ストライク・ザ・ブラッド~幻の第五真祖~ (緋月霊斗)
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キャラ紹介&序章

初投稿です!
頑張って書いていきたいと思います‼

今回はキャラ紹介と本編の少し前の話です。


暁霊斗(あかつきれいと)

 

誕生日 12月15日

彩海学園1年B組所属

古城と凪沙の血の繋がっていない兄弟。

第五真祖(ロストブラッド)であるが、眷獣を一体を残して全て封印している。また、真祖でありながら高い霊能力を持ち、獅子王機関に所属している。魔力と霊力の同時使用や、魔力を霊力に霊力を魔力に変換できる特異体質である。獅子王機関では第五真祖ということを隠している(本人は隠しているつもりだが、しっかりばれている)。機関での肩書きは剣凰(けんおう)で、剣巫と同等の位である。

 

使用武器

七式突撃霊魔機槍・正式採用型(シュネーヴァルツァー・タイプロスト)

七式突撃降魔機槍を霊斗が自ら改造したもので、霊力、魔力のどちらでも『神格振動波駆動術式』を使うことができる。過去の戦闘で一度壊れているが、獅子王機関三聖の支援を受け改良を加えて復活させることができた。

外見はシュネーヴァルツァーを薄い水色にした感じで、銘は『氷牙狼(ひょうがろう)』

 

 

 

 

 

・序章

 

その日、一人の少年が命を落とそうとしていた。

少年は4~5歳位の、まだ幼い顔立ちをしていた。

雪の降る夜、凍えながら少年は助けを求めた。

まだ死にたくない、死なない身体が欲しいと。

その時、声が聞こえた。

生きたいか、不老不死を望むか、と。

少年は答える。

生きたい、と。

声は笑う。

ならばお前にやろう、と。

声は少女の声になる。

そして、一つの光が少年の胸元に灯る。

呆然とする少年の元に人影が現れる。

人影は少年に手を差し伸べる。

少年はその手を取り、二人は歩き出す。

人影の帰るべき場所、少年の新しい家へと。

人影は名乗った。

「俺は暁牙城。坊主、名前は?」

「…………」

少年は自らの名前を名乗らなかった。

困った牙城はこう言った。

「……よし、わかった。お前の名前は今日から霊斗だ。暁霊斗。お前は今日から俺達の家族だ。」

「………。…霊、斗。僕の…名前?」

「そうだ。お前の名前だ。」

「霊斗、僕の名前。……。僕の名前は暁霊斗!」

少年、否、霊斗は嬉しそうに笑いながら牙城の方を見た。

「ははは、気に入ってもらえたようでなによりだぜ。あとな、霊斗。」

「何?牙城。」

「お前何歳だ?」

「5歳」

「なんだ、うちの馬鹿息子と同い年か。……霊斗。お前にはな、同い年の兄弟と、一つ下の妹がいるからな、仲良くするんだぞ。」

「うん!仲良くする!」

「そうかそうか、そりゃ良かった。…お、見えてきたぞ。」

彼らの目の前に伸びる道の先には長い石段があり、その頂上には神社が建っていた。

そして、この日少年―霊斗は真祖となり、また、暁家の一員となった。

 




今回は霊斗君の過去について少しふれました。
まだ拙い文章ですが、なるべく短い間隔で投稿しようと思います。
それではまた次回にお会いしましょう‼

2016年12月6日 霊斗の誕生日を設定しました!


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聖者の右腕編
聖者の右腕編 Ⅰ


今回から本編です。
それではどうぞ。


真夏の街。

その名も絃神島。

夜中でも光の絶えないこの街にはとある噂がある。

第四真祖と第五真祖。

男は言う。

第四真祖は不死にして不滅。

一切の血族同胞をもたず、支配を望まず、ただ災厄の化身たる十二の眷獣を従え、人の血を啜り、殺戮し、破壊する。

世界の理から外れた冷酷非情な吸血鬼なのだと。

過去に多くの都市を滅ぼした化け物なのだと。

別の男が言う。

第五真祖は肉体を持たない。

魂だけで彷徨い、人に取り憑き、災厄を呼び込み、神にも匹敵する力を持つ十二の眷獣を従え、人の血肉を喰らい、虐殺し、次の街へと彷徨って行く。

第四真祖よりも凶悪な吸血鬼だと。

そして、第四真祖と第五真祖は兄弟なのだと。

別の男が聞く。

―本当にこの街にいるのか?

人々はそんな噂は信用しない。

なぜならこの街は魔族特区。

魔族などそこらじゅうにいる。

だから、人々はそんな噂に怯えることなく生活している。

 

 

 

その頃噂の張本人達はというと…

「なあ、古城」

「なんだ」

「なんで俺達はこんな夜遅くにアイスを買いに行かされているんだ?」

「しらん、凪沙に聞け」

どうやら彼らは妹に頼まれてアイスを買いに行かされているらしい。

一人は片手にすかすかなコンビニ袋を持ち、白いパーカーのフードを被っている。髪の毛は前髪の色素が少し薄い。

もう一人は両手にコンビニ袋を持って、黒いパーカーの前を開けて、中には白いTシャツを着ている。髪の毛は深い闇を連想させるような黒に一房銀髪が混ざっている。

「なあ、古城」

「なんだよ」

「アイス少し持ってくれ」

「やだ」

「即答かよコンチクショウ」

「だってそれ全部お前のだろ?」

「チッ」

「お前な…」

そんな他愛もない会話しながら歩いていると、向かいから浴衣を着た二人の女性が歩いてきた。年齢は20歳くらいだろうか。大人びた顔立ちに少し学生のような無邪気さが混ざっている。

そんな二人とすれ違って歩いていると背後から短い悲鳴と共に何が倒れる音がした。

古城と霊斗が振り向くとさっきの二人の一人が転んでいるのが視界に入った。

その時霊斗は目撃した。

一瞬遅れて古城も気づく。

転んだ女性の浴衣の裾が捲れて太腿が見えているのだ。

まずい‼

二人の吸血鬼はそう思った。

次の瞬間古城が鼻血を吹き出した。

更に次の瞬間霊斗が鼻血を地面に向けてものすごい勢いで噴射した。

「うお!?大丈夫か霊斗!?」

「ああ…、なんとかな」

二人共顔が青白い。

「やべぇ貧血」

「まあ、吸血衝動が収まって良かったと考えよう」

「はあ…、勘弁してくれ…」

「全くだ…」

これは暁古城と霊斗。

二人の吸血鬼が織り成す物語である。




まあ、最初はこんなかんじですかね。
次回もなるべく早く出せるようにするぜ!


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聖者の右腕編 Ⅱ

昨日は投稿できなくて申し訳ないです。
できるだけ毎日投稿していきたいです。


霊斗達が流血する数時間前―

真夏の森。

神社の境内を夕日が照らしている。

その拝殿の中央にだらしなく両足を投げ出して座っている少年がいる。

もちろん暁霊斗である。

暑さにやられているのか、気だるげな表情でぐったりとしている。

彼の隣にはきっちりと正座した少女がいる。

そして彼らの正面にある御簾の向こうには三人分の人影がある。

彼らは三聖と呼ばれる獅子王機関のトップである高位霊能力者たちである。

その三聖より呼び出しを受けたのである。

少女は無意識に制服の袖口を強く握りしめている。

と、突然―

「名乗りなさい」

と三聖の一人が言った。

少女が名乗る。

「姫柊です。姫柊雪菜。」

「姫柊雪菜。それと暁霊斗。あなた方には任務についてもらうことになりました」

三聖が静かに告げる。

そして大まかな説明をした。

第四真祖が日本に現れたこと。

第四真祖は高校生だということ。

第四真祖は東京都絃神市―魔族特区にいるということ。

そこで雪菜が疑問を口にする。

「あの、その話が私のような見習い剣巫の任務とどんな関係が…?」

「ええ、姫柊雪菜。貴方が剣巫になるにはあと約半年の修行をしてもらう必要があります。しかし、事情がかわりました。」

「先ほど話をした通りであるが、第四真祖は高校生。我々にはそなたの他に彼と穏便に接触できる人材がおらんのだ。」

「でも、霊斗さんがいれば十分なのでは?」

「そこでだらけている戯けが一人で監視任務をこなせると思うのか?」

そこで雪菜は隣をちらりと横目で見て短いため息をつき

「無理ですね」

即答した。

「え?雪菜さん?酷くないすか?」

「霊斗さんがだらけているのがいけないんです」

霊斗の抗議の声も一蹴された。

霊斗撃沈。

「と、いうわけでそなたが主体となってこの任務についてもらいたい」

「はい、わかりました」

「それでは例の物をこちらへ」

雪菜の前にアルミ製の長方形のケースが置かれた。

三聖の呪力に反応してケースのロックが解除される。

蓋が開くと中には近未来的なフォルムの槍が格納状態で納められていた。

「これは…」

「獅子王機関が誇る秘奥兵器、七式突撃降魔機槍「シュネーヴァルツァー」です。銘は雪霞狼。真祖が相手ということで、本来ならばもっと強力な武神具を渡したいところですが、これが我々が現時点で渡せる最強の武神具です。受け取ってくれますね?」

「はい。しかし、私のような未熟者が扱いきれるでしょうか…」

「大丈夫です。貴方のように強い心を持っている人ならば雪霞狼にも受入れてもらえるでしょう。最も、勝手にこれを一本持ち出して自分専用に改造したお馬鹿さんもいましたが」

「うぐっ、言葉の刃が」

「霊斗さん…」

雪菜は明らかに蔑んだ目で霊斗を見ている。

「それでは二人とも、頼みましたよ」

三聖の気配が消えた。

「勘弁してくれ…」

「こっちの台詞です…」

雪菜の災難はここから始まるのだった。




次回は古城と雪菜の邂逅ですかね…
それでは次回もお楽しみに(楽しみにしてる人いるのかな…)


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聖者の右腕編 Ⅲ

さて、今回は古城君と雪菜さんの出合いですね。
上手く書けてんのかな…。
ではどうぞ。


古城、霊斗流血の翌日。

午後のファミレスに、古城と霊斗はいた。

「暑い…焼ける。焦げる。灰になる…」

「古城うるせぇ」

今日は8月最後の月曜日。

座っている席は店の奥の窓際。

さすがにエアコンの冷気が届かない位置である。

二人は殺人的な量の紫外線を浴びながら問題集を解いていた。

「今何時か分かるか?」

唐突に霊斗が聞く。

正面に座っている友人が笑いを堪えているような声で答える。

「もうすぐ4時。あと3分32秒」

「まじか…。終わる気がしねぇ」

「なあ古城。明日の追試も朝9時からだよな?」

「ああ、そうだな」

「今夜徹夜で勉強すりゃあ、あと17時間と3分あるぜ」

もう一人の友人がおどけた口調で訊いてくる。

舌打ちしながら古城が聞く。

「なあ、俺思ったんだが」

「ん?」

「なんで俺はこんなに大量に追試を受けなきゃなんねーんだろうな?」

そんな古城の疑問に友人達は顔をあげる。

古城の追試は英語や数学などの九教科のテキストに体育のハーフマラソンである。

「てか、宿題の範囲広すぎねーか?こんなの授業でもやってないぞ。」

「うるせぇって言ってるだろ。俺なんて昨日の夕方島に帰ってきたばっかでいきなり課題だぞ。お前の方が楽だろ」

霊斗は夏休みラスト3日間で夏休みの課題をすべて終わらせる羽目になったのだ。

「まったく、うちの教師は俺達になんか恨みでもあるのか!?」

そんな古城の叫びに友人の一人が答える。

「いや……むしろ恨みしかないだろ」

答えたのは短髪を逆立て、首からヘッドフォンを下げた少年だった。名前を矢瀬基樹という。

さらに追い討ちがきた。

「霊斗はともかく、古城はあんだけ毎日授業をサボってたらね…。普通は舐められてると思うでしょ?おまけに夏休み前のテストも無断欠席でしょ?ほんと、馬鹿じゃないの?」

かなりキツイ口調で古城を責めるのは少女―藍羽浅葱である。

華やかな金髪にほぼ校則違反レベルに飾った制服。しかし、センスの良さと顔立ちの良さのおかげで嫌な感じはしない。

だが、常に浮かべているニヤニヤ笑いのせいで男友達といるような気がしてしまうのも事実だった。

普通にしてれば美人なんだけどな、と霊斗は心の中で呟く。

と、古城の反論。

「だから、あれは不可抗力なんだよ。俺の体質じゃ朝イチのテストはキツイって言ってんのにあのちびっこ担任は…」

「は?体質?古城って花粉症かなんかだっけ?」

「あ…いや、朝起きるのが苦手っつーか、夜型っつーか…」

「それって体質の問題?吸血鬼でもあるまいし」

「だ、だよな……はは」

実際は古城も霊斗も吸血鬼である。しかし、二人はその事を知らない。

「でも、あたしは那月ちゃん好きだよ。だって出席日数足りてないぶん補習でチャラにしてくれてんでしょ?」

「まったく、古城は那月ちゃんに一生感謝しないとな」

そう言った霊斗はすでに七教科の課題を終らせていた。話していない間にさっさと進めていたらしい。しかも脅威的な速度で。

「え、霊斗お前早すぎだろ!?」

「お前が遅いだけだ」

「そうよ。それに、そんなあんたを哀れに思ったから、こうして勉強教えてあげてんだし」

「他人の金でそんだけ飲み食いして、そういう恩着せがましいこと言うな」

「言っとくけど、その金は俺と霊斗の金だからな。ちゃんと返せよな」

「わかってるよ、畜生……おまえらほんとに温かい血の通った人間か」

「金を返さないやつの方が明らかに悪者だろ。それと、今の発言は差別用語だからな。気を付けろよ」

「はあ、面倒な世の中だよなぁ。本人達は気にしてないだろうに」

古城が呟く。

霊斗も心の中で同意しつつ、店の時計を見る。

それにつられて時計をみた浅葱が

「あ、もうこんな時間か。じゃ、あたしバイト行くね」

「んじゃ、俺も帰るわ。男だけでいても、暑苦しいしな」

続けて矢瀬がそう言って立ち上がる。

「じゃ、頑張ってねー」

「せいぜい足掻くことだな」

そう言って二人は帰っていった。

「はぁ、やる気無くすぜ」

「まあ、俺は終わったがな。頑張れ古城」

「だぁぁ!畜生ー!」

霊斗は課題を終わらせたらしい。尋常ではない速度である。

「はぁ、帰るか……」

「だな。会計よろしく」

「へいへい」

 

 

会計を終えて店を出ると一気に体感温度が上がった。

「にしても、この暑いのだけは勘弁してくんねーかな」

「まったくだ」

二人は浅葱が食いまくったせいでモノレールにも乗れないので、歩いて帰ることにした。

そして、しばらく歩いたところで古城が足を止める。

「どうした?」

「いや、な。後ろのあれ、俺達を尾けてるんだよな」

ちらりと霊斗は後ろを見る。

すると、見慣れた黒髪が柱の陰に隠れるのがみえた。

(いや、バレバレだろ!?)

霊斗は冷や汗が吹き出すのを感じた。

「き、気のせいじゃないか?」

「そうか?」

古城は疑いながらも再び歩き始める。

(もっとバレないような尾行ができないのか…)

霊斗も呆れながら歩く。

「なんか、やな感じだな。ちょっと様子みてみるか…」

そう言うと、古城はゲーセンの中へ駆け込んだ。

「あっ、ちょ、おい古城!」

霊斗も追う。

その後、店内から外を見ると、明らかに困惑したように、店の前をうろうろしている雪菜の姿が目に入る。

と、古城が

「なあ、霊斗。俺、罪悪感が半端じゃないんだが」

「じゃあ、声かけてやれよ」

よし、と言うと古城は店の外へ向かって歩き出した。

同時に雪菜も意を決したのか、店内へ入ろうとした。

つまり、ぶつかり合うような形になってしまったのである。

先に動いたのは雪菜だった。

後ろに下がり、ギターケースに手を伸ばしながら発した一言。

「第四真祖‼」

その瞬間古城が疲れたようにため息をついた。

そして

「オウ、ミディスピアーチェ!アウグーリ!」

突然外国語で喋り出した。

「「は?」」

「ワタシ、通りすがりのイタリア人デース。日本語よくワカリマセン。アリデヴェルチ!グラッチェ!」

そう言って去ろうとする古城に我に帰った雪菜が

「え…?あ、待ってください!暁古城!」

嫌そうな顔で振り向く古城。

「誰だおまえ?」

「私は獅子王機関の剣巫です。あなたを監視するために派遣されて来ました」

唖然とする古城。しかし、すぐに普段の気だるげな表情に戻り、

「あー、悪い。それ、人違いだわ。ほかを当たってくれ」

「は?え?人違い?え?」

雪菜は困惑したように視線を泳がせた。

その隙に逃げようとした古城に

「待ってください!本当は人違いじゃないですよね!?そこにいる…」

「いや、監視とかマジで要らないんで。じゃ俺はこれで」

雪菜の台詞を遮って古城がいう。そして、そのまま立ち去る。霊斗はこの一部始終を唖然とした表情でみたあと、口パクで雪菜にごめんと謝ってから古城を追った。

 




いや、自分の文才のなさに驚きですね。
次回から、本格的に戦闘シーンも出てくるので、かっこよく書けるようにがんばります。
では、また次回。


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聖者の右腕編 Ⅳ

今回から戦闘描写が出ますね。
とりあえず頑張って書いてみよう。


霊斗は少し小走りで古城に追い付くと

「古城、女の子にあれは酷くないか?」

「いや、明らかに面倒臭そうな感じがしたじゃねーか。俺は厄介事には関わりたくない」

どうしたものかと考えていると、古城が急に足を止める。

何事かと古城を見ると古城は後ろを振り向きなんとも言えない表情をしていた。

それにつられて霊斗も後ろを振り返る。

そして、固まる。

その視線の先では軽薄そうな男が二人ナンパをしていた。

しかし、霊斗が固まったのはそれが理由ではない。

ナンパされていたのは雪菜だった。

「マジかよ…」

そして、男達を見ると眉を潜めた。

彼らから人間の物ではない気配がしたのだ。

ちらりと彼らの手首を見る。

そこには銀色に太陽光を反射するブレスレットがついていた。

「魔族登録証!」

霊斗がそう言った次の瞬間古城が

「野郎っ!」

弾丸のような速度で飛び出していった。

が、途中でその足が止まる。

ナンパ男の片割れが雪菜のスカートを捲ったのだ。

と、その手を掴む手が現れた。

否、手だけではない。虚空から人が現れていた。

「はい、痴漢の現行犯で逮捕っと」

「え?」

自らの手首に付けられた手錠を見て間抜けな声を出すナンパ男。

「霊斗さん!?」

そして、顔を真っ赤にして霊斗の名を呼ぶ雪菜。

そう。ついさっきまで古城の数メートル後ろにいた霊斗がナンパ男の一人を拘束しているのだ。

そして、雪菜を、一瞥し一言

「雪菜。早く行け。面倒事に巻き込まれたくなかったらな」

雪菜は走って逃げ出す。

それを見てナンパ男のもう一人は霊斗に向かって言う

「おい、兄ちゃん、降魔師か。しかも空間転移なんか使いやがって」

「なんだ?使われたら勝てないみたいないい方だな?」

「テメェ…。ぶち殺す!灼帝!そいつを跡形も無く吹き飛ばせ‼」

男は吸血鬼だったようだ。自らの使い魔―眷獣を召喚し、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

しかし、その笑みは次の瞬間驚愕と恐怖に歪んだ。

「まさか、お前だけが吸血鬼だと思ったのか?」

そう、霊斗の身体から濃密な魔力の波動が放たれたのだ。

その瞳は真紅。

口元には長く、鋭く尖った犬歯。

霊斗が吸血鬼の力を解放したのだ。

驚いていたのは古城も同じだった。

霊斗が吸血鬼だということは知っていたが、自分―第四真祖にも匹敵する、いや、もしくはそれ以上かもしれない強力な魔力だったのだ。

「オラァ!」

霊斗は拳一つで眷獣を消し去るとその男に目線を向けて言った。

「死にたくなければ今すぐここを去れ。さもなくば……原型を留めなくなるまで殴る」

「ヒィィィ!すみませんでしたぁ!」

男は泣きながら走り去る。

そして、霊斗はこちらを向き

「よし、帰るか!」

ものすごい晴れやかな表情で言った。

古城は思った。

こいつだけは敵に回してはいけないと。

そして、地面に落ちているものに気付き、拾い上げる。

財布だった。

中には札が数枚と学生証が入っていた。

「なになに……彩海学園中等部3年C組姫柊雪菜?」

「雪菜のじゃん。明日届けに行くか」

「なんだ、霊斗の知り合いか?誰なんだあいつは」

「その辺は明日雪菜と一緒に話すから。早く帰ろうぜ。久しぶりに魔力を使ったら腹減っちまった」

「霊斗。お前本当にただの吸血鬼か?」

「だーかーらー。明日話すって言ってるだろ?待てないだだっ子かお前は」

「へいへい、明日まで楽しみに待ってるよ」

どちらにせよ明日は補習で学校には行かなくてはならない。そこで届ければよいのだ。

そう思い、古城は歩き出していた霊斗のあとを追う。

「今日の夕飯なんだろうな?」

「凪沙の作る飯はなんでも旨いからなー」

そんな日常が少しずつ崩れていることも知らずに。




戦闘シーンは難しいですね。
そろそろメインヒロイン登場かな?
では次回もお楽しみに。


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聖者の右腕編 Ⅴ

やばい……風邪ひいた。
現在鼻づまりの中書いております。
思考力低下中の為、誤字脱字等多いかもしれません。
そろそろメインヒロイン登場させたい…。



翌日。

古城と霊斗は学校に来ていた。

古城は追試、霊斗は担任に昨日のナンパ男の事を報告に来たのだが……。

「あのー、那月ちゃん?なんか俺の報告に不備でもありましいだぁ!」

「不備は無い。だがな、霊斗」

「なんすか?」

ぐい、ぐぐぐ

「痛い痛い痛い!耳を引っ張らないで下さいお願いします‼」

「なぜ貴様が獅子王機関の降魔師だと一昨日帰ってきた時に言わなかった?」

「だって、言ったら那月ちゃんキレるっしょ?」

ゴツッ

痛そうな擬音と共に霊斗が数メートル吹き飛ぶ。

「殺す気っすか!?」

「お前が悪い!何回私を那月ちゃんと呼ぶなと言った‼いい加減学習しろ!」

「はーい」

「で、獅子王機関の連中には貴様が第五真祖だと知られていないだろうな?」

「多分…大丈夫だと思う」

「そうか、くれぐれも用心しろよ」

そう言って那月は古城の監督に戻っていった。

「用心ねぇ…」

そう呟き目を閉じる。

どのくらいそうしていただろうか。

しばらくすると、教室の扉が開き古城が出てきた。

「霊斗~。今日の分は終わったぞ~」

「よし、じゃあ財布を届けに行くか」

「ああ」

数分後。

「あー、すまんな暁。笹崎先生は今日は来てないみたいだ。届け物なら預かっておくが」

「いえ、いいっす。持ち主に心当たりがありますんで。じゃあ、失礼しました」

そう、頭が少し寂しい教師に挨拶したあと、渡り廊下で立ち止まる。

「なあ霊斗。昨日あいつはお前の知り合いなんだろ?住所とかわかんねーのか?」

「いや、知らないな。なんか手掛かりでもないかな?」

そう言って財布を開く。

すると古城が

「なんか甘い匂いがするな…」

そして、次の瞬間

「っ!」

口元を抑える。

「え!?匂いだけで!?」

「いや、昨日の事を少し思い出しちまってな…」

そして、古城がごくりと自らの血を飲み、止血を始めた時。

「女の子の財布の匂いを嗅いで鼻血をだすなんて…。あなたは本当に危険な人ですね、暁古城」

「お、雪菜。丁度良かった。この変態にいろいろ説明しようと思ってた所なんだ」

「そうですか。では、お昼を食べながらにでもしましょう」

「俺が変態なのは確定なのか!?」

「はい雪菜。財布」

「ありがとうございます。では行きましょう」

 

―某ハンバーガーチェーン店にて。

「で、要約すると、姫柊は獅子王機関って所から派遣されてきた俺の監視役だと」

「はい。そうなりますね」

「で、霊斗もそこの所属だと」

「ああ、一応な」

「しかも真祖が一国の軍隊と同レベルとか。他の真祖達はどんだけチートなんだよ」

こんなことを言っているがこいつとこいつの隣にいる真祖のほうがよっぽどチートである。

「よし、分かった。でも、プライバシーは守ってくれよ」

「わかってます。でも、どうやって真祖になったんですか?」

「それは…」

思い出そうとした古城の顔が苦痛に歪む。

「古城!もういい!思い出すな!」

「先輩‼」

「雪菜、すまない。ご覧の通り古城はその時の事を覚えていないし、思い出すこともできないんだ」

「そう…ですか。わかりました」

「痛てて…。じゃあ、次は霊斗の正体を教えてくれ」

「ああ、一言で言うと、俺は第五真祖だ」

「「え!?」」

「昔、死にかけてた時にな。俺は何らかの理由で第五真祖になった。その後すぐ、古城達の家の養子になったんだ」

「霊斗さんも理由は思い出せないんですか?」

「ああ、古城と違って俺は十年以上前の話だからな」

「そうですか」

「話はこんくらいにして、今日は解散にしよう。今後の予定は明日話し合おう。雪菜も転校手続きがあるだろ?」

「はい。では先輩、霊斗さん、また明日」

「おう」

「じゃあな」

「よし、帰るか」

「だな」

 

 

―夜。

それは魔族にとって最も活動しやすい時間帯だ。

そんな夜の街を一人の男が歩いていた。

昨日、霊斗にびびって逃げた吸血鬼である。

その吸血鬼に声を掛ける者がいた。

「遊んでくれませんか。私達と」

男が振り向くと、ケープコートを羽織った小柄な少女がいた。

「なんだ?まだガキじゃねえか。そんなに遊んでほしけりゃ遊んでやるよ!」

男が登録証をむしり取り、吸血鬼としての本性を現した。

そして少女に飛びかかろうとしたその時。

「堂々と魔族か闊歩する。まさに呪われた島ですね。ここは」

「なんだテメェ。今のはこいつが言ってきたんだぜ」

「いかにも。ですから、私達と遊んで下さいと言っているのです」

そう言って現れたのは法衣と鎧を着た男だった。

彼は吸血鬼の前にバッグを放る。

中には大量の武器が入っている。

「丸腰では戦えないというならばお取りなさい」

「テメェ…。舐めやがって‼」

吸血鬼は槍を掴むと男の顔面を目掛けて投げつける。

しかし、槍は男の持つ斧に弾かれた。

男は自らの身長と大して変わらない大きさの斧を片手で軽々と振り回し言う。

「これで終わりですか?」

「クソッ、来い!灼帝!」

「ほう…。街中で眷獣を使った愚か者ときいて探し当てた甲斐がありましたね。''薔薇の指先''の腹の足しにはなりそうですね。やりなさい、アスタルテ」

「命令受諾、実行せよ、''薔薇の指先''」

次の瞬間吸血鬼の眷獣が弾けとんだ。

「なっ!何をしやがった!?」

「簡単な事です。眷獣にはより強い眷獣を当てれば倒せる」

「馬鹿な……それが眷獣だと!?それになぜ人工生命体が眷獣を使える!?」

少女の背中からは虹色に光る腕が生えていた。

「もういいでしょう。アスタルテ、止めをさしなさい」

少女の感情を写さない瞳が吸血鬼を見る。

「ひっ…止めろ…」

「実行せよ、''薔薇の指先''」

夜の絃神島に吸血鬼の断末魔が響き渡る……。




やっとアスタルテたんを出せましたね。
テンション上がってきたぁ!
次回もお楽しみに。


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聖者の右腕編 Ⅵ

喉がいてぇ。
今回は霊斗君の眷獣が初登場です。
では、本編をどうぞ。


翌日。

古城が霊斗に引きずられながらマンションを出ると、そこに雪菜がいた。

「姫柊、まさか、俺が来るのを待ってたのか?」

「はい、監視役ですから」

「雪菜。冗談はその辺にしとけ。古城が引いてる」

「そうですね。本当は引っ越しの荷物を待ってたんです。あ、来ました」

外を見ると宅配業者が丁度荷物を運んでくる所だった。

「引っ越しって、このマンションにか?」

「はい」

「まさか部屋は……」

「705号室でお願いします」

「おいこらちょっと待て」

「705号室って思いっきりうちの隣じゃねえか!」

「そうですけど、何か?」

「ああ、もうわかった。どうせあの三聖の馬鹿どもだろ」

「はい。獅子王機関に部屋の申請をしたら、この部屋になりました」

宅配業者が頭に疑問符を浮かべているが、気にしない三人であった。

その後、荷物を運びながら古城が

「にしても、やけに荷物が少ないな」

「はい。ここに来るまでは寮生活だったので」

「じゃあ、今日の午後にでもホームセンターにでもいくか」

「いいんですか?」

「ああ、午後なら俺も古城も暇だしな」

「補習が終わればな」

「じゃあ、私は補習が終わるまで校内で待ってますね」

「よし、じゃあ学校に行こう。早く行かないと古城は遅刻で補習が増えるからな」

「はい、行きましょう」

三人は登校し始めた。

 

 

そして、午後。

雪菜は店内を目を輝かせながら歩き回る。

「これはなんですか?槌の一種のようですが」

「ゴルフクラブな」

「ただのスポーツ用品だ」

「では、こちらの火炎放射機のようなものは」

「高水圧洗浄機」

「車とかを洗うのに使う」

「これは武器ですね。映画で見ました」

「チェーンソーかぁ。確かに武器といえば武器かなぁ……」

「バイ○ハザードとかの敵が使ってるけどな」

「これは…獅子王機関で習いました。こんなものまで置いてあるとは恐ろしい店です」

「ただの洗剤だろ?」

「まさか、雪菜。お前あれの事を言って……」

「はい。これとこれを混ぜると有毒なガスが…」

「それはだめだ!」

「そういう使い方をするな!絶対だぞ!お兄さんとの約束な!」

「はぁ……分かりました」

そして、なんやかんやあって帰宅

道中浅葱にあって古城にいろいろあったのは余談である。

その後マンションのエレベーター前にて。

「あれ?古城君と霊斗君も今帰り?」

「おう、凪沙か」

「ただいま。あと、こっちは今度転校してくる…」

「雪菜ちゃんもお帰り!」

「なんだ、もう知ってたか」

「うん、この前学校に転校手続きに来てたのを先生に紹介してもらったんだ。それに、今朝引っ越しの挨拶に来てくれたしね。古城君と霊斗君は寝てたけど」

「「そうか」」

「あ、そうだ!今日は雪菜ちゃんのお祝いパーティーをしようと思っていっぱい材料買ってきたんだよ!お鍋だけど雪菜ちゃん食べれない物とかあるかな?お出汁は昆布と鰹節にしようと思ってるんだけど、大丈夫だよね」

「凪沙、その辺にしとけ。姫柊が固まってる」

「よし、じゃあ今日は盛大に盛り上がろうぜ。雪菜もそれでいいよな?」

「はい、お邪魔させて頂きます」

「やった!じゃあ凪沙、腕によりをかけてつくるよ!」

 

 

パーティー終了後。

雪菜も自宅に帰り一段落。

「はー、お腹いっぱい~。もう動けないよ~」

「凪沙、そんなところで寝てると風邪ひくぞ」

「大丈夫だよ~、ちょっとだけだから。あれ?二人ともどっか行くの?」

「ああ、ちょっとコンビニにな」

「じゃあアイス買ってきて!」

「まだ食うのかよ……」

「太るぞー」

「ふんっ、そんなこと言う二人は嫌いだよ!」

「へいへい。買ってくりゃいいんだろ」

「よろしくね~」

そして、玄関を開けると

「どこへ行くんですか?」

「げっ姫柊!?」

濡れた肌の上に制服を着た雪菜が立っていた。

「はい?なんですか?」

「いや、その格好……着替えて来い!待ってるから!」

「わかりました。逃げないでくださいね?」

「逃げないから!早く!」

そして、雪菜が部屋へ入っていくと

ドバァッ

霊斗が鼻血を吹き出して倒れた。

「霊斗ー!?」

「こ、古城……ティッシュくれ……」

「ほら」

「すまんな」

そこで雪菜が部屋から出て来る。

そして部屋の前に飛び散った鮮血を見ると、微妙な表情をし、

「あの……何があったんですか?」

「ちょっとな」

「はぁ……」

そして、コンビニへ向かう。

その後に待ち受ける危機に気づかないまま――




あれ?眷獣でてきてないよ?って方もいると思います。
勘弁してください!風邪でそれどころじゃないんです!
次回は必ず出します!
では次回もお楽しみに。


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聖者の右腕編 Ⅶ

今回、今回こそは霊斗君の眷獣を出してみせる!
では、本編をどうぞ。


マンションを出て歩きながら雪菜が古城に質問する。

「それで、どこに行くんですか?」

「ああ、コンビニだよ。まさか、コンビニを知らないとは言わないよな?」

「コンビニは知ってますけど、こんなに遅くに行ったことはないです」

そう言うと、雪菜は目を輝かせ始める。

「いや、夜のコンビニにそんな期待されてもなぁ……」

そう言って古城は呆れた顔をする。

コンビニに行くまでの道のりにはたくさんの店が並んでいる。

その中の一件、ゲームセンターの前で不意に雪菜が足を止める。

その瞳は真っ直ぐにクレーンゲームの筐体を見ている。

「ん?姫柊、クレーンゲームがどうかしたか?」

「クレーンゲームというんですか?このネコマたんの入った箱は」

「あー、雪菜それ好きだもんな。よし、俺が獲ってやるよ」

「え?獲るって……」

ジト目で雪菜が霊斗を見る。

「あ、いや、パクるとかじゃなくてな、そういうゲームなんだよ」

そう言って霊斗は百円玉を財布から出し、筐体に入れる……。

しかし、間違って五百円玉を投入した。

「やらかしたー!」

「霊斗、ドンマイw」

「ちくしょー!こうなったら獲れるだけ獲ってやる!」

そう言うと、ものすごい勢いでボタンとレバーを操作し出した。

それはまさに神業だった。

一度に二体、三体。多いときには四体獲った。

結果獲った総数は十四体。

「フッ、ざっとこんなもんか」

「なあ霊斗。これどうすんだ?」

しばし沈黙。

「なんとかなるさ!」

「ならねーよ!」

と、その時。

「そこの三人。彩海学園の生徒だな?こっちを向いて貰おうか」

三人は固まる。

クレーンゲームのガラスに写ったのは真夏の絃神島には到底似合わないゴスロリ風ドレスを着た南宮那月だった。

(((終わった……)))

確信する三人。

打開策を求め、古城と霊斗はアイコンタクトを取る。

(どうする?)

(いやどうしようもねぇだろこれ……)

「どうした?意地でも向かないと言うならこちらにも考えがあるぞ?」

那月がそう言った時だった。

激しい爆発音が響き渡る。

「なんだ!?」

那月の注意がそちらに向いた瞬間。

「いまだ!」

霊斗が空間転移を使用。

三人は那月の目前から一瞬で消える。

「暁古城!暁霊斗!貴様ら覚えていろ!」

那月の悔しそうな声が響き渡る。

 

 

霊斗達が転移したのは人工島の岸壁だった。

そして、雪菜が口を開く。

「先輩、霊斗さん、今のは……」

「ああ、吸血鬼の眷獣だ」

「あの力の大きさだと、恐らくは旧き世代だな」

そう言って霊斗はアイランド・イーストの方を見る。

そこには、漆黒の妖鳥の姿が浮かび上がっている。

「先輩、霊斗さん。先に帰っていてください」

「え、姫柊?何を言って……」

「私はあれを止めて来ます」

「馬鹿、お前!それなら俺達も行く!」

「だめです。あそこて戦っているのは吸血鬼で先輩方は真祖なんですよ?他の血族の吸血鬼に手を出したら大問題です。わかったら大人しく帰っていてください」

「姫柊…」

「わかった」

「霊斗!?」

「ただし、様子を見に行くだけだ。戦闘には介入するな」

「わかりました」

その返事を確認すると、霊斗は丁度通りかかったモノレールの屋根に雪菜を転移させる。

「おい、霊斗!そんなことさせたら姫柊が危ないだろ!」

「古城」

やけに静かな様子の霊斗

「なんだよ」

「お前、あのモノレールより速く走れるよな?」

「出来るけど、なんでだ?」

そう聞いた瞬間、激しい眩暈のような感覚と共に古城と霊斗はモノレールの線路上に立っていた。

そして霊斗が言う。

「分かりきったことを聞くな。追いかけるんだよ。あの馬鹿をな」

そう言って霊斗は獰猛に牙を剥いた。

その時、古城は霊斗の背後に巨大な人影を見た。




ふう、最後の最後に少しだけ眷獣をだせた……(無理やり)
次回はしっかり眷獣の戦闘シーンが出ます。
お楽しみに!


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聖者の右腕編 Ⅷ

今回はオリ主とメインヒロインの初バトルとなります。
眷獣もちゃんとだすよ!
では、本編をどうぞ。


雪菜はモノレールに乗ってアイランド・イーストに向けて移動していた。

戦闘が近づいて来る。

その時、あの漆黒の妖鳥が苦悶の声をあげた。

妖鳥に攻撃しているのは虹色に輝く腕だった。

苦しむ妖鳥が辺りに無差別に攻撃をばらまく。

その攻撃により、モノレールの線路は破壊され、雪菜は飛び降りた。

アイランド・イースト―倉庫街は炎に包まれていた。

(いったい、旧き世代の吸血鬼を追い詰める眷獣の宿主とは……)

その時だった。

雪菜の目の前に人が落ちてきた。

男だった。

肩口から、何か大きな刃物で斬られたような傷口が心臓にまで届いている。

恐らくこの男が先程の妖鳥の宿主なのだろう。

旧き世代の吸血鬼でなければ確実に死んでいた。

そして雪菜は彼を安全な場所へ移動させようと周りを見渡す。

と、声が―

「ほう、目撃者ですか。投げ捨てた場所が悪かったようですね」

巨大な斧を持ち、法衣の下に鎧を着た身長二メートル近い大男だ。

「今すぐ攻撃を止めてください。聖域条約で、行動不能の魔族に対する攻撃は禁止されているはずです」

そう言って雪菜は雪霞狼の穂先を男に向ける。

「ふむ、この国の降魔師ですか。若いですね。聖域条約など、魔族におもねる背教者が定めた法に、この私が従うとでも?」

そう言うと、男は斧を振りかざして雪菜に接近する。

「くっ!」

それを雪菜は雪霞狼で弾く。

男は意外そうな顔をし、後ろへ飛び退く。

「なんと!その槍、まさかシュネーヴァルツァーですか!?いいでしょう。獅子王機関の剣巫よ、ロタリンギア殲教師、ルードルフ・オイスタッハが手合わせ願います!」

「ロタリンギア聖教!?西欧教会の祓魔師がなぜ吸血鬼狩りを!?」

「我に答える義務は無し!」

そう言ってオイスタッハはまたも斧を振り下ろす。

「はあっ!」

その斧を雪菜は雪霞狼で弾き、さらにオイスタッハに向けて槍を突き出す。

「ぬぅん!」

オイスタッハはその攻撃を左腕の鎧で受ける。が、鎧には亀裂が走る。

「我が聖別装甲の防護結界を一撃で破りますか!これが獅子王機関の秘奥兵器の力!とくと見せて貰いました。アスタルテ!やりなさい!」

「命令受諾、実行せよ、''薔薇の指先''」

そう言って雪菜の前に飛び出してきたのは藍色の髪に薄い水色の瞳、左右対称の整った顔立ちの妖精じみた美貌の少女だった。

そして、彼女の背中から現れたのは先程見た、虹色の腕の眷獣だった。

「そんな!人工生命体がなぜ眷獣を!?」

そう。本来ならば、この少女は眷獣を使えないはずなのである。

なぜなら、眷獣は実体化する際に宿主の生命力を大量に食らうからだ。

その為、無限の負の生命力を持っている吸血鬼しか、眷獣を使役することはできないのだ。

しかし、この少女は眷獣を操り、雪菜に攻撃をしてくる。

「くっ!」

少女が放った虹色の拳を雪霞狼で受け止める。

眷獣が受けたダメージが逆流しているのか、少女が苦悶の表情を浮かべる。

そして

「ああああーー!」

少女の背中から、もう一本の腕が出て来る。

「なっ!」

その瞬間、雪菜は自分の最後を悟った。

いま、この右腕を押さえていれば、左腕の攻撃を避けられない。

かといって、左腕を避けようと、力を抜けば右腕に押し潰される。

雪菜が覚悟を決めた瞬間、ふと、二人の少年が頭をよぎる。

自分が死ねば、彼らはきっと悲しむ。

そういう、やさしい吸血鬼(ひと)達なのだ。

だから、悲しませたくない、死にたくない。

そう思ってしまった。

その時その少年達の声がすぐそばで聞こえた。

 

古城は拳に魔力を込めて腕を殴る。

腕はダンプトラックにでも直撃したような速度で吹き飛んだ。

そのすきに、霊斗が空間転移で雪菜をアスタルテから離す。

そして、雪菜に拳骨。

「痛っ!何するんですか!」

「こっちの台詞だ馬鹿野郎‼戦闘には介入するなって言っただろ!」

「ったく。霊斗が俺を連れてここまで来てくれなきゃ死んでたぞ?」

「うぅー……」

雪菜は目に涙を浮かべる。

「ほら、泣くな。あとは俺に任せろ」

「霊斗、俺は?」

「足手まといだ」

「ひどい!」

そんなやり取りをしていると、オイスタッハが

「今の魔力……吸血鬼ですか。恐らくは貴族と同等か、それ以上。まさか、第四真祖の噂は真実ですか?しかし、そちらの貴方は何者ですか?吸血鬼のようですが、第四真祖よりも強大な魔力を持っている……」

「あ?俺か?」

霊斗は昔みた特撮の主人公の真似をしていってみる。

「俺は通りすがりの吸血鬼だ。覚えておけ」

「ああ、ただの厨二病ですか」

「なんでだよ!かっこいいだろ!」

「今時、小学生ですらやらないぞ」

「みんななんて嫌いだ!」

と、その時。

アスタルテが起き上がって眷獣を召喚した。

「再起動、完了。命令を続行せよ、''薔薇の指先''」

「待て!俺達はあんたらと戦うつもりはない!」

「待ちなさい!アスタルテ!今はまだ、真祖と戦う時期ではありません‼」

しかし、宿主の命令を受けた眷獣の攻撃は止まらない。

「霊斗っ!」

古城が霊斗を庇って前に出る。

無理やり右腕を殴り、撃退するが、左腕の攻撃を受けてしまう。

だが、古城の傷口から迸ったのは、鮮血ではなく、眩い雷光だった。

「待て……、やめ……ろぉぉぉぉぉぉ!」

次の瞬間、古城の全身から雷光が放たれる。

「古城!」

「ぬ、アスタルテ!一旦退きますよ!」

そう言ってオイスタッハとアスタルテは逃げる。

しかし、古城の攻撃は止まらない。

このままでは島が沈む、そう判断した霊斗は雪菜に指示を出す。

「雪菜!結界を張ってそこの怪我人を守れ!」

「わかりました‼」

そして、霊斗は拳を握る。

だが、古城に殴りかかるわけではなく、静かに祝詞を唱える。

「第五の真祖、亡霊の吸血鬼(ロストブラッド)の魂を宿し者、暁霊斗が汝を天界より喚び起こす!」

そして、拳を空に向ける

「降臨せよ!我が十二番目の眷獣''天照大御神(アマテラス)''!!」

そう、霊斗が言うと、霊斗の後ろに巨大な女神が現れた。

その姿はまさに太陽。周りを昼間のように照らす。

「天界五重結界!」

霊斗がそう言うと、アマテラスから火球が放たれた。

それは、古城に当たると、周りに炎の五重結界を張った。

その中が爆発に包まれ、その煙が晴れた時、爆心には古城が無傷で眠っていた。

「まったく、世話のかかる人ですね、先輩は」

「ほんと、世話のかかる兄弟を持つと大変だぜ」

そう言って霊斗は古城を背負う。

「雪菜は先に帰ってろ」

そう言って霊斗は空間転移で雪菜を家へと飛ばした。

そこで、疲れたように溜息をつく。

「勘弁してくれ……」

いつの間にか移っている兄弟の口癖を呟き、自宅へ向かって歩く。

途中で思い出したように警察と消防に匿名で連絡をし、再び自宅に向かう。

明日、担任にガチギレされるのを予想しながら。




ついに一体眷獣を出せた。
こいつが、封印されてないやつですね。
次回は決戦に行けるかどうか……。
まぁ、頑張ります!
それではまた次回!


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聖者の右腕編 Ⅸ

今回はどのくらい書けるかな……。
本編どうぞ。


翌日朝。

霊斗は珍しく早起きをした。

まあ、凪沙よりは遅いわけであるが。

「あ、霊斗君おはよう!ご飯できてるから、古城君起こしてきてー」

「へいへい」

そう言って古城の部屋の扉を開く。

「おい古城、朝だ。さっさと起きろ」

「ん…、あと三十分…」

「三十分寝たら遅刻確定だぞ。昨日のこともあるし、那月ちゃんに怒られるだろうなぁ」

「はっ!それはマズイ!」

良い目覚ましになったようだ。

「凪沙がメシできてるってよ」

「着替えたらいくわ」

「了解」

そして、リビングに戻った霊斗はTVをつける。

TVでは昨日の爆発事故のことを報道していた。

「あ、この倉庫火災って原因不明なんだって。霊斗君何か知ってる?」

「い、いや、知らないが…」

「そっか、吸血鬼の霊斗君なら何か知ってるかと思ったんだけどなぁ」

「聞いた話じゃあ、落雷による倉庫火災じゃないかって言われてるぞ」

「落雷なんて誰も信じてないよ。凪沙は隕石じゃないかと思うんだよねー」

「隕石って…。お、古城来たか」

「古城君遅いよ~。凪沙先に行くね~」

「いってらー」

そう言って古城はTVを見て、

「げっ、これ…」

「昨晩は随分派手にやらかしたなぁ?」

古城は冷汗が背中を伝うのを感じる。

「まあ、その話は後にして。ほら、さっさとメシ食え」

「ああ、そうする」

そう言うと、古城は食事を始める。

そして、古城が食べ終わった時にタイミング良くチャイムが鳴る。

古城がインターホンの画面を表示すると、そこに映ったのは雪菜だった。

「ひ、姫柊?」

『おはようございます、先輩。早くしないと遅刻しますよ。』

「ああ、悪い。すぐ行く」

そう言って古城は鞄を掴む。

霊斗はもう靴を履いている。

玄関の扉を開き、雪菜と合流すると、最寄り駅に向けて歩き出す。

と、道中

「先輩、昨晩は派手にやらかしましたね」

と、雪菜が責めるような目付きで見てくる。

古城は目を逸らし苦笑いを浮かべる。

「被害総額五百億円だそうです」

「う…」

「まあ、古城なら五百年位かければ、返せるんじゃないか?」

「ええ、それでも毎年一億円返済しないとなりませんけど」

「うう…。もしかして、二人とも昨日のことは獅子王機関に報告したのか?」

「それなんだがなぁ…」

「まだ、迷ってます。昨日先輩が眷獣を使ったのは私達を守るためですし」

「だ、だよな!だって、先に攻撃してきたのはあいつらだしな!ってか、専守防衛?」

「それはそうだが、警察がそれを認めると思うか?」

調子に乗った古城に霊斗の攻撃。

「そうか、警察と獅子王機関は仲が悪いんだったな…」

「はい。もしかしたら、私達があの場に居たこと自体が問題視されてしまうかもしれません」

そう言って雪菜は考えこむ。

そこで霊斗が口を出す。

「だいたい、古城はやりすぎなんだよなぁ。あれは明らかに過剰防衛だろ」

「そうですね。あそこまでやる必要はなかったはずです」

「俺だって、好きであそこまでやったわけじゃねーよ」

すると、雪菜は古城を睨み付け

「だったら、なぜあんな無茶な破壊を眷獣に命じたんですか?」

「いや、命令してないんだって。あのビリビリは俺の眷獣って訳じゃねーんだ」

「おい、古城。俺の眷獣じゃないと止められないくらい強大な眷獣を召喚しておいて、あれが第四真祖の眷獣じゃないと言い張るつもりか?」

「そうだよ!私じゃなきゃ止められない、雷の眷獣は、第四真祖の眷獣しかいないよ!」

「「え?」」

突然、会話に一人の少女が乱入してきた。

「えっと……、誰だ?」

「あー、悪い。こいつはほっといていいぞ」

「えー、霊君ひどいよー」

「やかましい、黙ってろ」

「むー……」

少女は可愛らしい顔を膨らませ、不機嫌さを顔に表す。

「あの、霊斗さん。その方から、昨日の霊斗さんの眷獣と同じ魔力の流れを感じるのですが…」

「気にするな」

「はい!そこの剣巫ちゃん正解!私は霊君の眷獣、''アマテラス''でしたー!そのままだと呼びにくいから、天音って呼んでね‼」

「お、おう」

「わ、わかりました」

「で、本題に戻すが、あれは古城の眷獣だよな?」

「一応はそうだが、そこにいるのと使えるってのは違うだろ?」

「まさか、お前……」

「ああ、こいつらは俺の言うことなんか聞きやしねーんだ」

「もしかして古城君、吸血童貞?」

「それは……」

言いながら駅から学校へ向けて歩く。

と、その時。

「おーっす、古城、霊斗」

「基樹か、おはよう」

「や、矢瀬!?」

「おう、お前は朝からなに際どい言葉を女の子に言わせてんだ?って、凪沙ちゃんじゃないんか?誰だ?」

「ああ、こいつらは俺の本土に居たときの学校の知りあいで、今日から転校して来るんだ」

「ふーん。ま、古城は上手くやれな、あれでも俺の大事な幼なじみだからなー」

「なんの話だ?」

「古城、お前本当に鈍感だな」

「では先輩方、私は中等部に向かいますので」

「おう、また後でな」

そう言って霊斗、古城、天音、矢瀬は高等部に向かう。

ちょうど窓からは浅葱がこちらに手を振っていた。

 

 




さあ、眷獣ちゃんと出したよ‼
次回、那月ちゃんの説教回。
ではまた次回!


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聖者の右腕編 Ⅹ

今回は天音ちゃんが地味(?)に活躍します。
では、本編をどうぞ。


教室に行くと、浅葱が声を掛けてきた。

「おはよう、古城、霊斗」

「おう、おはよう」

「なんか、浅葱眠そうだな」

「あんたには言われたくないけどねー。ほら、昨日の倉庫火災あったでしょ。あれで災害対策のメインフレームがぶっ飛んだって会社のお偉いさんが泣きついてきてさー」

「なんか、大変だったんだな。すまん」

「?なんで古城が誤んのさ?」

「い、いや!ほら、島民全員が浅葱には助けてもらったってことで!」

「べ、別にそんな大袈裟な事じゃないけど……。じゃあ、感謝を形にして貰おうかしら?」

「お、おう。できる範囲内でな」

「キーストーンゲートのケーキバイキングでいいわよ~」

「お、おまっ、あれいくらするんだよ!?」

と、その時

「暁古城、霊斗はいるか」

那月が教室に入って来て言う。

「なんすか?」

「HRの時間はまだだったんじゃないすか?」

「昼休み、生徒指導室に来い。中等部の転校生と、霊斗の腕にくっついている女もつれてな」

「え、だる……」

ゴキィ!

「あばす!」

霊斗の首があり得ない方向に曲がった。

「わかりました」

古城は冷汗を垂らしながら答える。

那月はつまらなさそうに鼻を鳴らすと教室を出ていった。

「ったく、死ぬかと思ったぜ」

「いや、霊君は吸血鬼だから、そんくらいじゃ死なないっしょー」

と、霊斗と天音のやりとりを見て、浅葱が

「ねぇ、霊斗。その子誰?」

「ああ、こいつか?知らないやつだ」

「霊君が辛辣だよー」

「くたばれ(バキッ)」

「痛い!殴ることないじゃん…」

天音は嘘泣きを始める。

なかなか上手い。

「ちょ、霊斗!?女の子殴るなんて、あんたそんなやつだった?」

「いや、殴るのはこいつだけだ」

「霊君の馬鹿!(メキッ)」

「ぐぁぁぁ!?頭蓋骨が陥没したような感覚が!?」

「ねぇ、古城」

「なんだ?」

「結局、この子はなんなの?」

「霊斗の眷獣だってさ」

「ああ、成る程」

古城と浅葱が溜息をついたとき、チャイムが鳴った。

 

 

 

昼休み。

古城、霊斗、雪菜、天音は生徒指導室にいた。

「で、那月ちゃん。話ってなぎゃん!?」

「私を那月ちゃんと呼ぶな。貴様ら、昨日の倉庫火災の件は知っているな?」

「は、はい」

「その現場付近で、死にかけの吸血鬼がいると、誰かが匿名で通報したらしい」

「そうっすか」

「ふん、まあいい。ところで、死にかけの魔族が発見されたのは昨日が初めてではない」

「なっ!?」

那月が広げた事件の資料のひとつに、知っている顔がいた。

「那月ちゃん、こいつは…?」

「六件目の被害者だな。知りあいか?」

「いや、見かけたことがあるだけだ」

「そうか。そこで、貴様ら真祖二人と馬鹿な眷獣に忠告しておいてやろうと思ってな。まあ、事件解決までは昨日のような夜遊びは控えるんだな」

「は?夜遊び?ナンノコトダカワカラナイナー」

「ふん、ところで霊斗。昨日の人形はどうしたんだ?大分獲っていたようだが?」

「あれなら空間転移で俺の部屋のクローゼットと、雪菜の部屋のタンスの中に一匹…。あ、もしかして那月ちゃんも欲しかった?(ごそごそ)はい、あげるよ?」

「も、貰っておいてやる」

少し、嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。

「じゃ、俺達はこれで」

「「「「失礼しました」」」」

そう言って指導室を出る。

 

 

階段にて―

雪菜が口を開く

「やっぱり、南宮先生は知ってたんですね」

「ああ、あの人は一応警察にも信頼されてるからな」

「でもさ、あのオイスタッハっておっさんと、アスタルテって子のことは知らないと思うよ?」

「天音の言う通りだ。だから、俺達で先に片をつける」

「はい、そう言うと思って朝の内に西欧教会の場所を調べて置きました」

「姫柊、流石だな。でも、そんな単純でいいのか?あいつらの素性はわからなくても、オッサンが法衣を着ていた事くらいは分かるんじゃないのか?」

「じゃあ、懺教師がどこに潜伏していると言うんですか?」

「そうだな……。ロタリンギア人がいて目立たないのはロタリンギア人の中だから……」

「ロタリンギア国籍の企業とかか。しかも、人工生命体の調整槽があるとなると医薬品企業……。それに軍事用人工生命体となると違法だから、すでに撤退済みの企業の施設でやらないと……。天音、調べられるか?」

「おっけー。任せて」

そう言うと天音は空に舞い、眷獣化した。

そして、島全体を覆う結界を張る。

しばらくして、天音が降りてくる。

「あったよ。スヘルデ製薬の施設が。撤退済みだけど、つい最近誰かが使った痕跡がある」

「わかった。じゃあ、案内してくれ」

「まて、霊斗。今から行くつもりか?」

「ああ、当たり前だ」

「はぁ、俺も行く。いいよな?」

「ああ。でも、足を引っ張るなよ?」

「わかってる」

「先輩が行くなら私も……」

「ああ、来てくれ。その方が心強い」

「よし、那月ちゃんに書き置きをしてっと……。よし、いくぞ!」

「おう!」

「はい!」

「うん!」

そして、皆で走り出す。敵の本拠地に向けて。




天音ちゃん大活躍!
次回で、聖者の右腕編を終わりにしたい。
では次回。


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聖者の右腕編 ⅩⅠ

できれば今回で聖者の右腕編は終わりにしたい。
では、本編をどうぞ。


しばらく霊斗達は走った。

ひとつの会社の前で天音が立ち止まる。

「ここだね。皆、準備はいい?」

「出来てなきゃ、ここにいねーよ」

「先輩の言う通りです」

「俺を誰だと思ってるんだ?お前の宿主だろ。眷獣に準備が出来てて、主が出来てなかったら情けないだろ」

「そうだね。じゃあ行こう」

入口につくと、そこには古びた南京錠がかかっていて、誰かが使った痕跡はないように見える。

「なあ、天音。ここで合ってるのか?」

「まったく……」

「古城は馬鹿だなぁ」

「先輩、初歩的な幻術です。本当にド素人ですね」

「あんまりだ……」

そして、雪菜が雪霞狼で南京錠に触れると、南京錠は真新しい物になり、地面に落ちた。

「行くぞ」

そう言うと霊斗は扉を開けた。

扉を閉めると暗闇だった。

古城、霊斗は吸血鬼なので、夜目がきく。

雪菜は霊視で視ているようだ。

しかし、もう一人。天音はというと。

「わー、霊君ー暗くて見えなーい」

「嘘つくな。くっつくな、暑苦しい」

「お前ら、戦いの前だってのに緊張感ねーな」

いつも通り馬鹿だった。

しばらく歩くと広い、明るい空間に出た。

そこには、人工生命体の調整槽が大量に並んでいた。

その中には獣、妖精などのような形をしたものが…。

「おい…、これが、こんなものが人工生命体だってのかよ……」

「違う。これは……」

と、その時。

「警告します。直ちにこの島から逃げて下さい」

「お前は……」

「先輩は見ちゃ駄目です!」

「霊君も駄目だよ!」

「「いや、まてお前ら」」

アスタルテは手術着のようなものを羽織っただけ、しかも調整槽から出てきたばかりなのか、濡れているために服が体のラインを浮き立たせている。

しかし、古城も霊斗もそんなことに構ってはいられなかった。

アスタルテの肌に薄い虹色が見えたのだ。

また、先程の逃げろという発言についても聞かなくてはいけない。

「逃げろってどういう事だ?」

「この島は間もなく沈みます。海上に造られた人工の島は要を失えば滅びるのみ―」

「つまり、キーストーンに何かしようとしているということか」

と、新たな声が割り込んでくる。

「その通りです。第五真祖よ。流石に鋭い」

「ふん、犯罪者に誉められたって嬉しくないぜ」

「ほう、我々が犯罪者だと?貴方ならあの要石に使われているもの位わかるのではないのですか?」

「ああ、知ったのはついさっきだがな」

「まて、霊斗。話についていけない」

「後で説明してやるよ―がっ!?」

霊斗にオイスタッハの拳が刺さる。

霊斗は数メートル飛び、倒れる。

「霊斗!」

「敵の前でよそ見とは余裕ですね。ですが、その余裕もいつまで持つか」

「霊斗さん!―雪霞狼!」

「アスタルテ!」

「命令受諾、実行せよ、''薔薇の指先''」

「避けろ、姫柊!よくも霊斗を!」

雪菜の攻撃からオイスタッハを守るように飛び出してきたアスタルテ。

その姿は眷獣―顔のないゴーレム―に完全に取り込まれていた。

それを古城が雷光を纏った拳で殴ろうとする。

しかし

「駄目です!先輩!」

雪菜が叫ぶ。

と、同時に古城の拳が触れたゴーレムの表面が青い結界に包まれる。

「がはっ!」

古城に逆流した魔力が古城自身の身体を焼く。

それに追撃しようとするアスタルテ。

が、雪菜の槍に阻まれる。

「これは―!」

雪菜が気づいた時。

「剣巫よ!我が手によって死になさい!」

オイスタッハの斧が雪菜に向けて振られる。

しかし、予想していた痛みは無い。

「かはっ」

驚くほど近くで古城が咳き込む声が聞こえる。

目を開けると、古城の背中に斧が突き刺さっていた。

「先……輩」

古城の身体が無惨に引き裂かれる。

そして、雪菜の腕の中に残ったのは古城の首だけだった。

「先輩……、そんな…、いや……」

そんな雪菜を一瞥し、オイスタッハは

「行きますよ、アスタルテ」

「命令受諾」

と、その時。

「待てよ、テメェ」

霊斗が立ち上がっていた。

「どうしました?第五真祖。今の貴方に勝ち目など無いでしょう?」

実際その通りだった。

無限のはずの真祖の魔力がもうない。

つまり、眷獣は使えない。

回復も出来ない。

そう。霊斗は所詮真祖の魂を受けいれて、その力を取り込んだ半人半魔。

だが、まだ半人の力がある。

霊能力者としての―剣凰としての力が。

「氷牙狼!」

霊斗は空間転移で自らの武器を取り出す。

「ほう、まだ諦めませんか。では、私が相手をして差し上げましょう」

そう言うと、オイスタッハは斧を構え、霊斗に突進する。

「うぉぉぉ!」

霊斗は斧を弾く。

が、

「ぐぁっ!」

そのボロボロの身体にオイスタッハの拳が打ち込まれる。

そして、今度こそ霊斗は完全に意識を失った。

それを確認すると、オイスタッハは歩き出した。

自らの正義の為に。

そして、アスタルテは泣き続ける雪菜を悲しそうに見ると、オイスタッハに続いて歩きだす。

人工生命体としての自分の役目を果たすために。




次回、聖者の右腕編完結!(予定)
では、また次回。
出来れば評価、お気に入り登録お願いします‼


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聖者の右腕編 ⅩⅡ

今回で聖者の右腕は完結です。
では、本編をどうぞ。


しばらく気を失っていたらしい。

床に倒れていたのだろうか、腕や背中に硬い感触がある。

しかし、頭だけは暖かい。

まるで晴れた日に干した布団のような―

そこで霊斗は違和感に気づいた。

晴れた日。

太陽。

そう、あいつは太陽の神の名を持つ眷獣ではなかったか…。

そこまで考えて、霊斗は目を開けた。

「おはよー、霊君」

「なんで人が魔力を使い切ってるときに出てんだテメェは」

「いや、私だって苦労したんだからね?霊君魔力使い切っちゃうから、実体化してられないし、援護出来ないし」

「う…。すまん」

「まあ、霊君の体力が回復したから実体化して傷とか治せたし」

「お前、そんな能力無かっただろ」

「いや、能力じゃなくて、消毒とか。ここ、製薬会社だからいっぱいあったよ」

「そうか…。って違う!古城は!?」

「ほら、向こうに居るよ」

そこには、雪菜に膝枕された古城の姿が

「ほぁちゃーっ!!!」

「ぐぼぁっ!?霊斗!?殺す気か!?」

古城が必死の形相で叫ぶ。

古城も傷は治っていた。

「さて、古城」

「何事も無かったかのように話し出すのやめないか?」

「傷も治った。オッサン達の居場所も大体見当がついた。どうする?」

「スルーかよ…。まあいい、その前に、オッサン達が探していたものはなんだ。教えてくれ」

「わかった。でも、その前にそのメールどうにかしろ」

「うお!?なんだ?矢瀬に、築島?……な!?浅葱が居たキーストーンゲートが襲撃された!?」

「何!?浅葱が!?古城‼電話だ!」

 

 

 

 

古城と霊斗が気を失っている時。

場所はキーストーンゲート。

浅葱はバイトでパソコンを弄っていた。

と、その時。

強烈な揺れがキーストーンゲートを襲った。

「な、なに?モグワイ、何が起きてるの?」

『嬢ちゃん、侵入者だぜ。……こいつは…』

「侵入者?まさか、テロリスト?それとも夜の帝国の軍隊?」

『いや、侵入者は二人。ただの人間と、人工生命体の二人組だ』

また、揺れが襲った。

すると、廊下から激しい銃撃音、続いて何かを殴るような音、悲鳴が聞こえた。

浅葱は廊下に飛び出す。

そこを表現するのに、必要な単語は一つ。

地獄。

それ以外に表現しようが無い状況だった。

そして、侵入者―オイスタッハが浅葱を見る。

しかし、興味が無いといったように次の隔壁へと向かう。

浅葱は床に座り込む。

と、その時。

電話がなった。

画面を見ると、そこには浅葱が想いを寄せる少年、暁古城の名前が表示されていた。

浅葱は通話ボタンを押すと、携帯を耳に当てる。

『浅葱!無事か?』

「全然無事じゃないわよ!なんなのよ!あいつら!」

『侵入者はガタイの良いオッサンに人工生命体が一人だな?』

「そうだけど…、まさか古城!あいつらに襲われたりしたの!?」

『ああ、そいつらのせいで、俺も霊斗も死にかけた』

「死にかけたって、霊斗は吸血鬼だから大丈夫だと思うけど、あんたは大丈夫なの!?」

『とりあえずな、今は生きてる。それより、オッサン達はどこに向かった?』

「下。最下層の方ね」

『そこには何かあるのか?』

「ないわよ。無駄に丈夫なアンカーしかないもの」

『じゃあ、オッサンが言ってた至宝ってのは一体…』

「至宝?ちょっと待って、調べてみるわ…。って何よこれ!?軍事機密並のプロテクトじゃない!モグワイ!ぶち破りなさい!」

『やれやれ、俺はこいつに手出し出来ないんだがな…、まあ、相棒の頼みとあっちゃぁしかたねぇな。……後悔するなよ』

そう言うとモグワイはプロテクトを破る。

そこに映し出されたカメラの映像を見た浅葱は息を飲む。

「何よ……これ……」

 

 

 

古城は浅葱との通話を切る。

「そう言う……事か……」

古城はそう呟き、俯く。

「先輩!早く行きましょう!でないと、藍羽先輩が!」

「行ってどうする?」

「え?」

「浅葱も助ける、島の人も俺の手の届く範囲の人は逃がす。でも、俺に出来るのはそこまでだ。」

「古城……」

「俺にはあのオッサン達を止めることは出来ない。俺はそれを選んじゃいけないんだよ!」

「先輩……」

「古城。歯を食いしばれ」

「え?」

バキィッ!

「ぐぁっ!」

「何腑抜けたこと言ってやがんだテメェ‼なんでもかんでも自分で背負い込もうとすんじゃねぇ!」

「霊斗……」

すると、雪菜が槍で自分の首筋を薄く切る。

「ひ、姫柊?」

「先輩。私の血を吸って下さい」

「なにゆえっ!?」

「先輩が眷獣を使えないのは血を吸ったことが無いからだと聞きました。だったら、私の血を吸って下さい。いつか、その力を使わなかった事を後悔しないように」

「いや、別に俺はあのオッサン達を止めようだなんて……」

「古城。雪菜の血を貰え。お前が行きたいか行きたくないかじゃない。お前は行かなくちゃいけないんだ。第四の真祖として!」

「霊斗……」

「じゃ、俺と天音は向こうに行ってるから。早く済ませろよ」

「拒否権なしかよ!?」

「先輩……。私では駄目ですか?」

「いや、姫柊は魅力的だけど……」

「じゃあ、どうぞ。吸って下さい」

「はあ、わかったよ。後悔するなよ?」

 

 

 

研究所の外。

「はあ、古城のやつ、苦労させやがって」

「霊君はどうする?」

「ばーか、自分の眷獣から血を吸っても、変わらないだろ」

「おっと、ばれちゃったか~。っと、古城君の眷獣が覚醒したっぽいね。行こっか!」

「ああ、キーストーンゲート最下層までの最短ルートを調べて置いてくれ」

「オッケー」

 

 

 

 

キーストーンゲート最下層。

隔壁が段々破壊されていく。

そこから現れたのは薔薇の指先だった。

「命令完了。目標を確認しました」

「ご苦労様です、アスタルテ」

続いて現れたオイスタッハが要石に向けて歩きだす。

そして、要石の前に来ると膝を付き涙を流す。

「おお、我らが教会より簒奪されし不朽体。ついに我らの手に取り戻す時が来ました。アスタルテ!最早我らの前に敵は無し!不朽体を取り戻しなさい!」

「命令認識。ただし、前提条件に誤謬があります。故に命令の再選択を要求します」

「なに!?」

そこで、オイスタッハは新たに現れた三人に気づく。

「悪いな、オッサン。その命令はキャンセルしてもらうぜ」

「第四真祖、第五真祖、剣巫…。まだ邪魔をするつもりですか!」

「ああ、真祖には自らの国の民を守る義務があるんでな」

「あなたはまだ、自らの国など持ってはいないではありませんか!」

「馬鹿か、この島が俺達の国だ」

「まあ、将来の話だけどな」

「くっ!最早言葉は無益のようです。アスタルテ!やりなさい!」

「命令受諾、実行せよ、''薔薇の指先''」

「貴方の相手は私です!」

「さて、オッサン」

「俺達はあんたにぼこぼこにされた借りがあるんだぜ?それの決着をつけようぜ!ここから先は第四真祖(オレ)の戦争(ケンカ)だ!」

「いいえ、先輩!私達の聖戦(ケンカ)です!」

「第五真祖(オレ)も忘れんなよ‼」

そう、口々に言うと、雪菜はアスタルテに、古城と霊斗はオイスタッハに向かって行った。

「霊斗!」

「おうよ!」

古城と霊斗は見事なチームワークで雷球をパスし、オイスタッハにぶつける。

「ぬ!やはり貴方達は侮れませんね。では、私も本気で相手を致しましょう!」

そう言うと、オイスタッハの鎧が光り輝きはじめる。

オイスタッハの攻撃は速く、重くなり、防戦一方となる。

「くそ、汚いぞ!オッサン、まだそんな切り札を隠し持っていやがったのかよ!だったら、俺達もこいつらを使うぜ‼」

「天音!」

「はいよー」

霊斗が声をかけると、天音が眷獣形態になる。

「焔光の夜伯の血脈を継ぎし者、暁古城が汝の枷を解き放つ!」

古城の右腕から血のような霧が吹き出す。

「疾く在れ(きやがれ)!五番目の眷獣''獅子の黄金(レグルス・アウルム)''」

それは雷光の獅子だった。

「ぬぅ、これほどの力をこの密閉された空間で使うとは。愚かな!」

しかし、獅子の爪がかすっただけでオイスタッハは吹き飛ぶ。

「くっ!アスタルテ!」

アスタルテがオイスタッハを守ろうと、オイスタッハの前に立ちはだかる。

ぶつかったレグルス・アウルムの雷が天井を破壊する。

「うぉぉぉ!?」

「きゃぁぁぁ!」

「馬鹿やろー!」

古城達は回避する。

「悪い、姫柊、霊斗。あいつには勝てないかもしれない」

「「いいえ(いや)、先輩(古城)、私(俺)達の勝ちです(だ)」」

そう言うと、二人は槍を構える。

「雪霞狼!」

「氷牙狼!」

「「獅子の神子たる高神の剣巫(剣凰)が願い奉る!」」

「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせたまえ!」

「暁の火炎、神滅の壊氷、氷牙の鋭利なる刃にて、我に敵を殲滅させたまえ!」

祝詞と共に放たれた槍はアスタルテの眷獣の結界を貫通し、眷獣の肉体に突き刺さる。

「先輩!」

「やれ!獅子の黄金!」

眷獣が消滅し、アスタルテが床に倒れる。

そして、三人はオイスタッハの目前に空間転移で移動。

「「終わりだ‼オッサン!」」

古城と霊斗、二人の拳がオイスタッハの顔面に突き刺さる。

「若雷!」

そして、止めに雪菜の掌打がオイスタッハに叩き込まれる。

オイスタッハは最後に不朽体に向けて手を伸ばし、崩れ落ちる。

「終わった……のか?」

「はい、先輩」

二人が安堵している隣では霊斗がアスタルテに歩み寄る。

「霊斗?」

「よいしょっと」

霊斗はアスタルテを抱き起こす。

そして、牙を首筋に突き立てた。

少し経ち、霊斗が

「よし、オッケー」

「何がだよ」

「いや、こいつの眷獣を俺の支配下におけば、こいつは今よりずっと長く生きられる。だから、血を吸って霊的経路を精製したってわけ」

「ふーん」

「さて、帰るか」

「そうだな」

「帰って、ご飯にしましょう」

そう言うと三人は歩きだす。

 

後日

「ふぁ、那月ちゃん、話ってなんすか?」

「うむ、1発殴るか?」

「サーセン。で、本題は?」

「この前の事件の人工生命体がいただろう、あれが保護観察処分になったらしくてな、お前を保護者に任命する」

「拒否権は?」

「あるわけがなかろう」

「デスヨネー」

「もし、やらないと言うなら……」

「やらせて頂きます」

こうして、アスタルテは暁家の一員になった。




よし、最後に伏線もはれた。
これで聖者の右腕編は完結です。
次回、戦王の使者編。
お楽しみに。
お気に入り、評価、宜しくお願いします。


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戦王の使者編
戦王の使者編Ⅰ


今回から、戦王の使者編です。
ホモ野郎がどのように霊斗にぶっ飛ばされるのか、お楽しみに!
では本編をどうぞ。


倉庫街。

一人の男が走っている。

男は獣人だった。

「くそっ、くそっ!やってくれたな人間共!」

口汚く罵りながら男は疾走する。

そして、しばらく走ると立ち止まる。

「ククク、特区警備隊の増援がそろそろ来るか……。こいつで全員吹っ飛ばしてやる!」

そう言って男が取り出したのはスイッチだった。

倉庫街の地下道に取り付けてある爆弾のものだ。

男はスイッチを押す。

しかし、急にスイッチの感触が消えた。

いや、違う。

手首から先が無くなっているのだ。

「ふん、さすがは獣人。知能が人間には及ばないか」

「何者だ貴様!どうやって俺に追い付いた!?」

「吸血鬼の筋力と呪術を使えば、獣人を超える速度で走ること位可能だ」

「貴様ぁっ!」

男の爪が追っ手に届く―

瞬間、追っ手の姿が消えた。

「馬鹿め。追っ手が一人だと思ったか」

「うっす、那月ちゃん」

「那月だと!?まさか、''空隙の魔女''か!?まだ魔族を殺し足りないのか!?」

「やれやれ、お喋り好きなイヌだな。霊斗、やれ」

「了解っ!」

そう言うと霊斗は獣人に一瞬で接近し、

「若、伏、黒雷!三連コンボ!」

「げぼぁっ!」

男は吹き飛ぶ。

そして、那月が鎖で縛る。

「よし、帰るぞ。霊斗、明日の授業に遅れるなよ!」

「へいへい、分かってますよ。じゃ、また明日」

そして、霊斗と那月はそれぞれ空間転移で消えた。

一人取り残された獣人の男は呟く。

「これ、特区警備隊でも降ろせないだろ……」

 

 

 

その頃の絃神港。

一隻のクルーズ船が近づいていた。

その馬鹿みたいにデカイ船はたった一人の所有物だった。

アルデアル公ディミトリエ・ヴァトラー。

それがこの船の所有者だ。

そして、彼は―

「ウン、今夜はいい月だネ」

月光浴を楽しんでいた。

と、彼の背後に人影が現れる。

十五、六歳くらいの少女である。

「クズ鉄と魔術でできた紛い物の大地か。これだから人間は面白い」

「アルデアル公、日本からの回答書をお持ちいたしました」

「ああ、ありがとう。……フム、じゃあ、入国は許可して貰えるんだネ」

「はい、但し条件があります」

「どんな条件カナ?」

「監視役を同伴させて頂きます」

「いいヨ。それで、監視役というのは?」

「私と、もう一人、絃神島にいる獅子王機関の者です」

「キミ、名前はなんだっけ?」

「煌坂紗矢華と申します。獅子王機関より、舞威姫の称号を与えられている者です」

「フゥン、キミみたいな可愛いコを監視役にするなんて獅子王機関も粋な計らいをしてくれるじゃないか。まあ、可愛い男のコだったら、もっと良かったんだけどネ」

「ご安心を、もう一人の監視役は男ですので」

「そうかい。それで、もうひとつのお願いはどうなっているのかなぁ?」

「……第四真祖ですか。別に、会って頂いても問題ありません。第四真祖、暁古城は私達の敵ですから―」

そう言う紗矢華の手の中で古城の写真が握り潰された。

古城と霊斗、雪菜の新たな災難の幕開けだった―

 




ヴァトラーをどう料理してやろうか……。
次回、アスタルテメイン回。
では、次回もお楽しみに!


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戦王の使者編Ⅱ

お気に入り登録者様が、50人を越えました!
これからも頑張って書いていきます!
では、本編をどうぞ。


朝。

暁家の一室、古城の部屋。

古城は寝ていた。

それはもう、ぐっすりと。

と、そこに

「起きて下さい。古城さん」

抑揚の乏しい声が聞こえる。

「ん……。あと三十分……」

古城は聞こえるはずのない声に違和感を覚える事もなくいつものように答える。

「マスター―霊斗さんから、伝言です。''起きなきゃ殺す''」

「おはよう!いい朝だな!」

古城は飛び起きる。

「おはようございます」

「おう、アスタルテか……って、なんでアスタルテがここに居るんだ!?」

「おう古城、起きたか。まあ、事情を説明すると、かくかくしかじか」

「そういうことか」

「質問。なぜ今のやり取りで事情が伝わるのでしょうか?」

「尺の都ご……ゲフンゲフン。兄弟だからな」

「霊斗、メタいぞ」

「そうですか」

「あ、アスタルテもその説明で納得するんだ」

と、そこに新たな乱入者が

「霊斗君、アスタルテちゃん、古城君起きた?あ、起きてるね。じゃあ、みんなでご飯にしよ!」

朝から強烈なマシンガントークを放つのかと思いきや、意外と静かに終わった。

恐らく、物静かなアスタルテに配慮してのことだろう。

しかし、それもいつまで続くか……。

「提案。古城さんは着替えを済ませた方が良いかと」

「そうだな、先に食っててくれ」

「言われなくてもそうする」

「命令受諾」

そして、アスタルテ達が出ていったのを確認し、古城は着替える。

しかし、そこで疑問点が一つ。

なぜ、自分の枕元に畳んで置いてあるのはメイド服なのだろう?

制服を着ると古城はメイド服を持ってリビングに行く。

「おい、霊斗。どういうつもりだ?」

「ん?むぐ、なんのもぐもぐ話だごくん」

「食うか喋るかどっちかにしろ」

「で、古城はアスタルテの脱ぎたてのメイド服を握り締める性癖があると」

「うっわ、古城君サイテー」

「…………(ポッ)」

「違う!つかそんなもん人の枕元に置くな!凪沙もそんな目で俺を見るな!アスタルテも仄かに頬を赤らめるな!」

「おお、ナイスツッコミだ古城」

「……拍手」

「嬉しくねぇよ!」

「古城君の性癖はどうでもいいから、早くご飯食べちゃってよ」

「良くない!断固として抗議する!」

「うるさいな!ゆっくり寝れないじゃん!」

虚空から天音が出てきた。

「もう!凪沙ちゃん困ってるでしょ!ほら食べる!」

そして、食べ物を古城の口に押し込む。

「ごぼぁ!もぐもぐ。いきなり人の口に飯を突っ込むんじゃねぇ!」

「ちゃっかり食ってやがる」

「吃驚」

と、チャイムがなる。

「あ、雪菜ちゃんだね。はいはーい。今出るよー」

凪沙は玄関へと走って行く。

「じゃあ、古城、アスタルテ。俺達も行くか」

「命令受諾」

「アスタルテも行くのか!?」

「肯定。今日から、転入生として貴方と同じクラスで生活させて頂きます」

「いきなり文字数増えたな」

「文字数とか言うな」

そして、玄関へ行くと

「おはようございます。先輩、霊斗さん、アスタルテさん。それでは行きましょう」

「あれ!?驚かないんだ!?」

「知らなかったのは古城だけだ」

「馬鹿なぁぁぁぁ!」

「残念」

「先輩は相変わらず元気ですね」

古城は項垂れながら、学校へと向かう。

 

 

学校。

朝のHR。

「アスタルテです。趣味は霊斗さんを殴ること。特技は殴ったあとに、霊斗さんを治療することです。よろしくお願いします」

これが、アスタルテの自己紹介だった。

これを、笑顔で言ったなら、常談ととれたかもしれない。

しかし、アスタルテは完璧な無表情で言った。

恐らく、クラスの半数以上はこう思っただろう。

こいつはヤバイと。

因みに、数人のクラスメイトが何故か羨ましそうな視線を送ってきたのが気になる。

しかし、一人。

必死に笑いを堪える生徒がいた。

「クッ……ブフゥッwww」

「どうした?天音。なにか面白いことでもあったか?」

「いやー、私の教えた自己紹介をあそこまで馬鹿正直にやるとはwww」

「犯人はテメェかぁぁぁぁぁぁ‼‼」

「うわぁ!霊君、朝からエキサイティングだねっ!」

「ぶっ殺す!アスタルテに恥をかかせたのと俺に恥をかかせた罪は万死に値する!」

「ち、ちょっと待って!まだHR中!」

「わかった。終わったら殺す」

そう言って霊斗は着席した。隣にはアスタルテが居る。

霊斗は小声で謝る

(悪いな、天音の奴が下らない事やらせて)

(大丈夫です。楽しかったので)

そう、アスタルテは頬笑む。

霊斗は一瞬その微笑に見蕩れる。

と、鼻の奥に違和感。

「あべし!?」

霊斗は数日ぶりに鼻血を吹いた。

アスタルテが止血してくれなかったら、死んでいた。

霊斗のアスタルテに対する好感度が30upした。

それを、窓の外から銀色に光る鳥が見ていた。




はい?アスタルテが頬笑むようになるのはもっと後?
知るか!
って訳で、今回はここまでです(どういうことだよ)。
次回もお楽しみに!


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戦王の使者編Ⅲ

最近疲れやすいなぁ……。
歳か!?
はい、どうでもいいですね。
本編をどうぞ。


そして、HR後

「天音。話がある。表に出ろ」

「なに?霊君もしかして愛の告白?自分の眷獣にそんな気持ちを抱くなんて……。霊君の変た痛い!!」

霊斗は天音の首根っこを掴む。

「んなわけあるかぁぁぁぁぁぁっ!」

霊斗は天音を窓の外に捨てた。

と、ちょうど築島倫が球技大会のチームを発表しているところだった。

「ん?古城と浅葱がバドミントンのミックスダブルスか。お似合いカップルの完成だな」

「「んなわけあるかぁぁぁぁぁぁ!」」

霊斗が呟くと、古城と浅葱が叫びながら霊斗の顔面を殴る。

霊斗は窓の外へ吹き飛んだ。

そのまま下へ落ちる。

「あ!霊君!ウェルカーム‼」

「さらばだ」

霊斗は空間転移で教室に帰った。

そして、改めて黒板を見ると、霊斗はアスタルテとミックスダブルスになっていた。

「どういうことだよ!?」

「ふっ、霊斗。俺達を馬鹿にするからだ」

「古城、テメェ……!」

「ほら、霊斗。アスタルテちゃんは転校してきたばかりなんだ。一緒にやってやんな」

「矢瀬……!お前も共犯か……!」

「私もね」

「築島ぁぁぁぁぁぁっ!」

「当然の報いよ」

「浅葱もか……!」

つまり、友人と兄弟に嵌められたのである。

救いを求め、アスタルテを見る。

「よろしくお願いします」

「なんでお前も嫌がらないんだ!?」

「質問。どこに嫌がる要素があるのですか?」

「微塵も嫌がってねぇぇぇぇ!?」

「霊斗さん。少し静かにして下さい。あと、授業が始まりますので着席した方がよいかと」

「くっ、昼休みに話し合おうじゃないか」

捨て台詞を残して霊斗は自分の席に付く。

 

 

 

 

昼休み

「さて、飯だー」

「まて、お前ら逃げんな。ゆっくり話し合おうじゃないか」

「提案。私がお弁当を作って来たので、それを囲みながらにしませんか?」

「お、俺達も混ざっていいのか?」

「肯定」

「じゃあ、屋上にでも行こうぜ」

「OK。それまでが執行猶予だ。せいぜい楽しい言い訳を考えておけ」

「霊斗。あんたキャラ変わってるわよ」

「浅葱、それは気にしないであげて」

そして、全員で屋上に移動する。

「よし、食うか」

「どうぞ」

「旨そうじゃん!頂きまーす」

もぐ。

「こいつは旨い!旨すぎて手足が痙攣するぜ」

「おい矢瀬。それは何かの病気だ。病院に行け」

「いや、霊斗。これは冗談じゃなく旨いぞ」

「ほんと、凪沙ちゃんにも負けないんじゃない?」

「霊斗君はこんな子が一緒に居て幸福者ね」

「ふーん、じゃあ俺も頂きます」

もぐ。ばたん。

「霊斗!?」

「アスタルテ……貴様……毒を盛ったな……」

「否定。それは失敗作です。間違えて入れてしまいました」

「内容物は?」

「塩酸、硝酸、硫酸を混ぜた液で溶かしたカツオ節と、ほうれん草のおひたしです」

「「「「王水じゃねぇか!(ないの!)」」」」

全員のツッコミが重なった。

「肯定。だから、失敗作なのです。まあ、霊斗さんなら大丈夫でしょう」

「アスタルテの性格が壊れてきている件について」

「諦めろ。天音が居る時点でゲームオーバーだ」

「あいつか!?あいつがお前にそれを教えたのか!?」

「肯定。なので、凪沙さんにきちんとした作り方を教えて頂きました」

「まあいい。あいつは後でブチコロス」

「なんで片言になってんのよ」

などと、下らない話をしていたら昼休み終了の予鈴が鳴った。

結局霊斗とアスタルテのダブルスの件は決定となった。




次回はヴァトラーをボコる。
ヴァトラーが好きな人が居ましたら謝ります。
次回はヴァトラーが大分酷い扱いを受けます。
では、また次回!


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戦王の使者編Ⅳ

さあ、書くか。


放課後。

霊斗と古城は体育館に向かっていた。

「あー、だりー」

「霊斗、お前最近なんかだらけすぎだろ……」

体育館に到着し、中を見ると。

「なんだこれ……」

体育館の中はリア充で埋まっていた。

「リア充シネリア充シネリア充シネリア充シネリア充シネ……」

「霊斗が暗黒面に!?」

と、クラスメイト

「あ、暁君。霊斗君の方も一緒みたいだね。お互いのペアはどうしたの?」

「なんか、準備に手間取ってるらしくてな」

「リア充シネリア充シネリア充シネ……」

「あのさ、霊斗君の方は大丈夫なのかな?」

「大丈夫だ。オラァッ‼」

「リア充シネリア充シがふっ!?」

「ねえ、今舌噛んで無かった?」

「気にするな」

霊斗が口から血を流しているけど気にしない。

霊斗が痙攣し出したけど気にしない。

霊斗の顔が段々紫色になってるけど気にし……。

「やべぇ!殺り過ぎた!?」

「暁君、字が違うよ」

霊斗の口に手を突っ込み舌を引きずり出す。

「ごほっ!げほっ!」

「蘇生完了!」

「それでいいの!? 」

いいんだ。

「はあ、一辺死んだわ」

「死んだんだ!?」

クラスメイトのナイスツッコミ。

そういや、こいつ誰だっけ。

まあ、リア充なんて覚える価値もないよね。

「はぁ、俺なんか飲んでくるわ」

「あ、俺も」

「じゃあ、準備はやっとくよ」

「「よろしく!」」

自販機へGO!

 

 

 

中庭。

「暑ぃな」

「ああ」

自販機で買った飲み物は氷だらけだった。

近くのベンチに腰を下ろし、氷を食べる。

「なんか、氷買ったみてぇだな」

「氷が舌にしみる」

と、古城は飲み終わって立ち上がる。

同時にベンチが粉々になった。

「なんだ!?」

矢がベンチの所に刺さっている。

「痛ぇ!」

あ、霊斗に刺さってる。

すると、矢はほどけて狼と獅子を形作る。

「なんだこいつら!?うぉっ!」

「古城‼うわっ、危ねぇ!」

霊斗と古城は防戦一方となる。

「霊斗!眷獣は無理か?」

そう。

眷獣を使えばこんな敵簡単に葬ることが出来る。

だが―

「無理だ!校舎ごとぶっ飛ばしちまう!」

だが、眷獣を使えば校舎も消し去ることになる。

つまり。

((勝てる訳がない―))

と、そこで霊斗が気付く。

「ん?この術式は……」

どこかで見覚えが―

「ああ、あいつか。そういや絃神島に来てるって言ってたな」

そう。霊斗と同い年の少女が使う術式の癖があった。

ならば―

「若雷!」

獅子、撃破。

と、声。

「先輩!霊斗さん!伏せて下さい!」

伏せた二人の頭上を槍が飛ぶ―

「鳴雷!」

雪菜が狼を撃破。

「雪菜!助かった!」

「無事で良かったです。それよりも、あの術式は……」

「ああ。手紙などを届ける式神だ。と、すると……」

「じゃあ、この手紙は俺宛でいいのか?」

「多分な。俺宛のもあったしな。」

と、そこに

「状況の説明を要求します」

「ア、アスタルテ!?」

「ああ、式神に襲われた」

「……理解」

周りを見渡すとアスタルテは納得したように頷く。

と、さらに

「アスタルテさん?物凄い勢いで飛び出してったけど、大丈夫―」

「おっす浅葱」

「……」

「浅葱さん?どうして無言なんでしょうか?」

「……いや、もしかして邪魔したかなって思ってさ」

「おい古城、誤解されてるぞ」

「まて、浅葱!別にこれは姫柊から貰ったとかそんなんじゃ……」

「あたし、帰る」

「おい!」

浅葱は怒って帰ってしまった。

「はぁ。どうせあいつまた弱みを握ったとかおもってんだろうな」

「先輩……」

「古城……お前はまったく……」

「……鈍感」

相変わらず鈍感な古城である。

しかし、新たな問題が発生。

「なあ、姫柊。その衣装って……」

「ちょっと色々ありまして……。似合いませんか?」

「バッチリ似合ってる」

真顔で変態な古城。

さらにこちらは

「なあ、アスタルテ。その服はなんだ?」

「バドミントンのユニフォームです」

「そうか。似合ってるぞ」

「ありがとうございます」

リア充か。

「よし。俺達も帰るか」

「そうだな。浅葱がいなきゃ練習も出来ないしな」

と、言うわけで帰ることとなった。




ヴァトラーの所まで書けなかった。
次回頑張ります。
では、また次回!


