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(0) 前代未聞の大事件が起きてしまった。封印指定の魔法少女を収めたクリスタルが、保管されていた場所から消え失せているという報告を受けて、魔法少女、白黒有無 は頭を抱えていた。
(0)
(0)「何故よりによって、プリンセス・ルージュとドラゴンハートなのであるか……!」
(0)
(0) 二つのクリスタルは白黒有無の派閥が管理していたので、当然その責任は白黒有無が負うことになる。
(0) あの二人が解き放たれたとしたら、四年前と同等か、それ以上の被害は避けられない。そしてその解決のためには、違う派閥の魔法少女に頭を下げて、戦力を乞う必要が出てくる。
(0)
(0)「ど、どうなさいますか、白黒有無様」
(0)
(0) 側に控えていた、黒いゴシックロリータドレスに身を包んだ、美しい銀髪の魔法少女、毒雪姫 は、そんな主人の様子を心配そうに見守っていた。
(0)
(0)「誰の仕業かは検討がつくのである……、我々が困って喜ぶ者も、助けを求めさせて足元を見るつもりの者も、どちらも、な」
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(0)「み、身内の仕業なのでしょうか」
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(0)「でなければ、奴らのクリスタルを盗んだりなどするまいよ、封印は厳重に施してあるが……我々に被害を与えるつもりなら、解放の術もわきまえているのであろうな」
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(0)「ど、どうすればよいのでしょう、総員で、動きますか?」
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(0)「……ならんのである、その動きは、どうあっても外にバレる。内々で何としても処理しなければ。」
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(0) 白黒有無は、その特異な魔法故に、魔法の国で『裁判官』という稀有な役職に付いている。人間が魔法少女になった例としては、異例の大出世と言っていい。
(0) だが、そのキャリア故に疎むものも居るし、敵も多い。派閥の戦力を全て動かしたら、敵対勢力に現状を把握されかねない。
(0) 何かが起こる前に、なるべく穏便に、少ない被害で、方をつけなければならない。
(0)
(0)「……封印が開放されたら、場所はわかるであるな? 結界の用意をするのである。絶対に逃がしてはならない。二日以内に、処理するのである」
(0)
(0)「は、はい、かしこまりました。でも、我々二人だけで、なんとかなるでしょうか」
(0)
(0) 心配そうに問う毒雪姫は、ドラゴンハートとプリンセス・ルージュの最悪の魔法を知っている。
(0) 彼女も決して弱い魔法少女ではないが、あの二人と正面から真っ向勝負で勝てる確率はゼロだ。いわんや、白黒有無は戦闘向きの魔法少女ではない。
(0)
(0) だが、それ自体は大したことはない、というふうに、白黒有無は自然に言った。
(0)
(0)「現地の魔法少女に協力させるのである、どのような場所であれ、連中が暴れられるほどの街ならば、少なくても四、五人はいるであろう」
(0)
(0)「あ、なるほど。それなら、被害は確かに、抑えられますね」
(0)
(0) 勿論それは、人助けが主な仕事だと教えられている魔法少女たちを、否応無しに命がけの戦いに巻き込むという、一方的かつ身勝手な決定なのだが、二人はそれを気にする素振りも、考慮することもしなかった。
(0)
(0)「追跡を進めさせよ、場所を確認次第、結界を展開、包囲し、再封印するのである」
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(0)「か、かしこまりました」
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(0) 言いつけられた仕事をこなすため、慌てて部屋を出て行く毒雪姫。
(0) 白黒有無は、その背中を見送って、深く、深く、ふかぁく、ため息を吐いた。
(0) 白黒有無は面倒事が嫌いだ。だから、今回の件はものすごく不愉快だった。プリンセス・ルージュ。ドラゴンハート。この両名とまともに戦って勝てる魔法少女など存在しない。
(0)
(0) 人柱が必要だ。全てを丸く収めるためには、正面切ってまともに戦い、犠牲を生じた上で勝つしか無い。しかし、自分の派閥の犠牲を産めば、付け入る隙を与えることになる。対応に当たる現地の魔法少女には、頑張ってもらわねばならない。自分もできる限り力になろう。それがせめてもの彼女達への誠実な態度だろう。
(0)
(0) 全く大変な大仕事だ、これから寝る間もないほど忙しくなる。
(0)
(0)◇◇◇
(0)
(0) ごく一般的な女子高生である笹井七琴 は、この日もだらだらとベッドに転がりながら、スマートフォンのアプリ、『魔法少女育成計画』を起動して、日課のクエストに勤しんでいた。
(0) 時間か金をかければ誰でも強くなれるようにする、というのが昨今のソーシャルゲームの開発事情であるらしく、現代の暇人たちはスマホ片手に今日も通勤通学の最中に、電子のガチャを回しては一喜一憂している。
(0)
(0) そこを行くと何百何千人という人間にゲロみたいに金銭を吐き出させている各種売れ筋のソーシャルゲームと比べれば、『魔法少女育成計画』は非情に良心的で親切設計だといえる、なにせ課金要素が今どき珍しく一切ない。強さに要求されるのは純粋なプレイ時間のみであり、七琴のような部活もやってなければ目立った趣味のない女子高生でもそこそこの成果を出す事ができる。
(0)
(0) 『魔法少女育成計画』とは文字通り魔法少女を育てて遊ぶゲームであり、一人一つ、固有の魔法が与えられる。バランスを開発側がどうとっているか分からないが、能力が被った、という話は一切聞かないし、ゲームが致命的に狂ってしまうような能力は今まで出てきていないらしい。
(0) 元々は友人の沖間真里 が、友人招待の特典目当てで七琴を誘ったものだが、今となっては七琴の方がヘビーユーザーだ。
(0) 七琴の魔法少女は「どんな鍵でも開け閉め出来る」という能力を持っている。ダンジョンの宝箱や扉など、わざわざ鍵を探して来る必要もないという便利キャラだ。
(0) 友人から誘われて以来、ちまちまとプレイし続け、のめり込むほどではないにせよ、朝起きてちょっと起動して、夜時間がある時はゲーム内チャットで過ごして……というのが彼女の日課になっていた。日常の一部になっていた。
(0)
(0) 今日もダンジョンを一つ攻略し、『お疲れー、早かったねえ』とスマホに入力すると、『なっちゃん、私よりレベル高いね、後から始めたのに……』と返信が届く。
(0)
(0)『いやいや、真里さんのおかげですとも。いい能力教えてくれてありがとね』
(0)
(0)『戦闘に直接関係無いから、人気無いんだよね。ローグ系の魔法って。一人いるとすごい助かるんだけど』
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(0)『それ込みでいいように利用しようとしてたな貴様(`Д´)』
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(0)『えへっ(*^^*)』
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(0)『あ、そうだ、明日ノート見せて。』
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(0)『なっちゃん、毎回のことながら、生物として全く進歩がないね。普段、授業中何してるの?』
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(0)『魔法少女育成計画やってる』
(0)
(0)『このアプリのせいかぁ!?』
(0)
(0)『私のキャラのレベルが上がったおかげでいい目を見てるんだから、その分は還元すべきじゃないかね?(*´ω´*)』
(0)
(0)『ほんっとうに図々しい!(゜-゜)』
(0)
(0)毒にも薬にもならないやり取りをするのが、食事も風呂も終えて、寝るだけになった七琴にとって、一人暮らしの寂しさを癒やす要因になっていたのは間違いない。
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(0)一時間程度だべったところでスマホを投げ出し、さーて風呂でもかっくらうか、と立ち上がった所で、ぴこーん、とアラームがなった。
