お姉さんが処女のままなのは間違っている。 (ルコ)
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欲情ジャンピング

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やってしまった…。

 

 

am2:00を回ろうとする深夜に、私は水圧の強いシャワーを浴びながら項垂れる。

 

大きな鏡に映った自らの身体を眺めながら、先程まで()()()が優しく触れていた下部をそっと触れた。

 

「…っ。…ん」

 

芯から感じる絶頂感を思い出しながら、艶かしい声が漏れないように口を押さえつつも、私は指をーー。

 

……節操が無い。

 

後悔していたと思えば直ぐにコレだ。

 

未成年の男の子と身体を交えたことに対する後悔。

それも妹の同級生。

もっと言えば妹の想い人。

我ながら最低な姉だと思う。

 

最低だ……。

 

そう思いながら、尚も指で下部を刺激し続ける最低な姉は、一山の絶頂を迎えて息を荒げる。

 

 

「〜〜っん!…ん、はぁ、はぁ」

 

 

糸を引く指を舐めながら、シャワーで軽く身体を洗い流して浴室を出た。

 

部屋に備え付けられていたバスローブに腕を通し、タオルで髪を拭きながら大きなベットの置かれた部屋へと戻る。

 

 

 

そっと、私はベットに腰掛けた。

 

 

寝静まる()を起こさないように。

 

 

「気持ち良さそうに寝ちゃってさ…」

 

 

ふわりと柔らかい彼の髪を優しく撫でてみる。

 

意外と長いまつ毛や整った鼻先。

 

規則正しい寝息を溢す彼の頬は触り心地良く柔らかい。

 

 

「ん…」

 

 

唇と唇が触れるだけのキスをする。

 

舌を絡ませたら起きてしまうから、今は我慢。

 

…我慢。

 

…。

 

 

「ん…、ちゅ、…っ、んっ…」

 

 

枷が外れた女に理性などは無いのかもしれない。

 

寝ている彼の舌に何度も私の舌を絡ませたら唾液を吸い取ると、次第に収まりつつあった下半身の熱が再燃し始めた。

 

触らずとも分かる湿り気。

 

垂れてベットのシーツに染みを作る程。

 

 

「…ゅっ。…っ!…はぁはぁ」

 

 

口呼吸を止められた彼は寝苦しそうに瞑る目を強めた。

 

そんな彼の掛布をそっと捲り、私は乱れたバスローブから覗く白い肌を2度3度舐める。

 

 

「…ん、ちゅ…。ねぇ、起きて…」

 

「…んぅ」

 

 

寝ぼけているのか、彼は目を閉じたままに右手で掛布を探した。

 

 

「起きて…。もう収まらないの」

 

「んー…。…えっ、なんすかこの状況…」

 

 

目を薄く開けた彼はいつもの調子で口を開く。

 

この状況…、それは私とラブホテルに居る状況?

 

それとも、私が全裸で彼へ馬乗りになっている状況?

 

 

どちらにせよ、さほど慌ててる様子の無い彼に、私はもう1度キスをした。

 

 

「ん…。…ねえ、もう1度だけ…、その…、挿れて?」

 

「…。明日、ってか今日も学校なんで…、もう寝ませんか?」

 

「…むー」

 

 

ぷっくりと頬を膨らませてみせるも、彼は呆れたように溜息を吐くだけ。

 

こんな時にでも、キミはキミなんだね。

 

 

「…アソコが濡れて寝れないもん」

 

「淑女がアソコとか言わないでくださいよ」

 

 

馬乗りにのまま、私は切なさを誤魔化すように腰をゆっくりと彼のお腹の上で揺すり始めた。

 

それだけでなのに、どうしてこんなに気持ち良く、幸せな気持ちになるんだろう。

 

 

「…私はもう我慢しないよ。キミの全てを奪ってみせる。髪の毛の1本すら誰にも渡さない」

 

「……」

 

 

そっと彼の下半身に手を伸ばしソレを握る。

 

ピクンと動くソレを、私の濡れたアソコにゆっくりと誘導しようとすると、彼が途端に私の腕を掴んだ。

 

 

「…っ」

 

 

引き寄せられ、気が付けば馬乗りになっていた私の身体はベットに沈むように反転する。

 

 

「…もう、ずっと前から俺はあなたの物になってますよ」

 

 

そんな甘くて優しい事を言いながら、彼は私の唇にそっと触れると、私の腰を丁寧に上げた。

 

 

ぬるぬると、挿れる寸前でソレをアソコに擦り付けて私を焦らしながら、彼は柔和な表情を浮かべてゆるりと笑う。

 

 

「痛みはもうありませんか?」

 

 

「う、うん…。だから、もっと私を気持ち良く……して?」

 

 

膣内に入り込む彼の物。

 

思わず声が出てしまう。

 

 

「…っ!んっ!ぅぅ…。ん〜〜っ!!」

 

 

「陽乃さん…、声、我慢しなくて良いですよ?」

 

 

「だ、だってっ…、恥ずかし…」

 

 

彼の腰が動き出す。

 

膣内で擦れるソレが熱く熱く訴えかけるように。

 

私は腰をヨガらせながら声を上げた。

 

 

 

「んっ!あっあっ…!ぃや、あっ!ん!も、もっと…、もっと、もっとーっ!!…あっ!」

 

 

早くも込み上げる絶頂。

 

 

痙攣した腰を彼は優しく撫でてくれる。

 

 

 

 

「…大丈夫ですか?」

 

 

 

 

「ん、うん…、だ、大丈夫。…あの、だから…、もっと…ーーー

 

 

ーーね?比企谷くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………

………

……

.…

.

.

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やってしまった…。

 

 

また今日もやってしまった。

 

 

私は見慣れた天井を見上げながら恥部に当てていた手をティッシュで拭き取る。

 

倦怠感と後悔に襲われた脳内をゆっくりと整理しつつ、床に脱ぎ散らかしたショーツを拾い上げた。

 

 

「…もうだめよ。こんなのだめ。全然私らしくない」

 

 

誰よりも優れ、誰よりも慕われる。

 

誰にでも公平で、誰からの好意も受け取らない。

 

高嶺の花を具現化した人間とは私のこと。

 

…それは言い過ぎかもしれないけど。

 

私は溜息を吐きながら、発散の材料にしていたスマホをベットに投げ捨てる。

 

スマホに映った()の写真は誰にも見せられない。

 

 

「…妄想もここまできたら病気ね」

 

 

いつからだろう。

 

彼の事を考えると下腹部が熱くなるようになったのは。

 

いつからだろう。

 

彼の写真で性欲を満たすようになったのは。

 

いつからだろう。

 

妄想の中の彼が優しくなったのは。

 

 

現実に戻れば部屋で1人虚しくオナニーに更ける女子大生。

 

今頃、彼は何をやっているのだろうか。

 

受験を終え、卒業を待つだけの彼ならば、わざわざ学校に行く事もなく家でだらだらとしていそうだ。

 

 

「…会いに行く理由が無いじゃない…、バカ」

 

 

彼は妹の同級生。

 

姉の私が会う理由なんて無い。

 

 

「……」

 

 

ねぇ、比企谷くん。

 

キミはいつ、私の処女を奪ってくれるの?

 

 

…なんてね。

 

 

私は自虐的な笑みを浮かべながら服を着直した。

 

せっかくの休日なんだから有意義に過ごそう。

 

オナニーで潰れる1日なんて哀れすぎる。

 

 

 

 

そう思いながら、私はサイフを片手にコンビニへと出かけた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー☆

 

 

 

 

 

 

 

ブルブルブル

 

 

日頃からアプリ専用と化している俺のスマホがポケットで震えた。

その震えに驚いて俺も震えた。

 

コンビニの店員にそれを見られたことが恥ずかしく、俺は立ち読みを止めて店内から出る。

 

憎きスマホを睨みつけながら、俺は震えの原因であるLINEを開いた。

 

 

 

 

由比ヶ浜ーーー

 

やっはろー\(^o^)/

 

今からゆきのん家行かない!?(・_・;?

 

ーーーーーーー

 

 

うむ、相変わらずアホっぽい。

 

こいつよく大学受かったな…。

 

 

比企谷ーーーー

 

行かない。

 

ーーーーーーー

 

 

由比ヶ浜ーーー

 

( ゚д゚)

 

怒ってるの?

 

ーーーーーーー

 

 

数秒と経たない内に返ってきたメッセージ。

 

怒ってる?

 

あぁ、前にも言われた事があったか。

 

確か文字だけだと怒ってるように思われるんだったな。

 

 

比企谷ーーーー

 

行かない!!

 

ーーーーーーー

 

 

我ながら意思の伝わる賢明な文面だと感心するぜ。

 

俺は青く澄み渡る冬の空を見上げ白い息を吐く。

 

マフラーに口元を埋めながら、読みかけの週刊誌に後ろ髪を引かれつつもコンビニの前から立ち去ろうとポケットに手を入れた。

 

 

ふと、少し離れた所に見知った顔を見つける。

 

 

「…雪ノ下さん?」

 

 

しばらく振りに見た雪ノ下さんの顔はどこか浮かない。

 

拗ねているような、ショボくれているような。

 

珍しく覇気の無い彼女は俺に気が付いている様子はない。

 

絡むと碌な事が無いし、気が付かれてないのなら僥倖だ。

 

どうやら姉のんと言えど、日常的に超人的な索敵スキルを発動させてるわけでないようだ。

 

 

「……」

 

 

雪ノ下さんは寂しそうな顔でコンビニに入っていった。

いつもの勝気な顔は何処へやら、今日の彼女は昔の雪ノ下を見ているようだ。

 

……面倒事は勘弁だ。

 

彼女は面倒の種。

 

それも酷く美しく華やかな花を咲かせてくれる。

 

出来ることなら関わらない方が良い…。

 

 

 

……。

 

 

 

「……ちっ。別に心配だから声を掛けるわけじゃないんだからな?」

 

 

 

誰に需要があるのか分からないツンデレを披露しながら、俺は偶然を装ってコンビニへと再度脚を踏み入れた。

 

 

何を買うのか決めていなかったのか、雪ノ下さんは飲み物売り場の前でうろうろと彷徨っている。

 

本当に変なの…。

 

 

「…あの、雪ノ下さん?」

 

「へ?え!?ひ、比企谷くん!?」

 

 

俺の声の掛け方が悪かったのか、雪ノ下さんは異常な驚きを見せながら、狼狽えたままに振り向いた。

 

ロングスカートにダッフルコートを羽織った彼女に違和感を覚えながら、俺は買う気もなかったペットボトルのお茶を手に取る。

 

 

「奇遇ですね。雪ノ下さんでもコンビニとか寄るんですか?」

 

「わ、私だってコンビニくらい来るよ」

 

「…?」

 

 

違和感の正体には直ぐに気が付いた。

 

冬にも関わらず蒸気したように赤らめた頬が、いつもの冷徹な印象とギャップを生んでいるんだ。

 

 

「…風邪ですか?」

 

「え?なんで…?」

 

「顔が赤いです」

 

「っ!…こ、これは…」

 

 

歯切れの悪い言葉。

 

本当に今日の雪ノ下さんはどうしたんだ?

 

自らの腕で身体を強く抱きしめながら、彼女は俺と目を合わせずにそっぽを向く。

 

 

「…本当に変ですよ?体調でも悪いんじゃないですか?」

 

 

遂には俯いてしまった雪ノ下さんのおでこに手を伸ばした。

 

 

「ぁぅ…」

 

 

熱い。

冷え性の俺の手が冷たい事を差し引いても、雪ノ下さんのおでこは熱かった。

頬の赤らみは増したかのようにさえ思える。

 

 

「…ヤバそうですね。氷雪系最強の冷酷女である雪ノ下さんがここまで熱いなんて」

 

「ちょ、それどういう意味?」

 

 

弱った状態の彼女になら普段の仕返しを…とも思ったが、流石にそこまで鬼畜にはなれない。

 

ならば俺が出来ること、それはたった一つだ。

 

 

「…移ったら嫌なんで。それじゃ」

 

「ちょっと待ちなよキミ」

 

「風邪薬ならあっちですよ?」

 

「熱でも風邪でもないから。…でもちょっと頭はクラクラするかな」

 

「それはそれは。…それじゃ」

 

「ちょっと待ちなよキミ」

 

「無限ループ!?」

 

 

その場を後にしようとした俺の腕を力強く掴まれる。

 

なんだ、元気じゃないですか。

 

それでも頬が少し赤いのは気のせいか?

 

 

「ほら、一応心配してくれたんでしょ?それならステップ2に移行しなくちゃ」

 

「は?ステップ2?」

 

「弱った女性を家まで送りなさい」

 

 

ぎゅっと握られた腕から伝わる雪ノ下さんの体温に、ほんの少しだけ緊張しながらも、俺はそれを引き剥がそうと力を加える。

 

…っ!

 

な、なんだコイツの力は!?

 

引き剥がせない…、だと?

 

 

「…あの、車の迎えを呼んだ方がいいのでは?」

 

「こんな近場のコンビニに迎えなんて呼んだら迷惑でしょ」

 

「俺も十分迷惑なんですが?」

 

「か弱い女性を家まで送れるなんてご褒美じゃない」

 

「か弱くないだろ」

 

 

腕が折れんばかりに握られる力をもってか弱いなどとどの口が言うのだろう。

 

だがしかし、コンビニに再入店してまで声を掛けたのは俺だ。

 

少なからず、彼女のことを心配したわけでもある。

 

 

「…はぁ、心配して損しましたよ」

 

「本当に心配してくれてたんだ…」

 

 

そんな彼女の問い掛けを聞き流し、俺達はコンビニから何も買わずに出た。

 

2度目の冷やかしに店員の目が少し怖かったが、それよりも怖い存在が俺の腕を掴んでいる。

 

 

彼女は熱や風邪では無いと言う。

 

 

それでも上気した顔に、いつもの彼女の強さを感じない。

 

 

凍えそうになる冬風に耐えながら、俺は自らのマフラーを脱ぎ、雪ノ下さんの首元に巻き直した。

 

 

 

「送りますよ。ほら、とっとと行きましょう」

 

 

 

「…っ。ふふ、ありがと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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忙殺クライム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何の気なしに訪れたコンビニで、無意識にも彼が愛飲する黄色と黒が特徴的な甘いコーヒーを探す。

 

あまりに甘すぎて飲めたもんじゃない。

 

少なくとも、私の口には合わないそのコーヒーを、私は何故か探していた。

 

…ないなぁ。

 

思えば彼くらいしか飲んでいる人を見た事が無い。

 

ミルクコーヒーのようなそれを、少し大人びた彼が傾ける姿はほんの少しだけ格好良く、気付かぬうちに見惚れていたっけ。

 

 

……変なの。

 

 

歳下の癖に卑屈で、達観した彼の物言いが聴きたくなるなんて。

 

 

そう、考えていたときだった。

 

 

彼が突然に声を掛けてきたのは。

 

 

 

「へ?え!?ひ、比企谷くん!?」

 

 

 

浮ついた声が溢れる。

 

私らしくないのは分かっていた。

 

突然に現れるのはいつも私の役目だったから。

 

途端に血が沸騰するような熱を感じながら、私は普通を装って彼へと接する。

 

 

「顔が赤いです」

 

 

どうやら私の顔は赤いらしい。

いや、自覚してたけど…。

 

ふと、部屋での妄想が頭を過る。

 

彼の優しい手つきが、イヤらしく私の恥部を弄ったあの妄想。

 

顔が熱い。

 

身体も熱い。

 

キュっと、下半身が切なく悶える。

 

 

彼に触れられたおでこから、冷たくも気持ちの良い体温が私の身体へと流れた。

 

思わず握った彼の腕。

 

漂う甘い彼の香り。

 

 

気付けば、私は彼に家まで送れと要求していた。

 

 

…もっと可愛らしく甘えられたら、要求せずとも比企谷くんは私を送ってくれていたのかな…。

 

 

彼の嫌がる素振りが少しだけ心を傷ませる。

 

 

雪乃ちゃんやガハマちゃんなら何も言わずに送ってあげるくせにさ…。

 

 

冗談だよ。1人で帰れるからまたね。

 

 

と、コンビニを出たら言うつもりで。

 

 

私は彼の腕を掴む力を弱めた。

 

 

 

ふんわりと。

 

彼の暖かさに包まれる。

 

 

私の首元に巻いてくれたマフラーは穏やかな淡い優しさみたいに。

 

 

そっと、彼は呟いた。

 

 

 

「送りますよ。ほら、とっとと行きましょう」

 

 

 

………

……

.

.

 

 

 

 

 

流石に腕を解放した私は、彼の1歩後ろを歩く。

 

いつもなら先導を切る私に、彼は不思議がりながらもゆっくりと歩幅を合わせてくれた。

 

 

「…今日の雪ノ下さんは静かですね」

 

「え?そ、そうかなぁ」

 

「いつもはウザいくらいにうるさいじゃないですか」

 

「言葉選べよ」

 

 

そんな彼の憎たらしい口調に苦笑しながら、私はマフラーに深く顔を埋める。

 

…比企谷くんの香り。

 

コレは妄想がまた捗りますなぁ。

 

 

「…もうすぐ卒業だね」

 

「そうですね」

 

「雪乃ちゃん達と離れ離れになっちゃって寂しい?」

 

「…まぁ、少しだけ。なんだかんだ長い付き合いになりましたからね」

 

 

茶化したつもりが思わぬ彼の素直さに面を食らった。

 

 

「雪ノ下さんも、卒業したときは寂しかったですか?」

 

「…私はどうかな。…キミ達みたいに大切だって言い合える人は居なかったし」

 

「はは。さすがはぼっちの海賊王です」

 

「だれがワンピース探してるって言った?」

 

「でも、それは雪ノ下さんが完璧過ぎたから、周りが敬遠したんでしょうね」

 

「……。そうかもね」

 

 

敬遠なんて生易しい物じゃないよ。

 

私は自らの完璧さを自覚した上で、周りを一定の所までしか近付かせないように壁を張ったんだ。

 

見下して、操って、利用して。

 

そんな最低な女なんだ。

 

 

「…私は完璧なの。誰よりも優れて誰よりも強い」

 

 

無意識に呟いたその言葉。

 

私と比企谷くんの間に強い風が吹いた。

 

 

「…俺には欠点だらけに見えますよ」

 

「…へ?」

 

 

そう言って、彼は寒がるように身を縮こまらせた。

 

私が欠点だらけ?

 

私の欠点なんて少し寂しく部屋でゴニョゴニョしてる事くらいだわ。

 

それもキミをオカズにしてね!

 

…。

 

 

「…比企谷くんは、私を何だと思ってるのかな」

 

「何とも思ってないです」

 

「…敬遠しなさいよ。完璧なこの私に」

 

「…ふっ」

 

「鼻で笑った!?鼻で笑ったのね!?謝りなさいよこの完璧な私に!!」

 

 

私は彼に詰め寄り謝罪を要求した。

 

そういえば、彼は初めて会ったときから無遠慮な子だったな。

 

そんな彼の反応が楽しくって、見つける度にちょっかいを掛けていたんだ。

 

 

「まったく。キミには困ったものよ」

 

「はいはい。ほら、お家に着きましたよ?」

 

 

彼が面倒臭そうに到着を知らせた。

 

ズキンと、胸を刺す小さな痛み。

 

ただ一緒に歩いただけだけど、この日が終わればまた、彼に会うのは難しくなるから。

 

 

「…ぅぅ。そ、そうだ、お茶していかない?」

 

「いえ、帰ります」

 

「ぐぬぬ。外は寒いよ?このまま路頭に迷う気?」

 

「帰る家がありますから」

 

 

分かっていた事だ。

 

彼が私の誘いに乗らないことくらい。

 

仕方がない、()()()を使おうかしら。

 

 

「わかった。じゃあね、比企谷くん」

 

「はい。あ、その前にマフラーを…」

 

「早く帰って!帰りたいんでしょ!?」

 

「え、そうですけど、マフラー返して…」

 

「じゃあね!」

 

「おい!マフラーを返せ!」

 

「何のことやら!寒いから私は家に入るわね!」

 

「マフラー返せって言ってんだろうが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー☆

 

 

 

 

 

 

 

 

首元がスースーする。

 

俺は抵抗も虚しく、彼女の罠に掛かってしまったようだ。

 

門前での一悶着後に、俺は渋々と家の中へと上がらされ、柔らかいソファーで紅茶を啜ることに。

 

 

何なんだよ。

 

返してほしければココまで来なさい!って。

 

 

「…いい加減マフラーを返してくれません?」

 

「嫌よ。寒いし」

 

「部屋の中なんだから暖かいでしょ」

 

 

彼女はダッフルコートを脱いだにも関わらず、何故か俺の貸したマフラーだけは外そうとしなかった。

 

 

「…はぁ、それにしても雪ノ下家の一族は不在なんですか?」

 

「なにその犬神家の一族みたいな言い方」

 

 

リビングには紅茶を片手に持つ俺と、お茶菓子を用意する雪ノ下さんしか居ない。

 

あまりジロジロと見渡すのも失礼かもしれないが、室内には所々にモダンな洒落た家具が置かれていた。

 

 

「お父さんとお母さんは講演会で東京に行ってるよ。雪乃ちゃんは知らない」

 

 

パカパカとスリッパを鳴らせ、雪ノ下さんはお茶菓子を持って俺の対面へと座った。

 

マフラーは着けたままだ。

 

 

「嫁入り前の娘さんが男を誰も居ない実家に招待するもんじゃないですよ」

 

「え?いつも来てるじゃない」

 

「は?」

 

「あ、間違えた。アレは妄想か…」

 

 

ごしょごしょと小さくなる声に、最後の方の言葉は聞き取れなかった。

 

雪ノ下さんは気を取り直してとばかりに、偽りの冷静さを装い紅茶を傾ける。

 

 

「…雪ノ下さんて、いつも1人で何をやってるんですか?」

 

「ぶっーーー!?」

 

「……。汚い…」

 

「あ、ご、ごめんね!?で、でも比企谷くんが変な事を聞くから…」

 

 

目に紅茶が入って染みる…。

 

俺は手で顔に掛かった紅茶を拭いながら、ジト目で雪ノ下さんを睨む。

 

 

「ご、ごめん!タオルタオルー!」

 

 

…おかしい。

 

こんなに慌てた雪ノ下さんは見た事がない。

 

先ほど会ってから、ずっとどこか浮ついているような…。

 

 

「あの、これ、タオル…」

 

「…どうも」

 

 

受け取ったタオルで顔と髪を拭き上げ、服に掛かった所をポンポンと叩く。

 

 

「…染みになっちゃうね」

 

「まぁ、染みの一つや二つは気にしませんが」

 

「は、早く洗った方が良いよ…」

 

「…?そうっすね、それじゃ俺、帰って服を…」

 

「早く!早く洗わなきゃ!!」

 

「ちょ、え?な、何を…?」

 

 

雪ノ下さんが突然に立ち上がり、リビングから出て行く。

 

しばらくして、パタパタと鳴り響く音が廊下から近付いて来たと思うと、彼女はスウェットとバスタオルを一式手に持ち現れた。

 

 

 

「ほら!比企くん早く!」

 

 

 

「へ?へ?」

 

 

 

 

「早く脱いで!!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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失踪プライム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下さんて、いつも1人で()()をしてるんですか?

 

 

ナニを……。

 

 

ナニを…。

 

 

 

比企谷くんの言葉に、私は思わず紅茶を吹き出してしまった。

 

な、な、な、ナニをっ!?

 

ナニをって!キミ!!ナニをー!?

 

 

慌てふためく私の目の前で、身体中を紅茶で濡らした彼がジト目で睨んでいた。

 

な、何をしてる…。

 

そうだ、彼はただの世間話に興じようとしただけ。

 

勝手に間違えて慌てたの私だ。

 

完全なる私の過失でびしょ濡れになってしまった比企谷くんに、私は謝りを入れてタオルを渡す。

 

 

彼の濡れた前髪と滴る紅茶。

 

 

ふと、純粋な誠意につけ込む不粋な下心が現れた。

 

 

『濡れた事を言い訳に服を脱がせ』

 

 

それは不幸までをも利用する狂気の発想。

 

 

だめよ。だめ!

 

 

そんなことが許されるわけがないわ!

 

 

濡れた彼に若干ドキっとしているのは事実だけど、過ちを甘みに変えようなんて人としてだめすぎるわ!

 

 

…いや待て。

 

 

元はと言えば、比企谷くんの思わせ振りな言葉が招いた事じゃない?

 

彼が私を勘違いさせるような事を言わなければ起きなかった事。

 

 

……。

 

 

 

「比企谷くん!服を脱いで!」

 

「え、いや、脱ぐも何も…」

 

 

戸惑う彼に、私はずいずいと歩み寄る。

 

べ、別に何かを期待しているわけではない。

濡れたままだと風邪を引いてしまうし、だったらお風呂にでもどうかなって思っただけ!!

 

 

「か、風邪引いちゃうでしょ?こんな寒い日に濡れたままじゃ」

 

「そ、それはそうですけど」

 

「ほら早く立って!お風呂はコッチだから!」

 

 

私は彼の手を引き強引に立たせ、背中を押し浴室へと押し込む。

 

ミッションコンプリート…。

 

浴室の扉越しに聞こえる布が肌に当たる音。

彼が服を脱いだことを確信し、私はスキップをしながら自室へと戻った。

 

素早くクローゼットから()()()()を引っ張り出し、私はそれを身に付けるべく服を脱いだ。

 

 

「ふふふ。比企谷くんも童貞っぽいし、私の魅力に負けて襲い掛かってくるはず」

 

 

高校生振りに着たソレは、胸の部分がキツくなっていた。

雪乃ちゃんなら小学生から高校生まで同じ物で事足りるだろうけど…。

 

 

私は部屋から飛び出し浴室にへと急ぐ。

 

驚きたまえ比企谷くん!

 

このお姉さんのナイスバディーに!!

 

 

と、浴室の扉を開けたらーー

 

 

「…ちょ、ノックしてくださいよ。…てか、その格好はどうしたんですか?」

 

 

ホクホクと湯気を頭から出し、スウェット姿に着替え終えた比企谷くんが居た。

 

は、早すぎるっ!

 

カラスの行水にも程がある。

 

沈黙の続く浴室で、スウェット姿の彼は呆れたように溜息を吐きながら呟いた。

 

 

 

「…なんでスク水着てるんすか?」

 

 

 

 

 

……

.

 

 

 

 

 

リビングに戻り、注ぎ直した紅茶を片手に私は黙りこくる。

 

スク水のままでは寒いので、肩からバスタオルを掛け、首には比企谷くんのマフラーを巻いてみたがやはり寒い。

 

 

「……」

 

「…着替えたらどうです?」

 

「え、いや、コレ私の部屋着だから」

 

「…そ、そうですか」

 

 

イレギュラーな事態だ。

 

本来なら今頃、浴場でスク水姿の私が彼の身体を丁寧に洗っているはずだったのに…。

 

照れた彼の頬を突きながら

 

『続きはベッドでね』

 

って言うはずだったのに。

 

 

「…服、洗濯までしてもらってすみません」

 

「いや、はは。汚したのは私だからね」

 

「紅茶、美味しいです」

 

「ありがと。雪乃ちゃんにも負けてないでしょ?」

 

「……」

 

「……」

 

「…忘れますから。早く着替えてきたらどうですか?」

 

「…うん。ごめんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー☆

 

 

 

 

 

 

 

湯気の漂う浴場で、俺は広い湯船に浸かることなく熱めのシャワーを頭から掛ける。

 

ふと、俺のマフラーを我儘に巻き続ける彼女の膨れた頬を思い出した。

 

人間味があるというか、少し暖かいというか、今日の雪ノ下さんは少しだけ面白く…、可愛い…。

 

流石に紅茶を吹きかけられたときは戸惑ったが、会話の節々から感じる未熟さが、話していて面白かった。

 

 

「…ふぅ。お湯ぶっ掛けるだけでいいだろ。出よ」

 

 

水滴が床に溢れないよう、できるだけ素早くバスタオルで頭、身体を拭き上げていく。

 

スウェットに脚を通した所で、浴室の外からバタバタと忙しない音が聞こえてきた。

 

…また何かやらかしてんのか?

