作品執筆のお話、その4-2。

 引き続き章の後半のお話です。


■8話

 この8話を最後に、拙作を深く読み込んで下さっていた読者様が一人、去って行かれました。最後に頂いたご指摘は可能な限り活かしたいと考えているのですが、今もって理解できていない部分も多く情けない限りです。自分の恥を晒すことになりますが、以下はそれについて書きます。

・フラグ

 一番大きな問題は「原作にあったフラグが折れていて、もはや取り戻すのは困難」というご指摘でした。本章の前半が話し合いの連続で構成されていて大きな動き(事件)がない事。本音を語り合って解決する構成は「それで話がまとまるなら苦労しない」という原作に反している事。主人公が提案する解決策に他の面々が同意するには前章までの主人公の活躍が不十分で、雪ノ下や葉山が八幡を認めるに至る根拠が欠けている事、などが書かれていました。

 例えば1巻のテニス勝負を書いた時にも、雪ノ下と三浦を友好的な関係から対立に繋げるには苦労しました。なので「フラグが折れる」意味は理解できますし、「展開のために各キャラの性格が都合良く改変されている」という文字列の意味も理解できます。しかし「それが拙作で起きている」と言われても、「それを防ぐにはイベントを大量に入れて別のフラグを構築すべきだった」と言われても、今なお仰る話がぴんと来ないのです。

 とても丁寧に書いて下さった以上は適当な理解に留めるべきではなく、きちんと納得するか或いはきちんと反論できる域にまで自分の考えを整理すべきだと考えて、以下のような事を考察しました。ひとたび気付いて納得してしまえば「あの時はなんと的外れなことを」と恥ずかしく思う事になるかもしれませんが、伏線、記号化、原作キャラの解釈の三点について続けて書きます。

・伏線との違い

 最初に思ったのは、自分が注意して扱ってきた「伏線」と仰って頂いた「フラグ」とは全く別物ではないか、という事でした。そして自分は伏線しか認識できていなかったのではないかと。

 例えば15話で明かされる解決策に向けて、この8話の時点で明示していたのは前章21話で一言出したゲームの名前のみ。それでも推理小説の伏線であれば「ここで名前が出てるよ!」と言い張っても問題は無いと思うのですが、フラグとはむしろ「お約束の流れ」なのかなと考えたのです。

 別の例を出すと、例えば作中で誰かが不用意に「勝ったな!」と発言すればフラグが立ったと見なされます。一方で、そのキャラが情報の確認を怠るとか体調管理をミスする等は、フラグよりむしろ伏線と表現する方が適切かと思います。

 しかしそこまで考えても、フラグが折れているから筆を置いた方が良いというご意見には、素直に首肯できませんでした。なぜならば、たとえフラグが折れても物語である以上は別の流れが生まれる、つまり別方向からのフラグが立つはずだと考えるからです。

 乱暴な例を挙げれば、原作で主義主張の違いから対立する男女がいたとして、その対立を二次作品で回避したとします。しかし二人が仲良くなることで周囲との関係に変化が生まれると、例えば異性という要素を理由にした対立の可能性が持ち上がってきます。つまりフラグとは一つのルートに限定できるものではなく、枝分かれをしながら複雑に進んで行くものだと思うのです。

・記号化

 そこまで考えて連想したのが「キャラの記号化」という問題でした。例えば黒髪ストレートなら清楚で成績優秀とか、強キャラの腰巾着が主人公に絡んでくるとか、そうした定番の設定・流れによって、作品が違ってもキャラが変わり映えしないという問題です。

 キャラの記号化について考える時に、私は最近だと映画「バケモノの子」の思い出します。あの宣伝ポスターを見た時に、おそらく多くの人は主人公を始め大きく描かれている面々の性格や作中での立ち回りを予想できたと思うのです。それは作品が始まっても同じで、「これは悪い奴らだ」「だから主人公はこう動くのだろうな」と容易に展開が把握できる作りになっていて、それを良しとするかもっと捻りが欲しいと思うかで作品の評価が違うのだろうと。

 つまり定番に厳密に従うほど記号化という批判を受けやすく、逆に定番から外れすぎるとフラグを無視していると受け取られるのかなと考えました。

 そして話を更に難しくするのは、最終的には定番の流れに帰結せざるを得ないという点です。例えば「まおゆう」は魔王と勇者の和解から話が始まりましたが、結局は別の巨悪が登場してそれに挑む形にならざるをえませんでした。例えば「このすば」は異世界テンプレを逆手に取って上手く話を進めていますが、それでも「主人公が、作中に明示された伏線を利用して、魔王を倒す」という結末を避けるのは難しいように思います。

