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(0) 今日はアインズ・ウール・ゴウンの話をしよう。
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(0) 俺達のいるナザリック地下大墳墓こそが、アインズ・ウール・ゴウンのギルドホームなわけだ。そして、お前も俺もその一員ってわけだな、ローラ。
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(0) アインズ・ウール・ゴウンはユグドラシルの中でもDQNギルド……ようは、問題児集団として有名だったんだよ。元々は異形種狩り……ただ『異形種のプレイヤーだ』というだけで人間種のプレイヤーから襲われていた者達を救済するための集団だったんだ。当初はギルドじゃなくてクラン、『ナインズ・オウン・ゴール』だったんだけどな。
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(0) ナインズ・オウン・ゴールの時代から、あの人達の人気はやばかったんだぜ。だって、あの頃の異形種って自分達の有利なワールドから出ることはなかったからな。だけど、あの九人は違った。ガンガン他のワールドにも出て、人間種に挑みまくった。まあ、死にまくったから『自殺点』なんて名乗っていたわけなんだけど。
(0) だけど、間違いなくあの人達のおかげで、異形種の流れは変わった。あのクランがなければ、ユグドラシルは人間種がのさばるだけで、異形種は物好きしかいないようなゲームになっていた可能性だってある。
(0) ユグドラシルという世界で、あの九人は間違いなく英雄だった。
(0) ……だからこそ、アインズ・ウール・ゴウンができたとき、九人の一人がやめてしまったことは残念でならないけどな。そして、残りの八人ももうモモンガさんしか残っていない。
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(0) えっと、アインズ・ウール・ゴウンのすごさを語るには、一般的なギルドのことを話す必要があるな。まず、一つのギルドの最大定員数は百人だ。それから、ワールドアイテムというユグドラシル最強級アイテムがあるんだが、一つのギルドはどんなに多くても三つしか持っていない。
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(0) だが、アインズ・ウール・ゴウン。たった四十一人で上位十位ギルドに入ったこともあるんだぜ? それに、ワールドアイテムの所持数が十一、唯一の二桁だ。
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(0) 加入条件は、異形種であることと社会人であること。隠し条件として、ギルドメンバーの過半数の承認が必要なんだよな。いやあ、スパイが入ろうとしてそれを阻止したこともあったなあ。てか、基本的に入りたいって言うやつはうちの強大さに甘い蜜を吸おうとしていた連中ばっかりなんだよな。そういう奴の加入をお断りしてきたからこそ、今の強大さはあるんだろうけどな。やっぱり、量より質だよ。
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(0) まあ、モモンガさんがギルド長だったってのが一番だろうけどな。ぷにっと萌えさんも言っていたけど、あの人じゃなかったら適当に瓦解しただろうね。実際、モモンガさんが仕事の都合で何日かログインしないだけで、ギルドが荒れた時があったからなあ。主にたっちさんとウルベルトさんの喧嘩が原因なんだけど。
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(0) アインズ・ウール・ゴウン最大の偉業といえば、かの大侵攻の討伐だ! 総勢1500人による脅威の大侵攻。ユグドラシルの歴史上でも、それほどの連合が組まれたことはなかった。それまでは最大でも第六階層までしか進まれたことがなかったが、ついに第八階層まで進まれてしまった。けど、大侵攻はそこで終了だ。
(0) あそこは、第八階層は、ギルドメンバーである俺の視点から見てもチートだ。あんなのどうやって攻略すればいいのか分からないな。はっはっは、運営のサーバーがパンクするくらい抗議メールが殺到したらしいからな。こいつはやべえぜ。あの時の音声やムービーを今でも再生しちまう。
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(0) ああ、思い出す。『これだけの量と質があれば、いくらアインズ・ウール・ゴウンでも倒せるだろう』というあいつらの余裕と確信がぶっ壊れたあの瞬間を! 憎悪と怨嗟に満ちた、ゲームとは別次元の悲鳴を! ヴィクティムの足止めスキルで動けなくなったあいつらが、モモンガさんのワールドアイテムの前に無様に倒されていく快感を!
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(0) 最終日あたりにもう一度攻め込んでこねえかな? そうすりゃ、モモンガさんだって素敵な最後を迎えられるはずだしな!