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戦王の使者編Ⅴ

ヴァトラーをボコる。
とちゅう、端折ります。
ではどうぞ。


帰り道、スーパーに寄りマンションに帰宅。

そこで話し合い。

「さて、今夜のパーティだが」

「俺はアスタルテと行く。アスタルテも良いよな?」

「肯定。ご一緒します」

「仲良いなお前ら」

「まあ、一応アスタルテは俺の血族だからな」

「は?」

「いや、アスタルテが眷獣を使うには無限の負の生命力が必要なのはわかるよな?」

「はい。でも、それとなんの関係が?」

「いや、俺は半分人間だから、アスタルテと同時に眷獣を召喚すんのはきついんだわ」

「ああ、だからアスタルテを吸血鬼化させることで自給自足させると」

「ま、そゆこと」

以上、説明終了。

「で、古城は誰と行くんだ?」

「ん?ああ、まだ考えてる所なんだが」

「雪菜が連れていって欲しそうにしてるぞ」

「なっ!?そ、しょんなことないでしゅ!」

「バレバレだ」

「んー、じゃあ姫柊、頼んでいいか?」

「ひ、ひゃい!」

「噛みすぎだろ!?」

「あ……でも、私パーティに着ていく服がありません……」

沈黙。

「ところで古城。こんな荷物が届いていたんだが」

「ん?なんだ?」

開封→商品明細確認→雪菜のスリーサイズ読み上げ→古城死亡。

「古城の冒険は終わってしまった!」

「コンティニュー?→yes or no」

「……No」

「お前ら人の命をなんだと思ってんだ!?」

「いやwwすまん、ついwwww」

「反省しろ!」

「まあ、先輩の命の重みはどうでもいいので、今夜ここに集合しましょう」

「うす」

「命令受諾」

「オッケー」

「どうでもよくは無いだろ!?……じゃあ、また後でな」

 

 

 

夜。

凪沙を騙し、出発。

「よし、行こう」

そして、当然のように空間転移。

港に到着。

「オシアナス・グレイヴか」

「洋上の墓場…か。あいつらしいネーミングだな」

「霊斗さん、知り合いですか?」

「あ、いや、何でもない。早く行こう」

乗り込むと、絃神島の重役ばかりだった。

凄く居心地が悪い。

すると―

「あれ、霊斗じゃない。久しぶり」

「おう、紗矢華か。久しぶり」

「もしかして、雪菜も居る?」

「居る。あそこに―」

古城が雪菜に手を捕まれていた。

「コロス」

紗矢華の姿がぶれた。

そして、一瞬のうちに古城にフォークを突き付けていた。

「まて、紗矢華!古城はヴァトラーが殺すから!」

「霊斗!?こいつどうにかしてくれ!」

「はい、二人供落ち着く。古城、こちら、煌坂紗矢華。

紗矢華、これは古城。いまは喧嘩すんな」

「そうだ、ヴァトラーはどこに?」

「アッパーデッキよ。霊斗と雪菜に免じて連れていってあげる。だから、ハヤクシネ」

「紗矢華、片言が恐い」

 

 

オシアナス・グレイヴ、アッパーデッキ。

そこに居たのは純白のスリーピースに身を包んだ青年だった。

彼は振り返って、笑う。

その唇の間から、長い牙が覗く。

次の瞬間、彼の全身を稲妻が包む。

同時に彼は倒れた。

「「「「は?」」」」

いつの間にか霊斗が彼に馬乗りになって―

「シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ」

彼の顔面を殴打していた。

恐らく、顔面の骨が砕けているだろう。

「まて、霊斗!それ以上はR18タグが付いてしまう!落ち着け!」

「フーッ‼」

「お前は猫か!」

そして、霊斗を引き剥がす。

十秒ほど後、彼―ヴァトラーは起きあがり

「いやぁ、久しぶりだネ霊斗。相変わらず過激だネ」

「何しに来やがったテメェ!」

「いやぁ、ちょっと色々とあってネ。一つはそこの彼―暁古城に愛を誓いに」

「(口から夕食を吐き出す音)」

「先輩!」

「もう一つは霊斗と○○○○○○をしに」

「やめろ!R18タグが付く!あと気持ち悪い!」

「最後に、黒死皇派の残党狩りに」

「な…!?黒死皇派だと!?」

「ウン。だから、もしかしたらこの島を沈めるかもしれないからヨロシク」

「『ヨロシク』じゃねえ!俺がやる!ここは俺の島だ!」

「ウン?なら、任せようカナ?」

「霊斗さん!?」

「大丈夫だ。雪菜、アスタルテも手伝ってくれ」

「じゃあ、今回は霊斗に任せるヨ。じゃあ、君たちは帰っていいヨ」

「ったく。人騒がせなホモ貴族様だな」

「誉め言葉ダヨ。じゃあ、古城、霊斗、お休み」

新たな災厄の幕開けである。




よし、なんとかR18タグは付かないな。
次回からシリアス回かも。
ではまた次回!


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戦王の使者編Ⅵ

さあ、書くか。


翌朝。

古城の部屋。

「古城君!起きて!遅刻しちゃうよ!」

凪沙の声が響き渡る。

「…あと三十分……」

「もう!遅刻しても知らないからね!」

凪沙が出ていく気配がする。

古城、二度寝開始。

 

 

 

 

同時刻、霊斗の部屋。

「霊斗さん、起床を要請します」

「……あと半日待ってくれ……くかー……」

霊斗が二度寝をし始めた瞬間―

バチン!

「おごぉっ!?」

霊斗が部屋の外に飛んでいく。

「起きてください。さもなくば……」

「起きた‼起きたから!眷獣を戻せ!」

霊斗が叫ぶとアスタルテの眷獣が消える。

「おはようございます。いい朝ですね」

「俺は最悪だ」

霊斗が呟くと、アスタルテが無表情にこちらを見つめてくる。

「……なんだよ」

「私に起こされたのは最悪でしたか?」

「いや、アスタルテに起こされたことじゃなくて、起こし方がな…」

「謝罪します。メンゴ」

「天音の影響か?」

「ネットで見ました。男性は女子に可愛くされるのが好きなんですよね?」

「TPOを弁えろ‼」

アスタルテは微笑むと、言った。

「冗談です。早く支度をして行きましょう」

「そうだな」

その後、古城の部屋の前を通ると、なにやら聞き覚えのある声が聞こえた。

「なあ、凪沙。浅葱がきてんのか?」

「そう!古城君を起こしてくれるんだって!」

「ふーん、そうか……」

霊斗は曖昧な返事をし、古城の部屋の扉を少し開く。

そこでは、浅葱が古城に馬乗りになり、話をしている。

(……リア充め……)

霊斗は心の中で、呪詛を送る。

すると、古城の上から降りようとした浅葱がとある「物体」に触れる。

さらに、疑問に思ったのか、「それ」を掴んだ。

そして、古城に文句を言いながら殴り掛かる。

古城がそれを止めようとし―

結果、浅葱を床に押し倒した。

その瞬間

「(ガチャッ!)古城‼何してやがる!この変態!」

「霊斗!?見てたのか!?」

「霊斗……あんた……どこから見てたの?」

「ん。えっと、確か浅葱が古城に馬乗りになって、話をしてた所かな?」

「大分最初の方じゃないの!?」

「最悪だぁぁぁぁぁ!」

「全くこのリア充どもめハヤクシネ」

「霊斗が昨晩の殺人鬼の様に!?」

「リア充じゃないし!」

「なぁぁンでお前らはリア充しテんのにオれはリア充になれないんだぁぁぁ!」

「「霊斗が壊れた!?」」

「ぐぉぉぉ!がふっ!?」

咆哮していた霊斗が急に倒れる。

その背後には、アスタルテが背中から眷獣を召喚し、立っていた。

恐らく、霊斗を殴ったのだろう。

眷獣の拳には、真新しい血がべっとりとついていた。

「無事ですか、古城さん、ミス藍羽」

「ありがとう、アスタルテ。助かった」

「そういえば、アスタルテさんも眷獣が使えるのよね……」

「私は霊斗さんを連れて一足先に登校します。それでは」

「おう。また後でな」

「じゃ、あたしも一緒にいこうかしら。その方が安心だしね」

「そうか……。なあ、浅葱。お前、結局何しに来たんだ?」

「んー、姫柊さんがいれば宣戦布告しようと思ってたんだけど、居ないみたいだし……宣言かしら」

「はぁ?どういうことだ?」

「わかんなくていいのよ。じゃ、後でね」

そう言って、浅葱は部屋を後にした。

その後、古城は雪菜に説教されるのだが、どうでもいいので、割愛。

霊斗、アスタルテ、浅葱は学校へと、向かった。




今回は、ここまでですかね。
明日、学校で漢検なんですけど、勉強しなくて大丈夫かな……。
では、また次回!


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戦王の使者編Ⅶ

さあ、書くぞ。


学校。

到着するなり、霊斗、アスタルテ、天音、古城、雪菜は那月の部屋へと向かった。

ガチャ

「おはようございます、那月ちゃんって危ねぇ!?」

「朝から殺されたいようだな?霊斗……」

「すいませんでした。土下座でもなんでもするので許して下さい」

「ならば部屋の端で土下座していろ。で、他は何しに来たんだ?」

「南宮先生。黒死皇派について教えて下さい」

「ふむ、その名をどこで聞いた?」

「ヴァトラーだよ。知ってるだろ?あいつから聞いた」

「チッ、またあの蛇使いか……。だが、なぜ貴様らがその情報を知りたがる?」

「それが、ヴァトラーに挑発された霊斗が『俺が黒死皇派を潰す!キラッ』とか言ってな……」

「キラッ、は言ってないだろ!?」

「どちらにせよ、霊斗。お前の出る幕ではない。警察に任せろ」

「でも……」

「いいか、お前にはyesしか選択肢はない」

「さすがに酷い!?」

「わかったら教室に戻れ」

「はーい、失礼しましたー」

「ところでな、霊斗」

「……まだ何か?」

「黒死皇派はナラクヴェーラの制御コマンドを解析しようとしていたらしいぞ」

「ナラクヴェーラ……コマンド……。そうか!ありがとう那月ちゃん‼」

また言った。

しかし、那月は咎めることもなく、ただ紅茶を飲んだだけだった。

 

 

 

教室。

霊斗と古城、アスタルテが駆け込んできたかと思うと、浅葱の周りを囲んだ。(実際、アスタルテは霊斗にお姫様抱っこをされていて嬉しそうだったが。)

そして、古城が凄く爽やかな笑顔で

「お前の力を貸してくれ!」

……キャラが違う気がする。

「霊斗、こいつどうしたの?」

「浅葱を見て興奮してんだろ」

「そ、そう……///」

浅葱の顔が真っ赤になった。

隠し芸だろうか?

「いや、違うだろ」

「は?急にどうしたの?」

「すまん、なんでもない」

「で、力を貸してくれって、何をすればいいの?」

浅葱が訝しげに聞く。

霊斗は精一杯真面目な顔を作り

「ナラクヴェーラについて調べてほしい」

「ナラクヴェーラ?……わかったわ、調べてあげる。だからこんどキーストーンゲートのケーキバイキングに連れていってくれる?」

「ああ、古城が約束する」

「オッケー。……この時間帯に使えるパソコンは……」

「職員室」

「馬鹿じゃないの!?捕まるわよ!」

「じゃあ、生徒会室」

「そうね、あそこなら誰も使わないだろうし」

「決定だ。行こう」

生徒会室に向かう。

「そう言えば、あのドアロックはどうすんだ?」

「まあ、見てなさい」

そう言うと、浅葱はセキュリティシステムにケータイを当てる。

すると、あっという間にロックが解除された。

そして、部屋に入りパソコンを立ち上げた。

「早いな……」

「伊達に管理公社のバイトやってないわよ」

そう言うと浅葱は笑った。




さあ、次回はアスタルテ負傷しない回です。
ではまた次回!


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戦王の使者編Ⅷ

昨日は投稿出来なくてすみませんでした!
今日は書きます!
ではどうぞ!


生徒会室。

浅葱が尋常ではない速度でパソコンを操作していく。

「……お前、本当に人間か?」

「失礼ね、人間よ。……っと。出たわよ、ナラクヴェーラの情報」

「ふむ……なかなか厄介な敵であるな。流石の我でも苦労しそうだ」

「霊斗、素が出てるぞ」

「おっと失礼。だが、今のままでは勝てないな……」

「勝つってあんた、これと戦うつもり?いくら吸血鬼と言っても無理があるわよ」

「う……それはそうだが……」

その時、廊下から足音がした。

「まずい!隠れろ!」

霊斗は咄嗟に浅葱と古城を机の下に押込み、自分は空間転移で別の部屋に隠れた。

「チッ、邪魔が入ったな。……お、もう出ていくか」

教師が部屋から出たのを確認し、生徒会室に戻った。

そこには、鼻血を出した古城がいた。

 

 

 

屋上。

「古城、大丈夫?」

「……ああ、なんとかな…」

「ったく、浅葱と密着して興奮するなんて古城は変態だなぁ」

「ほっとけ…」

ここで、浅葱から弁当を食べないかと提案。

二人は喜んで賛成した。

というわけで、浅葱が弁当を取りにいった。

「暑ぃな……」

「死んじまう……」

吸血鬼二人は日光に焼かれていた。

その時、古城は視界に何かが映ったことに気付いた。

が、遅かった。

「死になさい!暁古城‼」

煌坂紗矢華が剣を振りかざして落ちてきた。

「あぶねぇ!」

古城、ナイス回避。

「避けるんじゃないわよ!」

紗矢華の剣が横薙ぎに振るわれる。

「避けなきゃ死ぬだろうが!」

ヒュッ、ザクッ。

「「ん?ザクッ?」」

確かに古城は避けたはずだが……。

「い、痛ぇ……」

霊斗の脇腹に紗矢華の剣が刺さっていた。

「れ、霊斗!?大丈夫!?」

「紗矢華……君は僕に何か恨みでもあるのかい……?」

「霊斗、わざと大袈裟に痛がるなよ」

「あ、バレた?」

霊斗の傷はもう治っていた。

「霊斗……その回復力は一体…」

「ん?俺は吸血鬼だからな」

衝撃のカミングアウト。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「うるさい‼叫ぶな!」

「だって、そんなの一回も言わなかったじゃない!」

「お前なぁ、獅子王機関の養成所で俺は吸血鬼だとか言えるか?」

「確実に狩られるわね」

「だろ?」

「獅子王機関怖いな」

「話掛けないで!この変態真祖!」

「誰が変態だ!」

「うるさい!死になさい!」

「馬鹿おまっ、待て!グッ!?」

いきなりキレた紗矢華の剣が古城の腕を切りつける。

「ぐ…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

古城の眷獣が暴走し、周りに高周波の音と暴風を撒き散らす。

そこに、最悪のタイミングで浅葱が帰ってきた。

「古城!?まさか、その剣本物!?」

「だめだ!浅葱、来るな!」

「ぐっ、なにこれ……あぁぁぁぁぁ!」

そのまま、浅葱は気を失う。

「ぐっ、氷牙狼!」

「雪霞狼!」

二本の槍で、古城の魔力が消失する。

そこに降り立ったのは雪霞狼を構えた雪菜だった。

「雪菜‼助かった!」

「霊斗さん、お疲れ様です。……先輩」

「はい……」

「こんな所で眷獣を暴走させて、学校を破壊するつもりですか?」

「いや、あれはあそこの通り魔女が……」

「反省してください」

「はい……」

「紗矢華さん。私の任務を邪魔するのが紗矢華さんの目的ですか?」

「違うわよ!私はそこの変態に罰を与えようと……」

「反省してください」

「でも……」

「反省してください」

「はい……」

と、そこに足音。

「雪菜ちゃん!物凄い勢いで飛び出していったけど、大丈夫!?って、なんで屋上が壊れてるの!?浅葱ちゃんも居るし!?怪我してない!?」

「凪沙、落ち着け。浅葱は保険室に連れていこう。古城と紗矢華は屋上で正座。反省してろ」

「「はい……」」

「雪菜はアスタルテを呼んできてくれ。急患だってな」

「わかりました」

そこまで指示すると、霊斗は浅葱をおぶった。

 

 

 

 

 

保険室。

「メディカルチェック、終了しました。軽いショック症状と推測されます。健康面には問題ありませんが、一日は安静にしておくべきです」

「そうか。アスタルテ、ありがとな」

そう言って霊斗がアスタルテの頭を撫でてやると、アスタルテは嬉しそうな、表情になった。

最近、アスタルテが感情を豊かに表現するようになってきた。

と、急にアスタルテの表情が変わる。

「侵入者の気配を感知」

「まずい!まさか、黒死皇派!」

「目的地はこの部屋かと」

と、浅葱が目を覚ました。

「ん……なに?なにがあったの?」

「浅葱!起きたか!」

逃げろ、と言おうとしたが、遅かった。

ガラァッ!

保険室のドアが開き、獣人が二人と男が一人現れた。

「この中にアイバ・アサギはいるか」

「……私だけど、あんたらは?」

「私の名はクリストフ・ガルドシュだ。協力して貰いたいことがある」

「…させません。実行せよ、''薔薇の―」

「危ない!アスタルテ!伏せろ!」

次の瞬間、ガルドシュが拳銃を撃った。

一瞬で三発。

すべて命中した。

ただし、霊斗に。

「霊斗さん!?」

「ふん、最も強大な魔力の持ち主だったが、他愛ないな」

「くっ、霊斗をよくもやってくれたじゃない…」

「さて、ミスアイバ、我々に協力してもらおうか」

「わかったわ、ただし、そこの怯えている子―凪沙ちゃんは開放してあげて」

「ふむ、では代わりにそこの人工生命体の少女に来て貰おう」

「肯定。ただし、この人の治療を先にやらせてください」

「それくらいならいいだろう」

アスタルテは霊斗を治療し始める。

そして、治療を終わらせたあと、浅葱、雪菜、アスタルテは黒死皇派の人質となったのであった。




宣言通り、アスタルテは負傷しない回でした。
アスタルテにはかすり傷ひとつ付けねぇぞ!
また次回!


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戦王の使者編Ⅸ

さあ、書くぞぉっ!


屋上。

紗矢華と古城は並んで正座していた。

「……これっていつまで正座してりゃいいんだろうな?」

「知らないわよ、雪菜と霊斗が帰ってくるまででしょ」

「……そうなるよなぁ……」

沈黙。

((すごく気不味い……!))

お互いに考えていることは一緒のようだ。

が、その時古城の顔が強張った。

古城が横を見ると、紗矢華も強張った表情をしていた。

「なあ、今の音って……」

「銃声ね。恐らく三発」

「くそっ!早く行かねぇと!」

「暁古城!あのワゴン車!」

下を見ると、校門から黒いワゴン車が走り去る所だった。

「煌坂!下りるぞ!」

「言われなくても分かってるわよ!」

二人は外階段を駆け下りる。

と、一階に着いたときに古城はある「臭い」を感じた。

発生源は保険室。

しかも、この臭いは……。

「血の臭い!」

「え!?どこから!?」

古城は保険室の窓から室内へと飛び込んだ。

そこには、腹部に包帯を巻いた霊斗が倒れていた。

「霊斗!?大丈夫か!」

「ああ……古城か……。すまない、浅葱と雪菜とアスタルテを拐われた……」

「黒死皇派か!」

「ああ。しかも、指導者のガルドシュ自ら出てきやがった……」

「分かった。俺達は姫柊達を追う」

「頼んだ。俺もある程度回復したら合流する」

「じゃあ、霊斗。後でな」

「任せたぜ……」

そこで霊斗は意識を失った。

「煌坂。来てくれるか?」

「雪菜の為だもの。物凄く不本意だけど、協力してあげる」

「ああ、助かる」

そして二人は外に向かって走り出した。

 

 

 

 

???

暗闇。

浅葱と雪菜、アスタルテは真っ暗な場所に居た。

「ここはどこでしょう……」

「うーん、距離的に港か、倉庫くらいじゃない?」

「アスタルテさん、分かりますか?」

「肯定。周りの構造から推測すると、船の中かと思われます」

「よく見えるわね……」

「私でもそんなに細かく見えませんよ……」

「お褒めに預かり光栄です」

と、部屋の扉が開く。

そこには、ガルドシュが居た。

「いやはや、こんなにも早くバレてしまうとはな。お察しの通り、ここは我々の船の中だ。脱出は不可能だと考えて貰いたい」

「で、あたしは何を手伝えば良いのかしら?」

「ナラクヴェーラの制御コマンドを解析してほしい」

「嫌だと言ったら?」

「その時はこの島を沈めるだけだ。既に起動コマンドは君が解析してくれたからな」

「……わかったわ。この貸し、高く付くわよ」

「パソコンはこの先の部屋に用意してある。自由に使ってくれたまえ」

浅葱は無言でガルドシュを睨むと、部屋に入って行った。




さあ、次回ナラクヴェーラ戦!
ではまた次回!


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戦王の使者編Ⅹ

昨日は投稿出来なくてすみませんでした!
今日、市の芸術祭がありまして、その準備で書けなかったんです!
しばらくは不定期になるかもしれないです!
これでも学生なもので……。
さて、では本編をどうぞ!


彩海学園、保健室。

暁霊斗は目を覚ました。

「ん……。さて、傷はどうなったかな……」

包帯を外す。

その下には、傷痕すら残っていなかった。

「……あれ、俺の回復力ってこんな高かったっけ」

「んなわけないでしょ」

「おう、天音。おはよう」

「呑気に挨拶してる場合じゃないでしょ!?」

「そうだな。おふざけはここまでだ」

「早く行きましょ。女の子をあまり待たせるもんじゃないよ」

「ああ。場所の検討は付いてるしな」

「じゃ、行こう」

霊斗は頷くと、空間転移を使った。

 

 

 

 

絃神島第十三号増設人工島(サブフロート)

古城と紗矢華はタクシーでここまで来ていた。

しかし。

「あちゃー、完全に封鎖されてやがんなこりゃ」

「私が片付けるわ。大丈夫。証拠は残さないわ」

「やめろ!考え方が物騒だ!……あー、だったら橋を使わなきゃいいんだろ」

そう言って古城は橋から離れた場所に移動した。

「よいしょっと」

そして、付いてきた紗矢華を抱き上げる。

俗に言う「お姫様抱っこ」と言うやつだ。

「ちょ!?何するのよ!離しなさいこの変態!」

暴れる紗矢華。

しかし、古城はそのまま

「どりゃぁぁぁぁ!」

人工島と人工島の間を飛び越えた。

「おっと……ギリギリだったな」

着地。

同時に紗矢華は古城から離れる。

「何てことすんのよ!?殺すわよ!?」

「まてよ!?渡れたんだからいいだろ!」

と、その時。

「全く、馬鹿な教え子が来たか」

「あ、那月ちゃん」

ゴツッ!

「ぐおぉぉぉ……」

「貴様は何度殴られれば気がすむんだ。ドMか?」

「ドMじゃねーよ!」

そこに新たな人影が現れた。

「フゥン……。よくわからないケド、あれは不味いんじゃないかなぁ?」

「ヴァトラー……」

「どう言うことだ蛇使い」

「あれは黒死皇派の本命じゃないと言うことだヨ」

古城がどういうことか聞こうとした瞬間。

地中から、レーザーが発射された。

「なんだ!?」

しかし、驚いたのはレーザーにではない。

レーザーがヴァトラーの足に直撃したのだ。

そして、それを仕組んだ人物。

「悪い悪い。レーザーを弾こうとしたら方向が逸れてしまってなw」

「そうかい、事故なら仕方ないネ」

そう、仕組んだ人物。

暁霊斗だった。

「さて、古城。あいつ―ナラクヴェーラの足止めを頼めるか?」

「あ、ああ。だけど霊斗、傷はもういいのか?」

「ああ。あと、増設人工島(サブフロート)は切り離しといた」

「え?」

「ああ、大丈夫。他の人は避難させたし、街に被害がでないように結界も張ってある」

しかし、古城は安心出来なかった。

何故なら、霊斗の魔力に反応し活性化したナラクヴェーラがそこにいたからだ。

「じゃ、俺はアスタルテ達を助けに行ってくる。紗矢華、古城の援護してやってくれ」

「霊斗の頼みなら仕方ないわね」

「じゃあ、任せた。さて、まずはこいつを……」

霊斗は氷牙狼を取り出した。

そして、海上遥か彼方のオシアナス・グレイヴに向けて

「どっせぇぇぇい!」

投げた。

「霊斗、何してんだ?」

「あの船の結界をぶち壊した。あそこが黒死皇派の本拠地だ」

「何言ってんだ?あれはクソホモの船だろ?」

「だが、昨日の夜のパーティに居た人の中にガルドシュが紛れていた。奴を直接見たからこそ判ったことだ」

「つまり、今回の黒幕は……」

「ホモだ」

「酷いじゃないか、黒幕だなんて。ボクはガルドシュに襲われたんだヨ」

「死ね」

ゴキィッ!

ヴァトラーの顔面にコンクリの破片がぶつかった。

「さて、俺はあの船に乗り込むから、ナラクヴェーラの足止めを頼んだんだ。古城、紗矢華、よろしく頼んだ」

「ああ」

「しっかり助けて来なさいよ」

「任せろ」

そう言って霊斗は空間転移で消えた。

そして、古城と紗矢華はナラクヴェーラに向き直る。

ここからが、今回の決戦だと考えて。




さて、そろそろ戦王の使者編も完結ですね。
ではまた次回!


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戦王の使者編ⅩⅠ

さて、書くぞい。
では、本編をどうぞ!


第十三号増設人工島(サブフロート)

古城と紗矢華はナラクヴェーラと対峙していた。

「ここなら手加減の必要はねぇな!疾く在れ(きやがれ)獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

古城は眷獣を召喚する。

そして、雷光の獅子がナラクヴェーラに突っ込む。

「よしっ!」

ナラクヴェーラは片側の足を全て破壊され、胴体も半分消し飛んでいた。

なんにせよ、普通の兵器なら活動は不可能だ。

しかし、ナラクヴェーラは神々の時代の兵器。普通な訳がなかった。

「なっ!?再生してやがる!?」

「違うわ!物質変成で新しく造り出しているのよ!」

そう、再生ではなく、再製する。

「くそっ!だったらもう一回!」

古城はもう一度攻撃を仕掛ける。

だが―

「効いてない!?」

ナラクヴェーラは衝撃でバランスを崩しただけで、ほぼ無傷だった。

「下がって!暁古城!」

驚きで硬直していた古城を押し退け、紗矢華が前にでる。

そこをナラクヴェーラのレーザーが襲う。

しかし、紗矢華は剣でそれを防いだ。

「空間切断。これが六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)―煌華麟の一つ目の能力よ」

空間を切り裂き、突破不能の障壁を造り出す。

そして―

「これなら、再製するより早く攻撃できる!」

そして、空間断裂を応用した鋭い切れ味。

それが、煌華麟の力。

紗矢華はナラクヴェーラの真下へ潜り込み、鮮やかな剣舞を披露する。

そして、瞬く間に全ての足を破壊した。

次に紗矢華は胴体に向けて剣を振るった。

しかし、その剣がナラクヴェーラに触れることは無かった。

「なっ!?斥力場の結界!?」

紗矢華の剣は、ナラクヴェーラの数ミリ前で止まっていた。

結界によって、阻まれていたのだ。

「まさか、攻撃を学習してる!?」

ナラクヴェーラは、受けた攻撃を学習し、対処する。

「一撃で決めろってことかよ!?」

「そういうことみたいね……」

すると、ナラクヴェーラの背中の装甲が開いた。

まさしく、昆虫の様に。

「あいつ、飛ぶつもりか!」

ナラクヴェーラの背中にはスラスターが付いていた。

「暁古城!」

「分かってる!撃ち落とせ!獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

古城が命令すると、獅子が跳んだ。

そのまま、ナラクヴェーラに向けて落下し―

「「え?」」

増設人工島(サブフロート)に思い切り叩き付けた。

その威力にただのコンクリートが耐えられる訳がなかった。

「うわぁぁぁぁ!?」

「いやぁぁぁぁ!?」

サブフロートには巨大な穴が空いた。

古城と紗矢華はそこに落下した。

 

 

 

 

 

 

オシアナス・グレイヴ。

浅葱がプログラムの解析をしている。

そこを、雪菜とアスタルテはそっと抜け出した。

そして、地下の貨物室へ向かう。

曲がり角から様子を見ると、獣人が二人いた。

雪菜とアスタルテはアイコンタクトを取ると、角から飛び出した。

獣人が銃口を向けてくるが、獅子王機関の剣巫と第五真祖の血の従者には敵わない。

「若雷!」

「しばらく寝ていてください」

二人の獣人は呆気なく崩れ落ちる。

二人の意識が完全に無いことをアスタルテが確認すると、雪菜は貨物室の扉を開けた。

「これは……!」

「ナラクヴェーラの軍隊、でしょうか……」

そこには、ナラクヴェーラが何体も並んでいた。

すると、後ろから声がした。

「獣人兵二人を素手で倒すとは……。これが剣巫と吸血鬼の力か」

「クリストフ・ガルドシュ……」

ガルドシュが獣化した状態で立っていた。

「さて、君達は我々の最終兵器を見てしまったようだ。少なくとも、無傷で帰すわけにはいかないな」

「脅迫ですか?」

「脅迫?違うな……。君達には私と戦ってもらおう!」

そう言って、ガルドシュはアスタルテに飛び掛かった。

しかし

実行せよ(エクスキュート)、''薔薇の指先(ロドダクテュロス)''」

アスタルテの眷獣に阻まれ、殴られた。

その勢いで、ガルドシュは甲板まで飛び出した。

それを追って、雪菜とアスタルテも甲板に出る。

「あなたに勝ち目はありません。降参してください」

アスタルテが告げる。

しかし、ガルドシュは笑いだした。

「ハハハ!まだだ!君の攻撃の威力はほとんど無い!」

「そんな!?生体障壁!?」

雪菜が愕然としていると、視界の端になにか、薄水色に光る物が海上を飛んでくる。

しかも、その上には人が立っていた。

「霊斗さん!?」

アスタルテがその名を呼ぶ。

次の瞬間には、霊斗は甲板の上に立っていた。

「よう、雪菜にアスタルテ。待たせたな」

「霊斗さん!傷は!?」

雪菜が心配したように駆け寄る。

「大丈夫だ。アスタルテが治療してくれたしな。ありがとう」

「礼には及びません。従者として、当然の事をしたまでです」

「そうか……。さて、ガルドシュ。まだ勝てると思ってんのか?」

「流石に君が来ると勝ち目は無いな。だが、もうタイムアップだ」

ガルドシュの背後に降り立った獣人が抱えていたのは気を失った浅葱だった。

「もうナラクヴェーラの制御コマンドが解析し終わったって事か。浅葱のやつ、頑張り過ぎだ……」

「さらばだ、剣巫、吸血鬼の少年とその従者」

そう言ってガルドシュはナラクヴェーラに、中でも一際巨大な個体に乗り込んだ。

そして、全てのナラクヴェーラが絃神島に向けて飛び立った。

後には霊斗、雪菜、アスタルテが取り残された。

「雪菜、先に古城の所へ行ってくれ。俺とアスタルテも後から行く」

「え?後からって……」

「察せよ!早く行け!」

そう言って霊斗は空間転移で雪菜を飛ばした。

そして、アスタルテに向き直る。

「アスタルテ、いいか?」

「はい。大丈夫です」

アスタルテの答を聞くと、霊斗はアスタルテを抱き寄せる。

そして、己の本能のままに牙をアスタルテの首筋に突き立てる。

「っ……!」

アスタルテは身体を強張らせる。が、すぐに脱力していく。

霊斗は倒れないようにアスタルテを強く抱き締める。

 

 

 

 

 

 

 

第十三号増設人工島(サブフロート)

古城と紗矢華は地下の空間に居た。

「馬鹿じゃないの!?なんで地面をぶち抜くのよ!?」

「いやー、悪い。力加減をミスった」

「全く、煌華麟が無かったら生埋めよ?」

「そうだな……。助かった。サンキュ」

「まあいいけど……ひゃっ!?」

「どうした?」

「上から水が……」

周りを見ると、大分ガタが来ているようだ。

「そう言えば、ナラクヴェーラはどうなった?」

「そこの瓦礫の下よ」

「そうか、じゃあ早く脱出するか」

その時、瓦礫の下からナラクヴェーラが現れた。

その姿は完全に修復されていた。

次にナラクヴェーラがしたのは、脱出だった。

ただし、海中へ

「床ぶち抜きやがったぁぁぁぁ!?」

浸水が始まった人工島内から急いで脱出しようとする古城達であった。




戦王の使者編は多分、次回位で終わります。
ではまた次回!


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戦王の使者編ⅩⅡ

今回で戦王の使者編は完結です。
では、本編をどうぞ!


第十三号増設人工島(サブフロート)地下。

古城達は出口を目指して歩いていた。

「にしても、一向に出口が見つからねぇな……」

「浸水も酷いし……」

すでに、水かさは二人の膝辺りに到達しようとしていた。

「うう……寒い……」

紗矢華が震える。

古城は一瞬考えて

「これ着てろよ。それなら寒くないだろ?」

「う……。あ、あんたの着たパーカーなんて、ほんとは着たくないけど、寒いから仕方なく来てあげるわ!」

「大分酷い物言いだな……」

紗矢華は渋々パーカーを羽織る。

そして、またしばらく歩く。

 

 

 

 

オシアナス・グレイヴ甲板。

霊斗はアスタルテを抱き抱えていた。

「どうしてこうなった……」

「霊斗さんが血を吸い過ぎるのがいけないんです」

「それは悪かった」

そう、霊斗が血を吸い過ぎたせいでアスタルテは貧血を起こしたのだ。

だが、お陰で霊斗の力は格段にアップしていた。

「さて、じゃあ古城達と合流すっか」

「そうしましょう」

そして、霊斗は空間転移で絃神島へ跳んだ。

 

 

 

 

第十三号増設人工島(サブフロート)

雪菜は地面に空いた大穴を見て、唖然としていた。

「どうしてこんなことに……」

恐らく、あの人の仕業だろう。

こんなことだから、目が離せないのだ。

だが、その時。

地下から膨大な魔力の波動を感じた。

多分、あの人の新しい眷獣だろう。

つまりあの人は、自分が居ない間に誰かの血を吸ったのだろう。

「先輩、後でお説教ですからね……」

 

 

 

 

 

第十三号増設人工島(サブフロート)地下。

古城達はやっと、上に行ける場所を見つけた。

だが、瓦礫が邪魔で使うことが出来ない。

「くそっ、どうすりゃいいんだ……」

新しい眷獣が使えれば恐らく突破出来るだろう。

だが、そのためには強力な霊媒の血を吸う必要がある。

どうしたものか。

すると、紗矢華が急に口を開いた。

「ねぇ、暁古城。もしかして、新しい眷獣が使えればって思ってる?」

「ななな、なんのことだ?」

「あの、ね。もし良かったら、私の血を……」

「え……。いい、のか?」

「うん。でも、一つ聞いていい?」

「あ、ああ」

「その、私って大きいよね……」

「なにがだ?」

「その……背が……」

「背?いや、別に普通じゃないのか?」

実際古城は気にしていなかった。

むしろ話しやすいだろう。

「そ、そう……。じゃあ、早く終わらせて雪菜達と合流しないと」

「ああ、悪いな。じゃあ……」

古城は紗矢華の血を吸った。

そして、数秒すると。

「よし、ありがとうな煌坂。もう行けそうだ」

「そう……。じゃあ、早くしてよ」

「ああ。やれ!双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!」

古城は眷獣に瓦礫の破壊を命じた。

 

 

 

 

 

 

 

第十三号増設人工島(サブフロート)

霊斗とアスタルテは雪菜から少し離れた所へ立った。

「さて、あいつらが出てくるのを待つか」

「はい。そうしたら、皆でナラクヴェーラを破壊しましょう」

「……アスタルテ、お前ってそんな破壊的な性格だったか?」

「霊斗さんのせいです」

「なんで!?」

「ふふっ、冗談です」

そんなアスタルテの笑顔に見とれてしまった霊斗だった。

が、すぐにその表情が引き締まる。

「さて、やっと来たか」

「そのようですね」

「ここからがクライマックスだ」

「最終決戦なう」

そして、二人は古城達の元へ歩く。

 

 

 

 

 

 

第十三号増設人工島(サブフロート)、クレーター。

「なんでこんな馬鹿でかいクレーターを作ったのかしら」

「猛烈に反省しております」

謝る古城。

これは、古城が望んだことではないが。

「そうですね、反省してください」

「雪菜!無事だったのね!」

「はい。紗矢華さん、先輩に血をあげたんですね?」

「っ!違うの!不可抗力だから!」

「そうだぞ姫柊!不可抗力なんだ!」

「はいはい、下らない言い訳はそこまでな」

「霊斗!?」

「全員集合」

「アスタルテも!?」

気付けば、いつの間にか全員揃っていた。

「さて、古城。あのナラクヴェーラの軍隊をどうする?」

うん、当然ナラクヴェーラも全機揃っていた。

「うわ……。どうすんだ?」

「秘密兵器を使う」

「秘密兵器?」

「ああ。実は浅葱が秘密のプログラムを作っていたんだ。な、モグワイ」

霊斗が話掛けたのは携帯だった。

そこには、不細工なぬいぐるみのアバターが表示されていた。

『おう、嬢ちゃんも大層ご立腹だったみてーだな。速攻で作っちまったぜ』

「で、それをあの女王ナラクヴェーラに流せば勝てる」

「あいつ、本当に人間かよ……」

「じゃあ、私達は」

「ああ。足止めを頼む。雪菜とアスタルテは引摺り出したガルドシュの相手を頼む。」

「わかりました」

命令受諾(アクセプト)

「よし、各自展開!」

まず、古城が眷獣を召喚し、攻撃を仕掛ける。

焔光の夜伯(カレイドブラッド)の血脈を継ぎし者、暁古城が汝の枷を解き放つ!」

それは、緋色の双角獣(バイコーン)だった。

疾く在れ(きやがれ)!九番目の眷獣''双角の深緋(アルナスル・ミニウム)''!」

双角獣は、衝撃波でナラクヴェーラを潰していく。

「うわ……。やり過ぎたか……?」

「大丈夫。あのくらいじゃ獣人は死なないわよ」

「なあ、古城。復活してんぞ」

「デタラメ過ぎんだろ!」

「はぁ……。仕方ないわね、私の秘密兵器を見せてあげる」

紗矢華が得意気に笑う。

一番早く反応したのは霊斗だった。

「やっとあれをやんのか」

「あれ?」

「ええ。ただし、チャンスは一度だけよ」

「任せろ。一発で決める」

「じゃあ、やるわよ」

紗矢華はそう言って剣を変形させた。

「弓?」

「そう。これか煌華麟の本来の姿よ」

紗矢華は弓を構える。

そして、祝詞を唱える。

「獅子の舞女たる高神の真射姫が讃え奉る」

その細い指先が矢を引く。

「極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、噴焔をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり!」

紗矢華が放ったのは、鳴鏑矢だった。

人間の声帯では唱えることのできない呪文を詠唱したのだ。

その呪文の効果で、すべてのナラクヴェーラが動きを止めた。

「よし、行くぜ!」

霊斗は駆け出す。

すると、女王ナラクヴェーラから、ガルドシュが出てきた。

「フハハハ!戦争は楽しいな!少年!」

「戦争?笑わせんな。てめえはただ、自分の欲の為に人に迷惑を掛ける身勝手な犯罪者だ!」

霊斗の言葉に、ガルドシュの顔が怒りに歪む。

そして、雄叫びをあげて霊斗に飛び掛かった。

だが、横から来たアスタルテの飛び蹴りをくらい、吹き飛ぶ。

その先には、雪菜がいた。

「若雷―!」

まともに喰らったガルドシュはさらに吹き飛ぶ。

そして―

「終わりだ!オッサン!」

古城の拳で止めをさされた。

最後に霊斗が

「ナラクヴェーラ、ぶっ壊れろ」

運転席で浅葱の作った音声ファイルを流す。

ナラクヴェーラは、完全に動きを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

彩海学園、屋上。

霊斗は、浅葱を保健室に送り届けた後、アスタルテに呼び出されたのだ。

「改めて話しってなんだ……?」

霊斗は階段を上り、屋上の扉を開ける。

「おーい、アスタルテー?話ってなんだー?」

しかし、屋上には誰も居ない。

「あれ?おかしいな……」

場所を間違えたかと、振り向く。

そこにアスタルテがいた。

二人の距離、約三十センチ。

「うぉぉぉっ!?」

驚いて後ずさる霊斗。

そのまま、尻もちをつく。

「霊斗さん……」

アスタルテが近づいて来る。

そのまま、霊斗はアスタルテに押し倒された。

「!?な、なにを……?」

しかし、霊斗はその先を言うことはできなかった。

アスタルテが霊斗にキスをしたのだ。

余りの急展開に頭が付いていかない。

そして、キスを止めたアスタルテは一言。

「私は、霊斗さんの事が好きです」

「……」

驚きで一杯だと言うような霊斗の表情。

「あのー、霊斗さん?」

「…………え……?」

「あの、答えを聞きたいのですが……」

「待ってくれ、急展開で読者も驚いてるから、説明を頼めるか?」

「わかりました」

そこでアスタルテは、霊斗が最初に助けてくれたのが嬉しかったこと。

人工生命体である自分に沢山の感情を教えてくれたことに感謝していること。

そして、霊斗の戦っている姿に惚れたことを、恥ずかしそうに話した。

「うん、分かったよ……」

そこで、不安そうにアスタルテが聞く。

「それでは、答えをお聞きしてもよろしいですか?」

「ん……」

霊斗は少し考える。

だが、霊斗がアスタルテを血の従者にした時点で結果的には同じだということに気付く。

結論。

「えっと……、こんな自分で良ければ、その……よろしく?」

その答えを聞いて、アスタルテの表情が明るくなる。

こうして、アスタルテと霊斗は付き合い始めた。

そして誓う。

どんなに辛くても、二人で支え合っていこうと。

なぜなら、二人は主人と血の伴侶なのだから。




さて、最後は急展開ですいません。
次回は、少し日常編を入れたいですね。
では、また次回!


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日常編Ⅰ
霊斗とアスタルテの休日


今回はオリジナル話です。
なるべくラブコメ展開で行こう。
では、本編をどうぞ。


日曜日。

すなわち、学校は休み。

「うーっし、一日寝るかー」

朝7時に起きた霊斗の一発目の発言である。

そしてそのまま二度寝。

しかも爆睡である。

「霊斗さん、おはようございます……って、なんでまだ寝てるんですか……」

部屋に入って来たアスタルテが呆れていた。

まあ、本人は気付いていないが。

「すやぁ……」

「……(もぞもぞ)」

アスタルテは、霊斗のベッドに潜り込んだ。

しかも、真正面。

霊斗の寝顔を眺め、幸せそうな顔をするアスタルテであった。

 

 

 

 

 

暁家、リビング。

朝8時。

古城は起きて、水を飲みに台所に向かっていた。

すると、霊斗の部屋のドアが少し開いていた。

「あれ、あいつ閉め忘れたのか。あいつにしては珍しいな」

普段からドアなどはしっかり閉める奴だったのにな、と思いつつドアを閉めに向かった。

そして、驚きの光景を目にした。

「な……、なんだこれ……」

寝ている霊斗のベッドでアスタルテが霊斗に抱きついていた。

そんな光景が、なんというか……エロい。

「あ、やべっ!」

古城は鼻血を出してしまった。

つまり、欲情したということで……。

「ご自分の兄弟とその彼女が抱き合っているのを見て興奮するなんて……、一回死んだ方がいいと思います」

「げっ!?姫柊!?なんでここに!?」

「先輩を起こしたのが誰だか忘れたんですか?」

「ああ……そうだったな……」

「まったく……、先輩は部屋で説教です」

「……勘弁してくれ……」

力なく自室に連行される古城。

 

 

 

 

 

 

午前9時、霊斗の部屋。

「ん……、んむぅ……」

「流石に飽きました。起きてください」

吸血鬼の筋力全開のデコピン。

メコッ

「頭蓋骨が!?」

「起きましたか?」

「このまま永遠に眠りそう」

「もう一回やれば起きますかね……?」

「ストップ!嘘!嘘だから!起きたから!これ以上やったら本当に死んじゃうから!」

「そうですか。では、おはようございます」

「ああ、おはよう……って、なんでアスタルテが俺のベッドに!?」

「付き合っている男女ならば当然の行為ではありませんか?」

「流石にまだ早いと思う!」

少なくとも、付き合い始めて数日後でやることではないだろう。

と、冗談はここまで。

「で、実際なんでここに?」

「昨日、霊斗さんが買い物に行こうと誘ってくれましたよね?」

「そうだったぁ!完全に忘れてた!」

まぁ、がっつり二度寝した後で覚えていたと言っても説得力は皆無だろう。

「そうですか、霊斗さんにとって私とのお出かけなんて、忘れてしまうぐらいどうでも良かったんですね……」

「悪かった!謝るからそんな泣きそうな表情しないで!」

泣きそうになったアスタルテを必死に宥める霊斗。

霊斗には、休日であろうと気の休まる時がないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

絃神市・商業区、ショッピングモール。

霊斗はアスタルテと買い物に来ていた。

事の発端は昨日に遡る。

 

 

帰宅後、アスタルテはいつも通り那月からの借り物のメイド服を着ていた。

それを見て、霊斗が

「明日、アスタルテの私服でも買いに行くか」

と、言ったのが原因である。

 

 

まあ、そんなことから、霊斗はアスタルテと買い物に来ている訳だが……。

(これって、デートになるのか?っつか、どんな話をすればいいんだ……!?)

誰かと付き合った事のない霊斗には、大分ハードルの高いイベントの様だ。

と、目的の女性服売場に着いた。

「さて、アスタルテはどんなのがいい?」

「霊斗さんが選んでくれた物を着たいです」

即答。

しかも、こんな恥ずかしい台詞を堂々と……。

(あれ?なんか俺に決定権が来たような気がする?)

まあ、選んで欲しいと言うならば、選ぶのも男として必要だろう。

適当に理由を付けて、服を見る。

……

(どうしろって言うんだよ!?)

困った、女性の考えなど微塵もわからない。

すると、ふと視界に入った服があった。

薄い水色のワンピースだった。

この色ならアスタルテに似合うだろうか……。

脳内で合成。

……なんか違うなぁ。

(うーん、難しいな……)

とりあえず、真夏の島でワンピースというのは間違っていない……と思う。

そのまま、ワンピースの列を見ていく。

と、次は白のワンピースが目に付いた。

こんどこそ……!

脳内で合成。

……これだ!

「アスタルテ、これなんかどうだ?」

「そうですね……試着してきます」

そう言ってアスタルテは試着室に入って行った。

待つこと数分。

「どうでしょうか?」

出てきたアスタルテを見て、霊斗は言葉を失った。

似合う似合わないという次元ではない。

まるでアスタルテの為に用意されたような―

「余り見られると恥ずかしいです……」

「あ、ああ。あまりにも似合いすぎてて……」

「そうですか、ありがとうございます」

そう言ってアスタルテは笑った。

「……つ、次だ!せめてもう一着買うぞ!」

そう言って霊斗は物色を始めた。

数分後。

「これなら……」

霊斗がチョイスしたのはまたもワンピース。

だが、今度は紺色のワンピースだった。

ついでにアクセサリーもチョイス。

少し大きめのピンクのリボンを選んだ。

それを受け取って、アスタルテは試着室に入って行った。

さらに数分後。

「どうでしょうか?」

「あ……うん、似合ってる」

霊斗は微妙な反応をしてしまった。

しかし、頭の中では

(ふぉぉぉぉ!アスタルテマジ天使!おっといけない。平常心平常心平常心平常心平常心平常心……)

変態だった。

結果、その三点を購入。

その後もレストランに行ったり、アクセサリーショップへ行ったり……。

楽しい時間を過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

帰り道。

「霊斗さん、今日は楽しかったです。ありがとうございました」

「ん、アスタルテが楽しんでくれたなら良かったよ」

「その、また行きましょうね」

照れたように顔を真っ赤にしながらアスタルテが言う。

霊斗はそんなアスタルテを見て、嬉しく思った。

出会ったばかりの頃はあんなに無表情だったのに、今ではこんなに色々な表情を見せてくれるようになったのだから。

そんな事を考えながら短く一言。

「そうだな」




どうでしたかね?
まあ、僕自身恋愛経験なんて全然ないんで……。
これからも、ちょくちょくこんな話を挟んで行きます!
ではまた次回!


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天使炎上編
天使炎上編Ⅰ


昨日はこれを書いてる途中で全文消えて萎えたので投稿できませんでした。
申し訳ない。
今日はちゃんと書くよ!
では、本編をどうぞ!


深夜、飛行船。

暁霊斗はこの船の護衛任務に就いていた。

だが、船は何者かに襲撃されていた。

「ったく、なんだってこんなときに敵が……」

霊斗は船内を一人の少女と走っていた。

後ろにいるのは獣人。

今はまだ逃げられているが、いずれ追い付かれてしまうだろう。

「そうだ!救命ポッド!」

霊斗は急に少女を抱き上げた。

「霊斗!?何をするのですか!?」

「悪い、しっかり掴まっていてくれ」

困惑する少女を気にすることもなく、霊斗は脚に力を込める。

「舌噛むなよ!」

次の瞬間、霊斗は爆発的な速度で走りだした。

吸血鬼の筋力を限界まで引き出し、さらに呪術によって強化。

そんな自殺行為が可能にする走り。

獣人ですら追い付けない速度で霊斗は救命ポッドに辿り着く。

「早く逃げろ!こっちは俺が何とかする!」

そう言って、霊斗はポッドを射出した。

一息吐いて、座り込む霊斗。

「やばいな……脚の筋肉が逝っちまってるな……」

しばらくの間、脚は使い物にならなそうだった。

だが、そんなことを言っている暇は無いようだ。

船上から、騎士団長の怒声が聞こえる。

おそらく、もう一人の襲撃者の相手をしているのだろう。

降臨せよ(こい)!''天照大神(アマテラス)''!」

霊斗は眷獣を召喚し、船上に転移する。

そこに居たのは女の吸血鬼だった。

「D種……か。あのホモの同類か……」

「は?ホモ?」

「ああ、気にしないでくれ。お前は知る間も無く死ぬ」

そう言って霊斗は眷獣に攻撃命令を出す。

灼熱の火球が女吸血鬼を襲う。

「チィッ!」

女はギリギリで回避する。

そこに戻ってきた獣人が女に声を掛ける。

「BB、奴はあそこの吸血鬼が逃がした」

「ハァ……面倒ねぇ……」

女は溜息をつきながら手に持った端末を操作する。

その画面に映った文字は

「降臨……?」

「そう。あんたの相手は私らじゃない」

その時、頭上を光が覆った。

そこで霊斗が見たものは―

「なんだ……こいつ……」

霊斗は本能的に危険を察知した。

自分の眷獣と同等、またはそれ以上の力。

ただし、力の源は真逆。

つまり、霊力で活動している。

霊斗は、そんな膨大な霊力を持った化物を一種類しか知らなかった。

「まさか、天使……なのか!?」

次の瞬間、船が爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

彩海学園。

一年B組の教室で古城達は話をしていた。

「はぁ?霊斗が昨日の夜から帰ってない?」

「はい。本人は朝には戻ると言っていたのですが、まだ帰ってきていないんです」

そう言ってアスタルテは俯いた。

「あいつのことだから、またひょっこり帰って来たりしてな」

古城はそんなアスタルテを元気付けようと、明るい声を出す。

「そうだといいのですが……」

チャイムに掻き消されて、アスタルテの呟きは誰にも聞こえない。

 

 

 

 

 

 

 

無人島。

霊斗は砂浜で寝ていた。

「ん……」

そして寝返りを打った。

が、飛び起きた。

「いっ……てぇぇぇぇぇぇぇ!」

脚を押さえてのたうち回る。

「あ、アスタルテ~、ヘルプ~」

しかし、治療をしてくれる彼女もこの無人島には居ない。

「帰りたい……」

叶わぬ願いを口にし、霊斗は寝転がった。

そして、また眠り始めた。

新たな災厄を予感しながら。




今回はここまでですかね。
お気に入り、評価をよろしくです!
ではまた次回!


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天使炎上編Ⅱ

さて、書くぞい。
では、本編をどうぞ!


放課後。

古城は美術室に向かっていた。

朝、浅葱に美術の課題を手伝え、と呼び出されたのだ。

「はぁ……なんで俺なんだ……?」

そこまで言って、古城は先日の出来事を思い出す。

「…………」

あの、黒死皇派の事件の後、古城は浅葱にキスされたのだ。

「ってか、あれって……そういうこと……なんだよな?」

いくら古城が鈍いと言っても、流石に気付く。

浅葱は好きでもない相手とそんなことをしない。

つまり、浅葱は古城に少なからず好意を寄せているわけで……。

「はぁ、どうすりゃいいんだ……」

考えていたら美術室に着いた。

扉を開けると、浅葱がいた。

「まったく、遅いわよ」

「悪い、ちょっと考え事をしながらきたもんでな」

「ふーん……まあいいわ。早く座って」

「へいへい」

浅葱の指示通りに古城は椅子に座る。

そして、また考え事を始める。

 

 

 

 

 

 

 

無人島。

「獲ったどー!」

霊斗は、サバイバル生活をエンジョイしていた。

「いやー、大漁だな!」

現在、大漁に魚を獲ってきたところである。

「よし、捌くか」

そのまま、手際よく捌いていく。

しかし、量があるため、昼頃に捌き始めて、終わったのは夕方だった。

「よし、終わった……ん、もうこんな時間か。夕飯でも作るか」

数分後。

「よし……おーい、出来たぞ!」

作り終わった霊斗は誰かを呼ぶ。

「お、霊君さっすがー。男前ー」

天音と

「霊斗、ありがとうございます。それでは頂きましょうか」

もう、見るからにお嬢様な感じの少女。

彼女はラフォリア・リハヴァイン。

北欧アルディギア王国の王女である。

さらに言うと、昨晩霊斗が助けた人物。

その三人で夕飯を食べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彩海学園、美術室。

「うーん、つまんない」

浅葱が言った。

「古城、あんたもっと面白い顔しなさいよ」

「なんでモデルが絵描きを楽しませなきゃなんねーんだよ」

「だったら、顔に落書きでもしてみる?」

「やめろ!しかもそれ思いっきり油性って書いてあるからな!」

「わかったわ。少し待ってなさい」

「は?」

しばらくすると、浅葱は段ボール箱を持って帰ってきた。

中には、大量の衣装が入っていた。

大方、演劇部から借りてきたのだろう。

「さあ、選びなさい」

「まて、俺は着ないぞ。第一、一人でこんなの着てたら変人だろ」

「じゃあ、一人じゃなきゃいいの?」

「え、いや、そういうことじゃなくて」

「わかったわ。私も着るわ。こっち見ないでね!」

浅葱に怒鳴られて急いで窓の外を見る。

しかし、後ろから聞こえる衣擦れの音がいやでも理性を削っていく。

(つか、誰かに見られたら終わるな……)

クラスメイトの女子をコスプレさせている変態男子なんて社会的にも精神的にも死んでしまう。

そんなことを考えていると

「……よし、もういいわよ」

古城が振り返ると、そこにはメイド服を着ている浅葱がいた。

あれ、なんか既視感(デジャヴ)

そのまま呆けていると、浅葱が怒ったように…いや、実際怒っているが

「あたしが着たんだから、あんたも着なさいよ!」

「っ…仕方ねーな……」

古城は適当に燕尾服を取り出すと着た。

「これでいいか?」

「うん、古城にしては似合ってるじゃない」

「一言余計だ」

すると

カシャッ

浅葱が携帯電話を出して、古城を撮っていた。

「ちょ、おまっ!なにすんだよ!」

「別にいいじゃない、減るもんじゃないし」

「だったら……こうだ!(カシャッ)」

「なにすんのよ!この変態!」

「当然の対抗措置だ!変態じゃねぇ!」

その後、しばらく撮り合いが続き……

「あー!もう、めんどくさい!」

そう叫んだ浅葱が、古城の腕に自分の腕を絡め、そのままツーショット。

「これでお会い子!」

「わ、わかったよ」

「もう、こんな時間になっちゃったし……なんも進まなかったわ……」

「じゃあ、今週末に家でやるか?多分誰も居ないし」

「いいの?じゃあ、そうさせて貰うわ」

そのまま解散となった。




今回はここまで!
ではまた次回!


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天使炎上編Ⅲ

さあ、書くぞ!
では本編をどうぞ!


彩海学園、廊下。

古城は手を洗っていた。

先程、浅葱の片付けを手伝っている最中に、美術部のものと思われる絵の具を触ってしまい、手が真緑になってしまったのだ。

「あー、くそ。これじゃあまるでシュレ○クみてーだな」

愚痴りながら洗い流して

「うし、落ちた」

「先輩、どうぞ」

「おう、サンキューな……って姫柊!?」

「なんですか?人を待たせておいて美術室でクラスメイトといちゃついていた暁先輩?」

「おおすげぇ、言葉の節々に滲み出る悪意で身体が引き裂かれるようだ……っていちゃついてねぇ!」

「そうですか、コスプレしてツーショットを撮っているのはいちゃついていないんですか」

「う……。そ、そうだ!姫柊!相談に乗ってくれ!」

「まったく、仕方の無い人ですね……。なんですか?」

「ああ、浅葱には俺の事を話してもいいか?って話なんだが」

「え……先輩、藍羽先輩に欲情してるんですか?」

「違うわ!そうじゃなくて、俺が第四真祖だって事をだな……」

「ああ、そっちですか」

「そっちも何も、それしかねぇよ!」

「まあ、藍羽先輩に話したら凪沙ちゃんに話が行く確率が跳ね上がりますよね」

「問題はそこなんだよなぁ……」

溜息をつき、窓の外を見る。

眼下に広がる校舎裏。

普段あまり人気の無い場所に一組の男女がいた。

男の方は見知らぬ男子生徒。

女の方は――暁凪沙だった。

「ん?凪沙?あいつなにやってんだ?」

「一緒にいるのは――同じクラスの高清水君ですね……」

「ふーん……」

「あ、高清水君が凪沙ちゃんに何か渡しましたね……手紙のようですね」

「んだとっ!?くそっ!野郎!」

古城は窓から飛び降りようとする。

因みに校舎四階である。

まあ、飛び降りたら凪沙に魔族だとばれる。

「ちょっ!?何してるんですか!?」

「離せぇ!俺にはあの男を消し去るという使命が!」

「落ち着いて下さい!ああ、もう!」

ドスッ

雪菜の腹パン炸裂。

「おうふっ……おぉぁぁぁぁぁぁぁ!?」

後から痛みが襲ってくるほどの速さらしい。

「まったく、自分がモテないのに妹がモテることに嫉妬しないでください!」

「ぐぉぉぉぉ……だからって何も本気の腹パンを炸裂させることねぇだろ……」

「本気で殺っていいんですか?」

なんだろう、この娘、真祖より強いんじゃね?

古城が真祖の強さを再確認し始めた所で凪沙と高清水はそれぞれ帰っていった。

 

 

 

 

 

 

無人島。

「む……我が可愛い妹に手を出そうとする悪魔の気配が」

ここでもシスコンが反応していた。

「霊君…それは第五真祖としてあるべき姿とはかけ離れているよ……」

「まったく、霊斗にも困ったものですね」

天音とラフォリアに責められて拗ねたような顔をする霊斗。

「お前達にはわからないんだ!この気持ち……が……」

反論しようとして、台詞の途中で倒れる霊斗。

「霊君!」

「霊斗!どうしました!?」

天音とラフォリアが駆け寄る。

すると、力無い霊斗の一言。

「血が足りねぇ……」

「「貧血か!」」

息ピッタリのツッコミ。

「鉄分ー。鉄分をくれぇ……」

挙げ句の果てには漂着物の鉄板をかじり始める始末。

「そっかー、貧血かー……寝てろ!」

ゴスッ

「ごはっ……」

天音の首チョップが入り、気を失う霊斗。

「これでよし……」

無人島はまた夜の闇に包まれてゆく。




さて、書き終わったぜ。
お気にいり、評価よろしくです!
ではまた次回!


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天使炎上編Ⅳ

さて、書きますか。
本編をどうぞ。


深夜一時。古城の部屋。

「眠れねぇ……」

古城は眠りに着けずにいた。

原因は吸血鬼の体質と、凪沙の件である。

すると、古城の携帯が着信音を奏でる。

「はい、もしもし……」

『も、もしもし!?暁古城!?』

「なんだ、煌坂か……。悪いけど、今そういう気分じゃないんだ。切るぞ」

『ちょ……!?ま、待ちなさいよ!』

「なんだよ……なんか急ぎの用事でもあんのか?」

『それはないけど……』

「じゃあいいだろ?」

相変わらず鈍い古城である。

『なんでそんなに切りたがるのよ……まさか、私の雪菜に何かしたんじゃないでしょうね……!?』

「大丈夫だ、それは無い」

『じゃあ何よ……?』

「いや、うちの妹がな……クラスの男子に告白されててな……」

『まさか、殺ったの……?』

考えがぶっ飛びすぎて付いていけない。

「……は?」

『そいつを殺したんでしょ?でも、眷獣で消し去るのは殺りすぎじゃない?オーバーキルよ?』

「殺さねぇよ!なんでそんなことに眷獣を使わなきゃなんねーんだよ!?つーか、学校が消滅するわ!」

『ああ、そう。わかったわ。あなた、シス――過保護じゃない?』

「お前だけには過保護とか言われたくない。しかも今シスコンって言いかけただろ」

心の中で俺はシスコンじゃない、と三回唱えて話題を変える。

「で、今日は何の用だ?」

『その、今週末からまた絃神市に行くから、あなたがどうしてもって言うなら会ってあげようといいと思って……』

「ふーん、ってことはまた仕事か……」

『そうね、あなたとは違って仕事してるのよ』

「仕事かぁ……。なら、俺達と会ってる暇なんてないよな……。姫柊にも会いたいだろうに、大変だな」

『え、あ……う、そうよ!もういいわよ!死になさい馬鹿‼(プツッ)』

やっぱり古城は鈍かった。

通話の切れた携帯を見て溜息。

そのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

無人島。深夜。

霊斗は船の音で目を覚ました。

「助けか?」

しかし、停泊した船から降りてきたのは機械人形(オートマタ)だった。

「くそっ!敵か!」

霊斗は近くにあったトーチカに逃げ込む。

因みに二人も起きていたようで、すぐにトーチカに入ってきた。

「仕方ねぇな……殺るか」

「霊君、私じゃなくていいの?」

「ああ。新しい奴も慣れておかないとな」

そういって、トーチカを飛び出す霊斗。

「第五の真祖、亡霊の吸血鬼(ロストブラッド)の魂を宿し者、暁霊斗が汝を天界より喚び起こす!」

形造るのは、闇を纏った男。

「降臨せよ!十一番目の眷獣!''月夜見尊(ツクヨミ)''!」

それは夜を司る神。

すなわち、星をも司る。

「''夜神流星群''!」

霊斗の声と供に、無数の星が降ってくる。

それらは寸分の狙いも違わずに機械人形に命中する。

一瞬で敵は壊滅した。

「さて、片付いたぞ」

「霊斗、ご苦労様です」

「霊君やっるー!それに、私の弟君もお疲れ様!」

『ありがとう姉さん。あまりご主人様に迷惑をかけないでね』

そういって、ツクヨミは消えた。

「さて、寝るか」

いつになったら無人島から脱出できるのだろうか……。




二体目の眷獣が出ました。
残り十体もお楽しみに。
お気にいり、評価よろしくです!
ではまた次回!


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天使炎上編Ⅴ

さて、書くぜ。
本編どうぞ。


翌日放課後。

古城は中等部の校舎にいた。

もちろん凪沙の監視もとい凪沙を見守るためにだ。

それにしてもあの高清水という奴は凪沙のどこが良かったのだろう。

あいつは明るくて、誰とでも打ち解けられて、料理も上手で……あれ、欠点が見つからない?

「まさか、俺の妹は完璧な奴だったのか……?」

「なに中等部の校舎で馬鹿な事をいってるんですか……」

「おう、姫柊。奇遇だな」

「なにをしているんですか?まあ、大体予測できますけど……」

「俺は凪沙の監視役としてだな……」

「わかりました。シスコンなんですね。……凪沙ちゃんなら屋上ですよ……」

「屋上!?くそっ!そっちがあったか!」

古城のスキル[シスコン]が発動した!

「はぁ、真性のシスコンですね……。さっき教室を出たばかりなのでいまならまだ間に合うと思います」

「サンキュー!姫柊!」

「いえ、私も結果が気になりますから……」

屋上へ向かって走る二人だった。

 

 

 

 

 

 

無人島、朝。

「くかー……」

やっぱり朝起きない霊斗だった。

「霊斗、起きて下さい。朝ですよ」

「ん……あと五分……」

「まったく、仕方ありませんね。あと五分だけですよ」

 

五分後。

「ご主人、五分たったぞ。起きてくれ」

どうやらツクヨミも人型になれるようだ。

「ん……あと十分……」

「そうか……じゃあ姉さんを呼んでくるよ」

「おはよう」

「なんだ、起きちゃったのか……つまんないな」

因みに、ツクヨミの人型時の名前は「月人(つきひと)」である。

まぁ、そんなこんなで過ぎるいつも通りの朝だった。

 

 

 

 

 

 

 

中等部屋上。

扉の向こうから凪沙ともう一人、恐らく高清水と思われる声がしている。

(野郎……人の妹に手ぇ出しやがって……)

(先輩、押さえてくださいね?)

なんとか堪えている古城。

しかし、それはいとも容易く終わった。

『や……くすぐったいよぉ……』

『ごめんごめん、俺、こういうのなれてなくて』

明らかにヤバめな会話が聞こえてきた。

「野郎っ!」

「先輩!?」

古城が飛び出す。

「てめえ!誰の妹に手ぇ出してんのかわかって――ってあれ?」

そこには唖然とした表情の高清水、凪沙がいた。

そしてすぐさま真っ赤になる凪沙。

「古城君、なに言ってるの!?高清水君びっくりしてるじゃない!」

「え……だって昨日のラブレターは……?」

「ラブレター……?もしかしてこれの事?」

それは運動部の名簿だった。

「高清水君はこの猫を引き取ってくれるっていうから凪沙が立ち会ってたの!」

「そ、そうか……ん?立ち会ってたってことはお前が拾った訳じゃないのか?」

「そう。夏音ちゃんが拾って来たの」

「へー、で、その夏音ちゃんというのは……?」

すると、端のほうにいた女生徒がおずおずと手を挙げる。

「はい、私……でした」

「そうか、よろしく」

「って古城君!そうじゃないでしょ!ちゃんと高清水君に謝って!」

「お、おう。悪かったな」

「いえ。自分は気にしてないんで大丈夫っす。じゃあ、俺はこれで」

そう言って爽やかに立ち去る高清水。

その背中を見送り一言。

「あいつ、いいやつだったんだな」

それを聞いて溜息を付く凪沙と雪菜であった。




さて、書いたぜ。
ではまた次回!


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天使炎上編Ⅵ

さて、書きますか。


彩海学園屋上。

「そうですか、凪沙ちゃんのお兄さんでしたか」

「ああ、よろしく」

夏音は足下のトートバッグを持ち上げる。

「ところで、叶瀬さんはどこで凪沙と知り合ったんだ?」

「凪沙ちゃんには一年生から去年まで同じクラスで、いろいろ助けてもらいました」

「そうなのか、にしても凪沙が面倒見がいいというのは知らなかったな」

「凪沙ちゃんに助けてもらわなかったら今回も高清水君に猫を貰ってもらうことはできませんでした」

私は人見知りで皆にも避けられてますから、と夏音は言った。

しかし、そんな避けられる理由が判らない。

まさか、美少女すぎて近寄れないとか……。

「いや、夏音ちゃんは避けられてるんじゃなくて、可愛いすぎて皆恥ずかしがってるだけだよ」

うわ、まじかよ。

確かに美少女だが、そんな避けるほどではないと……。

「うちの学年の男子では夏音ちゃんや雪菜ちゃんとの接触に応じて、何秒ルールって言うのがあるからね」

大丈夫か中等部の男子よ。

さらに衝撃の事実が凪沙の口から告げられる。

「あ、あと暁古城を呪う会も絶賛活動中だから、気をつけてね、古城君」

「なんだそのどこぞのラノベみたいな会は」

なぜ自分が狙われるのか判っていない鈍感古城である。

そこで、凪沙が言った。

「じゃあ、あたしはもう一回高清水君に謝ってくるから、古城君は夏音ちゃんを手伝ってあげてね」

「あ、ああ」

そして、古城は夏音に向けて手を出す。

「バッグ持つぜ」

「すみません、お願いします」

そのまま、全員で階下に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無人島、多分午前十時くらい。

海岸で爆発が起きた。

「ああ、くそっ!またかよ!」

昨晩に引き続き機械人形が襲って来たのだ。

「天音!月人!頼む!''氷牙狼''!」

「任せて!''炎牙狼''!」

「合点承知!''黒牙狼''!」

三人はそれぞれ槍を構える。

そして

「喰らえっ!」

「吹き飛んじゃえ!」

「そらぁっ!」

敵に向かって総攻撃を開始した。

 

数分後。

「や、やっと終わった……」

「だんだん敵の攻撃が過激になってくよ……」

「もう……眠いよ……」

疲れはてた三人にラフォリアが寄って来て、労いの言葉を掛ける。

「霊斗、天音、月人、お疲れ様でした」

「ああ、ラフォリア……無事か……」

「はい。あなた達のお陰です。ありがとうございます」

「まあ、霊君の任務だしねー」

「手伝うのは眷獣として当然の事です」

「ふふ、そうですか。ではお昼にしましょうか」

「やったー!ご飯ー!」

「米はないよ姉さん」

「つか、俺が捕ってきた魚だからな!」

あれだけの戦闘の後でも緊張感のない四人だった。




はい。今回の武器はなんだって思った人もいますね。
あれは魔力の塊です。決して新しい眷獣ではない。
それではまた次回!
評価、お気にいりよろしくお願いします!


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天使炎上編Ⅶ

書くヨー。


古城と雪菜、夏音は生徒玄関から校門に向かって歩いていた。

しかし

『あれ、暁じゃね?』

『ほんとだ!野郎っ、中等部の聖女と美少女転校生を侍らせてやがる!』

『くそっ!なんであいつだけがあんなにモテるんだ!?』

そういう作品なので、諦めるんだ。

『『『ちくしょー!』』』

そんな声を背中にうけながら、三人は教会の跡地に来た。

夏音がドアを開けると、雪菜が歓声を上げた。

「わぁ!先輩!見てください!猫ですよ、猫!」

「へー、これ全部叶瀬さんが育ててるのか?」

「はい。捨てられているのを見て、放って置けませんでした」

そう言って頬笑む夏音に古城は

「そうか。そういう所、本当にシスターさんみたいだよな」

「でも、いつまでこの子達の面倒を見られるかわかりませんから……」

「ああ、だから皆に引き取って貰おうとしたのか」

「はい」

「だったら俺も協力するぜ。クラスの連中に声かけてみるわ」

「本当ですか!ありがとうございます!」

「はは、自分の事のように喜ぶんだな……うん、叶瀬さんはきっといいシスターさんになれると思う」

「ありがとうございます……その言葉だけで充分でした……」

そう言った夏音の一瞬の暗い表情には誰も気付けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

無人島、夜。

「霊斗、ちょっといいですか?」

「ん、ラフォリアか。どうした?」

天音も月人も寝静まった時、ラフォリアが霊斗に声を掛けた。

「あの、少々付いてきて欲しいのですが……」

「んー、まぁいいけど」

霊斗はラフォリアに連れられて森の奥へと向かった。

 

 

 

森林、奥地。

そこには湖があった。

「どうしたんだ?こんな所まで来て」

「それは……(プチ、プチ)」

「おいこらぁ!?なに脱いでんだよ!?」

「(バサッ)なにって、水浴びをするためですけど(プチ、プチ)」

霊斗は必死に目を反らす。

「まて!いったんストップ!そこでYシャツまで脱がれたらいろいろと終わってしまう!」

「どうしてですか?(バサッ)」

「だぁぁ!馬鹿!脱ぐなぁ!」

「だって、脱がないと水浴びできませんよ?(カチャ、スルッ)」

「あぁぁぁ!馬鹿!こいつ本当に馬鹿!スカートまで脱ぎやがったぁ!」

急いで物陰に隠れる霊斗。

「霊斗?わたくしの護衛はどうするのですか?」

「ここの岩影にいるから!終わったら呼んでくれ!」

「仕方ありませんね、わかりました」

ラフォリアが湖に入っていく気配を感じてやっと脱力する霊斗。

「はぁ、疲れた(ブシャァッ!)おうふっ!」

脱力と共に久しぶりの出血。

「勘弁してくれ……」

鼻血を拭い、そう呟く霊斗だった。




お知らせです!これから大分不定期になります!
ちょっと忙しい日々が続きますので。
なるべく書くようにはしますのでこれからもお願いします!
お気にいり、評価お願いします!
あと、お気に入りが100件超えました。
詳しくは活動報告で出しますので。
ではまた次回!


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天使炎上編Ⅷ

さて、書きますか。


翌日、彩海学園。

古城は、クラスメイトの内田遼に猫を二匹渡していた。

「悪いな内田、助かった」

「いいよ、うちの家族は皆動物好きだから」

そう言って内田は笑った。

そんな内田を見てうっとりしているのはもう一人のクラスメイトの棚原夕歩。

すると夕歩が古城に話掛けてきた。

「でも、意外だった。暁が中等部の聖女ちゃんと仲良かったなんて」

「まあ、凪沙の繋がりでな」

「ふーん……」

「でも、それがどうかしたのか?」

「その……あたし、あの子のこと苦手なんだよね……」

「そうなのか?」

「うん。昔あの修道院で大きな事故があったの。あたしの友達も死んじゃって……あの子はそのたった一人の生き残り」

「あそこでそんなことがあったのか……」

その後、二言三言かわし、古城は内田達と別れた。

「さて、これで猫は全部だっけか」

「はい。後はさっき拾って来た子だけです」

「また拾ったのかよ!?」

古城が呆れ果てていると、背後から幼い声が聞こえた。

「ほう。うまそうな子猫だな」

「な、那月ちゃん!?」

ゴリッ

「ぐげっ」

「担任をちゃん付けで呼ぶな」

那月は古城に肘打ちを喰らわせると

「知っていたか、暁。校内への動物の持ち込みは禁止だ。だから、その子猫は私が貰う。今夜は鍋パーティだ」

その言葉を聞いた夏音は息を呑み

「すみませんでした、お兄さん。お先に失礼します」

そう言って駆け出した。

それを見て那月は

「ほんの冗談だろう。本気で逃げるか?」

「あんたの場合、冗談に聞こえないからな」

そう言って古城は溜息をついた。

「ところで今の小娘は誰だ?」

「中等部三年生の叶瀬夏音。つか、自分の学校の生徒を小娘ゆうな」

「あの髪はなんだ?大人しそうにみえて実は不良なのか?」

「違う。確かハーフだとかなんとか」

「ふむ。そうか……暁、今夜私に付き合え」

「へ?」

「なに、心配するなただの攻魔官の仕事だ」

「えー……相手は?」

「ここ二週間で暴れまわった奴らの内の二体だ」

「へーいへい」

抵抗しても意味が無いと悟り、素直に従う古城。

結果、九時にテティスモール駅前に集合ということで解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無人島、朝。

「ふぁ~……朝か……」

霊斗は目を覚まし、二度寝しようと寝返りを打つ。

そこにはラフォリアが寝ていた。

一糸纏わぬ姿で。

「わぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁあぁぁぁ!?」

一瞬で霊斗の精神が崩壊した瞬間だった。

「ん……霊斗ですか。おはようございます」

「おお、おま、お前‼ふ、ふふ、服を着ろ!」

「まあ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいではないですか。昨晩のあなたは素敵でしたよ」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!もう嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ラフォリアが霊斗をからかうが、霊斗はもう駄目だ。

ついには泣き始めた。

「うぅっ……ぐすっ……」

「霊斗、泣かないでください」

「お前のせいだ!」

また今日も騒がしい日常が始まる。




前回、活動報告のはなしはしたのですが……。
驚くほど質問が来ません。
お願いします!
ではまた次回!


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天使炎上編Ⅸ

しばらく書いてなくてすいません‼
ネタがなかったんです勘弁してください…………。
これからも頑張りますのでどうか見捨てないで頂きたいです。
では本編をどうぞ。


無人島、浜辺

朝の出来事以来霊斗はずっと泣いている。

「うぅ……ぐすっ……」

「霊斗?まだ泣いているのですか?男の子が情けないですよ?」

「お前のせいだろ!なんで朝から……ぐすっ……ひぐっ……」

「そうですか、わたくしの裸では霊斗は興奮しませんか……」

「そうじゃないけどさぁ…………。なんて言うか、初めて見る女子の裸が自分の彼女じゃないっていうのがなんか……」

「?霊斗には付き合っている方がいるのですか?」

「ん?ああ、まあな……しばらく会ってないけどな……」

「そうですか。……先程は少しからかいすぎましたね、ごめんなさい」

「い、いや、別にそんな謝られても……しっかり見た訳でもないし……」

「では、これからも友達でいてくれますか?」

「ああ。王女と友達ってのも変な話だけどな」

「ふふっ、霊斗は面白い吸血鬼(ひと)ですね」

「あんたには言われたくない台詞だな」

そう言って二人は笑った。

無人島の静かな一時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間戻ってティティスモール駅前。

古城は雪菜と共に那月を待っていた……の、だが。

「遅ぇよ!二時間もなにやってたんだよ!」

「なにって、アスタルテに夜店を堪能させてやっていたんだ。どっかの馬鹿が失踪してかなり落ち込んでいたからな」

「ああ、そうか…………。アスタルテ、楽しかったか?」

「はい。少し元気が出ました。本当は霊斗さんと一緒に回りたかったのですが……」

「そうか、なら霊斗が帰ってきたらデートにでも連れてって貰えばいいんじゃないか?」

「そうですね、それで妥協しましょう」

会話が一段落したところで那月が口を開く。

「さて、メールで送った資料は読んだか?」

「ああ、まあ一応は……''仮面憑き''だかの捕獲だろ」

「正確には''仮面憑き''を二体ともだ」

と、いつも通りの高圧的な態度で那月が答える。

そして、四人でエレベーターに乗り込む。

そこで古城がふと、疑問を口にする。

「でも、捕まえるってどうするんだ?」

「簡単な話だ。アスタルテとお前で打ち落とせ」

「打ち落とせって……まさか眷獣で?」

「他になにがある?拳で打ち落とすのか?」

「いや、眷獣で大丈夫っす」

そんな事を話しているうちに最上階へと到達した。

「に、しても凄まじいですね……」

雪菜が窓の外を見て呟く。

「同意。あれほどの破壊力を持った魔族が暴れれば私や雪菜さん、古城さん、南宮先生も気づくはずです」

アスタルテも困惑の表情でそう言った。

しかし、那月は窓の外を見ていた。

古城達がその視線を追うと、そこには二つの影が激しい空中戦を繰り広げていた。

「''仮面憑き''か!?」

「予想より早かったな。アスタルテ、公社の連中に、時間だ(ムスカ風)、と伝えろ」

「イェッサー」

アスタルテが無線機を取り出し連絡をした。

それが終わったのを確認して那月が言った。

「さっさと終わらせる。跳ぶぞ」

「え?跳ぶってまさか!ちょ、まっ―――!」

次の瞬間古城達は電波塔の骨組みの上にいた。

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!?落ちるっ!」

古城は必死に鉄骨に捕まる。

「先輩!上です!」

古城は頭上を見上げた。

「なんだ……あれは……」

「まるで神憑りのような―――」

そう言うと雪菜は''雪霞狼''を取り出し構えた。

那月はそれを見て言った。

七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)か、獅子王機関は気に食わんが協力するぞ」

絃神島の夜戦が始まった。




うーん、久々に書いたので文がおかしいかもしれません。
……まぁいっか。
報告:霊斗の設定に追加をしました。出来れば見ていただけると嬉しいです。
また、質問回ですが、質問がほとんど来ないのでどっかの日常編の最後辺りになるかもです(やらないかも?)。
ではまた次回!


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天使炎上編Ⅹ

テスト期間に小説なんて書いていていいのだろうか…………。
ともかく、本編をどうぞ。


電波塔。

那月は空間を歪め、大量の鎖を撃ち放った。

それは寸分違わず''仮面憑き''を縛り上げた。

直後、雪菜が雪霞狼を手に鎖の上を駆け上がった。

「雪霞狼――!」

雪菜の呼び声に反応し、雪霞狼に刻印された''神格振動派駆動術式''が青白く発光する。

そのまま槍を''仮面憑き''の翼に突き立てた。

しかし――

「効いて……無い!?」

''仮面憑き''を包む禍々しい光が輝きを増し、槍を防いでいるのだ。

次の瞬間、''仮面憑き''が咆哮し、鎖を断ち切る。

雪菜もそれに巻き込まれ、吹き飛ばされる。

「姫柊!」

「馬鹿な……''戒めの鎖(レージング)を断ち切っただと――!?」

古城と那月が同時に叫ぶ。

雪菜は、''仮面憑き ''の放った衝撃波をまともに食らい、受け身も取れずに鉄骨にぶつかる――

「大丈夫ですか?雪菜さん」

しかし、アスタルテが雪菜を受けとめ、そのまま鉄骨の上に着地した。

「ありがとうございます、アスタルテさん」

「仲間を助けるのは当然ですよ。それより、''仮面憑き''が!」

争っていた''仮面憑き''は戦闘を中断し、そのうちの一体が鉄塔へと突っ込んできた。

「雪菜さん!」

「はい!雪霞狼!」

実行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)!」

二人は神格振動派の結界を張り、''仮面憑き''の攻撃を防いだ。

「先輩!」

「わかった!疾く在れ(きやがれ)、九番目の眷獣''双角の深緋(アルナスル・ミニウム)''!」

古城は眷獣を召喚し、''仮面憑き''へと攻撃する。

しかし――

「これも効かないのか――!?」

古城の眷獣も''仮面憑き''には傷ひとつ付けられない。

そこに、''仮面憑き''の生み出した巨大な光剣が降り下ろされる――

「やばい――!」

とっさに古城はもう一体の眷獣を召喚しようとするが、間に合わない。

が、次の瞬間、別の閃光が''仮面憑き''を貫いた。

もう一体の''仮面憑き''が放った物だった。

貫かれた''仮面憑き''は苦悶の声を上げながら電波塔の中腹に落ち、のたうち回る。

そこにもう一体の''仮面憑き''が襲いかかる。

そして、翼を千切り、腹を抉った。

古城はその光景から目を逸らさなかった。

いや、逸らせなかった。

なぜなら、勝利した''仮面憑き''の仮面が外れ、素顔が露になっていたのだから。

その顔はつい最近知り合った少女の物だった。

雪菜、アスタルテも絶句している。

那月は暗闇の中で見えていないのか、何も言わない。

そして、勝利した''仮面憑き''の少女――叶瀬夏音は飛び去る。

「叶瀬…………」

古城は呟くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

古城と雪菜、アスタルテは絃神島北地区(アイランド・ノース)にいた。

「メイガスクラフト?」

古城は案内板を見て雪菜に聴く。

「はい。凪沙ちゃんに教えてもらった住所はそこの社宅です」

「ふーん、確か、掃除用ロボットの会社だっけ?」

「そうですね、主に産業用ロボットを造っています」

「それで、叶瀬さんの家族構成は?」

「えっと、確か今のお父さんと二人暮らしですね」

「今の?」

「ああ、アスタルテは知らないのか。叶瀬は修道院に住んでたらしいんだ」

「それで、修道院が閉鎖された時に彼に引き取られたそうです」

「成程、複雑な家庭環境のようですね」

そんな話をしながら歩いていると、どうやら社宅に着いたようだ。

「…………社宅?」

「はい。住所はここです」

「研究所に住み込んでいるのでしょうか?」

「とりあえず入ってみましょう」

古城達が玄関をくぐると、受付の女性が話しかけてきた。

「いらっしゃいませ、ご用件は?」

「あの、こちらに住んでいる叶瀬夏音さんに会いに来たのですが」

古城はそこで彼女が人間では無いことに気づいた。

恐らく機械人形(オートマタ)だろう。

受付係は端末を操作する振りをしながら答える。

「二〇四号室の叶瀬夏音は外出中です」

「いつ頃戻るか分かりますか?」

「申し訳ありませんが、分かりません」

分からないのならば仕方がないかと古城が思っていると、雪菜が口を開いた。

「叶瀬賢生氏はいらっしゃいますか?」

恐らくその名前は夏音の父親の名前だろう。

「失礼ですが、お客様は……」

「獅子王機関の姫柊です」

古城はその組織名を出して良いのか疑問に思ったが、受付の対応は意外な物だった。

「承っております。ロビーでお待ちください」

そう言って受付係はロビーのソファーを指した。

「承ってるってどういうことだ?」

「分かりませんけど、話が出来るのなら良いでしょう」

「ですね」

そして、三人はソファーに腰かけた。

これから起こるサバイバルを知りもせず……。




久し振りにめっちゃ書いた……。
次回で無人島編が開始ですね。
あ、今回霊斗が出てきてないね。
次回出す予定です。
ではまた次回!


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天使炎上編ⅩⅠ

さて、今日も書きますよ‼
では本編をどうぞ。


メイガスクラフト、ロビー。

古城達がソファーに座って待っていると、一人の女性が近づいてきた。

「あれは……誰だ?」

「分かりませんが、登録魔族ですね」

「霊斗さんが居なくて正解でしたかね……」

「なんでだ?」

「あのスタイルは反則だと思います」

「……ノーコメントで」

霊斗ならば恐らく血の花を咲かせるだろう。

と、先程の女性が見るもの全てを魅了するような笑顔で話しかけてきた。

「ごめんなさい、お待たせしました」

「いえ、こちらこそ突然お尋ねして、すいません」

雪菜が凛とした表情で答える。

すると、女性は少し驚いたような表情をした。

「あなたたちは……」

「?どうかしましたか?」

「いえ、獅子王機関の攻魔師がこんなにお若いとは思わなかったもので」

女性はそう言うと、自己紹介を始めた。

「改めまして、開発部所属のベアトリス・バスラーです。叶瀬賢生の秘書のような事をしています。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「すいません、ご本人に直接聞きたい事ですので、今は言えません」

雪菜がそう答えると、ベアトリスは困ったような表情になる。

「そうですか。ですが、本日叶瀬は島外の管理区域内の研究施設にいますので……」

「島の外、ですか?もしかして、夏音さんも一緒ですか?」

「はい。そのように聞いております」

残念ながら二人とも島内にはいないようだ。

せめて帰ってくる時間は分からないかと古城が聞く。

「二人がいつ頃帰ってくるか分かりますか?」

「未定です。叶瀬が現在関わっているプロジェクトは我々には知らされておりませんので」

「そうですか……」

帰ってくる時間もわからないのではどうしようもないか、と古城が諦めかけたときだった。

「ですので、直接研究施設に訪ねて頂いた方が早いと思いますよ」

「そんなことが出来るんですか?」

古城は一縷の希望にすがるように聞き返す。

「はい。一日二回、連絡用の飛行機を飛ばしていますので、それに同乗する形になりますが」

「それ、お願いできますか?」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

ベアトリスが歩き出す。

それを追いかけようとした古城の耳にはポツリと呟いた雪菜の一言が妙に引っ掛かった。

「……飛行機……」

 

 

 

 

 

 

 

北地区産業飛行場。

そこにはポツリと旧式のプロペラ機が止まっている。

そしてその脇には一人の男が立っていた。

「なんだよ、連絡機に同乗する奴がいるってから来てみりゃ、俺に修学旅行の引率をしろってか?」

こんな軽口を叩いているが、彼も登録魔族のようだった。

「まぁいいか……んじゃ、自己紹介といくか。俺はロウ・キリシマだ。よろしく」

「あ、どうも。よろしく」

と、キリシマは雪菜とアスタルテを交互に見て、古城に囁いてくる。

「二又か?あんたもやるな」

「そんなんじゃないっす。二人ともただの友人ですよ」

「おおそうか。ま、頑張れや」

そう言ってキリシマは古城達を促しながら機体に乗り込む。

古城達も続いて乗り込むが、後部座席が二人分しかない。

仕方ないので、無理矢理乗ったが兎に角狭い。

しかし、キリシマはそれを気にした風もなく、パイロットに離陸の指事を出した。

「あ、そうだ。これ、ゲロ袋だそっちのお嬢さんにやんな」

「え?」

促されて雪菜を見ると、顔色が真っ青だった。

「大丈夫か?姫柊」

「だ、大丈夫でしゅ。じぇんじぇん問題ありましぇん」

「ビビりすぎて日本語が不自由になってるぞ」

「そ、そんなことないです!」

と、否定する雪菜だったが、飛行機が動き出すと完全にフリーズした。

そのまましばらくのフライトを楽しんで(一名を除く)いると、キリシマが言った。

「着陸するぜ。舌噛むなよ」

「え?」

直後、飛行機は荒れ地に突っ込んだ。

因みに、雪菜は失神しかけていた。

「さてと、到着だぜハーレム一行様」

「ハーレムじゃねーよ」

文句を言いながら古城達は機体から降りる。

しかし、キリシマは古城達が降りると、飛行機のドアを閉めた。

「じゃあな、せいぜい元気にくらせや」

キリシマがそう言うと、飛行機はゆっくりと走り出した。

「ちょ!こら!まてオッサン!」

「誰がオッサンだ!俺はまだ二十八だ!」

そのまま飛行機は飛び去った。

「勘弁してくれ……」

真夏の無人島サバイバルが始まる。




あー書いた。
明日もテストじゃー。
ではまた次回!


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天使炎上編ⅩⅡ

ストライク・ザ・ブラッド最新刊読み終えて書いてます。
いやー、やっぱり面白いですね!
自分にもあんな文才があれば良いのに……。
とりあえず本編をどうぞ。


無人島、古城side。

「……で、どうすんだ?」

「すみません……。私が気付いていれば……」

「いや、あんなビビってたら無理だろ」

「ビビってません!」

「説得力が皆無ですね」

「アスタルテさんまで!?」

……無人島に取り残されたというのに緊張感の無い三人である。

「だけど、救助が来なかったらここでサバイバル生活だろ?」

「そうなりますね」

「れっつ、サバイバル」

「サバイバルか……シャレになんねーな」

「ですね……」

「同意」

救助を呼ぶにも携帯は圏外だ。

だが

「…………」

「アスタルテ?どうした?」

「近くに霊斗さんの魔力を感じます」

「この島に居るのか?」

「はい、恐らく」

「これで少し希望が出てきましたね」

「そうだな。アスタルテ、霊斗の所まで連れていってくれ」

「わかりました。こっちです」

三人は森の方へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

無人島、霊斗side。

霊斗が砂浜でぼんやりしていると、絃神島の方から旧式プロペラ機が飛んできた。

「お、救助か?」

目を凝らして見ると本来四人乗りの機体に五人乗り込んでいる。

しかも、後部座席に居るのは

「あれは……古城、雪菜に……アスタルテ!?なんであいつまで!?」

それに、機体のロゴを見る限りはメイガスクラフトの社用機のようだ。

つまり―――

「罠にかかった……のか?」

見たところ、島の反対側に飛んでいったようだ。

「向かうにしても着くのは夜か……」

既に昼は過ぎている。

歩いて行くには遠すぎる。

結果、霊斗が出した答えは

「うん、夜に出発して明日の朝着く位でいいかな」

あの三人なら大丈夫だろう。

そう考えて、霊斗は砂浜に寝転び、

「…………すー、すー……」

夜に向けて体力の回復をし始めた(寝た)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古城side。

古城達がしばらく森の中を歩いていると何かの建物があった。

「なんだ?これ」

「これはトーチカですね」

「トーチカ?」

「戦争の時の要塞のようなものです。戦時中に使用されていたものでしょうか?」

「いえ、弾痕がまだ新しいです。恐らく1年以内に使用されたものと思われます」

「でも、使えそうだな。今日はここで野宿にするか?」

「そうですね、近くの木の葉を持ってくればベッドの変わりになりますし」

「海の幸も豊富」

と、いうわけで今日の宿泊地決定。

 

 

 

数分後、砂浜。

古城とアスタルテは夕食の調達に来ていた。

「じゃあ、アスタルテ頼む」

「はい。実行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)''防護型(タイプ・ガード)''」

「よし!疾く在れ(きやがれ)!''獅子の黄金(レグルス・アウルム)''!」

アスタルテと古城が眷獣を召喚する。

そして、古城が眷獣の爪を海面に触れさせる――――。

「……っ!」

「うぉぁぁぁあ!?」

大量の電気により、海が爆発した。

しかも――

「…………なにやってるんですか?先輩」

「ひ、姫柊……」

雪菜は海水をもろに浴びてびしょ濡れだった。

しかし、雪菜は動じない。

「アスタルテさん、先輩、夕食の準備が出来ました」

「お、おう。ありがとな」

「美味しいご飯……!」

「アスタルテ!?走るの早いな!?」

そして古城が拠点に戻ると

「…………なんだこれ」

「椰子の実です」

「これは?」

「椰子の実の刺身です」

そのとき、古城とアスタルテは同じ事を考えた。

((あれ……?料理……?))

