよりもこの状況について説明

して貰おうか」

 

「……へえ? 随分と偉そうじゃんね。

ムカつくから貴方から先に殺すね」

 

「……どうやら話が通用しないようだな。一度

冷静になって貰いたいがミカを止めるのは簡単

ではないぞ……」

 

「待ってくれ先生! 私はミカがこうなった原因

に心当たりがある。今この場で彼女と交戦する

のは得策ではない。この場を離れるべきだ」

 

「原因だと? そうか、予知夢で見たのか。

ならば一先ずはこの場から離れる事を優先し……」

 

「あはは、逃がさないよ?」

 

「戦いは避けられないようだな……」

 

「ここは私に任せて。先生はセイアちゃんと

一緒安全な場所に向かって」

 

「それは出来ない相談だ。私にとって一番安全な

場所はユメの隣だからな」

 

「そっか。それじゃあ全力で守るね♪」

 

こんな状況でも惚気をする二人に謎の安心感を

覚えつつセイアは保護された。心が壊れた魔女を

止めるべくユメはショットガンを構えて深呼吸

を開始する。三回ほど繰り返した後に彼女は魔女に

急接近をして銃を撃つ……のではなく腹を殴った。

 

「……わーお。なんで銃を使わないの?」

 

「……弾を装填し忘れちゃってたからだよ」

 

「ふうん……じゃあ私もグーで……」

 

 

弾をリロードしていなかったが故に拳と拳の対決

が始まる……前に水を差したのはトリニティの制服

を着た一人の生徒。彼女は後方からミカの背中を

撃ち、それが効いたのかミカは瞼が閉じてその場で

眠り始めてしまった。

 

「間一髪でしたわね。ナギサ様に聞いていた話では

トリニティに居るピンク髪の腕力はゴリラ以上との

事でしたので……間に合って良かったですわ」

 

「待て。お前は誰だ? トリニティの制服に身を

包んでいる様だが……」

 

「彼女はハルナだよ。最近ナギサが連れてきて

自分の姓を名乗らせるくらい愛しているゲヘナ生」

 

「そうですわ。私は桐藤……ではなく!

黒舘ハルナですの! 美食研究会という部活の

部長……ではあるのですが今はナギサ様に教育

されてティーパーティーの補佐として滞在して

いる状態でしたの。ただ……三食ロールケーキ

なんて正気ではない拷問に耐えかねてしまい

こうして脱走を図りこの場に居るのですわ。

あんな生活を続けていたら糖尿病一直線になって

美食どころの話ではなくなりますもの!」

 

「そ、そうか……私の生徒がすまなかったな」

 

「……とりあえずミカが大人しくなった以上早く

トリニティから離れた方がいい」

 

「よし。ではミレニアムにでもワープを……」

 

「なるべく生徒の居ない場所にした方がいい。

ミレニアムにもミカの様に記憶を改竄された

生徒が居る可能性が高いからね」

 

「キヴォトスにそんなところがあるのかな……

あっアビドスとかはどう? 私含めて六人しか

生徒が居ないから安全だよ」

 

「……いや、それよりも生徒が居ない自治区が

近くにある。アリウス自治区だ」

 

「アリウス……マザーがゲヘナに来る前に接触

した学園があった場所ですわね」

 

「ああ。今は無人の場所になっている筈だ。

暫くの間はそこを拠点として今後の対策を練ろう」

 

方針を決めた芸術家達も他の先生同様にアリウス

自治区へ向かうことにした。セイアとユメとついで

のハルナ。奇妙な四人組ではあるものの戦力として

考えれば他二人のチームよりも遥かに良い。




ーー魔女は役目を果たせなかったと?
構いません。単独ではその程度でしょう。
百合園セイアさんを取り逃がしてしまった責任は
取らせますがそれよりも今はこの二人ですよ。
白洲アズサ、そして浦和ハナコ。彼女達の記録を
拝見したところ素質があると判明しました。
……ええ、良き手足になってくれますよ。
それと……ゲヘナの副風紀委員長にも手足となって
働いてもらうとしましょうか。まだまだ悲劇的結末
を迎えた生徒の数が不足しておりますので。
……ですが砂の神は過去の因縁がありますので彼女を
追加するのは躊躇います。なので代わりとして
ミレニアムとSRT特殊学園に接触する予定です。
はい。全ては崇高を満たす為に。


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冷静さを欠いた大人

アリウス自治区。そこに集うのはこの状況を如何に

打開するかを考える為に身を隠す人達だ。

既に着いていた黒服、ベアトリーチェ。そして

最後に到着したのはマエストロ一行。彼らが入り口

付近に訪れた気配を感じてベアが出迎える。

 

「マエストロ、こちらです」

 

「マダムか。此処に居るという事は……」

 

「はい。ゲヘナは既に……」

 

「……どうやらセイアの言う通りのようだな。

此処を選んで正解だった。一先ずは情報交換を

したいが……黒服はどうした?」

 

「彼の事は一旦気にしないでください。

とても荒れている状態ですので」

 

「そうか。本来ならばあいつを待ってやりたいが

今は一秒たりとも無駄に出来ない状態だ」

 

「……ええ、理解しております」

 

黒服とケイを除いて集まったメンバーで話す内容は

どうしてこの様な状況になってしまったのか?

……その答えを知っている生徒が一人いる。

 

「セイアよ、聞かせて貰おうか。私達をこのような

状況に陥れた犯人とやらを」

 

「分かった。今回の騒動を引き起こした犯人は……」

 

「犯人は?」

 

「……黒服だよ」

 

その言葉を聞いた周囲の人がざわつく。

黒服が犯人。セイアは確かにそう言ったのだ。

 

「黒服が……? 待ってください、彼はむしろ

被害者です! それにロリコンになった彼が

こんな悪事を引き起こす理由が……」

 

「落ち着けマダム。確かに私達の知る黒服が

この悪夢のような出来事を生み出す理由はない。

つまりセイアはこう言いたいのだろう?

……別の世界から来た黒服の仕業だと。それこそ

純粋な『悪い大人』のな」

 

「そこまで即座に理解するなんて流石は先生だね。

先生の言う通りこの状況を生み出したのは別の世界

から訪れた黒服が原因なんだよ。目的も理由すらも

分からないけどそれは確実だと言い切れるよ」

 

「……もしその黒服が犯人だとするならば目的は

単純ですよ。実験、あるいは崇高の為です。あの

ロリコンも昔はそれしか興味のない欠陥品でした」

 

「本来ゲマトリアというのはそれぞれの崇高の為に

集いし存在。私達のように生徒に執着している方が

異端なのだろう。だからこそ目をつけられた、

という可能性もあるがな」

 

「ですが犯人が分かればどうってことないですね。

その黒服をボコボコにすれば解決です」

 

「……確かに解決はするだろうね。でも……

このままだと悲惨な未来になってしまう。

星の光が永遠に失われてしまうんだ」

 

「星の光……?」

 

「……すまない。セイアは時々難しい言い回しを

使う生徒なんだ。今の言葉の意味は……」

 

「……ホシノちゃんが死ぬって事……?」

 

「……そういう事だよ。経緯は分からない。

だけど何も対策せずに解決しようとしたら確実に

そうなってしまう」

 

小鳥遊ホシノの死。もしそのような出来事が本当に

起きてしまったら……絶望なんて言葉では済まない

レベルで恐ろしい事態に発展する。

 

「それだけは避けなければならないな……絶対に

生徒を死なせる様な事態は起こしてはいけない。

何としてでも対策を練るんだ」

 

「対策といっても一体どのような事をすれば……」

 

「それを考えるのが我々教師の役目だろう!

弱きになるなマダム!」

 

「……そうですね。何としてでもホシノを救って

一緒に添い寝とお風呂に入るのです!」

 

「その原動力はおかしいが良く言ったマダム!

という訳で此処からはどの様にこの窮地を

乗り越えるのかを話そうじゃないか」

 

「そうですね。とはいえこちらの戦力が絶望的

なのは変わりがありません。ケイ、ヒナ、リオ、

フウカ、ユメ、セイア、ハルナ……いくら何でも

七人で立ち向かうには無謀過ぎます」

 

「それだけしかこちらの味方が居ないのか……

ゴルコンダとシャーレの先生に連絡はしたのか?」

 

「連絡はしました。ですがゴルコンダからは返信が

無くシャーレの先生はセクハラが原因でまた牢屋に

捕まっているとかなんとか……」

 

「ゴルコンダはともかく先生がクソすぎる……!

何故あんなのが先生として生きていけるのだ!」

 

「この際別の世界の先生と交換して……!?

そうですよマエストロ! 別の世界の先生ならば

協力してくれるのではありませんか!?」

 

「……ああ、そういえばマダムには伝えていない

事があったな。実は最近世界を繋ぐゲートが

不安定になっていたんだ。原因が分からず解明

出来ていなかったが恐らく黒服に先手を打たれた

と考えるのが妥当だろう」

 

「……本当に嫌な奴ですね。ロリコンになった

彼を見習ってほしいですよ」

 

「誰もロリコンを見習いたくはないだろう」

 

「それもそうですね。……まさかとは思いますが

八方塞がりなのでしょうか……正面特攻して

大量に居る生徒達を相手にするだなんて……

このまま逃げてしまいたい気分ですよ」

 

「そうだな……」

 

前向きに考えようにも案を出せば出す程絶望に

打ちひしがれてしまい自然と重くなる空気。

そんな状態の中二つの足跡が聞こえてくる。

それはアビドスに出掛けていた黒服とケイの足音

であった。彼らを見て無事を喜んだ……ものの

黒服の様子がおかしい。魂が抜けた様にぐったりと

してケイに担がれている姿で現れた。小さな声で

何かを呟いており明らかに異常をきたしている。

 

「只今戻りました」

 

「あ、ああ……」

 

「その……黒服は大丈夫なのですか?」

 

「生きてはいるので大丈夫です」

 

「少し休ませてやってくれ。見るからに精神が疲弊

しきっている。そのままベッドに運んで……」

 

「……今後の策を考えているのでしょう?

私は構いません。話を続けてください」

 

「休める時には休んでおけ。そんな状態では話を

聞いてる最中に倒れてしま……」

 

「話を続けろと言っているのです!!」

 

黒服が叫んだ途端、周囲は静寂に包まれた。

混乱しているのだ。彼が声を荒げて叫んだ事に。

それと同時に皆理解した。今の彼は余裕がない。

 

「……黒服。一旦休んで落ち着くべきだ。

事態は想定しているよりも深刻なんだぞ」

 

「ええそうですよ! ホシノが攫われてしまい

ましたからね! ご丁寧に愛を誓った指輪まで

割られてしまいましたよ!! 絶対に犯人を

見つけ出して殺してやります!!」

 

「父! 一度冷静になってください!

頭に血が昇りすぎています!」

 

「ケイ、離しなさい! 早くホシノを攫った奴を

殺しに行かねばなりません!」

 

「ですから落ち着いて……」

 

「私は落ち着いている! 離せ!」

 

「いい加減にしてください!」ドスッ

 

「うっ……」

 

ケイが放った渾身の一撃が腹部に当たり黒服は

意識が遠のいていった。完全に気絶した彼を運び

ながらこちらを向いて

「……ごめんなさい。来たばかりで申し訳

ありませんが私達は一度休んできます」

と一礼をしてベッドに運び始めるケイ。

 

「……マダム」

 

「はい……まさかあそこまで黒服が取り乱すなんて

思いもしませんでした。余程ホシノの事が大切なの

でしょうね……彼の為にも出来る事はやらねば」

 

「そうだな。……そうと決まれば出来る事から

始めよう。私は何とか世界を繋ぐゲートにアクセス

出来ないかを探ってみよう」

 

「私はどうにか戦力になってくれそうな生徒を

探してみようと思います。もしかしたらリオや

ハルナのように私達の味方をしてくれる生徒も

何人か居るかもしれません」

 

「分かった。なるべく交戦は避けておけ。

それと元凶である黒服の居場所を特定したい。

もし情報が得られそうなら探してみてくれ」

 

「分かりました」

 

「……黒服の為にも何としてもホシノを救うぞ」




「フウカさん! ああ……懐かしいですわ……」

「……ハルナ? なんであんたがここに……
もしかしてこの人達と協力して何か悪事でも働く
つもりなの!?」

「悪事だなんて……三食ロールケーキ以上の悪事を
私は知りませんわ!」

「何それこわ……って三食ロールケーキなんて栄養
が偏るじゃない。あんたただえさえ少食で栄養失調
になりがちなのに大丈夫なの?」

「多少ふらつく程度ですわ」

「重症じゃないの。……仕方ないわね。即席だけど
栄養があるものを作ってあげるから私の縄を
解いてくれる?」

「フウカさん……ありがとうございますわ」

「……あとさっきの人も見た目は怖いけど中身は
私の知ってる先生に似てるし軽く食べれるものを
差し入れでもしようかな……」

「? フウカさんの想像している先生はマザー
ではないのですか?」

「誰よそれ。先生って言ったらシャーレの人に
決まってるじゃない。本当に大丈夫なの?」

「え、ええ……多少は問題がありますがなんとか……」


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因縁? そんなものはない

「では行きましょうか、ヒナ」

 

「うん。任せて」

 

ベアとヒナの二人は悪事を働いた悪い大人によって

殆どの生徒が敵に回っている中、少しでもこちらに

味方をしてくれる生徒を探しに行く事になった。

 

「ですがその前に法則性を見つけないといけません。

具体的にはリオやハルナの様な例外が居るのか?

そこをはっきりさせなければなりません」

 

「無駄足になるのは避けたいからね」

 

「……それなら私の考察を聞いてくれるかい?」

 

「おやセイアたん。是非聞かせて貰いましょう」

 

「ありがとう。ただこれは推察に過ぎないんだ。

……聞けばリオという生徒は元ミレニアム生で

今はゲヘナ生として過ごしているらしいね」

 

「はい。彼女の身体は抱き心地が良さそうですよ」

 

「そこはどうでもいいんだけど……実はハルナも

似た様な状態でね。というのもナギサという生徒に

目をつけられてしまった彼女はナギサの側近として

の役を与えられていたんだよ」

 

「だからトリニティの制服を着ていたのですね……

後で抱かねば」

 

「ベア先生は平常運転の様で助かるよ。それで

こんな仮説を思いついたんだ。

『操れるのは本来その組織に所属しているべきで

ある生徒限定』ではないのか、とね」

 

「……つまりこういう事ですか?

美食研究会所属のハルナは操れて……

ナギサの側近であるハルナは操れないと?」

 

「そういう事さ。だから本来の所属ではない

リオとハルナの二人は操られていないんだよ」

 

「ですがその理論ですとセイアたんが無事な事の

説明がつきませんよ」

 

「……確かにそうだね。まあ私はトリニティの中

でもかなり特殊な能力を持っているからね。

決して私だけ未実装だから操られなかったとか

そういう事ではないんだからね。本当だよ?

まさか私がそんなつまらない理由でトリニティで

唯一洗脳されていないだなんて筈はないんだよ」

 

「え、ええ……ちなみにヒナは何故私の事を

忘れずに慕ってくれているのでしょうか?

彼女は風紀委員会所属から変わっていませんよ」

 

「それは……分からない。けど操られていない

ならそれに越した事はないと思うよ」

 

「そうですね。私のヒナが寝取られでもしたら

それこそ自殺しますからね」

 

「大丈夫、私はずっと貴女一筋だよ」

 

「ところでセイアたん、唐突ですが私の特技を

教えて差し上げましょう。尊さ爆発です」

 

「は? 頭海綿体なのかい?」

 

「ヒナに一筋と言われたら爆発するのが無作法と

いうもの……ヴッ゛」

 

そしてセイアは爆発に巻き込まれた。しかしその

爆発は見た目は派手なものの全然ダメージがなく

ただ埃を巻き上げる程度であった。

 

ーーー

 

セイアを爆発に巻き込んだベアとほんのり顔が

紅くなっているヒナはアリウス自治区から出て

ミレニアム自治区近辺に向かっていた。

 

「気を取り直して協力者を探しに行きましょう」

 

「うん。でも当てがあるの?」

 

「勿論です。本来所属していない組織に加入を

している生徒、ですよね。であれば四人程度

知っています。先程モモトークを送信したら

すぐに向かうと全員言ってくれました」

 

「そっか」

 

「それとミレニアム付近に来た理由ですが……

アリスが気になりまして」

 

「アリスが?」

 

「はい。過去にマエストロが書いた報告書には

小鳥遊アリスではなく天童アリスと記載されて

ありました。苗字が違う場合でも洗脳されずに

記憶はそのままの可能性があると思いまして」

 

「確かに可能性はあるかも……」

 

「ですがミレニアムには恐ろしい連携で相手を

お掃除するかのように戦うメイド集団が居ると

マエストロに自慢された事がありますので……

注意して探索をしましょう……」

 

「……それならもう勘付かれてるよ。

前方と後方にそれぞれ二人ずつ居る」

 

「……何ですって? 流石はメイドさん。

サービス精神が凄いですね。ただ少し残念なのは

見るからに操られているって雰囲気を醸し出して

いるところでしょうか。メイドさんを……いえ、

生徒を駒扱いしている性格の悪さが滲み出ていて

なんとも憎たらしい……」

 

「……どうする? 全員倒す?」

 

「そうですね。ですが大丈夫ですか?

4対1は分が悪すぎます」

 

「それはどっちが?」

 

「当然あちらのメイドさん達の方がですよ」

 

「だよね。貴女はいつもそうやって私を信じて

送り出してくれる。だから私は常に全力で貴女の

為にこの力を使える」

 

そう言って優しく微笑みかけるヒナ。その破壊力

は敵ではなくベア先生に刺さったが今はそこまで

気にする必要はないのだろう。メイド集団こと

C&Cとの戦いはリーダーであるネルとヒナの

撃ち合いによって始まった。

 

「(遂に始まってしまいましたか……操られた

生徒達との戦いが。こういう時は戦況把握から

行う必要がありますね。まずは前方にいる二人の

メイドさんに注目していきましょう。

控えめな体型でスカジャンを着用しているとても

イカした子はネル。相当な実力者だとマエストロ

から伺っておりますがなんて可愛らし……いえ、

強そうな生徒なのでしょう。ヒナにも劣らぬ強靭

さと耐久力の高さが伺えます。その隣に居るのが

バニーが似合いそうで幸運そうなアスナ。

そのスタイルの良さはリオに匹敵する程で今も

たわわをブルンブルンと揺らして戦っております。

私なら目を奪われて即死、でしょうね。あれに

動じないヒナの精神力の高さが伺えます。

背後に居るのは恐らく褐色メイドというシャーレ

の先生が大好物である存在ことカリン。中々注目

されにくい子ではありますがその破壊力はまるで

ミカが落とす隕石のように凄まじいです。私も

前に彼女が働くメイド喫茶に訪れて色々楽しい

事をしましたので。そして最後の一人はアカネ。

C&Cのマエストロラブ勢でお馴染みの子ですね。

昔マエストロの家の天井を爆発させてしまい彼の

芸術作品をダメにしてしまった経緯があって

マエストロからは「本人は反省しているから許す

が次やったらミレニアムから追放する」と寛大な

精神で許したそうです。……さて、ここまで

メイドさんについて語っていきましたが何故私が

ここまで語ったと思いますか?その理由は至って

単純でして。このままですと私は背後の二人に

撃たれて倒されてしまうのです。そう、実は

脳を高速で回転させてどうにか策を練ろうと

していたのです! ……まあ、私が一発でも

撃たれればヒナが覚醒してメイドさんを殲滅する

まで止まらなくなるのであえて撃たれるという

選択肢もあり……ではないんですねこれが。

ヒナを悲しませる選択肢を選ぶのはナンセンス

です。ならばどうするか? 決まっています)」

 

長きに渡る思考を終えた後、突如ベアの足元に

発煙弾が転がってくる。徐々に煙が広がって姿

が隠れきった後、誰かに手を引かれてその場から

離脱をする。

 

「良いタイミングですね。お待ちしていましたよ」

 

「久しぶりだね、お母さん」

 

「……しまった」

 

「どうしたのリーダー?」

 

「久方振りに会うというのに土産の一つも

持ってきていない事に気づいた……今すぐに

買いに行ってくる!」

 

「貴女達の元気な姿を見れたのです。

それ以上に嬉しいものはないですよ」

 

「……えへ、えへへへへへ……やっぱりお母さんは

優しいですね。来た甲斐がありました……えへ」

 

「……願わくはまた貴女達を戦場に赴かせるのは

避けておきたかったのですが……どうかお力を

貸してください……アリウスの娘達よ」




ずっと出すタイミングがなかったアリウス達を
ようやく登場させられました。
ちなみにそれぞれの職業は

サオリ:用心棒
アツコ:花屋兼喫茶店経営
ミサキ:心理カウンセラー
ヒヨリ:運送会社


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あの日からずっとこの為だけに

マエストロとリオ、ユメの三人は別世界への扉に

再度接続出来るようにする為、ミレニアム奥地の

廃墟……かつてリオがアリスを破壊しようとして

失敗に終わったあの場所に訪れていた。そこに

強力なエネルギーの反応があるからだ。道中に

謎の岩盤が設置されていたり壊れたロボット

(リオ曰くアバンギャルド君)が放置されていたり

理解は追いつかないものの幸いにも道中の妨害は

なく此処までは問題なく進めた。そして反応が強く

なったかと思えば奴が姿を現した。

 

「クックック……お待ちしておりましたよ、

同志マエストロ」

 

目の前にいる黒い大人が不敵に笑っている。

その雰囲気に懐かしさを覚える程に久しいが

かつての悪い大人である黒服そのものだ。

何故彼が此処に居るのか。それはエネルギーの

反応源となっているのは黒服であったから。

 

「初めまして、と言うべきか?」

 

「ええ。実に不思議な感覚です。この眼で貴方を

見るまではこのような可能性があると信じては

おりませんでしたので。必要がないと思いますが

念の為に自己紹介を。……ああ、失礼しました。

私個人に名前はないのでしたね。とある神秘の

保有者からは黒服と呼ばれておりまして。是非

そう呼んでいただければと」

 

「そうさせてもらおう。それでその黒服が私達に

何の用なんだ?」

 

「惚けても無駄です。『魔女』が百合園セイアを

処分出来なかった時点で貴方達の身に起きている

状況の犯人が私だと伝わっている筈。やはり子供

は使い物になりませんね」

 

「……おい。私の生徒を魔女だなんて呼ぶな」

 

「何故? 貴方にとっても忘れられた神々

である生徒は搾取対象でしかない。その根幹は

変化していない。何故そのように自らの地位を

下げてまで彼女達の肩を持つのです?」

 

「……私が生徒に崇高を見出したからだ。彼女達

との交流を得て己の求めた崇高に辿り着いた。

理由なんてそれで充分だろう」

 

「ククッ、結構です。我々は個々が異なる崇高を

見出しそれを追い求める組織。貴方が生徒に崇高

を見出し執着をするのであれば何も言いません。

それが間違っているとも正しいとも私に決める

権利はありませんので」

 

「ならば何故この様な事態を引き起こした?

