行別ここすき者数
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履歴はこちら。
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(0)ある日、帰ってきたら――増えていた。
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(0)「あら?」
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(0)「おかえりなさい、貴方」
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(0) 何が、って。
(0) 八雲紫だ。
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(0) 見れば分かりやすい。
(0) 片やジャージ姿でくっちゃねしている妖怪。
(0) 片や、幻想郷の賢者。
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(0)「なんだ、オリジナルが迎えに来たか?」
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(0)「だから、どっちもオリジナルよ」
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(0) ジャージの紫が、当然のように言う。
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(0)「言い方は悪いけど、分裂したスライムにオリジナルも偽物もないでしょ」
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(0)「あなた、本当に私?」
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(0) 賢者の方が、少し眉をひそめる。
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(0)「もう少し言い方に趣があってもいいんじゃないかしら」
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(0)「だめだめ」
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(0) 俺は首を振った。
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(0)「こっちのあんたは、もう現代文明にどっぷりだ」
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(0)「へぇ」
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(0)「そうだよ、俺がそれだ文句あるか」
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(0) 一瞬、空気が張りつめる。
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(0)「……私が何を見定めようとしたか、分かるのね」
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(0) 賢者の紫が言う。
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(0)「そうよ」
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(0) ジャージの紫が、肩をすくめる。
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(0)「彼は、キャラクターとしての貴方を見てるんでしょうけどね」
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(0)「まぁ、いいわ」
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(0) 賢者は、あっさりと踵を返す。
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(0)「今日は帰るわ」
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(0)「そうね」
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(0) ジャージの紫は、あまり興味なさそうに言った。
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(0)「別に、もう来なくても、どちらでもいいけど」
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(0)「なんだ」
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(0) 俺が口を挟む。
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(0)「統合したりしないのか?」
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(0)「安心しなさい」
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(0) 賢者は振り返らなかった。
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(0)「今さら一つになんて戻れないわよ」
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(0) 少しだけ、声が柔らぐ。
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(0)「もう彼女は、貴方の隙間妖怪。
(0) 私とは、元が同じだっただけの、別のなにかよ」
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(0)「俺の隙間妖怪であるわけないだろ」
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(0) 即座に否定する。俺の隙間妖怪、なんて気持ち悪い存在だ。
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(0)「強いて言うなら、俺のところに居る隙間妖怪だ。間違えんな」
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(0)「あら」
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(0) 賢者が、くすりと笑う。
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(0)「本当に、分かってるのね」
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(0)「そうよ」
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(0) ジャージの紫が、俺の腕にしがみつく。
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(0)「あげないんだから」
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(0)「はいはい」
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(0) 賢者は手を振った。
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(0)「ご馳走様」
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(0) 幻想郷の賢者は、そう言って帰っていった。
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(0) 賢者が立っていた場所には、何の痕跡も残っていなかった。
(0) 空気が揺れた気配すらない。最初から誰もいなかった、と言われた方が納得できるほど、綺麗に消えている。
(0) 幻想郷の賢者という存在は、いつもそうだ。現れて、確かにそこにいたはずなのに、去った後には説明のしようもない空白だけが残る。
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(0) その空白を、俺はわざわざ埋めようとは思わなかった。
(0) 意味を考え始めれば、いくらでも理屈は出てくる。けれど、それを言葉にした瞬間、この場から何かが零れ落ちる気がした。
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(0) 隣にいる紫は、最初から賢者として立ってはいなかった。
(0) 視線も、立ち方も、存在の距離も、向こうとは噛み合わない。
(0) 今ここにいるのは、役割を脱いだ存在ではなく、ただこの場所に居ることを選んでいる八雲紫だった。
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(0) 俺が、聞けたのは一言だけだった。
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(0)「……いいのか?」
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(0)「いいのよ」
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(0) それだけで、十分だった。