学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~ (ムッティ)
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特別編《コラボ企画》
【刀藤綺凛の兄の日常記】×【学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~】綺優との約束


皆様、お久しぶりでございます!

この度、【刀藤綺凛の兄の日常記】の作者である綺凛・凛綺さんとコラボさせていただきました!

【刀藤綺凛の兄の日常記】を読んだことがないという方は、まずはそちらを読んでいただくことをオススメします。

それではいってみよー!


 「七瀬、コーヒーが入りましたよ」

 

 「おぉ、サンキュー」

 

 ソファに座って端末を弄っていると、クローディアがコーヒーの入ったカップを持ってきてくれた。それを受け取り、一口飲む俺。

 

 「うん、美味い。やっぱりクローディアが入れてくれるコーヒーは美味いな」

 

 「フフッ、ありがとうございます」

 

 クローディアは嬉しそうに微笑むと、俺の隣に腰掛けた。

 

 「そういえば七瀬、もう界龍へ行く準備は出来たんですか?」

 

 「あぁ、荷造りは終わってるよ。まぁ大して持っていく物も無いけど」

 

 《鳳凰星武祭》での一件で停学処分になってしまった俺は、星露からの誘いもあり明日から界龍で修行の日々を送ることになっていた。しばらくクローディア達と会えなくなるのは寂しいが、これも強くなる為だ。気を引き締めて頑張らないと。

 

 そんなことを考えていると、クローディアがクスクス笑い始めた。

 

 「ん?どうした?」

 

 「いえ、とても真剣な表情をしていたものですから。よほど彼女を守りたいんだなと思いまして」

 

 「・・・そりゃあ勿論」

 

 少し照れ臭くなり、クローディアから顔を背ける。彼女・・・シルヴィを守りたい。

 

 改めてそう思うキッカケになったのは・・・やっぱり『アイツ』に出会ったからだろうな。

 

 「しかしまぁ、あんなことが起きるとは・・・世の中何があるか分からないもんだ」

 

 「本当にそうですね」

 

 クローディアが頷く。

 

 「本来、私達と『彼』が出会うことは無かったはずです。ですが、運命の悪戯とでも言えば良いのでしょうか・・・私達は『彼』と出会うことになりました」

 

 「あの時はホント、ビックリしたよなぁ・・・」

 

 あの時・・・星露から修行に誘われた日の翌日。俺は『アイツ』と出会った。俺の知らない世界を知った。

 

 そして俺は『アイツ』と・・・一つの約束をした。それはとても大切な約束・・・

 

 俺は窓の外に目を向け、小さく呟いたのだった。

 

 「綺優、今頃何してんだろうな・・・」

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 「そうそう、その調子その調子」

 

 「ぷはっ・・・はうぅ・・・」

 

 星導館の側にある海にて、俺は綺凛の泳ぎの特訓に付き合っていた。綺凛の両手を引きつつ、ずっとバタ足で泳がせているのだ。

 

 「それにしても、俺達の貸切とはな・・・プライベートビーチみたいなもんじゃん」

 

 「フフッ、そうですね」

 

 浮き輪に寝そべり、プカプカと優雅に浮いているクローディア。布面積の少ないビキニを着ており、正直目のやり場に困る。

 

 「ここは本来、実験等を行なう為に用意された場所ですから。一般生徒は原則として立ち入り禁止なんですよ」

 

 「それを生徒会長権限で遊泳の為に使用していると・・・職権濫用もいいとこだな」

 

 「まぁ良いじゃないか。こうやって楽しんでるんだから」

 

 「その通り。持つべきものは権力を持った友」

 

 海水浴を楽しんでいる綾斗と紗夜。ちなみに紗夜はスクール水着を着ている。

 

 うん、まぁ何と言うか・・・

 

 「安心と信頼の紗夜だな」

 

 「・・・何故かバカにされている気がする」

 

 「ハハハ、何ノコトヤラ」

 

 適当に流して浜辺の方へと目をやると、ユリスがビーチパラソルの下でビーチチェアに寝そべっていた。

 

 「いや、あの道具一式は何処から調達したんだよ」

 

 「生徒会専用のレスティングルームに置いてある物ですよ。役員の皆さんにここまで運んできていただきました」

 

 「お前マジで生徒会を何だと思ってんの?」

 

 コイツをこのまま生徒会長にしておいて良いんだろうか・・・

 

 「っていうかユリスー!泳がないのかー?」

 

 声を掛けてみるも、適当に手をひらひら振ってくるだけだった。『私はいい』ということだろう。

 

 あんにゃろう・・・

 

 「あぁ神よ。あのじゃじゃ馬姫を砂塗れにして、優雅さの欠片も無くして下さい」

 

 「いや、そんなお願い聞いてくれるわけ・・・」

 

 

 

 ドオオオオオオオオオオンッ!

 

 

 

 綾斗のセリフの途中で、空から降ってきた何かがビーチパラソルに墜落した。ユリスのいた辺りは、もうもうと砂埃が立ち上がっている。

 

 「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」

 

 一斉に無言になる俺達。おいおい、マジか・・・

 

 「・・・神様って本当にいたんだな」

 

 「いやそこじゃないでしょおおおおおおおおおおっ!?」

 

 綺凛のツッコミが響き渡る。

 

 「何が起きたんですかアレ!?ユリスさん生きてますよねぇ!?」

 

 「とりあえず行ってみようぜ。骨は拾ってやらないと」

 

 「何さらっと縁起でもないこと言ってるんですか!」

 

 海から上がり砂浜へ行ってみると、ちょうどユリスが壊れたビーチパラソルの下から這い出してくるところだった。当然のことながら、全身砂塗れである。

 

 「ゴホッ・・・ゴホッ・・・な、何が起きたのだ!?」

 

 「おぉユリス、無事だったか・・・チッ」

 

 「おい!?今舌打ちしたな!?」

 

 「そんなことより、今何が降ってきた?UFO?」

 

 「そんなわけあるか!」

 

 そんなやり取りをしているうちに、砂埃が治まってきた。ユリスのすぐ側に誰かが倒れている。

 

 「男・・・?っておい、ウチの学生じゃね?」

 

 星導館の制服に校章・・・倒れていたのは、紛れも無くウチの男子生徒だった。

 

 「星導館の生徒が、何故空から降ってくる?」

 

 「クローディアが生徒会長権限で、スカイダイビングでもさせたんじゃね?」

 

 「そんなわけないでしょう」

 

 首を傾げる紗夜に、俺の言葉をバッサリ否定するクローディア。

 

 「とりあえず、彼を医務室まで運びましょう。彼が目を覚ましてくれないと、何があったか聞くことも出来ませんから」

 

 「それもそうだな」

 

 空から降ってきた男子生徒を背負い、俺達は医務室へと向かうのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 医務室に運んでから一時間後・・・男子生徒が目を覚ました。

 

 「あ、起きた。気分はどうだ?」

 

 声をかける俺。男子生徒は俺の方を見て、小さく首を傾げた。

 

 「・・・誰だ?」

 

 「高等部一年の星野七瀬だよ」

 

 「一年・・・?俺も一年だが、お前に見覚えが無いぞ」

 

 「マジで?ってか、同級生で俺のこと知らないヤツとかいるのか・・・《鳳凰星武祭》じゃ、ずいぶんと悪い意味で目立ったんだけど・・・」

 

 どうやらコイツは、そういったことに疎い人間のようだ。

 

 「ところで、お前の名前は?」

 

 「俺の名前は、刀藤綺・・・」

 

 「七瀬さん、例の人は目を覚まされましたか?」

 

 男子生徒の自己紹介の途中で、綺凛が保健室に入ってくる。

 

 「おぉ綺凛、ちょうど今目覚めたとこだぞ。どうやら俺の同級生らしい」

 

 「本当ですか?」

 

 男子生徒を見て、ニッコリと笑う綺凛。

 

 「七瀬さんの同級生ということは、私の先輩ですよね?お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 綺凛がそう言った瞬間、何故か男子生徒がショックを受けたような顔をした。まるで心底傷ついた、と言わんばかりの表情である。

 

 「き、綺凛・・・?」

 

 「あれ?私の名前をご存知なんですか?」

 

 「いや、そりゃ知ってるだろ。この間まで序列一位だったんだから」

 

 笑いながらそう言う俺だったが、そこでふと気付いた。綺凛のことを知っているなら、《鳳凰星武祭》でタッグを組んでいた俺のことを知らないのはおかしくないか・・・?

 

 そういやさっき、コイツが言いかけた名前って・・・

 

 「なぁ、お前の名前・・・さっき何て言った・・・?」

 

 俺の問いかけに、男子生徒は衝撃の答えを返したのだった。

 

 「・・・俺の名前は刀藤綺優。そこに居る刀藤綺凛の・・・実の兄だ」

 

 

 

***

 

 

 

 

 「刀藤さんのお兄さん・・・ですか?」

 

 「本人はそう言ってるんだけど・・・」

 

 医務室にやってきたクローディアに事情を説明する俺。

 

 「刀藤さん、本当なんですか?」

 

 「いえ、私に兄はいません」

 

 「ちょ、綺凛!?」

 

 「あっ!?」

 

 慌てて口を押さえる綺凛。その瞬間、男子生徒が持っていた刀を抜いて自分に突き刺そうとする。そうはさせまいと、必死に男子生徒を押さえ込む俺。

 

 「離せっ!離せえええええっ!これは悪い夢だっ!目が覚めたら、マイパーフェクトシスター綺凛が天使のような笑顔で出迎えてくれるんだっ!」

 

 「落ち着けえええええっ!?そんなことしたら本物の天使が迎えにきちゃうから!あの世に逝っちゃうから!」

 

 「その方が百倍マシだ!」

 

 ギャーギャー喚く俺達を見て、クローディアが呆気にとられていた。

 

 「・・・一体どういうことですか?」

 

 「スミマセン、さっきからずっとこんな調子でして・・・」

 

 申し訳無さそうな綺凛。

 

 「ですが、私に兄がいないのも事実でして・・・一体どうしたらいいのか・・・」

 

 「実はこちらでも、ちょっと衝撃の事実が発覚しまして・・・」

 

 困惑顔のクローディア。

 

 「星導館のデータベースを調べたのですが・・・彼のデータが何一つ無いんです」

 

 「は・・・?」

 

 ポカンとしてしまう俺。

 

 「つまりコイツ・・・ウチの生徒じゃないのか?」

 

 「そうなるのですが、制服だけならともかく校章まで持っていますから・・・調べたところ、本物の校章でした」

 

 「あれ?確か校章って、個人データが記録されてるんじゃなかったっけ?」

 

 「えぇ、それで調べてみたのですが・・・データが破損してしまっているようです」

 

 「破損?」

 

 「えぇ。恐らく、磁場等の影響によるものだと思われます」

 

 「・・・あっ」

 

 何かに気付いた様子の男子生徒。

 

 「どうかされましたか?」

 

 「俺、空間の歪みを通ってきたから・・・多分そのせいだと思う」

 

 「空間の歪み・・・?」

 

 「いきなり空間が歪む→引きずり込まれる→今ここ。理解できたか?」

 

 「・・・スミマセン。訳が分かりません」

 

 「ハァ・・・俺の知っているクローディアは、もっと頭の良いヤツだったのに・・・」

 

 「・・・七瀬、彼を生徒会長権限で処刑して良いですか?」

 

 「いや、生徒会長にそんな権限ないから」

 

 アカン、クローディアの目から光が消えてる・・・マジモードやん。

 

 「えーっと、綺優って言ったっけ?お前の世界では綺凛はお前の妹で、クローディアはもっと頭が良かった・・・間違ってないな?」

 

 「あぁ、間違いない」

 

 「今の私の頭が悪いみたいな言い方止めてもらえます?」

 

 クローディアのツッコミはスルーするとして・・・

 

 「つまり・・・アレだな。お前はパラレルワールドから来たってことか」

 

 「パラレルワールドって・・・いわゆる、平行世界ってやつですか?」

 

 信じられないといった表情の綺凛。

 

 「疑いたくなるのも分かるよ。でも、もし綺優の言ってることが本当なら・・・そうとしか考えられない」

 

 「彼が嘘をついている可能性は?」

 

 「そもそも嘘をつく理由がないだろ。それに校章は本物なのに、データベースには載っていない・・・こんな矛盾が生じる状況、他にどう説明できる?」

 

 「それは・・・」

 

 言葉に詰まるクローディア。俺は綺優へと視線を移した。

 

 「綺優、お前は元の世界に戻りたいか?」

 

 「勿論戻りたい。だが・・・戻り方が分からない」

 

 「・・・そっか」

 

 なら、俺のやるべきことは一つだ。

 

 「俺も手伝うよ。お前が元の世界に戻れる方法を探す」

 

 俺の言葉に、綺優が不思議そうな表情を浮かべる。

 

 「・・・何故だ」

 

 「え?」

 

 「何故お前は俺の言葉を信じられる?普通なら、綺凛やクローディアの反応が正しい。なのにお前は、何故俺の言葉を疑わない?」

 

 「んー・・・勘?」

 

 「は・・・?」

 

 ポカンとした表情の綺優。そんな表情も出来るのな。

 

 「さっきクローディアに言った根拠もあるが・・・一番はやっぱり勘だな。お前は嘘をついていないし、信用できる・・・俺の勘がそう言ってる」

 

 「・・・お前バカか?」

 

 「バカで結構。俺の勘を舐めんなよ?当たる確率は驚異の五十パーセントだ」

 

 「いや、フィフティフィフティじゃないですか」

 

 綺凛の呆れたようなツッコミ。

 

 「全くもう・・・まぁ、七瀬さんらしいですけど」

 

 「・・・確かに。底なしのお人好しですものね」

 

 笑っている綺凛とクローディア。

 

 「では私は、過去にこういった事例が無かったか調べてみますね」

 

 「あ、私もお手伝いします!」

 

 医務室を出て行く二人。それを見ていた綺優が、ポツリと呟いた。

 

 「・・・お前はあの二人に、ずいぶんと信頼されているんだな」

 

 「綺凛もクローディアも、大事な友達だからな。俺もあの二人を心から信頼してるし、あの二人の信頼にいつだって応えたいと思ってるよ」

 

 「・・・そうか」

 

 綺優はそう呟くと、真っ直ぐに俺を見た。

 

 「なら、俺もお前を信じてみるとしよう・・・あの二人が信じているお前を、な」

 

 俺はその時、初めて綺優の笑った顔を見たのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 「パラレルワールド?馬鹿も休み休み言え」

 

 「空気読めや人間発火装置」

 

 「今日は私に対してやけに辛辣すぎないか!?」

 

 事情を説明した途端、KY発言をするユリス。一方、綾斗も困惑顔だった。

 

 「まぁ、それが全て本当だったとして・・・帰る方法にアテはあるのかい?」

 

 「そこなんだよなぁ・・・でもこっちに来れたってことは、戻る方法もあるはずだろ」

 

 「いや、そもそもパラレルワールドなど空想上の話・・・」

 

 「雨の日は無能なユリスは黙ってろや」

 

 「私は焔の錬金術師かっ!」

 

 ユリスを適当にあしらっていると、綺優が珍しそうな顔でこちらを見ていた。

 

 「綺優?どうした?」

 

 「いや・・・あのユリスがツッコミ役をやっているのが不思議でな・・・」

 

 「こっちじゃいつもこんな感じだけど?そっちのユリスはどんな感じなんだ?」

 

 「・・・無駄にプライドの高い女?」

 

 「何だ、こっちと一緒じゃん」

 

 「おい!?」

 

 ユリスが抗議の声を上げる。と、綺優がユリスに視線を移した。

 

 「ユリス、ヒユリという名前に心当たりはあるか?」

 

 「ヒユリ?いや、知らないが?」

 

 「・・・そうか」

 

 何処となく寂しそうな綺優。そんな綺優を気遣ってか、綾斗が声をかける。

 

 「えーっと・・・綺優くん?」

 

 「呼び捨てにして下さいお願いします」

 

 「急にどうしたの!?」

 

 綾斗を気持ち悪いものを見るような目で見る綺優。どうしたんだろう?

 

 「お前に『くん』付けされるとかホント無理。生理的に無理」

 

 「そこまで!?君の世界の俺ってどんなヤツなの!?」

 

 「そうだな・・・」

 

 しばし考え込む綺優。そして・・・

 

 

 

 「一言で言うと・・・出会って間もない俺に、『君とは仲良くなれそうにない』とか平気で言えるようなヤツだな」

 

 

 

 「えぇっ!?」

 

 「綾斗、お前というヤツは・・・」

 

 「マジ引くわー」

 

 綾斗から距離をとるユリスと俺。

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ!?本当に俺がそんなこと言ったの!?」

 

 「間違いなく言われたぞ。あとは会う度に毛嫌いされたり、いきなりぶん殴られたり、人の妹の胸を触ったり・・・」

 

 「・・・最低だな。男の風上にも置けんヤツだ」

 

 「・・・マジ引くわー」

 

 「何で俺がそんな目で見られてるの!?俺はそんなことしてないからね!?」

 

 綾斗が必死に叫ぶ様子を見て、綺優がフッと笑みを浮かべる。

 

 「まぁ確かに、今のところ天霧綾斗とは犬猿の仲ではあるが・・・俺は別に、アイツのことが嫌いなわけじゃない。いずれは和解できたら・・・そう思っている」

 

 「綺優くん・・・」

 

 「だから『くん』付けは止めろおおおおおっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 綺優の飛び膝蹴りが綾斗の顔面に直撃する。そのまま医務室の壁をブチ破り、勢いよく吹き飛んでいく綾斗。

 

 「当然の報い・・・と言いたいところだが、こっちの綾斗は無実だしな。ユリス、綾斗の回収と介抱を頼む」

 

 「了解した。七瀬はどうするのだ?」

 

 「とりあえず、綺優を連れて学園の外に行ってみようかと思う。何かヒントが見つかるかもしれないし。ってか、紗夜は何処行ったんだ?」

 

 「沙々宮なら、銃の専門店に行くと言っていたぞ」

 

 「いや、綺優の心配しろよアイツ・・・そもそも方向音痴のアイツが一人で出かけるとか、迷子になる未来しか見えないんだけど」

 

 「・・・こっちの沙々宮もそんな感じなんだな」

 

 綺優に同情の視線を向けられる俺なのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 「それにしても、何だか不思議だな・・・」

 

 「ん?何が?」

 

 散歩がてらに色々と歩き回った俺達は、《商業エリア》にあるファストフード店で昼食を食べていた。

 

 「この街の風景は、いつも見ていたものと何も変わらない。景色だけ見れば、違う世界に来たという感じは全然しないくらいだ」

 

 「へぇ・・・そういうもんか?」

 

 「あぁ。だが俺のことを知っているはずの人が、俺のことを知らないと言う・・・俺の知っている人が存在しない・・・何だか不思議な感覚だ」

 

 「綺優・・・」

 

 やっぱり、元の世界が恋しいんだろうな・・・どんな言葉をかけてやるべきか、俺が考えていた時だった。

 

 「だ~れだっ♪」

 

 いきなり背後から目隠しされる。おいおい・・・

 

 「歌姫さんや、気配消して近付くの止めてくんない?」

 

 「えへへ、ビックリした?」

 

 目隠しが外されたので振り向くと、歌姫ことシルヴィア=リューネハイムが悪戯っぽい笑みを浮かべて立っていた。当然のことながら、いつも通りの変装が施されている。

 

 「次のお仕事まで時間空いたから、お昼ご飯でも食べようと思ってお店に入ったんだけど・・・まさかななくんに会えるとは思わなかったなぁ」

 

 そのまま抱きついてくるシルヴィ。と、俺の向かい側に座っている綺優の方を見た。

 

 「あ、こんにちは!ななくんのお友達かな?」

 

 ところが綺優は質問に答えず、驚いたようにシルヴィを見つめていた。

 

 「あれ?おーい?」

 

 「・・・シルヴィ」

 

 「えっ?」

 

 いきなり名前を呼ばれ、ビックリするシルヴィ。

 

 「何で私の名前を・・・何処かで会ったことあったっけ?」

 

 その言葉に、何故か悲しそうな顔で微笑む綺優なのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 「へぇ・・・じゃあ君は、別の世界から来たんだね?」

 

 「・・・あぁ」

 

 何処ぞの人間発火装置と違って、シルヴィはすんなり事情を飲み込んでくれた。

 

 ただ、ちょっと衝撃的だったのは・・・

 

 「そっちの世界では、私と君が婚約してるって・・・ホント?」

 

 「・・・あぁ」

 

 頷く綺優。マジかよ・・・

 

 まぁ綺優のいた世界に俺はいないみたいだから、シルヴィが誰と恋仲にあってもおかしくはないが・・・

 

 「『ちょっと複雑だな・・・俺の女が他の男とデキてるなんて・・・』とか考えてたでしょ!や~ん、ななくんったら~!」

 

 「人の心を読むなアホ」

 

 「あたっ!?」

 

 シルヴィの頭にチョップをお見舞いする。全くコイツは・・・

 

 「ほら、とりあえず何か注文してこいよ。時間無くなるぞ?」

 

 「あ、そうだった!ちょっと行ってくるね!」

 

 慌ててレジへ向かうシルヴィ。それを見届けてから、俺は綺優に視線を移した。

 

 「・・・ゴメンな」

 

 「何故謝る・・・?」

 

 「その・・・自分の婚約者が、他の男と仲良くしてるのを見るのは・・・」

 

 「七瀬」

 

 俺の言葉を遮る綺優。

 

 「この世界のシルヴィと、俺のいた世界のシルヴィは違う。だからそう気を遣うな」

 

 「いや、でも・・・」

 

 「・・・まぁ確かに、少し複雑なのは認める。だが・・・」

 

 俺を見て笑う綺優。

 

 「さっきのシルヴィは、とても楽しそうに笑っていた。七瀬と一緒に過ごせるのが、幸せなんだと思う。それだけアイツは、お前に惚れているということだ」

 

 「綺優・・・」

 

 「・・・ちゃんと幸せにしてやれよ。絶対に泣かせるな」

 

 「・・・あぁ、勿論」

 

 強く頷く俺。

 

 「約束するよ。必ず幸せにする」

 

 「あぁ、それで良い。まぁそんなわけだから、早いうちに婚約しろよ」

 

 「なっ!?いや、それはまだ早くないか!?」

 

 「こういうのは早い方が良い。さっきも言ったが、俺はもう婚約してるぞ」

 

 「そんなこと言ったって・・・ちなみに、どういう流れで?」

 

 「《王竜星武祭》で優勝した時の優勝者インタビューで公開プロポーズした」

 

 「マジで言ってんの!?ってか《王竜星武祭》で優勝!?《孤毒の魔女》は!?」

 

 「ぶっ倒した」

 

 「ええええええええええ!?」

 

 何なのコイツ!?二葉姉やシルヴィでさえ勝てなかった《孤毒の魔女》を倒した!?

 

 「まぁそんなわけだから、お前も《星武祭》で優勝してプロポーズしてしまえ」

 

 「・・・検討しとくよ」

 

 「何を検討するの?」

 

 「うおっ!?」

 

 いつの間にか、シルヴィが戻ってきていた。

 

 「べ、別に何でもないぞ!?」

 

 「あー!怪しいー!ねぇ綺優くん、ななくんと何の話をしてたの!?」

 

 「・・・男同士の話だ。いずれ分かる時がくるさ」

 

 「えー、私だけ除け者ー?」

 

 いじけるシルヴィ。と、綺優が俺をじーっと見つめてくる。何事かと思ったら、今度はシルヴィを顎で指す。

 

 あー、彼女の機嫌を取れってことね・・・

 

 「・・・シルヴィ」

 

 「ふーんだ。除け者に構わないで、綺優くんと男同士で話を・・・」

 

 「・・・愛してる」

 

 「ふぇっ!?ちょ、こんなところで急に何を言い出すの!?」

 

 顔を真っ赤にして慌てるシルヴィ。

 

 今はこれしか言えないけど、いつかは・・・

 

 「・・・やっぱりお似合いのカップルだよ、お前達は」

 

 満足気に笑う綺優なのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 「クローディア、さっきの話は本当なのか?」

 

 「えぇ、あくまでも可能性ですが」

 

 次の仕事へ向かうシルヴィを見送った後、クローディアから『手がかりを掴んだかもしれない』という連絡があったのだ。

 

 俺と綺優は星導館に戻り、クローディアや綺凛と共に綺優が降ってきた海へとやって来ていた。

 

 「過去の文献を調べた結果、この場所は空間の歪みが何度か確認されていることが判明しました。恐らく綺優は、ここの上空に出来た空間の歪みから降ってきたと推測されます」

 

 「つまりこの場所は、空間の歪みが発生しやすい環境にあるってことか?」

 

 「恐らくそうだと思われます。推測に過ぎませんが、ここで行なわれた度重なる実験の影響かもしれません」

 

 「そういやここ、実験用の場所なんだっけか」

 

 「向こうの世界でもそうだったぞ」

 

 綺優がそんなことを言う。なるほど、その影響もあるかもしれないな・・・

 

 「色々と調べた結果なんですが・・・この場所でより大きな力を解放した時、空間の歪みが発生しやすいようです」

 

 「大きな力?」

 

 綺凛の説明に首を傾げる俺。ってことは・・・

 

 「七海、聞こえるか?」

 

 【どうされましたか?マスター?】

 

 「とりあえず、全力の雷を出してみたいんだけど」

 

 【了解です】

 

 「いやダメですよ!?」

 

 慌てて綺凛が止めに入る。

 

 「すぐ側は海ですからね!?魚が大量死しますよ!?」

 

 「あ、そっか・・・しばらく魚料理には困らないな」

 

 「七瀬さんに人の心は無いんですか!?」

 

 「冗談だってばよ」

 

 「何で急にナ●ト!?」

 

 そんなやり取りをしていると、綺優がポンッと手を叩いた。

 

 「・・・そうだ。同じことすれば良いじゃん」

 

 「同じこと?」

 

 

 

 「いや、向こうの世界のこの場所で全力を出してみたんだが・・・空間が歪んで引きずり込まれて、気付いたらこっちの世界にいたんだ。だから同じことしたら戻れんじゃね?」

 

 

 

 「完っ全に原因お前じゃねーかああああああああああっ!?」

 

 「しかも何でそんな大事なこと今まで言わなかったんですかああああああああああっ!?」

 

 絶叫する俺と綺凛。それが分かってたら悩むこと無かったじゃん!最初からその方法試せたじゃん!

 

 「いやぁ、すっかり忘れてた・・・てへぺろ」

 

 「・・・七瀬、生徒会長権限で彼を処刑して良いですか?」

 

 「許可する。殺れ」

 

 「いや、ツッコミ放棄すんなよ」

 

 綺優のツッコミ。いや、放棄したくもなるわ!

 

 何故なら今の俺はクローディアの気持ちがよく分かるからな!お前に対する怒りが理解できるからな!

 

 「じゃ、とりあえずやってみるわ」

 

 綺優が一歩前に進み、深呼吸をする。次の瞬間、綺優の身体から尋常ではない星辰力が放出された。

 

 「なっ・・・何ですか!?この星辰力の量は!?」

 

 「七瀬さんに匹敵する・・・いや、それより多い!?」

 

 クローディアと綺凛が驚愕している中、俺は見た。綺優の身体を縛る鎖が、無理矢理引きちぎられる瞬間を。

 

 あぁ、やっぱりアイツ・・・

 

 「・・・力を封印されてたんだな」

 

 最初に綺優を見た時から、綾斗と同じような違和感はあった。恐らく綺優も、綾斗のお姉さんに・・・

 

 「綺優!」

 

 俺は綺優に呼びかけた。

 

 「お前の世界では、綾斗のお姉さんは見つかってるのか!?」

 

 「・・・残念ながら行方不明だ」

 

 首を横に振る綺優。

 

 「天霧綾斗に伝えておけ。絶対に遥さんを見つけろとな」

 

 その時、綺優の目の前の空間が歪んだ。それと同時に鎖が出現し、綺優の身体を縛る。綺優の身体が、ジリジリと歪みに引き寄せられていく。

 

 「綺優っ!」

 

 「七瀬」

 

 綺優がこちらを見た。

 

 「約束・・・しっかり守れよ」

 

 「っ!」

 

 どうやら、ここでお別れのようだ。なら、俺もしっかり答えないとな・・・

 

 「あぁ、必ず守る!」

 

 俺の返事に、満足そうに笑う綺優。そして綺凛の方を見る。

 

 「・・・向こうの世界の父さんは、俺が助け出したぞ」

 

 「えっ!?」

 

 「だからこっちの世界の父さんは・・・綺凛、お前が助け出してくれ」

 

 「っ!はいっ!『兄さん』!」

 

 「っ・・・頼んだぞ。『妹』」

 

 綺凛の言葉に一瞬驚いたものの、すぐに笑みを浮かべる綺優。

 

 次の瞬間、綺優は時空の歪みへと吸い込まれていった。そしてすぐ、歪みは消滅してしまった。

 

 「・・・行ったな」

 

 「・・・えぇ、行きましたね」

 

 目の前の空間を見つめるクローディア。

 

 「無事に戻れると良いのですが・・・」

 

 「アイツなら何とかなるだろ」

 

 俺はそう言うと、綺凛の隣へ歩み寄った。そのまま頭を撫でる。

 

 「・・・《獅鷲星武祭》、優勝するぞ。綺凛のお父さんを助けよう」

 

 「七瀬さん・・・」

 

 涙を浮かべた綺凛が、俺の顔を見上げる。ニッコリと笑う俺。

 

 「俺、強くなるから。今度こそお前の力になってみせるから。だから一緒に頑張ろう」

 

 「っ・・・はいっ!」

 

 涙を拭った綺凛は、清々しい笑顔で返事をするのだった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 「・・・夢みたいな出来事でしたね」

 

 「・・・ホントにな」

 

 しみじみとしてしまうクローディアと俺。きっとあの時のことは、一生忘れることは無いんだろうな・・・

 

 と、クローディアの端末に着信が入った。

 

 「スミマセン、少し席を外しますね」

 

 「おう」

 

 リビングを出て行くクローディアを見届けた後、俺は再び窓の外に視線を移した。

 

 「・・・強くなりたい」

 

 小さく呟く。

 

 「綺凛やユリス、クローディアの力になれるように・・・綾斗や紗夜を助けられるように・・・姉さん達を守れるように・・・そして・・・」

 

 俺は綺優との約束を思い出していた。

 

 「シルヴィを幸せにできるように・・・俺はもっと強くなりたい」

 

 もう絶対に手を離さない。何があっても。

 

 「・・・電話してみるかな」

 

 端末を弄り、シルヴィへと電話をかける。すぐに空間ウィンドウに、大好きな彼女の顔が映った。

 

 『もしもしななくん?電話くれるなんて珍しいね?』

 

 「急にゴメンな。大丈夫だったか?」

 

 『うん。今ちょうど荷造りが終わったところだから』

 

 「あー、明日からツアーだもんな」

 

 俺は界龍で修行、シルヴィはツアー・・・しばらくは会えないだろう。

 

 『ところでどうしたの?何かあった?』

 

 「・・・別に?愛する彼女の顔が見たくなっただけだよ」

 

 『なっ!?またそういう恥ずかしいことをさらっと・・・!』

 

 「事実だから。それとも、シルヴィは俺のこと嫌いか?」

 

 『・・・ななくんのバカ。大好きに決まってるじゃない』

 

 顔を真っ赤にして言うシルヴィ。そんなシルヴィの言葉が嬉しくて、思わず笑ってしまう俺なのだった。

 




改めましてお久しぶりです。ムッティです。

シャノン「あ、二度目の《七ヶ月の失踪》してる作者っちじゃん」

スイマセン!ホントスイマセン!

シャノン「まぁそれは置いといて。今回はコラボ企画なんだね?」

そうそう、綺凛・凛綺さんとコラボさせていただくことになって。

本当にありがたい話です。

シャノン「何気にコラボって初めてじゃない?」

そうなんだよ!

今回初めて知ったけど、他の作品の主人公との絡みを書くのって楽しいね!

シャノン「なお、上手く描写できているかは別問題な模様」

それは言わないで!?メッチャ不安なんだから!

ホント温かい目で読んでいただけると幸いです。



ここで謝辞を。

綺凛・凛綺さん、この度はコラボさせていただきまして本当にありがとうございます。

初めてのコラボで至らない点も多々あったかと思いますが、何卒ご容赦下さい。

心から感謝しております。

そして読者の皆様、長いこと更新が止まってしまっていて申し訳ありません。

近いうちに投稿を再開できるように頑張りますので、もう少しの間お待ちいただけると幸いです。

何卒宜しくお願い致します。



さて、この後は綺凛・凛綺さんが綺優視点でのお話を書いて下さる予定です!

今回の物語、綺優の心情としてはどうだったのか・・・

是非そちらも読んでいただきたいと思います!

また綺凛・凛綺さんの作品、【刀藤綺凛の兄の日常記】&【刀藤綺凛の兄の日常記~外伝~】もチェックしていただければと思います。

シスk・・・妹思いな綺優くんの活躍ぶり、そして九条くんの日常を是非ご覧あれ!

それでは以上!ムッティでした!


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【刀藤綺凛の兄の日常記】×【学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~】兄の異世界記その1

皆さんこんにちは!

昨日に引き続き、【刀藤綺凛の兄の日常記】の作者である綺凛・凛綺さんとのコラボ作品をお届けします。

今回は昨日投稿した物語の、綺優視点ver.になります。

綺凛・凛綺さんに書いていただいたのですが、こちらで載せてほしいとのことでしたので、こちらの方で載せたいと思います。

以下、原文ままです。





皆さん初めまして、知っている方はこんにちは。今回はムッティさんとのコラボ企画で、書いた日記です。自信は……いつも通りありません……(許して下さい!!)。

それではよろしくお願いします。


「__綺優今度は何をするおつもりなのですか…?」

 

 

 

 

 

 

 

ここは星導館学園側に存在する砂浜。

そこで綺優はある実験をしようとしていた……当然綺優が問題児である以上、それを監視するべき者が必要だ。だからこそクローディアはこの場にいた。

クローディアが今綺優が何をしているのか問う、

 

 

 

 

 

「……いや、天霧綾斗みたいに俺の封印を無理矢理解いたらどうなるのかなって」

 

 

 

 

 

 

「はい!?ま、待ってください綺優!」

 

 

 

 

 

嫌な予感がしたクローディアは、阻止しようとしたが、時すでに遅し。

綺優の身体を縛る鎖が出現し、綺優がそれを無理矢理に引きちぎった次の瞬間…空間が裂けた(・・・・・・)

クローディアが声にならない驚きを露わにする。

それを他所に綺優はどんどん星辰力を放出して行くが、

 

 

 

 

 

 

「ッ…!?」

 

 

 

 

 

 

裂けた空間が修復しようと辺りの空間事引き寄せた。当然それを引き起こした張本人の綺優も引き寄せられる、それに抵抗するが鎖が再び綺優の身体を縛った。

 

 

 

 

 

 

「綺優!!」

 

 

 

 

 

 

反動で力が入らない綺優は、その場で留まれず裂けた空間に吸い込まれ消えて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***************************

 

 

 

 

 

☆月*日

 

 

 

 

 

異世界に来ちゃった……うん書いてて意味不明。

天霧綾斗が封印を無理矢理解いてたのを見て、俺もできるんじゃね?…と思ってやったら、なんかああなってこうなって、気を失った。

…気がつくと知らない天井…ならぬ知らない顔が、

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、起きた。気分はどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

………爽やかイケメンが俺にそう聞いてきた。

すっっっごいフレンドリーだったから、もしかして知り合いか?…と思って誰か聞いたら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 「高等部一年の星野七瀬だよ」

 

 

 

 

 

 

 

…ん?…高等部一年?同級生?。いやいや、流石の阿呆の俺でも、オーフェリアみたいに星辰力が異常に多くて、これ程の存在感を放つ奴がいれば気づく。…でも嘘は言ってないよな?……。

俺は知らないと言ったら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 「マジで?ってか、同級生で俺のこと知らないヤツとかいるのか・・・《鳳凰星武祭》じゃ、ずいぶんと悪い意味で目立ったんだけど・・・」

 

 

 

 

 

 

 

………は?鳳凰星武祭?ついこの前終わったばかり…てか、悪い意味で目立った?……絶対後で書類案件だわこれ…最悪コイツを斬ろう…よしそうしよう。

 

そんなことを密かに心に決めた俺。

すると七瀬が俺の名前を聞いてきた、

 

 

 

 

 「俺の名前は…刀藤綺…」

 

 

 

 

 

 

 「七瀬さん、例の人は目を覚まされましたか?」

 

 

 

 

 

 

俺の自己紹介の途中で綺凛が入ってきた。

……いつの間にこんな男と?…よし斬ろう…もう決めたこの場で、悪・即・斬だ。

 

 

 

 

 「おぉ綺凛、ちょうど今目覚めたとこだぞ。どうやら俺の同級生らしい」

 

 

 

 

 

 

 

 「本当ですか?」

 

 

 

 

 

そう思って隣にかけて合った『天夜叉』を抜刀しようとしたら、綺凛が笑顔を俺に向けた……ただその笑顔は俺の知っているものと何処か少し違った。

取り敢えず今何時か綺凛に聞こうとしたら、俺の身に長らく無縁だった『絶望』が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「七瀬さんの同級生ということは、私の先輩ですよね?お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

……いや冗談だろ?…冗談じゃない…あの顔まじだ…いや俺の聞き間違いそうに違いない

 

 

 

 

 

 「き、綺凛…?」

 

 

 

 

 

 

 「あれ?私の名前をご存知なんですか?」

 

 

 

 

 

知ってるも何も…お前の名付け親は俺だぞ…?…。

もう悪ふざけはやめてくれ…そう思った。

七瀬が何か言っていたけど、気にする程の余裕が俺にはなかった。

それに気づいた七瀬が俺の正面にきて、

 

 

 

 

 

 

 「なぁ、お前の名前・・・さっき何て言った・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

自己紹介の途中だった事を思い出したから、今度こそ俺は自分の名前を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 「…俺の名前は刀藤綺優(・・・・)。そこに居る刀藤綺凛の……実の兄だ」

 

 

 

 

 

 

二人とも驚愕した表情で、まるで信じらないとばかり。七瀬が俺に動けるか聞いてきて、少しショックが大きすぎて無理だと答えた。すると七瀬は医務室からでて、綺凛もついて行くと、少ししてクローディアがやってきた。

 

七瀬と綺凛が皆に説明する……どこか可笑しい……俺の知るクローディアはもっと……妖艶ていうか……エロい。

 

 

 

 

 

 

 「刀藤さんのお兄さん・・・ですか?」

 

 

 

 

 

 

 「本人はそう言ってるんだけど・・・」

 

 

 

 

 

 

皆の視線が綺凛に向く。さぁ綺凛…正直にな?…もう冗談はやめて…ね?

 

 

 

 

 

 

 「刀藤さん、本当なんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 「いえ、私に兄はいません」

 

 

 

 

 

 

……ふぅー……これは悪夢だ…そう決まっている。

皆が騒いでいる、慌てて口を押さえる綺凛。

もういいんだ綺凛……俺はこの悪夢から目覚める。そして天使()に会うんだ。俺が『天夜叉』を抜刀して胸に刺そうとしたら、七瀬が俺を抑え込んだ。

 

 

 

 

 

「離せっ!離せえええええっ!これは悪い夢だっ!目が覚めたら、まいぷぅぁーふぇくぅとぅーしぃすぅとぅぁぁぁの綺凛が天使のような笑顔で出迎えてくれるんだっ!」

 

 

 

 

 

「落ち着けえええええっ!?そんなことしたら本物の天使が迎えにきちゃうから!あの世に逝っちゃうから!」

 

 

 

 

 

 

 

うるせ!そっちの方が百倍マシだわ!!てかコイツ地味に力強いな!?。

みっともなく喚く俺達を見て、クローディアや皆が呆気にとられていた。

 

ムキになった俺は自殺の目標から、コイツに腕力で勝つ事に変わってた。

ふっ、こう見えて俺は強いぞ?…そう思って本気でやるけど……ナニコイツ…山?…ピクリともしないんすけど。

 

夢中になってた俺だけど、クローディアの一言で一気に力が抜けた。

 

 

 

 

「星導館のデータベースを調べたのですが・・・彼のデータが何一つ無いんです」

 

 

 

 

 

 「「…は…?」」

 

 

 

 

 

 

俺と七瀬は同時にポカンとしてしまう。

いやいや、アンタが特待生枠で俺を招いたんだよ?…それなかったら俺別の学園行こうとしてたからね?…そうしたらこんな胃痛に悩まされてなかったからね?

 

それじゃあ俺は星導館学園の生徒では無いのか?と、クローディアに問う七瀬。

それにクローディアは、

 

 

 

 

 

 「そうなるのですが、制服だけならともかく校章まで持っていますから・・・調べたところ、本物の校章でした」

 

 

 

 

 

 

いや確か校章って、

 

 

 

 

 

 

 「あれ?確か校章って、個人データが記録されてるんじゃなかったっけ?」

 

 

 

 

 

 

そうそれ。俺の聞きたかった事を代わりに聞いてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えぇ、それで調べてみたのですが・・・データが破損してしまっているようです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おいおい脆すぎだろ!。この前も星辰力の余波で破損してたけど、ほんとありえない

 

 

 

 

 

 

 「破損?」

 

 

 

 

 

 

 「えぇ。恐らく、磁場等の影響によるものだと思われます」

 

 

 

 

 

 

ん?磁場?……あ、多分あれだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「どうかされましたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多分力を無理矢理解放したあの時空間が裂けて、それに吸い込まれたんだろうな。

だから俺はその空間を通ってきた事を、クローディアに教えたら、

 

 

 

 

 

 

 

 「空間の歪み・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

おーい才女様?空間歪む→引きずり込まれる→今に至る。あんだーすてん…?。

そう、つまりここは平行世界の1つで、俺はその1つにやって来たんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・スミマセン。訳が分かりません」

 

 

 

 

 

 

 

 

……何…このポンコツクローディア。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…俺の知るクローディアはもっと頭の良い奴だったのに…」

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・七瀬、彼を生徒会長権限で処刑して良いですか?」

 

 

 

 

 

 

ほらまた意味の分からない事を言い出したよ。

もう来なくていいよ、意味不明day。

どうやら七瀬は頭は回る方だった……よかった筋肉馬鹿だと思ったよ。

 

 

 

 

 

 「えーっと、綺優って言ったっけ?お前の世界では綺凛はお前の妹で、クローディアはもっと頭が良かった・・・間違ってないな?」

 

 

 

 

 

 

そうまさにそれ。

 

 

 

 

 

 

「今の私の頭が悪いみたいな言い方止めてもらえます?」

 

 

 

 

 

 

 

もうポンコツクローディアは黙ってていいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 「つまり・・・アレだな。お前はパラレルワールドから来たってことか」

 

 

 

 

 

 

 「パラレルワールドって・・・いわゆる、平行世界ってやつですか?」

 

 

 

 

 

 

信じられないといった表情の綺凛。いや俺も信じたくないよ……帰りたい……帰って綺凛に抱きつきたい。てかこんな事はいそうですか…って信じらないよな。

 

 

 

 

 

 

 「疑いたくなるのも分かるよ。でも、もし綺優の言ってることが本当なら・・・そうとしか考えられない」

 

 

 

 

 

……いや疑えよ。俺だったら疑うぞ?こんな怪しいヤツ。そう思ってたら予想外の更に予想外、ポンコツクローディアがそれを否定した。

 

 

 

 

 

 

 「彼が嘘をついている可能性は?」

 

 

 

 

 

 

 

そうそう、それでこそ俺の知るクローディアだ。

あれ?なんで俺納得してんの…納得したらダメでしょ…(書いてて悲しくなった)。

するとさ、また七瀬くんがね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そもそも嘘をつく理由がないだろ。それに校章は本物なのに、データベースには載っていない・・・こんな矛盾が生じる状況、他にどう説明できる?」

 

 

 

 

 

 

 

何俺の事庇ってんの?普通ならそこの言葉に詰まるクローディアと同じ様に、警戒するべきだよ。

七瀬が俺の方に向くと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 「綺優、お前は元の世界に戻りたいか?」

 

 

 

 

 

 

それは当然勿論戻りたい。けど戻り方が分からないんだよね〜。どしましょ。

どうすれば戻れるか考えていたら七瀬が、

 

 

 

 

 

 

 

「俺も手伝うよ。お前が元の世界に戻れる方法を探す」

 

 

 

 

 

 

 

 

は?何故?お前が手伝う理由なんて無くね?。

そもそもこんなわけの分からない奴手助けして、大変な事になったらどうすんのさ?…てか、なんで俺はこんなに自分をディスってんの?…まさか…無自覚のドMなのか?……(濡れた跡がある)…。

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

先程のクローディアと同じ様に呆気に取られた七瀬。いや何度も(似た事)言う(書く)けど、

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんでお前は俺の言葉を信じられる?普通なら、綺凛やクローディアの反応が正しい。なのにお前は、なんで俺の言葉を疑わない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

コイツを見極めよう。俺の世界には七瀬は存在しない。でもまだ会ってないだけで、これから出会うかも知れない。なら今ここでコイツを見極めておいて損はない筈だ。

そう思ってたんだけど、いやもうこの世界では予想外だらけ、

 

 

 

 

 

 

 「んー・・・勘?」

 

 

 

 

 

 

 

 

は?…多分この時の俺の顔は、沖田先生が5秒で10人前の団子を食べ去った時みたいに、ポカンとした表情だったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 「さっきクローディアに言った根拠もあるが・・・一番はやっぱり勘だな。お前は嘘をついていないし、信用できる・・・俺の勘がそう言ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

前言撤回……コイツは頭が回るんじゃなくて、ただのお人好し…つまり馬鹿だ。

だからお前馬鹿か?って言ったら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 「バカで結構。俺の勘を舐めんなよ?当たる確率は驚異の五十パーセントだ」

 

 

 

 

 

 

いや半分ハズレやん。ツッコミを入れようとしたけど、綺凛が呆れた顔でツッコミをしてくれた。

……仲いいんだね。クローディアと綺凛も言った、底なしのお人好しだと。

そんな三人にも確りと存在する絆を見れて俺は、ホッとした。

 

こっちの世界のクローディアにも、ちゃんと心から信頼出来る仲間が居るんだって知れて。

俺がそう耽っていたらクローディアと綺凛が、過去に似た事例は無かったか、調べると医務室を出ていった。

 

先程まで俺の事を警戒していた二人…なのに俺と七瀬を二人っきりにさせた……

 

 

 

 

 

 

 

「……お前はあの二人に、ずいぶんと信頼されているんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺凛もクローディアも、大事な友達だからな。俺もあの二人を心から信頼してるし、あの二人の信頼にいつだって応えたいと思ってるよ」

 

 

 

 

 

 

…これが演技なら大した奴だ。こう見えて俺は勘違いを余りしない(いやいや何言ってんの勘違いだらけだから)、それに別の世界とは言え、クローディアと綺凛の根本的な部分は変わらない。

そんな二人がコイツを信用するんだ…なら俺も、

 

 

 

 

 

 

「…なら、俺もお前を信じてみる……あの二人が信じているお前を…な」

 

 

 

 

 

 

 

そう答えた俺に七瀬は、笑顔で応えてくれた。 

その後俺は七瀬が連れてきたい奴が居るっていって、一度出てその連れてきたい奴を、連れてきたんだけど……うん……期待してなかった…って言えば嘘にはなるけど、予想は出来たよ……だって主人公みたいな立ち位置だし?ハーレム王でタラシ野郎だし?……天ァァァ霧ィィィ綾ァァァ斗ォォォクゥゥゥン!!

 

 

そう七瀬が連れてきたのはユリスと天霧綾斗だった。今に至るまでの事を、簡単にユリスに説明すると、

 

 

 

 

 

 

「パラレルワールド?馬鹿も休み休み言え」

 

 

 

 

 

 

あっ…(察し)…この世界でも友達少ないんだね。

 

 

 

 

 

 

 

「空気読めや人間発火装置」

 

 

 

 

 

 

何それ…人間発火装置がこの世界での、ユリスの異名なの?面白すぎでしょ。

でも違ったみたいでユリスが、

 

 

 

 

 

 

「今日は私に対してやけに辛辣すぎないか!?」

 

 

 

 

 

 

そう叫んでた。コイツはどの世界に行ってもうるさいのか?…てか天霧綾斗そんなに俺の事を見るな!近寄るな!失せろ!。

それはそうと……ヒユリは入院してるのか?

すると天霧綾斗が、

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、それが全て本当だったとして・・・帰る方法にアテはあるのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

え?…コイツなんでこんな協力的なの?あ、他人が居る時は地味に優しいもんな……俺にも。

そんな天霧綾斗の疑問に七瀬が心底困った声で、

 

 

 

 

 

 

 

「そこなんだよなぁ・・・でもこっちに来れたってことは、戻る方法もあるはずだろ」

 

 

 

 

 

 

 

頑張れ七瀬!俺は思考を放棄した!(笑)。いや笑い事じゃないんだけどね?。二度と帰れなかったらどうしよう(濡れた跡がある)。

するとっっっさっっっ、まーた人間発火装置(ハマった)が、

 

 

 

 

 

 

 

「いや、そもそもパラレルワールドなど空想上の話・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

もうコイツほんといや。融通きかないし、真実はいつも1つとか抜かしやがるし、なんでこう否定的なの?…来たもんは来たんだよおバカちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

「雨の日は無能なユリスは黙ってろや」

 

 

 

 

 

「私は焔の錬金術師かっ!」

 

 

 

 

 

 

 

あ、この世界にもメタルの錬金術師があるんだ…てかユリスがツッコミ役って……似合うな。

そんな事を考えている俺が気になったようで七瀬が、

 

 

 

 

 

 

 

「綺優?どうした?」

 

 

 

 

 

 

 

って聞いてきた。素直に思った事を言ったよ。

ユリスがツッコミ役なんてびびったって。

こんどは、

 

 

 

 

 

 

 

「こっちじゃいつもこんな感じだけど?そっちのユリスはどんな感じなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

って聞いてきた。

そうだな〜……問題書製造機……花火屋……いやここで馬鹿正直に答えると、ガチの花火大会が始まるから…えっとそうだな…

 

 

 

 

 

 

「……無駄にプライドの高い女?」

 

 

 

 

 

 

って答えた。うん、何とか乗り切った。

七瀬もうんうんと頷いて、

 

 

 

 

 

 

「何だ、こっちと一緒じゃん」

 

 

 

 

 

 

 

あ、やっぱり?。何処に行ってもユリスは同じなんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 「おい!?」

 

 

 

 

 

 

 

ユリスが抗議の声を上げるけど……さてと……触れるか、

 

 

 

 

 

 「ユリス…ヒユリという名前に心当たりはあるか?」

 

 

 

 

 

俺は聞きたかった。ユリスを誰よりも大切とし、心から忠誠を誓っていて、文字通り命の代わりになる覚悟を持った、最強の兵士…そして俺のパートナー……頼む…俺はこの時そう願った…だけど、

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ヒユリ?いや、知らないが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…そ…うか」

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒユリと沖田先生はこの世界には存在しないんだな……いや、余りこの世界に情を残さないで置かないと…帰る時しんどくなる……そして俺はこの時もう1つ気づいた、シルヴィ(・・・・)はどうなってんだ…?…。

 

七瀬達に聞こうとしたけどそれは叶わなかった…何故?…それは俺にとってある意味『絶望』である、厄災が襲ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「えーっと・・・綺優くん?」

 

 

 

 

 

 

 

 「呼び捨てにして下さいお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

なんだコイツは……本当にあの天霧綾斗か?……いや違う偽物だ……いやでも遥さんの封印が…あれ?コイツまだ全部(・・)解けてないのか?。

いやそんなことよりも、

 

 

 

 

 

 

 

 「お前に『くん』付けされるとかホント無理。生理的に無理」

 

 

 

 

 

 

いやまじで死ぬよ?あと二回君付けしたら、ショック死できる自信あるよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そこまで!?君の世界の俺ってどんなヤツなの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだな……全部語るのはいろいろ無理だから、

 

 

 

 

 

 

 

 「一言で言うと……出会って間もない俺に、『君とは仲良くなれそうにない』とか平気で言えるようなヤツだな」

 

 

 

 

 

 

一時の静寂…そして天霧綾斗が腹の底から驚いた声を出した。

 

 

 

 

 

 

 

「えぇっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきまでパラレルワールドなんて、空想上だとか何とか言ってたユリスが苦い顔で、

 

 

 

 

 

「綾斗…お前というヤツは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「マジ引くわー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言って天霧綾斗から距離を取る二人……明らかに七瀬は巫山戯てたな。

天霧綾斗は焦った顔と声で、

 

 

 

 

 

 

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ!?本当に俺がそんなこと言ったの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

………調子狂うなぁ……忘れるわけないだろ

 

 

 

 

 

 

 

 「間違いなく言われたぞ。あとは会う度に毛嫌いされたり、いきなりぶん殴られたり、人の妹の胸を触ったり……」

 

 

 

 

 

 

 

少しだけ暴露してやった。

するとね、ユリスと七瀬が

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・最低だな。男の風上にも置けんヤツだ」

 

 

 

 

 

 

 「・・・マジ引くわー」

 

 

 

 

 

 

 

あ、ガチなやつに変わった。さっきまで巫山戯てた部分があったけど、あれガチの奴だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何で俺がそんな目で見られてるの!?俺はそんなことしてないからね!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もお前がしたって言ってないだろ。あくまでもこっちのお前だ。

……二人ともそこまでにしなよ、天霧綾斗は根本的には優しい奴なんだし。

…だからできることなら俺は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まぁ確かに、今のところ天霧綾斗とは犬猿の仲だけど……俺は別にアイツのことが嫌いなわけじゃないんだよ……いずれは和解できたらいいな……そう思ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

…シルヴィを口説いた事と、綺凛の胸を触った事はいつまで経っても許さないけどな?

そんな俺に天霧綾斗が近づいて来て、

 

 

 

 

 

 

 

 

 「綺優くん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

ふっ………天霧綾斗何度も言うが……

 

 

 

 

 

 

「だから『くん』付けは止めろおおおおおっ!」

 

 

 

 

 

天霧綾斗の顔面に飛び膝蹴りを喰らわせた……

 

 

 

 

 

 「ぐはっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

へぇー……ちゃんと受け身は取ってるし、わざと避けなかったなアイツ……罪滅ぼしのつもりか?。

他の世界のお前がやった事なのに、難儀なやつ。

 

 

 

 

 

 

 

 「当然の報い・・・と言いたいところだが、こっちの綾斗は無実だしな。ユリス、綾斗の回収と介抱を頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 「了解した。七瀬はどうするのだ?」

 

 

 

 

 

 

 

七瀬に視線が集まる。こうなった以上、俺は下手に動かない方がいいと判断した。

 

 

 

 

 

 

 

 「とりあえず、綺優を連れて学園の外に行ってみようかと思う。何かヒントが見つかるかもしれないし。ってか、紗夜は何処行ったんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ紗夜居たん?気づかなかった……やっぱりこっちの紗夜も、背が低いのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「沙々宮なら、銃の専門店に行くと言っていたぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 「いや、綺優の心配しろよアイツ・・・そもそも方向音痴のアイツが一人で出かけるとか、迷子になる未来しか見えないんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

あっ…(察し)……やっぱり

 

 

 

 

 

 

 

「こっちの沙々宮もそんな感じなんだな」

 

 

 

 

 

 

 

絶対苦労してるよな七瀬……俺は同情した……まじで可哀想…てかその気持ち分かるよ。

早速二人で散歩に、出た俺達。……コイツ本当に無防備だな〜、今この瞬間俺が『天夜叉』で抜刀したら速攻で殺されるのに。

 

 

 

 

 

 

「それにしても何だか不思議だなぁ…」

 

 

 

 

 

 

口に出したつもりは無かったけど、口に出ていたみたいで、七瀬が何が?と聞いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 散歩がてらに色々と歩き回った俺達は、《商業エリア》にあるファストフード店で昼食を食べていた。

 

 

 

 

 

 

 「この街の風景は、いつも見ていたものと何も変わらない。景色だけ見れば、違う世界に来たという感じは全然しないくらいだ」

 

 

 

 

 

……だって紗夜が壊した噴水が、こっちでも壊されて、一度修理したみたいだし? でも訓練所は壊れてなかったなぁ〜…こっちの世界のは上部なのか…。

 

 

 

 

 

 

 「へぇ・・・そういうもんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん。けど俺のことを知っているはずの人が、俺のことを知らないと言う…俺の知っている人が存在しない…何だか不思議な感覚だ」

 

 

 

 

 

 

 

やばいらしくない……七瀬が悲しみを顕にして、俺の事を気遣ってくれた。

全くグズだな俺。

そう考えてたら、俺が今一番会いたいと思った…けど会いたくもなかった女性の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 「だ~れだっ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗な茶髪…澄んだ声…多くの人を魅了する容姿…。

俺は知っている…その茶髪の下には綺麗な紫色の髪が靡いている事を……。

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、こんにちは!ななくんのお友達かな?」

 

 

 

 

 

 

 

何処か期待していた……違う世界でも彼女だけは俺の事を知っているんじゃないかって…でも現実は甘くない…重々理解しているつもりだったのに、

 

 

 

 

 

 

 

 「あれ?おーい?」

 

 

 

 

 

 

俺は君の名前を知っている……君の名は

 

 

 

 

 

 

 

 

「シルヴィ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

驚くシルヴィ。あぁ…これかなり心にくるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何で私の名前を・・・何処かで会ったことあったっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうだね……君とは初めましてだね」

 

 

 

 

 

 

 

理解出来ないシルヴィ。本日二度目になる説明を終えた七瀬。

ユリスとは違って、水を差す事もなくすんなりと受け入れたシルヴィ。

 

 

 

 

 

 

「へぇ・・・じゃあ君は、別の世界から来たんだね?」

 

 

 

 

 

 

 

 「……あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

その際、あっちの世界では俺とシルヴィはどんな関係なのか、説明することになってしたんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そっちの世界では、私と君が婚約してるって・・・ホント?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁこればっかりは信じられないわな。

 

やぁ初めまして!僕違う世界の君と婚約してるの!信じて!……そんな奴俺の目の前に現れたら、速攻『天夜叉』で斬り伏せる。いやまじでキモイ。

 

少し気まづくなったシルヴィと七瀬……黙っとくべきだったか?…そんな気まづい空気をシルヴィが変えてくれた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「『ちょっと複雑だな・・・俺の女が他の男とデキてるなんて・・・』とか考えてたでしょ!や~ん、ななくんったら~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

……子供っぽい所も同じだ……本当に困った…何もかも瓜二つだ。

そんなシルヴィの心境を知った七瀬は、

 

 

 

 

 

 

 

 「人の心を読むなアホ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あたっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流れにのってシルヴィの頭にチョップをお見舞いした…。本当に仲がいいのな…良すぎて殺s…じゃなくて嫉妬しちゃうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほら、とりあえず何か注文してこいよ。時間無くなるぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだった!ちょっと行ってくるね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

この気まづい空間を完全に無くそうと、七瀬がシルヴィをこの場から退出させた。

当然その意図を分かっているシルヴィは、愛想笑いを浮かべてレジへと向かった。

シルヴィが行ったのを確認した七瀬は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・ゴメンな」

 

 

 

 

 

 

 

 

別に謝んなくてもいいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「その・・・自分の婚約者が、他の男と仲良くしてるのを見るのは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ……コイツの心は硝子で出来てるのか?なんでこんなにお人好しなんだ。シルヴィが惚れるわけだよ。

 

 

 

 

 

 

「七瀬……この世界のシルヴィと、俺のいた世界のシルヴィは違う。だからそう気を遣うな」

 

 

 

 

 

 

 

 

これはただの強がり……人間である以上気にしないことなんて無理だ……だから何とか誤魔化そうとしたけど、

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いや、でも・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱりコイツには分かっちゃうか。

はぁー…めんどくさいなぁ……人の気持ちを理解しすぎてもダメなんだぞ七瀬くん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…まぁ確かに、少し複雑なのは認める。けど……さっきのシルヴィは、とても楽しそうに笑っていた。七瀬と一緒に過ごせるのが、幸せなんだと思う。それだけアイツはお前に惚れているということだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

…俺と居る時にシルヴィがあんな笑顔を見せた事はあったか?……自信ないなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「綺優・・・」

 

 

 

 

 

 

 

ちくしょう〜……まじで七瀬……この世界のシルヴィのこと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ちゃんと幸せにしてやれよ。絶対に泣かせるな」

 

 

 

 

 

 

 

俺のせめてものの強がりの願いに、七瀬は強く頷いてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

「約束するよ。必ず幸せにする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん、それで良い。んじゃそんなわけだから、早いうちに婚約しろよっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃないとこの世界とは言え、あのタラシ野郎に口説かれるぞ?

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?いや、それはまだ早くないか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何顔赤くしてんの……初々しいな……なんだもしかしてまだ童貞か?(勝ち誇った顔)。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こういうのは早い方が良い色々と。さっきも言ったけど、俺達はもう婚約してるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

勿論初夜もね?初夜もね?初夜も!ね!初・夜・も・ンンンんっね!……ごめんなさい。

これで勘違いしてたら死のう…黒歴史入だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そんなこと言ったって・・・ちなみに、どういう流れで?」

 

 

 

 

 

 

 

 

七瀬が気になったみたいだ。

やれやれ、教えやるか俺の輝かしい偉業を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「《王竜星武祭》で優勝した時の優勝者インタビューで公開プロポーズした」

 

 

 

 

 

 

 

 

七瀬くんがビックリ仰天!ふふ、そうだろうそうだろ…なんせワタクシ覇王ですからV。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「マジで言ってんの!?ってか《王竜星武祭》で優勝!?《孤毒の魔女》は!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、こっちの世界にもオーフェリア居るんだ。

時間あったら会いたいなぁ。

それから勝った事を七瀬に教えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええええええええええ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい…本当は勝ったのは俺じゃなくて、暴走状態の俺です……でも勝ったのは俺なのか?いやわからん。でも素の状態じゃ、オーフェリアには勝てない…それは事実。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…まぁそんなわけだから、お前も《星武祭》で優勝してプロポーズしてしまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

冗談で言ったんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・検討しとくよ」

 

 

 

 

 

 

……失敗したらごめんね…間違いなく黒歴史入だよ!頑張れ!ファイト×4!

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何を検討するの?」

 

 

 

 

 

 

 

何といいタイミングでシルヴィが帰ってきた。

いきなり声をかけられて、焦る七瀬。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「べ、別に何でもないぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あー!怪しいー!ねぇ綺優くん、ななくんと何の話をしてたの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

……気遣ってくれての名前呼び…か……でも俺の知ってる君はくん付けじゃないんだよね……。

 

 

 

 

 

 

 

 「……ガールズトークならぬ、ボーイズトーク。いずれ分かる時がくるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えー、私だけ除け者ー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言ってシルヴィは俺に口パクである事を聞いてきた、

 

 

 

 

 

 

 

『もう大丈夫?』

 

 

 

 

 

 

 

っ!!……ほんと君にはいつまで経っても適わないよ。目で大丈夫だと伝えた。

これ以上この世界でのシルヴィと仲良くなったらダメだ……七瀬に悪い。

 

 いじけるフリをするシルヴィ、俺は七瀬に指示した…シルヴィとイチャつけ…この馬鹿野郎!!

どうやら伝わったようで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・シルヴィ」

 

 

 

 

 

 

 

うわっ…シルヴィって、こんなに悪い笑を浮かべられるんだ……俺に顔を背けて七瀬に向き直る

 

 

 

 

 

 「ふーんだ。除け者に構わないで、綺優くんと男同士で話を・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・愛してる」

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぇっ!?ちょ、こんなところで急に何を言い出すの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

な、なんて野郎だ……愛してる…だと!?…コイツやるな。

にしてもほんと嫉妬しちゃうぐらいに、

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりお似合いのカップルだよ、お前達は」

 

 

 

 

 

 

 

照れる二人を見て俺は久しぶりに笑った。

その後シルヴィと別れて、散歩をしていると、クローディアから連絡が来た……

「過去の文献を調べた結果、この場所は空間の歪みが何度か確認されていることが判明しました。恐らく綺優は、ここの上空に出来た空間の歪みから降ってきたと推測されます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

って。早速移動すると……あぁ……モーセさんもビックリの海ね。

……いや呆れちゃうよ。そんな俺を他所に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「つまりこの場所は、空間の歪みが発生しやすい環境にあるってことか?」

 

 

 

 

 

 

 

 「恐らくそうだと思われます。推測に過ぎませんが、ここで行なわれた度重なる実験の影響かもしれません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そういやここ、実験用の場所なんだっけか」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の世界の方もそうだったと伝えた。

んで、どうすればいいか分からなかったんだけど、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「色々と調べた結果なんですが・・・この場所でより大きな力を解放した時、空間の歪みが発生しやすいようです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「大きな力?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

成程。んじゃ『天撃』三発+『天夜叉』で正真正銘の全力の黒い斬撃でも放ってみるか?。

そう考えていたら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「七海、聞こえるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【どうされましたか?マスター?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うぉ!?何あれ!かっけぇ!話してるよ!?純星煌式武装?だよね!すげぇ!。

もしかしてアーネスト同様シンクロ率100%なのか?

 

 

 

 

 

 「とりあえず、全力の雷を出してみたいんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 【了解です】

 

 

 

 

 

 

 

 

おっ、いいなそれ。んじゃ俺も一緒に…と思ったら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやダメですよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

綺凛が慌てて止めに入った。止めないでくれ妹よ…俺は帰りたいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すぐ側は海ですからね!?魚が大量死しますよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

………ごめん……あっちの世界ではもう釣りが出来ないんだ…どうしてかって?……魚達がここは危険だって判断して消えたからだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、そっか・・・しばらく魚料理には困らないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「七瀬さんに人の心は無いんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗談だってばよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で急にナ●ト!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな綺凛と七瀬の漫才を聞き流しながら、どうすればいいかな〜って考えてたら、思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そうだ。同じことすれば良いじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

皆を代表して七瀬がそう聞く、

 

 

 

 

 

 

 

 

「同じこと?」

 

 

 

 

 

 

 

いや〜、言うの忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 

 「いや…ね…実は向こうの世界のこの場所で全力を出してみたんだけど…空間が歪んで引きずり込まれて、気付いたらこっちの世界にいたんだ。だから同じことしたら戻れんじゃね?…って」

 

 

 

 

 

 

 

静まり返る一同……そしてその静寂を七瀬が破った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「完っ全に原因お前じゃねーかああああああああああっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「しかも何でそんな大事なこと今まで言わなかったんですかああああああああああっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 絶叫する七瀬と綺凛。いや本当にごめん。

すっかり忘れてた…てか無理矢理力使ったせいで、身体もだるかったし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやぁ、すっかり忘れてた…てへぺろチュッパチャプス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の渾身のボケ。背後から絶対零度の視線を感じた。振り返るとクローディアが、ハイライトの失せた目で、

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…七瀬、生徒会長権限で彼を処刑して良いですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 「許可する。殺れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いや、ツッコミ放棄すんなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでずっとツッコンでたのに、ここだけツッコまないの?俺死んでもいいの?

ま、もう過ぎた事はいいや…さてと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、とりあえずやってみる」

 

 

 

 

 

 

 

 

身体が怠い…多分全部の鎖は解けないけど…ま、行けるっしょ!。1回大きく息を吸って吐いた…そして俺は漆黒の星辰力を放出した、

 

 

 

 

 

 

 「なっ・・・何ですか!?この星辰力の量は!?」

 

 

 

 

 

 

 

 「七瀬さんに匹敵する・・・いや、それより多い!?」

 

 

 

 

 

 

 

まだ…もっと力を求めるんだ…そろそろか……ッ!きた……俺は身体を縛る鎖を無理矢理解いた…そして限定的に俺の力が半分近く戻る、

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・力を封印されてたんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだ…やっぱり気づいてたのか…ほんと感の良い奴はこれだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「綺優!」

 

 

 

 

 

 

 

七瀬が声をかけるけど、ちょっと要件早く言って!吸い込まれるから…ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 「お前の世界では、綾斗のお姉さんは見つかってるのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天霧綾斗を見てわかったけど…やっぱりこの世界でもか…首を横に振って俺は答えた。

この世界でも(・・・・・・)遥さんを見つけられるとしたら……やっぱりアイツだけだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「天霧綾斗に伝えておけ。絶対に遥さんを見つけろ…って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして完全に空間が裂けた。同時に俺の身体を鎖が縛る…あぁくそ…また力が一気に抜けていく。

またスカイダイビングすんのかな…死ぬなよ俺。

そう覚悟を決めた…最後に二つだけ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……七瀬…約束…しっかり守れよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っ!…あぁ…必ず守る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よかった。もうこの世界でシルヴィに思い残す事は無いな…最後に綺凛。

 

 

 

 

 

 

 

 「…向こうの世界の父さんは、俺が助け出した」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だからこっちの世界の父さんは…綺凛…お前が助け出してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!はいっ!『兄さん』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っ…あぁもう……最後の最後にこの妹は。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…頼んだぞ…『妹』」

 

 

 

 

 

 

 

綺凛が涙を流すのを最後に俺の意識は消えた。

これが俺の異世界での日記……ほんと退屈しないよこの世界は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***************************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クローディア…ッ!…綺優は!綺優はどうなったの!?」

 

 

 

 

 

 

 

シルヴィアが焦った声でクローディアに問い詰める、現在医務室にクローディア達と、シルヴィに気を失った綺優がいた。

 

綺優が消えてから数時間後、再びあの砂浜で漆黒の星辰力が確認された。

クローディアは急いで現場に向かうと、砂浜にクレーターが出来ており、その真ん中に綺優が倒れていた。

 

すぐに病院に運ばれた綺優…無事だったが突然の事態に彼女等は焦っていた。

すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

「…帰ってきたのか?」

 

 

 

 

 

 

『(刀藤)綺優(兄さん)!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の事に驚く綺優。綺凛とシルヴィは涙を流していた。それをみて綺優は自分は戻って来たと確信した。皆に当然説明する事になる、時間を掛けて説明が終わると、

 

 

 

 

 

 

 

 

「パラレルワールド?馬鹿も休み休み言え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だから人間発火装置って呼ばれるんだよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?だ、だれが人間発火装置だと呼ぶんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声を荒らげるユリス…そんなユリスに綺優が笑って答えた…誰が?そんなの決まっている、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星野七瀬(・・・・)しか居ないだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

『星野七瀬?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ俺がそこで誰と会って、何を見て来たか話すよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

この出会いは偶然か……それとも運命だったのか……それを知る者は誰も居ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……今度皆で行ってみる…?」

 

 

 

 

 

 

 

………彼らの青春(波乱)はまだ始まったばかりだ

 

 

 

 

 

 

 

 




とまぁ、こんな感じになりました!!いやぁお互いに他作品の主人公だから、口調とか性格とか難しいですねLol。見逃して下さい。

それからムッティさん!!これを機に投稿頑張ってください!(まじで)。あといつかまたコラボしましょう。今度は大勢で押しかけますLol(調子身勝手)。
それでは僕はこれで失礼します…皆さん最後まで読んで下さりありがとうございました!





綺凛・凛綺さん、ありがとうございました!

昨日の昼に投稿したら、夕方にはもう出来上がったものが送られてきて、あまりの早さに本気でビックリしました(笑)

今回コラボすることができて、本当に楽しかったです!

また是非コラボしましょう!

それでは以上、ムッティでした!


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【刀藤綺凛の兄の日常記】×【学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~】兄の異世界記その1 ~リメイク版~

皆様、お久しぶりです!

この度、『刀藤綺凛の兄の日常記』の作者である富嶽二十二景さん(綺凛・凛綺さん)がハーメルン復活を果たされました!

それに伴い、以前コラボしていただいた作品をリメイクして下さいました\(^o^)/

今回は以前の作品とは別に、リメイク版を投稿させていただきたいと思います!

以下原文ままです。



ども!綺凛・凛綺こと富嶽二十二景です!
知っている方はお久しぶりです!初めての方はよろしくお願いします<(_ _)>
この度は作品を削除しリメイク品を投稿しております。
それに並び?ちなんで?続いて?コラボの方もリメイクしました!是非読んでみてください。
ではどぞ!


「──綺優何をするつもりで……?」

 

 

 ここは星導館学園側に存在する浜。そこで綺優はある実験をしようとしていた……。

 当然綺優が問題児であるのは周知の事実。そんな彼を監視するべき者は必要不可欠。だからこそクローディアはこの場にいた。

 クローディアが綺優が何を始めようとしているのか聞く。

 

 

「……天霧綾斗みたいに封印を無理矢理解く」

 

 

「はい!? ま、待ってください綺優!」

 

 

 嫌な予感がしたクローディアは阻止しようとしたが……時すでに遅し。綺優の身体を縛る鎖が出現し、綺優がそれを無理矢理に引きちぎった次の瞬間……目の前の空間が裂けた(・・・・・・)

 クローディアが声にならない驚きを露わにする。

 それを他所に綺優はどんどん〈星辰力〉を放出して行くが

 

 

「ッ……!?」

 

 

 裂けた空間が修復しようと辺りの空間事引き寄せた。当然それを引き起こした張本人の綺優も引き寄せられる。

 それに抵抗するが鎖が再び綺優の身体を縛った。

 

 

 

「綺優!!」

 

 

 反動で力が入らない綺優は、その場で留まれず裂けた空間に吸い込まれ消えて行ったのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

 

☆月*日

 

 

 

 異世界に来ちゃった……うん書いてて意味不明。

 天霧綾斗が封印を無理矢理解いてたのを見て、俺もできるんじゃね? と思ってやったら、ぐにゃくにゃ……って感じになって気がつくと

 

 

「あ、起きた。気分はどうだ……?」

 

 

 

 知らない天井……じゃなくて、知っている天井に、知らない男子生徒。星導館学園にある保険室のベットなのは間違いない。ただ知らない奴が視界に入ってきて、最初は驚いた。誰だろ……

 

 

「高等部一年の星野七瀬だよ」

 

 

 一年……? 一年にこんな奴居たっけ? 俺も一年だし一応クローディアの補佐をしてるから、同級生の生徒の名前は覚えてるけど……

 

 

 

「マジで? ってか、同級生で俺のこと知らないヤツとかいるのか・・・《鳳凰星武祭》じゃ、随分と悪い意味でめだったんだけど・・・」

 

 

 〈鳳凰星武祭(フェニクス)〉? こんな奴ウチの学園から出てた? いや出てない。俺がエントリーの紙を整理して提出したから、その時の名前は全員覚えてる。星が苗字来るやつなんてたった1人もいなかった。

 

 

 

「ところで、お前の名前は?」

 

 

 

 同級生で俺のこと知らないヤツとかいるの? (あれ? なんかデジャブ)

 

 

「俺の名前は刀藤綺「七瀬さん! 昼食持ってきましたよ!」

 

 

 

 そう言って入ってきたのは綺凛だった。この野郎……いつの間に綺凛とそんな関係に……。

 よし……斬るか。うん。そうしよう。ベットの隣にかけてあった〈天夜叉〉を俺は抜刀しようとしたら

 

 

「七瀬さんの同級生ということは、私の先輩ですよね? 

 お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 

 …………ふぅー……はい? 

 いやいやまてまて。マイぷぅぁーふぇくとぅーしすとぅぁーよ。その冗談まじで悲しいから止めて。

 そう思ったけど俺はある事に気がついた……綺凛ってこんな笑を浮かべてたっけ……? 

 綺凛の動きや癖が俺が知っているものと少し違った。

 

 

 

「き、綺凛……?」

 

 

「あれ? 私の名前をご存知なんですか?」

 

 

 

 つい今朝まで綺凛と一緒にいたから見間違える筈がない。

 それにご存知も何も綺凛の名前を付けたのは俺だ……疑問に思っていたら七瀬が

 

 

 

まてよ今確かコイツ名前に・・・なぁ、お前の名前・・・さっき何て言った・・・?」」

 

 

 そうそう。この時驚きの余り名前言うの忘れてた。

 

 

「俺の名前は刀藤綺優(・・・・)そこに居る綺凛の……実兄だ」

 

 

 俺の名前に二人とも驚愕した表情で、まるで信じらないとばかり。

 七瀬が俺に動けるか聞いてきて、少しショックが大きすぎて無理だと答えた。

 すると七瀬は医務室からでて、綺凛もついて行くと、少ししてクローディアがやってきた。

 七瀬と綺凛が皆に説明する……どこか可笑しい。

 

 

「刀藤さんのお兄さん・・・ですか?」

 

 

「本人はそう言ってるんだけど・・・」

 

 

 皆の視線が綺凛に向く。さぁ綺凛、正直にな? もう冗談はやめて……ね? 

 

 

「刀藤さん、本当なんですか?」

 

 

 

「いえ、私に兄はいません」

 

 

 

 ……ふぅー……これは悪夢だ。そう決まっている。皆が騒いでいて慌てて口を押さえる綺凛。

 もういいんだ綺凛……俺はこの悪夢から目覚める。

 そして天使()に会うんだ。俺が〈天夜叉〉を抜刀して胸に刺そうとしたら、七瀬が俺を抑え込んだ。ええい離せ離せっ! これは悪い夢だ。つまり目が覚めたら、大天使綺凛が! 女神のような笑顔で出迎えてくれるんだから! 

 

 

「落ち着けえええええっ!? そんなことしたら本物の天使が迎えにきちゃうから! あの世に逝っちゃうから!」

 

 

 うるせ! そっちの方が百倍マシだわ!! てかコイツ地味に力強いな!? 

 みっともなく喚く俺達を見て、クローディアや皆が呆気にとられていた。

 ムキになった俺は自殺の目標から、コイツに腕力で勝つ事に変わってた。

 ふっ、こう見えて俺は強いぞ? そう思って本気でやるけど……ナニコイツ山? ピクリともしないんすけど。

 夢中になってた俺だけど、クローディアの一言で一気に力が抜けた。

 

 

「星導館のデータベースを調べたのですが・・・彼のデータが何一つ無いんです」

 

 

「は・・・?」

 

 

 七瀬はにポカンとしてしまう。

 いやいや、アンタが特待生枠で俺を招いたんだよ? 

 それなかったら俺別の学園行こうとしてたからね? そうしたらこんな胃痛に悩まされてなかったからね? 

 それじゃあ俺は星導館学園の生徒では無いのか? とクローディアにそう問う七瀬。 それにクローディアは

 

 

「そうなるのですが、制服だけならともかく校章まで持っていますから・・・調べたところ、本物の校章でした」

 

 

 いや確か校章って

 

 

「あれ? 確か校章って、個人データが記録されてるんじゃなかったっけ?」

 

 

 そうそれ。俺の聞きたかった事を代わりに聞いてくれた。

 

 

「えぇ、それで調べてみたのですが・・・データが破損してしまっているようです」

 

 

 おいおい脆すぎだろ! この前も〈星辰力〉の余波で破損してたけど、ほんとありえない

 

 

「破損?」

 

 

「えぇ。恐らく、磁場等の影響によるものだと思われます」

 

 

 ん? 磁場? あっ……多分あれだ。

 

 

「どうかされましたか?」

 

 

 

 多分力を無理矢理解放したあの時空間が裂けて、それに吸い込まれたんだろうな。

 だから俺はその空間を通ってきた事を、クローディアに教えたら、

 

 

「空間の歪み・・・?」

 

 

 おーい才女様? 空間歪む→引きずり込まれる→今に至る。ここまで言えば分かるだろ。

 そう。つまりここは平行世界の1つで、俺はその1つにやって来たんだ。

 

 

 

「・・・スミマセン。訳が分かりません」

 

 

 ……このポンコツクローディア。

 はぁ……俺の知るクローディアはもっとキレ者で頭の良い奴なのにな

 

 

「・・・七瀬、彼を生徒会長権限で処刑して良いですか?」

 

 

 ほらね? また意味の分からない事を言い出したの。もう来なくていいよ、意味不明day。

 どうやら七瀬は頭は回る方だった……よかった筋肉馬鹿だと思ったよ。

 

 

「えーっと、綺優って言ったっけ? お前の世界では綺凛はお前の妹で、クローディアはもっと頭が良かった・・・間違ってないな?」

 

 

 うんうん。そうまさにそれ。

 

 

「今の私の頭が悪いみたいな言い方止めてもらえます?」

 

 

 もうポンコツクローディアはみんなで無視。今はそんな所じゃない。

 

 

「つまり・・・アレだな。お前はパラレルワールドから来たってことか」

 

 

「パラレルワールドって・・・いわゆる、平行世界ってやつですか?」

 

 

 信じられないといった表情の綺凛。俺も信じたくないよ……帰りたい……帰って綺凛に抱きつきたい。てかこんな事はいそうですか……って信じらないよな。

 

 

 

「疑いたくなるのも分かるよ。でも、もし綺優の言ってることが本当なら・・・そうとしか考えられない」

 

 

 ……疑えよ。俺だったら疑うぞ? こんな怪しいヤツ。

 そう思ってたら予想外の更に予想外、ポンコツクローディアがそれを否定した。

 

 

「彼が嘘をついている可能性は?」

 

 

 そうそう、それでこそ俺の知るクローディアだ。

 あれ? なんで俺納得してんの? 納得したらダメでしょ(書いてて悲しくなった)すると七瀬が

 

 

 

「そもそも嘘をつく理由がないだろ。それに校章は本物なのに、データベースには載っていない・・・こんな矛盾が生じる状況、他にどう説明できる?」

 

 

 

 なんで俺の事庇ってんだろ? 普通ならそこの言葉に詰まるクローディアと同じ様に、警戒するべきだよ。七瀬が俺の方に向く。 

 

 

「綺優、お前は元の世界に戻りたいか?」

 

 

 それは当然勿論戻りたい。けど戻り方が分からないんだよね〜。どうしよう。どうすれば戻れるか考えていたら七瀬が

 

 

「俺も手伝うよ。お前が元の世界に戻れる方法を探す」

 

 

 はい? うん? お前が手伝う理由なんて無くね? 

 そもそもこんなわけの分からない奴手助けして、大変な事になったらどうすんのさ? 

 てか、なんで俺はこんなに自分をディスってんの? まさか……無自覚のドMなのか? 

(濡れた跡がある)

 

 

「え?」

 

 

 先程のクローディアと同じ様に呆気に取られた七瀬。いや何度も(似た事)言う(書く)けど。

 なんで七瀬は俺の言葉を信じられるの? 普通なら綺凛やクローディアの反応が正しい。

 なのに七瀬はなんで俺の言葉を疑わないんだろ? 

 

 コイツを見極めよう。俺の世界には七瀬は存在しない。

 でもまだ会ってないだけで、これから出会うかも知れない。

 なら今ここでコイツを見極めておいて損はない筈だ。

 そう思ってたんだけど、いやもうこの世界では予想外だらけ

 

 

「んー・・・勘?」

 

 

 …………多分この時の俺の顔は、師匠が5秒で10人前の団子を食べ去った時みたいに、ポカンとした表情だったと思う。

 

 

 

「さっきクローディアに言った根拠もあるが・・・一番はやっぱり勘だな。お前は嘘をついていないし、信用できる・・・俺の勘がそう言ってる」

 

 

 前言撤回……コイツは頭が回るんじゃなくて、ただのお人好しなんだ? だからお前馬鹿か? って言ったら

 

 

「バカで結構。俺の勘を舐めんなよ? 当たる確率は驚異の五十パーセントだ」

 

 

 いや半分ハズレやん。ツッコミを入れようとしたけど、綺凛が呆れた顔でツッコミをしてくれた。

 ……仲いいんだね。クローディアと綺凛も言った、底なしのお人好しだと。

 そんな三人にも確りと存在する絆を見れて俺は、ホッとした。

 

 こっちの世界のクローディアにも、ちゃんと心から信頼出来る仲間が居るんだって知れて。

 俺がそう耽っていたらクローディアと綺凛が、過去に似た事例は無かったか、調べると医務室を出ていった。

 先程まで俺の事を警戒していた二人……なのに俺と七瀬を二人っきりにさせた……あの二人にずいぶんと信頼されているんだね。

 

 

「綺凛もクローディアも、大事な友達だからな。俺もあの二人を心から信頼してるし、あの二人の信頼にいつだって応えたいと思ってるよ」

 

 

 これが演技なら大した奴だね。それに別の世界とは言え、クローディアと綺凛の根本的な部分は変わらない筈。そんな二人がコイツを信用するんだ……なら俺も

 

 

「信じてみる……あの二人が信じているお前を……ね」

 

 

 そう答えた俺に七瀬は、笑顔で応えてくれた。 

 その後俺は七瀬が連れてきたい奴が居るっていって、一度出てその連れてきたい奴を、連れてきたんだけど……うん……期待してなかった……って言えば嘘にはなるけど、予想は出来たよ。

 だって主人公みたいな立ち位置だし? ハーレム王でタラシ野郎だし? 天霧綾斗くん……。

 

 そう七瀬が連れてきたのはユリスと天霧綾斗だった。

 今に至るまでの事を、簡単にユリスに説明すると

 

 

 

「パラレルワールド? 馬鹿も休み休み言え」

 

 

 あっ……この世界でも友達少ないんだね。ユリスどんまい。

 

 

 

「空気読めや人間発火装置」

 

 

 

 何それ。〈人間発火装置〉がこの世界でのユリスの異名なの? 面白すぎでしょ。でも違ったみたいでユリスが

 

 

 

「今日は私に対してやけに辛辣すぎないか!?」

 

 

 そう叫んでた。コイツはどの世界に行ってもうるさいのか? てか天霧綾斗そんなに俺の事を見るな! 近寄るな! 失せろ! 

 それはそうと……ヒユリは病院にいるのかな? すると天霧綾斗が

 

 

「まぁ、それが全て本当だったとして・・・帰る方法にアテはあるのかい?」

 

 

 えっ? コイツなんでこんな協力的なの? あ、他人が居る時は地味に優しいもんね。俺にも。

 そんな天霧綾斗の疑問に七瀬が心底困った声で

 

 

「そこなんだよなぁ・・・でもこっちに来れたってことは、戻る方法もあるはずだろ」

 

 

 頑張れ七瀬! 俺は思考を放棄した……二度と帰れなかったらどうしよう(濡れた跡がある)

 するとね? まーた〈人間発火装置〉(ハマった)が

 

 

「いや、そもそもパラレルワールドなど空想上の話・・・」

 

 

 もうコイツほんといや。融通きかないし、真実はいつも1つとか抜かしやがるし、なんでこう否定的なの? 来たもんは来たんだよおバカちゃん。

 

 

「雨の日は無能なユリスは黙ってろや」

 

 

「私は焔の錬金術師かっ!」

 

 

 あ、この世界にもメタルの錬金術師があるんだ。てかユリスがツッコミ役って……似合うな。

 そんな事を考えている俺が気になったようで七瀬が

 

 

「綺優? どうした?」

 

 

 って聞いてきた。素直に思った事を言ったよ。ユリスがツッコミ役なんてびびったって。

 

 

「こっちじゃいつもこんな感じだけど? そっちのユリスはどんな感じなんだ?」

 

 

 って聞いてきた。

 そうだな〜……問題書生産機……いやここで馬鹿正直に答えると、花火大会が始まるから……えっとそうだな

 

 

「……無駄にプライドの高い女?」

 

 

 って答えた。うん。何とか乗り切った。七瀬もうんうんと頷いて

 

 

「何だ、こっちと一緒じゃん」

 

 

 あ、やっぱり? 何処に行ってもユリスは同じなんだね。

 

 

「おい!?」

 

 

 ユリスが抗議の声を上げるけど……さてと……そろそろ触れるか。嫌な予感しかしないけど。

 

 

「ユリス……ヒユリという名前に心当たりは……?」

 

 

 俺は聞きたかった。ユリスを誰よりも大切とし、心から忠誠を誓っていて、文字通り命の代わりになる覚悟を持った、最強の兵士。

 そして俺のパートナー……頼む。俺はこの時そう願った……だけど

 

 

「ヒユリ? いや、知らないが?」

 

 

「……そうか」

 

 

 ヒユリと師匠はこの世界には存在しないんのか。

 いや、余りこの世界に情を残さないで置かないと。帰る時しんどくなる……そして俺はこの時もう1つ気づいた、シルヴィ(・・・・)はどうなってんだ……? 

 七瀬達に聞こうとしたけどそれは叶わなかった。何故? それは俺にとってある意味〈絶望〉である、厄災が襲ったからだ。

 

 

「えーっと・・・綺優くん?」

「呼び捨てにして下さいお願いします」

 

 

 なにコイツ……本当にあの天霧綾斗? いや違う偽物だ……。

 いやでも遥さんの封印が……あれ? コイツまだ全部(・・)解けてないのか? いやそんなことよりも、天霧綾斗に『くん』付けされるとかホント無理。生理的に無理

 いやまじで死ぬよ? あと二回君付けしたら、ショック死できる自信あるよ? 

 

 

「そこまで!? 君の世界の俺ってどんなヤツなの!?」

 

 

 そうだな……全部語るのはいろいろ無理だから、簡単に説明すると……出会って間もない俺に、『君とは仲良くなれそうにない』とか平気で言えるようなヤツ。

 一時の静寂……そして天霧綾斗が腹の底から驚いた声を出した。

 

 

 

「えぇっ!?」

 

 

 さっきまでパラレルワールドなんて、空想上だとか何とか言ってたユリスが苦い顔で、

 

 

「綾斗……お前というヤツは・・・」

 

 

「マジ引くわー」

 

 

 そう言って天霧綾斗から距離を取る二人……明らかに七瀬は巫山戯てたな。天霧綾斗は焦った顔と声で

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!? 本当に俺がそんなこと言ったの!?」

 

 

 …………調子狂うなぁ……忘れるわけない。間違いなく言われたからね。あとは会う度に毛嫌いされたり、いきなりぶん殴られたり、人の妹の胸を触ったり……暴露してやった。するとね、ユリスと七瀬が

 

 

「・・・最低だな。男の風上にも置けんヤツだ」

 

 

「・・・マジ引くわー」

 

 

 あ、ガチなやつに変わった。さっきまで巫山戯てた部分があったけど、あれガチの奴だ。

 

 

「何で俺がそんな目で見られてるの!? 俺はそんなことしてないからね!?」

 

 

 別に誰もお前がしたって言ってないよ……。あくまでもこっちのお天霧綾斗だから。

 さてと……嘘をつくのは気が引けるけど「いずれは和解できたらいいな」そう思ってるって嘘を吐いた。

 シルヴィを口説いた事と、綺凛の胸を触った事は、いつまで経っても許さない許されない。そんな俺に天霧綾斗が近づいて来て

 

 

「綺優くん・・・」

 

 

 ふっ……天霧綾斗何度も言うけど……くん付けやめろ! 

 天霧綾斗の顔面に飛び膝蹴りを喰らわせた……

 

 

「ぐはっ!?」

 

 

 へぇー……ちゃんと受け身は取ってるし、わざと避けなかったなアイツ……罪滅ぼしのつもりかな? 他の世界のお前がやった事なのに難儀なやつ。

 

 

「当然の報い・・・と言いたいところだが、こっちの綾斗は無実だしな。ユリス、綾斗の回収と介抱を頼む」

 

 

「了解した。七瀬はどうするのだ?」

 

 

 七瀬に視線が集まる。こうなった以上、俺は下手に動かない方がいいと判断した。

 

 

「とりあえず、綺優を連れて学園の外に行ってみようかと思う。何かヒントが見つかるかもしれないし。ってか、紗夜は何処行ったんだ?」

 

 

 あれ紗夜居たの? 気づかなかった……やっぱりこっちの紗夜も、背が低いのか? 

 

 

「紗夜なら、銃の専門店に行くと言っていたぞ」

 

 

 

「いや、綺優の心配しろよアイツ・・・そもそも方向音痴のアイツが一人で出かけるとか、迷子になる未来しか見えないんだけど」

 

 

 あっ、やっぱりこっちの沙々宮もそんな感じなんだね。

 絶対苦労してるよな七瀬……俺は同情した。まじで可哀想。てかその気持ち分かるよ。早速二人で散歩に、出た俺達。

 

 にしてもコイツ本当に無防備だよね。今この瞬間俺が〈天夜叉〉で抜刀したら速攻で殺られるのに。

 それにしても何だか不思議だなぁ。

 

 口に出したつもりは無かったけど出ていたみたいで、七瀬が何が? と聞いてきた。

 散歩がてらと色々と歩き回った俺達。話す為にも座りたいしお腹も空いた。だから《商業エリア》にあるファストフード店で昼食を食べながら……景色は特に何も変わらない。水上学園都市六花。だけどよく見ると違う。不思議だ。

 

 ……だって紗夜が壊した噴水が、こっちでも壊されて一度修理したみたいだし? 

 

 

「へぇ・・・そういうもんか?」

 

 

 

 そう。俺は知ってる街。だけど皆はこの世界は俺の事を知らない。悲しく寂しいけど浪漫がある時間だった。

 

 やばいらしくない……七瀬が同情してる……俺の事を気遣ってくれた。全くグズだな俺。

 そう考えてたら、俺が今一番会いたいと思ってたけれども、一番会いたくもなかった女性の声が聞こえてきた。

 

 

「だ~れだっ♪」

 

 

 

 綺麗な茶髪。澄んだ声。多くの人を魅了する容姿。俺は知っている……その茶髪の下には幻想的でとても綺麗な紫色の髪が靡いている事を……

 

 

「あ、こんにちは! ななくんのお友達かな?」

 

 

 何処か期待していた……違う世界でもコイツは俺の事を知っているんじゃないかって。重々理解しているつもりだったのに……

 

 

「あれ? おーい?」

 

 

 俺は君の名前を知っている……君の名は

 

 

「シルヴィ」

 

 

「えっ?」

 

 

 驚くシルヴィ。あぁ……これかなり心にくるわ

 

 

 

「何で私の名前を・・・何処かで会ったことあったっけ?」

 

 

 

「そうだね……君とは初めましてだよ」

 

 

 理解出来ないシルヴィ。本日二度目になる説明を終えた七瀬。

 ユリスとは違って、水を差す事もなくすんなりと受け入れたシルヴィ。

 

 

「へぇ・・・じゃあ君は、別の世界から来たんだね?」

 

 

「……あぁ」

 

 

 その際、あっちの世界ではシルヴィはどんな感じなのか聞かれて……仕方なく俺との関係も説明した。

 

 

「そっちの世界では、私と君が婚約してるって・・・ホント?」

 

 

 まぁこればっかりは信じられないわな。

 

 やぁ初めまして! 僕違う世界の君と婚約してるの! 信じて! そんな奴俺の目の前に現れたら、速攻で斬り伏せる。いやまじでキモイよね。

 

 少し気まづくなったシルヴィと七瀬……やっぱり黙っとくべきだったか? そんな気まづい空気をシルヴィが変えてくれた

 

 

 

「『ちょっと複雑だな・・・俺の女が他の男とデキてるなんて・・・』とか考えてたでしょ! や~ん、ななくんったら~!」

 

 

 子供っぽい所も同じだ……本当に困った。何もかも瓜二つだ。

 そんなシルヴィの気遣いを知った七瀬は

 

 

「人の心を読むなアホ」

 

 

「あたっ!?」

 

 

 流れにのってシルヴィの頭にチョップをお見舞いした。本当に仲がいいな……良すぎて殺s……じゃなくて嫉妬しちゃうよ。

 

 

「ほら、とりあえず何か注文してこいよ。時間無くなるぞ?」

 

 

「あ、そうだった! ちょっと行ってくるね!」

 

 

 この気まづい空間を完全に無くそうと、七瀬がシルヴィをこの場から退出させた。当然その意図を分かっているシルヴィは、愛想笑いを浮かべてレジへと向かう。

 シルヴィが行ったのを確認した七瀬は

 

 

「・・・ゴメンな」

 

 

 別に謝んなくてもいいのに。

 

 

「その・・・自分の婚約者が、他の男と仲良くしてるのを見るのは・・・」

 

 

 ……コイツの心は硝子で出来てるのか? こんなにもお人好しなんて……だから皆ほっとけないのかな? 七瀬そのままじゃお前……。

 七瀬にこう言った気にするなって。この世界でのシルヴィと俺は赤の他人なんだからね。

 

 でもこれはただの強がり……人間である以上気にしないことなんて無理だ……だから何とか誤魔化そうとしたけど

 

 

「いや、でも・・・」

 

 

 やっぱりコイツには分かっちゃうか。めんどくさいなぁ……人の気持ちを理解しすぎてもダメなんだぞななくん? 

 

 まぁ確かに少し複雑なのは本当だよね。それとは別にこの時のシルヴィは、とても楽しそうに笑っていた。七瀬と一緒に過ごせるのが幸せなんだなって思える。

 それだけアイツは七瀬に惚れているってね。

 

 ……俺と居る時にシルヴィがあんな笑顔を見せた事はあったかな……自信ないなぁ。

 

 

「綺優・・・」

 

 

 まじで七瀬……この世界のシルヴィのこと

 

 

「ちゃんと幸せにしてやれよ。絶対に泣かせるな」

 

 

 俺のせめてものの強がりの願いに、七瀬は強く頷いてくれた。

 

 

「約束するよ。必ず幸せにする」

 

 

 よし。それでこそ七瀬だ(分からないけどね)そうと決まればさっさと掴み取れ。婚約だ婚約。

 じゃないと別の世界とは言え、あのタラシ野郎に口説かれる危険が大きくなる。

 

 

「なっ!? いや、それはまだ早くないか!?」

 

 

 何顔赤くしてんの……初々しいな……なんだもしかしてまだ童貞か? (勝ち誇った顔)

 俺達はもう婚約してアレも済ませてるからね。

 

 

 

「そんなこと言ったって・・・ちなみに、どういう流れで?」

 

 

 

 七瀬が気になったみたいだ。

 ふっ、教えてやるか。俺の輝かしい成果を。

 

 

「〈王竜星武祭(リンドブルス)〉で優勝した時の優勝者インタビューで公開プロポーズした」

 

 

 七瀬くんがビックリ仰天! ふふ、そうだろうそうだろ。なんせワタクシ覇王ですから。

 

 

「マジで言ってんの!? ってか《王竜星武祭》で優勝!? 《孤毒の魔女》は!?」

 

 

 あ、こっちの世界にもオーフェリア居るんだ。

 時間あったら会いたいなぁ。

 それから勝った事を七瀬に教えた。

 

 

 

「ええええええええええ!?」

 

 

 

 

 ごめんなさい。本当は勝ったのは俺じゃなくて別側面の〈オルタナティブ〉の俺です……でも勝ったの〈刀藤綺優〉だから! 

 今の俺の状態じゃオーフェリアには勝てない……今の俺じゃね。

 まぁそんなわけだから、七瀬も《星武祭》で優勝してプロポーズしろよ。

 

 本当は冗談で言ったんだよ? こう言うのは早いよりも、2人のペースで行くのが一番だから。なのに

 

 

「・・・検討しとくよ」

 

 

 ……失敗したらごめんね。間違いなく黒歴史入だよ! 頑張れ! ファイト×4! 

 

 

「何を検討するの?」

 

 

 何といいタイミングでシルヴィが帰ってきた。いきなり声をかけられて、焦る七瀬。

 

 

「べ、別に何でもないぞ!?」

 

 

「あー! 怪しいー! ねぇ綺優くん、ななくんと何の話をしてたの!?」

 

 

 気遣ってくれての名前呼び…………。笑みが零れた。やっぱりこの時目の前に居たシルヴィは俺が知ってる、シルヴィじゃないんだってね。くん付けじゃないんだ……

 

 

「……ボーイズトーク。いずれ分かる時がくるよ」

 

 

「えー、私だけ除け者ー?」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 シルヴィが凄いって改めて気付かされた。発した声は間違いなくそれだ。なのに……口の動きは 『もう大丈夫?』って。どうやってるんだろね。

 君にはいつまで経っても適わないよ。目で大丈夫だと伝えた。

 これ以上この世界でのシルヴィと仲良くなったらダメだ……七瀬に悪い。

 

 いじけるフリをするシルヴィ、俺は七瀬に目で指示した。シルヴィとイチャつけこの馬鹿野郎って!! どうやら伝わったようで

 

 

 

「・・・シルヴィ」

 

 

 

 うわっ。シルヴィってこんなに悪い笑を浮かべられるんだ……俺に顔を背けて七瀬に向き直る

 

 

「ふーんだ。除け者に構わないで、綺優くんと男同士で話を・・・」

 

 

「・・・愛してる」

 

 

「ふぇっ!? ちょ、こんなところで急に何を言い出すの!?」

 

 

 な、なんて野郎だ……愛してるだと!? コイツやるな。にしてもほんと嫉妬しちゃうぐらいにお似合いのカップルだよ。

 

 照れる二人を見て俺は笑った。その後シルヴィと別れて、散歩をしているとクローディアから連絡が来た…… 「過去の文献を調べた結果、この場所は空間の歪みが何度か確認されていることが判明しました。恐らく綺優は、ここの上空に出来た空間の歪みから降ってきたと推測されます」

 って。早速移動すると……あぁ……モーセさんもビックリの海ね。

 ……いや呆れちゃうよ。そんな俺を他所に

 

 

「つまりこの場所は、空間の歪みが発生しやすい環境にあるってことか?」

 

 

「恐らくそうだと思われます。推測に過ぎませんが、ここで行なわれた度重なる実験の影響かもしれません」

 

 

「そういやここ、実験用の場所なんだっけか」

 

 

 俺の世界の方もそうだったと伝えた。んで、どうすればいいか分からなかったんだけど

 

 

「色々と調べた結果なんですが・・・この場所でより大きな力を解放した時、空間の歪みが発生しやすいようです」

 

 

「大きな力?」

 

 

 成程。それなら〈天夜叉〉で正真正銘の全力の黒い斬撃でも放ってみるか? そう考えていたら

 

 

「七海、聞こえるか?」

 

 

【どうされましたか? マスター?】

 

 

 おお!? 何あれ! かっこい! 話してるよ!? 〈純星煌式武装〉だよね!? すごい! もしかしてアーネスト同様シンクロ率100%なのか? 

 そう言えばこの時〈天夜叉〉がペシペシ叩いてきた。うん。なんで? 

 

 

「とりあえず、全力の雷を出してみたいんだけど」

 

 

 

【了解です】

 

 

 

 おっ。いいなそれ。んじゃ俺も一緒に……と思ったら

 

 

「いやダメですよ!?」

 

 

 綺凛が慌てて止めに入った。止めないでくれ妹よ。俺は帰りたいんだ。

 

 

「すぐ側は海ですからね!? 魚が大量死しますよ!?」

 

 

「あ、そっか・・・しばらく魚料理には困らないな」

 

 

 あ、確かにこの時期から魚美味くなるよね。ならお礼に俺が釣ってあげようかな? って思ったらまた綺凛が

 

 

「七瀬さんに人の心は無いんですか!?」

 

 

「冗談だってばよ」

 

 

「何で急にナ●ト!?」

 

 

 ……。俺の知る綺凛が見たら驚くかもね。綺凛がツッコミなんて。2人の漫才を聞き流しながら、ならどうすればいいかな〜って考えてたら思い出した。

 

 

「……そうだ。同じことすれば良いじゃん」

 

 

 皆を代表して七瀬がこう聞いた、

 

 

「同じこと?」

 

 

 いや〜、言うの忘れてた。

 実は向こうの世界のこの場所で全力を出してみたんだけど、空間が歪んで引きずり込まれて、気付いたらこっちの世界にいたんだよね。だから同じことしたら戻れるかも……って答えた。

 静まり返る一帯……そしてその静寂を七瀬が破った。

 

 

「完っ全に原因お前じゃねーかああああああああああっ!?」

 

 

「しかも何でそんな大事なこと今まで言わなかったんですかああああああああああっ!?」

 

 

 絶叫する七瀬と綺凛。いや本当にごめん。

 すっかり忘れてた。てか無理矢理力使ったせいで、身体もだるかったし。こうなったら……秘技、

 いやぁ、すっかり忘れてた。てへぺろ! 

 俺の渾身のボケ。背後から絶対零度の視線を感じた。振り返るとクローディアがハイライトの失せた目で

 

 

「・・・七瀬、生徒会長権限で彼を処刑して良いですか?」

 

 

「許可する。殺れ」

 

 

 

「いや、ツッコミ放棄すんなよ」

 

 

 なんでずっとツッコンでたのに、ここだけツッコまないの? 俺死んでもいいの? 

 ま、もう過ぎた事はいいや。さてと

 

 

「とりあえずやってみる」

 

 

 身体が怠い。多分全部の鎖は解けないけど……ま、行けるっしょ! 1回大きく息を吸って吐いた。そして俺は漆黒の〈星辰力〉を放出する

 

 

「なっ・・・何ですか!? この〈星辰力〉の量は!?」

 

 

「七瀬さんに匹敵する・・・いや、それより多い!?」

 

 

 まだだ。もっと力を求めるんだ。……俺は身体を縛る鎖を無理矢理解いた。そして限定的に俺の力が少し戻る

 

 

「・・・力を封印されてたんだな」

 

 

 なんだ。やっぱり気づいてたのか。ほんと感の良い奴はこれだから……

 

 

 

「綺優!」

 

 

 七瀬が声をかけるけど、ちょっと要件早く言って! 吸い込まれるからッ! 

 

 

「お前の世界では、綾斗のお姉さんは見つかってるのか!?」

 

 

 天霧綾斗を見てわかったけど……やっぱりこの世界でもか。首を横に振って俺は答えた。

 遥さんを見つけたのは俺だ(・・)。それを天霧綾斗が知れば……

 

 

「天霧綾斗に伝えておけ。絶対に遥さんを見つけろ……って」

 

 

 何度目になるか分からない嘘。この世界の天霧綾斗は何も悪くない。なら俺が見つけた事は言わないで、自分で〈天霧綾斗〉が見つけた事にした方がいいだろう。

 

 そして完全に空間が裂けた。同時に俺の身体を鎖が縛る。

 あぁくそ。また力が一気に抜けていく。またスカイダイビングすんのかなって。死ぬんじゃないかと

 そう覚悟を決めた。最後に3つだけ

 

 

「……七瀬。約束しっかり守れよ」

 

 

「っ! ・・・あぁ・・・必ず守る!」

 

 

 よかった。もうこの世界でシルヴィに思い残す事は無いな。最後に綺凛。

 

 

「向こうの世界の父さんは、俺が助け出した」

 

 

「えっ!?」

 

 

「だからこっちの世界の父さんは綺凛……お前が助け出してな」

 

 

「っ! はいっ! 『兄さん』!」

 

 

 っ。あぁもう……最後の最後にこの妹は。

 

 

「頼んだよ……『綺凛』」

 

 

 吸い込まれていく中俺は呟く。最後の1つ。七瀬達には届く事の無い声で呟く。

 

 

 ──七瀬。お前はお人好しすぎる。だからこそ大事な人が傷ついた時、人一倍お前は苛まれるだろうね。

 

 

 それを最後に意識が消えた。

 これが俺の異世界での日記……ほんと退屈しないね。この世界(六花)は。

 

 

 

*****

 

 

 

「クローディア……ッ! 綺優は! 綺優はどうなったの!?」

 

 

 シルヴィアが焦った声でクローディアに問い詰める。

 現在医務室にクローディア達と、シルヴィに気を失った綺優がいた。

 

 綺優が消えてから数時間後。再びあの砂浜で漆黒の〈星辰力〉が確認された。

 クローディアは急いで現場に向かうと、砂浜にクレーターが出来ており、その真ん中に綺優が倒れていた。

 すぐに病院に運ばれた綺優。無事だったが突然の事態に彼女等は焦っていた。すると

 

 

 

「……帰ってきたのか?」

 

 

 

「綺優!」「兄さん!」

 

 

 

 突然の事に驚く綺優。綺凛とシルヴィは涙を流していた。

 それをみて綺優は自分は戻って来たと確信した。皆に当然説明する事になり時間を掛けて、何が起きたのか説明が終わるとユリスが……

 

 

「パラレルワールド? 馬鹿も休み休み言え」

 

 

 

「…………だから〈人間発火装置〉って呼ばれるんだよ」

 

 

 

「なっ!? だ、だれが〈人間発火装置〉と私のことを呼ぶんだ!?」

 

 

 声を荒らげるユリス。

 そんなユリスに綺優は笑を零した。誰が? それは

 

 

星野七瀬(・・・・)……」

 

 

 

『星野……七瀬?』

 

 

 

「うん……そこで誰と会って何を見て来たか話すよ……」

 

 

 この出会いは偶然か……それとも運命だったのか……それを知る者は誰も居ない。

 

 

「あ……今度皆で行ってみる?」

 

 

 …………彼らの日常(波乱)はこうして続く




いかがでしたか?リメイク後と前、どっちがいいですかね汗
休んでたブランクがあるので前回の方が面白いかもです……でしたら申し訳ございません笑
これからもムッティさんや僕、両作品共々よろしくお願いします<(_ _)>
ありがとうございました。



富嶽二十二景さん、ありがとうございました!

是非またコラボしましょうね!

それではまた次k・・・

シャノン「ちょっと待てコラ」

ん?どうしたのシャノン?

シャノン「どうしたのじゃないわ!最後に投稿してからどんだけ時間経ったと思ってんの!?」

んー・・・8日くらい?

シャノン「8ヶ月だよおおおおおおおおおおッ!」

本当にすまないと思っている(キリッ)

シャノン「アバダ・ケダ●ラ」

死の呪文を唱えないで!?

少しは執筆してるから!近いうち投稿する予定だから!

シャノン「なお、2話分しか執筆できていない模様」

いやー、最近『ラブライブ!サンシャイン!!』の小説も書いてるからさー。

シャノン「私とAqoursのどっちが大切なの!?」

Aqoursに決まってんだろ。はっ倒すぞモブキャラ。

シャノン「酷い!?」

まぁ本当に近いうち投稿しますので、今しばらくお待ちいただけると幸いです。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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第一章《姫焔邂逅》
入学初日


久しぶりのハーメルン投稿です。

今回は学戦都市アスタリスクとなります。

相変わらず文才は無いですが、お楽しみいただけたら幸いです。


 「ここが星導館かぁ・・・」

 

 正門の前で、思わず感嘆の声をあげる俺。この水上学園都市・六花(通称・アスタリスク)には、六つの学校が存在する。

 

 聖ガラードワース学園、界龍第七学院、アルルカント・アカデミー、レヴォルフ黒学院、クインヴェール女学園、そしてここ・・・星導館学園。

 

 今日から俺が通うことになる学校である。さて・・・

 

 「入学式って何処でやるんだ?」

 

 キョロキョロと辺りを見回す。星導館には中等部・高等部・大学部があり、入学式は合同で行われるそうだ。

 

 ちなみに、俺は高等部である。

 

 「さて、どうしたもんかな・・・」

 

 「お困りですか?」

 

 「うわっ!?」

 

 不意に隣から声がして、ビックリしてしまう俺。

 

 いつの間にか、隣に金髪の女性が立っていた。星導館の制服を着ているので、恐らくここの生徒だろう。

 

 かなりの美人である。

 

 「あぁ、申し訳ありません。驚かせてしまいましたか」

 

 「あ、いえ・・・考え事をしていたもので・・・」

 

 「そうでしたか。驚かせてしまい、大変申し訳ありませんでした」

 

 深々と頭を下げる女性。

 

 「いえ、そんな!こちらこそスミマセン!」

 

 俺も慌てて頭を下げた。元々、俺が必要以上に驚きすぎたせいだしな。

 

 女性は顔を上げると、クスクスと笑った。

 

 「初対面でお互い謝るというのも、何だか変な感じですね」

 

 「確かに」

 

 思わず俺も笑ってしまう。と、女性が手を差し出してくる。

 

 「高等部一年、クローディア・エンフィールドと申します。以後お見知りおきを」

 

 「高等部一年、星野七瀬です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 俺はその手を取り、握手を交わした。

 

 「あら、同級生でしたか」

 

 「みたいですね。てっきり先輩だと思ってました」

 

 「・・・私、そんなに老けて見えますか?」

 

 肩を落とすエンフィールドさん。やばい、傷付けた!?

 

 「いや、そういう意味じゃなくて!エンフィールドさん、凄く大人びてるから!」

 

 「フフッ、冗談ですよ」

 

 可笑しそうに笑うエンフィールドさん。マジで勘弁してくれ・・・

 

 「私達は同級生なんですから、そう気を遣わないで下さい。もっと砕けた喋り方で結構ですよ?私のことも、クローディアとお呼び下さい」

 

 「そう?じゃあクローディアで。ってか、気を遣わせたのはクローディアだろ!?」

 

 「さて、何のことやら」

 

 恍けるクローディア。この性悪女め・・・

 

 「ハァ・・・俺のことも七瀬でいいから」

 

 「了解です、七瀬」

 

 「敬語も使わなくて良いぞ?」

 

 「いえ、これはただの習慣ですから」

 

 「習慣?」

 

 「えぇ。私はとても腹黒いので、せめて外面や人当たりは良くしておかないといけないんです。それが染み付いてしまいまして」

 

 「あー・・・確かに腹黒そうだもんな」

 

 「まぁ、酷い・・・七瀬には、私がそんな風に見えるんですね・・・」

 

 「言っておくが、もうその演技には騙されないぞ」

 

 「あら、残念」

 

 悪戯っぽく舌を出すクローディア。何も知らない奴なら、今の仕草だけで簡単に落ちるんだろうなぁ・・・

 

 「ところで七瀬、何やらお困りの様子でしたよね?」

 

 「あ、そうだった!」

 

 入学式の会場を探してることを、すっかり忘れてたな。

 

 「クローディア、入学式の会場って分かるか?」

 

 「えぇ、ちょうど私も向かう所でしたから。ご一緒しましょうか?」

 

 「それは助かる!サンキュー!」

 

 「いえいえ。では、行きましょうか」

 

 歩き出す俺達なのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「まさかクローディアが生徒会長だったとは・・・ビックリしたわ」

 

 「フフッ、言ってませんでした?」

 

 「一言も聞いてねーわ」

 

 入学式終了後、俺とクローディアは高等部の校舎の廊下を歩いていた。

 

 入学式でクローディアが生徒会長として壇上に上がっている姿を見た時は、マジで呆気にとられたな・・・

 

 「私は中等部からここの生徒ですので、生徒会長も中等部時代から務めているんです。今年で三期目になりますね」

 

 「マジか・・・道理でよく道を知ってると思ったわ」

 

 「ここに来て四年目になりますからね。学校の敷地内については熟知してますよ」

 

 「だよなぁ」

 

 そんな会話をしながら歩いていると、目的地である教室が見えてきた。

 

 「あぁ、ここが七瀬のクラスの教室ですね」

 

 「悪いな、わざわざ教室まで案内してもらっちゃって」

 

 「いえいえ、これくらいお安い御用です」

 

 微笑むクローディア。

 

 「それにしても、クラスが別々で残念ですね・・・」

 

 「それな。一緒のクラスが良かったんだけど・・・」

 

 「まぁ、仕方ありませんね・・・またお会いしましょう、七瀬」

 

 「おう、またな」

 

 別れようとする俺達だったが、クローディアが何かを思い出したような顔をする。

 

 「あぁ、七瀬」

 

 「ん?どうした?」

 

 「実は七瀬のクラスに、私の友人がいるのですが・・・少々心配でして」

 

 「心配?何が?」

 

 「彼女は気が強くて、周りと馴れ合おうとしないんです。ですから、周りから反感を買いやすくて・・・悪い子ではないので、仲良くしていただけると幸いです」

 

 「なるほど・・・了解。クローディアの友達なら、俺も仲良くしたいしな」

 

 「そう言っていただけると助かります。よろしくお願いしますね」

 

 「おう、任せとけ」

 

 俺が親指を立てると、クローディアは嬉しそうに笑って去っていった。

 

 さて・・・

 

 「教室に入りますか・・・」

 

 ドアを開け、教室の中に入る。既に多くの生徒がおり、他の生徒達と談笑していた。

 

 「えーっと、俺の席は・・・あった!」

 

 黒板に貼られている座席表を見て、自分の席を見つける。どうやら俺の席は後ろから二列目、窓側から二列目の席らしい。

 

 自分の席へ向かうと、既にその席には先客がいた。青みがかった綺麗な髪の女の子が、机に突っ伏して寝ている。

 

 「あれ・・・席を間違ったか?」

 

 再び座席表を確認するが、やっぱり間違っていない。つまり、この女の子が席を間違えているのだ。

 

 と、女の子がむくりと顔を上げた。

 

 「ふぁ・・・」

 

 欠伸をする女の子。ちょうど良いタイミングなので、俺は話しかけた。

 

 「スマン、そこ俺の席なんだけど・・・」

 

 「・・・?」

 

 首を傾げる女の子。そして再び机に突っ伏す。

 

 「寝るんかいっ!」

 

 初対面でどうかとも思ったが、思いっきり頭を引っぱたいた。女の子は頭を抑えて、再び顔を上げた。

 

 「・・・痛い。暴力反対」

 

 「人の話を無視するからだろ。そこは俺の席だ」

 

 「・・・そんなバナナ」

 

 「古いわ!」

 

 何この子、天然?

 

 「私が見た座席表では、この席だったはず」

 

 「名前は?」

 

 「沙々宮紗夜」

 

 座席表を確認してみると・・・左隣の席だった。

 

 「この席の左隣、窓側の席だぞ」

 

 「・・・そんなバナナ」

 

 「二回目!?いいから早く移動しろや!」

 

 俺のツッコミに、大人しく隣の席に移動する沙々宮。

 

 「・・・迷惑をかけた、ごめんなさい」

 

 「いや、まぁ良いけどさ・・・」

 

 変わった子だなぁ・・・いや、個性的と言うべきか。

 

 「俺は星野七瀬。お隣同士よろしくな」

 

 「私は沙々宮紗夜という」

 

 「うん、さっき聞いたわ」

 

 「沙々宮でも紗夜でもさっちゃんでも、好きに呼ぶといい」

 

 「・・・じゃあ紗夜にしとくわ。俺のことも七瀬で良いから」

 

 「了解、七瀬。私は寝るから、先生が来たら起こしてほしい」

 

 「また寝んのかよ!?」

 

 俺のツッコミも空しく、紗夜は机に突っ伏してしまった。やれやれ、何か面倒な奴が隣の席になったな・・・

 

 俺がため息をついていると、今度は右隣の席に誰かが座った。振り向いてみると、一人の女子生徒が座っていた。薔薇色の長い髪を腰まで流した、気品溢れる美女である。

 

 おー、クローディアに勝るとも劣らない・・・ん?もしかして、クローディアが言ってた友達って・・・

 

 「あ、あのー・・・」

 

 おずおずと声をかける。と、不機嫌そうな顔をこちらへ向ける女子生徒。

 

 「・・・何か用か?」

 

 ワー、メッチャ睨マレテルゥ・・・

 

 「いや、隣同士だし挨拶しておこうと思って・・・」

 

 「必要無い。貴様と仲良くするつもりなど無いからな」

 

 あ、絶対この子だ・・・間違いない・・・

 

 「クローディアの言ってた通りだな・・・」

 

 俺の呟きに、女子生徒が反応する。

 

 「クローディア・・・?貴様、クローディアの知り合いか?」

 

 「あぁ、友達だけど」

 

 「なるほど、そういうことか・・・大方、クローディアに頼まれたのだろう?私と仲良くしてやってくれと」

 

 ・・・悪いクローディア、一瞬にして看破されたわ。

 

 「まぁ頼まれたけど・・・俺も仲良くしたいなって思ってさ。クローディアの友達なんだろ?」

 

 「断じて違う」

 

 「え、違うの!?」

 

 「ウィーンのオペラ座舞踏会で、何度か顔を合わせた程度の昔馴染みだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 「それを言ったら、俺なんて今日初めてクローディアと会ったんだけど・・・」

 

 「何を基準に友人とするのかは、人それぞれだろう。貴様にとってクローディアは友人かもしれないが、私にとっては違う。ただそれだけのことだ」

 

 この子、ちょっとドライ過ぎないか・・・?

 

 「・・・まぁそれはさておき、名前ぐらいは教えてもらえないか?」

 

 「・・・まぁそれくらいなら良いだろう。ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだ」

 

 「ユリス=アレキサンダー・フォン・ルーズベルト?」

 

 「聞き間違いにも程があるだろう!ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだ!」

 

 「・・・ユリスだな、よろしく」

 

 「今明らかに名前を覚えることを諦めたな!?そうだな!?」

 

 「ハハハ、何ノコトヤラ・・・」

 

 「嘘つくの下手くそか!」

 

 おぉ、この子ツッコミ上手いな・・・

 

 「俺は星野七瀬。七瀬でいいから」

 

 「ふん、貴様の名前など興味は無い」

 

 鼻を鳴らすユリス。

 

 「もう一度言っておくが、私は貴様と仲良くするつもりなど無い。それが分かったら、私には関わらないことだな」

 

 あらら、宣言されちゃった。これは前途多難だな・・・

 

 「おーい、お前ら席に着けー。ホームルーム始めんぞー」

 

 担任と思われる先生がやってくる。よし、とりあえず・・・

 

 「おい、起きろ紗夜。先生が来たぞ」

 

 ユリスのことを考えるのは後にして、紗夜を起こしにかかる俺なのだった。

 




お久しぶりです、ムッティです。

いや、お前誰だよ!?と思った方は初めまして。

ムッティと申します。

以前、ソードアート・オンラインの小説を投稿させていただいたことがありまして。

約一年半ぶりの投稿となります。

ゆっくり投稿していきたいと思いますので、温かい目で見守っていただけると幸いです。

それではまた次回!


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お姫様

観たい映画が多い・・・

そうだ、映画館へ行こう。


 ホームルーム終了後。

 

 「・・・谷津崎先生、メッチャ怖かったな」

 

 「・・・同感。普通の先生は、釘バットなんて持ってない」

 

 紗夜と二人、ぐったりと机に突っ伏していた。

 

 担任の谷津崎匡子先生は、容姿が完全にレディースの総長といった感じの怖い女性だった。手には釘バットを持ち、生徒達を睨みつけながら話をするというスタイル・・・

 

 何であんな人が教師やってんの?

 

 「・・・そもそも『谷津崎』という苗字が怖い。『八つ裂き』とも変換できる」

 

 「確かに・・・ってか、もう『八つ裂き』としか変換できないわ」

 

 そんな会話をしていると、ユリスが鞄を持って席を立ち上がった。

 

 「お、ユリス。帰るのか?」

 

 「それ以外、何をするというのだ?ホームルームが終わった以上、今日の予定は終了した。ここにいる理由も無い」

 

 「まぁな・・・じゃ、また明日」

 

 「ふん・・・何度も言うが、私に気安く話しかけるな」

 

 ユリスはそう言い放つと、さっさと教室から出て行ってしまった。

 

 「・・・不愉快。あんな言い方は無い」

 

 顔をしかめている紗夜。

 

 「まぁそう言うなって。口の利き方はともかく、悪い奴じゃなさそうだしさ」

 

 「・・・私が七瀬なら、一発ぶん殴ってるレベル。一体何様のつもりなのか」

 

 「お姫様だよ」

 

 俺達の後ろから、そんな声が聞こえた。振り向くと、俺の後ろの席の男子生徒がニヤリと笑っている。

 

 「お姫様?」

 

 「おうよ。彼女はリーゼルタニアって国の第一王女なのさ。ヨーロッパの王室名鑑にも載ってる、正真正銘のお姫様なんだぜ?」

 

 「マジで!?」

 

 「マジで。しかも彼女は、希少な《星脈世代》の中でも更に希少な《魔女》なんだ」

 

 「お姫様で《星脈世代》で《魔女》・・・凄いな」

 

 肩書きが豪華すぎるだろ・・・ユリス凄くね?

 

 「・・・そんなお姫様が、何故こんな場所にいる?」

 

 紗夜が首を傾げた。

 

 確かに疑問だよな・・・そんな立場にある人間が、わざわざ戦いの中に身を置く必要も無いだろうに・・・

 

 「それは俺にも分からん。何せあのお姫様、他人を近づけないからな」

 

 ため息をつく男子生徒。

 

 「彼女は中等部三年の時に転入してきたんだが、ここの連中がお姫様を放っておくわけもない。あっという間に人だかりができて、お姫様を質問攻めにしたんだ」

 

 「あー・・・何となくユリスの対応が予想出来るわ」

 

 「その予想、多分当たってるぜ。お姫様、連中に向かってこう言ったんだ。『うるさい。黙れ。私は見世物ではない』」

 

 「・・・うん、予想以上に辛辣だったな」

 

 もう少し愛想よくできないものだろうか・・・

 

 「それで大半の連中は引いたんだが、当然面白く思わない奴もいた。そんな奴らがこぞって決闘を挑んだわけだが・・・まぁ見事に返り討ちにされてな。あれよあれよという間に序列五位、《冒頭の十二人》入りを果たしたわけさ」

 

 「・・・あの女が序列五位?」

 

 これには紗夜も驚きを隠せず、口をポカンと開けていた。

 

 「おうよ。二つ名は《華焔の魔女》、その名の通り炎の力を操る《魔女》さ」

 

 マジかよ・・・ユリスってそんなに強かったのか・・・

 

 「ってか、ずいぶんと詳しいな」

 

 「まぁ新聞部だしな。ってか、自己紹介がまだだったな。俺は夜吹英士朗。よろしく」

 

 「俺は星野七瀬。七瀬でいいから。よろしくな、夜吹」

 

 「おう、よろしく七瀬。俺のことも親愛を込めて英士朗と呼んでも・・」

 

 「嫌だ。長い。夜吹の方が呼びやすい」

 

 「すげぇ拒絶されたんだが!?」

 

 「私は沙々宮紗夜。よろしく夜吹。あ、紗夜って呼んだら殴るから」

 

 「何で!?何で七瀬は良くて俺はダメなの!?」

 

 「信用できないから」

 

 「泣いていい!?」

 

 早速イジられキャラと化した夜吹なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「それにしても、ルームメイトが夜吹だったとは・・・」

 

 「俺は知ってたぜ。それでお前に声をかけたんだからな」

 

 俺と夜吹は紗夜と別れ、男子寮への道を歩いていた。

 

 先ほど寮の部屋の振り分けを確認したところ、俺のルームメイトが夜吹だったのだ。何てこった・・・

 

 「俺のプライバシーが侵害されるのは確実だな・・・」

 

 「七瀬は俺を何だと思ってんの!?」

 

 「マスゴミ」

 

 「俺お前に何かした!?」

 

 夜吹がギャーギャー騒いでいるが無視。と、俺はあることを思い出した。

 

 「あ、そうだ夜吹。ユリスがお姫様ってことは、クローディアもそうなのか?」

 

 「クローディアって・・・生徒会長のことか?え、名前で呼んでんの?」

 

 「本人がそう呼べっていうから」

 

 俺がそう言うと、夜吹の目がキュピーンと光った。

 

 あ、マスゴミ魂が騒いでるな・・・

 

 「おい七瀬、会長とはどういう関係なんだ?」

 

 「言っておくが、お前が考えてるような関係じゃないぞ。普通に友達だ」

 

 「何だ、つまんねーの」

 

 ため息をつく夜吹。

 

 「で、どうなんだ?」

 

 「会長はお姫様ってわけじゃねーよ。ま、立場的にはお姫様と似たようなもんだが」

 

 「と言うと?」

 

 「会長の両親は、統合企業財体『銀河』の上役なんだ」

 

 「マジで!?『銀河』って言ったら、星導館の運営母体じゃねーか!」

 

 「あぁ。中には、『親のコネで星導館に入った』『親のコネで生徒会長になった』なんて言ってる奴もいるが・・・大声でそんなことを言える奴はいない」

 

 「親が『銀河』の上役だから?」

 

 「それもあるが、何より会長の強さが恐れられてるんだ。何せ会長は序列二位、《千見の盟主》の二つ名を持つ実力者だからな」

 

 「序列二位!?クローディアが!?」

 

 ユリスよりも上かよ・・・どんだけ強いんだクローディア・・・

 

 「ってか、何で二つ名が《千見の盟主》なんだ?」

 

 「由来は会長の持つ純星煌式武装《パン=ドラ》にある。《パン=ドラ》には未来視の能力があって、保有者に数秒~数十秒先の未来を見せると言われているんだ」

 

 「なるほど、それで《千見の盟主》か・・・」

 

 「そういうこった。まぁ会長は、純粋な近接戦闘能力もメッチャ高いけどな。《パン=ドラ》の能力がクローズアップされがちだが」

 

 「へぇ・・・」

 

 近接戦闘能力が高い上に、未来視の力を持つ純星煌式武装を所有・・・無敵じゃん。

 

 「俺、クローディアとは絶対決闘したくないわ」

 

 「同感だな」

 

 そんな会話をしていた時だった。

 

 「ふざけるなッ!」

 

 男性の怒鳴り声が聞こえる。それもすぐ近くからだ。

 

 「何だ?喧嘩でもしてんのか?」

 

 「この声、聞き覚えがあるな・・・」

 

 夜吹が呟く。すると・・・

 

 「ユリス、テメェ俺を舐めてんのか!?」

 

 またしても怒鳴り声が聞こえた。

 

 って、今ユリスって・・・

 

 「やっぱり・・・またやってんのか・・・」

 

 呆れた顔をしている夜吹。

 

 「おい夜吹。ひょっとしてこれ、ユリス絡みか?」

 

 「正解。ついてきな」

 

 夜吹が手招きをして、声のした方へと歩いていく。後をついていくと、やがて夜吹はしゃがんで草むらの陰に隠れた。

 

 俺も隠れると、夜吹が草むらの向こうを指差した。

 

 「見てみな」

 

 言われた通り、そっと覗いてみると・・・開けた場所にある四阿に、ユリスが座っていた。

 

 ユリスの前には、大柄な男子生徒が仁王立ちしている。男子生徒の一歩後ろには、痩せている男子と小太りの男子が立っていた。

 

 「いいから俺と決闘しやがれ!」

 

 怒鳴る大柄な男子生徒。一方のユリスは平然としていた。

 

 「断る」

 

 「何故だ!?」

 

 「レスター、私は貴様を三度も退けている。これ以上やっても無駄だ。お前は私には勝てない」

 

 「まぐれが続いたからって調子に乗るんじゃねぇ!俺の実力はあんなもんじゃねぇぞ!」

 

 「そうだ!レスターが本気を出したら、お前なんか相手にならないんだぞ!」

 

 小太りの男子の言葉に、ユリスはフンッと鼻を鳴らした。

 

 「つまり今までのレスターは、本気を出していなかったと?負けた相手に本気を出さずに勝とうとするとは・・・愚かだな。呆れてものも言えん」

 

 「き、貴様・・・!」

 

 歯軋りする大柄な男子生徒。何この状況・・・

 

 「・・・夜吹、説明プリーズ」

 

 「あいよ」

 

 夜吹が小声で説明を始めた。

 

 「あの大柄な男子はレスター・マクフェイル。序列九位で、二つ名は《轟遠の烈斧》。俺達の同級生だ」

 

 「同級生なんだ・・・」

 

 とても高一には見えないんだが・・・

 

 「ってか、序列九位?ユリスやクローディアと同じ、《冒頭の十二人》じゃねーか」

 

 「その通りだ。体格を生かしたパワーファイトが得意で、近接戦闘では無類の強さを誇る。ただ一方で、《魔女》や《魔術師》といった能力者は苦手としているんだ」

 

 「なるほど、それでユリスに三回も負けたと・・・ってか、何でそこまでユリスに執着するんだ?」

 

 苦手な相手なら、わざわざ三回も戦う必要なんて無いだろうに・・・

 

 「きっかけは去年の公式序列戦さ。当時レスターは序列五位、お姫様は十七位だった」

 

 「あー・・・その試合で勝ったから、ユリスは序列五位になったのか・・・」

 

 「ご名答。その試合でお姫様は《冒頭の十二人》入りを果たし、レスターは《冒頭の十二人》から外れたのさ。レスターにとっては、屈辱の一戦だったろうな」

 

 「それでユリスに勝つことに執念を燃やしてるわけか・・・」

 

 呆れる俺。気持ちは分からなくもないが、あの態度はいただけないな・・・

 

 「そんなにユリスと戦いたいなら、公式序列戦で・・・あ、まさか三回って・・・」

 

 「お察しの通りさ」

 

 苦笑する夜吹。

 

 「最初にお姫様に負けた後、レスターは公式序列戦でお姫様を二回指名してる。二回とも負けたがな。ルール上、同じ相手は二回までしか指名できない。つまりレスターは、もうお姫様を指名できないんだよ。ま、お姫様はレスターを指名できるが・・・」

 

 「自分より序列は下、その上三度も負かした相手を指名する意味もないだろ」

 

 「仰る通り」

 

 夜吹がため息をつく。

 

 「だからレスターがお姫様と戦おうと思ったら、お姫様に決闘を受けてもらうしかないわけさ。それで毎日のように、ああやって絡んでるわけだ」

 

 「うわー、メッチャ迷惑だな」

 

 あんな暑苦しいのが毎日迫ってくるとか・・・ゾッとするな。

 

 「ってか、後ろの二人は?」

 

 「あぁ、レスターの取り巻きだよ。ランディ・フックとサイラス・ノーマンだ。《冒頭の十二人》ともなると、取り巻きがいてもおかしくないのさ」

 

 「そっか、序列九位だもんな・・・一度は外れた《冒頭の十二人》に返り咲いたってことだよな・・・」

 

 それは素直に凄いことだよな・・・実力で這い上がってきたわけだし。

 

 そんなことを考えていると・・・

 

 「とにかく、私は貴様と決闘するつもりなどない。悔しかったら、私より上の序列になることだな。その時は、私が貴様を公式序列戦で指名してやる。せいぜい頑張ると良い」

 

 そう言ってユリスが立ち上がり、その場を立ち去ろうとする。

 

 「待ちやがれ!」

 

 ユリスの肩を掴むレスター。

 

 「俺は認めねぇぞユリス!ただの道楽で戦ってるような奴に、いつまでも負けてられるか!」

 

 その言葉に、ユリスの表情が変わる。

 

 「ただの道楽・・・だと?」

 

 「だってそうだろうが」

 

 嘲笑を浮かべるレスター。

 

 「お前、一国の姫なんだろ?そんな奴がこんな場所に来る理由なんざ、道楽以外にねぇだろうが。金持ちの王族さんよぉ」

 

 「・・・黙れ」

 

 「迷惑なんだよ、そんな軽い気持ちで戦場に立たれたらよぉ。少しは自分の身分を考えろや。あ、考えてるか。常に人を見下してるもんなぁ、お前」

 

 「・・・黙れと言っている」

 

 「そんなんだからダチがいねぇんだろうが。お前みたいな奴が姫だなんて、お前の国がどんなもんか見てみたい・・・」

 

 「黙れえええええッ!」

 

 瞬間、ユリスの身体から炎が巻き上がる。

 

 「道楽!?軽い気持ち!?ふざけるなッ!私がどんな思いでここへやって来たか、貴様に分かってたまるかッ!」

 

 激昂するユリス。

 

 「良いだろう、レスター!貴様の決闘を受けてやる!どちらが強いか、今一度ハッキリさせてやろう!」

 

 「ハッ、そうこなくっちゃなぁ!」

 

 ニヤリと笑うレスター。

 

 「テメェのプライドをズタズタに引き裂いて、もうアスタリスクにいられねぇようにしてやるよ!」

 

 「望むところだ!貴様こそ消し炭にしてやる!」

 

 バチバチと火花を散らせる二人。

 

 「マジか!ここで《冒頭の十二人》同士の決闘かよ!こりゃ大スクープだぜ!」

 

 はしゃぐ夜吹。ハァ・・・

 

 俺は立ち上がって草むらを出ると、ユリス達の方へと歩いていく。

 

 「ちょ、七瀬!?」

 

 夜吹が慌てて止めようとするが、完全に無視した。

 

 その声にユリスが気付き、俺が歩いてくるのを見て驚いた顔をする。レスターも俺に気付き、訝しげな表情をしていた。

 

 「あん?誰だテメェ?」

 

 そんなレスターに、俺は告げたのだった。

 

 「ユリスの・・・ダチだ」

 




こんにちは、ムッティです。

今回の話を、自分で読んでみて思ったこと・・・

レスターが悪役すぎる(笑)

レスターファンの皆様、スミマセン。

あと、夜吹がだいぶ不憫な扱いされてるなぁ(他人事)

ま、夜吹だし良いやww

それではまた次回!


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ユリスの涙

藍井エイルさん、本日ラストライブ・・・

寂しい・・・


 「お前、どうしてここに・・・」

 

 驚いているユリス。

 

 「近くを通りかかったら、やたらデカい怒鳴り声が聞こえてな。来てみたら、このゴリラがお前に絡んでる現場に遭遇したわけだ」

 

 「誰がゴリラだ!バカにしてんのかテメェ!」

 

 「よく分かったな、バカのくせに」

 

 「この野郎・・・ッ!」

 

 怒りに表情を歪めるレスター。俺はレスターを睨みつけた。

 

 「お前だってユリスをバカにしただろうが。人のこと言えねぇだろ」

 

 「事実を言っただけだ!道楽気分の姫様がいたって、ただ迷惑なだけだろうが!コイツにいてほしいと思ってる奴なんざ、この学校に一人もいねぇよ!」

 

 「貴様・・・!」

 

 身体から炎を迸らせるユリス。そんなユリスを、俺は手で制した。

 

 「止めとけ。お前がコイツと決闘する必要は無い」

 

 「邪魔をするな!お前には関係無いだろう!」

 

 「あるね。俺はお前の友達なんだから」

 

 「誰が友達だ!私は友達だと思ってないぞ!」

 

 「何を基準に友達とするのかは、人それぞれなんだろ?お前が言ったんだぞ」

 

 「ぐっ・・・」

 

 言葉に詰まるユリス。俺はユリスの目を真っ直ぐ見た。

 

 「お前が俺のことをどう思おうが、俺はお前を友達だと思ってる。それを否定される筋合いは無い」

 

 「お、お前・・・」

 

 恥ずかしさからか、ユリスが頬を赤く染めていた。俺は再びレスターを睨みつけた。

 

 「おいゴリラ、お前言ったよな?ユリスにいてほしいと思ってる奴なんて、この学校にはいないって」

 

 「それがどうした?事実だろうが」

 

 「事実じゃねぇよハゲ。お前の勝手な妄想を押し付けんな」

 

 「なっ・・・テメェ!」

 

 憤るレスターに、俺はハッキリ言ってやった。

 

 「ユリスにいてほしいと思ってる奴なら、ここにいるんだよ」

 

 自分自身を指差す俺。

 

 「ユリスに謝れ。これ以上、俺の友達を侮辱するな」

 

 「・・・ハッ。ユリス、テメェにもこんなこと言ってくれる奴がいたんだな。だが生憎と、俺も謝るつもりは微塵もねぇ。そこでだ・・・」

 

 俺を見るレスター。

 

 「テメェ、俺と決闘しろ」

 

 「な、何を言っているのだレスター!」

 

 抗議するユリス。

 

 「ここのルールに則るだけだろうが。コイツが勝ったら、俺はお前に謝ってやるよ。ただし俺が勝ったら、次の公式序列戦でお前は俺を指名しろ。公式序列戦の場で、正々堂々とお前を打ち負かしてやるよ」

 

 レスターはそう言うと、俺に向かって指差した。

 

 「テメェ、名前は?」

 

 「・・・星野七瀬だ」

 

 「了解・・・不撓の証たる赤蓮の名の下に、我レスター・マクフェイルは汝星野七瀬への決闘を申請する!」

 

 レスターの言葉に応じて、俺の制服の胸の校章が赤く発光した。

 

 「受けるな!お前が決闘をする必要など・・・!」

 

 決闘を止めようとするユリス。俺は右手で、ユリスの口を塞いだ。

 

 「むぐっ!?むぐぐぐっ!?」

 

 「大丈夫だよ、ユリス。すぐに終わらせる・・・我星野七瀬は、汝レスター・マクフェイルの決闘申請を受諾する」

 

 受諾の証として、再び校章が赤く煌いた。ユリスの口から手を離す俺。

 

 「下がってろユリス」

 

 「し、しかし・・・!」

 

 「良いから。これは俺と、あのゴリラとの決闘だ」

 

 「そういうこった!いくぜ!《ヴァルディッシュ=レオ》!」

 

 レスターが煌式武装の発動体を取り出す。レスターに負けないサイズの斧が出現した。

 

 「コイツが俺の煌式武装《ヴァルディッシュ・レオ》だ。テメェも早く煌式武装を出しやがれ」

 

 「必要無い」

 

 「は・・・?」

 

 「必要無いと言ったんだ。さっさとかかってこいよ」

 

 「テ、テメェ・・・!」

 

 表情が憤怒に染まるレスター。

 

 「調子乗ってんじゃねぇッ!」

 

 レスターがダッシュしてくる。そのまま斧を振り上げ、俺を目掛けて思いっきり振り下ろしてきたが・・・

 

 俺はそれを左手で受け止めた。

 

 『なっ!?』

 

 驚愕する一同。

 

 「レ、レスターの斧を片手で!?」

 

 「嘘でしょう!?」

 

 信じられない表情をしているランディとサイラス。ってか、お前らまだいたのな。サイラスに関してはこれが初ゼリフじゃね?

 

 一方レスターは、両手でより一層強く斧に力を込めていた。だが、そんなことをしても無駄だ。

 

 「クソッ!?斧が全く動かねぇ!?」

 

 「お前の負けだよ、ゴリラ」

 

 俺は右手で拳を作り、レスターのがら空きの校章目掛けて拳を放つ。校章は粉々に砕け散り、レスターは吹き飛んで後ろの噴水に直撃した。

 

 

 

 『決闘決着!勝者、星野七瀬!』

 

 

 

 俺の校章から機械音が鳴り響く。

 

 「レスター!?」

 

 「レスターさん!?」

 

 ランディとサイラスが、吹き飛んだレスターの安否を確かめに走っていく。

 

 「お、お前は一体・・・」

 

 「言っただろ?すぐに終わらせるって」

 

 唖然とするユリスに、俺はニヤリと笑ってみせたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 俺とユリスは、倒れているレスターの元へと歩み寄った。

 

 「俺の勝ちだな、ゴリラ」

 

 「・・・テメェ、何しやがった」

 

 弱々しく言うレスター。どうやら、結構なダメージを受けたようだ。

 

 「特別なことは何もしてねぇよ。左手に星辰力を集めて斧を受け止め、同じく右手に星辰力を集めて殴っただけだ。戦闘の基本だろ?」

 

 「そ、そんなバカな!?あのレスターの攻撃を、無傷で受け止めたんだぞ!?」

 

 「俺が拳に集めた星辰力が、ゴリラの斧の星辰力を上回ってただけの話だろ」

 

 喚くランディの言葉に、素っ気無く返す俺。

 

 「つまりあなたとレスターさんとの間に、それほどの星辰力の差があったということですか・・・あのレスターさんの直接攻撃を左手だけで受け止めるなんて、どれほどの星辰力を持っていたら可能なんです・・・?」

 

 呆然としているサイラス。お、どうやらコイツは頭が回るみたいだな。

 

 「まぁそういうわけだ。お前の敗因は得体のしれない相手に、よく考えもせず突っ込んできたことだな。そんな戦い方しかしないから、ユリスに三回も負けるんだよ」

 

 「う、うるせぇ!余計なお世話だ!」

 

 「やれやれ・・・ま、俺が勝ったんだ。約束は果たしてもらうぞ」

 

 俺の言葉に、レスターが苦い顔をした。そして・・・

 

 「・・・悪かったよ。熱くなってたとはいえ、流石に言い過ぎた」

 

 「・・・別に」

 

 「お前はエリカ様か。いや、ユリス様か」

 

 「やかましい!」

 

 俺のツッコミに、顔を赤くして怒鳴るユリス。

 

 と、ランディとサイラスがレスターに肩を貸して立ち上がらせる。

 

 「行こう、レスター」

 

 「念の為、医務室で診てもらった方が・・・」

 

 「そんな必要ねぇよ」

 

 レスターはサイラスの言葉を一蹴する。そして俺の方を見た。

 

 「星野七瀬・・・今回は俺の負けだ」

 

 「おっ、素直に認めるのな」

 

 「あぁ、完敗だ。だが、俺は負けたまま終わるつもりはねぇ。ユリスと同じく、テメェにもリベンジしてやるからな」

 

 「なら、ユリスより前に俺にリベンジするんだな。俺に勝ったら、ユリスが決闘を受けてくれるってよ」

 

 「おい!?私はそんなこと一言も言ってないぞ!?」

 

 「安心しろ、ゴリラに負けるつもりは無い」

 

 「言ってくれるじゃねぇか。絶対ギャフンと言わせてやるよ」

 

 「そうかい。なら、せいぜい頑張れよ・・・レスター」

 

 初めてレスターの名前を呼ぶ。ニヤリと笑うレスター。

 

 「ハッ、覚悟しとけよ・・・七瀬」

 

 そう言うとレスターは、ランディとサイラスに連れられて去って行った。

 

 「いやー、すごいな七瀬!」

 

 草むらの陰から、野生の夜吹が飛び出してきた。

 

 「夜吹!?お前もいたのか!?」

 

 「よぉ、お姫様」

 

 「あれ、二人とも知り合いか?」

 

 「去年お姫様が転入してきたクラスが、俺のクラスだったんだよ」

 

 「へぇ・・・ユリスも災難だったな」

 

 「何でだよ!?」

 

 「全くだ。我ながら不運だったと思う」

 

 「ねぇ、何で俺の扱いってこんなに酷いの!?」

 

 『夜吹だから』

 

 「ハモった!?」

 

 ガックリと崩れ落ちる夜吹。

 

 「それはそうと夜吹、悪かったな。折角の《冒頭の十二人》同士の決闘を邪魔しちまって。大スクープだって言ってたもんな」

 

 「構わねぇよ。もっとデカいスクープが撮れたしな」

 

 満面の笑みを浮かべる夜吹。

 

 「入学初日にして序列九位になった男、星野七瀬!これは最高のスクープだぜ!」

 

 「・・・あ、俺《冒頭の十二人》になったのか」

 

 「今更か!?」

 

 ユリスのツッコミ。

 

 「正直全く意識してなかったわ。ユリスを侮辱されたことに腹が立っただけだし」

 

 「なっ・・・!」

 

 顔を赤くするユリス。夜吹がニヤニヤしている。

 

 「おやぁ?これは恋の予感かぁ?特ダネの匂いがするなぁ?」

 

 「だ、誰が恋だ!貴様のカメラを燃やしてやろうか!?」

 

 「ちょ、止めてえええええ!?」

 

 そのまま走って逃げて行く夜吹。全くアイツは・・・

 

 と、ユリスがチラチラと俺の方を見ていた。

 

 「ん?どうしたユリス?」

 

 「いや、その・・・ほ、本気なのか・・・?」

 

 「何が?」

 

 「私のことを・・・と、友達だと思っているというのは・・・」

 

 「当たり前だろ」

 

 言い切る俺。ユリスは驚いていた。

 

 「な、何故だ!?私は今日、お前にあんな冷たい態度をとったというのに!」

 

 「あ、冷たい態度っていう自覚はあったんだ」

 

 「バ、バカにするな!私にだってそれくらいの自覚はあるぞ!」

 

 「だったらもうちょっと愛想よくしろや」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まるユリス。

 

 「・・・私だって、好きであんな態度をとっているわけではない。ただでさえ私には、一国の姫という肩書きが付いて回る。簡単に心を許すことなど出来ないのだ」

 

 「何で?」

 

 「私が王族だから近づいてくる者も少なくないからだ。興味津々で質問攻めにしてくる者、何とか取り入ろうと媚を売ってくる者・・・正直ウンザリなのだ。皆は私を、ユリス個人としては見てくれない。それが嫌で、私は周りから距離を置いているのだ・・・」

 

 「ユリス・・・」

 

 「・・・レスターの言う通りだ。私にいてほしい者など、この学校には一人もいない」

 

 自嘲気味に笑うユリス。なるほど、今のコイツに必要なのは・・・

 

 「・・・ユリス」

 

 「え・・・?」

 

 ユリスをそっと抱きしめる俺。ユリスは一瞬驚き、すぐに顔を赤面させた。

 

 「な、な、な・・・・・!」

 

 「・・・お前はもっと、人の温かさに触れるべきだ」

 

 俺の言葉に、暴れていたユリスが動きを止めた。

 

 「初めての場所に来て、周りには知らない奴しかいなくて・・・そんなの誰だって心細いさ。特にユリスは一国のお姫様だからな。周りに気を許せないのも、今の話を聞いてよく分かった。だけどな・・・」

 

 俺はユリスを見つめた。

 

 「そんな奴しかいないわけじゃない。俺はユリスと仲良くなりたいと思ってる。王族だの何だのを抜きにしてな。クローディアだって、本気でお前のことを心配してた。お前は友達じゃないなんて言ってたけど・・・それでもクローディアにとって、お前は大切な友達なんだよ」

 

 ユリスの目に、みるみると涙が浮かんでいく。

 

 「そういう奴もいるんだよ。皆がお前の敵なわけじゃないんだ。周りに気を許せ、距離を置くななんて簡単には言わないけどさ・・・それでも・・・」

 

 俺はユリスに笑顔を向けた。

 

 「もう一人で頑張るなよ。辛い時は、いつだって頼ってくれて良いんだから」

 

 「・・・ッ!」

 

 ユリスの目から、とめどなく涙が溢れる。それでも嗚咽を必死に堪えるユリス。

 

 俺はユリスの背中に回した両手に、そっと力を込めた。

 

 「今ここには、俺達以外誰もいない。我慢しなくて良いんだぞ」

 

 右手をユリスの頭に持っていき、そのまま撫でる。

 

 「今までよく頑張ったな」

 

 「・・・ッ!七瀬・・・ッ!」

 

 限界だったようだ。初めて俺の名前を呼んでくれたユリスは、そのまま俺の胸に顔を埋めながら号泣した。

 

 俺はユリスが泣き止むまで抱きしめつつ、頭を撫で続けたのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

今回、主人公が決闘しています。

一瞬だけですが(笑)

個人的には、ユリスが七瀬に心を開くシーンを描きたかったんです。

今までがツンツンしてたので、これからデレさせたい!(願望)

それではまた次回!


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友人

文豪ストレイドッグス面白いわぁ・・・


 翌日。

 

 「全くお前は・・・起こしてやったのに何で二度寝するんだよ」

 

 「悪かったって。昨日は遅くまで学内新聞の記事を書いてたもんだからさぁ」

 

 夜吹とそんな会話をしつつ教室に入ると、既にユリスが席に着いて読書していた。

 

 「おはよう、ユリス」

 

 声をかけると、ユリスの身体がビクッと震えた。

 

 「あ、あぁ・・・おはよう・・・七瀬」

 

 ユリスの顔は、何故か真っ赤だった。と、その言葉にクラス中がざわめいた。

 

 「い、今お姫様が挨拶したよな!?」

 

 「確かに聞いたぞ!どういうことだ!?」

 

 「しかも今、星野くんのこと名前で呼んだよね!?」

 

 「やっぱり、あの二人ってそういう関係なの!?」

 

 おー、反応が凄い・・・中等部から上がってきてる奴らにとっては、ユリスのこの対応が信じられないんだろうな・・・

 

 「し、失敬だな貴様ら!私だって挨拶くらいは返すぞ!」

 

 「嘘だな。去年俺が挨拶したら、普通に無視されたぞ」

 

 「うぐっ!」

 

 夜吹の言葉に、何も言えなくなるユリス。

 

 「ユリス・・・せめて挨拶ぐらい返そうぜ」

 

 「あ、あれは夜吹だったから無視したのだ!」

 

 「うん、それなら納得だわ」

 

 「だから何でだよ!?」

 

 夜吹のツッコミ。と、クラスメイト達が集まってきた。

 

 「それより、学内新聞見たぜ!序列九位だって!?」

 

 「凄いね星野くん!入学初日に《冒頭の十二人》入りだなんて!」

 

 「あの《轟遠の烈斧》を打ち破るなんて、大したもんだぜ!」

 

 「星野くんとリースフェルトさんって、やっぱりそういう関係なの!?」

 

 おおう、何か話題になってるみたいだな・・・ん?

 

 「ちょっと待って。『やっぱりそういう関係』ってどういうこと?」

 

 質問してきた赤髪の女子生徒に尋ねる。

 

 「え、だって二人は付き合ってるんでしょ?」

 

 『ハァッ!?』

 

 思わずユリスと二人で叫ぶ。

 

 「どこからそんな話が!?」

 

 「あれ、学内新聞読んでないの?」

 

 女子生徒が手元の端末を操作すると、空間ウィンドウが開いた。そこには・・・

 

 『愛の力で《轟遠の烈斧》を撃破!騎士と姫の禁断の恋!?』

 

 大きな見出しと共に、俺がユリスを抱きしめている写真が掲載されていた。

 

 「な、何だこれは・・・ッ!?」

 

 最大まで顔を真っ赤にしたユリスが叫ぶ。なるほどな・・・

 

 「・・・おい夜吹」

 

 こっそり教室から逃げようとしていた夜吹が、ピタッと動きを止めた。

 

 「とりあえず言い訳を聞こうか?」

 

 「い、いや!これはつまり・・・その・・・」

 

 ダラダラと汗を垂らす夜吹。

 

 「夜吹、貴様・・・!」

 

 身体から炎を迸らせるユリス。昨日より怒ってるな・・・

 

 「消し炭にしてくれるわあああああっ!」

 

 「ごめんなさあああああいっ!」

 

 逃げる夜吹を追いかけるユリス。さよなら夜吹、お前のことは忘れるまで忘れない。

 

 「あらあら、朝から元気ですね」

 

 微笑みながら教室に入ってきたのは・・・

 

 「おぉ、クローディア。おはよう」

 

 「おはようございます、七瀬。学内新聞、拝見させていただきました」

 

 「・・・言っておくが、ユリスとはそういう関係じゃないからな」

 

 「あら、では何故ユリスを抱きしめたんですか?」

 

 「・・・ノーコメントで」

 

 「フフッ、それは残念です」

 

 楽しそうに笑うクローディア。

 

 「ですが・・・あの子と仲良くなったみたいですね」

 

 「これからだよ。ようやくアイツが作ってた壁を壊したってとこだ」

 

 「その壁、私は壊せなかったんですよ?それを一日で壊してしまうんですから、七瀬は凄いですね。流石は私の友人です」

 

 「そりゃどうも」

 

 「それと、序列九位もおめでとうございます。《冒頭の十二人》入りということで、資金面で色々と優遇されますよ。寮の部屋も個室をいただけますが、どうされますか?」

 

 「んー、とりあえず部屋は今のままで良いかな」

 

 「あら、夜吹くんと一緒の方が良いですか?」

 

 「・・・やっぱり個室もらおうかな」

 

 アイツが一緒だと、いつ新聞のネタにされるか分からないしな・・・

 

 「ま、今はそのままで良いよ。まだ入学二日目だし」

 

 「それもそうですね。気が向いたらお声掛け下さい」

 

 「了解」

 

 と、むすっとした表情のユリスが戻ってきた。

 

 「おー、ユリス。夜吹はどうした?」

 

 「逃げられた・・・全く、逃げ足だけは速い奴だ」

 

 ユリスから逃げ切ったのか・・・凄いな夜吹。

 

 「おはようございます、ユリス」

 

 「・・・クローディアか」

 

 微笑むクローディアに対し、不機嫌な表情のユリス。

 

 「何か用か?」

 

 「あら、用が無くては来てはいけないのですか?」

 

 「・・・別に」

 

 「でた、ユリス様」

 

 「うるさいぞ七瀬!」

 

 ユリスが俺の頬をつねってくる。

 

 「いふぁいっふぇ(痛いって)」

 

 「やかましい!お前などこうしてやる!」

 

 「ふぁふぇふぇ~(止めて~)」

 

 ユリスが両手で俺の頬をつねっているのを見て、クラス中が驚いていた。

 

 「おい、あのお姫様があんなことしてるぞ!」

 

 「やっぱりあの二人、ただならぬ関係ね!」

 

 「だ、断じて違うぞ!」

 

 赤面しながら一喝するユリスだったが、誰も聞いてはいなかった。

 

 「フフッ。では、後はお二人でごゆっくり」

 

 「クローディア!?お前まで何を言う!?」

 

 笑いながら去ろうとするクローディア。去り際、俺の耳元で一言囁いた。

 

 「・・・ユリスのこと、よろしく頼みますね」

 

 「・・・了解」

 

 俺の返事に満足げに微笑むと、クローディアは教室から出て行った。

 

 「全く、何なのだアイツは・・・」

 

 「来てくれて嬉しかったくせに」

 

 「う、嬉しくなどない!」

 

 「お、照れてる?」

 

 「照れてないわ!」

 

 全力で否定するユリス。素直じゃないなぁ・・・

 

 「・・・全く。我が『友人』ながら、お前の相手をするのは大変だな」

 

 ユリスがため息をつく・・・ん?

 

 「ユリス、今俺のこと『友人』って言った?」

 

 「・・・ッ!」

 

 途端に赤面するユリス。ほほう・・・

 

 「そっかぁ、『友人』かぁ」

 

 「な、何をニヤニヤしているのだ!?」

 

 「べっつにぃ?」

 

 「ニヤニヤするのを止めろおおおおおっ!」

 

 ユリスはそう叫ぶと、両手で顔を覆ってしまった。

 

 「あれ、ユリス?」

 

 「・・・ダ、ダメか?」

 

 「え?」

 

 「私がお前を・・・『友人』と呼んでは・・・ダメか?」

 

 「・・・ダメなわけないだろ」

 

 ユリスの頭を撫でる俺。

 

 「言ったろ、俺はユリスの友達だって」

 

 「七瀬・・・」

 

 俺はユリスに笑顔を向けた。

 

 「改めてよろしくな、ユリス」

 

 ユリスに手を差し出す。ユリスは驚いていたが、俺の手をとった。

 

 「こちらこそよろしく頼む、七瀬」

 

 初めて見たユリスの笑顔は、最高に可愛かった。と・・・

 

 「あの二人、マジで付き合い始めたのか!?」

 

 「禁断の恋キター!」

 

 「お前らいい加減にしろおおおおおっ!」

 

 盛り上がるクラスメイト達に叫ぶユリス。と、担任の谷津崎先生が教室に入ってきた。

 

 「お前ら席に着けー。特にそこのバカップル、イチャついてないで席に着けー」

 

 「だ、誰がバカップルですか!」

 

 「お前と星野だよ、リースフェルト。学内新聞、教師の間でも話題になってんぞ?」

 

 「な、な、な・・・!」

 

 今にも顔から火が出そうなユリス。

 

 本当はあんなに感情が豊かなんだな・・・これからはもっと、自分の素を出していけると良いんだが・・・

 

 

 

 『君はもっと、人の温かさに触れるべきだよ』

 

 

 

 昔、ある人に言われた言葉だ。まさか俺が言う日が来るなんてな・・・

 

 「おい星野、ボーっとしてないで早く席に着け」

 

 「あぁ、スミマセン。八つ裂き先生」

 

 「何か変な漢字に変換しなかったか!?」

 

 「気のせいですよ」

 

 俺は笑いながら席に着いた。そして気付いた。

 

 「・・・あ、紗夜がいない」

 

 放課後・・・職員室に出頭した紗夜は、寝坊したと弁明。

 

 ユリスが怖くて教室に戻れなかった夜吹と一緒に、谷津崎先生にこっぴどく叱られたのだった。

 




二話続けての投稿となります。

投稿出来る日が有ったり無かったりラジバンダリ←古いww

不定期ではありますが、温かく見守っていただけると幸いです。

この作品を読んで下さっている方々、お気に入りに登録して下さっている方々、本当にありがとうございます。

感想等もお待ちしておりますので、気が向きましたらコメントしていただけるとありがたいです。

それではまた次回!



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第二章《姫焔襲撃》
パートナー


藍井エイルさんの曲を、ヘビロテして聴く今日この頃・・・


 星導館に入学して、早くも二ヶ月が経とうとしていた。

 

 俺は相変わらず、序列九位のままだ。いや、維持しているというべきか。序列上位者には挑まず、公式序列戦の挑戦者には勝っているといった状況だ。《冒頭の十二人》の座に執着は無いが、戦いに負けるのは癪に障るからな。

 

 そんなこんなで、今日も平和な朝を・・・

 

 「夜吹いいいいいッ!」

 

 「助けてえええええっ!」

 

 迎えられなかった。登校してくると、何故か夜吹がユリスに追い掛け回されていた。

 

 夜吹の奴、今日は早めに登校するとか言ってたけど・・・何をやらかしたんだ?

 

 「あ、ななっち!おはよー!」

 

 クラスメイトの一人、シャノン・ソールズベリーが挨拶してくれる。俺とユリスの関係に興味津々だった、あの赤髪の女の子である。

 

 「おはようシャノン。何があったんだ?」

 

 「んー、夜吹くんの自業自得だね」

 

 苦笑するシャノン。

 

 「夜吹くん、また学内新聞でお姫様の記事を書いたんだよ。それがお姫様の不興を買っちゃったの」

 

 「どんな記事なんだ?」

 

 「これだよ」

 

 シャノンが空間ウィンドウを開く。そこには・・・

 

 『丸くなった《華焔の魔女》、これも《覇王》との愛の影響か!?』

 

 なるほど、こりゃユリスも怒るわ・・・ちなみに《覇王》とは、いつの間にか付いていた俺の二つ名である。

 

 ってか夜吹の奴、余計なこと書きやがって・・・

 

 「・・・シャノン、残念なお知らせだ。今日限りでクラスメイトが一人この世を去る」

 

 「それ絶対夜吹くんのことだよね!?」

 

 「さて、消すか・・・」

 

 「止めたげてよぉ!」

 

 シャノンが必死で俺を止めようとしている中、夜吹はユリスに追い詰められていた。

 

 「・・・夜吹、覚悟はいいな?」

 

 「ま、待ってくれ!これに訳があるんだ!」

 

 「訳だと?」

 

 怒り心頭のユリスに、夜吹が必死で言い訳していた。

 

 「俺はただ、お姫様が七瀬と出会ってから変わったって書いただけなんだよ!でも部長が『面白みに欠けるわね』とか言い出して、見出しと内容をいじったんだ!これは俺のせいじゃない!」

 

 「・・・その部長とやら、ろくな奴じゃないな」

 

 「ごもっとも」

 

 苦笑する夜吹。

 

 「これで分かってくれたか?俺は何も悪く・・・」

 

 「いや、お前が悪い」

 

 「何で!?」

 

 「そもそも二ヶ月前、私と七瀬が恋人だという嘘の記事を書いたのはお前だ!お前に非があるだろう!」

 

 「うっ・・・」

 

 言葉に詰まる夜吹。一方、ユリスは身体から炎を迸らせていた。

 

 「さて・・・覚悟はいいな?」

 

 「ヒィッ!?」

 

 「・・・うるさい」

 

 机に突っ伏して寝ていた紗夜が、むくりと起き上がった。

 

 あ、ヤバい・・・睡眠を妨害された時の紗夜は、メッチャ機嫌が悪くなるんだよな・・・

 

 「・・・三十八式煌型擲弾銃ヘルネクラウム」

 

 自分より巨大な銃を展開し、ユリスと夜吹に銃口を向ける紗夜。星辰力が急速に高まっていき、マナダイトが輝きを増す。

 

 「マズい!?シャノン、逃げるぞ!」

 

 「え・・・きゃっ!?」

 

 シャノンを抱えて教室を飛び出す。その瞬間、耳をつんざくような轟音が響き渡った。

 

 あー、やっちゃった・・・

 

 「・・・クラスメイト、何人いなくなったかな」

 

 「怖いこと言わないでよ!?」

 

 シャノンのツッコミ。結局クラスメイト達は無事だったが、主犯の紗夜と元凶のユリス&夜吹は谷津崎先生の怒りを買い、無事では済まなかったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「全く・・・今日は酷い目に遭った・・・」

 

 「お疲れ」

 

 肩を落とすユリスに、苦笑しながら労いの言葉をかける俺。授業も終わり、俺達は寮へ帰る途中である。

 

 「おのれ夜吹、沙々宮・・・許さんぞ」

 

 「まぁまぁ、そう怒んなって」

 

 「ハッ、相変わらずだな」

 

 そんな声が聞こえる。振り向くと、レスターが呆れ顔で立っていた。後ろには、ランディとサイラスもいる。

 

 「おぉ、レスターじゃん!聞いたぞ、もうすぐ《冒頭の十二人》復帰だって?」

 

 「あぁ、ようやく序列十七位まできたぜ」

 

 俺との決闘に負けたレスターは、《冒頭の十二人》から一気に序列外となった。

 

 だが、そんなことで凹むレスターではない。決闘や公式序列戦を利用し、遂に序列十七位となったらしい。

 

 凄いな・・・

 

 「今月の公式序列戦で《冒頭の十二人》に挑戦するつもりだ」

 

 「そうか・・・私を指名できない以上、七瀬を指名するつもりか?」

 

 ユリスの質問に、レスターは首を横に振った。

 

 「いや、七瀬は指名しねぇ。戦うなら同じ土俵に立ってから・・・《冒頭の十二人》に返り咲いてからだ」

 

 「そっか・・・次に戦えるのを楽しみにしてるよ」

 

 「そうやって余裕をかましてられるのも今のうちだぞ、七瀬!」

 

 ランディが前に出てくる。

 

 「次こそはレスターが、お前をコテンパンにするんだからな!覚悟しとけ!」

 

 「あ、序列外になったランディじゃん」

 

 「それを言うなあああああっ!」

 

 頭を抱えるランディ。ランディも序列七十二位で《在名祭祀書》入りしていたのだが、先日の決闘で挑戦者に敗れてしまった。結果、序列外になってしまったのである。

 

 「ドントマインド」

 

 「普通にドンマイって言えよ!逆に腹立つわ!」

 

 ランディのツッコミ。

 

 「ってか、サイラスは決闘とかやらないのか?」

 

 「ぼ、僕はそういうのはちょっと・・・弱いですし」

 

 「でも《魔術師》なんだろ?」

 

 「僕の場合、能力が弱いので・・・」

 

 小さい声でボソボソと話すサイラス。確かに、戦闘向きって感じじゃないな。

 

 「じゃ、俺達はもう行くぜ。訓練があるからな」

 

 「熱心だなぁ」

 

 レスターの言葉に感心する俺。

 

 「もうすぐ《鳳凰星武祭》だからな。俺はランディと組んで出場するつもりだ」

 

 「なるほど、道理で気合いが入ってるわけだ」

 

 「嫌でも気合いは入るさ。だが、まずは今月の公式序列戦だ。《冒頭の十二人》なら、トーナメントで比較的楽な場所に配置される可能性が高いからな」

 

 「あー、そういうことか」

 

 一回戦から潰し合いにならないよう、有力な選手は分散されるからな。《冒頭の十二人》なら尚更だ。

 

 「お前らもコンビを組んで出るのか?」

 

 「んー、ユリスと一緒なら出ても良いかなって思ったんだけど・・・どうやらユリス、俺をご所望じゃないみたいなんだ」

 

 「は・・・?」

 

 「だ、誰もそんなことは言ってないぞ!?」

 

 慌てて否定するユリス。

 

 「私はただ、お前に甘えたくないだけだ!きちんと自分でパートナーを探して、自分の力で出場したいのだ!」

 

 「ハイハイ、分かってるって」

 

 俺は苦笑した。ユリスはホント不器用だなぁ・・・

 

 「・・・まぁ気持ちは分かったが、急いだ方が良いぞ。《鳳凰星武祭》のエントリー締め切りは今月いっぱいだしな」

 

 「わ、分かっている!必ず間に合わせる!」

 

 「それなら良いが・・・じゃ、またな」

 

 そう言って、レスター達は去っていった。

 

 「・・・なぁユリス」

 

 「な、なんだ?」

 

 「真面目な話、どうしてもパートナーが見つからなかったら・・・その時は諦めて俺と出よう。出場できない事態だけは避けたいだろ?」

 

 「うっ・・・それはそうだが・・・」

 

 言葉に詰まるユリス。

 

 以前話してくれたのだが、ユリスは母国の孤児院を救いたいらしい。その孤児院は年々孤児が増える一方、資金繰りが厳しくなっているそうだ。孤児院を救えるだけのお金を手に入れる為、ユリスはどうしても《鳳凰星武祭》で優勝したいのだという。

 

 それなら、《鳳凰星武祭》に出場できないと話にならない。

 

 「ユリスは甘えたくないって言うけど、俺は前に言ったろ?もう一人で頑張るな、いつだって頼ってくれて良いって」

 

 「七瀬・・・」

 

 「だから約束だ。もしパートナーが見つからなかったら、その時は俺と出よう。俺なんかじゃ頼りないかもしれないけど、出れなくなるよりマシだろ?」

 

 「た、頼りなくなんかない!私は誰よりもお前のことを頼りにしている!」

 

 赤面しながら叫ぶユリス。

 

 「ただ・・・お前だって、《鳳凰星武祭》に出るなら早くパートナーを見つけないといけないだろう?私を待ってくれるのはありがたいが、申し訳ないというか・・・」

 

 「心配すんな。俺は元々、《鳳凰星武祭》に出るつもりはなかったんだ。ただ、ユリスと一緒なら出ても良いかなって思った。だから、ユリス以外の奴と出るつもりは無いさ」

 

 「そ、そうなのか・・・?」

 

 「あぁ、だからお前は安心してパートナーを探せ。最悪見つからなくても俺がいるんだから、焦ったり妥協したりする必要は無い。コイツとだったら出たい・・・そう思えるパートナーを探すんだぞ」

 

 「う、うむ!頑張るぞ!」

 

 「そうそう、その意気だ」

 

 ユリスの頭を撫でる俺。

 

 「・・・ありがとう、七瀬」

 

 頬を赤く染めつつ、小さく呟くユリスなのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

昨日、藍井エイルさんの活動休止前最後のライブに行ってきました。

楽しくて、盛り上がって、感動して・・・

エイルさん、ありがとう。

復帰してくれる日を、いつまでも待っています。

・・・小説と全く関係無い話でスミマセン(笑)

それではまた次回!


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同居

眠い・・・

もっと早く寝るんだった・・・


 「・・・ここだよな?」

 

 夜、俺はベランダにいた。しかも女子寮最上階の部屋の、である。

 

 言っておくが、決して不埒な目的の為ではない。クローディアから呼び出されたので、《星脈世代》の身体能力でここまで登ってきたのだ。

 

 「やってることはただの不法侵入だよな・・・」

 

 ため息をつきつつ、窓を開けて中に入る。クローディアの言ってた通り、ちゃんと窓が開いてたな。

 

 「失礼しまーす・・・クローディア?」

 

 呼びかけてみるが、返事は無い。

 

 ってか、この部屋広くね?寝室みたいだが、まるで高級ホテルだな・・・と、部屋の扉が開いた。

 

 「あら七瀬、いらしていたのですね」

 

 「おぉ、お邪魔して・・・」

 

 そこまで言って、俺はフリーズしてしまった。

 

 目の前に、生まれたままの姿のクローディアが立っていたのだ。細くくびれた腰、しなやかな太もも、そしてたわわに実った胸まで全て丸見え・・・

 

 まごうことなき全裸である。

 

 「ちょ、え!?何で裸!?」

 

 「シャワーを浴びていたものですから」

 

 恥ずかしがることもなく、堂々と自分の裸を晒すクローディア。そのままクローゼットまで歩いていき、中からバスローブを取り出して羽織った。

 

 「すみません、お見苦しい姿をお見せしました」

 

 「いや、その・・・ご馳走様です」

 

 「フフッ、こんな貧相な身体で喜んでいただけたのですか?」

 

 「うん、とりあえず紗夜に謝れ」

 

 今のセリフを聞かれたら、俺が紗夜に謝るハメになりそうだが。

 

 「紗夜?あぁ、沙々宮紗夜さんですか。今日の朝、教室を半壊させた方ですよね?おかげで今日の仕事が増えました」

 

 「・・・何かすいませんでした」

 

 心なしか怒っているような感じがするクローディアに、俺は思わず謝った。いや、別に俺は何もしてないんだけどな。

 

 「まぁそれはさておき・・・どうぞお掛けになって下さい」

 

 後ろの椅子を勧めてくれるクローディア。俺はお言葉に甘えて椅子に座り、クローディアはベッドに腰掛けた。

 

 「遅くに呼び出してしまってすみません」

 

 「いや、大丈夫だよ。クローディアこそ、女子寮に男子を入れて大丈夫なのか?」

 

 「問題ありません。自警団も不法侵入者には制裁を加えますが、個人の交友関係には口出ししませんので」

 

 「・・・つまり自らの意思なら、異性を入れても構わないと?」

 

 「そういうことです」

 

 マジか・・・その辺り、星導館は結構緩いんだな・・・

 

 「一応異性の寮へ入る場合には、正規の手続きを済ませる決まりになっているのですが・・・面倒ですので、今回はこういう形で入ってきていただきました」

 

 「生徒会長が決まりを守らなくて良いのかよ・・・」

 

 「あら、通報ボタン一つで不法侵入者になるのは七瀬ですよ?」

 

 「すみません、マジで勘弁して下さい」

 

 この性悪女、いざという時はそれを使うつもりか・・・

 

 「で、どうしたよ?わざわざ自分の部屋に呼び出したりして」

 

 「実は、七瀬にお願いがありまして」

 

 「お願い?」

 

 「はい。一週間後、七瀬のクラスに転入生が来るんです」

 

 「マジで?」

 

 入学から二ヶ月しか経っていないこの時期に、転入生が来るというのは珍しいことだ。

 

 「ひょっとして・・・訳ありか?」

 

 「そういうわけでは無いんですが・・・彼を特待生として何度も勧誘したのですが、全て断られてしまいまして。ようやく心変わりしてくれたようで、今月から転入してくれることになったんです」

 

 「なるほど・・・そんなに凄い奴なのか?」

 

 「いえ、実績はほとんどありません」

 

 「は・・・?」

 

 え、どういうこと?

 

 「だって、特待生として何度も勧誘したって・・・」

 

 「ぶっちゃけスカウト陣からは猛反対を受けましたが、生徒会長の権力を使って無理矢理押し通しました。権力万歳です」

 

 「何してんのお前!?」

 

 アカン、完全に独裁者だよこの子!

 

 「ってか、そこまでして何で勧誘したんだ?」

 

 「詳しくは言えませんが・・・先見の明、とだけ言っておきます」

 

 「先見の明、ねぇ・・・」

 

 まぁクローディアのことだし、何か考えがあるんだろうけど・・・

 

 「で、俺に何を頼みたいんだ?」

 

 「彼を受け入れるにあたって、一つ問題がありまして」

 

 「と言うと?」

 

 「男子寮の空き部屋が無いんですよ。現在増設工事を行っているんですが・・・彼が来るまでには間に合いそうもありません」

 

 「え、ヤバいじゃん。どうすんの?」

 

 「そこで七瀬には、部屋を移動していただきたいんです。七瀬は《冒頭の十二人》ですから、特権で個室をいただけますし」

 

 「あー、そういうことか」

 

 そういや、前にそんな話をクローディアが言ってたな。あの時はそのままで良いって言ったから、今も夜吹と一緒の部屋なわけだが。

 

 「了解、移動するよ。転入生の部屋が無いと困るしな」

 

 「ありがとうございます。ただ、もう一つ問題が・・・」

 

 「え、まだあんの?」

 

 「えぇ。先ほども言いましたが、『男子寮の空き部屋が無い』んです」

 

 「あぁ、さっき聞いた・・・って、まさか個室も無いのか!?」

 

 「そうなんです。全て埋まっていまして・・・」

 

 申し訳なさそうな顔のクローディア。え、マジでヤバいじゃん!

 

 「じゃあ俺、どうしたら良いんだ!?」

 

 「そこで提案なのですが・・・ここに住みませんか?」

 

 「・・・は?」

 

 え・・・どういうこと・・・?

 

 「ここ・・・女子寮の私の部屋で、一緒に住みませんか?」

 

 「・・・ハァッ!?」

 

 いやいやいや!何でそうなった!?

 

 「それはマズいだろ!?」

 

 「あら、私と一緒は嫌ですか・・・?」

 

 悲しげな表情のクローディア。

 

 「そうじゃなくて!そもそも学校から許可が下りないだろ!」

 

 「下りましたよ?」

 

 「はい!?」

 

 「特例措置として、ちゃんと許可は下りました。状況が状況ですから、学校側も認めざるを得なかったんでしょう」

 

 クローディアの言葉に愕然とする俺。

 

 男子が女子寮に住むこともそうだが、女子と同じ部屋に住むことを認めるとは・・・いくら何でも緩すぎやしないか?

 

 「こことは別にもう一つ広い寝室がありますので、七瀬にはそちらを使っていただきます。今住んでいる部屋よりも全然広いですよ」

 

 「いや、そういうことじゃなくて・・・」

 

 「お風呂やトイレは私と共用になってしまいますが、どうぞご容赦下さい」

 

 「あの、クローディア・・・?」

 

 「それでは一通りご案内しますので、分からないことは何でも聞いて下さいね」

 

 「人の話を聞けえええええ!」

 

 叫ぶ俺に、キョトンとしているクローディア。

 

 「あら、どうされました?」

 

 「どうされました?じゃないわ!何であっさり受け入れてんの!?」

 

 「許可は下りましたよ?」

 

 「そういう問題じゃなくて!男と一緒に住むなんて、普通は嫌だろ!?」

 

 「私は構いませんよ」

 

 「何で!?」

 

 何でこんな平然としてられんの!?友達とはいえ男と一緒に住むなんて、普通の女子は嫌がるもんじゃないのか!?

 

 「だって七瀬ですし」

 

 あっけらかんと答えるクローディア。

 

 「相手がよく知りもしない男子だったら、私だってこんな提案はしません。それこそ、夜吹くんなら本気でお断りですね」

 

 あ、夜吹がフラれた・・・ドンマイ。

 

 「私がこの学校で唯一信頼できる男子の友人は、七瀬しかいません。だから七瀬なら一緒に住んでも良いって、そう思ったんです」

 

 「クローディア・・・」

 

 「それとも・・・七瀬は嫌ですか?私と一緒に住むというのは・・・」

 

 シュンとするクローディア。ハァ・・・

 

 「・・・別に嫌じゃないぞ」

 

 「それでは決定ですね」

 

 「切り替え早いなオイ!?」

 

 コイツ・・・まさかさっきの演技か!?

 

 「フフッ、もう私の演技には騙されないんじゃなかったんですか?」

 

 「騙されたあああああっ!?」

 

 悪戯っぽく笑うクローディアを見て、崩れ落ちる俺。こんなの卑怯すぎるだろ!

 

 「やっぱり七瀬は信頼できますね」

 

 「どういうこと!?」

 

 「純粋に私を信じてくれますし、心が綺麗だということです」

 

 「何か貶されてない!?」

 

 「あら、褒めてるんですよ?」

 

 笑うクローディア。

 

 「では、明日からここに住むということで。七瀬が使う寝室はしっかり清掃しておきましたので、七瀬も帰ったら引っ越しの準備をして下さいね」

 

 「・・・了解」

 

 ハァ・・・もうどうにでもなれ・・・

 

 「同居するんですし、呼び方もダーリンに変えましょうか?」

 

 「誰がダーリンだ!」

 

 何故か嬉しそうなクローディアなのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

七瀬、クローディアと同居するってよ。

・・・チッ。

まぁ自分が書いてるんですけどねww

さて、特待転入生とは何霧綾斗くんのことなのか←

それではまた次回!