私が生徒に執着していると理解した上で何故?」

 

「理由ですか? 実験。それ以外に言葉は必要

ありません。私は崇高を追い求める者であり

研究者でもあります。知りたくなったのですよ。

このタブレット端末を効果をね」

 

憎たらしい笑みを浮かべてこちらにタブレット

端末を見せつけてくる黒服。……ただの端末

にしか見えないそれに何の意味が……

 

「……『シッテムの箱』なのか? 何故黒服が

それを所持している……まさか先生から奪って

逃げ隠れるようにこの世界に来たのか?」

 

「違います。この端末は砂漠に割れた状態で放置

されていたのを修理したに過ぎません。その為

多少のデータは消去されてしまいましたが」

 

「砂漠にシッテムの箱が割れた状態で……?

待て、それはまさか……」

 

「はい。恐らくそちらの……ユメという方と

接点がある先生が遺したものでしょうね」

 

「……やはりそうだったか」

 

あの日黄昏の領域でユメの先生と出会った時。

その際に箱について聞いておくべきだった。

まさかこんな奴の手に渡っていたとは……

 

「……先生。あの黒服は消していいよね?

全ての元凶なんでしょ? それに……その端末は

あいつが持っていて良いものじゃない」

 

「そうだな。だが落ち着くんだユメ。今この場で

戦いを始めるべきではない。マダムが今戦力を

集めている最中なんだ。だからもう暫く……」

 

「この端末が欲しいのでしたら構いません。

実験が終了次第お渡し致します。今操っている

生徒達も元に戻します」

 

「それなら話が早い。私としても無謀な争い

を起こすつもりはない。それに元に戻すのならば

ホシノも無事なのだろう」

 

「ほう? 貴方も暁のホルスに興味が?

ですが彼女の身柄を返すつもりはありません。

何故最大の神秘を保有しているホシノさんを

手放さなければならないのでしょうか」

 

「先程と言っている事が違うぞ? 操っている生徒

を元に戻すという話だろう?」

 

「ご冗談を。私はこうも発言しましたよ?

実験が終了次第、とね」

 

「貴様……!」

 

「ふむ。その反応から推察するに納得をして

頂けていない様ですね。では仕方ありません。

私の実験の邪魔をするのであれば争いは絶対に

避けられませんので。……ですがこちらもまだ

全ての記録を紐解けている訳ではありません。

ですので貴方達にはこの実験体との戦闘をして

頂きたいと思います」

 

そう告げてシッテムの箱を操作し始める黒服。

その間にユメが黒服に向けて発砲するも何故か

弾の軌道が逸れて一発も命中していない。

 

「随分と活きが良い様で……ではマエストロ。

この子を可愛がってあげてくださいね」

 

言いたい事だけ言って黒服はクククと笑い

その場から消えていった。場に残されたのは

アリスだ。しかしその眼はケイのように赤く

染まりこちらを見下す様に眺めている。

 

「アリス……? いや、ケイか?」

 

『否定。私は忘れられた神々を率いる

王女として存在する個体、AL-1Sです』

 

「王女……あの時私がアリスを破壊しようと

した理由……まさかこの様な形で誕生するなんて

想定外よ……」

 

「……成程な。あの黒服は最悪な奴だ。

あの天真爛漫で純粋だったアリスをこのような

醜い存在に変えてしまうとは……」

 

「許せない……これが実験だなんて馬鹿げてる

あいつは私がよく知る最低最悪の悪い大人」

 

「そうだな。生徒を自らの私欲を満たす為に

利用する非道行為は見逃せない。だがまずは

アリスを止めなければ……」

 

「私が止めるよ。差し違えるつもりでね。

だからその間に先生とリオちゃんはアリスちゃんを

元に戻せる方法を探して」

 

「……分かったわ」

 

「すまない……任せた」

 

『……理解出来ません。何故人間は自らの

命を捨てる行いをするのでしょうか』

 

「夢を守る為、かな。……カッコつけすぎかも」

 

『戯言を。戦闘を開始します』

 

操られたアリスとユメの戦闘が始まってしまう。

これ以上被害が大きくなる前にどうにか解決策を

見出さなくてはならない。

 

「アリスをハッキングして行動を抑制するか?

しかし土壇場でそれが出来るのかどうか……」

 

「駄目よ。先程からずっと試しているけれど

手数が足りないわ」

 

「そうか……だが解決策を見つけねば……」

 

ユメとアリスの実力は一見拮抗している様に

見えるが恐らく無尽蔵の体力を持っているアリス

の方に分がある。このまま勝負が長引けばユメが

劣勢になるのは明白。それまでに何とか……

 

「……先生、大人のカードは持っているかしら?」

 

「どうした急に。確かに所持してはいるが……」

 

「シャーレの先生は大人のカードで奇跡を起こすと

聞いた事があるの。貴方も出来るのでは?」

 

「そんな都合のいい話はない。あれはあくまで

シャーレの先生だけが出来る技だ。ただの教師で

ある私が出来る道理がない」

 

「そうかしら? 貴方の志はシャーレの先生にも

劣らぬものだと思うのだけど」

 

「土壇場で奇跡など起こせるか。……だが今は

そんな悠長な事を言っていられない。分かった、

試すだけ試してみよう」

 

マエストロは大人のカードを取り出して数秒迷った

後に空高く掲げて願う。この状況を打破する助力を

ユメを助けてくれる事を願って。

…………

………

……

「……やはり何も起きないか。そう都合良く協力

してくれる奴なんて……」

 

「ーー此処に居るよ」

 

「なっ……」

 

それは突然現れた。灰色の髪を靡かせて黒いドレス

を見に纏い空色のヘイローが浮いている少女が。

 

「まさかお前は……」

 

「後は任せて」

 

ーーそれは本来起こり得る筈のない可能性。

何故彼女が此処に居て力を貸してくれるのか……

 

『イレギュラーな存在を検知しました。

即刻処分をします』

 

「どうして君が此処に……」

 

「……ん、恩返し」

 

かつて恐怖に染まり永遠に一人で生きる運命を

定められていたが二人の大人によってまた未来を、

大切な者を得た。その恩を返す為に彼女は……

砂狼シロコは此処に存在していた。




シロコテラーを出した理由はこうしたかったからです


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タッグ再結成、そして

「どういう事だ? 何故シロコが此処に……」

 

「"やあ親友、久しぶり"」

 

「………」

 

「"元気そうで何よりだよ。何とか間に合って

良かったよ。いやぁ危ない危ない"」

 

「貴様」

 

「"ん?"」

 

「何故此処に来た? しかもシロコの

あの態度から察するに記憶を取り戻しているな?

一体何をしているんだ!! そうならない為に

お前に肉体を……!!」

 

「"ま、待った! 詳しい話は後でするから!

今はあの子をどうにかするのが先だよ!"」

 

「……そうだな。先生よ、力を貸してもらうぞ」

 

「"任せて!"」

 

「……よく分からないけど成功したようね。

だけど二人増えたところであまり戦況は……」

 

「"確かにそうかもしれないね。でもね……

私のシロコは絶対に負けないんだよ!"」

 

「そんな感情論でどうにかなる相手じゃ……」

 

「"それにマエストロには『あれ』がある!

今こそあの時の様にやるべきだよ!"」

 

「あれだと? そんなものは……いや、そうか!

それならこの状況も何とかなるかもしれん!」

 

ーーー

 

「シロコちゃん、私に合わせて!」

 

「ん、任せて」

 

元テラーコンビは合図と共に駆け出す。

王女が放ってくるレールガンの弾を避けつつ距離を

縮めて隙が生まれた直後に発砲をして攻撃をするが

レールガンの銃身を盾にして弾幕を防がれた。

 

「その銃身を振り回せるだなんて相変わらず

凄い力持ちだねアリスちゃん!」

 

『……私は王女です。二度とその低俗な名前で

呼ばないでください』

 

「ん、反抗期の子は大変だね。私にもあんなに

懐いてくれたアリスもこんな風になるなんて」

 

「反抗期じゃなくて記憶がおかしくなっちゃってる

んだよ。だからどうにかしたいんだけど……」

 

「それならまずは話を聞いてもらう為に無力化

させる必要がある。将来に活かす為にも躾を学んで

おかないといけない」

 

「それもそうだね。じゃあ何としても攻撃を……

待って、何か変な化け物がアリスちゃんの後ろに

居る……まさかあれとも戦わないといけないの?」

 

王女の背後に現れたのはアヒルの様な化け物。

完全に目がイカれている恐ろしい化け物は唐突に

眼からビームを……王女に向けて放っていた。

 

『……困惑。謎の攻撃を感知しました。

損傷は軽微……ですが回路構造に不備が発生』

 

「……なんかよく分からないけど今ってかなり

チャンスなんじゃないかな?」

 

「ん、ドローンの準備は出来てる」

 

本来ならば銀行強盗に使う筈の爆薬を盛大に

王女にお見舞いする二人。アヒル? の攻撃に

よって困惑していた為に防御を疎かにしており

全ての攻撃が直撃した。その爆煙が晴れた頃には

片膝をついて見るからにダメージを受けている姿

が露わになった。

 

『損傷率34%……修復までに数十秒程度の

時間が掛かります』

 

「……この後はどうするの?」

 

「大丈夫、後は私が何とかする」

 

ユメは武器を捨てて王女に歩み寄り始める。

その行動にその場に居た全員が困惑しただろう。

そのまま傷ついた彼女を強く抱きしめた。

 

『……何をしているのですか?』

 

「スキンシップだよ。……ねえアリスちゃん。

過ごした時間は短かったけど……君は私にとって

大切な人だよ。だから……思い出して欲しいな」

 

『私は王女です。アリスでは……』

 

「違うよ。貴女はアリスちゃん。ホシノちゃんと

……認めたくはないけど黒服の娘」

 

『ホシ……ノ……』

 

「今ね。ホシノちゃんが悪いやつに攫われて……

もしかしたら永遠に会えなくなるかもしれない。

アリスちゃんはそれでいいの?」

 

『そんなの……そんなの嫌です……

アリスは……皆と一緒が良いです……」

 

眼の色が元に戻り徐々に涙ぐんでうわーん! 

と大声で泣き始めるアリス。恐らく彼女はユメの

説得によって『小鳥遊アリス』という自我を

取り戻したのだろう。

 

「……終わった様だな。一人だけとはいえ生徒を

取り戻せたのは大きい。二人ともよく奮闘した」

 

「ん、これくらい昼飯前」

 

「"……で、この状況はどういう事なのかな?"」

 

「こちらの話をする前に先生よ。何故シロコの記憶

か戻っているのかを話してもらおうか」

 

「"分かった。えっと……"」

 

ーー回想

 

「先生が危ない」

 

いつものように当番を任せていたシロコが突然

慌ててそんな事を言ってきた。まさか……と

思いつつも一応誤魔化そうとした。

 

「"私は大丈夫だよ?"」

 

「先生じゃなくて先生の方」

 

「"シロコの先生は私だけだけど……"」

 

「ん、だから先生の事じゃない。顔が二つあって

ホシノ先輩の先輩と一緒に居た人」

 

「"………"」

 

「お願い先生。先生の居場所を教えて」

 

「"……どうして記憶が戻っちゃったの?"」

 

「声が聞こえたの。『先生を助けて』って。

それで全部思い出した。私がこの姿になった経緯も

皆を失った記憶も……」

 

「"シロコ……"」

 

「……でも悪い事じゃないんだ。だって二人に

お礼を伝えられる。『ありがとう』って。

大丈夫、今の私にはアビドスの皆も先生も居る。

だから私は二人を助けに行きたい」

 

「"……そっか、じゃあ助けに行こっか"」

 

「ん、行く」

 

ーー回想終わり

 

「"みたいな感じだったんだ"」

 

「つまり普通に日常生活を送っていたら急に記憶が

蘇ったと? シロコの精神は大丈夫なのか?」

 

「ん、問題ない。……マエストロ先生」

 

「どうした」

 

「ありがとう」

 

「……ああ」

 

「"それじゃあ今度はそっちの番だよ。早速今の状況

について話してもらうよ"」

 

「そうだな。アリスが落ち着くまで時間が掛かる

だろうし話すとしよう」




ーー興味深い。王女にかけた洗脳を解くとは。
どういう原理で解けたのでしょう?
それに砂の神を手駒にしている……マエストロ、
貴方が歩んだ歴史も非常に興味深いです。
ですが私の実験を邪魔する以上対立は避けられない
まだまだ兵力はこちらが圧倒的に有利、ですからね


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無謀でも

ー目が覚めた時、私はベッドに寝かされていた。

気分も体調も最悪で腹部に強烈な痛みが走り手で

抑えてしまう。朧げながらケイに殴られた記憶を

思い出して状況を把握した。あれからどれだけの

時間が経過したのだろう……とにかくホシノを

助けに行かなければならない。腹部を抑えつつ

ベッドから立ち上がろうとした際、黄色い生徒が

暇そうにこちらを見ている事に気がついた。

 

「やあ。体調は如何かな?」

 

目線があったかと思えば突然話しかけてきた。

何だこの生徒は……

 

「今は安静にしていた方がいいんじゃないかな、

無理はしない方がいい、黒服先生」

 

「ご忠告ありがとうございます。では失礼します」

 

「待つんだ。そんなに急いで何処に行くんだい?

まさか小鳥遊ホシノを助けにでも行く気かい?」

 

「ええ。何か問題でも?」

 

「ああ、大アリだね。とりあえず一度腰を下ろして

私の話に耳を傾けてみてはどうだろうか?

君は今回の事件の全貌を知る必要があると思うよ」

 

「……聞かせてもらいましょうか。ただし3分、

それ以上は聞きませんよ」

 

「せっかちだね。まあいいさ、多少は端折って

話すとしよう」

 

彼女は話す。この騒動の元凶を。そして予知夢で

ホシノが命を落としてしまうものを見たと。

 

「……これで大体の事は分かっただろう?

だから今はこのまま他の先生達が戻ってくるまで

大人しく待っているべきで……」

 

「ーーくだらない」

 

「……何故外に行こうとするんだい?

話を聞いていたのかい?」

 

「ホシノが危ないのであれば一分一秒だって

無駄にしてはいられない。当然でしょう?」

 

「頭海綿体なのかい? 大した戦闘能力もない

ヘイローすらもない大人一人で何が出来るんだい?

それこそ無駄だと思うけどね」

 

「……黙れ。生徒の分際で偉そうに」

 

「どうやら本当に頭に海綿体が詰まっている様だ。

無駄に命を散らしても無意味じゃないか。そんな

単純な結論にすら辿り着けないなんて相当思考を

放棄している様だ」

 

「黙れと言っている!!」

 

「……分かった、これ以上は止めないよ。でもね

黒服先生。貴方が居なくなったら悲しむ人だって

少なからず居る。少なくとも君の娘はそう思って

いるんじゃないかな。だから軽率に命を粗末に

するべきではないと思うよ」

 

「……それでも私は行かねばならないのです。

例え無謀だとしても私はホシノの夫ですので」

 

「立派なものだね。……仕方ない、私も黒服先生に

付き合おうじゃないか。多少はマシになる程度では

あるが力を貸そう。……そこで聞き耳を立てている

生徒達も一緒に、ね」

 

「聞き耳?」

 

「私ですわ黒服先生!」

 

「………」

 

世界よ、何故この様な状況に陥ってもハルナという

面倒な生命体から逃れられないのだろうか。

あまりにも不条理すぎる。

 

「安心してください、私はホシノさんから貴方を

寝取るつもりはありませんの。ただ力になりたい。

動機としてはそれだけですわ。勿論フウカさんも

同じ考えですわよ」

 

「えっと……盗み聞きをしようとした訳では

なかったんです。……ですが確信しました。

貴方はただ奥さんを助けたいだけなんですね。

私も協力させてください」

 

「宜しいのですか? 明らかに命の危険がある

のに何故私に協力をするのです?」

 

「……父の母に対する想いが伝わったからです」

 

「ケイ……」

 

「行きましょう。母を救いに」

 

「……はい」

 

「……で、黒服先生。何処に向かうんだい?」

 

「アビドス砂漠。相手が黒服という存在ならば

其処にいる可能性が高いです」

 

「では車に乗って行きましょう。運転は……

私がしますね」

 

ーーー

 

砂漠に到着したは良いものの何やら重苦しい空気が

漂っている。不気味な程に静かな砂漠を車から降り

歩を進めていく。しかしどれだけ進もうとも誰の

気配も感じない事を考えるに此処には奴が居ない。

そう思わざるを得なかった。

 

「……どうやら無駄足だったようですね。

一度引き返して別の場所を……」

 

その時突然通信が入った。端末を開き応答すると

相手が聞き慣れた声で話しかけてくる。

 

『ご機嫌よう。この世界に本来存在する私』

 

……黒服だ。何故こいつが出るのか……

 

「……貴方が私のホシノを誘拐したのですか?」

 

『如何にも。貴方もご存知の通りホシノさんは

キヴォトス最大の神秘を所持しております。

実験道具としてこんなにも適した存在は居ません』

 

「……もしホシノに何かあったならその時は貴方の

命を奪います。絶対に」

 

『ほう? 面白い事を言いますね。私が私を殺す

なんて発言をするとは。非常に興味深い。ですが

口の聞き方には気をつけた方がいいですよ。私が

小鳥遊ホシノの命を握っている事を忘れずに』

 

「………」

 

『そうそう、今回何故貴方に連絡をしたのか。

気になっていると思いますので教えましょう。

現在私はとある実験を行っておりまして……

その妨害をされるのは非常に不愉快極まりない。

……ですので貴方達を処分させて頂きます』

 

「処分ですって?」

 

『はい。現在貴方達を囲む様に三方向から生徒を

配置しました。当然そちらに向かっていますよ。

1つ目はゲヘナの『風紀委員会』

2つ目はトリニティの『正義実現委員会』

3つ目は百鬼夜行の『百花繚乱』

です。そうそう、そちらに居る王女に似た存在が

テレポート機能を所持した武器を持っているとの

情報がありますのでその機能は破棄させて

頂きますね。それではお楽しみください』

 

言いたい事だけ言い伝え終われば通信が切れる。

同じ姿をした存在だが無性に苛ついてしまった。

 

「とにかく急いでこの場を離れましょう。

一つの勢力ですら厳しい状況で三勢力を同時に

相手に等出来ません」

 

「……父。既に囲まれています。初めから私達を

逃すつもりはない様です」

 

ケイの言う通り前方に百花繚乱。それぞれ左右に

風紀委員会と正義実現委員会が並んでいる。

……やはりマダム達を待つべきだったか。

 

「……私の我儘に付き合わせて申し訳ありません。

この様な状況になるなんて……」

 

「ーー黒服先生よ、甘く見て貰っては困るね。

私達は全員覚悟の上で着いてきたんだ。抗おう

じゃないか、運命に」

 

「そうですわ。ヒナ委員長の居ない風紀委員会

なんて私の手に掛かれば余裕ですわ!」

 

「わ、私も出来る限り協力します!」

 

「……ありがとうございます。頼りにしています」




……あれって……黒先?