(0)
(0)「んぇ?」
(0)
(0) 放り投げたものをまた取りに行くのは精神的に非情に手間だが、時間限定クエストのような、逃してはならない物のお知らせだったら後で泣きを見るのは自分なので、しぶしぶ手に取って、通知を見る。
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(0)『魔法少女育成計画よりお知らせ(重大)! おめでとうございます! あなたは本物の魔法少女として選ばれました!』
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(0)「……は?」
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(0)「おめでとうございますぽん!」
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(0)「うおぁ!?」
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(0)素で漏れでた言葉と同時に、背後から声が聞こえた。
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(0)「あなたは魔法少女に選ばれましたぽん! 拍手だぽん! 僕は君の担当のフェロだぽん! よろしくぽん!」
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(0) そいつは、いきなり現れた。振り向いたらそこに居たので、どうやって現れたかはわからない。虫みたいな羽の生えた、まんじゅうみたいな空飛ぶ球体としか形容出来ない存在が、ノイズ混じりの高い声で言ってきた。
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(0)「ほらほら、笑顔、忘れてるぽん? 魔法少女、嬉しくないぽん?」
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(0) 展開に圧倒されっぱなしではあるが、七琴もまた、現代っ子である。こういったシチュエーションに対して、適切な対処を日々想像していないわけではない。
(0)
(0)「魔法少女って言った? 魔法少女ってあれ? 、ふりふりひらひらな服きてかわいー杖もってくるくる回ってピシっと決めポーズしてビーム撃ったりする奴?」
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(0)「色々と偏見があるみたいだけど、大筋では間違ってないぽん。魔法少女育成計画は、魔法少女の資質がある少女を探しだすためのアプリだぽん、ほら、鏡を見てみるぽん?」
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(0) そう言われるがまま、部屋に備え付けの鏡を見てみると、そこにはなんとまあ、見たことのない美少女が立っていた。
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(0) 小さなツインテールを金属質のパーツが包み込んでいて、手足はロボットの様な機械のパーツに覆われている。身長は、女子としては高い方ではない七琴よりなお、小さく、まつげの長い大きな瞳はキラキラと光っていて、肌に一切の不純物も凹凸もなく、何より誰より愛らしい。
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(0)「……やだ、ただでさえ超絶美少女だった私が更に美少女に!?」
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(0)「頭大丈夫ぽん?」
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(0)「今夜は変な生き物の煮込みかー、まあゲテモノ食いも嫌いじゃないよ私」
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(0)「魔法少女失格だぽんこいつ!」
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(0) 七琴の手をすり抜けて逃げ惑う球体は、なかなか捕まらなかった。
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(0)「何で君が魔法少女になれたぽん!? 愛も夢もハートもキュートもねえぽん! 魔法少女舐めてんのかぽん!?」
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(0)「いやこの状況で私が文句言われる筋合いは無いと思うけども……」
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(0) 小さなぷにぷにとした、ものすごく柔らかくて温かい頬を、これまた小さく愛らしい指でぽりぽりとかいて、七琴は言った。
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(0)「で、私、よくわかんないけど魔法少女になったわけだ。このビジュアルは私のアバターのやつだよね?」
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(0)「そうだぽん、使える魔法もおんなじだぽん」
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(0)「はい?」
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(0)「魔法少女は魔法が使えるぽん、当然ぽん? 君の魔法は『何でも開け閉めできる魔法の鍵』だぽん、ほら」
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(0) そう言って示されたのは、魔法少女となった七琴の首にかけられている、銀色のチェーンがついた、赤い石のついた鍵であった。
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(0)「……マジか」
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(0) ゲームの中で散々使い倒していた能力が目の前にある、という事実は、多少なりとも七琴を高揚させた。
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(0)「あ、これにマニュアル載ってるぽん、よく見るぽん」
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(0) スマホの、アプリの画面を見ると、『魔法少女マニュアル』という頁が新たに追加されていた。
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(0) 早速タップしてみると、可愛らしい字体で魔法の説明が書かれている。
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(0) 『魔法の鍵で何でも開け閉めできるよ』、というのが七琴の魔法で、鍵を「開けたり閉めたり出来るもの」にたいして向けて、「ガチャン」と言うと閉じて、「ガチャリ」と言うと開く。魔法で鍵をかけたら、同じ魔法でないと絶対に開けられない、とあった。
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(0)「ほへー、リアルで使えるなら便利だなー、これ」
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(0)「悪用禁止だぽん、もしバレたら魔法少女の能力と記憶は回収だぽん?」
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(0)「ちっ」
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(0)「今マスコットの前で舌打ちしたぽん……?」
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(0) そうそう上手くは行かないのが世の中というものらしい。