 

そう思い、スウェット姿になった俺は浴室の扉を開けようとした時。

 

 

バンっ!

 

 

と、俺が開けるよりも先に外からソレが開かれた。

 

 

そこに居たのはスク水姿の雪ノ下さん。

 

 

膨らみ過ぎた胸に目が行きそうになり、俺は静かに視線を下へと逸らす。

 

 

痩せ過ぎず太り過ぎずな健康そうな太もも。

 

 

け、けしからん…。

 

 

…いやいや、そもそも何をしてるんだこの人は。

 

 

だから俺はゆっくりと尋ねた。

 

 

「なんでスク水着てるんすか?」

 

 

 

 

 

………

……

.

.

 

 

 

 

 

リビングに戻ってもスク水から着替えようとしない雪ノ下さんを説得し、ようやく普段着へと着替えてくれた。

 

 

…まじで何だったの?

 

 

「…おまたせ」

 

「いえ…」

 

 

頬を赤らめた彼女は身を縮こまらせながらに紅茶を飲み直し始めた。

 

なんか帰るって言いづらいし…。

 

さて、どうしたものか…。

 

 

「あれ、俺のマフラーは?」

 

「隠してきた。だって、マフラー返したら帰っちゃうんでしょ?」

 

「どんだけ俺を監禁する気なんですか…」

 

「もうお外は暗くなってるから、1人で帰るのは危ないよ」

 

「雪ノ下さんが変な事するからでしょ」

 

 

窓の外は確かに暗い。

 

まだ17時だと言うのに。

 

冬の昼間の短さには驚かされる。

 

 

「でもアレだね。あんな事があった後だと…、ちょっと緊張するね…」

 

「…しないですけど」

 

「もう。照れ隠しが上手いんだから」

 

「…いやマジで何なのコイツ」

 

 

雪ノ下さんはもじもじと身体を揺すりながら、照れたように笑みを浮かべた。

 

 

「それじゃ、夕食の準備でもしましょうか」

 

「ちょっと待て。なに話を進めてんですか」

 

「食べないの?」

 

「食べませんよ。帰りますよ」

 

「ごめん、それ無理」

 

「あ、朝倉!?」

 

 

雪ノ下さんは立ち上がると、にやにやとした笑みで俺を見下した。

 

なんだろ。めっちゃ殴りたい。

 

 

「キミは帰れない」

 

「は?」

 

「…私を侮らないことね」

 

「…む」

 

 

ゆるりと、勝ち誇った顔。

 

余裕と歓喜に満ちたその態度に、俺は小さく慄いた。

 

 

 

「なぜなら!!比企谷くんの靴はもう無いのだから!!」

 

 

 

「おまえ!靴まで隠しやがったのか!!」

 

 

 

 

 

 



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焦らしマジック

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不貞腐れた様子でソファーに腰掛けていた比企谷くん。

 

本来なら、誰も居ない2人きりのお家にこんな美人で歳上な女性と泊まれるイベントを泣き叫びながら喜んでもおかしくない。

 

……はっ!!

 

AVで見たことがあるわ…。

 

気の無い素振りを取りつつ、ベッドに潜れば狼となる童貞物を。

 

…そっちなのね。

 

そっち系の男なのね比企谷くん!!

 

 

「草食系の皮を被った狼さんめ…」

 

「…は?」

 

 

帰れないと悟ったであろう彼は、夕食の準備をし始めた私を見て。

 

 

「何を言ってるのか分かりませんが、タダ飯ってのも居心地悪いんで」

 

「もう。お客様なんだから座っててくれていいのに」

 

 

私はお味噌汁に混ぜようとしていた媚薬を咄嗟に隠しながら、比企谷くんへ笑いかける。

 

なんだかんだ律儀な子だ。

 

 

「料理も出来るんですね」

 

「そりゃね」

 

「メニューもいっぱいです」

 

「簡単なものばかりだけどね」

 

 

ポテトサラダ(媚薬入)と生姜焼き(媚薬入)をお皿に盛り付けると、比企谷くんがそれを食卓へと運んでくれた。

 

この隙にお味噌汁へ媚薬を混入させておこう…。

 

 

全品が揃ったテーブルに座り揃って手を合わせる。

 

 

「「いただきまーす」」

 

 

…食え、食え、食え!!

 

口に運んだら最後、キミは私の料理で胃袋も性欲も鷲掴みにされるのよ!

 

 

「…あの、そんなにジロジロ見られてると食べ辛いんですけど」

 

「ふぇ?あ、ごめんごめん。さて、私も食べよーっと」

 

 

訝しげな目で私を睨みつつも、彼はソレを口へと入れる。

 

…た、食べたわっ!!

 

 

「…ん、普通に上手い」

 

「えへへ、そう?…ほら、もっと食べて食べて」

 

 

彼は素直に料理を食べる。

 

それが媚薬入だとも知らずに。

 

…ぇへ。今夜、襲われちゃうのね…。

 

 

もぐもぐ。

 

もぐもぐ。

 

もぐもぐ。

 

 

あれ?なんにも変化がないわね…。

 

飲んだことがないから知らないけど、AVとかだと即効性の薬だと思ってたのに。

 

そろそろ目がトロンとなって、抑えきれない性欲を私にぶつけてきてもいい頃合いだけど…。

 

 

「…ねぇ比企谷くん。なんか身体におかしな事は起きない?」

 

「ちょ、何んすかその怖い質問。これ毒でも入ってたんですか?」

 

「え、いや、えへ、毒じゃないけどさ…、もうっ!無粋な事を聞かないでよ」

 

「毒じゃない何かは入ってのかよ!全然無粋な事じゃねえよ!」

 

「あれー?おかしいなぁ…」

 

「…ホントどうかしてんだろこの女…」

 

 

彼は呆れながらお箸を止める。

 

 

「…なに入れたんです?」

 

「いやいや、ちょっと媚薬を入れただけだよ」

 

「いや、そんな隠し味にチョコ入れた、みたいなノリで言われても…」

 

 

媚薬と聞いてもなぜか落ち着いている彼に、私はぐいぐいとおかわりを進めるも、流石に受け付けてくれない。

 

ただ、彼は媚薬入りと分かっていながら出された料理は残さなかった。

 

…ま、まさか、比企谷くんも媚薬の効果を期待して…っ!?

 

 

「よ、夜の準備…、した方がいい!?」

 

「…何を言ってんですか」

 

「い、今のキミは媚薬で性欲狼と化しているじゃない。わ、私も覚悟を…」

 

「飲ませたのはあんただろ。…あと、何か勘違いしていませんか?」

 

「ほぇ?」

 

 

比企谷くんは食べ終えた食器を重ねてキッチンへと運ぶ。

その際に彼の下半身を見たがテントを張ってる様子はない。

 

 

「媚薬は理性をぶっ飛ばす物ではありません。感度を高める物です。さらに言えば、ネットで出回る媚薬の多くは偽物です」

 

「…っ!う、うそ…、そんなわけ…っ。ち、違うわ!!偽物なわけが無い!」

 

「…特に、品名が漢字のみの商品は偽物率が高いです」

 

「な、なん…、だと…?」

 

 

絶句。

 

地に落ちた有象無象の嘲笑。

 

貧困な考えを持った痩せた発想。

 

この私が…。

 

この完璧である私が偽物を掴まされた…っ。

 

 

ふと、ポケットに入れていた媚薬の品名を確かめる。

 

 

【絶頂淫乱夜行】

 

 

掴まされた…。

 

全てが漢字の品名。

 

その値段、現在のレートで39800円。

 

 

「…っ、ぅ、うぅ…。なんて…、なんて迂闊なのよ、私…っ」

 

「な、泣くほど!?ていうか、それを俺に飲ませてどうする気だったんだよ…」

 

「ぐぬぬっ…」

 

 

彼はジャージャーとキッチンで自らの食べた食器を洗い終えると、時計を1度見る。

 

 

「…はぁ、そろそろ本当に帰りますよ。流石に小町が心配しますから」

 

「だ、だめよ!帰らせないんだから!」

 

「ちょ、は、離せっ!そして靴とマフラーを返せ!!」

 

 

帰ろうとする比企谷くんの腰にしがみつき、私は必死の抵抗を見せた。

 

 

「1人にしないでよ!私を1人にしないで!!」

 

「く、くそっ!な、なんだってんだよコイツっ!」

 

「媚薬まで用意したんだから私を襲ってよ!」

 

「俺を社会的に抹殺する気か!?」

 

「満足させるから!比企谷くんの言う事をなんだって聞くから!」

 

「俺の言う事は一つだ!この手を離して家へ帰らせろ!」

 

「嫌よ!もう嫌なの!1人でするのはもう嫌なの!!」

 

「ひ、1人…?ちょ、まじで何を…」

 

 

 

 

 

「エッチしてよ!私とエッチして処女を奪ってよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー☆

 

 

 

 

 

 

 

聞き間違いだろうか。

 

俺は自らの耳を疑うも、腰にぶら下がる雪ノ下さんの言葉は今も尚聞こえている。

 

 

私とエッチして処女を奪ってよ!

 

 

魔法少女になってよ!みたいに言うなよ…。

 

 

…。

 

この人は本当にあの雪ノ下さんか?

 

いつも冷静沈着で、人を弄ぶように手のひらで転がす彼女が、こんなにも必死に懇願し、あまつさえエッチしてと叫んでいる。

 

考えてみれば、コンビニで声を掛けたとき、スク水で現れたとき、媚薬を混入させていたとき…、妙な所は沢山あった。

 

沢山ありすぎた。

 

 

…ま、まさか…。

 

 

…っ!

 

 

「…しょ、処女をこじらせやがったのか…っ!」

 

「しょ、処女って言うな!」

 

「今さっき自分で言ってたろ!」

 

 

俺はひっつく雪ノ下さんから距離を取ることを諦め、仕方なく玄関へと向かう脚を止めた。

 

尚もひっつく彼女の肩をトントンと叩き、降参の意思を伝える。

 

 

「とりあえず泣き止んでください。そんな下らないことで泣かれても困りますので」

 

「下らなくないもん…」

 

 

腰から手は離したものの、雪ノ下さんかは不安気な眼差しを俺に向けながら、俺の右手をギュッと掴んだ。

 

……うん、すごく胸キュンな行動だけどさ、さっきの言葉が頭から離れなくてね…。

 

彼女に手を握られたまま、俺たちはリビングのソファーへと再度座り直す。

ピトリとくっつく雪ノ下さんが邪魔くさい。

 

 

「…私、おかしいの」

 

「そうですね。今日はずっとおかしいです」

 

「ずっと比企谷くんの事ばかり考えちゃう。寝ても覚めてもオナニーしてても」

 

「おい待て、最後になんか違うのが混ざってたぞ」

 

「比企谷くんが好きなの!エッチしたいの!!」

 

「色気もクソもねえな!」

 

 

もしも、普通に雪ノ下さんから告白を受けたら、断る断らないを関係無しに緊張して声が出なかったかもしれない。

 

見た目は綺麗で女性としての器量も良いし。

 

俺とは釣り合いようがない女性だ。

 

夜空の下で星座を教えてくれながら、自然手を握り告白をしてくれる。

彼女ならそんな素敵な物語を描いてくれるだろう。

 

…それが実際はどうだ?

 

媚薬だの処女だの、挙げ句の果てにはエッチがしたいだの、こいつへ抱いていた俺の想像を見事にぶち壊してくれやがった。

 

好きなの!エッチがしたいの!

 

って…。

 

 

「…一旦落ち着きましょう。処女ノ下さん」

 

「しょ、処女ノ下さん!?」

 

 

向き合えば再確認させられる美しさ。

 

どんな状況であれ、こんな人が俺に告白してくれたのかと溜息が出る。

 

 

俺も男だ。

 

 

処女の覚悟を無駄にすることは出来ない。

 

 

 

そっと、俺は彼女の耳元で小さく呟く。

 

 

 

 

 

「わかりました。一緒に大人になりましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 



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瞬間リズミカル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一緒に大人になりましょう。

 

 

彼の言葉に私は涙が出そうになった。

 

その大人びた顔と優しい口調が私の胸を熱くする。

 

 

「…っ」

 

 

先にシャワーを浴びている私は、既にお湯の温度よりも高い体温を持っているかもしれない。

 

強めのシャワーで身体を丁寧に洗いながら、これから起こるであろう事を妄想する。

 

 

 

 

……

.

 

 

 

 

『あ、あの、私、本当に初めてだから…、優しくしてね?』

 

『…俺も初めてですよ。怖かったら直ぐに言ってください』

 

 

そう言うと、潤んだ瞳の彼が私の首筋から腋と脇腹をなぞるように舐めていく。

 

その暖かい舌触りが妙に擽ったく、何度も私は身体を震わせた。

 

 

『…んっ。ぁ、…っ。ん』

 

 

彼の舌が止まる。

 

そっと、舌の感触が胸へと移った。

 

優しく乳輪を回ると、痛くない程度に乳首を甘噛みする。

 

 

『っん。…ぅ、ん、も、もっと強く…っ、噛んでもっ、いいよ…?』

 

『…すごく柔らかくて、壊れそうで怖いです』

 

『ぁ、ぁ…っ。ふ、ふふ。こんなっ、時でも、んっ、や、優しいんだね…っん、ぁぁっ!』

 

 

甘噛みをし続ける彼の頭を撫でてみる。

 

アホ毛が左右に振れて可愛らしい。

 

ふと、彼が乳首を噛むのを止めた。

 

淡く、消え入る不安気な表情で、彼はそっと私に尋ねた。

 

 

『あの、キス…、してもいいですか?…っん!』

 

『ん…』

 

 

そんな彼が愛おしく、私の方から彼の唇に飛びつく。

 

最初こそ驚いたように目を見開いていた彼も、気づけば目を閉じて。

 

私の舌と彼の舌が絡み合う。

 

遠慮気味だった彼も、既に舌を私の口の中へと何度も入れて舐め回し始めた。

 

 

『…ん、ちゅ…ん、はぁ、はぁ』

 

『…っはぁはぁ』

 

 

見つめ合う数秒。

 

彼が何を考えているかんなんて直ぐに分かる。

 

次にアソコを触るために、私へ問い掛けようしているのだ。

 

だから私は彼に言うーー

 

 

『…えへへ、もう下もぐちょぐちょだよ。…ねぇ、比企谷くんの手で触って?』

 

 

ーーと。

 

 

彼の手が下部へと伸びた。

 

緊張に身を固めた私だが、恥部に触れたほんわりとした体温に緊張を解かれる。

 

そっと、陰毛を掻き分けて触れられた恥部。

 

押したり摘んだり、彼は柔らかさを確かめるように指を動かした。

 

 

『っん。…あっ、ん…っ!ん、んっ!』

 

 

粘りのある液で滑りを効かせ、彼は指をちょん、と膣の入り口につける。

 

 

『んぅぅ。…っ、も、もう…、焦らさない…、でよ…っ』

 

『…はは。耐えてる雪ノ下さんの姿が面白くて』

 

『も、もう!…っん〜!っ、そっ、そんな…っ、急に…っ、んぁっ…!!』

 

 

私が話している途中に、彼は指を膣内へと入れて。

 

急な刺激に、私は思わず身を悶えさせる。

 

指がくねくねと動き、敏感な所へ当たる度に声が出てしまった。

 

彼は少しだけ意地悪な顔で、指を2本に増やして動きを激しくする。

 

 

『んっ!…あっ!あっ!…んっ、いや、も、もう…っ、んっ!い、イっちゃう…っ、から…っ!』

 

 

だらし無い顔を手で隠しながら、私は指を抜いてくれるように懇願した。

 

もう我慢が出来ない。

 

何かが出そうになるから。

 

 

ふと、動きが止まった指に、私が安心して比企谷くんの顔を見ようとしたーーー、その時。

 

 

 

『…可愛いですよ。もう少し悶えて見せてください』

 

 

 

そんな言葉と同時に、彼の指が再度動き始めた。

 

油断していたからだろうか、チョロっと、何かが溢れ出す。

 

…もう、だ、だめっ!

 

 

 

 

 

『ふぁっ〜っ!も、もう、ほんっ…とにっ!…っ、だ、だめ、で、出ちゃうっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

.

……

 

 

 

うむ。

我ながら素晴らしい妄想ね。

 

清めた身体に貪りつく比企谷くんが容易に想像できるわ。

 

一応、色んなところを綺麗にしておこうかしら。

 

あの舐めプ王子のためにね。

 

へへ。

 

 

ーー。

 

 

 

ホカホカと湯気を頭から漂わせながら、バスタオル姿になった私は鏡を見ながら胸の鼓動を抑えつける。

 

蒸気して赤く染める頬はおそらく緊張が原因であろう。

 

 

「…し、失敗しないようにしなくちゃ…」

 

 

そもそも何が成功で何が失敗かも分からないけど、とりあえず比企谷くんに飽きられないようには心掛けよう。

 

そう思いながら浴室を出て、とてとてと私は彼が待つリビングへと向かった。

 

 

お、落ち着けぇ、私。

 

いつも予習しているじゃない。

 

私は出来る子よ。

 

…大丈夫。

 

きっと出来るわ!!

 

 

いざっ!!

 

 

バンっ!と、リビングの戸を開ける。

 

セリフは頭に入っている。

 

口も上手に回るはず。

 

行けっ!私!!

 

 

「お・ま・た・せ ♪ もうね、うずうずしちゃって我慢出来ないの。だから早くベッドに……」

 

 

「…え、姉さん、何を…」

 

 

「あれ!?!?」

 

 

途端に身体が底から冷える。

 

なぜなら居るはずの彼が居なくて、居ないはずの彼女が居たから。

 

 

「そんな格好で気持ちの悪い声をだしてどうしたの?風邪を引くわよ?」

 

「ゆ、雪乃ちゃん…、なんで…?」

 

 

不思議がる私を不思議そうに見つめる雪乃ちゃん。

 

…夢!?

 

どこから!?

 

ふと、私は受信を知らせて画面を光らせるスマホに気が付いた。

 

 

そこには一通のメッセージがーー

 

 

 

 

 

比企谷ーーーーー

 

 

プリキュアの録画をし忘れたので帰ります。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

……。

 

 

 

 

「…わ、私を弄んだのね!?」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー☆

 

 

 

 

 

 

……はぁ、寒い。

 

スウェットと拝借したサンダルでは流石に冷えるな。

 

洗ってもらった服と隠されたモノ達は今度取り返すとして、次に雪ノ下さんに会ったときには死を覚悟しなくちゃな。

 

それにしてもあの告白、どこまでが冗談だったんだろう。

 

俺で遊ぼうとしたにしても、少し度が過ぎる。

 

俺がそこら辺に居る平均的な童貞だったらガチで襲われても文句は言えないからな。

 

 

「……ちょっと勿体無いことしたかも…」

 

 

雪ノ下さんといえど、女性の身体(スク水)をあんなに近くで見れたのはちょっと感動したな。

 

健康的に伸びる四肢のムチムチ感とか実は結構キテたし。

 

はぁ、でも俺が紳士童貞で良かった。

 

理性の化物とはまさに俺の事だな。

 

 

ふと、ポケットに入れておいたスマホが震えている事に気がつく。

 

震えの長さからして電話だろうか。

 

スマホの画面には雪ノ下(姉)と表示されていた。

 

ちなみに雪ノ下(妹)の電話番号は知らない。

 

 

「はい、比企谷ですー」

 

『……どういうつもり』

 

 

電話先から聞こえる声が怒りに満ちているのは気のせいか。

 

 

「…1人は嫌だと言っていたんで、由比ヶ浜経由で雪ノ下に帰るよう伝えておきましたよ」

 

『…へぇ、そういう逃げ方をするんだ』

 

「逃げる?違いますよ。放棄しただけです」

 

『…ぶち殺し確定ね』

 

「…怖っ」

 

 

ぶち殺し確定なの?

身体を真っ二つにされちゃうの?

 

 

『…ぅぅ、っ。返してよ!…私の覚悟を返してよ』

 

「しょ、処女のん…」

 

『処女のん言うな!』

 

「…まぁ、その、俺なんかよりも経験豊かな人で卒業した方がいいですよ」

 

『比企谷くんがいいのっ!比企谷くんじゃなきゃ嫌なのっ!!』

 

「そんなん知りませんよ」

 

『ええ!?』

 

 

なんだか今日の雪ノ下さんはしつこいな。

 

先ほどから情緒も不安定だし。

 

寒いから早く切って早く帰ろう。

 

うん、そうしよう。

 

 

「あ、あー、電波がー」

 

『ちょ、待ちなさい!切ろうとすんな!!』

 

「あー、あー」

 

『ふざけないで!明日いk……ぶちっ、と。

 

 

ふぅ、オッケーオッケー。

 

このままスマホの電源落としておこう。

 

 

電脳世界から解放された現実。

 

 

この身を支配できるのは俺だけだ。

 

 

冬の夜空は少しだけ星が綺麗に見える。

 

 

偶にはいいじゃないか。

 

 

こんな静かな散歩ってのもさ。

 

 

心が清くなっていくようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あのスク水はやっぱりエロかったな…。

 

 

 

 

 

 

 

 



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発展サディスト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけないで!明日行くからね!ちょっ!…き、切られた…」

 

 

 

静まり返るリビングで、バスローブ姿の私は鼻息荒く彼との通話が途切れたスマホをソファーに投げつける。

 

その姿にビクっと驚いた雪乃ちゃんが怖いものでも見るかのように私を見つめた。

 

 

「ね、姉さん、どうかしたの?」

 

「ふん。雪乃ちゃんには関係ないよ」

 

「え?私に用があるんじゃないの?」

 

「へ?」

 

「なんか、比企谷くんから姉さんがナニかを持て余してるから帰ってやってくれと言われたのだけれど」

 

 

ナニか…。

 

えぇ、性欲を持て余していますよ。

 

ついさっきキミに裏切られた分、より持て余しているわよ。

 

…それで?

 

キミは妹でソレを発散しろと?

 

 

「…っ!わ、私は雪乃ちゃんと違ってそっちの趣味は無いの!!」

 

「……は?」

 

「私はもう寝るから!おやすみ!ゆりのんちゃん!」

 

「……ゆ、ゆりのん?」

 

 

不思議そうに首を傾げる雪乃ちゃんを放っておき、私は大股で自室へと戻った。

 

怒りをぶつけるように、ノーパンノーブラのバスローブ姿のままでベッドへと飛び込む。

 

 

「とぅ!」

 

 

ばふん!

 

あーー!もう!!

本当なら今頃、比企谷くんが意地悪に私を焦らしてるハズだったのに!!

 

…んん、私のこと嫌いなのかなぁ…。

 

でも、あの年齢の男の子は私くらいのお姉さんに欲情しやすいって本に書いてあったし…。

 

解せぬわ…。

 

 

「…あ、そうだ」

 

 

悩むことをやめ、私はクローゼットの下着入れを開けた。

 

そこに隠しておいた比企谷くんのマフラーを取り出し首元に巻き付ける。

 

…はぅ、良い香り…。

 

これで5回はイケそう…。

 

 

「…でも、今日はやめておこう」

 

 

妄想後の嫌悪感。

 

今は彼と過ごした時間に酔って、幸せな気分のままに眠りたい。

 

香りに包まれて、彼の暖かさを…。

 

 

 

「…明日、押しかけてやるんだから」

 

 

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

 

空気が気持ち良い。

 

普段なら寒くて仕方がないこんな日も、今の私はスキップする程に浮かれていた。

 

ほっほっほっ!と、横断歩道の白い所だけを踏んで歩き、比企谷くん家が見えてきた所で前髪を整え直す。

 

インターフォンのボタンを押し、小気味好い音が鳴り響いた。

 

 

ピーンポーン!

 

 

『はいはーい!どちら…、おろ?陽乃さん?』

 

 

インターフォン越しに伝わる元気な声は小町ちゃんであろうか。

彼女はカメラに写る私を見て、不思議そうに呟いた。

 

 

『今開けますねー、って、お兄ちゃん?窓からどこに行くの?』

 

「小町ちゃん!比企谷くんを捕まえて!」

 

『ほえ!?わ、わかりました!あ、鍵は開いてるので勝手に入ってきてください!!』

 

 

家の中からドタバタと騒がしい音が聞こえてくる。

私は小町ちゃんの了承に従い、家主の出迎えが無い玄関を潜り、リビングへと早足で向かった。

 

 

「お、お兄ちゃん!どうして逃げようとするの!?」

 

「おま、魔王と悪魔を足して5で掛けたような人が近付いてるんだから逃げるに決まってんだろ!」

 

 

窓枠から今にも飛び出そうとする比企谷くんと、それを阻止しようと腰にしがみつく小町ちゃん。

 

比企谷くんの顔は青ざめ、窓枠に掛けた脚は大きく震えている。

 

 

「へぇ、お姉さんって魔王と悪魔を足して5で掛けたような人なんだ」

 

 

「ふぇ!?!?」

 

 

情けない声を出しながら、彼は私に目を合わそうともせずに固まった。

 

 

「あ、陽乃さん!こんにちは!」

 

「はい、こんにちは。小町ちゃんは挨拶が出来て偉いね」

 

 

小町ちゃんは猫のように目を細めて笑う。

可愛らしい笑顔だこと。

 

それに比べて……。

 

 

「ねぇ、比企谷くん、キミはどこへ行こうとしてるのかな?かな?」

 

「…っ、え、あ、はい、えっと、ちょっと川へ洗濯に」

 

「嘘だっ!!」

 

「こ、声が似てる…」

 

 

私は比企谷くんの首根っこを掴み上げ、空いていたソファーにぶん投げる。

 

 

「何枚がいい?」

 

「な、何がっすか?」

 

「剥がすの」

 

「へ?」

 

「つ・め ❤︎」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー☆

 

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下さんはは感情を読み解かせない笑顔を貼り付ける。

ただ、こめかみに出来た青筋が、隠しきれない感情を表していた。

 

頭を下げれるだけ下げるも、雪ノ下さんから漏れる殺意のオーラは消えることがない。

 

よ、よし…、ここは日本人ならではの文化

 

お・も・て・な・し!だ。

 

確か冷蔵庫にマッ缶が入っていたはず……。

 

 

「ゆ、雪ノ下さん!喉が乾きませんか!?」

 

「……」

 

「マッ缶だー!小町!最高級のマッ缶を用意するんだ!!」

 

 

と、俺の怒鳴り声は誰にも届くことなく部屋に響き落ちた。

 

こ、小町が…、居ない…?

 

 

「小町ちゃんなら出掛けたよ。…お兄ちゃんをよろしくお願いします。だってさ」

 

「…っ!」

 

 

雪ノ下さんはニコリと笑い、一歩、また一歩とこちらへ近付いてくる。

 

本能が叫んでいた。

 

逃げろ。直ぐに逃げろ。と。

 

…逃げれるなら逃げたいさ。

 

脚が動けばな…。

 

 

「…比企谷くーん?どうして怯えてるのー?」

 

 

彼女の大きな瞳に怯える俺が映った。

 

吐息の音が聞こえる程に近い距離。

 

 

気付けば、雪ノ下さんはソファーに腰掛ける俺の膝へと座り、首に腕を回した。

 

 

こ、このまま首を360度回されるの?