というか、魔族やらなんやらを切っている槍で食料を刻んでも良いのだろうか。

「……さて、食うか!」

「ご飯……!」

「頂きます」

三人は食事を始める。

と、古城が不意に口を開く。

「そういや、昔凪沙のままごとに付き合わされて腹壊したな……」

「なぜ今そのエピソードを?」

「椰子の実って美味しいですね」

呑気な三人はすぐ後ろにせまる戦いに気付いていなかった。

 




あー、眠い。
次回もお楽しみに!


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天使炎上編ⅩⅢ

明日もテストだぁー!
と、いうことで書きます。
本編をどうぞ。


無人島、霊斗side。

「さて、夕飯だ。ちょっと早いがな」

「それでも良いでしょう。頂きます」

「やったー!ごっ飯ー!」

「頂きます」

四人はほんわかとした雰囲気で食事を始める。

「いやー、シンプルな塩焼きだけどおいしいよねー」

「そうですね、シンプルイズベストとも言いますしね」

「でも御主人、なんで今日はこんなに早いんだ?」

「ん?あー、それがなぁ……」

「霊斗が見てた飛行機と関係ある?」

「あぁ。あれに古城達が乗ってきてた。しかも今もこの島に居る」

「どうしてそんなことが分かるのですか?」

「ついさっき古城の眷獣の魔力を感じた。しかも島のほぼ反対の砂浜に海水の柱が見えた。まぁ、予想するに電気ショック漁法でもやろうとして失敗したんだろう」

「あー、うん古城殿らしいな」

「それで、だ。あいつらが何やらかすかわかんねぇからな。合流しときたい」

「で、霊斗。本音をどうぞ?」

「アスタルテが来てるから一刻も早く会いたい」

「「「チッ……」」」

「なんで皆一斉に舌打ちするんだ!?」

そして、その後の会話は霊斗抜きでされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無人島、古城side。

「眠れねぇ…………」

古城は椰子の葉を敷き詰めたベッドに横になっていた。

しかし、まだ日が落ちたばかりである。

「吸血鬼が寝る時間じゃねぇよなぁ……」

と、呟くものの、周りには誰もいない。

雪菜とアスタルテは見張りに行っているのだ。

雪菜曰く、古城を女子と一緒にするのは危険らしい。

「にしてもあいつら大丈夫か?」

心配になった古城は外に声を掛けてみる。

「おーい、姫柊ー、アスタルテー。大丈夫かー?」

しかし、外からの返事はない。

「寝てんじゃねーだろうな?」

古城は外に出て周りを見渡してみる。

が、人影はない。

「あれ?」

と、そこで嫌な考えが頭をよぎる。

雪菜が連絡用の呪術、しかも危険なものをやろうとしているのなら、雪菜はどうするか。

古城に言わずにこっそりやるに決まっている。

では、アスタルテはどうするか。

元々彼女は医療用の人工生命体(ホムンクルス)だ。

今は霊斗の血の従者になっているとはいえ、その医療技術は健在だ。

ならば、もしもの時の為に近くに居られるようにするだろう。

「あいつらっ……!」

そう思った時には古城は走り出していた。

「砂浜に居ないってことは……森の中か!」

古城は森の奥へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無人島、霊斗side。

「さて、霊斗。今日も付いてきて貰えますか?」

「ああ。森の奥へ行けば古城達と会う確立も上がるしな」

「そうですか。では行きましょう」

霊斗とラ・フォリアは森の中の湖へ向かった。

 

 

 

しばらく歩くと、湖の畔に着いた。

「では霊斗、よろしく頼みますね」

「任せとけ」

そして、ラ・フォリアは岩影に行くと服を脱ぎ、湖へと入っていった。

そこで霊斗が辺りを見ていると、反対側から雪菜とアスタルテが来るのが見えた。

雪菜は彩海学園の制服だが、アスタルテは霊斗が買った 白のワンピースだ。

(うんうん、やっぱりアスタルテは天使だなぁ……)

アスタルテにベタ惚れな霊斗である。

だが、しばらくしてからその道から来たのは古城だった。

(何しに来たんだあいつ)

と考え、一つの結論をだす。

(覗きか……)

現に古城はラ・フォリアを凝視していた。

因みに、雪菜とアスタルテは岩の影になって見えて居ないようだ。

すると、ラ・フォリアが湖から上がってきてタオルで体を拭き、服を着て、霊斗の所へ来て一言。

「見られてしまいました……(ポッ(///∇///))」

「え?お前見られて恥ずかしがる系女子じゃないだろ?」

「…………」

「おい?」

「あれが古城ですね?」

「唐突に話題変えたなおい。まあ、そうだ。あいつが古城(バカ)だ」

「その……大分わたくしの好みのタイプですね……」

「え?」

霊斗は一瞬耳を疑った。だが、ラ・フォリアがもう一度言う。

「だから、わたくしの好みのタイプだと言っているのです」

霊斗は頭の中でゆっくり言葉を復唱する。

そして――

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

無人島、古城side。

古城は森の奥の湖に到着した。

するとそこには、湖で水浴びをしている女性がいた。

そしてその容姿は―

「叶瀬……?」

叶瀬夏音とそっくりだった。

しかし、古城の意識は背後からの声と、首に押し当てられる金属に向けられた。

「こんなところで何をしているんですか?先輩」

「ひ、姫柊!?」

「動かないでください!こっちを向いたら刺します!」

「えぇぇぇ!?」

あまりに唐突な殺害予告に戸惑うしかない古城。

しかし、それは別の方向からの声によってさらに混乱を深めることになる。

「おいおい。無人島に取り残されたってのに、相変わらずにぎやかだな、お前らは」

その声は聞き慣れていながら、懐かしいものだった。

「霊斗!?」

「よう、古城。久しぶりだな」

「つっても数日位だけどな」

と、霊斗に飛び付いた者がいた。

「霊斗さん!会いたかったですっ!」

「あ、アスタルテ!?ちょ、服を着―――」

久しぶりに感情を爆発させたアスタルテに古城も雪菜も戸惑うばかりだ。

さらに言うならば古城は背後からの殺気によって動けない。

暁霊斗、彼は後に語る。

初めて好きな人の裸をみるシチュエーションと言うのはとても大事なことだと気づいた、と。

そんなナレーションを霊斗が勝手にしていると、冷静になったアスタルテの顔が真っ赤になっていく。

「アスタルテ…………服を着ようか……」

「……はい……」

アスタルテが服を着るのを見て古城は雪菜に聴く。

「姫柊も、もしかして服を――」

「それ以上言ったら殺しますよ」

「……はい(ガクブル)」

「じゃあ先輩、そのパーカーを貸して貰えますか?」

「え?自分の制服は……」

「どっかの馬鹿な先輩に水を掛けられましたので、洗ってまだ乾いてません」

「すみませんでした」

そう言って古城は後ろ手に雪菜にパーカーを渡す。

その後、後ろでファスナーを上げる音がした後、首に当てられていた金属の重みが消える。

「もういいですよ」

そう言われて古城が振り向くと、恥ずかしそうな表情をした雪菜がいた。

「あの、あまり見ないでください……」

「お、おう。悪い」

と、そんなやり取りを見ていた霊斗が茶化してくる。

「まったくイチャイチャしちゃって」

「お前が言うな」

「いやー、付き合ってもいないのに無意識にイチャイチャ出来る古城さんすごいっすわー」

「絶対馬鹿にしてるだろ!?」

そんな会話を遮ったのは一筋の明かりだった。

「船?」

「救助でしょうか?」

「いや、あれはメイガスクラフトの船だ」

「ってことは……」

「ああ、俺達を狙って来たんだろうな」

古城達は船の方へ向かって歩き出した。

新たな戦いの幕開けである。




久しぶりにこんなに書いた……。
では次回もお楽しみに!


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天使炎上編ⅩⅣ

やっとテストが終わった……。
では、本編をどうぞ。


古城達が木の影から船を見ていると、中から数十人の兵隊が降りてきた。

「おい、霊斗。メイガスクラフトは兵隊までいんのか?」

「いや、あれは機械人形(オートマタ)だ。俺達も何度か襲われた」

「達?霊斗以外にも誰かいるのか?」

「ん?ああ、俺が今回獅子王機関の任務で護衛して、後で沙矢華に引き継ぐ予定だった人物なんだが……」

「あら霊斗。わたくしの事を話しているのですか?」

「あー、まぁ説明だけ……ってどこから湧いた!?」

「ずっと一緒に居ましたよ?」

霊斗の説明の途中で乱入したのはラ・フォリアだった。

しかし、古城達は当然初対面なわけで。

(((誰……?)))

と、こんな感じで固まる。

だが、ラ・フォリアが霊斗にベタベタしているのを見て最初に動いたのはアスタルテだった(当然)。

「あの、あなたは何者ですか?あと私の霊斗さんに気安くサワラナイデクダサイ(怒)」

「あら、あなたが霊斗の血の伴侶でしたか」

「伴侶!?いや、俺とアスタルテはまだそんな――」

「はい。そうです」

「おぉいっ!?」

ラ・フォリアは頬笑むと次は古城の腕にくっついた。

「うおっ!?なんで俺なんだ!?」

「諦めろ、古城。ラ・フォリアはさっきお前のことタイプだって言ってたぞ」

「「え?」」

雪菜と古城の声が重なる。

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

「綺麗にタイミングが揃ったな」

と、そんな話をしていると、砂浜にいた機械人形達が一斉に森の中へ入ってきた。

「霊斗!殺りなさい!」

「へーいへい。いくぞ!アスタルテ‼」

「はい‼」

霊斗とアスタルテが攻撃体制に入る。

「俺は?」

「足手まといだ」

「ひでぇな!」

「先輩、現実を見てください」

「姫柊まで!?」

と、霊斗とアスタルテが同時に眷獣を開放する。

「第五の真祖、亡霊の吸血鬼(ロストブラッド)の魂を宿し者、暁霊斗が汝を天界より呼び起こす‼」

霊斗の体から放たれる濃密な魔力が、お馴染みの太陽神を形作っていく。

「降臨せよ!我が十二番目の眷獣''天照大御神(アマテラス)''!」

霊斗が眷獣を召喚し終えると、隣には既にアスタルテの眷獣、''薔薇の指先(ロドダクテュロス)''がいた。

そして、アマテラスが機械人形達を蹂躙していく。

それは見るものを圧倒する、破壊的でありながら神々しさを感じさせる攻撃だった。

また、アスタルテは古城や雪菜、ラ・フォリアに攻撃が来ないように結界を張っていた。

そう、この大威力の攻撃は、霊斗とアスタルテだからこそできる物なのだ。

 

 

数秒後。

霊斗とアスタルテの働きによって一時的に安全を確保したが、まだ増援が来ないとも限らない。

と、言うことで、一行は霊斗達の拠点に向かう事になった。




さて、あと一、二話で終われるかな?
ではまた、次回!


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天使炎上編 ⅩⅤ

本日二本目、いっきまーす。
では、本編をどうぞ。


古城達は砂浜を歩き、霊斗達の拠点に到着した。

「てか、なんだあれ」

古城が救命ポッドを見て霊斗に聞く。

「あれか?ラ・フォリアの救命ポッドだ」

「豪華すぎんだろ!?」

と、そこで雪菜が霊斗に聞く。

「あの、霊斗さん」

「なんだ?」

「あの方はいったい……?」

「それは言えないな、外交機密だから」

「そこをなんとか……!」

「駄目だ」

「うぅー……」

「涙目で上目遣いでこっちを見ても駄目な物は駄目だ」

するとそこにアスタルテがやって来た。

「霊斗さん、私も教えてもらいたいです」

「うっ……!?いや、アスタルテの頼みでも駄目な物は――」

「どうしても……駄目ですか……?」

アスタルテが涙目で上目遣いでこっちを見てくる。

(ちょっと待てこれは反則級の可愛さだろいやでも外交機密はさすがにアスタルテでも話したら不味いだろうけどこんな風に見られて堕ちない男なんて男じゃないっつーかあーもうこれはどうしたらいいんだぁーっ!?」

「霊斗さん、途中から心の声が漏れてます」

「仕方がない、アスタルテに免じて本人に自己紹介してもらおう」

「あら、いいのですか?」

「まあ、こんな無人島で外交機密もクソもないからな」

「それでは……。アルディギア王国から参りました、ラ・フォリア・リハヴァインと申します」

「リハヴァイン……?どこかで聞いたような……」

「それはあるでしょう。わたくし、ルーカス・リハヴァインの娘ですもの」

「え……!?ルーカス・リハヴァインって、アルディギア王国の国王じゃないですか!?」

「ってことは……アルディギアの王女様か!?」

「はい。ですが、呼び方はラ・フォリアでいいですよ」

「あ、そうですか……」

と、ここで古城はあることに気付く。

(あれ?王女様がこんな無人島にいるなんて国では大混乱になっているのでは?)

「なあ、霊斗。ラ・フォリアを絃神島まで連れていくんだろ?早くしなくていいのか?」

「あ?メイガスクラフトに狙われてんのにか?」

「あー、そうか……」

「それに俺の空間転移じゃあ絃神島までは跳べないからな」

「携帯も繋がんないしな……」

「携帯?あるのか!?」

「あ、ああ。でも圏外だぞ」

「いや、中継基地までなら空間転移の応用で電波を跳ばせることができる」

「じゃあ、はい。これだ」

「うし、サンキュ」

古城から携帯を受けとると霊斗は電話を掛ける。

「繋がった!沙矢華か!?」

『霊斗!?ちょっと今どこに居るのよ!?』

「無人島」

『はぁ!?もしかして王女も?』

「あぁ、満喫してるけどな」

『まったく、無事なら無事って連絡位しなさいよ!』

「悪い悪い、ってか、ものすごいキーボードの音が聴こえるんだが、お前どこにいるんだ?」

『ネットカフェよ』

「ネットカフェ?なんでそんなとこに……?」

『あなたのクラスメイトの藍羽さんが暁古城達の居場所を調べるって、言って……』

「浅葱が?あー、じゃあ浅葱に伝えてくれ。古城も一緒にいる」

『はぁ!?あっ、ちょっと藍羽さん!?』

『もしもし霊斗?古城が居るの?』

「あ、ああ」

『わかったわ。じゃあ馬鹿古城に伝えてくれる?』

「おう。なんだ?」

『人との約束すっぽかして無人島なんかにいるんじゃないわよ!って言っといて』

「お、おう。まあ、お前の愛する古城は無事だから心配すんな」

『な、なに言って……死になさいよもう!』(ガチャッ)

一方的に切られた。

だが、沙矢華に連絡もしたのでしばらくすれば助けが来るだろう。

「どうだった?」

「ああ、多分しばらくすれば助けが来ると思う」

「なら大丈夫だな」

「ああ。あ、あと浅葱から伝言だ」

「ん?なんだ?」

「『人との約束すっぽかして無人島なんかにいるんじゃないわよ!』だってさ」

「約束……?」

「先輩、この前の美術の課題の件じゃないですか?」

「美術の……課題……」

と、古城の顔が一気に青ざめる。

「やらかしたぁぁぉぁぁぁ!」

「(ビクウッ)なんだ古城!?」

「浅葱の美術の課題を手伝うって……」

「あー……」

「ふふっ、古城は面白いですね」

と、霊斗が何かに気づいて海の方を向く。

「どうした?」

「あれ、見てみろよ」

古城が海の方を見ると船がこちらに来ていた。

その上には、白い旗を持ったロウ・キリシマ。ベアトリス・バスラー。そして、まるで聖職者のような男が乗っていた。




あー、疲れた。
明日には終わらせたいなぁ……。
ではまた次回!


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天使炎上編ⅩⅥ

今回で終わるはず。
本編をどうぞ。


古城達は近づいて来る船を睨み付ける。

「ロウ・キリシマ……てめぇ……」

「なんだよ第四真祖の兄ちゃん、そんな怖い顔すんなよ」

古城がキリシマを睨み付けるが、キリシマは飄々とした態度でうけながす。

隣では霊斗がベアトリスを睨んでいた。

「お前は……あの時飛行船を襲ってきた吸血鬼か……」

「ああ、あんたあの時のクソガキ?この前は邪魔されたけど今度はそう上手くいかないわよ」

「はっ、ほざいてろ。お前みたいな若い世代の吸血鬼程度には負けねぇよ」

そして霊斗に庇われるようにして立っているラ・フォリアはもう一人の男に話しかける。

「賢生、久しぶりですね」

「お久しぶりです王女。昔よりさらにお綺麗になられて」

「黙りなさい。叶瀬夏音はどこです?」

「あなたに教えて私にメリットがあるのですか?」

「それは力ずくで聞き出せと言うことで良いのですね?」

「そう思って頂いて構いません」

ラ・フォリアはこれ以上の話は無駄だと思ったのか、古城達に呼び掛ける。

「古城、霊斗、雪菜、アスタルテ。手を貸してください」

「ああ!」

「言われなくてもそのつもりだ」

「わかりました!――雪霞狼!」

「了解しました」

それぞれ答えると戦闘体制に入る。

「はぁ……ダル……。あんた達の相手はこいつよ――賢生、頼んだわ」

「わかっている。XDA-7、起動しろ」

賢生がそう言うと、船の中の棺桶の様なものの蓋がはずれ、中から人が起き上がる。

「あれは……仮面憑きか?」

「いいえ、あれは模造天使(エンジェル・フオウ)です」

「模造天使?」

「アルディギアの宮廷に伝わる魔術です。人間の霊的中枢を人為的に外から増やすことによって選定者を天使化する術式です」

「だが、飛行船を襲ったやつとは明らかに神気の質が違うぞ」

「何を驚いている少年。君が絃神島にいない間にXDA-7は完全な天使になったのだ」

「つーことは、俺達が止められなきゃあいつは消滅するって事か……」

「はぁ!?霊斗、どういう事だよ!?」

「天使は殲滅すべき敵を倒すと昇天するんだ。つまり、俺達が全滅したらあの模造天使は消えちまうんだ」

「そんな……」

「ばか、俺達があいつを助けてやりゃいいんだ。それに、あれに対向する方法に心当たりがあるしな」

「本当か!?」

「ああ。だから、とりあえず戦うしかない」

霊斗の説明を聞いて古城は安心したように笑う。

そして霊斗は賢生に言う。

「悪いなオッサン。そういうことだから」

「愚かな。精々足掻くがいい」

「じゃあそうさせて貰おう」

賢生の挑発も軽く受け流す霊斗。

しかし、古城はそんな霊斗に少し恐怖していた。

これまででも霊斗がこんなに静かなのは久しぶりだ。

それはなぜか。

霊斗がここまで静かなのは、本気でキレている時の合図だ。

「さて、ラ・フォリア。お前にはあの獣人を任せていいか?」

「わかりました。存分に叩きのめしてやりますわ」

「頼んだ。雪菜はあの吸血鬼を殺ってくれ」

「はい」

「で、俺とアスタルテと古城で天使を殺る」

「いや、殺さねぇけどな」

「霊斗さん、策はあるのですか?」

「ん?ない」

「ないんですか!?」

「効きそうなのを片っ端から試す」

「わかりました、霊斗さんらしいです」

そして、それぞれが敵に向かって走る。

最初に仕掛けたのは雪菜だった。

「雪霞狼!」

しかし、ベアトリスは眷獣を召喚した。

彼女の眷獣は槍の眷獣。

蛇紅羅(ジャグラ)!串刺しにしな!」

「はあぁぁーっ!」

雪菜は気合いと共に槍を一閃する。

「なっ!?」

ベアトリスの槍が曲がり、背後から襲いかかったのだ。

「まさか……意思を持つ武器(インテリジェントウエポン)!?」

「そうさ、あんたの槍の攻撃範囲外から攻撃することだってできる!」

「くっ……!」

ベアトリスのラッシュに防戦一方になる雪菜。

そこから少し離れた所ではラ・フォリアがキリシマと対峙していた。

「さて、大人しく捕まって貰えると助かるんだがな」

「汚らわしい獣の手に堕ちるのはお断りです」

そう言ってラ・フォリアは拳銃を取り出し連射する。

しかし、キリシマは弾丸をすべて素手で掴み取った。

「残念だったな。9ミリ弾なんか効かねえよ」

キリシマが余裕な表情で言う。

そして、身体が膨らんでいき、人狼の姿になる。

「さぁて、どうする?王女様」

キリシマが裂けた口で笑う。

そして、霊斗達は模造天使に向かっていた。

「古城‼攻撃だ!」

「任せろ!獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

古城は雷光の獅子を召喚し、模造天使に攻撃する。

しかし、攻撃は模造天使の身体をすり抜ける。

「駄目か!」

そこに、模造天使の光の剣が飛来する。

実行せよ(エクスキュート)、''薔薇の指先(ロドダクテュロス)''」

それをアスタルテが背中から生やした腕で打ち落とす。

「霊斗さん、神格振動波なら防げます」

「わかった!なら――氷牙狼!」

霊斗が空間転移で槍を呼び出す。

そして跳び 、模造天使に斬りかかる。

しかし、見えない壁の様なものに阻まれる。

「くっ!」

それを見て、賢生が言う。

「紛い物の神気で本物の神の遣いを傷つけられるわけがなかろう」

「ちっ、なら!」

霊斗は左手を前に突き出す。

そこから鮮血の様な霧が吹き出す。

「降臨せよ!''天照大御神(アマテラス)''!」

そして、呼び出したのは太陽神だ。

「神ならどうだ!」

しかし、アマテラスの攻撃は天使に当たらない。

速すぎて空振りしてしまうのだ。

「大人しく……しろっての!」

アマテラスが炎剣を勢い良く降り下ろす。

しかし、それは翼に少しかすっただけだった。

だが、それだけで模造天使に霊斗達を敵と認識させるには十分だった。

「kyriiiiiiiiiiiiiiiiiiii!」

模造天使が咆哮し、翼が光る。

「不味いっ!」

そして、翼から光剣を無数に発射する。

「うぉぁぁぁぁ!?」

「先輩っ!」

「きゃぁぁ!」

「うわあっ!」

ベアトリスが離れ、自由になった雪菜が古城に駆け寄る。

アスタルテ、霊斗は光剣を避けながらラ・フォリアを保護する。

しかし、古城の胸を光剣が貫いた。

「がはっ!」

「先輩!」

雪菜が叫ぶ。

そして、古城を貫いた光剣はそのまま直進し

「ぐっ!」

「アスタルテ!?」

アスタルテの右脇腹を抉った。

「先輩っ!先輩!」

雪菜が古城を揺さぶるが古城は目を開けない。

「そんな……アスタルテ……」

霊斗は言葉を失う。

だが、異変が起きた。

「OAaaaaaaaa!」

模造天使が叫び、周りが凍り出す。

「くっ!雪霞狼!」

雪菜が結界を張る。

おかげでなんとか氷に呑まれずにすんだ。

だが、古城もアスタルテも目覚めないままだ。

「先輩……」

「アスタルテ……」

雪菜も霊斗も茫然自失になっている。

それを一喝したのはラ・フォリアだった。

「あなた達!いつまでそうしているつもりですか!」

「ラ・フォリア?」

「でも……先輩は……」

「助ける方法の一つや二つあるでしょう!」

「そうでした……。でも、先輩にどうやって血を……」

「雪菜、古城にまず少し血を飲ませろ。そうすれば吸血鬼の本能で身体が勝手に動く」

「わかりました。やってみます」

雪菜は少し離れた所で古城の救命行為をし始めた。

「さて、霊斗。あなたはどうするのですか?」

アスタルテの傷は深い。

しかも天使につけられた傷は、旧き世代の吸血鬼でも致命傷になりかねない。

だが、直す方法がある。

それは、真祖の体の部位を移植すること。

つまり、完全な血の伴侶となること。

だが

(アスタルテはそれで良いのか……)

確かに今でもアスタルテは霊斗の血の従者だ。

だが、それは吸血行為によって精製された霊的経路を通じているだけに過ぎない。

だから、なって日が浅ければ血の従者から開放されることも出来る。

霊斗はアスタルテの手を握った。

「アスタルテ、いいか?」

そう聞くと、アスタルテは僅かに頷いた。

それを見て霊斗は笑い――

自らの右脇腹を抉った。

「ぐっ……」

そして、アスタルテの失った部分と同じ肋骨を折る。

右の、一番下。

そこに、眷獣を一体宿して、アスタルテの肋骨に繋げる。

さらに、その部位の神気を氷牙狼で消す。

すると、みるみるうちに傷が塞がり、アスタルテが目を開く。

「霊斗……さん……」

「アスタルテ!気がついたか!」

「霊斗さん、傷が……」

「大丈夫だ。だけど、少しだけ血を吸わせてくれ」

「はい。どうぞ」

「悪いな、いつも」

「いえ、大丈夫です」

アスタルテは微笑んで答える。

「私は、霊斗さんの血の伴侶ですから」

それを聞いて霊斗は顔を赤くしながら、アスタルテの首すじに牙を立てる。

そして、血を吸い終わると、霊斗はいつの間にか復活してい古城に向かって言う。

「準備万端みたいだな」

「お前もな」

二人は笑うと、眷獣を召喚する。

緋色の双角獣と、逞しい肉体をした海神。

その攻撃が氷の壁をぶち破る。

外に出ると、賢生達が驚いた顔でこちらを見ている。

それをみて古城は告げる。

「あんた達が叶瀬やラ・フォリアを使って何をしようとしてるかなんて興味ない。だけどな、叶瀬もラ・フォリアも普通の女の子だろ!それをぞんざいに扱うなんて俺は許さない!ここから先は第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

そこに模造天使の光剣が飛来する。

しかし、銀の槍がそれを打ち落とす。

「いいえ先輩、私たちの聖戦(ケンカ)です!」

そこにベアトリスの槍の眷獣が攻撃してくる。

だが、薄水色の槍がそれを阻む。

第五真祖とその伴侶(おれたち)も忘れんなよ」

「みんなで勝ちましょう」

それを聞いたベアトリスが気だるげに溜息をつく。

「ハァ……面倒くさいわねぇ……」

そして、眷獣を振るう。

「さっさと死になさい!」

「させません!」

だが、雪菜の槍に阻まれる。

「剣巫ィ!あんたの攻撃はあたしには通らな――がっ!?」

雪菜のひじ打ちがベアトリスの腹にめり込む。

そのまま追撃の掌打を側頭部に入れる。

「響よ!」

ベアトリスは意識を失って倒れる。

キリシマはそれを見て舌打ちする。

「ちっ、駄目じゃねぇか……。だが俺はきっちり仕事はするぜ」

そんなキリシマにラ・フォリアは呪式銃を向ける。

だが、弾丸は入っていない。

「残念だったな。弾丸の入っていない呪式銃なんざ怖くねえぜ……ぐふっ!」

最初は余裕をかましていたキリシマだったが、苦悶の表情に変わる。

「ははっ、なんだよ、それ……擬似聖剣なんて聞いてねぇぜ……」

そのまま倒れ、意識を失う。

ラ・フォリアは冷ややかにキリシマを見下ろすと、古城達の方を向く。

「後は任せましたよ……」

古城達はちょうど模造天使と対峙していた。

「苦しいか、叶瀬」

古城は模造天使――叶瀬夏音に話しかける。

「待ってろ、俺達が今からお前を助けてやる!」

古城は右腕を頭上に掲げる。

そして、眷獣を召喚する。

「焔光の夜伯の血脈を継ぎし者、暁古城が汝の枷を解き放つ!」

召喚されるのは銀色の双頭龍。

疾く在れ(きやがれ)!三番目の眷獣、 ''龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)''!」

続いて霊斗も召喚を開始する。

「前略!降臨せよ!十番目の眷獣、''須佐之男命(スサノオ)''!」

召喚されるのは荒ぶる海の神。

さらに、アスタルテも召喚する。

「第五の真祖、亡霊の吸血鬼(ロストブラッド)の魂を宿し者、暁霊斗の血の伴侶が汝を天界より呼び起こす!」

現れるのは細身の女性のような眷獣。

持っている剣の色は青。

「降臨せよ!九番目の眷獣、''神産巣日神(カミムスヒノカミ)''!」

その名は男女のムスビを意味する。

すなわち、真祖と伴侶の絆の強さによって強さが変わる眷獣。

「いくぞ!スサノオ!''海神斬裂波''!」

海神の振るう剣――草薙剣の衝撃波が模造天使の身体を揺らす。

「追撃です!カミムスヒノカミ! ''結之証・最大''!」

ムスビの神の剣が模造天使の翼を貫く。

「古城!今だ!」

「ああ!龍蛇の水銀!」

銀色の双頭龍が模造天使を覆っていた光の膜を食い破る。

「姫柊!霊斗!」

「はい!」

「おう!」

そこに、二つの神格振動波で、叶瀬夏音の天使化を解呪する。

そして、抜け落ちた翼を銀色の双頭龍が食らい付くす。

あとには静寂が残った。

すべてが終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談。

古城はあのあと迎えに来た浅葱の前でラ・フォリアにキスされ、キレられていた。

叶瀬夏音は、検査が必用だが命に関わるようなこともないようだ。

そして霊斗とアスタルテは、疲れはてて船室で眠っていた。

もちろん、二人で一緒に。




なんとかおわった……って日付け変わってるし。
まあ、また次回!


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霊斗の誕生日《未来編》
霊斗の誕生日


今日は霊斗君の誕生日です(設定)!
では本編をどうぞ。


旧絃神島、とあるマンションの一室。

一人の少女が何かの箱を二つ持っている。

少女は長い黒髪だが、目は青い。

「ふふふ……。お父さんもお母さんも今は仕事中だからねぇ……」

そう言って少女は立ち上がる。

「お父さん達が仕事ってことは、古城君や雪菜ちゃんも仕事だよね……」

そして、少女は玄関に向かう。

扉に鍵を掛け、チェーンを掛ける。

「戸締まり完了!よーっし、いっくよー!」

かけ声と共に少女の姿が虚空に消えた。

 

 

 

 

 

 

旧絃神島、オフィスビルの一室。

だだっ広い部屋の真ん中に机が置いてある。

まるでドラマに出てくる社長室の様な部屋だが、実際は社長はいない。

「クソッ、なんで俺が古城の仕事を手伝う羽目に……」

そこにいたのは暁霊斗だった。

なぜ彼がここにいるのか。

理由は簡単、彼がこの夜の帝国(ドミニオン)の帝王だからだ。

とは言っても、霊斗だけが帝王なのではない。

暁古城――第四真祖もこの国の帝王だ。

この国の名は「暁の帝国」。

その名の通り、暁兄弟が支配する国だ。

そして、霊斗の領地は旧絃神島、人工島北地区(アイランド・ノース)人工島西地区(アイランド・ウェスト)だ。

「ってか、古城は何してんだ……?」

その霊斗の疑問に答えたのは藍色の髪の少女だ。

とは言っても、実年齢は霊斗とほぼ同じ(?)だが。

彼女の名前はアスタルテ。

霊斗の血の伴侶であり、事実上の妻である。

「古城さんは人工島南地区(アイランド・サウス)に現れた未確認生物の駆除に行っています」

「はー、あっちはよく出んなー」

「こちら側には驚くほど出ませんからね」

今日も霊斗側は平和だ。

 

 

 

 

 

 

 

人工島南地区。

「くそっ!雪菜!呪符貸してくれ!」

「はい!どうぞ!」

「サンキュー、これでどうだ!」

古城が呪符に魔力を込め、放つ。

すると、呪符は雷光の獅子の姿に変わり、敵の不定形のスライムを爆裂させる。

「うし、一丁上がりぃ」

「古城さんも呪符の扱いが上手くなりましたね」

「雪菜に散々練習させられたからな」

古城はとある一件で呪符の扱いを学んでから、眷獣の使えない市街地での戦闘には、式神を使うようになっていた。

「それでも、最初はすぐ爆発させてましたからね……」

「慣れてなかったんだから仕方ねーだろ」

と、古城が何かを思い出したかのように叫ぶ。

「あぁぁぁぁぁ!」

「ど、どうしたんですか!?急に叫び出して!」

「俺の仕事……」

「仕事……?」

「あの量の書類が全部霊斗の所に……」

「え!?ってことは、霊斗さんは二人分の書類の処理をしているということですか!?」

「あ、あぁ。そうなるな」

「もう!古城さんは後先考えずに飛び出すんですから!」

「悪かったって。だからそんな怒るなよ……」

「早く霊斗さんの所に行きますよ!

「ああ。じゃあ跳ぶぞ」

そういうと、古城は雪菜を抱き上げ、黒い粒子を身に纏う。

そして、助走を着けてジャンプした。

「どりゃぁぁぁ!」

眷獣の能力で重力を軽くし、ビルの屋上まで跳ぶ。

そのままの勢いで、古城はその場から跳び去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗の執務室。

「ああ……やっと終わった……」

「お疲れ様です。何か飲みますか?」

「んー……じゃあ、紅茶でももらうかな」

「わかりました。ちょっと待っててください」

そう言うと、アスタルテは部屋の隅にある給湯室で紅茶を淹れ始める。

そこで、ドアがノックされた。

「誰だ……?」

霊斗は、ドアを開ける。

そこには、膝に手をついて息切れしている古城がいた。

「……(ガチャッ)」

「なんで閉めるんだ!?」

「(ガチャ)なんだよ、お前の分の書類なら終わらせてお前の部屋に送ったぞ」

それを聞いて、古城はへなへなと座り込む。

「わ、悪い……なんか、押し付けちまって」

「いつもの事だろ」

「はは……」

「そうだ、紅茶でも飲んでくか?」

「お、いいのか?」

「ああ。雪菜もどうだ?」

「じゃあ、頂きます」

「よし、じゃあ中で待っててくれ」

霊斗は古城達を部屋に入れ、給湯室に入る。

「何か手伝うか?」

「じゃあ、あの戸棚から新しい砂糖を出してください」

「おーけー。よいしょっと……これでいいのか?」

「はい、ありがとうございます。じゃあ、もう少しで出来るので、持っていくのを手伝ってください」

「わかった」

少しすると、アスタルテがカップを二つ持つ。

霊斗が残りの二つを持ち、古城達の元へ戻る。

「待たせたな」

「どうぞ」

霊斗が二人の前に紅茶を置き、アスタルテが霊斗と自分の前に置く。

「悪いな……じゃあ、頂きます」

「頂きます……相変わらず美味しいですね……」

「毎日淹れてますから」

「こんな旨い紅茶が毎日飲めるなんて、霊斗は幸福者だな」

「ばーか、紅茶抜きでも幸せだよ」

「本当にお二人は仲が良いですね」

「雪菜さん達こそ仲が良いじゃないですか」

と、古城が思い出したように言う。

「なあ、今日って十二月十五日だよな」

「はい、そうですね」

「じゃあ、今日は霊斗の誕生日だよな?」

「ん?ああ、そういえばそうだな」

「いや、自分の誕生日くらい覚えとけよ……。で、このあとパーティーしないか?」

「俺は構わないが。仕事終わったし」

「私も大丈夫です」

「なら決まりですね」

 

 

 

 

 

暁古城宅。

暁零菜が 暇をもて余していると、チャイムが鳴った。

「誰だろ……はーい、今出まーす」

玄関の扉を開けると、そこには一人の少女が立っていた。

「やほ、零菜」

「美霊お姉ちゃん!?」

立っていたのは暁美霊。

零菜の従姉妹に当たる人物で、一歳年上。

父は霊斗、母はアスタルテ。

「どうしたの?」

「いや、さ。お父さんにドッキリしない?」

「霊斗君に?なんで急に……」

「だって、今日はお父さんの誕生日だし」

「あぁ……、で、なにするの?」

「それは……(ゴニョゴニョ)」

「面白そうじゃん、やる!」

「じゃあ、あと萌葱ちゃん呼んでやろうか」

そういうと二人は部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

夕方、暁霊斗宅。

「ハッピーバースデー!霊斗!」

古城が言うと、周りから歓声が上がった。

参加者は古城、雪菜、アスタルテ、凪沙、浅葱、零菜、萌葱、美霊、そして、メインの霊斗である。

パーティーは賑やかに始まった。

最初は凪沙の料理を囲んでワイワイ騒いでいた。

そして、場の空気が盛り上がって来た所で美霊がいった。

「はーい!一発芸しまーす!」

「なんだ美霊、お前一発芸なんてできたのか?」

「ふふふー、まぁ見てて」

そういうと、美霊は二つの箱を取り出した。

「さて、この箱のどちらかにお父さんへのプレゼントが入っています!どちらでしょう!」

そこで、美霊は零菜に目配せする。

零菜は首肯くと、瞳を真紅に染めた。

「プレゼントかぁ、なんだろうな」

「それはおたのしみだよ!」

「じゃあ、右だ」

「右だね?開けるよ!」

美霊が蓋を開けると、中から、稲妻が飛び出した。

「うおっ!?なんだ!?」

「あははは!びっくりした?」

「びっくりするに決まってんだろ!?」

「ドッキリ大成功~‼因みに、今のは零菜の眷獣を私の空間転移で空の箱に移動させて、萌葱の魔術演算で威力を調整したものだよ」

「お前ら三人がグルか!」

「ごめんねー霊斗君」

「こんな楽しそうなことやらないわけにはいかないよ」

「はぁ、で、左の箱には何が入ってるんだ?」

「それは自分で確認してね。はい」

「なんだそりゃ」

そんなこんなでパーティーは終了した。

 

 

 

 

 

夜、霊斗とアスタルテの寝室。

「それで、美霊からのプレゼントには何が入ってたんですか?」

「そういやまだ見てないな。開けるか」

箱を開けると、中にはアルバムとメッセージカードが入っていた。

「なになに?''思いでは大切にね ''?」

「こっちのアルバムには何が……」

アルバムを開くとそこには 、霊斗達が学生だった頃に、未来から来た魔獣を倒した時の二日間の写真が入っていた。

「うわ……懐かしいな」

「ふふ、あのときに霊斗さんがやけにあわてていたのを覚えてます」

「そりゃあな、未来から来た自分の娘と一緒にいたんだからな」

そして、アルバムの最後には、霊斗がアスタルテの血を吸っている写真と、手描きで''霊斗、アスタルテ。愛は永遠に''の文字が。

「……」

「……霊斗さん、愛してます」

「っ!……俺もだよ……」

暁の帝国の夜が更けていく……。




久しぶりのオリジナル話です。
ではまた次回!


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蒼き魔女の迷宮編
蒼き魔女の迷宮編Ⅰ


昨日のオリジナル話はどうだったでしょうか?
今回からまた本編に戻ります。
では本編をどうぞ。


絃神島、とある空港。

紗矢華はその空港の貴賓室にいた。

そこには二人の要人がいた。

一人はアルデアル公ディミトリエ・ヴァトラー。

旧き世代の吸血鬼の貴族だ。

もう一人はラ・フォリア・リハヴァイン。

アルディギア王国の王女である。

そんな二人を相手するのは流石の舞威姫とはいえキツい。

そんなわけで、もう一人護衛を増やしてもらったのだが……。

「なんで霊斗が来るのよ……」

「悪かったな俺で」

派遣(?)されてきたのは暁霊斗。

獅子王機関の剣凰であり、第五真祖でもあるこの少年は紗矢華が苦手としない数少ない異性の一人である。

「いや、霊斗が嫌って訳じゃないんだけど……」

「なんだ、古城が良かったのか?」

「殺すわよ」

「悪いが俺は不死身だぞ」

「そんなの知ってるわよ!」

と、紗矢華が視線に気付いて要人二人の方を見ると、ヴァトラーとラ・フォリアが面白い事を聞いた、といった表情でこちらを見ている。

「あ、その……」

「いやァ、驚いたヨ。まさか獅子王機関の舞威姫が第四真祖の事を好きだなんてサ」

「大変ですわ、アルデアル公。貴方の恋敵が増えてしまいましたわ」

「そんなのじゃないです!ほら王女!もう時間ですよ!早く飛行機へ!」

「わかりましたわ、それではアルデアル公、ごきげんよう」

「ああ、また楽しく話をしようじゃないか」

そして、ラ・フォリアは霊斗の方に向き直る。

「霊斗もお元気で」

「ああ、本当はそろそろある波朧院フェスタも案内してやりたかったんだがな」

「ちょ、霊斗!?」

「波朧院フェスタ、ですか?」

「ああ、絃神島全体でやる祭なんだが……」

「王女!行きますよ!」

「では」

ラ・フォリアはそのまま部屋を出ていく。

「フウン、霊斗は王女の事が好きなのかナ?」

「んなわけあるか。俺の好きな相手は一人だけだ」

「あの元ホムンクルスの娘かい?」

「ああ。あいつだけが俺の血の伴侶だ」

霊斗がそう言うと、ヴァトラーは首を傾げた。

「おや?第四真祖と第五真祖はこれまで一度も血の従者は作らなかったはずだけどナ」

「俺はそんなわけわからん過去には捕らわれたくない」

「そうかい。まア、好きにすると良いサ」

ヴァトラーはそう言うと霧化し、その場を去る。

 

 

 

 

 

 

 

紗矢華はラ・フォリアを引っ張って歩いていた。

「紗矢華?」

「波朧院フェスタには行かせません!」

「わたくしはまだ貴女の名前しか呼んでいないのですが」

「知りません‼今回の便は日本政府の特別チャーター機なんですから、予定を遅らす事は出来ません!」

「わかっています……ですが」

直後、二人を目眩に似た感覚が襲う。

「飛行機に行けないのでは仕方ありませんね」

二人が居たのは、第十三号増設人工島。

飛行場の真反対であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗は仕事を終わらせ、教室に戻った。

教室に入ると、ちょうど帰りのHRの前だった。

霊斗は席に着き、担任の到着を待つ。

が、教壇に上がったのはアスタルテだった。

どうやら、那月が攻魔官の仕事で居ない為、今日の日直であるアスタルテが代わりに注意事項を伝えるらしい。

だが、クラスの大半の生徒はまったく聞いていなかった。

代わりにひそひそと話す声が聞こえる。

「なあ、あれってこの前の転入生だよな?」

「ああ、普段目立たないけどめっちゃ可愛いな……」

「でも霊斗とデキてんだろ?」

「「!?」」

また、別の場所では

「霊斗と付き合ってんのか……寝とるか」

「馬鹿お前、殺されるぞ」

さらに、女子の間では

「髪の毛綺麗だね」

「何か特殊なケアでもしてるのかな?」

「肌も綺麗だよね」

とまあ、こんな会話がされていた。

もちろん霊斗は全部聞いていて

一組目➡わかってる奴ら

二組目➡ぶん殴るかな?

三組目➡こっちもわかってる奴ら

と判断。

その後HRが終わると、古城と霊斗の周りにはたくさん人が集まってきた。

「古城!お前うちでバイトしないか?いまなら給料三割増しだ!」

「霊斗!俺と売り子をやらないか?彼女も一緒でいいから!」

「いや、暁兄弟よ!ミスコンの審査員をやらないか?それとも男性出場枠でいくか!?」

しかし、古城と霊斗はそれを断る。

「あー、悪い」

「他に回る約束をしてる奴がいるからな」

それを聞いて男達は涙を流した。

「どうしてだ古城!どうせ中等部の転校生と回るんだろ‼」

「霊斗なんかもう知らねぇ‼リア充してろ馬鹿!この裏切り者!」

すると、入口から棚原夕歩が古城を呼ぶ。

「暁古城ー!中等部の聖女ちゃんがあんたに用だってさー」

その後ろには、叶瀬夏音が立っていた。

「馬鹿な……聖女だと!?」

「あの男、何又するつもりだ!?」

男共が何か言っているが気にしない。

古城は夏音の所へ行く。

その後ろに霊斗とアスタルテも着いていく。

「叶瀬、もう大丈夫なのか?」

「はい。おかげさまで、もう大丈夫でした」

「元気そうで何よりだ」

「霊斗お兄さんも、ありがとうございました」

「気にすんなって」

「それで、なんでここに?」

「そうでした。今日、お兄さん達の家に泊まりに行きます」

「そうなのか、じゃあ後で来るんだな」

「はい。そうでした」

「じゃあ、後でな」

「はい、それでは」

そう言うと、夏音は自分の教室へ戻っていった。

そこに、築島倫が、浅葱の手を掴んで、古城達の元へ歩いてくる。

そして告げる。

「あたし達もお邪魔していいかな?」

「いいぜ。な、古城」

「ああ。構わないぜ」

こうして、夏音の快気祝いに参加することになった浅葱達であった。




あーかいた。
もう、疲れたよ……。
ではまた次回!


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蒼き魔女の迷宮編Ⅱ

眠い。


絃神島南地区。

住宅街が多く集まる地区のとあるマンションの一室が霊斗達の自宅だった。

そのリビングには多種多様な料理が並び、ちょっとしたバイキングのようだ。

なぜこんなにも大量の料理があるのか。

それは、本日この場で叶瀬夏音の快気祝いが催されるからだ。

「夏音ちゃん、退院おめでとう!」

そう言ってクラッカーを鳴らしたのは凪沙だった。

夏音は恥ずかしそうに頬を赤らめている。

「それじゃあ皆!どんどん食べて!」

凪沙のその一言に図々しく反応したのは矢瀬だった。

「うっしゃー!食うぜ!」

「なんでお前がノリノリなんだよ……」

「おー!旨いな!凪沙ちゃんまた料理の腕を上げたな!」

「そ、そう?ありがとう矢瀬っち」

「ん?夏音は食べないのか?」

「いえ、頂きます」

「んー!美味しい!」

「浅葱、お前どんだけ食うんだよ」

と、一人参加者が見当たらない。

そのもう一人の参加者、築島倫は霊斗の部屋のベッドの下を漁っていた。

「な!なにやってんだ築島ぁ!」

「いやいや、男子ってこういう所に色々隠すんでしょ?お、なんかある……」

「まて!今そのベッドを使ってるのは俺じゃな――」

ズルリ(倫がベッドの下から何かを引摺り出す音)

「ん?これって……」

それは女物の下着(上)だった。

「……霊斗、お前……」(矢瀬)

「ま、まあ年頃の男子だからね……」(浅葱)

「霊斗……」(倫)

「だぁあ!だから今そのベッドを使ってるのはアスタルテなんだよ!俺は使ってないんだよ!」

「はい……使ってるのは私です。その、恥ずかしいので戻してもらってもいいですか?」

「あ、うん。ごめんね」

倫がベッドの下にブツを戻し、リビングに戻ってこようとした時、古城の部屋のベッドの上にあるアルバムに気づいた。

「これは?古城君達の昔の写真?」

「ああ。確か俺達が小六の頃の写真だったよな?」

「そうだな、大分懐かしいな」

「ほんとですね。このころの先輩はかわ……いい?」

「なぜ疑問形?」

「え?この黒髪ショートの女の子誰?」

「え?わかんないのか?」

「わかんないのかって……あれ?黒髪に一房赤髪が混ざってる……」

「ってことは霊斗君かな?」

「まじか!?昔の霊斗がこんな美少女だとは……」

「誰が美少女だコラ」

「その頃の霊斗君はほんとに女の子みたいだったよね」

「で、この子は誰?」

「それはユウマだな」

「ユウマ?」

「俺達の幼馴染みだな」

「へー、結構イケメンじゃない」

「そうだな、あいつは昔から女子に人気だったな」

「霊斗が言えた事じゃないだろ」

「え?」

「え?」

霊斗はなんの事かわからないと言った表情だ。

実際昔は女子のような見た目も相成ってなかなか人気だったのだが……。

((あ、自覚なかったんだ))

古城と凪沙は同じことを思った。

 

 

 

 

 

数時間後。

浅葱、矢瀬、倫は終電間際になって帰っていった。

夏音と雪菜は凪沙の部屋に泊まっていくらしい。

霊斗はリビングのソファーの上に横になった。

だが。

(眠れねぇ……)

吸血鬼である霊斗は夜になるとむしろ目が冴えてしまうのだ。

恐らく古城も同じ症状に悩まされているだろう。

霊斗は喉の乾きを覚え、キッチンへ向かう。

すると、夏音が古城の部屋へ入って行くのが見えた。

(何しに行ったんだ?)

霊斗は霧化し、音を立てないように古城の部屋の前に行く。

そこから中の音を聴く。

『お話しというのは、模造天使のことでした』

『天使化していた時の記憶があるのか?』

どうやら、この前の事件の話をしているようだ。

霊斗はソファーに戻る。

と、そこにはアスタルテが座っていた。

「どうした?眠れないのか?」

「その……少し怖い夢を見てしまって……」

「そうなのか。……一人で寝れないのか……?」

「はい……」

アスタルテは恥ずかしそうにしながら言う。

「一緒に寝てもらってもいいですか?」

「ああ……と言いたい所だが、先に雑用を片付けてからだな」

霊斗とアスタルテが会話している間に、古城の部屋から騒ぐ声が聞こえる。

そこに行くと、夏音が古城にチョップを叩き込む瞬間だった。

「ちょっと待てぇ!」

霊斗は空間転移で二人の間に、割って入る。

古城の様子を見るに、鼻血を止める間違った方法が実践される所だったのだろう。

「夏音、それは間違った方法なんだ。命に関わるからな」

「でも、古城お兄さんの鼻血が……」

「任せろ、俺が止めてやる」

そう言って霊斗は古城の方を向く。

「助かったぜ霊斗!」

「助かった?勘違いするな」

霊斗は古城の首を掴む。

古城の頸動脈が締まり、首から上の血流が止まる。

「本当の地獄はここからだ」

古城の顔が段々紫色になっていく。

そこで霊斗は手を放す。

「げほっ、ごほっ!馬鹿野郎!殺す気か!」

「馬鹿はお前だ!自分の妹の友達に欲情するとか、見境なしか!」

幸い古城の吸血衝動は収まっていたので良かったが、あそこで夏音を襲っていたら。

古城は後輩と妹を一度に失っていたかもしれない。

そう考えると、霊斗は怒らずにはいられなかったのだ。

「ったく、これに懲りたら二度とこんなことをしないようにしろ。アスタルテ、行くぞ」

「はい。……古城さん、お大事に」

古城は霊斗の心意に気付いたのか、もう何も言ってこなかった。

霊斗は元自室にアスタルテと共に戻る。

アスタルテがベッドに入るのをみて、霊斗は枕元の床に座る。

「俺はここにいるから」

「……」

アスタルテが不機嫌そうな目でこちらを見てくる。

「……なんだよ」

「そうじゃなくて……一緒のベッドで寝てください」

「断る」

「なんでですか……」

「いや、だってさ……」

霊斗はアスタルテと同じベッドに入ったら、一瞬で理性がトぶ自信がある。

だから、霊斗はアスタルテのお願いを却下した。

大切な人を傷つけないために。

だが、

「吸血衝動が起きても大丈夫です。私は……」

「いいから寝ろ」

霊斗はアスタルテの言葉を遮って言う。

「俺はまだ……覚悟が出来てないからな……」

「……」

霊斗はそのまま、目を閉じた。

すると不思議な事に、すぐに眠気が襲ってきた。

眠りに落ちる直前、アスタルテの言葉が聞こえた。

「……霊斗さんの馬鹿……」

なんとでも言えばいいさ、と心のなかで呟くと、霊斗の意識は眠りの世界へと落ちて言った。




今日はここまでですかね。
お気にいりしてくださる方が増えてきてうれしいです。
出来れば評価もしてくださると、もっとうれしいです。
ではまた次回!


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蒼き魔女の迷宮編Ⅲ

上着を買いに行って思った。
パーカーっていいよね……。
そんなわけで本編をどうぞ。


深夜零時過ぎ。

霊斗は携帯の着信音で目が覚めた。

「はい、もしもし」

『霊斗か?私だ』

「那月ちゃん?こんな時間になに?」

『(ギリッ)殺すぞ』

「すいませんでした。で、要件は?攻魔師の仕事?」

『そうだ。どうやら島に魔女が二人侵入したようだ。座標を送る、むかってくれ』

「へいへーい。……あれ?那月ちゃんは行かないのか?」

『私は雑用で手が離せないんだ。そうでなかったらお前なんかに頼まないぞ』

「それもそうか。じゃ、すぐに向かいますわ」

『頼んだぞ』

通話が切れのを確認し携帯を机の上に置く。

そして、ベッドの隣を通り部屋の扉へ向かう。

ガシッ

「ん?」

霊斗の服の裾を掴む手。

「どこに行くんですか……?」

「あ、アスタルテ!?」

アスタルテが寝ぼけ眼でこちらを見ている。

しかし、その力は真祖の従者に相応しいと言える。

今にも服が千切れそうだ。

「もう一度聞きます。どこに行くんですか?」

「よし、まずは落ち着こう。はい深呼吸ー、すー、はー」

「……」

「待って!なんで無言で腕を掴むの!?」

「霊斗さんがどこにも行かないように……こうします」

ギュッ

「ほぇ?」

霊斗の口から人生で一番間抜けな声が出た。

「え、え?え!?な、なにをなさっているのですかアスタルテさん!?」

「わからないんですか?だったら……」

ムギュッ

さらに強く抱きつかれた。

「あ、あ、あう……」

霊斗の頭は真っ白になっていた。

だが、そこに追い打ちを掛けるようにアスタルテがすり寄ってくる。

「……」

「んふー……」

アスタルテは嬉しそうにしているが、霊斗は完全にフリーズしている。

結局朝になるまでアスタルテにくっつかれたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

絃神島中央空港。

霊斗達はごった返す人の中を走っていた。

「もう!古城君は寝坊するし、霊斗君とアスタルテちゃんは朝までイチャイチャしてるし!」

「すまん。眠気に勝てなかった」

「……那月ちゃんに殺される那月ちゃんに殺される那月ちゃんに殺される那月ちゃんに殺される那月ちゃんに殺される那月ちゃんに殺される……」

「寝ぼけていて……すいませんでした」

ロビーに到着したが、待ち合わせしている人物はまだ来ていないようなので少し安心する。

「あの、私達も来て良かったのでしょうか?」

雪菜が困惑気味に聞く。

「ああ、霊斗が使えない分は叶瀬に助けてもらうし、姫柊は波朧院フェスタは始めてだろ?ユウマと一緒に回れば楽しい、波朧院フェスタの事もわかる。一石二鳥だろ?」

「そうですね。……それで、霊斗さんはなぜこんなことに?」

「知らん。……浅葱、矢瀬。隠れてないで出てこい」

古城がいうと、華やかなパーティーマスクを着けた二人が柱の影から出てきた。

「俺達の変装に気付くとは……やるな古城」

「なんでお前らがいるんだよ」

「古城の幼馴染みとか、見てみたいじゃん?なあ浅葱?」

「そ、そうね。で、霊斗はなんで壊れてんの?」

「しらん。つか帰れ」

「そんな冷たい事言うなよ。その幼馴染みの顔を拝んだら帰るからよ」

と、不意に古城の頭上、二階へ通じる階段の上から特徴的なアルトヴォイスがした。

「古城!」

それと同時に一人の少女が階段の上から飛び降りてきた。

「うぉ!?危ねぇ!」

古城は咄嗟にその少女を抱き止める。

「やあ古城!久し振りだね」

「お前は昔から無茶苦茶するなユウマ」

そんな古城に雪菜と浅葱が詰め寄る。

「先輩!その方は誰ですか?」

「だから昨日話しただろ?俺の幼馴染みのユウマだよ」

「幼馴染みって……女の子!?」

「いや、見りゃわかるだろ」

隣では矢瀬が納得したような表情で頷いている。

「確かに男とは言ってなかったよな」

「ははっ、古城の周りは相変わらず賑やかだね」

ユウマはそう言って笑った。

「……」

「霊斗は相変わらず面白いね」

そう言って苦笑すると、ユウマは自己紹介をした。

「初めまして、仙都木優麻です。よろしく」

そして古城に聞く。

「ところで、どうして霊斗は壊れてるんだい?」

「さあな。あ、そうだユウマ、どこか行きたい所とかあるか?」

「いや、古城達の行きたい所で良いよ」

そう答え、ユウマは霊斗を殴る。

「グボッ!?おぉ優麻!久し振りだな!」

「遅いよ霊斗。なに呆けてたんだい?」

「色々あってな……」

「霊斗の事だから女の子関係かな?」

「なんでわかるんだ!?」

「霊斗は昔から女の子より男の子に人気だったからね」

「まじかよ……」

「霊斗さんは昔、男の子に人気だったというのは本当ですか?」

「うん、そうだね。で、君は……?」

「霊斗さんの血の伴侶のアスタルテです」

「そうか、霊斗は吸血鬼だったんだよね……ってことは霊斗の彼女かな?」

「はい」

「どこまで行ったの?」

「霊斗さんがヘタレなのでまだキスくらいまでしか……」

「そうか、頑張れ!」

そんな話をしばらくしてから、絃神島を回ることにした一行だった。




優麻登場。
お気にいり、評価お願いいたします!
ではまた次回!


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蒼き魔女の迷宮編Ⅳ

うちの学校は明日で二学期が終わるです!
まぁ、休み中も部活なんですけどね……。
ということで本編をどうぞ。


古城達はとりあえずキーストーンゲートに向かうことにした。

移動方法は勿論霊斗の空間転移だ。

「便利だな、それ」

「この人数だと大分キツいけどな……」

「はは、お疲れ様霊斗」

「じゃあ、中に入りましょうか」

「古城、どこから回るんだ?」

「そこんとこは浅葱の方が詳しいだろ」

「まさかの丸投げ!?馬鹿にしてんのあんた!?」

「まあまあ、愛しい古城の為に頑張れよ」

「基樹、あんたは後で殺すわ」

その後、浅葱の提案で博物館を回り、矢瀬オススメのカフェに入った一行。

テーブルが空いていなかった為、高校生組と中学生組とリア充組で分かれて座る事になった。

「それにしても、なんなのよあの子……」

「なんだよ浅葱?嫉妬か?」

「はぁ……可愛いくせに異性を意識させない態度って……チートか!」

「お前が言うなお前が」

そこに料理を取りに行っていた古城が帰ってくる。

「ほら、取ってきたぞ」

「あれ?あの子は?」

「ユウマなら霊斗達の所だ」

 

 

 

霊斗達の席。

アスタルテは料理を取りに行った。

「なあ優麻。何しに来たんだ?」

「何って、霊斗達の話を聞きにね」

「帰れ」

「まったく霊斗は変わっちゃったなあ。昔はあんなに……」

「昔の話は止めろ」

「じゃあ今の話を聞かせてくれないかい?」

「……わかったよ、何が聞きたい?」

そう言いながら霊斗は紅茶を口に含む。

「吸血したのかな?」

「ゴハッ!?」

盛大に紅茶を床にぶちまける霊斗。

そこにアスタルテが帰ってくる。

「霊斗さん、なにをしてるんですか?」

「事情を聞いてくれ」

「とりあえず拭いてください。これ、ティッシュです」

「ああ、悪い……で、これは優麻が変なことを聞いてくるから……」

「別に、ボクは吸血したのかどうか聞いただけだよ?」

「霊斗さんは本当にヘタレですね」

「やめて!そんな蔑んだ目で俺を見ないでくれ!」

霊斗は悲痛な声を上げる。

「あははっ、霊斗は本当に弄り甲斐があるなぁ」

「あの、優麻さん」

「どうしたんだい?アスタルテちゃん」

「霊斗さんの昔の話を聞かせてください!」

アスタルテの目が輝いている。

「いいよ、何から話そうかな……」

「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「霊斗さん黙っていてください(ボゴッ)」

「ゴフッ(バタン――ガシャン!)」

アスタルテの腹パンが炸裂した。

霊斗が意識を無くし、倒れる。

しかし、何事もなかったかのように優麻の思い出話は続いた。

 

 

 

 

 

 

古城達の席。

「なにやってんだあいつら……」

「賑やかでいいんじゃないか?……おっと、電話だ。ちょっと出てくる」

「おう、いってら」

矢瀬は電話に出るために店を出ていった。

「基樹も大変ねー……」

「そうだな。リア充ってのも案外大変なのかもな」

「そうね……」

そこに、矢瀬が戻ってくる。

「ああ……わかった。すぐに向かう」

なにやら深刻そうな顔をして電話を切る矢瀬。

「どうしたんだ?」

古城がそう聞くと、基樹はいつもの表情に戻って答える。

「ああ、ちょいと野暮用でな。先に行くわ」

「そうか、頑張れよ」

「おう!じゃあな」

矢瀬はそう言って立ち去ろうとする。

「って待て!食った分は払ってけよ!」

「さらばだっ!」

「あ!こら待て!逃げんな‼」

古城が引き留めようとするも時すでに遅し。

矢瀬は高笑いしながら走り去っていった。

「くそー、あいつめ……」

そこで、浅葱のスマホが振動する。

このスマホの番号を知っているのは奴しかいない。

「ごめん、あたしも電話」

「ああ。わかった」

浅葱は店の外に出ると、通話ボタンをタップする。

「なによモグワイ?電話ってことは重要機密でしょ?」

『ああ、もう余裕がない。クラスⅢの特区防衛体制だ』

「クラスⅢ!?そんなのこの前の殲教師の時と同じ位のテロってこと!?」

『まだ原因は特定出来てないが、そんなわけでバイトの依頼だ。頼めるよな?』

「どうせ拒否権なんてないんでしょ。いいわ、すぐに向かうわ」

『助かるぜ、あと、霊斗の坊っちゃんにも警戒しろって伝えてくれ』

「わかったわ。じゃあ、霊斗の魔力を関知しないプログラムを起動しときなさいよ」

『もう起動してあるぜ』

「じゃあ、向かうから」

そう言って浅葱は通話を切る。

そして霊斗に要件を伝えると、浅葱はバイト先へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーストーンゲート、展望ホール。

「うわぁ~!絶景だね!夏音ちゃんもあっちで外見よ!」

「はい、行きたいでした」

凪沙達は窓辺に走り寄って、感嘆の声を上げる。

だが、雪菜は

「なんか、空中に浮かんでいるみたいですね」

「そっか、姫柊は高いとこ苦手なんだっけ?」

「違います!ガラスの強度が心配なだけです!」

そんな賑やかな雰囲気の中、霊斗だけは周りを警戒していた。

「霊斗?どうしたんだい?怖い顔をして」

「気にするな、眠いだけだ」

優麻が心配そうにこっちを見てくるが、適当に誤魔化す。

「アスタルテ」

「なんでしょう」

「クラスⅢの警戒体制だ。いつでも眷獣を出せるようにしておけ」

「わかりました」

その時、霊斗の携帯が振動する。

「誰だ?……はい、もしもし」

電話に出ると、相手は特区警備隊の職員だった。

内容をまとめると、那月が失踪し、事前に渡されていたメモに、霊斗に頼んで夏音を保護しろ、と書いてあったそうだ。

「了解した。……ああ、Cカードなら常に携帯してる」

その後、二言三言交わし電話を切る。

「ったく、面倒な事になったな……」

霊斗はそう呟き、溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

暁家。

古城達は島内を一周し、帰ってきたのは日没前ギリギリである。

夏音は雪菜とアスタルテが護衛についている。

「優麻、楽しかったか?」

「うん、絃神島は面白い所だったね。とくにあの喫茶店が面白かったよ」

「ああ、獄魔館か。あそこは俺の昔馴染みが働いてるんだ」

「へぇ、そうなんだ。霊斗は顔が広いんだね」

「そんなことないさ」

そこに凪沙の声が掛かる。

「霊斗君もユウちゃんもこっちで話そうよ!」

「ああ、今行く」

「ごめんよ、凪沙ちゃん」

そこで、古城が脱衣場から出てくる。

「おい、風呂空いたぞ」

「ああ、凪沙、優麻。先に行っていいか?」

「いいよー、ね、ユウちゃん」

「ああ、ゆっくりしてくると良いよ」

「悪いな」

霊斗はTシャツと短パン、バスタオルを持つと、脱衣場へ行く。

「に、してもなぜクラスⅢの警戒体制が敷かれているんだ?」

そんな事を考えながら風呂場のドアを開く。

すると中からはシャワーの音がしてくる。

霊斗はドアをくぐり抜ける。

一瞬目眩のような感覚がし、出たのは―――

「ん?シャワーの音?」

そこには、夏音とアスタルテ、雪菜がいた。

「「「……」」」

「……?」

霊斗の目はアスタルテに釘付けになる。

「あの、霊斗さん?ここ、私の家……ですよね?」

「おかしいな、俺は自宅の脱衣場から来たはずだが」

「困りましたね。お兄さんのお家と雪菜ちゃんのお家が繋がってしまいました……」

「霊斗さん、いつまで見てるんですか?」

「あ、すまん」

「霊斗さんは変態ですね」

「そう言うなよ、傷つくだろ」

四人で朗らかに笑い合う。

そして―――

「さらばだっ!」

「変態!変態ーっ!」

「若雷――!」

「みぎゃぁぉぁぉぉ!?」

霊斗は雪菜の技を食らい、脱衣場まで弾き飛ばされる。

「なにがどうなってんだ……」

最初に思い付いたのは空間制御。

しかし、自分が知っているのは那月だけだ。

他にここまで空間制御を使える人物を霊斗は知らない。

「どういうことだよ、那月ちゃん……」

霊斗はそう呟き、溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

夜。

霊斗は久し振りに自分のベッドで眠る事になった。

(……アスタルテの匂いがする……)

軽く変態である。

(しかし、どうなってるんだ……)

霊斗が考えていたのは今日の脱衣場での件だ。

(なぜあそこに空間制御のゲートが出来ていたんだ……?なにがおかしいんだ?なにかが引っ掛かる……)

改めて脱衣場からの事を思い出す。

まず、脱衣場は自宅の物だった。

その後、風呂場のドアを開いて、入る時に少し目眩のような感覚がした。

(ここで転移したのか……)

だが、そう考えるとなぜピンポイントであそこに跳んだのか。

(偶然か……にしても……)

霊斗の脳裏にアスタルテの裸体が浮かび上がる。

(まずっ!)

その瞬間、強烈な喉の渇きを覚える。

吸血衝動だ。

(くそっ!最近落ち着いてたのに!)

最近はあまり吸血衝動は無かったので油断していた。

しばらくすると、吸血衝動は収まった。

だが、次は猛烈な眠気と浮遊感に教われる。

(なんだ?なんでこんなに眠たいんだ……)

最後に霊斗が見たのは、霊斗の部屋のドアの前に立ち笑っている優麻と、その背後に浮かび上がる蒼い鎧の顔の無い騎士の姿だった。




ああ、疲れた。
お気にいり、評価お願いいたします!
ではまた次回!


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蒼き魔女の迷宮編Ⅴ

もう眠いよ……。
さあ、頑張って書きますよー!
では本編をどうぞ!


翌朝。

霊斗が目を覚ますと、そこはいつもの部屋ではなかった。

(あれ?昨日は自分の部屋で寝たような?)

おかしいと思い、首だけを横に向ける。

そこには夏音がいた。

(おかしい、おかしいぞ。なんで夏音がここにいるんだ?)

さらに反対側を向く。

雪菜が寝ていた。

(……あれ?)

よく見ると、ベッドも自分の物ではない。

そこから導き出される結論は――

「寝ている間に転移しちまったのか……」

霊斗は起き上がり、洗面所に向かう。

「雪菜には悪いけど洗面所借りるか。ってか声がいつもと違うか?」

そう呟きながら洗面所に行き、鏡をみる。

「あふ……眠……って、嘘だろぉ!?」

鏡の中には、驚いた表情のアスタルテがいた。

霊斗が腕を上げると、鏡のアスタルテも腕を上げる。

「入れ……変わってる……?」

何だか少し前から話題になっている映画の話みたいだ。

少し、胸を張ってみる。

「……少し成長してる……?」

変態みたいだが、パートナーの成長の確認は大事。

それで吸血鬼化の度合いが分かるからだ。

「背はあまり変わらないな……」

そこに、雪菜が来る。

「アスタルテさん、早いですね……あふ……」

(どうする!?)

霊斗は考える。

ここで雪菜に言うべきか、隠すべきか。

――とりあえず今は

「おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」

「はい、ぐっすりでしたよ……」

「それにしては眠そうだな……ですね」

「ええ、昨晩は結界を張るのに大分呪力を使ってしまったので……」

「……」

返答に困る霊斗。

ここでアスタルテだったらなんと言うか。

(なんて言う?お疲れ様です、か?いや、私達に頼んで下されば良かったのに、か?うぅ……いざとなると相手の事をわかってないってことがわかるな……)

そこで、雪菜がこちらを覗き込んできた。

「なんだかアスタルテさん、いつもと雰囲気が違いますね。まるで霊斗さんみたいな」

「ふぇ!?そんなことないと思いますよ!」

「そうですか……?」

「そうです!あ、私霊斗さんを起こして来ます!」

「あ、アスタルテさん!?」

霊斗はこれ以上面倒になるのは御免だと、古城の家に駆け込む。

「うわぁぁぁぁぁ!」

霊斗は自室に駆け込む。

「アスタルテ!起きろ!」

「むぅ……霊斗さん、女の子の部屋に勝手に入るのは……え?」

「起きたか……」

「え?私?なんで私が私の前に?」

「よく聞いてくれ。俺達、入れ変わってるみたいだ」

「……霊斗さん、私の身体に変なことしてないですよね?」

「ああ、してないぞ」

「本当ですか?」

「……鏡の前で少し胸を張ってみたりしました」

「死にたいんですか?」

「いや!成長してるからいいじゃん!」

「うぅ……ワンランクアップした胸を霊斗さんにいきなり押し付けてみようとしてましたのに……」

「お前、なんて恐ろしいことを……」

だが、次の瞬間

『なんじゃこりゃぁぁぁ!』

という優麻の悲鳴が聞こえてきた。

「なんだ!?」

「行きましょう!」

霊斗とアスタルテは声の方へ走った。

そこには、洗面所で床に座り込んでいる優麻――しかし、中身は古城のようだが――に遭遇した。




ちょっと「君の名は」ネタを入れてみました。
お気にいり、評価お願いいたします!
ではまた次回!


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蒼き魔女の迷宮編Ⅵ

いやー、もうすぐクリスマスですねぇ。
え?僕ですか?
やだなぁー、もちろんぼっちに決まってるじゃないですか。
というわけで本編をどうぞ!


古城、霊斗、アスタルテは雪菜の家に来ていた。

「それで、優麻さんの身体に先輩が。霊斗さんとアスタルテさんはそれぞれ入れ変わっている、と」

「流石姫柊。呑み込みが早いなぁ」

「にしても、古城はわからなくもないが、俺達はなんで入れ変わってるんだ?」

「わかりませんね……。とりあえず先輩達の家に行きましょう」

そんなわけで一行は古城達の家に行く。

そこには優麻の荷物は無かった。

「……凪沙はたぶん母さんの研究室だな」

「まあ、そんなとこだろ」

そこで、部屋の中を霊視していた雪菜がこちらを向く。

「大体はわかりました。優麻さんの正体も」

「ああ、俺も何となく察しがついてるが……」

「霊斗もわかってんのかよ……」

「私も分かったと思います」

そして、結論を雪菜が告げる。

「優麻さんの正体は魔女です。しかも、南宮先生と同じく空間制御に特化している」

「まじかよ……」

「ああ。そもそも真祖の肉体を奪える魔術は存在しない。となると、空間制御で神経を一本一本繋ぎ変えているんだろうな」

「じゃあ、霊斗なら戻せるんじゃないか?」

「いや、無理だな。俺は単純な演算しかできない。那月ちゃんなら戻せるかもしれないけどな」

「じゃあ那月ちゃんの所に……」

「那月ちゃんは失踪してるんだっつーの」

ことごとく提案を潰された古城は頭を抱える。

「どうしろってんだよ……」

「まずは優麻さんを探しましょう。話はそれからです」

雪菜のその提案で、一行は優麻を探す事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

矢瀬基樹は彩海学園の屋上でノートパソコンを弄っていた。

そこに、不細工な縫いぐるみのアバターが割り込んでくる。

「なんだよモグワイ。浅葱の所に居なくて良いのか?」

『ケケッ、嬢ちゃんなら寝ちまったぜ。流石の嬢ちゃんでも、絃神島全土をスキャンしながら最適なルートを導き出すプログラムを書くのは疲れたみたいだぜ』

「そんなもんをよく一晩で造れるな……」

『まあ、あの嬢ちゃんは''電子の女帝''だからな』

「まったく、浅葱には頭が上がらねぇな」

苦笑すると、矢瀬は作業を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

絃神島で最も高い場所、キーストーンゲートの屋上に二つの人影があった。

アッシュダウンの魔女、メイヤー姉妹だ。

二人は宙に浮かぶ魔導書をみて、高笑いしていた。

「流石は蒼の魔女。素晴らしい力ですわね、お姉さま」

「ええ、彼女は生まれながらの魔女。その才能は未知数ですわ」

周りには、瀕死の特区警備隊が倒れている。

そこに、新たな声が乱入してくる。

「フゥン……もう少し楽しめると思ったんだけど、期待外れだったネ」

そこに現れたのはディミトリエ・ヴァトラーだった。

その姿を見た瞬間、メイヤー姉妹は青ざめた。

「ディミトリエ・ヴァトラー!?なぜ貴族の吸血鬼が!」

「私達の計画を潰しにきたということですわね……」

そんな二人を冷ややかに見ると、ヴァトラーは眷獣を放った。

しかし、その攻撃が魔女達に届くことはなかった。

その間に入り込んだ人影があったからだ。

人影は腕を一振りすると、ヴァトラーの眷獣を弾き返した。

「古城……じゃないな。君は誰だい?」

「お初にお目にかかります。我が名は仙夜木優麻。書記(ノタリア)の魔女、仙夜木阿夜の娘にございます」

「そうか……書記の魔女。その力は彼女から継いだ物かな?」

「はい。ですのでもうしばらくお待ち頂ければ、面白い事になります」

「わかったよ、もうしばらく待ってあげよう」

ヴァトラーはそう言って、屋上の端に移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古城達はカフェにいた。

「……なあ、霊斗」

「……なんだよ」

「俺達、なんでケーキバイキングなんてしてんだろうな」

「お前は食うだけだろ。俺なんて、自分の身体がめっちゃ嬉しそうな顔でケーキをバクバク食ってるんだぞ」

「あー、うん、頑張れ」

そして、二人揃って溜息をつく。

「まったく、先輩達も心配性ですね。それくらいじゃ太りませんよ」

「「俺達が心配してんのはそこじゃねぇ!」」

二人して叫ぶ。

「大丈夫です。きっと優麻さんは先輩の身体に傷を付けたりしません」

「それはそうなんだが……」

「なあ雪菜、アスタルテはどこ行った?」

「アスタルテさんならトイレに……」

「オーマイガッ!」

「ど、どうしたんですか!?」

「なあ、雪菜。たしかこれ痛みやらなんやらは身体の持ち主にくるんだよな?」

「はい。ですから、霊斗さんの身体をきったら、アスタルテさんの身体に入っていようと、霊斗さんにダメージが行きます……ですが、なぜ今それを?」

「そ、それはだな……」

言えない。

(下半身になんかちょっとした刺激があるからなんて言えねぇ!)

しばらく我慢していると、アスタルテが戻ってきた。

「おい……なんか言うことはないのか?」

「……?」

「なんでそこで『は?』みたいな表情が出来るんだ!?」

「気持ち良かったですか?」

「ま、まあそれは……って違う!俺に謝れ!今すぐ!」

「ゴメンナサイモウシマセン」

「すげぇ棒読みだな……」

霊斗は疲れたようにテーブルに突っ伏す。

次の瞬間、強烈な魔力の波動を感じる一行。

「っ!行くぞ!」

「はい!」

「霊斗さんと叶瀬さんはこっちに!」

「わかりました!」

「俺もなのか!?」

「当たり前です」

アスタルテは振り替えって言う。

「彼方は私の血の伴侶なんですから」

霊斗は、一瞬驚いたが、苦笑して言い返す。

「なら精々守ってくれよ、''ご主人様''」

「任せてください」

そして霊斗達は、魔力の下へと走り出した。




今回みたいに、たまにネタを入れていきます。
お気にいり、評価お願いいたします!
ではまた次回!


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蒼き魔女の迷宮編Ⅶ

さあ書いていきます。



古城達が外に出ると、周りの人々はキーストーンゲートを見ていた。

そこには、斑模様の不気味な触手が蠢いていた。

「なんだあれ!」

「悪魔の眷属だ。くそッ、よりによってこの状況で魔女の相手かよ!」

「それだけではありません。あの魔力は先輩の魔力と同じ物です」

「ってことは……」

「優麻か!」

キーストーンゲートへ向かって走り出そうとする一行。

しかし、その前に黒いローブを被った影が複数現れた。

「なんだこいつら!」

「わかりませんが、恐らく私達の足止めが目的です!」

「霊斗さん、下がっていてください」

「ああ、夏音!こっちにこい!」

「はい!」

霊斗は夏音をかばいながら後ろに下がる。

そして、雪菜が雪霞狼を構えて攻撃しようとするが――

「ほあちゃー!」

そこに奇声を上げて飛び込み、敵を蹴り倒した人物がいた。

「よー、教え子達。無事かー?」

「さ、笹崎先生!?」

その人――笹崎岬は、敵を倒しつつ言う。

「大体の事情はわかってる。叶瀬は任せて行きな!」

「ありがとうございます!」

雪菜が頭を下げ、一斉に走り出す。

「行くぞ!」

「まて古城、こっちだ!」

霊斗は浅葱のプログラムしたアプリを使って、最短ルートを導き出す。

「わかった!」

「次はどっちにいきますか?」

「そこの路地を右!」

そして、しばらく転移を繰り返すと、キーストーンゲートの屋上に出た。

そこには優麻と魔女が二人、そして

「なんでテメェがここにいる?ホモ野郎」

「いきなり厳しいね、霊斗」

「黙れ、失せろ」

霊斗がそう言うと、巨大な火球がヴァトラーを吹き飛ばした 。

「霊くーん、無事ー?って……」

その攻撃を放った人物、天音が現るが、霊斗の姿を見て絶句する。

そして

「なんじゃこりゃぁぁぁ!?」

絶叫した。

「うるさい、落ち着け」

「落ち着いてられるわけないでしょ!霊君、アスタルテちゃんの身体に変なことしてないでしょうね……?」

「してない。むしろ俺の身体が被害にあった」

そこに空間転移でラ・フォリアと紗矢華が現れる。

「雪菜!暁古城!無事!?」

「あ、紗矢華さん……」

「雪菜!無事ね!暁古城は?」

「俺はここだ」

「え?女?」

「はい。あっちのは別人です」

「それはそうでしょう。古城はもっとだらしない表情をしています」

「それ酷くないか!?」

「……ってことは、今はこれが暁古城?」

「スルーかよ……まあ、そうだな」

古城の返答を聞いた紗矢華が硬直する。

そして

「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁ!?」

絶叫した。

そこに、古城の身体に入った優麻が近付いてくる。

「古城の周りは本当に賑やかだね」

「ユウマ……」

「だけど、ボクはここでさよならだ」

「なっ!?どういうことだよ!」

「もうここに用はないって事さ」

その視線の先には、蜃気楼のように浮かぶ岩の島が出現していた。

「ありがとう古城。君のおかげで傍題な魔力を手に入れ、あの島を探し出せた」

「まてユウマ!なんなんだあの島は!」

「監獄結界だ……」

優麻の代わりに霊斗が答える。

「監獄……結界?」

「そう、あれは普通の刑務所で捕まえて置けない、強力な魔導犯罪者を捕獲しておく場所だ」

「なんでお前がそんなものを……」

「なんでかって?……古城に免じて教えてあげるよ」

「あれ?俺は?」

「あの監獄結界には、ボクの母さまが捕まっているんだ」

「ユウマの母親?」

「そうか!仙夜木……仙夜木阿夜!」

「霊斗は知っていたんだね。そうだよ、ボクは仙夜木阿夜の娘さ」

「それで、その母親を助け出すのが、優麻さんと悪魔の契約なんですね……」

「そういうことさ。じゃあ、ボクは行くよ」

そう言って優麻は空間転移で姿を消した。

「クソッ!どうすりゃいいんだ!?」

そう叫ぶ古城に後ろから声がした。

「うるさいですわよ、''元''第四真祖」

「本当にうるさい。黙らないとその内臓を引摺り出しますわよ?」

そこで、霊斗がキレた。

「……どいつもこいつも……」

「霊斗さん?」

「おい、霊斗?」

霊斗が叫んだ。

「うるっせぇんだよ!特にそこのババァ二人!」

「ばっ!?ババァですって!?」

「キイーッ!許せませんわ!消炭にして差し上げますわ!」

魔女二人が炎を放つ。

「――天照。降臨しろ」

霊斗のひと言は、霊斗の本体から聞こえた。

「悪いが、俺とアスタルテの接続ぐらいなら外せるんだよ」

「「なっ!?」」

魔女二人が恐怖に顔を歪める。

そこに、霊斗の無慈悲な攻撃が打ち込まれる。

「天照、''火焔剣・強断斬''」

天照の炎が剣となり、魔女二人を焼く。

「「ぎゃぁぁぁぁ!」」

二人は黒焦げになって倒れる。

「行くぞ」

霊斗が言う。

その姿はいつもの霊斗ではなかった。

そう。

本気を出した第五真祖の姿だった。

「霊斗、賢生の空間転移がありますが……」

ラ・フォリアが告げるが

「必要ない。賢生さん、魔術でラ・フォリア達を守ってもらえますか」

「任せてくれ、気を付けて」

「ああ。古城、雪菜、アスタルテ――跳ぶぞ」

霊斗はそう言うと、空間転移を使った。




霊斗の本気が炸裂します。
お気にいり、評価お願いいたします。
ではまた次回!


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蒼き魔女の迷宮編Ⅷ

ああ、明日は忌まわしきクリスマスイブですね……。
さて、書いていきます。
では本編をどうぞ。


優麻は監獄結界の前に立っていた。

「もう……後戻りはできないな……」

優麻はそう言って目を伏せた。

しかし、背後から声がした。

「ったく、何を諦めてんだか」

「霊斗か……。今更何をしに来たんだい?」

「親友を止めに来たに決まってんだろ?他に何かあるか?」

「古城も、姫柊さんも、アスタルテちゃんも同じかい?」

「当たり前だ。それに、身体も返してもらわないとな」

「知り合ったのはまだ最近ですけど、先輩や霊斗さんの親友は私の親友も同然です!」

「数時間ですが、霊斗さんの身体を好きにする時間を貰った恩は忘れません。そんな恩人に犯罪者になってほしくありません」

「……そうか。こんなボクの事を親友と言ってくれるなんて嬉しいよ。でも、ボクはどうしても母さまを助け出さないといけないんだ!だってそれが――」

「それが悪魔との契約だから、か?」

「ッ!」

「悪いけどな、俺達が暮らしてんのは''魔族特区''だぜ?しかも担任は魔女だぜ?」

「そうか……南宮那月――空隙の魔女か……」

「ああ、古城なんて毎日のように殴られているからな」

「話を遮るようで悪いけど、ボクはそんな話をしに来たんじゃない。母さまを助け出すためにここに来たんだ!」

「監獄結界を開けるのか?」

「そうだ!だから……そこを退いてくれ!」

「駄目だ。監獄結界を……開かせるわけにはいかない」

「だったら……力ずくで‼」

優麻が空間制御のゲートを開き、そこから雷光の獅子が出現する。

「そんな!先輩の眷獣!?」

「空間制御の応用です!」

それは、一瞬だけ獅子の形を造ると、監獄結界を貫く。

そして、未だ実体化していなかった監獄結界が許容範囲を超えた攻撃によって無理矢理実体化する。

「がはっ!」

「ぐっ……ボクの(ル・ブルー)でも制御しきれないか……」

「優麻!霊斗!」

そして、その攻撃の余波は術者の優麻と一番近くにいた霊斗を吹き飛ばした。

「だけど――無茶をした甲斐があったみたいだ」

その監獄結界の中には霊斗達のよく知る人物がいた。

「……那月ちゃん……?」

「なんで……こんなところに……」

「霊斗さん、何か知っているんですか?」

「ああ、昔に一度だけ見たことがあったからな……」

「へぇ……意外だったな。霊斗が知っていたなんて……」

「そりゃあ知ってるさ。昔関わった事件の犯人をぶちこんだ場所だ。忘れるわけがない」

「じゃあ、空隙の魔女の役割も知っているね?」

「ああ。''監獄結界の鍵''だろ?」

「そうだ。だから彼女を殺せば監獄結界は開放される」

優麻がそう言って結界の中に転移する。

が、

「俺の方が一足早いな」

霊斗が那月を抱えて数メートル離れた場所にいた。

「なっ!?いつのまに!?」

「空間のゲートを二つ同時に開いただけだ」

「なら!蒼!」

顔の無い騎士が霊斗に向かって剣を降り下ろす。

「遅い」

しかし、剣は霊斗に当たらなかった。

霊斗は優麻の背後に空間転移し、氷牙狼を構える。

時間切れ(ゲームオーバー)だ」

霊斗のひと言と共に放たれた槍は、優麻の――古城の肉体の心臓の横を深々と貫いた。

 

 

 

 

数分後。

古城は全身を引き裂かれるような痛みと共に目を覚ました。

「ぐあっ!……痛ぇ……」

「目は覚めましたか?先輩」

「姫柊……」

「元の身体に戻れて良かったですね」

「そうだな。ところで姫柊、血は……」

「駄目です」

「デスヨネー……っとそうだ!ユウマは!?」

「ここだよ、古城」

古城の背後から声がした。

そこには霊斗に支えられて起き上がった優麻の姿が。

霊斗が迅速に終わらせたので傷もそんなにないようだ。

さらに

「終わったか?まったく、手間を掛させてくれるな」

南宮那月が立っていた。

「那月ちゃん!?」

「いや、那月ちゃんは寝たふりしてただけでしょうが」

「おはようございます、南宮先生」

「那月ちゃん先生、おはようございます」

「アスタルテ……ついにお前まで私を那月ちゃんと呼ぶようになったか……」

那月は頬をひきつらせながら言う。

そして、優麻に向き直り問う。

「さて、阿夜の娘。まだやるか?」

「いや、もうやめておくよ。蒼もボロボロだ」

優麻がそう言って悪魔――守護者を喚び出す。

顔の無い騎士の鎧はひび割れ、とても戦える状態ではない。

「そうか……」

那月は首肯く。

すべてが終わった。

皆がそう思ったその時だった。

「蒼?」

優麻の守護者の実体化が解けなくなっていた。

そして、守護者は笑いだした。

「蒼!?やめろ――!」

優麻が止めるも、その剣は()()()()()貫いた。

「母さま……あなたはそこまで……」

優麻が口から血塊を吐く。

さらに

「くそ……油断した……」

「ブービートラップか……阿夜め……」

霊斗と那月も血を吐いた。

「優麻?霊斗?那月ちゃん?なにが……」

古城にはなにが起きているのか理解できなかった。

そして、ゆっくりと理解し、現実を再認識した。

次の瞬間、古城の口からでたのは絶叫だった。

「うあぁぁぁぁぁぁ!」

監獄結界の中に血の匂いが充満していく。

 

蒼き魔女の迷宮編・完。




次はクリスマスのオリジナル話を投稿して、年末までお休みします。その後に年末年始編を書いてから、観測者の宴編に入ります。
お気にいり、評価お願いいたします。
ではまた次回!