(0) それはさておき、姿見の前でくるくると回ってみる。よくよく耳を澄ませてみると、声も普段のものとは違い、まさに「鈴のなるような」という形容がぴったりなほどよく通る。
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(0)「魔法少女は人助けするものぽん、いいぽん?」
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(0) フェロがざっと一通り説明するには、『魔法少女であることを知られてはいけない』『魔法少女は人助けをしなければならない』とのことらしい。
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(0)「で、いくらもらえるの?」
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(0)「え?」
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(0)「いや、ゴミ拾いとか迷子を保護するとか酔っぱらいをお家に届けるとか、そーいうお仕事なのは理解したけど、え、まさかボランティアじゃないよね?」
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(0)「魔法少女の力を使えるぽん、それでいいぽん?」
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(0)「この仕事やめます、今までありがとうございました」
(0)
(0) 不思議な力とかわいい容姿は大変魅力的ではあるが、来年受験の身の上で私用の時間をタダ働きに費やす余裕などあるわけもない、決断は即決で、アプリのアンインストールボタンをタップしかける。
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(0)「わー! 待つぽん待つぽん! 落ち着くぽん! 実際には、お金をもらえる魔法少女もいるぽん!」
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(0)「いやー、でもバイトの領域でなさそうだし、この衣装で外出るの普通に恥ずかしいし」
(0)
(0) 今の七琴の姿は愛らしい魔法少女ではあるのだが、幼く小さな体はぴっちりとしたスーツに包まれているし、要所要所は色が付いているとはいえ、一部は肌が透ける素材でできている。防御力がいかほどかは分からないが、ビジュアル的には大きなお友達が喜びそうな感じである。
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(0)「そんなこと無いぽん! 早速お願いしたい仕事があるんだぽん!」
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(0)「はい?」
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(0)「君の魔法だけが頼りだぽん、お礼もちゃんと出すぽん、お願いできないぽん?」
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(0)「お礼って言ったって……いくら出るの?」
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(0)「即金で五十万用意してるぽん」
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(0)「何でもお申し付けください」
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(0)「金に屈服するの速いぽん!?」
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(0)「うっせぇな五十万あったら今年の固定資産税払えるんだよ!」
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(0)「言葉遣い! 魔法少女は愛に溢れてないとダメだぽん! 後理由が生々しすぎぽん!」
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(0)「騒がしくてございますわ、このご時世、学生が大金を得られる機会はなかなか無くてございますわよ?」
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(0)「とってつけすぎててどうしようもねえぽん!」
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(0) こうして、七琴は魔法少女としての活動の一歩目を踏み出した。しかし、今更ながらにこう思う。
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(0)「……魔法少女ネーム、もうちょっと考えればよかったなあ」
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(0) スマホのアプリ画面には、もはや七琴本人となった――――ジェノサイダー冬子という名前が刻まれていた。
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(0)◇◇◇
(0)
(0)「遅い、ですわ」
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(0) 夜八時を回って駆りだされた『お仕事』の為に指定されたのは、C市内の外れも外れの山中だった。東京に近く、四年前の事件以降、急ピッチで復興の進んだ駅前は栄えているが、しかし都市部から逆走すればあるのは畑と森と山である。背の高い木々が星明かりすら覆い隠し、街灯も少ないので殆ど暗闇だ。にも関わらず視界が良好なのは、魔法少女の身体能力故か。
(0)
(0)「約束の時間から一時間オーバー、フェロは全く、とんでもない粗忽者を魔法少女に選んだようですわね?」
(0)
(0) その待ち合わせ場所で待っていたのは、眼鏡をかけた金髪の少女だった。上半身はかっちりとしたスーツを着ているが、下半身はスカートもなく、レオタードの様な形状の衣服を身に着けている。膝から下はプロペラのついた機械がすっぽりと足を覆っており――しかしそれ以上に。
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(0)「聞いていますの? 魔法少女としての心構えが足りてないと――――ひにゃあ!?」
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(0)「あ、すっごいモノホンだこれ」
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(0)「何しますのいきなりっ!」
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(0) 七琴もといジェノサイダー冬子が手を伸ばした先は、少女の頭に付いている特徴的なパーツ、犬の耳だった。ふにふにと柔らかく、ふかふかと毛が高く、ぽかぽかと温かいのが手に伝わってくる。ついでに、尻と背中の境界あたりから、ぴょろんと尻尾が生えていた。
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(0)「いや、際どいコスプレだなと思って」
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(0)「じっまっえっでっすっのっ! ほんっとうに失礼ですわね!」
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(0)腕を組んで頬をふくらませる姿も、魔法少女だけあって嫌味のない可愛さがある。
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(0)「言っておきますけれど、私はあなたの先輩ですの、もう少し敬って……」
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(0)「その格好寒くないですか? パンツ丸出しですけど」
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(0)「話を聞きなさいですのぉーっ!」