 

 

「…あ、あの、俺は殺されるんでしょうか?」

 

「殺されたくない?」

 

「…それはもちろん」

 

「じゃぁ、私の言う事を絶対に聞く?」

 

 

ほんの数センチでも動けば唇がくっ付いてしまいそうだ。

 

 

柔らかそうに潤う唇が今にも…。

 

 

って、どんな状況だ!コレは!!

 

 

俺の無言を肯定と捉えたのか、雪ノ下さんは表情を和らげて小さく首を傾げる。

 

 

「それじゃあ、キミの部屋に連れていって?」

 

「……は?」

 

 

 

 

 

.

……

 

 

 

 

 

 

「ほえ〜、ここが比企谷くんの部屋かー」

 

 

 

先程までの不機嫌は何処へやら、雪ノ下さんの注文通りに俺の部屋へと案内すると、彼女はきょろきょろと室内を見渡しながらベッドに腰掛けた。

 

 

「あんまり詮索はしないでくださいよ」

 

「ふふん。わかってるわかってる。ベッドの下の拘束具なんか見てないよー」

 

「そんなマニアックなもん隠してねえよ!」

 

 

俺はそんな彼女の冗談を聞き流しながら床に腰を降ろす。

 

…昨日といい今日といい、この人は何を考えてるんだ。

 

…遊ぶ人が居ないのかなぁ。

 

やばい、そう考えると少し可哀想に思えてきた…。

 

 

すると、雪ノ下さんはこてんと身体をベッドに倒し、挙句、枕を引き寄せ顔を埋めた。

 

 

「ちょ、何やってんですか」

 

「ふもぉー!ほぐふぐふぐ!!」

 

「……」

 

「ほむ……、ぷはっ!」

 

「……」

 

「へへ、いっぱい香りを嗅いじゃった」

 

 

…精神がここまでやられていたのか…っ!

 

俺がもう少し優しくしてやってれば…。

 

 

「はふ…。比企谷くんの香り。…大好き…」

 

「…おい、枕をバッグに仕舞おうとするな」

 

「これは没取よ。キミはけしからんからね」

 

「あんたはどんだけ俺の私物を奪う気だ」

 

「いいじゃない!香りを堪能するくらい!」

 

「くそっ!枕を離せっ!」

 

「いやっ!コレは持ち帰るの!」

 

 

強引に雪ノ下さんから枕を取り返そうとするも、一向に掴む手を緩める気配が無い。

 

なんで!?

 

なんでそんなに俺の大切な物を奪っていくの!?

 

 

「…ぐすっ。ぅう、もっと愛してよ!」

 

「な、なんだ急に!?」

 

「私をもっと愛して!」

 

「…マジでコイツ帰ってくんねえかな」

 

 

雪ノ下さんはぐずぐずと鼻水を垂らしながら目に涙を浮かべた。

 

腕にはしっかりと枕を抱いて。

 

 

「うぅ…、昨日だって、私をその気にさせて勝手に帰っちゃうし…」

 

「ぐっ、いやアレはですね、行き過ぎた冗談に仕返ししたって言うか…」

 

「冗談じゃないもん!本当に私は比企谷くんが好きなの!」

 

「はいはい」

 

「信じてないわね!?…そ、それなら…」

 

 

何の冗談だと笑い飛ばしながら雪ノ下さんの話を聞いていると、彼女は突然に立ち上がり、キッと俺を睨みつけた。

 

 

「ココで私のおっぱいを吸わせてあげるわ!!」

 

「え…」

 

 

お、おっぱいを…?

 

何を言い出したんだこの処女は、と思っている内に、服をぬぎぬぎぬぎぬぎ……、っておい!!

 

 

「ちょっ!?な、何を突然バカな事を!?」

 

「バカじゃないもん!」

 

「え!?ちょ、マジで!?」

 

 

ふわりと投げ捨てられたセーターとTシャツ。

 

露わになった綺麗な肌と、2つの膨らみを隠す黒のブラジャー。

 

蒸気させた頬で、恥ずかしさを我慢しながら俺の目の前に立つ彼女は、ゆっくりとその手をブラホックへと伸ばす。

 

 

「ま、待ってくださいっ!…っ、あの、これ以上は冗談じゃ済まなくなります…」

 

「…冗談じゃ…ないもん…」

 

「…っ、わ、分かりましたから…。雪ノ下さんの言葉を信じます。…だから服を着てください」

 

「…信じてくれたの?…私の気持ち」

 

「…っ」

 

「なら…、分かるでしょ?」

 

「…は?」

 

 

 

黒いブラジャーがひらりと床へ落ちた。

 

 

 

それは彼女の豊満な胸を隠す最後の砦。

 

 

 

少しでも目を開けてしまえば、俺は……。

 

 

 

 

 

 

 

「…もう我慢出来ない。…早く私を犯して…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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転換クリティカル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私を犯して。

そう言いながら、私は外したブラを床に落とす。

胸を露わにした私と、慌てて下を向く比企谷くん。

そんな初々しい反応が可愛らしいと思う反面、途端に気恥ずかしくなる不思議。

 

好きな人の部屋で、好きな人の目の前で。

 

上裸の私はただただ恥ずかしさに耐えて立ち尽くしていた。

 

「…あ、あの、私はこの後どうすればいいの?」

 

「服を着ればいいんじゃないですか!?」

 

「…ぅぅ、服は…、着ないよ…」

 

これは覚悟だ。

私の純粋な好意を信じてもらうための、女の子の覚悟。

 

そっと、私は床に膝を着き、ゆっくりと比企谷くんへと近づく。

 

トクントクンと鳴り響く鼓動の音が、比企谷くんにも聞こえているのではないかと疑う程に大きくなった。

 

一つ、また一つと音が大きくなる事に比例して、私と比企谷くんの距離も0へと近づく。

 

「…ぁぅ。あ、あの、恥ずかしいので、一思いに犯してくれると助かるな」

 

「ひ、一思いで犯すって…」

 

ぴとりと、近寄りすぎた私は比企谷くんのおデコに自らのおデコをくっつけた。

 

感じる彼の体温が、私の下腹部へと伝わりジンジンと熱いナニかを刺激する。

 

…んっ、もう…。

 

「はぁはぁ。あぅ…、比企谷くん…」

 

「ちょ、顔が…っ」

 

「お願い…、比企谷くんから…、シて?」

 

「っ!!」

 

 

はむっと、比企谷くんの首筋を甘噛むと、彼はびくりと身体を震わせた。

 

たぶん、比企谷くんの身体はお砂糖で出来ている。

 

だってあんなに甘党なんだもん。

 

「っ!…っ、あ、あの。雪ノ下さん…」

 

「ぁむ、はむ…。にゃに…?」

 

彼はほんのちょっぴり真剣な顔で、赤らめた顔を手で隠しながら、そっと私の肩を掴んだ。

 

彼の震える手に力が入る。

 

相変わらずにゆらゆらと左右に揺れるアホ毛には催眠効果があるのだろうか、もう我慢が出来ない程の性欲と欲望が溢れ出た。

 

「…分かりました。俺も男です」

 

「っ!ひ、比企谷くん…っ、やっと私を…っ!」

 

 

優しくほんのりと、比企谷くんの腕が私の身体を暖かく包んだ。

 

甘い香りが大好きな彼から漂っている。

 

やっぱりキミはお砂糖で出来てるんだね。

 

もっと噛ませて、もっと舐めさせて、もっと犯して。

 

 

「…あ、じゃ、じゃあ比企谷くん。まずはね、私のアソコを濡らすために前戯を…」

 

「あれ?何を勝手に喋ってるんですか?」

 

「……へ?」

 

 

くいっと私の顎を持ち上げると、彼は突然に冷たい視線で私を睨んだ。

 

 

「犯してほしいんでしょ?犯される人に自由はありません」

 

「ぁ、ぁの…、そういうプレイなの?」

 

 

彼はゆっくりと、私の両手を自らが身に付けていたスラックスのベルトで拘束した。

頭をふわりと撫でられながら、私は床へ仰向けに転がされる。

 

 

「…ぅ、っ、ちょっと、恥ずかしいなぁ…」

 

「黙れよ。陽乃」

 

「っ!?」

 

 

初めて呼んでくれた名前がこのタイミング!?

ちょっと私の妄想を超えているよ比企谷くん!

 

うにうにと芋虫のようにしか身体を動かせない私を、彼は相変わらず冷めた視線で見つめ続けていた。

拘束された両手では、胸を隠す事も出来ない。

 

ふと、彼が私の下腹部へと視線を移した。

 

 

「下も脱いでくださいよ」

 

「ぁぅ…、あの、でも、手が…」

 

「…脱がしてください。でしょ?」

 

「…ぅ。は、はい。…ぬ、脱がして…っ、ください…」

 

「…はぁ、本当に何も出来ないんですね」

 

「ぅぅ。ごめんなしゃい…」

 

 

どこでスイッチが入ったのか、彼のSっ気が私のMっ気を刺激する。

 

彼は面倒臭そうに私の両脚の間へと座り、ふにふにとロングスカートに手を掛けた。

 

腰から太ももを通り、足首から抜けていく。

 

パンティのみの私の全裸姿を見るなり、彼は溜息を吐きながら立ち上がった。

 

 

「ひっく…、ぅぅ、は、恥ずかしい…」

 

「陽乃はこういうのが嬉しいんですよね?」

 

「っ、は、はい…、嬉しいです…」

 

「パンツも脱がしてほしいですか?」

 

「…っ、あぅ…、はい。脱がしてほしいです…っ」

 

「…でも、なんか濡れてるし、触るのはばっちぃですね」

 

「っ!い、いじわるな事を言わないでっ!」

 

 

彼の視線がじろじろと身体のあちこちを捉える。

その度に、奥底から感じる疼くような我慢の出来ない切なさ。

彼に言われた通りだ。

もうパンティはびっしょりに濡れている。

 

 

「それにしても凄く濡れてるな…。まさか、尿も混ざってるとか?」

 

「〜〜っ!そ、そんなわけない!…っ、お、おしっこなんて…」

 

「…へぇ、それならココを触っても問題ないですよね?」

 

「っ、え、い、いや!ひ、比企谷くん…、そ、んっ、そ、そこは…ぁっ!」

 

 

少しだけ乱暴に、比企谷くんは仰向けに横たわる私の膀胱を足のつま先踏み付けた。

 

伝わる尿意が身体に電気を駆け巡らせる。

 

別にオシッコを我慢していたわけではない。

 

それなのに、何故か彼に罵られ、裸にされ、両手を拘束され、様々な陵辱を受けている内に、膀胱の内部で溢れ出そうになるナニかが揺れるのだ。

 

 

「漏らすんですか?裸で拘束されて、挙句には尿を漏らすと」

 

「い、いやっ…、ちがっ、ぅ、んっ!…お、おしっこじゃ…っんん〜っ!」

 

「…気のせいですか?パンツに染みが増えてますよ」

 

 

ぐい、ぐいっと。

痛くない程度の圧力が尚も続いた。

 

彼の瞳がほんのりと意地悪な赤色へと変わる。

 

 

「漏れそうなら言ってくださいね」

 

「ぅぅ…、と、トイレに行かせてくれるの?」

 

「瓶を用意します」

 

「っ!い、いやっ!んっんっ、…そんな…、好きな人の前でなんて…」

 

「…我慢は身体に毒ですよ?」

 

「んっ〜〜!…ぅ、ぁ、っ〜。も、もう、だめ…」

 

「それで?」

 

「…ぅぅ、び、瓶を…、ください…」

 

 

なんと言う恥辱。

これ程までに辱められ、感じさせられた事など経験したことがない。

そもそも普通のエッチすら経験ないけど…。

まさか、玄人向けから手を出されるとは…。

 

 

「…あぁ、すみません。瓶なんて俺の部屋にありませんでした」

 

「っ!?…や、や、やぁ…、もう、…っ、出ちゃ…」

 

「とりあえず部屋で漏らされても嫌なんで、ベランダに行ってもらえます?」

 

「っ、う、うそでしょ…?」

 

「はは、泣かないでくださいよ。流石に冗談です。でも本当に瓶とか無いんでコレにしてもらえますか?」

 

 

そんな冗談すらも待てない程に私の膀胱は限界に近付いている。

そして、彼がコレにと言って渡してきた物は……

 

 

「…はぁ、はぁ、ご、ゴミ箱…」

 

「はい。これならいっぱい入ります」

 

「ぅぅ…、そんなの…」

 

「我儘言うならそのまま漏らして下さい」

 

「っ!い、いや!しますっ…、しますから、ゴミ箱を…っ、ひっく…、ください…」

 

「…はいはい。特別に手を貸してあげましょう」

 

 

彼はゴミ箱を私の足元に置くと、丁寧な手付きで仰向けに転がる私の腋を持ち、ゴミ箱へおしっこが入る位置へと立たされる。

 

 

「ほら、こぼさないように」

 

「…っ、ぅぅ。は、はい…」

 

 

安心感からか、それとも我慢の限界からか、尿道に伝わる静かな流動に、私は諦めるように目を閉じた。

 

 

ちょろろろ……と。

 

 

私のおしっこがゴミ箱へと。

 

 

音も、匂いも、姿も、全てが彼に聞かれて、見られている。

そんな一生のトラウマになり得る出来事にも、なぜか私の心は暖かく満たされていた。

 

 

 

「…はい。上手に出せました」

 

 

「っ、うぅ、ひっく…。ひ、比企谷くん、意地悪だよ」

 

 

「忘れないでください。今日から陽乃は俺の物だ」

 

 

「んっ、ぅぅ…、は、はい…」

 

 

 

 

 

.

.

……

………

…………

 

 

 

 

 

事を終え、気付けば雪ノ下さんは俺のベットにぐったりと横たわり、規則正しい寝息を立てていた。

 

流石にあのままの格好では風邪を引くだろうと思い、服やら布団やらを上から乱暴に被せる。

 

 

「……」

 

 

俺は彼女の寝顔を眺めつつ、変なスイッチが入ってしまった自分に後悔していた。

 

……ちょっと前に見たマニアックな同人誌が悪い。

 

全部あの同人誌が…。

 

ふと、彼女がゆるりと寝返りをうち、幸せそうに眠る彼女の唇が妖艶に揺れる。

 

 

「今日から陽乃は俺の物…、ね」

 

 

独占欲と言うか、支配欲と言うか。

あそこまで俺の言う事を素直に聞いた雪ノ下さんに、少なからず好意と言うものが生まれなかった訳ではない。

 

愚かだと理解しているものの、可能であるならば本当に彼女を俺の物にしたいとさえ思った。

 

……そうなると、障害となるべくは雪ノ下家の大ボスか。

 

 

「…はぁ」

 

 

純粋に、彼女の好意を信じてみよう。

 

思い出してみてと、彼女に振り回されることはあったにせよ、裏切られた記憶は無い。

 

 

「…大ボス…、ままのんを討伐する作戦を考えておかないとな」

 

 

持つべくして持った覚悟。

彼女と一緒に居れる努力をしよう。

信じた彼女と共に歩けるように。

 

俺はそっと、雪ノ下さんの頭を撫でてみる。

 

ふわりと柔和な寝顔を見せる彼女が可愛らしく、俺は頭を優しく撫で続けた。

 

 

 

 

 

 



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玉砕グローリー

 

 

 

 

 

「うむむむ…」

 

いやぁ、こりゃ参ったわねぇ。

まさか比企谷くんにあんな変態プレイを強要されるなんて…。

 

まるで雌豚を見下すような視線で視姦する彼の瞳。

 

力強く私の太腿を掴む手。

 

寝付いた私を優しく撫でてくれた彼の手つき。

 

思い出しただけでも濡れてきそうになるほどの、その強烈な記憶が頭の中で何度も何度も反芻する。

 

彼と私が一線を越えてから数日経った今でも、それを思い出しながら自慰するだけで、味わい深い快楽を得られるのだ。

 

 

「…ふむ。でも1人でやるのも飽きてきたし…。正妻となった今や、遠慮する必要もないわよね?」

 

 

彼の寝顔がホーム画面となっている私のスマホ。

思わずニヘらと頬が緩んじゃう。

…おっと、違う違う。

電話電話〜っと。

 

土曜日の昼間ならきっと暇な彼はお家でゴロゴロしてるはずだ。

 

タップを数回繰り返すと、小気味良い電子音が鳴り響く。

 

とぅっとぅるーるるる。

とぅっとぅるーるるる。

 

 

『…はい?』

 

「おっす!比企谷くん大好き!」

 

『はいはい。それで?何か用ですか?』

 

「デートだよデート!」

 

『デート…』

 

「私たち付き合ってるんだよ!?それなのに、特殊なエッチをして以来、電話とLINEしかしてないじゃない!」

 

『特殊なエッチ言うな…。まぁ、学校もありましたからね。デートか…。ん〜』

 

 

電話先から何かを躊躇う呻き声。

そもそも平日だって、受験を終えた彼は自主登校のクセに、律儀にのたのたと学校へ向かうのだ。

 

きっと奉仕部が、彼の重たい脚を動かす理由なのだろうけど…。

 

…べ、別に不安とかじゃないよ?

 

だって彼は私の全てを受け入れてくれたんだもん。

 

雪乃ちゃんやガハマちゃんじゃなくて、私を選んでくれたんだもん。

 

大人な私はね、お子ちゃまな彼女達と違って、他の女の子と会うからっていちいち情緒不安定になったりなんかしないんだからね?

 

 

「えへへ、一緒に水族館に行こうよ。それでぇ、夜景が綺麗な所でディナーを食べてね、ふかふかなベッドでまた…、その…、へへへ」

 

『…ふむ。それ、今度でも良いですか?』

 

「な、なんですって!?」

 

『っ!ちょ、声が大きいな…。これから、少し用事があるんですよ』

 

「用事が…、ある、だと!?…も、もしかして女の子との用事!?」

 

『…情緒が不安定すぎません?』

 

「雪乃ちゃんはガハマちゃんと2人で千葉まで買い物に行くって言ってたし…、ってことは小町ちゃんね?小町ちゃんくらいしか居ないもんね!?」

 

『あ、いや、一色が来年の…』

 

「ぐわぁーっ!!ぬかったわ!ぬかってしまったわ!あの小娘がまだ居たんだー!!」

 

『あ、あの、本当に少し落ち着いてもらえます?』

 

「あぅ…。私の何に飽きたのよぉ。まだ処女は奪ってもらってないのに…」

 

『おまえマジで落ち着けよ』

 

 

彼の呆れた声に、私は涙声でしか返すことが出来ない。

まさか、付き合って直ぐに浮気をするなんて…。

うぅ、私の身体だけじゃなく、心まで傷モノにするのね…。

 

 

『…はぁ。一色が来年の受験に向けて参考書を買いたいって言うから付き合わされるだけですよ』

 

「…ほ、本当に?そのまま夜に一色ちゃんの未成熟な身体を襲ったりしない?」

 

『しねえよ。普通はしねえよ。…そんなに言うなら、雪ノ下さんも来てくれませんか?』

 

「へ?」

 

『…俺なんかよりも雪ノ下さんの意見を聞いた方が絶対良いですし』

 

 

邪魔をしちゃっていいのかなぁ、なんて思う反面、私は彼の彼女だ!と言う事実をあの子に知らしめる良い機会だとも思える。

 

ふむ、彼の事だから、きっと私を正妻に迎えたと、誰にも言ってはいないだろう。

 

……。

 

 

「ご、ごほんっ!」

 

『?』

 

「わ、私は…、比企谷くんの彼女です…、よね?」

 

『…まぁ。そうですね』

 

「か、か、彼女とは、彼氏の動向をチェックする義務があります」

 

『……』

 

 

無音がひどく怖いと感じるのは何故だろう。

好きな人に嫌われたくないという深層心理が働いているのか。

この年齢まで恋愛をして来なかった私にとって、その理由は分かりようもないのだが…。

 

 

 

「ぁぅ…、あの、本当に私も…、行っていいの?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーー☆

 

 

 

 

 

 

某所待ち合わせ場所。

 

私は卒業前の先輩がわざわざ学校へ登校している所を捕まえて、受験勉強の参考書選びを理由に休日のデートを取り付けた。

 

この1年間、私の小悪魔的誘惑を交わし続けた先輩も、ようやくにその重たい貞操を私に捧げる覚悟が出来たのだろう。

 

ヘタレな先輩の事だ、いざ当日になってみれば雪ノ下先輩と結衣先輩を連れてきました、なんて事もあり得無くない。

その辺は抜かりなく、雪ノ下先輩達には千葉市の映画館で使える、有効期限が今日までのタダ券を渡しておいた。

狙い通りに、彼女達は今頃千葉で百合百合やっていることだろう。

 

へへへ。

 

勝った…。

 

勝ちました!!

 

 

「…ふへへ。今日で決めてやります。邪魔はもう居ませんしね…」

 

 

ふわふわと浮かぶ前髪を手鏡で整えること80回。

待ち合わせ時間の5分前になり、ようやく彼は現れた。

 

ゆらゆらと左右に揺れるアホ毛。

 

だるそうに腰を曲げる歩き方。

 

整った顔にギャップを生む瞳。

 

先輩に違いない。

 

 

「おーい!せんぱーい!せんぱーい!!」

 

 

と、大声を出す私に気がついた先輩は、若干嫌そうな顔を浮かべながらもゆっくりこちらへ向かってくる。

 

もう、照れ隠しですか?

 

本当は小走りしたいクセに。

 

 

「先輩!遅いですよ!」

 

「まだ待ち合わせの時間じゃないだろ」

 

「わかります。わかります。そうやって、楽しみじゃなかったぜ?俺。のアピールですね?でもね、先輩。それって単なる自己満足に過ぎないんです。女の子は早めに来てくれてる男子にときめくんですから!」

 

「あれ、こんなにうざかったっけ」

 

 

私と会えたことが嬉しいのだろうか、先輩は減らず口を叩きながらポケットに手を突っ込んだ。

 

寒そうに身体を縮こまらせて、うっすらと白い息を吐く。

 

 

「はぁ。なんだってこんな寒い日に…」

 

 

そうやって、グレーの雲に覆われる空を見上げた先輩の首元にはいつものマフラーが巻かれていない。

 

 

「もぉ、そんなに寒いならマフラーくらい巻いてくればいいじゃないですか」

 

「…取られたんだよ」

 

「?…ほら、私のマフラー使っていいですよ」

 

「は?それじゃあおまえが寒いだろ」

 

「私はタートルネックのセーターなので大丈夫です。それとも、私の使っていたマフラーは恥ずかしくて使えませんか?」

 

 

そう言って、私は拒もうとする先輩の手を払いのけ、少しだけ強引にピンク色のマフラーを先輩の首に巻きつけた。

 

まったく、世話が焼ける人です。

 

 

「…暖かい。…なんだ、急におまえが正統派のヒロインに見えてきたよ」

 

「ほぇ!?」

 

「ありがと。ほいじゃ行きますか。あの人を待たせても怖いし」

 

「わ、わ、私がヒロイン!?そ、それって私の事を口説いているんですか!?」

 

「はいはい振られた振られた。たったと歩け。置いてくぞ」

 

 

先輩は言った。

 

私の事を正統派の後輩系美少女小悪魔ヒロインと。

 

ほんのりと、顔が熱くなる。

 

せ、せ、先輩も私の事を好きだったとは…っ!

 

すでに両思いなら怖いものなんて一つもない。

 

イケる!

 

手を繋ぎながら照れつつもホテルに誘われる所まで想像が出来てしまう!!

 

 

「…ぅへへ。こりゃ今夜は眠れませんな!!」

 

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

 

恐怖は嵐のように突然で、私の自由も尊厳も、全てを軽々しく吹き飛ばす。

 

 

 

 

それは場所を大型書店に移し、意気揚々と自動ドアを潜ろうとした時だった。

 

店内の暖房に誘われ、ここが千葉の沖縄ですね、と小ボケを先輩に漏らすも、先輩は私の事など気にする素振りも見せずに、自分のスマホをちらちらと見続けていた。

 

これは減点ですね。

 

デート中にスマホを見るのは大減点ですよー!と、怒ってみせるも、先輩は構ってくれるどころか私の頭を軽く叩くだけ。

 

なんとなく悔しくなって先輩の腕を強く抱きしめてみたり…。

 

 

その時にふと、店内の温度が5℃程下がった。

 

 

暖房は呻き声を上げて温風を吐き出し続けているにも関わらず、どこからともなく吹き荒れた冷気が、まるで私の喉仏にナイフを押し付けているかのような殺気と共にその場を支配する。

 

 

耳よりも早くに、脳が危険を感知した。

 

 

ーーー離れなさい。

 

 

さもなければ

 

 

貴方の顔を剥ぐ。

 

 

 

っ!?

 

凍りつくように身体が固まる。

 

その声の持ち主が背後に居る事は確かなのに、私は恐怖のせいで振り向けなかった。

 

 

「…やっはろー、一色ちゃん。ねぇ、貴方は誰に許可を得て発情しているの?」

 

「…っ!ま、魔王の襲来警報発令です!せ、先輩!早く逃げましょう!!」

 

「誰が魔王よ!」

 

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に。我が真紅の混交に望み給もう」

 

「え、詠唱!?この子っ、爆裂魔法を撃つ気ね!?こんな街中で…っ!」

 

 

覚醒の時来たり、無謬の境界に堕ちし理…。

 

 

魔王の眼光に詠唱を噛みそうになるも、命を削り落とす気持ちで唱え続ける。

 

…へへ、先輩。

 

そんな不安そうな顔をしないでくださいよ。

 

総武族の頭が悪い子こと一色いろはが、全身全霊を持ってこの悪魔を消し飛ばしてさしあげましょう!

 

 

「っ!…エクスプロージョョョン!!!」

 

「くわぁ〜〜っ!!」

 

「…ノリが良すぎだろ。こいつら」

 

 

 

 

 

……で。

 

 

 

 

 

「どうして雪ノ下先輩のお姉さんが居るんです?」

 

「愚問ね。そんなの彼に呼ばれたからに決まってるじゃない」

 

「むむ。どういうことですか?先輩」

 

 

先ほどの大立ち回りのせいで、書店の店員さんによって店から摘み出されてしまった私達は、近くの喫茶店にて一時休戦としている。

 

店員さんへ平謝りをした後も、なんやかんやと言い争う私とお姉さんを見て、先輩は心底面倒そうな顔を浮かべていたが、正直な気持ちを言うならば、私の心は穏やかではない。

 

 

「…どうもこうもない。参考書選びなら俺よりも雪ノ下さんの方が最適だと判断したまでだ」

 

「有り難迷惑にも程があります!察してくださいよ!私の気持ちをもっと察してくださいよ!!」

 

 

ホットコーヒーが熱かったのか、先輩は一度傾けたコーヒーカップを直ぐにテーブルへと置き直す。

 

ほんのりと漂う大人に雰囲気と、カップの周りに散乱するスティック砂糖の残骸が物悲しい。

 

ふと、私は雪ノ下先輩のお姉さんが小さく笑いながら、私を憐れみな目で見つめていることに気が付いた。

 

 

「ぷぷ。残念だねぇ、一色ちゃん。せっかくのデートだったのに」

 

「くっ、な、なんなんですかこの女!」

 

「ふふん。ねえ比企谷くん。あんまり勿体付けずに言っちゃおうよ。正妻は誰の物かってね」

 

「…っ、か、軽々しく正妻戦争について語らないでください。バーサーカーの分際で」

 

「誰がバーサーカーよ!これだから影の薄いアサシンはムカつくの!」

 

 

言ってくれましたね?

