求めるモノは唯一つ。愛するアナタの嘆きと叫び。
▼文章、ストーリー、描写などについての紹介など
その日、尸魂界に一つの魂魄が流れ着いた。
その魂魄は生まれながらにして、その世界の物語を物語として知り、その世界の人々の心の奥底に至るまでを知り、その世界の未来に何が起きるのかを知る特異な存在だった。
(33行省略されています)
自らが知る物語の人物「雛森桃」の姿を借りて生まれてきた彼女は、その愛しき世界の中で、物語の世界が現実として息づく世界の中で、自分が何を成し得たいかを思案する。
心からある欲望が生まれる。
「大好きな彼の嘆きが聞きたい」「大好きな彼の悲壮な姿を見たい」「大好きな彼を絶望で満たしたい」
自らの命を犠牲にした上で…
これは、雛森桃の姿を持って生まれた少女の「愉悦」に溺れた、狂気と暗躍の物語
既存のキャラクターへの転生というと角の立ちやすい内容ですが、本作はそれを盲目にさせるほど非常に魅力的で面白い作品です。各キャラクター、各シーンに対する深い考察。原作の名言や名シーンをハーメルンの全機能を利用し、媒体が文字のみであっても、原作の勢いや雰囲気が伝わってくる書き方と演出。まさに作者の技量と考え方が際立つ作品です。
戦闘シーンに関しても、BLEACHを代表する(?)オサレポイントの仕組みをふんだんに盛り込み、ネタ満載ながらも非常にBLEACHらしい、味のある展開を味わえます。
また、作者さん直々の非常に巧いイラストも多数あるため、場面の理解やキャラクターたちの想像もしやすいという点もおすすめです。
読んでいて特に凄いと思えるところは、BLEACH随一の敵役かつトリックスターである「藍染惣右介」の書き方。原作でのオサレで底を見せないミステリアスな雰囲気はそのままに、野心の籠った上昇志向、「元読者」である主人公との接し方など、とにかく「非常に格好よく」仕上がっています。
そして、藍染の下につく主人公もトリックスターとして働くことになりますが、その際の「他のキャラから見た主人公の人間性とその理由の積み立て方」「主人公の影響によるキャラクターの変遷の模様」が非常に丁寧で、長い文章を読んでいくことで、いつの間にか「作品の世界に取り込まれる」。本当に読んでいて爽快な気分になれる作品です。
上記の内容に少しでも琴線を動かされた方。普段から愉悦を嗜む方。そして「日番谷冬獅郎というキャラクターは曇っている表情こそが最も輝く」という考えを持つ方にはぜひとも見ていただきたい内容です。
▼読む際の注意事項など
本作品は命題の一つとして「愉悦」があります。手っ取り早く言うと日番谷冬獅郎を鬼のように雛森の手の上で転がしまくります。直接的なアンチ要素は一切なく、むしろ「こんなことする?」だとか「よくもまあこんなこと考えつくなぁ」という感心にも似た方法で、ある種「もっとやれ」と読者が推していくような、読んでいて面白いといえる内容ですが、純粋に日番谷冬獅郎を推している人には、あまりお勧めできません。
また、先に書いたように愛染陣営に参加する展開なので、純粋なヒロイックストーリーを求めている方や掲示板のネタが苦手な方などにもお勧めできません。
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ウルテラ/2020年11月11日(水) 19:31/★ (参考になった:109/ならなかった:1)