 つまり、どうにも動かしようのない流れが存在する事。しかしそこに至るまでは、テンプレの流れでもそれを裏切る流れでも構わないのではないかという事を考えたのでした。

・原作キャラの解釈

 そこでふと思い付いたのが「原作キャラの解釈が私と違うのでは」という可能性でした。話を雪ノ下に限定して考えます。

 9話の後書きで述べたように、「過去を気にしている葉山のためにも」という雪ノ下の理由は原作と同じです。なので「性格改変をするなら相応のイベントを用意して描写すべき」というご指摘の前半は前提が違うのですが(但しこれは些細な勘違いの類いだと思っていて、ご本人にもその旨はお伝えしています。読者が勘違いしやすい点だと確認できて、次話で注釈を入れられたことに感謝しています)、後半のご提案には頷ける部分があります。

 しかし他者への対し方とは状況によって変化するもので、仮に葉山への拘りがなくなったと自覚できたとしても、別の場面で怒りがぶり返すのも充分に有り得ると私は思います。実際それを13話で書きましたし、そうなると大きなイベントを用意するほどに「あの変化は何だったのか」という話になりかねません。

 つまりご提案に従う場合は、雪ノ下が葉山への怒りを維持し続ける、或いは一度拘りがなくなった後は一切心を乱されないという性格にせざるをえず、それは私の思う雪ノ下の性格と合致しないのです。確かに決定的な意識の変化を描けば、作中で盛り上がりを作れると思います。しかしそれよりも、時間を積み重ねることで拘りから解放されたものの時々ぶり返すという展開の方が、長い目で見ると良いように私は思うのです。

 もう一点、前章においても「雪ノ下が積極的に八幡に関わろうとする動機が見えて来ない」とお伝え頂きました。原作チェンメ(拙作では噂)を雪ノ下主導で解決した事を始め、八幡の活躍が薄れたために「彼を認めるというフラグが折れている」ので「二人を近付ける大きなイベントを用意すべきだった」というご意見でした。

 まず作者としては、そこまできちんと読み込んで下さった事に頭を下げる必要があると思います。その上で、2巻幕間の展開に向けて八幡の活躍を意図的に少なくしたのは確かですが、1巻のテニス勝負や2巻の川崎の話では原作以上に周囲への印象が強まるように(同時に八幡に対する雪ノ下の印象も強まるように)書いたつもりです。また作品の冒頭の時点で、去年から八幡の事を知っていた事を仄めかしています(つまり、入部まで知らなかった原作よりも情報が多いという設定です)。

 とはいえこれらは私の描写不足という部分もあるでしょうし、そこを言い訳にはしたくありませんでした。それよりも決定的だと思うのは、原作3巻で「別に、難しいことではないでしょう」という言葉と共に二人との間に一線を引いた雪ノ下であれば、奉仕部を元通りにするために八幡に関与するのは当然だと私が考えている事です(なお原作の行動全てを拾うと整合性に問題が出ますが、この場面の行動を無視することはできないと思います)。

 それは同じ部活の二人を認めたから取った行動ではなく、仮に八幡が普通のどこにでもいるような生徒だったとしても、事故の関係者でさえあるならば雪ノ下は同じ行動に出ただろうと私は考えています。そして拙作でも、GMに厳しい事を言われ先に帰ったという負い目まである雪ノ下なら尚更そう動くだろうという認識です。それが伝わるように書けていない点に問題がありますが、根底にはもしかしたらキャラの解釈の違いがあるのではないかと思ったのです。

 いずれにせよこの先、拙作が失敗に終わるのであれば、フラグについての感覚を掴みきれなかった点が致命的だったという結論になると思います。せっかくご忠告を頂いたのに反故にするのは申し訳ないですが、私としてはそれを身に滲みて理解できるところまで書いて、失敗するなら明らかに失敗だったと判明するまで書き続けて、己の糧にしたいと思っています。


■後半:ボツ展開をどこまで書くか

 後半で難しかったのは、各キャラの思惑通りには事が進まない点でした。無駄に終わる行動、例えば班分けして留美の様子を窺う相談をしている場面などは全て却下すべきかとも思いつつ、その相談を通して各キャラを描くという目的もあり取捨選択が難しかったです。

 この章の問題を一気に解決するゲームの回でも、立案時点と実際のゲームとでは違う流れになっていて、後者を描写するのは当然として前者をどこまで書くべきか頭を悩ませました。更にはゲーム内容をどこまで書くべきかという問題もあり、3巻で部長会議の詳細を番外編に回した反省からある程度詳しく書く事にしました。その15話について。


■15話

 前章の本編ラストを更新した後だったか、「2巻幕間が違う気がする」というコメントを添えた評価を頂きました。残念ながらそれ以上の詳しいことは自分で想像するしかなかったのですが、あの回は平たく言えば「オリキャラが原作キャラにお説教する展開」で、更には既に述べた音楽の話などもあり、低評価を頂く事も覚悟していました。

 コメントを頂いた後で2巻後半から幕間までを通して読んで新たに気付いた事として、悪い展開になるのを先延ばしにしていて、それが流れを悪くしていると思いました。その経験から、結論を怖れず勿体ぶらずスムーズな流れを心掛けて書いたのがこの15話や、冒頭からシリアス展開にした12話でした。

 15話はゲーム展開の詳細を詰めるのも難しく、「3月のライオン」で穴熊から出て来る棋譜を頼まれた時の先崎九段もこんな心境だったのかな、などと現実逃避しながら頭を捻ってました。