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勧誘

乃木坂46の新曲『サヨナラの意味』がメッチャ良い。


 翌日、俺はクローディアの部屋へと引っ越した。その話はたちまち学校中に広まってしまい、クラスメイト達から質問攻めに遭ったのだった。

 

 「マジで勘弁してくれ・・・」

 

 机に突っ伏す俺。そんな俺を見て、ユリスが苦笑していた。

 

 「男子が女子寮で暮らすなど、前例が無いからな。しかも生徒会長と同居となると、噂されても仕方あるまい」

 

 「もう一つの噂では、七瀬がリースフェルトとエンフィールドに二股をかけていることになっている」

 

 「ハァッ!?」

 

 紗夜の発言に、思わず顔を上げる俺。

 

 「そんな噂になってんの!?」

 

 「この学内新聞を見ると良い」

 

 紗夜が開いた空間ウィンドウには・・・

 

 『《覇王》、女性関係も《覇王》の地位を確立か!?』

 

 「・・・やーぶーきー?」

 

 「ち、違うぞ七瀬!これはだな・・・」

 

 「言い訳無用おおおおおっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 夜吹の腹をぶん殴る。そのまま、教室のドアごと廊下まで吹っ飛んでいく夜吹。

 

 「お前らー、席つけー・・・って、うおおおおおっ!?」

 

 ちょうどやってきた谷津崎先生が、慌てて避ける。

 

 「誰だ!?教室のドアをぶっ壊した奴は!?」

 

 「夜吹です」

 

 夜吹に罪を擦り付ける俺。

 

 「夜吹いいいいいっ!またテメエかあああああっ!」

 

 「ギャアアアアアッ!?」

 

 夜吹の断末魔の叫びが聞こえてくるが、無視して再び机に突っ伏した。

 

 「・・・七瀬、意外と容赦無い」

 

 「いや、夜吹の自業自得だろう」

 

 唖然としている紗夜と、呆れているユリスなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ハァ・・・疲れた」

 

 「お疲れ様でした」

 

 リビングの椅子にぐったりと座る俺を、クローディアが苦笑しながら労わってくれる。

 

 「クローディアは質問攻めに遭わなかったか?」

 

 「遭いましたよ。全部『はい』とお答えしておきました」

 

 「何でだよ!?適当に肯定すんの止めてくんない!?」

 

 「面倒でしたので」

 

 「気持ちは分かるけども!」

 

 マジかよ・・・メッチャ誤解されてそうだな・・・

 

 「まぁ良いじゃないですか、ダーリン」

 

 「誰がダーリンだ!」

 

 「では・・・あなた?」

 

 「だから何で旦那扱いなの!?」

 

 「フフッ、冗談です」

 

 楽しそうに笑うクローディア。ホントにコイツは・・・

 

 「ところで七瀬」

 

 クローディアが急に真面目な表情になる。

 

 「《鳳凰星武祭》に出場するおつもりは無いのですか?」

 

 「・・・ユリス次第だな。ユリスがパートナーを見つけられなかったら、一緒に出るさ」

 

 「ユリス以外と出るおつもりは無いと?」

 

 「あぁ、元々《鳳凰星武祭》に出るつもりも無かったしな。でもユリスが戦う理由を聞いて、俺で力になれるならなりたいと思ったんだよ。だからもしユリスがパートナーを見つけたら、俺に《鳳凰星武祭》に出る理由は無い」

 

 「そうですか・・・星導館としては、《冒頭の十二人》の一人である七瀬には出場していただきたいところですが・・・」

 

 「まぁ、まだどうなるか分からないけどな。期待に添えなかったら悪い」

 

 「いえ、出場はあくまでも本人の自由ですので。お気になさらず」

 

 笑うクローディア。生徒会長としては出てほしいんだろうが、一切強要せずに本人の意思を尊重してくれる・・・

 

 ホント、性悪だけど良い女だよ。

 

 「では生徒会長としてではなく、個人的に七瀬に考えていただきたい話があります」

 

 「と言うと?」

 

 「来年の秋に行われる《獅鷲星武祭》に、私のチームの一員として出場していただきたいのです」

 

 「・・・ずいぶんと気が早いな」

 

 苦笑する俺。

 

 「まだ《鳳凰星武祭》も始まってないのに、もう《獅鷲星武祭》を見据えてるのか?」

 

 「私は出場する《星武祭》を《獅鷲星武祭》に絞っていますので。今のうちからチームメンバーを集め、戦略を練らないといけないんです」

 

 「じゃあ、クローディアは《鳳凰星武祭》に出ないのか?」

 

 「えぇ、《獅鷲星武祭》一本と決めていますので。《獅鷲星武祭》はチーム戦ですから、優勝する為には頼りになるチームメンバーが必要なんです。そこで是非、七瀬に私のチームに加わっていただけないかと思いまして」

 

 珍しく熱を帯びた口調のクローディア。なるほどな・・・

 

 「話は分かったが・・・何で俺なんだ?俺より強い奴なんて、腐るほどいるだろうに」

 

 「私は『強い人』ではなく、『頼りになる人』を探していますので。七瀬のことは、本当に頼りにしているんですよ?」

 

 「俺を・・・?」

 

 「えぇ、勿論」

 

 微笑むクローディア。

 

 「七瀬は、ユリスの心を開いてくれました。私が七瀬を頼りにするには、十分すぎる理由です」

 

 「クローディア・・・」

 

 「それに、あのマクフェイルくんを一撃で倒した実力も買っています。ですから七瀬には、どうしても私のチームに加わっていただきたいのです」

 

 そう言って俺を見つめるクローディアの目は、真剣そのものだった。どうやらクローディアは、本気で《獅鷲星武祭》優勝を狙っているようだ。

 

 「今すぐ結論を出してくれ、とは言いません。検討していただけないでしょうか?」

 

 「・・・分かった、真剣に考えてみる。結論を出すまで、少しだけ時間をもらっても良いか?」

 

 「勿論です。《鳳凰星武祭》が終わってからで結構ですよ。一つ言っておくと、ユリスは勧誘するつもりです」

 

 「マジか」

 

 ユリスの目標は、今シーズンの《星武祭》の全制覇・・・グランドスラムだ。クローディアのチームへの勧誘なら、まず断ることは無いだろう。何せ星導館の序列二位が率いるチームだからな。

 

 「なら、俺も前向きに検討するかな」

 

 「フフッ、よろしくお願いします」

 

 この話はここまでというように、クローディアがパンッと手を打つ。

 

 「さて、そろそろ夕食時ですね。今日は街で外食でもしませんか?この間、良いお店を見つけたんです」

 

 「じゃ、そこに行ってみるか。ってか、クローディアって外食すること多いのか?」

 

 「時々、といった感じですね。最近は街を探索する為に、外食することが多いですが」

 

 「探索?中等部からアスタリスクにいるなら、街のことも詳しいんじゃないのか?」

 

 「勿論ある程度は知っていますが、全ては把握しきれませんよ。特にお店に関しては、入ったことの無いお店の方が多いですし」

 

 「へぇ、そういうもんか?」

 

 「そういうもんです。転入生もやって来ますし、生徒会長として色々と教えて差し上げたいじゃないですか。ですので、最近街を探索しているんです」

 

 「真面目だなぁ」

 

 苦笑する俺。

 

 「そういや、転入生ってどんな奴なんだ?」

 

 「この方です」

 

 クローディアが空間ウィンドウを開く。そこには、一人の男子の顔が映っていた。

 

 「天霧綾斗・・・何か優しそうな奴だな」

 

 「えぇ、私もそう思いました。実家は剣術道場のようですね」

 

 「へぇ・・・クローディアの先見の明が正しいと良いな」

 

 「これで間違っていたら、私の面目は丸つぶれですね」

 

 「ま、大丈夫だろ」

 

 何だかんだで、転入生が来るのを楽しみにしている俺なのだった。

 




二話続けての投稿です。

明日・明後日は、恐らく投稿できません。

ですので、次回の投稿日は明々後日になる予定です。

次回は綾斗と、あの大人気キャラが登場します。

それではまた次回!


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襲撃

何だか急に寒くなったなー。

もう年末感がします(笑)


 転入生がやってくる日となった。クローディアが転入生と待ち合わせをしているらしいので、俺達はいつもより早く寮を出た。

 

 「七瀬まで私に付き合う必要は無いんですよ?いつも通りの時間で十分でしたのに」

 

 「一人で登校すんのもつまんないしな。クローディアと一緒の方が楽しいんだよ」

 

 「そ、そうでしょうか・・・?」

 

 頬を赤らめているクローディア。あ、珍しく照れてるな・・・

 

 「それに、例の転入生にも早く会ってみたいしな」

 

 「七瀬やユリスと同じクラスですからね。七瀬は仲良くできると思いますが、ユリスはどうでしょう・・・」

 

 「・・・確かに」

 

 最近のユリスは、少しずつ変わってきている。クラスメイトからの挨拶も、一応返すようにはなった。

 

 しかし心を開いたわけではなく、未だにクラスで普通の会話が出来るのは俺だけだ。俺がいないと、紗夜や夜吹とでさえほとんど会話しない。

 

 「夜吹みたいに機嫌を損ねるようなことさえしなきゃ、大丈夫だとは思うが・・・」

 

 「あの子は血の気が多いですからね・・・『気に食わない』なんて言って決闘を吹っ掛けたりしないと良いんですが・・・」

 

 「いやいや、流石のユリスもそこまでは・・・」

 

 俺が笑って否定しようとした時、近くで爆発音が聞こえた。

 

 「・・・嫌な予感がする」

 

 「・・・同感です」

 

 冷や汗ダラダラの俺とクローディア。急いで音のした方へ走ると、何やら人だかりができていた。事情を聴く為、近くにいた銀髪の女の子に声をかける。

 

 「ゴメン、ちょっと良いか?」

 

 「え、私ですか?」

 

 「そうそう。これ、一体何の騒ぎ?」

 

 「あぁ、決闘ですよ」

 

 女の子が指差した方を見ると・・・

 

 「咲き誇れ!六弁の爆焔花!」

 

 ユリスが大技を放とうとしていた。対峙しているのは、例の転入生である。

 

 「アイツ何してんだあああああっ!」

 

 「不安的中ですね・・・」

 

 思わず叫ぶ俺と、頭を抱えるクローディア。一方、女の子は焦っていた。

 

 「お二人とも、急がないとマズいですよ!?爆発に巻き込まれる前に逃げないと!」

 

 その瞬間、ユリスの大技が放たれた。爆発する直前、俺はクローディアと女の子の前に立って両手を前に突き出した。

 

 次の瞬間、炎の爆風がやってくる。

 

 「えぇっ!?」

 

 「七瀬ッ!?」

 

 「大丈夫だ」

 

 クローディアの叫びに、一言だけ答える俺。二人とも、すぐに気付いたようだ。

 

 「爆風が・・・来ない?」

 

 そう、爆風は俺の両手で防がれている。その為、俺の後ろには爆風がいかないのだ。

 

 「そんな・・・一体どうやって・・・?」

 

 「・・・星辰力ですね」

 

 クローディアの声が聞こえる。

 

 「七瀬の両手に、大量の星辰力が集まっています。あれで防いでいるのでしょう」

 

 「これだけの爆風を、星辰力だけで防いでいるということですか!?」

 

 驚愕している女の子。

 

 「でも星辰力は、防御に全て回してもダメージを軽減する程度ですよね!?完全なノーダメージで防ぐなんて可能なんですか!?」

 

 「普通は無理でしょう。ですが七瀬の尋常ではない星辰力量が、それを可能にしています。《覇王》という二つ名は、この膨大な星辰力量から付けられたのですよ」

 

 そう言うクローディアの声には、感嘆の意が込められていた。あ、それで《覇王》なんていう仰々しい二つ名が付いたのか。

 

 ってか・・・

 

 「あの転入生、無事かなぁ・・・」

 

 至近距離であの爆発に巻き込まれた以上、いくら《星脈世代》でもただでは済まないだろう。転入生の身を案じていた時だった。

 

 「天霧辰明流剣術初伝・・・貳蛟龍!」

 

 炎が十文字に切り裂かれ、無傷の転入生が現れた。

 

 「マジか・・・やるなぁ」

 

 思わず感心する俺。あれを突破するのは、並大抵の奴じゃ不可能だろう。

 

 転入生は、一息でユリスとの間合いを詰めた。そしてユリスの懐に入った瞬間・・・

 

 「・・・ッ!」

 

 ユリスの横から、光の矢が迫っていた。

 

 「マズい・・・ッ!」

 

 そう思った瞬間、転入生がユリスを押し倒した。光の矢はユリスを通過し、脇の地面に突き刺さる。

 

 あの転入生、咄嗟にユリスを庇ってくれたのか・・・

 

 「クローディア!」

 

 「分かっています!」

 

 どうやら、クローディアにも見えていたらしい。二人で辺りを見回すが、怪しい人物は見当たらなかった。

 

 「チッ・・・逃げられたか」

 

 「そのようですね」

 

 「こちらにも見当たりません」

 

 女の子の残念そうな声に、驚く俺。

 

 「・・・もしかして、さっきの見えてたのか?」

 

 「はい。矢が飛んできた方向を見たのですが、怪しい人物は発見できませんでした」

 

 悔しそうな女の子。ギャラリーの連中は、ユリスを押し倒した転入生のことを囃し立てている。ユリスが襲撃されたことなど、全く気付いていない。

 

 「お役に立てず、申し訳ないです・・・」

 

 俯く女の子。

 

 「いや、謝ることないって。ギャラリーの奴らなんて全く気付いてないんだから。あの襲撃に気付けるなんて、かなりの実力者なんだな」

 

 「い、いえ!そんなことは・・・」

 

 「あら七瀬、彼女のことをご存知無いのですか?」

 

 驚いた様子のクローディア。

 

 「え、クローディアは知ってんの?」

 

 「勿論です。彼女は・・・」

 

 クローディアがそこまで言いかけた時、再び炎が燃え上がった。見ると、ユリスが転入生を涙目で睨みつけていた。何故か謝っている転入生・・・何があったんだ?

 

 「あらあら、あれは止めに入った方が良さそうですね」

 

 「頼むクローディア。これ以上ユリスに暴れられるとマズい」

 

 「承知しました」

 

 クローディアがユリスを止めに行く。やれやれ・・・

 

 「これで一安心だな」

 

 「ですね」

 

 女の子と二人で笑い合う。

 

 「あ、そうでした!先程は危ないところを助けていただいて、本当にありがとうございました!」

 

 頭を下げる女の子。爆風を防いだ時のことか・・・

 

 「いやいや、大したことはしてないって。それに元々、俺が声をかけたせいで逃げるのが遅れたんだし・・・何かゴメンな」

 

 「いえ、そんな!とんでもないです!」

 

 首をブンブン振る女の子。仕草が可愛いなオイ。

 

 「あ、そうだ。名前を教えてもらっても良いか?」

 

 「あ、はい!中等部一年の、刀藤綺凛といいます」

 

 「へぇ、綺凛って良い名前だなぁ」

 

 「はうっ!?」

 

 俺の言葉に、顔を真っ赤にしてしまう刀藤さん。いや、マジで良い名前だと思う。

 

 「あ、俺の名前は・・・」

 

 「存じ上げています。《冒頭の十二人》の一人で、序列九位の《覇王》・・・高等部一年の星野七瀬先輩ですよね?」

 

 「・・・よく知ってるなぁ」

 

 苦笑する俺。正直、その覚えられ方はむず痒いものがあるが。

 

 「ま、普通に七瀬って呼んでくれ。先輩とか付けなくて良いから」

 

 「い、良いんですか?私なんかが気安くお名前で呼ぶのは、恐れ多いのですが・・・」

 

 「・・・嫌われてるんだな、俺」

 

 俺が落ち込むフリをすると、刀藤さんが慌て始めた。

 

 「い、いえ!そんなつもりは!」

 

 「・・・プッ」

 

 あまりの慌てように、思わず吹き出してしまう。驚く刀藤さん。

 

 「え・・・?」

 

 「ゴメン、嘘だよ。まさかそんなに慌てるとはなぁ」

 

 「だ、騙しましたね!?酷いじゃないですか、七瀬さん!」

 

 ぷくっと頬を膨らませる刀藤さん。

 

 「あ、七瀬って呼んでくれた」

 

 「あっ・・・」

 

 刀藤さんが顔を赤くする。

 

 「そ、そんなことより!嘘をつくなんて酷いです!」

 

 「あ、露骨に話を逸らした」

 

 「そ、逸らしてません!許しませんからね、私!」

 

 「ゴメンゴメン。どうしたら許してくれる?」

 

 俺がそう聞くと、刀藤さんは赤面しながら俯いた。

 

 「じゃ、じゃあ・・・私のことも・・・名前で・・・呼んで下さい」

 

 余程恥ずかしいのか、今にも消え入りそうな声だ。ってか、そんなことで良いのか?

 

 「了解。よろしくな、綺凛」

 

 「は、はい!よろしくお願いします、七瀬さん!」

 

 照れ笑いを浮かべる綺凛。何この子、メッチャ可愛いんだが。

 

 と、不意に綺凛が時計を見て慌てる。

 

 「あ、もうこんな時間ですか!?スミマセン七瀬さん、失礼します!」

 

 「おう。またな、綺凛」

 

 「はい!またお会いしましょう!」

 

 笑顔でそう言って、綺凛は走り去っていった。さて・・・

 

 「・・・お仕置きの時間だな」

 

 俺はユリス達の方へと歩いていった。ギャラリーはいなくなり、ユリス・転入生・クローディアの三人が何やら話し合っている。

 

 と、ユリスが俺に気付いた。

 

 「おぉ、七瀬か。おはよ・・・」

 

 「このバカ姫があああああっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 ユリスの頭に、思いっきり拳骨を落とす俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「なるほどな・・・」

 

 頭を抑えながら涙目で地面に正座するユリスを前に、ため息をつく俺。

 

 「ユリスのハンカチを拾った転入生が、ユリスにハンカチを届けようとして・・・女子寮と知らずに乗り込んでしまった結果、ユリスの着替えを見てしまったと・・・」

 

 「そ、そうなのだ!だから私は何も・・・」

 

 「・・・あぁん?」

 

 「すいませんでしたあああああっ!」

 

 俺の冷たい視線に、地面に額を擦り付けて土下座するユリス。それを見て、クローディアと転入生が引いていた。

 

 「な、七瀬?もうその辺りで良いのでは?ユリスも反省しているようですし・・・」

 

 「クローディア、思い出すんだ。俺達は死にかけたんだぞ?」

 

 「・・・処罰も止むを得ませんね」

 

 「クローディア!?」

 

 まさかの裏切りにショックを受けるユリス。転入生がおずおずと会話に加わってきた。

 

 「ま、まぁその辺にしてあげてくれませんか?元々、俺が女子寮に入ってしまったのが原因ですから・・・」

 

 「そ、そうだ!全てお前が・・・」

 

 「ユーリースー?」

 

 「全て私が悪かった!すまなかった!」

 

 「も、もう良いって!」

 

 全力で土下座するユリスを見て、転入生が慌てている。

 

 「ま、この辺にしておくか。ただ・・・次は無いと思えよ?」

 

 「ヒィッ!?」

 

 俺の絶対零度の視線に、悲鳴を上げるユリス。俺は転入生に向き直った。

 

 「悪いな、うちのバカ姫が迷惑かけて」

 

 「い、いえ!悪いのは俺ですから!」

 

 「それと・・・ありがとな。ユリスを守ってくれて」

 

 「・・・ッ!」

 

 驚いている転入生。

 

 「もしかして、あなたもさっきの見えてたんですか?」

 

 「あぁ、俺は間に合わなかったからな。ホントに助かったよ」

 

 「いえ、そんな!大したことは・・・」

 

 謙遜する転入生。ってか、少し緊張気味か?

 

 「そんなかしこまらなくて良いぞ?今日からクラスメイトなんだし」

 

 「え、クラスメイト!?じゃあ同級生!?」

 

 ビックリしている転入生。

 

 「おう、俺は星野七瀬。気軽に七瀬って呼んでくれ」

 

 「・・・分かったよ、七瀬。俺は天霧綾斗。俺のことも綾斗で良いよ」

 

 「了解。よろしくな、綾斗」

 

 握手する俺達。

 

 「さて、では綾斗は私と生徒会室へ行きましょう。七瀬、ユリスをお願いします」

 

 「了解。じゃあ綾斗、また後でな」

 

 「うん、また後で」

 

 クローディアと綾斗は、そのまま生徒会室へ向かった。さて・・・

 

 「じゃ、俺達は教室に行くか」

 

 「うむ、そうだな」

 

 そう言って立ち上がろうとしたユリスが、思いっきりよろめく。慌てて抱きとめる俺。

 

 「ユリス!?大丈夫か!?」

 

 「し、痺れる・・・」

 

 どうやら正座していたせいで、足が痺れてしまったようだ。

 

 「やれやれ・・・」

 

 俺は苦笑しつつ、ユリスをお姫様抱っこした。

 

 「なっ、七瀬!?何をするのだ!?」

 

 「いや、だってお前歩けないだろ。まだ時間もあるし、痺れが治まるまでその辺りのベンチで休もうぜ」

 

 「お、降ろせ!こんな格好を誰かに見られたら・・・」

 

 「あ、そんなこと言うんだ・・・えいっ」

 

 「ギャアアアアアッ!?」

 

 痺れている足を叩かれ、悲鳴を上げるユリスなのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

今回の話では、遂に綾斗が登場しましたね。

そして綺凛ちゃんも。

いやー、ホント可愛いわー。

本編でも大活躍の綺凛ちゃんですが、こちらでも活躍させてあげたいところです。

綾斗は・・・うん(笑)

それではまた次回!


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地雷

ナイツ面白いわぁ・・・


 「あー、とゆーわけで。こいつが特待転入生の天霧だ。テキトーに仲良くしろよ」

 

 「あ、天霧綾斗です・・・よろしくお願いします・・・」

 

 朝のホームルームにて、谷津崎先生にもの凄くおざなりな紹介をされる綾斗。あまりの素っ気無さに、綾斗が戸惑っているのが窺える。

 

 「・・・先生、もっと転入生に対して温かい対応とか出来ないんですか?」

 

 「そんなもん、あたしに求める方が間違ってるぞ」

 

 「ですよねぇ・・・」

 

 ため息をつく俺。この人に期待した俺がバカだったわ・・・

 

 「改めてよろしくな、綾斗」

 

 「よっ、特待転入生!」

 

 「よろしくねー!」

 

 夜吹やシャノンものってくれる。それを皮切りに、クラスから拍手が沸き起こった。ホッとした様子の綾斗。

 

 「じゃあ席は・・・夜吹の隣だな。ってか星野、沙々宮はどうした?」

 

 「連絡がつかないんで、まだ寝てるんじゃないですか?」

 

 「チッ、アイツ・・・」

 

 お怒りのご様子の谷津崎先生。紗夜、お前マジで殺されるぞ。

 

 「・・・沙々宮?」

 

 「ん?どうした綾斗?」

 

 「あぁ、いや。何でもないよ」

 

 綾斗はそう言うと、夜吹の隣の席に着いた。

 

 「お前らも寝坊とかすんじゃねーぞ。リースフェルトみたいに火遊びもすんなよ」

 

 「ひ、火遊びなんてしてません!」

 

 先生に抗議するユリス。

 

 「今朝してただろうが。《冒頭の十二人》がこんな時期に決闘なんざ吹っ掛けてんじゃねーよ。うちはレヴォルフじゃねーんだぞ」

 

 「レヴォルフにいそうなガラの悪い先生はいますけどね」

 

 「誰のことだゴラァ!」

 

 自分のガラが悪いという自覚のある谷津崎先生なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「紗夜の奴、大丈夫かなぁ・・・」

 

 ため息をつく俺。結局、紗夜は登校してこなかったのだった。

 

 「連絡は取れたのか?」

 

 「昼休みに連絡が来たよ。案の定、大寝坊したらしい」

 

 「予想通りだな・・・」

 

 呆れているユリス。まぁ紗夜の寝坊癖は、今に始まったことじゃないしな。

 

 「谷津崎先生が激おこぷんぷん丸だって言ったら、怖いから今日は行かないってさ」

 

 「大丈夫なのかアイツ・・・」

 

 「ま、明日は来るだろ。土下座で済むと良いけど・・・」

 

 最悪、明日が紗夜の命日になるかもしれないな・・・合掌する俺。

 

 「いや、まだ死んでないからな?」

 

 ユリスのツッコミ。と、夜吹が声を掛けてくる。

 

 「じゃあ二人とも、俺と天霧は先に帰るぜ」

 

 「あー、そっか。同じ部屋だもんな・・・綾斗、ドンマイ」

 

 「え、何が?」

 

 キョトンとしている綾斗。

 

 「夜吹と同じ部屋=プライバシーの侵害は確定だからな」

 

 「酷い言われようだな!?」

 

 「お前が書いた記事、忘れたわけじゃないよな?」

 

 「うっ・・・」

 

 言葉に詰まる夜吹。

 

 「・・・何か俺、部屋に帰るのが凄く嫌になったよ」

 

 「天霧!?」

 

 「最悪、夜吹を廊下に放り出せ。それで全て解決だ」

 

 「何も解決してなくね!?廊下で寝泊りしろってか!?」

 

 「分かった。じゃあ、帰ったら早速・・・」

 

 「天霧いいいいい!勘弁してくれえええええ!」

 

 泣きながら土下座する夜吹。

 

 「全く・・・相変わらずバカな奴だ」

 

 ユリスはため息をつくと、綾斗の方を向いた。

 

 「おい、天霧」

 

 「綾斗で良いよ」

 

 「・・・じゃあ綾斗、一つ言っておく」

 

 ユリスは綾斗を睨んだ。

 

 「お前と馴れ合うつもりは無いからな」

 

 「悪いな綾斗、ユリスはツンデレなんだ」

 

 「誰がツンデレだ!」

 

 叫ぶユリス。ホントにこのバカ姫は・・・

 

 「助けてもらっておいてそれは無いだろ。綾斗が助けてくれなかったら、お前ヤバかったかもしれないんだぞ」

 

 「そんなもの、着替えを覗かれたのと胸を揉まれたので相殺だ!」

 

 「胸を揉まれた・・・?」

 

 「あっ・・・」

 

 途端に赤面するユリス。

 

 「え、いつの間にそんな関係に?」

 

 「ち、違うんだ!」

 

 綾斗も顔が真っ赤だった。

 

 「ユリスを助ける為に押し倒した時、偶然触っちゃって・・・」

 

 「あー・・・それであの後、ユリスに謝ってたのな」

 

 それにしても、着替えを見ちゃうわ胸を揉んじゃうわ・・・

 

 「・・・どっかのマンガの主人公みたいなラッキースケベっぷりだな」

 

 「そ、そんなつもり全く無かったんだって!」

 

 「うっひょー!こりゃあ特大スクープを掴んじまったぜ!」

 

 嬉々としてメモる夜吹。と、その肩に手が置かれた。

 

 「やーぶーきー?」

 

 「ヒッ!?」

 

 ユリスの迫力に怯える夜吹。

 

 「このことを他言した場合・・・分かっているな?」

 

 「は、はいいいいいっ!」

 

 地面にひれ伏す夜吹。あーあ、調子に乗るから・・・

 

 「でもそれを差し引いても、綾斗には借りがあるだろ」

 

 「乙女の下着姿を見た挙句、胸を揉んだのだぞ!?」

 

 「何が乙女だよ。そう思うなら、もう少し乙女っぽい態度とれや」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まるユリス。

 

 「ってか、そもそもユリスに揉めるだけの胸があるのか?」

 

 「なっ・・・!」

 

 ユリスが固まった。あ、今のはマズかったか・・・?

 

 「な、七瀬・・・」

 

 「今のは地雷を踏んだぞ・・・」

 

 震えている綾斗と夜吹。と、ユリスが身体から炎を迸らせる。

 

 「七瀬・・・お前は今、私を侮辱した・・・あの時のレスター以上にな・・・」

 

 「そこまで!?」

 

 「人が気にしていることをおおおおおっ!」

 

 「気にしてたんだ!?」

 

 そんな素振り全く無かったけど!?と、ユリスが俺をビシッと指差した。

 

 「七瀬!私と決闘しろ!」

 

 「はい!?」

 

 「もしお前が勝ったら、私は綾斗への借りを認めよう。当然その借りは返す。ただし私が勝ったら、今日限りでお前とは絶交だ!」

 

 「ええええええええええ!?」

 

 負けたら絶交!?嘘だろ!?

 

 「マジで言ってんの!?」

 

 「大マジだ!決闘を受けなくても絶交だからな!」

 

 「逃げ道無し!?」

 

 「七瀬、諦めて決闘を受けろ。お姫様の性格は、お前もよく知ってるだろ?」

 

 「何かゴメンね、七瀬・・・」

 

 「マジかあああああっ!?」

 

 こうして俺は、ユリスと決闘することになったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 ≪綾斗視点≫

 

 「何だか大変なことになっちゃったなぁ・・・」

 

 俺はため息をついた。ユリスと七瀬が決闘するということで、既に多くのギャラリーが集まっていた。

 

 「注目されてるなぁ・・・」

 

 「そりゃそうさ」

 

 録画用端末を片手にスタンバイしている夜吹は、当然といった表情をしていた。

 

 「何といっても、《冒頭の十二人》同士の決闘だしな」

 

 「え、七瀬も《冒頭の十二人》なの!?」

 

 ユリスは自分で言ってたから知ってたけど、まさか七瀬も《冒頭の十二人》とは・・・

 

 「何だ、知らなかったのか?序列九位の《覇王》星野七瀬といったら、お姫様に負けず劣らずの有名人だぜ?何せ、入学初日に序列九位の座に着いた男だしな」

 

 「嘘だろ!?」

 

 入学初日に、いきなり《冒頭の十二人》になったっていうのか!?

 

 「マジだよ。当時序列九位だった生徒を、一撃で倒したんだ。その時の決闘の記録映像があるから、後で見せてやるよ」

 

 「公式序列戦ならともかく、決闘に記録映像なんてあるんだ?」

 

 「公式のじゃないけどな。俺が録ったんだ」

 

 「じゃあ夜吹は、その時の決闘を見てたのかい?」

 

 「まぁな。あの決闘を見てたのは、決闘の当事者を除くとたったの四人だ。そのうちの二人が、お姫様と俺さ」

 

 「ユリスも?」

 

 「あぁ。ってか、そもそもお姫様が決闘するはずだったんだがな」

 

 「どういうこと?」

 

 「それは俺が説明してやるよ」

 

 後ろから声がした。振り向くと、大柄な男子生徒が立っていた。

 

 「おぉ、レスターか。噂の人物のご登場だな」

 

 「けっ、お前に噂されるなんざ胸糞悪いぜ」

 

 「手厳しいねぇ」

 

 苦笑している夜吹。ひょっとして、この人が・・・

 

 「元序列九位の・・・?」

 

 「レスター・マクフェイルだ。今は序列十二位さ」

 

 「今月の公式序列戦で《冒頭の十二人》に返り咲いたんだっけか。おめでとさん」

 

 「ふん、ありがとよ」

 

 鼻を鳴らすレスター。入学初日の七瀬に負けたってことは、一度は序列外まで落ちたってことか・・・そこから《冒頭の十二人》に返り咲くなんて凄いな。

 

 「お前が特待転入生か?」

 

 「あぁ、天霧綾斗っていうんだ。よろしく」

 

 「あのユリスを相手に善戦したらしいじゃねぇか。やるな」

 

 「いやいや、必死だったよ」

 

 苦笑する俺に、遠い目をするレスター。

 

 「それでもすげぇよ。俺なんざ、ユリスに三度も負けたからな」

 

 「え、三度も!?」

 

 「あぁ。最初に負けた時、俺は《冒頭の十二人》から落ちたんだ」

 

 「レスターは、元は序列五位だったんだよ。今お姫様が五位なのは、レスターに勝ったからなんだ」

 

 夜吹が説明してくれる。じゃあレスターは《冒頭の十二人》から二度落ちて、二度返り咲いてるのか・・・ますます凄いな。

 

 「その後、公式序列戦で二回負けちまってよ。もうユリスを指名できなくなった俺は、ユリスに執拗に決闘を迫った。全て断られたけどな」

 

 苦笑するレスター。

 

 「そんなある日、いつもみたくユリスに決闘を挑んだ。案の定断られて頭にきた俺は、ユリスを侮辱したんだ。友達のいないお前に、ここにいてほしいと思う奴なんざ誰もいねぇってな」

 

 「・・・ユリスはどんな反応を?」

 

 「キレられたよ。あの時のユリスの怒った顔には、悲しそうな感じも見受けられた。傷つけちまったんだろうな。そのまま決闘・・・っていうところで、七瀬が現れた」

 

 「七瀬が?」

 

 「寮に帰る途中で、レスターの怒鳴り声を聞いてな。二人で様子を見に行ったんだよ。で、一部始終を見てたわけだ」

 

 再び夜吹の説明。それで現場にいたわけか・・・

 

 「アイツはこう言ったんだ。『ユリスは俺の友達だ。これ以上、俺の友達を侮辱するな』ってな。で、俺はアイツと決闘することになった。結果は夜吹の言った通り俺の負けさ。文字通り瞬殺されたよ」

 

 「《冒頭の十二人》を瞬殺・・・」

 

 七瀬ってどんだけ強いの・・・?

 

 「逆に清々しかったけどな。今の俺じゃ七瀬には勝てねぇって、自分でも驚くほどあっさり認められた。ユリスに拘ってた自分が小さく思えたし、もっと強くなりてぇって思ったよ。だから今、必死で頑張ってるんだがな」

 

 「まぁそんなことがあって、お姫様は七瀬に心を開くようになったのさ。七瀬はお姫様にとって、この学校で唯一友人と呼べる存在になったんだ。前と比べて雰囲気も柔らかくなったし、お姫様にとって七瀬の存在は大きいと思うぜ?」

 

 「なるほど・・・」

 

 そんなことがあったのか・・・道理で七瀬に対して気を許してると思ったよ。

 

 っていうか、そんな二人が決闘だなんて・・・

 

 「俺のせいで・・・」

 

 「お前のせいじゃねぇよ。七瀬が地雷を踏んだせいだ」

 

 うなだれる俺を、夜吹が慰めてくれる。クエスチョンマークを浮かべているレスター。

 

 「よく分からんが・・・夜吹、お前はどっちが勝つと思う?」

 

 「んー、難しいな。お姫様の強さはよく知ってるが、七瀬も強いからなぁ・・・公式序列戦じゃ、三ヶ月連続で防衛成功してるし。しかも煌式武装を使わずに」

 

 「は・・・?」

 

 思わず顔を上げる俺。

 

 「煌式武装を使ってないの!?」

 

 「あぁ、全部素手で勝ってる。アイツ星辰力の量が尋常じゃないから、普通のパンチやキックでとんでもない威力を出せるんだ。体術も相当なものだしな」

 

 「そういやアイツが煌式武装を使ってるとこ、誰も見たことねぇよな」

 

 「あれで煌式武装を使ったら、マジでヤバいんじゃね?」

 

 「確かにな」

 

 何で煌式武装を使わないのか、疑問に思う俺なのだった。

 




二話続けての投稿となります。

七瀬がユリスの地雷を踏みました(笑)

まさかの七瀬VSユリスとなりましたが、果たしてどうなるのでしょうか?

次は明日投稿する予定です。

それではまた次回!




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七瀬 VS ユリス

七瀬 VS ユリス!

果たして、勝負の結末やいかに!?




・・・よし、良い感じのフリが書けた(笑)


 「マジかぁ・・・」

 

 テンションダダ下がりの俺。こんな大勢のギャラリーに囲まれて決闘とか、ホント勘弁してほしい。

 

 しかも相手が・・・

 

 「七瀬、覚悟は良いな?」

 

 怒り心頭のユリスとか・・・メッチャ嫌だわぁ・・・

 

 「ユリスー、マジで謝るから許してくれよー」

 

 「ダメだ。私の乙女心は、お前によって傷つけられたのだ」

 

 「乙女心とか、ユリスとは最も無縁なものじゃね?」

 

 「お前反省してないな!?」

 

 あ、ユリスの怒りのボルテージが上がっていく・・・

 

 「お前を叩きのめして、二度とそんな口が利けないようにしてやる!」

 

 「どの道負けたら絶交なんだから、口も利けなくなるんじゃ・・・」

 

 「やかましい!さっさと始めるぞ!」

 

 ユリスが校章に右手をかざす。

 

 「不撓の証たる赤蓮の名の下に、我ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトは汝星野七瀬への決闘を申請する!」

 

 「ハァ・・・我星野七瀬は、汝ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトの決闘申請を受諾する」

 

 ため息をつきつつ、決闘申請を受諾する。受諾の証として校章が煌き、決闘が始まる。

 

 「行くぞ七瀬!」

 

 ユリスが自身の煌式武装《アスペラ・スピーナ》を起動する。レイピアのような細い剣を、ユリスは俺に向けた。

 

 「咲き誇れ!鋭槍の白炎花!」

 

 青白い炎の槍がいくつも顕現し、ロケットのような勢いで襲い掛かってきた。

 

 「よっ、はっ、ほっ」

 

 身を屈めたりジャンプしたりして、それらを全てかわす。

 

 「まだまだ!」

 

 ユリスがレイピアをタクトのように振ると、かわした炎の槍が旋回して戻ってきた。

 

 「うわ、厄介だなぁ・・・」

 

 両手に星辰力を集め、戻ってきた炎の槍を二つ掴む。それを苦無のように振るい、残りの槍を叩き落とした。

 

 「なっ!?」

 

 驚いているユリスに向かって、手に持っていた二つの槍を投げる。かろうじてレイピアで弾くユリス。

 

 その隙をつき、ユリスへ向かってダッシュする。

 

 「くっ・・・咲き誇れ!赤円の灼斬花!」

 

 炎の刃を激しく回転させる戦輪が無数に現れ、一斉に襲い掛かってきた。今度は足に星辰力を集め、戦輪を踏んで空中を駆ける。

 

 「何だと!?」

 

 戦輪の一つを思いっきり蹴り、驚くユリスに向かって一直線に飛んだ。

 

 と、ユリスがニヤリと笑った。

 

 「綻べ!赤壁の断焔華!」

 

 ユリスの前に、炎の壁が現れる。このまま激突するのはマズいな・・・

 

 「チッ!」

 

 俺は咄嗟に右手に星辰力を集め、そのままの勢いで拳を放った。壁は砕けたものの、反動で俺の身体は後ろに飛んだ。空中で一回転し、そのまま着地する。

 

 あー、危なかった・・・

 

 「お、おい!とんでもない戦いだぞ!?」

 

 「《華焔の魔女》の技も凄いが、それを素手で相手してる《覇王》も凄いな!?」

 

 「炎の壁が出た瞬間、《華焔の魔女》の勝利かと思ったが・・・」

 

 「あの壁を砕くとか、マジでヤバいな・・・」

 

 ギャラリーがどよめいていた。うん、今のはマジで危なかったわ・・・

 

 「・・・とんでもない奴だな」

 

 唖然としているユリス。

 

 「今のは勝利を確信したのだが・・・まさか砕かれるとは思わなかったぞ」

 

 「俺じゃなきゃ大ケガしてるぞ。もう少し手加減してくんない?」

 

 「手加減など出来ん。負けたくないのでな」

 

 「そんなに俺と絶交したいのか?」

 

 「そのセリフ、そのままお前に返してやる」

 

 睨んでくるユリス。

 

 「・・・どういう意味だ?」

 

 「七瀬・・・お前、何故本気を出さない?」

 

 「・・・本気でやってこれなんだが?」

 

 「では質問を変えよう。何故煌式武装を使わないのだ?」

 

 俺にレイピアを向けるユリス。

 

 「お前が煌式武装を使うところを、私は見たことが無い。お前はいつも素手で戦っている。それはお前が、本気を出して戦っていないからではないか?」

 

 「・・・・・」

 

 「今まではそれで勝てたかもしれんが、私を相手に煌式武装無しで勝てると思っているのか?それは私に対する侮辱だ。お前が私に本気で勝ちにきていない・・・つまり、私と絶交したいと捉えられても仕方の無いことだと思うぞ?」

 

 ユリスの奴、そんな風に捉えてたのか・・・

 

 「・・・本気で絶交したいと思ってたら、そもそも決闘を受けたりしねぇよ。決闘を受けなきゃ絶交だって、お前が言ったんだぞ?」

 

 「そ、それはそうだが・・・」

 

 「確かに煌式武装は使ってない。でも俺は今の状態で出せる本気で、お前に勝ちにいってるつもりだ。それでここまで互角の勝負をしていて、私に勝てると思っているのか?とか言われてもなぁ・・・」

 

 「うぐっ・・・」

 

 「そんなに煌式武装を使ってほしいなら、今の俺を圧倒してみろよ。俺が煌式武装を使わざるを得ない状況にしてみろ。それも出来ないで本気を出せだなんて、お前こそ俺を侮辱してると捉えられても仕方ないぞ」

 

 「・・・ッ!」

 

 唇を噛むユリス。

 

 「・・・お前の言う通りだな。私としたことが、自分の力を驕っていたようだ。すまなかった」

 

 「良いさ。俺も誤解させちまったみたいだし・・・悪かったな」

 

 「お前が謝ることではない。私が未熟だったのだ。だが・・・」

 

 真剣な眼差しで俺を見るユリス。

 

 「お前の言葉で目が覚めた。再び気合いを入れて、相手をさせてもらうとしよう」

 

 「・・・余計なこと言っちゃったかなぁ」

 

 苦笑する俺。ユリスも笑みを浮かべると、レイピアを俺に向けた。

 

 「勝負だ七瀬!咲き誇れ!六弁の爆焔花!」

 

 ユリスの前に、巨大な火球が出現する。綾斗との決闘で使った大技か!

 

 「望むところだ!」

 

 ユリスに向かってダッシュする。

 

 「行けッ!」

 

 巨大な火球を放つユリス。両手で手刀を作り、星辰力を集中させる。そして真正面から突っ込んだ。

 

 「ハアアアアアッ!」

 

 クロスした手刀を、思いっきり振り抜いた。火球がバツ字に切られて爆散する。

 

 「六弁の爆焔花が・・・!?」

 

 驚愕しているユリス。そのままユリスの懐へ飛び込もうとした瞬間、俺の視界の隅で小さな光が瞬いた。

 

 見ると、ギャラリーの奴らの隙間で何かが光っている。そういや、あの襲撃の時・・・まさかッ!?

 

 「ユリスッ!」

 

 「うおっ!?」

 

 咄嗟にユリスを押し倒す。俺達の頭上を、光の矢が通過していった。すぐに顔を上げると、黒いフードを被った背の低い小太りの奴が逃げて行くところだった。手には弓型の煌式武装を持っている。

 

 あれって・・・

 

 「おい!アイツを捕まえろ!」

 

 「任せろ!」

 

 「逃がすかよ!」

 

 ギャラリーの皆も襲撃に気付いたらしく、ぞろぞろとフードの奴を追っていった。

 

 「ユリス、大丈夫か!?」

 

 「あ、あぁ・・・大丈夫だ・・・んっ」

 

 何やら変な声を出すユリス。

 

 「どうした!?」

 

 「七瀬っ・・・手を・・・離せっ・・・あっ」

 

 「手・・・?」

 

 そういや、何か柔らかいものを掴んでいるような・・・むにっ。

 

 「あぁっ!」

 

 喘ぐユリス。下を見てみると・・・ユリスの両胸を、両手で思いっきり揉んでいた。

 

 「うわっ!」

 

 「んんっ!」

 

 ビックリして、思わず手に力を込めてしまった。ビクッとするユリス。

 

 「は、早く手を・・・離せっ・・・」

 

 「あ、あぁ!」

 

 俺は手を離そうとしたが、ふと気付いたことがあった。

 

 「・・・ユリス、ゴメン」

 

 「え・・・?」

 

 俺は右手に力を込め、ユリスの左胸を強く揉んだ。

 

 「あぁんっ!?」

 

 ユリスが叫ぶのと同時に、左胸に付いていた校章にひびが入った。

 

 『決闘決着!勝者、星野七瀬!』

 

 俺の校章から機械音が鳴り響く。

 

 「・・・よし、勝った」

 

 『いやいやいやいや!?』

 

 綾斗、夜吹、レスターのツッコミが入る。

 

 「どんな勝ち方!?」

 

 「いや、俺もどうかとは思ったんだが・・・勝ちは勝ちだし」

 

 「それで良いのか七瀬!?」

 

 「良いんじゃね?勝てたんだから」

 

 「まさかこんな決着の仕方とはな・・・」

 

 「おぉ、レスター。《冒頭の十二人》復帰おめでとう」

 

 「このタイミングで祝われても困るわ!」

 

 と、ユリスがふらりと身体を起こした。胸を腕で覆い、涙目で俺を睨みつけている。

 

 「お、お前という奴は・・・!」

 

 身体から炎を迸らせるユリス。

 

 「私の胸を・・・あんなに激しく揉みしだきおって・・・!」

 

 「いやー、ユリスにも揉めるだけの胸あったわ。悪かったな」

 

 「それだけで済むかあああああっ!」

 

 叫ぶユリス。俺はユリスの頬に手を添えた。

 

 「な、何をする!?」

 

 「ケガ・・・無いよな?」

 

 「え・・・?」

 

 「良かった・・・ちゃんと守れたな」

 

 あー、良かった。これでユリスがケガしてたら、マジで洒落にならなかった・・・

 

 「七瀬・・・って、お前その手どうした!?」

 

 ユリスが俺の右手を見て驚く。ま、血だらけだもんなぁ・・・

 

 「いやー、さっきの壁を砕いた時にやっちゃってさぁ。突然のことだったから、星辰力を十分に集めきれなくて・・・」

 

 「そんな手で決闘を続けてたのか!?」

 

 「言ったろ?本気で勝ちにいってるって。こんなケガでリタイアなんか出来ないだろ」

 

 「どうしてそこまで・・・」

 

 「負けたら絶交とか言われたら、そりゃ負けられないだろうよ」

 

 苦笑する俺。

 

 「お前に絶交されたら・・・またお前を一人にしちまうからな」

 

 「・・・ッ!」

 

 俯くユリス。涙が地面に滴り落ちる。

 

 「え、ちょ!?何で泣くの!?」

 

 「う、うるさい!泣いてなどいない!」

 

 ユリスはそう言うと、俺に抱きついてきた。

 

 「ユ、ユリス!?」

 

 「・・・私がお前と、本気で絶交などするわけないだろう」

 

 震える声で言うユリス。

 

 「お前は私の・・・大切な友人なのだから」

 

 「ユリス・・・」

 

 俺はユリスの頭を撫でた。

 

 「これからも・・・友人でいてくれるか?」

 

 「当たり前だ。俺の気持ちは、最初から変わってねぇよ」

 

 俺の言葉に、抱きしめる力をより一層強くするユリス。

 

 「ただユリス、忘れんなよ・・・綾斗への借りは認めろ」

 

 「うっ・・・」

 

 「確か、借りはちゃんと返すって言ってたよな?」

 

 「うぅ・・・」

 

 「というわけだ。綾斗、ユリスに何をしてほしい?」

 

 「え!?えっと・・・じゃあ、学園内と街を案内してほしいかな。ここって広いから、ある程度知っておかないと迷子になりそうだし・・・」

 

 「だそうだ。ちゃんと案内してやるんだぞ」

 

 「わ、分かった・・・」

 

 渋々頷くユリス。と・・・

 

 「ななっちー!」

 

 シャノンが駆け寄ってきた。

 

 「おー、シャノン。いたのか?」

 

 「最初からいたよ!襲撃犯を追ってたんだけど、見失っちゃって・・・今、皆で手分けして捜索してるところだよ」

 

 「そうか・・・」

 

 逃げ足だけは速いみたいだな・・・

 

 「ありがとな。すぐクローディアに報告するから、引き続き捜索を頼む」

 

 「了解・・・って、ななっち!?その手どうしたの!?すぐ手当てしないと!」

 

 「大丈夫だよ、これくらい」

 

 「いや、早く手当てしてもらった方が良いよ。クローディアには俺が報告しとくから」

 

 「綾斗・・・」

 

 「そういうこった。俺とレスターは襲撃犯を探しに行くか」

 

 「おう。七瀬、お前は早く手当てしてもらってこい。ユリス、付き添ってやれ」

 

 「う、うむ!」

 

 「お前ら・・・」

 

 コイツら・・・ホント良い奴らだな。

 

 「ほら七瀬、行くぞ」

 

 俺はユリスに手を引かれ、医務室へ連れていかれたのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

今回、七瀬VSユリスだったわけですが・・・

勝ち方が酷い(笑)

七瀬、ユリスの胸を堪能した感想は?



七瀬「いやー、柔らかかったな。大きくはなかったけど」

ユリス「その一言は余計だあああああっ!」

七瀬「ギャアアアアアッ!?」



・・・ドンマイ七瀬。

それではまた次回!


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依頼

AAAの『涙のない世界』が良い曲すぎるわ・・・


 「全く・・・ユリスと決闘するなんて聞いてませんよ?」

 

 「スミマセンでした・・・」

 

 手当てしてもらって部屋に帰ると、怖い笑みを浮かべたクローディアが待ち構えており、そのまま説教タイムが始まってしまったのだった。

 

 「それで、ケガは大丈夫なんですか?」

 

 「あぁ、大丈夫だよ。骨にも異常は無いってさ」

 

 とりあえず止血して包帯を巻いてもらったが、すぐに治るだろうって言われたしな。

 

 「それは何よりですが・・・こちらは残念なお知らせです。襲撃犯を取り逃がしてしまいました」

 

 「そうか・・・発見出来なかったのか?」

 

 「えぇ、校内を隈なく捜索したのですが・・・誰かさんが決闘の前に連絡して下さっていたら、私としても迅速な対応が取れたのですが」

 

 「返す言葉もございません・・・」

 

 襲撃の可能性を考えて、ちゃんとクローディアに連絡しとくべきだったな・・・俺としたことが迂闊だったわ・・・

 

 「・・・まぁ、嘆いていても仕方ありません。犯人の姿を目撃できただけでも、十分な収穫ですし。それで、もう一度確認させていただきたいのですが・・・」

 

 クローディアがメモ用紙に目を通す。

 

 「犯人の体格は、背が低くて小太り。黒いフードを被っており、弓型の煌式武装を持っていた。顔は見ておらず、性別も不明・・・間違いありませんか?」

 

 「あぁ、間違いない。でも、あれは・・・」

 

 俺は言葉に詰まった。その特徴に当てはまる奴を、一人だけ知っているからだ。

 

 「ランディ・フックくん、ですか?」

 

 「・・・ッ!」

 

 背が低くて小太りで、弓型の煌式武装を持っている・・・ランディの特徴そのものだ。

 

 俺はあの後ろ姿を見て、ランディに似ていると思ってしまったのだ。

 

 「風紀委員会も、フックくんが怪しいと睨んでいるようです。今回の襲撃犯の特徴にピッタリ当てはまりますし、決闘が行われていた時間のアリバイも無いそうですよ。客観的に見たら、有力な容疑者候補と言わざるを得ません」

 

 「でも、あのランディがこんなことするか?レスターの意に背くことだぞ?」

 

 「・・・意に背く、とは?マクフェイルくんとユリスの因縁は有名ですよ?」

 

 「レスターはユリスを恨んでるわけじゃないんだ。ユリスに勝って、自分の実力を認めさせたいだけなんだよ。こんな卑怯なやり方でユリスを潰したところで、レスターは喜んだりしない。ランディだって、それはよく分かってるはずだ」

 

 「つまり七瀬は、フックくんは襲撃犯ではないとお考えなのですか?」

 

 「あぁ。主観的な考えだけどな」

 

 俺の意見を聞き、微笑むクローディア。

 

 「・・・それを聞いて安心しました。私にも味方がいたようですね」

 

 「味方って・・・クローディアも同じ考えなのか?」

 

 「えぇ。フックくんは、マクフェイルくんをとても慕っていますからね。マクフェイルくんはこんなやり方を望まないでしょうし、それをフックくんも分かっているはずです。七瀬の言う通り、私も襲撃犯は別にいると考えています」

 

 と、クローディアが声を潜めた。

 

 「・・・今から話すことは、他言無用でお願いします」

 

 「・・・了解。何かあったのか?」

 

 俺も声を潜めた。

 

 「実は《鳳凰星武祭》にエントリーしていた生徒の中で、何人かの生徒がケガを負って出場を辞退することになったんですが・・・調べてみたところ、どうにも怪しいところがありまして」

 

 「と言うと?」

 

 「今回の様に、第三者が関与していた可能性が高いんです」

 

 「なっ・・・!?」

 

 思わず声を上げた俺の口を、クローディアが手で塞いだ。

 

 「お静かに。ケガをした原因は様々で、事故や決闘でケガをしたとの報告を受けていたんですが・・・少し気になって調べてみたところ、不自然な点が多々見受けられました」

 

 「・・・つまり襲撃犯の狙いはユリス個人ではなく、《鳳凰星武祭》に出場する予定の生徒ってことか?」

 

 「恐らくそうでしょう。ケガをした生徒達も《冒頭の十二人》ではありませんが、《在名祭祀書》の序列上位者達なんです」

 

 「有力な生徒だけを狙ってる・・・?」

 

 ・・・ちょっと待て。それって・・・

 

 「まさか・・・他の学園の仕業か・・・?」

 

 「えぇ、間違いないでしょうね。もっとも、実行犯は星導館の生徒でしょうけど。犯行場所はほとんど学園内ですし、他の学園に侵入するのはリスクが高すぎます」

 

 「つまり星導館の中に、他の学園に付いた裏切り者がいるってことか?」

 

 「そういうことになります。れっきとした星武憲章違反ですが、過去にも幾度となく事例があります。どの学園も、必要ならその程度のことはやってのけますよ」

 

 なるほど、つまり星導館も同じことに手を染める可能性があると・・・

 

 「・・・生徒会長がそんな発言して良いのか?」

 

 「事実ですから」

 

 笑うクローディア。やっぱり腹黒いなコイツ・・・

 

 「まぁ、どの学園が黒幕なのかはどうでもいいんですが・・・」

 

 「良いんだ!?」

 

 「えぇ。問題はそこではなく、こちらも迂闊に動けないということです」

 

 「え、何で?」

 

 「星導館には、統合企業財体直轄の特務機関があるんです。上の許可が下りない限り動かせない組織ですが、風紀委員会よりはるかに強い権限を持っています。本来ならその組織を動かしたいんですが、そうすると相手に気付かれてしまうんですよ」

 

 「あぁ、なるほど・・・こちらとしては、犯人の背後にいる学園が関与していたという証拠を押さえたい。でも組織を動かしたことに気付かれると、証拠を押さえる前に手を引かれてしまう。動かしたくても動かせないってことか・・・」

 

 「察しが良くて助かります」

 

 苦笑するクローディア。

 

 「確実な証拠、もしくは犯人を押さえられるという確証・・・どちらかが無い限り、組織を動かすことは出来ないんです。ですが逆に言うと、それまでは向こうも襲撃を続行する可能性が高い・・・そして我々は、犯人の次の標的が分かっています」

 

 「ユリスか・・・」

 

 「えぇ。そこで七瀬には当面の間、ユリスのボディーガードを頼みたいんです」

 

 「は・・・?」

 

 え、今何て言った?ボディーガード?

 

 「いや待て、そういうのはプロがやるべきじゃないのか?」

 

 「本来はそうなんですが・・・ご存知の通り、あの子は他人と距離を置きたがる傾向にあります。想像してみて下さい。専用のボディーガードを付けるなんて言ったら、あの子がどんな反応をすると思いますか?」

 

 「・・・拒絶するだろうな。実力行使で追い返しかねないわ」

 

 「ですから、七瀬にお願いしているんです。ユリスは七瀬に心を許していますし、七瀬なら実力も申し分ありません」

 

 「実力ねぇ・・・」

 

 「頼りにしてますよ、序列五位の《覇王》さん♪」

 

 「・・・あ、そっか。ユリスに勝ったから五位に上がったんだな」

 

 「今頃気付いたんですか・・・」

 

 呆れているクローディア。

 

 「まぁそれはともかく、引き受けて下さいませんか?勿論、出来る範囲で構いませんから。自分の身が危ないと思ったら、逃げて下さっても・・・」

 

 「それは絶対しない」

 

 断言する俺。

 

 「ユリスを見捨てて逃げるなんてマネ、死んでもしねぇよ。もし危ないと思ったら、ユリスだけでも逃がすさ」

 

 「・・・では、引き受けて下さるんですね?」

 

 「俺に出来ることはやるよ。友達を守る為だしな」

 

 「ありがとうございます。ですが、個人的に一つ忠告をさせていただきます」

 

 「忠告?」

 

 首を傾げる俺に、クローディアが抱きついてきた。

 

 「え、クローディア!?」

 

 「・・・ユリスのことを大事に思って下さるのは嬉しいですが、自分の身も大事にして下さい。ユリスが無事でも、七瀬に何かあったら私は悲しいです。ユリスだって七瀬に何かあったら、自分が助かったとしても喜べるわけないじゃないですか」

 

 「クローディア・・・」

 

 ぎゅっとしがみついてくるクローディア。

 

 「ですから、自分を犠牲にするようなマネだけは止めて下さい」

 

 「・・・分かった」

 

 俺はクローディアの頭を撫でた。

 

 「心配してくれてありがとな、クローディア」

 

 「・・・七瀬は、私の大切な友人ですから」

 

 微笑むクローディア。

 

 「では早速ですが・・・当面の間、ユリスの部屋で生活して下さい」

 

 「・・・は?」

 

 え、ちょ・・・えええええ!?

 

 「ユリスの部屋で生活!?俺が!?」

 

 「えぇ。寝込みを襲われる可能性も否定できませんからね。ボディーガードたる者、護衛対象からなるべく離れないようにしないと」

 

 「出来る範囲で構わないって言わなかったっけ!?」

 

 「出来る範囲じゃないですか。同じ女子寮の部屋を移動するだけですし」

 

 「はっ!まさか最初からそれが目的で、俺をこの部屋に移動させたのか!?」

 

 「そうですよ。もっとも、男子寮の部屋が足りなかったのは事実ですけどね。一度女子寮に入ったら、後は部屋を移動してもバレませんから。当面の間ユリスの部屋で寝泊りしても、何の問題もありません」

 

 「いやあるだろ!男女が同じ部屋で寝泊りとか、色々マズいだろ!」

 

 「あら、ここ数日は私と同じ部屋で寝泊りしてましたよね?」

 

 「ここは部屋が二つあるじゃん!だから別々の部屋で寝泊り出来たけど・・・ユリスの部屋ってどうなんだ?」

 

 「ワンルームですね」

 

 「絶対マズいだろそれ!?」

 

 「大丈夫ですよ。その分一部屋の大きさとしては、向こうの方が広いですから」

 

 「そういう問題じゃなくね!?」

 

 ダメだ、この子何も分かってない!

 

 「犯人が捕まったら、また二人で熱い夜を過ごしましょうね♪」

 

 「そんな夜を過ごした覚えは無いぞ!?」

 

 結局、クローディアに丸め込まれた俺なのだった。

 




二話続けての投稿となります。

残念ながら、何日か投稿出来ない日が続きそうです・・・

次回投稿日は、来週の水曜日を予定しております。



ここで日頃のお礼を・・・

いつも読んで下さっている皆さん、お気に入りに登録して下さっている皆さん、感想を書いて下さった皆さん、評価して下さった皆さん・・・

本当にありがとうございます。とても嬉しく思っています。

引き続き感想・評価等もお待ちしておりますので、気が向きましたらコメント・評価等していただけるとありがたいです。

それではまた次回!



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ありがとう

何だか毎日忙しいぜ・・・


 「なるほどな・・・」

 

 ため息をつくユリス。俺とクローディアはユリスの部屋へ赴き、事情を説明したのだった。

 

 俺が一緒に住むなんて言ったら、絶対にブチギレると思ったんだが・・・今のところ落ち着いてるな。

 

 「・・・まぁ仕方あるまい。受け入れよう」

 

 「え、良いの!?」

 

 「面識も無いボディーガードを付けられるくらいなら、お前の方が断然マシだ。それに犯人も姿を見られた以上、なりふり構わず襲ってくる可能性がある。寝込みを襲われる可能性も考慮すると、私一人では気が休まらんからな」

 

 苦笑するユリス。あー、確かにな・・・

 

 「あらユリス、案外満更でもないんですね?」

 

 「し、仕方なくだぞ!?本当に仕方なくだからな!?」

 

 クローディアの言葉に、赤面しながら慌てるユリス。

 

 「ではそういうことで。七瀬、ユリスを頼みましたよ。こちらも犯人の確保に全力を注ぎますので」

 

 「おう。進展があったら教えてくれ」

 

 「了解です。あぁ、それと・・・」

 

 「ん?」

 

 「犯人とは違う意味で、ユリスを襲ってはいけませんよ?」

 

 「何を言ってんの!?」

 

 「良いから早く出て行け!」

 

 「はいはい、お邪魔虫は出ていきますよ」

 

 笑いながら去っていくクローディア。ユリスを見ると、顔を真っ赤にしていた。

 

 「・・・まぁそんなわけで、当面の間お世話になります」

 

 「う、うむ。よろしく頼むぞ」

 

 「おう。ってか、広いなこの部屋」

 

 クローディアの言っていた通り、一部屋の大きさとしてはこっちの方が広い。鉢植えやプランターが並び、キレイな花を咲かせているものもある。

 

 「ユリスって、花とか好きなのか?」

 

 「あぁ、親友の影響でな」

 

 「ユリスに親友・・・だと・・・」

 

 「おい、何でそんなに驚いている?」

 

 「いや、だってあのユリスだぞ?」

 

 「お前バカにしてるな!?」

 

 頬を膨らませるユリス。

 

 「私にだって友人はいる。もっとも、この学園にはお前しかいないが・・・自分の国には他の友人もいるのだ」

 

 「へぇ・・・ひょっとして、机の上の写真に写ってる子供達?」

 

 「あぁ、そうだ」

 

 懐かしそうに写真を手に取るユリス。シスターらしき女性達と、幅広い年代の子供達が写っている写真だ。

 

 そして写真の真ん中で笑っている、薔薇色の髪をした女の子・・・間違いなく、幼い時のユリスだろう。

 

 「私はこう見えて、子供の頃はお転婆でな」

 

 「こう見えて・・・?」

 

 「何か文句でも?」

 

 「滅相もございません」

 

 「ふん・・・とにかく幼い頃は、よく宮殿を抜け出していたのだ。ところがある日、少し遠出をしたら道に迷ってしまってな。うろうろしているうちに、貧民街に迷い込んでしまったのだ」

 

 「あ、ガラの悪い奴に絡まれるパターンや・・・」

 

 「ご名答だ。その当時の私の力は、せいぜいライター程度の火が出せるくらいだった。そして裏路地に連れ込まれて、泣くだけだった私を助けてくれたのが彼女達・・・孤児院の子供達だったのだ」

 

 「うわ、かっこいいな」

 

 「だろう?彼女達は、私にとってのヒーローだったのだ」

 

 目を輝かせるユリス。

 

 「それ以来、私は宮殿を抜け出しては彼女達に付いて回るようになってな。時間をかけて仲良くなることができた。驚いたことにその孤児院は、亡くなった私の母が創設した基金で作られたものだったのだ」

 

 「え、ユリスのお母さんって亡くなってるのか・・・?」

 

 「あぁ、知らなかったか?今のリーゼルタニアの国王は、私の兄上なのだ。両親は既に他界していて、私も両親についてはよく覚えていない」

 

 「そっか・・・その孤児院の子供達に助けられるなんて、何だか不思議な縁を感じるな」

 

 「あぁ、私も驚いたぞ。だが、その基金も既に無い。孤児の数は毎年増え、資金繰りは年々厳しくなっているのが現状だ・・・と、これは前にも話したか」

 

 「あぁ。だからユリスは、アスタリスクに来たんだよな」

 

 「そうだ。必ず《鳳凰星武祭》で優勝して、孤児院を救えるだけの金を手にする」

 

 なるほどな・・・ユリスが孤児院を救いたい理由が分かったよ。

 

 「おっと、長話になったな。いつの間にかこんな時間だ」

 

 ユリスが時計を見て驚いている。

 

 「そろそろ寝るか・・・あっ」

 

 「ん?どうした?」

 

 「いや、その・・・肝心なことを忘れていた」

 

 「と言うと?」

 

 「・・・ベッドが一つしかない」

 

 「あっ・・・」

 

 そういや気付かなかったな・・・

 

 「布団とかは?」

 

 「無い。寮の部屋はどこも、基本的にベッドだからな・・・」

 

 「・・・ま、大丈夫だろ。俺が床で雑魚寝するから」

 

 「いや、それは申し訳ない。私が床で寝るから、七瀬はベッドを使え」

 

 「いやいや、女の子を床で寝かせるわけにはいかないだろ」

 

 「私だって、友人を床で寝かせるのは心苦しいぞ」

 

 参ったなー。どうしよう・・・

 

 「し、仕方ない・・・」

 

 何故か顔を赤くしているユリス。

 

 「い、一緒に・・・ベッドで寝るか・・・?」

 

 「・・・はい?」

 

 ポカーンとしてしまう俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・どうしてこうなった?」

 

 一つのベッドに、ユリスと並んで寝ている俺。

 

 「し、仕方あるまい。ベッドが一つしか無いのだから」

 

 「いや、だから俺は床で・・・」

 

 「そ、それはダメだ。私の良心が痛む」

 

 そうは言いつつ、ユリスの顔は真っ赤だった。

 

 「え、ユリスに良心なんてものがあったの?」

 

 「・・・お前は私に対してどんな評価をしているのだ?」

 

 「無駄にプライドが高い、血の気が多すぎる、無愛想、それから・・・」

 

 「止めてくれ!私のライフはもうゼロだ!」

 

 頭を抱えるユリス。と、俺の右手の包帯に気付いた。

 

 「・・・右手、痛むか?」

 

 「いや、もうほとんど痛くないぞ。別に大したケガでもないし」

 

 「そうか・・・すまなかったな」

 

 「気にすんなよ。決闘でのケガなんて、よくあることだろ?」

 

 「いや、しかし・・・」

 

 「良いの。俺が気にしてないんだから、ユリスも気にする必要なんて無いんだよ」

 

 「・・・優しいな、お前は」

 

 微笑むユリス。

 

 「お前の優しさに、私がどれほど救われていることか」

 

 「大げさだなぁ」

 

 「大げさなものか。私の為に怒ってくれた、私の友になってくれた、私の為に戦ってくれた、私の身を守ってくれた・・・初めて出会ったあの日から、私はお前に何度も救われている。感謝してもしきれないほどにな」

 

 「・・・何か、凄い恥ずかしいんだけど」

 

 「わ、私だって恥ずかしいのだぞ?だが、こういう機会はそう無いからな。きちんと伝えておきたいと思ったのだ」

 

 ユリスが俺を見て、照れ笑いを浮かべた。

 

 「ありがとう、七瀬」

 

 「・・・どういたしまして」

 

 何だか気恥ずかしいが、嬉しいもんだな。まさかユリスにこんなことを言ってもらえる日が来るなんて・・・初めて出会った時は想像も出来なかったわ。

 

 「ユリス・・・」

 

 俺はユリスの頬に手を添えた。

 

 「俺はお前を守ってみせる。お前が無事に《鳳凰星武祭》に出場できるように、絶対に守ってみせるからな」

 

 「あぁ、頼りにしている」

 

 ユリスは微笑み、俺の手を取った。

 

 「私も、あんな卑劣な手を使う奴には絶対に屈しない。私の叶えたい願いを、あんな卑怯者に潰されてたまるものか」

 

 「よしよし、その意気だぞ」

 

 ユリスの頭を撫でる俺。

 

 「さて、もう寝るか。明日も早いし」

 

 「うむ、そうだな。沙々宮のように寝坊してはいけないしな」

 

 「そういや紗夜の奴、明日ちゃんと来るのかなぁ・・・」

 

 「いや、来ないと殺されると思うぞ」

 

 「逆に来ても殺されると思うんだが」

 

 「・・・確かに」

 

 谷津崎先生、怒ってたからなぁ・・・どうなることやら・・・

 

 「あ、そうだ。明日の放課後、綾斗に学園を案内しようか。学園と街を案内してほしいって言ってたし」

 

 「私は構わないが・・・七瀬も来てくれるのか?」

 

 「ユリスのボディーガードだしな。基本的に、ユリスと一緒に行動したいと思ってるんだけど・・・ダメか?」

 

 「ダメなものか。むしろその方が、私としてはありがたい」

 

 「よし、決まりだな。じゃあ、おやすみユリス」

 

 「うむ。おやすみだ、七瀬」

 

 ユリスはそう言って目を閉じた。俺も目を閉じ、すぐに夢の中へと落ちていったのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

ちょっと久しぶりの投稿ですね。

色々とバタバタしていたもので・・・

さて、七瀬はしばらくユリスと同居することになりました。

そして一緒のベッドで、あんなことやこんなことを・・・

ユリス「するかあああああっ!」

え、しないの?

ユリス「しないわ!いい加減にしろダメ作者!」

あ、そういうこと言っちゃう?よし、ユリスの出番を大幅にカット・・・

ユリス「すみませんでしたあああああっ!」

分かればよろしい。それではまた次回!







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幼馴染

投稿が遅くなってしまい、申し訳ありません。


 ≪ユリス視点≫ 

 

 翌朝、私はアラームが鳴るより前に目を覚ました。

 

 (まだアラームは鳴っていない・・・もう少し寝るとしよう)

 

 そう思い目を閉じる。すると、何やら身体が温かいものに包まれているような感覚を覚えた。これはまるで・・・

 

 (誰かに抱き締められているような・・・)

 

 そんなことを考えていると、頭の上から微かな寝息が聞こえてきた。

 

 あぁ、昨夜は七瀬と一緒にベッドで寝たのだったな・・・ん?

 

 (まさかっ!?)

 

 慌てて目を開けると、七瀬の身体がすぐ目の前にあった。というより、私が七瀬の胸に顔を埋めている状態だった。完全に密着した状態で、七瀬の手が私の背中に回されている・・・

 

 つまり、私は七瀬に抱き締められているということだ。

 

 (な、な、な・・・!)

 

 顔が紅潮していくのが、自分でもよく分かる。同い年の男性に抱き締められていると考えただけで、とてつもなく恥ずかしい。だが・・・

 

 (温かい・・・何だか不思議と落ち着くな・・・)

 

 こんな風に誰かに抱き締められたのは、いつ以来だろうか。こんなに温かい温もりを、この場所で感じることができるとは思わなかった。

 

 (私は・・・もう一人では無いのだな)

 

 ここに来てからというもの、私はずっと一人で戦ってきた。しかし今は、七瀬が側にいてくれている・・・何だか安心している自分がいた。

 

 スヤスヤと寝息を立てて、気持ちよさそうに寝ている七瀬を見上げる。

 

 (・・・これが序列五位の《覇王》とは思えんな)

 

 思わず苦笑する。だが、その寝顔がとても愛おしく思えた。

 

 七瀬は昨夜、私を守ってみせると言ってくれたが・・・どうやら私の守りたいものの中に、七瀬も入ってしまったようだ。

 

 再び七瀬の胸に顔を埋める。

 

 (・・・私は昨日、散々お前に胸を揉みしだかれたのだ。これくらいしても、バチは当たるまい・・・)

 

 七瀬に身を委ね、そっと目を閉じる。七瀬の温もりに包まれる中、私は意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あー、よく寝た・・・」

 

 「寝過ぎだバカ者!時間ギリギリではないか!」

 

 「まぁ良いじゃん。遅刻せずに済みそうだし」

 

 「そ、それはそうだが!」

 

 一緒に登校中の俺とユリス。二人とも寝過ぎてしまい、慌てて準備をして部屋を飛び出したのだった。

 

 「それにしても、ユリスも寝坊とかするんだな」

 

 「お前に言われたくないわ!そもそも誰のせいで・・・」

 

 「ん?何か言った?」

 

 「べ、別に何でもない!」

 

 何故か赤面しているユリス。それにしても、ホント良く寝れたなー。まるで温かいものを抱いて寝てるみたいな心地よさがあったし。

 

 側にユリスがいたから、ユリスの体温を感じたのかな?

 

 「おはよー」

 

 そう言って教室に入った瞬間、クラスメイト達が群がってきた。

 

 「七瀬、序列五位おめでとう!」

 

 「お姫様に勝つなんて凄いな!」

 

 「私も決闘見てたけど、襲撃者を追ったから最後見れなくてさー!」

 

 「どうやって勝ったの!?」

 

 興奮状態のクラスメイト達。いや、どうやって勝ったって・・・

 

 「えーっと、最後は胸をm・・・」

 

 「ふんっ!」

 

 「イタッ!?」

 

 ユリスに足を踏まれた。痛い・・・

 

 「胸を・・・?」

 

 「む、胸の校章を破壊されたのだ!一瞬の隙をつかれてしまってな!」

 

 わざとらしく大声で叫ぶユリス。まぁ間違っちゃいないわな。

 

 「マジか!お姫様の隙をつくとは・・・」

 

 「やっぱ凄いね七瀬くん!」

 

 賞賛してくれる皆。うん、何か心が痛くなったな。

 

 「そういや昨日の襲撃犯を追ってくれた奴、ありがとな」

 

 「いいって。結局逃がしちまったしな」

 

 「ゴメンね。捕まえたかったんだけど・・・」

 

 「いやいや、謝ることないって!ホントありがとな」

 

 コイツら、マジで良い奴らだなぁ・・・

 

 「それにしても、決闘中に襲撃とはなぁ・・・」

 

 「許せないよねー」

 

 「何の話をしている?」

 

 「おわっ!?」

 

 いつの間にか、紗夜が俺の隣にいた。

 

 「紗夜、いつの間に!?」

 

 「今来たところ」

 

 「谷津崎先生、怒ってたぞ?」

 

 「・・・帰る」

 

 「はいストップ」

 

 「うぐっ」

 

 紗夜の首根っこを掴んで引き止める。

 

 「これ以上怒りのボルテージが上がると、マジで殺されるぞ」

 

 「・・・七瀬を生贄に、私を無償降臨させる」

 

 「誰が生贄だコラ」

 

 皆が笑う中、綾斗と夜吹が登校してきた。

 

 「おはよー・・・って、何の騒ぎだい?」

 

 「何かあったんか?」

 

 「あぁ、これはな・・・」

 

 「・・・綾斗?」

 

 紗夜が呟く。え・・・?

 

 「え・・・えええええ!?紗夜!?何でここに!?」

 

 ビックリしている綾斗。え、何?

 

 「お前ら知り合いなのか?」

 

 「あぁ、うん・・・幼馴染なんだ」

 

 「マジで!?」

 

 この二人、そんな関係だったのか・・・と、ユリスが首を傾げた。

 

 「幼馴染なら、何故うちの生徒だと知らなかったのだ?」

 

 「紗夜が海外に引っ越してから会ってないんだよ。かれこれ六年ぶりくらいかな」

 

 「その割には、沙々宮の反応が薄いようだが・・・」

 

 「ちょおビックリ」

 

 「いや、そうは見えんが・・・」

 

 ユリスのツッコミ。綾斗が苦笑する。

 

 「昔からこんな感じだからね・・・紗夜、元気だった?」

 

 「うん、ちょお元気」

 

 「そっか。それにしても変わらないなぁ・・・昔のまんまっていうか・・・」

 

 「そんなことはない。ちゃんと背は伸びた」

 

 「そ、そう?」

 

 首を傾げる綾斗。あ、これ絶対変わってないパターンや・・・今度昔の写真見せてもらおうかな。

 

 「綾斗は大きくなりすぎ。でも大丈夫、私も来年の今頃は綾斗くらいの身長になっている予定。綾斗もまだ背は伸びるだろうから、ちょうど釣り合いが取れるはず」

 

 「いや無理だろ。どう見ても三十センチは差があるぞ」

 

 「七瀬、諦めたらそこで試合終了」

 

 「紗夜先生、残念ながら・・・人生終了のお知らせです」

 

 俺は紗夜の背後を指差した。そこには、鬼のような形相の谷津崎先生が・・・

 

 振り向いた紗夜が、恐怖のあまり固まってしまう。

 

 「沙々宮ぁ・・・覚悟は出来てんだろうなぁ・・・」

 

 「じ、事情があって・・・」

 

 「言い訳は生徒指導室でたっぷり聞いてやらぁ!」

 

 紗夜の首根っこを掴み、引きずっていく谷津崎先生。絶望の表情を浮かべている紗夜。

 

 「・・・さよなら紗夜、お前のことは忘れない」

 

 「何で死んだみたいになってんの!?」

 

 綾斗のツッコミ。綾斗以外の皆は、ただ黙って両手を合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「紗夜ー、生きてるかー?」

 

 「・・・」

 

 机に突っ伏したまま動かない紗夜。生徒指導室から帰ってきた紗夜は、フラフラになりながら机に突っ伏してしまったのだった。谷津崎先生は妙にスッキリした表情で帰ってきたし・・・

 

 一体何があったのか、怖くて聞けないな・・・

 

 「おーい、紗夜ー?」

 

 「・・・返事が無い。ただの屍のようだ」

 

 「あ、谷津崎先生だ」

 

 ガバッと起き上がり、姿勢を正す紗夜。

 

 「嘘だよ。ってか、元気じゃねーか」

 

 「・・・全然元気じゃない。次の休日も補習を言い渡された」

 

 「寝坊したんだから、自業自得だろうよ」

 

 「相変わらず紗夜は朝に弱いんだね・・・」

 

 綾斗も苦笑している。

 

 「あ、そうだ綾斗。放課後ヒマ?」

 

 「え?あぁ、うん。ヒマだけど」

 

 「なら、俺とユリスで学園を案内しようか?案内してほしいって言ってたし」

 

 「良いの?ありがとう、助かるよ」

 

 「し、仕方なくだぞ!七瀬との約束で仕方なくだからな!」

 

 ユリスは相変わらずのツンデレぶりだった。

 

 「紗夜も来るか?」

 

 「うん、行く」

 

 「悪い七瀬、俺ちょっと部活があって行けないわ」

 

 両手を合わせる夜吹を、キョトンとした顔で見る俺。

 

 「え、夜吹も来るつもりだったの?」

 

 「誘われる気満々だったんだが!?」

 

 「安心しろ。誘う気ゼロだったから」

 

 「何でだよおおおおおっ!?」

 

 叫ぶ夜吹なのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

もっと早く投稿する予定だったんですが・・・

体調を崩し、寝込むハメになってしまいましたorz

いやー、ホントしんどかった・・・

やっぱり健康なのが一番ですね。

皆さんも体調にはお気を付け下さい。

それではまた次回!


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理由

Little Glee Monsterって凄いな・・・


 「まぁこれで、一通りは案内しただろう」

 

 ユリスが満足げに頷く。放課後、俺達は綾斗に学園を案内していた。

 

 「ありがとう、勉強になったよ」

 

 「どういたしまして。ってか紗夜、お前は道を知らなさ過ぎだぞ」

 

 「私、方向音痴だから」

 

 無い胸を張る紗夜。案内する先々で『なるほど』とか『それは初耳』とか・・・綾斗以上に感心してたよなコイツ。

 

 「じゃ、そこのベンチで休憩しよう。飲み物おごるけど、何か希望あるか?」

 

 「良いのか?では、冷たい紅茶を頼む」

 

 「私はりんごジュース。濃縮還元じゃないやつが良い」

 

 「俺は自販機を見て決めたいから、七瀬に付いてくよ」

 

 「了解。じゃ、ユリスと紗夜は座って待っててくれ」

 

 そう言って、綾斗と二人で自販機へ向かう。

 

 「それにしても、この学園は広いね」

 

 「だよなー。俺も入学式の時から迷ったよ。クローディアのおかげで助かったけど」

 

 「そういやクローディアって、かなり強いらしいね。夜吹から聞いたけど、序列二位なんだって?」

 

 「あぁ、二つ名は《千見の盟主》だ。俺も戦ってるところは見たことないけどな」

 

 「公式序列戦とか、誰か挑んだりしないの?」

 

 「公式序列戦でクローディアに挑む奴なんて、ほとんどいないみたいだぞ?それほどアイツの強さが恐れられてるってことだろうな」

 

 そんな話をしているうちに、自販機に着く。

 

 「えーっと、紅茶とりんごジュースだったよな。綾斗も好きなの選べよ」

 

 「うん、ありがとう・・・ねぇ、七瀬」

 

 「ん?」

 

 「聞いてみたかったんだけど・・・どうして煌式武装を使わないんだい?」

 

 おいおい・・・今その話かよ。

 

 「入学してから、一度も使ってないんだろ?レスターとの決闘の時や、公式序列戦でも使ってないって聞いたよ?ユリスとの決闘でも、君は使おうとしなかった」

 

 「・・・俺、煌式武装を使うの苦手なんだよ。素手の方が戦いやすいし」

 

 紅茶とりんごジュースを買いつつ、何気なく答える俺。

 

 「本当にそれだけかい?俺には、他に何か理由があるような気がするんだけど」

 

 「理由ねぇ・・・」

 

 コイツ、なかなか鋭いな。だが・・・

 

 「それなら、俺にも教えてくれないか?」

 

 「何を?」

 

 「お前が・・・本来の力を封印されている理由を、だよ」

 

 「・・・ッ!」

 

 息を呑む綾斗。どうやら図星らしいな。

 

 「お前の身体から感じる星辰力は、明らかに不自然だ。本来溢れ出るはずのものが、何かによって塞き止められているように感じる」

 

 「・・・よく分かるね」

 

 「星辰力の流れに関しては敏感でな。お前の身体からは、鎖で何重にも縛られているような違和感を感じる。こんなことを自分でやるとは思えないし、恐らく《魔術師》か《魔女》の力によるものなんじゃないか?」

 

 考えを述べつつ自販機にお金を入れ、綾斗に勧める俺。

 

 「・・・参ったな。そこまで気付かれたのは初めてだよ」

 

 ため息をつき、ボタンを押す綾斗。取り出し口から緑茶が出てくる。

 

 「・・・俺の力を封印したのは、俺の姉さんだよ。名前は天霧遥。姉さんの能力は、万物を戒める禁獄の力なんだ」

 

 「お前の姉さんは、何でその力をお前に使ったんだ?」

 

 「俺も聞いてみたいんだけどね。いきなり封印を施されて、気を失って・・・気付いたらもう、姉さんはいなくなってた。五年も前のことだよ」

 

 「失踪したってことか・・・?」

 

 「うん。ところが、その失踪した姉さんがこの学園にいたことが分かってね」

 

 「星導館に・・・?」

 

 失踪後、このアスタリスクにやってきたってことか・・・

 

 「ちょうど五年前らしいよ。でも半年後、本人都合により自主退学してるって。しかも姉さんのデータは、何者かによって抹消されていたらしいんだ」

 

 「抹消・・・?そんなこと可能なのか・・・?」

 

 「普通なら無理だって、クローディアが言ってたよ。ただ、上の人達なら可能かもしれないって」

 

 「統合企業財体か・・・」

 

 連中が絡んでるとなると、どうも闇の深そうな話だな・・・

 

 「でも五年前なら、当時のクラスメイトや先生が残ってるんじゃないのか?覚えてる人だっているはずだろ」

 

 「それが・・・誰一人として覚えていないらしいんだ。《星武祭》に出場した記録も無いし、《在名祭祀書》入りしたことも無いみたい。クローディアもお手上げだってさ」

 

 「マジかよ・・・」

 

 あのクローディアがお手上げとなると、よっぽど手がかりが無いんだな・・・それにしても、誰一人覚えてないっておかしくないか・・・?

 

 「ただ・・・一つだけ手がかりっていうか、姉さんに近付けるかもしれないものがあるんだって」

 

 「何だ?」

 

 「姉さんが使ってたかもしれない、純星煌式武装があるんだってさ」

 

 「純星煌式武装?確かなのか?」

 

 「まだ確証が取れてないとは言ってたけど・・・ある純星煌式武装に、貸与記録も無いのに実戦データが蓄積されていたらしいよ」

 

 「つまり何者かが無断で持ち出したか、貸与記録を改竄したってことか・・・?」

 

 「改竄の方が可能性は高いみたい。で、その実戦データが五年前のものなんだって」

 

 「なるほど・・・なら、綾斗の姉さんが使ってた可能性が高いな」

 

 「うん。今度見せてもらうことになってるんだ」

 

 「ちなみに、純星煌式武装の名前は?」

 

 「えーっと・・・確か《黒炉の魔剣》だったかな?」

 

 「《黒炉の魔剣》か・・・」

 

 それにしても、綾斗の姉さんは一体何が目的で動いてたんだ?分からないことだらけだな・・・

 

 考え込んでいると、突然耳をつんざくような爆音が響いた。

 

 「何事!?」

 

 綾斗が身構える。だが、俺はこの音に聞き覚えがあった。この音は・・・

 

 「アイツかあああああっ!?」

 

 「え、七瀬!?」

 

 ダッシュする俺を、綾斗が慌てて追いかけてくる。

 

 「七瀬、一体何事だい!?」

 

 「分からん!でも間違いなく紗夜が絡んでる!」

 

 「え、何で分かるの!?」

 

 「さっきの爆音はアイツの煌式武装・・・三十八式煌型擲弾銃ヘルネクラウムの弾が炸裂した音だ!」

 

 「音で分かるんだ!?」

 

 「前に紗夜がアレを教室でぶっ放して、大問題になったからな!」

 

 「どんだけ問題児なの!?」

 

 そんな会話をしつつ、ユリス達のところに戻ると・・・

 

 「うわぁ・・・」

 

 「これは酷い・・・」

 

 噴水が木っ端微塵に破壊されていた。水が噴き上がり、シャワーのように周囲に降り注いでいる。

 

 「あ、帰ってきた」

 

 「遅いぞ、お前達」

 

 紗夜とユリスが、ずぶ濡れの状態で立っていた。

 

 「・・・おい紗夜、何で噴水を破壊したんだ?」

 

 「・・・どうして私だと分かった?」

 

 「分かるわ!ヘルネクラウムぶっ放しただろ!」

 

 「おー、正解。流石は七瀬」

 

 「感心してる場合か!」

 

 「まぁ待て七瀬、事情があるのだ」

 

 割って入るユリス。

 

 「実は、例の襲撃者に襲われてな」

 

 「何だと!?」

 

 俺はユリスの肩を掴んだ。

 

 「大丈夫か!?ケガしてないか!?」

 

 「大丈夫だ、かすり傷も負っていない」

 

 「良かった・・ゴメン、側にいれなくて・・・」

 

 「良いのだ、気にするな」

 

 笑うユリス。

 

 「紗夜もケガ無いか?」

 

 「大丈夫だ、問題無い」

 

 親指を立てる紗夜。お前も強いもんなぁ・・・

 

 「ただ、気になることがあってな・・・今回の襲撃者は二人だった」

 

 「二人!?マジか!?」

 

 「あぁ。一人は前回と同じ奴・・・小太りの弓型煌式武装を使う奴だった。そして今回はもう一人・・・大柄で、斧型煌式武装を使う奴が一緒だった」

 

 「・・・ッ!おい、それって・・・!」

 

 「あぁ、似ていた・・・レスターにな」

 

 険しい顔のユリス。

 

 「ただ、やはり黒いフードを被っていてな。顔は見えなかった」

 

 「そうか・・・」

 

 険しい顔で黙り込む俺達に、綾斗がおずおずと声をかけてくる。

 

 「あ、あのさ・・・」

 

 「ん?どうした?」

 

 「いや、その・・・ユリスも紗夜も、そのままの格好はマズいよ・・・」

 

 目を逸らしながら言う綾斗。そして俺とユリスも気付いた。

 

 ずぶ濡れということは、制服が肌に張り付いているということだ。つまり必然的に透けて、下着がくっきりと浮き出てしまうことになる。

 

 目の前のユリスのように。

 

 「な、な、な・・・!」

 

 「ハイハイ、とりあえずこれ羽織っとけ」

 

 制服の上着を脱ぎ、赤面しているユリスに掛けてやる。

 

 「綾斗も紗夜に・・・って紗夜!?お前下着はどうした!?」

 

 紗夜の制服は肌に張り付き、下着を付けていない胸が完全に透けて見えていた。

 

 「・・・悲しいかな、私にはまだ必要無い」

 

 平然と言ってのける紗夜に、頭を抱える俺達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「二人目の襲撃者ですか・・・」

 

 険しい顔をするクローディア。俺とユリスは事件の報告をする為、クローディアの部屋を訪れているのだった。

 

 「ゴメン・・・安易にユリスの側を離れるべきじゃなかった」

 

 「七瀬は悪くありませんよ。悪いのは、沙々宮さんに決闘を吹っ掛けたユリスです」

 

 ため息をつくクローディア。何でもあの時、二人は決闘しようとしていたらしい。ユリスが紗夜に決闘申請しようとしたところを襲われたそうだ。

 

 「さ、先にケンカを売ってきたのはアイツだぞ!?」

 

 「だからと言って、決闘を吹っ掛けるなんて軽率すぎます。襲撃犯が決闘の隙をついてきていることは、あなたもよく分かっているでしょう。二度も襲われたのに、何故学習しないのですか?」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まるユリス。

 

 「あなたは少し血の気が多すぎます。当面の間、決闘は控えること。それと、出来る限り七瀬と一緒に行動して下さい。良いですね?」

 

 「う、うむ・・・」

 

 渋々頷くユリス。と、クローディアが再びため息をつく。

 

 「今回の件で風紀委員会は、マクフェイルくんも有力な容疑者候補として調べることにしたようです。今回の襲撃の時間、彼とフックくんはアリバイが無かったそうですから」

 

 「でもレスターは前回の襲撃の時、綾斗や夜吹と一緒にいたんだぞ?」

 

 「風紀委員会としては、黒幕がマクフェイルくんだと睨んでいるようですよ。自身が疑われないよう、前回まではフックくんに実行犯をやらせていた。しかしフックくんが手こずっているのを見かねて、今回は自身も参戦したと見ているようです」

 

 「・・・風紀委員会は、どうしてもレスターを犯人にしたいのな」

 

 「フックくんが容疑者候補として浮かび上がってから、マクフェイルくんが黒幕という線を考えていたようですね。今回の襲撃で、その線を確信しているようです」

 

 「マジかよ・・・じゃあ、サイラスも疑われてるのか?」

 

 「ノーマンくんに関しては、あまり疑われていないようです。いずれの襲撃の際も、彼にはアリバイがあったそうですよ」

 

 「それを言ったら、レスターにだって前回のアリバイがあるんだけどな・・・」

 

 「えぇ。ですから、陰で協力している可能性は捨てていないようです。ですが、ノーマンくんは大人しい生徒ですからね。熱くなりがちなマクフェイルくんやフックくんを、宥める光景もよく目撃されていますから。そういうこともあって、風紀委員会もノーマンくんをあまり疑ってはいないようですよ」

 

 「・・・なるほど」

 

 まぁアイツ、戦闘向きって感じでもないしなぁ・・・

 

 「それにしても、犯人も焦っているようですね。決闘が始まってもいないのに襲撃してくるとは・・・」

 

 「それな。今回も失敗したし、本当になりふり構わずくるかもしれないぞ」

 

 「えぇ。ユリス、気をつけるんですよ?くれぐれも今回のような軽率な行動を取らないで下さいね?」

 

 「わ、分かっている!」

 

 頬を膨らませるユリス。

 

 「七瀬も、今以上に警戒をお願いします」

 

 「了解。犯人探しの方はどうだ?」

 

 「現在調査中ですが、これといって進展はありません。状況が状況ですし、私もお役に立ちたいのですが・・・」

 

 「十分やってもらってるって。引き続き調査を頼む」

 

 「承知しました。全力で当たります」

 

 「・・・さて、話は済んだな。七瀬、部屋に戻るとしよう」

 

 「おう、そうだな」

 

 立ち上がる俺達。と、クローディアが微笑んだ。

 

 「あら、すっかり同棲生活に慣れたようですね。まだ一日しか経っていませんのに」

 

 「な、何が同棲生活だ!」

 

 赤面しながら叫ぶユリス。

 

 「い、行くぞ七瀬!」

 

 「ハイハイ。じゃ、おやすみクローディア」

 

 「えぇ、おやすみなさい」

 

 笑いながら手を振るクローディアなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 翌日、ユリス襲撃事件がネットニュースで報道された。

 

 しかしユリスが謎の襲撃者を撃退したという点のみが取り上げられており、紗夜がその場にいたことすら触れられてはいなかった。

 

 「全く・・・犯人を撃退したのは沙々宮だというのにな・・・」

 

 ため息をつくユリス。一方の紗夜は、興味無しといった感じだった。

 

 「《冒頭の十二人》と序列外では、ずいぶんと扱いが異なる。それは分かっていたこと」

 

 「紗夜はドライだなぁ・・・」

 

 「現実を知っているだけ」

 

 平然と言ってのける紗夜。コイツ、やっぱ大物だわ。

 

 「ところで綾斗は?」

 

 「純星煌式武装の適合率検査を受けるんだってさ。クローディアと一緒に装備局に行ってるはずだ」

 

 「純星煌式武装・・・流石は綾斗」

 

 感心している紗夜。

 

 「あ、そうだユリス」

 

 「ん?どうした?」

 

 「次の休日、綾斗に街を案内しないか?綾斗も空いてるって言ってたし」

 

 「私は構わんぞ。特に予定も無いしな」

 

 「了解。紗夜はどうする?」

 

 「行きたいのは山々・・・でも、補習がある」

 

 「あー・・・」

 

 そういや、谷津崎先生から言われてるんだっけか・・・

 

 「・・・紗夜、生きて帰って来いよ」

 

 「いや、たかが補習だろう?何故戦場に行くみたいな感じになっているのだ?」

 

 「・・・必ず生きて帰る。また会おう、友よ」

 

 「紗夜・・・」

 

 「七瀬・・・」

 

 「いや、だから何で無駄にシリアスな雰囲気なのだ!?」

 

 俺と紗夜が握手を交わす中、一人叫ぶユリスなのだった。

 




二話続けての投稿となります。

あー、カラオケ行きたい(唐突)

映画も行きたいし髪も切りたいし・・・

最近忙しくて全然行けない・・・

誰か私に時間をくれww

それではまた次回!


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違和感

暗殺教室を観に行きたい・・・


 休日・・・俺は綾斗と一緒に、正門前でユリスを待っていた。

 

 ユリスと一緒に来るつもりだったんだが、『乙女の支度には時間が掛かるのだ』とか言われて部屋を追い出されたのだった。

 

 「そういや、七瀬ってクローディアと一緒の部屋で生活してるんだよね?」

 

 「え?あぁ、そうだよ」

 

 今はユリスの部屋で生活していることは、俺・ユリス・クローディアしか知らない秘密事項だ。生徒会長であるクローディアの部屋に住むということで、女子寮での生活を許可されているわけだしな。

 

 「その割には、一緒に登校してないよね?毎朝ユリスと一緒に登校してるし」

 

 「ク、クローディアは生徒会長としての仕事が忙しくてな。朝は早く登校することが多いんだ。一人で登校するのもつまんないから、ユリスと時間を合わせて登校するようにしてるんだよ」

 

 「なるほど、そういうことか」

 

 納得している綾斗。あっぶねー・・・

 

 「待たせたな」

 

 ユリスの声がする。振り向くと、ワンピース姿のユリスが立っていた。日傘を差し、まるでどこぞのお嬢様のよう・・・

 

 「・・・って、そういやお姫様じゃん」

 

 「ん?何か言ったか?」

 

 「メッチャ可愛いじゃんって言ったんだよ」

 

 「なっ・・・!?」

 

 顔を真っ赤にするユリス。

 

 「バ、バカ!何を恥ずかしいことを・・・!」

 

 「いやいや、ホントだって。な、綾斗?」

 

 「うん、凄く似合ってるよ」

 

 「さ、さぁ行くぞ!早く付いて来い!」

 

 「あ、照れてる」

 

 「て、照れてなどいない!」

 

 耳まで真っ赤にしながら先を歩くユリスを、苦笑しながら追う俺と綾斗なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「んー、ハンバーガー美味いなー!」

 

 「あぁ、これはたまらない!」

 

 「アハハ・・・」

 

 ハンバーガーを夢中で頬張る俺とユリスを、苦笑しながら見つめる綾斗。俺達は昼休憩ということで、ハンバーガーチェーン店にやってきていたのだった。

 

 「お姫様は、ハンバーガーチェーン店なんて利用しないと思ってたよ」

 

 「それは偏見だぞ綾斗。私はジャンクフードが好きだしな」

 

 「そういや、初めてユリスと出掛けた時もハンバーガー食べたよな」

 

 「そうだったな。あの時はクローディアも一緒で、大変だったことを覚えているぞ」

 

 「そうそう、クローディアがハンバーガーチェーン店に入るの初めてだったんだよな。注文するのにメッチャ戸惑ってたっけ」

 

 「アイツは中等部一年からアスタリスクにいるのだから、もっとこういった店も利用すべきだと思うがな」

 

 「それな。でもクローディア、あれから時々利用してるみたいだぞ」

 

 「本当か?まぁアイツ、ハンバーガーの美味しさに感動していたしな」

 

 そんなこともあったなぁ・・・そんな前のことじゃないけど、何だか懐かしい。

 

 またクローディアを誘って、ハンバーガー食べに来るかな。と・・・

 

 「おや、七瀬さんではありませんか」

 

 聞き覚えのある声がする。振り向くと、荷物を抱えたサイラスが立っていた。

 

 「おー、サイラス。買い物か?」

 

 「えぇ、まぁ・・・レスターさんとランディさんにプレゼントでも、と」

 

 顔を曇らせるサイラス。

 

 「お二人とも、今ちょっと元気が無いといいますか・・・風紀委員会にユリスさんを襲った犯人ではないかとしつこく疑われ、精神的に参っているのです」

 

 「マジかよ・・・」

 

 大丈夫か二人とも・・・

 

 「風紀委員会は、やはり二人をだいぶ疑っているようだな」

 

 「えぇ、もう決め付けてしまっているようです」

 

 ユリスの言葉にため息をつくサイラス。

 

 「取り調べが行われたのですが、たいぶキツく尋問されたようでして・・・何せ動機はバッチリ、三件の決闘時のアリバイも無いとなると・・・」

 

 「・・・レスターに関しては、二件目の決闘の時のアリバイはあるけどな」

 

 「えぇ。ですがレスターさんが黒幕で、ランディさんが実行犯という考えを変えるつもりは無いようです。困りました・・・」

 

 「安心しろサイラス、私もレスターとランディが犯人だとは思っていない」

 

 ユリスの言葉に、驚いたような顔をするサイラス。

 

 「ほ、本当ですか・・・?」

 

 「あぁ、だから二人にも伝えろ。お前らが犯人だとは思っていないから安心しろ、と」

 

 「あ、ありがとうございます!二人とも喜びます!」

 

 サイラスは一礼すると、急いでその場を去っていった。

 

 「・・・どう思う?」

 

 「・・・恐らく、お前と同じことを考えている」

 

 「・・・俺も」

 

 俺の言葉にユリスが答え、綾斗が同意する。

 

 「でもそうなると、レスターとランディに似てるフードを被った奴って一体・・・」

 

 「そうだな・・・仲間の中に似たような体格の奴がいるのかもしれん」

 

 考え込む綾斗とユリス。そんな中、俺はあの時のことを思い出していた。

 

 「何か違和感あったんだよなぁ・・・」

 

 「違和感?」

 

 首を傾げるユリス。

 

 「ほら、俺とユリスが決闘した時だよ。逃げる犯人の背中を見て、ランディに似てると思ったんだが・・・何か違和感を感じた気がして・・・」

 

 「どういうことだ?」

 

 「分からない・・・あの時はユリスを庇うのに精一杯で、犯人のこともあまり長く見れなかったし・・・」

 

 あー、何かモヤモヤするなー・・・

 

 「とりあえず今のこと、帰ったらクローディアに報告した方が良いんじゃないかな」

 

 「・・・そうだな。証拠は無いが、手がかりになるだろうし」

 

 綾斗の言葉に頷く俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 ≪綾斗視点≫

 

 七瀬とユリスに街を案内してもらい、気が付くと夕方になっていた。今はユリスと広場のベンチに座り、飲み物を買いに行った七瀬の帰りを待っているところだ。

 

 俺も一緒に行こうとしたんだけど、ユリスを一人にするのはマズいからって七瀬にお願いされたんだ。

 

 「ねぇユリス」

 

 「ん?何だ?」

 

 「ユリスって、七瀬のこと好きなの?」

 

 「ハァッ!?」

 

 顔を真っ赤にするユリス。

 

 「な、何を言い出すのだお前は!」

 

 「だってユリス、七瀬に対しては凄く心を許してるから。ここで初めて出来た友達とは聞いてるけど、それだけじゃないような気がしてさ」

 

 俺の言葉に、口をパクパクさせているユリス。と、やがてため息をついた。

 

 「・・・私が七瀬に心を許しているのは、私の守りたいものの中にアイツが入っているからだ」

 

 「守りたいもの・・・?」

 

 「あぁ」

 

 頷くユリス。

 

 「私は、自分の国にいる友人達を救う為にここへやってきた。《星武祭》で優勝して金を手に入れ、友人達を守りたい・・・その願いを叶える為にやってきたのだ」

 

 「でも、ユリスってお姫様なんでしょ?お金ならあるんじゃ・・・」

 

 「リーゼルタニアは、統合企業財体の傀儡国家だ。あの国には私に使われる金はあっても、私が自由に使える金など無い。金を稼ごうと思ったら、自分で戦って稼ぐしか方法は無いのだ」

 

 ユリスの表情が暗くなる。

 

 「だから、周りと馴れ合ってはいけないと思っていた。戦う以上、ここにいる奴らは全て敵だと・・・そう思っていた。アイツに出会うまではな」

 

 アイツ・・・七瀬のことか。

 

 「七瀬は最初、クローディアに頼まれて私と接触してきた。友人のいない私を見かねたのだろうな・・・全く、余計なことをしてくれる女だ」

 

 ため息をつくユリス。

 

 「だから私は、七瀬に冷たく当たった。私に関わるなと、ハッキリ言ってやった」

 

 「・・・目に浮かぶようだよ」

 

 「ふん・・・だが、アイツは私を庇ってくれた。レスターに侮辱された時、私の為に本気で怒ってくれた。レスターから売られたケンカを私の代わりに買い、そして見事勝った。あの時のことは、今でも忘れない」

 

 そういや、レスターと夜吹が言ってたっけ・・・それがあってから、ユリスは七瀬に心を開くようになったって。

 

 「決闘が終わった後、アイツは私に言ったのだ。皆がお前の敵なわけじゃない、もう一人で頑張るな、辛い時は頼ってくれて良い、と」

 

 微笑むユリス。

 

 「今までよく頑張った・・・そう言われた瞬間、今まで入っていた力がフッと抜けたのを感じたのだ。恐らく、ホッとしたのだろうな。私が七瀬に心を許した瞬間だった」

 

 そうだったのか・・・七瀬、カッコいいな。

 

 「七瀬は、私を守ると言ってくれた。だが私も、守られるだけの存在は嫌なのだ。私も七瀬を守りたい・・・自分の国の友人達と同じように、ここで出来た初めての友人を守りたいのだ」

 

 「ユリス・・・」

 

 ・・・何か、あんな質問をした自分が恥ずかしいな。ユリスが七瀬を大切に思う気持ちは本物だ。それを邪推しちゃいけないよな。

 

 「・・・ユリスはさ、七瀬と《鳳凰星武祭》に出るのかい?」

 

 「いや、別のパートナーを見つけようと思っている」

 

 「え、だって七瀬を一番信頼してるんじゃ・・・」

 

 「そうなのだが、七瀬に甘えっぱなしというわけにもいかないだろう。もしパートナーが見つからなかったら、一緒に出ようと七瀬は言ってくれているが・・・」

 

 「何だ、じゃあ一緒に出たら良いじゃないか」

 

 俺がそう言うと、ユリスが再びため息をついた。

 

 「・・・綾斗、お前も薄々感じているのではないか?七瀬が戦いを好まないことを」

 

 「・・・」

 

 何も言えなくなる俺。そう、それは薄々感じていたことだ。

 

 「七瀬は《冒頭の十二人》入りしてからというもの、幾度となく決闘を申し込まれてきた。しかし全て断り、戦うのは公式序列戦の時のみにしている。七瀬と決闘をしたことがあるのは、私が知る限りレスターと私の二人だけのはずだ」

 

 決闘を全て断っている・・・か。初めて知ったな・・・

 

 「今の序列を守る為に、リスクを減らしているとも取れるが・・・アイツは序列に関して興味が無い。レスターと私に挑まれた決闘で勝ったから序列五位にいるだけで、アイツ自身が望んで《冒頭の十二人》になったわけではないのだ」

 

 「つまり序列を守る為じゃない・・・となると、やっぱり戦いを好まないってことか」

 

 「好まないというより・・・恐れているような気もするがな」

 

 「恐れている?あれだけ強いのに?」

 

 「あくまで私の勘だ。だが一度も煌式武装を使わず、常に素手で戦っているところを見ると・・・本気を出すことを恐れているように感じるのだ。実際に決闘してみて、より強くそう思った」

 

 「もしかしてユリス、あの時七瀬に決闘を挑んだのは・・・」

 

 「あぁ、実際に戦って確かめたかったからだ。そしてそう思った以上、やはりパートナーは別の者にしようと思った。戦いを望まない七瀬に戦ってもらうなど、友人として絶対にしたくないからな」

 

 強い口調で言うユリス。本当にユリスは、七瀬を大切に思ってるんだな・・・

 

 そんなことを考えていた時、突然殺気を感じた。

 

 『・・・ッ!』

 

 左右へ飛び出す俺とユリス。今まで座っていたベンチに、光の矢が何本も刺さった。

 

 「襲撃!?決闘もしてないのに!?」

 

 警戒して辺りを見渡す俺。と、人影が路地へと逃げ込んでいくのが見えた。黒いフードを被った小太りの奴で間違いない。弓型煌式武装を使う奴だ。

 

 「逃がすものか!待て!」

 

 走り出すユリス。

 

 「ダメだユリス!深追いはマズい!」

 

 声をかけるが、ユリスは足を止めなかった。恐らく、頭に血が上っているんだろう。

 

 「くそっ!」

 

 俺は急いでユリスの後を追ったのだった。

 




初の三話連続投稿でございます。

次の投稿日は、金曜日になると思われます。

またバタバタしそうなので・・・

投稿が不定期の上に遅くなり、大変申し訳ありません。

温かい目で見守っていただけると幸いです。

それではまた次回!



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正体

投稿が遅くなって申し訳ありません。


 「えーっと、ユリスが紅茶で綾斗が緑茶・・・って、前もそうじゃなかったっけ?」

 

 自販機で飲み物を買っている俺。綾斗がついてるから大丈夫だとは思うが、あまり長くユリスの側を離れるわけにもいかない。

 

 早く買って戻らないといけないが・・・

 

 「・・・何か用?」

 

 振り向いて尋ねる俺。そこには、ガラの悪い学生達が二十人ほど集まっていた。レヴォルフの生徒達だ。

 

 リーダーと思われる男がニヤリと笑う。

 

 「悪いな、お前に恨みはねぇが・・・依頼はきちんと遂行しねぇといけねぇんだ」

 

 「依頼?」

 

 何者かが、俺を潰せとでも依頼したのか・・・?

 

 「お前から薔薇色の髪の女と離れてくれて助かったぜ。依頼ではお前らを引き離してから、お前を潰してくれって話だったしな」

 

 「・・・ッ!」

 

 つまり依頼したのは、例の襲撃犯・・・ユリス達が危ない!

 

 「さて、まずはたっぷり痛ぶるとしますか」

 

 「・・・そこを退け」

 

 「は?お前さぁ、今の状況が分かって・・・」

 

 リーダーの男が言い終わる前に、間合いを詰めて顔面に拳を叩き込む。男は吹き飛び、近くの建物の壁にめり込んだ。

 

 「え・・・?」

 

 「リ、リーダー!?」

 

 呆然としている不良達。目で追えなかったんだろうな。

 

 「・・・お前ら、同じ目に遭いたいか?」

 

 俺の言葉で、不良達の間に緊張が走った。

 

 「こ、この野郎・・・ッ!」

 

 「よくもリーダーを・・・ッ!」

 

 一斉に襲い掛かってくる。その時、紫色の輝きが不良達を包み込んだ。そして・・・

 

 「ぐあっ!?」

 

 「な、何だ!?」

 

 不良達が地面に倒れこみ、起き上がれずに苦しんでいる。これって・・・

 

 「重力・・・?」

 

 「ご名答」

 

 上から声がする。見上げると、自販機の上で一人の女があぐらをかいていた。レヴォルフの制服を着ており、手には巨大な鎌を持っている。

 

 いつの間にそこに・・・

 

 「《吸血暴姫》!?」

 

 「な、何でこんなところに!?」

 

 倒れている不良達が驚愕している。《吸血暴姫》・・・?

 

 「うるせぇな。何処にいようがあたしの勝手だろ」

 

 不機嫌そうな顔で答える女。不良達が喚く。

 

 「お、俺達の邪魔すんじゃねぇ!」

 

 「そうだ!俺達は依頼で・・・」

 

 「うるせぇ、耳障りだ」

 

 女が鎌を振るうと、紫の光が強くなる。

 

 「うわああああっ!?」

 

 「があああああっ!?」

 

 不良達は苦しそうに叫ぶと、次々と気を失っていった。全員が気を失うと、女は自販機の上から俺の前に飛び降りた。

 

 「いっちょ上がり、だな」

 

 「ありがとう。助かった」

 

 「礼なんざ要らねぇよ。あたしが勝手にやったことだ」

 

 俺をじっと見る女。

 

 「お前、星野七瀬だよな?」

 

 「え、知ってんの?」

 

 「星導館の《覇王》だろ?それなりに有名だぜ?まぁコイツら、バカだから知らなかったみたいだが」

 

 呆れ顔で気絶した不良達を見る女。

 

 「そういやコイツら、アンタのこと《吸血暴姫》って呼んでたな・・・アンタもレヴォルフで《冒頭の十二人》だったりするのか?」

 

 「おいおい、各学園の《冒頭の十二人》くらいは把握しとけよ・・・」

 

 ため息をつく女。

 

 「あたしはイレーネ・ウルサイス。レヴォルフの序列三位だ」

 

 「三位!?」

 

 そんな強いのか・・・

 

 「そんな奴が、何で俺を助けてくれたんだ?同じレヴォルフの生徒を倒してまで」

 

 「けっ、こんな奴らとあたしを一緒にすんな。学校は同じでも、こんな奴らを仲間だと思ったことなんざねぇよ」

 

 吐き捨てるように言うイレーネ。

 

 「何かムカついたから倒しただけだ。それにお前、急いでんだろ?」

 

 「そうだ!早く行かないと!」

 

 早くしないと、ユリス達が危ない!

 

 「早く行け《覇王》。コイツらの処理は、あたしがやっとくから」

 

 「頼んだ!あ、それと・・・」

 

 「ん?」

 

 「俺、その二つ名あまり好きじゃないんだよ。俺のことは七瀬で良いから」

 

 「・・・わーったよ、七瀬」

 

 「おう、ありがとなイレーネ!今度何かおごるわ!」

 

 「期待しないで待っとくぞー」

 

 イレーネに手を振り、ダッシュでユリス達の下へ向かう俺。

 

 「ユリス!綾斗!」

 

 広場のベンチに戻ると、そこには誰も座っていなかった。ベンチをよく見ると、いくつかの傷が残っている。

 

 まるで、矢が刺さっていたかのような・・・

 

 「くそっ!遅かったか!」

 

 どうやら既に襲撃されたらしい。と、何処かで爆発音が聞こえた。

 

 「何だ!?」

 

 辺りを見渡すと、向こうの路地から煙が上がり、火の粉が散っている。

 

 あれって・・・

 

 「ユリスか・・・!」

 

 急いで駆け出す。ユリスが能力を使っているということは、襲撃者と交戦していると見て間違いない。恐らく、綾斗も一緒のはずだ。

 

 「二人とも、無事でいてくれ・・・!」

 

 必死に走る俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 ≪ユリス視点≫

 

 「逃がすものか!待て!」

 

 私は襲撃犯を追うため、路地へと駆け出した。

 

 「ダメだユリス!深追いはマズい!」

 

 綾斗の声が聞こえたが、私は足を止めなかった。ここまでされて、何もせずに見逃してやるほど私は甘くない。急いで路地へと入った瞬間だった。

 

 物陰から大柄な奴が現れ、斧を振り下ろしてきた。咄嗟に横へ跳んで回避する。

 

 「チッ、待ち伏せか!」

 

 そこへ先ほどの小太りの奴が、光の矢を連射してくる。地面を転がり、何とかかわす。

 

 「咲き誇れ!六弁の爆焔花!」

 

 襲撃犯達に大技をぶつける。吹き飛ぶ襲撃者達。

 

 「ユリス!」

 

 綾斗が急いでやってくる。

 

 「大丈夫かい!?」

 

 「あぁ、問題無い。襲撃犯達も・・・」

 

 言いかけた時、爆発の煙が晴れた。しかし、そこには誰もいなかった。

 

 「なっ・・・逃げただと!?」

 

 あれを食らって逃げられるとは・・・思ったより手強い連中かもしれん。

 

 「とにかく、戻って七瀬と合流しよう!」

 

 「あ、あぁ・・・」

 

 綾斗と広場へ戻ろうとした時、またしても気配を察知した。

 

 「・・・ッ!上か!」

 

 見上げると、建物の屋根に煌式武装のアサルトライフルを構えた奴がいた。

 

 (マズい、回避できない!)

 

 ダメージを覚悟した時だった。

 

 「おりゃっ!」

 

 気合いの入った声と共に何かが飛んできて、アサルトライフルに直撃した。衝撃で、アサルトライフルを落としてしまう犯人。

 

 私は後ろを振り向いた。そこには・・・

 

 「七瀬!」

 

 「ゴメン、遅くなった!」

 

 私が最も信頼できる友人・・・七瀬がいたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「二人とも、無事でいてくれ・・・!」

 

 路地に向かって走っていると、建物の屋上に黒いフードを被った奴を見つけた。煌式武装のアサルトライフルを、下に向けて構えている。

 

 恐らく、ユリス達を狙って・・・

 

 「マズい・・・!」

 

 右手に星辰力を集め、左手で持っていた紅茶の缶を空中に放る。そして・・・

 

 「おりゃっ!」

 

 缶を右の拳で殴る。缶は勢いよく飛んでいき、アサルトライフルに直撃した。アサルトライフルを落としてしまう犯人。

 

 と、ユリスと綾斗がこっちを振り向く姿が見えた。

 

 「七瀬!」

 

 「ゴメン、遅くなった!」

 

 俺は二人に謝ると、今度は緑茶の缶を空中に放って殴った。缶は犯人の頭を目掛けて飛んでいく。犯人は避けきれず、缶はローブを掠めた。

 

 その勢いでローブが外れ、犯人の顔が明らかになる。が・・・

 

 「なっ!?」

 

 驚愕する俺。目と思しき窪みがあるだけで、鼻も口も無い・・・人形だったのだ。

 

 そうか、あの時の違和感の正体は・・・星辰力の流れだ。

 

 「そりゃ違和感も感じるよな・・・人間じゃないんだから」

 

 もっと早く気付くべきだったな・・・と、人形が手榴弾のようなものを放った。

 

 「ッ!綻べ!赤壁の断焔華!」

 

 ユリスが急いで炎の壁を出現させる。しかし、それは手榴弾ではなかった。地面に落下し、モクモクと煙を吐き出す。

 

 「煙幕!?」

 

 視界が塞がれる。煙が晴れた頃には、人形はいなくなっていた。

 

 逃げられたか・・・

 

 「ユリス!綾斗!大丈夫か!?」

 

 「あぁ、大丈夫だ」

 

 「俺も平気だよ」

 

 良かった・・・二人ともケガもしてないみたいだ。

 

 だが・・・

 

 「人形か・・・」

 

 俺達は、その場に立ち尽くしたのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

投稿が遅くなって申し訳ありません。

色々バタバタしておりました。

勉強したり・・・仕事したり・・・映画見たり←

暇がある時に、なるべく投稿していきたい思います。

それではまた次回!



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六花園会議

西沢幸奏さんの新曲『帰還』が良い曲すぎる・・・

もう一度劇場版『艦これ』を観に行きたい・・・


 「・・・なるほど。人形ですか・・・」

 

 俺・ユリス・綾斗の三人は、クローディアの部屋を訪れていた。ちなみに綾斗は女子寮へ入る許可が無いので、窓から侵入している。

 

 初めてユリスと出会った時のこともあり、本人はあまり乗り気ではなかったが。

 

 「あぁ、これで分かったことがある」

 

 自分の考えを述べる俺。

 

 「一連の事件の裏にいるのは・・・恐らくアルルカントだ」

 

 「だろうな。あれほどの人形を作ることが出来るのは、アルルカントしかあるまい」

 

 ユリスも同意する。アルルカント・アカデミー・・・他の学園の追随を許さない技術力を持つ学園だ。

 

 つまりアルルカントが黒幕で、うちの生徒を使って好き放題やってくれているというわけだ。

 

 「他の学園が絡んでいるとはね・・・」

 

 ため息をつく綾斗。綾斗にも事情を全て説明した。これだけ巻き込んでしまっている以上、説明しないと逆に危険だしな。

 

 「ところで、犯人が分かったというのは本当ですか?」

 

 「あぁ、恐らく間違いない」

 

 「誰ですか?」

 

 クローディアの質問に、俺は一拍置いてから答えた。

 

 「・・・サイラスだ」

 

 「・・・ッ!」

 

 息を呑むクローディア。

 

 「本当なんですか・・・?」

 

 「あぁ。アイツは、犯人しか知りえない情報を知っていたからな」

 

 「と言うと?」

 

 「今日、アイツはこう言ったんだ・・・三件の決闘、ってな」

 

 「・・・それが何か?」

 

 ピンときていない様子のクローディア。

 

 「クローディア、お前ともあろう奴が気付かないのか?」

 

 呆れているユリス。

 

 「公に知れ渡っているのは、二件目の決闘・・・私と七瀬の決闘時の襲撃のみだ。一件目の綾斗との決闘では、一般生徒は誰も襲撃に気付いていなかっただろう」

 

 ユリスの言葉にハッとするクローディア。綾斗も続ける。

 

 「そして三件目・・・ユリスと紗夜の決闘に関しては、ユリスが襲撃者を撃退したっていう点しか取り上げられなかった。紗夜がその場にいたことさえ報道されなかったのに、アイツは決闘のことを知っていた。まぁ、正しくは決闘未遂だけどね」

 

 「しかも、だ」

 

 俺は更に続けた。

 

 「アイツは《魔術師》で、能力は物体操作だったはずだ。つまり、人形を操ることが可能なんだよ。状況さえ分かるなら、襲撃の現場にいる必要は無いしな。それこそ、人形にカメラでも持たせたら良いわけだ」

 

 「なるほど・・・つまりアリバイがあってもおかしくない、ということですか・・・」

 

 考え込むクローディア。

 

 「分かりました、こちらでも調べてみましょう。もしかすると、特務機関を動かせるかもしれません」

 

 「頼んだ」

 

 ここまで掴んだ以上、動いてもらわないと困るしな・・・

 

 「ですが・・・気を付けて下さい。ノーマンくんが犯人だとして、今日の状況を見ていたのなら・・・人形に気付かれたことを知っているはずです。となると、強行手段に打って出てくる可能性があります」

 

 「そうだな・・・今までは私が標的だっただろうが、七瀬と綾斗も標的になってしまった可能性がある・・・」

 

 俯くユリス。

 

 「二人とも、すまない・・・」

 

 「謝んなよ。ボディーガードを引き受けた時点で、それぐらい覚悟してる」

 

 「俺も大丈夫だよ。ユリスが気にすることじゃないさ」

 

 笑う俺達。どの道、ここまで首を突っ込んだ以上は戻れないしな。

 

 「う、うむ・・・ありがとう」

 

 頬を赤く染めつつ、お礼を言うユリス。しかし何処か浮かない表情のユリスが、俺は気になっていたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 話し合いも終わり、綾斗は男子寮へと帰った。俺はユリスを先に部屋へと帰し、クローディアの部屋に残ったのだった。

 

 「よろしかったんですか?ユリスと一緒に部屋に戻らなくて」

 

 「一緒に部屋に戻ると、途中で他の女子に会った場合マズいだろ。この間もシャノンに出くわして大変だったし」

 

 あの時はマジで焦った・・・誤魔化したけど、怪しんでたよなアイツ・・・

 

 クローディアがクスクス笑う。

 

 「あらあら、それは災難でしたね。ですが・・・本当にそれだけですか?何か私に話があるのでは?」

 

 「・・・敵わないなぁ、クローディアには」

 

 苦笑する俺。

 

 「・・・実は今日、レヴォルフの奴らに襲われてな」

 

 「レヴォルフに・・・?」

 

 険しい顔をするクローディア。

 

 「アルルカントだけでなく、レヴォルフも関与しているのですか・・・?」

 

 「いや、多分違うな。誰かに依頼されたって言ってたから、恐らくサイラスが金でも積んだんだろ。目的は・・・俺を潰すことだった」

 

 「・・・ッ!ではやはり、七瀬も標的に・・・」

 

 「されちまったみたいだな。ユリスを潰すのに俺が邪魔なのか、俺がユリスと《鳳凰星武祭》に出る可能性を考えたのか・・・」

 

 「・・・恐らく両方でしょうね。私がボディーガードを頼んだせいで、こんなことになってしまって・・・本当に申し訳・・・」

 

 「ていっ」

 

 「あうっ」

 

 謝ろうとするクローディアの頭に、勢いよくチョップをかます。頭を押さえ、涙目になるクローディア。

 

 「な、何をするんですか!?」

 

 「いや、何となく」

 

 「何となくで人の頭にチョップしないで下さい!」

 

 涙目で抗議してくるクローディア。俺はクローディアの頭を撫でた。

 

 「・・・クローディアに頼まれなくても、俺はユリスを守るつもりだったよ。どの道、狙われることになってたと思う。だから気にすんな。お前が謝ることじゃないんだから」

 

 「七瀬・・・」

 

 「ユリスにも話そうかと思ったけど、アイツはきっと気にするだろうから止めたんだ。クローディアも気にすると思ったけど、お前の耳に入れておかないのはマズいと思ったから話した。気を遣わせてゴメンな」

 

 謝る俺。クローディアは目を伏せ、俺に抱きついてきた。

 

 「・・・七瀬は優しいですね。その優しさが、ユリスの心を開いたんだと思います」

 

 「そうか・・・?」

 

 「そうです。あなたの優しさに、ユリスは救われているはずです。私もそうですから」

 

 「・・・なら良かった」

 

 俺はクローディアを優しく抱き締め返した。あ、そうだ・・・

 

 「クローディア、ちょっと聞きたいことがあるんだ」

 

 「何でしょう?」

 

 顔を上げるクローディア。

 

 「《吸血暴姫》・・・イレーネ・ウルサイスについてなんだけど」

 

 「・・・女性の身体を堪能している時に、別の女性の話題ですか?」

 

 「その言い方止めてくんない!?」

 

 確かに抱き合ってるけども!たわわに実った二つの果実が、俺の身体に押し付けられているけども!

 

 「フフッ、冗談ですよ。何故《吸血暴姫》について聞きたいんですか?」

 

 「レヴォルフの奴らに襲われた時、助けてもらってな。そのお陰で、早くユリス達と合流できたんだ」

 

 「あの《吸血暴姫》が助けてくれたんですか・・・?」

 

 驚いているクローディア。え、そんな驚くことなのか?

 

 「あぁ。で、連絡先とか聞く暇も無くてさ。ちゃんとお礼がしたいんだけど、連絡先とか知ってたりしないか?」

 

 「残念ながら存じ上げませんね・・・ですが、彼女と連絡を取れるかもしれない方法でしたらあります」

 

 「と言うと?」

 

 「近々、六花園会議が開かれるんです。六学園の生徒会長達が集まる場ですので、当然レヴォルフの生徒会長も出席されます。彼に直接聞いてみるのはいかがでしょう?」

 

 提案するクローディア。俺は顔をしかめた。レヴォルフの生徒会長ってことは・・・

 

 「・・・《悪辣の王》か」

 

 「えぇ、ディルク・エーベルヴァインです」

 

 ディルク・エーベルヴァイン・・・非《星脈世代》にして、レヴォルフの生徒会長の座についている男だ。他の学園について詳しくない俺ですら、奴については悪い噂しか聞いたことがない。

 

 まぁレヴォルフの生徒会長という時点で、印象としては最悪だが。

 

 「あまり関わりたくないんだけどなぁ・・・」

 

 「お気持ちは分かりますが・・・《吸血暴姫》と連絡を取りたいなら、今のところ彼に聞くしかないと思いますよ」

 

 「だよなぁ・・・ってか、そもそも六花園会議って俺が行っても良いのか?」

 

 「本来、六人の生徒会長しか出席を認められていないんですが・・・どうやら界龍の生徒会長が、七瀬に興味を示しているようでして」

 

 「界龍の生徒会長っていうと、確か最年少の・・・」

 

 「えぇ、三代目《万有天羅》・・・范星露です」

 

 「まだ九歳だっけ?それで界龍の序列一位ってヤバくね?」

 

 「あの方の強さは別次元ですからね」

 

 クローディアがそこまで言うってことは、相当なんだろうな・・・

 

 「その《万有天羅》が、何で俺に?」

 

 「ネットに流れている、七瀬の決闘動画を見たそうですよ。一度会ってみたいから、今度の六花園会議に連れてきてくれとのことです」

 

 「いやいや、他の学園の生徒会長達が許すわけ・・・」

 

 「全員が承知して下さいました」

 

 「嘘だろ!?」

 

 それで良いのか生徒会長達!?

 

 「まぁ《万有天羅》たってのご希望ですから。それに他の生徒会長達も、少なからず七瀬に興味を示しているようです。特にクインヴェールの生徒会長は、今度の六花園会議に出席できないみたいでして。《覇王》に会いたかった、と悔しがっていましたよ」

 

 「・・・そっか」

 

 「あら、嬉しくないんですか?至高の歌姫にして、世界最高のアイドル・・・あのシルヴィア・リューネハイムが、七瀬に会いたかったと言っているんですよ?」

 

 「・・・嬉しいけど、俺みたいな奴が会うなんて恐れ多いだろ。会うなら《星武祭》で優勝するとか、彼女と同じく序列一位になるとか・・・それぐらいの存在にならないと」

 

 「そうでしょうか・・・?」

 

 「そうだよ。で、話を戻すけど・・・つまり俺の知らないところで、俺が六花園会議に出席することが決まったわけ?」

 

 「そうなりますね。近々お伝えしようと思っていたところでしたので、手間が省けて良かったです」

 

 笑うクローディア。と、俺はあることに気付いた。

 

 「・・・なぁ、クローディア」

 

 「何でしょう?」

 

 「お前さっき言ったよな?全員が承知してくれたって」

 

 「言いましたよ?」

 

 「つまりお前、他の学園の生徒会長達と連絡取れるんだよな?」

 

 「取れますけど・・・それが何か?」

 

 「お前が《悪辣の王》に連絡して、イレーネの連絡先を聞いてくれたら良いんじゃね?俺が直接聞く必要無くね?」

 

 「・・・」

 

 無言で汗をダラダラ流すクローディア。

 

 「クローディア、まさかとは思うが・・・気付いてたな?」

 

 「わ、私だって嫌ですよ!《悪辣の王》とあまり関わりたくないんですから!」

 

 「認めたよコイツ!?」

 

 「そもそも、七瀬が助けてもらったんでしょう!?なら、七瀬が聞くのが礼儀というものでは!?そう、私は何も聞いていません!七瀬が《吸血暴姫》に助けてもらったなどという事実は聞いておりません!」

 

 「最低かお前!?何その政治家みたいなセリフ!?」

 

 「聞こえませーん!何も聞こえませーん!」

 

 言い合う俺とクローディアなのだった。

 




二話続けての投稿です。

また投稿日が空いてしまうかもしれませんが、ご容赦下さい。

七瀬「このダメ作者が」

・・・いっそ七瀬を殺して物語を終わらせるのもありか。

七瀬「すいませんでしたあああああっ!」

それではまた次回!


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守りたいもの

思っていた以上に投稿間隔が空いてしまった・・・


「ったく、クローディアめ・・・」

 

 結局、俺が六花園会議で直接《悪辣の王》に聞くことになってしまったのだった。何か憂鬱だなぁ・・・

 

 ため息をつきつつ、女子寮の廊下を歩いていた時だった。

 

 「ななっちー!」

 

 廊下の向こうから、シャノンが駆け寄ってきた。ユリスを先に部屋に帰しといて正解だったな・・・

 

 「おー、シャノン。夜なのにずいぶん元気・・・」

 

 「ななっち大変!お姫様が!」

 

 俺の言葉を遮るシャノン。かなり慌てているようだ。

 

 「ユリスがどうした?」

 

 「寮に戻ってくる時に、お姫様が部屋の窓から飛び降りてくるのが見えたの!で、そのまま走ってどっか行っちゃって・・・」

 

 「ハァッ!?」

 

 ユリスの奴、こんな時間に何処へ行くつもりなんだ!?狙われてんだぞ!?

 

 「で、この手紙を落としていったの!読むつもりは無かったんだけど、お姫様がただならぬ様子だったからつい・・・」

 

 シャノンから手紙を受け取る俺。中を読んでみると・・・

 

 『これからは周囲の人間を狙う。それを望まぬなら、以下の場所へ来られたし』

 

 「脅迫状か・・・!」

 

 あのバカ・・・!一人で勝手な行動しやがって・・・!

 

 と、俺の端末に着信が入る。相手は・・・

 

 「綾斗・・・!」

 

 俺が端末を操作すると、空間ウィンドウに綾斗と夜吹の顔が映った。

 

 『大変だ七瀬!今夜吹が帰ってきたんだけど、ユリスが血相を変えて走っていったのを見たんだって!』

 

 『かなり急いでたぜ。一体何処へ向かったのか・・・』

 

 「ユリスに脅迫状が届いたんだ!一人で犯人のところへ向かってるんだと思う!」

 

 『何だって!?』

 

 驚愕している綾斗と夜吹。

 

 「夜吹、この場所分かるか!?」

 

 空間ウィンドウ越しに、脅迫状に書かれていた地図を見せる俺。

 

 『・・・再開発エリアだな。ちょっと待て、もっと詳細な地図を送る』

 

 「頼む!シャノン、お前はこの脅迫状をクローディアに届けてくれ!」

 

 「分かった!」

 

 急いで走っていくシャノン。と、夜吹から地図が送られてきた。

 

 『今送った地図に、赤い印を付けといた。そこが脅迫状に書かれてた場所だ』

 

 「助かった!俺は今からここに向かう!」

 

 『俺も行くよ!』

 

 綾斗がそう言ってくれる。俺は頷いた。

 

 「じゃあ正門前で落ち合おう。夜吹、お前はこの地図をクローディアにも送ってくれ」

 

 『おいおい、俺が会長の連絡先を知ってる前提かよ?』

 

 「どうせ知ってるだろ。だって夜吹だし」

 

 『・・・信頼されてると受け取って良いのか?』

 

 苦笑する夜吹。

 

 「どうとでも受け取れ。それと、俺と綾斗が先に向かったことも伝えてくれ」

 

 『了解、伝えとく。気をつけろよ』

 

 「おう」

 

 俺はすぐに女子寮を飛び出し、正門へと向かった。

 

 「ユリスの奴、一人で無茶しやがって・・・そんなに俺が頼りないのかよ・・・」

 

 『それは違うと思うよ』

 

 空間ウィンドウに映った綾斗が、苦笑していた。

 

 『ユリスは言ってたよ。守られるだけの存在は嫌だ、自分も七瀬を守りたいって』

 

 「ユリスが・・・?」

 

 『うん。ユリスの守りたいものの中に、七瀬も入ってるんだってさ。孤児院の友達と同じように、七瀬のことも守りたいって。ユリスは七瀬のこと、大切に思ってるんだよ』

 

 やがて正門に着き、綾斗と合流する。

 

 「行こう七瀬、ユリスを守る為に」

 

 「・・・あぁ!」

 

 俺達は走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 ≪ユリス視点≫

 

 私は、再開発エリアにある廃ビルに来ていた。周囲を警戒しながら奥へと進む。

 

 そして一番奥の区画へ足を踏み入れた瞬間、吹き抜け状になっている上階部分から廃材が落下してくる。明らかに私を狙ったものだ。

 

「咲き誇れ、隔絶の赤傘花」

 

 五角形の花弁を出現させ、廃材を全て跳ね除ける。全く・・・

 

 「いい加減、姿を現したらどうだ・・・サイラス」

 

 私が低い声で呼びかけると、物陰からサイラスが姿を現した。

 

 「おや、これは驚きました。よく僕が犯人だと分かりましたね?」

 

 「貴様が自分で口を滑らせたんだろう。一件目と三件目の決闘は公にされていないにも関わらず、貴様は今日『三件の決闘』と言った。気付かない方がおかしい」

 

 「・・・なるほど、僕としたことが迂闊でした。しょうもないミスですね」

 

 ため息をつくサイラス。

 

 「となると・・・七瀬さんや天霧くんも気付いているということですか」

 

 「当然だ。そして既にクローディアにも報告した。特務機関とやらが動くのも、時間の問題だぞ」

 

 「やれやれ、厄介なことになりましたねぇ・・・せっかく人形を使って、あなたの部屋に脅迫状を届けさせたというのに」

 

 「人の部屋に、あんな趣味の悪い人形を侵入させるな」

 

 自分の部屋に帰ってきた途端、黒いフードを被った人形に出くわした時は流石に驚いたぞ・・・

 

 窓から逃げてしまったので仕留められなかったが、すぐに机の上の手紙には気付いた。そして私は要求通り、一人でここへやって来たのだ。

 

 「私がここにやって来たのは、貴様を捕らえる為だ。どうせ何処かから監視していたのだろう?七瀬達を連れて来ると、貴様は逃げるだろうと思ってな」

 

 「なるほど、そういうことでしたか・・・」

 

 この期に及び、まだ冷静な口調のサイラス。そして口元を吊り上げる。

 

 「それは好都合です」

 

 「何・・・?」

 

 「正直、七瀬さんが一番厄介だったんですよ。あなたを狙う上で、彼が一番の障害でしたからね。レヴォルフの奴らも役に立ちませんでしたし・・・」

 

 「レヴォルフ・・・?」

 

 コイツ、何の話をしている・・・?

 

 「おや、聞いていないのですか?あなたと天霧くんが人形に襲われている間、七瀬さんはレヴォルフの不良共に襲われていたんですよ?」

 

 「なっ・・・!?」

 

 「全く・・・金を積んで依頼したというのに、大した時間稼ぎにもなりませんでした。彼の邪魔が無かったら、あなたを仕留められたんですけどねぇ」

 

 やれやれ、といった調子で首を振るサイラス。そんな話、七瀬は一言も口にしなかったぞ・・・

 

 「でも今、その七瀬さんはいない。あなたは一人だ。なら、今ここであなたを潰すことが出来ます」

 

 「・・・大した自信だな」

 

 「事実ですから。そしてその後、僕はバックにいる方々に保護してもらいます。僕のバックに誰がいるか、あの人形を見たなら分かるでしょう?」

 

 「・・・アルルカントか」

 

 「えぇ。いくら特務機関が動こうと、他学園には手を出せませんからね」

 

 「だが、アルルカントが貴様を保護してくれるのか?貴様にそこまでの価値があるとは思えんが」

 

 「舐めないでいただきたいものですね。これでも僕は、様々な実験に協力して差し上げているんですよ?《鳳凰星武祭》に出場予定だった有力学生の闇討ちも、思いのほか成果を上げることが出来ました。あとはユリスさん・・・あなたを潰して、アルルカントへの手土産にさせていただきます」

 

 サイラスが手を挙げると、吹き抜けから人形が続々と飛び降りてくる。

 

 と、そのうちの一体が両手に人を抱えていた。あれは・・・ッ!

 

 「レスター!ランディ!」

 

 ボロボロになったレスターとランディを、人形が無造作に放り投げる。どうやら、二人とも意識を失っているようだ。

 

 「レスターさんも、《鳳凰星武祭》に出場する有力学生の一人ですから。相方のランディさん共々、倒させていただきました」

 

 「貴様・・・ッ!」

 

 コイツ、どこまで外道なのだ・・・!

 

 「二人がユリスさんをここへ呼び出し、戦いの末ユリスさんと相討ちになった・・・僕が犯人だとバレていなかったら、そういうシナリオにしようと思っていました。非常に残念ですよ」

 

 ・・・もう限界だッ!

 

 「咲き誇れ!六弁の爆焔花!」

 

 《アスペラ・スピーナ》を起動し、サイラスに向けて技を放つ。しかし、何体もの人形がサイラスの前に立ちはだかった。

 

 攻撃を受け、吹き飛ぶ人形達。だが・・・

 

 「なっ・・・!?」

 

 次々と人形達が起き上がる。何事も無かったかのように。しかも無傷で。

 

 「こいつらは特別仕様でしてね。あなた用に耐熱限界を上げてあるのですよ」

 

 「・・・なるほどな。今日の襲撃の時、これを食らってよく逃げられたものだと思ったが・・・そういうことだったのか」

 

 「えぇ。あなたの強さはよく知っていますから。何の策略も無しに襲撃するほど、僕もバカではありません」

 

 「なら、これはどうだ!咲き誇れ!呑竜の咬焔花!」

 

 巨大な焔の竜を出現させる。竜は雄叫びをあげると、立ちはだかる人形達をまとめて噛み砕いた。

 

 サイラスが感心したような顔をする。

 

 「これはこれは・・・大したものですね。ですが・・・」

 

 サイラスが指を鳴らすと、突然背後で気配を感じた。振り向くと二体の人形がおり、私は拘束された。

 

 「なっ・・・いつの間に!?」

 

 振りほどこうとした時、私の太ももを何かが抉った。

 

 「ぐぅっ!?」

 

 痛みを堪えながら見ると、アサルトライフルを構えた人形がいた。恐らく、今日の襲撃時にいた奴だろう。

 

 そのまま壁に押さえつけられ、呑竜の咬焔花も消えてしまう。

 

 「こんなこともあろうかと、物陰に待機させておいて正解でした。人形なら、あなたもギリギリまで気配を感じ取れないでしょうし」

 

 愉快そうに笑うサイラス。そのまま、私の太ももの傷を蹴りつける。

 

 「あああああっ!」

 

 苦痛のあまり、思わず悲鳴をあげてしまう。

 

 「くくくっ・・・あの《華焔の魔女》もこのザマですか。情けないですねぇ」

 

 サイラスが手を挙げると、一体の人形がやってきた。斧型煌式武装を持った人形・・・レスター役の人形だ。

 

 「あなたを始末した後、レスターさんとランディさんも始末します。もう利用価値も無いですからね」

 

 冷笑するサイラス。ここまでか・・・

 

 (・・・私は、ここで死ぬのか)

 

 様々なことが思い浮かんだ。リーゼルタニアのこと、孤児院の皆のこと、そして・・・我が友人達のこと・・・

 

 (クローディア・・・)

 

 クローディアは、いつも私の心配をしてくれた。もっと素直になって、感謝すべきだったな・・・

 

 (綾斗・・・)

 

 出会いこそ最悪だったが、良い奴だった。事情を知っても、私から離れないでいてくれた。心の優しい奴だったな・・・

 

 そして・・・

 

 (七瀬・・・)

 

 私の命も心も救ってくれた、大恩人と言っても過言ではない。レヴォルフの奴らに襲われたことも、私が気にすると思って話さなかったのだろう。

 

 本当に優しい奴だ・・・私はお前に出会えて幸せだった・・・ありがとう、七瀬。

 

 「では・・・さようなら、ユリスさん」

 

 サイラスの冷酷な言葉と同時に、人形が斧を振りかざす。目をつむる私。

 

 その時・・・風が疾った。

 

 「・・・ったく、一人で無茶しやがって」

 

 「・・・ッ!」

 

 その声に驚いて目を開けると・・・斧を片手で受け止めている少年がいた。見覚えのあるその姿に、思わず涙が溢れてくる。

 

 「な・・・七瀬っ!」

 

 「言ったろ?お前を守ってみせるって」

 

 笑う七瀬なのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

二週間近く投稿出来ないっていう・・・

申し訳ありません。

仕事だったり、勉強だったり、サンムーンだったり←

一応まだストックはあるのですが、最近は続きを書けてないんだよなぁ・・・

何とか頑張ろう・・・

それではまた次回!


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本来の力

ポケモン面白いわぁ・・・


 「言ったろ?お前を守ってみせるって」

 

 泣いているユリスに、笑顔を向ける俺。と、サイラスが驚愕していた。

 

 「ど、どうしてここが分かったんです!?」

 

 「お前に説明してやる義理は無い」

 

 サイラスを睨みつける俺。右足に星辰力を集め、思いっきり人形を蹴りつける。人形は後ろに吹き飛び、サイラスに激突した。

 

 「ギャッ!?」

 

 そのまま吹き飛んでいくサイラスと人形。

 

 ユリスの方を振り向くと、綾斗がユリスを拘束していた人形を真っ二つに斬ったところだった。人形が倒れ、解放されるユリス。

 

 「ユリス、大丈夫かい?」

 

 「綾斗・・・ぐっ!」

 

 顔を歪め、地面に膝をつくユリス。太ももから血が流れている。

 

 「ユリス!?」

 

 「・・・足に力が入らん」

 

 弱々しく呟くユリス。俺は二人の側に歩み寄った。

 

 「ユリス、立てそうか?」

 

 「いや、無理そうだ・・・すまない・・・」

 

 「それを謝る前に、一人で突っ走ったことを謝れや」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まるユリスの頭に、俺はポンッと手を置いた。

 

 「・・・ったく、どんだけ心配したと思ってんだ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「帰ったらメイド服で、『お帰りなさいませ、ご主人様♪』って言ってもらうからな」

 

 「ハァッ!?」

 

 「あ、猫耳付けて語尾に『にゃんっ♪』って付けてくれる?」

 

 「どんな要望だ!?」

 

 「・・・面白いなぁ、七瀬は」

 

 綾斗が苦笑している。と・・・

 

 「・・・生かして帰すと・・・思ってるんですか・・・?」

 

 サイラスがボロボロの状態で立っていた。あ、生きてたんだ・・・

 

 「お前こそ、無事で済むと思ってないよな?」

 

 「もう既に無事ではないんですけど!?」

 

 「《星脈世代》なら、あれぐらいどうってことないだろ」

 

 「《星脈世代》でこれだけボロボロですからね!?普通の人間なら死んでますよ!?」

 

 「殺す気でやったからな」

 

 サイラスを睨みつける俺。

 

 「友達を殺そうとした奴に手加減してやれるほど、俺は大人じゃねぇんだよ。覚悟は出来てんだろうな・・・サイラス」

 

 「・・・あなたを相手にしたくはありませんでしたが、致し方ありません。まとめて始末して差し上げます!」

 

 サイラスが指を鳴らすと、吹き抜けから続々と人形が飛び降りてくる。それを見たユリスが驚いていた。

 

 「まだこんなにいたのか!?」

 

 「えぇ。ユリスさん相手なら、耐熱限界を上げた人形だけで十分でしたが・・・僕も本気でお相手しましょう。百体を超える人形軍団でね!」

 

 百体ねぇ・・・と、綾斗が前へ進み出た。

 

 「七瀬、コイツらの相手は任せてもらって良いかな?」

 

 「・・・ソイツを試したいってか?」

 

 「まぁね」

 

 綾斗の右手には、純白の大剣が握られていた。純星煌式武装《黒炉の魔剣》だ。綾斗は適合率検査を突破し、《黒炉の魔剣》の使い手になったらしい。

 

 俺もついさっき聞いたんだけどな。

 

 「コイツを受け取ってから、試す機会が全然無くて・・・相手が人形なら、思いっきりやれるからね」

 

 「・・・分かったよ。暴れてこい」

 

 「ありがとう」

 

 綾斗は笑うと、大剣を構えた。そして・・・

 

 「内なる剣を以って星牢を破獄し、我が虎威を解放す!」

 

 そう叫んだ瞬間、綾斗の星辰力が爆発的に高まった。

 

 「な、何だ!?」

 

 戸惑っているユリス。複数の魔方陣が綾斗の周囲に浮かび上がり、光の火花を散らしながら砕け散る。

 

 固く縛り付けていた鎖が外れたみたいだな・・・

 

 「なるほど・・・それが本当の力か」

 

 「そうとも言えるかな・・・じゃ、行ってくるね」

 

 次の瞬間、綾斗はその場から消えていた。次々と人形達がバラバラになっていく。

 

 「な、何だ!?何が起きている!?」

 

 サイラスは訳が分からないようだ。

 

 「アイツは何処に消えた!?」

 

 「ここだよ」

 

 「ヒッ!?」

 

 綾斗はサイラスの真後ろに立っていた。握っていた《黒炉の魔剣》の刀身には、いつの間にか黒い紋様が浮かんでいた。あれが本来の姿なんだろうな。

 

 それにしても・・・

 

 「えげつないなぁ・・・」

 

 レスターとランディを安全な場所へ移動させつつ、思わず呟く俺。既に人形軍団の三分の一はやられている。切り口が赤熱しており、刃物で切ったというより高熱で焼き切られたみたいだ。

 

 綾斗の速さと剣の腕に加え、《黒炉の魔剣》のこの威力・・・恐ろしいな・・・

 

 「つ、潰せっ!潰せえええええっ!」

 

 明らかに動揺しているサイラス。人形軍団が綾斗に襲いかかるが、綾斗は次々と人形を屠っていった。

 

 そして・・・

 

 「・・・もう終わりかい?」

 

 「そ、そんな・・・」

 

 愕然としているサイラス。百体を超える人形軍団は、一体残らず斬り伏せられた。綾斗一人の手によって。

 

 「す、凄いな・・・」

 

 ユリスも唖然としていた。と、綾斗がサイラスの方へ一歩踏み出した。

 

 「さて・・・サイラス、大人しく降伏するんだ」

 

 「くっ・・・こうなったら・・・!」

 

 サイラスが大きく腕を振ると、またしても吹き抜けから人形が飛び降りてきた。他の人形の五倍はある大きな身体で、人というよりゴリラのような体型だ。

 

 「頼んだぞ、僕のクイーン!」

 

 サイラスはそう叫ぶと、倒れていた人形の残骸に掴まった。残骸がふわりと浮き、そのままサイラスと共に吹き抜けを上っていく。

 

 「いや、逃げるんかい」

 

 「かっこ悪いなアイツ」

 

 呆れる俺とユリス。とりあえず追いかけたいけど・・・

 

 「あのゴリラが邪魔だよなぁ・・・」

 

 「話も通じないだろうしね」

 

 苦笑している綾斗。

 

 「俺がゴリラを倒すから、七瀬はサイラスを追ってくれ」

 

 「了解。って言っても、追いつけるか微妙だけど」

 

 「ふん、だったら私の出番だな」

 

 不敵に笑うユリス。そして高らかに叫んだ。

 

 「咲き誇れ!極楽鳥の燈翼!」

 

 ユリスの背中から、何枚もの焔の翼が広がった。

 

 「もしかして飛べるのか!?」

 

 「当然だ。行くぞ七瀬!」

 

 「うおっ!?」

 

 ユリスは俺を後ろから抱きかかえ、翼を羽ばたかせた。身体が宙に浮き、吹き抜けに向かって飛んでいく。

 

 そうはさせまいと、ゴリラが拳を放ってくるが・・・

 

 「天霧辰明流中伝・・・九牙太刀!」

 

 両手足が切断され、地響きを上げて倒れこむゴリラ。凄いな綾斗・・・

 

 「頼んだよ、二人とも!」

 

 「おう!」

 

 「任せろ!」

 

 俺とユリスはそう言うと、一直線に吹き抜けを上っていった。凄まじい加速で吹き抜けを飛び出し、サイラスを追い抜いてから反転する。

 

 「いっけえええええ!」

 

 そのままサイラス目掛けて加速。俺は右の拳に星辰力を集中させた。

 

 「や、やめろおおおおおおおおおおっ!?」

 

 絶叫するサイラスの顔面に、全力の右ストレートを叩き込む。サイラスはもの凄い勢いで吹っ飛び、隣のビルに激突した。

 

 ユリスの加速もあったし、かなりの威力だったな・・・

 

 「お、おい・・・アイツ死んでないよな・・・?」

 

 「《星脈世代》だし、多分大丈夫だろ」

 

 顔が引きつっているユリスに対し、呑気に答える俺。

 

 と、俺の端末に着信が入った。端末を操作して空間ウィンドウを開くと、呆れ顔のクローディアの姿が映った。

 

 『・・・七瀬、やりすぎです』

 

 「ゴメンゴメン。ってか、見てたのか?」

 

 『えぇ、ビルの周辺で待機していましたから。ノーマンくんが逃げられないよう、周りを固めていたんです』

 

 「ってことは、特務機関は動かせたのか?」

 

 『おかげさまで、ようやく動かすことが出来ました。これからノーマンくんの捕縛に向かいますので、後は我々にお任せ下さい』

 

 「頼んだ。あ、迎えを寄越してもらえるか?ユリスが足をケガしてて、レスターとランディもボロボロなんだ」

 

 『了解です。すぐに手配しますので、少々お待ち下さい』

 

 「よろしく」

 

 通信が終了する。俺はため息をついた。

 

 「やれやれ、とりあえず一段落だな」

 

 「そうだな」

 

 ユリスと笑い合う。それにしても・・・

 

 「良い眺めだなぁ・・・」

 

 上空から、美しい夜景を眺める俺達。何だか凄く幻想的だ。

 

 「美しいな・・・」

 

 呟くユリス。

 

 「学生同士を闘わせて、それに世界中が熱狂している・・・実に下劣でくだらない都市だと思っていたが、案外捨てたものではないかもしれんな・・・」

 

 「・・・そうだよ。確かにここは、あらゆる欲望が渦巻いている都市だけど・・・それだけじゃない。ここでしか出来ないこと、得られないものがたくさんある」

 

 俺はユリスに笑いかけた。

 

 「俺はここに来て良かったと思ってるよ。ユリスにも出会えたしな」

 

 「なっ・・・お、お前はまた恥ずかしいことを・・・!」

 

 「照れるなよユリちゃん♪」

 

 「だ、誰がユリちゃんだ!照れてなどいないからな!」

 

 そう言いつつ、顔が真っ赤なユリス。その時だった。

 

 「ああああああああああっ!?」

 

 綾斗の絶叫が聞こえた。かなり苦しそうな声だ。

 

 「ッ!ユリス、綾斗のところへ戻るぞ!」

 

 「わ、分かった!」

 

 ユリスが急降下し、吹き抜けを下っていく。そして先ほどの場所に戻ってくると・・・

 

 「な、何だ!?」

 

 ユリスが驚愕している。綾斗の周りを、複数の魔方陣が取り囲んでいた。さっき砕け散った魔方陣と同じものだ。そこから出現した光の鎖が、綾斗の身体を何重にも縛りつけていく。

 

 綾斗の身体から力が抜け、その場に倒れこんだ。

 

 「綾斗!?」

 

 急いで綾斗に駆け寄る。どうやら、意識を失っているようだ。

 

 「これが禁獄の力か・・・」

 

 「七瀬、一体どういうことなのだ!?」

 

 訳が分からないといった様子のユリス。

 

 「・・・綾斗は五年前、実の姉に《魔女》の能力で力を封印されたらしい。それ以来、本来の力を大きく制限されているんだとさ」

 

 「先ほどのあれが、綾斗の本当の実力ということか・・・?」

 

 「だろうな」

 

 さっきの綾斗は本当に強かった。《冒頭の十二人》入りどころか、序列一位になれるかもしれないほどだったし。

 

 「綾斗の力を封印した直後、お姉さんは失踪したらしい。だから綾斗も、どうしてお姉さんがこんなことをしたのか分からないんだと」

 

 「そうだったのか・・・それにしても、綾斗の姉はどうしてそんなマネを・・・」

 

 「ホントにな・・・」

 

 倒れている綾斗を見つめる、俺とユリスなのだった。

 




二話続けての投稿となります。

次話でユリス襲撃編は終わりですね。

早く綺凛ちゃんを出したいところです。

シャノン「作者っちー!私の出番をもっと増やしてよー!」

やだ。無理。余裕無い。

シャノン「メッチャ拒絶された!?」

それではまた次回!


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借りと狙い

最近メッチャ眠い・・・


 「やっぱり、あの状態には時間制限があるのか・・・」

 

 「うん。しかもその後は反動で、こんな状態になっちゃうんだよね・・・」

 

 ベッドに横たわり、苦笑する綾斗。

 

 あの後すぐに迎えの人達が来て、綾斗・ユリス・レスター・ランディは病院に運ばれた。俺はクローディアと合流し、四人が運ばれた病院にやってきたのだった。

 

 「ちなみに、どれぐらい持つんだ?」

 

 「数分ってところだね。五分以上持ったのは、今回が初めてだよ」

 

 「厄介な封印だな・・・」

 

 呆れ顔のユリス。撃ち抜かれた太ももは止血され、包帯が巻いてある。幸い軽傷ということで、綾斗と共に明日には退院できるそうだ。

 

 「でも、おかげで助かったよ。これでユリスは、また綾斗に借りができたな」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まるユリス。どうやら自覚はあるらしい。

 

 「さて、今度はどうやって借りを返すのかなぁ?」

 

 「うぅ・・・」

 

 「七瀬はユリスを追い詰めるのが上手ですね・・・」

 

 クローディアが失礼なことを言っていた。いや、別に追い詰めてないからね?

 

 「ところでクローディア、サイラスはどうなった?」

 

 「誰かさんがやりすぎたせいで、全身骨折しているそうですよ。普通の人間なら、間違いなく死んでいたでしょうね」

 

 「マジかよ、ユリス最低だな」

 

 「やったのお前だろうが!」

 

 ユリスに頭を叩かれる。いや、お前が加速したせいでもあるからね?

 

 「ま、はっきり言って当然の報いだろ。何人もの生徒にケガを負わせた上、ユリス達を殺そうとしたんだから。命があっただけマシだと思ってほしいもんだ」

 

 「・・・七瀬もなかなかの鬼ですね」

 

 若干引いているクローディア。

 

 「ちなみにマクフェイルくんとフックくんですが、少し入院が必要みたいですね。特にフックくんは重傷で、《鳳凰星武祭》の出場はドクター・ストップがかかりました」

 

 「・・・そっか」

 

 拳を強く握る俺。ランディが出場できないということは、パートナーのレスターも出場できないということだ。

 

 悔しいな・・・

 

 「ゴメンな、クローディア・・・被害者を増やしちまって・・・」

 

 「七瀬が謝ることなど、一つもありませんよ」

 

 俺の手を優しく握り、微笑むクローディア。

 

 「七瀬はユリスを守ってくれました。本当に感謝しています」

 

 「・・・俺は何もしてないさ。綾斗のおかげだよ」

 

 「いやいや、サイラスを倒したのは七瀬じゃないか。俺は大したことはしてないよ」

 

 笑う綾斗。と・・・

 

 「・・・すまない」

 

 か細い声で謝るユリス。

 

 「・・・私が一人で突っ走ったせいで、皆に迷惑をかけた。本当にすまない」

 

 目に涙を浮かべ、頭を下げるユリス。

 

 「助けてくれて、ありがとう・・・」

 

 「・・・もう一人で無茶すんなよ」

 

 ユリスの頭を撫でる俺。

 

 「お前は一人じゃないんだから、自分だけで何とかしようなんて思うな。俺達がいるってこと、忘れんなよ」

 

 「・・・うむ」

 

 服の袖で目をゴシゴシ擦るユリス。クローディアが驚いていた。

 

 「あのユリスが頭を下げるとは・・・アスタリスク崩壊の危機でしょうか・・・」

 

 「どういう意味だ!?」

 

 ユリスのツッコミ。思わず笑う俺と綾斗。

 

 「じゃあユリス、早速だけど借りを返してもらえるかい?」

 

 「綾斗!?」

 

 綾斗がニヤニヤしていた。コイツもユリスの扱いに慣れてきたなぁ。

 

 「お、お前!まさかとは思うが、いかがわしいことを要求するつもりか!?」

 

 「そんなこと要求しないよ」

 

 綾斗は首を横に振りつつ、柔らかく微笑んだ。

 

 「ユリス、俺を《鳳凰星武祭》のパートナーにしてくれないかな?」

 

 「は・・・?」

 

 唖然としているユリス。おー、そうきたか。

 

 「ほ、本気なのか・・・?」

 

 「勿論。ユリスは七瀬に甘えたくないんでしょ?でも締め切りまでの日数を考えると、新しくパートナーを見つけるのは厳しいんじゃない?」

 

 「うぐっ・・・」

 

 「なら、俺で妥協してくれないかな?」

 

 「ど、どうしてそこまで・・・」

 

 「ユリスの戦う理由を聞いて、力になりたいと思ったのが一つ。それに・・・」

 

 真剣な表情になる綾斗。

 

 「・・・失踪した姉さんを探したいんだ。《鳳凰星武祭》で優勝できたら、何でも望みを叶えてもらえるんだろう?俺は姉さん・・・天霧遥の捜索を頼みたいんだよ」

 

 「綾斗・・・」

 

 ユリスも真剣な表情になる。

 

 「・・・良いんだな?厳しい戦いになるぞ?」

 

 「覚悟の上だよ」

 

 綾斗の言葉に、微笑むユリス。

 

 「・・・分かった。よろしく頼むぞ、綾斗」

 

 「こちらこそよろしく、ユリス」

 

 拳をぶつけ合う二人。

 

 「良かったな、ユリス」

 

 「あぁ」

 

 俺の言葉に、笑顔で頷くユリス。

 

 「綾斗、ユリスを頼む」

 

 「了解」

 

 綾斗も笑顔で頷いてくれた。これで俺も一安心できるな・・・

 

 「ユリスのお守りは大変だから、覚悟しとけよ」

 

 「何だと!?」

 

 俺とユリスのやり取りに笑う、綾斗とクローディアなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「よろしかったんですか?」

 

 「ん?何が?」

 

 俺とクローディアは病院を出て、車で星導館に向かっていた。

 

 「ユリスのパートナーとして、《鳳凰星武祭》に出場したかったのでは?」

 

 「言ったろ?元々《鳳凰星武祭》に出るつもりは無かったって。俺はあくまでも、ユリスがパートナーを見つけられなかった場合の保険のつもりだったんだ。でも・・・」

 

 笑う俺。

 

 「ユリスがパートナーを見つけられた以上、保険の俺が出る必要は無くなった。綾斗なら、安心してユリスを任せられるしな」

 

 「では、やはり七瀬は《鳳凰星武祭》には出場しないんですね?」

 

 「あぁ。出る理由も無いしな」

 

 俺の言葉に、ため息をつくクローディア。

 

 「そうですか・・・星導館としては痛いですね・・・」

 

 「悪いな、期待に添えなくて」

 

 「いえ、あくまでも個人の自由ですので。七瀬は《星武祭》に興味は無いのですか?」

 

 「そういうわけじゃないさ。出場したい《星武祭》は、もう決まってるんだ」

 

 「と言うと?」

 

 「再来年の《星武祭》・・・《王竜星武祭》だよ」

 

 「《王竜星武祭》ですか・・・?」

 

 意外そうな顔をするクローディア。

 

 「あれ、そんなに意外か?」

 

 「い、いえ・・・ユリスの目標がグランドスラムである以上、七瀬は《王竜星武祭》には出場しないものだと思っていましたので・・・」

 

 「まぁ確かに、《王竜星武祭》は個人戦だからなぁ・・・」

 

 つまり出場すると、ユリスとは敵同士になってしまう。でも・・・

 

 「・・・どうしても戦いたい奴がいるんだ。アイツは出場する《星武祭》を《王竜星武祭》に絞ってるから、《王竜星武祭》じゃないと戦えないんだよ。もしアイツと当たる前にユリスと当たったら・・・ユリスには悪いが、そこで敗退してもらう」

 

 「七瀬・・・」

 

 驚いているクローディア。今のはちょっと語りすぎたかな・・・

 

 俺は話題を変えることにした。

 

 「そういや・・・今回の件、お前の狙い通りになったな」

 

 「・・・どういう意味でしょう?」

 

 「事件が公表されたら、アルルカントは星武憲章違反で処罰は免れない。学園の評判にだって傷が付く。だが・・・」

 

 俺はクローディアを見つめた。

 

 「事件を公表するつもりなら、特務機関なんて動かす必要は無かった。風紀委員会で十分だったはずだ。だがお前は、最初から特務機関を動かしたがってたよな」

 

 「前にも申し上げましたが、特務機関は風紀委員会より強い権限を・・・」

 

 「サイラスが尻尾を出したあの状況なら、権限なんて関係無かったはずだ。現行犯で捕まえられたんだから」

 

 「・・・」

 

 「つまりお前は、一連の事件を公表する気は無かった。内々に処理することで、アルルカントに貸しを作りたかったんだろ?アルルカントが処罰されて評判を落としても、星導館には何の旨味も無いしな」

 

 俺の推測を聞き、クローディアは大きくため息をついた。

 

 「・・・参りました。七瀬は頭が回りますね」

 

 「普通に考えたら分かることだろ。で、アルルカントに何をさせるつもりなんだ?」

 

 「近いうちに分かりますよ」

 

 楽しげに笑うクローディア。

 

 「・・・この腹黒女め」

 

 「フフッ、自覚しています。ところで七瀬・・・」

 

 「ん?」

 

 「もうすぐ六花園会議の日ですが、心の準備は出来ましたか?」

 

 「準備も何も、クローディアがいてくれるんだろ?心配なんかしてないさ」

 

 「・・・ホント、七瀬はずるいですね」

 

 「え・・・?」

 

 何故か頬を染めているクローディア。俺は首を傾げつつ、窓の外を眺めたのだった。

 

 「六花園会議・・・か」

 




三話続けての投稿!

これにて、ユリス襲撃編は終了となります。

次の投稿も、間隔が空いてしまうかもしれません・・・

なるべく早く投稿したいと思っていますが・・・

シャノン「ねぇ作者っち、私の次の出番いつ?」

・・・知らない方が幸せだと思うよ?

シャノン「どういう意味!?」

それではまた次回!

シャノン「ねぇどういう意味!?作者っちいいいいいっ!?」


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第三章《銀綺覚醒》
生徒会長代理


案の定、投稿間隔が空いてしまった・・・


 サイラスが捕まってから一週間後。俺はクローディアに連れられて、六花園会議が行われるというホテルに来ていた。

 

 ってか、予想はしてたけど・・・

 

 「・・・超高級ホテルじゃん」

 

 「えぇ。各国のVIPや著名人が利用するホテルですから」

 

 クローディアが説明してくれる。六花園会議ってこんな場所でやるのかよ・・・

 

 「さて、最上階に行きましょうか」

 

 「最上階!?」

 

 この超高級ホテルの最上階って、どれほど豪華な部屋なんだろうか・・・

 

 わくわくしながら最上階へ上った俺は、着いた途端に唖然としてしまった。

 

 「・・・ここ、ホテルだよな?」

 

 「えぇ、そうですよ」

 

 俺の反応が面白かったのか、クスクス笑っているクローディア。

 

 最上階にあったのは、ドーム型の空中庭園だった。縦横に水路が張り巡らされ、色とりどりの花々が綺麗に咲いている。

 

 何だこの場所は・・・

 

 「おや、皆さん既にお揃いのようですよ」

 

 クローディアが呟く。見ると、庭園の中央部に洋風の四阿があった。六角形のテーブルが備えてあり、六つの椅子のうち四つが埋まっている。つまり、四人の生徒会長が座っていたのだ。

 

 クローディアが微笑む。

 

 「ごきげんよう、皆様。お元気そうで何よりです」

 

 「ようこそ、ミス・エンフィールド。相変わらず時間通りだね」

 

 柔らかな笑顔でクローディアを迎える、金髪の美男子。白を基調とした制服に、光輪の校章・・・ガラードワースの生徒会長か。

 

 と、金髪の美男子が俺を見て微笑む。

 

 「星野七瀬くんだね?聖ガラードワース学園の生徒会長、アーネスト・フェアクロフだ。以後、お見知りおきを」

 

 「初めまして、星野七瀬です。よろしくお願いします、フェアクロフさん」

 

 握手を交わす俺達。

 

 アーネスト・フェアクロフ・・・ガラードワースの序列一位で、生徒会長を務めている。《獅鷲星武祭》を二連覇中のチーム・ランスロットのリーダーでもあり、《獅鷲星武祭》を制覇する上で最大の壁だってクローディアが言ってたな・・・

 

 ちなみに、二つ名は《聖騎士》らしい。カッコいいなオイ。

 

 「アーネストで良いよ。君のことも七瀬と呼んで良いかな?」

 

 「勿論です」

 

 「おー、お主が《覇王》か!」

 

 「うおっ!?」

 

 いつの間にか、俺の隣に目をキラキラと輝かせた童女が立っていた。愛くるしい顔立ちと、蝶の羽のように丸く結わえた黒髪・・・そして胸には、黄龍の校章を付けている。

 

 ということは・・・

 

 「《万有天羅》・・・范星露さんですね?」

 

 「いかにも。気軽に星露と呼ぶが良いぞ、七瀬」

 

 楽しげに笑う童女・・・范星露。九歳にして界龍の序列一位であり、生徒会長を務めている。二つ名は《万有天羅》で、アスタリスク屈指の戦闘力を誇ると言われている。

 

 「よくぞ来てくれた。会いたかったぞ」

 

 「けっ、余計なマネしやがって」

 

 吐き捨てるように言う小太りの青年。色のくすんだ赤髪の持ち主で、胸には双剣の校章を付けている。

 

 あぁ、コイツがレヴォルフの生徒会長か・・・

 

 「初めまして、《悪辣の王》。お招きいただき、ありがとうございます」

 

 「別に好きで呼んだわけじゃねーよ。《万有天羅》たっての希望を断ると、色々と面倒なことになりそうだからな」

 

 そっぽを向く《悪辣の王》・・・ディルク・エーベルヴァイン。俺があまり関わりたくない人物の一人だ。

 

 ということは残りの一人、目の細い黒髪の青年が・・・

 

 「あなたがアルルカントの生徒会長さん・・・?」

 

 「は、はい・・・左近州馬といいます・・・」

 

 恐縮しながら名乗る青年。胸には、アルルカントの昏梟の校章を付けている。

 

 あのアルルカントの生徒会長がこの人か・・・思ってたのと違うな。

 

 「さて、これで全員揃ったね」

 

 アーネストさんが場を仕切る。

 

 「今回、クインヴェールは欠席だ。例によって委任状を預かっているよ。七瀬、悪いけど君はクインヴェールの席・・・ミス・クローディアの隣の席に座ってもらえるかな?」

 

 「了解です」

 

 俺はクローディアの隣の席に座った。

 

 「さて、改めて七瀬・・・よく来てくれたね」

 

 「いや、こっちこそ呼んでもらっちゃって・・・本当に良かったんですか?」

 

 「勿論だとも。我々も君には興味があったし、何より《万有天羅》の希望だからね」

 

 微笑むアーネストさん。と、星露さんがこっちをガン見していた。

 

 「んー、そそられるのう・・・」

 

 「・・・アーネストさん、星露さんの目がキラキラし過ぎてて怖いんですけど」

 

 「・・・気にしない方が良い。彼女はお気に入りを見つけるとああなるんだ」

 

 アーネストさんも苦笑している。と、《悪辣の王》が両足を机の上に放り投げた。

 

 うわ、態度悪いなコイツ・・・

 

 「それにしても、クインヴェールの小娘はこれで何度目の欠席だ?クソの役にも立ってねぇよ」

 

 「君は本当に口が悪いな・・・侮辱するような発言は止めたまえよ」

 

 アーネストさんが注意するが、《悪辣の王》は尚も言葉を続ける。

 

 「ま、見た目だけで選出された愚図共の代表だもんな。いなくて清々する・・・」

 

 そこまで言った瞬間、アーネストさんが剣の煌式武装を起動させる。そのまま剣を《悪辣の王》の喉元に突きつけようとしたところで、俺はその切っ先を掴んだ。

 

 「・・・ッ!」

 

 「その辺にしておきましょう、アーネストさん」

 

 驚いているアーネストさんに対し、微笑みかける俺。

 

 「寸止めのつもりだったとは思いますが、万が一という場合もありますし」

 

 「・・・そうだね。すまない、七瀬」

 

 剣をしまうアーネストさん。と、《悪辣の王》が嘲笑を浮かべていた。

 

 「ハッ、あの《聖騎士》殿が攻撃を止められるとはな。腕が落ちたんじゃねぇのか?まぁ、所詮はこの程度・・・」

 

 「・・・おい、黙れよブタ」

 

 俺の言葉に、その場の空気が凍った。

 

 「俺はお前を庇ったわけじゃない。お前如きのせいで、アーネストさんが処罰されるような事態を避ける為に止めたんだ。他人を侮辱することしか出来ないクズは黙ってろ」

 

 「テ、テメェ・・・」

 

 睨んでくる《悪辣の王》だが、俺が睨み返すと大人しく引き下がった。

 

 「さて、会議を始めましょうか?」

 

 「あ、あぁ。そうだね」

 

 気圧されていた感じのアーネストさんが、慌てて仕切り直した。

 

 「それじゃ、今日の案件だけど・・・」

 

 「あ、あのぉ・・・」

 

 おずおずと手を挙げたのは、左近さんだった。

 

 「急な話になりますが、今回の議題に上げさせていただきたい案件がありまして」

 

 「ほうほう、何事じゃ?」

 

 興味津々の星露さん。

 

 「今回皆さんに提案させていただきたいのは、人工知能の取り扱い及びその権利についてです」

 

 「人工知能・・・ですか?」

 

 クローディアが首を傾げる。

 

 「はい。落星工学が発展したことで、人間に近い自我を持った人工知能の誕生は間違いありません。ですが《星脈世代》がそうであったように、人工知能に対する法整備は難航することでしょう。そこでまずは我々が、モデルケースのような形で人工知能を受け入れる態勢を作れたらと・・・」

 

 「・・・それはつまり、アスタリスクの学生として受け入れるということかい?」

 

 呆れた表情のアーネストさん。

 

 「えぇ。《星武祭》にも参加を・・・」

 

 「アホか。論外だ」

 

 《悪辣の王》が左近さんの意見を切り捨てる。

 

 「アルルカントが機械を学生扱いしようと勝手だが、《星武祭》に出そうってんなら話は別だぞ」

 

 「そうですね、いくら何でも無理のある提案だと思います」

 

 「星武憲章の年齢規定に、自我の有無の判定・・・少し考えただけでも問題が多すぎるね。反対せざるを得ないな」

 

 クローディアとアーネストさんも反対する。星露さんだけが不満そうにしていた。

 

 「なんじゃ、ぬしらは皆反対か。つまらんのう」

 

 「星露さんは賛成なんですか?」

 

 「無論じゃ。その方が面白そうじゃからの」

 

 俺の質問に笑う星露さん。この人、マジで自由人だな・・・

 

 「さて七瀬、君の意見はどうだい?」

 

 俺に話を振ってくるアーネストさん。いやいやいや・・・

 

 「俺は生徒会長でもないですし、個人的な発言は出来ませんよ」

 

 「構わないさ。というより、してくれないと困るんだよ」

 

 苦笑するアーネストさん。

 

 「何しろ君は今、クインヴェール生徒会長の代理なんだからね」

 

 『は・・・?』

 

 アーネストさん以外の全員が、ポカンと口を開けている。え、今何て言った?

 

 「あ、あの・・・どういうことでしょう?七瀬は星導館の生徒のはずですが・・・」

 

 「あぁ、僕も驚いたんだけどね・・・」

 

 戸惑った表情のクローディアに、同じく戸惑った表情で返すアーネストさん。

 

 「預かった委任状には、こう書かれていたんだよ。『クインヴェール女学園・生徒会長の名の下に、シルヴィア・リューネハイムは《覇王》星野七瀬の意見を支持するものとする』ってね。つまり七瀬の意見が、ミス・リューネハイムの意見・・・ひいてはクインヴェールの意見そのものということだ。これを代理と言わずして何と言うんだい?」

 

 アーネストさんの言葉に、誰も何も言えなかった。おいおいマジかよ・・・

 

 「・・・おい、《覇王》」

 

 俺を睨んでくる《悪辣の王》。

 

 「テメェ、あの小娘とどういう関係だ?」

 

 「ちっちゃいことは気にすんな!それワカチコワカチコ~♪」

 

 「ちっちゃくねぇし気にするわ!あとネタが古いんだよ!」

 

 「まぁまぁディルクっち、クッキーでも食べようぜ」

 

 「誰がディルクっちだ!ってか、そのクッキー何処から取り出したんだ!?」

 

 「んー、美味いのう」

 

 「何でテメェは食ってんだクソガキ!」

 

 クッキーを頬張る星露さんにキレる《悪辣の王》。

 

 「七瀬、茶化さないで下さい」

 

 クローディアがたしなめてくる。そうは言ってもなぁ・・・

 

 「どういうつもりなのか、俺にも分からないんだよ。本人に直接聞いてくれ」

 

 「ふざけんな!そんな言い訳が通用するとでも・・・」

 

 「別に良いではないか」

 

 《悪辣の王》の言葉を、クッキーを食べていた星露さんが遮る。

 

 「二人がどんな関係であったとしても、それはプライベートなことじゃ。ここで問い質すのは野暮というものよ」

 

 「そうはいくか!そのプライベートな関係を、この場にまで持ち出されてんだぞ!?他学園の生徒を代理にしやがって!」

 

 「はて?話を聞く限り、代理とは一言も言っておらんかったぞ?あくまでも支持すると言っておっただけじゃ」

 

 「同じだろうが!コイツの意見がクインヴェールの意見ってことだぞ!?そんなの認められるわけ・・・」

 

 「・・・くどいぞ、小僧」

 

 星露さんの今までより低い声に、途中で黙る《悪辣の王》。何だこの威圧感・・・

 

 「クインヴェールの生徒会長が、『七瀬の意見を支持する』と言っておるのじゃ。なら七瀬に聞くべきは、この案件に対する七瀬の意見じゃろうが。くだらん詮索などよさんか、バカモノめ」

 

 あまりの威圧感に、誰も口を開くことが出来なかった。

 

 なるほど、流石は界龍の序列一位にして生徒会長・・・恐ろしいなんてもんじゃないな。

 

 「それで七瀬、ぬしは賛成か?それとも反対か?」

 

 星露さんが尋ねてくる。俺は素直な意見を言うことにした。

 

 「そもそも、この多数決に意味なんてありませんよ」

 

 「どういう意味だい・・・?」

 

 訝しげなアーネストさん。俺は左近さんを見た。

 

 「だってこの時点で、完全に左近さんの掌の上で踊らされてますし」

 

 「・・・ッ!?」

 

 驚愕している左近さん。やっぱりか・・・

 

 「おい、どういうことだ!?」

 

 「踊らされている・・・とは?」

 

 どうやら、皆分かっていないようだ。

 

 「この提案が蹴られることは、左近さんも分かってるんですよ。左近さんの目的は、皆さんにこの提案を否定させることなんですから」

 

 「何故否定させる必要があるのじゃ?」

 

 首を傾げる星露さん。

 

 「皆さんに散々否定させた後で、こう言う為ですよ。『自我の有無に関わらず、あくまでも武器として扱うということでよろしいですか?』ってね」

 

 『・・・ッ!』

 

 その場の全員が息を呑んだ。ようやく分かったか・・・

 

 「つまり《星武祭》に自立機動兵器をどれだけ持ち込もうが、それらはあくまでも武器として扱われるということです。星武憲章には、武器武装の形状を制限する項目はありませんからね。人工知能を学生扱いすることに反対したとはいえ、皆さんはこれを受け入れるわけにはいかない・・・これは皆さんに本腰を入れて話し合ってもらう為の、左近さんの作戦なんですよ。ね、左近さん?」

 

 「・・・まさか読まれていたとは。流石ですね・・・」

 

 感嘆のため息をつく左近さん。

 

 「まぁそういうわけなんで、本腰を入れて話し合ってみてはどうでしょう?って言うのが俺の意見です」

 

 「んー、七瀬はやっぱり面白いのう!」

 

 また目がキラキラしている星露さん。

 

 「七瀬、今からでも界龍に来る気はないかの!?」

 

 「ダメですよ、七瀬は渡しません」

 

 微笑むクローディア。

 

 「まぁ七瀬の言う通り、本腰を入れて話し合う必要がありそうですね」

 

 「そうせざるを得ないね。それがクインヴェールの意見でもあるんだから」

 

 苦笑しているアーネストさん。

 

 「チッ・・・仕方ねぇな」

 

 《悪辣の王》も舌打ちしつつ同意した。笑みを浮かべる左近さん。

 

 「ありがとうございます。これで僕も怒られずに済みそうですよ」

 

 怒られずに済む、か・・・つまりこの提案は、左近さんのものではないということだ。

 

 一体誰のものなのか、気になる俺なのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

二週間ぶりですね!

・・・はい、スイマセン。

相変わらずドタバタしておりました。

引き続き、頑張って投稿していきたいと思います。

それではまた次回!


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忠告

綺凛ちゃんマジ可愛い。


 「何と!?このクッキーは七瀬が作ったのかえ!?」

 

 「えぇ。お口に合いました?」

 

 「あぁ、とても美味しいよ」

 

 六花園会議終了後、俺・クローディア・アーネストさん・星露さんはそのままティータイムを楽しんでいた。《悪辣の王》と左近さんは、会議が終わると速攻で帰ってしまった。

 

 「七瀬、先ほどは申し訳なかった」

 

 謝罪してくるアーネストさん。

 

 「《悪辣の王》を牽制することが目的だったんだが、流石にあんなことをすべきではなかった。止めてくれて感謝する」

 

 「良いですって。俺もアイツを殴りたかったぐらいなんで」

 

 あのメタボ野郎・・・やっぱりろくでもない奴だったな。

 

 「ですが七瀬、よろしかったんですか?《吸血暴姫》について何も聞けずじまいでしたが・・・」

 

 「まぁ仕方ないだろ。あの様子じゃ、聞いても教えてくれなかっただろうし」

 

 クローディアの言う通り、結局イレーネについては何も聞けなかった。あのメタボ、結構苛立ってたしな。

 

 ま、イレーネにはそのうち会えるだろう。

 

 「ところで七瀬、先ほどの君の反応は素晴らしかったね。まさか止められるとは思いもしなかったよ」

 

 「見事な反応速度じゃったのう。咄嗟に手に星辰力を集め、煌式武装を掴むとは」

 

 賞賛してくれるアーネストさんと星露さん。俺は苦笑した。

 

 「普通の煌式武装で助かりましたよ。アーネストさんが純星煌式武装を使っていたら、止められなかったでしょうね」

 

 「あぁ、コイツのことかい?」

 

 アーネストさんが発動体を取り出し、純星煌式武装・・・《白濾の魔剣》を起動させる。綾斗が持つ《黒炉の魔剣》と同じく『四色の魔剣』の一振りで、防御不可の武器である。

 

 「あくまでも牽制が目的だったし、コイツは使わないさ。君も普通の煌式武装だと分かったから、躊躇なく掴んだんだろう?」

 

 「勿論ですよ。あれがもし《白濾の魔剣》だったら、あんなマネしません」

 

 「ハハッ、やっぱり君は面白いな」

 

 笑っているアーネストさん。やがて席から立ち上がった。

 

 「さて、そろそろ行くよ。レティシアに仕事を任せてしまっているんでね」

 

 「レティシア・・・?」

 

 「うちの副会長さ。レティシア・ブランシャール・・・序列二位で、《光翼の魔女》という二つ名が付いている」

 

 「彼女はお変わりありませんか?」

 

 クローディアの問いに、肩をすくめるアーネストさん。

 

 「あぁ、相変わらずだよ。君のことをライバル視している。次の《獅鷲星武祭》では、絶対に勝つと意気込んでいるよ」

 

 「あらあら。ですが前回私のチームは、そちらのチームに負けてしまったのですよ?」

 

 「そうなんだが・・・彼女は君に校章を破壊されたことを、未だに根に持っているんだよ。次は君を倒すって、かなり気合いが入っているんだ」

 

 「そうですか・・・では、私も負けられませんね」

 

 「クローディア、そのレティシアって人と知り合いなのか?」

 

 「えぇ、幼馴染です」

 

 へぇ、幼馴染かぁ・・・と、アーネストさんが俺を見た。

 

 「七瀬、君は《獅鷲星武祭》には出るのかい?」

 

 「ノーコメントでお願いします」

 

 一応クローディアから誘われているが、ここで言うべきことではないだろう。何せ相手は、クローディアの《獅鷲星武祭》における最大の壁なのだから。

 

 「ハハッ、そう来たか。まぁ個人的には、君がミス・エンフィールドのチームメンバーとして出場してくれることを祈っているよ。君とは是非とも戦ってみたいからね」

 

 「期待しないで待ってて下さい。あ、それと・・・」

 

 俺はクッキーが入った袋を取り出した。

 

 「これ、良かったらどうぞ。レティシアさんと召し上がって下さい」

 

 「良いのかい?ありがとう、レティシアも喜ぶよ。それと・・・」

 

 苦笑するアーネストさん。

 

 「七瀬、君とは対等な関係でいたい。呼び捨てで良いし、敬語を使う必要は無いよ」

 

 「・・・分かったよ、アーネスト」

 

 俺の言葉に、満足げに微笑むアーネスト。

 

 「それじゃ、また会おう」

 

 「あぁ、またな」

 

 アーネストは微笑み、クローディアと星露さんに一礼して帰っていった。

 

 と、星露さんも席を立ち上がる。

 

 「さて、儂も帰るとするかの。弟子達に稽古を付けてやらんといかんのでな」

 

 「あ、星露さんもクッキー持って帰ります?」

 

 「良いのかえ!?」

 

 目がキラキラしている星露さん。俺は星露さんに袋を渡した。

 

 「どうぞどうぞ」

 

 「礼を言うぞ七瀬!」

 

 はしゃぐ星露さん。こうしてみると子供みたいなんだけどなぁ・・・

 

 と、星露さんが俺を見た。

 

 「そうじゃ七瀬、ぬしに一つ忠告しておこう」

 

 「忠告・・・ですか?」

 

 「うむ」

 

 重々しく頷く星露さん。

 

 「今日初めてぬしに会って、感じたことがあるのじゃ」

 

 「と言うと?」

 

 「ぬしの中には・・・何やら力が眠っておる」

 

 「力・・・?」

 

 一体何のことだ・・・?星露さんが話を続ける。

 

 「うむ、とてつもなく大きな力じゃ。この力が目覚めた時、ぬしは今より遥かに強くなれるじゃろう。じゃが・・・」

 

 真剣な顔の星露さん。

 

 「この力に呑まれると、ぬしは暴走してしまうじゃろう。何がきっかけで目覚めるかは分からぬが、力に呑まれるでないぞ。自分で操れぬ力は、大切な者を傷付けるだけじゃ」

 

 星露さんの一言が、深く胸に突き刺さった。

 

 自分で操れない力は、大切な人を傷付けるだけ・・・身に染みて感じたことだ。あの時だって・・・

 

 「七瀬・・・?」

 

 ハッと気が付くと、クローディアが心配そうな顔で俺を見ていた。

 

 「大丈夫ですか・・・?」

 

 「あぁ、大丈夫。星露さん、ご忠告どうもです。肝に銘じておきます」

 

 「うむ、そうするが良い」

 

 あどけない笑みを浮かべる星露さん。

 

 「それともう一つ。その力を目覚めさせたいのなら、戦ってみると良いかもしれぬ」

 

 「戦ってみる・・・?」

 

 「うむ。誰しも強者との戦いを経験することで、新たな力に目覚めたりするものじゃ」

 

 強者との戦い・・・か。

 

 「分かりました。アドバイスありがとうございます」

 

 「気にするでない。それと、儂のことも呼び捨てで構わん。敬語も不要じゃ」

 

 「・・・了解。色々とありがとな、星露」

 

 「なに、クッキーの礼じゃ。では、またの」

 

 星露さんはウインクし、そのまま帰っていった。

 

 「さて、俺達も帰るとするか」

 

 「そうですね」

 

 クローディアと並んで歩き出す。

 

 「・・・七瀬」

 

 「ん?」

 

 「七瀬は・・・目覚めさせたいですか?眠っている力とやらを・・・」

 

 「んー、そうだなぁ・・・」

 

 俺は上を見上げた。

 

 「今より強くなれるなら・・・目覚めさせたいかな」

 

 「今のままでも、十分強いと思いますよ?」

 

 「いや・・・今の俺じゃクローディアや、封印解除状態の綾斗には勝てないさ。ましてや、俺が戦いたい奴には絶対に勝てない」

 

 「《王竜星武祭》で戦いたいとおっしゃっていた方ですか?」

 

 「あぁ。アイツに勝つには、今の実力じゃ届かないんだよ」

 

 だからこそ、俺に眠っている力があるなら目覚めさせたい。強くなりたい。

 

 だが・・・

 

 『自分で操れぬ力は、大切な者を傷付けるだけじゃ』

 

 星露の一言が、頭から離れない俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「とてつもなく大きな力ねぇ・・・」

 

 一人呟き、考えながら歩く俺。ユリスと綾斗のいるトレーニングルームに向かいつつ、考え事に耽る。

 

 六花園会議から一週間、ずっと考えているのだが・・・

 

 「・・・分からん」

 

 一体どんな力なんだろうか・・・中庭を抜け、渡り廊下を横切ろうとした時だった。

 

 「きゃっ!?」

 

 「うおっ!?」

 

 思いっきり誰かとぶつかった。ヤバい、全然見てなかった・・・

 

 「ゴ、ゴメン!大丈夫!?」

 

 「あ、はい・・・大丈夫です」

 

 ぺたんと地面に座り込んでいる女の子・・・あれ?

