歴史に學べ、俺達を

前回はわりと重いシリアスな話だったので、ちょっと軽い話で


『王への野望を持つ悪人とその手下が善良な市民に手をかけるその瞬間、神がかったヒーローが待てぃ!と見栄を切りながら決めポーズ付きで現れて悪人を俺TUEEしてやっつけて、ヒーローが風のように去っていく』
これはあるお話のプロットなのだが…昭和の特撮ヒーローとか時代劇、と言うプロットではない

実はコレ、約300年前に発表された『暫(参会名護屋十八番、暫)』と言う歌舞伎のプロット
参会名護屋と言うストーリーの内のヒーローがかっこよく活躍するシーンだけ切り取って独立した演目にしたのが、『暫』と言うお話だ


もう一つ日本の古典でこんな話でも
『運命に選ばれた女装の似合う厨説明付きの専用武器持ちなイケメンが、同じく運命に選ばれた地味ながらも素朴で好漢な相方を引き連れて、破戒僧だの男の娘だの元警官だのを仲間にしながら巨悪を封じる為に立ち上がる。そして、ヒロインの加護の元で鍛えられた生意気ながらも素質は最強の一番若いヒーローが話の後半の主役になり、最期は悪を倒して善人は生き返りハッピーエンド』

それこそジャンプ漫画やラノベのテンプレ…みたいなもんだが、これは『南総里見八犬伝』の大まかなあらすじだったりする 
若い人の人気を抑えるツボなんて、300年は昔に既に大衆娯楽として完成されていたりするのである 


日本の古典では無いがこんな話もついでに

『異世界に迷い混んだ作者の化身の様な設定の主人公がその異世界の案内役に連れられて次々に旅をしていき、初恋の人そのまんま以上に美化した絶世の美女に連れられて世界の果てを目指していく』と言う、こうして書くとキモい自己投影型作者の書いた『異世界転生なろうもの』みたいな、と揶揄されそうな話
コレ、世界中の図書館に行けば必ず名作として置いてる本の事を書いているものである

それは、ダンテの『神曲』
手が届かないながらも恋心だけが諦められないダンテのベアトリーチェに向けた妄執と、彼自身の豊富でディープな知識の合わさった名作であり怪作も、言ってしまうと『なろうみたいな』と揶揄されてしまいかねないプロットである


…とまあ、こうして見たら「俺TUEEEもの」だの「異世界転生作者投影主人公」だの、むしろ一周してそもそもそれも古典的に話の作り方に忠実だったりする気がするって話だ
話を作るにあたり自分の作品のオリジナリティがどうのとか、書いてる話が冷静に考えたら流行り廃りのある毛嫌いする層の多い厨ジャンルとかと悩む事は、実はそんなに無いんじゃないかな~とかちょっと思ったり

そもそも、『マイペースで若干やれやれ系な受け身の性格な、女子にも男子にもモテる御人好しの主人公』と言うラノベやギャルゲの主人公の定番の性格って、それは日本神話でも屈指の有名な神であるオオクニヌシノミコトが古事記が書かれた年代には既に通過した訳で
日本人はDNAレベルで、そう言う主人公が活躍するプロットが好きなんだろう    

そもそも創作の悩みなんて古今東西同じな訳で、そんなエピソードとして今川氏真と徳川家康の会話を一つ

「和歌にはやっぱりテクニックが一番大事じゃ無いのかな?(意訳)」とぼやく氏真に対して「心が赴くままに詠むのが一番」と、創作にはおおらかかつ自由な心が一番だと返している
…創作の悩みが古今東西同じなら、解決する考え方もまた古今東西同じだったりすると言う、そんな話
結局人間なんて、精神も文章力や発想力も、何百年何千年経とうがネット社会に生きる現代人が思ったより大昔から変わってない生き物なのだと言うことを重い知らされる話なのであった        


ちなみに、こっからは完全にシモな余談なので読み飛ばしたい方は読まないように

ギリシャ神話だと「ゼウスがたまには女じゃなくて美少年の尻を掘りたくなったので拉致するが、可哀想なので写真だけは親に見せてやるよ」とか「ヒャッハー!美女の群れを発見したぜー!牛に変身したら突撃じゃああ!」とかいうゼウスのヤりチンぐう畜エピソードがわんさか有るんだが、現代でも定期的にハイエースビデオレターものとか異物変身・憑依ものとかいうニッチかつ様々なエロ同人やエロゲは日本に限らず排出されてる訳で
日本人はおろか、最早世界の何処でも、人間の男の大半はエロが絡むとそう言う展開とプロットが遺伝子レベルで好きなんだろうと、悲しいぐらい男の下もそう言っているのであった…