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日常編Ⅱ~クリスマス編~
霊斗の日常~クリスマス編・前編~


今回の話は、邪神を倒した後だと思って読んでください。
では本編をどうぞ。


十二月二十四日。

世間で言うクリスマスイブである。

そんなある日、霊斗は視線を感じて目を覚ました。

「ん……なんだ?また邪神か……?」

寝ぼけているのか、かなりヤバめな発言をしている。

「誰が邪神ですか。起きてください、朝ですよ」

「ああ……アスタルテか……おはよう」

「おはようございます。今日はなんの日だか覚えていますか?」

「ああ、覚えてる」

まだ半分ほど目を閉じたままで霊斗は答える。

そんな霊斗を訝しげに見て、アスタルテが聞く。

「じゃあ、なんの日だか言ってみてください」

「おー、いいぞー。今日は休みの日だ」

「……覚えて無いんですね……?」

「冗談!冗談だから!ちゃんと覚えてる!クリスマスイブだから皆で出掛ける!」

「チッ、覚えてましたか……」

「なんで残念そうなんだよ!?」

「いえ、別に」

「……ならいいけどな。じゃあ、着替えるから先にリビングに行っててくれ」

霊斗はそう言って着ていたTシャツに手を掛ける。

が、そこで動きが止まる。

「なあ、なんでアスタルテが俺の服を掴んでるんだ?」

「主人の着替えを手伝うのが妻の役目です」

「確かにお前は血の伴侶だけどまだ結婚してないからな!?」

「まだ?じゃあ今後結婚しようとは思っていると捉えてよろしいですか?」

「そ、それは……」

「それは?」

「……ああ!そうだ!アスタルテ、行きたい所決めとけよ?じゃあ後でな!」

霊斗はそう言ってアスタルテを部屋から追い出した。

背後でドアが閉まる音を聞きながら不満気にアスタルテが呟く。

「なんでそういうことをちゃんと言ってくれないんですか……」

そのドアの反対側では、霊斗が顔を真っ赤にして呟いた。

「そんなこと……言えるわけ無いだろ……」

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

古城はモノレールに乗っていた。

「なあ霊斗」

「なんだ?」

「お前らが一緒に出掛けるのはわかるんだけどさ……」

「なにも不自然じゃないよな?」

「なんで俺と姫柊まで一緒に行かなきゃなんねーんだよ!?」

「いやいや、これを期に二人の仲をもっと良くしようと思ってな。雪菜も監視対象の事はもっと知りたいだろ?」

「そ、そうですね」

「ほらな?ま、諦めろ。それが運命だったんだ」

「……勘弁してくれ……」

「今更そんな事言っても遅いぞ。っと、着いたぞ」

「行きましょうか」

「ほら、先輩もぼさっとしてないでください。置いていきますよ?」

「へいへい……」

四人はモノレールを降りると、目的地のショッピングモールに入った。

「そういえば、俺と姫柊が始めて会ったのもこのショッピングモールだったか?」

「そうですね。先輩が急にゲームセンターに入っていってしまった時はどうしようかと思いましたよ……」

「あー……すまん」

「いえ、私も同じ立場だったらそうしたと思いますから」

二人はそんな話をしていて、周りから見たら完全にカップルである。

「さて、古城達はほっといていくか」

「はい。じゃあ、まず食事に行きましょう」

「え?」

「え?」

「いや、さっき朝飯食ったばっかりだよな?」

「十時のおやつです」

「食いしん坊か!あと二時間くらい我慢しろ!」

「わかりました。じゃあ霊斗さんの服を買いに行きましょう」

「え?俺の服?」

「はい。だって霊斗さん、いつも白のTシャツに黒のパーカーじゃないですか」

「うっ……」

「私にはメイド服がどうとか言ってましたよね?」

「ぐっ……」

「なので、行きましょう。私がコーディネートしてあげます」

「そんなぁ……これ気に入ってんのに……」

「あと、髪の毛。昔のに戻しましょう」

「と、言いますと?」

「その一房の銀髪。昔の写真は赤でしたよね?」

「うっ!?」

「いい加減戻しましょう。優麻さんが来てあの写真を見たときから思ってたんですけど、あっちの方が格好いいです」

「うぅ……。わかったよ……」

「じゃあ行きますよ」

アスタルテに引っ張られて行く霊斗であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

「戻したよ……」

「やっぱりそっちの方がいいです」

「はぁ……まあ、アスタルテがそう言うならいいか……」

「次は服ですね」

「ああ……って、服も俺が払うのか?」

「私はお金無いです」

「まあいいけどさぁ……じゃあ、アスタルテも新しい服買うか」

「いいんですか?」

「いいよ。アスタルテは俺がコーディネートしてやる」

「じゃあお願いします」

「ああ。……あと、年末年始なんだけどさ」

「はい。なんですか?」

「んっと……その……本土に行ってみないか?」

「本土ですか?行きたいですけど……検疫が……」

「大丈夫だ。獅子王機関のコネで飛行機動かすから」

「じゃあ行きましょう!楽しみです!」

はしゃぐアスタルテを見て、誘って良かったと思う霊斗であった。

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

暁家。

あの後、霊斗とアスタルテは普段着と冬物の服を何着か買い、古城達と合流し帰ってきた。

そのままの流れでクリスマスパーティーをやることになった。

古城が浅葱や矢瀬に連絡をし、二人が来るとパーティーが盛大に始まった。

「うっしゃー!食うぜぇー!」

「矢瀬、うるさいぞ」

「そうよ基樹。静かにしなさい」

「なんだよ!夫婦して俺を責めるのかよ!」

「「誰が夫婦だ!」」

「アスタルテ、お前良く食うな……」

「(もぐもぐ)まだ足りないです。あと十人前は行けます(むしゃむしゃ)」

「ああっ!?いつの間にか大皿が空に!?」

「む……私も負けてられないわね……」

「やめろ!浅葱まで本気を出したらいくら俺の財布でももたないぞ!」

霊斗のそんな叫びも虚しく、皿の料理がどんどん減っていく。

「ちょ!?お前ら待て!俺らの分も取っとけよ!」

最終的に霊斗、アスタルテ、浅葱の対決になり、暁家の食材はその晩でほぼなくなったと言う。




はい。今回はここまでです。
明日はクリスマス当日編なのでお楽しみに。
お気にいり、評価お願いいたします。
ではまた次回!


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霊斗の日常~クリスマス編・後編~

昨日の続きです。
クリスマス当日の話になります。
では本編をどうぞ。


十二月二十五日。

霊斗は昔からその日が嫌いだった。

いや、正確には苦手だった。

街中がリア充で一杯になり、一人で出歩くと周りから哀れみの目を向けられる。

毎年そうだった。

(そのたびに自分は神に呪われた存在だから仕方ないと言い聞かせてきたもんだが……)

しかし、今年は違った。

「霊斗さん、考え事ですか?」

「あ、ああ。どこに行こうかと思ってな」

今年は一人では無かった。

(まさか自分がリア充側の仲間入りをすることになるとは……)

アスタルテが隣にいるのだ。

「それで、どこに行きますか?」

「そうだな……ブルエリ行くか」

「え?まだプレオープン期間なのでは?」

「中に入れる魔法の呪文があるんだ」

「???」

ブルーエリジアム。

先日、色々あって世界最強の魔獣を撃退したばかりだ。

そこにモノレールで移動する。

夕方なので、モノレールは少し混んでいたが、この後はもっと混むだろう。

「よし、行くか」

「はい」

霊斗達は入場ゲートに向かう。

「二人だ」

「チケットはございますか?」

「あ、矢瀬基樹を呼んでください」

「承知しました」

受付がどこかに連絡すると、しばらくして矢瀬がやって来た。

「よう基樹。中に入れてくれ」

「霊斗!?いや、入れてくれっていわれてもな……」

「じゃあ古城にばらすか」

「え?」

「お前が古城のことを監視してるって事だよ」

「わかった!入れてやるから!ってか気付いてたのかよ!?」

「そうだな。オイスタッハの事件の後、獅子王機関の式神に報告してただろ?」

「だいぶ昔だな!」

「ま、いいや。これで入って大丈夫だよな」

「ああ。まあ、後は好きに遊んでくれ」

「言われなくてもそうするさ」

霊斗が言うと、矢瀬はふて腐れたような表情で去っていった。

「さて、アスタルテ。どこに行きたい?この前はバイトに来たようなもんだからな」

「じゃあ、ジェットコースターに乗りましょう」

「え……あ、ああ。いいぞ」

霊斗はアスタルテを連れてジェットコースターへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぷっ……気持ち悪い……」

「大丈夫ですか?」

「少し休めば……」

「それにしても意外でした。霊斗さんが絶叫系苦手だったなんて」

「昔、ジェットコースターに乗りすぎて〇〇してな……」

「うわぁ……トラウマ物ですね……」

「全くだ」

しばらく休み、次に霊斗達が来たのは観覧車だ。

「…………」

「霊斗さん、真っ青ですけど大丈夫ですか?」

「だ、だだ、だいじょばない……」

ガタガタ震える霊斗を引っ張って観覧車に乗るアスタルテ。

観覧車が動き出した瞬間に硬直する霊斗。

「霊斗さん、大丈夫ですから、外見てください。いい景色ですよ」

「お、おう。イイケシキ……」

ロボットのようにぎこちなく動く霊斗。

「むぅ……つまらないですね……(ぎゅむっ)」

「はぅあっ!?な、何を!?」

「見てわからないんですか?」

アスタルテは霊斗に正面から抱きついた。

「ほら、大丈夫ですから。私がついてます」

「アスタルテ……」

霊斗はアスタルテを抱き寄せる。

「アスタルテ、ずっと俺のそばにいてくれるか?」

「勿論です。だって私は第五真祖の……いえ、霊斗さんの血の伴侶なんですから」

「そうか……じゃあ、俺とアスタルテは今この時から婚約者だ」

「はい……指輪、買ってくださいね?」

「あまり高いのじゃなきゃな」

「それでもいいです。所で霊斗さん、もうすぐ頂上ですけど」

そこからは夕暮れの絃神島が。

「うん?頂上?ああ……なんか平気だ。絃神島が一望出来るんだな……」

「そうですね……。こうしてみると、面白い島ですよね」

「ああ……。アスタルテ……聞きたい事があるんだが……」

「なんですか?」

「俺は……いや、俺と古城はこの島を自分達の領地にするべきなのかな……」

「……そんなのわかりませんよ。いつか、支配したい、する覚悟ができた時に決めればいいと思います」

「そうか……そうだよな。その時に決めよう」

「はい。あ、もうすぐ下に着きます」

霊斗とアスタルテは観覧車を降り、出口に向かう。

「もう帰るんですか?」

「なに言ってんだ。指輪。買いにいくんだろ?」

霊斗がそう言うと、アスタルテは瞳を輝かせて抱きついてくる。

「霊斗さん!大好きです!」

「ちょ!?アスタルテ!待って!めっちゃ人が見てるから!」

「嫌です!離しません!」

「頼むから!帰ったらいくらでも一緒にいてやるから!」

「絶対ですよ?」

「あ、ああ(やべー、自爆した……)」

「うふふ……楽しみです」

「よ、よし。じゃあ行くか!」

霊斗はアスタルテを連れてモノレールに乗る。

しばらくして降りると、絃神島中央部にある指輪店に入る。

「どれにする?」

「うーん……あっ!これがいいです!」

アスタルテが選んだのは、サファイアの付いた指輪だった。

「お、いいんじゃないか?さて値段は……ひゃ、百三十一万!?これを二つだと……二百六十二万……」

「だめですか……?」

「いや!駄目じゃない!買うぞ!すいません!これ二つください‼」

「お買い上げありがとうございます。包装等いかがしますか?」

「あ、箱だけでいいです。もう付けてっちゃうんで」

「かしこまりました。……二つで二百六十二万円になります」

「あ、クレジットカードでお願いします」

「ありがとうございます」

霊斗は買った指輪をそのままアスタルテの指に嵌めてやる。

「ふふっ……ありがとうございます」

「じゃあ、帰るか」

「はい」

霊斗達はモノレールに乗って帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

結局アスタルテが寝るまでずっと抱きつかれていた霊斗。

すっかり寝入ってしまったアスタルテをベッドに寝かせてリビングに戻る霊斗。

「お、霊斗。やっと解放されたか」

「なんだ、古城も寝れねぇのか?」

「まあな……で、その指輪どうしたんだ?」

「買ったんだよ。高かったんだからな」

「アスタルテとペアでか?まるで婚約者だな」

「!?貴様いまなんと言った?」

「え?婚約者みたいだなって」

「誰から聞いた。俺とアスタルテが婚約したって……矢瀬か?」

「なに言って……ってマジで婚約したの?」

「え?もしかして適当に言った?」

「ああ」

「……(墓穴掘った……)」

「その……なんだ。幸せにな」

「うぅ……頑張るよ……」

「ところで、それってサファイアか?」

「ああ。そうだが」

「サファイアか……確か、「誠実」「慈愛」だったか?あと一途な想いを貫くだとかなんとか聞いた覚えが……」

「その手の話題だと、浅葱じゃないか?」

「ああ、そうだ。あいつにピアス買わされた時に聞いたんだ」

「そうか、浅葱は本当に記憶力とかいいからな」

「そうだな……ふぁ……もう寝るわ、おやすみ」

「ああ。おやすみ」

古城は自室へ戻っていった。

霊斗は自分の手の指輪を見つめ、呟いた。

「一途な想いを貫く……か」

自分にはぴったりだと思いながら、霊斗は眠りについた。

これはとある吸血鬼のクリスマスの物語。

真祖とその伴侶の愛の物語だ。




ってなわけで年末までおやすみです。
お気にいり、評価お願いいたします。
ではまた次回!


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年末年始編
霊斗の年末~未来編~


お久しぶりです。
いやー、もう今年も終わりですね!
と、いうわけで年末編書いていきます!
では本編をどうぞ。


暁の帝国、暁霊斗宅。

そこでは、年末の大掃除が行われていた。

「霊斗さん!そっちの窓拭いてください!」

「おう!って、雑巾どこだ!?」

「あ、こっちで使ってました」

「1枚くれ」

「投げますよ~……それっ!」

「(べちっ)……なんか言うことないか?」

「……テヘッ(o≧▽゜)o」

「顔文字に悪意を感じる」

「悪意しかありません」

「やっぱりか……」

霊斗は溜息をついて窓を拭き始める。

「所で、美霊はどこに行ったんだ?」

「あの子は零菜ちゃんの所で年越すって出掛けていきましたよ」

「若いっていいなぁ……」

「あなたが言いますか」

「……まあ、何でも良いけどな」

そう言って霊斗は床に座り込んだ。

「あー、疲れた……」

「もう夕方ですか……そろそろかたづけて夕飯にしましょうか」

「じゃあ、俺が片付けとくよ」

「お願いします」

霊斗は掃除の道具を片付けてクローゼット(掃除用具専用)にしまう。

その後、洗濯機に雑巾を投げ込み、スイッチを入れると、リビングに戻った。

すると、アスタルテがカップ蕎麦を持ってキッチンから出てきた。

「カップ麺か」

「疲れてしまったので……」

「いや、たまには良いだろ」

そう言って霊斗は椅子に座る。

「そろそろ三分です」

「よし、いただきます」

「いただきます」

二人揃って蕎麦を食べる。

「あつっ……」

「おいしいです」

「そうか……にしても、もう一年も終わりか……」

「そうですね。早い気がします」

「そう言えば、何年か前の大晦日は凪沙から魔方陣の写真が来て、古城がパニクってたな」

「霊斗さんも人の事言えないと思いますけど……」

「……あ、明日はいろんな所に挨拶に行かないとな!特に那月ちゃんのとこ!」

「他の皆さんは古城さんの家に集まるそうです」

「そ、そうか!回る手間が省けていいな!」

「そうですね……ごちそうさまでした」

「ごっそーさん」

「では、片付けておきますね」

「おう、よろしく」

霊斗はソファーに座るとテレビをつける。

すると、笑ったら罰ゲームを受けるという番組がやっていた。

「この人達も大変ですよね、毎年」

「まあ、変わりに視聴率はそれなりにあるんじゃないか?」

「そうですね、ではチャンネル変えますね」

「ああ」

チャンネルを変えると、調度歌番組がはじまった所だった。

「今年はどっちが勝つんだろうな」

「私は白だと思います」

「なら俺は赤に入れておこう」

そんな会話をしながらテレビを見ていると、チャイムが鳴った。

「誰でしょう?」

「……俺が行く」

霊斗が玄関のドアを開けると、そこには矢瀬が立っていた。

「管理公社の上級理事が何のようだ?」

「そう邪険にすんなよ、大晦日のプレゼントだ」

矢瀬はそう言うと袋を渡してきた。

「なんだこれ……?」

「ちょっと高めの海老だぜ。嫁さんに料理してもらえよ」

「いいのか?」

「いいから持ってきたんだろ。じゃ、良いお年をな」

「ああ、そっちこそ」

霊斗はリビングに戻り、アスタルテに矢瀬が海老を持ってきた事を伝える。

「じゃあ明日は腕によりをかけて料理しますね」

「それは楽しみだな」

 

 

 

数時間後。

「……(うとうと)」

「アスタルテ、眠いのか?」

「っ!ね、眠くなんかないです!」

「そうか、無理すんなよ」

テレビの中ではすでにカウントダウンが始まろうとしていた。

『十秒前!』

今年もいろいろな事があった。

『九!』

でも、やっぱり

『八!』

最後は

『七!』

最後に願うのは

『六!』

隣で眠そうにしながらカウントダウンしている

『五!』

アスタルテと

『四!』

来年もまた

『三!』

一緒に

『二!』

ずっと一緒に

『一!』




今回はここまでです。
続きは明日ですね。
ではまた次回!


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霊斗の正月

あけましておめでとうございます。
昨日の続きです。
では本編をどうぞ。


「(ボソッ)また、一緒に……」

『零!あけましておめでとうー!』

「ハッピーニューイヤー、です」

「ああ。あけましておめでとう」

「今年もよろしくお願いします」

「今年も、来年も、ずっとだ」

「ふふっ、そうですね。霊斗さん、大好きで―――」

「?アスタルテ?」

「すー……すー……」

「寝ちまったか……こんなに吸血鬼っぽくない吸血鬼もなかなかいないよな……」

ぐっすりと眠ってしまったアスタルテを見て苦笑する霊斗。

「ずっと一緒だ……何十年も、何百年も、何千年だって」

そう言って霊斗は目を閉じた。

その隣では、こっそりと目を開いたアスタルテが霊斗の寝顔を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

午前六時。

霊斗が目覚めると、アスタルテが霊斗に馬乗りになっていた。

「……えっ……とぉ……」

「おはようございます。もう朝です」

「あ、うん、それはわかるんだけどな」

「じゃあ、何がわからないんですか?」

「なんでアスタルテが俺に馬乗りになっているのか」

「二人目」

「はい?」

「二人目の子が欲しいです」

「ぶほっ!げほごほっ!?#$%&@?¥<>+!!!」

「霊斗さん、日本語でお願いします」

「し、新年そうそうなに言ってんだ!」

「純粋な望みです」

「うー……この件は一端保留な!早く古城達の所行くぞ!」

「では、向こうに着いてからゆっくり話合いましょう」

「向こう!?なんで皆の前で新年そうそう子作りについて話合うの!?嫌だよ‼しかも向こうって、下の階だよ!行くぞ!」

 

 

 

吸血鬼移動中……

 

 

 

暁古城宅。

「「「「「「「「ハッピーニューイヤー!」」」」」」」」

全員で言う。

「ってか、集まったの結局こんだけか」

集まったメンバーは古城、雪菜、浅葱、霊斗、アスタルテ、零菜、萌葱、美霊だった。

「残りのメンバー(古城嫁)は?」

「()に悪意しか見えない。あいつらは仕事だとよ」

「年始めだってのに大変だな……」

「そうですね、では霊斗さん、話し合いましょう」

「本当にやるの!?」

「えっ?ヤるんですか?」

「やめろ!俺の家で危険な話をするな!」

「あんた達ねぇ……子供もいんのよ?」

「自重してくださいね?」

「「「ってか子供扱いすんな!」」」

そこで美霊が言う。

「うーん……私は兄弟とかがいても……いいかな……」

「おいバカやめろぉぉぉぉ!」

「霊斗さん、話し合いは不要です。家族会議の結果、もう一人作ると言うことで」

「嫌だ!絶対やだぁぁぁ@%$&/&¥?#;%]\-/\]」

「霊斗、日本語」

「俺は拒否する!」

「だが断る」

「意見の尊重ぅぅぅぅぅぅ!」

「霊斗、諦めなさい。この子達はマジよ」

「霊斗さん、頑張ってくださいね?」

「浅葱ぃ!雪菜ぁ!見捨てないでくれぇ!」

「霊斗……」

「古城!help!」

「頑張れq(^-^q)」

「……ぃ……」

「い?」

「嫌だァァァァァァァァァァァァ‼」

玄関に向かってダッシュする霊斗。

しかし

「お父さん、なんで逃げるの?」

「可愛らしく聞きながら頭蓋を握り潰そうとするなぁぁぁあぎゃぁあいだいだいだい!?」

「「裏切りものには、死を」」

「増えた!?増えたよね!?いま人数増えたよね!?」

「霊斗さんが観念してくれないのがいけないんです(メキッ)」

「いでででで!いま割れた!割れたよ!?」

「観念してください」

「わかった!わかったから!解放して!」

「わかりました」

満足そうな顔をして霊斗を解放するアスタルテ。

頭蓋を矯正する霊斗に浅葱が言う。

「ほんと、あんた達って何年経っても仲良いわよね」

「今のが仲良くみえたのか、眼科の受診をおすすめするぞ」

「ただの皮肉よ」

「なおさらたちが悪い」

「まあ、仲悪くはないな」

「古城のとこはどうなんだよ」

「ん?皆仲いいぞ」

「皆?ああ、古城のとこはハーレムだったなw」

「なんか言い方が引っ掛かるが……まあ、新年楽しく過ごすのが一番だ」

「俺だって好きで騒がしくしたわけじゃない」

霊斗がそう言って古城を小突く。

「なんだよ」

「まあ、なんだ。いつまで経っても古城は古城だなって」

「なんだそれ」

古城と霊斗は久しぶりに笑いあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

自宅に帰った霊斗はベランダで一人佇んでいた。

「新年そうそうひどい目にあった……」

溜息をつく。

「大体子供って……あいつが大変なだけじゃんか……」

すると、独り言に反応した者がいた。

「なに?お母さんの事が心配だから渋ってたんだぁ」

「美霊か……盗み聞きは感心しないぞ」

「んー?別にいいじゃん」

「はぁ……で、どこから聞いてたんだ?」

「新年そうそうひどい目にあった、の所から」

「全部じゃねぇか!」

「で、最初の疑問に戻るけど、お母さんが心配?」

「それはな……あいつ、小柄だろ?お前を産むときも大変だったんだ……」

「そうなんだ……」

「……まあ、なんだ。俺としては、お前さえ無事に育ってくれたらいいかなって……」

「そう……今の録音しといたから、お母さんに聞かせるね」

そう言って空間転移で消える美霊。

「えっ?聞かせるって……」

そしていつのまにか口癖になってしまった一言。

「勘弁してくれ……」

霊斗は空を見上げる。

そこには、一面の星空が広がっていた。




霊斗の愛妻家具合がわかるエピソードになったかと思います。
お気に入り、高評価よろしくお願いします。
ではまた次回!


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観測者の宴編
観測者の宴編Ⅰ


今回からまたメインストーリーに戻っていきます。
では本編をどうぞ。


藍羽浅葱はキーストーンゲートの隔壁を潜った。

「はぁ……疲れた……」

つい先程まで、この建物の屋上にはメイヤー姉妹がいて厳重に警備されていたのだが、何者かによって飛ばされてきたのを特区警備隊が確保したらしい。

安堵する浅葱にスマホからモグワイが話し掛けてくる。

『サンキューな嬢ちゃん。助かったぜ。それでよ、もう少し公社に残ってかねぇか?』

「はぁ?なんでよ。そんな面倒な事のために貴重な祭の一日をまた潰せっていうの?」

『そこをなんとか。なんかやべー気がするんだ。北に未確認の島が出現してやがる』

「なにそれ。あんたコンピューターのアバターなんだからもっとしっかり調べてから人に物を頼みなさいよ」

そう言って浅葱はスマホの電源を切った。

その後自宅に戻ろうと思い、駅に向かったのだが。

「うわぁ……メチャメチャ混んでるじゃない……」

先程までモノレールが止まっていた影響なのか、長蛇の列ができていた。

そこで、飲み物を買うついでに店員に聞いてみる。

「あの、モノレールってまだ動いてないんですか?」

「いや、南と東の間は運転を再開したみたいだけどねぇ。北はもうちょっと時間がかかると思うよ」

「そうですか……」

「あんた、監獄結界って聞いたことあるかい?」

「ええ、名前だけは」

「そいつが出たらしいわよ」

店員はそう言って肩を震わせた。

そこで浅葱はモグワイが言っていた事を思い出した。

まさか、その島が監獄結界だということはないだろうと思うが。

そんな浅葱に店員がペットボトルを渡してくる。

「はい毎度。あとこれ、おまけ」

店員はペットボトルと共に飴玉を渡してきた。

しかし、その量がやけに多い。

「混んでるから娘さんとはぐれないようにね」

「は?娘?」

浅葱は首を傾げ、周りを見る。

すると、足元に小さな女の子が立っていた。

その子は浅葱の袖口を掴むと、弱々しい声で言った。

「ママ!」

その一瞬、浅葱の思考が停止する。

店員はなぜか全てを悟ったかのような顔で首肯く。

浅葱はそのまま空を仰ぎ、絶叫した。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

古城達の目の前で監獄結界が崩れていく。

なぜ自分はあの中にいないのだろう。

考える古城の後ろで何かが倒れる音がした。

古城が振り替えると、優麻が倒れていた。

「ユウマ!なんでこんな無茶を!?」

「大丈夫だ、霊斗と空隙の魔女が力を貸してくれた」

「そうだ!那月ちゃんは!?」

那月を探して辺りを見渡すが、そこには別の衝撃的な光景しかなかった。

「アスタルテ、誰だ?その子……」

「恐らく霊斗さんだと思います」

「マジか……」

霊斗が幼児化していたのだ。

恐らく四~五歳くらいだろう。

「俺達と会ったばかりの頃に戻っちまってるじゃねぇか……」

そう言って辺りを見渡す古城。

その視線の先には監獄としか形容できない島があった。

「あれが監獄結界……か?じゃあさっきまでの建物は……!?」

戸惑う古城。

その疑問に答える声があった。

「同じ物だ。あれは監獄結界が那月の夢の中にある時の姿……」

それは火眼の魔女だった。

「だが、監獄結界は那月の夢から現出した。そうすれば我ならば抜け出すのは造作もない」

そんな魔女を見て声をあげたのは優麻だった。

「お母さま……?」

「こいつが……ユウマの母親だと……!?」

「優麻さんと同じ顔……」

「そうだ。その娘は我の細胞から造り出した複製品(コピー)だ。つまりは同一の存在だ。だから……」

「ぐあぁぁぁ!」

「ユウマ!?」

魔女――阿夜が優麻を指差すと、優麻の守護者が現れ、黒く変色していく。

「魔女の守護者を!」

「我が貸し与えた力、返してもらうぞ」

阿夜がそう言うのと同時に、守護者の鎧が真っ黒に染まる。

「あぁぁぁぁぁっ!」

優麻が絶叫し、黒い守護者が阿夜の背後へと移動する。

「ユウマっ!」

古城が優麻を抱き抱えるが、優麻の呼吸は弱く、瞳は焦点があっていない。

「なんてことを……」

雪菜が阿夜に向けて槍を構える。

アスタルテも背後に眷獣を出現させる。

それを見て阿夜が目を細める。

「獅子王機関の剣巫に、第五真祖の従者か……。その娘は我が造り出した人形だ。どうしようと我の勝手だろう?」

阿夜がそう言うと、古城が静かに立ち上がる。

「ふざけんな……俺の親友をこんな目に遭わせて……言いたいことはそれだけか……」

古城の全身から、膨大な魔力が吹き出す。

「っ!」

阿夜が短く息を飲む。

しかし、古城の魔力が眷獣を形作ることはなかった。

古城は胸を押さえて激しく吐血する。

怒りによって、先程の傷が開いたのだ。

「そうか。七式突撃降魔機槍で傷を負っていたのだったな」

阿夜が笑う。

が、その表情が固まる。

別の場所からさらに強大な魔力を感じたのだ。

「……起きたばかりで何があったのかわからないんだがな……」

響いたのは幼いながらも聞きなれた口調。

「仙夜木阿夜……てめーをブッ潰す」

そこには幼くなった霊斗が立っていた。

「霊斗!?大丈夫なのか!?」

「ああ。どうやら固有堆積時間(パーソナルヒストリー)操作系の魔導書にやられたみたいだが、身体が幼くなっただけみたいだな」

「そうなのか。なら戦えるな」

「それがな……天音、出てこい」

霊斗が天音を喚ぶ。

すると、幼い少女が現れた。

「あー、れ~く~ん!……なんかふんいきかわった?」

「ご覧の有り様でな……」

「納得だわ……」

どうやら霊斗の眷獣まで幼くなってしまったようだ。

「ふっ……第五真祖もまともには闘えないようだな……」

「いや、力の加減が効かないんだが」

「……」

「本気で放ったら監獄結界まで吹っ飛んじゃうからなぁ……」

「第五真祖よ……汝はどれだけ規格外なのだ……」

「あれ?呆れられてる?」

「だが、結界の破壊を望んでいる連中もいるようだがな」

阿夜がそう言うと、監獄結界の壁の上に新たな人影が現れた。

その人数は六人。

「監獄結界の……脱獄囚か……」

「最悪じゃねーか……」

古城と幼い霊斗が呻く。

宴の夜は始まったばかりだ。




なんとなく、霊斗を幼くしたかった。
後悔はしていない。
お気に入り、高評価お願いします。
ではまた次回!


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観測者の宴編Ⅱ

堅い感じの話って書きにくい……。
では本編をどうぞ。


「監獄結界の脱獄囚どもか……」

「なんだ少年。怖いのか」

「誰が少年だ。実年齢は青年レベルだよ」

「ふむ、まあそんなことはどうでもいい。''書記の魔女''よ、監獄結界を開いてくれたこと感謝する」

最初に霊斗を挑発しつつ阿夜に言ったのはシルクハットの男だった。

そんな男を一瞥しながら阿夜が問う。

「汝達だけか。他の者はどうしたのだ?」

「そいつがよー、これ見ろよ!」

ドレッドヘアの男が阿夜に腕の枷を見せる。

「よく見てろよ!」

その男がいきなり腕を一閃する。

するとその前にいたシルクハットの男が血飛沫を上げたのだ。

「シュトラ・D!裏切ったな!」

シルクハットの男は血を吐きながらドレッドヘアを睨み付ける。

しかし、シュトラ・Dと呼ばれた男はそんなシルクハットを嘲笑う。

「ハッ!何が裏切ったなだ!てめェが弱いのが悪いんだよ!」

直後、シルクハットの手枷が発光すると、無数の鎖が彼の身体を縛り上げ、虚空へと引きずり込んでいく。

「クソッ!離れろっ!」

シルクハットは必死で抵抗するが、傷つき満足に抵抗もできないまま消滅した。

それを見て阿夜が言う。

「なるほど……監獄結界の機構はまだ動いていると」

「そうだ。だからもっと弱い連中は最初っから出られねェんだ」

シュトラが説明する。

その言葉を引き継いだのは妖艶な美女だった。

「ところで''書記の魔女''。空隙の魔女の居場所がわからないかしら?私はとっととあの女を殺して自由になりたいのよ」

しかし、阿夜は首を横に振った。

「悪いが、知らんな。だが、奴の弱体化はしておいたぞ」

「あァ?どういうことだよ」

阿夜の一言に頷いたのは二人だけだった。

一人は霊斗、もう一人は脱獄囚の青年だった。

「なるほど、その手に持っている''No,014''の魔導書で俺と同じように幼児化したのか(説明口調)」

「はぁ?おい冥駕、あのガキの言ってる事はどういうことだよ」

「その名前で気安く呼ばないで頂きたいのですが……要するに、空隙の魔女の経験した時間を呪いによって奪ったということです。そこの第五真祖と同様に」

「なるほど……って第五真祖!?そのちっこいガキが!?」

「……絃神冥駕、久しぶりだな……」

「お久しぶりです、第五真祖。哀れな姿ですね……」

「お前には言われたくないな……この廃棄物風情が」

霊斗と冥駕の間に謎の緊張感が漂う。

しかし冥駕はすぐに阿夜の方を向くと、一つだけ確認するように言った。

「それで、空隙の魔女を始末すれば我々は自由になれると言うことですね」

だが、阿夜は何も言わなかった。

それを肯定ととったのか女が言う。

「そう。なら手を貸してあげてもいいわよ」

女の一言に阿夜以外の全員が頷いた。

しかし、そんな脱獄囚達の前に立ちふさがるように立ったのは古城と霊斗だった。

「ふざけんなよ……そんな話を聞かされて行かせると思ってんのか……」

「古城に同意見だ。小さい身体の感覚を掴むのにも良さそうだしな」

そんな古城達をみて、シュトラが忌々しげに言う。

「あァ?なんだこのガキは」

「手負いの第四真祖に幼児化した第五真祖が我々に敵うとでも?」

「……古城はともかく俺は眷獣の制御が効かないんだが」

「……やはりあなたはそちらの心配でしたか……」

呆れたように言う冥駕。

そんな二人の間に立ちふさがったのは雪菜とアスタルテだった。

「先輩方は優麻さんを連れて逃げてください」

「ここは私達が引き受けます」

「姫柊!?残るなら俺が!」

「アスタルテ!駄目だ!お前じゃあいつらとは渡り合えない!」

「霊斗さんは大分失礼ですね」

だが、アスタルテでは戦力不足なのはアスタルテ自身が一番わかっているはずだった。

雪菜も、アスタルテを庇いながら戦うのは無理だろう。

「アスタルテ」

「はい?無駄口を叩いている暇があるなら早く――」

「バカ」

霊斗がアスタルテの頬を横に引っ張る。

「れいひょひゃん、いひゃいへふ」

「アスタルテがバカな事言うからだ。俺がお前を置いていけると思ってんのか」

「……れいひょひゃん……」

アスタルテが小さな霊斗を抱き上げる。

「目が覚めました。霊斗さん、目眩ましの攻撃くらいはできますか?」

「いや、その必要はない。多分もうそろそろ''あいつ''が来る」

「あいつ……?」

「それより、古城と雪菜の痴話喧嘩(?)を止めるべきだろ。隙だらけなんだけど」

だが、霊斗が言った時にはシュトラは攻撃体勢に移っていた。

「ヒャッハー!まとめて消し去ってやるぜ第四真祖!」

「ふ〇っしーか!」

しかし、霊斗の突っこみは轟音に掻き消された。

辺りに広がったのは眩い深紅の光だった。




戦闘が微妙に混ざるとだいぶ難易度が上がってしまう……。
お気に入り、高評価お願いします。
ではまた次回!


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観測者の宴編Ⅲ

もう冬休みが終わってしまう……。
あ、課題なんもやってないや。
と、いうわけで書いていきます。


爆音で古城の耳は痺れていた。

というか巻き込まれる寸前だった。

そんな古城と雪菜の耳に聞こえてきたのは聞き慣れた祝詞だった。

「獅子の舞女たる高神の真射姫が讃え奉る」

現れたのは煌坂紗矢華だった。

だが、彼女が乗っていたのは意表を突くような乗り物だった。

「……戦車?」

「しかも馬付き……」

困惑する古城達をよそに、紗矢華の祝詞は続く。

「極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、憤焔をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり!」

紗矢華が放った呪矢は灼熱の閃光に変わり、あちこちで爆発を引き起こした。

脱獄囚をこれくらいで倒せるとは思わないが、目眩ましには充分だった。

「乗って!雪菜!暁古城!アスタルテさん!あと……そこの子!」

「霊斗だ!」

紗矢華の疑問にきっちり返答しながら霊斗は戦車に飛び乗る。

続いてアスタルテ、雪菜が優麻を抱えて飛び乗り、古城が御者台に足を掛けたと同時に紗矢華は馬を走らせた。

「おわぁぁ!?落ちる落ちる!」

「古城!捕まれ!」

「悪い霊斗!」

落ちそうになった古城を霊斗が引っ張り上げる。

「ところで紗矢華。なんで戦車なんだ?しかもこれ、明らかに波浪院フェスタのパレード用だよな」

「知らないわよ!道端にあったから使ってるだけよ!他の移動手段なんてなかったし!」

「むしろよく馬なんて使えるよな」

霊斗達がそんな会話をしていると、馬の頭の方からパキ、と言う異音が聞こえた。

「「パキ?」」

紗矢華と霊斗が同時に馬の方を向くと、馬の頭が無くなっていた。

「ど、どどど、どうすんだよこれ!?制御出来ねぇじゃんか!?」

「私に聞かないでよ!何もしてないもの!」

だが、よく見ると馬はロボットの様だった。

「……なんか、慌てて損した」

「なに安心してんのよ!?止まらないのよ!?」

「いや、ロボットならいざというときは壊せるし」

「そうね……」

紗矢華が呆れたように言う。

だが、その表情がまた困惑に変わる。

「そういえば、暁古城。あなた元に戻ったの?」

「ああ。だけど変わりにユウマが……」

「ユウマって……仙夜木優麻?LCOの犯罪者じゃないの?」

「違うんだ。こいつは母親に利用されていただけなんだ」

「母親?」

紗矢華の疑問に霊斗が答える。

「仙夜木阿夜。LCOの''総記''と呼ばれている女だ。十年前に絃神島で''闇誓書事件''と呼ばれる大規模魔導犯罪を起こしている」

「や、やけに詳しいわね……」

「なんせ俺が獅子王機関の見習いだったときに研修で行った事件だからな」

「は!?十年前ってあんた六歳位でしょ!?」

「獅子王機関に入ったばかりのころだな」

「あんたどんだけ規格外なのよ……」

霊斗の規格外さを改めて思い知った時、目の前に新たな問題が発生した。

「あ、紗矢華。次の信号で止まってくれるか?優麻の治療ができるであろう医者の所に行きたい」

「……どうやって?」

「あ……」

先程壊れた馬が止まる訳がない。

馬はそのまま研究所の塀に向かって突っ込んでいく。

「すまん紗矢華、膝借りるぞ!」

「え!?何急に膝の上に乗って!?」

「天音!ぶっ壊せ!」

「はーい。えいっ!」

霊斗が天音を召喚し、馬と荷台の金具を破壊する。

馬は塀を飛び越えていき、荷台は塀に激突して停止する。

「と、止まった……」

「ありがとな天音。戻っていいよ」

「うん。おやすみー」

天音の姿が消えると、霊斗は荷台を降りて研究所の方を見る。

「霊斗……ここって……」

「古城とアスタルテはわかるよな?誰に頼るか」

「はい。わかります」

「霊斗さん?なにを言って――」

「なんでMAR?」

雪菜と紗矢華は頭に疑問符を浮かべている。

「こっちだ。ゲストハウスに向かおう」

「霊斗、それでドアが開けられんのか?」

「ーっ!ーっ!(懸命に背伸び)……アスタルテ……」

「よしよし、よく頑張りましたね開けてあげますよ」

「霊斗さんってこんなに小さかったんですね……」

「機関に私が入ったばかりのころは私より小さかったもの」

紗矢華と雪菜がなぜか慈しみの目で霊斗をみている。

そして雪菜が霊斗に聞く。

「それで霊斗さん、誰に頼るんですか?」

「それは……」

霊斗は一瞬言うか迷い、古城とアスタルテを見る。

そして二人が頷いたのを確認し、言う。

「暁深森。俺達の母親だ」

「霊斗さんと先輩のお母様……?」

雪菜と紗矢華は驚愕で一杯だと言うような表情で霊斗を見る。

「まあ、心配いらない。たまに変人だけど」

霊斗は告げて、ゲストハウスに向かって歩く。

更なる驚愕があるとも知らずに。




あー疲れた。
年末にインフルかかってから体力が戻らない……。
みなさんもお体に気を付けてお過ごしください。
お気に入り、高評価お願いします。
ではまた次回!


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観測者の宴編Ⅳ

これを書いたら課題やるぞー(絶望)。
では本編をどうぞ。


大通りでナイトパレードが始まるのを見ながら浅葱は溜息をついた。

彼女がいるのはファミレスのボックス席だ。

浅葱の正面には先程の幼女がいる。

「お待たせしました。期間限定ブリリアント・ハロウィン・ハンバーグプレート、ライス大盛とお子様パンケーキセットです」

店員が大量の皿を持ってくると、幼女は目を輝かせる。

「ごゆっくりどうぞ」

店員が立ち去ると幼女は浅葱の方を見る。

浅葱は苦笑すると、ナイフとフォークを渡す。

幼女はそれを受けとると、パンケーキを切り分けて次々に口に運んでいく。

「おいしい?」

浅葱が自分のハンバーグを切り分けながら聞くと、幼女は勢いよく首肯く。

浅葱はそれを見ると微笑んで、そのまま溜息をつく。

(なんでこんなことになってるんだろ……)

正直なところ、この子は全く知らない。

なのに自分はその子を放っておけず面倒をみている。

きっと古城は今頃祭を満喫しているのだろう。

そんなことを考えていると、幼女が浅葱に聞く。

「ママ、怒ってる?」

浅葱はしまった、と反省する。

子供は他人の気持ちに敏感なのだ。

「ううん、怒ってないわよ。ちょっと考え事してただけ」

浅葱は笑顔で答える。

そして、ここに来るまで何度もした質問をしてみる。

「ねぇ、何か思い出した?どんな小さな事でもいいから」

しかし、幼女は首を横に振る。

何も覚えていないというと記憶喪失かもしれないと思い、最後にもう一つ聞いてみる。

「じゃあ、お母さんの名前は?」

「あいばあさぎ」

「……どうしてこうなった……」

浅葱は脱力する。

どんなに聞いてもこの返答だけは変わらないのだ。

そして、まじまじと幼女の顔を見るととある人物に似ている事に気付いた。

「ねぇ、南宮那月って名前、聞いたことない?」

幼女はまるで那月をそのまま小さく―元から小さいが―したような見ためなのだ。

幼女は浅葱を見て、呟く。

「みなみや、なつき……」

すると、幼女の目から急に涙が零れる。

「え!?ちょ、ちょっとどうしたの?」

「わからない……」

幼女は涙を流している理由が自分でもわからないらしい。

しかし、これで幼女が那月になんらかの形で関わっているのはほぼ間違いないだろう。

に、しても彼女は南宮那月に似すぎている。

(まるで幼い那月ちゃんね……幼い那月ちゃん、略してサナちゃん……あ、これいいかも)

浅葱も、ちょうど呼び方に困っていたので採用するとしよう。

「じゃあ、あなたの名前は今からサナちゃんね」

「サナ……」

「そう。名前がわからないと、呼ぶときに困るでしょ?だから、あなたが本当の名前を思い出すまでの仮の名前ね」

浅葱がそう言うと、幼女の顔に小さな笑みが浮かぶ。

それにしても、どうしたものか。

この子を自宅につれていく訳にもいかず、警察も恐らく先程の騒ぎでほとんど機能していないだろう。

(モグワイを使うわけにもなぁ……)

浅葱が悩んでいると、サナが時折パレードを見ている事に気付く。

「パレード、見に行く?」

浅葱が聞くと、サナは嬉しそうな表情をして、パンケーキを食べ終わらせようと慌てて頬張る。

そんなサナを見て、浅葱は肩をすくめる。

「まあ、可愛いしいっか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、MAR。

霊斗達は研究所の敷地内を歩いていき、円筒形のビルの前に着く。

「アスタルテ、抱っこ」

「はいはい。霊斗さんは甘えん坊ですね」

アスタルテが霊斗を抱き上げ、霊斗が静脈認証のパネルに手を触れる。

すると、玄関の鍵が開く。

「アスタルテ、開けてくれ」

「今開けますね」

「霊斗がどんどん幼児化していくな……」

古城の一言に睨みで返すと、霊斗は玄関の中に入っていく。

「先輩と霊斗さんのお母様に会うんですか……」

「な、なんか緊張するわね……」

「なんでお前らが緊張してんだ?」

「「き、緊張なんてしてないと思った!」」

「思った?」

「やけに客観的だな」

古城と霊斗に指摘されて真っ赤になる雪菜と紗矢華。

そして、エレベーターに乗り、目的の階に着くととある一室の前に行く。

そして霊斗は呼び鈴を鳴らす(アスタルテに抱かれて)。

『はいはーい、暁でーす』

「やけに若作りした声はいいから開けてくれ」

『あ、霊斗君?今開けるねー』

すると、ドアの向こうで慌ただしく走り回る音がした後、鍵が開く。

霊斗が警戒しながらドアを開くと、巨大なジャックオランタンが飛び出してきた。

「ばあっ!」

「「きゃぁぁぁ!?」」

「おらぁっ!」

「きゃっ!?霊斗君!なにするの!」

霊斗がカボチャを殴り割ると、中から童顔の女性が現れる。

「もう、霊斗君のせいで台無しじゃない」

「あんた何歳だよ」

「私だって波浪院フェスタ行きたかったーっ!」

「あーはいはいわかったわかった」

「わかってないじゃない!」

霊斗に適当にあしらわれた深森は古城の方を見る。

「あら?古城君、その子達は?」

深森は古城に邪悪なほどの笑みで聞く。

古城は冷や汗をダラダラとかきながら答える。

「ああ、こっちは凪沙の友達の姫柊で、こっちは霊斗の仕事仲間の煌坂」

「なに?古城君二人とも貰っちゃうの!?もう(自主規制)とか(放送事故)とかしちゃったの!?私おばあちゃんになっちゃう?」

「そっちの言葉を覚えたばっかでやけに使いたがる小学生かっ!」

霊斗が深森の頭をはたく。

すると、部屋の奥から凪沙が現れる。

「あれ?古城君に雪菜ちゃんにアスタルテちゃん?」

「ああ凪沙よ、ついには兄の片割れを無視するのかい?反抗期かい?」

「え!?霊斗君!?なんでちっさいの!?」

さらに凪沙の質問攻めが炸裂する。

「ってユウちゃん!?血まみれじゃん!あれ!?その人前に会ったことある!?」

凪沙が紗矢華に詰め寄る。

「あなた、古城君とどういう関係なんですか?」

まあ、そりゃそうなるよね。

「紗矢華、凪沙を頼む」

「ちょ、霊斗!?あんたっ!覚えてなさいよーっ!」

凪沙が紗矢華を引きずって行く。

「まあ、きれいさっぱり忘れるけどな」

「それでいいのか」

清々しく笑う霊斗にツッコミを入れる古城。

しかし、霊斗は真剣な顔で深森に言う。

「優麻を診てやってくれないか。優麻は魔女で、母親に守護者を奪われた」

「応急手当てはしてみるわ。雪菜ちゃん、研究所の方に運ぶのを手伝ってちょうだい?」

「あ、はい」

深森が雪菜を連れて優麻を運んでいく。

だが、途中で振り返り、言う。

「クローゼットの奥に救急箱があるから。治療しちゃいなさい」

古城は一瞬驚いたような表情をしたが、首肯く。

霊斗達はリビングに取り残された。

「古城、包帯くらい巻いとけよ」

「ああ。わかってる」

古城の胸元は、自身の鮮血でべっとりと濡れていた。




課題やだぁぁ!
まあ、がんばりますよ……。
ではまた次回!


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観測者の宴編Ⅴ

いやー、手が冷える。
寒い。家の中なのに……。
では本編をどうぞ。


古城の胸の傷をアスタルテが診察する。

「にしてもなんで直らねぇんだろうな……」

「姫柊の槍で付けられた傷だからじゃないのか?」

「いや、あれには回復阻害効果はなかったと思う。それよりその血から漏れてる魔力。多分眷獣だ」

「眷獣?レグルスとかか?」

「いや……アスタルテはどう思う?」

「恐らく未掌握の眷獣が暴走しかけているのではないかと」

「やっぱりそうだよな……」

「は!?ってことは……」

「すこしでもダメージがあれば眷獣が完全に暴走する」

「マジかよ……」

「だから古城には出来ればここで休んでてもらいたいんだが……」

「そんなのできるわけないだろ!」

「ああ。そう言うと思ってな。アスタルテ、例の物を」

「はい。どうぞ」

アスタルテが虚空より取り出したのは――。

「……鎧?」

「昔のアルディギアの鎧だ」

「なんでもってんだよ」

「……あれは数年前の事だった……話すと長いがどうする?」

「いや、なんか……今度でいいや」

「霊斗さんの謎がまた増えた……」

「変なナレーションつけんな」

すると、奥の部屋のドアが開き紗矢華が出てきた。

「おう紗矢華。おかえり」

「霊斗……あんたねぇ……」

「悪かったな煌坂、霊斗なら好きに殺ってくれていいから」

「やめて!こんな幼い子供に暴力を振るうつもり!?」

「中身が幼くないでしょうが!」

「いやぁぁぁ!誰か、誰かぁぁ!」

「霊斗さん、うるさいです(ヒュツ)」

「(ドスッ)ぐぼっ!ちょ、身体が小さいから威力が……」

「アスタルテさんって意外と強いのね……」

「伊達に霊斗さんの彼女やってませんよ」

「……リア充って、妬ましいわね……」

「ああ、そうだ――な……」

紗矢華の呟きに答えている途中で古城が床に倒れ伏す。

「ちょ、ちょっと。冗談はやめなさいよ……」

「こ、古城?早く起きろよ……」

「古城さん……?」

古城はピクリとも動かない。

そこに雪菜が戻ってくる。

「ただいま戻りました……」

「お、おう雪菜。お疲れ様」

「どうしたんですか?まるでお葬式のような雰囲気で――」

「あ、こ、これはだな……」

「先輩?なんで寝てるんですか?」

「古城は寝てるんじゃなくて、倒れたんだよ」

それを聞いた雪菜の顔が驚きに染まる。

「え?さっきまであんなに元気だったのに……」

「だから原因がわからなくて困ってる」

すると、古城が薄く目を開く。

「お、起きたか。古城、どうしたんだ?」

「……は」

「は?吐き気がする?」

「腹へった……」

「「「「…………」」」」

全員が固まった。

「は?なに?オマエは腹ガ減っテ倒れテおレ達ヲ心配サせタッてノか?」

「霊斗さんがだいぶ久々に暗黒面に……」

「霊斗!戻って来なさい!」

「先輩。殴っていいですか?」

「たのむから、やめて……」

「はっ!俺は何を!?」

「とりあえずご飯にしましょう。ピザがあるはずです」

「お、アスタルテは気が利くなぁ。流石俺の嫁だ」

「いや、まだ結婚してないだろ」

アスタルテが冷蔵庫を開け、冷凍のピザを取り出す。

それを霊斗の前に持ってくる。

「霊斗さん、お願いします」

「おう、天照''瞬間解凍''」

霊斗がピザに手を翳すと、一瞬でピザが暖まる。

「便利ね……」

「いや、それがそうでもない」

「なんでよ」

「眷獣の力を一瞬だけ、しかもかなり威力を絞るからな。疲れるんだよ」

「ふーん。私にはわからない感覚ね」

「お前も手加減して逆に疲れるってないか?それとおなじだよ」

「なるほど」

霊斗が紗矢華と話していると、アスタルテが不機嫌そうな表情で霊斗を抱き上げる。

「ちょ、アスタルテ?なにを「霊斗さん、あーん」ん、あーん」

「なにナチュラルに餌付けされてんだよ」

「空腹で倒れた先輩は黙ってください」

「本当よ。心配して損したわ」

「悪かったよ」

「まあ、雪菜も紗矢華もそんな怒らないで「はい、あーん」あーん(モグモグ――ごくん)怒らないでやってくれ。悪いのは仙夜木阿夜だ」

「本当に精神まで幼児化してるじゃない」

「そんなこと「あーん」あーん(モグモグ――ごくん)そんなことない」

「私、ここまで説得力のない霊斗さんを見たのは始めてかもしれないです」

「安心して雪菜。こいつはこれが基本だから」

「二人とも「あーん」あーん(ごくん)失礼だな」

「「「「丸飲みした!?」」」」

霊斗以外の四人の声が重なる。

すると、怪訝そうな表情をしながら霊斗がテレビを見て言う。

「なんだよ。そんだけで――ってあれ、浅葱?」

「浅葱!?どこだ!」

「ほら、この画面のはじ」

「本当だ……ってこの子……」

「ああ。多分那月ちゃんだな」

「だとすると……」

「藍羽先輩も巻き込まれる可能性があるということですね」

「ああ。古城、浅葱に電話してくれ。俺は一足先に浅葱の所に向かう」

「わかった。頼んだ」

「アスタルテ、行こう」

「はい!」

霊斗は外にでると、天音を召喚する。

「天音、浅葱の場所を探してくれ」

「うん、まってね……みつけた!めいんすとりーとにいるよ!」

「ありがとう、戻っていいぞ……」

「うん、れいくん、きをつけてね」

「ああ。アスタルテ、跳ぶぞ」

「はい、いつでもどうぞ」

アスタルテの答えを聞いて、霊斗は跳んだ。




さあ、霊斗はあの眷獣でどうやって戦うのでしょうか。
また次回!


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観測者の宴編Ⅵ

久しぶりに走ったら筋肉痛になった……。
うん、どうでもいいね。
では本編をどうぞ。


浅葱はメインストリートで波浪院フェスタ名物、ナイトパレードを見物していた。

しかし、パレードが盛り上がり始めた時。

浅葱の携帯が鳴り出した。

「もう、誰よ……」

浅葱は携帯の画面を見て、目を見張る。

そしてサナを連れて裏路地に入った。

「もしもし古城?」

『浅葱!今どこにいる?』

「どこって……えーと、クアドラビルの前よ。パレード見てたから」

『やっぱりそうか……小さな女の子といるよな』

「え?い、いるけど……やっぱりあんた、そういう趣味が……」

『違うわっ!てかやっぱりってなんだ!そうじゃなくて、その子もしかしたら――』

「もしかしたら?」

しかし、浅葱の耳に聞こえてきたのはサナの叫び声だった。

「ママ!」

サナの視線の先には、一人の老人がいた。

「見つけたぞ……''空隙の魔女''……」

「は?なにを言って……」

しかし、浅葱はその先を言うことができなかった。

その老人の身体が一瞬で赤熱したからだ。

「精霊遣い……!?」

「どけ小娘。貴様ごと焼き払ってやろうか……」

「っ……そんなこと、させるわけないでしょ……!サナちゃん!走って!」

浅葱はサナの手を引いて走り出す。

「ふざっけんじゃないわよ!モグワイ!」

『おうよ。わかってる事だけいうぜ。爺さんの名前はキリガ・ギリカ。見たまんまの精霊遣いだ。六年前、絃神島でテロを起こそうとして逮捕。その後、監獄結界に送られた』

「なんでそんな化け物がサナちゃんを狙ってるわけ!?」

『さあな。ただ、一つだけ言えることがあるぜ』

「なによ!?」

『このままじゃ追い付かれてウェルダンに焼かれちまうぜ』

「わかってるわよ!ああもうモグワイ!地下共同溝からキーストーンゲートEエントランスまでの最短ルートを計算しなさい!」

『へいへい。次の角を右に。その後の地下道への階段の途中にハッチがあるぜ』

モグワイの言う通りに、ハッチに飛び込んだ。

すると、浅葱の背後で隔壁が降りた。

浅葱は膝をつき、呟く。

「これで……諦めてくれるといいんだけど……」

しかし、浅葱の予想に反して、隔壁が溶け出した。

「まあ、そう上手くは行かないか……」

浅葱はそう呟くと、再びサナを抱えて走り出した。

しかし、キリガ・ギリカはジリジリと距離を詰めてくる。

「もう終わりか、娘よ」

「モグワイ!あと何秒!?」

『ククッ、あと二十秒だぜ!』

モグワイの笑いを聞きながら浅葱は立ち止まり、振り返る。

「残念だったわね、お爺ちゃん。計算通りよ!」

浅葱が言うのと同時に、壁を突き破って大量の水がキリガ・ギリカの身体を吹き飛ばす。

「ぐあぁっ!娘、貴様ぁっ!」

キリガ・ギリカが流れていくのを見ながら、浅葱はサナを抱えて地上に出る。

「やったかしら……とは行かないわね……」

浅葱が呟くと、背後のアスファルトが溶け、中からキリガ・ギリカが這い出してくる。

「娘……許さん!」

キリガ・ギリカが怒りも露に叫ぶ。

次の瞬間、彼の身体から放たれたのはこれまでとは比べ物にならない熱量だった。

「なっ!?何よこの力!?」

『怒りで限界を超えちまったみてーだな。これじゃ特区警備隊の装備も効かねーぜ』

浅葱の計画は、ここに来て終わってしまったかのように思えた。

「もう駄目じゃない……」

呟く浅葱にモグワイが言う。

『いや、特区警備隊は駄目だがな。うれしい誤算だぜ』

「は?」

モグワイの言葉の意味がわからず、困惑する浅葱の耳に聞こえてきたのは、聞きなれたはずなのにどこか違うクラスメートの声だった。

「浅葱!無事か!」

虚空より霊斗とアスタルテが現れ、着地する。

「れ、霊斗……」

「アスタルテ、浅葱と那月ちゃんの保護を」

「了解!」

アスタルテが、浅葱とサナを抱き上げ離脱する。

「さて爺さん。俺の友人を随分と苛めてくれたみてぇだなぁ……」

「ふん、第五真祖か。今の貴様で勝てるのか」

「なめんなよ――降臨せよ!''天照大神''!」

霊斗が言うと、いつもより少し小さい天照が現れる。

『やほー霊君。こっちならある程度記憶とかも戻るから加減できるよ』

「そうか。だったらあの爺さんを焼いてくれ」

「ふん、ただの炎で儂を焼けるとでも――ぎゃぁぁぁ!?」

「……爺さん、あんた馬鹿だろ」

『曲がりなりにも神の名を持つ眷獣の炎に低級な炎精霊(イフリート)ごときで勝てるとでも?』

「ま、そういうことだな。監獄結界で寂しく余生を過ごせや」

霊斗がそう言うと、キリガ・ギリカの手枷から鎖が出てきて、彼を虚空に引きずり込んで行く。

「さて、浅葱。今だからいうぞ」

「な、なによ……ってか霊斗、今の眷獣の力……真祖クラスじゃない……」

「ああ。俺は第五真祖だからな」

「は?第五真祖って、あの伝承の!?神の眷獣を使う?」

「ああ……お前も宴の記憶がないのか……」

「宴?んなもんどうでもいいわよ!あんたが第五真祖だったら、第四真祖は誰なのよ!」

「秘密だ。お前の為にもな」

「うぅ……だって今更あんたが真祖だって言ってもさぁ……」

「それは……怖がられるかなって」

霊斗が言うと、浅葱は笑った。

「そんなんで怖がるわけないでしょ。じゃ、しっかりあたし達を守ってね、第五真祖サマ?」

浅葱が意地悪く笑い、霊斗は答える。

「俺の戦いぶり、ちゃんと見とけよ」

そんな霊斗の前に現れたのは、妖艶な笑みを浮かべた美女だった。




霊斗が浅葱にカミングアウトしました。
むしろ今までよく隠せてたなって感じですが。
ではまた次回!


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観測者の宴編Ⅶ

身体が……怠い……。
じゃ、かきます……。


霊斗は警戒心を剥き出しにしながら女を睨む。

「お前も脱獄囚か……」

「ええそうよ。だから、南宮那月を渡してもらえると助かるのだけれど」

「だってよ浅葱。どうする?」

「渡すわけないじゃない!」

「まあ、そう言うと思っていたわ」

「だろうな……で、あんたも吸血鬼なのか?」

「ええ。流石は第五真祖といったところかしら。よく見抜けたわね」

「お前の魔力の質がどっかの婆さんに似てたもんでな」

「あら。そこまでわかるのね。じゃあ、手加減しなくていいかしら?」

「ああ、構わないぞ。俺は手加減してやるがな」

霊斗が余裕な表情で答えると女は笑い、眷獣を召喚した。

「……所で第五真祖。あんたの名前を聞いていないのだけれど」

「暁霊斗だ。俺もお前の名前を知らないな」

「ジリオラ・ギラルティよ。聞いたことくらいあるとおもうのだけれど」

「ああそうか、どっかで見た顔だと思ったが……まさかあの''クァルタス劇場の歌姫''だったとはな。あんたは俺を覚えてないみたいだが」

「あら、その名前で呼ばれるのも久しぶりね……じゃあ、殺っちゃっていいかしら?」

「できるもんならやってみろ」

霊斗が言うと同時に、ジリオラが自らの眷獣を地面に叩きつける。

すると、霊斗に向かって無数の弾丸が放たれた。

「霊斗!」

浅葱が叫ぶ。

しかし、霊斗の姿は着弾地点に無かった。

「悪いけど、その眷獣には負けねぇな」

霊斗は一瞬でジリオラの背後に移動していた。

「なっ!?その動き、まさか――獅子王機関の剣凰!?」

「やっと思い出したか。お前を監獄結界に送ったのが誰だか、忘れるわけないよなぁ?」

ジリオラは霊斗と距離を取る。

「なんで獅子王機関に真祖が……」

「まあ、隠してたからな。次の眷獣はどうした?」

「くっ、殺れ!''毒針たち(アグイホン)''!」

ジリオラが新たに眷獣を召喚する。

それは、無数の蜂だった。

しかし

「数も増えてないのか……つまらないな。焼き尽くせ''天照大神''」

霊斗が命じると、蜂がどんどん焼かれて行く。

「ぐうっ!?クソッ!''毒針たち''!もっと増えろ!」

ジリオラが言うと、蜂の数がどんどん増えていく。

しかし、霊斗は余裕な表情を崩さない。

「''氷牙狼''」

霊斗が虚空より槍を取り出す。

「さて、終わりの時間だ、ジリオラ・ギラルティ。監獄結界に帰れ!」

霊斗が空間転移でジリオラの懐に飛びこみ、腹に槍を突き刺す。

「がふっ!第五真祖……侮っていたわ……」

ジリオラが意識を失うと手枷が発光し、鎖がジリオラを虚空に引きずり込んで行く。

「ふう終わった……」

すると、霊斗の耳に嫌な声が聞こえた。

「やあ霊斗。今の戦い、実に美しいネ」

ヴァトラー(クソホモ)見てたのか、手助けくらいしろよ(気持ちわりぃ、早く死ね)

「酷いなァ。本音がだだ漏れだヨ?」

ヴァトラーが笑顔で返す。

するとそこに、古城が白煙を吹き上げながらチャリで走ってきた。

「霊斗!終わったか!」

「ああ、なんとかな」

「やあ古城」

「うわぁぁ!ホモだ!死ねぇ!」

バキゴキ。

「古城、加減くらいしてくれてもいいじゃないか」

「あーあ、ガチホモの首がおかしな事に」

古城が反射的に全力で殴ったため、ヴァトラーの首が百二十度くらい回ってしまった。

「さて古城。彼女の心配はいいのか?」

「そうだ!浅葱、無事か!?」

「うん、霊斗が助けてくれたから……」

「お、古城。彼女の所、否定しないのな」

「いや、そこまで気が回らなかっただけだ」

「浅葱が心配でか?」

「ま、まあそりゃ、友達の心配くらいするさ」

古城が言うと、浅葱の顔が真っ赤になる。

「ところでホモ。ここに来たってことは、何か用があるんだろ?」

霊斗が聞くと、ヴァトラーは笑顔で首を治しながら答える。

「(コキッ)そうだね。用件は一つ。南宮那月をボクの船で預かろう」

「「「「はあぁぁぁ!?」」」」

ヴァトラーの唐突な申し出に、霊斗、古城、浅葱、アスタルテの叫び声が重なる。

「いや、ヴァトラーには任せたくない」

「あたしも行っていいなら……」

「ヴァトラーは信用できない」

「霊斗さんに同意」

浅葱以外の全員がヴァトラーの申し出を断る。

だが、思い直したかのように古城が言う。

「いや、でもヴァトラーの船なら霊斗も本気を出せるし、脱獄囚を探す手間も省ける」

「む、そうだな……じゃあヴァトラー、頼む」

ヴァトラーはその返事を効くと、古城達に言う。

「じゃあ、ついて来るんだ」

ヴァトラーは迷いなく歩いていく。

霊斗達は小走りでヴァトラーを追った。




眠い……お休みなさい。
ではまた次回……。


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観測者の宴編Ⅷ

昨日は投稿できなくてすいません!
今日から連日投稿再開です。
では本編をどうぞ。


オシアナス・グレイヴⅡ。

古城はその一室で携帯のスピーカーから聞こえてくる小言に耐えていた。

「いや、だからな姫柊。ここなら霊斗も手加減しないでいいかなって……」

『それでもアルデアル公が脱獄囚相手に本気を出したらどうするんですか!?』

「それは霊斗がなんとかしてくれるだろ?」

『何かにつけては霊斗さん霊斗さんって、いつでも霊斗さんがいるわけじゃないんですよ!?それに、先輩もいい加減真祖の自覚を持つべきです!』

「知らねーよ。俺には支配する帝国もなければ眷獣もまともに使えない。そんな奴が真祖を名乗っていい訳がないだろ!」

『……わかりました。先輩の覚悟はその程度のものだったんですね。話は終わりです。切ります』

「は!?ちょっと待て――って、ほんとに切りやがった……」

雪菜に電話を切られた古城が項垂れていると、霊斗が声をかける。

「なんだ古城。雪菜と喧嘩でもしたんか?」

「う……地味に痛いとこ突くよなお前」

「まあなんでもいいが……そうだ。ヴァトラーからの伝言だ。『お風呂が沸いたから入ってくるといいヨ』だとさ」

「ああそうか。じゃ行くか」

「浅葱とアスタルテも行ったからなぁ。まさか混浴とか無いよな?」

「……ヴァトラーならやりかねないな」

「俺もそう思う……」

二人で項垂れながら浴場に向かう。

だが、二人の予想に反して男湯と書いた暖簾がかかっていた。

「意外とまともだ……」

「ヴァトラーでも空気が読めたか……」

二人は中に入り服を脱ぐと、浴場へと入っていく。

「広いな……」

「そういえばあいつって領主なんだよな……」

「ま、ありがたく借りようぜ」

「そうだな。血も落とさないとな……」

古城は自分の血を擦り始める。

霊斗はそれを見ながら自分の髪を洗い始める。

「にしても長さまで戻されるとは……」

霊斗の髪は、古城達に出会って少したった頃の長さに戻っていた。

「霊斗の髪ってそんなに長かったんだな……」

「マジで長さは女くらいだぞこれ……邪魔くせえ……」

「当時は気にしなかったのにな」

「最近はそんな長くないからな……」

そんな会話をしていると、誰かが浴場に入ってくる気配がした。

「ん?誰か来た……うわぁぁぁ!?」

「どうした?……だ、誰だあんたら!?」

霊斗が叫び、古城が驚いて聞く。

入ってきたのは年代も様々な少女達だった。

「私たちはヴァトラー様にお仕えするメイド軍団です。第四真祖様」

「め、メイド?」

「あらあら、顔を真っ赤にして。意外と可愛いところもあるのですね、第五真祖様」

「やめろー!抱き上げるな!タオルが落ちるぅ!」

彼女達の行動に不信感を覚える古城と喚く霊斗。

とてもシュールな光景である。

「ウフフ。どうですか?そそられますか?ヤりたくなりますか?ケダモノにシフトしますか?」

「「するかっ!」」

「あら残念」

「なんなんだあんたら……ヴァトラーの差し金か?」

珍しく鋭い目付きで相手を睨む古城。

「え?……イヤイヤ!違いますよぉ」

「私達、本当はメイドではなくて人質なんです」

「人質?」

「ああ……わかったぞ。お前ら、ヴァトラーが相手してくんないから俺達で性欲の発散、ついでに真祖の子どもでもできりゃ下剋上とか考えてんだろ」

「「「「「鋭い……」」」」」

「馬鹿にしてんのか!帰れ!」

「わかりました。今回は彼女さん方にお譲りしますね」

赤い水着の少女がそう言うと、全員でぞろぞろと浴場から出ていった。

「譲るって……誰に?」

「さぁ……」

二人で首をかしげていると、聞きなれた声がした。

「サナちゃん!走らないで!」

「危ないですよ!」

まず、サナが走ってきたのを見て、二人はギョッとする。

「まずいぞ古城……」

「どうした?」

「恐怖で身体が動かない……」

「奇遇だな。俺もだ……」

硬直する二人の前に現れたのは、タオルを巻いただけの姿の浅葱とアスタルテだった。

「「……」」

「え?古城……?」

「よ、よお浅葱。奇遇だなぁ」

「そうね。まさか混浴とはね……」

「「あはははは……ギャァァァァ!」」

古城と浅葱は、奇声を発しながら浴槽に飛び込む。

一方霊斗は

「あ、アスタルテ……」

「どうしました?何かおかしなところでも?」

聞いてくるアスタルテの表情は、出会ったばかりの頃のように変わらない。

「いや……おかしいのはこの状況かと」

「……知ってます」

「ところでアスタルテ。そのタオルの下を見せてくれたりは……しないよな」

「霊斗さんになら……い、いいですよ」

アスタルテは真っ赤になりながらタオルを捲ろうとする。

「嘘!嘘だから!やらなくていいから!」

「では、私は身体を洗ってきます……」

「なんかごめん……」

アスタルテはシャワーに向かっていった。

「さて、俺も暖まるか……」

霊斗が浴槽に入ると、湯がマーブル模様に染まっていった。

「なんだ?」

霊斗が古城の方を見ると、古城が鼻血を吹き出しながら走っていった。

「ヘタレかよ……」

しかし、古城の血が溶けた湯が霊斗に触れると、霊斗の身体に変化がおき始めた。

(なんだこれ……視界が歪んで……身体が……軋む……意識……が……)

霊斗は最後の力で浴槽の端に移動し、沈まないようにすると、意識を手放した。




眠い……。
ではまた次回!


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観測者の宴編Ⅸ

最近寒いですね。
特に朝とか、外に出たくないですよね。
と言うわけで本編をどうぞ。


「霊斗さん!大丈夫ですか!起きてください!」

アスタルテの声で霊斗は意識を取り戻した。

周りには湯気がたちこめている。

(そうだ……確か俺はヴァトラーの船の風呂で意識を失って……)

身体の軋みは嘘のようになくなっていた。

「アスタルテ……?」

「霊斗さん!」

霊斗が起き上がると、アスタルテが涙目でこちらを見ていた。

「スマン、心配かけた」

「本当です!浅葱さんに、霊斗さんが倒れたって聞いて……急いで来たら、霊斗さんが意識を失っていて……」

「そうか……なんで俺は急に意識を失ったんだ……?」

「それなんですが、内臓、血圧等に問題はありませんでした」

「じゃあなんで……よいしょっと」

霊斗は身体を起こす。

その時、違和感に気づいた。

いや、正確にはまさかと思っていた。

浴槽に浸かっている手や足の大きさが

「……戻ってる……身体が……」

「恐らく、古城さんの血が溶けた湯に浸かった事によって第四真祖の眷獣の力の影響を受けたのではないかと」

「なるほど……奴かな……」

第四真祖の眷獣には、強力な抗毒能力を持っているものがある。

その眷獣ならば「呪い」という名の「毒」も消せるだろう。

「古城に感謝しないとな……っとと」

霊斗は急によろめく。

「大丈夫ですか!」

アスタルテが支える。

その際、タオルが捲れていろいろ見えていたが、霊斗は見なかった振りをしながら答える。

「大丈夫だ。ちょっとのぼせただけだ」

「なら早く出ましょう。はい、支えますから、立ち上がって」

そう言いながら立ち上がったアスタルテは、ようやく自分のタオルがはだけている事に気づいたようで、真っ赤になりながらしゃがみこむ。

「……見ました?」

「いや、何が?」

「本当の事を言ってください」

「……ちょっと成長した?」

「蹴り殺しますよ」

「ごめんなさい」

「土下座してください」

「(ゴボゴボゴボ……)」

「許してあげます」

「やった!……あ」

許してもらえた霊斗が勢いよく顔をあげるが、霊斗の頭はそのままアスタルテのタオルの中に入っていった。

「……」

「……霊斗さん……」

「……夢の国?」

「霊斗さんのっ……変態!」

メキィッ

アスタルテの膝蹴りは霊斗の顔面にクリーンヒットし、霊斗は浴槽の反対側まで吹き飛ぶ。

「は、はは……意識が……」

アスタルテの悲鳴を聞きながら霊斗は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

霊斗は柔らかいベッドの上で目覚めた。

「……さっきのは……夢?」

だが、身体も元通りだし、あれは夢にしてはリアル過ぎた。

「いいもん見たなぁ……」

変態発言をしながら起き上がろうとすると、腕に何か乗っている事に気づいた。

「なんだ……?」

霊斗が横に転がるようにして体勢を変えると、目の前にアスタルテの寝顔が現れた。

いわゆる腕枕。

「……」

状況を理解できずに固まる霊斗。

(なんだこれ!?なんでアスタルテがここで寝てんの!?理解不能なんですけど!?)

そして更にあることに気付く。

アスタルテが浴衣を着ていた。

「……可愛いな……」

思わず呟いてしまう。

すると、アスタルテが目を開く。

「……聞いてた?」

「はい。バッチリ」

「……恥ずかしいな」

「うれしいです。大好きです霊斗さん」

「…………俺もだよ」

霊斗が言った次の瞬間。

轟音とともに船が揺れた。

「チッ!アスタルテ、跳ぶぞ!」

「はい!」

アスタルテを抱えて窓から外に飛び出す霊斗。

もちろんガラスは全部自分で受けた。

外では、ヴァトラーと大柄な男が闘っていた。

「ヴァトラー!」

「やぁ霊斗。目は覚めたかい?」

「島に被害をだしたら殺すからな!」

「努力はしよう」

ヴァトラーはそのまま敵に向かっていった。

霊斗は振り返り、走り出す。

すると、ちょうど古城達が船から降りて来るところだった。

「古城!」

「霊斗!?戻ったのか!?」

「ああ」

「じゃあ戦って――霊斗!避けろ!」

「なんだ?」

古城に言われて霊斗が頭上を見ると、壊れた鉄塔が頭上に降ってきていた。

「ほい」

だが、霊斗は炎ですべて蒸発させてしまった。

「霊斗!暁古城!」

「霊斗さん!」

そこに、紗矢華と雪菜が走ってくる。

「二人とも、無事だったか!」

「はい。霊斗さんも元に戻ったようで何よりです」

雪菜は古城の方を見ようともしないで霊斗に話しかけてくる。

「雪菜……」

「なんですか?」

「古城が泣きそう」

「泣きそうじゃねーよ!」

だが、一瞬寂しそうな顔をしたのは気のせいではないはず。

そこに、赤の戦車が走ってくる。

『女帝殿、無事でござったか!』

「……誰?」

『失礼な!拙者、戦車乗りでござる』

「はぁ!?あんたが戦車乗り!?」

戦車乗りとは、浅葱の同僚みたいなものなのだが、戦車から出てきたのは小学生ぐらいの少女だった。

「左様。拙者、リディアーヌ・ディディエと申す者。管理公社の要請で女帝殿をお迎えに参った」

「だってよ、浅葱。頑張れ」

「古城、あんたの話、今度聞かせてもらうからね。あとサナちゃんをよろしくね」

浅葱はそう言うと、戦車に乗って運ばれて行った。

そして、古城は船の方を見ると、何かを決意したような表情で拳を握り締めた。




今日はこのくらいかな?
ではまた次回!


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観測者の宴編ⅩⅠ

しばらく更新できず申し訳ありませんでした。
心に深い傷を負ってしまってな……。
なんて茶番は置いておきまして、本編をどうぞ。


古城が船の方を見ていると、霊斗が声を掛けてきた。

「どうした古城、ホモが気になるのか?」

「ああ………いくらヴァトラーでも、龍殺し(ゲオルギウス)相手で大丈夫なのかなって思ってな……」

「大丈夫だろ、いくら龍殺しの一族とは言っても所詮は人間だ。貴族が負ける訳がない」

「そう……だよな。今は島の被害だけを気にしよう」

古城がそう言って雪菜達の方を向く。

が、雪菜は目を合わせない。

古城が困った表情で頭を掻く。

すると、そこに新たな人影が現れた。

「おうおう。だいぶ出遅れちまったなぁ」

現れたのはシュトラ・Dだった。

彼は雪菜を見ると、獰猛に唇の端をつり上げた。

「お、さっきの奴じゃねぇか。テメェには借りがあるからな!さっさとくたばれ!」

シュトラ・Dは腕を勢いよく振り下ろす。

雪菜は突然の事に反応できない。

だが、雪菜に攻撃が当たることはなかった。

「私の雪菜になにするのよ!このサイコパスチリチリ頭!」

紗矢華が''煌華麟''で不可視の斬撃を防いだのだ。

「なんだテメェは……人を斬新な悪口で散々言いやがって!先にテメェからぶっ殺してやる!」

シュトラが怒りに震えている隙に紗矢華は雪菜達に言う。

「こいつは私が殺るわ。雪菜は霊斗と一緒にサナちゃんを守って!すぐに追い付くわ」

雪菜は紗矢華に向かって首肯くと、サナの手を引いて走り去る。

それに続けて霊斗、古城も離れて行った。

しかし、アスタルテだけはその場に残っている。

「なにやってるの!?早く行って!」

「私も残ります。あなただけに任せることはできません」

「……わかったわ。バックアップをお願い」

「はい」

アスタルテは答えると、自らの手に剣を出現させる。

「……それはなに?」

「眷獣の力を一部だけ取り出して作った剣です」

「……見ためが煌華麟そっくりなのは?」

「目の前にモデルがあったので」

「あ、そう……」

そんな会話をしていると、シュトラが気の抜けた声で聞いてくる。

「なぁ、そろそろ始めていいか?」

「いいわよ、ご自由にどうぞ」

「じゃあ遠慮なく行くぜ!食らえ!」

シュトラが腕を振り、不可視の刃をいくつも生み出す。

だが、すべて煌華麟によって打ち落とされる 。

「なんだその剣!空間切断の模造品か!」

「模造品とか言うな!切り殺すわよ!このブタ!臭いから喋らないで!」

「臭くねぇだろ!?テメェ……調子に乗りやがって!」

シュトラの表情が怒りに染まり、それに呼応するように攻撃のスピードが上がる。

「くっ……」

紗矢華が防戦一方になった時だった。

「がはっ!?な、なんだ?」

シュトラが仰け反る。

その背後では、アスタルテが蹴りを放った直後の姿勢で立っていた。

「なっ……!?いつの間に!?」

「最初からこっそり移動してました」

「クソッ!テメェ……!」

「ブタ小屋に帰りなさいブタ野郎」

ゴリッ

「ぐあぁっ!腕がぁっ!?」

アスタルテの蹴りによってシュトラの右腕がへし折れる。

「クソッ!殺す!」

シュトラがアスタルテに掴みかかるが、アスタルテは吸血鬼の筋力で離脱する。

「ちょこまかと……舐めやがって!」

シュトラが叫ぶと同時に背中から新たな腕が現れる。

その力は失われた古代超人類――天部の力だった。

「天部の末裔!?」

「そうだ!驚いたか!」

「こんなサルみたいなクズが天部の生き残りなんて、正直がっかりです」

「さっきから人の事をバカにしやがって!なんなんだよテメェはぁぁ!?」

「第五真祖の血の伴侶ですが、なにか?」

「……いえ、もうなんでもいいです」

アスタルテが放った冷ややかな魔力は、シュトラですら敬語になる程の迫力だった。

「さて、暴れる悪い子にお仕置きの時間です。霊斗さんに殺っている特別コースで行きますね」

「アスタルテさん、漢字が……」

「あってます」

「あ、はい」

無表情で近づくアスタルテにビビって、後ずさるシュトラ。

だが

「逃げられると思いましたか?」

アスタルテは一瞬で接近し、シュトラにアッパーを打ち込む。

「げぼぁっ!?」

「さらに――っ!」

シュトラのボディにアスタルテの拳がめり込む。

「うぐっ!」

呻くシュトラ。

だが、アスタルテの攻撃は止まらない。

意識の飛びかけているシュトラの側頭部に掌打を叩き込み、止めに踵落としを鼻に叩き込み、K.O.。

「……霊斗は毎日これを受けてるの?」

「普段より威力は押さえました」

「あ、そう」

紗矢華が呆けていると、シュトラが鎖に縛られて虚空に消えていく。

「終わっ……た……」

紗矢華は安堵のあまりバランスを崩す。

完全に力が抜けていたため、受け身も取れずに倒れる。

「あっぶねぇ!大丈夫か、煌坂!」

しかし、古城が間一髪で抱き止める。

「あ、暁古城……」

「急いで戻ってきて正解だったな」

「え?急いで戻ってきたって……なんで?」

「こいつが原因だよ」

紗矢華の疑問に答えたのは霊斗だった。

霊斗はアスタルテを抱き上げると、紗矢華の方に近付いてくる。

「どう言うこと?」

「逃げてる最中にアスタルテがいないことに気づいてな、那月ちゃんは雪菜に任せて急いで戻ってきたんだ。 雪菜ももうすぐ来ると――っと、来たか」

「紗矢華さん!大丈夫ですか!」

「雪菜……大丈夫、少し疲れただけ。殆どアスタルテさんが殺ってくれたから……」

「アスタルテ……まさかあれを……?」

「はい。人を見下した奴だったので」

「犯罪者さん……御愁傷様です……」

霊斗は目を伏せた。

そして、霊斗に古城が聞く。

「で、サナちゃんはMARに連れていくでいいな?」

「ああ。そのほうが確実で安全だな」

だが、別の人物の声がした。

「那月を渡してもらおうか、第四真祖、第五真祖よ」

「仙夜木阿夜……」

「まだ那月ちゃんを狙ってやがんのか……」

「いや、感謝の言葉をいいに来たのだ。お前達が脱獄囚を引き付けていてくれたお陰で全ての支度が整った」

「支度……だと?」

「っ!?煌華麟が!?」

紗矢華が声を上げる。

見ると、煌華麟が機能を停止していた。

「……霊斗……さん」

「アスタルテ!?っぐ……」

アスタルテが弱々しい声を上げ、霊斗が膝をつく。

「霊斗さん!」

「大丈夫……だ……っぐ……クソッ……」

雪菜が霊斗に駆け寄る。

「仙夜木阿夜……テメェ!疾く在れ(きやがれ)!''獅子の黄金(レグルス・アウルム)''――!」

古城が眷獣を解放し、阿夜に向かって放つ。

だが、阿夜が虚空に文字を書くと、まるで最初からいなかったかのように獅子が消滅した。

「これが闇誓書の力だ、第四真祖よ。ここでは私以外の異能の力は消滅する。真祖の力もな」

阿夜はそう言うと守護者を召喚する。

そして、守護者の剣が古城の胸を貫く。

「がはっ!?……クソッ……まじかよ……」

古城が倒れると同時に、雪菜とサナが檻の中に転移させられる。

「先輩!霊斗さん!」

雪菜が叫ぶが、檻は虚空に溶け込んで行った。

「く……そ……姫柊……」

古城は、そこで意識を失った。




次回位でこの章は終わらせたい。
ではまた次回。


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観測者の宴編ⅩⅡ

書きまーす。
本編どうぞ。


古城は耳元で鳴る異音で目を覚ました。

どうやら誰かが自分の頬を叩いているようだ。

「なんだよ……痛ぇな……」

古城は起き上がろうとするが、腹部の激痛に呻きながらまた倒れ込む。

「ぐうぅぅっ……なんだこれ、半端なく痛ぇ……」

「当たり前だ。真祖の力が消えて傷が治ってねぇんだからな」

古城が悶絶していると、幼い声が聞こえた。

「なんだ霊斗……戻っちまったのか……」

「呪いが消えた訳じゃなくて、一時的に眷獣で治っていたのが、吸血鬼の力が消えたお陰で戻っちまったんだよ」

「そうか……ここはどこだ?アスタルテは大丈夫か?」

「寝てる。血の従者の契約の為の霊的径路が途切れた影響でな……それと、ここはただのフェリーターミナルだ。それよりも、人の心配してる場合か?それ、ほっといたら死ぬぞお前」

「ああ……でもどうやって治すか……」

「血でも吸っとけよ」

「できるわけねぇだろ!?痛っ……」

「できるぞ。俺と違って、お前は完全な真祖だからな。きっかけさえあれば治せる」

「でもそのきっかけがなぁ……」

悩む古城。

そこに、紗矢華がやってくる。

「じゃ、じゃあ……興奮すればいいんじゃないの?……霊斗はあっちでアスタルテさんの看病してて!」

「お、おう」

霊斗はアスタルテのもとに行く。

「霊斗……さん……」

「大丈夫だ。すぐ治してやるからな」

「霊斗さんは……平気ですか……?」

「大丈夫だ。ただの人間になっちまってるけどな」

「そう……ですか……」

「ああ。だから今は体力の回復に努めろ」

「はい……」

弱々しく答えると、アスタルテは目を閉じた。

そして、霊斗が立ち上がるとフェリーターミナルのドアが勢いよく開いた。

「やあ霊斗。古城は無事かい?」

「優麻か。死にかけてるけど、紗矢華といちゃついてるぞ」

「そうか……じゃあボクも混ざってくるよ」

「優麻……傷は……」

「これくらいなら大丈夫。古城を復活させてくるよ」

「……優麻」

「なんだい?」

「古城とアスタルテと紗矢華のこと、頼んだぞ」

「え……?ちょ、ちょっと霊斗!?」

優麻に皆を任せると、霊斗は外に飛び出した。

「阿夜……もう一度、テメェを止めてやる……!」

霊斗は彩海学園に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

夕暮れの校舎。

雪菜はそこにいた。

とある教室の中に、三人ぶんの人影があった。

「那月、霊斗。私と共に来い」

阿夜が告げる。

だが

「嫌だ。僕は犯罪者の仲間になんかならない」

幼き日の霊斗が阿夜を睨む。

その瞳が深紅に染まる。

「私もこのガキと同意見だ。阿夜、お前が犯罪を起こすならば、力ずくでも止める」

当時高校生だった那月も、阿夜を拒絶する。

「私を拒み、この島を守るのか……」

「ああ。ここが……この島が私の居るべき場所だ」

「ならば小僧。お前は何を守る?」

「僕はこんな島はどうだっていい。那月ちゃんが守るから、僕がその手伝いをするだけ……この島に来た僕を暖かく迎えてくれだ那月ちゃんの為に!」

霊斗の言葉に阿夜の表情が歪む。

そして、阿夜が自らの守護者を召喚する。

それに対抗するように、那月も守護者を出す。

霊斗が槍を構え直すが、霊斗が手を出すまでもなかった。

一瞬で勝負が着き、阿夜は監獄結界に送られた。

これは十年前の戦いの記憶――。

 

雪菜の目の前から全ての幻影が消滅し、夕暮れの教室だけが残る。

「これは……」

新たに現れたのは教室でトランプをする皆の姿。

古城が驚くほどの引きの弱さでババを引き続けている。

そして、雪菜に気がついた紗矢華が雪菜を呼ぶ。

「雪菜ー!一緒にやらない?」

「紗矢華さん……?」

「雪菜、どうした?……ってこんな時間か。古城、部活行くぞ!」

「うわっ!やべぇ!遅れたら殺される!」

「霊斗さんに先輩……部活を……?」

「どうしたんだ姫柊?前からやってただろ?」

「雪菜さん、私達も行きましょう」

紗矢華とアスタルテが雪菜の腕を引く。

「……こんなの……違う……」

雪菜は呟く。

こんな日々を夢見たこともあった。

でも、やっぱり今までと同じ生活の方がいい。

いやらしい先輩と、頼もしいけどアスタルテに弱い霊斗。

でも、そんな皆で困難に立ち向かうほうが――。

「そのほうが、数百倍楽しいに決まってます!――雪霞狼!」

神格振動波の光が幻影を打ち消す。

そこにはサナと阿夜しかいない。

「いまの世界、それを現実にもできるぞ?」

「私は、世界最強の吸血鬼の監視役です。今更普通の生活なんて、退屈すぎてできません」

「そうか……ならば、この世界を変える瞬間を見ているがいい。歴史の観測者としてな……」

阿夜はそう言って笑った。

校舎が揺れる。

絃神島の崩壊は、目前に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

霊斗は、彩海学園の校門前にいた。

「くそっ……結界が張られてやがる……」

阿夜の張った結界の中に入るには、吸血鬼の力か、氷牙狼が必要だ。

だが、どちらも使うことはできない。

「どうしろってんだよ……」

霊斗がなすすべもなく地面に膝をついたとき、異変に気付いた。

街が銀色の霧に包まれている。

否――

「街が……霧になってる?……ああそうか……やっと来るか」

霊斗は立ち上がると、校舎を睨む。

そして、霧を吸い込む。

「よし……」

霊斗の瞳が深紅に染まった。

疾く在れ(とくあれ)――''龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)''!」

霊斗が手を突き出すと、その手から小さな双頭龍が現れる。

それを使って、結界に穴を開ける。

霊斗はそこから校舎に向かって走った。

哀しき魔女の悪夢を終わらせる為に――。




あー疲れた……。
そろそろ終わりそうかな……。
ではまた次回ー。


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観測者の宴編ⅩⅢ

今回でこの章は完結です。
では本編をどうぞ。


霊斗は、夕暮れの校舎を駆けていた。

「クソッ!どこにいるんだよ!」

すると、外から強力な魔力の波動を感じた。

「っ!これは……やっと来たか!」

霊斗は窓を開けて校庭に飛び出した。

そこでは、古城が雪菜とサナを助けだし、阿夜と対峙していた。

「平然と私の世界に入ってくるとは……いや、もう少し前に別の侵入者がいたか……」

「……お前、バカだろ?」

「何……?」

「いや、だってここ、俺らの学校だからな?侵入者はお前だからな?」

「ぬぅ……」

「古城の言う通りだ。さて、古城。今の感情といつもの決め台詞をどうぞ」

「ああ。俺は――いや、俺達は猛烈に頭にきてんだ。いますぐテメェをぶっ飛ばして、楽しい祭の続きに戻ってやる!ここから先は第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

「いいえ、先輩。私達の反撃(ケンカ)です!」

雪菜と古城が並んで阿夜を睨む。

「姫柊……?」

「先輩は仕方ない人なので、もう許してあげます」

「雪菜も甘いなぁ」

「霊斗さんは黙ってください」

「へーいへい……で、アスタルテ。もう大丈夫か?」

「はい。でも霊斗さん……吸血鬼の力は……?」

「大丈夫だ。古城、少し任せる」

「……おう」

霊斗はアスタルテを連れて校舎内に入る。

階段を昇り、校庭に面した三階の教室に入る。

「ここならいいだろ」

「霊斗さん……?」

「アスタルテ、血を貰ってもいいよな?」

「だから、霊斗さんは吸血鬼の力が……」

「戻ってるんだよ。若い世代レベルだけどな」

「でも……どうやって……?」

「過適応能力だよ」

「霊斗さんが……過適応者(ハイパーアダプター)?」

「まあ、詳しいことはそのうち説明する」

「はぁ……。まぁ、いいですよ」

「じゃあ……ってうわぁぁっ!?」

霊斗がアスタルテを押し倒す。

同時に窓が爆砕する。

「古城……ヤロォ……」

「あの、霊斗さん……手が……」

「ん?」

アスタルテの声に霊斗が我に帰ると、霊斗は自分がアスタルテを押し倒した上、胸を触っていることに気づく。

「っっっ!?」

それに気付いた次の瞬間、霊斗をこれまでに感じたことのないくらい強い喉の渇きを覚えた。

「霊斗さん……?きゃっ!?」

吸血衝動のままに霊斗はアスタルテを抱きしめる。

「れ、霊斗さん……」

「アスタルテ、血、貰うぞ」

そう言うと、霊斗はアスタルテの首に牙を突き立てる。

すると、霊斗の体が段々と元に戻っていく――。

「霊斗さん……体が……」

「ああ。これが俺の新しい眷獣の力だ」

霊斗がアスタルテを抱き上げ、立ち上がる。

「行くぞ!」

「はい!」

霊斗は窓から身を踊らせる。

校庭には魔女の最終形態、''堕魂''となった阿夜の姿が――。

亡霊の吸血鬼(ロストブラッド)の魂を宿し者、暁霊斗が汝を天界より呼び起こす!」

霊斗の瞳が深紅に染まり、腕からは血の霧が噴き出す。

「降臨せよ!五番目の眷獣、''伊邪那岐命(イザナギ)''!」

霊斗が召喚したのは国産みの神の一柱。

「古城!合わせろ!」

「ああ!疾く在れ(きやがれ)、''獅子の黄金(レグルス・アウルム)''!」

霊斗の神の矛に、古城の災厄の雷が加わる。

「「うぉぉぉっ!いっけぇぇぇぇ!」」

二人の真祖の攻撃が悪魔の炎を弱める。

「獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る――」

そこに走り込んだのは雪菜だった。

雪菜の祝詞に反応して、槍が輝きを増す。

「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

雪菜の槍が悪魔の炎と阿夜の接続を断ち切る。

そこに――

「よくやった貴様ら!」

記憶が戻っていた那月が鎖を放ち、炎から阿夜を引きずり出す。

そして、悪魔の炎は消え、闇誓書の効果が消える。

「終わった……か」

「ああ……古城、眷獣戻せよ」

「そうだな……」

古城が眷獣の召喚を解除すると、島が色を取り戻していく。

そして、朝日が皆を照らし出す――

「「ぎゃあぁぁぁ!?あっちぃぃぃぃ!?」」

古城と霊斗は相変わらず焼かれていた。

いい雰囲気が台無しだが、雪菜は実感していた。

これが、自分の取り戻したかった日常なのだと。

 

 

 

 

 

霊斗とアスタルテは祭の屋台を回っていた。

「たまにはこういうのも、悪くないな」

「何を言ってるんですか。本当は楽しいんでしょう?」

「あ、バレた?」

「霊斗さんの考えくらい、わかります」

「そうか……お、金魚すくいだな。何年ぶりだろうな……」

「金魚……ですか?……小さくて可愛いですね」

「よし、俺が捕ってやるよ。おっちゃん、一回」

「あいよ」

屋台のおじさんにポイを受け取って、霊斗はしゃがむ。

「……ふぅー……」

「……(わくわく)」

「……そいっ!」

霊斗が掛声と共に、金魚をすくいあげる。

その後も何匹か捕まえ、五匹目をすくったところでポイが破れた。

「あー……」

「霊斗さん……すごいです……」

「そうか?……なんか照れるな……」

霊斗は頭をかきながら歩き出す。

アスタルテも隣についてくる。

「お、そろそろ時間だな。行くか」

「じゃあ、お願いします」

霊斗は空間転移を使って、古城達との集合場所に跳ぶ。

待ち合わせの場所に着くと、海の方で花火が上がった。

「綺麗だな……」

「本当ですね……」

すると、霊斗がアスタルテに無言で金魚の袋を渡す。

「これは……」

「捕ってやるって言ったろ」

「私に……?」

「そうだよ。可愛いって言ってたろ?」

「はい……ありがとうございます」

そう言うとアスタルテは、霊斗の腕を引いて岸壁に向かって歩き出した。

すると、次の瞬間。

「ちゃんと私の傍にいてください!」

「「……」」

「傍にいろって……花火大会が終わるまでか?」

「この先もずっとです!」

「「oh……」」

霊斗とアスタルテは衝撃のシーンを目撃した。

明らかに雪菜の告白シーンである。

隣では浅葱に紗矢華、凪沙が硬直している。

それに気付いた雪菜があたふたと言い訳をする。

「雪菜……おめでと」

「雪菜さん、ファイト!」

「だから……違うんですーっ!」

雪菜の絶叫が夜の街に響き渡った。

霊斗はそれを見て思った。

こいつら、弄り甲斐あるな。と。

これは祭最後の夜の、誰も知らない一幕である。




完・結!
霊斗の過適応については、過去編で詳しく書きます。
ではまた次回!