 

 「え、綺凛・・・?」

 

 「あ、七瀬さん!」

 

 銀色の髪を二つに結び、背中に流している女の子・・・間違いなく刀藤綺凛だった。

 

 「久しぶり・・・って、そうでもないか」

 

 「天霧先輩とリースフェルト先輩の決闘の時以来ですもんね」

 

 笑う綺凛。そうそう、あの時は大変だったな・・・って、思い出してる場合じゃない。

 

 「大丈夫か?ゴメンな、ちょっと考え事してて」

 

 「いえ、私の方こそごめんなさいです。音を立てずに歩く癖が抜けなくて・・・」

 

 「・・・あ、そういや足音しなかったな」

 

 それで気付かなかったのか・・・と、俺はあることに気付いた。

 

 「・・・綺凛」

 

 「何でしょう?」

 

 「・・・見えてるぞ」

 

 「え・・・?」

 

 首を傾げる綺凛。綺凛が膝を立てて座っている為、思いっきりスカートがめくれてしまっていた。つまりパンツ丸見えの状態なのだ。

 

 俺が下を指差すと、綺凛もようやく事態に気付いたらしい。

 

 「はうっ!?」

 

 慌ててスカートを直し、縮こまるように両手でぎゅっと自分の身体を抱き締める。涙目で怯える様子は、まるで小動物のようなのだが・・・

 

 「・・・それだと、胸が強調されるぞ」

 

 「はうっ!?」

 

 綺凛の豊満な胸が、一段と強調されていた。中一でこの大きさ・・・恐るべし。

 

 「も、もうっ!七瀬さんのバカ!エッチですぅ!」

 

 「ゴメンゴメン、ほら」

 

 手を差し出すと、綺凛がその手を掴む。そのまま引っ張り上げて立たせた。

 

 「ケガ無いか?」

 

 「あ、はい・・・何ともありません」

 

 「良かった・・・って、髪になんか付いてるぞ」

 

 「ふぇっ!?ど、何処ですか!?」

 

 「取ってやるから動くなって」

 

 手を伸ばし、綺凛の髪についていた小枝を取ってやる。

 

 「ほい、これで大丈夫」

 

 「あ、ありがとうです・・・」

 

 顔を赤くしている綺凛。その時、大きな声が響き渡った。

 

 「綺凛!そんな所で何をやっている!」

 

 体格の良い壮年の男性が、離れたところで立っていた。

 

 「ご、ごめんなさいです伯父様!すぐに参ります!」

 

 ビクッと身をすくませる綺凛。慌てて俺に一礼した。

 

 「で、では七瀬さん!私はこれで失礼します!」

 

 「おう。またな」

 

 「はいっ!」

 

 綺凛は軽く会釈すると、小走りで男性の下へ向かった。

 

 あれが綺凛の伯父さん・・・?星辰力の流れを感じないし、《星脈世代》ではないだろう。例え親族といえど、ここには簡単には入れないはずだが・・・

 

 と、そこでクローディアの顔が思い浮かんだ。

 

 「ひょっとして、学園の関係者か・・・?」

 

 クローディアの両親は銀河の上役だというし、あの人もそうなのかもしれない。

 

 ただ、綺凛の怯えたような姿が気になった俺なのだった。

 




二話続けての投稿となります。

そういえば、昨日はクリスマスでしたね。

皆さんはどう過ごされましたか?

作者は部屋の大掃除をしてました。

『リア充滅びろ』という負のオーラを放ちながら、要らない物を片っ端からバンバン捨ててましたww

今年は必要な物以外は全て捨てようと思います。

それではまた次回!


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紗夜の決意

雨風が強いなぁ・・・


 「えーっと、トレーニングルームってここだよな・・・?」

 

 何故か入り口の側の壁に、巨大な穴が空いていた。アイツら、一体どんな訓練してんの・・・?

 

 恐る恐る覗いてみると、紗夜が褐色の肌をした女性と睨み合っていた。ユリス・綾斗・クローディア・レスターもいる。あと、制服の上から白衣をまとった女の子が一人。何やら険悪な雰囲気である。

 

 と、その女の子が俺に気付いた。

 

 「おーっ!《覇王》くんじゃなーい!?」

 

 皆が振り向く前にダッシュで逃げようとしたが、逃げようとした先の壁が勢いよく砕けた。

 

 うっそーん・・・

 

 「・・・七瀬、何で逃げる」

 

 「沙々宮!これ以上ここを壊すな!」

 

 「何箇所壊そうが同じこと」

 

 「直すこちらの身にもなって下さいな・・・」

 

 「七瀬、出てきた方が良いよ」

 

 「このちんちくりん、今凄く機嫌が悪いしな。何するか分かんねーぞ」

 

 「誰がちんちくりんか」

 

 「《覇王》くーん!お話しよー!」

 

 ・・・ハァ、仕方ないな。諦めて壁の穴から中に入る俺。

 

 「七瀬、何で逃げた?」

 

 「だって険悪な雰囲気だったし。ってか紗夜、それヘルネクラウムじゃないよな?」

 

 「うん、三十九式煌型光線砲ウォルフドーラ」

 

 「そんなもん人に向けて撃つなアホ!」

 

 「うきゅっ!?」

 

 思いっきり拳骨をかます。涙目で頭を抑える紗夜。

 

 「ご、ごめんなさい・・・」

 

 「よろしい。で、この二人は一体・・・?」

 

 褐色の女性と、白衣を着た女の子を見る俺。今気付いたが、胸にアルルカントの校章を付けている。

 

 「こちらはアルルカントのカミラ・パレートさんと、エルネスタ・キューネさんです。ちょうど我が学園を案内していたところでして」

 

 説明してくれるクローディア。

 

 「星導館とアルルカントが、共同で新型の煌式武装を開発することになったんです。お二人はその計画の代表責任者でして、今日は正式な契約を結ぶためにいらして下さったんですよ」

 

 「なるほど・・・サイラスの一件での貸しか」

 

 呆れる俺。要はアルルカントの技術をいただこうというわけだ。近いうちに分かるってこういうことな・・・

 

 「いやー、《覇王》くんにも会えるなんて嬉しいなー!」

 

 テンションの高い白衣の女の子・・・エルネスタさん。

 

 「あたしの人形ちゃん達の相手を、素手でやっちゃうなんて凄いねー!」

 

 「あの人形、アンタが作ったのか?良く出来た人形だったけど、顔が欲しかったなぁ」

 

 「あー、あたしも作りたかったんだけどねぇ・・・顔が無いってやっぱり寂しいよねー」

 

 「ホントそれなー」

 

 「いや、何で話が盛り上がっているのだ!?」

 

 ユリスのツッコミ。

 

 「七瀬、ソイツらは敵だぞ!?一連の事件の黒幕なんだぞ!?」

 

 「蒸し返しても仕方ないだろ。アルルカントから技術を貰う代わりに、今回のことは内密にする・・・そう決まった以上、俺達が何を言ったって無駄だ」

 

 「そ、それは・・・そうかもしれんが・・・」

 

 「・・・あっさりしているな。彼女達のように、敵意を向けてくると思ったのだが」

 

 褐色の女性・・・カミラさんが驚いたように言う。俺は苦笑した。

 

 「うちの生徒会長が丸く収めようとしてんだから、俺がそれを邪魔する必要も無いだろうよ。俺はクローディアを信頼してるんだ」

 

 「な、七瀬・・・」

 

 頬を赤く染めているクローディア。カミラさんが笑みを浮かべる。

 

 「なるほど・・・面白いな、君は。うちの生徒会長も賞賛していたよ」

 

 「あぁ、左近さん?ひょっとして、あの案件を持ち出させたのって・・・」

 

 「はーい、あたしでーす!」

 

 無邪気に笑うエルネスタさん。

 

 「《覇王》くんが話し合いを提案してくれたんでしょ?ありがとう、助かったよー!」

 

 「その《覇王》くんっていうの止めてくれ。普通に七瀬で良いから」

 

 「そう?じゃあ七瀬くんで!あたしのこともエルネスタで良いよー!」

 

 「私のこともカミラで良い。まぁ色々あったが、よろしく頼むよ七瀬」

 

 「おう、よろしく」

 

 握手を交わす俺とカミラ。と、紗夜がずいっと前に出てきた。

 

 「私は全然よろしくない。先ほどの発言を撤回してもらう」

 

 「先ほども言った通り、撤回するつもりはない」

 

 睨み合う両者。そういや、この二人は最初から険悪だったな・・・

 

 「何かあったのか・・・?」

 

 「この女が、お父さんの作った銃を侮辱した」

 

 紗夜がカミラを睨みながら言う。お父さんの作った銃・・・?

 

 「紗夜の銃って、紗夜のお父さんが作ったものなのか!?」

 

 「そう。お父さんが私の為に作ってくれた銃」

 

 マジかよ・・・道理で独創的な銃だと思ったら・・・

 

 「で、カミラがそれを侮辱したと?」

 

 「侮辱したつもりはない。実用的な銃とは言い難いと言っただけだ」

 

 淡々としているカミラ。

 

 「実はこの沙々宮紗夜の父・・・沙々宮創一氏は、私が所属している《獅子派》に在籍していたことがあってね」

 

 「え、マジで!?紗夜のお父さんって、アルルカントのOBなのか!?」

 

 「あぁ。だが、沙々宮教授は異端すぎた。その異端さ故にアルルカントを、そして我らが《獅子派》を放逐された方なんだ。私は《獅子派》の代表として、彼の歪さを認めるわけにはいかない」

 

 紗夜を睨むカミラ。

 

 「武器武装は力だ。力は個人では無く、大衆にこそ与えられるべきもの・・・それこそが《獅子派》の基本思想なんだよ」

 

 「・・・個人の為ではなく、皆が使えるような武器武装を開発すべきってことか?」

 

 「そうだ」

 

 なるほど・・・紗夜の為に作られた銃というのは、カミラの思想には反するだろうな。その銃を作ったのが、異端視されて追放された先輩というなら尚更だ。

 

 「どうしても撤回させたいなら・・・ここのルールに従うほかないな」

 

 カミラの言葉に、紗夜が驚く。

 

 「つまり決闘しろと・・・?」

 

 「まさか。だが私達は、次の《鳳凰星武祭》にエントリーしている」

 

 「にゃははっ!そっちが参加するなら、何処かで当たるかもねー!」

 

 笑うエルネスタ。あー、なるほどな・・・

 

 「あ、七瀬くんは余計なこと言っちゃダメよ?口止めされてるでしょ?」

 

 「最初から《鳳凰星武祭》出場が目的で、左近さんにあの案件を持ち出させたのか?」

 

 「そういうこと!優勝して、望みを叶えてもらうんだ♪」

 

 「・・・エルネスタが叶えたい望みは、何となく予想がつくよ」

 

 「あ、やっぱり?分かっちゃう?」

 

 楽しげなエルネスタ。クローディアとカミラ以外、何のことかさっぱり分からないという顔をしている。

 

 「さて、そろそろ行きましょうか」

 

 「あぁ、そうだな」

 

 クローディアの言葉に応じるカミラ。

 

 「では七瀬、また会おう」

 

 「七瀬くん!またねー!」

 

 「おう、またなー」

 

 クローディア・カミラ・エルネスタが、トレーニングルームを出て行く。

 

 と、紗夜が悔しそうに拳を握りしめていた。俯く紗夜の頭に、ポンッと手を置く俺。

 

 「・・・紗夜のお父さんはさ、間違ってないよ」

 

 「え・・・?」

 

 驚いて俺を見る紗夜。俺は紗夜に微笑んだ。

 

 「誰にだって大切な人はいる。大切な娘の為だけに銃を作ることの何が悪い?異端でもないし歪でもない、普通のことだよ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「だからカミラに認めさせたいなら・・・戦うべきだ。お父さんの作ってくれた銃で」

 

 「・・・うん。そうする」

 

 力強く頷く紗夜なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「六花園会議に参加しただと!?」

 

 驚愕しているユリス。俺達は、トレーニングルームで雑談していた。

 

 「あぁ、言ってなかったっけ?」

 

 「聞いてないぞ!?」

 

 「お前凄いな・・・」

 

 呆れているレスター。

 

 「レスター、身体はもう大丈夫なのか?」

 

 「あぁ、もう何ともない。もっとも、ランディはもう少しかかりそうだがな」

 

 「そっか・・・」

 

 《鳳凰星武祭》を辞退することになるぐらいだもんな・・・重傷だったんだろう。

 

 「ゴメンな、もっと早くサイラスを捕まえられていたら・・・」

 

 「お前のせいじゃねぇよ。ずっとサイラスと一緒にいたのに、気付けなかった俺が悪いんだ。お前には感謝してる。助けてくれてありがとな」

 

 「レスター・・・」

 

 レスターは笑うと、大きく伸びをした。

 

 「さて・・・ランディが《鳳凰星武祭》に出れない以上、俺も《鳳凰星武祭》には出れねぇし・・・どうすっかな」

 

 「それなら提案がある」

 

 手を挙げる紗夜。

 

 「あん?どうした沙々宮?」

 

 「私とタッグを組もう」

 

 「ハァッ!?」

 

 驚くレスター。

 

 「マクフェイルは《鳳凰星武祭》に出たい。私も《鳳凰星武祭》に出る理由が出来た。利害が一致している」

 

 「いや、そうだけどよ・・・お前と連携とか不安しかねーわ」

 

 「問題ない、これから練習する。さっきみたいなことにはならないはず」

 

 平然と言う紗夜に、苦笑している綾斗とユリス。

 

 「え、何かあったの?」

 

 「実はさっき、紗夜とレスターにタッグを組んでもらって戦ってたんだ。俺達には、タッグ戦の経験が足りないからね」

 

 「ところが、沙々宮の光線砲がレスターを巻き込みかけてな。ギリギリで避けたが、壁に穴が空いてしまったというわけだ」

 

 「あー・・・あの穴はそういうことだったのか・・・」

 

 そりゃ連携に不安も感じるわな・・・

 

 「ま、新しいタッグパートナーと登録し直しても良いとは言われてるけどよ・・・」

 

 「なら、何の問題も無い。よろしく、マクフェイル」

 

 「・・・しゃあねぇな。出るからには優勝すんぞ」

 

 「勿論そのつもり」

 

 拳を打ちつけ合う二人。おー、新しいタッグが誕生したな。

 

 ・・・あれ?

 

 「そういや、《鳳凰星武祭》の出場登録って六月までじゃ・・・?」

 

 「確かにそうだが、予備登録は可能だ。毎年ケガで出場を辞退するペアもいるし、その補充として出られるかもしれん。今回はサイラスのせいで、何組も辞退するハメになっているしな」

 

 「あ、なるほど。レスターも元々登録してたし、その分の枠はあるのか」

 

 ユリスの説明に納得する俺。

 

 「そういうことだ。だが、沙々宮達に負ける気はないぞ」

 

 「こっちも負けるつもりはない」

 

 ユリスの言葉に、不敵な笑みを浮かべる紗夜。

 

 「必ずカミラ・パレート達に勝ってみせる」

 

 「そのことなんだけどよ、おかしくねぇか?」

 

 首を傾げているレスター。

 

 「あの二人、どう見ても研究クラスだろ?それで《鳳凰星武祭》に参加って、正気とは思えねぇぞ」

 

 「研究クラス?」

 

 綾斗の問いに、レスターが説明を始める。

 

 「アルルカントじゃ、煌式武装とかの研究開発を行う学生と、実際に《星武祭》で戦う学生に分かれてんだよ。普通、前者が実戦に出てくることはねぇ」

 

 「へぇ・・・」

 

 と、綾斗が俺を見た。

 

 「そういや七瀬、さっき何の話をしてたの?」

 

 「何が?」

 

 「エルネスタさんが言ってたじゃないか。余計なことは言っちゃダメとか、口止めされてるとか」

 

 「そういや、あの案件とか言ってたな・・・何のことだ?」

 

 綾斗とレスターの質問に、俺は肩をすくめた。

 

 「残念ながら秘密だ。口外禁止らしくてな」

 

 「どういうことだ?」

 

 ユリスが尋ねてくる。

 

 「六花園会議で決まったことは、その上の運営委員会で改めて審議されるらしい。そこで確定して、初めて本決まりってことで発表されるんだそうだ。だからそれまでの間、各学園の生徒会長達は内容を口外しちゃいけないんだとさ」

 

 「なるほど、つまりお前も口外できないということか」

 

 「そういうこと。ま、発表されたらお前らも分かるよ。エルネスタやカミラが自信満々だった理由がな」

 

 「例え自信満々だろうが、私はアイツらには負けない」

 

 紗夜が燃えていた。

 

 「こうしてはいられない。マクフェイル、早速特訓だ」

 

 「やれやれ・・・じゃ、行くわ」

 

 「おう、頑張ってな」

 

 トレーニングルームを出て行く紗夜とレスター。張り切ってんなぁ、紗夜。

 

 「・・・七瀬、ありがとう」

 

 「え・・・?」

 

 綾斗の言葉に、キョトンとする俺。

 

 「ほら、さっき紗夜に言ってくれたじゃないか。紗夜のお父さんは間違ってないって。きっと紗夜、凄く嬉しかったと思うんだ。それに七瀬が背中を押してくれたから、戦うことを決意したんだろうし。だから・・・ありがとう、七瀬」

 

 「・・・良いってことよ。紗夜も大事な友達だしな」

 

 笑う俺なのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

シャノン「ヤッホー!シャノンだよー!」

・・・遂に作者コメに進出してきやがったな。

シャノン「だって出番欲しいんだもん!」

よし、今後の出番を削って・・・

シャノン「止めてえええええっ!」

それではまた次回!


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明かされる事実

劇場版『トリニティセブン』が楽しみすぎる。


 「ったく、共同で煌式武装の開発とは・・・考えたもんだな」

 

 「フフッ、でしょう?」

 

 リビングでコーヒーを飲んでいる、俺とクローディア。

 

 サイラスが捕まったので、俺はユリスの部屋からクローディアの部屋へ戻ってきたのだった。

 

 「アルルカントのせいで、星導館は大変な被害を受けました。これくらいの旨味があっても良いでしょう?」

 

 「まぁな。ってか、サイラスはどうなったんだ?」

 

 「さぁ・・・後の処理は《影星》に一任しましたので」

 

 《影星》・・・星導館の特務機関の名前だ。一体どんな連中なのか・・・

 

 「ところで七瀬、例の件はユリス達に話していないでしょうね?」

 

 「安心しろ、話してないから」

 

 肩をすくめる俺。

 

 「アイツら、ビックリするだろうな・・・自律機動兵器が、《星武祭》へ代理出場することが認められるなんて」

 

 「結局、アルルカントの思い通りになってしまいましたね」

 

 ため息をつくクローディア。

 

 「アルルカントっていうか、エルネスタの思い通りって感じだな。まぁ、自立機動兵器を武器扱いするよりマシだろ」

 

 「ですね・・・武器扱いとなると、いくらでも持ち込めることになってしまいますし。代理出場ということなら、一体だけで済みますから」

 

 「ま、エルネスタとカミラは自信満々だったけどな。よっぽど良いのが作れたんだろ」

 

 「でしょうね・・・ところで七瀬」

 

 クローディアが思い出したように言う。

 

 「あの時、キューネさんの望みが分かるような気がすると仰っていましたが・・・彼女の望みとは一体・・・?」

 

 「あぁ、あれか?」

 

 俺は苦笑した。

 

 「多分だけど・・・自律機動兵器を学生として受け入れてもらうことだ」

 

 「・・・ッ!」

 

 息を呑むクローディア。

 

 「アイツ、自分の作った人形達に愛着があるみたいだったし。恐らくアイツの作った自律機動兵器っていうのも人型・・・擬形体なんだろうさ。まずは学生として受け入れてもらい、ゆくゆくは人間と擬形体の共存を目指すってところじゃないか?」

 

 「・・・つまり、人工知能との共存というわけですか」

 

 「あくまでも推測だけどな。六花園会議で左近さんの言ってたことが、エルネスタの意見だとすると・・・そういうことじゃないかと俺は思う」

 

 「なるほど・・・彼女は《彫刻派》ですし、擬形体に愛着があるのかもしれませんね」

 

 「《彫刻派》?」

 

 首を傾げる俺に、クローディアが説明してくれる。

 

 「アルルカントでは、研究の内容によって派閥が分かれているんです。キューネさんが代表を務める《彫刻派》は、擬形体の研究開発がメインなんですよ」

 

 「あ、なるほど」

 

 それであんな人形を作れたわけか・・・

 

 「ちなみにパレートさんが代表を務める《獅子派》は、煌式武装の研究開発がメインですね。その他にも様々な派閥が存在します」

 

 「マジか・・・内部の勢力争いとか激しそうだな」

 

 「まさにその通りで、研究費用や実戦クラスの有力生徒を取り合っているんですよ」

 

 苦笑するクローディア。

 

 「最大勢力は《獅子派》で、全体の約五割・・・およそ半分を占めています」

 

 「え、圧倒的じゃね?」

 

 「ところが大きい反面、まとまりに欠けているんです。アルルカントでは生徒会より、研究院の議会の方が力が強いのですが・・・議決には、三分の二以上の賛成票が必要とされています」

 

 「つまりそれを確保する為には、別の派閥と手を組む必要があるわけか・・・」

 

 何か政治みたいな話になってきたな・・・

 

 「えぇ。以前は《超人派》という派閥と手を組んでいたのですが、数年前に大きく勢力を減退させまして。少し前に新しく手を結んだのが、《彫刻派》というわけです」

 

 「それで両派閥の代表である、カミラとエルネスタが一緒だったのな」

 

 カミラが《獅子派》って言ってたから、エルネスタもそうだと思っていたが・・・

 

 「まぁ何はともあれ、あの二人には要注意ですね。《鳳凰星武祭》にどんな自律機動兵器を出してくるか分かりませんし」

 

 「だな。あの二人が作ったものなら、恐らくかなり手強いはずだ」

 

 ユリス達は大丈夫かなぁ・・・と、俺はふと綺凛のことを思い出した。

 

 「そうだクローディア、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

 「何でしょう?」

 

 「刀藤綺凛って覚えてるか?ほら、ユリスと綾斗の決闘の時の・・・」

 

 「あぁ、刀藤さんですか?覚えてるも何も、彼女は有名人ですよ?」

 

 「え、有名人?」

 

 俺のキョトンとした様子を見て、クローディアが呆れていた。

 

 「あの時も気付いていないようでしたが・・・七瀬、本当に知らないんですか?」

 

 「全然」

 

 「ハァ・・・刀藤さんは、うちの序列一位ですよ?」

 

 一瞬、時が止まった。

 

 え、何?序列一位?ハハハ、そんなバカな・・・

 

 「ええええええええええ!?マジでええええええええええ!?」

 

 「マジですよ」

 

 ため息をつくクローディア。

 

 「入学初日に当時の序列十一位を決闘で下し、最初の公式序列戦で当時の序列一位を打ち負かした生徒・・・それが《疾風刃雷》の二つ名を持つ刀藤さんです

 

 「マジかよ・・・末恐ろしいな」

 

 「七瀬だって入学初日に、序列九位のマクフェイルくんを一撃で倒しているでしょう」

 

 苦笑するクローディア。

 

 「ユリスも打ち破り、今では序列五位・・・刀藤さんに負けず劣らずの有名人ですよ」

 

 「・・・そんな自覚一切ないんだけど」

 

 レスターは頭に血が上った状態だったから勝てただけだし、ユリスも勝ったっていうか胸を揉んだだけだしなぁ・・・

 

 「まぁそれはさておき、彼女は本当に強いですよ。序列一位ともなると、公式序列戦で指名されないことはまずありません。ですが彼女は三ヶ月間、ただの日本刀一本で一位の座を死守しています。対して他の学園の序列一位は、純星煌式武装の使い手か《魔女》のどちらかですからね。凄いとしか言えません」

 

 「確かに凄いな・・・」

 

 まさか序列一位だったとは・・・驚きだわ。

 

 「そういや、綺凛の伯父さんって学園関係者なのか?」

 

 「あぁ、刀藤鋼一郎氏ですね。彼は銀河の社員ですよ。極東エリアのスカウト関連部門を統括していて、かなり強い権限を持っています。銀河の幹部候補といったところですね」

 

 「幹部候補!?」

 

 銀河の幹部候補とか・・・ヤバいな。

 

 「ですが・・・彼が幹部になることはないでしょうね」

 

 あっさりと否定するクローディア。

 

 「え、何で?」

 

 「我が強すぎるんですよ」

 

 「は・・・?」

 

 キョトンとした顔の俺を見て、クスクス笑うクローディア。

 

 「彼はどうしても幹部の椅子に座りたいらしく、姪である刀藤さんを利用しようとしています。決闘相手やスケジュールなど、ほとんど彼が管理しているようです」

 

 「マジか・・・じゃあ綺凛は、伯父さんに無理矢理戦わされてるってことか?」

 

 「いえ、そうでもないようです。彼女は彼女で、何か目的があるみたいですよ」

 

 目的・・・?利用されてでも叶えたい望みがあるってことか・・・?

 

 「まぁそれはともかく・・・統合企業財体では、強すぎる我欲を持った方はある程度までしか出世できません。銀河に限らず、他の統合企業財体でも同様です」

 

 「へぇ・・・何か理由があるのか?」

 

 「えぇ。統合企業財体の幹部というのは、何段階もの精神調整プログラムを受ける必要があるんです。そうやって徹底的に我欲を排除された方のみ、幹部の椅子に座ることが出来るんですよ。だからこそ統合企業財体では、幹部以上の方々が関与するような不正はほとんど存在しません」

 

 「精神調整プログラム・・・」

 

 何だか嫌な響きだな・・・そんなものを受けなきゃいけないのか・・・

 

 「徹底的に我欲を排除って・・・それで人として生きていけるのか?まぁ欲が強すぎるのもどうかとは思うけど、欲があってこその人間だろ?」

 

 「本当にその通りだと思います」

 

 苦笑するクローディア。

 

 「ってかクローディア、ずいぶん詳しいな。統合企業財体の内部事情・・・特に幹部に関することは、基本的に極秘事項のはず・・・って、ご両親が銀河の上役なんだっけか」

 

 「あら、ご存知だったんですか?」

 

 「名前は言えないが、Y氏からの情報提供だ」

 

 「夜吹くんですね・・・」

 

 あ、即行でバレた・・・ため息をつくクローディア。

 

 「母は銀河の最高幹部です。父は母の補佐をしています」

 

 「・・・ッ!」

 

 あっさりと言ったクローディアの言葉に、俺は衝撃を受けた。最高幹部ということは、精神調整プログラムを受けたということだ。

 

 「・・・ゴメン、さっきのは失言だった。お前に言うべき言葉じゃなかった」

 

 「良いんですよ。私も七瀬の意見に同感ですから」

 

 笑っているクローディア。

 

 「幹部の方々が集まっているところは、なかなか面白いですよ。皆さん同じ人に見えてしまって、私もどれが母だか分からなかったくらいです」

 

 「クローディア・・・」

 

 「まぁそんなわけで、鋼一郎氏が幹部になるのは難しいでしょうね。彼はあまりにも我欲が強すぎますから」

 

 クローディアはそう言うと、ソファに座っていた俺の隣に移動してきた。そして、俺の肩にもたれかかってくる。

 

 「・・・本当に気になさらないで下さい。私も七瀬と同意見ですし、全然気にしていませんので」

 

 そう言って笑うクローディアの手を、俺はそっと握った。

 

 「・・・クローディアはさ、寂しいって思うこととか無いのか?」

 

 「フフッ、どうでしょうね。今は七瀬もいますし、綾斗やユリスもいますから」

 

 「そうだな・・・俺達が側にいる。だから、何かあったら頼ってくれよ」

 

 「勿論です。ノーマンくんの一件の時みたいに、顎で使っちゃいますからね」

 

 「・・・お手柔らかに頼むよ」

 

 苦笑する俺を見て、おかしそうにクスクス笑うクローディアなのだった。

 




二話続けての投稿となります。

シャノン「作者っち、ヒマなの?」

その言い方やめい!時間ができたの!

シャノン「じゃあ私の出番を・・・」

やだ。無理。余裕無い・・・・・めんどい(ボソッ)

シャノン「え、今めんどいって言った!?言ったよね!?」

それではまた次回!

シャノン「ちょ、無理矢理締めるなー!」


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七瀬の怒り

映画観に行こうかなぁ・・・


 「あー、眠い・・・午後の授業サボろうかな」

 

 「そんなことをしてみろ。谷津崎女史が黙っていないぞ」

 

 呆れているユリス。俺とユリスは昼食を済ませ、教室に戻る途中だった。

 

 「おっかないよなぁ、あの人。かなり強いだろうしなぁ」

 

 「ほう、分かるのか?」

 

 「だって星辰力が研ぎ澄まされてるし。相当の腕がないと、ああはならないさ」

 

 「相変わらず星辰力に関しては鋭いな・・・確かに谷津崎女史は強いぞ。あの人はレヴォルフのOGだが、レヴォルフで唯一《獅鷲星武祭》を制したチームのリーダーだしな」

 

 「え、あの人レヴォルフのOGなの!?」

 

 「あぁ、二つ名は《釘絶の魔女》だったな。レヴォルフの序列二位だったそうだ」

 

 「・・・そんな人が、何で星導館で教師やってんの?」

 

 「それは私にも分からんが・・・」

 

 謎だな・・・本人には怖くて聞けないし。と・・・

 

 「あれ、何か人だかりが・・・」

 

 「本当だな・・・何の騒ぎだ?」

 

 人垣を掻き分けて前に出ると、そこには・・・

 

 「な、な、な・・・!」

 

 「・・・何してんのアイツら」

 

 綾斗と綺凛が決闘の真っ最中だった。綾斗は《黒炉の魔剣》を使っており、明らかに封印を解除している。

 

 だが綺凛は、そんな綾斗と互角以上・・・いや、明らかに綺凛の方が優勢だ。あの綾斗が劣勢を強いられている。

 

 と、俺はハンディカメラを嬉々として回しているアイツの姿を発見した。

 

 「おい夜吹」

 

 「ん?おー、七瀬とお姫様じゃん」

 

 「何でこんな状況になってんのか、三文字で説明しな」

 

 「無理だわ!三文字で何を説明できんだよ!?」

 

 「えぇい!何でも良いから説明せんか!」

 

 「理不尽じゃね!?」

 

 ツッコミを入れつつ、夜吹が説明を始める。

 

 「きっかけは、あそこにいるオッサンだよ」

 

 「オッサン?」

 

 見ると少し離れたところに、壮年の男性が立っていた。

 

 あれって・・・

 

 「綺凛の伯父さんじゃん」

 

 「あのオッサンが刀藤綺凛に平手打ちしたところに、たまたま俺と天霧が通りかかったのさ。天霧はそれを止めに入った結果、彼女と決闘することになったんだ」

 

 「いや、話が見えないんだけど。綾斗は綺凛を庇ったんだろ?何で綺凛と決闘することになったんだ?」

 

 「オッサンが彼女に命令したんだよ、天霧と戦えって。もし天霧が勝ったら、もう二度と彼女には暴力をふるわないっていう約束なんだ」

 

 「・・・あのジジイ、マジでクズだな」

 

 話には聞いていたが、これほどとはな・・・

 

 「おい夜吹、決闘が始まってどれくらい経つ!?」

 

 「えーっと、もう五分くらいになるけど・・・どうかしたのか?」

 

 ユリスの顔が青ざめた。

 

 綾斗が封印を解除できる時間には制限があるしな・・・ここで綾斗の実力がバレてしまったのは痛いが、タイムリミットがあることまでバレたらマジで最悪の状況だよな・・・

 

 と、その時だった。

 

 『決闘決着!勝者、刀藤綺凛!』

 

 機械音声が流れる。見ると、綾斗の校章がぱっくり断ち切られていた。当の綾斗はキョトンとしている。

 

 「天霧の奴、校章の厚みを忘れてたみたいだな。自分の身体感覚だけでかわそうとしてるから、ああやって校章を切られるんだよ」

 

 苦笑している夜吹。

 

 「ここでの決闘に慣れてなくて、よそで戦い慣れてる奴ほどやらかすんだよなぁ」

 

 「なるほどな・・・」

 

 俺も気を付けよう・・・

 

 「ってか夜吹、お前よく目で追えたな」

 

 「新聞部として、決闘はいくつも見てきたからな。これでも目は良いんだぜ?」

 

 夜吹はそう言って笑っているが、周りのギャラリー達はついていけてないようだった。

 

 コイツ、恐らく目が良いだけじゃないな・・・

 

 「ふん、終わったか・・・行くぞ」

 

 くるりと背を向けて歩き出す綺凛の伯父さん。綺凛は綾斗にぺこりと一礼した。

 

 「そ、その・・・ごめんなさいですっ」

 

 伯父さんの後を追いかけようとした時、俺と目が合った。が、悲しげな表情をして目を逸らす。そのまま伯父さんの後を小走りで追いかけていった。

 

 「ま、待ってよ刀藤さん!」

 

 追いかけようとする綾斗の肩を、俺は掴んだ。

 

 「止めとけ綾斗。追いかけても無駄だ」

 

 「七瀬!でも刀藤さんは・・・!」

 

 「冷たいことを言うようだけどな・・・負けたお前に何も言う資格は無い」

 

 「・・・ッ!」

 

 唇を噛み、俯く綾斗。

 

 「七瀬、それは酷いぞ!」

 

 怒っているユリス。

 

 「綾斗は彼女を救おうとして・・・」

 

 「・・・黙れユリス」

 

 「・・・ッ!」

 

 息を呑むユリス。恐らく俺の身体からは、抑えきれない殺気が滲んでいることだろう。見ると、綾斗も固まっていた。

 

 「な、七瀬・・・」

 

 「こっちは腸が煮えくり返ってんだ。頼むから黙っててくれ。でないと、マジでお前に八つ当たりしかねない」

 

 あのジジイ、マジで許さねぇぞ・・・

 

 「綺凛にあんな顔させるなんて・・・ふざけやがって」

 

 「七瀬、ひょっとして彼女と知り合いなの・・・?」

 

 「・・・後で説明してやるよ。その前に別の場所へ移動するぞ。綾斗のリミットまでもう時間が無い」

 

 「・・・ゴメン」

 

 「綾斗は悪くないさ。とにかく、さっさとここを離れるぞ」

 

 怒りをどうにか堪え、綾斗とユリスと共に移動する俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「なるほど・・・序列一位なら、あの強さも納得だね」

 

 床に伸びている綾斗がため息をつく。何とか人目につかないところを探した結果、俺達は俺専用のトレーニングルームへと駆け込んだのだった。

 

 ユリス専用のトレーニングルームは、昨日紗夜が壁を壊したからな・・・《冒頭の十二人》の特権が、こんなところで役に立つとは・・・

 

 「しかも刀藤さんは、伯父さんの出世の為に利用されているのか・・・でも彼女には何らかの目的があって、利用されていることを承知の上で命令に従っていると・・・」

 

 「クローディアの話によると、どうやらそうらしい」

 

 綾斗の言葉に頷く俺。

 

 「正直、あのジジイを今すぐぶん殴りたいところだが・・・綺凛に目的がある以上、アイツの邪魔はしたくないんだよな」

 

 「でも、あんな扱いをされてるなんて・・・あまりにも酷すぎるよ」

 

 「分かってるさ。ただ、まずは綺凛と話をしてみないとな。アイツの目的が何なのかを知りたいし・・・って、どうしたユリス?さっきからずっと黙ってるけど」

 

 そう、ユリスはここに来るまでずっと無言だった。俺が説明している時も黙ってたし、どうしたんだろう・・・

 

 と、俯いていたユリスが顔を上げた。目から涙が零れ落ちる。

 

 「え、何で泣いてんの!?」

 

 「な、七瀬がっ・・・だ、黙ってろって・・・」

 

 「それで今まで黙ってたの!?」

 

 「だ、だって・・・だって七瀬がっ・・・」

 

 「真面目かお前!?ゴメンゴメン!もう喋って良いから!」

 

 「うぅ・・・七瀬ぇ・・・」

 

 俺に抱きつき、泣きじゃくるユリス。慌てて抱き締める俺。

 

 「ちょっと待て!?ユリスってこんなキャラだったっけ!?」

 

 「完全に幼児退行化してるね・・・」

 

 「うえええええん・・・」

 

 「・・・綾斗、どうしたら良いと思う?」

 

 「いや、俺に聞かれても・・・」

 

 結局、ユリスは泣き止むまで幼児退行化していたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「い、良いな!?昼休みのことは忘れろ!」

 

 「はいはい、分かってるって」

 

 顔を真っ赤にして詰め寄ってくるユリスに、俺は苦笑する。

 

 放課後、俺達は寮への帰り道を歩いていた。元に戻ってから、ユリスはずっとこの調子である。

 

 「でも、あの時のユリスは可愛かったなぁ」

 

 「忘れろ!今すぐ記憶から消し去れ!」

 

 「永久保存させていただきます」

 

 「止めろおおおおおっ!」

 

 両手で顔を覆うユリス。俺はユリスの頭に手を置いた。

 

 「・・・ゴメンな、ユリス」

 

 「え・・・?」

 

 「あの時、俺がキツい口調で『黙れ』なんて言ったから・・・傷付いたよな」

 

 「そ、そんなことは・・・まぁ、傷付いたことは認める」

 

 俯くユリス。

 

 「だが・・・私も分かっているつもりだ。あの時の七瀬は、今までにないほど怒っていた。悪気があったわけではないのだから、もう気にするな」

 

 「いや、でも・・・」

 

 言いかけた俺の口を、ユリスが手で塞いだ。

 

 「以前、お前は私にこう言ったな。自分が気にしていないのだから、お前が気にする必要は無いと。その言葉、そっくりそのまま返してやろう」

 

 「・・・一本取られたわ」

 

 苦笑する俺。ユリスも笑っている。

 

 やがて寮に着き、俺はユリスに手を振った。

 

 「じゃ、また明日な」

 

 「うむ、また明日だ」

 

 ユリスと別れて自分の部屋・・・もといクローディアの部屋へと向かう。

 

 と、部屋の前に誰かが立っていた。あれって・・・

 

 「あ、七瀬さん・・・」

 

 「綺凛・・・?」

 

 ぺこりと一礼する綺凛なのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

シャノン「作者っち、珍しく連日投稿してるね?」

ようやく色々と一段落したからねー。

シャノン「ストックは大丈夫なの?」

大丈夫、まだあるから。

シャノン「ふーん・・・で、続きは書けてるの?」

・・・そ、それではまた次回!

シャノン「あ、書けてないパターンだ・・・」



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綺凛の本音

ラーメン食べたい・・・


 「ほい、紅茶で良かったんだよな?」

 

 「は、はい!ありがとうございます・・・」

 

 恐縮している綺凛。とりあえず立ち話もアレなので、部屋に上がってもらったのだ。

 

 「それにしても、凄く広い部屋にお住まいなんですね」

 

 「二人で住んでも十分すぎる広さだしな。前はクローディア一人で住んでたっていうんだから、贅沢な話だよなぁ」

 

 「生徒会長ですもんね」

 

 他愛も無い会話をする俺達。と、綺凛が俯いた。

 

 「あの・・・昼休みのことなんですが・・・」

 

 「・・・聞いたよ。伯父さんから平手打ちされたんだって?」

 

 「・・・はい。天霧先輩は、そんな私を庇って下さって・・・」

 

 目に涙を浮かべる綺凛。

 

 「ですが、私は伯父様の命令に逆らえなくて・・・天霧先輩と決闘することになってしまって・・・申し訳ないです」

 

 「・・・綺凛はさ、何が目的で伯父さんの命令に従ってるんだ?伯父さんに利用されてることは、お前だって分かってるんだろ?」

 

 俺の問いに、綺凛はこくりと頷いた。

 

 「私は・・・父を助けたいんです」

 

 「お父さんを・・・?」

 

 「はい。私の父は今、罪人として収監されているのです」

 

 悔しそうな表情をする綺凛。

 

 「父は、何も悪いことはしていないんです。ただ私を助けてくれただけで・・・」

 

 「何があったんだ・・・?」

 

 「五年前、私と父がいたお店に強盗が入って・・・人質にされそうになった私を、父は助けてくれたんです。でもその時、不可抗力とはいえ強盗犯を殺めてしまって・・・」

 

 「・・・正当防衛が成立していないところを見ると、その強盗犯は《星脈世代》じゃなかったってことか」

 

 《星脈世代》が常人を傷付けた場合、過剰防衛とされることが多いからな・・・

 

 俺の言葉に、悲しそうに頷く綺凛。

 

 「このままだと、父はあと数十年は出てこられません。そんな時、伯父様が私に声をかけて下さったのです。一つだけ、父を助け出す方法があると」

 

 「《星武祭》で優勝すること・・・それで綺凛はアスタリスクへ来たのか?」

 

 「はい。伯父様に利用されていようとも、それで父を救い出せるのなら構いません」

 

 「綺凛・・・」

 

 そこまでの強い覚悟を持って、ここに来たのか・・・まだ十三歳の女の子が・・・

 

 「・・・あのジジイ、自分の権限を使って綺凛のお父さんを助け出せないのかよ」

 

 「いくら伯父様の権限が強くても、それは無理だと思います。それに・・・例えそれが可能だとしても、伯父様は拒否するでしょう」

 

 「え、何で?」

 

 「伯父様は、父と折り合いが悪いんです。長兄であるにも関わらず刀藤流を継げなかったのは、弟である父が《星脈世代》だからだと考えているようでして・・・ですから伯父様は、《星脈世代》を嫌っていらっしゃるんです」

 

 「そういや、伯父さんは《星脈世代》じゃないんだっけ・・・ってか、刀藤流って?」

 

 「うちの剣術の流派です。剣術にはそれぞれ流派があるんですよ。ちなみに天霧先輩の剣術は、お見受けした感じでは古流のようです」

 

 「あぁ、そういや天霧辰明流とか言ってたな・・・」

 

 俺は剣術には疎いから、流派とかさっぱり分かんないけど。

 

 「まぁ話を元に戻すけど・・・《星武祭》で優勝して、お父さんを助けたいんだよな?ってことは、綺凛も《鳳凰星武祭》にエントリーしてるのか?」

 

 「いえ・・・伯父様は、二年後の《王竜星武祭》で私を優勝させることを考えているようです」

 

 「何で《王竜星武祭》なんだ?」

 

 「今は名前を売る為に、有名な学生と決闘させる時期だと考えているようです。私が《王竜星武祭》を無敗のまま制し、それをサポートした自分を銀河の上層部に評価してもらおうという考えのようで・・・」

 

 「・・・なるほど。《王竜星武祭》なら個人戦だし、誰かと組む必要も無いからな」

 

 あのジジイ、用意周到に計画を練ってるのな・・・

 

 「でもそれだと、お父さんが助かるのは早くても二年後なんじゃ・・・」

 

 俺の言葉に、綺凛は俯いた。

 

 「・・・二年で済むなら、それで良いです。あと数十年も出られないより、遥かにマシですから」

 

 「・・・お前がそれで良いなら、俺は何も言わない。でも、そう簡単に次の《王竜星武祭》を制することが出来るとは思わない方が良いぞ。二連覇中の《孤毒の魔女》や、前回のファイナリスト・・・《戦律の魔女》も出てくる。それに・・・」

 

 俺は綺凛を見つめた。

 

 「次の《王竜星武祭》には、俺も出るつもりだ。お前にどんな事情があろうが、俺も負けるつもりはない」

 

 「・・・そうでしたか。では、七瀬さんともライバルになりますね」

 

 無理矢理作ったような笑顔を見せる綺凛。

 

 あぁ、もう・・・

 

 「何で俺の周りには、こうも不器用な奴しかいないのかなぁ・・・」

 

 「七瀬さん・・・?」

 

 「綺凛、お前は本当にそれで良いのか?」

 

 「え・・・?」

 

 「本当は、今すぐにでもお父さんを助けたいんだろ?」

 

 「・・・ッ!そ、それは・・・」

 

 言葉に詰まる綺凛。あぁ、もうめんどくさいな!

 

 「お前の本心を言え!お前はどうしたいんだ!?自分の本心すら言えずに、いつまでもうじうじしやがって・・・お前マジでガキだな!」

 

 「・・・ッ!」

 

 「あぁそうだよな!お前まだ十三歳のガキだったな!伯父さんの力が無けりゃ何も出来ないクソガキだもんな!」

 

 「あぁそうですよ!ガキですよ私は!」

 

 流石にカチンときたらしく、勢いよく立ち上がる綺凛。

 

 「伯父様の力が無いと何も出来ないんです!剣術しか取り柄のないガキなんですよ!」

 

 「偉そうに言ってんじゃねぇ!自分の本当の気持ちも言えないような弱虫が、いきがってんじゃねぇぞ!」

 

 「酷いです!言って良いことと悪いことがあるでしょう!」

 

 「そんな気を遣う義理はねぇよ!悔しかったら正直な気持ちを話してみろっての!」

 

 「それを話したところで、何が変わるっていうんですか!?」

 

 「口に出さなきゃ、変わるものも変わんねぇだろうが!お前はどうしたいんだ!?俺はお前のくだらない建前じゃなくて、本音を聞いてんだよ!」

 

 「今すぐ父を助けたいに決まってるでしょう!」

 

 綺凛の目から、ボロボロ涙が零れ落ちる。

 

 「二年後なんて待てない・・・今すぐ父を・・・助けてあげたいっ・・・うぅ・・・」

 

 両手で顔を覆い、ソファに座り込む綺凛。やれやれ・・・

 

 「ようやく、お前の本音が聞けたな・・・」

 

 綺凛の隣に座り、頭を撫でてやる。

 

 「・・・伯父さんの前では、あれだけ我慢してるんだ。せめて俺の前でくらい、我慢するのは止めろよ。お父さんを助ける前に、お前の心が壊れたら本末転倒だろ」

 

 「七瀬さん・・・」

 

 涙を流しながら、俺を見上げる綺凛。

 

 「何でも一人で抱え込むなよ。大事な後輩が一人で苦しんでる姿を見るのは、正直こっちも辛い。何でも聞いてやるから、俺にはちゃんと本音を言ってくれ」

 

 俺は綺凛に微笑んだ。

 

 「今までよく一人で頑張った。ここからは、俺が付いてるからな」

 

 「・・・ッ!うぅ・・・うわあああああっ!」

 

 俺の胸に顔を埋め、綺凛は泣き叫んだ。今までずっと我慢していた分、とめどなく涙が溢れている。俺は綺凛を優しく抱き締め、頭を撫でてやった。

 

 それからどれぐらいの時間が経っただろうか・・・綺凛は泣き止み、顔を真っ赤にしていた。

 

 「す、すみません・・・見苦しい姿をお見せして・・・」

 

 「言ったろ?俺の前では我慢するなって」

 

 笑う俺。

 

 「泣きたかったら泣け。お前はすぐに溜め込むから、ちゃんと発散しないとダメだぞ」

 

 「は、はううううう・・・」

 

 恥ずかしそうに俯く綺凛。

 

 「あぁ、それと・・・さっきは色々と酷いこと言ったけど、あれは嘘だからな。俺は綺凛のこと、凄い奴だと思ってる。だから綺凛も、もっと自分を誇って良いんだぞ」

 

 「・・・ッ!あ、ありがとうございます!」

 

 赤面しつつ、嬉しそうに笑う綺凛なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「いっちにー、さーんしっ・・・」

 

 早朝、寮の前でストレッチをしている俺。

 

 六花園会議以来、俺は早朝にランニングすることを日課にしていた。星露の言っていた眠っている力とやらを引き出す為、色々と試しているのだ。

 

 それにしても・・・

 

 「今朝はやけに霧が深いなぁ・・・」

 

 アスタリスクが浮かぶ湖と大気の温度差から、ここでは霧が発生しやすい。今日は特に温度差があるらしく、いつにも増して深かった。

 

 と・・・

 

 「あれ、七瀬さん?」

 

 ふいに声をかけられる。振り向くと、トレーニングウェア姿の綺凛が立っていた。

 

 「おー、綺凛。おはよう」

 

 「おはようございます。昨日はその・・・色々とありがとうございました」

 

 「気にすんなって」

 

 赤面している綺凛に対し、笑う俺。

 

 あの後、一緒に綾斗のところにも行った。謝る綺凛に対し、綾斗も気にしていないと笑ってたっけな。

 

 「それより、今からトレーニングか?」

 

 「は、はい。早朝のランニングが日課でして・・・」

 

 「お、一緒じゃん。俺も今からランニングだし、良かったら一緒に走ろうぜ」

 

 「い、良いんですか?」

 

 「勿論」

 

 俺の言葉に、嬉しそうに笑う綺凛。

 

 「では、そうさせていただきます。よろしくお願いします」

 

 「おう。とりあえず学園の外に出て、アスタリスクの外周を回る感じでいこうか?」

 

 「はいっ」

 

 と、ここで綺凛が上目遣いに俺を見た。

 

 「あ、あの・・・七瀬さんにお願いがあるんですが・・・」

 

 「ん?どうした?」

 

 「わ、私と・・・手合わせしていただけませんか?」

 

 「・・・は?」

 

 キョトンとする俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 ≪エルネスタ視点≫

 

 「《超人派》の奴らが動いたって?」

 

 「あぁ、お前の作戦通りだ」

 

 カミラからの報告を聞き、あたしはガッツポーズをした。

 

 「よし!焚き付けた甲斐があったってもんだね!」

 

 サイラスくんの一件が、アルルカントに損害を与えたってうるさかったからねー。

 

 あたしが失敗した原因を連中が排除することに成功したら、連中はあたしより優れた研究結果を出したってことになる。

 

 そこを狙って焚き付けたんだけど・・・上手くいったね♪

 

 「本当に良かったのか?お前が失敗した原因は、天霧綾斗だろう?だが、連中のターゲットは・・・」

 

 「七瀬くん、でしょ?」

 

 そう、あたしの狙いは七瀬くん・・・正確には、七瀬くんのデータを取ることだ。

 

 「剣士くんのデータは、人形ちゃん達との戦いで十分取れたもん。でも七瀬くんのデータは、全く取れなかった。だからあたしは、七瀬くんのデータが欲しいの」

 

 「それで連中を焚き付けたのか・・・自分が失敗した原因は、七瀬だと吹聴して」

 

 「実際、あたしは七瀬くんが原因だったと思ってる。彼がいなかったら、サイラスくんも《華焔の魔女》の闇討ちに成功してただろうしね」

 

 「まぁ確かにな・・・」

 

 確かに、剣士くんの強さは凄かった。でもそれ以上に、あたしは七瀬くんが気になっていた。

 

 どんな時でも素手で戦う姿勢、度重なる闇討ちから《華焔の魔女》を救った実力、サイラスくんの企みを見抜いた観察眼・・・剣士くん以上に厄介な存在だ。

 

 だからこそ、七瀬くんのデータが欲しいんだよねー。

 

 「で、どのあたりまで釣れたのかにゃ?《大博士》を引っ張りだせたりした?」

 

 「あいつが出てくるわけないだろう。この件に関わっているのはその下、《超人派》の副会長までだ」

 

 「用心深いわねー。ま、いっか。これで予定より長く連中を押さえておけそうだし」

 

 「・・・お前は本当に賭けが好きだな。危ない橋を渡りすぎだぞ」

 

 呆れたように言うカミラに、あたしはニヤリと笑った。

 

 「にゃははっ、その方が面白いんだから仕方ないのよん」

 

 さて・・・楽しませてよね、七瀬くん♪

 




二話続けての投稿となります。

シャノン「作者っち、年末だけど大掃除は良いの?」

部屋の大掃除は終わったよ。

シャノン「マジで!?早くない!?」

クリスマスに一人で大掃除してたからねぇ・・・フフフ・・・

シャノン「さ、作者っち?」

リア充共を恨みながら、要らない物をバンバン捨てて・・・ハハハ・・・

シャノン「さ、作者っちが壊れたー!?」

色々とスッキリしたなー!アハハハハ!

シャノン「そ、それではまた次回!作者っち、正気に戻ってよー!?」

アハハハハー!


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神の拳

ポッピンQ、面白かったなー。


 「よし、ここなら良いかな」

 

 綺凛とランニングをすること三十分。俺達は空き地へとやってきていた。

 

 「ここなら手合わせしても、周りに迷惑はかからないだろ」

 

 「すみません、急にこんなお願いをしてしまって・・・」

 

 「良いって。序列一位と手合わせ出来るなんて、俺としても貴重な機会だしな」

 

 綺凛は伯父さんから、他の生徒と訓練しないように言われているらしい。不用意に手の内を見せないようにする為だそうだ。

 

 なので一人で訓練しているらしいのだが、当然一人では組み太刀などが出来ない。そこで、俺と手合わせをしてほしいんだそうだ。

 

 「・・・私、七瀬さんの前では素直になることにしました。伯父様の言いつけを破ることになりますが、それでも七瀬さんと手合わせしたかったんです。あの時から・・・」

 

 「あの時・・・?」

 

 「天霧先輩とリースフェルト先輩の決闘の時です。あの時、七瀬さんは私を助けてくれました。あの時から私、七瀬さんと手合わせしてみたかったんですよ」

 

 微笑む綺凛。

 

 「星辰力だけで爆風を防ぐなんて、初めて見ました。あの時から七瀬さんに興味を持って、ネットに流れていた決闘の映像も拝見させていただいて・・・」

 

 「・・・ネットって怖いわぁ」

 

 星露もネットで決闘の映像を見て、俺に興味を持ったとかいう話だったもんな・・・

 

 「ですから、手合わせしていただけるなんて光栄です。よろしくお願いします」

 

 「期待してるとこ悪いが、俺は綾斗より弱いぞ」

 

 「それは私が見極めさせていただきます」

 

 日本刀を構える綺凛。俺も手刀を構えた。

 

 そして・・・

 

 「やぁっ!」

 

 「はぁっ!」

 

 同時に地面を蹴り接近。日本刀と手刀がぶつかる。

 

 「これが星辰力を纏った手刀・・・すごく固いですね」

 

 「え、下ネタ?」

 

 「違いますよ!?」

 

 緊張感の無いやりとりをしつつ、打ち合う俺と綺凛。

 

 「流石は《疾風刃雷》、剣速が尋常じゃないな!」

 

 「それに完全に付いてきてる七瀬さんも尋常じゃないですよ!」

 

 綺凛はそう言ってくれるが、俺は両手を使ってるから二刀流なんだよな・・・だからこそ、何とか綺凛と打ち合えているだけだ。

 

 しかも綺凛の攻撃は、一撃一撃の繋ぎ目が恐ろしく滑らかすぎる。反撃の余地が全く無く、俺は防戦一方だった。

 

 「くっ・・・」

 

 俺は右足に星辰力を集中させ、綺凛の脇腹に蹴りを放つ。綺凛がジャンプしてかわしたところで、拳を放つ。

 

 当然刀でガードしてくるが、構わず力で押し切った。

 

 「はぁっ!」

 

 「ぐっ・・・」

 

 そのまま後ろに吹き飛ぶ綺凛。空中で一回転し、華麗に着地を決める。

 

 「身軽だなぁ・・・」

 

 感心している俺。綺凛は苦笑していた。

 

 「まさか力技で『連鶴』から逃れられるとは思いませんでした」

 

 「『連鶴』?」

 

 「刀藤流の奥義です。刀藤流には四十九に及ぶ繋ぎ手の型があり、それを組み合わせることで完全なる連続攻撃を成す技・・・それが『連鶴』です」

 

 「・・・なるほど、道理で滑らかな攻撃だと思ったよ」

 

 完全なる連続攻撃なら、そりゃ反撃の余地も無いわな。

 

 「私の『連鶴』から逃れられたのは、七瀬さんが初めてです」

 

 「おー、俺が綺凛の初めてをもらっちゃったわけだ」

 

 「その言い方は誤解を招くので止めて下さい!」

 

 顔を真っ赤にして叫ぶ綺凛。

 

 「おやぁ?綺凛は何を想像してるのかなぁ?」

 

 「絶対わざとですよね!?分かってやってますよね!?」

 

 「ちょっと何言ってるか分かんない」

 

 「何でですか!?」

 

 綺凛は面白いなー。と、その時だった。

 

 『・・・ッ!』

 

 二人同時に、何かの気配に気付く。これは・・・

 

 「・・・七瀬さん、何か変じゃありませんか?」

 

 「だな・・・恐らく人じゃない」

 

 四・・・いや、五つの何かがこちらに近付いてくる。身構える俺達の前に、霧の中から姿を現したのは・・・

 

 「・・・何これ」

 

 見たことも無い生き物だった。大型のネコ科動物のような体躯でありながら、外皮は硬い鱗で覆われている。顔は爬虫類のようで、口から鋭い牙が覗いていた。

 

 五匹とも、明らかに俺達へ敵意を向けている。

 

 「何か翼の無い竜っぽいな・・・綺凛、ペットの趣味が悪いぞ」

 

 「私のペットじゃないですよ!?でも・・・ちょっと可愛いかも」

 

 「・・・お前の感性を疑うわ」

 

 呆れている俺に、竜もどきが襲い掛かってくる。手刀で竜もどきの首を斬る俺。

 

 「ハウス!」

 

 「いや、家じゃなくてあの世に帰っちゃいましたけど!?」

 

 綺凛が上手いことを言っていた。

 

 だがその時、竜もどきの身体がスライム状に溶けた。そしてゆっくりと盛り上がっていき、十秒ほどで元通りの姿へと戻る。

 

 「生まれ変わるの早くね?」

 

 「いや、違うでしょう!?」

 

 綺凛のツッコミ。竜もどき達に囲まれ、背中合わせになる俺と綺凛。

 

 「・・・星辰力の流れから察するに、どうやらコイツらには核があるみたいだ」

 

 「ですね・・・恐らく、核を壊さないと倒せないんでしょう」

 

 「ってか今さらだけど、お前星辰力の流れに敏感だな。核の存在が分かるなんて」

 

 「七瀬さんこそ。まぁ、あれだけの星辰力を扱えるなら納得ですが」

 

 と、再び竜もどき達が襲い掛かってくる。俺は核の位置を読み取った。

 

 そして・・・

 

 「はぁっ!」

 

 両手の手刀で、二体の核を貫いた。二体がスライム状に溶けるが、今度は再生しない。綺凛の方を見ると、見事に三体を仕留めていた。

 

 「ふぅ、終わったな」

 

 「えぇ。ですが、この子達は一体・・・」

 

 地面に転がっていた核の残骸を拾い上げる俺。それは明らかに人工物だった。

 

 「・・・ってことは、やっぱりアルルカントだな」

 

 「アルルカント?」

 

 「説明すると長くなるんだけど・・・」

 

 俺が説明しようとした時、突然爆発音がした。地面が揺れ、俺と綺凛の立っている地面に亀裂が入った。

 

 まさかさっきの爆発って・・・

 

 「地下か・・・ッ!」

 

 気付いた時には遅く、俺と綺凛の立っていた地面が陥没した。そのまま二人で地下へと落ちていく。

 

 「きゃあああああっ!?」

 

 「綺凛!」

 

 悲鳴を上げる綺凛。俺は綺凛の肩を掴み、庇うように抱き寄せた。

 

 次の瞬間、衝撃と冷たさを感じる。もしかして・・・水?

 

 「ぷはぁっ!」

 

 綺凛を抱きかかえたまま、水面から顔を出す。

 

 「綺凛、大丈夫か!?」

 

 「けほっ・・・!こほっ・・・!な、何とか大丈夫ですぅ・・・」

 

 半泣きの表情で返事をする綺凛。

 

 「た、助かりました・・・ありがとうございます」

 

 「無事で良かったよ」

 

 ホッとする俺だったが、綺凛が必死に俺にしがみついていることに気付いた。

 

 あれ、ひょっとして・・・

 

 「もしかして綺凛・・・泳げないのか?」

 

 「はうっ!?」

 

 恥ずかしそうに俯く綺凛。どうやら図星らしい。

 

 「ご、ごめんなさいです・・・」

 

 「いや、謝ることじゃないって。身体能力の高い綺凛が、泳げないっていうのが意外だったからさ」

 

 「昔から、泳ぎだけはどうにも苦手で・・・」

 

 「へぇ・・・ま、人には得手不得手があるもんだよ」

 

 綺凛を励ます俺。それにしても・・・

 

 「ここ、どこ?」

 

 恐ろしく巨大な空間を見渡す俺。アスタリスクの地下にこんな場所があったとは・・・

 

 「恐らく、バラストエリアではないでしょうか」

 

 「何それ?」

 

 「アスタリスクはメガフロートですから、バランスを取る為の重りとして水を利用しているんだと思います。その水を貯めている場所が・・・」

 

 「ここ・・・バラストエリアってわけか」

 

 綺凛の説明に納得する俺。

 

 「ってことは、何処かに点検用の出入り口があるんじゃないか?」

 

 「恐らくあると思います。それを探しましょう」

 

 「よし、とりあえず綺凛が泳いで探してくれ」

 

 「さっき泳げないって言いましたよねぇ!?」

 

 「冗談だって」

 

 涙目で抗議してくる綺凛の頭を、笑いながらポンポン叩く俺。

 

 と、その時だった。

 

 『・・・ッ!』

 

 またしても、何かの気配を察知する俺達。少し離れた水面から、巨大な何かが浮上してきた。

 

 それは・・・

 

 「おいおい、嘘だろ・・・」

 

 「何ですかアレ・・・」

 

 絶句してしまう俺達。目の前で、巨大な竜が鎌首をもたげていた。水面に出ているだけで十メートルはあるから、全長は少なくとも十五メートル以上はあるだろう。

 

 「・・・あれは竜もどきじゃなくて、完全に竜だな」

 

 「ですね・・・」

 

 その時、竜の口から火球が放たれた。マズい・・・!

 

 「綺凛!息を止めろ!」

 

 叫んですぐに、綺凛を抱えたまま水中に潜る。そのまま水中を泳ぎ、少し離れたところから再び顔を出した。

 

 「ぷはぁっ!綺凛、大丈夫か!?」

 

 「だ、大丈夫です!」

 

 再び竜が俺達の方を向く。どうしたものか・・・

 

 と、ここであることに気付いた。

 

 「なぁ綺凛、あの柱って一本ぐらい壊れても大丈夫だと思う?」

 

 「はい?」

 

 首を傾げる綺凛。そう、この空間には所々に分厚い柱が立っているのだ。恐らく、この空間を支えているのだろう。

 

 「・・・恐らく大丈夫だと思います。これだけ柱があるなら、一本壊れても他の柱でどうにか支えられるでしょうし」

 

 「決まりだな」

 

 俺は綺凛を抱え、柱の側に近付く。その時、竜が火球を放った。

 

 「七瀬さん!」

 

 「分かってる!」

 

 俺はすぐに水中へ潜った。火球は柱に衝突し、柱に大きなクレーターができた。よし、作戦成功だな。

 

 「綺凛、クレーターに上がるぞ」

 

 「は、はいっ」

 

 二人でクレーターに上がる。これで何とか足場を確保できたが・・・

 

 「さて・・・あの竜をどうしようか」

 

 恐らく地面が陥没したのは、あの竜が火球を爆発させたからだろうが・・・アスタリスクの地盤が、あの程度で破壊できるとは思えない。

 

 となると、人為的に壊れやすくしておいたってことか・・・

 

 「七瀬さん、あの子の核ですけど・・・」

 

 「あぁ、体内を動き回っているな」

 

 綺凛の言葉に頷く俺。と、竜が猛スピードでこちらに突進してきた。こちらに逃げ場など無いので、このままだともろにタックルを食らうことになる。

 

 「くっ・・・!」

 

 日本刀を構える綺凛。日本刀では太刀打ち出来ないと分かっていて、それでも諦めずに立ち向かおうとしている。

 

 何だか似てるな、アイツに・・・

 

 

 

 

 

 『君の力は、人を傷付ける為にあるわけじゃない。大切な人を守る為にあるんだよ』

 

 

 

 

 

 ・・・怖気づいてる場合じゃないよな。

 

 「・・・綺凛、下がれ」

 

 「え・・・?」

 

 驚いている綺凛。俺は綺凛の前に立つと、深く息を吸った。

 

 そして・・・

 

 「・・・来い。《神の拳》」

 

 俺が呟くと、俺の両手に金色の拳型煌式武装が装着される。

 

 「・・・ッ!煌式武装!?」

 

 驚愕している綺凛。俺は右手で拳を作り、星辰力を集中させる。拳に星辰力が集まり、光り輝いた。

 

 そして、竜が目と鼻の先まで接近した瞬間・・・

 

 「《断罪の一撃》ッ!」

 

 拳を勢いよく繰り出した。拳がぶつかった瞬間、竜の身体が眩い光に呑まれる。

 

 次の瞬間、竜の身体は跡形も無く消え去っていた。凄まじい衝撃波で、竜がいた水面から極太の水柱が吹き上がる。

 

 「えっ・・・」

 

 水飛沫を大量に浴びながら、訳が分からないといった顔をしている綺凛。

 

 「な、何が・・・」

 

 「・・・消し飛んだのさ」

 

 淡々と答える俺。

 

 「《断罪の一撃》は、その名の通り一撃で相手を葬り去ることの出来る技だ。普通の人間や、星辰力の少ない《星脈世代》がまともに食らったら・・・今の竜みたく、塵すら残さず消し飛ぶ」

 

 俺の言葉に、顔が青ざめる綺凛。

 

 「じゃ、じゃあ・・・星辰力がそれなりにある《星脈世代》が食らったら・・・?」

 

 「・・・消し飛びはしないだろうけど、大ケガは免れないな。最悪、命を落としてもおかしくはない」

 

 絶句してしまう綺凛。

 

 「そ、その煌式武装は一体・・・」

 

 俺は金色に輝く煌式武装を見下ろした。

 

 「綾斗の持つ《黒炉の魔剣》と同じ・・・って言ったら分かるか?」

 

 「・・・ッ!まさか・・・純星煌式武装!?」

 

 「正解」

 

 驚愕している綺凛に対し、力なく笑う俺。

 

 「正式名称は《神の拳》・・・人が持つには、あまりに出過ぎた代物さ」

 




こんにちは、ムッティです。

シャノン「あ、正気に戻ったんだね?」

ゴメンゴメン、リア充に対する憎しみが強すぎて・・・

シャノン「過去に何があったの!?」

・・・聞きたい?

シャノン「いや大丈夫!話さなくて良いから!」

あれは俺が中学生の時・・・

シャノン「わーっ!?そ、それではまた次回!」

あ、無理矢理締められた・・・



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過去の過ち

今日で2016年も終わるんだなぁ・・・


 ≪エルネスタ視点≫ 

 

 「嘘・・・だろう・・・?」

 

 隣でモニターを見ていたカミラが絶句している。あたしもすぐには言葉が出なかった。

 

 あの巨大な竜が、拳一つで一瞬にして消し飛ぶなんて・・・

 

 「・・・なるほどね」

 

 あたしは、ようやく言葉を絞り出すことに成功した。

 

 「七瀬くんがどんな時でも素手で戦い続けたのは、あの純星煌式武装を使いたくなかったから・・・つまり、本気を出してなかったってことか」

 

 「あの純星煌式武装で、他にどんな技が繰り出せるのかは分からないが・・・序列一位になることなど容易いだろうな」

 

 「だろうね。《疾風刃雷》がいかに速くても、あれで攻撃されたらひとたまりもないでしょ。もう化け物レベルじゃん、あれ」

 

 正直、予想を遥かに超えていた。データうんぬんどころの話じゃない。

 

 でも・・・

 

 「・・・優しいね、七瀬くんは」

 

 「・・・だな」

 

 カミラが頷く。

 

 「あの純星煌式武装は、必要以上に相手を傷付けてしまう・・・だからこそ七瀬は、使わないという選択肢を選び続けたんだろう」

 

 「まぁ今回は、《疾風刃雷》を守る為に使わざるを得なかったようだけど・・・仕方ない状況だったよね」

 

 「あぁ。だが・・・」

 

 「どうしたの?」

 

 言葉に詰まるカミラの顔を覗き込む。

 

 「あれを目の当たりにした《疾風刃雷》が、七瀬のことをどう思うだろうと思ってな。七瀬から離れるようなことになったら、焚き付けた側としては申し訳ないなと・・・」

 

 「なーんだ、そんなことか」

 

 「そんなことって、お前な・・・」

 

 非難するような目であたしを見るカミラ。あたしはニッコリ笑った。

 

 「心配しなくても大丈夫。《疾風刃雷》は、七瀬くんから離れたりしないよ」

 

 あたしには確信があったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・助け、早く来ないかな」

 

 「・・・ですね」

 

 お互い下着姿で座り込んでいる俺達。濡れた服を着たままだと冷えるので、脱いで乾かすことにしたのだ。

 

 重苦しい雰囲気が漂う。

 

 「・・・ずっと疑問でした」

 

 綺凛が口を開いた。

 

 「どうして七瀬さんは、煌式武装を使わないんだろうって。あれだけの星辰力量があるなら、煌式武装を最大限に生かせるのに・・・」

 

 「いや、むしろ逆だよ」

 

 「逆・・・?」

 

 「星辰力量が多すぎて、普通の煌式武装じゃ耐えられないんだ。煌式武装が力を発揮する前に壊れる。生かす以前の問題だよ」

 

 苦笑する俺。

 

 「純星煌式武装なら、俺の星辰力量でも問題無く耐えてくれる。でも・・・」

 

 「あの純星煌式武装・・・《神の拳》を使いたくないんですね?」

 

 綺凛の言葉に、力なく頷く俺。

 

 「確かに強力な純星煌式武装だと思いますが・・・それを言うなら、天霧先輩の《黒炉の魔剣》だって危険な代物じゃないですか。リースフェルト先輩の炎だって、普通の人が食らったら・・・」

 

 「・・・そういう問題じゃないんだよ」

 

 俺はため息をついた。

 

 「俺は《神の拳》で・・・大切な人を殺しかけたんだ」

 

 「・・・ッ!」

 

 息を呑む綺凛。

 

 そう、忘れもしない・・・五年前のことだ。

 

 「当時《神の拳》を手に入れた俺は、その力に溺れた。自分こそが最強だと自惚れ、歯向かってくる奴には容赦なく力を振るった。そんな時、俺を止めようとしてくれた女の子がいたんだ。その子は俺にとって、恩人でもあって・・・凄く大切な人だった」

 

 当時のアイツは、必死で俺を止めようとしてくれたっけ・・・自分が勝ったら言うことを聞いてくれって、泣きながら勝負を申し込んできたんだ。

 

 「俺はその子と戦うことになった。今まで何度も戦ったことがあったけど、俺は一度も勝てたことがなくてさ」

 

 「七瀬さんが・・・一度も・・・?」

 

 唖然としている綺凛。アイツ、強かったもんなぁ・・・

 

 「《神の拳》を手にした以上、もう負けたりしないって思ってたんだけど・・・予想以上に苦戦を強いられてさ。段々と歯止めがきかなくなった結果、決して人に使ってはいけない禁断の技・・・《断罪の一撃》を、その子に使ってしまったんだ」

 

 「・・・ッ!そ、それで・・・その方は一体・・・」

 

 「・・・幸い、一命は取り留めたよ。咄嗟に全ての星辰力を、防御に回したんだ。それが無かったら・・・間違いなく死んでただろうな」

 

 あの時ほど、自分の愚かさを後悔した日は無い。

 

 自惚れていた自分を、必死で止めようとしてくれたアイツを殺しかけた自分を・・・殺したくなるほど後悔した。

 

 「何よりも辛かったのは・・・アイツが俺を許してくれたことだった。回復して面会が出来るようになって、ただ謝ることしか出来なかった俺に・・・アイツは笑顔を向けてくれた。『私が気にしてないんだから、君が気にする必要は無いんだよ』って・・・」

 

 自分を殺しかけた相手に、何でそんなセリフが言えるのか・・・俺には理解することが出来なかった。

 

 「俺には、この子の隣にいる資格なんて無い・・・そう思った俺は、その日からその子とは距離を置いた。そして・・・《神の拳》も封印した。さっきは五年ぶりに使ったけど」

 

 「・・・ごめんなさいです」

 

 俯いている綺凛。目には涙が滲んでいる。

 

 「私に力が無かったから・・・七瀬さんに、《神の拳》を使わせてしまいました。ごめんなさいです・・・ごめんなさいです・・・」

 

 泣きじゃくる綺凛。俺は綺凛の頭を撫でた。

 

 「・・・さっきの綺凛を見てたら、アイツのことを思い出してさ」

 

 「え・・・?」

 

 「アイツも、最後まで諦めない奴だったから。日本刀を構える綺凛を見て、何かアイツの姿と重なったんだ。綺凛を死なせたくない、守りたい・・・そう思った」

 

 「七瀬さん・・・」

 

 俺は綺凛の涙を、指でそっと拭った。

 

 「・・・アイツに言われたんだ。『君の力は、人を傷付ける為にあるわけじゃない。大切な人を守る為にあるんだよ』って・・・俺はお前を守る為に力を使ったし、後悔なんてしてない。だから、謝ることなんて何もないよ」

 

 俺は俯いた。

 

 「それより、俺が謝らないと・・・ゴメンな、怖い思いさせて。こんな化け物みたいな奴が側にいるなんて、恐怖でしかないよな。側にいたくないよな・・・」

 

 そこまで言った瞬間、俺の頬に強烈な痛みが走った。綺凛が俺の頬を引っぱたいたのだ。

 

 「き、綺凛・・・?」

 

 「どうしてそんなこと言うんですか・・・ッ!」

 

 俺を睨みつける綺凛。

 

 「自分のことを化け物だなんて・・・七瀬さんを侮辱する発言は、私が絶対に許しません!それが例え、七瀬さん本人であってもです!」

 

 綺凛の目から、再び涙が零れ落ちる。

 

 「私、そんな薄情な女に見えますか!?こんなことで七瀬さんから離れていくような、そんな女に見えるんですか!?だとしたら心外です!凄く不愉快です!」

 

 「綺凛・・・」

 

 「七瀬さん、私に言いましたよね!?自分の前では、我慢しないで素直になれって!あの言葉、凄く嬉しかったんですよ!?我慢しなくても良いんだって!七瀬さんには本音を聞いてもらえるんだって!凄く救われる思いでした!それなのに・・・」

 

 ボロボロと涙を零す綺凛。そのまま、俺の胸に顔を埋めてくる。

 

 「なんでそんな悲しいこと言うんですか・・・七瀬さんに恐怖なんて、感じるわけないでしょう・・・」

 

 「・・・ゴメン」

 

 綺凛、そんな風に思ってくれてたんだな・・・と、綺凛が俺を見上げた。

 

 「私・・・七瀬さんのお側にいたいです。ダメですか・・・?」

 

 「・・・本当に良いのか?」

 

 「勿論です。天霧先輩やリースフェルト先輩、会長だってそう思うはずです」

 

 「綺凛・・・ありがとな。これからもよろしく頼むよ」

 

 「はいっ」

 

 笑みを浮かべる綺凛なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「全く・・・どれだけ心配をかけたら気が済むんですか?」

 

 「すいませんでした・・・」

 

 頬を膨らませて怒るクローディアに、平謝りしている俺。

 

 あの後、俺と綺凛は無事に助け出された。事情聴取や念の為に精密検査を受けた後、昼過ぎにようやく寮の部屋に戻ってきたのだが・・・

 

 待っていたのは、激おこぷんぷん丸状態のクローディアだった。

 

 「ってか、学校はどうしたんだ?」

 

 「サボりました」

 

 「生徒会長なのに!?仕事あるよね!?」

 

 「下っ端の生徒会役員に押し付けました」

 

 「何してんの!?最低かお前!?」

 

 「誰のせいだと思ってるんですか?」

 

 「返す言葉もございません・・・」

 

 何も言えねぇ・・・

 

 と、クローディアがため息をついた。

 

 「まぁ、そういう事情なら致し方ありませんね・・・まさかアルルカントが、またしても仕掛けてくるとは・・・」

 

 「懲りない連中だよホント・・・まさかとは思うが、またエルネスタが絡んでるんじゃないだろうな・・・」

 

 「彼女が関与しているかは分かりませんが・・・恐らく実行犯は、アルルカントの《超人派》でしょう。あそこは生体改造技術が専門ですから」

 

 「なるほど・・・ま、いずれにしても証拠が無いよな」

 

 「えぇ・・・申し訳ありません」

 

 「クローディアは悪くないだろ」

 

 俺は苦笑しながらクローディアの頭を撫でると、そのまま優しく抱き締めた。

 

 「な、七瀬・・・?」

 

 「・・・心配かけてゴメン。俺は大丈夫だから」

 

 突然のことに驚くクローディアだったが、俺の言葉を聞いて背中に手を回してくる。

 

 「・・・ご無事で何よりです。お帰りなさい」

 

 「ただいま」

 

 笑い合う俺とクローディアなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「そんなことがあったのか・・・災難だったね」

 

 「全くだよ・・・」

 

 苦笑する綾斗に、ため息をつく俺。

 

 学校を休むことになってしまったので、俺は放課後に谷津崎先生の下へ謝罪に訪れた。珍しいことに、先生は俺の身体を気遣ってくれたのだった。

 

 今はユリス専用のトレーニングルームに立ち寄り、トレーニングしていた二人に事情を説明したところである。

 

 「アルルカントの奴らめ・・・許せん」

 

 メラメラ燃えているユリス。

 

 「懲りずに七瀬を襲いおって・・・タダでは済まさんぞ」

 

 「落ち着けユリス」

 

 苦笑する俺。

 

 「サイラスの一件と違って、今回は証拠が無いんだ。何も出来ないさ」

 

 「それは分かっているが・・・!」

 

 悔しそうなユリス。俺はユリスの頬に手を添えた。

 

 「ありがとな、俺の為に怒ってくれて。その気持ちだけで十分嬉しいよ」

 

 「と、当然だ!大切な友人が襲われたのだからな!」

 

 顔を赤くするユリス。

 

 と、チャイムのような音が鳴った。少し遅れて、空間ウィンドウが展開される。そこに映っていたのは・・・

 

 「え、綺凛?」

 

 そう、間違いなく綺凛だった。どうしてこんな所に・・・

 

 「ユリス、入れてもらって良いか?」

 

 「あぁ。構わんぞ」

 

 ユリスが操作すると、トレーニングルームの扉が開いた。そこから綺凛がおずおずと入ってくる。

 

 「し、失礼します・・・」

 

 「おー、綺凛」

 

 手を上げる俺。綺凛がニッコリと笑う。

 

 「どうしてここに?」

 

 「七瀬さんがこちらにいるとお聞きしたので」

 

 「え、誰から?」

 

 「会長です。お部屋に伺ったら、こちらにいるのではないかと」

 

 「・・・アイツエスパーなの?」

 

 何か怖いんだけど・・・

 

 と、綺凛が綾斗とユリスにぺこりと一礼した。

 

 「天霧先輩、リースフェルト先輩、こんにちは」

 

 「やぁ、刀藤さん」

 

 「話は聞いたぞ。災難だったな」

 

 「い、いえ・・・七瀬さんのおかげで助かりました」

 

 苦笑している綺凛。

 

 「ところで、何かあったのか?」

 

 「はい。七瀬さんにご報告がありまして」

 

 「報告?」

 

 「私・・・もう伯父様の言いなりになるのはやめました」

 

 覚悟を決めた表情の綺凛。

 

 「先ほど、伯父様にもお話させていただきました。これからは、私のやり方でここで戦っていくと」

 

 「マジか・・・で、伯父さんは何て?」

 

 「怒ってらっしゃいましたが・・・無視してきました」

 

 「・・・そっか」

 

 笑う俺。

 

 あのジジイはさぞ怒り狂っているだろうが・・・これは綺凛が決めた道だ。あのジジイがとやかく文句を言う資格など無い。

 

 「・・・刀藤さん、どういう心境の変化だい?」

 

 驚いている綾斗。綺凛が微笑む。

 

 「伯父様の言いなりになっていたら、いつかきっと後悔する・・・そう思ったんです」

 

 「綺凛・・・」

 

 「私は私のやり方で戦います。父に対して、胸を張れる自分でいたいんです」

 

 言い切る綺凛。うん、良い表情だ。

 

 「よし、一緒に頑張ろうな」

 

 「はいっ」

 

 笑顔で頷く綺凛なのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

シャノン「作者っち、今日で2016年も終わりだねー」

ねー。もう2017年になるねー。

シャノン「来年こそ私の出番を・・・」

それではまた次回!

シャノン「ちょ、無視するなー!」


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決別と結成

ようやく物語が一段落・・・


 「・・・何でこうなった?」

 

 仏頂面のユリス。

 

 俺・ユリス・クローディア・紗夜・レスター・夜吹の六人は、星導館総合アリーナの特等席に座っていた。

 

 ステージでは、綾斗と綺凛が対峙している。

 

 「仕方ないだろ。綾斗が希望したんだから」

 

 苦笑する俺。

 

 一昨日の決闘、綾斗としては不完全燃焼だったらしい。それで昨日、綾斗は綺凛に再戦を申し込んだのだ。綺凛がそれを快諾し、現在に至る。

 

 「だからと言って、わざわざこんなステージを用意する必要はあるまい」

 

 「注目の一戦なんですから、これくらいは当然でしょう?」

 

 ステージを用意した張本人・・・クローディアが笑みを浮かべる。

 

 「序列一位の刀藤さんと、その刀藤さんと互角にやり合った綾斗の再戦ですよ?誰だって見たいはずです」

 

 「むぅ、しかしだな・・・」

 

 「そんなに心配するな、リースフェルト」

 

 落ち着き払っている紗夜。

 

 「綾斗はもっと強い相手と戦い慣れている」

 

 「何だと?誰だそれは?」

 

 「ハル姉・・・綾斗のお姉さん」

 

 紗夜の答えは簡潔だった。へぇ・・・

 

 「綾斗のお姉さんって、確か《魔女》なんだろ?そんなに強いのか?」

 

 「強い。剣術の腕もかなりのもの」

 

 マジか・・・

 

 そういや、綾斗のお姉さんも《黒炉の魔剣》を使ってたんだっけか。相応の実力が無いと、アレは扱えないもんな。

 

 「ま、アイツにも何か考えがあるみてぇだぜ。ただではやられねぇだろ」

 

 「レスター、何か知ってんの?」

 

 「あぁ、予備の煌式武装を貸してくれって頼まれてな」

 

 「あ、俺もだぜ。天霧の奴、何するつもりなんだろうな?」

 

 夜吹も手を上げる。綾斗の奴、《黒炉の魔剣》を使わないつもりか?

 

 と、綾斗の身体から爆発的に星辰力が解放される。それを合図に、二人の決闘が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「二人ともお疲れ」

 

 「マジで良い試合だったぜ!お疲れさん」

 

 試合後・・・控え室にて、綾斗と綺凛に労いの言葉をかける俺と夜吹。

 

 試合は綺凛が校章を破壊され、綾斗が勝利を収めたのだった。

 

 「まさか序列一位に勝ってしまうとはな・・・」

 

 「流石は私の綾斗だ」

 

 感心しているユリスと、誇らしげな紗夜。綾斗が苦笑する。

 

 「ははっ・・・ギリギリの戦いだったよ」

 

 「いえ、私の完敗です。参りました」

 

 清々しい表情をしている綺凛。やりきったんだろうな。

 

 「刀藤さんも素晴らしかったですよ」

 

 「あぁ、マジで凄かったぜ」

 

 クローディアとレスターが、綺凛を賞賛する。

 

 レスターと夜吹の予備の煌式武装を囮に使った綾斗が一枚上手だったが、綺凛も綾斗を途中まで追い詰めてたもんな。

 

 「あ、ありがとうございます・・・」

 

 先輩二人に褒められ、顔を赤くする綺凛。

 

 と・・・

 

 「綺凛!出て来い!ここを開けろ!」

 

 部屋のドアを殴りつけるような音と、すさまじい怒声。間違いなく綺凛の伯父さんだ。

 

 「・・・うわ、厄介なのが来たな」

 

 あのジジイ帰れよ・・・

 

 と、綺凛がきゅっと唇を噛み締めていた。俺は綺凛の手をそっと握った。俺を見上げる綺凛。

 

 「七瀬さん・・・」

 

 「大丈夫、側にいるから」

 

 「・・・はいっ」

 

 微笑む綺凛。よし・・・

 

 「クローディア、開けてくれ」

 

 「了解です」

 

 ドアの側にいたクローディアに声をかける。クローディアがロックを解除すると、伯父さんが雪崩れ込んできた。

 

 「綺凛!この愚か者めが!勝手に決闘した挙句、序列外の小僧に負けおって!計画が全て台無しではないか!」

 

 「・・・ごめんなさいです、伯父様。ですが申し上げた通り、これからは私のやり方で戦っていきます。伯父様の力は借りません」

 

 「ええい黙れ!私の言うことを聞け!」

 

 綺凛に手を上げようとする伯父さん。

 

 だが・・・

 

 「・・・止めろ」

 

 低い声で言う俺。伯父さんがピタリと動きを止めた。その顔には、冷や汗が浮かんでいる。俺が全力の殺気を向けているからだ。

 

 他の皆も、伯父さんのことを睨みつけている。

 

 「綺凛を傷付けることは、俺が絶対に許さない」

 

 「な、何だお前は・・・私は《星脈世代》ではないのだぞ・・・?」

 

 「だから?」

 

 「わ、私に手を上げたらどうなるか・・・」

 

 「だから?」

 

 もう一度繰り返す俺。口をパクパクさせている伯父さん。

 

 「そ、そうだ綺凛!お前の父の所業を隠蔽してやったのは私だぞ!?私の下へ戻らぬと言うのなら、全てをぶちまけてやる!そうなったら、お前も刀藤流もどうなるか・・・」

 

 「あら、面白いことを仰りますね」

 

 今まで黙っていたクローディアが口を開く。笑みを浮かべてはいるが、目が全く笑っていない。

 

 怒っている時のクローディアだ。

 

 「なっ!エンフィールドの・・・!」

 

 「『刀藤綺凛というブランド』は、あなた一人のものではありません。星導館・・・ひいては統合企業財体の財産です。あなたと姪御さんの関係に口を挟むつもりはありませんでしたが、私情で我々の財産を汚そうというのなら・・・見過ごすわけにはいきませんね。恐らく、母も同じ判断を下すでしょう」

 

 完全に何も言えなくなってしまう伯父さん。

 

 「そもそもアンタのプランは、綺凛を無敗のまま《王竜星武祭》の優勝へ導くことが前提だったんだろ?でも綺凛が負けた以上、そのプランはもう成り立たない。綺凛のことは放っておいて、自分の保身を考えるんだな。アンタの下に綺凛が戻ったところで、もうメリットなんて何も無いんだ。アンタにも、綺凛にもな」

 

 俺の言葉がトドメになったのか、ガックリとうなだれて踵を返す伯父さん。

 

 「お、伯父様っ!」

 

 綺凛の呼びかけに足を止める伯父さん。しかし、振り返ることはしなかった。

 

 「伯父様には感謝しています。それは嘘じゃありません。今まで・・・本当にありがとうございました!」

 

 頭を下げる綺凛。

 

 「・・・幸せ者だよ、アンタ。姪にこんなこと言ってもらえるなんて。刀藤流を継ぐことより、銀河の幹部になることより・・・もっと大事なことを、アンタ自身の力で見つけるんだな」

 

 俺の言葉に答えることもなく、伯父さんは静かに部屋を出て行った。

 

 「伯父様・・・」

 

 悲しそうな顔で俯く綺凛。俺は綺凛の頭を撫でた。

 

 「・・・きっと悪い人じゃないよ、あの人は」

 

 「え・・・?」

 

 「《星脈世代》じゃないけど、かなり鍛えられた感じだったし。多分、よっぽど刀藤流の剣術に打ち込んでたんだと思う。それほど剣術に打ち込めるなんて、純粋な熱意を持った人じゃなきゃ無理だ」

 

 「七瀬さん・・・」

 

 「でも刀藤流を継げなかったことで、ちょっと心がねじれたんだろうな。それで綺凛のお父さん、ひいては《星脈世代》を憎むようになった・・・誰しも少しのきっかけで、心がねじれたりするもんだよ。でも・・・」

 

 笑みを浮かべる俺。

 

 「元々が純粋なら、どんなにねじれたって元に戻れる。綺凛の伯父さんだって、きっと元に戻れるよ。だから・・・早くお父さんを助け出して、伯父さんと和解してもらおう。綺凛が間に入ったら、きっと和解できる」

 

 「私に・・・出来るでしょうか・・・?」

 

 「出来るさ。むしろ綺凛にしか出来ないことだと思う。頑張ろうぜ」

 

 「七瀬さん・・・はいっ」

 

 涙を浮かべながら、ニッコリ笑う綺凛なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「三十九式煌型光線砲ウォルフドーラ・・・掃射」

 

 紗夜が呟いた瞬間、低い唸りを上げて光の奔流が迸る。俺は逃げることなく、拳を構えた。

 

 《神の拳》を装着した拳を。

 

 「・・・《断罪の一撃》」

 

 拳がぶつかった瞬間、極太の光の柱が一瞬にして消え失せる。

 

 「なっ・・・!」

 

 驚愕する紗夜。俺は一瞬で間合いを詰め、紗夜の顔面に拳を叩き込む・・・寸前で止めた。

 

 ニヤリと笑う俺。

 

 「勝負あり、だな」

 

 「・・・参った」

 

 両手を上げ、降参の意を示す紗夜。

 

 「ったく、紗夜の銃は威力が凄まじいな」

 

 「・・・それを完全に掻き消した七瀬の方が凄まじい」

 

 ため息をつく紗夜。

 

 俺達は、ユリス専用のトレーニングルームで模擬戦を行っていた。

 

 「全く、そんな純星煌式武装を持っていたとはな・・・それを封印した状態の七瀬に、我々は負けたということか・・・」

 

 「ユリスは善戦してたじゃねぇか・・・俺なんざ一撃だぜ?」

 

 明らかに落ち込んでいるユリスとレスター。

 

 「ドンマイ。元気出そうぜ」

 

 『お前のせいだろうが!』

 

 ハモる二人。綾斗が苦笑していた。

 

 「仕方ないって。七瀬が《神の拳》を封印してた理由は、二人とも聞いたでしょ?」

 

 「それはまぁ・・・」

 

 「そうだけどよぉ・・・」

 

 口ごもる二人。ここにいるメンバーとクローディアには、事情を説明したのだ。

 

 「・・・俺さ、怖かったんだよ」

 

 《神の拳》を見つめる俺。

 

 「コイツを使ったら、また誰かを傷付けるんじゃないかって。みんな俺から離れていくんじゃないかって・・・それが怖かった」

 

 「七瀬・・・」

 

 神妙な面持ちの綾斗。俺は微笑んだ。

 

 「でも・・・あの綺凛が、自分の力で一歩を踏み出したんだ。俺が足踏みしてる場合じゃないよな。ちゃんとコイツと向き合わないと」

 

 と、俺の手を紗夜が握った。

 

 「・・・私は、七瀬から離れたりしない。断言する」

 

 「紗夜・・・」

 

 「七瀬は、私の背中を押してくれた。だから今度は私が、七瀬の背中を押す番だ」

 

 微笑む紗夜。紗夜が笑うところなんて滅多に見ないけど・・・可愛いな、お前。

 

 「沙々宮の言う通りだ」

 

 ユリスが俺の頭を撫でる。

 

 「そんなことで、私がお前から離れるわけがなかろう。お前はもっと私を信用しろ」

 

 「ユリス・・・」

 

 「・・・お前と出会っていなかったら、今の私はいない。本当に感謝しているのだ。だから、その・・・もっと頼ってくれて良いのだぞ?」

 

 照れくさいのか、頬を染めているユリス。

 

 「そうだよ七瀬。もっと俺達を信用してよ」

 

 「そんなことでお前から離れるようなら、最初からダチになってねぇっつーの」

 

 「綾斗・・・レスター・・・」

 

 笑っている二人。お前ら・・・

 

 「クローディアも、同じことを言っていたのではないか?」

 

 「・・・何か怒られたわ」

 

 ユリスの問いに苦笑する俺。「七瀬は私が信用できないんですか?」って、説教タイムが始まったもんな・・・

 

 まぁ最終的には頬を染めながら、「私が七瀬から離れるなんて有り得ませんから」って言ってくれたけど。

 

 「・・・友達に恵まれたよ、俺は」

 

 そう呟いた時、チャイムが鳴って空間ウィンドウが開かれた。綺凛の姿が映る。

 

 「刀藤?」

 

 ユリスが操作し、開いたドアから綺凛が入ってきた。ペコリと一礼する。

 

 「こ、こんにちは」

 

 「おー、綺凛。どうした?」

 

 「七瀬さんがこちらにいるとお聞きして」

 

 「・・・誰から?」

 

 「会長です」

 

 「だから何で分かるのアイツ!?」

 

 マジで怖いんだけど!?

 

 と、綺凛が《神の拳》に気付いて微笑んだ。

 

 「・・・使うことにしたんですね」

 

 「あぁ。お前のおかげだよ」

 

 「い、いえ!私はそんな!」

 

 顔を赤くし、ぶんぶん首を振る綺凛。

 

 「ところで、何かあったのか?」

 

 「はい。七瀬さんにお話がありまして」

 

 真面目な顔をする綺凛。

 

 「私、《鳳凰星武祭》に出場しようと思います」

 

 「・・・そっか」

 

 微笑む俺。一刻も早く、お父さんを助けたいんだろうな・・・

 

 伯父さんと決別した以上、《王竜星武祭》まで待つ理由も無くなったし。

 

 「パートナーはどうするんだ?」

 

 「実は、お話というのはそのことでして・・・」

 

 俺を見つめる綺凛。

 

 「七瀬さん、私とタッグを組んでいただけないでしょうか?」

 

 「え、俺!?」

 

 マジで言ってんの!?

 

 「私は、七瀬さんのおかげで前に進むことが出来ました。伯父様の言いなりになることをやめ、自分のやり方でやっていこうと思えたんです」

 

 「綺凛・・・」

 

 「優勝を狙うなら、パートナーは七瀬さん以外に考えられません。それに・・・七瀬さんとタッグを組んで戦ってみたいんです。ですから・・・お願いします!」

 

 頭を下げてくる綺凛。勿論、力にはなってあげたい。

 

 でも《鳳凰星武祭》に出るということは、ユリスの敵になるということで・・・

 

 「ハァ・・・何を迷っているのだ」

 

 俺の様子を見て、苦笑するユリス。

 

 「刀藤の力になってやりたいのだろう?なら、迷う必要など無いではないか」

 

 「でも、そうするとユリスと・・・」

 

 「・・・私はな、七瀬。お前が戦いを避けていることに気付いたから、お前にパートナーになってくれとは言わなかったのだ。だが・・・」

 

 微笑むユリス。

 

 「お前はもう、向き合うことを決めたのだろう?だったら迷わず突き進め。その方が、私としても嬉しいのだから」

 

 「ユリス・・・」

 

 「無論、私にも譲れない願いがある。お前達と当たることになったとしても、負けるつもりは毛頭無い。だが・・・お前が私を心から応援してくれていることは、きちんと分かっているつもりだ。恨んだりなどしないから、もっと自分の気持ちに素直になれ」

 

 笑顔で俺の背中を叩くユリス。ホントにコイツは・・・マジで良い女だよ。

 

 俺は綺凛の方に向き直った。

 

 「・・・パートナー、引き受けるよ。よろしくな、綺凛」

 

 「・・・ッ!はいっ!よろしくお願いします!」

 

 綺凛がパァッと顔を輝かせる。新タッグ結成だな。

 

 「良かったね、刀藤さん」

 

 「どうやら、ライバルが増えたようだ」

 

 「ハッ、面白くなってきたじゃねぇか」

 

 綾斗、紗夜、レスターも笑みを浮かべる。俺はみんなを見た。

 

 「ユリスと綾斗、紗夜とレスター、綺凛と俺・・・優勝をかけて勝負だな」

 

 「我々は負けるつもりなど無いぞ」

 

 「うん、狙うは優勝のみだね」

 

 「私達も負けない」

 

 「おう、優勝は俺達のもんだ!」

 

 「な、七瀬さん!頑張りましょう!」

 

 「あぁ、勿論だ」

 

 こうして俺達は、《鳳凰星武祭》へ向けて動き出したのだった。

 




二話続けての投稿となります。

これにて綺凛編は終了です。

そしてこれが年内最後の投稿となります。

この作品を読んで下さっている方々、本当にありがとうございます。

来年もどうぞよろしくお願い致します。

それではまた来年お会いしましょう!

皆様、良いお年を!


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第四章《鳳凰乱武》
吸血暴姫


2017年だー!


 ≪イレーネ視点≫

 

 「ハァ・・・腹が減った・・・」

 

 あたしはため息をついた。

 

 ここはレヴォルフの懲罰教室・・・目に余るようなことをやらかした奴が、制裁の為に入れられる牢獄みたいなところだ。

 

 ったく・・・

 

 「カジノで暴れたぐらいで、何でこんな目に遭わなきゃなんねーんだよ・・・」

 

 腕に繋がれた手枷を、恨めしげに眺める。

 

 と、急に壁が消えた・・・いや、正確には透過機構が働いた。

 

 透明な壁の向こうに立っていたのは・・・

 

 「よう、阿婆擦れ女。生きてるか?」

 

 ディルク・エーベルヴァイン・・・レヴォルフの生徒会長だった。ディルクの背中に隠れているが、秘書の樫丸ころなもいる。

 

 「・・・何の用だい?」

 

 ぶっきらぼうに聞く。

 

 「お前に頼みたいことがある」

 

 「ハッ、頼みたいことだぁ?命令の間違いじゃねぇのか?」

 

 ディルクの言葉に、あたしは鼻で笑った。

 

 「アンタが本気で言ってんなら、あたしに拒否権なんざねぇだろ」

 

 「聞いてくれりゃあ、今すぐそこから出してやるよ」

 

 「へいへい・・・で、何をすりゃ良いんだ?」

 

 「大したことじゃねぇ。《鳳凰星武祭》に出場しろ」

 

 「は・・・?」

 

 ポカンとするあたし。何を言い出すのかと思ったら・・・

 

 「ころな、出場登録は済ませてあるな?」

 

 「は、はいっ!」

 

 慌てて返事をする樫丸ころな。やっぱ最初から言うこと聞かせる気だったのか・・・

 

 「《鳳凰星武祭》はタッグ戦だろ?あたしのパートナーは?」

 

 「お前の妹しかいねぇだろ」

 

 「・・・マジで言ってんのか?」

 

 ディルクを睨みつけるあたし。

 

 「プリシラを危険な目に遭わせるつもりか・・・?」

 

 「お前のパートナーなんざ、他に務まる奴いねぇだろうが」

 

 睨み返してくるディルク。

 

 「それに危険といっても、あくまで試合だ。命の危険なんざねぇよ。どうしても心配なら、お前が守ってやるんだな」

 

 「・・・言われなくてもそうするさ」

 

 悔しいが、あたしに拒否権は無い。プリシラを巻き込みたくはなかったが、あたしが守るしかねぇな・・・

 

 「で、《鳳凰星武祭》に出てどうしろってんだ?優勝して、アンタの望みを叶えてもらおうってか?」

 

 「優勝する必要なんざねぇよ。星導館の小僧を二人、叩き潰してくれりゃあ良い。再起不能になるくらいにな」

 

 「・・・なるほど。決闘は拒否される可能性があるが、《鳳凰星武祭》なら嫌でも戦うことになるってわけか・・・」

 

 と、ここであたしは疑問に思った。

 

 「目標が小僧二人なら、《猫》で十分だろ。何であたしに仕事を振る?」

 

 「《猫》は手が空いてねぇし、動かすとなると餌代がかかんだよ。しかも片方の小僧は、星導館の序列一位でな。《猫》を使って万が一にも足がつくと、こっちがヤベェ」

 

 「序列一位?星導館の序列一位っていやぁ、《疾風刃雷》だったはずだろ?」

 

 「お前がここにぶち込まれてる間に変わったんだよ。今はコイツ・・・《叢雲》だ」

 

 空間ウィンドウを見せてくるディルク。

 

 天霧綾斗・・・知らねぇ顔だな。

 

 「ってことはコイツ、《疾風刃雷》に勝ったってことだろ?そんな奴にあたしが勝てるって、本気で思ってんのか?」

 

 「言ったはずだぞ。再起不能になるくらい、叩き潰してくれりゃあ良いってな」

 

 「いや、勝つことより難易度高いだろそれ」

 

 「出来ねぇ仕事なら振らねぇよ」

 

 マジかよ・・・やるしかねぇってか・・・

 

 「で、コイツを狙う理由は?」

 

 「・・・お前に教えてやる義理はねぇが、まぁ良いだろう。《黒炉の魔剣》っていう、星導館の学有純星煌式武装があるんだが・・・《叢雲》はその使い手でな。今はまだ使いこなせちゃいねぇが、放っておくと厄介の種になりそうなんだよ。だから今のうちに潰しておきてぇのさ」

 

 「ふぅん・・・アンタが言うなら、よっぽど強力な純星煌式武装なんだろうな」

 

 「・・・あれを目の当たりにすりゃあ、誰だってそう思うだろうぜ」

 

 吐き捨てるように呟くディルク。

 

 あたしに向けてというより、自分自身に言い聞かせるような口調だな・・・

 

 「で、もう一人の小僧は?」

 

 「コイツだ」

 

 空間ウィンドウが切り替わる。そこに映っていたのは・・・

 

 (七瀬!?)

 

 そう、あの時あたしが助けた男・・・星野七瀬だった。

 

 「あ?どうした?」

 

 「・・・何でもねぇよ。コイツ、序列五位の《覇王》だろ?」

 

 「お前がここにぶち込まれてる間に、コイツも序列三位に上がったぞ」

 

 「マジか・・・」

 

 七瀬の奴、あたしと同じ順位まできやがったな・・・

 

 「で、《覇王》を狙う理由は?コイツは純星煌式武装の使い手じゃなかったはずだが?」

 

 「俺もそう思ってたんだがな・・・」

 

 ディルクが操作すると、空間ウィンドウに映像が映し出された。

 

 「ついこの間行われた、星導館の公式序列戦の映像だ。戦っているのは《覇王》と序列三位・・・いや、元序列三位か。《覇王》に負けたから、今は序列五位だな」

 

 七瀬の両手には、金色の煌式武装が装着されている。

 

 そして試合が始まった瞬間・・・七瀬の拳から放たれた極太の光の柱が、相手を飲み込む。光が消えた時、相手は倒れていた。

 

 おいおい・・・

 

 「一撃かよ・・・どんだけ強力な純星煌式武装なんだ・・・」

 

 「《神の拳》っていう名前らしい。星導館の学有純星煌式武装ではなく、《覇王》自身の所有物だそうだ」

 

 「へぇ・・・そりゃ珍しいな」

 

 大半の純星煌式武装は統合企業財体が管理していて、一部がデータ収集を兼ねて各学園に提供されているが・・・

 

 個人で所有してるってのは、あまり聞かねぇな。

 

 「で、この純星煌式武装が危険だから潰せと?」

 

 「・・・まぁそれもあるな」

 

 「あ?他にもあんのか?」

 

 「どうやらコイツ・・・《戦律の魔女》と関わりがあるらしくてな」

 

 「《戦律の魔女》って・・・あのシルヴィア・リューネハイムか?」

 

 「あぁ。しかも六花園会議で代理を任されるほど、かなり近しい関係のようだ」

 

 「他学園の生徒に代理を・・・?」

 

 七瀬の奴、《戦律の魔女》とどんな関係なんだ・・・?

 

 「小娘の方はどうでも良いが、《覇王》が権力を持って出張ってくるのは厄介なんでな。会ってみて分かったが、コイツは要注意人物だ。頭もキレるし・・・上手く言えねぇが、何か底知れねぇ力を持ってやがるような・・・そんな気がする」

 

 心なしか、ディルクが七瀬を畏怖しているように見える。

 

 あの《悪辣の王》に、こんなことを言わせるとはな・・・

 

 「・・・話は分かった。つまり《鳳凰星武祭》に出場して、《叢雲》と《覇王》を潰せってことだな」

 

 「そういうこった。可能なら両方潰してもらいてぇが、トーナメントの組み合わせにもよるからな・・・まずは先に当たった方を全力で潰せ」

 

 「はいはい・・・って、小僧達はタッグじゃねーのかよ?」

 

 「あぁ。《叢雲》は《華焔の魔女》と、《覇王》は《疾風刃雷》とタッグを組んでる」

 

 「うわ、マジかよ・・・勝てる気がしねぇ」

 

 「ま、最低でも片方潰してくれりゃあ良いさ。もう片方を潰すのは、別のやり方を考える」

 

 「あいよ。で、確認なんだが・・・」

 

 あたしはディルクを睨みつけた。

 

 「プリシラには、誰にも手出しさせてねぇだろうな・・・?」

 

 「当然だ。俺は絶対に契約は守る」

 

 だろうな・・・でなきゃコイツは、今頃死んでるだろうし。

 

 「・・・分かった。その仕事、引き受ける」

 

 「さっさとそう言いやがれ」

 

 ディルクが光学キーボードを操作すると、あたしの腕に繋がれていた手枷が外れた。

 

 プリシラを守る為には、こうする他に無いんだ・・・

 

 「・・・悪いな、七瀬」

 

 小さな声で呟くあたしなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「《叢雲》の天霧綾斗先輩ですよね!?」

 

 「え?そうだけど・・・」

 

 昼休み・・・学食で昼食を取っていると、一人の女子生徒が話しかけてきた。目当ては綾斗のようだ。

 

 「サインもらっても良いですか!?」

 

 「あぁ、うん・・・」

 

 差し出された色紙とペンを受け取り、戸惑いながらサインをする綾斗。

 

 「これで良いかな・・・?」

 

 「ありがとうございます!《鳳凰星武祭》、頑張って下さいね!」

 

 サインを受け取った女の子は、笑顔で手を振って去っていった。

 

 「人気者は大変だな」

 

 「茶化さないでよ・・・」

 

 ニヤニヤしている俺を見て、ため息をつく綾斗。

 

 「綾斗はちょっと愛想が良すぎる」

 

 「全くだ。色々と心配になるぞ」

 

 呆れている紗夜とユリス。綾斗が序列一位になってからというもの、こうやってサインを求められるケースが増えていたのだった。

 

 「まぁそう言うなって。序列外の生徒が、いきなり一位を掻っ攫ったんだ。そりゃこうなって当然だろ」

 

 「だな。入学初日に《冒頭の十二人》入りした七瀬や刀藤も凄かったが、それよりもっとセンセーショナルだと思うぜ」

 

 夜吹の言葉に、レスターが同意する。

 

 「んー、俺はあまり騒がれた記憶も無いんだけどなぁ」

 

 「私も無いですねぇ」

 

 並んで座り、呑気にうどんをすする俺と綺凛。

 

 「あ、でもサインを求められたことはあったかも」

 

 「それはありましたね。あと、写真を撮っても良いですかって」

 

 「あー、あったなぁ」

 

 「・・・いや、それは十分騒がれてるだろう」

 

 ユリスのツッコミ。そうかなぁ・・・

 

 「まぁ俺、序列一位じゃないし。そこまで騒がれてないだろ」

 

 「いや、序列三位が何を言ってんだよ」

 

 呆れている夜吹。

 

 「この間の公式序列戦がネットに流れてから、話題沸騰中なんだぞ?」

 

 「え、マジで?」

 

 「元序列三位を一撃で倒すなんて、話題にならない方がおかしい」

 

 紗夜もため息をついている。あー、あの試合ね・・・

 

 「ふぅん・・・ま、序列に拘りも無いしなぁ」

 

 「あの試合も挑まれたからであって、七瀬さんが挑んだわけじゃないですもんね」

 

 苦笑している綺凛。

 

 そうなんだよなぁ・・・こんな時期に挑んできやがって・・・

 

 「そういう刀藤はどうなんだ?また序列一位に返り咲きたいんじゃねぇのか?」

 

 「いえ、私も序列に拘りはありません」

 

 レスターの問いをキッパリ否定する綺凛。

 

 綾斗に敗れた為、綺凛は今序列外だ。だが、本人は特に気にしていないらしい。

 

 「私の目標は、七瀬さんと共に《鳳凰星武祭》で優勝することですので」

 

 「出場が決まって良かったね」

 

 「それな」

 

 綾斗の言葉に頷く俺。

 

 他のペアの欠場による空きがあった為、予備登録組の俺・綺凛・紗夜・レスターも出場が決まったのだ。

 

 「この三組の中から、必ず優勝ペアを出そうな。当たった時は全力で戦おうぜ」

 

 「あぁ、勿論だ」

 

 「負けるつもりは毛頭無い」

 

 不敵に笑うユリスと紗夜。綾斗・レスター・綺凛も笑っている。

 

 と・・・

 

 「フフッ、頼もしいですね」

 

 後ろから誰かに抱きつかれる。まぁ声で分かるけどな。

 

 「おー、クローディア。仕事の方は大丈夫か?」

 

 「一段落したので、少し休憩中です。《星武祭》が近付くと、仕事が増えて大変ですよ」

 

 ため息をつくクローディア。ここのところ本当に忙しそうで、部屋に帰ってくるのも夜遅くだったりする。

 

 「七瀬のおかげで助かってます。朝と夜の食事の用意だけでなく、昼のお弁当まで作っていただいて・・・何だか申し訳ありません」

 

 「良いって。俺の方が時間あるし」

 

 「七瀬、何だか主夫みたいだね」

 

 苦笑する綾斗。まぁ一緒に暮らしてる以上、俺もクローディアを支えないとな。

 

 「そうそう、先ほど《鳳凰星武祭》のトーナメント表が発表されましたよ」

 

 テーブルの上に、巨大な空間ウィンドウを展開させるクローディア。全員で覗き込む。

 

 「す、凄い参加人数ですね・・・」

 

 圧倒されている綺凛。

 

 参加人数は五百十二人、二百五十六組か・・・確かに凄いな。

 

 「ふむ、我々はCブロックだな」

 

 「あ、ホントだ」

 

 「私達はLブロック」

 

 「ふん。何処のブロックだろうが、負けるつもりはねぇよ」

 

 ユリスと綾斗がCブロック、紗夜とレスターがLブロックか。

 

 俺と綺凛は・・・

 

 「あ、Fブロックですね」

 

 「予選じゃ、ユリス達とは当たらないみたいだな」

 

 《鳳凰星武祭》の開催期間は、およそ二週間だ。前半の一週間は予選で、ベスト三十二までが選出される。このトーナメント表は予選のものだ。

 

 ベスト三十二まで残ったペアは、抽選で新しいトーナメント表に振り分けられる。それが本戦だ。

 

 「星導館にポイントを入れる為には、本戦に進む必要があるんだっけか?」

 

 「えぇ、ベスト三十二以上ですからね」

 

 頷くクローディア。

 

 《鳳凰星武祭》、《獅鷲星武祭》、《王竜星武祭》・・・この三つの《星武祭》の成績上位者とその学園にポイントが与えられ、《王竜星武祭》終了時点で総合成績が確定するらしい。

 

 三年で一シーズンということになるわけだが、近年の星導館は成績が低迷しているそうだ。

 

 「前シーズンは総合五位・・・六位のクインヴェールは総合成績を度外視していますから、実質的には最下位に等しいのです。今シーズンは巻き返したいところですね」

 

 「へぇ・・・ちなみに、総合一位はどの学園だったんだ?」

 

 「ガラードワースです。六花園会議では、前シーズンの総合一位の学園の代表者が進行役を担うことになっています」

 

 「あ、それでアーネストが仕切ってたのか」

 

 納得する俺。

 

 「えぇ。ですから皆さん、今回の《鳳凰星武祭》は頑張って下さいね」

 

 「安心しろクローディア、この中から優勝ペアが出るから」

 

 「だね。みんな本戦には進むだろうし、ポイントも稼げるんじゃないかな」

 

 俺の言葉に頷く綾斗。

 

 「ま、望みを叶えるついでだ。ポイントも稼いでやろうじゃないか」

 

 「《鳳凰星武祭》がシーズン最初の《星武祭》だしな。スタートダッシュといこうぜ」

 

 「私達は勝ち進むだけ」

 

 「えぇ、他の学園に負けるつもりはありません」

 

 ユリス・レスター・紗夜・綺凛もやる気満々だ。クローディアが嬉しそうに微笑む。

 

 「フフッ、期待していますよ」

 

 「ま、お前ら強いもんなぁ・・・この三組の中から優勝ペアが出てもおかしくないと思うぜ?」

 

 夜吹がトーナメント表を見ながら言う。と、少し驚いたような顔になった。

 

 「へぇ・・・出てきやがったか」

 

 「誰が?」

 

 「コイツだよ」

 

 夜吹が指差した名前は・・・ん?

 

 「あれ?イレーネじゃん」

 

 「え、知り合いか?」

 

 「まぁな。レヴォルフの序列三位・・・《吸血暴姫》だろ?」

 

 「あぁ。純星煌式武装・・・《覇潰の血鎌》の使い手で、重力を操ることが出来る」

 

 「あれ凄いよなぁ」

 

 レヴォルフの不良共が、一瞬で気絶したもんなー。あの鎌、純星煌式武装だったのか。

 

 「イレーネは誰とタッグを組んでるんだ?」

 

 「えーっと、プリシラ・ウルサイス・・・妹だな」

 

 「へぇ、姉妹で出るのか・・・ってことは、会う機会もありそうだな。ちゃんとこの間のお礼をしないと」

 

 イレーネが俺を潰すことを命令されているとは、この時はまだ知らない俺なのだった。

 




明けましておめでとうございます、ムッティです。

シャノン「新年だねー、作者っち」

ねー。良い年にしたいねー。

シャノン「今年こそ!今年こそ出番を増やs・・・」

それではまた次回!今年もよろしくお願い致します!

シャノン「人の話を聞けえええええ!」



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仲良し姉妹

ニューイヤー駅伝、盛り上がってるなー。


 「さて、今日の夕飯は何にしようかなぁ・・・」

 

 放課後・・・買い物をする為、商業エリアまでやってきた俺。

 

 迷うなぁ・・・

 

 「クローディアも疲れてるだろうし、栄養価の高いものが良いよなぁ・・・」

 

 考えながら歩いていた俺は、反対側から歩いてきた人とぶつかってしまった。

 

 「あ、すいません!」

 

 「いえ、大丈夫ですよ」

 

 にこやかに笑う三つ編みの女の子。

 

 あれ、何かイレーネに似てるな・・・髪の色も一緒だし・・・

 

 と、俺はイレーネに妹がいたことを思い出した。

 

 「あの、人違いなら申し訳ないんですが・・・プリシラ・ウルサイスさんですか?」

 

 「はい、そうですけど・・・どちら様でしょう?」

 

 首を傾げる女の子。やっぱり・・・

 

 「星導館学園の、星野七瀬っていいます。あなたのお姉さん・・・イレーネさんに、前に助けてもらったことがあって」

 

 「え、お姉ちゃんが人助けを!?」

 

 驚いているプリシラさん。そういや、クローディアも驚いてたっけな・・・

 

 「そんな驚きます?」

 

 「す、すみません!お姉ちゃん、基本的にそういうことしない人なので・・・」

 

 マジか・・・レアな体験だったんだな。

 

 「いや、ホントに助かったんですよ。おかげで友達の危機に間に合いました」

 

 「そうだったんですか・・・お姉ちゃん、お役に立てたんですね」

 

 どこか嬉しそうなプリシラさん。

 

 「でもそれ以来、イレーネさんとは会えてなくて・・・まだお礼ができてないんです。イレーネさんに、お礼は必ずするからと伝えてもらえますか?」

 

 「あ、それでしたら・・・星野さん、この後ってお時間ありますか?」

 

 「え?はい、大丈夫ですけど・・・」

 

 俺の返事に、ニッコリ笑うプリシラさん。

 

 「でしたら、これからお姉ちゃんのところへ行きませんか?」

 

 「・・・はい?」

 

 ポカンとしてしまう俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ここがイレーネの・・・?」

 

 「はい、お姉ちゃんが使ってるマンションです」

 

 やってきたのは、居住区にある洒落た感じのマンションだった。

 

 「アスタリスクの学生って、原則として市街地で暮らしちゃいけないんじゃ・・・?」

 

 「レヴォルフの《冒頭の十二人》の特典だそうですよ。表立っては言えない特典らしいですけど」

 

 マジかよ・・・流石は悪名高きレヴォルフといったところか・・・

 

 「プリシラもここに?」

 

 「いえ、私はレヴォルフの寮で生活してますよ。お掃除やお料理の為に、ここにはよく来てますけどね」

 

 マンションの中へ入っていき、一つの部屋の前で立ち止まるプリシラ。ポケットから鍵を取り出し、ドアを開ける。

 

 「七瀬さん、どうぞ」

 

 「お邪魔しまーす」

 

 部屋に入る俺。プリシラに先導されてリビングへ入った瞬間・・・

 

 「プリシラーっ!」

 

 イレーネがプリシラに飛びついてきた。

 

 「きゃっ!お姉ちゃん!?」

 

 「会いたかったぜ、プリシラ!」

 

 「もうっ!懲罰教室に入れられるようなことするからでしょ?」

 

 「カジノで暴れただけじゃんかよー。何でぶち込まれなきゃなんねーんだ」

 

 「自業自得でしょ?それより、お客様だよ」

 

 「は?客?」

 

 と、ようやくここで俺の存在に気付いたイレーネ。

 

 「な、七瀬ええええええええええ!?」

 

 「おう、イレーネ。元気?」

 

 「元気?じゃねーわ!何でここにいんだよ!?」

 

 「いやー、商業エリアで偶然プリシラに会ってさー。イレーネに助けてもらったって話をしたら、ここまで連れてきてくれたんだよ」

 

 「おいテメェ!人の可愛い妹を呼び捨てとはどういう了見だゴラァ!」

 

 「いや、プリシラに良いって言われたし」

 

 ここに来る途中、さん付けと敬語は要らないと言われたのだ。

 

 「ちょっとお姉ちゃん!七瀬さんに失礼だよ?」

 

 「プリシラ!?お前も下の名前で呼んでんのか!?」

 

 「お姉ちゃんだって呼んでるでしょ?七瀬さんがそう呼んでって言ってくれたの」

 

 「七瀬!?まさかプリシラに手ぇ出したんじゃねぇだろうな!?」

 

 「してないしてない。さっき初めて会ったんだぞ?」

 

 コイツ、どんだけシスコンなんだ・・・

 

 「ほら、馬鹿なこと言ってないで夕飯にするよ?七瀬さん、すぐに準備するので待ってて下さいね」

 

 「あ、俺も手伝うよ。最近料理する機会が増えたから、少しは役に立てると思うし」

 

 「良いんですか?じゃあお言葉に甘えて、手伝ってもらおうかな」

 

 「おう、任せとけ」

 

 二人でキッチンへ向かおうとすると、慌ててイレーネが飛んできた。

 

 「あ、あたしも手伝う!」

 

 「お姉ちゃんは料理できないでしょ?」

 

 「あ、あたしだって・・・!」

 

 「言っとくけど、カップラーメンは料理とは言わないよ?」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まるイレーネ。どうやら、マジで料理は苦手らしい。

 

 「じゃあ七瀬さん、お手伝いお願いします」

 

 「了解。何を作るんだ?」

 

 「んー、色々ありますけど・・・メインディッシュはパエリアにしようかなって」

 

 「おー、栄養豊富そうだな。作り方とか教えてもらえるか?」

 

 「勿論です。誰か作ってあげたい人でもいるんですか?」

 

 「同じ部屋に住んでる奴が、最近かなり疲れ気味でさー。少しでも栄養価の高いものを食べさせたくて・・・」

 

 「あ、あたしを除け者にするなあああああっ!」

 

 イレーネの叫びが響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「美味っ!このパエリア美味っ!」

 

 「だろ?プリシラのパエリアは絶品なんだよ」

 

 胸を張るイレーネの隣で、プリシラが照れくさそうに笑っていた。

 

 いや、これはマジで美味い。店で出しても良いレベルだわ。

 

 「プリシラは将来、間違いなく良い嫁になるな」

 

 「よ、嫁って・・・」

 

 赤面するプリシラ。イレーネが俺を睨んだ。

 

 「おい七瀬!?テメェにプリシラは渡さねーぞ!?」

 

 「安心しろ。そもそも俺みたいな男、プリシラの眼中に無いって」

 

 「そ、そんなことありません!七瀬さんは素敵な男性だと思います!」

 

 「プリシラ!?」

 

 焦るイレーネ。イレーネってマジでシスコン・・・いや、妹想いと言うべきか。

 

 「ホント仲の良い姉妹だよな。羨ましいよ」

 

 「あ?七瀬は家族と仲悪いのか?」

 

 「お、お姉ちゃん!?」

 

 「別に悪くはないぞ?なかなか会えないけどな」

 

 「ま、ここに来るとそうなるわな」

 

 お茶をすするイレーネ。

 

 あ、そうだ・・・

 

 「そういや、お礼を言うのが遅れたな・・・あの時は助かった。おかげで友達のピンチに間に合ったよ」

 

 「そうかい、そりゃ良かった。ま、あたしが気まぐれでやったことだ。恩を感じる必要なんざねぇよ」

 

 「お姉ちゃんが人助けなんて珍しいよね。明日アスタリスクが崩壊したりして?」

 

 「いや、人を何だと思ってんだ」

 

 半眼のイレーネ。俺は思わず笑った。

 

 「とにかく、ちゃんとお礼はさせてもらうから。それだけのことをしてもらったし」

 

 「・・・そうかい。じゃ、焼肉でも奢れ。プリシラとご馳走になってやるよ」

 

 「え、私も!?」

 

 「了解。じゃ、今度三人で焼肉行こうか」

 

 「良いんですか!?」

 

 「勿論」

 

 「よし、決まりだな。やったなプリシラ、タダ飯が食えるぞ」

 

 「もう、お姉ちゃんったら・・・」

 

 呆れているプリシラ。と、何かを思い出したような顔をする。

 

 「あ、そうだ!デザートを用意してるんだった!今持ってきますね!」

 

 「お、マジか!やったぜ!」

 

 嬉しそうなイレーネ。プリシラがパタパタとキッチンへ向かう。

 

 「・・・なぁ、イレーネ」

 

 「ん?どうした?」

 

 「イレーネはプリシラとタッグを組んで、《鳳凰星武祭》に出るんだよな?大丈夫か?」

 

 「何が?」

 

 「・・・見たところ、プリシラは特に鍛えられたような感じがしない。ひょっとして、戦った経験とか無いんじゃないのか?」

 

 「へぇ・・・よく分かるな。ご名答だ」

 

 あっさり答えるイレーネ。いや、ご名答って・・・

 

 「お前が強いのは知ってるけど・・・戦った経験の無いプリシラと組んで、優勝出来るとは到底思えない。プリシラを危険な目に遭わせるだけなんじゃ・・・」

 

 「・・・言われなくても分かってるさ」

 

 俯くイレーネ。

 

 「・・・あたしはな、七瀬。昔ディルク・エーベルヴァインに、莫大な金を借りた。既に望みは叶えてもらったんだ。今はアイツの命令に従うことで、借りた金を少しずつ清算してる。簡単に言うと、あたしはアイツの手駒なんだよ」

 

 「・・・つまり今回の《鳳凰星武祭》出場は、《悪辣の王》の命令ってことか?」

 

 「そういうこった。あたしもプリシラを危険な目に遭わせたくねぇけど・・・アイツの命令に対する拒否権はねぇからな。従うしかねぇのさ」

 

 「・・・《悪辣の王》は、何でお前らを《鳳凰星武祭》に?」

 

 「・・・悪いが、これ以上は言えねぇ。何処で誰が見張ってるか、分かんねぇしな」

 

 「デザート持ってきましたぁ!」

 

 プリシラがデザートを運んできたので、そこで話は終わってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「今日はすっかりご馳走になっちゃって・・・ありがとな」

 

 「こちらこそ、楽しかったです」

 

 屈託の無い笑顔を見せるプリシラ。

 

 イレーネとプリシラは、わざわざマンションの前まで見送りにきてくれたのだった。

 

 「それと、これ・・・マジで助かるわ」

 

 紙袋を持ち上げる俺。パエリアやサラダなど、今日の夕飯を色々とおすそ分けしてもらったのだ。

 

 ホントありがたいわ・・・

 

 「いえいえ、作りすぎちゃったので」

 

 「味わって食えって、同居人にも伝えとけよ」

 

 「了解。クローディアの奴、喜ぶだろうなぁ」

 

 俺の一言に、イレーネが驚いたような顔をする。

 

 「クローディアって・・・まさか《千見の盟主》か!?」

 

 「ん?あぁ、そうだよ」

 

 「お姉ちゃん、知ってるの?」

 

 「お前知らねぇのか!?星導館の序列二位・・・生徒会長だぞ!?」

 

 「ええええええええええ!?」

 

 驚くプリシラ。

 

 「え、ちょっと待って・・・星導館の生徒会長さんって、確か女性だよね!?」

 

 「七瀬、お前《千見の盟主》とデキてんのか!?」

 

 「違うわ。事情があってだな・・・」

 

 簡単に事情を話す俺。イレーネとプリシラが、哀れみの目を向けてくる。

 

 「男子寮に部屋が無いとか・・・」

 

 「苦労してますね、七瀬さん・・・」

 

 「ま、今の生活も楽しいけどな」

 

 苦笑する俺。

 

 「クローディアには、色々と世話になってるからな。《鳳凰星武祭》が近付いて仕事も大変だろうし、一緒に生活してる以上は力になりたいんだ」

 

 「・・・やっぱり七瀬さんは、素敵な男性ですね」

 

 そう言ってくれるプリシラ。

 

 「ま、ディルクよりは良い男だな」

 

 「アイツと比べるの止めてくんない?」

 

 あんなのと比べられたくないわ・・・

 

 「まぁ頑張れ、序列三位の《覇王》さんよ」

 

 「え、七瀬さんって序列三位なの!?」

 

 「・・・プリシラ、後で勉強タイムだな」

 

 ため息をつくイレーネ。どうやらプリシラは、そういった情報に疎いようだ。

 

 「あぁ、頑張るさ。それと・・・《鳳凰星武祭》で負けるつもりも無いからな」

 

 「言ってくれるじゃねぇか。お前のパートナーは、《疾風刃雷》だったよな?」

 

 「あぁ。綺凛は俺より強いから、覚悟しておくんだな」

 

 「ったく、厄介なタッグだぜ」

 

 「お、お姉ちゃん・・・大丈夫なの?」

 

 「大丈夫じゃねぇけど、やるしかねぇだろうよ」

 

 プリシラの頭を撫でるイレーネ。

 

 「心配しなくても、お前のことはあたしが守ってやるよ」

 

 「お姉ちゃん・・・」

 

 心配そうな顔をしているプリシラ。

 

 《悪辣の王》の奴、この二人を《鳳凰星武祭》に出してどうするつもりなんだ・・・?

 

 「今日トーナメント表を見たが、あたし達とお前らは予選じゃ当たらねぇ。当たるなら本戦だな」

 

 「だからって油断して、予選で躓いたりするなよ」

 

 「そのセリフ、そのまま返してやるよ」

 

 不敵に笑うイレーネ。

 

 「じゃ、そろそろ帰るよ。また連絡するから」

 

 「おう、焼肉忘れんなよ」

 

 「お気を付けて!」

 

 二人に手を振り、帰り道を歩く俺。

 

 《鳳凰星武祭》か・・・

 

 「イレーネとプリシラ、大丈夫かな・・・」

 

 あの《悪辣の王》のことだし、ろくでもないことを考えているに違いない。

 

 二人が心配になる俺なのだった。

 




二話続けての投稿となります。

今回は女神・プリシラちゃんの登場でしたね。

イレーネ「おい作者、テメェプリシラを狙ってんじゃねぇだろうな!?」

出たなシスコン・・・狙ってないから安心しなよ。

イレーネ「本当か?」

本当だって。プリシラちゃんより綺凛ちゃん派だから。

イレーネ「おいテメェ!プリシラ派じゃねぇってどういうことだ!?」

面倒くさっ!?

シャノン「それではまた次回!」

ちょ、シャノン!?勝手に締めないで!?



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七瀬の過去

やっぱり青山学院大学は強いなぁ・・・


 「このパエリア・・・絶品ですね」

 

 「だろ?マジで美味いよな」

 

 帰宅したクローディアが、美味しそうにパエリアを頬張っている。

 

 こんな幸せそうな顔したクローディア、久々に見たな・・・

 

 「それにしても、良かったですね。《吸血暴姫》と再会できて」

 

 「あぁ、ホント良かったよ。今度改めてお礼するって約束もしてきたし」

 

 「なるほど・・・デートの取り付け方がお上手ですね」

 

 「デートじゃねーよ!?」

 

 「しかも私が仕事に追われていた頃、七瀬はウルサイス姉妹と食事デートしていたなんて・・・本当に隅に置けませんね」

 

 「そういう捉え方!?だからデートじゃないって!」

 

 「フフッ、冗談ですよ」

 

 面白そうに笑うクローディア。

 

 だが、すぐに真面目な表情になる。

 

 「それで、先ほどのお話ですが・・・私も七瀬と同意見ですね。《悪辣の王》が《吸血暴姫》を動かしたということは、何かろくでもないことを企んでいるんでしょう」

 

 「だよなぁ・・・」

 

 俺はクローディアに、イレーネが言っていたことを話したのだった。

 

 「あのブタ野郎、一体何を企んでいるのやら・・・」

 

 「そうですね。可能性があるとするなら・・・」

 

 クローディアが俺を見た。

 

 「え、何?」

 

 「《悪辣の王》は、七瀬を潰したいのかもしれませんね」

 

 「はい!?」

 

 え、何でそうなるの!?

 

 「あの六花園会議以降、あえてお聞きしなかったんですが・・・」

 

 クローディアが、意を決したように口を開いた。

 

 「七瀬・・・《戦律の魔女》とは、一体どのようなご関係なんですか?」

 

 「・・・ッ!」

 

 そういや、クローディアは全く聞いてこなかったな・・・

 

 「・・・あの時の委任状には、七瀬の意見を支持すると書かれていました。普通に考えて有り得ないことです。生徒会長の意見は、学園全体の意見・・・つまり彼女はそれを、あなたに託したということになります。他学園の生徒であるあなたに、です」

 

 俺を見つめるクローディア。

 

 「よほどの信頼関係が無いと、そんなことは出来ません。何しろどの学園も、それぞれの学園と腹の探り合いをしているのですから。他の学園の生徒に、自分の学園の意見を委ねるなど・・・普通なら絶対に有り得ないんです」

 

 「・・・信頼関係、か」

 

 ため息をつく俺。

 

 「《悪辣の王》が俺を潰したいって話と、一体どう繋がるんだ?」

 

 「恐らく《悪辣の王》も、七瀬と《戦律の魔女》の関係を疑っています。もし七瀬が《戦律の魔女》と組んで、権力を持つようになったら・・・それを警戒しているのかもしれません。二人が組むということは、星導館とクインヴェールが組むことと等しいですから」

 

 「なるほど・・・もしあのブタ野郎がそう考えているのなら、とんだお門違いだな」

 

 鼻で笑う俺。

 

 「俺は権力なんてものに興味は無い。アイツだって、別に俺と組もうだなんて考えちゃいないだろうさ。アイツも権力に興味なんて無いだろうしな」

 

 「やはり《戦律の魔女》と、お知り合いなんですね・・・?」

 

 俺はクローディアの問いに答えることなく、天井を見上げた。

 

 「・・・クローディアには話したよな。俺が《神の拳》を封印した理由を」

 

 「え?はい、話していただきましたけど・・・」

 

 突然の話題転換に、戸惑っているクローディア。

 

 「その話、ちゃんと覚えてるか?」

 

 「え、えぇ・・・七瀬は《神の拳》を手に入れたことで、力に溺れてしまったんですよね?その結果、七瀬を止めようとした女の子を・・・」

 

 そこまで言った時、クローディアがハッとした顔をする。

 

 気付いたか・・・

 

 「まさか・・・その女の子って・・・」

 

 「・・・お察しの通りさ」

 

 力なく笑う俺。

 

 「その女の子こそが、《戦律の魔女》・・・シルヴィア・リューネハイムなんだよ」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 重苦しい雰囲気が漂う。クローディアが絶句していた。

 

 「あの《戦律の魔女》を・・・七瀬が・・・?」

 

 「・・・あぁ、殺しかけた」

 

 俯く俺。

 

 「昔の俺は、力加減ってものが出来なくてさ。星辰力をコントロールすることも出来なかった。当然、周りの人を傷付けることになって・・・俺の周りには、誰も近付いてこなかった。俺自身、他人に心を開くことも無かったしな」

 

 ま、自業自得だよな・・・全て俺が未熟だったせいだ。

 

 「そんな時に出会ったのがアイツ・・・シルヴィア・リューネハイムだ。何を思ったのか、やたらと俺に絡んできてさ。近寄るな、関わるなって・・・何度も突き放した。それでもアイツは、毎日のように俺のところにきたんだ」

 

 当時はホントしつこかったよなぁ・・・マジでイラッときたし。

 

 「そんな日が続いて、俺もいい加減キレたんだ。俺の側にいるとお前が傷付くだけだ、もう俺のところに来るなって・・・泣きながら叫んだ。アイツは俺の言葉を、ずっと黙って聞いててさ・・・泣いてる俺に近づいてきて、抱き締めてくれたんだ。『君はもっと、人の温かさに触れるべきだよ』って言ってくれてさ」

 

 最初に出会った時のユリスは、ホントあの時の俺に似てたよなぁ・・・

 

 まさかあのセリフを、俺が人に言うことになるなんて・・・あの時の俺じゃ、想像も出来なかったな。

 

 「それ以来、俺はアイツに心を開くようになった。それから、毎日のように模擬戦をするようになったんだけど・・・アイツは当時から俺より強くて、全力で戦っても一度も勝てなかった。でもアイツとの戦いを重ねていくうちに、俺は力加減や星辰力のコントロール方法を覚えたんだ。ついでに、体術や戦い方もな」

 

 「・・・なるほど。七瀬が素手でも強い理由が分かりました」

 

 何処か呆れた様子のクローディア。俺は苦笑した。

 

 「ま、煌式武装なんて使ったこと無かったしな。あの純星煌式武装・・・《神の拳》を手に入れるまでは」

 

 アレを手に入れたことで、俺は変わってしまったんだ・・・

 

 「クローディアも知ってると思うけど、純星煌式武装を使用するには代償が伴う。能力が強力なほど、求められる代償も高くなる傾向があることも知ってるよな?」

 

 「・・・えぇ。《神の拳》には、どのような代償が?」

 

 「二つあってな。一つは、大量の星辰力を消費することだ。並の《星脈世代》なら、あっという間に枯渇してしまうほどのな。まぁこの代償は、綾斗の持つ《黒炉の魔剣》にも言えることか」

 

 「ですね。それで、二つ目の代償とは?」

 

 「・・・精神への干渉だ」

 

 「・・・ッ!」

 

 息を呑むクローディア。

 

 「まぁそうは言っても、身体を乗っ取られるわけじゃない。簡単に言うと、使い手の感情を増幅させるって感じだな」

 

 「感情を増幅させる・・・?」

 

 「例を挙げると・・・どうしても許せない相手には、怒りが増幅する。その相手に殺意を覚えていたら、その殺意も増幅するってことさ。当然、いつもより歯止めが効かなくなる」

 

 「・・・とんでもないことじゃないですか」

 

 「あぁ。俺は力に溺れたと言ったけど・・・正しく言うなら、力に呑まれたんだ」

 

 そう、俺は《神の拳》に呑まれてしまった・・・

 

 「・・・当時、俺のことを化け物だと中傷してくる奴らがいてさ。ある日《神の拳》を使って訓練していた時、ソイツらがやってきたんだ。俺への中傷はいつものことだったから、無視してたんだけど・・・ソイツら、シルヴィアのことまで侮辱したんだ。そこで俺の怒りは、自分じゃ抑えられないほどになって・・・我に返った時には、ソイツらを半殺しにしてた」

 

 顔が青ざめているクローディア。ま、そうなるよな・・・

 

 「そこからは、復讐劇の始まりだったよ。俺を中傷する奴らをボコボコにして、シルヴィアを侮辱する奴にも容赦なく力を振るった。シルヴィアが途中で止めに入ってくれなかったら・・・マジで殺してただろうな」

 

 あの頃、だんだん歯止めが効かなくなってたもんな・・・

 

 「シルヴィアも、流石に耐え切れなくなったみたいでさ。俺に決闘を申し込んできた。自分が勝ったら、もう《神の拳》を手放してほしいって言ってきたんだ。で、決闘することになった俺は・・・シルヴィアを殺しかけたってわけだ」

 

 「・・・七瀬にとって、彼女は大切な存在だったんでしょう?どうしてそんな・・・」

 

 「・・・さっきも言ったけど、《神の拳》は使い手の想いを増幅させる。どうしても勝ちたい相手には、勝利への執念が増幅するわけだ。そうなると・・・勝つ為の手段を問わなくなるんだよ」

 

 「・・・ッ!つまり、どんな手を使ってでも勝ちたくなる・・・ということですか?」

 

 「あぁ。だからこそ俺は、シルヴィアに《断罪の一撃》を使ってしまったんだ。シルヴィアがどうなるかなんて、考えもせずにな」

 

 ホントバカだよな・・・あんなもの人に撃ったら、どうなるかなんて明白なのに。

 

 「・・・後は話した通りだ。シルヴィアは何とか一命を取り留め、俺のことを許してくれたけど・・・俺は自分自身を許すことが出来なかった。シルヴィアの側にいる資格は無いと思って距離を置き、《神の拳》も封印した。で、今に至るというわけさ」

 

 俺の言葉に、黙り込んでしまうクローディア。

 

 流石に話が重すぎたよな・・・

 

 「まぁ幸いなことに、《神の拳》を使っていない時に精神への干渉を受けることは無いけど・・・試合で使ったりする時は、少なからず受けることになると思う。昔より精神は安定してると思うし、歯止めが効かなくなることはないと思うけどな」

 

 それにもう二度と、あんなことを繰り返すわけにはいかないんだ・・・

 

 「それより・・・ゴメンな、クローディア。お前と一緒に生活する以上、きちんと話すべきだとは思ってたんだけど・・・」

 

 「・・・良いんですよ」

 

 俺の隣に移動してくるクローディア。腰を下ろし、そのまま俺に寄りかかってくる。

 

 「誰にだって、話したくないことがあるものです。私にもありますし・・・七瀬は、それを聞きたいと思いますか?」

 

 「・・・いや。話したくないことを、無理に聞こうとは思わないかな」

 

 「でしょう?私も同じ気持ちですよ」

 

 笑うクローディア。

 

 「本当は、《戦律の魔女》との関係も聞くつもりはありませんでした。七瀬が言わないということは、言いたくないことなんだと思ったからです。ですが、《悪辣の王》が七瀬を狙っているかもしれない以上・・・聞かざるを得ませんでした。申し訳ありません・・・」

 

 「良いさ。俺も話すきっかけができて良かったよ。それより・・・クローディアは、俺が怖くないか?」

 

 「どうしてですか?」

 

 「どうしてって・・・さっきの話を聞いたら、普通に考えて怖いと思うのが自然だと思うんだけど」

 

 「では、私は普通ではありませんね」

 

 クスクス笑うクローディア。

 

 「私は七瀬を信頼していますので。それに以前も申し上げましたが、私が七瀬から離れるなんて有り得ませんから」

 

 「クローディア・・・」

 

 「・・・それより、一つ伺ってもよろしいですか?」

 

 「ん?どうした?」

 

 「七瀬は以前、《王竜星武祭》で戦いたい方がいると仰っていましたが・・・それってもしかして・・・」

 

 「・・・あぁ、シルヴィアだよ」

 

 頷く俺。

 

 「俺がアスタリスクに来たのは、もう一度シルヴィアと戦う為だ。もう一度アイツと、胸を張れる戦いをしたいんだよ。あの決闘が最後じゃ・・・俺は前に進めないからな」

 

 「そうですか・・・では、彼女とやり直すおつもりは?」

 

 「ない」

 

 俺はきっぱりと言い切った。

 

 「さっきも言ったけど、俺にシルヴィアの側にいる資格は無い。《王竜星武祭》で戦うことが出来たら・・・俺はもう、アイツと会うつもりは無いよ」

 

 「・・・そうですか。七瀬がそう決めた以上、私は何も申し上げません。ですが、彼女はそんなつもりは無いみたいですよ?」

 

 「どういうことだ?」

 

 「あら、以前にも申し上げませんでしたか?」

 

 俺を見るクローディア。

 

 「彼女は前回の六花園会議を欠席した時、七瀬に会いたかったと悔しがっていたんですよ?しかも委任状には、七瀬の意見を支持すると書いてありました。彼女の七瀬への想いは、変わっていないということでは?」

 

 「・・・仮にそうだったとしても、俺は・・・」

 

 言葉に詰まる俺なのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

箱根駅伝を見て、盛り上がっています。

シャノン「作者っちも中学時代は陸上部だったんでしょ?」

まぁねー。最近は全然走ってないけどねー。

シャノン「あー・・・それでちょっとメタb・・・」

それではまた次回!

シャノン「あー!逃げるなー!」


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突然の来訪者

青山学院大学、三連覇おめでとう!


 《鳳凰星武祭》初日。

 

 「何であんなに人が多いんだ・・・おえっ・・・」

 

 「七瀬さん、大丈夫ですか?」

 

 控え室のソファに、ぐったりと横たわる俺。綺凛が膝枕をしながら、背中を擦ってくれていた。

 

 「全く・・・人混みに酔うなんて情けないですよ?」

 

 呆れているクローディア。

 

 「人が多い所は苦手なんだよ・・・特に《星脈世代》がたくさんいるとさぁ・・・」

 

 「分かります。星辰力の流れに敏感だと、嫌でも感じちゃいますよね」

 

 「刀藤さんもそうなんですか?」

 

 「はい・・・正直私も、人混みは苦手です」

 

 苦笑している綺凛。分かってくれる奴がいたな・・・

 

 「ってかクローディア、ユリス達の控え室に行かなくて良いのか?」

 

 「あちらには、沙々宮さんやマクフェイルくんもいますから。私までお邪魔してしまうと、人が多くなってしまいますし」

 

 「お前にも遠慮ってものがあったのか・・・」

 

 「・・・七瀬は私を何だと思ってるんですか?」

 

 半眼のクローディア。

 

 「まぁお二人は第三試合ですから、まだ時間があります。それまでに体調を回復させて下さいね」

 

 「はいはい、分かってるよ」

 

 と、来訪者を告げるチャイムが鳴った。空間ウィンドウに映っていたのは・・・

 

 「あれ、アーネストじゃん・・・どうぞ~」

 

 身体を起こし、空間コンソールでロックを解除する。

 

 ドアが開き、ガラードワースの生徒会長・・・アーネスト・フェアクロフが入ってくる。華やかな金色の髪を巻いた女性がついてきていた。

 

 「やぁ七瀬。突然すまないね」

 

 「いや、全然大丈夫。六花園会議以来だな」

 

 握手を交わす俺達。と、アーネストが後ろの女性を振り返る。

 

 「あぁ、紹介しよう。レティシア・ブランシャールだ」

 

 「あー、この間話してた副会長さんね」

 

 「お初にお目にかかりますわ。私、レティシア・ブランシャールと申します。以後、お見知りおきを」

 

 「初めまして、星野七瀬です。よろしくお願いします」

 

 お互いお辞儀をする。

 

 「この間は、クッキーをありがとうございました。とても美味しかったですわ」

 

 お礼を言ってくるレティシアさん。あー、アーネストにお土産で渡したアレか。

 

 「いえいえ。レティシアさんのお口に合ったようで何よりです」

 

 「レティシア、で結構ですわ。砕けた口調で構いません」

 

 「そう?じゃあレティシアで。俺のことも七瀬で良いから」

 

 「了解ですわ、七瀬」

 

 何かクローディアと対応が似てるなー。

 

 と・・・

 

 「お久しぶりですね、レティシア」

 

 クローディアが声をかける。忌々しそうに視線を向けるレティシア。

 

 「お久しぶりですわ、クローディア。次の《獅鷲星武祭》では、絶対にあなたのチームに勝ってみせますわよ」

 

 「あら、前回勝利したのはそちらでしょうに」

 

 「私はあなたに校章を破壊されました!これは私のプライドの問題ですわ!」

 

 「・・・とまぁ、こんな調子なんだよ」

 

 呆れているアーネスト。なるほどな・・・

 

 「とりあえず、クローディアとレティシアは仲が良いんだな」

 

 「七瀬!?どうしてその結論になりますの!?」

 

 レティシアのツッコミ。クローディアが笑っていた。

 

 「流石は七瀬、よく分かってらっしゃいますね」

 

 「クローディア!?あなたも否定しなさいな!?」

 

 「私は仲良しだと思っていますから」

 

 「ぐっ・・・!」

 

 悔しそうなレティシア。この様子を見ると、レティシアもクローディアが嫌いなわけじゃないみたいだな。

 

 「あ、そうだ。実はレティシアの他にも、七瀬に会いたいという生徒がいてね。部屋の外にいるんだけど、呼んでも良いかい?」

 

 「マジか。構わないぞ」

 

 再びロックを解除する俺。

 

 と・・・

 

 「七瀬えええええっ!」

 

 いきなり入ってきた女子生徒が、俺の胸に飛び込んで・・・

 

 くる前に避けた。

 

 「へぶっ!?」

 

 後ろの壁に激突する女子生徒。

 

 「ちょ、何で避けるのよ!?」

 

 「ドントタッチミー」

 

 「何で英語!?」

 

 と、急に後ろから抱きつかれた。二つの大きく柔らかな膨らみが、背中に当たる。

 

 「確保。七瀬、お久しぶりです」

 

 「・・・六月姉、気配消して近付くの止めてくんない?」

 

 「拒否。こうでもしないと、七瀬は逃げますから」

 

 「あー!六月ずるい!あたしも七瀬に抱きつくのー!」

 

 正面から抱きついてくる女子生徒。サンドイッチ状態の俺。

 

 「ちょ、五和姉!?」

 

 「騒がしいですよ。五和、六月」

 

 最後に入ってきた女子生徒が、呆れた様子で注意する。

 

 と、俺を見て微笑んだ。

 

 「久しぶりですね、七瀬。元気そうで何よりです」

 

 「三咲姉まで・・・まさかこのタイミングで会いに来るとはな」

 

 ため息をつく俺。綺凛とクローディアが、ポカンとしてしまっている。

 

 「な、七瀬さん・・・こちらの方々は一体・・・?」

 

 「あー・・・俺の姉さん達だよ」

 

 「七瀬のお姉様方・・・!?」

 

 「ヤッホー!」

 

 「挨拶。こんにちは」

 

 「お騒がせして申し訳ありません」

 

 それぞれ挨拶する姉さん達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ったく・・・会いに来るなら前もって連絡してくれよ」

 

 「そしたらアンタ逃げるでしょ?」

 

 「当たり前じゃん」

 

 「そこは否定しなさいよ!?」

 

 五和姉のツッコミ。と、綺凛が俺の袖を引っ張る。

 

 「あの、七瀬さん・・・」

 

 「あー、悪いな。ちゃんと紹介するわ」

 

 苦笑する俺。

 

 「まずこのやかましい女が、星野五和ね」

 

 「誰がやかましい女よ!?」

 

 橙色の髪を後頭部で結い上げた女性・・・星野五和がギャアギャア騒いでいる。

 

 「次に五和姉の双子の妹で、星野六月」

 

 「反論。五和を姉だと思ったことはありません」

 

 「ちょ、六月!?どういう意味よ!?」

 

 「当然。六月の方が五和よりスタイル抜群ですから」

 

 「なっ!?ちょっと胸が大きいからって調子に乗るなー!」

 

 五和姉と同じ橙色の長い髪を、三つ編みに括った女性・・・星野六月が、五和姉に豊満な胸を見せ付けていた。

 

 悔しそうな五和姉。

 

 「全く・・・本当に子供っぽいんですから・・・」

 

 ため息をつく三咲姉。三咲姉も苦労してるなぁ・・・

 

 「・・・呆れてものも言えない状態の女性が、星野三咲な」

 

 「どんな紹介ですか・・・よろしくお願いします」

 

 長い赤髪を腰まで流した女性・・・星野三咲が、礼儀正しく一礼する。

 

 「で、姉さん達も知ってると思うけど・・・俺のタッグパートナーの刀藤綺凛と、星導館学園生徒会長のクローディア・エンフィールドだ」

 

 「は、初めまして!」

 

 「ごきげんよう」

 

 一礼する綺凛とクローディア。と、五和姉がニヤニヤしていた。

 

 「へぇ・・・七瀬も隅に置けないじゃない」

 

 「やかましい。貧乳に発言権は無いぞ」

 

 「誰が貧乳よ!?皆が大きすぎるのよ!」

 

 しくしく泣いている五和姉。と、アーネストが苦笑していた。

 

 「いやぁ、君達は仲が良いんだね」

 

 「それなりにな。ってかアーネスト、お前最初から知ってたな?俺が三咲姉達の弟だってことを」

 

 「まぁね。最初に七瀬の名前を目にした時、もしやと思って三咲達に確認したんだ。六花園会議では、あえて言わなかったけどね」

 

 「三人も身内がいるのでしたら、七瀬もガラードワースに来たら良かったのでは?」

 

 レティシアの疑問に、俺は苦い顔をした。

 

 「三人も身内がいるから行かなかったんだよ。やり辛くてしょうがないし」

 

 「あぁ、なるほど・・・一理ありますわね」

 

 納得しているレティシア。

 

 「抗議。六月は七瀬のガラードワース入学を希望しました」

 

 「却下したじゃん。五和姉と六月姉のお守りとか嫌だったし」

 

 「え、あたし達がお守りされる側なの!?」

 

 「当たり前じゃん。三咲姉に押し付けられる未来しか見えなかったわ」

 

 「くっ・・・読まれていましたか・・・」

 

 悔しそうな三咲姉。アンタ意外と鬼だよね・・・

 

 「さ、帰った帰った。俺と綺凛はこれから試合なんだから」

 

 「いや、あたし達もこれから試合なんだけど」

 

 「は・・・?」

 

 五和姉の言葉に、ポカンとしてしまう俺。

 

 「試合?誰の?」

 

 「あたしと六月。この会場の第一試合なんだよね」

 

 「説明。六月と五和も《鳳凰星武祭》の出場者です」

 

 「ええええええええええ!?」

 

 マジで!?聞いてないんだけど!?

 

 「七瀬・・・知らなかったのですか?」

 

 呆れている三咲姉。

 

 「全く知らなかった・・・何処のブロック?」

 

 「回答。Aブロックです。従って、予選で七瀬と当たることはありません」

 

 六月姉の言葉にホッとする俺。良かった、面倒なペアと当たらなくて・・・

 

 「あ、そろそろ時間じゃん!じゃあ七瀬、行ってくるね!」

 

 「宣言。瞬殺してきます」

 

 「行ってらっしゃい。頑張れ」

 

 笑いながら手を振って出て行く二人。

 

 「さて、我々は学園に帰るとしようか」

 

 「仕事が残っていますものね・・・」

 

 アーネストの言葉に、ため息をつくレティシア。

 

 と、三咲姉が俺の側に寄ってくる。

 

 「七瀬、頑張って下さいね。今日は無理ですが、いずれ必ず応援に来ますから」

 

 「ありがとう、三咲姉。仕事頑張って」

 

 俺がそう言った瞬間、三咲姉がいきなり俺を抱き締めた。

 

 「ちょ、三咲姉!?」

 

 「フフッ。五和や六月がいた手前、さっきは出来ませんでしたが・・・本当は私も、こうしてあなたを抱き締めたかったのですよ?」

 

 「・・・子供扱いするなよ」

 

 「してませんよ。姉として、弟との久々の再会が嬉しかっただけです。姉様達にも、ちゃんと連絡してあげて下さいね」

 

 「・・・善処するわ」

 

 渋い顔をする俺を見て、三咲姉がクスクス笑う。そして、ゆっくりと俺から離れた。

 

 「刀藤さん、エンフィールドさん、弟をお願いしますね」

 

 「は、はいっ!」

 

 「勿論です」

 

 緊張の面持ちの綺凛と、にこやかに笑うクローディア。三咲姉は満足そうに笑った。

 

 「時間を取らせて済まなかったね。試合、頑張ってくれたまえ」

 

 「陰ながら、あなた方を応援していますわ。勿論うちの生徒の次に、ですけどね」

 

 「では七瀬、また会いに来ますね」

 

 「今度は前もって連絡してくれ・・・」

 

 俺の言葉に、悪戯っぽく笑う三咲姉なのだった。

 




二話続けての投稿となります。

今回は七瀬のお姉さん達を出しました。

シャノン「モチーフになったキャラがいるんでしょ?」

そうそう。五和と六月は、『デート・ア・ライブ』の耶倶矢と夕弦だよ。

シャノン「モチーフっていうか、ほぼそのままな気もするけどね」

それは言わないで!?

ちなみに三咲は、『トリニティセブン』のリリスです。

シャノン「ななっちには、他にもお姉さんがいるみたいだね?」

まぁねー。後々出てくるから、お楽しみに。

それではまた次回!


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優勝候補

鼻詰まりが治らない・・・


 「ハァ・・・疲れるわぁ・・・」

 

 再びソファに横たわり、綺凛に膝枕してもらう俺。

 

 ただでさえ気分が悪いのに、姉さん達が来るとは想像もしてなかったわ・・・

 

 「驚きました。七瀬さんのお姉様方がガラードワースにいらっしゃったとは・・・」

 

 「別に隠してたわけじゃないんだけどな。言う機会が無かったんだよ」

 

 綺凛の言葉に苦笑する俺。と、クローディアがため息をついた。

 

 「私としたことが・・・彼女達の名前は知ってましたのに、七瀬のお姉様方とは気付きませんでした」

 

 「あ、そっか。クローディアなら、三咲姉達のことは知ってるよな」

 

 「どういうことですか?」

 

 首を傾げる綺凛。クローディアが説明する。

 

 「彼女達は全員、ガラードワースの銀翼騎士団のメンバーなのです」

 

 「銀翼騎士団というと・・・ガラードワースの《冒頭の十二人》ですか!?」

 

 「えぇ。中でも三咲さんは序列三位・・・前回と前々回の《獅鷲星武祭》で優勝した、チーム・ランスロットのメンバーです」

 

 「えぇっ!?」

 

 驚愕している綺凛。

 

 「そういや前回の《獅鷲星武祭》で、クローディアのチームはランスロットに負けたんだっけ?」

 

 「えぇ、完敗でした」

 

 苦笑しているクローディア。

 

 「レティシアの校章だけは何とか破壊出来ましたが・・・《聖騎士》と《絶剣》の剣技の前に、成す術もありませんでしたね」

 

 「《絶剣》なんて仰々しいって、三咲姉は嫌がってるけどな」

 

 まぁ、そんな二つ名も付けられるだろう。何せ三咲姉の剣の腕は、アーネストに匹敵すると言われてるぐらいだしな。

 

 「五和さんと六月さんのことも、よく存じ上げていますよ。彼女達も、前回の《獅鷲星武祭》に出場していましたからね」

 

 「あの二人はランスロットじゃなくて、トリスタンの方だけどな」

 

 ガラードワースでは、序列一位から六位までがチーム・ランスロット、七位から十二位までがチーム・トリスタンとして《獅鷲星武祭》に出てくるからな。

 

 「チーム・トリスタンって、前回の《獅鷲星武祭》の準優勝チームですよね!?」

 

 「えぇ。中でも五和さん、六月さんのコンビネーションは抜群でした。あの二人を前衛として、他のメンバーがサポートするという戦術だったんですよ。決勝のランスロット戦こそ負けてしまいましたが、優勝してもおかしくないチームでしたね」

 

 「二対一なら、三咲姉も苦戦したかもしれないけど・・・同じチームにアーネストがいるんだもんな。ましてやレティシアもいるんだから、そりゃランスロットが勝つだろうよ」

 

 「ハァ・・・次回の《獅鷲星武祭》も苦戦しそうです」

 

 ため息をつくクローディア。綺凛が呆然としていた。

 

 「七瀬さんのお姉様方、凄いですね・・・」

 

 「性格がちょっと残念だけどな。それにしても、五和姉と六月姉が《鳳凰星武祭》に出てくるとは・・・予想外だったわ」

 

 三咲姉みたく、《獅鷲星武祭》だけかと思ってたんだけど・・・

 

 「ったく、厄介なペアが出てきたな・・・」

 

 「やはりお強いんでしょうね・・・」

 

 「強いな。五和姉も六月姉も、俺は一対一でも勝てたことないし」

 

 「七瀬さんがですか!?」

 

 驚愕している綺凛。

 

 「あぁ。ましてや二人同時なんて、俺一人じゃ手も足も出ないわ」

 

 「・・・かなり手強いですね」

 

 「まぁな。ただ、今回はタッグ戦だ。俺が一人で戦うわけじゃない」

 

 綺凛の頬にそっと手を添える。

 

 「綺凛が一緒ならチャンスはある。頑張ろうな」

 

 「七瀬さん・・・はいっ!」

 

 「おや、そろそろ第一試合が始まる時間ですね」

 

 そう言って、クローディアが空間スクリーンを展開させる。

 

 そこにはステージと、先ほどまでここにいた五和姉・六月姉の姿が映っていたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 『さて、いよいよ第一試合が始まります!実況は私、ABCアナウンサーの梁瀬ミーコが務めさせていただきます!解説には界龍第七学院OGで、現エグゼクティブ・アラドファル部隊長のファム・ティ・チャムさんにお越しいただきました!』

 

 『ども、よろしくお願いするッス』

 

 ふわふわした巻き毛の女性と、黒髪を短く切り揃えた女性が映る。

 

 『さてさて、今更ですがルールの確認をしておきましょう。試合の決着としては、次の三つとなります。ペア両名の校章が破壊された場合、ペア両名が意識を消失した場合、ペアのどちらかがギブアップを宣言した場合です』

 

 『その辺りが、リーダーがやられたら負けとなる《獅鷲星武祭》との違いッスね』

 

 『さて、今回の《鳳凰星武祭》ではどのような戦いが見られるのでしょうか?それでは早速第一試合にまいりましょう!既に姿を現しているのは、ガラードワースの序列七位である星野五和選手と、同じく序列八位の星野六月選手であります!ご存知だとは思いますが、前回の《獅鷲星武祭》で準優勝を果たしたチーム・トリスタンのメンバーです!』

 

 『初の《星武祭》出場ながら、大活躍で一躍脚光を浴びた二人ッスねー。《神速》の五和選手に、《閃光》の六月選手・・・今回の《鳳凰星武祭》でも、間違いなく優勝候補と言えるッス』

 

 「・・・優勝候補、ですか」

 

 「だろうな。俺は出場することさえ知らなかったけど」

 

 「七瀬・・・もっと出場選手のことを調べて下さい」

 

 そんな会話をしていた時だった。

 

 『七瀬ー!見てるー!?』

 

 『請願。六月達の晴れ姿、その目に焼き付けて下さい』

 

 カメラに向けて話す五和姉と六月姉。実況と解説の女性がポカンとしていた。

 

 『七瀬・・・?もしやこの後の第三試合で登場する、星導館の星野七瀬選手のことでしょうか・・・?』

 

 『ひょっとして・・・七瀬選手は、お二人の弟さんってことッスか・・・?』

 

 『イエス!』

 

 『肯定。七瀬は六月達の可愛い弟です』

 

 胸を張る二人。

 

 『な、何ということでしょう!?七瀬選手は、星導館の序列三位・・・《覇王》として有名です!その七瀬選手が、五和選手と六月選手の弟だったとは!』

 

 『しかもガラードワースには、五和選手と六月選手のお姉さん・・・《獅鷲星武祭》二連覇中のチーム・ランスロットのメンバーの、星野三咲選手がいるッス!つまり、三咲選手と七瀬選手も姉弟ということッスよね!?』

 

 『こ、これはとんでもない繋がりが明らかになりましたーっ!』

 

 「何バラしてくれてんだあああああっ!」

 

 頭を抱える俺。

 

 「まぁ、いずれ明らかになることだったと思いますよ?」

 

 「そうだけどさぁ!何もこの場面でバラす必要無いじゃん!」

 

 「・・・確かに」

 

 苦笑しているクローディア。

 

 と、来訪者を告げるチャイムが鳴った。空間ウィンドウを見た綺凛が、ロックを解除すると・・・

 

 「おい七瀬!どういうことだ!?」

 

 「あの二人、七瀬のお姉さん達なのかい!?」

 

 「あの《絶剣》までお前の姉貴なのか!?」

 

 「説明求む」

 

 「詳しく聞かせてくれ!」

 

 ユリス・綾斗・レスター・紗夜・夜吹が雪崩れ込んできた。

 

 「お前ら落ち着け!ってか夜吹、何でお前までいんの!?」

 

 「さっきまで天霧達の控え室にお邪魔してたんだよ!それより詳しく聞かせてくれ!」

 

 「いや、詳しくって・・・事実としか言えないんだけど」

 

 不本意ながら、とは言わなかった。

 

 「うひょーっ!こりゃあスクープだぜ!」

 

 嬉しそうな夜吹。このマスゴミ野郎・・・

 

 「《絶剣》、《神速》、《閃光》・・・豪華なラインナップだな」

 

 呆れているユリス。

 

 「まさかお前が、三人の弟だったとは・・・」

 

 「アハハ・・・」

 

 苦笑する俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「え!?じゃあさっきまで、ガラードワース三姉妹が揃ってたのか!?」

 

 「まぁな」

 

 「マジかよ!?こっちの控え室に来りゃあ良かったぜ!」

 

 悔しそうな夜吹。結局、全員こっちの控え室で落ち着いていたのだった。

 

 「しかも《聖騎士》に《光翼の魔女》までいたのか・・・面子が豪華すぎだろ」

 

 「ネームバリューがハンパじゃない」

 

 呆然としているレスターと紗夜。

 

 と、実況アナウンサーが相手ペアの紹介をしていた。どうやら、アルルカントのペアらしい。

 

 「お、そろそろ始まるみたいだね」

 

 「《神速》と《閃光》のお手並み拝見といこうか」

 

 綾斗とユリスがスクリーンに見入っている。実況の元気な声が響いた。

 

 『それではいよいよ、本日の第一試合のスタートです!』

 

 両ペアの胸の校章が発光した。が・・・

 

 「あれ?」

 

 不思議そうな声をあげる綺凛。

 

 「ん?どうした?」

 

 「い、いえ・・・五和さんも六月さんも、武器を出してませんけど・・・」

 

 綺凛の言った通り、二人とも手に何も持っていない。

 

 「あー・・・すぐ分かるさ」

 

 「え・・・?」

 

 綺凛が首を傾げたのと同時に、機械音声が試合開始を告げる。

 

 

 

 『《鳳凰星武祭》Aブロック一回戦一組、試合開始!』

 

 

 

 その直後、五和姉と六月姉が画面から消えた。そして・・・

 

 

 

 『試合終了!勝者、星野五和&星野六月!』

 

 

 

 アルルカントペアの校章が砕け散り、地面に落ちていた。

 

 呆然としている二人の後ろでは、五和姉と六月姉が笑顔でハイタッチしている。片手には、細剣の煌式武装が握られていた。

 

 シーンと静まり返っていた会場が、大歓声に包まれる。

 

 『い、一体何が起きたのでしょうか!?私には何も見えませんでした!』

 

 『いやー、速いッスねー』

 

 解説の女性は、ちゃんと目で追えていたようだ。

 

 『五和選手と六月選手が煌式武装を取り出して、起動させながら相手ペアに接近・・・そのまま相手ペアの校章を突いて破壊したッス』

 

 『何と言う速さ!何と言う強さ!流石は優勝候補の一角!』

 

 興奮している実況。一方、控え室は静まり返っていた。

 

 「・・・速すぎだろ」

 

 唖然としているレスター。

 

 「沙々宮、追えたか・・・?」

 

 「・・・全く」

 

 首を横に振る紗夜。綾斗も険しい顔をしていた。

 

 「剣の腕もかなりのものみたいだね。校章のみを狙って破壊してるし」

 

 「あの剣・・・レイピアか?」

 

 「そうだよ」

 

 ユリスの問いに頷く俺。

 

 「二人ともレイピアを愛用してる。威力より手数を重視してるんだ。あの二人の場合、威力は速さで補えるからな」

 

 「確かに、あの速さでレイピアの突きを食らったら・・・受ける側の衝撃はかなりのものだろうな」

 

 「あぁ、結構なダメージだぞ」

 

 受けたことがあるので、あの威力はよく知っている。

 

 「でも、何より警戒しないといけないのは・・・」

 

 「コンビネーション、だな」

 

 夜吹が言葉を引き継いでくれる。

 

 「前回の《獅鷲星武祭》もチェックしてたけど・・・あれは厄介だぞ」

 

 「えぇ。チーム・トリスタンを《獅鷲星武祭》の決勝まで導いた実力は、伊達ではないということです」

 

 クローディアが頷く。険しい表情でスクリーンに見入る綺凛。

 

 「・・・厳しい戦いになりそうですね」

 

 「・・・あぁ」

 

 試合を前に、気を引き締める俺達なのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

最近ずっとポケモンやってます。

シャノン「いや、執筆活動しようよ!?」

大丈夫、まだストックあるから。

シャノン「それ去年も聞いたような・・・」

それではまた次回!

シャノン「ちょ、逃げるなー!」


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初陣

今期はどのアニメを見ようかなー。


 『それでは本日の第三試合を始めまーす!』

 

 実況の元気な声が響き渡る。

 

 『姿を現したのは、星導館学園元序列一位の刀藤綺凛選手!そして先ほど《絶剣》、《神速》、《閃光》の三人の弟であることが判明しました・・・序列三位の星野七瀬選手です!』

 

 ステージに上がる綺凛と俺。

 

 「七瀬さん、具合はどうですか?」

 

 「・・・既に疲労困憊だわ」

 

 ぐったりしている俺。

 

 あの後、試合が終わった五和姉と六月姉が再び襲来してきた。今頃俺達の控え室で、皆と一緒にこの試合を見ているだろう。

 

 「あの二人の相手は疲れるんだよ・・・」

 

 「アハハ・・・」

 

 苦笑している綺凛。

 

 「しかも綾斗のせいで、試合開始時間が早まるし・・・」

 

 第二試合では、封印を解除した綾斗が相手を瞬殺した。その為、予定されていたより開始時間が早まったのだ。

 

 「まぁそれを言ったら、第一試合も瞬殺だったからなぁ・・・」

 

 「ずいぶん早く第三試合が始まることになりましたよね」

 

 「それな・・・」

 

 と、相手の界龍のペアが姿を現した。

 

 「えーっと・・・細い方が青龍刀使い、マッチョな方が徒手空拳だっけ?」

 

 「はい。リスト外ですが、かなり腕が立つみたいですね」

 

 「なるほど・・・じゃ、打ち合わせ通りいくか」

 

 「了解です」

 

 拳を合わせる俺達。胸の校章が発光し、機械音声が試合開始を告げる。

 

 

 

 『《鳳凰星武祭》Fブロック一回戦一組、試合開始!』

 

 

 

 飛び出してくる界龍のペア。作戦通り、俺はマッチョの方へと駆け出す。

 

 「せいっ!」

 

 拳を放ってくるマッチョ。俺はそれを避けて懐に入ると、マッチョの校章を砕いた。

 

 「・・・ッ!」

 

 驚いているマッチョ。悔しそうな表情が浮かぶ。

 

 『しゅ、瞬殺だーっ!七瀬選手、相手の校章を破壊しましたーっ!』

 

 『いやー、良い動きッスねー。OGとしては、是非とも界龍に入って欲しかったッス』

 

 解説の言葉に苦笑する俺。星露にも言われたっけな・・・

 

 綺凛の方を見ると、ちょうど相手の校章を斬ったところだった。

 

 『試合終了!勝者、刀藤綺凛&星野七瀬!』

 

 『何ということでしょう!?第三試合も、あっという間に終わってしまいました!』

 

 『早かったッスねー』

 

 「・・・こうもあっさり負けるとはな」

 

 苦笑しているマッチョ。

 

 「決闘の映像もチェックしていたが・・・やはり強いな、《覇王》」

 

 「アンタも良い拳だったぜ。アンタ達の分まで頑張るよ」

 

 「あぁ。我々の分も、優勝を目指して頑張ってくれ。応援している」

 

 握手を交わす俺達。マッチョは去っていき、細い方も俺に一礼して後に続いた。

 

 「お疲れ様です、七瀬さん!」

 

 綺凛が笑顔で駆け寄ってくる。

 

 「おう、お疲れ。初陣としては上々だな」

 

 「はいっ!」

 

 ハイタッチを交わす。

 

 『五和選手&六月選手、天霧選手&リースフェルト選手、刀藤選手&七瀬選手・・・いずれも強さを見せつけての勝利でしたね!チャムさん、いかがでしたか?』

 

 『いやー、見事ッスねー。この三組の中から優勝ペアが出てもおかしくないッスよ。いずれにせよ、この三組の本戦出場は固いと見て良いんじゃないッスかね』

 

 実況と解説の声をバックに、俺達はステージを後にする。

 

 「この後は勝利者インタビューですね」

 

 「あー、ユリスと綾斗がうんざりしてたやつね」

 

 「五和さんと六月さんは元気でしたよね?」

 

 「あの二人は、注目されるのが好きなタイプだからな・・・ま、適当に流そうぜ」

 

 「ですね」

 

 笑い合う俺達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「七瀬えええええっ!」

 

 「感嘆。お見事でした」

 

 抱きついてくる五和姉と六月姉。

 

 俺と綺凛は勝利者インタビューを終え、控え室に戻ってきていた。

 

 「はいはい、ありがとな」

 

 「あ、綺凛ちゃんもお疲れ!凄かったよ!」

 

 「驚嘆。流石は刀藤流です」

 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 赤面している綺凛。と、夜吹が嬉々としてカメラのシャッターを切っていた。

 

 「おいコラ、何してんだ夜吹」

 

 「いやー、俺のマスコミ魂が疼いちまってよー」

 

 「あ、夜吹くん!三人の写真もっと撮ってくれる!?」

 

 「請願。後で写真を分けて下さい」

 

 「お安い御用ですとも!」

 

 「・・・何で意気投合してんだよ」

 

 ため息をつく俺。

 

 「まぁ、とりあえず初戦突破だ。紗夜とレスターは明日だよな?」

 

 「うん。頑張る」

 

 「予選で躓いてらんねぇしな」

 

 不敵に笑う二人。

 

 「カミラ・パレートには絶対に負けない。自律機動兵器だろうが、絶対に勝ってみせる」

 

 「しかしまぁ、自律機動兵器の代理出場が認められるとはな・・・」

 

 呆れているユリス。

 

 「これで分かっただろ?エルネスタが自信満々だったわけが」

 

 「あぁ。だが、本当に自律機動兵器が《星脈世代》に勝てるのか?」

 

 「さぁな。でも、作ったのがエルネスタなら・・・油断は出来ないぞ」

 

 「確かにな・・・」

 

 険しい顔のユリス。

 

 別の会場でその自律機動兵器が敵を圧倒していたことを、俺達はまだ知らないのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 「人が多い・・・おえっ」

 

 「・・・本当に人混みが苦手なのだな」

 

 呆れているユリス。

 

 俺・綺凛・ユリス・綾斗は、紗夜とレスターの試合が行われる会場へと移動しているのだが・・・

 

 「なかなか進みませんね・・・」

 

 「うん、間に合うかな・・・」

 

 綺凛と綾斗もげんなりしていた。

 

 何せ炎天下の中、混雑していてろくに進まない。気分も悪くなるというものだ。

 

 「ユリスー、おんぶー」

 

 「子供かっ!男が女におぶってもらおうとするなっ!」

 

 「俺、男女平等がモットーだから」

 

 「こういう場面で使う言葉では無いぞ!?」

 

 「ツレないなー。一緒に夜を過ごした仲じゃん」

 

 「ちょ、七瀬!?」

 

 『えっ!?』

 

 綺凛と綾斗の声がハモった。ユリスが慌てて否定する。

 

 「そ、そういう意味では無いぞ!?同じベッドで寝ただけだ!」

 

 「同じベッドで・・・?」

 

 「寝た・・・?」

 

 「うん、何度ユリスと一緒に寝たことか・・・」

 

 「止めろおおおおおっ!」

 

 「ぐえっ!?」

 

 ユリスに殴られる。痛い・・・

 

 「と、とにかく!早く会場へ向かうぞ!」

 

 「いや、そうは言っても進まないし・・・って、あれ?」

 

 俺はとある方向を見て立ち止まった。

 

 「七瀬?どうしたんだい?」

 

 「いや、あの辺り・・・何か騒がしくないか?」

 

 俺が指差した方向から、人の怒声が聞こえてきた。

 

 ってことは・・・

 

 「揉め事か・・・?」

 

 「行ってみましょうか?」

 

 人垣を掻き分けて、最前列に出てみると・・・

 

 「オラァ!」

 

 「ぐはっ!」

 

 イレーネが不良を殴っていた。

 

 「どうした!?かかってこいやオラァ!」

 

 「テメェ何やってんだあああああっ!」

 

 「ごふっ!?」

 

 イレーネの頭に拳骨をぶちかます。涙目で振り向くイレーネ。

 

 「何しやがんだ・・・って、七瀬じゃねーか。こんなとこで何してんだ?」

 

 「コッチのセリフだ阿婆擦れ女!何こんな所でケンカしてくれちゃってんの!?」

 

 「別にあたしが吹っ掛けたわけじゃねーよ。コイツらが吹っ掛けてきたんだっつーの」

 

 見ると、周りには複数の不良が倒れていた。全員レヴォルフの制服を着ている。

 

 「《星武祭》の期間中にこんなことしたら、参加資格の剥奪も有り得るんだぞ!?」

 

 「んなこと言ったってよぉ」

 

 「・・・七瀬、お前《吸血暴姫》と知り合いなのか?」

 

 イレーネを警戒しているユリス。

 

 「ん?あぁ、まぁな」

 

 「へぇ、《華焔の魔女》に《疾風刃雷》か。それに・・・」

 

 綾斗を見るイレーネの目がギラリと光った。

 

 「アンタが《叢雲》か・・・」

 

 「私のタッグパートナーに何か用か、《吸血暴姫》?」

 

 綾斗の前に立ちはだかるユリス。

 

 「アンタに用はねぇよ、《華焔の魔女》」

 

 一触即発の雰囲気。そんな空気を打ち破ったのは・・・

 

 「こらぁーっ!」

 

 人垣の中から現れた、凄い剣幕の女の子だった。

 

 「お姉ちゃん、また勝手にケンカして!あれほど大人しくしといてって言ったのに!」

 

 「げっ、プリシラ・・・」

 

 顔が引きつるイレーネ。そう、イレーネの妹のプリシラだった。

 

 「おー、プリシラじゃん」

 

 「あ、七瀬さん!昨日の試合見てましたよ!おめでとうございます!」

 

 「サンキュー」

 

 談笑する俺とプリシラ。ポカーンとしているユリス達。

 

 「七瀬さん、そちらの方は・・・?」

 

 「あぁ、プリシラだよ。イレーネの妹」

 

 「初めまして、プリシラ・ウルサイスです!姉がご迷惑をおかけしました!」

 

 頭を下げるプリシラ。

 

 「ほら、お姉ちゃん行くよ!」

 

 「そ、そんな引っ張るなって!」

 

 「七瀬さん、また今度ご飯食べに来て下さいね!」

 

 「おう。また料理教えてくれ」

 

 「はいっ!それでは失礼します!」

 

 「いてて!痛いってプリシラ!」

 

 人垣の中へ消えていく二人。

 

 「・・・何だったのだ?」

 

 「あの姉妹、いつもあんな感じだから」

 

 苦笑する俺。

 

 「ところで綾斗・・・お前、イレーネと面識は?」

 

 「え?無いけど?」

 

 「・・・やはり七瀬も引っかかったか」

 

 「ってことは、ユリスも?」

 

 「あぁ」

 

 険しい顔をしているユリス。キョトンとしている綾斗と綺凛。

 

 「え、どういうこと?」

 

 「お前の前に立った私に、アイツはこう言った。『アンタに用はねぇよ』とな・・・つまり綾斗、お前には用があったということだ」

 

 「俺に?でも、本当に会ったことないんだけど・・・」

 

 困惑する綾斗。

 

 イレーネは《悪辣の王》の命令で動いているはず・・・綾斗に用があるってことは・・・

 

 「まさか・・・」

 

 「七瀬さん?」

 

 首を傾げる綺凛。と、またしても辺りが騒がしくなった。

 

 「今度は何だ・・・っと、マズい!警備隊だ!」

 

 こちらにやってくる女性を見て、しかめっ面になるユリス。

 

 アスタリスクにおける治安維持組織・・・星猟警備隊か。当事者のイレーネもいないし、説明とか面倒・・・

 

 あれ・・・?