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(0) バハルス帝国やスレイン法国との要所、リ・エスティーゼ王国の都市、エ・ランテル。三重の城壁に囲まれる城塞都市であり、帝国との戦争時にはこの都市に兵が集まる。三カ国の要所とあって様々な店が立ち並び、衣服や食物など多様な商品が売られている。
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(0) 大きな都市なだけに多種多様な職業が存在するが、その中に『冒険者』と呼ばれる職業がある。
(0) 冒険者とは、その名の通り、未知の土地や遺跡を冒険することもあるが、基本的には対モンスターの傭兵である。英雄譚のような冒険を夢見て冒険者となる者も多いが、ほとんどは現実に挫折する。あるいは、荷物運びのような使用人じみた木っ端仕事をこなしてその日暮らしをする者も多い。都市の有名人になれる者は、極僅かだ。
(0) 冒険者組合に所属し、組合が仲介した依頼をこなすというのが一般的だ。依頼をこなした場合、冒険者組合には一定の仲介料を取られる。受けられる依頼は、階級ごとに難度が分けられている。
(0) 階級は複数あり、登録したばかりの人間は銅から始まる。昇格試験などを受けて、鉄、銀、金、白金、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトと順番に上がっていく。アダマンタイトのチームは基本的に国に一つか二つしかなく、英雄級と評される。
(0) 冒険者および冒険者組合は、国家の問題には口出ししないことを規律としているが、それは逆説的に国から見た立場が低いことを意味していた。また、国家の軍隊がしっかりしている国ほど冒険者の数は少ない。帝国は騎士という制度が存在するため、現在の皇帝になってから冒険者は減少している。法国は冒険者組合が存在しない。
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(0) なお、冒険者組合に属さないが、冒険者のようなことをしている者達を「ワーカー」と呼ぶ。もっとも、ワーカーの仕事は基本的に犯罪ギリギリや完全な犯罪行為の依頼も多く、危険度が高い。組合という後ろ盾がない以上、当然とも言える。
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(0) 今日、エ・ランテルに三人の冒険者が生まれた。
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(0) 彼ら三人は冒険者組合で冒険者として登録した後、組合に紹介してもらった宿屋に訪れた。部屋を取る時に、先輩冒険者に絡まれ、その騒ぎで女冒険者のポーションを割ってしまうというトラブルもあったが、それを自分の持っていたポーションで弁償することでことなきを得た。
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(0) ボロいとしか言い様がない部屋のベッドにリーダーが腰を落とすと、仲間の一人が口を開いた。
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(0)「モモンガ様」
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(0) そんな呼称で呼ばれた男は、魔 術 師 だった。顔には奇妙な仮面を被り、全身を覆い隠すようなフード付きのローブに、手にはガントレットをはめて、あらゆる露出をカットしていた。面を外すと、そこから現れたのは骸骨の顔だ。そう、魔術師の正体はモモンガである。
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(0)「違う。モモンガではない。勿論、アインズでもない。私は冒険者モモン。そして、お前は私の冒険者の仲間であるルナだ」
(0)「はっ! これは失礼しました! モモン様」
(0)「それと、様付けもその口調もやめるように言っただろう」
(0)「はっ! 申し訳ありませんでした……っす、モモンさ――ん」
(0)「……それでいい」
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(0) 健康的な褐色の肌、三つ編みにされた赤髪、コロコロと変わる表情、親しみやすく明るい雰囲気と口調。そして、何より絶世の美女という言葉が相応しい美貌。
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(0) ルナと呼ばれた彼女の正体は、ナザリック地下大墳墓戦闘メイド『プレアデス』の一人、ルプスレギナ・ベータだ。冒険者としての偽名が『ルナ』。単純に、彼女の名前の最初と最後を組み合わせただけだ。服は普段のスリットが入ったメイド服ではなく、ちゃんとした神官衣だ。さすがに町中であの格好は目立つ。
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(0) ルプスレギナがモモンガの御供の一人となった決め手は、三つある。
(0) 第一に、彼女が人間に近い容姿であることだ。人間の都市に潜入するのだから、これに関しては理由を語るまでもない。
(0) 第二に、彼女が親しみ易いタイプの美人であることだ。美人というのは男には人気があるが、女には嫉妬を買うことが多い。冒険者やその関係する仕事には女性もそれなりの数がいるだろうから、嫉妬から足を引っ張られるおそれもある。そこで、ルプスレギナの持ち前の明るさでそれを緩和しようという試みだ。そして、仲間に感じの良い美人がいるならば良い注目の的になるだろう。