■18話

 まず小ネタとして、13話において葉山と雪ノ下が思い描く「あの人」は別人で、それが最終話の雪ノ下の内面描写で判るように書いたつもりです。これは本筋に影響しない隠し要素ですね。

 この18話を具体例に「読み手に補完の余地を与える」「本筋と枝葉を区別して書く」というご提案を頂き、そこから更に「読み手としての意識が強い」「どう読ませるかという意識を更に強く」という反省に繋げました。実に一月ぶりの感想だったのでとても嬉しく、これらはぜひ今後の執筆に活かしたいと思います。

 そしてもうお一人、内面を繰り返し書き過ぎることでキャラの印象を悪くしていると確認できてとても助かりました。ご指摘を受けて一色絡みの描写を読み直してみると、三浦たちと「仲良くなりたい」「なりたいわけではない」と表記が一定しておらず。自分の中では「実利的な目的があって仲良くなりたいと思っていて、でもそれ抜きでも仲良くしたい気持ちが芽生えているのに気付いていない」という認識で一定しているのですが、上手く伝え切れていない箇所があるなと反省しました。

 そんな風に反省が先に立ちましたが、何とか思っていた通りに書き切れて、現時点では4巻というまとまりが自分にとっては一番満足できるものです。これ以上を目指すと考えると不安が先立ちますが、少しでも良いものをという意識で書き進めていこうと思っています。


■最後に

 本章に頂いた多くのご指摘をどう受け止めるか、更には書いて頂いた以上の事も得られればと思いながら何度も読み返しました。

 こちらが真剣な反応ばかりだと却って書きにくいかもと思いつつ、これからも反応を頂けるように、まずは作品の質を少しでも上げられるように頑張ろうと思っています。

 これからも宜しくお願い致します。


*文字数の関係により一部の項目を感想欄に回しました。


日時:2017年08月10日(木) 02:19

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clp

感想は1000文字までらしいので、更に分けました。。


■epubで変わる印象

 休載している間に拙作をepubにして全話読み返してみました。1巻の冒頭4話までを読んで頭を抱えていたのは同じですが、通して読むと意外に2巻の欠点(と思っていた事)は気にならないなと思いました。同様に3巻の前半もそれほど悪いとは思えず、逆に後半は思っていた以上に冗長に感じました。

 一冊の本として考えた場合と一話一話で考えた場合とでは印象が変わってくるもので、私が目指していたのは前者なので、その点では安心できました。一方で、各章完結後に出来る限りの手直しをしたと思っていたのに、前章ですらぼろぼろと修正したい部分が出て来るのが情けないというか悲しいですね。


日時:2017年08月10日(木) 02:20

clp

■ほぼ原作通り

18話の後書きで書いた「文字が多いだけでほぼ原作通り」というコメントを頂いたのは、15話を更新した翌日のことでした。自分としては「小学生を脅して仲間割れさせる予定が留美が動く」という外側だけはそのままに、中身は完全に別物にしたつもりだったので、さすがに徒労感を覚えました。

 反論は既に書いた通りですが、あれを書けるまでに10日ほど掛かったことになります。それでも更新を続けていたように意欲が一気に落ちる事は無かったのですが、掛けた労力ではなく出来上がった作品そのものを評価されるのだと解っていても、ため息をつきたくなる時はあるものですね。


■参考図書

 最後に挙げた参考図書ですが、知らない分野の基礎を学ぶ際に私は「新書3冊+ハードカバー1冊+他1冊」を心掛けています。今回は他1冊がジュニア新書になりましたが、新書以上に役に立ったのだから面白いものですね。そして基礎を知るのと作品に応用するのとでは大違いかと思いきや、案外共通点があるものだなと思いました。

 正直に言うと、これらを読みながらも「他に時間を掛けるべき事があるのでは」という疑問は常にありました。特に書き方をもっと学んで実践の時間をもっと増やすべきではないかと。

 しかし作品の質を上げようと思えば思うほど、実際に書く時間よりも事前の準備の時間が重要になって来るわけで。上で「3月のライオン」に言及しましたが、この時も「対局時間以外も遊んでるわけじゃない」という話を思い出していました。だからこの行動は間違っていないはずだと思いながら知識を吸収していきました。

 これら参考図書のレビューについてですが、自分が作品を書くようになって以来、あまり他作の悪い事は書きたくないと思っていて、書くなら根拠を添えて改善に繋がるように書こうと心掛けています。しかし逆に以前より許せなく思えて来た要素があって、それは手抜きやパクリといった行動が透けて見える時です。その点ご了承下さい。

 最後に。前章で八幡が三国志の話をして戸塚にお薦め本を教える展開がありました。その時に私が真っ先に念頭に置いた作品の著者・岡田英弘さんが5月末に亡くなられました。後書きに書こうか迷いましたが、意外な作品が拙作に良い影響を与えてくれている事を改めて思い、ここで哀悼の意を表させて下さい。


日時:2017年08月10日(木) 02:19



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