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日常編Ⅲ
特別編・とある日常の話


今回は特別編です。
霊斗達の授業風景でも書いていこうかと……。
では本編をどうぞ。


朝。

霊斗は窓から差し込む朝日で目を覚ました。

「朝……か。眠いな……」

霊斗は昨日まで波浪院フェスタの手伝いをしていたため、疲労しきっていた。

「今日は学校休むかー……」

すると、ドアを開けてアスタルテが入ってきた。

「起きてください。遅刻しますよ」

「あー、体調悪いから休むわ」

「じゃあ診察しますから、起きてください」

「ごめんなさい嘘です。仕度するので待っててください」

霊斗は起き上がり、鞄に筆記用具を詰め込む。

「よし、着替えるから部屋から出てくれ」

「お断りします」

「なんで!?」

「ちょっとした目の保養を……」

「出てけー!」

「じゃあ、朝食の用意をしてきますね」

「へいへい……」

アスタルテが部屋を出て行ったのを確認すると、制服に着替える。

そこで、普段制服の上に羽織っているパーカーがないことに気づく。

「あー……こないだの奴で最後だったか……」

仕方なく、そのままでリビングに出る。

「あ、霊斗君!おはよー!」

「霊斗、おはよう」

「ああ、おはよう」

凪沙がキッチンから、古城がテーブルから声を掛けてくる。

「なぁ霊斗、パーカーはどうした?」

「こないだので終わった。あれも穴だらけだったしなぁ……。また今度買ってくるさ」

霊斗は溜息をついて椅子に座る。

そこにアスタルテと凪沙が朝食を運んでくる。

「「「「頂きます」」」」

この日は珍しく全員で朝食を摂ることになった。

「なんか、古城と凪沙がいるのが久しぶりだな」

「それは霊斗君と古城君が起きるのが遅いからでしょ!」

「霊斗達が俺の事起こしてくれねぇからだろ!」

「霊斗さんが中途半端な時間に起きるからです」

「うっわひでぇ!」

そこで凪沙が立ち上がる。

「じゃあ、凪沙は部活の朝練あるから行くね!アスタルテちゃん、食器お願い!」

「わかりました、洗っておきますね」

「じゃあ、いってきまーす!」

そう言うと凪沙は騒々しく出て行った。

「朝から騒がしいな……」

「まったくだ。こっちの事も考えてくれよ……」

「ふぅ……眠いです……」

三人の吸血鬼は揃って溜息をついた。

すると、チャイムがなった。

古城がインターフォンを見ると、そこには雪菜が立っていた。

「姫柊か、ちょっと待ってくれ、すぐ行く」

『はい。じゃあ待ってます』

そして古城は鞄を掴んで玄関に向かって行った。

「仲いいなー……」

「じゃあ、食器片付けますね」

「ああ、手伝うよ」

霊斗とアスタルテは並んでキッチンに立った。

「……眠い……」

「ですね……」

二人してうとうとしながら皿を洗い、片付けたところで時間を見る。

「やベェ!遅刻する!」

「急ぎましょう!」

「いや、だったら!」

霊斗はアスタルテを抱き上げる。

「ちょっと霊斗さん!?いきなり何を!?」

「目ェ瞑ってろ!」

霊斗は空間転移で学校の門の近くに跳ぶ。

ちなみに、古城が間違えて鍵をかけていたようなので、戸締まりは問題ない。

「うぐっ……」

「霊斗さん!無理するから!」

「いいから、先いってろ!」

アスタルテは霊斗の言うことに従って、先に教室に向かった。

霊斗は朝から魔力を行使した反動で眩暈を起こして膝をつく。

「うぅ……気持ちわりぃ……」

霊斗はふらふらとした足取りで校舎に向かう。

そのせいで、教室についたのは朝のHRが終わってからだった。

「ちくしょー……かったりぃー……」

「霊斗……あんたも災難ね……」

霊斗に同情するように話しかけてきたのは浅葱だった。

「全くだ……朝から空間転移なんかするもんじゃねぇな……」

「吸血鬼も楽じゃないわね……」

「はは……吸血鬼じゃなくてもダウンしてるやつもいるけどな」

霊斗の視線の先では基樹が黒いオーラ(のようななにか)を纏って机に突っ伏している。

「なにがあったんだあれ……」

「彼女さんと波浪院フェスタ回れなかったみたいよ」

霊斗の疑問に答えたのは倫だった。

「なるほど……」

「で、霊斗。古城はなんで死んでんのよ」

「寝不足だろ。おおかた紗矢華が寝かせてくれなかったんだろ(メールとか電話とか)」

「寝かせてくれなかった(R-18)!?な、ななな、なにやってんのよあいつは!なんであんたも止めないのよ!」

「いや、必要ないだろ?」

「あるでしょうがぁぁぁ!」

浅葱がキレたところでチャイムが鳴る。

最初の授業は英語だ。

教室には那月が入ってくる。

「日直、挨拶だ」

那月の合図で日直が号令をする。

「着席」

席につくと同時に霊斗は目を瞑る。

しかし、那月は何も言ってこない。

理由は簡単だ。

霊斗は仕事の関係上、英語はほぼマスターしているからだ。

だが、古城が寝ていると那月の攻撃が襲う。

「痛ぇ!なにすんだよ那月ちゃん!」

ゴスッ

「ぐおぉぉぉ!」

「担任をちゃん付で呼ぶな」

「なんで霊斗は殴られねぇんだよ!?理不尽だろ!」

「ほう……霊斗、この問題を日本語訳しろ」

那月が黒板に英文を書く。

「えー……''彼の名前は暁古城です。彼は非常に愚かで、いやらしい人物です''」

「俺の悪口じゃねぇか!」

「じゃあ古城、この文を和訳しろ」

那月が別の英文を書く。

「……''彼の名前は暁霊斗です''」

「続きは?」

「…………''彼は''」

「彼は?」

「………………」

「どうした、わからないのか?」

「………………はい……」

「仕方ないな、藍羽。答えろ」

「はい。''彼の名前は暁霊斗です。彼は流暢に英語を話します''」

「正解だ。どうだ古城。まだ理不尽だと言うか?」

「いいえ」

「だったら真面目に授業を聞け」

「はい……」

因みに彩海学園高等部一年の英語の学年トップは浅葱と霊斗が同率である。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

霊斗はアスタルテと一緒に自宅への道を歩いていた。

「霊斗さん、ちょっと行きたいところがあるので付き合ってもらってもいいですか?」

「ああ。どこに行くんだ?」

「ナイショです。ついてきてください」

アスタルテが霊斗の手を引いて歩いていく。

「なあ……教えてくれよ」

「駄目です」

そんなやり取りをしていると、見慣れた区画に出た。

そこは、獅子王機関の出張所がある場所だった。

つまり――

「ここです」

つまりは、アスタルテが来たかったのは――

「ラブホテル?」

「正解です」

「帰る」

帰ろうとする霊斗をアスタルテが捕まえる。

「駄目ですよ。帰らせません」

「は、離せよ……頼むから……」

「駄目です」

そこで霊斗はあることを閃いた。

「伴侶への命令だ。帰宅する」

「っ!?ひ、卑怯です……」

そんなこんなで、霊斗とアスタルテは自宅についた。

「霊斗さんの馬鹿……」

「まだ早い。もう何年かしたらな――」

バチン!

「霊斗さんの馬鹿ーっ!」

アスタルテが霊斗にビンタをして、部屋に駆け込んでいく。

「おうふ……」

霊斗は痛みで意識を失った。

結局翌日まで目を覚まさなかったと、後に彼は語る。

起きた彼の顔には赤い手形がついて、クラスメイトの笑い者だったという――。




霊斗はヘタレですね。
次回から新章突入です。
また次回!


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錬金術師の帰還編
錬金術師の帰還編Ⅰ


今回から新章開始です!
本編どうぞ!


霊斗は照りつける朝日に呻き声をあげる。

「ぐお……暑い……」

霊斗が起き上がると、カーテンを開けたアスタルテがいた。

「おはようございます」

「ああ、おはよう……って、なんだそのコート」

「実は……中等部の修学旅行に行くことになりました」

「は?」

「護衛として行け、と南宮先生に言われまして……」

「那月ちゃんか……」

霊斗は担任の顔を思い浮かべ、溜息をつく。

「まぁ、楽しんで来いよ」

「はい……。霊斗さん、私がいない間もちゃんと起きて学校にいってくださいね?」

「……が、頑張るよ」

霊斗はアスタルテに目を合わせないようにしながら答える。

すると、アスタルテは霊斗を見て一言。

「信用できないですね……」

「ひでぇ……」

「まあ、霊斗さんですし」

「オイコラどういう意味だ」

「ヘタレな霊斗さんは他の女性に手を出す心配はないと思いますが、それでも万が一ということがありますから」

「まだあのこと根に持ってんのかよ……」

霊斗は溜息をつく。

この間、ラブホテルから強制的に帰還して以来ずっとこんな調子である。

パッと見はいつもと変わらないように見えるが、言葉の端々トゲがある。

「では、私は先に行ってます」

「おう……いってら」

アスタルテが部屋を出て行くと、霊斗はベッドに寝転がる。

「はぁ……従者契約を切った方がいいのかなぁ……」

実のところ、出来ない話ではない。

第四真祖の眷獣の力を使って霊的径路を切断すればいいのだ。

今ならまだ従者になってから時間も経っていないため、特に大きな影響もないだろう。

影響があるのは霊斗だけだ。

「古城に頼んでみるか……」

霊斗はもやもやした気分のまま、学校に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

教室に玉葱の焦げる臭いが漂う。

「霊斗!玉葱焦げてるぞ!」

「うおっ!やべえ!」

霊斗は急いで火を止める。

そこに基樹が声を掛ける。

「どうした霊斗?今日はなんかボーッとしてんな?」

「いや、なんでもない。ただの寝不足だ」

霊斗は素っ気なく答えると、手際よく味付けをする。

古城は心配そうな顔で隣の班をみる。

「隣は大丈夫か?」

「あれは……大丈夫って言えるのか?」

「なんたって浅葱がいるからな」

「聞こえてるわよ!」

「「「おおこわいこわい」」」

「浅葱さん!落ち着いてください!熱したフライパンは凶器です!投げないでください!」

「離してアスタルテさん!あいつらの顔面を焼いてやらないと気がすまないの!」

浅葱がフライパンを振り回そうとするのをアスタルテが必死に抑える。

霊斗はそれをちらっと見ると、料理を再開する。

それをアスタルテが寂しそうな目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

霊斗、古城、凪沙、アスタルテ、雪菜、夏音はショッピングモールに来ていた。

「いやー!るる家のアイスは美味しいね!」

「おい、これはどういうことだ」

アイスを食べて幸せそうな表情の凪沙に、古城がドスの効いた声で聞く。

「どういうって……古城君と霊斗君に荷物持ちをしてもらってるだけだよ?」

「俺はいいけどな……霊斗はどうなんだよ?」

「…………」

「霊斗?」

「…………」

「霊斗君?」

「……」

「霊斗お兄さん?」

「……」

「霊斗さん!」

「ん?ああ、雪菜、なんだよ?」

「霊斗……俺達の話聞いてたか?」

「……すまん……」

「聞いてなかったのか……」

「まあ、いいよ!雪菜ちゃん、夏音ちゃん、アスタルテちゃん!あそこいこ!」

凪沙が指差したのはランジェリーショップだ。

「あ、古城君と霊斗君はついてこないでね」

「行くかっ!なぁ霊斗」

「…………」

「ったく……またこれかよ」

古城が溜息をついている間に四人は店へと入っていった。

それを見て古城がまた溜息をついていると、霊斗が勢いよく立ち上がった。

「霊斗……?」

霊斗の視線の先には赤白チェックの帽子に白いマントコートの男が立っていた。

「どーも」

「ちっす」

男の挨拶に古城も挨拶し返すが、霊斗は男を睨んだままだった。

「何者だ」

「そうだねぇ……真理の探求者とだけ言っておこうかな」

「真理の探求者だと!?」

霊斗が叫んだ次の瞬間、男の右腕からなにかが放たれた。

「古城!伏せろ!」

霊斗が古城の前に飛び出し、天照の炎でそれを焼く。

「な、なんだ今の!?」

「ふうん、今のは吸血鬼の眷獣か……」

「黙れ。お前に夏音は渡さない」

「目的までわかるのか……」

古城が霊斗を見ると、霊斗の目はどす黒く濁った赤に染まっていた。

(なんだあの目……見たことねぇぞ……)

霊斗が再び腕を一閃する。

「くっ……分が悪いな。一旦退かせてもらうよ」

そういうと、男は走り去った。

「霊斗……」

「なんだよ……」

「お前、荒れてるぞ。少し落ち着け」

「うるせぇ!古城に何がわかるんだよ!」

「だから落ち着けって!なにがあったんだよ!」

「ほっといてくれ!俺は……」

「先輩?霊斗さん?」

古城と霊斗が言い争っていると、雪菜が声を掛けてきた。

「姫柊……」

「雪菜、悪いけど俺は先に帰る。みんなにも伝えてくれ」

霊斗はそう言って、凪沙とアスタルテの荷物を持って空間転移で姿を消した。

「霊斗……お前……」

古城は霊斗の異変に戸惑うだけだった。




ではまた次回!


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錬金術師の帰還編Ⅱ

書くでーす。


翌朝。

古城はいつもより早く起き、朝食替わりのパンを食べながら学校に向かった。

向かった場所は那月の執務室。

「那月ちゃん、居るか?」

古城はノックしながら聞く。

しかし、返事がない。

代わりに背後から声がした。

「古城さん、南宮先生に何か御用ですか?」

「あ、ああ。アスタルテか……」

「何かありましたか?もしかして、昨日の件ですか?」

「そうなんだが……アスタルテ、人工生命体(ホムンクルス)って錬金術で作られたんだよな?」

「はい。基本的なベースは錬金術で、それにバイオテクノロジーなどの生物学的要素を加えたものですね」

「じゃあ、錬金術師の目的ってなんだかわかるか?」

「そうですね……一番の目的ならば、 ''神''に近づくことですね」

「神……か。鉛を金に変えたりするのは?」

「黄金錬成は''神''に近づく為の手段の副産物です。要するに、豆腐を作るときの湯葉みたいなものですね」

「豆腐?」

「ただの例えです。まあ、神とは言ってもゼウスやら天照やらの神ではなく、完璧な存在という意味での神です」

「完璧な存在?」

「例えば……そうですね、人の形を保ったままの不老不死とかですね。それならいくつか成功例があります」

「なるほど……」

「一つは古城さん、貴方です」

「俺?」

「人間でありながら不老不死の吸血鬼、第四真祖の力を手に入れ、自由に振るっている。ただし、神に呪われた存在ですが」

「明らかに失敗例じゃねぇか」

「二つ目は霊斗さんです」

「俺と同じじゃないのか?」

「いえ、霊斗さんの場合は霊能力で第五真祖の魂そのものを喰らったそうです。本人はあまり覚えていないようですが……でも、神に呪われた存在という点では同じですね」

「まあ、真祖だからな」

「ええ……三つ目は''賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)です」

「なんだそれ」

古城が聞くと、アスタルテは首を振りながら答える。

「詳細はわかりませんが、古の大錬金術師、ニーナ・アデラードは自ら精製した''賢者の霊血''によって不滅の肉体と無尽蔵の魔力を手に入れた、と聞いたことがあります」

「アデラード……そう言えばあの修道院もアデラードだったか?」

古城の記憶の片隅にあったのは、夏音が猫を育てていた修道院跡だ。

「修道院……ですか?」

「ああ、霊斗なら知ってると思うんだが……昨日の今日じゃ聞きにくいよな……」

「霊斗さん……何があったんでしょう……」

アスタルテも戸惑ったような表情をしている。

数週間経っているが、未だに仲直りしていないようだ。

恐らく霊斗が荒れている原因はこれだろう。

「にしても……昨日の霊斗、どこかおかしかったな……」

「古城さん」

「ん?」

「霊斗さんがおかしかったって、どんな風にですか!?」

アスタルテが声を荒げて聞いてくる。

「どんな風にって……吸血鬼化してる時の目の色がいつもと違った」

「普段より黒みがかった赤でしたか?」

「そんな感じだったな」

「……古城さん」

「どうした?」

「今回の件、霊斗さんをこの事件から遠ざけてください」

「……どういうことだ?なにがあるんだ?」

「このままだと……霊斗さんが……暴走します」

「暴走!?そうすると……霊斗はどうなっちまうんだ!?」

「よくて自我の消失、悪くて完全に第五真祖の魂に取り込まれる」

「それってだいぶヤバいんじゃ……って、え?」

「おいアスタルテ。人を勝手に外そうとすんじゃねぇよ」

いつの間にか古城の背後に立っていた霊斗がアスタルテを睨む。

「ひっ……でも、私は霊斗さんが心配で……」

「お前に心配されるほど俺は弱くない。しかも古城なんかに何話してんだよ」

「おい霊斗、いい加減に――」

「黙れ。雑魚は引っ込んでろ」

「なっ!?そんな言い方ねぇだろ!」

「自分の力も満足に使えない奴を雑魚と言って何が悪い?」

「霊斗、テメェ……」

「なんだ?やるか、古城?」

霊斗は古城から魔力の流れを感じなかった為、完全に油断していた。

「いい加減にしやがれ馬鹿野郎っ!」

ゴガギッ

「おごあっ!?」

古城のアッパーをまともに食らい、霊斗が意識を失う。

「アスタルテ、こいつを保健室に運ぶのを手伝ってくれ」

「は、はい」

古城は霊斗を保健室のベッドに頑丈な鎖で何重にも巻いてから、授業に出る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みの食堂。

浅葱がパスタを食べるのを見ながら古城は聞いた。

「なあ浅葱、アデラード修道院で、昔何があったかわかるか?」

「ん?アデラード修道院?」

「ああ。公園の裏にあるやつ」

「覚えてないわよ。……待ってて、公社のアーカイブ調べてみる」

浅葱はスマホを弄っていたが、顔をしかめた。

「出てこないわね……誰かに消された?」

「そうか……浅葱、午後の授業、休むわ」

「はぁ!?何言ってんのあんた!?」

古城は走り出すが、浅葱はしっかりついてくる。

「いや、なんでついてくるんだよ!」

「あんたは授業サボってなにするつもりよ!」

「猫だよ猫!」

「はぁ?猫ぉ?」

古城は舌打ちしてそのまま走った。

そして、公園の丘についたころには古城も浅葱も息が上がっていた。

古城が息を整えながら修道院の方を見ると、見慣れない人影がいた。

「浅葱っ!伏せろ!」

「え?きゃっ!」

古城が浅葱を草むらに引摺り込んで、押し倒す。

「古城……こ、こんなところで……」

「浅葱、あいつらはなんだ?」

「は?」

浅葱が見ると、武装した屈強な男が数人立っていた。

すると、それに答える声があった。

特区警備隊(アイランド・ガード)拠点防衛部隊(ガーディアン)だ。まったく、昼間からクラスメイトを押し倒すとはな……」

「なっ!?那月ちゃん、何を言って――」

「(ギロッ)なんだ?今私を那月ちゃんと呼んだか?」

「イェ、ナンデモナイデス」

「さて、暁古城。昨日の件から話がある。他言は無用だ」

そう言って、那月が扇子を一閃する。

すると、式神が落ちてきた。

「まずは昨日の件からだ。暁霊斗の異変について話せ」

「霊斗か……霊斗が、第五真祖の魂に取り込まれるかもしれない」

「やはりそうか……あの魔力は()だったか……よし、じゃあ次だ。叶瀬賢生は覚えているな?」

「ああ。でも、なんでだ?」

「一昨日、何者かによって襲撃された」

「なっ!?誰に!?」

「警備隊は天塚汞と言う男を被疑者として追っている」

「……もしかして、赤白チェックの錬金術師か?」

「ああ。恐らく霊斗が昨日始末し損ねた錬金術師がそうだ。――さて、これで話は終わりだ。暁古城、藍場浅葱。貴様らには補修授業だ。放課後、教室で行うからな……逃げるなよ?」

「「はい……」」

古城と浅葱は二人同時に溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

古城はようやく補修から解放されて下校しようとしていた。

そこで、校門前に立つ少女を見つける。

古城は一瞬逃げようかと思ったが、諦めて雪菜の元に行く。

「先輩、遅かったですね?」

「あ、ああ。補修があってな」

「では、なぜ修道院に行ったんですか?」

「それは――叶瀬がまた猫を拾ってないかの確認だよ。あの錬金術師がいたら危険だろ?」

「藍羽先輩は?」

「あ……」

雪菜の指摘で古城はようやく気づく。

そう、あの場で一番危険だったのは浅葱だ。

「悪い。俺が軽率だった」

「はい。反省してください」

「はい、反省します」

古城が素直に聞いていると、雪菜は少しだけ機嫌を直したようだ。

「じゃあ先輩、少し付き合ってください。次の駅で降ります」

「ああ」

古城は雪菜に言われて、モノレールを降りる。

そこは古城には馴染みのない場所だった。

周りにはホテルが立ち並ぶ。

しかも、ラで始まるタイプのホテルである。

「なあ、姫柊……」

「はい……」

「ここは?」

「ただのホテル街ですよね?あ、先輩、目を閉じてください」

雪菜に言われて古城が目を閉じると、雪菜が古城の手を引く。

(!?!?!?!?)

突然の事で古城の心拍数が跳ね上がる。

すると、何かを通り抜けるような感覚と共に雪菜の手が離れる。

「着きました。目を開けていいですよ」

古城が目を開くと、そこには骨董品店があった。

「えーっと……」

「人払いの結界が張ってあったんです。壊されると面倒なので、誘導させてもらいました……べ、別に深い意味とかはありませんから!」

雪菜はそう言って骨董品店の方を向く。

「で、なんだここ?」

古城が聞くと、雪菜が静かに、微かに緊張したように答える。

「獅子王機関です」

「は?」

古城は間抜けな声を出すことしかできなかった。




さて、過去編に向けて、霊斗の秘密を段々明かしていきます。
ではまた次回!


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錬金術師の帰還編Ⅲ

最近書くことがない。
本編どうぞ。


霊斗は鎖でギチギチに縛られた状態で目を覚ました。

「くそ……あいつら……」

霊斗が溜息をつき、力を入れて鎖を千切ろうとする。

「無駄だよ、霊君の力じゃ千切れないよ。ただでさえ弱ってるんだから、大人しくしてたら?」

「天音……あいつらに言われたのか?」

「違うよ。古城君とアスタルテちゃんは普通の鎖で縛っただけ。それを私が特別製のに変えただけだよ」

「離せ。今すぐにだ」

「ふふ、今の霊君が私を支配できるかな?」

「テメェ……」

「時間が無いのはわかってる。それを隠したいのも、霊君が本当の事を言えないので苦しんでるのもわかるよ」

「だったら……」

()()。お前が我の力を喰らうには優秀な従者が必要だと、強い絆が必要だと言ったはずだ。一度手に入った従者を捨て、我に喰らわれるのを望むか?」

「っ!……お前に……お前に喰らわれるなんて御免だ」

「だったらなぜ自ら捨てようとする?お前は従者を戦いに巻き込みたくないだけだろう?」

「俺は自分の大切な人が死ぬのは見たくない」

「それは''獅子王機関の剣凰''としてのお前の言葉か?それとも''第五真祖''としてのお前か?」

「それは……」

「ふん、まぁ精々考えるがいいさ。ただし、今回の件に関われば残された時間は更に減るぞ」

「構わない。あいつを守る為なら……俺は死んだっていい」

「そうか。その選択が間違っていないといいな」

「なに?」

「いや、気にするな。年寄りの戯れ言さ」

そう言って天音は消えた。

霊斗は茫然としていたが、枕元にあった携帯が光っているのを見て、画面を確認する。

「ん?師家さまから?」

内容は簡単だった。

''出張所に来い''

「拒否権は……ないだろうな」

霊斗は溜息をついて空間転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古城はもう一度雪菜に聞く。

「なあ、殺されたりしないよな?」

「さっきから……先輩は獅子王機関をなんだと思ってるんですか……」

雪菜に聞かれて、古城は正直に答える。

「国家公認ストーカー」

「殺していいですか?」

「全くだ。最低な認識だぞ」

「げっ!?霊斗!?」

「なんだその反応。殺すぞ」

「いや、すまん」

「いいさ。それより、八つ当りしちまって悪かったな」

「それならアスタルテに言ってやれ。ずっと落ち込んでたんだからな」

「わかった。じゃあ、行くか」

「霊斗さんも呼び出されたんですか?」

「ああ。メールでな」

「雑だな」

三人は雪菜を先頭にして店内に入っていく。

「いらっしゃいませ」

「ん?……き、煌坂?」

「いや、式神だな」

「師家さまの式神ですね。と、いうか先輩。胸ばかり見すぎです」

「古城は変態だなぁ(ギチュ)」

「にぎゃぁぁぁぁ!目が、目がぁぁぁぁ!」

「霊斗さん!?本気の目潰しは殺りすぎです!」

「回復するし、大丈夫だろ?」

「ぐぁぁぁっ!くそっ!目が見えねぇ!(ムニュ)ん?なんだこれ」

「先輩……」

「おー、古城、大胆だなー」

「え?だからこれなに?(ムニュムニュ)」

「ひあっ!?せ、先輩!いい加減にしてください!」

「古城のスケベー。雪菜に言ってやろー」

「それは勘弁してくれ!で、これは……お、目がやっと…………(ササッ)」

「先輩」

「はい」

「ちょっとドア側に行ってください」

「お、おう」

雪菜に言われて古城が移動する。

「先輩」

「なんでしょうか」

「歯を食い縛ってください」

「待ってくれ!暴力確定じゃねぇか!」

「歯を食い縛ってください」

「は、はい」

古城が痛みを覚悟して目を瞑ると、雪菜の手が古城にそっと触れる。

「ひ、姫柊?」

(ゆらぎ)よ――!」

「ぐぼごげがぁっ!?!?!?!?」

古城が痛みに蹲り呻いていると、新たな声が割り込んできた。

「なんだい?騒々しいねぇ……」

「師家さま!」

「雪菜に霊斗、来たかい」

「姫柊雪菜、只今参りました」

「雪菜は相変わらず固いねぇ……」

「よっす」

「こっちの馬鹿は相変わらず礼儀がなってないねぇ……」

「……誰?」

「あんたが第四真祖かい?」

「ああ。一応な」

「雪菜が世話になってるね。あと、その馬鹿は躾といてくれるかい?」

「わかった」

「わかるなよ」

つっこむ霊斗を一瞥すると、師家――式神だが――は雪菜を見る。

「雪菜、槍は?」

「はい、ここに」

雪菜が槍を差し出すと、師家は槍を見る。

「ふむ。とりあえずは合格点だね。だけど、霊視に頼りすぎるんじゃないよ」

「はい」

「霊斗。あんたは手を出しな」

「は?槍じゃねぇの?」

「敬語を使いな。あんたの侵食の進み具合を診てやるって言ってるんだよ」

「じゃあ、はい」

霊斗が手を出すと、式神は腕の上に飛び乗る。

「ふむ……だいぶ進行しちまってるね。しばらくは力を使うのは控えな」

「それは無理だ。まだ片付いてない問題があるんでな」

「そうかい……だったら、吸血鬼の力じゃなくて、槍を使いな。そっちなら大丈夫だよ」

「わかった。善処する」

霊斗がそう言った時だった。

古城の携帯が鳴り始める。

「誰だ?」

ディスプレイには浅葱の名前が表示されていた。

 

 

 

 

 

 

 

浅葱は修道院の周りを歩きながら電話を掛けていた。

『もしもし、浅葱か?』

「あ、古城?あんた今どこに居んの?」

『西地区の六号坂あたりの店だ。姫柊の知り合いが店やってるんだ』

「ふーん。じゃあ、今暇?」

『ああ。暇っちゃあ暇だな』

「じゃあさ、ちょっと頼みがあるんだけど……」

『なんだ?』

「あんたがあたしにくれたピアス、覚えてる?」

『ああ、お前の誕生日に、無理矢理買わされたやつな』

「で、それを片っ方落としちゃったみたいなのよ。今修道院の周りを探してるんだけど……」

『ば、馬鹿!なにやってんだお前!』

「はあ?なに言ってんの?」

『今日も特区警備隊がいただろ!危ないから帰れ!』

「……わかったわよ。あと一周したら帰る」

『今すぐに帰れ!』

古城が怒っているが、浅葱はピアスを探す。

すると、急に地響きが襲った。

『浅葱!?なんだ今の音!』

「わかんないけど……なにこれ……」

古城が切羽詰まった声で聞いてくるが、浅葱はとあるものを見ていた。

それは不定形のスライムのような生物だ。

「あれ?」

逃げようとした浅葱の耳に聞こえてきたのは男の声だった。

「見られちゃったか……じゃあ、死んでもらうしかないね」

「え?」

男の言葉を認識した瞬間、浅葱の身体は宙に舞っていた。

「嘘……古城……」

浅葱は最後に一人の少年の名前を呼ぶ。

彼女の指先では、赤い宝石の破片が夕日を反射していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!通じねぇ!」

「まずいな……師家さま、式神借りるぜ!」

「好きにしな」

「古城!雪菜!行くぞ!」

霊斗は空間転移で修道院跡に跳ぶ。

そこには、血塗れで倒れる浅葱が――。

「嘘……だろ」

「浅葱……」

「藍羽先輩……」

古城が浅葱を抱き抱えるが、浅葱は目を開けない。

誰が見てもわかる。

浅葱は死んでいる。

「俺のせいだ……」

「先輩?」

「俺が浅葱をここに連れてきたから!無関係の浅葱を巻き込んじまった!」

「古城!落ち着け!」

古城の身体から魔力が噴き出す。

「雪菜!下がってろ!」

「霊斗さん!?」

古城の魔力の嵐に、霊斗が飛び込んでいく。

「ぐっ……」

しかし、古城の魔力が霊斗の皮膚を切り裂いていく。

さらに古城の身体の周りの重力が強くなり、雷撃が発生する。

「ぐぁぁぁっ!」

「霊斗さん!危険です!」

「うぐっ……天……照!」

霊斗が眷獣を召喚するが、弱っている霊斗では勝てるわけがない。

「古城!目を覚ませぇぇぇぇ!」

しかし、霊斗の声は届かない。

霊斗の眷獣が消滅し、霊斗が膝をつく。

「ゲホッ!」

「霊斗さん!」

「雪菜!浅葱を連れて隠れてろ!」

霊斗が浅葱を雪菜の元に転移させる。

「でも、藍羽先輩は……」

「まだ生きてる!いいから!」

雪菜が離れたのを確認して、霊斗は吸血鬼の力をフルに解放する。

「うぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

霊斗の瞳が真紅に染まり、それが段々黒みがかってくる。

「ぐっ……古城!いい加減に……目を覚ませぇぇぇぇ!」

霊斗が眷獣を解放する。

「アマテラス!ツクヨミ!スサノオ!」

眷獣が古城の魔力を押さえ込んでいく。

そして霊斗は古城に近寄り――

「古城!浅葱は生きてる!だから、正気に戻れ!」

「霊……斗……」

「落ち着いたか?」

「俺は……」

「いいんだ。誰も怪我してないから」

霊斗が古城に手を貸して立ち上がらせていると、雪菜が浅葱を抱えて戻ってくる。

「先輩……」

「悪い、姫柊」

「いえ……それより……」

雪菜はそう言って振り替える。

「あれ?この前の吸血鬼二人組じゃないか」

「天塚……汞」

「どいてよ。僕は回収しなきゃいけない物があるんだよ」

「黙れ、錬金術師もどき」

「なに……?」

「その肉体。本体じゃないだろ。''賢者の霊血''でも使ってんのか?」

「へぇ……なかなか鋭いね……じゃあ、もうこの姿の意味はないね」

そう言った天塚の輪郭が崩れ、不定形のスライムになっていく。

しかし、霊斗は余裕な表情で槍を振る。

……どこからだした。

「霊斗?」

「あいつは俺がやる」

霊斗はそう言って槍を構えスライムに向かって突っ込む。

『オォォォォォ!』

「消えろ、バケモノ」

霊斗が槍を突き立てると、霊血の術式が解除され、動きが止まる。

「終わったのか?」

「……ああ」

「霊斗さん、ありがとうございます」

「ああ。いいよ」

霊斗が座り込むと、聞き慣れた声がした。

「いたた……あれ?古城?」

「浅葱?」

「どうしたのよ……ってうわ!なんであたし血塗れなの!?」

「まあ、無事で何よりだ」

「だな」

霊斗と古城は顔を見合せて笑った。

浅葱は不思議そうにしていたが、霊斗と古城は気にせずに笑った。

友人の生還を喜ぶ笑いだった。




さあ、霊斗の過去に向けて複線を張っていきます。
ではまた次回!


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錬金術師の帰還編Ⅳ

テレビって面白いですよね。
僕の好きなテレビはモニタリングです。
どうでもいいですね、はい。
本編をどうぞ。


古城が浅葱に聞く。

「なあ、どうやって帰る?」

「はぁ?普通に歩いて帰るんじゃないの?」

「いや、だってお前……」

「なによ?」

「古城はそんな格好で歩くのか心配してんだよ」

「え?……あっ……」

「しょうがねぇな……古城、パーカー貸してやれ」

「お、おう」

「じゃあ、警備隊が来る前にずらかるぞ」

「え?このままウチに行くのか?」

「ああ。一旦ウチに帰って浅葱を着替えさせてからMARに行く」

「ああ……なるほどね」

「わかったなら行くぞ」

四人は暁家に向かった。

「で、あのバケモノはどうなったの?」

「霊斗が殺した」

「あ、そう」

「あの……先輩、霊斗さん」

「ん?どうした?」

「私は師家さまの所に戻りますね」

「ああ……雪菜、罰ゲームがんば」

「……無いことを祈ります」

雪菜は骨董品屋の方へ走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暁家。

古城がドアを開けると、凪沙が駆け寄ってきた。

「あ、霊斗君に古城君おかえり!牛乳買ってきてくれた?」

「牛乳?」

「えー、二人にメールしたんだけど!」

凪沙に言われて古城と霊斗はポケットから携帯を取り出す。

そして二人同時に呟く。

「「うわぁ……」」

中から出てきたのは無数の電子パーツだった。

古城と霊斗の魔力の衝突で壊れたのだろう。

「……はぁ……」

「えー!?二人ともまた壊したの!?」

「すまん凪沙。錬金術師に浅葱が襲われてたから、そいつと戦ってたらな……」

「え?あ!浅葱ちゃん!怪我してる!?」

「大丈夫だ。俺が治癒しといた」

「あ、良かったぁー。で、古城君は?」

「浅葱を守ろうとして転んだんだ」

「え……だっさ……」

「霊斗……覚えとけよ……」

「やだ」

「なんでだよ!」

「あー、悪い、凪沙。浅葱に風呂を貸してやってくれ。着替えは母さんが買ってきた女装セットでいいだろ」

「あー、あれね……わかった!用意しとくね!」

「じゃあ、俺は牛乳買ってくる」

「あ!霊斗君、宿泊研修に持ってくお菓子買ってきて!」

「へいへーい」

霊斗は再び家を出た。

しばらく歩くと公園があったので、ベンチに座って休む。

「はぁ……」

溜息をついて空を見上げる。

「あいつ、なんて言うかな……」

霊斗はもうアスタルテに言う事は決めていた。

だが、それが言えない。

「ははっ……俺も臆病だな……」

霊斗は自嘲気味に笑う。

「はぁ……あ、財布忘れた」

霊斗は渋々立ちあがり、家に戻る。

「ただいまー……」

「あ、霊斗君!おかえり、早かったね!」

「いや、財布忘れただけ」

「えー!もう!凪沙が行ってくるからいいよ!」

「すまん」

「じゃ、いってきまーす!」

凪沙が騒々しく飛び出していったのを見て、霊斗はキッチンに向かい、ココアを淹れる。

「はー、甘い……」

「相変わらず甘党だな」

隣で古城がコーヒーを淹れ始める。

「まあな……疲れた時にはココアが一番だ」

「そうか……いただきます……ブホッゲホッ!」

「どうした?」

「あ、あああ、浅葱!?なんでそんな格好で!?」

「ん?浅葱?ゴホガハッ!?」

浅葱は服を着ていなかった。

「ふ、ふふ、服を着ろ服を!」

「ん……吸血鬼か……」

「「なにぃっ!?」」

「ここは主らの館か?」

「あ、ああ……お前……浅葱じゃないな?」

「主は鋭いのぅ……浅葱というのはこの身体の本来の持主か」

「そうだ……その宝石は……まさか''錬核(ハードコア)''!?」

「''錬核''の事もわかるのか。いかにも、これは''錬核''だ」

「お前の正体がわかった……お前、ニーナ・アデラードだな!」

「すまん、霊斗。まったくわからん」

「いかにも、妾が古の大錬金術師、ニーナ・アデラードだ」

「「自分で大錬金術師とか言うんだ!?」」

「事実だからな」

「なんか偉そうで気に食わないが……ニーナ・アデラード、浅葱を救ってくれた事、感謝する」

「なんだ、主は意外と律儀だな。まぁ、感謝などよい。利害の一致というやつだな」

「いや、違うだろ」

「そうか?……そういえば主らの名前を聞いておらぬな」

「俺は暁霊斗。こいつは古城」

「霊斗に古城か……吸血鬼の兄弟とは珍しいな」

「血は繋がってねぇけどな」

「そうか……」

「で、あんたは霊血を集めれば浅葱から出ていってくれるのか?」

「そうだな。霊血さえあれば妾は自分の身体を取り戻せるのでな」

「じゃあ古城。今夜からさっそく探すぞ」

「ああ」

霊斗と古城が頷き合っていると、ニーナは驚いたような表情をして、すぐに優しい表情になる。

「主らは優しいのだな……まるで叶瀬夏音のようだな」

「俺らはあんなに優しくないさ。……特に俺はな」

「そうか……何があったかはわからんが、先達者の助言をやろう」

「はぁ?」

「自分の信じた道を行くのではなく、自分の信じる道を切り開け。それは必ず正しいとは限らないが、誰かがきっと認めてくれる」

「……」

「霊斗?」

霊斗は唖然としていたが、急に笑いだした。

「あははは!」

「れ、霊斗!?」

「ありがとう、ニーナ。お陰で目が覚めた」

「若者を導くのが先達者の役目だ」

「でも、やっと自分のやるべき事がわかった」

「それは良かった」

「で、ニーナ」

「なんだ?」

「そろそろ古城が失血死しそう」

「うお!?なにがあったのだ!?」

「お前が服着てねぇからだよ!はよ服!服着ろ!」

霊斗が自分の服を着せ、古城の蘇生を開始する。

「起きろ古城!お~き~ろ~!」

「ハッ(゜ロ゜)!俺は何を!?」

「ふう、無事か」

霊斗は呟き、残っていた冷めたココアを飲み干した。




あー、疲れた。
もう寝よう。
おやすみなさい(^o^)/!
また次回!


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錬金術師の帰還編Ⅴ

書きまーす。


霊斗、古城、ニーナは古城の部屋で作戦会議をしていた。

何故リビングでは無いのか。

それは、凪沙が夕飯を作っている最中だからである。

「で、どうする?」

「なぁニーナ、霊血ってまた造れないのか?」

「そうだな……この身体の体重と同じだけの黄金、銀、レアメタル各種に水銀九百リットル。そこに霊能力者一四、五人ほどいれば造れるぞ」

「無理だろ!?」

「霊能力者はなんとかなるとしても各種貴金属がなぁ……」

「いや、人道的問題があるだろ」

「大丈夫だ古城、俺達は人間じゃないから」

「ああそうだったな!知ってたよ!」

「まあ、冗談だ。探すなら……那月ちゃんに頼むしかないか……」

「那月というと……あの''空隙の魔女''か」

「知ってるのか?」

「うむ、欧州で名を馳せたと聞いているぞ。確か''魔族殺しの南宮那月''と呼ばれておったか」

「ふーん……那月ちゃんも有名人だな」

霊斗がそう言うと、古城が電話の子機を持ってくる。

「霊斗、那月ちゃんの電話番号わかるか?」

「ああ……ほら、このメモに書いてある」

「サンキュ……」

「出ない気がするけどな」

「……出ねぇ」

「やっぱりな」

「じゃあ、どうする?……ニーナ?」

「すー……すー……」

「寝てんじゃねぇ!」

「ぬ……妾としたことが、ついうたた寝をしてしまったようだな」

「「嘘つくな!がっつり寝てたわ!」」

霊斗と古城が同時に叫ぶと、ドアをノックする音がして、凪沙の声がする。

「霊斗君、古城君、浅葱ちゃん、夕飯できたよ」

「ああ、今行く」

霊斗が答えると、凪沙がドアの前から離れて行く気配がした。

「よし、ニーナ。余計な事は喋るなよ。喋ったら……」

「よかろう。お主らの会話である程度はわかったからな、その成果を見せてやろう」

ニーナが胸を張りながら言う。

((この自信はどこから沸いてくるんだ……))

ますます不安になる古城と霊斗だった。

しかし、気を取り直してリビングに向かう。

「お、グラタンか」

「そうだよ!じゃんじゃん食べてね!」

「姫柊もいるのか」

「お邪魔してます」

雪菜が挨拶しながら皿を並べていく。

そこで霊斗は違和感を覚える。

「なあ、なんで皿が五枚しかないんだ?」

そう、普段の暁家に二人分足したら六枚のはずである。

「ああ、アスタルテちゃんがね、今日は南宮先生の所に泊まるって」

「なんでまた急に?」

「さぁ?あ、なんかすっごい落ち込んでたけど、霊斗君、ケンカした?」

「……」

霊斗は古城を見る。

「……(スッ)」

目を逸らされた。

次に雪菜を見る。

「……?」

まず状況を理解していなかった。

ニーナは使いものにならないのはわかっているのでスルー。

(やべぇ……俺の味方は一人もいない……)

霊斗のシャツは冷や汗でびっしょりだ。

仕方ないので、正直に言う。

「えっと……ケンカというか、俺が一方的に心無い言葉を浴びせたというか……」

「霊斗、目が泳いでるぞ」

「……今から謝ってきます」

「あ、うん。グラタン、冷蔵庫に入れとくね」

凪沙が苦笑いしながらグラタンを冷蔵庫に入れる。

「すまん……行ってくる」

霊斗は玄関に向かい、空間転移する。

 

 

 

 

 

 

 

とある高級マンションの地下駐車場。

ダクトから水銀のようなモノが落ちてくる。

それは、だんだん人の形になっていく。

「叶瀬夏音……待ってろよ……」

狂気の笑みを浮かべながら現れたのは天塚汞だった。

だが、その笑みが怪訝そうな表情に変わる。

彼の視線の先には二人分の人影があった。

「まるでター〇ネーターみたいな登場だな、天塚汞」

高圧的な口調で言ったのは那月だった。

それと同時に無数の鎖が天塚を縛る。

「へぇ……あんたは血も涙もない人だと思ってたけど……訂正するよ」

天塚はそう言うと身体を液体金属に変化させて鎖をほどく。

「またグニャグニャと……マジシャンにでもなったらどうだ?天塚汞の切れ端」

「バレてたのか……マジシャンの方は依頼を完遂したら考えてみるよ」

天塚が再びダクトに逃げようとするが、それらは結界によって弾かれる。

「残念だが退路は断ってあるぞ」

「だったら……その身体を壊すだけさ!」

天塚が胸の石を砕き、完全に液体化する。

「ふん、下らん冗談だ。―――やれ、アスタルテ」

「はい。――降臨せよ(エクスキュート)''薔薇の指先(ロドダクテュロス)''」

先程から待機していたもう一人の人影はアスタルテだ。

そのアスタルテが眷獣を召喚する。

だが、普段と違う所があった。

召喚されるゴーレムがアスタルテを体内に取り込まないのだ。

「喰ってください''薔薇の指先''」

アスタルテが命じると、ゴーレムが天塚だった液体金属を蹂躙していく。

『グオォォォォォォォ!』

液体金属が苦悶の咆哮をあげ、やがて力尽き、ただの金属に変わる。

「完了しました」

「ふん、修業の成果は出ているみたいだな」

那月はそう言うと結界を解除する。

すると、誰かが駐車場に転移してくる。

「那月ちゃん!(ボキッ)腕の骨がっ!?」

「何のようだ?霊斗」

現れた直後に腕を折られたのは霊斗だった。

「痛ってぇ……那月ちゃん、加減してよ(ゴキッ)足の骨がっ!?(ズルッ――ビタン)オグァッ!」

懲りずに那月ちゃんと言うので身体の傷が増えていく。

「でさー、那月ちゃん。アスタルテ来てない?」

「なぜそこまでの傷で普通に喋れるのかはわからんが……アスタルテならそこだ」

「え?」

霊斗が芋虫のように方向転換すると、そこには巨大なゴーレムが――

「あ、詰んだ」

「早とちりにも程があるだろう」

那月に言われてゴーレムをよく見ると、足元の影にアスタルテが隠れていた。

「アスタルテ!」

「(ビクッ――ガタガタガタガタガタガタ)……」

「え、なんであんな震えてんの?〇鬼のた〇しぐらいじゃん」

「お前のせいだろう」

「え――あ……」

霊斗がその原因を理解する。

「その……アスタルテ、朝は俺が悪かった。本当にごめん」

「霊斗さん……怒ってませんか?」

「ああ、怒ってない。折れてるけど」

「ぜんぜん上手くないです……」

アスタルテはそう言うと眷獣の召喚を解除し、霊斗の近くに行く。

「まったく……霊斗さんは仕方ない吸血鬼(ひと)ですね」

「それ、雪菜が前に言ってなかったか?」

「そうでしたか?」

霊斗とアスタルテは笑い合う。

「で、アスタルテ。本題なんだが――」

「はい、なんですか?」

アスタルテが頬笑みながら聞く。

だが、次の霊斗の一言でそれは消えた。

「もう別れよう。血の伴侶も契約を切る」

「え……霊斗さん?冗談……ですよね?」

「俺は本気だ」

「そんな……嘘……だって……嘘だって……言ってください……」

「俺なりに考えた結果だ。わかってくれないか?」

「……さんの」

「え?」

「霊斗さんの……バカ……」

アスタルテはそう言いながらマンションから走り去った。

「良かったのか?あれで」

「ああ。それがアスタルテの為……アスタルテを危険に巻き込まないためだ」

「そのわりには随分と情けない顔をしているんだな」

「はは……言わないでくれよ」

霊斗は苦笑いしながら那月に言うが、内心では別の事を考えていた。

走り去るアスタルテを見て。

走り去るアスタルテの涙を見て。

本当にこれで良かったのか。

(いいんだ……これで)

疾く在れ(とくあれ)''〇〇〇〇〇''」

霊斗は事前に過適応能力で入手していた第四真祖の眷獣で、アスタルテとの霊的径路を切断する。

「那月先生、ごめん、みっともない所を見せて」

「ふん、精々うまくやれ。私は帰る」

那月はそう言うと空間転移で姿を消す。

それを見て霊斗は、糸が切れたように座り込む。

しばらく、そのままだった。

まるで罪人である兄を異界へと追放した弟のように。




まあ、ネタバレは防ぐべきだよね。
というわけでね、途中は伏せ字になってます。
ではまた次回!


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錬金術師の帰還編Ⅵ

書くことがない……。
じゃ、本編をどうぞ。


翌朝、古城と霊斗はマンションのロビーにいた。

凪沙、雪菜、アスタルテを見送るためである。

「古城君、しっかり起きて学校いくんだよ?遅刻しちゃダメだからね!」

「へいへい、お前も忘れ物とかしてねぇだろうな?」

「大丈夫大丈夫――あ、お財布忘れたっ!」

「ほら、これだろ」

「あ、霊斗君ありがとう!」

「久しぶりの本土だ。俺達のことは気にせずに楽しんでこい」

「うん!お土産期待しててね!」

「おう……雪菜も凪沙の事、頼むな」

「はい。じゃあ、霊斗さんは先輩の監視を引き続きお願いします」

「まて、霊斗も監視役だったのか!?」

「雪菜ちゃんも心配性だなぁ。監視って……愛が重いっ!」

「な!?わ、私は別に先輩の事なんて!」

雪菜が必死に否定しているが、顔が真っ赤なので説得力がない。

と、賑やかな三人の横で一人、静かに出発を待っている人物が。

やけに静か、というよりも無感情と言った方が正しいか。

(戻っちまったな……前みたいに)

完璧なまでの無表情。

それが本来のアスタルテの姿のはずだ。

だが、彼女が無表情であることに苛立っている自分がいることに気づいた。

(まったく……俺は本当に情けないな……)

霊斗が溜息をつくと、凪沙が笑いかけてくる。

「心配しなくても大丈夫だよ。本土には魔族なんて殆どいないんでしょ?」

「……なんで魔族恐怖症なのに俺と関われるんだろうな?」

「さぁ?まぁ、霊斗君は凪沙が魔族恐怖症になる前から吸血鬼だったもんね。だからじゃない?」

「そういうもんか……じゃあ凪沙、いま古城が獣人化したらどうする?」

「霊斗君に殺してもらう」

「冗談でもやめろ!つか、俺は(凪沙の前では)魔族じゃないぞ!」

「何言ってるの古城君、そんなの知ってるよ。あ、もう時間だ!行ってきまーす!」

「では、行ってきます」

「おう、行ってこい」

「気を付けろよ」

凪沙と雪菜が並び、後ろにアスタルテが続く形になって三人は出発していった。

「なぁ霊斗、アスタルテとなんかあったのか?」

「……いや、何もない」

「……そうか」

霊斗は空間転移で一足先に自宅へ戻る。

そのままリビングに向い、紅茶を淹れる。

「はぁ……どうしたもんかなぁ……」

自分の淹れた紅茶をのみ、あまりの不味さに吐き出す。

「……苦いな……」

どうやら濃く淹れすぎたようだ。

那月にこれを飲ませたらどうなるか。

「良くて全身粉砕骨折、悪くて監獄結界に強制収用か……」

と、次の瞬間、浅葱の悲鳴が聞こえる。

古城がバタバタと自室に駆け込む音がする。

「なんだ、騒がしいな」

暫く話す声が聞こえる。

すると急にマンションが揺れる。

まるでどっかの吸血鬼の真祖が壁に全力で頭を叩きつけたかのような震動だ。

「……馬鹿だなぁ……」

霊斗はそう呟くと、欠伸をする。

だが、強力な魔力の波動に身体を硬直させる。

「''賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)''……いや、天塚汞か……」

霊斗は呟くと、空間転移で魔力の発生源に行こうとする。

だが、霊斗の意識が一瞬揺らぐ。

「ぐっ……なんだ?」

困惑する霊斗の頭の中で少女の声がする。

『さて、そろそろ時間だが、まだ抗うのか?』

「ああ。せめて俺の自我が消える前にあのクソ錬金術師はぶっ殺して、あいつらに安全で普通な生活をさせてやるんだ!」

『愚かだな少年、本当に貴様の従者や第四真祖、剣巫がそれを望んでいるのか?』

「……何が言いたい?」

『お前のいる世界が奴らの''普通''なのではないか?』

「違う。俺が……俺みたいな化け物がいるから、災厄をここに招いちまうんだ!」

『お前だけではない。第四真祖もまた災厄の化身たる故、あの者も災厄を招く』

「だったらどうすれば……」

『お前が守ればよいだろう。我を完全に取り込んでな』

「俺が……?……無理だ。俺には出来ない」

『ここまでお前と共生してきて約十年。そこまで我を抑えられたことは称賛に値するものだ。その力と精神力、そして……』

「うるさい!もういいんだ!俺には力もないし精神だって未熟だ。そんな奴が……そんな奴が力を使っちゃ駄目なんだよ!」

『まだ最後まで言ってないであろう。お前の力の本質は……その優しさだ』

「なにを言って……」

『我はお前に取り込まれても良いからアドバイスをしておるのだ。我が惚れたお前にならな……』

「なっ!?急になに言って……」

『だから、見せてみろ。我が惚れた優しさで全て救って見せよ!暁霊斗!』

「っ!?」

''彼女''に一喝されて、霊斗の背筋が強張る。

「俺の……優しさ?」

『そうだ。お前は覚えておらぬだろうが、我もその優しさに救われた一人だ』

「俺が……救った……」

『あの従者の娘も、暁古城も――アヴローラ・フロレスティーナも含めて、お前が救った人々だ。殲教師の時、テロリストの時も、この島の人々を救ったのはお前とその仲間だ』

「俺の仲間……」

『よい仲間に恵まれ、生まれながらにして強大な力を持った。そして我を喰らおうとしておる。そこまでしてもお前は自分が消えてもよいと言うのか?』

「……」

『どうした、疾く答えよ』

「俺はお前を消滅させたくない」

『ほう……』

「俺が消えても、お前には消えて欲しくない!」

『何故そう思う?』

「お前が俺に救われたように、俺もお前に命を救われた!だから――」

『ククク……』

「え?」

『あっはははは!お前は面白いな!……考えが変わった』

''彼女''が笑いながらそう言う。

「は?」

『つまりだ。我はお前を侵食しない。お前も我を取り込まぬ。これまで通り……いや、これまで以上の協力関係だ』

「つまり……どういうことだ?」

『我はお前の中で共生する。お前はこれまで通り我の力を使える。ただし、我もお前を侵食することはない』

「……いいのか?」

『うむ、ただし、契約をしろ』

「どうやって?」

『我ではない。お前の元従者だ』

「……わかった」

その時、霊斗の携帯がなった。

「もしもし?」

『霊斗か!?急いでフェリー乗り場に来てくれ!凪沙達が危ない!』

「わかった!すぐ行く!」

霊斗はそう言うと、電話を切る。

そして''彼女''に話しかける。

「頼む、力を貸してくれ――''原初(ルート)亡霊の吸血鬼(ロストブラッド)''!」

『良かろう。その手で見事救って見せよ!''当代(セコンド)亡霊の吸血鬼(ロストブラッド)''よ!』

''彼女''の声を聞いて、霊斗は駆け出していた。

(待ってろよ……俺がお前を護ってやる!)

そんな強い想いとともに霊斗はフェリー乗り場に転換した。




なんかごちゃごちゃしてて、読みにくかったらすいません!
とりあえず、あと二回くらいで完結の予定です!
ではまた次回!


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錬金術師の帰還編Ⅶ

もう一月も終わりですね。
最近時間の過ぎるのは早いと実感しております。
では本編をどうぞ。


アスタルテは船内を巡回していた。

(特に異常は見当たりませんね……ですが、何か嫌な気配が外からしますね)

アスタルテが窓から船の外を見るが何も見当たらない。

ただ、海の中を銀色の物体が泳いでいた。

(イルカ?……いや、あれは……)

その正体にアスタルテが気づいた直後、操舵室から悲鳴が聞こえた。

「っ!?」

アスタルテはそこへ向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絃神島のとある埠頭。

「古城!」

「霊斗!来たか!」

霊斗は古城に合流する。

周りを見渡すと、大量の瓦礫が散らばっていた。

「これは……」

「重金属粒子砲の攻撃だ」

「ってことは……まさか''賢者(ワイズマン)''が復活したのか!?」

「いや、まだ奴は復活しておらん。奴の復活に必要な供物が足りておらぬからな」

「じゃあ''賢者の霊血''はどこに……」

霊斗の疑問に答えたのは突如虚空から現れた人物だった。

「霊血はわからんが、天塚汞はフェリーだ。修学旅行の生徒達が乗っているものだ」

「なっ!?あれには凪沙に雪菜、アスタルテが!」

「だからお前に言っているのだろう。あとは古城と……そこの偽乳錬金術師だ」

「あれ?ニーナ?」

「なんだ?……ああ、これか。霊血の一部を使って妾の身体を再現したのだ」

「あ、はい」

霊斗が呆れたように答えると、古城が霊斗に聞く。

「で、那月ちゃんがいるってことは、霊血の居場所がわかったのか?」

「天塚汞の居場所ならな。だが、霊血もそこだと考えてほぼ間違いないな」

「じゃあ、すぐに向かおう!」

「無理だ。奴らの居場所は――中等部三年生が乗っているフェリーだ」

「なっ!?じゃあ……」

「ああ。事態は一刻を争う。だから、那月ちゃんが策を用意してくれてるはずだ」

「私ではない。飛行機を貸してくれる有志の団体がいてな」

「じゃあ早く行くぞ!」

「ああ。跳ぶぞ」

一行は那月の空間転移で移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスタルテは船内を走っていた。

操舵室は完全に破壊され、船員は金属に変わっていた。

「まさか……あの錬金術師が!」

アスタルテは焦りで表情を歪める。

だが、それと共に戸惑いも覚えていた。

(なぜ私はこんなにも必死なんでしょうか……もう私は只の人工生命体(ホムンクルス)なのに)

自らに問う。

答えは簡単だった。

(霊斗さんが護っていたものを、護りたい)

走りながら呟く。

「霊斗さんと一緒に戦える位……強くなりたい……!」

アスタルテのその想いに呼応するように蒼い瞳が真紅に染まる。

そして、目の前のロビーで雪菜が凪沙を庇いながら戦っているのを見つける。

降臨せよ(エクスキュート)、''薔薇の指先(ロドダクテュロス)''!」

アスタルテは眷獣を召喚し、天塚を殴る。

「ぐっ!……あの時の人工生命体か!」

「降参してください。貴方に勝ち目はありません」

「ふっ、どうかな?」

天塚が笑うと、もう一体の天塚の分身体が現れる。

「ははははは!僕の勝ちだ!」

だが、勝ち誇ったように笑う天塚の身体が霜に覆われる。

「なんだ?」

「凪沙ちゃん!?」

アスタルテが気温の低下に気付いて周りを見渡すと、凪沙が魔力を放出していた。

しかも、真祖の眷獣にも匹敵するほどの――。

「凪沙さん!目を覚ましてください!」

アスタルテが叫ぶが、凪沙には届かない。

''薔薇の指先''で攻撃するしかないかとアスタルテが考えた次の瞬間。

「はい、そこまで」

突然現れた教師、笹崎岬が気合いで魔力を消す。

「もうちょい待ってよ。ね?」

「ふむ……第五真祖の元従者に免じて時間をやろう」

凪沙の中の何かがそう言って、凪沙が倒れる。

「今のは、まさか……」

アスタルテが呟く。

雪菜がアスタルテに聞く。

「何かわかったんですか?」

「いえ……いや、まさかそんなことが?」

アスタルテが考え込んでしまったので、雪菜は凪沙を岬に預ける。

「なんなんだろうね、天塚の目的って」

岬が何気ない口調で聞いてくる。

だが、雪菜より先に答えたのは夏音だった。

「あの人の目的は、たぶん私でした」

「叶瀬!?避難しなかったのか!?」

「はい。私が囮になります」

「なにを言って――」

「わかりました。じゃあ、その隙をついて私が」

岬が反応しようとしたのをアスタルテが遮る。

そのままアスタルテは雪菜を見て言う。

「雪菜さん、夏音さんに式神を」

「あ、はい!」

雪菜が夏音に式神を渡し、夏音は頷き、走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

古城は怪訝そうな声をあげる。

「試作型航空機ぃ?」

話している相手はアルディギア王国王女、ラフォリア・リハヴァインだ。

とは言ってもテレビ電話だが。

『はい。試作型航空機です』

「嘘つけぇ!これ巡行ミサイルだろうが!?」

『試作型航空機です』

「古城、諦めろ。あいつには話が通じないからな」

『心配はいりません。今のところ最も早い移動手段です』

「……わかった。ありがたく借りるぜ」

古城は渋々、試作型航空機に乗ろうとする。

しかし、古城を誰かが呼び止める。

「ちょっと待ちな、第四真祖」

「ニャンコ先生!?」

そこにいたのは紗矢華と師家だった。

「これを持っていっておくれ」

「これは……''雪霞狼''!?」

紗矢華からギターケースを受けとる。

「暁古城」

「ん、なんだ?」

「雪菜のこと、頼んだわよ」

「ああ。任せろ」

古城は笑って、航空機に乗り込む。

だが、続いてニーナが乗ると、もう霊斗が乗る場所はなかった。

「どうするんだ?」

「俺なら行く方法がある。先に行け」

「わかった」

古城が頷き、発射準備を開始すると、霊斗は那月を見る。

「那月先生、フェリーの方角の限界ギリギリまで転移させてくれ」

「無茶を言うな。だが、教え子の為だ。……ただし、ひとつ約束しろ」

「ああ」

「必ず全員助けろ。いいな?」

「任せろ。俺を誰だと思ってるんだ?」

「ふ……いい返事だ。勝ってこい、霊斗!」

那月の激励と共に、霊斗は太平洋上に飛び出す。

「あれか!?」

吸血鬼の視力が船を視認する。

「これで……どうだ!」

霊斗はそこからさらに空間転移する。

だが、微妙に距離が足りない。

「矢瀬……力、借りるぞ!」

霊斗の周りを気流が渦巻く。

それは矢瀬の過適応能力だ。

霊斗は先程、あの現場に残っていた矢瀬の過適応能力の残りを自らの過適応能力で取り込んでいたのだ。

「どらぁぁぁぁぁ!」

霊斗が甲板に着地するのと、古城達が着地するのはほぼ同時だった。

そこでは、雪菜とアスタルテが夏音を庇いながら天塚と交戦しているところだった。

「ああクソ……着地ミスった……」

「無茶をするからであろう」

「全くだ」

古城と霊斗、そしてニーナは並んで天塚を睨む。

錬金術師の師弟の対決に巻き込まれるのは本心じゃないが、と前置きして霊斗が言う。

「よくも俺の伴侶に手ぇ出してくれたなクソ野郎……ぶっ殺してやるよ」

霊斗の瞳は確かな決意を孕んだ深紅に染まっていた。




次回、錬金術師の帰還編完結(予定)!
ではまた次回!


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錬金術師の帰還編Ⅷ

今回で完結です!
本編どうぞ。


アスタルテが霊斗に駆け寄ってくる。

「なんで……なんで来たんですか!」

「そりゃお前、凪沙とか中等部の皆とか助けねぇと」

「私だけで充分です!余計な事をしないでください!」

「本当に充分だったのか?」

「それはっ……」

アスタルテが反論しようとするが、返す言葉もない。

今も苦戦している最中だったのだから。

だが、霊斗が悔しそうに俯くアスタルテの頭を撫でる。

「いいんだよ、お前も、皆も、全部俺が護ってやる」

「霊斗さん……」

「だから、お前は俺の伴侶でいてくれ!」

「……はい!」

アスタルテが霊斗に抱き付く。

「うわっ!あぶなっ!?」

バランスを崩した霊斗が尻もちをつく。

「ててて……全く」

霊斗は苦笑して、アスタルテを抱き上げる。

「霊斗さん」

「なんだ?」

「あの……私も戦っていいですか?」

「何言ってんだ。むしろ、戦ってもらわないとこまる」

「でも、私の眷獣は……」

「二体でもいけるだろ?」

「は……二体?」

「うん?''薔薇の指先''と''神産巣日神''じゃ足りないか?」

「いえ……あの、''神産巣日神''の方はもう……」

「あー、なんか勘違いしてないか?俺はお前との霊的径路は切ってないぞ?」

「それはつまり――」

「お前は今でもしっかり、俺の伴侶だよ」

「……」

「アスタルテ?」

霊斗がアスタルテを見ると、アスタルテは顔を真っ赤にして俯いている。

「霊斗さん……あの、皆の前で伴侶とか言われると……恥ずかしいです」

「わ、悪い……」

そんな会話をしていると、夏音が急に叫んだ。

「古城お兄さん!霊斗お兄さん!」

その声に気付いて振り向くと、天塚が鬼のような形相でこっちを見ていた。

「なんなんだ……皆でイチャイチャしやがって……僕なんて、この身体のせいで誰ともイチャイチャできなかったんだぁーっ!」

「「「「え!?怒るのそこ!?」」」」

余りに理不尽な怒りに一斉にツッコミをする。

「リア充爆発しろぉぉぉ!」

怒りの叫びと共に天塚の触手が放たれる。

「危ねぇっ!?くそっ、降臨せよ''月夜見尊''!」

霊斗が攻撃を回避しながら眷獣を召喚する。

夜の神が顕現し、天塚の分身体を闇に飲み込んでいく。

『霊斗、こんなもんかな?』

「ああ、月人、ありがとな」

霊斗が召喚を解除し、古城達の方を見ると、向こうもちょうど片付け終わったようだった。

「さて、天塚。まだ戦うか?」

「なんで……また僕の願いは叶わないのか……」

天塚の手から黄金の髑髏が落ちる。

『カカカ、愚かな……不完全な者よ』

「貴様……''賢者(ワイズマン)''!?」

霊斗が叫び、髑髏に殴りかかる。

だが、古城には見えていた。

''賢者''の口に凄まじいエネルギーが集まっているのを。

「霊斗、避けろ!疾く在れ、''獅子の黄金''!」

古城は叫びながら眷獣を召喚する。

その声に気付いた霊斗が横に跳ぶのと、''賢者''が閃光を放つのは同時だった。

「重金属粒子砲か!」

「霊斗さん!」

古城が次の攻撃を警戒し、アスタルテが霊斗に駆け寄る。

「っぐ……」

甲板に倒れ込む霊斗の右腕は、肘の辺りからごっそりなくなっていた。

「痛ぇ……」

「霊斗さん!大丈夫ですか!」

「腕以外はな……」

霊斗は痛む身体を無理矢理起こす。

「くそっ……やるな''賢者''……」

「霊斗さん……あれは''賢者''ではありません。''賢者''の一部だけです。本体は――」

アスタルテが霊斗に言うのと、フェリーの真下から''賢者の霊血''の塊が現れるのは同時だった。

『不完全な世界よ、我が一部となれ――』

''賢者''の声と共に閃光が放たれる。

「「させるかぁぁぁっ!」」

霊斗と古城が眷獣で防御する。

そして、辺りは爆発と閃光、粉塵に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

アスタルテは意識を失った雪菜と夏音を庇いながら階下へと落ちていく。

だが、その身体は床に当たる直前に柔らかい物に当たる。

「ニーナさん?」

アスタルテはその正体に気付き、呼び掛けるが、返事がない。

不安に思いながら霊斗を探す。

それはすぐに見つかった。

「霊斗さん……?」

霊斗は、アスタルテ達からあまり離れていない所にいた。

が、その腹には大穴が空いていた。

近くには血のこびりついた鉄骨が――。

「霊斗さん!しっかりしてください!」

霊斗を揺さぶると、霊斗が薄く目を開ける。

「はは……なんだこれ、めちゃくちゃ痛ぇ……」

強がったように笑う霊斗の口から血が溢れる。

「どうすれば……」

アスタルテはここまでの傷の治療はしたことがない。

その時、吸血鬼特有の回復方を思い出す。

「霊斗さん!血を吸ってください!」

「いや……それがなぁ……身体が動かないんだわ」

力なく答える霊斗。

アスタルテは一瞬考えると、霊斗の上に馬乗りになる。

「ちょ……アスタルテ?そこ、傷口……」

「これで吸えますよね?」

「……今?」

「まだ刺激が足りませんか?」

アスタルテはそう言うと、制服のボタンを外していく。

「っ!?何をしてっ!?ムグッ」

霊斗が必死で抗議するも、それは遮られた。

アスタルテが霊斗にキスをしたのだ。

「……プハッ!あ、あうぁ……」

「興奮しました?」

「……(ガバッ)」

その問いには答えず、霊斗がアスタルテを押し倒す。

「霊斗さん?」

「ごめん……我慢できそうにない」

霊斗が牙をアスタルテの首筋に突き立てる。

「あっ……霊斗さん……」

アスタルテが霊斗に強く抱き付く。

そんな二人を夏音が見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

霊斗はふと、腕に痺れを感じて目を覚ました。

「いてて……お、腕も治ってる」

そう呟いて、自分の腕の中で眠っているアスタルテを見る。

「っ!?なんでこんな格好を……」

そこまで言って、先程起きたことを思い出す。

「霊斗さん……起きましたか」

「ああ。ありがとな」

霊斗はそう言って立ち上がる。

隣にはアスタルテが寄り添う。

そして、少し離れた所には古城と雪菜がいる。

霊斗は実感した。

自分はもっと他の人に頼るべきだと。

「……行くか」

「はい!」

霊斗はアスタルテを連れて古城達と合流する。

甲板に開いた穴からは''賢者''が見える。

その''賢者''を睨み付けて古城が言う。

「テメェみたいなやつが完璧なわけがねぇ。確かに俺達は不完全だ。でもな、皆で集まれば完璧なんかよりも、不完全な方がいいって思えるんだ!だから、俺はお前をぶっ倒す!ここから先は第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

古城がそう言うと、隣に雪菜が立って言う。

「いいえ、先輩。私達の聖戦(ケンカ)です!私も、あなた達を許す気はないです!」

雪菜は銀の槍を天塚に向ける。

そこに霊斗が割り込む。

「ちょっとお二人さん、俺達のことも忘れんなよ?」

「霊斗さんの言う通りです……始めましょう、私達の迎撃戦(ケンカ)を」

アスタルテが言うと、古城が眷獣を召喚する。

「''獅子の黄金''!」

雷光の獅子が''賢者''に突撃する。

それと同時に雪菜が天塚に攻撃を仕掛ける。

その光景をみた霊斗は、アスタルテの手をとる。

「行くぞ、アスタルテ」

「はい、霊斗さん」

二人で気持ちを一つにする。

亡霊の吸血鬼(ロストブラッド)の魂を宿し者、暁霊斗が汝を天界より呼び起こす!降臨せよ、五番目の眷獣、''伊邪那岐命''!」

霊斗が召喚したのは国産みの男神。

さらにアスタルテが頭上に右手を掲げる。

「亡霊の吸血鬼の魂を宿し者、暁霊斗の伴侶が汝を天界より呼び起こす!降臨せよ、六番目の眷獣、''伊邪那美命(イザナミ)''!

アスタルテが召喚したのは国産みの女神。

この二体は対となる存在。

真祖と伴侶が同時に使うことで真価を発揮するのだ。

その二体の槍が''賢者''を貫き、動きを止める。

『何故だ!何故、完全なる我の身体に傷をつけられる!?』

「わかんねーのか?テメェが人工の神でもなぁ、こっちは本物なんだよ。格が違うんだよ!やれ、古城!」

「ああ!焔光の夜伯(カレイドブラッド)の血脈を継ぎし者、暁古城が汝の枷を解き放つ!疾く在れ(きやがれ)、十一番目の眷獣、''水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)''!」

現れた水精が''賢者''を海に引きずり込む。

『消える……完全なる我の身体が消える……』

この眷獣は物質の時間を戻す。

つまり''賢者''も、原子まで分解されるということ。

『カカカカ……は……と……めの……』

''賢者''は何かを言い残して消滅した。

これで、すべて終わったのだ。

「ふぅ……終わった……」

霊斗は座り込んだ。

「なぁ、アスタルテ」

「なんですか?」

「明日、出掛けるか。多分休みだろ」

「はい!行きましょう!」

アスタルテは霊斗の隣に座る。

二人の日常が戻って来たのだ。




この章はこれで終わりです。
ではまた次回!


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日常編Ⅳ
霊斗の怠惰な日常


自分が疲れめなので、霊斗にも疲れてもらいます。
本編どうぞ。


休日。

「ふぁ……朝か……」

霊斗は伸びをしながら起き上がる。

時計を見ると、まだ朝の八時だった。

「……寝るか」

霊斗はもう一度布団に潜り込んだ。

因みに隣のベッドではアスタルテが寝ている。

「……眠れねぇ……」

仕方なく霊斗は起きて、リビングに向かった。

リビングでは凪沙が部活に行く支度をしているところだった。

「あ、霊斗君おはよー」

「ああ、おはよう。朝練か?」

「うん、でも朝ごはん作れてないから……」

「いいよ、作っとく」

「ありがと!じゃあ行ってきます!」

凪沙は騒々しく家を飛び出して行った。

「朝から元気だなー」

霊斗はやかんに水を入れてお湯を沸かす。

「あ、そうだ」

霊斗は何かを思い付いたように隣の部屋の前に行く。

ピンポーン。

『はい、霊斗さん?』

「おはよう雪菜。家で朝メシ食わないか?」

『いいんですか?』

「ああ。ついでに古城を起こしてくれ」

『わかりました、今から行きますね』

「ああ、家のカギ開けとくから勝手に入ってくれ」

『はい』

そこまで言って、霊斗は自宅に戻る。

「さて、何を作るか……」

冷蔵庫の中を見ると、見事なまでに食材がない。

「……トーストと目玉焼き、サラダでいいか」

冷蔵庫を閉じ、パンをトースターに突っ込む。

そしてレタスを適当なサイズに切り、皿に盛る。

すると、雪菜が入ってきた。

「おはようございます。手伝いますか?」

「いや、それよりも古城の枕元に座っててくれ」

「?……わかりました」

雪菜は頭に疑問符を浮かべながら古城の部屋に入っていく。

霊斗はそれを見送り、目玉焼きを作り始める。

「ふぁ……眠い」

霊斗が欠伸をすると、隣から急に声がした。

「霊斗殿、眠そうだな」

「うおっ!?誰だお前!?」

霊斗が驚いて振り替えると、爽やかイケメンが立っていた。

だが、彼は霊斗の言葉を聞くと、悲しそうな表情になる。

「覚えてないのか……凹むぞ(´ω`)」

「……えっ……とぉ……イザナギ?」

「覚えていてくれたのか!俺はうれしいぞ!」

「……暑苦しい……」

霊斗はうんざりしながらパンをトースターから出し、目玉焼きを乗せて皿に盛る。

「さて、イザナギ、なんか飲むか?」

霊斗はやかんの火を消し、棚を漁る。

「じゃあ、コーヒーを」

「オッケー」

霊斗はコーヒーを淹れ、そのあとに自分のココアを淹れる。

「ほら」

「頂戴する」

霊斗とイザナギがのんびりとした朝の一時を過ごしていると、古城の部屋から絶叫が聞こえた。

「なんだ……?」

霊斗が呟くのと、古城が部屋から飛び出して来るのは同時だった。

「なんだ古城、朝から騒々しいぞ」

「いやいやいや!なんで姫柊が俺の部屋にいるんだよ!?」

「俺が通した」

「おいこらぁっ!無意識のうちに姫柊の家まで行ったのかと思っただろ!?」

古城がそうまくし立てるが、霊斗は涼しい顔で受け流す。

すると、古城の部屋からは雪菜が、霊斗の部屋からはアスタルテと見慣れぬ女性が現れる。

「先輩……そんなに私が嫌いですか?」

「あ、いやすまん、驚いただけだから」

古城が雪菜に弁明しているのを尻目に、アスタルテは霊斗に近づいてくる。

「(ギュッ)おはようございます、霊斗さん」

「なんだアスタルテ、まだ寝ぼけてるのか?」

「いえ、しっかり起きてますが」

「そう……ですか」

霊斗は諦めて、アスタルテの好きなようにさせてやる。

スリスリ。

ギュッ。

ツンツン。

クンクン。

「それはやめろ」

「?」

首を傾げながらアスタルテが離れる。

「で、アスタルテ、その方は?」

「イザナミさんです」

「おはようございます、霊斗さん」

「お前も勝手に出てきちゃうのか……」

霊斗が呆れながら呟くが、イザナミは気にせず。

「ナギ君おっはよ」

「おはよう、ナミ」

因みに余談だが、イザナミとイザナギは夫婦である。

「で、霊斗殿。天音と月人、須佐彦は元気か?」

「ああ、うるさい位にな」

「そうですか……霊斗さん、あの子達の事、よろしくお願いしますね」

「あ、ああ」

イザナミに微笑まれてドキドキする霊斗をアスタルテが睨む。

「ま、まぁなんだ。朝メシにしようぜ」

霊斗がそう言うと皆が一斉に席に着き、イザナミとイザナギは実体化を解除した。

「「「「頂きます」」」」

四人で食卓を囲み、朝食となる。

「なあ古城、お前今日なにする?」

「んー……とりあえずゴロゴロする」

「じゃあ先輩、私と出掛けましょう」

「え?……あー、まあいいぞ」

「霊斗さんは何します?」

「ゲームして飽きたら読書」

「「「引きこもりかっ(ですかっ)!?」」」

「いや、することねぇし」

「じゃあ……私とゲームしましょう」

「ほぇ?」

アスタルテの提案に思考が停止する。

「……まぁ、やるか。最近買った新作ゲームは二人プレイもできるし」

「じゃあ、決まりですね」

嬉しそうなアスタルテをみて霊斗は思った。

(こいつ、ゲームできるのか?)

これまでにアスタルテがゲームをしているところなど見たことがない。

「まあ、いいか」

霊斗はそう呟いて食事を再開した。




これは続きを書きたいです。
ではまた次回!


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暁霊斗は彼女とゲームがしたい

何となく昨日の続きで書きたかったので。
今回はGEネタがあります。
専門用語とかは……まぁ、気にしないでください。
では本編をどうぞ。


霊斗はアスタルテと並んで食器を片付けている。

「で、アスタルテは何のゲームやりたいんだ?」

「あの、普段霊斗さんがやっている……ごっどなんちゃらってやつをやりたいです」

「ああ、GEね」

GEとはゴッドイーターの略称。

数年前にP〇Pにて発売。

今でも新作が出ていて、そろそろスマホアプリでも出るはずだ。

因みに霊斗はP〇VよりもP〇P勢のため、最近のポータブル用はやっていない。

「あれはやりこみ要素が強いからなぁ……」

「そうなんですか?」

「そうだな……簡単な所から行くと、全アラガミソロクリアだろ」

「普通の人でも頑張ればできそうですね」

「あとは、全武器全服コンプだろ」

「簡……単?」

「あとは、全ミッションソロsssクリアとか」

「なかなか大変そうですね」

「あとは……」

「まだあるんですか!?」

「ああ、あとは全アイテム武器服を最大数まで作るとか」

「ま、まぁ私はアマチュアでいいです」

「そうか?なら普通にストーリーだけやるか」

「はい……あ、でも私、ゲーム器を持ってないです」

「じゃあ、買いに行くか」

「お願いします」

霊斗は最後の食器を片付けると、自室に戻り財布を持ち、玄関に向かう。

「早く行きましょう」

やけに嬉しそうなアスタルテに引っ張られるようにして家を出る。

「あ、そうだ。ついでに携帯ショップに寄っていいか?」

「はい」

というわけで、携帯ショップに向かう。

「何か買うんですか?」

「お前の携帯買わないと連絡に困るだろ」

「え……買ってくれるんですか?」

「だってお前、自分で払えるのか?」

霊斗の問いに首を横に振るアスタルテ。

霊斗は溜息をつき、携帯を見る。

「で、どれにする?」

「……あ、これがいいです!」

「オーケー、待ってろ」

霊斗はカウンターに向かい、必要な手続きをする。

そして商品を受け取り、アスタルテの所に戻る。

「ほらよ」

「ありがとうございます」

アスタルテは携帯を起動し、霊斗を見る。

「なんだよ?」

「あの、霊斗さんの番号とアドレス……」

「ああ、貸してみ」

霊斗はアスタルテの携帯を受けとると、慣れた手つきで番号とアドレスを入力していく。

「はいよ」

「ありがとうございます!……送ってみますね」

霊斗が待っていると、携帯が振動する。

「お、来たか」

携帯の画面を表示する。

『霊斗さん、大好きです(^з^)-☆』

「早くも使いこなし過ぎだろ!?顔文字!?なに!?流行ってんの!?」

「???」

「あ、はい。もういいや」

霊斗は諦めたように歩き出す。

そして一言。

「……俺もだよ」

「!?!?」

霊斗の不意討ちに戸惑い、顔を真っ赤にするアスタルテ。

「い、行くぞ!」

「はい……///」

そのまま二人で中古のゲームショップに行く。

「うーん、まずは本体だよな」

霊斗は中古本体のコーナーに向かう。

「あったあった……どれにする?」

「えっと……あ、この青いのがいいです」

「オッケー。じゃ、ソフト取ってくるからここで待ってろ」

「はい」

霊斗は中古ソフトのコーナーに向かう。

「うーん、入門なら2からやるべきか……いや、時系列を重視してバーストからやるか……」

悩んだ末、両方買うことにした。

霊斗がアスタルテの所に戻ると、見知らぬ男が二人でアスタルテを囲んでいる。

見た感じではナンパのようだ。

「はぁ……」

霊斗は溜息をつきながらアスタルテに近寄る。

「だからさ、お嬢ちゃん。オニイサンが買ってあげるから」

「いりません」

「ほら、さっきまで物欲しそうにしてたじゃん」

「ですからいらないと……」

「おい、オッサン共」

「あ?なんだよこのガキ」

「俺ら、今取り込み中だからさぁ、あとにしてくんない?」

「黙れ。今すぐ消えろ。死にたくなきゃな」

霊斗が底冷えのする声色でそう言うと、男達は青ざめた顔ですごすごと帰っていった。

「大丈夫だったか?」

「はい。霊斗さん、ありがとうございました」

「いいよ、早く買って帰ろうぜ」

霊斗は商品を購入し、店を出る。

そして近道のために裏路地に入る。

すると背後から汚い声がした。

「あ、アニキ!あのガキです!」

霊斗が振り替えると、先のナンパ男達が屈強な男を連れて戻ってきた。

「おうおう、テメェか?うちのヤツらを脅したのはぁ?」

「いや、脅したというより忠告だが?」

「あぁ?嘗めた口きいてんじゃねえぞクソガキ」

どうやら霊斗の発言が気にさわったらしい。

キレるポイントがわからない。

「とりあえずよぉ……そこまでツラ貸せや」

「ああ……アスタルテ、先に帰っててくれ」

「はい。程々にしてくださいね?」

「わかったよ」

霊斗はアスタルテに荷物を預けると、男達についていく。

向かったのは倉庫街だった。

「さて、クソガキ、覚悟はできてんのか?」

「ふぁ……さっさとしてくれ。もうじき昼メシの時間だから早く帰りたい」

霊斗が気だるげにそう言うと、一人が殴りかかってくる。

「なめやがってぇ!」

しかし、霊斗は少し横にずれて攻撃をかわす。

「テメェッ!」

すると、もう一人が加勢してくる。

が、霊斗は全ての攻撃をかわす。

まるで、未来を読んでいるかのように。

「クソッ!」

男達が悪態を着きながらナイフを取り出す。

「くたばれぇぇぇ!」

「死ねぇ!」

「よっ、ほっ」

霊斗はナイフをよけ、そのまま二人のナイフを蹴り折る。

「「なっ!?」」

男達の顔が恐怖にひきつる。

「なぁ、テメェら。暁霊斗って名に聞き覚えは?」

「暁霊斗?……確か、本土の関西地方で、いろいろなヤクザやら暴走族やらを潰して回った''不良キラー''の暁霊斗か!?」

「そうだ。で、俺の名前も暁霊斗っていうんだが……」

「ひっ!」

霊斗が男達を見ると、男達は涙目で土下座する。

「「「申し訳ございませんでしたぁっ!」」」

「いいから、悪さも程々にしとけよ」

霊斗はそう告げて自宅に空間転移する。

「ただいまー」

霊斗がリビングに行くと、凪沙が出迎える。

「おっかえりー!もうお昼できてるよ!」

「おう、すぐ行く」

霊斗は洗面所で手を洗い、うがいをしてリビングに戻る。

そこでは、三人ぶんの炒飯が湯気をあげていた。

「あれ?古城の分は?」

「古城君は雪菜ちゃんと買い物に行ったよ」

「そうか……アスタルテ、飯食ったらゲームすっか」

「はい!」

アスタルテは嬉しそうに首肯く。

「凪沙もそんな風に優しくしてくれる彼氏がほしぃよ」

凪沙がなにか言っているが、気にしない。

とりあえず基本の操作からかな、などと考えながら霊斗は食事を再開した。




次回からゲームパートに入ります。
そうしたらその次に本編に戻ります。
ではまた次回!


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暁霊斗の異世界生活譚

前回の続きです。
どうぞ。


霊斗はアスタルテと共に自室に戻ると、ゲーム器を起動し、ついでにアスタルテのゲーム器の細かい設定をして、ソフトを起動する。

「まず、このスティックで移動、R押しながら移動でダッシュ、×でジャンプ」

「わかりました」

「あとはチュートリアルで教えてもらえるから――」

霊斗がそこまで説明した時だった。

「霊斗殿ーッ!我と遊ぼう!」

イザナギ登場。

たが、イザナギはアスタルテと霊斗がゲームをしているところを見ると、急に怒りだした。

「なんだ!ゲームばかりして!そんなにゲームが好きならゲームの世界に入ればいいぞ!」

イザナギはそんな事を言って霊斗達の足もとに手を向ける。

すると、霊斗達の足もとに異空間へのゲートが開く。

「えっ、イザナギさん!?」

「イザナギィィィ!テメェ覚えてろよーッ!」

霊斗達の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イザナギが満足そうに床に座る。

「まったく霊斗殿は……せいぜい異世界でイチャコラするがいいさ」

すると、イザナギの隣にイザナミが座る。

「ナギ、あなたもメチャクチャですねぇ……」

「なんだナミ、我がまともだったことがあるか?」

「かなり昔はまともでしたよ?」

「……今は?」

「そうですね……オブラートに包んで言うと……知能が幼児レベルになっていますね」

「オブラートどこいった」

「まぁ、しばらくしたら戻してあげてくださいね?」

「う……わかった」

イザナミはその返事に満足そうに首肯くと、イザナギの肩に頭を預けた。

「ん、どうした?」

「私達も仲良くしていましょうか」

「……そうだな」

結論・神々でもイチャイチャする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗はベッドの上で目を覚ました。

「あ!目が覚めたみたいだね」

霊斗が声の方に顔を向けると、そこには一人の少女がいた。

灰色のショートカットにゴーグル、頬には機械油と、なかなかに工業系な少女である。

「あんたは……」

「ああ、自己紹介がまだだったね。私は楠リッカ」

霊斗はその名前に聞き覚えがあった。

「ああ……じゃあここは……フェンリルの極東支部か……」

まるで夢だな、と霊斗が言うと、リッカが不思議そうな表情をする。

「あ、そうだ。君さ、ゴッドイーターのパッチテストに合格して、今新しく開発された新型神機に適合したんだけど……」

霊斗はその言葉に耳を疑った。

自分がゴッドイーターに、なれる。

「ああ、適合試験、受けるよ」

「そう、わかった。じゃあ、申請しとくね」

「お願いするよ。ところで、青い髪の女の子を見なかったか?」

「ああ、その子なら君の隣にいるよ」

リッカの言葉に促されて、霊斗が隣のベッドを見ると、アスタルテが寝ていた。

「ふぅ……ぐっすりだな……」

「仲良いの?」

「ああ、こいつは俺の彼女であり、血の従者だ」

「は?血の従者?」

「え?だって、俺、吸血鬼」

「吸血鬼……?……あっははは!君は冗談が上手いね!」

リッカは信じた様子もなく笑う。

(ああ……ここは異世界だから、吸血鬼という概念もないのか…)

霊斗は諦めたように溜息をつき、アスタルテの枕元に椅子を出し座る。

リッカは手を振りながら出ていった。

そこで、現在の状況を整理してみる。

・目が覚めたらフェンリル極東支部の病室。

・リッカに遭遇。しかも自分がゴッドイーターに適合。

・因みに、アスタルテも適合。

ここまで考えて、霊斗は頭を抱える。

「まじかよ……」

明らかにあり得ない状況ではある。

しかも。

「なんでこうなったのか思い出せない……」

まず、昼メシを食べてアスタルテとゲームを起動した。

その後が思い出せない。

自分はゲームをしていたのではないのか。

「ったく、また面倒事か……」

霊斗が溜息をつくと、アスタルテが目を開ける。

「霊斗さん……ここは?」

「起きたか。ここはフェンリル極東支部だ」

「え?それってあのゲームの……」

「いまはこれが現実だ。ゲームじゃない。あ、あと、お前もゴッドイーターに適合してるから。試験受けるか?」

「……どんな試験ですか?」

「痛い」

「……霊斗さんは受けますか?」

「ああ。もちろん」

「じゃあ、受けます」

「そうか……じゃあ、申請してこないとな。……歩けるか?」

「はい。大丈夫です」

アスタルテはそう言ってベッドを降りる。

霊斗はアスタルテを連れて病室をでる。

すると、そこには二人の男の姿が。

一人が茶髪、もう一人は金髪のゴッドイーターだ。

「あ、もう大丈夫?いや~、支部の前に二人で倒れてるからビックリしたんだよ!」

茶髪の男が笑顔で話しかけてくる。

金髪の男はそれを苦笑いで見ている。

だが、霊斗はこの男達を知っている。

「あの……藤木コウタさんと、神薙ユウさんですよね?」

「え、そうだけど……なんで?」

「よくわかったね。誰かに聞いた?」

「あ、いや。診療記録とか見て……」

「そっかそっか!あ、君もゴッドイーターになるんだよね?よろしくな!」

コウタが手を差し出してくる。

霊斗はそれを握り返しながら言う。

「よろしく。俺は、暁霊斗。こっちはアスタルテ」

「へー?なんだ、二人は付き合ってるのか?」

ユウが茶化すように聞いてくる。

それに霊斗はこう答える。

「もちろん」

「「え、マジで?」」

ユウとコウタが同時に落ち込む。

「あ、俺らは適合試験もあるんで……」

「あ、それの案内は俺達がするよ」

「あ、じゃあ、お願いします」

アスタルテに目配せすると、アスタルテは小さく頷き、霊斗の手を取る。

「……よ、よし行こう」

ユウが苦笑いしながら先に歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いて、試験会場に着く。

コウタ達と別れ、会場内に足を踏み入れる。

すると、上階の眼鏡をかけた男がマイク越しに話しかけてくる。

『ようこそ、人類最後の砦、フェンリルへ』

「あ、マジでそういうの要らんので、さっさと受けていいっすか?」

『う、うむ。では始めたまえ』

男――ペイラー・榊が寂しそうに告げる。

どうやら時系列的にはエイジス崩壊後ぐらいらしい。

霊斗は目の前の台に手を載せ、神機の柄を握る。

腕に腕輪が取り付けられ、神機と接続する。

「あれ、痛くない」

霊斗は首を傾げる。

少し腕にチクチクとした感覚があったが、すぐに消えた。

霊斗は神機を持ち上げ、素振りをしてみる。

こうして実際に持っていると、以外と軽い。

アスタルテも同様に不思議そうな表情で神機を見ている。

『驚いたよ……適合率百パーセント。君たちは人間じゃないみたいだよ。まぁ、なにはともあれ頑張ってくれたまえ』

試験は終了のようなので、霊斗は会場を後にする。

その後、チュートリアル的なものを挟み、ついに部隊に配属となった。

教官――雨宮ツバキが霊斗達の紹介をする。

「本日付で第一部隊に配属となった。自己紹介をしろ」

「暁霊斗だ。まだ至らぬ点は多いと思うが、努力はしたい。よろしく」

「アスタルテです。皆さんのお役に立てるように頑張ります」

「以上だ。あとは好きにしてくれ」

それだけ告げると、ツバキは去っていった。

「お二人とも始めまして。アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。よろしくお願いしますね」

「ソーマだ。……死ぬなよ」

「俺達は説明要らないよな!」

「橘サクヤよ。二人とも頑張ってね」

霊斗はそれぞれの自己紹介を聞きながら考え事をしていた。

(胸がでかいな……)

なに考えてんだよ。

霊斗はアスタルテの睨みによって凍りつく。

 

そんなこんなで、一週間が過ぎた頃、霊斗達も任務に就くことになった。

「今日のメンバーはアリサ、霊斗、アスタルテ、そこに俺が入ったメンバーで出撃する」

ユウがそう告げる。

「今回の敵はコンゴウだ。最近増えてきている。ただし、白いアラガミ――ハンニバルには注意するように」

(なるほど、今はまだハンニバルへの対策は出来ていないのか)

「そして、今回の任務だが、コンゴウ以外にも多数の小型アラガミが確認されている。できる限りこちらも排除する。……以上でブリーフィングを終わる。各自、準備ができ次第集合だ」

「「「了解」」」

霊斗はターミナルを開くと、アイテムを引き出していく。

「さて、物資の申請はこれでおしまいっと」

霊斗はそのまま神機保管庫に向かう。

途中でとある神機に目が止まる。

赤いチェンソー。

未だ行方不明、戦死扱いの雨宮リンドウの武器だ。

その隣に、霊斗の武器はある。

リッカに頼んで作ってもらったもの。

リンドウと同じ剣に盾。

そして、未だ試作品段階のクロガネシリーズのブラスト。

霊斗はそれを手にとって出撃待機所に向かう。

そこには、メンバーが勢揃いしていた。

「悪い、遅くなった」

「大丈夫だ。……よし、行こう」

ユウの言葉で、全員の心が引き締まる。

そして、移動用のジープに乗り、ミッションが開始となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

目的地、鎮魂の廃寺に到着。

「各自索敵開始。対象を発見し次第信号弾で合図をしてくれ」

ユウの言葉に頷き、霊斗は待機地点から降りる。

その足で山頂に向かった。

彼を――雨宮リンドウを探すために。

 

 

 

 

霊斗は山頂の寺跡につき、散策する。

すると、仏像の裏に隠し通路のようなものがあった。

「なんだ……いや、まさかな」

霊斗はその穴をくぐり、寺跡の裏にでる。

「なんだ……これ」

霊斗がみたのは小さな小屋。

だが、霊斗には見おぼえがあった。

2のリンドウの回想に出てきた場所だ。

そっと扉をあけて中に入る。

奥へと進むと、座り込む人影が。

霊斗は息を飲む。

それは、雨宮リンドウその人だった。




まだ続くぜよ!
いや、どうしても書きたかったんだよぉ……。
じゃ、また次回!