(0) 第三に、彼女が信仰系魔法詠唱者――「回復」のポジションの職業であることだ。何せモモンガの正体はアンデッドである。他の冒険者に回復云々の都合でバレる可能性も考えられなくもない。もしもの時を考えて、身内に「回復」できる者がいた方が良い。魔法を使った振りをして何もしないという手法を取るためだ。
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(0)「では、改めて……モモンさ――ん。モモンさんともあろう御方が、このような場所に滞在するなど」
(0)「そう言うな。我々の目的は冒険者としての地位を得、名が知れるまで登り詰めること。それまでは分にあった生活というのも悪くない」
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(0) そう答えたモモンは、ルナから視線を外し、もう一人の仲間に視線を向けた。
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(0) その人物を一言で言うならば、氷山のような武人だ。
(0) 二メートル近い巨体。年齢は壮年かそれより少し上といったところだろうか。目と髪の色は薄い水色。腰には鞘に収められた刀が二本。前衛職の戦士にもかかわらずかなり軽装備であり、その鍛えられた筋肉がこれでもかと自己主張している。歴戦の猛者を思わせる風格でいて、肌には傷一つ見られず、雪原のような白さだ。
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(0)「『その姿』の調子はどうだ?」
(0)「はっ! 問題ありません」
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(0) 見た目通りの重々しい声だが、『彼』の本来の声からするとかなり流暢な喋り方だ。
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(0)「そうか。いや、お前の元々の姿を考えると、あまりに形が違うからな。何か違和感があって、戦闘時に不都合が生じてはならないからな。問題があればすぐに言うのだぞ」
(0)「はっ! お心遣いに感謝します。しかし、生まれてからずっとこの姿であったかのように体は動きます。今のところ問題はございません」
(0)「そうか。そういえば、シルクさんも体格やら何やらが変化するのに、違和感は皆無だと言っていたな。変身の前後でギャップも特にないそうだ。しかし、お前もそうとは限らない。その姿から元の姿に戻った時、腕の動かし方を忘れたなどと言わないでくれよ?」
(0)「無論でございます、モモンさ――ん。どちらの姿でも鍛錬を怠るつもりはございません」
(0)「いや、年齢的にお前がさん付けはおかしいだろう」
(0)「しかし、いくら偽装とはいえ、御方を呼び捨てというのは……」
(0)「はあ、分かった。では、私がお前より強いからお前が敬意を払うという意味でさん付けされているということにしよう、コキュートス。いや、コートス」
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(0) そう、モモンの御供の正体は、第五階層守護者コキュートス。偽名は「コートス」とした。
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(0) どうして巨大な二足歩行の蟲の姿をしているはずのコキュートスが人間の姿をしているかといえば、あるマジックアイテムのおかげだ。いや、正確に言えば、そこに込められている特殊技術のおかげと言うべきか。
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(0) モモン――否、モモンガは数日前のナザリック地下大墳墓の騒動を思い出す。
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(0) ローラが廃館から見つけてきたマジックアイテム、異能写しの指輪 と、それにシルク・タングステンの化身転生 を込めるというアイディアはナザリック地下大墳墓に震撼をもたらした。
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(0) というのも、『人間に見えないから』という理由で、モモンガやシルクが人間社会に出る御供候補から弾かれたNPCは多い。アルベドやデミウルゴス、コキュートスがその例だ。種族レベルが無効化されることは痛いが、この世界のレベルを考えると職業レベルが五十以上あれば問題ないと言える。それ以上のレベルとなるとプレイヤーの可能性が高く、どちらにしろ元々のレベルが高くなければいけないので、特に問題ではなかったりする。指輪の効力を切るのは一瞬で事足りるのだし。
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(0) また、色々と実験してみると面白いことが判明した。
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(0) セバスのような見た目は人間のNPCに指輪の力を使ってみると全く違う姿になった。コキュートスや恐怖公のように人間とは全く異なる姿の者やデミウルゴスやアルベドのように一部分が人間とは異なる者に対して使ってみたが、全く違う姿となる結果となった。当然、変身した姿は誰がどう見ても人間のそれである。