私をアサシンだと侮辱するならば、私の持てる力全てを使ってあなたを倒してさしあげましょう!

 

と、取っ組み合いながらガシャンガシャンと暴れていると、先輩は呆れた様子で静かに呟いた。

 

 

 

「…俺はイリヤが好きだなぁ」

 

 

 

「「……えっ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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精算タクティクス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ねぇねぇ一色ちゃん。この参考書なんてどう?」

 

「…『処女の生きる道』。…あははー、陽乃さん面白い冗談ですねー。…あ、コレなんて陽乃さんにオススメですー」

 

「『あなたはひとりぼっち』…へぇ、良い度胸だね」

 

 

大型書店の一角で、相変わらずに仲の悪さを披露する2人を無視し、俺はそもそもこの場に来た理由である、一色の参考書を探し続ける。

 

喫茶店で取っ組み合う2人を仲裁するのも面倒になり、早く目的を済ませてしまおうと再度書店に訪れてみたものの、2人は先ほどから互いの逆鱗を刺激し合うだけで参考書を探そうとしない。

 

そもそも、一色が文系なのか理系なのか、どこを受験するのか、試験科目はなんなのか、全てを知らされずにいるために、参考書の探しようがないのだが…。

 

 

「…一色、おまえってどこ受けるの?」

 

「ほぇ?」

 

「文系か?理系か?国立?私立?」

 

「…んー。先輩は?」

 

「あ?俺は文系だけど…」

 

「じゃあ文系です!」

 

 

じゃあ文系ですって、そんな決め方で良いのか?

少なからず、大学の選択は今後の人生に大きく影響を及ぼすと思うのだが…。

 

俺が訝しげに一色を見ていると、ひょろっと割って入った雪ノ下さんが大きな胸を張った。

 

 

「はい、一色ちゃん」

 

「ん?『発情した犬でも分かる算数』…なんですか?コレ」

 

「私のおすすめー。一色ちゃんは絶対に理系脳だよ」

 

「……」

 

 

…なんか、変なタイトルの本ばかりが置いてあるな。ここの書店。

特段に興味があるわけではないが、俺は雪ノ下さんの選んだ参考書をパラパラと捲る。

 

その間も2人は硬い表情で笑い合っているが放っておこう。

 

 

「文系文系文系!」

 

「理系理系理系!」

 

「…まぁ、俺は国立文系が志望校だったから、センター試験は理系科目も必須科目だったけどな」

 

「!!やっぱり理系科目も勉強します!私の志望校も国立文系なので!」

 

「あ!この子!不純な動機で大学選んでるよ!いけないんだよ!そんな理由で大学を選んじゃ!」

 

 

なんでコイツらは静かに出来ないんだろう。

さっきから周りの注目を集めてるんだよなぁ。

 

それにしても、一色が国立文系を志望しているとは驚いたな。

 

こいつのことだから、大学なんて簡単に入れて4年間遊べれば良いですぅ、とか言うと思っていたが…。

 

 

「私も先輩と同じ大学に行きます!」

 

「ぶーっ!比企谷くんの受かった大学は一色ちゃんみたいなエロ妄想しか出来ないような頭じゃいけません!」

 

「なんつったてめぇ!」

 

「やんのか小娘っ!」

 

 

国立国立…っと、お、赤本めっけた。

ふむふむ、自分が受かった大学ながら倍率が凄まじいな。

よく受かったわ。俺。

 

最初の方のページに羅列された、各学部の受験者数や合格者数の数字に、改めて合格した実感が湧いてくる。

 

ふと、入試要領の欄に載っていた、とある入試内容が目に入った。

 

 

「…ほら、推薦入試ってのがあるぞ?総武高は進学校だし。おまえ、生徒会長もやってんだから、これで受けた方がいいんじゃないか?」

 

「ほー!推薦ですとな!ふむふむ、確かにコレなら…」

 

「まぁ、名前ほど簡単なもんでもないと思うが、平塚先生に相談してみろよ」

 

「はぅ…。せ、先輩…っ。そんなに私のために…」

 

「比企谷くんは早く帰りたいだけだよね?早く帰って私といちゃいちゃしたいだけだよね?」

 

「はいはい。妄想乙です」

 

「妄想じゃないんだけど!?私は比企谷くんの正妻なんだから!!」

 

「あらら、この人また虚言を吐いてます」

 

「ぶち殺すコイツ」

 

 

ふむ。結局参考書は買いそうもないな。

 

2人のテンションが高いためか、一緒に居るだけですごく疲れてしまった。

雪ノ下さんといちゃいちゃしたいわけではないが、確かに早く帰ってゴロゴロしたい。

 

そういえば、今日はお袋達が旅行に行って帰ってこないんだったな。

小町も友達と卒業旅行に行くと言っていたし。

 

…夕飯作るの面倒だなぁ。

 

 

「…夕飯作るの面倒だなぁ」

 

「「!!」」

 

 

あ、声に出ちゃった。

 

 

「…く、詳しく聞かせてくれようか?」

 

「ん?あ、いや、今日は家に誰も居ないので…」

 

 

なんだかんだ1人分を作るのって1番面倒なんだよなぁ。

カレーを作り置きするのも良いが、いかんせん自分で作ったカレーは飽きてしまう。

 

外で食べてしまおうか…。

 

 

「…むぅ」

 

 

「「……」」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー☆

 

 

 

 

 

 

 

 

で。

 

もはや驚いたりはしないさ。

 

書店にて解散したはずのコイツらが、我が物顔で俺ん家に居ることに。

 

なんか嫌な予感がしたもん。

 

帰ってみればすでに2人分の靴が玄関に放り散らかされていた事に、どうやって鍵を開けたの?なんて思いもしたけど、もはやそれも聞きやしない。

 

 

「…で、その格好は料理でも作る気ですか?」

 

「まぁねー」

 

「はーい」

 

 

オレンジ色のエプロンを身に付けた雪ノ下さんと、ピンク色のエプロンを身に付けた一色。

 

なに。2人揃って料理するなんて、食戟でもする気なの?

 

ていうか、コンビニで買ってきたこのお弁当はどうすればいいの?

 

 

「…あのさ、ありがたいんだけど…」

 

「さて、ちゃっちゃと始めちゃいますか。一色ちゃん、ゴーヤを切ってもらえる?」

 

「はいさーい!」

 

 

…ゴーヤなんてウチにあったのか。

 

俺は突然に意気投合した2人を不思議に思いながら、なんとなく申し訳ないのでコンビニの袋は隠すことにした。

 

ゴーヤを切って、卵をといて、豚バラ肉を塩胡椒で焼いてと、息の合った2人が料理を着々と進めていく。

 

ゴーヤちゃんぷるか?

 

なにそのシブいチョイス。

 

まぁ、嫌いじゃないけど…。

 

 

「後は蜂蜜を掛けて完成ね」

 

「はい。美味しそうなホットケーキが出来ました」

 

「おい。ゴーヤと豚バラ肉はどこ行った」

 

「嘘でーす!!はい、あとはお皿に盛り付けて完成だよー」

 

「みんな大好きゴーヤちゃんぷるです」

 

「なんだコイツら」

 

 

ゆるふわな冗談の飛び交う暖かな食卓。

テーブルには3人分のごはんとゴーヤちゃんぷる、そしてお味噌汁が並ぶ。

 

…こんな言い方はアレかもしれないけど、なんか質素だな…。

 

 

「「いただきまーす」」

 

「…いただきます」

 

 

不思議な面子で囲む食卓で、何の気なしに手を付けたゴーヤちゃんぷるは苦味に旨味が絡み合うような、絶妙な味を醸し出していた。

 

美味しい…。美味しいけど。

 

 

「なんでゴーヤちゃんぷる?」

 

「比企谷くん、ちゃんぷるじゃないよ。ちゃんぷるーだよ」

 

 

イラ。

 

 

「冷蔵庫開けたらゴーヤが入っていたので。なんかいきり勃つ感じが先輩にそっくりでした」

 

「あぁ、そう」

 

 

…もう、なんか頭が麻痺してるのかな。

女性2人が両親の居ない家に、それも空が暗くなったこの時間に居ると言うのに別段焦ることもない。

 

先ほどからニヤニヤと何かを企む雪ノ下さんも、ソワソワと何かを望む一色も、もしも襲ってこようものなら殴り飛ばしてやろうと思ってる。

 

 

「…ねぇねぇ、比企谷くん」

 

「…はい?」

 

「もう時間も遅いじゃない?」

 

「遅くない。帰れ」

 

「ま、まだ何も言ってないでしょ!?」

 

「ポケットから四角い袋が見えてんですよ!」

 

「は!こ、これはタダのゴムだから!!」

 

 

タダのゴムってあのゴムしかないだろうが。

本気でコイツは何かをしでかす前に叩き出した方がいいな。

 

すると、一色がガタンと途端に席を立った。

 

その音に驚きつつも、俺と雪ノ下さんは一色に視線を向ける。

 

 

どこか頬を蒸気させて。

 

赤く染めたままに、彼女の小さな口が静かに動く。

 

 

 

 

「あ、あの!私は…、大丈夫な日なので…っ、な、生でもっ!!」

 

 

 

 

 

あぁ、コイツも叩き出さないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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決戦ブレンド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぽちゃーん。と。

 

蒸気によって天井へ張り付いた水滴が湯船に落ちる。

まるで、私の頭から邪念を取り払うかのように、その音が一つ、二つと浴室に鳴り続けた

 

先輩と小町ちゃん、そしてご両親がそれぞれ違う物を使っているらしく、ボディーソープ、コンディショナーが3種類も置かれている。

 

願わくば、先輩と同じ物を使って、同じベッドの中で同じ香りを漂わせたい。なんて…。

 

 

「ふむむむむ…」

 

 

あんまり長風呂したら怒られちゃうかな。

私は湯船から上がり、脱衣所に置かれたバスタオルで身体を拭く。

 

この日を待ち望んでいたかのように早くなる鼓動。

 

そうだ、私はこの日を待っていたんだ。

 

先輩と…。

 

一つになる日を…。

 

 

 

と、感傷に浸っていた時に、脱衣所のスライド扉が勢いよく開けられてーーー

 

 

「…言っておくけど、一色ちゃんの寝るところはリビングだからね」

 

 

陽乃さんがそれだけ言うと、またも勢い良く扉が閉められる。

 

 

アイツさえいなければ…。

 

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

 

「それじゃあ!パジャマパーティーを始めよー!!」

 

 

陽乃さんがご近所迷惑も考えずに声を上げる。

リビングのテーブルに並べられたトランプやらウノ、そして並べられたアルコール度数の弱めな酎ハイの数々。

 

私と先輩はまだ未成年なんですが…。

 

 

「いいのいいの!私が偉くなったら15歳から飲酒オッケーにするつもりだから!」

 

 

ヤケにテンションの高い陽乃さんと、そんな陽乃さんをジト目で睨み続ける先輩。

 

さきほど無理矢理に泊まることを了承させられたことを根に持っているんだろう。

 

…お酒…、コレは使えますね。

 

 

「は、陽乃さん!もう缶が空いてますよ?ほらお代わりいかがですか?」

 

「お、気がきくねぇ!ほら、一色ちゃんも飲みなよ!」

 

 

…このまま酔い潰れろ。

 

そうすれば、私と先輩は熱い夜にシケ込めます。

 

陽乃さんのご機嫌をとるために、私も勧められたお酒をチビチビと飲んでみるが、アルコールのなんとも言えない苦味が口に広がる。

 

うぇ、こんなのどこが美味しいんですかね。

 

あ、でも頭がほわほわして良い気分です……。

 

 

「…おい、一色。あんまり飲み過ぎるなよ?」

 

「はひ。あぅ、身体がぽかぽかしてきました」

 

「一口で?弱いんだろうな。ほら、もう止めとけって」

 

「ぅ〜。めっ!飲みます!」

 

「お、おまえ…」

 

 

頭がクラクラします。

 

身体が軽くて気持ち良い。

 

それに、いつもより先輩に甘えたくなっちゃう欲求が強いと言うか…。

 

あれ、なんでこんなに…。

 

胸がうずうずするんだろ。

 

 

「あははー!一色ちゃん弱すぎー!」

 

「…雪ノ下さんも顔が真っ赤ですよ。おい、一色。水持ってくるからもうソレ飲むな」

 

「やーっ!いやーっ!」

 

 

困ったような顔を浮かべる先輩が愛らしい。

それでいてすごく切なく感じてしまう。

 

この気持ちを私は知っている。

 

先輩を妄想してオナニーした後に訪れる切なさだ。

 

 

たぶん、アルコールは欲求をむき出しにしてしまう効果があるのだろう。

 

 

だから、私は正直に。

 

 

そのままの想いを。

 

 

先輩に伝えた。

 

 

 

 

「…あぅ。えっちしたいです。先輩に…、触ってもらわないと収まりましぇん…」

 

 

 

 

 

 

ーーーーー☆

 

 

 

 

 

 

 

酒を飲んでも飲まれるな。

 

まだ高校生の俺には無縁の言葉だ。

 

…いや、無縁の言葉だった。

 

正に今、目の前で酒に飲まれるバカが居るから。

 

 

「あぅ…、えっちぃ…、えっちしたいですぅ」

 

「ずるい!わ、わたしもしたいっ!」

 

 

2人も居るからだ…。

 

マジでなんなの?こいつら。

無理矢理に押しかけ、泊まらせろ泊まらせろと喚き散らした挙句、勝手に酒盛りを行い、アルコールに脳をヤられてる。

 

一色はまだしも、自ら缶チューハイを買い出しに行った雪ノ下さんは、なぜ1缶も空けない内に酔ってるの?

 

弱いなら人ん家で飲まないでもらえますかねぇ。

 

…それにしても、この状況はどうすれば…。

 

 

「ひっく…、比企谷くんはマニアックなプレイが好きなんらよ!」

 

「はぅ…、わ、私、いつも先輩にお尻の穴を犯される妄想してまふ…」

 

 

阿鼻叫喚だな。

 

雪ノ下に連絡をするか?

 

いや、この状況を見て、アイツが警察に連絡しないはずが無い。

 

主に俺の潔白な履歴が危うい。

 

 

「…はぁ。こいつら縛って転がせておけば寝てくれるかな…」

 

「ひ、ひもなの!?次はひもなの!?」

 

「ひももおーけーですー!」

 

 

……。

 

一応、雪ノ下さんとは互いに公認の仲だし、一色は自ら懇願している。

このまま俺が2人をどう扱おうと、それは合法であってなんの問題もないわけだ…。

 

た、ただ、酔った女性をベッドに連れ込むのは…。

 

いや待て、何度も言うが、誘っているのは俺ではない…。

 

むむ。

 

難しい所だ。

 

 

「せんぱい!早く!えっちぃー!」

 

「比企谷くん!もう脱ぐよ!?脱ぐからね!?」

 

……。

 

大丈夫。きっと俺は悪くない。

 

悪いのはそう…、全部お酒のせいだ。

 

 

「…ふむ。それじゃあ、脱いでください」

 

 

「「?」」

 

 

「それで、この紐で互いの両手両足を縛ってください」

 

 

「「!?」」

 

 

 

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

 

 

 

ちょうど良い紐があってよかった。

 

前に読んだことがあるが、一般的な紐で人を拘束しようとすると、どうしても紐と肌の接着部に縛り痕が残ってしまうとか。

一応、タオルを噛ませているため、その傷を心配する必要は無さそうだが。

 

 

「っ、あ、あの…、先輩」

 

 

手足が縛られ、アイマスクにより視界も塞がれた一色が、どこか不安気な声を出す。

 

 

「ぅ…、ひ、比企谷くん。すこし怖い…かも」

 

 

同様に、雪ノ下さんも身体をもじもじと動かした。

 

拘束されたショーツのみの女性が2人。

視界を奪われて震える様は、なんとも俺の嗜虐心を擽ることか。

 

 

「…惨めな格好ですね」

 

 

俺は雪ノ下さんの露わになった大きな胸を足で優しく踏み付ける。

 

 

「っ…」

 

 

足の裏からでも伝わる柔らかい感触。

2度、3度と踏み付ける足に力を加えると、雪ノ下さんの呻き声は徐々に大きくなり、アイマスクに半分隠された顔が赤くなった。

 

乳頭に足裏が擦れる時ばかり、彼女の吐息は強くなる。

 

……面白い。

 

 

「…っ、ん…。ぅぅ…っ!」

 

 

足裏で擦ったり、足の指の間に挟んだり、彼女の期待通りな反応に快楽を覚える。

 

 

「…これだけで濡れるんですね」

 

「んっ!」

 

 

俺は雪ノ下さんの大きな胸に押し付けていた足を、股間の間へと移した。

 

靴下の上からでも分かる湿り気。

 

高温多湿な彼女の恥部は準備要らずで手間が無い。

 

 

「濡れやすい女…。もうおしっこは漏らさないでくださいね」

 

「んっ〜っ!あぅ、あっ!んっ!」

 

 

悪戯に何度か膀胱を踏みつけてみると、我慢している彼女の口から吐息が大きく漏れ始めた。

 

雪ノ下さんはココが弱いのかな…。

 

すでにビッショリと濡れた股間から足を退け、俺は彼女の湿り気で濡れた靴下を脱ぐ。

 

 

仰向けで脚をM字に開いたまま、雪ノ下さんは顔を蒸気させ続けた。

 

 

「はい。すこしお預けです」

 

「っ!ぅぅ、そ、そんなぁ…」

 

 

そんな彼女の甘ったるい声を無視し、傍らに転がるもう一人の少女へと視線を向ける。

アイマスクのせいで表情は分からないが、少なからず身体の強張りから怖がっている様子は伝わる。

 

…今更だけど、コレって浮気にカウントされないのか?

まぁ、隣で興奮してる雪ノ下さんが何も言わないからセーフなのかな。

 

 

「一色。痛かったら言えよ?」

 

「っ、は、はい…」

 

 

酔いに誘われた淫乱な行い。

 

ほんのりと香るアルコールに俺も酔ってしまったのだろうか。

 

いじらしく震える一色の姿を見て、俺はーーーーー

 

 

 

 

 

彼女の小さなお尻の穴に指を入れていた。

 

 

 

 

 

「んぃ…っ!ぅっ!!せ、せん…ぱいっ…待ってぇ…あぁっ!!」

 

 

 

 

ぬぷりと音を立て、生暖かくてどこか粘着質な液体が指に絡まる。

 

指はほんの少しも動かす事が出来ない程に締め付けられるも、ゆっくりと、だけども確実に、指の第2関節までを飲み込んだ。

 

 

「んぁぁ…っ!ぁ…はぅ…はぁ、だ、ダメ…っ、です…」

 

 

あまり聞いた事の無い一色の声。

腹部に力を込めて、何かを我慢している様子が堪らなく可愛らしい。

 

 

「…ん。指が全部入った」

 

「んっ!ぁ、ぁ…、はぁはぁ…。ぬ、抜い…てっ…っ!」

 

 

一色は苦しそうに声を震わせるも、性器からは糸を引くようなねっとりとした液体が溢れる。

 

…イジメたい。

 

そう思わせるのは、日頃のコイツが妹のように人懐っこいうえに、どこか猫のような気まぐれも見せるから。

 

 

「…抜いてほしいか?」

 

「ぅ…はぁ…は、はい…」

 

「2本入ったら抜いてやろう」

 

「うぇ!?ん、む、無理ですっ!…あ、ぁん、は、入りません…っ、から…」

 

「はは、冗談だよ」

 

 

アイマスク越しに懇願する一色の顔が恥辱に歪む。

名残惜しさを残しつつも、俺は一色のアナルから指をゆっくりと引き抜いた。

 

 

「っ、んっ〜〜ぁっ!」

 

「…へ?そんなに気持ち良かったの?」

 

「ち、違います!そ、その…」

 

 

腰を痙攣させる一色の頭を軽く撫でてやると、歪ませていた顔が次第に柔らかくなる。

 

 

リビングには、息を荒げて拘束される2人の女性。

 

 

なぜだろう。

非日常が目の前に訪れると、自分も夢の中に居るかのような錯覚を覚えるのは。

 

 

実際、雪ノ下さんを踏み付け、一色のアナルに指を挿れるなんて、とても日常の行為ではない。

 

 

……俺も酔ってるのか?

 

 

そう思ってしまったためか、冷静を保っていた血が沸騰するように、理性という枷が外れて本能が剥き出しになる。

 

 

「…ゲームでもしませんか?」

 

「…げ、ゲーム?」

 

 

雪ノ下さんが見えない小さな声で呟いた。

 

 

「…雪ノ下さんと一色。互いに触り合って、先にイッた方が負け」

 

 

「「…!」」

 

 

 

 

「負けた方は…、今夜はずっとお預けってことで」

 

 

 

 

 

 

 

 



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居眠りストリーム

 

 

 

 

 

 

 

負けた方はお預け…。

 

そんなの、ヒクヒクと痙攣させながら、布越しにでも分かるほどに濡れた恥部は納得がいかない。

 

焦らされて焦らされてお預けなんて…。

 

イヤ。

 

耐えられない。

 

直ぐにでも指を膣に挿れて掻き回して欲しいのに。

 

 

「それじゃあ、アイマスクを取りますよ?」

 

 

彼の手により、手足の拘束が解かれ、暗く覆われた世界に光が射した。

同様に、隣で寝転ぶ一色ちゃんのアイマスクも外される。

 

先にイッたら負け…。

 

私は震える身体に力を込めて、ゆっくりと一色ちゃんに近づいた。

 

 

「…ぁ、あの、一色ちゃん。さ、触るからね?」

 

「っ、お、お手柔らかにお願いします」

 

 

よそよそしい会話を経て、私の手と一色ちゃんの手が、同時に互いの胸へと伸びる。

 

暖かくて柔らかい。

 

自分のモノより数段小さなその胸は、綺麗な膨らみと小さな乳首が可愛らしい。

 

 

「…ちっちゃいけど、ちゃんと柔らかいんだね」

 

「ぁぅ。…陽乃さんのおっぱい…、牛みたいです」

 

 

牛っ!?

そんなに垂れてるのかしら!?

 

 

「…吸ってもいいですか?」

 

「へ?…あっ、んっ!」

 

 

うっとりと潤んだ瞳で、彼女は私の胸に吸い付いた。

 

牛の乳を舐めているつもりなの?

なんて冗談を言おうにも、時折乳首を甘噛されてしまい、口から溢れるのは耐え忍ぶ息使いだけ。

 

 

「っん…!い、一色ちゃん…っ、あ、あんまり…ぁあっ!」

 

「…ぁぐ。…あむ。…お餅みたいです」

 

 

お餅みたいだと言う一色ちゃんは、乳首を舐めては噛み、噛みは引っ張りと繰り返す。

 

…き、気持ち良いけど…、このままじゃ負けちゃう…。

 

っ!…反撃しなきゃ!

 

 

一色ちゃんが1度私の胸から離れた時に、私は彼女を無理矢理押し倒した。

 

 

「ん!きゃっ!」

 

「はぁはぁ…。っ、わ、私だってヤラレれてばかりじゃないのよ」

 

「う…、は、陽乃さん怖いです」

 

「…ん、ベロ…出しなよ」

 

「え、ええ!?」

 

「あむ!」

 

「ん!?」

 

 

押し倒して手を押さえつけ一色ちゃんの唇に、私は自分の舌をねじ込ませる。

ぬるりとした唾液に包まれながら、一色ちゃんの口内に舌を何度も這わせると、次第に彼女の舌も私の舌へ絡みつけるようにと動き始めた。

 

 

「ん…ちゅ…はぁ、ん…」

 

「ぁ…、ん、んっ…、は、陽乃さんっ、ちゅ、…はぁ、はぁ、ま、待って…」

 

「はぁはぁ…。ダメ、さっきの仕返しなんだから」

 

 

一色ちゃんの唾液を吸い続けるも、彼女は目を閉じて一生懸命に耐え続ける。

 

頬の赤らみと、そのギュッと閉じた目元が可愛らしい。

 

気付けば、私は彼女の股下に手を伸ばしていた。

 

さらさらとした、触り心地の良い太ももを辿り、行き着いた目的の場所には薄く茂る陰毛が。

 

 

「っ!は、陽乃さん…っ!」

 

「…ちゃんと整えてるんだね。陰毛の下には何が隠れてるのかな?」

 

「ぁ…やっ…んっ」

 

 

陰毛を掻き分け、濡れた恥部にツンと触れた。

 

 

「ねぇねぇ、凄く濡れてるよね。ココって一色ちゃんの大事な所でしょ?」

 

「んっ…はぁはぁ、や、やめてください…」

 

「やめて欲しいの?…でも、一色ちゃんのココはやめて欲しくないみたいだけど」

 

 

ツンツンと触れるたびに、一色ちゃんの腰がピクンと浮く。

湿り気が増したのだろうか、必要に触り続けた私の指は、見て分かるほどに一色ちゃんの体液で濡れていた。

 

ぺろっと、それを舐めとり、私は再度指を恥部に向ける。

 

 

「ピンクで綺麗なマンコだね。いじめたくなっちゃう」

 

 

一色ちゃんは股を閉じて必死に抵抗するも、私はそれを無理矢理開けて膣に触れる。

 

ぷっくりとした突起はクリトリスだろうか。

 

震えて耐える一色ちゃんの顔を見つめながら、私は彼女のクリトリスをチョンと摘んだ。

 

 

「あぅっ!あっ!…そ、そこは…っ!や、んっ!…いやっ…」

 

「…可愛いね。もっと鳴いてもいいんだよ?」

 

「んっ〜〜っ!うっ!あっ……、はぁはぁ……、うぅ〜、えいっ!!」

 

「痛っ!?」

 

 

クリちゃんを擦られ、身体をビクンビクンとさせた一色ちゃんに私は油断してしまった。

彼女の手が私の股に伸びたと思うと、突然に恥部脇から一瞬の痛みが。

 

ま、まさかこの子…っ!

