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(0) ……うん、我ながらよく出来ている。絵なんて得意じゃねえのに、よくもここまで綺麗に書けたもんだ。
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(0) しっかし、恥ずかしいなあ。我ながらアホすぎるだろう、絹花さんの模造品なんぞ作るなんて。しかも、目玉も腕も足も無事とか。なんか逆に悲しいな。これが俺の理想形ってところか。本当、女々しい男だ。
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(0) 絶対にモモンガさんにはバレないようにしないと。勝手にNPC作ったことを怒られるだけじゃなくて、初恋の相手をモデルにしたとか笑われる……。笑われたら御の字か。普通に引かれるわ。まあ、ここにはこねえだろ。るし★ふぁーさんが入り浸っていた場所だからな。
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(0) あー、よし、さっさと話すか。
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(0) 我が娘ローラよ。……データに何言ってんだろ、俺。くそ、痛すぎる。あー、もう、こうなったら開き直ろう! どうせここには誰も来ないんだ! ……そうだ、誰も来ない。どれだけ待っても、俺しかいない。ごほん、では仕切り直しだ。
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(0) ローラ、まず言っておきたいんだが、この世界――ユグドラシルはあと一ヶ月で消滅する。当然、一ヶ月後にはお前も消える。なのに、生み出して悪い。だけど、このままだと俺は笑顔で終わりを迎えられないんだよ。だって心に色々とたまったままだからな。最終日にモモンガに八つ当たりなんてした日には目も当てられないからな。リアルに吐き出せる相手なんていないし、ユグドラシルの知り合いにはもっと聞かせられねえ。
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(0) そうだな、まずは俺自身の後悔の話をしよう。何が何やら分からないと思うけど、聞いてくれ。どうせこれから話す話を接ぎたしていけば全部分かるようになると思うから。
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(0) ユグドラシル終了決定の通知を聞いた時、俺が思ったのは「もっと早くにやめておけば良かった」ってことだな。なんつうか、今更やめても意味ないからな。
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(0) 多分、最後から二番目というのがまずかったんだと思う。
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(0) これがまだ俺以外にも二人いたり、いっそ最後の一人だったなら良かったのだと思う。俺が去ってもモモンガさんに付き合ってくれる誰かがいれば、おそらく俺は心置きなく、とは言えないが、ユグドラシルを引退していたと思う。モモンガさんが引退していたならば、一切の心残りなく後を追えたとも思う。
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(0) ……いや、おそらく俺より先に引退したメンバーはそういう心境だったんだろうな。
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(0) シルク・タングステンがモモンガに付き合ってくれる、シルク・タングステンが残るだろうから安心してやめられる、シルク・タングステンがいるなら大丈夫だろう。
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(0) 皆、そんな風に考えられていたのかもしれない。実際、そういう台詞を言ったメンバーは何人かいたしな。あれは確か、ウルベルトさんだったか? タブラさんだったような気もする。
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(0) 実際、こうして残っちまったからな。
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(0) 最後に残ったのがモモンガさんだっていうのも原因の一つだと思うよ。モモンガさん以外でも、たっち・みーさんや弐式炎雷さんとみたいな最初の九人の誰かであった場合、最後まで付き合おうと思っていただろう。このシルク・タングステンにとって「ナインズ・オウン・ゴール」とはそういう存在だ。
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(0) 眩しかったから憧れた。
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(0) あの『地獄』を生き抜いたと思ったら、今度は社会の歯車だ。何をどう頑張っても俺はこうなんだと諦めて逃げた先でも迫害にあって。結局、俺は世界から愛されていないし、誰も愛せないのだと悟った気でいた。そんな瞬間に助けられたからこそ、憧れた。自分と同じように迫害されているというのに、それに立ち向かおうとする九人の自殺点に。
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(0) 例え仮想現実でも、絹花さんと同じ輝きを見た。
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(0) そんな九人の仲間になるために努力して、研鑽した。そして、彼らの仲間として受け入れてもらった時の喜びは今でも忘れない。絹花さんの言ったように、ようやく世界を好きになれた自分がいた。
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(0) だから、義務だと思って、そう思いあがって、出来るだけ此処にいようと思っていたら、最後まで残ってしまった。みっともないことにな。まあ、結構な課金をしたからやめるのが勿体無いとも思っただけかもしれねえけど。……だったら、二人だけになってねえか。飽きならとっくの昔に感じているしよ。
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(0) 俺とモモンガさん以外にも三人引退していないが、来ない以上はいないのと一緒だろう。多数決が出来なくなった時点で、アインズ・ウール・ゴウンは終わってしまった。人数が偶数しかいなくて、揉めた日が懐かしい。
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(0) だからな、ふと考えることがあるんだ。俺が最後までいたから、モモンガにも変な未練や期待を持たせてしまったのではないだろうかって。それこそ、他のゲームにでも誘うべきだったかもな。あの人なら、また素晴らしい仲間に出会えただろうに。本当、俺はどうしてこんな場所に居座ってんだ。
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(0) 俺が去っていたならば、モモンガさんもこんな場所に最後まで残らずに済んだのだろうか?