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(0) 変身後のNPCをどこかで見たことがあると考えていたのだが、同じ系統の職業の者が近い姿になっているという法則から、ヒューマノイドタイプの傭兵モンスターだと気付いた。無論、性別や年齢の設定などは変わらなかったし、同じ職業の者でも個人の判別が可能な差はあった。例えば、セバスとユリは修行僧だが、二人の変身後の姿には同じ地域の出なんだろうな程度の類似点しかない。
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(0) また、ユリを始めとしたプレアデスやアルベド、シャルティアなどは元が絶世の美人なだけに、変身後の姿は本来のそれよりも数段落ちる感じだった。いや、モモンガやシルクの感性からすると十分に美人なのだが。
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(0) アウラやマーレ、桜花聖域の彼女にも使用してもらったが、変化はなかった。強いて言うなら、アウラとマーレは耳が通常の人間大になっていたくらいだ。肌の色も目の色も変わっていない。能力も変化なしといったところだ。まあ、この三名は人間種のため元々種族レベルを持っていないので当然だ。
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(0) これならば、かつての大侵攻やそれ以外の侵入で姿を知られてしまった守護者達も大手を振って人間社会に顔を出せる。だが、アイテムが奪われたりアイテムの効果が無効化されたりすることを考えると、やはり元々人間に近い姿のものが優先される。それに、指輪は三つしかなかった。
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(0) 様々な議論の結果、指輪はモモンガ、コキュートス、デミウルゴスが所持することになった。無論、込められている特殊技術はシルクの化身転生 である。シルクは自分の特殊技術で変身可能だし、彼の御供に選ばれたメンバーは人間に見えるメンツが選ばれているので問題ない。
(0) デミウルゴスに渡したのは、彼は消耗品の調達の他に様々な実験の実施を命じられているからだ。町に潜入する必要がある時もあるだろう。あるいは、凡人であるモモンガやシルクでは思いつかない画期的な活用方法を、彼ならば考え付いてくれるかもしれない。
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(0)「はあ、やっぱりシルクさんと一緒に冒険がしたかったなあ……」
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(0) NPC達には悪いが、現在最もモモンガにとって大事な存在はシルクだ。無論、次点で全NPCが来るのだが、パンドラズ・アクターを例外として、彼らは友人の子どもという印象が強い。かつてのユグドラシルのように、仲間と一緒に未知の冒険をしたかったというのがモモンガの本音だ。
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(0) シルクは王都に出向くことになった。戦士長に接触して、この王国の情報をある程度得てもらおうという算段だ。シルク・タングステンというユグドラシルでもそれなりに有名な名前をそのままにするのはどうかと思うが、釣りの意味もある。だからこそ、シルクの御供の一人にはセバスを選んだ。指輪の力で人間に化ける必要もないし、ナザリックのNPCで単純な肉弾戦最強の彼ならばシルクの盾……否、矛として十分に機能する。絡め手は苦手なセバスだが、シルクの能力ならば相手に真っ向勝負を強要することができるため問題ない。
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(0) シルクは「娘と長期間離れ離れとか、お父さん辛い……。これが単身赴任の痛み……」などと嘯いていた。子持ちになったばかりなのに親バカになるのが早すぎないか。あと、ミリオンが微妙に不憫な気がする。
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(0)「しかし、モモンさ――ん。御供に選ばれたことは大変光栄なのですが、御身を守るならばアルベド様の方が良かったので……いや、良かったんじゃないっすか?」
(0)「……いや、アルベドがナザリックにいるからこそ私が安心してナザリックを離れることができるのだ。アルベドほど私が信頼している者は他にいないからな」
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(0) 本音ではあるが、全部ではない。自分が設定を変更してしまったせいで、猛烈にアピールをしてくるアルベドに対して罪悪感が沸く。
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(0) そろそろデミウルゴスが出立するであろうことを考えると、現在のナザリック地下大墳墓にいる階層守護者はアルベドとシャルティアだけだ。レベル百NPCということであれば、パンドラズ・アクターやローラも入るが。
(0) 当初、パンドラズ・アクターやローラもナザリックから出る計画があるにはあった。二人とも幻術を使えるし、人間に対する考え方も割とまともだ。
(0) しかし、至高の支配者達は二人をナザリックから出したくはなかった。親として子の身を案じるという感情もあったのだが、もっと別の理由がある。
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(0) パンドラズ・アクターは万能すぎるし、ローラは便利すぎる。