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(0) 肩で息をし始めた少女を、冬子は面白いおもちゃを見つけた顔で見ていた。
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(0)「……とにかく、私の名前はゆめのん、この区域で活動している魔法少女ですわ。あなたの教育と、ノウハウを教えるようにと言われていますの。敬意を持って、先輩とお呼びなさい?」
(0)
(0) 胸を張るゆめのんに、ジェノサイダー冬子は『はあ』、と気の抜けた顔をしていた。
(0)
(0)「で、あなたのお名前は?」
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(0)「ジェノサイダー冬子です」
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(0)「…………」
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(0)「素敵な名前じゃないですか?」
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(0)「…………さて、フェロからお話は聞いていますわね?」
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(0) 突っ込むかどうか数秒考えて、諦めることにしたらしい。
(0)
(0)「ちなみにマジで何にも聞いてないんですけど」
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(0)「あんたほんっとうに何のための魔法少女になったんですの!?」
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(0)「そう言われても……いきなり強制的にさせられただけだし」
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(0) その言葉にゆめのんは、え、と声を上げた。
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(0)「ちょ、ちょっと待って下さいな、あなた、試験に合格したんじゃないんですの?」
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(0)「へ、魔法少女になるのって試験とかあるんですか」
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(0)「ありますわよ! 私だって他の候補生としのぎを削って、才能を認められて魔法少女になったんですもの!」
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(0)「はー、じゃあまああれですかね、芸能界で例えると先輩はオーディションに応募した感じで、私は町中でスカウトされたと」
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(0)「何で芸能界で例えたんですの!?」
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(0) ありえませんのありえませんの、と繰り返すゆめのんの表情は、最初の強気はどこへやら、眉を思い切り顰めてじぃっとジェのサイダー冬子を見つめていた。
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(0)「まあまあ、落ち着いてくださいよ先輩。オーディション先輩」
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(0)「オーディション先輩って誰ですの!?」
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(0)「面白っ」
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(0)「あなた今私を評しましたの!? 何様ですの!?」
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(0)「まあどうでもいいことは置いといて、結局何するんです?」
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(0)「どうでもよくないですのよーっ!」
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(0) 魂からの叫び声を上げるゆめのん。
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(0)「もう……本当は色々と教えなきゃ行けないことがありますけど、今日はあなたの魔法の試運転をする、と聞いていますの。何でも、開けて欲しい物があるのだとか」
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(0)「開けてほしいもの?」
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(0) オウム返しに問い返すと、ええ、とゆめのんは頷いた。
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(0)「あなたの魔法は聞いていますわ、色んな物を開け閉め出来る鍵だそうですわね。それで、何やらこじ開けてほしいものがあるそうですの、他の魔法少女じゃにっちもさっちもいかないらしくて」
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(0)「はあ、まあ、もらえるものもらえるならやりますけども」
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(0)「魔法少女の基本は奉仕の心ですの! 見返りを求めちゃ行けませんわ!」
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(0)「今私すっげぇ早口言葉みたいな事いっちゃいましたね、ははっ」
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(0)「話をきけええええええええええ!」
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(0)「先輩、キャラ作り剥がれてますよ」
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(0) そうこうしているうちに、木々をかき分け、開けた場所にたどり着いた。街から数キロ程度しか離れていないのに、文明から隔離されたがごとくの明かりのなさだ。木々に遮られて、月明かりすら届かない。
(0)
(0)「さて、ここから少し移動しますわよ」
(0)
(0)「ここから、って、ワープでもするんですか。ちょっとワクワクしてきました」
(0)
(0)「そんな訳ありませんのっ、飛んでいくんですわ」
(0)
(0)「……飛ぶ?」
(0)
(0)「それが私の『魔法』ですの。いいから、捕まってないと落ちますわよ」
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(0) いうやいなや、ゆめのんはジェノサイダー冬子の後ろにさっと回りこむと、脇を通して体をぐっと抱きかかえた。
(0)
(0)「え、や、ちょ、なにすんの!? さては百合!? そっち系!?」
(0)
(0)「断じて違いますのっ! いいからっ、暴れたらほんっとうに落ちますからねっ」
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(0) ゆめのんの足についたプロペラ状のパーツが、音を立てて回り始めた――――瞬間。
(0)
(0)「ひ、きゃああああああああああああああああ!?」
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(0) 瞬きの間にはもう、全身を冷たい風が撫で回す感触と、猛烈な浮遊感に襲われ、恐る恐る目を開けた時、街を見下ろせる程の、百メートル近い高さまで浮かんでいた。
(0)
(0)「だから動かないでくださいましっ、私の魔法は本来自分が飛ぶ為のものなんですからっ」
(0)
(0)「飛んでる飛んでる飛んでる高い高い高いごめんなさいおろしていや降ろさないで落ちたら死ぬぅっ!」