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(0)「俺、アルベドとデミウルゴスに嫌われたかもしれません」
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(0) 突然、シルクがそんなことを言いだして、モモンガは困惑した。
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(0)「ど、どうしたんですか、突然」
(0)「いや、最近妙に距離を感じるんですよ。距離というか堅いというか」
(0)「そうですか? あんまり変わらないと思いますけど」
(0)「うーん。まあ、いいか。別に叛意を抱かれているってわけでもないみたいですから。それよりも、現状についてのおさらいをしますか」
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(0) シルクとモモンガは羊皮紙を広げる。そこには大きくいくつかの議題が記されていた。
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(0)「まず、デス・ナイトを始めとする特殊技術によるモンスターについてです」
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(0) ユグドラシルでは、魔法で召喚しようが特殊技術で召喚しようが、召喚されたモンスターは一定時間が経過すると消滅するようになっていた。
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(0) だが、この世界では微妙に異なる。
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(0) まず、カルネ村を救いに行った時にモモンガが騎士の死体から作ったデス・ナイトだが、まだ消滅していない。だが、死体なしで作成されたデス・ナイトは時間の経過によって消滅した。装備品を変えるなどの工夫も行ってみたが、やはり消滅する。
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(0) アイテムでカルネ村を見てみると、おそらくゴブリン将軍の角笛によって召喚されたであろうゴブリン達がいた。しばらく観察してみても彼らが消滅しそうな様子はない。つまり、あの角笛の効果は健在であるということだ。廃館に棄ててあった召喚系ゴミアイテムでモンスターを呼んでみたが、ユグドラシルで決められている召喚時間を越えて存在できるモンスターはいなかった。魔法も同じである。
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(0) つまり、特殊技術で作成したモンスターは、召喚の触媒・素材があった場合のみ、世界との関わりが強くなり、召喚時間を無視できるようになるということだろう。モモンガのアンデッド作成の特殊技術は一日の使用回数に制限があるが、死体と日数さえあればいくらでもアンデッドの軍勢を作り出せるということだ。多く作ればナザリックの強化に使えるだろう。
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(0) シルクもモンスター作成系の特殊技術は持っている。モモンガと同じように『死体を素材にする』という設定のため、死体を触媒に召喚できれば存在し続けるだろう。それも、アンデッドしか作れないモモンガと違って、シルクは精霊、魔獣、天使、悪魔、植物型など多種多様かつ強大なモンスターを作り出すことができる。素材の品質によっては、特殊技術の補助があればレベル百モンスターを作ることも可能だ。しかし、致命的な欠点……否、欠陥がある。
(0) シルク・タングステンは一度に九体以上のモンスターを召喚できないのだ。これは強いモンスターを作れることへのペナルティだろう。ユグドラシル時代ではあまり意味のないペナルティだったため、気にすることはなかった。九体も作れば邪魔だし、どうせ時間が経過すれば消滅するからだ。
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(0) しかし、半永久的に召喚できるようになれば話は違ってくる。適当な死体があれば無限にアンデッドを作り出せるモモンガと違って、シルクは素材を厳選した上で作成数に上限があるのだ。どちらが効率的に軍隊を作り出せるかは火を見るよりも明らかだ。
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(0) 九体同時に召喚したことはあまりなかったため、九体作ったとして、一体殺せばまた一体新しく作りなおせるのかどうかも分からない。仮に召喚モンスターを一体殺したとしても、それがユグドラシルと同じように『消滅』とカウントされるかは不明だ。だからこそ、シルクのモンスター召喚特殊技術『星獣転生』は検証さえもできにくいという現状にあった。
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(0)「何はともあれ死体の確保です。強い奴の死体が手に入ったらシルクさんもやってみてください」