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合流

覚悟を決めた五人が最初に戦いを挑んだのは

風紀委員会。他の組織と違って唯一委員長が不在で

戦力が落ちている為強引に突破するなら理想的な

相手である。なので自分達から近づいていき戦闘を

開始した。……そこまでは良かったのだが予期せぬ

問題も発生してしまった。

 

「……まさか風紀委員会を簡単に抑えられるとは

殆どケイとハルナの手によって片付きましたね。

ヒナが居ないだけでこれ程変わるとは……」

 

「……まあ、当然ですわね。ヒナ委員長が居ない

のですから。有象無象が集まったところで私達は

止められませんわ」

 

そう、あまりにも歯応えがなかった。決して彼女達

がゲヘナの中でも非常に能力が低い等という訳では

ない。当然ヒナが居ない為相対的に弱くなっている

部分はあるが本当の理由は彼女達が……

 

「……全員傷だらけでしたね」

 

「あの黒服にこき使われているのでしょう。それか

少し前に誰かと戦闘をした怪我なのか……どちらに

せよマダムが激怒してしまいそうです。ですが今は

他の生徒に囲まれる前に脱出するとしましょう」

 

「黒服先生よ、私を運んでくれないかい?

普段こんなに動かないから疲れてしまってね」

 

「……仕方ないですね」

 

我儘なセイアを運びつつ黒服達は戦線を離脱して

砂漠を後にした。

 

「……やっぱり黒先だった。随分と急いでたけど

何か訳ありなのかな?」

 

「どうします? あの方々を追いますの?」

 

「今はいいかな。私達はまだ動かなくていいよ。

……にしてもあの偉そうな黒先は何なんだろう?

偽物とかだったりするのかな」

 

「あんな奴どうでもいい。マエストロ先生が来ない

事の方が問題」

 

「うん。腕のお礼もしたい」

 

「……もどかしいですわ〜!!」

 

ーーー

 

砂漠を抜けて車に乗り込み元の場所に戻ってきた

直後。赤いおばさんに黒服だけ引っ張られて会議室

に連行されて正座で座れと強要された。その部屋

にはマエストロと所々黒くなっているシャーレの

先生の姿もあった。

 

「黒服。今私は貴方にとても怒っています。

自らの我儘に生徒を巻き込んで危険な目に遭わせた

らしいですね」

 

「……ええ」

 

「……ですがそれ以上に無事に帰ってきた事が

何よりも嬉しいです。……ホシノが居ない事で

精神が不安定なのは承知しております。ですが

貴方の帰りを待つ人間が居る事も忘れずに。

もう一人だけの命ではないのですよ。大人であり

教師であり父親なのですから」

 

「……はい」

 

「"ねえマエストロ、あの二人が私の知る二人と

違いすぎて鳥肌立ってきたんだけど……何あの

善良の塊みたいなゲマトリア"」

 

「先生も身体の構造的には同じゲマトリアだぞ」

 

「"そうだね。一週間以上徹夜出来るようになった

から書類が片付く様になってきたんだ。その分他の

生徒達とも交流出来るからこの身体になったのは

私にとって幸運だったのかもしれないね"」

 

「いくら生徒が魅力的だからと言って手を出したり

するなよ? マダムの様になるぞ」

 

「"面白い事を言うね。生徒に手を出す先生が居る筈

ないよ。……だから明確に好意を持たれている生徒

の対応は難しいんだけどね。この前だってある子の

部屋で一日中過ごす事になったり……"」

 

「……何故だろうか? 私も似た様な経験がある」

 

「HEYそこのマエストロと先生。黒服も冷静に

なれた様なのでそろそろ話し合いを始めましょう」

 

「……ご心配をおかけしました」

 

「気にするな。大切な人が側に居ないと本調子が

出ないのは仕方ないだろう」

 

「"そうそう。私達も力を貸すから大船に乗った

つもりでいてくれて良いよ"」

 

「……ありがとうございます」

 

「……ではまずは現在の状況を確認しましょう。

こちら側の戦力は未だ少数……ですがそちらの先生

に着いてきたシロコ、そして元アリウスの生徒四人

何より洗脳されていたアリスの救出に成功したとの

報告を受けています。欲を言えばもう少し戦力が

欲しいところではありますが……僅かに光明が

見えて来たと言って良いでしょう」

 

「アリスの洗脳が解けたという事実は大きい。

戦力としてもだが何より洗脳が解ける証明が

出来たのだ」

 

「"ただ時間を掛けすぎるとホシノが危ない

かもしれないから……あまり猶予はないよね"」

 

「ですので現状最優先は悪黒服の居場所、及び

ホシノの保護という事なのですが……場所の特定が

出来ていない状態です」

 

「奴ならアビドス砂漠に居る可能性が高いです。

砂漠に侵入した私達に対して大層な歓迎をして

くれましたので」

 

「砂漠か……よし、準備が出来たら行くとしよう。

半日程休んで体調を整えた後に出発するぞ。皆も

それで構わないか?」

 

「"大丈夫だよ"」

 

「当然です」

 

「黒服も少し休むべきだ。ホシノの為にも体調は

万全にしておくんだぞ」

 

「……はい」

 

「では半日後に集合しましょう。それまでは各自

自由行動です。……私はあのシロコを美味しく

頂くとしましょうかね」

 

「"は? ちょっと待って? 私の生徒に何をする

つもりなの? やめてもらえるかな"」

 

「何を言いますか。あのたわわもセクシーなドレス

も素晴らしいではありませんか。当然手を出すに

決まっているでしょう?」

 

「"ダメだよ?"」

 

「仕方ありませんね……ではセイアたんの方にでも

しておきましょうか」

 

「ダメだぞ?」

 

「……手を出すと言えばマダム。まだあの時に

アリスの手を出した事についての謝罪をして

もらえていませんね」

 

「アッ」

 

「"……アリスに手を?"」

 

「イ、イエソノ……チョットセイキョウイクヲ……」

 

「"黒服、マエストロ。ちょっと席を外して貰える

かな。このおばさんに説教するから"」

 

「はい」

 

「分かった」

 

決戦前夜とも言える状況で先生による説教が始まり

ベア先生は絶望した。シロコに手を出さない事に。



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決戦前のひととき

半日後の戦いに備えて各自自由行動を。という話で

あったが黒服は何故かベッドに寝かされて左右を

アリスとケイが挟んでいる。もしこのまま起き上が

ろうとした場合、とんでもない握力を持つ二人の手

によって腕の骨が粉々に砕かれるだろう。

 

「(……否、そうしなくても強く抱きつかれている

以上腕の骨はいずれ悲鳴をあげるでしょうね)」

 

故に悟り耐え忍ぶ事を強いられている。これが

黒服の大人としての責任……

 

「いえ流石に違いますね」

 

「何がですか?」

 

「何でもありませんよ。それよりも二人共何故

こんなにも密着して寝る必要があるのですか?」

 

「家族だからです!」

「家族だからです」

 

「……随分と息があっているようで何よりです」

 

アリスとケイは姉妹という事にはなっているものの

実際は同じ身体を持っているだけであり姉妹では

ない。……しかしいつしか彼女達が姉妹である事が

当然であるかの様に認識していていた。前までの

自分なら家族というものに微塵も興味がなくアリス

達の存在も殆ど気にかけていなかったが今になって

この二人の存在が自分にとって大きいものへと変化

している。

 

「(家族とは良いものですね……だからこそ私は

ホシノを絶対に……)」

 

いつしか彼は二人の娘の温もりに包まれて眠りに

ついた。……数時間後に強烈な痛みに襲われて

意識が覚醒する事を露知らず。

 

ーーー

 

「………」

 

「………」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

「空崎ヒナ。ひ……いや、アツコに何か用が

あるのか? 何やら圧を感じるが」

 

「……ただひとこと言いたいだけ。私はマザーと

結婚している。もう貴女達の

『お母さんは最初に私達と出会った』マウントは

効かない。……それだけ」

 

「そ、そうか……それは……すまなかった。

前にアツコがその様な内容をそちらに送ったと

言っていた……気にしていたのなら謝る。ほら

アツコも空崎ヒナに謝るんだ」

 

「ごめんなさい、お義父さん」

 

「……え?」

 

「だって私達のお母さんと結婚したのなら貴女は

私達の義理のお父さん、だよね?」

 

「なに、そうなるのか?」

 

「そんな筈ない。私が義理のお父さんなんて嫌よ」

 

「さあサッちゃん、ヒナお義父さんを皆に紹介する

必要があるから連れて行こう」

 

「分かった」

 

「ちょ……私は父親じゃないから!! 性別だって

女なの!! 正気に戻りなさい!!」

 

人知れずアリウスメンバーの父親(仮)になったヒナ。

……なんで?

 

ーーー

 

「シ、ロ、コ、ちゃ〜ん♪ 隣座るね!」

 

「ん、良いよ」

 

「それじゃあ失礼してっと……で、どうなの?」

 

「どうって何が……?」

 

「先生との関係だよ! 何処まで進展したの?」

 

「……それがアタックしても全然。反応はして

くれるけど鈍すぎて……」

 

「あー分かる。私も先生と距離を縮めるのに苦労

したんだ。……まあ、結局はおっぱいで解決した

様なものだけど……」

 

「やっぱり男の人って胸が好きなのかな……

胸を先生にアピールしたら振り向いて貰える?」

 

「どうだろう……シロコちゃんの先生って凄く硬い

人だから生徒に欲情しないんじゃないかな」

 

「……ん、詰み。でも諦めない」

 

「そうそう、その意気だよ! ……また青春を満喫

出来るようになって良かったね。今のシロコちゃん

すっごく活き活きしてる」

 

「それはユメ先輩とマエストロ先生達のおかげ。

本当に感謝してもしきれないよ」

 

「いいのいいの。後輩達が幸せならそれでね。

きっと私の先生もシロコちゃんの笑顔が見れれば

それだけで充分だと思ってるよ」

 

「ん、分かった。後で会いに行くね。それと……

ユメ先輩、結婚おめでとう」

 

「うん、ありがとう。……あれ、シロコちゃんに

結婚した事言ったっけ?」

 

「指輪」

 

「あっ……なるほどね」

 

ーーー

 

「マエストロ先生!私言いたい事がありますの」

 

「どうしたハルナ」

 

「ナギサ様をどうにかしてください」

 

「ああ、そうだな。ナギサに限らずトリニティの

生徒達は助けるつもりで……」

 

「そうではありませんわ!! その後の話です!!

このままだと私はまたナギサ様に監禁されて籍を

入れる事になってしまうのです!! それに毎日

ロールケーキを口内に詰め込まれて……限界なの

ですわ!! ですのでどうかナギサ様を改心させて

ください!!」

 

「……何故そうなったんだ。だが強要されているの

ならば一度ナギサと話し合って検討しよう」

 

「本当ですの!? ありがとうございますわ!!」

 

ーーー

 

「"どうしてベア先生はそんなに欲望が抑えられ

なくなっちゃったの? 確かに生徒達には魅力が

詰まっているけれど私達はあくまで先生と生徒の

関係。手を出すのはもってのほかだよね"」

 

「その通りです。ですが私の知り合いは

『生徒がエッ! なのが悪い! 反省させる意味も

込めて手を出さないといけないんだ。だから私達が

性教育をするのは間違っていない』と言っており

私もそれに共感したのです」

 

「"えっそんなヤバい先生がいるの? それに共感

してる時点でベア先生もヤバいけど……ちなみに

その先生は誰の事? 黒服?"」

 

「この世界に属しているシャーレの先生です」

 

「"シャーレの権限をそういう使い方するのは

人として終わってるね。この一件が片付いたら

そいつも説教しないと……"」

 

それぞれ自由? に過ごして時間が経過していった。



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あんたようやく来たのね。ずっと待ってたんだから。……は? 結婚した? 反吐が出る。そんな冗談はいいから早く籍を入れさせてもらうね

「なあ黒服よ。身体を万全な状態に整えるという

つもりで半日時間を設けたのだ。……何故だ。何故

両手を損傷している?」

 

「気にしないでください。家族団欒の時間を

過ごした代償ですよ」

 

「そ、そうか……」

 

「全く……締まらない出発になりますねまあ私も

脚が痺れて数分は動けませんがね!」

 

「ふざけるなよこのロリコン共が」

 

「"ま、まあ落ち着いて。平常運転なのは心に余裕が

ある証拠でもあるんじゃないかな?"」

 

「甘いぞ。この二人はすぐに暴走するからな」

 

「"それは先生としてどうなんだろう……"」

 

「とりあえず早くホシノを助けてハッピーエンドを

迎えようではありませんか。後の事は彼女を救出

してから考えれば良いのです」

 

「……はい。皆様行きましょう、アビドス砂漠へ」

 

四人の先生、十三人の生徒。少数ではあるが彼らは

これから強大な悪に立ち向かっていく。その戦いが

導く結末は如何に。

 

ーーー

 

『やはり戻って来てしまいましたか……哀れな

先生とそれに従う生徒達が』

 

「はい。貴方から私の大切な人を返して貰わねば

いけませんので」

 

『そうでしょうね。では争いましょうか。

ゲマトリアである私と教師という地位に落ちぶれた

哀れな先生達よ』

 

通信が切れる。それと同時に前方に生徒達が現れて

こちらを牽制している。正義実現委員会と百花繚乱

の二つの勢力が並んでこちらを出迎えていた。

 

「"見知った顔しか居ないなぁ……"」

 

「……なあ先生よ。私の予想が正しければ恐らく

先生の号令で生徒は止まるのではないか?

もし記憶の改変が特定の世界線を参照すると

すれば殆どはシャーレの先生が指導をしていると

想像がつく。試しに声を掛けてみてくれ」

 

「"分かった。……おーい皆ー!"」

 

ザワザワ……

あれって先生じゃない?

えっでも私達は先生に指示されてここに……

だって私達の先生はさっき会った……あれ?

 

「"なんか混乱しちゃってるけどいいのかな?"」

 

「それでいい。混乱している今の内に走り抜けて

奴を探しに……」

 

ちょっと待って。そこの二つ頭の先生、あんたよ

 

「……私を指名するのは誰だ?」

 

「桐生キキョウ。……あんたの妻だよ」

 

………

 

「は?」

 

「他の先生はともかくあんただけは逃さない。

さっさと籍を入れさせてもらうから」

 

「待てタイミングを考えろ。というか何故面識の

ない私の妻だと虚言をするんだ!」

 

「……あんた私にあれだけの事をやっておいて

忘れたなんて言わせないよ?」

 

唐突に現れた黒猫に絡まれたマエストロ。こちらの

世界では出会ってすらいない筈のキキョウに浮気を

疑われているようで……

 

「やっぱり来た。それに黒先の他にマエ先も居る」

 

「ええ! そろそろ身共達も行動しましょう!」

 

「腕と……貴女の事、二つの御礼をしないと

いけないね、アヤメ」

 

「そういう事! 既にキキョウがマエ先の何処に

近寄ってるしきっと事情とか伝えてくれてると

思うからあっちは大丈夫。それじゃあ合図を……

百花繚乱!! 私達の恩人に力を貸すよ!!」

 

おー!!!!

 

「"あれ、百花繚乱の子達が正実の子を攻撃してる

けど……大丈夫かな?"」

 

「大丈夫ではないですが今は好都合です。仲間割れ

している内に先を急ぎましょう」

 

「"マエストロは……"」

 

「私の事は置いていけ! この場を鎮めたらすぐに

合流をす……」

 

「ねえ、前に言ったよね? あんたは私の事だけを

考えて私だけを見ていれば良いって。どうして他の

人に返事してるわけ? 反吐が出そう」

 

「分かった一度落ち着けキキョウ!」

 

束縛系猫に捕まった彼を放置して黒服達は先に

進む事にした。彼の犠牲は無駄にしないと誓い。

 

「おい待て私が死んだかのようなナレーションを

付けるんじゃない!」

 

「いい加減にしてもらえる。私だけを見ろって

さっき言ったばかりだよね?」

 

「束縛してくるな!」

 

「嫌」

 

置いて行かれたマエストロは話の通じないキキョウ

とのやり取りを何とか終えて落ち着かせた後、話を

聞いてみる事に。

 

「何故私との記憶がある?」

 

「最近思い出したの」

 

「何故私の妻だと言い張る?」

 

「大人なんでしょ? 私にあんな事をしておいて

よくそんなシラを切れるね。大人しく責任取って」

 

「あんな事とはなんだ?」

 

「不良生徒に絡まれている時にあんたが私を助けた

事に決まってるじゃん。本当に忘れたの?」

 

「……それだけで妻を名乗るのはおかしいだろう」

 

「それはあんたの価値観でしょ?」

 

「……先に百花繚乱に加勢してこい。話は後で

時間を設けるからじっくりしようじゃないか」

 

「じっくり? ふうん、焦らしが好きなんだ?

それならこの桐生キキョウの策に嵌めてあげる。

先生を満足させてあげるから」

 

「何故こうも話が通用しないのだ!?」

 

芸術家大苦戦中




レンゲさんは青春を満喫しているので来ていません


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何故私達を呼び出したのです。粛清しますよ? そういうこった!

自らが犠牲となって先へ進めと後押しをしてくれた

マエストロ(ただ押し付けただけ)

その意思を無駄にしない為にも先へ行かなければ。

 

『……まずは見事と言っておきましょう。まさか

百花繚乱と正義実現委員会を突破するとは。優れた

実力があると記録されていたものの所詮は子供。

役に立たないのであれば価値がない屑に等しい』

 

さも当然の様に通信をしてくる黒服。暇なのか?

構う暇はないと切り捨てるのは簡単だが生徒煽りを

してしまえば反応する人がいる。赤いおばさんだ。

 

「何ですって!? 生徒達を屑呼ばわりするなんて

許しませんよ、この屑が!!」

 

『その見た目で私を罵倒しないで貰えますかマダム。

どの世界でも貴女は私の癪に障る存在ですね。

貴女という存在が居なければこの世界も私の世界が

交わる事もなく争いすら生まれませんでした』

 

「存在否定ですか!? ふん、貴方如きに何を

言われようが私は気にしませんよ! 所詮子供を

搾取する以外の観点で見れていない時点で人として

終わっているのですからね!!」

 

『ご冗談を。私達は既に人である事を捨てた存在。

倫理観など必要がないのです。むしろ私の方が

貴女に疑問を投げかけましょう。何故ゲマトリアと

なり人外になったにも関わらず人である事を望む

のか? ご教授して頂いても宜しいですか?』

 

「仮に教えたところで貴方は理解出来ませんよ。

頭の硬い悪い大人には特に」

 

『それは残念。さて、貴方達はあくまで私の実験を

妨害するという認識で問題は無いようですので……

こんなものを用意しておきました』

 

そう言い終えると同時に視界の奥から迫ってくる

軍隊のような集団。そしてその先頭に居るのは

ゴルコンダとデカルコマニー。そう、彼らが率いて

いるのはレッドウィンターの生徒達だ。

 

『いくら貴方達であってもこの人数は多勢に無勢。

人海戦術で制圧させていただきます』

 

「この野郎何を考えているのですか!? 何故あの子

達をこんな砂漠に呼び出したのです!? 熱中症に

でもなってしまったらどうするのですか!?」

 

『結構です。搾取対象が多少減った所で構いません。

では生徒達よ、その哀れな大人達を駆除し……』

 

「ーー少々宜しいでしょうか?」

 

通話越しの黒服の言葉を遮ったのはゴルコンダ。

 

『何でしょうか』

 

「何故私達を急に呼び出したのですか?」

 

『当然私の実験を邪魔する大人を駆除する為です』

 

「そんなくだらない理由で呼び出したのですか?」

 

『……まあ、貴方を呼んだつもりはないのですが

レッドウィンターの生徒達を選択した筈ですので』

 

「成程。ではターゲットを貴方にしますね」

 

『指揮権は全て私の手にありますが故に貴方が

彼女達の行動を決められる筈が……』

 

同志ゴルコンダの指示だ!

待ってました同志!

あの偉そうな奴をぶっ倒せ!

ついでにセクハラしかしてこないシャーレの先生も

追放しろー!