(0)
(0)「だから暴れるなって言ってますの!」
(0)
(0) 魔法少女の膂力でがっしりと体を抱きしめられているため、ジェノサイダー冬子の体はいうほど不安定でもなかったのだが、しかし未体験の高さは根源的な恐怖を呼び起こす。
(0)
(0)「あ、あと、先輩、さ、寒いんですけど……」
(0)
(0)「少し我慢しなさいな、もう」
(0)
(0) ゆめのんの魔法は『空を自由に飛べる』と言うものらしい、一人でなら文字通り自由に、三次元をあらゆる軌道で飛び回れるのだが……。
(0)
(0)「速度は落としてあげますから。本気を出せば最高時速三百六十キロですのよ?」
(0)
(0)「いやマジ勘弁してくださいそれは怖すぎて気絶します」
(0)
(0) 目をぎゅうっと閉じて、ジェノサイダー冬子は体を震わせた。
(0)
(0)「ていうか、これ下から見たらわかりません……?」
(0)
(0)「この時間帯でこの高度なら、そうそうわかりませんわよ」
(0)
(0) まぶたの裏の暗闇の中、体がブランと吊り下げられて、轟々と風が耳を切る音がする。なまじ状況が見えないだけに、体に回された手をぎゅうっとつかむ以外、ジェノサイダー冬子に為す術はなかった。
(0)
(0)「その感じで掴んでてくださいまし、もう二度と誰かを落とすのはごめんですわ」
(0)
(0)「落としたことあるんですか!?」
(0)
(0)「冗談ですの。あ、それより、ちょっと目を開けてごらんなさいな」
(0)
(0)「やだやだ怖い暴れちゃう絶対暴れるから無理だからぁっ!」
(0)
(0)「開けなかったら手を離しますわよ」
(0)
(0)「そこまでするほどに!?」
(0)
(0) 外気の冷たさを感じながら――魔法少女の体は頑丈らしく、そこまで凍える、というほどでもないのだが、それでも寒いものは寒い――ジェノサイダー恐る恐る目を開けた。
(0)
(0)「……わあ」
(0)
(0) 確かに高度があって、恐怖を感じたが、しかしそれは一瞬で目の前の景色に塗りつぶされた。
(0) いつの間にか、山の上から街が見える場所まで移動していたらしい。空の上から、駅前の、ビルや店が立ち並ぶ都市部が広がっていた。その区域だけが光の粒の絨毯の様にばぁっと散らばっていて、純粋に、ただ綺麗だと思った。。
(0)
(0) ふふん、と得意気に、ゆめのんが鼻を鳴らす。
(0)
(0)「どうですの? この景色、私専用ですのよ?」
(0)
(0)「……あ、いや、ホント綺麗」
(0)
(0)「だったら、よかったですわ」
(0)
(0) ゆるやかに移動を再開し、少しずつ街の景色が遠ざかっていく。その間も、視線はそこから外れることはなかった。いつの間にか、高い位置に居る恐怖も消えていた。
(0)
(0)「あなたに身の上話をしても仕方ないですけど」
(0)
(0) こほん、と咳払いして、ゆめのんは照れくさそうに言った。
(0)
(0)「あの光を見てると、思いますの。四年前の災害から、ここまでよく復興してくれたな、って。私は、あの災害の後、魔法少女になったんですの」
(0)
(0) ゆめのんもまた、視線を街の光に向けていた。
(0)
(0)「建物がグシャグシャに潰れて、瓦礫だらけで、この街を少しでも元に戻したくて、魔法少女になって、色々やったんですのよ? 瓦礫の撤去に、人助けに、空を飛び回って怪我人を探して、何度も何度も通報して」
(0)
(0)「…………」
(0)
(0)「だから、この街に、またこうやって明かりが灯っているのを見るのが大好きですし、この街と人々を守るために魔法少女をやっているのが、私の誇りですの」
(0)
(0) 後ろから抱きかかえられているジェノサイダー冬子に、ゆめのんの表情は伺えなかった。それでも、照れや気負いと言ったものは感じられなかった。彼女は純粋に、本心からそれを言っているのだろうとわかった。
(0)
(0)「あなたがどんな経緯で、何のつもりで魔法少女になったかは、私の知り及ぶところじゃありませんけれども、私は、本気で、真面目にやってますの。だから、後輩のあなたにもそうあって欲しいと思いますし、そう指導しますわ。嫌だというのなら、言ってくださいまし」
(0)
(0)「……嫌って言ったらどうなるんです?」
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(0)「ここで腕を離しますの」
(0)
(0)「選択肢がないっ!」
(0)
(0)「冗談ですわ」
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(0) 生殺与奪の権利を握っているからか、くすっと笑って、ゆめのんは続けた。
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(0)「そんなこと言わないように、びしばし指導しますわよ、初めての後輩ですもの。まずは、与えられた仕事から、ですわ」
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(0)「……はーい」
(0)
(0) なんて真面目な先輩だ、と、ジェノサイダー冬子は思った。とてもじゃないが肌に合わないが、仲良くはしたいと思った。
(0)
(0)◇◇◇
(0)
(0)
(0)
(0)魔法少女に善悪があるとすれば、それは他人のために、人助けのツールとして魔法を使うか、あるいは自分の私利私欲の為に魔法を使うかのどちらかだろう。その基準で判断すると、流流流 は間違いなく悪の魔法少女に分類される。
(0)
(0) 実際の所、魔法少女を作り出す『魔法の国』という奴は、自分たちで生み出しておきながら、そこまで真剣に魔法少女の管理をしているわけでもない。裏でコソコソやっていても、上手く処理すればバレないし、バレたらバレたで、三回程追手を始末したら、音沙汰も無くなった。何か準備をしているのか、諦めたのかはわからないが、この界隈もいろいろ物騒で、流流流にかまっている暇など無いのかもしれない。
(0) 流流流は魔法少女になったその日から、人間を超越した身体能力と魔法という異能を、如何に自分のために使えるかを考えて生きてきた。結果として、固定住居や学生生活といった、健全な社会への適性は失ってしまったが、代わりに普通に働くだけでは決して手に入らない現金や、裏社会でそこそこの地位と、悪い連中からの仕事は舞い込むようになった。
(0)
(0)「で、ここか」
(0)
(0) そんな流流流に依頼が来たのが数日前、古ぼけてもう誰も使っていない、心霊スポットにでもなりそうな廃ビルの三階に、安置されているという『それ』を、流流流の魔法で解放して欲しい、との事だった。
(0) 黒いセーラー服状のコスチュームに身を包んだ流流流は、魔法少女らしい可愛さと愛らしさを兼ね備えているものの、その眼光は修羅場をくぐり抜けてきた者特有のギラついた物に満ちている。
(0) 夜八時を回るか回らないかの時間帯、明かりもない、ホコリっぽい空間に、光源無しで踏み込んで、衣装が汚れるのも気にせず、目的にたどり着く。
(0) 椅子も机も撤去された、薄汚れた何もない部屋には、果たしてそこには、両手で包めるぐらいの大きさの、八面体の、蒼く鈍く輝く箱が、ごろりと転がっていた。
(0)
(0)「……なんかヤなモンが封印されてる感じ満々だなあ、おい」
(0)
(0) 見かけに反して、高い可愛い声でつぶやきながら、その八角形を手にとった。見かけより随分と重く、手にのしかかってくる重量感がある。
(0)
(0)「何をやらかしてこんなになったかは知らねえけど、まあ俺も仕事だし、さっさとやりますかね」
(0)
(0) プリーツスカートのポケットから、太いペンを取り出す。『魔法の国の日用品』の一つで、以前、他の魔法少女から奪い取ったものだった。
(0)
(0) 流流流の魔法は『線を引いた部分を切断できる』という物だ。自分の手で引いたなら、直線でも曲線でも、そのラインにそってあらゆるものを切断できる。『どんなものにでも書く事ができる』このペンは、流流流の魔法と非情に相性がいい。そのまま八面体の表面に一本、無造作に線をすっと引くと、パリン、と何かが割れる音がした。それを指定された回数、八十二回繰り返す。
(0)
(0)「ホイ、終わりっと」
(0)
(0) 最後の一回を終えて、八面体を床に放り投げると、パリン、と呆気無く割れて、破片が飛び散った。
(0)
(0)「わぷっ」
(0)
(0) その一瞬後には、ごうっ、と大きな音を立てて、風がうずまき、室内の積もりに積もったホコリを巻き上げる。顔からどばっとそれを食らって、流流流は咳込んだ。
(0)
(0)「げほっ、げほっ、あーしまった、扉の外から投げりゃよかった……」
(0)
(0) 手でホコリを払って、目を開けると、果たしてそこには、一人の魔法少女が立っていた。