(0)「犯罪組織でも襲います? 行方不明になっても誰も困らない人間なんて、あとはスラムの住民くらいしか思いつきませんけど」
(0)「例の王国と帝国の戦争では大量の死体が出るそうですからね。エ・ランテルには大きな墓地があるかもしれません。そこから戴くというのはどうでしょう? 殺す手間もかかりません」
(0)「死体の鮮度が影響していないといいんですけど。あと、元になった死体の強さや種族、年齢、性別は影響するのかも比較実験を行いたいところですね」
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(0) 歴史上の科学者達が新発見をした瞬間というのは、思いがけないことがきっかけであったことも多い。少しでも戦力が欲しい現状では、僅かな差でも検証の価値がある。
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(0)「では、次に、ポーションやスクロールなどの消耗品についてです」
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(0) かつてのメンバーの多くが貧乏性であったが故に、ナザリックには金貨もポーションもスクロールも山のようにある。だが、現在は支出があっても収入がない。補給ができないということは、ないのと一緒だ。
(0) 特に、《伝言 》のような低位かつ使用頻度の高い魔法は問題だ。NPCの多くはそもそもその他の魔法を使うことを前提としていないため、習得していない。そのため、どうしても使用しようとすればスクロール頼みとなってしまう。これからいくつかのチームが外の世界に出る以上、連絡の重要性は跳ね上がる。定期的な連絡でさえ満足にできなくなるのは避けたいところだ。
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(0) 金貨に関しては、物資をエクスチェンジ・ボックスに投げ込んで金貨に変換してしまえばいい。ただし、それは最後の手段だ。いつか、投げ込める物資を確保できなくなるような惨状が来るかもしれない。
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(0)「スクロールに関しては、デミウルゴスが請け負ってくれる予定です」
(0)「やっぱり優秀ですね、あいつ。ウルベルドさんには感謝感激だぜ」
(0)「ええ、今後も負担をかけることになるでしょうけど、そこは頑張ってもらうしかないですね。あいつの欲しいものでも何かあげられたらいいんですけど」
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(0) おそらくデミウルゴスが聞けば、「では、これからも御二人にお仕えする許可をいただきたいと思います」と言うだろうが。忠誠心が高すぎるのも考え物だ。
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(0)「ポーションと金貨に関してはこれから外に出る者達が担当することになります。ユグドラシルの金貨とこの世界の通貨は異なるようですし、ある程度集めて色々と検証する必要があるでしょう。ポーションも同じことが言えます」
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(0) 王国の交金貨と比較するとユグドラシルの金貨の重さ、というか金の含有量は二倍らしいが、二枚あればユグドラシルの金貨一枚分という簡単な話ではないだろう。
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(0)「そして、守護者達についてです」
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(0) このナザリックにおいて百レベルNPCは最強の存在である。
(0) ただし、最強である=最優であるではない。デミウルゴスやアルベドはその設定上、頭脳明晰だ。モモンガやシルクよりもずっと賢い。モモンガとしてはあまり話題に出したくないが、パンドラズ・アクターもまた優秀な頭脳の持ち主だ。しかし、彼ら以外の階層守護者も優秀かと問われたらそうではない。
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(0) ぶっちゃけ、シャルティアはアホである。これに関しては彼女だけの責任ではなく、創造主であるペロロンチーノの趣向のせいだろう。いや、思い返せば彼自身もアホだった気がする。その影響だろうか。
(0) また、アウラやマーレもその知性は子どもの域を出ないことがアンケートで判明してしまった。モモンガやシルクに対しては正しく忠義を見えているようだが、ナザリック外の者に礼節を見せられるかは大きく疑問だ。子ども特有の残虐性も見え隠れしている。ローラも以下同文。
(0) コキュートスは良くも悪くも、何も考えていない。これは己を一本の刀と見ていることの弊害だ。ただ主人の命令をこなせばいいとしか思っていない。はっきり言って、自主性がないのだ。普段から自分で考える癖がない以上、緊急事態ではアドリブが出来ないだろう。