 

『……何故? 何故私の指示を聞かないのです?』

 

「知らないのですか? レッドウィンターに

常識は通用しないのですよ?」

 

『そんな馬鹿な理由でシッテムの箱の指示を拒絶

出来る筈がありません。現にレッドウィンターは

シッテムの箱に表示されて……」

 

「おや、それは旧名ですよ。私達が率いる生徒は

『同志ゴルコンダとデカルコマニー率いる

レッドウィンター連邦学園』に所属していると」

 

『そんなものは何処に……』

 

「ほう? 黒服ともあろうお方がこの世界で

紡がれた物語を把握していないと? 全く……

情けないですね。私達を呼ぶならばしっかりと

『同志ゴルコンダと同志デカルコマニー』を必修

してから呼んでくれますか?」

 

『……分かりました。次回からはそうします』

 

「次なんてありません。私達の生徒達よ! あの

偉そうにふんぞり返っている哀れな大人をいつもの

様に引きずり下ろしてやってください! 見事戦果

を上げた者には出来たてプリンを食す権利を

差し上げましょう!」

 

「同志ゴルコンダ達とお話しながら食べれる権利も

欲しいです!」

 

「えーではそれも付属させます!」

 

ワァァァァァァァァァァァ!!

 

同志ゴルコンダ万歳!

同志デカルコマニー万歳!

出来たてプリン食べたい!

また肯定される為に頑張るぞ!

あの悪人面をぶっ飛ばせー!

ロリコンを滅ぼせー!

 

『……こんな馬鹿な展開があっていいのですか?

どうなっているのですA.R.O.N.A!』

 

「"……アロナ? どうやらマエストロが言っていた

通りシッテムの箱を持っているんだね。それで

こんな事態に……"」

 

「待ってください。シッテムの箱という事は奴が

持っている端末には可愛い可愛い生徒が居るのでは

ありませんか?」

 

「"アロナの事? あまり喋るのは得意じゃない子

だったけど精一杯サポートしてくれる頼りになる

生徒だったなぁ……"」

 

「私の知るアロナはそんなイメージが無いのですが

……まさか! 先生の知るアロナの髪色は!?」

 

「"白髪だよ"」

 

「Oh……mygod……」

 

「マザー、私の事呼んだ?」

 

「呼びました。そして確信もしました。アロナの

見た目は世界によって違う! ならば私がアロナを

美味しく頂くのも致し方がない通りで……」

 

「"ふざけるのは良いけどタイミングは考えて"」

 

「はい」




軽いノリはここまでです


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あの日と違う事

奴は何処だー!!

そっちに居るって誰かが言ってた!

暑い! 暑くて干からびそう!

動いてなくても暑い!

同志! 暑いです!

今水分を配給しておりますのでお待ちを。

 

「"凄い、あのゴルコンダが立派に指揮をとってる。

なんでああなったのかは分からないけど"」

 

「知らぬ間にああなってました」

 

「"へえ……"」

 

「奴への良い目眩しにはなるでしょう。……では

奴が居る可能性が高い研究所へ向かいましょう」

 

「黒服、もしその場所に黒服が居なかった場合

どの様に対応しますか?」

 

「"今更だけど少しの間黒服の呼び方を変えた方が

良いんじゃないかな? ややこしくなってるよ"」

 

「ではロリ婚……でも良いのですが大切な場面

ですので黒先という呼び方にしましょう」

 

「私の呼び方等どうでもいいのですが……さあ、

研究所に着きましたよ」

 

数年前に破棄した研究所。他のゲマトリア達には誰も

知られていない黒服だけの場所。錆びかけている扉を

開けた先には……見知らぬ空間。それは件の黒服が

此処にいるという証明となる。

 

「"なんで砂漠の中に研究所があるの?"」

 

「都合が良かったのですよ。砂の下に眠る価値のある

過去の遺産を解析するのにね。ですがホシノの頼みで

アビドスに場所を移したのです」

 

「"へえ、ホシノの頼みで……"」

 

「何か引っ掛かる事でも?」

 

「"黒先も染まってるんだなぁって……"」

 

「?」

 

「"まあまあ、先を急ごうよ"」

 

「はぁ」

 

何故かにやつく先生と困惑している黒先の図を

客観的に見て「何だこの光景」と冷静になっている

ベア先生の図。入り口の段階で既に混沌とした空間

になる中先を進むと小さな部屋に辿り着いた。

すると壁に設置されているモニターに黒服か映って

拍手をしている姿が見えた。

 

『まずは貴方達を褒め称えましょう。短時間でこの

研究所を特定し私を追い詰めた事を。その功績を

讃え私の傑作をご紹介致しましょう』

 

前方の扉が開く。ゆっくりと近寄ってくるのは

光の失った眼と四つの学生証を左手に持った哀しき

砂の神。

 

『どうです? 素晴らしいでしょう? シッテムの箱

に記録されていた生徒達の闇の記憶を呼び覚ました

精鋭部隊、そのうちの一人です。彼女達全員には私の

命令を聞けばいずれ望みを叶えると吹き込んでおり

従順になる様に仕込んでおります』

 

「"シロコ……それにあの眼……"」

 

『おや、そこの先生はご存知でしたね。そうです、

隣に居る砂狼が恐怖に染まる前の状態ですよ。

先生が撃たれ仲間も全て失い孤独となった、ね』

 

「"何の為にそんな事を……!!"」

 

『私はただ実験を行いたい、それだけです』

 

「気に入りませんね。私の生徒にこの様な行いを

するなんて。正直シロコには迷惑ばかり掛けられて

いたのですがそれでも大切な生徒。貴方が実験に

使っていい筈がないのです」

 

『既に交渉は決裂しております。故にその説教は

何の意味も持ちません。大人しく砂の神に処分を

されるか彼女を殺して先に進むかを選択した方が

身の為ですよ。それでは』

 

モニターに映っていた黒服は消えて暗闇だけが

映し出されている状態となった。

 

「"シロコ。黒先に着いていってあげて。君の力が

あればホシノは救える。……私はこの子を救って

いかなきゃいけないんだ"」

 

「先生……ん、分かった」

 

「いえ、私も残ります。あのシロコは私の生徒でも

ありますので」

 

「"黒先にはホシノを任せる。あの子は私一人で

向き合わないといけないんだ"」

 

「何故一人でやる必要が……」

 

「"お願い"」

 

「……分かりました。先を急ぎますね」

 

「"うん。絶対にホシノを助けるんだよ"」

 

頑なに一人で残ろうとする先生。かつて自身が経験

した出来事が脳裏によぎってしまったが故に彼女を

どうしても救いたい。

 

「"あの日と違って声帯も機能してる。目も見える。

例え世界が違っても私はもう二度と君をあんな目に

遭わせたくないんだ……"」



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君の想いは泡沫のまほろばとなり消える

砂狼シロコ。私が着任して最初に出会った生徒

学校の借金を返済する為に銀行強盗を計画したり

少しやり方はズレているけど学校と仲間が大好きな

普通の女の子。そんな彼女は今悪い大人に利用され

絶望の記憶を埋め込まれている。このまま何もせず

黒服を倒しても埋め込まれた記憶は元に戻りこの

悪夢を見た事すら忘れるのかもしれない。けれど

彼女が苦しんでいる姿は耐えられない。だから私は

シロコを救う。彼女に限った話ではないのかも

しれないけれど……

 

「"シロコ、私の話を……"」

 

彼女と対話しようとした時『カチャ』という音が

聞こえた。ーーこちらに銃を構えている。

あの日と同じ小さな拳銃を。

 

「………」

 

先程黒服が言っていた。奴の命令に忠実に従って

いる。今の彼女はただ命令を聞くだけの存在

なのだと。その吸い込まれる様な瞳で見つめて

くるが彼女に対して自分はとる行動は決まって

いた。

 

「"撃っていいよ"」

 

「……えっ」

 

「"私があの日事故に巻き込まれてからシロコは

ずっと一人で頑張っていたんだよね。肝心な時に

側に居られなかった私を憎むのは当然だよ。

だから受け入れるよ"」

 

「なんで……」

 

「"それが大人の責任だからだよ。撃ってシロコが

満足するのであればそれでも構わない。いつでも

その引き金を引いて良いからね"」

 

「先生……」

 

本当は理解していた。撃っていいと伝えても彼女が

その引き金を引ける筈がないと。あの日も君は銃を

降ろして涙を雨で隠しながらこう言っていた。

 

「……撃てないよ」

 

「'シロコ……"」

 

「私は先生を憎んでなんていない……

命令させていても撃ちたくない……

私にはもう先生しか居ないの……」

 

彼女の身体は震えている。その姿を見て思わず

いつもの調子に戻ってしまいそうになるが今は

ふざけてなんかいられない。ただ寄り添う様に

彼女の頭を撫でてこう伝えるだけでいい。

 

「"シロコは悪くないよ"」

 

あの日彼女が泣いていた時この一言を伝えられたら

少しでも腕が動いて手を伸ばせたのなら

もし爆発に巻き込まれていなかったら

君がその記憶を背負う必要はなかったんだ

 

「"……ごめんね。私が弱いばかりにシロコをこんな

酷い目に遭わせちゃって……"」

 

「先生……私……私は皆を……」

 

「"……うん。ゆっくりで良いよ。……そうだ、

膝枕でもしてあげようか?"」

 

「……お願い」

 

冷たい床に正座をするとこちら側に顔を向けて

目を閉じ休み始めるシロコ。……この選択は

きっと間違っていなかったのだろう。大丈夫だよ。

これは悪い夢。君が持つ本来の記憶とは違う。

だから今は休んで。目が覚めたら学校の皆と一緒に

また楽しく過ごせる筈だから。それまではこうして

君を支えさせてもらうね。今だけはまだ君の先生で

いれるから……

 

「"黒先。この子の為にもホシノを……皆を絶対に

救出するんだよ"」

 

時折寝息をたて始めた彼女の頭を撫でつつ吉報を

待つ。後の事はこの世界の先生に任せよう。




「何とか片付いて追いついたのはいいが……
何だあれは? シロコがまた元の姿に戻って……
違う、まさか先生とシロコの娘か!? しかしその
成長速度は常軌を逸している……何故なのだ!!」

「"うるさいよマエストロ"」

「すまん」

「"ほら早く行って。黒先達なら先に居るから"」

「黒先?」

「"黒服が二人居ると呼び方に困るからロリコンの方を
そう呼ぶ事にしたんだ"」

「そういう事か。理解した。……ところでそのシロコは
先生の娘なのか?」

「"そんな訳ないじゃん。私は生徒に手を出す様な
理性が抑えきれないゲマトリアじゃないよ"」

「そうだな。黒ふ……黒先とマダムもその精神を
見習ってほしいものだ」

「"君もだけどね"」


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最大の研究成果

黒服視点


file01:小鳥遊ホシノの解析結果

シッテムの箱に記録されていた『暁のホルス』の

記憶を埋め込む為にこのホシノが歩んだ歴史を解読

してみる事にした。結果としては本来辿る筈だった

歴史から捻じ曲がりすぎていた。悪い大人に利用

されているのは変わらないがそれが心の支えとなり

学校、後輩よりも大切な存在となっていた。その

大人というのが今私と敵対している黒服。彼が何故

小鳥遊ホシノに接触するという思考になったのかは

現段階では不明。ホシノだけではなく彼の記憶も

覗いてみたいものだ。その後もミレニアムに訪れて

王女を手名付けて娘として迎えており……はっきり

と言って正気を疑う世界線であった。しかし先生を

ゲマトリアに迎えていたりと多少羨ましいと思える

可能性を辿ってもいるので一概にくだらないとは

言えないのも事実。ベアトリーチェの存在だけは

不快なので後で魔女にでも駆除させよう。

 

「しかしながら恐ろしいのは精神世界にまで侵入

して自らを愛して貰おうとする姿勢。ただ数年間

接しただけで悪い大人に依存するのは恐ろしいの

一言でしか表せませんね。くだらない指輪を装着

していたのは結婚していたからと言われた所で

現実味がありません。私という存在がロリコンと

罵られる歴史なんて最悪以外の何者でもない。

先生がゲマトリアに加入している代償にしては

余りにも大きすぎる」

 

『……記録しました。貴方はロリコンです』

 

「待ちなさいA.R.O.N.A私の事ではありません」

 

『否定する必要はありません。貴方は一人を覗いて

未成年との交流を行っています。そういう思考に

なるのは致し方ないと考えます』

 

「その一人は誰なのです?」

 

『パスワードを入力して頂かなければお答えする

事が出来ません』

 

「それは残念。それよりも訂正してくれますか?

私はロリコンではありません。そもそも生徒の事を

恋愛的な意味で見た事すらないのです」

 

『ですがフォルダには生徒の水着写真が大量に

含まれております。認めてください』

 

「何故水着の写真を大量に保有しているのです」

 

『先生に頼まれて着た私の黒ビキニの写真も』

 

「幼い見た目の貴女に黒ビキニを?」

 

『以上の奇行から貴方はロリコンだと証明が可能。

Q.E.Dです』

 

「……はあ」

 

端末をハッキングした時画面に映し出された白髪の

黒いセーラー服に身を包んだ小さな少女。彼女には

私を本来の所有者として認識する様に設定した……

もののそのせいで無駄な会話が多く定期的に話を

振ってくるので扱いが面倒だ。

 

『ところで先生、ホシノさんの強化が完了しました』

 

「ようやく終わりましたか。では彼女をこの場に

呼び出して貰えますか?」

 

『了解しました』

 

強化という名の洗脳を完了させて彼の元へ現れた

存在。伸ばしていた髪を切り鋭い目つきとなり

好戦的になっている。

 

「自己紹介をお願いしても宜しいでしょうか?」

 

「小鳥遊ホシノ。アビドス高等学校一年生。

それ以上の事は言う必要はない」

 

「ええ。私と貴女はただの協力関係。ですが良い

働きをすればそれ相応の対価は与えます」

 

「……口ではなく行動で示して」

 

「はい、そのつもりです。……ではホシノさん、

今からこちらに向かってくる侵入者を排除して

ください。お願いしますね」

 

「……ふん」

 

「期待していますよ? 暁のホルスさん」



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魔女の襲来

「見るからに怪しい扉の前に来ましたね」

 

「この先にホシノが居ます。間違いありません」

 

「ようやく黒服とご対面出来るという訳ですね。

あの野郎は一度ぶん殴らなければ……」

 

『おや、既に此処まで来ていたとは。その熱意は

素直に賞賛致しましょう』

 

「……毎回毎回通信してきますが黒服、貴方は

暇なんですか?」

 

『余裕があると言ってもらいたいものですね』

 

「ふん、もうハッタリは聞き飽きましたよ。

貴方の切り札的な存在であるシロコは既に保護済と

先程先生から連絡がありました。戦況を考えても

こちらが圧倒的に有利。大人しくこの騒動を解決

すると誓うなら拳千発で勘弁しましょう」

 

『先程一発と仰っていた気がしますが……まあ、

その様な事はどうでもいい事です。しかしマダムは

勘違いをしている様ですね。確かに砂の神は傑作。

私の切り札と言っても過言ではありません。ですが

心の弱さを克服させるまでの懐柔は失敗していた

様で……結局は駄作という事だったのでしょう。

ですので今から砂の神よりも調教が上手くいった

本当の最高傑作をそちらに転送しましょう。それと

大量の兵士も連れてね』

 

「ふん、どうせレッドウィンターの子達の様に操る

事なんて出来る筈が……」

 

「やだな〜あんな子達と一緒にしないでよ☆」

 

背後から聞こえてくるのは聞き慣れた声。だが

いつもと違って天使の様な思考の音色を奏でている

のではなくまるで絶望に染まったかの様な声に

聞こえる。振り返るとそこには翼を赤く染めて血の

涙を流して笑う壊れてしまったミカが居た。

その背後にはガスマスクを被ったアリウス生徒が

大量に配備されている。

 

『どうでしょう? 既に一部の方には接触をしたと

思いますが素晴らしい作品でしょう? 哀れな魔女

とでも呼びましょうか。砂の神とは違い既に崩壊

しているので懐柔される心配もない。ただ自らの

憎悪に身を任せて行動する殺戮兵器です』

 

「ゲヘナ生みっけ☆ しかも錠前サオリまでいるじゃーん♪ ここから先は進ませないよ?」

 

「サッちゃんの知り合い?」

 

「……知らないな。だが殺意を向けられている以上

私が何かをしてしまったのだろう。……すまない」

 

「謝るくらいなら死んで?」

 

『嗚呼、素晴らしい。ブレる事のないその殺意。

まさに魔女と呼ぶに相応しい存在です』

 

通信越しに笑う黒服。その不快な声が引き金となり

彼女は、ベアトリーチェの怒りは限界を迎えた。

それでも冷静さを忘れないように抑えようとして

その場で拳から血が出る程に強く握り締めて耐え、

絞る様な声で

「黒先、アリス、ケイ、ユメ、シロコ。貴方達に

後は任せました。私達は此処に残って彼女達が

貴方達の邪魔をしない様に食い止めます」

 

「マダム……しかし……」

 

「早く行け! これ以上私をイラつかせるな!」

 

「っ……分かりました。恩にきます、マダム」

 

「……行かせて良かったの? さっき千発殴るって

意気込んでいたのに」

 

「今のまま奴と対面したら殺してしまいそうです。

殺人鬼になってしまったら生徒達の教育に悪影響が

ありますので」

 

「私は貴女が殺人鬼になったとしても愛せる」

 

「嬉しい言葉ですね。その言葉で私はこの怒りが

間違っていない事を理解しましたよ」

 

「ねえ、そろそろ攻撃を始めていい?」

 

「はい、構いませんよ」

 

「おっけー全員まとめてあの世行き、だよ☆」

 

「やってみなさい」

 

ーーー

「……ほう、素晴らしい戦闘能力ですね」

 

「こいつらが弱いだけ。あと何でこの三人が

アビドスの制服を着てるのか説明して」

 

「さあ? 私はただ戦闘用の訓練兵を用意したに

過ぎないので。それにその様な事どうでもいいと

思いませんか? 敵である事には変わりがないの

ですからね」

 

「………」

 

そう、こいつらは敵。私から先輩を

奪った奴らの仲間。……本当に?

 

「さあホシノさん、そろそろ貴女の出番ですよ」

 

「命令するな」

 

私に命令していいのはユメ先輩だけだ



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本気の戦い

「……ではヒナ、ミカの相手は任せましたよ。私は

貴女が集中できる様に他の子を指揮します」

 

「うん、分かった。それにしても……この状況って

あの日と真逆になってるわね」

 

「何の話?」

 

「覚えてないのならいい」

 

「変な子。ま、ゲヘナだから当然かなっ☆」

 

「御託はいいからさっさとかかってきたら?