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(0) モモン達が冒険者として名を上げるためには、現場にいてもらうよりも、裏方として色々と仕組んでもらった方が可能性は広がると考えたのだ。それに、ナザリックに他のプレイヤーが侵入してきた時やシルクやデミウルゴスの方に救援が必要になった時のために、二人にはナザリックで待機してもらった方が都合が良い。
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(0) 万が一敵がナザリックに来た場合、守護者最強であるシャルティアと究極の万能であるパンドラズ・アクターが相手になる。まして、ローラの歌によって強化されるのだ。個人で勝てる存在はいないだろうし、仮に集団戦になってもアルベドという頭脳がいるため問題はないという手筈だ。最悪、モモンガやシルクがナザリックに戻るまでの時間は稼げるだろう。
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(0) 続いて、モモンガは自分の装備を見る。誰がどう見ても魔法詠唱者の装備だ。モモンガの主装備であるゴッズアイテムよりも二段下がった聖遺物級の装備だが、この世界では十分な機能だろう。見た目はユグドラシルで知られているモモンガを想起しない程度のものを選んだ。勿論、シルクの変装用ローブとも被っていないデザインだ。仮面は被っているが、嫉妬マスクではない。手のガントレットは昔ギルメンが遊びで作ったもので、それほど特別な能力はない。
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(0) 指輪による人間化は時と場合によって使い分けるつもりだ。露出を抑えているのはそのためだ。食事や握手をする時は人間の姿の方が良いだろうが、精神安定化や上位攻撃無効化が解除されるのはモモンガとしては恐ろしい。ちなみに、人間化したモモンガの姿は、鈴木悟よりもイケメンだった。
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(0) モモンガは、どうせ冒険者をやるなら前衛職をやりたかった。この世界のレベルを考えれば、自分でも戦士の振りが十分に可能だからだ。たっち・みー、弐式炎雷、武人建御雷などのギルメンの勇姿が頭に浮かんだ。英雄というイメージには魔術師より戦士の方がぴったりくる。しかし、コキュートスが御供になった以上、自分の稚拙な剣捌きは浮いてしまう。例え、この世界の人間から見て圧倒的な膂力があったとしても、コキュートスはその上だ。
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(0) 当然、コキュートスに人間化をしてもらってまで冒険者になってもらったのには理由がある。シルクが考えたある計画において、コキュートスこそが適任だったからだ。コキュートスの姿のために頓挫した計画だったのだが、指輪の発見で事態は大きく動いた。
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(0)(俺だけでこの世界に来ていたら、あんな考えは出なかっただろうな。シルクさんも大事な娘としばらく逢えないんだし、俺も多少は我慢をしないとな。最低限の目的、『旅をする』と『できるだけNPCの視線から逃げる』はクリアできたんだし)
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(0) この時代の『伝説の戦士』は漆黒の戦士アインズ・ウール・ゴウンになってもらう予定だ。自分も名声が欲しくないわけではないが、アインズ・ウール・ゴウンを伝説にするという目的の前ではどうでもいいことだ。それに、自分 は『伝説の魔法詠唱者』になれば問題はないのだから。ジャンルの被りは避けるべきである。
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(0)「では、シルクさんやアルベドに連絡を入れておくとしよう」
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(0) モモンガは《伝言 》の魔法を発動した。
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(0)「はい、ナザリックのことはお任せください! 妻として無事に主人の留守を守ってみせます! 愛しきモモンガ様!」
(0)『そ、そうか。よろしく頼むぞ、アルベドよ』
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(0) そこで《伝言 》が切れる。
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(0) 愛する主人の声が聞こえぬことにより、アルベドに胸には寂しさが飛来する。しかし、モモンガにナザリックの留守を任されたのだ。一切の不備がないようにせねばならない。何より、頼りにされているという事実が彼女の心を弾ませる。
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(0)「ああ、モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様ぁ! お側にいれないのが残念でなりません!」
(0)「アルベド様、ちょっと黙れ」
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(0) 守護者統括はただ主人の名前を連呼しているのではない。主人の部屋のベッドで悶えているのだ。しかも、全裸になってシーツに匂いをつけているし。精神年齢が十歳程度のローラにとっては非常に困惑と不快感を覚える光景だ。