 

 「げっ・・・」

 

 「七瀬?どうしたんだい?」

 

 「そこの君達!」

 

 警備隊の女性が声をかけてきた。金髪の長い髪を、ポニーテールに結っている。

 

 「詳しい事情を聞かせて・・・え?」

 

 俺を見てポカーンとしている女性。

 

 そして・・・

 

 「や~ん!七瀬じゃな~い!」

 

 「げふっ!」

 

 抱きついてくる女性。頬を寄せてスリスリしてくる。

 

 「久しぶり~!会いたかったわ~!」

 

 「ちょ・・・二葉姉・・・やめっ・・・」

 

 「七瀬~っ!」

 

 呆気に取られているユリス達。

 

 「あ、あのー・・・」

 

 綺凛が話しかけると、女性はようやく止まった。

 

 「あら、七瀬のタッグパートナーの《疾風刃雷》ちゃん!?しかも《華焔の魔女》ちゃんに《叢雲》くんまでいるじゃない!初めまして~!」

 

 「は、初めまして・・・」

 

 「七瀬、彼女は一体・・・?」

 

 「・・・俺の姉さんだ。名前は星野二葉。星猟警備隊に所属してる」

 

 「よろしくね~!」

 

 ウインクする二葉姉なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・事情は分かったわ」

 

 俺達から事情を聞き、ため息をつく二葉姉。

 

 「全く・・・《吸血暴姫》にも困ったものね・・・」

 

 「まぁ自分から吹っ掛けたわけじゃないみたいだし、大目に見てやってよ」

 

 「・・・七瀬が言うなら、仕方ないか」

 

 渋々頷く二葉姉。

 

 「あたしも《吸血暴姫》を擁護しとくけど・・・ま、厳重注意ってとこかしら。参加資格は剥奪されないと思うわ」

 

 「サンキュー。十分だよ」

 

 「・・・おい、七瀬の言葉で処分が軽くなったぞ」

 

 「凄いね、七瀬・・・」

 

 「見てはいけないものを見てしまったような・・・」

 

 唖然としているユリス達。

 

 「その代わり、これはアンタへの貸しにしとくわよ?」

 

 「了解。ありがとな、二葉姉」

 

 「構わないわよ。可愛い弟の頼みだもの」

 

 ウインクする二葉姉。

 

 「それより・・・皆揃って、こんな所で何をしていたの?」

 

 「これから友達の試合を・・・あっ!」

 

 慌てて時計を見ると、試合開始時間が迫っていた。

 

 「ちょ、ヤバい!もうすぐ始まるぞ!?」

 

 「あ、ホントだ!マズいよ!?」

 

 「じゃ、二葉姉!俺達もう行くわ!」

 

 「ハイハイ、慌てないの」

 

 俺の肩を掴む二葉姉。

 

 「車で送るわ。空いてる道も知ってるし、こっちの方が早いわよ」

 

 「二葉姉マジ愛してる!」

 

 二葉姉に抱きつく俺なのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

今回も七瀬のお姉さんが登場しました。

シャノン「モチーフは誰なの?」

『暗殺教室』のビッチ先生だよ。

死神との死闘を終えて、雰囲気が柔らかくなったバージョンの方ね。

シャノン「そこに拘るんだね・・・」

いやー、あれからビッチ先生が凄く好きになったわ。

具体的には・・・

シャノン「それではまた次回!」

ちょ、勝手に締めないで!?


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再生能力者

『NEW GAME!』二期やってくれないかなー。


 「お姉さんが星猟警備隊に・・・?」

 

 「お前の姉貴達、凄すぎねぇか・・・?」

 

 呆然としている紗夜とレスター。

 

 何とか試合には間に合い、結果は二人の圧勝だった。試合終了後、俺達は二人の控え室で事情を説明していたのだった。

 

 「星野二葉・・・彼女も有名人だな」

 

 ため息をつくユリス。

 

 「星導館のOGで、当時の序列二位・・・《鳳凰星武祭》を制した人物だったな?」

 

 「あぁ。今は星猟警備隊で、一等警備正をやってる」

 

 「私達の先輩じゃないですか!」

 

 俺達の説明に驚いている綺凛。

 

 「しかも《鳳凰星武祭》を制覇しているなんて・・お強いんですね」

 

 「あぁ。だが、それでも序列二位・・・彼女より上がいたんだ」

 

 綺凛の言葉に苦笑するユリス。

 

 「当時の序列一位は、彼女の一つ上の姉だ。つまり七瀬、お前の姉でもあるな?」

 

 「あぁ、星野一織だよ」

 

 一織姉はマジで強いからなー。

 

 「《鳳凰星武祭》は、一織姉と二葉姉のタッグで優勝してるんだ。一織姉は、《王竜星武祭》も制してるよ」

 

 「二冠じゃないか!」

 

 驚く綾斗。

 

 「そこまで行ったら、三冠も目指せたんじゃ・・・?」

 

 「勿論《獅鷲星武祭》にも出場したさ。同じチームには二葉姉もいた。で、その時の予選で当たったのが・・・三咲姉のいるチーム・ランスロットだったんだ」

 

 「あ、優勝チーム・・・」

 

 「そういうこと」

 

 苦笑する俺。

 

 結果として、あの時は予選で敗退になったんだよな・・・

 

 「でも凄いね・・・星導館って、最近は成績が低迷してるんじゃなかったの?」

 

 「正しく言うと、二人が卒業してから低迷しているのだ」

 

 ユリスが説明してくれる。

 

 「まぁもっとも、総合成績一位の座からは遠ざかっているがな。星野一織も《王竜星武祭》を制したのが高一、《鳳凰星武祭》を制したのが高二の時だ。つまり・・・」

 

 「シーズンが違うってことか・・・」

 

 レスターが呟く。

 

 「《鳳凰星武祭》・《獅鷲星武祭》・《王竜星武祭》の順に開催して、《王竜星武祭》終了時に総合成績が確定するもんな」

 

 「そういうことだ」

 

 頷くユリス。

 

 「星野一織が同じシーズンで二冠を取っていたら、星導館は一位を取れたかもしれん」

 

 「でも、七瀬の二番目のお姉さんがいたはず」

 

 手を挙げる紗夜。

 

 「一番上のお姉さんと一緒に、《鳳凰星武祭》と《獅鷲星武祭》に出たのなら・・・その次の《王竜星武祭》には出なかったのか?その成績次第で、総合成績一位も狙えたはず」

 

 「いや、出たよ。ただ・・・」

 

 「ただ・・・?」

 

 「・・・予選で《孤毒の魔女》と当たったんだ」

 

 「・・・なるほど。《孤毒の魔女》が初めて出てきた時か」

 

 俺の答えに、紗夜が顔をしかめる。

 

 何せ現在《王竜星武祭》二連覇中、レヴォルフの序列一位で史上最強とも言われる《魔女》・・・あのオーフェリア・ランドルーフェンだ。

 

 二葉姉は強いが、相手が悪かったとしか言いようがない。

 

 「このシーズンは《鳳凰星武祭》こそ制したけど《獅鷲星武祭》と《王竜星武祭》は芳しくない成績で・・・結局、星導館は一位を取れなかったんだ」

 

 「《孤毒の魔女》さえいなかったら、二葉さんが《王竜星武祭》を制していたかもしれないですね・・・そしたら、星導館が一位を取れたかもしれません」

 

 「ま、今さら言っても仕方ないさ。星導館は総合成績一位を取れていない・・・これが現実だ。一織姉も二葉姉も、悔しがってたけどな」

 

 苦笑する俺。と、ユリスが険しい顔をしていた。

 

 「ユリス?どうした?」

 

 「あ、いや・・・何でもない」

 

 慌てて誤魔化すユリスに、首を傾げる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《鳳凰星武祭》五日目。

 

 「・・・疲れた」

 

 ため息をつく俺。今日は二回戦があり、順調に勝利を収めたのだが・・・

 

 問題はその後に、マスコミ連中のしつこい質問攻めを受けたことだった。

 

 「アイツら、引き際ってものを知らないのかな・・・」

 

 「まぁ、あの人達もお仕事ですから」

 

 苦笑する綺凛。と・・・

 

 「あ、ななっちー!綺凛ちゃーん!」

 

 聞き覚えのある声がする。

 

 見ると、俺達の控え室の前でシャノンが手を振っていた。隣には、青髪の活発そうな女子が立っている。

 

 「おー、シャノンと凛香じゃん」

 

 「こんにちは」

 

 「ヤッホー!二回戦突破おめでとう!」

 

 火原凛香・・・俺達のクラスメイトだ。シャノンと二人でタッグを組み、今回の《鳳凰星武祭》に出場している。

 

 タッグ同士でよく模擬戦をやったので、綺凛とも顔馴染みだ。

 

 「七瀬も綺凛も、調子良さそうじゃん!」

 

 「まぁな。お前らは次の試合だよな?」

 

 「うん、かなり強い相手だよ」

 

 苦笑するシャノン。

 

 「何せレヴォルフの序列三位・・・あの《吸血暴姫》のタッグだからね」

 

 そう、二人の次の相手はアイツら・・・イレーネとプリシラなのだ。シャノンと凛香も序列入りしてはいるが・・・正直、イレーネとの力量差は歴然だ。

 

 特にイレーネには純星煌式武装・・・《覇潰の血鎌》があるからな。かなり厳しい戦いになるだろう。

 

 「正直、勝てる自信なんて全く無いけどね・・・」

 

 「だね・・・とにかく頑張らないと・・・」

 

 険しい顔をしている二人。やれやれ・・・

 

 「お前ら・・・そんな難しい顔してると、いつまで経っても胸が大きくならないぞ?」

 

 「いや、関係ないじゃん!?」

 

 「何で胸の話!?」

 

 二人のツッコミ。俺は綺凛の肩に手を置いた。

 

 「頭が高いぞ貴様ら!この豊かな胸が目に入らぬか!」

 

 「え、七瀬さん!?」

 

 『ははあっ!』

 

 「お二人まで!?」

 

 土下座する二人に、綺凛が赤面しながら叫ぶ。

 

 「いやー、中一でそれだけ大きいとさぁ・・・」

 

 「先輩のプライドがボロボロだよねぇ・・・」

 

 「ふぇっ!?そ、そんなこと言われましても!」

 

 落ち込むフリをする二人。そんな二人を見て、綺凛がオロオロしている。

 

 「・・・ぷっ」

 

 と、ここで笑いを堪えきれなくなる俺。シャノンと凛香も笑い出す。

 

 「アハハ!もー、ななっち笑わないでよー!」

 

 「我慢できなくなったじゃんかー!」

 

 「あっ!からかってたんですか!?」

 

 ようやく気付いた綺凛が、顔を真っ赤にしている。

 

 「いやー、面白かったなぁ」

 

 「ゴメンねぇ、綺凛ちゃん」

 

 「もうっ!酷いですぅ!」

 

 涙目で頬を膨らませる綺凛。俺は綺凛の頭を撫でつつ、シャノンと凛香を見た。

 

 「あれほどの強敵と戦える、折角の機会なんだ。難しい顔してないで、思いっきり楽しんでこいよ」

 

 「ななっち・・・うん、そうだね!」

 

 「よっしゃ!何か燃えてきた!」

 

 笑みを浮かべるシャノンと凛香。うんうん、その意気だよ。

 

 「正々堂々とぶつかってこい!」

 

 「お二人とも、頑張って下さい!」

 

 「うん、ありがとう!」

 

 「思いっきり戦ってくるよ!」

 

 俺や綺凛とハイタッチを交わし、シャノンと凛香はステージへ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 ≪イレーネ視点≫

 

 

 「ったく、どいつもこいつも・・・同じような戦法だな」

 

 あたしは呆れていた。今回の試合は星導館のペアとだが・・・

 

 赤髪も青髪も、二人してステージを駆け回っている。

 

 「確かに《覇潰の血鎌》の重力は、座標に対して効果を発揮するけどよ・・・」

 

 だからといって、同じ場所に留まらずに移動すりゃ良いってもんでもない。

 

 「そんなの、多少広く範囲を指定すりゃ良い話だ」

 

 《覇潰の血鎌》を片手で振るうと、ステージに紫の輝きが広がっていく。

 

 と、赤髪が懐から何かを取り出した。あれは・・・

 

 「拳銃!?」

 

 放たれた銃弾を、慌てて《覇潰の血鎌》で防ぐ。だが、紫の輝きは消滅してしまった。

 

 「チッ、小賢しいマネを・・・」

 

 思わず舌打ちする。どうやら、ちゃんと対策を考えてきたらしい。

 

 と・・・

 

 「ハァッ!」

 

 「せいっ!」

 

 右から赤髪が剣で、左から青髪が拳で攻撃してきた。《覇潰の血鎌》で受け止める。

 

 「・・・ッ!へぇ、やるじゃねぇか。拳銃は想定外だったよ」

 

 「あたし達に飛び道具は無いと思っただろ?」

 

 「これでも、一通りの武器は扱えるようにしてきたんだよ!」

 

 戦いの最中だというのに、二人とも楽しそうに笑っていた。良いねぇ・・・

 

 「予選で本気出すつもりは無かったが・・・アンタ達に失礼だったなっ!」

 

 「きゃっ!?」

 

 「うわっ!?」

 

 思いっきり鎌を振るう。吹き飛ぶ二人。あたしは後ろのプリシラの下へ向かった。

 

 「お姉ちゃん・・・」

 

 「悪いな、プリシラ。少しもらうぞ」

 

 あたしは大きく口を開くと、鋭く伸びた犬歯をプリシラの首筋に突き立てた。

 

 「なっ!?」

 

 「嘘だろ!?」

 

 驚愕している二人。あたしは構わずプリシラの血を飲み続けた。

 

 そして・・・

 

 「・・・ふぅ」

 

 飲み終わって口を離すと、プリシラの首筋の傷跡があっという間に塞がる。

 

 ったく、相変わらずすげぇな・・・

 

 「まさか・・・再生能力者!?」

 

 「おー、よく知ってんな」

 

 あたしは赤髪の言葉に笑った。

 

 「《覇潰の血鎌》は能力の代償として、血液を要求してくるのさ。普通に使ってたんじゃ、あっという間に干乾びちまうんだよ。だからこうして、プリシラから血液を分けてもらってんだ」

 

 「・・・なるほど。文字通り吸血鬼ってわけか」

 

 苦い表情の青髪。

 

 「そういうこった。これで能力を思う存分使える」

 

 あたしが鎌を振るうと、球状の物体が三つ浮いた。すかさず赤髪が拳銃を撃とうとするが・・・

 

 「ぐっ・・・!」

 

 「これは・・・!」

 

 顔をしかめる二人。ステージ全体に、強い重力をかけたからな・・・赤髪も、銃を持つ手を動かせずにいる。

 

 「行け、《三重壊》!」

 

 球状の物体が、高速で二人に襲い掛かる。

 

 そして・・・

 

 「きゃあっ!」

 

 「ぐはっ!」

 

 直撃し、吹き飛んで倒れる二人。ボロボロになりながら、それでも懸命に立ち上がろうとしている・・・

 

 良い根性してんな。だが・・・

 

 「・・・悪いな」

 

 より強い重力を二人にかける。二人は踏ん張っていたが・・・やがて倒れこんだ。

 

 意識を失ったか・・・

 

 《試合終了!勝者、イレーネ・ウルサイス&プリシラ・ウルサイス!》

 

 機械音声が、試合の終了を告げる。

 

 「・・・ナイスファイト」

 

 それだけ言い残すと、あたしは二人に背を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 『試合終了!見事に勝利を収めたのは、ウルサイス姉妹です!』

 

 『やはりイレーネ選手の《覇潰の血鎌》は強いッスねー。しかも今回、プリシラ選手が再生能力者であることも判明したッス。とんでもない隠し玉ッスよ』

 

 実況と解説の声を聞きつつ、俺はスクリーンに見入っていた。倒れているシャノンと凛香は、担架に乗せられていた。

 

 思わず拳を握る俺・・・と、綺凛がその拳に手を置いた。

 

 「・・・お二人とも、ナイスファイトでした。途中までは、あの《吸血暴姫》を相手に善戦してました」

 

 「あぁ。でも・・・イレーネが強すぎたな」

 

 「えぇ。やはり《覇潰の血鎌》の能力は強いですね。それと・・・」

 

 「・・・プリシラだな」

 

 俺の言葉に頷く綺凛。まさか再生能力者とはな・・・

 

 「再生能力者といってもピンきりですが、プリシラさんはかなりのものだと思います。傷の修復どころか、失った血液まで再生できるとなると・・・恐らく、欠損部位の再生も可能でしょうね」

 

 「自分の傷を修復できるとはな・・・他人の傷を治す治癒能力者ほどじゃないにしろ、かなり珍しい部類の能力だぞ」

 

 あのプリシラが・・・全く想像もしていなかった。

 

 「《覇潰の血鎌》の代償を、ああいう形でカバーしてくるとは・・・」

 

 「えぇ。これでイレーネさんは、能力を思う存分使うことが出来ますし・・・かなり厄介な相手だと思います」

 

 綺凛も険しい顔をしている・・・って、ダメダメ。

 

 「・・・こんな顔してたら、アイツらに怒られるな」

 

 「え・・・?」

 

 「俺、アイツらに思いっきり楽しんでこいって言っちゃったからさ。アイツら、戦ってる時も笑ってたじゃん?だから・・・俺達が暗い顔したらダメだなって」

 

 「七瀬さん・・・そうですね。お二人の分も頑張らないといけませんね」

 

 「だな。立派に戦ったアイツらの分も、俺達が頑張って勝とうな」

 

 「はいっ!」

 

 笑顔で力強く返事をしてくれる綺凛なのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

シャノン「作者っちー!」

うおっ!?急に抱きついてきてどうした!?

シャノン「ありがとう作者っち!私の出番が遂にきたよ!」

お、おう・・・良かったな。

シャノン「うん!で、次はいつ出るの?」

・・・・・。

シャノン「ん?作者っち?」

・・・お前のことは忘れない。

シャノン「どういうこと!?」

そ、それではまた次回!

シャノン「ちょ、作者っち!?作者っちいいいいいっ!?」


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お人好し

今日メッチャ寒くね?


 「んー、美味しい!」

 

 幸せそうな顔でポテトを頬張る二葉姉。

 

 今日は仕事が休みらしく、俺は二葉姉の買い物に付き合わされたのだった。この間の貸しのことを言われたら、断れるわけがない。

 

 「はい七瀬、あ~ん」

 

 「・・・あーん」

 

 渋々開いた口に、ポテトが入れられる。

 

 あ、美味い・・・

 

 「ったく・・・折角の休日なのに、弟と買い物してて良いのかよ?」

 

 「良いじゃない。アンタも今日はオフなんでしょ?」

 

 「・・・まぁな」

 

 俺と綺凛は三回戦も無事に突破し、本戦進出を決めた。今日は本戦の組み合わせ抽選会が行われるということで、束の間の休息日となっているのだ。

 

 綺凛とも話し合い、今日は身体を休めようということになっている。

 

 「今日は一日中ゴロゴロしてる予定だったんだけどなぁ・・・」

 

 「だって七瀬と二人で出掛けたかったし。一緒に過ごすの、結構久しぶりじゃない?」

 

 「まぁ確かにな・・・」

 

 星猟警備隊に入ってからというもの、二葉姉はあまり実家に帰ってこない。なかなか顔を合わせる機会が無かったのだ。

 

 「七瀬もアスタリスクに来たんだし、これからは前より会えるわね」

 

 「二葉姉がもっと実家に帰省すりゃ済む話じゃん」

 

 「あたしだって帰りたいわよ?でも仕事が忙しくて・・・警備隊は大変だわ」

 

 ため息をつく二葉姉。

 

 「ってか、それを言うなら姉さんの方が帰ってないじゃない」

 

 「あー、確かに・・・」

 

 一織姉は忙しいからなぁ・・・

 

 「一織姉と四糸乃姉には、まだ会えてないんだよね」

 

 「四糸乃も多忙の身だしねぇ・・・学生なのに大変よね」

 

 「ホントそれな」

 

 「あ、多忙で思い出したけど・・・」

 

 真剣な表情で俺を見る二葉姉。

 

 「七瀬、シルヴィには会ったの?」

 

 「・・・多忙を極める世界の歌姫に、会えるわけないだろ。連絡先も知らないし」

 

 「そんなの、四糸乃に聞いたら分かるじゃない」

 

 「連絡を取るつもりも無いから」

 

 きっぱりと言う俺。

 

 「前にも言ったけど、俺にアイツの側にいる資格は無い。俺はもう一度、アイツと戦いたいだけなんだ。それが終わったら、もうアイツと会うつもりは無い」

 

 「・・・アンタも頑固ねぇ」

 

 呆れたような表情の二葉姉。

 

 「七瀬がそう決めたなら、あたしは何も言わないわ。姉さんや三咲達だって、七瀬の意思を尊重すると思う。でもね・・・」

 

 二葉姉が、俺を真っ直ぐ見つめる。

 

 「戦う前でも、戦った後でも良い・・・シルヴィとちゃんと話をしなさい。戦うだけじゃ、シルヴィと向き合ったことにはならない。それじゃアンタ、前に進めないわよ」

 

 「・・・分かってる」

 

 正直、今はアイツと会う勇気が無い。でも、いずれ会わないといけないな・・・

 

 と、俺の端末に着信が入る。空間ウィンドウを開くと、綾斗の顔が映った。

 

 『七瀬、休みの日にゴメン・・・』

 

 「おー、綾斗。どうした?」

 

 『紗夜が迷子になっちゃって・・・七瀬、商業エリアにいるんだよね?見なかった?』

 

 「いや、見てないけど・・・アイツまた迷子かよ」

 

 方向音痴にも程があるだろ・・・ったく、仕方ないな。

 

 「俺も探すの手伝うよ。合流しようぜ」

 

 『ホントゴメン・・・じゃあ、広場で落ち合おう』

 

 「了解。すぐ行く」

 

 通信が切れる。俺は二葉姉の方を見た。

 

 「ゴメン、二葉姉。行くわ」

 

 「了解。買い物、付き合ってくれてありがとね」

 

 「また付き合うよ。それじゃ」

 

 俺は二葉姉に手を振り、広場へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「見つからないなぁ・・・」

 

 「あのバカ・・・何でこんなとこ来てんだよ」

 

 綾斗と二人でため息をつく。紗夜に連絡を取ったところ、商業エリアの外れあたりにいることが判明したのだ。

 

 この辺りは再開発エリアが近い・・・言い換えるとレヴォルフが近いので、柄の悪い連中が多かったりする。

 

 正直、あまり来たいとは思わない場所だ。

 

 「ゴメンね、七瀬。お姉さんと買い物してたんだろう?」

 

 「別に良いよ。買い物も終わって、軽く昼食取ってたとこだったし。綾斗こそ、今日はクローディアと抽選会に行ってたんじゃなかったのか?」

 

 「紗夜から電話がかかってきたから、途中で抜けてきたよ。クローディアの機嫌を損ねちゃったけどね・・・」

 

 「あー・・・ドンマイ」

 

 クローディアの奴、綾斗のこと気に入ってるからなぁ・・・

 

 そんな会話をしていた時だった。先の方の物陰から、人の声が聞こえた。

 

 「や、止めて下さい・・・!」

 

 ・・・穏やかじゃないな。

 

 「・・・綾斗」

 

 「分かってる」

 

 二人で気配を消して、そっと様子を窺ってみる。一人の女の子が、五人の男達に取り囲まれていた。

 

 ってか、あの女の子・・・プリシラじゃねーか。

 

 「騒ぐんじゃねぇ」

 

 「恨むなら、お前の姉貴を恨むんだな」

 

 「んー!んんんー!」

 

 口を押さえられるプリシラ。両手を掴まれ、身動きが取れないらしい。

 

 おいおい・・・

 

 「その辺にしとけYO!」

 

 「ぐえっ!?」

 

 「ガハッ!?」

 

 プリシラの口と腕を押さえていた二人の男の後頭部に、飛び膝蹴りをぶちかます。自由になったプリシラの手を掴み、こちらへ引き寄せた。

 

 「な、七瀬さん!」

 

 「プリシラ、大丈夫か?」

 

 「は、はいっ!」

 

 「な、何だテメェ!?」

 

 リーダー格の男が慌てている。と・・・

 

 「グハッ!?」

 

 「うぐっ!?」

 

 もう二人が倒れた。綾斗が後ろから回り込み、二人を気絶させたのだ。

 

 「さて・・・残りはアナタだけだね」

 

 「くっ・・・!」

 

 後ずさる男。

 

 「テメェら・・・星導館の《覇王》と《叢雲》だな!?こんなマネして、ただで済むと思ってんのか!?」

 

 「いや、こっちのセリフだわ」

 

 呆れる俺。

 

 「確かにプリシラは可愛いけど、イレーネにフラれたからって節操無さ過ぎじゃね?」

 

 「何の話してんの!?」

 

 「え?イレーネにフラれたから、妹のプリシラを口説こうって話じゃないの?」

 

 「どんな解釈!?今の場面見てそう捉えたの!?」

 

 「うん」

 

 「アホかお前!?だったらこんな手荒なマネしねぇわ!」

 

 「手荒って認めちゃったじゃん」

 

 「ごふっ!?」

 

 綾斗が手刀でツッコミを入れる。気絶する男。

 

 やれやれ・・・

 

 「プリシラ、ケガしてないか?」

 

 「はい、大丈夫です。助けていただいて、ありがとうございました」

 

 頭を下げるプリシラ。

 

 「気にすんな。それより、何で襲われてたんだ?」

 

 「・・・この人達は多分、歓楽街にあるカジノの人達だと思います」

 

 「歓楽街って・・・再開発エリアにある、非合法の店が集まってる場所のことか?」

 

 前にクローディアから聞いたことがあるな・・・プリシラが頷く。

 

 「でも、何でそんな連中がプリシラを・・・?」

 

 「少し前に、そこでお姉ちゃんが大暴れしたらしくて・・・壊滅に近い状況だったそうです・・・」

 

 恥ずかしそうなプリシラ。あー、そういうことね・・・

 

 「イレーネには敵わないから、プリシラを狙ったわけか・・・」

 

 「情けない人達だね・・・」

 

 綾斗と二人、ため息をつく。と・・・

 

 「プリシラあああああっ!」

 

 叫び声と共に、空からイレーネが降ってきた。

 

 「きゃっ!?お姉ちゃん!?」

 

 「何処行ってたんだよ!?心配したんだぞ!?」

 

 「いや、その・・・襲われてて」

 

 「襲われた!?」

 

 驚愕しているイレーネ。

 

 「何でお前が!?可愛いからか!?」

 

 「お前のせいだわ!」

 

 「ぐおっ!?」

 

 イレーネの頭に拳骨をぶちかます。ようやくイレーネが俺達の存在に気付いた。

 

 「いてて・・・え、七瀬!?《叢雲》まで!?何でここにいんだよ!?」

 

 「襲われてたところを、お二人が助けてくれたの」

 

 「マジか!?」

 

 「マジだよ。ってかイレーネ、コイツらお前に恨みがあったみたいだぞ」

 

 倒れている男達を指差す俺。イレーネがハッとした顔をする。

 

 「あ、コイツら!カジノの連中じゃねーか!そうか、それでプリシラを・・・!」

 

 「ってことだろうな」

 

 「このクズ共・・・!」

 

 男達を睨みつけるイレーネだったが、やがて深く息をついた。

 

 「・・・すまねぇ、助かった。お前らには借りができちまったな」

 

 「別に良いよ。困った時はお互い様だし」

 

 笑いながら言う綾斗。イレーネは納得できない様子だった。

 

 「いや、でもよ・・・」

 

 「まぁ綾斗のお人好しは異常だから、気にすんなって」

 

 「・・・七瀬、さりげなくディスってるよね?」

 

 「ハハハ、何ノコトヤラ」

 

 「嘘つくの下手すぎない!?」

 

 綾斗のツッコミ。あれ、何か前にもこんなツッコミ入れられたような・・・

 

 まぁそれはともかく。

 

 「大体、俺がプリシラを放っておけるわけないだろ。それに俺も、お前には助けてもらったしな。お互い様だし、借りだなんて思うなよ」

 

 「・・・ったく、お前もお人好しじゃねーか」

 

 苦笑しているイレーネ。

 

 「参ったな・・・これじゃやり辛くてしょうがねぇ」

 

 「ん?何の話だ?」

 

 「ついさっき、本戦の組み合わせが発表されたんだ」

 

 空間ウィンドウを開くイレーネ。

 

 「あ、もう発表されたんだな」

 

 「あぁ。あたし達の次の相手は・・・《叢雲》、アンタと《華焔の魔女》だ」

 

 「えぇっ!?」

 

 驚く綾斗。あ、ホントだ・・・

 

 「アンタに借りがあるままじゃ、あたしも全力で戦えねぇ。だから・・・今日の晩飯を奢らせろ」

 

 「え、でも・・・」

 

 「安心しろ、毒なんざ盛らねーよ。それと七瀬、お前も来い」

 

 「いや、だから借りだなんて・・・」

 

 「そうじゃねぇ。話があるんだ」

 

 いつになく真剣な表情のイレーネ。

 

 「お前はあたしの・・・ダチだからな。ちゃんと話しておかねぇと、筋が通せねぇ」

 

 「・・・分かったよ。なら、遠慮なくご馳走になるわ」

 

 「おう、そうしろ」

 

 笑うイレーネなのだった。

 




こんにちは、ムッティです。

アニメって面白い!

シャノン「急にどうしたの!?」

いや、録っておいたアニメ観終わってさー。

凄く充実感を感じてるんだわ。

シャノン「アスタリスクも三期やってほしいよね」

それな。まぁシャノンはゲームのキャラだから、アニメでは出番無いだろうけど。

シャノン「それは言わないでぇ!」

それではまた次回!

シャノン「アニメでも出番が欲しいよおおおおおっ!」


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それぞれの想い

甲鉄城のカバネリ、面白かったなー。


 「何を考えているのだ!?」

 

 怒鳴るユリス。紗夜を見つけた俺と綾斗は、星導館に帰ってきたのだった。

 

 で、お互いのタッグパートナーに事情を説明した結果・・・今に至る。

 

 「《吸血暴姫》は次の対戦相手なんだぞ!?罠だったらどうするのだ!?」

 

 「じゃ、俺は大丈夫だな。対戦相手じゃないし」

 

 「大丈夫じゃないでしょう。七瀬さんの脳内はお花畑ですか?」

 

 「スミマセンでした」

 

 綺凛が静かにキレていた。怖いよぉ・・・

 

 「この都市には、他人を欺く者など掃いて捨てるほどいる!サイラスもそうだったではないか!」

 

 「お二人とも、簡単に他人を信用しすぎです。もっと警戒心を持って下さい」

 

 「ごもっともです・・・」

 

 綾斗が陥落した。

 

 ハァ・・・仕方ない。

 

 「・・・ユリスと綺凛が怒るのも分かるよ」

 

 俺は静かに切り出した。

 

 「ただ・・・あまりイレーネを悪く言わないでほしい。プリシラもそうだけど、俺の友達なんだよ」

 

 「七瀬・・・何故そこまで《吸血暴姫》を庇うのだ?」

 

 ユリスの問いに、俺はあの日のことを思い出していた。

 

 「ユリス・・・綾斗に街を案内した時のこと、覚えてるか?」

 

 「ん?あぁ、覚えているぞ。あの時、襲撃犯の正体が人形だと分かったのだったな」

 

 「あぁ。あの時、俺はレヴォルフの不良達に襲われて・・・ユリスと綾斗の所へ向かいたかったのに、邪魔された。実はその時、イレーネが助けてくれたんだ」

 

 「《吸血暴姫》が・・・?」

 

 驚いているユリス。話してなかったもんな・・・

 

 「もしイレーネが助けてくれなかったら、ユリス達が上から銃撃されそうになったあの時・・・俺は助けには入れなかった。だからイレーネには、本当に感謝してるんだ。おかげで二人に、ケガを負わせずに済んだからな」

 

 「七瀬・・・」

 

 神妙な表情のユリス。綾斗も綺凛も、黙って俺の話を聞いてくれていた。

 

 「レヴォルフには、俺も良い印象を持ってるわけじゃない。不良は多いし、何より生徒会長がアイツだ。関わりたいとも思わない。でも・・・」

 

 真っ直ぐユリスを見つめる俺。

 

 「レヴォルフにも、良い奴はいると思うんだ。イレーネは助けてくれたし、プリシラは親身になって接してくれた。何よりあの姉妹は、お互いを大切に想い合ってる。だから俺は、二人を信じてるんだ。信じてるからこそ、二人を友達だと思ってるんだよ」

 

 俺の言葉に、ユリスは瞑目した後・・・フッと微笑んだ。

 

 「相変わらずのお人好しだな、お前は。だが・・・私も忘れていたな。ここへ来て、初めて友人になってくれた男は・・・こういう男だった。だからこそ、私も心を開くことが出来たのだったな」

 

 笑うユリス。

 

 「お前がそこまで言うのなら、私も信じよう。お前の心からの言葉を信じられないようでは、お前の友人を名乗ることなど出来ないからな」

 

 「ユリス・・・」

 

 「・・・仕方ありませんね」

 

 綺凛が苦笑している。

 

 「私も信じます。七瀬さんは、私のタッグパートナーですから」

 

 「綺凛・・・」

 

 「私も忘れていたみたいです。私を救ってくれた人は、力になりたいと言ってくれた人は・・・こういう人でした。だからこそ、私も七瀬さんのお側にいたいと思ったんです」

 

 「・・・七瀬、モテモテだね」

 

 「茶化すなよ・・・」

 

 ニヤリと笑う綾斗に対し、肩をすくめる俺。

 

 何か照れくさいな・・・

 

 「ただし!」

 

 ビシッと指を突きつけてくるユリス。

 

 「その席には、私達も同行させてもらうぞ」

 

 「そうですね。信じてはいますが、私達も心配ですから」

 

 「・・・了解。イレーネ達に伝えとくよ」

 

 顔を見合わせ、苦笑する俺と綾斗なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「プリシラのパエリア、いつ食べても絶品だわ」

 

 「ホント美味しいね」

 

 「だろ?最高だろ?」

 

 パエリアを頬張る俺と綾斗。イレーネが自慢げな顔をしていた。

 

 「プリシラのパエリアは世界一だぜ?」

 

 「も、もう・・・お姉ちゃんったら・・・」

 

 「うむ、これは美味いな!」

 

 「こんな美味しいお料理が作れるなんて、羨ましいです!」

 

 恥ずかしそうなプリシラを尻目に、凄いペースでパエリアを食べているユリスと綺凛。

 

 あれ、簡単に他人を信用するなって言ってなかったっけ・・・

 

 「あ、おかわり持ってきますね。今日はたくさん作ったので」

 

 「お、サンキュー」

 

 プリシラがキッチンへ向かう。と、イレーネが真剣な表情になった。

 

 「・・・お前らに話がある」

 

 「あぁ、そういやそんなこと言ってたっけ」

 

 恐らく、あまり良くない話だとは思うが・・・

 

 「七瀬、お前には前に話したよな?あたしは今回、ディルクの命令で《鳳凰星武祭》に参加することになったって」

 

 「あぁ、聞いた。あのデブのことだし、ろくでもないことを考えてそうだよな・・・俺を潰してやろう、とか」

 

 『なっ・・・!?』

 

 皆が絶句する。イレーネも驚いていた。

 

 「お前・・・知ってたのか?」

 

 「うちの会長は鋭くてな。すぐにその可能性を教えてくれたよ。あくまでも予想に過ぎなかったけど・・・その反応だと正解みたいだな」

 

 「おい《吸血暴姫》!一体どういうことだ!?」

 

 激昂するユリス。綺凛と綾斗も、鋭い目でイレーネを睨んでいる。

 

 「・・・ディルクの野郎が言うには、七瀬は《戦律の魔女》と関係があるらしい。現に六花園会議じゃ、《戦律の魔女》の代理みたいな形だったんだとよ」

 

 「何だと!?本当か七瀬!?」

 

 「別に代理として指名されたわけじゃない。俺の意見を支持するって、委任状に書かれてあっただけだ」

 

 ため息をつく俺。

 

 「ってことは、あのデブは俺が権力を持つことを警戒してるのか?」

 

 「そういうこった。実際のところ、お前と《戦律の魔女》はどういう関係なんだ?」

 

 「・・・幼馴染だよ。もっとも、アイツがクインヴェールに入ってから会ってないけどな。連絡も取ってないし」

 

 「幼馴染!?あのシルヴィア・リューネハイムさんと!?」

 

 驚愕している綺凛。ユリスと綾斗も、口をポカンと開けている。

 

 「じゃあ何で《戦律の魔女》は、お前の意見を支持するって言ったんだ?」

 

 「さぁ・・・俺がアスタリスクに来てることを知って、懐かしくなったのかもな。元々クインヴェールは、六花園会議で積極的に意見を出してたわけじゃないみたいだし。極端な意見じゃなきゃ、どんな意見でも良かったんじゃないのか?」

 

 「つまり本当に、《戦律の魔女》と繋がっていないと?」

 

 「あぁ、誓っても良い。そもそも俺は権力に興味なんて無いし、アイツもそうだと思うぞ?あのデブに伝えとけ、全部お前の杞憂だってな」

 

 「・・・分かった。ディルクには報告しとく。ただ、命令が取り下げられるとは思えねぇけどな」

 

 「だよなぁ・・・ってか、俺に話して大丈夫か?この前は話してくれなかったけど」

 

 「安心しろ、今回はディルクに言ってきた。筋を通させてもらうってな」

 

 ニヤリと笑うイレーネ。と、今度は綾斗に視線を移した。

 

 「実はな、今回潰せって言われてんのは七瀬と・・・《叢雲》、アンタだ」

 

 「え、俺!?」

 

 「ハァ・・・何となくそんな気がしたわ」

 

 驚く綾斗と、ため息をつく俺。イレーネが不思議そうな顔をする。

 

 「あん?それも知ってたのか?」

 

 「お前と広場で会った時、お前綾斗に用があるって感じだったじゃん。《悪辣の王》の命令で動いてるのは知ってたし、もしやと思ったわけよ」

 

 「へぇ・・・なかなかの洞察力だな」

 

 感心しているイレーネ。一方、ユリスは再び激昂していた。

 

 「どういうことだ!?何故綾斗まで狙われるのだ!?」

 

 「ディルクの野郎は、《黒炉の魔剣》を危険視してんだよ。だから使い手の《叢雲》を、今のうちに潰しておきたいんだとさ」

 

 「《黒炉の魔剣》を?」

 

 首を傾げる綾斗。

 

 「そこまで危険視しているのかい?潰したいくらいに?」

 

 「あぁ、あたしも異常だとは思うが・・・アイツの口ぶりから察するに、どうやら以前にも《黒炉の魔剣》の使い手を見たことがあるらしい」

 

 「・・・ッ!」

 

 息を呑む綾斗。俺はユリスや綺凛と顔を見合わせた。

 

 その使い手って・・・

 

 「おかしいよな。公開されている過去の貸与記録を見たが、ここ数十年《黒炉の魔剣》の使い手は現れていないはずだ。なのにディルクの野郎は、一体どこで見たのか・・・どうやら、心当たりがあるみたいだな」

 

 「・・・まぁね。とにかくありがとう」

 

 お礼を言う綾斗の顔には、動揺が浮かんでいた。

 

 無理もないだろう。お姉さんを探す手掛かりが、思わぬところで見つかったわけだしな・・・

 

 「ま、これであたしも筋を通した。明日は思う存分叩きのめしてやる。それが嫌なら、さっさとギブアップするんだな」

 

 「・・・お手柔らかに頼むよ」

 

 苦笑する綾斗。イレーネが俺を見た。

 

 「その次はお前だ、七瀬。ダチだからって容赦しねぇぞ」

 

 「そのセリフは、明日ユリスと綾斗に勝ってから言うんだな」

 

 「その通りです」

 

 イレーネを睨む綺凛。

 

 「仮に戦うことになったとしても、七瀬さんは絶対に傷付けさせません」

 

 「へぇ・・・良い目してんじゃねぇか」

 

 笑うイレーネ。

 

 「悪いが、あたしも命令に背くわけにはいかねぇ。全力でいかせてもらうぜ」

 

 火花を散らす綺凛とイレーネなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「すっかりご馳走になっちゃって、悪かったな」

 

 「いえ、とっても楽しかったです」

 

 俺の言葉に、ニッコリ笑うプリシラ。マンションの前まで、わざわざ見送りに出てきてくれたのだ。

 

 「それより、お姉ちゃんが何か失礼なことを言いませんでしたか?」

 

 「ん?何で?」

 

 「リースフェルトさんの怒鳴り声が聞こえたもので・・・」

 

 「うぐっ・・・」

 

 渋い顔をするユリス。

 

 「安心しろ。ユリスはいつもあんな感じだから」

 

 「七瀬!?」

 

 「そうだね、いつもあんな感じだね」

 

 「いつも通りでしたね」

 

 「お前ら!?」

 

 綾斗と綺凛も同調してくれる。クスクス笑うプリシラ。

 

 「皆さん、仲が良いんですね」

 

 「お前とイレーネもな」

 

 「姉妹ですから」

 

 苦笑するプリシラ。

 

 「・・・私は、お姉ちゃんに守られてるだけなんです。私がお姉ちゃんの役に立てることは、お食事を作ったりすることと・・・血を分けてあげることくらいですから」

 

 「再生能力者とはいえ、その・・・生き血を吸われても良いのかい?」

 

 綾斗がおずおずと尋ねる。

 

 「私は構いません。それでお姉ちゃんの役に立てますから。ただ・・・」

 

 「ただ・・・?」

 

 「・・・《覇潰の血鎌》を使っている時のお姉ちゃんは、ちょっと怖いです。あれを使っている時のお姉ちゃんは、人が変わったように凶暴っていうか・・・」

 

 消え入りそうな声のプリシラ。と、ハッとした顔をする。

 

 「ご、ごめんなさい!私ったら変なことを・・・」

 

 「・・・プリシラは、イレーネが心配なんだな」

 

 プリシラの頭を撫でる俺。

 

 「だったら・・・ちゃんとイレーネの側にいてやった方が良い。イレーネが道を踏み外しそうになった時、それを止めてやれるように」

 

 「七瀬さん・・・」

 

 「道を踏み外してしまった奴には、大切な人の言葉すら届かない。だからその前に、ちゃんと止めてやるんだぞ」

 

 「・・・はいっ!」

 

 頷くプリシラ。よし、良い返事だ。

 

 「じゃ、今日は色々とありがとな」

 

 「また明日ね」

 

 「手加減はしないからな」

 

 「ご馳走様でした」

 

 「皆さんお気を付けて」

 

 手を振ってくれるプリシラに手を振り返し、俺達は帰路に着いた。

 

 「・・・どう思う?」

 

 真剣な表情の綾斗。

 

 「どうって?」

 

 「プリシラさんが言ってたじゃないか。《覇潰の血鎌》を使っている時のイレーネは、まるで人が変わったみたいだって」

 

 「だろうな。《覇潰の血鎌》はそういうタイプだろうし」

 

 「どういうことですか?」

 

 綺凛が尋ねてくる。

 

 「・・・純星煌式武装には意思がある。意思があるということは、それぞれに個性があるということだ。つまり、性格の良い奴と悪い奴に分けられるんだよ」

 

 「・・・つまり《覇潰の血鎌》は、性格が悪い方に分類されるということか?」

 

 「あまり悪く言いたくないけど・・・そうだろうな」

 

 ユリスの問いに、俺は頷いた。

 

 「イレーネがプリシラの血を吸う時、大きな犬歯が二本生えていたのを見た。あれは恐らく、《覇潰の血鎌》がイレーネの肉体に干渉した結果だ」

 

 「まさか・・・使い手の肉体を変化させたというのか!?」

 

 「でなきゃ、あんな吸血鬼みたいな犬歯は生えてこないだろうよ。血を吸いやすくする為の変化なんだろうな」

 

 俺の推測に、言葉を失うユリス。

 

 「つまり《覇潰の血鎌》は、かなり我の強い奴なんだと思う。そういうタイプの奴は、使い手の意識や性格も自分好みに変えようとするんだよ。長く使った分だけ、それは顕著になっていく。《覇潰の血鎌》を使っている時のイレーネが凶暴化するのは、《覇潰の血鎌》に干渉されているからだろうな」

 

 「危険じゃないか!」

 

 慌てている綾斗。

 

 「今すぐにでも放棄させないと・・・!」

 

 「無理だよ。イレーネは《悪辣の王》の命令に従わざるを得ない。その為には《覇潰の血鎌》が必要だろうし、手放したりしないだろ」

 

 「そんな・・・」

 

 「それに純星煌式武装を使う以上、アイツも分かってるはずだ。能力が強いほど、求められる代償は高いってな。《黒炉の魔剣》や《神の拳》だって、普通の星脈世代なら一瞬で枯渇するほどの星辰力が求められるわけだし」

 

 「・・・ずいぶん詳しいな」

 

 驚いているユリス。俺は苦笑した。

 

 「一度《神の拳》の力に呑まれたからな。純星煌式武装については色々と勉強したんだよ。同じ過ちを繰り返さない為にも」

 

 自分の手を見つめる俺。

 

 「道を踏み外してしまった奴には、大切な人の言葉すら届かない・・・経験者として、アイツらには辛い思いをしてほしくないんだけどな」

 

 「七瀬さん・・・」

 

 心配そうな顔で俺を見つめる綺凛。

 

 「・・・綺凛、ユリス、綾斗」

 

 俺は三人を真っ直ぐ見た。

 

 「もし俺が、道を踏み外すようなことがあったら・・・その時は・・・」

 

 俺の告げた言葉に、三人は目を見開いたのだった。

 




二話続けての投稿となります・・・

シャノン「作者っち?何か元気なくない?」

・・・ストックが少なくなってきた。

シャノン「だから執筆活動しろって言ったでしょうが!」

すみませんでした・・・時間がある時にやります・・・

シャノン「全く・・・明日から忙しくなるんだっけ?」

そうなんだよねー。休みが終わってしまったぜ・・・

シャノン「ま、頑張りなよ」

うっす。

また投稿が遅れるかもしれませんが、何卒ご容赦下さい。

それではまた次回!

シャノン「またね~!」


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代償

休みが終わってしまった・・・


 「ふぅ・・・ん?」

 

 部屋に帰ってきた俺は、玄関にクローディアの靴が置いてあることに気付いた。

 

 「帰ってきたのか・・・?」

 

 いつもより早いな・・・まぁここ最近が遅すぎたんだけど。

 

 《鳳凰星武祭》の期間中も、色々と仕事があるみたいだしな。

 

 「ただいま・・・あれ?」

 

 リビングの明かりは点いていなかったが、開きっ放しの空間ウィンドウがいくつか浮かんでいた。その明かりが、テーブルに突っ伏して寝ているクローディアの寝顔を照らしている。

 

 やれやれ・・・

 

 「帰ってきてまで仕事とは・・・恐れ入るわ」

 

 苦笑する俺だったが、クローディアの表情が険しいことに気付いた。苦しそうに喘いでいる。

 

 悪い夢でも見てるのか・・・?

 

 「・・・とりあえず起こすか」

 

 クローディアの肩に触れようとした瞬間だった。

 

 「・・・ッ!」

 

 殺気を感じ、咄嗟に後ろへ跳んだ。俺の目の前を、二本の剣先が通過していく。

 

 危なかった・・・

 

 「クローディア、何のつもり・・・」

 

 文句を言う為にクローディアを見た途端、俺はゾッとした。ゆらりと立ち上がったクローディアは、だらりと垂らした両手に双剣を握っていた。

 

 あれは・・・

 

 「《パン=ドラ》・・・」

 

 呟く俺。クローディアの純星煌式武装・・・初めて見たな。

 

 クローディアは俯いている為、表情は読み取れないが・・・恐らく、無意識状態なんだろう。

 

 「クローディア、目を覚ませ!」

 

 叫ぶ俺。クローディアはふっと動くと、次の瞬間には俺の間合いに入っていた。

 

 「・・・ッ!」

 

 攻撃を回避する俺だったが、かわしたはずの剣が目の前に迫っていた。

 

 「うおっ!?」

 

 身体をひねって避ける。だが、クローディアの攻撃は流れるように続く。

 

 「チッ・・・未来予知か!」

 

 俺の動きを予期しているかのような攻撃・・・厄介だな。

 

 「来い、《神の拳》!」

 

 俺の両手に、金色の純星煌式武装が装着される。迫ってきた《パン=ドラ》を、両手で掴む。

 

 そのまま、クローディアの額に頭突きをかました。

 

 「・・・ッ!」

 

 クローディアの動きがピタリと止まった。

 

 「クローディア!?俺が分かるか!?」

 

 「七・・・瀬・・・?」

 

 呆然と俺を見つめるクローディア。と、ハッとした顔をする。

 

 「七瀬!?も、申し訳ありません!」

 

 「戻ったのな・・・」

 

 力が抜け、《パン=ドラ》を離す俺。《神の拳》の装着も解除する。クローディアも、慌てて《パン=ドラ》を待機状態に戻した。

 

 「マジで焦ったわぁ・・・」

 

 「ほ、本当に申し訳ありません!私、何てことを・・・!」

 

 泣きそうなクローディア。俺はそっとクローディアを抱き寄せた。

 

 「落ち着け。俺は大丈夫だから」

 

 「ですが、私は・・・!」

 

 「それより、額は大丈夫か?」

 

 「え・・・痛っ!」

 

 顔をしかめ、額を押さえるクローディア。

 

 「お前を止める為とはいえ、乱暴なマネはしたくなかったんだけど・・・ゴメンな」

 

 「何でこんな時まで私の心配なんて・・・!」

 

 「何でって・・・お前が大事だからに決まってんじゃん」

 

 「・・・ッ!」

 

 瞳を潤ませるクローディア。そのまま、俺の胸に顔を埋める。

 

 「・・・スミマセン、少しこのままでいさせて下さい」

 

 「・・・おう」

 

 優しくクローディアを抱き締める俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「落ち着いたか?」

 

 「えぇ、もう大丈夫です」

 

 微笑むクローディア。俺達は、リビングのソファに並んで座っていた。

 

 「七瀬・・・先ほどは、本当に申し訳ありませんでした」

 

 「もう良いって。ケガも無かったんだし、気にすんなよ」

 

 苦笑しながらクローディアの頭を撫でる俺。

 

 「でも・・・一体どうしたんだ?あんなクローディア、初めて見たぞ?」

 

 俺の問いに、クローディアは俯いた。

 

 「・・・七瀬は以前、こう仰いましたよね?能力が強い純星煌式武装ほど、求められる代償も高くなると」

 

 「・・・あぁ、言った」

 

 頷く俺。

 

 ってか、今のセリフで何となく分かった気がする・・・

 

 「さっきのは、《パン=ドラ》の代償の影響ってことか・・・」

 

 「ご名答です」

 

 頷くクローディア。

 

 「・・・七瀬は、死んだ経験はおありですか?」

 

 「え?いや・・・無いけど。普通に生きてるし」

 

 「ですよね」

 

 クスクス笑うクローディア。

 

 「ですが私は・・・もう千二百回以上の死を体験しています」

 

 「いや、何を言って・・・」

 

 そこまで言いかけた瞬間、俺はハッとした。さっきクローディアが寝ていた時、とても苦しそうな表情だったことを思い出したのだ。

 

 まさか・・・

 

 「・・・夢の中で、か?」

 

 「流石は七瀬ですね」

 

 笑うクローディア。

 

 「《パン=ドラ》が使い手に求める代償は、自分の死を味わうことです。私は眠る度に夢の中で、いつか来る自分の死の瞬間を体験しているのですよ」

 

 言葉を失う俺。とんでもない拷問だろそれ・・・

 

 「この子の嫌らしいところは、一度として同じ死を見せてこないところです。いずれの死も、いつか私が迎える可能性のある死なんです。先ほどもちょうど殺されそうになっていまして、夢現で襲い掛かってしまったようで・・・本当に申し訳ありません」

 

 深々と頭を下げるクローディア。

 

 「・・・ずっと疑問に思ってはいたんだ。未来視なんていう破格の能力の代償は、どれほど高いものなんだろうって。でも・・・」

 

 クローディアを見つめる俺。

 

 「クローディア・・・お前大丈夫なのか・・・?」

 

 「えぇ、意外と慣れるものですよ」

 

 微笑むクローディア。

 

 「目が覚めると、夢の内容は消えてしまうんです。残るのは断片的な記憶と、死の間際の恐怖と苦痛・・・そして倦怠感といったところでしょうか。この子を手にした方々は三日と耐えられず、まともに使いこなせたのは私が初めてだそうです」

 

 「・・・ゴメン。一緒に暮らしてるのに、一切気付かなかった・・・」

 

 謝る俺の手を、クローディアがそっと握った。

 

 「・・・私、七瀬には救われているんですよ?今までは目覚めても私一人でしたが、今は七瀬がいてくれますから。目が覚めて七瀬の笑顔を見ると、凄くホッとするんです。恐怖、苦痛、倦怠感・・・全てを忘れさせてくれるんですよ。本当に感謝しています」

 

 「クローディア・・・」

 

 「・・・私には、叶えたい望みがあります。その為には、どうしてもこの子が必要なんです。ですから、代償を受け入れてでもこの子を手元に置いておく必要があるんです」

 

 「そこまでして叶えたい望みって・・・?」

 

 「フフッ、それはまだ秘密です」

 

 ウインクするクローディア。

 

 「私は大丈夫です。心配してくださって、ありがとうございます」

 

 「・・・クローディアがそう決めてるなら、俺は何も言わないよ。でも、何か力になれることがあるなら言ってほしい。俺に出来ることは、何だってするから」

 

 「七瀬・・・」

 

 嬉しそうに微笑むクローディア。

 

 「では・・・一つお願いがあるのですが」

 

 「何?」

 

 「今晩から、私と一緒に寝てください」

 

 「ハァッ!?」

 

 え、今この子何て言った!?

 

 「何で!?」

 

 「七瀬が一緒なら、安心して眠れそうですし」

 

 「いやいやいや!流石に不味いだろ!?」

 

 「あら、ユリスとは一緒に寝たんでしょう?」

 

 「いや、それはワンルームだったから!仕方なかったんだよ!」

 

 「ユリスは良くて私はダメなんですね・・・」

 

 「いや、そうじゃなくて!」

 

 「何だってするって言ってくださったのに・・・」

 

 「人の話聞いてる!?あぁもう!分かったよ!一緒に寝るから!」

 

 「フフッ、その答えをお待ちしていました」

 

 笑うクローディア。

 

 チクショウ、受け入れるしかないのか・・・

 

 「ハァ・・・俺の理性が試されるな・・・」

 

 「あら、襲ってくださっても構いませんよ?」

 

 「止めろ!自分の身体は大切にしなさい!」

 

 クスクス笑うクローディア。全くコイツは・・・

 

 「では、今晩から私の寝室で一緒に寝ましょう。ベッドは一つだけですので、同じベッドで寝ることになりますね」

 

 「・・・だろうな」

 

 そんなことだろうと思ったよ・・・まぁ良いけど。

 

 「あら、意外とあっさり受け入れてくださいましたね?」

 

 「いや、お前が言い出したことじゃん」

 

 「そうですが・・・先ほどのこともありましたので・・・」

 

 歯切れの悪いクローディア。

 

 やれやれ、まだ気にしてるのか・・・

 

 「・・・前に言ってくれたよな。『私が七瀬から離れるなんて有り得ない』って。そのセリフ、そっくりそのまま返してやるよ。俺がクローディアから離れるなんて有り得ない。だから安心しろ」

 

 「七瀬・・・ありがとうございます」

 

 頬を赤く染め、照れくさそうに笑うクローディアなのだった。

 




こんにちは、ムッティです・・・

シャノン「あれ、また元気ないじゃん」

だって休み終わっちゃったしさぁ・・・

シャノン「ほらほら、気合い入れていこうよ」

気合いがあれば何でも出来る・・・

そう思っていた時期が私にもありました・・・

気合いだけで何とかなったら苦労しないんだよおおおおおっ!

シャノン「重症だーっ!?ここに重症者がいるーっ!?」

それではまた次回いいいいい!うわあああああ!

シャノン「正気に戻ってえええええっ!」


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本戦開始

ガヴリールドロップアウトが面白い。


 翌日・・・俺と綺凛は、ステージに立っていた。

 

 『《鳳凰星武祭》も、いよいよ本戦に突入しましたぁ!果たして選手達は、どのような戦いを見せてくれるのでしょうか!?実況は私、ABCアナウンサーのナナ・アンデルセンが務めさせていただきまぁす!そして解説にはアルルカントOG、左近千歳さんをお迎えしておりまぁす!』

 

 『どうも~、よろしくお願いします~』

 

 ギャルっぽい喋り方をする女性アナウンサーと、関西弁の女性の声がする。今日はいつもとは違う会場なので、実況者と解説者が違うのだ。

 

 『千歳さんの弟さんは、アルルカントの生徒会長さんだそうですね?』

 

 『そうなんよ~。弟がお世話になってます~』

 

 「え、左近さんのお姉さんなの!?」

 

 思わず驚く俺。マジでか・・・

 

 『さてさてぇ、それでは選手の紹介に移りたいと思いまぁす!まずは星導館学園から、刀藤綺凛選手&星野七瀬選手です!』

 

 『《疾風刃雷》と《覇王》のタッグ・・・優勝候補やし、ホンマ楽しみやなぁ』

 

 「・・・だってよ、綺凛」

 

 「恐れ多いですね・・・ですが、優勝しか目指していないので」

 

 不敵に笑う綺凛。良いねぇ、その調子その調子。

 

 『対しますのは界龍第七学院より、宋然選手&羅坤展選手!界龍の序列二十位と二十三位のペアだぁ!』

 

 『あの《万有天羅》の直弟子やし、楽しませてくれそうやなぁ』

 

 と、辮髪の青年が俺の下へと歩み寄ってきた。

 

 えっと・・・宋の方か。

 

 「君が星野七瀬くんだな?」

 

 「そうだけど・・・どうかした?」

 

 「いや、師父から君のことを聞いていてね。一度戦ってみたいと思っていたんだ」

 

 「師父?」

 

 「《万有天羅》のことだ。弟子は皆、彼女を師父と呼んでいる」

 

 「あぁ、星露か」

 

 アイツ、弟子に何を吹き込んだんだ・・・

 

 「私も羅も、全力で相手をさせてもらうよ。お互い良い試合にしよう」

 

 「おう。負けないぞ」

 

 俺の言葉に笑みを浮かべると、宋は羅の下へ戻っていった。

 

 「・・・メッチャ良い奴だな」

 

 「・・・ですね」

 

 笑みを浮かべつつ、顔を見合わせる俺と綺凛。

 

 良いね、何か燃えてきたわ。

 

 「えーっと・・・宋が徒手空拳で、羅が棍の使い手か」

 

 「えぇ。打ち合わせ通りで大丈夫ですか?」

 

 「あぁ、問題無い。勝とうな」

 

 「はいっ」

 

 拳を軽く合わせる。胸の校章が発光し、機械音声が試合開始を告げた。

 

 

 

 『《鳳凰星武祭》四回戦第七試合、試合開始!』

 

 

 

 俺は宋へ、綺凛は羅の下へと駆け出した。向こうもそれぞれ向かってくる。

 

 どうやら、同じ考えだったみたいだな。

 

 「ハァッ!」

 

 繰り出される宋の右拳を受け止める。

 

 「・・・ッ!重いな!」

 

 「当然!」

 

 続けて左拳のアッパーが飛んでくるが、身体を反らしてかわす。隙をつき、宋の腹部へ膝蹴りを入れた。

 

 「ぐっ・・・!」

 

 よろめく宋。続けて顔面に、右ストレートをぶち込んだ。

 

 「ぐはっ!」

 

 吹き飛ぶ宋。受身を取ってすぐに起き上がるが・・・

 

 「ハッ!」

 

 間合いを詰めていた俺は、起き上がった宋の顎にアッパーを打ち込む。

 

 更にがら空きの腹部に右ストレートを・・・

 

 「七瀬さん!」

 

 綺凛の叫び声。右から殺気を感じ、咄嗟にジャンプする。俺のいた場所を、羅の棍が通過した。棍の上に着地し、羅の顎に蹴りを入れる。

 

 「がっ・・・!」

 

 呻く羅。今度は宋の拳が飛んできたので、一旦後方に飛び退いて距離をとる。俺の下に綺凛が駆け寄ってきた。

 

 「ス、スミマセン!隙をつかれてそちらへ逃がしてしまいました!」

 

 「大丈夫だよ。一旦仕切り直しといこう」

 

 綺凛の頭を撫でる俺。

 

 『な、何ということだぁっ!七瀬選手が、界龍の二人を体術で圧倒しているぅ!』

 

 『えらいことやで!?宋選手と羅選手は、体術を得意とする《木派》の所属や!その二人を相手に、体術で押しとるやん!』

 

 興奮した様子の実況と解説。

 

 「・・・見事な体術だな」

 

 痛そうに顎を擦る羅。宋も鼻血を拭っていた。

 

 「反応速度も速い。避けられるとは思わなかったぞ」

 

 「アンタも良いタイミングで攻撃してきたな・・・不意をつかれたよ」

 

 「そうは思えない反応だったぞ」

 

 苦笑する羅。

 

 「あそこで攻撃しないと、宋がやられる寸前だったからな。僅かな隙を強引に突破したのだ。宋、大丈夫か?」

 

 「・・・生憎、大丈夫とは言えないな」

 

 宋も苦笑している。

 

 「なるほど・・・師父が賞賛するのも頷ける。界龍に来てくれなかったのが惜しいな」

 

 「それ、星露にも言われたわ」

 

 あと、この前の解説の人も言ってたな・・・チャムさんだっけ?

 

 「さて、お喋りはこれくらいにしよう」

 

 構える宋と羅。そして・・・

 

 「ハァッ!」

 

 「せいッ!」

 

 俺に拳を放つ宋と、綺凛に棍を突き出す羅。俺と綺凛はそれぞれ受け止めた。

 

 「やぁっ!」

 

 腹部への膝蹴りを放ってくる羅。それを受け止め、後ろへ跳躍する。

 

 「逃がさん!」

 

 すかさず間合いを詰めてくる宋だったが・・・狙い通り。

 

 「ハァッ!」

 

 俺と宋の間を、綺凛が駆け抜けた。宋の校章が真っ二つに切れる。

 

 

 

 『宋然、校章破損』

 

 

 

 「な・・・!?」

 

 敗北を告げられ、驚愕している宋。俺は羅との間合いを詰める。

 

 「くっ・・・!」

 

 突き出された棍を、最低限の動きでかわす。そして懐に入り、校章を拳で割った。

 

 

 

 『羅坤展、校章破壊!』

 

 『試合終了!勝者、刀藤綺凛&星野七瀬!』

 

 

 

 『み、見事なコンビネーション!刀藤選手と七瀬選手、五回戦進出です!』

 

 『えぇ試合やったな!』

 

 盛り上がっている観客達。俺は刀をしまっている綺凛の下に歩み寄った。

 

 「サンキュー綺凛。狙い通りだったよ」

 

 「上手くいきましたね!」

 

 ハイタッチを交わす俺達。と、宋と羅が歩み寄ってきた。

 

 「参った。我々の完敗だ」

 

 苦笑する宋。

 

 「君が後ろへ跳躍したのは、私に間合いを詰めさせる為・・・詰める寸前で彼女に隙をつかせ、校章を破壊させることが目的だったんだな」

 

 「あぁ。綺凛と羅は、すぐ横で戦ってたからな。綺凛なら隙に気付いて、こっちへ来てくれると思ったんだ。こっちを気にしてくれてるのは、ちゃんと感じてたからな」

 

 綺凛の頭を撫でる俺。綺凛が頬を染め、照れくさそうに笑っている。

 

 「俺がそれに気付いた時、既に彼女は宋のすぐ近くまで接近していた」

 

 悔しそうな羅。

 

 「俺も羅も、君達の相手をするのが精一杯で・・・お互いをフォローしきれなかった。まだまだ修行が足りんな」

 

 「違いない」

 

 頷く宋。と、真剣な表情で俺達を見た。

 

 「《叢雲》と《華焔の魔女》は、君達の友人だそうだな?」

 

 「そうだけど・・・綾斗とユリスがどうかしたのか?」

 

 「あの二人が今日の試合で勝ったら・・・次の相手は、恐らくうちのペアだ。アイツらも今日の試合で、間違いなく勝つだろうからな」

 

 忌々しげに言う宋。

 

 「二人に伝えておくと良い。あの双子には、十分に気をつけろとな」

 

 「・・・ひょっとして、黎沈雲さんと黎沈華さんのことですか?」

 

 「あぁ、そうだ」

 

 綺凛の言葉に頷く羅。

 

 「アイツらは相手の弱点を執拗に攻めることで、相手を嬲って勝つことを目的としている。俺達は、どうしてもアイツらの戦い方が気に入らない」

 

 吐き捨てるように言う羅。俺達も黎兄妹の試合映像は見たが、確かに見てて気持ちの良いもんじゃなかったな・・・

 

 コイツらとは戦いたくないって、綺凛とも話してたし。

 

 「了解、伝えとくよ。アイツらも、今日の試合で勝つだろうしな」

 

 「確か相手は、レヴォルフの《吸血暴姫》だったな・・・大丈夫か?」

 

 「心配無いさ。いくらイレーネでも、一人であの二人を相手にするのは無理だ。それより・・・俺達の心配をしないとな」

 

 「ですね」

 

 険しい表情の綺凛。

 

 「この次の試合で勝ったペアが、私達の次の相手になるわけですが・・・まぁ間違いなく、彼女達でしょうね」

 

 「《神速》と《閃光》・・・君の姉上達だな」

 

 「あぁ。黎兄妹なんかより、遥かに強い相手だ」

 

 羅の言葉に頷く俺。厄介な相手だよな・・・

 

 「まぁどの道、あの二人を倒さなきゃ優勝なんて出来ない。やるしかないだろ」

 

 「ですね。私達は全力で戦うだけです」

 

 微笑む綺凛。宋と羅も笑みを浮かべた。

 

 「応援している。我々の分も頑張ってくれ」

 

 「あぁ、ありがとう」

 

 二人とガッチリ握手を交わす、俺と綺凛なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あぁもう、アイツらマジでしつこいわ・・・」

 

 俺達は勝利者インタビューを終え、控え室への通路を歩いていた。

 

 あのマスゴミ連中め・・・ホントうんざりだわ・・・

 

 「アハハ・・・」

 

 苦笑している綺凛。控え室の前までやってくると・・・

 

 「七瀬えええええっ!」

 

 「おわっ!?」

 

 五和姉が叫びながら飛びついてきた。後ろには六月姉もいる。

 

 「ナイスファイト!これで五回戦に進出だね!」

 

 「はいはい、ありがと」

 

 「でも・・・」

 

 不敵な笑みを浮かべる五和姉。

 

 「次の相手、私達だよ?」

 

 「それはこの後の試合に勝ってから言いなさい」

 

 「うきゅっ!?」

 

 五和姉にデコピンをお見舞いする。額を擦る五和姉。

 

 「うぅ・・・七瀬が冷たい・・・」

 

 「当然。五和は気が早すぎます」

 

 六月姉が呆れたように言う。

 

 「注意。試合では何が起きるか分かりません。負けるつもりなど毛頭ありませんが、気を引き締めて臨むべきです」

 

 と、六月姉が俺を見た。

 

 「質問。七瀬、あなたは知っていたのですか?」

 

 「ん?何を?」

 

 「回答。《叢雲》・・・天霧綾斗が力を制限されていることを、です。本来の力は、五分ほどしか維持出来ないのでしょう?」

 

 『なっ!?』

 

 驚愕する俺と綺凛。

 

 「何でそれを・・・」

 

 「回答。先ほど空間スクリーンで、別会場で行われていた彼と《華焔の魔女》の試合を拝見しました。試合には見事勝利したのですが・・・試合の途中で、相手の《吸血暴姫》が暴走してしまいまして」

 

 「イレーネが!?」

 

 暴走って、まさか・・・!

 

 「恐らく、《覇潰の血鎌》に意識を乗っ取られたんだろうね」

 

 真面目な表情の五和姉。

 

 「綾斗くんが《黒炉の魔剣》で《覇潰の血鎌》を壊したから、《吸血暴姫》も無事だったみたいだけど・・・綾斗くんの力が封印される瞬間を、皆が目撃しちゃったんだよ」

 

 「・・・ッ!リミットか・・・!」

 

 遂に綾斗の弱点が、公になっちまったな・・・

 

 「それで、綾斗とユリスは?」

 

 「ユリスちゃんが綾斗くんを抱えて、急いで奥へ引っ込んだよ。多分、控え室に行ったんだと思う。あの様子だと、綾斗くんは動けなさそうだったし」

 

 「補足。ちなみにウルサイス姉妹は、医療院へ搬送されました」

 

 「え、プリシラも!?」

 

 「首肯。妹の方は、暴走した姉に血を吸われすぎたようです」

 

 「七瀬さん、どうしましょう!?」

 

 オロオロしている綺凛。今にも泣き出しそうだ。

 

 「とりあえず、俺は医療院に行ってくる。綺凛は綾斗とユリスのところへ行ってこい」

 

 「わ、分かりました!後で連絡します!」

 

 慌てて駆けていく綺凛。俺は二人を見た。

 

 「ゴメンな二人とも。二人の試合を見させてもらおうと思ったけど・・・」

 

 「気にしないの。それより、早く行った方が良いよ」

 

 「同意。六月達は必ず勝ちますので、ご心配なく」

 

 笑う五和姉と、親指を立てる六月姉。

 

 「教えてくれてありがとな!行ってくる!」

 

 「気をつけてね!」

 

 「請願。お大事にとお伝え下さい」

 

 俺は二人に手を振り、医療院へと向かったのだった。

 




二話続けての投稿となります。

シャノン「あ、正気に戻ったんだね」

え、何の話?

シャノン「覚えてないの!?」

うん、休みが終わったことを嘆いてなんかいないよ?

シャノン「覚えてんじゃん!?」

ハハハ、もうどうにでもなってしまえー!

シャノン「正気に戻ってなかったーっ!?」

それではまた次回・・・あるかな。

シャノン「不吉なこと言わないで!?」


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カラオケ行きたい・・・


 「イレーネ!プリシラ!無事か!?」

 

 治療院に着いた俺は、二人の病室へと駆け込んだ。

 

 「七瀬!?何でここに!?」

 

 イレーネが驚いている。

 

 「いや、お前らが搬送されたって聞いたから。それより、大丈夫なのか?」

 

 「安心しな。二人とも大丈夫だ」

 

 「ご心配おかけしました」

 

 申し訳なさそうな顔のプリシラ。良かった・・・

 

 「ハァ・・・イレーネが暴走したって聞いた時は、マジで焦ったわ」

 

 「情けねぇことに、《覇潰の血鎌》に呑まれちまってな・・・プリシラの血を吸いすぎたせいで、プリシラを危険な目に遭わせちまった」

 

 俯くイレーネ。

 

 「天霧が《覇潰の血鎌》を破壊してくれたから、最悪の事態は免れたが・・・あたしは何てことを・・・」

 

 「お姉ちゃん・・・」

 

 落ち込むイレーネを、心配そうに見つめるプリシラ。

 

 やれやれ・・・

 

 「せいっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 イレーネの頭に拳骨を落とす。頭を押さえるイレーネ。

 

 「な、何しやがる!?」

 

 「むしゃくしゃしてやりました。反省はしていません」

 

 「ふてぶてしいなオイ!?ってか、男が女を殴るってどうなんだよ!?」

 

 「男女平等だ」

 

 「この場面で使う言葉か!?」

 

 「ぷっ・・・あははっ!」

 

 堪えきれず、プリシラが笑い出す。

 

 「ちょ、プリシラ!?何で笑うんだよ!?」

 

 「だって、何か面白くて・・・ぷっ」

 

 「わ、笑うなー!」

 

 うんうん、イレーネはこうでないとな。

 

 「イレーネ」

 

 イレーネを真っ直ぐ見つめる俺。

 

 「プリシラの手、絶対に離すなよ。離したら、一生後悔することになるぞ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「大切な人の声が聞こえなくなったら、もう取り返しがつかなくなるからな。大切なものは、両手でしっかり掴んどけ。経験者からの有り難いアドバイスだ」

 

 「・・・あぁ。絶対に離さねぇよ」

 

 プリシラの手を握るイレーネ。

 

 「もう《覇潰の血鎌》には頼らねぇ。自分の手で、大切なものを守ってみせる」

 

 「それで良し。ところで、《覇潰の血鎌》はマジで壊れたのか?」

 

 「あぁ、粉々にな。ま、コアのウルム=マナダイトは回収できたみたいだぜ」

 

 「・・・《悪辣の王》の反応は?」

 

 「それがビックリ、お咎め無しだとよ。まぁ命令は遂行出来なかったから、借金は減らないけどな」

 

 肩をすくめるイレーネ。何にせよ、お咎め無しで良かったわ。

 

 と・・・

 

 「・・・お姉ちゃん」

 

 イレーネを見つめるプリシラ。

 

 「私、強くなりたい。お姉ちゃんが戦うなら、私も一緒に戦いたい。守られてるだけじゃなくて、お姉ちゃんの隣に立ちたいの」

 

 「プリシラ・・・」

 

 驚くイレーネ。

 

 「本気なのか・・・?」

 

 「勿論。絶対にお姉ちゃんより強くなるんだから」

 

 プリシラの言葉に、呆然とするイレーネ。やがてフッと笑った。

 

 「・・・そっか。楽しみにしてるぜ」

 

 「うん。見ててね」

 

 微笑むプリシラ。この姉妹は、ここから新たなスタートを切るんだろうな。今度は二人で、共に戦う道を歩んでいくんだろう。

 

 良かったな・・・

 

 「じゃ、俺は帰るな。綾斗達のところにも行かないと」

 

 「あ、七瀬!」

 

 俺を呼び止めるイレーネ。

 

 「ん?」

 

 「いや、その・・・ありがとな。わざわざ来てくれて」

 

 照れくさそうに笑うイレーネ。

 

 「おう。《鳳凰星武祭》が終わったら、またゆっくり食事でもしようぜ」

 

 「良いですね!私、また腕を振るっちゃいますよ!」

 

 「マジで!?じゃあパエリア頼むわ!」

 

 「了解です!たくさん作りますね!」

 

 「キターッ!」

 

 「いや、テンション上がりすぎじゃね!?」

 

 イレーネのツッコミ。いや、だってプリシラのパエリア絶品だし!

 

 「じゃ、楽しみにしてるわ」

 

 「おう。天霧達にもよろしく言っといてくれ」

 

 「今度改めてお礼をしたいと伝えてもらえますか?」

 

 「了解、伝えとくよ。またな」

 

 二人に手を振り、病室を出る俺。と・・・

 

 「良かったね、七瀬」

 

 不意に女性の声が聞こえた。ため息をつく俺。

 

 「・・・盗み聞きなんて、趣味が悪いぞ」

 

 「あれ、驚かないの?」

 

 「この程度で驚いてたら、キャラの濃い姉達の弟は務まらないからな」

 

 「アハハ、それもそっか」

 

 病室のすぐ側に、一人の女性が立っていた。茶髪のロングヘアで、白衣を着ている。

 

 「久しぶり。ちょっと見ない間に、ずいぶん大きくなったね」

 

 「何がちょっとだよ。全然実家に帰ってこないじゃん」

 

 「むぅ・・・だって仕事が忙しいんだもん」

 

 頬を膨らませる女性。やれやれ・・・

 

 「相変わらず仕事人間だな・・・一織姉」

 

 目の前の女性・・・星野一織を見て、ため息をつく俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「仕事中だったんじゃないの?」

 

 「休憩してくるって言ってきたから平気。こっちは休日返上で働いてるんだから、これぐらいしてもバチは当たらないでしょ」

 

 笑いながら運転する一織姉。俺は一織姉の車で、星導館に向かっていた。

 

 先ほど綺凛から、綾斗達と共に学園へ帰るという連絡があったのだ。

 

 「休日返上って・・・そんなに忙しいんだ?」

 

 「《星武祭》の開催期間中は特にね。試合でケガして搬送されてくる学生も多いし」

 

 「・・・なるほど。治癒能力者も大変だね」

 

 「まったくだわ・・・」

 

 ため息をつく一織姉。

 

 そう、一織姉は治癒能力者なのだ。治癒系の能力者は極めて少なく、協定によってアスタリスク直轄の治療院に集められている。

 

 学生時代はバリバリ戦っていた一織姉も、今では治療院で働いているのだ。

 

 「治療院に行く以上、一織姉と会うリスクも考えたんだけど・・・」

 

 「え、今リスクって言った?言ったよね?」

 

 「会っちゃったなぁ・・・残念だわ」

 

 「何が残念なの!?私って避けられてるの!?」

 

 「勿論」

 

 「何でよおおおおおっ!?」

 

 叫ぶ一織姉。相変わらず愉快な人だな・・・

 

 「これで会ってないのは四糸乃姉だけか・・・会いたいな」

 

 「七瀬は四糸乃に懐いてたもんねぇ」

 

 「懐いてたっていうか、唯一まともな姉さんだったからな」

 

 「私は!?」

 

 「二葉姉以上、三咲姉以下だな」

 

 「納得しちゃってる自分が怖い!」

 

 納得しちゃうんだ・・・いや、事実なんだけどね。

 

 「でも、四糸乃姉は忙しいもんなぁ・・・ま、来年の《獅鷲星武祭》には出てくるだろうけど」

 

 「七瀬は出ないの?」

 

 「チームへの勧誘は受けてるよ。今のところ、返事は保留してるけど」

 

 「あら、迷ってるの?」

 

 「・・・意味の無い戦いはしたくないからな。《鳳凰星武祭》だって、綺凛の願いを叶えてやりたくて出てるだけだし」

 

 「・・・そう。七瀬がそう決めているなら、私は何も言わないわ」

 

 ため息をつく一織姉。

 

 「でも、七瀬がシルヴィの件を引きずっているなら・・・」

 

 「一織姉」

 

 一織姉の言葉を遮る俺。

 

 「俺はもう、大切な人を傷つけたくない。自分の為に戦うのは、もう止めたんだ」

 

 「・・・そっか」

 

 一織姉はそれだけ呟くと、後は何も言わなかった。

 

 やがて星導館の正門前に着く。車から降りる俺達。

 

 「懐かしいなぁ・・・」

 

 「卒業してから来てないの?」

 

 「来てないわよ。仕事も忙しいし」

 

 苦笑する一織姉。と・・・

 

 「七瀬さん!」

 

 綺凛が駆け寄ってくる。

 

 「あれ、綺凛?綾斗達は?」

 

 「今、リースフェルト先輩のトレーニングルームにいます。私はそろそろ七瀬さんが来る頃だと思ったので、ちょうど出てきたところです」

 

 「そっか。ありがとな」

 

 綺凛の頭を撫でる俺。

 

 「じゃ、私は戻るね」

 

 「おう。送ってくれてありがとな」

 

 一織姉が綺凛を見る。

 

 「刀藤さん、七瀬をよろしくね」

 

 「ふぇっ?あ、はい!」

 

 一織姉は微笑むと、車で治療院に帰っていったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「えぇっ!?七瀬さんのお姉様だったんですか!?」

 

 「あぁ、一織姉だよ」

 

 俺と綺凛は、ユリスのトレーニングルームで皆と合流していた。

 

 「ど、どうして言ってくれなかったんですか!?」

 

 「いや、紹介する前に帰るって言うから」

 

 「それにしても、治療院で働いているとはな・・・」

 

 驚いているユリス。

 

 「まさか治癒能力者とは・・・知らなかったぞ」

 

 「一織姉は高等部卒業後、星猟警備隊に入ったんだ。そこで治癒系の能力に目覚めて、治療院で働くことになったんだよ」

 

 「フフッ、警備隊長殿が嘆いていらっしゃいましたよ。優秀な人材を奪われたと」

 

 笑うクローディア。

 

 「ま、しょうがないだろ。治癒能力者は希少なんだから。ところで・・・」

 

 俺は床に寝そべる綾斗を見た。

 

 「綾斗、お前大丈夫なのか?」

 

 「・・・正直、大丈夫じゃないね」

 

 苦笑する綾斗。見るからにしんどそうだ。

 

 「レッドラインの五分を、かなりオーバーしちゃったからね・・・この分だと、明日の試合で封印を破るのは無理かな・・・」

 

 「封印状態であの双子の相手か・・・厳しいな」

 

 険しい顔のレスター。まぁ確かに厳しいわな・・・

 

 「それより、七瀬達は大丈夫なのか?」

 

 紗夜が尋ねてくる。

 

 「明日の五回戦、相手は七瀬のお姉さん達に決まったと聞いた」

 

 「あぁ。今日の試合も勝ったみたいだしな」

 

 あの二人なら勝ち進んでくると思ったが、案の定だったな・・・

 

 「ま、何とかするさ。ここで負けるわけにはいかないしな」

 

 「ですね。私も頑張ります」

 

 笑顔の綺凛。何この子、天使ですか?

 

 「ところで七瀬、イレーネとプリシラさんは・・・」

 

 「安心しろ、二人とも元気だ。今度改めてお礼させてほしいってよ」

 

 「そっか・・・良かった」

 

 ホッと息をつく綾斗。

 

 「ありがとな、二人を救ってくれて」

 

 「放っておけなかったからね。助けられて良かったよ」

 

 「こっちは全然良くないぞ」

 

 不機嫌なユリス。

 

 「お前は無茶し過ぎだ。明日の試合、どうするつもりだ?」

 

 「・・・頑張ります」

 

 それしか言えない綾斗。ドンマイ。

 

 「ま、そこはユリスがフォローするしかないだろ。その為のペアなんだから」

 

 「無論そのつもりだが・・・相手が相手だ。私もフォローしきれないかもしれん」

 

 「だよな・・・今日俺達が戦った宋と羅が、あの双子には気をつけろって忠告してくれたよ。相手の弱点を突いて、嬲って勝つことが目的みたいだしな。となると・・・」

 

 「今の綾斗は格好の餌食だな・・・」

 

 「・・・ゴメン」

 

 ため息をつくユリスに謝る綾斗。

 

 「まぁ、それはどうにかしよう。ここで負けてはいられないからな。明日の五回戦で双子に勝った場合、我々の準々決勝の相手は・・・」

 

 「・・・俺と綺凛のペア、もしくは五和姉と六月姉のペアになるな」

 

 ユリスと綾斗を見る俺。

 

 「俺と綺凛は、必ず明日の試合で勝つ。だからお前らも勝て」

 

 「準々決勝で戦いましょう」

 

 俺と綺凛の言葉に、ニヤリと笑うユリスと綾斗。

 

 「綾斗、明日は負けられないな」

 

 「あぁ。何が何でも勝ちにいこう」

 

 「綺凛、俺達も勝つぞ」

 

 「はいっ!」

 

 気合いを入れる俺達なのだった。

 




三話続けての投稿となります。

七瀬の姉、一織が出てきましたね。

シャノン「モチーフは?」

『ソードアート・オンライン』のアスナだよ。

シャノン「ビッチ先生のお姉さんがアスナって・・・」

それは言わないで!?

あと、また投稿間隔が空いてしまいそうです。

シャノン「もうお馴染みだよね」

ホントすいません・・・

それではまた次回・・・あるかな。

シャノン「だから不吉なこと言わないでよ!?」


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試合前

皆、久しぶりーっ!

ムッティが帰ってきたよーっ!



・・・スイマセン、調子に乗りました。


 翌日、俺と綺凛は控え室で待機していた。あともう少しで、五和姉と六月姉との試合が始まる。

 

 俺はいつになく緊張していた。

 

 「七瀬さん、大丈夫ですか?」

 

 綺凛が心配そうに声をかけてくれる。

 

 「大丈夫だよ。ちょっと緊張で吐きそうなだけだから」

 

 「それ全然大丈夫じゃないですよねぇ!?」

 

 「大丈夫だって。大したことな・・・おえっ」

 

 「な、七瀬さあああああんっ!?」

 

 ゴミ箱に顔を突っ込む俺を見て、慌てて綺凛が背中を擦ってくれる。

 

 「うぅ・・・緊張する・・・」

 

 「ほ、本当に大丈夫ですか・・・?」

 

 「・・・ゴメン。やっぱり大丈夫じゃないな」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「俺は今まで、あの二人に勝てたことが無い。でも今回、俺は絶対に勝たないといけないんだ。綺凛の願いを叶える為にも・・・」

 

 「七瀬さん・・・」

 

 「それにあの二人に勝てないようじゃ・・・シルヴィアにだって勝てない。だからこそ俺は、ここで負けるわけにはいかないんだよ」

 

 強く拳を握る俺。と、その上に綺凛の手が重ねられた。

 

 「・・・一人で背負わないで下さい」

 

 優しく微笑む綺凛。

 

 「私は七瀬さんのタッグパートナーです。いつだって七瀬さんの隣にいるんですから」

 

 「綺凛・・・」

 

 「七瀬さんは、私の為に戦ってくれています。私の背負っているものを、一緒に背負ってくれています。なら私にも、七瀬さんの背負っているものを背負わせて下さい。それがパートナーというものでしょう?」

 

 屈託の無い笑顔で言う綺凛。参ったな・・・

 

 「・・・これじゃ、どっちが年上か分かんないわ」

 

 「フフッ、私だって大人になってるんですよ」

 

 「・・・確かに。大きいもんな」

 

 「ちょ、何処見て言ってるんですか!?」

 

 綺凛が赤面しながら、慌てて両腕で胸を覆う。俺は思わず笑ってしまった。

 

 「うぅ・・・七瀬さんはエッチですぅ・・・」

 

 「ゴメンゴメン」

 

 綺凛の頭を撫でる俺。

 

 「・・・ありがとな、綺凛。おかげで落ち着いたよ」

 

 「・・・もう大丈夫そうですか?」

 

 「あぁ、大丈夫だ」

 

 俺は綺凛に笑いかけた。

 

 「俺は一人じゃない。隣で綺凛が一緒に戦ってくれるんだ。絶対、一緒に勝とうな」

 

 「はいっ」

 

 笑顔で頷く綺凛。

 

 その時、試合開始が迫ったことを告げるアラームが鳴り響いた。

 

 「よし、行こうか」

 

 「そうですね」

 

 控え室を出る俺と綺凛。と、ドアの側に三咲姉が立っていた。

 

 「え、三咲姉!?何でここに!?」

 

 「先ほどまで、五和と六月の控え室にいました。ガラードワースの一員として、味方の対戦相手の控え室に来るのはどうかとも思いましたが・・・」

 

 苦笑する三咲姉。

 

 「それでも七瀬は・・・私の大切な弟ですから。一言だけ激励しに来ました」

 

 「三咲姉・・・」

 

 「私から言えることは、一つだけです」

 

 三咲姉が、俺に拳を突き出した。

 

 「七瀬・・・全力でぶつかってきなさい」

 

 「・・・あぁ。ありがとな、三咲姉」

 

 俺は微笑み、三咲姉の拳に自分の拳を合わせた。

 

 「悪いけど、勝利は譲れない。五和姉と六月姉には、ここで敗退してもらう」

 

 「その意気や良し、ですね。楽しみにしてますよ」

 

 微笑み返す三咲姉なのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

 『今年の《鳳凰星武祭》も、いよいよ五回戦まで進んで参りました!この五回戦を勝ち抜いたタッグはベスト八・・・準々決勝へと進出することができます!果たしてどのような顔触れになるのでしょうか!?』

 

 『いよいよ佳境ッスねー。注目のタッグもまだまだ残っていて、これからぶつかるのがとても楽しみッス』

 

 お馴染みの実況と解説、梁瀬ミーコさんとファム・ティ・チャムさんの声が響く。

 

 『それでは五回戦の第一試合へいきましょう!何といきなり、注目のタッグ同士の対戦となっております!まず姿を見せたのは、星導館学園の刀藤綺凛選手・星野七瀬選手のタッグです!』

 

 俺と綺凛がステージへ上がると、割れんばかりの大歓声が出迎えてくれる。

 

 『ここまで危なげなく勝ち進んできた刀藤選手と七瀬選手ですが、チャムさんはどのようにご覧になっているでしょうか?』

 

 『二人とも強いのは勿論ッスけど、コンビネーションが素晴らしいッスね。特に四回戦では、七瀬選手が隙を作って刀藤選手がそこを突いて勝利を収めたッス。お互いを信頼しているからこそ、ああいった戦法を取れたんだと思うッスよ』

 

 「・・・何か恥ずかしいな」

 

 「・・・ですね」

 

 こんな風に大勢の観客の前で賞賛されると・・・嬉しいけど照れ臭いわ。

 

 俺達が照れ笑いを浮かべていると・・・

 

 「でも、間違いなく事実だよ」

 

 「賞賛。素晴らしいタッグだと思います」

 

 五和姉と六月姉がステージに上がってきた。

 

 『おぉっと、ガラードワースの星野五和選手・星野六月選手が姿を見せました!今回の《鳳凰星武祭》優勝最有力との呼び声高いタッグです!』

 

 『ここまで相手を瞬殺してきてるッスからね。そのスピードで相手を圧倒してきたッスけど、刀藤選手も七瀬選手もスピードは負けてないッス。どういった戦いになるのか、注目したいところッスね』

 

 『そして姉弟対決にも注目です!ご存知の通り七瀬選手は、五和選手・六月選手の弟さんです!果たして姉が勝つのか!?それとも弟が勝つのか!?』

 

 「姉が勝ちを譲るっていう結末とか無い?」

 

 「いや、無いに決まってるでしょ」

 

 呆れている五和姉。

 

 「じゃあいいや。五和姉が土下座するっていう結末で妥協しよう」

 

 「何処を妥協したの!?むしろ酷くなってない!?」

 

 「提案。全裸で土下座させましょう」

 

 「お、六月姉ナイスアイデア」

 

 「この場に私の味方は居ないの!?いくら私でも泣くよ!?」

 

 「「泣け喚け叫べ」」

 

 「チクショオオオオッ!?」

 

 「ア、アハハ・・・」

 

 突っ伏してシクシク泣いている五和姉。それを見て、綺凛が苦笑していた。

 

 「ま、冗談はさておき・・・来い、《神の拳》」

 

 俺の両手に、金色の純星煌式武装が装着された。五和姉と六月姉が驚いている。

 

 「・・・ここできたか、《神の拳》」

 

 「これまでの試合では使っていませんでしたが・・・」

 

 「あまり使いたくはないけど・・・二人が相手じゃ、出し惜しみしてらんないからな」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「姉さん達を相手に、《神の拳》を使ったことって無かったよな・・・悪いけど、手加減なんて出来ないから」

 

 「反論。そんなもの必要ありません」

 

 「あんまり姉を舐めてもらっちゃ困るなー」

 

 二人はニヤリと笑うと、レイピアを起動した。

 

 「いくぞ、綺凛」

 

 「はい!」

 

 綺凛が日本刀・・・《千羽切》を鞘から抜く。

 

 『さぁ、いよいよ試合が始まります!果たしてベスト八に進むのは、どちらのタッグになるのでしょうか!?』

 

 俺達が構える中、機械音声が試合開始を告げるのだった。

 

 『《鳳凰星武祭》五回戦一組、試合開始!』

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「このアホ作者っちいいいいいいいいいい!!!!!」

うおっ!?どうしたシャノン!?

シャノン「どうしたじゃないでしょ!?最後に投稿したのいつよ!?」

・・・今年の一月ですね。

シャノン「七ヶ月も何してたの!?」

他の作品にハマってました☆

シャノン「死んでしまえ」

スイマセンでした!全然執筆意欲が湧かなかったんです!

シャノン「おおう・・・遂にぶっちゃけたね・・・」

でもこの間久々に書いてみたら、何か面白くて!

もうすぐアスタリスクの新巻も出るっていうし!

とりあえず熱が冷めるまで書くんで!ホントすいませんでした!

シャノン「熱が冷めるまでって・・・まぁいいや。私の出番増やしてね」

今のところ出してないんだけどね☆

シャノン「・・・」

ちょ、無言で武器出さないd・・・ギャアアアアア!!!!!

シャノン「作者死亡の為、この作品は終わります。ご愛読ありがとうございました」

※終わりません。作者はかろうじて生きてます。


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姉 vs 弟

シャノン「あのー・・・作者っち?やり過ぎちゃってゴメンね・・・?」

いやいや、気にしないd・・・ゴフッ(吐血)

シャノン「さ、作者っちいいいいい!!!!!」


 試合開始が告げられた瞬間・・・

 

 「はぁっ!」

 

 俺の目の前には五和姉がいた。校章に向けてレイピアを突き出してくる。

 

 俺は身体を捻って避け、レイピアに向けて手刀を振り下ろした。

 

 「ヤバッ!?」

 

 慌ててレイピアを引っ込める五和姉。そのまま蹴りを放つが、後方へジャンプして距離を取られた。

 

 「コラ七瀬!私のレイピアを破壊しようとしないの!」

 

 「嫌に決まってんだろ。レイピアの無い五和姉なんて、海桜石の手錠を填められた能力者ぐらい無力なんだから。そりゃ破壊したいわ」

 

 「そこまで!?私そこそこ身体能力には自信あるんだけど!?」

 

 「黙れ貧乳」

 

 「だから誰が貧乳よ!?皆が大きすぎるだけだから!」

 

 五和姉がギャアギャア喚いている一方、綺凛と六月姉は剣の打ち合いをしていた。

 

 「驚嘆。これが刀藤流ですか・・・流石です」

 

 「六月さんこそ。隙の無い剣捌き・・・お見逸れしました」

 

 「感謝。褒めていただいて光栄です」

 

 どうやら、六月姉の相手は綺凛に任せて良さそうだ。俺は五和姉に向き直った。

 

 「さて・・・続きといこうか」

 

 「言われなくても!」

 

 再び五和姉が接近してくる。繰り出される突きを避け、隙を見て拳を放った。

 

 だが、五和姉は最小限の動きで避ける。

 

 『お互いの攻撃を避け合う七瀬選手・五和選手と、剣を打ち合う刀藤選手・六月選手!序盤から激しい攻防戦が繰り広げられています!』

 

 『注目は七瀬選手と五和選手の攻防ッスね。五和選手のレイピアは普通の煌式武装ッスから、七瀬選手の純星煌式武装・・・《神の拳》に触れさせることが出来ないッス。そんなことしたら、レイピアが砕けてしまうッスからね』

 

 チャムさんが冷静に解説している。

 

 『なるほど。そうすると、七瀬選手が有利ということでしょうか?』

 

 『いや、そうとも言えないッス。五和選手の剣技は素晴らしいですし、先ほどから拳以外を狙って攻撃してるッス。七瀬選手はその軌道に《神の拳》を置くことでレイピアを破壊しようとしてるッスけど、五和選手は寸前でそれを避けて違う場所を攻撃してるッス。七瀬選手も何とか避けていて、本当にギリギリの攻防戦をやってるって感じッスね』

 

 実際、避けるのもかなりギリギリだった。《神速》の二つ名通り、五和姉の剣のスピードは尋常じゃない。

 

 一瞬たりとも気が抜けないのだ。

 

 「んー、困ったなー」

 

 苦笑している五和姉。

 

 「一撃も掠らないとは思わなかったよ。おまけに七瀬の拳をレイピアで受けるわけにはいかないから、どうしても避けなきゃいけないし・・・あー、やり辛い」

 

 「そりゃこっちのセリフだわ。寸前で剣の軌道を変えてきやがって・・・テキトーな性格してるくせに、何でそんな繊細なマネが出来んだよ」

 

 「誰がテキトーよ!?」

 

 そう言いながら突きを放ってくる五和姉。俺は突いてくる場所を見極め、そこへ星辰力を集めた。

 

 次の瞬間、強烈な衝撃が走る。だが・・・

 

 「おらぁっ!」

 

 「うわっ!?」

 

 レイピアを殴り、真っ二つに叩き折る。そしてすかさず膝蹴りを放った。

 

 「ごふっ!?」

 

 左脇腹に入り、フィールドを転がっていく五和姉。

 

 「五和!?」

 

 驚愕している六月姉。俺は綺凛と打ち合っている六月姉との距離を詰めた。

 

 こちらへとレイピアを向ける六月姉だったが・・・

 

 「やぁっ!」

 

 「くっ・・・!?」

 

 綺凛が下から刀で、六月姉のレイピアを跳ね上げる。がら空きになった腹部に、右ストレートをぶち込んだ。

 

 「がはっ!?」

 

 勢いよく吹っ飛び、フィールドの壁に叩きつけられる六月姉。《神の拳》で放った右ストレートは、さぞかし効いたことだろう。

 

 『五和選手・六月選手が攻撃をもろにくらったーっ!これは大丈夫なのか!?』

 

 『五和選手はともかく、六月選手は《神の拳》の一撃をまともにくらったッスからね。意識消失の合図は、今のところ無いッスけど・・・』

 

 「七瀬さん!」

 

 綺凛が駆け寄ってくる。

 

 「ナイスだ綺凛。おかげで六月姉に一撃入れられた」

 

 「いえ、こちらこそ助かりました!ですが・・・」

 

 「あぁ。これで倒せるほど、あの二人は甘くない」

 

 俺はフィールドに倒れている二人を見た。

 

 と、五和姉がゆっくり立ち上がる。痛そうに顔を顰め、脇腹を擦っている。

 

 「痛てて・・・容赦無いなー、七瀬は」

 

 「当然だろ。容赦出来るほど、俺は強くもないからな」

 

 「いやいや、強いよ。正直ちょっと舐めてたわ」

 

 苦笑する五和姉。

 

 「昔より強くなったのは分かってたつもりだったけど・・・実際に戦ってみないと分かんないね、やっぱり。レイピアも折られちゃったし」

 

 折れたレイピアを見つめ、溜め息をついて放る五和姉。

 

 「六月ー、いつまで寝てんのさー?これで倒されるほどヤワじゃないでしょー?」

 

 「・・・反論。ヤワではありませんが、さっきの一撃はヤバかったです」

 

 よろよろと起き上がる六月姉。

 

 「説明。五和と違って、六月は《神の拳》の一撃をまともにくらったのですよ?普通なら一撃でK.O.です」

 

 「大丈夫、アンタ普通じゃないから」

 

 「抗議。心外です」

 

 と、六月姉がこっちを見た。

 

 「感動。七瀬、強くなりましたね。お姉ちゃんは嬉しすぎて泣きそうです」

 

 「嬉しすぎっていうか、痛すぎて泣きそうな顔してるけど・・・大丈夫?」

 

 「反論。大丈夫ではありません。罰として今度、買い物に付き合ってもらいます」

 

 「あ、ずるい!じゃあ私も!」

 

 「・・・何で試合で戦ってるだけなのに、罰とか受けなきゃいけないんだろう」

 

 「アハハ・・・」

 

 げんなりしている俺を見て、綺凛が苦笑する。

 

 「まぁとりあえず・・・この試合は勝たせてもらうぞ」

 

 「それはコッチのセリフだよ」

 

 俺の言葉にニヤリと笑う五和姉。懐から別の煌式武装の起動体を取り出した。

 

 「レイピアで勝てると思ってたけど・・・認識が甘すぎたかな」

 

 起動する五和姉。五和姉の手に、黒の大剣が現れた。

 

 おい、あれって・・・!

 

 「まさか・・・《黒皇剣》!?」

 

 「お、流石だね。正解」

 

 笑う五和姉。綺凛が警戒して身構えている。

 

 「・・・七瀬さん。あの剣、強力なオーラを感じます。あれは一体・・・」

 

 「《黒皇剣》・・・純星煌式武装の一つだ」

 

 「なっ・・・」

 

 絶句する綺凛。五和姉が笑う。

 

 「これ、ガラードワースの学有純星煌式武装でね。前回の《獅鷲星武祭》で負けた後、適性検査を受けて合格したんだけど・・・使っても良いよね、六月?」

 

 「・・・了承。六月もアレを使うことにします」

 

 そう言うと六月姉も、別の起動体を取り出した。

 

 次の瞬間、赤の大剣が現れる。

 

 「《赫皇剣》・・・よりにもよって、《二大皇剣》の使い手が二人だなんて・・・」

 

 思わず苦い顔になる。

 

 《黒皇剣》と《赫皇剣》は、純星煌式武装の中で《二大皇剣》と呼称されるものだ。

 

 その力は《四色の魔剣》・・・綾斗の《黒炉の魔剣》や、アーネストの《白濾の魔剣》に匹敵すると言われている。

 

 厄介だな・・・

 

 「二人の決闘の映像はチェックしたけど、その剣を使った映像は無かったはず・・・」

 

 「回答。決闘では使わず、六月と五和が一対一で模擬戦をやる時のみ使っていました。この剣は六月達にとっての隠し玉なので、情報の漏洩には気を遣ったのです」

 

 淡々と答える六月姉。

 

 「今回《鳳凰星武祭》に参加したのは、この剣の力を試す為なんだよ。来年の《獅鷲星武祭》の予行演習ってわけ。まぁ、まさか五回戦で使うとは思わなかったけどね」

 

 苦笑する五和姉。そして目をギラギラと輝かせ、俺達に剣先を向けるのだった。

 

 「さて・・・第二ラウンドといこうか」

 




どうも~、ムッティd・・・ガハッ(吐血)

シャノン「ホントゴメン!やり過ぎちゃってゴメン!」

いいんだよ、シャノン・・・俺の自業自得さ・・・

俺はもう長くない・・・元気でな、シャノン・・・

シャノン「もう出番増やせとか言わないからっ!元気になってよ作者っち!」

出来れば・・・お前の出番を増やして・・・やりたかっ・・・た・・・

・・・・・チーン。

シャノン「さ・・・作者っちいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!」

ま、生きてるんですけどね。

シャノン「・・・チッ」

今舌打ちした!?ねぇ舌打ちした!?

シャノン「それではまた次回!」

ちょ、待って!?勝手に締めないで!?


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臆病者

久々にアスタリスクのアニメ観たい・・・

っていうか、三期やらないかな・・・


 「おりゃあっ!」

 

 「ぐっ・・・!?」

 

 五和姉の一撃を受け止める俺。剣が《黒皇剣》に変わったことで、《神の拳》とまともに打ち合えるようになっているが・・・

 

 それにしても、一撃が重過ぎる。

 

 「ほらほらっ!さっきまでの威勢はどうした!?勝つんじゃなかったの!?」

 

 「言われなくてもっ・・・!」

 

 振り下ろされた剣を右手で掴み、左拳で攻撃しようとするが・・・

 

 「ふんっ!」

 

 「がっ・・・!?」

 

 剣の柄を持ちながら後ろへ引いて避け、一気に前に出てきて顎に蹴りを入れられる。よろめいて剣を持つ力が抜けると同時、五和姉が突きを放ってきた。

 

 「うおっ!?」

 

 すんでのところでかわしたが、頬を掠めて血が流れる。そのまま殴りかかるが、バックステップで距離を取られた。

 

 「チッ、やっぱり打ち合いになると分が悪いか・・・」

 

 最初はレイピアだったから、五和姉も《神の拳》に触れさせないように気を遣っていた。

 

 だが今は気を遣う必要が無い分、思いっきり踏み込んでくる。五和姉はパワータイプだから、全力で攻撃されるとかなりキツいのだ。

 

 しかも今の五和姉は・・・

 

 「どうしたの七瀬?これで終わりじゃないよね?」

 

 目をギラギラさせ、獰猛な笑みを浮かべる五和姉。その様子は、まるで《覇潰の血鎌》を使っている時のイレーネのようだ。

 

 どうやら五和姉は、《黒皇剣》の影響を受けているようだ。これが《黒皇剣》を使う代償・・・精神干渉か。

 

 一方・・・

 

 「くっ・・・!」

 

 「質問。どうしました?先ほどから防戦一方ですが」

 

 六月姉が《赫皇剣》で、綺凛に猛攻を仕掛けていた。綺凛の刀は普通の日本刀なので、純星煌式武装である《赫皇剣》と打ち合えない。

 

 故にひたすら攻撃を避け、隙をついて攻撃するしかないのだが・・・

 

 「宣言。攻撃する隙など与えません」

 

 「ッ!?」

 

 六月姉の猛攻に、綺凛も防御が精一杯みたいだ。と・・・

 

 「余所見はいただけないなー」

 

 「ッ!?」

 

 再び攻撃してくる五和姉。俺は《黒皇剣》を受け止めた。

 

 「あ、それとも六月と戦いたい?お姉ちゃん嫉妬しちゃうなー」

 

 「・・・五和姉、そんな精神干渉受けて疲れない?」

 

 「いや、逆に気分が良いね。清々しいよ」

 

 笑う五和姉。だが、いつもとは違う怖い笑みだ。

 

 「七瀬はどうなの?《神の拳》から精神干渉受けてるんでしょ?」

 

 「今のところ大丈夫。無視できるレベルだから」

 

 「へー・・・シルヴィの時も、無視できたら良かったのにね」

 

 「ッ!?」

 

 固まる俺。その一瞬を逃さず、五和姉が俺の腹部に膝蹴りをぶち込んできた。

 

 「がはっ!?」

 

 勢いよくフィールドを転がる俺。

 

 「ハハッ、さっきの仕返し。ダメだよ、敵の言葉に動揺しちゃ」

 

 笑顔の五和姉。

 

 「でも七瀬、やっぱりシルヴィのこと引きずってるんだね・・・いつまでもうじうじしてないで、早くシルヴィに会ったら良いじゃん」

 

 「・・・どの面下げて会えって言うんだよ」

 

 ふらつきながら立ち上がる俺。

 

 「俺はアイツを殺しかけた。下手したらアイツは死んでたんだ。そんな奴が、どんな顔してアイツと会ったら良いんだよ?アイツだって、俺なんかと会いたくないだろ」

 

 「じゃあ何で七瀬はアスタリスクに来たの?」

 

 「・・・それは」

 

 「シルヴィと戦う為、だっけ?でもそれって、要はもう一度シルヴィに会いたいってことじゃないの?違う?」

 

 五和姉の言葉に、俺は何も言えなかった。そんな俺を見て、五和姉が溜め息をつく。

 

 「・・・臆病者」

 

 「・・・ッ!」

 

 「七瀬はさ、シルヴィに会うのが怖いんでしょ?ビビッてるんでしょ?」

 

 「・・・黙れ」

 

 「結局、七瀬はあの時から何も成長してないじゃん。何も変わってないじゃん」

 

 「・・・黙れって言ってんだよ」

 

 「全く、我が弟ながら情けないね。シルヴィもこんな奴のどこが良いんだか・・・」

 

 「黙れクソアマアアアアアッ!」

 

 怒りに身を任せ、五和姉に殴りかかる。だが・・・

 

 「無駄だよ」

 

 剣の切っ先で拳を逸らされる。五和姉の拳が、俺の顔面を捉えた。

 

 「がっ・・・!?」

 

 吹き飛ぶ俺。五和姉が《黒皇剣》を構えた。

 

 「言いたいこと言ったし、これで終わらせようか・・・《黒皇永獄斬》!」

 

 五和姉が《黒皇剣》を振りぬくと、漆黒の巨大な斬撃が俺を襲った。

 

 「ぐあああああっ!?」

 

 凄まじい衝撃が襲い、そのままフィールドの壁に叩きつけられる。力なく倒れこむ俺。

 

 『な、七瀬選手がやられたッ!?起き上がることが出来ません!』

 

 『意識消失はしてないみたいッスけど・・・勝負ありッスかね・・・』

 

 実況と解説の声が遠くに聞こえる。

 

 クソ、身体に力が入らない・・・気付くと、五和姉が側に立っていた。

 

 「今のをくらって、意識消失してないとはね・・・大したもんだよ。でも、これで終わりにしよう」

 

 剣の切っ先を、俺の校章に突きつける五和姉。校章を破壊するつもりらしい。

 

 俺、ここで負けるのか・・・ゴメンな、綺凛・・・

 

 敗北を受け入れ、目を閉じた時だった。

 

 「はああああああああああっ!」

 

 「ぐっ!?」

 

 綺凛の叫び声が聞こえた。目を開けると、綺凛が五和姉の左肩を切りつけたところだった。五和姉の左肩から血が迸る。

 

 尚も追撃する綺凛だったが、五和姉が避けて距離を取った。その後ろから、六月姉がやってくる。

 

 「痛てて、切られた・・・ちょっと六月、しっかり綺凛ちゃん足止めしといてよ」

 

 「謝罪。一瞬の隙を突かれてしまいました。面目ありません」

 

 二人がそんな会話をしている中、綺凛が俺の側に駆け寄ってきた。

 

 「七瀬さん!?大丈夫ですか!?」

 

 「・・・悪いな、綺凛。身体に力が入らないんだわ」

 

 力なく笑う俺。

 

 「ったく、情けないよな・・・大切な後輩の力になるどころか、足を引っ張ってる。シルヴィアがこの試合を見てたら、間違いなく失望するだろうな・・・」

 

 五和姉の言う通りだ。結局俺は、あの時から何も成長してない。

 

 ホントに・・・

 

 「バカだよな、俺・・・」

 

 「・・・えぇ。バカですよ、七瀬さんは」

 

 俺の額に、コツンと自分の額を当てる綺凛。

 

 「失望なんてするわけないでしょう。ちゃんとシルヴィアさんの気持ち考えてます?」

 

 「え・・・?」

 

 「自分を殺しかけた相手のことを、普通簡単に許したり出来ませんよ。でも六花園会議の話を聞く限り、シルヴィアさんは本当に七瀬さんのことを許しています。その理由、ちゃんと分かってます?」

 

 俺を見つめる綺凛。

 

 「シルヴィアさんにとって・・・七瀬さんが大切な存在だからですよ」

 

 「・・・ッ!」

 

 「自分を殺しかけたことを、簡単に許してしまうほど大切に思われてるんですよ?だったら、こんなことで失望されるわけがありません。過去の過ちを忘れろとは言いませんけど、もっとシルヴィアさんを信じてあげて下さい。そうでないと、シルヴィアさんが報われません」

 

 「綺凛・・・」

 

 「それから・・・足を引っ張るなんて言い方は止めて下さい。私は七瀬さんにたくさん助けてもらいました。だから七瀬さんがピンチの時は、私が助けますから。安心して私に背中を預けて下さい」

 

 屈託の無い笑顔で言う綺凛。そして俺に背を向け、五和姉と六月姉に向き直る。

 

 「お二人の相手は私がします。これ以上、七瀬さんには指一本触れさせません」

 

 「勇ましいねー、綺凛ちゃん」

 

 笑みを浮かべる五和姉。

 

 「でも、私達二人を相手に出来るかな?」

 

 「七瀬さんが回復するまでの時間稼ぎくらい、やってみせますよ」

 

 五和姉を睨む綺凛。

 

 「それと五和さん・・・試合が終わったら、七瀬さんに謝罪して下さい。いくら純星煌式武装の精神干渉を受けているとはいえ、言って良いことと悪いことがあります」

 

 「んー、正しいことを言ったつもりなんだけどねー」

 

 「・・・良し悪しの区別さえつきませんか。重度の精神干渉ですね」

 

 「釈明。五和はまだ、《黒皇剣》を完全には扱えていないのです」

 

 六月姉が説明してくれる。

 

 「ご存知の通り、五和の性格は真っ直ぐ過ぎます。その為、精神干渉の影響を人一倍受けやすいのです。先ほど五和が言った言葉の大体は、五和が本当に思っていることなのですが・・・精神干渉による言葉もありました。全てが五和の想いではありません」

 

 「ちょっと六月、話が長いよ」

 

 焦れったそうに前へ出てくる五和姉。

 

 「綺凛ちゃん、早く戦おう」

 

 《黒皇剣》を構える五和姉。六月姉も溜め息をつきながら、《赫皇剣》を構える。

 

 「・・・いざ、参ります」

 

 《千羽切》を構える綺凛。クソ、俺には何も出来ないのか!?

 

 「力が・・・力が欲しいッ・・・!」

 

 歯を食いしばる俺。

 

 「今戦えるだけの力が、綺凛と共に戦える力が、あの二人を倒す力が欲しい・・・!」

 

 心から願った、その時だった。

 

 【力が欲しいですか?】

 

 「ッ!?」

 

 突然、頭の中に声が響いた。

 

 【今一度問いましょう。力が欲しいですか?】

 

 「・・・あぁ、欲しい!」

 

 声に出して願う俺。すると・・・

 

 【アナタの願い、叶えましょう】

 

 その言葉が聞こえた瞬間、俺の目の前が真っ暗になったのだった。

 




三話続けての投稿となります。

シャノン「ストック大丈夫?」

まだ大丈夫。一応≪鳳凰星武祭≫が終わるまでは書けてるし。

シャノン「ホントに!?やるじゃん作者っち!」

まぁ面白いかどうかは保証できないけどねっ!

シャノン「そこは嘘でも面白いって言おうよ・・・」

いいんだよ。一人でも面白いって思ってくれる人がいれば、俺は幸せなんだから(キリッ)

シャノン「良いこと言ってるけど、この作品を七ヶ月も放置してたこと忘れてない?」

・・・スイマセンでした。

続けられるところまで続けたいと思っているので、これからも読んでいただけると幸いです。

シャノン「よろしくお願いします(ぺこり)」

それではまた次回!

シャノン「またねー!」


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封印されし力

『天使の3P!』が面白い。


 「・・・ここは?」

 

 俺は今、真っ暗な場所に立っていた。辺りを見渡しても、あるのは暗闇だけだ。

 

 「アナタの精神世界の中ですよ」

 

 「うおっ!?」

 

 いつの間にか、すぐ側に同い年くらいの女性が立っていた。薄緑色のロングヘアで、何故かメイド服を着ている。

 

 「・・・誰?」

 

 「初めまして、というべきでしょうか・・・ようやくお会いできました」

 

 にこやかに微笑む女性。

 

 「私は・・・アナタが《神の拳》と呼んでいる存在です」

 

 「は・・・?」

 

 キョトンとしてしまう俺。ん・・・?

 

 「え、ちょっと待って・・・《神の拳》?アンタが?」

 

 「えぇ。正確に言うと、《神の拳》の元となったウルム=マナダイトに宿りし者・・・といったところでしょうか」

 

 「・・・つまり純星煌式武装に意思があるのは、アンタみたいにウルム=マナダイトに宿った奴らがいるからってこと?」

 

 「そういうことです」

 

 頷く女性。俺は微笑むと・・・

 

 女性の頭に拳骨を落とした。

 

 「痛っ!?な、何をするんですか!?」

 

 「何をするじゃねーわ!アンタのせいで人がどんだけ暴走したと思ってんの!?百発ぐらい殴らせろチクショー!」

 

 「落ち着いて下さい!アナタが暴走したのは、アナタが私の力に呑まれたからです!」

 

 「それはアンタが精神干渉してきたせいだろうが!」

 

 「いや、それは・・・アナタと私は一心同体のようなものでして・・・私とアナタの感情がシンクロすると、アナタの感情が増幅されるという仕組みなんです」

 

 少し申し訳なさそうな女性。

 

 えーっと、つまり・・・

 

 「要は増幅っていうか・・・アンタの分の感情がプラスされるってこと?」

 

 「そういうことです」

 

 「やっぱりアンタのせいじゃねーか!」

 

 「スミマセン!でも仕方のないことなんです!」

 

 必死に釈明する女性。

 

 「そもそも私は、アナタの力によって生まれたようなものなんですから!」

 

 「・・・は?」

 

 コイツ・・・何言ってんの?

 

 「だってアンタ、ウルム=マナダイトに宿ってんだろ?俺の力とか関係無くね?」

 

 「それはそうなんですが・・・他のウルム=マナダイトに宿りし者達は、自我はあってもこんな風に所有者とお喋りなんて出来ないんですよ」

 

 「・・・確かに」

 

 純星煌式武装は自分の意思で所有者を振り回すことはあっても、所有者とコミュニケーションを取るなんて聞いたことないしな・・・

 

 「じゃあ、何でアンタは俺と会話出来るんだ?ってか、そもそも俺の力によって生まれたってどういうことだ?」

 

 「話すと長くなるんですが・・・」

 

 おずおずと話し始める女性。

 

 「そもそも私、というか《神の拳》は・・・アナタの為に作られたものなんです」

 

 「・・・え?」

 

 俺の為に作られた・・・?純星煌式武装が・・・?

 

 「アナタが持って生まれた星辰力の量は、通常の《星脈世代》を遥かに凌駕するものでした。その上アナタには、もう一つの力があった」

 

 「もう一つの力・・・?」

 

 「えぇ・・・《魔術師》の力です」

 

 「ッ!?」

 

 《魔術師》!?俺が!?

 

 「その力の大きさは、アナタの身体に負担をかけてしまうほどでした。ただでさえ尋常じゃないほどの星辰力を持っていて、そこに《魔術師》の力まで加わってしまうとなると・・・幼かったアナタの身体には負担が大きすぎて、命を落とす危険性が高い。そう判断したアナタのご両親は、《魔術師》の力を封印することにしたんです」

 

 「封印?どうやって?」

 

 「私を使ったんです」

 

 自分自身を指差す女性。

 

 「ウルム=マナダイトに、アナタの力を封じ込めたんですよ」

 

 「・・・そんなこと可能なのか?」

 

 「普通は無理ですが・・・アナタのお母様の力が、それを可能にしました」

 

 「・・・なるほどな」

 

 そういや、母さんの能力を忘れてたな・・・アレなら、そういったことも可能なのか。

 

 「そしてアナタの力を封じたウルム=マナダイトで、アナタのお父様が純星煌式武装を作りました。それこそが・・・」

 

 「《神の拳》ってわけか・・・」

 

 統合企業財体が所有してない純星煌式武装なんて、ずいぶん珍しいと思ったけど・・・

 

 製作者が父さんだったとはな・・・

 

 「私がこうして言葉を話せるようになったのは、アナタの力を取り込んだからです。アナタの力が私の中に入ったことによって、人の姿を持って話せるようになりました。どういう原理なのかは、私にもよく分かりませんが・・・」

 

 「・・・ちなみに、何でその姿なの?」

 

 「純星煌式武装にされている途中、アナタのお父様の脳内イメージが流れ込んできたんですが・・・メイドさんで妄想されていることが多くて。気付いたらこんな格好になっていました」

 

 「純星煌式武装作ってる時に何考えてんだあああああっ!?」

 

 そっかー、父さんはメイドさんが好きなのかー・・・

 

 って、知りたくもなかったわ!

 

 「何か・・・ゴメン。ウチの父親の妄想で姿が決まっちゃって・・・」

 

 「い、いえ!結構気に入ってますから!」

 

 慌ててフォローしてくれる女性。良い人だなぁ・・・

 

 「で、話を戻しますけど・・・アナタの身体が力を受け入れられる時まで、私はアナタの実家で眠ることになりました。ですが、アナタもご存知の通り・・・」

 

 「・・・まだ成長しきっていない段階で、俺に《神の拳》が渡ってしまった」

 

 その時のことを思い出し、思わず表情が歪む。

 

 「父さんも母さんも、あの段階で俺に渡すつもりなんて無かっただろうな・・・」

 

 「えぇ・・・もっと成長してから渡す予定だったと思います」

 

 女性の表情も、苦渋に満ちていた。

 

 「《魔術師》の力は私が止めていましたが・・・当時のアナタでは、純星煌式武装の力を制御することが出来なかった。結果として、あの事件が起きてしまったわけです」

 

 「シルヴィアか・・・」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「俺が幼かった故に起きた事件、か・・・ゴメンな、アンタのせいとか言って」

 

 「いえ・・・私の感情がアナタを振り回したのは事実ですから」

 

 「シンクロか・・・そりゃシンクロするよな。何せアンタは、俺の力を封じてるんだから。それって俺の感情が、アンタの感情に影響を与えるってことだろ?つまりアンタの感情が俺を振り回すんじゃなくて、俺の感情がアンタを振り回してるってことだ」

 

 俺の言葉に、黙り込んでしまう女性。

 

 当たりか・・・

 

 「・・・ゴメン」

 

 改めて謝罪する俺。

 

 「俺、全部アンタのせいにしてた。暴走したのも、シルヴィアを殺しかけたのも、全部《神の拳》のせいだって思ってた。でも・・・違ったな。全部俺が未熟だったせいだ。アンタのこともずいぶんと振り回した・・・ゴメン」

 

 「・・・謝らないで下さい」

 

 静かに首を振る女性。

 

 「私に感情というものを与えてくれたのは、間違いなくアナタです。言葉を話せるようになって、アナタと一緒に一喜一憂して・・・ウルム=マナダイトに宿っているだけの私が、本当の人間みたいだと思えたのは・・・全部アナタのおかげです」

 

 女性がにこやかに微笑む。

 

 「私には、アナタを拒絶することも出来ました。適応率が高くないと、純星煌式武装を使うことは出来ませんからね。ですが私は、アナタと共にいる道を選びました。アナタを見守りたいと思ったので・・・アナタの力を取り込んだせいですかね?」

 

 クスクス笑う女性。

 

 「アンタ・・・」

 

 「まぁそんなわけで、私はこれからもアナタの側にいますよ。アナタが私を拒絶しない限り・・・ですけど」

 

 「・・・しないさ」

 

 俺は女性を真っ直ぐ見つめた。

 

 「俺、《神の拳》と・・・アンタとちゃんと向き合うよ。もう逃げたりしない。だから俺に、力を貸してもらえるか?」

 

 「えぇ、勿論。アナタは私のマスターですから」

 

 笑顔で頷く女性。

 

 「力が欲しいんですよね?でしたら・・・私が今まで封印していたマスターの力、お返ししましょう」

 

 「良いのか?」

 

 「えぇ。ただし、全てではありません。一気に全て返してしまうと、マスターが扱いきれず暴走してしまう危険性がありますから」

 

 「・・・全部じゃないとはいえ、俺に扱いきれるかな」

 

 「私がサポートします。五和さんと六月さんに勝ちたいんでしょう?」

 

 「・・・だな。迷ってる場合じゃないわ」

 

 覚悟を決める俺。ここでやらなきゃ、絶対後悔するからな。

 

 「ありがとな。じゃ、アンタ・・・って、そういや名前聞いてないな」

 

 さっきからずっとアンタって呼んでたしな・・・

 

 俺のことをマスターって呼んでくれたし、俺も名前で呼んであげたいな・・・

 

 「でしたら、マスターが付けて下さい。私、《神の拳》以外の呼び名が無いので」

 

 「え、マジで?じゃあ《神の拳》っていう名前でいく?」

 

 「・・・やっぱり力返すの止めて良いですか?」

 

 「冗談だって!?ちょっと待って!?」

 

 名前かぁ・・・何が良いかなぁ・・・

 

 「じゃあ・・・七海とかどう?七瀬と七海・・・双子っぽくない?」

 

 「語呂の良さで決めただけでは・・・?」

 

 半眼の女性に、サッと顔を背ける俺。バレたか・・・

 

 と、女性がクスッと笑った。

 

 「まぁ良いでしょう。改めてよろしくお願いしますね、マスター」

 

 「あぁ。よろしくな、七海」

 

 と、暗闇に一筋の光が差した。光は段々と強くなり、一気に周りを照らしていく。

 

 「頑張りましょうね、マスター」

 

 笑顔の七海。それと当時に、俺の目の前が真っ白になったのだった。

 




どうも~、ムッティです。

今回は≪神の拳≫こと七海との対面でしたね。

シャノン「モチーフになったキャラは?」

『トリニティセブン』のイリアかな。

イリア可愛いよねー。

シャノン「作者っちの趣味全開だね・・・」

シャノンだって、可愛いと思ったから出してるんだけど?

シャノン「っ///・・・そ、それではまた次回!」

あ、照れてるな・・・


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決着

鈴木このみさんの『Blow out』をずっと聴いてる。


 ≪綺凛視点≫ 

 

 「はぁっ・・・はぁっ・・・」

 

 「しぶといねー、綺凛ちゃん」

 

 「感嘆。とても中一とは思えません」

 

 五和さんと六月さんが褒めてくれますが・・・今は喜んでいる余裕などありません。正直、もう身体の限界が近いのです。

 

 チラリと後ろを見ると、七瀬さんがピクリとも動かず横たわっています。意識消失のアナウンスはありませんが・・・

 

 一体どうしてしまったのでしょうか・・・?

 

 「七瀬が気になる?」

 

 「ッ!?」

 

 五和さんの攻撃を、慌てて避ける私。

 

 ですが・・・

 

 「好機。隙ありです」

 

 六月さんが《赫皇剣》を振りかぶっているのが見えます。

 

 「《極皇虚星》」

 

 六月さんが《赫皇剣》を振りぬくと、いくつもの赤い球体が私に襲い掛かってきます。

 

 避け続ける私でしたが・・・

 

 「きゃあっ!?」

 

 最後の一つに当たってしまいました。爆発の衝撃で、後ろへと吹き飛ぶ私。

 

 そこには、《黒皇剣》を構えている五和さんがいました。

 

 「しまっ・・・!?」

 

 「これで終わりだよ・・・《黒皇永獄斬》!」

 

 凄まじい衝撃波が迫ってきます。くらったら、間違いなく私はリタイアです。

 

 時間稼ぎも、ここまでしか出来ませんでしたか・・・

 

 「ゴメンなさい、七瀬さん・・・」

 

 目を閉じ、衝撃が来るのを待っていた私でしたが・・・

 

 感じたのは、誰かに受け止められたような感触でした。

 

 「え・・・?」

 

 目を開けた私の視界に映ったのは・・・

 

 「よく頑張ってくれたな、綺凛」

 

 穏やかな笑みを浮かべた七瀬さんなのでした。

 

 

 

 *****

 

 

 

 現実世界に戻り、最初に視界に入ったのは・・・

 

 今にもやられそうになっている綺凛の姿だった。

 

 「綺凛っ!?」

 

 急いで立ち上がり、最初の一歩を踏み出した瞬間・・・自分でも信じられないほどのスピードが出た。

 

 吹き飛ぶ綺凛を受け止め、《黒皇永獄斬》の攻撃範囲から抜ける。綺凛の顔を覗き込むと、ちょうど目を開けるところだった。

 

 「え・・・?」

 

 「よく頑張ってくれたな、綺凛」

 

 「な、七瀬さん・・・!」

 

 綺凛の目に、じわりと涙が滲む。

 

 『な、何ということだーっ!?戦闘不能と思われた七瀬選手が立ち上がったーっ!?』

 

 『しかも何スか今のスピード!?自分も目で追えなかったッスよ!?』

 

 会場中がざわつく中、五和姉がニヤリと笑う。

 

 「へぇ・・・復活したんだね」

 

 「おかげさまでな」

 

 綺凛を下ろし、俺は五和姉を睨んだ。

 

 「俺の可愛い後輩を散々痛ぶってくれたんだ・・・覚悟は出来てんだろうな?」

 

 「ッ!?」

 

 五和姉が、少し怯んだような様子を見せる。

 

 どうしたんだ・・・?

 

 【威圧されたんですよ】

 

 俺の頭の中で声が響く。

 

 「七海?ってか、こっち戻っても会話って出来んの?」

 

 【出来ますよ。私とマスターが心を通わせたことで、それが可能になりました】

 

 得意げな様子の七海。

 

 【マスターが力が欲しいと強く願ったあの時・・・私とマスターのシンクロ率が最大になったんです。あれがキッカケだったんですよ】

 

 「マジか。ってか、威圧って?」

 

 【私がマスターに力を返したことで、マスターの力はより強力になりましたから。五和さんもそれを感じたんでしょうね】

 

 「なるほどなー」

 

 「・・・質問。七瀬、誰と喋っているのですか?」

 

 おずおずと話しかけてくる六月姉。

 

 「んー、何ていうか・・・俺の相棒?」

 

 「は?」

 

 「まぁ細かいことは気にしないで。ってか、六月姉は《赫皇剣》から精神干渉とか受けてないの?」

 

 「回答。《赫皇剣》は《黒皇剣》ほど我の強い純星煌式武装ではありません。従って、受ける精神干渉も比較的軽いです。今のところは、ですが」

 

 「ふーん・・・そこまでして力を手に入れたかったの?」

 

 「・・・回答。その通りです」

 

 淡々と答える六月姉。

 

 「六月達は、前回の《獅鷲星武祭》で悔しい思いをしました。だからこそ力を手に入れたかったのです」

 

 「・・・そんな淡々と嘘ついて、辛くないの?」

 

 「ッ!?」

 

 息を呑む六月姉。いつも無表情の六月姉が、表情を歪ませているのが何よりの証拠だ。

 

 「大方、五和姉が力を求めて純星煌式武装に手を出したんだろ?六月姉は反対だったけど、結局は五和姉に従ったってところかな。ったく、六月姉は昔から五和姉に甘いんだから」

 

 「し、質問・・・どうしてそんなことが・・・」

 

 「そりゃ分かるよ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「だって俺達・・・家族なんだから」

 

 「・・・っ」

 

 六月姉の目から、涙が零れ落ちた。と・・・

 

 「・・・いつまで喋ってんのさ?」

 

 五和姉が苛立ったように俺を睨んでいた。

 

 「さっきから黙って聞いてりゃ、知ったような口きいてくれるじゃん・・・私がどんだけ悔しい思いをしたか、七瀬には分かんないでしょ」

 

 「それは分からん。六月姉に辛い思いさせてる五和姉の気持ちなんて、分かりたくもない」

 

 「ッ!ふざけんなッ!」

 

 五和姉が《黒皇剣》を振り下ろしてくるが、俺は右手で受け止めた。

 

 「なっ!?片手で!?」

 

 「・・・ふざけんな?そりゃこっちのセリフだ」

 

 右手に力を込める。《黒皇剣》に、徐々にヒビが入っていく。

 

 「こんなもんに頼ってないで・・・もっと自分自身の力を磨けよ」

 

 フルパワーで《黒皇剣》を握る。耐え切れなくなったのか、《黒皇剣》は砕け散った。

 

 「そ、そんな・・・私の《黒皇剣》が・・・」

 

 呆然としている五和姉。俺は拳を握った。

 

 「失せろバカ姉ッ!」

 

 「ぐあっ!?」

 

 五和姉の顔面を、渾身の力で殴る。五和姉はそのまま吹き飛び、フィールドの壁に叩きつけられた。

 

 『星野五和、意識消失』

 

 機械音声が流れ、五和姉のリタイアを告げた。

 

 『い、一撃だーっ!?《黒皇剣》を破壊した上、五和選手を一撃K.O.しましたっー!』

 

 『先ほど六月選手がもろに拳をくらってたッスけど・・・今ほどの威力じゃなかったッスよね?何だか七瀬選手、パワーアップしてないッスか?』

 

 会場が沸く中、俺は六月姉に向き直った。驚愕している六月姉。

 

 「・・・質問。七瀬、今のは一体・・・」

 

 「細かい説明は後でな。それより・・・戦おうぜ、六月姉」

 

 俺の言葉に、六月姉は呆然とした後・・・フッと笑みを浮かべた。

 

 「同意。遠慮なくやらせていただきます」

 

 「そうこなくちゃな。綺凛、悪いけど一対一でやらせてくれ」

 

 「・・・もう、仕方ないですね」

 

 苦笑している綺凛。

 

 「その代わり、何があったのか後で説明して下さいよ?」

 

 「了解」

 

 俺は笑うと、六月姉に向かって拳を構えた。そして、新たな力を試すことにした。

 

 「七海、頼んだ」

 

 【了解です。マスター】

 

 その瞬間・・・俺の身体に、激しい雷が迸った。

 

 「なっ!?」

 

 「嘘っ!?」

 

 息を呑む六月姉と綺凛。

 

 『い、雷!?チャムさん、これってまさか!?』

 

 『・・・《魔術師》の力ッスね』

 

 解説のチャムさんの、唖然とした声が聞こえる。

 

 『先ほど七瀬選手がとんでもないスピードを出したのも、瞬間的に雷を使ったんだと思うッス。《黒皇剣》を砕いたのも、五和選手を一撃で倒したのも、この力を使ったと考えると納得がいくッス。それにしても・・・凄い威力の雷ッスね』

 

 なるほど、そういうことだったのか・・・

 

 【マスター、特に何も考えてませんでしたよね・・・】

 

 七海が呆れたような声で言う。

 

 「まぁな。お前がフォローしてくれてたんだろ?ありがとな」

 

 【フォローするって約束しましたから】

 

 苦笑している七海。俺は改めて六月姉を見た。

 

 「さて・・・勝負だな、六月姉」

 

 「・・・驚愕。七瀬には本当に驚かされますね」

 

 笑みを浮かべながら、《赫皇剣》を構える六月姉。

 

 そして・・・

 

 「はああああああああああっ!」

 

 「やああああああああああっ!」

 

 拳を振りぬく俺と、剣の突きを放つ六月姉。激しくぶつかり合った瞬間・・・

 

 《赫皇剣》が粉々に砕けた。静寂が辺りを包む。

 

 と、六月姉が微笑んだ。

 

 「・・・参りました」

 

 両手を上にあげ、降参の意思を示す。俺は六月姉に笑いかけた。

 

 「・・・ナイスファイト」

 

 六月姉の校章を拳で叩いて割る。機械音声が流れ、試合終了を告げるのだった。

 

 『星野六月、校章破壊!』

 

 『試合終了!勝者、刀藤綺凛&星野七瀬!』

 




二話連続での投稿となります。

シャノン「ななっちの力が覚醒したねー」

ねー。雷って良いよねー。

シャノン「私も≪魔女≫になりたいなぁ・・・」

ホグワーツにでも行ってきなよ。

シャノン「そっちの魔女じゃないよ!?」

スリザリンで元気にやるんだよ。

シャノン「しかもスリザリン確定!?私そんな性格悪そうに見える!?」

それではまた次回!

シャノン「あ、逃げるなーっ!」









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和解

早く夏終わらないかな・・・


 「あー・・・もうダメ・・・」

 

 「疲れましたぁ・・・」

 

 控え室のソファに、ぐでーんとうつ伏せに寝る俺と綺凛。何とか勝利を収め、長い勝利者インタビューを乗り切り、俺と綺凛はクタクタだった。

 

 「ってか、身体中が痛いんだけど。五和姉から受けたダメージとは違うんだけど」

 

 【マスターの雷の影響ですね】

 

 七海が教えてくれる。

 

 【要は雷による身体強化を行ったわけですからね・・・マスターは力を使い慣れていないので、反動で全身筋肉痛になってしまったのでしょう】

 

 「マジかぁ・・・早く使いこなせるようにしよう・・・」

 

 「・・・そうやって喋ってると、独りでブツブツ言ってる怪しい人みたいですよ」

 

 苦笑している綺凛。一応綺凛には、七海のことを大まかに説明しておいたのだ。

 

 「だってさ、七海。綺凛にも声が聞こえるように出来ない?」

 

 【今の私では無理ですね。ようやくマスターに私の声が届いた段階ですから】

 

 そんなやり取りをしていると、来訪者を告げるチャイムが鳴った。

 

 空間ウィンドウを見てみると・・・

 

 「三咲姉じゃん。綺凛、開けても良い?」

 

 「勿論です」

 

 ドアのロックを解除すると、三咲姉が飛び込んできた。身体を起こす俺。

 

 「おー、三咲姉。わざわざ来てくれ・・・」

 

 「七瀬っ!」

 

 「へぶっ!?」

 

 三咲姉に抱き締められる俺。

 

 「良かった・・・無事で良かった・・・!」

 

 「いや、大袈裟でしょ。ただの試合なんだから、そりゃ無事だよ」

 

 苦笑しながら三咲姉の頭を撫でる俺。

 

 「大袈裟なんかじゃありません!」

 

 「・・・三咲姉?」

 

 三咲姉は目を真っ赤に腫らし、大粒の涙を流していた。

 

 「あの子達が七瀬を相手に、《二大皇剣》を使うなんて・・・!七瀬が倒れたままピクリとも動かなかった時は、本当に心臓が止まるかと思いました・・・!」

 

 「三咲姉・・・」

 

 「七瀬に何かあったら、私は・・・私は・・・!」

 

 「・・・落ち着いて、三咲姉」

 

 俺は三咲姉の背中を優しく叩いた。

 

 「俺は大丈夫だから。三咲姉の前からいなくなったりしないから」

 

 「・・・本当ですか?」

 

 「勿論。約束する」

 

 三咲姉は、家族に対する愛情が人一倍深い。

 

 星辰力を扱いきれずに孤立していた俺を、一番気にかけてくれていたのも三咲姉だったっけな・・・

 

 「いつも心配かけてゴメン。ありがとう、三咲姉」

 

 「・・・私は、アナタの姉ですから」

 

 俺の胸に顔を埋め、背中に回す手にギュっと力を込める三咲姉。

 

 と、再び来訪者を告げるチャイムが鳴る。空間ウィンドウをチェックする綺凛。

 

 「七瀬さん、ガラードワースの副会長さんです」

 

 「え、レティシア?」

 

 「はい。六月さんもいますね」

 

 「マジか。ロック解除してくれ」

 

 「了解です」

 

 綺凛がドアのロックを解除すると、レティシアと六月姉が入ってくる。

 

 と、その後ろに隠れるようにしてコソコソ入ってきた奴が一人いた。

 

 「・・・五和姉、何してんの?」

 

 「はうっ!?」

 

 慌てて六月姉の後ろに隠れる五和姉。こんな五和姉は初めて見るな・・・

 

 と、レティシアが一歩前に出た。

 

 「ごきげんよう、七瀬・・・お邪魔だったでしょうか?」

 

 俺に抱きついて離れない三咲姉を見るレティシア。

 

 「いや、大丈夫。ほら三咲姉、レティシアが来たぞ」

 

 「・・・レティシアなんてどうでもいいです。今は七瀬に甘えると決めてますので」

 

 離れる気配の無い三咲姉。レティシアが呆れ顔で見ていた。

 

 「三咲のこんな姿、初めて見ましたわ・・・」

 

 「アハハ・・・悪いな、せっかく来てくれたのに」

 

 「いえ、構いません。準々決勝進出、おめでとうございます」

 

 「サンキュー。でも・・・それを言いに来たわけじゃないんだろ?」

 

 「・・・やはり分かっていましたか」

 

 苦笑するレティシア。

 

 「お察しの通り、《二大皇剣》を破壊した件についてお話があって参りました」

 

 「っ!?ちょっと待ってよレティシア!七瀬に責任なんて無いでしょ!?」

 

 「抗議。戦いの最中に壊れてしまっただけです。七瀬は悪くありません」

 

 「それを決めるのはアナタ達ではなく、会長・・・アーネストです」

 

 五和姉と六月姉の抗議に、淡々と返すレティシア。

 

 「七瀬、アーネストと通話が繋がっていますわ」

 

 空間ウィンドウを開くレティシア。そこには、アーネストの顔が映っていた。

 

 『やぁ七瀬、直接会いに行けなくてすまないね』

 

 「構わないさ。そっちだって忙しいだろうしな。で・・・俺に責任を求めるつもりか?まぁ壊したのは事実だし、覚悟はしてるけど」

 

 「七瀬!?」

 

 慌てる五和姉。アーネストが苦笑している。

 

 『まさか。君に責任があるなんて思っちゃいないさ。コアとなったウルム=マナダイトは回収できたし、君に壊した責任を求めたりはしないよ。それを君に伝えようと思って、こうして連絡させてもらったわけさ』

 

 「・・・大丈夫か?そっちの運営母体が、何かうるさく言ってきたりしないか?」

 

 『あぁ、EPかい?それは大丈夫だろう。ウルム=マナダイトが回収できた以上、とやかく言ってきたりしないと思うよ』

 

 「なら良いけど」

 

 良かった・・・俺個人ならともかく、星導館に迷惑はかけたくないしな。

 

 『それにしても、五和と六月を破るとはね・・・ウチの優勝候補筆頭だったんだけど』

 

 「まぁ何とかな。これでガラードワースで残ってるのは、《輝剣》と《鎧装の魔術師》のタッグだけか」

 

 『あぁ。あの二人に頑張ってもらうしかないね』

 

 溜め息をつくアーネスト。

 

 『《鳳凰星武祭》では、星導館に差を付けられてしまったね。七瀬とミス・刀藤のタッグを含め、ベスト八に三つのタッグが残っているのだから』

 

 紗夜とレスターは順調に勝利を収め、準々決勝進出を決めたそうだ。綾斗とユリスも、界龍の黎兄妹を相手に何とか勝利したらしい。

 

 「《鳳凰星武祭》は星導館の十八番だからな。どのタッグが勝つにしても、優勝は星導館がいただくぞ」

 

 『ハハッ、我々も負けていられないな』

 

 笑うアーネスト。

 

 『まぁそんなわけで、話は以上だ。試合で疲れているところ、すまないね』

 

 「いや、元々俺が《二大皇剣》を壊したからだ。悪かったな」

 

 『気にすることは無いさ。むしろ暴走気味だった五和を止めてくれて、感謝してるよ』

 

 アーネストは五和姉に視線を向ける。

 

 『五和、七瀬とちゃんと話をしてくるんだよ?』

 

 「・・・うん」

 

 力なく頷く五和姉。アーネストは、再び俺に視線を向けた。

 

 『それでは七瀬、また会おう』

 

 「あぁ、またな」

 

 空間ウィンドウが閉じ、アーネストとの通話が切れる。

 

 「ありがとな、レティシア。わざわざ来てくれて」

 

 「これも仕事ですので」

 

 微笑むレティシア。

 

 「さて・・・三咲、そろそろ行きますわよ。まだ仕事が残っているのですから」

 

 「・・・そんなもの、レティシアに全部あげます」

 

 「要りませんわよ!?私を殺す気ですの!?」

 

 「三咲姉、レティシアが困ってるから」

 

 俺の言葉に、名残惜しそうに俺から離れる三咲姉。

 

 「・・・納得いきませんわ。何故七瀬の言うことは素直に聞きますの?」

 

 「回答。三咲姉様がブラコンだからです」

 

 「・・・重症ですわね」

 

 六月姉の答えに、げんなりしているレティシア。

 

 「さて、私と三咲は仕事に戻ります。五和と六月はゆっくり休みなさい。アーネストへの報告は、私がしておきますわ」

 

 「ありがと、レティシア」

 

 「感謝。ありがとうございます」

 

 「構いませんわ。それでは七瀬、またお会いしましょう」

 

 「七瀬、また会いに来ますからね」

 

 「おう。レティシアも三咲姉も、色々とありがとな」

 

 レティシアと三咲姉が控え室から出て行く。残ったのは俺、綺凛、五和姉、六月姉の四人だけだ。

 

 六月姉はともかく、五和姉とは気まずいなぁ・・・

 

 「七瀬・・・ゴメン」

 

 頭を下げる五和姉。

 

 「いくら精神干渉を受けてたとはいえ・・・七瀬に酷いこと言った。本当にゴメン」

 

 「・・・あれってさ、全部五和姉が思ってたことなの?」

 

 「・・・ほとんどそうだよ」

 

 俯く五和姉。

 

 「七瀬には早くシルヴィと仲直りしてほしかったし、中々シルヴィに会おうとしない七瀬に・・・正直、イラッとしたこともあったよ」

 

 「五和姉・・・」

 

 「でも・・・最後のは違うよ」

 

 五和姉が、俺を真っ直ぐ見つめる。

 

 「あの時から成長してないとか、シルヴィはこんな奴の何処が良いんだとか・・・それは本当に思ってない。精神干渉を受けて、つい心にもない言葉を言っちゃったの。と言っても、信じてもらえないかもしれないけど・・・」

 

 「・・・ま、正直事実だよな」

 

 自嘲気味に笑う俺。

 

 「俺はあの時から成長してないんだって、思い知ったよ。何でシルヴィアが俺を想ってくれてるのか、俺もよく分かんないし」

 

 「そんなことない!」

 

 叫ぶ五和姉。

 

 「七瀬は成長したよ!シルヴィと向き合う為に一歩踏み出して、アスタリスクまで来たじゃん!向き合うって決めたじゃん!」

 

 「同意。五和の言う通りですよ。七瀬は成長しましたし、シルヴィが七瀬を想う理由も分かります」

 

 「理由・・・?」

 

 「回答。七瀬の優しさを知っているから、ですよ」

 

 微笑む六月姉。

 

 「自分のことを卑下しないで下さい。七瀬は六月達の、自慢の弟なのですから。七瀬には良いところがたくさんあるのです」

 

 「そうだよ!だからもっと自信持ちなよ!」

 

 「・・・俺のことボロクソに言ってた人に言われてもな」

 

 「うっ・・・」

 

 泣きそうな表情の五和姉。俺は苦笑し、五和姉の頭を撫でた。

 

 「冗談だって。五和姉は、俺のこと心配してくれてたんだよな・・・ありがとう」

 

 「・・・っ!七瀬っ・・・!」

 

 俺に抱きつき、泣き出す五和姉。

 

 「ゴメンね・・・酷いこと言って、ホントゴメンね・・・!」

 

 「俺も・・・心配かけてゴメンな・・・」

 

 目から涙が零れ落ちる。俺と五和姉を包み込むように、六月姉が抱き締めてきた。

 

 「・・・嘆息。二人とも泣き虫ですね」

 

 「・・・六月姉だって泣いてんじゃん」

 

 「・・・反論。これは汗です」

 

 そう言う六月姉だが・・・目が真っ赤なので誤魔化しようがない。

 

 「六月もゴメンね・・・私のせいで、六月を苦しめちゃったよね・・・」

 

 「反論。最終的に同意した六月が悪いのです。五和が謝ることではありません」

 

 「いや、でも・・・」

 

 何か言いたそうな五和姉を、抱き締める力を強くして黙らせる六月姉。

 

 「良いのです・・・もう・・・良いのですっ・・・ひっぐ・・・」

 

 堪えきれなくなったのか、嗚咽を漏らす六月姉。それをきっかけに、五和姉は声を上げて号泣し始めた。

 

 俺は二人の温もりを感じながら、ただ静かに涙を流したのだった。

 




三話続けての投稿になります。

次の投稿は、日曜日か月曜日になりそうかな。

シャノン「そういえば、そろそろアスタリスクの新巻出るんじゃない?」

そうそう、25日の金曜日らしいよ。

前回メッチャ気になるところで終わったから、早く続き読みたいなー。

あ、その前に『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』の新巻も買わなきゃ!

『天使の3P!』も原作買おうかなぁ・・・

シャノン「メッチャ目移りしてるし・・・それではまた次回!」

いやー、迷っちゃうなー!


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小さなメイド

明豊ナイスファイト!

見事な粘りだった!


 「それにしても、七瀬に《魔術師》としての力があったとはね・・・」

 

 ひとしきり泣いた後、五和姉がそんなことを呟いた。

 

 「俺もビックリしたわ。《神の拳》が、俺の為に作られたものだったとは・・・」

 

 「初耳。父様も母様も、何も言っていませんでしたから」

 

 六月姉が俺を見た。

 

 「ですが・・・あの人は、全て知っていたのでしょうね・・・」

 

 「六月ッ!」

 

 五和姉が鋭い声で叫ぶ。ハッとする六月姉。

 

 「・・・謝罪。七瀬、すみません」

 

 「・・・謝ることないよ。多分、六月姉の言う通りだと思う」

 

 力なく笑う俺。

 

 綺凛が首を傾げているが・・・今は話す気になれないな。

 

 「まぁとにかく、今はこの力を使いこなせるようにしないとな・・・星露も、力に呑まれるなって言ってたし」

 

 もし星露の言う力がコレのことなら、この力に呑まれると暴走してしまうということだ。それは絶対に避けないとな・・・

 

 と、またしてもチャイムが鳴った。

 

 「来訪者多いな・・・って、ユリスと綾斗じゃん」

 

 空間ウィンドウを見た俺は、ドアのロックを解除した。ユリスと綾斗が入ってくる。

 

 「失礼するぞ・・・っと、七瀬の姉上方もいらしていたのですね」

 

 「五和さん、六月さん、こんにちは」

 

 「お邪魔してまーす」

 

 「挨拶。こんにちは」

 

 笑顔で手を振る二人。と、ユリスが俺と綺凛を見た。

 

 「準々決勝進出、おめでとう」

 

 「そっちもな。あの黎兄妹を負かすとは・・・流石だぜ」

 

 「ギリギリだったけどね」

 

 苦笑する綾斗。

 

 「でも、これで約束は果たしたよ。次の試合、お互い全力で戦おう」

 

 「勿論です」

 

 笑顔で答える綺凛。遂にユリスと綾斗と戦う時が来たか・・・

 

 「七瀬、必ずリベンジしてやるからな。覚悟しておけ」

 

 「ユリス・・・また胸を揉まれたいのか?」

 

 「何でそうなる!?」

 

 赤面するユリス。五和姉と六月姉が慌てて身を乗り出した。

 

 「え、二人ってそういう関係なの!?」

 

 「ち、違います!あの時はたまたま・・・」

 

 「質問。つまり身体だけの関係なのですか?」

 

 「だから違いますって!?」

 

 顔を真っ赤にしながら、全力で否定するユリス。

 

 面白いなぁ・・・

 

 「ユリス・・・あの夜のことを忘れたのか・・・?」

 

 「あの夜ってどの夜だ!?」

 

 「そっか・・・共に過ごした夜が多すぎて分からないか・・・」

 

 「誤解を生む言い方は止めろ!何日か一緒のベッドで寝ただけだろうが!」

 

 「「!?」」

 

 口を開け、ポカンとしている五和姉と六月姉。ユリスがすぐに自分の失言に気付く。

 

 「い、今のは違うんです!やましいことは一切無くてですね!?」

 

 「・・・六月、七瀬は大人の階段を上ったみたいだね」

 

 「・・・衝撃。先を越されました」

 

 「ち、違いますからあああああっ!?」

 

 叫ぶユリス。五和姉と六月姉は落ち込んだように俯いているが・・・

 

 俺には分かる。あの二人は、必死に笑いを堪えているだけだ。最初から冗談だと分かっているのである。

 

 「流石は我が姉・・・良い性格してるな」

 

 「七瀬さんにそっくりですね・・・」

 

 「ユリス・・・ドンマイ」

 

 綺凛と綾斗は気付いていたらしく、共に苦笑していた。

 

 と・・・

 

 「はわわわ・・・とんでもないことを聞いてしまったのです・・・」

 

 「ん・・・?」

 

 今になって気付いたが、ドアのすぐ側に小さな女の子が立っていた。メイド服に猫耳カチューシャ姿という、何とも独特な格好の少女である。

 

 おいおい・・・

 

 「ユリス・・・お前子持ちだったのか。父親は・・・綾斗だな」

 

 「違うわ!」

 

 「何でそうなるの!?」

 

 ユリスと綾斗のツッコミが入る。

 

 「マジかぁ・・・怪しいとは思ってたけど、やっぱりねぇ・・・」

 

 「驚愕。まだ若いのに、既に子持ちとは・・・」

 

 「綾斗の奴、封印だけじゃなくて理性まで破っちゃったか・・・」

 

 身を寄せ合い、ひそひそと話す俺達。ユリスがプルプル震えている。

 

 「い、いい加減にしろおおおおおっ!?」

 

 「ユリス!?落ち着いて!?」

 

 「ここで暴れないで下さい!?」

 

 綾斗と綺凛が、暴れるユリスを押さえつける。俺は女の子に近寄った。

 

 「まぁ冗談はさておき・・・こんにちは。ユリスの知り合い、かな?」

 

 「あい!フローラ・クレムです!」

 

 丁寧にお辞儀するフローラ。すぐさま五和姉が抱きつく。

 

 「可愛いいいいいっ!」

 

 「ふぇっ!?」

 

 「抗議。五和、ずるいです。六月も抱きつきたいです」

 

 「ふえええええっ!?」

 

 二人から抱きつかれ、動揺しているフローラ。俺はユリスを振り返った。

 

 「ほらユリス、暴れてないで説明してくれよ」

 

 「誰のせいだと思ってるのだ!?」

 

 ユリスは叫びながらも、怒っても無駄だと悟ったのか溜め息をついた。

 

 「・・・フローラは、私が支援している例の孤児院の子だ。今はリーゼルタニアの王宮で、メイドとして働いている」

 

 「へぇ・・・まだ小さいのに、偉いなー」

 

 「えへへ」

 

 頭を撫でると、フローラが嬉しそうに目を細めた。

 

 「ってことは、ユリスの応援に来たのかな?」

 

 「あい!」

 

 元気よく頷くフローラ。

 

 「姫様は、フローラ達の為に戦ってくれています!そんな姫様を応援したくて、リーゼルタニアから来ちゃいました!」

 

 「そっかー。フローラはユリスが大好きなんだなー」

 

 「あい!フローラの憧れです!」

 

 「お、おいフローラ・・・」

 

 ユリスが赤くなっている。照れちゃって・・・可愛い奴め。

 

 「でもゴメンな、フローラ。ユリスの次の相手、俺達なんだよ。俺達も負けたくないから、全力で勝ちにいかせてもらうな」

 

 「あい!姫様のご友人のことも、フローラは応援しますから!全力で戦って下さい!」

 

 「・・・良い子だなぁ」

 

 何か涙が出そう・・・心が洗われるようだ・・・

 

 「俺、星野七瀬っていうんだ。七瀬って呼んでくれ」

 

 「あい!よろしくお願いします、七瀬様!」

 

 「ユリス決めたぞ!俺はこの子を妹にする!」

 

 フローラを肩車し、そのままグルグル回る。

 

 「わーい!七瀬様、高いですー!」

 

 「あ、七瀬ずるい!」

 

 「確認。七瀬の妹ということは、六月達の妹ということでよろしいですか?」

 

 はしゃぐ俺達を見て、ユリスが苦笑していた。

 

 「全く・・・まぁ、仲良くなれたようで何よりだ」

 

 「姫様ー!フローラは今、とても楽しいですー!」

 

 「はいはい。良かったな、フローラ」

 

 「よし、飯食いに行こう!綺凛、紗夜とレスターに連絡してくれ!」

 

 「了解です」

 

 「質問。七瀬、六月達も行って良いでしょうか?」

 

 「勿論。五和姉の奢りだし」

 

 「ちょ、何で私!?」

 

 「可愛い弟を傷付けた罰だ」

 

 「それ蒸し返しちゃう!?」

 

 涙目の五和姉なのだった。

 




どうも~、ムッティです。

フローラは可愛いなぁ・・・

シャノン「作者っち、ロリコンなの?」

おい止めろ。むしろお姉さん好きだわ。

シャノン「いや、そんなことサラッと暴露しなくても・・・」

ってか、フローラと『NEW GAME!』のうみこさんが同じ声優さんとか・・・驚きだわ。

シャノン「全然違うもんねぇ」

ひふみ先輩マジ天使。

シャノン「そこはうみこさんじゃないんだね・・・ちなみに、私も天使?」

・・・フッ。

シャノン「鼻で笑われた!?」

それではまた次回・・・フッ。

シャノン「笑うなああああああああああっ!」





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黎兄妹

そういや今更だけど、『オリ主』のタグしか付けてないな・・・

他のタグ付けなくても大丈夫かな・・・?


 「七瀬、この辺でいいよ」

 

 「そう?」

 

 食事終了後、俺は五和姉と六月姉をガラードワースの近くまで送っていた。

 

 「感謝。送ってくれてありがとうございます」

 

 「もう夜だしな。二人とも、『一応は』女の子だから」

 

 「一応じゃないから!れっきとした女の子だから!」

 

 五和姉のツッコミ。俺は笑った。

 

 「ま、今日はゆっくり休みなよ。明日からは、俺達が二人の分まで戦うから」

 

 「・・・次の相手、ユリスちゃんと綾斗くんでしょ?勝てるの?」

 

 「・・・さぁな」

 

 肩をすくめる俺。

 

 俺はユリスに、綺凛は綾斗に勝ったことはあるが・・・俺の時は不慮の事故みたいなものだったし、綺凛も綾斗にリベンジされている。

 

 何より今回はタッグ戦であり、一対一とはまるで違うのだ。

 

 「・・・アイツらも、譲れない願いの為に戦ってる。でも綺凛の為に、俺も勝ちを譲るわけにはいかないからな」

 

 「・・・質問。七瀬はどうなのですか?」

 

 「え・・・?」

 

 「七瀬は優勝したら、何を願うのですか?」

 

 六月姉の問いに、俺は答えられなかった。

 

 「・・・考えてなかったわ」

 

 「そんなことだろうと思ったよ」

 

 苦笑する五和姉。

 

 「七瀬ったら、昔から自分のこと考えないもんね・・・いつも相手のこと考えて、自分のことは後回しだもん」

 

 「そうだっけ?」

 

 「そうだよ。だから・・・」

 

 俺に抱きつく五和姉。

 

 「・・・私達家族が、七瀬のことを考えてあげるの。七瀬のこと、全力で守るって決めてるんだから」

 

 「首肯。全力で甘やかしちゃいます」

 

 六月姉も抱きついてくる。

 

 「だから七瀬、いつでも六月達を頼って下さいね」

 

 「・・・ありがとな、二人とも」

 

 二人の背中に手を回す。ホント、良い姉を持ったと思う。

 

 「次の試合も頑張るから。応援してくれよな」

 

 「勿論!見に行くからね!」

 

 「約束。必ず行きます」

 

 「おう。じゃ、またな」

 

 五和姉と六月姉が俺から離れ、学園へと歩いていく。俺はそれを見送ると、踵を返して帰り道を歩き始めた。

 

 俺の願い、か・・・正直、シルヴィアと戦うことしか考えてなかったしなぁ・・・

 

 「シルヴィア・・・か」

 

 【・・・会いたいですか?】

 

 七海が話しかけてくる。

 

 「・・・会いたいな。でも・・・会う勇気が無い」

 

 【・・・怖いですか?】

 

 「そりゃあな・・・怖いよ」

 

 何せ殺しかけてしまったのだ。どんな顔をしたらいいのか、何を話したらいいのか、シルヴィアはどんな顔をするのか・・・まるで分からない。

 

 「でも・・・いい加減、覚悟を決めないとな」

 

 拳を強く握る俺。

 

 「・・・よし。願い事が決まったぞ」

 

 【何にするんですか?】

 

 「シルヴィア・リューネハイムと、会って話す機会が欲しい・・・だな」

 

 【・・・自分で会いに行ったら済む話なのでは?】

 

 「優勝して会いに行きたいからな」

 

 笑う俺。

 

 「強くなったところを、頑張ったところを・・・少しでもアイツに見てもらいたい。そしたら、少しは会う勇気も出るだろ」

 

 【チキンですね】

 

 「なにおう!?」

 

 クスクス笑っている七海。

 

 【でも・・・マスターらしいです。優勝して、シルヴィアさんに会いましょう】

 

 「おう。頼りにしてるぞ」

 

 【お任せ下さい】

 

 そんな会話をしながら、道を歩いていた時だった。奥の路地から、何やら大きな物音が聞こえた。

 

 「ん?何だ?」

 

 周りに意識を集中させる。すると・・・星辰力を持った人間が五人、奥の路地に集まっているのが分かった。

 

 そして更に、地面に倒れているのが二人・・・おいおい・・・

 

 「・・・リンチかよ」

 

 【そのようですね。卑劣なことを・・・】

 

 不愉快そうな声の七海。再開発エリアでもないのに、こんなことあるんだな・・・

 

 【マスター、どうしますか?】

 

 「・・・助けるか。ここで見ないフリするのは、ちょっと寝覚めが悪いし」

 

 俺はそう答えると、路地へと足を踏み入れた。進んでいくと、少し開けた場所に男達が集まっていた。

 

 物陰に隠れ、様子を窺う俺。ってか、アイツらが着てるのって・・・

 

 「・・・界龍の制服じゃねーか」

 

 【ですね・・・少々驚きです】

 

 てっきりレヴォルフだと思ってたんだが・・・と、一人の男がバカにしたように笑う。

 

 「ハッ、笑えるな。お前らが地べたに這い蹲る姿が見られるとは」

 

 「まぁ手持ちの札は、今日の試合で全て使い果たしてたしな。ダメージも癒えてないみたいだし、《叢雲》と《華焔の魔女》に感謝しないとな」

 

 もう一人の男も嘲笑する。

 

 ちょっと待て、じゃあ倒れてる二人って・・・

 

 「やかましい・・・ゴホッ・・・」

 

 そう言って立ち上がったのは・・・黎沈雲だった。よく見ると、隣に倒れているのはその妹の黎沈華だ。

 

 マジかよ・・・

 

 「お前らみたいなゴミ・・・僕一人で十分だ・・・」

 

 「ハッ、妹を庇おうってか?泣かせるねぇ」

 

 ニヤニヤ笑っている男達。

 

 「ま、今のお前じゃ無駄だろうけどな」

 

 「黙れえええええっ!」

 

 沈雲が術を唱えようとするが・・・

 

 「無駄だっつーの」

 

 三人の男達が、沈雲を取り押さえる。残りの二人も加わり、一方的なリンチが始まる。

 

 「がはっ!?」

 

 「オラオラァ!得意の星仙術はどうしたぁ!?」

 

 「そんなもん、使うヒマなんざ与えねーよ!」

 

 「・・・クズかアイツら」

 

 思わず苦い顔になる。術を唱えるヒマも与えず、ひたすらリンチしてるのか・・・

 

 「いつもいつも見下しやがって・・・人の気持ちが分かったか!?あぁ!?」

 

 「ごふっ!?」

 

 地面に突っ伏してしまう沈雲。と、倒れていた沈華がピクリと動いた。

 

 「止めなさい・・・沈雲に・・・手を出すな・・・!」

 

 「あぁ?」

 

 沈華を睨む男。

 

 「命令すんじゃねーよ、このクソアマ。おい、コイツ取り押さえろ。沈雲の方も取り押さえておけよ」

 

 二人が沈雲を、二人が沈華を取り押さえる。リーダー格の男が、沈華の顎を持ち上げて顔を上げさせる。

 

 「お前って、性格はマジで最悪だけどよぉ・・・良い身体してるよなぁ」

 

 沈華の所々破けた制服姿を見て、男が舌なめずりをする。

 

 「もっとよく見せてみろぉ!」

 

 「ひっ!?」

 

 男が沈華の制服を破っていく。必死に抵抗しようとする沈華だが、取り押さえられているので動くことが出来ない。

 

 「へへっ・・・ホント良い身体してやがるぜぇ・・・」

 

 上半身裸状態の沈華を見て、男が鼻息を荒くする。他の男達も興奮しているのか、息遣いが荒い。

 

 「お前には、少し調教が必要だなぁ・・・」

 

 「嫌っ・・・止めてっ・・・!」

 

 「止めろ!沈華に手を出すな!」

 

 涙を流す沈華と、必死に叫ぶ沈雲。だが、男は嘲笑するだけだ。

 

 「さぁ・・・覚悟しろよ?」

 

 「嫌ああああああああああっ!?」

 

 「止めろおおおおおおおおおおっ!?」

 

 二人の絶叫も虚しく、男が沈華の胸に手を伸ばし・・・

 

 「はいそこまでー」

 

 「ぐはっ!?」

 

 一瞬で距離を詰め、男に回し蹴りを食らわす。建物の壁にめり込む男。

 

 「は!?」

 

 「な、何だお前!?」

 

 「通りすがりの学生でーす」

 

 「がっ・・・!?」

 

 「ぐあっ・・・!?」

 

 沈華を取り押さえていた二人をぶん殴る。二人とも、もの凄い勢いで吹き飛んでいった。

 

 「ア、アンタ星導館の・・・」

 

 「違いますー。人違いですー」

 

 沈華の問いを、素早く否定する俺。

 

 「僕の名前はモンキー・●・ルフィ、海賊王になる男ですー」

 

 「思いっきり嘘でしょうが!?しかも何でそこを伏字にしたの!?」

 

 「ナイスツッコミだけど、早く隠しなよ。まぁ眼福だけど」

 

 「え・・・キャッ!?」

 

 上半身裸状態なのを思い出し、慌てて両腕で胸を隠す沈華。

 

 「どうもご馳走様でした」

 

 「ッ!?この変態!」

 

 「男は皆変態なのさ」

 

 「何カッコつけてんの!?」

 

 叫ぶ沈華に、俺の制服の上着を投げつける。

 

 「ほら痴女、それ着てろよ」

 

 「誰が痴女よ!?アンタ殺すわよ!?」

 

 そう言いながらも、急いで制服を着る沈華。と・・・

 

 「おい!俺達を無視すんじゃねぇ!」

 

 沈雲を取り押さえている男が怒鳴る。

 

 「テメェ、星導館の《覇王》だな!?コイツの命が惜しけりゃ、大人しくしろ!」

 

 「七海、頼んだ」

 

 【了解です、マスター】

 

 俺が男達に手を向けると、手から雷が迸った。

 

 「ギャアアアアアッ!?」

 

 「ぐああああああっ!?」

 

 煙を上げながら倒れる男達。

 

 「おー、雷って便利だなー」

 

 【今は私がサポートしてますが、ゆくゆくはマスターが自分で使いこなして下さいね】

 

 「頑張るわ」

 

 そんな会話をしていると、ふらふらと沈雲が立ち上がった。慌てて沈華が支える。

 

 「《覇王》・・・何のつもりだい?」

 

 「何が?」

 

 「何で僕達を助けた?」

 

 警戒しているのか、俺を睨んでくる沈雲。やれやれ・・・

 

 「ただの自己満足だよ。別に恩に着せようなんて考えちゃいないから、安心しな」

 

 「・・・分からないな。今日の試合で、僕達が《叢雲》と《華焔の魔女》に何をしたのか、知らないわけじゃないだろう?」

 

 「・・・まぁな」

 

 試合映像は少し見たが、酷いものだった。封印を破れない綾斗を執拗に責めたり、ユリスを捕らえてひたすら嬲ったり・・・

 

 正直、腸が煮えくり返った。

 

 「・・・お前らの戦い方は最低だ。ハッキリ言って・・・マジでクズだと思う」

 

 二人を睨む俺。

 

 「でも・・・だからと言って、お前らが同じ目に遭っていい理由にはならない。少なくとも俺はそう思ったから、お前らを助けた。それに・・・」

 

 「・・・それに?」

 

 続きを促してくる沈華。あー、これ言い辛いなー・・・

 

 「お前らがお互いを庇おうとするのを見て・・・放っておけなかったんだよ。ついさっきまで、俺も姉さん達と会ってたから・・・家族が大切な気持ちは分かるし」

 

 うわー、我ながら恥ずかしいこと言ってる・・・と、沈華が吹き出した。

 

 「フフッ・・・アンタ、言ってて恥ずかしくないの?」

 

 「恥ずかしいわ!だから言いたくなかったのに、お前が促すから!」

 

 「だって・・・フフッ・・・」

 

 「笑うなチクショー!」

 

 沈華はひとしきり笑うと、沈雲を見た。

 

 「・・・沈雲。コイツバカだけど、一応信用できそうよ?」

 

 「・・・まぁ確かに」

 

 俺を見つめる沈雲。

 

 「《覇王》・・・君には借りができたね」

 

 「言ったろ。借りだなんて思わなくて良い」

 

 「人の好意は素直に受け取っておきなさい。貴重なんだから、ありがたく思うのね」

 

 「何で偉そうなんだ痴女!」

 

 「だから痴女じゃないって言ってるでしょうが!」

 

 ギャーギャー言い合う俺達を見て、沈雲が苦笑する。

 

 「悪いけど、言い争うのは後だ。正直身体中が痛くて、早く手当てを受けたいからね」

 

 「・・・それもそうね。それに、倒れてる男達も何とかしないと」

 

 辺りを見回す沈華。このまま放置・・・というわけにもいかないか。

 

 「コイツらどうする?警備隊に身内がいるから、呼んだらすぐ来てくれると思うけど」

 

 「いや、警備隊は避けたいな」

 

 俺の提案に、首を横に振る沈雲。

 

 「コイツらも一応、界龍の学生だからね。捕まったら、界龍の名に傷が付いてしまう。とりあえず師父に報告すべきだろうけど・・・この身体で界龍まで戻るのはキツいな」

 

 表情を歪める沈雲。界龍に戻らずに星露に報告できて、二人を手当て出来る方法・・・

 

 「あ、だったら・・・」

 

 俺は二人に、ある提案をするのだった。

 




二話連続での投稿になります。

沈華って可愛いよね。

シャノン「いきなりだね・・・それでななっちと絡ませたの?」

まぁね。性格さえ良ければ、良いキャラなのになぁ・・・

というわけで、原作より少しマイルドな性格にしております。

あ、ついでに沈雲の方も。

シャノン「まぁ良いんじゃない?そういう部分があっても」

シャノンだって、本当は超性悪かもしれないもんな。

まぁゲームのキャラだから、詳しいことは分かんないけど。

シャノン「そ、そんなことないもん!女神のように慈悲深いキャラだよきっと!」

・・・フッ。

シャノン「また笑った!?」

それではまた次回・・・フッ。

シャノン「だから笑うなああああああああああっ!」


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狂暴治癒師

これで五十話目かぁ・・・

まさかここまで続くとは・・・


 『七瀬が倒した輩どもは回収した。あとはこちらで処理させてもらうぞ』

 

 「サンキュー、星露」

 

 星導館の自室にて、俺とクローディアは星露と通話していた。

 

 あの場所からは界龍より星導館の方が近いし、クローディアなら星露の連絡先を知っている。というわけで、俺は沈雲と沈華を星導館に連れてきたのだった。

 

 学園側にバレると面倒なので内密に、である。

 

 『礼を言うのはこちらの方じゃ。双子どもを助けてくれて感謝するぞ』

 

 「いいって。たまたま通りがかっただけだし」

 

 「ホント、七瀬はお人好しですね・・・」

 

 溜め息をつくクローディア。事情を説明した時は、呆れた表情をしてたっけ・・・

 

 「諦めた方がいいよ、エンフィールドさん。七瀬は昔からそうだから」

 

 苦笑しながらリビングに入ってきたのは、一織姉だった。その後ろから、沈雲と沈華も入ってくる。

 

 「全く・・・いきなり電話してきたと思ったら、『今すぐ星導館に来てくれ』だもん。何事かと思ったわよ」

 

 「悪いな、一織姉」

 

 《星武祭》に出場中の学生は、大会中に治癒能力者による治療を受けることは禁じられている。だが二人は今日敗退した為、その制約からは解放された。

 

 なので俺は一織姉を呼び出し、二人を治療してもらうことにしたのだ。

 

 「二人とも、具合はどうだ?」

 

 「驚くほど何ともないよ。さっきまでの痛みが嘘のようだ」

 

 「むしろ前より身体が軽くなったわ。治癒能力って凄いわね」

 

 どうやら、無事に治療できたようだ。良かった良かった。

 

 『ほう、流石じゃのう。礼を言うぞ、《狂暴治癒師》』

 

 「・・・《万有天羅》、その二つ名は甚だ不本意なのですが」

 

 顔が引き攣る一織姉。

 

 《狂暴治癒師》とは、一織姉の二つ名だ。学生時代の二つ名は《狂暴戦士》だったのだが、治癒能力に目覚めたことで二つ名が変わったのだ。

 

 もっとも、一織姉はどっちの二つ名も嫌がっているが。

 

 『そうかえ?お主にピッタリじゃと思うがのう。映像で見させてもらったが、楽しそうに戦う姿は印象的じゃったな』

 

 「楽しそうなんてレベルじゃないぞ。戦ってる時の一織姉、笑顔が獰猛すぎてマジで怖いんだからな」

 

 「七瀬!?人聞きの悪いこと言わないで!?」

 

 「事実だろ。あまりの怖さに、対戦相手が腰を抜かしてチビったことも・・・」

 

 「止めてえええええっ!?」

 

 『ほっほっほっ、仲の良い姉弟じゃのう』

 

 愉快そうに笑う星露。と、後ろの沈雲と沈華に目を向ける。

 

 『さて・・・双子ども』

 

 「「はっ」」

 

 恭しく頭を垂れる二人。おい、何か態度が違うんだけど。

 

 『七瀬と《千見の盟主》、それと《狂暴治癒師》に感謝することじゃ。しっかり礼をするのじゃぞ』

 

 「心得ております」

 

 沈雲が答える。星露が満足げに頷く。

 

 『うむ、それなら良い』

 

 「ってか星露、アイツらってお前の門下生じゃないよな?」

 

 俺は星露に尋ねた。

 

 『うむ、違うぞ。あんな卑劣なマネをする輩は、儂の弟子にはおらぬ。まぁ試合で相手を嬲る性格の悪い輩なら、若干二名ほどいるがの』

 

 星露の言葉に、沈雲と沈華がサッと顔を背けた。

 

 自覚はあるんだな・・・

 

 『界龍の中には、儂の弟子達に対抗意識を燃やす輩もおっての。特にそこの双子どもは性格が最悪じゃから、敵意を向ける輩は多い。あやつらもその一部じゃろうな』

 

 「ふーん・・・界龍も大変だな」

 

 『全くじゃ』

 

 溜め息をつく星露。

 

 『さて双子ども、怪我が治ったなら早く帰って来るのじゃ。いつまでもそこにおると、七瀬達に迷惑がかかるからの』

 

 「「はっ」」

 

 「いや、もう遅い時間だし泊まっていけば?」

 

 『その気持ちはありがたいが、お主は明日試合じゃろ?これ以上迷惑はかけられぬ』

 

 首を横に振る星露。

 

 『では七瀬、今回は本当に世話になったの。明日の試合、応援しとるぞ』

 

 「おう、頑張るわ」

 

 『あぁ、それと・・・その力、上手く制御するのじゃぞ』

 

 真面目な表情の星露。やっぱり、前に言ってた力って・・・

 

 「これのことだったんだな」

 

 『うむ。今はそれほど力を出していないようじゃが・・・力の解放には、十分気を付けることじゃ』

 

 「了解。気を付けるよ」

 

 『うむ。健闘を祈るぞ』

 

 星露との通信が切れる。沈雲と沈華が立ち上がった。

 

 「さて、僕達も帰るよ。色々と世話になったね」

 

 「感謝するわ。ありがとう」

 

 頭を下げる二人。おいおい・・・

 

 「お前らが頭を下げるとか・・・アスタリスクが崩壊するんじゃね?」

 

 「アンタ、私達を何だと思ってるのよ・・・」

 

 「痴女とその兄貴」

 

 「痴女呼ばわりは止めなさいってば!?」

 

 「冗談だよ」

 

 笑いながら沈華の頭を撫でる俺。

 

 「帰りは気をつけろよ、沈華」

 

 「・・・ようやく名前で呼んだわね」

 

 そっぽを向く沈華。恥ずかしいのか、少し顔が赤い。

 

 「ってか、いつまで撫でてんのよ!?セクハラで訴えるわよ《覇王》!?」

 

 「悪い悪い。ってか、七瀬でいいぞ?俺も名前で呼んでるんだし」

 

 「・・・ふん、検討してあげるわ」

 

 素直じゃないなぁ・・・と、沈雲が一歩前に出てきた。

 

 「《覇王》・・・いや、七瀬と呼ぶべきかな。君には大きな借りができたね」

 

 「だから借りだなんて思うなって」

 

 「そうもいかない。助けられたのは事実だしね。だから・・・」

 

 空間ウィンドウを操作したかと思うと、それを俺に飛ばしてくる沈雲。そこには、二人の連絡先が記されていた。

 

 「もし何か困ったことがあったら、いつでも連絡してくれ。僕達に出来ることなら、力を貸そうじゃないか」

 

 「ちょっと沈雲!?何で私の連絡先まで!?」

 

 「沈華も助けてもらっただろう?七瀬に借りを作ったままで良いのかい?」

 

 「そ、それは・・・」

 

 口ごもる沈華。それを見て、沈雲が苦笑する。

 

 「悪いね、妹は素直じゃないんだ」

 

 「何だ、ただのツンデレか」

 

 「誰がツンデレよ!?アンタなんかにデレたりしないんだからね!?」

 

 うわ、テンプレのようなセリフだな・・・

 

 「それじゃ、失礼するよ」

 

 「ふんっ、またね」

 

 「『またね』ってことは、また会う意思があるんだよな?」

 

 「っ!?し、知らないわよバカ!」

 

 急いでベランダから飛び降りる沈華。やれやれといった表情で、沈雲も後に続いて飛び降りる。

 

 帰ったか・・・

 

 「・・・根っからの悪、って感じじゃなさそうだな」

 

 「ですね。意外でした」

 

 笑っているクローディア。

 

 「ホント、七瀬は女性を口説くのがお上手ですね」

 

 「誰がいつ口説いたよ」

 

 「この鈍感さ・・・シルヴィが苦労しそうだわ」

 

 何故か一織姉が溜め息をついていた。

 

 「あ、お疲れ一織姉。もう帰っていいよ」

 

 「冷たくない!?あの二人には『泊まっていけば?』って言ってたじゃない!」

 

 「いや、治癒能力者がここにいるのはマズいじゃん?俺まだ試合あるし」

 

 「今さら!?そもそも私をここに呼んだこと自体マズいでしょうが!」

 

 「弟が姉を呼ぶことがマズいわけないだろ。頭おかしいんじゃないの?」

 

 「言ってることが矛盾してるんだけど!?」

 

 「・・・本当に仲がよろしいですね」

 

 苦笑するクローディア。

 

 「七瀬、今夜は一織さんに泊まっていただきましょう。もう夜も遅いですし」

 

 「一織姉を襲う命知らずなんていないだろ。むしろ襲った奴が死ぬわ」

 

 「酷い言われようね!?いい加減泣くわよ!?」

 

 「泣け喚け叫べ」

 

 「うわあああああん!」

 

 机につっぷす一織姉。やれやれ・・・

 

 「まぁ、二人を治療してもらったしな・・・仕方ないから泊めてやるか」

 

 「わーいっ!七瀬大好きーっ!」

 

 抱きついてくる一織姉。切り替え早いなオイ・・・

 

 「っていうか、ここ女子寮よね?何で七瀬が女子寮に住んでるの?」

 

 「今さら!?」

 

 「フフッ、説明していませんでしたね」

 

 あ、クローディアの目が光った・・・これアカンやつや。

 

 「正確に言うと、ここは私と七瀬の部屋です。私達は同棲しているのですよ」

 

 「えええええええええええええええ!?」

 

 驚愕している一織姉。

 

 「ちょっと七瀬!?どういうことよ!?」

 

 「落ち着け一織姉!ルームシェアしてるだけだから!」

 

 「今では毎晩同じベッドで寝てますけどね」

 

 「嘘でしょ!?毎晩同じベッドでヤッてるですって!?」

 

 「耳がおかしいのかアンタ!?ただ寝てるだけだわ!」

 

 「まぁ酷い・・・私とは遊びだったんですね・・・」

 

 「遊んでんのはお前だろうが!」

 

 「シルヴィがいながら、エンフィールドさんに手を出すなんて・・・七瀬!今日は私と一緒に寝るわよ!お姉ちゃんがその腐った根性を叩き直してあげるわ!」

 

 「人の話を聞けバカ姉えええええっ!」

 

 一織姉の頭を全力で叩く俺なのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「何でこうなった・・・」

 

 「いいじゃない。姉弟なんだから」

 

 俺と一織姉は、俺のベッドで一緒に寝ていた。クローディアは、『今夜は姉弟水入らずでお過ごし下さい』とか言って自分の寝室に行っちゃったし・・・

 

 大丈夫かな、アイツ・・・

 

 「・・・エンフィールドさんが心配?」

 

 俺の顔を覗き込む一織姉。表情に出てたかな・・・

 

 「・・・詳しくは言えないけど、アイツを一人で寝かせるのは心配でさ」

 

 「・・・《パン=ドラ》の代償のこと?」

 

 「ッ!?」

 

 俺は思わず飛び起きた。

 

 「何で一織姉がそれを!?」

 

 「・・・学生時代、私のルームメイトが《パン=ドラ》の使い手になってね」

 

 表情が暗くなる一織姉。

 

 「三日も保たなかったわ。《パン=ドラ》の悪夢にうなされて発狂して、精神的に参っちゃったんでしょうね・・・《パン=ドラ》を手放した後、すぐに退学しちゃった」

 

 「・・・マジか」

 

 やっぱり、マジでヤバいんだな・・・

 

 「・・・きっとエンフィールドさんには、どうしても叶えたい願いがあるんだろうね。でなきゃ、あんなもの何年も所有したりしないと思う。正直、彼女の精神が崩壊してないのが不思議なくらいだよ」

 

 「・・・叶えたい願い、か」

 

 俺がアイツの力になってやれるとしたら・・・

 

 「・・・よし、決めた」

 

 「何を?」

 

 「んー・・・この先の方針、かな」

 

 「はい?」

 

 キョトンとしている一織姉。まぁそのうち分かるだろう。

 

 「ところで一織姉・・・聞きたいことがあるんだけど」

 

 「・・・そんな気はしてたよ」

 

 苦笑する一織姉。

 

 「私を呼んだのは、あの二人を治療させる為もあったんだろうけど・・・もう一つ、七瀬の力について聞く為でしょ?」

 

 「・・・その反応を見るかぎり、全部知ってたな?」

 

 「まぁね。七瀬が生まれた時にはもう、当時の状況を理解できるくらいには成長してたし」

 

 「ってことは、二葉姉も?」

 

 「うん、知ってるよ。三咲や四糸乃は小さかったし、五和と六月はまだ物心もついてなかったから知らなかったはずだけど・・・あの人は知ってたよ」

 

 「・・・やっぱりか」

 

 思わず苦い顔になる。予想通りだな・・・

 

 「七瀬・・・」

 

 心配そうに俺を見る一織姉。

 

 「七瀬は、自分を責める必要なんてないんだよ?」

 

 「・・・ありがとな、一織姉」

 

 俺は一織姉の頭を撫でた。

 

 「俺、この力と向き合うよ。ちゃんと使いこなせるようにするから」

 

 「うん、七瀬なら出来るよ」

 

 一織姉が優しく微笑む。

 

 「私も七瀬の力になるから。だから七瀬は、真っ直ぐ突き進んでね」

 

 「おう、ありがとな」

 

 「ただし、女の子遊びは程々にね」

 

 「いやしてないし!?」

 

 俺のツッコミに、一織姉がクスクス笑う。

 

 「フフッ、やっぱり七瀬は可愛いなぁ」

 

 「からかうなよ・・・」

 

 「ダーメ。これは姉の特権だから」

 

 「・・・じゃあ、弟の特権を使わせてもらうわ」

 

 俺はそう言うと、一織姉を強く抱き締めた。

 

 俺の心中を悟ったのか、一織姉は微笑みながら静かに俺の腕に抱かれていたのだった。

 




三話連続での投稿となります。

シャノン「五十話達成だね!」

いやー、始めた時は予想してなかったわ。

途中で終わるんじゃないかなって思ってたもん。

シャノン「実際七ヶ月も放置してたもんね」

お前それずいぶん引っ張るよね・・・

でもやっぱり、書くのって楽しいよね。

この作品を読んでくださっている方々に、少しでも面白いと思ってもらえてたら良いんだけど・・・

シャノン「コメントしてくれる人もいるし、ありがたいよね」

ホントそれ。マジでありがたい。

この作品を読んでくださっている皆さん、いつもありがとうございます。

これからも、この作品をよろしくお願い致します。

シャノン「よろしくお願いします」

次の更新は出来れば明日、出来なければ木曜日か金曜日になります。

それではまた次回!