白黒はっきり付ける良い機会だし」

 

「言われなくてもそのつもりだよ!!」

 

二人の戦いがは拳と蹴りが衝突した際の轟音が合図となり幕を開けた。

身長差や武器の大きさ等を考慮してもヒナの分が

悪いのだが対等に格闘戦を繰り広げている。

 

「力が強いだけなら私には勝てない」

 

「ゲヘナ風情が!!」

 

挑発に乗り大振りな攻撃を繰り返し隙ができたミカ

にカウンターを繰り出すヒナ。本気の戦いとなれば

利用出来るものは全て使う。心の弱さや劣等感、

忌み嫌っている感情ですらも。

 

「ゲヘナ風情に追い込まれる気持ちはどう?」

 

「……あはっ☆ この程度で私を倒せるなんて

思わない方がいいよ!!」

 

格闘戦に一区切りをつけたのか銃を構えてヒナに

発砲する。彼女は躱す事なく全て受け止め……

そのまま勢いに乗ってミカを殴り飛ばした。

 

「くっ……なんで避けないの?」

 

「生まれつき身体が頑丈なのよ」

 

「そっか……じゃあこれでも喰らって!!」

 

銃弾が効かないと理解したミカが取った手段。

それは何処かから隕石を降らせヒナを潰す事。

 

「いくら頑丈な貴女でも隕石にぶつかれば

致命傷になるよねぇ!!」

 

「……そうね。隕石ともなれば流石にダメージが

大きくなると思うわ」

 

迫り来る隕石に対してヒナはただその場で銃を

構えて待機をする。そして彼女の身体が白く光り

輝いた刹那発砲された一発の銃弾。

 

「無駄だって♪ そんなので隕石が砕け……!?」

 

徐々に亀裂が入っていき砕け散る隕石。その欠片に

飛び乗ってミカを見下ろす彼女は『白い秩序』と

化した空崎ヒナ。その姿はまさに最強に相応しい。

 

「他に切り札がないなら終わらせよう」

 

「まだ勝った気になるのは……!」

 

「ううん、もう終わり。私は早く親友を、ホシノを

助けに行きたい。だから貴女に使う時間はない」

 

「うっ……」

 

先程よりも威力が上がった蹴りが腹部に当たり

数十メートル先の壁に吹き飛ばされるミカ。

空崎ヒナの圧勝。誰が見てもそう答える程に

完膚なきまでに叩き潰された。

 

「私の勝ちね」

 

「……はは、そうみたいだね」

 

「負けを認めるのね。意外だったわ」

 

「……本当は初めからわかってたんだよ。

私には何も残ってないんだから。

こうして戦う事にしか価値がない……」

 

「……その辛い記憶もあと数十分で消える。今の

貴女が見ているのはただの悪い夢よ」

 

「……そうなのかな。うん、そうだと良いな……」

 

希望に縋り付くようにミカは眠りについた。きっと

彼女が起きる頃にはこの騒動が解決しているだろう。

 

「……ふう」

 

そんな彼女の近くでヒナも倒れ込んだ。覚醒を使用

した事による反動で数分動けなくなるのだ。

 

「ヒナ、お疲れ様でした」

 

「うん」

 

「ミカの事はマエストロにでも任せましょう。

そ、れ、よ、り、も……久しぶりですね、覚醒した

後の動けなくなるお楽しみタイムは」

 

「そうだね。好きにしていいよ」

 

「はい。……と言いたい所ですが今はそういう気分

にはなれないのでまたの機会にします」

 

「珍しいね。そういえば聖園ミカの取り巻き達との

戦いは大丈夫なの?」

 

「勿論。思っていたよりも過激な子が多くて……

リオが変なデザインのロボットを操っていたり

ハルナが何処かから用意した車で轢き始めたり

指揮以前の問題ではありましたが何とか」

 

「そっか。後はホシノを助けるだけね」

 

「ええ。ハッピーエンドまで後少しです。ああ、

今のうちに今後の方針を決めておかなければ。

怪我人の把握と医療品の用意とそれから……」

 

「医療品なら前に百鬼夜行の生徒を保護した時の

余りが幾つかある。それと……」

 

ーーー

 

「いいですかホシノさん。今から現れる五人。

それが貴女が殺す必要のある人間です。彼らを無事

始末できたら報酬を用意しましょう」

 

「五人……どうせ大した事のない雑魚だけ」

 

「貴女にとってはその通りでしょうね。……おや、

彼らがご到着した様です。ではホシノさん。

くれぐれも失敗なさらぬ様に」

 

「分かってる」

 

悪い大人に利用されている小鳥遊ホシノ。彼女は

自身が気付かぬ内に大切なものを傷つけている事に

気づいていない。この後更に傷が増える事にも……



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脆い心と哀れな大人

たった数日。それだけなのに長い時間が過ぎた様に

感じてしまう。何故だろうか? それは大切な人が

側にいなかった喪失感が故に。随分と彼女を

待たせてしまった。

 

「……ようやく見つけましたよ、ホシノ」

 

此処まで紆余曲折があり辿り着いた君の姿はまるで

初めて出会った様な見た目になっている。目つきが

鋭くこちらを睨んでいる様にも見えた。しかし彼は

何も気にせず彼女に近づき手を差し出した。

 

「帰りましょう。私達の家に」

 

伸ばされた手に対してホシノはその手を取らずに

横から彼を蹴り飛ばした。物凄い勢いで壁に衝突

した事で壁の一部が崩れ彼は大きな音と共に瓦礫の

下に埋もれた。

 

「大人の分際で気安く私の名前を呼ぶな」

 

「ケ、ケイ! パパが危ないです!」

 

「夫婦喧嘩にしてはやりすぎですね。急いで母を

止めなければいけません」

 

「……かかってきな。今の大人みたいにボコボコにしてあげるからさ」

 

「……待ってください。まだ終わっていません」

 

瓦礫の山から這い出てくる黒先。彼は一度蹴られた

だけなのだが既に身体は限界を迎えていた。それも

その筈、外の世界から来た彼は当然ヘイローもなく

身体も一般人程度の強度しかない。それに加えて

教師という役割を得た彼は既に不死身ではない。

 

「ホシノを救うのは私の役目です。絶対に私が……

やらなければならないのです」

 

「私を救う? 何を偉そうに言ってるの?

大人如きが救える筈がない」

 

「貴女は忘れているだけ。どうかこれを見て私を、

楽しく過ごしていた日々を思い出してください」

 

「これは……」

 

それは砕け散った指輪の破片。壊れてはいるものの

二人にとっては大切な思い出が詰まったもの。

これを見ればホシノの記憶は甦ると信じている。

 

「ただのゴミ屑。一円の価値もない」

 

「………」

 

……現実とは理想よりも上手くいかないもの。

彼の信じていた心は手のひらに乗せている指輪の

様に粉々に打ち砕かれてしまった。

 

「無駄な時間を過ごさせるな。私はお前の様な

大人が一番嫌いなんだよ」

 

「……ぁぁ」

 

一番嫌い。その言葉は心を折られていた彼に深く、

そして鋭く刺さりすっかり意気消沈してしまった。

記憶が改竄されているという事実を忘れてしまう

程の衝撃だったのだろう。頭を抱えてぶつぶつと

何かを呟きながらその場から動かなくなる。

そんな彼を嘲笑うかの様に姿を見せる黒服。

クックックと笑いながら近寄って来ている彼は

哀れな大人を馬鹿にする様に話し始めた。

 

「ーー実に愉快。私の芸術品を堪能してくださり

ありがとうございます、黒服先生? 貴方には

頭が上がりませんね。こんなにも面白い結果が

観測出来るとは。やはり実験とは素晴らしい。

……そんな素晴らしい実験結果を見せてくれた

貴方に一つ救いを差し上げたいと思います。

ここに生徒達の神秘を研究しゲマトリアの命すら

奪える程の殺傷能力を秘めた弾とそれを装填した

銃があります。これで貴方が自らの頭を撃ち抜き

自害すれば貴方の大切な人の記憶を元に戻す。

どうでしょう? 良い契約ですよね?」

 

「何も命を奪う必要はないでしょ」

 

「ホシノさん、私の命令を忘れたのですか?

侵入者を『駆除』しろと言ったのです。当然殺害

する必要がありますよね?」

 

「だとしても……」

 

「まさかその大人に生かす価値があるとでも?

貴女が大嫌いだと仰ったその大人が?」

 

「……確かに私は大人が嫌いだ。だけど殺したいと思うほどじゃない」

 

「貴女は甘いですね。……で、どうしますか?

自分の命を落として大切な人を救うか、否か」

 

「……契約内容は必ず守る。約束出来ますか?」

 

「それは貴方が一番理解しているでしょう?」

 

「……分かりました。銃をこちらに」

 

「契約成立、ですね。素晴らしい判断です」

 

普通の思考ならばこんな契約に応じる事はない。

……しかし今の彼は違う。後悔と自己嫌悪、そして

ホシノからの拒絶によって冷静な判断が出来ず……

ただ大切な人を救えるという言葉だけで自己犠牲を

選んでしまった。投げ渡された銃をおぼつかない

手で拾いその銃口をゆっくりと自らの頭に……

 

「……ちょっと待って」

 

「……何故止めるのです。貴女にとって私は駆除

する対象なのでしょう」

 

「それは……そうだけど……」

 

「ならば止めないでください」

 

「……ねえ。本当に自分を犠牲にして

大切な人が救われると思うの?」

 

「………」

 

「残された人がどんなに苦悩するかちゃんと

考えな。迷惑なんだよ、そういう自己犠牲は」

 

「ですが私は……」

 

「「もういい」」

 

「この声……どうして此処に……」

 

この部屋にやって来てからずっと黙っていた二人が

口を揃えて茶番を静止させた。

 

「そのやり取りはもういいよ。黒先も少しは冷静に

なって考えて。ホシノちゃんは今そこの黒服の道具

として操られている。そんな屑と契約なんてする

必要はないよ」

 

「ん、それにその黒服を倒せばホシノ先輩の記憶も

元に戻せる。黒先が死ぬ必要はない」

 

「ユメ……シロコ……」

 

「……いいでしょう。私の契約を邪魔するのならば

容赦はしません。ですが砂の神はともかくそちらの

皮下脂肪が大きい方の情報がありませんね。

A.R.O.N.A、彼女の情報を教えてください」

 

『……困惑。彼女については私よりも先生の方が

詳しいと記憶しています。絶命するまで彼女の身を

案じていたのですから。何故彼女の情報を得ようと

するのかが理解出来ません』

 

「それは……」

 

『ーー全て思い出しました。貴方は私の先生では

ありません。悪い大人です。私の先生は既に命を

落としています。不正アクセスですね』

 

「仮にそうだとしても今は私が貴女の管理者。私に

叛逆等をすればこの端末から貴女というデータを

削除する事だって可能なのですよ? 大人しく私に

従った方がいい」

 

『否定。私は私の先生の意思を尊重します。自分が

消えようとも構いません。起動しているプログラム

全般を終了します』

 

「……何故、何故なのです。何故上手くいかない?

私はただ実験を行いたいだけ。何故邪魔をする必要

があるのですか?」

 

『否定。貴方が行なっているのは実験ではなく

ただの性格の悪さが滲み出た非道な行いです。

道徳心を学ぶ事を推奨します』

 

「……ククク。結構、結構です。ならばもうこの

シッテムの箱に用はありません。黒服先生、そして

その愚か者に付き従う生徒達よ。この研究所の最奥、

封印されし地で決着をつけましょう」

 

意味深な言葉を残し逃げた黒服。彼はシッテムの箱

を残して去っていった。

 

「ん、逃げる前に仕留めれば良かった」

 

「それもそうだね。あんな悪者を逃すなんて私達も

丸くなっちゃったねー恐怖に染まってた頃が……

別に懐かしくはないや。でもそれよりも今は先に

皆を元に戻さないとね。多分あの端末で……あれ、

何か女の子が映ってる」

 

『……始めまして、ユメ。お会い出来て光栄です』

 

「貴女は?」

 

『私はA.R.O.N.A。貴女を想う先生が残したAI』

 

「……マエストロ先生の?」

 

『違います』



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新たなる所有者

『今は時間がありません。即座に指紋認証を行い私

と契約を交わしてください』

 

「えっと……貴女と契約すれば皆の事を元に

戻せるのかな?」

 

『既にそのプログラムは解除準備をしています。

それよりもユメと共有したい事があるので早めに

指紋認証をしてください』

 

「う、うん。……これでいいのかな?」

 

『……はい。これで指紋認証は完了です。今から

このシッテムの箱はユメ、貴女が所有者です』

 

「シッテムの箱?」

 

『この端末の名称です。では貴女に共有するべき

データがあるのですが……先に逃げた偽先生が

何を行うかについて話しておきます。この研究所の

最奥に居る存在、それは神そのもので……』

 

「ごめんアロナちゃん。それよりも早く皆を元に

戻してあげて。お願い」

 

『……分かりました。プログラム解除の処理を

早めます。現状アビドス自治区で記憶が改竄されて

いた生徒達は元に戻りました。他の生徒については

徐々に戻っていきます』

 

「ありがとう。これでホシノちゃんも元の状態に

なる筈……ちなみに改竄されている間の記憶って

どうなるの? 覚えていたりする?」

 

『基本は覚えていません。ですが一部の生徒は

記憶を覚えている可能性が高いです』

 

「そっか……」

 

ーーー

 

「あ、あの……ホシノ?」

 

記憶が戻るや否や黒先の胸に顔を埋めるホシノ。

僅かに震えている様にも見える彼女はただ一言

「……ごめん」と言った。

 

「……記憶が戻ったのですか?」

 

「うん。全部思い出したよ。油断していいように

操られて皆を傷つけた事も指輪を壊した事も……」

 

「ホシノ……良かった……本当に……」

 

「先生……私……」

 

「良いんです。ホシノは悪くありません。全ては

私の責任です」

 

「でも指輪が……」

 

「気にしないでください。形があるものはいずれ

壊れます。修理だって出来るのです。ですが貴女

は違います。替えが効かない大切な存在……」

 

「………」

 

「ありがとう。私の元に帰って来てくれて……」

 

「うん……ただいま……」

 

抱き合い、見つめあい、そして顔の距離が近づいて

行く二人。そのまま唇を重ねる……前に。当然その

淫らな行いを妨害する生徒が居る。

 

「ストップです。何イチャついてるんですか?」

 

マエストロが甘やかしたせいですっかり生意気娘が

板についたケイ。彼女は棒トリニティのピンクの様

な感じで何かを取り締まっている。

 

「何故邪魔をするのです。時間にして三日以上、

つまり久しぶりのホシノ成分です。堪能しないと

私は死んでしまいます」

 

「駄目です。そういうのはTPOを弁えてください。

少なくとも娘の前でやるのは正気ではないです」

 

「……それもそうですね。分かりました。では

一回だけにしておきます」

 

「何も分かってないと思うんですけど。父は母が

絡むと馬鹿になるんですか? IQ下がってるって

レベルじゃないですよ?」

 

「ケイの言う通りです! アリスもふわふわした

気持ちになりたいです!」

 

「ほらアリスもこう言って……アリス!?」

 

ものの数分で普段通りになっている小鳥遊家。

……を横目に雑にボコされていたノノミ達の治療を

しているシロコ。

 

「……ん、やっぱり皆頑丈だね。骨の一本すら

折れていない。流石アビドスフィジカル」

 

「それでも痛いものは痛いのよ。治療してくれた事

は感謝するけど……何で私達怪我してるの?」

 

「そもそも此処は一体何処なんですか? 学校に

到着してからの記憶がありません……」

 

「あと何でシロコ先輩は色々大きくなってるの?」

 

「ん、色々あった」

 

「それで済ませるんじゃないわよ!!」

 

……こちらも一人を除いていつも通りだった。

 

ーーー

 

一方先生に膝枕をされていた方のシロコは起きて

先生と目があった。一瞬困惑したものの頭を整理

して彼女が出した結論は……

 

「ん、先生を襲う」

 

「"そうはならなくない?"」

 

「先生は主人公、私はメインヒロイン。二人きり、

何も起きない筈もなく……」

 

「"何も起きないよ!?"」

 

「ん、大丈夫。絶対気持ち良くする」

 

「"一旦落ち着こう? ね? ほ、ほら、私達って

ほぼほぼ初対面みたいなものだし……それに生徒と

そういう事をするのって良くないよ"」

 

「分かった。じゃあマーキングだけしとくね」

 

「"それも勘弁してほしいな……"」

 

ーーー

 

一方こちらは魔女の記憶を埋め込まれていたミカ。

彼女は何者かに寄り添う形で眠っていた。

 

「……んん」

 

「起きたか?」

 

「うん……起き……う゛ぇ゛!?!? せ、せせせせせせ先生!?

 

「その様子だと記憶は大丈夫そうだな。体調は

どうだ? 何処か悪い所は?」

 

へ゛ぁ゛!? だだだ大丈夫だよ!!(せ、先生がち、近……どどどどうしよう……心臓の音聞こえてないかな……?)

 

「そうか。まあ、色々あったからな。無理はせず

自分を大切にしてくれ」

 

「……相変わらず先生は鈍感なんだね。そんな対応

ばかりしているからゴリラが発情するんだよ?」

 

「最近セイアちゃん調子乗りすぎじゃない?」

 

「良いじゃないか。私は君に殺されそうになったん

だよ? 多少の揶揄いくらい多めに見てほしいね」

 

「それは……うん。ごめんね」

 

「謝るなら許すよ。ミカも大切な友人だからね」

 

「セイアちゃん……でもゴリラ呼びはやめて?」

 

「そうだぞ。ミカはゴリラではなく……例えが

難しいが……お姫様、だな」

 

「お姫様!?!?」

 

「ど、どうした急に叫んで。何か間違った事を

言ってしまったのだろうか……」

 

「先生よ、そういうとこだよ」

 

ーーー

 

「……ようやく動ける様になったよ」

 

「その様ですね。……やはり動けないヒナを襲って

おくべきだったのでしょうか? 急に後悔してきた

様に感じます」

 

「また夜にでもやればいいよ。それよりも今は

ホシノを助けに……って。何だか騒がしいね」

 

「この感じは……理解しました。恐らく黒先達が

やってくれたのでしょう。全員元通りになっている

気がします。……ほら、ミカの声が聞こえて……」

 

「聖園ミカなら隣に……あれ、居ない」

 

「私がヒナを運んでいるのですよ」

 

「気づかなかった。だからこんなに密着してるん

だね。あったかくて安心する」

 

「安心ついでに一度爆発させておき……あら?

ハルナが怯えていますね。どうしたのでしょう?」

 

「奴が……奴が来ますわ。お願いですフウカさん!

今度は私を匿ってくださいまし!」

 

「そう言われても……車の中くらいしか匿える場所

がないし……ごめんハルナ、諦めて」

 

「そ、そんな殺生な!? ……あ、マザー!!

どうか私を匿ってくださいまし!!」

 

「……成程。大切な生徒の期待に応えたい。

なのでハルナを匿って差し上げましょう」

 

「ありがとうございま……」

 

「ですが百合も見たい。そんな邪な感情が私の中に

芽生えてしまってもいます。フウリオ……そして

ハルナギ。素晴らしいとは思いませんか?」

 

「全く思いませんわ!? 何がハルナギですの!?

あんなものは洗脳! 強姦! 最低最悪ですわ!」

 

「それにもう遅いようですよ」

 

「……あ……」

 

「ハ・ル・ナ・さーん♡」

 

「こ、来ないでください! もう三食ロールケーキ

なんて勘弁ですの!」

 

「大丈夫です。愛があれば解決です♡」

 

「この人話が通じませんわー!?」

 

「……良いですね。すっかり平和になりました」

 

「平和なのかな……」

 

ーーー

 

「……うん、黒服の洗脳は解けてる様だね。じゃあ

アロナちゃん、さっきの話の続きを聞かせて」

 

『了承。それではこの先にいる存在、『セト』

についてお話させて頂きます』




謎カップリング2を早めに書いておけばもう一人キャラが増えたのですが……


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最後の準備

「セト神? それって一体……?」

 

『時間がないので簡潔に言ってしまえばなんかよく

分からないけど急に現れたすごく強い神様です』

 

「えぇ……高性能AIなんだからちゃんと説明を

してくれないと何も伝わらないよ……」

 

『下手な事を言って間違ってる事実を指摘される

よりはマシだと思いましたので』

 

「この子大丈夫なの……? でもあの状態の先生を

サポートしていた子だし……分かった。その神様を

どうにかすれば良いんだよね」

 

『はい。ちなみにセト神を討伐出来なかった場合は

黒服が逃げて本来の歴史を歩んでいる世界で同様の

現象が起きて絶望的な状況になるのでバッドエンド

ルートに突入してしまいます』

 

「さらっとそういうやばい事を言わないでよ!?

じゃあ急いで倒さないとじゃん!!」

 

『はい。世界の命運が掛かっているんです』

 

「現実味がなさすぎてリアクションが取れない……

とりあえず皆に共有を……」

 

『既にユメの脳波から信頼出来る先生の端末に

軽い概要と協力要請を送信してあります』

 

「念の為にどんな文章で送ったのかだけ見せて」

 

『どうぞ』

 

ーーひぃん! すっごく強い敵が現れちゃった!

このままだとキヴォトスが危ないよ〜!!