(0) 真紅のドレスを身に纏う、可愛さよりも、より苛烈に、より鮮烈に、見るものを嫌でも己の存在を刻めるかるが如き、絶対の真紅。
(0) その紅色を際立たせる、黄金のような金髪が、窓から差し込む申し訳程度の月明かりを浴びて、キラキラと光っていた。
(0)
(0)「……ふむ?」
(0)
(0) その魔法少女は小首をかしげて、現状をよく理解できていないといった風に顎に手を当てた。
(0)
(0)「確か余は……うむむ?」
(0)
(0) 余、と来た。一人称が余、と来た。これはヤバイと流流流は直感した。この魔法少女と関わるのは、絶対にヤバイ。
(0)
(0)「そこの、状況を説明せよ。うん? 見ない顔だな。新しい魔法少女か?」
(0)
(0) その想像はまもなく的中し、流流流に気づいたその魔法少女は、それが当たり前のように、極めて尊大に声をかけてきた。
(0)
(0)「あー……、悪いが、俺は仕事を頼まれてアンタを封印から解放しただけだ、細けぇ事は知らねえよ」
(0)
(0)「仕事と言ったか、余を解放するのに、貴様一人で止められると?」
(0)
(0)「何するつもりなんだお前……細かいことは知らねえし、俺の仕事はここまでだ。これ以上お前が何しようが俺は知らねえしどうでもいいよ。」
(0)
(0) 納得いっていない、と言った風で眉を顰め、魔法少女は続けた。
(0)
(0)「まあよい、ならばまずは街へ繰り出すとしよう、うん、情報は何よりも大事だからな。ところで、そこの」
(0)
(0)「あん?」
(0)
(0) 魔法少女は、花の咲くような、可憐な笑顔で言った。
(0)
(0)「余の前で頭が高いな?」
(0)
(0) 戦闘馴れした流流流ですら捉えきれない速度の、赤い剣閃が、いつの間にか振るわれていた。
(0)
(0)◇◇◇
(0)
(0)「先輩、これなんです?」
(0)
(0) 礼儀をわきまえていない後輩だが、そこは自分がこれから教育していけばいい。大事なのはコミュニケーションを取ることであり、積み重ねていくことだ。実際、魔法少女は実際の年齢が外見からは把握できないので、もしかしたら自分より年上の可能性もあるし(多分年下だとは思うが)、口の聞き方なんてのに一々目くじらを立てていたら、話など進まないというものだ。
(0)
(0) そんなわけで、ジェノサイダー冬子が、先輩への尊敬とか目上の人への態度だとかを欠片も含まない、雑な敬語を使おうとも、ゆめのんは大人の精神でそれを受け入れる。
(0) 移動を初めて三十分程度で、四年前の災害で崩落して以来、放置されていた、壊れたボーリング場にたどり着いた。
(0)
(0)「何かを封印している……と聞いていますわ。それをあなたの魔法で開けて欲しいと」
(0)
(0) ゆめのんの手には、八面体の、蒼く光る結晶体が握られていた。丁度両手に包み込めるサイズで、昔のロボットアニメに出てきた、ビームを撃つ奴みたいな形と言うとわかりやすいか。
(0)
(0)「えー、わざわざ封印してるもんこじ開けていいんですかね?」
(0)
(0)「マスコットが指示したのですから、問題無いと思いますわよ? 大方、何かのマジックアイテムとか、そういうものかと思いますけど」
(0)
(0)「まあお金貰えるんでやるなって言われてもやるんですけど」
(0)
(0) ……魔法少女が、『魔法の国』から直々にサラリーを貰えるのは非情に稀だ。選ばれた魔法少女の特権と言っていい。定期的な収入ともなれば、もはや貴族だ。人類を超越した異能でもって口に糊出来るのはまさしく夢と言っていいだろう。
(0) ゆめのん自身は自分の魔法に不満も抱いていないが、そう言った、金銭を貰えるようなものでは決して無い。人に正体がバレては行けない、という都合上、明るい内にホイホイ空をとべるものでもない。
(0) その点、ジェノサイダー冬子の魔法は、聞いているだけでもいろいろな応用ができそうだ。『魔法の国』には太古の魔法で封印された宝箱等があると聞くし、封印の解除ができるならば施錠もできる。
(0) しかし、その感情を表に出すのは、『先輩』としての自分を見せた後では、いかにも恥ずかしい事だ。努めて冷静に、羨んだり妬んだりしていないと、態度で示さねばならない。
(0)
(0)「……あの、なんかすっげぇ目で見てますけど、どうかしました?」
(0)
(0)「べ、別になんでもありませんわっ」
(0)
(0) ……示さねばならない。
(0)
(0)「それより、ちゃっちゃと封印を解除してしまいましょう、なにか複雑な手順を踏む魔法なんですの?」
(0)
(0)「いや、これ向けてガチャリだけでいいんですけど」
(0)
(0) ジェノサイダー冬子が首から下げている、銀のチェーンで繋がれたネックレス、その先端にある、古ぼけた金色の鍵がちゃりンと揺れた。
(0)
(0)「お手軽ですわね……その鍵、絶対になくしちゃダメですわよ。ものに依存する魔法少女の魔法は、他の人でも使えますから」
(0)
(0)「へー、そうなんですか?」
(0)
(0)「ええ、場合によっては所有者が亡くなっても使えるとか」
(0)
(0)「先輩、まさか私の事……」
(0)
(0)「なにもしないから速く解放しなさいですわ!」
(0)
(0)「へーい」
(0)
(0) やり取りもそこそこに、八面体の表面に鍵を向けると、光の粒で構成された錠前が、浮き上がるようにして現れた。
(0)
(0)「ガチャリ」
(0)
(0) と、ジェノサイダー冬子が言うと、次の瞬間、決して、何があっても中身を外に出さないよう、厳重に解かされた五十二の封印と二十三の結界と九個の拘束が、一瞬で解き放たれた。
(0)
(0)「ひえっ」
(0)
(0)「きゃっ」
(0)
(0) 八面体が割れると同時に、ぶわっと勢い良く風が広がった。
(0) そして、一人の魔法少女が、呆けた様な表情で、その場に立っていた。
(0)
(0)「……あら? あら? あら?」
(0)
(0) 頬に手を当てて周囲を見回し、釈然としない様子の魔法少女――外見の、常人離れした美しさはどう見ても魔法少女だ――は、紫を基調としたワンピース状の衣装を身にまとっていた。スカートの裾は短く、頭部には天使の輪の様に、機械のリングが浮いていた。しかし、それより目につくのは、片手で保持している薙刀のような武器だろう。あれが魔法少女の固有武装だとすれば、相当に物騒な存在ということになる。
(0)
(0)「……えーっと、お仕事終わりでいいんですかね、先輩」
(0)
(0) ジェノサイダー冬子はそんな中でもマイペースにゆめのんに向かって声をかけてきた。
(0)
(0)「封印されていたのは魔法少女だった……んですの? でも、一体何で……」
(0)
(0)「どもー、初めましてー」
(0)
(0)「人が考えてるのに何でノータイムで行動しますのぉっ!?」
(0)
(0) 考え込んでいる魔法少女に、ジェノサイダー冬子は気安く声をかけ、応じるように、こちらを向いた。
(0)
(0)「ああ、どうも、ええと、こんばんは、の時間かしら? それで、軍隊はどこ? 今回は、手足を折らなくても良いのかしら?」
(0)
(0)「…………」
(0)
(0) ジェノサイダー冬子が『うっわ、ハードなの来たなあ』という顔でゆめのんをみた、悔しいが、全く同意権だった。
(0)
(0)「んん? あなたたち、『魔法の国』の魔法少女じゃない――――のかしら? いつもいつも、あの人達、私を封印から出す時は、ほら、物騒なことをしてくるものだから」
(0)
(0)「……えーっと、よくわかんないですけど、私達はただここに来て、封印解けって言われただけなんで……」
(0)
(0)厳密にはニュアンスが違うが、やったこととしてはそうである。
(0)
(0)「ふうん……? まあ、いいわ、せっかく自由になれたのなら、それなりに動かせてもらいましょう、行きたい所も会いたい人も居るし……あなたたち、ありがとうね? とっても助かったわ、封印されてる間って、自意識とかぐちゃぐちゃになっちゃうし、時間間隔もよくわからないし、大変なのよ」
(0)
(0)「はあ……お疲れ様です」
(0)
(0) 悪戯っ子の様に楽しそうに、魔法少女はウインクした。とても可愛らしい、人懐っこい笑顔だった。
(0)
(0)「何かお礼をしなくちゃ……あ、ごめんなさいね、自己紹介を忘れていたわ。」
(0)
(0) ジェノサイダー冬子に向けて、武器を持っていない手を差し出す魔法少女は、自らの名前を告げた。
(0)
(0)「私、ドラゴンハート、って言うの、よろしくね?」
(0)
(0) 次の瞬間、ゆめのんは弾かれたように飛び出し、ジェノサイダー冬子を掴むと、全速力で飛行していた。
(0)
(0)「ひきゃああああああああああああああああああ!?」
(0)
(0) 悲鳴を上げる後輩を無視して、ゆめのんは上空へ飛び上がった。正気では居られなかった。致命的な失敗を犯したという自覚が、彼女の中にあった。