 

 

「うぅ、わ、私の陰毛を抜かないでよ!」

 

「指には絡まっただけです!」

 

 

痛みのせいで、私は思わず彼女の手を離してしまう。

 

 

「あっ!…っ!」

 

「へへへ。形勢逆転です…。それでは、頂きます…。はむ」

 

「んぁっ!?」

 

 

一色ちゃんは身体を巧みに動かし、仰向けに倒れた私の両脚を持ち上げた。

 

いわゆるまんぐり返しの状態…、こ、これは恥ずかしい…。

 

 

「あむ…、陽乃さんのマンコ、美味しいです…」

 

「んっ〜。あっ…、は、恥ずかしい…」

 

「恥ずかしくなんてないですよ。だってこんなに綺麗じゃないですか」

 

「っ〜〜!な、舐めながら話さないで…っ!」

 

「ん、クリトリス…。ちゅ…」

 

「うぅ…、吸っちゃイヤ…んっ!」

 

 

ペロペロ、ちゅーちゅーと、いやらしい音をワザと立てる彼女に、私は思わず自らの顔を腕で隠してしまう。

クリトリスに優しく当たる舌触り気持ち良く、気を抜けば直ぐにでも何かが溢れ出てしまいそうだ。

 

 

「ちゅー。…ん。…はぁはぁ、ベロ挿れますね」

 

「あっ!いやっ!ダメ!んっんっ!んぁぁ〜〜っ!」

 

 

にゅるっと柔らかくて暖かいベロが私の中へと侵入してくる。

 

 

「んーー。ひもひひひへふ?」

 

「あっ!んっ!っ、っ!?」

 

 

気持ちの良い所に届きそうで届かない、そんな焦ったさが切なく私の欲求を襲った。

 

彼女のクンニを受け入れように、私は抵抗を止めて舐めやすいように腰を浮かせる。

 

 

「…はぁ、ん、…協力的ですね。陽乃さん、自分だけ気持ち良くなってズルいです」

 

「はぅ?」

 

 

ゆるりと、持ち上げられていた脚が降ろされると、一色ちゃんは蒸気した表情で私を見つめた。

ふと、自らの恥部を見せつけるように私の顔へと跨る。

 

 

「…んっ、あ、あの…、舐め合いっこ、しましょう…」

 

 

見上げた所から垂れてくる、彼女の精液。

それはポタリと私の頬に当たる。

 

 

「…っ、う、うん。わ、私も舐めてみたい」

 

「ぁぅ…、お願いします」

 

 

ペタリと、彼女のお尻が私の顔付近に降ろされた。

既にべちゃべちゃとなった彼女の恥部を数秒見つめてから、私はベロを彼女のソコへ這わせる。

 

 

「んっ…、ん、はぁ…あっ、き、気持ち良いですぅ…」

 

「ちゅ、はぁ、はぁはぁ…んっ、わ、私も気持ち良いよ?」

 

 

69の体勢のままに、お互いにお互いの恥部を舐め続けること数分。

 

どこか切なさが増したように感じた時、腹部よりも下の膀胱付近で何かの予兆か、きゅっ、きゅっと、おしっこが出そうになった。

 

それを我慢するように、私はクリトリスにしゃぶりつく。

 

 

「はぁ、あっ、うぅ〜。あ、あの、一色ちゃん、私……っ!」

 

「あっ…んぅ…。んっ、陽乃さん、私、…もう、イキそうです」

 

「っ〜〜!わ、私もイク……っ!あっ!んっ!いや、だ、だめっ!!」

 

「んっ!んっ〜〜っ!い、イっちゃう!!」

 

 

クリトリスを刺激されたタイミングで、逆もまた、クリトリスを刺激したタイミングで、互いの性器から半透明で大量の液体が飛び出した。

 

潮吹きと言うのだろうか、溢れ出てる最中も腰は抜けそうになる程に痙攣し力が入らない。

 

 

「っ…はぁはぁ」

 

「ぁ…はぁはぁ」

 

 

飛び出した潮がリビングのフローリングへ飛び散り、洪水の如く大惨事となってしまった。

 

まるで、刺激すればする程に噴射する夢のドリンクバーみたい…。

 

 

「あ、あの、陽乃さん…、どっちが先にイッタんでしょうか…」

 

「…えっと、わ、私、クリトリスを舐めるのに夢中だったから…」

 

 

全裸で息を荒げる2人は見つめ合いながらジャッジを求める。

 

途中から、勝ち負けとかじゃなくて気持ち良さが頭を支配してしまい、絶頂の感覚に悶えてしまった。

 

 

…負けちゃったかもしれない。

 

そうだ、判断を委ねるべきジャッジマンが居るじゃない。

 

 

「比企谷くん!勝ったのは」

 

「先輩!勝ったのは…」

 

 

「「どっち!?」」

 

 

 

と、渦中の彼へと判断を求める。

 

……求めるも。

 

先ほどまで彼が座っていたソファーにその姿は無い。

 

代わりに置かれた1枚のメモ用紙。

 

絶頂したばかりの身体を動かし、2人でそのメモ用紙を見つめる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

お疲れ様です。

 

眠くなったので寝ます。

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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緊張バースト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、お母さんが比企谷くんの顔が見たいって」

 

 

 

恥ずかしがり屋な太陽が灰色の雲に隠れた寒い日の昼下がり。

 

俺は呼び出されたままに訪れた喫茶店で、口に含んだモンブランケーキを思わず吹き出しそうになってしまった。

 

その原因は目の前に座るバカ女の発言だ。

 

 

「…っ、そ、そうっすか。それじゃあプリクラでも渡しておいてください。ほら、瞳が綺麗に修正された奴があるでしょ?」

 

 

バカ女ことバカのんは、ムスッとした顔で頬を膨らましながら、俺の事をやんわりと睨みつける。

 

この表情はアレだ。

 

本当に少し怒ってるけど、自分からは恥ずかしくて強気に言い出せない表情だ。

 

なんだかんだ、付き合い出してからは素直に彼女の事を理解できるようになっているのだ。

 

 

「…分かってるでしょ」

 

「理解しかねますね。…少なくとも、まだママのんに会うのは時期尚早かと…」

 

「だってバレちゃったんだもん」

 

「…バレた?」

 

「うん。ハウスキーパーの人に、比企谷くんから貰ったマフラーが見つかっちゃって」

 

「あげてないですけど…」

 

「それを受け取ったお母さんが、これは誰の?って。はぁ、オナニーした後にマフラーを置いたままにしていた自分を恨むわ」

 

 

何を人のマフラー使ってナニしちゃってくれてんの?

なんて突っ込む気にもならずに、俺は存分に呆れた溜息を吐きながら、ショボンとした彼女の頭を優しく撫でてやる。

 

 

「…バレちゃったのなら仕方が無いですね」

 

「ぁぅ…、ひ、比企谷くん…」

 

 

俺は雪ノ下さんの頭から手を離し、素早く帰り支度をする。

 

 

「別れましょう。俺はまだママのんに存在を消されたくありませんので」

 

「だめよ!見捨てないで!!私を見捨てないでよ!!あんな事までしておいて、飽きたらポイなんて卑怯よ!!」

 

「は、離せ!俺たちは利害関係で成り立つ関係だったでしょう!今や、あなたは俺にとって害悪でしかない!!」

 

「酷い!酷いことを言ったわこの人!!私を愛してると言ったじゃない!!」

 

「言ってねえよ!」

 

 

お客様っ!と、店員が止めに入るまで、雪ノ下さんは俺の腹部へ必死にしがみつき、俺はそれを引き離すべく頭を押さえつけていた。

 

それはもう修羅場と形容するに事足りる出来事で、周りの客から浴びせられる冷ややかで殺意のある視線は全て俺へと向けられている。

 

 

くそっ!

 

おまえらは何も知らないから俺を悪者と決めつけるんだ!

 

そんなの本物じゃねえよ!!

 

 

「はぁはぁ…、ちっ。…で?俺にどうしろと?」

 

「はぁはぁ。だ、だから、さっきも言ったじゃない。お母さんに会って」

 

「…会ってどうするんです。来月から大学生になるとは言え、俺は社会的には何の力も無い、ただの好青年でしかないんですよ?」

 

「ぅぅ、い、いつもみたいに助けてくれればいいじゃない」

 

「助けてもらいたいのは俺なんですけど」

 

 

いつもみたいに助けてよ、なんて弱々しく言う雪ノ下さんは、口をとんがらしながら「雪乃ちゃんのことはいっぱい助けてるくせに…」と呟いた。

 

…おまえは助けを求めるキャラじゃないだろ。

 

機嫌を損ねられても面倒なので、俺はモンブランケーキをフォークに刺し、雪ノ下さんに差し出す。

 

 

「…あーん」

 

「ん!おいひいっ!」

 

「…さすがに、家庭の事情を土足で掻き回すようなことは出来ません。…だけど…」

 

「んぐんぐ」

 

「顔を見せるくらいなら…、別に構いませんよ」

 

「んぐっ!!さすヒキ!比企谷くん愛してるー!」

 

 

さすが比企谷様ですわ!と、妹の方なら似合いそうなセリフを叫びながら、雪ノ下さんは再度あーんを求めて口を開けた。

 

あぁ、はるのんよ。俺は今、無性にマテリアルバーストをぶっ放したい気分だよ。

 

 

「…はぁ。はい、あーん」

 

「あーん!」

 

 

憎たらしい程に幸せそうな笑顔を浮かべて、可愛らしく頬を緩ませる姿は見惚れそうになる。

 

喜んだり、怒ったり、不安になったり、泣きそうになったりと大変な人だ。

 

 

 

「んぐっ。んっ、んぅ〜。えへへ、ごっくんしちゃった」

 

 

「……八幡的にポイント低いです」

 

 

 

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

 

 

で、何度か外からは見た事がある雪ノ下家に来たわけだが、広い敷地に建てられた立派な家と、並んだ黒塗りのリムジンに恐縮してしまう。

 

思わず門から玄関へと続く道で足が竦むのも俺だけではないだろう。

 

 

「緊張してるの?」

 

 

そんな俺の心情を察したのか、俺の手を引くはるのんが心配そうに振り向いた。

 

 

「…はい。今にも吐きそうです」

 

「うん。結婚の挨拶で緊張しない人は居ないよね」

 

「結婚の挨拶じゃないですから」

 

「でも安心してよ。今日はお母さんの機嫌も良いし」

 

「結婚の挨拶じゃないからな?」

 

「今度はお父さんも居る時に…、ね?」

 

「結婚の挨拶じゃねえって言ってんだろ」

 

 

あぁ…、どうしたもんかな…。

 

ママのんは一度しか見た事ないけど、きっと平気で俺みたいな庶民をクズだと切り捨てる人だ。

 

利用価値の有る無しだけで人間の分別を行うようなクソ人間に決まってる。

 

あー、やばいよなー。

 

俺みたいなクズ代表が雪ノ下さんと付き合ってるだなんて…。

 

…いや待て?

 

ママのんに俺のんとはるのんの交際をキッパリ断ってもらえば、角が立つ事なく別れることが出来る…。

 

そうなれば俺の平穏な堕落生活な戻ってくるわけだ…。

 

…ふむ。

 

逆境こそ最大のチャンスとはこの事か…。

 

 

「…へへ。ママのんは貧乏神を払えて、俺は悪魔を払える。…まさにwin-win!!」

 

「貧乏神?悪魔?何の話しをしているの?桃鉄?」

 

 

算段が立ったのと同時に、0から産み出す真理の扉は開かれた。

 

雪ノ下さんによって開けられた玄関を潜ると、どこかヨーロッパ調な雰囲気を醸し出すウェルカムスペースが俺を迎える。

 

 

「ほい、スリッパ」

 

「…?」

 

 

置かれたスリッパは、つま先に猫のぬいぐるみがあしらわれたファンシーな物だ。

 

コレ、雪ノ下に俺と由比ヶ浜でプレゼンした奴じゃん。

 

されども、出されたスリッパを変えろとは言えず、なんとも履き心地の悪い猫さんスリッパに足を通した。

 

 

「そのスリッパは私が雪乃ちゃんのマンションから盗んできた奴だよ」

 

「おまえ妹の私物を盗むなよな」

 

「だって私の彼氏が渡したプレゼントを置いておくわけにはいかないじゃない」

 

 

へへ、と笑う彼女の頭を叩きながら長い廊下を歩き続ける。

 

それにしても本当に長い廊下だな。

 

ラスボスが待ち受ける部屋って何でこうも前置きが長いかねえ。

 

初代ポケモンの四天王からワタルの部屋に行く廊下も謎に長かったしな。

 

 

「…じゃ、準備は良い?」

 

 

今更ダメですって言っても引き返せないだろう。

それならば早々に腹を括った方が楽で良い。

 

俺が首をクイッと動かすと、雪ノ下さんはリビングへと続く扉を静かに開けた。

 

 

「お母さん、お待たせ。比企谷くんが来てくれたよ。お土産も何も持たずに手ぶらで来てくれたよ」

 

「おまえが手ぶらで良いって言ったんだろうが!!い、いや、ママのん…、じゃねえや、雪ノ下さんのお母さん!お土産ならあります!コレ、つまらないものですが!!」

 

「マッ缶!?き、きみ、ポケットにマッ缶をいつも入れているの?」

 

 

そんな彼女の質問を無視し、俺は姿勢を正して一度頭を下げる。

 

大きなソファーに腰を下ろした雪ノ下家のお母さんは、以前に見た時と同様に綺麗な着物を着込んでいた。

 

本当に、二児の母とは思えない見た目の若さと、磨かれた自然な美しさ。

 

この親にして娘有りだな。

 

見た目が似てるってんなら性格も似てるはずだ。

 

雪ノ下のキツ目な性格とか、きっとこの人譲りだろう。

 

 

「あなたが…」

 

 

ママのんはそっとソファーから立ち上がると、優しい笑顔を浮かべて俺みたいなクソ人間に深くお辞儀をしてくれた。

 

その自然な動作は、雪ノ下が奉仕部の部室で見せていたモノを思い出させる。

 

 

 

「ようこそ、比企谷さん。陽乃に話は聞いているわ」

 

 

 

な、何を聞いているのかな…。

 

 

 

 

「雪乃に飽きて、陽乃にくら替えしたんですってね?」

 

 

 

 

 

はるのんマジ後で泣かす。

 

 

 

 

 

 

 



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前時代ジェネレーション

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対面して座る和服美人の顔を盗み見るも、怒っているのか怒っていないのか分かりかねる。

よかったですね。表情を隠す技術は、しっかりと娘さん達に受け継がれていますよ。

 

俺は雪ノ下さんによって出されたティーカップを持ち上げ、唇を濡らす程度にそれを傾けた。

 

美味しい紅茶だ…。

 

 

「…はぁ、そんな事実はありませんよ」

 

「ふふ。冗談のつもりだったのだけど」

 

「そうは聞こえませんでしたが」

 

 

何が面白いのだろうか、雪ノ下さんは俺とママのんの会話を楽しそうに見つめている。

 

 

「…陽乃。少し比企谷さんと2人だけで話がしたいのだけれど」

 

「え!?こ、この私がお邪魔虫扱いだと…っ!」

 

「ごめんなさいね、比企谷さん。馬鹿な娘の相手は大変でしょう」

 

「はい」

 

「!?…わ、分かった…、雪乃ちゃんのマンションに遊び行ってくるから、終わったら電話してね」

 

 

そのしょぼんとする姿、最近よく見るなぁ。

雪ノ下さんはとぼとぼと名残惜しそうにリビングを出るや、雪ノ下の住むマンションへと向かっていった。

 

途端に訪れる静寂と気まずさ。

 

何の話をする気なのか、俺は黙ってママのんが口を開くのを待つことにした。

 

 

「……。」

 

「……」

 

「…あの、本当に陽乃と付き合っているの?」

 

「別れろと言われれば直ぐに身を引きます」

 

「いえ、別れなくていいわ。むしろ貰ってちょうだい」

 

「は、話が違うぞ!!」

 

「え!?」

 

 

そこはウチの娘をおまえのようなクソみたいな人間には渡せないと言うところだろ!

 

俺は少し大きな声を上げてしまったことを反省しながらティーカップを傾ける。

 

 

「…陽乃はもうダメかもしれない」

 

「…」

 

「私、見ちゃったのよ…」

 

「な、何をです?」

 

「…全裸の陽乃が、身体にマフラーを巻き付けて喘いでいる姿を」

 

「彼女は既に手遅れですね」

 

「あのマフラー、比企谷さんの物よね?」

 

「おそらく」

 

「…良かった。貰い手がいて」

 

「おいふざけんなよババァ」

 

 

ていうか家で何やってんのあの人。

マフラーがハウスキーパーに見つかった以前に、あんたの醜態が母親に見つかってるよ。

 

ママのんは額に手を当てながらため息を吐くと、憂いに満ちた瞳で俺を見つめた。

 

 

「あまり人を寄せ付けない雪乃も心配だったけど、今は陽乃を嫁に出す方が先決よ」

 

「親泣かせな姉妹ですね」

 

「ぁう…、いつから雪ノ下家はこんな事になってしまったのかしら」

 

「…ママのん…」

 

 

気苦労が絶えないのだろう。

これだけ娘思いなお母さんを泣かすなんてロクな姉妹じゃないな。

 

ママのんがかわいそう…。

 

俺はお袋にさえやったことがないが、ママのんの背後に回り、肩を優しく揉んであげることにした。

 

 

「…あ、気持ち良い…」

 

「あの、もう少し厳しく叱ってもいいんじゃないですか?」

 

「でも、嫌われちゃうかもしれないから…。実際、雪乃は家を出ちゃったし」

 

 

あのバカ娘。

親心を子知らずにも程があるぞ。

今度会ったら俺から説教してやる。

 

 

「…親心を理解するには、まだまだ二人とも子供なだけですよ」

 

「ぅぅ…。比企谷さん…」

 

 

色彩の豊かな着物越しにも分かる華奢な身体で、バカ娘2人の気苦労を支えていると思うと涙が出そうになる。

 

 

「あっ!」

 

 

ホロリと感傷に浸っていると、ママのんは手を滑らせてティーカップを手元から落としてしまった。

 

 

「熱くなかったですか?」

 

「え、ええ。ごめんなさい」

 

 

そのティーカップは地面へと衝突し、割れる事は無かったが、中に注がれていた紅茶が周囲に飛び跳ねる。

俺のジーンズにも、ママのんの着物にも、紅茶の雫はしっかりと付着していた。

 

 

咄嗟に、その落ちたティーカップを拾おうとした時ーーー

 

 

「「あ…」」

 

 

同じ行動をしたママのんの手と俺の手が触れてしまった。

 

 

「…っ、ぁ、そ、その…。ごめんなさい…」

 

「え、はい…」

 

 

ママのんは手を胸元に引っ込めると、俺から不自然に視線を逸らす。

 

どこか頬が赤く見えるのは気のせいか。

 

 

……え、何、この感じ…。

 

 

「…ぁ、あの、お洋服に紅茶が掛かってしまったわね…」

 

「あ、あぁ、これくらいなら大丈夫ですよ」

 

「ゆ、ゆ、雪ノ下家でこんな粗相があったなんて許されることじゃないわ!…い、今すぐにお洋服を脱いでちょうだい!!」

 

「……え」

 

 

 

なんかデジャビュ。

 

 

 

「…お風呂に入りましょう。…い、い、一緒に!」

 

 

 

 

あぁ、娘さん、しっかりママのんのDNAを引き継いでますね。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

一般家庭の一般的なお風呂を想像していた俺は絶句する。

檜造りの、人が4人ほどは軽く入れそうな大きな浴槽と、広々とした洗い場。

 

温泉みたいだなぁと、人並みの感想を抱いていると、浴場と脱衣場を仕切る磨りガラスの扉越しに声が掛けられた。

 

 

「比企谷さん…、わ、私も入るわね?」

 

 

なんで?と思いながらも、俺は腰に巻いていたタオルを強く結び直し、湯船へと入る。

 

 

「…お、お邪魔します」

 

 

同様に、大きなタオルで胸元まで覆ったママのんが入ってきた。

 

同級生と彼女の母親と入るお風呂。

 

もはや背徳感の塊。

 

……マジでいいのか?これ。

 

 

「あの、最近の俺はですね、少し理性が弱いと言うか…。襲わない約束が出来ないんですけど」

 

「…いいのよ。だって私から誘ったのだから」

 

「誘っただなんて…」

 

 

ヒタヒタと洗い場を歩くママのんの姿は、そこらに居るグラビアモデルなんかよりも均整の取れたプロポーションをしている。

言われなかったら20代でも通るだろう。

 

 

「あの、あ、あんまり見られると…」

 

「…すみません。見惚れてました」

 

 

見惚れるほどに綺麗な身体は、恥ずかしそうにシャワーを身体に掛け、ゆっくりとした、それでも滑らかな動作で湯船へと入ってきた。

 

 

「ぁぅ…、本当に、こんなおばさんでいいの?」

 

 

そんなベタな事を言いながら、湯船の中で俺に寄り添うママのん。

 

人妻ならではの柔らかさを持つ肉付きが、俺の体にそっと触れる。

 

 

「…っ。もう、やめろと言われても止められませんよ?」

 

「…ん。お願い…」

 

 

モチっとしたママのんの唇。

 

背徳感なんてものは既に吹っ飛んだ。

 

ママのんのベロが物欲しそうに俺の口内へと侵入してくると、俺はそれに答えるようにママのんのベロに自らのベロを巻きつける。

 

陽乃さんや一色では感じなかった、どこか成熟した舌使い。

 

ねっとりと、勿体振るような唾液の交換。

 

こ、これが大人のテクってヤツか…。

 

 

「…ぁ、ん…ちゅ…っ!ん〜」

 

「ん…」

 

「はぁはぁ、ひ、比企谷さん…、もっと…」

 

 

湯船の中で抱き着かれ、お湯の温度かママのんの体温か分からなくなる。

すると、俺の首後ろに回した手に力が増し、ママのんは再度、俺の唇に貪りついた。

 

 

「んっ…、ゅ、ち、ぁ…」

 

 

キスが好きなのかな…。

俺よりも倍以上長く生きるママのんでも、キスをするときには目を閉じるんだなぁ、なんて思ったり。

 

でも、そんな大人な女性の子供っぽさが可愛らしく、俺は思わず、空いていた右手でママのんの秘部に指を這わせた。

 

 

「んっ…、ちゅ…、んっ!?ぷはっ、ん、あ、あの、比企谷さん…」

 

「ん…。お湯の中でも分かります。凄く暖かくなってますよ?ママのんさんのアソコ」

 

「…んっ、ん、ぅ…、ご、ごめんなさいね…、若い子みたいにキツくないから…」

 

 

膣の緩さを気にしているのだろうか、そんなものは成熟女性ならでは濡れやすさと、弾力ある飽和力の方が上回っているというのに。

 

簡単に指が3本も入る膣内を優しく掻き回すと、柔らかく膨らむ突起部に当たるたび、ママのんは腰をヒクつかせて喘ぎ声を上げる。

 

 

「んっ、そ、そこ…ぁ、あっあっ…!んっ〜〜〜」

 

「…まだ優しく触っていただけなんですが…」

 

「ぅ…ん、だ、だって…、そこ、弱いのよ…」

 

 

弱々しく瞳を潤ませるママのんを抱きしめると、軽くイッタばかりの身体は定期的にビクンビクンと痙攣していた。

 

 

「…陽乃さんと同じ所が弱いんですね」

 

「んぁ…。は、陽乃のとも、もうヤッていたのね」

 

「……失言でした」

 

「…いいのよ。その代わり…」

 

 

 

彼女は艶めかしい笑顔で、自らの胸を俺に押し付ける。

 

その柔らかさには、雪ノ下さんや一色とはまた別の柔らかさを持っていた。

 

 

 

そっと、唾液の溢れた口元が俺の耳元に近づく。

 

 

 

 

 

 

「今日は…、私のことを1番に愛して…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






不倫だとか浮気だとかは受け付けません。

シリアスな展開もありません。

これはご都合主義なエロSSなのです。



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放漫プライス

 

 

 

 

 

 

 

 

雪乃ちゃんの住むマンションにて。

 

お邪魔虫となった私は、雪乃ちゃんに構ってもらうべく、リビングのソファーでゴロゴロと転がった。

 

それを見て、ただ呆れたように額を抑える雪乃ちゃん。

 

 

「姉さん。何をしに来たの?はっきり言って鬱陶しいのだけれど」

 

「ほ、ほら雪乃ちゃん!お土産も持ってきてるからさ!」

 

 

私はコンビニで買ってきたスナック菓子を手渡し、顔をしかめる雪乃ちゃんのご機嫌を伺う。

 

は、反抗期かな…。

 

 

「はぁ…。少しだけなら居てもいいけど、余計なことはしないでちょうだい」

 

「おー!雪乃ちゃん優しい!!それならさ、たまには姉妹水入らずでゲームでもしようよ」

 

「は?」

 

「64あるでしょ?マリオカートやろうよ」

 

「…64なんて無いわよ」

 

 

私はおもむろに立ち上がり、和室の押入れからダンボールを取り出した。

それを開封し、中からクリアブルーの64とマリオカートのカセットを取り出す。

 

 

「え、なんでそんな物が…」

 

「へへ。スリッパを盗むとき、代わりにコレを置いていってあげたの」

 

「…ん?スリッパ?」

 

「おっと!なしなし!忘れて忘れて!!ほら、早く雪乃ちゃんもコッチ来て!」

 

 

テレビにコードを繋げ、カセットを64に押し込む。

丁寧な保存をしておいたため、機械に動作不良やバグは無さそうだ。

 

 

「マンマミーア♪」

 

「…マンマミーア♪」

 

 

姉妹揃ってテレビの前に座り、キャラクター選択を終えると、レースの開始を知らせるノコノコが画面を飛び回る。

 

まずはスタートダッシュで差を付けてやる…。

 

 

「おりゃー!スタートダッシュ!!」

 

「…くっ」

 

 

ぶーーん、と、特徴の無いエンジン音を聞きながら、私の後を追う雪乃ちゃん。

 

 

「へっへっへ!妹は姉に勝てない運命なのだ!」

 

「ふふっ。笑っていられるのも今の内よ」

 

「強がっちゃって」

 

「死ね!サンダーーー!」

 

「え?あ!?うぎゃーー!!」

 

 

か、身体が小さくなっちゃった…。

 

そんな哀れな私を鼻で笑う雪乃ちゃんが追い抜いていった。

 

ず、ずるい…、アイテムを使うなんて!

 

 

「うぅ…。私は緑の甲羅しか来ない」

 

「日頃の行いが悪いせいね」

 

「…貧乳で処女のくせに」

 

「っ!?…ね、姉さんもしょ、しょ、処女でしょ!!」

 

「ぷーっ!私は処女じゃありませーん!」

 

「え!?」

 

「もうエッチしちゃったもんねー!それはもう濃厚なプレイを!!」

 

 

ゲームそっちのけで、私は胸を大きく張り、雪乃ちゃんを嘲笑う。

 

驚愕な表情を浮かべる雪乃ちゃんに、私はあの日のエッチを詳細に教えてあげる事にした。

 

 

「最初は手を拘束されてね」

 

「拘束!?」

 

「おしっこを我慢させられたの」

 

「と、特殊なプレイね…」

 

「その後は罵られながら漏らしちゃった」

 

「鬼畜な人ね…」

 

「優しかったけどね」

 

「どこら辺がかしら」

 

「それでね、レズプレイも強要されてね」

 

「っ!!」

 

「先にイッたら負けってゲームをしたのよ」

 

「……」

 

 

ふふん。どう?雪乃ちゃん。

 

私は着実に大人の階段を登っているわ。

 

ちまちまアイテムを使って小ずるいプレイしか出来ない雪乃ちゃんとは違ってね!!

 

 

「…ちょっと待って」

 

「んー?何かな雪乃ちゃん」

 

「…聞く話の限りだと、姉さんはまだ処女膜を破かれていないわ」

 

「………っ!?」

 

「姉さんのプレイはあくまでプレイ。決して性交とは呼べないわね」

 

「な、何が言いたいのよ…っ!」

 

「…姉さんは、ただ男に弄ばれただけの、哀れな処女って事よ」

 

 

雪乃ちゃんはドヤ顔を浮かべてコントローラーを握り直した。

 

証明終了。残念ね、処女姉さん。じゃねぇぞコラっ!!