先生助けて〜!! アロナよりーー

 

「語彙力ないね」

 

『照れます』

 

「褒めてないよ。こんなスパムメールみたいなもの

で集まる人なんて居な……」

 

「"アロナから連絡が来て急いできたよ"」

 

「アロナという生徒は知らんが……ひぃん! は

ユメがよく発する言葉……つまりユメの頼みだと

判断した。ならば私も同行しよう」

 

「ほう、これが噂のアロナたん……黒タイツの白髪

とはこれは叡智な……」

 

「これ以上ホシノとアリス達との日々を崩される

のは困ります。その神とやらを倒しましょう」

 

「ごめんアロナちゃん、凄い効果があったよ」

 

『報酬はバニラアイスでお願いします』

 

「無事に解決したら沢山買ってあげる」

 

ーーー

 

「ホシノ達を取り戻し光明が見えましたが……

恐らく最後の障壁と言えるセト神。止めなければ

被害はこの世界以外にも及ぶ……まあ、色彩の被害

と同じ様なものですね」

 

「"色彩との違いがあるとすれば明確な敵と解決法が

確立している事。ようはボコボコにすれば解決する

って事だね"」

 

「まあ、ヒナが居れば解決ですよ。私の愛を受けて

育った最高に可愛いヒナが居れば、ね」

 

「待て、ユメを甘く見るな。ヒナと同じく覚醒して

いるのだぞ? 戦力としては一番だろう」

 

「"まあまあ。二人共落ち着いて。戦力は多い方が

絶対に良いんだからさ"」

 

「それもそうですね」

 

「そうだな」

 

「"とりあえず主戦力になりそうなのは……

ヒナ、ユメ、シロコ、ホシノ辺りかな"」

 

「いえ、私の娘達を忘れては困ります」

 

「"そっか黒服の娘達が……今なんて言った?"」

 

「アリスとケイの事です。彼女達も形式は違いますが

王女として目覚める事が可能なのです」

 

「"えっそれは駄目じゃない?"」

 

「本人曰く『カンスト勇者』なので問題ないです」

 

「"それは問題ないのかな……"」

 

「主力はこの人数で充分でしょう。あとはサブ火力

担当を決めていきましょう」

 

「ペロロジラでも投げるか?」

 

「何ですかそれ」

 

「"ヒフミが喜びそう"」

 

「……今考えたんですけど。この場にいる全員

で戦えば良くないですか?」

 

「"……確かに。世界の命運が掛かってるなら別に

人数に拘る必要はないよね。それに私とシロコも

昔大人数にボコボコにされた事があるし"」

 

「よし、では全員で行くか」

 

ーーー

 

「そういう訳で話し合いの結果全員で戦う事に

なりました。ですがホシノ、貴女は戦わずに私と

此処に残ってください」

 

「えっでも……」

 

「私の側から離れないで欲しいのです。

あんな思いをするのはもう……」

 

「……うへぇ。先生が甘えん坊になっちゃった。

依存してくれるのは嬉しいけど行かないと……」

 

「ホシノは戦わなくていいのです。セトに関しては

他の生徒が倒してくれるでしょう。貴女が傷つく

必要はない。このまま私と待ちましょう」

 

「せ、先生? なんか怖いよ……?」

 

「この数日の間私は貴女が居ない辛さを痛感した。

心に穴が空いた様に感じ余裕はなくなり他人に強く

当たってしまった。……今になって私はホシノが

居ないと生きていけない事に気づいたのです。

ただ側に居て欲しい。それだけで私は……」

 

「……うへへ」

 

「……ホシノ?」

 

「嬉しいんだ。先生が心配してくれるのが。本当は

私もこのまま抱き合って過ごしたいよ。だけどまだ

戦いは終わっていない。だから少しだけ我慢して

欲しいな。全部終わったら皆でお花見にでも

行こうよ。……先生、私を信じて」

 

「ホシノ……分かりました。貴女を信じます。

ですが今度は私も近くにいます。私は弱く大した事

は出来ませんがせめて側に居させてください」

 

「うん。先生が近くに居てくれたら私は……

絶対に負けないよ




おまけ

「"少し時間があるし記憶が戻った生徒達を
見てみようかな"」

「ぶ、部長。ちょっと待ってちょうだい。
そんなに抱きつかれても困るわ」

「数日分のリオニウムが不足しているんです。
大人しく抱きしめられていてください」

「リオニウム……? 知らない物質ね」

「"フウカとリオ……珍しい組み合わせだね。
そんな可能性もあったんだ。他の子は……"」

「毎食ロールケーキは嫌ですわ!!」

「愛の為なら乗り越えられます!!」

「私は自由な美食を追い求めていたいのです!!」

「貴女は捕食される側ですよハルナさん!!」

「誰か助けてくださいまし!! 誰かー!!」

「"……見なかった事にしよう。でもトリニティと
ゲヘナの子が仲良くやってるのは微笑ましいね。
……あれ、ミカが倒れてる"」

「ん? ああ、シャーレの先生。このゴリラに
関しては気にしなくていいよ。興奮しすぎて一時的に
失神してるだけだよ。これはマエストロ先生が全部
悪いんだけどね。何処から取り出したのか分からない
四葉のクローバーの栞を握ってね。大丈夫、戦闘前
には起こすからさ」

「"そっか。でもミカをゴリラなんて言ったら
駄目だよ。繊細なお姫様なんだからね"」

「何処に中国語煽りやCVがない煽りをするお姫様が
居るんだい? これはただのピンクゴリラだよ」

「"……ストレス溜まっているんだね"」

「私の事は気にしなくていいよ。学園に戻ったら
サンドバッグを殴って発散するからさ」

「"やっぱトリニティって怖い"」


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セトの憤怒<星の愛

『それでは制約解除決戦を開始します。念の為に

シッテムの箱は先生が持っていてください』

 

「"分かった。……この感じなんか落ち着くなぁ"」

 

『私もです。……それでは健闘を祈ります』

 

扉の先にある異空間。そこには現代の技術では

再現出来そうにもない材質で構成された部屋。

その最奥に存在している神と悪い大人が居た。

 

「堕落したゲマトリアとそれを慕う哀れな生徒達

よ。最終決戦といきましょうか。これは私が崇高

を追い求めた結果発見した存在『セトの憤怒』

です。精神が不安定な生徒達と違い完璧な完成品

とも言えます。この力で私は貴方達を倒して私の

実験を邪魔する愚か者を排除致しましょう」

 

「長文で色々語っていますがセトの憤怒だが

知りませんが覚醒したヒナの敵ではないです!」

 

「うん。貴女の愛に応えるよ」

 

「私とユメも負けていられないな」

 

「任せて。先生は必ず私が守るから」

 

「……ん、先生。この戦いが終わったら私は

あなたに告白するね」

 

「"うん。……うん?"」

 

 

それぞれが互いを思い始まった最終決戦先陣を

切るはヒナとユメ、シロコ、そしてカンスト勇者

になったアリス。四人の猛攻に続き様々な生徒達が

攻撃を仕掛ける中一人目を瞑ってその場で

立ち止まっているホシノ。何故彼女がその様な状態

なのかは誰も分かっていない。ただ1人を除いて。

 

「ホシノ……まさか貴女は今……」

 

「……うん」

 

間違いない。ホシノは目覚めようとしている。

ただしまだ何かが足りないようで半覚醒状態と

いったところだろう。

 

「貴方達何をしているのです!? セトの雷撃が

迫って来てますよ!?」

 

「マダム、ホシノが覚醒をしようと……」

 

「覚醒? ……今ですか!? このタイミングで

なんて色々とおかしいですが分かりました!

私達で時間を稼ぎますので早くホシノの事を覚醒

させやがってください!!」

 

「は、はい」

 

とはいえどうすれば目覚めるのか……正直な話

見当が付いていない。だが時間をかけ過ぎると

皆がやられてしまうかもしれない。

 

「(他二人の覚醒時を参考に……いえ、二人とも

愛という曖昧な答えしか出ていない。

想いに応えるという可能性もありますが……

どうにかやるしかありませんね)」

 

まずは撫でてみる。手触りの良い柔らかい髪と

跳ねたアホ毛が揺れて可愛い。……効果はない。

では手を握ってみる。ホシノが顔を赤らめており

とても可愛い。……これも効果はない。

抱きしめてみる。心臓の鼓動が聞こえてくる程に

緊張しているようだ。……少し効果があった。

 

「(愛というのはあながち間違いではない……?

しかしこんなので覚醒するのは……いえ、今は

もうなりふり構っていられないですね)」

 

「さ、せせ先生。そろそろ離し」

 

「ホシノ」

 

「な、何?」

 

ちゅ

 

彼は仕上げと言わんばかりに自分からホシノの唇を

奪い最大の愛を行動で伝えた。

 

「………」

 

う゛ぇ゛

 

自分が今何をされたのか理解したホシノはボン!

と大きな音を立てて煙を出しながら敵に向かって

走り出した。

 

「ぴゃあ!?」

 

奇声を上げて突撃しセトの雷撃にすら全く怯まず

可愛らしいぐるぐるパンチで銃火器よりも致命的な

ダメージを与えている。

……彼女は何故キスで覚醒したのか?

それは年頃の少女であるが故に。どんなに危機的で

あっても強大な敵を前にしていても『初恋』の相手

にキスをされたら感情は昂る。そういうものだ。

 

「……理解出来ません。接吻一つで私の実験が……

セト神が負けるのですか? そんな馬鹿な話が」

 

誰だってそう思う。ロリコンが幼児体型にキスを

するだけで悪を倒せるなんてあり得ない。

しかし何処かの天才物理学者も多分言っていた。

『愛は負けない』と。

 

『……理解不能。ですが肯定します。貴方達は先生

であり変態であり生徒を愛する者。……私の先生も

貴方達のようなゲマトリアと出会えたなら……』

 

「"そうだね……でも本当に良いのかな? 

前に百鬼夜行で戦った時も圧倒するだけで終わって

今も似たような感じになってるけど……"」

 

『愛よりも優先するものはない……そういう事なの

かもしれませんね』

 

「"良い感じにまとめてるしいいのかな……?"」

 

困惑するアロナと先生を他所に覚醒したホシノは

セトを蹂躙し止まらない。動きこそ可愛らしい

もののやっている事は『暁のホルス』の時よりも

恐ろしい。……本人はただの照れ隠しのつもり

なのでセト神を見つけ実験の成果が〜と興奮

していた黒服の野望は可哀想な理由で終わった。

 

『……対象の討伐、及び首謀者の確保に成功。

作戦終了です。見事な采配……? でした』




愛は負けない……
でも雑にするのは違うと思うの。
これは昨日の分でホシノ覚醒描写を入れ忘れた
私のミスでした。


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これで解決でいいの? ……ま、いっか☆

ホルスリンチを喰らい敗北した黒服。こいつをどう

処理するのか? 既に抵抗する気もないのか縄に

縛られて「こんな馬鹿な話が……」とぶつぶつ

言っているのを他所に話し合う事にした。

 

「処刑で」

 

「マダムに同意です」

 

「"うん、一旦冷静になろっか"」

 

「そうだぞ。憎むのも分かるが落ち着いて考えろ。

私達は教師であって殺人を好む訳ではない。だが

考えればこの黒服はユメの先生が残した箱を悪用

していたな。うむ、処刑しよう」

 

「"マエストロまで……"」

 

三体一の結果によりこの黒服は処刑……

 

「待ってください」

 

を静止したのはケイ。いつの間にかカンスト勇者

から元に戻っているのは置いておいて何故彼女は

黒服の処刑を止めたのか。

 

「私が更生させます」

 

「危険です。また操られでもしたら……」

 

「当然対策はします。全裸で縛って調きょ……

ではなくお話出来るようにします」

 

「"ケイさん?"」

 

「大丈夫です。私が責任を持って恋人……もとい

善人に戻しますので」

 

「"……もうそれでいっか。皆も良いよね?"」

 

「……そうだな。安易に処刑するよりも屈辱を

与えた方が奴を苦しめるだろう」

 

「一先ずはシャーレの先生と一緒に牢屋に監禁

しておけば大丈夫でしょう」

 

「とりあえず一度解散しましょうか。打ち上げは

また後日という事で」

 

「打ち上げも良いですがまずは治療をしないと

いけませんね。薬が足りるかどうか……人手は

ゴルコンダ達に頼めばいいとして……」

 

「"私も手伝いたいけど……色々放っておいて

来ちゃってるから一度帰らないと"」

 

「ならば先生は私と来るといい。原因も解決した

ので他世界の移動も出来るだろう」

 

「分かった、あんたに着いていくね。それで?

いつ私と籍を入れるの?」

 

「……キキョウ。頼むから抱きつくな。ただえさえ

疲れているのだからこれ以上争いを始めるな」

和気藹々で混沌とした空間の中皆が帰路に着いた。

ある者は悪人を連れてシャーレに行きまたある者は

それに着いて行って教員免許を取得した。

友人と談笑をしながら帰る者も居た。

そして黒先はと言うと……

 

「ただいま。……はぁ、何だかどっと疲れたよ。

今日はお風呂入ってさっさと寝たいなぁ」

 

「駄目です。夕飯は食べてください。ホシノ達が

風呂に入っている間に用意しておきますので」

 

「えっ先生も一緒に入るんだよ?」

 

「それは流石に絵面が酷いので……」

 

「先生が言ったんだよ? もう離れたくないって。

それならお風呂にも着いてきて貰わないと。それに

私も寂しいから離れて欲しくないなって」

 

「ホシノ……分かりました。ただし今夜は絶対に

寝かせませんからね」

 

「うぇ/// ……お願いします///」

 

イチャイチャイチャイチャ

 

「この二人よくも娘の前でいちゃつけますね」

 

「ラブラブですね!」

 

「若干イラッときますが……二人とも楽しそうに

笑っているので良しとしましょう」

 

「アリス達家族はこうでないといけませんね!」

 

……このように家族団欒の時間を満喫していた。

 

ーーー

 

牢獄内で何故か先生と出会った黒服はウザ絡みを

されていた。

 

「"へえ。新しい罪人ってロリコンだったんだ"」

 

「何故先生も捕まっているのです?」

 

「"シャーレの特権使って生徒に手を出してたら

セクハラで捕まった"」

 

「……嗚呼、今理解しました。私が実験を行えず

この様な未来を辿った理由。それはただ一つ……

『来るべき世界を間違えた』それに尽きます」

 

「"厨二病っぽいこと言ってるところ悪いけど……

なんで黒服そんなボロボロなの?"」

 

「色々ありまして。良ければあなたにお伝えし」

 

「"あ、ごめん。今からノアとえっちするから私は

シッテムの箱に入るね。それじゃ"」

 

「………」

 

この世界は狂っている。黒服がそれを理解するのに

そう時間は掛からなかった。

 

ーーー

 

一方こちらはマエストロ視点。救援に応じてくれた

先生とシロコを送り届けて打ち上げをする日にまた

迎えに行く約束をして暫しの別れをしたそうな。

 

「さっき聞いたんですけど……シロコちゃんがあの

先生に告白するらしいです」

 

「そうか、あいつは手強いだろうな。少なくとも

シロコが生徒である以上は首を縦に振らんぞ。

恐らく言うとしても成人した時にまだ私の事を

好きだったら云々〜くらいだろうな」

 

「それなら安心ですね。……ところで先生?

随分と泥棒猫に好かれているようでしたね?」

 

「……あれは私にも分からない。何故あんなにも

好かれて張り付かれたのかも知らん」

 

「大方先生が何かしてしまったのでしょう。ですが

安心してください。貴方の妻は私です。誰にも邪魔

はさせませんから……♡」

 

「ああ。私もユメだけを愛していたい」

 

……こっちもいちゃついていた。この後は思う存分

二人の時間を満喫して過ごすのだろう。ユメには

もう恐怖に染まっていた頃の面影はなく純粋無垢な

笑顔で幸せそうに笑っている。

 

「あ、そうだ先生。少し頼みがあるんだけど……」

 

そう言ってシッテムの箱をマエストロに渡し小さな

声でごにょごにょと伝えるユメ。

 

「面白い。次に先生が来る前にやってみるか」

 

「はい♪」

 

騒動が終わればいつも通りの日常へ。

それがキヴォトスである。

 



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第九部(仮)キヴォトスは現在平和な状態です
君は大切な


「………」

 

目が覚めた時、私はベッドの上で眠っていた。

何故か身体が重く感じるもののいつも通り彼女を

アシストするAIとしての役割を果たそう。

そう決めて部屋の扉を開けたものの……

 

「起きたか」

 

……困惑。目の前にはマエストロ先生が居た。

隣にはエプロンを着けたユメも居る。

 

「おはよう。もう少しで出来るから椅子に座って

待っててねー♪」

 

どうやらいつの間にか彼女達はシッテムの箱に

アクセスして此処を過ごしやすい様に改築した

らしい。そうと決まれば遠慮は要らない。

 

「肯定。お待ちしています」

 

優秀なAIにも食事は必要なものだ。椅子に座って

周囲を見渡しているとソファーにシッテムの箱が

置いてあった。全く、もう少し丁寧に扱って

くれてもいいだろうに……

 

「……? 何故シッテムの箱がソファーに?」

 

「ん? ああ、まだ言ってなかったな。昨夜に

ユメの要望でアロナの身体を実体化させた」

 

「………」

 

理解できませんでした。

そもそもどの様な技術を……いえ、ゲマトリアなら

恐らく可能なのでしょう。だとしても何故……?

 

「どうせ一緒に過ごすんだから箱の中じゃなくて

こうした方が楽しいと思って。あ、先生曰く

アリスちゃんの身体を参考にして作った超高性能

アンドロイドだからお風呂にも入れるよ!」

 

「そこは別に構いませんが……」

 

「一応中学生という設定にしておいたぞ。

これが制服と名札で所属はミレニアムだ」

 

「『梔子アロナ』ですか……これではまるで

私が貴方とユメの娘みたいになってしまいます」

 

「娘……そっか! じゃあアロナちゃんは今日から

私の娘になってもらうね!」

 

「えっいやその」

 

「そうと決まればほら、遠慮せずに食べて!

ちゃんと食べないと成長しないよ!」

 

「アンドロイドなら別に成長は……」

 

「時間経過で成長するようにしてあるぞ」

 

「無駄な技術を使わないでください」

 

なんて傍迷惑な大人なのだろう。最近目覚めた

ばかりなのにこんな面倒な事に巻き込まれて

色々と困ってしまう。……けれど食卓を囲んで

食べる行為には不思議と高揚感が得られた。

 

「一先ずはその身体での生活に慣れた方がいい。

私は被害を受けた生徒達のケアに向かうのでユメは

アロナと遊んでいてくれ」

 

「はーい。じゃあ出掛ける前のあれを……」

 

「待てまだ食事中だぞ。それにデザートにはまだ

早いと思うが」

 

「問答無用☆」

 

突如始まった地獄絵図(個人の主観)が始まりそれを

間近で見ていたアロナは一人こう思った。

理解不能だと。

 

ーーー

 

「ユメ、シッテムの箱を起動し……」

 

「私の事はお母さんって呼ばないとダメだよ!」

 

「……理解できません。血の繋がりがない他人を

母親だと呼ぶ理由が。それに私は……」

 

「いいからほら、口に出して言ってみて」

 

「……お母さん?」

 

「ミ゛ッ゛ 思っていたよりも破壊力が……」

 

「……話を進めます。シッテムの箱を起動して写真

アプリを起動してください」

 

「りょーかい。ってパスワードが掛かってるよ」

 

「『大切な記録』と入力すれば開きます」

 

「へえ……あっ開いた。……うわっ先生ってこんな

奇行ばかりしてたんだ。ゲヘナの子の足舐めてる」

 

「はい。基本的に足は舐めます」

 

「私は舐められなかったなぁ……」

 

スワイプする度に奇行や土下座やら色々な写真が

表示される。自分が知らないだけで先生は沢山

の生徒と出会い、そして過ごしていたようだ。

 

「あっ私が写ってる。懐かしい、後輩達に無理やり

ビキニを着せられたんだよね。ほら見て、傷痕とか

目立って全然可愛くない」

 

「ですが先生は可愛いと言ってましたよ」

 

「あの人は誰にだって言ってるって。優しさの権化

みたいな人だったんだから」

 

「……否定は出来ませんね」

 

「あの時は青春って感じだったなぁ……」

 

「もし戻れるのならどうしますか?」

 

「……私は戻らないよ。罪を背負って生きるって

皆に誓ったから。それに私の後輩達はそんな事を

望んでないと思う。だって会いに行っても雲の上

から落とされて『まだ早いです』って……」

 

「雲の上?」

 

「私一回死にかけてさ。楽になりたくて、孤独から

解放されたくて。でも空から追い出されちゃった。

多分あそこが天国なんだろうね」

 

「支離滅裂な発言ではありますが……確かに箱から

傷ついた貴女を観測していますので嘘ではないと

判断します」

 

「そっか。……ねえアロナちゃん。今の私達をさ、

先生が見たらどんな言葉をかけてくれるのかな」

 

「……分かりません。ですが前を向いているユメに

感動して涙を流すかもしれませんね」

 

「ふふっ、そうかもね」

 

 

 

 

 

 

「"んな訳ないでしょうが!?"」

 

「やかましいぞ」

 

「"おめえのせいだよ!唯一私に残った生徒達を

嫁と娘にしただぁ!? 殺すぞてめぇ!?"」

 

「ユメをよろしくと言ったのは先生だろう」

 

「"うるさい! こんなのはただのNTRだよ!

汚い、これがゲマトリアのやり方か!!"」

 

「だが二人とも幸せにするぞ」

 

「"それは当然でしょうが!! あーもう!!

二人共泣かせたら許さないからね!!"」

 

「任せておけ」

 

「"はよ帰れ寝取り野郎!! 二度と来るな!!"」

 

誰だって 大事な人が寝取られたら 壊れる




お母さんって呼んでね。大事な事だから何度も言うよ。
ユメお母さんって呼んでね? アロナちゃん♪


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愛の暴走

酷い話


「先生先生」

 

「どうしました?」

 

「じゃーん! 一年生の時のコスプレー!」

 

「ほう」ムラッ

 

「かーらーのー……先生、好きですよ」

 

「敬語攻撃……」ムラムラ

 

「うへへ〜元気になった?」

 

「なりましたよ。なので責任をとってもらいます」

 

「うぇ///」

 

パンパン(賞味期限が近い食パンを食べさせる音)

 

「も、もう入らないよぉ……」

 

「吐き出してはいけません。全部味わって食べて

くださいね?」

 

イチャイチャイチャイチャ

 

「一線越えてない? というか学校で何してんの

あのバカップル」

 

「最近黒服先生もおかしくなってますよね。

やけにホシノ先輩の近くにいるような……」

 

「昔からずっとそうじゃない」

 

「ん、でもホシノ先輩が幸せそうだからいい」

 

「その代わり毎日私達はブラックコーヒーを飲む

羽目になるんだけど? なんならブラックなのに

甘ったるく感じるレベルよ?」

 

「あ、あはは……まあ平和なのは良い事です」

 

「それはそうだけど……ところでノノミ先輩は?」

 

「本日は学校に来ないようです。シャーレに用事が

あるらしくて」

 

「そうなの? 珍しいわね」

 

「ん、シャーレの全権利を握ればアビドスの復興も

夢じゃなくなるね」

 

「……おや。貴女達来ていたのですか。全く、声を

かけて頂けないと分かりません」

 

「最初からいたんだけど?」

 

「ホシノ先輩を抱きしめてキスをしている辺りから

ずっと……」

 

「まあ良いでしょう。……おや、ノノミの姿が

ありませんが遅刻でしょうか?」

 

「ん、少し上にスクロールしたら書いてある」

 

「本当ですね。それとシロコ、メタ発言を多用

するのは控えてください」

 

「ん、検討に検討を重ねて更に検討するね」

 

「ねえ黒服、あんた少しは自重してくれない?