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暁霊斗は神をも喰らう

書くぞー


「誰だ……」

彼――雨宮リンドウはそう言った。

「暁霊斗。最近ゴッドイーターになった者だ」

「なんだ……お前もゴッドイーターか……」

「雨宮リンドウ、だな?」

「……なんで知ってるんだ?」

リンドウは興味を示したようにこちらを向く。

霊斗は事実のみを話す。

「俺は本来この世界の者じゃない」

「ほぅ……異世界の人間か?ハハッ、冗談が過ぎるぜ」

「冗談、か。……冗談なら良かったんだがな。なあ、この世界に吸血鬼はいるか?」

リンドウは目を丸くするが、すぐに飄飄とした表情に変わる。

「吸血鬼なんていないだろ。そんなのがいるんなら……アラガミとも対等に戦えるのかもな」

リンドウが自嘲するように笑い、自分の右腕を見る。

彼の右腕は黒く、刺々しく変異していた。

「俺は、仲間を護ろうとして死にかけた。だけど、この命は新しい仲間が繋いでくれたものなんだよ……」

「……白い、人間の姿をしたアラガミか」

「……!なんで知ってる?」

「だから、俺はこの世界の者じゃないって言ってるだろ。俺のいた世界では、この物語はゲームになってる」

「そうか……じゃあ、この後に起こることも知ってるのか?」

「ああ。だから、一つだけ言っておく」

霊斗はリンドウの目を真っ直ぐに見つめて言う。

「あんたの仲間はあんたからしっかりと学んで自分の力で生きてる。それと――」

霊斗はそこで言葉を切る。

それと同時に遠くで信号弾が上がる。

霊斗はそれを見ると、神機を肩に担ぎながら言う。

「あんたの仲間は、あんたをまだ見捨ててない」

霊斗はそれだけ告げると、部屋を出ていった。

「……なんだそりゃ」

リンドウは苦笑しながら呟く。

「……死ぬな、死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ。運が良ければ隙をついてぶっ殺せ……俺が一番守れてねぇよなぁ……」

リンドウは目を閉じ、眠りに着く。

それをアラガミの少女が見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗が仲間の元に行くと、既にコンゴウと交戦が開始されていた。

「悪い!遅くなった」

「大丈夫だ。すぐに戦線に加わってくれ。アリサが危ない」

「了解」

霊斗は神機を構え、コンゴウに接近する。

そして、足を切りつける。

「オラァッ!アリサ!一旦離脱して体制を立て直せ!」

「わかりました!」

アリサが離脱する際に掩護射撃をしてコンゴウの注意をこちらに向ける。

「俺ばかり相手にしていて良いのか?」

霊斗が後ろに飛び退く。

そこにアスタルテが飛びこみ、無数の斬撃を放つ。

「アスタルテ!」

「はい!」

霊斗がアスタルテに呼掛け、アスタルテが答える。

それを合図に二人は走り出す。

アスタルテはコンゴウの下へ滑り込み、霊斗はコンゴウの上へと跳ぶ。

アスタルテと霊斗がコンゴウの後ろに抜けた次の瞬間。

「なんだ……あれ」

ユウが呆然と呟く。

彼の視線の先では、コンゴウが真っ二つになって転がっていた。

霊斗はアスタルテと笑いあって平然としているが、ユウとアリサは驚愕していた。

今の連携は並みのゴッドイーターにできる技ではない。

「こいつらは……一体……」

その後、アナグラに戻るまでユウは喋らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗は自室に戻りながら考える。

自分が介入してリンドウを助けるべきか、それとも関わらないべきか。

「はぁ……喉乾いた……」

霊斗は自販機にfcを投入し、ボタンに手を伸ばす。

「なあ、霊斗」

しかし、突如背後から聞こえた声に手元が狂い、冷やしカレードリンクを購入してしまう。

「あーあ……って、なんだユウか」

「ちょっと良いか?」

ユウが真剣な眼差しで見てくる。

「……なんだ?」

「霊斗。お前は何者なんだ?」

「……聞いたらきっとお前は俺を、いや、俺とアスタルテを拒絶する」

「そんなことない!絶対にだ」

ユウの言葉に霊斗は黙り込む。

「……俺は……吸血鬼だ」

「それ、リッカにも言ってたよな。それは本当なのか?」

「ああ、本当だ。見るか?」

霊斗は自らの犬歯――否、牙を見せる。

ユウが息を飲むのがわかる。

「……わかったか?これでも拒絶しないか?」

「ああ、しない」

「……え?」

ユウの以外な答えに霊斗が間抜けな声をあげる。

「拒絶なんて、するわけないだろ?霊斗も、アスタルテも、大事な仲間だ」

ユウが笑う。

「これからの業績、期待してるよ」

そう言ってユウは自室へと帰っていった。

「はは……プレッシャーかけんなよ……」

霊斗は苦笑いしながら自室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数週間後。

「最近取引されているアイテムの中に、雨宮リンドウのDNAパターンと一致する物があった。よって雨宮リンドウの捜索を再開する」

ツバキより報告された内容は、フェンリル極東支部の皆を歓喜させた。

そして、本日の任務がユウより告げられる。

「今日の任務はソーマ、アリサ、コウタのA班と、俺、霊斗、アスタルテ、サクヤさんのB班の二面作戦でいく。

A班は周囲のグボロ・グボロの殲滅、B班はハンニバルの討伐だ。また、周辺地域では新種の黒いハンニバルが確認されている。注意してくれ。以上でブリーフィングを終わる」

霊斗は頷き、神機保管庫へと向かう。

途中で何人かのゴッドイーターとすれ違う。

皆傷つき、疲弊しているが、達成感に満ち溢れた表情をしていた。

「さて、行くか」

霊斗は神機を手に取り、ジープに乗り込む。

 

 

 

 

 

 

数分後。

今回は鉄塔の森での任務だ。

霊斗はいち早くハンニバルを発見すると素早く接近し、籠手に連続して斬撃を放った。

「霊斗!」

ユウが掩護射撃をし、霊斗が切り刻む。

最近ではそれなりの連携になってきたが、アスタルテと霊斗の連携には敵わない。

そこにサクヤとアスタルテが合流する。

そうなると、残っているのは一方的な蹂躙だ。

ハンニバルは数分で活動を停止した。

「終わった……」

霊斗が座り込む。

「お疲れ様、霊斗君」

サクヤが労いの言葉を掛けてくるのに片手を挙げて答える。

すると、ソーマから通信が入る。

『A班!黒いハンニバルがそちらへ向かった。注意しながら引き上げてくれ』

「了解」

ユウがそう言い、全員で拠点へと向かう。

だが、霊斗が立ち止まる。

「どうした?」

「俺が相手をする。お前達は先に行っていてくれ」

ユウは一瞬考え込むが、すぐに頷く。

「わかった。無理はするなよ」

「おう」

霊斗は彼等の背中を見送り、振り替える。

「よう、リンドウ」

霊斗は黒いハンニバルに話しかける。

ハンニバルの目が霊斗を捉える。

「グルルル……」

「苦しいだろ。……エイジスに来い。助けてやる」

霊斗がそう言うと、ハンニバルは背を向けて去っていった。

「さて、始めるか。シナリオを書き換えた物語を」

霊斗は呟き、苦笑する。

これは自分が言う台詞じゃないな、と呟き、準備の最終段階を終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界、霊斗の部屋。

「うーむ、なかなか面白い事態になってるな」

「もう一時間半ですか……」

「もう少し待ってみるか。案外面白い物が見れそうだ」

イザナギはそう言い、ゲートを閉じる。

イザナミはため息をつき、この人は全く、と呟いた。




次回でこの章は終了、本編に戻ります。
ではまた次回!


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霊斗の帰還

つ・づ・き!
書くぞーッ!


霊斗はエイジスに向かっていた。

もちろん一人でだ。

本来ならばユウの役割ではあるが、ユウはまだ黒いハンニバル――ハンニバル侵食種がリンドウであることに気付いていない。

ならば。

全てを知っていて解決法も知っている自分がやるしかない。

「……まずは、リンドウの神機をどうやって持ち出すか……」

霊斗は神機保管庫に向かいながら考える。

「……やるしかないな」

霊斗は神機保管庫に入る。

するとリッカが話しかけてくる。

「あ、霊斗君。今からミッション?」

「ああ。まぁ、武器の素材集めだ」

「頑張ってね」

「おう」

霊斗は片手を挙げて答えると、自らの神機の前に立つ。

そして、リッカの目を盗んでリンドウの神機を転移させる。

(よし、あとはエイジスに向かうだけだな)

霊斗は自身の神機を持ち、エイジスに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗がエイジスに着くと、ハンニバル侵食種は島の真ん中に佇んでいた。

霊斗はハンニバルの目の前に立つ。

「リンドウ、俺が……助けてやる」

霊斗はそう言い、神機を構えて斬りかかる。

「ぐっ!?」

しかし、霊斗の神機は籠手に弾かれる。

(流石元凄腕ゴッドイーター。剣筋は見抜かれるか……)

霊斗は距離を取り、神機を銃に切り替える。

「これで……どうだッ!」

霊斗はモルターのバレットを発射する。

だが、ハンニバルはまだ怯まずに突進してくる。

「ぐあっ!?」

霊斗は吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。

「くそッ、一筋縄じゃ行かないな……なら、喰らえっ!」

霊斗は神機を剣に戻すと接近し、斬る――。

しかし、ハンニバルは素早く反応し、籠手で剣を防ごうとする。

「残念だったな!」

霊斗は笑うと、神機を補食モードに切り替え、籠手を食い千切る。

「ゴァァァッ!」

ハンニバルが咆哮し、後ろに跳ぶ。

「追撃行くぜ!」

霊斗はハンニバルの顔に剣を叩きつける。

すると角が折れる。

「よし、あとは……」

霊斗は呟きながらジャンプする。

そして、空中で神機を再び補食モードに換え、逆鱗を食い折る。

「グゴァァァ……」

そこで、ハンニバルは力尽き、倒れる。

だが、ハンニバル種には強力な再生能力がある。

霊斗がハンニバルを見ていると、背後から聞き慣れた声がした。

「霊斗!」

霊斗がふりむくと、第一部隊の面々が走りよってくる。

「……一人で倒したのか……?」

「いやまだだ。こいつは……復活する」

霊斗がそう言うのと同時にハンニバルの身体が炎に包まれ、浮き上がる。

全員が息を飲むなか、霊斗はハンニバルの胸元を見ていた。

そこには、リンドウが取り込まれかけていた。

「リンドウさん!」

コウタが叫ぶ。

すると、リンドウが目を開ける。

「よう……お前ら。……ここで何してる?」

「リンドウさんを助けに来たに決まってるじゃないですか!」

アリサが叫ぶと、リンドウが少し頬笑みながら言う。

「それは無理だな……俺の事はいいから、お前達は逃げろ」

「そんな……リンドウ……」

「早く逃げろ……そうだな、新米。こいつらを連れて逃げて――」

リンドウの言葉を霊斗が遮る。

「なに言ってやがる。あんたを見捨てたりなんかしない」

「なに……」

「こいつらの気持ちは本物だ。俺もあんたを助けたい。だったら、選ぶ選択支は一つだ」

霊斗は虚空よりリンドウの神機を取り出し、告げる。

「俺はこの身体を犠牲にしてでも助ける!」

霊斗の隣に立ったユウがリンドウに告げる。

「リンドウさん、今は俺が隊長です。だから……」

ユウは、霊斗の握るリンドウの神機を握る。

そして、侵食の痛みに耐えながら叫ぶ。

「死にそうになったら逃げろとあなたは言った!だったら……生きることから逃げるな!これは……隊長命令だ!」

リンドウは既に意識を失い、ハンニバルとして活動を再開した。

霊斗とユウはリンドウの神機を握り、駆け出す。

「「うおぉぉぉぉぉぉ!」」

そして、二人で同時に跳び、ハンニバルの口に神機を突き込み、上下に割く。

すると、そこにはコアがあった。

霊斗とユウはお互いに見合って頷くと、コアに手を触れる。

(なんだ……これは……リンドウの思い出?)

(感応現象か――!)

霊斗とユウの意識は白い光に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗が目を覚ますと、そこは教会だった。

隣ではユウが倒れている。

「ユウ!起きろ!」

霊斗がユウを起こす。

「む……う、ここは……贖罪の街……?」

「いや、出入口が封鎖されている……リンドウが行方不明になった時の教会だな」

「そうか……ここはリンドウさんの記憶のなかなんだな」

「ああ……って、ユウ!あそこ!」

霊斗が指差す先には、リンドウが座り込んでいる。

「リンドウ、起きろ!」

「リンドウさん!」

霊斗とユウが呼び掛けると、リンドウがゆっくりと目を開ける。

「おう……新入りに、隊長じゃねぇか……」

「リンドウ……戦おう」

「戦う?何とだ?俺はもう負けちまったんだ」

「いや。あんたの意識が消えていない以上、まだ勝機はある」

霊斗が言うと、リンドウが目を見開く。

「リンドウさん」

ユウが差し出したのはリンドウの神機だ。

「そうだな……」

リンドウはそれを受けとり、笑う。

「じゃあ、生き残るために足掻いてみるか!」

教会の壊れた壁にハンニバル侵食種が現れる。

「行くぞ、お前ら!」

リンドウが戦陣を切り、ハンニバルに斬りかかる。

そこに霊斗が続き、ハンニバルの顔を補食モードで食らう。

そしてユウがハンニバルの足を斬る。

「「「うおぉぉぉぉぉ!」」」

三人の雄たけびが教会に響き渡った。

 

 

 

 

 

数分後、ハンニバルは倒れ、黒くなって霧散した。

「終わった……」

「だな……」

すると、次の瞬間、霊斗とユウの視界が白い光に飲み込まれた。

「ありがとよ、お前ら」

リンドウのその声だけがやけに耳に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗達が目を覚ますと、そこはエイジスだった。

「霊斗さん!」

霊斗が起きるとアスタルテが声を掛けてくる。

「おお、アスタルテ。心配かけたな」

「いえ。心配なんてしてませんよ?」

「ほぇ?」

霊斗がすっとんきょうな声をあげる。

それを聞いたアスタルテがいたずらっぽく頬笑む。

「だって、霊斗さんなら必ず勝ってくれるって信じてましたから」

「はは……びっくりしたぁ……」

霊斗が笑いながら横を見ると、笑いあっている第一部隊の面々がいた。

「……良かった、無事に終わって」

「ですね」

霊斗とアスタルテが立ち上がると、二人の身体が光に包まれる。

「もう、あっちに戻らなきゃな」

「ええ。かなり長く空けましたからね」

「というか……イザナギのやつ……」

不思議だ。

今ならしっかりとこの世界に来た原因がわかる。

「とりあえず、戻ったらアスタルテの紅茶を飲ませてくれよ」

「はい……皆さんとは、お別れですね」

「そうだな……神機は、置いていこう」

霊斗とアスタルテは神機を床に置く。

次の瞬間、足元にゲートが開く。

二人は落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絃神島、霊斗の部屋。

「霊斗殿!戻ったかへげぶぅ」

イザナギが霊斗に駆け寄ると同時に吹き飛ぶ。

「ったく、面倒なことしやがって」

「ところで霊斗さん。いま、あれから二時間しか経ってないんですが……」

「え、マジで?」

霊斗が時計を確認すると、間違いなく時間はあれから二時間だ。

「なんだ……ははっ」

「あんなに密度の濃い二時間は始めてです」

霊斗とアスタルテは笑った。

彼等を思い出しながら。

 

 

 

 

 

 

 

エイジス。

ユウは霊斗とアスタルテの神機を見て立ち尽くした。

彼等は神機だけをおいて消えた。

「あいつら、帰ったみたいだな」

リンドウがユウの肩に手を置きながら言う。

「帰った?」

「あいつらは、異世界の住人なんだとよ」

「そうですか……なら、あの戦闘力も納得ですよ」

ユウは苦笑する。

だが、彼等の仕事はまだ終わっていない。

この世界からアラガミを滅ぼさなくてはならない。

だが、彼等は忘れないだろう。

驚異的な戦闘能力で自らを圧倒した二人の事を。

これから先も、ずっと。




あー、疲れた。
次回、焔光の夜伯編スタート!


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焔光の夜伯編
焔光の夜伯編Ⅰ


お久しぶりです。
えー、ここで言っておきますね。
暁の帝国編と、ヴァルキュリアの王国編は書きません。
だって覚えてないんだもん!
じゃ、本編をどうぞ。


彼等は揺らめく光の中に浮かんでいた。

二人の少年と、眠る一人の少女だ。

少年の一人は既に絶命した。

未だ彼の意識が残っているのはもう一人の少年の力のお陰だ。

そんな少年達に少女が問う。

『何故我を恐れぬ?』

彼等はそれぞれ答える。

「僕は君と同じ……だから」

「さあな……まだ、やることが……あるからだろうな……」

『そうか……そちらは兎も角、汝の命は尽きた。何もできぬぞ……』

少年達の答えを無表情に聞きながら少女が言う。

『此処は第四真祖の''血の記憶''だ。普通の人間には耐えられぬ』

「知ったことか!俺は……大切な物を護れるようになりたいんだ!……どんなことをしてでもな!」

瞬間、彼の身体が再生し始める。

『ほう……人の身でありながら我が''血の記憶''を喰らうか……』

「そういうやつなんだ。だから……力を貸してやってくれ」

『代償は高いぞ……』

「それでもいい。だから……俺に力を貸してくれ!」

二人の少年が声を揃えて少女の名を喚ぶ。

「「力を貸してくれ!アヴローラ!」」

それを聞いて少女が笑う。

『よかろう、受けとれ』

次の瞬間、少女が片方の少年の胸に氷槍を突き立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地中海、ゴゾ島。

貴重な地下墳墓の発掘現場で、一人の男が叫ぶ。

「くぅぅぅぅぅぅっ!うめぇ!」

四十代くらいの、だらしない雰囲気の男だった。

彼は朝から酒をあおっていた。

「青い空、白い雲、美味い酒と食い物、あとは………絶壁かぁ……」

「殴っても良いのでしょうか、博士」

「おおっとこわいこわい」

隣に座る女性に睨まれて肩を竦める男。

「まぁ大丈夫だ。一部の人間は『貧乳は希少価値』って言うからよぉ」

「セクハラで訴えますよ?」

「まぁまぁ。そう怒りなさんなって。怒ると冷静な判断ができなくなるぞ――」

彼がそう言った瞬間、遺跡から爆発音が響いた。

「ああ、まったく……焦るとロクな事がねぇってあれほど言っておいたんだがなぁ……」

彼は怠そうに立ちあがり、ライフルケースを取り出す。

「ほら、ミス・カルアナ。行こうぜ」

「は、はい」

男に言われて我に帰る女性――リアナ・カルアナ。

二人が遺跡の方へと歩いて行くと、屈強な男が駆け寄ってくる。

「ガホ!早く手を貸してくれ!」

男――ディマス・カルーゾが二人にそう叫ぶ。

「はぁ……俺の名前はガホじゃねぇっての……で、何の騒ぎだ?」

「ああ、ダータラム大学の調査隊が勝手に第三階層に!」

「ったく、面倒なことしやがって……」

男の視線の先にはのっぺりとした兵器があった。

「博士、あれは……」

遺跡守護像(ガーゴイル)系の兵器だ。第三次調査隊が排除したはずなんだがなぁ……」

男は兵器を写真に撮しながら言う。

「うーむ、第九メルヘルガル遺跡の古代兵器(ナラクヴェーラ)に似てんな……当たりか……」

兵器はどんな攻撃を食らっても傷一つつかない。

「ガホ!なんとかならないのか!?」

「だから、ガホじゃねぇっての。……んじゃ、こいつを使うか」

彼がライフルケースから取り出したのは、全長一・八メートルほどの対物ライフルだった。

「それは……!?」

「二十ミリ口径の対物ライフル。重かったが、やっと役立つ時が来たな……ほんとは来ない方がいいんだがな」

男はライフルを構え、兵器の方に向ける。

兵器がこちらに向かってレーザーを放とうと、レーザーの射出口を開いた瞬間――

「え!?」

リアナが驚いた声をあげる。

射出口がいきなり破壊されたのだ。

「驚くのは早いぜ、次は特別製だ」

彼はそう言ってライフルを射つ。

弾丸は兵器の胴体に直撃し、四散する。

次の瞬間、虚空に魔方陣が形成される。

「あれは……呪式弾!?」

「まあ、簡単な話だ。要は奴らの魔術回路に過剰な魔力を流し込んでやれば――ドカン!さ」

得意気に説明する男に、カルーゾが抱きついてくる。

「やったなガホ!」

「ちょ、くっつくな……つか、俺の名前はガホじゃねぇって何回言わせるんだよ」

男はカルーゾを引き剥がしながら言う。

「それはガホじゃなくてガジョウって読むんだよ」

カルーゾとそんな会話をしている彼の背中に憧れの目線を向けながら呟いた。

「ガジョウ……暁牙城……か」




今日は短めで。
では次回!


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焔光の夜伯編Ⅱ

かーくーぞー(やけくそ)。
本編どうぞ。


ローマの空港にて。

一人の少年が顔を真っ青にしてベンチに座っている。

「うぷ……気持ち悪い……」

黒い髪に一房だけ赤い毛が混じっている。

気弱そうな目には涙が溜まっている。

「おいおい……大丈夫か霊斗」

呆れたように聞く少年に霊斗と呼ばれた少年は答える。

「こ、古城……助けて……」

「いや、無理だろ」

霊斗の背中をさすりながら古城が苦笑する。

「まったく……まだ飛行機に乗るんだぞ?」

「もうやだ……帰りたい……」

そんな霊斗に少女が声を掛けてくる。

「まーったく、飛行機で酔うなんて吸血鬼のくせによわっちいぞ霊斗君!」

「凪沙、やめとけ」

「うう……」

「まあ、早く治してね!あ、私ビスコッティ買ってくる!」

「おう、気を付けろよ」

凪沙は屋台に駆け寄っていく。

「うぅ………うぷっ……」

「うぉっ!?水!水飲め!」

「んぐ……ありがと……」

霊斗が水を飲み干すと、凪沙が戻ってくる。

「買えたのか?」

「うん!あ、古城君と霊斗君も食べる?」

「いや、僕はいいよ」

「俺は――っと」

古城が答えようとしたとき、小柄な男がぶつかってきた。

「Scusi――」

何か言っているが、古城にはさっぱりわからない。

仕方なく、うろ覚えの言葉で返す。

「あ、えっと……ミディスピアーチェ?」

すると、男は笑って何かを言うと、歩き出した。

「あー、グラッツェー」

古城が手を振って見送っていると、凪沙が叫ぶ。

「古城君!荷物!」

古城がハッとして男を見ると、古城が持っていた凪沙のバックが奪われている。

「ひったくり!?嘘だろ!?」

古城が走り出すも、男は既に空港の出口に向かって走り出していた。

「駄目かっ!?」

古城が絶望しそうになった次の瞬間だった。

「え?」

古城の隣を何かが物凄い勢いで走り抜けていった。

古城が前を見ると、霊斗が男の前に立っていた。

「その荷物、返してもらうよ」

男がナイフをとり出し、霊斗に向ける。

だが、次の瞬間にはナイフの刃が床に突き刺さっていた。

「しばらく眠っててよ」

霊斗は冷ややかにそう告げると、人間離れした速度で男の懐に飛び込み、顎に拳を叩き込む。

霊斗が男の手から荷物を取り返し、埃を払っていると、ドレスの少女が話しかけてくる。

「ふん、相変わらず見た目に合わない戦闘センスだな」

「え?……もしかして、那月ちゃん?久しぶり」

「ほう……歳上をちゃん付けで呼ぶのはこの口か?」

「痛い!やめてよ那月ちゃん……」

「ふん……またどこかで合うだろう。それまで死ぬなよ」

「大丈夫、僕は死ねないから」

「そうか……気が向いたらまた絃神島に遊びに来い」

那月はそう言うと虚空に溶け込むようにして姿を消した。

そして那月と入れ替わるように凪沙と古城が駆け寄ってくる。

「霊斗!大丈夫か!?」

「うん、大丈夫」

「霊斗君!荷物は?」

「ここにあるよ」

「良かったぁ……」

凪沙に荷物を渡し、霊斗が深呼吸をしていると女性が近付いてきて声を掛けてくる。

「暁凪沙さん、暁霊斗さんですね?」

「はい、そうですけど……あなたは?」

「リアナ・カルアナと申します。暁牙城博士の研究の手伝いをしています」

「じゃあ、父の依頼で僕らを迎えに?」

「ええ。遺跡までの案内をさせていただきます」

「お願いします。……凪沙、行こうか」

「うん!行こ行こ!」

「……俺は?」

「だって古城は名前の確認しなかったよね」

「行かなくて良いってことか!?」

「嘘だよ。行こう」

霊斗と古城のやり取りをみてリアナが苦笑していたのには気付かない二人であった。




霊斗の一人称が違うのは……気にするな!
まあ、今後の展開でわかりますのでお願いしますってことで。
では次回!


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焔光の夜伯編Ⅲ

か・く・よ


霊斗達はゴゾ島に上陸し、軍用の四駆に乗り込む。

しばらくリアナの運転に任せて走っていると、遺跡が見えてきた。

このゴゾ島でも特に有名なジュガンティーヤと呼ばれる遺跡だ。

「ジュガンティーヤは、今から五千五百年以上昔に 建てられた遺跡です」

「へぇ……そんな昔にこんなでかい神殿をつくったのか……」

「この島の伝承では、サンスーナっていう名前の巨人が建てたんだって」

「霊斗さんは詳しいですね。来たことがあるんですか?」

「あ、はい。かなり昔に一回だけですけど」

すると、凪沙がいきなりリアナに話しかける。

「あの、リアナさんって魔族の方なんですか?」

「はい、戦王領域出身の吸血鬼です」

「わあ!ほんとに吸血鬼なんですね!あ、日光とか大丈夫なんですか?」

「凪沙、ほどほどにね」

「リアナさんも困ってるだろ」

霊斗と古城が凪沙を制止し、霊斗がリアナに謝る。

「すいません、昔っから、口数が減らなくて……」

「いえ、大丈夫ですよ。それにしても、やっぱり博士のお子さんなんですね。変わっているところもそっくりです」

リアナの言葉に古城がむすっとした表情で言い返す。

「絶対ほめてないですよね」

「バレましたか?ごめんなさい」

古城の反応に笑うリアナ。

そこで、霊斗の顔色が変わる。

「霊斗さん?大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です。ちょっと……」

「そういえば、霊斗さんも霊能力があったんですよね」

「ええ、混成能力吸血鬼(ハイブリッドヴァンパイア)なんで……手伝いに来たんですけど……なんか、死霊術の気配が強くて……それで操られてる人の想いが……苦しい、苦しいって……」

「霊斗、寝とけよ。身体に障る」

「僕は大丈夫。凪沙に何かあったらお願い」

「わかった」

「もうすぐで調査隊と合流しますから、キャンプのベッドで休むと良いでしょう」

「すいません、気を使わせちゃって」

「いえいえ。今回の調査には、凪沙さんと霊斗さんの力が必要なんです。だから、しっかり休んでください」

リアナがそう言って車を停める。

「着きましたよ。霊斗さん、大丈夫ですか?」

「ええ、なんとか……」

霊斗がふらつきながら車を降り、続いて凪沙、古城が降りる。

すると、男が近づいてくる。

「よぉ凪沙!元気だったかぁ!」

「牙城君!元気だよ。霊斗君と古城君もいたから」

「ん?霊斗に古城?」

牙城は霊斗と古城を見て怪訝そうな顔をする。

「霊斗はわからんでもないが、古城。なんでお前がいるんだ?」

「なんか俺だけ扱いが雑だな」

「まぁ、邪魔すんなよ」

「わかってるっつの。あと、霊斗が死霊術の気配がするってよ」

「オーケー、解呪させとくわ」

「父さん、ここにあるのは……何?」

「あー……気付いたか。それは明日の朝話す。今日はもう寝ろ」

古城が空を見ると、もう日が暮れかかっていた。

「わかった。凪沙、明日は朝から沐浴だからな」

「わかってるよ。霊斗君も一緒だよね」

「うん。ゆっくり休んで明日に備えとこう」

「はーい!」

一行はキャンプのテントに入っていった。

 




部活の大会が一段落したので、また連日投稿を再開します。
ではまた次回!


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焔光の夜伯編Ⅳ

書きますよ


翌朝。

古城は森の中にいた。

近くの泉では凪沙と霊斗が沐浴をしている。

「古城、誰もいないよね?」

「ああ。誰もいないぞ」

霊斗に答えると、古城は岩場の陰に座り込む。

古城がしばらく待つと、霊斗と凪沙が服を着替えてやって来た。

凪沙は巫女装束、霊斗は神主風の服だ。

「古城、お待たせ」

「終わったら行こうぜ」

「出発だー!」

三人は遺跡に向かう。

途中でカルーゾに会い、少し話をしてから遺跡の中に入る。

牙城達と合流し、話をしながら遺跡の最新部に向かう。

「なんか、神秘的な所だよね……」

「お、霊斗にはわかるか。まぁ、墓よりも神殿に近いモノだからな」

「神……いや、どちらかと言うと僕やリアナさんに近い気がするよ……」

「かーっ!かわいげのないガキだなぁ!なんでもお見通しってか!」

「親父、うるせぇ」

「チビは黙ってろ」

「息子相手になんつー口の聞き方だ」

「はいはい、古城も父さんもそのくらいにしてさ、凪沙に注目しようか」

霊斗の声を聞いて二人が凪沙を見ると、凪沙が無表情に石室の扉を見ていた。

「……霊との交信には成功したみたいだね」

「ああ。あとは霊斗、お前だけが頼りだ」

「うん……凪沙!もういいよ!」

霊斗が呼び掛けると、凪沙の瞳に表情が戻る。

「遺跡は起動できたから、後はよろしくね、霊斗君」

「わかってる。ゆっくりしてなよ」

霊斗は輝く扉の前に立つ。

「……第四の真祖よ、汝の兄弟、第五真祖の名のもとに貴兄に請う。扉の封印を破り我らを汝の元に導きたまえ」

霊斗がそう唱えると、扉が前触れもなく消失する。

「すごい……これが、あの獅子王機関三聖をも越えると言われる霊能力……」

リアナが感嘆の声をあげる。

霊斗が先導しながら部屋の中に入る。

「これは……」

牙城が呟く。

そこで眠っていたのは、美しい少女だった。

虹のように色を変える金髪に白い素肌。

「これが……焔光の夜伯(カレイドブラッド)……」

「……こんなに可愛い子が世界最強の吸血鬼だって……」

「むしろ、眠り姫の方が似合ってるだろ」

古城の呟きを聞いたリアナが言う。

「アヴローラ・フロレスティーナ……いい名前じゃないですか?」

「そうだな、味も素っ気もないナンバーで呼ぶよりいいじゃねぇか」

「うん、……この子もきっと喜んでるよ」

全員が首肯く。

が、霊斗が急に膝をつく。

「霊斗?」

「……また、死霊術……この魔力……父さん!古城と凪沙をお願い!」

霊斗が遺跡を飛び出していく。

「待て霊斗!……クソッ。ミス・カルアナ!二人を頼む!」

霊斗を追って牙城もライフルを持って飛び出していく。

直後、遺跡を強い揺れが襲った。

「……霊斗……親父……」

古城の呟きが石室に反響する。




バレンタインなんて嫌いだァァァァ!
……失礼、取り乱しました。
また次回!


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焔光の夜伯編Ⅴ

書きます。
久しぶりの戦闘回です。


霊斗が遺跡を飛び出すと、キャンプが燃えていた。

「これは……」

「チッ、派手にやられたな」

霊斗の背後の遺跡から牙城が舌打ち混じりに毒づく。

牙城が銃を構えて警戒しながら霊斗に聞く。

「やっぱり死霊術か?」

「うん、あらかじめ結界の内側に死体を埋めてあったんだと思う……」

霊斗が犯人として最も怪しい人物の名前を言おうとした瞬間、岩陰から巨躯の男が現れた。

「牙城!坊主も無事か!」

「カルーゾ、どう言うことだ?」

「襲撃者だ。今はなんとか防いだが、次にいつ襲ってくるかわからない。手伝ってくれ」

「そうだな、その前に……霊斗」

「うん……おやすみなさい、カルーゾさん」

「え? 」

カルーゾが驚いた表情を浮かべる。

だが、その目が見開かれる。

「……吸血鬼の眷獣!?」

「……僕は吸血鬼だって言いましたよ――()()()()()()()カルーゾさんにはね」

霊斗はそう言って眷獣に攻撃を命じる。

「''大国主命(オオクニヌシ)''、術式の解呪を」

眷獣が周囲に魔方陣を展開し、一帯の死霊術をすべて解呪する。

「これで、解呪された分の余剰魔力で自分が苦しいはずだよ――ゴラン・ハザーロフ」

霊斗が背後の岩陰に目を向けると、額から血を流した獣人が現れる。

「貴様……ただの吸血鬼ではないな!何者だ!」

「僕は半人半魔の出来損ないの吸血鬼だよ。世間一般では、第五真祖って呼ばれてるみたいだけどね」

「第五真祖……だと……貴様のような小僧が真祖だとォ!?」

「そうだよ、だから―――降参してくれると嬉しいな」

霊斗がそう言って眷獣の召喚を解除した。

だが、ハザーロフは口の端を吊り上げ笑うと言った。

「甘いな、第五真祖。未だ人の心を捨てられぬか。……それが命取りなのだ!」

ハザーロフはそう言うと懐から手榴弾を取りだし、投げる。

「!父さん!」

霊斗が牙城を抱えて飛び退くが、遅かった。

背後に閃光と爆音、そして身体に走る鋭い痛みを感じて、霊斗は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古城が抱えていた凪沙が微かに身じろぎし、目を開ける。

「……古城君?」

「凪沙……しばらく目を瞑ってた方がいいぞ」

古城の目の前ではリアナが眷獣を召喚し、闘っている。

「リアナさん、大丈夫ですか?」

「ええ、ゾンビは殲滅しました。凪沙さんも、大丈夫ですか?」

「はい……私、さっきの揺れでびっくりしちゃって……」

凪沙が申し訳無さそうに呟く。

だが、古城は凪沙を元気づけるように言う。

「無理もねぇよ。かなり大きな揺れだったからな」

凪沙を気遣う古城をみて頬笑むリアナだったが、その表情が急に引き締まる。

「新手です。お二人は後ろに」

遺跡の入り口から入ってきた――否、入り口を破壊して来たのは漆黒の獣人だった。

「ようやく見つけたぞ、リアナ・カルアナ」

「……ゴラン・ハザーロフ……」

「流石は貴族様、御自身は遺跡の中で震えているとはな。あの惰弱な当主にそっくりだな」

「父上の侮辱はやめろ!このケダモノ!」

リアナが怒りの叫びと共に眷獣を放つ。

だが、ハザーロフは眷獣を片手で受け止める。

「なっ!?まさか……貴様は!」

リアナの叫びとハザーロフの肉体の変化が始まるのは同時だった。

ハザーロフの身体が獣の姿に変わっていく。

一握りの上位獣人が持つ特殊能力。

神話の怪物にも匹敵する力から名付けて''神獣化''。

「くたばれ!吸血鬼風情が最強の種族に敵うと思うな!」

「獣がァーッ!」

リアナがもう一体の眷獣をハザーロフに特攻させる。

「ふ……しぶといな。だが、ひと足遅い!」

ハザーロフの声と共に死体が起き上がる。

「しまった!」

リアナが死を覚悟した次の瞬間だった。

「さらにひと足遅いのはお前だ。ハザーロフ」

冷たい声音と共に灼熱が死体を焼く。

「この眷獣は……」

リアナが入り口の方を見ると、霊斗が立っていた。

だが、雰囲気が先程までと違う。

唇の端から覗く牙は吸血鬼の物だが、瞳は黄金に染まっていた。

「ふう、少年が意識を失っているから出てきてみれば……起きて早々にスプラッタなシーンを見せられては敵わん。……疾く去ね、ケダモノ」

霊斗の声で、霊斗ではない[何か]がハザーロフに淡々と告げる。

「真祖風情が神獣に勝てるとでも思うのか!」

「つくづく救えん男よの。神獣がなんだ。我は咎神の弟を監視する為に創られた殺神兵器ぞ。獣程度、リハビリにもならん」

「ぐぅ……殺してやる!」

ハザーロフが飛びかかってくるが、霊斗はそれを回し蹴りで撃退する。

「ぐぉ……」

「眷獣を使うまでもない。それでよく獣人が最強などとほざくものだな」

「……我ばかり気にかけるとは、余裕だな、第五真祖。――やれ!動死体(リビングデッド)共よ!」

ハザーロフの号令で死体が霊斗に銃を乱射する。

「グフッ……こちらの解呪を忘れていたな……すまぬ、少年」

霊斗が倒れる。

それを見た凪沙が悲鳴をあげる。

ハザーロフはそれを一瞥すると、氷の棺を見る。

そして、再び死体に命じる。

「やれ」

次の瞬間、棺の前の少年と、氷塊は砕けた。




やっとここまで来た……。
じゃ、また次回!


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焔光の夜伯編Ⅵ

書くお。


「フフ……ハハハ!これで第四真祖もただの肉塊だ!我ら獣人こそが最強の種族に相応しい!」

ハザーロフが感慨深げに呟く。

第五真祖の攻撃を受け、直後の神獣化で寿命は削られたが、目的は果たされた。

たが、ハザーロフの耳に響いてくる声があった。

「古城君!霊斗君!起きてよ……なんで!目を開けてよ!」

悲痛な叫びをあげていたのは巫女装束を纏った少女だった。

「なるほど、少年が部屋の隅に突き飛ばし、第五真祖が結界を……素晴らしい気概だ。だが、愚かだったな。――今度こそ消し去ってくれる!」

ハザーロフは再び神獣化し、体内に魔力を溜める。

神獣の強力なブレスで部屋ごと焼き付くすつもりなのだ。

だが、ハザーロフはふと疑問を覚える。

(なぜ少年は第四真祖の前に……?)

嫌な予感に体が震える。

その予感が正しければ、自分は今度こそ死ぬだろう。

「第四真祖に……自らの血肉を捧げたと言うのか!?」

ハザーロフが叫ぶと、霊斗が立ち上がる。

「すべて古城の計算通りってことだよ。それが意味することくらい、わかるよね?」

霊斗の言葉に続いて、誰かの声がする。

「ア……ヴ、ローラ……」

それは本来聞こえるはずのない声。

「なぜ……少年が……」

「ああ、言ってなかったっけ?僕は混成能力吸血鬼。霊能力だって使える。それに――死霊術もね」

「それで少年の残留思念を――!?」

ハザーロフがその先を言うことは叶わなかった。

巨大な氷の杭が彼の身体に突き立てられたからだ。

「第四……真祖……」

氷の杭を産み出したのは小柄な少女。

逆巻く虹色の長髪。

焔光の輝きを放つ瞳。

「ぐぉぉ……こんな力、あっていいわけが……」

周りの気温が下がり始める。

負の温度領域、すなわち絶対零度まで。

ハザーロフの耳に最後に聞こえた言葉は、無慈悲な声音だった。

「''天照大御神''、ハザーロフ以外に結界をお願い」

次の瞬間、遺跡の天井に押し潰されたハザーロフは、絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暁牙城が目を覚ますと、もう夜明けだった。

「父さん、目が覚めた?」

牙城が声の方を見ると、霊斗が心配そうにこちらを見ていた。

「遺跡はどうなった!?……ぐぉ……」

「傷は治してあるけどまだ激しい運動は駄目だよ」

「……遺跡は?」

「潰れた」

「古城達は?」

「そこのところの説明は……あ、那月ちゃん、丁度良いところに」

「ふん、暁牙城、お前が心配している娘は重症だ。まずローマの病院に輸送する」

「そうか……ミス・カルアナは?」

「生きているが、しばらく私の監視下に置く。非常時とはいえ、''魔族特区''内での眷獣の行使は認められていないからな。まぁ、上と掛け合ってみるさ」

「じゃあ、最後だが、古城は?」

「全身に銃弾を浴びた跡がある」

「そうか……じゃあ……」

「まあ早まるな。今は無傷だ」

「は?無傷?」

「そうだ。身体の半分が消し飛んだ痕跡もあるのだがな」

「じゃあ、第四真祖が復活したのか!?古城を従者に!?」

「そこまで行くと私にもわからん。お前の息子に聞け」

那月はそう言うと立ち去って行った。

「霊斗、教えてくれ。何があった?」

「古城は凪沙とアヴローラを護ろうとしたんだ。それで――一回死んだ。でも、凪沙が、第四真祖の力を使って古城を従者に……それで凪沙は……」

「……わかった。霊斗、古城達によろしく言っておいてくれ」

「父さん?」

「俺は……凪沙を救う方法を探す。……あとな、霊斗」

「何?」

「もっと男らしい言葉使いに最後したらどうだ?もう中学生だろ」

「え……それってどういう……」

「お前は立派な真祖だ。だったら威厳をもて。……古城と凪沙を護ってくれ」

「……わかった。お、俺が古城達を護る」

「よし、いい返事だ」

「父さん、凪沙はたぶん絃神島に行くことになる。だから、俺と古城も……絃神島に行っていいか?」

「那月ちゃんに頼んでみろ。あとは、母さんにな」

牙城はそう言うと、片手を挙げて去っていった。

「……父さん、俺が……全部護ってみせる」

霊斗の固い決意と共に、運命の歯車が廻りだした。




学校でマラソン大会があったんですけど……あれ、なんでやるんでしょうね?
まぁ、また次回!


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焔光の夜伯編Ⅶ

えーと、約一ヶ月ぶりくらいですかね……。
申し訳ございませんでしたぁ!
リアルが忙しかったんです!
はい、言い訳なんかいりませんね。
待っていてくださったかた(居るのかな……)すいません!
かきまぁーす!


「……眷獣の気配?この魔力は……嘘だろ……」

明け方、霊斗が起き抜けに感じた魔力。

それはこの島にいるはずのない人物のものだった。

「何をしに来たんだ……」

霊斗の不安と共に朝の風が吹き抜ける。

 

 

数分後、霊斗は朝食の準備をしていた。

「……凪沙のやつ、遅いな」

霊斗が呟くと、自室のドアが開いた。

「霊斗さん、おはようございます」

「おう、アスタルテ。おはよう」

アスタルテは、霊斗の隣に立つと、紅茶を淹れ始めた。

すぐにいい香りが漂いはじめる。

「どうぞ、霊斗さん」

「サンキュ」

霊斗はサラダの盛り付けを済ませ、カップを受けとる。

「あつっ……うん、旨い」

「ありがとうございます」

霊斗は紅茶を一息で飲み干し、朝食をテーブルに並べる。

「「頂きます」」

二人で声を揃えて食材に感謝する。

「うん、我ながら上出来だな」

「凪沙ちゃんには敵いませんがね」

「格が違うよ、あれは」

そんな会話をしながら食事を進めていると、学校に行かないと間に合わない時間になっていた。

「うぉ……早く行かないとな」

「片付けちゃいましょう」

二人で食器などを洗い、登校する準備をする。

すると、玄関のチャイムが鳴った。

「ん。誰だ?」

霊斗がドアを開けると、雪菜が立っていた。

「おはよう雪菜。ってか、時間大丈夫なのか?」

「かなりまずいのですが……先輩が来ないので……」

「先に行ってればいいのに……ちょっと待っててくれ、呼んでくる」

「お願いします」

霊斗は古城の部屋に入り、ベッドの枠を蹴る。

「おい古城!起きろ!」

「んだよ朝っぱらから……って、おぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「うるせぇ!雪菜が待ってるから早く支度しろ!」

「わかった!」

古城の返事を聞いて、霊斗は凪沙の部屋に行く。

「凪沙!起きてるか!……入るぞ!」

霊斗は部屋の中に踏み込む。

すると、凪沙が珍しく爆睡していた。

「凪沙!起きろ!遅刻するぞ!」

「んぅ……霊斗君?なんで?まだ朝の……って嘘!?」

「早くしろ。とりあえず支度、そしたら送ってやるから」

「う、うん。ごめんね、霊斗君」

「いいよ……あと、少しでも体調悪かったら言えよ」

「わかった」

霊斗は凪沙の部屋を後にし、自室に向かう。

「俺も着替えなきゃなぁ……」

自室には乱れたベッド、ハンガーに掛けた制服、半裸のアスタルテが――。

「あれ?なんかおかしい?」

もう一度見渡す。

乱れたベッド、ハンガーに掛けた制服、下着姿のアスタルテ。

「すまんっ!」

霊斗は全力で部屋のドアを閉めた。

ドアがかなりヤバめな音をたてたが、気にしない。

少し待つと、着替えたアスタルテが部屋から出てくる。

「どうぞ、霊斗さん」

「え、あ、すまん」

霊斗は部屋に入り、着替える。

部屋を出ると、全員着替えて集合していた。

「さて、じゃあ行くか」

霊斗が言うと、全員が頷く。

玄関を出て、戸締まりをする。

「行くぞ……」

霊斗がそう言って空間転移する。

一瞬眩暈のような感覚がしたあと、彩海学園の校門前に到着する。

「うぷっ……おr(自主規制)」

「霊斗さん!?大丈夫ですか!?」

「うん、大丈夫、大丈おr(放送禁止)」

「誰か!誰か助けてください!メディック、メディーック!」

「アスタルテ、大丈夫だから騒がないでくれ……うぷ」

「全く大丈夫そうに見えないけど……霊斗君、頑張ってね」

「では、霊斗さん、ありがとうございました」

凪沙と雪菜は中等部の校舎に向かっていく。

「じゃあ、俺達も行くか……」

「めっちゃふらついてるが大丈夫か?」

「だ、大丈夫だ」

「霊斗さん、昼休みになったら私の血を……」

「うん、大丈夫だからね」

アスタルテのボケを軽く受け流しながら教室へ向かう。

その途中、背後が騒がしくなったが、今の霊斗にそれを気にする余裕はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「自習って……俺が朝から身体張った意味がねぇ……」

霊斗がボヤくと、浅葱が斜め前から話しかけてくる。

「オシアナスガールズってユニットグループが来たんだから、もう大騒ぎよ」

ほら、と浅葱が差し出してきたのはタブレットPCだった。

「ん……あれ、これ……」

「霊斗?」

「どうかしたのか?」

「いや、古城。気づかないのか?」

「何が?」

「覚えてないか?こいつらは――」

「あ、いたいた。古城様ー、霊斗様ー!」

霊斗の言葉は、突然の乱入者によって阻まれた。

「オシアナスガールズ!?」

「え、今暁兄弟の名前を……」

「「「またあいつらか!」」」

クラスメイトが騒ぎ出す中、古城と霊斗の前に立つ五人組。

「誰だおまえら」

霊斗は見事なまでの無表情で返す。

「もう、霊斗様ぁー、イジワルしないでくださいよぉー」

一人が霊斗に正面から抱きついてくる。

「ちょ、何を……!」

「……霊斗さん?」

「まってアスタルテ!いま殴られたら受け身とれないから!」

霊斗が必死に懇願すると、アスタルテは拳を納めてくれたが、こちらをじっと見る目線が痛い。

「このっ……いい加減に離れろ!」

霊斗がオシアナスガールズの一人を引き剥がす。

すると、周りから歓声が沸き上がる。

「霊斗様、大きくなっても可愛らしい顔ですね!」

「霊斗君、力強くて素敵ー!」

「霊斗様ー!抱いてください!」

3/2はオシアナスガールズだった。

あと一人は誰だ?

「きゃー、霊斗君ー」

「基樹……黙れ」

「サーセン(´・ω・`)」

「馬鹿にしてんのか!?」

霊斗は基樹の頭を押さえ付け、小声で聞く。

(おい、コイツらが来るの分かってたよな?なんで言わない?)

(面白そうだったから)

(しばき倒すぞ)

(サーセン)

(言ってくれれば古城を盾にするとか出来ただろうが)

(いやぁ……面白そうだったから?)

(チッ……まぁいい。この後はなるべく古城に話が行くようにしてくれ)

(へいへい。真祖サマはわがままですねぇ)

霊斗は基樹の頭を離し、自分の席に戻る――

「霊斗さん、お話があります」

戻れるわけがなかった。

「霊斗さん、屋上に行きましょう。そこならゆっくり殴れます(お話できます)から」

「怖い!怖いよ!ってぁあ、離して待って引っ張らないで話せばわかるよ待って強すぎマッテマッテあーーー」

霊斗はアスタルテに引きずられながら教室を後にした。

 




また次回!
次はなるはやで投稿します!


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焔光の夜伯編Ⅷ

どうも皆様、花粉が多い時期になってまいりました。
いかがお過ごしでしょうか。
僕は花粉症で死にそうです(切実)。
じゃあ、本編どうぞ。


廊下を引きずられる霊斗は途中で再び以外な人物と出会った。

「あれ、ジャガンにキラ?」

「む、第五真祖か」

「お久しぶりです」

「久しぶり。あと、校内では霊斗でいいから」

「了解した。ところで霊斗、その女は?」

「あれ、気になる?気になっちゃう?」

「当たり前だ。お前と同じ魔力の気配だからな」

「もしかして、血の従者ですか?」

二人は引きずられる霊斗に付いて来ながら聞いてくる。

「ご名答。アスタルテ、自己紹介しといたら?」

「はい、第五真祖の血の従者のアスタルテです」

「アルデアル公爵ディミトリエ・ヴァトラーの配下、トビアス・ジャガンだ」

「同じく、キラ・レーベデフ・ヴォルティズラワです」

「よろしくお願いします。ところで、お二人は何故ここに?」

「閣下の命令で、第四真祖の護衛に来たのだが……」

「なるほど、古城がヴァトラーに好かれているのが気に入らないと」

「なっ!?そ、そんなわけがあるか!」

「トビアスは素直じゃないなぁ……それで、霊斗様。これはどういう状況ですか?」

キラが苦笑いで今更な事を聞いてくる。

「あー、あれだ。日本では有名なかかあ天下ってやつだな」

「なるほど、勉強になります」

「霊斗は将来的に嫁の尻に敷かれる生活をしていそうだな」

「否定できないな。何せ俺は女の子には暴力を振るわない主義だからな」

「第三真祖を滅多うちにしていた奴の言うことではないだろう」

「そうだっけ?まぁ、売られた喧嘩は倍返しの主義でもあるからな」

「お前は鬼か。お前の力で倍返ししたら明らかにオーバーキルだろうが」

「霊斗様は強いですからね。……ではそれを尻に敷く従者とは一体……」

「普通の女の子ですよ?」

「「「普通?」」」

三人の声がぴったり揃った。

それを聞いたアスタルテは霊斗を立ち上がらせる。

「はぁ……やっと解放され(ギュッ)ん?」

「霊斗さん……私、普通ですよね……?」

涙目+上目使いのコンボで言葉に詰まる霊斗。

「おぉ、霊斗が圧倒されている」

「なかなかレアなシーンですね」

ジャガンとキラがなにか言っているが、霊斗は固まったまま動けない。

「霊斗さん……」

「え、あ……」

「私、普通ですよね……?」

「……(ギュッ)」

「!?」

霊斗が急にアスタルテを抱き寄せる。

「ワォ」

「意外と大胆だな」

茶化す二人。

「あの……れ、霊斗さん?」

「……」

「あの、霊斗さん、少し、痛いです」

「……」

「霊斗さん?」

アスタルテが何度か呼び掛けるも、反応がない。

茶化していた二人も何かおかしいと気づいたのか、霊斗をアスタルテから引き剥がす。

「霊斗!?どうした!」

「霊斗様!何があったんですか!」

二人の呼び掛けに、霊斗は首を振り、壁に背中を預けて座り込む。

「あぶねぇ……完全に意識持ってかれるとこだったぜ……」

「何があったんですか?」

「いや、ただの吸血衝動だけど」

「吸血衝動であんなことになるのか?」

「アスタルテが可愛すぎるから悪い」

「「えー……」」

「なんだよ、悪いかよ」

霊斗の不満そうな質問に答えたのは二人ではなくアスタルテだった。

「なにも悪くないです。むしろ嬉しいです」

「そ、そうか」

「でも、TPOはわきまえてくださいね?」

「すまん。気を付ける」

「昼休みとかの屋上でならいくらでも良いですから」

「いや、良くないだろ」

霊斗はアスタルテに突っこみながら立ち上がる。

そしてジャガンとキラに向き直ると頭を下げる。

「すまん、迷惑かけた」

「気にしていない」

「僕らは大丈夫ですから」

二人の言葉に安堵したような表情で顔をあげる霊斗。

「では、俺達は第四真祖の元に行く」

「それではまた、後程」

「ああ。ジャガン、あんまり古城に悪く絡むなよ」

「……努力はする」

二人は去っていった。

廊下には霊斗とアスタルテだけが取り残された。

「……どうする?」

「戻っても自習ですし、屋上にでも行きますか?」

「そうだな……あ、その前に凪沙のクラスを覗きに行くか」

「体調が心配ですからね」

「ああ。じゃ、行くか」

霊斗とアスタルテは中等部の校舎へと向かった。




あー、疲れた。
ではまた次回!


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焔光の夜伯編Ⅸ

書きます。


霊斗とアスタルテは中等部の校舎に来ていた。

「あれ、居ないな」

「あの男子の制服の散らかりようを見ると、今は体育の時間ですかね」

「そうか……じゃあグラウンドか体育館だな」

「どっちから行きますか?」

「うーん……あ、そうだ」

どちらから行こうか悩んでいた霊斗だったが、ふと何か思い付いたかのように空中に呼びかける。

「おーい、天音?いるだろ」

すると、突如霊斗の隣に天音が現れる。

「呼んだ~?」

「ああ。悪いけど、凪沙の位置、特定してくれ」

「うーん……どうしよっかなー」

「は?」

「だって霊君最近構ってくれないし……」

「あー……それは悪かった。じゃあ、しばらく出たままでいいから」

「しょうがないなー、それで妥協してあげる。じゃ、ちょっと待ってね……」

「妥協って……やけに偉そうだな」

「お願いしてる立場の人が文句言わないの。あ、見つけた……これは体育館だね」

「よし、じゃあ早速行くか」

 

 

 

道中。

「むー……」

「アスタルテ?どうした?」

「さっきから私は空気扱いでした」

「ああ、なるほど……ほら、頭撫でてやるから機嫌直せ」

「わかりました。じゃあ、早く撫でてください」

「ほれ」

「ん……」

「あー!いいないいな!私も撫でてー!」

「ほれ」

「えへへー」

(なんで俺は歩きながら二人を撫でるという高等技術を披露しなければならないのか……)

 

 

 

 

 

 

 

体育館。

「お、バレーボールか……」

「コートに雪菜ちゃんがいますね」

「お、ラインギリギリの球を打ち返したよ!」

「なんだ今の速さ……」

「本当に純粋な人間なのでしょうか……」

「でも今の、呪術も霊力も使ってなかったよ」

「え、未来視も?」

「うん」

「マジすか……」

「あ、チーム入れ替えですね。今度は凪沙ちゃんが」

「凪沙か……体調は大丈夫かな……」

「見た感じでは普段通りですけど……」

「天音、お前はどう思う?」

「私もバレーしたいなー……あ、なに?」

「人の話を聞け馬鹿たれ(ゴスッ)」

「痛い!ちょ、ちょっと!頭蓋骨が割れちゃうよ!」

「そのまま脳漿を撒き散らしてしまえ」

「!霊斗さん!凪沙ちゃんが!」

「なんだ!」

「相手チームのコートにボールを叩き込みましたよ!」

「紛らわしいな!」

「相手のサーブは……アウトですね」

「なに?アスタルテちゃんはスポーツ実況の人なの?」

「さあ!盛り上がって参りました!第七十八回バレーボール選手権、準決勝の試合です!」

「前の七十七回どこでやったんだよ。つかお前も乗るな」

「霊君はつれないなー」

「頭がっちがちですね」

「え、なんで俺こんな馬鹿にされてんの。理不尽でしょ」

「世界を変え、新世界の神となる!」

「もう神だろ」

「霊斗さんはカミ」

「英語でいうと?」

「hair」

「そっちかよ!ペーパーだと思ったわ!つか発音いいな!」

「霊斗さん、騒ぐと見つかりますよ」

「今更だな」

霊斗が呆れて溜息をついていると、急に体育館の中が騒がしくなった。

「なんだ?」

「霊斗さん!凪沙ちゃんが!」

「霊君!早く行かないと!」

「なっ!?クソッ、やっぱりやせ我慢してやがったか!」

霊斗は体育館の扉を開け放ち、中に駆け込む。

「凪沙!……アスタルテ!診察できるか?」

「任せてください。……ただの貧血だとは思いますが……」

「念のためMARに運ぶか……」

「笹崎せんせっ、そーいうことだから、凪沙ちゃん連れてくねー」

「あ、ああ。じゃあ霊斗坊、頼んだよ」

「任せてくださいよ、じゃ」

霊斗は凪沙を抱き上げると、空間転移でMARに跳んだ。

そしてその足で医療棟に向かった。

「多分、母さんがいるから……」

「お義母さんなら安心して預けられますね」

「ん?なんか漢字が違う……?」

「気にしないでください。こっちの都合です」

「そうか……急ぐぞ」

「霊君、空間転移は?」

「魔力がもうきつい。回復中だから」

「はぁ……仕方ないなぁ……」

急に天音が足を止める。

「天音?早く母さんを……っ!?」

「霊斗さん?」

天音に釣られて立ち止まった霊斗が、急に項垂れる。

すると、天音の身体が火の粉のような粒子になって霊斗の身体にまとわりついていく。

「『これで、大丈夫かな』」

「え、霊斗さん?」

粒子が消えると、霊斗が急に天音の口調で喋り出す。

「『ああ、違うよ。今は私が霊君の身体に''憑依''してるだけだから、呼び方は天音か初代でね』」

「は、はい。じゃあ天音ちゃん、なぜ急に''憑依''したんですか?」

「『歩きながらでいい?要は私の人格を表に出して''天照大御神''としての能力を行使出来るようにしつつ、霊斗の魔力消費を一人分にする方法だよ。緊急時だからね、こっちなら''探知''しつつ転移出来るから。じゃ、行くよ』」

天音はそう言って空間転移を行使した。




あれ、自分でなに書いてるかわかんないや。
じゃあまた次回!


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焔光の夜伯編Ⅹ

書きます。


天音が転移した先は暁深森の研究室だった。

「『あ、いたいた。お母さん、凪沙ちゃんが』」

「あら天音ちゃん、また倒れちゃった?」

「『朝から我慢してたっぽい。多分貧血だってアスタルテちゃんは言ってたけど、念のためにね。あ、あと霊君用のブースト剤もお願いできる?』」

「はいはーい、私に任せなさい。じゃあ、二人……じゃなくて三人は待合室で古城君達を出迎えて」

「わかりました」

「『まっかせてー』」

深森は二人の返事に頷くと、凪沙を抱えて医療棟へと向かっていった。

「じゃあ、俺達も行くか」

「あ、戻ったんですね」

「ああ。ってか天音、急に入ってくんな。びっくりするだろ」

「ごめんね。代わりにほら、霊君用のブースト剤」

「……敵、か?」

「朝、霊君もわかったでしょ?」

「''奴''か……だけど、本当にこの島に?」

「まず間違いないね。ヴァトラーがやられたからね」

「そうか……念のため結界を張ってくる。二人は古城達を待っててくれ」

「霊斗さん?どういうことですか?説明を……」

「すまん、天音に聞いてくれ。急がないと手後れになるかもしれない」

「……わかりました」

「じゃ、行ってくる」

霊斗は建物の外へ走っていった。

アスタルテはそれを見送ると、天音と共に待合室に向かう。

「……霊斗さんのあんなに焦った顔、久しぶりに見ました」

「うん、そうだね……でも、霊君が負ける相手じゃないよ」

「だったら、なんであんなに……」

「確かに霊君は''あの人''には負けないよ。でも、負けないだけ。周囲を護れる保証はないの。霊君が焦ってるのは自分の為じゃない。周りの、無関係な人の為だよ」

「霊斗さん……らしいですね……でも……」

「やっぱり、霊君が傷つくのは見たくない?」

「ええ……霊斗さんは自分の命を軽く見ている傾向がありますから……」

「はは……確かにね。でも、最近はだいぶマシになってるよ」

「もっと酷かった時期が?」

アスタルテの問いに、天音が頷く。

「そう。例えば……ああ、あれが一番酷かったよ。第一真祖と戦った時」

「第一真祖……なぜ戦王領域に?」

「獅子王機関の任務でね。ちょうど二年位前かな。任務中に第一真祖が襲いかかってきたんだよ」

「結果は……?」

「結果だけで言えば''勝ち''になるんだろうけどね……なんせ世界で初めて第一真祖を殺したって言われてたからね」

「殺し……じゃあ、普通に勝ちじゃないですか」

「でも、霊君は何回も死にかけてたからね。その度に呪術で強化してたからね……最後はもう心臓が止まった状態で自分に死霊術をかけて戦ってた」

「そんなの……死んでるのと同じじゃないですか……」

「そう。どれだけ死んでも動き続ける。死んでいるのに相手を殺しに行く……そのときの通り名は……」

「通り名?」

「うん……特に使ってた眷獣が私だったから、周りからは――」

「''獄炎の死神''だろ」

天音の声を遮ったのは霊斗だった。

「霊君……」

「霊斗さん……」

二人が心配そうに呼びかけるが、霊斗は軽く笑って返す。

「気にしちゃいねーよ。あのときはまだ未熟だったってことさ」

「霊斗さん!(ガバッ)」

「な!?アスタルテ!?」

「今回は……いえ、これからは絶対に、絶対に死なないでください……もっと……もっと私を頼ってください!まだ弱いかもしれないですけど、絶対に強くなりますから!」

「アスタルテ……」

泣きながら言うアスタルテに霊斗はそっと言う。

「ありがとう、アスタルテ。でも、強くなんてならなくていい。俺は、お前を守りたいんだ。お前が戦って、傷つくのは嫌だ。だから……」

「霊斗さん……」

「だから、俺は、お前もしっかり守れるように強くなるからさ……それまで、我慢してくれないか?」

「……仕方ない人です。ちょっとだけですからね……」

「ありがとな。アスタルテ、大好――」

「なあ、取り込み中に悪いんだがな、状況を教えてくれ」

霊斗の台詞の途中で割り込む新たな声。

「こ、古城。来たか」

「ああ、少し前にな」

「そ、そうか……凪沙なら大丈夫だぞ」

「天音から聞いた。で、お前らはなんでこんな所でイチャついてんだ?」

「い、いゃぁー、なんのはなしかなぁー」

霊斗が誤魔化していると、キラとジャガンが近づいてきた。

(霊斗様、''あの御方''が周辺に居ます。自分達が交戦してきます)

(わかった。ただし、危ないと思ったらすぐに離脱しろ)

(わかりました。では)

小声でキラが告げると、二人は屋外へと向かっていった。

「で、当然のように浅葱と基樹もいるんだな」

「俺も凪沙ちゃんが心配だったからな」

「ってか、待合室でイチャつかないでよ。恥ずかしいでしょ」

「私もいるんですけどね」

「おう雪菜。いろいろ小さくて気づかなかった」

「セクハラですか?出るとこ出ますよ」

「いや、そんなに出てないと――」

「はい?(ギロッ)」

「申し訳ありません」

「わかればいいんです」

霊斗はふと、アスタルテの方を見る。

「?」

「うん、俺はそんな一部で人を判断しないからな。大丈げぶあっ!?」

「どこを見て言ってるんですか!怒りますよ!」

「殴ったから十分でしょ?」

「まだ足りません」

「わかった!お昼時でお腹が空いてるんだな!よぉーし、社員食堂に行こう!俺の奢りだ!」

「本当に!?」

「浅葱?」

「じゃ、俺も」

「も、基樹?」

「私もー」

「天音?」

「俺もいいな」

「古城?」

「私も頂きますね」

「雪菜さん?」

「もちろん私もですからね」

「ああ、わかってるよ」

「「「「「あれ、反応違くない?」」」」」

「くそっ、もういいよ!全員奢りだぁっ!」

「イェーイ」

喜ぶ浅葱の顔をみて、財布の中を確認しだす霊斗だった。




眠い。
ではまた次回。


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焔光の夜伯編ⅩⅠ

書きます。


社員食堂向かう道中。

「ところでさ、霊斗が第五真祖で、アスタルテちゃんがその伴侶っていうのはちょっと前に聞いたけどさ……古城と姫柊さんはどういう関係なの?」

「ぶほっ!?」

「あ、浅葱?急にどうしたんだ?」

「いや、霊斗達の距離感と古城達の距離感が似てたから、ちょっと気になって……」

「それは俺も気になるなー」

「や、矢瀬?」

「で、姫柊さん。結局の所、二人はどういう関係なの?」

「それは……」

雪菜が助けを求めるように霊斗の方を見る。

「まぁ、言ってもいいんじゃないか?」

「……はぁ、わかりました。ただし、藍羽先輩には調べてもらいたい事があります」

「いいわよ。その条件、呑んであげる」

二人が一歩も退かずに火花を散らし合うのは、周りの人間にとっては恐怖ですらあった。

そして、その空気に耐えかねた矢瀬が手を挙げる。

「すまん、俺は少しトイレに行ってくる」

「あ、じゃあ俺も――」

古城も便乗しようと振り替える。

だが、その肩を掴まれる。

「あんたはここにいなさい」

「先輩?逃げないでくださいね?」

「……はい」

渋々その場に留まる古城。

「で、何を調べればいいの?」

「四年前の、暁先輩達が巻き込まれたという事件を調べてください。なるべく詳しく」

「わかったわ。少し待って」

浅葱はそう言って愛用のノートパソコンを取りだし、起動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MAR屋外。

ジャガンとキラは対象の元へ向かっていた。

「このビルの上、かな」

「行くぞ」

二人は一息に六階まで跳躍した。

そこには白いフードを被った少女がいた。

「何者だ、貴様」

ジャガンが聞くが、少女は答えずに隣のビルへと跳び移る。

「ふん。力ずくで聞き出せと言うのか……面白い。やってやろう」

ジャガンは敵を追って跳躍する。

そして

「''妖撃の暴王(イルヒリト)''!」

自らの眷獣を呼び出し、ビルを溶断する。

しかし

「流石の威力と言っておこう、トビアス・ジャガン」

少女は笑いながらさらに隣のビルへと移っていた。

「あなたの名前と所属、それと、第四真祖を狙う理由を教えてもらえますか?」

キラが穏やかに聞く。

たが、少女は再び笑うと、キラに言う。

「第四真祖を本当に狙っているのが私だと思っているのならば、それは見当違いだぞ。ヴァトラーの配慮を無駄にするのではない」

「……っ!?あなたはアルデアル公の居場所を!?」

「捕らえているだけだ。殺してはおらん」

「貴様が閣下を捕らえた?笑わせるな!キラ、俺がやる!」

ジャガンがそう言って新たな眷獣を召喚する。

「精神支配……珍しいな。だが――」

少女はそこまで言うと、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

「ぐぁっ!?……精神支配が……効かない……だと」

「まだまだ未熟だ……さて、どうする?」

「トビアス!離脱するよ!」

「くっ、わかった!」

二人はビルから飛び降り、少女から逃げる。

だが、少女の速度は魔族の常識から外れていた。

「馬鹿な!?追い付かれる!?」

「ククッ、私から逃げられると思うなよ!」

少女がそう言いながら放った雷撃が二人に到達し、周囲を爆音と煙が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

矢瀬はMARのビル内を屋上に向けて走っていた。

「くそっ、なんだあの魔力は!?おい、モグワイ!」

『ケケッ、該当サンプルの情報だ。お前にも馴染み深いだろ?』

「サンプル名は……アヴローラだと!?馬鹿な!」

『本当のとこはどうか知らんがな』

「また……見ているだけしか出来ないのか……」

矢瀬がそう呟いた次の瞬間、視界に人影が映る。

「なっ!?俺の耳に架からない……だと!?」

「残念ですが、矢瀬基樹。あなたはもう見ていることすら出来ませんよ」

「絃神……冥駕!」

「気安くその名を呼ばないで頂きたいのですが……まあいいでしょう。では、さようなら」

冥駕は手に持っていた槍を一閃する。

矢瀬は抵抗する間もなく、階段の下へと落ちていく。

だが、床に直撃する直前空間が揺らぎ、矢瀬の姿が一瞬で消えた。

「仕留め損ねましたか……ですが、動ける傷ではないはず。ひとまず、目的は達成ですね」

そして、冥駕は矢瀬の落としたスマホを一瞥し、歩き去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あったわ。三年八ヶ月前の三月、ローマで列車の爆発テロが発生。乗客乗員、駅にいた人、合わせて四百名以上が死傷。かなり大規模な騒ぎになってたはずよ」

浅葱がパンケーキを食べながら画面の情報を読み上げる。

そのままMARの記録と照らし合わせ、ため息をつく。

「嘘でしょ……」

「どうした?」

「事件は現地時間の午後一時なの。でも、凪沙ちゃんがMARに運び込まれたのは午後八時。時差を考えても、計算が合わないのよ」

「ってことは……」

「先輩も凪沙ちゃんもこの事件には巻き込まれていない、と」

「そうなるわね」

古城は絶句する。

「じゃあ、俺達は……ずっと騙されてた……?」

「古城……悪い、俺は知ってたんだ……」

「霊斗……なんでなんだ……」

「それは……お前の体質に関係するからだ」

「俺の……体質?って、つまり第四真祖の――」

古城がそこまで言った時、外から強大な魔力の波動が数ヶ所発生しているのを感じた霊斗達は、窓の外を見る。

「まずいな……天音、ブースト剤」

「使いすぎは厳禁だよ」

「わかってる」

霊斗はブースト剤を噛み砕くと、古城達の方を向く。

「キラとジャガンが危ない。俺が援護に行くから、お前達はここにいてくれ……古城、いざとなったら迷わず力を使えよ」

「ああ。わかってる」

霊斗はそれを聞くと、空間転移で姿を消した。




ああ、疲れた……。
ではまた次回。


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焔光の夜伯編ⅩⅡ

お久し振りです!
書いていきますよ!


周囲を濃い煙が漂っている。

ジャーダは、敵の気配が消えたのを確認すると、MARに向かって踵を返した。

そのときだった。

「おい、どこ行くんだよ?」

ジャーダの耳に届いたのは、過去に戦った少年の声。

次の瞬間、突風と共に煙が晴れる。

「第五真祖か……」

「久しぶりだな、ジャーダ・ククルカン」

現れたのは霊斗だった。

「まぁ、俺の知り合いが手ぇ出したのは悪かった。だけどよ、あれは過剰防衛だろ?」

「む……確かに、それは否定できぬな……」

ジャーダが顔を真っ青にしながら答える。

(キラ、あれはどういうことだ?)

(確か、第三真祖は第五真祖に半殺しにされたことがあるとか)

(なるほど)

ジャガンの質問に苦笑しながら答えるキラ。

その間にも霊斗の威圧は続く。

「しかもあんた、今MARに向かおうとしただろ?」

「う……うむ」

「どうせアヴローラを晒して古城の記憶でも戻そうってか?」

「い、いかにも……」

「それで?うちの妹を危険に晒そうと?」

「そ、そんなつもりは……」

「しかもアヴローラの姿を真似しやがって……殺すぞ」

「ひぅっ!?……い、命だけは……」

「あ?」

「ひぅ……(ガタガタ)」

霊斗の剣幕とトラウマのせいで遂にしゃがみこむジャーダ。

それを見て霊斗は

「……あー、なんか悪い。怖がらせちまったか?」

「う……う……」

「あぁ!泣くなって!悪かった!俺が悪かった!」

さっきまでの威圧が嘘のような狼狽えっぷりである。

「う……えぐっ……ひぐっ……」

「あぁあ!悪かったから!泣くなよ!いや、泣かないでください!」

「もう、怒らぬか?」

「怒んないから!あ!これ食うか?飴」

「うん……」

そんなやり取りを見ながらキラとジャガンはこそこそと話していた。

(なんだ、あれは……まるで兄妹のようだな)

(確かに……と、いうより喧嘩したカップルかもね)

(なるほど……そういう見方もあるか……)

まったく的外れな話をしていた。

そんな二人の背後に立つ影があった。

「誰と、誰がカップルなんですか?」

「「!?」」

底冷えするような声音。

「あ、アスタルテさん……」

「あの女は誰ですか?」

「あれは第三真祖だが……なぜ?」

「ぶち殺します」

「「!?」」

アスタルテの顔が般若の面に変わっていた。

いや、実際着けていた。

そしてそのまま霊斗の元へと歩いていく。

「よしよし、もう泣くなよ?」

「うむ……ひぅっ!?」

「ん?どうし―――」

「霊斗さん?」

「……(ガタガタ)」

「浮気ですか?」

「……(ブンブン!)」

「じゃあ、なんで第三真祖と仲良くしてるんですか?」

「こっ、これはだな!」

「言い訳は聞きたくありません(ゴスッ)」

「ぐぼぉっ!?」

アスタルテの全力の拳が霊斗の顔にめり込む。

そして霊斗は綺麗に回転しながら飛んでいき――。

「「「「あ」」」」

MARの建物に突っ込み、壁を破壊した。

完膚なきまでに。

「アスタルテ……さん?」

「……テヘッ( °∇^)]」

「テヘッではないだろう!第五真祖が死守した壁を貴女が壊してどうする!」

「妾が脅された意味がないではないか……」

霊斗は完全に気絶している。

そしてその壁の向こうには――。




久しぶりに書いたので……クオリティが下がっているかもです。
では、次回!


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焔光の夜伯編ⅩⅢ

またまたお久しぶりです。
書きます。


霊斗が出ていった直後。

「えーと…霊斗はどうしたんだ……?」

古城が天音に聞く。

「いいよー、たぶんすぐ帰ってくるし」

「そういうもんか……?」

天音の適当な返しに戸惑う古城。

すると、雪菜が古城のパーカーの裾を引っ張る。

「先輩、あの……アスタルテさんが……」

「ん?アスタルテがどうかしたのか?」

古城がアスタルテが居たところを見ると、そこには誰も居なかった。

「どこいったんだ……?」

古城が呟くと、浅葱が呆れたように言う。

「霊斗の後についてったわよ。それはもう驚くくらい気配を消してね」

それを聞いて古城と雪菜は溜息をつく。

「なんでまた自分から危険なところに……」

「バカップルですね……」

古城と雪菜が次々に呟く。

しかし、雪菜の呟きに浅葱がつっこみを入れる。

「いや、あんたらが言うか……それより、続けていい?」

浅葱がそう言って続ける。

「えっと……どこまで説明したっけ……あ、そうそう。つまり、古城と凪沙ちゃんを騙していた人物がいる。だけど霊斗は知っていた」

それを聞いた雪菜がはっとした表情になる。

「つまり、その嘘が……先輩の体質の原因を知る手がかり……?」

雪菜の呟きに浅葱がうなずく。

「そういうこと……じゃあ、古城の体質?のことについて話してもらおうかしら?」

浅葱が古城を睨み付けながら言う。

「あ、ああ……それは――」

次の瞬間、古城の台詞を遮って爆発音が響いた。

最初に状況を確認したのは雪菜だった。

「先輩!医療棟が!」

雪菜の声を聞いて古城が医療棟の方を見ると、無残に崩れ去った医療棟の壁があった。

「なっ!?あそこには凪沙が!」

古城が飛び出していく。

「先輩!?」

「あっ、古城!なにしてんのよ!死ぬわよ!」

二人の呼び掛けも虚しく、古城の姿は立ち込める砂煙の中に消えていった。

 

 

 

 

 

霊斗は瓦礫を押し退けて地上に出た。

「ってて……思いっきり殴りやがって……」

呟きながら周囲の被害状況を確認する。

だが、視界に飛び込んできたものに気づいて絶句する。

「まずい……古城が来ないことを祈るしか……」

そう呟いた霊斗の真横に大剣が叩きつけられる。

「のわぁあっ!?あぶねぇぇ!」

霊斗は飛び退きながら今の剣を使っている者を確認する――。

「――つっても、わかってるんだけどな……」

霊斗は呟きながら煙の向こうを霊視する。

そこに浮かび上がったのはアスタルテと神産巣日神だった。

「あいつ……町中で眷獣なんか使いやがって……うおっ!」

咄嗟に飛び上がった霊斗の真下を剣が通り抜ける。

「アスタルテ!もうやめろ!」

霊斗が必死に呼び掛けるもアスタルテには届かない。

虚ろな瞳で何かをぶつぶつと呟いている。

(くそっ……なんで急にヤンデレみたいに……)

霊斗が一瞬考え込む。

その瞬間、アスタルテの眷獣が剣を降り下ろす。

(しまった――)

霊斗が死を覚悟した時だった。

「疾く在れ!"獅子の黄金"!」

聞き慣れた声と共に、雷光が視界を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗に剣が迫っているのをみて、古城は反射的に眷獣を召喚していた。

剣を弾き、霊斗に駆け寄る。

「霊斗!」

近づいてくる古城に気づき、霊斗が弱々しく言う。

「古城か……たのむ、アスタルテを説得してくれ……」

「は?」

古城はあまりに予想外な台詞に絶句する。

「いや、話を聞いてくれよ。実はかくかくしかじかで……」

「なるほどわかった」

「相変わらずどうやって通じてるのかわからないですね……」

二人の意志疎通につっこみをいれたのは雪菜だった。

「おお雪菜、お前もアスタルテを説得してくれ」

「はぁ……わかりました」

雪菜は首肯くと、アスタルテの方に向かって走っていった。

それを見届けてから、霊斗は古城に話の進行度を確認する。

「で、古城。どこまでわかったんだ?」

「ああ、それは――」

「何よこれ!どういうことよ!」

古城の台詞を遮ったのは浅葱の絶叫だった。

そして、浅葱は古城と霊斗のところに駆け寄ってきた。

「ちょっと古城!あんた、なんなのよあれ!」

浅葱の問いに霊斗が何かに納得したかのように首肯く。

「ああ、そこからか」

「なによ、悪い?」

浅葱が霊斗を睨み付ける。

「いや、浅葱の疑問に答えてやるよ。ずばり古城は第四真祖だ」

霊斗がさらっとカミングアウトする。

「ああ、第四真祖ね。なるほどなるほど……ってはぁぁぁぁ!?」

「いや、事実だから。なぁ古城?」

霊斗が古城に聞く。

「あ、あぁ。黙ってて悪かった」

古城は浅葱に謝る。

浅葱はそんな古城をじっくりと見つめたあと、全力のデコピンを放った。

「いたっ!何すんだよ!」

古城が抗議するが、浅葱は更にデコピンを連射する。

「この馬鹿!なんでそんな大事なこと今まで黙ってんのよ!」

浅葱の剣幕に押され、古城が土下座をする。

「……申し訳ございませんでした」

一方の浅葱はというと。

「えっ、あ、いや。そこまで本気で怒ってた訳じゃないし……ど、土下座までしなくていいわよもう!」

古城の土下座に戸惑いながらも、あっさり許していた。

そこに雪菜とアスタルテが戻ってきた。

「霊斗さん、説得しました」

「あぁ、ありがとな……さて、アスタルテ」

「はい……」

霊斗に呼ばれたアスタルテはその場に正座する。

「まぁな?俺も確かに誤解を招く行動をしたと思っている。だけどな、事情も聞かずにいきなり殴るのはないだろ」

「はい……」

「しかも町中で眷獣なんか使って……特区警備隊がきたらどうするんだ?」

「それは……」

「あとな、最後に言っとくけどな……お、俺が愛してるのはアスタルテだけだから。浮気なんか絶対にしないから」

霊斗はそう言うとアスタルテの頭を撫でる。

すると、アスタルテの瞳から涙が次々と零れ落ちる。

「れ、霊斗さん……」

「あぁもう、泣くなよ。お前が泣いてるとこっちまで辛くなるだろ?」

霊斗はそう言って、アスタルテを抱き寄せる。

あまりに自然な動作だったため、誰も気にしていなかったが、霊斗の顔は真っ赤だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた、やっと」

「探し続けて約三年……こんなところに」

「兄さん」

「お兄様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、霊斗、凪沙は――っ!?」

「古城?あっ……」

霊斗はアスタルテを抱き寄せたまま絶句した。

古城の視線の先には、氷に包まれた金髪の少女がいた。

その少女を見た古城が、絶望したような顔をしている。

「……先輩?」

雪菜の呼掛けにも答えず、古城が呟く。

「アヴ……ローラ?」

そして古城は意識を失った。

続いて浅葱が何かを思い出したかのように座り込む。

「あぁ……そうよ……アヴローラ……第四真祖……」

「藍羽先輩!?」

雪菜が駆け寄ると同時に浅葱も意識を失った。

霊斗の脳裏には二人が思い出せなかった情景がくっきりと焼き付いていた。

燃え盛る街、荒れ狂う魔力の奔流。

逆巻く虹のような金髪、焔光の瞳。

今年の春に起きた惨劇。

焔光の宴の記憶。




限界……です。
次は早く出せるように頑張ります。
ではまた次回。


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焔光の夜伯編ⅩⅣ

書きます。


これは、矢瀬基樹の過去の記憶の断片――。

 

 

十二歳の春、基樹は兄に呼び出され、キーストーンゲートへと向かっていた。

話を聞くところによると、会わせたい人物がいるとかなんとか。

「誰なんだか……面倒事はごめんだぜ」

一人で呟きながら、人工島管理公社のオフィスに入る。

「なんだ兄貴、会わせたい人って……」

そう言いながらドアを開けると、そこには、異母兄――矢瀬幾磨ともう一人誰かがいた。

「……誰だ?こいつ」

基樹がじーっと見ると、向こうは軽く会釈をしてきた。

すると、幾磨が口を開いた。

「紹介する。本土の組織から送られてきた人材だ。名前は暁霊斗」

「……よろしく」

向こうが手を差し出してきたので、基樹も握り返しながら自己紹介をする。

「矢瀬基樹だ。よろしく」

握手を終え、基樹が幾磨を見ると、幾磨が首肯く。

「では本題に入ろう。二人には、とある人物を監視、及び警護してもらいたい」

幾磨がモニターに映し出したのは一人の少年。

基樹がその写真を見て、まだガキだなと思っていると、霊斗が口を開いた。

「名前は暁古城。俺の兄弟で、今度彩海学園の中等部に編入することになってる。それで、次に見てもらうのは古城の肋骨のレントゲンなんだけど――」

霊斗はそう言うと、写真を切り替えた。

「右の第四、五の肋骨……色が違うのはわかるかな?」

霊斗の問いに基樹は首肯く。

しかし、話が見えてこない。この話がどうやったら自分の監視任務につながるのか――。

「この肋骨は、第四真祖の素体の骨だ」

基樹は、霊斗の突拍子もない話に唖然とする。

なぜなら、第四真祖というのは伝説上の存在、実在しないはずなのだ。

「第四真祖の……しかも素体?どういうことだ?」

基樹は幾磨を見る。

「つまり、暁古城は……第四真祖の血の従者の可能性がある」

幾磨が言うと、霊斗が口を挟む。

「だから幾磨さん、古城は実際にアヴローラの血の従者なんだって……」

霊斗はそう言って、基樹に向き直る。

「……でも、今はただの人間だ。アヴローラが封印されてるからね。だから、君には古城が人間でいる間の監視を頼みたい」

霊斗がそう言って、頭を下げる。

基樹は話をうまく呑み込めないまま、首肯く。

すると、霊斗は満面の笑みを浮かべ、幾磨に向き直る。

「じゃあ幾磨さん、あれを」

「わかった……基樹、受け取れ」

幾磨に差し出された紙袋の中を見ると、カプセル錠が詰まった瓶がいくつか入っている。

「……なんだ、これ」

「彼がお前の体質に合わせて開発した増幅剤だ。副作用もないし、危険性もないが、完璧に安全なのはそれだけだ。追加がほしければ渡すが、そちらは寿命を縮める可能性がある。使いすぎは厳禁だ」

幾磨の台詞に首肯き、基樹はオフィスを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

二年後、秋のとある日。

基樹は霊斗と古城が試合をしているのを見ていた。

一対一の対決。

お互いに一歩も譲らない勝負が続いている。

(一歩も譲らない?おかしいな……霊斗なら普通にやっても古城くらいには圧勝するはず……手を抜いてるな)

基樹はそう考えると、二人の親友のところに向かっていった。

「よう、古城に霊斗。お前らよくこんな暑いなか試合なんかできるな?」

「ん、まぁ……暇だし?」

「俺は暑くて仕方ないけどな……」

古城はさらっと、霊斗は汗だくで答える。

なるほど、霊斗が圧勝できなかった原因は日光にあったようだ。

と、基樹は古城に言う。

「なぁ、古城はもうバスケやんないのか?」

「ああ。高等部のバスケ部は休部中だしな」

古城は素っ気なく答える。

しかし、その言葉の裏には隠しきれない後悔の念が感じ取れた。

そんな空気を払拭するように霊斗が言う。

「もったいねーよな、バスケ以外取り柄がねーのに」

「うっせぇな!ほっとけよ!」

霊斗の冗談に古城が言い返す。

そこに基樹が追い討ちをかける。

「まぁ、バスケやってるときだけは古城も魅力的だからな。女子が釣れる釣れる」

「おまっ、お前!俺の個人情報が漏れてると思ったらお前か矢瀬!」

古城がキレ気味に怒鳴る。

そんな古城を霊斗が押さえていると、基樹には聞きなれた声が聞こえた。

「ごめーん、古城、霊斗。遅くなっちゃって……げっ!基樹!?」

「あ、浅葱……あ、俺邪魔だった?」

基樹がそう言うと、浅葱は顔を真っ赤にして狼狽える。

「んなっ!あ、あんたそういう――」

基樹に掴み掛かる浅葱だが、そこに霊斗の追撃がはいる。

「あー……俺、別ルートで行こうか?」

そんな霊斗に浅葱は近くに転がっていた石を投げつける。

「いたっ!何すんだよ!」

「あんたが馬鹿なこと言うからでしょうが!早く凪沙ちゃんのお見舞い行くわよ!」

浅葱の台詞を聞いて基樹は霊斗に耳打ちする。

「なぁ、凪沙ちゃんまた体調崩したのか?」

「ああ。週末くらいからな」

すると、古城が基樹に聞いてくる。

「なぁ、矢瀬も暇なら来いよ。生贄は多い方がいい」

しかし、基樹は断る。

「悪い、このあとちょっと野暮用がな……」

そう言いつつ、霊斗にアイコンタクトを飛ばす。

霊斗は小さく首肯くと、鞄を背負う。

そのなかには獅子王機関の秘奥兵器が入っているらしいが……基樹は見たことがない。

「んじゃ、俺は行くわ」

基樹はそう言って古城たちと別れた。

ひしひしと感じる厄介事の雰囲気を感じながら。




そろそろこの章も終わりますかね……。
じゃ、また次回。


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焔光の夜伯編ⅩⅤ

書きます。


基樹は霊斗のアイコンタクト通り、古城たちから五百メートル程離れたところを歩いていた。

「しっかし……浅葱のやつも変わったよなぁ……」

原因は恐らく、いや、確実に古城との出会いだろう。

当事の浅葱は、お世辞にも人付き合いがうまいとは言えなかった。

それが古城に出会ってからは、何かと彼に話しかけ、裏では霊斗にまで古城の話を聞いたりしていた。

そんなことがあってから、浅葱には友人が増えた。

実質的には古城のおかげなのだろう。

だが、基樹が気にしているのは二人の関係ではない。

「登録魔族か……見た感じはまだ若いが……」

古城たちの後方二百メートル。

不審な女が彼らを着けている。

霊斗が人払いの結界を一定範囲に張っているので、例え戦闘になろうとも民間に被害はでないが、浅葱と古城が危ないのは事実だ。

しかし、女の方も霊斗がただの人間ではないことに気づいているのか、すぐに手を出す様子はない。

しかし、古城たちが歩道橋を渡りきった時、霊斗が動いた。

「あ、やばい。俺そういや那月ちゃんに呼ばれてんだった!すまんが後は二人で帰ってくれ!」

霊斗はそういうと回れ右してこちらに戻ってくる。

古城たちがある程度離れたのを確認して、霊斗と合流する。

「基樹、相手は?」

霊斗に聞かれて基樹ははっとした。

いつの間にか女が消えている。

「……すまん、見失った……」

基樹が謝ると、霊斗が首を横に振る。

「いや、基樹が捕捉できないなら答えは一つだ……吸血鬼の霧化だ。そうだろ?出てこいよ」

霊斗が基樹の背後にそう言うと、歩道橋の手すりの上に女が現れる。

「こんなに早く見破られるなんて……あなた、何者?」

女はブルネットの髪を風になびかせながら問う。

それに霊斗は余裕な表情で答える。

「そうだな……まぁ、俺も吸血鬼だ、とだけ言っておくよ。カルアナ伯爵家の生き残り、ヴェルディアナ・カルアナ嬢」

「なっ!?あなたがなぜそれを!」

基樹は女――ヴェルディアナ・カルアナに聞く。

「なぁ、あんたはなんで古城を狙ってたんだ?」

すると、女は愕然とした表情になる。

「そこまでバレているのね……本当にあなた達、何者なのよ……」

基樹が、ただの親友だと答えようとした瞬間、辺りを雷光が照らした。

それを見てヴェルディアナが息を呑み、霊斗が歯ぎしりをする。

「まずいな……予想以上に早いな。"静寂破り(ペーパーノイズ)"……」

すると、歩道橋の上に二人、新たな影が降り立つ。

「久しいですね、暁霊斗」

「……そいつ、五番目(ペンプトス)だな?なんであんたが一緒にいるんだ?"静寂破り"」

霊斗の問いに、"静寂破り"は微笑で返す。

「ああそうかよ、采配者の権限でヴェルディアナから鍵を取り返しに来たんだろ?」

霊斗がそう聞くと、"静寂破り"は頷き、口を開く。

「話が早くて助かります。暁霊斗、獅子王機関三聖の名において命じます。ヴェルディアナ・カルアナから鍵を取り返しなさい」

基樹はまずい、と本能的に直感した。

霊斗が敵に回ったら、今の絃神島には勝てる者は居ない。

しかし、次の霊斗の台詞は以外なものだった。

「はっ、下らねぇ。悪いけどな、ヴェルディアナの事はこいつの姉貴に頼まれてるんでな。あんたの命令より優先させてもらう」

不敵な笑みで霊斗が牙を剥く。

「そうですか。ならば……五番目、お願いします」

"静寂破り"がそう言うと、五番目が霊斗の前に進み出る。

「只の吸血鬼風情が……王たる我に背いたこと、後悔するがいい」

彼女はそういうと、霊斗に向かって雷撃を放った。

手加減なしの一発。

いくら霊斗が不老不死の吸血鬼といえど、耐えられるモノではない。

しかし、雷撃は明後日の方向へと飛んで行った。

「な……!?」

五番目が目を見開いている。

しかし、霊斗はつまらなさそうに一言。

「やっぱ素体程度じゃ相手にならんわ」

この一言に、その場の誰もが絶句し、戦慄した。

なぜなら、霊斗が纏っていた魔力が、真祖のそれだったからだ。

世界に三人しか存在しないはずの真祖。

その四体目の素体すらも越えた、真祖以上の化け物。

その噂は、少しだけ聞いたことがある。

なんでも、世界で最も残虐な吸血鬼だと。

その名を、"静寂破り"が静かに呟く。

「まさか……第五真祖、"亡霊の吸血鬼(ロストブラッド)"……」

その恐怖の呟きを聞いて、霊斗は酷薄な笑みを浮かべボソリと一言。

 

「正解」

 

直後、周囲を圧倒的な破壊の渦が駆け抜けた。




では次回。


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焔光の夜伯編ⅩⅥ

書きますねー。


基樹は初めて霊斗が吸血鬼化しているのを見た。

しかし、それはあまりに強大過ぎた。

霊斗が魔力を解放しただけで周囲のビルの窓ガラスが割れ、壁には亀裂が入る。

「暁霊斗……貴方は……」

"静寂破り"が恐怖に顔をひきつらせながら聞く。

霊斗はそれに静かに答える。

「だから正解だって。俺は第五真祖だよ」

しかし、五番目が言い返す。

「第五の真祖などいるわけが無かろう!真祖は我ら"焔光の夜伯"で最後のはず!」

霊斗はつまらなさそうに五番目を一瞥すると、溜息をついた。

「んなことも知らねぇのか……本来、天部の人工真祖計画は二つあった。一つは第四真祖、"焔光の夜伯"計画」

霊斗はそこまで言うと、五番目を指差す。

「こいつは、その計画で造り出された殺神兵器――第四真祖の眷獣の器だ」

眷獣の器。

基樹はそれを聞いた瞬間、反射的に霊斗に聞いていた。

「なぁ、五番目……ってことは、こいつ並の化け物がまだいるってことか! ?」

基樹の質問に、霊斗は首肯く。

「第四真祖の眷獣の器は全部で十二体。そして、それらが一つの魂の元に融合して出来るのが第四真祖だ」

霊斗は、そこまで言うと基樹たちに確認する。

「ここまではわかったか?」

すると、以外なことに"静寂破り"が口を挟む。

「待ちなさい、暁霊斗。一つの魂と、先程言いましたね」

「ああ、言ったが……それがなにか?」

"静寂破り"は真剣な表情で続きを聞く。

「その魂とは、どこにあるのですか?」

基樹ははっとした。

その魂があるのがこの絃神島だった場合、この島はどうなるのか。

基樹の疑念をよそに、霊斗が答える。

「恐らく、十二番目の素体……アヴローラ・フロレスティーナの中だ」

それを聞いた"静寂破り"が安堵したような表情になる。

「では、十二番目の封印を解かなければ……」

「ああ。第四真祖は復活しない。で、質問はもういいか?」

霊斗が再び聞き、全員が首肯くと、霊斗は話を続ける。

「さて……天部は世界最強の吸血鬼を産み出した。しかし、天部は第四真祖の反逆を恐れた」

基樹はそこまで聞いて納得した。

「なるほどな、第四真祖への対抗策として造り出されたのが第五真祖……か」

「ああ。第五真祖……"亡霊の吸血鬼"計画だ。ただし、この計画には第四真祖の計画とは明確に違う点がある」

霊斗の言葉に、基樹は首を傾げる。

そんな基樹を尻目に、霊斗は説明を続ける。

「その違う点というのは、第四真祖が"吸血鬼そのもの"を造り出す計画なのに対し、第五真祖の場合は、"受け入れた者を真祖にする呪われた魂"を造り出す計画だったということだ。つまり、その魂さえ受けいれることが出来れば誰でも真祖になれると言うことだ」

霊斗の言葉に、その場の全員が息を呑む。

今の説明は、世界の理を大きく覆す可能性があると言うことを表していた。

そんなものが量産されなくて良かったと、基樹はそっと胸を撫で下ろした。

すると、霊斗が五番目と"静寂破り"にこう言った。

「で、これ以上は俺にもわからん」

「え?」

霊斗の台詞に全員が脱力する。

「なんて中途半端な……」

「仕方ねーだろ、父さんがここまでしか言わない内にどっか行っちまったんだから」

霊斗はそう言うと、溜息をつき一言。

「ま、鍵は見逃してやってくれないか、"静寂破り"」

「そうですね……こちらにも有益な情報が得られたので、獅子王機関からは不問にしますが……五番目はどうしますか?」

「我も今回は見逃そう……第五真祖に勝てるとは思わぬからな」

二人の返事を聞いて霊斗はヴェルディアナに声を掛けた。

「だとよ、良かったなヴェルさん」

「いきなり馴れ馴れしいわね!?ま、まぁ……ありがと」

霊斗が五番目と"静寂破り"に片手をあげると、五番目は体を雷に変えて去り、"静寂破り"はいつの間にかいなくなっていた。

基樹は二人がいなくなった途端、地面に座り込んだ。

「はぁ……面倒な事に巻き込まれちまったな……」

そんな基樹に霊斗が笑いかける。

「はは、悪いな。面倒かけて」

「いいさ。どっちにしろ、兄貴辺りに言われて首突っ込んでたさ」

基樹はそう言って苦笑すると、立ち上がる。

「で、ヴェルさんはそれを使って第四真祖の素体を蘇らせるのか?」

「そうよ、そして第四真祖を私達の王に据えるのよ」

ヴェルディアナは、そう言って霊斗達に背を向けて歩き去った。

ヴェルディアナが見えなくなったところで、基樹は霊斗に聞いた。

「なぁ霊斗、第四真祖ってのは兵器なんだよな?何に使うための兵器なんだ」

霊斗はその問いに静かに答える。

「"聖殲"だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基樹はMARの研究棟の屋上に居た。

隣には閑古詠が座っている。

「いやー、あそこで間一髪かわした後に階段を踏み外した時はマジで死んだと思ったぜ」

「私もヒヤヒヤしました。あまり心配させないでください」

古詠が怒ったように言う。

基樹は笑ながら謝る。

「悪い悪い、でも先輩が助けてくれて良かったぜ。ありがとな」

古詠は基樹の感謝の言葉に頬を赤く染めて立ち上がる。

「私はもう行きます。危険な行動は慎むように」

そう言って古詠は姿を消した。

基樹はつれないなー、と呟きながら屋上のドアを開けた。

そして、いつの間にか屋上に居た二人組に一言。

「霊斗なら下だぜ」

基樹はドアを閉め、家路に着いた。




焔光の夜伯編、おしまいです。
ではまた次章!