 

 

 

 

 

「しょ、処女じゃないもん!今度はちゃんと挿れてくれるって言ってたし!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん」

 

「どうかしたの?比企谷さん」

 

 

何だろう、お風呂に入っていて、尚且つママのんの体温で温まっていると言うのに、背筋に異常な寒気を感じたな。

 

 

「いえ…、なんか悪寒が」

 

「あら。それじゃぁもっと暖かくしてあげないと」

 

 

ムニっと、ママのんの胸が俺の身体へと強く押し付けられる。

 

張りのある弾力。

俺が乳首を優しく指で摘むと、ピクンと震えるママのんの反応が可愛らしい。

 

 

「…もっと、近くで見てもいいですか?」

 

「お、おっぱいを?」

 

「いえ、ママのんのマンコをです」

 

「ぁ…、は、はい…」

 

 

素直に頷く彼女の頭を優しく撫でながら、俺は浴槽の縁に座り、脚を開くように指示する。

 

湯気越しに見えるママのんの性器は、薄い陰毛に隠れ切らない入り口が、今か今かとその時を待っていた。

 

 

「…ぁ、あの、この体勢は、少し恥ずかしいの…」

 

「恥ずかしがる事なんてありませんよ。こんなにキレイなんですから」

 

「っ!んっ、あっ…、ぅ…」

 

 

露わになったソコを、俺はベロでそっと舐める。

 

ぬるりと垂れる愛液がイヤらしい。

 

陰毛を掻き分け、こっそりと隠れたクリトリスを見つける。

 

俺は膣周りからベロを這わせ、突起したクリトリスを吸い上げた。

 

 

「…っ!い…っ、ぃ…いいの、ソコが…んっ!ぁん…、気持ち…、良い…っ」

 

「ん…。すごく、ままのんの汁が垂れてきます。美味しいですよ」

 

「…んぁ、ぁぅ、は、恥ずかしい事…っん、い、言わないでっ!」

 

 

そうは言いつつ、彼女は股中に潜る俺の頭を押さえつける。

 

目の前に広がる、ほんのりとねじれた淡い柔肉をしゃぶり続けると、ピクン、ピクンと、見て分かるほどにママのんの下半身は痙攣を始めた。

 

 

「…っ、ご、ごめんなさい…。も、もう…っ!イっちゃう…っ、んっ、みたい…」

 

「…んっ、はぁ…。はむ…。遠慮せずに、イッテください…」

 

「んっ!ぁ、ぁ、あっ!んっ〜〜〜」

 

 

我慢しきれない声を発しながら、ママのんの秘部からは溢れんばかりの潮が吹き出す。

 

尚も、クリトリスを押せば止まる事を知らない潮吹きに、俺は夢のドリンクバーと名付けることにした。

 

 

「…ママのんのお潮、暖かいです」

 

「ぁ…、そ、その、汚いから…」

 

「汚い…?どこがですか。ほら、腕を上げてください」

 

「?」

 

 

ママのんは自らの潮を汚いと形容する。

彼女の全てに汚い所なんて無いと言うのに。

 

それを証明するべく、俺はママのんに腕を上げさせ、そのまま腋の下へと顔を寄せた。

 

 

「っ!?ちょ、あ、あの、ひ、比企谷さん…っ!」

 

「…ん。ちゅ…。腋も綺麗ですね」

 

「い、ぃや…っ、は、恥ずかしいっ!」

 

「少し…、二の腕にお肉が付いていますよ?」

 

「っ!」

 

「はは。冗談です。ほら、両方の腕を上げてください」

 

「ぅ、ぅぅ…、でも…」

 

 

やはり腋の下は恥ずかしいのか、ママのんの目尻には、恥じらいの涙が薄っすらと浮かぶ。

 

子供っぽいというか、幼いと言うか。

 

…そのギャップがまたソソるんだよ。

 

 

「ママのんの全てを愛したいんです」

 

 

「っ…ん、わ、わかったわ。けど…、ほどほどにしてちょうだい…」

 

 

躊躇いながら、両腕を頭の上で組み合わす。

 

デリケートで見られたくない所をゆっくり観察されていることに、ママのんの身体は少し震えていた。

 

 

「震えて可哀想に…、一体誰がママのんを怯えさせてるんでしょうね」

 

「ぅぅ、あ、あなたじゃない…」

 

「はは。俺はただ、少しだけ汗の臭いがする腋の下を舐めているだけですよ?」

 

「っ!や、やめてっ!んっ、も、もう…、いいでしょ?」

 

「下げないで。ほら、まだ全然舐めたりません。…そうだな、10分間声を出さずにいれたら止めてあげましょう」

 

「んっ、ぁ…、そ、そんなの…っ」

 

「はい、ヨーイどん」

 

「…っ、…っっ、ん!む、無理よ…、んっ!無理、無理だからっ…あんっ!」

 

 

 

蒸気させた頬を緩ませながら、ママのんは恥じらいながらも腋の下を見せつけ続ける。

 

 

恥らいとは、絶頂を増加させるためのカンフル剤になるのだろうか。

 

 

先ほどから、秘部からは垂れるママのんの体液は止まる事がない。

 

 

気苦労の絶えないママのん。

 

 

少しは気休めになったかな。

 

 

なんて思いながら、豊熟な一夜が過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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すり替えダイヴ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…雪ノ下さん」

 

 

私を呼ぶのはどこか柔らかくて暖かい声音。

声の主は、いつもアホ毛を左右に揺らす可愛い年下の男の子だ。

 

待ち合わせ場所に選んだ駅前ロータリーの時計塔下で、彼は分厚いモコモコなコートに身を包み、私に向かって小さく手を振った。

 

 

「ごめんね、比企谷くん。遅れちゃった」

 

「待ち合わせの時間にはまだ5分もありますよ」

 

「へへ、ありがと。優しいね。それじゃあ行こうか」

 

 

私は無言で彼に手を出す。

 

ちょんと、彼は意地悪にも、差し出した私の手の平に飴を置いた。

 

分かっている癖に、そうやって照れ隠しをするのは彼の常套手段だ。

 

 

「飴よりも、私は君の手が握りたいんだけど」

 

「そうですか。それは察しが悪くてすみません」

 

 

ふわりと。彼は小さく笑いながら、私の手をそっと握る。

 

 

「俺も丁度、雪ノ下さんの手を握りたいと思っていたんです」

 

「最初から素直になりなさい」

 

「はは、すみません」

 

「相変わらず捻くれてるんだから」

 

 

そんな捻くれている所も、意地悪な所も、根は優しい所も、全部大好きなんだけどね。

 

なんて、口に出したら彼が調子に乗るから言ってやらない。

 

私はキミを振り回すためなら悪魔にだってなってやるんだから。

 

 

「行きましょう。時間が勿体無いです」

 

「あら?そんなに私と一緒に居たいの?」

 

「……言わせないでくださいよ」

 

「ふふ。可愛いなぁ、照れちゃって」

 

 

ツンと、彼の頬に指を軽く当てながら、私は優しくキスをする。

 

ほんのりと唇が当たるだけのキス。

 

 

 

「…続きは今夜ね」

 

 

「…っ。まったく、雪ノ下さんには敵いませんね」

 

 

 

.

.

..

………

……………

 

 

 

 

「…ってなるはずだったのに!!」

 

「は?」

 

 

比企谷くん家のリビングで、朝っぱらから放映されるプリティでキュアキュアなアニメを視聴する彼の背中に抱きつきながら、私は別の世界線を妄想していた。

 

ほら、私ってお姉さんキャラじゃない?

 

しかも頭の回転が早くて、周りを顎で使うような完璧なぱーふぇくとうーまんよ!?

 

 

「邪魔です…。プリキュアに集中できません」

 

「私とプリキュア、どっちが大事なのよ!?」

 

「キュアミラクルに決まってるでしょ」

 

「きゅ、キュアミラクル…。こ、こんなヒラヒラなスカートで戦う痴女のどこがいいのよ!」

 

「…おまえに痴女って言われたらお終いだわ」

 

 

黙々と、彼は抱きつく私を鬱陶しそうにしながらも、その視線をテレビから外すことをしない。

 

 

「せっかく彼女が朝早くから来たっていうのに冷たいなぁ…」

 

「早すぎですけどね」

 

「会いたくなっちゃった!」

 

 

街で暴れていた怪物が痴女によって倒されると、なんだかんだと変なオチを付けて物語は終わりを迎える。

 

終わった!終わったから構ってもらえる!

 

 

「比企谷くん!あそぼう!!」

 

「エンディングまでがプリキュアでしょうが!!」

 

「あぅ…」

 

 

ちょっと怒られてしまってシュン…。

 

ていうか、こんな子達よりも私の方が絶対に可愛いしおっぱいも大きいのに。

 

 

「…よかった。今日も最高だった…、感動した!」

 

「今度こそ終わったのね!それじゃあ遊びに行くわよ!」

 

「すみません。寝不足なんでまた今度にしてください」

 

「こんなクソアニメ見てるからでしょうが!!!」

 

「おまえもういっぺん言ってみろコラぁぁぁ!!!」

 

 

こうやって始まる日曜日。

 

最近何かと邪魔者が入るけど、今日はずっと2人きりだ。

 

それに、付き合ってからと言うものの、あまり恋人同士っぽい事も出来ていないし…。

 

 

偶には手を繋いで街を歩いてみたい!!

 

ブライダルフェアのポスターを見て気まずくなりたい!!

 

口に着いたクリームを舐めてあげたい!!

 

 

やりたい事が沢山だわ!!!

 

 

「ご、ごほん。…え〜、比企谷くん、今日はデートをします」

 

「えぇ…」

 

「…ぁぅ、だ、だって、せっかく付き合えたのに、あんまり比企谷くんと2人で居る時間もないし…」

 

「…」

 

「ぅぅ、す、好きな人と一緒に居たいって思うのはおかしくないでしょ?」

 

 

ちらりと、断られるかもしれない恐怖に抗いながら、私は彼の瞳を見つめる。

視線が合うと、あまり感情が表情に出ない彼は、ゆるりと口を開いて私の頭を優しく撫でた。

 

 

 

 

「別におかしくないですよ。…たまには2人でデートでもしましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

優しく暖かい彼の手と私の冷たい手が繋がれる。

 

そこから伝わる暖かさは、私の身体に深く充満していき、想いを募らせ頬までをも赤くさせた。

 

もっと恥ずかしい事は沢山しているのに、ただ手を繋いで街を歩くことだけに、どうして私はこんなに照れているのだろう。

 

そう考えるも、ただ隣に好きな人が居てくれて、そっと微笑んでくれることに照れるのは可笑しくないと自答する。

 

 

「…どうしました?なんだか静かで不気味ですけど」

 

「君ねぇ、私だって恥じらいを持つ女の子なんだよ?男の子と手を繋いでデートをすれば静かにだってなるの」

 

「恥じらい…、女の子…」

 

「変なこと言ったらぶっ飛ばす」

 

「あ、はい。すみません」

 

 

た、確かに、比企谷くんとは只ならぬ関係だし、それに女の子と言うほど幼くもないけども…。

 

ち、違うわ!

 

恋する女性は皆んな恥らう女の子なの!

 

そう相場が決まっているの!

 

 

「そ、それで?どこに連れていってくれるの?」

 

「…ちょっとウィンドウショッピングでもしましょう」

 

「ほぇ、なんかリア充みたいな事を言うね」

 

「可愛い彼女と手を繋いでるんですから、十分にリア充でしょ?」

 

「はぅ…」

 

 

ふわりと微笑むその表情は、底が無いほど綺麗で純粋だった。

 

冬の寒さも忘れさせる程の熱が身体にこもる。

 

そうやって、君が突然優しい言葉を掛けてくれるから、私はずっと好きでいれんだ。

 

 

「ぅぅ、そ、そんな優しく微笑まないで!もう!ずるいんだから!」

 

「…ずるいって」

 

「キンキンに冷えた身体が温まるったらありゃしないわ!犯罪的よ!」

 

「…まったく、雪ノ下さんは熱の解放の仕方がヘタッピだから…」

 

 

 

.

……

 

 

 

雑談を交えながら、ショップ巡りをする事数分。

 

比企谷くんはとある雑貨屋さんの前で脚を止めた。

 

その雑貨屋さんの店前ウィンドウには、綺麗なコートとマフラーを羽織ったマネキンが立っている。

 

 

「…この店に入りましょうか」

 

「あいさー!」

 

 

カランコロンと、小気味好い鈴の音に出迎えられる店内。

 

外の寒さを遮断する扉が閉じると、暖気がふわりと頬を撫でる。

 

店内には様々なファッション雑貨が並び、特定のブランドでは無い物が多く並んでいた。

 

 

「あ、このスリッパ可愛い…。雪乃ちゃんに買ってあげようかな」

 

「買ってあげる前に盗んだスリッパを返した方が良いのでは?」

 

 

なんて、軽口を叩き合いながらも店内を物色する。

 

可愛らしい小物なんてのはあまり私の趣味じゃないけど、どうしてだろうか、比企谷くんと居ると全てが輝いて見えるのだから不思議…。

 

ふと、彼が何かを見ながら立ち止まっていることに気付いた。

 

 

「ん?なにか欲しいものでもあったの?」

 

「…欲しいと言うか、雪ノ下さんに似合いそうな物がありましたよ」

 

「ほぇ?」

 

 

そっと、彼はソレを棚から取ると、私の首元に巻きつける。

 

手慣れた手つきで私の首に巻かれるソレは、薄いオレンジ色のマフラー。

 

思わず、そんな彼の行動に照れてしまい、私は下を向いてしまう。

 

 

…急に、顔を近づけられたからびっくりしちゃっただけだもん。

 

 

 

「…似合ってますよ」

 

「ぁ、ほ、本当に?」

 

「はい。これまで彼氏らしいことなんて出来てませんからね。俺からのプレゼントです」

 

「ぅ、ありが…、とう…」

 

 

だめだ。

 

恥ずかしくて、暑くて、照れて…

 

比企谷くんの顔が見れないよ。

 

少し背伸びすればキスが出来そうな距離で純粋な優しさを向けてくれる彼。

 

 

今は、マフラーがいらないくらいに暖かい。

 

 

これからも、ずっと暖かい陽だまりを私に与えてくれますようにと、切ない想いを抱きつつ、私は精一杯の照れ隠しを見せる。

 

 

 

「か、買ってくれるだけじゃ私の気が収まらないわ!なにか…、比企谷くんにも……」

 

「はは…、そんな気を使わなくて結構ですよ。俺はただ……」

 

 

 

 

ただ…。と、呟いた彼の視線と私の視線がぶつかった。

 

 

ねぇ、比企谷くん。

 

 

その瞳に映る私は、君の本物になれている?

 

 

なんて…、少しだけ恥ずかしい事を考えてみたり。

 

 

 

 

「ただ…、なに?」

 

 

 

「俺はただ、俺のマフラーを返してもらいたいだけです」

 

 

 

「良い雰囲気をぶち壊しただと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 



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想定ギャップ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

むに…。

 

むにむに…。

 

ふむ、良い弾力だな。

 

この指が吸い込まれるような自然な柔らかさと、人の血が通う暖かさ。

 

ふにふにと触る度に漏れる吐息に聞こえないふりをしながら、俺は尚もソコを触り続けた。

 

 

「……俺は好きだな。触ってて気持ち良いし」

 

 

そっと、触られ続けて顔を赤める()()に呟いてみる。

 

()()はプイっと、目を逸らすも俺の手を払うようなことはしない。

 

 

「なぁ、反対側も触っていい?」

 

「っ、べ、別に…」

 

 

放課後の教室は夕日に照らされ、寂しげな色を醸し出す。

 

たった2人だけの世界。

 

そこで()()は椅子に座って、ただただ俺に触られるがまま。

 

 

「あ、あんさ…」

 

「ん?」

 

「…うにゅ…」

 

「あはは。うにゅ、だって」

 

 

思わず、触れていた指にほんの少しだけ力を込めてしまった。

 

その拍子に出た「うにゅ」って言葉に、俺は頬を緩める。

 

 

「…んーっ、んっ!ちょ、ちょっと待てし!!」

 

「ちょ、なに?いますごく良い所だったんだけど」

 

「なんだし良い所って!マジで何なの!?延々とほっぺを触られるって何プレイだし!?」

 

「おまえのほっぺは気持ち良い。多分トトロと同じくらい柔らかい」

 

 

ちなみにトトロのお腹で寝るのが俺の夢だ。

 

と、もう一度触り直そうとする手を()()に払われてしまう。

 

物悲しい2人だけの教室で、手と手が打つかった音が虚しく反響した。

 

まるで、コンサートホールに奏でる一線の音符のように。

 

 

「なんだよ。おまえが触って良いって言ったんだろ」

 

「あ、あーしは…」

 

 

()()はーーー

 

ーーーー三浦 優美子は、小さくうつむき震えるような声を振り絞る。

 

 

目を潤ませて、それでも実直に。

 

 

ゆみゆみは小さな顔をゆっくりと上げた。

 

 

 

 

「…っ、あーしは!えっちのやり方を教えてって言ったんだし!!」

 

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

 

それはゆみゆみのほっぺを触り始める30分前のこと。

 

6限目から眠りこけていた俺は、6限目の終礼にも、下校の予鈴にも気付かぬまま、淡く綺麗な夢を見続けていた。

 

その夢に出てくる雪ノ下さんはすごく大人で、理想のお姉さんのような…。

 

デートをするにも我儘を言わず、ただただ緊張する俺の背中を優しく支えてくれて、そっと微笑むその表情にドキっとしたりして。

 

……。

 

あぁ、やっぱりリアルってクソだな。

 

だって、リアルな雪ノ下さんはただの淫乱我儘クソ女だもん。

 

一言目にはエッチしたい。

 

二言目には濡れちゃった。

 

三言目には子供欲しい。

 

…本当にまじで笑止!って感じですわ。

 

 

そんな風に、俺が夢にうなされていた時に。

 

 

ふわりと、誰かが俺の頭を優しく撫でた。

 

 

それは夢じゃくて現実だと、確かに伝わる暖かさが理解させた。

 

 

 

「…ん、雪ノ下さん…?…んぅ、エッチは…、今日はしませんよ…」

 

 

 

うとうとと、寝ぼけたままに俺は呟いていた。

 

 

夢と現実の狭間で揺れる。

 

 

あれ、雪ノ下さん…、なわけないか…。

 

 

だって、俺は学校で居眠りしてしまったわけだし、雪ノ下さんが学校に居るわけがない。

 

 

……ん?

 

 

それなら、この俺の頭を撫でているのは……。

 

 

 

 

 

「ふぇっ!?ひ、ヒキオ…?え、エッチって……」

 

 

 

 

 

………

……

.

.

 

 

 

 

 

「で、でね、あーしってこんなんじゃん?それなのに、しょ、しょ、しょ、…処女だから、あの、誰にも相談できなくて…」

 

「うん」

 

「…ぁぅ、でも、今更言えないし…」

 

「うん」

 

「…ヒキオ奉仕部じゃん。あーしにも奉仕してよ」

 

「おまえその言い方やめろし。マジでシャレにならんから」

 

 

なに?

この子って奉仕部のこと、あの夜の新宿にあるようなご奉仕しちゃうぞ!キラっ☆なお店だと勘違いしてんの?

 

違うよ?

 

違うからね?

 

健全な部活だからね?

 

 

「…ぅぅ、あーしも…、あーしも夜のお悩みをべらべら喋りたいし!童貞とか無理じゃね?って言いたい!!」

 

「あぁ、そう…、まぁアレだ…。が、がんばルビー!ってね…」

 

 

ルビーちゃん可愛いよね。

 

あ、帰ってサンシャイン見直そう。

 

そうしよう。

 

 

「待てし!あんた!あーしのほっぺをキズモノにしたことを忘れんな!!」

 

「…おまえのほっぺに傷なんて付けるかよ」

 

「ぁう…、そ、そんな曇り無きまなこで…」

 

 

もう一回ぷにぷにしていいのかな?

 

 

「あ、あーしのほっぺを触ったからには…っ、せ、責任取れし!!」

 

「…せ、責任…だとっ!?」

 

「そ、そうだしっ!!」

 

 

ふわりと、夕日に映えるゆみゆみの金糸が舞い上がった。

同時に、俺の胸元には女性1人分の重みが加わる。

 

正面から抱き着かれたのは彼女で何人目だろう。

 

ただ、制服に身を包み、如何にもな青春感を出してくれたのはゆみゆみが始めてだ。

 

みんな全裸か半裸だったし…。

 

 

「ハグーーーっ!どうだしヒキオ!これであーしは孕んだか!?」

 

「ハグで孕んじまったら少子化なんて起こらんだろうな」

 

「うぅぅーっ!!ヒキオの香りっ!甘い!」

 

「ま、待てよゆみゆみ」

 

「ぅぅ…、ゆみゆみ言うなし…」

 

 

震えながら俺にしがみつくゆみゆみを、俺は優しく引き離し、彼女の目尻に浮かぶ涙をそっと拭う。

 

 

高圧的で、少し怒りっぽい性格。

 

 

そんな風に見せて、本当は友達思いで誰よりも暖かい女の子。

 

 

ゆみゆみは可愛いし、なおかつ一途で純粋なコだ。

 

 

叶いもしない想いを抱いて、彼女は今もこうして頭を悩ましているのだろう。

 

 

「…エッチっていうのはね、すごく儚くて、それでいて尊いモノなんだ。…ゆみゆみは可愛いし、素敵な女の子だ。だからね、簡単にエッチだなんだって言っちゃだめなんだよ?」

 

「…あぅ!か、可愛い…、素敵……っ!!」

 

「ゆみゆみ?」

 

 

こちらまで熱くなりそうなほどに顔を火照らせたゆみゆみは、糸の切れた人形のごとく、カタカタとしたぎこちない動きで俺の胸ぐらに手を伸ばした。

 

ぎゅっと胸ぐらを掴まれると、女の子とは思えない力で引っ張られる。

 

 

「っ!」

 

 

吐息が掛かるくらいの近さ。

 

唇を少しでも動かせば触れてしまいそうなほどに。

 

ゆみゆみの顔が近くにあった。

 

 

 

 

 

「あ、あの…っ、ほ、保健室っ!保健室なら、誰も来ないから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

初めてだった。

 

綺麗だとか、美人だとかとは良く言われるが、可愛いって言われたのは初めてだった。

 

鏡を見るたびに思う、厳しくて鋭いあーしの目元は、あまり女の子としては嬉しいモノではない。

 

ただ、今更可愛い女の子になれるはずもなく、ため息ばかりをこぼしながら、少しだけ高圧的に、身に合った性格を演じなければならない。

 

女王気質なキツめな女。

 

周りがそんな評価をしていることなんて、聞かずともわかる。

 

だってあーしがそう望んで演じたのだから。

 

 

「…ぁ、か、可愛い…、あーしが…、可愛いっ!?」

 

 

それなのに、目の前に佇む細身で弱々しい男は、あーしの事を可愛い女の子と言った。

 

我ながら単純だとは思うが、そう言われた時に、心の隙間を縫うような想いが身体に駆け巡る。

 

顔が熱い。身体も熱い。

 

感情が込み上げるみたい…。

 

そう、嬉しいんだ。

 

あーしはヒキオに可愛いと言われ、嬉しいと思ったんだ。

 

 

「…ゆ、ゆみゆみ?保健室に行きたいの?どこか怪我でもしたのかな?」

 

「ぁ、あの、怪我は…、してない…」

 

「なら、保健室なんて行く理由は無いよね?」

 

「…病気なの…、あーしは…」

 

「は?」

 

「恋の病になったんだしーー!!」

 

「……あぁ、この子もアホの類いか…」

 

 

呆れた顔であーしを見つめるヒキオの腕を掴み、あーしは無理矢理にでも保健室へと連れて行こうとグイグイ引っ張る。

 

可愛いとか、ゆみゆみとか、あーしの弱い所を優しく突っつくヒキオが悪いんだかんね…。

 

 

「ま、待てよ。おま、ほ、保健室じゃ恋の病とやらは治らんて。そ、そうだ、一度家に帰って頭を冷やせ。な?」

 

「あ、頭はもう冷えてるし!身体が熱いだけだから!」

 

「なおタチが悪いわ!」

 

「わかった!部室ならいいっしょ?奉仕部の部室なら誰も居ないっしょ!?」

 

「ダメに決まってんだろうが!!」

 

「わがままばっかり!優しくしろし…っ、あーしにも優しくしろし!!」

 

 

思わず、叫んだ言葉に涙が溢れる。

 

こんなにも人を求めたことは今までにあっただろうか?

 

掴んだ腕から伝わるヒキオの体温がこんなにも心地良く、そして幸せに感じてしまう。

 

 

「…な、なんであーしにばっかり意地悪するの?」

 

「い、意地悪!?え?俺が悪いの?」

 

「結衣や雪ノ下さんが困ってたら直ぐに助けてあげるくせに!」

 

 

伝わらない…。

 

きっと、あーしがギャルっぽいからだ。

 

慎重なヒキオは、こんなギャルの言葉は信じてくれないんだ。

 

 

……だったら…。

 

 

「……言いふらしてやる…」

 

「あ?」

 

「ヒキオがあーしのおっぱい触ったって言いふらしてやるんだかんね!?」

 

「お、おまえ、それはだめだぞ?まじで…」

 

「あーし!ヒキオに孕まされましたー!!」

 

「ちょ、こ、声がでかいっ!」

 

「しかも堕ろせ堕ろせって腹パンもされたし!!」

 

「なんて非人道的な奴だ…」

 

「……分かってくれた?」

 

「分かるか!!」

 

 

パシンっと、あーしはヒキオに頭を叩かれる。

 

はい、暴行罪も加わりました。

 

これでもう詰んだね。

 

 

「…それじゃ、保健室に行くし」

 

「ぐぬぬ」

 

 

優しく、ヒキオの手を握る。

 

先ほどまで頑として動こうとしなかったヒキオはゆっくりと、されども足取り重そうにあーしの後を付いてきた。

 

 

不思議な奴…。

 

 

17.8の男子高校生なんて、欲望に植えた発情真っ盛りな年頃だろうに。

 

 

よくもまぁ、これだ抵抗するものだ…。

 

 

……でも、嫌いじゃない。

 

 

あーしを見て、いやらしく目を細める男子共に比べれば、どこか恥ずかし気に目を背けるヒキオは可愛らしいし……、そ、その、愛おしいと思えるのだ…。

 

 

こんな男の子に初めてを捧げるのも悪くない。

 

 

 

なんてーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぁ、ぁのさ、本当にあーし、初めてだから…、ヒキオがリードしてね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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保険ブラック

 

 

 

 

 

 

 

 

保健室に到着すると、生徒は疎か、保険医の先生すら居なかった。

 

これは都合良いと、あーしはシャーっとベッドを間切るカーテンを開ける。

 

保健室でエッチ。

 

学園物の漫画では鉄板の展開だし。

 

 

「おし。誰も居ないし」

 

「…でも鍵は空いてたし、そのうち先生が戻ってくるだろ」

 

 

それならば、先生が帰ってくるまでにヤッテしまえば済む話。

 

グラウンドから聞こえてくるサッカー部の掛け声と、校内から聞こえる吹奏楽部の音合わせが、ここが本当に学校に居るのだと再認識させる。

 

途端に、静寂に包まれた保健室に佇む足が震えた。

 

緊張しているのだと実感する。

 

 

「……あ、あの、ヒキオ?」

 

「……」

 

「なんで黙ってんの?」

 

「…いや、すまん。ココ、学校なんだよなぁって思ってた…」

 

「…はは。あーしも同じ事思ってた」

 

 

なんだか変な気分だ。

 

窓を挟んだグラウンドには部活動に熱を入れる生徒が沢山居て、健全に、日常的に、身体を動かしている。

 

そんな光景のすぐ近くで、あーし達は不健全で、否日常的に、身体を動かそうとしているのだ。

 

 

悪い事をしている気分…。

 

ドキドキ?

 

ワクワク?

 

 

「…っ、ぁ、ひ、ヒキオ…、あーしはどうすればいいの?」

 

 

その否日常の中で、ヒキオはゆっくりとベッドに近寄り腰掛ける。

 

 

「…とりあえず、こっちにおいで。制服を脱がしてあげよう」

 

「ぬぇ!?」

 

 

な、なんだしこの雰囲気は!!

 

大人だ!!