(0)
(0)「な、なんなんですか先輩!? 何してんですか!?」
(0)
(0)「いいから逃げるんですのっ! ドラゴンハート、ですって――――そんな、馬鹿なっ、だって」
(0)
(0) その言葉の続きを言うことは出来なかった。がくんっ、と体がいきなり、重さを思い出したかのように傾いて、その勢いのままに落下を始めた。
(0)
(0)「え――――」
(0)
(0) 足のプロペラが停止して、体が浮力を失い、飛翔の勢いのまま、やがて木々をへし折って、地面に激突した。ゆめのんの意識は、そこで断絶した。
(0)
(0)◇◇◇
(0)
(0)「あら、あら」
(0)
(0) 自分の名前を聞いた瞬間、逃走を図った魔法少女を見るに、ドラゴンハートという名前を持つ魔法少女がどういった存在であるかは、知識として知っていたのだろう。
(0)
(0)「でも、そんなことされたら、ねえ、追いかけたくなっちゃうのが、人情よね?」
(0)
(0) 空を飛ぶ魔法か、あの速度は確かになかなか驚異的だし、瞬発力もかなりのものだった。とはいえ、しかし、だからといえども。
(0)
(0)「まさか、逃げられる、なんて思ってないわよね?」
(0)
(0) ドラゴンハートが呟くと同時、視界から消えかけていた魔法少女は浮力を失い、落下していった。
(0)
(0)◇◇◇
(0)
(0) よく分からないがまずいことをしたのだろう、という気はする。しかしながら状況は性急で、ジェノサイダー冬子の意識が現状に追いつくまでには、全てが急展開過ぎた。抱きかかえられて飛び上がったと思ったら、そのまま勢いよく自由落下して、森を突き抜けて、枝と地面に体を何度もぶつけた。魔法少女の肉体でなかったら、間違いなく即死だろう。
(0)
(0)「な……っに、するんですか、せんぱ――――」
(0)
(0) 苦言を呈そうと体を起こし、抗議しようとして、視界に入ってきたのは、血まみれで倒れているゆめのんの姿だった。
(0)
(0) 足がねじ曲がって、へし折れている。全身に木の枝が突き刺さっている。全身を打ち付けて、肉が割れて、血がこぼれ出ている。
(0)
(0) そこで初めて、ジェノサイダー冬子は、笹井七琴は、誰に抱きかかえられていて、落下の時に誰を下敷きにしたのかを理解した。
(0)
(0)「せんぱ……い? 何して――――」
(0)
(0)「あら、思ったより近かったわねえ」
(0)
(0)「っ!?」
(0)
(0) ゆめのんに手を伸ばそうとしたその時、背後から現れたのは、あろうことかドラゴンハートだった。悠々と草木をかき分けて、追いついてきたのだろう。
(0)
(0)「ダメよ、夜間飛行は……ふふ、危ないものね?」
(0)
(0)「……えっと、その」
(0)
(0) 七琴は、じり、と後ずさった。
(0)
(0)「先輩、治療したいんで……いいですか?」
(0)
(0)「治療って、何をするの? あなた、医療系の魔法少女じゃないでしょう」
(0)
(0) 尋常でない出血量のゆめのんを見て尚、ドラゴンハートに一切動揺はなかった。
(0)
(0)「それより、お話しない? ふふ、一人なんて退屈だもの、ね、いいでしょう?」
(0)
(0) 両手を合わせてお願いする仕草まで、なんとも、どこまでも、致命的までに愛らしい。
(0)
(0)「……お話って言っても、その、無趣味な女子高生なもので」
(0)
(0)「あら、ダメよ。魔法少女は外見じゃ年齢はわからないんだから……迂闊に個人情報を漏らすのは、命取りよ?」
(0)
(0)「その程度の情報が命取りになるような殺伐とした世界で生きるつもりはないんですよねえ……!」
(0)
(0) ゆめのんに駆け寄って、改めてその惨状を見て、う、と喉が詰まった。
(0) 近くで見れば見るほど、ただの悲劇でしか無い。生きているのは、ただ魔法少女の肉体が、常人より頑丈だからだが、それはただ単に死んでいないだけだ。
(0) もうすぐ死のうとしているだけだと、理解せざるを得なかった。
(0)
(0)「あらあら、どう? 助かりそう?」
(0)
(0)「…………」
(0)
(0) 気軽に聞いてくるドラゴンハートの言葉に、もうなにか返す余裕もなかった、。
(0)
(0)「まあ、青い顔しちゃって、ふふ、そうね、もうこれじゃあ、絶対に無理ね、そう思っちゃったのね?」
(0)
(0)「少し黙っ――――」
(0)
(0) 激情に任せて怒鳴りつけようとした、その瞬間、かはっ、とゆめのんが血を吐いた。
(0)
(0)「っ、先輩!?」
(0)
(0)「かはっ、あ、は、ぁ……」
(0)
(0) 止まっていた一気に呼吸を初めて、荒くなる。血が止まっていた。細かな傷はあるが、目立つ大きな傷は殆ど無い。折れていたはずの足は、赤黒い内出血を残すものの、ちゃんとした位置にある。意識はまだ失っているようだったが、『今すぐにでも死にそう』という状態ではなくなっていた。
(0)
(0)「ふふ、はい、治った」
(0)
(0)「……今、何したんですか、あなた」
(0)
(0)「ドラゴンハート、よ、お嬢さん。ふふ、花の女子高生かあ、いいなあ。私にもあったのよねえ、学生時代」
(0)
(0) くすくす微笑むドラゴンハート。
(0)
(0)「情けは人のためならず……じゃないけれど、本当にダメだって思っちゃったのね。さあ、これでゆっくりお話できるかしら?」
(0)
(0) ちらりと横目でゆめのんを見ると、未だ呼吸は荒いものの、とりあえずは、何故か、大丈夫になっている。
(0)
(0)「いきなり逃げちゃうんだもの……状況が全然わからないの。解放されたと思ったら、いきなりこんな所だし、ね? ここがどこで、あなたが誰で、なんで私が解放されたのか……教えてくれない?」
(0)
(0)「私の名前はジェノサイダー冬子で、解放した理由はよく知りません、頼まれたのでお金目当てやりました、今は反省してます。よしオッケーお疲れさようなら」
(0)
(0)「口を挟む暇も与えずに押し切ろうとしないで頂戴」
(0)
(0)「ちっ」
(0)
(0)「それと、すっごい名前ね……うーん、どれぐらい封印されてたかはわからないけど、それが最近のトレンドなのかしら? 私のドラゴンハートって名前は、結構格好いいと思うんだけど、どう思う?」
(0)
(0)「えーっと……口に出すと結構きついですね」
(0)
(0)「あなたにはものすごく言われたくないわね」
(0)
(0) ふむん、と顎に手を当て、また小首を傾げた。どうやら、これがドラゴンハートの癖らしい。その仕草自体はとても似合っているし、ここに普通の男性がいたら、思わず見惚れてしまうだろう、育ちの良さを思わせる、自然さと優雅さがある。
(0)
(0)「一応補足しておきますと……マスコットキャラ? に仕事を頼まれたんですよね、んで先輩と合流して、なんか封印解けって言われて、やったらお姉さんが出てきたんで」
(0)
(0)「マスコットが? 私を? んん……ねえ、冬子ちゃん? あなたは私の名前、知らない? それなりに有名人のつもりなんだけれども」
(0)
(0)「すいません、魔法少女歴数時間なもので」
(0)
(0)「あら、本当に新人さんなのねえ」
(0)
(0) 人差し指を立てて、口の前に当てる、という動作が、現実で似合う存在が、まさか居るとは思っていなかった。ナイショ話を囁く様に、ドラゴンハートは楽しそうに言った。
(0)
(0)「私はね、とっても悪い、極悪人、なの。そっちの子は、私がどういう存在で、何をしでかしたか知ってたから、逃げようとしたのね。だから逃げられなかったんだけれど」
(0)
(0)「……つまり、私は、指名手配犯を檻から出しちゃった、的な?」
(0)
(0)「うん、その認識で合っているわよ?」
(0)
(0) 成る程、とジェノサイダー冬子は納得した。状況はかなりやばい方向にまずくてとても危なくて危険らしい。
(0)
(0)「私が関わったことは黙っておいて貰えると……」
(0)
(0)「保身に走った!?」
(0)
(0)「今すぐ魔法少女やめればなかったことになりませんかね?」
(0)
(0)「いやあ、難しいんじゃないかしらあ……?」
(0)
(0) すさまじい身代わりの速さで、自分の立ち位置を確保し始めた少女に、さすがの極悪人も、つつ、と冷や汗を流した。
(0)
(0)「まあ、私としても、封印が解けてるのはバレてないほうが、都合がいいのよね。ほら、自由に動ける時間も増えるわけだし」
(0)
(0) そう言うと、片手で保持していた薙刀状の武器を――いつの間にか両手で構えていた。
(0)
(0)「マスコットが動いてるって事は、うん、なんとなく状況はつかめたかも。ありがとう、とっても助かったわ」
(0)
(0)にこ、と邪気のない、やわらかな笑顔を浮かべて、一歩、近寄ってきた。
(0)
(0)(……あ、これ、もしかしてダメな奴?)