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特別編
突然の訪問者


久びさのオリジナル話です。
時系列的には焔光の夜伯編の少し前くらいですね。


とあるマンションの一室。

一人の少女が槍を持って目を瞑っている。

しばらくすると少女は目を開く。

「今日はこのくらいにしておきましょう」

外を見ると、夕焼けに染まった空が見える。

そこで少女は何かを思い出したかのように呟く。

「そういえば、先輩から夕食に誘われていましたね。そろそろ行きますか……」

学校から帰ってすぐに精神統一を始めた為、少女は未だに制服姿だ。

そのまま行くわけにも行かないと、少女は着替え始める。

制服を脱ぎ終わったところで、少女はふと鏡を見、溜息をつく。

「牛乳を飲むと成長すると聞きましたが……」

もちろん身長である。

今の身長では彼とつりあわないのではないか、と思いつつ、一つ年上の同僚を思い浮かべる。

「と、そんなことをしている場合ではありませんね」

少女は手早く服を着ると、家を出て、隣の七〇六号室に向かった。

インターホンを鳴らすと、一人の少年が出てくる。

「姫柊か、まぁ上がれよ」

「はい、お邪魔します」

少年――暁古城が部屋に入るように促すと、少女――姫柊雪菜は礼儀正しく一礼して部屋に入る。

雪菜がリビングに着くと、そこには暁家の住人が勢揃いしていた。

「お、来たか。んじゃ、さっさと食おうぜ」

そう言い、早くもおかずに手を伸ばしたのは霊斗だった。

しかし、その手が隣に居た少女の手によって阻まれる。

「霊斗さん、雪菜ちゃんもまだ席に着いてませんし、頂きますも言わないなんて……非常識です」

そう言って霊斗を睨むアスタルテ。

さらにその隣では凪沙が頷いている。

二人に非難されて、霊斗も渋々手を引っ込める。

それに苦笑しながら雪菜が席に着くと、今度こそ本当に食事が始まる。

その後は他愛ない会話が続く。

そこでどういうわけか、霊斗の過去についての話になった。

「霊斗さんは、先輩のお父様に拾ってもらったんですよね?」

「そうだな。死にかけてたところをな」

霊斗はそう言うと、皆を見渡す。

「じゃあ、俺が暁家の一員になる前の話をしようか」

霊斗がそう言うと、古城が首肯く。

「そういや、一回も聞いたことないもんな」

それに同意するように凪沙も首肯く。

そこにアスタルテが更に付け加える。

「出来れば私は、私と会うまでの霊斗さんの話も聞きたいですけど……」

「それは時間がなくなるからまた今度な」

霊斗がそう言うと、アスタルテは首肯き、霊斗にすり寄る。

「あー、じゃあまずは俺の昔の家庭環境から話すか」

霊斗は昔を思い出すかのように目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の家は本土の山奥……神縄湖の近くの村にあった。

本当に小さい村でさ。

そこに俺は母親と、一歳違いの妹と弟と一緒に住んでた。

妹と弟は双子で、しかも二人とも過適応能力者(ハイパーアダプター)でな。能力は、二人で共鳴して、霊力を倍増させるってやつだった。

それさえ使えば、霊能力だけは凪沙にも匹敵するレベルだった。

そんな二人は俺と母親の大事な家族だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊斗には……弟と妹がいたのか……」

古城が驚愕する。

凪沙もそれに続ける。

「しかも混成能力者(ハイブリット)でしょ?すごい優秀な子達だったんだろうね」

凪沙の関心したような台詞に、霊斗は苦笑する。

「優秀だったのはお前だろ?……さて、続きを話すか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだな。確かに、幸せに暮らしてた……とはいっても俺がまだ四歳五歳の頃だ。

だけど冬のある日、そんな日々が壊れた。

村のはずれで、俺達三人は遊んでいたんだ。

そこに、神父の格好をした男が来た。

最初はニコニコと笑って俺達を見てた。

だけど、その神父の表情が変わったのは俺が霊能力を使って、精霊と遊び始めた時だった。

その神父は血走った目で俺を見てた。

俺は怖くなって、二人をつれて村に向かって走った。

だけど大人と子供じゃあ、どんなに頑張ったって逃げ切れる訳がない。

途中で俺は捕まった。

俺は弟と妹に叫んだ。

逃げろ。今すぐ村に戻れ、ってな。

二人は泣きそうになりながら、必死に歯を食い縛って逃げていった。

俺は神父に捕まって、どこかに連れていかれた。

どこかはわからないけど、薄暗い、森の奥の祭壇。

そこで神父は血走った目で笑ながらこう言った。

「おお神よ、貴方の依り代がついに見つかった!私は貴方に感謝します偉大なる神よ!」

俺はそれを聞いた瞬間、死ぬと思った。

だから俺は自分から霊能力を暴走させ、祭壇を壊した。

そしてその神父を――殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊斗さん……辛いならもう……」

「ありがとな、アスタルテ。でも、ここで話さなかったらいけない気がするんだ。だから、大丈夫」

「わかりました。無理はしないでくださいね」

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神父の死因は、崩れた祭壇の瓦礫に押し潰された事が原因の圧迫死。

もちろん、俺も無傷じゃあすまなかった。

結構な数の骨が折れてたし、たぶん内臓もやられてた。

だけど幸いな事に、古城のお祖母さんの神社がすぐ近くにあった。

俺は痛む身体を引き摺りながら、必死に歩いた。

途中からは雪が降ってきて、本当にキツかった。

あちこちの擦り傷に、雪が染みてさ。

辛くて、苦しくて、寒くて。

やっと森を抜けて、神社に続く道に出たところで、俺は力尽きた。

でも、ふと気が付いたら、誰かが俺に手を差し伸べてくれてた。

それに、身体の痛みもない。

俺は、自分が死んだと思った。

でも、その人――牙城の手は暖かくて、大きくて……。

そうしたら牙城は、俺に名前を聞いた。

俺は自分の名前を言おうとした。

でも、自分の名前が思い出せなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「記憶を失ったと言うことですか?」

「ああ。それで、牙城がつけてくれた名前が、霊斗」

霊斗の話を聞き終わる頃には、もう皆食事を終わらせていた。

雪菜はごちそうさまでした、と言ってから自室に向かった。

自分の部屋に戻ると、雪菜はシャワーを浴びた。

そして、リビングでくつろいでいると、チャイムがなった。

「はい、どちら様でしょうか」

雪菜がドアを開けると、そこには自分と同年代くらいの少年が立っていた。

「夜分遅くにすみません。自分は、今日から七〇四号室に引っ越してきた、紅蒼牙と申します。よろしくお願いします」

雪菜は何か引っ掛かりつつも、名乗り返す。

「姫柊雪菜です。こちらこそよろしくお願いします」

雪菜がそう名乗ると、少年は首を傾げてこちらを見る。

「あ、あの……何か?」

雪菜が戸惑いながら聞くと、少年は口を開く。

「もしかして……雪姉?」

少年の台詞に、雪菜は息を呑む。

雪菜をこのようによぶ少年など、一人しかいない。

「蒼君?」

雪菜がそう呼ぶと、少年が目を輝かせながら抱きついてくる。

「やっぱり雪姉だ!久しぶり!」

雪菜は苦笑しながら、蒼牙を引き離す。

「あの……蒼君はなんでここに?」

雪菜が聞くと、蒼牙は真剣な表情になる。

「実はこの島に、昔生き別れた兄さんがいるみたいなんだ。だから、兄さんに会いに。あ、桃華もいるよ?」

桃華というのは、蒼牙の双子の姉である。

「そっか……お兄さん、見つかると良いね」

「うん、絶対に見つけるよ。そしたら、雪姉にも会ってほしいな。あ、もう行くね」

蒼牙はそれだけ言って、部屋に帰って行った。

雪菜はドアを閉め、何か胸の中にモヤモヤした気分を抱えながら、自室に戻った。

そこで、ふとある考えに辿り着く。

「まさか……そんなはずは」

そんなはずは無い、と頭を振り、布団に潜り込む。

雪菜はゆっくりと眠りに落ちていく。




新キャラが二人でました。
読みだけは紹介します。
紅 蒼牙《くれない そうが》
紅 桃華《くれない ももか》

ではまた次回。


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愚者と暴君編
愚者と暴君編Ⅰ


新章開始です。


霧の立ち込める闇。

そこに、二つの影が現れる。

一人は黒いコートを着た、ブルネットの髪の女吸血鬼。

そして、もう一人は制服を着た少年だった。

二人の眼前には、巨大な氷塊がある。

その中には美しい少女が眠っている。

「……早くしないと、警備ロボットが来るぞ」

少年がそう言うと、吸血鬼は頷き右手をあげる。

その手の中にはクロスボウが握られている。

そしてクロスボウには、全金属製の矢が装填されている。

「……目覚めなさい、十二番目の"焔光の夜伯"……アヴローラ・フロレスティーナ」

吸血鬼はそう言うと、クロスボウの引き金を引いた。

放たれた矢が氷塊に突き刺さり、少女の封印が解かれる――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古城が目を覚ますと、そこは薄暗い部屋だった。

「どこだここ……つか、縛られてるし……鎖?」

力を入れてみるが、鎖は壊れない。恐らく魔術的に強化されているのだろう。

しかし古城は諦めずに暴れる。

すると、すぐ近くから誰かの声が聞こえた。

「ん……?え、どこよここ」

「浅葱?お前も縛られてんのか」

古城が声をかけると、浅葱が自分の身体を確認する。

「ってなによこれ!亀甲なんですけど!?」

浅葱が叫ぶと、暗闇から霊斗が現れた。

「なんだ、古城が喜ぶと思ったんだが……」

「んなわけあるか!」

古城が叫ぶと、霊斗は肩を竦める仕草をする。

そしてもう一人、霊斗の後ろにいた。

「全く……捕らわれていると言うのに緊張感の無いやつらだな」

「な、那月ちゃん!?」

古城が名前を呼ぶと、那月は扇子を一閃する。

次の瞬間、古城の首が横に九十度曲がる。

「古城……貴様は何度言ったらわかるんだ!教師をちゃん付けで呼ぶな!」

「うごぉ……首が……」

古城が呻いていると、浅葱が古城に聞く。

「ねぇ古城、あんたが第四真祖になったって本当なの?」

「あ、あぁ。そうだけど」

古城が肯定すると、霊斗が補足する。

「因みに雪菜は古城の監視者な」

「あー監視者……でも姫柊さんの場合はどちらかというと……」

浅葱が言葉を濁す。

その先を古城が続ける。

「どっちかっつーと……ストーカーだなありゃ」

古城が苦笑すると、不意に不機嫌そうな声が聞こえてくる。

「誰がストーカーですか……先輩が危なっかしいのがいけないんです」

「うげっ、姫柊!?いつからそこに……?」

「最初からずっとです」

先程までは完全に気配を消していた雪菜が古城を睨んでいる。

すると、浅葱が雪菜に話しかけた。

「ねぇ姫柊さん、あなたならわかるわよね。あたしたちがなんで縛られてるのか」

浅葱の質問に、雪菜が淡々と答える。

「先輩方にはここで記憶を取り戻してもらいます」

「取り戻す?」

古城が怪訝そうに聞くと、霊斗が説明を引き継ぐ。

「ああ。第四真祖復活の儀式――"焔光の宴"の記憶だ。しかも、俺が話ても記憶は戻らないみたいでな」

霊斗がそう言って肩を竦めると、那月が偉そうに言う。

「仕方なく、可愛い教え子の為に私が出てきたというわけだ。感謝しろ」

那月の台詞を聞いて、古城が何かを思い出したように言う。

「じゃあ、この場所は……」

古城の視線を受けて、雪菜が頷く。

「はい。ここは南宮先生の魔術で作り出された世界――」

雪菜はそこまでいうと、古城を真っ直ぐに見据えて続きを言う。

「――監獄結界です」




眠い……。
あ、ではまた次回。


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愚者と暴君編Ⅱ

今回で百話です……やっとここまで来たかって感じですね。
じゃあ、書いていきます。


絃神島、港湾地区。

ヴェルディアナ・カルアナは溜息をついた。

「なんでここの物価はこんなに高いのかしら……いちばん安いコーヒーしか飲めないじゃない……」

そう言ってヴェルディアナは砂糖とミルクを大量に入れたコーヒーをすすった。

「はぁ……それにしても、暁主任はまだかしら……そろそろ時間のはずだけれど……」

ヴェルディアナがそう呟いた時だった。

何者かが彼女の肩を叩く。

「暁主任!?」

勢いよく振り向いたヴェルディアナの視界に入ったのは、中学生くらいの少年少女だった。

「いやー……深森さんじゃないんだけどね?」

少年がそう言うと、少女が首を縦に振る。

「えーっと……誰?」

ヴェルディアナがそう聞くと、少年は笑いながら答える。

「紅蒼牙です、よろしく。こっちは妹の桃華」

「……よろしく」

蒼牙はそう言うと手を差し出す。

しかし、ヴェルディアナは警戒を解かずに聞く。

「何の用かしら……私は貴方たちと知りあいではなかったと思うのだけれど?」

「そうですね……今日は僕らは暁深森主任の代理で来ました」

蒼牙の言葉を聞いて、ヴェルディアナが勢いよく立ち上がる。

「じゃあ、暁主任から何を聞いているのか教えてちょうだい!聞いているでしょう!」

ヴェルディアナの剣幕に押されたように、蒼牙の頬がひきつる。

「え、えっと……ちょっと落ち着いてくれます?桃華が怖がりますんで……」

「え、あ、ごめんなさい……」

蒼牙に言われて、ヴェルディアナは再び席に着く。

それを確認して蒼牙と桃華が向い側に座る。

「さて、本題ですが……MARは十二番目――アヴローラの封印を解くつもりはないそうです」

「そんな!話が違うじゃない!」

ヴェルディアナが蒼牙に詰め寄る。

そんなヴェルディアナを見て苦笑いしながら、蒼牙が続ける。

「まあ待ってください。深森さんはこう言ってましたよ……『侵入者が勝手に開けちゃったらしかたないわよねー』って……軽いですよねー」

「それって……MARは十二番目の解放を黙認するって事!?」

「まぁ、警備ロボットくらいはいるでしょうがね。あ、あとこれ、死都帰りの暁牙城からのプレゼントだそうです」

蒼牙はそう言うと、段ボール箱を渡す。

「これは……クロスボウに薬莢……?」

「魔族のあなたには聖槍を起動することはできない。でも、それらを使えば……ほぼ無傷で"棺"を開けられます」

蒼牙がそう言うと、ヴェルディアナは頷き立ち上がる。

「ありがとう、私は行くわ」

「ちょっと待ってください」

立ち去ろうとするヴェルディアナの背に、蒼牙が声をかける。

「あなたに聞きたい事があります。……紅霊牙と言う男を知りませんか」

ヴェルディアナは蒼牙の方を向き、首を横に振る。

「ごめんなさい、聞いたこと無い名前ね……」

「そうですか……呼び止めてしまってすいません」

「いえ……私も力になれなくてごめんなさい」

ヴェルディアナはそう言って、歩き去る。

「……蒼牙?」

「ごめんよ、行こうか、桃華」

風が吹く。

二人の姿はそこにはもうなかった。

 

 

※ ※ ※

 

 

霊斗「百話記念」

天音「霊斗と天音のプチ談話コーナー!」

霊斗「で、ようやく百話に到達した訳だけど」

天音「長かったよねー。作者が気まぐれすぎるせいでねー」

霊斗「はは……まぁ、飽きっぽいうちの作者が頑張れたのも読んでくれる皆さんがいてこそ、だな」

天音「そうだねー。特にあれ!応援系のコメント‼あれ、超喜んでたねー」

霊斗「まぁ、それも毎日更新してた時だけだったけどな」

天音「あー……学校が忙しくなってきちゃってるからねー」

霊斗「ああ、8月には部活の大会とかあるしな。毎日更新は厳しいだろうな」

天音「まぁね、それでも……これからも皆が読んでくれると嬉しいよね!」

霊斗「こんな駄作ですが、皆様これからもよろしくお願いします」

天音「以上、霊斗と天音のプチ談話コーナーでした!」

霊斗「これからもちょくちょくやるかもな」




と、言うわけで皆さん、これからもよろしくお願いします!
では次回!


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愚者と暴君編Ⅲ

書きます。


夕方、MAR医療棟の一室。

ベッドに横たわっている凪沙が目を開く。

「あれ、古城君に霊斗君?いつきたの?」

凪沙があくび混じりに聞く。

「いまさっきだな。遅くなった」

古城が言い、顔の前で手を合わせる。

そんな古城を茶化すように霊斗が言う。

「まぁ、古城が波朧院フェスタの準備にてこずったせいだけどな」

「うるせぇよ、お前は作業サボったんだから文句言うな」

古城がふてぶてしく呟き、凪沙がそれを見て愉しげに笑った。

「それで霊斗君、浅葱ちゃんから預かりものしてない?」

「ああ、これか。マンガの新刊だろ?えーっと……麻雀に居酒屋グルメ?」

「オッサンかよ……」

霊斗がマンガを渡し、古城がそのジャンルに顔をしかめる。

だが、思っていたよりも元気そうな妹の姿に古城の頬が緩む。

「で、凪沙。いつ頃退院出来るんだ?」

「来週くらいには退院できると思うよ。ただの検査入院だし」

古城が聞くと、いつものように明るく答える凪沙。

「古城君は……霊斗君がいるし大丈夫だよね?」

「俺の信用度低くね?」

凪沙のあまりにも低い評価に落胆する古城。

そんな古城の肩を叩き、霊斗がドンマイ、と笑う。

そんな二人を見て、凪沙がなにかを思い出したかのように言った。

「そうだ。一昨日の爆発事故!凄かったんでしょ?」

凪沙の一言に、霊斗の表情が固まる。

そんな霊斗に気づかず、古城が話を続ける。

「ああ、道路が陥没したりビルの壁がバキバキに割れてたりしたやつだろ」

古城と浅葱が霊斗と別れ、凪沙の見舞いに来た帰りに、通行止めで深夜まで帰宅できなかったのだ。

「たしか、未登録魔族が暴れただかって」

「え、UFOが墜落したんじゃないの!?」

「UFO?」

と、聞き返した古城は、恐らくあの母親だろうと思い、ため息をつく。

「あー、あの母親の言うことは八割方嘘だからな。信用しない方がいいぞ」

「えー、嘘なの?あ、でもでも、古城君たちもあとちょっと時間がズレてたら巻き込まれてたんでしょ?気を付けてね?」

落胆の表情を浮かべた凪沙はすぐにいつもの笑顔になり、古城に注意する。

古城は、頭をかきながら答える。

「いや、気を付けてどうにかなるレベルじゃねぇだろあれは……なぁ霊斗」

古城が霊斗に同意を求めて声をかけると、霊斗の肩がビクンと跳ねる。

「お、おう、そうだな」

霊斗が曖昧に答えると、凪沙が怒ったように言う。

「気・を・付・け・て!」

「わかったよ、気を付けるよ。まぁ、あんな事故そうそう――」

古城がそこまで言ったとき、霊斗が勢いよく廊下に飛び出す。

その直後、研究棟の方からサイレンが鳴り響く。

「くそっ!なんなんだよ今度は!」

古城は窓の外を見て、研究棟の方を見る。

見た感じではまだなにも起きていないが、何があるかわからない。

「凪沙!」

古城が振り替えると、顔を真っ青にして倒れ込む凪沙の姿があった。

「大丈夫か!?今誰か呼ぶから!」

古城がナースコールのボタンを掴んだとき、病室のドアが開いた。

「遠山さん!」

そこにいたのは、母――深森の助手である遠山だった。

「凪沙さんを高度治療室に移動させます。古城さんはこちらの通行証を使って医療棟の裏口から逃げてください」

古城は遠山から受け取った通行証をポケットにねじこむと、遠山に聞く。

「霊斗は!?」

「彼は攻魔師です。侵入者の対策に向かっています」

「ああ、そうか……」

話をしながらも遠山は手ぎわよく凪沙をキャスター付きの担架に乗せ、移動を始める。

「じゃあ、またな凪沙」

「うん、古城君も気を付けてね。あと、制服のクリーニングもお願い。西口の北極舎さんで水曜日の半額セールやってるから、忘れないでね」

「ああ、任せろ」

こんな時でも慌ただしく喋る妹に感心しながら、古城は笑って見せる。

そして、凪沙が運ばれていくと、古城一人が取り残された。

「さて、帰るか――ぐっ!?」

帰ろうとした古城の右脇腹に激痛が走る。

「なんだ……これ……」

様々な状景が脳裏に浮かんでは消える。

そして最後に浮かんだ一つの名前。

「アヴ……ローラ……」

古城が呟くと同時に、轟音が鳴り響いた。

 




そろそろ、霊斗君の過去についても触れていくべきですかね。
では、また次回。


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愚者と暴君編Ⅳ

では書きます。


監獄結界。

椅子に縛り付けられた古城と浅葱が眠っている。

その様子を見守っていた霊斗に雪菜が声をかける。

「霊斗さん、少しいいですか。アスタルテさんも」

「ああ、いいけど……」

「はい」

雪菜が霊斗たちを連れて向かった先は隣のもう一つ部屋だった。

「ここは?」

霊斗が聞くと、雪菜は真剣な表情で答える。

「会ってもらいたい人が居ます」

「は?会ってもらいたい人?」

霊斗は首を傾げながら雪菜についていく。

すると部屋の中央に二つの影があった。

その二人は霊斗を見るとこちらに向かってきた。

そして――

「お兄ちゃぁぁぁん!」

「⁉」

そのうちの一人――少女だった――が霊斗に勢いよく抱きついた。

「えっ?なに?ドッキリ?」

慌てふためく霊斗にもう一人――こちらは少年――が笑顔で言う。

「ドッキリだったら良かったね、兄さん」

霊斗は少年の顔を見る。

そして恐る恐る呟く。

「蒼牙……?」

「そうだよ。十年振り位かな?久しぶり、兄さん」

それを聞いた霊斗は次に少女の方を見て言う。

「桃華?」

「うん……久しぶりお兄ちゃん……会いたかった……」

霊斗に名前を呼ばれていっそう強く抱き締める桃華。

「痛い痛い……背骨折れるって」

さすがに身の危険を察した霊斗がそっと桃華を引き離す。

桃華は一瞬不満そうな表情になったが、すぐに蒼牙の隣に戻る。

それを確認して、霊斗は二人に聞く。

「なんでお前らがここにいるんだ?」

霊斗の問いに蒼牙が答える。

「なんでって……そんなの決まってるでしょ?」

そこで一呼吸おいて、続ける。

「兄さんの失った記憶を取り戻すためだよ」

「ぐうっ……」

「霊斗さん!」

蒼牙の言葉を聞いた霊斗が頭を抱えて踞り、アスタルテが駆け寄る。

「やっぱりね。兄さんにも第四真祖と似たようなことが起きてるんだよ」

「古城と同じ……?」

霊斗が息を荒げながら聞き返す。

その瞳は暗い赤色に染まっている。

「そう、真祖になった影響で記憶を失っているんだよ」

蒼牙がそう説明し、続けて桃華が霊斗に聞く。

「お兄ちゃんは昔の自分の名前、覚えてる?」

「それは……うぐぁっ!?」

桃華に聞かれ、思い出そうとした霊斗の表情が苦痛に歪む。

「霊斗さん……」

「大丈夫だ。ありがとな、アスタルテ」

心配そうに覗き込むアスタルテの頭を撫でながら、霊斗は笑って見せる。

そんな霊斗を見て面白くなさそうに頬を膨らませた桃華がさらに聞く。

「じゃあ、お姉ちゃんのことは?」

「姉?俺に姉なんて――――いな……い……」

そこまで言ったとき、霊斗の顔から一気に血の気が引く。

その表情がなにかを思い出したかのように歪む。

「あ……ああ」

「思い出した?」

桃華に聞かれ、ゆっくりと首肯く霊斗。

そして霊斗は意識を失った。

「霊斗さん……?」

アスタルテが不安そうに霊斗の顔を覗き込む。

そんなアスタルテに蒼牙が言う。

「大丈夫、脳に普通より大きな負荷が掛かったせいで疲れて眠っているだけです」

「このまま起きないなんてことは……」

不安げに聞くアスタルテ微笑みかけながら蒼牙は言う。

「それはないですよ。だから、兄さんが目を覚ますまで一緒にいてあげてください」

「わかりました」

アスタルテの力強い返事に、蒼牙が首肯く。

「じゃあ兄さんのこと、よろしくお願いします、アスタルテさん」

蒼牙はそう言うと、桃華をつれて監獄結界の外に向かった。

途中で雪菜に声をかける。

「じゃあまたね、雪姉」

「うん、蒼君と桃ちゃんも気を付けてね」

雪菜はそう言って二人の頭を撫でる。

そして蒼牙は那月を呼ぶ。

「南宮先生、ありがとうございました」

「構わん、教え子の記憶が無いなど教師として見過ごせん」

いつもと変わらない那月の態度をみて、蒼牙が呟く。

「……本当は兄さんのこと、気になってるくせに」

「んなっ!?そんなわけがあるか!?」

「因みに、僕らは読心術は得意なので」

「~~~~っ!……誰にも言うなよ……」

蒼牙が得意気に胸を張ると、那月は顔を背ける。

そんな那月に桃華が追い打ちをかける。

「南宮先生って意外と可愛いのね。だからみんなに那月ちゃんとか呼ばれるのよ」

「う、うるさい!!用がすんだなら帰れ!」

桃華の容赦ない一言に涙目になりなが那月が怒鳴る。

那月に怒鳴られた二人は肩をすくめながら監獄結界の外へと歩いていった。

二人が出ていったのを確認して、那月は再び古城たちの所へと戻る。

その頬は微かに赤く染まっていた。




はぁー、かいたかいた。
ではまた次回。


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愚者と暴君編Ⅴ

そんじゃ書きます。


「はぁ……くそっ、なんなんだよ……」

古城は激しい痛みを堪えながら歩いていた。

誰かが自分を呼んでいるような気がする。

そんなひどく不確定な感覚のなか古城は無人のゲートをくぐり、研究棟に入る。

自分でもどこに向かっているのかもわからないまま、古城は足を進める。

「こっちか……?」

通路を曲がると、視界を一面の霧が覆う。

その霧のなかに誰かがいる。

それは一人の少女だった。

燃えるような金髪、焔光に輝く瞳。

それらを古城は知っている。

「なんで俺は……あんたを知って……」

次の瞬間、少女が古城に接近する。

「なっ……!?」

その圧倒的な速度に絶句する古城を尻目に、少女が口を開く。

その口の中には鋭く尖った犬歯がある。

そして少女はそれを古城の首筋に突き立てる。

「吸血鬼!?俺の血を吸って……!?」

古城がそう言うと、少女は口を離す。

そして

「え……ぅあ……?」

古城を見ると怯えたように後ずさる。

「は……?」

古城は少女のあまりの豹変ぶりについていけず、ただ間抜けな声をあげる。

そんな古城の背後から急に声が聞こえる。

「おい、なにやってるんだ……?」

古城が振り向くと、呆れた表情の霊斗が立っていた。

その横にはもう一人女性がたっている。

「霊斗か……その人は?」

「ヴェルディアナだ。それでお前は何をしているんだ?」

霊斗に言われて、古城は自分の置かれている状況を確認する。

目の前には怯える裸の幼女。

後ろには攻魔師となんか綺麗な女性。

「なにやってんだろ、俺」

「こっちが聞きてぇよ」

そう言って溜め息をついた霊斗が真剣な表情になる。

「古城、逃げるぞ」

「は?いや、いきなりすぎてなにがなんだかわからないんだが」

「話は後だ!警備ロボが来る!」

戸惑う古城の腕をつかみ、霊斗が空間転移する。

一瞬、車よいに似た感覚がすると、次の瞬間にはMARの敷地の外へと移動していた。

古城の隣にはさっきの吸血鬼の少女がコートを来て立っている。

そのコートは、ヴェルディアナが着ていたものだった。

どうやら古城が戸惑っている間に着せていたようだ。

古城が拍子抜けして座り込むと、霊斗が古城になにかを渡す。

「なんだこれ?」

「従者の証だ。無くすなよ」

霊斗はそう言うと、次に吸血鬼の少女に話しかける。

「アヴローラ・フロレスティーナ」

「ひぅっ……?」

少女――アヴローラは一瞬ビクッと肩を震わせるも、恐る恐る霊斗を見る。

「俺たちは君の味方だ、怯えなくてもいい」

「みかた……?」

「ああ。だから俺たちと一緒に来てくれ」

「う、うむ」

霊斗の言葉にアヴローラは頷き、古城の服の裾を掴む。

「え?」

「お、古城のことは覚えてるのか?」

霊斗が聞くと、アヴローラは何度も首肯く。

「まて、覚えてるってなんだ?」

「そりゃあ昔会ってるのを覚えててもおかしくないだろ?」

霊斗の台詞に納得いかないように首を傾げる古城。

そんな古城に霊斗が言う。

「またあとでゆっくり説明する。今は安全な所に行くのが先決だ」

霊斗はそう言って歩きだす。

その後ろに古城とアヴローラが続き、最後にヴェルディアナが肩をすくめながらついてくる。

しかし次の瞬間、一発の銃声とともに霊斗の身体が宙を舞った。

 

* * *

 

七夕特別エピソード

「未来編・霊斗とアスタルテの星夜(せいや)

 

七月七日。

世間一般では七夕と呼ばれる日だ。

「おーいアスタルテ、笹の設置終わったぞー」

霊斗がベランダから部屋に向けて声をかける。

するとアスタルテがたくさんの短冊を持って出てくる。

「どうぞ、霊斗さん」

「おう、ありがとう」

霊斗はアスタルテから短冊を受けとると、ペンを持ち願い事を書いていく。

そしてそれを笹の葉に引っ掛ける。

するとアスタルテが霊斗に聞く。

「なんて書いたんですか?」

「願い事は人に話すもんじゃないだろ?」

そう言って霊斗はアスタルテの頭を撫でる。

そこに美霊が駆け寄ってる。

「おとーさーん!書けたよー!」

もう夜だというのに騒がしい娘に苦笑しながら、霊斗は部屋にはいる。

「ベランダにあるからかけておいで」

「はーい!」

元気よく返事をしてベランダに飛び出していく愛娘の背中を見送りつつ、霊斗はアスタルテに言う。

「そろそろ夕飯にしようか」

「そうですね」

そう答えてキッチンに向かうアスタルテ。

「アスタルテ、今日はなんだ?」

「素麺です。夏っぽくていいかと」

話ながらも作業の手は緩まないアスタルテ。

手際よく素麺を茹でていく。

「霊斗さん、お酒はどうします?」

「今日はいいかな」

「わかりました」

そんな風に働くアスタルテを見て霊斗は何か手伝える事はないかと考える。

するとそこに電話が掛かってくる。

霊斗が受話器を耳に当てると、偉そうな少女の声が聞こえてくる。

『霊斗か、仕事だ』

「那月ちゃん、たちの悪い冗談はやめてくれ。かなり本気で焦る」

『誰が那月ちゃんだ。というか、今回は冗談抜きで仕事だ。頼んだぞ真祖サマ?』

「えぇー……そりゃないよ那月ちゃん……」

霊斗が呟くも、すでに通話は切れていた。

「霊斗さん、仕事ですか?」

「……いいや、古城にまかせよう」

「最低のクズ野郎ですね」

平然と仕事をサボろうとする霊斗に、アスタルテが辛辣な言葉を浴びせる。

そんなアスタルテを抱き寄せて霊斗が言う。

「今日はお前たちと一緒にいたいんだ」

すると、アスタルテは顔を真っ赤にしながら言う。

「もう……仕方ない人ですね、 霊斗さんは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美霊も眠り、二人きりのベランダ。

空には満天の星空。

「こんな時くらいは絃神島の気候も良いもんだな」

「基本晴れですからね」

そう言って肩を寄せ合う二人。

その後ろにある

笹には三つの短冊が掛かっている。

 

『家族みんなでいつまでも仲良く暮らせますように』

 

『絃神島と我が家が平和でありますように』

 

『これからも霊斗さんと美霊が健康でいられますように』

 

「綺麗な空だな」

「はい」

「ま、アスタルテのほうが数億倍くらいかわいいけどな」

「んなっ!?何を言ってるんですかもう!」

「ははは、俺の正直な気持ちだよ」

「もう……ありがとうございます」

「どういたしまして」




最後にオリジナルエピソードを入れてみました。
ではまた次回。


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愚者と暴君編Ⅵ

書きます。


頬に当たる暖かい感触。

霊斗はそれを確かめようとして、目を開いた。

その瞬間視界に飛び込んできたのは一面の()

「ここは……?」

声をあげると、その声は普段よりも高い。

おかしいと思い、咳払いをしたときだった。

「あ、目が覚めた?」

聞こえてきたのは、聞き慣れているはずなのに聞いたことの無い声。

「おはよう、気分はどう?」

「……天音?」

霊斗が顔を上に向けると、不満そうに頬を膨らませたいつもより幼い顔立ちの彼女がこちらを覗き込んでいた。

「天音姉ちゃんでしょ?お姉ちゃんを呼び捨てにするなんて悪い子だなぁ」

「え……?」

今、彼女は何と言った?

お姉ちゃん?

自分に姉はいないはず。

その時、霊斗の脳裏に監獄結界での桃華とのやり取りが浮かぶ。

「そうか……ここは……」

霊斗がそう言うと、天音は微笑みながら彼に問いかける。

「思い出した?」

「ああ、何とかな」

そう言って立ち上がった彼の身体はいつもより二回り以上小さい。

「ここは……あの時に抜け落ちた俺の記憶……か?」

「そう。正確には、第五真祖の魂に取り込まれていた部分

だね」

そう言って天音は霊斗の手を取る。

「ねえ、君はあの時をやり直したいと思う?」

その瞳には不安と、僅かな期待が込められている。

しかし、彼は首を横に振る。

「どんなにやり直したって結果は変わらない。そうだろ?」

「そうだね。そこで起きることはすべて必要だから起きる。だから誰にも変えることは出来ない」

そう言って天音は彼の頬に手を添える。

「でも、君の能力(チカラ)なら……」

「変えることが出来るかもしれない?」

彼に聞き返されて、天音は息を呑む。

そんな天音の瞳を真っ直ぐに見つめながら、彼は続ける。

「あの時能力を使ったって何も変わらなかったさ。あの時の俺は能力を制御出来てなかった。みんなまとめてドカンだ」

そう言って笑う彼の身体が段々と淡い光に包まれていく。

もうすぐこの記憶の世界は閉じる。

光が強さを増していく中、彼は最後に笑いながら言った。

「俺はもう忘れない。だからさ、一番近くでずっと見守っててくれよ」

天音の瞳から涙が溢れる。

消え行く世界の中、彼の声が聞こえた。

――またな、姉ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスタルテは、うなされている霊斗の汗を拭った。

因みに膝枕状態である。

すると、霊斗がうっすらと目を開いた。

「霊斗さん!大丈夫ですか!?」

アスタルテが抱き起こすと、霊斗は軽く頭を振って座る。

「悪いな、アスタルテ。重かっただろ?」

「いえ、ほんの少しでしたから」

「そうか……」

霊斗はそう言うと、何か悩むように目を泳がせる。

そして、何かを決めたように頷くとアスタルテに向き直った。

「アスタルテ、聞いてほしい事があるんだ」

霊斗がそう言うと、アスタルテも霊斗に言った。

「私も霊斗さんに聞きたいことがあります」

「え?……じゃあ、どうぞ?」

霊斗が戸惑いながら促すと、アスタルテは頷いて言った。

「霊斗さんの話を、聞かせてください。今回思い出した、まだ聞いていない話です。私は、昔の霊斗さんをもっと知りたいです!」

それを聞いた霊斗は少しの間きょとんとしていたが、急に笑いだした。

「な、何ですか!好きな人の事を知りたいと思うことがそんなにおかしいですか!?」

アスタルテが少し拗ねながらそう言うと、霊斗はアスタルテの頭を撫でながら言った。

「違う違う。俺が話そうとしたことをお前が聞いてきたのが面白かっただけだよ」

霊斗はひとしきり笑ったあと、アスタルテを抱き寄せた。

「まあ、そこまで想われてて話さないわけにはいかないな」

そう言って霊斗は話し始める。

「そうだな、この前話した所も色々変わってるんだけど、まずは……そうだな、俺の昔の名前からいくか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔の名前とは言っても今とあんまり変わんないんだよな。

とりあえず、名前は紅零牙。

な?あんまり変わらないだろ?

そして俺には弟と妹と……姉がいた。

そして、俺の家系は代々真祖の魂を封じ続けていた。

理由としては、先祖の代からずっと強力な霊能力者ばかりが産まれていたからだ。

そしてその真祖の魂は第一子が受け継ぐことになっていた。

つまりは俺の姉だ。

俺と姉は四歳違いだった。

でも、姉は本当に俺によくしてくれた。

そんな姉が真祖の魂を受け継いだのは五歳の時。

俺が産まれる一年前だ。

でも姉は俺の前で能力を使ったことはなかった。

そんなある日、あの事件が起きた 。

祭壇に捕まった俺はもうだめだと思っていた。

だけど、そこに姉が来てくれたんだ。

姉は神父の目を盗んで俺を解放してくれた。

だけど、それに気づいた神父が姉を拳銃で撃った。

いくら真祖といえど、銃で撃たれれば痛い。

苦しむ姉を見て、俺は何も考えられなくなった。

そして、気がついたときにはもう、神父は死んでいた。

これは前にも話した通り、俺の霊能力の暴走が原因だ。

姉も、本来なら致命傷になるような傷で倒れていた。

俺自身も霊力が空っぽになって、息も絶え絶えだった。

そんな俺に、姉は近づいてきたんだ。

そしてこう言った。

『私の力をあげる。だから、私のぶんも生きて』

俺は指の一本も動かせないまま、姉から力を受け継いだ。

そして姉は治りきっていなかった傷が原因で死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉さん、いい人ですね」

「ああ。俺は昔から、誰にでも優しい姉が大好きだったんだ」

「シスコンですね」

「シスコンで結構。んで、この話には続きがある」

「続き?ここから牙城さんに拾われるところに続くんじゃないんですか?」

「違うんだな、そこまでの間にもうひとつあるんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

代々、真祖の眷獣は十一体だった。

日本神話の様々な神々の名を冠した眷獣たち。

その中でも重要な三柱の神、スサノオ、ツクヨミ、アマテラス。

その内、アマテラスだけは欠けていた。

だけど、姉の魂がアマテラスの名を冠した眷獣に変化した。

こうして、俺の使う眷獣は十二体になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことは、霊斗さんのお姉さんって」

「天音だな」

「優……しい?」

「頭んなかが眷獣化したときで止まってるんだろ」

「えぇ……」

「さてと、こんなもんで粗方話したか。んじゃ、那月ちゃんの所に戻るか」

「そうですね……あの」

「なんだ?」

「これから、時々零牙さんって呼んでいいですか?」

「だめ」

「何でですか?」

「紅零牙は、俺が第五真祖になったときに死んだんだ。今の俺は暁霊斗だ」

「そうですか。霊斗さんがそういうなら、諦めます」

「そうしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ……照れちゃって、可愛いなぁ」

あの娘に昔の名前で呼ばれるのを恥ずかしがる姿はなんだか新鮮だ。

「私が呼んだら怒るかな?」

きっと彼は恥ずかしがりながら怒るだろう。

でも、そのあとに小さな声で姉ちゃんと呼んでくれるのだ。

私はもう、彼の姉ではないのに。

彼の姉である私は、とっくの昔に死んでいる。

だから、私には彼の姉として振る舞う権利はないのだ。

「わかってても……」

わかっている。それが叶わない事くらい。

それに、私に残された時間はもう少ない。

ならば最後まで、彼の眷獣として戦うだけだ。

その決意だけは揺るがない。

「にしても……能力のほうは結局思い出せず……か」

だめだなぁ、あの子は。

最後の詰めが甘いのは子供の頃から変わらない。

じゃあ、そんな彼が思い出すその時まで。

今は

「おやすみ、零牙」




今回で大方霊斗の過去には触れました。
次回からは本編に戻っていきます。
では次回。


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愚者と暴君編Ⅶ

書くです。


MAR前、古城は突然の事に声をあげる事もできなかった。

怯えたアヴローラが古城の服を掴んだことで我に返った古城は、反射的にアヴローラを抱き抱えていた。

「ぐうっ……狙撃か……」

「霊斗!大丈夫か!?」

古城が声を掛けると、霊斗は足を押さえながら立ち上り答える。

「このぐらいの傷、すぐに塞がる。それよりも今は逃げる方が優先だ」

霊斗はそう言うと右の拳を握る。

そしてその拳を真っ直ぐ前に突き出すと何かを唱え始める。

「亡霊の吸血鬼の魂を継ぎし者、暁霊斗が汝を天界より呼び起こす」

霊斗の身体から膨大な魔力が溢れだし、人の形を造る。

「降臨せよ、十二番目の眷獣、"天照大御神"!」

霊斗がそう叫んだ瞬間、魔力の人形が炎に包まれる。

そして現れたのは一人の少女だった。

「え?」

あまりの失望感に古城は間抜けな声をあげる。

しかし霊斗はその少女に平然と声を掛ける。

「そっちで来たのかよ……まあいいや、天音」

「はいよー、認識阻害の結界でしょ――えいっ」

天音と呼ばれた少女が可愛らしく掛け声をあげると、古城たちの周囲を半透明の紅い壁が囲う。

「霊斗、なんだよこれ」

古城が聞くと、霊斗は何でもないかのように――実際霊斗にとっては何でもないのだろう――答える。

「認識阻害の結界だ。この中にいる限りは誰にも気付かれない」

「すげー便利だな」

古城が感心しながら言うと、ここまで空気だったヴェルディアナがやっと口を開く。

「こんな便利なものがあるんなら狙撃される前に使ってれば良かったじゃない」

ふて腐れたように言うヴェルディアナだが、古城の位置から見える横顔は心配している<恋する乙女>の顔にしか見えなかった。

しかし、霊斗はそんなことに気づかずに平然と返す。

「いや、この結界は座標固定式だからな。移動しようとしてる時には使えないんだよ」

「ふーん……」

そこまで朗らかに話をしていた霊斗だったが、急にその表情が引き締まる。

その視線の先には数人の男たちがいる。

「おかしいですねえ。ここで仕留めたはずですが……空間転移でもしましたか……」

悔しそうに呟く男の顔を睨み付けながら、ヴェルディアナが声を絞り出す。

「ザハリアス……」

それを聞いた霊斗が興味深そうに呟く。

「そうか、奴がバルタザール・ザハリアスか……天音、頼む」

霊斗はそう言うと、結界の外に向かって歩き出す。

「霊斗?」

「ちょっと話をしてくる」

「は!?」

驚愕する古城を無視して、霊斗は結界の外に出た。

「よう、あんたがザハリアスか」

「驚きました、これはこれは……今のは空間制御術式ですか?」

「まあ、そんなところだな」

霊斗が答えると、ザハリアスはにやりと笑って話を始めた。

「ところで第五真祖殿。あなたが十二番目の封印を解いたのでしょう?そこで少々お話をさせていただきたいのですが」

「いいぜ。俺もあんたと話したいと思ってたところだぜ」

霊斗の不敵な笑みを見たザハリアスは再び笑みを浮かべると、不意に札束を取り出す。

「早速本題に入りましょう。あなたが目覚めさせた十二番目を売っていただきたいのです」

そう言うとザハリアスは人の良さそうな笑みを浮かべる。

しかし霊斗はその商談をたったの一言で破談にした。

「断る」

そして次の瞬間にザハリアスの後ろにいた男が二人、腕があった場所から鮮血を撒き散らしながら倒れた。

「な……!?」

「攻撃の体勢に入ったのが見えたんでな。先手必勝ってな」

そう言って頬の返り血を拭う霊斗。

ザハリアスは恐怖に顔をひきつらせながら言う。

「わかりました、交渉は決裂ですね。気分を害したこと、お詫び申し上げます」

そんなザハリアスを無表情に見ると、霊斗は何かに気づいたように呟く。

「そうか……さっきから感じる魔力……ザハリアス、お前は……」

そこまで言うと霊斗は軽く手を振って言う。

「まあいい、これ以上攻撃されたくなければさっさと消えろ」

「では失礼します、第五真祖」

そう言ってザハリアスは去っていった。

その背が完全に見えなくなったのを確認すると、霊斗は近くの草むらに向けて声を掛ける。

「んで、いつまで隠れてるつもり?」

そう言いつつ結界を解除する霊斗。

すると草むらから一人の男が立ち上がる。

ヨレヨレのコートを身に纏い、顔には不精髭が目立つ。

そして、その顔は古城のよく知る人物のものだった。

「よ、元気にしてたか?霊斗」

「おかげさまでね」

霊斗の皮肉げな返しに笑うと、男は古城の方を向く。

「なんだ、こっちは相変わらず府抜けた面構えしてやがるじゃねえか」

その失礼な物言いに耐えきれなくなった古城が叫ぶ。

「なんでテメェがここにいやがる!このクソ親父!」

古城の叫びを聞き流し、男――暁牙城は言った。

「久しぶりだな、クソ息子よ」




大幅カットぉ……ですかねぇ。
じゃ、また次回!


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愚者と暴君編Ⅷ

書くよ。


絃神島東地区。

古城はその一角にある桟橋にいた。

「あー……船だと入りきんねえからここでいいか」

牙城はそう言って折り畳み式のテーブルを持ってくる。

そしてテーブルのうえにある程度食事を並べ、その直後に酒をのみ始める。

「かーっうめぇ!」

そんな牙城を呆れたように見ながら、霊斗が言う。

「父さん、真面目に話をしてくれ頼むから……」

「おう!こいつを飲み終わったらな」

いつまでも不真面目な牙城の態度にしびれを切らしたのか、霊斗が拳に魔力を纏わせて構える。

「五秒だけ待つよ。五、四、三……」

「待て待て待て!それは洒落にならねぇよ!?」

牙城は悲鳴を上げながら酒をしまう。

そして霊斗が拳を下ろしたのを確認してから話し始める。

「さてと……まず何から説明するか」

そう言って牙城は古城の方を見る。

何が聞きたいか、ということだろう。

そこで、一番気になっている事を聞くことにした。

「ヴェルディアナさんと親父はどういう関係だ?」

「ヴェルディアナはリアナの妹だ。公式ではお前らを遺跡の崩落から守って死んだことになってる」

それを聞いて古城はいくつか引っ掛かる点に気付く。

「公式では……?しかも俺たちを守って?」

「そうだ。古城、お前はゴゾ島の遺跡でテロリストに襲われて……一度死んでいる」

牙城の言葉は突拍子もなかったが、この男は人の命に関わるようなところでは嘘をつかない。

つまり

「俺が……死んだ?」

「そうだ。そして第四真祖……いや、十二番目の焔光の夜伯の血の従者として生き返った」

あまりにも急すぎる自分の立場の変化に戸惑う古城。

「まじかよ……全然わかんねえけどな……」

そう言って自らの手足を眺める古城。

何らかわりないいつも通りの身体。

「まあ、俺の身体については置いといて……その、リアナ?さんがなんで表向きは死んだことにされてるんだ?」

「意外と驚かねえんだな……まあいい」

古城が聞くと牙城は呆れたように溜め息をつき、答える。

「まだ中学に入ったばかりのガキだった霊斗が、テロリストを全滅させたあげく貴重な遺跡を潰したんだ……国際問題に発展する可能性もある。だからリアナは自ら進んで死んだ役を買って出たんだ」

牙城のその台詞を聞いたヴェルディアナが急に涙をこぼし始める。

「ヴェルディアナ?」

霊斗が声を掛けると、ヴェルディアナは嗚咽を堪えながら言葉を絞り出す。

「じゃあ……姉様は本当に……生きて……」

「なあ、ヴェルディアナ」

泣き続けるヴェルディアナの肩を抱きながら霊斗がいう。

「リアナは今、この絃神島にいるんだけど……今度会いに行こうぜ。案内するからさ。きっと喜ぶよ」

「うん……ありがとう、霊斗」

そう言って涙を拭うヴェルディアナの頬は微かに紅く染まっていた。

「……で、親父。その事件の現場には凪沙もいたはずだよな?あいつが霊能力を失ったのは……」

古城の言おうとしている事がわかったのだろう、牙城は首を横に振る。

「違うんだよ、それは。凪沙は霊能力を失ったんじゃねえ、あのときから一瞬たりとも休まずに能力を使い続けてんだよ」

「なっ……それって……」

「あいつはあの遺跡にいた第四真祖の魂の一部を取り込んでお前を生き返らせたんだ。そしてその代償が今のあいつの身体ってわけだ」

牙城に告げられた残酷な真実に古城は凍りついた。

それはつまり、自分を助けたせいで凪沙は……。

「まあ、後半は俺の推測だがな」

「は?」

牙城の無責任な一言に開いた口が塞がらない古城。

そんな古城に牙城が言う。

「いや、俺はその場にいなかったんだよな。だから、詳しい話が聞きたきゃ霊斗に聞け」

「ほんっとに推測じゃねえか!無責任にも程があるだろおいぃ!」

古城が叫ぶと牙城はやけに楽しそうに笑う。

「はっはっはっ!まああれだ、今日はもう帰れ。遅いしな」

「あぁ……って、アヴローラはどうすんだ?」

「あぁ?お前が連れて帰れ。ただし凪沙には会わせるなよ?」

「わかってるよ。あいつの魔族嫌いはある程度は理解してるからな」

古城はそう言うとアヴローラの手をとる。

そして霊斗に声を掛ける。

「おい霊斗、帰るぞ」

「ああ、今行く」

霊斗がそう言って立ち上がると、牙城がその背に向けて言う。

「凪沙を頼む」

「ああ」

霊斗は短く答え、古城たちのところにくる。

すると、霊斗の背に再び声が掛けられる。

「霊斗……」

霊斗は振り替える。

そこにはヴェルディアナが立っていた。

「な、なんだ?」

「また、明日ね?」

「お、おう」

戸惑いつつ霊斗が答えると、ヴェルディアナは嬉しそうに船の中へと駆け込んでいった。

「なんなんだ……?」

首をかしげる霊斗に古城は、鈍感め、と視線を送ってからアヴローラの手を引いて歩き出した。

 




この頃から霊斗君は鈍感なのです。
では、また次回。


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愚者と暴君編Ⅸ

書くぜー!


夜も更けた頃、古城たちは自宅のマンションの前にいた。

「なあ霊斗、凪沙が起きてるかわかるか?」

「ちょっと待ってろ――おい、天音」

霊斗が呼ぶと、霊斗の隣の何もない空間から天音が現れる。

「凪沙が起きてるか調べてくれ」

「はいよー、ちょっと待ってねー」

天音はそう言うと、目をつぶり意識を集中させる。

そのまま十秒ほどすると、天音は目を開けてOKサインを出す。

それを見て頷いた霊斗は、極力音をたてないようにドアを開ける。

「よし、とりあえずアヴローラにシャワーを浴びせてこい。風呂の周りに結界を張っておくから」

「わかった。じゃあ天音、頼んだ」

古城が言うと天音は頷き、アヴローラの手を引いて脱衣所へと消えていく。

「ふう……これで一段落か」

「いや、アヴローラの服とかも買わなきゃいけないだろ?古城、お前浅葱に頼んでくれよ」

「浅葱か……わかった、霊斗は明日どうするんだ?」

古城が聞くと、霊斗はさらりと答える。

「休んで、焔光の宴について調べる」

「わかった。頼んだぜ」

古城にそう言われ、霊斗が頷いた時だった。

突然、風呂場からアヴローラの悲鳴が響いた。

「おい!防音どうした!?」

「結界の中から出てきた奴には適用されない」

「便利だなおい……ってそうじゃねえ!何があった!?」

古城がそう言って立ち上がった時には既に霊斗は脱衣所のドアを開けていた。

「おい!何があっ……た……え?」

勢いよく脱衣所に飛び込んだ霊斗の視界に広がる肌色の空間。

「あ……あ……あべしっ!?」

直後、霊斗は鼻血を噴いて倒れた。

「……失礼しましたー」

古城はなるべく中を見ないように気を付けながら霊斗を脱衣所から引きずり出す。

その後再び悲鳴が聞こえてきたが気にしないことにした古城だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

「どうも申し訳ございませんでした」

リビングで土下座する霊斗の姿があった。

「はぁ……ねぇ霊君。いくら焦っていたとしても、女の子が入っている脱衣所のドアを全力で開けるのはどうかと思うよ?」

「おっしゃる通りでございます」

天音は溜め息をつくと、霊斗の前に座る。

そして――

「えいっ」

霊斗の頭を胸に抱え込んだ。

「!?!?!?!?」

驚いた霊斗がもがくが下手に動くわけにもいかず、少しすると完全に沈黙した。

「お、おい……霊斗……?」

「……古城」

「な、なんだよ」

「ごめん、もう……無理……(がくっ)」

そう言って霊斗は四肢を投げ出して意識を失った。

その顔がなぜか姉に抱き締められた弟のような顔(?)になっていたのは触れないでおこうと思った古城だった。

「ねえ古城君」

「あ、はい」

「寝よっか」

「は!?き、急に何を言って」

「だってもう十二時すぎたよ?」

「……」

古城は一瞬とてつもなく死にたくなったが、死ねないことを思いだして溜め息をつく。

そしてなるべく平静を装って答える。

「そうだな、じゃあ天音はアヴローラを」

「はいよー、霊君の部屋使うねー」

そう言って天音はアヴローラと共に霊斗の部屋へと入っていった。

「霊斗は……ソファに寝かせとくか」

古城は霊斗をソファに寝かせると、自室へと向かった。




ではまた次回!


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愚者と暴君編Ⅹ

約1ヶ月ぶりの更新となります。
本当にごめんなさい。
では、本編をどうぞ。


早朝。

まだ薄暗い部屋のソファの上で霊斗は目を覚ました。

「いつの間に寝てたんだ俺……」

どうにも眠る前の記憶がハッキリとしないが、気にしないことにして起き上がる。

そのまま自室のドアを開ける。

中では天音とアヴローラが寝ていた。

「……なんで俺の部屋で寝てんだよ……」

霊斗はため息をつくと、物音を立てないようにしながら着替え、玄関に向かう。

そしてドアノブに手をかけた時、背後から声をかけられた。

「全く、私をおいてどこに行くつもりかな?」

「なんだ天音か、びっくりさせんなよ……」

霊斗はそう言って振り替える。

そこにはなぜかパジャマのままで立っている天音の姿が。

「……はぁ、先に着替えてこい」

「あ、うん。ちゃんと待っててね?」

「はいはい……」

霊斗がそう答えると天音は霊斗の部屋に入っていった。

それを確認してから、霊斗は家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうするかな……」

古城には"焔光の宴"について調べるとは言ったが、これと言った手がかりはない。

仕方なく学校の方へと歩いていくと、見知った後ろ姿を見つけた。

「那月ちゃん、おはよう」

「担任をちゃん付けで呼ぶな馬鹿者が」

那月がそう言うと同時に霊斗の脛に蹴りが入る。

「ぎゃぁぁぁ!?ちょ、体罰だ!」

叫びながら地面をのたうち回る霊斗を冷ややかに見下ろしながら那月は言い放った。

「ここは校外だ。それに私をその呼び方で呼ぶときは攻魔師の仕事がらみだろう」

「いや、その通りなんだけどさ……」

痛みを堪えながら霊斗は那月に聞く。

「ところで那月ちゃん、"焔光の宴"って知ってる?」

霊斗の質問を聞くと同時に那月の顔が険しくなる。

「まさかお前、"宴"に介入するつもりじゃないだろうな?」

「いや、もう巻き込まれてんだよね」

「はぁ……なぜお前は次から次へと問題に巻き込まれるんだ……」

那月はそう言ってため息をつくと、懐から一冊の本を取り出す。

「それは?」

「暁牙城から預かった古学書だ。いざというときお前に渡せと言われていたのでな」

そう言って那月は霊斗に本を渡す。

「父さんが……よし、わかった。ありがとう、那月ちゃん」

「いいさ、変わりに……そうだな、今度買い物に付き合え」

「へいへい……んじゃ、今日は俺学校休むから」

「仕方のない奴だな、補習は覚悟しておけよ」

那月がそう言った時には既に霊斗は遥か彼方へと走り去っていた。

那月はやれやれとため息をつき、学校に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗が自宅のドアを開けると、そこには一つの段ボール箱がおいてあった。

「なんだこれ……差出人はディミトリエ・ヴァトラー……ってあのホモ吸血鬼か!」

背筋に走る悪寒に耐えつつ箱を開けると、その中には女児用の服が何着か入っていた。

「なぜ服……?ん、これは手紙か、なになに?」

『十二番目――アヴローラ・フロレスティーナの為に服を贈らせてもらった。まあ、うまいこと使ってくれたまえ』

「なんだ、奴にしてはまとも――ん?まだある」

『P.S:一つ忠告しておくと、暁凪沙とアヴローラ・フロレスティーナを会わせないように』

「これは……どういうことだ?昔のあの事故と関係が……?」

多くの疑問を抱きつつ服を片付け、自室に入る。

そこでベッドに腰かけつつ、牙城が見つけたのであろう古学書を開く。

そこには一枚のメモが挟まれていた。

「メモ……?父さんの字?」

そこには短い文が記されていた。

 

『絃神島から逃げろ』




ではまた次回!


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愚者と暴君編ⅩⅠ

お久し振りです。
久々に書いて行きますよ!!
ではどうぞ!


彩海学園。

古城はとある問題に直面していた。

時間は早朝に遡る――。

 

 

 

 

 

 

古城はドタドタと何かが暴れまわる音で目を覚ました。

「なんだ……?」

不審に思った古城がリビングに行くと、そこには床で暴れまわる天音の姿があった。

「……なにやってんだ?」

古城が呆れつつそう訪ねると、天音は頬を膨れさせてこちらを向く。

「うぅ……霊君が私のこと置いてった」

「子供かお前は」

呆れた古城がため息をつくと、天音は再び床を転がり始めた。

古城はもう一度ため息をつくと、玄関に新聞を取りに向かった。

するとそこには見慣れない段ボール箱が置いてあった。

「なんだこれ」

古城が首をかしげつつ箱を開けると、その中には女児用の服が何着か入っていた。

そして手紙が一枚同封されていた。

開いてみてみると、そこには異国の文字で何か書いてあった。

「読めねぇ……」

古城は仕方なく、手紙を箱の中に戻すと、服を取り出して見ていく。

サイズ的にはアヴローラの物だろう。

しかし、その贈り物には致命的な欠点があった。

「……服だけしか入ってねぇじゃん」

下着が一着も入っていなかったのである。

古城はどうしたものかと考えながらリビングに戻り、ふと時計を見る。

時刻は七時半を回ったところ。

「……まずいっ!遅刻する!」

普段なら霊斗か凪沙が教えてくれるが、今日に限って二人ともいない。

その事をすっかり忘れていた古城は、急いで支度をしつつふと考える。

……凪沙がいないのになぜ昨晩あんな手の込んだ事をしたのか。

つまり全員すっかり忘れていた訳である。

「天音!留守番とアヴローラのこと頼む!」

「むー、了解。行ってらっしゃい」

天音の声を聞きながら古城は家を飛び出した。

そしてギリギリで間に合い、授業を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

そして現在――放課後に至る。

古城が頭を抱えていると、ふと目の前に人が現れた。

目線をあげると、そこには浅葱が立っていた。

「なんだ?なんか用か?」

古城が聞くと、浅葱は腕を組ながら言う。

「用っていうか……なんか悩みでもあるのかなって」

「ああ……この際浅葱でもいいか。悪いけど買い物に付き合ってくれないか?」

「買い物?なんで私?」

「いや、なんでって女物の下着を買いに買いに行くから……」

そこまで言って古城は自らの失言に気づいた。

「あ、別に下着を買うって言っても俺が欲しいからじゃないぞ」

「わかってるわよ馬鹿!というかあんまり下着下着連呼しないでくれる?」

「お、おう。悪い」

古城が謝ると浅葱はため息をつき、古城を睨む。

「付き合うのはいいけど、それなりの報酬はもらうわよ」

「ああ、あれでいいか?唐揚げの増量セールだっけ?」

古城がそう言うと、唐突に背後からの衝撃が襲う。

「いってぇ!?なにすんだ矢瀬!?」

「おいおい古城、女子へのお礼に唐揚げはいくらなんでも……」

「え、あたしは全然いいんだけど」

「いいのかよ!?」

浅葱の発言に愕然とする矢瀬。

そんな矢瀬を尻目に、浅葱が古城に言う。

「あ、それよりもその下着が必要な子、ちゃんと連れてきなさいよ?」

「あ、ああ」

古城がそう言うと、浅葱は頷いて矢瀬の方を向く。

「基樹、あんたも来るわよね?」

「いや、俺は遠慮して……」

「来・る・わ・よ・ね?」

「喜んでついていきます」

浅葱の迫力に押し負けた矢瀬はひきつった笑顔でそう言った。

「じゃあ、このあとでティティスモールに集合ね」

浅葱がそう言って、一時解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、古学書を読み終わった霊斗は小さく息を吐いた。

「さて、宴の概要はわかった。後はこれをどう食い止めるか、だな……」

そう言って霊斗は机の上の紙を手に取る。

紙には牙城の字で『絃神島から逃げろ』と書かれている。

読み終わってからも、未だにこの言葉の真意はわからない。

どうしたものかと霊斗が考えていると、部屋の扉が控えめにノックされた。

「開いてるぞ」

霊斗がそう言うと扉が少し開き、隙間からアヴローラが顔を覗かせる。

「どうした?」

「き、飢餓の衝動が……」

「あー、おやつがほしいのか?」

霊斗が聞くと、アヴローラはこくりと頷いた。

「じゃあ、るる屋のアイスでも食いにいくか」

霊斗はそう言って財布を掴み、部屋を出る。

すると、そのタイミングで古城が帰ってきた。

「ただいまー」

「おかえり、こj」

「こじょう!おかえり!」

霊斗の台詞を遮ってアヴローラが古城に飛び付く。

「おう、アヴローラ。ただいま」

古城はそう言ってアヴローラの頭を撫でる。

すると、アヴローラは嬉しそうな顔をしながら古城に頬擦りする。

そのままの状態で古城は霊斗の方を向いて言う。

「そういえば、アヴローラの下着を買いに行かないといけないんだよな。浅葱たちと待ち合わせてるから、行こうぜ」

「浅葱に頼んだのか……無神経というか鈍感というか……」

「は?」

「いや、なんでもない。それより早く行かないとだろ、あんま待たせても悪いし」

霊斗がそう言うと古城は頷いて、アヴローラに言う。

「アヴローラ、買い物に行こう」

「かいもの?」

「そうだ、お前の下着買わないとだろ?」

古城がそう言うと、アヴローラは顔を赤くして胸元を隠す。

「悪しき不純の視線……」

「なんも見てねえだろ!?」

「というか急に言語能力上がったな」

霊斗が突っ込みつつ、三人は家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「また置いてかれた……」




久しぶりなので、おかしいところがあるかもしれないです。
まあ多目に見てください。
では、また次回!


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愚者と暴君編ⅩⅡ

それじゃあ書いて行きますよー。


「……入りたくねぇ」

浅葱たちと合流したあと、霊斗が発した第一声である。

場所はティティスモールの女性服売場、その一角にあるランジェリーショップ。

「ほら、お金出すのはあんたなんだから大人しく着いてきなさい」

浅葱がそう言いつつ霊斗の腕を捻り上げる。

「うがぁっ!?ちょ、肘の関節外れる……!」

苦しむ霊斗を見ながら古城が苦笑いを浮かべる。

その隣では矢瀬が笑いを堪えている。

「まぁ霊斗、諦めて頑張ってこいよ……プックク……」

「なに言ってんの?あんたたちも来るのよ」

「は!?」

浅葱の台詞に驚愕する矢瀬。

「まぁ予想はしてた」

そう言ってアヴローラの手を握る古城。

それを見た浅葱が微妙な表情を浮かべる。

「なんか、それ見てると親子みたいよね」

「親子って……母親誰だよ」

そう呟いた古城の肩に腕を回しつつ矢瀬が茶化す。

「なーに言ってんだ古城、この場でお前とお似合いの女なんて浅葱しかいねーだろ」

矢瀬がそう言うと、浅葱が顔を真っ赤にしながら言う。

「な、ななな、なに言って……」

すると、照れる浅葱をみた霊斗が意地の悪い笑みを浮かべながら言う。

「じゃあ俺は浅葱のことを姉貴って呼べばいいのか?」

「だ、誰が姉貴よ!?だいたい付きあってもいないのに夫婦とか無理があるでしょ!?」

顔を真っ赤にしたまま叫ぶ浅葱の後ろから肩を叩く霊斗。

そして、そっと囁く。

「将来の予行演習と思ってがんばれよ」

「!?!?」

霊斗が少し離れると、浅葱は深呼吸して言う。

「し、仕方ないわね!古城だけじゃその子の面倒を見きれないって言うなら……て、手伝ってあげてもいいわよ!」

そして浅葱が反対側のアヴローラの手を取ろうとする。

しかし、アヴローラはその手をはね除ける。

「「「え?」」」

古城、矢瀬、浅葱が同時に声をあげ、霊斗がやってしまったという表情を浮かべる。

いち早く立ち直った古城がアヴローラに声をかける。

「お、おいアヴローラ?」

「むー……こじょう、渡さない」

そう言って浅葱を睨み付けるアヴローラ。

その目を真正面から睨み返して浅葱が挑発的に言う。

「ふん、古城があんたみたいな幼児体型に誘惑されるわけないでしょ」

しかし、アヴローラも負けじと言い返す。

「そんなことない!こじょうは我が裸体に欲情して鼻血を出した!」

「んなっ、古城あんた!」

「待て!それは誤解だ!あれは不可抗力というかなんというか!」

浅葱に睨まれて必死に弁明する古城。

その足元には得意気に胸を張るアヴローラがいた。

そして、とうとう痺れを切らした霊斗が溜め息をついて言う。

「なぁ、いい加減買い物しようぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くうぅ……俺の財布の中身が……」

「お疲れさん」

悲痛な面持ちで財布の中を見る霊斗の肩に手を置き、苦笑いを浮かべる古城。

そんな古城を恨めしそうに見ながら霊斗が言う。

「第一お前のせいで買うものが増えたんだろうが」

「うっ、悪い」

霊斗はため息を付きつつ浅葱を見る。

その手には小さめな紙袋が。

「……ったく、なーにが『このピアス、浅葱に似合いそうだな(キリッ)』だよ、金出すのは俺なのによ……」

「いや、キリッは言ってねえし」

そう突っ込む古城の袖をアヴローラが引く。

「こじょう、おなかすいた」

「あぁ、もうそんな時間か……じゃああれだな、ヴェルさんがバイトしてるって言う喫茶店でもいくか」

「そうだな……浅葱と基樹もそれでいいな?」

霊斗がそう聞くと二人は無言で首肯く。

「よし、決まりだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的地に到着した霊斗はドアを開けて店内に入る。

すると唐突に悪役っぽい声で店員が迎える。

というか、ヴェルディアナその人だった。

「フハハハハ!哀れなる仔羊どもよ、恐怖に彩られた惨劇の館へようこそ!って……え?」

「よ、ようヴェルディアナ……」

ひきつった笑顔のまま霊斗は片手を上げる。

その瞬間、ヴェルディアナは脱兎の如く厨房へと駆け込んでいった。

「あ、あれ……案内は?」

「ごめんなさいね、霊斗さん。妹がご迷惑を」

「あ、リアナさん、お久し振りです」

霊斗がそう言うとリアナは微笑み、霊斗たちを席へと案内した。

「ごゆっくりどうぞ」

そう言ってリアナは優雅に歩き去っていった。

その後、霊斗が人数分のドリンクバーとポテトを頼むと、古城はアヴローラを引き連れてドリンクバーへと向かっていった。

「……ガキだな」

霊斗がそう呟くと、浅葱が頷きつつ言う。

「まったくね。あれが世界最強の吸血鬼の素体って……未だに信じられないわ」

浅葱の視線の先では、古城と一緒になってドリンクを混ぜるアヴローラの姿が。

そんな浅葱を励ますように矢瀬が言う。

「大丈夫だ、胸のでかさじゃ負けてないぜ」

「あんたねぇ……」

頬をひきつらせながら浅葱が矢瀬を睨む。

矢瀬は気まずそうに目をそらすと、無言で古城たちの方に歩いていった。

「馬鹿だな、あいつは」

「昔からそうよ……ところで霊斗」

「なんだ?」

霊斗が浅葱の方を向くと、浅葱は真剣な表情で言う。

「古城って巨乳と貧乳どっちが好きなの?」

「知らねーよ」

霊斗は呆れつつ追加注文したコーヒーを飲む。

すると浅葱は再び霊斗に聞く。

「じゃあ霊斗はどっちがいいの?」

「!?」

予想していなかった質問に盛大にむせる霊斗。

「ごほっごほっ!な、なんで俺の好みの話になるんだよ!?」

すると、浅葱は少し考えてから答える。

「ほら、兄弟とかって似るんじゃないかなって」

「いやいやいや、血繋がってねぇし」

霊斗がそう言った次の瞬間、隣の席から声がした。

「霊君は胸の大きさなんて気にしないよ」

「なっ、天音!?なんでいるんだよ!?」

霊斗がそう言うと、天音は堂々と言い放つ。

「一人だと寂しいからこっそり着いてきたのさ!」

堂々と言うわりに理由はどうしようもなかったが。

霊斗が天音の台詞に呆れ、ため息をついたとき、今度はドリンクバーの方からアヴローラの悲鳴が聞こえた。

今度は何事かと思った霊斗が声の方を向くと、アヴローラのグラスから泡が溢れだしている。

「ふぇぇ、こじょう~」

「落ち着けって、ほらグラス置け」

騒がしい二人の方を見ながら、後でヴェルディアナに文句をいわれるだろうな、などと考えていた霊斗は、天井を見ながら呟いた。

「勘弁してくれ」




今回はここまで!
因みにカットしてあるところは基本的に原作と同じだと考えていただければいいです。
ではまた次回!


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愚者と暴君編ⅩⅢ

書きます。


古城たちがアヴローラと生活するようになってから数ヵ月が経過したとある冬の日。

その日の朝、霊斗は気になるニュースを見かけた。

「滅びの王朝、イブリスベール・アズィーズ王子の城が襲撃にあった……?」

イブリスベール・アズィーズといえば、第二真祖直系の王族である。

その城を容易く落とすなど他の王族以外にできるはずがない。

「いや……まさかな」

霊斗は嫌な予感を頭のすみに追いやると、パーカーを羽織り玄関に向かう。

「霊君」

「なんだ」

霊斗が振り替えると、心配そうな表情をした天音が立っていた。

「そろそろ、向こうが動き始めるかも」

「ん、わかった。こっちも手回しを始めよう」

霊斗はそう言って家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗が向かった先はとあるマンションの最上階。

「お邪魔しまーす」

そう一言告げてドアを開くと、そこには不満げな表情でソファーに腰かける那月がいた。

「返事も聞かずに入ってくる奴があるか馬鹿者」

「いいじゃん、俺と那月ちゃんの仲だろ?」

「親しき仲にも礼儀ありというだろう。第一私が着替えている途中だったらどうするつもりだ」

「え、喜ぶ」

霊斗が真顔で返すと、那月は顔を真っ赤にしながら霊斗の顔面に飛び蹴りを放った。

「ぐぼぇ!?」

「このド変態が!しばらくそこで反省してろ!」

そう言って那月は別の部屋へと消えていった。

一人部屋に取り残された霊斗はしみじみと呟いた。

「黒、か。まったく背伸びしちゃって……」

このあと、酷い目にあったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日午後、古城は凪沙たちと出掛けるための準備をしていた。

「こじょう、何処に行く?」

そう言って飛び付いてきたアヴローラを撫でながら古城は答える。

「マリーナだよ。ほら、親父の船があるところ。あそこで天体観測するんだ」

「おぉぉ……星をみるのか!?」

「そうだよ、お前もいくか?」

「行く!」

そう言ってはしゃぎ回るアヴローラに苦笑しつつ、古城は支度を再開する。

しかし、その時だった。

「古城……君?」

「な、凪沙……」

タイミング悪く、凪沙とアヴローラが鉢合わせてしまったのだ。

突然現れた凪沙に怯えて隠れるアヴローラを指差し、凪沙が言う。

「なんで吸血鬼がここにいるの?」

「お、落ち着け凪沙。こいつは危険なやつじゃないから……」

「嫌だ……!出ていって!この家から!早く!」

そう言ってアヴローラを睨み付ける凪沙。

「……っ!」

「あっ、アヴローラ!」

凪沙の言動に怯えたのか、アヴローラは外に向かって走って行ってしまった。

突然の展開過ぎて古城が慌てていると、霊斗の部屋から出てきた天音が凪沙を抱き締めながら言う。

「古城君はアヴローラを追って。凪沙ちゃんは私が」

「ああ、頼んだ」

古城は玄関に向かい、外に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは……霊斗君の……」

「大丈夫、〇〇はまだ目覚めてないから」

「そう……良かった」

「これからのことは私が何とかするから。あなたはもう、休んでいいんだよ」

「そっか……ごめんね」

「任せて」

 

 

 

 

「私が全て終わらせるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリーナにて、古城は正座していた。

その正面に立つ霊斗の表情は凄まじかった。

「オイコラ、なにか言い訳はあるか?」

「ありません、全て俺の不注意のせいです」

そう言って古城は土下座する。

「ったく。天音がいたから良かったものの……もうすぐで絃神島存亡の危機だったんだぞ」

「そんなにやばかったか、あれ」

古城が聞くと、霊斗は頷き説明する。

「具体的に言えば、封印の解けた第四真祖によって島民全員が記憶を奪われる。そのあと島の管制システムも全部乗っ取られるだろうな」

「マジか……」

古城は改めて自分の失敗の大きさを実感する。

そんな古城の服の裾を引っ張る人物がいた。

「こじょう、元気出して」

そう言ってアヴローラは自らの持っていたカップ麺を古城に差し出す。

自分も凪沙に色々言われて傷ついているだろうに、そんなふうに古城を心配してくれるアヴローラに、古城は不覚にも泣きそうになった。

しかし、男としてここはぐっとこらえ、笑って礼を言う。

「ありがとな、お前もあんまり気にすんなよ」

「うん」

そう言ってアヴローラは頷くと、再び古城にカップ麺を差し出す。

「お、サンキュ」

そう言って古城が受け取ろうとすると、アヴローラはさっと容器を自分の胸元に抱く。

「なんだよ、くれないのか?」

古城がそう聞くと、アヴローラは首を横に振り、麺をフォークで掬い上げて言った。

「こじょう、あーん」

「!?」

あまりに不意打ちすぎるアヴローラの行動に、驚き固まる古城。

そんな古城に霊斗が苦笑しつつ言う。

「それがアヴローラなりの励ましかたなんだろ、ちゃんと食ってやれよ」

「お、おう」

そう言って古城は麺を口に含む。

「うん、うまい。ありがとな、アヴローラ」

古城が頭を撫でてやると、アヴローラは気持ちよさげに目を細めて古城にすり寄る。

「ってカップルかっ!」

唐突に大声を上げた浅葱に驚きつつ、古城は言う。

「い、いきなりどうした浅葱」

「いやいや、あんたらはカップルかっての!なにがあーんよ!リア充爆発しろ!」

「お、おう……どうしたんだほんとに」

浅葱の急変っぷりに戸惑いつつ、古城が助けを求めて霊斗を見るとそちらも混沌とした空間になっていた。

「霊斗!私もあーんしてあげるわ!」

「ヴェルディアナ!?おま、どこからわいて……!?」

「ほら、ほらほら!」

「むぐっ!?」

古城はため息をつくと空を見上げる。

雲の隙間からは時折流星が見え隠れする。

しかし、しばらくすると雲が濃くなり星は見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舞台は整った……」

美しく輝く宮殿のなかで一人の男がそう呟く。

彼の隣には金剛石の棺で眠る少女がいる。

「始めましょう―――"焔光の宴"の準備を」




ではではまた次回!


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愚者と暴君編ⅩⅣ

この話、長いなぁ……。


流星の降る夜からまた数ヵ月が経ち、新学期。

古城はあまり代わり映えしない高等部の制服を着ながら霊斗を呼んだ。

「なぁ、霊斗」

「なんだ」

既に着替え終わっている霊斗がスマホを見ながら素っ気なく答える。

古城はその画面を覗き込みつつ聞く。

「なぁ、焔光の宴ってどうなってんだ?」

「知らねーよ。ザハリアスがあれからどんだけ素体を集めたのかだな。まぁ、ジャーダのとこのは奪われてないみたいだし……後はヴァトラーがどうするか、だな」

「誰だよそいつら……まぁいいや、先行ってるぜ」

「ああ」

古城はカバンを掴み、玄関に向かう。

「こじょう、行ってらっしゃい」

「おう、アヴローラ。行ってくる」

古城はアヴローラの頭を撫でると、家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、ザハリアスからの招待状持ってるんだろ」

唐突に背後からかけられた声に驚きつつ、アヴローラが振り向く。

そこには気だるげな表情をした霊斗がいた。

「な、なんのことだか我にはわからぬ……」

「誤魔化すのが下手なんだよ……」

ため息をつきつつ、霊斗はアヴローラに向けててを差し出す。

「見せろ、日時と場所がわかればいい」

「れいと……」

アヴローラは首を横に振り、霊斗の手を掴む。

「一人で行くの、危険。我も一緒に……」

震える声でそう言うアヴローラ。

しかし、霊斗はそっとアヴローラの頭に手を乗せると言った。

「駄目だ。ザハリアスはお前を利用しようとしてる。だから……」

そこまで言って、霊斗は言葉を切った。

アヴローラは続きを促すように霊斗の顔をみる。

霊斗はそれに微笑み返し、言った 。

「俺が行ってあいつの計画をぶち壊す」

その声音はいつもの霊斗のものではなかった。

体は霊斗なのに中身はもっと凶悪で邪悪ななにか。

それを感じ取ったアヴローラが恐怖で震え出す。

そこに追い討ちをかけるように霊斗が言った。

「場所と日時を教えろ」

「ひうっ……つ、次の満月の夜、旧南東地区のクォーツゲートにて、焔光の宴を開始すると……」

怯えたアヴローラが辿々しく言うと、霊斗は一度目をつぶり、大きく深呼吸する。

そして、アヴローラの頭を撫でながら言う。

「悪かったな、怖がらせて。じゃあ、俺も行ってくるから、留守番よろしくな」

そう言って出ていった霊斗はいつも通りの暁霊斗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、早朝の暁家。

古城はテレビを見ながら呟いた。

「ネラプシ自治区で謎の感染症が流行?」

古城の呟きに凪沙が答える。

「原因不明なんだって、怖いよね……」

そう言って画面を見る凪沙の目には恐怖の色は見えない。

古城は凪沙の様子に少し違和感を覚えたが、続く霊斗の言葉に気をとられる。

「ネラプシか、それに患者の記憶の欠落……始まったか……」

「始まったって……あれが?」

「ああ」

古城と霊斗がこそこそと話していると、凪沙が不満げに頬を膨らませながら言う。

「じゃああたし、もう行くから。二人とも遅刻しちゃダメだよ」

「へいへい」

「お前も体調は気を付けろよ」

古城がそう言うと、凪沙は明るく頷いて玄関へと向かっていった。

古城はテレビのスポーツコーナーを見ていたが、霊斗は玄関の方をじっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凪沙が駅までの道を歩いていると突然、スーツ姿の集団に声をかけられた。

「暁凪沙さんね?」

「はい、そうですけど……」

凪沙が警戒しつつ答えると、集団のリーダー格のような女が自分たちの事を喋りだした。

「私たちはあなたの嫌う魔族を根絶するために活動をしているの。どう?素晴らしいと思わない?」

その狂気を孕んだ口調に恐怖を感じながら凪沙が言う。

「それって差別なんじゃ……」

「そういう言い方もできるわね」

そう言って女は懐に手を伸ばし―――たが、その手は空を切った。

正確には、女の手首から先が一瞬で千切れたのだ。

「え?」

呆然と呟く凪沙の前には霊斗が立っていた。

「おいおい、こんな街中で拳銃なんて物騒なもん取り出そうとするなよ」

そう言った霊斗の手には数丁の拳銃が。

その数はちょうどこの場にいる差別主義者の人数と同じ。

それを見てやっと我に帰った男が霊斗に殴りかかる。

「な、なんだ貴様!」

「このッ―」

しかし、その拳は霊斗に当たらない。

「遅ぇな……止まって見えるぜ」

そう言って獰猛に牙を剥いて笑う霊斗。

「こいつっ、吸血鬼だ!」

「殺せ!」

そう言って男たちは次々に武器を取り出す。

どれも対魔族用の強力な武器だ。

「やれ!」

一人の掛け声とともに、男たちが一斉に霊斗に襲いかかる。

しかし、ダメージを受けたのは男たちの方だった。

彼らの武器は溶解し、原型を留めていない。

さらに、武器を持っていた手は焼け爛れ、所々炭化している。

それもそのはず、霊斗の回りにはいつの間にか魔力の炎が発生していたのである。

「燃え尽きろ」

霊斗がそう言った直後、差別主義者たちの身体は一瞬で燃え上がり、断末魔の悲鳴すらあげさせずに蒸発した。

少し焦げ臭い空気が漂うなか、凪沙は霊斗に恐る恐る声を掛ける。

「れ、霊斗君……?」

凪沙の呼び掛けに霊斗は一言だけで返した。

「早く行け」

「う、うん……助けてくれてありがと」

凪沙はそう言って駅までの道を再び歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗は凪沙が見えなくなったのを確認すると、天音を喚び出した。

「さて、隠れてないで出てこいよ」

霊斗がそう言うと辺りに霧が立ち込め、三人の少女が姿を表した。

「三番目、四番目、五番目か……」

それぞれの"焔光の夜伯"たちは天音の前に膝をつくと、恭しく頭を下げた。

「申し訳ありません、十二番目の面倒まで見ていただいた上、〇〇の器までも守っていただき……こうなったのも我らの落ち度。どうぞ何なりと罰を」

それを聞いた天音は少し考えた後、こう言った。

「じゃあ、何かあったら私たちを助けてね」

天音の言葉に頷いたあと、少女たちは再び霧になって姿を消した。

それを見届けると、天音は霊斗の方を向いて言った。

「今夜は満月だよ」

「ああ。行こうか」

そう言って霊斗は天音の手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな下らない宴は、もう終わりにしよう」




そろそろクライマックスですね。
ではではまた次回!