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(0) 他のNPC達も似たり寄ったりの結果であった。はっきり言って、仕事を任せることに非常に不安がある。能力的には、配置を間違えない限りは全く問題がないだろう。しかし、人格や知能などの問題点がありすぎる。皮肉なことだが、信用できるのは悪魔であるデミウルゴスと黒歴史であるパンドラズ・アクターだけだった。アルベドは色々とアレだ。
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(0)「デミウルゴスはさっきも言ったように消耗品の解決、アルベドは俺達のいないナザリックの総指揮、アウラとマーレはトブの大森林の支配とナザリックのダミーとなるダンジョンの作成というのが決定しています」
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(0) デミウルゴスとアルベドは言わずもがなだ。アウラとマーレは種族的に人間社会に出られないというのもあるが、それ以上に能力がこの仕事にこれ以上ないほどに適している。敵がどこにいるか分からない以上、近くに避難所を作っておくことは必要だ。ナザリックのダミーはそういう目的がある。
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(0)「異存はねえよ。残る百レベルNPCはシャルティア、コキュートス、ローラ、セバス、パンドラズ・アクターか。桜花聖域のあいつはその場で固定ですね」
(0)「セバスには人間社会に出てもらいましょうか。人間にも好意的みたいですからぴったりですよ」
(0)「大丈夫ですか? あいつ、たっちさんに似ていますからちょっと危なっかしいです」
(0)「シルクさんの中でたっちさんってどんな人なんですか?」
(0)「正義を愛する脳筋。またの名をトラブルメーカー」
(0)「否定できない……」
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(0) 実際、たっち・みーに救われたモモンガではあるが、彼から多くの面倒事が発生していることも否めない感じはあった。
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(0)「シャルティアは種族的にも職業的にもペナルティが多いし。特に『血の狂乱』。コキュートスはあの外見だから選択肢が限られる。ローラはああいう性格に作っちゃったからなあ。製作者としてはなんか怖い。パンドラは……迷うところだな。あいつは色々できるから逆に『これ!』って仕事がない」
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(0) あの埴輪顔の軍服は、器用貧乏というか万能すぎる。万能であるが故に、消去法で仕事を決められないため、最後まで悩みそうだ。
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(0)「じゃ、じゃあ先に、冒険についてです」
(0)「……本当、どうしましょうか」
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(0) はっきり言ってしまえば、重要度の低い問題だ。情報収集などの目的もあるが、趣味の要素が強い。
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(0)「俺は『モモン』という名前で冒険者になろうと思います。カルネ村みたいに戦士に扮して。敵対ギルドの可能性を考えると、アインズ・ウール・ゴウンの名前はしばらく封印ですね」
(0)「格好どうするの? さすがに骨の顔出すわけにもいかんし、黒い鎧だとバレるぜ? カルネ村の話がどこまで広がっているか分からんけど」
(0)「たっちさんをイメージして、白い鎧でも着ようと考えています」
(0)「好きだねえ」
(0)「顔は幻影で、リアルよりちょっとかっこいい感じにしたいと思っています」
(0)「……モモンガさん、幻影で顔を作るのはいいけどあんまり盛らないことをお勧めするよ」
(0)「え、何でですか?」
(0)「後で絶対に虚しくなる。実際、俺はそうだった」
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(0) ……納得の理由だった。
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(0)「火傷を抜きにしても、リアルの俺はもうちょっと……いや、かなり目つき悪いぜ? あ、俺どうしよう。顔見せちゃったからな」
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(0) オッドアイで、顔の左半分に大きな火傷。特徴的すぎて別人は通じないだろう。カルネ村の人間や戦士団に逢わないとも限らない以上、別人の振りは危険である。
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(0)「あの特殊技術、いくつかの外装作れると思っていたんですけど、違いました?」
(0)「違うよ? あれで作れる外装は一つだけ。現にあれ以外の顔見せたことないでしょうが」
(0)「ああ、言われてみれば。……アイテムで外装を微妙に変えるのは?」
(0)「あれって髪の色くらいしか変えられなかったはずでしょう?」