日時:2017年09月16日(土) 01:44

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たんぺい

>SPIRIT様
まあそうですね、温故知新と言うか、「型」と言うものはどの世界にもあるのです

勧善懲悪もの、と言うより身も蓋もなく言えば「敵を倒す話」はそこがゴールなので最終回の風呂敷たたみがやりやすくなるので書きやすくなるのです
そして、社会通念が発達するにつれて「ルールの外側に外れたもの」を悪とする文化が根付き、それはつまりわかりやすい敵の姿を書き手・読み手通じてイメージしやすくなることに繋がります
この二つが合わさる時にこそ、古今東西で勧善懲悪もののストーリーが書かれやすくなった理由なのでは無いのかなと思うわけです

まあ、作者の世知辛い都合と世間の流れにある普遍的な良識とケレン味と言うものは、なんやかんやメビウスの輪のようにぐるぐると永遠に、人の創作の感性と言う点で抜け出せないものなのですね


日時:2017年10月17日(火) 00:07

SPIRIT

『古きを温めて新しきを知る』
という孔子の言は正しいんですね。
いつの時代も人間の本性は変わらず、歴史は繰り返す。
それは物語も同じか。

古今東西、勧善懲悪ものが受けるのもそうだからなのかなあ。


日時:2017年10月16日(月) 23:46

たんぺい

>坂下様へ
一時期ガチ厨二時代に軽く調べ、遊戯王始めてから本格的に調べたアーサー王伝説や北欧神話を思い出します
あの辺は全滅エンドの開祖かも知れないのです

>zero-45様へ
日本には、敗走する脱糞してた姿を絵にしたと言う天下人が居てだな…
それに比べたらお漏らしキャラぐらい普通なのです


日時:2017年09月16日(土) 11:56

zero-45

全ての物は繰り返す。

人が生み出す物はその時々で変化しても結局大筋は変らない。

物語という仮想世界、創造の産物だから理想が反映される、そして陳腐かそうかは時々の思想や嗜好がどれだけ上手く混ぜられているか程度。

でも待ってくれ、有史以来ヒロインがお漏らしして主人公をドラム缶に入れて海を疾走するというカオスを、そんな話を淡々と進めた物語があっただろうか。

そんな色々ぶっ飛んだ物語、プライスレス。


日時:2017年09月16日(土) 10:31

坂下郁

以前古典と艦これのクロスを一時的に投下していた坂下が通りますよっと。途中でやめちゃいましたが、またそのうち続きを書こうかなと、こ活動報告を拝見して思ったり。

物語的には終末モノとか最終戦争モノなんて、ITや軍事技術の違いを除けば概ね黙示録を超えられませんし。シチュとしてはまさしく今も昔も、さらに時代を超えても人が悩んだり喜んだりするポイントは変わってないようなので、時間軸をタテで見れば普遍性、ヨコで見れば時代性、そういうのを描く作品が残っていくのかな。


日時:2017年09月16日(土) 09:18

たんぺい

そうですね~とりかえばや物語はTSものの原点の一つかも知れないのです

「メイドさん萌えるわ」、なんて訳せる感覚で女中さんを誉めてる言葉が枕草子の一文にありますしね
感覚なんて皆そんなもん平安時代から変わってないのかも知れません
源氏物語なんて、まあエロゲみたいなもんですし


ちなみに本当に此方は余談で一つ

今は『ネット依存が少年少女をモラルを蝕む』だの、一昔前は『残虐なテレビゲームやアニメが少年犯罪を誘発する』だの、と言われていたのですが、大正時代辺りには『小説なんて読むから日本の青年の程度が低くなる』なんて小説ブームに批判する風潮があったそうで
『ゲームなんてせずに、名作全集の小説を読みなさい』と10代の頃は先生や親に言われたもんですが…そんな名作が書かれた百年昔に居た子達は『小説なんて読まずに勉強なさい』と怒られたのかも知れませんね

そもそも、古代ローマには既に「最近の若い人はケシカラン(意訳)」と言う落書きが残ってたりするそうな
…人間、紀元前から変われないものでもあるのです


日時:2017年09月16日(土) 06:59

如月遥

まあねぇ。
ゆーてみたら君の名は。も
超古典のとりかへばや物語リスペクト作品とも
言えますからなー。
とりかへばやは人毎入れ替わりで
君の名は。は精神のみの入れ替わりとか
違いはあるけどね。

やっぱみんなシチュエーションとしては
考えるもんなんやねー。


日時:2017年09月16日(土) 02:11



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