シャノン「またねー!」


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六人の姉

ちょいちょい名前だけ出していましたが・・・

あの人が出ます。


 翌日、俺と綺凛は控え室で待機していた。

 

 ユリスと綾斗との対戦を前に、控え室には緊張した雰囲気が・・・

 

 「それでそのまま、七瀬に抱き締められた状態で寝たんだ~♪」

 

 「一織姉様ずるいです!七瀬、私も今度泊まりにいきますから!」

 

 「私も行くー!星導館にも行きたいし!」

 

 「同意。六月もお邪魔します」

 

 「何で寛いでんだバカ姉どもおおおおおおおおおおっ!?」

 

 漂ってすらいなかった。完全にバカ姉どもの憩いの場となっていた。

 

 「俺達試合前だからね!?何この緊張感の無さ!」

 

 「だって試合するのは七瀬達であって、私達じゃないもん」

 

 しれっと答える一織姉。

 

 「だからって何で控え室で寛いでんの!?ってか一織姉は仕事休みらしいけど、三咲姉は生徒会の仕事あるんじゃないの!?」

 

 「ありましたよ。全部レティシアに押し付けてきましたが」

 

 「何してんの!?レティシア死ぬよ!?」

 

 「彼女なら上手くやるでしょう。私は彼女を信じてますから」

 

 「そんな信頼は要らないと思うよ!?」

 

 スマン、レティシア・・・今度何か奢るわ・・・

 

 「私達は昨日、七瀬と約束したもんねー!」

 

 「首肯。約束通りきました」

 

 「・・・はいはい、ありがとな」

 

 何かもう面倒だったので、テキトーに頭を撫でておく。綺凛が苦笑していた。

 

 「アハハ・・・七瀬さん、愛されてますね」

 

 「勘弁してくれ・・・」

 

 と、来訪者を告げるチャイムが鳴った。空間ウィンドウを見ると・・・

 

 『七瀬~っ!』

 

 もう一人のバカ姉がいた。

 

 「二葉姉、ハウス」

 

 『犬扱い!?せっかく応援に来てあげたのに!?』

 

 「いや仕事しろよ。警備隊も忙しいだろうに」

 

 『姉さん達が集まるっていうから、上司を脅して休み取ってきたわ』

 

 「何やってんの!?」

 

 こんな人が警備隊やってて良いんだろうか・・・

 

 と、二葉姉の後ろから見覚えのある顔がひょこっと現れた。

 

 「え!?」

 

 慌ててロックを解除する俺。入ってきたのは二葉姉と、水色の髪の女性だった。俺を見るなり、パァッと顔を輝かせる。

 

 「なーちゃん!」

 

 「四糸乃姉!?」

 

 俺の胸に飛び込んでくる女性・・・星野四糸乃。この人も俺の姉さんだ。

 

 「久しぶり!元気してた?」

 

 「勿論だよ!四糸乃姉も元気そうだね」

 

 「この通りだよ!」

 

 胸を張る四糸乃姉。小柄な身体の割に大きな胸が、これでもかと強調される。

 

 「ってか四糸乃姉、仕事はいいの?」

 

 「今日は休みなんですって」

 

 二葉姉が答える。

 

 「どうしても七瀬に会いたくて、スケジュールを調整したそうよ」

 

 「わわっ!?二葉お姉ちゃん!?」

 

 顔を赤くして焦る四糸乃姉。俺は四糸乃姉の頭を撫でた。

 

 「ありがとな、四糸乃姉。久しぶりに会えて嬉しいよ」

 

 「なーちゃん・・・えへへ」

 

 照れ笑いを浮かべる四糸乃姉。と・・・

 

 「あ、あのー・・・」

 

 「ひうっ!?」

 

 綺凛に話しかけられ、慌てて俺の背中に隠れる四糸乃姉。

 

 「えぇっ!?どうしたんですか!?」

 

 「悪いな綺凛、四糸乃姉は極度の人見知りなんだ」

 

 苦笑する俺。変わってないなぁ・・・

 

 「コラ四糸乃、刀藤さんは七瀬のタッグパートナーよ?」

 

 「キチンと挨拶しないとダメでしょう?」

 

 一織姉と三咲姉に背中を押され、おずおずと前に出る四糸乃姉。

 

 「ク、クインヴェール女学園の星野四糸乃です・・・は、初めまして・・・」

 

 「初めまして、刀藤綺凛です。よろしくお願いします」

 

 綺凛が笑顔で握手を求める。その手をおずおずと握る四糸乃姉。

 

 「・・・鍛えられてる」

 

 「分かるんですか?」

 

 「何度も剣を振った人の手をしてるから・・・三咲お姉ちゃんや、いっちゃんやむっちゃんと同じ・・・」

 

 「小さい頃から、ずっと剣を握ってきましたから」

 

 「・・・凄いね」

 

 小さく笑みを浮かべる四糸乃姉。と、綺凛が首を傾げた。

 

 「ひょっとして・・・ルサールカのシノン!?」

 

 「はうっ!?」

 

 突然大声を上げた綺凛に、びくっとする四糸乃姉。

 

 「あれ?綺凛知ってるんだ?」

 

 「有名じゃないですか!ルサールカを知らない人なんて、そうそういませんよ!?」

 

 珍しく熱を帯びた口調の綺凛。

 

 「ルサールカといったら、クインヴェールが誇る人気ガールズロックバンドじゃないですか!しかも実力も折り紙つきで、前回の《獅鷲星武祭》で《星武祭》初出場ながらいきなりベスト八入りですよ!?凄くないですか!?」

 

 「お、おう・・・とりあえず、お前の熱は十分に伝わったわ・・・」

 

 「こんなところでお会いできるなんて光栄です!七瀬さんのお姉様だったなんて!」

 

 「フフッ・・・ありがとう」

 

 綺凛の気持ちが嬉しかったのか、四糸乃姉も柔らかく微笑んでいる。

 

 「綺凛ちゃん、って呼んでも良いかな?なーちゃんのこと、よろしくね」

 

 「は、はいっ!お任せ下さい!」

 

 今度は逆に綺凛が真っ赤になっていた。これは予想外だったな・・・

 

 その時、試合開始が迫ったことを告げるアラームが鳴った。綺凛と視線を合わせる。

 

 「いくか」

 

 「はいっ」

 

 俺達が立ち上がると、姉さん達も立ち上がる。

 

 「七瀬、頑張って」

 

 「応援してるわよ」

 

 「楽しんできて下さい」

 

 「なーちゃんなら大丈夫だよ」

 

 「私達に勝ったんだもん。自信持ちなよ」

 

 「激励。七瀬ならどんな相手でも勝てます」

 

 一織姉、二葉姉、三咲姉、四糸乃姉、五和姉、六月姉・・・六人それぞれがエールを送ってくれる。それが何よりも嬉しかった。

 

 「ありがとう。行ってくる」

 

 「行ってらっしゃい!」

 

 「綺凛ちゃんも頑張ってね」

 

 「はいっ!」

 

 皆に見送られながら、綺凛と共に控え室を出て通路を歩く。

 

 と、通路に誰かが立っていた。あれって・・・

 

 「紗夜!レスター!」

 

 「七瀬、刀藤、激励しに来た」

 

 「感謝しろよ。早めに来てやったんだからな」

 

 笑っている二人。二人はこの次の試合で、準決勝進出をかけて戦う。本来なら試合に備えて集中するところを、わざわざ来てくれたのか・・・

 

 「ユリスと綾斗のところに行かなくて良いのか?」

 

 「さっき行ってきた。だから七瀬達のところにも来た」

 

 微笑む紗夜。俺達に拳を向ける。

 

 「二人とも頑張れ。全力でぶつかってこい」

 

 「アイツらは全力で勝ちにくるぜ。だからお前らも、全力で勝ちに行けよ」

 

 「あぁ、勿論!」

 

 「頑張ります!」

 

 二人と拳を合わせ、俺と綺凛はステージへと向かったのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 『《鳳凰星武祭》準々決勝の第一試合が、間もなく始まります!そうそうたるメンバーがベスト八に残っていますが、果たしてベスト四に進むのはどのタッグでしょうか!?』

 

 『昨日の五回戦では、優勝最有力候補と言われた星野五和・六月選手のタッグが敗れたッスからね。界龍の黎沈雲・沈華選手のタッグも敗退しましたし、ここからどうなっていくのか注目ッス』

 

 今日もお馴染みの実況者と解説者の声が聞こえてくる。

 

 『第一試合は、星導館同士の対決となります!まず姿を現したのは、天霧綾斗選手とユリス=アレクシア=フォン=リースフェルト選手のタッグです!昨日は界龍の黎沈雲・沈華選手のタッグを打ち破り、見事ベスト八進出を決めました!』

 

 『天霧選手は力を出せる時間が制限されていたことがネックでしたが、昨日の試合でそれを克服したみたいッスからね。かなり期待が持てるッス』

 

 そう、どうやら綾斗の制限時間は増えたようなのだ。今までは五分くらいだったのが、一時間ほどにまで伸びたらしい。もっとも、完全に封印が解けたわけではないらしいが。

 

 だが、あの力を一時間も使えるとなると、厄介なことこの上ない。

 

 それに・・・

 

 「識の境地、だっけ?あれも厄介だよな」

 

 「ですね。あれがある限り、綾斗先輩はフィールド上の全てを把握できます。昨日も奇襲は全く通じていませんでした。となると・・・」

 

 「真正面から倒すしかない、か・・・」

 

 とはいえ、綾斗は序列一位の実力者だ。一人で倒すのは難しいだろう。

 

 「・・・よし、作戦通りでいこうか」

 

 「ですね」

 

 綺凛が笑顔を見せる。そんな綺凛を見て、俺は頭を撫でた。

 

 「七瀬さん?」

 

 「綺凛、俺・・・優勝したら、シルヴィアに会おうと思う」

 

 「っ!ほ、本当ですか!?」

 

 「あぁ、それを優勝の願い事にするつもりだ」

 

 笑う俺。

 

 「今までは、綺凛の願いを叶える為だけに戦ってきたけど・・・俺にも譲れない願いができた。だから・・・願いを叶える為に、力を貸して欲しい」

 

 「当たり前じゃないですか」

 

 俺の手を握る綺凛。

 

 「一緒に願いを叶えましょう。二人で絶対優勝しましょうね」

 

 「あぁ、必ず」

 

 俺達は笑い合い、拳を合わせる。そして共にステージへと上がった。

 

 『続いて姿を現しました、刀藤綺凛選手と星野七瀬選手のタッグです!昨日は優勝最有力候補と言われた、星野五和・六月選手を破って準々決勝に駒を進めました!』

 

 『七瀬選手も昨日の試合で、新たな力が明らかになったッスからね。どういった戦いを見せてくれるのか、非常に楽しみッス』

 

 ステージの中央へと進む俺と綺凛。待っていたユリスと綾斗が、笑みを浮かべる。

 

 「お前達とは決勝、最低でも準決勝で戦いたかったな・・・沙々宮やレスターと共に、ベスト四に残りたかったところだ」

 

 「贅沢なんて言ってらんないさ」

 

 ユリスの言葉に、肩をすくめる俺。

 

 「勝ち進む限り、いずれは戦うことになるんだ。それが早いか遅いかだけの違いだよ。むしろベスト八まで来たんだから、遅い方だろ」

 

 「確かに」

 

 綾斗が苦笑する。そして《黒炉の魔剣》を起動する。

 

 「全力で戦おう。お互い悔いの残らないようにね」

 

 「えぇ、頑張りましょう」

 

 《千羽切》を抜く綺凛。ユリスも《アスペラ・スピーナ》を起動した。

 

 「いくぞ、七海」

 

 【了解です、マスター】

 

 七海の返事と共に、俺の両手に《神の拳》が装着された。

 

 いよいよか・・・

 

 「勝つぞ、綺凛」

 

 「はいっ!」

 

 「綾斗、全力で行くぞ」

 

 「勿論」

 

 睨み合う俺達。そして機械音声が、試合開始を告げるのだった。

 

 『《鳳凰星武祭》準々決勝一組、試合開始!』

 




どうも~、ムッティです。

名前だけ出ていた四糸乃が、遂に登場しましたね。

シャノン「モチーフは・・・『デート・ア・ライブ』の四糸乃だよね」

はい、そのままでスイマセン・・・

シャノン「もうモチーフっていうか、ただのパクr・・・」

それ以上は言ってはいけない!あ、ちなみに大人ver.の四糸乃ね。

シャノン「っていうか、作者っち『デート・ア・ライブ』好きだよね。五和さんと六月さんのモチーフだって、耶倶矢と夕弦でしょ?」

そうそう。キャラが可愛いから、ついモチーフにしちゃうのよ。

一番好きなキャラは美九だから、いずれモチーフにするかも。

シャノン「名前に数字を入れるところまで真似してるとは・・・完全にパクr・・・」

そ、それではまた次回!

シャノン「あ、逃げた!」


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七瀬の意地

七瀬&綺凛 VS ユリス&綾斗!

勝つのはどちらだ!?



・・・こんな感じの前フリでいいかな(笑)


 「七海っ!」

 

 【はいっ!】

 

 俺が右手を前に向けると、瞬時に雷がユリスと綾斗に襲いかかる。二人が左右それぞれに避ける。

 

 よし・・・

 

 「やぁっ!」

 

 「くっ!?」

 

 ユリスの避けた先には、綺凛が先回りしていた。刀で斬りかかられ、咄嗟にレイピアで受け止めるユリス。

 

 「ユリスっ!」

 

 綾斗が急いで加勢しようとするが・・・

 

 「はぁっ!」

 

 「ぐっ!?」

 

 綾斗との間合いを詰めていた俺は、綾斗目掛けて拳を放った。《黒炉の魔剣》で防ぐ綾斗だったが、構わず力で押し込んで吹き飛ばす。

 

 空中で一回転し、そのまま着地する綾斗。

 

 「おいおい、人を無視すんなよ。それとも俺みたいな雑魚より、綺凛みたいな実力者と戦いたかったか?」

 

 「・・・どの口が自分を雑魚だなんて言うんだい?」

 

 苦笑する綾斗。

 

 「星導館の序列三位が、雑魚なわけないだろ」

 

 「一位に比べたら雑魚だろうよ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「三位だなんて聞こえは良いが、綺凛みたいに俺より強い奴はたくさんいる。二位のクローディアとも大きな差があるし、俺の実力なんて大したこと無いさ」

 

 「ベスト八まで勝ち上がってきて、何を言ってるのさ」

 

 「それも綺凛と七海のおかげだ。俺は俺に出来ることをやっただけさ」

 

 「・・・謙虚だね、七瀬は」

 

 何処か呆れた表情の綾斗。

 

 「じゃあ俺の相手も、七瀬に出来ることの一つなのかい?」

 

 「相手をするだけなら、な」

 

 そう、俺の狙いは綾斗を倒すことじゃない。綾斗を足止めしておくことだ。

 

 「一対一じゃ、俺はお前には勝てない。綺凛でさえ五分五分ってところだろう。なら、俺達が取るべき戦法は一つだ」

 

 「・・・ユリスを倒し、二対一に持ち込むこと」

 

 綾斗は既に察していたようだ。まぁ、気付いていても邪魔をさせるつもりは無いが。

 

 「あぁ。だがお前がいる以上、二人でユリスを集中攻撃は出来ない。どちらかがユリスを攻撃し、どちらかがお前を足止めしないといけないんだよ。そしてユリスとタイマンで戦って、勝てる可能性が高いのは・・・」

 

 「綺凛ちゃんだね・・・近接戦闘なら、間違いなく彼女に分がある」

 

 「そうだ。それに綺凛の《千羽切》じゃ、《黒炉の魔剣》とまともに打ち合えない。純星煌式武装とまともに打ち合えるのは、同じ純星煌式武装だけだしな」

 

 「なるほど・・・それで《神の拳》を持つ七瀬が、俺の相手ってわけか」

 

 《黒炉の魔剣》を構える綾斗。

 

 「なら俺は七瀬を倒して、ユリスの助太刀に向かうだけだよ」

 

 「意地でも通さん。綺凛がユリスを倒すまでの時間だけは、絶対に稼ぐ」

 

 睨み合う俺達。そして・・・

 

 「はぁっ!」

 

 「らぁっ!」

 

 剣と拳がぶつかり合った。激しく火花を散らす。

 

 『タ、タイマンだーっ!星導館の序列一位と序列三位が、真っ向からぶつかり合っているーっ!チャムさん、熱い展開ですね!?』

 

 『激アツッス!これは目が離せないッスね!』

 

 興奮した様子の実況と解説。俺は綾斗へ膝蹴りを放った。

 

 「がっ!?」

 

 少しバランスを崩したところで、力ずくで拳を振りぬく。拮抗状態はすぐに崩れ、俺は綾斗を押し切った。

 

 吹き飛んだ綾斗を追撃する為、一瞬で差を詰める。が・・・

 

 「ふんっ!」

 

 「ぐっ!?」

 

 空中でバランスを崩した状態の綾斗が、《黒炉の魔剣》を振りぬいた。右肩を切られてしまうが、構わず拳を放つ。

 

 「はぁっ!」

 

 「がはっ!?」

 

 吹き飛んだ綾斗がフィールドの壁に叩きつけられる・・・と思いきや。

 

 「はあああああっ!」

 

 壁に足場に、そのまま跳躍する綾斗。《黒炉の魔剣》の切っ先を俺に向け、そのままの勢いで突きを放ってくる。

 

 急いで拳で迎え撃つも、勢いで押され今度は俺が吹き飛ぶ。

 

 「ぐあっ!?」

 

 勢いよくフィールドを転がる俺。

 

 「ユリス!」

 

 その隙に綾斗がユリスの下へ行こうとするが・・・

 

 「七海!」

 

 【お任せを!】

 

 右手から雷が迸る。今度はジャンプして避ける綾斗。

 

 だが・・・

 

 「空中で逃げ場は無いぞ」

 

 「ッ!?がぁっ!?」

 

 同時に構えていた左手からも雷が迸り、綾斗を直撃する。

 

 地面に落下した綾斗を見て、俺はよろよろと立ち上がった。

 

 「意地でも通さんと言ったはずだ。綺凛の邪魔はさせない」

 

 「・・・俺には勝てないって言ってなかった?押されてるんだけど、俺・・・」

 

 綾斗もよろよろと立ち上がる。あぁ、勝てないさ・・・

 

 「単独ならな。でも今の俺には、七海がついていてくれる」

 

 《神の拳》を撫でる俺。

 

 「それでも勝てはしないだろうが・・・今のところ互角か。マジで七海のおかげだな」

 

 【いえ、マスターが頑張っているからですよ】

 

 「いやいや、七海が雷で俺の身体能力を上げてくれてるからだよ。じゃなきゃ、封印解除状態の綾斗に追いつけるはずがないし」

 

 【元々はマスターの力ですから。もっと自信持って下さい】

 

 「七海・・・」

 

 【マスター・・・】

 

 「二人の世界に入らないでよ!?こっちには七海さんの声聞こえないんだから!」

 

 「あ、そうだった」

 

 すっかり忘れてた・・・てへぺろっ。

 

 「さて・・・続きをやろうか」

 

 拳を構えた瞬間だった。

 

 「咲き誇れ!呑竜の咬焔花!」

 

 「なっ!?」

 

 ユリスの出した巨大な焔の竜が、俺を目掛けて飛んでくる。

 

 「くっ・・・《断罪の一撃》!」

 

 俺の拳が竜とぶつかり、光の柱と共に竜が消滅する。

 

 だが・・・

 

 「はぁっ!」

 

 「がっ!?」

 

 その隙に間合いを詰めていた綾斗の攻撃を、まともに食らってしまう。勢いよく吹き飛び、フィールドの壁に激突する俺。

 

 【マスター!?大丈夫ですか!?】

 

 七海が心配してくれるが、痛くて返事すら出来なかった。

 

 何とか顔を上げると、綺凛が綾斗と戦っているところだった。何だか、いつもより動きが鈍い気がする・・・

 

 と、綺凛の身体の所々に火傷の跡があることに気付いた。ユリスに思ったより苦戦したってことか・・・?

 

 『チャムさん、リースフェルト選手は刀藤選手とほぼ互角にやり合っていましたね?』

 

 『えぇ、驚きッス。刀藤選手にあれだけ火傷を負わせるなんて、大会前じゃ出来なかったんじゃないッスかね』

 

 チャムさんの解説が聞こえてくる。

 

 『そして刀藤選手は火傷で動きが鈍り、リースフェルト選手はその隙をついて七瀬選手に攻撃・・・大会前の二人の力量差は明らかでしたが、リースフェルト選手はこの大会で腕を上げたッスね』

 

 「・・・ッ!」

 

 そういうことか・・・どうやら俺達は、ユリスの実力を見誤っていたらしい。

 

 そうこうしているうちに、綺凛が綾斗に追い詰められていく。綺凛も何とかしようとしているが、いつも通りに動けない上にユリスの攻撃まで受けている。いくら綺凛といえど、あの二人同時には相手に出来ない。

 

 急いで助太刀しようとするが・・・

 

 「ッ・・・身体が・・・!?」

 

 動いてくれなかった。くそっ、何でだ!?

 

 【昨日の試合のダメージが残っているんだと思います】

 

 七海が説明してくれる。

 

 【昨日も今日も、マスターは雷の能力で身体を強化しています。本来以上に無理矢理身体能力を上げている為、力に慣れていないマスターの身体に限界が来たんでしょう。加えて昨日は五和さんの、今日は綾斗さんの攻撃をもろにくらっています。あれだけのダメージを受けながら、むしろよくここまで保った方です】

 

 「くっ・・・!」

 

 冗談じゃない。俺は綺凛と優勝するって約束したんだ。このままじゃ・・・

 

 「七海!無理矢理で良い!雷で身体を動かせ!」

 

 【無茶です!マスターの身体はもう限界なんですよ!?そんな状態で力を使ったら、マスターの身体が・・・!】

 

 「構わない!綺凛が戦ってんだ!俺も一緒に・・・!」

 

 その時、無情にも機械音声が流れた。

 

 《刀藤綺凛、校章破壊》

 

 「・・・え?」

 

 見ると、その場に崩れ落ちる綺凛の姿があった。

 

 綺凛が・・・負けた・・・?

 

 【・・・ここまでです、マスター】

 

 悔しそうな七海の声。

 

 【マスターも綺凛さんも、本当に頑張りました。ですが・・・】

 

 「・・・ふざけるな」

 

 【マスター・・・?】

 

 「俺はまだ戦える・・・ッ!」

 

 無理矢理身体に力を込め、立ち上がろうとする俺。身体に雷が迸る。

 

 【なっ!?力が勝手に!?ダメですマスター!それ以上は・・・ダメ・・・!】

 

 七海の言葉が段々聞こえなくなる。だが、そんなことはどうでもいい。

 

 今は・・・あの二人を倒すのが先決だ。

 

 「があああああああああああああああッ!」

 

 絶叫したのを最後に、俺の意識は黒く塗り潰されていったのだった。

 




二話続けての投稿になります。

シャノン「・・・最後ずいぶん不穏な感じなんだけど」

ねー。どうなるんだろうねー。

シャノン「他人事!?」

この展開は、前々から決めてたんだよね。

シャノン「そ、そうなんだ・・・ち、ちなみに私の出番は・・・」

え、出たいの?これからちょっとヤバい感じだけど・・・出たいの?

シャノン「スイマセンいいです!もう少し平和な流れになってからでお願いします!」

よろしい。まぁ、続きをお楽しみにということで。

次回は木曜日、もしくは金曜日の投稿になりそうです。

それではまた次回!

シャノン「またねー!」






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至高の歌姫

タイトル通り、あの人が出てきます。


 ≪ユリス視点≫ 

 

 『刀藤綺凛、校章破壊』

 

 綾斗が刀藤の校章を斬り、私はほっと一息ついた。

 

 刀藤とタイマンで戦うことになるとは思わなかったが、我ながら善戦したと思う。勝てないとは分かっていたが、粘って隙をつくことが出来た。その結果七瀬を攻撃して隙を作ることができ、綾斗の手助けが出来たのだがら上々だろう。

 

 そして刀藤はここで脱落・・・後は二人で七瀬を倒して終わりだ。

 

 「・・・参りました」

 

 悔しそうな表情の刀藤。刀藤には、収監中の父親を助けたいという願いがある。

 

 無論私にも譲れない願いがあるので、勝ちを譲るつもりなどさらさら無かったが・・・

 

 「・・・すまないな、刀藤」

 

 それでも、やはり罪悪感は拭えない。私は刀藤に詫びた。

 

 「良いんです。これは真剣勝負なんですから。それに・・・」

 

 刀藤は笑うと、我々のずっと後ろに目を向けた。そこには、立ち上がろうとしている七瀬の姿があった。

 

 「七瀬さんは、まだやられてはいません。試合は終わってませんから」

 

 「・・・そうだね」

 

 綾斗が頷く。

 

 本当は刀藤も綾斗も分かっているのだろう。あの状態の七瀬では、私と綾斗の二人を相手取ることなど出来ないと。

 

 だが、それでも・・・

 

 「全力で行くぞ、綾斗。それが対戦相手への・・・いや、友人への礼儀というものだ」

 

 「勿論だよ。ここで手を抜いたら、七瀬に対する侮辱になるからね」

 

 私達が頷き合った瞬間・・・

 

 「があああああああああああああああっ!」

 

 七瀬の絶叫が響き渡った。その瞬間、七瀬の身体から尋常ではない程の雷が溢れ出す。

 

 「なっ・・・何だアレは!?」

 

 私は驚愕した。私が出す炎など、比較にならないほどのものだ。

 

 「何か様子が変だ!七瀬の話じゃ、雷の力は七海さんが制御してるはずだろう!?昨日はこんなに雷を出してはいなかったはずなのに!」

 

 「これじゃ、七瀬さんが暴走してしまうんじゃ!?」

 

 綾斗と刀藤が慌てているが・・・私は悟った。《魔女》としての力を持っているからこそ分かる。

 

 恐らく・・・

 

 「・・・手遅れだ。七瀬は既に暴走状態だろう」

 

 「そんな!?」

 

 と、一瞬にして七瀬がその場から消えた。そして次の瞬間、私の目の前にいた。

 

 「なっ!?」

 

 そして腹部に凄まじい痛みを感じたかと思うと、私は壁に叩きつけられていた。七瀬に腹部を殴られ、吹き飛ばされたと理解するまで少し時間を要した。

 

 「ユリスッ!?」

 

 綾斗の叫び声が聞こえる。どうにか返事をしようとするが、私の口から出たのは自らの血だった。

 

 「かはっ・・・!」

 

 口の中に溜まった血を吐き出す。目で追えない速さの上、一撃でこの威力・・・恐ろしいなどというものではないな・・・

 

 「くっ!?正気に戻ってくれ!七瀬!」

 

 七瀬の拳を、どうにか《黒炉の魔剣》で防ぐ綾斗。封印解除状態の綾斗が、完全に防戦一方だ。

 

 と、七瀬が拳を振り上げた時・・・一瞬だけ隙ができた。

 

 「そこだっ!」

 

 突きを放つ綾斗。七瀬の校章が砕ける。

 

 『星野七瀬、校章破壊』

 

 『勝者、天霧綾斗&ユリス=アレクシア=フォン=リースフェルト!』

 

 機械音声が試合終了を告げる。だが・・・

 

 「ぐおおおおおっ!」

 

 七瀬か叫んだかと思うと、綾斗の顔面に思いっきり殴った。吹き飛び、壁に激突する綾斗。

 

 ダメだ、完全に理性を失っている・・・!

 

 『こ、これはどういうことでしょう!?試合は終了したはずですが、七瀬選手の攻撃が止まりません!』

 

 『マズいッス!七瀬選手、完全に《魔術師》の力に呑み込まれてるッスよ!このままじゃ七瀬選手もそうですが、天霧選手とリースフェルト選手が危険ッス!』

 

 実況と解説の慌てた声が聞こえてくる。と、七瀬が私の方を向いた。

 

 「マズい・・・!」

 

 しかし動くヒマもなく、目の前には七瀬の姿があった。

 

 「ぐおおおおおっ!」

 

 やられる・・・!目をつぶった瞬間だった。

 

 「はぁっ!」

 

 「やぁっ!」

 

 「ぐおっ!?」

 

 女性二人の声と、七瀬の呻き声が聞こえた。目をあけると、二人の女性が私を庇うように立っていた。

 

 一人は知らない女性だが、もう一人は・・・

 

 「二葉・・・さん?」

 

 「ヤッホー、《華焔の魔女》ちゃん」

 

 ニッコリ笑う女性。七瀬の姉上の二葉さんだった。

 

 ということは・・・

 

 「お隣は、まさか・・・」

 

 「初めまして、星野一織よ。よろしくね、リースフェルトさん」

 

 柔らかく微笑む女性。

 

 この人がかつての序列一位、星野一織・・・

 

 「悪いわね、ウチの弟が迷惑かけて」

 

 「後は私達が何とかするから、安全な場所へ避難してちょうだい」

 

 二人の視線の先には、拳を構える七瀬の姿があった。目が血走り、歯を剥き出して唸り声をあげている。

 

 いつもの優しい表情を浮かべている七瀬とは、あまりにも違っていた。

 

 「ぐおおおおおっ!」

 

 七瀬が二人に襲いかかる。それを避け、両側から挟み撃ちで攻める二人。

 

 凄い・・・私では反応できなかったスピードに、しっかり対応できている・・・

 

 「立てますか?」

 

 別の女性が、私の身体を支えてくれる。この人は・・・

 

 「《絶剣》・・・?」

 

 「・・・その二つ名は仰々しいので、あまり好きではないのですが」

 

 苦笑する《絶剣》・・・星野三咲。

 

 「いや、ピッタリでしょ」

 

 「首肯。お似合いです」

 

 五和さんと六月さんが、綾斗を支えていた。

 

 「綾斗!大丈夫か!?」

 

 「大丈夫、と言いたいところだけど・・・流石に堪えたね・・・」

 

 「私が昨日くらったやつより、全然威力があったからね・・・そりゃ堪えるわ」

 

 「首肯。今の七瀬はなりふり構っていない分、全力で攻撃していますので」

 

 五和さんと六月さんが同情したように言う。と、私はあることに気付いた。

 

 「そうだ!刀藤は何処に!?」

 

 「リースフェルト先輩!」

 

 見ると、刀藤が水色の髪の女性に支えられていた。この人は・・・

 

 「ひょっとして・・・ルサールカの!?」

 

 「ひうっ!?ほ、星野四糸乃です・・・なーちゃんがお世話になってます・・・」

 

 涙目の女性・・・星野四糸乃。この人も七瀬の姉だったのか・・・

 

 「四糸乃、五和、六月。とにかくお三方を連れて離脱しますよ」

 

 そう言って三咲さんが、私を支えて立ち上がった瞬間・・・一織さんと二葉さんが、私たちの近くの壁に激突した。

 

 「なっ!?そんな!?」

 

 「二人とも!?」

 

 叫ぶ三咲さんと四糸乃さん。一織さんと二葉さんは、頭から血を流していた。

 

 「痛たた・・・ちょっと姉さん、腕鈍ったんじゃないの?」

 

 「失礼ね・・・これでもトレーニングは続けてるわよ」

 

 言葉とは裏腹に、二人とも深刻な顔をしていた。

 

 「あの子、本当に七瀬なの・・・?」

 

 「どこからどう見ても七瀬でしょ・・・ぺっ」

 

 口から血を吐き出す二葉さん。

 

 「二葉姉!?」

 

 「あー、大丈夫。ちょっと口の中切っちゃって」

 

 五和さんの心配そうな声に、手を振って応じる二葉さん。

 

 「それより早く避難しなさい。私達二人でも、今の七瀬に勝てるか分からないわ」

 

 「提案!それなら、六月達も一緒に・・・!」

 

 「それはダメよ、六月」

 

 首を横に振る一織姉。

 

 「アナタ達は他学園の生徒なのよ?七瀬から一撃でもくらった瞬間、アナタ達の所属する学園は星導館を糾弾するわ。当事者の七瀬がどんな罰をくらうか、分かったもんじゃない」

 

 「幸いと言うべきか、今回の試合は星導館同士の試合よ。そして姉さんと私は星導館のOG・・・ここで済めば、学園同士のいざこざには発展しない。まぁそれでも、七瀬には何らかのペナルティーが課されるでしょうけどね。だからアンタ達は、早く避難を・・・」

 

 二葉さんが説明していた時・・・

 

 「ぐあああああああああああああああっ!」

 

 七瀬の絶叫が聞こえた。見ると、先ほど以上の雷が溢れ出ていた。

 

 「嘘・・・だろう・・・?」

 

 七瀬の力は、一体どれほどのものだというのだ・・・

 

 「これはマズいわ・・・!」

 

 一織さんの頬から、冷や汗が滴り落ちる。と、七瀬がこちらへ手を向けた。

 

 「ッ!?伏せてッ!」

 

 二葉さんが叫んだのと同時に、凄まじい雷が解き放たれた。三咲さんが私の頭を押さえ、地面に伏せさせる。すぐ上を、もの凄いエネルギーが通過したのが分かった。

 

 そして次の瞬間、とんでもない爆音と爆風がやってくる。

 

 「くぅっ!?」

 

 「ぐっ!?」

 

 三咲さんと共に、地面を転がる。

 

 「っ・・・ユリスさん!?大丈夫ですか!?」

 

 「・・・えぇ、何とか」

 

 三咲さんの声に答え、よろよろと起き上がる。周りを見ると、壁と地面が広範囲に渡って深く抉れていた。

 

 あの一撃でここまで・・・ゾッとしていた時だった。

 

 「一織姉!?」

 

 「二葉姉様!」

 

 五和さんと六月さんの叫び声が聞こえる。一織さんと二葉さんは、全身ボロボロの状態で倒れていた。

 

 まさか、今のをくらって!?

 

 「ぐおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 七瀬の身体の雷が、またしても強くなっている。マズい・・・!

 

 「綾斗!刀藤!立てるか!?」

 

 「あぁ、早く七瀬を止めないと!」

 

 「私も行きます!」

 

 私の声掛けに、立ち上がる二人。三咲さんと四糸乃さんが慌てて止めてくる。

 

 「ダ、ダメです!一織姉様と二葉姉様ですらあの状態なんですよ!?」

 

 「三人だって、かなりのダメージを受けてるんだよ!?その身体じゃ・・・!」

 

 「私達が行かないといけないんです」

 

 私はキッパリ言った。

 

 「一織さんや二葉さんが仰ったように、他学園の生徒を巻き込めません。それに、七瀬は私達の友人ですから」

 

 「ユリスさん・・・」

 

 「それに七瀬・・・前に言ってたんです」

 

 そう、イレーネの家からの帰り道・・・純星煌式武装について話していた時だ。

 

 

 

 

 

 「・・・綺凛、綾斗、ユリス」

 

 七瀬は私達を真っ直ぐ見て、こう言ったのだ。

 

 「もし俺が、道を踏み外すようなことがあったら・・・その時は・・・俺を殺してでも止めてくれ」

 

 

 

 

 

 「なーちゃんが・・・そんなことを・・・?」

 

 「縁起でもないこと言うなって、怒りましたけどね」

 

 驚いている四糸乃さんに、苦笑する私。

 

 「でも・・・頼まれたからには、七瀬を止めないといけません。それが友人として、今我々がすべきことですので」

 

 「勿論、殺すつもりなんてありません。絶対に七瀬を正気に戻して、必ず連れ戻してきますから」

 

 「もうこれ以上、七瀬さんには傷ついてほしくないんです。絶対に止めてみせます」

 

 綾斗と綺凛も頷く。私達は、七瀬へと視線を向けた。

 

 「七瀬ッ!」

 

 私が叫ぶと、七瀬がこちらを見た。

 

 「お前の相手は私達だ!行くぞ二人とも!」

 

 「あぁ!」

 

 「はいっ!」

 

 七瀬に向かって走り出す。七瀬がこちらへと手を向けた。

 

 「ユリスちゃん!綾斗くん!綺凛ちゃん!」

 

 「請願!ダメです!戻って下さい!」

 

 後ろから、五和さんと六月さんの叫び声が聞こえる。それを無視して、私達は走った。

 

 そして七瀬の手から雷が迸ろうとした、その時・・・歌声が聴こえた。

 

 「え・・・?」

 

 七瀬の雷が急に霧散した。思わず立ち止まってしまう私。

 

 「これは・・・」

 

 「何処かで聴いたような・・・」

 

 綾斗と刀藤も呆然としている。すると・・・

 

 「えっ・・・!?」

 

 「あれは・・・!?」

 

 五和さんと六月さんの声が聞こえる。

 

 振り向くとそこには・・・

 

 「っ!?」

 

 紫色の髪の女性が、歌いながら歩いてくるところだった。息を呑むほど美しい顔立ち、華やかで圧倒的な存在感、そしてこの歌声・・・

 

 間違いない・・・

 

 

 

 

 

 「《戦律の魔女》・・・シルヴィア・リューネハイム」

 

 

 

 

 

 クインヴェール女学園序列一位にして生徒会長・・・至高の歌姫がそこにいた。その歌声は会場の人々を魅了し、七瀬でさえ一歩も動かない。

 

 彼女は私達の横を通り過ぎ、七瀬の目の前に立った。七瀬を見て、ニッコリと笑う。

 

 「ようやく・・・ようやく、君に会えたね・・・」

 

 彼女の目から、一筋の涙が零れ落ちた。

 

 「会いたかった・・・君のことを考えなかった日は、一日だって無かったよ・・・」

 

 泣きながら、七瀬の頭を撫でる。

 

 「決闘の映像も、《鳳凰星武祭》の試合映像も、全部チェックしてた。強くなった君を見るのが、凄く嬉しかった」

 

 七瀬はただ、彼女に釘付けになっていた。そんな七瀬を見て、彼女は微笑んだ。

 

 「お疲れ様。よく頑張ったね」

 

 そう言うと、彼女は七瀬に顔を近づけ・・・七瀬と自分の唇を重ねた。

 

 その瞬間、力が抜けたように崩れ落ちる七瀬。そして、そんな七瀬を支える彼女。

 

 「大好きだよ、ななくん」

 

 彼女は七瀬を愛おしそうに、ギュっと抱き締めるのだった。

 




どうも~、ムッティです。

遂に・・・遂にメインヒロイン登場です。

シャノン「ななっち、色々な女の子とイチャイチャしてたもんねー」

七瀬「人聞きの悪いこと言うなよ!?」

事実じゃなイカ。

シャノン「ところで作者っち、メインヒロイン出てきたけど・・・他の女の子との絡みってどうするの?」

今まで通りで良いかなって。一線を超えない程度でのイチャつきもアリで。

シャノン「うわぁ・・・ななっち酷い・・・」

七瀬「俺の意思じゃないから!ダメ作者の意思だから!」

それではまた次回!七瀬の浮気男ぶりに注目です!

七瀬「いい加減にしろおおおおおっ!?」


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綺凛の想い

あまりの暑さに、朝からクーラーをかける今日この頃。


 「・・・んっ」

 

 気が付くと、目の前に見知らぬ天井があった。どうやら俺は、ベッドに横たわっているらしい。

 

 ・・・ベッド?

 

 「ッ!?」

 

 一気に意識が覚醒し、俺は飛び起きた。部屋を見渡した俺は、愕然としてしまった。

 

 「病室・・・だよな・・・?」

 

 俺が覚えているのは、綺凛が校章を破壊されたところまで・・・

 

 そして俺が意識を失ったということは・・・

 

 「・・・負けたのか、俺達」

 

 唇を噛み締める。その時、部屋のドアが開いた。

 

 「っ!?七瀬っ!」

 

 入ってきたのはクローディアだった。駆け寄ってきて、俺を抱き締めてくる。

 

 「良かった・・・目が覚めたんですね・・・!」

 

 「クローディア・・・」

 

 呆然としていた俺だったが、ゆっくりとクローディアの頭を撫でた。やがて俺から離れたクローディアは、目元の涙をそっと拭った。

 

 「本当に心配しました・・・丸一日、目を覚まさなかったものですから」

 

 「そんなに寝てたのか・・・」

 

 どうやら今は、試合の翌日らしい。俺はクローディアに尋ねた。

 

 「クローディア、試合は・・・俺達の負け、だよな?」

 

 「・・・残念ながら」

 

 やっぱり・・・

 

 「俺、綺凛が校章を破壊されたところまでしか覚えてなくてさ・・・あの後どうなったんだ?俺は意識消失で負けたのか?」

 

 「・・・覚えていらっしゃらないんですね」

 

 「クローディア・・・?」

 

 クローディアの表情が暗くなる。首を傾げていると、クローディアは空間ウィンドウを展開した。

 

 「酷だとは思いますが・・・昨日の試合映像を見て下さい。全てが分かると思います」

 

 「全て・・・?」

 

 引っかかりを覚えながらも、俺は空間ウィンドウを見た。そこに映っていたのは・・・

 

 「・・・嘘・・・だろ・・・?」

 

 俺が暴走した映像だった。ユリスと綾斗を殴り、一織姉と二葉姉を傷付ける姿・・・三咲姉達が、何とかユリス達を助けようとしている。

 

 「そんな・・・俺が・・・」

 

 そして最後には・・・シルヴィアに止められ、俺は倒れこんでいた。

 

 シルヴィアに助けられたってことかよ・・・あんな無様な姿を晒して・・・

 

 「・・・心中お察し致します」

 

 俯くクローディア。こんなの・・・あんまりだ。

 

 「・・・一織姉と二葉姉の容態は?」

 

 「治療院で治療を行った為、既に回復済みです。念の為一晩入院して、お二人とも今朝退院されました」

 

 「・・・ユリスと綾斗は?」

 

 「二人は手当てを受け、昨日のうちに星導館に戻りました。今日は明日の準決勝に向けて、軽く身体を動かすそうです」

 

 「・・・綺凛は?三咲姉達は?」

 

 「刀藤さんも手当てを受け、同じく星導館に戻っています。三咲さん達は怪我も無かったので、それぞれ学園に帰られました」

 

 「・・・シルヴィアは?」

 

 「七瀬を止めた後、治療が終わるまで七瀬に付き添っていましたが・・・治療が終わった後、仕事があったようで帰られました」

 

 「・・・そっか」

 

 俺はベッドに倒れこんだ。

 

 「っ!七瀬!?」

 

 「・・・大丈夫。ちょっと目眩がしただけだ」

 

 腕で顔を覆う俺。皆への罪悪感に、押し潰されてしまいそうだった。

 

 「・・・今は休んで下さい。傷は治癒能力者の方が治してくださいましたが、精神は能力じゃ回復できないんですから」

 

 俺の頭を撫でるクローディア。だが、今はその優しさが辛かった。

 

 「・・・クローディア、俺の処分はどうなる?」

 

 俺の言葉に、クローディアの手が止まった。

 

 「・・・今、運営委員会が話し合っている最中です。そこで処分が下されてから、星導館としてどうするか判断することになるでしょう」

 

 「・・・治療院や警備隊、ガラードワースやクインヴェールも何か言ってきそうだな」

 

 「それはないでしょう」

 

 首を横に振るクローディア。

 

 「今回一織さんと二葉さんは七瀬の姉として、そして星導館のOGとしての立場が適用されるでしょうから。ですが念の為、お二人とも治療院と警備隊に口添えしておくと仰っていました。三咲さん達は怪我もしていませんので責任は問われないでしょうし、特にクインヴェールはあの方が生徒会長ですから」

 

 「シルヴィアか・・・」

 

 アイツがいなかったら、俺は本当に・・・

 

 「・・・やっぱり、俺にはアイツと会う資格なんて無かったな」

 

 「七瀬・・・」

 

 「これじゃ・・・五年前と何も変わらないだろうが・・・!」

 

 自分への怒りや、失望感がこみ上げてくる。

 

 「俺みたいな奴が・・・アスタリスクに来ちゃいけなかった・・・俺のせいで・・・傷付く人を増やしただけだ・・・!」

 

 目から涙が零れ落ちる。クローディアは、黙って聞いてくれていた。

 

 「・・・悪いクローディア。一人になりたいんだ。席を外してくれるか?」

 

 「・・・分かりました。では、医療院側には面会謝絶を要請しておきますね」

 

 「・・・よろしく頼む」

 

 クローディアは俺に背を向け、部屋のドアに手をかけた。

 

 「・・・七瀬」

 

 振り返らないまま、クローディアが俺の名前を呼んだ。

 

 「自分のことを責めるな、などと言うつもりはありませんが・・・私は七瀬と出会えたこと、友人になれたことを心から良かったと思っています。アナタがアスタリスクに来てくださって、本当に良かったと思っています。どうかそれだけは、覚えておいて下さい」

 

 そう言い残し、部屋を出て行くクローディアなのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 異常が無いか検査を受けてもう一晩入院した後、俺は医療院を退院して星導館に戻ってきた。

 

 クローディアの話によると、一織姉達やユリス達がお見舞いに来てくれたらしい。もっとも、面会謝絶状態だったので会うことは無かったが。

 

 「悪いなクローディア。わざわざ迎えに来てもらっちゃって」

 

 「いえいえ、私と七瀬の仲ですから」

 

 ニッコリ笑うクローディア。星導館に帰ってきたのが、久しぶりな気がするな・・・

 

 「私はこの後、準決勝二試合を観戦しに行きますが・・・七瀬はどうされますか?」

 

 「・・・そっか。今日は準決勝だっけ・・・」

 

 第一試合では紗夜とレスターが、エルネスタとカミラと戦う。といってもエルネスタ達は、擬形体のアルディとリムシィを代理出場させているが。

 

 そして第二試合はユリスと綾斗が、ガラードワースの《輝剣》と《鎧装の魔術師》のタッグと戦う。

 

 それぞれの試合で勝ったタッグが、明日の決勝で戦うわけか・・・

 

 「・・・俺は部屋でのんびりしてるよ」

 

 「・・・そうですか」

 

 心配そうな表情のクローディア。今はユリス達に会いたくないことを、見抜かれてるんだろうな・・・

 

 「試合は中継で見てるから。遠慮せず行ってきてくれ」

 

 「・・・分かりました。ゆっくり休んでいて下さいね」

 

 「おう、行ってらっしゃい」

 

 俺が手を振ると、クローディアは微笑んで部屋を出て行った。それを見届けると、俺はソファに深く腰掛けた。

 

 「・・・ハァ」

 

 深い溜め息をつく。一晩経って少し落ち着いたとはいえ、凄く憂鬱な気分だった。

 

 友達や姉さんを傷付けた俺に、この場所にいる資格があるんだろうか・・・そんな想いが、ずっと頭から離れない。

 

 「・・・帰ろうかな、実家に」

 

 「本当にそれで良いんですか?」

 

 「ッ!?」

 

 突然の声に驚き、咄嗟に振り返る俺。そこにいたのは・・・

 

 「き、綺凛!?」

 

 「全く・・・ようやく会えました」

 

 苦笑している綺凛だった。

 

 「な、何でここに!?」

 

 「今日退院するって、会長から教えていただいてましたから。会長が七瀬さんを迎えに行く前に部屋に入れてくださって、お二人が帰ってくるまで待機してました」

 

 「・・・あの腹黒女」

 

 恐らく、俺が試合観戦に行かないことも計算の内だったんだろう。

 

 その上で、こうして綺凛と二人の状況を作ったってことか・・・

 

 「・・・何で私達を避けるんですか?リースフェルト先輩達や一織さん達・・・皆さん七瀬さんのことを心配されてるんですよ?」

 

 「・・・どの面下げて会えって言うんだよ」

 

 綺凛の顔をまともに見ることが出来ない。我ながら重症だな・・・

 

 「ユリスや綾斗、一織姉や二葉姉を傷付けたんだぞ?綺凛や三咲姉達のことだって、シルヴィアが止めてくれてなかったら・・・」

 

 「だから何ですか?」

 

 強い口調で言う綺凛。

 

 「そうやってまた『側にいる資格なんて無い』とか言って、私達の前から消えるおつもりですか?シルヴィアさんの時と同じように」

 

 「・・・っ」

 

 「甘えるのも大概にして下さいよ。本当は怖いだけでしょう?ただ逃げたいだけでしょう?」

 

 「・・・かもな」

 

 力なく笑う俺。

 

 「俺はもう、大切な人を傷付けたくない・・・それだけだ」

 

 「ふざけないで下さい!」

 

 綺凛が怒鳴る。

 

 「何で七瀬さんはいつもそうなんですか!?誰にも相談しないで、自分だけで解決しようとして!自分が消えたら、全て丸く収まるとでも思ってるんですか!?だとしたら、七瀬さんはバカです!大バカです!」

 

 綺凛の目から、ポロポロと涙が零れ落ちる。

 

 「私はっ・・・七瀬さんがいない日常なんて嫌です!七瀬さんのいないアスタリスクなんて嫌です!私だけじゃなくて、皆同じ気持ちなんです!どうしてそれを分かってくれないんですか!」

 

 「綺凛・・・」

 

 綺凛が俺の側にきて、俺の胸を何度も叩く。

 

 一人の女の子のか弱い力なのに・・・どうしてこんなに重いんだろう・・・どうしてこんなに響くんだろう・・・

 

 「これからも、側にいてくださいよ・・・でないと私は・・・私はっ・・・」

 

 俺の胸を叩いていた綺凛の手が止まる。そのまま、俺の胸に顔を埋める綺凛。

 

 肩を震わせて泣く綺凛を、俺はそっと抱き締めた。

 

 「・・・ホント、情けないわ。お前と知り合ってから、何回お前のこと泣かせたんだろうな・・・」

 

 何で忘れていたんだろう・・・綺凛はいつだって俺を慕ってくれていた。

 

 いつだって俺を心配してくれていた。いつだって俺を信じてくれていたんだ・・・

 

 「なのに俺は・・・お前を信じられなかった。お前が俺を責めるんじゃないかって、俺から離れていくんじゃないかって・・・それが不安だった」

 

 それはユリスや綾斗、一織姉達にも言えることだ。そして・・・シルヴィアにも。

 

 「ホント・・・五年前と何も変わってないな、俺は。いや、昔からか・・・周りを全然信じられてない。向き合えてない」

 

 それじゃダメだよな・・・変わらないといけないんだ。

 

 「なぁ綺凛、俺は・・・変われるかな?」

 

 「・・・何言ってるんですか」

 

 俺から離れ、袖で涙を拭う綺凛。

 

 「変われるか変われないかではなく、変わるんです。それ以外の答えは認めません」

 

 「・・・前から思ってたけど、意外と鬼だよねお前」

 

 「七瀬さんには気を遣わず、思ったことを言えますから。心を開いている証拠です」

 

 「・・・ものは言いようだな」

 

 俺は苦笑すると、もう一度綺凛を抱き締めた。

 

 「・・・ありがとな、綺凛」

 

 綺凛は返事の代わりに、黙って俺を抱き締め返してきたのだった。

 




二話連続での投稿となります。

シャノン「綺凛ちゃんがカッコいい・・・」

それな。ホントそれな。

シャノン「でもこれ、綺凛ちゃんがメインヒロインみたいになってない?」

綺凛は七瀬の相棒みたいな立ち位置でいこうかなと。

お互い叱咤激励しながら進んでいく、みたいな。

シャノン「え、ななっちの相方は私じゃないの?」

自惚れんなモブキャラ。

シャノン「酷い!?」

それではまた次回!

シャノン「私だって目立ちたいよおおおおおっ!」


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誘拐

そういえば、今日アスタリスクの新巻の発売日じゃん!

買いに行かねば・・・!


 「・・・惜しかったな」

 

 「・・・えぇ、素晴らしい戦いでした」

 

 俺と綺凛は、部屋で紗夜とレスターの試合の中継を見ていた。

 

 結果は紗夜達の負けで、決勝に進んだのはアルディとリムシィだった。

 

 「綾斗先輩とリースフェルト先輩は、あの二人に勝てるでしょうか・・・?」

 

 「さぁな・・・それよりまずは、準決勝を勝たないと」

 

 まぁ力量差を考えると、よほどのことが無い限り決勝に進めるだろう。

 

 そして決勝に勝ったら、あの二人は優勝・・・願いを叶えてもらえるのだ。

 

 「・・・ゴメンな、綺凛」

 

 「ふぇ?何がですか?」

 

 「お前の親父さんを助けられなくて・・・ゴメン」

 

 力になるって約束したのに・・・力になれなかったな。

 

 「・・・いいんです」

 

 首を横に振る綺凛。

 

 「優勝できなかったことは残念ですが・・・父を助けるチャンスはまだあります。実は会長から、来年の《獅鷲星武祭》で会長のチームに参加してほしいと言われまして」

 

 「マジか」

 

 クローディアの奴、綺凛にも声を掛けたのか・・・

 

 確かに綺凛なら、戦力としてこれ以上ないほどの人材だろうしな。

 

 「七瀬さんも誘われてるんですよね?」

 

 「まぁな。返事はまだしてないけど」

 

 「私もです。ゆっくり考えてほしいと言われました」

 

 笑う綺凛。恐らく、綺凛の答えはもう決まっているんだろう。

 

 そして俺も既に、綺凛と同じ答えに決めている。

 

 「今度こそ優勝しましょうね」

 

 「だな」

 

 綺凛も、俺の答えを分かっているようだ。お互い微笑み合う。

 

 「それまでに、《魔術師》の力をマスターしたいな。七海に協力してもらって・・・七海に・・・七海・・・」

 

 「七瀬さん?」

 

 冷や汗ダラダラの俺を見て、綺凛が首を傾げる。

 

 ヤベェ・・・

 

 「七海の存在・・・完全に忘れてた・・・」

 

 「えっ・・・」

 

 唖然としている綺凛。俺は恐る恐る呼びかけた。

 

 「・・・げ、現場の七海さーん?」

 

 【・・・はーい。マスターから忘れられるほど影の薄い七海でーす】

 

 「すいませんでしたあああああああああああああああっ!」

 

 俺は全力で土下座した。地面に額を擦りつけた。

 

 【どうせ私なんて空気ですよ・・・要らない子ですよ・・・】

 

 完全に拗ねている七海。

 

 【マスターときたら、私の言葉を無視して暴走しちゃうし・・・正気に戻ったと思ったら、私のこと忘れてるし・・・何ですか、コレ。私イジメられてるんですか?】

 

 「違うから!マジでゴメンって!」

 

 【ハァ・・・まぁ仕方ありません。力を制御し切れなかった私にも非はありますし、この辺でよしとしましょう】

 

 「七海さん、あざっす!」

 

 あー、良かった・・・と、綺凛が驚いた顔をしていた。

 

 「・・・聞こえる」

 

 「え?」

 

 「私にも七海さんの声が聞こえます!」

 

 「マジで!?」

 

 【ふふん、どうですか?】

 

 何故か得意げな様子の七海。

 

 【マスターの《魔術師》の力は、私がずっと封印してましたから。それを全てマスターに返した今、私はその力を媒体に他の人と会話することが出来るようになったんです】

 

 「へー・・・ってか、全部返した?俺に?」

 

 【えぇ。まぁ返したと言うより、強引に持っていかれたんですけど】

 

 苦笑する七海。

 

 【これで私に頼らなくても、力を使えるようになりました。ですが・・・】

 

 「再び暴走する可能性もある・・・ってことだな」

 

 【・・・はい。ですからマスターには、力の制御を学んでもらわないといけません】

 

 「了解。これからやっていくさ」

 

 そんな会話をしていた時だった。俺の端末に着信が入った。相手は・・・

 

 「あれ、クローディア?」

 

 操作すると、空間ウィンドウにクローディアの険しい表情が映った。

 

 『七瀬、緊急事態です』

 

 「・・・何事だ?」

 

 こういうクローディアを見るのは珍しいな・・・何かあったのか?

 

 『落ち着いて聞いてください・・・フローラが誘拐されました』

 

 「は!?」

 

 「フローラちゃんが!?」

 

 驚愕する俺と綺凛。誘拐って・・・

 

 「どういうことですか、会長!?」

 

 『先ほど誘拐犯を名乗る男から、ユリスの端末に着信が入ったんです。フローラを返してほしければ、《黒炉の魔剣》の凍結処理を行えと』

 

 その言葉に、俺は否応なくピンときてしまった。《黒炉の魔剣》が狙いということは、黒幕は十中八九・・・

 

 「《悪辣の王》か・・・ッ!」

 

 『えぇ、でしょうね。そして実行犯はレヴォルフの諜報機関・・・《黒猫機関》のメンバーだと思われます』

 

 クローディアも苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 『彼らは冷徹ですから。幼い子供だろうと、容赦はしないでしょう』

 

 「・・・要求に応じないと、フローラの命が危ないってことか。かと言って素直に要求に応じれば、綾斗は二度と《黒炉の魔剣》を使えなくなるよな・・・」

 

 『えぇ。凍結処理は後々解除できますが、《黒炉の魔剣》は綾斗を認めないでしょうね』

 

 「あのブタ野郎・・・卑劣なマネしてくれやがって・・・!」

 

 怒りがこみ上げてくる。覚えてろよ、メタボ野郎・・・!

 

 一方、綺凛は突然のことにおろおろしていた。

 

 「ど、どうするんですか!?このままじゃ・・・!」

 

 『分かっています。ですから、一つ作戦を立てました』

 

 「作戦?」

 

 『えぇ、二人の協力も必要です。よく聞いてください』

 

 真剣な表情のクローディア。

 

 『まず綾斗には、凍結処理の申請をしてもらいます。そして私が権限を使い、申請の受理を可能な限り遅らせます。明日の閉会式までは時間を稼げると思いますので、七瀬達にはそれまでにフローラを見つけてもらいたいんです』

 

 「で、でもどうやって・・・」

 

 『私の予想では、《黒猫機関》は再開発エリアに潜伏していると思われます。あそこはレヴォルフの庭のようなものですから、潜伏するには格好の場所でしょう。そこを重点的に捜索するんです』

 

 「な、なるほど!それなら探す範囲がだいぶ狭くなりますね!」

 

 『えぇ。既に沙々宮さんとマクフェイルくんが、再開発エリアに向かっています。二人と合流し、しらみつぶしに捜索してください』

 

 「了解です!すぐ向かいます!」

 

 俺はクローディアと綺凛の会話を、黙って聞いていた。頭の中で思考を整理し、仮説を組み立てていく。

 

 『七瀬?どうかしましたか?』

 

 首を傾げるクローディア。俺はようやく口を開いた。

 

 「クローディア、俺の予想を言っても良いか?」

 

 『えぇ、聞かせてください』

 

 「・・・恐らくフローラは、再開発エリアにはいない」

 

 『なっ・・・』

 

 絶句するクローディア。俺は構わず言葉を続けた。

 

 「《黒炉の魔剣》の凍結処理を要求してきた以上、向こうも自分達の正体がバレることは予測できるはずだ。その場合、再開発エリアに潜伏するのは得策じゃない。俺達に読まれるのは目に見えてるからな」

 

 『で、ではまさか・・・レヴォルフに匿っていると・・・?』

 

 「いや、それも無いな」

 

 俺は首を横に振った。

 

 「それだと万が一見つかった場合、《悪辣の王》の立場が危うくなる。あのブタはどうしようもないクズだけど、そんなリスクを冒すほど愚かじゃない」

 

 『では七瀬は、何処にフローラがいるとお考えなのですか・・・?』

 

 「それは俺にも分からん。ただ、アテが無いわけじゃない。とりあえず綺凛を再開発エリアに向かわせるが、俺は少し別行動で動く。構わないか?」

 

 『えぇ。七瀬の意見も一理ありますし、構いません』

 

 「サンキュー。何か分かったら連絡する」

 

 『お願いします。私は時間稼ぎの為に身を隠しますので、そちらには戻りません』

 

 「了解。じゃあまた後で」

 

 通信が切れる。俺は綺凛を見た。

 

 「聞いての通りだ。綺凛は再開発エリアに行って、紗夜とレスターと合流してくれ」

 

 「了解です。七瀬さんはどうされるんですか?」

 

 「ツテを頼ってみる。何か分かり次第連絡するから」

 

 「分かりました。では、行ってきます!」

 

 綺凛が部屋を出て行く。俺は端末を操作し、ある人物に電話をかけた。出てくれるか心配したが、すぐに繋がる。

 

 『七瀬!?』

 

 「うーっす。元気?」

 

 『そりゃこっちのセリフだ!お前大丈夫なのか!?』

 

 「何とかな」

 

 苦笑する俺。

 

 「それより、今大丈夫か?」

 

 『え?まぁ大丈夫だけど・・・』

 

 「それなら、今から少し会えないか?」

 

 『は?おいおい、いきなりどうした?』

 

 「・・・あのブタが仕掛けてきやがった」

 

 『・・・了解。すぐ準備する』

 

 「察しが良くて助かるよ・・・ありがとな、イレーネ」

 

 『良いってことよ。お前とあたしの仲だしな』

 

 ニヤリと笑うイレーネなのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「チッ・・・あの野郎、マジで卑劣なことしやがる・・・!」

 

 イレーネの家を訪れた俺は、イレーネに状況を説明した。怒りで顔を歪めるイレーネ。

 

 「さっきの試合、天霧が《黒炉の魔剣》を使わなかった理由が分かったぜ・・・」

 

 「あぁ。凍結処理申請を出したことになってるし、犯人に信じ込ませる為にも《黒炉の魔剣》は使えないからな」

 

 既に準決勝第二試合も終了し、ユリスと綾斗は無事に決勝へと駒を進めた。だが《黒炉の魔剣》が無い状態では、アルディとリムシィには勝てないだろう。

 

 早くフローラを助けて、犯人を捕まえないと・・・

 

 「ってか今さらだけど、俺がここに来て良かったのか?お前が俺と会ってるのがバレたら、お前の立場が危うくなるんじゃ・・・」

 

 「それなら大丈夫さ」

 

 溜め息をつくイレーネ。

 

 「今回あたしには、ディルクからの接触は一切無かった。アイツだって、脅迫したことがお前の耳に入るのは承知の上だろう。当然、お前があたしに連絡を取ることも予測してるはずだ。にも関わらず、何も言ってこないということは・・・」

 

 「お前の持っている情報が、俺に流れても問題は無い・・・そう判断したってことか」

 

 「恐らくな」

 

 そりゃそうか・・・あのブタが、俺と仲の良いイレーネに情報を与えるわけもない。

 

 「悪いな、七瀬。大した情報も無くて」

 

 「気にすんな。それを期待して来たわけじゃないから」

 

 「は・・・?」

 

 イレーネがポカンとしている。

 

 「どういうことだ・・・?」

 

 「実はな・・・」

 

 俺はイレーネに、先ほどの俺の予想を伝えた。

 

 「なるほどな・・・」

 

 考え込むイレーネ。

 

 「あたしも七瀬と同じ考えだな。それに再開発エリアは、警備隊が定期的に見回っているはずだ。人質を捕らえて潜伏するには、適してるとは言えねぇ」

 

 「やっぱりか・・・実はお前の考えが聞きたくてさ」

 

 イレーネを見る俺。

 

 「イレーネ、アスタリスクで潜伏に最適な場所って何処だと思う?裏の人間が使える場所なんて、そうそう無いと思うんだけど・・・」

 

 俺の問いに、イレーネがポツリと呟いた。

 

 「・・・《歓楽街》」

 

 「え・・・?」

 

 「《歓楽街》なら、裏の人間が潜伏するには最適だろうな。人も多いし、金さえ払えば匿ってくれるような店だってある。まぁディルクと折り合いの悪い奴らが多いから、ディルクに協力してる奴がいる可能性は低いと思うがな」

 

 「なるほど・・・つまり、今は使われていない建物に隠れている可能性が高いってことか・・・それならずいぶん的を絞れそうだな」

 

 「まぁあくまでも予想だけどな。確証があるわけじゃない」

 

 肩をすくめるイレーネ。

 

 「いや、助かったよ。おかげで特定できそうだ」

 

 「あん?何か考えでもあんのか?」

 

 「まぁな。あまり使いたくない手ではあるけど・・・フローラを助ける為だ」

 

 俺は決心をつけると、イレーネに頭を下げた。

 

 「ありがとう、イレーネ。後はこっちで何とかする」

 

 「大丈夫か?あたしも手伝おうか?」

 

 「いや、気持ちは嬉しいけど・・・これ以上俺達に加担すると、お前まであのブタに敵視されるだろ。そうなりゃお前の立場が危うくなるし、プリシラも危ない」

 

 「・・・悪いな」

 

 「何言ってんだよ。十分すぎるほど協力してもらったさ」

 

 俺はそう言って笑うと、椅子から立ち上がった。

 

 「じゃあ、そろそろ行くわ。プリシラによろしくな」

 

 「あぁ・・・気を付けろよ、七瀬」

 

 イレーネが拳を突き出してくる。

 

 「健闘を祈ってるぜ」

 

 「おう」

 

 俺は拳を合わせると、イレーネの家を出た。

 

 すぐに空間ウィンドウを操作し、ある人物に電話をかける。何回かコールされてから繋がり、空間ウィンドウにその人物の顔が映る。

 

 『もしもし!?なーちゃん!?』

 

 「四糸乃姉、今大丈夫?」

 

 電話の相手は四糸乃姉だ。こんなこと、四糸乃姉じゃなきゃ頼めないしな。

 

 『身体は大丈夫なの!?もう動いても平気なの!?』

 

 「大丈夫だよ。心配かけてゴメン。それと・・・危険な目に遭わせてゴメン」

 

 俺は四糸乃姉に謝った。

 

 「姉さん達をあんな目に遭わせて・・・弟失格だよな、俺」

 

 『・・・怒るよ、なーちゃん』

 

 いつになく真剣な表情の四糸乃姉。

 

 『私達にとって、なーちゃんは大切な弟・・・家族なんだから。失格も何もないよ。どんななーちゃんだって、私達にとってはかけがえのない存在なんだよ。だから二度とそんなこと言わないで』

 

 「・・・ありがとう、四糸乃姉」

 

 ホント、四糸乃姉には敵わないな・・・

 

 思わず涙ぐみそうになったが、堪えて本題に入ることにした。

 

 「・・・四糸乃姉、緊急事態だ。一つ頼みたいことがある」

 

 『・・・ただ事じゃないみたいだね。どうしたの?』

 

 「今すぐシルヴィアに会いたいんだ。どうしてもアイツの力を借りたい。アイツと連絡を取ってもらえるか?」

 

 俺の言葉に、四糸乃姉が驚いた表情を見せる。そしてすぐ、優しく微笑んだ。

 

 『・・・だってさ、シーちゃん。どうする?』

 

 その言葉の直後、空間ウィンドウの端から顔を覗かせたのは・・・

 

 『呼んだかな?ななくん』

 

 忘れもしない顔だった。俺はコイツに会う為に、アスタリスクまでやって来たのだ。

 

 「久しぶり・・・でもないのか。お前にとっては」

 

 一昨日の試合で会ってるしな・・・俺は覚えてないけど。

 

 「改めて言うけど・・・久しぶりだな、シルヴィア」

 

 俺の言葉に、ニッコリ笑うシルヴィアなのだった。

 




三話連続での投稿となります。

シャノン「ストック大丈夫?」

まだ大丈夫。≪鳳凰星武祭≫終了後の話も書き始めてるし。

ただ、今はキャラ紹介を書いてるけど。

シャノン「キャラ紹介?」

ほら、結構オリキャラ出してるじゃん?

原作でも出てるキャラはいいけど、オリキャラの説明は必要かなって。

シャノン「あー、確かにねぇ」

とりあえず一織、二葉、三咲、四糸乃、五和、六月あたりを書く予定だよ。

シャノン「なるほど・・・ちなみに私は?」

シャノンはゲームのキャラだからなぁ・・・

まぁ性格とかこっちで決めちゃってるから、その辺りの説明は・・・時間があったら。

シャノン「断言はしてくれないんだ!?」

それではまた次回!

シャノン「ちょ、無視するなああああああああああっ!?」





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再会

アスタリスクの新巻、まだ買えてない・・・


 「着いた・・・」

 

 俺は《歓楽街》へとやって来ていた。俺が待ち合わせ場所として、《歓楽街》にあるビルの屋上を指定したのだ。

 

 もしイレーネの推測通りフローラがいるなら、ここからすぐ向かえるしな。

 

 「お待たせ」

 

 タンッという着地した音と共に、聞き間違うはずのない声がした。振り向くと、帽子をかぶった栗色の髪の女性が立っていた。

 

 「・・・ずいぶん凝った変装だな」

 

 「あ、やっぱりななくんには分かっちゃう?」

 

 「そりゃあな・・・」

 

 どんなに変装したって、俺がコイツを見間違うはずがない。五年前まで、ずっと側で過ごしてきたんだから。

 

 「お前と再会するのは、もっと先だと思ってたよ・・・シルヴィア」

 

 「私は早く再会する気満々だったけどね・・・ななくん」

 

 ヘッドフォン型の髪飾りの機能をいじり、紫色の髪に戻すシルヴィア。帽子を取り、俺にニッコリ笑いかけてくる。

 

 「身体、もう大丈夫なの?」

 

 「あぁ、止めてくれてありがとな。おかげで助かったよ」

 

 「・・・今度は、ちゃんと止められたね」

 

 どこか嬉しそうな表情のシルヴィア。

 

 「あの時は・・・止められなかったから」

 

 「っ・・・」

 

 あの時・・・俺が《神の拳》の力に呑まれ、暴走した時だ。周りの人達を傷付け、シルヴィアを殺しかけてしまった・・・

 

 忘れられない、忘れてはいけない出来事だ。

 

 「・・・止めてくれたさ」

 

 首を横に振る俺。

 

 「お前は身体を張って、俺を止めてくれた。あの時の決闘が無かったら、俺は力に呑まれ続けてた。お前がいたから、俺は正気に戻れたんだ。あの時も・・・今回もな」

 

 俺はシルヴィアに頭を下げた。

 

 「ありがとう、シルヴィア。それと・・・ゴメン」

 

 「・・・だったら」

 

 シルヴィアが俺に近付いてくる。

 

 「だったら何で・・・何で私から距離を置いたの?正気に戻れたのに、私はななくんを許したのに・・・何で私から離れていったの?」

 

 「・・・お前が許してくれても、俺が許せなかったんだよ」

 

 唇を噛み締める俺。

 

 「お前は何度も止めようとしてくれたのに、俺はそれを無視して・・・挙句の果てに、お前を殺しかけた。そんな自分が許せなかったし、お前の側にいる資格なんて無いと思った。だからお前と距離を置いたんだ」

 

 「そんなの・・・勝手すぎるよ」

 

 シルヴィアの声が震えている。顔を上げると・・・シルヴィアは泣いていた。

 

 「私はななくんに・・・側にいてほしかった。離れてほしくなかった。一緒にいたかった。なのにななくんは・・・私を一人にした」

 

 シルヴィアの目から、次々と涙が零れ落ちる。

 

 「アスタリスクに来ても、ななくんのことを忘れた日なんて無かった・・・ただ、ななくんに会いたかった・・・ななくんがアスタリスクに来るってシノンから聞いて、私がどれだけ喜んだか分かる・・・?」

 

 「シルヴィア・・・」

 

 ・・・知らなかった。そんなに俺を想ってくれていたなんて・・・

 

 「ようやく・・・ようやくななくんに会えたんだもん・・・私もう、ななくんと離れたくない・・・一緒にいたいよ・・・っ!」

 

 「ッ!」

 

 もう我慢が出来なかった。目の前のシルヴィアを、思いっきり抱き締める。壊れてしまいそうなほど強く、強く抱き締めた。

 

 「ゴメン・・・ゴメンな、シルヴィア・・・本当にゴメンな・・・!」

 

 「うぅっ・・・ひっく・・・ぐすっ・・・!」

 

 俺の胸にしがみつき、泣いているシルヴィア。俺も涙が止まらなかった。

 

 「シルヴィア・・・!」

 

 「ななくん・・・!」

 

 感情に身を任せ、俺達は抱き締め合いながら号泣したのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「なるほど、《悪辣の王》がねぇ・・・」

 

 ようやく落ち着いた俺は、シルヴィアに事情を説明していた。全てを聞き終えたシルヴィアは、苦い顔をしていた。

 

 「全く、ロクなことしないんだから・・・」

 

 「ホントだよな・・・」

 

 二人揃って溜め息をつく。

 

 「でもまぁ、ななくんが私を呼んだ理由は分かったよ。フローラちゃんの居場所を特定してほしいんでしょ?」

 

 「あぁ、お前の力なら可能だろ?」

 

 シルヴィアは《魔女》であり、歌を媒介にすることでイメージを様々に変化させることが出来る。『万能』と称されるその能力は、特定の人物の捜索まで出来てしまうのだ。

 

 「勿論。フローラちゃんの特徴、詳しく教えてもらって良い?」

 

 「あ、それならこの前撮った写真があるぞ」

 

 五和姉や六月姉に、一緒の写真を撮ってくれって頼まれて撮ったんだが・・・まさかここで役立つとはな。

 

 「それと、捜索は《歓楽街》に絞ってくれ」

 

 「え、良いの?」

 

 「あぁ。イレーネの推測通りなら、恐らく何処かにいるはずだ」

 

 「・・・ふーん」

 

 何故か不機嫌な様子のシルヴィア。あれ・・・?

 

 「ど、どうした?」

 

 「イレーネさんって、レヴォルフの《吸血暴姫》でしょ?仲良いんだ?」

 

 「ま、まぁな・・・」

 

 俺の答えに、シルヴィアがますます不機嫌になる。

 

 「噂じゃ、《千見の盟主》と同居してるとか・・・」

 

 「だ、男子寮に部屋が無くて・・・」

 

 「《華焔の魔女》の胸を揉んだとか・・・」

 

 「じ、事故でたまたま・・・」

 

 「《疾風刃雷》に手を出してるとか・・・」

 

 「オイ誰だそんな噂流した奴!?それは完全にデマだからな!?」

 

 「その他諸々の噂・・・シノンから聞いてるんだけど?」

 

 「四糸乃姉えええええええええええええええっ!」

 

 一番まともな姉さんだと思ってたのに!

 

 「ちなみにシノンは、一織さん達から聞いたみたいだよ」

 

 「シルヴィア、何であの時俺を止めたんだ・・・もう少しで姉さん達の息の根を止められたのに・・・」

 

 「急激に殺意が芽生えてる!?」

 

 あのバカ姉共・・・一人残らず駆逐してやる・・・

 

 あ、四糸乃姉は除外しておこう。

 

 「まぁ話を元に戻すけど・・・頼んだぞ、シルヴィア」

 

 「・・・シルヴィ」

 

 「え・・・?」

 

 「昔はシルヴィって呼んでくれたじゃない・・・」

 

 いじけているシルヴィア。おおう、マジか・・・

 

 「・・・頼んだぞ、シルヴィ」

 

 「うんっ!」

 

 満面の笑みを浮かべるシルヴィ。まぁ最高に可愛いからいいや・・・

 

 《歓楽街》のマップを広げ、準備を整える。

 

 「それじゃ、いくよ・・・」

 

 シルヴィは真剣な表情を浮かべると、目を閉じて歌を口ずさみ始めた。

 

 シルヴィの身体が淡く光り、その光が周りへと広がっていく。その光景はあまりにも幻想的で、俺は思わず目を奪われていた。

 

 そして何より・・・

 

 「・・・相変わらず、綺麗な歌声だな」

 

 ポツリと呟く。これほどの美しい歌声を持つ人物など、そう滅多にいるもんじゃない。シルヴィが至高の歌姫と絶賛されるのも、大いに頷ける話だ。

 

 そんなことを考えているうちに、シルヴィの光が収まっていく。そして何処からともなく現れた羽根が、《歓楽街》のマップのとある一部分を指していた。

 

 これはつまり・・・

 

 「そこにフローラちゃんがいるってことだね」

 

 歌い終えたシルヴィが、羽根の指す場所を見つめる。

 

 「この場所は・・・カジノだった場所だね。今は使われてないけど」

 

 「今は使われていない・・・?」

 

 どうやら、ドンピシャのようだな。

 

 「うん。この間ここで、客の一人が大暴れしたみたい。カジノは営業出来なくなって、今は工事中みたいだよ」

 

 「・・・何か最近、そんな話を聞いた気がする」

 

 そういやイレーネの奴、カジノで暴れたって言ってたよな・・・

 

 「・・・よし。イレーネにはお礼として、今度会ったら拳骨をくらわせてやろう」

 

 「何で!?」

 

 シルヴィのツッコミが入る。ってか・・・

 

 「シルヴィ、お前ずいぶん《歓楽街》に詳しいな。ひょっとして遊び好き?」

 

 「ち、違うもん!ちょっとここに来ることが多いだけだもん!」

 

 「やっぱり遊び好きじゃん」

 

 「ち、違うの!今は詳しく言えないけど、遊びに来てるわけじゃないの!」

 

 必死に否定するシルヴィ。ま、最初から分かってたけどさ。

 

 「とにかく助かった。ありがとな、シルヴィ」

 

 「・・・フローラちゃんを助けに行くの?」

 

 「あぁ」

 

 あの子は巻き込まれてしまっただけだ。必ず助けないとな・・・

 

 「なら、私も一緒に・・・」

 

 「ダメだ」

 

 シルヴィの提案を、キッパリ断る俺。

 

 「お前が関わっていることが知られたら、《悪辣の王》はお前・・・ひいてはクインヴェールにまで手を出してくる恐れがある。どうやらアイツは、俺とお前の繋がりを危険視しているみたいだしな」

 

 「で、でも・・・」

 

 なおも食い下がろうとするシルヴィ。俺はシルヴィを抱き締めた。

 

 「・・・大丈夫。フローラを助け出して、必ず帰ってくる。そしたら・・・また会ってくれるか?」

 

 「ななくん・・・うん、分かった」

 

 小さく頷き、俺の背中に手を回すシルヴィア。

 

 「ちゃんと無事に帰ってきてね」

 

 「あぁ、必ず」

 

 しばらく抱き合った俺達は、やがて名残惜しみながらそっと離れた。

 

 「終わったら連絡するから」

 

 「・・・分かった。待ってるからね」

 

 「あぁ、また後でな」

 

 「うん、また後で」

 

 シルヴィは笑顔を見せると、屋上から飛び降り去った。

 

 俺はそれを見届け、端末を操作して綺凛に電話をかけた。空間ウィンドウに、綺凛の顔が映し出される。

 

 『七瀬さんっ!』

 

 「悪いな綺凛、連絡が遅くなった」

 

 『七瀬!?』

 

 『お前大丈夫なのか!?』

 

 綺凛の後ろから、紗夜とレスターが現れる。

 

 「二人ともお疲れ。俺は大丈夫だ。心配かけてゴメンな」

 

 『そうか・・・良かった・・・』

 

 『ったく、心配かけさせやがって・・・』

 

 ホッとした様子の二人。俺はそれを嬉しく思いつつも、本題に入ることにした。

 

 「フローラの居場所が分かった。今からマップを送る」

 

 『え!?』

 

 『は!?』

 

 『何だと!?』

 

 驚愕している三人をよそに、俺は綺凛にマップを送った。

 

 「その印が付いてる場所だ。《歓楽街》にある、カジノだった場所らしい。今すぐそこへ向かってくれ。俺もすぐ向かうから、現場で落ち合おう」

 

 『ちょ、ちょっと待って下さい!どうやって突き止めたんですか!?』

 

 「説明は後だ。それじゃ、また後でな」

 

 綺凛達の反応を無視して、通話を切る。

 

 さて・・・

 

 「待ってろよ、フローラ・・・!」

 

 駆け出す俺なのだった。

 




どうも~、ムッティです。

今日は一話のみの投稿となります。

シャノン「作者っち、まだアスタリスクの新巻買えてないの?」

そうなんだよ・・・早く読みたい・・・

そういや、『クインヴェールの翼』も読んでないんだよね。

シャノン「え、マジで?」

うん。本編だけ読んで満足しちゃって・・・

でも、柚陽ちゃんとソフィアが可愛いから読みたいなって。

シャノン「目当てはそこか・・・」

モチのロンだぜ。

あ、次の投稿は水曜日か木曜日になるかと思われます。

それではまた次回!

シャノン「またねー!」


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フローラ救出作戦

眠いぜ・・・


 「七瀬さんっ!」

 

 「おー、お疲れ」

 

 集合場所で待っていると、綺凛達がやって来た。と、紗夜がタックルしてくる。

 

 「ごふっ!?ちょ、紗夜!?」

 

 「・・・心配した」

 

 そのまま抱きついてくる紗夜。俺は紗夜の頭を撫でた。

 

 「心配かけてゴメンな。ありがとう」

 

 「・・・ん」

 

 「ったく、やっとお前の顔が見れたぜ」

 

 溜め息をつくレスター。

 

 「医療院に行っても面会謝絶だし、相当な重傷だと思ってたが・・・どうやら本当に大丈夫そうだな」

 

 「あぁ、もう大丈夫。悪かったな」

 

 ホント友達に恵まれたな、俺は・・・

 

 と、綺凛が目の前の建物を見た。

 

 「ここにフローラちゃんが・・・?」

 

 「あぁ、間違いない。アイツの能力は正確だから」

 

 「アイツ?」

 

 「後で話すよ」

 

 俺はそう言うと、入り口に向かって歩き出した。

 

 「おい七瀬、天霧やユリスはどうした?連絡してないのか?」

 

 「クローディアには連絡しておいた。あの二人をここに来させるなとも頼んでおいた」

 

 「は?何でだよ?」

 

 「直に決勝が始まるんだぞ?休息無しじゃ《黒炉の魔剣》があっても勝てやしない。あの二人には、無理矢理にでも身体を休めてもらわないと困るんだよ」

 

 「・・・確かに」

 

 レスターが納得する。

 

 「ってことは、この四人で潜入するってことか・・・」

 

 「応援は呼んでおいた。まぁ何とかなるだろ」

 

 「応援?」

 

 「すぐ来るさ。七海、準備は良いか?」

 

 【いつでも大丈夫です、マスター】

 

 《神の拳》が装着される。よし・・・

 

 「じゃ、行くぞ・・・《断罪の一撃》!」

 

 入り口を盛大に吹き飛ばす。轟音が響き渡り、巨大な穴が空いた。

 

 「おらぁっ!フローラ返せバカヤロー!」

 

 「何してるんですかああああああああああっ!」

 

 綺凛の盛大なツッコミが入る。

 

 「何で正面突破!?普通敵に気付かれないように侵入するでしょうが!」

 

 「自分、不器用ッスから」

 

 「不器用っていうかバカでしょう!?バカなんでしょう!?」

 

 「バカって言った奴がバカなんですぅ」

 

 「子供ですか!?」

 

 「まぁ冗談はさておき・・・既に敵にはバレてたからな」

 

 話しながら中に入る俺。

 

 「この建物の周辺の影から、特殊な力を感じた。俺達も既に気付かれてるよ」

 

 「影・・・?特殊な力・・・?」

 

 俺の後をついてきながら、紗夜が首を傾げる。

 

 「あぁ、恐らく犯人は・・・《魔術師》、あるいは《魔女》だ。その証拠に・・・」

 

 俺が前方に目をやると、地面から黒い人形の何かが次々と現れるところだった。あれも影の能力かな?

 

 「なっ、設置型の罠!?」

 

 「侵入者に反応するようになってんだろうな。流石はレヴォルフの諜報機関というか、結構な実力者みたいだな」

 

 襲い掛かってくる影人形達。

 

 「《断罪の一撃》!」

 

 影人形達がまとめて吹き飛ぶ。だが、すぐに新しい影人形が湧き出てきた。

 

 「おおう、マジか」

 

 「これじゃキリがねぇぞ!」

 

 レスターが影人形達を蹴散らしながら叫ぶ。

 

 「こうなったら、隙を作って突破するしか・・・!」

 

 綺凛が刀を構えるが、俺は手で制した。

 

 「いや、その必要は無い」

 

 「え・・・?」

 

 綺凛が首を傾げた時・・・俺達の横を、二つの風が疾った。

 

 そして・・・

 

 「はぁっ!」

 

 「やぁっ!」

 

 たくさんの影人形が消える。俺達の前に立っていたのは・・・

 

 「来てくれてありがとな。五和姉、六月姉」

 

 「言ったでしょ?全力で七瀬を守るって」

 

 「首肯。可愛い弟の頼みを、断る理由などありません」

 

 レイピアを構える五和姉と六月姉だった。

 

 「な、何でお二人がここに!?」

 

 「七瀬から頼まれてねー。急いで来たってわけよ」

 

 五和姉が楽しげに笑う。

 

 「ま、私達だけじゃないけどね」

 

 「え?」

 

 「全く・・・私を置いて突入しないで下さい」

 

 後ろからゆっくりやって来たのは、三咲姉だった。

 

 「ゴメンな、三咲姉。忙しいのに手間かけさせちゃって」

 

 「良いんですよ。七瀬の為ですから」

 

 優しく微笑む三咲姉。

 

 「それに私も、《悪辣の王》には不快な思いをさせられてますから。彼の邪魔が出来るのなら、私に出来ることは何でもします」

 

 「・・・メッチャ嫌われてんなぁ、あのブタ」

 

 三咲姉がここまで言うって、滅多に無いことだぞ・・・

 

 「とりあえず三人は、影人形の相手をしてもらって良い?俺達はその隙にここを突破して、フローラを探すから」

 

 「オッケー!」

 

 「了解」

 

 「分かりました」

 

 俺達が走り出すと、影人形達が立ち塞がってくる。

 

 だが・・・

 

 「そこ、空けてねー」

 

 「邪魔。退いて下さい」

 

 五和姉と六月姉が道を開いてくれる。真っ直ぐ突き進む俺達。

 

 「七瀬、行って下さい!」

 

 「サンキュー!」

 

 そのまま進むと、階段があった。どうやら上と下、両方に行けるようだ。

 

 「七瀬、どうする?」

 

 「下だ」

 

 紗夜の問いに即答する俺。

 

 「下から力の波動を感じる。影人形より全然強い力だし、恐らく影を操ってる張本人だろう。それに《星辰力》の流れも二つ感じる。一つはフローラのもので間違いない」

 

 「そこまで詳しく読み取れるようになったんですか?」

 

 驚いている綺凛。

 

 「あぁ、どうやら《魔術師》の力のおかげみたいだな。他の《魔術師》や《魔女》の力の反応が分かるし、《星辰力》の流れもより詳しく分かるようになってる。俺の力が雷っていうのも関係してるのかもな」

 

 「なるほど・・・身体能力を上げるだけじゃなく、そういった知覚能力まで上げることが出来るのか・・・」

 

 呆れたような表情のレスター。

 

 「ある意味チートじゃねぇか、それ」

 

 「まるで綾斗みたい」

 

 紗夜までそんなこと言ってくる。そうかな・・・?

 

 「とりあえず行くぞ」

 

 そう言って階段を下り、真っ直ぐ廊下を進んでいく。

 

 そして・・・

 

 「・・・ここだな」

 

 一つの部屋の前で立ち止まる俺。

 

 「正面突破だ。俺がドアを破壊するから、レスターと綺凛で突入してくれ。俺もすぐ突入する。レスターはフローラの救出優先、綺凛は敵の迎撃優先で頼むな」

 

 「了解」

 

 「分かりました」

 

 「紗夜はここで待機して、援護射撃を頼む」

 

 「任された」

 

 作戦を確認すると、俺は拳を構えた。

 

 そして・・・

 

 「《断罪の一撃》!」

 

 盛大にドアをぶっ壊す。即座に綺凛とレスターが突入した。俺もその後に続いて突入する。

 

 広い部屋の中で最初に目に入ったのは、柱に縛り付けられたフローラだった。猿轡を咬まされ、口を塞がれている。

 

 「フローラちゃん!」

 

 「助けに来たぜ!」

 

 「んー!んー!」

 

 綺凛とレスターの呼びかけに、必死で何かを訴えるフローラ。俺はすぐに気付いた。

 

 「二人とも後ろに下がれッ!」

 

 「「っ!?」」

 

 既にフローラのすぐ側まで近付いていた二人が、咄嗟に後方へ跳ぶ。

 

 次の瞬間、柱の影から剣山が飛び出してくる。俺は二人の横を通り過ぎ、剣山を拳で叩き割った。すぐさまフローラに近寄り、ロープを引きちぎる。

 

 そのままフローラを抱えたところで、殺気を感じてジャンプする。俺のすぐ下から、またしても剣山が飛び出てきた。

 

 「レスター!」

 

 「うおっ!?」

 

 レスター目掛けてフローラをぶん投げる俺。慌ててレスターがキャッチする。

 

 と、紗夜がヘルネクラウムを構えているのが見えた。

 

 「どーん」

 

 凄まじい威力の射撃が、剣山を粉々に砕く。ナイス紗夜!

 

 俺はその場に着地すると、大声で指示を飛ばした。

 

 「レスターはそのままフローラを連れて逃げろ!綺凛はレスターとフローラを守れ!紗夜、早急にクローディアへの連絡を頼む!」

 

 その瞬間、レスター目掛けて影の剣山が襲いかかってくる。

 

 やっぱりそうきたか・・・

 

 「綺凛!」

 

 「はぁっ!」

 

 剣山をぶった斬る綺凛。レスターがフローラを抱え、部屋を飛び出す。

 

 綺凛も出口のところまで辿り着き、俺の方を振り返った。

 

 「七瀬さん、早く逃げましょう!」

 

 「そうしたいのは山々なんだけどな・・・」

 

 俺の視線の先には、影の中から這い出てくる男の姿があった。

 

 アイツが《黒猫機関》の《魔術師》か・・・

 

 「綺凛、先に行け。お前はレスターとフローラを守れ」

 

 「なっ!?一人で残るつもりですか!?」

 

 「じゃないとアイツ、間違いなく追ってくるだろ」

 

 俺は綺凛を振り返った。

 

 「レスターはフローラを抱えてるから戦えないし、紗夜も近接戦闘は得意じゃない。となると、お前しか護衛出来る奴がいないんだよ。分かってくれ」

 

 「で、でもっ・・・」

 

 「今はフローラの安全確保と、クローディアへの報告が先決だ。早くしないと、綾斗が《黒炉の魔剣》無しで決勝に挑むことになる。急いでくれ」

 

 「っ・・・」

 

 綺凛は悔しそうに唇を噛み締めると、くるりと背を向けた。

 

 「・・・無茶だけはしないで下さい。待ってますから」

 

 「おう、後は頼んだぜ・・・相棒」

 

 俺の言葉を聞き、綺凛が走り出す。まぁアイツがいれば安心だろう。

 

 「・・・お前が来るとは予想外だったな、《覇王》」

 

 目の前の男が、低い声で話しかけてくる。

 

 「あれほど暴走したにも関わらず、もうピンピンしてるとは・・・ずいぶんタフだな」

 

 「それが売りなんでね。フローラを誘拐した罪は償ってもらうぞ」

 

 「お前が俺に勝てるのか?」

 

 男が嘲笑する。

 

 「悪いが人質を追わせてもらう。お前は安らかに逝け」

 

 「ハッ、させるかバカ。お前こそ地獄に落ちろ」

 

 俺達は睨み合うと同時に、勢いよく地面を蹴ったのだった。

 




どうも~、ムッティです。

アスタリスク最新巻を買いました。

シャノン「おっ?どうだった?」

八薙草朱莉さんが可愛かった!

シャノン「そこ!?」

いや、マジ美人だよあの人。

アスタリスクの女性キャラのビジュアル好きだわぁ・・・

シャノン「見境無いね、作者っち・・・」

フハハハ、可愛いは正義だ!

それにしても、続きが気になるわ・・・

早く新巻出ないかな。

シャノン「気が早くない!?」

楽しみにしながら待ちたいと思います。

それではまた次回!

シャノン「またねー!」


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ずっと一緒に

朝起きたら寒かった・・・

昨日と今日で寒暖差が激しすぎる・・・


 「はぁっ!」

 

 男に殴りかかる俺。だがその瞬間、男が影の中に入って消えてしまう。

 

 「チッ、厄介な能力だな・・・」

 

 正直、今までだったら勝てる気がしなかっただろう。

 

 だが・・・

 

 「そこだッ!」

 

 「っ!?」

 

 出口付近の柱の影から出ようとしていた男に、《断罪の一撃》を放つ。

 

 しかし男の反応が早く、回避されてしまった。

 

 「おいおい、俺を殺すんじゃなかったのか?無視してアイツらの後を追おうっていうのは、ちょっといただけないぞ」

 

 「・・・反応が早いな。俺の移動する場所を読んだのか?」

 

 「さぁな」

 

 星辰力の流れと《魔術師》の力を読み取れるおかげで、男の居場所はすぐに分かる。今の俺なら、例え相手が影に隠れようとお見通しだ。

 

 「ここを通すつもりはない。通りたいなら、俺を殺してから行くんだな」

 

 「・・・チッ」

 

 男が俺を睨む。そして溜め息をついたかと思うと、懐から何かを取り出した。

 

 「・・・人質に逃げられるよりマシか」

 

 それはスイッチだった。指をかける男を見て、急いで止めようとするが・・・

 

 「遅い」

 

 男がスイッチを押す。それと同時に、建物が大きく揺れ始めた。

 

 「おい、一体何を・・・!?」

 

 「これは爆弾の起爆スイッチだ」

 

 淡々と答える男。

 

 「万が一の時の為に、この建物にはいくつもの爆弾を仕掛けておいた。それを全て爆発させたんだ。直にこのビルは崩壊する」

 

 「なっ!?」

 

 「ちなみに爆発と同時に、セキュリティシステムも作動する仕組みだ。この建物の入り口は全て封鎖され、誰もこの建物に入れない。そして誰もここから出られない」

 

 男が愉快そうに笑う。

 

 「先ほどの奴らは、まだこの建物を出ていないだろう。人質と共に死ぬしかない」

 

 「・・・下種野郎が。お前も死ぬんだぞ」

 

 「ハッ、俺の能力を忘れたのか?」

 

 ニヤリと笑う男。

 

 「お前らは建物の瓦礫に潰されるだろうが、俺は影の中に入ってやり過ごせる。死ぬのはお前らだけだ」

 

 「そうですか。言いたいことはそれだけですね?」

 

 突然声がしたと思った瞬間、男の身体が剣で貫かれていた。

 

 「がはっ!?」

 

 大量の血を吐く男。その後ろで剣を刺していたのは・・・

 

 「三咲姉!?」

 

 「七瀬、無事ですか?」

 

 微笑む三咲姉。男の後ろ空間に穴が空いており、別の異質な空間が広がっている。三咲姉は、その空間に立っていた。

 

 あれって・・・

 

 「・・・なる・・・ほど・・・な・・・」

 

 息も絶え絶えに男が呟く。

 

 「《聖王剣》・・・次元を・・・切り裂く・・・剣か・・・」

 

 《聖王剣》・・・ガラードワースの学有純星煌式武装で、現在は三咲姉が使い手として選ばれている。

 

 空間ごと削り取って敵を攻撃することが出来るという、かなり強力な剣だ。今の三咲姉のように、次元を切り裂いて異次元空間に道を作ることも出来る。

 

 恐らく、入り口からここまで道を作ってきたんだろう。

 

 「アナタには色々と事情を聴きたいので、このまま捕らえさせてもらいますよ」

 

 「ハッ・・・断る・・・」

 

 その瞬間、男が何かを地面に落とした。突然の目が眩むような閃光に、咄嗟に目を閉じ手を翳す俺と三咲姉。

 

 「閃光弾!?」

 

 「ぐっ!?」

 

 光が収まった時、男の姿はどこにも無かった。聖王剣は血でべっとり汚れ、その場には大きな血溜まりが残っていたが。

 

 「無理矢理剣を抜きましたか・・・下手すると死にますよ、あの男」

 

 「自業自得だろ」

 

 三咲姉の唖然とした呟きに、吐き捨てるように答える俺。と、壁や天井にヒビが入る。

 

 「げっ、ヤバ・・・」

 

 「七瀬、早く!」

 

 手を掴まれ、引き寄せられる。俺が異次元空間の中に入ったと同時に、穴が完全に閉じた。

 

 間に合った・・・

 

 「助かったよ三咲姉・・・ところで、五和姉達は?」

 

 「先に逃がしました。フローラちゃん達も無事ですし、今頃紗々宮さんがエンフィールドさんに連絡している頃でしょう」

 

 「良かった・・・これで綾斗も《黒炉の魔剣》が使える・・・」

 

 ホッとして力が抜け、その場に崩れ落ちる俺。三咲姉が慌てて支えてくれる。

 

 「七瀬!?大丈夫ですか!?」

 

 「メッチャ疲れた・・・大して動いてないのに・・・何でだろう?」

 

 【当然ですよ】

 

 七海の声がする。

 

 【クローディアさんも仰ってましたが、精神は治癒能力じゃ回復出来ません。マスターは試合での暴走で、身体だけでなく精神もかなり消耗しています。それが完全に回復しないうちに動いてるんですから、いつもより体力の消耗が激しくて当然です。肉体と精神は切っても切れない関係ですし】

 

 マジか・・・正直、身体に力が入らない。どうしよう・・・

 

 「よっと」

 

 「・・・え?」

 

 いきなり三咲姉が俺をおぶった。おいおい・・・

 

 「勘弁してくれよ・・・」

 

 「フフッ、良いじゃないですか。七瀬をおんぶするなんていつ以来でしょうね」

 

 何故か嬉しそうな三咲姉。何か恥ずかしいけど・・・安心するのは何でだろう。

 

 段々と意識が遠のいていく。

 

 「・・・ゴメン・・・ちょっと落ちるわ・・・」

 

 俺は三咲姉に一言詫びると、意識を手放したのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「・・・んっ」

 

 気が付くと、目の前に見知らぬ天井が・・・って、二度目だなコレ。

 

 恐らく医療院だろう・・・ベッドからむくりと起き上がる。

 

 「あ、起きたね」

 

 すぐ側から声がした。振り向くと、ベッドの側の椅子にシルヴィが座っていた。

 

 「おはよう、ななくん」

 

 「おはようって言うには、ずいぶん遅い時間だけどな」

 

 窓の外は真っ暗で、恐らく夜遅い時間なんだろう。フローラを救出したのが明け方頃だったから、ほぼ一日眠っていたことになる。

 

 「フフッ、ぐっすり眠ってたね。身体の具合はどう?」

 

 「問題無いな。何だか身体が軽いわ」

 

 「だからって、無茶しちゃダメだよ?とりあえず様子見で一晩入院して、明日には退院できるみたいだけど・・・ちゃんと休みなさいってさ」

 

 マジか・・・まぁ七海曰く、精神が結構消耗してたみたいだしな・・・

 

 新学期が始まるまで、少しゆっくりしようかな・・・

 

 「シルヴィ、フローラがどうなったか分かるか?」

 

 「医療院で手当てを受けた後、ユリスさんと一緒に星導館に戻ったよ。大した怪我はしてなかったみたい」

 

 「良かった・・・助けられたのはお前のおかげだよ。ありがとな」

 

 「私はちょっと力を貸しただけ。ななくんが頑張ったからだよ」

 

 微笑むシルヴィ。

 

 「あ、そうそう・・・ユリスさんと綾斗くん、優勝したよ。やっぱり決勝で《黒炉の魔剣》を使えたのは大きかったね」

 

 「そっか・・・優勝したか・・・」

 

 遂にやったんだな、アイツら・・・ホッとする俺。

 

 「これでアイツらの願いは叶うな」

 

 「でも、ななくんは残念だったね・・・願いを叶えられなくて」

 

 「・・・いや、叶ったよ」

 

 そっとシルヴィの手を握る。

 

 「だって俺の願いは・・・シルヴィに会うことだったから」

 

 「・・・え?」

 

 ポカンとしているシルヴィ。

 

 「ど、どういうこと・・・?」

 

 「俺はな、シルヴィ・・・お前と会う為にアスタリスクに来た。もう一度だけお前と戦って、自分の中でケリをつけたかった。そしてそれが終わったら、もう二度とお前と会うつもりは無かったんだ」

 

 それを聞いて、シルヴィが悲しそうな顔をする。

 

 「戦う前に、一度お前と会いたかった。会って話がしたかった。だから《鳳凰星武祭》で優勝したら、お前と会って話すことを願おうと思ってたんだ。まぁ、思わぬ形でそれが叶ったわけだけど」

 

 苦笑する俺。

 

 「まぁそんなわけで、俺の願いは叶った。後はお前と、《王竜星武祭》で戦うことが俺の望みってとこかな」

 

 「・・・じゃあ」

 

 俺を見つめるシルヴィ。

 

 「じゃあ、もう私と・・・《王竜星武祭》以外で会うつもりは無いの・・・?」

 

 目に涙が浮かんでいる。ヤバい、泣いちゃった・・・

 

 「・・・人の話を最後まで聞いてくれよ」

 

 シルヴィの目元を、指でそっと拭ってやる。

 

 「最初はそのつもりだったけど・・・言ってくれたよな、俺と一緒にいたいって。それ聞いて、本当に嬉しかったんだ。俺だって本当は・・・本当に許されるなら・・・シルヴィと一緒にいたかったから」

 

 俺はシルヴィを見つめた。

 

 「・・・良いのか?俺はお前を殺しかけた男だぞ?そんな俺が・・・本当にお前と一緒にいても良いのか?」

 

 「・・・バカ。前にも言ったじゃない・・・」

 

 シルヴィの手が、俺の頬に添えられる。

 

 「『私が気にしてないんだから、君が気にする必要は無いんだよ』って。私は・・・今も昔も、ななくんと一緒にいたいって思ってるんだよ」

 

 「シルヴィ・・・」

 

 「好きだよ、ななくん・・・大好き」

 

 微笑んでそう言うシルヴィに、俺はドキドキが止まらなかった。

 

 どうやら俺は、この幼馴染に敵わないらしいな・・・

 

 「・・・参った。俺の負けだ」

 

 「え、何が・・・?」

 

 「やれやれ、シルヴィの頑固さには脱帽だわ」

 

 「なっ!?誰が頑固よ!?」

 

 「お前だよバカ」

 

 俺は苦笑しながらそう言うと・・・シルヴィを抱きしめた。

 

 「えっ・・・ななくん・・・?」

 

 「・・・好きだ、シルヴィ」

 

 「ふぇっ!?」

 

 耳まで真っ赤になるシルヴィ。いやいや・・・

 

 「何照れてんだよ。人のこと好きって言っといて」

 

 「だ、だって!言うのと言われるのとじゃ全然違うもん!」

 

 「まぁ確かにな」

 

 俺もドキドキしたし・・・人のこと言えないか。

 

 「・・・シルヴィ」

 

 シルヴィを真っ直ぐ見つめる俺。

 

 「これからもずっと・・・俺と一緒にいてくれるか?」

 

 「・・・それは幼馴染として?それとも・・・恋人として?」

 

 「・・・この流れでそういう質問する?」

 

 「ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないもん」

 

 コイツ・・・表情は真面目だけど、口元が笑ってるし・・・

 

 まぁ良いけどさ。

 

 「・・・恋人として、だ。俺の彼女になってほしい」

 

 シルヴィの目を見て、ハッキリ伝える。シルヴィの目には、また涙が浮かんでいた。

 

 「・・・はいっ」

 

 微笑むシルヴィの目から、一筋の涙が流れる。やがて、どちらからともなく顔を近付けると・・・

 

 俺達はそのまま、お互いの唇を重ね合わせたのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「遂にななっちが結ばれた・・・良かった・・・」

良かったねぇ・・・チッ。

シャノン「舌打ち!?」

まぁシルヴィと結ばれたけど、他の女の子とイチャついたりするけどね。

シャノン「やっぱり・・・ななっち酷い・・・」

七瀬「だから何で俺のせいみたいに言うの!?ってか作者!お前自重しろよ!」

断る!趣味全開で書くことの何が悪い!

七瀬「開き直った!?」

シルヴィ「作者くん・・・あまり私のななくんに浮気させないでね?」

うん!分かった!

七瀬「態度違い過ぎだろうが!」

それではまた次回!

七瀬「無視すんなあああああっ!」




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処分

今日で八月も終わりなんだなぁ・・・


 翌日・・・迎えに来てくれるというクローディアを待っていると、病室のドアが勢いよく開いた。

 

 部屋に飛び込んできたその人物は、俺に抱きついてきた。

 

 「七瀬ッ!」

 

 「うおっ!?ユリス!?」

 

 俺の胸に顔を埋め、肩を震わせて泣くユリス。

 

 「良かった・・・本当に良かった・・・!」

 

 「いや、どうしたよお前・・・」

 

 「どうしたもこうしたもあるか!」

 

 ユリスがガバッと顔を上げ、泣きながら叫ぶ。

 

 「試合の翌日に見舞いに来たら、面会謝絶で追い返されて!お前がフローラの救出に尽力してくれていたことを、決勝の前にクローディアから聞かされて!終わった後、お前がまた入院したことを知って!心配で心配で頭がおかしくなりそうだった!」

 

 「ユリス・・・」

 

 「本当に・・・本当に心配したんだぞ・・・ひっぐ・・・」

 

 嗚咽を漏らすユリスの頭を、俺は優しく撫でた。

 

 「・・・優しいな、ユリスは。心配してくれてありがとう」

 

 「七瀬・・・ぐすっ・・・」

 

 俺がユリスをあやしていると、綾斗とクローディアが入ってきた。

 

 「七瀬、大丈夫かい?」

 

 「お待たせしました」

 

 「おー、来てくれてありがとな」

 

 手を上げて挨拶する俺。ユリスもようやく俺から離れた。

 

 「綾斗、ユリス・・・優勝おめでとう」

 

 「ありがとう、七瀬のおかげだよ」

 

 綾斗がニッコリ笑う。

 

 「フローラちゃんを助けてくれたんだろう?おかげで《黒炉の魔剣》を使えた。使えなかったら、間違いなく勝てなかっただろうからね。ありがとう、七瀬」

 

 「私からも礼を言う。フローラを助けてくれて、本当にありがとう。本当にお前には、いつも助けられているな」

 

 「俺だけの力じゃないさ」

 

 肩をすくめる俺。

 

 「綺凛と紗夜とレスター、三咲姉と五和姉と六月姉、イレーネとシルヴィ・・・皆が力を貸してくれたから、フローラを助けることが出来た。俺がやったことなんて、本当に微々たるもんだよ」

 

 「イレーネと《戦律の魔女》?あの二人も尽力してくれたというのか?」

 

 「あぁ。イレーネは《歓楽街》が怪しいって教えてくれたし、あの場所を突き止められたのはシルヴィの力のおかげなんだ」

 

 「そうだったのか・・・」

 

 「あら七瀬、《戦律の魔女》に会えたんですか?」

 

 クローディアが驚いている。

 

 「まぁな。おかげで色々とスッキリしたよ」

 

 「そうですか・・・良かったですね」

 

 何処かホッとした様子のクローディア。色々心配かけたしな・・・

 

 っと、今はまずやるべきことがあったな。

 

 「綾斗、ユリス・・・ゴメン」

 

 頭を下げる俺。

 

 「俺が暴走したせいで、お前らを傷付けて・・・本当にゴメン」

 

 「そんな!?止めてよ!?」

 

 綾斗が慌てている。

 

 「七瀬の意思じゃなかったんだし、仕方ないって!ね、ユリス!?」

 

 「そうだぞ七瀬。気にするな」

 

 「いや、でも・・・」

 

 言いかけた俺の口に、ユリスがそっと人差し指を添える。

 

 「私が気にしていないのだから?」

 

 「・・・お前が気にする必要は無い、か」

 

 以前俺がユリスにそう言って、後日ユリスにそっくりそのまま返されたんだっけ・・・

 

 シルヴィに言われたこのセリフ、すっかりユリスに使われてるな・・・俺のせいだけど。

 

 「・・・ホント、良い女だよお前は」

 

 「なっ!?そ、そういうセリフを恥ずかしげも無く言うなっ!」

 

 赤面するユリスを見て、綾斗とクローディアが笑っている。

 

 「あー、七瀬がリースフェルトさんを口説いてるー」

 

 「浮気性ねー、七瀬は」

 

 「なーちゃん、めっ!」

 

 いつの間にか、一織姉・二葉姉・四糸乃姉がやって来ていた。ジト目で俺を見ている。

 

 「な、何だよ・・・」

 

 「べっつにぃ?」

 

 「シルヴィと恋人になったのになー、って思っただけよ」

 

 「なーちゃん、浮気は良くないよ」

 

 「「「えっ!?」」」

 

 驚く綾斗、ユリス、クローディア。

 

 「七瀬、本当なの!?」

 

 「おい詳しく聞かせろ!」

 

 「あらあら、久々の再会でそこまで進んだんですか?」

 

 「お前ら落ち着け!ってか何で知ってんの!?」

 

 「姉さんから聞いたわ」

 

 「私は四糸乃から聞いたよ」

 

 「シーちゃんからの電話で聞いたの」

 

 「シルヴィいいいいいいいいいいっ!」

 

 アイツ何考えてんの!?仮にもアイドルだろうが!

 

 「大丈夫だよ、なーちゃん。シーちゃんに隠す気なんて全く無いから」

 

 「何が大丈夫なの!?」

 

 「七瀬、これはもう結婚宣言するしかないわよ。それならタブーとされる恋愛もうやむやになるわ。ファンを裏切ったとか叩かれるけど、そこは運営が守ってくれるわよ」

 

 「何処のアイドルの話してんの!?」

 

 「名案ね。いっそ会見を開いて、『恋愛禁止のルールで我慢できる恋愛は恋愛じゃありません』とか言っちゃえば良いんじゃない?」

 

 「だから何処のアイドルの話!?さっきからギリギリなとこを攻めてくるね!?」

 

 アカン、これ以上はマズい!

 

 「とにかくこのことは他言無用だから!分かった!?」

 

 「ハイハイ、シルヴィが総選挙のステージで言うまで黙ってるわよ」

 

 「総選挙って何!?いい加減にしろバカ姉共!」

 

 何だろう、もうツッコミすぎて疲れた・・・

 

 「・・・フフッ」

 

 突然一織姉が笑い出す。

 

 「・・・元気そうで安心したわ。ね、二葉?」

 

 「そうね。やっぱり七瀬はこうでなくちゃ」

 

 笑う二葉姉。二人とも・・・

 

 「あの、一織姉・・・二葉姉・・・」

 

 「はい何も言わない」

 

 「んぐっ!?」

 

 二葉姉が後ろから俺の口を塞いだ。そのまま抱き締められる。

 

 「・・・謝るのは私達の方よ。七瀬が《魔術師》だってことを知っていながら、それをずっと隠してきた・・・自業自得だわ」

 

 「七瀬の力を知っていながら、それを言わなかった・・・でもそのせいで、今回の暴走が起きてしまった・・・七瀬、本当にゴメンね」

 

 謝ってくる二人。止めろよ二人とも・・・

 

 「・・・俺が暴走したのは俺のせいであって、二人のせいじゃない。俺に謝らせないつもりなら、二人も謝ったりするなよ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「ったく、俺を止める為に無理しやがって・・・ユリス達を避難させることに専念してたら、傷つかずに済んだだろ」

 

 「・・・それは無理な相談ね」

 

 一織姉が微笑み、俺の頭を撫でる。

 

 「だって七瀬は・・・大事な弟だから。見捨てるなんて選択肢、最初から無いもの」

 

 「弟の為に身体を張るのは当然じゃない。だから七瀬は、もっと私達に甘えなさい」

 

 「っ・・・このバカ姉共・・・」

 

 「フフッ・・・なーちゃんの為なら、どんなバカにだってなっちゃうよ」

 

 俯く俺の手を、四糸乃姉が微笑みながら握る。ユリス・綾斗・クローディアが、優しい眼差しで見つめる中・・・

 

 俺は姉達の温もりを感じながら、静かに涙を流したのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 星導館に戻ると、綺凛・紗夜・レスターが出迎えてくれた。何故か三咲姉、五和姉、六月姉もいて、そのまま俺の退院祝い&綾斗・ユリスの祝勝会に突入。

 

 後からフローラもやってきて、俺の姿を見るなり号泣して抱きついてきた。何度も謝っていたが、フローラは何も悪くない。俺は優しく頭を撫で、フローラを励ましたのだった。

 

 そして翌日・・・俺はある人物から呼び出しを受けた為、ユリス・綾斗・クローディアと共に運営委員会本部に向かっていた。

 

 そこで待っていたのは・・・

 

 「やぁ、よく来てくれたね」

 

 《星武祭》運営委員会の実行委員長、マディアス・メサだった。

 

 星導館のOBで、かつて《鳳凰星武祭》を制した実力者らしい。優勝の願いとして運営委員会入りを希望し、そこから最高責任者にまで上り詰めたそうだ。

 

 よほど出来る人らしいな・・・

 

 「まずは・・・そうだな。フローラ嬢の誘拐の件から話そうか」

 

 その言葉に、ユリスの身体に力が入る。

 

 決勝終了後のインタビューで、ユリスはフローラの誘拐事件のことを公表したらしい。しかも黒幕が《悪辣の王》ということもぶちまけたことで、この一件は大々的に報じられたそうだ。当然事実関係が明らかになれば、《悪辣の王》はタダでは済まない。

 

 だが・・・

 

 「結論から言うと・・・今回の誘拐事件と《悪辣の王》を結びつける証拠は出てこなかった。よって、我々が処分を下すことは無い」

 

 「そんな!?」

 

 ショックを受けるユリス。まぁ正直、そんな気はしてたけどな・・・

 

 「委員長、逃走している誘拐犯は見つかっていないんですか?」

 

 「あぁ、残念ながらまだ見つかっていない」

 

 俺の問いに、肩をすくめて答える委員長。

 

 「《歓楽街》を仕切っているマフィア連中が、フェスタを賭けの対象にしていたらしくてね。星導館を優勝させないように、フローラ嬢を誘拐して邪魔をした・・・というのが、運営委員会の考えだ」

 

 委員長はそう言いながら、申し訳なさそうに俺達を見た。

 

 「すまないね。直接の証拠が無い限り、我々も処分を下すことは出来ないんだ」

 

 今回はあのブタに逃げられちまったな・・・

 

 あの《魔術師》、やっぱり何が何でも捕まえるべきだったか・・・

 

 「では次に・・・星野七瀬くん、君の処分についてだ」

 

 ・・・遂にきたか。

 

 「星野七瀬くん・・・君には、四ヶ月間の停学処分を下すこととなった」

 

 「なっ・・・停学・・・!?」

 

 「四ヶ月もですか!?」

 

 抗議の声を上げるユリスと綾斗。委員長は再び申し訳なさそうな顔をする。

 

 「すまないね。これは星導館と協議した結果なんだ」

 

 「なっ!?どういうことだクローディア!?」

 

 ユリスがクローディアを睨む。

 

 「・・・星導館は運営委員会での処分が下されてから、七瀬に対する追加の処分を検討する方針でした。ですが委員長から連絡をいただき、運営委員会と星導館との合同処分にしようという提案を受けたんです」

 

 淡々と説明するクローディア。

 

 「そして協議の結果、四ヶ月間の停学処分ということでまとまりました」

 

 「ふざけるな!四ヶ月ということは、七瀬は今年いっぱい登校できないということではないか!」

 

 「あまり彼女を責めないでやってくれ」

 

 委員長がユリスを宥める。

 

 「委員の中には、今後の《星武祭》参加に制限を加えようと提案する者もいた。彼女はそういった意見に反論し、最終的に制限は加えられなかったんだ。ただ、停学期間の方は少し長くなってしまってね・・・」

 

 「そもそも私達は、処分など不要だと言っただろう!それが何故・・・」

 

 「止せ、ユリス」

 

 俺はユリスの肩を掴んだ。

 

 「気持ちは嬉しいが、その辺にしておけ」

 

 「七瀬!?お前はこれで良いのか!?」

 

 「構わない。むしろ軽いだろ。俺は退学さえ覚悟してたからな」

 

 ユリスへの攻撃は試合中だったからともかく、綾斗を殴ったのは校章を破壊された後だしな・・・

 

 しかも一織姉と二葉姉にまで怪我をさせた以上、俺はもっと重い処分を覚悟していた。停学で済んだのは、まだ軽いと言える。

 

 「星導館と合同なら、もっと処分が重くても不思議じゃない。この程度で済んだのは、クローディアが頑張ってくれたおかげだろ。ですよね、委員長?」

 

 「あぁ、それは間違いない。医療院や警備隊からの抗議が無かったことや、フローラ嬢の誘拐事件を解決してくれた功労も勿論あるが・・・彼女が委員達を説得してくれたことが、一番大きかったと私は思うよ」

 

 「・・・そんなことはありません」

 

 俯くクローディア。

 

 「結局こういった処分が下された以上・・・七瀬を守れなかったも同然ですから」

 

 「十分守ってもらったさ」

 

 俺はクローディアの頭を撫でた。

 

 「ありがとな、クローディア・・・俺の為に頑張ってくれて」

 

 「七瀬・・・」

 

 涙を浮かべるクローディア。俺は委員長に向き直った。

 

 「色々とご面倒をおかけしました」

 

 「構わないさ。これが仕事だからね」

 

 笑う委員長。

 

 「君がまた《星武祭》で活躍する姿を、心から楽しみにしているよ」

 

 「はい。ありがとうございます」

 

 一礼する俺。

 

 その後ユリスと綾斗は優勝の願いの話があるとのことだったので、俺とクローディアは先に星導館に戻ることにした。

 

 帰りの車の中、俺はクローディアに話しかけた。

 

 「クローディア、《獅鷲星武祭》の件だけど・・・お前のチームに参加させてもらっても良いか?」

 

 「っ!?良いんですか!?」

 

 突然の言葉に、目を見開いて驚くクローディア。

 

 「あぁ。ユリスと綺凛も参加するだろうし、アイツらの力になるって約束したからな」

 

 俺はクローディアに笑顔を向けた。

 

 「それに・・・クローディアの力にもなりたいし。今回もそうだけど、お前にはいつも世話になってるからな。俺なんかの力が必要だって言ってくれるなら、喜んで力を貸させてもらうよ」

 

 「っ・・・七瀬、大好きですっ!」

 

 目に涙を浮かべ、抱きついてくるクローディアなのだった。

 




二話連続での投稿となります。

シャノン「前半のネタ大丈夫?だいぶ某アイドルの子をディスってるけど・・・」

大丈夫じゃない?ファンの方がいたら申し訳ないけど。

そんなわけで、今後も芸能ネタは取り入れるかもしれません。

シャノン「不倫ネタとか?」

あぁ、なるほど。七瀬にやってもらうか。

七瀬「するかバカアアアアアっ!」

それではまた次回!

シャノン「次回はななっちが不倫します!」

七瀬「するわけねぇだろおおおおおっ!」


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修行

これにて≪鳳凰乱武≫編は終了です。


 「んー・・・」

 

 自室のベッドに寝転がり、考え事に耽る俺。

 

 「どうしよっかなぁ・・・」

 

 【マスター、どうしました?】

 

 七海が話しかけてくる。

 

 「いや、停学処分くらったじゃん?その間、どうしよっかなぁって」

 

 【・・・どうしましょうねぇ】

 

 四ヶ月ということは、ちょうど今年いっぱいだ。年が明けるまで何をしよう・・・

 

 【そもそも停学処分中って、寮に居て良いんですか?】

 

 「クローディアに聞いたら、それはオッケーみたい」

 

 とはいえ、一人でトレーニングするのも限度があるし・・・

 

 と、俺の端末に着信が入った。相手は・・・沈華?

 

 「もしもし?」

 

 『もしもしじゃないわよバカアアアアアッ!』

 

 「うおっ!?」

 

 空間ウィンドウに、激おこぷんぷん丸状態の沈華の顔が映る。その後ろに、苦笑を浮かべる沈雲の姿があった。

 

 「ど、どうしたよ沈華?何怒ってんの?」

 

 『師父から聞いたわよ!?アンタ停学処分になったんですって!?』

 

 「・・・耳が早いな、星露のヤツ」

 

 ついさっき処分を言い渡されたんだが・・・いつ情報をキャッチしたんだ・・・

 

 『何でアンタが停学処分なわけ!?あんなの事故みたいなもんでしょうが!』

 

 「仕方ないだろ。暴走して綾斗達を傷付けたのは事実なんだから」

 

 『アンタの意思じゃないでしょ!?運営委員会は何を考えてんのよ!?アンタに停学処分下すわ、結婚発表したアイドルに残留を提案するわ!』

 

 「おいちょっと待て!?後半は別の運営だろうが!ってかお前までそのネタかよ!?」

 

 『総じて言いたいのは、この帽子がきっと私の全ての言葉だと思うの!せーのっ!』

 

 沈華が頭の帽子を見せる。そこには『FU●K』と記されていた。

 

 「おい止めろおおおおおっ!?OGのネタまで持ってくるんじゃねえええええっ!?」

 

 何なの!?某アイドルのディスりでも流行ってんの!?

 

 「・・・でもまぁ、ありがとな沈華。俺の為に怒ってくれて」

 

 『っ!?べ、別にアンタの為じゃないわよ!?運営に腹が立っただけだから!』

 

 急に赤面し、顔を背ける沈華。素直じゃないなぁ・・・

 

 『やぁ七瀬、突然すまないね』

 

 沈雲が苦笑しながら前に出てくる。

 

 『実は師父が、君と話したいと仰っていてね。それで連絡したんだ』

 

 「え、星露が?」

 

 『あぁ。師父、どうぞ』

 

 『うむ、ご苦労じゃ』

 

 沈雲と沈華が下がり、星露の顔が映った。

 

 『七瀬、身体の具合はどうじゃ?』

 

 「もう大丈夫だよ、星露。それより・・・ゴメンな。せっかくお前に忠告してもらっておきながら、あんなことになっちゃって・・・」

 

 『気にするでない。お主が一番辛かったじゃろうからな』

 

 首を横に振る星露。

 

 『ところで七瀬、停学中はどうするつもりじゃ?』

 

 「いや、今それを考えててさ・・・この力も上手く使いこなせるようになりたいし、トレーニングしようとは思うんだけど・・・」

 

 『それなら、一つ提案して良いかの?』

 

 「提案?」

 

 首を傾げる俺に、星露がニヤリと笑った。

 

 『停学期間中、界龍に来て儂の下で修行せぬか?』

 

 「っ!?」

 

 星露の下で修行って、つまり・・・

 

 『師父!?何を仰っているのですか!?』

 

 慌てて立ち上がる沈華。

 

 『他の学園の者を界龍で鍛えるなんて!?』

 

 『まぁそうなんじゃが、素材に惚れた弱みとでも言うべきかのう・・・どうにも放っておけんのじゃ』

 

 俺を見て愉快そうに笑う星露。

 

 『身体の使い方から力の操り方まで、みっちり教えてやるぞい。星仙術は万応素をコントロールする技術じゃから、《魔術師》の力の扱い方とも通ずるところがあろうて。悪い話ではないと思うが・・・どうじゃ?』

 

 「・・・ハハッ」

 

 思わず笑ってしまう俺。

 

 「参ったな・・・断る理由が無い。むしろこっちが頼みたいぐらいだ」

 

 『おぉ、では・・・』

 

 「あぁ、よろしく頼む」

 

 『ちょ、何勝手に決めてんのよ!?』

 

 沈華が割り込んでくる。

 

 『大体、アンタんとこの会長が許すわけ・・・』

 

 「あら、私は大賛成ですよ?」

 

 「え、クローディア!?」

 

 いつの間にか、後ろにクローディアが立っていた。

 

 「《万有天羅》、七瀬をお願いできますか?」

 

 『任せておけ。これほどの素材を無駄にはせぬ』

 

 笑顔で頷く星露。

 

 『では七瀬、詳しい日時はまた連絡する。準備しておくのじゃぞ』

 

 「了解。頼んだ」

 

 通信が切れる。俺はクローディアを見た。

 

 「・・・本当に良いのか?」

 

 「私が《獅鷲星武祭》で優勝する為にも、七瀬には強くなってもらいたいですから」

 

 「うわ、容赦ねぇ・・・」

 

 俺の反応に、クスクス笑うクローディア。この性悪女め・・・

 

 「それに・・・七瀬が行きたいと言っているんです。私が止める理由もありません。私は七瀬を信じていますので」

 

 「・・・ずるいな、お前は」

 

 そう言われたら何も言えないだろ・・・

 

 クローディアの頭を撫でる俺。クローディアは目を閉じ、そのまま俺に身体を委ねるのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「じゃ、行ってくるわ」

 

 界龍へ旅立つ日、星導館の正門前には綾斗・ユリス・クローディア・綺凛・紗夜・レスターが見送りにきてくれていた。

 

 「しかしまぁ、お前が《万有天羅》の下へ修行に行くとはな・・・」

 

 ユリスが呆れている。

 

 「次にお前と会えるのは四ヶ月後か・・・寂しくなるな」

 

 「えっ、ユリスが寂しいとか言ってる・・・アスタリスク崩壊も近いな」

 

 「人が素直になっているのがそんなにおかしいか!?」

 

 ユリスのツッコミに、全員笑った。

 

 「あのユリスが素直に・・・あれ、何か涙が・・・」

 

 「本当に変わりましたね、ユリス・・・」

 

 「何で綾斗とクローディアは泣いているのだ!?」

 

 綾斗とクローディアが、ユリスをおちょくって遊んでいる。と、綺凛が一歩前に出た。

 

 「七瀬さん、頑張って下さい。私も特訓して、もっと強くなりますから」

 

 「おう、お互い強くなろうな」

 

 「はいっ」

 

 拳を合わせる俺達。

 

 「それと、言うのが遅くなったけど・・・ありがとな、綺凛。俺、お前とタッグが組めて良かった。負けちゃって、お前の願いを叶えられなかったけど・・・最高に楽しい《鳳凰星武祭》だったよ。誘ってくれて、ホントにありがとう」

 

 「っ・・・ず、ずるいですぅ・・・」

 

 ポロポロ涙を零す綺凛。

 

 「このタイミングでそんなこと言うなんて・・・ひっぐ・・・」

 

 「ゴメンゴメン、ちゃんと伝えてなかったからさ」

 

 綺凛の頭を撫でる俺。

 

 「次の《獅鷲星武祭》では、お前の願いを叶える力になってみせるから。だからお互い頑張ろうな」

 

 「っ・・・勿論ですっ!」

 

 綺凛が笑顔を見せる。よしよし、やっぱり綺凛はこうでないとな。

 

 「七瀬、向こうに行ってもちゃんと連絡してほしい」

 

 「身体に気を付けろよ」

 

 紗夜とレスターが笑顔でそう言ってくれる。

 

 「あぁ。それと紗夜、あんまり寝坊すんなよ?谷津崎先生に殺されるぞ?」

 

 「・・・善処する」

 

 苦い表情の紗夜。ったく・・・ま、紗夜らしいな。

 

 「んじゃ、そろそろ行くわ。またな」

 

 「うん、行ってらっしゃい!」

 

 「強くなって帰ってくるんだぞ!」

 

 「連絡はマメにして下さいね」

 

 「お気を付けて!」

 

 「また会おう」

 

 「帰ってきたら決闘しやがれ!」

 

 皆の声援を受け、俺は界龍への道を歩き始めた。

 

 その途中・・・

 

 「ななくんっ」

 

 「えっ・・・?」

 

 不意に声がしたので振り返ると、細い路地道に変装状態のシルヴィが立っていた。

 

 「シルヴィ!?お前明日からツアーだから、今日旅立つって言ってなかった!?」

 

 「その前に、ななくんのお見送りにきちゃった」

 

 ニッコリ笑うシルヴィ。

 

 「あの《万有天羅》の修行じゃ、休みなんてほぼないと思うし。ななくんと会えない日々が続くと思ったら、今のうちに会いたくなっちゃって」

 

 シルヴィが急に口を尖らせる。

 

 「全く、彼女をほったらかして修行だなんて・・・ホント酷い彼氏だよね」

 

 「返す言葉もございません・・・」

 

 「フフッ・・・冗談だよ」

 

 面白そうにクスクス笑うシルヴィ。

 

 「ななくんが決めたことだもん。応援するに決まってるじゃない」

 

 「シルヴィ・・・」

 

 「その代わり!終わったらデートしてもらうんだからね!」

 

 「あぁ、勿論」

 

 俺はシルヴィを抱き締めた。シルヴィも、俺に身体を委ねてくれる。

 

 「俺、強くなるから。シルヴィに負けないぐらい、強くなってみせるからな」

 

 「私も負けないよ。《王竜星武祭》で勝つのは私だからね」

 

 「いや、俺だ」

 

 お互い睨み合う・・・が、すぐに笑ってしまう。

 

 「フフッ、私達ってホント負けず嫌いだよね」

 

 「だな。似た者同士カップルってところか」

 

 「ホントにねー」

 

 でも、こうしてシルヴィといられて幸せだ。シルヴィが愛おしくてたまらない。シルヴィも、優しく微笑んで俺を見ていた。

 

 「ななくん・・・」

 

 「シルヴィ・・・」

 

 二人の顔が近付き・・・唇が重なった。お互いの身体を強く抱きしめ、何度も求め合う。

 

 長い時間そうしていたが、やがて名残惜しく思いながら離れる。

 

 「・・・それじゃ、行ってくるな。シルヴィもツアー頑張れよ」

 

 「ありがと。向こうからでも連絡するからね」

 

 「あぁ、俺も連絡する。お互い頑張ろうな」

 

 「うんっ!」

 

 手を振り合い、シルヴィと別れる。アイツの為にも強くならないとな・・・

 

 気合いを入れ直した俺は黙々と歩き続け、界龍へと辿り着いた。と、正門の前に星露が立っていた。

 

 「おぉ七瀬、よく来たの」

 

 「わざわざここで待っててくれたのか?」

 

 「うむ。誘ったのは儂じゃからの」

 

 頷く星露。律儀なヤツだなぁ・・・

 

 「七瀬よ、覚悟は出来たかの?」

 

 「出来てるさ。よろしく頼む」

 

 「うむ。それでは・・・ようこそ界龍へ!」

 

 正門が開かれ、星露が中へ入っていく。

 

 俺は意を決して、一歩を踏み出したのだった。

 




三話連続での投稿となります。

この話で≪鳳凰乱武≫編は終了です。

シャノン「次回からは新章に突入するの?」

いや、一区切りついたからオリキャラ紹介かな。

シャノン「あー、前に言ってたやつ?」

そうそう。ぶっちゃけ新章のストックあまり無いから、ここらで時間稼ぎしないと。

シャノン「裏事情をアッサリぶっちゃけたね・・・」

あと、短編とか書きたいんだよねー。

七瀬の日常とか、色々な事件があった後の後日談とか。

シャノン「それ良いね!でも、本編の投稿が遅れるんじゃ・・・?」

ホントに短い話なら大丈夫かなって。

そうやって時間を稼ぎつつ、本編の執筆を進めねば・・・

シャノン「いや、だからそんな裏事情を暴露しなくても・・・」

そんなわけで、次回からはオリキャラ紹介です。

まずは一織からになるかな?

投稿は9月4日(月)を予定しております。



いつもこの作品を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

これからもこの作品をよろしくお願い致します。

それではまた次回!

シャノン「またねー!」



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《オリキャラ紹介》
星野 一織


もう9月なのか・・・


星野 一織(ほしの いおり)

 

モチーフキャラ・・・結城 明日奈(ソードアート・オンライン)

 

CV:戸松 遥

 

 

 

星導館学園OGの23歳。

 

高等部から星導館に入学。入学初日にナンパしてきた当時の序列十二位を瞬殺し、《冒頭の十二人》入りを果たす。しかし当時は序列に興味が無く、そこから上を目指すことはしなかった。

 

高一の冬、《王竜星武祭》を制する。そこで強者と戦うことの楽しさを知り、戦いにのめり込むようになる。自身以外の《冒頭の十二人》に片っ端から決闘を申し込み、やがて序列一位の座に着く。

 

戦いになると人が変わったかのような戦闘狂ぶりを見せることから、《狂暴戦士》(バーサクファイター)という二つ名を付けられる(ただし本人は嫌がっていた)。

 

高二の夏、二葉とのタッグで《鳳凰星武祭》を制する。

 

高三の秋、二葉と同じチームで《獅鷲星武祭》に参戦する。しかし、三咲の所属するガラードワースのチーム・ランスロットに破れて敗退。リーダーである自身の校章をアーネストに破壊されたことで負けた為、深く責任を感じる。

 

しかしアーネスト曰く、「仲間達に犠牲になってもらい、何とか僅かな隙を作ってもらった。そのおかげで彼女の校章を破壊出来ただけで、個人的には勝った気などしない」らしい。

 

結果として二つの《星武祭》を制したものの、シーズンが違った為に星導館は総合一位を取ることは無かった。本人もそのことをとても悔しがっている。

 

二つの《星武祭》を制したことで、二つの願いを叶えられる権利を得る。その際二つとも金銭を要求して実家に贈り、その賞金は七瀬達の生活費やアスタリスクへ行く為の資金等に充てられた。

 

高等部卒業後は星猟警備隊に入るも、ある出来事から治癒能力に目覚める。そのことがきっかけで星猟警備隊を辞め、治療院勤務となる。

 

治癒能力に目覚めた後、二つ名が《狂暴治癒師》(バーサクヒーラー)に変わる(相変わらず本人は嫌がっている)。

 

普段は温厚で優しく、七瀬や他の妹達からも頼りにされている存在。

 

仕事が忙しく、なかなか実家に帰れないことが悩み。七瀬と最後に会ったのは七瀬が中一の時であり、高一となった七瀬と再会した時は感動して泣きそうになったらしい(本人談)。

 

七瀬が《魔術師》であったことや、《神の拳》(ヘヴンズナックル)が作られた経緯などを全て知っていた。しかし両親の願いを汲み取り、それを七瀬には伝えなかった。

 

そういった経緯もあって七瀬のことは常に気に掛けており、いつでも自身に甘えてほしいと思っている。

 

 

 

*****

 

 

 

≪七瀬から見た一織≫

 

一織姉には俺達を包み込んでくれるような包容力があって、姉さんっていうより母さんっていう方が近いかも。

 

まぁそんなこと本人に言ったら、「私そんな歳じゃないもん!」とか言って涙目になって怒りそうだけど。

 

普段は優しくて温厚だけど、戦っている時の一織姉はマジで怖い。小さい頃の俺は、一織姉の試合映像を見ただけで危うくチビりそうになったし。

 

長期休暇で帰ってきた一織姉を見た瞬間、怖くなって逃げたこともあったなぁ・・・

 

一織姉はかなりショックだったみたいで、「七瀬に嫌われた・・・私もう生きていけない・・・」とか言って天井に縄を吊るしてたところを二葉姉に止められてたっけな・・・

 

いつもは照れ臭くてなかなか言えないけど、一織姉には本当に感謝してる。一織姉が贈ってくれた賞金のおかげで、こうしてアスタリスクに来て星導館に通えてるわけだし。

 

実を言うと星導館に来たのも、一織姉に憧れたからだったりする。一織姉の背中を追いかけたっていうのかな・・・

 

本当に尊敬してるし、自慢の姉だと思ってる。

 

一織姉、いつもありがとう。これからもよろしくね。




どうも~、ムッティです。

今回は一織のキャラ紹介でした。

一織「ねぇ作者さん、何で戦闘狂っていう設定にしたの?」

モチーフキャラのアスナがそれに近いからね。

もういっそ戦闘狂にしちゃえ、みたいな。

一織「そんな軽いノリ!?私が怖がられるだけじゃない!」

まぁまぁ、良いじゃん。七瀬も自慢の姉だって言ってるよ?

一織「うぅ・・・七瀬ぇ・・・」

まぁ怖いとも言ってるけどね。

一織「うわあああああん!」

それではまた次回!次は二葉のキャラ紹介です!

一織「作者さんを殺して私も死ぬううううう!」

ちょ、止め・・・ギャアアアアアッ!?


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星野 二葉

今日は涼しくて過ごしやすいなぁ・・・


星野 二葉(ほしの ふたば)

 

モチーフキャラ・・・イリーナ・イェラビッチ(暗殺教室)

 

CV:伊藤 静

 

 

 

星導館学園OGの22歳。

 

高等部から星導館に入学し、一年先に入学した一織の戦闘狂ぶりに戦慄する。よく一織の特訓相手として模擬戦に付き合わされ、元々高かった自身の戦闘能力をさらに向上させることになる。

 

高一の夏、一織とのタッグで《鳳凰星武祭》を制する。ただし本人曰く「乗り気じゃ無かったけど、姉さんに無理矢理参加させられた」とのこと。

 

ちなみに優勝の願いは、一織に倣って金銭を要求。一織と同じように全て実家へ贈った。

 

序列に興味が無かったことから、高二まではずっと序列外だった。

 

しかし高二の秋に一織と共に参加した《獅鷲星武祭》で、初めて一織の敗北を目の当たりにしてショックを受ける。また自身と一織の所属するチームが、三咲の所属するチームに負けたことに大きな悔しさを覚える。

 

そこで一織の妹として、そして三咲の姉として恥じない存在になりたいと決意。一織が卒業する前に序列二位にまで上り詰め、《鮮血の殺し屋》(ブラッディキラー)の二つ名を得る。

 

そして一織の卒業前最後の公式序列戦で一織と直接対決したが、惜しくも敗れてしまう。本人はそのことを未だに悔しがっている。

 

その後一織が卒業したことで序列一位に繰り上がるも、本人は「自分を序列一位だと思ったことはない。私の中の序列一位は未だに姉さん」と語っている。

 

高三の冬、《王竜星武祭》に参戦する。このシーズンの《鳳凰星武祭》を制していた為、《王竜星武祭》での成績次第で星導館は総合一位を取れる可能性があった。

 

本人も一織の悲願だった総合一位を取ろうとやる気十分だったが、《孤毒の魔女》と当たって敗北を喫してしまう。本人曰く、「あの子はマジで化け物。実際に戦ってみて、とてもじゃないけど私ごときには勝てないと痛感させられた」とのこと。

 

また自身の敗北で星導館は総合一位を逃したと思っており、そのことを今でも悔やんでいる。

 

卒業後、一織の後を追うように星猟警備隊に入る。そこで数々の成果を挙げ、若くして一等警備正にまで上り詰める。

 

一織が星猟警備隊を辞めたことは残念に思っているが、人を癒すことに力を注ぐ一織を見て今まで以上に尊敬するようになった。また、自身も人を救うことに力を使おうと改めて決意している。

 

性格は明るく快活で、初対面の人ともすぐに打ち解けることが出来るほど。

 

一織同様七瀬に関する事情を知っており、七瀬のことはいつも気にかけている。その為か、抱きついたりキスしたりするなどスキンシップが激しい。

 

 

 

*****

 

 

 

≪七瀬から見た二葉≫

 

二葉姉は星野家のムードメーカーみたいな存在で、いつも皆を明るくしてくれる。

 

・・・まぁ元気すぎて、時々ウザく感じる時もあるけど。

 

あと、スキンシップが激しすぎる。抱きついてくるのはともかく、キスまでされるこっちの身にもなってほしいよね・・・

 

ただ、やっぱり二葉姉は大人だなとも思う。

 

一緒に買い物に行った時も、シルヴィのことを引きずってる俺を見て助言してくれたし。

 

厳しいことも言われたりするけど、それは二葉姉の愛情の裏返しなんだよね。

 

大切に思ってくれてるからこそ、可愛がるだけじゃなくてあえて厳しいことを言ってくれてるんだと思う。

 

一織姉同様、二葉姉のことも尊敬してる。

 

実は《王竜星武祭》に出場したいのは、二つ目的があるんだよね。

 

一つはシルヴィと戦うこと。もう一つは《孤毒の魔女》に勝って、二葉姉のリベンジを果たすこと。

 

あの二葉姉が負けた相手に、俺が勝てるかどうかは分からないけど・・・

 

それでも、二葉姉の悔しさを少しでも晴らしてあげたいからね。

 

二葉姉、いつもありがとう。これからも俺の自慢の姉さんでいて下さい。




痛てて・・・どうも~、ムッティです。

二葉「あら、どうしたの作者?何かボロボロじゃない?」

ちょっと危うく死にかけてね・・・

それはさておき、今回は二葉のキャラ紹介でした。

二葉「≪鮮血の殺し屋≫って・・・完全にビッチ先生からきてるわよね?」

勿論。ビッチ先生は殺し屋だったわけだしね。

まぁ二葉のモチーフになったのは、死神編が終わった後のビッチ先生なんだけどさ。

二葉「そこは拘るのね・・・」

当然。ポニーテールのビッチ先生マジ神だわ。

二葉「そこ!?性格が柔らかくなったところとかじゃなくて!?」

勿論それもあるよ。

ただ、髪型を変えたビッチ先生にドキッとしたことは認めざるをえない。

二葉「アンタ相変わらずよね・・・」

というわけで、二葉のキャラ紹介でした。

それではまた次回!次は三咲のキャラ紹介です!

二葉「こんな感じだけど、次もよろしくね」


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星野 三咲

風邪ひいたわぁ・・・


星野 三咲(ほしの みさき)

 

モチーフキャラ・・・浅見 リリス(トリニティセブン)

 

CV:原 由実

 

 

 

聖ガラードワース学園大学部三年の21歳。

 

当初は、一織と二葉の所属する星導館への進学を考えていた。しかしアスタリスクでの二人の活躍ぶりを見て、自身は違う道で二人を追いかけたいと考えるようになる。

 

そんな時、ネットでアーネストの試合映像を見て衝撃を受ける。自分も彼のような剣士になりたいと思い、ガラードワース高等部への進学を決める。

 

入学後は戦いの日々に明け暮れ、やがて序列六位にまで上り詰める。高一の秋の《獅鷲星武祭》では、チーム・ランスロットのメンバーとして出場する。

 

そこで一織と二葉の所属するチームに勝利を収めるが、自身は二葉に校章を破壊されてしまう。また自身の仲間達をなぎ倒す一織を目の当たりにし、二人に追いつくにはまだまだだと痛感する。

 

そこからただひたすらに剣術の腕を磨く。元々剣術の腕はかなりのものだったが努力を積み重ね、アーネストと共に『ガラードワースの二大剣王』と称される。

 

アーネスト曰く、「三咲の剣技は凄まじいよ。色々な剣士と手合わせしてきたけど、間違いなく彼女が一番強い。妹のソフィアにも見習わせたいね」とのこと。

 

高三で序列三位になったものの、そこから上の序列を目指すことは無かった。

 

これは一織が星導館の序列一位、二葉が二位だったことで、「例え学園が違おうとも、自分如きが姉様達と同じ序列順位になることなどおこがましい」と考えた為である。

 

現在序列二位のレティシア曰く、「私では絶対に三咲には勝てませんわ。その私が三咲よりも上の順位にいることには、未だに抵抗がありますわね・・・」とのこと。

 

星野家で初めて大学部へ進学する。これは自身があと二回《星武祭》に参加でき、なおかつ在学中にあと二回《獅鷲星武祭》が行われることが関係している。

 

「チーム・ランスロットのメンバーとして一緒に三連覇しよう」というアーネストとの誓いを守る為であり、剣士として更なる高みへ上りたいと願った為でもあった。

 

大学部一年の秋、チーム・ランスロットとして《獅鷲星武祭》二連覇を成し遂げる。

 

しかしこの大会では、準々決勝で四糸乃の所属するクインヴェールのチーム・ルサールカと対戦。そして決勝では五和と六月の所属するガラードワースのチーム・トリスタンと対戦。

 

四糸乃・五和・六月と、結果的に自身が可愛い妹達の校章をことごとく破壊することになる。本人は試合後、激しい自己嫌悪に陥った。

 

二回《星武祭》を制したことで、二度願いを叶える権利を得る。二度とも姉達に倣って金銭を要求し、すべて実家へと贈った。

 

二つ名は《絶剣》、純星煌式武装《聖王剣》の使い手である。次元を切り裂いて道を作ったり、空間ごと削り取って敵を攻撃できる等の強力な能力を持つ。

 

しかしそういった能力を一度使うたび、多くの星辰力を奪われるのが代償である。三咲の星辰力は七瀬のように膨大にあるわけではないので、能力を使える回数には限度がある。

 

冷静沈着でクールなイメージを持たれがちだが、主に七瀬絡みで色々な感情を出すことも多い。そのせいで暴走することもしばしば。

 

しかし家族に対する愛情は人一倍深く、幼い頃に孤立していた七瀬を一番気にかけていたのも彼女であった。

 

だからこそ七瀬がシルヴィの影響で明るくなったことを誰よりも喜び、七瀬が暴走したことでシルヴィの側から離れてしまったことに誰よりも心を痛めている。

 

そういったこともあり、七瀬の周りで起こる出来事には誰よりも敏感に反応する。

 

大学部卒業後に教師として働くことを目指しており、教員免許取得の為に日々勉強中。ガラードワースではなく、星導館で教職に就くことを希望している。

 

 

 

*****

 

 

 

≪七瀬から見た三咲≫

 

三咲姉は、普段はとっても物静か。自分が皆を引っ張っていくというタイプじゃなくて、自分が皆に合わせていくタイプだね。

 

かといって、決して自分の意見を持っていないわけじゃない。三咲姉に話をふると、いつも的確な意見を述べてくれる。

 

俺が落ち込んでる時も、さりげなく側に寄り添って話を聞いてくれたりする。自分の思ったことや考えたことを伝えてくれるし、本当に有り難い。

 

教師を目指してるらしいけど、三咲姉ほど教師に向いてる人はいないと思う。生徒の心に寄り添える、良い先生になるんじゃないかな。

 

ただ、星導館での勤務を希望っていうのは意外だね・・・まぁ一度は星導館への進学を考えたわけだし、それが関係してるのかな?

 

来年の《獅鷲星武祭》には間違いなく出てくるし、是非戦って勝ちたいところだね。負けないよ、三咲姉!




どうも~、ムッティです。

今回は三咲のキャラ紹介でした。

三咲「作者さん、私のモチーフキャラがリリスになっているのですが」

あ、そうそう。最初は違ったんだけどね。

三咲のキャラ設定をしているうちに、リリスがピッタリかなって思ってさ。

三咲「なるほど。それで黒髪の設定が赤髪に変わったと」

そうなんだよ。急に変えてゴメンね。

ところで、何で星導館で教職に就きたいの?

ガラードワースじゃダメなの?

三咲「星導館で教職に就けば、毎日七瀬に会えるじゃないですか」

あ、ダメだコイツ・・・完全にブラコンを拗らせちゃってるわ・・・

それではまた次回!次は四糸乃のキャラ紹介です!

三咲「フフッ・・・七瀬、待ってて下さいね?」




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星野 四糸乃

今日は天気が悪いなぁ・・・


星野 四糸乃(ほしの よしの)

 

モチーフキャラ・・・四糸乃大人ver.(デート・ア・ライブ)

 

CV:野水 伊織

 

 

 

クインヴェール女学園大学部二年の20歳。

 

引っ込み思案で内気な性格を変える為、実家を出てアスタリスクへとやってくる。ただし家族以外の男性が苦手な為、唯一の女子校であるクインヴェールを選んだ。

 

当時シルヴィもクインヴェールの中等部に進学することが決まっており、自身がシルヴィと同じ学校にいることで、七瀬とシルヴィの関係が完全に断たれないようにと考えた為でもある。

 

シルヴィと同じく歌を歌うことが大好きで、歌唱力はシルヴィにも引けを取らないと称されている。

 

その歌声に聴き惚れた後輩のミルシェから「一緒にバンドをやろう」と誘われ、ガールズロックバンド・ルサールカのボーカルを務めることになった。

 

ルサールカでの愛称及び芸名は『シノン』。最年長メンバーということもあり、バンドの中ではお姉さん的な存在としてメンバーを支えている。

 

高三の秋、チーム・ルサールカとして《獅鷲星武祭》に出場。初出場ながらベスト八入りを果たし、ルサールカは勿論四糸乃自身も大きく注目されることになる。

 

大会終了後、その実力を測ろうと序列上位者達が次々と決闘を申し込んできたが全て返り討ちにする。

 

その結果、序列三位にまで上り詰める。二つ名は《女神》(ヴィーナス)。

 

ルサールカは純星煌式武装《ライア=ポロス》を六分割して使用しており、四糸乃はマイク型の《ライアポロス=ディーヴァ》を使用している。

 

内気な性格は今でもあまり変わらない。だが、以前よりは人と積極的に関わろうとしている。

 

またステージ上では堂々とした姿勢で歌を披露しており、初めてその姿を見た星野家は全員感動のあまり泣いたという。

 

戦闘狂だったりキス魔だったり暴走したりしない為、七瀬には子供の頃から「唯一まともな姉さん」と認識され、よく懐かれていた。

 

四糸乃自身も七瀬をよく可愛がっており、七瀬がシルヴィと仲良くなった時はシルヴィに少し嫉妬していた。

 

しかしお互い歌うことが好きということもあってすぐに仲良くなり、シルヴィにとって星野家で七瀬の次に仲の良い存在になる。

 

大学部卒業後も引き続き芸能の仕事を続けたいと考えているが、卒業するとクインヴェール所属で無くなる為、卒業後もルサールカの一員として活動すべきかどうか悩んでいる。

 

 

 

*****

 

 

 

≪七瀬から見た四糸乃≫

 

四糸乃姉は俺の心のオアシス。

 

キャラの濃い姉さん達の相手をする中で、四糸乃姉と触れ合ってる時が一番落ち着ける。

 

《女神》(ヴィーナス)の二つ名は、本当に四糸乃姉にピッタリだね。

 

人見知りなところは相変わらずだけど、昔に比べたらずいぶん良くなった方だと思う。

 

初対面の人とは、まともに会話なんて出来なかったからなぁ・・・今では後輩からも慕われる優しい先輩なんだとか。

 

最初は四糸乃姉がステージに立つなんて大丈夫なのか心配してたけど、ステージ上では堂々としてるんだよなぁ・・・初めて見た時は、感動のあまり泣いてしまった。

 

歌声は小さい頃から聴いてたから、凄く上手いっていうのは知ってた。シルヴィとはまた違った良さがあるんだよね。

 

内気な性格だから舐められて、次々と決闘を申し込まれた時があったみたいだけど・・・四糸乃姉は普通に強いからね?

 

あの人、一織姉達と一緒に小さい頃からトレーニングしてるから。一織姉、二葉姉、三咲姉なんかとよく模擬戦とかやってたし。

 

こう言っちゃ悪いけど、あの三人とクインヴェールのお嬢様達じゃ実力差が違うから。

 

その三人とトレーニングしてきた四糸乃姉とまともにやり合える人なんて、クインヴェールじゃシルヴィを含め片手で数えるほどしかいないと思う。

 

次の《獅鷲星武祭》にはチーム・ルサールカとして出てくるだろうけど、もし当たっても負けるつもりはないよ。

 

勝利は譲らないからね、四糸乃姉!




どうも~、ムッティです。

今回は四糸乃のキャラ紹介でした。

四糸乃「作者ちゃん、私のモチーフキャラは大人版の四糸乃なの?」

そうそう。七罪の能力で大人になった四糸乃ね。

そのままの四糸乃だと、姉って感じじゃないし。

四糸乃「あぁ・・・どっちかっていうと、妹って感じかな?」

そうなんだよ。まぁ大人版はちょっと大人すぎる気もするけどね。

でも個人的にはドストライクの美人さんだったなぁ・・・

四糸乃「フフッ、作者ちゃんは素直だね」

おおう、何だこの反応・・・優しすぎる・・・

まさに女神や・・・

四糸乃「これからもよろしくね、作者ちゃん」

はい喜んで!

それではまた次回!次は五和のキャラ紹介です!

四糸乃「皆またね~♪」


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星野 五和

この作品が日間ランキング入りしているなんて・・・

昨日ランキング見て、思わず叫んでしまった・・・

皆さん、本当にありがとうございます。


星野 五和(ほしの いつわ)

 

モチーフキャラ・・・八舞 耶倶矢(デート・ア・ライブ)

 

CV:内田 真礼

 

 

 

聖ガラードワース学園大学部一年の19歳。

 

幼い頃から三咲の剣術に憧れ、双子の妹である六月と共に三咲が所属するガラードワースへの進学を決める。

 

三咲の背中を追いかけ、入学後からぐんぐんと序列を上げていく。やがて序列十一位になり、高二の秋の《獅鷲星武祭》にチーム・トリスタンの一員として出場する。

 

六月と共にチーム・トリスタンのダブルエースとして大活躍を見せるも、決勝で三咲の所属するチーム・ランスロットに敗北する。

 

ガラードワースの優勝に変わりなかったものの、敗北したことで三咲との実力差を痛感。試合終了後、人目もはばからず号泣する。

 

アーネストの《白濾の魔剣》や三咲の《聖王剣》の前に手も足も出なかったことから、自身も純星煌式武装を使おうと決意。《二大皇剣》の一つ、《黒皇剣》の使い手に選ばれる。

 

一年に渡って鍛錬を重ね、高三の夏の《鳳凰星武祭》に《獅鷲星武祭》の前哨戦として六月とペアを組んで出場する。

 

しかし《魔術師》としての力を解放した七瀬の前に敗れ、《黒皇剣》も破壊されてしまう。

 

また《黒皇剣》の使用代償となる精神干渉によって七瀬に暴言を吐いてしまい、試合後に謝罪。改めて七瀬の力になることを決意する。

 

現在の序列は七位で、二つ名は《神速》。

 

七瀬のことを溺愛しており、会えばすぐに抱きつこうとする。最近では七瀬に避けられ、壁にぶつかったり転んだりする回数も増えている。

 

性格は明るく元気で、二葉と共に星野家のムードメーカーを担っている。

 

大学部卒業後のことはまだ考えていないが、次回の《獅鷲星武祭》が自身にとって最後の《星武祭》になる為、今はそこに集中している。

 

 

 

*****

 

 

 

≪七瀬から見た五和≫

 

五和姉はとにかくやかましい。いつでもどこでも元気すぎて、相手をするこっちが参ってしまうほど。

 

まぁ、その明るさに助けられることもあるんだけどね。

 

一番歳が近い姉さんということもあって、小さい頃から六月姉と一緒によく模擬戦をしてもらってた。

 

一度も勝てたことなかったけど。剣術に対しては本当に熱心で、暇さえされば剣を振ってたっけ・・・

 

そういうところは、凄いなぁと思ってたね。あんなテキトーな性格してるけど、昔からストイックに鍛錬してたし。

 

《鳳凰星武祭》では七海のおかげで何とか勝てたけど、五和姉の実力は折り紙つき。次の《獅鷲星武祭》で当たるかもしれないし、油断は出来ない。

 

次も勝たせてもらうよ、五和姉!




どうも~、ムッティです。

今回は五和のキャラ紹介でした。

五和「ねぇ作者、当初は高三っていう設定じゃなかった?」

色々な都合上、大学生になったんだよね。

・・・俺も大学生に戻りたい。

五和「いや、聞いてないし・・・ってか、何で私って貧乳っていう設定なの?」

モチーフキャラの耶倶矢がそうだし。

五和「くっ・・・そこは巨乳にしてほしかったわ・・・」

五和が巨乳とか・・・プッ。

五和「何笑ってんのよおおおおおっ!」

それではまた次回!次は六月のキャラ紹介です!

五和「作者あああああっ!天誅うううううっ!」

ちょ、止め・・・ギャアアアアア!?



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星野 六月

昨日から咳が止まらない・・・


星野 六月(ほしの むつき)

 

モチーフキャラ・・・八舞 夕弦(デート・ア・ライブ)

 

CV:ブリドカット セーラ 恵美

 

 

 

聖ガラードワース学園大学部一年の19歳。

 

幼い頃から三咲の剣術に憧れ、双子の姉である五和と共に三咲が所属するガラードワースへの進学を決める。

 

三咲の背中を追いかけ、入学後からぐんぐんと序列を上げていく。やがて序列十二位になり、高二の秋の《獅鷲星武祭》にチーム・トリスタンの一員として出場する。

 

五和と共にチーム・トリスタンのダブルエースとして大活躍を見せるも、決勝で三咲の所属するチーム・ランスロットに敗北する。

 

試合終了後、人目もはばからず号泣する五和を慰めるも、自身も三咲との実力差を痛感して涙を流す。

 

大会終了後、純星煌式武装を使おうという五和の意見に反対するも押し負け、《二大皇剣》の一つ《赫皇剣》の使い手に選ばれる。

 

一年に渡って鍛錬を重ね、高三の夏の《鳳凰星武祭》に《獅鷲星武祭》の前哨戦として五和とペアを組んで出場する。

 

《魔術師》としての力を解放した七瀬によって、精神干渉を受けていた五和が倒され《黒皇剣》が破壊されたのを見て、やはり純星煌式武装に頼るべきではないと改めて悟る。

 

吹っ切れた状態で七瀬とタイマン勝負に挑み、《赫皇剣》を破壊されたことで自ら降参。自身の敗北を認める。

 

現在の序列は八位で、二つ名は《閃光》。

 

五和と同様七瀬のことを溺愛しており、会えばすぐに抱きつこうとする。普段はあまり自身の意見を強く言わないが、七瀬の進学先の話が出た際にはガラードワース入りを熱望していた。

 

また暴走していた五和を止めてくれたこと、自身の葛藤に気付いてくれたことに深く感謝しており、より一層七瀬への愛を深めた模様。自身の全てを持って七瀬の力になることを決意する。

 

冷静な性格で、喋り出しの頭にその趣旨を二文字の単語で表す(例:挨拶。こんにちは)。

 

大学部卒業後のことはまだ考えていないが、次回の《獅鷲星武祭》が自身にとって最後の《星武祭》になる為、今はそこに集中している。

 

 

 

*****

 

 

 

≪七瀬から見た六月≫

 

六月姉はいつも冷静で、物事を客観的に見ることの出来る人。

 

猪突猛進な五和姉とは正反対だけど、そんな二人だから良いコンビなんだろうね。

 

五和姉と同じく、一番歳の近い姉さんだからよく模擬戦の相手をしてもらってた。これも五和姉と同じで、一度も勝てなかったけど。

 

普段は冷静でも実は熱いものを内に秘めていて、凄く負けず嫌いだったりする。

 

五和姉に負けじと剣を振ってたし、そんな六月姉に負けじと五和姉も剣を振って・・・お互い切磋琢磨しながら剣術の腕を磨いてたね。

 

普段はあまり自分の意見を主張しない人なんだけど、俺の進学先の話ではガラードワースを凄く勧められたっけ・・・

 

「請願。七瀬と毎日会いたいです」とか言われたけど、俺は最初から星導館に行くって決めてたからなぁ・・・

 

あの時の六月姉の落ち込みようといったら、流石の俺も申し訳なくなったし、五和姉ですら声を掛けられなかったほどだった。

 

まぁその後三咲姉の提案で、「アスタリスクでいつでも会えるって。俺、六月姉といつだって会いたいと思ってるから」って後ろから抱きつきながら言ったら、何か見たこともないぐらいテンション上がってたけど。

 

《鳳凰星武祭》では七海のおかげで何とか勝てたけど、六月姉の実力は本物だからね。次の《獅鷲星武祭》で当たるかもしれないし、油断なんて出来ないよ。

 

次も勝たせてもらうからね、六月姉!

 




どうも~、ムッティです・・・痛たた・・・

六月「質問。どうしたのですか作者?ずいぶんボロボロですが・・・」

・・・ちょっと逆鱗に触れちゃってね。

まぁそれはともかく、今回は六月のキャラ紹介でした。

六月「嘆息。所々五和とカブっているのは気のせいでしょうか?」

うっ・・・し、仕方ないじゃん!双子なんだから!

・・・まぁ胸の大きさは違うけど。

六月「当然。六月は五和より発育が良いのです」

五和「誰の発育が悪いってえええええっ!?」

ギャアアアアア!?また来たあああああ!?

五和「待てコラアアアアアッ!」

六月「請願。次もよろしくお願いします。それではまた次回」

助けてえええええっ!?


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星野 七海

今日も天気が悪いなぁ・・・


星野 七海(ほしの ななみ)

 

モチーフキャラ・・・イリア(トリニティセブン)

 

CV:赤﨑 千夏

 

 

 

七瀬の所有する純星煌式武装《神の拳》(ヘヴンズナックル)の元になったウルム=マナダイトに宿りし者。

 

純星煌式武装に意思があるのは、原材料のウルム=マナダイトに彼女のような宿りし者がいるからであると思われるが、普通は所有者と会話は出来ない。

 

だが彼女の場合、七瀬の《魔術師》の力を封印していたことでその力に触れ、自我が芽生えて会話が出来るようになったと推測される。

 

《鳳凰星武祭》五回戦で七瀬が危機に陥った際、力が欲しいと強く願った結果、彼女との会話が可能になった。

 

その際様々な話をしたことで、七瀬が彼女と向き合うことを決意。七海と名付けられ、七海も七瀬を「マスター」と呼んで慕うようになる。

 

七瀬が持って生まれた力が強すぎた為、七瀬の母親がウルム=マナダイトに七瀬の《魔術師》としての力を封印。

 

そのウルム=マナダイトを使って七瀬の父親が作った純星煌式武装こそ、《神の拳》である。

 

以来ずっと七海が七瀬の力を封印したまま眠っていたが、とある経緯でまだ幼い七瀬の手に《神の拳》が渡ってしまい、シルヴィの事件が起きてしまう。

 

《鳳凰星武祭》五回戦で七瀬に力を少し返したものの、準々決勝で七瀬が暴走したことにより、力の全てが七瀬に返されることとなった。

 

性格は穏やかで真面目。七瀬の身を昔から案じており、七瀬を「マスター」と呼ぶようになってからは、七瀬の力になることを約束する。

 

 

 

*****

 

 

 

≪七瀬から見た七海≫

 

七海にはいつも助けられてるな。

 

力を使う時のサポートもしてくれるし、親身になって話も聞いてくれるし・・・

 

本当に有り難いし、マジで良いヤツだと思う。

 

だからこそ、今まで《神の拳》を封印してたことを申し訳なく思うよね・・・

 

もう≪神の拳≫なんて使いたくなかったし、人を傷付けるだけだと思ってたから。

 

シルヴィを殺しかけたことも俺のせいなのに、どこかで『≪神の拳≫が悪いんだ』って思ってたところもあったし。

 

今にして思うと、ただの責任転嫁だよな・・・

 

もっと早く、≪神の拳≫と向き合うべきだった。

 

そうしたら、もっと早く七海と話せてたかもしれないのに・・・

 

七海には、本当に申し訳ないことをしたと思ってる。

 

その分これからは、もっと七海のことを大切にしたいと思う。

 

これからの戦いにも七海の力が絶対に必要だし、一緒に頑張っていきたい。

 

これからよろしくな、七海!

 




ど、どうもぉ・・・ム、ムッティです・・・

七海「え、作者さん!?何でそんな重傷を負ってるんですか!?」

色々あったんだ、色々・・・

そんなことより、今回は七海のキャラ紹介でした。

七海「私の最初のモチーフキャラって、ハイスクールD×Dの朱乃だった気がするんですけど・・・」

そうだったんだけど・・・ほら、二葉とCVが被るじゃん?どっちも伊藤静さんになっちゃうし。

七海「そういう理由!?」

あと朱乃だと、七瀬をマスターって呼ぶキャラとしては大人すぎるからさ。

七海「あー、それは確かに・・・」

そんなわけでイリアになりました。

この後の展開を考えると、ピッタリかなって。

七海「この後の展開、ですか?」

まだ構想の段階だけどね。

一通りオリキャラ紹介もしたし、次回からは物語に戻ろうと思います。

七海「あれ?マスターの紹介は無いんですか?」

もう少し物語が進んだらするかも。

七瀬に関しては、まだ色々と伏せておきたいこともあるし。

あと、オリキャラはまだ出てくる予定です。

それではまた次回!

七海「次もよろしくお願いします!」


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第五章《懐国凱戦》
四ヶ月後


ストック全然貯まってねえええええ!!!!!


 「んー、よく寝たぁ・・・」

 

 俺は大きな欠伸をしながら、廊下を歩いていた。

 

 すると・・・

 

 「やぁっ!」

 

 「はぁっ!」

 

 柱の陰から二人の男が飛び出し、両側から俺に拳を放ってきた。

 

 だが・・・

 

 「よっと」

 

 その場にしゃがみ、拳をやり過ごす俺。二人の拳はそれぞれ相手の顔面に直撃し、二人は同時に倒れた。

 

 「おはよう宋、羅。朝から元気だな、お前ら」

 

 「当然のごとく避けられたな・・・」

 

 「もうお前に攻撃が当たる気がしないぞ・・・」

 

 溜め息をつきながら起き上がる二人。前回の《鳳凰星武祭》でも戦ったこの二人には、界龍に来てから色々と世話になっていた。

 

 「宋、羅、無駄だ。七瀬に不意打ちなど通用しない」

 

 二人の後ろから、一人の男子生徒が現れた。容姿は非常に中性的であり、女子と言われても信じてしまうだろう。

 

 俺も最初、女子だと思ってたっけ・・・

 

 「趙師兄、おはようございます」

 

 宋と羅が包拳礼の構えを取る。

 

 趙虎峰・・・界龍の序列五位であり、武術を得意とする《木派》のトップだ。二つ名は《天苛武葬》で、前々回の《鳳凰星武祭》では準優勝を果たしたほどの実力者である。

 

 「おはよう虎峰、性転換しない?」

 

 「しませんよ!何度言わせるんですか!」

 

 「いや、男にしておくのは勿体ないなって」

 

 「どういう意味です!?」

 

 「お前が女だったら、俺は放っておかなかったな」

 

 「じゃあ男で良かったですよ!」

 

 「えー」

 

 界龍の良心である虎峰は、このように完全なツッコミキャラと化していた。おかげで俺もイジりやすく、こんな風に仲良くなれているのだ。

 

 「まぁいいや。後で手合わせしようぜ」

 

 「良いでしょう。全力でやらせてもらいますよ」

 

 「二人とも朝から元気だねぇ・・・」

 

 俺の背中にぐでーんともたれかかってくる、一人の女性。

 

 やれやれ・・・

 

 「おはようセシリー、相変わらず朝には弱いんだな」

 

 「どうも朝は苦手でねぇ・・・七瀬ー、食堂までおぶってー」

 

 「はいはい」

 

 苦笑しながらおぶる俺。

 

 セシリー・ウォン・・・界龍の序列四位で、星仙術を得意とする《水派》のトップだ。二つ名は《雷戟千花》で、前々回の《鳳凰星武祭》で準優勝を果たした虎峰のパートナーだった人物である。

 

 「ちょ、七瀬!?何をしているんですか!?」

 

 趙が慌てている。

 

 「え、何って・・・おんぶ?」

 

 「女性の身体を気安く触ってはいけません!セシリーも女性なんですから、男性に対してもっと節度を持った接し方をして下さい!」

 

 顔を真っ赤にしている趙。おやおや・・・?

 

 「セシリー、虎峰が妬いてるぞ」

 

 「あら、ゴメンね虎峰。お姉ちゃんを取られたのが悔しかったの?」

 

 「なっ!?そんなわけないでしょうが!」

 

 「安心しろ虎峰、俺とセシリーじゃそんな仲にならないから」

 

 「だから違うって言ってるでしょうが!」

 

 「ちょっと七瀬、こんな魅力的な女を前に何てこと言うんだい?」

 

 「自分で魅力的とか言ってんじゃねーよ、ズボラ女」

 

 「酷くない!?」

 

 「人を無視しないで下さい!」

 

 ギャアギャア騒ぐ俺達。何事かと、他の生徒達が集まってくる。

 

 「《木派》のトップと《水派》のトップを相手に、ここまでフレンドリーな関係を築くとは・・・恐るべしだな、七瀬」

 

 「師兄も師姉も楽しそうだしな・・・こんな光景、初めて見るかもしれん」

 

 苦笑している宋と羅なのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「はっ!」

 

 虎峰の拳が迫ってくるが、それをいなしてこちらも拳を放つ。

 

 腕を掴まれそのまま後ろに投げられるが、空中で一回転して着地。距離を詰めてくる虎峰を迎え撃つ。

 

 「あの趙師兄と、体術で互角にやり合うとは・・・」

 

 「たった四ヶ月でこれって・・・ヤバいわね・・・」

 

 「あたしはもう、体術じゃ七瀬に勝てないねぇ・・・」

 

 見学している沈雲・沈華・セシリーが何か言っていた。

 

 界龍に来てから、早いものでもう四ヶ月が経とうとしている。もう年末だし、各学園も明日から冬季休暇に入る時期だ。俺も年内で謹慎が解けるので、年明けからは星導館に復帰出来る。

 

 クローディア達とは連絡を取り合ってはいるが、界龍に来てから会ってはいない。

 

 会いたいな・・・

 

 「考え事ですか?」

 

 蹴りを放ってくる虎峰。しゃがんで避け、腹部に右ストレートを叩き込む。

 

 「ぐっ・・・!?」

 

 呻く虎峰に再び拳を放つが、後方に跳んで距離を取られた。

 

 「ここに来てから四ヶ月かと思うと、時間の流れは早いなと思ってさ」

 

 「それを言うなら、七瀬の成長も早いですよ」

 

 痛そうに腹部を擦る虎峰。

 

 「初めて手合わせした時は、僕の方が上手だったはずですが・・・雷による身体強化も無しでこれとは、恐れ入りますよ」

 

 「お前だって《通天足》使ってないだろ」

 

 「アレは滅多に使いませんから」

 

 《通天足》とは、虎峰が使用する純星煌式武装だ。

 

 《通天足》を使った時の虎峰の強さといったら・・・封印解除状態の綾斗と互角にやり合えるだろうな。

 

 「ほっほっほっ、やっておるの」

 

 愉快そうに笑いながら、星露がやってきた。後ろに一人の男を従えている。

 

 「おー、星露に暁彗じゃん。暁彗がいるなんて珍しいな」

 

 「・・・明日で星導館に戻るのだろう?その前に、一度お前と手合わせしたくてな」

 

 淡々と話す男・・・武暁彗。

 

 界龍の序列二位で、二つ名は《覇軍星君》だ。体術で虎峰を、星仙術でセシリーを凌ぐほどの実力者である。

 

 「マジか・・・俺、初日にお前にボコボコにされたんだけど・・・」

 

 「・・・あれから四ヶ月経っている。虎峰と互角にやり合えている以上、初日のようなことにはなるまい」

 

 「どうだかな・・・ま、精々頑張るわ」

 

 「・・・期待している」

 

 コイツの強さ、マジでヤバいんだよな・・・

 

 四ヶ月の鍛錬で、虎峰やセシリーとは互角にやり合えるようにはなったが・・・暁彗には、未だに勝てる気がしない。

 

 と、星露が潤んだ瞳で俺を見ていた。

 

 「明日で最後か・・・寂しいのう」

 

 「今生の別れじゃないだろ。また遊びに来るし」

 

 「まぁそうじゃが・・・今夜は七瀬の送別会を開く。暁彗、茶を用意しておくのじゃ」

 

 「御意」

 

 いや、送別会って・・・まぁありがたいけどさ。

 

 「ところでさぁ、七瀬」

 

 後ろで見ていたセシリーが話しかけてくる。

 

 「明日から星導館も冬季休暇だろう?なら、別に明日帰る必要も無いじゃん。冬季休暇が終わるまで、こっちにいちゃダメなのかい?」

 

 「冬季休暇は予定があってな。リーゼルタニアに行くことになってるんだ」

 

 「リーゼルタニアというと、《華焔の魔女》の故郷ですよね?」

 

 「まぁな」

 

 虎峰の問いに答える俺。

 

 「リーゼルタニアの国王であるユリスのお兄さんが、是非遊びに来てくれって招待してくれてるみたいでさ。ユリス達は明日出発するんだって」

 

 「なるほど・・・あれ?でも七瀬、明日は予定があるって言ってませんでした?」

 

 「あぁ。ユリス達は明日出発して、一晩紗夜の実家に泊まってからリーゼルタニアに行くらしい。俺は明日予定があるから明後日出発して、向こうでユリス達と合流予定だ」

 

 「そうでしたか・・・七瀬はご友人の実家に泊まらなくて良かったんですか?」

 

 「いや、本来は俺もお邪魔するつもりだったんだけど・・・色々あってな」

 

 「「「「「「?」」」」」」

 

 遠い目をする俺に、首を傾げる虎峰達なのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「宴じゃあああああっ!」

 

 「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおっ!」」」」」」」」」」

 

 星露の音頭と共に、俺の送別会が始まった。

 

 星露の弟子達が色々と準備してくれたみたいだし、何だか申し訳ないな・・・

 

 「七瀬ー、楽しんでるかーい?」

 

 何故かセシリーの顔が真っ赤だった。足元もおぼつかない様子・・・

 

 っておい!?

 

 「セシリー!?お前まさか酒呑んでんの!?」

 

 「大丈夫だよー、これジュースだからさー」

 

 「セシリーは雰囲気で酔える人なんですよ」

 

 虎峰が呆れている。いや、雰囲気って・・・

 

 「酔うような雰囲気でも無いんじゃ・・・」

 

 そう言って辺りを見回していると、片隅に明らかに場違いなバーカウンターがあった。そこだけ照明が暗く、静かな音楽が流れている。

 

 バーテンダーの格好をした暁彗が、沈華のグラスに飲み物を注いでいた。

 

 「オレンジジュースだ」

 

 「うふふ、大師兄ありがとー」

 

 明らかに酔っている沈華。

 

 「何やってんだあああああっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 暁彗の頭を引っぱたく俺。

 

 「何でバーテンダーやってんのお前!?どうやってバーカウンター用意したの!?」

 

 「これも師父の期待に応える為だ」

 

 「そんなこと期待してねーわ!茶を用意しろとしか言ってなかっただろうが!」

 

 「無論用意してある。飲むか?」

 

 「苦いから要らん!俺にもジュース寄越せ!」

 

 「御意」

 

 「あの大師兄とここまでフランクに・・・凄いですね、七瀬」

 

 虎峰が若干引いていた。沈華の右隣の席に座ると、酔った沈華が腕に抱きついてくる。

 

 「うふふ・・・七瀬ぇ・・・」

 

 「お前まで雰囲気酔いかよ・・・」

 

 頭を抱える俺。沈華は俺の肩に頭を載せ、そのまま寝てしまった。

 

 やれやれ・・・

 

 「悪いね、七瀬」

 

 苦笑している沈雲。

 

 「沈華は一度寝るとなかなか起きないから、少しそのままで頼むよ」

 

 「・・・ったく、面倒なヤツだな」

 

 「ほっほっほっ、仲が良さそうで何よりじゃ」

 

 俺の右隣の席に、笑いながら座る星露。

 

 「沈華も、七瀬が帰ってしまうのが寂しいんじゃろうな」

 

 「どうかな。清々するとか言いそうだけど」

 

 「口ではそう言うだろうけどね。本音は違うと思うよ」

 

 沈雲がそう言う。ま、分かってるけどさ・・・

 

 「まぁ、皆とは毎日顔会わせてたからな・・・俺も少し寂しいよ」

 

 「いっそ界龍に転校・・・」

 

 「しないわバカ」

 

 「ほっほっほっ、それは残念じゃのう」

 

 愉快そうに笑う星露。

 

 「ところで七瀬、お主は来年の《獅鷲星武祭》には出るのかえ?」

 

 「出るよ。クローディアのチームに参加することになってる」

 

 「ほう、正直じゃのう・・・アーネストには明言しなかったというのに」

 

 「あの時はまだ、返事を保留してたんだよ。でも参加するって決めたし、俺とクローディアの仲が良いのは周知の事実だしな。隠したとしてもバレバレだろ」

 

 「それもそうじゃのう」

 

 苦笑する星露。

 

 「他のチームメンバーは決まったのかえ?」

 

 「綺凛は確定だな。ユリスは勧誘するって言ってたから、ほぼ確定だろう。当然綾斗も勧誘するだろうし、あと一人は・・・紗夜じゃないかな」

 

 近接戦闘が出来るメンバーは揃ってるし、あとは後衛で援護してくれるメンバーが必要だ。そうなると、紗夜はうってつけの存在と言える。

 

 《獅鷲星武祭》で優勝を狙うなら、恐らくこのメンバー構成だろうな。

 

 「そういや、虎峰とセシリーは《獅鷲星武祭》に出るのか?《鳳凰星武祭》から鞍替えしたって聞いたけど」

 

 「えぇ、出ますよ」

 

 頷く虎峰。

 

 「我々は今回、本気で《獅鷲星武祭》を制するつもりです。チームリーダーとして、大師兄にも出ていただきますから」

 

 「え、暁彗が!?」

 

 「うむ。出るぞ」

 

 重々しく頷く暁彗。確かコイツ、一度も《星武祭》に参加してないんだよな・・・

 

 ここに来て参戦してくるか・・・

 

 「ちなみに、あとの三人は?」

 

 「僕と沈華も出るよ」

 

 沈雲が手を上げる。

 

 「もう一人は今のところ未定だね。そこが悩みの種なんだよ」

 

 「まさしくそうなのじゃ」

 

 顔を顰めている星露。

 

 「こやつらの実力に引けを取らず、尚且つチームの和を乱さぬ人物・・・難しいのう」

 

 「どっかの性悪兄妹がいる時点で、チームの和も何も無いと思うけど」

 

 「このメンツじゃ、僕らも迂闊なことは出来ないさ」

 

 肩をすくめる沈雲。性悪っていう自覚はあるんだな・・・

 

 「ってか、冬香は出場しないのか?序列でいえば、暁彗に次ぐ実力者だろ?」

 

 梅小路冬香・・・≪神呪の魔女≫の二つ名を持つ、界龍の序列三位だ。普段は専ら黄辰殿の奥で、術の研究に勤しんでいる。

 

 数日前から所用で留守にしている為、今この場にはいないが。

 

 「冬香は正式には客分の扱いじゃからのう。儂の弟子で結成するチームには入れぬのじゃ」

 

 溜め息をつく星露。

 

 「それに冬香の術は、まだ完全には復活しておらぬ。本人もそちらに集中したいじゃろう」

 

 「あー、梅小路家の秘術ってやつか」

 

 梅小路家は特殊な血族で、独自の技術体系を千年以上も受け継いできているらしい。

 

 しかし過去に失われてしまった秘術があるらしく、冬香はそれを復活させたいのだそうだ。

 

 そっか、じゃあ冬香は出場しないのか・・・

 

 「ま、誰が来ても強いチームには変わりないか・・・勿論、誰が来ても負けるつもりは無いけどな」

 

 「それは我々も同じです」

 

 不敵に笑う虎峰。

 

 良いねぇ・・・楽しみになってきたわ。

 

 「七瀬ーっ!」

 

 背中に抱きついてくるセシリー。まだ酔っているみたいだ。

 

 「・・・おい暁慧、アルコール呑ませてないよな?俺達未成年だからな?」

 

 「安心しろ。れっきとしたジュースだ」

 

 「ホントかよ・・・」

 

 疑いの眼差しで暁慧を見ていると、セシリーが頬を膨らませた。

 

 「ちょっと七瀬ー、あたしを無視するとはいい度胸じゃないかー」

 

 「酔っ払いの相手は面倒だからな」

 

 「ふーん・・・《戦律の魔女》以外の女に興味は無いってことかい?アンタ達、付き合ってるんだろう?」

 

 ニヤニヤしながらからかってくるセシリー。

 

 シルヴィが暴走した俺を止めた時にキスをしたことが、メディアを通じて世界中に伝わってしまったことから、一時期熱愛騒動が連日報道されてしまった。

 

 俺もシルヴィも無言を貫いたことで、四ヶ月経った今はある程度落ち着いたが・・・

 

 俺達が幼馴染であることもバレてしまい、多くの人々が俺達の関係を疑っているのが現状だ。

 

 今のセシリーみたいに。

 

 「少なくとも、女としてのお前に興味が無いことは確かだよ」

 

 「なぁっ!?これでも容姿には自信があるんだけど!?」

 

 「容姿が良いのは認める。ただし性格が残念すぎて差引きゼロだ」

 

 「そこまで!?」

 

 俺は哀れみの目でセシリーを見ると、視線を虎峰に向けた。

 

 「あーあ、虎峰が女だったらなー」

 

 「だから僕は男ですって!」

 

 「容姿も性格も申し分ないのに・・・ハァ・・・」

 

 「露骨に溜め息つかないでもらえます!?」

 

 「何で股間に余計なものをぶら下げてきちゃったんだよ」

 

 「そんなこと言われたってしょうがないでしょうが!」

 

 本当に残念でならない。初めて見た時に女だと思って、ちょっとドキッとした俺の気持ちをマジで返してほしい。

 

 「七瀬、気持ちは分かるぞ。儂もそれは常々思っておった」

 

 「師父!?」

 

 「虎峰、今からでも遅くはない。取れ」

 

 「取りませんよ!?大師兄まで何を仰るんですか!?」

 

 「趙師兄、僕の知り合いにその手の専門の医者がいますよ。紹介しましょうか?」

 

 「しなくて良い!っていうか沈雲、お前そんなキャラだったか!?」

 

 「あー、まどろっこしい!虎峰、お姉さんがソレ引きちぎってあげる!」

 

 「ちょ、セシリー!?止めてええええええええええっ!?」

 

 虎峰の悲鳴が響き渡るのだった。

 




どうも~、ムッティです。

ここから新章でございます。

シャノン「おーっ!私の出番はまだかーっ!」

次の話で出るよ。

シャノン「ですよねー、出ませんよねー・・・えっ?今何て?」

いや、だから次の話で出るって。

シャノン「・・・マジ?」

マジマジ。まぁたまには出したいなって思って。

シャノン「作者っちマジ愛してる!」

ちょ、抱きつくなっての!?