 

と、驚きながらも、あーしはとてとてとヒキオの隣へと腰掛けた。

 

 

「制服は不自由がなくて良いな。ボタンもファスナーも簡易的で脱がしやすい」

 

「ぁぅ、な、なんか、雰囲気が…」

 

「…照れてるのか?おまえから誘ったんだろ?」

 

「ぅぅ、そ、そうだけど…」

 

「ほら、ゆみゆみ。バンザイしてごらん」

 

「…ん」

 

 

1枚、また1枚と脱がされていく。

 

ブレザーとワイシャツを、そしてスカートを。

 

気づけば、あーしは下着を残して衣服を全て脱がされていた。

 

 

「…黒の下着…。ゆみゆみは背伸びしたい年頃かな?」

 

「う、うるさいし…。ヒキオ…、黒の下着はキライ?」

 

「…ふふ。好きだよ。ゆみゆみにとても似合ってる」

 

 

ふわりと、ヒキオはあーしの身体の匂いを嗅ぐように顔を近づけてくる。

 

…そ、そういえば、汗の匂いとか大丈夫かな…。

 

ふ、普通はヤル前ってお風呂に入るんだよね?

 

 

「ぁぅ、あ、あの、に、匂いとかあまり…」

 

「……ん。ちょっと汗臭い」

 

「っ、や、やっ!」

 

「…でも、良い香りだ」

 

 

ひとしきり身体中の匂いを嗅がれると、ヒキオはあーしの身体をベッドに押し倒した。

 

少しだけ薬品の匂いがするベッドで、ヒキオはほんの少しだけ怖い表情であーしの腕を押さえつける。

 

 

「…ぅ、ぇ、あの、ヒキオ…?」

 

「ゆみゆみ。怖いのは嫌いか?」

 

「…ぅぅ…、当然っしょ…」

 

「そっか」

 

 

ヒキオはそう言って優しく微笑んでくれると、どこからかビニール紐を取り出して、それをあーしの手首、足首に巻きつけた。

 

 

「ふぇ?」

 

「俺はね、ゆみゆみが怖がる表情が見てみたいんだ」

 

「!?」

 

「…人は恐怖を味わう時に本質が現れるからね」

 

 

きゅっ、きゅっ、と。

 

あーしの両手両足は、強引に開かれるように、ベッドの四隅にそれぞれ結び付けられる。

 

身体を守る術は無い。

 

隠す術も無い。

 

無防備の状態で、下着姿の身体を露わにするあーしを、ヒキオはどこか嬉しそうな表情で見下ろした。

 

 

「……ぁ」

 

 

ゆっくりと、ベッドに腰掛けたままのヒキオは焦らすようにあーしのお腹を摩る。

 

 

「お腹が少しだけぷっくりしてる。お昼ご飯を沢山食べちゃったのか?」

 

「ぁぅ…」

 

「おヘソも可愛い」

 

「ぅ、んっ…、ひ、ヒキオ…っ」

 

 

そうやって、弱い所を強弱つけて触れる手つきは、どこか艶めかしく、いやらしく。

それでも、嫌だとは思えない触り方。

 

優しく、それはまるでお母さんに頭を撫でてもらったときの手触りだった。

 

 

「…ゆみゆみ、眠いのか?」

 

「うぇ?あ、ぅぅ、違うの…、なんか心地良くて…」

 

「はは。その寝ちゃっても構わないぞ?」

 

「んーん。我慢できるし…。ぁの、だから…、もっと気持ち良くして?」

 

 

これがエッチなのか…。

 

気持ち良くて、心地良くて、眠たくて…。

 

ずっとこうしてもらいたいと思えるような。そんな感じ。

 

コレは良いものだし…。

 

 

 

と、思って目を閉じた瞬間だった。

 

 

 

それは強烈に下半身を刺激する。

 

 

 

柔らかくて敏感な所を、激しいナニカに当てられた。

 

 

 

恥部に吸い付くように。

 

 

 

ソレは強い音を立てながらあーしのアソコを一瞬で震え上げさせた。

 

 

 

「ふぇっ、ぁぁあっーーーっ!あっ、んぁっ!!いや、いやっ!!」

 

「…刺激が強すぎたか?」

 

「んっ!んっ!んっーーっ!あっ、いやっ、と、と、止めて…、止めてっ!!」

 

「はいはい。ごめんね、ゆみゆみ」

 

 

カチっと、スイッチを切る音と同時に下半身への刺激が止まる。

 

一瞬で頭が白くなり、息が荒くなっていた。

 

ソレは何なのかと、口から溢れるヨダレを拭いながら首だけを上げる。

 

手足が固定されているために、首を上げてそれを見ることが精一杯だった。

 

 

「…っ、はっ、はぁはぁ…、な、なんだし…、ソレ…」

 

「電動マッサージ器。いわゆる電マってヤツだな」

 

「ぅ、っ、んっ、あ、はぁ…。で、電…マ…?」

 

 

あの一瞬の激しい刺激で、未だ痙攣している下半身に力を入れる。

 

そうしないと何か漏れてしまいそうだったから。

 

 

で、電マ…。

 

聞いたことがある。

 

それは女を快楽の底へと突き落とす、地獄行きの片道切符。

 

耐えようものなら相当な訓練が必要だとか…。

 

う、うぅ、そんな狂気な凶器を初めてのあーしに使うなんて…。

 

 

「…こ、怖いのは嫌だって言ったし…」

 

「ん。だからゆっくり…」

 

「へ?」

 

「慣らしながら続ければ、気持ち良くイケるようになる」

 

「…っ、つ、続けるの?ソレ…、んっ、あっ、いやっ!んっっ、んぅぁっーーっ!」

 

 

手足は大の字に開かれて、その恐ろしく気持ちの良い刺激に抗えない。

 

黒のショーツにはシミができ、触らずとも分かるほどにそのシミは広がっていた。

 

優しそうに微笑んでるくせに、やる事はどこかSっ気がある。

 

ヒキオめ…、恐ろしい子っ!

 

 

「あらら。もうお漏らししたみたいに濡れてるな。脱がしてやりたいけど、手足が紐に繋がってるからそのままで」

 

「んっぅぅ〜っ!んっ、い、1回っ、と、止めて…っ!んっ」

 

「ん。大丈夫か?」

 

「はぁ、はぁ…っ、あ、あの、ショーツ、脱がして…。濡れてて気持ち悪い…」

 

「んー、でも紐を解くのめんどいし…」

 

「き、切っちゃっていいし…」

 

「…それじゃあ、遠慮無く」

 

 

パチン、と音を立てながら、あーしのショーツは横から切られて脱がされた。

 

 

「びっしょり…。あらら、濡れ濡れになっちゃったな」

 

「ぅぅ…、変…?」

 

「…いや、変じゃない。綺麗で可愛い形だよ。…っていうか、全部剃ってるんだな」

 

「ち、違うし…、あ、ぁの、あーし、ソコの毛が全然生えてこなくて…」

 

「…ほぅ。それはまた…」

 

「ぅぅ。は、恥ずかしいからあんまり見んなし…」

 

「恥ずかしくなんてない。どれ、そろそろ続けるぞ?」

 

「ぁぅ…んっ!んっ〜っ!!んあっ〜〜っ!!」

 

 

再度、電マが秘部に当てられる。

 

先程まであったベルリンの壁、曰く、ショーツの布地が無くなっただけで、与えられる刺激がより強く感じた。

 

直接、膣の中へと振動が伝わり子宮を揺らすような。

 

そして、お腹の底まで辿り着き、変な尿意を覚えさせるような。

 

そんな感じ。

 

 

「…ふむ。つまりはその尿意が潮吹きの前兆ってわけだ」

 

「ぁっ、あっ!!ぅ…、こ、心の声を…よっ、んっ、読むなしぃっ!!!」

 

「あーあー、ヨダレがいっぱい垂れてるぞ?口元が緩いなぁ、ゆみゆみは」

 

「んっ!ぁっ、ぁ…、んっ!んはぁっ、はぁはぁ…、んっ、はぁはぁ」

 

 

電マが1度離れる。

 

どこか切なく、もう少し当てて貰いたかったような、そんな物足りなさ。

 

ヒキオはあーしの髪を1度撫でると、口元に溢れたヨダレを指で拭ってくれる。

 

 

「……ゆみゆみ、あぁ、もう少しでイケたのにって思ったろ?」

 

「はぅ!!」

 

「腹筋がきゅーってなってた。それじゃぁ、次は思う存分イッテごらん?ゆみゆみの1番気持ち良い所にコレを当ててあげるから」

 

「い、1番気持ちの良いところ?」

 

 

まただ。

 

そうやって優しい顔で微笑んでくるくせに、瞳の奥ではSっ気の強い意地悪な視線を送ってくる。

 

ふと、ヒキオがあーしの恥部に指を当て、広げるようにソコを露わにした。

 

 

「これがゆみゆみの陰核…、いわゆるクリトリスだ」

 

 

ピンっと、ヒキオはあーしのそれを指で弾く。

 

 

「んぃっ!…ん、はぁはぁ、く、クリトリス…」

 

「そう。それで、そのクリトリスに直接コレを…」

 

「っ!ま、待てし!そ、それは刺激が…っ、つ、強すぎると思い…、ます、けど…」

 

「大丈夫。すぐに慣れるから」

 

「ぁぅ」

 

「あと…」

 

「ん?」

 

 

ゆっくりと、ヒキオはあーしよ口に人差し指をちょんと当てた。

 

それが何を意味するかなんて誰でも分かる。

 

 

「これからは声を我慢しないと…」

 

「…?」

 

 

ガラガラと。

 

保健室の扉が開けられる音が響く。

 

それはあーし達が事に及ぶベッドを囲んだカーテン越しにもはっきりと聞こえてきた。

 

そして、成人女性ならではの間延びした声。

 

 

「はぁ、職員会議なんて私には関係無いのになんで出席しなくちゃ…、ってあら?ベッド、誰か使ってるの?」

 

「はい。3年の比企谷です。すみません、少し貧血気味で」

 

「あらそう。ごめんなさいね、席を空けちゃって。もう下校時間だけど、治るまで寝てていいから」

 

「ありがとうございます」

 

 

先生は気付いていない。

 

その貧血気味な男子生徒が、四肢を拘束された女生徒に電マを当てている事を。

 

 

「っっ〜〜〜っ!!」

 

 

剥き出しにされたクリトリスに当てられる刺激は、脳の中でチカチカと光るほどに刺激を及ぼす。

 

ば、バレたらどうする気なのだろうか。

 

そんな不安も相まって、どこか溢れそうになっていた尿意がより強くなる。

 

 

……ぁ、ぁっ!こ、声は我慢できても…、あ、おしっこみたいなのが…っ!!

 

 

「んっ、んっ〜〜〜〜っ!!」

 

 

腰が浮いた。

 

その時に、我慢していた尿意が膣を通って溢れ出る。

 

ぁ、ぁ、んっ〜〜!!

 

 

「…で、出ちゃった…し…」

 

「ん。でも、まだ続けるぞ?」

 

「んっ!?」

 

 

ガタンと、思わず動いた身体がベッドに振動を与えて音を鳴らしてしまった。

 

 

すると、カーテン越しにーーー

 

 

「ん?比企谷くん?どうかした?」

 

「いえ。なんでもありません」

 

 

先生に声を掛けられる。

 

ば、バレてない…。

 

って、そんな事を言って場合じゃないし!!

 

あーしはちょこちょこと身体を動かし、電マを離してと訴える。

 

 

「んっんっ…!っ!ひ、ヒキオ…、も、もうマズイし…。ば、バレたら…」

 

「ん。バレたら先生も混ぜて3Pだな」

 

「ぬ!?」

 

 

お、大人だ……。

 

ヒキオはあーしの想像を遥かに超えた大人だった!!

 

 

その後も、ヒキオは意地悪な顔であーしの恥部に電マを当て続ける。

 

あーしがイク度に、どこか嬉しそうな顔で頭を撫でてくれるヒキオの顔が印象的で、底のない快楽に果てながらも、あーしは暖かい幸せに包まれた。

 

 

 

 

 

「んっ〜〜っ、んっ!!んっ!!」

 

 

 

「はい。よく出来ました。…もう1回」

 

 

 

「んっ!?あ、ぁぅ…、も、もっと、頭も撫でろし……っ!んっ!んっ〜〜〜っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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謎解きディナー

 

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ比企谷くん!」

 

「はい?」

 

 

そう言って、人の顔を被った可愛い悪魔が俺の耳元に顔を寄せる。

何をするんだ?と思いきや、彼女は口を開いて……

 

 

「E231系のドアの開閉音。しゅーぷすーーっ。…どう?似てるでしょ?」

 

「……」

 

 

似てるかどうかと聞かれたら…、まぁ似てる。

ちなみにE231系とは総武線で使用されてる車両のことだが、雪ノ下さんがなぜ()()()でその特技を披露したのかは謎だ。

 

謎だが、謎解きはディナーの後で…。

 

この場でそのボケにツッコミを入れる気にもなれないしな。

 

と、言うのも、今俺たちが居るのは麻布にある有名ホテルの最上階。

それもウン万のコース料理を振る舞う高級レストランの窓際席だ。

窓の外には都心が作る夜景が映える。

 

 

「へへ、嬉しくってテンションが上がってしまったよ」

 

「…夜飯くらいでテンション上げないでくださいよ」

 

「違うし!比企谷くんと一緒に居れて嬉しいの!」

 

 

さいですか…。

まぁ、その笑顔を見てたらこっちも嬉くなりますけど…。

 

 

「それにしても、ここ高かったんじゃない?」

 

「…そうでもないっすよ」

 

 

メニューにある1500円のコーラには泡を吹き出しかけた。

150円のコーラが1500円、つまりは日頃の俺が過ごす世界とは単価が10倍も違うのだ。

そんな店で、バイトもしていない高校生がディナーの予約が取れるわけもない。

 

 

「ふふん、比企谷くんの愛が伝わるよ」

 

「何よりですね」

 

「愛してるー!」

 

 

もしかしたら、雪ノ下さんは自分のために俺が無理して高級ディナーを予約した、とでも思っているのかもしれない。

 

そう思うと心が痛い…。

 

このディナーを予約して、金を払ってくれたのは他でもない、()()()()()だと言うのに。

 

 

事の顛末はこうだ…

 

……

.

.

 

 

 

『あの、比企谷さん…』

 

『はい?』

 

『…こ、今度の土曜日に約束していたディナーなのだけど…、急に予定が入ってしまって…くっ』

 

『…あの、そんな歯を食いしばらなくても…』

 

『忌々しい会合が…っ。行きたくないの!私は比企谷さんとのディナーを優先させたいのだけれど…っ、ぅぅ…』

 

『ま、ママのん…』

 

『ごめんなさい…。あの、ディナーの席はキャンセルしていないから、妹さんでも連れて行ってあげて。ね?妹さんと行って?』

 

『あ、はい…』

 

『妹さんと行くのよ?絶対だからね!?』

 

『……』

 

『妹さんしか連れていっちゃダメだからね!?』

 

 

だからねーーー

 

からねーー

 

ねーー

 

ーー

 

 

.

……

 

 

あの必死さはなんだったんだろう。

でもまぁ、折角なのでと小町に聞いて見たが、生憎その日は他用で無理だと。

だから、仕方無しに目の前で頬を綻ばせる彼女を誘った次第です。はい。

 

 

「ん〜。このデザート美味しいぃ〜」

 

 

雪ノ下さんはデザートを食べるや頬に手をやり美味しいと連呼する。

 

なんだか少しあざとい…。

 

でも可愛い。

 

 

「はい、比企谷くん。あーん」

 

「…あーん」

 

「おろ。素直だ…」

 

 

そう言って、雪ノ下さんが差し出したフォークに食いつくと、それを仕向けた当の本人が目を丸くして驚いた。

 

 

「彼氏なら、これくらい普通でしょ?」

 

「ぁぅ…、そ、そうだね。私達、恋人同士だもんね…」

 

「…はは。照れてる…」

 

「うぅ…、照れてないよ!」

 

 

照れてないと言う割には顔が赤い。

それはテーブルの真ん中に置かれたロウソクが原因ではない。

 

ふと、彼女がもじもじと指をいじりだした。

 

ディナーの席も最後のデザートが運ばれてから時間が経つし、そろそろ出て行く頃合であろう。

 

 

「そろそろ出ますか」

 

「あ、うん」

 

 

最後に、目を奪われるほどに綺麗な夜景をスマホでパシャり。

後で小町に自慢しようと、窓の外を何気なく見つめると、窓越しに映った雪ノ下さんと目が合った。

 

その目がとても悲し気で、なぜだかこちらまで悲しくなってくる。

 

いつだったか、そんな目をした雪ノ下雪乃を見た事がある。

 

それは確か…、そうだ、生徒会選挙の時の雪ノ下だ。

 

言いたい事を言えずに、伝わるものだとばかり思い込んでいた彼女の目。

 

何を訴えて、何を考えていたのか、俺はその時に、言いたい事があるなら口に出してくれと言ったのだ。

 

一つため息を吐き、席から立ち上がり

 

 

「雪ノ下さん」

 

「…?」

 

 

俺は彼女に手を差し出す。

 

 

「手を。…恋人なら繋ぐのが普通でしょ?」

 

「っ、あはは…。優しいなぁ、比企谷くんは…。全部わかっちゃうんだもん。隠し事なんて出来ないよ…」

 

 

俺の手にそっと、まるで子犬のように頼り無い彼女の手が乗せられた。

 

 

「あの、ちょっと話があるから…。2人だけになれる場所に連れて行って?」

 

 

 

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

 

 

 

で。

 

訪れたのは都内の繁華街にひっそりと佇む小さく静かなホテル。

 

世間一般で言うところのラブホテルだ。

 

無人のカウンターで部屋を選び、何も言わない彼女の手を強く握りながら、俺たちは指定された部屋番号を目指して廊下を歩く。

 

赤いランプが点灯する部屋の扉と、青いランプが点灯する部屋の扉。

 

赤が使用中で、青が空室であると理解しつつ、俺たちが向かう部屋の扉に青いランプが点灯しているのを確認する。

 

 

「…始めて来まし…っ!」

 

「ん!」

 

 

部屋に入るや、雪ノ下さんが突然にキスをしてきた。

それは舌を使わない優しいキス。

 

数秒後に離れるや、彼女の瞳がゆらゆらと揺らぐ。

 

…どうしたんだよ。本当に…。

 

 

「…ん。あの、とりあえず座りませんか?」

 

「っ、急にごめんね。でも、ずっと我慢してたから…」

 

 

ベッドに腰を下ろすも、繋がれた手は離れない。

 

ゆっくりと、俺は彼女の肩を抱きながら、その揺らいだ瞳の理由を問う。

 

 

「…そんな目をされると、俺も悲しくなるんですけど…」

 

「ご、ごめんね…。私…らしくないよね…」

 

「いえ、そんなことは…」

 

「…あのね、比企谷くん…」

 

 

暗く、落ちていくように。

俺はその言葉の続きを聞くことに恐れを抱いた。

 

例えば、親の決めた相手と結婚しなくちゃいけなくなったの…、だから、別れて…。だとか。

 

もう、こんな身体だけの関係は終わりにしよう。だとか。

 

留学するから別れましょう。だとか。

 

嫌な予感が頭を支配するのだ。

 

 

って、いつの間に、俺はこんなにも雪ノ下さんの事を愛おしく思ってたんだろうな…。

 

手を繋いでいるのに、彼女がどこかに消えてしまうんじゃないかと不安になる。

 

もっと抱き締めて、身体を繋ぎ、俺の物にしたいだなんて思ってしまう。

 

 

 

「…あの…」

 

 

 

その言葉は、俺の心を壊す言葉ですか?

 

それならば…。

 

聞きたくない…っ。

 

と、思っても、彼女の口は開き続けた。

 

それは非情にも、俺の人生を左右する言葉。

 

きっと数年後の俺は、この日の事を思い出す度に後悔するのだろう。

 

 

 

 

 

 

「……な、中出しして欲しいの!!」

 

 

「おまえ本当にシリアスな感じ出すなよ。一生な?」

 

 

 

 

 

 

 

こいつ、こういう所があるよな。

 

真面目な雰囲気だったじゃん。

あの切ない目とか雪ノ下(妹)にそっくりだったじゃん。

大事な事を言う前振りが長過ぎて、あ、コレガチなヤツかな?って思っちゃったじゃん。

 

 

「あ、そういうのヤってないんで。俺はこれにてドロンしますね」

 

「待って!私を置いていかないで!切実な問題なんだから!!」

 

「ふざけんなクソ野郎!離せ!俺は帰る!!」

 

「イヤよ!私をまた1人にするの!?知ってるんだからね!比企谷くんが私のお母さんや金髪のギャル子に身体を許したのを!!」

 

「っ!!?ち、違うし!か、身体とか許してねぇし!ちょっとスキンシップしただけだし!!」

 

「あー!浮気男の言い訳だ!!」

 

 

い、い、い、いい、言い訳じゃないんですけど!?

実際、身体を触っただけだし!?

い、挿れてねぇし!!!

 

 

「キミ、挿れてないからセーフとか思ってない?」

 

「っ!?」

 

「言っておくけど!私にも挿れてくれてないからね!?」

 

「…そ、そういうのはまだ早いと言うか…っ!べ、別に挿れずとも愛していますし!?」

 

「あ、愛しっ…!そ、それなら中出ししても問題ないよ!!」

 

「そ、それとこれは別だろ!」

 

「大丈夫大丈夫!偉い人が言ってたもん!!」

 

「あ!?」

 

「中出しは親孝行だって!!」

 

 

な、中出しは親孝行…?

コイツ…、まじで頭まで性欲に呑まれたか?

 

と、顔を真っ赤にさせた雪ノ下さんは焦ったさに負けたのか、強引に俺の肩を掴みベッドへ押し倒した。

 

あ、こいつヤバイ奴だ…。

 

 

「…っ、ひ、比企谷くん…」

 

 

ぽたり、ぽたりと、雪ノ下さんの口元から滴るヨダレが俺の頬に伝う。

 

 

「え、えへへへ。な、中出ししたらもう、結婚するしかないもんね?」

 

「…っ!け、結婚だと…?」

 

 

結婚ってアレか!?

指輪をプレゼントしたり、親御さんに挨拶したり、婚姻届を出したりする例の奴か!?

まだ18歳の俺に、結婚を決めさせるなんてのは酷な決断であろう。

ましてやこの状況で…。

 

 

「…私は、本気だよ…。比企谷くんと結婚したい。ずっと一緒に居たい…。子供も2人くらい欲しい」

 

「…最後が具体的なんですけど」

 

「比企谷くんにとって、私は遊べるだけの都合の良い女なの?」

 

 

先ほどと同様に、雪ノ下さんは寂し気な瞳で俺を見つめる。

 

ふと、俺は彼女と始めて身体を交えた日の事を思い出していた。

 

 

『陽乃は今日から俺の物だ』

 

 

その言葉に嘘はない。

彼女を俺の物にしたい、誰にも渡したくない本心から願っている。

それでも、結婚に踏み出すだけの勇気が俺には無く、こうして彼女をただただ悲しませて…。

 

 

「…雪ノ…、陽乃…。陽乃は俺の物だって、そう言ましたよね?」

 

「…っ、は、はい…」

 

「その言葉に嘘はありません」

 

「っ!」

 

 

そっと、俺に覆いかぶさる陽乃さんの頬を手で撫でる。

 

 

「…中出しとか、そんな既成事実なんて無くても…」

 

「うん…」

 

「俺からちゃんと言いますよ。結婚してくださいって」

 

「…する。結婚する!」

 

「はい。でもまだ、もっと俺が自立できるくらいに成長したら…」

 

 

と、それを言い終わる前に、彼女の唇が俺の口を閉ざした。

 

最初は優しく、後から激しく。

 

しばらく舌を絡ませてから、彼女は物欲しそうな顔で()()をせがむ。

 

 

「…すごく嬉しい…。ずっと…、ずっと君と…」

 

 

一瞬、彼女が()()()()()瞳を俺に向けた。

それを隠すためか、もう一度だけ舌を絡ませてくる。

 

君と…、の後に続く言葉。

 

妖艶なキスと彼女の柔らかな笑みに隠されたその言葉。

 

俺が聞く事の出来なかった彼女の言葉に、どれだけの想いが込められていたのか。

 

 

 

 

ずっと君と……

 

 

 

一緒に()()()()いいのに…。

 

 

 

 

 

 

 

 



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無粋ライト

 

 

 

 

 

「陽乃!お父さんの言うことが聞けないのか!」

 

「うるさい!そもそもそういうのって古いし!」

 

ご近所の迷惑を考えない2人の大声がリビングに響き渡る。

時刻は22時を過ぎようとしているにも関わらず、その喧騒が鳴り止む気配は無い。

 

「古いとか新しいじゃないんだよ!」

 

「じゃあ何よ!?」

 

「私はおまえの幸せを考えているんだ!」

 

「ふざけないで!私だって相手の事くらい調べたんだから!」

 

私はテーブルを強く叩き、お父さんを睨みつける。

 

「ふん!丸岡さんのご子息は頭も器量も良い。何より育ちが良い。おまえの婿()にうってつけだろう!」

 

「完全に政略結婚じゃない!丸岡グループとの繋がりが欲しいって言いなさいよ!ハゲ!!」

 

尚も言い合う私達を止める者は居ない。

 

お父さんの物言いに反抗する私はおかしいのだろうか。

ハゲ曰く、雪ノ下建設のために丸岡グループのご子息と結婚しろ。

さすれば私も丸岡グループも雪ノ下建設もwin-win-winだと。

 

…ふざけんな。

 

何を勝手なことを言ってんのよ?

 

は?なに?私を雪ノ下建設の駒にする気なのね?

 

はぁ〜〜ん。良い度胸じゃない。

 

このクソハゲめ…。

 

「おいこらハゲ…」

 

「おま、実の親にハゲとか言うなって」

 

「それ以上、その腐った口を開き続けるってんなら、あんたの一族末裔を全殺しにしてやるから」

 

「…おまえも死んじゃうぞ」

 

「言っておくけど、私にはもう貰い手がいるんだからね。もう真っさらな身体じゃないし」

 

「…ふん、比企谷八幡くんの事か?」

 

「…っ!なんで、お父さんが知ってるのよ」

 

比企谷八幡。

その名前をお父さんに話した事はない。

もちろん付き合っていることだって。

 

思わず力がこもった手のひらに爪が刺さる。

 

「冷静に考えろ、陽乃。もしもおまえが比企谷八幡くんと婚約したらどうなる?」

 

「し、幸せになるわ!」

 

「金も地位も名誉も友達も無い男が、おまえを幸せに出来るとでも?」

 

「ぐぬぬぬ」

 

「その点、丸岡氏のご子息はそれら全てを持っている。正に出来た男さ。彼こそおまえに相応しい。違うか?」

 

せ、正論を振りかざしてきやがった…。

このクソ野郎、正論をかざして私を屈服させにきやがった!!

 

お父さんの言葉を聞けば聞くほど、私のお腹に沸く怒りと悲しみが混ざり合う。

 

どうして、何も知らないこの人に比企谷くんを悪く言われなくちゃいけないのか。

 

どうして、私に偽物の幸せを押し付けようとするのか。

 

もう全てを投げ出したい。

 

でも、投げ出せない。

 

…私のせいで、比企谷くんにも迷惑が掛かるかもしれないから。

 

 

 

「分かったな?おまえは私の言う事を聞いていれば良いんだ」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー★

 

 

 

 

 

「ってお父さんに言われたの!!ねえ!比企谷くんはどう思う!?」

 

「…うん。もうdisられ過ぎて俺も胃が痛いっすわ」

 

周囲のお客さんの注目を浴びる程の大声。

私はいつもの喫茶店に、クソハゲの愚痴をこぼす為に比企谷くんを呼び出していた。

 

「私も心が痛いよ!」

 

「いやいや、金や地位や名誉も無いけどね?友達が居ないのは関係ないよね?それに、なんでおまえは論破されてんだよ。俺を想うなら言い返してくれよ」

 

「何も言い返せなかった!比企谷くんに何も無いから!!」

 

「親子でdisるの?親子で俺をdisるんですね?」

 

あぁ、この優しい声音が心地良い。

もっと近くで、ずっと側で、彼を感じていたい。

何者にも邪魔されず、出来る事なら幸せな空気を2人だけで味わい続けたい。

 

「…本当に、こんなに私は幸せなのに。なんでお父さんは分かってくれないのかしら」

 

「俺は幸せじゃないですけど」

 

「ねぇ、比企谷くん。いつもみたいに助けてくれるんだよね?お父さんと真っ向から戦ってくれるんだよね?」

 

「さっきから俺の話しを聞いてないよね?」

 

「そうだ!もう一層の事、子供を作っちゃうってのはどうかしら!?」

 

「もう一層の事、おまえ丸岡さんの所に預かってもらえよ」

 

名案よ…!