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(0) モモンガだけ偽装しても意味がない。プレイヤーを警戒して、『この世界の人間』としての偽装身分を作るつもりなのだから。
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(0)「あー、あれだ。モモンガさん。いっそのこと、別行動しない?」
(0)「……え……?」
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(0) 若干傷付いたような顔をした骸骨を見ている星霊は、おそらくこの世界でシルクだけだろう。
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(0)「シルクさんは、俺と冒険するのが嫌なんですか?」
(0)「違うって。役割分担だよ。正直、NPCをNPCだけで行動させるのは怖いからさ。特に、人間社会に出向いてもらう奴は」
(0)「そうですけど」
(0)「まあ、モモンガさんの気持ちも分かるし、俺もそういう気持ちだよ? でも、俺達は全NPCの命運を握っているんだからさ。余裕が出来るまで、個人的欲求は控えようぜ?」
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(0) ようは、ナザリックの最善になるかを考えようということだ。現在やらなければならないことは、この世界の情報や独自の技術の収集だ。あと、金。
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(0)「……うん、そうですね。分かりました。今は散りましょう。でも、いずれ一緒に冒険をしましょうね!」
(0)「応。それは賛成だ」
(0)「じゃあ、シルクさんは王都に向かってもらえますか? 設定はそうだな……」
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(0) 二人の支配者は旅行の計画でも考えるように、この世界の未知への想いを強くした。
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(0)■
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(0) 同じ頃、第九階層の一室、主人により与えられた部屋で、一人のサキュバスが戦慄していた。
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(0)「こ、これは……! なんという素敵なマジックアイテム! でかしたわ、ローラ!」
(0)「あの、アルベド様? そこまで驚かれると、うちも引いてしまうんやけど」
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(0) 部屋には、住人であるアルベドの他にローラがいた。
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(0)「そんなにええもんなん? 異能写しの指輪 」
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(0) 異能写しの指輪 。
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(0) それはローラとミリオンが廃館の中から発見したマジックアイテムの一つだ。元々この二人はシルクから「廃館の中で使えそうなアイテムを探してきてくれ」という命令を賜っていた。しかし、至高の御方の視点とNPCの視点では使えるかどうかの認識には差がある。しかし、御方はこれからの行動の指針の決定で忙しい。そこで、ローラが便利そうだと思ったものを一度アルベドかデミウルゴス、パンドラズ・アクターに見せるように言われた。この三名の誰かならば大抵のマジックアイテムの活用方法を思い付くであろうと考えられたからだ。
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(0) そして、今回ローラが持って来たマジックアイテムは、その名の通り特殊技術 をコピーするものだ。この指輪で特殊技術のコピーを行っておけば、他人にその特殊技術を使わせることができるという代物である。
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(0) ただし、コピーできるスキルには制限が多い。まず、パッシブではなくアクティブ特殊技術 であることが第一条件だ。次に、一日の使用回数が十回以上または無限であること。最後に、攻撃系ではないことが挙げられる。これらの制限に引っ掛からないスキルも当然それなりの数があるのだが、微妙系になることが多い。
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(0) だが、シルクの娘であるローラはふと思い付いたのだ。父の特殊技術 の一つ、異形種レベルを無効化することで人間種に変身することができる化身転生 は、異能写しの指輪 の条件と合致するのだと。