それではまた次回!

シャノン「私の活躍ぶりに刮目せよ!」

いや、活躍は・・・まぁ良いや・・・


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初デート

そろそろ新しいアニメをチェックしないと・・・


 翌日、俺は界龍の正門の前で皆に見送られていた。

 

 「色々世話になった。ありがとう」

 

 「うむ。儂も楽しかったぞ」

 

 笑っている星露。

 

 「これからも鍛錬に励め」

 

 「いつでも遊びに来なよ?待ってるからね」

 

 「《獅鷲星武祭》に向けて、お互い頑張りましょう」

 

 「次こそは負けないと、《叢雲》と《華焔の魔女》に伝えておいてくれ」

 

 暁慧、セシリー、虎峰、沈雲が言葉をかけてくれる。

 

 「おう、お前らもありがとな。冬香にもよろしく伝えておいてくれ」

 

 別れの挨拶をしていると、沈華が俯いているのに気付いた。

 

 「沈華?どうした?」

 

 「・・・何でもない」

 

 ふいっと顔を背ける沈華。沈雲が苦笑しながら、沈華の背中を押す。

 

 「ほら、沈華」

 

 「お、押さないでよ・・・」

 

 そう言いつつ一歩前に出た沈華は、不安げな顔で俺を見た。

 

 「れ、連絡くらい・・・寄越しなさいよ・・・?」

 

 「あぁ、また連絡するよ」

 

 沈華の頭を撫でる俺。沈華の顔が赤く染まる。

 

 「のう沈雲・・・あれは本当に沈華なのかえ・・・?」

 

 「えぇ、そのはずですよ。七瀬と出会ってから、すっかり乙女になった感じがします」

 

 「フッ、恋は女を変えるのさ・・・」

 

 「うるさいですよセシリー。ちょっと黙って下さい」

 

 「虎峰!?アンタ七瀬の辛辣さが移ってない!?」

 

 「やかましいぞセシリー。そういうところが残念なんだ」

 

 「大師兄まで!?」

 

 背後で皆がヒソヒソ話しているが・・・完全に丸聞こえだった。沈華が耳まで真っ赤になり、プルプル震えている。

 

 「い・・・いい加減にしなさああああああああああいっ!」

 

 沈華の絶叫が響き渡るのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 俺は界龍を出た後、商業エリアへとやってきていた。例の熱愛報道があった為、変装をして顔がバレないようにしている。

 

 指定された店の前で待っていると・・・

 

 「なーなくんっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 いきなり左腕が柔らかさに包まれた。見ると、変装したシルヴィが抱きついている。

 

 「・・・気配消して近付くの止めてくんない?」

 

 「えへへ、ゴメンね。でも気付いてたでしょ?ななくん、星辰力の流れに鋭いし」

 

 「・・・まぁな」

 

 とはいえ、いきなり抱きつかれるとは思わなかった。俺の左腕が、シルヴィの胸の谷間に挟み込まれている。ヤバい、理性が崩壊しそう・・・

 

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、シルヴィは穏やかに微笑んでいた。

 

 「ななくん・・・強くなったね」

 

 「え・・・?」

 

 「フフッ、私だってそれくらい分かるよ?《鳳凰星武祭》の時とは明らかに違うもん。界龍でかなり鍛えたんだね」

 

 「・・・やっぱシルヴィには敵わないな」

 

 苦笑する俺。シルヴィがえっへんと胸を張る。

 

 「これでもななくんの彼女だもん。まぁこの四ヶ月、一度も会ってなかったけど」

 

 「すいませんでした」

 

 一応マメに連絡は取っていたが、結局会いはしなかった。シルヴィはツアーで忙しかったし、俺も鍛錬の日々を送ってたからな・・・

 

 しかも冬期休暇にリーゼルタニア行くって言った時の、シルヴィの反応といったら・・・

 

 『ふーん・・・私とは会わないのに、ユリスさん達とは会うんだ・・・しかもユリスさんの故郷に行くんだ・・・私は放置するんだ・・・ふーん・・・』

 

 あまりの怖さに土下座して謝った俺は、シルヴィと予定を合わせてデートすることになった。それが今日なのである。

 

 「ホントすいませんでしたシルヴィアさん・・・責任を取って切腹します」

 

 「いつの時代!?ちょ、刀なんて何処から取り出したの!?止めてえええええっ!?」

 

 必死に止めに入るシルヴィなのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「もうっ!ななくんのバカっ!」

 

 「すいませんでした」

 

 あの後シルヴィに刀を取り上げられ、そのまま説教タイムに突入してしまった。ようやく終わって歩き出したが、まだシルヴィはへそを曲げている。

 

 もっとも、俺の手をしっかり握ってはいるが。

 

 「ダメ、許さない。私は軽い女じゃないもん」

 

 「あ、クレープ売ってるじゃん。奢るけど食べる?」

 

 「あ、食べる!イチゴのやつが良い!」

 

 おおう、チョロい・・・大丈夫か俺の彼女・・・

 

 そんな心配を抱きつつ、二人でクレープを食べながら商業エリアを歩く。

 

 「何処行こっか?」

 

 「シルヴィは行きたいところ無いのか?」

 

 「んー・・・」

 

 考え込むシルヴィ。

 

 「・・・ねぇ、デートって何処へ行くものなの?」

 

 「今さら!?」

 

 「だってしたことないもん」

 

 「いや、俺だって無いけど・・・」

 

 「ホントにぃ?」

 

 疑いの眼差しで見てくるシルヴィ。いやいやいや・・・

 

 「マジで無いって。強いて言うなら・・・ユリスと洋服を見に行ったり、クローディアと映画を観に行ったり、綺凛と泳ぎの特訓の為にプール行ったり、紗夜と銃の専門店に行ったりしたくらい?」

 

 「この女たらしいいいいいいいいいいっ!」

 

 シルヴィが殴りかかってきた。

 

 「ちょ、痛い痛い!全部付き合う前の話だから!」

 

 「言い訳無用だよおおおおおおおおおおっ!」

 

 「止めてええええええええええっ!?」

 

 悲鳴を上げる俺なのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「ふんっ」

 

 「ハァ・・・」

 

 そっぽを向くシルヴィと、溜め息をつく俺。洋服を見に来た俺達だったが、シルヴィの不機嫌さで重い雰囲気が漂っていた。

 

 「シルヴィはどういう服が好きなんだ?」

 

 「知らないっ」

 

 この調子である。どうしたものかと考えていると・・・

 

 「あれ?ななっち?」

 

 声をかけられた。振り向くと、シャノンが立っていた。

 

 「おー、シャノン。ってか、よく俺だって分かったな。一応変装してるんだけど」

 

 「そりゃ分かるよ。ななっちほどじゃないけど、私も星辰力の流れには鋭い方だし。それほどの星辰力を持ってる人なんて、ななっちぐらいしか知らないもん」

 

 笑いながら答えるシャノン。なるほどな・・・

 

 「っていうか、久しぶりだね。界龍での修行は終わったの?」

 

 「まぁな。明日からリーゼルタニアへ行くから、今日は彼女とデートなんだ」

 

 「彼女?」

 

 シャノンがシルヴィを見る。おずおずと頭を下げるシルヴィ。

 

 「こ、こんにちは・・・」

 

 「こんにちは。シルヴィア・リューネハイムさん」

 

 「「!?」」

 

 驚愕する俺達。え、バレてる!?

 

 「な、何を言ってるのかな?私はただの一般人・・・」

 

 「私、アナタのライブに何回か行ったことがあるんです。その時に感じたアナタの星辰力の流れと、今アナタから感じる星辰力の流れが一緒なんですよ」

 

 にこやかに言うシャノン。コイツ、鋭いな・・・

 

 「例の熱愛報道は、やっぱり本当だったんですね。そうじゃないかとは思ってました」

 

 「どうして・・・?」

 

 「ななっちが暴走したあの試合、私は観客席で見てましたから。あんな愛おしそうな表情してたら分かりますよ」

 

 「うぅ・・・」

 

 恥ずかしくなったのか、手で顔を覆うシルヴィ。シャノンが俺を見た。

 

 「ななっち、ちゃんとシルヴィアさんを大切にしないとダメだよ?危険な状態だったななっちを、身体を張って助けてくれたんだから」

 

 「・・・あぁ、分かってる」

 

 頷く俺。

 

 「ずっと想い続けて、ようやくまた会えたんだ。もう離したりしないさ」

 

 「ななくん・・・」

 

 「うん、それでこそななっちだね!」

 

 笑顔で俺の肩を叩くシャノン。

 

 「じゃ、デートの邪魔しちゃ悪いから行くね。年が明けたらちゃんと学校来てよ?ななっちがいないとつまんないし、クラスの皆も寂しがってるんだから」

 

 「・・・皆、怖がってないか?その・・・試合であんな暴走したし・・・」

 

 「そんなわけないでしょ」

 

 呆れた表情のシャノン。

 

 「普段のななっちを知らない人ならともかく、私達はよく知ってるもん。あの程度でななっちから離れる薄情者、少なくともウチのクラスにはいないよ」

 

 「・・・そっか。ありがとな、シャノン」

 

 「どういたしまして。じゃあまた学園でね。シルヴィアさんも、お仕事頑張って下さい」

 

 「あ、うん・・・ありがとう」

 

 シャノンは笑顔で手を振り、店を出て行った。

 

 「・・・ホント、良い友達を持ったわ」

 

 「フフッ、ホントだね」

 

 微笑むシルヴィ。そっと俺の手を握ってくる。

 

 「・・・離さないでね」

 

 「・・・当たり前だろ」

 

 シルヴィの手を握り返す俺。

 

 「だからシルヴィも・・・離れるなよ」

 

 「勿論・・・ずっと側にいるよ」

 

 笑い合う俺達なのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「ここで大丈夫だよ」

 

 「そう?」

 

 一日デートを楽しんだ俺達は、クインヴェールのすぐ近くまでやってきていた。辺りはすっかり暗くなり、静けさが漂っている。

 

 「それにしても、仕事大変だな・・・年末いっぱいあるんだろ?」

 

 「うん、カウントダウンコンサートで最後かな。それが終わったら、少しお休み出来るんだけどね」

 

 笑っているシルヴィ。

 

 生徒会長を務めながら芸能の仕事をこなすって、かなり大変なことなんだろうな・・・

 

 「・・・身体には気を付けろよ?」

 

 「うん、ありがと」

 

 微笑むシルヴィ。

 

 「ななくんは?冬季休暇はずっとリーゼルタニアにいるの?」

 

 「いや、ある程度滞在したら実家に帰るつもりだよ。夏季休暇は《鳳凰星武祭》があって帰れなかったし」

 

 「フフッ、妹さん達も会いたがってるんじゃない?」

 

 「・・・この前、『絶対に帰ってこい』っていう連絡が来たよ」

 

 姉さん達が帰ってこないから、アイツらも寂しいんだろうなぁ・・・

 

 「お姉さん達は?帰らないの?」

 

 「いや、実は・・・」

 

 「今年は皆帰るよ」

 

 すぐ近くで声がした。振り向くと、四糸乃姉がこちらへ歩いてくるところだった。

 

 「あれ、四糸乃姉?どうしたの?」

 

 「ちょっと買い出し。ミーちゃん達が甘い物食べたいって言うから」

 

 買い物袋をぶら下げている四糸乃姉。お姉さんやってるんだなぁ・・・

 

 「シノン、皆帰るって本当なの?」

 

 「うん。一織お姉ちゃんも二葉お姉ちゃんも、休みが取れたんだって。三咲お姉ちゃんといっちゃんとむっちゃんは、冬期休暇はいつも帰ってるし。私もシーちゃんと一緒で、カウントダウンコンサートが終わったら休みになるから」

 

 「そっかぁ・・・良いなぁ・・・」

 

 「もし良かったら、シーちゃんも来る?」

 

 「え、良いの!?」

 

 「勿論。ね、なーちゃん?」

 

 「そうだな。シルヴィさえ良かったら、だけど」

 

 「お邪魔します!」

 

 テンションが上がっているシルヴィ。四糸乃姉がおかしそうに笑っている。

 

 「フフッ、なーちゃんの未来のお嫁さんだもん。皆大歓迎だよ」

 

 「いや、気が早くない・・・?」

 

 「え、結婚しないの?」

 

 「・・・将来的にはしたいけど」

 

 「や~ん!ななくんったら~!」

 

 両頬に手を当て、恥ずかしそうに照れているシルヴィ。

 

 「子供は何人が良い?星野家みたいな大家族が良いかな?」

 

 「だから気が早いっての」

 

 「あうっ」

 

 シルヴィの頭にチョップを下す。痛そうに頭を擦るシルヴィ。

 

 「まだそういうこと考えるのは早いって。今はただ・・・シルヴィと一緒に楽しく過ごしたいから」

 

 「ななくん・・・」

 

 「二人とも熱いなぁ」

 

 苦笑している四糸乃姉。

 

 「じゃあ私は先に戻るから、シーちゃんはゆっくり戻ってきてね」

 

 「あ、私も戻るよ!」

 

 シルヴィは俺に顔を近付けたかと思うと、唇にそっとキスしてきた。そして名残惜しそうに俺から離れると、ニッコリと笑った。

 

 「じゃあななくん、良いお年を!星野家で会おうね!」

 

 「なーちゃん、また年明けにね!良いお年を!」

 

 「おう、実家でな!シルヴィも四糸乃姉も、良いお年を!」

 

 シルヴィと四糸乃姉は俺に手を振り、クインヴェールへ戻っていったのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「私の出番キタアアアアアッ!!!!!」

メッチャ喜んでるな・・・

シャノン「だって久々の出番だよ!?」

毎回後書きに出てきてるじゃん。

シャノン「後書きなんてどうでもいいの!私は本編に出たいの!」

あ、じゃあもう後書きには出ない方向で・・・

シャノン「すいませんでしたあああああ!もうワガママ言いませんからあああああ!」

それではまた次回!

次回の後書きは別キャラが出ます。

シャノン「止めてええええええええええっ!?」


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リーゼルタニア

台風が来るらしい・・・

大丈夫かな・・・


 「七瀬様ーっ!」

 

 翌日。リーゼルタニアの空港に到着した俺を、フローラが出迎えてくれた。

 

 俺を見るなりブンブン手を振って駆け寄ってきたかと思うと、勢いよく抱きついてくる。

 

 「久しぶりだな、フローラ。元気してた?」

 

 「あいっ!」

 

 満面の笑みで頷くフローラ。何この子、超絶可愛いんだけど。

 

 「もっと早く来れたら良かったんだけど・・・遅くなってゴメンな」

 

 フローラに詫びる俺。アスタリスクからリーゼルタニアは思ったより遠く、来るまでに時間がかかってしまったのだ。

 

 その為、今はもう日が沈みそうな時間となっている。

 

 「大丈夫です!七瀬様の為なら、どんな時間でも迎えに来ます!」

 

 笑顔でそう言ってくれるフローラ。天使や・・・

 

 「ユリス達はもう着いてるよな?」

 

 「あい!お昼過ぎにはお着きになられました!姫様や他の皆様は、今頃パーティーに参加されている頃です!」

 

 「パーティー?」

 

 「あい!大勢の来賓の方々をお招きした、姫様の帰国を祝うパーティーです!」

 

 「大勢の来賓!?」

 

 え、結構大規模なやつじゃね!?全く聞いてないんだけど!?

 

 「あい!国王様が姫様の帰国をお祝いしたいとのことで、姫様には内緒で準備が進められていたのです!今この国では、姫様の話題で持ちきりなのです!」

 

 「・・・ユリスが嫌がりそうな展開だな」

 

 嫌でも目立つ上に、それが自分に内緒にされたとなると・・・

 

 「・・・七瀬様の仰る通り、姫様は国王様に怒っていたのです」

 

 「・・・やっぱり」

 

 国王ってユリスのお兄さんらしいし、ユリスの性格はよく知ってるはずだけど・・・

 

 何か狙いでもあるのか・・・?

 

 「そんなわけで七瀬様、早速王宮に向かいましょう!」

 

 「・・・ユリスじゃないけど、俺も気乗りしないわぁ」

 

 俺は溜め息をつきながら、フローラに手を引かれるのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「じゃあ、もう孤児院の経営は大丈夫なのか?」

 

 「あい!姫様のおかげです!」

 

 俺とフローラは、車で王宮へと向かっていた。車はリムジン、しかも運転手付き・・・

 

 ユリスって、マジで姫だったんだな・・・

 

 「良かった・・・ユリスのやつ、孤児院を守る為に頑張ってたしな」

 

 「姫様には感謝してもしきれないのです!」

 

 笑顔のフローラ。

 

 例の孤児院は、ユリスが優勝の願いで得た賞金で何とかなったらしい。赤字続きで経営難だったようだが、もう大丈夫とのことだ。

 

 「でもユリスの目標って、グランドスラムだよな?他に叶えたい願いがあるのか?」

 

 「あ、それはですね・・・」

 

 フローラが言いかけた途端、遠くから爆発音が聞こえた。運転手さんもビックリしたのか、車が急停車する。

 

 「すっ、すいません!」

 

 「いえ、大丈夫です。それより、今の爆発音は・・・」

 

 車の外に出て周りを見回すと、ここから少し離れた大きな建物から煙が上がっていた。

 

 「・・・ちょっと待て。あれって・・・」

 

 「お、王宮です!王宮から煙が!」

 

 焦ったように叫ぶフローラ。やっぱりか・・・!

 

 「運転手さん、フローラを連れて車で安全な場所に避難して下さい。あと、警察と消防への通報をお願いします」

 

 「わ、分かりました!」

 

 「な、七瀬様は!?」

 

 「様子を見てくる。安全が確認できたら連絡するから。運転手さん、お願いします」

 

 「は、はい!」

 

 運転手さんとフローラを乗せた車が、元来た道を引き返す。

 

 さっきの爆発音からして、ただの火事だなんてことは有り得ない。何者かの襲撃だとするなら、フローラと運転手さんを王宮に連れて行くのは危険だ。

 

 「・・・無事でいろよ、お前ら」

 

 王宮へと向かう俺なのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 ≪ユリス視点≫

 

 「おいおい、何だアレは・・・」

 

 騒ぎを聞きつけて王宮のバルコニーに出た私は、綾斗が戦っている獣を見て驚愕していた。

 

 顔と胴体はライオンのようだが、翼が生えていて尻尾は蛇・・・いわゆる合成獣というやつか・・・?

 

 「何故あんなものが王宮に・・・?」

 

 「変な男が召喚した」

 

 側にいた紗夜が説明してくれる。

 

 「私達がエンフィールドのチームの一員として《獅鷲星武祭》に出るのかという質問をしてきた後、すぐにあの獣を召喚してきた」

 

 「何ですって・・・?」

 

 後からやってきたクローディアが、険しい表情になる。

 

 「その男の特徴は?」

 

 「白髪の老人。スーツにシルクハットを被っていて、メガネをかけていた」

 

 「おいクローディア、覚えはあるか?」

 

 「・・・いえ、特には」

 

 考え込むクローディア。と・・・

 

 「綾斗先輩!」

 

 「ぐっ!?」

 

 綺凛の叫び声で綾斗の方を見ると、獣の攻撃をかわしているところだった。

 

 パーティー会場には、武器の持ち込みが禁止されていたからな・・・素手であの獣を相手取るには、少し厳しいものがあるだろう。

 

 というか・・・

 

 「紗夜、何故お前は銃を持っているのだ・・・」

 

 「護身用。丸腰は無用心」

 

 「いや、それはそうだが・・・」

 

 ヘルネクラウムを構えている紗夜を見て、思わず溜め息を漏らす。当然コイツも武器の持ち込みは禁止だったはずなんだが・・・まぁいい。

 

 「私は綾斗の援護に行く。紗夜は援護射撃を頼む」

 

 「了解」

 

 「咲き誇れ!《極楽鳥の燈翼》!」

 

 焔の翼を展開し、私は綾斗の下へ飛んだ。

 

 「綾斗!」

 

 「ユリス!」

 

 綾斗の手を掴み、空中へと持ち上げる。

 

 「よく時間を稼いでくれた。パーティー会場の人々は避難したぞ」

 

 「良かった・・・でもアイツ、素手でやり合うにはキツいかもね・・・」

 

 そんな会話をしていると、獣が翼をはためかせてこちらへ飛んできた。

 

 「厄介だな・・・!」

 

 綾斗を抱えたまま飛ぶ。だが獣の飛ぶスピードも速かった。時折攻撃するものの、それを全て避けてしまう。

 

 「あの巨体でこの速さか・・・!」

 

 「ユリス、俺を一旦下ろしてくれ!空中戦じゃ俺が戦えない!」

 

 「分かった!」

 

 そう返事をして地上への降下を始めた瞬間・・・獣が炎を吐いた。

 

 「っ!?マズい!?」

 

 避けきれず、私の焔の翼を貫いた。翼を失った私達は、そのまま地面に落ちていく。

 

 そんな私達に、獣が口を開けて向かってきた。

 

 「くっ!?」

 

 私は咄嗟に、綾斗をバルコニーの方へと投げた。紗夜達がいる以上、どうにかして受け止めてくれるだろう。

 

 獣が私を目掛けて飛んでくる。

 

 「っ!?ユリスっ!?」

 

 綾斗の叫び声が聞こえる中、私は獣に手を向けた。

 

 まだアイツと再会してもいないのに、ここでやられるわけには・・・!

 

 「・・・ったく、相変わらず無茶するよな」

 

 そんな声が聞こえた瞬間、私は獣から離れたところで浮いていた。

 

 いや・・・誰かに抱きかかえられていた。

 

 「このお転婆お姫様。身体を張りすぎなんだよ」

 

 「・・・やかましい。お前こそ来るのが遅いぞ・・・七瀬」

 

 黒いロングコートを着込んだ男・・・アスタリスクで最も信頼している友人を見て、思わず笑みを浮かべる私なのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「ふぅ・・・間に合ったな・・・」

 

 ホッと一息つく俺。ユリスが獣に襲われそうになっているのを見た時は、一瞬肝を冷やしたわ・・・

 

 「ってかユリス、リーゼルタニア遠くね?もっと近くに作れよ」

 

 「それを私に言うか!?」

 

 「次の《獅鷲星武祭》で優勝したら、リーゼルタニアを陸ごとアスタリスクに持ってこようぜ。それで万事解決だ」

 

 「無理だわ!」

 

 そんなやり取りをしていると、獣が再び俺達の方へ飛んできていた。

 

 「っ!?七瀬ッ!」

 

 「大丈夫だ。問題ない」

 

 キリッとドヤ顔で言う七瀬にイラッとくるが・・・次の瞬間、獣が爆発した。

 

 「・・・はっ?」

 

 「引っ掛かったな」

 

 ニヤリと笑う七瀬。獣が焦げ付いた状態で地面に落下していく。

 

 「さて、俺達も降りよう」

 

 「あ、あぁ・・・って七瀬、その翼は!?」

 

 「ん?あぁ、コレ?」

 

 背中に生えた黄金色の翼を見る俺。一応これも、修行の成果だったりする。

 

 「ユリスの《極楽鳥の燈翼》を参考にした。空中戦も出来るようにな」

 

 「ではこれは、お前の雷で・・・?」

 

 「まぁな」

 

 翼をはためかせ、王宮のバルコニーに降りる俺達。

 

 「七瀬っ!」

 

 「七瀬さんっ!」

 

 綾斗・クローディア・紗夜・綺凛が駆け寄ってくる。

 

 「おー、お前ら久しぶり。元気してた?」

 

 「七瀬、そんな悠長な挨拶をしている場合では・・・」

 

 「クローディア、そのドレス似合ってるじゃん。凄く色っぽいぞ」

 

 「・・・ありがとうございます///」

 

 「いや、思いっきり照れてるし・・・」

 

 綾斗が呆れている。っていうか・・・

 

 「皆ドレスかー。綺凛、お前メッチャ大人っぽいじゃん」

 

 「はうっ!?あ、ありがとうございますぅ・・・///」

 

 「紗夜もそのドレス似合ってるぞ。やっぱり可愛いな、お前」

 

 「えっへん。流石は七瀬、よく分かっている」

 

 「ユリスも。いつにも増して綺麗だぞ」

 

 「は、恥ずかしいから止めろっ・・・///」

 

 「いや皆!?今そんな状況じゃないよね!?」

 

 綾斗の言葉で、ハッとなる女性陣。

 

 「そ、そうだ!早くあの獣を何とかしないと・・・」

 

 ユリスが慌てて獣の方を見ると、起き上がった獣がこちらを見て唸り声を上げているところだった。

 

 そして勢いよくこちらへダッシュ・・・したところで、またしても爆発に巻き込まれる。後ろへ吹き飛んだ獣がまた爆発し、次々に獣の周りで誘爆が起きる。

 

 全ての爆発が終わった時、獣は地面に倒れていた。

 

 「おい、アレって・・・」

 

 「・・・うん、間違いない」

 

 ユリスと綾斗が驚いている。

 

 「あれは、黎兄妹が使っていた技だ・・・」

 

 「そうだよ」

 

 頷く俺。

 

 「さっき札をばら撒いておいたからな。見えなくなるように術もかけておいたし、上手く引っ掛かってくれたみたいだ」

 

 「では、先ほどの空中での爆発も・・・」

 

 「そうそう、札を設置しといたんだよ。いやー、沈雲と沈華に感謝しないとな」

 

 俺の言葉に、唖然としている一同。と、尚も獣が起き上がろうとしていた。

 

 「しぶといなぁ・・・あの二人と違って、俺に相手を痛ぶる趣味は無いんだけど」

 

 俺は溜め息をつくと、ポケットからコインを取り出した。そして手に雷を迸らせると・・・

 

 「《超電磁砲》」

 

 コインを指で弾いて撃ち出す。コインが凄まじい勢いで発射され、獣の頭から尾までを一瞬で貫いた。

 

 次の瞬間、凄まじい爆発が巻き起こる。煙が晴れた後、獣の姿は跡形も無く消えていた。

 

 「・・・ふぅ」

 

 一息つく俺。振り向くと、皆が固まっていた。

 

 「どうしたお前ら?」

 

 話しかけるが、全員呆然としている。と、綺凛が口を開いた。

 

 「な・・・」

 

 「な・・・?」

 

 「なんですか今のはああああああああああっ!?」

 

 「うおっ!?」

 

 突然の大声にビックリしてしまう。

 

 「ど、どうした?」

 

 「どうしたじゃないでしょう!?何ですか今の!?獣が消し飛びましたけど!?」

 

 「何って・・・《超電磁砲》だけど?」

 

 「それが何なのかって聞いてるんですよおおおおおっ!?」

 

 「綺凛、少し落ち着け」

 

 隣のユリスが宥める。と、クローディアがおずおずと手を上げた。

 

 「あのー・・・七瀬?」

 

 「ん?どうした?」

 

 「あれは《魔術師》としての力・・・雷の力ですよね?」

 

 「そうそう」

 

 頷く俺。

 

 「物体に電磁加速を加えて放つことで、攻撃力と貫通力が凄まじいものになるんだよ。今はコインで撃ったけど、他の物でも可能だぞ」

 

 「なるほど・・・興味深い」

 

 感心したように頷いている紗夜。

 

 「まぁもっとも、今のは全力で撃たなかったけど」

 

 「・・・え?」

 

 呆気に取られている綾斗。

 

 「い、今のが全力じゃないの・・・?」

 

 「いや、今のは三割ってとこかな。全力で撃ったら、あの一帯が消えちゃうし」

 

 爆発が起こった方を指差す俺。それを聞いて、綾斗がドン引きしていた。

 

 「七瀬・・・どんだけ強くなってんの・・・?」

 

 「力が制御出来るようになっただけだよ。体術では未だに星露や暁慧には勝てないし、ようやく虎峰と互角にやり合えるようになったくらいだ」

 

 「あの《天苛武葬》と互角!?」

 

 驚愕するクローディア。と、一人の男性がこちらへ走ってきた。

 

 「ユリス!」

 

 「兄上!?」

 

 走ってきた男性を見て、ユリスが驚いている。

 

 え、兄上って・・・

 

 「避難したはずじゃ!?」

 

 「音がしなくなったから、様子を見に来たんだよ・・・無事で良かった」

 

 「あぁ、獣は七瀬が倒してくれた」

 

 俺の方を見るユリス。

 

 「兄上、友人の星野七瀬だ」

 

 「君が七瀬くんか!初めまして、ユリスの兄のヨルベルトだ。一応この国の国王をやっている。妹を助けてくれて感謝するよ、ありがとう」

 

 「いえいえ。お礼を言われるようなことはしてませんよ、アルベルトさん」

 

 「ヨルベルトさんね」

 

 綾斗の冷静なツッコミが入る。

 

 「この度はお招きありがとうございます。到着が遅れてしまい、申し訳ありません」

 

 「ハハッ、気にしないでくれ。君とは一度、是非会いたいと思っていたんだ」

 

 笑っているヨルベルトさん。

 

 「君にもパーティーに出席してもらいたかったんだが・・・残念ながら中止だね」

 

 「まぁこんな状況ですからね」

 

 窓ガラスは粉々に割れ、奥のパーティー会場だったと思われる大広間はグチャグチャだった。

 

 と、クローディアが険しい表情をしていた。

 

 「クローディア?どうした?」

 

 「・・・いえ、何でもありません」

 

 すぐに微笑んでそう言うクローディアだったが、少し気になる俺なのだった。

 




どうも~、ムッティです。

放て!こ~ころ~にき~ざん~だゆ~めを、未来さえ置~き~去~り~に~し~て~♪

シャノン「限界など~知ら~ない~意味~ない!この能力が~、光散ら~す~そ~の~さ~きに、は~る~かな~お~も~いを~♪」

あ~るいてきた~、この道を~、振り返ることしか~♪

シャノン「もういいよ!?どんだけ歌うの!?」

いやー、良い歌だよね。

久々に『とある科学の超電磁砲』が観たくなったわ。

シャノン「それより、執筆活動は進んでるの?」

・・・出~来ないなら~、今ここで~す~べてを壊~せる~♪

シャノン「歌で誤魔化さないでくれる!?さては進んでないな!?」

それではまた次回~♪

シャノン「逃げるなあああああっ!?」



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クローディアの願い

台風凄かったなぁ・・・


 運転手さんの通報で警察や消防が駆けつけ、とりあえず事態は一段落した。パーティーの参加者に怪我人はいなかったし、運転手さんとフローラも戻ってきた。

 

 俺達はヨルベルトさんが用意してくれた部屋で、それぞれ休むこととなったのだが・・・

 

 「え、俺の部屋が無い?」

 

 「あぁ、すまない・・・」

 

 申し訳なさそうな表情のユリス。嘘やん・・・

 

 「え、何?王族による庶民イジメ?」

 

 「違うわ!」

 

 「天霧くん達にはここに到着してから、それぞれ個室を使ってもらっていてね。勿論七瀬くんの個室も用意していたんだけど・・・先ほどの襲撃で、いくつか部屋がダメになってしまったんだ」

 

 ヨルベルトさんが説明してくれる。なるほど、つまり・・・

 

 「・・・ダメになった部屋の中に、俺に用意されていた個室があったと?」

 

 「そういうことなんだ」

 

 何てこった・・・どうやら俺は、部屋に関してよほど運が無いらしい。

 

 「くっ・・・世界は俺を拒絶しているというのかっ・・・!」

 

 「いや、大袈裟すぎません?」

 

 綺凛のツッコミ。ヨルベルトさんが申し訳なさそうな表情になる。

 

 「悪いね、こんなことになってしまって・・・」

 

 「いえ、ヒルベルトさんのせいじゃないですから」

 

 「ヨルベルトさんね」

 

 再び綾斗のツッコミが入る。

 

 「じゃあ、誰かの部屋にお邪魔させてもらうしかないか・・・クローディア、良いか?」

 

 「えっ?」

 

 俺の突然の指名に、クローディアが驚いた表情になる。

 

 「わ、私ですか?」

 

 「え、そんな驚く?これでも俺、学園じゃお前と一緒に住んでるじゃん」

 

 「そ、それはそうですが・・・」

 

 「はい、決まりな」

 

 「いや、それで良いのか・・・?」

 

 呆れた表情のユリス。

 

 「彼女のことは大丈夫なのか?」

 

 「大丈夫。俺とクローディアの同居の件は、アイツも知ってるから」

 

 そんなこんなで、俺はクローディアの部屋にお邪魔することになった。部屋はとても広く、二人で使っても全然余裕があるくらいだった。

 

 流石だな・・・

 

 「おぉ、ベッドもメッチャ大きいな。二人で寝ても余裕じゃん」

 

 「七瀬、本当によろしいのですか・・・?」

 

 気遣わしげに見てくるクローディア。

 

 「《戦律の魔女》と交際することになった以上、私と一緒に寝たりするのは色々とマズいのでは・・・」

 

 「・・・俺が今さら、お前を一人にできるとでも?」

 

 「・・・っ」

 

 クローディアは《パン=ドラ》の代償で、眠る度に悪夢を見せられている。だからこそこれまで、寝る時はクローディアを一人にしないようにしてきたのだ。

 

 「修行する為とはいえ、四ヶ月もお前を一人にしちまったからな・・・ゴメン」

 

 「良いんですよ。私も賛成したんですから」

 

 微笑むクローディア。優しいな、コイツは・・・

 

 「・・・実はな、シルヴィには話してあるんだ。俺がお前と一緒に暮らしてることも、俺が毎晩お前と一緒に寝てることもな」

 

 「えっ・・・?」

 

 「あぁ、勿論《パン=ドラ》の代償については話してない。クローディアも伏せておきたいだろうし。クローディアが寝ている時によくうなされてるから、落ち着かせる為に一緒に寝てるって説明しておいた。今さら一人になんてしたくないし、今後も同じようにしたいって頼みもした」

 

 「彼女は何と・・・?」

 

 「そういう理由なら良いってさ。俺のことを信じてくれるって」

 

 ホント、できた彼女を持ったわ・・・

 

 「まぁもしクローディアに手を出したら・・・アレをちょん切るとは言われたけど」

 

 「・・・案外彼女も怖いですね」

 

 「まぁな・・・そんなわけだから、気にしなくて大丈夫だ」

 

 「そうですか・・・何だか少しホッとしました」

 

 気が抜けたように笑うクローディア。

 

 「私も七瀬が側にいてくださると安心できますし、有り難いです。七瀬が《戦律の魔女》と交際することになった時、今まで通りにはいかないだろうと思ったもので・・・」

 

 「俺がお前から離れるなんて有り得ない。前もそう言っただろ」

 

 「フフッ、そうでしたね」

 

 クローディアはクスクス笑うと、ベッドの上に腰掛けた。

 

 「・・・聞かないんですか?襲撃された件について」

 

 「あ、バレてた?」

 

 「これでも七瀬と一緒に暮らしてますので。雰囲気で何となく分かりますよ」

 

 そう、俺はクローディアに聞きたいことがあったのだ。

 

 「・・・綾斗達の話じゃ、あの獣を召喚したのは老人だったそうだな。綾斗達がクローディアのチームに参加するかどうかを聞いた後、獣を召喚して襲ってきたんだとか」

 

 「えぇ、そのようですね」

 

 「老人はこうも言ったそうだな。綾斗達がクローディアのチームに参加すると、困る人がいると。クローディア、お前ひょっとして・・・心当たりがあるんじゃないのか?」

 

 俺の言葉に、クローディアが深く溜め息をついた。

 

 「・・・あくまでも推測ですが、老人を雇って襲撃をさせたのは・・・恐らく私の父だと思われます」

 

 「クローディアのお父さん・・・?」

 

 首を傾げる俺。クローディアのお父さんって確か・・・

 

 「《銀河》の最高幹部である、クローディアのお母さんの補佐をやってるんだっけ?」

 

 「えぇ。といっても、今回の件は父が個人的にやっていることでしょう。《銀河》は関与していないと思います」

 

 「・・・読めないな。何でクローディアのお父さんが、クローディアの邪魔をしようとするんだ?」

 

 「父は私を愛してくれているのですよ」

 

 「は・・・?」

 

 キョトンとする俺を見て、クローディアが面白そうに笑う。

 

 「七瀬には以前言いましたよね?私にはどうしても叶えたい願いがあると」

 

 「あぁ、それはまだ秘密だって言われたな」

 

 「フフッ、まだお教えするわけにはいきませんが・・・《銀河》はどうしても、それを叶えさせたくないんですよ」

 

 「《銀河》が叶えさせたくない願い・・・?」

 

 おいおいマジか・・・それを叶えようとしているってことは・・・

 

 「クローディア、お前・・・《銀河》と敵対するつもりか?」

 

 「そうなりますね」

 

 アッサリと首を縦に振るクローディア。

 

 「私は次の《獅鷲星武祭》で優勝して、その願いを叶えるつもりです。いくら《銀河》でも、優勝者の願いは邪魔できませんから」

 

 「でも逆に言うと、優勝するまでは《銀河》から狙われるってことだろ?アイツら容赦無いし、本気で殺しに来るぞ」

 

 「ですから父は私を《獅鷲星武祭》に出場させない為に、手荒な手段に打って出たんでしょう。何度も説得されましたが、私の意思は変わりませんでしたから」

 

 「・・・なるほど。確かに愛されてんな、お前」

 

 まぁこういう手段はどうかと思うが、それほど切羽詰まっているんだろうな・・・

 

 「《銀河》は今、本気で私を始末すべきかどうか検討している段階でしょう。まだその段階で留まっているうちに、父は事態を収めたいんでしょうね」

 

 「・・・クローディア、一つ聞かせてくれ」

 

 俺はクローディアを見つめた。

 

 「お前の叶えたい願いっていうのは・・・例え《銀河》を敵に回してでも、例え自分の命を危険に晒してでも、絶対に叶えないといけない願いなのか?」

 

 「えぇ、そうです」

 

 クローディアが即答する。

 

 「私は願いを叶える為に、これまで何年も準備を重ねてきました。この願いだけは、誰が何と言おうと諦めるわけにはいかないんです」

 

 「クローディア・・・」

 

 クローディアの目は、真剣そのものだった。相当な覚悟で臨んでいるんだろう。

 

 なら、俺の答えも決まりだな・・・

 

 「・・・分かった。そこまで言うなら、俺はもう何も言わない。お前が願いを叶える為に、全力で力を貸すよ」

 

 「・・・よろしいのですか?《銀河》を敵に回すかもしれませんよ?」

 

 「生憎、《統合企業財体》に良い印象は持ってないからな。向こうが敵に回るっていうなら、遠慮なく叩き潰す」

 

 「七瀬・・・」

 

 「ま、いざとなったら界龍に拾ってもらおうぜ。星露からはいつでも来いって言われてるし、《万有天羅》の庇護下なら《銀河》も迂闊に手出し出来ないだろ」

 

 「・・・フフッ、それも良いかもしれませんね」

 

 笑うクローディア。

 

 「ただ・・・綾斗達を誘うなら、事前にしっかり説明しろよ?」

 

 「えぇ、分かっています。それで断られたとしても、責めるつもりはありません」

 

 「それなら良い。まぁとりあえず、今すべきなのは・・・老人を捕まえることか」

 

 「ですね。恐らくまた襲ってくるでしょうし、対策を練らないと」

 

 「ま、その辺は明日考えよう。とりあえず、風呂に入って寝ようぜ。先入ってこいよ」

 

 「あら、お風呂は一緒に入ってくれないんですか?」

 

 「今までも別々だっただろうが!」

 

 「フフッ、冗談ですよ」

 

 クローディアが楽しそうに笑う。勘弁してくれ・・・

 

 「では、お先にいただきますね」

 

 「おう、ごゆっくり~」

 

 クローディアが浴室へ向かう。と、ふと足を止めた。

 

 「・・・七瀬」

 

 「ん?どうした?」

 

 俺が尋ねると、クローディアが俺を見て優しく微笑んだ。

 

 「前にも言いましたが・・・やはり私は、七瀬と出会えて良かったです。いつも私の味方でいてくださって、本当にありがとうございます」

 

 「・・・どういたしまして」

 

 ストレートな感謝の言葉に、思わず照れて顔を背けてしまう。そんな俺を見て、クローディアはクスクス笑っているのだった。

 




どうも~、ムッティです。

く~らや~みに~、堕~ち~る~ま~ち~並み~♪

シャノン「前回の続きを歌わなくて良いよ!?」

あ、そう?

シャノン「どんだけ超電磁砲を引きずるの・・・」

ちなみに私は佐天さんが好きです。

シャノン「いや、聞いてないけど」

冷たいなぁ・・・シャ/ノンにするよ?

シャノン「怖っ!?怖いよ作者っち!?」

それではまた次回!

次回、シャノンがシャ/ノンになります。

シャノン「止めてええええええええええっ!?」


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兄として

台風一過で暑くなりそうだな・・・


 「皆おはよう。呼び出したりしてすまないね」

 

 翌朝、俺達はヨルベルトさんに集められた。昨日の襲撃事件について、話したいことがあるらしい。

 

 「実は警察から連絡があって、昨夜の襲撃犯の正体が分かったそうだ」

 

 「誰なのだ?」

 

 ユリスの問いに、ヨルベルトさんが苦い顔をする。

 

 「ギュスターヴ・マルロー。あの《翡翠の黄昏》に加担していたメンバーの一人だ」

 

 「なっ!?《翡翠の黄昏》だと!?」

 

 驚愕しているユリス。

 

 《翡翠の黄昏》とは、アスタリスク史上最大の人質テロ事件だ。犯行グループは総勢七十七人にも及び、星猟警備隊の隊長が単独で解決した事件としても知られている。

 

 「首謀者や主要メンバーは逮捕されたって聞いたけど、逃げ延びた人達もいたんだ?」

 

 「えぇ。ギュスターヴ・マルローを含め、七人程逃げ延びています」

 

 綾斗の疑問に、クローディアが答える。

 

 「《翡翠の黄昏》を起こした七十七人のうち、およそ四分の一は金銭目的で加担していました。ギュスターヴ・マルローは、その中の一人だったようですよ」

 

 「そうみたいだね。二つ名は《創獣の魔術師》・・・長い時間をかけて具現化した幻獣を使役できるようだ」

 

 「なるほど、幻獣ですか・・・」

 

 ヨルベルトさんの説明に納得する綺凛。昨日の獣も幻獣だったのか・・・

 

 と、ヨルベルトさんが俺を見た。

 

 「・・・ところで七瀬くん」

 

 「何ですか?ベルトルトさん?」

 

 「ヨルベルトさんね。わざとなの?わざと間違えてるの?」

 

 綾斗のツッコミ。ヨルベルトさんは苦笑しながら、俺の後ろを見た。

 

 「ずっとツッコミたかったんだけど・・・その子は寝ているのかい?」

 

 「あぁ、コイツですか?」

 

 俺の背中では、紗夜がスースー寝息を立てていた。

 

 「何で寝てるのだお前はあああああっ!?」

 

 「うきゅっ!?」

 

 ユリスに頭を引っぱたかれ、目を覚ます紗夜。

 

 「・・・ユリス、人の安眠を邪魔しないでほしい」

 

 「大事な話の最中だろうが!よく眠れるなお前は!」

 

 「えっへん。凄いだろう」

 

 「褒めてないわ!大体、何で七瀬が紗夜をおぶっているのだ!?」

 

 「半分寝ながら歩いてたから、危ないなって思ってさ。ここまでおぶってきたら、いつの間にか熟睡してたんだよ。起こすのも可哀想だから、そのまま寝かせてた」

 

 「七瀬の背中は温かくて安心する。お昼寝には最適」

 

 「まだ朝だからな!?起きてからそんなに経ってないからな!?」

 

 ユリスの全力ツッコミ。そんなやり取りに、全員が苦笑していた。

 

 「まぁそうカッカするなよユリス。要はそのドクター・マルコーを捕まえれば、万事解決ってことだろ?」

 

 「ギュスターヴ・マルローな!?ハガレンの世界じゃないぞここは!?」

 

 「お前よくハガレンとか知ってたな・・・」

 

 ネタが通じたことに、不覚にも感動してしまう俺。

 

 と、ヨルベルトさんが咳払いする。

 

 「まぁそんなわけで、警察からは護衛の申し出がきているけど・・・どうする?」

 

 「不要だ。足手まといになるだけだしな」

 

 バッサリ切り捨てるユリス。ヨルベルトさんも苦笑していた。

 

 「まぁそう言うだろうと思ったよ。ただし、身の回りには十分注意してくれ」

 

 「分かっている。話はそれだけか?」

 

 「あぁ。ただ、ユリスと天霧くんにはまだ話があるから残ってくれ。あと七瀬くんも」

 

 真剣な表情のヨルベルトさん。真面目な話らしいな・・・

 

 「・・・クローディア、紗夜を頼んだ」

 

 「分かりました」

 

 クローディアが紗夜をおぶり、綺凛と共に部屋を出て行く。

 

 「兄上、話とは何だ?」

 

 「んー、そうだね・・・」

 

 ヨルベルトさんは紅茶を飲むと、笑顔でとんでもないことを言ってきた。

 

 「七瀬くんと天霧くん・・・どっちかユリスと結婚してくれないかな?」

 

 「脳天かち割るぞアンポンタン」

 

 「ちょ、七瀬!?こんな人だけど仮にも国王だよ!?」

 

 「いや、天霧くんも結構酷いこと言ってるよね」

 

 綾斗の言葉にツッコミを入れるヨルベルトさん。一方、ユリスは赤面していた。

 

 「な、何を言い出すのだ兄上!冗談にも程があるぞ!」

 

 「これでも本気さ」

 

 ヨルベルトさんが真顔になる。

 

 「ユリスが《鳳凰星武祭》で優勝したことで、統合企業財体にとってユリスの価値は上がったことだろう。今はまだ僕の方が彼らにとっての価値は高いだろうけど、今後のユリスの活躍次第では僕の価値を抜くことになる。そうなったらこの国の女王に即位させられて、意にそぐわない相手との結婚を強要させられるかもしれない」

 

 「っ・・・それは・・・」

 

 言葉に詰まるユリス。なるほど、その可能性は大いにあるな・・・

 

 「だから今のうちに、少しでも気の合う相手を見つけておく必要がある。今すぐ結婚しろとは言わないけど、婚約ぐらいはしておいた方が良い。七瀬くんのことも天霧くんのことも、嫌いではないんだろう?」

 

 「そ、それは勿論・・・だ、大事な友人だからな・・・」

 

 顔を赤くしながら言うユリス。

 

 「だ、だが!それとこれとは話が別だろう!大体そんな考えで結婚を迫るなど、七瀬にも綾斗にも失礼ではないか!」

 

 「無礼は重々承知の上だよ。その上で聞くけど・・・二人とも、ユリスのことはどう思っているのかな?身内贔屓かもしれないけど、ユリスは魅力的な女の子だと思うよ?」

 

 「あ、兄上!?」

 

 ユリスが赤面しながら止めようとするが、ヨルベルトさんは止まらない。

 

 「この国は統合企業財体の傀儡国家だけど、王族ともなると不自由な思いはしないはずだよ?そういった点も魅力的じゃないかな?」

 

 「兄上っ!いい加減に・・・」

 

 「まぁ確かに、仰る通りだと思います」

 

 ユリスの言葉を遮る俺。

 

 「ユリスは魅力的な女の子だと、俺も思います」

 

 「な、七瀬!?何を言っている!?」

 

 「可愛いし、ちょっと無愛想だけど実は凄く優しいし、プライドは高いけど人の心により添える良いヤツだし・・・」

 

 「止めろおおおおおっ!?」

 

 両手で顔を覆うユリス。耳まで真っ赤になっている。ヨルベルトさんは満足げだ。

 

 「だったら・・・」

 

 「だからこそ、ユリスの意にそぐわない結婚は出来ません」

 

 ヨルベルトさんの言葉を遮り、キッパリと断言する俺。

 

 「今ユリスは、アスタリスクで自分の願いを叶える為に戦っています。俺はそんなユリスの力になると約束しましたし、それを違えるつもりはありません」

 

 「・・・結婚することは、ユリスの力になることではないと?」

 

 「ユリスにその意思が無い以上、俺はそう考えます。むしろ結婚してしまえば、俺はユリスの枷になりかねない・・・それだけは御免です」

 

 「七瀬・・・」

 

 俺を見つめるユリス。俺はヨルベルトさんを見据えた。

 

 「ユリスは大切な友人ですが、それと結婚とは話が別です。それに俺には、真剣に交際している彼女がいますので。もう、彼女の手を離すわけにはいかないんです」

 

 「その彼女というのは・・・《戦律の魔女》のことかな?熱愛報道が出ていたけど」

 

 「えぇ、その通りです」

 

 「ちょ、七瀬!?認めちゃって良いの!?」

 

 綾斗が慌てて割り込んでくる。溜め息をつく俺。

 

 「ヨルベルトさんは、本気でユリスの今後を心配して話を持ちかけてきてる。なら、俺も本気でこの人と話す必要がある。誤魔化すのは失礼だ」

 

 「・・・有り難いね」

 

 柔らかく微笑むヨルベルトさん。

 

 「ユリスには、キミのような男と結婚してほしいんだけど・・・どうやらキミの決意は固いようだね」

 

 「ご期待に添えず、申し訳ありません」

 

 深々と頭を下げる俺。

 

 「気にしないでくれ。僕も色々と悪かったね。ただ・・・」

 

 「ただ・・・?」

 

 俺が首を傾げると、ヨルベルトさんはニヤリと笑った。

 

 「さっきも言ったけど、この国は統合企業財体の傀儡国家だ。つまり統合企業財体の不利益にならないなら・・・重婚だって認められるだろう」

 

 「マジで!?」

 

 「マジで。現に僕も妻であるマリアと結婚してるけど、多くの愛人達がいるからね」

 

 「モテモテかアンタ!?」

 

 「フッフッフッ・・・国王ともなるとモテるのさ」

 

 「いや、統合企業財体から送られてきているだけだろう」

 

 呆れているユリス。愛人が認められてるって・・・この国ヤバくね?

 

 「まぁそんなわけで、気が変わったらいつでも言ってくれ。今後ユリスが、キミという枷を必要とする時が来るかもしれないし」

 

 「な、何を言っているのだ兄上!?」

 

 「ハハッ、その反応はあながち満更でもない感じかな?」

 

 「い、いい加減にしろおおおおおっ!?」

 

 いたたまれなくなったのか、部屋を飛び出していくユリス。

 

 やれやれ・・・

 

 「綾斗、ユリスを追ってくれ。襲撃の件もあるし、一人にしておくのは危険だ」

 

 「了解」

 

 苦笑しながらユリスを追う綾斗。と、ヨルベルトさんが溜め息をつく。

 

 「・・・七瀬くんも言ってくれたけど、あの子は優しい。女王になってしまったら、否が応でも統合企業財体の言うことに従わざるをえない。あの子はただ傷つくだけだ」

 

 「だから政治に関心も無く、自らの意見も主張しないボンクラを演じてるんでしょう?統合企業財体にとっては、これ以上ないほど扱いやすいでしょうからね」

 

 「ハハッ、バレてたか。まぁ、自堕落な生活を満喫しているのは事実だけどね」

 

 笑うヨルベルトさん。この人、本当にユリスのことを大切に想ってるんだな・・・

 

 「・・・七瀬くん」

 

 真剣な表情で俺を見るヨルベルトさん。

 

 「ユリスの兄としてお願いしたいんだけど・・・どうかあの子の力になってあげてほしい」

 

 「言われなくてもそのつもりです」

 

 俺の返事に、満足そうに笑うヨルベルトさんなのだった。

 




二話連続での投稿となります。

そしてここで残念なお知らせが・・・

シャノン「どうしたの?」

ストックが尽きました・・・

シャノン「oh・・・」

早急に執筆活動を進めたいと思いますが・・・

少し間が空いてしまうかもしれません・・・

シャノン「構想は練ってあるんでしょ?」

ある程度はね。

なるべく早めに書きたいと思います。

シャノン「≪七ヶ月の空白≫の再来か・・・」

≪翡翠の黄昏≫みたいに言わないで!?

今回はそんな長期間空くことはない・・・はず。

シャノン「断言はしないのね・・・」

とりあえず、少し時間を下さい。

申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。

それではまた次回!

・・・あると良いな。

シャノン「不吉なこと言わないの!またね~!」


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孤毒の魔女

みんな~っ!ムッティが帰ってきたよ~っ!

シャノン「遅いわああああああああああっ!」

ちょ、止め・・・ギャアアアアアアアアアアッ!?

シャノン「それでは本編再開、張り切っていってみよー!」


 「へぇ、じゃあユリスはまた五位に戻ったんだ?」

 

 「えぇ、マクフェイルくんも九位まで戻りました」

 

 ヨルベルトさんとの話を終えた俺は、部屋でクローディアや綺凛と談笑していた。ちなみに、紗夜はベッドで気持ち良さそうに眠っている。

 

 「そっかぁ、ユリスもレスターも頑張ったんだな」

 

 「えぇ。ですが、七瀬の序列は・・・」

 

 「そんな暗い顔すんなって。別に気にしてないから」

 

 俯くクローディアの頭を、ポンポンと優しく叩く。

 

 停学中だった俺は、当然のことながら公式序列戦へは参加できなかった。よって序列三位の座を剥奪され、再び序列外となってしまったのだ。

 

 この事は事前にクローディアから聞かされていた為、俺としてはすんなり受け入れられた。元々序列に興味も無かったしな。

 

 「でも七瀬さん、せっかく三位にまでなったのに・・・」

 

 「それを言ったら、綺凛なんて元一位だろ」

 

 綺凛の言葉に苦笑する俺。

 

 「あ、でも《冒頭の十二人》じゃなくなったってことは・・・クローディアの部屋には住めなくなるのか?」

 

 「それは大丈夫です。男子寮に空き部屋が無い以上、七瀬を移動させることは出来ませんから」

 

 「それなら良いけど・・・ってか、増設工事っていつ終わるんだ?新入生が入ってくるまでに間に合うのか?」

 

 「えぇ、来年の三月には終了する予定です。七瀬にも別の部屋が与えられると思いますよ」

 

 「そっか・・・俺は別に、このままクローディアの部屋で生活しても良いんだけどな」

 

 そんなことを言うと、綺凛がジト目で俺を見てきた。

 

 「彼女さんがいながら今の発言・・・浮気ですか?」

 

 「違うわ!邪推すんなマセガキ!」

 

 「なっ!?誰がマセガキですか!」

 

 ギャーギャー騒ぐ俺と綺凛。クローディアがクスクス笑っている。

 

 「フフッ・・・ところで七瀬、ユリスの所へ行かなくてよろしいんですか?」

 

 「綾斗が行ってくれてるし、大丈夫だろ」

 

 「でもビックリですよね。まさかユリスさんと結婚してくれだなんて」

 

 「全くだよ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 クローディアと綺凛には、先程のヨルベルトさんとの会話の内容を話してある。二人とも驚いていたが、事情を聞いて複雑そうな顔をしていた。

 

 「そもそも、何でリーゼルタニアは統合企業財体の傀儡国家になってるんだ?」

 

 「リーゼルタニアは元々、統合企業財体が復活させた国なんですよ」

 

 クローディアが説明してくれる。

 

 「そもそものきっかけは《落星雨》の後、この土地から特一等級のベルティス隕石が発見されたことでした」

 

 「ベルティス隕石って、確かマナダイトを含んでる隕石のことだよな?」

 

 「えぇ。特一等級というのは、マナダイトの含有率が九十五%・・・つまりほぼ丸々マナダイトということになります」

 

 「マジで!?メッチャ価値あるじゃん!」

 

 驚く俺。

 

 現代では、人工的にマナダイトを作る技術は既に確立されている。しかしそのほとんどが、本物の質には及ばないのが現状だ。

 

 ましてその技術さえ無かった時代においては、天然のマナダイトの価値など計り知れないだろう。統合企業財体の垂涎の的になることなど、容易に想像できる。

 

 「そうなんです。ところが、見つかった場所に問題がありまして」

 

 「と言うと?」

 

 「この場所は当時、ドイツとオーストリアの国境線になっていたんですよ。ドイツはレヴォルフの運営母体・・・ソルネージュの影響が強く、オーストリアはアルルカントの運営母体・・・フラウエンロープの影響が強かったんです。当然両者はぶつかることになったんですが、他の統合企業財体が仲介に入ったことで武力衝突は免れました」

 

 「・・・危うく戦争じゃないですか」

 

 綺凛の表情が引きつっている。恐るべしベルティス隕石・・・

 

 「そんなわけで、各統合企業財体が利益配分の協定を結ぶことになったんです。それと同時に、『どうせ分割するんだ。自分達がもっと好き勝手できる箱庭を作ってしまおう』という考えに至りました。その結果、かつてここに存在していた国を復活させることになりまして。その国というのが・・・」

 

 「リーゼルタニアってわけか・・・」

 

 統合企業財体も、決して何から何まで自由というわけではない。あくまでも既存国家の枠組みを利用している存在なので、当然その国の法律などには縛られる。

 

 だからリーゼルタニアを復活させ、枠組みすら自分達で決められる国家を作ったってことか・・・

 

 「そんなわけでリーゼルタニアは、政策や税率等も統合企業財体に都合が良いようになっています。各統合企業財体の研究施設も目白押しです」

 

 「なるほどな・・・ボンクラを演じているヨルベルトさんが好かれるわけだ」

 

 「あら、よく演じていると分かりましたね?」

 

 「さっきヨルベルトさんと会話してみて分かったよ。雰囲気が違ったし」

 

 そんな会話をしていた時だった。突然、とてつもなく禍々しい力を感じた。

 

 「ッ!?」

 

 思わずソファから勢いよく立ち上がる。

 

 何だこの恐ろしい程の力は・・・!

 

 「七瀬・・・?」

 

 「どうかしましたか・・・?」

 

 クローディアと綺凛が訝しげに声をかけてくる。俺は急いで窓の側へと駆け寄り、外を見て力を感じる方角を確認する。

 

 恐らくこれは、《魔術師》か《魔女》の力・・・そして俺の頭には、二葉姉が《王竜星武祭》終了後に語っていた時のセリフが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 『あんな禍々しくて圧倒的な力、今まで見たことが無いわ。一目見た瞬間、本能的にヤバいと思ったもの。どうやったらあんな力が得られるのかしら・・・』

 

 

 

 

 

 「・・・まさか」

 

 俺が呟いた瞬間・・・遠目にだが、火球が弾けるのが確認できた。

 

 「ッ!ユリス!?」

 

 間違いない。ユリスが誰かと戦っている。そしてその相手は恐らく・・・

 

 「綺凛!今すぐ紗夜を叩き起こせ!」

 

 「ふぇっ!?は、はいっ!」

 

 「七瀬、何事ですか!?」

 

 「ユリスが戦闘中だ!」

 

 「ッ!?まさかギュスターヴ・マルローと!?」

 

 「いや・・・」

 

 表情が歪む俺。そして出来ることなら、当たってほしくない想像を口にするのだった。

 

 「恐らくだが、ユリスの戦っている相手は・・・」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 《綾斗視点》

 

 「ユリスッ!」

 

 「うぅ・・・っ」

 

 ユリスを抱き起こして呼びかけるも、弱々しい呻き声を上げるだけだった。ユリスの服には腐食した跡がいくつもあり、顔色も酷く悪かった。

 

 ユリスがこうなってしまった原因となった人物は、俺達を哀しげな表情で見つめていた。

 

 「《孤毒の魔女》・・・」

 

 苦々しくその名を呟く。

 

 《孤毒の魔女》ことオーフェリア・ランドルーフェンは、相当に有名な人物だ。レヴォルフ黒学院の序列一位で、前々回と前回の《王竜星武祭》を制した実力者。アスタリスク史上最強の《魔女》との呼び声も高い。

 

 そんな人物が、どうしてこんなところに・・・

 

 「・・・貴方が天霧綾斗?」

 

 長い純白の髪を揺らしながら、紅玉のような赤い双眸でこちらを見る《孤毒の魔女》。

 

 本能が叫んでいる・・・この少女は危険だ。

 

 「・・・あぁ、そうだよ。それより、これ以上は止めてくれ。もう決着はついただろう」

 

 元々はユリスが挑んだ戦いだった。どういう関係性なのかは分からないが、この二人は旧知の仲らしい。ユリスの『戻ってこい』という呼びかけを《孤毒の魔女》が拒否した結果、ユリスが《孤毒の魔女》に戦いを挑んだのだ。

 

 しかし結果は見ての通り、ユリスの敗北・・・圧倒的なまでの実力差がそこにはあった。

 

 「・・・哀しいけれど、一度動き出した運命は私にも止められないわ」

 

 《孤毒の魔女》が哀しげに呟いた瞬間、彼女の身体から瘴気が湧き上がった。

 

 これが彼女の《魔女》としての能力・・・その瘴気は触れただけで他者を蝕むという噂だったが、誇張でも何でもなくその通りだった。

 

 「・・・死にたくなかったら逃げなさい」

 

 「悪いけど、それは無理な相談かな・・・ユリスを見捨てて逃げたりしたら、七瀬に顔向けできないからね」

 

 「七瀬・・・?」

 

 首を傾げる《孤毒の魔女》。俺は《黒炉の魔剣》を起動させ、刃先を《孤毒の魔女》へと向けた。

 

 「それに・・・友達を見捨てるなんていう選択肢、俺には無いよ」

 

 「・・・そう。残念だわ」

 

 沈痛な面持ちの《孤毒の魔女》。彼女の身体から溢れ出た瘴気が、無数の腕のような形となって襲い掛かってくる。

 

 「天霧辰明流剣術中伝・・・矢汰烏!」

 

 全ての瘴気の腕を両断する。それを見た《孤毒の魔女》が、眉をピクリと動かした。

 

 「あぁ、それが《黒炉の魔剣》・・・なるほど、だから私の瘴気を斬れたのね」

 

 《黒炉の魔剣》は、万物を焼き斬ることが出来る。普通の武器なら間違いなく彼女の正気に対応できないが、この純星煌式武装なら話は別だ。

 

 とはいえ、状況が悪いことに変わりはない。正直な話、今の俺では彼女には勝てないだろう。一人で逃げるなら何とかなるかもしれないが、ユリスを守りながら逃げ切れるとは到底思えない。

 

 何とかこの状況を突破できる方法を考えていた時・・・

 

 「・・・ッ!?」

 

 突如として足から力が抜ける。手は震え始め、喉に何か詰まったかのように息苦しい。

 

 慌てて識の境地で周囲を探ると・・・空気の流れが明らかに不自然だった。

 

 「・・・君の仕業か」

 

 「・・・ごめんなさい」

 

 恐らく周囲に、瘴気を張り巡らせたんだろう。それも俺が気付かないよう、無味無臭の無色透明な瘴気を。

 

 「本当に・・・とんでもないな・・・君は・・・」

 

 意識が段々と遠のいていく。薄れゆく景色の中、瘴気の腕が形成されるのが見えた。

 

 「・・・すぐ楽にしてあげる」

 

 《孤毒の魔女》が、瘴気の腕を俺達に向けた時だった。

 

 「ッ!?」

 

 何かに反応したかのように、《孤毒の魔女》が上空を見上げる。

 

 次の瞬間、轟音と共に彼女を雷が襲った。咄嗟に瘴気の腕を盾代わりにしたものの、雷が瘴気の腕を貫く。凄まじい爆発が起き、彼女の立っていた辺りは煙に包まれた。

 

 今の雷は・・・まさか・・・

 

 「・・・おい」

 

 上からドスの利いた低い声がした。俺が最後の力で上空を見ると、そこには・・・

 

 「俺のダチに何してくれてんだ・・・《孤毒の魔女》」

 

 怒りに表情を歪ませた七瀬がいたのだった。

 




どうも~、ムッティで~す・・・

うぅ、酷い目に遭ったぜ・・・

シャノン「自業自得でしょうが!二度目の《七ヶ月の空白》だよ!?」

本当にすまないと思っている(キリッ)

シャノン「・・・・・」

ちょ、そんな目で見ないで!?

シャノン「やれやれ・・・あ、そういえば先月コラボ作品を投稿してたよね?」

そうそう!綺凛・凛綺さんの作品である『刀藤綺凛の兄の日常記』とコラボさせていただきました!

その結果、何と日刊ランキングにランクインしてたという・・・

『刀藤綺凛の兄の日常記』の人気って凄いね。

シャノン「そりゃ日刊ランキングで2位に入るほどの人気作品だもん。よく私達とコラボしてくれたよね」

ホントそれな。

綺凛・凛綺さん、ありがとうございます!是非またコラボしましょう!

さて、本編も再開しましたが・・・

以前よりは投稿ペース落ちるかも・・・

とりあえずリーゼルタニアでの話は早めに終わらせて、七瀬の実家に帰省する話に入りたいと思います。

シャノン「お、遂にななっちの妹達が出てくるの?」

うん、ようやく出せるよね。是非お楽しみに。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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一件落着

アスタリスクの新巻を読みました!

とりあえず一言・・・レスターがカッコいい。

まぁこの作品、しばらくレスター出てないですけど・・・

それではいってみよー!


 「綾斗ッ!」

 

 「ユリスさんッ!」

 

 走ってきた紗夜と綺凛が、倒れている綾斗とユリスに駆け寄る。俺も翼をはためかせて下降し、二人の下へ向かった。

 

 「二人とも大丈夫か!?」

 

 「大丈夫、気を失ってるだけ。瘴気にやられたんだと思う」

 

 紗夜が綾斗とユリスの脈拍を測りながら言う。良かった・・・

 

 「・・・とんでもない力ね」

 

 前方の煙が晴れ、《孤毒の魔女》が姿を現す。制服はボロボロになり、あちこちに傷を負っているものの・・・まだまだ戦えそうな雰囲気だ。

 

 「こんなボロボロになったの、いつ以来かしら・・・」

 

 「知るかバカ」

 

 《孤毒の魔女》を睨む俺。

 

 「これ以上、俺のダチに手を出そうって言うなら・・・今この場で殺すぞ」

 

 「・・・貴方が星野七瀬ね」

 

 俺をじっと見つめる《孤毒の魔女》。

 

 「流石は《鮮血の殺し屋》の弟・・・相当な強さだわ」

 

 「・・・二葉姉を倒したお前に言われても、説得力の欠片もねぇよ」

 

 「・・・彼女は強かったわ。《王竜星武祭》ではずいぶん手こずらされたもの」

 

 哀しげな表情で笑う《孤毒の魔女》。

 

 「次の《王竜星武祭》・・・貴方は出場するの?」

 

 「あぁ」

 

 即答する俺。

 

 「俺は《王竜星武祭》で、シルヴィア・リューネハイムとお前を倒す。二葉姉の仇はとらせてもらうぞ、オーフェリア・ランドルーフェン」

 

 「・・・そう。なら、今ここで戦うのは止めておくわ」

 

 くるりと踵を返す《孤毒の魔女》。

 

 「決着は《王竜星武祭》で・・・また会いましょう、《覇王》」

 

 「望むところだ。首洗って待っとけ」

 

 俺の言葉を背に、《孤毒の魔女》はその場から立ち去った。

 

 やれやれ・・・

 

 「とりあえず一安心、と言いたいところだが・・・」

 

 俺は左前方に視線を移し、何もない虚空を睨んだ。

 

 「いつまでそこで高みの見物してるつもりだ?」

 

 「おや、バレていましたか」

 

 突如として、宙に浮いた老人が現れた。

 

 「なっ!?ギュスターヴ・マルロー!?」

 

 《千羽切》を構える綺凛。

 

 「いつからそこに!?」

 

 「俺達がここに来た時にはもういたよ。多分最初から見てたんだろうな」

 

 「はっはっはっ、こいつは驚きましたな」

 

 愉快そうに笑うギュスターヴ・マルロー。

 

 「依頼主から聞いていた通り・・・やはり貴方が一番厄介なようだ」

 

 「クローディアの父親がそう言っていたのか?」

 

 「ッ!?」

 

 ギュスターヴ・マルローの表情が驚愕に染まる。

 

 「何故貴様がそれを知っている!?」

 

 「私が教えたんですよ」

 

 俺達の背後から声がした。ったく・・・

 

 「遅いぞクローディア」

 

 「申し訳ありません」

 

 クローディアは苦笑しながら謝ると、ギュスターヴ・マルローへと視線を移した。

 

 「貴方の依頼主が、私の父であることは分かっています。それで・・・どういたしますか?私としてはここで貴方の相手をしても構いませんが、貴方は違うでしょう?」

 

 「・・・なるほど。不愉快なほど聡明なお嬢さんですね」

 

 苦々しい表情のギュスターヴ・マルロー。

 

 「確かに私は、貴方に手を出さないよう申し付かっております。せっかくのチャンスではありますが、ここは一度身を引いて・・・」

 

 「させると思ってるんですか?」

 

 ギュスターヴ・マルローの背後から声がする。次の瞬間・・・

 

 「がはっ!?」

 

 宙に浮いていたギュスターヴ・マルローが、衝撃と共に地面に墜落する。

 

 「な、何が・・・」

 

 「のこのこ出てきたテロリストを、みすみす逃がすわけないでしょう」

 

 先程までギュスターヴ・マルローが浮いていた宙に、メイド服を着た女性が呆れた表情で浮いていた。

 

 「なっ!?新手ですか!?」

 

 「何者?」

 

 クローディアと紗夜が警戒する中、綺凛だけポカンとした表情を浮かべる。

 

 「その声・・・もしかして、七海さん!?」

 

 「はい。こうしてお会いするのは初めてですね、綺凛さん」

 

 薄緑色のロングヘアを揺らしながら、ニッコリと笑みを浮かべる七海。

 

 「修行の結果、私もこうして人型に具現化できるようになったんですよ」

 

 「いやー、まさかこんなことが出来るとは・・・修行してみるもんだよなぁ」

 

 「ホントですよねぇ」

 

 俺と七海がそんな会話をしていると、他の三人が呆れたような表情をしていた。

 

 「もう何でもアリですね・・・」

 

 「純星煌式武装が人型に具現化するなんて、聞いたことがありませんよ・・・」

 

 「七瀬は色々とぶっ飛んでる」

 

 「いや、紗夜に言われたくないわ」

 

 その時、ギュスターヴ・マルローがフラフラと立ち上がった。

 

 「小娘が・・・調子に乗るなッ!」

 

 二つの魔法陣が浮かび上がり、それぞれから獣が飛び出してくる。一歩は巨大な双頭の犬、もう一方は三つ首の犬だ。

 

 あれって・・・

 

 「オルトロスにケルベロスですか・・・凄いですね」

 

 「お前達、あの小娘を血祭りに上げろ!」

 

 ギュスターヴ・マルローの命令で、オルトロスとケルベロスが七海へ襲いかかる。

 

 「七海さんッ!」

 

 「大丈夫だよ」

 

 七海の下へ行こうとした綺凛を、手で制す俺。その視線の先では、七海が二匹の攻撃を避けていた。

 

 そして後ろへ回り込むと、七海の両手が光り輝く。

 

 「《断罪の双撃》ッ!」

 

 両拳が触れた途端・・・二匹は跡形もなく消し飛んだ。

 

 「なっ!?」

 

 驚愕するギュスターヴ・マルロー。七海はギュスターヴ・マルローへ視線を向ける。

 

 「・・・まだ抵抗しますか?」

 

 「くっ・・・私はこんな所で捕まるわけには・・・!」

 

 逃げようとするギュスターヴ・マルローだったが・・・

 

 「はい、チェックメイト」

 

 「ガアアアアアアアアアアッ!?」

 

 その先で待ち構えていた俺が、ギュスターヴ・マルローの身体に電を流す。煙を上げながら倒れるギュスターヴ・マルロー。

 

 「スタンガンの真似事ぐらい、朝飯前だっての」

 

 「今のはスタンガンなんて比じゃないくらいの電撃でしたけどね」

 

 苦笑する七海。

 

 「まぁ何はともあれ、一件落着ですね」

 

 「おう。お疲れ七海」

 

 「お疲れ様です、マスター」

 

 ハイタッチを交わす俺達。

 

 「・・・何か、七瀬さんと七海さんだけで解決しちゃいましたね」

 

 「今回、私達は必要無かった」

 

 「そんなことないって。とりあえず、綾斗とユリスを王宮まで運ぼう。早いところ手当てしてやらないと。七海、ギュスターヴ・マルローの拘束を頼む」

 

 「了解です、マスター」

 

 苦笑している綺凛と紗夜の背中を押し、七海に指示を出す俺。

 

 そして、思いつめた表情を浮かべているクローディアの頭を撫でた。

 

 「・・・お前のせいじゃない。だからそんな表情すんな」

 

 「・・・ありがとうございます」

 

 悲しげに笑うクローディアなのだった。

 




どうも~、ムッティです。

はい、ギュスターヴ・マルローさん捕まりました。

シャノン「確か原作だと、もうちょい後で捕まってなかった?」

そうそう。ヒュドラとの戦いは全カットです。

シャノン「マジか・・・」

本当は早いところ七瀬の実家に帰省して、《獅鷲星武祭》に突入したいんだけど・・・

未だに執筆がそこまで進んでないのよね。

シャノン「そんな裏事情ぶっちゃけないでよ!?」

まぁぼちぼち執筆していきますので、これからもよろしくお願いします。

それと現在、綺凛・凛綺さんの作品である『刀藤綺凛の兄の日常記』とコラボさせていただいております!

もう一つの作品である『刀藤綺凛の兄の日常記~外伝~』も昨日更新されましたので、そちらも是非チェックしていただければと思います!

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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決意

二話連続投稿となります。

今回で《懐国凱戦》編は終了です。

それではいってみよー!


 「本当に申し訳ありませんでした」

 

 深々と頭を下げるクローディア。俺達は今、クローディアから事の顛末を聞かされたところだった。

 

 「クローディアのお父さんが・・・」

 

 「娘を守る為か・・・分からなくもないが・・・」

 

 複雑そうな表情の綾斗とユリス。あの後王宮に運び込まれた二人は、すぐに意識を取り戻した。

 

 幸いそこまで大きな怪我も無かったが、少し安静にするようにと医師に言われていたのだった。

 

 「七瀬さんはご存知だったんですか?」

 

 「昨日の夜に聞いたよ。本当なら今日、クローディアが全員に説明するはずだったんだけど・・・」

 

 綺凛の問いに苦笑する俺。まさか説明する前に解決できるとは・・・

 

 「エンフィールド、お前は本気なのか?」

 

 紗夜がクローディアに尋ねる。

 

 「本気で銀河を敵に回す気なのか?」

 

 「えぇ」

 

 頷くクローディア。

 

 「私には、どうしても叶えたい願いがあります。それを譲るつもりはありません」

 

 「とまぁ、あのクローディアがこうも頑固に主張してるわけなんだよ」

 

 俺は溜め息をつくと、皆へと視線を向けた。

 

 「《獅鷲星武祭》は、六対六のチーム戦だ。クローディアの望みとしては、ここにいる六人でチームを組みたいらしい。でも今の話を聞いての通り、クローディアのチームに入ると銀河を敵に回すことになる。そんなリスクを背負いたくないヤツは、今この場で名乗り出た方が良い。クローディアも恨んだりしないってよ」

 

 顔を見合せる他の四人。と、綺凛が俺を見た。

 

 「七瀬さんは・・・参加しますよね」

 

 「勿論」

 

 「即答ですか」

 

 苦笑する綺凛。

 

 「でしたら、私の答えも決まりです。今度こそ優勝しようって、約束しましたから」

 

 「おう、よろしく相棒」

 

 笑顔で綺凛と拳を合わせる。と、そこにユリスも拳を突き出してきた。

 

 「背景はどうであれ、戦力としてこのメンバーは魅力的だ。私も参加させてもらおう」

 

 「勿論、俺も参加するよ」

 

 綾斗の拳が加わる。

 

 「このメンバーでチームが組めるなんて、これが最初で最後だと思う。こんなチャンスを、みすみす逃すつもりはないよ」

 

 「私も参加する」

 

 拳を突き出す紗夜。

 

 「《鳳凰星武祭》では優勝できなかったから。今回は優勝したい」

 

 「決まりだな」

 

 俺はクローディアを見てニヤリと笑った。

 

 「チーム名どうする?『アンチ銀河』とかにしようか?」

 

 「そんなチーム名、通るわけないでしょう」

 

 呆れたように言いながら、どこか嬉しそうなクローディア。

 

 そしてクローディアも拳を突き出し、六人の拳が合わさった。

 

 「では皆さん、よろしくお願いします」

 

 「了解!」

 

 「こちらこそ!」

 

 「当然だ」

 

 「よろしく!」

 

 「頑張る」

 

 気合いを入れる俺達。その時、綾斗の携帯端末が鳴った。

 

 「あれ?メール?」

 

 端末を操作する綾斗。そして何かを確認した途端、顔が驚愕に染まる。

 

 「えっ・・・」

 

 「どうした綾斗?」

 

 俺が尋ねると、綾斗が信じられないという表情で衝撃の事実を口にしたのだった。

 

 「姉さんが・・・見つかったって・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ルーズベルトさん、色々とお世話になりました」

 

 「ツッコミを入れてくれる綾斗はもういないぞ」

 

 ヨルベルトさんに頭を下げる俺に対して、ユリスがジト目を向けてくる。

 

 お姉さんが見つかったという連絡を受けた綾斗は、既にアスタリスクへと発っていた。一人で行かせるのは心配ということで紗夜も同行しており、クローディアも父親と話をつけるべく帰国している。

 

 俺・ユリス・綺凛の三人はそのまま留まり、今日リーゼルタニアを発つことになったのだ。

 

 「そのボケをもう聞けないなんて、ちょっと寂しいねぇ」

 

 「また遊びに来ますよ。タダ飯を食らいに」

 

 「七瀬さん、こんなボンクラな方でも一応は国王ですからね?」

 

 「いや、刀藤さんが一番酷いこと言ってるから」

 

 ヨルベルトさんのツッコミ。と、ユリスが真剣な表情でヨルベルトさんの前に立った。

 

 「兄上、話がある」

 

 「どうしたんだい?」

 

 「私は《獅鷲星武祭》で優勝したら・・・願いとして、この国における国王の権利の拡大を要求しようと思う」

 

 「なっ・・・」

 

 絶句するヨルベルトさん。こんな表情、初めて見たな・・・

 

 「・・・正気かいユリス?確かに《星武祭》の褒賞なら可能だろうし、その手の前例が無いわけじゃけど・・・」

 

 「いたって正気だ。いくら賞金を稼いで孤児院が救えたとしても、それは一時しのぎにしかならない。この国を変える為には、もっと根本的な部分に手を加える必要がある」

 

 まぁ確かにな・・・

 

 リーゼルタニアが統合企業財体の傀儡国家である限り、この国の状況が変わることはない。国王の権利を拡大してもらうのが、一番効果的な方法だろう。

 

 だが、もしそれが叶ったら・・・

 

 「もし国王の権利が拡大されたら・・・兄上には、負担と迷惑をかけることになるだろう。統合企業財体としては、自分達の箱庭の国王が出しゃばるなど面白くないはずだからな。だがそれでも・・・頼む。私に力を貸してほしい」

 

 頭を下げるユリス。と、その頭に優しく手が置かれた。

 

 「・・・君は変わったね、ユリス。以前の君なら、こんな風に僕を頼ってくれなかっただろう」

 

 嬉しそうに笑うヨルベルトさん。

 

 「約束しよう。君が《獅鷲星武祭》で優勝したら、僕もボンクラは卒業する。この国を変える為に、微力ながら力を貸そうじゃないか」

 

 「兄上・・・ありがとう」

 

 ユリスが涙ぐむ。と、ヨルベルトさんが俺達の方を見た。

 

 「七瀬くん、刀藤さん、ユリスのことを頼んだよ」

 

 「任せて下さい」

 

 「勿論です!」

 

 頷く俺達。最初からそのつもりだったしな。

 

 「それから七瀬くん」

 

 「何ですか?」

 

 「ユリスとの結婚の件、いつでも心変わりしてくれたまえ」

 

 「なっ、兄上!?」

 

 途端に顔が真っ赤になるユリス。

 

 「やっぱり、ユリスは満更でもないみたいだね」

 

 「そ、そんなわけあるか!」

 

 「え、ユリス・・・あの夜のことを忘れたのか・・・?」

 

 「あの夜ってどの夜だ!?」

 

 「そっか・・・共に過ごした夜が多すぎて分からないか・・・」

 

 「誤解を生む言い方は止めろ・・・って、このくだり二回目だからな!?」

 

 「いやぁ、ユリスは面白いなぁ」

 

 「な~な~せ~っ!」

 

 「いふぁいいふぁい(痛い痛い)!」

 

 両頬を思いっきり引っ張られる。何か懐かしいなこの感じ。

 

 「・・・あんなユリスは初めて見るよ。よほど七瀬くんに気を許してるんだね」

 

 「お二人は、いつもあんな感じですよ」

 

 感心しているヨルベルトさんと、苦笑している綺凛。

 

 こうして、俺達はリーゼルタニアを後にしたのだった。

 




はいどうも、ムッティです。

とりあえず、これで《懐国凱戦》編はおしまいでございます。

シャノン「次回からは新章?」

そうそう。七瀬の実家に帰ります。

新キャラも出るよ。

シャノン「そういや、ななっちの彼女が全然出てこないんだけど・・・」

あぁ、シルヴィね。次の章では出てくるよ。

ただ早いところ、ソフィアとか柚陽とか冬香とか出したいんだよねー。

シャノン「相変わらず見境ないね・・・」

まぁぼちぼち執筆していきますので、これからもよろしくお願いします。

現在、綺凛・凛綺さんの作品である『刀藤綺凛の兄の日常記』とコラボさせていただいております!

もう一つの作品である『刀藤綺凛の兄の日常記~外伝~』共々、是非チェックしていただければと思います!

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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第六章《故郷帰省》
七瀬の実家


新章突入でございます!

新キャラも登場するよ!

それではいってみよー!


 「こ、ここが七瀬の実家なのか・・・?」

 

 目の前の武家屋敷のような建物を見て、ユリスが呆気にとられている。

 

 ユリスにはリーゼルタニアで色々ともてなしてもらったので、そのお返しにと俺の実家に招待したのだ。

 

 綺凛も誘ったのだが、自分の実家の方に顔を見せたいとのことだったので空港で別れた。

 

 「そうだよ。リーゼルタニアの王宮と比べたら狭いだろうけど、それは勘弁してくれ」

 

 「何を言うかっ!」

 

 大声を上げるユリス。あれ、何か目がキラキラしてるんだけど・・・

 

 「この風情ある外観・・・心が躍るな・・・!」

 

 「・・・気に入ってくれたみたいで良かったよ」

 

 苦笑しながら門をくぐり、玄関へ向かおうとした瞬間だった。

 

 「はぁっ!」

 

 「っ!?」

 

 頭上から蹴りが飛んでくる。咄嗟に避けると、一人の少女が目の前に着地した。そのまま拳を放ってくるので、受け止めてこちらも拳を繰り出す。

 

 少女はそれを避け、俺の腕を掴んで背負い投げる。空中で一回転して着地すると、少女が素早く距離を詰めてきた。

 

 「七瀬!?」

 

 「あぁ、心配ない」

 

 突然の襲撃に驚いているユリスに、笑いながら答える俺。少女が放ってくる拳をしゃがむことで避け、素早く足を払う。

 

 「っ!?」

 

 バランスを崩して倒れこむ少女。その隙に首を押さえ、拳を構える。

 

 「勝負あり、だな」

 

 「・・・参りました」

 

 溜め息をつく少女。ユリスが慌てて駆け寄ってくる。

 

 「七瀬!?無事か!?」

 

 「大丈夫だって。妹との軽いスキンシップさ」

 

 「妹!?」

 

 驚いたように少女を見るユリス。俺は少女の首から手を離して立ち上がると、上体を起こした少女へと手を差し伸べる。

 

 「久し振り、八重」

 

 「お久し振りです、七瀬お兄様。突然の無礼、申し訳ありません」

 

 謝りながら俺の手を掴む少女・・・星野八重。

 

 俺が手を引っ張ると、青く長い髪を揺らしながら立ち上がった。

 

 「ずいぶん強くなったな」

 

 「いえ、まだまだです。お兄様に本気を出していただけるくらいにならなくては」

 

 「お前も本気じゃなかっただろうに」

 

 「結構本気でしたよ。それを軽くあしらわれてしまうのですから、私もまだまだ修行が足りません」

 

 「相変わらず謙虚だな、お前は」

 

 笑いながら八重の頭を撫でる。

 

 「八重はもっと強くなれるよ。だからその気持ちを忘れずにな」

 

 「はいっ」

 

 笑みを浮かべる八重。と、ユリスの方へ視線を移しハッとした表情になる。

 

 「も、申し訳ありません!私としたことが、挨拶が遅れてしまいまして!」

 

 「あ、あぁ・・・大丈夫だぞ」

 

 呆気にとられていたユリスが我に返る。まぁ、いきなりあんな登場したら驚くよな。

 

 「ユリス、俺の妹の八重だ。八重、この人がユリス=アレキサンダー・・・何だっけ?」

 

 「決闘した時はちゃんと覚えてただろうが!ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだ!」

 

 「うん、長いから人間発火装置で良い?」

 

 「覚える気ゼロ!?その呼び方は止めろ!」

 

 「・・・まるで漫才ですね」

 

 八重は苦笑すると、ユリスに対して一礼した。

 

 「星野八重と申します。以後お見知りおきを」

 

 「あぁ、よろしく頼む」

 

 「八重ちゃ~ん?」

 

 二人が握手をかわしていると、玄関からもう一人少女が出てきた。紫銀の長い髪をなびかせた、スタイル抜群の少女である。

 

 「何だか騒がしいけど、何かあったんで・・・すか・・・」

 

 セリフの途中で俺と目が合い、固まってしまう少女。そして・・・

 

 「な・・・七瀬兄さああああああああああんっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 勢いよく抱きついてくる少女。目には涙が浮かんでいる。

 

 「会いたかったですうううううっ!」

 

 「久し振りだな、九美」

 

 抱き締め返し、少女・・・星野九美の頭を撫でる俺。

 

 「元気にしてたか?」

 

 「勿論です!胸も一段と大きくなりました!」

 

 「いや、それは聞いてないんだけど」

 

 俺の身体に押し付けられている二つのメロンの感触で、聞かなくても分かるからな。

 

 コイツ、一年前よりさらに大きくなってやがる・・・恐ろしい子・・・

 

 「ちょっと九美!?破廉恥ですよ!?」

 

 「兄妹同士のスキンシップだから良いんですぅ!」

 

 八重の抗議に反論する九美。いや、兄妹同士だからこそアウトなのでは・・・

 

 「だ、だったら私もお兄様に抱きつきます!」

 

 「ちょ、八重!?」

 

 八重まで抱きついてくる。

 

 っていうか二人とも離れて。ユリスの視線が冷たいから。まるで汚物を見るような目でこっちを見てるから。

 

 「七瀬・・・お前、自分の妹達に手を・・・」

 

 「出してないから!何もしてないから!」

 

 「お兄様・・・私はいつでも・・・」

 

 「兄さんが望むなら、私は全然・・・」

 

 「それ以上言ってはいけない!」

 

 危うくとんでもないセリフを言いかけた二人を引き剥がす。

 

 危なかった・・・

 

 「コホンッ・・・ユリス、妹の九美だ」

 

 「白々しいほどの話題転換だな・・・まぁいい。ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだ。よろしく頼む」

 

 「星野九美です。よろしくお願いします」

 

 握手をかわす二人。と、ユリスが八重と九美を交互に見てから俺に視線を移した。

 

 「えーっと・・・順番的には、七瀬→八重→九美で良いのか?」

 

 「あぁ、合ってるよ」

 

 頷く俺。

 

 「ただ、八重と九美は双子だから歳は一緒なんだ。俺達の一つ下・・・今は中三だな」

 

 「この二人も双子なのか?五和さんと六月さんのようには似ていないが・・・」

 

 「五和お姉様と六月お姉様は、一卵性双生児ですから」

 

 八重が説明する。

 

 「私と九美は二卵性双生児ですので。似ていないのはその為でしょう」

 

 「なるほど、そういうことか」

 

 納得するユリス。一方、九美は再び俺に抱きついてきた。

 

 「フフッ、兄さぁん♪」

 

 「あ、ズルいですよ九美!」

 

 慌てて八重も抱きついてくる。やれやれ・・・

 

 「・・・お前は姉だけでなく、妹にもずいぶん愛されているのだな」

 

 「・・・勘弁してほしいわ」

 

 苦笑するユリスの言葉に、溜め息をつく俺。

 

 「ところで、姉さん達は帰って来てるのか?」

 

 「四糸乃姉さん以外は帰ってきてますよ」

 

 九美が答えてくれる。

 

 「明日のカウントダウンコンサートが終わったら、そのままこっちに帰ってくるそうです。さっき連絡がありました」

 

 「あぁ、そういや大晦日って明日だっけ。いよいよ今年も終わりだな」

 

 「気付いてなかったのか!?」

 

 ユリスのツッコミ。まぁ色々あったしな・・・

 

 「とりあえず入ろうぜ。外は冷えるから」

 

 「あ、その前に・・・」

 

 八重と九美がニッコリと微笑む。

 

 「「七瀬お兄様(兄さん)、お帰りなさい」」

 

 「っ・・・あぁ、ただいま」

 

 八重と九美を抱き締める俺なのだった。

 




どうも~、ムッティです。

遂に七瀬の実家へ帰ってまいりました。

シャノン「八重ちゃんと九美ちゃんかー。モチーフは・・・九美ちゃんの方は予想つくわ」

はい、デート・ア・ライブの美九です。

シャノン「名前を逆さにしただけじゃん・・・」

スミマセン、ホントスミマセン・・・

シャノン「まぁいいけどさ・・・八重ちゃんの方は?」

ラブライブ!の海未ちゃんだよ。

シャノン「へぇ・・・お兄様って言ってたし、魔法科高校の劣等生の深雪かと思ってた」

深雪も考えたんだけど、深雪の攻撃って魔法が主体じゃん?

八重は七瀬と同じで、肉弾戦で戦うスタイルにしたかったのよね。

シャノン「あー、なるほど・・・深雪が肉弾戦で戦うイメージはできないかも」

でしょ?まぁ、最近ラブライブ!を観てハマったっていうのもあるけど。

シャノン「今さら感ハンパないね・・・」

それは自分でも思ったわ・・・

まぁそんなわけで、ここからはちょっとオリジナルの話が続きますのでお楽しみに!

・・・いつになったら《獅鷲星武祭》編に入れるんだろう。

シャノン「が、頑張れ作者っち!」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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お墓参り

二話連続投稿となります。

今回も新キャラを出しております。

それではいってみよー!


 「七瀬ええええええええええっ!」

 

 「請願。七瀬成分が足りません。補充させて下さい」

 

 「ここにも面倒な双子がいた・・・」

 

 広間に入って早々、五和姉と六月姉が抱きついてくる。何というデジャヴ・・・

 

 「あら七瀬、お帰り」

 

 「ユリスちゃんも。いらっしゃい」

 

 「お、お邪魔します・・・」

 

 コタツでダラダラしている一織姉と二葉姉。ユリスが恐縮しながら挨拶する。

 

 「二人とも寛ぎすぎだろ・・・久し振りの帰省とは思えないぐらい馴染んでるし・・・」

 

 「固いこと言わないでよ。本当に久し振りなんだから」

 

 「いやー、やっぱり実家って落ち着くわね」

 

 嬉々としてダラダラしている二人。全く・・・

 

 「あれ、そういや三咲姉は?」

 

 「ここに居ますよ」

 

 「うおっ!?」

 

 いつの間にか、広間の入り口に三咲姉が立っていた。両手に買い物袋を持っている。

 

 「三咲姉、買い物行ってたの?」

 

 「えぇ。十萌だけでは大変ですからね」

 

 「ただいま~」

 

 三咲姉の後ろから、金髪ミディアムヘアの少女が姿を現す。

 

 「待たせてゴメンね。これから夕飯の支度するから・・・って、七瀬お兄ちゃん!?」

 

 「久し振りだな、十萌」

 

 片手を上げて挨拶する俺。

 

 「もう帰ってたの!?連絡してくれたら、駅まで迎えに行ったのに!」

 

 頬を膨らませる少女・・・星野十萌。

 

 こういうところ、変わってないなぁ・・・

 

 「ゴメンゴメン。思ったより早く着いたから、そのまま来ちゃったんだよ」

 

 「全くもう・・・あ、ユリスさんですよね?」

 

 十萌は呆れたように溜め息をつくと、ユリスの方を見た。

 

 「初めまして、星野十萌です。よろしくお願いします」

 

 「ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだ。よろしく頼む」

 

 挨拶をかわす二人。十萌がニッコリと笑う。

 

 「どうぞ自由に寛いでて下さい。すぐに夕飯の支度をしますので」

 

 「あ、私も手伝うぞ?」

 

 「いえそんな!そのお気持ちだけで十分です!」

 

 恐縮しながら首を横に振る十萌。と、何かに気付いたように俺を見る。

 

 「そうだお兄ちゃん、今のうちにお墓参りしてきたら?せっかく帰ってきたんだし」

 

 「・・・それもそうだな。ちょっと行ってくるよ」

 

 「なら、私達も行くわ」

 

 一織姉と二葉姉が立ち上がる。

 

 「三咲達はもう済ませたらしいけど、私と二葉は昨日帰ってきたからまだなのよ」

 

 「せっかくだし、七瀬が帰ってきたら一緒に行こうと思ってたの。四糸乃を待ってたら年が明けちゃうしね」

 

 「よし、じゃあ行こうか」

 

 「・・・なぁ、七瀬」

 

 俺達の会話についていけず、首を傾げているユリス。

 

 「誰の墓に行こうとしているのだ?先祖の墓か?」

 

 「・・・そういや、ユリスには説明してなかったな」

 

 今さらながらに気付く俺。

 

 「じゃ、ユリスも行こうぜ。途中で説明するよ」

 

 「う、うむ・・・分かった」

 

 戸惑いながら頷くユリス。どうやら、皆の空気が少し重くなったことに気付いてしまったようだ。

 

 事前に説明しとくんだったな・・・

 

 「あ、そうそう。万理華さんも行ってるはずだから、一緒に連れて帰ってきてよ」

 

 「え、万理華さん行ってんの?」

 

 「うん。明日は色々やることがあって行けないだろうから、今日のうちに掃除しておきたいんだって」

 

 「・・・そっか」

 

 十萌の説明に、俺は思わず苦笑してしまうのだった。

 

 「変わってないな、あの人も・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「では、十萌が末っ子なのか?」

 

 「そうそう。八重と九美の一つ下で、中学二年生だな」

 

 道すがら、ユリスに説明する俺。

 

 「六人の姉に三人の妹・・・大家族だな」

 

 「まぁな。十萌にしてみりゃ、一織姉や二葉姉なんてオバさんみたいなもんだろ」

 

 「そんな歳じゃないもん!」

 

 「ピッチピチの二十代前半よ!?」

 

 「二葉姉、『ピッチピチ』はちょっと古いんじゃない?」

 

 一織姉と二葉姉が抗議してくるが、さらりと受け流す。

 

 弟としては、仕事人間すぎて男の影すら見えないこの二人が心配だったりするんだけどな・・・

 

 「二人とも彼氏いないの?」

 

 「仕事が恋人だから」

 

 「右に同じ」

 

 「・・・ダメだこりゃ」

 

 どうやら、俺に『義兄さん』ができるのは当分先らしい。

 

 「結婚なら、三咲なんか早いんじゃない?《聖騎士》と付き合ってたりして」

 

 「んー、アーネストの側にはレティシアもいるからなぁ・・・それに三咲姉とアーネストって、恋人っていうか戦友って感じじゃん。相棒的な?」

 

 「じゃあ四糸乃かしら?男性ファンからの人気が凄いらしいわよ」

 

 「ウチの四糸乃姉は絶対に嫁にはやらん!」

 

 「父親かっ!」

 

 「冗談だよ、一割は」

 

 「九割は本気なの!?」

 

 一織姉のツッコミ。まぁそれも冗談ではあるけど・・・

 

 「そもそも四糸乃姉は、男性恐怖症を克服しないと。人見知りですら完全には克服できてないんだから」

 

 「それもそうね。じゃあ五和か六月・・・」

 

 「マジで誰か嫁に貰って下さい。特に五和姉」

 

 「態度が全然違うんだけど!?」

 

 「いや、俺はあの二人の将来が心配すぎて・・・」

 

 「・・・気持ちは分かるわ」

 

 俺の肩に手を置く二葉姉。

 

 いやホント、あの二人に男ができる未来が見えない。マジでどうしよう・・・

 

 そんなことを考えていると、ユリスが微笑んでいることに気付いた。

 

 「ん?どうしたユリス?」

 

 「いや・・・本当に仲が良いのだな、星野家は。少し羨ましくなった」

 

 「・・・まぁな」

 

 苦笑する俺。

 

 「今でこそ・・・だけどな」

 

 「七瀬?」

 

 「いや、何でもないよ」

 

 思わず呟いてしまった言葉だったが、ユリスに聞こえていたらしい。咄嗟に誤魔化し、ユリスの背中を押す。

 

 「よーし!もうすぐ着くぞー!」

 

 「うおっ!?な、何をするのだ!?」

 

 ユリスの背中を押しながら歩くと、やがて前方に広い墓地が見える。その中の一つの墓の前に、一人の女性が立っていた。

 

 「あ、いたいた。万理華さーん!」

 

 「ん?」

 

 俺が呼びかけると、その女性・・・星野万理華がこちらを振り向く。

 

 丈の長い黒のドレスを着ており、長く鮮やかな金髪が風になびいていた。

 

 俺を見ると、柔らかな微笑みを浮かべる。

 

 「おぉ、七瀬。お帰り」

 

 「ただいま」

 

 ハグしてくる万理華さんを、優しく抱き締め返す俺。

 

 「大きくなったな・・・まだアスタリスクへ行って一年も経ってないのに」

 

 「成長期だから」

 

 「ハハッ、それもそうか」

 

 面白そうに笑う万理華さん。そして後ろのユリスへと視線を移す。

 

 「そちらがお姫様かな?」

 

 「そうそう。ユリス=アレクサンドラ・・・何だっけ?」

 

 「ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだ!今日散々フルネームで挨拶してただろうが!」

 

 「名前が長いんだよ。今日からユリス・フォンな」

 

 「何故そこを取った!?」

 

 「ハハッ、なかなか良いツッコミだな」

 

 万理華さんは笑いながらそう言うと、ユリスに手を差し出した。

 

 「星野万理華だ。七瀬達の伯母にあたる。よろしく頼むよ」

 

 「こちらこそ・・・って伯母!?」

 

 万理華さんと握手をかわした途端、ユリスの表情が驚愕に染まる。

 

 「ん?どうかしたのか?」

 

 「い、いえ・・・とても若く見えたもので・・・てっきり、一織さんや二葉さんと同じくらいの年齢かと・・・」

 

 「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。いや、一織と二葉が老けて見えるのか?」

 

 「勘弁してよ万理華さん・・・」

 

 「万理華さんが美魔女すぎるのよ・・・」

 

 万理華さんの言葉に、げんなりしている二人。

 

 万理華さんの正確な年齢は誰も知らないが、恐らくはアラフィフ・・・

 

 「七瀬、女性の年齢を探るのはマナー違反だぞ」

 

 「さらっと人の心を読まないでくれる?」

 

 ホント鋭いなこの人・・・

 

 降参して考えることを止めた俺は、万理華さんの後ろにあるお墓の前にしゃがみこむ。

 

 俺の後ろから、ユリスがお墓を覗き込んだ。

 

 「《星野千里・百愛、ここに眠る》・・・誰だ?」

 

 「・・・俺達の両親さ」

 

 「っ・・・」

 

 息を呑むユリス。

 

 「では、この墓は・・・」

 

 「あぁ、そうだよ」

 

 ユリスの言葉に、力なく笑う俺。

 

 「これは俺達の両親の墓だ。二人はもう・・・この世にいないんだよ」

 




どうも~、ムッティです。

というわけで今回も新キャラ、十萌と万理華さんを出しております。

シャノン「モチーフは誰なの?」

二人とも、ロクでなし魔術講師と禁忌教典のキャラをモチーフにしてるよ。

十萌はルミアで、万理華はセリカです。

シャノン「あー、なるほどねぇ・・・」

ちなみに亡くなっていることが判明した七瀬の両親も、同じくロクアカのキャラをモチーフにしてます。

シャノン「え、そうなの?」

うん。父親の千里はグレンで、母親の百愛はセラだよ。

シャノン「おぉ・・・ここでは二人が結ばれてるんだね」

そうそう。ロクアカを読んだことがないという方は、是非読んでみて下さい。

シャノン「いや、これ一応アスタリスクの小説なんだけど・・・」

まぁまぁ、良いじゃないか。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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負い目

クインヴェールの翼、早く次の巻出ないかなー。

っていうかアニメ化してほしい。

まぁアニメ化できるほどストックが無いか・・・

久しぶりにアスタリスクのアニメ観ようかな。

それではいってみよー!


 「ゴメンね、片付け手伝ってもらっちゃって」

 

 「気にすんなって。それにしても、この人達ときたら・・・」

 

 申し訳なさそうに謝ってくる十萌の頭を撫でつつ、畳の上で雑魚寝する万理華さん・一織姉・二葉姉を見て溜め息をつく俺。

 

 夕飯の時、この三人はグビグビと酒を呑んでたからな・・・酔い潰れるとかどんだけだよ・・・

 

 「でも、万理華さんが酔い潰れるなんて珍しいな・・・今まであったっけ?」

 

 「多分、嬉しいんだと思います」

 

 九美が二葉姉に毛布をかけながら答える。

 

 「一織姉さんや二葉姉さんは、なかなか帰ってきませんからね。七瀬兄さんも帰ってきて、四糸乃姉さんも明後日には帰ってくるでしょう。皆が揃うのが嬉しくて、ついついお酒が進んでしまったんでしょうね」

 

 「万理華さん、意外と寂しがりやですからね」

 

 一織姉に毛布をかける八重。

 

 「夏季休暇の時、お兄様が帰って来ないと知った時の落ち込みようと言ったら・・・」

 

 「え、そんなに落ち込んでた?」

 

 「うん、あからさまに凹んでたよ」

 

 十萌が苦笑しながら言う。

 

 「お兄ちゃん、最初《鳳凰星武祭》には出場しないって言ってたでしょ?だから夏季休暇は帰って来るだろうって思ってたみたい」

 

 「・・・それは悪いことしたな」

 

 毛布をかけつつ、万理華さんの頭を撫でる。

 

 「・・・いつもありがとう、万理華さん」

 

 「ん~・・・もう呑めん・・・」

 

 万理華さんの寝言に笑いつつ、ふと時計を見る。既に夜九時を回っていた。

 

 「もうこんな時間か・・・三人とも、先に風呂入ってこいよ。俺は後で良いから」

 

 この家のお風呂は大浴場になっており、家族全員余裕で入れるほどの広さだ。

 

 八重・九美・十萌は片付けをしていたので、先に三咲姉・五和姉・六月姉・ユリスが入っている。

 

 「え、一緒に入らないんですか?」

 

 「八重、その発想はおかしいからな?」

 

 「昔は一緒に入ってたじゃないですか」

 

 「いや、昔の話だから。昔と今は違うから」

 

 「兄さん、私と裸の突き合いしましょうよ」

 

 「おい九美!?今絶対違う漢字に変換したよな!?いいから早く入ってきなさい!」

 

 「「は~い・・・」」

 

 渋々返事をする二人。

 

 「あ、私はもう少し片付けあるから。お姉ちゃん達は先に入ってて」

 

 「え、大丈夫ですか?手伝いますよ?」

 

 「大丈夫だよ。すぐ終わるから」

 

 「分かりました。ではお先に」

 

 八重と九美がお風呂へと向かう。一方、十萌はじーっとこっちを見ていた。

 

 「ん?どうした十萌?」

 

 「・・・えいっ」

 

 抱きついてくる十萌。

 

 柔らかい感触がっ!二つの大きいマシュマロがっ!

 

 「と、十萌・・・?」

 

 「・・・お姉ちゃん達がいると、こうやってお兄ちゃんに甘えられないからね」

 

 ちょっと恥ずかしいのか、十萌の両頬が赤く染まっている。

 

 「私だって、お兄ちゃんが帰ってきてくれて嬉しいから・・・本当はこうやって、お兄ちゃんに抱きつきたかったんだ・・・」

 

 「十萌・・・」

 

 普段はしっかり者で、甲斐甲斐しく皆の世話を焼いてくれる十萌。優しくて気配りもできて、本当にできた子だけど・・・

 

 星野家で一番歳下の末っ子なんだよな。まだまだ誰かに甘えたいだろうに・・・

 

 「・・・十萌」

 

 名前を呼び、優しく抱き締める。

 

 「甘えたくなったら、いつだって甘えてくれて良いんだぞ」

 

 「・・・うんっ」

 

 十萌が嬉しそうに返事をする。

 

 「じゃあ・・・もうちょっとだけ、このままでお願い・・・」

 

 その言葉を聞き、十萌を抱き締める腕に力を込める俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 《ユリス視点》

 

 

 

 「これでもくらえっ!」

 

 「笑止。その程度で六月が倒せるとでも?」

 

 「貴方達はいい歳して何をやってるんですか・・・」

 

 お湯の掛け合いをして遊ぶ五和さんと六月さんに、溜め息をつく三咲さん。私達は、星野家の大浴場に来ていた。

 

 「騒々しくてすいません・・・」

 

 「いえ、賑やかで良いと思います」

 

 苦笑しながら答える私。何だかんだで、三咲さんが一番の苦労人な気がするな・・・

 

 「それにしても、本当に広いですね・・・驚きました」

 

 「ここはお父様が作ったんですよ。ちなみにこのお湯は天然の温泉です」

 

 「えぇっ!?天然の温泉を引いているんですか!?」

 

 「えぇ、万理華さんが掘り当てたみたいです。『テキトーに掘ってたら当たった』って言ってましたけど」

 

 「・・・彼女は何者なんですか」

 

 そんな軽いノリで温泉を掘り当ててしまうとは・・・

 

 「それをキッカケに、お風呂を広くしようということになりまして。出来上がったのがこの大浴場というわけです」

 

 「なるほど・・・」

 

 ここは七瀬達のお父上が作られたのだな・・・大したものだ。

 

 

 

 

 

 『二人はもう・・・この世にいないんだよ』

 

 

 

 

 

 「っ・・・」

 

 そう言った七瀬は笑ってはいたが、とても寂しそうだった。

 

 私も両親を亡くしてはいるが、ほとんど覚えていないから寂しいと感じたことはない。

 

 だが七瀬には、ここで両親と過ごした思い出がある。寂しくないはずがない。

 

 「・・・どうやら、暗い気持ちにさせちゃったみたいだね」

 

 ふと顔を上げると、五和さんが気遣わしげにこちらを見ていた。

 

 「七瀬から聞いたんでしょ?両親が亡くなってること」

 

 「・・・えぇ、今日初めて聞きました」

 

 「そっか・・・」

 

 「推測。七瀬はきっと、周りに気を遣わせたくなかったのでしょう」

 

 六月さんが溜め息をつく。

 

 「特に七瀬は、お父様とお母様に対して負い目を感じている節がありますから。積極的に話したいとは思わなかったのでしょうね」

 

 「負い目・・・?」

 

 「・・・あの子は小さい頃から、自分の持つ力に振り回されてきましたから」

 

 悲しそうに笑う三咲さん。

 

 「七瀬が誰かを傷つけてしまう度に、周囲の人達はお父様とお母様を糾弾したんです。『お前達の教育が悪いからだ』『まともに子供を育てることも出来ないのか』『これだから《星脈世代》は嫌なんだ』・・・色々言われていましたね」

 

 「そんな・・・」

 

 思わず言葉を失ってしまう。それはいくら何でも酷いではないか・・・

 

 「お父様もお母様も、七瀬に『気にするな』と言っていましたが・・・七瀬は言っていました。『俺の存在が、父さんと母さんを不幸にしている』と・・・」

 

 「七瀬が周囲と距離を置き始めたのは、そのくらいからだったかな・・・私達家族のことでさえ、自分から遠ざけるようになってさ」

 

 当時のことを思い出したのか、表情が歪む五和さん。

 

 「まぁシルヴィの影響もあって、また心を開いてくれるようにはなったんだけど・・・多分、あの時のことはずっと気にしてると思うんだよね。父さんや母さんに対してもそうだけど、私達に対しても負い目を感じてるんじゃないかな・・・」

 

 「・・・そうだったんですか」

 

 七瀬の過去はある程度聞いてはいたが・・・もう乗り越えたものだと思っていた。

 

 未だに引きずっているなんて、考えたこともなかったな・・・

 

 「だから皆さんは、あれほど七瀬を気に掛けているのですか?」

 

 「それもありますが・・・私達は純粋に、七瀬が大好きなんですよ」

 

 三咲さんが屈託の無い笑みを浮かべる。

 

 「こう言ってしまうと、身内贔屓に聞こえるかもしれませんが・・・あれほど心の優しい子はそうそういません。どんな力を持っていようと、七瀬は私達の自慢の弟ですから」

 

 「首肯。七瀬は世界一可愛い弟です」

 

 「三咲姉も六月も、その発言はブラコン認定されるよ?」

 

 「ブラコンですから」

 

 「疑問。ブラコンで何が悪いのですか?」

 

 「アララ、こりゃ末期だね・・・まぁ私もだけどさ」

 

 苦笑する五和さん。

 

 「一織姉も二葉姉も四糸乃姉も、八重も九美も十萌も・・・万理華さんもそうだね。皆七瀬が大好きなんだよ」

 

 「勿論です」

 

 「当然じゃないですか」

 

 大浴場へやってきた八重と九美が、五和さんの言葉にうんうんと頷く。

 

 「あ、さては盗み聞きしてたな?」

 

 「すいません、聞くつもりは無かったんですが・・・」

 

 「何か雰囲気的に入りづらくて・・・」

 

 五和さんの指摘に恐縮する二人。まぁ確かに、入ってくることの出来る雰囲気ではなかったかもしれんな・・・

 

 と、私はそこで一人いないことに気付いた。

 

 「ん?八重と九美だけか?十萌はどうしたのだ?」

 

 「片付けが残ってるから、先に入っててくれと言われまして」

 

 「疑問。二人とも、片付けを手伝っていたのではないのですか?」

 

 六月さんの言葉に、八重と九美が顔を見合わせて苦笑する。

 

 「恐らくただの口実だと思いますよ。兄さんと二人っきりになる為の」

 

 九美の説明に、三咲さん達が『あ~』と納得する。

 

 ん?二人っきりになる為の口実?

 

 「どういうことですか?」

 

 「十萌はしっかり者なんですが、実はとても恥ずかしがりやなんです」

 

 三咲さんが説明してくれる。

 

 「先程五和が言っていましたが、十萌も七瀬が大好きですから。久し振りに会えて、本当は抱きつきたいほど嬉しいはずなんですが・・・私達の前では恥ずかしいから、二人っきりになれる口実を作ったんでしょうね。今頃七瀬にとことん甘えてると思いますよ」

 

 「恐らくそうでしょうね。そんなわけで、私達は長めにお風呂に入るとしましょう」

 

 「ですね。今は十萌ちゃんに兄さんを譲ります。その代わり、後で私も甘えますけど」

 

 「・・・本当に愛されているな、七瀬は」

 

 何だか微笑ましくなり、思わず笑ってしまう私なのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「連続投稿してるけど、ストック大丈夫?」

この章は書き終えてるからね。

そろそろ《獅鷲星武祭》編を執筆しないと。

シャノン「おぉ・・・この前まで執筆のモチベーションが低かった人とは思えない・・・」

新巻読んで、アスタリスク熱が上がってきたからね。

あと、やっぱり読者さんからのコメントが嬉しくて。

「待ってたよ!」とか「お帰りなさい!」とか言ってくださる方もいて、頑張らないとって思ったよ。

シャノン「マジでありがたい話だよね」

ホントそれな。

皆さん、これからもよろしくお願いします。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」




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信頼関係

この話を書いている時に思ったこと・・・

『あれ?この物語のヒロインってユリスだったっけ?」

いいえ、シルヴィです・・・一応。

それではいってみよー!


 「ふぅ・・・良いお湯だった」

 

 風呂から上がり、一息つく俺。

 

 流石は天然の温泉・・・久し振りに入ったけど、やっぱり良いもんだ。

 

 そんなことを思いながら窓の外を見ると、ユリスがいるのが見えた。

 

 「この寒い中、何やってんだアイツ・・・」

 

 玄関を開けて家の外に出てみると、ユリスは空を見上げてボーっとしていた。

 

 「ユリス?」

 

 「ん?あぁ、七瀬か」

 

 俺が声をかけると、ユリスがこちらを振り向いた。

 

 「うわ、寒っ・・・こんなところで何やってんだ?」

 

 「いや、星が綺麗だと思ってな」

 

 「星・・・?」

 

 空を見上げる俺。そこには、満天の星空が輝いていた。

 

 「ここは凄いな・・・これほどの星が見えるとは・・・」

 

 「そうか?リーゼルタニアでも結構見えたと思うぞ?」

 

 「ここ程じゃないさ。こんな満天の星空が見える場所、そうそうあるまい」

 

 「そっか・・・喜んでもらえたなら何よりだよ」

 

 ユリスの隣に立ち、改めて空を見上げる。

 

 そういや、最近は星を眺めるなんてこともしなくなったっけな・・・

 

 「・・・お前は愛されているのだな、七瀬」

 

 ユリスが急にそんなことを言う。

 

 「突然どうしたよ?」

 

 「いや、先程三咲さん達と話をしてな・・・少し聞いたのだ。昔の七瀬のことを」

 

 「昔の俺、ね・・・」

 

 あの頃は酷いもんだったな・・・思い出しただけで嫌になる。

 

 「お前は今も・・・ご両親に負い目を感じているのか?」

 

 「・・・そりゃ感じるさ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「何の恩も返せないまま、二人ともあの世に逝っちまったからな・・・」

 

 「七瀬・・・」

 

 「前にユリスには話したけど・・・昔の俺は力を制御できなくて、色々な人を傷付けてしまった。その度にあの二人は、周りに頭を下げて謝って・・・俺のせいで散々迷惑をかけてきた。それを謝ることも出来なくて、何の恩も返せなくて・・・二人には、未だに申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」

 

 あの二人はきっと、『そんなこと気にするな』と言ってくれるだろう。だが、俺にとっては『気にするな』という方が無理だった。

 

 「だからこそ・・・綺凛は凄いと思う。お父さんを助ける為に、アスタリスクで戦ってるんだから」

 

 「ひょっとして、それで綺凛に力を・・・?」

 

 「・・・そうかもな」

 

 俺は父さんに何もしてあげられなかったけど、綺凛は違う。お父さんを助けようと、必死に頑張っている。

 

 だから俺は、アイツの力になりたいと思ったのかもな・・・

 

 「綺凛の伯父さんに腹が立ったのは・・・万理華さんの姿を見てきたからかな。両親が亡くなった後、俺達の面倒を見てくれたのは万理華さんだから。あの人なら、自分の甥や姪をあんな風に扱わない・・・そう思った」

 

 「大切に思っているのだな。万理華さんのことも」

 

 「当たり前だろ。あの人がいるから、今の俺達がいるんだしな」

 

 本当に、万理華さんには感謝してもしきれない。俺のアスタリスク行きを後押ししてくれたのもあの人だし。

 

 「そうか・・・なら、万理華さんにはしっかり恩を返さないとな」

 

 「・・・だな」

 

 ユリスの言葉に頷く俺。

 

 「とりあえず、当分の目標は《獅鷲星武祭》の優勝か・・・ユリスは、国王の権利を拡大したいんだよな?」

 

 「うむ。その通りだ」

 

 頷くユリス。

 

 「あの国を変える為には、今のところそれが一番良い方法だからな。これ以上、統合企業財体に大きい顔はさせん」

 

 そう語るユリスの表情は、忌々しげに歪められていた。

 

 「これ以上、犠牲者を出してなるものか・・・」

 

 「・・・その犠牲者っていうのは、《孤毒の魔女》のことか?」

 

 「ッ!?」

 

 ユリスが息を呑む。やっぱりか・・・

 

 「何故それを・・・」

 

 「ユリスと《孤毒の魔女》と旧知の仲らしいことを、綾斗から聞いてな。近い年齢で旧知の仲、それもリーゼルタニアに来ていたとなると・・・《孤毒の魔女》は、孤児院にいたんじゃないか?お前はアイツに『戻ってこい』と言ってたらしいしな」

 

 「・・・本当に敵わないな、お前には」

 

 ユリスが脱力する。そして懐から、一枚の写真を取り出した。

 

 「この写真、覚えているか?」

 

 「これって・・・」

 

 幼いユリスと、幅広い年代の子供達が写っている写真だ。シスターらしき女性達も写っている。

 

 これは間違いなく・・・

 

 「ユリスの部屋に飾ってあった・・・孤児院の子供達との写真だよな?」

 

 「あぁ。私の隣に写っている、栗色の髪をした女の子・・・それがオーフェリアだ」

 

 「・・・嘘だろ?」

 

 髪や瞳の色、目つきや雰囲気・・・全てが違っている。

 

 全くの別人だろコレ・・・

 

 「何がどうなったら、あそこまで変わるもんなんだ・・・?」

 

 「オーフェリアは、実験材料にされたのだ」

 

 苦々しい表情のユリス。

 

 「研究内容は・・・後天的に《星脈世代》を作り出すこと、だ」

 

 「・・・本気で言ってんのかよ」

 

 人権無視もいいところだ。しかもそれが事実なら・・・

 

 「《孤毒の魔女》は・・・元々《魔女》どころか、《星脈世代》ですらなかったってことか・・・?」

 

 「あぁ。それが今や世界最強の《魔女》だ。本当に恐れ入る」

 

 吐き捨てるように言うユリス。

 

 「普通なら実験は成功ということで、大々的に報じられていることだろう。だが何も報じられないということは・・・何かしらの問題があるということだ」

 

 「問題か・・・そりゃあるだろうな。《星脈世代》じゃなかった人間が、あれほどの力をノーリスクで使えたら奇跡だろ」

 

 「同感だ。事実、オーフェリアは一度力を暴走させている。結果として研究所は崩壊、ソルネージュの特殊部隊がオーフェリアを救助したのだ」

 

 「だからレヴォルフにいるのな・・・ひょっとして、その実験を行なったのはフラウエンロープか?」

 

 「ご名答だ。その後どんな取引があったのかは知らないが、オーフェリアの身柄はフラウエンロープからソルネージュへ移された」

 

 「やっぱりか・・・」

 

 アルルカントも、運営母体のフラウエンロープも、ロクなことしないな・・・

 

 「ってか、そもそも何で《孤毒の魔女》はフラウエンロープの実験材料に?」

 

 「孤児院の借金の抵当だ。強制的に徴収され、ある日突然孤児院から姿を消したのだ」

 

 悔しそうに唇を噛むユリス。

 

 「当時の私は何も知らなくてな・・・シスター達に聞いても教えてくれず、兄上に泣きついて調べてもらったのだ。当然、何とかオーフェリアを取り戻そうとしたが・・・私は自分の無力さを思い知った。統合企業財体に意見できる者など、誰もいなかったのだ」

 

 「ユリス・・・」

 

 そっか・・・だからユリスは、あれほどまでにリーゼルタニアを変えようと・・・

 

 「前々回の《王竜星武祭》を見た時は、自分の目を疑った。まるで別人のように変わり果てたオーフェリアが映っていたのだから。とてもではないが、あの・・・優しくて植物の世話をするのが大好きだった、あのオーフェリアとはまるで違ったのだ」

 

 そういや、ユリスが植物好きなのは親友の影響だって言ってたっけ・・・

 

 あれは《孤毒の魔女》のことだったんだな・・・

 

 「アスタリスクに編入してすぐ、私はオーフェリアを探し出して説得を試みた。しかし聞き入れてもらえず、『どうしてもと言うなら決闘で勝て』と言ってきたのだ。その結果は・・・言わなくても分かるだろう」

 

 「・・・あぁ」

 

 確かにユリスは強い。だが、《孤毒の魔女》の強さは次元が違う。

 

 こう言ってはユリスに申し訳ないが、勝負にならないだろう。現に今回も、《孤毒の魔女》に完膚なきまでに叩きのめされているのだから。

 

 「オーフェリアは強い。二度も敗れている以上、今の私では相手にならないことはよく分かっている。だが、それでも・・・」

 

 拳を強く握るユリス。

 

 「それでも私は・・・アイツを諦めることが出来ない。もっと強くなって、私はアイツを・・・オーフェリアを取り戻す」

 

 そこまで言うと、ユリスが自嘲気味に笑った。

 

 「・・・滑稽だろう?二度も痛い目を見ている無様なヤツが、それでもまだ痛い目を見ようとしているのだから」

 

 ユリスの表情はあの時・・・ユリスと初めて出会った日、周囲に心を開かない理由を聞いた・・・あの時に似ていた。

 

 だから俺は・・・

 

 「・・・そんなわけないだろ」

 

 ユリスを抱き締めた。あの時と同じように。

 

 「痛い目を見て、叩きのめされて・・・それでも前を向いて立ち上がれるんだ。お前は凄いヤツだよ」

 

 「七瀬・・・」

 

 急に抱き締められても、暴れることなく俺に身体を委ねてくれているユリス。この一年で育んできた信頼関係が、確かに感じられた。

 

 「俺なんて、前を向くことも出来なかった・・・いや、向いてるつもりになってたって言った方が正しいか。情けないもんだよ」

 

 シルヴィと戦う為にアスタリスクに行ったっていうのに、《神の拳》を使うことを躊躇ったり、仲間を信じることが出来ずに距離を置こうとしたり・・・

 

 ホント、思い返してみるとダメなところしかない。

 

 「・・・情けないものか」

 

 抱き締め返してくるユリス。

 

 「私が前を向けるのは・・・七瀬、お前のおかげだ。あの日のお前の言葉に、私は救われたのだ。だからこそ、私はいつだって前を向くことが出来る」

 

 あの時と違って、ユリスは俺の腕の中で微笑んでいた。

 

 「側にお前がいるのだ。これほど心強いことはあるまい。これからもよろしく頼むぞ」

 

 「・・・おう。任せとけ」

 

 もう外の寒さを感じないほど、俺の身体はユリスの温かさを感じていたのだった。

 




どうも~、ムッティです。

いやー、美しい友情だね。

シャノン「いや、友情っていうか・・・お姫様ってヒロインだったっけ?」

ヒロインはシルヴィ・・・のはず。

シャノン「そこは断言しようよ!?」

いや、《王竜星武祭》編のユリスがメッチャ可愛くなってたから・・・

ユリスへの愛に溢れてしまった結果、こうなってしまったんだ・・・

シャノン「相変わらずの浮気性だね・・・」

っていうか、今一度この作品を読み返してみるとさ・・・

ユリスがヒロインの方がしっくりこない?

シャノン「嘘でしょ!?これまでの話を全否定!?」

いや、最初の方のユリスが七瀬に心を開くシーンあるじゃん?

あそこからユリスヒロインルートでもおかしくなかったよね。

シャノン「まぁ確かに・・・フラグは立ったよね」

だよね?まぁ、最初からシルヴィをヒロインにするって決めてたからスルーしたけど。

シャノン「どうすんの?まさかのハーレム化?」

ハーレムまではいかないと思うけど・・・

ユリスを含め、何人かをヒロインにする案は検討してるわ。

シャノン「軸がブレッブレだね・・・」

まぁ連載して二年ぐらい経つからねー。

シャノン「なお、《空白の七ヶ月》が二度もあった模様」

スイマセン、ホントスイマセン・・・

とりあえず構想を練っていくので、今後の展開をお楽しみに。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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予期せぬ来訪者

『デジモンアドベンチャーtri.』を観てきました。

子供の頃に夢中で観てたデジモン・・・大人になった今、こうして続編が観られて本当に嬉しかったです。

また続きやってほしいなぁ・・・

それではいってみよー!


 「ななく~んっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 勢いよく抱きついてくるシルヴィ。

 

 年が明け、俺は万理華さんと共にシルヴィと四糸乃姉を駅まで迎えにきていた。

 

 「明けましておめでとう!今年もよろしくね!」

 

 「お、おう・・・よろしく・・・」

 

 「・・・新年早々、なーちゃんが死にかけてる」

 

 若干引いている四糸乃姉。一方、万理華さんは苦笑していた。

 

 「久しぶりだな、シルヴィ。元気そうで何よりだよ」

 

 「久しぶり、万理華さん。お世話になります」

 

 ペコリと一礼するシルヴィ。

 

 「それにしても・・・万理華さんは変わらないね。二十代のお姉さんにしか見えないなんて・・・」

 

 「フフン、美容には人一倍気を遣っているからな」

 

 「なお、未だ独身な模様」

 

 「な~な~せ~?」

 

 「ギャーッ!?頭が割れるーッ!?」

 

 万理華さんに掴まれた俺の頭から、鳴ってはいけない音がした。

 

 アカン!マジで割りにきてるよこの人!

 

 「私は結婚できないんじゃない!あえてしないんだ!」

 

 「それ完全に行き遅れた人のセリフだろ!」

 

 「行き遅れてないわ!まだまだこれからだわ!」

 

 「自惚れんなアラフィフ!」

 

 「アラフィフ言うなっ!」

 

 ギャーギャー言い合う俺達を見て、シルヴィと四糸乃姉が溜め息をつく。

 

 「・・・ねぇシノン、この二人全く変わってないね」

 

 「二人とも、精神年齢は子供のままだからね」

 

 「「子供じゃないわっ!」」

 

 同時にツッコミを入れる万理華さんと俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・ななくん?」

 

 「大変申し訳ございませんでした」

 

 シルヴィに土下座する俺。

 

 実家にユリスを連れてきたことを、シルヴィに話すのを忘れていたのだ。

 

 彼氏の実家に来たら別の女の子がいるとか・・・そりゃビックリだわ。

 

 「ふ~ん・・・彼女より先に、別の女の子を実家に連れてくるんだ・・・某バンドのボーカルみたいなことしちゃうんだ・・・」

 

 「ちょっと待てえええええっ!?あんなキノコ頭と一緒にしないでくれる!?別に不倫してるわけじゃないからな!?やましい関係じゃないからな!?」

 

 「しかも相手の女性がユリスさんだなんて・・・何?ロングヘアの外国人美女ってところまで寄せてるわけ?」

 

 「それ言ったらお前もだろうが!ってか、あの人はハーフじゃなかったっけ!?」

 

 「そんなのどうでもいいの!問題は、ななくんがゲスの極みだってことなの!」

 

 「おいいいいいっ!?それ以上ぶっこむんじゃねえええええっ!?」

 

 俺が必死にシルヴィを止めていると、それを見ていたユリスがおずおずと口を開いた。

 

 「そ、その辺にしてやってくれ・・・七瀬はただ純粋に、リーゼルタニアでのお礼ということで私を招いてくれたのだから。決して他意などないはずだ」

 

 「ユ、ユリス・・・」

 

 俺が感極まっていると、シルヴィが溜め息をついた。

 

 「ハァ・・・分かってるよ。ただ、事前に一言言ってほしかったかな」

 

 「いや、ホント面目ない・・・」

 

 これは本当に俺の配慮不足だ。反省しないとな・・・

 

 「今回は許してあげるけど、次は気を付けてね?」

 

 「あぁ、分かってる」

 

 「よし。ならこれでこの話はおしまいに・・・」

 

 「あ、そういえば七瀬・・・」

 

 話が収まりかけたところへ、五和姉が口を挟んできた。

 

 「一昨日の夜、ユリスちゃんと抱き合ってなかった?」

 

 「センテンススプリングううううううううううっ!」

 

 技名のように叫びながら、俺の顔面にグーパンをお見舞いするシルヴィなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「うぅ・・・まだ痛い・・・」

 

 「す、すまないな・・・」

 

 「ユリスちゃんは気にしなくていいよ。悪いのはなーちゃんだから」

 

 頬を擦る俺に謝るユリスと、呆れた様子の四糸乃姉。

 

 十萌に夕飯の買い出しを頼まれ、俺とユリスと四糸乃姉で行くことになったのだ。

 

 シルヴィも誘ったのだが、ご立腹だった為に拒否されてしまった。

 

 「まぁシーちゃんも、本気でなーちゃんが浮気してるなんて思ってないはずだから。そのうち機嫌直してくれると思うよ」

 

 「・・・だと良いけど」

 

 シルヴィは怒ると怖いからなぁ・・・

 

 「あ、ちょっと墓地に寄ってもいい?久しぶりに帰ってきたし、お父さんとお母さんに挨拶したいから」

 

 「勿論」

 

 俺も新年の挨拶でもしとくかな・・・そんなことを考えていると、ユリスがおずおずと口を開いた。

 

 「・・・七瀬達のご両親は、どんな人物だったのだ?」

 

 「いきなりどうした?」

 

 「いや、少し気になってな・・・あ、無理に答えなくていいからな!?」

 

 慌てるユリス。俺と四糸乃姉は顔を見合わせ、同時に吹き出した。

 

 「ハハッ、そんな気を遣うなよ。ユリスらしくもない」

 

 「なっ!?どういう意味だそれは!?」

 

 「そもそもユリスは、気を遣えるような人間じゃないだろうに」

 

 「失礼だなオイ!?私だって気を遣うことぐらいあるぞ!?」

 

 「よく言うわ。俺なんて最初、『貴様と仲良くするつもりはない』って断言されたし」

 

 「うっ・・・」

 

 言葉に詰まるユリス。

 

 「と、とにかく!無理に答える必要はないからな!」

 

 「いや、無理じゃないから」

 

 ひとしきり笑った後、俺は両親のことを思い出していた。

 

 「んー・・・父さんはお調子者だったな。よく万理華さんと悪ふざけして、母さんに怒られてたっけ」

 

 「そうそう。あの姉弟はホントよく似てたよね」

 

 昔のことを思い出したのか、笑い出す四糸乃姉。

 

 「お母さんは・・・おっちょこちょいだったよね。何もない所で転んだり、料理してる時に砂糖と塩を間違えたり・・・」

 

 「あー、あったな。懐かしいわ」

 

 あんな古典的な間違いする人、滅多にいないだろう。完全に絶滅危惧種だ。

 

 「まぁでも、間違いなく言えるのは・・・本当に良い両親だったよ」

 

 「・・・そうだね」

 

 俺の言葉に、四糸乃姉も頷いてくれる。これは一織姉達も同意見だろう。

 

 「・・・そうか」

 

 微笑むユリス。

 

 そうこうしているうちに、目の前に墓地が見えてきた。両親の墓へ向かうと、そこには既に一人の女性がいた。

 

 墓の前に佇み、じっと墓を眺めている。

 

 「あれ?誰だろう?」

 

 四糸乃姉が首を傾げる。俺は足を止め、四糸乃姉を手で制した。

 

 まさか・・・

 

 「なーちゃん・・・?」

 

 不思議そうな表情で俺を見る四糸乃姉。

 

 この星辰力の流れ・・・間違いない。

 

 「七瀬・・・?どうしたのだ・・・?」

 

 怪訝そうに問いかけてくるユリス。と、その女性がこちらを振り向いた。

 

 「ッ!?嘘ッ!?」

 

 「四糸乃さん・・・?」

 

 息を呑む四糸乃姉。ユリスは訳が分からないといった様子だ。

 

 「・・・久しぶり、七瀬」

 

 長い黒髪を風になびかせ、俺を見て微笑む女性。

 

 「大きくなったわね」

 

 「・・・まぁな」

 

 俺は固い表情のまま、目の前の女性を見つめるのだった。

 

 「久しぶり・・・零香姉」

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「まさか本当に不倫ネタをやるとは・・・」

ノリでやりました。反省はしてません。

シャノン「開き直った!?でも大丈夫?前回の某アイドル同様、今回も某バンドのボーカルをだいぶディスってるけど・・・」

大丈夫じゃない?ファンの方がいたら申し訳ないけども。

シャノン「そしてまた新キャラ出てきたね・・・零香さんだっけ?」

そうそう。モチーフキャラは、冴えない彼女の育て方の霞ヶ丘詩羽です。

シャノン「『零』ってことはもしかして・・・」

詳しくは次回のお話で明らかになります。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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祝・日刊ランキング13位!!!!!

一瞬自分の目を疑いました(笑)

皆さん、本当にありがとうございます!

それではいってみよー!


 「この方も姉上なのだな?」

 

 ユリスはそう言うと、挨拶をしようと一歩前へ踏み出した。

 

 「初めまして。私はユリス・・・」

 

 「下がってろユリス」

 

 俺はユリスを手で制する。一方、ユリスは怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

 「どうした七瀬?何故そんな怖い表情を・・・」

 

 「ユリスちゃん」

 

 四糸乃姉がユリスを後ろへ下がらせる。いつもの優しい表情は消え、険しい表情となっていた。

 

 それを見た女性が寂しげに笑う。

 

 「四糸乃・・・貴方までそんな顔をするのね」

 

 「・・・笑顔でいられるわけないでしょ?」

 

 女性を睨みつける四糸乃姉。

 

 「あの時のこと・・・忘れたなんて言わせないよ?」

 

 「おい、そろそろ説明してくれないか」

 

 話についていけず、困惑しているユリス。

 

 「その女性は、七瀬達の姉上でいいのか?」

 

 「えぇ、そうよ」

 

 俺達が答える前に、女性が微笑みながら頷く。

 

 「初めまして、《華焔の魔女》さん。私の名前は星野零香・・・星野家の長女よ」

 

 「長女・・・?長女は一織さんではなかったのか・・・?」

 

 「・・・一織姉は次女だよ」

 

 女性・・・零香姉から目を逸らさず、俺は続きを説明した。

 

 「俺達の名前には、必ず数字が入ってるだろ?だから『一』が付いてる一織姉が長女だと思われがちなんだけど・・・俺達の場合、『一』の前に『零』がいるんだよ。それがこの人・・・零香姉ってわけさ」

 

 「なるほど・・・それで?何故そこまでこの人を警戒するのだ?」

 

 「その女がとんでもない罪を犯したからよ」

 

 背後から一織姉の声がした。後ろを振り向くと・・・

 

 「・・・何で姉さん達がここに?」

 

 一織姉だけじゃない。二葉姉、三咲姉、五和姉、六月姉・・・

 

 零香姉と四糸乃姉を含めて、俺の姉さん達が勢揃いである。

 

 「年も明けたし、皆で改めてお墓参りしようってことになってね」

 

 二葉姉が説明してくれる。

 

 「万理華さん達は家に残って、夕飯の準備をしてくれてるわ。七瀬達が帰って来たら、一緒に来てくれる予定だったの。それで私達だけ、一足先にここへ来てみたら・・・」

 

 「まさかこの女がいるとは・・・」

 

 三咲姉が、鋭い眼差しで零香姉を睨んでいた。

 

 「何をしに来たのですか?」

 

 「顔が怖いわよ、三咲」

 

 溜め息をつく零香姉。

 

 「全く・・・私もずいぶん嫌われたものね」

 

 「嫌い?それはちょっと違うかな」

 

 五和姉の全身から、とてつもない殺気が溢れ出ていた。

 

 「私達はアンタが嫌いなんじゃない・・・憎いんだよ」

 

 「首肯。その通りです」

 

 同じく六月姉も、殺気を出しながらレイピアを構えていた。

 

 「少なくとも・・・今この場で斬り殺したいくらいには憎いです」

 

 「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

 殺伐とした空気に、ユリスが慌てふためいている。

 

 「皆さんは家族でしょう!?何故自分達の家族を目の敵にしているのですか!?」

 

 「言ったでしょう。その女がとんでもない罪を犯したからよ」

 

 淡々と述べる一織姉。いつもと違い、とてつもなく冷たい目で零香姉を睨んでいた。

 

 「と、とんでもない罪・・・?」

 

 「えぇ、そうよ」

 

 頷く一織姉。

 

 「その女は、私達にとって家族なんかじゃない・・・親の仇なのよ」

 

 「・・・は?」

 

 唖然としているユリス。

 

 「そ、それはどういう・・・」

 

 「・・・言葉通りの意味だよ」

 

 俺はユリスに事実を告げた。

 

 

 

 

 

 「父さんと母さんは殺されたんだ・・・零香姉にな」

 

 

 

 

 

 辺りが静寂に包まれる。重苦しい雰囲気が、この場を支配していた。

 

 「こ、殺された・・・だと・・・?」

 

 ユリスが信じられないといった表情で零香姉を見る。

 

 「この人が・・・殺した・・・?」

 

 「・・・えぇ、そうよ」

 

 瞑目する零香姉。

 

 「私は・・・父さんと母さんを・・・この手にかけたの」

 

 「「ッ!」」

 

 もう我慢できなかったのか、五和姉と六月姉が同時に飛び出す。

 

 だが・・・

 

 「止めろ」

 

 俺が両手から雷を放ち、二人の行く手を阻んだ。

 

 「っ!?七瀬!?」

 

 「何故邪魔をするのですか!?」

 

 「・・・俺に勝てない二人が、零香姉に勝てるわけないだろ」

 

 冷たく言い放つ俺。

 

 「相手との力量差が分からないほど、五和姉と六月姉も鈍くないよな?」

 

 その言葉に何も言えなくなる二人。

 

 久しぶりに会って、二人とも分かったはずだ。二人がかりで挑んでも、今の俺には勝てないということが。

 

 そして今の零香姉の力量は・・・俺よりも上だ。

 

 「へぇ・・・《魔術師》の力、上手く使いこなしているじゃない」

 

 感心している零香姉。

 

 「界龍での修行は、相当に有意義だったみたいね」

 

 「まぁな」

 

 俺は素っ気無くそう返すと、零香姉を睨んだ。

 

 「それより・・・何しに来た?殺人事件の容疑者として指名手配されてるってこと、忘れたわけじゃないよな?」

 

 「勿論。私がここに来た理由はね・・・」

 

 零香姉が俺を見た。

 

 「七瀬・・・貴方に会う為よ」

 

 「・・・理由は?」

 

 「あら、弟に会いに来るのに理由が要るのかしら?」

 

 悪戯っぽく笑う零香姉。俺は手を前に突き出し、すぐに雷を放てるようにした。

 

 「くだらない戯言は要らない。もう一度聞くけど・・・理由は?」

 

 「勧誘よ」

 

 笑みを消し、真剣な表情になる零香姉。

 

 「七瀬、貴方・・・私と一緒に来ない?」

 

 「ふざけるなッ!」

 

 俺が何かを言う前に、三咲姉が激昂する。

 

 「貴方は自分が何を言ってるか分かってるんですか!?」

 

 「当然じゃない。何か問題でもあるのかしら?」

 

 「大アリよッ!」

 

 二葉姉が声を荒げた。

 

 「封印されていた《神の拳》を七瀬に与えたのはアンタでしょ!?そのせいで七瀬がどれほど苦しんできたと思ってんのよッ!」

 

 そう、俺が《神の拳》を手にすることになったキッカケ・・・

 

 それこそが、目の前にいる零香姉なのだ。

 

 「それが今になって一緒に来いですって!?ふざけるのも大概にしなさいッ!」

 

 怒りで震えている一織姉。そんな姉さん達の様子を見て、零香姉が嘆息する。

 

 「貴方達、ずいぶん七瀬を大事にしているのね・・・その割には七瀬が苦しんでいた時に、何の力にもなれてなかった気がするんだけど?」

 

 その言葉に、姉さん達の表情が歪む。零香姉はさらに続けた。

 

 「七瀬が《鳳凰星武祭》で暴走した時もそう・・・一織と二葉は七瀬を止められず、三咲も四糸乃も見てるだけだった。五和と六月なんて、純星煌式武装に頼ってまで七瀬に勝とうとするし・・・特に五和は、七瀬を痛ぶった挙句ずいぶん酷いこと言ってたわよね?臆病者だの何だのって」

 

 拳を握りしめたまま、何も言えなくなる姉さん達。特に五和姉は、血が滲むほど強く唇を噛んでいた。

 

 「そんな情けない貴方達に、七瀬のことをどうこう言う資格があるとは思えないわ。正直に言って、貴方達に七瀬は任せられない」

 

 「そんなのお前も同じだ」

 

 別の声が割り込んでくる。振り向くと、万理華さんが立っていた。

 

 「万理華さん・・・」

 

 「七瀬・・・無事で良かった」

 

 俺の頭を撫でた万理華さんは、零香姉を睨みつけた。

 

 「久しぶりね、万理華さん。夕飯の支度は良いのかしら?」

 

 「八重達に任せてきた。七瀬達の帰りが遅いから、様子を見に来たんだが・・・まさかお前がいるとはな」

 

 俺の前に立つ万理華さん。

 

 「七瀬は渡さん。お前は一織達に、七瀬のことを任せられないと言ったが・・・私としてはむしろ、お前にだけは七瀬のことを任せられない。七瀬を苦しめて放置した挙句、千里と百愛を手にかけたお前を・・・私は絶対に許さない」

 

 「・・・許さない、ですって?」

 

 その瞬間・・・零香姉の身体から、とてつもないプレッシャーが放たれる。

 

 このプレッシャーのレベルは・・・

 

 「バカな・・・オーフェリアクラスだと・・・?」

 

 震えているユリス。そう、アスタリスク最強の《魔女》である《孤毒の魔女》クラスのプレッシャーだった。

 

 これほどまでの強さなのか・・・ッ!

 

 「・・・許さないのは私の方よ、万理華さん」

 

 「何・・・?」

 

 最大限に警戒しながら、万理華さんが聞き返す。

 

 「私が何も知らないとでも思ったの?私には・・・父さんとも母さんとも、血の繋がりが無いのよね?」

 

 「なっ・・・」

 

 言葉を失う万理華さん。

 

 えっ・・・今何て・・・

 

 「私は皆と血が繋がっていない・・・たった一人を除いて」

 

 零香姉の視線の先には・・・俺がいたのだった。

 

 「私と七瀬は・・・父さんと母さんの本当の子供じゃないのよ」

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「ねぇ作者っち、何か流れがシリアスなんだけど・・・」

いやー・・・どうしよう。

シャノン「これ書いてるの作者っちだよねぇ!?」

七瀬の両親が亡くなっている設定は、執筆を始めた当初から決めてたのよ。

何者かの手によって殺された、という設定も決めてました。

そこで登場させたのが零香なんだよね。

シャノン「しかも零香さんとななっちは、本当は星野家の子供じゃなかったと・・・」

この設定はちょっと悩んだけどねー。

正直、風呂敷を広げすぎた感は否めない・・・

とりあえず今後の展開を見守ってほしいと思います。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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LiSAさんのベストアルバムがマジで神!

LiSAさん、藍井エイルさん、TRUEさん・・・個人的にこの三人のことを、三大歌姫として尊敬しています。



 時が止まった・・・そう錯覚させるほど、その場の空気が凍った。

 

 「・・・は?」

 

 ようやく声を絞り出すことに成功した俺。

 

 「零香姉と俺が・・・父さんと母さんの子供じゃない・・・?」

 

 「えぇ、そうよ」

 

 俺の言葉に頷く零香姉。

 

 

 

 

 

 「私達の実の母親は・・・貴方よね?万理華さん?」

 

 

 

 

 

 「ッ!?」

 

 万理華さんが信じられないという表情で零香姉を見つめる。

 

 「お前・・・どうしてそれを・・・!」

 

 「それを貴方に教える義理は無いわね」

 

 冷たく言い放つ零香姉。そんな・・・

 

 「万理華さん・・・?」

 

 震える声で万理華さんを呼ぶ。

 

 「零香姉の言葉は・・・本当なのか・・・?」

 

 俺の質問に、唇を噛んで俯く万理華さん。見ると、一織姉達も苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 ってことは・・・

 

 「皆・・・知ってたのか・・・?」

 

 「・・・知ってたわ」

 

 力なく頷く一織姉。

 

 「七瀬が万理華さんの子供だってことは知ってた。知らないのは、八重と九美と十萌だけ。ただ・・・」

 

 万理華さんを見る一織姉。

 

 「あの女も万理華さんの子だってことは、私達も今初めて聞いたわ・・・万理華さん、本当なの?」

 

 「・・・あぁ」

 

 うなだれる万理華さん。

 

 「零香と七瀬を産んだのは百愛じゃない・・・私だ」

 

 「そんなの関係ないよっ!」

 

 四糸乃姉が叫ぶ。

 

 「お母さんの子でも万理華さんの子でも関係ない!なーちゃんは私達の弟だもん!それに万理華さんは私達の伯母さんでしょ!?なら、私達だって血が繋がってるじゃない!」

 

 「言ったはずよ、四糸乃」

 

 零香姉が溜め息をつく。

 

 

 

 

 

 「私と七瀬は、皆と血が繋がってないって。万理華さんはね、貴方達の伯母でも何でもない・・・本来、星野家とは全く無関係の人間なの」

 

 

 

 

 

 「なっ・・・」

 

 絶句する四糸乃姉。

 

 万理華さんが・・・星野家と無関係の人間・・・?

 

 「父さんの姉というのは嘘で、星野万理華という名前も偽名・・・その人はね、嘘で塗り固められた存在なのよ」

 

 吐き捨てるように言う零香姉。万理華さんが俯き、わなわなと震えている。

 

 「う、嘘ですよね・・・?」

 

 恐る恐る万理華さんに尋ねる三咲姉。

 

 「あの女の虚言ですよね・・・?そうなんですよね・・・?」

 

 「・・・事実だ」

 

 顔を上げた万理華さんは、力なく笑った。

 

 「零香の言う通り、私は・・・お前達の伯母じゃない」

 

 「そんな・・・」

 

 その場に崩れ落ちる二葉姉。一方、零香姉は薄ら笑いを浮かべていた。

 

 「ようやく認めたわね・・・気分はどう?万理華『お母様』?」

 

 「止めろ」

 

 零香姉を睨む万理華さん。

 

 「私はとうの昔に、母を名乗る資格など捨てた身だ。今さらお前と七瀬の母親を名乗るつもりはない。それに・・・」

 

 万理華さんの身体から、膨大な星辰力が溢れ出す。

 

 「私の恩人を・・・千里と百愛を手にかけたお前だけは、絶対に許さん。お前を産んだ身として・・・私は責任をとらないといけない」

 

 「責任?どうやって?」

 

 「決まっているだろう・・・お前を私の手で始末することで、だッ!」

 

 そう叫んだ瞬間、万理華さんの姿が消えた。

 

 そして零香姉に急接近し、その顔に拳を叩き込もうとするが・・・

 

 「やらせないぜ?」

 

 二人の間に割って入った人物がいた。その人物が、万理華さんの拳を抑えている。

 

 「・・・ッ!その気配・・・人間じゃないな?」

 

 「まぁな」

 

 銀髪の少女が、ニヤリと笑みを浮かべていた。

 

 この気配って・・・

 

 「まさか・・・純星煌式武装!?」

 

 「正解よ。流石は七瀬ね」

 

 微笑む零香姉。

 

 「私の純星煌式武装が人型に具現化した姿・・・それがこの子よ」

 

 「マスターは零奈って呼んでるぜ。よろしくな、マスターの弟」

 

 笑って手を振ってくる零奈。

 

 まさか七海以外に、人型に具現化できる純星煌式武装があったなんて・・・

 

 「くっ・・・!」

 

 一旦零奈と距離をとる万理華さん。だが・・・

 

 「おっと、逃げんなよ。マスターの母上殿」

 

 すぐさま距離を詰める零奈。そのまま拳を振るう。

 

 「マスターを殺したいんだろ?それならアタシを倒さなきゃ無理だぜ?」

 

 「身体を張って主人を守るとは、大したものだな・・・!」

 

 忌々しそうな顔をしながら、攻撃を全て避ける万理華さん。

 

 「それでも、お前に私は倒せん・・・!」

 

 「倒す必要なんてないさ。何故なら・・・」

 

 ドスッという音が響く。それと同時に、万理華さんの動きが止まった。

 

 「アンタを倒すのは・・・マスターの仕事だからな」

 

 万理華さんの背後には・・・いつの間にか、零香姉が立っていた。

 

 手に持っている剣型の煌式武装の刀身が、万理華さんの身体に突き刺さっている。

 

 「・・・終わりよ」

 

 そのまま斬り払う零香姉。万理華さんの身体から、大量の鮮血が迸った。

 

 呆然としている俺達の目の前で、その場に倒れこむ万理華さんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 俺達は呆然と立ち尽くしていた。

 

 一織姉も、二葉姉も、三咲姉も、四糸乃姉も、五和姉も、六月姉も・・・目の前の光景が信じられなかった。

 

 これじゃ、あの時と同じ・・・

 

 「咲き誇れ!赤円の灼斬花!」

 

 ユリスの叫び声が聞こえた。炎の刃を回転させながら、いくつもの戦輪が零香姉と零奈に襲いかかる。

 

 「あらあら」

 

 「おっと」

 

 それを避け、距離をとる二人。そこでようやく俺もハッとなった。

 

 「一織姉ッ!万理華さんの治療を頼むッ!」

 

 「ッ!了解!」

 

 一織姉が急いで万理華さんの下へと駆け寄っていく。

 

 「させると思っているのかしら?」

 

 「ッ!?」

 

 一織姉に接近する零香姉。だが・・・

 

 「はぁっ!」

 

 三咲姉が《聖王剣》をふるい、零香姉をけん制する。それを避ける零香姉だったが、今度は背後から二葉姉が攻撃をしかける。

 

 「やぁっ!」

 

 「チッ・・・零奈!」

 

 「はいよっ!」

 

 零香姉の指示で、零奈が一織姉を邪魔しようとする。

 

 「させるかッ!七海ッ!」

 

 「はい、マスター!」

 

 名前を呼ぶと《神の拳》が出現し、光に包まれながら人型に具現化した。

 

 「零奈の足止めを頼むッ!」

 

 「了解!」

 

 零奈に突っ込んでいく七海。

 

 「おぉっ、アタシと同じヤツがいるとは!燃えるねぇ!」

 

 嬉々として七海を迎え撃つ零奈。その隙に、俺は一織姉の下へ向かった。

 

 「一織姉!万理華さんは!?」

 

 「大丈夫!治してみせる!」

 

 一織姉の手から光が溢れ、万理華さんの傷口を塞いでいく。

 

 相変わらず凄いな・・・これが治癒能力か・・・

 

 「ぐあっ!?」

 

 「がはっ!?」

 

 苦悶の声が響いた。慌てて振り返ると、二葉姉と三咲姉が零香姉に倒されていた。

 

 二人がボロボロなのに対して、零香姉には傷一つ付いていない。

 

 「くそっ!アイツッ!」

 

 「許せませんッ!」

 

 五和姉と六月姉が飛び出そうとするが・・・

 

 「ストップ」

 

 再び手で制する俺。五和姉が怒りの形相でこちらを見る。

 

 「何でよ七瀬!?敵わないとか言ってる場合じゃ・・・!」

 

 「分かってるよ。だから零香姉は俺が止める。五和姉と六月姉は七海を、四糸乃姉とユリスは万理華さんと一織姉を頼む」

 

 「抗議!七瀬一人であの女を止めるなど・・・!」

 

 「・・・いいから下がってろ」

 

 「・・・ッ!」

 

 俺の身体から溢れる殺気に、六月姉が息を呑む。俺はそのまま歩みを進めた。

 

 「な、七瀬・・・」

 

 「二葉姉、三咲姉・・・ありがとう。後は任せろ」

 

 立ち上がろうとする二葉姉と三咲姉の前に立ち、零香姉と対峙する俺。

 

 「あら、嬉しいわ」

 

 ニッコリ微笑む零香姉。

 

 「七瀬が相手してくれるなんて・・・わざわざ帰ってきた甲斐があったわね」

 

 「そりゃどうも」

 

 目を閉じ、深く息を吸う。そして・・・

 

 「だったら・・・死ぬほど後悔させてやるよ」

 

 俺の全身から、眩い雷が迸るのだった。

 




二話連続投稿となります。

Aqua Timez、今年で解散するってよ・・・

シャノン「前書きのテンションは何処へやら・・・」

中学の時から聴いてたからさぁ・・・青春時代を思い出すよね。

シャノン「一番好きな曲は?」

んー、悩むけど・・・『千の夜をこえて』かな。

シャノン「あー、劇場版BLE●CHの主題歌だった曲だよね?」

そうそう。この曲には思い出があってさぁ・・・

シャノン「というと?」

中学の時、好きな女の子に告白すべきかどうか迷ってたことがあってさ。

告白して振られたら、それまでの友達関係が崩れると思って・・・

シャノン「怖かったんだね」

メッチャ怖かった。でもそんな時、『千の夜をこえて』を聴いてさ。

歌詞に凄く励まされたんだよね。

シャノン「好きな人に好きっていう気持ちを伝えるんだ、みたいな歌詞だもんね」

そうなんだよ。

それを聴いて『結果がどうなっても、ちゃんと気持ちを伝えたいな』って思って。

勇気を出してその子に告白したわけ。

シャノン「マジか!で、結果は!?」

はい、振られました。

シャノン「oh・・・」

まぁ後悔はしてないけどね。

その子が凄く申し訳なさそうにしてて、逆にこっちが申し訳なくなったくらいで・・・

でもその子も、『気持ちは凄く嬉しかった』って言ってくれたし。

伝えられて良かったなって思ったよね。

『千の夜をこえて』を聴くと、今でも当時のことを思い出すよ。

シャノン「青春の思い出だねぇ・・・」

そうなんだよねー。だから解散は凄く寂しいけど・・・

これも時代の流れというやつなんだろうか・・・



という、物語とまるで関係ない話を長々としてしまいましたが(笑)

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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介入

京都弁って難しい・・・

今ちょうど冬香との会話を書いているのですが、上手くいきませんね・・・



 《ユリス視点》

 

 

 

 「二葉お姉ちゃん、三咲お姉ちゃん、大丈夫?」

 

 「えぇ、何とかね」

 

 「ありがとうございます」

 

 四糸乃さんと私は、二葉さんと三咲さんを避難させていた。五和さんと六月さんは、七瀬の指示通り七海と共に戦っている。

 

 そして七瀬は・・・

 

 「はぁっ!」

 

 「フフッ、いい動きじゃない!」

 

 あの女・・・零香さんと戦っていた。七瀬の拳や蹴りを、零香さんが避けたりいなしたりしている。

 

 それにしても・・・

 

 「何なの、あの動きの早さ・・・」

 

 「えぇ、《鳳凰星武祭》の時とは段違いです」

 

 驚いている二葉さんと三咲さん。雷による身体強化をしている七瀬の動きは、私では目で追えないほどだった。

 

 封印解除状態の綾斗より早いんじゃないか・・・?

 

 「・・・でも、防がれてる」

 

 四糸乃さんが呟く。

 

 「身体強化しているなーちゃんと互角にやりあうなんて・・・」

 

 「・・・えぇ。悔しいけど、あの女は強いわ」

 

 唇を噛む二葉さん。その時・・・

 

 「《雷帝の閃槍》ッ!」

 

 巨大な雷の槍が出現し、七瀬が零香さんを目掛けて放った。

 

 「ッ!」

 

 咄嗟に避けた零香さんだったが・・・そこには七瀬がいた。

 

 「なっ!?」

 

 「《雷華崩拳》ッ!」

 

 濃密な雷を纏った七瀬の拳が、零香さんの腹部にめり込んだ。

 

 「かはっ!?」

 

 凄まじい勢いで吹き飛ぶ零香さん。す、凄い・・・

 

 「あの七瀬がここまで・・・」

 

 三咲さんが呆然としている。と・・・

 

 「フフッ・・・フフフッ・・・!」

 

 零香さんが笑いながら立ち上がる。

 

 「素晴らしいわ!ちゃんと自分の力を使いこなせているじゃない!まさか七瀬から一撃もらうなんて思わなかったわ!」

 

 「・・・そりゃどうも」

 

 一方、七瀬は零香さんを睨んでいた。

 

 「《魔女》の力も使わないなんて・・・ずいぶん手加減してくれるんだな」

 

 「フフッ、ちょっとした小手調べよ」

 

 楽しげに笑う零香さん。

 

 「さぁ、ここからが本番・・・」

 

 「待て」

 

 聞き覚えのない声がした。

 

 突如、零香さんの隣に一人の女性が現れる。黒いローブを身にまとっており、得体の知れない雰囲気を醸し出していた。

 

 その雰囲気に、私は警戒を強める。

 

 「ヴァルダ・・・何故ここに?」

 

 「お前を連れて帰るよう言われたのでな」

 

 勝負の邪魔をされて不満げな零香さんに、淡々と答える女性。

 

 「オーフェリアといいお前といい、少々油を売りすぎだ。さっさと帰るぞ」

 

 「ハァ・・・分かったわよ。零奈!」

 

 「あいよっ!」

 

 七海達と戦っていた零奈が、勢いよくジャンプして零香さんの下へ戻る。零香さんは溜め息をつくと、七瀬の方を見た。

 

 「ゴメンなさい七瀬。勝負はお預けみたい」

 

 「・・・お仲間か?」

 

 女性の方を見る七瀬。その表情は険しかった。

 

 「純星煌式武装の力が強い・・・まさか、その人の身体を乗っ取ってるのか・・・?」

 

 「ほう・・・よく分かるな」

 

 女性が感心している。純星煌式武装が、人の身体を乗っ取るだと・・・?

 

 「バカな・・・有り得ない・・・」

 

 「そうでもないさ」

 

 私の呟きに七瀬が答える。

 

 「現にイレーネだって、《覇潰の血鎌》に身体を乗っ取られてただろ」

 

 「・・・ッ!」

 

 そうだ・・・確かに《鳳凰星武祭》で戦った時、アイツは乗っ取られていた。

 

 だがコイツには・・・

 

 「まぁ、自我があって喋ってるっていうのは驚きだけどな・・・しかも七海や零奈みたいに人型に具現化したわけではなく、人の身体を乗っ取って喋るとは・・・」

 

 「・・・ウルスラ?」

 

 またしても声がする。ただ今回は、聞き覚えのある声だった。

 

 「ッ!?シルヴィ!?」

 

 七瀬が驚いている。息を切らしたシルヴィア・リューネハイムが、女性を見て驚愕の表情を浮かべていた。

 

 「ウルスラ・・・ウルスラだよね!?」

 

 「・・・この身体の関係者か」

 

 女性がシルヴィアの方を見る。

 

 「警告しておくが、この身体はもう我のものだ。二度と関わるでない」

 

 「ッ!?ウルスラじゃない・・・貴方は誰!?ウルスラに何をしたの!?」

 

 「答える義理はない」

 

 女性がそう言った途端、ローブの下から黒い光が膨れ上がる。

 

 瞬く間に辺り一体が真っ暗になり、視界が奪われるどころか気配さえ感じ取れなくなった。

 

 「フフッ、またね七瀬。勧誘の件、考えておいてちょうだい」

 

 零香さんの声が聞こえる。やがて少しずつ視界が晴れてくるが、零香さん達の姿は何処にも見当たらなかった。

 

 「ウルスラ・・・」

 

 その場に崩れ落ちるシルヴィア。七瀬がこちらを振り向いた。

 

 「一織姉、万理華さんは?」

 

 「傷口は塞がったわ。これで大丈夫なはずよ」

 

 「サンキュ。とにかく家に戻ろう。八重達も心配してるだろうし」

 

 七瀬はシルヴィアの側へ行き、頭を優しく撫でた。

 

 「さて・・・どうしたもんかな・・・」

 

 そう呟く七瀬の表情は、苦渋に満ちていたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ハァ・・・」

 

 父さんと母さんの墓の前に座りこみ、俺は溜め息をついていた。

 

 昨日の戦いの後・・・ボロボロになって帰宅した俺達を見て、八重達は驚いていた。血の気を失った万理華さんを見た時なんて、あの十萌が泣き叫んだくらいだ。万理華さんは、未だに意識が戻っていない。

 

 二葉姉達の怪我も一織姉が治してくれたが、問題は心の方だった。突如として現れた零香姉が、今度は万理華さんを手にかけようとした・・・その事実は、俺達の心に重くのしかかっていた。

 

 八重達にいたっては、零香姉と俺が万理華さんの子であるという事実も知ってしまったわけだし・・・よりショックが大きいだろう。

 

 まぁ、誰よりもショックを受けているのは・・・

 

 「俺、なんだろうな・・・」

 

 小さく呟く。俺は父さんと母さんの子供ではなかった。

 

 つまりあの二人は、本当の子供でもない俺に散々迷惑をかけられた挙句、本当の子供でもない零香姉に殺されたということになる。

 

 そんなの・・・

 

 「あんまりだろ・・・ッ」

 

 拳を強く握りしめる。と・・・

 

 「やっぱりここにいたんだね」

 

 背後から声がする。振り向かなくても、俺には誰だか分かった。

 

 「大丈夫なのか・・・シルヴィ」

 

 「うん、もう大丈夫。心配かけてゴメンね」

 

 笑いながら俺の隣に座るシルヴィ。

 

 あの後、シルヴィは部屋でずっと塞ぎこんでいたのだ。九美によると、昨日は帰りが遅い俺達を心配して様子を見るために家を出たらしい。

 

 結果としてシルヴィは、知り合いが身体を乗っ取られているという残酷な現実を知ってしまったのだ。

 

 「ななくんこそ・・・大丈夫?」

 

 「・・・とは言えないな」

 

 「・・・だよね」

 

 重い雰囲気に包まれる。と、シルヴィが口を開いた。

 

 「・・・ウルスラはね、私の先生なんだ」

 

 「先生・・・?」

 

 「うん。私に歌や格闘技を教えてくれた先生・・・それがウルスラなの」

 

 空を見上げるシルヴィ。

 

 「そのウルスラが行方不明になって・・・私の能力で探したら、アスタリスクにいるってことが分かったの。でも、そこから先は絞り込めなかった」

 

 「じゃあもしかして、《歓楽街》に来ることが多いって言ってたのは・・・」

 

 「うん、ウルスラを探すのにちょっとね。時間がある時に変装して、色々と探して回ってるんだ。まぁ、ここで会えるとは思わなかったけど」

 

 シルヴィが苦笑する。

 

 「でもまさか、純星煌式武装に身体を乗っ取られてるなんて・・・何があったのか知らないけど、ずいぶん危ない話になってきちゃったなぁ・・・」

 

 「・・・でも、諦める気はないんだろ?」

 

 「当たり前じゃない」

 

 笑顔で即答するシルヴィ。まぁ、そうだろうと思ったよ・・・

 

 「今さら焦ることもないしね。何があったかじっくり突き止めようと思ってるよ」

 

 「・・・そういうことなら、俺も協力するからな。動く時はちゃんと言えよ」

 

 「うん。ありがとね」

 

 シルヴィは微笑むと、俺の肩に寄りかかってきた。

 

 「・・・ななくんは、ななくんだからね」

 

 「え・・・?」

 

 「誰の子供だとか、誰と血が繋がってないとか・・・そんなの関係ない。私も皆も、ななくんのことが大好きなんだよ。それを忘れないでね」

 

 「シルヴィ・・・」

 

 ホントにもう・・・敵わないわマジで。

 

 「・・・ありがとな」

 

 「うんっ」

 

 「七瀬っ!」

 

 声がしたので振り向くと、ユリスが走ってくるところだった。

 

 「万理華さんが目覚めたぞ!」

 

 「「ッ!」」

 

 俺とシルヴィは顔を見合わせ、急いで立ち上がるのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「零香さんとの勝負はお預けになったね」

いずれ二人がぶつかる時が来るよ・・・多分。

シャノン「断言しないんだ・・・」

それより、早いところ《獅鷲星武祭》編の執筆を進めないと・・・

シャノン「今は学園祭の場面を書いてるんだっけ?」

そうそう。他学園の生徒達と絡ませてるところ。

あと、もっとシルヴィとイチャイチャさせないと・・・

シャノン「何その使命感・・・」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」




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葛藤

久々にAqua Timezの曲が聴きたい・・・

今、頭の中で『真夜中のオーケストラ』が流れてる・・・


 俺達が家に戻ると、万理華さんが布団から身体を起こしていた。その周囲で、一織姉達が心配そうな表情で見つめている。

 

 「万理華さん・・・」

 

 「・・・七瀬か」

 

 力なく笑う万理華さん。

 

 「無事で良かった・・・」

 

 「一番無事じゃない人が何言ってんの」

 

 万理華さんの側に座る俺。

 

 「身体はどう?」

 

 「一織のおかげで何ともないさ。ありがとう、一織」

 

 「良かった」

 

 笑顔を見せる一織姉。一方、万理華さんの表情は冴えなかった。

 

 「・・・すまなかったな」

 

 「え・・・?」

 

 「零香が言っていただろう。私は・・・嘘で塗り固められた存在なんだ」

 

 俯く万理華さん。

 

 「私は・・・お前達の伯母なんかじゃない。千里の姉なんかじゃない。私は・・・星野家の人間じゃないんだよ」

 

 「・・・どういうことか、説明してくれる?」

 

 俺は万理華さんの背中に手を添えた。

 

 「正直俺は、まだ何が何だか分からなくて・・・ちゃんと事実を聞いた上で、しっかり判断したいんだ。だから・・・これまでのことを教えてほしい」

 

 「・・・分かった」

 

 溜め息をつく万理華さん。そしてポツリポツリと語り出した。

 

 

 

 

 

 「私はな・・・昔の記憶が一切無いんだ。いわゆる記憶喪失ってやつだな」

 

 

 

 

 

 「ッ!?」

 

 息を呑む俺達。万理華さんが・・・記憶喪失・・・?

 

 「気がついた時、私は山の中で倒れていた。そこを通りかかった千里と百愛に発見されて、私はこの家へと連れてこられた」

 

 淡々と語る万理華さん。

 

 「二人は私を手当てしてくれた。だが、その過程で分かってしまったんだ・・・私が妊娠しているということを」

 

 「まさか・・・それが零香お姉ちゃん・・・?」

 

 「あぁ」

 

 四糸乃姉の言葉に、万理華さんが頷く。

 

 「最悪なことに、私はそれまでの記憶を一切無くしているからな・・・自分の名前や家族、今まで何処で生活してきたか・・・何も思い出すことができなかった。当然、お腹の中の赤ん坊の父親のことも。だから私は未だに、零香の父親を知らないんだ」

 

 父親不明、か・・・万理華さんが記憶を失っている以上、探し出すことは出来そうにないよな・・・

 

 「行く当ても帰る当ても無い私は、千里と百愛の厚意でここに住むことになった。『星野万理華』という名前をもらい、やがて零香を産んだ。私は二人に頼んで、零香を二人の子供として育ててもらうことにした」

 

 「どうして・・・?」

 

 十萌の疑問に、万理華さんが苦笑する。

 

 「父親が誰か分からない・・・そんな事実、零香には口が裂けても言えないと思ったからだ。辛い気持ちにさせてしまうだろうし、何より・・・母親の方も本名じゃないしな。それなら、二人の子供として育った方が幸せだと思ったのさ」

 

 「万理華さん・・・」

 

 万理華さんなりに零香姉の幸せを願って、零香姉を二人に託したのか・・・

 

 「そこからは穏やかな暮らしが続いたよ。千里と百愛の間には、一織・二葉・三咲・四糸乃・五和・六月が生まれた。零香も二人の子供としてすくすく育ち、妹達の面倒を見てくれるいい姉になった。私は千里の姉・・・お前達の伯母ということにしてもらい、お前達の成長を見守っていた。だが・・・」

 

 万理華さんの表情が歪む。

 

 「五和と六月が生まれて一年ほど経ったあたりから・・・私はまた記憶が無いんだ」

 

 「え・・・?」

 

 「・・・万理華さん、急に姿を消してしまったの」

 

 困惑する俺に、一織姉が説明してくれる。

 

 「『少し家を空けるけど、心配しないでくれ』っていう書き置きを残して、ある日突然いなくなってしまったのよ。それから一年以上、万理華さんは帰ってこなかったわ」

 

 「一年以上も・・・?」

 

 それ程の期間、万理華さんはどこで何を・・・

 

 「万理華さんがいなくなって、一年以上が過ぎたある日の朝・・・万理華さんが家の前で倒れてたの。慌てて介抱して、万理華さんは目を覚ましたんだけど・・・」

 

 「・・・目が覚めた私は、その期間の記憶が無かったんだよ」

 

 唇を噛む万理華さん。

 

 「私の最後の記憶は、一織達と一緒に布団に入って寝るところまで・・・目が覚めたら子供達が大きくなってて驚いたよ。一年以上姿を消していたことを聞かされた時は、とてもじゃないが信じられなかったくらいだ」

 

 「じゃあ万理華さんは、その間のことは全く覚えていないんですか?」

 

 「あぁ、何もな」

 

 万理華さんが八重の質問に頷く。

 

 「そしてさらに衝撃を受けたのは・・・私のお腹に、また命が宿っていたことだった」

 

 「ッ・・・まさか・・・」

 

 つまりそのお腹の中の子供っていうのが・・・

 

 「あぁ・・・七瀬だ」

 

 「・・・そういうことか」

 

 やはり俺も、父さんと母さんの子供ではなかった。

 

 にも関わらず、二人の子供として育てられてきたのは・・・零香姉と同じ理由だろう。

 

 「父親が分からないという事実を伏せる為、父さんと母さんの子として育てることになったってわけか・・・」

 

 「・・・すまない」

 

 万理華さんの目に涙が浮かぶ。

 

 「その方が七瀬にとって・・・幸せだと思ったんだ・・・」

 

 「・・・後は知っての通りよ」

 

 二葉姉が後を引き継ぐ。

 

 「その後に八重・九美・十萌が生まれた。そしてあの日・・・あの女が、父さんと母さんに手をかけた」

 

 「・・・ずっと疑問に思っていました」

 

 三咲姉が俯く。

 

 「何故あの女は、お父様とお母様を手にかけたのだろうと。しかしその事情を聞いて、何となく察しました。恐らくあの女は・・・」

 

 「自分が父さんと母さんの子ではないことを何らかの方法で知り、裏切られた気分になった・・・そんなところだろうね」

 

 拳を強く握りしめる五和姉。

 

 「そんなの・・・そんなの自己中すぎだよッ!父さんと母さんは、私達を全員愛してくれてたッ!大切に育ててくれてたッ!それなのに・・・ッ」

 

 「だからこそ・・・じゃないかな」

 

 俺の発現に、皆が驚いたような顔でこちらを見る。

 

 「最初に言っておくけど、俺は零香姉を庇うつもりは一切無いから。その上で推測を言わせてもらうけど・・・大切に育ててもらったからこそ、零香姉はショックだったんじゃないかな・・・自分が父さんと母さんの子供じゃないっていう事実が」

 

 俺でさえこれほどショックを受けているのだ。零香姉はああ見えて繊細なところがあったし、俺以上にショックを受けてもおかしくない。

 

 ましてや零香姉は・・・星野家の長女として生きてきたわけだしな。

 

 「もしあの時、血の繋がりさえ無いという事実を知っていたのなら・・・ショックはより一層大きかったと思う」

 

 「七瀬・・・」

 

 「・・・まぁそれでも、零香姉の犯した罪は決して許されることじゃない」

 

 育ての親を手にかけたんだ・・・罪としてはあまりにも重すぎる。

 

 

 

 

 

 「零香姉は・・・俺がこの手で殺す」

 

 

 

 

 

 「ッ!」

 

 息を呑む皆。

 

 「それが・・・あの人と血の繋がった者として、俺ができる唯一の償いだ」

 

 「償いって・・・七瀬兄さんは何も悪くないでしょう!?」

 

 九美が慌てて身を乗り出してくる。

 

 「七瀬兄さんに罪はありません!悪いのは零香姉さんじゃありませんか!」

 

 「・・・罪ならあるさ。俺にもな」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「父さんと母さんは、実の子でもない俺を大事に育ててくれた。なのに俺は・・・あの二人にたくさん迷惑をかけてきた。力を暴走させ、周りの人を傷つけ・・・俺はあの二人に、何も返すことが出来なかった」

 

 俺の存在が、どれほどあの人達を困らせたんだろう・・・それを考えると心が痛い。

 

 「挙句あの二人は、実の子でもない零香姉に命を奪われた・・・俺達がいたから、あの二人は死んだんだ」

 

 「それは違う!」

 

 万理華さんが叫んだ。

 

 「全て私のせいだ!私が記憶を失い、千里と百愛に甘えたからこんなことに・・・!」

 

 「それでも、こうなったのは俺と零香姉に責任がある」

 

 淡々と答える俺。

 

 「結果として二人は死んだ。それが全てだ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「だからこそ俺は・・・この手で零香姉を殺す」

 

 俺は拳を握った。

 

 「父さんと母さんから受けた恩は、結局本人達には何も返せなかったけど・・・せめて仇だけはとる」

 

 俺の言葉に、皆何も言えずにいた。力なく笑う俺。

 

 「俺、明日アスタリスクに戻るよ。これ以上ここにいると、また皆に迷惑かけそうだから。零香姉の狙いは俺だしな・・・ユリス、それで良いか?」

 

 「わ、私は構わないが・・・」

 

 いつになく歯切れの悪いユリス。だいぶ気を遣わせてしまったようだ。

 

 「シルヴィはどうする?」

 

 「・・・私はもう少し残ろうかな。シノンと一緒に帰るよ」

 

 「そっか・・・それじゃ、早いとこ荷物を纏めないとな」

 

 そう言って、俺は部屋を後にした。自分の部屋へと向かう俺の頭の中には、先程の皆の沈痛な表情が浮かんでいた。

 

 「・・・これで良かったんだよな」

 

 一人呟く俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《ユリス視点》

 

 

 

 七瀬が出て行った後、部屋は重苦しい雰囲気に包まれていた。誰も口を開かず、俯いたり唇を噛んだりしている。

 

 私も動けないでいると・・・

 

 「・・・本当にこれで良いの?」

 

 シルヴィアが口を開いた。

 

 「ななくんの口ぶりからして、もうこの家に帰ってこないつもりだと思うよ?アスタリスクに戻っても、皆とは距離を置こうとするんじゃないかな」

 

 「・・・でしょうね」

 

 溜め息をつく三咲さん。

 

 「あの子は昔から、他人を巻き込むのを嫌いますから」

 

 「・・・皆はそれで良いの?」

 

 「・・・良いわけないじゃない」

 

 二葉さんが拳を握りしめる。

 

 「血の繋がりなんて関係ないわ。七瀬も万理華さんも、私達の大切な家族だもの。私達の想いは変わらない。でも・・・」

 

 「今のなーちゃんに、どんな言葉をかけるべきなのか・・・分からないんだよ」

 

 涙ぐんでいる四糸乃さん。

 

 「いくら私達が、血の繋がりなんて関係ないって言ったとしても・・・なーちゃんにとっては、やっぱりショックだったと思うから」

 

 「私達の言葉じゃ、今の七瀬の心には響かないだろうね・・・」

 

 「首肯。かける言葉が見つかりません・・・」

 

 五和さんと六月さんもうなだれている。

 

 皆それぞれ、七瀬のことを大切に思っている。だからこそ、今の七瀬に言葉をかけられない。

 

 もどかしいな・・・

 

 「・・・すまない」

 

 万理華さんが頭を下げる。

 

 「私がしっかり事情を説明していたら・・・いや、そもそも千里と百愛に甘えなかったらこんなことには・・・」

 

 「それ以上はダメだよ」

 

 十萌が後ろから万理華さんの口を塞ぎ、そのまま抱き締めた。

 

 「二葉お姉ちゃんも言ってたけど、お兄ちゃんも万理華さんも私達の大切な家族だよ」

 

 「十萌・・・しかし・・・」

 

 「・・・確かに零香お姉ちゃんは、お父さんとお母さんを殺した。そのことを許すつもりはない。でも・・・万理華さんがいなかったら、なんて誰も思うわけないよ」

 

 「どうして・・・」

 

 「そんなの決まっているでしょう」

 

 微笑む八重。

 

 「万理華さんが家族だから、ですよ。家族に対して、そんなこと思うはずありません」

 

 「そうですよ。当然じゃないですか」

 

 九美も頷く。

 

 「それに万理華さんがいたから、お父さんとお母さんが亡くなった後もこうしてやってこれたんです。感謝こそすれ、恨むなんてとんでもありません」

 

 「・・・万理華さん」

 

 一織さんが万理華さんの手を握る。

 

 「万理華さんの気持ちを教えてほしいな。万理華さんは・・・私達と一緒にいるのは、嫌かな?」

 

 「っ・・・そんな聞き方・・・ずるいじゃないか・・・」

 

 万理華さんの目から、涙がとめどなく零れ落ちる。

 

 「私は・・・お前達と一緒にいたい・・・これからも・・・ずっと・・・!」

 

 「・・・うん。私達もだよ」

 

 ニッコリ笑う一織さん。

 

 「万理華さんも、七瀬も・・・あの人だって、私達の家族。だからこそ、七瀬にあの人を殺させてはいけない。あの人にこれ以上、罪を犯させてはいけない。私達・・・星野家全員で、この問題を解決しないといけない」

 

 一織さんが立ち上がり、皆を見回す。

 

 「これ以上、七瀬が一人で背負ってしまわないように・・・私達も向き合いましょう。家族の犯した罪、そして・・・私達自身の気持ちに」

 

 その言葉を聞いて、顔を見合わせた皆は・・・意を決したように立ち上がった。

 

 私とシルヴィアを顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。きっと私とシルヴィアの思ったことは同じだろう。

 

 (七瀬、お前は本当に・・・素敵な家族を持ったな)

 

 七瀬が羨ましいと心から思う私なのだった。

 




二話連続投稿となります。

シャノン「シリアスな流れが続くね・・・」

もうちょいで終わるよ。ってか早くボケたい。

シャノン「それが本音か・・・」

このままだと、シャノンも出番ないよ?