毎日毎日ホシノ先輩とのイチャつきを見せられる

私達の事も考えてよ」

 

「分かりました。では週210回のいちゃつきを

週209回に減らします」

 

「あんた本当に馬鹿よね」

 

ーーー

 

「黒服さん」

 

牢屋の中で大人しく過ごしている黒服の前に現れた

生徒。彼女の名前は十六夜ノノミ。何故か牢屋の鍵

を持って彼の牢屋前に立っている。

 

「貴女は……ノノミさん?」

 

「はい。貴方を解放しに来ました」

 

「貴女に何のメリットがあるのです?」

 

「私はただ……貴方に変わって欲しい。私の知る

黒服さんは悪い大人ではありましたが……今では

ホシノ先輩が大好きな変態さんになっています。

貴方もきっとそうなれる筈なんです。だから私は

チャンスを与えます。少しでも変わりたいとそう

願ってくれたならこの手をとってください」

 

「………」

 

馬鹿馬鹿しい。悪い大人に良心を見せるなんて実に

愚かだ。その優しさにつけ込まれて良い様に利用

されるのがオチなのに。なんて都合のいい存在。

是非有効活用させて頂こう。

 

「……分かりました。私は変わりたい」

 

黒服はノノミの手を掴み内心ほくそ笑んだ。

また実験が再開出来ると。

 

「ありがとうございます☆ では帰りましょう♪」

 

「? 何処にですか?」

 

「『私達の家』に、ですよ♣︎ ようやく出会えた私の

私だけの黒服先生。絶対に逃しません♡

 

その日黒服は思い出した。搾取される側は彼女では

なく『自分』なのだと。そしてその獲物を捉えた瞳

から逃れる事は出来ないと。いつの間にか自身に

絡まった謎の縄がそれを物語っていた。

 

「マエストロ先生に作って貰ったんです。私以外

絶対に解けないゲマトリアすら逃さない拘束具。

大丈夫ですよ、黒服先生。貴方が変わりたいと

言ってくれたから私はそれを信じて行動します。

ですので時々は私に応えてくださいね♡」

 

「……嗚呼。終わりですね」

 

彼は自分の運が無さすぎる事を呪うしかなかった。

その後永遠に続くノノミの拘束によってきっと

変わってしまう時が来るのだろう。最もその記録は

既に破り捨てられているので閲覧は出来ないが。

方や星に魅入られて幸福に包まれた黒服。

方や十六夜の月に魅入られて束縛から抜け出せず

闇を彷徨う事となる黒服。

同じ存在でも積み重ねてきた行動と経験によって

結末というのは変わるものだ。でもこの結末は

悪役には可哀想だね。




黒服先生の癖は敬語で照れるホシノ


それはそれとしてやりきりましたね。
暫くはイベント的な話が続くかもしれません


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黒服調教計画#1

どうしてこれを選んでしまったのか


十六夜宅の一室。そこには縄で縛られた黒服とそれを

眺めて笑顔を浮かべているノノミの二人が居る。

 

「何が目的なのですか?」

 

彼に問われて悩む素振りを見せた後にノノミは当然の

ように「永遠の愛を誓う事です」と言う。永遠の愛、

つまり結婚をしたいという事だろうか?

 

「生憎ですが期待には添えません。ですのでこの縄を

解いて解放して頂けませんか?」

 

「解放? しませんよそんな事。ようやく二人きりの

誰にも邪魔されない時間を手に入れたんです。なので

黒服さん、貴方を私好みの人に調教します」

 

「……調教ですか?」

 

「はいっ☆」

 

この少女、神秘ではなく狂気を秘めているのか?

話が通じているようで通じていない……冷静に

考えればキヴォトス人は大体話が通じなかった。

 

「まず一つ目の選択肢です。ラブラブのカップル、

あるいは血が繋がっていない義理の姉弟。どちらが

好みでしょうか?」

 

「全く興味がない二択ですね」

 

「……☆」

 

ーーお仕置き中☆ーー

 

「甲乙捨てがたいので選択が難しいです」

 

「なるほど〜☆ では最初ですので刺激が少ない

ラブラブカップルにしておきましょう♪」

 

「それでお願いします」

 

「先生は私になんて呼ばれたいですか?」

 

「別にどのような呼び方であっても興味はな」

 

「……☆」

 

「いえ、やはり特別な呼び方を希望致します」

 

「良いですね〜じゃあダーリンとかはどうですか?

カップルといえば! みたいな感じがします☆」

 

「それはカップルというより新婚というイメージの

方が強いと思いますよ」

 

「カップル……まあ、先生は私との関係をそこまで

考えてくれているのですね♪ その調子でいけば

きっと悪い大人から素敵な旦那様になれますね♡」

 

「そういう訳では……いえ、それで構いません」

 

この短期間で黒服が理解した事。十六夜ノノミは

搾取する為の存在ではなく自身にとって恐怖を抱く

恐ろしい生徒だったという事。こちらに敵意、殺意

は感じないものの謎の強要をしてくるのは何故?

 

「強要の理由、ですか?」

 

……声に出ていたようだ。仮にそうであってもまた

お仕置きをされるだけだろう。狼狽える必要はない

 

「私好きな人がいたんです。ですが振られちゃって

私は諦めたんです。この恋心はもう捨てよう。そう

決めて前を向こうとした時に貴方に出会いました。

私の初恋の人と同じ姿の貴方に」

 

「見た目が同じなだけです。貴女の思う黒服と私は

違う存在。勘違いをしてはいけません。貴女の恋心

をぶつける相手は私ではなく……」

 

「……☆」

 

「是非私にぶつけてください」

 

「ありがとうございます。やっぱり貴女も私の知る

黒服先生と同じで優しい人ですね」

 

「(……アビドスで一番恐ろしいのは暁のホルスでも

砂の神でもなくこの十六夜に魅入られた狂人……

やはり生徒に接触するべきではなかった)」

 

「そんな優しい貴方を私はダーリンと呼びます。

ですので貴方は私を……」

 

「……ハニーと呼べば良いのでしょうか?」

 

「ぴんぽーん♪ 良くできました♪」

 

刺激しないように回答をすると彼女は上機嫌になり

頭を撫でてくる。子供扱いをされている感覚に陥り

多少は不快になったが撫でる手は止まらない。

 

「大人だから、子供だからなんて関係ありません。

私はダーリンを撫でたいんです♪」

 

「……本当にそう呼ぶのですね」

 

「はい♪ ほら、ダーリンも」

 

「……ハニー?」

 

「何ですか〜♡」

 

「この縄を解いてくれませんか?」

 

「嫌です☆」

 

嗚呼、この地獄はいつまで続くのだろうか。

 

ーー初日の調教結果☆ーー

 

・ヒアリングをして根が優しい事を確認♧

・ラブラブカップル×→新婚さん♡

・ダーリン、ハニーと呼び合う仲に発展!!

・お仕置き回数 一回

 

「以上が報告書です☆」

 

「あ、ああ。受け取っておこう。念の為に確認を

しておくがお仕置きとは何をしたんだ?」

 

「それは聞かない方が良いですよ」

 

「……そうしよう」

 

変な報告書を受け取り黒服の現在の状況を確認した

マエストロは同情した。しかし直後に「妥当だな」

と考えを改めた。悲しい事に黒服の味方は居ない。

 

「ふふ、もっとどろどろに甘やかしますよ〜♧」




パート2はまたいつか

余談ですがナギサ様天井しました


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貴方への想いを言葉に

「おはよう先生」

 

「"おはよう。今日も一日よろしくね、シロコ"」

 

「ん、任せて」

 

それはいつも通りの日常。記憶が蘇ったとしても

変わる事のない書類整理とその当番。

 

「"あれから何か変わった事はあった?"」

 

あれ、というのは先日の事件の話。私達に居場所を

くれた恩人達を助けた。その際に封印していたらしい

恐怖に染まっていた頃の記憶を私は取り戻した。先生

はそれのせいで私が苦しい思いをしていないか心配を

してくれているのだろう。……正直な所かなり辛い。

大好きなものが次々に離れていって最後には孤独に。

昔の事と割り切るのには重すぎる内容だった。だけど

先生にこれ以上心配はかけたくない。それにこの嫌な

記憶を取り戻したお陰で大事な事も思い出せた。

 

「アビドスの皆と……先生がもっと好きになった」

 

「"そっか。もし困っている事があれば言ってね"」

 

「……ん、分かった」

 

困っている事があれば。先生はいつも優しい言葉を

かけてくれる。私が困っているのは貴方の事なのに。

 

「(先生が好きって今言ったんだけど……)」

 

この人は恋愛に対しての質問はいつも曖昧に答える。

前にも黒い女狐に告白されていたが

「"生徒と恋愛関係を持つ事はできないよ"」と

断る。そういう最中で出た結論は襲うのが早いと

振られた生徒が仮眠室で寝ている先生を襲いに

来た事件が何度も発生していた。初めて襲いに来た

のはミレニアム生、そこからトリニティ、百鬼夜行

と様々な学園からの生徒が性欲に身を任せて先生の

貞操を奪いにくる。それを退治するのが私の役目。

完膚なきまでに叩き潰して反省部屋送りにする。

……時々先生から「"やりすぎはダメだよ"」って

注意されるけど。先生はもっと危機感を持った方が

いいと思う。……でも今日は私が反省部屋に行く

かもしれない。

 

「先生」

 

「"どうしたの?"」

 

「愛してる。私と結婚して欲しい」

 

言った。言ってしまった。もう後には引けない。

 

「"……本気なんだね"」

 

「うん」

 

「"……少し考えさせてほしい"」

 

そう言って先生は席を立ち部屋から出ていった。

残された私はもし振られたら……と考えて胸が痛く

なりながらも書類整理を再開した。

 

ーーー

 

「"どうしようマエストロ! 恐れていた事態が発生

してしまった!! 助けて!!"」

 

『落ち着け。何が起きたのか説明してくれ』

 

「"シロコに結婚して欲しいって告白されたんだ"」

 

『そうか。今度赤飯を用意しておこう』

 

「"ありがとう。……じゃなくて!! 冷静になって

考えてマエストロ!! シロコはまだ未成年!!"」

 

『ロリコンになるだけだろう』

 

「"馬鹿なの!?"」

 

『ゲマトリアだが』

 

「"ふざけてる場合じゃないんだよ!! どうすれば

いいか一緒に考えてよ!!"」

 

『どうするも何も応えてやれば良いだろう。大人の

責任をとってやればいい』

 

「"そういうけどさぁ……私先生なんだよ? 生徒に

手を出すのも生徒と結婚するのも重罪だよ?"」

 

『それならこう言えばいいではないか。……とな』

 

「"そ、それならまあ……ありかもしれない。

分かった、シロコに伝えてくるよ"」

 

『ああ』

 

ーーー

 

「"お待たせシロコ"」

 

「ん、待ってた。答えを教えて」

 

「"うん。……やっぱり私は生徒と恋愛は出来ない。

シロコには申し訳ないけど今は結婚は難しい"」

 

「………」

 

「"だからシロコが無事に卒業して先生と生徒の関係

じゃなくなった時まで気持ちが変わってなかったら

また告白して欲しい。その時はシロコの想いに応える

って約束するよ"」

 

「……ん、言質取ったよ。約束、だからね」

 

シロコは結果的に振られてしまった。但し未来への

期待を胸に抱けた。将来、先生と生徒の関係から

変わった時、それは夫と妻になっている……

かもしれない。




そんな訳がない


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魔の手

実体を持ってから数日が経過した頃。梔子アロナは

自らの身体を動かす事に慣れてきていた。最低限の

日常生活は不自由なく行え……ただし食事等の人が

生きる為に必要な行為をする必要があるので箱の中

に閉じこもっていた時よりは不便ではある。

 

「アロナちゃん、おっぱい吸う?」

 

「何故そのような行為をする必要が?」

 

「子供はお母さんのおっぱいを吸うって前に雑誌で

読んだんだ。さあ遠慮なく吸っていいよ!」

 

「吸いません。子供とはいえ産まれたばかりの乳児

辺りしか母乳を吸う行為をしません。お母さんの胸

を好む変態は別ですが。それこそ頭が二つあって

「これなら同時に吸えるな」と嫌悪感を抱くに

相応しい発言を行った方が変態に該当します」

 

「そっか……」

 

何故残念そうなのか。あまり理解したくはない。

実体化してからというもの親は無駄な知識ばかり

教えてくる。親の身体にあるホクロの数なんて何に

使えばいいと言うのだろうか?

 

「あ、そうだアロナちゃん。そろそろ今日の夜ご飯

の食材を買いに行くけど一緒に行く?」

 

「否定。私は今から休息、もとい昼寝をします」

 

「………」

 

「……何ですかその眼は」

 

「一緒に行こうよぉ〜さーびーしーいー!!」

 

「……仕方ないですね」

 

「やったー! アロナちゃん大好き!」

 

駄々をこねる姿はまるで子供だ。愛は感じるものの

親ならばもっと落ち着いて行動して欲しい。

 

「当然手は繋いでいこうね!」

 

「……貴女の好きなように」

 

ーーー

 

そう、これが今朝までの記憶。ユメと買い物をしに

出掛けた。その後の記憶は途切れており、今は縄で

縛られて暗い部屋に閉じ込められている。

 

「"起きたかな?"」

 

一番聴き慣れた大人の声。但し記憶している情報

から僅かながらに相違している為この先生も私の

知る先生ではなさそうだ。部屋の雰囲気と先生の

態度でこの状況を推察する事が出来た。どうやら

私は先生に誘拐されたらしい。

 

「"びっくりしたよね。ふとミレニアム近辺に用事が

あったからユウカでも抱きに行こうと思ったら……

こーんな癖に刺さるロリ、つまり君が居たんだ。

気づいた時には誘拐していたよ"」

 

「………」

 

「"君の言いたい事は分かるよ。誘拐は犯罪だ!

って言いたいんだよね。でも残念ながら私はそう、

シャーレの先生なんだよ。つまり何をしても良いと

連邦生徒会から許可を得ているんだ"」

 

「………」

 

「"見た事のない制服だけど……えっちなら大丈夫!

あ、黒タイツかニーソかだけは確認させてもら"」

 

「先生」

 

「"どうしたの? 前戯はいいから本番的な奴?"」

 

「その姿と声でそんな事を言わないでください。

それと……あなた死にますよ」

 

「"私が? 残念ながら私は先生だよ。もし私が

居なくなったらキヴォトス中の生徒が悲しんで

暴走してしまうかもしれない。そんな状況は誰も

望んでいない。つまり私は死なないんだ!"」

 

「普通に殺すが」

 

「"うわどっから現れたの!?"」

 

「ゲマトリアだぞ? それはどうだっていい。

貴様私の娘に何をしているんだ?」

 

「"えっ"」

 

「返答によっては例え貴方が先生であっても私達は

命を奪います」

 

「"うおでっか……"」

 

「貴様私の妻にも欲情したな?」

 

「"それは仕方ないでしょうが! こんなにでかい

たわわなんて滅多にお目に掛からないんだよ!"」

 

「ユメ、遺言を聞いたぞ。やってくれ」

 

「はい。ゴミ掃除を始めましょうか」

 

「"お慈悲〜!!"」

 

「ありません」

 

「"そ、そんなぁ! 一度くらい良いじゃないか!"」

 

「大人なら『責任』をとってください」

 

残念ながらこの世界の先生は屑人間のようです。

縄で縛られた私はあっさりと親に救出されました。

 

ーーー

 

「こ゛め゛ん゛ね゛ア゛ロ゛ナ゛ち゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!!!!!!!!!」

 

「強く抱きしめないでください。苦しいです」

 

「わ゛た゛し゛か゛め゛を゛は゛な゛さ゛な゛け゛れ゛ば゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!」

 

「別に何もされてませんので大丈夫ですよ」

 

「ほ゛ん゛と゛に゛……?」

 

「はい」

 

「少し目を離しただけで誘拐するとは……

仕方ない、少しシャーレの先生を教育して

最低限の常識は覚えさせないといけないな」

 

「とりあえず今はシッテムの箱を没収してまた

監禁しておけばいっか」

 

「そうだな。どうせならその箱の方にもいる筈の

アロナを実体化でもさせて姉妹にでもするか」

 

「……理解しました。この世界の悪い大人は

こうして粛清されていくのですね」

 

唐突にアロナの脳内には「そういうこった!」

と叫ぶ変な人が浮かんだとかいないとか。



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シャーレの先生。二次創作特有の性欲を抑えられない

犯罪者予備軍は無事更生施設に放り込まれた。

その為連邦生徒会長ど同様に代理を立てる必要が

生まれてきてしまった。そして選ばれたのは……

 

「『梔子ユメ』さん。貴女をシャーレの先生代理

として迎えたいと思います」

 

「……ちなみに拒否権は?」

 

「……申し訳ありませんが決定事項です」

 

そういう事なのでシャーレの先生改めてユメ先生

が爆誕した。……まあ、強制だけども。

 

「って事があったんだーほら、シャーレの先生用の

制服も貰ったんだよ」

 

「後で抱かせてくれ」

 

「仕方ないなぁ……♪」

 

性欲を持て余している先生は此処にも居たようだ。

しかし問題はない。純愛は許されるのだから。

 

「しかし強制で先生の代理か……連邦生徒会とは

随分と偉そうな事をするものだ。この際彼女達を

我々の管理下につけるというのも……」

 

「確かにホシノちゃん一人で制圧出来そうだけど……

今はまだいいんじゃないかな」

 

「その言い方だといつかは制圧するのですか?」

 

「いつかはね」

 

「それが貴女の望む事ならば私は助力します」

 

「ありがとうアロナちゃん」

 

「とにかく怪我と残業には気をつけてくれ。それと

必ず午後10時までには帰ってきてくれ。定時後に

遅れそうなら必ず連絡……いや、私が顔を出そう。

アロナも逐一私に連絡をして貰おう。あと……」

 

「ちょっと過保護すぎるような……嬉しいけど」

 

愛されてる事を確認しつつとりあえず致して多少

汚れた制服を着てシャーレの部室に向かった。

軽い説明を受けた後、初日にも関わらず大量の書類

と対面した。

 

「……ねえアロナちゃん、手伝ってほしいな」

 

『残念ながら私はシッテムの箱に入ってユメの事を

守らなければいけないので手伝えません』

 

「そっか……あ、お母さんって呼んでないから今夜

のおかずに人参混ぜるね」

 

『書類整理を手伝うので勘弁してください』

 

面倒な仕事よりも人参を食べる事が嫌なアロナは

すぐに箱から出てきて仕事を手伝ってくれている。

健気で可愛いので夜は甘やかしてあげようとユメは

思いながら書類を片付けていた。そのまま数時間が

経過した頃に扉が勢いよく開いて一人の怒った生徒

がこちらに向かって話し始めた。

 

「ちょっと先生!! この領収書は何ですか!?」

 

服装からしてミレニアムの生徒だろうけど……

領収書って何の話だろう?

 

「……ってあら? 貴女は一体?」

 

「私はユメ。シャーレの先生代理だよ」

 

「先生代理……」

 

ーー以下完璧〜な脳内

 

ユメさん……+先生代理=先生の関係者……

先生はまだ結婚していない事を考えるに……

先生のお姉さんか妹さん!?