(0)
(0) その笑顔から友好を読み取れれば、どれほど良いだろうか。
(0) 確信した。今、この場から、どうやったって逃げることは出来ない。ドラゴンハートがどういう人間か――――魔法少女かは、会話の中で察することはできた。
(0) 先輩を叩き落としたのは、この女だ。他者に危害を加える事に、徹底して容赦のない、自称の通りの極悪人だ。
(0)
(0)(じゃあ、このままさようなら、っては、ならないよね)
(0)
(0) 本人が言ったその通り、ドラゴンハートが危険で、野放しにしてはならないのであれば、何らかの対処がなされるのだろう。その情報はなるべく広まらない方がいいし、その情報はなるべく知っている者が少ないほうがいい。
(0)
(0) だから、話も終わって状況の把握が済んだ今、この場でジェノサイダー冬子を活かしておく理由は、もう全く持って存在しないのだ。
(0)
(0)(…………)
(0)
(0) 笹井七琴には、得意分野というものがない。スポーツはそんなに得意ではないし、勉強は平均値だし、背は普通だし胸も普通だし、しいて言うなら誰からも愛される愛嬌のある性格と究極すぎる美少女フェイスぐらいのものだ。。そんな自分が、唯一自分で自覚して、振りかざせる武器は、個性は、たった一つ。図々しい事、だ。
(0)
(0)(……黙ってやられるぐらいなら)
(0)
(0) 図々しく行ってやるか、と、思った。
(0)
(0) 情報はおおまかに得ることが出来たし、ドラゴンハートに、目の前の魔法少女を始末しない理由は、一切なくなった。とは言え、永劫に続く、退屈極まりないあの封印から、解放してくれた相手ではあることだし、せめて楽に始末してあげよう、ぐらいの慈悲は与えるつもりだった。
(0)
(0)「……あの」
(0)
(0)「あら、なあに?」
(0)
(0) 武器を構えたドラゴンハートを見て尚、ジェノサイダー冬子は声を上げた。この魔法少女は、自分が見てきた娘達の中でも、ひときわ面白い。きっと、記憶に残る命乞いを聞かせてくれるだろう、と思って、耳を傾けることにした。
(0)
(0)「えーっとですね、自分から言うのは、結構言い難いことなんですけど」
(0)
(0)「うんうん」
(0)
(0)「助けてあげたの私なんで何かお礼してもらえません?」
(0)
(0)「うんうん………………………うん?」
(0)
(0) 命乞いを聞くはずだったドラゴンハートは、思わず聞き返してしまった。
(0)
(0)「うん、あれ? あら? ええっと?」
(0)
(0)「私が出してあげなかったら、あのままずっとボーリング場の中でよくわからんピカピカの中で一生を終えて居たと思うと、ほら、何かお礼貰わないと割に合わないんじゃないかと思うんですけどどうでしょう、そのでっかいおっぱいさわらせてくれるだけでもいいですよ」
(0)
(0)「!?」
(0)
(0) 脊髄反射で一歩飛び退いて、体をギュッと抱いてしまった。
(0) おかしい、私は災厄の魔法少女ドラゴンハート、泣く子も黙る極悪人。罪に溺れて罰を切り捨てる不浄者。
(0) だというのになぜ、自分が押されているのだろう、あと、胸の下りは割りとガチで言っているのが目でわかった。
(0)
(0)「……あなた、変わってる、って言われない?」
(0)
(0)「んー、そうですね」
(0)
(0) どっちかっていうと、と続けた。
(0)
(0)「図々しい、とはよく言われます」
(0)
(0) あまりにしれ、っと言うものだから、もう我慢できなかった。
(0)
(0)「ふ、ふふふ……プ、アハハハ、あははははははははっ! そうね、そうよねっ! 助けてくれたんだもの、お礼をしなきゃ、ふふふふ、いけないわよ、ねぇ あは、あはははははっ!」
(0)
(0) 久々に、心から、腹を抱えて笑った気がする。成る程、言ってることは正論だ、限りなく彼女が正しい。頭を下げて何かを乞うのは、確かにドラゴンハートの方だ。
(0)
(0)「はー、面白い……アナタみたいな魔法少女は、本当、はじめてぇ……」
(0)
(0) 呼吸を整えて、はぁ、と息を大きく吐き出す。その動作に、目の前の少女の全身が緊張に包まれたのがわかった。
(0)
(0)「……でもねえ、それこそ私、今何も持ってないのよねぇ。おっぱいは、ふふ、触らせてあげられないし」
(0)
(0)「そこをなんとか」
(0)
(0)「食い下がる所なの!?」
(0)
(0) 脊髄反射でツッコミを入れてしまった、危ない危ない、と自制する。
(0)
(0)「申し訳ないけれど、渡せるものがないから――――」
(0)
(0) そういえば、封印から出てきたばかりで、慣らし運転もまだだったな、と想い出す。軽くかがんで、笑顔を向けて。
(0)
(0)「――踏み倒しちゃうわ」
(0)
(0) 高く高く跳躍して、木々をかき分け、森を超えて、ドラゴンハートはその場から消え去った。