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(0) 絶世の美人なだけに、その狂乱具合の異様さがより際立っていた。
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(0)「まあ、ローラ。『黙れ』だなんて。シルク様が聞いたら卒倒されてしまうわよ?」
(0)「かもしれんなあ。今のは内緒にしといてー」
(0)「いいわよ。でも、貴女の答えを聞いておきたいわね」
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(0) 現在、ナザリックの女性陣は水面下で二つに別れている。それは『モモンガの正妃はアルベドかシャルティアか』というものだ。ちなみに、男性陣は『御方のお世継ぎが生まれるならどちらでもいい』というスタンスのため、どちらの派閥を応援することもない。
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(0) アルベドの問いは、ローラはどちらがモモンガに相応しいと考えているのかということだ。
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(0)「せやなあ。どっちでも、としか言い様がないわー」
(0)「それじゃ困るのよ。正妃は一人しかいないのだから」
(0)「そう言われてもなあ? うちはそういうのよく分からんし。アルベド様は統括様やし優秀やし賢いし強いし美人やしスタイルいいし御方々から信頼されとるけど、シャルティア様も、美人やしモモンガ様と同じアンデッドやしNPC最強やし。ちょっとアホやけど、御方から見たらそういう隙が可愛げあってええと思われとるかもしれんし」
(0)「……でも、モモンガ様ほどの殿方の妃よ? 完璧である方が相応しいと思わない?」
(0)「モモンガ様は完璧やけど、完璧主義ってわけやないやろう。そこは匙加減ちゃう? うちはおとんについては結構知っとるけど、モモンガ様については御話でしか知らんし。統括様もそこまでお喋りしたことないやろ? 意外な趣向があるかもしれんで? まあ、シャルティア様をぶつけてそれを止めるちゅう手もあるけど」
(0)「ぶつける?」
(0)「せやでー。男はぐいぐい来られると逆に引いてしまうねん。そもそも、誰だって自分のペースを乱されるのは嫌やからな。シャルティア様ががつがつしているのを止めてみ? ああ、アルベドは俺の空間を守ってくれたんだってポイントアップや。まあ、一歩間違えたら都合のええ女になってしまうから程度は考えてんとな」
(0)「成る程……」
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(0) 少女の姿をした妖精に恋愛を説かれるサキュバスがそこにはいた。
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(0)「あら? ローラは私を贔屓してくれていると考えていいのかしら?」
(1)「何でや。アルベド様がお淑やかを気取っている間に、シャルティア様の熱意がモモンガ様を落とす可能性も普通にあるんやで? というか、うちはモモンガ様が幸せになってくれたらそれでええ。デミウルゴス様やコキュートス様も同じ意見みたいやしな」
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(1) おそらくその意見はシルク・タングステンにも共通するだろう。つくづく愛されている骸骨である。
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(1)「そもそも、うちは誰かが幸福になるのを見るのがめちゃくちゃ好きやねん。誰かが喜ぶと、うちも嬉しくなるんや。幸福は共有すべきものやでー」
(0)「それはそうね。ナザリックに属する者の幸福は誰もに祝福されるべきだわ」
(0)「いや、ちゃうって。相手がナザリック外の者であろうと、人間だろうと、うちは誰かの幸福が嬉しいねん。いや、誰もの幸福を願っとる」
(0)「……それは、本気?」
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(0) むしろなぜ聞いてくると表情で告げると、ローラは少女の見た目には似合わない深い溜め息を吐き出した。
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(1)「うちの考えがナザリックで異常なのは知っとる。せやけど、しょうがないねん。うちはそうあれと願われたんやから。赤ちゃんが生まれたら嬉しいし、子どもの病気が治ったら喜ぶし、良い夫婦ができたら祝うで。うちは、万人の笑顔を願う」
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(0) 求められたから、だけではない。
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(1)「うちは人間が好きや。それは求められたからやけども、うちはこれを義務だとは思っとらん。好きやから、好きなんや。それに、おとんが色々と話してくれたからなあ。設定されんでも、こうなっとったとは思うわ。価値も意味も違うけど、アンタもそうやろ? 良い機会やから聞かせてえな。なあ、アルベド様」
(0)
(0) アンタさ、求められたとか変えられたとか、そういうんじゃなくて。
(0)
(0) もっと単純にさ。
(0)
(1)「元々、モモンガ様が好きやったんとちゃうんか?」