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(0) つまり、このマジックアイテムを使えば、多くの者が人間に化けて人間の街に紛れ込むことができるのではないか。当然、紫炎の塊であるシルクがちゃんとした人間になれるのだから、コキュートスやアルベドのような明らかに人間ではない存在も大丈夫だろう。父が「うちは人間型が少ないからな」と苦笑しながら語っていたのだ。これでかなり選択肢が広がるだろう。
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(0) しかし、自分はほとんど父からの話でしか世界を知らない。本当は父に一刻も早く報告したいが、なんらかの問題があってはまずい。もし大きな穴があった場合、恥をかくのは自分だけではない。そこでアルベドの元に、このアイテムの効果の説明と自分の案を話してみたのだが、ご覧の有様である。
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(0)「く、くふふふ。この指輪に、シルク様の化身転生 を込めてもらえばどんな種族でも人間になれる。そう、それは非実体の存在でも肉体を得ることができるということよ。つまり、モモンガ様に使って戴ければ股間に……」
(0)「おっと、それ以上は言うたらぶつで」
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(0) 手を痛めるのはこっちの方だが。
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(1)「せやけど、そういう使い方もあったんか。ああ、おと……シルク様やモモンガ様にご飯食べてもらえるってなったら、料理長はん達も喜ぶやろなー」
(0)「え? え、ええ。もちろん、私もそういうことはちゃんと考えていたわよ?」
(0)「嘘くさいなあ。……まあ、ええわ」
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(0) ローラは一つの皮袋を机の上に置く。じゃらりという音がして、袋にいくつかの金属があることを意味していた。
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(0)「今のところ、三つしかなかったわ。探せばもっとあるかもしれんけど、そればっかり探すわけにもあかんからなあ。とりあえず、これをおと……シルク様に渡しといて」
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(0) 本当は自分が渡しに行きたいが、まだまだ廃館の整理は終わっていない。どうせならば、全部終わってから褒められたいのだ。一度褒めらてしまえば喜びで作業が手に付かなくなる可能性もある。
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(0)「ええ、確かに貴女から受け取ったと伝えておくわ。……それからローラ。別に、私やデミウルゴスの前ではシルク様のことを堂々と《お父様》と呼んでいいのよ?」
(0)「いや、そんな風には呼んどらんよ」
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(0) しかし、父の身分上、そちらの方が呼称としては正しいのだろうか。だが、自分はそうあれとは求められなかった。いや、呼び方の設定などされていないが、普段の喋り方に対して、この呼称が正しいと考えたまでだ。
(0) だが、兄の意見を参考にするならば、そちらに変えた方が良いのだろうか。どうも兄は何でもかんでも『設定だから』『NPCだから』といった理由の言動が気に入らないように思える。
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(0)「でも、何でええの? おとんからは、こういう呼び方をすると他のNPCからは嫉妬される言われてんねんけど。流石に、一人だけ実子扱いされたら不評やと思うんやけど。お兄やパンドラはんは息子呼ばわりされとらんし」
(0)「……ああ、貴女にはそういう風に説明されているのね」
(0)「え?」
(0)「いえ、何でもないわ。こっちの話。忘れてちょうだい。……くふふ、それよりも……くふふふふふ!」
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(0) 何か釈然としないが、アルベドの視線が自分の薬指に嵌めている指輪と異能写しの指輪 を行き来しているので、もう部屋から出ることにした。彼女の頭の中は今、自分とモモンガの子どもの空想で頭がいっぱいだろうから。いや、どうやってご寵愛を戴くかの算段の方が先だろうか。
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(0) 自分には関係のない話である。シルクは娘に欲情するタイプではないし、ローラも父とそういう関係になりたいとは思わない。目の前のサキュバスが大分妄想にトリップしているが、放っておこう。いくらサキュバスでも、至高の御方を押し倒すようなことはしないだろうし。
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(0)「ほな、さいならー」