名案じゃない!

 

正に私だからこその閃きだわ!

 

凡人には到底たどり着く事の出来ない発想よ!!

 

かぁぁー!これぞ雪ノ下 陽乃の真骨頂ね!

 

 

「ふふ。完璧ね」

 

「…はぁ。少し頭を冷やして下さい」

 

 

そう言うと、彼は私のほっぺに冷たいグラスを軽くぶつけた。

その冷たさに、私は思わず身動いでしまう。

 

「っ…。な、なにプレイ?」

 

「落ち着けってんだろ」

 

「ぐ…。う、うん、ごめん…」

 

そのグラスを自らの口元で傾けると、いつものように冷静な彼が、小さく溜息を吐きながら、私から視線を逸らしてボソリと呟いた。

 

「…お父さんの言う事だって、あながち間違っちゃいないですよ」

 

「な、なんでよ!比企谷くんのことを悪く言うのよ!?」

 

「それはまぁ、ちょっとイラっとしましたけど。…俺が親なら、どこぞの馬の骨かも分からん奴に娘は預けたくないですね」

 

「ひ、比企谷くんは凄く良い人だもん!」

 

「…。どこらへんが?」

 

「うぇ!?」

 

「俺に丸岡氏とやらに勝てる部分なんてありますか?」

 

「や、優しい所とか…」

 

「…それ、何も無い奴を褒める代名詞みたいなもんじゃないですか」

 

彼の目の前に置かれた、いつものように甘いコーヒー。

ただいつもと違って、彼から甘くて優しい空気は漂って来ない。

 

ほんの少しだけ、冷たいような。

 

そんな感じ。

 

 

「…私の事が信じられないの?」

 

「そうは言いませんけど…」

 

「けど…」

 

「…」

 

 

比企谷君のことだから、私を幸せにするための思考を理路整然と頭に並べているのだろう。

 

惜しむらくは、彼の思考には人間味が足りないこと。

 

お金や地位、名誉だけじゃ、人を幸せにすることなんてできないんだ。

 

それは長年、私が様々な人間と関わって来て培った経験則。

 

ただ、彼にはそれが無い。

 

だから、自分と他人を天秤に掛けた時に、彼は自らの天秤をフワリと浮かせてしまう。

 

自分のことを誰よりも卑下する彼は、私を幸せにするための理論を構築できないんだ。

 

 

「…言葉や表現なんかじゃ伝わらない、キミだけが持ってる凄く綺麗なモノがあるんだよ」

 

「…なんすか、それ…」

 

「私はそれに惹かれたの。キミは私を誰よりも幸せに出来る。コレは確信よ」

 

「……」

 

 

でも、キミは弱いから。

 

自分に厳しいくせに、他人には弱いから。

 

 

「ねぇ。比企谷くん」

 

「…はい?」

 

「私の事、本当に好き?ずっと愛してくれる?」

 

「……」

 

「私は大好き。比企谷くんが居なくなったら死んでしまっても構わないわ」

 

「…はは。雪ノ下さんらしい言い方ですね…。俺も好きですよ。貴方の事が」

 

「そう。そうよね。そう思っていたし、そう願っていたわ」

 

「…?」

 

 

突然の問い掛けに、彼は戸惑いながらも私が求める100点満点の答えを返してくれる。

 

だからこそ、私はキミを信じられるし、私を救えるのはキミしか居ないと思ってるんだ。

 

 

「心から、キミに惚れて良かったと思っているわ。だからお願いね。私の婚約を破綻させてちょうだい」

 

 

「それはまた…。小難しい依頼ですね」

 

 

「この依頼を解決してくれたら…、ぷ、ぷ、プレゼントをあげるから…」

 

 

「プレゼント…?」

 

 

少しだけ恥ずかしい事を言うかもしれない。

 

頬が熱くて赤くなる。

 

キョトンとする彼の目を見ないように、私は小さく彼にだけ聞こえるよう呟いた。

 

 

 

 

「わ、私を、比企谷くんにあげる……」

 

 

 

 

 

 



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極小マインド

 

 

 

 

 

 

私の娘は聡明で賢い。

 

これは自慢では無くて事実。

 

男社会とさえ呼ばれる業界で会社を運営する雪ノ下家にとって、女児しか生まれなかったことは周囲からも嫌味な陰口で語られていたことだろう。

 

だが、そんな陰口をも一掃するだけの実力が内の娘にはあって、あの子は自らの力で周りの声をかき消してきた。

 

…これは私のエゴだろうか?

 

この子になら…、陽乃になら会社を任せても大丈夫。

 

男社会であろうと、陽乃になら。

 

そう思う手前、私自身には何が出来るのか。

 

それは彼女のための土台作りだろう。

 

 

丸岡グループは彼女にとって必要である土台なのだ。

 

 

…。

 

そんな私の親心もつゆ知らず、どこぞの馬の骨とも分からん歳下と結婚するなどと言うものだから、私ともあろう人間が感情的に怒鳴ってしまった。

 

 

「……比企谷…八幡…」

 

 

…陽乃。

彼の名前を私が知らぬわけないだろう。

ましてや、高校生の頃に我が家の自家用車で轢いてしまった男の子だ。

忘れるわけがあるまい。

 

雪乃と親しくしてくれた男の子。

 

陽乃のことさえも大切にしてくれる男の子。

 

堅物な家族に、ほんの少しの和らぎを与えてくれた男の子。

 

どこか頼りなさそうな雰囲気を持つものの、雪乃や陽乃の事を見守る瞳はどこか強くて柔らかい。

 

 

そんな彼を、陽乃は好きになったのか…。

 

 

「…ふぅ」

 

 

子を持つ親よ、誰でも良いから私に教えてくれ。

 

 

娘の幸せを願うならば…。

 

 

私はどうするべきなのだ?

 

 

 

 

 

ーーーーーー★

 

 

 

 

 

「陽乃さん?顔色が優れないけど大丈夫?」

 

 

そう、心配そうに私へ問いかけてくる男は、茶色い髪をイヤらしく肩まで伸ばし、目にかかる程長い前髪を仕切りにイジる。

 

もちろん、そいつにアホ毛は生えていない。

 

威圧するように高価そうな腕時計を見せびらかす手首も、首に掛かる金色のネックレスも、全部全部大嫌い。

 

顔は甘く見積もっても70点程度だろう。

 

声のトーンは無駄に高くて苛立つし。

 

塗りたくられた香水の香りには鼻を摘みたくなる。

 

 

ただ、そんな男と私が居る所はーーーー

 

 

「奥様、こちらのプランに合わせて白いウエディングドレスをお勧め致します」

 

 

ーーー結婚相談所。

 

ブライダルコンシェルジュと対面するように、私はこの男と……、丸岡グループの息子と並んで座っている。

 

普通ならば籍を入れてから訪れるべき所なのだろう。

 

ただ、こうして急かすように結婚式を準備すると言うのは、相手方の丸岡グループにも雪ノ下建設を逃したくないという意識の表れなのかもしれない。

 

 

「陽乃さんならどんなドレスでも似合いそうだね」

 

「…そうね。私ならどんなドレスだって似合うに決まっているわ」

 

 

予定ばかりが進む婚約。

お金の力とは凄いもので、昨今の予約で殺到する式場すら直ぐに押さえることが出来るのだ。

 

ゲス男の丸岡くんは嬉々としてブライダルコンシェルジュに理想の結婚式を提案していく。

 

どうしてこの男は、出会って間もない人との婚約に胸を躍らせているのだろうか。

 

否、私の美貌とスタイルがコイツをそうさせているんだ。

 

 

人の外見でしか好意を抱かない痩せた人間だ。

 

 

私はそんな人を信用しない。

 

 

中身を愛してくれる。私の本物を根っこから愛してくれた彼だけが、私の愛した唯一の人間なのだから。

 

 

 

比企谷くんと私が交わした愛の約束から1ヶ月。

 

 

 

未だ、私の婚約は破棄されていない。

 

 

 

 

「……信じてるからね。比企谷くん」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー★

 

 

 

 

 

「最近では政略婚なんて聞かないものね。比企谷さんが不思議がるのも分からなくないわ」

 

 

そう言って、小洒落た喫茶店で紅茶を傾ける着物の美人。

彼女はまるで、子供に優しく言い聞かせるように俺へ向けて言葉を発した。

 

別に不思議になんて思ってはいないさ。

 

ただ、珍しいなぁって思っただけ。

 

 

「ふふ。なんだかんだ言っても、貴方は陽乃の事が大好きなのね」

 

「ふん。安泰の就職先を横取りされるのが気に食わないだけですよ」

 

「照れてる。可愛い」

 

 

ママのんはふわりと笑いながら、俺のアホ毛を寝かせるように頭を撫でてきた。

 

こんなに優しそうで綺麗な人妻が存在するとは…。

 

もうさ、ママのんが俺を養ってくれよ…。

 

婿養子とか、なんかお金持ちなら出来るんでしょ?

 

なんて。

 

 

「…俺からしたら、大企業同士の思惑なんて想像に出来ませんが。まるでゴジラとモスラが戦っているのを遠目に見ているような感覚ですよ」

 

「面白い事を言うのね」

 

「照れたり慌てたりすると饒舌になる。俺の悪い癖らしいです」

 

「そうなの」

 

「陽乃さんに言われたんです。ほんとに、あの人の前では照れて、慌ててばかりです…」

 

「ええ」

 

 

やはり優しく、ママのんはただただ俺の言葉を聞いてくれる。

 

 

『私の婚約を破綻させて。』

 

 

そんな事、ただのガキである俺に出来る訳がない。

 

ましてや、それがただの婚約ではなくて、企業同士の政略的な物なら尚更だ。

 

勝てない賭けには賭けないのが俺の信条。

 

だって、負けた時に痛い目を見るのは俺ばかりじゃん。

 

失敗して傷つくくらいなら、何もしないまま現状維持で…。

 

……ああ、逃げて逃げて、何も見えない暗闇で、何も聞こえない静寂の中で、ただただ1人っきりの時間をーーーー。

 

 

ーーそんな詰まらない時間を、俺はもう耐えられない。

 

 

あの人の影がチラつくから。

 

 

陽だまりの中で微笑むあの人がうるさいから。

 

 

笑顔が眩しいから。

 

 

……ほんと、好きすぎて困ってんだよ…。

 

 

「…比企谷さん。私はね、陽乃の幸せを願う旦那の気持ちも分かるの」

 

「…っ」

 

「でもそれ以上に、貴方なら陽乃を幸せにできるとも確信しているわ」

 

「…」

 

確信してる…。か。

親子揃って同じ事を言うんだな…。

俺に何を期待してるのか、陽乃さんは決まって俺を頼って笑顔を向ける。

彼女の面影そっくりに、ママのんはゆっくりと紅茶を傾けて、静かに俺の瞳を見つめた。

 

 

「…確信してるわ」

 

「……」

 

「うん。確信してる。私はね」

 

「……?」

 

「…確信してるからね。…うん、だからどうにかしてちょうだい。てへぺろ」

 

「え、ちょ、ちょっと待て。ママのんがどうにかしてくれるんじゃないの?」

 

「うえ!?わ、私が!?」

 

「おまえめっちゃ頼りになる感じで話してたろうが!!」

 

「ええぇ!?私はただ比企谷さんを応援しようと思っていただけなのだけれど!?」

 

「クソくだらねえよおまえの応援なんて!!」

 

「!?」

 

 

なんなんがよ雪ノ下家は!

 

ロクな奴が居ないじゃないか!!

 

てんで役に立たん!

 

相談した俺がバカだった!!

 

 

「ご馳走様でしたさようなら。もうお会いする事はないでしょうけど」

 

「ちょ!ま、待って比企谷さん!冗談よ!冗談だから!」

 

 

席から立ち上がる俺の腰にママのんがしがみ付く。

なんだってこの家系は俺の腰ばかりを狙って引っ付いてきやがる!

うざったいったらありゃしない!

 

 

「分かったわ!ゆ、雪乃と結婚したら?そしたら陽乃とも隠れてゴニョゴニョできるし!偶に雪ノ下家へ顔を見せてくれたら私も比企谷さんに甘えられるし!」

 

「最低かよ!おまえは娘の結婚を何だと思ってるんだ!?」

 

「あぅ、怒鳴らないで!…わ、私だってどうして良いのか分からないの…。助けてよ、私の事も助けてよ!!」

 

 

ひ、開き直りやがった…。

ママのんの威厳はどこへ行った?

本来ならママのんが権力を振りかざせば万事解決も出来るのに…。

なんなんだこの人妻は!

 

 

「はぁ…。助けるも何も、俺は陽乃さんの事を取り戻せれば良いだけなんですけど…」

 

「け、結婚式の日取りはもう間近よ…。だ、だから、今から何かを変えようって言うのは難しいと思うの…」

 

「ちっ。先言えよ…」

 

「ぁぅ…」

 

 

 

もうさ、陽乃さんさえ俺の物にできれば後はどうでもよくなってきたわ。

 

 

雪ノ下家の事とか考えて、事は荒げずに穏便に、なんて考えてたけど、もうこんな家族はどうなろうと知ったこっちゃねえよ。

 

 

俺は陽乃さんのためだけに動く。

 

 

もう、後戻りは無しだ。

 

 

 

 

「それなら、その結婚式をぶち壊してやる」

 

 

「!?」

 

 

 

 

 







次回が最終回ですー。


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婚約コンティニュー

 

 

 

 

 

 

 

「…娘を大切に思っているからこそなんだよ…」

 

そう呟くのは何度目だろう。

最近では久しく行っていなかった駅前にある小さな居酒屋で、私は昔の私を知る大将に訴えかける。

廃れた店に、私のような悩みを抱えた悲しき中年以外の客は居なかった。

だからこそ、こうして周囲の目も気にせずに本心を吐露できるのだが、大将は昔と変わらず、うんうんと小さく頷くだけ。

 

「分かってくれるはずなんだ…。あと数年もしたら…」

 

陽乃は少しばかり恋愛に多感な年齢である。

それでも、高校生の頃くらいまでは物分かりの良い娘だった。

いや、そう演じてくれていたんだ。

それがいつ頃からだろう。雪乃が家を出て、陽乃も時折強引な挙動を見せるようになった。

家族が形を壊していくとも感じた。

 

雪乃は芯が強く、陽乃は曲げない。

 

そんな2人が、いつしか柔らかい笑顔を見せるようになったものだから、ああ、私の教育も間違っていなかったのだと、分かってくれたのだと安心したのはつい半年前の事だ。

 

「…でも…、違ったんだよぉ。あの子らを変えたのは…」

 

酔いが脳に回る。

たまたま街で見かけた雪乃の笑顔が、陽乃の楽しそうな姿が目に浮かんだ。

 

いつだって、あの子達が柔らかく笑う先には()が居た。

 

()の話は時折、家内から聞いていたが、それがどちらかの彼氏であろうなんて微塵にも思っていなかった。

ましてや、陽乃の事をあそこまで変えるなどとは。

 

「比企谷…、八幡…」

 

憎いよ。キミが…。

私たち家族を、家族としての形を取り戻させてくれたのがキミだと思うと…。

何より、そんなキミを、私は陽乃から引き離そうとしてることが…。

 

あの1人ぼっちだった雪乃を、誰をも近寄せない陽乃を、キミは随分と無茶をして救ってくれたようじゃないか。

 

ほんわかした優しさ。

 

ふわりと揺れる暖かさ。

 

自己犠牲を厭わない行動。

 

巧みなテクニック…?

 

家内の口から出るキミの評価は、本当にどこぞのなろう小説かってくらいに惹き寄せられる…。

 

でもさ、でも…、キミに陽乃を幸せにできるのかい?

なんせ内の娘はガンダムよりも強固な装甲を持ち、キラやLよりも頭が回るんだぜ?

そんな完璧な娘を、キミが幸せにできるのか?

 

…辛かろう。そんな妻を取ると言うのは、男して何よりも辛かろうさ。

 

 

「……キミのためでもあるんだ…、だから、分かってくれ……」

 

 

と、溢れた独り言に、小さな言葉が返ってきた。

 

 

「…何をですか?」

 

「……」

 

 

いつから居たのだろう、カウンターで飲みくれる私の隣に1人の青年が座っていた。

アホ毛を揺らしながら、じっとりとした瞳で真っ直ぐに私を見つめる彼は、明らかに外から持ち込んだであろう黄色と黒色の缶を片手にそこに居た。

 

 

「…幻想かな…、それとも私の娘を奪いに来た悪魔か…」

 

「…言い換えれば、貴方の娘を奪いに来た貧乏神です」

 

 

そうか。

やはりキミは現れるんだな。

いやなに、陽乃が見込んだ男だ。

どこかで私の前に現れるとは思っていたさ。

 

 

なぁ、比企谷くんーーーーー

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー☆

 

 

 

 

 

良い歳をした中年が、ホッピーをちびちび飲みながら頬を赤く染めている。

俺が隣に座ったことにすら気づかず、男は尚もぶつぶつ呟き続けた。

 

「……キミのためでもあるんだ…、だから、分かってくれ……」

 

言い訳などいくらでも作れる。

男は娘を思って当然の事をしているのだ。

いくら外装を綺麗に固めようと、男には娘の将来しか目に入らないだろう。

 

だが男は、何を勘違いしてか、俺のため、と呟いた。

 

「貧乏神です」

 

「はは…、まさか、本当に現れるとはな…」

 

「随分と飲まれていますね」

 

「あぁ、悩み事が尽きなくてね…。その元凶が目の前に居るのだが…」

 

大将の事っすか?なんて言える雰囲気ではない。

もちろんその元凶は俺の事だろう。

俺さえ居なければ、男の悩みは多少なりとも軽くなるだろうに。

 

「…貴方は娘が大好きなんですね」

 

「もちろんだよ。キミだって娘を持てば分かるさ…」

 

なんとなく、小町の事を考えてしまった。

娘ではないが、俺にとっては大切な妹だ。

いつぞやだったか、小町が彼氏を家に連れてくる夢を見た。

酷く悲しく、辛く、だけど小町の笑顔を見ると、そんな俺の感情は表に出せまいと…。

いや夢なんだけどね。

 

「…娘のための外堀作りは順調みたいで」

 

「嫌な事を言うなよ…。私だって、陽乃が結婚に乗り気じゃない事くらい分かっているさ」

 

「それでも、彼女にとっては大切な外堀だと?」

 

「…あぁ。ウチのは完璧過ぎるからねぇ…。自慢とか、親バカとかじゃなくてね」

 

分かっているさ、そんな事。

アレが如何に完璧かなんて、高校生の頃にどれだけ思わされたか…。

 

完璧だからこそ、屈強で強靭な男が隣に立つべきだと。

 

親じゃなくとも理解が出来る。

 

「その分、丸岡のところなら大丈夫だろう。バカ息子なぞ飾りにして、陽乃なら誰よりも上に行ける」

 

「…はは。あの人ならあり得ますね」

 

「そうだろ?陽乃は規格外だ。だから……、だからさ、キミだって……」

 

「そんな女性の隣に立つのは窮屈だと?」

 

「……あぁ」

 

男は、パパのんはジョッキを傾けながら俺から目をそらす。

空になったジョッキには、カラカラとなる氷が物悲しく滑っていた。

 

「比企谷くん、キミには感謝してる。本心だ。娘達を救ってくれたのも、家族を取り戻してくれたのも、全部キミのおかけだ」

 

「……」

 

「だが婚約となれば話が違う。キミがどれだけ優秀だろうと、アレを幸せにすることなんて出来ないんだよ」

 

アレアレ言うのも可愛そうだが、確かにアレを幸せにする自信なんてない。

俺ごときがアレの隣に並び立つことなんて出来るわけがない。

俺なんて人生の敗北者じゃけえ。

ちょっとばかし頭は良いが、それだけじゃアレの足元にすら及ばないんだ。

 

ただ。

 

たださ、パパのんは一つ勘違いをしている。

 

それはとんでもなく大きな勘違いで、鼻で笑うことすら躊躇うくらいにトンチンカンな勘違いだ。

 

 

 

「…ふざけんな」

 

「…っ」

 

 

 

ハゲが。

娘の事をそれだけ思っていて、なぜ()()()()に辿り着けないんだ。

陽乃さんを幸せに出来ない?

そんなこと百も承知だっての。

それを分かってても、俺は陽乃さんと一緒に居たいと思ってんだ。

 

舐めんなよ。

 

クソ親父。

 

そのふざけた幻想。

 

俺がぶち壊してやる!!

 

 

 

「誰が陽乃さんを幸せにするって言ったんだ? 陽乃さんが、陽乃がっ!ーーーーーーーーー

 

 

ーーー俺を幸せにしてくれるんだ!!」

 

 

 

 

「っ!?!」

 

 

男のプライド?劣等感?価値観?そんなもんは全部妖怪に食べてもらったわ!

いつだってあの人は完璧で、誰よりも綺麗で強くて、そんな人が隣に居たいと言ってくれる…。

 

あいわかった!

 

それなら俺が専業主夫になりましょう!!

 

仕方ない。苦渋の決断よぉぉ!

 

窮屈だぁ?飾りだぁ?

 

俺は、俺はーーーー!!

 

 

「陽乃に幸せにしてもらいますから!?俺みたいなちっぽけな人間なら、あの人は小指で支えてくれるはずだ!!」

 

「ちょ、ま、待って…。き、キミは何を…」

 

「信じてるんで。俺は彼女を。それに、陽乃さんに外堀なんて必要ありませんよ」

 

「…っ」

 

あの進撃の陽乃なら、どれだけの大企業で外を埋めようともぶち壊してくるに決まってる。

それはもう恐ろしい程の破壊力ですわ。

 

「…いつだって、俺は陽乃さんに引っ張られてきました。それはこれからも変わらないでしょう」

 

俺はポケットから1枚の紙を取り出す。

 

「…っ!こ、婚約届…、だと…!?む!?な、なぜ証人に私の名前が…っ!そ、それにこの字面は私の物…、わ、私は書いていないぞ!!」

 

「勘違いしないでください。これは全て陽乃さんが書いたものです」

 

「!?」

 

「ちなみに俺の記入欄も既に作成されていました」

 

「!?!」

 

コレを見つけた時はゾッとした…。

俺が書いた文字と寸分違わぬ字体に、親指の血印…。

どうやって作ったのか…、と問いただす前にこの紙は処分するべきだと盗んでおいたのだ。

 

「…もう分かったでしょ?陽乃さんは規格外なんです。もはや人間の領域を超えているんだ」

 

「むう…、し、しかし…」

 

「…人が…、死にますよ?」

 

「な!?!」

 

「一族末裔皆殺し…、陽乃さんが寝言で呟いていました…」

 

「ほ、本気だったのか…っ!!」

 

 

パパのんの額に冷や汗が浮かぶ。

気付けば、先程まで赤めていた頬は青ざめ、どこか小刻みに震えている。

 

 

 

 

 

 

「パパのん…、いえ、お義父さん。娘さんを俺に任せてください…」

 

 

 

 

 

.

……

………

……………

…………………

 

 

 

 

「ひっきがっやくーーん!!」

 

 

晴天のとある日。

陽気な声に振り向けば、その暖かな体温を惜しむことなく俺に押し付ける彼女が居た。

満面の笑みを浮かべる彼女の抱擁を受け止めながら、俺は小さく溜息を吐いた。

 

 

「はぁ…。…重い…」

 

「照れ隠し!にゃあん、にゃぁん」

 

「…キモ」

 

「うへへ。あのねー、お父さんが、丸岡との婚約は無かった事にする。だって!」

 

「…そうですか」

 

「処女膜は破っても約束は破らない!これこそ私の愛した比企谷くんだよ!」

 

「……」

 

 

人目もはばからない彼女に笑みを送りつつ、少し離れるようにとやんわり身体を押し返す。

 

さらさらとした髪から漂う甘い香りを残しつつ、彼女は俺の腕を握りながら尚もくっつこうとしてきた。

 

 

「ねえねえ、今回はどうやって私を助けてくれたの?」

 

「…別に。ただ、陽乃さんを俺にください。って言っただけですよ」

 

「詳しく!」

 

 

何をそんなに聞きたいんだか。

 

だが、彼女の笑みが柔らかく、ふわりふわりと感じる体温も相まって、その幸せが本物であるのだと実感させられる。

 

俺はそっと彼女の頭を撫でながら

 

 

「陽乃を幸せにします。誰よりも。って言っただけですよ」

 

「〜〜っ!さ、さすがですわ比企谷様!!あ、そうだ!それじゃあ早速結婚しなくちゃ!ちょっと待ってて!」

 

そう言うと、彼女は鞄をごそごそと漁り始めた。

 

そんなに慌てなくても俺は逃げませんよ。

 

……ていうか逃げれませんよ。

 

 

「あれー?おかしいなぁ…、ここに入れておいたのに…」

 

「…何がです?」

 

「んー?婚約届だよ?」

 

「……ああ、きっと風にさらわれてしまったんでしょう」

 

「むむぅ…、ま、いっか!また作り直しておくよ!」

 

 

そうですか…。

そんなに手軽に作れる物なんですね…。

 

とはいえ、こうして俺は、学生の身でありながら婚約が決まったわけだ。

 

とりあえずゼクシィでも買っておこうか、などと悩みつつ、何の気なしに陽乃さんと目を合わす。

 

 

「……」

 

「む?な、な、な、何かな?」

 

「…陽乃さんは、本当に俺でいいんですか?」

 

「…」

 

 

確信している。

彼女はそう言った。

俺と一緒に居れば幸せになれると。

 

その言葉に嘘はないだろう。

 

疑っているわけじゃない。

 

ただ、この陽だまりのような笑顔を失いたくないから。

 

法律や紙切れではない本音と言葉による約束を。

 

 

「私が信じられない?」

 

 

「いえ。信じてますよ。絶対的にね」

 

 

「そう」

 

 

意地悪なお姉さんの悪戯な笑顔で、陽乃さんは俺の瞳を真っ直ぐに見つめた。

 

青色の柔らかな風に髪をなびかせながら。

 

ゆるりと揺れる表情。

 

その美しさたるや、制欲に負けて脱ぎたがる女性の姿は無い。

 

 

 

「言葉すらいらないわ。私の愛は…、キミを捕まえるためだけに生まれた感情なんだから」

 

 

ああ、そうですか。

 

なんと言う重いお言葉だろう。

 

だが、その言葉こそが、俺が彼女に求めた本物だ。

 

 

「…はは。陽乃さんらしいですね」

 

「ええ、私は私だもの。…それで?比企谷くんの答えは?」

 

 

決まってるだろ。

 

その感情、その想い、その身体。

 

誰にも渡さぬ俺の全てだ。

 

 

 

 

 

「陽乃、おまえは俺の物だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーend

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






同棲編でエッチ書く。


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