シャノン「早く終わらせよう作者っち!私の出番プリーズ!」

清々しいほど正直だなオイ・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「私の出番はまだかあああああっ!」


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苦い記憶

深夜に執筆活動してたら、つい暴走してしまった・・・

危うくR-18のタグを付けなきゃいけない話を書くところだった・・・


 昔の俺は、とにかく力を扱いきれなかった。力加減が出来ず、学校でクラスメイト達を傷付けてしまうこともあった。

 

 そんな俺の周りに人が集まるわけもなく、俺は孤立した。俺としても、その方がありがたかった。誰かを傷付ける心配も無いし、父さんや母さんに頭を下げさせることも無いのだから。

 

 学校で孤独な毎日を送っていた俺は、いつしか家族に対しても心を閉ざすようになっていた。

 

 

 

 そんなある日、俺の前にシルヴィが現れた。

 

 「どうして一人でいるの?一緒に遊ぼう?」

 

 シルヴィは何を思ったのか、毎日しつこく俺に絡んできた。その度に冷たく突き放していた俺も、遂にキレてしまった。

 

 「俺に近付くなッ!俺の側にいると、お前が傷付くんだッ!俺はもう・・・誰も傷付けたくなんかない・・・」

 

 涙を流す俺を、シルヴィはギュっと抱き締めてくれた。

 

 「・・・君は優しいんだね。そんなにボロボロになってまで、私の心配をしてくれるなんて・・・」

 

 あやすように、優しく頭を撫でてくれた。

 

 「君はもっと、人の温かさに触れるべきだよ。でないと、君が壊れちゃうもの」

 

 

 

 その日から、俺はシルヴィに心を開くようになった。

 

 シルヴィは格闘技を習っているらしく、俺が全力で挑んでも全然勝てなかった。だがシルヴィと模擬戦をするようになってから、俺は段々と力の制御が出来るようになった。

 

 星辰力をコントロールする方法や格闘技術も、シルヴィから教わった。周りや家族にも心を開けるようになり、俺は孤独ではなくなった。

 

 

 

 だがあの日・・・俺の運命は大きく変わることになる。

 

 「純星煌式武装?」

 

 「そう。七瀬にピッタリだと思って」

 

 休暇でアスタリスクから帰ってきていた零香姉が、俺にプレゼントしてくれたのだ。

 

 あの純星煌式武装・・・《神の拳》を。

 

 「触れてみて」

 

 零香姉に促されるまま、俺は《神の拳》に触れた。

 

 次の瞬間、目の前が眩く光り・・・光が収まった時、俺の両手には《神の拳》が装着されていた。

 

 「流石は七瀬ね!これで貴方はもっと強くなれるわ!」

 

 「本当に?シルヴィより強くなれる?」

 

 「えぇ、勿論よ!」

 

 俺は嬉しかった。シルヴィより強くなって、今度は俺がシルヴィの力になるんだ・・・そう決意した。

 

 その後に起きる悲劇のことなど、この時はまだ知る由もなかった。

 

 

 

 《神の拳》を手に入れた俺は、人気の少ない山の中で訓練していた。

 

 零香姉からは、父さん達には《神の拳》のことは内緒にしようと言われていた。使いこなせるようになったら披露して、皆を驚かせようという計画らしい。

 

 そんなわけで一人黙々と訓練していたところへ、俺のことを快く思っていない学校の同級生達がやってきた。

 

 「おいおい、バケモノがこんな所で何してんだよ」

 

 「・・・訓練だよ。用が無いなら帰ってくれ」

 

 「訓練?ハハッ、まだ人間から外れたいのかよ?」

 

 俺をあざ笑う連中。俺が溜め息をつき、訓練する場所を変えようとその場を去ろうとした時だった。

 

 「そういやお前、あの紫色の髪の女とよくつるんでるよな。アイツもバケモノなのか?だったらお似合いだよお前ら。バケモノカップルの誕生ってか?ハハハッ!」

 

 俺の中で何かが切れ、視界が真っ暗になった。そして・・・

 

 

 

 「・・・!・・・くんッ!ななくんッ!」

 

 「・・・え?」

 

 気が付くとシルヴィがいて、必死になって俺の腰にしがみついていた。

 

 「お願いだからもう止めてッ!これ以上はダメッ!」

 

 「いや、何言って・・・」

 

 そこまで言いかけたところで、俺は気付いた。《神の拳》を装着した自分の手に・・・血が付着しているということに。

 

 そして俺の目の前には・・・

 

 「うぅ・・・助けてぇ・・・」

 

 血を流し、倒れている同級生達がいた。俺と目が合うと、恐怖の表情を浮かべて叫ぶ。

 

 「ひぃっ!?ご、ごめんなさい!もう何もしませんから!許して下さい!死にたくないッ!死にたくないよぉッ!」

 

 そこで俺は理解してしまった・・・

 

 これをやったのが俺であることを。そして危うく殺しかけてしまったところを、シルヴィが止めてくれたのだと。

 

 

 

 結局その件はただのケンカということになったものの、それ以来その連中は学校に来なくなった。

 

 そして俺も、その一件以来段々と歯止めが効かなくなっていた。今までは流すようにしていた悪口も、耳に入った瞬間その悪口を言っていた奴らを容赦なくボコボコにしていた。

 

 その度に父さんと母さんに頭を下げさせる結果になっていたものの、その時の俺はそれすらどうでも良いと思うほどに荒れていた。

 

 「ななくんまたケンカしたの・・・?」

 

 「シルヴィには関係ないだろ」

 

 シルヴィは心配してくれたが、俺は冷たく返していた。

 

 

 

 そんな日々が続いたある日、シルヴィが思いつめた表情で俺に言ってきたのだ。

 

 「ななくん、私と決闘して」

 

 「・・・何だよいきなり」

 

 「私が勝ったら・・・もう《神の拳》は手放して。ななくんがそんな風になっちゃったのは、多分それのせいだから」

 

 「勝手なこと言うな。何でシルヴィに指図されなきゃいけないんだよ」

 

 「・・・勝つ自信ないんだ?ななくん、私に勝てたこと一度も無いもんね」

 

 「っ・・・上等だよ・・・!」

 

 分かりやすい挑発に乗ってしまった俺は、俺の家の稽古場でシルヴィと決闘することになった。

 

 度が過ぎた時に止められるようにと、父さん・母さん・万理華さんが立ち会うことになった。

 

 アスタリスクから帰省していた一織姉達や、まだ幼い妹達も見守る中・・・決闘が始まった。

 

 「遅いよっ!」

 

 「チッ・・・」

 

 俺は予想以上に苦戦を強いられた。《神の拳》は家族の前で使えないが、強くなった俺なら《神の拳》を使わなくても勝てると思っていた。

 

 しかし、現実は甘くなかった。

 

 「はぁっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 シルヴィの拳をくらい、吹き飛ぶ俺。

 

 「・・・もう降参して。これ以上、ななくんを無駄に傷付けたくない」

 

 「・・・ふざけんなッ!」

 

 頭に血が上った俺は、遂に・・・

 

 「来い!《神の拳》!」

 

 《神の拳》を使ってしまった。

 

 「ッ!?何で七瀬がアレを!?」

 

 父さん達が驚愕していたが、そんなことはどうでも良かった。俺はシルヴィに接近して懐に入り・・・力を解放した。

 

 「七瀬ッ!止めろッ!」

 

 「《断罪の一撃》ッ!」

 

 シルヴィが光の柱に呑み込まれた。そして光が消えた時、そこには・・・全身ボロボロのシルヴィが横たわっていた。

 

 「あ・・・」

 

 その姿を見て、俺は正気に戻った。

 

 やってしまった・・・俺はとうとう、シルヴィまで傷付けてしまったのだ。

 

 「あ・・・ああっ・・・あああああああああああああああっ!?」

 

 

 

 シルヴィは病院へ搬送され、俺は父さんと母さんに問い詰められた。

 

 「答えろ七瀬ッ!何でお前が《神の拳》を持ってんるだッ!」

 

 「アレは家の地下室にあったはずよ!?厳重に封印していたはずなのに!」

 

 「落ち着け千里!百愛!」

 

 万理華さんが必死に二人を宥めていた。俺は訳が分からなかった。

 

 「地下室・・・?《神の拳》は、零香姉がくれたんだよ・・・?俺へのプレゼントだって言って・・・」

 

 「何・・・?」

 

 「零香が・・・?」

 

 怪訝な表情の父さんと母さん。

 

 「・・・零香は明日、アスタリスクから帰ってくる。本人に聞いてみるしかない」

 

 万理華さんはそう言うと、俺の肩に手を置いた。

 

 「七瀬、《神の拳》は使うな。お前にはまだ早すぎる。幸いシルヴィは一命を取り留めたが、最悪死んでもおかしくなかったんだ。分かるな?」

 

 「・・・うん。ごめんなさい」

 

 俺の心は罪悪感でいっぱいだった。

 

 この手でシルヴィを殺しかけた・・・その事実が、俺の心に重くのしかかっていた。

 

 「・・・悪い七瀬。父さんちょっと取り乱したわ・・・」

 

 「母さんも驚いちゃってつい・・・ゴメンね」

 

 父さんと母さんが優しく声をかけてくれたが、俺は顔を上げることが出来なかった。

 

 

 

 翌日、俺は病院へと足を運んだ。シルヴィはベッドの上で横たわっており、全身に包帯が巻かれていた。

 

 その痛々しい姿に胸が痛くなった俺は、ただひたすらに昨日のことを謝り続けた。許してもらえないだろうし、罵られるのも覚悟の上だった。

 

 だが・・・

 

 「良かった・・・ななくん、元に戻ったんだね」

 

 俺の目に映ったのは、シルヴィの笑顔だった。

 

 「私は大丈夫だよ。だから気にしないで」

 

 「いや、でも・・・」

 

 言いかけた俺の口を、シルヴィが塞いだ。包帯の巻かれた手で。

 

 「私が気にしてないんだから、君が気にする必要は無いんだよ」

 

 シルヴィのその言葉は、俺にとって何よりも救われる言葉であり・・・それと同時に、何よりも辛い言葉だった。

 

 自分を殺しかけた相手を、こんなにあっさり許すなんて・・・よほど優しい人でないと出来ない。俺はこんなに優しい女の子を、危うく殺しかけてしまったのだ。

 

 とてもじゃないが、俺にはこの子の側にいる資格なんて無い・・・その日俺は、シルヴィから離れることを決めた。

 

 

 

 俺が失意の中家へ帰ると、何やら稽古場の方で物音がした。帰宅したことを知らせるため、俺は稽古場を覗いた。

 

 「・・・ただいま。シルヴィに会って・・・きた・・・よ・・・」

 

 父さんと母さんが、血溜まりの中に沈んでいた。その光景を見た俺は、言葉を失ってしまった。

 

 「・・・お帰り、七瀬」

 

 血溜まりに沈む父さんと母さんの側には・・・血塗れの零香姉が立っていた。

 

 「父さんと母さんに聞いたわ・・・《神の拳》で、シルヴィを殺しかけたそうね」

 

 哀しげに笑う零香姉。手には同じく血塗れの、剣型の煌式武装を持っている。

 

 「貴方に《神の拳》を渡したことを、二人から問い詰められてね・・・面倒だったし、殺しちゃったわ」

 

 俺には、零香姉が何を言っているのか分からなかった。と・・・

 

 「あれ?七瀬?」

 

 「帰ってたのか?」

 

 俺の後ろから、一織姉と万理華さんがやってきた。

 

 「どうしたの?そんな所に突っ立って何を・・・」

 

 稽古場の光景を見た一織姉と万理華さんが固まった。零香姉が力なく笑った。

 

 「あら・・・来てしまったのね」

 

 「い・・・いやあああああああああああああああっ!?」

 

 一織姉の絶叫。万理華さんが震えている。

 

 「れ、零香・・・お前がやったのか・・・?」

 

 「・・・そうよ」

 

 父さんと母さんの遺体を見下ろす零香姉。

 

 「じゃあね、二人とも・・・安らかに眠ってね」

 

 「・・・は?」

 

 この人、今何て言った?父さんと母さんを殺しておいて・・・安らかに眠ってね?

 

 「ふ・・・ふざけるなあああああああああああああああッ!」

 

 俺は零香姉に突進した。とにかく許せなかった。

 

 「《神の拳》ッ!」

 

 両手に《神の拳》を装着し、零香姉に向かって拳を放つ。

 

 「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

 「・・・ごめんね、七瀬」

 

 零香姉はそう呟くと、拳を避け・・・剣で俺の腹を突き刺した。鮮血が飛び散る。

 

 「ごふっ・・・!」

 

 「七瀬ッ!」

 

 万理華さんが急いで駆け寄ってくる。零香姉は俺を万理華さんに向かって突き飛ばし、向かい側の出口から逃走した。

 

 「七瀬!しっかりしろ!」

 

 「七瀬ッ!七瀬ッ!」

 

 「叫び声がしたけど、何かあったの!?」

 

 「え・・・何これ・・・」

 

 「お父様!?お母様!?七瀬!?」

 

 皆の叫び声を聞きながら、俺の意識は沈んでいったのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「ななっちの過去・・・ずいぶん重いよね・・・」

ちょっと重くしすぎた感はあるわ・・・

シャノン「あと、零香さんの目的が分からないよね・・・どうして《神の拳》をななっちに渡したのか・・・」

そこも追々明らかにしていけたらと思ってます。

とりあえず、もうそろそろこの章は終わります。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」







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家族の絆

次回でこの章は終わります!


 「もう五年も前の話なんだな・・・」

 

 稽古場を眺めながら、俺は当時のことを思い出していた。零香姉に刺された俺は、意識を失ってしまったので覚えていないが・・・

 

 「・・・あれがきっかけで、一織姉の治癒能力が目覚めたんだっけか」

 

 「そうよ」

 

 背後から声がする。振り向くと、一織姉が立っていた。

 

 「本当に一時的なものだったし、力としても微々たるものだったけど・・・それでもあの時、私に治癒能力が発現したの。それですぐ、七瀬の傷を止血することが出来たのよ」

 

 「その後の訓練の末、治癒能力を使いこなせるようになったんだっけ・・・所属していた星猟警備隊を辞めて、治療院に勤めるようになって・・・」

 

 「えぇ。星猟警備隊の仕事もやりがいはあったけど・・・私はやっぱり、誰かの命を救う為に仕事がしたいと思った。そう思うきっかけが、あの事件だったわ」

 

 微笑む一織姉。

 

 「父さんと母さんのことは助けられなかったけど・・・七瀬のことは助けられた。それが私の、唯一の救いだったわ」

 

 「一織姉・・・」

 

 「まぁ姉さんが辞めたせいで、こっちは大変だったんだけどね」

 

 二葉姉が苦笑しながら現れる。

 

 「若きエース様がいなくなったもんだから、戦力不足になっちゃって・・・隊長には、『妹のお前が姉の分も頑張れ』とか無茶ぶりされるし」

 

 「アハハ・・・何かゴメンね」

 

 「まぁ、おかげで手柄が立てやすくなったんだけどね。それで今、一等警備正にまでなれてるわけだし」

 

 肩をすくめる二葉姉。

 

 「罪を犯した人間は、その罪を償わないといけない。そこから目を背けて逃げる奴を捕まえて、向き合わせるのが私達の仕事だから。そういう仕事に就きたいと思ったのは、姉さんに憧れたのもあるけど・・・やっぱり、あの事件がきっかけだったんだと思うわ」

 

 「二葉姉・・・」

 

 「フフッ、やっぱり姉様達もですか」

 

 「目指す道は違くても、皆きっかけは一緒なんだね」

 

 三咲姉と四糸乃姉もやってくる。

 

 「私は、皆が自分の正しいと思う道へ進めるように導きたい・・・道を踏み外しそうな人がいたら、手を差し伸べて元の道へ戻る手伝いがしたい・・・そう思って、教師を目指そうと決めました」

 

 「私は・・・皆を笑顔にしたい。どんなに辛いこと、苦しいことがあっても・・・見ている人を少しでも元気にしてあげたい。だから歌ってるんだよ」

 

 「三咲姉・・・四糸乃姉・・・」

 

 「皆色々と考えてるんだねぇ」

 

 「尊敬。流石は姉様達です」

 

 五和姉と六月姉が拍手している。

 

 「・・・私もさ、実は教師に憧れてるんだよね」

 

 「驚愕。五和の成績で教師とは・・・」

 

 「そこ!?いや、確かに成績は芳しいとは言えないけどさ!」

 

 むくれる五和姉。

 

 「ただ・・・力を正しく使えるように、指導してあげられたらなって。小さい頃から、苦しむ七瀬の姿を見てきたからね・・・」

 

 「・・・同意。実は六月も思っていました」

 

 頷く六月姉。

 

 「六月達では力不足で・・・七瀬を助けてあげることが出来ませんでしたから。だからそこ力をつけて、今度こそ七瀬のように苦しむ人を助けられたらと・・・」

 

 「五和姉・・・六月姉・・・」

 

 そんなこと思ってくれてたのか・・・

 

 「夢なら私にもあります」

 

 「私もです!」

 

 「うおっ!?」

 

 急に現れた八重と九美が抱きついてくる。

 

 「私の夢は・・・七瀬お兄様より強くなることです」

 

 「え、俺・・・?」

 

 「はいっ」

 

 笑顔を見せる八重。

 

 「もう、守られるだけの存在では嫌ですから。七瀬お兄様より強くなって、今度は私がお兄様を・・・家族を守ってみせます」

 

 「八重・・・」

 

 「私は、世界一のアイドルになります!」

 

 屈託の無い笑みを浮かべる九美。

 

 「皆を照らす、大きな光になりたい・・・その為に打倒四糸乃姉さん、打倒シルヴィ姉さんを目指します!」

 

 「え、私倒されるの!?」

 

 「えぇ、ぶっ倒します!」

 

 「怖っ!?怖いよくーちゃん!?」

 

 四糸乃姉が怯える中、九美の表情が真剣なものとなる。

 

 「私は誰にも負けません・・・自分にも、零香姉さんにも」

 

 「九美・・・」

 

 「フフッ、皆頼もしいね」

 

 「あぁ、全くだ」

 

 十萌が万理華さんを支えながらやってくる。

 

 「ちょ、万理華さん!?まだ起きちゃダメだって!?」

 

 「大丈夫だ、問題ない」

 

 「問題あるから言ってるんだけど!?」

 

 「口うるさくなったな、一織・・・お前は私の姑かっ!」

 

 「誰が姑ですって!?私の三倍も生きてるくせにっ!」

 

 「ちょ、おまっ・・・誰が三倍だっ!せいぜい二倍だわっ!」

 

 ギャーギャー言い合う一織姉と万理華さん。十萌が苦笑しながら離れ、こちらへとやってくる。

 

 「やれやれ・・・あれだけ元気なら問題ないね」

 

 「・・・みたいだな。何か心配して損したわ」

 

 「確かに」

 

 十萌はそう言って笑うと、俺の目を真っ直ぐ見てきた。

 

 「私も負けないからね」

 

 「え・・・?」

 

 「もう二度と、家族を失いたくないから。だから・・・私も強くなる。皆を支えられるくらい、強くなってみせるから」

 

 「十萌・・・」

 

 「・・・七瀬」

 

 万理華さんが俺の名前を呼ぶ。

 

 「零香の件は・・・星野家全員の問題だ。お前が一人で背負う必要はない」

 

 「でも・・・俺と零香姉は・・・」

 

 「千里と百愛の子だよ、間違いなく」

 

 言い切る万理華さん。

 

 「確かに産んだのは私だ。だが、お前達を育ててきたのは他でもない・・・千里と百愛だ。あの二人こそ、紛れも無くお前達の親だよ」

 

 「万理華さん・・・」

 

 「私の名前は星野万理華。お前達の伯母であり、家族だ。だから・・・」

 

 万理華さんはそう言うと、俺を強く抱きしめた。

 

 「私の前からいなくならないでくれ、七瀬・・・お前までいなくなってしまったら、私は・・・私はっ・・・!」

 

 泣きじゃくる万理華さん。一織姉達も、泣きながら抱きついてくる。

 

 「一人で背負わないでよ、七瀬・・・」

 

 「私達、家族じゃない・・・」

 

 「大切な弟を、一人で苦しませたくないんです・・・」

 

 「なーちゃん、お願い・・・」

 

 「水臭いマネは止めてよ・・・」

 

 「同意。六月達も共に背負います・・・」

 

 「お兄様がいないと寂しいです・・・」

 

 「私達と一緒にいて下さい・・・」

 

 「お兄ちゃん、行かないで・・・」

 

 俺は・・・溢れる涙をこらえることができなかった。

 

 「・・・ありがとう、皆」

 

 俺は皆の温もりに包まれながら、そう呟くのだった。

 




二話連続投稿となります。

シャノン「良かったね、ななっち・・・」

ホントにね・・・美女&美少女達に囲まれて羨ましい。

シャノン「そこ!?」

アスタリスクの世界に転生したい今日この頃です。

シャノン「何があったの!?」

来世はアスタリスクのイケメン男子にしてくださあああああいっ!

シャノン「唐突な『君●名は。』!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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大切

第六章《故郷帰省》編、ここに完結ッ!


 「お世話になりました」

 

 万理華さんに頭を下げるシルヴィ。

 

 結局俺達は、休暇が終わる前日まで滞在していた。一織姉・二葉姉・三咲姉・四糸乃姉・五和姉・六月姉・ユリスは、先にアスタリスクへと戻った。

 

 本当はユリスも一緒に戻る予定だったのだが、『彼女と二人でゆっくり戻ってこい』とのことで、四糸乃姉と一緒に一足先に戻ってしまったのだ。

 

 どうやら気を遣わせてしまったみたいだな・・・

 

 「またいつでも来い。待ってるからな」

 

 微笑む万理華さん。あれから傷も癒え、すっかり元気になっていた。

 

 一方・・・

 

 「うぅ・・・お兄ちゃん・・・」

 

 十萌は泣きそうな顔で俺に抱きついていた。

 

 恥ずかしがりやの十萌が、人前で俺に抱きつくとは・・・よっぽど寂しがってくれてるんだな。

 

 「そんな顔すんなって。また帰ってくるから」

 

 俺は笑いながら十萌の頭を撫でた。

 

 「ってか、アスタリスクまで遊びに来いよ。いつでも大歓迎だから」

 

 「聞いたか十萌?これで気兼ねなく遊びに行けるな!」

 

 「あ、万理華さんは却下で」

 

 「何故だ!?」

 

 「酔っ払いの相手が面倒。以上」

 

 「うぅ・・・私にだけ冷たい件について・・・」

 

 「アハハ・・」

 

 苦笑する十萌。と・・・

 

 「七瀬お兄様、今度はアスタリスクでお会いしましょう」

 

 「すぐにそちらへ行きますからね!」

 

 笑顔の八重と九美。

 

 二人は三月で中学を卒業し、四月からアスタリスクへ来ることが決まっている。八重は界龍、九美はクインヴェールに内定しているそうだ。

 

 「おう。それにしても界龍かぁ・・・八重、ドンマイ」

 

 「え、何でですか!?」

 

 「あそこには戦闘狂、もしくは性格の悪いヤツしかいないから」

 

 「・・・急に行きたくなくなってきました」

 

 「まぁとりあえず、困ったら虎峰を頼れ。アイツは信頼できるヤツだし、話もしっかり通しておくから」

 

 「了解です。ありがとうございます」

 

 恐らく星露のことだから、俺の妹である八重を放ってはおかないだろうな・・・

 

 戻ったら釘を刺しておかないと。

 

 「九美ちゃん、楽しみにしてるからね」

 

 「はい!四月からお世話になります!」

 

 シルヴィにぺこりと頭を下げる九美。クインヴェールにはシルヴィや四糸乃姉もいるから、とりあえず大丈夫そうかな。

 

 「そういや、十萌はどこの学園を志望してるんだ?」

 

 「星導館だよ」

 

 笑顔で答える十萌。

 

 「私には、一番合ってる学園かなって。それに・・・」

 

 「それに・・・?」

 

 「・・・お兄ちゃんと一緒の学園に通いたいから」

 

 「十萌、今すぐ星導館に行こう。クローディアに頼んで今すぐ入学させてもらうから」

 

 「落ち着けシスコン」

 

 万理華さんがチョップしてくる。

 

 「そもそも十萌がいなくなったら私が困る。誰がご飯を作ってくれるんだ」

 

 「いや、自分で作ってよ」

 

 十萌のツッコミ。俺はひとしきり笑うと、皆を見回した。

 

 「それじゃ、行ってくる」

 

 「あぁ、行ってこい」

 

 「行ってらっしゃいませ!」

 

 「お気をつけて!」

 

 「連絡ちょうだいね!」

 

 万理華さん・八重・九美・十萌に見送られ、俺とシルヴィはアスタリスクへと・・・

 

 

 

 「あ、忘れ物」

 

 

 

 「「「「「ええええええええええっ!?」」」」」

 

 皆が揃ってずっこける。

 

 「ちょ、おま・・・何か色々と台無しだぞ!?」

 

 「ゴメンゴメン」

 

 俺は笑いながら謝ると・・・そのまま万理華さんを抱き締めた。

 

 「な、七瀬・・・?」

 

 「肝心なこと、ちゃんと言ってなかったなって思って」

 

 「肝心なこと・・・?」

 

 「・・・産んでくれてありがとう」

 

 「っ・・・」

 

 思い返してみると、俺を産んだのが万理華さんだと分かってから・・・ちゃんとこの言葉を伝えていなかったことに気付いたのだ。

 

 「万理華さんが俺を産んでくれたから・・・俺は家族に、仲間に、恋人に恵まれた。だから・・・本当にありがとう。俺は今、最高に幸せだよ」

 

 「・・・バカ。何でこのタイミングで・・・」

 

 万理華さんの目から涙が溢れる。

 

 「あぁ、もう・・・歳はとるもんじゃないな・・・涙腺が緩くて仕方ない・・・」

 

 「・・・身体は大事にしろよ。万理華さん一人の身体じゃないんだから」

 

 「あぁ・・・分かってるさ」

 

 抱き締め返してくる万理華さん。

 

 「七瀬こそ、身体に気を付けてな・・・《獅鷲星武祭》、応援してるぞ」

 

 「あぁ、優勝してみせるよ・・・仲間達と一緒に」

 

 俺は万理華さんから離れ、拳を突き出した。

 

 「じゃあ・・・行ってくる」

 

 「あぁ・・・行ってこい!」

 

 万理華さんと拳を合わせ、俺は今度こそアスタリスクへの道を歩き出した。

 

 「八重ー!九美ー!待ってるからなー!十萌ー!万理華さんをよろしくなー!」

 

 「はい!またアスタリスクで!」

 

 「絶対会いに行きますからね!」

 

 「万理華さんのことは任せて!」

 

 八重・九美・十萌が笑顔で手を振ってくれる。俺とシルヴィは、同じように笑顔で手を振り返すのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ななくん、コーヒー買ってきたよ」

 

 「お、サンキュー」

 

 帰りのフェリーの中で、俺はシルヴィとまったり過ごしていた。先程の船内放送によると、あと一時間ほどでアスタリスクに到着するそうだ。

 

 「・・・ありがとな、シルヴィ」

 

 「え、何が?」

 

 「ユリスから聞いたよ。俺が部屋から出て行った後、皆に『これで良いのか』って問いかけてくれたって」

 

 「あー、そのことね」

 

 苦笑するシルヴィ。

 

 「私が発言しなくても、きっと皆は同じ結論を出したと思う。だってななくん、とっても愛されてるもん」

 

 「・・・それは改めて感じたよ」

 

 皆で抱き合いながら泣いたあの日・・・俺は改めて、家族の絆を感じることができた。

 

 だからこそ、独りよがりになるのをやめたんだけどな。

 

 「・・・あれから、皆で話し合ったんだ。零香姉のこと」

 

 「・・・うん」

 

 「やっぱり、どんな罪を犯したとしても・・・零香姉は家族だから。俺達で捕まえて、罪を償わせようっていう結論になった」

 

 「・・・そっか」

 

 「まぁ、言うほど簡単じゃないけどな・・・」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「恐らく零香姉は、何かを企んでるんだと思う。だからこそ、俺を勧誘にきたんじゃないかな・・・お仲間もいるようだし」

 

 「ウルスラ・・・今は『ヴァルダ』だっけ?零香さんはそう呼んでたんでしょ?」

 

 「あぁ、恐らくそれが純星煌式武装の名前だと思う。ただ、そんな名前の純星煌式武装に聞き覚えがないんだよな・・・」

 

 純星煌式武装に関しては、《神の拳》のこともあって色々と調べたが・・・人体を乗っ取って日常生活を送る純星煌式武装など、聞いたことがない。

 

 「それにヴァルダは、オーフェリアの名前を出していた。あの《孤毒の魔女》が仲間だとするなら・・・厄介なんてもんじゃない」

 

 「一体何を企んでるんだろう・・・よく分からないけど、嫌な予感がする・・・」

 

 「・・・俺もだ」

 

 ただ、次に零香姉が現れたら・・・力ずくで捕まえる。それだけだ。

 

 「まぁとりあえず、今は《獅鷲星武祭》に集中しないと・・・強敵揃いだしな」

 

 「《獅鷲星武祭》かぁ・・・ルサールカは出場するはずだから、シノンと戦うことになるかもしれないね」

 

 「だよなぁ・・・ガラードワースからは、ランスロットとトリスタンも出てくるだろうし・・・四糸乃姉だけじゃなくて、三咲姉達まで相手にすることになるかもな」

 

 「だね。ひょっとすると、八重ちゃんや九美ちゃんも参加するかもよ?」

 

 「それは勘弁してほしいなぁ・・・」

 

 あまり家族同士で戦いたくないんだけど・・・と、シルヴィが面白そうに笑っていた。

 

 「どうした?」

 

 「いや、何て言うか・・・ななくんがどれほど家族を大切に思ってるか、表情を見てると分かりやすいなって思ってさ」

 

 「・・・勘弁してくれ」

 

 全く・・・すぐからかおうとするもんな、コイツは・・・

 

 「・・・心配しなくても、シルヴィのことも大切に思ってるよ」

 

 「フフッ、心配なんかしてないよ」

 

 俺の手を握り、肩に寄りかかってくるシルヴィ。

 

 「・・・ちゃんと分かってるから。私だって、ななくんのこと大切に思ってるし」

 

 「・・・あぁ、分かってるよ」

 

 シルヴィの手を握り返す。こうしてると、何だか安心するな・・・

 

 「・・・ゴメン、ちょっと眠くなってきたわ」

 

 「アハハ、実は私も・・・ちょっと寝よっか?」

 

 「だな・・・おやすみ・・・」

 

 「おやすみ・・・ふあぁ・・・」

 

 俺とシルヴィは身体を寄せ合い、手を握りあったまま眠りについたのだった。

 

 お互いの温もりを感じ、安らかな寝息を立てながら・・・

 




三話連続投稿となります。

シャノン「次回からは新章?」

そうそう。ただ、次の投稿は来週の半ばになりそう。

シャノン「え、ストック尽きた!?」

いや、ストックはあるんだけど。

ちょっと忙しくなるから。

シャノン「あ、なるほど・・・」

これからも頑張って投稿していきますので、よろしくお願い致します!

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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第七章《祭華繚乱》
停学明け


新章スタート!

・・・といっても、《獅鷲星武祭》には入りません。

その前の段階の話でございます。

それではいってみよー!



 「うぅ・・・緊張する・・・」

 

 俺は教室の前で、入ることを躊躇していた。

 

 今日が冬期休暇明け、そして停学明け初となる登校日だ。《鳳凰星武祭》ではあんなことになってしまった為、俺としてはクラスの皆から怖がられているのではないかという不安が拭えない。

 

 だが、いつまでもここで立ってるわけにもいかないしな・・・よし。

 

 「今日は帰ろう」

 

 「待たんかいいいいいいいいいいっ!」

 

 「ぐえっ!?」

 

 踵を返した瞬間、勢いよく襟首を掴まれる。振り向くと、ユリスが鬼のような形相でこちらを見ていた。

 

 「何で帰ろうとしているのだお前は!?今日が復帰初日だろうが!」

 

 「体調不良なので休みます」

 

 「嘘つけ!」

 

 「七瀬、大丈夫だって」

 

 ユリスの後ろで、綾斗が苦笑していた。

 

 「皆ずっと七瀬の帰りを待ってたんだから。そんなに心配する必要ないよ」

 

 「嘘だ!この扉を開けたら、『おめーの席ねぇから!』とか言って俺の机と椅子が窓の外に投げ捨てられるんだろ!」

 

 「どこのラ●フ!?どんだけ疑心暗鬼になってんの!?」

 

 「ほら、いいから早く入るぞ!」

 

 「はーなーせーっ!」

 

 ユリスに引きずられるようにして教室へ入る。すると・・・

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「七瀬っ!復帰おめでとうっ!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 「・・・え?」

 

 クラスメイト達の声とともに、クラッカーの音が次々と鳴り響く。思いがけない出来事に、俺は呆然としてしまった。

 

 「み、皆・・・?」

 

 「お、ななっち驚いてるねー!」

 

 笑いながらこちらへやってきたのは、シャノンだった。

 

 「っていうか来るの遅いよ!早く来て待ってたのに!」

 

 「待ってた・・・?俺を・・・?」

 

 「当たり前じゃん!七瀬の復帰初日だよ?」

 

 凛香が笑みを浮かべながら肩を叩いてくる。

 

 「この日が来るのを、皆待ってたんだから。やっぱり七瀬がいないとつまんないしさ」

 

 「そうだぞ七瀬!」

 

 「七瀬くんお帰り!」

 

 「《鳳凰星武祭》観てたぞ!惜しかったな!」

 

 「《獅鷲星武祭》も出るんでしょ!?応援してるからね!」

 

 温かい言葉をかけてくれるクラスメイト達。お前ら・・・

 

 「ハハッ、どうだ七瀬?俺達からのサプライズは?」

 

 夜吹が笑いながら肩を叩いてくる。

 

 「わざわざクラッカーまで用意したんだぜ?ビックリしただろ?」

 

 「・・・誰だっけ?」

 

 「嘘だろオイ!?夜吹英士朗だよっ!」

 

 「あぁ、マスゴミの」

 

 「そういう覚え方されてんの!?」

 

 爆笑しているクラスメイト達。あぁ、この感じ・・・懐かしいな。

 

 「だから大丈夫だって言っただろう?」

 

 綾斗も笑っている。

 

 「七瀬のこと、皆待ってたんだよ?」

 

 「そうだぞ七瀬」

 

 頭を撫でてくるユリス。

 

 「お前はもう少し、クラスメイトを信用しろ」

 

 「え、お姫様がそれを言っちゃうの?」

 

 「どういう意味だシャノン!?」

 

 「ずっと周りに冷たい態度をとってたの、何処の誰だっけなぁ・・・」

 

 「うぐっ!?」

 

 言葉に詰まるユリス。あー、そういやそうだったな・・・

 

 「前はお姫様もツンツンしてたっけなぁ・・・」

 

 「俺達に対しては今もツンツンだけどな」

 

 「だね。七瀬にはデレデレだけど」

 

 「だ、誰がデレデレだっ!」

 

 凛香と夜吹の会話に、ユリスが赤面している。その時・・・

 

 「お前ら席つけー」

 

 懐かしい声が聞こえる。振り向くと、谷津崎先生がやってきていた。

 

 相変わらず釘バットを持ち、威圧感たっぷりのオーラだ。

 

 「おう、星野か。今日から復帰か?」

 

 「え、えぇ・・・ご迷惑をおかけしました」

 

 「ふん、全くだ。四ヶ月も停学くらいやがって」

 

 鼻を鳴らす先生。

 

 「でも、まぁ・・・よく帰ってきたな」

 

 「っ・・・」

 

 頭をポンッと軽く叩かれる。先生・・・

 

 「さぁ、座った座った!ホームルーム始めんぞ!」

 

 「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」

 

 皆それぞれ席に戻っていく。あっ・・・

 

 「み、皆!」

 

 俺の声に、皆がこちらを見る。

 

 「えっと、その・・・ありがとう。またよろしくな」

 

 精一杯の感謝の言葉を口にする俺。すると・・・

 

 「おう!よろしく!」

 

 「よろしくね!」

 

 笑ってそう返してくれるクラスメイト達。

 

 「おら星野、早く席着け。自分の席、忘れちゃいないだろうな?」

 

 「・・・勿論です」

 

 涙ぐみそうなのを堪え、自分の席に着く。

 

 皆、本当にありがとう・・・

 

 「よーし、んじゃあ全員揃ったところで・・・ってオイ、沙々宮はどうした?」

 

 「「「「「「「「「「あっ・・・」」」」」」」」」」

 

 この後寝坊して遅刻した紗夜が、谷津崎先生にこってり絞られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あ、頭が・・・」

 

 呻きながら床に突っ伏す紗夜。放課後、俺達はクローディア専用のトレーニングルームへと集まっていた。

 

 「よっぽど痛いんだな、谷津崎先生の拳骨って・・・」

 

 「あれを見ると、できることなら食らいたくないよね・・・」

 

 「紗夜は何故懲りずに寝坊するのだ・・・」

 

 「ア、 アハハ・・・」

 

 そんな会話をしていると、クローディアがパンッと手を叩いた。

 

 「さて、私達はこのメンバーで《獅鷲星武祭》へと臨むわけですが・・・まずは重要なことを決めましょう」

 

 「重要なこと?」

 

 「えぇ、チーム名です」

 

 「・・・それは重要なのか?」

 

 呆れているユリス。いやいやいや・・・

 

 「チーム名は重要だろ。全世界にその名前で紹介されるんだぞ?」

 

 「それはそうだが・・・何でも良くないか?」

 

 「おっ、言ったな?じゃあチーム名は、『ツンデレ姫と愉快な仲間達』で・・・」

 

 「私が悪かったっ!ちゃんとしたチーム名を考えようっ!」

 

 ユリスもチーム名の重要性を分かってくれたところで・・・

 

 「じゃあ・・・『ロリ巨乳と一緒に頑張り隊』とか?」

 

 「私のことですよねそれ!?誰がロリですかっ!」

 

 「あ、巨乳はいいんだ・・・じゃあ『寝坊したっていいん会』は?」

 

 「勘弁してくれ七瀬・・・谷津崎先生に殺される・・・」

 

 「じゃあ寝坊すんなよ・・・んー、『腹黒女とその手駒達』?」

 

 「七瀬は私を何だと思ってるんですか・・・」

 

 俺の意見が全て却下される。何故だ。

 

 「ちなみにだけどクローディア、チーム名が未登録の場合はどうなるんだ?」

 

 「その場合は、代表者の名前がチーム名になります。田中さんが代表者なら、チーム・田中といった感じですね」

 

 「じゃあ、チーム・エンフィールドで良くね?代表はクローディアだし、『エンフィールド』ってカッコいいし」

 

 「それもそうだね」

 

 「一番無難だろうな」

 

 「私もそれで良いと思います」

 

 「異議なし」

 

 綾斗達が賛成してくれる。よし、決まりだな。

 

 「ところでクローディア、一つ聞いておきたいことがある」

 

 真剣な表情でそう切り出すユリス。

 

 「何でしょう?」

 

 「お前の願いとは何なのだ?銀河を敵に回すほどの願いなのだろう?」

 

 「・・・そうですね。少し話しておきましょうか」

 

 溜め息をつくクローディア。

 

 「私の願いは・・・現在拘留されているラディスラフ・バルトシーク教授から、話を聞くことです」

 

 「ラディスラフ・バルトシーク教授って・・・え、あの人って今捕まってんの!?」

 

 驚く俺。マジか・・・

 

 「七瀬さん、その方のことをご存知なんですか?」

 

 「あぁ、煌式武装や純星煌式武装の開発研究で有名な科学者だよ。前に純星煌式武装について調べていた時、教授の書いた純星煌式武装に関しての論文を読んだことがあってさ。行方不明って聞いてたけど、まさか捕まってるなんて・・・」

 

 「えぇ、本来なら面会すら難しいのです。何故なら教授は・・・《翡翠の黄昏》を起こした犯行グループの、思想的指導者と目されている方なので」

 

 「・・・嘘だろオイ」

 

 唖然としてしまう俺。それってつまり・・・

 

 「《翡翠の黄昏》の黒幕ってことかよ・・・」

 

 「えぇ。彼は以前、星導館の大学部で教鞭をとっていました。つまり星導館の関係者なんですよ。だからこそ、彼は行方不明という扱いになりました」

 

 「なるほど・・・つまり銀河は事実を公にしたくないから、お前を狙ってんのか?」

 

 「フフッ、かもしれませんね」

 

 はぐらかすように笑うクローディア。まだ他に理由があるってことか・・・?

 

 「それでクローディアは、その人と会って何を聞くつもりなの?」

 

 「それはお答えできません。皆さんに危険が及ぶ可能性がありますので」

 

 綾斗の質問に、首を横に振るクローディア。

 

 「ですが、一つだけ言っておくと・・・この《パン=ドラ》を作ったのは教授です」

 

 そう言って、《パン=ドラ》を取り出すクローディア。これを教授が・・・

 

 「《パン=ドラ》の能力は未来視・・・今現在私が予知できるのは、三百秒ほどです」

 

 「・・・最早チート」

 

 呆れている紗夜。まぁ確かに、五分も未来予知できるならチートだけど・・・

 

 「・・・その三百秒っていうのは、ストックなんじゃないか?」

 

 「ストック?」

 

 「要は使い切り・・・無限に使えるわけじゃないってことさ」

 

 「ご名答です」

 

 クローディアが拍手してくれる。

 

 「だからこそ私は、なるべくストックを温存してきました。ストックが尽きてしまったら、この子はただの双剣ですから」

 

 「なるほどな・・・そのストックは、使わなきゃ徐々に増えていくのか?」

 

 「えぇ、三日で一秒といったところです」

 

 「ッ!?」

 

 三日で・・・たったの一秒・・・?

 

 「・・・ふざけんなよ」

 

 「七瀬さん?」

 

 「どうしたの?」

 

 綺凛と綾斗が訝しげに尋ねてくる。俺の中で、怒りがふつふつと湧いてきていた。

 

 「クローディアにあんなに辛い思いさせといて・・・それだけなのかよ・・・」

 

 《パン=ドラ》を睨みつける俺。怒りに身体を震わせていると・・・

 

 「・・・大丈夫ですよ」

 

 クローディアが《パン=ドラ》をしまい、俺を優しく抱き締めてくる。

 

 「私は大丈夫ですから・・・落ち着いて下さい、七瀬」

 

 その温もりに、段々と気持ちが落ち着いていく。

 

 「・・・ゴメン。ちょっと冷静じゃなかった」

 

 「フフッ、落ち着いたようですね」

 

 俺から離れるクローディア。

 

 「・・・ありがとうございます。私の為に怒ってくださって」

 

 「七瀬、クローディア、どういうことだ?」

 

 「説明求む」

 

 ユリスと紗夜が尋ねてくる。

 

 「《パン=ドラ》の代償は、『いつか来る自分の死を夢の中で体験すること』なんです」

 

 「「「「ッ!?」」」」

 

 息を呑む皆。

 

 「そ、それはあまりにも酷すぎじゃ・・・」

 

 「・・・惨い」

 

 今にも泣きそうな綺凛と紗夜。口元を手で押さえている。

 

 「強力な能力には、大きな代償が必要ということか・・・」

 

 「でも、それにしたって・・・」

 

 ユリスと綾斗も沈痛な面持ちをしていた。だが、クローディアは・・・

 

 「ご心配ありがとうございます。ですが、私は大丈夫です」

 

 穏やかに微笑んでいた。皆が心配してくれたことが、嬉しいんだろうな・・・

 

 「願いを叶える為なら、私はどんなことにでも耐えられますから」

 

 「クローディア・・・」

 

 そこまでして叶えたい願い・・・教授に聞きたいことって、一体何なんだろう・・・

 

 「さて、では今後のスケジュールを確認しておきましょう」

 

 クローディアが真剣な表情になる。

 

 「今年度内・・・あと三ヶ月程度は、個々の連携強化に努めましょう。まずはどのメンバーともタッグとして連携がとれるようにならないと、チームとして動くことは難しいですからね。その後状況を見て、チーム戦の練習をスタートさせたいと思います」

 

 「個々の連携か・・・」

 

 綺凛以外とタッグを組んだことがないからな・・・ユリス達ともしっかり連携がとれるようにならないと。

 

 「ではそれぞれタッグを組んで、模擬戦をやりましょうか。まずは・・・」

 

 こうして俺達の訓練が始まり、時間が過ぎていくのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「私の出番キターッ!」

ついでに凛香も出してみました。

シャノン「正直、凛香のこと覚えてる人いるのかな?」

凛香「酷いな!?皆、私のこと覚えてるよね!?」

あれでしょ?ツンデレスナイパーの・・・

凛香「それ暗●教室の速●凛香だから!」

シャノン「凛香は私と同じで、アスタリスクのゲームのキャラクターなんだよね」

凛香「そうそう!この作品では、《鳳凰星武祭》でシャノンのタッグパートナーとして戦ってるよ!」

なお、イレーネに負けてから出番が皆無だった模様。

凛香「それはアンタのせいでしょうが!」

さて、前書きでも述べましたが・・・

この章では《獅鷲星武祭》に入りません。

《学園祭》の話がメインになりますのでお楽しみに。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」

凛香「私の出番を増やせえええええっ!」


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学園祭

風邪ひいた・・・


 「凄い盛り上がりだなぁ・・・」

 

 感嘆の声を上げる俺。

 

 季節は春・・・俺は二年に進級し、《獅鷲星武祭》へ向けて特訓の日々を送っていた。だが、今日から三日間は完全オフとなっている。

 

 その理由は・・・

 

 「だって学園祭だもの。六学園全てが完全に開放される、何でもありのお祭りだよ?一般人が学園に入れるのもこの期間だけだしね」

 

 楽しそうに笑うシルヴィ。

 

 そう、今日から三日間は学園祭が行なわれるのだ。アスタリスクにおいて《星武祭》と並ぶ一大集客イベントとあって、どこもかしこも大賑わいである。

 

 そんな中、俺はシルヴィと学園祭デートをすることになっていた。

 

 「それにしても、よく休み取れたな。仕事の方は大丈夫なのか?」

 

 「大丈夫だよ。力ずくでもぎ取ってきたから」

 

 「いや、不穏な響きすぎて安心できないんだけど」

 

 休み取るのに力ずくって・・・

 

 「それより、十萌ちゃん残念だったね。楽しみにしてたのに・・・」

 

 「仕方ないだろ。身体の方が大事だよ」

 

 十萌は風邪をひいてしまったらしく、学園祭に来れなくなってしまったのだ。万理華さんが看病してくれているので、心配ないとは思うが・・・

 

 「まぁ十萌は星導館に入りたいらしいし、来年は生徒として参加できるだろ」

 

 「十萌ちゃん、クインヴェールに入ってくれないかなぁ・・・あの子のルックスなら、間違いなく合格だと思うんだけど」

 

 「言っとくけど、十萌にアイドル活動なんてさせないからな?悪い虫が付いたらどうしてくれるんだ」

 

 「あれ、シノンは良いの?」

 

 「四糸乃姉は男性恐怖症だから。悪い虫の付きようがない」

 

 「・・・確かに」

 

 苦笑するシルヴィ。

 

 「それより、そろそろ移動しようぜ」

 

 「そうだね。エスコートよろしく、ダーリン♪」

 

 「いや、ダーリンって・・・はいはい」

 

 俺はそう言うと、シルヴィの手を握って歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 まず俺達がやってきたのは、アルルカント・アカデミーだった。

 

 感想としては・・・

 

 「・・・何処の研究所?」

 

 「アハハ・・・」

 

 学園らしさが微塵も感じられなかった。何だここ・・・

 

 「あれ?七瀬くん?」

 

 背後から声をかけられる。振り向いてみると・・・

 

 「お、エルネスタじゃん」

 

 「おひさ~」

 

 軽い感じで挨拶してくるエルネスタ。

 

 「一年ぶりぐらいだよね?」

 

 「そうだな。今さらだけど、《鳳凰星武祭》準優勝おめでとう」

 

 「にゃはは、ありがと。剣士くんとお姫様に負けちゃったけどね」

 

 エルネスタはそう言って笑うと、俺の隣のシルヴィを見た。

 

 「あら、七瀬くんの彼女さん?」

 

 「えぇ、こんにちは」

 

 挨拶するシルヴィ。いつも通り変装している為、エルネスタは気づいていないようだ。

 

 「どうも~。こんな可愛い彼女がいるなんて、七瀬くんも隅に置けないね~」

 

 「そういうエルネスタはどうなんだよ?彼氏いないの?」

 

 「にゃはは、残念ながらいないね。少なくともアルルカントの男なんて、基本的に根暗なヤツしかいないから。私の好みじゃないのよん♪」

 

 「何気に酷いこと言ってんなオイ・・・」

 

 俺が呆れていると、こちらに向かってカミラが歩いてきた。

 

 「ここにいたのか、エルネスタ・・・って、七瀬じゃないか。久しぶりだな」

 

 「おぉカミラ、久しぶり」

 

 握手を交わす俺達。と、カミラの後ろからやってきたのは・・・

 

 「マスター!探したのである!」

 

 「うるさいですよ木偶の坊。静かにして下さい」

 

 ごつごつしい擬形体と、女性の姿の擬形体だった。

 

 あぁ、コイツらが・・・

 

 「アルディとリムシィ・・・初めて生で見たわ」

 

 「むっ?そういう貴殿は・・・おぉ!星導館の《覇王》ではないか!」

 

 「その情報は古いです。現在は《雷帝》という二つ名が付けられています」

 

 アルディの言葉を訂正するリムシィ。

 

 俺は序列三位に返り咲き、新しく二つ名をもらっていた。俺が以前倒した三位だった人が、俺のいない間に三位に戻っており、何故かその人から再び挑まれたのだ。

 

 何かよく分かんないけど、『僕とオロロムントの愛の力、思い知らせてやる!』とか言ってたな・・・瞬殺したけど。完全にイタい人だった。

 

 「お前達とは、一度戦ってみたかったなぁ・・・」

 

 「我輩も貴殿とは戦ってみたかったぞ!是非とも拳で語り合いたいものだ!」

 

 「脳筋は黙ってなさい」

 

 リムシィはアルディに厳しいなぁ・・・

 

 「次の《獅鷲星武祭》には出ないのか?」

 

 「えぇ、出ません。ですがその次・・・《王竜星武祭》には、私は出場する予定です」

 

 「お、マジか。じゃあ戦うことになるかもな・・・その時はよろしく頼むよ」

 

 「・・・貴方は本当に、自然に私達と接するのですね」

 

 首を傾げるリムシィ。

 

 「初対面の人間は、大体が恐る恐るといった感じで接してくるのですが・・・」

 

 「別に大した理由は無いさ。お前らに心があるから、俺も普通に接することができる。ただそれだけだよ」

 

 「にゃははっ!やっぱり七瀬くんは最高だね!」

 

 嬉しそうに笑うエルネスタ。カミラも笑みを浮かべている。

 

 「どうだリムシィ、こういう人間もいるんだぞ」

 

 「・・・そのようですね」

 

 リムシィは苦笑すると、手を差し出してきた。

 

 「木偶の坊と同じ意見なのは癪ですが・・・私も貴方と戦ってみたいものです。機会があればよろしくお願いします、《雷帝》」

 

 「七瀬で良いよ。こっちこそよろしく、リムシィ」

 

 握手を交わす俺達。と、何故かアルディが目頭を押さえていた。

 

 「人間と擬形体の友情が生まれた瞬間・・・我輩は感動したのである!」

 

 「だから黙ってなさい。スクラップにしますよ」

 

 毒舌を吐くリムシィ。と、カミラが時計を見る。

 

 「おっと、もうこんな時間か。エルネスタ、そろそろ行くぞ」

 

 「え~、研究発表とかめんどくさいよ~」

 

 「わがままを言うな。お前も一応《彫刻派》の代表だろう」

 

 「ちぇー・・・仕方ないなぁ・・・」

 

 肩を落とすエルネスタ。よっぽど面倒なんだな・・・

 

 「では七瀬、また会おう。学園祭を楽しんでくれ」

 

 「おう、またなカミラ。エルネスタも頑張れよ」

 

 「ありがと七瀬くん!またねん♪」

 

 「フハハハハッ!《雷帝》、いや七瀬よ!また会える日を楽しみにしているのである!」

 

 「永遠の眠りにつかせますよ?七瀬、またお会いしましょう」

 

 「おう!アルディとリムシィもまたな!」

 

 四人と別れる俺達。いやー、良い出会いだったなー。

 

 「・・・ななくん、嬉しそうだね」

 

 シルヴィがジト目で俺の顔を覗き込む。

 

 「あんな美人さん達と知り合いだったなんて・・・しかもリムシィさんのこと、ちょっと口説いてなかった?」

 

 「口説いてないわ!」

 

 うちの彼女の嫉妬が激しい件について・・・

 

 「でもまぁ、アルディもリムシィも良いヤツらだったよな」

 

 「そうだね。ちょっとビックリしちゃった」

 

 俺の言葉に頷くシルヴィ。

 

 「最初は擬形体として見てたけど・・・ななくんが言ったように心があるもんね。私達と変わらないなって思ったよ」

 

 「まぁ、アイツらが擬形体なのは事実だしな。ただ・・・アイツらに心がある以上、俺はアイツらを『人形』だの『兵器』だのとしては見れないわ」

 

 「フフッ、ななくんらしいね」

 

 シルヴィは笑うと、俺の手を握った。

 

 「とりあえず、色々見て回ろうよ。せっかく来たんだし」

 

 「おう、そうだな」

 

 シルヴィの手を握り返す俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ハァ・・・ここは来たくなかったのに・・・」

 

 「アハハ、まぁせっかくだし良いじゃない」

 

 溜め息をつく俺と、苦笑するシルヴィ。

 

 俺達はアルルカントの後、レヴォルフ黒学院へとやってきていた。黒いスーツを着た強面のオッサン達がたくさんいて、明らかにヤバい雰囲気が醸し出されている。

 

 「レヴォルフの学園祭は、毎年カジノをやってるの。表向きは学園主催だけど、ほとんど《歓楽街》の人達に丸投げしてるみたいだよ」

 

 「・・・まぁこの学園の生徒なんて、大体はイレーネみたいなヤンキーだろうしな。イベントに積極的なヤツなんて少ないだろ」

 

 「ヤンキーで悪かったな」

 

 「うおっ!?」

 

 いつの間にか、近くにイレーネが立っていた。

 

 「久しぶりだな、七瀬。よくここに来たもんだ」

 

 「無理矢理連れてこられたんだよ。俺はブタの顔なんざ見たくないってのに・・・」

 

 「心配しなくても、ディルクは顔を出したりしねぇよ。アイツこういうの嫌いだし」

 

 イレーネは笑ってそう言うと、シルヴィを見た。

 

 「アンタとは初めまして、だな。《戦律の魔女》」

 

 「・・・やっぱりバレてたか。流石に貴方クラスの人間は騙せないよね、《吸血暴姫》」

 

 溜め息をつくシルヴィ。

 

 「やっぱり七瀬と付き合ってたか・・・さっさと交際宣言しちまえよ」

 

 「まぁ、そのうちな・・・そういや、プリシラは一緒じゃないのか?」

 

 「あぁ、プリシラならあそこだ」

 

 イレーネが指差した方向に、大きめの露店が出ていた。そこには・・・

 

 「いらっしゃいませー!パエリアはいかがですかー?」

 

 可愛らしいエプロン姿のプリシラが、呼び込みをやっていた。その姿に、俺は思わず感動してしまう。

 

 「オ、オアシスだ・・・この薄汚いクソみたいな場所に、見てるだけで心が癒されるオアシスがある・・・!」

 

 「酷い言いようだなオイ・・・まぁ事実だから何も言えねぇけど」

 

 呆れているイレーネ。

 

 「まぁいいや・・・プリシラー!客だぞー!」

 

 「あ、お姉ちゃん・・・って七瀬さん!?」

 

 プリシラが慌てて駆け寄ってくる。

 

 「お久しぶりです!」

 

 「久しぶり。元気してた?」

 

 「はい!この通りです!」

 

 ニッコリ笑うプリシラ。何この子、天使?

 

 「ところで、そちらの方は?」

 

 「七瀬の女だよ」

 

 俺が答えるより前に、イレーネが答えてしまう。すると、プリシラの顔がみるみる赤くなっていった。

 

 「えぇっ!?ご、ごめんなさい!私ったらお邪魔しちゃって・・・!」

 

 「大丈夫だよ」

 

 シルヴィが笑いながら手を振る。

 

 「それより、私お腹空いちゃった。ななくん、パエリア食べて行こうよ」

 

 「そうだな。久々にプリシラのパエリア食べたいし。良いかな?」

 

 「も、勿論です!どうぞ!」

 

 プリシラに案内され、俺達は席へと座った。っていうか・・・

 

 「プリシラ・・・ひょっとして身体を鍛えてるのか?」

 

 「え!?分かるんですか!?」

 

 「何となくだけどな。体幹がしっかりしてるなって」

 

 以前とは足運びも違うし、それなりにトレーニングを積んでいる証拠だろう。

 

 俺の指摘に、プリシラが照れ笑いを浮かべる。

 

 「・・・あの時、強くなるって宣言しましたから。お姉ちゃんに色々と教えてもらいながら、毎日トレーニングしてるんです。とは言っても、お姉ちゃんや七瀬さんのレベルに比べたらまだまだですけど」

 

 「・・・そっか。焦って無理なトレーニングはしようとするなよ。プリシラは地道な努力が出来るヤツだから、少しずつでも継続していけばきっと強くなれる。自分を信じて、これからも頑張ってな」

 

 「はい!ありがとうございます!」

 

 「プリシラ、今度七瀬に組み手の相手をしてもらったらどうだ?アタシとだけじゃどうしても偏っちまうだろうし」

 

 イレーネがそんなことを言い出す。組み手かぁ・・・良いな。

 

 「ちょっとお姉ちゃん!?それは七瀬さんのご迷惑に・・・」

 

 「いや、全然良いよ。俺なんかで良いなら、喜んで相手になるけど」

 

 「本当ですか!?」

 

 「うおっ!?」

 

 ずいっと顔を近付けてくるプリシラ。目がキラキラしている。

 

 「実は私、お姉ちゃんと七瀬さんの身体の使い方を参考にしてるんです!だから七瀬さんに相手していただけるなら、とてもありがたいです!」

 

 「お、おう・・・じゃあ今度一緒にトレーニングするか」

 

 「よろしくお願いします!あ、急いでパエリア作ってきますね!」

 

 プリシラは大きく頭を下げると、パエリアを作りに厨房へとダッシュしていった。

 

 「・・・真っ直ぐな子だねぇ」

 

 その様子を見て、シルヴィが笑っていた。

 

 「ああいう子は強くなるよ。これからが楽しみだね」

 

 「だな。イレーネ、抜かされないように頑張れよ」

 

 「はんっ、そう簡単に抜かされてたまるかっての」

 

 ニヤリと笑うイレーネ。

 

 「まぁ姉としては、妹が強くなっていくのを見るのは嬉しくもあり・・・少し寂しくもあるけどな」

 

 「それは分かる」

 

 俺も八重達が力をつけていくのを見た時は、少し寂しさを感じたっけな・・・

 

 俺が守らなきゃなんて思ってたけど、そのうち俺の力なんて必要なくなる時が来るのかなって思ったりして・・・

 

 「あんなに小さかったのに、すっかり大きくなっちゃって・・・」

 

 「だよなぁ・・・時が経つのは早いもんだ・・・」

 

 「二人とも年寄りくさいよ・・・」

 

 俺達の様子を見て、溜め息をつくシルヴィなのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「風邪は大丈夫なの?」

うん、普通に元気だよ。

咳が出て喉が痛くて鼻水と鼻詰まりが酷いけど元気だよ。

シャノン「いや、全然元気そうじゃないんだけど。風邪の症状のオンパレードなんだけど」

そうなんだけど、別に熱があるわけでもないのよね。

だから元気は元気なのよ。

シャノン「なるほど・・・読者の皆さんも風邪には気を付けてね」

ホントそれ。日中は暑いですが、朝晩は冷えるのでお気を付けて。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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界龍第七学院

冬香の口調がマジで難しい・・・


 「ここはもう見慣れてるわ」

 

 「ずっと修行してたんだもんね」

 

 そんな会話をしながら歩く俺とシルヴィ。

 

 レヴォルフの次は、界龍第七学院へやってきていた。四ヶ月もここにいた為か、星導館のような懐かしさすら覚える。

 

 「八重ちゃんには連絡したの?」

 

 「あぁ。生徒会の手伝いが終わり次第来るってよ」

 

 八重は界龍に入学後、正式に星露の弟子となったらしい。星仙術には興味を示さず、迷わず《木派》に所属することを選んだようだ。

 

 《水派》のトップであるセシリーは凄く残念がっていて、俺のところに半泣きで連絡してきたっけな・・・

 

 一方《木派》のトップである虎峰は喜んでおり、ずいぶん八重のことを目にかけてくれているそうだ。八重が生徒会に入ったのも、書記を務めている虎峰のススメがあったからみたいだし。

 

 そんなことを考えていると、シルヴィがニヤニヤしながら俺を見ていた。

 

 「ん?どうした?」

 

 「八重ちゃんと趙くん、良い感じみたいじゃない。このままくっついたりして?」

 

 「そうなったら、俺としては嬉しいけどな」

 

 「どうしたのななくん!?シスコンのななくんにあるまじき発言だよ!?」

 

 「お前は俺を何だと思ってんの?」

 

 シスコンなのは認めるが、妹の恋愛を邪魔する気は流石に無い。

 

 どっかの妹命みたく、妹と良い感じになっている男を抹殺しようとも思わないしな。

 

 まぁ、八重に相応しくない男なら話は別だが・・・

 

 「虎峰は俺の親友だから。アイツなら、可愛い妹を安心して任せられるよ」

 

 「へぇ・・・信頼してるんだね、趙くんのこと」

 

 「勿論。これでアイツが男じゃなかったらなぁ・・・」

 

 「え、どういう意味!?」

 

 「最初は虎峰のこと女だと思ってさぁ・・・ちょっとドキッとしたんだよね。ほら、アイツ顔立ちが中性的じゃん?見方によっては美少女に見えるからさ」

 

 「何てこと・・・思わぬところに敵が・・・!」

 

 「シルヴィ?」

 

 何やらブツブツ言っているシルヴィ。俺が首を傾げていると・・・

 

 「七瀬・・・?」

 

 「え?」

 

 俺の名前を呼ぶ声がしたので振り向くと、小紋を羽織った女性が立っていた。

 

 長く艶やかな黒髪に、華奢でほっそりとした体躯・・・俺の顔を見て、女性は嬉しそうに笑った。

 

 「やっぱり七瀬や!久しぶりやなぁ!」

 

 「おぉ、冬香じゃん!」

 

 界龍の序列三位・・・《神呪の魔女》こと梅小路冬香だった。俺が界龍を出る時にはいなかったから、ずいぶん久しぶりに会う気がする。

 

 「元気そうだな。秘術の研究はどうよ?」

 

 「おかげさんで順調やわ。復活までもう少しってとこやろか」

 

 笑顔で答える冬香。そっか、順調そうで良かった・・・

 

 「そういう七瀬は、こんな所でどないしはったん?」

 

 「学園祭巡りだよ。星露とか妹に会っていこうと思って」

 

 「あぁ、八重ちゃん?あの子はえらい伸びるわ。虎峰が目ぇかけるのもよう分かる」

 

 うんうんと頷く冬香。と、何かに気付いたような表情になる。

 

 「あ、うちはそろそろ行かなアカンわ。七瀬、また今度ゆっくり話そうな」

 

 「おう。秘術とやらが復活したら、一度手合わせしようぜ」

 

 「フフッ、そん時はよろしゅう。ほな」

 

 冬香は笑いながら手を振ると、人混みの中へ消えていった。

 

 「あの人が《神呪の魔女》・・・噂には聞いてたけど、あれが京美人ってやつなんだね」

 

 「あのはんなりした感じが好きって人も多いだろうな。俺も冬香と喋ってると、何となく落ち着くし」

 

 そんな会話をしていると・・・

 

 「七瀬お兄様っ!」

 

 八重が駆け寄ってきて、俺に抱きついてくる。

 

 「おう、お疲れ八重。もう手伝いは良いのか?」

 

 「はい!師父からお兄様達をお連れするよう言われてますので!あ、シルヴィお姉様もお久しぶりです!」

 

 「久しぶり、八重ちゃん。案内よろしくね」

 

 「お任せ下さい!」

 

 八重はそう言って笑うと、俺とシルヴィの手を引いて進むのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「おぉ、七瀬!」

 

 八重に案内された先では、星露が椅子に座ってまったりとしていた。こちらに気付き、笑顔で手を振ってくれる。

 

 「久しぶり、星露。忙しいとこ悪いな」

 

 「ほほっ、構わぬ。雑務は全て虎峰に任せておるのでな」

 

 「前言撤回。仕事しろクソチビ」

 

 「急に辛辣じゃの!?」

 

 全くコイツは・・・八重も溜め息をついていた。

 

 「師父、趙師兄の負担を考えてあげて下さい。その椅子ぶち壊しますよ?」

 

 「八重までどうしたのじゃ!?」

 

 「アハハ・・・流石は兄妹だね・・・」

 

 苦笑しているシルヴィ。星露がシルヴィに視線を移す。

 

 「久しいのう、歌姫殿。仕事の方は大丈夫なのかえ?」

 

 「せっかくの学園祭だもん。ななくんとデートしたいじゃない」

 

 「ホッホッホッ、熱いのぉ!」

 

 愉快そうに笑う星露。

 

 「せっかく来たのじゃ。客人はもてなさんとな・・・八重、スマンが暁彗を呼んできてくれぬか?」

 

 「かしこまりました」

 

 八重が一礼して出て行くと、星露が俺の方を見た。

 

 「七瀬、お主の妹は逸材じゃ。武術の才に秀でておる」

 

 「お前の目から見てもそう思うか?」

 

 「うむ。純粋な武術において、ゆくゆくは虎峰を超えるじゃろう。もしかすると、暁彗と肩を並べるかもしれぬ」

 

 「そこまで!?」

 

 シルヴィが驚愕しているが、俺としてはそこまで驚きは無かった。

 

 八重の成長速度は尋常じゃない。界龍で修行してなかったら、実家で組み手した時にあしらえたかどうか分からないほどだ。

 

 この界龍で、星露達から本格的な武術の手ほどきを受けたら・・・アイツは今よりはるかに強くなるだろう。

 

 「星露、八重を頼んだ」

 

 「うむ、任せるが良い」

 

 自分の胸をドンと叩く星露。

 

 「これでも千年以上生きておるからの。弟子を育てるのはお手のものじゃ」

 

 「・・・は?」

 

 俺はポカンとしてしまった。千年以上生きている・・・?

 

 「何じゃ、信じられぬか?」

 

 「いや、お前がただ者じゃないのは分かってるつもりだけど・・・」

 

 「ふむ・・・では少し、この世の理を明かしてやろう」

 

 星露が指を鳴らした瞬間、周囲が暗転する。そして目の前に、半透明の地球が浮かび上がった。

 

 これって・・・

 

 「ホログラム・・・?」

 

 「その通りじゃ。よく見ておれ」

 

 突如として無数の隕石が現れ、地表に向かって降り注いでいく。

 

 もしかして・・・

 

 「・・・《落星雨》の再現?」

 

 「うむ」

 

 シルヴィの言葉に頷く星露。

 

 「でもこれだと、隕石がいきなり地球の周りに現れたみたい」

 

 「『《落星雨》は、世界中のあらゆる天文台が一切感知できなかった』・・・授業ではそう教えられておるのじゃろう?」

 

 「そうだけど・・・本当にいきなり降って湧いたっていうの?」

 

 「ではそれを確認すべく、儂らにはどう見えていたのかを教えてやろう」

 

 再び指を鳴らす星露。立体映像の地球が迫り、空から地表を見下ろす目線となった。

 

 そして巨大な隕石が目の前を横切り、地表に激突したかと思われた瞬間・・・積層型の魔法陣が広がり、内側がごっそりとえぐれたように消え失せる。

 

 何だこれ・・・

 

 「衝突のエネルギーを術式に転化させ、範囲内の物質を丸ごと転移させたんじゃろう」

 

 「転移って・・・何処へ?」

 

 「それは分からんが・・・儂らは『あちら側の世界』と呼んでおる」

 

 おい、それってつまり・・・

 

 「《落星雨》は自然災害ではなく・・・何者かが意図的に引き起こしたってことか!?」

 

 「その通りじゃ。衝突時の粉塵がほとんど観測されておらんのも、これが理由じゃ」

 

 星露の言葉に絶句してしまう俺とシルヴィ。

 

 確かに《落星雨》は、本来なら規模的に人類が絶滅してもおかしくないほどのものだった。

 

 それでも人類が無事だったのは、隕石が地表に衝突していなかったから・・・?

 

 「それが本当なら、一体誰がこんなことを・・・」

 

 「それは分からぬ。じゃが、もし《落星雨》が人為的に引き起こされたものなら・・・それが一回だけとは限らぬという話じゃ」

 

 「つまり今後も起きる可能性がある・・・いや、ひょっとしたら過去にも起きていたかもしれない・・・?」

 

 「うむ、確かに《落星雨》の規模は未曾有のものであったが・・・万応素もマナダイトも、昔から地球に存在しておった。今とは比較にならぬほど僅かじゃがの」

 

 「それなら、《星脈世代》もいたことになる・・・つまりお前は、その中の一人だったってことか・・・?」

 

 「そういうことじゃ。かつては魔法使いや仙人などと言われておった」

 

 「・・・スケールの大きい話だなオイ」

 

 「私のキャパシティを超えてるよ・・・」

 

 溜め息をつく俺とシルヴィ。

 

 信じられない気持ちではあるが、恐らく事実なんだろうな・・・っていうか、星露なら何でもアリな気がするわ。

 

 「ホッホッホッ、まぁ信じる信じないはお主らの勝手じゃ。それに事実を知ったからといって、何かが変わるわけでもあるまい」

 

 愉快そうに笑う星露。

 

 「今の世は素晴らしい。有望な素養を持った若人が溢れておる。儂はそういった若人の指南役を買って出ることで、その者の素養を引き出して育てたいのじゃ。そして・・・儂を楽しませてくれそうな、強き者が現れるのを待っておるのよ」

 

 「・・・ホントにバトルジャンキーだよな、お前」

 

 コイツはホント、楽しそうに戦うもんな。俺も手合わせしてもらったけど、活き活きしてたっけ・・・

 

 ボコボコにされたので、個人的には苦い思い出ではあるが。

 

 「何だか無性に戦いたくなってきたのう・・・七瀬、久々に手合わせをせぬか?」

 

 「勘弁してくれ・・・」

 

 げんなりする俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「七瀬、茶だ」

 

 「サンキュー、暁彗」

 

 暁彗が淹れてくれたお茶を一口飲む。

 

 「美味いな・・・流石だわ」

 

 「大師兄の淹れて下さったお茶は一級品ですね」

 

 八重も美味しそうに飲んでいる。暁彗が誇らしげな顔をする一方・・・

 

 「ま、まさかシルヴィアさんにお会いできるとは・・・!」

 

 「趙くん、コンサートにも来てくれてるよね。いつも応援してくれてありがとう」

 

 「こ、光栄です!」

 

 シルヴィを前に、虎峰が舞い上がっていた。あんな虎峰、初めて見るな・・・

 

 「本当に《戦律の魔女》と付き合ってたとはねぇ」

 

 セシリーがニヤニヤしながら俺を見る。

 

 「七瀬も隅に置けないねぇ」

 

 「何ニヤニヤしてんだスボラ女」

 

 「アンタホント辛辣すぎない!?」

 

 「それより七瀬・・・アレをどうにかしてくれ」

 

 沈雲が困り顔で指差した方向には・・・

 

 「グビッ・・・ぷはぁっ!ちょっと、甘酒が足りないんだけど!?」

 

 「い、今持ってくるのじゃ!」

 

 自棄酒するかのように甘酒をグビグビ飲んでいる沈華と、そんな沈華の下へ何杯も甘酒を運ぶ星露の姿があった。

 

 「あれ、おかしいな・・・星露って沈華の師匠じゃなかったっけ・・・」

 

 「あぁ、僕に雑務を押し付けた罰です。やらせといて下さい」

 

 「根に持ってたんですね、趙師兄・・・」

 

 虎峰の言い様に、若干引いている八重。まぁ星露が悪いんだけどな。

 

 「ってか、何で沈華は荒れてんの?何かあったん?」

 

 「・・・無自覚って恐ろしいね」

 

 「これが鈍感系主人公ってやつか・・・」

 

 セシリーと沈雲が溜め息をつく。何の話だろう?

 

 「流石に師父が可哀想なので、私も手伝ってきます」

 

 そう言って席を立つ八重。八重が側に近付くと、沈華が八重に抱きついた。

 

 「うぅ、八重ぇ・・・」

 

 「黎師姉、ご自愛下さい。ですからお兄様にはシルヴィお姉様がいらっしゃると、あれほど申したではありませんか」

 

 「分かってるわよぉ・・・別に私は、七瀬のことが好きだったっていうか・・・ヒーローみたいに助けてくれて、ちょっと憧れてただけなんだからぁ・・・」

 

 「はいはい、分かりましたから。とにかく落ち着きましょう」

 

 どんな会話をしているかは聞こえないが、八重が沈華の頭を撫でていた。

 

 あのツンデレ沈華が、八重にベッタベタだと・・・?

 

 「・・・《水派》と《木派》って、折り合いが悪いんじゃなかったっけ?セシリーと虎峰は仲良いけどさ」

 

 「まぁ基本的に仲良くはないんだけど・・・八重は特別だね」

 

 苦笑する沈雲。

 

 「星仙術に興味を示さなかったから、《水派》の一部は反感を抱いてたんだけど・・・八重はとにかく礼儀正しくて気配りが出来るから、反感を抱いてた連中もすっかり毒気が抜けたっていうか・・・」

 

 「しかもあの子、人の懐に入るの上手いもんね。今じゃ《水派》の連中で、八重を悪く思ってるヤツなんていないんじゃない?《木派》の連中だって、八重が《水派》の連中と仲良くしてても何も言わないし」

 

 「八重が良い子だってことは、皆分かってますから。《木派》の皆も八重を可愛がってますし、今や界龍のアイドルみたいな存在ですよ」

 

 セシリーと虎峰もそんなことを言う。凄いなアイツ・・・

 

 「ほほっ、言ったであろう?八重は逸材じゃと」

 

 いつの間にか星露がやってきていた。

 

 「強さもそうじゃが・・・八重には人を惹きつける魅力がある。あれなら暁彗達のチームに入っても、和を乱すことなどないじゃろう」

 

 「暁彗達のチームって・・・まさか黄龍!?え、アイツ《獅鷲星武祭》出んの!?」

 

 「ん?言っとらんかったか?」

 

 「聞いてねぇわ!」

 

 完全に初耳だ。マジか・・・

 

 「ちなみに、八重は既に界龍の序列十二位・・・《冒頭の十二人》に名を連ねている。実力も申し分ない」

 

 「いつの間に・・・」

 

 暁彗の言葉に頭を抱える俺。八重とは戦いたくないなぁ・・・

 

 「ななくん、ドンマイ」

 

 シルヴィが苦笑している。一方、虎峰は首を傾げていた。

 

 「そんなに八重と戦いたくないんですか?」

 

 「当たり前だろ。可愛い妹と戦いたいヤツが何処にいるよ」

 

 「でも姉上方とは戦ってましたよね?」

 

 「姉さん達は良いんだよ。殺しても死なないような人しかいないんだから」

 

 「酷い言い様ですね!?」

 

 「いや、むしろ殺す気でいかないと・・・俺が殺される」

 

 「どんな姉弟関係ですか!?」

 

 「虎峰とセシリーみたいな関係だよ」

 

 「あぁ、納得です」

 

 「虎峰!?何でそこで納得しちゃうの!?」

 

 セシリーのツッコミ。それにしても、八重がねぇ・・・

 

 「・・・まぁ誰が相手だろうと、俺達も負けられないからな。当たったら全力で叩き潰す。ただそれだけだ」

 

 俺の言葉に、皆も不敵な笑みを浮かべる。

 

 「望むところだ。俺達は負けん」

 

 「アタシも雷を使う身として、七瀬には負けられないね」

 

 「僕も親友として、七瀬には負けたくないです」

 

 「《鳳凰星武祭》じゃ、《叢雲》と《華焔の魔女》に負けたからね。リベンジマッチだ」

 

 それぞれの意気込みを聞き、星露が笑みを浮かべる。

 

 「んー、燃え滾るのう!儂も運営に掛け合って、何とか出場を・・・」

 

 「「「「「それは止めろ」」」」」

 

 「あっ、はい・・・」

 

 全員の意見が一致した瞬間なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・マジか」

 

 俺は今、超高級ホテルの一室にいた。六花園会議が行なわれる、あのホテルである。

 

 「シルヴィ、よくこんな場所を用意できたな・・・」

 

 界龍を出た頃には日も暮れていたので、一日目の学園祭デートは終了となった。

 

 シルヴィが事前にホテルを予約しており、学園祭の期間中はそこで二人で寝泊りしようという話になっていたのだが・・・

 

 「まさかこんなに高級な所だとは・・・絶対高いだろここ」

 

 「それなら心配ないよ」

 

 シャワーを浴び終え、バスローブ姿のシルヴィがやってきた。

 

 「ぺトラさん・・・ウチの理事長が、このホテルのオーナーと旧知の仲なの。今回ちょっと口をきいてもらって、二人とも三日間タダで泊まれるようにしてもらったんだ」

 

 「・・・権力って恐ろしいな」

 

 ここにタダで泊まれるとか・・・ヤバいだろ。

 

 「ってか、よく理事長さんも口をきいてくれたな」

 

 「休みを勝ち取るついでに、ホテルのことも頼み込んだんだよ。おかげでいっぱい仕事を詰め込まれちゃって・・・参るよねホント」

 

 「お疲れ」

 

 苦笑する俺。するとシルヴィは、向かい合う形で俺の膝の上に座ってきた。

 

 「ちょ、シルヴィ・・・?」

 

 「ねぇ、ななくん・・・」

 

 潤んだ瞳で俺を見つめるシルヴィ。

 

 「私、今回すっごく頑張ったから・・・ご褒美が欲しいな」

 

 「ご、ご褒美というと・・・?」

 

 「・・・分かってるくせに」

 

 妖艶な笑みを浮かべるシルヴィ。落ち着け、理性を保つんだ・・・

 

 「私ね・・・ななくんが欲しいな」

 

 「っ!」

 

 理性?何それ美味しいの?

 

 俺とシルヴィは唇を重ね、そのままベッドへと倒れこんだのだった。

 

 その後のことは・・・まぁ語るまでもないだろう。

 




二話連続投稿となります。

シャノン「最後のななっちとシルヴィアさん・・・」

おっと、それ以上はいけない。

この作品はR-18じゃないから。

シャノン「そ、そうだね・・・」

それより冬香だよ・・・マジで難しい・・・

シャノン「京都弁って独特だもんねぇ・・・」

そうなんだよ・・・上手く書けてないと思いますが、申し訳ありません。

京都出身の方がいらっしゃいましたら、遠慮無く指摘していただけると幸いです。

シャノン「お願いします(ぺこり)」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」




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聖ガラードワース学園

今日は微妙に寒いな・・・

こういう気温の変化で体調を崩す人も多いので、皆さんお気を付けて!

by思いっきり風邪をひいた人



 翌朝・・・

 

 「・・・これが朝チュンってやつか」

 

 ベッドに横になりながら、そう呟く俺の隣では・・・

 

 「うぅ・・・///」

 

 生まれたままの姿のシルヴィが、顔を真っ赤にしていた。

 

 「何で今さら恥ずかしがってんだよ・・・」

 

 「昨日はその・・・勢いに身を任せてたから・・・」

 

 思い出したのか、シルヴィが両手で顔を覆う。まぁ確かに・・・

 

 「凄かったよな、シルヴィ。あんなに乱れるとは思わなかったわ」

 

 「それ以上言わないで!?」

 

 凄い勢いで首を横に振るシルヴィ。やれやれ・・・

 

 「とりあえず起きよう。お腹も空いたし」

 

 「あ、待って!」

 

 何故か慌てるシルヴィ。

 

 「どうした?」

 

 「その・・・布団めくったら・・・見えちゃうから」

 

 「ホント今さらだなオイ」

 

 俺は溜め息をつくと、思いっきり布団をめくった。

 

 「キャッ!?」

 

 シルヴィが身体を隠そうとするが、お構い無しにお姫様抱っこで抱えた。

 

 「ちょ、何するの!?」

 

 「何って・・・シャワーを浴びようかと」

 

 「ふ、二人で!?」

 

 「勿論。身体の隅々まで洗ってやろう」

 

 「ふえええええっ!?」

 

 赤面するシルヴィ。

 

 「恨むなら、俺のスイッチを押してしまった自分を恨むんだな」

 

 「うぅ・・・ななくんがケダモノになっちゃった・・・」

 

 そう言いつつも、決して拒もうとはしないシルヴィなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「やぁ、七瀬」

 

 「お久しぶりですわ」

 

 聖ガラードワース学園の正門の前で俺達を待っていたのは、なんとアーネストとレティシアだった。

 

 おいおい・・・

 

 「会長と副会長が揃ってお出迎えって・・・いつから俺達はVIPになったんだ?」

 

 「ハハッ、僕達の仲じゃないか。遠慮などしないくれ」

 

 「三咲達は今少し手が離せないので、代わりに私達が迎えにきたのですわ」

 

 「手が離せない?もしかして仕事が忙しいのか?」

 

 「いえ、仕事といいますか・・・」

 

 歯切れの悪いレティシア。と・・・

 

 「喧嘩の仲裁です」

 

 後ろから男性が現れ・・・いや、男装している女性か。

 

 男性には無いはずの二つの膨らみが・・・

 

 「ななくん?」

 

 隣のシルヴィが頬を抓ってくる。痛い痛い・・・

 

 「パーシヴァル?三咲を手伝いに行ったんじゃなかったのかい?」

 

 「そのつもりだったのですが・・・少々問題が生じまして」

 

 女性・・・パーシヴァルさんはそう言うと、俺達の方を見た。

 

 「初めまして、《雷帝》。お隣は《戦律の魔女》ですね。私はパーシヴァル・ガードナーと申します。以後お見知りおきを」

 

 「あぁ、貴方が《聖杯》の使い手・・・《優騎士》ですか」

 

 ガラードワースの学有純星煌式武装である、《聖杯》こと《贖罪の錐角》・・・その使い手が二十年ぶりに現れたことは、俺もニュースで見て知っていた。

 

 この人がその使い手、ガラードワースの序列六位か・・・

 

 「《雷帝》、貴方の力をお借りしたいのですが・・・」

 

 「構いませんよ。あと、七瀬で大丈夫です」

 

 「では、私のこともパーシヴァルとお呼び下さい。それで、その問題というのが・・・」

 

 パーシヴァルさんは、どこか困り顔で俺を見たのだった。

 

 「現在、トレーニングルームにて・・・貴方の姉上方が喧嘩しておりまして・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 パーシヴァルさんに連れられて、トレーニングルームへやってきた俺達。

 

 そこで見た光景は・・・

 

 「はあああああっ!」

 

 「やあああああっ!」

 

 五和姉と六月姉が、三咲姉へと剣を振るう姿だった。しかし・・・

 

 「無駄です!」

 

 三咲姉が剣で受け止め、そのまま二人を弾き飛ばす。

 

 「どういうことだい・・・?」

 

 驚いているアーネスト。

 

 「確か三咲は、五和と六月の喧嘩を仲裁しに来たはずでは・・・?」

 

 「その予定だったのですが、三咲まで喧嘩に加わってしまいまして・・・」

 

 パーシヴァルさんが説明してくれる。

 

 「三咲には一対一では敵わないと判断した五和と六月が、一時的に手を組んで三咲と戦っているといった状況です」

 

 「どうして三咲まで加わっているんですの・・・」

 

 呆れているレティシア。と・・・

 

 「先輩方!もうその辺にして下さい!」

 

 「お、落ち着いて下さい!」

 

 二人の男女が、三咲姉達に必死で呼びかけている。

 

 あれ、片方は見覚えが・・・

 

 「あぁ、《鳳凰星武祭》に出てた・・・《輝剣》だっけ?」

 

 「ん?」

 

 こちらを振り向く男子生徒。

 

 「あ、皆さん・・・って《雷帝》!?どうしてこんなところに!?」

 

 「ヤッホー。えっと、チャリオット・ブースターくん?」

 

 「エリオット・フォースターですけど!?」

 

 「あぁ、ゴメン。よろしくエリオ」

 

 「初対面で名前を略された!?」

 

 ショックを受けているエリオ。と、不意に横から制服の袖を引っ張られた。

 

 振り向くともう一人の女子生徒が、俺を涙目で見つめていた。

 

 「た、助けて下さい・・・先輩方の弟さんである《雷帝》さんなら、喧嘩を止められるかもしれません・・・」

 

 「何この可愛い子、妹にしたいんだけど」

 

 「その子はノエル・メスメル。ウチの序列十位で、二つ名は《聖茨の魔女》だよ」

 

 アーネストが説明してくれる。へぇ・・・

 

 「ノエルかぁ・・・良い名前だな」

 

 「はうっ!?」

 

 途端に赤面するノエル。と、そこへエリオが駆け寄ってきた。

 

 「それより《雷帝》!先輩方を止めて下さい!」

 

 「何で皆二つ名で呼ぶかなぁ・・・七瀬で良いんだけど」

 

 「じゃあ七瀬さん!あの三人を止めて下さい!」

 

 「だが断る」

 

 「何でですか!?」

 

 「逆に聞くけど、エリオはアレに突撃したいと思う?」

 

 「・・・絶対嫌です」

 

 「ミートゥー」

 

 五和姉と六月姉だけならともかく、三咲姉までいるしなぁ・・・

 

 「ってか、そもそも何で喧嘩してんの?」

 

 「そ、それは・・・」

 

 ノエルが口ごもるが、やがておずおずと口を開く。

 

 「五和先輩と六月先輩が、どっちが七瀬さんを案内するかで揉めて・・・そこへやってきた三咲先輩が、自分が案内するに決まってるって断言して・・・それで、誰が一番七瀬さんを上手に案内できるかで喧嘩に・・・」

 

 「《超電磁砲》」

 

 ノエルの説明の途中で、俺はトレーニングルームの壁に《超電磁砲》をぶち込んだ。凄まじい爆発音が鳴り響き、三人の動きが止まる。

 

 恐る恐るこちらを振り向く三人に、俺はニッコリと笑いかけた。

 

 「とりあえず・・・死にたいヤツは前へ出ろ」

 

 「「「すいませんでした」」」

 

 その場で土下座する三人なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「エリオもノエルも、悪かったな」

 

 謝る俺。

 

 三咲姉・五和姉・六月姉は、アーネスト・レティシア・パーシヴァルさんに生徒会室へ連れていかれた。俺がトレーニングルームに空けた穴も、三咲姉達のせいということにしてもらった。

 

 恐らく余分に反省文を書かされることだろう。自業自得である。

 

 「まさか一瞬で終わらせてしまうなんて・・・」

 

 「す、凄いです・・・」

 

 「力ずくだったけどね」

 

 驚嘆しているエリオとノエルに、苦笑するシルヴィ。

 

 「でもななくん、結局案内役がいなくなっちゃったね?」

 

 「まぁ良いんじゃね?テキトーに見て回ろうぜ」

 

 「あ、あの!」

 

 そんな会話をしていると、ノエルがおずおずと手を上げた。

 

 「わ、私で良かったら・・・案内させてもらえませんか・・・?」

 

 「それなら僕も。助けてもらいましたから」

 

 エリオまでそんなことを言ってくれる。おぉ・・・

 

 「サンキュー!助かるよ!」

 

 「うわっ!?」

 

 「キャッ!?」

 

 二人の肩を掴んで抱き寄せる。こんな後輩がいて、三咲姉達が羨ましいわ。

 

 「そういや二人は、チーム・トリスタンの一員として《獅鷲星武祭》に出るんだよな?」

 

 俺の問いに、エリオとノエルがおずおずと頷く。

 

 チーム・トリスタンは、ガラードワースの序列七位から十二位までの六名で構成される。

 

 五和姉が七位で六月姉が八位、エリオが九位でノエルが十位なので・・・四人はチームメイトということになる。

 

 「・・・五和姉と六月姉のこと、よろしく頼むよ。あの二人は、今回で《星武祭》への参加が三回目・・・つまり今回が最後になるから。後悔だけはしてほしくないんだ」

 

 「七瀬さん・・・はい!任せて下さい!」

 

 「全力で頑張ります!」

 

 「・・・ありがとな、二人とも」

 

 エリオとノエルの心強い返事を、嬉しく思う俺なのだった。

 




どうも~、ムッティです。

ノエルちゃんマジ天使。

シャノン「出たよ浮気性・・・」

最新巻の最初のページのノエルちゃんの絵が可愛すぎて・・・

くっ、『お兄ちゃん』と呼ばれているエリオが羨ましいぜ。

次はノエルちゃんのお兄ちゃんが主人公の物語でも書こうかな。

シャノン「シスコンぶりが目に浮かぶようだよ・・・」

うん、とりあえず最初にエリオは抹殺されるだろうね。

シャノン「エリオくん逃げて!超逃げて!」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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チーム・赫夜

カラオケ行きたいけど、喉が痛いから行けない・・・


 エリオとノエルが案内してくれたおかげで、俺とシルヴィはガラードワースを色々と見て回ることができた。

 

 途中でシルヴィが『ダブルデートみたいだね』と言った時の、エリオとノエルの反応といったら・・・二人とも顔を真っ赤にしてたっけな。

 

 そんなこんなでガラードワースを後にした俺達が、次にやってきたのは・・・

 

 「じゃーん!秘密の花園へようこそ!」

 

 テンションの高いシルヴィ。そう、俺達はクインヴェール女学園に来ていた。

 

 アスタリスク唯一の女子校とあって、外部の人達より他学園の男子生徒達が数多く見受けられる。

 

 「自分の気持ちに正直な奴が多いってことだな」

 

 「アハハ、確かに」

 

 笑っているシルヴィ。

 

 「っていうか、そろそろお腹空かない?何か買ってくるから、どこか座れる場所の確保をお願いしてもいい?」

 

 「了解。買い終わったら連絡くれ」

 

 「オッケー」

 

 一旦シルヴィと別れ、俺は腰を落ち着けて食事できそうな場所を探す。

 

 「んー、人が多いなぁ・・・」

 

 「あ、あのっ!」

 

 「ん?」

 

 振り向くと、クインヴェールの制服を着た少女が立っていた。走ってきたのか、少々息を切らしている。

 

 「えっと、俺に用かな?」

 

 「はい!あの、星導館の星野七瀬さんですよね!?」

 

 「うん、そうだけど・・・」

 

 「うわー!やっぱり!」

 

 目をキラキラ輝かせる少女。

 

 「実は私、星野さんのファンなんです!」

 

 「ファン!?俺の!?」

 

 「はいっ!」

 

 ブンブン頷く少女。

 

 「同じナックル型の煌式武装を使う身として、星野さんを尊敬してまして!動きとか参考にさせていただいてるんです!」

 

 「マジか・・・」

 

 まさか俺みたいなヤツにファンがいたとは・・・ありがたいな。

 

 「私、若宮美奈兎っていいます!その・・・握手して下さい!」

 

 「お、おう・・・」

 

 差し出された手を、恐る恐る掴む。少女・・・若宮さんは感激の面持ちだった。

 

 「わぁ・・・!私、もう一生手を洗えないよぉ・・・!」

 

 「いや、ちゃんと洗ってね」

 

 何とオーバーな子だろうか・・・俺なんかと握手したくらいで・・・

 

 「俺なんかで良かったら、いつでも握手させてもらうからさ」

 

 「ホントですか!?ヤッター!」

 

 大喜びの若宮さん。本当に変わった子だなぁ・・・

 

 「あ、いました!美奈兎さん!」

 

 「もうっ!探しましたわよ!?」

 

 二人の少女がこちらへ駆け寄ってきた。一人は紫色のロングヘアの少女、もう一人は柔らかな金色の髪の少女だ。

 

 「突然いなくなってしまって、心配したんですよ?」

 

 「アハハ、ゴメンゴメン。星野さんを見かけたから、つい・・・」

 

 「星野さん?」

 

 そこで初めて、少女達が俺の方を見た。二人とも驚いた顔をしている。

 

 「えっ、星導館の・・・」

 

 「《雷帝》!?」

 

 「どうも、星野七瀬です」

 

 とりあえず挨拶しておく。すると二人も、俺に対して一礼した。

 

 「初めまして、蓮城寺柚陽と申します」

 

 「ソフィア・フェアクロフですわ。以後お見知りおきを」

 

 「フェアクロフ?ひょっとして、アーネストの・・・?」

 

 「あら、お兄様とお知り合いなのですか?」

 

 お兄様って・・・え、妹!?

 

 「マジか・・・アーネストのヤツ、こんな美人な妹がいたのか・・・」

 

 「び、美人っ!?」

 

 赤面してしまうソフィアさん。すると・・・

 

 「貴方達、こんなところで何をしているのかしら?」

 

 「さ、探したんだよ・・・?」

 

 またしても新たな少女が二人やってきた。一人は緑色のロングヘアの少女、もう一人は薄紫色の髪の少女だ。

 

 おぉ、続々とやってくるな・・・

 

 「あら、貴方は・・・星導館の《雷帝》?」

 

 「《鳳凰星武祭》でベスト八の・・・」

 

 「どうも・・・ん?」

 

 薄紫色の髪の少女をじっと見つめる俺。この子、どこかで・・・

 

 「な、何・・・?」

 

 「あぁ!ニーナ・アッヘンヴァルさんだ!」

 

 「ふぇっ!?」

 

 驚いている少女・・・アッヘンヴァルさん。

 

 「ど、どうして私の名前を・・・」

 

 「去年の《鳳凰星武祭》に出てたでしょ?《魔女》の能力が面白いなって思って、注目してたんだよね」

 

 アッヘンヴァルさんは、《戦札の魔女》の二つ名を持つ《魔女》だ。

 

 トランプの四つのスートを模した煌式武装を使用し、スートや数字の組み合わせで能力を変えられるという面白い力を持っている。

 

 珍しかったので、俺もよく覚えていた。

 

 「綺凛とも、『対戦してみたいな』って話してたんだよ。いやぁ、ここで会えるとは」

 

 「で、でも・・・私はタッグパートナーの足を引っ張って・・・」

 

 「そう?むしろアッヘンヴァルさんがいたから、あそこまで戦えたんだと思うよ?少なくとも、俺は試合を見ててそう思ったけど」

 

 「っ・・・」

 

 アッヘンヴァルさんの目に、みるみる涙が溜まっていく。

 

 えっ・・・?

 

 「うっ・・・うえええええん・・・」

 

 「ちょ、何で泣くの!?」

 

 うろたえる俺。その様子を、若宮さん達は何故か微笑みながら見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「へぇ、皆でチームを組んで《獅鷲星武祭》に出るんだ?」

 

 「うん!チーム・赫夜っていうんだ!」

 

 笑顔で答える美奈兎。

 

 俺は五人に案内にしてもらい、人の少ない場所へと連れてきてもらっていた。シルヴィにはメールで連絡しており、食べ物を買い次第こちらに来ることになっている。

 

 やはりどの店も混んでいるようで、少し手間取っているらしい。

 

 「七瀬も《獅鷲星武祭》出るんでしょ?」

 

 「まぁな。だから美奈兎達には負けられないわ」

 

 「うぅ、強敵だなぁ・・・」

 

 「そんな弱気でどうしますの!」

 

 顔を顰める美奈兎に、ソフィアが喝を入れる。

 

 「優勝を目指す以上、七瀬さんを倒さなくてはいけないのですよ!?もっと強気な姿勢を見せてくださいまし!」

 

 「ソフィア先輩の言う通りよ。それに出場する以上、敵は七瀬のチームだけじゃない。どのチームが相手だろうと、油断なんて出来ないわよ」

 

 緑色のロングヘアの少女、クロエ・フロックハートも頷いている。俺は思わず苦笑してしまった。

 

 「ソフィアとクロエは手厳しいなぁ・・・まぁ正しいんだけども」

 

 ちなみに俺は皆のことを、美奈兎・ソフィア・クロエ・柚陽・ニーナと名前で呼ぶようになった。俺が『苗字じゃなくて名前で呼んで』とお願いしたら、『じゃあ私達のことも名前で』となって今に至る。

 

 ソフィアに関しては年上なので、最初は『ソフィアさん』と呼んで敬語を使おうとしたのだが・・・

 

 『お兄様を呼び捨てになさっているのですから、どうか私のことも呼び捨てでお願い致します。敬語も不要ですわ』

 

 とのことだったので、普通にソフィアと呼ぶことにした。

 

 話してみて分かったのだが、どうやらソフィアはブラコンらしい。アーネストのことを『理想の男性像』と語るなど、すっかり心酔しているようだ。

 

 アーネストが羨ましいかぎりである。

 

 「フフッ、愛情の裏返しですよ。このチームのメンバーは、美奈兎さんの熱意に心を打たれて集まっていますから」

 

 「美奈兎がいたからこそ、このメンバーが集まったんだよ」

 

 柚陽とニーナがそんなことを言う。

 

 話を聞いて驚いたのだが、柚陽は天霧辰明流の分家筋の道場の門下生らしい。つまり綾斗と同じ流派で、綾斗とも面識があるとのことだ。

 

 ただ柚陽が得意とするのは、剣術ではなく弓術なんだとか。天霧辰明流って、槍術とか組打ち術とかホント幅広いよなぁ・・・

 

 っていうか・・・

 

 「何でニーナは俺の膝の上に乗ってんの?」

 

 「落ち着くんだもん」

 

 何故かニーナに懐かれた俺。ここに来る途中も、ずっと服の袖を掴まれていた。

 

 何か懐かれるようなことしたっけ・・・?

 

 「そうしていると、まるで兄妹みたいですね」

 

 柚陽が笑いながら言う。

 

 ニーナは俺の一つ下・・・高等部一年らしい。八重や九美と同い年なので、妹でもおかしくない・・・

 

 ん?九美?

 

 「・・・なぁニーナ、星野九美って知ってる?今年からクインヴェールの高等部に入学したから、ニーナと同学年のはずなんだけど・・・」

 

 「知ってるよ。同じクラスだもん」

 

 「まさかのクラスメイト!?」

 

 何てこった・・・世間は狭いな・・・

 

 「九美は有名人だよ?ウチの《冒頭の十二人》・・・序列七位だし」

 

 「・・・もう嫌だ。何なのウチの妹達」

 

 八重といい九美といい、知らない間に《冒頭の十二人》になってるんだけど・・・

 

 入学早々順位上げ過ぎだろ・・・って、俺が言えたことじゃなかったわ。

 

 「九美ちゃんのことなら、私達もよく知ってるよ」

 

 美奈兎がそんなことを言う。

 

 「チームメイトだし」

 

 「・・・はっ?」

 

 俺が間の抜けた声を出した瞬間・・・

 

 「七瀬兄さあああああああああああああああんっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 俺の名前を叫びながら、こちらへ全力で走ってくる人影が一つ・・・間違いない。

 

 「九美!?」

 

 「九美ですよおおおおおおおおおおっ!」

 

 俺の目の前で急停止する九美。

 

 「もう!来てたなら連絡して下さいよ!」

 

 「この間連絡したら、『十萌ちゃんと万理華さんが来れないなんて・・・もう学園祭なんてどうでもいいです・・・』とか言ってたじゃん。てっきり参加しないもんだと・・・」

 

 「兄さんの為なら駆けつけるに決まってるじゃないですか!柚陽先輩から連絡をもらってビックリしましたよ!」

 

 「柚陽が?いつの間に・・・」

 

 「ここに来る途中で少々」

 

 ニッコリ笑う柚陽。マジか・・・

 

 「それよりニーナちゃん?何で兄さんの膝の上に乗ってるんですか?」

 

 「七瀬の膝の上は落ち着くから」

 

 「ズルいです!私も乗ります!」

 

 「いや、重量オーバーだわ」

 

 「私そんなに重くないですよ!?」

 

 「高校生の女子を二人も乗せられるわけないだろ。一人で限界だ」

 

 「ニーナちゃん!代わって下さい!」

 

 「嫌だ」

 

 「なっ!?じゃあ勝負です!兄さんの膝に座る権利を賭けて!」

 

 「望むところ」

 

 九美とニーナが睨み合う。って、そんなことはどうでも良くて・・・

 

 「・・・なぁ、九美がチームメンバーってマジ?」

 

 「マジよ」

 

 クロエが答えてくれる。

 

 「昨年の段階で私達五人は揃っていたんだけど、最後の一人が決まらなくてね。それならいっそ、今年入学してくる新入生に賭けようって話になったの。それで今年から高校部に上がったニーナが連れてきたのが、彼女のクラスメイトになった九美だったのよ」

 

 「最初は私達も彼女の実力が分からず、少々戸惑っていたのですが・・・ある出来事をキッカケに、彼女をチームに勧誘したのです」

 

 「ある出来事?」

 

 ソフィアの説明に首を傾げる俺。

 

 「えぇ。七瀬さん、昨年の《鳳凰星武祭》のニーナさんのタッグパートナーを覚えていらっしゃいますか?」

 

 「・・・ゴメン、ニーナしか覚えてない」

 

 「サンドラ・セギュールさんですわ。《鳳凰星武祭》の後、純星煌式武装の使い手になりまして。序列七位・・・《冒頭の十二人》になったんです」

 

 「へぇ・・・って、あれ?序列七位ってまさか・・・」

 

 「えぇ。九美さんはサンドラさんを倒して、序列七位になったんですよ」

 

 勝負を始めた九美とニーナを見て、笑みを零す柚陽。

 

 「サンドラさんは、ニーナさんのことを自分の手駒としか見ていませんでした。《鳳凰星武祭》で負けたことをニーナさんのせいにして、容赦なく切り捨てたんです。サンドラさんが組んだ《獅鷲星武祭》に出場するチームに、ニーナさんは入れませんでした」

 

 「それでニーナには私達のチームに入ってもらって、サンドラのチームと模擬戦をやったの。結果は私達の勝ち・・・ニーナも吹っ切れた顔をしてたわ」

 

 クロエも二人を見て微笑んでいる。

 

 「でもサンドラは、その時のことを根に持っていてね。私達が訓練している時に噛み付いてきて、ニーナのことをバカにしたのよ。その時私達と一緒にいた九美が、サンドラにキレて決闘を吹っ掛けたの。結果は九美の圧勝、サンドラはボコボコにされたわ」

 

 「いや、ボコボコって・・・」

 

 「比喩表現じゃなくて、本当にボコボコにされたのよ。九美の拳や蹴りが、何度もサンドラの顔面や腹部に入って・・・正直、ちょっとサンドラが可哀想になったわ」

 

 「あれなら校章を破壊できたと思うんだけど・・・意識消失まで追い込んだからね」

 

 クロエと美奈兎の説明に戦慄を覚える俺。アイツ怖いな・・・

 

 「でも、おかげで九美ちゃんが強いって分かったし・・・何より、九美ちゃんは優しいなって思ったよ。相手が《冒頭の十二人》だろうが、友達をバカにされたら絶対に黙ってない・・・そんな九美ちゃんだから、一緒に戦いたいと思ってチームに誘ったんだ」

 

 「そうですね。九美さんと出会ってから、ニーナさんの笑顔も増えましたし。ニーナさんがあんな風にじゃれ合うのは、九美さんだけですよ」

 

 美奈兎の言葉に頷く柚陽。そっか・・・

 

 「・・・やるじゃん、九美」

 

 兄として誇らしく思う俺なのだった。

 




二話連続投稿となります。

シャノン「ここで『クインヴェールの翼』と絡ませてきたね」

そうそう。九美はチーム・赫夜のメンバーということにしました。

早く『クインヴェールの翼』の続きが読みたいなぁ・・・

シャノン「そういえば、私は《獅鷲星武祭》出るの?」

・・・気が向いたら出すわ。

シャノン「それ絶対出ないパターンだよねぇ!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「私に出番をくれええええええええええっ!」


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ルサールカ

ストックが無くなっていくぅ!


 「そっか、美奈兎ちゃん達が案内してくれたんだね」

 

 「あぁ、おかげで助かったよ」

 

 腹ごなしを終え、まったりしているシルヴィと俺。

 

 美奈兎達はトレーニングをするらしく、シルヴィが来る前にトレーニングルームへと行ってしまったのだ。

 

 九美は『兄さんと一緒が良いですぅ!』とか言ってたけど、結局ニーナが引きずっていった。

 

 「九美は良い仲間に巡り会えたみたいだな。チーム・赫夜は強敵になりそうだ」

 

 「だね。ななくんのチームも、当たったら苦戦するかもよ?」

 

 「それでも勝つよ。優勝するのは俺達だ」

 

 たとえ八重や九美と戦うことになっても・・・絶対に負けられないからな。

 

 俺が改めて決意を固めていると・・・

 

 「いーや、優勝はアタシたちのもんだよ!」

 

 「ん?」

 

 背後から威勢の良い声が響く。振り向くと、四人の女子達が立っていた。

 

 「いくら七瀬が相手でも、勝ちは譲れないからね!」

 

 「おー、ミルシェじゃん。おひさ~」

 

 「ちょ、軽くない!?」

 

 中心に立っていた女子・・・ミルシェがずっこける。クインヴェールが誇るガールズロックバンド・ルサールカのリーダーだ。

 

 「パイヴィ、トゥーリア、モニカまでいるのか。久しぶりだなオイ」

 

 「久しぶりね、七瀬」

 

 「元気そうで何よりだぜ」

 

 「大きくなったね!」

 

 それぞれ挨拶を返してくれる三人。それを見て、シルヴィがビックリしていた。

 

 「え、ななくんルサールカと知り合いだったの!?」

 

 「何度か四糸乃姉が実家に連れてきてたから、すっかり顔馴染みになっちゃって」

 

 「あぁ、シノンか」

 

 納得するシルヴィ・・・って、あれ?

 

 「そういや四糸乃姉は?マフレナもいないけど」

 

 「あぁ、あの二人なら・・・」

 

 「あ、いたいた!ミーちゃん!」

 

 「食べ物買ってきましたよ~!」

 

 四糸乃姉とマフレナが、両手に袋を持ちながらやってくる。

 

 「あれ!?なーちゃんとシーちゃん!?何でここに!?」

 

 「学園祭デートしてるの」

 

 シルヴィが四糸乃姉に説明する一方、マフレナが俺の下に駆け寄ってくる。

 

 「七瀬さん!お久しぶりです!」

 

 「久しぶり。マフレナは相変わらず天使だなぁ」

 

 「ふぇっ!?」

 

 俺が頭を撫でると、マフレナが恥ずかしそうに赤面する。

 

 「いいかマフレナ、お前はミルシェ達みたいになっちゃダメだぞ?」

 

 「は、はい・・・///」

 

「ちょ、七瀬!?どういう意味よそれ!?」

 

 「ミルシェうるさい。今マフレナに癒されてんだから邪魔すんな」

 

 「七瀬?モニカも癒してあげようか?」

 

 「お前の本性を知ってて癒されるわけないだろ。この腹黒ロリ年増」

 

 「酷くない!?」

 

 「ハハッ、残念だったなモニカ!」

 

 「トゥーリアも他人のこと言えないだろ。お前はミルシェと同じ類なんだから」

 

 「なっ!?それは心外だぞ七瀬!」

 

 「どういう意味よトゥーリア!?」

 

 ミルシェとトゥーリアが言い合いを始め、モニカは凹み、マフレナは俺に頭を撫でられ赤面し、パイヴィはそれを見ながら黙々と食べている。

 

 「・・・何このカオスな集団」

 

 「ほとんどなーちゃんのせいでしょ」

 

 溜め息をつく四糸乃姉。

 

 「ほら、ミーちゃんとトリちゃんは喧嘩しないの。パイちゃんは皆の分も残しておいてね。モカちゃんとマナちゃんもこっちおいで。なーちゃんとシーちゃんも一緒にどう?」

 

 「・・・シノン、本当に皆のお姉さんみたい」

 

 苦笑するシルヴィなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「え、じゃあアンタ達マジで付き合ってんの!?」

 

 「まぁな」

 

 ミルシェの問いに頷く俺。

 

 「ちょっとシノン!?アンタ知ってなら教えなさいよ!?」

 

 「ミーちゃん達に教えるなんて、全世界にバラすようなものじゃない」

 

 「アタシ達を何だと思ってんの!?」

 

 「手のかかる子供達」

 

 「アンタはアタシ達の母親かっ!」

 

 おぉ、あの四糸乃姉が大人のような対応を・・・

 

 「うぅ・・・成長したね、四糸乃姉・・・」

 

 「立場が逆じゃない!?私なーちゃんのお姉ちゃんだよねぇ!?」

 

 「ほら見なさいよ!シノンだってアタシ達と変わらないじゃない!」

 

 「おいミルシェ、お前らと四糸乃姉を一緒にすんな。しばくぞ」

 

 「何で七瀬は急に態度が変わるの!?」

 

 ギャーギャー騒ぐ俺達。と、マフレナがおずおずと手を上げる。

 

 「えっと、お二人が交際しているのは分かりましたが・・・バレたらマズくないですか?シルヴィアさんはトップアイドルですし、相当なスキャンダルになるのでは・・・」

 

 「ってことは、シルヴィアさんの人気暴落!?」

 

 「モニカの時代到来!?」

 

 「そんな時代が来たら、それこそこの世の終わりだろうよ」

 

 「七瀬!?何か前より辛辣さが増してない!?」

 

 涙目のモニカ。まぁでも、確かにそれは考えないといけないんだよな・・・

 

 「アイドルである以上、熱愛が発覚したら少なからず影響が出るよな・・・」

 

 「それはそうね」

 

 俺の言葉に頷くパイヴィ。

 

 「週刊誌に撮られて、坊主にしたアイドルだっているんだから。同じように週刊誌に載って、総選挙で三連覇を達成したアイドルもいるけど・・・あんなのは例外中の例外よ」

 

 「その具体的な例え止めてくんない?それからシルヴィ、坊主だけは絶対止めてくれ」

 

 「アハハ、流石にしないよ」

 

 笑っているシルヴィ。

 

 「私は・・・このままでも大丈夫だから。ななくんがいてくれたらそれで・・・」

 

 「シルヴィ・・・」

 

 「あ、ちょっとこのゴミ袋捨ててくるよ」

 

 立ち上がり、ゴミを捨てに行ってしまうシルヴィ。アイツ・・・

 

 「・・・嘘だよね、今のセリフ」

 

 四糸乃姉が呟く。

 

 「シーちゃんの性格上、コソコソ隠れて交際したくないんじゃないかな」

 

 「俺もそう思う」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「とはいえ、シルヴィの立場を考えると・・・」

 

 「・・・トップアイドルも大変だよな」

 

 トゥーリアが珍しく神妙な表情をしている。

 

 「恋愛一つするにしても、これだけ気を遣わないといけないなんて・・・アタシらぐらいの年頃なら、恋の一つや二つしててもおかしくないってのに」

 

 「え?トゥーリアも恋してんの?」

 

 「・・・スマン。してない」

 

 「トゥーリアはお子様だもんねぇ」

 

 「モニカに言われたくねぇわ!」

 

 「なっ!?モニカはお子様じゃないもん!」

 

 言い合いを始めるトゥーリアとモニカ。コイツらホント仲良いな・・・

 

 「でも七瀬、そろそろ真剣に考えるべきじゃないかしら?」

 

 パイヴィがそんなことを言う。

 

 「熱愛報道が出て、もう一年近くになるでしょ?このまま無言を貫き通すのか、それとも発表してしまうのか・・・一度シルヴィアと話し合った方が良いんじゃないかしら?」

 

 「・・・そうだな。ちゃんと話し合ってみるよ」

 

 パイヴィの言う通りだな・・・そろそろキチンとしておかないと。

 

 っていうか・・・

 

 「今さらだけど・・・ルサールカのリーダー、四糸乃姉かパイヴィの方が良くね?」

 

 「ちょっと!?リーダーの座は渡さないからね!?」

 

 涙目になるミルシェなのだった。

 




三話連続投稿となります。

シャノン「ななっちとルサールカは知り合いだったんだね」

そうそう。『初めまして』の設定にすると面倒だし。

シャノン「そんな裏事情言わなくていいよ!?」

とりあえずマフレナが可愛い。

シャノン「この浮気野郎・・・」

可愛い女の子を可愛いと言って何が悪い!

シャノン「開き直った!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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二人の想い

LiSAさんがMステに出てるぞおおおおおっ!


 「ここが一番落ち着くわ」

 

 「フフッ、自分の学園だもんね」

 

 ルサールカと別れた俺達は、星導館学園へとやってきていた。

 

 アルルカント、レヴォルフ、界龍、ガラードワース、クインヴェール・・・それぞれの学園に良いところがあったけど、やっぱり俺は星導館が一番好きだな。

 

 そのことをしみじみと感じていると・・・

 

 「あら、七瀬」

 

 「シルヴィも一緒じゃない」

 

 たこ焼きを食べながら声をかけてきたのは、一織姉と二葉姉だった。

 

 「二人とも来てたんだ?」

 

 「今日はオフなのよ。《星武祭》と違って怪我人はほぼ出ないから、治療院としては本当に助かるわ」

 

 「ちなみに私はバリバリ仕事中よ。星導館の敷地内をパトロールしてるの」

 

 「いや、パトロール中にたこ焼き食ってんじゃねーよ」

 

 呆れる俺。

 

 ホントに仕事してんのかな、この人・・・

 

 「だってお腹空いたんだもの。こういう楽しみがなきゃ、やってらんないわよ」

 

 「ほう・・・いい度胸をしているな、二葉」

 

 「ぐふっ!?」

 

 背後からした声に、二葉姉が変な声を出す。

 

 現れたのは・・・

 

 「ヘ、ヘルガ隊長!?」

 

 「やぁ一織、しばらくぶりだな」

 

 警備隊の制服に身を包んだ美女が、一織姉に微笑みかける。

 

 この人って・・・

 

 「君が星野七瀬くんだな?初めまして、ヘルガ・リンドヴァルだ。星猟警備隊の警備隊長を務めている」

 

 「星野七瀬です。姉がいつもお世話になっております」

 

 一礼する俺。

 

 ヘルガ・リンドヴァルといったら、アスタリスクで知らない者などいないほどの超有名人だ。

 

 二つ名は《時律の魔女》・・・自らの周囲の時間を操る能力を持っている。オーフェリア・ランドルーフェンと並び、アスタリスク史上最強の《魔女》との呼び声も高い。

 

 この人が・・・

 

 「ハハッ、そう畏まらないでくれたまえ。君とは一度会ってみたいと思っていたんだ」

 

 「自分にですか?」

 

 「あぁ。《鳳凰星武祭》を見せてもらったが、身体能力の高さを感じたよ。それに加えて《魔術師》の力・・・二つが組み合わさった時、君の力は強大なものとなるだろう。君にはまだまだ可能性がある」

 

 「恐縮です」

 

 あのリンドヴァル隊長にそう言ってもらえるのは、俺としても嬉しい。

 

 と、俺はリンドヴァル隊長の後ろで縮こまっている人がいることに気付いた。

 

 「谷津崎先生?何してるんですか?」

 

 「・・・警備隊長殿の案内役だ」

 

 いつもより覇気の無い声の谷津崎先生。珍しいな・・・

 

 「あれ?そういや釘バットはどうしt・・・」

 

 「うわああああああああああっ!?」

 

 慌てて俺の口を塞ぐ谷津崎先生。リンドヴァル隊長の目が鋭く光る。

 

 「釘バット?何の話だ?」

 

 「何でもありません!こっちの話なんで!」

 

 谷津崎先生は愛想笑いで誤魔化すと、俺に鬼のような形相を向けてきた。

 

 恐らく、『余計なことは喋るな』ということだろう。よっぽどリンドヴァル隊長が怖いんだな・・・

 

 リンドヴァル隊長は首を傾げたが、一転して二葉姉に呆れたような視線を向ける。

 

 「二葉、今は勤務中だぞ。食事している場合か」

 

 「も、申し訳ありません!」

 

 ビシッと敬礼する二葉姉。隣では、一織姉も敬礼していた。

 

 「も、申し訳ありません隊長!私がついていながら・・・」

 

 「一織・・・お前はもう私の部下ではないのだから、そう硬くなるな」

 

 苦笑するリンドヴァル隊長。

 

 「全く・・・お前といい谷津崎といい、何故私に対してそんなに硬くなるのだ・・・」

 

 「リンドヴァル隊長が怖いからでしょうね」

 

 「七瀬!?」

 

 「何言ってんのアンタ!?」

 

 「死にたいのかお前!?殺されるぞ!?」

 

 「谷津崎先生、もう恐怖を隠す気ゼロですよね」

 

 思わずツッコミを入れてしまう俺。一方のリンドヴァル隊長は、なかなか興味深そうな表情をしていた。

 

 「ほほう・・・やはり私は怖がられているのか?」

 

 「威圧感がありますからね。それに加えて、リンドヴァル隊長は有名人ですから。要は皆、恐れ多くて緊張してしまうんですよ」

 

 「なるほど・・・だがそういう君は、私に対してハッキリものを言うのだな」

 

 「リンドヴァル隊長の場合、変に気を遣われる方が嫌なタイプかなと思いまして。気に障ったのなら申し訳ありません」

 

 「フフッ・・・ハハハッ!」

 

 愉快そうに笑うリンドヴァル隊長。

 

 「面白いな君は。初対面でそんなことを言われたのは、君が初めてだ。流石は一織と二葉の弟・・・肝が据わっている」

 

 「畏まった態度が苦手なだけですよ」

 

 「ククッ・・・良いな、気に入った。卒業したら、是非ウチに入ってほしいものだ」

 

 「前向きに検討させていただきます」

 

 「おぉ、本当か?期待しているぞ」

 

 リンドヴァル隊長は微笑むと、手を差し出してきた。

 

 「私のことはヘルガでいい。よろしく頼む」

 

 「俺のことも七瀬で。よろしくお願いします」

 

 握手を交わす俺達。ヘルガさんは二葉姉に視線を向けた。

 

 「さぁ、そろそろ行くぞ二葉。谷津崎、引き続き案内を頼む」

 

 「は、はい!」

 

 「了解です!」

 

 「では七瀬、また会おう」

 

 「えぇ。ヘルガさんもお仕事頑張って下さい」

 

 ヘルガさんは笑いながら手を振ると、二葉姉と谷津崎先生を連れて人混みに消えていった。

 

 「いやー、ヘルガさんって良い人だな」

 

 「勘弁してよ・・・本当に心臓が止まるかと思ったわ・・・」

 

 「流石ななくん、怖いもの知らずだね・・・」

 

 一気に脱力する一織姉とシルヴィなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あー、疲れた・・・」

 

 「ずいぶん歩いたもんね・・・」

 

 ホテルに帰ってきた俺達は、ベッドでうつ伏せになっていた。

 

 二日間で六学園全てを回るというのは、なかなかのハードスケジュールだよな・・・

 

 「明日の最終日はイベントかぁ・・・一番疲れそうだな」

 

 「だね・・・星露も何を考えているんだか・・・」

 

 実は前々から星露に、最終日に行なわれるイベントに参加してほしいと頼まれていたのだ。

 

 何でも『参加型フィールドシュミレーションバトル』とか言っていたが、詳細は当日まで内緒らしい。

 

 怖いな・・・

 

 「シルヴィは無理に参加しなくてもいいぞ?」

 

 「ななくんが参加するなら、私も参加するよ。ちょっと興味もあるし」

 

 そう言って笑うシルヴィ。なら良いけど・・・

 

 

 

 

 

 「一度シルヴィアと話し合った方が良いんじゃないかしら?」

 

 

 

 

 

 パイヴィの言葉が甦る。

 

 「・・・なぁシルヴィ」

 

 俺は起き上がり、姿勢を正した。

 

 「俺達の関係・・・ちゃんと公にした方が良いと思うか?」

 

 「・・・私はこのままでも別に」

 

 「本当にそう思ってるのか?」

 

 「っ・・・」

 

 唇を噛むシルヴィ。

 

 「俺には、そうは見えないんだけど」

 

 「・・・怖いの」

 

 シルヴィがポツリと漏らした。

 

 「私が叩かれるのは良いの。でも、ななくんが叩かれるのを見るのは嫌なの・・・あの時みたいに・・・」

 

 「シルヴィ・・・」

 

 熱愛報道が出た時、俺はずいぶんと叩かれたからな・・・

 

 『お前はシルヴィアにふさわしくない』だの、『二度とシルヴィアに近付くな』だの・・・

 

 「本音を言ったら、私はちゃんと世間に事実を公表したい。私とななくんは付き合ってるんだって、胸を張って言いたい。でも・・・そのせいでななくんが叩かれるなら、今のままでいい。ななくんがいてくれたら、それだけで私は・・・」

 

 「シルヴィ」

 

 側に近付き、強く抱き締める。

 

 「ゴメンな・・・辛い思いさせたな・・・」

 

 「ななくん・・・」

 

 「俺はシルヴィの側にいるから。もう手を離さないって、約束しただろ?」

 

 優しく微笑む俺。

 

 「叩かれることなんて、最初から覚悟の上だよ。何せシルヴィはトップアイドルなんだから、俺のことを快く思わない人がいたっておかしくない。っていうか、普通に考えたらそういう人の方が多いと思う。特に俺達の場合、報道が出るキッカケが悪かったからな」

 

 《鳳凰星武祭》で俺が暴走した際、それを止めようとしてシルヴィが俺にキスをした。

 

 ファンからしてみたら、そんなヤツとシルヴィが付き合うなど許容できないだろう。多くの人が交際に反対するのも頷ける。

 

 それでも・・・

 

 「たとえ叩かれても、反対されても・・・俺はシルヴィが好きだから。これからも一緒にいたいから。だから安心してほしい」

 

 「・・・うん」

 

 抱き締め返してくるシルヴィ。

 

 「私も、ななくんの側にいたい・・・どれだけ反対されたって、この気持ちは絶対に変わらないから・・・」

 

 「俺もだよ」

 

 頷く俺。

 

 「だから・・・学園祭が終わったら、今後についてきちんと話し合おう」

 

 「・・・うんっ」

 

 笑顔で頷くシルヴィ。

 

 「ななくん、大好き・・・」

 

 「俺もだよ、シルヴィ・・・」

 

 お互いの唇が重なり合う。どうやら今夜も、あまり眠れそうにないな・・・

 

 そんなことを思いながら、シルヴィと共にベッドへと倒れこむ俺なのだった。

 




どうも~、ムッティです。

最近、マジでシルヴィがヒロインしてる件について。

シャノン「いや、今までがおかしかったでしょ。ヒロインなのに影が薄くて・・・」

本当にすまないと思っている(キリッ)

シャノン「あ、コイツ絶対反省してないな・・・」

あ、そうそう。告知が大変遅くなったのですが・・・

現在、『刀藤綺凛の兄の日常記』と二回目のコラボをしております。

シャノン「今回は綺凛・凛綺さんがシナリオを書いてくれたんだよね?」

そうそう。これがメッチャ面白いの。

自分が書いた七瀬視点の話も、『刀藤綺凛の兄の日常記』の方で掲載されております。

皆さん、是非読んでみて下さい。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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グラン・コロッセオ

声優の金元寿子さんが、海外留学のため活動休止・・・

『クインヴェールの翼』がアニメ化されたら、ソフィアの声は金元さんにやってもらいたいなぁ・・・

金元さん、頑張って下さい!復帰をお待ちしております!


 『皆様、お待たせいたしました!グラン・コロッセオの開幕です!』

 

 実況の声と共に、観客席から大歓声が聞こえてくる。

 

 学園祭最終日、俺達はシリウスドームのステージに集められていた。

 

 『実況は私、星導館学園新聞部の夜吹英士朗がお送りいたします!』

 

 「チェンジで」

 

 『七瀬!?いきなりかオイ!?』

 

 ドッと笑いが起きる。

 

 何で夜吹なんだよ・・・梁瀬ミーコさん呼んでこいや。

 

 『コホン・・・えー、それでは選手の紹介です!』

 

 仕切り直す夜吹。

 

 『アルルカント・アカデミーより・・・《鳳凰星武祭》ファイナリスト、リムシィ!』

 

 「リムシィ、お前も参加してたのか?」

 

 「えぇ、不本意ですが」

 

 溜め息をつくリムシィ。

 

 「実はこのイベント、元々は《獅子派》の副会長が企画したイベントでして」

 

 「え、マジで?」

 

 「えぇ。そこに《万有天羅》が絡んできて、当初の予定とは違うものとなってしまったようですが・・・ともかく《獅子派》の企画したイベントということで、代表のカミラ様の代理として私が参加することになりまして」

 

 「・・・大変だな」

 

 「全くです・・・七瀬、よろしくお願いしますね」

 

 「おう、頑張ろうぜ」

 

 リムシィと握手する俺。

 

 『レヴォルフ黒学院より・・・序列十八位の《吸血暴姫》、イレーネ・ウルサイス!』

 

 「え、イレーネって今十八位なの?」

 

 「《覇潰の血鎌》が使えなくなったからな」

 

 溜め息をつくイレーネ。

 

 「アタシなんざ、純星煌式武装が使えなきゃそんなもんさ」

 

 「いや、それでも十八位だろ?身体的スペック高いなオイ」

 

 「そこは多少自信あるからな。ま、今日はお互い頑張ろうぜ」

 

 「だな」

 

 イレーネと拳を合わせる。

 

 『界龍第七学院より・・・序列五位の《天苛武葬》、趙虎峰!』

 

 「スミマセン七瀬、師父が無茶なお願いをして・・・」

 

 謝ってくる虎峰。良いヤツだなぁ・・・

 

 「気にすんな。ってか、虎峰も出ろって言われたのか?」

 

 「えぇ。こういう面倒な役目は、いつも僕が押し付けられてまして・・・」

 

 「・・・今度マジで星露しばこうかな」

 

 まぁ無理だけど。返り討ちにされるけど。

 

 「頑張ろうな、虎峰」

 

 「はいっ」

 

 笑顔で拳を合わせてくれる虎峰。

 

 『聖ガラードワース学園より・・・序列一位の《聖騎士》、アーネスト・フェアクロフ!』

 

 「アーネスト、仕事は大丈夫なのか?」

 

 「大丈夫だよ。全部レティシアに任せてきたのでね」

 

 「・・・ねぇ、皆レティシアに恨みでもあんの?」

 

 可哀想に・・・今度マジでレティシアに何か奢ってあげよう・・・

 

 「ってかアーネスト、お前あんなに美人な妹がいたんだな」

 

 「おや、ソフィアに会ったのかい?」

 

 「あぁ。ホント美男美女の兄妹だと思ったよ」

 

 「ハハッ、それはどうも。どうだい七瀬、ソフィアを嫁にもらう気はないか?」

 

 「ソフィアの理想は『お兄様みたいな人』らしいからな。俺じゃ無理だろ」

 

 「そうか、それは残念だね」

 

 苦笑しているアーネスト。

 

 『クインヴェール女学園より・・・序列一位の《戦律の魔女》、シルヴィア・リューネハイム!』

 

 大歓声が鳴り響く。流石はシルヴィ・・・

 

 「世界の歌姫の人気は凄いな」

 

 「もうっ、茶化さないでよ」

 

 頬を膨らませるシルヴィ。

 

 「いやいや、マジで凄いと思ってるから。それだけシルヴィのファンが多いっていうのは、俺としても嬉しいからさ」

 

 「・・・バカ」

 

 頬を赤く染めながら、そっぽを向くシルヴィ。

 

 『そして最後に、我が星導館学園より・・・序列三位の《雷帝》、星野七瀬!』

 

 シルヴィほどではないが、歓声が聞こえてくる。

 

 嬉しいもんだな・・・

 

 『さてさて、巷では《戦律の歌姫》と《雷帝》の熱愛報道も流れていますが・・・』

 

 「《雷帝の閃槍》」

 

 『どわーっ!?ちょ、七瀬!?悪かった!悪かったって!』

 

 雷の槍を実況席に叩き込もうとすると、夜吹が土下座して謝ってきた。

 

 あの野郎・・・

 

 「チッ・・・次は無いと思えよ」

 

 『ホントすいませんでした・・・えー、それでは気を取り直しまして!ルールの方を説明したいと思います!』

 

 安堵の溜め息を漏らす夜吹。

 

 『これから六名の選手の皆様には、界龍第七学院が誇るガーディアンを二体倒していただきます!制限時間内に倒せたら勝ち、倒せなかったら負けとなります!なお被弾判定はありませんので、いくら攻撃を受けても失格にはなりません!ご安心を!』

 

 「いや、何も安心できねーよ」

 

 思わずツッコミを入れてしまう。

 

 「要は遠慮ない攻撃がバンバン飛んでくるってことじゃん」

 

 「だろうね。星露が絡んでるんだから、そう考えて間違いないと思う」

 

 苦笑しながら頷くシルヴィ。だよなぁ・・・

 

 「なぁ虎峰、界龍のガーディアンって知ってるか?」

 

 「・・・僕の想像が正しければ、ヤバいのが来ますよ」

 

 虎峰が苦虫を噛み潰した表情をしている。ヤバいの・・・?

 

 『それでは登場していただきましょう!界龍のガーディアン達です!』

 

 ステージの中央に大きな穴が空き、下から機械仕掛けでせり上がってきたのは・・・

 

 「あぁ、やっぱり・・・」

 

 呻く虎峰。

 

 「白秦と黒胡だ・・・」

 

 白と黒の二体の巨人が姿を現した。白い巨人は両手に剣を一本ずつ、黒い巨人は両手で長大な矛を握っている。

 

 「・・・虎峰、何アレ?」

 

 「初代の《万有天羅》が残していった界龍の仙具です」

 

 説明してくれる虎峰。仙具って確か・・・

 

 「歴代の《万有天羅》が作り出した武器兵装・・・だっけ?」

 

 「えぇ、あの二体は黄辰殿の番人みたいなものです。本来仙具は、界龍の外に持ち出してはいけない決まりになっているのに・・・師父は何を考えてるんですか・・・」

 

 「面白そうだから出してみた、とか言いそうだよな」

 

 「そんなYou●uberの動画タイトルみたいなこと・・・言いそうですね」

 

 ガックリと肩を落とす虎峰。ホント苦労人だよな、コイツ・・・

 

 「なぁ、アイツら強いのか?」

 

 「弱かったら番人になりませんよ」

 

 イレーネの問いに、虎峰が力なく答える。

 

 「まぁ、僕ら六人が本気を出したら普通に倒せr・・・」

 

 『ちなみに今回、《魔女》のリューネハイム選手と《魔術師》の七瀬選手は能力を使ってはいけません。それから純星煌式武装の使用も禁止ですので、趙選手・アーネスト選手・七瀬選手はご注意下さい』

 

 「あのクソチビいいいいいっ!ホント覚えてろよこんちくしょおおおおおっ!」

 

 遂に壊れる虎峰。俺は溜め息をつき、皆を見回した。

 

 「アーネスト、白い方を任せて良いか?剣の腕はお前が一番だからな」

 

 「了解した。ただ、一人ではキツいだろうね」

 

 「分かってる。だからイレーネ、虎峰と一緒にアーネストに力を貸してやってくれ」

 

 「構わねぇけど、黒い方は大丈夫なのかよ?」

 

 「あぁ。幸い武器は一つだし、俺とシルヴィで攻めるよ。リムシィは援護射撃を頼む」

 

 「承知しました」

 

 「よし・・・そんじゃ、勝とうぜ!」

 

 「「「「「おうっ!」」」」」

 

 『それでは、バトルスタートです!』

 

 気合いを入れたところで、試合開始のゴングが鳴り響くのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「ねぇ作者っち、《獅鷲星武祭》はいつ始まるの?」

もうそろそろこの章が終わるから、それからだね。

とりあえずこの章はボケたかったのと、ついでにシルヴィとイチャつかせたかったのよね。

シャノン「ヒロインとのイチャイチャが『ついで』って・・・」

ユリスやクローディアが台頭してくるなか、シルヴィは正妻ポジションを確保できるのだろうか・・・

シャノン「いや、それは作者っち次第だよね?ヒロイン複数人構想はどうなったの?」

色々と考えてるよ。今後の展開をお楽しみに。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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怒りの鉄槌

次回でこの章は終了です。


 「やぁっ!」

 

 剣型の煌式武装で斬りかかるシルヴィ。黒胡が斧でそれを受け止める。

 

 「ななくん!」

 

 「はぁっ!」

 

 その隙に黒胡の懐に入り、星辰力を纏った拳で思いっきり殴る。黒胡は吹き飛んでいったものの・・・

 

 「っ・・・堅すぎんだろアイツ・・・」

 

 殴った手が痺れ、思わず表情が歪む。やっぱり《神の拳》無しは辛いわ・・・

 

 「ななくん、大丈夫?」

 

 「何とかな。次はもうちょっと星辰力を集めるわ」

 

 「普通の拳型煌式武装は使わないのですか?」

 

 リムシィが尋ねてくる。

 

 「普通の煌式武装だと、俺の星辰力の量に耐え切れずに壊れるんだよ。勿論壊れないように力を加減することは出来るけど、それなら生身の身体に星辰力を纏った方が早い。何より加減する必要も無いからな」

 

 「なるほど・・・だから七瀬は今まで、普通の煌式武装を使ってこなかったのですね」

 

 「そういうこと。それより、向こうはどうなってる?」

 

 俺がステージの反対側へと目を向けると・・・

 

 「うりゃああああああああああっ!」

 

 虎峰が白秦に殴りかかっていた。

 

 「《木派》のトップ舐めんじゃねええええええええええっ!」

 

 「落ち着け《天苛武葬》!?ここはアタシとアンタで白い巨人の双剣を押さえて、《聖騎士》がトドメを刺す作戦で・・・」

 

 「人の苦労も知らずにふざけんなクソチビイイイイイイイイイイッ!」

 

 イレーネの制止も空しく、虎峰の攻撃は止まらなかった。

 

 「・・・あれはホントに虎峰なのか?何かキャラ変わってんだけど・・・」

 

 「趙くん、よっぽどストレスが溜まってたんだね・・・」

 

 「よく分かりませんが、《天苛武葬》は苦労人なのですね・・・」

 

 俺達が哀れみの目で虎峰を見ていると・・・

 

 『おーっと、黒胡が立ち上がった!まだまだやる気だーっ!』

 

 夜吹の実況が聞こえてくる。見ると黒胡が立ち上がっており、斧を構えてこちらへ突進してくるところだった。

 

 タフだなぁ・・・

 

 「ま、仕込みは完了してあるけど」

 

 俺が呟くのと同時に、黒胡の側で急に爆発が起きる。黒胡は後ろへ吹き飛ぶが、そこでもさらに爆発・・・

 

 連鎖的に起きる爆発に、ボロボロになっていく黒胡。

 

 「これ、《鳳凰星武祭》で黎兄妹が使ってた技だよね?ななくん、星仙術も使えるようになったの?」

 

 「まぁな・・・と言っても、基礎を学んだだけだよ。《魔術師》の力をコントロールするのに、星仙術の使い方が役に立ったからさ」

 

 元々星仙術は、《魔女》や《魔術師》の能力を技術として落とし込んで汎用化したものだからな。

 

 逆に言うと星仙術を学ぶことは、《魔女》や《魔術師》の能力を学ぶことにも繋がる。俺は星露やセシリーから星仙術の基礎を学び、《魔術師》の力をコントロールする術を身に付けたのだ。

 

 ちなみにこの技は基礎を修めた後、沈雲と沈華に教えてもらった応用技である。リーゼルタニアでも役に立ったし、あの二人にはマジで感謝だな・・・

 

 「さて、そろそろ潮時か・・・リムシィ、頼む」

 

 「了解しました」

 

 リムシィの左腕が巨大な砲身へと変形し、砲口にエネルギーが集中していく。

 

 「ルインシャレフ・・・発射」

 

 ボロボロになった黒胡を、光の奔流が直撃する。黒胡はステージの壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。

 

 『な、何ということでしょう!?黒胡がK.O.されてしまったーっ!?』

 

 叫んでいる夜吹。

 

 『七瀬選手・リューネハイム選手・リムシィ選手が、まずはガーディアンを一体倒しました!残るは白秦のみです!』

 

 「よし、終わったな」

 

 後はアーネスト達がやってくれる・・・そう思って気を抜いた瞬間だった。

 

 「危ないッ!」

 

 アーネストの叫び声。俺達に向かって、何かが凄まじい勢いで飛んでくるのを感じる。

 

 「「「ッ!?」」」

 

 咄嗟に避ける俺達。だが・・・

 

 「くぅっ・・・!」

 

 「シルヴィ!?」

 

 呻き声を漏らすシルヴィ。

 

 慌ててシルヴィに駆け寄ると、シルヴィの脇腹から血が流れていた。どうやら避けきれず、脇腹を掠めてしまったらしい。

 

 「大丈夫か!?」

 

 「アハハ、平気平気・・・ちょっと油断しちゃって・・・」

 

 苦笑を浮かべるシルヴィだったが、痛みを堪えているのがバレバレだ。何かが飛んでいった方向を見ると、ステージの壁に剣が刺さっていた。

 

 あれって・・・

 

 「白秦が持ってた剣・・・?」

 

 「シルヴィアさん!?」

 

 「大丈夫か!?」

 

 虎峰とイレーネが駆け寄ってくる。アーネストは白秦を一人で足止めしていた。

 

 「白秦が剣を投げてきたのか・・・?」

 

 「えぇ、予想外でした」

 

 口調が元に戻っている虎峰。

 

 「恐らく黒胡が倒されたことで、白秦は七瀬達の方を危険視したのでしょう。ガーディアンとしての仕事上、危険な方を先に排除するように作られているはずですから。僕としたことが、そんなことに今さら気付くなんて・・・!」

 

 「アンタのせいじゃねぇよ」

 

 虎峰の肩に手を置くイレーネ。

 

 「それより、いつまでもアイツを《聖騎士》に任せてるわけにもいかねぇ。アタシ達も加勢して、早いとこケリをつけねぇと・・・」

 

 「・・・ふざけんなよアイツ」

 

 怒りがふつふつと湧き上がってくる。あの野郎・・・

 

 「絶対に許さん・・・」

 

 「な、七瀬・・・?」

 

 リムシィが恐る恐る声をかけてくるが、俺は前へと歩み出していた。

 

 「虎峰、イレーネ、リムシィ・・・シルヴィを頼んだ」

 

 「え、ちょ・・・七瀬!?」

 

 虎峰が慌てて呼び止めようとするが、俺の歩みは止まらない。アーネストが俺に気付いて、白秦と距離をとってこちらへやってくる。

 

 「七瀬!ミス・リューネハイムは!?」

 

 「脇腹を斬られて出血してる。それよりアーネスト・・・ちょっと下がっててくれ」

 

 俺はアーネストの横を通り過ぎ、白秦の前に立った。そして・・・

 

 「・・・雷よ」

 

 雷が迸り、俺の右手に集中して形を作っていく。

 

 『ちょ、七瀬!?《魔術師》の能力を使うのはルール違反だぞ!?』

 

 「・・・そんなのもうどうでもいい」

 

 夜吹の声に冷たく返す俺。

 

 「シルヴィを傷付けたコイツは・・・俺が潰す」

 

 俺の右手に、巨大な雷の槌が形成された。白秦が剣を振りかざしてくるが・・・

 

 「邪魔だよ」

 

 槌を横に薙ぐと、剣が白秦の腕ごと吹き飛ぶ。俺は槌を振りかぶった。

 

 「吹き飛べ・・・《雷帝の鉄槌》ッ!」

 

 巨大な雷の槌を、全力で白秦に叩き込む。衝撃でステージに亀裂が走り、あちこちが割れていく。

 

 「俺のシルヴィに・・・何してくれてんだあああああああああああああああッ!」

 

 『ちょ、ヤバくね!?これマジで洒落にならなくね!?』

 

 夜吹が叫んでいるが、お構い無しに力を込め続ける。

 

 次の瞬間・・・白秦が爆発した。

 

 「ッ!?ななくんッ!?」

 

 遠くでシルヴィの叫び声が聞こえる。俺が爆発に巻き込まれたと思ったんだろう。

 

 だが心配は無用だ。何故なら・・・

 

 「もう・・・無茶しすぎですよ、マスター」

 

 人型になった七海が、《神の拳》の力で俺を守ってくれているからだ。

 

 「いくらマスターの星辰力が多くても、この至近距離で爆発に巻き込まれたら危ないんですからね?」

 

 「・・・助かったよ。ありがとな、七海」

 

 苦笑する俺なのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「次回でこの章終わるの?」

そうそう。そろそろ次に進みたいし。

ただ、番外編とかも書いてみたいよね。

シャノン「そういえば感想で『七瀬×沈華が見たい』って意見もあったよね」

うん。そういうのを書いてみるのも面白そうだよね。

シャノン「なるほどねぇ・・・っていうか、執筆は進んでんの?」

・・・それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「あ、これ進んでないパターンだ・・・」


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宣言

《祭華繚乱》編、これにて終了!


 「・・・穴があったら入りたい」

 

 控え室の隅っこで、体育座りをしながら両手で顔を覆う俺。

 

 結局二体のガーディアンは倒したものの、俺のルール違反とシルヴィの負傷でイベントは中止となった。

 

 「七瀬、元気出して下さい」

 

 「男らしくてカッコ良かったよ」

 

 虎峰とアーネストが慰めてくれるが・・・

 

 「『俺のシルヴィに・・・何してくれてんだあああああああああああああああッ!』」

 

 「止めてえええええええええええええええッ!」

 

 イレーネが嬉々として俺のモノマネをしてくるので、叫びながら耳を塞ぐ。

 

 大観衆の前であんなことを叫んでしまうとは・・・

 

 「《吸血暴姫》、少し黙りなさい」

 

 「ちょ、分かったから!悪かったって!」

 

 リムシィの左腕の砲身を向けられ、慌てるイレーネ。

 

 その時、控え室の扉が開いた。シルヴィと一織姉が入ってくる。

 

 「シルヴィアさん!」

 

 「怪我は大丈夫なのですか?」

 

 「うん、大丈夫。一織さんに治してもらったから」

 

 虎峰とリムシィに笑みを向けるシルヴィ。そして俺の方に視線を向け・・・

 

 「っ・・・///」

 

 赤面して視線を逸らした。グサッ・・・

 

 「アーネスト、今すぐ《白濾の魔剣》で俺を斬ってくれ」

 

 「落ち着きたまえよ」

 

 呆れているアーネスト。

 

 「今は恥ずかしがっている場合じゃない。今回のことで、七瀬とミス・リューネハイムの熱愛報道が再燃することは目に見えている。対応を考えるべきだろうね」

 

 「ドームの外はマスコミ関係者がうじゃうじゃいるわよ。七瀬とシルヴィが出てくるのを待ち構えてるんでしょうね」

 

 「マジか・・・」

 

 どうやら、覚悟を決める時がきたようだ。シルヴィに視線を向けると、気遣わしげに俺の方を見ている。

 

 「・・・ちょっと行ってくる」

 

 「・・・待って」

 

 控え室を出ようとしたところで、シルヴィが俺の手を掴んだ。

 

 「・・・私も行く」

 

 「・・・良いのか?」

 

 俺の問いに頷くシルヴィ。

 

 「言ったでしょ?ななくんの側にいたいって」

 

 「シルヴィ・・・」

 

 「どんな時でも・・・私はななくんの隣にいるから」

 

 ニッコリ笑うシルヴィ。ホントにコイツは・・・

 

 「・・・分かった。一緒に行こう」

 

 「うんっ」

 

 「七瀬、シルヴィ」

 

 一織姉が俺達の背中を叩く。

 

 「行ってらっしゃい。頑張って」

 

 「君達なら心配ないさ」

 

 「七瀬のこともシルヴィアさんのことも、僕は応援してますから」

 

 「気張れよ二人とも」

 

 「健闘を祈ります」

 

 アーネスト・虎峰・イレーネ・リムシィも声をかけてくれる。みんな・・・

 

 「ありがとう。行ってくる」

 

 「行ってきます」

 

 そう言って控え室を出る俺とシルヴィ。ドームの出口が近付くと、外に多くのマスコミ関係者が集まっているのが見えた。

 

 「・・・緊張するわぁ」

 

 「フフッ、大丈夫。リラックスリラックス」

 

 「・・・流石は世界の歌姫。慣れてんなぁ」

 

 俺は苦笑しつつ、シルヴィと共に出口へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あっ、出てきた!」

 

 「星野さん、リューネハイムさんと交際されているんですか!?」

 

 「先ほど『俺のシルヴィ』という発言がありましたが!?」

 

 「お答え下さい!」

 

 俺達が出た瞬間、あちこちでカメラのフラッシュが焚かれる。

 

 一斉に質問が投げかけられ、全員が俺達に近付こうとするのを警備員さん達が止めてくれる。

 

 「・・・一つずつお答えしますので、順番に質問をお願いします」

 

 俺がそう言うと、一番前にいた記者の人が手を上げた。

 

 「星野さんとリューネハイムさんは、お付き合いされているのでしょうか?」

 

 「はい、お付き合いさせていただいております」

 

 俺の答えに、周りが一斉にざわめく。

 

 「いつ頃からでしょう?」

 

 「昨年の《鳳凰星武祭》が終わってすぐですね」

 

 「星野さんが暴走された際、リューネハイムさんが止めに入りましたよね?あの時はまだ交際していなかったのですか?」

 

 「えぇ、あれが五年ぶりの再会でした」

 

 「それから間もなくして付き合い始めたと?」

 

 「そういうことになります」

 

 次々と投げかけられる質問に答えていく俺。

 

 「リューネハイムさんのファンの方々からは、星野さんがリューネハイムさんに相応しくないとの声も出ています。それについてどうお考えでしょうか?」

 

 「そんなことはありませんッ!」

 

 俺が答える前に、シルヴィが大きな声で反論する。

 

 「私はななくんを・・・星野七瀬を愛していますッ!側にいたいと思っていますッ!私の相手は彼以外有り得ませんッ!」

 

 「シルヴィ、落ち着いて」

 

 優しくシルヴィの背中を擦る。シルヴィが怒った姿を初めて見たのか、マスコミの方々も固まってしまっていた。

 

 「っ・・・怒鳴ってしまってごめんなさい・・・」

 

 気まずそうに謝るシルヴィ。

 

 「・・・確かに俺は、シルヴィに相応しくないのかもしれません」

 

 「ななくん!?」

 

 シルヴィが驚いているが、俺は言葉を続けた。

 

 「何せ幼い頃から、シルヴィにはずっと迷惑をかけてきました。こんな自分が、シルヴィの隣にいる資格は無い・・・そう思い、一度はシルヴィから離れました。でも・・・」

 

 隣のシルヴィを見つめる俺。

 

 「それでもやっぱり、俺はシルヴィが好きで・・・シルヴィのことを考えなかった日なんて、一日たりともなくて・・・だからシルヴィが同じ気持ちでいてくれたって分かった時、本当に嬉しかったんです。もうシルヴィの側を離れたくない・・・そう思いました」

 

 「ななくん・・・」

 

 「・・・俺はまだまだ未熟な人間です。きっとこの先もシルヴィを、怒らせたり悲しませたりしてしまうこともあると思います。それでも・・・」

 

 真っ直ぐ前を向く。そしてハッキリと宣言した。

 

 「俺はシルヴィア・リューネハイムを愛しています。この先もずっと、シルヴィと一緒に歩んでいきたい・・・それが俺の願いです」

 

 カメラに向かって、深々と頭を下げる。

 

 「どうか温かく見守っていただけると幸いです。よろしくお願い致します」

 

 「お願い致します」

 

 シルヴィも一緒に頭を下げてくれる。すると・・・

 

 「今、『この先もずっと一緒に歩んでいきたい』と仰りましたが・・・ひょっとしてプロポーズですか?」

 

 「・・・えっ」

 

 いや、まだそこまでは・・・答えようとした俺だったが、時既に遅しだった。

 

 「こ、公開プロポーズだーっ!《雷帝》が公開プロポーズしたぞーっ!」

 

 「明日の一面キタアアアアアッ!」

 

 「ちょ、待っ・・・まだ結婚とかそういうのは・・・!」

 

 「な、ななくん・・・大胆すぎるよぉ・・・///」

 

 「人の話を聞けええええええええええっ!」

 

 俺の絶叫が響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ななくん、機嫌直してよ」

 

 「もう嫌だ・・・俺の味方なんていないんだ・・・」

 

 ホテルの部屋のベッドで、頭から布団を被って恨み言を言う俺。本来は学園祭が終わる今日でチェックアウトの予定だったのだが、急遽もう一泊することになったのだ。

 

 どうやら例の交際宣言騒動で、星導館とクインヴェールにマスコミが押し寄せているらしい。先ほどクローディアに連絡したところ、『何とかしておくのでもう一晩外泊して下さい』と言われた。

 

 そこでシルヴィがクインヴェールの理事長に連絡をとり、ホテルにもう一晩泊まれるように口をきいてもらったのだ。

 

 「『《雷帝》が公開プロポーズ!《戦律の魔女》の返事やいかに!?』・・・もうホント勘弁してくれ」

 

 ネットニュースを見ながら溜め息をつく。

 

 「ってか、何でシルヴィはそんな機嫌良いんだよ?」

 

 「だってななくんともう一晩一緒にいられるんだもん♪」

 

 ニコニコしているシルヴィ。

 

 「それに公開プロポーズだなんて・・・キャッ///」

 

 「だからしてないっての」

 

 「えぇっ!?ななくんは私と結婚したくないの!?」

 

 ガーンとショックを受けているシルヴィ。あのなぁ・・・

 

 「俺だってゆくゆくは結婚したいと思ってるよ。でもまだ高校生だし、そういう話をするのは早いと思うんだ。二人でゆっくり将来のことを考えていけたらって思ってたのに、公開プロポーズなんて話が出てみろよ。周りが騒がしくなるに決まってるだろ」

 

 「あ、そういうことか」

 

 シルヴィが納得したように頷く。

 

 「まぁ良いじゃない。どっちみち交際宣言しちゃったんだから、周りが騒がしくなるのは変わらないと思うし」

 

 「それはそうなんだけどさぁ・・・」

 

 「でも安心したよ」

 

 シルヴィは微笑むと、俺に抱きついてきた。

 

 「ななくん、ちゃんと考えてくれてたんだね。私達の今後のこと」

 

 「・・・そりゃ考えるよ」

 

 シルヴィの頭を撫でる俺。

 

 「この先もずっと一緒に歩んでいきたい・・・あの言葉は俺の本心だから。俺は一生、シルヴィと一緒にいたいと思ってる」

 

 「ななくん・・・」

 

 「でも・・・今の俺は社会的に何の地位も無い、ただの高校生だ。序列三位だの《雷帝》だの、そんなものは星導館の中だけの話だしな」

 

 だからこそ、今は結婚について考えるのは早いと思う。今の俺では、シルヴィの人生を背負うことなど出来ないから。

 

 「だから・・・もう少し待っててほしい。その時がきたら、今度はちゃんと・・・シルヴィにプロポーズするから」

 

 「っ・・・ズルいなぁ、ななくんは」

 

 両頬が赤く染まっているシルヴィ。

 

 「全く・・・ななくんに惚れそうだよ・・・」

 

 「え!?惚れてるから付き合ってるんじゃないの!?」

 

 「そうなんだけどっ!惚れてるんだけどっ!でも惚れそうなのっ!」

 

 「・・・意味が分からん」

 

 「あー、もうっ!だから・・・!」

 

 いきなり俺を押し倒してくるシルヴィ。そのまま唇を奪われる。

 

 「んんっ!?」

 

 「んっ・・・ぷはぁっ・・・」

 

 唇を離したシルヴィの顔は真っ赤だった。

 

 「・・・今よりもっと惚れそうってこと。言わなくても分かってよ」

 

 「理不尽だなオイ・・・」

 

 「それが私なのっ!」

 

 「開き直った!?」

 

 「・・・こんな女の子は嫌?」

 

 「・・・バーカ」

 

 俺はシルヴィを抱き寄せ、再び唇を重ねた。

 

 今はただ、この温もりを感じていたい・・・自らの欲求に身を任せる俺なのだった。

 




二話連続投稿となります。

これにて《祭華繚乱》編は終了です。

シャノン「ついに交際宣言したねぇ」

やっとだよね。公開プロポーズもさせたいところではあるけど。

シャノン「あぁ、『刀藤綺凛の兄の日常記』の綺優くんみたいに?」

そうそう。あ、『刀藤綺凛の兄の日常記』といえば・・・

現在絶賛コラボ中ですので、よろしくお願いします!

シャノン「急に宣伝モード入ったね・・・」

あと作者の綺凛・凛綺さんが、新しい小説を書き始めました!

タイトルは『異世界チート魔導剣士』です!

皆さん、是非チェックしてみて下さい!

シャノン「原作は『異世界チート魔術師』だっけ?」

うん。原作まだ読んだことないんだよね・・・

これを機に読んでみようかな。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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第八章《獅鷲乱武》
チーム・ヘリオン


新章スタート!

ようやく《獅鷲星武祭》が始まるぞおおおおおっ!


 「へぇ・・・ずいぶん変わったな」

 

 シリウスドームの観客席からステージを見下ろし、感嘆の声を上げる俺。

 

 季節は移り変わって秋・・・俺達は《獅鷲星武祭》の開幕日を迎えていた。

 

 「観客の安全性を高める為とはいえ、随分と思い切って改修したもんだな」

 

 「でしょうね」

 

 溜め息をつくクローディア。

 

 「何処かの誰かさんが、学園祭の時に怒り狂ってステージを破壊してしまいましたからね。万が一にも観客に危害が及ばないよう、運営委員会も随分と気を遣ったんでしょう」

 

 「・・・すいませんでした」

 

 クローディアにはメッチャ怒られたんだよなぁ・・・

 

ステージを破壊したことによる苦情の電話や修理費用の請求が、全て星導館にきたらしい。俺とシルヴィの交際宣言の影響もあり、学園祭終了直後から生徒会は多忙を極めたそうだ。

 

 生徒会の皆さん、本当にすいませんでした・・・

 

 「だが、それを考慮しても大袈裟すぎないか?」

 

 首を傾げているユリス。

 

 「それに観客を守る為なら、何故もっと早く改修しなかったのだ?」

 

 「・・・実は他にも事情がありまして」

 

 声を潜めるクローディア。

 

 「次の《王竜星武祭》には、統合企業財体の最高幹部が観戦に来るそうですよ。ですから、万全の安全対策をとっているのでしょう」

 

 「あぁ、次の《大会談》をアスタリスクで開催することになったんだっけ?だから《王竜星武祭》の観戦と式典への参加が検討されてるんだよな?」

 

 「あら七瀬、よくご存知ですね?」

 

 「シルヴィが愚痴ってたからな。生徒会長として、面倒な仕事が増えそうだって」

 

 《大会談》とは、各統合企業財体の首脳会議のことだ。それぞれの代表者が出席し、長期の利害調整を行なうとされている。

 

 何年かに一度開催されているのだが、アスタリスクで開催されるのは約四十年ぶりだそうだ。

 

 「《大会談》をアスタリスクで開催することを提案したのは、マディアス・メサ委員長らしいな。余計なことをしてくれたって、シルヴィが怒ってたぞ」

 

 「マディアス・メサが?」

 

 ユリスが不思議そうな表情をしている。

 

 「《星武祭》の運営委員長に、そこまでの影響力があるのか?」

 

 聞くところによるとマディアス・メサ委員長は、星導館のOBらしい。星導館の学生だった頃に《鳳凰星武祭》を制し、卒業後の運営委員会入りを望みとしたそうだ。

 

 現在の立場は、あくまでも銀河の中堅幹部・・・普通なら、《大会談》の開催地決定に関わることなど出来ないだろう。

 

 「《星武祭》の運営委員長というのは、例外的に強い立場にあるのですよ」

 

 苦笑するクローディア。

 

 「六つの統合企業財体が共同で開催している、唯一無二のイベント・・・それが《星武祭》です。運営委員会のメンバーは各統合企業財体からの出向ですし、人数も一定の比率になるよう調整されています。その中で運営委員長を輩出するということが、どれほどのアドバンテージになるか・・・容易に想像がつくでしょう?」

 

 「なるほど・・・統合企業財体に大きな利益をもたらす立場だからこそ、それに応じた強い影響力を持ってるってわけか」

 

 「そういうことです。もっとも、何か問題が起きた時は即座に寝首をかかれるポジションでもありますけどね。前委員長は政治的手腕で回避していたようですが、マディアス・メサ委員長は非の打ちどころのない結果で周囲を黙らせています」

 

 「へぇ・・・ずいぶん有能な人なんだな」

 

 一度だけ顔を合わせたが、物腰の柔らかい穏やかな人って印象だったな・・・

 

 ああいう人だからこそ、波風を立てずに物事を進められるのかもしれない。

 

 「さて、もうそろそろ開会式が始まる時間なのですが・・・綾斗達は何処へ行ってしまったのでしょう?」

 

 「綾斗なら、飲み物を買いに行ったきり戻ってこない紗夜と綺凛を探しに行ったぞ」

 

 「・・・まさか紗夜のヤツ、例のごとく迷子になったのか?」

 

 呆れる俺。それを心配したから、綺凛にもついて行ってもらったんだけど・・・

 

 人ごみではぐれたのか?

 

 「俺も探しに行ってくるよ。クローディアとユリスは先に行っててくれ」

 

 「了解しました。お気をつけて」

 

 二人を探す為、まずは綾斗への連絡を試みる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・ホント人が多いな」

 

 俺はげんなりしながら、シリウスドームのエントランスを歩いていた。綾斗と連絡をとったところ、綾斗は既に綺凛と合流していた。

 

 その綺凛によると、紗夜は『トイレに行く』と言ったきり戻ってこなかったらしい。通信も繋がらないので心配になって探していたところ、綾斗からの通信がきたそうだ。

 

 今は二人で紗夜を探しているらしく、俺は二人とは別の場所を探すことにしたのだった。

 

 「全く・・・何でアイツ出ないんだよ・・・」

 

 さっきから何度も連絡を試みているのだが、一向に繋がらない。溜め息をつきつつ、エントランスをキョロキョロと見回していた時だった。

 

 「くだらなくないッ!」

 

 聞き覚えのある声がした。そちらへ視線を向けてみると・・・

 

 「・・・美奈兎?」

 

 学園祭で知り合ったクインヴェールの生徒・・・若宮美奈兎が、見知らぬ少女と何やら口論していた。

 

 美奈兎の後ろには九美・ソフィア・柚陽・ニーナ・クロエの姿もあり、少女の後ろには男性一人と女性一人が控えている。

 

 何事だ・・・?

 

 「チッ、どいつもこいつも気に食わない目をしてやがる・・・ミネルヴィーユが腑抜けた原因はお前らか・・・!」

 

 「ミネルヴィーユじゃないッ!クロエだッ!」

 

 「美奈兎先輩、落ち着いて下さい!」

 

 少女の言葉に反論する美奈兎。それを九美が宥めようと前に出た瞬間・・・少女が一瞬で起動させた大剣が、九美の首を目掛けて突き出される。

 

 だが・・・

 

 「止めろ」

 

 「ッ!?」

 

 瞬時に間に入り、《神の拳》で剣先を掴む。驚愕に目を見開く少女。

 

 「誰だテメェ!?」

 

 「七瀬兄さん!?」

 

 九美も驚いている。俺は少女を睨み付けた。

 

 「人の可愛い妹に手を出そうとは・・・いい度胸してんな、阿婆擦れ女」

 

 「ぐっ・・・テメェ・・・!」

 

 少女は力を込めているようだが、この程度では俺を打ち負かすことなど出来ない。それが分かったのか、少女の後ろにいた長身の男性が静かに声を発した。

 

 「ロヴェリカ、これ以上は止めておけ。あの方に迷惑が及ぶ」

 

 「チッ・・・!」

 

 少女・・・ロヴェリカは忌々しそうに舌打ちすると、大剣を待機モードに戻した。

 

 「珍しいの持ってんな・・・《虚渇の邪剣》か」

 

 純星煌式武装の一つ・・・代償は確か、『常に飢餓感に苛まれること』だったか?

 

 「なるほど・・・それでそんな凶暴な性格してんのか」

 

 「いえ、それは元々です」

 

 眼鏡をかけた女性が溜め息をついた。

 

 「まぁもっとも、代償のせいで元々の性格がさらに悪化しているのですが」

 

 「んだとメデュローネ!テメェもオレをバカにすんのか!?」

 

 女性・・・メデュローネに食ってかかるロヴェリカ。

 

 まぁそれはおいといて・・・

 

 「で?お前はいつまで隠れてるつもりなんだ?」

 

 男性の隣に視線を向ける俺。一見誰もいないように見えるが・・・

 

 「ほう・・・砕の隠形を見破るか」

 

 男性が感心したように呟いた途端・・・隣の空間が歪み、背の低い少年が無言で姿を現した。

 

 やっぱり姿を隠してやがったか・・・

 

 「どうやら、なかなかの実力者のようだ。名前を教えてもらえるか?」

 

 「・・・星導館学園の星野七瀬だ。アンタは?」

 

 「私はネヴィルワーズ・・・レヴォルフ黒学院から、今回の《獅鷲星武祭》に参加することになっている傭兵生だ」

 

 「あぁ、アンタらがチーム・へリオンか」

 

 《星武祭》に外部の人間を参加させる為の制度・・・それが傭兵生制度だ。PMCと契約を結び、傭兵生を自分の学園の生徒扱いで《星武祭》へと参加させることが出来る。

 

 今回レヴォルフがその制度を利用し、『チーム・へリオン』という傭兵生チームを参加させていることはクローディアから聞いていた。

 

 コイツらがそうなのか・・・

 

 「開会式の前に問題を起こすのは、あまりオススメしないぞ。大会が始まる前に参加資格を剥奪されたら、アンタらの所属してるPMCの看板に泥を塗りかねないからな」

 

 「忠告痛み入る」

 

 「ロヴェリカには、後でよく言い聞かせておきます」

 

 ネヴィルワーズとメデュローネが頷く。どうやら、この二人は話が分かるようだ。

 

 「チッ・・・ここは引いてやるよ」

 

 ロヴェリカは舌打ちすると、俺の後ろの美奈兎を睨み付けた。

 

 「若宮美奈兎・・・テメェはオレが斬り刻んでやる。覚えておけ」

 

 「いいよ。アンタなんかに負けないから」

 

 睨み返す美奈兎。ロヴェリカが俺へと視線を移す。

 

 「星野七瀬・・・テメェにも借りは返させてもらう。覚悟しとけよ」

 

 「そういうセリフは、勝ち進んで俺達と当たってから言え。その程度の実力で楽に勝ち進めると思ってんなら、お気楽にも程があるぞ」

 

 「ッ!テメェ・・・!」

 

 ロヴェリカは悔しそうに俺を睨むと、踵を返して立ち去った。

 

 「では、我々もこれで失礼する」

 

 「お騒がせしました」

 

 ネヴィルワーズにメデュローネ、そして無言の少年・・・砕もその場を後にする。

 

 やれやれ・・・

 

 「皆、大丈夫だっt・・・」

 

 「兄さあああああああああああああああん!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 九美が勢いよく抱きついてくる。

 

 「カッコいいです兄さん!何回九美のハートを打ち抜いたら気が済むんですか!?」

 

 「いや、そんな覚えは一切無いんだけど」

 

 そんなツッコミを入れつつも、幸せそうな顔をしている九美の頭を撫でる。

 

 「怪我が無くて良かったよ。まぁ俺が間に入らなくても、九美ならあの程度どうにでも出来たと思うけど」

 

 「兄さんが助けてくれたことに意味があるんです!『俺の愛する妹に手を出すな!手を出していいのは俺だけだ!』なんて・・・キャーッ!兄さんったら大胆ですぅ!」

 

 「おい待て。セリフ脚色しすぎだろ」

 

 「アハハ・・・相変わらず仲良しだね・・・」

 

 苦笑している美奈兎。

 

 「ゴメンね、七瀬。変なことに巻き込んじゃって・・・」

 

 「気にすんな。それより、皆大丈夫か?」

 

 「えぇ、大丈夫です」

 

 「七瀬のおかげで助かったよ」

 

 「流石は七瀬さんですわ」

 

 柚陽、ニーナ、ソフィアが頷く。と、クロエが申し訳なさそうにしていた。

 

 「ゴメンなさい、七瀬・・・」

 

 「何でクロエが謝るんだ?」

 

 「・・・彼らは私の知り合いなの。だから私達に絡んできたのよ」

 

 クロエが説明してくれる。

 

 「こうなってしまったのは私のせいなの。本当にゴメンなs・・・」

 

 「ストップ」

 

 「っ・・・」

 

 クロエの唇に人差し指を添え、それ以上の謝罪をさせないようにする。

 

 「別にクロエが悪いわけじゃないだろ。悪いのはアイツら・・・もっと言うなら、九美を攻撃しようとした阿婆擦れ女だ。お前が謝る必要は無い」

 

 「で、でも・・・」

 

 「まぁどうしてもって言うなら仕方ない・・・身体で償ってもらおうか」

 

 「えぇっ!?」

 

 慌てて自身の身体を抱くクロエ。俺は思わず笑ってしまった。

 

 「そういう意味じゃないから。俺のチームメンバーが迷子になっちゃってさ・・・探すの手伝ってくんない?開会式まで時間も無いし」

 

 「っ・・・そ、そういうことね・・・」

 

 顔を赤くしているクロエ。九美がニヤリと笑みを浮かべた。

 

 「クロエ先輩、意外とムッツリなんですね」

 

 「なっ!?九美!?」

 

 「言ってやるなよ九美。大人しそうなヤツに限って、実はエロかったりするんだから」

 

 「七瀬!?貴方が紛らわしい言い方するからでしょ!?」

 

 「・・・この兄妹、ホント息ピッタリだよね」

 

 美奈兎の言葉に、苦笑しながら頷く柚陽・ニーナ・ソフィアなのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「ようやく《獅鷲星武祭》に入れるね」

ホントそれな。誰だよ、メッチャ遠回りしたヤツは。

シャノン「作者っちでしょ」

あ、スイマセン・・・

シャノン「それより、またチーム・赫夜が出てきたね」

『クインヴェールの翼』と絡めていきたくて。

ただ『クインヴェールの翼』って、開会式が始まる前で終わってるんだよね。

今のところ続きが出てないから、どうしたもんかなと・・・

シャノン「アスタリスクの原作で、結果は分かってるんだけどね」

そうそう。ただ、詳細な内容は分からないからさぁ。

だから執筆してる最中に、新巻が出ることを期待してるんだよね。

シャノン「どうだろうねぇ・・・でも早く続き読みたいよね」

そうなんだよ。三屋咲先生、よろしくお願いします。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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クロエの事情

個人的にクロエの声は、藤井ゆきよさんのイメージ。

『最弱無敗の神装機竜』のクルルシファーみたいな。

もしくはブリドカットセーラ恵美さんかな。

『新妹魔王の契約者』の柚希みたいな。


 「じゃあクロエは、アイツらと同じPMCにいたのか?」

 

 「えぇ、彼らのチームの一員だったのよ」

 

 説明してくれるクロエ。

 

 俺はクロエと一緒に、行方不明の紗夜を探していた。九美達も別の場所を探してくれているので、すぐ見つかると思うのだが・・・

 

 「それからクインヴェールに購入されて、《べネトナーシュ》の一員になったの」

 

 「あぁ、クインヴェールの諜報工作機関か」

 

 「えぇ。クロエ・フロックハートという名前は、理事長からもらった名前よ。彼らのチームにいた頃は、ミネルヴィーユという名前だったわ」

 

 「そういや、あの阿婆擦れ女もそう呼んでたっけ」

 

 それにしても『購入』か・・・アスタリスクでは、学園が学生の身柄を買い上げることは珍しくないけど・・・

 

 あまり気分の良い話じゃないよな・・・

 

 「それを知った美奈兎が、理事長と交渉したのよ。もし自分達が《獅鷲星武祭》で優勝したら、私を自由にしてくれって。シルヴィアの口添えもあって、交渉は成立したわ」

 

 「シルヴィも絡んでんのかよ・・・」

 

 アイツ色々と首を突っ込んでるよな・・・今度問い詰めてやろう。

 

 「・・・そっか。それなら、クロエは負けられないよな」

 

 「えぇ。でも、それは七瀬も一緒でしょう?」

 

 「・・・まぁな」

 

 俺も仲間の願いを叶える為、絶対に負けるわけにはいかない。たとえクロエにどんな事情があろうとも、優勝を譲るわけにはいかないのだ。

 

 「ゴメンな、クロエ。俺は・・・」

 

 「謝らないの」

 

 クロエの人差し指が、俺の唇に添えられる。さっきと逆のパターンだな・・・

 

 「七瀬には七瀬の事情があって、私には私の事情がある・・・それだけのことよ。私が七瀬を恨むことは絶対に無い。だからお互い頑張りましょう」

 

 「・・・あぁ。そっちも俺達と当たるまで負けんなよ」

 

 「フフッ、頑張るわ」

 

 微笑むクロエ。自分の命運がかかっているというのに、随分と落ち着いているようだ。

 

 そんなこんなで歩いていると・・・

 

 「おや、七瀬じゃないか」

 

 「ご機嫌よう」

 

 前方から歩いてきたのは、アーネストとレティシア・・・いや、それだけじゃない。

 

 「《銀翼騎士団》が勢揃いだな・・・」

 

 《銀翼騎士団》・・・ガラードワースの《冒頭の十二人》だ。つまり、ランスロットとトリスタンのメンバー全員である。

 

 「七瀬えええええっ!」

 

 「左手は添えるだけ」

 

 「ぐはっ!?」

 

 駆け寄ってくる五和姉の腹部に、俺の左の拳が入った。

 

 「ちょ、酷くない!?」

 

 「ドントタッチミー」

 

 「何で英語・・・ってこのくだり二回目だよねぇ!?」

 

 「えっ、五和姉が一年も前のことを覚えてるなんて・・・六月姉、どう思う?」

 

 「驚愕。アスタリスクは崩壊するのでしょうか・・・」

 

 「バカにしてんの!?」

 

 ギャアギャア騒ぐ五和姉。相変わらず面白いなぁ・・・

 

 「五和、うるさいですよ」

 

 溜め息をつく三咲姉。

 

 「全く・・・貴方はもう少し《銀翼騎士団》の一員である自覚を持って下さい」

 

 「その五和姉と学園祭の時にくだらないことで喧嘩して、反省文を書いていたのは何処の《絶剣》さんでしたっけ?」

 

 「すいませんでした」

 

 土下座する三咲姉。やれやれ・・・

 

 「七瀬さん、お久しぶりです」

 

 「ご無沙汰してます」

 

 後ろからエリオとノエルが現れ、笑顔で挨拶してくれる。

 

 「おぉ、可愛い後輩達よ!」

 

 二人に抱きつく俺。

 

 「ちょ、七瀬さん!?」

 

 「はうっ!?」

 

 「七瀬!?私とのハグは拒否したのに、何で二人には抱きつくのよ!?」

 

 「五和姉は鬱陶しい。エリオとノエルは可愛い後輩。以上」

 

 「ガーン・・・」

 

 落ち込む五和姉。まぁ放置しておいて・・・

 

 「あ、パーシヴァルさん。お久しぶりです」

 

 「学園祭以来ですね、七瀬」

 

 俺はパーシヴァルさんと握手を交わす。

 

 「あの時はお世話になりました」

 

 「いえいえ。こちらこそ、愚姉共がご迷惑をおかけしました」

 

 「「愚姉・・・」」

 

 三咲姉と六月姉も落ち込む。面倒だなこの人達・・・

 

 「七瀬、私のことは呼び捨てで構いませんよ?私は敬語を使うのが習慣ですが、七瀬は使わなくて大丈夫ですので」

 

 「そう?じゃあパーシヴァルで」

 

 そんなやり取りをしていると、アーネストが前に進み出てきた。

 

 「七瀬、先ほどはありがとう。ソフィア達を助けてくれて」

 

 「何だ、見てたのか?」

 

 「あぁ。僕が出て行く前に、七瀬が間に入ってくれて助かったよ」

 

 苦笑するアーネスト。

 

 「本当はあの場でお礼が言えたら良かったんだけど・・・ソフィアがいたからね。後で君の控え室にお邪魔して、お礼を言おうと思ってたんだ」

 

 「・・・ソフィアと会いたくないのか?」

 

 「いや・・・ソフィアが僕と顔を合わせたくないだろうと思ってね」

 

 「ソフィアが・・・?」

 

 アーネストの言葉に、俺は首を傾げた。

 

 あれほどアーネストを想っているソフィアが、アーネストと顔を合わせたくないなんてことがあるのだろうか・・・

 

 「そ、それより七瀬!そちらの方は!?」

 

 事情を知っているのか、明らかに話題を変えにきたレティシア。

 

 これ以上アーネストの事情に首を突っ込むのもマズいと思ったので、俺はレティシアに乗っかることにした。

 

 「あぁ、クロエ・フロックハートだよ。九美・・・妹のチームメイトなんだ」

 

 「え、九美の!?」

 

 「驚愕。九美も出場するのですか?」

 

 「今さら知ったんですか・・・」

 

 驚いている五和姉と六月姉に、呆れている三咲姉。やれやれ・・・

 

 「二人とも・・・妹が出場するかどうかぐらい把握しとけよ」

 

 「七瀬も《鳳凰星武祭》の時、五和と六月の出場を把握してませんでしたよね?」

 

 「すいませんでした」

 

 今度は俺が土下座する番だった。あ、そうだ・・・

 

 「そういやレティシア・・・いつもご苦労様」

 

 「・・・急にどうしましたの?」

 

 「いや、俺はお前が不憫で不憫で・・・」

 

 「七瀬!?何で泣いてますの!?」

 

 アーネストや三咲姉から仕事を押し付けられ、五和姉と六月姉には手を焼かされ・・・

 

 本当に可哀想で仕方がない。特に愚姉共が迷惑をかけて、本当に申し訳ない。

 

 「俺で良かったら愚痴とか聞くから・・・辛い時は無理すんなよ?」

 

 「してませんわよ!?何で私が可哀想な子みたいな扱いをされているのですか!?」

 

 「確かに・・・我々はレティシアに負担をかけすぎたかもしれないね・・・」

 

 「アーネスト!?何を言い出しますの!?」

 

 「レティシア、本当にすみません・・・責任を取って生徒会を辞めます」

 

 「三咲!?それは私の負担が増えるので止めてくださいまし!」

 

 「レティシア・・・私、優等生になるよ」

 

 「五和!?気持ち悪いですわよ!?」

 

 「決心。六月はレティシアの為なら、命を捨てる覚悟です」

 

 「六月!?そこまでの覚悟は求めてないですわよ!?」

 

 良かった・・・皆にはちゃんと伝わったようだ。

 

 「お前ら!レティシアを大切にしろよ!」

 

 「「「「「「「「「「「イエッサーッ!」」」」」」」」」」」

 

 「こんな《銀翼騎士団》嫌ですわあああああああああああああああっ!」

 

 レティシアの絶叫が響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・まさか《銀翼騎士団》が、コント集団だとは思わなかったわ」

 

 呆れているクロエ。《銀翼騎士団》と別れた俺達は、再び紗夜を探していた。

 

 「いやぁ、ノリが良いよな。俺、ガラードワースに入学しても良かったかもしれない」

 

 「ノリの良さだけで判断するのはどうかと思うわよ・・・」

 

 と、クロエが時計に目をやった。

 

 「本当に時間が迫ってきてるわね・・・貴方のチームメイト、何処へ行ってしまったのかしら・・・」

 

 「紗夜は極度の方向音痴だからなぁ・・・ドームの外に出たかもしれん」

 

 「いや、いくら何でもそれは・・・」

 

 クロエが言いかけたところで、俺の端末に着信が入った。

 

 「あ、柚陽だ」

 

 俺が端末を操作すると、空間ウィンドウに柚陽の顔が映し出される。

 

 『もしもし、七瀬さん?』

 

 「おう柚陽、どうした?」

 

 『沙々宮さんが見つかりました』

 

 「マジで!?」

 

 あのバカ、やっと見つかったか・・・

 

 「で、何処にいたんだ?」

 

 『それが・・・』

 

 柚陽が困り顔で、自身の背後を映す。そこには・・・

 

 『沙々宮さん!?起きて下さいまし!』

 

 『スピー・・・スピー・・・』

 

 陽の当たる芝生の上で気持ち良さそうに眠る紗夜を、ソフィアが必死に起こそうとしていた。

 

 おいおい・・・

 

 「・・・ドームの外、だよな?」

 

 『えぇ、念の為と思って探しにきたのですが・・・まさか本当にいるとは思いませんでした・・・』

 

 「・・・すぐそっちに行く」

 

 紗夜を一発ぶん殴ることを決意した俺なのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「作者っち、この作品も遂に百話を突破したよ!」

いやぁ、感慨深いよね・・・

この作品を書き始めた時は、ここまで続けられると思わなかったもん。

シャノン「二度の《七ヶ月の空白》もあったもんね」

ホントすいませんでした・・・

いつもこの作品を読んでくださっている皆様。

お気に入り登録してくださっている皆様。

感想を書いてくださっている皆様。

評価を付けて下さっている皆様。

本当にありがとうございます。

これからもどうか、この作品をよろしくお願い致します。

シャノン「お願い致します(ぺこり)」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」



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醒天大聖

この話を書いてて思ったこと。

一、星露の扱いが酷い

二、久々にドラマ『西遊記』が見たい

三、リア充爆発しろ

以上。


 「あ、頭が・・・」

 

 呻きながら床に突っ伏す紗夜。開会式終了後、俺達はチームの控え室に来ていた。

 

 「この光景、非常にデジャブを感じるのだが・・・」

 

 引き攣った表情のユリス。

 

 紗夜に渾身の拳骨をお見舞いして叩き起こした時、クロエと柚陽とソフィアも似たような表情してたっけ・・・

 

 「自業自得だろ。紗夜、今度チーム・赫夜の皆によくお礼しとけよ」

 

 「りょ、了解・・・」

 

 「それにしても、柚陽ちゃんがアスタリスクに来てたとはね・・・」

 

 苦笑している綾斗。実家から何も聞かされていなかったらしく、柚陽を見た時はかなり驚いていた。

 

 「あの子の弓の腕は一級品だよ。子供の頃でさえそうだったんだから、今はどうなってるか・・・考えただけでも恐ろしいね」

 

 「チーム・赫夜で注意すべきなのは、七瀬の妹の九美さんとソフィア・フェアクロフだけだと思っていましたが・・・考えを改める必要がありそうですね」

 

 溜め息をつくクローディア。俺はクローディアの頭を撫でた。

 

 「そう難しい顔すんなよ。とりあえず、対戦が決まった相手のことだけを考えて戦っていこうぜ。当たるか分からない相手のことまで警戒してる余裕は無いだろ」

 

 「ですね。目の前の一戦を大事に戦っていきましょう」

 

 頷く綺凛。その言葉に、クローディアも笑顔を見せた。

 

 「・・・そうですね。では、初戦の対戦相手のおさらいでもしましょうか」

 

 俺達はこの後、このシリウスドームで初戦を迎えることになっている。確か相手は、レヴォルフのブラックヴェノムというチームだ。

 

 油断せず、気を引き締めていかないとな・・・

 

 「あ、その前に飲み物でも買ってくるよ。皆の分も買ってくるけど、何が良い?」

 

 「では紅茶を頼む」

 

 「私はコーヒーを」

 

 「俺は緑茶で」

 

 「私はミルクティーをお願いします」

 

 「りんごジュース。濃縮還元じゃないやつ」

 

 「了解。紗夜の飲み物以外は買ってくるわ」

 

 「ガーン・・・」

 

 落ち込んでいる紗夜を尻目に控え室を出る俺。まぁ流石に可哀想だし、買っていってやるかな・・・

 

 そんなことを考えながら歩いていた時だった。

 

 「な~なくんっ♪」

 

 いきなり後ろから抱きつかれる。やれやれ・・・

 

 「変装してるとはいえ、公の場で大胆だなオイ」

 

 「フフッ、大丈夫だよ。開会式も終わって、今は人も少なくなったし」

 

 笑っているシルヴィ。開会式には各学園の生徒会長が出席することになっている為、シルヴィもクインヴェールの生徒会長として来ていたのだ。

 

 まぁ、界龍の生徒会長である星露は来てなかったけど。

 

 「全く、代理も大変だな・・・アレマ」

 

 『ありゃ、気付かれてた?』

 

 物陰から姿を現したのは、背の低い女性だった。猫のように大きな瞳と癖の強い短髪、そしてあらゆる箇所に残る傷跡が特徴的だ。

 

 「アレマ!?いつからそこにいたの!?」

 

 『開会式が終わってから、ずっとシルヴィアちゃんの後をつけてたよ?』

 

 「・・・全然気付かなかった」

 

 呆然としているシルヴィ。まぁ無理もないよな・・・

 

 「人の彼女のストーカーすんなよ。いくらお前が女でも訴えんぞ」

 

 『アハハ、ゴメンゴメン。シルヴィアちゃんの後をついていったら、きっと七瀬に会えると思って』

 

 「そんな回りくどい真似しなくても、普通に控え室を訪ねてくれたら良かったじゃん」

 

 『いやぁ、試合前にお邪魔するのも申し訳ないかなって』

 

 「そういうところは気を遣うのな・・・」

 

 彼女はアレマ・セイヤーン。界龍の特務機関《睚眦》の工作員だ。

 

 星露の前の序列一位で、星露に敗れた後に門下へ誘われるも拒否。その才を惜しんだ星露が取引をして、アレマは《睚眦》の工作員となった。

 

 公式行事では星露の代理を務めることが多く、各学園の生徒会長達とは顔見知りらしい。

 

 俺も界龍で修行していた時に知り合い、何だかんだで仲良くなっていた。

 

 『それにしても、やるじゃん七瀬。ちゃんと気配は消してたつもりだったんだけどな』

 

 「気配なんか感じるわけないだろ。虎峰でさえ、お前の気配を感じ取れないんだから」

 

 『え?じゃあ何で分かったの?』

 

 「どんなに気配を消すことが出来ても、《星脈世代》であるかぎり星辰力の波動は消せないんだよ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「星辰力の波動は指紋と一緒で、人それぞれ異なるからな。俺は雷の能力で知覚能力が上がってるから、それを読み取れるんだよ」

 

 『アハハッ!なるほどね!』

 

 楽しそうな笑みを浮かべるアレマ。

 

 『いやぁ、参った!そんなもの読み取れるの、本当にごく一部の人だけだよ!流石は七瀬、星露ちゃんが気に入るのもよく分かるよ!』

 

 ちなみにこのセリフ、全て空間ウィンドウに表示されているものである。

 

 アレマは首に貼られている呪符により声を出すことが出来ない為、空間ウィンドウの文字による筆談で相手と会話をするのだ。

 

 『あー、ウズウズする!どうだい七瀬?今度また手合わせしない?』

 

 「今のを翻訳すると、『今度またサンドバッグにしていい?』ってことだよな?」

 

 『何でよ!?七瀬も強くなってるし、あの時と違って良い勝負出来るって!』

 

 界龍で修行を始めた頃、俺はアレマと手合わせをしてボコボコにされている。

 

 いやぁ、あの時は地獄だったなぁ・・・

 

 「あの一週間は、俺の人生史上最も過酷な一週間だったわ・・・マジで死ぬと思ったもん。遺書まで用意したもん」

 

 修行初日は暁彗、二日目はアレマ、三日目は冬香、四日目はセシリー、五日目は虎峰、六日目は黎兄妹、そして最後の七日目はラスボス・星露。

 

 一週間毎日行なわれた手合わせは、俺の肉体と精神をボロボロにしてくれたっけなぁ・・・

 

 「俺の心にシルヴィがいなかったら、一体どうなってたことか・・・シルヴィ、ホントありがとな。心から愛してる」

 

 「私もだよ、ななくん」

 

 ひしと抱き合う俺とシルヴィ。あぁ、生きてて良かった・・・

 

 『・・・何かすいませんでした』

 

 ちょっと申し訳なさそうなアレマ。ホントだよチクショウ・・・

 

 「ってか、星露はどうしたよ?去年の《鳳凰星武祭》の開会式は来てたよな?」

 

 『あぁ、星露ちゃんなら今頃・・・泣きながら事務処理やってんじゃない?』

 

 「何があったの!?」

 

 あの星露が事務処理!?嘘だろオイ!?