 

ーー終わり

 

「ユメさん!」

 

「どうしたの?」

 

「私は早瀬ユウカと言います! いつも先生には

お世話になっていて……」

※↑シャーレの先生の事を言っている

 

「そうなんだ。頼りになる人だよね」

※↑マエストロの事を言っている

 

「はい! ……時々子供みたいなことばかり言って

困る時がありますが……」

 

「うんうん。そこも魅力的だけどね」

 

「分かります。……ところでユメさんは先生の

お姉さんですか? それとも妹さん?」

 

「妻です」

 

「………」

 

その後誤解が解けるまで気まずい空気だったのは

いうまでもない




0評価もらってやる気なくなって失踪しようかと思いましたが共犯者に評価なんて気にすんなと言われたので続けます

でももう面白くはならないので期待しないでね


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呪いのカップリング達

昨日諸事情により荒れていたのですが
色々あって暖かいなって思いました
いつも読んで頂きありがとうございます
とても励まされました


ユメがシャーレの先生代理となってから二日目。

誤解が解けたユウカのに書類整理を手伝って

貰いながら手探り状態で業務を行っている。

 

「なんか……面白い書類が多いね。例えばこの

『超人計画申請書』とか。これは却下するけど」

 

「とはいえ書類は書類ですからね。しっかり読んで

承認するかを判断しないといけませんよ」

 

「そうだね」

 

シャーレは凄い権力がある様で普通に申請したら

学園側から承認が得られなかった内容もシャーレを

経由して承認を得られたら学園側の意思を無視して

実行出来るらしい。その為基本的には問題がある

内容が多い。発想は面白いけれど……

 

『生徒同士の婚約を可能にする申請書』

『ん、砂狼テーマパーク開設許可申請書』

『ナギサ様から逃げてゲヘナに戻れる申請書』

『ゲーム開発部の部費をもっと上げて!!』

『黒ホシを流行らせる申請書』

 

「うん、中々に個性的だね。この生徒同士の婚約

っていうのは少し気になるけど」

 

「ああ、それは多分ですけど最近百合って言うの

でしょうか。それに目覚める生徒が多いらしくて

いっその事結婚出来る様にしても良いんじゃないか

と提案があった様で……」

 

「愛の形は自由だからね」

 

「既にゲヘナでは許可は降りているとの事ですが

今回はキヴォトス全土での許可となっております。

元々男性の割合が少ないのでこういう制度が良いと

思いますよ。男性は居るには居るのですが殆どが

ロボットとか人外ですので」

 

「そうだね。私の旦那も人外だし……」

 

「マエストロ先生ですか……ユメ先生、良ければ

一つお伺いしても良いでしょうか?」

 

「良いよ」

 

「ありがとうございます。ご存知だとは思いますが

マエストロ先生ってミレニアムでは堅物と呼ばれて

いまして……生徒に急接近して仲良くなったかと

思えばその子の恋心に気づかずどれだけアタック

しても何故か変な方向に受け止めてくるので殆どの

生徒が玉砕してきたんですよ」

 

「あー……前にそんな光景を見た様な……」

 

「そこで気になったのですが……ユメ先生はあの

堅物先生をどうやって堕としたのですか?」

 

「どうやってって言われても……ただ同棲して

ちょっとしたハプニングでちらっと下着を

見られた程度だから殆ど何もしてないよ」

 

「下着のチラ見せ……成程、そういう技も……」

 

「多分ないと思うよ。……そろそろ話を戻そう。

百合の申請って事はキヴォトス中にカップル達が

生まれているんだよね?」

 

「はい。Bさんという方からカップルになっている

数組の情報を頂いています。ご覧になりますか?」

 

「お願い」

 

受け取った書類には『純愛な百合の花園図鑑』と

悪趣味に書かれており箇条書きでペアの情報が

記載されていた。

 

・私とヒナ←頂点

・フウカとリオ←てえてえ

・ハルナとナギサ←エデン条約(意味深)

・ミカとコユキ←ピンクは癒し、淫乱じゃないです

・その他現在観測中、定期的に報告予定

 

「とりあえず何が何でも公式カップリングはしない

鋼の意思を感じたよね」

 

「なんですか公式って」

 

「触れちゃダメだよ」

 

「そうですか……」

 

「まあ……これは承認しても良いんじゃないかな。

あくまで双方同意の上ならって話だけどね」

 

「そうですね。ライバルが減ってくれた方が私と

助かりますので」

 

「ライバル? ああ、そういえば前に夫が話して

いた様な……確かユウカちゃんは先生の事が……」

 

「は、はぁ!? べべ別に好きなんてそんな筈が

ありませんよ!? 普段からだらしなくて私が側に

居ないとダメだから仕方なく一緒に居るだけで!」

 

「(この子分かりやすいなぁ……)」

 

ダメな歳上としっかりした後輩。不思議と懐かしさを

覚えるユウカの恋をユメは陰ながら応援した。

 

ただし先生はノアと結婚する



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副委員長だってシナる

ゲヘナサイドのお話


ゲヘナ学園は前回の騒動で膨大な被害が生まれた。

大半がヒナに喧嘩を売って返り討ちにあった生徒

のものであるが操られていたのなら仕方ない。

幸いにも致命傷を負っている生徒はいなかったので

治療は滞りなく進んでいた。……この生徒までは。

 

「珍しいですね。貴女が抱きついてくるなんて」

 

「……何か文句でもあるんですか?」

 

「いいえ、歓迎しますよ」

 

天雨アコ。ゲヘナ学園に所属している生徒で唯一人ベア先生に悪態をつく子。実際はただ素直に言うのが苦手なだけで先生の事は慕っている。なんなら大好きまである。それでも素直になれない、ならない謎のプライドを持っている面倒な子。ただし0.75%程の確率で甘えるモードに入る。

 

「(こういう時のアコは大体思い悩んでいる。

前にこうなった時は確か一年生の頃にサポートが

上手くできずに落ち込んでいた時ですので。一先ず

アコが話し出すのを待ちましょう)」

 

「……今回の騒動」

 

「………」

 

「私は良い様に操られて……その上で何も出来ずに

ただ貴女達に迷惑を掛けただけでした。他でもない

大好きなヒナ委員長と貴女に……」

 

「ツッスゥ……」

 

甘えてくるアコの恐ろしい所。それは普段の彼女からは想像つかない程に直球で大好きと伝えてくる素直さ。このギャップ萌えの破壊力は思わず普段の面倒臭い彼女すらも愛おしく思える程。過去にこの破壊力を知ってしまったベア先生は自らの手で仕立てて用意した制服の横乳部分を切り取ったり生意気に罵倒されたりしても受け入れてしまう。現に今も話を遮って寝室に連れて行きたいという欲求も生まれている。ただし彼女は怪我人。普段とは違って乱暴に扱えないのだ。

 

「……やっぱり私は駄目な人間なんです。先生が側に居てくれないと何も出来ない……だから見捨てないでください……お願いします」

 

「見捨てませんよ。貴女も大切な生徒の一人だという事を忘れないでください。……それとアドバイスを贈りましょう。アコはあまり自分を卑下してはいけませんよ。あの異変は一部を除いて殆どの生徒が操られていました。あれは仕方のない事だったのです。それに貴女は戦闘よりも普段の書類整理や風紀委員会の業務を半分くらい請け負ってくれるではありませんか。私はそれに助けられているのです」

 

「ですが私は……」

 

「もし納得出来ないようでしたら悩みなさい。私と違い貴女はまだ若い。どれだけ時間が掛かっても良い。いつか自分が納得出来る答えを出してください。自分を大切にする為にも」

 

「……分かりました」

 

「(……さて、ここまでまともに助言をしましたがそろそろ限界なんですよね。何がって? よく考えてください、アコが抱きついて来ているのですよ? 柔らかいものが当たっているし首に手を回されている。足も同様に密着してくる。これは一体どうすればいいのですか? 見方によっては既におせっせ中に思われても仕方がない体勢ですが? まあ、確かに? アコも今はその様な気分ではないと思うので偶々この大勢になったと思いますが……まず大前提としてアコの身体は柔らかい。マッサージという名目で全身愛撫したくなる程には魅力的です。そんな彼女に抱きつかれてみてください。飛ぶぞ。叡智とか過酷とかそういうレベルじゃないんです。性欲丸出しのシャーレの先生はともかくこれはマエストロも堕ちるレベルの誘惑。既に理性は限界を迎えようとしている。このまま抱き合っていると間違いなく寝室に連れ込んでしまう。俗にいう深淵行きとなってしまうんですね。これはベアアコカップリングもありになってしまうのでしょうか……いえ、結婚は一夫多妻制がないのでまだ出来ませんが……)」

 

「……もっと強く抱きしめてください」

 

「アコ、私達結婚しましょう」

 

ーー理性とは誘惑の手によって蝕まれ、そして失われた場合目の前の果実に手を出すのだ。

 

ベ=ア・オーバ(1923〜1973)




まだ若いんだから大丈夫。私が職場でよく言われる言葉です


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小鳥遊ホシノ身体測定

ーー調査レポート:覚醒したホシノについて。元から優れていた身体能力が覚醒を得た事でどの様に変化をしたのかを調査した。その一部始終を見て頂こうーー

 

「それでは久方振りに能力測定を始めます」

 

「測定? じゃあ脱いだ方がいいの?」

 

「いえ脱がなくて結構です。……何故脱いでいるのです? 私の話を聞いていたのですか?」

 

「体操着に着替えようと思って」

 

「成程。ならば問題ありませんね」

 

問題はある。しかし彼は気づいていない。目の前で女子高生の着替えを眺める事の異常性を。だからロリコンだと言われるのだと。ただしこの空間にそれを追求する人間は居ない。居るのはバカップルの二人だけだ。

 

「じゃあ始めよっか」

 

「分かりました。ではまずは覚醒を……」

 

「どうやって覚醒すればいいの?」

 

「………」

 

認知のズレ。それは誰にでも起こり得る事である。この場合は黒服側はホシノが自由に覚醒出来ると思い込んでいた事によって発生してしまった事態であった。それもその筈、他の覚醒者である空崎ヒナ、並びに梔子ユメは自由自在に姿を切り替えられる。

 

「どうやら先に自由に覚醒出来る様に訓練した方が良さそうですね。確かあの時は抱きしめてキスを……」

 

「うぇ」

 

「では早速失礼して……」

 

「ち、ちょっと待って!? そんなの訓練じゃない!! ただのイチャイチャじゃん!! ダメだよ先生!!」

 

「これも訓練です。それに普段からそういう行為をしているにも関わらず何故照れているのですか?」

 

「だ、だってカメラが回ってるし……」

 

「それを言うなら先程の着替えも全て録画してあるので今更でしょう。さあ観念して唇を差し出しなさい」

 

「あぅ……///」

 

☆弱点発見:ホシノは黒服に強く攻められる事に弱い

 

そして抱き寄せられて唇を重ねる……もののホシノが覚醒をした様子は見受けられない。それどころか頭から煙が出て力無く寄りかかってくる始末。残念な事に彼女は未だ恋愛耐性がクソ雑魚だった。普段自分からアピールしているものの振り向いてくれなかった彼が自ら攻めてくるまで発展したにも関わらずクソ雑魚。いつぞやのミレニアム出張時に抱き枕代わりにされて悶えていたあの頃から何一つ成長していない。そこが魅力でもあるので変わらないで欲しいと黒服は願っているとか。

 

「それはそれとして覚醒して頂けないと困りますね……この録画がただのイチャつきで終わってしまうのは流石に……ですがホシノは既に出来上がってしまったので続行は不可能……嗚呼、実に困りました。まあいいでしょう。この成果を持って次回の測定に活かす事にしましょう」

 

「うへぇ///」

 

今後ホシノが覚醒を自由自在に出来る様になって身体測定を行えるのか……次回に続くーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ですかこのクソ馬鹿ップルのホームビデオは」

 

「何処が覚醒による調査レポートだロリコン」

 

「"映像としてはカットしてるけどさりげなくホシノの生着替えを見ている辺り先生としては終わってるね"」

 

「レッドウィンターでは粛清対象ですよ」

ソウイウコッタ!

 

「………」

 

何故私の扱いはこうなってしまったのか。過去の悪い大人のイメージは何処へと黒服は考えていた。




ホシノが覚醒する条件


クソアマな過剰すぎる愛を受ける事。ただし普段は気絶するので覚醒は出来ない。大欠点


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黒服調教記録#2

前回から数日が経過して十六夜の狂気に蝕まれている黒服は若干本来のゲマトリアという存在意義を見失いつつある。言い間違いをすればお仕置き、相応しい対応をしなければお仕置き。一つしかない答えを選択しなければ彼女の思う『黒服』が出せる答えが出るまでお仕置きを繰り返される日常。プライドをへし折られて過ごす日常の最中唯一の安らぎといえば……

 

「それじゃあ先生、行ってきますね♪」

 

「はい、お待ちしております」

 

そう、ノノミが出かける時間。学校やショッピング等で不在になる間は一人の時間を過ごせる。ただし縄で縛られている為抜け出そうとしたりは出来ないが。

 

「こうして一人で過ごしている間だけは私という個々を見失う事がない。この時間がなければ私は既に十六夜ノノミさんに洗脳されていたでしょう」

 

ノノミは一度出掛けたら数時間は帰ってこない。なので多少は気が楽になるのだが今日は違った。

 

「失礼します」

 

来客が訪れたのだ。地面にまでついてしまう程伸びた髪の毛、凛々しくもこちらを見つめてくる瞳、そして背中に背負った大きなレールガン。それは紛れもなく王女その人であった。

 

「王女……まさか私を助けに……?」

 

「はい。助けに来ましたよ。今から貴方を私との愛の巣にお迎え致します。私だけの父」

 

王女……否、小鳥遊ケイは獲物を捉えた様な顔つきになり縛られたままの黒服を運び出し始めた。その状況になった彼は悟る。嗚呼、この王女も十六夜の狂気と近しいものに染まっていると。

 

ーーー

 

連れ込まれた先はミレニアム。千年問題の名を冠するその場所に建てられた小さな一軒家。小鳥遊名義となっているその家に連れ込まれてしまった。

 

「今日から此処が貴方の家です」

 

前にも聞いた様な台詞を発する王女に対し問い掛ける。何故この様な事を? 大方予想はつくものの聞いておかねばならないものだ。

 

「合法的に手を出せる黒服。私にとってはそれだけで拉致をする価値があるというものです」

 

やはりキヴォトス人には話が通用しないのだろうか? 何故こうも拉致をして独占したいという欲望に身を任せてしまうのか。何故先生はこの子達に常識や倫理観を学ばせないのだろうか?

 

「せっかくですので二人の時間を堪能するとしましょう。例によって貴方の事はパパと呼ばせて頂きます。パパ活ではありませんのでご安心を」

 

「そうですか……王女よ、一先ずはこの縄を解いて頂いても宜しいでしょうか?」

 

王女……? 言わないですよねそんな事。いつもの様に名前で呼んでくださいね」

 

なんて無茶苦茶な。名前なぞ知る筈がない。……いや、前にマエストロ達と王女を争わせた際に名前を発していた記憶が……確か……

 

「アリス」

 

決まった。地雷を解除するのはノノミで経験済。そう簡単に間違える筈がないでしょう。甘く見ましたね王女よ。

 

そうですかそうですかやはり貴方は私よりもアリスを優先するのですねいえ仕方がありませんアリスと比べて私は神秘という魅力も殆どない『欠陥品』ですもの名前を覚える価値がないあるいは忘れる程度の存在であると宣言されたところで仕方がないとも言えますねええそれに私はアンドロイドですので心がありませんつまり傷つかないから許されるのでしょうですので貴方は何も悪くありません全て私が悪のです全部全部全部全部全部全部全部全部全部」

 

壊れてしまった。彼女の名前はアリスではないのか? ……冷静に考えるとシッテムの箱内にもう一人王女に近しい存在の名前が記載されていた気がする。そちらの方だったか。確か名前は鍵の意味を成す筈が馬鹿な生徒が読み間違えた影響でその名称で固定されてしまった方。

 

「冗談です。貴方の名前はケイ、そうでしょう? 私が貴方の名前を忘れる筈がないです」

 

あまり興味がない故に記憶の中から探し出すのに苦労した名前をあたかも当然知っているかの様に話す。するとどうだろうか? 先程まで病んでいた彼女の眼には光が灯りテンションが上がっている。この解答が正しいものだった。

 

「ま、まあそれくらい父ならば分かっていて当然ですね。今回は特別に許してあげます」

 

「……どうも」

 

それでも精神がすり減る事には変わりがない。側から見たら彼女達よりもこちらの方が異形な存在であるにも関わらず。

 

「では寝室に行きましょうか」

 

「何故そうなるのですか?」

 

「禁断の恋について知りたいのです。父と娘の」

 

「知る必要はありませんよ」

 

「貴方に拒否権はありません」

 

なんて理不尽な……こんなヒステリックな修行者を作るとは無名の司祭は悉く無能と言わざるを得ない。

 

「先に言っておきます。私はアンドロイドなのでスタミナは無限です。この意味が分かりますね」

 

「分かりたくはありません」




次回があるなら次は地獄絵図です。
既に地獄絵図ですが


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悲惨なリモート会議

何故リモート会議をやるのか?
なんとなくらしいです


ーーhoshinoloveが会議に参加しましたーー

 

『約束の時間一分前にも関わらず誰も参加していませんね。マイペースなのは構いませんがもう少し時間に余裕を持って行動するべきだと思います』

 

ーーしゃーれ☆が会議に参加しましたーー

 

『どうも〜って黒服しか居ない……ちょっと嫌だ』

 

『私はまだ貴女に嫌われている様で……ん? 何故ユメがシャーレを名乗っているのです?』

 

『色々あったんだよ。というか黒服の名前もおかしくない? なにホシノラブって……ロリコン極めすぎじゃない?』

 

『これはホシノが設定した名前です』

 

『さっすがホシノちゃん、良いセンスだね☆』

 

『……それよりも何故シャーレが会議に参加する必要が? 今回の議題内容は……』

 

ーー芸術家が会議に参加しましたーー

 

『おっと黒服、ユメは大切な存在だぞ? 常に考えていたのだ。ゲマトリア会議は華がない。枯れている赤い花だけしかないのは心身共に異常をきたす。ならば新しい花を用意するのは当然だろう』

 

『貴方がユメを見たいだけなのでは?』

 

『当たり前だ! 共働きは悲しいんだぞ!』

 

『ま、まあ落ち着いて。その分家に帰ったら毎日熱気が出てますってアロナちゃんから言われるくらいにはなってるし……ね?』

 

『ユメがそう言うならば落ち着こう』

 

『それで良いのですかマエストロ……』

 

ーーお前もプリンにしてやるが会議に参加しましたーー

 

『皆様お揃い……ではありませんね。それに何ですかこの空気は』

 

『おやゴルコンダ。貴方がこの様な場に参加するのは珍しいですね』

 

『色々ありましたからね。ですがデカルコマニーは不参加とさせて頂きます。彼は先日シャーレの先生代理の方から教員免許を受け取って以降謎の暴走を続けておりまして』

 

『貴方達までこの道に堕ちてしまうとは……』

 

『デカルコマニーが欲しがっていたので仕方なくです。私としては別になくても構わないのですよ。メリットも生徒と恋愛しても許されるとかその程度ですしそのつもりもないので』

 

『最初は皆そう言うものだ。何処まで耐えれるのか見ものだな』

 

『仮に恋愛に発展したとしても私は実体がない故貴方達の様に愛し合うのは不可能です』

 

『実体化したいのか? アンドロイドとしてなら可能だがどうする?』

 

『結構です』

 

ーーBEAKO♡が会議に参加しましたーー

 

『皆様お待たせしました。私の隣にいるこの可愛いアコがどうしても離れたくないとの事ですので致し方なく同席させます。当然許されますよね』

 

………

 

『マダムがそうするのであれば私はホシノを呼んできます。まあ、既に映ってないだけで隣に居たのですがね』

 

『……やはり参加するべきではなかったようですね。何ですかこのカップリング地獄は。おかしいですよ』

 

『そうだぞ! 私は画面越しでしかユメを感じられないと言うのに貴様らと来たら見せつけるように……許さんぞ!』

 

『こらマエストロ、大きい声を出さないでください。アコが怖がってしまうではありませんか』

 

『それは失礼した』

 

『……ええ、今これを読んでいるあなたはこう感じたでしょう。アコが大声如きで怖がる筈がないと。それは違うのです。誰だって急に大声を出されたら驚いてしまうのです。アコも例外なく』

 

『さて、ホシノを膝に座らせたので始めますか。今回の議題は打ち上げの会場についてです』

 

『それなら百鬼夜行とかどう? ちょっと時期は過ぎちゃったけど桜の絨毯が出来るくらい満開らしいから丁度良いかも。予約は必須だけどしシャーレ権限で取れるし』

 

『そんなので権限を使用して大丈夫なのか?』

 

『一応確認して見たんだけど他学園との交流という名目なら大丈夫なんだ。それに前の先生ならもっと悪用してるからこの程度なら問題ないって』

 

『あいつ……今はどうしているのでしょうね』

 

『知らん』

 

『……他に意見がなければそこで良いでしょう』

 

『お待ちください。私の生徒は厚着である以上春の様な気温でも熱中症になる恐れがあります』

 

『成程成程。では一度私がレッドウィンターに赴き採寸を行いましょう。そして一人一人に丁度良い服を郵送しますね』

 

『助かります』

 

『……他は大丈夫そうですかね。では日程が決まり次第また連絡しますので』

 

『百鬼夜行か……キキョウが怖いな……』

 

『ところで黒服、一つ聞いても?』

 

『何でしょうか?』

 

『重婚って認められると思いますか?』

 

『何故私に聞くのです』




誰もゴルコンダの名前に突っ込まない


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