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愚者と暴君編ⅩⅤ

絃神市立大学の敷地内にある古いビル。

その一角にある研究室で、暁牙城は過去の文献を読みふけっていた。

「ここにも載ってないか……」

牙城はそう呟いて本を閉じた。

そのまま椅子に深くもたれ掛かると、長いため息をついた。

「クソッ、どれもこれも役に立ちゃしねぇ……」

そう言って牙城が目を瞑った時、唐突にドアが開き二人の人物が入ってきた。

「父さん、邪魔するよ」

「お邪魔しまーす」

部屋に入ってきた霊斗と天音は積み上げられた文献の山を掻き分けながら牙城の元にたどり着く。

その二人に向き直りつつ、牙城は口を開く。

「何か用か、お二人さん」

「絃神島での焔光の宴の基点が分かった」

「……どこだ」

牙城が聞くと霊斗は一枚の地図を差し出す。

その地図には一点を中心として大きな赤丸がついていた。

「中心地点は旧南東地区のクォーツゲート。範囲は予測だけど……できればその辺りに特区警備隊を配置しておいて欲しい」

「分かった、那月ちゃん先生と掛け合っとく」

「よろしくお願い。じゃあ、俺たちは行くよ」

そう言って部屋を出ようとする霊斗の背中に牙城が声を掛ける。

「霊斗」

「なに――うわっ!?」

振り向いた霊斗に牙城が箱を投げつける。

「これは……?」

「真祖殺しの聖槍の刻印を一部刻んだ銀イリジウム弾だ。いざという時に使え」

「……分かった。ありがとう、父さん」

「霊斗」

「なに?」

「本当に行くんだな?」

「……俺以外に誰がザハリアスを止められるってのさ」

「……死ぬなよ」

「うん」

そう言って頷くと、霊斗は部屋を後にした。

「はぁ……誰に似たんだか……」

「わかってるくせに」

「はは、こいつは手厳しい」

牙城はそう言って天音の方を向く。

「これからどうするんだい、弟くんの危機だぜ」

「そんなの決まってる。あの子の能力だけは使わせない」

そう言ってドアの方をみる天音。

その肩に手を置きながら牙城が言う。

「無理はするなよ」

「うん、気を付けるよ」

そう言って少し悲しげに笑った天音は立ちあがり、ドアの方に向かう。

そして、牙城に手を振ってから部屋の外に出ていった。

「ったく、世話のかかる奴等だ」

そう言って牙城は使い古したコートを羽織った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだよ!なにが起きてんだ!?」

古城は携帯を握りしめたまま叫ぶ。

両親には連絡が着かない。

霊斗は学校に来ていない。

「仕方ねぇ……やっぱりアヴローラのところに行くしかねぇな。念のため凪沙も連れてくか……まぁ、しっかり説明すればわかってくれるだろ……」

思い立ったが吉日とばかりに帰り支度を始める古城。

そんな古城に浅葱が声を掛ける。

「ねえ古城、なにかあったの?」

「いや、ちょっとな……あ、俺もう帰るからさ。なんとか誤魔化しといてくれ」

古城はそう言って教室を出る。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!まさかアヴローラに何か……!」

そう言って古城の肩を掴む浅葱。

古城は渋々立ち止まると、首を横に振る。

「大丈夫だ。アヴローラには何もない。あってたまるか」

古城がそう言って再び歩き出そうとしたときだった。

「古城!急いできてくれ!」

「霊斗!?」

突然表れた霊斗は息を切らせながら言う。

「凪沙がつれてかれた……、さっき遠山さんが迎えに来たらしい」

「はぁ!?それって不味いんじゃねえのか!?」

「だから急げって言ってるだろ!」

霊斗はそう言うと、目の前にゲートを開いた。

「え、なにそれ」

「空間転移術式だ。那月ちゃんに教えてもらったんだ。これでクォーツゲートまで一発だ!急げ!」

「あ、ああ」

呆然とする浅葱の前で、二人の姿は消え去った。

そして次の瞬間、浅葱の怒りの声が学園中に響き渡った。

「ふざけんじゃないわよぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、最後の準備をしましょう……我が主よ」




今回はいつもより短めです(いつもも短いですが)。
ではではまた次回!


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愚者と暴君編ⅩⅥ

お久しぶりの投稿です。
では、どうぞ。


霊斗は自宅の前に転移すると、古城に言う。

「古城、ちょっと中に凪沙が居るか確認していてくれ。そのあと、できればアヴローラを連れてキーストーンゲートに行ってくれ。あそこが一番安全なはずだ」

「キーストーンゲートに行けって……お前はどうするんだよ!?」

「MARの研究所に行く」

霊斗はそれだけ言うと、再び空間転移のゲートを開きその中に飛び込んでいった。

取り残された古城はため息をつくと自宅へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空間転移した霊斗は旧南東地区の沿岸部にいた。

その視線の先には凪沙ともう一人別の女性の姿があった。

「あの人は……たしか、獅子王機関(ウチ)の……」

そこまで呟くと、霊斗はため息をついた。

そしてゆっくり深呼吸をする。

「……天音」

「はいはい……どうするの?」

霊斗の背後に表れた天音がそう聞くと、霊斗は穏やかに頬笑みながら答える。

「宴を、壊す」

その答えを聞いた天音は頷き、姿を消す。

天音が消えると、霊斗は騒がしくなり始めた旧南東地区を歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、古城はアヴローラを連れてキーストーンゲートを訪れていた。

「アヴローラ、大丈夫か?」

古城が聞くと、アヴローラは控えめに首肯く。

そんな怯えた小動物のような仕草に苦笑しつつ、古城は言う。

「なあ、アヴローラ。霊斗が来るまで展望台にでも行くか?」

古城がそう聞くと、アヴローラは目を輝かせて何度も首肯く。

これに耳と尻尾でもついてたら本当に小動物だな、等と考えながら、古城は展望台のチケットを購入する。

そして、アヴローラを連れてエレベーターに乗り込むと、アヴローラは興奮した様子で階層表示をみている。

「ほら、着いたぞ」

古城が言うと同時にエレベーターの扉が開き、巨大なガラス張りの展望台が視界に飛び込んでくる。

「おおおおおお!!!」

その景色にさらに興奮したのか、怪鳥のような声を上げながら走っていくアヴローラ。

「こじょう!海が見える!」

「いや、結構いろんなとこから見えるだろ……まあ、喜んでくれたんなら良かったよ」

「おおお……これがこじょう達が住んでいる街……」

感慨深げに呟くアヴローラ。

そんなアヴローラの頭を撫でながら古城は言う。

「お前も住んでるだろ?それに、もうすぐお前も登録魔族になって正式な市民だ」

「ずっとこの街にいられる?」

「そうだよ、学校だって行けるぞ」

「学校!こじょうと一緒に行く!」

「さすがに学年は一緒にはできないけどな?でも那月ちゃんが中等部に入れるように手を回してくれるってさ」

古城はそう言って、来るときに持ってきていた紙袋をアヴローラに渡す。

中には新品の彩海学園の制服が。

「こじょう、着たい」

「え……じゃ、じゃあそこのトイレのなかで着替えてこい」

古城がそう言うと、アヴローラは頷いてトイレへと消えていく。

その姿が見えなくなったとき、古城はふと展望台のテレビを見た。

「なっ……」

そこには、旧南東地区で大規模感染が発生した事を知らせるニュースが流れていた。

そして、映し出される感染者の姿。

最後に、割れる感染者の波と――霊斗の姿が。

そこで画面はスタジオに切り替わり、キャスターが何か言っている。

「なんで……あいつが旧南東地区にいるんだ……」

古城が呟くと後ろから、声がした。

「こじょうが来る、少し前……あまねが来た。私たちが、全部終わらせるからって、言って……」

「アヴローラ……」

泣き出しそうな表情で古城のパーカーの裾を掴むアヴローラ。

その制服の前はボタンが外れて下着が見えている。

「……」

古城はアヴローラの発言と格好のどちらを気にするか迷った末、ボタンを留めながら話を聞くことにした。

「なあ、アヴローラ。霊斗があそこにいるって事は、凪沙もそこにいるってことだよな?」

「そう……でも、凪沙はもう、器、違う」

「器?どういうことだ?」

古城が聞くと、アヴローラは古城にすがり付きながら言う。

「凪沙、宴と関係ない!でも、向こうにいたら巻き込まれる!」

「わ、わかった!わかったから落ち着け!」

古城はアヴローラを落ち着かせると、立ち上がった。

「こじょう?」

「アヴローラ、ここにいてくれ」

古城はそう言うと、エレベーターに向かって歩き出そうとする。

しかし、その手をアヴローラが掴む。

「我も行く」

「駄目だ。お前は安全なところに……」

「こじょう」

「……わかったよ。でも、絶対俺から離れるなよ?」

「うん」

そう言うとアヴローラは古城の手を握り直す。

その手が微かに震えているのに気付き、古城はその手を少し強く握り返す。

「よし、行こう」

「うん」

古城はアヴローラとともに再びエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧南東地区、その中央にそびえ立つクォーツゲート。

無人の廃墟の中に、若い女のこえが響く。

「ザハリアス卿、お待たせしました」

女――遠山美和の傍らには凪沙の姿がある。

「これはこれは、ミス遠山に暁凪沙さん、よくぞ来てくださいました」

廃墟の奥から表れたのは、痩せこけた中年の男、ザハリアス。

「さて、早速ですが本題に入りましょう。暁凪沙さん、あなたにやって頂きたいことがあるのです」

「わたしに?」

警戒した様子で凪沙がザハリアスを見る。

「あなたには、過去を再現していただきたい――死者の蘇生を」

「なにを言って――」

凪沙がそういった瞬間、轟音が鳴り響いた。

音の発生源はザハリアスの立っていたところ。

そこに、巨大な火柱が発生していた。

そして、突然の事に戸惑う凪沙と遠山の背後から、新たな人影が歩いてくる。

「はぁ……人の妹を勝手に利用しようとしやがって」

凪沙の肩に置かれたのは少し華奢ではあるが、決してひ弱ではない手。

「れ、霊斗君……」

「おう、凪沙。無事か?」

「う、うん」

それを聞いた霊斗は安心したように息を吐くと、空間転移のゲートを開いた。

「凪沙、先に帰ってろ。ここは俺がなんとかする」

凪沙は頷くと、ゲートの中に姿を消した。

それを見届けてから、霊斗は遠山の方を向く。

「獅子王機関の人間がなぜ凪沙を利用しようと?」

「我々は、第四真祖を魔族特区の中に隔離しようと考えました」

「それで、凪沙を第四真祖にして、ここに置いておこうとしたってことか」

「ええ。第五真祖――あなたがいるこの街ならば、第四真祖も確保しておけると」

そう言って遠山は目を伏せる。

「そうか……なら、俺が第四真祖の素体を全部破壊すれば――」

そこまで言った霊斗の顔が苦痛に歪む。

その腹部には鋭いダイヤモンドが突き刺さっていた。

「か……はっ、ザハリアス……てめぇ……」

崩れ落ちる霊斗の背後には巨大な大角羊と、若返ったザハリアスの姿があった。

「第四真祖の……血の従者……」

そう言った遠山を一瞥すると、ザハリアスは静かに言う。

「ええ……私は一番目の血の従者です。そして、第四真祖の器ならば、同じように人工的に産み出された第五真祖の器でも代用は可能。後は原初(ルート)の魂さえあれば――宴は終幕を迎える」

ザハリアスはそう言うと、クォーツゲートの奥へと姿を消した。

 

 




あと何話かで、この章も終わりですね。
では、また次回。


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愚者と暴君編ⅩⅦ

書きます。


ザハリアスが消えていった方を睨み付けながら霊斗が膝をつく。

「ザハリアス……野郎……」

「霊斗さん、一端退きましょう。せめて傷が治るまでは……!」

そう言って手を差し出す遠山。

しかし霊斗はその手を払い除けると、よろめきながら立ち上がり言う。

「駄目だ……一刻でも早く宴を……」

そして霊斗はクォーツゲートの奥へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗がクォーツゲートに着く少し前。

古城はアヴローラを連れて絃神島・東地区の連絡橋の前に居た。

特区警備隊(アイランド・ガード)か……橋は使えそうにないな……」

古城がどうしたものかと悩んでいると、アヴローラが古城の服の袖を引いた。

「こじょう、向こうに渡る方法が、一つだけある」

アヴローラはそう言うと、手を海の方に向けた。

すると、海面が凍り橋が新たにできる。

「すげぇな……」

古城がその迫力に圧倒されていると、背後から特区警備隊の声が聞こえてきた。

「何をしているんだ!」

古城が振り替えると、数人の隊員が銃を構えながら走ってくるのが見えた。

しかし、彼らが古城達の所へたどり着く事は無かった。

「一般人に銃を向けるなんて……何て野蛮な奴らなのかしら―――”ガングレト”!!」

「ヴェルディアナ、彼らも仕事なんですから仕方ないでしょう。まあ、仕事でも誉められたことではないですが―――”日蝕狼(スコル)”」

隊員達の前に立ちはだかったのは二人の吸血鬼――リアナとヴェルディアナだった。

彼らの行く手を阻むように並ぶ二体の眷獣が放つ魔力が周囲の路面を破壊する。

「古城!今のうちに行きなさい!」

ヴェルディアナがそう叫ぶ。

古城は頷くと、アヴローラの手を掴んで氷の橋を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ……やはりここまで来ましたか、第五真祖」

「うるせぇ……」

余裕の笑みで立つザハリアスに対して、血を流しすぎたせいで立っているのもやっとな霊斗。

そんな霊斗に向かってザハリアスは告げる。

「血を流しすぎたせいであなたの第五真祖の力は弱まっている。今なら簡単に肉体を奪える」

そう言ってザハリアスは両手を広げる。

「さあ!彼の肉体を媒介として復活するのです!世界最強の吸血鬼―――第四真祖よ!」

ザハリアスの声が建物の中に反響する。

しかし、なにも起こらない。

「なぜ……なぜだ!どうしてなにも起こらない!」

すると、困惑するザハリアスを嘲笑う声が新たに響く。

ザハリアスが声の方を見ると、そこには黒髪の少女―――天音が立っていた。

「第五真祖の眷獣……?」

ザハリアスが呟く。

「天音……?」

宿主であるはずの霊斗も困惑の表情で天音を見ている。

それは、天音が霊斗の意思で動いているわけではないということ。

二人からの視線をうけながら、天音が口を開く。

「『愚かだな、ザハリアス。よもや忘れたわけではあるまいな?第四真祖復活には我――”原初(ルート)”と呼ばれし呪われた魂が必要であることを』」

「な……」

天音ではない何者かの言葉に、ザハリアスの顔がこわばる。

「天音……じゃないのか?」

「『我は第四真祖。世界最強の吸血鬼だ。第五真祖よ』」

そう言うと、”原初”の背中に魔力で紡がれた羽根が現れる。

「『さて、ザハリアス。汝に与えし人形の一部(パーツ)、返してもらうぞ』」

”原初”がそう言うと共に、ザハリアスの背後に小柄な影が現れる。

一番目(ブローテ)……!?待て!……やめ――」

ザハリアスが制止するも、一番目はザハリアスの肋骨を掴み、抉り取る。

「あ……が……」

体から一番目の肋骨が離れた瞬間、ザハリアスの肉体が崩れてゆく。

固有堆積時間(パーソナルヒストリー)の量に耐えられなくなった身体が崩壊しているのだ。

「”原初”……」

霊斗がそう言って”原初”を睨み付けた時だった。

「なんだよ……今の……」

そう言ってクォーツゲートに入ってきたのは、古城とアヴローラだった。




今回はここまでです。
ではまた次回。


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愚者と暴君編ⅩⅧ

この章だけやけに長くなってますね。
そろそろ終わらせないと……。
では本編どうぞ。


困惑の表情を浮かべる古城を見て、”原初 ”が笑う。

「『感謝するぞ少年。我が元に新たな人形を連れて来てくれるとはな』」

そう言って”原初”は魔力で紡がれた翼を広げる。

その先には9体の「焔光の夜伯(カレイドブラッド)」の祖体が横たわっていた。

それぞれの心臓に突き立った翼には血管のようなものが浮かび上がり、ドクドクと脈打つ。

「やめろ!」

”原初”のしようとしていることに気付いた霊斗が叫ぶが、既に”原初”はそこに居た祖体を全て吸収し終わった後だった。

「『あとはお前だ、十二番目(ドウデカトス)。さあ、我の元へと還るのだ』」

そう言ってアヴローラに手を差し出す”原初”。

しかし、アヴローラは”原初”を睨み付けると、古城の服の袖を一層強く掴む。

それを見た古城は”原初”を挑発するように笑う。

「アヴローラはお前のところに戻る気は無いみたいだぞ」

それを聞いた”原初”の顔が怒りに歪む。

「『人形の分際で宿主たる我に逆らうか……!』」

そう言って”原初”は翼を古城達に向けて振るう。

しかし、それは二人に当たる前に動きが止まる。

「『なにっ!?』」

驚く”原初”の前に霊斗が立ちはだかる。

「元々その身体は俺の眷獣だ。だったら俺が動きを止められてもおかしくないだろ?」

「『く……未完成の真祖が我に楯突くか……』」

「お前だって未完成だろうが―――古城!アヴローラ!今のうちに逃げるぞ!」

そう言って霊斗は空間転移のためのゲートを開く。

「『覚えていろ……”失敗作”……』」

”原初”の声に背を向けて、霊斗はゲートを閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絃神島・旧南東地区(アイランド・オールドサウスイースト)を一望できる橋の上に、二つの影が立っていた。

そのうちの小柄な影が肩を揺らして笑いだした。

その様子を見て長身な影が口を開く。

「なにがそんなに面白いのですか?ジャーダ陛下」

目尻に浮いた涙を拭いながらジャーダが答える。

「なにが面白いかだと?ヴァトラー、本気で聞いているのか?」

「ええ。自分には何が面白いのかさっぱり」

そう不機嫌そうに答えるヴァトラー。

そんなヴァトラーの様子を見て再び笑いだすジャーダ。

「それもそうか。なにせ放し飼いにしていた祖体に逃げられた挙げ句第四真祖に吸収されたのだからな、(おまえ)が面白くないのは当然か」

そう言って笑い続けるジャーダに背を向けると、ヴァトラーは黄金の霧に変化して消えていった。

「ふふ、奴にも可愛いところがあるではないか」

そう言ってジャーダは虚空に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗たちが転移したのは自宅の玄関だった。

そこでゲートを閉じると、霊斗は膝を着いた。

「霊斗!?大丈夫か!」

古城が慌てて肩を貸し、リビングのソファに霊斗を寝かせる。

「悪いな、古城……」

そう言って目を閉じる霊斗。

慌てて古城が脈を測ると、弱いがしっかりと脈はあった。

「なんだ……気絶しただけか……」

安心してへたり込む古城の耳に、ゆっくりとドアが開く音が聞こえる。

音の方へと向くと、控えめに開けられたドアの隙間から凪沙がこちらの様子を伺っている。

「……凪沙?何してるんだ?」

古城が声をかけると凪沙は恐る恐るドアを開け、古城たちの元へと歩いてきた。

「古城君、私……」

そう言って凪沙は古城の前に座る。

「私、アヴローラさんと、天音ちゃんに謝らないといけないの……だから……わたしを、旧南東地区に連れていって」

「凪沙……お前、なに言って」

困惑する古城を尻目に、凪沙はアヴローラの手を掴む。

「アヴローラさん、あの時はひどいこと言っちゃってごめんなさい……」

凪沙はそう言ってポロポロと涙を溢す。

そんな凪沙の涙を拭い、アヴローラはその手を握り返す。

「汝に罪は無し。責められるべきは我……我が罪に、今一度許しを……」

アヴローラのその言葉を聞いた凪沙はアヴローラを抱き締めた。

その光景を見ていた古城は居心地悪そうに目をそらしながら言う。

「あー……そんで、天音に謝りたいってのは?」

凪沙は古城の方に向き直ると、ゆっくりと話し出す。

「この間、私がアヴローラさんから逃げちゃったとき、天音ちゃんが追いかけてきてくれて……その時に、私がずっと持ってた”原初の呪い”を代わりに……」

凪沙がそこまで言うと、それまで目を閉じていた霊斗が口を開く。

「そうか……あの事件のときに凪沙が封印した”原初の呪い”を自分の中に……だからあいつは第四真祖になれた……」

霊斗はそう言うと起き上がり、凪沙の方を向く。

「凪沙」

霊斗はそれだけ言うと、凪沙の肩を掴む。

「えっ……霊斗君?」

戸惑う凪沙を真正面から見据えると、霊斗は聞く。

「”原初の呪い”が無くなったってことはまた霊能力が使えるようになったのか?」

「う、うん。まだそんな強いのは使えないけど……」

凪沙がそう答えると、霊斗は古城に言う。

「悪い、古城。アヴローラと一緒に自分の部屋にいてくれ」

「あ、ああ……なにするんだ?」

古城が戸惑いながら聞くと、霊斗は意地悪く笑い一言。

「魔術儀式」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古城とアヴローラが部屋に行くと、霊斗は凪沙に言う。

「凪沙、お前の血をくれ」

「え……」

凪沙は一瞬固まると、顔を真っ赤にして叫ぶ。

「ば、馬鹿っ!霊斗君のスケベ!変態!シスコン!」

「違うわ!ただ単純に血が足りてないから補給させてくれってことだよ!」

霊斗はそう言って凪沙を抱き寄せる。

「頼む。今の俺じゃ天音を助けられない」

「霊斗君……」

弱々しい声で凪沙が聞く。

「私たち、兄妹なんだよ?」

「血は繋がってないだろ?」

そう言って霊斗は凪沙の頭を撫でる。

「……んぅ……」

くすぐったそうにする凪沙にもう一度霊斗が言う。

「頼む。俺に血をくれ」

「……うん」

そう言って頷いた凪沙の頬はほんのりと赤く染まっている。

霊斗はそんな凪沙の首筋にゆっくりと牙を突き立てた。

「あ……」

首筋に走る痛みに、凪沙の口から息が漏れる。

強い霊媒の血に、霊斗の身体が活性化する。

「霊斗……君……」

凪沙の声が二人きりの部屋の中へと溶けてゆく―――。




今回はここまでです。
次回辺りで恐らくこの章も終わると思います……終わるといいなぁ……。
ではまた次回。


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愚者と暴君編ⅩⅨ

今回で愚者と暴君編完結です。
ではどうぞ。


霊斗はゆっくりと息を吐き、視線を下に向ける。

そこでは、息を荒げた凪沙が目を閉じていた。

「……大丈夫か?」

霊斗が聞くと凪沙は目を開き、拗ねたように言う。

「霊斗君の馬鹿、エッチ」

「どこがだよ!?」

思わず叫んでしまう霊斗。

しかし、すぐに取り繕うように咳払いをし、古城の部屋の方に向かって言う。

「……で、いつまでそこから覗いてるつもりだ?」

すると、顔を真っ赤にした古城とアヴローラが気まずそうな表情を浮かべて部屋から出てくる。

「はは……お、終わったか」

「今更ごまかしても無駄だ。どこから見てた?」

霊斗がそう言って古城を睨むと、古城は目をそらす。

「えーと……『頼む、お前の血をくれ』の辺りから……」

「全部じゃねぇか!」

そう言って頭を抱える霊斗。

その隣では派手に衣服をはだけさせた凪沙が俯いている。

「凪沙……?」

古城が凪沙の顔を覗き込む。

その顔は羞恥で真っ赤になっていた。

「あー……なんか悪い」

古城がそう言って一歩離れると同時に、凪沙がゆらりと立ち上がる。

「こ……」

「え?凪沙?」

「古城君の馬鹿ーーーーっ!!」

叫びと共に放たれた回し蹴りは、古城の頭を捉えた。

脳を揺らされた古城が意識を失う前に見たのは、修羅のような表情で立つ妹の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、古城たちは再び旧南東地区を訪れていた。

「こりゃすげえな……」

そう言って霊斗がクォーツゲートの方を見る。

その塔の頂点では”原初”が静かに佇んでいた。

塔の周囲では魔力が渦を巻き、感染者たちが寄り付けないようになっている。

「古城、アヴローラ、準備はいいか」

「うむ」

「ああ、いつでも行けるぜ」

「オーケー……凪沙、お前はここで待ってるんだぞ」

「うん、わかってる……みんな、頑張ってね」

凪沙の言葉に頷くと、三人は霊斗の開いたゲートに飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”原初”は空間の揺らぎを感じて目を開けた。

クォーツゲートの下、地上部分に現れた「餌」を見ると、彼女はニヤリと笑う。

そのまま塔から飛び降りると、”原初”は口を開いた。

「『わざわざ喰われに来たか十二番目よ。逃げ回っていれば良かったものを……』」

そう言って翼を広げる”原初”。

しかし、それに怯むことなくアヴローラが”原初”を睨む。

そんなアヴローラの行動に満足したように笑うと、”原初”は翼を振るった。

だが、その表情が凍りつく。

「『なにっ!?』」

二人の間に割り込んだ霊斗が薄い水色に透き通った槍で翼を打ち返す。

「悪いな……俺の眷獣は返してもらうぜ」

そう言って不適に笑った霊斗の隣では、古城がアヴローラを守るように立っている。

眼中になかった二人が自分に楯突いたのがよほど気に入らなかったのか、”原初”が怒りに表情を歪めて魔力を撒き散らす。

「『よかろう……まずは貴様らから始末してくれる!』」

その直後、”原初”の翼が姿を変える。

それは青白い水の肉体をもつ精霊。

全てを無に返す眷獣を前にして古城の表情が凍る。

だが、二人は違った。

「―――氷牙狼!」

霊斗が眩く輝く結界を張る。

同時にアヴローラが動く―――。

「こじょう!」

「ああ!―――疾く在れ(きやがれ)、”妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)!」

二人が手を重ね、眷獣を喚び出す。

その姿は神話に出てくる人魚に似ていた。

周囲に霧を発生させるほどの膨大な凍気が水精霊を凍らせる。

「『仮初めの人形とその従者が我が眷獣を従えるか……!』」

そう言った”原初”の翼が次々に変化していく。

金剛石の神羊、灼熱の牛頭神、双頭の水銀竜、濃霧に包まれた甲殻獣、雷光の獅子、巨大な三鈷剣、紫炎の蠍、緋色の双角獣―――。

「くそっ―――降臨せよ!”伊邪那岐(イザナギ)”!」

霊斗が”原初”に対抗するように眷獣を喚び出す。

神の名を宿した眷獣が重力に引かれて堕ちてくる三鈷剣を受け止める。

しかし、一体では支えきれずじわじわと押され始める。

その時だった。

「『むっ!』」

「なんだ!?」

”原初”と霊斗が同時に声をあげる。

その視線の先では三鈷剣が電磁波に包まれて遥か彼方へと消えていく。

「『五番目(ペンプトス)!?』」

獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

”原初”が怒りに声を震わせ、アヴローラが歓喜の声を上げる。

古城がふと周りを見ると、およそ半分の眷獣が”原初”に攻撃的な視線を向けている。

「『なぜ我に逆らう!?』」

”原初”がそう叫ぶ。

その時、霊斗の表情が変わる。

「まさか、天音が!?」

霊斗がそう言うと、”原初”――否、天音が頷く。

「早く、霊君……今のうちに……!」

天音が言うと、その身体が動かなくなる。

「アヴローラ!」

霊斗が叫ぶと、アヴローラが吸血鬼の筋力を全開にして跳んだ。

そのまま華麗に天音の背後に着地すると、牙をその首筋に突き立てる。

「『これが貴様らの狙いか……!』」

”原初”は少し寂しげに目を伏せると、古城たちに向けて呟く。

「『お前たちの……勝ちだ……』」

直後、眷獣たちが消滅し、”原初”の気配が消失する。

辺りには静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくの沈黙の後、アヴローラが目を開く。

「”原初”か?」

古城が聞くと、アヴローラは首を横に振る。

それを見た霊斗がぐったりと座り込む。

「終わった……か」

しかし、霊斗の言葉にアヴローラが答える。

「れいと、こじょう……例のものを」

古城と霊斗は

首を傾げながらもそれをだす。

霊斗が奇妙な杭。

古城がカートリッジとクロスボウ。

どちらも牙城が自宅に届けていた荷物に中身だ。

「これをどうするんだ?」

古城が聞くと、アヴローラは儚く微笑んだ。

その瞬間、彼女の周囲を凍気が包む。

「アヴローラ!?」

霊斗が叫ぶが、その声は荒れる風に掻き消されて聞こえない。

すると、古城の手が杭を掴み、クロスボウに装填する。

主人であるアヴローラが古城を操っているのだ。

その時、二人はアヴローラのやろうとしていることに気付いた。

「やめろ!アヴローラ!」

古城が必死に抵抗するが、その体は主人には逆らえない。

「我は汝らの望みを叶えた……次は……汝らの番……」

そう言ってアヴローラは古城を抱き寄せる。

「第四真祖の力は汝に託す……」

アヴローラが古城の首筋に牙を突き立て、第四真祖の力を流し込む。

そして、力だけを分離したアヴローラは古城から離れる。

「やめろ……アヴローラ……やめてくれ!」

古城が叫ぶが、その意思とは無関係に手が上がっていく。

クロスボウの射出部がピタリとアヴローラの心臓に向く。

「こじょう……さよなら―――」

アヴローラがそう言うと共に 、軽い音を立てて杭が彼女の胸に刺さった。

「あ……ああ……」

放心したように膝をつく古城。

その瞳は真紅に染まっていた。

「―――――――――っ!」

第四真祖の慟哭が、消えゆく島に響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アヴローラは、自分が消滅していくのを感じていた。

不老不死の自分が本来体験するはずのなかった感覚。

それを感じながら思い出すのは彼と過ごした日々。

もう少し、もう少しだけでもあの時間を過ごせたら。

そんな彼女の耳に聞こえてきたのは少女の声だった。

「あなたはそれでいいの?」

アヴローラは首を横に振る。

「じゃあ、いればいいじゃない」

アヴローラは少女に聞き返す。

そんな方法があるのかと。

「あるよ―――私なら、その願いを叶えられる」

そう言う少女の手がアヴローラの手を掴む。

「行こう、みんながいるから」

その声と共にアヴローラの視界が白く染まる。

眩い夏空の元へと、儚い吸血鬼の魂が帰ってゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろお目覚めの時間か?」

霊斗がそう言って伸びをする。

「そうだな、この本ももう使えんしな」

那月がそう言うと、手の中の魔導書が燃え尽きる。

那月に背を向けて、霊斗が立ち上がる。

「行くのか?」

「ああ、こいつらが起きたとき、向こうにいないといけないだろ?」

そう言って霊斗は居眠りをしているアスタルテを揺り起こす。

「アスタルテ、起きろ。戻るぞ」

「んぅ……」

霊斗の呼び掛けも虚しく、アスタルテは熟睡を続ける。

アスタルテを起こす労力と、このあと浅葱や古城への説明の手間を考えて、霊斗はためいきをつく。

「勘弁してくれ……」

その呟きは石造りの聖堂の中で響いて消えていった。




次回辺りはまたオリジナルの話になるかと思います。
では、また次回!


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特別編
特別編~イベントにご用心~


かなり久しぶりの投稿になってしまいました。
ここからまた早めの投稿ができるといいなと思っております。
では、今回はオリジナルです。


とある春の1日。

とはいえ、熱帯に位置する常夏の島には当然春など感じられない。

そんな絃神島のとあるマンションの前。

「暑ぃ……灰になっちまう……」

そう言って地面に座り込んだ古城が呻く。

「なんなんだよこの日差し……吸血鬼を殺す気かよ……」

「吸血鬼だってみんながみんな日光が苦手って訳でもないだろ……」

そう言って汗を拭った霊斗が古城にタオルを投げつける。

古城はそれを受けとると、霊斗の方をぼんやりと見て言う。

「そういや、霊斗って女装とか似合いそうだような」

「いや、中性的とか言われるけどそこまででもないだろ」

しかし、小、中学時代はよく女子と間違えられていたのも事実である。

他にも、少年のような女子が居たりと、古城の周囲には中性的な人物が多い。

「なあ霊斗、このチラシ見ろよ」

「なんだよ……」

古城が指差した先にはイベントのチラシが貼られている。

「なになに……キーストーンゲート主催、女装コンテスト?」

誰得かわからないイベントである。

霊斗は少し頬をひきつらせながら古城に聞く。

「これに出ろと?馬鹿なの?」

「いや、いい線行きそうだろ?なあアスタルテ」

「素晴らしいと思います。出るべきです」

「うおっ、いつのまに戻ってきてたんだ」

「たった今です」

そう言って霊斗たちの横にしゃがみこむアスタルテ。

「ところで、那月ちゃんの用って何だったんだ?」

「それがですね、件の女装コンテストの警備の依頼なんです。黒死皇派の残党がまだ居て、キーストーンゲート主催のイベントを潰しに来るかもしれない、と那月ちゃん教官が」

「そうか……どうでもいいけど那月ちゃんの呼び方すごいことになってんな」

霊斗はそう言って立ち上がる。

「どこ行くんだ?」

古城が聞くと、霊斗は呆れたように言う。

「雪菜の所だよ、警備なんて俺たちだけでできるわけないだろ」

「え、特区警備隊はいないのか?」

「馬鹿か、那月ちゃんが直接言ってきてる時点で特区警備隊の方は当てにできないだろ」

そう言って霊斗は目の前にゲートを開く。

「古城、早くしろ」

「え、俺も行くのか?」

「当たり前だ」

そう言ってゲートを潜る霊斗。

古城はため息をついてゲートを潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、誰が女装しますか?」

雪菜の一言でその場の空気が凍った。

「あのー、雪菜さん?俺たちの目的は警備であって、イベントに出ることじゃぁ……」

「はい。ですから、控え室やステージ上にも戦力をおいた方が良いかと思いまして」

「いやいや、普通の格好でも警備できるでしょ」

そう言う霊斗に雪菜が反論する。

「では参加者や運営側に残党が紛れ込んでいたらどうするんですか?それに、参加者でもない一般人が控え室に居たら怪しいですよね?」

「いや、警備って説明すればいいんじゃ……」

「一般の参加者の方に不安を感じさせるわけにはいきませんよね」

「ぬぐぐ……」

そう言って唸る霊斗に、雪菜がにこやかに言う。

「では霊斗さん、控え室の警備、よろしくお願いしますね」

「やっぱりそうなるのかよ!?」

「はい。先輩に女装させても……控え目に言ってキモチワルイですし、霊斗さんが適任かと」

「姫柊、全然控え目じゃない」

少し傷ついたように肩をおとす古城。

そんな古城を尻目に、雪菜が追い討ちをかける。

「それに、霊斗さんの女装を望んでいる人もいますので」

「霊斗さんの女装……」

そこには幸せそうな表情で鼻血を流すアスタルテの姿があった。

「はっ!いけません、少々トんでしまっていたようです」

「かなりヤヴァイ感じだったな」

そう言った霊斗の腕を掴むアスタルテ。

「では早速、着替えましょう!」

「まてまてまて!!俺はまだ出るなんて一言も……」

「何か言いましたか?(笑顔)」

「ナンデモナイデス」

霊斗がそう言うと、アスタルテは頷き、そのままどこかへ去っていった。

「あれ、大丈夫か?」

「大丈夫……だと思います」

そう言って疲れきった表情の二人はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当日。

道行く人々が集まっていく。

「霊斗さん、最高です(ダクダク)」

「いや、鼻血……」

そこには濃密に絡み合う二人の美少女が。

「なんで会場の外でまでこんな格好を……」

「大丈夫です、どこからどう見ても普通の女の子です」

「全然嬉しくない……」

そう言って肩をおとす霊斗。

「ってやべ、もう時間」

ふと時計を見るともう控え室に向かう時間だった。

「はぁ、行くか……」

「霊斗さん、ため息つくと幸せが逃げますよ?」

「現在進行形で超絶不幸だからいいよ……」

「私は超絶幸せですが」

「……不幸だわ(裏声)」

控え室には、出演者とコーディネーターがセットで居るようになっている。

周囲を見る限り、怪しい人物はいない。

「にしても、やっぱり男女ペアが多いな」

「そうでしょう、男同士って……いいと思います」

「あちゃー、君は容認派だったかー」

そんな他愛ない会話をしていると、とうとう霊斗の番となった。

「それではエントリーNo.5、暁霊斗さんです!」

司会者の紹介の後、霊斗がステージ上に出ると、会場を歓声が覆った。

「これは……本当に女装なのでしょうか!?あまりの可愛さに私も驚いております!」

司会者はそのように感想を言うと、霊斗にマイクを手渡す。

どうやら自己紹介をしろと言うことらしい。

「あ、えっと、暁霊斗です」

霊斗が自己紹介をすると、再び会場が沸く。

「はい、暁さん、今回はなぜこのコンテストにエントリーを?」

司会者がそう質問をする。

(ここは無難な回答でいこう)

そう考えた霊斗は小さめのボリュームで答える。

「友人の悪ふざけです」

そして、その後もいくつか質問が続く。

「ご趣味は?」

「特にこれというのはないですけど、強いて言えばゲームですかね」

「なるほど、では現在交際している方などは……」

「いますけど……ってこの質問必要ですか?」

「ええ、とっても大事です」

「えぇ…… 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では最後に、会場のみなさんにアピールをお願いします」

「あ、アピール?」

突然のフリに焦りつつ、霊斗はこう思った。

(なんか、もうどうでもいいわ……)

「か、会場のみんなー!ぼ、ボクにぜひ投票してくださーい!(裏声)」

一瞬、会場が静まる。

しかし、つぎの瞬間、会場を倒壊させかねないレベルの歓声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、結局優勝しちまったと」

「圧倒的でしたね」

「死にたい……」

そう言って霊斗は地面に寝転がる。

空は既に暗くなり始めている。

「ふふふ……これは永久保存ですね」

そう言ってビデオカメラを操作するアスタルテ。

その背中に霊斗が声をかける。

「ところで、黒死皇派はどうなったんだよ」

「那月ちゃん教官が全員捕まえたそうです。昨日の時点で」

それを聞いて、霊斗はほっと一安心――できなかった。

「ちょっと待て、いつ捕まえたって?」

「昨日のお昼頃にファミレスでいざこざを起こしたのを捕まえたらしいですよ」

「ってことは……」

コンテストにでる必要はなかった、ということ。

霊斗はアスタルテの頬を横に引っ張る。

「じゃあなんだ?ただただ俺の女装が見たいってだけの理由であんなことをやらせたのか!?」

「へいほひゃん、いひゃいへふ」

「俺の心の方が痛いわぁ!!」

そう言ってさらに引き伸ばす霊斗。

「いぃぃぃ!ひひへひゃいはふぅ!!」

「なに言ってるかわかんねぇよ!?」

そこで手を離す。

「うぅ……霊斗さんはSすぎます……DVです……」

「当然の報いだ」

「なんて慈悲のない……」

そう言って涙を流すアスタルテ。

その手からビデオカメラを奪い、今日のデータを消していく。

「あぁぁぁ!!なんてことを!?」

「よし、完全に消えたな。ほら」

「ほ、本当に消しましたね……あなたは悪魔ですか!?」

「いや、吸血鬼だけど」

「うわ、ムカツク返しですね」

そんなコントのようなやり取りをしている二人に古城が声をかける。

「なあ、そろそろ帰ろうぜ」

「そうだな、腹も減ったしな……」

霊斗がそう言い、四人は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、PCにすでにバックアップしてあるんですがね」

「無駄に用意周到だな……削除っと」

「あぁぁぁぁ!?」

 




次回からは黒の剣巫編です。
ではまた。


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黒の剣巫編
黒の剣巫編Ⅰ


いよいよ新章スタートです。


「はぁ?レヴィアタン?」

空調の効いた部屋の中で向き合って座る一組の男女。

その男の方が頓狂な声をあげる。

「そう。だから万が一の時は貴方に始末をお願いしたいのよ」

そう言って妖艶に頬笑む女。

男は迷うように頭を掻く。

「そうね、依頼を受けてくれれば前金で150万、後始末の完了で150万払うわ」

「っ!?……わかった。ただ、これは上には内密に頼む」

「わかっているわ。こちらとしてもあまり知られたくは無いもの……太史局が獅子王機関の攻魔師に手を借りたなんてね」

そう言って女は立ち上がる。

「では、宜しく」

そのまま女は去っていった。

後に残された男が呟く。

「レヴィアタン……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暑ィ……」

そう言って古城はモップを杖替わりにして寄りかかる。

そんな古城の顔面を強烈な水流が襲う。

「ぶほっ!?何すんだ姫柊!」

「先輩がサボってるからです!」

「ちょっと休憩してるだけだろ!?」

そう言って反論する古城の顔に再び水が掛かる。

「このプール掃除は先輩の罰ですよね?それを手伝っている霊斗さんやアスタルテちゃんが休まずに働いているのに、ご自分だけ休むつもりですか?」

「うぐっ……わかったよ、やればいいんだろ?」

「はい、もうちょっとですから」

雪菜がそう言って微笑むと、しぶしぶ掃除を再開する古城。

その古城の元に霊斗とアスタルテが歩いてくる。

「古城、こっちは終わったぞ」

霊斗はそう言うと担いでいたモップを地面に降ろす。

「ああ、こっちももうちょっとで終わるから待っててくれ」

そう言って古城は最後の一角を掃除し始める。

「にしても、古城は大変だな」

「まったくだ。俺だって好きで欠席してる訳じゃねぇってのに……」

「ま、俺は多少休んでも攻魔師の仕事ってすればチャラだし」

そう言って霊斗は指先でバケツを回し始める。

「くそっ、羨ましいぜ……」

「まぁ、私も霊斗さんもちゃんとCカード取ってますし」

「一応俺やアスタルテは魔族登録もしてるし」

そう言って霊斗は古城の肩に手を置く。

「まぁ、諦めな」

「その哀れな子を見る目をやめろ、ムカツク」

そう言って古城はため息をつくと、モップを担ぎ上げる。

「ん、終わったか」

「ああ、早く帰ろうぜ」

古城がそう言い、一同は片付けを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片付けを終えて帰宅した一同を待っていたのは猛烈な熱気だった。

「うおっ!?なんだこの暑さ!?」

部屋の中に入ると、そこには水着にエプロンという謎過ぎる格好をした凪沙がいた。

「凪沙……?なんだその格好……」

「あ、みんなおかえり!どう?この格好?似合う?」

「いや、似合うとか以前になんでクーラー使わないんだ?」

「あれ、下の張り紙見てこなかったの?」

そう言って一枚のプリントを古城に手渡す凪沙。

「なになに?家庭用の変圧器交換のおしらせ?」

「あー……なるほどな」

古城がプリントのタイトルを読み上げると、納得したような表情で頷く霊斗。

そして、霊斗は古城に小声で言う。

「お前が北地区(アイランド・ノース)で眷獣をぶっぱなしただろ、あれの時からガタが来てた変圧器がぶっ壊れちまったんだろ」

「あー、あれな……」

頬をひきつらせながら目を反らす古城。

そして、ふと思い出したように古城が凪沙に聞く。

「そういや、冷蔵庫の中身はどうしたんだ?電機が使えないってことは冷蔵庫も……」

「うん、使えないけど大丈夫!全部使っちゃったから」

「は?」

凪沙の言葉を聞いて、古城がテーブルを見ると、そこにはところ狭しと食事が並べられている。

「どうすんだこの量……」

「いや、保存しておけないんだから食うしかねぇだろ……」

「見てるだけで胸焼けがします」

「あー……私は自宅でご飯を……」

「「「「敵前逃亡は重罪」」」」

「そ、そんなぁ……」

一同がこのあとの地獄を想像してグッタリしているとき、荒々しくドアを叩く音がした。

「誰だ……?」

古城がドアのレンズ越しに外を見ると、そこには矢瀬が立っていた。

「矢瀬?何しに来たんだ?」

突然の友人の訪問に疑いを隠しきれない古城に、霊斗が言う。

「古城、基樹を入れるんだ。犠牲者は多い方がいい」

「ああ」

そう言って古城はドアを開けた。

 




今回はここまでです。
ではまた次回。


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黒の剣巫編Ⅱ

おおよそ半年ぶりの投稿になります。
かなり内容がおかしくなっているかもしれません。



古城がドアを開けると矢瀬が怪訝そうな表情で立っていた。

「おい古城、どうなってんだこのインターフォン?故障か?」

「いや、マンションの変圧器を交換してるんだと。それより、なにか用か?」

古城がそう聞くと、矢瀬は汗を拭いながら答える。

「ああ、面白い話があってな。それより、暑いし上がっていいか?」

「ああ、まぁ入れよ」

古城はそう言って矢瀬を迎え入れるとドアに鍵をかけた。

「ん?鍵なんてかけてどうしたんだ?」

「いや、なんとなくな。防犯対策だよ」

古城がそう言うと、矢瀬は不思議そうな表情をしながらもリビングへと向かっていった。

そして、矢瀬がリビングに入った瞬間だった。

「「「「ウェルカム」」」」

そこには悪魔がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ……ひどい目に遭った……」

そう言ってソファに座り込む矢瀬に、アスタルテが水を差し出す。

「災難でしたね。お疲れ様です」

「全くだぜ…… 」

青白い顔をしながら矢瀬が水を飲み干すと、キッチンで皿を洗っている霊斗が聞く。

「ところで基樹。お前なんでこんな時間に来たんだ?」

「ああ、まだ話してなかったか」

そう言って矢瀬はポケットからなにかを取り出した。

「なんだそれ」

「聞いて驚くなよ?これはな……なんとあのブルエリの仮オープンの招待チケットだ!」

矢瀬の言葉に一番最初に食いついたのは凪沙だった。

「え!?ブルエリ!?今話題のブルーエリジアム!?」

「そうそう、そのブルエリ」

それを聞いて霊斗はテレビで見かけた情報を思い出す。

「なんだっけ、魔獣庭園だとか、プールだとかあるんだっけ?」

「ああ、なんとそこに二泊三日、タダで招待だぜ」

矢瀬がそう言うと、古城が怪訝そうな表情で言う。

「なんか胡散臭いな……またろくでもないことに巻き込まれそうなんだが」

そんな古城に向かって女性陣が反論する。

「なに言ってるの古城君!こんなチャンスもうないよ!?」

「そうですよ先輩!あのブルエリに行けるんですよ!?」

「古城さん、行きましょう」

「そ、そう言われてもな……なぁ、霊斗はどうおもう?」

古城が救いを求めるように霊斗に声をかける。

しかし、当の本人はというと。

「アスタルテの水着……ビキニ……いや、ワンピースタイプも捨てがたいか……ここは敢えてのスク水……」

妄想の世界に完全に入り込んでいた。

そんな霊斗を見て矢瀬がニヤニヤしながら言う。

「どうする?古城以外は乗り気みたいだけどな?」

「どうせ拒否権なんてないんだろ……」

「ま、そういうことだな。じゃあ人数分置いてくぜ」

そう言って矢瀬はチケットとパンフレットを置いて帰っていった。

「そう言えばこれっていつからなんだ?」

「確認してみますか」

そう言って雪菜がチケットを手に取る。

「これは……今週の土曜日ですね」

「土曜日か……」

そう言ってカレンダーを見る古城。

「って明日じゃねぇか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何を企んでるのよ今度は」

『いやいや、企んでるとか人聞きの悪いこと言うなよ』

「事実でしょうが」

そう言って浅葱は目の前にチケットをかざす。

「しかもこれ明日からじゃない。いきなり言われても準備なんて出来ないわよ」

『その辺はこっちでなんとかしてやるよ。持ってくのなんて水着やらなんやらだろ』

「簡単に言ってくれるわねアンタ……」

頬をひきつらせながら浅葱は言う。

「まあいいわ、あたしもブルエリは興味あるしね」

『じゃ、そういうことで』

そう言って通話は切れた。

「はぁ……水着どうしよ」

そう呟いて浅葱はパソコンを立ち上げた。

すると、早速モグワイが話しかけてくる。

『よぉ嬢ちゃん、どうやらお悩みのようだな』

「うっさいわね。こっちも忙しいのよ」

『ケケッ、なんなら俺がアドバイスしてやろうか?』

そう言ってモグワイが様々なグラフなどを表示していく。

「ちょ、なによこれ!?」

『嬢ちゃんの体重やらなんやらの数値の移り変わりをグラフにしたもんだがな、これから現在のスリーサイズを予測してっと……』

モグワイがそう言って再び画面を切り替える。

『これが今の嬢ちゃんのスリーサイズだな。これを参考にして……』

「も、モグワイぃぃぃぃ!!」

浅葱の悲痛な叫びが家中に響き渡った。




どうでしたかね。
何かおかしいところ等あったらコメントで教えてくださるとありがたいです。
ではまた次回。


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黒の剣巫編Ⅲ

どんどん書きます。


ブルーエリジアムは絃神島から18キロほど離れた海洋上に建設された増設人工島サブフロートだ。

そこに行くには船で20分かかる。

古城たちはその道のりを経てようやくブルーエリジアムに到着した。

「やっと着いたな……にしても暑いな」

そう言って霊斗が汗をぬぐう。

そのとなりではアスタルテもぐったりとしている。

そして、更にそのとなりでは船酔いでダウンしている古城が雪菜に支えられている。

「先輩、本当に大丈夫ですか?」

「ああ……もうちょい休めば大丈夫だと思う」

そう言って近くのベンチに座り込む古城。

しかし次の瞬間、古城はおかしな声を上げながら飛び上がった。

「浅葱!?なにすんだよ!」

「なによ、ただ冷えペタ貼っただけでしょ」

そう言ってニヤニヤと笑う浅葱。

しかし、堪えきれなくなったのかとうとう吹き出した。

「それにしてもなによ今の声……フフッ……」

「うっせーな……びっくりしたんだよ……」

そう弱々しく反論する古城。

そんな古城の額にもう一枚冷えペタを貼りながら浅葱が言う。

「まったく、船酔いで冷えペタなんて世界最強の吸血鬼とは思えない醜態よねぇ……」

「んなこと言われてもな……」

周りが勝手に言ってるだけだろ、と呟いて古城は持っていたスポーツドリンクを飲み干す。

その時、古城の携帯に矢瀬からのメールがとどいた。

「お、宿の手続きが終わったみたいだ。霊斗に空間転移でつれてきてもらえってさ」

古城がそう伝えると霊斗が気だるげな表情をしながらゲートを開く。

そして、そのゲートを潜ると目の前に広がったのは地中海風のコテージだった。

「おいおい……本当にタダでこんなとこ泊まっていいいのかよ……」

古城がそう呟くと、背後から矢瀬が古城の肩に手を回して言う。

「ああ、ただし条件があるけどな?」

そう言って意地の悪い笑みを浮かべる矢瀬。

「条件?」

嫌な予感をひしひしと感じながら浅葱が聞く。

その時、ブルエリの設備であろう電動カートが一台、コテージの庭に乗り込んできた。

そこから降りてきたのは施設の従業員であろう女性だった。

「チーフ、お疲れ様です」

矢瀬がそう声をかけると、チーフと呼ばれた女性は古城、浅葱、霊斗、アスタルテを順番に見て、首肯く。

「うん、いいじゃない!この子達なら大丈夫そうね」

「ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか?なにが大丈夫なんです?」

そう霊斗が聞くと、チーフは不思議そうな表情をしたあと、矢瀬の方を向いて聞く。

「あれ、まだ説明してない?」

「ええ、これからっすね」

矢瀬がそう答えると、チーフは首肯いて言った。

「じゃあ、まずは高校生たちは水着に着替えてきてね。早速働いてもらうから!」

一瞬全員が固まったあと、言葉の意味を数秒かけて理解する。

「「「「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁぁぁ!見て雪菜ちゃん!魔獣がいっぱいだよ!」

そう言って喜ぶ凪沙の後ろを歩きながら雪菜が答える。

「うん、すごいね……こんなにたくさんの魔獣なんて滅多に見られないもんね」

そう言いながら雪菜は凪沙の横顔を見つめる。

すると、その視線に気づいた凪沙が首を傾げる。

「どうしたの、雪菜ちゃん?」

「えっと、魔獣とかは大丈夫なのかなって思って」

そう、凪沙は魔族恐怖症なのだ。

その類縁である魔獣は平気なのかと問う雪菜。

「そっか、心配かけちゃった?」

「ううん、大丈夫ならいいんだけど……」

心配そうな雪菜にを安心させるように凪沙が言う。

「確かにまだ魔族は怖いって思うけど、ウチには霊斗君もアスタルテちゃんもいるから。最近は少しずつだけど慣れてきたんだ」

「そっか……」

「それにね、男性恐怖症の人でも動物のオスは平気でしょ?それとおんなじだよ」

そう言って笑う凪沙。

しかし次の瞬間、その表情が変わる。

凪沙と雪菜は地面が揺れるような錯覚を覚え、咄嗟に手すりを掴む。

「なに……今の……」

呆然とする凪沙。

一方雪菜は感じた魔力の波動について考えていた。

(今の巨大な魔力は一体……少なくとも先輩や霊斗さんの眷獣では……)

しかし、直後の凪沙の悲鳴で雪菜は我にかえる。

「雪菜ちゃん!魔獣が……!」

見ると、怯えた魔獣が水槽のなかで暴れている。

しかし、雪菜一人ではどうすることも出来ない。

己の無力さに雪菜が絶望しかけた時だった。

「静まれ、獣ども」

冷たく凍てつくような言葉と共に放たれたのは、先程の魔力よりももっと濃密な冷気だ。

すると、魔獣たちは一斉に動きを止める。

その瞳に映るのは絶望の色だ。

恐怖を上回る絶望で魔獣の動きを止めたのだ。

そして、その冷気を発しているのは凪沙だった。

しかしその様子は普段の凪沙の様子とは全く違う。

「これは……憑依……?あなたは一体……」

雪菜がそう呟いた瞬間、凪沙の身体から力が抜ける。

転倒しそうになった凪沙を雪菜が支えると、凪沙は意識を取り戻した。

「ん……あれ、魔獣は?」

「それは……」

雪菜がどう答えるか迷っていると、声をかけてくる者がいた。

「怖かったわね、今の」

「え、あ、はい……」

声の方を雪菜が振り向くと、そこには三脚ケースを肩に掛け、カメラを持った少女がいた。

その少女は不思議な笑みを浮かべながら雪菜に聞く。

「写真、撮らせてもらえて?」

「いえ、今はちょっと……プライベートなので……」

「そう、残念」

雪菜の返事にクスリと笑うと、少女は去っていった。

結局なにがしたかったのか分からず戸惑う雪菜に凪沙が声を掛ける。

「今の人、知り合い?」

「ううん……会ったことは……ないと思うけど」

雪菜の返事を聞いた凪沙は少女の去っていった方を見ながら、でも、と続ける。

「雪菜ちゃんとか霊斗君と雰囲気が似てたよね」

凪沙の台詞は、雪菜も僅かに感じていたことだった。




こんな所ですかね。
また何か気になる点等ありましたらご指摘お願いします。
ではまた次回。


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黒の剣巫編IV

久々の投稿です。


「古城!焼きそば3個追加で!」

「わかった!今すぐ作る!」

浅葱の注文に答えながら古城は手際良く鉄板に油を引いていく。

「だぁぁぁ!暑い!焼ける!」

「文句言うな……あ、古城、焼きそば2つ追加」

「勘弁してくれぇぇ!」

霊斗がぐったりとしながら古城にオーダーを伝える。

丁度お昼時の為、かなり忙しく働いている古城たち3人であった。

「……どうしてこうなった……」

そう呟きながら霊斗は数時間前の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってくれ!働くってなんの事だ!?」

古城がそう言って矢瀬に詰め寄る。

「いやー、バイトのシフトに欠員が出ちまってな。タダで招待する対価みたいなもんだよ」

そう言って矢瀬は古城の肩を叩く。

「まぁ、頑張ってくれ。俺は家の方の仕事あるからもう行くわ。なんかあったらチーフに聞いてくれ」

そう言って矢瀬は何処かへと去って行った。

「勘弁してくれ……」

古城はそう言って項垂れる。

その横で霊斗がチーフに聞く。

「それで、俺たちは何をしたらいいんですか?」

霊斗の問いに対して、チーフはにっこりと笑って答えた。

「君たちには私の屋台を手伝ってもらいます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく人が減ってきたな……」

そう言って霊斗は汗をぬぐう。

「お疲れ様です、霊斗さん」

そう言って霊斗に冷水を差し出すアスタルテ。

ここまで一人でドリンク関連をこなしていたため、その顔には濃い疲労の色が見える。

「ああ、アスタルテもお疲れさん。ドリンク、任せちまって悪かったな」

「いえ、お客さんがあんなにいたらしょうがないです」

「まぁ、あんなに来ると思ってなかったからなぁ……正直もっと楽かと思ってた」

そう呟くと霊斗は水を一気に飲んだ。

するとそこに休憩に入っていた浅葱が戻ってきた。

「霊斗、アスタルテちゃん、お疲れ様。休憩入って良いってチーフが言ってたわよ」

「おう、浅葱はまた店番か?」

「そうね。でも古城ももうすぐ戻ってくるし大丈夫よ」

「わかった。んじゃ行くか、アスタルテ」

「そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗とアスタルテがしばらく休憩していると、外から浅葱と古城が騒いでいる声が聞こえてきた。

「またなんかやらかしたのかあいつら」

「ですかね……?」

問題が起きたのなら止めなければならないと、霊斗は渋々スタッフルームから出る。

するとそこには狼狽える古城と、呆れてため息をつく浅葱、そして泣きじゃくる少女がいた。

「古城、お前……」

「れ、霊斗!?これは違うんだ!」

「あぁ、わかってるさ。お前が幼女でも構わず手を出す変態だってことくらいな」

「最低ですね、古城さん」

霊斗とアスタルテに冷ややかな視線を向けられ、古城は力なく呟いた。

「頼むから話を聞いてくれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、紗矢華が……」

そう言って霊斗は考え事を始める。

その隣では浅葱がパソコンを操作している。

「古城さん、他には何かないんですか?」

「ああ、俺が聞けたのは今話したので全部だ」

そう言って古城は首を横に振る。

古城はたった今、霊斗たちに少女―――結瞳から聞き出した情報を話していた。

「獅子王機関が関わってるから下手に警察にも届けられないしな……」

古城がそう言うと、浅葱が伸びをしながら聞く。

「獅子王機関ねぇ……一体どういうところなの?」

「いや、それは霊斗に聞いたら早いだろ」

そう言って古城は説明を求めるように霊斗を見る。

「獅子王機関は主に国際的な魔道犯罪を取り締まるための機関だ。対魔族、対人戦のエキスパートを養成するための機関でもある……だけど、組織内でも不透明な部分が多くてな……」

「つまり、裏でもっと別のことをしてるかもしれないってこと?」

浅葱がそう聞くと、霊斗は無言で首肯く。

「ふーん……あ、そうだ。結瞳って子は絃神市の市民データベースには居なかったわ。世界中の魔族登録データベースにもね」

「そうか、ますますキナ臭くなってきたな」

霊斗はそう言うと、部屋の外へと出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔獣庭園の裏手。関係者以外立ち入り禁止の区域を黒いセーラー服を着て、三脚ケースを担いだ少女が歩いている。

すると、少女の携帯が鳴る。

「もしもし、何か用かしら」

電話の相手が何かを言い終わると、少女は微笑みながら言う。

「そう、そちらに行っていたのね。探す手間が省けたわ」

少女がそう答えると、相手が再び何かを言う。

それを聞いて、少女は先程とは違った笑みを浮かべる。

「ごめんなさいね、今はまだ言えないの」

その瞳に嗜虐的な光を宿しながら少女は続ける。

「いずれわかるわ、その時がくれば」

そして少女は通話を切った。




ひさびさすぎて文がおかしいかもしれないです。
何かおかしな点に気づいた方がいたら教えてくださるとありがたいです。
ではまた。


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黒の剣巫編Ⅴ

コテージの庭。

矢瀬が肉を焼きながらはしゃいでいる。

その隣でうんざりしたように火の管理をしている古城に近づいて、霊斗は言った。

「なあ古城。あれはどうしたんだ?」

「あー……ちょっとな」

二人の視線の先には不機嫌そうに海を眺めている浅葱がいた。

「またお前がなんかしたのか」

「いや、あれはおあいこだろ……」

事情を聞くと、どうやら浅葱が着替えている部屋に古城が侵入してしまったらしい。

しかし、その直後に目覚まし時計で攻撃されている為、お互い様だというのが古城の意見である。

「ちゃんと謝ったのか?」

「謝ったよ……それでもダメだからこうなってるんだろ……」

「確かにな……古城焼けた肉寄越せ。浅葱に渡してくる」

「ああ、頼んだ」

霊斗は古城から肉の載った皿を受けとると、浅葱のもとへ向かった。

「浅葱、肉食うか」

「ありがと」

素っ気なく答えながら皿を受け取り、無言で食べ始める。

そんな浅葱の様子を見て、霊斗は言う。

「なんだ、古城に誉めてもらえなかったから拗ねてるのか」

「んなっ!?拗ねてなんかないわよ!」

図星だったのか、顔を真っ赤にしながら浅葱が霊斗の足を踏む。

しかも小指をピンポイントでだ。

「ぎゃぁぁぁぁ!?いてぇぇぇぇ!」

「あんたが馬鹿なこと言うからでしょ!」

足を押さえて悶絶する霊斗を無視して浅葱は次々と肉を食べていく。

そして数分後には矢瀬と古城が絶望的な表情をしているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊斗はコテージの屋上で電話を掛けていた。

数回のコールのあと、電話が繋がる。

すると電話口から気だるそうな少女の声がする

『なにかしら、このあと依頼者(クライアント)と会う約束があるのだけれど』

「時間は取らせないから安心しろ。その依頼者に関してだ。」

霊斗がそう言うと少女は軽くため息をついて言うう。

『依頼者が誰かなら教えないわよ』

「それは大体見当がついてるからいいさ。それより紗矢華には手を出す気でいるのか、そいつは」

『今のところはないわ。もっとも、彼女の今後の態度次第でしょうけど』

「そうか……何かあったらお前も手を貸してくれるんだよな、霧葉」

霊斗がそう聞くと、少女は少しの無言を挟んで答える。

『ええ、私の手に終えることなら、ね』

そして電話が切れた。

携帯をポケットにしまって、霊斗は呟く。

「手に終えない事が起きるフラグだろ、それ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンクリートで囲まれた部屋。

その中で少女――紗矢華は手錠と格闘していた。

「ああもう!なんで魔族用の手錠なんて使ってるのよ!?外れないじゃない!!」

そんな紗矢華のいる部屋に新たな少女が入ってくる。

黒いセーラー服を着た、長い黒髪の少女である。

「獅子王機関の舞威姫も拘束してしまえば無力なものね」

「そういうあなたは太史局の六刃神官ね。江口結瞳を使って何をしようとしてるの?」

「聞かれて正直に答えると思う?」

そう言って少女は紗矢華の足元に剣を投げる。

獅子王機関の秘奥兵器の一つ、六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)だ。

そして少女は紗矢華の手錠を外し始める。

「なんのつもり?」

「単なる気まぐれよ。もっとも、代わりに少し協力してもらうけれど」

自由になった手首を回しながら紗矢華は聞き返す。

「協力?」

「ええ。私は太史局の六刃神官、妃崎霧葉よ。よろしく、煌坂紗矢華」

「なんで私の名前を……!?」

動揺する紗矢華の前で霧葉がどこからか取り出した武器――銀色の双叉槍(スピアフォーク)だ――を振る。

そこから発せられる不快な音響を聞いたのを最後に、紗矢華の意識は途切れた。



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黒の剣巫編VI

かなり久々の投稿です。



霊斗は誰かがゴソゴソと動く音で目を覚ました。

周りに散らばるトランプを見て、寝落ちしていたことに気づく。

その周囲では他のメンバーも眠りこけている。

しかし、その中で一人だけ姿が見当たらない。

視界の端で古城がソファーから転げ落ちるのを見ながら霊斗が部屋を出ようとしたときだった。

「霊くーん……どこ行くの……?」

寝ぼけたような声と共に虚空から天音が現れる。

「天音?お前今日1日何して―――」

その先は声にならなかった。

「―――ッ!?」

眼前に広がる天音の顔。

仄かに香る甘い匂い。

「っは!天音、お前いきなり何を!」

天音から勢いよく離れながら霊斗が叫ぶ。

そんな霊斗に再び近づきながら天音が言う。

「今日ブルエリ行くって教えてくれなかった」

「え?」

よく思い出してみると、天音には一言も言っていない。

「でもお前にも聞こえてただろ?」

霊斗がそう言うと、天音は立ち止まって俯く。

「天音?」

霊斗が声を掛けると、天音は顔をあげる。

その目には涙が浮かんでいた。

「お前、なんで泣いて―――」

「もう霊君なんて知らない!バカ!」

そう言うと天音は部屋を飛び出していった。

「なんなんだ一体……」

そのとき、戸惑う霊斗の背中から、誰かが抱きついてくる。

「霊斗さん……」

「あ、アスタルテ?」

混乱する霊斗の腰に回されている手が少しずつ移動していく。

だんだんと下の方へ―――。

「まてまてまて!お前は何をしようとしている!?」

急いでアスタルテの手を振りほどき、距離をおく。

「何って―――夫婦の営みです」

「よし、落ち着こう。まず俺たちは夫婦ではないしみんな寝てる横でそんなことできないし第一まだそんなことするには早すぎるだろうがぁッ!?」

「大丈夫です、外に出れば問題ありません」

「問題だらけだよっ!」

そう言って逃げようとする霊斗の腕が掴まれる。

異常なまでに強い握力に骨が軋み始める。

「いてててて!?折れる!骨折れるから!!」

悶絶する霊斗を、紅潮した顔で見つめながらアスタルテが言う。

「さあ霊斗さん、覚悟を決めてください」

「嫌だぁぁぁぁぁ!」

どんなに力を入れても振りほどけないこの状況に霊斗が絶望しかけたときだった。

突然アスタルテの身体が青っぽい火花に包まれる。

そのままアスタルテは意識を失う。

「な、なんだ?」

未だに混乱から立ち直れない霊斗の耳に聞こえてきたのは雪菜の声だった。

「大丈夫ですか、霊斗さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何が起きてるんだこれ」

「それは彼女に聞いた方が早いかと……」

雪菜はそう言うとコテージの屋上の方を見上げる。

「まさか、結瞳か?」

「ええ、恐らく」

「仕方ない、行くか」

霊斗が言うと二人は頷き、階段を上っていった。

それを確認した霊斗は、足下に倒れているアスタルテを揺さぶる。

「おい、アスタルテ。起きろ」

「ん……霊斗さん?どうして私はこんな所に……」

目を覚ましたアスタルテはそこまで言うと、何かを思い出した様に硬直する。

「あ、あの……霊斗さん……」

「ん?どうした?」

霊斗がそう聞き返すと、アスタルテは顔を真っ赤にしながら言う。

「さっきはその……お見苦しい所をお見せしまして……」

「あぁ、あれな。その話は後だ。先に結瞳の所に行くぞ」

「結瞳ちゃんに何か……?」

「後で説明する。早く行くぞ」

アスタルテが霊斗の言葉に頷き、二人は屋上へと上った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古城と雪菜が屋上に上がると、そこでは結瞳が待ち構えていた。

「結瞳……これはお前の仕業なのか?」

古城が聞くと、結瞳は歳不相応な笑みを浮かべて言う。

「そうですよ?でも、お兄さんたちには効かなかったみたい」

そして結瞳は魔力で翼を紡ぎ、宙に浮かぶ。

「お前……魔族だったのか……?」

困惑する古城の横で雪菜が呟く。

「精神支配をする魔族……まさか、夢魔……?」

「正解です。まぁ、本当の結瞳は夢魔の力なんて使えないんですけど」

その結瞳の言葉で、古城はある結論に辿り着く。

「多重人格か……今のお前は魔族の人格って訳か」

「正しくは結瞳が嫌いな夢魔の力だけで"造られた"人格ですよ?本人は自覚してないみたいですけど」

そう言って結瞳は笑う。

そんな結瞳の背後に不意に人影が現れる。

「そいつは面白い事を聞いたな」

いつの間にか結瞳の背後に回り込んでいた霊斗が、結瞳を羽交い締めにする。

「なっ……なにをするんですか!?あなたも私たちの協力者じゃ……!」

「俺が協力するのは"奴"に関してだけだ。お前に協力する訳じゃない」

そう言って霊斗は拘束用の魔術を発動する。

しかし、発動直前で魔法陣が破壊される。

「なっ……!?擬似空間切断!?」

その攻撃が飛来した方を霊斗が向く。

そこには二人の少女が立っていた。

「その子を拘束しないでもらえるかしら、暁霊斗」

「霧葉……」

霊斗が視線で理由を問う。

「そうね、今はまだ、話せないわ。残念ながらね」

霧葉はそう言って一歩横にずれる。

そうしたことで、彼女の後ろにいた人物が一歩前に進んでくる。

「"莉琉"を連れていく間、彼女が相手をするわ」

その人物を見て雪菜が息を呑む。

「さ、紗矢香さん……?」

その雪菜の呟きを合図にしたかのように、紗矢香が"煌華鱗"を構えて突進する。

「くたばれ!暁古城!」




おかしな所等ありましたら、ご指摘お願いします。


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黒の剣巫編Ⅶ

超久々の投稿です。
待ってた人とかは居ないと思いますが……。


振り抜かれる煌華鱗をギリギリで回避し、古城が声を上げる。

「煌坂!?お前っ!危ねぇだろ!」

しかし、古城の声が届いていないのか、紗矢華は煌華鱗を弓に変形させ、矢を放つ。

「姫柊!どうなってんだこれ!?」

「わかりません!ただ、今の紗矢華さんは……」

雪菜がそう言って、古城に向けて飛来する呪術砲撃を撃ち落とす。

「行きましょう、莉琉。彼女が時間を稼いでいる間にね」

霧葉は結瞳に向けて手を伸ばす。

結瞳はそれに向けて頷くと、魔力の翼を羽ばたかせる。

だが次の瞬間、その翼が砕ける。

「待てよ……きっちり説明してもらうぞ、霧葉」

「霊斗……邪魔しないでもらえるかしら?あなたは私たちの協力者のはずでしょう?」

「今後協力するかどうかは、そっちの計画によって決める」

無差別に放たれる紗矢華の呪術砲撃を結界で防ぎながら、霊斗が霧葉を睨みつける。

古城が紗矢華の正気を取り戻すまで時間を稼げればいい。

しかし、そんな霊斗に向けて、霧葉が武器を構える。

鈍い銀色に光る双叉槍(スピアフォーク)が展開し、音叉の様に共鳴する。

「太史局の六刃神官と獅子王機関の剣凰……どちらが強いか試してみる?」

「時間がかかれば不利になるのはそっちだと思うけどな。じきに古城が紗矢華の精神支配を解く」

「……そうね、この場は退かせてもらうわ」

「まぁ、そんな簡単に逃がさないがな」

霊斗がそう言って、霧葉に接近する。

空間操作で氷牙狼を取り出し、双叉槍を弾こうとする。

「……残念だけど、この槍の能力を貴方に教えなくて正解だったようね」

その台詞と共に、霧葉の身体が不自然に後ろに下がる。

「なっ……!外した!?」

「擬似空間切断の応用だけど、案外上手くいくものね」

霊斗の攻撃を回避した霧葉は、一瞬の隙を突いて結瞳を抱え上げる。

「これ以上私に攻撃すると、この娘の安全は保証出来ないわ」

「てめぇ……」

「キリハ怖ーい!ねぇねぇ、早く行こうよ!」

結瞳の言葉に頷くと、霧葉は霊斗に向けて言う。

「もうすぐ奴が動き始めるわ。貴方が本当に協力すべきなのは誰か、よく考えることね」

霧葉が再び槍を振ると、二人の姿が一瞬で消える。

「あっ……!くそっ、逃がした!」

霊斗は氷牙狼をしまうと、古城の方を見る。

そこには、腹に煌華鱗を受けながら紗矢華の血を吸っている古城の姿があった。

「ったく、無茶しやがって……」

霧葉を追って行ったのか、雪菜の姿はない。

「あぁ……霊斗、どうにか止めたぜ……」

「いや、止めたって……古城お前、4番目使ったな?」

「あー、まぁ、な……」

修復出来なかったら一体どうするつもりだったのか、考え無しの古城にため息を吐き、紗矢華の肩を叩く。

「おーい、紗矢華ー、起きろー」

「ん……んぅ……あれ、霊斗……?なんでここに……」

ぼんやりとした表情で周囲を見渡す紗矢華。その瞳が、自らと抱き合ったまま腹から血を流す古城を捉える。

「あ、暁古城!?なんであんたと抱き合って!?っていうかその怪我何!?」

「覚えてないのかお前、結瞳に操られてたんだぞ?」

「結瞳……江口結瞳!あの子は!?」

ようやく自分に起きていたことを思い出し始めたのか、青ざめる紗矢華。

「そ、その……暁古城、ごめんなさい……私、どうかしてて……」

「いや、気にするなよ。俺が勝手にやった事だしな。操られてたんだから、煌坂は悪くないさ」

「そ、そう……ありがとう……」

紗矢華がそう言って頬を染めている所に、雪菜と浅葱が駆け寄ってくる。

「何よこの穴!?どうすんのよこれ!」

「先輩!紗矢華さん!無事ですか!」

「古城以外は無事だ。それより雪菜、結瞳は?」

「それが……」

浮かない表情で雪菜が事の顛末を話す。

最後まで聞いた所で、霊斗がため息を吐く。

「やっぱり霧葉に操られてたのか……しかも太史局の双叉槍なんて面倒な装備も使って」

面倒臭そうに言う霊斗に、紗矢華が聞く。

「霊斗はあの六刃の女と知り合いなの?」

「まぁ、詳しい事は言えないが、とある魔獣に関しての防衛作戦で一時的に協力関係にある、ってところだな」

霊斗の魔獣という言葉に反応した雪菜が言う。

「海底の方からの強い魔力を感じた直後に、結瞳ちゃんは夢魔の力を自分から解放して飛び去ってしまったんですが……何か関係が?」

「まさか……霊斗、あなたアレの相手をする気なの?」

紗矢華が信じられない物を見るような目で霊斗を見る。

「なんだ、紗矢華も知ってたのか……まぁ、島にあんなモノ近づける訳にはいかないからな」

霊斗はそう言って海の方を眺める。

そんな2人に向かって古城が言う。

「なぁ、2人だけで納得してないでいい加減教えてくれ。アレってなんだ?結瞳は何をしようとしてるんだ?」

古城の質問に対して、霊斗が答える。

「神々の時代に生み出された超弩級生態兵器……"レヴィアタン"。それを世界最強の夢魔、リリスの能力で操り、絃神島への接近を回避する。それが、今回俺が協力している計画だ」

「世界最強の……夢魔……」

古城が唖然とする。

「ただし、俺が知らされていた計画とはかなり違う内容で進行している。恐らく太史局以外に別の組織が関わっている……だよな、紗矢華」

「ええ。太史局が協力しているのは、このブルーエリジアムの魔獣庭園を運営している企業、クスキエリゼ」

「そいつらがレヴィアタンを掌握しようとしてるって事か」

古城が納得したように言う。

その隣で霊斗が紗矢華に聞く。

「恐らく、クスキエリゼの研究所に、結瞳の能力を補助するための機器があるはずなんだが、わかるか?」

「人工知能ね。見たわよ。多分、外部からハッキングができれば支配権を奪えるはずよ」

「わかった。後はレヴィアタン本体か……クスキエリゼの潜水艇があるだろうから、それを使えばいけるか……」

霊斗はそう言って、古城たちの方に向き直る。

「俺の仕事に巻き込む形になって悪いが、協力してくれ。結瞳を連れ戻す為に」

「ああ、元からそのつもりだ」

「私が任務失敗しちゃったのも原因だから……」

「先輩が行くんでしたら、私も」

「ハッキングなら私が必要でしょ、今更水臭い言い方しないの」

皆が口々に答え、霊斗は頭を下げる。

「すまない、助かる」

そんな霊斗の袖を引っ張る者がいた。

「ん……?あ、アスタルテ、どこに居たんだ…?」

「先程までコテージの周囲で、薔薇の指先による結界を張っていました」

「それは……ご苦労さま……」

「ありがとうございます。それにしても、私抜きで随分と大事な話をしていたようですが」

「えっと……それは……」

「私は戦力として数えていないと、そういうことですか」

「いや、そういう訳では……」

夥しい量の冷や汗をかきながら、霊斗が目を逸らす。

「もういいです。霊斗さんのバカ」

「うぐっ……」

冷ややかに告げるアスタルテと、膝から崩れ落ちる霊斗。

それを見ながら古城が呟く。

「大掛かりな作戦の前にしては、締まらねぇなぁ……」



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黒の剣巫編Ⅷ

「なぁ、アスタルテ……俺が悪かったよ、いい加減機嫌直してくれよ……」

「別に怒ってませんし、機嫌なんか直しようがないです」

霊斗と目も合わせずに言うアスタルテ。

そんな二人を見て古城が言う。

「とりあえず静かにしないか?敵に見つかったらどうするんだ?」

「そうだな……まずはそっちだな」

そう言って霊斗は物陰から魔獣庭園の様子を伺う。

入口の門の前に人はいない。

「よし、行くぞ」

霊斗の合図で紗矢華が門を破壊しようと煌華鱗を振りかざす。

しかし、動きが途中で止まる。

魔獣庭園の更に奥、海の方から強力な魔力を感じたからだ。

「なにこれ……!?」

「マズイな……動き出したか……」

霊斗がそう言うのと同時に、魔獣庭園の中が騒がしくなる。

レヴィアタンの魔力に怯えた魔獣が一斉に暴れだしたのだ。

「どうすんだよこれ!」

「煌華鱗の範囲催眠で大人しくさせるしかないだろ!紗矢華!行けるか?」

「無理よ!範囲が広すぎてカバーしきれないわよ!」

舌打ちして、霊斗は古城に言う。

「古城!眷獣で1箇所に集めるぞ!」

「やっぱりこうなるのかよ!疾く在れ(きやがれ)双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!」

降臨せよ(こい)天照大御神(アマテラス)!」

二体の眷獣が中央に向けて魔獣を追い立てる。

「今だ!紗矢華!」

「獅子の舞女たる高神の真射姫が讃え奉る!極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、妖霊冥鬼を射貫く者なりーー!」

放たれた呪矢が空中に魔法陣を描き、そこから鎮静作用のある光が放たれる。

光を浴びた魔獣達は段々と大人しくなっていき、その場で眠りについた。

「なんとかなったか……」

眷獣の実体化を解き、古城が言う。

「まぁ、今ので俺達の存在はバレちまった訳だが」

霊斗はそう言って眷獣を人間体にする。

そこには未だにムスッとしている天音がいた。

「お前もか……」

疲れ果てたように霊斗がため息をつき、古城に助けを求める様な視線を向ける。

「俺にはどうにも出来ねぇぞ」

「はぁ……行くか……」

そう言って歩き出した霊斗の前に双叉槍が振り抜かれる。

「霧葉……」

「それが貴方の選択なのね、霊斗」

「そもそも聞いてた話と違うからな。詐欺だろ」

そう言って霊斗が氷牙狼を構える。

隣では雪菜も雪霞狼を構えている。

しかし、その間に紗矢華が割って入る。

「雪菜、霊斗。ここは私に任せて先に行って」

「でも、紗矢華さんは……」

「この女には借りがあるもの。倍返ししてやらなきゃ気が済まないわ」

「わかった、任せる」

霊斗はそう言って先に向かって走り出す。

その他の面々も霊斗を追っていく。

「あら、一度負けたのを忘れたのかしら?勝算のない勝負に挑む事ほど愚かな事はないわよ?」

「前は江口結瞳を護りながらだったから実力の半分以下で戦ってたのよ。本気出したらあなたなんか相手にならないわよ」

「言ってくれるじゃない……本気で殺すわよ?」

霧葉が獰猛な笑みを浮かべて双叉槍を構える。

それに合わせるように煌華鱗を構えて紗矢華が言う。

「殺せるもんなら殺してみなさい……対魔族戦闘のエキスパートの力、見せてあげる」

紗矢華の挑発的な台詞と共に、激しい戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなのよこの厳重なプロテクトは!」

コテージでノートパソコンを睨みつけながら浅葱が言う。

『面倒な防壁だな。案外同業者がいるかもな、嬢ちゃん』

「そう思うならもっと処理能力上げなさいよポンコツAI!」

『ポンコツなのは俺じゃなくてこのパソコンだろうよ。ノーパソじゃスペック不足にも程があるぜ』

そう言ってモグワイがケケッと笑う。

浅葱自身ノートパソコンでは処理能力が足りないのはわかっているが、それでももどかしいことに変わりはない。

そこに、唐突なボイスチャットが割り込んでくる。

『お久しぶりでござるな女帝殿!』

聞いた事のない少女の声だった。

何となく喋り方に聞き覚えがない訳では無いが、浅葱の知り合いにこんな幼い声の少女はいない。

「誰よ、あんた……ってか女帝って呼ぶな!」

『誰とは酷いでござるな女帝殿!共に仕事をした仲間ではござらんか!』

「仕事って……まさかその喋り方、あんた"戦車乗り"!?」

戦車乗りとは、浅葱が公社でしているバイトの同業者で、何故か侍口調で喋る謎の人物だった。

『ボイスチェンジャー無しで話すのは初めてでござるな、女帝殿。とはいえ今は敵同士、呑気にお喋りしてる場合ではないでござる』

「このセキュリティはあんたが作ったのね……それならこの硬さも納得だわ」

そう言って浅葱は再びプロテクトを破りにかかる。

『あの女帝殿とこうして戦うことが出来るとは、拙者ワクワクするでござる!』

「こっちはちっともワクワクしないわよ……まぁ、すぐぶち抜いてやるから覚悟しなさい」

『拙者への挑戦でござるな?戦車乗り、リディアーヌ・ディディエ、その勝負に乗らせていただく!』

戦車乗りーーリディアーヌがそう言うと同時に、浅葱のパソコンのディスプレイに複数の防壁が展開する。

「面倒ね……モグワイ!このプログラムを流して!」

『了解だぜ嬢ちゃん。しっかし、喋りながらこんなプログラム組むなんてどんな思考回路してんだか』

「無駄口叩く暇があるならその分処理能力に回しなさい!本気で行くわよ!」

浅葱はそう言うと別のプログラムを即興で組み始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう出発した後か……一足遅かったな」

霊斗の視線の先にはもぬけの殻となった格納庫があった。

「出発したって……結瞳はどうなったんだよ!」

「今頃は主犯と一緒にレヴィアタンの近くだな。沈んでないといいが……」

「主犯、ですか?」

霊斗に雪菜が聞く。

「ああ、恐らく主犯はクスキエリゼの会長、久須木和臣。奴は前から怪しい動きをしてたからな、獅子王機関でも警戒対象になっていたんだ」

「そいつが結瞳を利用しようとしてるんだな?」

「ああ。早く追わないと最悪のテロが起きる。確かこっちに予備の潜水艇があったはずだ」

そう言って霊斗は格納庫の奥に走っていく。

格納庫の最奥にあった扉を開けると、予備の潜水艇が二台残っていた。

「そっちには古城と雪菜で乗ってくれ。アスタルテと天音はこっちだ」

霊斗はそう言って潜水艇の扉に手をかける。

「待てよ、キーがないと動かないだろ?どうするんだ?」

「そうだったな、ほら」

霊斗が古城に向けて鍵を投げる。

「なんで持ってんだよ……」

「だから、レヴィアタン撃退の為に協力してたって言ったろ。まぁ、一つしかないんだけど」

「ダメじゃねぇか!どうするんだよ!」

「まぁ見てろって」

そう言って霊斗は針金を二本取り出す。

それを鍵穴に入れ、数秒ほど動かす。

「はい、開いた」

霊斗はそう言って潜水艇のハッチを開ける。

「お前ってほんと無駄な技能ばっかりもってるよな……」

「今役立ったんだから無駄じゃないさ。ほら、そっちも早く準備しろ。急がないと間に合わなくなる」

霊斗はそう言って潜水艇に乗り込む。

アスタルテは霊斗の後に続き、天音は実体化を解く。

それを見て古城達も潜水艇に乗り込む。

ハッチを閉めると、無線で霊斗の声が聞こえてくる。

『そっちは追従運転にしてくれ。ディスプレイに出てるはずだ』

「これか?押せば良いのか?」

『ああ。レヴィアタンまで最速で向かう。酔わないようにしろよ』

「は?酔わないようにって、どうやってーー」

古城がそう言った瞬間、潜水艇は急発進を始めた。

「先に言えぇ!」

古城の悲痛な叫びと共に、潜水艇は海中へと進んでいった。




観測者の宴で戦車乗りは出し忘れてたので、今回が初登場になります。


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黒の剣巫編Ⅸ

かなり久々の投稿になります。



海中でもぐんぐんと加速していく潜水艇の中で古城は霊斗に無線で聞く。

「おい霊斗!これあとどのくらいで着くんだ!?」

『もうちょっとだ。距離で言えばあと1キロくらいだが…見えてきたな』

「は?どこだよ……」

『目の前の壁みたいなやつだ』

「これ全部そうなのか…?洒落になってねえぞ…」

想像以上のサイズ感に困惑しながら古城は額の汗を拭う。

「それで、結瞳たちは?」

『ここからじゃ確認できないな。たぶんもうレヴィアタンの中だろう』

「マジかよ……早くしねぇと」

『ああ。とにかくまずはレヴィアタンに突入する。古城、ヤツでレヴィアタンの腹を食い破ってくれ』

「食い破れって……他にないのか?」

『ないな。迷ってる暇はないぞ』

霊斗の言う通り、ここで迷っていてはいつまでも結瞳を助けに行くことはできない。

「やるしかないってことか……」

2つの潜水艇が浮上し、霊斗の操作でハッチが開く。

「しくじるなよ!古城!」

「ああ!疾く有れ(きやがれ)龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!」

古城の呼び声と共に、双頭の龍がレヴィアタンに向けて顎を開く。

しかし、レヴィアタンに触れる直前で弾き返される。

「なんだ!?」

「生体障壁か……雪菜!行くぞ!」

「はい!雪霞狼!」

「氷牙狼!貫けぇ!」

雪菜と霊斗の寸分違わぬ突きが生体障壁を貫く。

同時に古城が再び攻撃を繰り出す。

「喰い破れ!龍蛇の水銀!」

今度は確かにレヴィアタンの腹を喰い破ると、古城は眷獣の召喚を解く。

「潜水艇ごと飛び込むぞ!しっかり捕まってろよ!」

霊斗がそう言うと同時に、潜水艇がフルスロットルで発進する。

「そういう事は先に言え――!」

古城の絶叫と共に、潜水艇はレヴィアタンの中へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ準備は終わった?モグワイ」

『いつでも行けるぜ、嬢ちゃん』

その返答を聞き、キーボードを絶え間なく叩き続けていた浅葱の手が止まる。

『どうしたでござるか、女帝殿!よもや降参でもするでござるか?』

「そんな訳ないでしょ?今からあんたに警告してあげようと思っただけよ」

そう言って浅葱はエンターキーを押し込む。

「全力で防御しなさい。まぁ、もう遅いけどね」

『な……!ハッキング!?一体何処から!』

「あんたのとこの会社、セキュリティ甘いわよ。もっと良いファイアウォールでも作ってやんなさい」

浅葱の一言に、リディアーヌが息を飲む。

『まさかディディエ重工のコンピュータを経由して……!?相手は軍事企業でござるよ!?』

「だから余計にセキュリティはしっかりしなさいって言ってるの。改善点が見つかって良かったじゃない」

リディアーヌの攻撃が止み、浅葱のパソコンにクスキエリゼの研究所へのアクセス開始を知らせるウインドウが開く。

『ここまでやられてしまったら拙者に勝ち目は無いでござるな……流石は女帝殿』

「負けを認めるのね。だったら教えなさい、あんたがクスキエリゼに協力して何をしていたのか」

『それは……自分の目で見た方が早いでござろう』

リディアーヌがそう言うと同時に、浅葱のパソコンがクスキエリゼのサーバーへと接続される。

そこには大量のグラフの羅列とシステム名が表示されていた。

「LYL……?これは……」

『江口結瞳のリリスの力を引き出す為のシステム。所謂仮想人格でござる』

また面倒なものが現れた、とため息をつきながら浅葱は呟く。

「勘弁してよね……」



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