 

 『ほら、学園祭で白秦と黒胡を界龍の外に出しちゃったじゃん?しかも白秦がシルヴィアちゃんに怪我させちゃったもんだから、シルヴィアちゃんのファンを中心にあちこちから苦情が殺到しちゃったのよ。本来ならそういうのは生徒会が対応するんだけど・・・ほら、虎峰もシルヴィアちゃんの大ファンだからさ』

 

 「あぁ、なるほど・・・職務放棄したのな」

 

 『ご名答。虎峰は星露ちゃんにカンカンで、「もう師父には愛想が尽きました。これからの生徒会の職務は、師父がご自身で全て行なって下さい」って突き放しちゃったわけ。他の生徒会の面々も虎峰に追随しちゃって、それから星露ちゃんは仕事が増えて大忙しよ』

 

 「・・・こんなに『自業自得』って言葉がお似合いのケース、そうそう無いよな」

 

 言われて見るとあの時の虎峰、メッチャキレてたっけ・・・いい加減もう我慢の限界だったんだろうな・・・

 

 『でも八重ちゃんだけは、こっそり星露ちゃんを手伝ってあげてるみたいだよ?「流石に一人でやらせるのは可哀想だから」って。星露ちゃん、嬉し泣きして頭下げてたもん』

 

 「・・・星露のヤツ、相当参ってるみたいだな」

 

 それにしても、八重はホント優しいよな・・・四糸乃姉が《女神》なら、アイツは《聖母》じゃないか?

 

 『まぁ久しぶりに七瀬にも会えたし、アタイとしては代理で来れて良かったけどね』

 

 アレマはニヤリと笑うと、俺の肩を叩いた。

 

 『応援してるから頑張んなよ?目指せ《獅鷲星武祭》優勝!』

 

 「勿論そのつもりだけど、お前はチーム・黄龍を応援しなくて良いのかよ?」

 

 『当然そっちも応援してるよ。アタイとしては、チーム・エンフィールドとチーム・黄龍が決勝で戦ってくれることを期待してるんだけどね』

 

 「ご期待に沿えるように頑張るよ」

 

 『アハハ、そうこなくちゃ!そんじゃ七瀬、シルヴィアちゃん、またねー!』

 

 アレマは笑いながら手を振り、その場を立ち去った。変わらないな、アイツ・・・

 

 「・・・私もまだまだ修行が足りないね」

 

 溜め息をつくシルヴィ。

 

 「後をつけられてることに気付けないなんて、序列一位の名が泣くよ・・・」

 

 「気にすんな。星露ほどではないにしても、アイツも立派なバケモノだから。星露・暁彗・アレマは、俺の中で界龍三大バケモノに認定されてるし」

 

 「フフッ、酷い言い様だね」

 

 シルヴィがおかしそうに笑う。

 

 「まぁ何と言っても、界龍の序列一位だった人だもんね・・・《醒天大聖》の二つ名は伊達じゃないってことか」

 

 「まぁアイツ猿っぽいし、見方によっては孫●空に見えなくもないよな」

 

 「頭に金色の輪っかを付けて、如●棒とか筋●雲とか使ってたら間違いないよね」

 

 「そしたら俺がお経を唱えて、アレマを懲らしめてやれるんだけどな」

 

 冗談を言いながらシルヴィと笑い合っているうちに、俺は本来の目的を思い出した。

 

 「あ、そろそろ飲み物を買って戻らないと。シルヴィはこの後仕事だっけ?」

 

 「そうなんだよ・・・初戦なのに観戦出来なくてゴメンね・・・」

 

 「気にすんなって。その代わり、心で応援してくれよな」

 

 「勿論だよ。あ、そうだ!」

 

 手に持っていた鞄から、風呂敷包みを取り出すシルヴィ。

 

 「これ、私が作ったお弁当。良かったら食べて」

 

 「え!?わざわざ作ってくれたのか!?」

 

 「うん、少しでもななくんの力になりたくて・・・」

 

 恥ずかしそうに頬を赤く染めるシルヴィ。俺の彼女が可愛すぎる件について。

 

 「ありがとな、シルヴィ。ありがたく頂戴するよ」

 

 「フフッ、喜んでもらえて良かった」

 

 シルヴィはそう言って笑うと、俺の手を握ってきた。

 

 「頑張ってね、ななくん。応援してるから」

 

 「あぁ、絶対優勝してみせる。シルヴィも仕事頑張ってな」

 

 「ありがと。何とか時間を作って、試合に来れるように頑張るから」

 

 「いや、そんな無理しなくても・・・」

 

 「良いのっ。ななくんの試合、ちゃんと生で見たいのっ」

 

 シルヴィはそう言うと顔を近づけ・・・唇を重ねてきた。

 

 「っ・・・」

 

 「・・・これで頑張れそう?」

 

 「・・・もう負ける気がしないわ」

 

 俺はそう言って笑うと、シルヴィを抱き締めるのだった。

 




二話連続投稿となります。

シャノン「《醒天大聖》さん出てきたね」

アレマね。その二つ名カッコいいよね。

界龍の生徒の二つ名って、基本的に漢字四文字じゃない?

シャノン「あー、確かに。《万有天羅》とか《覇軍星君》とかね」

だから今、八重の二つ名をどうしようか迷ってるのよね・・・

シャノン「んー、何が良いかねぇ・・・」

《解体聖母》とか?

シャノン「物騒だよ!?それ《マリア・ザ・リッパー》って読むやつでしょ!?」

じゃあ《死屍累々》は?

シャノン「だから物騒だって!?八重ちゃんに相応しい二つ名にしてあげなよ!?」

よし、《七瀬兄命》で。

シャノン「あ、それは納得」

七瀬「納得できるかああああああああああっ!」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」

七瀬「ちゃんと考えろおおおおおおおおおおっ!」


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初戦

深夜に書いてたから、ちょっとテンションおかしいかも・・・


 『さぁ、いよいよ《獅鷲星武祭》が始まります!今年もこのメインステージの実況を仰せつかりました、ABCアナウンサーの梁瀬ミーコです!どうぞよろしく!』

 

 「よっ、アスタリスクでナンバーワンの女性アナウンサー!」

 

 『ふぇっ!?きょ、恐縮です!』

 

 俺の声に反応し、梁瀬さんが頭を下げる。いよいよ試合開始間近となり、俺達はステージ上で相手チームを待っていた。

 

 「《鳳凰星武祭》ではご迷惑をおかけしましたが、今回もよろしくお願いします」

 

 『いえいえ、こちらこそ・・・って七瀬選手!?先ほどからどうされたんですか!?』

 

 「いや、実況の梁瀬さんには謝罪できてなかったなと思いまして。すいませんでした」

 

 『七瀬選手・・・私にまで気を遣ってくれるなんて、優しいんですね・・・』

 

 「まぁぶっちゃけ媚売りですけどね。彼女の学園のOGの方ですし」

 

 『私のときめきを返せっ!』

 

 観客席が笑いに包まれる。と、実況席からも笑い声が漏れてきた。

 

 『ハハッ、やはり彼は面白いですね』

 

 『笑わないで下さい柊さん・・・あ、紹介が遅れました!解説はレヴォルフ黒学院のOGであり、現在は星猟警備隊で一等警備正を務める柊静薙さんです!』

 

 『どうも、よろしくであります』

 

 空間ウィンドウに、黒髪を切り揃えた女性が映る。

 

 星猟警備隊で一等警備正って・・・

 

 『七瀬選手、貴方のお姉さんにはいつもお世話になっております』

 

 「いえいえ、こちらこそ。姉がいつもお世話になっております」

 

 やっぱり二葉姉の同僚の人だったか・・・きっと迷惑をかけているに違いない。

 

 「手のかかる姉ですが、今後も見捨てないでいただけると幸いです」

 

 『ハハッ、承知しました』

 

 『ちょっとお二人とも!?そういった会話は裏でしていただけませんか!?』

 

 『まぁまぁ、良いじゃないですか』

 

 「そうですよ。そういう細かいことを気にするから、どんなに合コンに参加しても毎回失敗するんですよ?」

 

 『七瀬選手!?その情報は何処から!?』

 

 「名前は言えませんが、梁瀬さんの後輩の歌姫であるS・L氏からです」

 

 『シルヴィアアアアアアアアアアアッ!』

 

 あ、バレた・・・ゴメンなシルヴィ。

 

 「本当に人をおちょくる天才だな、お前は」

 

 隣のユリスが呆れている。

 

 「黎兄妹と良い勝負なんじゃないか?」

 

 「あの性悪兄妹と一緒にすんな。ああなったら人として終わりだぞ」

 

 まぁそうは言っても、根は悪い奴らじゃないんだけどな。界龍で一緒だった時も、何かと世話になったし。

 

 そんなことを考えていると・・・

 

 「ケッ、お気楽だなテメェら」

 

 反対側の入場ゲートから、チーム・ブラックヴェノムのメンバー達がやってくる。

 

 こちらを睨んでいたり、へらへら笑っていたり・・・態度の悪さが典型的なレヴォルフの生徒だった。

 

 やれやれ・・・

 

 「完全にチンピラの集まりじゃん・・・」

 

 「全く・・・困ったものです」

 

 溜め息をつくクローディア。

 

 「どうやら、典型的な勘違いをされている方々のようですね」

 

 「勘違い?」

 

 「えぇ。《獅鷲星武祭》はチーム戦ですので、参加へのハードルが高いんです。それと同時に、最も番狂わせが多い《星武祭》でもあります。つまりまぐれ勝ちを狙って、頭数だけを揃えて参加してくる方々がいらっしゃるんですよ」

 

 「・・・バカなの?」

 

 呆れる俺。

 

 確かにジャイアントキリングを起こすチームもいるだろうが、何の努力もしないでそんな奇跡を起こせるわけがない。

 

 頭数だけ揃えて何の練習もしてません・・・そんなチームが勝ち進んでいけるほど、《星武祭》は甘くないのだ。

 

 「久しぶりだな、《覇王》・・・いや、今は《雷帝》だっけか?」

 

 リーダーと思われる男が一歩前に出てきて、俺を睨みつけた。

 

 「あの時の借り・・・今ここで返してやるぜ」

 

 「七瀬さん、お知り合いですか?」

 

 綺凛が尋ねてくる。う~ん・・・あっ。

 

 「お前は・・・」

 

 「へへっ、やっぱり覚えてたか」

 

 「・・・誰だ?」

 

 「覚えてないんかいいいいいいいいいい!」

 

 不良リーダーのツッコミ。

 

 「だったら『お前は・・・』とか思わせぶりな態度とるんじゃねーよ!」

 

 「いや、『君の●は。』のモノマネがやりたくて」

 

 「そんな理由!?ふざけてんのかテメェ!?」

 

 「本当にすまないと思っている(キリッ)」

 

 「よしふざけてんな!?喧嘩売ってんな!?喜んで買ってやらぁ!」

 

 「で、真面目な話・・・ホントに誰?」

 

 マジで見覚えが無いんだよなぁ・・・

 

 そもそもレヴォルフの友達なんて、イレーネとプリシラぐらいしかいない。あと、《悪辣の王》と《孤毒の魔女》と顔見知りなぐらいだ。

 

 「よく思い出せやゴラァ!去年お前を二十人ぐらいで襲っただろうが!」

 

 「・・・あぁ!俺が殴って壁にめり込ませた不良リーダーか!」

 

 そういやユリスがサイラスに狙われてた時、俺を潰す為にレヴォルフのチンピラ共が襲ってきたっけ・・・

 

 リーダーは俺が倒して、残りの連中はイレーネがまとめて潰したんだっけか・・・

 

 いやぁ、懐かしいなぁ・・・

 

 「おひさ~!元気してた?」

 

 「軽いなオイ!?あの後テメェのせいで入院するハメになったわ!」

 

 「マジで?ドンマイ!」

 

 「他人事!?お前マジぶっ殺すぞ!?」

 

 「・・・やれるもんならやってみな」

 

 「ッ!?」

 

 俺が殺気を向けると、不良リーダー達が後ずさった。

 

 「ハッキリ言うが、お前らみたいなゴミクズがどうなろうが知ったこっちゃねーよ。お前らのせいで、危うくユリスと綾斗に怪我させるところだったんだ。あの時イレーネがいなかったら、一体どうなってたことか・・・覚悟はできてんだろうな?」

 

 「じょ、上等だゴラァ!返り討ちにしてやんよ!」

 

 足が震えている不良リーダー。ここで逃げ出さない勇気だけは褒めてやろう。

 

 「クローディア、作戦に変更は無いな?」

 

 「えぇ、ありません。お願いしますね、七瀬」

 

 「了解」

 

 『さて、いよいよ試合開始です!』

 

 梁瀬さんの声と共に、機会音声が試合開始を告げた。

 

 

 

 『《獅鷲星武祭》Bブロック一回戦一組、試合開始!』

 

 

 

 「おらあああああああああああああああっ!」

 

 それと同時に相手の六人が、持っていたアサルトライフル型煌式武装で攻撃してきた。銃口は全てリーダーであるクローディアに向けられており、嵐のような光弾がクローディアへと襲いかかる。

 

 「はーっはっはっ!リーダーさえ倒せりゃこっちの勝ち・・・」

 

 「《反射の雷壁》」

 

 クローディアの前に、雷の壁を出現させる。嵐のような光弾が雷の壁に当たった瞬間、反転して相手チームへと向かっていく。

 

 「えっ・・・ちょ、待っ・・・ギャアアアアアアアアアアッ!?」

 

 自分達の放った光弾に撃たれていくチンピラ共。マジざまぁ。

 

 「悪ィが、こっから先は一方通行だァ!」

 

 「いや、作品違うから」

 

 「しかも七瀬の場合、使ってる能力的にそっちじゃない」

 

 綾斗と紗夜の冷静なツッコミ。ナイスツッコミだぜ二人とも。

 

 「でも凄いですね・・・攻撃を反射するなんて・・・」

 

 「ただ反射するだけじゃないぞ。相手の攻撃を完全に受け切った場合、その威力を倍にして相手に反射することが出来るんだ。やられたらやり返す・・・倍返しだッ!」

 

 「どこの半●直樹ですか・・・じゃあ今のも倍返しだったんですか?」

 

 「そうそう。あんな嵐みたいな光弾、全部当たったら結構なダメージだけど・・・威力が全て倍になったら、結構なダメージじゃ済まないだろうな」

 

 綺凛とそんな会話をしているうちに、光弾による土煙が晴れ・・・

 

 ボロボロになったチンピラ共が、全員ピクリとも動かずに倒れていた。

 

 

 

 『試合終了!勝者、チーム・エンフィールド!』

 

 

 

 「七瀬、お疲れ様でした」

 

 「おっつ~」

 

 こうして俺達は、危なげなく初戦を突破したのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「すいませーん、こっちにも目線をくださーい!」

 

 控え室へと繋がる通路の手前で、俺達は勝利者インタビューを受けていた。

 

 一応俺達チーム・エンフィールドは優勝候補と目されているチームなので、数多くの報道陣が集まっているのだ。その上六人もいるので質疑応答の時間も長く、かれこれ三十分は足止めされている。

 

 早く帰りたいわぁ・・・

 

 「皆様すみません、そろそろ切り上げさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 「あ、じゃあ最後に一ついいですか?」

 

 クローディアが幕引きを宣言すると、一人の女性記者が緊張した面持ちで手を上げる。

 

 「エンフィールド選手は、前回の《獅鷲星武祭》から三年ぶりの《星武祭》参加となるわけですが・・・《獅鷲星武祭》に特別なこだわりでもあるのでしょうか?」

 

 そういや、それは俺もクローディアに聞いたっけ・・・

 

 確か答えは・・・

 

 「いえ、自分が最も実力を発揮できる環境を選んでいるだけです。それが私の望みを叶える為に、最も近い手段ですので」

 

 そうそう、それだ。

 

 《王竜星武祭》のような個人戦では、途中で格上の相手と当たった場合《パン=ドラ》のストックを使い切ってしまう恐れがある。そうすると次の試合で未来予知が使えなくなり、勝てる可能性は低くなってしまう。

 

 だが《獅鷲星武祭》ならチーム戦なので、一人で格上の相手と戦う必要が無くなる。それに加えてクローディアがチームリーダーなら、未来予知による攻撃回避で負ける可能性がぐっと低くなる。

 

 チームリーダーが倒されたら終わりの《獅鷲星武祭》で、チームリーダーが倒される可能性が一番低いというのは大きなアドバンテージだしな。

 

 「望み、といいますと?」

 

 女性記者の質問に、他の報道陣がざわついた。おいおい・・・

 

 「・・・こんな踏み込んだ質問して、あの女性記者大丈夫か?」

 

 「・・・見たところ新人っぽい。慣例を知らないのかも」

 

 ヒソヒソと会話をする俺と紗夜。

 

 予め選手が公言している場合を除き、通常は選手の望みについて詮索しないことが慣例になっている。選手の望みを叶えるのは統合企業財体であり、そういった詮索が統合企業財体の不興を買ってしまう恐れがあるからだ。

 

 「私の望みは、ラディスラフ・バルトシーク教授と面会して話を伺うことです」

 

 「クローディア!?」

 

 慌てる俺達。一方、報道陣の間には困惑した雰囲気が流れていた。

 

 「ラディスラフ・バルトシーク教授といいますと、純星煌式武装研究で有名な方ですよね?面会とおっしゃいましたが、教授は現在行方不明のはずでは?」

 

 「いいえ。現在教授は《翡翠の黄昏》に関する裁判の関係者として、身柄を拘束されているのです」

 

 明らかな動揺を見せる報道陣。

 

 《翡翠の黄昏》に関する話題は、アスタリスクのタブーとされているのだ。無かったことにされているわけではないが、触れる際には細心の注意が必要なのである。

 

 正気かよアイツ・・・

 

 「もしそれが本当だとして・・・エンフィールド選手は、教授にどのような話を伺いたいのでしょうか?」

 

 「教授しかご存知ない秘密を、少々おすそ分けしていただきたい・・・それだけです」

 

 クローディアはそう言って一礼すると、スタスタと通路へと歩いていった。慌ててその背中を追いかける俺達。

 

 「おいクローディア、あんな発言をして大丈夫なのか!?」

 

 ユリスが戸惑った声で尋ねる。

 

 「教授に関する一件は、銀河を敵に回しかねないのだろう!?それをこんなにあっさり公言してしまっては・・・!」

 

 「大丈夫ですよ」

 

 クローディアが笑みを絶やさず答える。

 

 「このタイミングが最善と判断した・・・ただそれだけです」

 

 「最善って・・・まだ初戦を終えただけですよ?」

 

 綺凛も戸惑いを隠せずにいる。

 

 「そもそも、公言する必要など無かったのでは・・・?」

 

 「フフッ、私なりに色々と計算しているんですよ」

 

 面白そうに笑うクローディア。

 

 「何せ私は腹黒いので、こういった計算はお手の物です。ご心配には及びませんよ」

 

 「なら良いけど・・・」

 

 腑に落ちない表情をしている綾斗。俺も皆と同感だった。

 

 そもそもクローディアの願いは、本当に教授との面会なのか?それが本当に銀河を敵に回してでも、命をかけてでも叶えたいクローディアの願いなのか?

 

 クローディアの考えが分からない俺なのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「初戦があっという間に終わったね」

うん、七瀬しか戦ってないよね。

しかも七瀬も、技一つ出しただけっていうね。

シャノン「それにしても、梁瀬ミーコさんがずいぶんイジられてたけど」

個人的に、梁瀬ミーコさんとファム・ティ・チャムさんのコンビが好きでさぁ。

七瀬との絡みを書きたかったのよ。

シャノン「あぁ、確か声優さんはpetit miladyの二人だったっけ?」

そうそう。アニメで良い味を出してたよね。

ファム・ティ・チャムさんもまた登場してほしいなぁ。

シャノン「それより、私は《獅鷲星武祭》に出るの?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「無視すんなああああああああああっ!」


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負けられない理由

今日で五月も終わりなんだなぁ・・・


 「七瀬ええええええええええっ!」

 

 俺の名前を叫びながら抱きついてきたのは、五和姉ではなく一織姉だった。

 

 「本戦出場おめでとう!流石は私の弟ね!」

 

 「今日の一織姉、ホント五和姉みたいだな・・・」

 

 あれから俺達は二回戦・三回戦を順調に勝ち進み、無事に本戦への出場を決めていた。今日は休養日で本戦の組み合わせ抽選会があり、そちらにはクローディアが行ってくれている。

 

 なので俺は綾斗と共に、アスタリスク中央区にある治療院を訪れていた。

 

 「綾斗くんもおめでとう!本戦も頑張ってね!」

 

 「ありがとうございます、一織さん」

 

 「ってか一織姉、テンション高すぎだって。まだ予選を突破しただけなんだから」

 

 「だって凄いじゃない!三咲、四糸乃、五和、六月、七瀬、八重、九美・・・皆が予選を突破してるのよ!?姉として鼻が高いわ!」

 

 ランスロット・ルサールカ・トリスタン・黄龍・赫夜も、無事に予選を突破して本戦に進んでいた。

 

 まぁ、勝負はここからなんだけどな・・・

 

 「・・・私にとって、《獅鷲星武祭》は苦い思い出なのよ。三連覇がかかってたのに、負けちゃったからね」

 

 悔しそうな表情の一織姉。《王竜星武祭》と《鳳凰星武祭》を制していたのに、《獅鷲星武祭》でランスロットに敗れたんだよな・・・

 

 一織姉の中では、それがずっと心残りとしてあるんだろう。

 

 「しかも最後は、リーダーの私がアーネストくんに校章を破壊されちゃって・・・悔しかったなぁ、あの時は」

 

 「一織姉・・・」

 

 「試合終了後は大号泣しちゃって、二葉や三咲に情けない姿見られて・・・ホント苦い思い出になっちゃったわ。だからね、七瀬・・・」

 

 俺の頭を撫でる一織姉。

 

 「死ぬ気で勝ちにいきなさい。たとえ相手が家族でも・・・全力でぶつかりなさい」

 

 「・・・あぁ、分かってる」

 

 俺はそう答えると、一織姉を抱き締めた。一織姉の無念を晴らす為にも、絶対に優勝してみせる・・・

 

 改めて心に誓った俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 一織姉と別れた俺達は、綾斗が持っていたパスを使って専用通路を歩いていた。

 

 やがて綾斗が部屋番号らしきプレートの前で立ち止まり、光学キーボードを操作する。すると壁が透過して、向こう側が見えるようになった。

 

 「七瀬、あの人が俺の姉さんだよ」

 

 綾斗がガラスの向こう側を指差す。その部屋の中央のベッドで、一人の女性が眠っていた。

 

 あの人が綾斗のお姉さん・・・天霧遥さんか。

 

 「綺麗な人だな・・・五年前から眠ってるんだって?」

 

 「うん。どうやら自分の能力・・・禁獄の力を自分自身に施したみたいなんだ」

 

 複雑な表情で遥さんを見つめる綾斗。

 

 「五年前・・・治療院の院長に、姉さんを目覚めさせるように依頼してきた人がいたんだって。ダニロ・ベルトーニって名前、聞いたことある?」

 

 「あぁ。マディアス・メサ委員長の前に、《星武祭》の運営委員長を務めてた人だよな?確か事故で亡くなったんだっけ?」

 

 「うん。どうやらその人、色々と裏でやってたみたいで・・・《蝕武祭》の主催者も、その人だった可能性が高いらしいよ」

 

 《蝕武祭》・・・《星武祭》と違って非合法な、ルール無用のバトルゲームだ。ギブアップは存在せず、選手が気を失うか命を落とすまで試合は続く。

 

 まぁそんなものをヘルガさんが見逃すはずもなく、既に潰されているわけだが。

 

 「で・・・その《蝕武祭》に、遥さんが出てたんだって?」

 

 「どうやらそうみたい。《悪辣の王》もそう言ってたし」

 

 俺も後から聞いたのだが、去年の《鳳凰星武祭》の最中に綾斗は《悪辣の王》からの接触を受けたらしい。その時に遥さんのことを聞いたそうだ。

 

 あのブタ野郎、一体何を考えてるんだ・・・?

 

 「《悪辣の王》が見てた試合で姉さんは負けて、その後のことは知らないって言ってたけど・・・多分何らかの事情があって、姉さんは自分に封印を施したんだと思う」

 

 「なるほど・・・で、何でここに遥さんがいるって分かったんだ?」

 

 「それは私が説明しよう」

 

 背後から声がする。振り向くと、ヘルガさんがこちらへ歩いてくるところだった。

 

 「ヘルガさん?どうしてここに?」

 

 「彼女の様子を見に来たんだ。少しでも変化は無いかと思ってな」

 

 遥さんを見つめるヘルガさん。

 

 「それより、どうしてここに彼女がいることが分かったかについてだが・・・私がダニロと《蝕武祭》について再調査をした結果、資金の流れが見つかったんだ。その一つが、ここの院長と繋がっていたのだよ」

 

 「あぁ、なるほど・・・表沙汰にしたくないから、裏で金を支払って依頼していたと」

 

 「そういうことだ。我々としては甚だ不本意ではあるが、これは珍しいことではない」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らすヘルガさん。

 

 「ここは極めて秘匿性の高い場所なんだ。一度引き受けた患者に関しては、一切秘密を漏らさないし詮索もしない。だから彼女が運ばれてきたことが、誰にも分からなかった」

 

 「そういうルールだ。文句を言うな」

 

 今度は前方から、白衣を着た老人がやってきた。あぁ、この人が・・・

 

 「ヤン・コルベル院長ですね?いつも姉がお世話になってます」

 

 「一織の弟か・・・お前の姉には、むしろこっちが助けられている。あれほどの治癒能力者が来てくれて、本当に助かっとるわ」

 

 「こっちはエースを引き抜かれて、大変な思いをしたがな」

 

 「治癒能力者に関しては、既に取り決めがされておる。グチグチと文句を言いおって、見苦しいにもほどがあるぞ」

 

 睨み合う二人。どうやらこの二人、あまり仲がよろしくないようだ。

 

 「とりあえず経緯は分かりましたが・・・ヘルガさん、質問いいですか?」

 

 「ん?何だ?」

 

 「《星武祭》の運営委員長を務めていたということは、ダニロ・ベルトーニは統合企業財体の幹部だったってことですよね?」

 

 「あぁ、ダニロはソルネージュの幹部だった」

 

 「それなら、精神調整プログラムを受けていたはずですよね?幹部になる為には、徹底的に我欲を排除する必要があるはずです。なら普通、私利私欲には走れないですよね?」

 

 「ほう、よく知っているな・・・あまり表沙汰になっていない話なのだが」

 

 感心しているヘルガさん。

 

 「精神調整プログラムは、部署や立場によって調整レベルが異なるのだ。《星武祭》関連の部署はクリエイティブな判断が求められる為、比較的調整が緩いのだよ」

 

 「じゃあ、マディアス・メサ委員長も?」

 

 「あぁ、彼は《星武祭》優勝の望みとして運営委員会入りしているからな。名目上は銀河に所属しているが、もしかすると調整そのものを受けていない可能性もある」

 

 へぇ、そういうものなのか・・・

 

 「つまりダニロ・ベルトーニには、我欲が残っていた可能性があると?」

 

 「あぁ。それともう一つ・・・精神操作系の能力者が関与していた可能性もある」

 

 「っ・・・もしそうなら、とんでもないことですね・・・」

 

 精神操作系の能力を持つ《魔術師》や《魔女》なんて、治癒能力者と同じぐらい極めて少ない。その脅威から、治癒能力者以上に管理が徹底されていると聞く。

 

 もしそんな能力者が、ダニロに協力していたのだとしたら・・・

 

 「我々も現在、全力で捜査中だが・・・やはり彼女から事情を聞くのが、一番手っ取り早いだろうな」

 

 遥さんをチラリと見たヘルガさんは、今度はコルベル院長に視線を移した。

 

 「どうにかならないのか?能力の解除はお前の専門だろう」

 

 「わしとて万能ではない。この五年間、思いつくかぎりの治療は試してみたが・・・結果はご覧の通りだ」

 

 拗ねたように口を尖らせるコルベル院長。

 

 「悔しいが、わしにはどうにも出来ん。一番可能性があるのは・・・やはり《大博士》だと言わざるをえない」

 

 「・・・やっぱりそうですか」

 

 険しい表情の綾斗。

 

 《大博士》ことヒルダ・ジェーン・ローランズは、アルルカントの《超人派》の代表だ。綾斗に接触してきて、遥さんを目覚めさせることが出来ると言ってきたらしい。

 

 その代わり《獅鷲星武祭》で優勝して、自身に課せられたペナルティを解除してほしいのだそうだ。何でも数年前に事故を起こし、その責任を取らされたらしい。

 

 そういや《超人派》は、数年前に大きく勢力を減退させたってクローディアも言ってたな・・・

 

 「《大博士》なら、遥さんを目覚めさせられるんですか?」

 

 「あぁ。《大博士》が話していたという、彼女を目覚めさせる方法を聞いたが・・・理論的に可能だ。そしてその方法をとることが出来るのも、やはり《大博士》だけだろう」

 

 俺の問いに頷くコルベル院長。マジか・・・

 

 「でも・・・《大博士》は信用できない」

 

 拳を握りしめる綾斗。

 

 「アイツは・・・ユリスの親友を変えてしまったヤツなんだから」

 

 「・・・《孤毒の魔女》か」

 

 前にユリスが話してくれた、後天的に《星脈世代》を作り出す研究・・・その研究の主任を努めていたのが、《大博士》だったらしい。

 

 つまりオーフェリア・ランドルーフェンが《孤毒の魔女》になってしまったのは、《大博士》のせいということだ。ユリスにとって《大博士》は、決して許すことの出来ない相手なのである。

 

 「・・・でもユリスは、《大博士》と取引しても非難したりしないって言ったんだろ?」

 

 「確かにそう言ってくれたけど・・・でも俺はやっぱり、あんなヤツ頼りたくないよ」

 

 綾斗が唇を噛み締める。

 

 「アイツは《孤毒の魔女》のことを、人間じゃなくて研究対象としてしか見ていなかった。人間らしい感覚が著しく欠如してるんだよ。会話していて、本当に不愉快だった」

 

 吐き捨てるように言う綾斗。あの綾斗がここまで言うとは・・・

 

 「だから俺は、《大博士》の力を借りずに姉さんを目覚めさせたいんだよ。統合企業財体の力なら、きっと可能なはず・・・だから俺は、絶対《獅鷲星武祭》で優勝したいんだ」

 

 「・・・なるほどな」

 

 笑みを浮かべる俺。

 

 「ユリスの国を変える為、綺凛の父親を助ける為、クローディアの望みを叶える為、そして綾斗のお姉さん・・・遥さんを目覚めさせる為。こりゃ絶対負けらんねぇわ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「絶対優勝しような、綾斗。俺も全力で力を貸すから」

 

 「っ・・・あぁ、ありがとう!」

 

 拳を合わせる俺と綾斗。と、そこへ・・・

 

 「七瀬ええええええええええっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 後ろから走ってきた二葉姉が、勢いよく俺に抱きついてくる。

 

 「本戦出場おめでとう!流石は私の弟ね!」

 

 「空気読めやバカ姉!あとそのくだり二回目だわ!」

 

 「えぇっ!?何で怒ってんの!?」

 

 戸惑う二葉姉に、苦笑する綾斗・ヘルガさん・コルベル院長なのだった。

 




二話連続投稿となります。

次の投稿は、来週の半ばになりそうです。

是非お待ちいただけると幸いです。

シャノン「そう言ってまた七ヶ月も待たせるんですね。分かります」

いや違うから!ちゃんと執筆して投稿するから!

・・・・・多分(ボソッ)

シャノン「おいいいいいっ!?そこは言い切ってよ!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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犯人

時間ができたので、続きを投稿します。

それにしても暑いな・・・


 「全く・・・ホント空気が読めないんだから・・・」

 

 「うぅ・・・悪かったわよ・・・」

 

 涙目の二葉姉。俺達は、治療院のロビーへと移動していた。

 

 「それで?どうして二葉がここにいる?」

 

 「あ、そうでした!」

 

 思い出したようにヘルガ隊長へ向き直る二葉姉。

 

 「再開発エリア付近で、立て続けに廃ビルが崩落している模様です。既に静薙が現場に向かっていますが、隊長の耳にも入れておこうと思いまして」

 

 「・・・通信での報告はダメだったのか?」

 

 「・・・姉から、七瀬も来ているとの連絡を受けまして」

 

 視線を逸らす二葉姉。ヘルガさんが溜め息をつく。

 

 「要は七瀬に会いたかっただけじゃないか・・・」

 

 「だって七瀬ったら、予選を突破したのに連絡の一つも寄越さないんですよ!?」

 

 「いや、連絡する必要ある?」

 

 「あるに決まってるでしょ!?寂しくて死んじゃうかと思ったわよ!?」

 

 「アンタはウサギか。そんな繊細な人間じゃないだろ」

 

 「私ってどんな人間だと思われてんの!?」

 

 「殺しても死なないような人間」

 

 「酷い!?」

 

 「まぁそれは良しとして・・・廃ビル崩落の原因は?立て続けということは、老朽化が原因ではないのだろう?」

 

 ヘルガさんの問いに、真剣な表情となる二葉姉。

 

 「どうやら何者かが、剣で廃ビルを斬ったようです。先ほど静薙から連絡がありましたが、怪我人は出ていないとのことでした」

 

 「なるほど・・・よし、私も現場へ行こう。二葉、案内してくれ」

 

 「了解です」

 

 「それでは七瀬、天霧くん、私達はこれで失礼する。また会おう」

 

 「お疲れ様です」

 

 一礼する俺と綾斗。二葉姉が俺に駆け寄ってくる。

 

 「七瀬、頑張りなさいよ。応援してるから」

 

 「あぁ。一織と二葉姉の無念を少しでも晴らせるように、絶対優勝してみせるよ」

 

 俺がそう言うと、二葉姉が俺を抱き締めてきた。

 

 「・・・ありがとね。でも七瀬は、もっと自分のことを考えなさい。私達の無念を晴らす為とか、仲間の望みを叶える為とか・・・それだけじゃなくて、自分の望みもちゃんと決めてほしいの」

 

 「二葉姉・・・」

 

 俺の望み、か・・・そういや、今回も考えてなかったっけ・・・

 

 「それじゃ、そろそろ行くわ。綾斗くん、七瀬をよろしくね」

 

 「あ、はい!」

 

 「またね、七瀬」

 

 俺に手を振り、ヘルガさんと共に去っていく二葉姉。

 

 やれやれ・・・

 

 「・・・何でこういう時だけ、姉らしさを発揮するのかね」

 

 「良いお姉さんじゃないか」

 

 俺の肩を叩く綾斗。

 

 「俺達もそろそろ帰ろう。組み合わせの結果も出る頃だし」

 

 「だな。コルベル院長、お邪魔しました」

 

 「あぁ、本戦も頑張れよ」

 

 そう言って踵を返すコルベル院長。何だかんだ優しい人だよな、この人も・・・

 

 「さて、行くか」

 

 「うん」

 

 そう言って歩き出そうとしたところで、綾斗の端末に着信が入る。

 

 「あれ?紗夜からだ」

 

 綾斗が空間ウィンドウを開くと、紗夜の顔が映し出された。

 

 「紗夜?どうしたの?」

 

 『綾斗、助けて』

 

 どことなく困り顔の紗夜。

 

 『道に迷った』

 

 「・・・どうやら、この間の拳骨が効かなかったみたいだなァ」

 

 ボキボキと拳を鳴らす俺。そんな俺に気付き、表情が固まる紗夜なのだった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 「で、何か言い残す言葉はあるか?」

 

 「すいませんでした」

 

 土下座している紗夜。

 

 再開発エリア付近の銃専門店に来た結果、帰り道が分からなくなり綾斗に助けを求めたらしい。

 

 ホントにコイツは・・・

 

 「全く・・・だから一人で出歩くなって言ってんのに・・・」

 

 「煌式武装を仕上げる為に、どうしても必要な部品があって・・・」

 

 紙袋を大事そうに抱えている紗夜。

 

 そういや睡眠時間を削って作業してるらしいって、綾斗も言ってたっけか・・・

 

 「・・・まぁいいや。ほら、帰るぞ」

 

 「え、拳骨は?」

 

 「何?くらいたいの?」

 

 「滅相もございません」

 

 慌てて後をついてくる紗夜。と、綾斗が俺を見て笑みを浮かべていた。

 

 「・・・何だよ」

 

 「いや、七瀬はホントに優しいなって」

 

 「やかましいわ。綾斗なんか人の彼女を口説いて、学園中から嫌われて、ユリス狂になって、クローディアと紗夜に酷いことして、ティターニア狂に騙されて仲間を殺そうとして、仲間達から決別されて、学園を退学になって、姉からも見捨てられて、今何処にいるか分からない状況になってしまえ」

 

 「罵倒が長くて具体的なんだけど!?それ誰の話!?」

 

 そんな会話をしながら歩いていた時だった。轟音が響き渡り、瓦礫の崩れる音がする。

 

 まさか・・・

 

 「例の廃ビル崩落事件か?」

 

 「多分そうだと思う。二葉さんの言ってた現場って、この辺じゃなかったっけ?」

 

 「何の話?」

 

 紗夜は首を傾げているが、俺と綾斗は周囲を警戒していた。

 

 人為的に起こされたものなら、犯人が近くにいる可能性が高い。俺は周囲へと意識を集中させ、星辰力の波動を読み取る。

 

 綾斗と紗夜以外で、この付近にいる《星脈世代》・・・

 

 「ッ!?この波動は・・・!」

 

 「七瀬・・・?」

 

 間違いない・・・俺のよく知っている波動だ。

 

 「綾斗!紗夜を連れて先に戻ってろ!」

 

 「七瀬!?」

 

 全力で駆け出す俺。やがて少し開けた所へ出た瞬間・・・

 

 「おらぁっ!」

 

 ロヴェリカが大剣を振りかざしている光景が飛び込んできた。ロヴェリカが狙っている相手は・・・

 

 倒れているマフレナを、庇うように立ちはだかっている四糸乃姉だった。

 

 「死ねえええええっ!」

 

 「こっちのセリフだ阿婆擦れ女ッ!」

 

 「がはっ!?」

 

 星辰力を纏った拳を、ロヴェリカの顔面に思いっきりぶち込む。もろにくらったロヴェリカは、勢いよく近くのビルに突っ込んだ。

 

 「なーちゃん!?」

 

 「大丈夫か四糸乃姉!?」

 

 見たところ、四糸乃姉に怪我は無いようだ。だが・・・

 

 「マフレナ!?」

 

 「大丈夫!?」

 

 モニカ達がマフレナの側に駆け寄る。どうやら、マフレナは危害を加えられたらしい。

 

 「どういうつもりだ・・・傭兵生共」

 

 少し離れたところに、ネヴィルワーズとメデュローネが立っていた。ネヴィルワーズは無表情で、メデュローネは溜め息をついている。

 

 「開会式の日の忠告を忘れたのか?」

 

 「いや、私達は覚えている。ロヴェリカは忘れてしまったようだがな」

 

 淡々と答えるネヴィルワーズ。

 

 「だが、今回はロヴェリカだけの責任ではない。我々が立ち去ろうとしたところへ、そこの茶髪の娘が攻撃してきたのだから」

 

 「それはアンタ達が、何の謝罪も無しに立ち去ろうとするからでしょ!?」

 

 ミルシェが激怒している。

 

 「アタシ達が歩いてる時に、近くの廃ビルをいきなり壊すなんて!危うく瓦礫の下敷きになるとこだったじゃない!」

 

 「それについては申し訳ありません」

 

 謝罪の言葉を口にするメデュローネ。

 

 「ロヴェリカが人の言うことも聞かず、『ショートカットだ』と言って廃ビルを壊して進むものですから・・・」

 

 「・・・事件の犯人は阿婆擦れ女かよ」

 

 呆れる俺。何やってくれてんだホント・・・

 

 「それについて文句を言ったら、いきなり攻撃してきて!しかもそのまま立ち去ろうとするなんて!反撃するに決まってるでしょうが!」

 

 そう吠えるミルシェは、確かにボロボロだった。阿婆擦れ女にやられたのか・・・

 

 「それは悪手と言わざるをえないな」

 

 冷たい目でミルシェを見つめるネヴィルワーズ。

 

 「現に貴様ではロヴェリカに勝てず、やられそうになったところを倒れている娘が庇ったからこうなっているのだろう?」

 

 「っ・・・」

 

 唇を噛むミルシェ。それでマフレナがやられたのか・・・

 

 「確かに原因は我々だ。それについては謝罪しよう。だが貴様の仲間が傷付いたのは、貴様の勝手な行動のせいだ。それについて謝罪する気は無い」

 

 「・・・だったら早く失せろ。これ以上は手を出すな」

 

 「七瀬!?」

 

 ミルシェが叫ぶ。

 

 「コイツらを見逃すって言うの!?」

 

 「今ここで争ったら、《獅鷲星武祭》への参加資格を剥奪される可能性がある。そんなこと、お前らも望んでないだろ?」

 

 「そ、それは・・・」

 

 「それに今は、マフレナの手当てが最優先だ。争ってる場合じゃない」

 

 「っ・・・」

 

 悔しそうに俯くミルシェ。俺はネヴィルワーズへと視線を向けた。

 

 「阿婆擦れ女を連れて早く失せろ。お前らの顔を見るのも不愉快だ」

 

 「感謝する。すぐにこの場を立ち去ろう」

 

 「ふざけんなァッ!」

 

 ネヴィルワーズがそう答えた瞬間、ロヴェリカの突っ込んだビルが崩壊する。土煙の中から現れたロヴェリカは、目が血走っていた。

 

 「星野七瀬ッ!テメェはオレがぶっ殺すッ!」

 

 「止めなさいロヴェリカ!」

 

 メデュローネが止めようとするが、どうやらロヴェリカは頭に血が上っているようだ。大剣を構え、オレに向かって飛び掛ってくる。

 

 だが・・・

 

 「どーん」

 

 そんな気の抜けた声と共に轟音が鳴り響き、光の奔流がロヴェリカを呑み込んだ。

 

 おいおい、マジか・・・

 

 「・・・何で来たんだ、紗夜」

 

 「七瀬を置いていけるわけない」

 

 三十九式煌型光線砲・ウォルフドーラを構えた紗夜が親指を立てる。

 

 「星猟警備隊にも通報済みだ。すぐにここへやってくるはずだよ」

 

 紗夜の隣に現れる綾斗。お前まで来たのかよ・・・

 

 「・・・致し方あるまい」

 

 ネヴィルワーズが溜め息をつき、右手を高く掲げる。周囲の万応素が猛烈な勢いで渦を巻き、三十メートルを超える巨大な岩の塊が出現した。

 

 「上手く回避してくれ。まだ失格にはなりたくないのでな」

 

 躊躇うことなく腕を振り下ろすネヴィルワーズ。おいおい・・・!

 

 「全員退避ッ!」

 

 俺の叫びに、皆が一斉に退避する。岩が地面に激突した瞬間、地面に亀裂が走って穴が空く。

 

 そして・・・

 

 「キャアッ!?」

 

 「ッ!?ミルシェッ!」

 

 ミルシェの足場が崩れ、穴へと落ちていく。俺は穴へと飛び込み、落ちていくミルシェの手を掴んで抱き寄せた。

 

 「なーちゃんッ!ミーちゃんッ!」

 

 四糸乃姉の叫び声を聞きながら、俺とミルシェは地下へと落ちていくのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「またチーム・ヘリオン出てきたね」

ぶっちゃけコイツら、名前が長くて面倒なんだよね。

ロヴェリカはまだ良いとして、ネヴィルワーズとかメデュローネとかさ。

クロエの前の名前もミネルヴィーユでしょ?

どいつもこいつも長いんだよ。もっと省略しろよ。

シャノン「いや、省略って・・・例えば?」

とりあえず、ネヴィルワーズはネビルでいい。

シャノン「ハリー・ポ●ターに出てきそうだね」

あと、メデュローネはメデューサで。

シャノン「怪物じゃん。っていうか省略されてる?」

ミネルヴィーユは・・・クロエになったから良しとしよう。

っていうか、クロエは可愛いから許されるわ。

シャノン「ホント浮気性だねぇ・・・」

可愛いは正義!

シャノン「じゃあ私も正義?」

自惚れんなモブキャラ。

シャノン「酷い!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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弱音

梅~雨~が~は~じ~まる~よっ♪

・・・ハァ(憂鬱)


 「あー、酷い目に遭った・・・」

 

 雷の翼をしまいながら、溜め息をつく俺。

 

 本当はすぐに上昇したかったのだが、上から次々に瓦礫が降ってくるので上昇できなかったのだ。なので逆に下降し、瓦礫の降ってこない場所に避難して今に至る。

 

 「ミルシェ、無事か?」

 

 「う、うん・・・」

 

 お姫様抱っこで抱えられているせいか、顔を赤くしながら頷くミルシェ。

 

 コイツホント初心だよな・・・っていうか・・・

 

 「何でお前まで落ちてんだよ・・・紗夜」

 

 「銃が重くて逃げ遅れた」

 

 俺の背中から降りる紗夜。

 

 瓦礫から瓦礫へ飛び移り、俺の背中に飛び乗ってきた時はマジでビックリしたわ・・・

 

 「まぁいいけど・・・これからどうすっかな」

 

 ミルシェを降ろし、薄暗い中で目を凝らして辺りを見回す。

 

 一応地下通路が続いているようだが、アスタリスクは地下通路と排水路が複雑に絡み合う構造になっている。この地下通路を進んでいったとしても、地上に出られる保障は無い。

 

 「煌式武装なら、頭上に穴を開けられると思う。そこから地上に出たら良い」

 

 「いや、それは止めた方が良いな。下手に衝撃を与えると、何処が崩れてくるか分からない。生き埋めになる可能性がある」

 

 「シノン達に連絡とろうよ。助けを呼んでもらって、ここで助けを待つべきじゃない?」

 

 「さっきから試してるけど、通信は繋がらないみたいだ。それにここも、いつまでも安全とはかぎらないぞ。ちょっとした衝撃で崩落するかもしれないし」

 

 紗夜とミルシェの提案に、首を横に振る俺。

 

 となると、とるべき行動は一つ・・・

 

 「進むしかないか・・・」

 

 「そうするしかなさそう」

 

 「ホ、ホントに進むの・・・?」

 

 ミルシェが怯えている。あっ・・・

 

 「そういやお前、暗い所が苦手だったな・・・」

 

 「うぅ・・・怖い・・・」

 

 涙目のミルシェ。

 

 「仕方ないな・・・七海、頼むわ」

 

 【了解です、マスター】

 

 七海が人型になり、掌の上に光球を作り出す。光球の発する光で、俺達の周りが一気に明るくなった。

 

 「・・・純星煌式武装はこんなことも出来るのか?」

 

 「マスターのおかげですよ」

 

 驚いている紗夜に、七海が笑いながら説明する。

 

 「マスターと私の間には、目に見えないパスのようなものが通っているんです。私はそれを通じて、マスターから星辰力を分けていただいてるんですよ。それを基として人型に具現化したり、力を使ったりしているというわけなんです」

 

 「なるほど・・・そういう理屈だったのか」

 

 納得している紗夜。さてと・・・

 

 「ほら、ミルシェ」

 

 ミルシェに手を差し出す俺。

 

 「明るくなったし、これで大丈夫だろ。手も繋いでやるから、早く行こうぜ」

 

 「あ、うん・・・ありがと」

 

 おずおずと俺の手を握るミルシェ。七海が先頭に立ち、紗夜・俺・ミルシェの順に歩き出す。

 

 と、ミルシェが俺の側に近付いてきた。

 

 「・・・何かこうしてると、あの時のこと思い出すよ」

 

 「あの時?」

 

 「ほら、前に七瀬の実家に遊びに行った時だよ。台風の影響で夜中に停電して、アタシが凄く怯えちゃってさ。居間に布団敷いて皆で寝たじゃん?」

 

 「あぁ、あったあった。懐かしいなオイ」

 

 「あの時も七瀬、こうやってアタシの手を握ってくれたよね・・・アタシが寝られるまでずっと」

 

 「・・・そうだったな」

 

  あまりにもミルシェが怯えるもんだから、放っておけなかったんだよな・・・

 

 「ねぇ、七瀬・・・」

 

 暗い表情で俯くミルシェ。

 

 「アタシ・・・本当にルサールカのリーダーで良いのかな?」

 

 「・・・いきなりどうした?お前らしくないぞ」

 

 いつも自信満々に、『アタシがリーダーだ!』って言ってるのに・・・

 

 「・・・さっきの男が言ってたでしょ?マフレナが傷付いたのは、アタシの身勝手な行動のせいだって」

 

 唇を噛むミルシェ。

 

 「あの時、アタシが我慢してたら・・・立ち去ろうとしてたアイツらに、怒りに身を任せて反撃なんてしなかったら・・・マフレナは傷付かずに済んだんだよね」

 

 「ミルシェ・・・」

 

 「シノンは、身を挺してマフレナを守ろうとした。七瀬はマフレナの手当てを優先する為に、怒りを堪えてあの場を収めようとした。マフレナを妹みたいに可愛がってるアンタが、キレてないはずないのに」

 

 ミルシェの目に、涙が溜まっていく。

 

 「それに対してアタシは・・・自分のことしか考えてなかった。怒りを相手にぶつけることしか考えてなかった。その結果、大切な仲間が傷付くことになって・・・ホント、リーダー失格だよね・・・」

 

 「・・・それでも、ルサールカのリーダーはお前だろ」

 

 ミルシェの手を、力を込めて握る。

 

 「四糸乃姉や他の皆を誘って、ルサールカを結成したのはお前だろ。自分でリーダー失格とか言うな。お前についてきてくれたメンバー達に失礼だ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「大体、もしお前が反撃を我慢したとして・・・アイツらが黙ってるわけないだろ。瓦礫の下敷きになりかけただけならまだしも、自分達のリーダーが攻撃されたんだぞ?それを大人しく見逃せるほど、アイツらは大人じゃねーよ」

 

 「いや、大人じゃないって・・・褒めてんの?ディスってんの?」

 

 「両方」

 

 「両方!?」

 

 ミルシェのツッコミ。やっと『らしく』なってきたな・・・

 

 「マフレナが傷付いたのは、あの阿婆擦れ女のせいだ。大体、身勝手な行動をしてるのはアイツらの方だろ。それをミルシェが悪いみたいに言いやがって・・・」

 

 あの傭兵生共・・・もし本戦で当たったらただじゃおかねぇ・・・

 

 「特にあの阿婆擦れ女は、四糸乃姉や九美のことも傷付けようとしたからな・・・駆逐してやる・・・この世から・・・DNAの一片たりとも残らず・・・!」

 

 「怖いんだけど!?若干エ●ンっぽくない!?」

 

 「本戦で当たって・・・とにかく傭兵生をぶっ殺したいです」

 

 「だから何で●レンっぽく言うの!?」

 

 「ほう・・・悪くない・・・」

 

 「リ●ァイ兵長!?」

 

 紗夜がノッてくる。流石だぜ紗夜。

 

 「私は強い・・・お前達より強い・・・凄く強い・・・ので私は、あの傭兵生共を蹴散らすことが出来る」

 

 「ミ●サ!?確かにアンタ無表情だし、髪型もちょっとミカ●に似てなくもないけども!」

 

 「まぁそういうわけだから、優勝するのは俺達ってことで」

 

 「どういうわけ!?優勝するのはアタシ達だからね!?」

 

 ウガーッと威嚇してくるミルシェ。やれやれ・・・

 

 「そんだけ元気があったら大丈夫だろ。弱音なんて吐いてんじゃねーよ」

 

 「うっ・・・」

 

 バツが悪そうな表情のミルシェ。自分でも『らしくない』と思っていたらしい。

 

 「お前は自信満々に、『リーダーはアタシだ!』って言ってりゃ良いんだよ。そんなお前の背中を見て、アイツらはついてきてるんだから」

 

 「アタシの背中・・・」

 

 「だからアイツらの前で、そんな弱音吐くなよ。リーダーがそんなんじゃ、アイツらを不安にさせるだけだぞ」

 

 ミルシェの頭を撫でる俺。

 

 「まぁそれでも、どうしても弱音を吐きたくなったら・・・その時は今みたいに、俺が聞いてやるよ。だからいつでも言え」

 

 「・・・うん。ありがと」

 

 ミルシェが小さく呟く。

 

 「ホント、七瀬には敵わないなぁ・・・」

 

 笑みを浮かべつつ、俺の手を強く握るミルシェなのだった。




どうも~、ムッティです。

夏なんて要らねえええええっ!

シャノン「急にどうしたの!?」

いや、最近暑いじゃん?

暑いのホント苦手なんだよね・・・

シャノン「あぁ、なるほど・・・これからもっと暑くなるからねぇ・・・」

そうなんだよ・・・

マジで夏なんて要らない・・・

最近は春でさえ要らないと思うわ。

シャノン「春夏秋冬の半分を否定・・・じゃあ秋冬だけで良いと?」

あぁ、それ理想的だわ。

秋と冬で半年ずつ分け合おう。

もしくは三ヶ月毎に交代でも可。

シャノン「春夏秋冬じゃなくて、秋冬秋冬だね」

よしシャノン、春と夏を消してきてくれ。

シャノン「無理だよ!?」

チッ、モブキャラが・・・

シャノン「何で今私は罵倒されたの!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「理不尽だあああああっ!」


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隠された場所

久々にアスタリスクのアニメが観たい・・・


 「つーかーれーたー!」

 

 「お前さっきから歩いてないだろうが!」

 

 俺の背中で喚くミルシェ。

 

 途中で『もう歩けない』って駄々をこねるから、仕方なくおぶってやってるのに・・・

 

 「もう一時間ぐらい歩いてるじゃん!何で何処にも出られないわけ!?」

 

 「知らん。ってか自分で歩け」

 

 「『弱音を吐きたくなったら聞いてやる』って言ったの七瀬じゃん!」

 

 「こういう意味で言ったんじゃねーよ!」

 

 ギャーギャー言い争うミルシェと俺。と、先頭を歩いていた七海が立ち止まった。

 

 「七海?どうした?」

 

 「これ、足跡ですよね?」

 

 七海が通路の壁際を指差す。そこには、真新しい足跡がいくつも残っていた。

 

 「ホントだ・・・何でここだけ?」

 

 「・・・埃」

 

 紗夜がしゃがみこみ、地面を指でなぞる。つまり埃が積もったところを、誰かが踏んだわけか・・・

 

 しかも足跡から察するに、一人ではなく複数の人間だな・・・

 

 「何でここだけ埃が溜まってるんだ・・・?」

 

 壁際に近付く俺。何気なく壁を叩いてみると・・・

 

 「うおっ!?」

 

 重い音を響かせ、壁の一部がゆっくりスライドする。その先に新たな道が現れた。

 

 「隠し扉!?」

 

 「・・・ちょおビックリ」

 

 驚いているミルシェと紗夜。

 

 恐らくこの扉は、長い間使われていなかったんだろう。だが最近、誰かがこの扉を開けた。

 

 その時に埃が落ち、それを踏んだってところか・・・

 

 「マスター、奥にも扉があります」

 

 七海の言う通り、奥には銀色の大きな扉があった。横にはボタンがついている。

 

 「ひょっとしてこれ、エレベーターか?」

 

 「そうかもしれない。ただ、どう見ても怪しい」

 

 「そうですね。ここは慎重に・・・」

 

 「えいっ」

 

 ミルシェがボタンを押した。

 

 「何やってんだああああああああああっ!?」

 

 「ぐえっ!?」

 

 おぶっていたミルシェをぶん投げる。地面に激突するミルシェ。

 

 「ちょ、痛いじゃん!?何すんのよ!?」

 

 「そりゃこっちのセリフだバカ!俺達の会話聞いてた!?何でボタンを押した!?」

 

 「そこにボタンがあるから」

 

 「某登山家の名言っぽく言ってんじゃねーよ!」

 

 そんな言い合いをしていると、銀色の扉が開いた。中はこじんまりとした空間で、またしてもボタンが付いている。

 

 「ほら、やっぱりエレベーターじゃん!流石は私!」

 

 「よし、定員は三名って今勝手に決めた。だからミルシェをここに置き去りにしよう」

 

 「「異議なし」」

 

 「異議ありいいいいいっ!軽率なことしてスイマセンでしたあああああっ!」

 

 涙目で土下座するミルシェ。全くコイツは・・・

 

 「で、中にもボタンが一つしかないわけだが・・・」

 

 「ここまできたら押すしかないっしょ!」

 

 「・・・何かお前に言われるとイラッとするわ」

 

 「何でよ!?」

 

 まぁ悩んでいても仕方ないので、全員が乗ったところでボタンを押す。

 

 するとドアが閉まり、エレベーターが動き出したのだが・・・

 

 「・・・これ、下ってません?」

 

 七海の一言。下り専用エレベーターかよ・・・

 

 「隠し扉の先に、下り専用エレベーター・・・しかも長い間使われていない・・・どう考えてもおかしくないか?」

 

 「確かに・・・地下通路の点検用と考えるには、あまりにおかしすぎる」

 

 俺の問いに頷く紗夜。やがてエレベーターが停止し、扉がゆっくり開いた。

 

 その先にあった光景は・・・

 

 「何これ・・・」

 

 絶句しているミルシェ。

 

 俺達の目の前には、地下とは思えないほどの広大な空間が広がっていた。六角形のステージのようなフィールドで、六つの角にそれぞれ柱が立っている。

 

 俺達が乗ってきたエレベーターは、そのうちの一本の内部を通っているようだ。

 

 「アスタリスクの地下に、こんな場所があるなんて・・・」

 

 驚いている七海。俺達はエレベーターから出て、フィールドへと足を踏み入れた。

 

 次の瞬間、エレベーターの扉が閉じる。

 

 「あっ、閉まっちゃった!」

 

 「ボタンも無い・・・もう開けられなさそう」

 

 紗夜が扉を叩いてみるが、うんともすんとも言わなかった。

 

 「隠し扉・・・下り専用エレベーター・・・広大なフィールド・・・」

 

 嫌な予感がした。ふと上に視線を向けてみると・・・

 

 「ッ!?」

 

 フィールドを見下ろす高さに、観客席らしきものが設えてある。

 

 おいおい・・・

 

 「そういうことかよ・・・」

 

 「七瀬?何か分かったのか?」

 

 紗夜が尋ねてくる。

 

 「恐らくここは・・・《蝕武祭》が行なわれていた場所だ」

 

 「ッ!?ハル姉も参加してたっていう、非合法の大会・・・?」

 

 息を呑む紗夜。

 

 瓦礫だらけの荒れ果てたフィールドに、崩れかけている柱・・・恐らくヘルガさんに潰されてから、誰もこの場所を使ってはいないんだろう。

 

 と、瓦礫の陰で何かが光った気がした。

 

 「ん・・・?」

 

 近付いてみると、そこにあったのは・・・

 

 「眼鏡・・・?」

 

 レンズは割れ、フレームも折れ曲がっている。ここで戦って、負けてしまった人の物だろうか・・・

 

 手にとって眺めていると、紗夜が凄い勢いで覗き込んできた。

 

 「うおっ!?どうした!?」

 

 「これ・・・ハル姉の眼鏡・・・」

 

 「っ・・・マジか・・・」

 

 俺は少々考え込んだ後、眼鏡をポケットへとしまった。

 

 「・・・このことは内緒な。ここが《蝕武祭》の開催場所なら、ここにある物は全て証拠品ってことになるだろうから。本当なら、勝手に持ち出しちゃマズいだろうし」

 

 「七瀬・・・ありがとう」

 

 頭を下げてくる紗夜。と・・・

 

 「七瀬ッ!」

 

 別の柱のエレベーターから、二葉姉が飛び出してきた。そのまま俺に抱きついてくる。

 

 「二葉姉!?何でここに!?」

 

 「救助の為さ」

 

 エレベーターから、ヘルガさんが出てきた。その後ろには、柊静薙さんもいる。

 

 「こんにちは、七瀬選手。先日の一回戦以来ですね」

 

 「あ、どうも。お世話になってます」

 

 「それよりアンタ大丈夫なの!?怪我してない!?」

 

 「してないよ。大丈夫だって」

 

 俺がそう答えると、二葉姉の目から涙がボロボロ零れる。

 

 「良かった・・・ホントに良かった・・・!」

 

 「・・・ゴメン、心配かけた」

 

 「全くよ・・・四糸乃や綾斗くんから話を聞いて、どれだけ心配したか・・・!」

 

 俺の胸に顔を埋め、泣きじゃくる二葉姉。俺は二葉姉の頭を撫でつつ、ヘルガさんへと視線を向けた。

 

 「四糸乃姉達は無事なんですか?」

 

 「あぁ、無事だ。一人だけ怪我をしていた・・・マフレナといったか?彼女も大した怪我ではなかったが、頭を強く打ったことで意識が朦朧としていたようだ。既に手当ても終わり、意識もハッキリしている」

 

 「っ・・・良かった・・・!」

 

 口元を押さえ、今にも泣き出しそうなミルシェ。

 

 ホント良かったな・・・

 

 「とにかく皆、無事で良かった。だがまさか、本当にここに来ているとはな・・・」

 

 溜め息をつくヘルガさん。この反応、やっぱり・・・

 

 「ヘルガさん、ここ・・・《蝕武祭》の開催場所ですよね?」

 

 「・・・そうだ。どうやってここに入り込んだのか、詳しく聞かせてもらうぞ」

 

 厳しい表情のヘルガさんなのだった。




二話連続投稿となります。

次の投稿は、日曜日あたりになる予定です。

それまでお待ちいただけると幸いです。

シャノン「執筆活動は進んでるの?」

ちょいちょい進めてるよ。

早くクローディアの話にもっていきたいよね。

シャノン「あぁ、原作の九巻の話ね」

そうそう。頑張りたいと思います。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」



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衝撃の事実

今日は雨かぁ・・・

明日も雨らしいし、何か憂鬱だわ・・・


 「なーちゃんッ!」

 

 勢いよく抱きついてくる四糸乃姉。俺達はヘルガさん達に連れられ、星猟警備隊の本部へとやってきていた。

 

 一通りの事情聴取を終えた俺達は、同じく事情聴取を終えた四糸乃姉達と合流したのだった。

 

 「大丈夫!?怪我してない!?」

 

 「してないよ。心配かけてゴメン」

 

 「・・・良かったぁ」

 

 泣き出す四糸乃姉。俺は四糸乃姉の頭を撫でつつ、後ろの綾斗・トゥーリア・モニカに視線を向ける。

 

 「お前らも無事そうで良かったよ。あの後どうなったんだ?」

 

 「あの混乱に乗じて、傭兵生達は退散しちゃったよ。俺達は何とか崩落から逃れて、駆け付けた二葉さん達に事情を説明したんだ」

 

 「それで救援が来たのか・・・サンキュー、助かったよ」

 

 「マフレナは!?マフレナは何処にいるの!?」

 

 「落ち着けミルシェ」

 

 トゥーリアがミルシェを宥める。

 

 「マフレナなら手当てを受けた後、一足先にクインヴェールへ戻ったよ。星猟警備隊の人が車で送ってくれるっていうから、パイヴィにも付き添いで戻ってもらったんだ。ついでに理事長への報告も頼んどいた」

 

 「・・・そっか」

 

 その場にへたりこむミルシェ。慌ててモニカが支える。

 

 「リーダー!?大丈夫!?」

 

 「ゴメン、安心したら力が抜けちゃって・・・」

 

 「ルサールカの皆さんは、自分がクインヴェールまでお送りしましょう」

 

 柊さんが申し出てくれる。ミルシェはあんな状態だし、その方が有り難いな・・・

 

 「ただ、大変申し訳ないのですが・・・四糸乃さんだけ残っていただけますか?隊長からお話があるそうなので」

 

 「分かりました」

 

 頷く四糸乃姉。話って何だろう・・・?

 

 「んじゃシノン、モニカ達は先に行くね?」

 

 「うん。ミーちゃんのことよろしくね」

 

 「おう、任せとけ」

 

 「・・・七瀬」

 

 不意にミルシェが俺を呼ぶ。

 

 「ん?」

 

 「その・・・色々ありがとね」

 

 恥ずかしそうにそう言うミルシェ。こういうところは素直なんだよな・・・

 

 「おう。頑張れよ・・・リーダー」

 

 「っ・・・うんっ!」

 

 「柊さん、コイツらをよろしくお願いします」

 

 「任されたであります」

 

 笑って頷いてくれる柊さん。

 

 「んじゃ七瀬、またね!」

 

 「《獅鷲星武祭》、お互い頑張ろうぜ!」

 

 「おう、またな。パイヴィとマフレナによろしく」

 

 ミルシェ・モニカ・トゥーリアは、柊さんに連れられて去っていった。俺は四糸乃姉へと視線を移す。

 

 「ヘルガさんから話って、心当たりある?」

 

 「いや、何もないんだよね・・・何だろう?」

 

 首を傾げる四糸乃姉。と・・・

 

 「すまないな、残ってもらって」

 

 背後からヘルガさんと二葉姉がやってくる。

 

 「七瀬・天霧くん・沙々宮くんには、事情を説明しないといけないと思ってな。それから・・・」 

 

 俺と四糸乃姉を見るヘルガさん。

 

 「二人には、少し話しておきたいことがある。少々時間をいただきたい」

 

 「えぇ、構いませんけど・・・」

 

 「話しておきたいこと・・・?」

 

 顔を見合わせる俺と四糸乃姉なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「まず再開発エリアでの私闘の件だが、七瀬・天霧くん・沙々宮くんに関してはお咎め無しということになった」

 

 星猟警備隊本部の一室で、説明してくれるヘルガさん。

 

 「七瀬と沙々宮くんはチーム・へリオンのロヴェリカを攻撃しているが、いずれも仲間を守る為の正当防衛と認められた。よって君達の所属する、チーム・エンフィールドに処罰が下ることは無い」

 

 「良かった・・・」

 

 ホッとする俺。四糸乃姉を守る為だったとはいえ、チームに迷惑をかけたくはなかったからな・・・

 

 「それからチーム・ルサールカについてだが、何らかの処分が下ることになるだろう。四糸乃くんには、先ほど説明したな?」

 

 「はい、皆も受け入れています」

 

 「・・・ルサールカは被害者のはずでは?」

 

 四糸乃姉が頷く一方、紗夜が首を傾げる。

 

 「まぁ確かに、先に攻撃してきたのはロヴェリカなんだが・・・その後、リーダーのミルシェが私怨でやり返してしまっているからな。お咎め無しというわけにもいかないのだ」

 

 溜め息をつくヘルガさん。

 

 「恐らく、大して重い処分にもならないだろう。それはチーム・へリオンにも言えることではあるがな」

 

 「・・・アイツらこそ、重い処分を課すべきだと思いますけど」

 

 「仕方ないのよ」

 

 悔しそうな表情の二葉姉。

 

 「《星武祭》に関連する処分は、運営委員会の領域だから。私達は違反を取り締まることは出来ても、処分に口出しすることは出来ないの」

 

 「まぁそういうわけだ。我々としても大いに不服だが、致し方あるまい」

 

 口ではそう言うものの、ヘルガさんの表情は苦いものだった。

 

 「大体、ああいう危険なチームには厳罰を課すべきなのだ。とはいえ、この都市のルールから逸脱するわけにもいかない・・・もどかしいものだよ」

 

 「そもそも、傭兵生制度なんてものがあるからダメなんだと思いますけどね」

 

 持論を述べる俺。

 

 「いくらポイントを稼ぎたいからって、PMCの力を借りるのは如何なものかと思います。俺達がやってるのは、戦争なんかじゃないんですから」

 

 「おぉ・・・!」

 

 ヘルガさんの目がキラキラしている。

 

 「七瀬もそう思うか!?実は私も全く同じことを思っていたのだ!こんな制度は間違っている!」

 

 「ヘルガさん・・・!」

 

 「七瀬・・・!」

 

 ガシッと握手を交わす俺達。いやぁ、ヘルガさんとは気が合うなぁ!

 

 「まぁ傭兵生制度のことは置いといて・・・ここからが本題ね」

 

 二葉姉の表情が真剣なものになる。

 

 「今回七瀬達が迷い込んだあの場所は、かつて《蝕武祭》が開かれていた場所よ」

 

 「っ・・・《蝕武祭》・・・!」

 

 息を呑む綾斗。そういや、綾斗にはまだ説明してなかったな・・・

 

 「あの場所はバラストエリアの底・・・つまり水中にあるの」

 

 「バラストエリア・・・」

 

 そういや、一度綺凛と一緒に落ちたっけ・・・あの水底にあったのか・・・

 

 「七瀬達が乗ったエレベーターは、参加者用のエレベーターね。六つ全てが地下ブロックにあるんだけど、隠し扉とかで偽装されてるわ」

 

 「でもあの隠し扉、最近誰かが開けた形跡があったぞ?そうじゃなきゃ、俺達も隠し扉の存在に気付かなかっただろうし」

 

 「チーム・へリオンの連中さ」

 

 ヘルガさんが答えてくれる。

 

 「ヤツらの所属するPMCは、HRMSというところでな。代表を務めているリベリオ・パレートという男は、かつて《蝕武祭》の選任参加者だったんだ」

 

 「・・・ロクでもないヤツが集まるわけですね」

 

 溜め息をつく俺。そんなヤツがPMCやってんのかよ・・・

 

 「リベリオには妙なカリスマ性があってな。チーム・へリオンの連中も、すっかり信奉者のようだ。事情聴取で問い詰めたら、あの場所へ行ったことをあっさり認めたよ」

 

 「アイツらはどうやって脱出したんですかね?あのエレベーター、下り専用だと思ったんですけど・・・」

 

 「確かに参加者用エレベーターは、原則片道切符だ。だがリベリオのような選任参加者は、特殊なIDカードで自由にエレベーターを利用出来たらしい。どうやら連中は、リベリオからそのIDカードを渡されていたようだ」

 

 マジか・・・最初から来る気満々だったってことじゃん・・・

 

 「でも、《蝕武祭》は無くなったんですよね?だったらどうしてエレベーターが機能していたり、会場が残っていたりするんですか?」

 

 「・・・ダニロ関連の捜査は、統合企業財体の圧力で進められないのが現状なんだ」

 

 悔しげな表情のヘルガさん。

 

 「《蝕武祭》はその最たるもので、会場には一切手をつけるなという命令がきている。未だに証拠の一つも持ち出せないくらいだ」

 

 マジかよ・・・まぁ申し訳ないことに、俺は持ち出しちゃってるんだけどな・・・

 

 「とまぁ、あの場所に関する説明は以上だ。何か他に質問はあるか?」

 

 ヘルガさんの問いに、首を横に振る俺達。それを見て、ヘルガさんが軽く頷いた。

 

 「よし、ではこの話は終えるとしよう。次は七瀬と四糸乃くんへの話だが・・・天霧くんと沙々宮くんには、席を外してもらった方が良いか?」

 

 二葉姉へと視線を向けるヘルガさん。二葉姉は逡巡した後、俺の方を見た。

 

 「七瀬の判断に任せます」

 

 「え、俺?」

 

 驚く俺。二葉姉が苦い顔をする。

 

 「これから話すことはね・・・『あの人』に関することなのよ」

 

 「っ・・・なるほどな・・・」

 

 『あの人』のことは、二人にはまだ話してないからな・・・

 

 「・・・綾斗、紗夜、席を外してもらえるか?」

 

 「・・・分かった」

 

 綾斗と紗夜が部屋から出て行く。二葉姉が俺と四糸乃姉を見つめた。

 

 「・・・このことは、まだ一織姉さんにも話してないんだけどね」

 

 その後に二葉姉が語った事実は、俺達にとって衝撃的なものなのだった。

 

 「かつて零香姉さんは・・・《蝕武祭》に参加していたみたいなの」

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「零香さん、《蝕武祭》に参加してたんだね・・・」

この設定も前々から考えてたのよね。

零香については、これから色々と明らかにしていきたいと思います。

シャノン「ところで作者っち、私の出番は・・・」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「人の話を聞けえええええ!」


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バカ

イヤホン壊れたあああああッ!?


 「零香お姉ちゃんが・・・《蝕武祭》に・・・?」

 

 驚愕している四糸乃姉。おいおい・・・

 

 「・・・本当なのか?」

 

 「あぁ、間違いない」

 

 ヘルガさんが頷き、手元の書類に目をやる。

 

 「星野零香・・・九年前、星導館学園高等部に入学。公式序列戦への参加は一切無く、《星武祭》にも出場していない。高等部卒業後は進学せず、そのままアスタリスクで就職。その後両親を殺害した容疑で指名手配され、現在に至る・・・合っているか?」

 

 「えぇ、合ってます」

 

 頷く俺。正直、ずっと疑問だったんだよな・・・

 

 あれほど強かった零香姉が、どうして公式序列戦や《星武祭》に参加しなかったのか・・・

 

 「彼女は星導館在籍時から、《蝕武祭》の選任参加者だったようだ。要は先ほど話したリベリオと、同じ立場だったわけだな」

 

 「選任参加者・・・」

 

 零香姉がそんなことをしていたなんて・・・

 

 「この事実が判明したのは、つい最近のことだ。天霧くんの姉を捜索する為、ダニロや《蝕武祭》について調査したことは、七瀬には話しただろう?天霧くんの姉が見つかった後も、我々は調査を続けていてな。その結果、この事実が判明したのだ」

 

 「正直、私も信じられなかったわ」

 

 唇を噛む二葉姉。

 

 「私は星導館で、一年だけ零香姉さんと一緒に過ごしたけど・・・そんな気配は微塵も感じられなかったわ。少なくとも私には、いつもと変わらないように見えた」

 

 「・・・なら、一織姉も同じだろうな」

 

 あの零香姉が《蝕武祭》に・・・信じたくないな・・・

 

 「我々星猟警備隊としても、現在彼女の行方を追っている。君達の故郷に現れたということも、二葉から聞いているが・・・その時の状況を、君達からも詳しく聞かせてもらえないか?特に七瀬と四糸乃くんは、最初に彼女と接触したそうだからな」

 

 「・・・分かりました」

 

 気持ちが整理出来ない中、ヘルガさんに当時の状況を説明する俺と四糸乃姉なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・ハァ」

 

 俺は自室のベッドに潜り込み、そのまま横たわっていた。

 

 三月に男子寮の増設工事が完了し、俺は四月からそっちへと移っていた。《冒頭の十二人》の特権で個室をもらったものの、ずっとクローディアと二人暮らしだったので少し寂しさもあったりする。

 

 「・・・零香姉」

 

 一番上の姉の名前を呟く。

 

 二葉姉には四糸乃姉を送ってもらい、俺達はヘルガさんに星導館まで送ってもらったが・・・帰りの車の中で、俺はずっと放心状態だった。

 

 綾斗や紗夜は心配そうに視線を向けてくるし、ヘルガさんも何も話すことは無かった。

 

 「《蝕武祭》、か・・・」

 

 零香姉は、どうして《蝕武祭》に参加することになったんだろう・・・《蝕武祭》に参加したから、零香姉は変わってしまったのだろうか・・・

 

 封印されていた《神の拳》を俺に渡したり、父さんと母さんに手をかけたり・・・

 

 「・・・もう訳が分からん」

 

 【マスター、もう休んで下さい】

 

 七海が人型になり、ベッドの横に現れた。

 

 「今日は色々あって、お疲れになったでしょうから。次の試合が明後日に決まったということで、明日はミーティングがあるんでしょう?」

 

 先ほどクローディアからの連絡で、俺達の試合は明後日になったことが告げられた。明日は対戦相手となるチームの情報を共有する為、ミーティングが行なわれることになっている。

 

 いよいよ本戦だし、気を引き締めなきゃいけないんだが・・・

 

 「正直、頭の中がグチャグチャで・・・眠れそうにないわ」

 

 「マスター・・・」

 

 「俺の知ってる零香姉は・・・もういないのかな」

 

 溜め息をつく俺。と、七海がいそいそとベッドに潜り込んできた。

 

 「・・・何してんの?」

 

 「いえ、添い寝しようかと」

 

 あっけらかんと言う七海。

 

 「ほら、マスターはずっとクローディアさんと寝てたじゃないですか。誰かと一緒に寝た方が落ち着くかなと思いまして」

 

 「女の子が簡単にそんなことするんじゃありません」

 

 「大丈夫です。マスターにしかしませんから」

 

 「いや、そういう問題じゃないんだけど」

 

 俺のツッコミも虚しく、俺の隣に寝そべる七海。

 

 コイツ、純星煌式武装なのにスタイル良いんだよな・・・けしからんヤツめ。

 

 「・・・私、少しだけ覚えてるんです。零香さんが私の封印を解いた時のこと」

 

 ポツリポツリと語り出す七海。

 

 「零香さん、ずっと呟いてました。『ゴメンね、七瀬』って」

 

 「零香姉が・・・?」

 

 俺に《神の拳》を渡した時は、確か笑ってたはずだけど・・・

 

 「零香さんが私に触れた時、零香さんの感情が伝わってきたんですが・・・とても悲しんでました。封印が解かれた直後のことなので、記憶がちょっと曖昧ですけど・・・それだけは確かです」

 

 「悲しんでた・・・?」

 

 「えぇ、何と言いますか・・・マスターを刺した時と、同じ表情をしていました」

 

 そういや、あの時の零香姉・・・悲しそうな表情してたっけ・・・

 

 「零香さんが犯した罪は、決して許されないことです。ですが、もし零香さんに何か事情があったなら・・・マスターの知る零香さんは、いなくなってないかもしれません」

 

 「七海・・・」

 

 「ですからもう少しだけ、零香さんを信じてみませんか?マスターにとって、零香さんは今でも・・・大切な家族なんでしょう?」

 

 「っ・・・」

 

 バカだな、俺は・・・実家に帰った時に、皆と話し合って分かってたはずなのに・・・

 

 大切な家族だから、皆で零香姉を連れ戻そうって決めたんじゃないか・・・

 

 「・・・ありがとな、七海」

 

 七海の頭を撫でる。嬉しそうに笑う七海。

 

 「さぁ、もう休みましょう。明日からまた頑張らないと」

 

 「・・・そうだな。一緒に寝てくれるか?」

 

 「フフッ・・・仰せのままに」

 

 俺の頭を胸に抱く七海。俺は七海の温もりを感じながら、眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 翌々日・・・俺達は《獅鷲星武祭》四回戦を迎えていた。

 

 「破ッ!」

 

 「やぁっ!」

 

 辮髪の青年の掌打をいなし、三つ編みの少女の肘打ちを避ける。さらに相手の《魔術師》の能力である、獣の顎による攻撃もしゃがむことで回避。

 

 そこに残りの三人がまとめて襲いかかってくるが・・・

 

 「ぐあっ!?」

 

 「がはっ!?」

 

 「きゃあっ!?」

 

 お馴染みの見えない札に引っかかり爆発。後方へと吹き飛んでいく。

 

 『こ、これは何ということだーっ!七瀬選手一人で、相手チームを圧倒していますっ!一対六だというのに、界龍のチーム・饕餐は七瀬選手に傷一つ付けられませんっ!』

 

 『いやはや・・・凄いとしか言いようがありませんな』

 

 梁瀬さんと柊さんの声が聞こえてくる。と、《魔術師》の青年が悔しそうに俺を睨んだ。

 

 「くっ・・・何故だッ!何故貴様に攻撃が当てられんのだッ!」

 

 「お前らの実力不足だろ」

 

 バッサリ切り捨てる俺。

 

 実際、コイツらは決して弱くない。《冒頭の十二人》ではないものの、全員序列二十位以内の実力者達だ。

 

 ただ、俺はコイツらが気に食わなかった。

 

 「お前ら、打倒星露を目指してるらしいな?」

 

 「然り!《万有天羅》の門下だけが界龍ではない!」

 

 三つ編みの少女が叫ぶ。

 

 「我らは打倒《万有天羅》を掲げている!その為にまず、《万有天羅》の教えを受けた貴様を倒す!そして次にチーム・黄龍を倒す!それがこの大会における我々の目標だ!」

 

 「その通り!」

 

 辮髪の青年も声を張り上げる。

 

 「我が学園で大きい顔をしているあの小娘が、そんな小娘に媚びへつらう門下生達が、我らはどうしても気に食わん!我らの誇り高き界龍を、あのような恥知らず共に汚されるなど・・・到底我慢できるものではない!」

 

 「・・・冗談も大概にしとけよ」

 

 「「「「「「ッ!」」」」」」

 

 俺の殺気に、六人が一歩後ずさる。

 

 コイツらが気に食わない理由・・・それは星露と、星露の門下生達を見下しているからだ。

 

 「別にお前らがどんな目標を掲げてようが、俺の知ったことじゃない。ただ、これだけは言っておくが・・・アイツらは、お前らみたいなバカが見下して良いヤツらじゃない」

 

 「貴様、我らを愚弄するのかッ!」

 

 《魔術師》の青年が、怒りに表情を歪める。

 

 「そっちこそアイツらを愚弄してんだろ。大体、お前らがチーム・黄龍に勝てるわけないだろうが。お前らの実力じゃ、あの六人の中の一人も倒せねぇよ」

 

 「貴様ッ!」

 

 「黙れッ!」

 

 辮髪の青年と三つ編みの少女が、同時に攻撃を仕掛けてくるが・・・

 

 「・・・遅いんだよ」

 

 二人の胸倉を掴み、お互いの頭を思いっきりぶつける。その場に崩れ落ちる二人。

 

 「攻撃が生温い。暁彗や虎峰どころか、八重より遅いぞ」

 

 「くっ・・・こうなったら一斉攻撃だッ!」

 

 正面・右・左から三人が、後ろから獣の顎が攻撃してくる。だが・・・

 

 「だからバカだって言ってんだよ」

 

 俺の周囲に雷の剣山が出現する。三人は貫かれ、獣の顎は掻き消えた。

 

 「ひぃっ!?」

 

 その場に倒れた三人を見て、《魔術師》の青年が悲鳴を上げる。

 

 「セシリーや黎兄妹なら、今の攻撃にもきっちり対応してくるぞ。何より・・・ビビッて一斉攻撃なんてバカなマネ、アイツらは絶対にしない」

 

 俺は《魔術師》の青年に向かって歩き出す。恐怖に怯え、一歩一歩後ずさっていく《魔術師》の青年。

 

 そして・・・俺が罠を仕掛けた位置に足を踏み入れてしまった。

 

 「チェックメイト・・・《逆襲の雷蛇》」

 

 足元の魔法陣から現れた雷の大蛇に呑まれる《魔術師》の青年。

 

 

 

 『試合終了!勝者、チーム・エンフィールド!』

 

 

 

 こうして俺達は、五回戦進出を決めたのだった。

 




二話連続投稿となります。

シャノン「おぉ、吹っ切れたななっちが無双してる・・・」

原作では、チーム・饕餐はこんなヤツらじゃないんだけどね。

今回は悪役として犠牲になっていただきました。

シャノン「うわぁ・・・ドンマイ」

本当は、シャノンのチームを相手に無双させようとか考えてたんだけどね。

シャノン「嘘でしょ!?鬼!悪魔!」

まぁ止めたけど。その代わり、シャノンの出番が無くなったんだよね。

シャノン「出たかったような、出たくなかったような・・・」

ゴメンね、モブキャラ。

シャノン「その呼び方止めてくれる!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「モブキャラ上等おおおおおっ!」


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最後

今日もスッキリしない天気だなぁ・・・


 「本当に七瀬一人で勝ってしまうとはな・・・」

 

 呆れているユリス。

 

 俺達は勝利者インタビューを終え、控え室へと戻ってきていた。

 

 「試合映像を観たかぎり、なかなか手強い相手だと思っていたのだが・・・」

 

 「実際手強い相手だったはずですよ。七瀬が強過ぎただけです」

 

 クローディアも溜め息をつく。

 

 「昨日のミーティングで、『一人でやらせてくれ』と言われた時は驚きましたが・・・本当に一人で片付けてしまいましたね」

 

 「悪いな。アイツらが気に食わなかったもんだから」

 

 昨日のミーティングで、試合映像だけじゃなく勝利者インタビューも見たんだが・・・

 

 星露や星露の門下生達を見下す発言を繰り返していて、本当に腹が立ったんだよな・・・

 

 「こういうのは今回だけにするよ。わがまま聞いてくれてありがとな」

 

 「まぁ俺達としては有り難かったよね」

 

 綾斗が苦笑しながら言う。

 

 「体力は温存できたし、連携プレーも見せずに済んだしさ。今後のことを考えると、相当プラスなんじゃないかな」

 

 「確かに。私も新しい銃を見せずに済んだ」

 

 紗夜も頷く。そう言ってもらえると助かるわ・・・

 

 「次の試合は私達が動きますから、七瀬さんはサポートに徹して下さいね?」

 

 「あぁ、分かった」

 

 綺凛の言葉に頷く俺。

 

 俺は基本的には前衛なのだが、雷の力で遊撃や後衛に回ることも出来る。相手チームやその時の状況によって、役割が変わるのだ。

 

 「そういやクローディア、他のチームはどうなってる?」

 

 「有力なチームは、四回戦も順調に突破してきていますね」

 

 空間ウィンドウで、四回戦の結果をチェックしているクローディア。

 

 「ランスロットや黄龍は、既に昨日の試合で勝利して五回戦進出・・・あぁ、今日の試合でトリスタンとルサールカも五回戦進出を決めたようです。となると・・・」

 

 「・・・トリスタンとルサールカが、五回戦で当たるな」

 

 ポツリと呟く俺。

 

 一昨日の抽選会で組み合わせが決まった時、恐らくこのマッチアップになるだろうなとは思ったが・・・

 

 「姉同士が戦うというのは、やはり複雑か?」

 

 「・・・まぁな」

 

 ユリスの問いに苦笑する俺。

 

 「それに四糸乃姉にとっても、五和姉や六月姉にとっても・・・この《獅鷲星武祭》が最後の《星武祭》になるしな」

 

 「あれ?確か四糸乃さんって、これが二回目の《星武祭》出場ですよね?あと一回出場権があるんじゃないですか?」

 

 「今回で最後にするんだってさ」

 

 綺凛の疑問に答える俺。

 

 「四糸乃姉はあくまでも、ルサールカの皆で《星武祭》に出場したいらしいんだ。そうなると、必然的に《獅鷲星武祭》にしか出場できないわけだけど・・・四糸乃姉はもう大学部三年だから、次の《獅鷲星武祭》の時にはとっくに卒業してるんだよ」

 

 「それじゃあ、来年の《王竜星武祭》には・・・」

 

 「出場しないってさ。シルヴィは残念がってたけどな」

 

 つまり今回の《獅鷲星武祭》が、四糸乃姉にとって最後の《星武祭》になるのだ。そして、それは四糸乃姉だけではない。

 

 「五和姉と六月姉も、前回の《獅鷲星武祭》と去年の《鳳凰星武祭》に出場してるからな。三咲姉だって、前々回と前回の《獅鷲星武祭》に出場してるわけだし・・・俺の姉さん達は皆、これが最後の《星武祭》になるんだよ」

 

 今まで俺が背中を追ってきた姉さん達が、揃って《星武祭》を引退する・・・

 

 それは俺にとって、とても寂しいことだった。

 

 「全員が悔いなく終われたら良いんだけど・・・そうはいかないんだろうな・・・」

 

 「七瀬・・・」

 

 気遣わしげな視線を向けてくるクローディア。余計なこと言っちゃったかな・・・

 

 「とはいえ、優勝を譲る気は無い。俺はまだ願いを決めてないけど・・・皆の願いを叶えたいからな」

 

 全員を見回す俺。

 

 「皆・・・絶対優勝しような」

 

 「「「「「あぁ(はい)!」」」」」

 

 改めて心を一つにする俺達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 四回戦は俺が一人で片付けたが、逆に五回戦は俺の出番が無かった。綾斗と綺凛の剣士コンビが無双し、あっさり勝負がついてしまった為だ。

 

 ベスト八進出を決めた俺達は、控え室の空間ウィンドウを見つめていた。次の試合の、トリスタン対ルサールカ戦を観戦する為である。

 

 「七瀬、本当によかったの?」

 

 綾斗が尋ねてくる。

 

 「試合前に、お姉さん達の所に行かなかったけど・・・」

 

 「いいんだよ。勝利者インタビューがあったから、時間もそんなに無かったし」

 

 苦笑しながら答える俺。

 

 「試合直前に邪魔するのも悪いからな。一応メッセージだけ送っといたよ」

 

 「返事は来たの?」

 

 「あぁ、さっきな」

 

 手元に空間ウィンドウを展開する俺。皆が覗き込んでくる。

 

 【四糸乃姉:ありがとう!頑張ってくるね!】

 

 【五和姉:私達の試合、ちゃんと観なさいよ?】

 

 【六月姉:宣誓。全力でぶつかってきます】

 

 「だってさ。後はミルシェ、パイヴィ、トゥーリア、モニカ、マフレナ、エリオ、ノエルからも返信が来てるぞ」

 

 「いや、知り合い多過ぎません?」

 

 綺凛のツッコミ。

 

 「どうしてそんなに多くの人と知り合いになってるんですか?」

 

 「主に家族絡みで」

 

 「納得です」

 

 溜め息をつく綺凛。この答えで納得されるって、ある意味凄いよな・・・

 

 「ちなみに、皆さんはどちらが勝つと思われますか?」

 

 クローディアが質問してくる。

 

 「この試合の勝利チームが、我々の次の相手になりますが」

 

 そう、俺達の次の相手はこの試合の勝利チームだ。

 

 どっちが勝っても家族と対戦することになるから、俺としてはちょっと気が重かったりするんだけどな・・・

 

 「私はトリスタンだと思う」

 

 まず答えたのはユリスだった。

 

 「ルサールカの連携は大したものだと思うが、トリスタンに比べて基礎戦闘力が低いからな。この戦力差は覆せまい」

 

 「俺もトリスタンかな。《鳳凰星武祭》で《輝剣》と戦ったけど、あの剣術は凄まじかったよ。ルサールカで彼の相手が出来るメンバーは、四糸乃さんぐらいじゃないかな?」

 

 「私もトリスタンですね。フォースターさんに加えて、五和さんと六月さんもいらっしゃいますから。正直、圧倒的な戦力差だと思います」

 

 綾斗と綺凛も、トリスタンが勝つと思っているようだ。一方・・・

 

 「私はルサールカが勝つと思う。根拠の無い勘だけど」

 

 紗夜がルサールカに一票を投じる。クローディアが俺に視線を向けた。

 

 「七瀬はどう思いますか?」

 

 「普通に考えたらトリスタンだろうな。五和姉・六月姉・エリオの前衛トリオは、今大会の中でも屈指の強敵だ。それに加えて、後衛にはノエルがいる。あの茨の能力は厄介だし、やっぱり戦力的にはトリスタンの方が上だろうな」

 

 ノエルの《魔女》の能力は、領域型とも言われる希少な能力だ。

 

 展開までに時間はかかるものの、効果範囲を自身の支配下に置くことが出来る。一度あの茨に囲まれてしまったら、脱出するのはなかなか難しいだろう。

 

 ただ・・・

 

 「相手がルサールカじゃなきゃ、トリスタンが勝つって断言できるんだけど・・・」

 

 「どういう意味だ?」

 

 ユリスが尋ねてくる。

 

 「ルサールカはチーム戦に限って、戦力差を覆せる可能性があるんだよ。前回の《獅鷲星武祭》で、ベスト八に入った実力は伊達じゃない。あれから三年が経って、果たしてどこまで進化したのか・・・この試合で、ルサールカの真の実力が見られると思うぞ」

 

 クローディア以外が首を傾げる中、実況の梁瀬さんの声が聞こえてきた。

 

 『さぁ、両チームの選手達が入場してまいりました!注目は何と言っても姉妹対決、四糸乃選手対五和選手&六月選手ですね!』

 

 『姉に軍配が上がるのか、妹達が下克上を果たすのか・・・注目の一戦ですな』

 

 解説の柊さんも興味津々の様子だ。両チームの選手達が出揃い、それぞれの位置へとつく。

 

 そしてブザーが鳴り響き、いよいよ試合が始まるのだった。

 




どうも~、ムッティです。

いよいよトリスタン対ルサールカの試合が始まりますね。

ただ、先に言っておくと・・・

試合の描写はありません。

シャノン「え、無いの!?」

無いです。次回は結果が明らかになります。

シャノン「そうなんだ・・・」

チーム・エンフィールドとの試合の描写はありますのでご安心を。

シャノン「流石にそれが無かったらダメだよね」

果たしてどちらが勝つのか・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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譲れない

お腹空いた・・・


 「・・・ふぅ」

 

 ドアの前で息を吐いた俺は、意を決してチャイムを鳴らした。数秒経ってからロックが解除され、ドアが静かに開く。

 

 その室内では・・・

 

 「ひっぐ・・・えぐっ・・・」

 

 「ほら、そんなに泣かないで」

 

 「称賛。よく頑張りました」

 

 号泣するチームメンバー達を、五和姉と六月姉が励ましていた。

 

 先ほどの試合・・・トリスタンはルサールカに敗れ、今大会から姿を消すことになったのだ。

 

 「・・・七瀬さん」

 

 エリオが歩み寄ってくる。恐らく、ドアを開けてくれたのはエリオだろう。

 

 「お疲れ。急に来たりしてゴメンな」

 

 「いえ・・・謝らないといけないのは僕の方です」

 

 「え・・・?」

 

 エリオは目に涙を滲ませ、唇を噛んでいた。

 

 「七瀬さんから、五和先輩と六月先輩を頼むって言われてたのに・・・僕は結局、何の力にもなれませんでした・・・申し訳ありません・・・」

 

 「エリオ・・・」

 

 頭を下げてくるエリオ。覚えててくれてたのか・・・

 

 「・・・謝ることなんて何一つ無いだろ。エリオはよくやってくれたよ」

 

 「ですが・・・!」

 

 「お前がいたから、トリスタンはここまで来れたんだよ。何も恥じることなんて無い。堂々と胸を張れ」

 

 エリオの頭に手を置く。

 

 「お疲れさん。ありがとな、エリオ」

 

 「っ・・・」

 

 俯いて涙を流すエリオ。俺は泣いているノエルの側に歩み寄った。

 

 「っ・・・七瀬さん・・・」

 

 ノエルの顔は、涙でぐしゃぐしゃになっている。俺はハンカチを取り出し、優しく涙を拭いてやった。

 

 「ほら、可愛い顔が台無しだぞ?」

 

 「っ・・・七瀬さん・・・!」

 

 俺の胸にしがみついてくるノエル。

 

 「ゴメンなさい・・・本当にゴメンなさい・・・!」

 

 「だから謝るなって」

 

 苦笑しながら、ノエルの頭を撫でる。

 

 「ノエルは頑張ったよ。五和姉も六月姉もエリオも、ノエルが後衛にいてくれたから思い切って戦えたんだ。もっと自分の活躍に自信を持って良いんだぞ」

 

 「でも・・・負けちゃいました・・・!」

 

 肩を震わせるノエル。

 

 「五和先輩も・・・六月先輩も・・・最後の《星武祭》だったのに・・・!」

 

 「あー・・・やっぱり気にしてくれてたんだね」

 

 申し訳なさそうな五和姉。

 

 「確かに、今回が最後だけどさ・・・その最後の《星武祭》をこのチームで戦えて、凄く幸せだったよ。ね、六月?」

 

 「首肯。良い思い出になりました」

 

 微笑んで頷く六月姉。

 

 「何より、六月達の為に泣いてくれる後輩達がいる・・・先輩として、これほど嬉しいことはありません。本当にありがとうございました」

 

 「五和先輩・・・六月先輩・・・」

 

 表情を歪め、涙を溢れさせるメンバー達。

 

 と、来訪者を告げるチャイムが鳴った。五和姉がロックを解除すると、開いたドアからレティシアが入ってきた。

 

 「あら七瀬、いらしてたのですね」

 

 「あぁ、可愛い後輩達を労う為にな」

 

 「え、私達は!?」

 

 「おっつ~」

 

 「軽っ!?もっと労いの言葉とか無いの!?」

 

 「ざまぁみやがれ」

 

 「労う気ゼロかっ!」

 

 「・・・相変わらず仲良しですわね」

 

 苦笑するレティシア。

 

 「皆さん、本当にお疲れ様でした。貴方達トリスタンの思いを背負って、我々ランスロットが必ず優勝してみせますわ」

 

 「いや、優勝するのは俺達だから」

 

 「七瀬!?励ましの言葉を邪魔しないでくださいまし!」

 

 「だって五和姉と六月姉は、打倒ランスロットを目指してここまで頑張ってきたんだぞ?もしこれでランスロットが優勝したら、ぶっちゃけ二人とも複雑じゃね?」

 

 「「・・・確かに」」

 

 「五和!?六月!?」

 

 五和姉と六月姉の様子に、レティシアが慌てている。

 

 「我々は同じ学園の仲間ですわよ!?応援するのが当然でしょう!?」

 

 「いや、ランスロットに限っては敵対心しか無いわ。ぶっちゃけ早く負けてほしい」

 

 「五和!?」

 

 「首肯。四糸乃姉様のいるルサールカ、七瀬のいるエンフィールド、八重のいる黄龍、九美のいる赫夜のいずれかに優勝してもらいたいです」

 

 「六月!?」

 

 「『【悲報】《銀翼騎士団》が内部分裂なう』っと・・・」

 

 「七瀬!?何を呟いていますの!?」

 

 ツッコミを連発するレティシア。相変わらずのツッコミ上手だな・・・

 

 「とにかく帰りますわよ!アーネストも学園で待っていますわ!」

 

 「・・・レティシア、三咲姉は大丈夫なのか?」

 

 心配になってレティシアに尋ねる俺。

 

 家族に対する愛情が人一倍深い三咲姉は、今回の結果をちゃんと受け止められているんだろうか・・・

 

 「・・・大丈夫ではありませんわね」

 

 溜め息をつくレティシア。

 

 「実は今日、三咲と一緒に試合を観戦していたのですが・・・先に帰らせましたわ。泣きすぎて酷い顔でしたから」

 

 「あー、やっぱり・・・」

 

 四糸乃姉が勝った嬉しさと、五和姉と六月姉が負けた悲しみ・・・

 

 二つの相反する感情がごちゃ混ぜになって、涙が止まらなかったんだろう。

 

 「さぁ、帰りますわよ。ただ・・・」

 

 五和姉と六月姉に視線を向けるレティシア。

 

 「五和と六月は、後で帰ってきなさいな。せっかく七瀬と会えたのですから、色々と話したいこともあるでしょうし」

 

 「レティシア・・・」

 

 恐らく、レティシアなりに気を遣ってくれているのだろう。この部屋を、俺達だけにしようとしてくれている。

 

 「・・・ありがとな、レティシア」

 

 「礼には及びませんわ」

 

 微笑むレティシア。

 

 「ほら皆さん、帰りますわよ」

 

 「っ・・・七瀬さん、お先に失礼します」

 

 「おう、またなエリオ。ノエルもまたな」

 

 「っ・・・はいっ」

 

 涙を拭い、俺に一礼して部屋を出て行く皆。

 

 最後にレティシアが出て行こうとしたところで、こちらを振り返った。

 

 「七瀬・・・クローディアに伝えて下さいまし」

 

 「ん?何を?」

 

 「今すぐその愚かしい夢を捨てなさい、と。本気で叶えようというのなら・・・必ずや私が木っ端微塵に打ち砕いてみせます、と。そう伝えて下さいまし」

 

 レティシアの表情は、いつになく険しいものだった。

 

 「レティシア、お前・・・何か知ってるのか?」

 

 「・・・申し訳ありませんが、教えるわけにはいきませんの。ただ、これだけはハッキリ言えますわ」

 

 俺を見つめるレティシア。

 

 「クローディアを救えるとしたら・・・それは七瀬、貴方だけですわ」

 

 「俺だけ・・・?」

 

 どういう意味だ・・・?

 

 俺が考え込んでいると、レティシアが柔和な表情に戻った。

 

 「では七瀬、今度は決勝の舞台でお会いしましょう。それと・・・五和と六月のこと、任せましたわよ」

 

 「・・・あぁ。ありがとな、レティシア」

 

 レティシアは微笑むと、控え室から出て行った。

 

 「全く、レティシアったら・・・一人前に気を遣っちゃってさ」

 

 「驚嘆。すっかり良い女になってしまいました」

 

 苦笑する五和姉と六月姉。俺は二人に向き直った。

 

 「二人ともお疲れ。負けちゃったけど、良い試合だったよ」

 

 「ちょっと、急にどうしたのよ?」

 

 笑っている五和姉。

 

 「負けた私達をからかいに来たんじゃないの?」

 

 「・・・そんなわけないだろ」

 

 俺はそう言うと、五和姉と六月姉を抱き締めた。

 

 「ちょ、七瀬!?」

 

 「どうしたのですか!?」

 

 「・・・二人とも、最高にカッコ良かったよ」

 

 俺は素直な言葉を口にした。

 

 「これまで二人が戦ってきた姿を、俺はずっと見てきた。その姿を見る度に思ったよ。やっぱり五和姉は凄い、六月姉は凄いって」

 

 「七瀬・・・」

 

 「三年前の《獅鷲星武祭》も、昨年の《鳳凰星武祭》も、今回の大会も・・・二人の活躍を見る度に嬉しくなった。二人の弟であることが・・・本当に誇らしいと思った」

 

 「「っ・・・」」

 

 二人が俺の顔を見て驚く。

 

 俺の目からは・・・涙が溢れていた。

 

 「正直、ホントに寂しいよ・・・二人がもう《星武祭》に出られないなんて・・・叶うならもう一度・・・二人と戦いたかったな・・・」

 

 俺は泣きながら笑うと、二人の背中に回す手に力を込めた。

 

 「今までお疲れ様。五和姉、六月姉・・・よく頑張ったね」

 

 「っ・・・ありがとね・・・七瀬・・・ひっぐ・・・!」

 

 「六月達も・・・えぐっ・・・七瀬ともう一度・・・戦いたかったです・・・!」

 

 限界だったのか、嗚咽を漏らす二人。

 

 俺達は抱き合いながら、涙が枯れるまで泣き続けたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「送ってくれてありがとね」

 

 「感謝。ありがとうございます」

 

 五和姉と六月姉が、笑顔でお礼を言ってくる。

 

 俺達は控え室を後にして、ガラードワースの正門前へとやってきていた。

 

 「質問。四糸乃姉様のところへは顔を出しませんでしたが、よかったのですか?」

 

 「・・・四糸乃姉には、どんな言葉をかけていいか分からないからな」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「試合が終わった後、マフレナから連絡がきたけど・・・試合に勝ったっていうのに、もの凄く落ち込んで泣いてたみたいだぞ」

 

 「あー・・・何と言うか、四糸乃姉らしいね」

 

 苦笑する五和姉。

 

 「四糸乃姉は優しすぎるんだよ。試合に勝ったんだから、もっと喜んで良いのに・・・」

 

 「割り切れないんだろうな。俺も次は四糸乃姉と対戦するけど・・・正直ちょっと気が重いよ。四糸乃姉にとって、最後の《星武祭》なんだから」

 

 勿論勝利は譲れないけど、最後の《星武祭》で頑張ってほしい気持ちもあるしな・・・

 

 「・・・嘆息。ここにもいましたね。底無しのお人好しが」

 

 六月姉は苦笑すると、俺の右手を握った。

 

 「請願。七瀬はいつも通り、全力で勝利を掴みにいって下さい。きっと四糸乃姉様も、それを望んでいると思います」

 

 「六月姉・・・」

 

 「そうだよ、七瀬」

 

 俺の左手を握る五和姉。

 

 「優勝したいんでしょ?だからこそ四糸乃姉は、全力で勝ちにきてたよ。誰が相手であれ、七瀬もそうしなきゃダメだと思う」

 

 「五和姉・・・」

 

 そうだよな・・・

 

 ここで俺が迷ったら四糸乃姉にも、一緒に戦ってくれてる仲間達にも申し訳ないよな・・・

 

 「・・・ありがとな、二人とも。次の試合、全力で勝ちにいくわ」

 

 俺の言葉に笑みを浮かべる二人。と・・・

 

 「五和っ!六月っ!」

 

 校舎の方から三咲姉が走ってくる。そのまま二人に抱きついた。

 

 「ちょ、三咲姉!?どうしたの!?」

 

 「私・・・頑張りますから・・・貴女達の分まで・・・頑張りますから・・・!」

 

 「・・・感謝。ありがとうございます」

 

 三咲姉の頭を撫でる五和姉と六月姉。

 

 「それじゃ七瀬、私達はこの辺で」

 

 「激励。次の試合も頑張って下さい」

 

 「おう。三咲姉をよろしくな」

 

 五和姉と六月姉は俺に手を振り、号泣している三咲姉を連れて校舎へと歩いていった。

 

 さて・・・

 

 「隠れてないで出てきなよ・・・四糸乃姉」

 

 「・・・やっぱりなーちゃんにはバレてたか」

 

 物陰から出てくる四糸乃姉。泣き腫らしたのか、両目が赤くなっていた。

 

 「俺達が控え室で泣いてた時から、ずっと隠れて様子を窺ってただろ」

 

 「そこからバレてたんだ・・・なーちゃんには敵わないね」

 

 苦笑する四糸乃姉。

 

 「いっちゃんとむっちゃんに、どんな顔して会ったらいいか分からなくて・・・盗み聞きするつもりは無かったの。ゴメンね・・・」

 

 「・・・そんなことだろうと思ったよ。最後まで声をかけなかったけど、良いのか?」

 

 「うん。また改めて、二人とはちゃんと話すよ」

 

 四糸乃姉はそう言うと、真剣な表情で俺を見つめた。

 

 「・・・零香お姉ちゃんのこと、あれから色々考えたの。でも、私の気持ちは変わらなかった。やっぱり私達は、零香お姉ちゃんを連れ戻すべきだと思う」

 

 「・・・俺もそう思うよ」

 

 頷く俺。

 

 「連れ戻して、きちんと罪を償わせる・・・それが俺達家族に出来ることだと思う」

 

 「うん・・・色々と話も聞きたいしね」

 

 「・・・そうだな」

 

 何を思って《蝕武祭》なんかに参加したのか、何を思って父さんと母さんに手をかけたのか・・・

 

 正直、聞きたいことはたくさんある。

 

 「まぁとりあえず・・・今は次の試合だな」

 

 「そうだね」

 

 見つめ合う俺と四糸乃姉。

 

 「悪いけど優勝は譲れない。俺達が勝たせてもらう」

 

 「いっちゃんとむっちゃんに勝った身として、負けるわけにはいかないの。たとえ相手がなーちゃんでもね」

 

 お互い譲れないものがある以上、戦って決着を着けるしかない。

 

 自分の意思を貫き通したいなら・・・勝つしかない。

 

 「なーちゃんと真剣勝負って、今までしたことないよね?」

 

 「そういやそうだな・・・四糸乃姉とは、模擬戦もやったことないし」

 

 四糸乃姉は優しいから、俺や妹達とは戦いたがらなかったんだよな・・・

 

 まさかその四糸乃姉と戦うことになるとは・・・

 

 「フフッ、お姉ちゃんの力を見せてあげるよ」

 

 「楽しみにしてるわ。じゃ、またな」

 

 「うん。次の試合でね」

 

 四糸乃姉と別れ、星導館へと歩き出す俺。

 

 「さて・・・ここからが正念場だな」

 

 次の準々決勝の相手は、ルサールカに決まった。

 

 もしそこで勝ったら、準決勝の相手は恐らく黄龍になるだろう。そこでも勝ったら決勝は、ランスロット・赫夜・へリオンのいずれかになるはずだ。

 

 どこと当たるにせよ、強敵なのは間違いない。

 

 「ここからは総力戦・・・温存とか言ってられないな」

 

 俺が決意を固めていると、不意に端末に着信が入る。相手はクローディアだった。

 

 「もしもし、クローディア?」

 

 『七瀬、今お時間よろしいでしょうか?』

 

 空間ウィンドウに、クローディアの申し訳なさそうな表情が映る。

 

 「大丈夫だけど・・・何かあったのか?」

 

 『実は大事な話がありまして・・・今から私の部屋に来ていただけないでしょうか?』

 

 クローディアの言葉に、首を傾げる俺なのだった。

 




二話連続投稿となります。

シャノン「次の相手はルサールカだね」

うん。いよいよ四糸乃との戦いになるよ。

その前にちょっと、クローディアとの話があるけど。

シャノン「会長を救えるのはななっちだけ・・・意味深だね」

果たしてどうなっていくのか・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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拒絶

『あさがおと加瀬さん。』が観たい・・・


 「久しぶりだな、この感じ・・・」

 

 女子寮を壁伝いに登り、クローディアの部屋のベランダへやってきた俺。

 

 もうクローディアの部屋に住んでいないので、本来は女子寮へ入る為の手続きをしないといけないのだが・・・

 

 クローディアから、『面倒なので登ってきて下さい』と言われてしまったのだ。それで良いのか生徒会長・・・

 

 開いていた窓から中へ入り、リビングへと向かう。

 

 「クローディア、来たぞ」

 

 「あぁ七瀬、わざわざスミマセン」

 

 ソファから立ち上がり、頭を下げるクローディア。

 

 その向かい側には、見知らぬ女性が座っていた。しっとりとした金髪を結い上げ、仕立ての良い黒のスーツを身にまとっている。

 

 どことなくクローディアに似てるな・・・

 

 「・・・クローディアのお姉さん?」

 

 「まぁ、お上手ですね」

 

 クスクス笑う女性。クローディアが溜め息をついた。

 

 「こちらは私の母です」

 

 「マジで!?」

 

 「初めまして、星野七瀬さん」

 

 ソファから立ち上がり、俺に一礼する女性。

 

 「イザベラ・エンフィールドと申します。以後お見知りおきを」

 

 「あ、どうも・・・星野七瀬です」

 

 一礼する俺。

 

 ってか若いな・・・一体いくつぐらい・・・

 

 「フフッ、女性の年齢を探るのはマナー違反ですよ?」

 

 「何で俺の思考って簡単に読まれるんですか?」

 

 そんなに分かりやすいのかな・・・

 

 「それで、どうしてクローディアのお母さんがここに?」

 

 「イザベラで結構ですよ。母が娘に会いに来るのに、理由が必要ですか?」

 

 「あ、じゃあ俺のことも七瀬で。イザベラさんの場合、立場が立場ですからね」

 

 イザベラさんは銀河の最高幹部・・・そしてクローディアは、現在進行形で銀河を敵に回そうとしている。

 

 普通に考えて、まず間違いなくクローディアの望みの件で来ているはずだ。

 

 「そう警戒しなくても、少し話を聞きに来ただけですよ」

 

 溜め息をつくイザベラさん。

 

 「説得が無意味だということは、私もよく分かっています。ですので、何故このような愚行に走ったのか・・・それを聞きに来たのです。するとこの子が、七瀬さんを交えて話をしたいと言い出しまして」

 

 「俺を・・・?」

 

 「七瀬にも聞いていただきたい話ですので。どうぞお座り下さい」

 

 クローディアに促され、俺はクローディアの隣へと腰掛けた。

 

 「私の目的も動機も、お母様に教えるわけにはいきませんが・・・多少の手の内は晒してあげましょう。銀河が絶対に私の行動を阻止しないといけない理由、というのはいかがでしょうか?」

 

 「・・・それは興味深いですね」

 

 眉をピクリと動かすイザベラさん。

 

 クローディアのヤツ、何を話すつもりなんだ・・・?

 

 「ラディスラフ・バルトシーク教授は、《翡翠の黄昏》の精神的指導者です。星導館に在籍していたことが世間に知られてしまうと、銀河のイメージは大きく損なわれてしまいます。だからこそ銀河は教授を拘束し、他の統合企業財体に小さからぬ権益を譲ってまで裁判を凍結した・・・それが他の統合企業財体の認識でしょうね」

 

 「ちょっと待て!?他の統合企業財体は、教授の件を知ってんのか!?」

 

 「えぇ、既に手打ち済みです」

 

 「初めて聞いたんだけど!?銀河が他の統合企業財体に弱みを握られたくないから、教授との面会を求めるクローディアを何とかしようとしてるんだと思ってたぞ!?」

 

 運営委員会に望みを告げるということは、全統合企業財体に望みの内容が伝わるということだ。

 

 そうなると、教授の件が銀河以外の統合企業財体に知られてしまう。だから銀河は、クローディアの行動を阻止しようとしてるんだと思っていたが・・・

 

 既に手打ち済みだというのなら、話は全く変わってくる。

 

 「他の統合企業財体が教授の件を知ってるなら、お前が世間に教授の件を伏せりゃ良かっただけの話じゃないのか!?世間にさえバレなきゃ、銀河だってお前の命を狙おうなんて考えなかったんじゃないのか!?」

 

 「それがそう単純な話でもないんですよ」

 

 苦笑するクローディア。

 

 「銀河としては、私と教授を面会させるわけにはいかないんです。何しろ教授は、銀河にとってとてつもなく不利益な情報を持っていますから。銀河は万が一にも、その情報を外部に漏らしたくないんですよ」

 

 不利益な情報という言葉に、再びイザベラさんの眉がピクリと動く。面白そうに笑うクローディア。

 

 「銀河が本当に隠したかったのは、教授ではありません。教授が創り出してしまった、《星脈世代》さえも自在に操る力を持つ純星煌式武装・・・《ヴァルダ=ヴァオス》の存在を隠したかったんです」

 

 「ッ!?」

 

 息を呑む俺。

 

 《ヴァルダ=ヴァオス》・・・ヴァルダ・・・まさか・・・!

 

 「・・・何故それを知っているのですか?」

 

 イザベラさんも、若干声が震えている。

 

 「銀河の最高幹部にしか知らされていない、最上級の機密情報ですよ・・・?」

 

 「幼い私に貴女が与えてくださった、この子のおかげですよ」

 

 《パン=ドラ》の発動体を取り出すクローディア。

 

 「《パン=ドラ》の代償は、夢の中であらゆる己の死の可能性を体験することです。あくまでも不確定の未来ではありますが・・・その知識を基に、確定している過去の情報を推測することは可能なんですよ」

 

 ニッコリと笑うクローディア。ただし、目は全く笑っていない。

 

 「話を戻しますが・・・《翡翠の黄昏》は、《ヴァルダ=ヴァオス》の能力によって引き起こされた事件なんですよ。これは銀河にとって致命的となる真実です。何しろ《ヴァルダ=ヴァオス》は、人間を洗脳して自在にテロリストを量産できるのですから。世界中で起きているあらゆる事件に、《ヴァルダ=ヴァオス》が関与している可能性を否定できない・・・しかもそれを創ったのが教授だなんて知られたら、銀河がどれだけの責任を追及されるか・・・他の統合企業財体に知られたら、銀河は間違いなく終わりでしょうね」

 

 クローディアの説明に、俺は言葉を失っていた。なるほど、銀河が教授との面会を阻止しようとするわけだ。

 

 だが、銀河にとって最大の誤算は・・・自分達が一番知られたくない真実を、既にクローディアが知っていたということだろう。

 

 「・・・よく分かりました」

 

 深く長い息を吐くイザベラさん。

 

 「どうやら貴女は、我々の想像よりもずっと危険な存在のようです」

 

 「フフッ、ようやくお気付きですか?」

 

 二人の視線がぶつかり合う。と、イザベラさんが俺へと視線を向けた。

 

 「ですが・・・この場に七瀬さんを呼んだのは、どういった了見ですか?彼は今、意図せず銀河が知られたくない真実を知ってしまった・・・このままだと貴女だけでなく、彼まで命を狙われることになりますが?」

 

 「ご心配には及びません」

 

 笑みを浮かべるクローディア。

 

 「七瀬は既に、《ヴァルダ=ヴァオス》と接触しているのです」

 

 「何ですって・・・?」

 

 そう、俺はクローディアに実家でのことを話している。四回戦の前のミーティングの時に、チームメンバーには一通りのことを話した。

 

 特に綾斗と紗夜には、色々と心配をかけたしな・・・

 

 「現在《ヴァルダ=ヴァオス》は、ある女性の身体を乗っ取っているそうですよ。ですよね、七瀬?」

 

 「あぁ、ウルスラ・スヴェントっていう女性らしい」

 

 これはシルヴィから聞いた名前だ。

 

 どういう経緯で、ウルスラさんが身体を乗っ取られたのかは分からないが・・・

 

 「そして現在《ヴァルダ=ヴァオス》は、七瀬の一番上のお姉様と行動を共にしているとのことです。名前は星野零香・・・しかも七瀬はその零香さんから、一緒に来ないかと勧誘されているそうですよ」

 

 「・・・本当なのですか?」

 

 「本当です。まぁ受けるつもりはありませんが」

 

 俺は万理華さん達と、零香姉を連れ戻すと決めている。零香姉についていくつもりなどない。

 

 「つまり零香さんは、それほど七瀬に関心を抱いているということです。その七瀬が銀河に命を狙われていると知ったら、恐らく黙ってはいないでしょう。そして零香さんが動くということは、行動を共にしている《ヴァルダ=ヴァオス》も動く可能性があるということです。そのようなリスクを背負ってまで、銀河に七瀬の命を狙う理由がありますか?」

 

 「・・・全て計算済みですか」

 

 イザベラさんは嘆息すると、俺の方を見た。

 

 「七瀬さん、先ほどの話は口外しないことをオススメします。でないと《ヴァルダ=ヴァオス》の動向に関わらず、銀河は貴方の命を狙うことになるでしょう」

 

 「・・・口外するつもりはありません。姉が関わっている以上、俺としてもヴァルダの問題は他人事ではありませんから」

 

 「・・・よろしい。貴方の言葉を信じて、今の話は私の胸の内に留めておきます」

 

 「お心遣い感謝します」

 

 もっとも、俺が口外したら即座に命を狙われるハメになるんだろうけどな・・・

 

 「ですがクローディア・・・貴女については看過出来ません。今日の話について、他の最高幹部達にも報告させていただきますよ」

 

 「ご自由に。銀河が私にとって、望ましい結論を導き出してくれることを願います」

 

 クローディアがそう返すと、イザベラさんは俺に一礼して出て行った。

 

 「・・・大丈夫か?このままだとお前、マジで命を狙われるんじゃ・・・」

 

 「私は大丈夫ですよ」

 

 笑みを浮かべるクローディア。

 

 「七瀬をここに呼んだのは、《ヴァルダ=ヴァオス》の話をする為です。ミーティングの時は皆さんがいましたから、このことは話せなかったんですよ。ちょうど今日お母様がいらしたので、ついでに七瀬にも話しておこうかと」

 

 「・・・ついでにしてはヤバい話だよな。危うく銀河に命を狙われるところだったぞ」

 

 「そこも計算済みです。現にお母様は、胸の内に留めてくださったでしょう?」

 

 「そうだけどさぁ・・・この話、流石にシルヴィにはできないよな・・・」

 

 「オススメはしません。彼女を危険に晒したくはないでしょう?」

 

 「そりゃ勿論」

 

 シルヴィには悪いが、ヴァルダの正体については伏せておくべきだな・・・

 

 「なぁクローディア・・・お前、何を企んでるんだ?」

 

 「はて、企んでいるとは?」

 

 「惚けるなよ」

 

 クローディアを睨む俺。

 

 「教授と面会するまでもなく、お前は銀河にとって最も不利益な情報を持っている。銀河はそれを知られたくなかったから、教授との面会を阻止しようとしてたわけだ」

 

 「えぇ、そうですね」

 

 「ならそもそも、お前が教授との面会を求める理由は何だ?しかもどうしてイザベラさんに、バカ正直に真実を知っていることを教えたりしたんだ?あんなの、自分の命を狙ってくれって言ってるようなもんだぞ」

 

 そう、クローディアの行動はあまりにも不可解すぎる。この間の勝利者インタビューの時もそうだ。

 

 黙っているべきことをあえて話し、どんどん自分に不利な状況にしているようにしか見えない。

 

 「お前の目的は何だ?何処に向かって動いてる?」

 

 「・・・申し訳ありませんが、話すことは出来ません」

 

 キッパリと拒絶するクローディア。

 

 「何度も言いますが、全て計算済みです。今のところ、全てが上手くいっています。ご心配には及びません」

 

 「・・・そっか」

 

 これまでの付き合いで分かったが、クローディアは頑固な性格だ。

 

 勿論その状況に応じて柔軟な思考は出来るが、基本的に一度決めたら最後まで自分の意思を貫き通す。俺が今何を言ったところで、クローディアが考えを改めることはないだろう。

 

 それでもせめて、クローディアの目的ぐらいは教えてほしかったが・・・こうも拒絶されるとはな・・・

 

 「少しは信頼してくれてると思ってたけど・・・俺の思い上がりだったみたいだな」

 

 「七瀬・・・」

 

 「・・・帰るわ。邪魔したな」

 

 リビングを出ようとしたところで、あることを思い出して足を止める。

 

 「あぁ、そういや・・・レティシアから伝言を預かってるぞ」

 

 「レティシアから・・・?」

 

 「『今すぐその愚かしい夢を捨てなさい。本気で叶えようというのなら、必ずや私が木っ端微塵に打ち砕いてみせます』だとさ・・・じゃ、また明日」

 

 今度こそリビングを出る俺。

 

 恐らくレティシアは、クローディアの真の目的を知ってるんだろう。だからこそ、それを阻止しようとしてるんだろう。

 

 「何が『クローディアを救えるのは七瀬だけ』だよ・・・俺よりレティシアの方が、よっぽどクローディアに信頼されてんだろ・・・」

 

 力なく呟く俺なのだった。




三話連続投稿となります。

シャノン「ななっちと会長、大丈夫かな・・・」

二人の仲に、ちょっと亀裂が入ったよね・・・

今後の展開の為ではあるんだけど・・・

やっぱりこういうシーンを書くのはちょっと心が痛いわ・・・

シャノン「作者っちにも人の心があったんだね・・・」

おいコラ、今すぐこの作品から消してやろうか。

シャノン「すいませんでしたあああああっ!」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

次回からシャノンは消えます。

シャノン「勘弁してええええええええええっ!」


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リーダー

スッキリしない天気が続くなぁ・・・


 『今回の《獅鷲星武祭》も、準々決勝までやってまいりました!本日最初の試合は、星導館学園のチーム・エンフィールド対クインヴェール女学園のチーム・ルサールカです!』

 

 梁瀬さんの声が会場に響き渡る。俺達チーム・エンフィールドは、いよいよルサールカとの試合当日を迎えていた。

 

 「さて、いっちょやりますか」

 

 所定の開始位置につき、不敵な笑みを浮かべるミルシェ。

 

 「前回の試合同様、また番狂わせをさせてもらおうじゃないの」

 

 「そんなもの起こさせない」

 

 紗夜が力強く宣言する。

 

 「お前達に負けるつもりはない。勝つのは私達だ」

 

 「へぇ・・・言ってくれるじゃん」

 

 紗夜とミルシェが火花を散らす中、俺はマフレナに声をかけた。

 

 「マフレナ、この間の怪我は大丈夫なのか?」

 

 「えぇ、問題ありません」

 

 笑みを浮かべるマフレナ。

 

 「ちょっと頭を強く打って、意識が朦朧としてしまっただけですから。ご心配をおかけしました」

 

 「ならいいけど・・・」

 

 チーム・へリオンは参加資格を剥奪されるべきだよな・・・厳重注意で済んでる時点でおかしいと思う。

 

 まぁルサールカも厳重注意で済んでるから、それは良かったけど。

 

 「無理だけはすんなよ?」

 

 「大丈夫です。七瀬さんも本気できて下さい」

 

 挑戦的な目をしているマフレナ。

 

 「ボク達は本気で七瀬さん達に勝つつもりですよ。手加減なんてしないで下さいね」

 

 「言われなくてもしないさ。手加減して勝てるほど、お前らは甘い相手じゃない」

 

 「そうだよ七瀬!こう見えてモニカは甘くないからね?」

 

 「おい邪魔すんな腹黒ロリ年増。今はマフレナとの会話を楽しんでるんだから」

 

 「アンタホント辛辣すぎない!?」

 

 涙目のモニカ。と、四糸乃姉が近寄ってくる。

 

 「・・・なーちゃん」

 

 「・・・四糸乃姉」

 

 一瞬見つめ合う俺達。言葉を交わさなくても、お互い言いたいことは分かっている。

 

 軽く拳を合わせると、それぞれ所定の位置へと戻った。

 

 「今回のリーダーは、ミルシェではなく四糸乃さんか・・・」

 

 ユリスが呟く。

 

 《獅鷲星武祭》では、試合に応じてリーダーを変えることが出来るのだ。リーダーの校章が破壊されたら試合終了なので、誰をリーダーにするのかよく考える必要がある。

 

 ルサールカはここまでミルシェがリーダーをやっていたが、今回は四糸乃姉がリーダーらしい。その証拠に、胸の校章が発光している。

 

 対する俺達も、これまではずっとクローディアがリーダーを務めていたが・・・

 

 「頼んだよ、七瀬」

 

 「任せとけ」

 

 綾斗の言葉に頷く俺。今回リーダーを務めるのは俺だ。

 

 試合前にクローディアから告げられた時は、俺も驚いたけどな。

 

 「七瀬」

 

 声をかけてくるクローディア。

 

 「任せましたよ」

 

 「あぁ」

 

 頷く俺。

 

 先日の一件以来、クローディアとは少しギクシャクしてしまっている。別に喧嘩をしたわけではないし、普通に会話だってするが・・・以前と比べると、多少ぎこちなくなってしまっているのだ。

 

 他の皆も薄々気付いているようだが、あえて指摘しないでくれている。

 

 「俺は作戦通り動く。そっちは任せたぞ」

 

 「えぇ、大丈夫です」

 

 それだけ会話した後、お互い試合に集中する。今は引きずっている場合じゃない。

 

 『そろそろ試合開始時間が迫ってまいりました!』

 

 梁瀬さんの興奮した声が聞こえてくる。

 

 『果たしてどちらが準決勝へと進むのでしょうか!?』

 

 そして次の瞬間、機械音声の宣告が響くのだった。

 

 『《獅鷲星武祭》準々決勝戦第一試合、試合開始!』

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 《綾斗視点》

 

 試合が始まった途端、俺達を重苦しい衝撃が襲った。先制攻撃を仕掛けようとしていた俺は、思わず膝をつきかけてしまう。

 

 「ふっふーん!どんなもんよ!」

 

 ベース型の純星煌式武装を持ち、ドヤ顔をしているモニカさん。

 

 「この《ライアポロス=メルポーネ》の阻害弱体化能力、たっぷり味わってね!」

 

 これはモニカさんの純星煌式武装である、《ライアポロス=メルポーネ》によるものだ。相手の集中力を阻害した上、弱体化させてしまう能力・・・

 

 予想以上に厄介だ。これでは識の境地が使えそうにない。

 

 「ひゃっはーっ!」

 

 「ぐっ・・・!」

 

 トゥーリアさんが放ってきた破砕振動波を、何とか《黒炉の魔剣》で防ぐ。

 

 「いやぁ、流石はマフレナ!身体の底から力が漲ってくるぜ!」

 

 「だからって無茶しないで下さいね」

 

 楽しそうに笑っているトゥーリアさんと、溜め息をつくマフレナさん。

 

 トゥーリアさんの純星煌式武装である《ライアポロス=ポリムニア》はギター型で、トライデント型に刃を展開している。先ほどの破砕振動波が能力だが、それだけなら大した脅威ではない。

 

 問題はマフレナさんの純星煌式武装である、《ライアポロス=タレイア》だ。空間放射キーボード型で、能力は活性強化・・・味方全員を強化することが出来るのだ。

 

 こちらはモニカさんによって弱体化しており、あちらはマフレナさんによって強化されている・・・相当不利な状況だった。

 

 と、マフレナさんが空間放射キーボードの上で指を躍らせる。周囲に無数の光弾が出現し、こちらへ向かって高速で飛んでくる。

 

 「咲き誇れ!赤円の灼斬花!」

 

 ユリスの放った戦輪が光弾を弾き返すも、どこか威力が弱々しい。

 

 いくつかの戦輪がルサールカの方へ飛んでいくも、パイヴィさんが浮遊ドラムを叩くと消えてしまった。

 

 「無駄よ。今の貴女の攻撃なら、私の音圧防壁で簡単に防げるわ」

 

 淡々と告げるパイヴィさん。

 

 パイヴィさんの純星煌式武装である《ライアポロス=エラード》はドラム型で、音圧防壁を展開する能力だ。

 

 今の俺達の攻撃力では、突破することは難しいだろう。

 

 「くっ・・・星辰力の集中が上手くいかん・・・!」

 

 苦々しい表情のユリス。

 

 確かに、この状況下で一番苦しいのはユリスと七瀬だろう。《魔女》や《魔術師》にとって、星辰力の集中が阻害されるというのは致命的だ。

 

 それは試合前から分かっていたことだが、それでもクローディアは七瀬をリーダーに指名したのだ。

 

 何か考えがあるのか・・・?

 

 「あらあら、厳しいですね・・・!」

 

 「予想以上に強いです・・・!」

 

 「ふんっ、どうだ!」

 

 声のした方を見ると、ミルシェさんがクローディアと綺凛ちゃんを一人で抑えていた。

 

 いくら二人が弱体化してて、ミルシェさんが強化されてるとはいえ・・・相当な実力が無いと出来ない芸当だ。

 

 「果たしていつまで避け切れるかな!」

 

 ミルシェさんがギター型の純星煌式武装で、破砕振動波を放つ。

 

 ミルシェさんの純星煌式武装である《ライアポロス=カリオペア》は、トゥーリアさんのものと同じ能力だ。ただしこちらは、剣型に刃を展開している。

 

 ミルシェさんの攻撃を、何とか避けているクローディアと綺凛ちゃん。と・・・

 

 「隙ありッ!」

 

 「ッ!?」

 

 トゥーリアさんが、七瀬に向かって破砕振動波を放つ。

 

 マズい!今の七瀬じゃ、あの攻撃を避けるのは・・・!

 

 「悪く思うなよ、七瀬!」

 

 「そりゃこっちのセリフだ」

 

 「ッ!?」

 

 七瀬が一瞬にして姿を消し、トゥーリアさんの真正面へと姿を現した。

 

 速い!?阻害弱体化されてて、何であんなに速く動けるんだ!?

 

 「悪く思うなよ、トゥーリア」

 

 《神の拳》を装着した七瀬の拳が、トゥーリアさんの校章へと放たれる。

 

 しかしその拳を、間に入った四糸乃さんがマイク型の純星煌式武装で受け止めた。

 

 「させないよ・・・なーちゃん」

 

 「来ると思ってたよ・・・四糸乃姉」

 

 ニヤリと笑みを浮かべる二人なのだった。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「いよいよ準々決勝が始まったね」

やっとルサールカ戦を書けるわ・・・

まぁそんなわけで、シャノンの出番は本格的に無くなったな。

シャノン「準々決勝に進んでるっていう設定とかどう?」

却下。シャノンは予選敗退がオチだろ。

シャノン「酷い!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「私は諦めないぞおおおおおっ!」



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最初で最後

相変わらず、戦闘シーンを書くのは難しいな・・・


 《ユリス視点》

 

 「アアアアアアアアアアッ!」

 

 四糸乃さんがマイク型の純星煌式武装を通じて、思いっきり叫ぶ。次の瞬間、とてつもない音波がステージを抉りながら七瀬に迫った。

 

 だが・・・

 

 「《断罪の一撃》ッ!」

 

 《神の拳》を装着した七瀬の拳が、音波と激突する。一瞬で音波が霧散した。

 

 「《雷帝の閃槍》ッ!」

 

 続けて七瀬が雷の槍を出現させ、四糸乃さんに向けて放つ。

 

 しかし・・・

 

 「ハァッ!」

 

 今度は音波の壁が出現し、雷の槍が防がれる。

 

 「あれが四糸乃さんの純星煌式武装の能力・・・」

 

 「・・・《ライアポロス=ディーヴァ》」

 

 後衛の紗夜が、私の呟きに反応する。

 

 四糸乃さんの純星煌式武装である《ライアポロス=ディーヴァ》の能力は、ミルシェやトゥーリアと違って衝撃波ではなく音波を放つというものだ。

 

 威力や効果は、四糸乃さんの声量や声を出している時間によって自在に変えられるらしい。

 

 厄介だな・・・

 

 「っていうか、七瀬は何で普通に動けるのよーっ!?」

 

 モニカが悔しそうに叫んでいる。

 

 「何でモニカの阻害弱体化が効いてないの!?」

 

 「いえ、効いていないわけではありませんよ」

 

 答えたのは、ミルシェの相手をしていたクローディアだった。

 

 「現に今の七瀬は、通常時の半分ほどの力ですから」

 

 「はぁっ!?」

 

 驚愕しているモニカ。

 

 「何言ってるの!?だって七瀬、シノンと互角に戦ってるじゃない!」

 

 「ですから、あれで半分なんですよ」

 

 苦笑しているクローディア。

 

 「七瀬はモニカさんの阻害弱体化を受けて、パワーダウンしています。四糸乃さんはマフレナさんの活性強化を受けて、パワーアップしています。しかしその結果は互角・・・この意味が分かりますか?」

 

 「・・・普通に戦ったら、シノンじゃ七瀬の相手にならないってことでしょ」

 

 唖然としているモニカの代わりに、ミルシェが呆れた表情で答える。

 

 「ルサールカの中で一番強いシノンが、あの状態の七瀬と互角にやり合うのが精一杯ってことは・・・アタシ達の力じゃ、あの状態の七瀬にすら勝てない。だから今回、七瀬をリーダーにしたんでしょ?倒される確率が一番低いのは、間違いなく七瀬だからね」

 

 「ご名答です」

 

 拍手するクローディア。そういう意図があったのか・・・

 

 「ハァ・・・仕方ない。こっちも奥の手を使うしかないか」

 

 ミルシェは溜め息をつくと、大声で叫んだ。

 

 「皆ッ!『共鳴』解除ッ!」

 

 「「「「「おぉッ!」」」」」

 

 ルサールカ全員が叫んだ途端、阻害弱体化の能力が消えた。身体が軽くなり、普通に星辰力を練れるようになる。

 

 「・・・勝負を諦めたのか?」

 

 首を傾げる紗夜。これなら私達は、余裕でミルシェ達を倒すことが出来るだろう。

 

 だが、ミルシェは不敵な笑みを浮かべていた。

 

 「アタシ達の純星煌式武装が、元々は《ライア=ポロス》っていう一つの純星煌式武装だってことは知ってるでしょ?」

 

 「・・・らしいな。コアとなるウルム=マナダイトを六分割して、ようやく制御できるほどのものなのだろう?」

 

 クローディアから聞いたが、《ライア=ポロス》も教授によって創られた純星煌式武装なのだそうだ。

 

 その代償は精神侵食・・・六分割する前は、誰も扱える者がいなかったらしい。

 

 「その通り。でもね・・・一時的に《ライア=ポロス》本来の力を引き出すことは可能なんだよ。それぞれの純星煌式武装を『共鳴』させることでね」

 

 そしてミルシェの次の言葉に、私達は戦慄を覚えた。

 

 「そしてその『共鳴』の力を、どれか一つの純星煌式武装に集中させたら・・・それはもう、《ライア=ポロス》そのものだとは思わない?」

 

 「「「「「ッ!?」」」」」

 

 息を呑む私達。まさか・・・

 

 そんな私達を見て、楽しげに笑うミルシェなのだった。

 

 「よく見てなよ。《ライア=ポロス》を使いこなすことに成功した・・・シノンの力を」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 俺は目の前の光景に唖然としていた。

 

 四糸乃姉の身体を、尋常ではないオーラが包み込んでいる。四糸乃姉の持つ《ライアポロス=ディーヴァ》も、禍々しく光っていた。

 

 「四糸乃姉・・・」

 

 「フフッ、驚いた?」

 

 不敵な笑みを浮かべる四糸乃姉。

 

 「本来『共鳴』は、それぞれの純星煌式武装で《ライア=ポロス》の力を一時的に引き出すもの・・・トリスタン戦で私達が勝てたのは、『共鳴』を使ったからだよ」

 

 あの試合、途中からルサールカの面々が相当なパワーアップをした。それまでは完全にトリスタン有利だった状況が、一気にひっくり返ってしまったのだ。

 

 ノエルの茨はトゥーリアによって破壊され、他のメンバー達もミルシェに倒されてしまった。

 

 特に四糸乃姉は凄まじく、五和姉・六月姉・エリオを一人で倒してたっけ・・・

 

 「そしてこの『共鳴』には、さらに奥の手があるの。それは『共鳴』の力を、誰か一人に集中させること。他のメンバー達は能力すら使えなくなっちゃうけど、代わりに力が集中した一人は・・・とんでもない程の力を振るうことが出来るんだよ」

 

 そう言うと四糸乃姉は、《ライアポロス=ディーヴァ》に向かってシャウトした。

 

 「あああああああああああああああッ!」

 

 次の瞬間・・・先ほどとは比べ物にならない威力の音波が、ステージの地面を破壊しながらこちらへ迫ってくる。

 

 マズい・・・!

 

 「《断罪の一撃》ッ!」

 

 拳を放つが、全ての音波を相殺出来ない。俺は後ろに吹き飛んだ。

 

 「ぐあっ!?」

 

 「まだまだッ!」

 

 四糸乃姉が《ライアポロス=ディーヴァ》を横に薙ぐと、凄まじい勢いで破砕衝撃波が飛んでくる。

 

 他の純星煌式武装の技も使えるのか!?

 

 「咲き誇れ!大紅の心焔盾・多輪咲!」

 

 ユリスが炎の盾を無数に展開し、俺を守ろうとする。だが破砕衝撃波は、全ての炎の盾を切り裂いた。

 

 「四十一式煌型誘導曲射粒子砲ヴァルデンホルト改・・・《フルバースト》」

 

 紗夜のホーミングレーザーが、破砕衝撃波とぶつかり相殺する。

 

 危なかった・・・

 

 「七瀬、大丈夫か!?」

 

 「助かったよ。ありがとな、二人とも」

 

 「ユリスと私が二人で技をぶつけて、ようやく相殺できるレベル・・・あれはヤバい」

 

 いつになく険しい表情の紗夜。

 

 「相変わらず凄まじいな・・・」

 

 トゥーリアも呆然としている。

 

 「シノンのヤツ、よくあんな力を使いこなせるもんだ・・・」

 

 「使いこなしてるというより、精神侵食に耐えてるんだろ」

 

 指摘する俺。現に四糸乃姉は、相当に苦しそうだ。

 

 「あんなの、そう長くはもたないはずだ」

 

 「ご名答よ」

 

 パイヴィが答える。

 

 「十分が限度ってところね。それ以上は、シノンの精神が壊れてしまうわ」

 

 「それを分かっててこんなことしてるんですか!?」

 

 信じられないといった表情の綺凛。

 

 「シノンさんのことを考えたら、こんな技なんて使うべきじゃないでしょう!?」

 

 「これはシノンさんが望んだことなんです」

 

 マフレナの表情は、とても辛そうだった。

 

 「私達では、あの精神侵食には耐えられませんでした。唯一シノンさんだけが、耐え凌ぐことに成功したんです。だからこそシノンさんは切り札として、この技を使いこなせるように磨いてきたんですよ」

 

 「そんな・・・どうしてそこまで・・・」

 

 「今回の《獅鷲星武祭》で優勝する為だよ」

 

 綾斗の問いに、モニカが答える。

 

 「シノンは今回の《獅鷲星武祭》で、《星武祭》への出場は最後って決めてるからね。それに・・・この大会が終わったら、シノンはルサールカを辞めることになってるから」

 

 「は・・・?」

 

 耳を疑う俺。そんなの初めて聞いたぞ・・・

 

 「元々、大学部を卒業したら辞めるつもりだったみたい。クインヴェールがプロデュースしてるグループに、卒業生がいるのは良くないって言ってたから」

 

 溜め息をつくミルシェ。

 

 「でも卒業するまでいると、ルサールカの新体制への移行が難しくなるからって・・・この大会が終わったら、身を引くつもりなんだよ」

 

 「嘘だろ・・・そんなこと一言も言ってなかったのに・・・」

 

 「・・・シノンは優しいからね」

 

 ミルシェが苦笑する。

 

 「『そんなこと言ったら、皆が戦いづらくなるから言わない』って。最後にシノンは、家族と真剣勝負がしたかったんだと思うよ。五和さんや六月さんと戦ってる時、凄く楽しそうだったもん。まぁ最後は結果的に、罪悪感で泣いちゃってたけどさ」

 

 四糸乃姉・・・こんな時まで俺達に気を遣ったのかよ・・・

 

 「だからさ、七瀬・・・」

 

 真剣な表情で俺を見つめるミルシェ。

 

 「シノンと本気で戦ってあげてよ。アタシ達の命運は、もう全部シノンに託したから。だから・・・全力でぶつかってあげてほしい」

 

 「ミルシェ・・・」

 

 トゥーリア・パイヴィ・モニカ・マフレナも、俺の方を見て頷く。

 

 お前ら・・・

 

 「行ってきなよ、七瀬」

 

 俺の背中を、綾斗がそっと押してくる。

 

 「悔しいけど、今の四糸乃さんに勝てるのは・・・きっと七瀬だけだからさ」

 

 「綾斗・・・」

 

 「今回のリーダーは七瀬だ。お前が決めてこい」

 

 「私達の命運も、全て七瀬に託した」

 

 「頼みましたよ、七瀬さん」

 

 ユリス・紗夜・綺凛が笑顔で頷いてくれる。

 

 「七瀬」

 

 声をかけてくるクローディア。

 

 「後は任せました」

 

 「・・・分かった。ありがとな」

 

 俺は意を決して、四糸乃姉と対峙するのだった。

 

 「今回が最初で最後の勝負だ・・・行くぞ、四糸乃姉」

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「そろそろ決着がつきそうだね」

うん。次回で勝負がつきます。

果たして七瀬は、四糸乃に勝てるのか・・・

シャノン「ななっち強くなったなぁ・・・私も修行しようかな」

じゃあ二年後にシャ●ンディ諸島で会おう。

シャノン「ワン●ース!?っていうか二年後まで出番無し!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノンの次の出番は二年後です!

シャノン「そんなに待てるかあああああっ!」


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覚悟

次の話で、この章は終わります。

《獅鷲星武祭》は続きますが、原作九巻の話に入りたいので。


 『どうやら、七瀬選手と四糸乃選手の一騎打ちになる模様です!』

 

 『尋常ではないパワーアップをしている四糸乃選手に、七瀬選手がどう挑むのか・・・これは目が離せませんな』

 

 梁瀬さんと柊さんの声が聞こえる中、俺は四糸乃姉を見つめていた。

 

 既に汗だくとなっており、かなり辛そうだ。

 

 「話は終わったの?」

 

 「あぁ、待たせたな」

 

 四糸乃姉の問いに頷く俺。

 

 「・・・凄いよ、四糸乃姉は」

 

 「え・・・?」

 

 「正直、そこまで勝利への執念が強いとは思わなかった。辛い精神侵食に耐えてまで、最後にルサールカを優勝に導こうとしてるなんて・・・」

 

 「・・・ミーちゃん達、話しちゃったんだね」

 

 苦笑する四糸乃姉。

 

 「最後に、この六人で優勝しようって・・・これからも続いていくルサールカの名を、もっと多くの人に知ってもらおうって・・・そう決めたの。だから・・・」

 

 《ライアポロス=ディーヴァ》を構える四糸乃姉。

 

 次の瞬間、阻害弱体化が俺を襲う。

 

 「ぐっ・・・!」

 

 先ほどのモニカのものとは、比べ物にならないほど強力だ。今にも地面に膝をついてしまいそうになる。

 

 一方、四糸乃姉のオーラは膨れ上がっていった。自身に活性強化を使ったんだろう。

 

 「悪く思わないでね、なーちゃん。こうでもしないと、私は絶対なーちゃんには勝てないから・・・」

 

 「・・・そのセリフ、そっくりそのまま返すよ」

 

 俺は足に力を込めて踏ん張ると、ありったけの雷を迸らせた。

 

 「っ・・・強力な阻害弱体化をくらってるのに、まだこれだけの雷を出せるの・・・?」

 

 「生憎、《魔術師》としての能力は強いみたいでさ・・・産んでくれた万理華さんと、顔も名前も知らない血縁上の父親に感謝だな」

 

 俺は苦笑すると・・・その雷を自分へと向けた。雷に呑み込まれる俺。

 

 「なっ!?なーちゃん!?」

 

 『これはどういうことでしょう!?七瀬選手、まさかの自爆か!?』

 

 『いえ、これは恐らく・・・』

 

 柊さんが言い終える前に、俺の周囲の雷が霧散する。

 

 雷の中から現れた俺は・・・全身が黄金の光に包まれていた。

 

 「ッ!?まさか・・・雷と一体化したっていうの!?」

 

 「ご名答」

 

 四糸乃の問いに、バチバチ雷を迸らせながら頷く俺。

 

 「《雷帝化》・・・界龍での修行で編み出した、俺の奥の手さ。まさかここで使うことになるとはな」

 

 この奥の手は星露しか知らない為、ギリギリまで出し惜しみしたかったが・・・

 

 この際そんなことも言ってられないよな・・・

 

 「悪いけど、この状態の俺に阻害弱体化は効かないぞ。雷が守ってくれてるからな」

 

 「・・・ホント、なーちゃんはつくづく驚かせてくれるよ」

 

 そう言う四糸乃姉は・・・楽しそうに笑っていた。

 

 「じゃあ・・・やろうか」

 

 「あぁ」

 

 お互いに構える。そして・・・

 

 「はああああああああああっ!」

 

 四糸乃姉が破砕衝撃波を繰り出してくる。俺はそれを避け、四糸乃姉の懐へ入った。

 

 「なっ・・・」

 

 「らぁっ!」

 

 ありったけの力で、拳を四糸乃姉の腹部へと叩き込む。フィールドの壁へと叩きつけられる四糸乃姉。

 

 『は、速いなんてもんじゃないッ!?消えたようにしか見えませんでしたッ!』

 

 『自分も全くついていけなかったであります・・・』

 

 動揺している梁瀬さんと、唖然としている柊さん。

 

 並みの相手だったらこれで終わりだが・・・

 

 「ゲホッ・・・ゴホッ・・・!」

 

 苦しそうにしながらも、何とか立ち上がる四糸乃姉。

 

 やっぱりか・・・

 

 「流石に・・・今のは効いたね・・・ゴホッ・・・」

 

 「・・・よく立ち上がれるな。本気で殴ったのに」

 

 「フフッ・・・活性強化のおかげかな・・・ゲホッ・・・」

 

 フラフラになりながらも、《ライアポロス=ディーヴァ》を構える四糸乃姉。

 

 「最後の勝負といこうか・・・いくよ・・・なーちゃん・・・」

 

 「四糸乃姉・・・」

 

 こんな状態の四糸乃姉を、これ以上傷付けたくはない。

 

 でも・・・

 

 「・・・受けて立つ」

 

 拳を構える俺。四糸乃姉が思いっきり息を吸い込んだ。

 

 そして・・・

 

 「ああああああああああああああああああああッ!」

 

 あらんかぎりの声で叫ぶ。今日一番の威力の音波が、瓦礫を撒き散らしながら迫ってきた。

 

 最後にこんな力が出せるなんて・・・

 

 【マスター・・・終わりにしましょう】

 

 「・・・あぁ」

 

 七海の声が響く。俺が頷くと、《神の拳》が光り輝く。

 

 「《断罪の流星》ッ!」

 

 俺が拳を振りぬくと、白い光の線が一直線に突き進んでいく。それは流星のように音波を切り裂き、そして・・・四糸乃姉の校章に、寸分違わずぶち当たった。

 

 もろにくらった四糸乃姉は、再びフィールドの壁へと叩きつけられる。

 

 『星野四糸乃、校章破損』

 

 『試合終了!勝者、チーム・エンフィールド!』

 

 機械音声が流れた瞬間、観客席から大歓声が沸き起こった。

 

 倒れている四糸乃姉の元へ歩み寄る俺。そのまま四糸乃姉を抱き起こす。

 

 「大丈夫か?」

 

 「アハハ・・・もうボロボロだよ・・・」

 

 弱々しく笑う四糸乃姉。

 

 「体力も使い果たしちゃったし・・・何だかよく眠れそう・・・」

 

 「・・・お疲れ、四糸乃姉。カッコ良かったよ」

 

 俺の言葉に、四糸乃姉が満足そうに微笑む。

 

 そしてそのまま、俺の腕の中で意識を失うのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・ふぅ」

 

 試合終了後、俺は一人で控え室にいた。

 

 他の皆は勝利者インタビューを終えた後、一足先に星導館へと戻っていった。俺は少し一人になりたかったので、こうして控え室に残っているのだ。

 

 皆も察してくれたのか、俺を気遣いながらも帰っていったのだった。

 

 「これで準決勝進出か・・・」

 

 素直に喜べなかった。頭に浮かぶのは、やっぱり四糸乃姉の顔だった。

 

 「四糸乃姉、大丈夫かな・・・」

 

 あの後、四糸乃姉は治療院へと搬送されていった。俺から受けたダメージに加え、精神侵食は四糸乃姉の身体に相当な負担をかけていたらしい。

 

 治療院にはコルベル先生や一織姉もいるし、ミルシェ達も付き添っているから大丈夫だとは思うが・・・

 

 俺が四糸乃姉の身を案じていると、来訪者を告げるチャイムが鳴った。

 

 「誰だ・・・?」

 

 空間ウィンドウを見た俺は、一瞬固まってしまった。急いでドアのロックを解除する。

 

 開いたドアから入ってきたのは・・・

 

 「ヤッホー、ななくん」

 

 「シルヴィ・・・」

 

 優しく微笑んでいるシルヴィ。俺に歩み寄ってくる。

 

 「どうしてここに・・・仕事は・・・?」

 

 「言ったでしょ?試合に来れるように頑張るって」

 

 悪戯っぽく笑うシルヴィ。

 

 「朝方に仕事を終わらせて、そのままこっちに来たんだ。ななくんとシノンの試合、ちゃんと観たかったから。まぁ、この後また仕事あるんだけどね」

 

 シルヴィは苦笑すると、俺を抱き締めてきた。

 

 「シルヴィ・・・?」

 

 「お疲れ、ななくん・・・頑張ったね」

 

 「っ・・・」

 

 あぁ、ホントにもう・・・シルヴィには敵わないな・・・

 

 「・・・四糸乃姉は凄かったよ」

 

 「・・・そうだね」

 

 「・・・強い覚悟で、今回の大会に臨んでた」

 

 「・・・知ってた」

 

 「・・・でも敗退した。俺が四糸乃姉を倒した」

 

 「・・・そうだね」

 

 「・・・俺が・・・四糸乃姉の願いを潰した・・・!」

 

 「・・・うん」

 

 涙を流しながら呟く俺の言葉を、シルヴィは優しく聞いてくれた。

 

 あやすように頭を撫でながら、ポンポンと背中を叩きながら・・・

 

 「・・・自分の意思を貫くって・・・こんなにしんどいんだな・・・」

 

 「・・・そうだよ」

 

 優しい声で答えるシルヴィ。

 

 「この都市では、色々な人がそれぞれの願いを持って戦ってる。自分の願いを叶える為には、相手を倒さなくちゃいけない。自分の意思を貫くには、相手の意思を退けなきゃいけない。本当に覚悟がいることなんだよ」

 

 分かっていたはずだった。アスタリスクに来た時点で、その覚悟は出来ていたはずだった。

 

 はずだったのに・・・

 

 「本当の意味での覚悟が・・・俺には出来てなかったんだな・・・」

 

 今さら気付くなんて、本当に情けない・・・

 

 「それなら・・・今、しなよ」

 

 シルヴィが俺を見つめる。

 

 「優勝したいんでしょ?仲間達の願いを叶えたいんでしょ?だったら・・・ちゃんと覚悟を決めなきゃ。誰がどんな願いを持って挑んでこようが、最後まで自分の意思を貫き通す覚悟を・・・今、ここでしなよ」

 

 「シルヴィ・・・」

 

 ユリスの為、綺凛の為、綾斗の為、紗夜の為、そして・・・クローディアの為。

 

 俺は絶対に負けられない。

 

 「俺は・・・いや、俺達は絶対に優勝する。たとえ相手が、家族や友達でも・・・勝って仲間達の願いを叶える。それが俺の意思だ」

 

 「・・・うん、よく出来ました。流石は私の彼氏だね」

 

 満足そうに笑うシルヴィなのだった。

 




どうも~、ムッティです。

ルサールカ戦が終わった・・・

シャノン「お疲れ。ななっち達が勝ったね」

うん。これで次は準決勝だけど・・・

ここでクローディアの話に入ります。

その為、この章は次の話で終わりです。

シャノン「あぁ、ついに会長の話か・・・」

やっと書けるよね・・・

果たしてクローディアの運命や如何に・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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七瀬の望み

これにて、第八章は終了です。


 「・・・ありがとな、シルヴィ」

 

 「フフッ、どういたしまして」

 

 身体を寄せ合って座る俺とシルヴィ。

 

 シルヴィには、いつも助けられてるな・・・

 

 「何はともあれ、これで準決勝進出だね」

 

 「あぁ。次の相手は黄龍だな」

 

 別会場の第一試合で、黄龍は順当に勝利を収めていた。これで俺達の相手は、正式に黄龍に決まったわけだ。

 

 先ほどこちらの会場でも第二試合が終了し、ランスロットが勝利を収めたところだ。ランスロットの準決勝の相手は、別会場の第二試合・・・

 

 赫夜対へリオンの勝者ということになる。

 

 「そういや、向こうの試合はどうなったのかな・・・」

 

 「中継やってるんじゃない?」

 

 シルヴィに言われ、空間ウィンドウを開こうとした時だった。

 

 俺の端末に着信が入る。相手は・・・

 

 「あれ?八重?」

 

 俺が端末を操作すると、空間ウィンドウに八重の顔が映し出される。

 

 「おっす、八重」

 

 「ヤッホー」

 

 『七瀬お兄様ッ!シルヴィお姉様ッ!』

 

 今にも泣き出しそうな顔で叫ぶ八重。

 

 「おいおい、どうした?」

 

 『お兄様、九美の試合はご覧になりましたか!?』

 

 「いや、今ちょうど観ようとしてたところだけど・・・何かあったのか?」

 

 『大変なんですッ!赫夜がッ!九美がッ!』

 

 「落ち着いて八重ちゃん。何があったの?」

 

 シルヴィが優しく尋ねる。

 

 『チーム・赫夜は、チーム・へリオンに勝利を収めましたッ!』

 

 「マジか!やったな!」

 

 『ですが赫夜のメンバー達は全員が重傷を負い、治療院に搬送されましたッ!』

 

 驚愕に目を見開く俺とシルヴィなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「八重ッ!」

 

 「お兄様ッ!」

 

 シルヴィと共に急いで治療院に駆けつけると、治療室の前で座っていた八重が俺に抱きついてきた。身体が震えている。

 

 「九美の容態は!?」

 

 「命に別状は無いそうです」

 

 九美の代わりに答えてくれたのは、虎峰だった。

 

 「虎峰・・・何でここに・・・?」

 

 「流石に八重一人を行かせるのは心配だったので、付き添いで来ました」

 

 「そっか・・・ありがとな」

 

 俺としても、虎峰が八重の側にいてくれた方が安心だしな・・・

 

 「他のチーム・赫夜の皆さんも、重傷を負ってはいますが大丈夫とのことでした」

 

 「良かった・・・」

 

 とりあえずホッとする。マジで焦った・・・

 

 「七瀬ッ!八重ッ!」

 

 後ろから俺達を呼ぶ声がする。振り向くと、三咲姉が走ってくるところだった。

 

 「三咲姉?何でここに?」

 

 「チーム・赫夜が、試合で重傷を負ったと聞いて・・・九美は無事なんですか!?」

 

 「怪我は負ってるみたいだけど、命に別状は無いみたい。他のメンバーも同じだって」

 

 「良かった・・・!」

 

 涙を拭う三咲姉。と、その後ろからアーネストとレティシアがやってくる。

 

 「七瀬・・・」

 

 「アーネスト・・・お互い妹が大変なことになったな」

 

 「全くだよ・・・」

 

 アーネストの表情は、見たことがないほど歪んでいた。

 

 「相手が傭兵生チームだから、少し嫌な予感はしていたけど・・・まさかこんなことになるなんてね・・・」

 

 「だから私は傭兵生制度に反対なんですわッ!」

 

 憤っているレティシア。

 

 「これだからレヴォルフは嫌いですのッ!あんな野蛮な連中に頼ってまで、ポイントを稼ごうとするなんてッ!」

 

 「・・・同感だよ」

 

 拳を握り締める俺。アイツら・・・

 

 「趙くん、赫夜の皆は・・・治療を受けてるの?」

 

 「・・・えぇ」

 

 シルヴィの問いに、虎峰が静かに頷く。

 

 「先ほど、治療室に《狂暴治癒師》が入っていきました。恐らく・・・」

 

 「その呼び方は止めてよ。《天苛武葬》の趙虎峰くん」

 

 治療室から一織姉が出てきて、苦笑しながら言う。

 

 「その二つ名、あんまり好きじゃないんだから」

 

 「一織お姉様ッ!九美は大丈夫なんですかッ!?」

 

 「落ち着いて、八重」

 

 八重の頭を撫でる一織姉。

 

 「九美も他の子達も、私と他の治癒能力者達で治療済みよ。全員意識を失ってるけど、直に目を覚ますわ」

 

 「っ・・・良かった・・・!」

 

 泣き出す八重。アーネストが前へ進み出る。

 

 「一織さん、ありがとうございました」

 

 「お礼なんていいわよ、アーネストくん。これが私の仕事なんだから」

 

 笑いながらアーネストの肩を叩く一織姉。

 

 「ただ・・・ゴメンなさい。私達の治療を受けた時点で・・・赫夜は《獅鷲星武祭》を棄権することが確定したわ」

 

 「っ・・・」

 

 《星武祭》参加者は原則として、治癒能力者による治療を受けられない。治療を受けないと危険な場合は、そのかぎりではないのだが・・・

 

 その代わり、参加している《星武祭》は棄権扱い・・・つまりチーム・赫夜は勝利を収めたものの、ここで今大会から姿を消すことになる。

 

 よって準決勝の対戦相手であるランスロットは、不戦勝で決勝へ進むことが決まったわけだ。

 

 「・・・残念ではありますが、命には代えられませんから」

 

 「本当にありがとうございました」

 

 頭を下げるアーネストとレティシア。

 

 そういやレティシアは、アスタリスクに来る前からフェアクロフ兄妹と知り合いなんだっけ・・・

 

 前にクローディアが、そんなことを話してたっけな・・・

 

 「すいません!通ります!」

 

 治療室の扉が開き、看護師達がストレッチャーを次々と運び出す。

 

 そのストレッチャーに乗せられていたのは・・・

 

 「「九美ッ!」」

 

 三咲姉と八重が、ストレッチャーに乗せられた九美へと駆け寄る。意識を失っているようで、頭や腕などが包帯で巻かれている。

 

 他のストレッチャーへ目をやると・・・

 

 「っ・・・お前ら・・・」

 

 言葉を失う俺。

 

 美奈兎、柚陽、ソフィア、ニーナ、クロエ・・・全員が包帯を巻かれており、痛々しい姿だった。

 

 「ソフィア・・・」

 

 「ソフィアさん・・・!」

 

 ソフィアへ駆け寄り、心配そうな表情で見つめるアーネストとレティシア。

 

 すると・・・

 

 「七瀬・・・」

 

 「っ・・・」

 

 俺のすぐ近くのストレッチャーに乗っていたクロエが、弱々しく俺の袖を掴んだ。

 

 「クロエ!?大丈夫か!?」

 

 「・・・何とかね」

 

 弱々しく微笑むクロエ。

 

 「試合、中継で観てたわよ・・・準決勝進出おめでとう」

 

 「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」

 

 クロエの手を握る俺。

 

 「フフッ・・・シルヴィアがいるのに、他の女の手を握ったりして良いの・・・?」

 

 「生憎、そんなに心の狭い女じゃないつもりだよ」

 

 シルヴィがクロエの頬を撫でる。

 

 「お疲れ様。よく勝ったね」

 

 「意地でも負けられなかったから・・・結局棄権になってしまったけどね」

 

 溜め息をつくクロエ。

 

 「でも・・・後悔はしてないわ。やり切ったもの」

 

 「クロエ・・・でもお前は・・・」

 

 「そんな顔しないで」

 

 クロエの手が、俺の頬に添えられる。

 

 「私は満足よ・・・最後に美奈兎達と一緒に戦えて、かつてのチームメンバー達に勝つことが出来た・・・十分だわ」

 

 「クロエ・・・」

 

 「すいません、そろそろ・・・」

 

 看護師の女性が、申し訳なさそうに声を掛けてくる。

 

 「っ・・・いえ、こちらこそスミマセン・・・」

 

 俺達がクロエから離れると、看護師達が順々にストレッチャーを運んでいく。

 

 クロエは俺達に手を振り、そのまま運ばれていった。

 

 「・・・知ってたんだね、あの子の事情」

 

 「・・・大会が始まる前に聞いたんだ。シルヴィも一役買ったんだって?」

 

 「うん、まぁね・・・」

 

 クロエが運ばれていった方向を見ながら、唇を噛むシルヴィ。

 

 これで理事長との交渉は不成立・・・クロエは自由の身になれなくなってしまった。

 

 「美奈兎も、ソフィアも、柚陽も、ニーナも、九美も・・・クロエの為に一生懸命頑張ってたのに・・・」

 

 悔しさが湧き上がってくる。

 

 「こんなの・・・あんまりだろ・・・ッ」

 

 「ななくん・・・」

 

 あんな傭兵生共に邪魔されて、自由への道が閉ざされるなんて・・・

 

 こんなの、クロエも他の皆も報われないじゃないか・・・

 

 「・・・シルヴィ、俺は決めたよ」

 

 「え・・・?」

 

 「絶対に《獅鷲星武祭》で優勝する。そして望みを叶えてもらう」

 

 俺はシルヴィに、自身の望みを告げるのだった。

 

 「俺の望みは・・・クロエが自由の身になること、だ」

 




どうも~、ムッティです。

これにて第八章《獅鷲乱武》編は終了となります。

次回からは第九章ですね。

シャノン「そういえば、オリキャラ紹介どうするの?新キャラ結構出てるけど」

《獅鷲星武祭》が終わったあたりでやろうかなって。

一織達の紹介も、《鳳凰星武祭》が終わった後でやったし。

シャノン「あ、なるほど」

そんなわけで、次回からは新章突入!

七瀬はクローディアを救えるのか!?

シャノン「そして私の出番はあるのか!?」

無いんじゃね?

シャノン「出してよ!?まだ執筆してないでしょ!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「だから人の話を聞けえええええっ!」


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第九章《悠日戦啾》
交渉


新章突入!

全く関係ない話だけど、よく日本はコロンビアに勝てたな・・・


 準々決勝の翌日・・・俺はシルヴィに連れられ、クインヴェール女学園へとやって来ていた。

 

 その目的は・・・

 

 「初めまして、星野七瀬さん」

 

 バイザー型のグラスをかけた女性が、口元に薄い笑みを浮かべながら挨拶してくる。

 

 「クインヴェール女学園理事長、ぺトラ・キヴィレフトです」

 

 そう、この女性こそクインヴェールの理事長だ。

 

 俺は彼女と会って話をする為、シルヴィに頼んでクインヴェールの理事長室に連れてきてもらったのだ。

 

 「初めまして、星野七瀬です」

 

 「貴方とは、一度会って話がしたいと思っていたのです。そちらから会いに来て下さるなんて、思ってもみませんでした」

 

 「お時間を割いていただいて、ありがとうございます」

 

 一礼する俺。

 

 笑顔は浮かべているが、得体の知れない不気味さを感じるな・・・

 

 「そう畏まらなくて大丈夫ですよ。私のことはぺトラと呼んで下さい」

 

 「では、俺のことも七瀬で」

 

 理事長・・・ぺトラさんはニッコリ笑うと、俺達にソファに座るよう勧めてきた。

 

 俺達が座ると、ぺトラさんは向かい側のソファに座る。

 

 「それで、私に話とは・・・一体何でしょうか?」

 

 「まずは、シルヴィとの関係をご報告させていただこうと思います」

 

 ぺトラさんを見つめる俺。

 

 「既にシルヴィから聞いているとは思いますが・・・昨年から俺とシルヴィは、真剣に交際しています。遅くなりましたが、そのことをご報告させていただこうと思いまして」

 

 「あら、律儀ですね。理事長に報告する義務など無いでしょうに」

 

 「シルヴィの場合、立場が立場ですので。それに熱愛報道が出た際、クインヴェールにも多くの問い合わせがあったと聞いています。ご迷惑をおかけしている以上、きちんと報告すべきかと思いまして」

 

 「それはそれは・・・わざわざありがとうございます」

 

 一礼するぺトラさん。

 

 「確かにシルヴィアの熱愛報道は、彼女の立場を考えると好ましくはありません。一部のファンは離れてしまうでしょう」

 

 「・・・承知しています」

 

 「ですが私としては、シルヴィアに対して恋愛を禁止した覚えはありません。誰とどんな恋愛をしようが、基本的には彼女の自由です。よほど相手が不味い場合は別ですが、七瀬さんなら大丈夫でしょう。シルヴィアから惚気話をよく聞きますが、本当にシルヴィアを大切にして下さっているようですし」

 

 「ちょ、ぺトラさん!?」

 

 顔を真っ赤にして慌てるシルヴィ。理事長に惚気話って・・・

 

 「シルヴィ・・・相手を考えようぜ・・・」

 

 「うぅ・・・だって自慢したかったんだもん・・・」

 

 「ブラックコーヒーを『甘い』と感じてしまう、私の身にもなって下さい・・・」

 

 溜め息をつくぺトラさん。何かスイマセンでした・・・

 

 「まぁそれはともかく・・・以上が私の見解です。今後もシルヴィアをお願いしますね」

 

 「えぇ、そのつもりです」

 

 これでシルヴィの話は終わった。問題は次の報告だ。

 

 「実はもう一つ、ぺトラさんにご報告がありまして」

 

 「・・・デキてしまったんですか?」

 

 「そんなわけないでしょ!?」

 

 シルヴィのツッコミ。再び顔が真っ赤になっている。

 

 「何でそういう発想になるの!?」

 

 「年頃の男女ですからね。そうなってもおかしくありませんから」

 

 「大丈夫です。その辺りはしっかり対策してますので」

 

 「ななくん!?余計なこと言わなくていいから!」

 

 「とまぁ、冗談はさておき・・・何のご報告でしょう?」

 

 「冗談だったんだ!?」

 

 シルヴィのツッコミをスルーして、俺を見つめるぺトラさん。俺は二つ目の報告をするべく、口を開いた。

 

 「ご報告というのは・・・俺の望みについてです」

 

 「望み・・・?」

 

 「えぇ。《獅鷲星武祭》で優勝した暁には、何でも一つ望みを叶えてもらえる権利が与えられます。俺は《獅鷲星武祭》で優勝したら、どうしても叶えたい望みがあるんです」

 

 「・・・それを私に報告することに、何の意味があるのでしょう?」

 

 「ぺトラさんにも関係することなので」

 

 俺は自身の望みを口にした。

 

 「俺の望みは、クロエ・フロックハートが自由の身となることです」

 

 その瞬間、部屋の温度が下がった気がした。ぺトラさんの顔から笑みが消える。

 

 「・・・クロエの事情を知っているのですか?」

 

 「クインヴェールがPMC・・・HRMSからクロエを購入したことは知っています。クロエが《べネトナーシュ》の一員であることや、チーム・赫夜との交渉についても把握しています」

 

 「・・・全て知っているのですね」

 

 溜め息をつくぺトラさん。

 

 「その上で、クロエが自由の身となることを望むのですか?」

 

 「はい」

 

 言い切る俺。

 

 「赫夜は棄権扱いになり、《獅鷲星武祭》で優勝するという条件を満たせなくなってしまいました。このままでは、クロエが自由の身となることはない・・・ですので俺の望みとして、クロエを自由にしていただこうと思いまして」

 

 「・・・貴方がクロエに肩入れする理由は無いと思いますが?」

 

 「俺の大切な友人であり、可愛い妹が慕っている存在・・・それ以外に理由が必要ですか?」

 

 ぺトラさんと俺の視線がぶつかる。申し訳ないが、ここで引くことなど出来ない。

 

 「・・・確かにそれなら、私にも止めることは出来ません」

 

 不服といった表情のぺトラさん。

 

 「ですが、その望みを叶えるのは統合企業財体です。そして我がクインヴェール女学園の運営母体・・・W&Wは、その望みを許さないでしょう」

 

 「・・・クロエが《べネトナーシュ》の一員だからですか?」

 

 「その通りです」

 

 頷くぺトラさん。

 

 「《べネトナーシュ》は諜報工作機関・・・つまり暗部の組織です。クインヴェールやW&Wの、様々な情報を知り得ています。クロエが自由の身となったら、その情報が流出してしまう恐れがある・・・W&Wは、それを許さないでしょうね」

 

 「では、チーム・赫夜との交渉はどうなんですか?優勝したら、クロエを自由にするという約束だったはずですが?」

 

 「《星武祭》での優勝は、クインヴェールやW&Wへの大きな貢献となります。それだけ大きな貢献をしてくれるのなら、クロエを自由にしてあげるだけの価値はあるのです。しかし七瀬さんのチームが優勝したところで、得をするのは星導館と銀河・・・我々に何の得も無い以上、クロエを自由にすることはないでしょうね」

 

 「得、ですか・・・」

 

 やっぱりそうきたか・・・

 

 隣のシルヴィを見ると、案の定苦笑していた。予想通り、といったところだろうか。

 

 「・・・分かりました。では、そちらに得があったら良いんですね?」

 

 「そうなりますが・・・どうするつもりですか?」

 

 怪訝そうな表情のぺトラさん。俺はぺトラさんに、ある提案をした。

 

 「簡単な話です。クインヴェールからクロエを購入します」

 

 「なっ・・・」

 

 「勿論、それなりの金額を積ませていただきます。貴女方がクロエを購入した金額と同じでは、そちらにとって差引きゼロになってしまいますからね。少なくとも、倍の金額はお支払いしますが・・・如何でしょう?」

 

 「・・・正気ですか?我々がいくらでクロエを購入したと思っているのですか?」

 

 「いくらでしょう?参考までにお聞かせ願いたいのですが?」

 

 俺の問いに、ぺトラさんが答えることを躊躇う。しかし諦めたのか、空間ウィンドウにその金額を表示してきた。

 

 まぁ流石に高額ではあるが・・・

 

 「この金額なら二倍・・・いえ、三倍は積めますね」

 

 「ッ!?」

 

 驚愕しているぺトラさん。

 

 「何処にそんなお金が・・・」

 

 「ご存知かとは思いますが、俺の姉には《星武祭》優勝者が三人いましてね。全員が望みとして金銭を要求していて、それを実家に送ってきてるんですよ。三人で合計五回優勝していて、その望みが全て金銭・・・一体どれほどの金額になるか、ぺトラさんなら想像できますよね?」

 

 冷や汗をかいているぺトラさん。シルヴィが必死に笑いを押し殺していた。

 

 「しかもその金銭、大部分はまだ残ってるんですよね。両親の財産だけで、十分食べていけるぐらいだったので」

 

 「・・・そのお金を、七瀬さんが自由に使えるのですか?」

 

 「えぇ、既に許可は得ています。『どうせ大して使わないんだから、人助けに使ってくれるなら有り難い』とのことです」

 

 万理華さん、大爆笑してたっけな・・・

 

 『その話を聞いた時の理事長の顔が見たい』とか言ってたっけ・・・

 

 「クロエを購入した金額の、倍以上のお金が返ってくるんですよ?しかもシルヴィから聞きましたが・・・クロエが卒業までにもたらすであろう利益分の金額は、既にシルヴィが支払い済みなんですよね?でしたら、そちらにとって得しかない条件だと思いますが?」

 

 遂に何も言えなくなったぺトラさん。

 

 「W&Wに、話を通していただけますか?星導館学園の星野七瀬が、クロエ・フロックハートを購入したいと申し出ていると」

 

 「ぺトラさん、ななくんは本気だよ」

 

 シルヴィも後押ししてくれる。ぺトラさんはずっと黙っていたが、観念したように溜め息をついた。

 

 「・・・分かりました。W&Wには、私から話を通しておきます。返答が来たら、七瀬さんの方に連絡しましょう」

 

 「ありがとうございます」

 

 ふぅ・・・何とかぺトラさんの説得に成功したな・・・

 

 「お疲れ、ななくん」

 

 「ありがとな、シルヴィ」

 

 笑い合う俺達。そんな俺達を、ぺトラさんがジト目で見ていた。

 

 「シルヴィア・・・七瀬さんに力を貸し過ぎなのでは?」

 

 「だって私、ななくんの彼女だもん」

 

 俺の腕に抱きついてくるシルヴィ。俺の彼女が頼もしすぎる件について。

 

 「シルヴィ、マジで愛してるわ・・」

 

 「私もだよ、ななくん・・・」

 

 「・・・そういうのは外でやってもらえませんか?」

 

 げんなりしているぺトラさんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「じゃあ、クロエは自由になれるかもしれないの!?」

 

 「あぁ。後はW&Wの出方次第ってとこだな」

 

 美奈兎の問いに頷く俺。

 

 仕事に向かったシルヴィを見送ってから、俺は治療院へとやって来ていた。チーム・赫夜の皆と、四糸乃姉のお見舞いの為だ。

 

 「まだ可能性があるのですね・・・!」

 

 「良かった・・・!」

 

 涙を拭うソフィアと柚陽。一方、クロエは戸惑いの表情を浮かべていた。

 

 「どうして私の為にそこまで・・・」

 

 「大切な友達だからな」

 

 クロエの頭に手を置く俺。

 

 「それに、あんなヤツらのせいで自由になれないなんて・・・あまりにも理不尽だろ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「俺はクロエに、もっと自由に生きてほしいんだ。クロエの人生なんだから、進む道はクロエが決めるべきだと思う。だから自由になって、クロエの生きたいように生きてほしい・・・って、ゴメンな。あくまでも俺の自分勝手な願いなんだけどさ」

 

 「・・・ありがとう、七瀬」

 

 俺の手を握るクロエ。

 

 「私、自由になりたい。皆と一緒に過ごしたい。だから、本当にわがままで申し訳ないのだけれど・・・私に力を貸してもらえるかしら?」

 

 「当たり前だろ」

 

 笑顔で頷く俺。

 

 「後は任せとけ。必ずお前を自由にしてやるから」

 

 「頼んだよ、七瀬」

 

 「任せましたわ」

 

 「よろしくお願いします」

 

 美奈兎、ソフィア、柚陽も手を重ねてくる。これは責任重大だな・・・

 

 「おう・・・って、そういや九美とニーナは?」

 

 俺の問いに、揃って苦笑するクロエ達なのだった。

 

 「あぁ、あの二人なら・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「納得できません!」

 

 「九美、落ち着いて」

 

 クロエ達に言われた通り、四糸乃姉の病室へとやってくると・・・

 

 九美がベッドの上の四糸乃姉に詰め寄っており、それをニーナが止めていた。

 

 「ゴメンね、くーちゃん・・・でも、もう決めたことだから」

 

 「どうしてですか!?私は反対です!」

 

 「はいはい。落ち着こうな、九美」

 

 後ろから九美の両肩を掴み、そのまま抱き寄せる。何があったか知らないが、怪我人なんだから安静にしてないとな。

 

 「な、七瀬兄さん!?」

 

 「あ、なーちゃん。お見舞いに来てくれたの?」

 

 「まぁな。身体の調子はどう?」

 

 「もう大丈夫だよ。一織お姉ちゃんからは、念の為もう少し入院しろって言われてるんだけど・・・ぶっちゃけ退屈だから、早く退院したいんだよね」

 

 溜め息をつく四糸乃姉。元気そうで良かった・・・

 

 「まぁ一織姉がそう言うんだから、もう少し入院しなよ。精神侵食って、自分が思ってるより身体に負担がかかるしな。経験者は語る、じゃないけどさ」

 

 「フフッ・・・それじゃあ諦めて、なーちゃんの進言通り大人しくしてようかな」

 

 微笑む四糸乃姉。と、九美が俺にしがみついてきた。

 

 「七瀬兄さん!四糸乃姉さんに何とか言ってやって下さい!」

 

 「おぉ、珍しく怒ってんな・・・どうした?」

 

 「九美は四糸乃に、ルサールカを辞めてほしくないみたい」

 

 ニーナが説明してくれる。あぁ、その話か・・・

 

 「大学部を卒業したって、ルサールカを続けるべきです!卒業したら辞めなきゃいけないルールなんてありませんし、理事長も引き止めて下さったそうじゃないですか!」

 

 「そうなんだけど・・・やっぱり私の意思は変わらないよ」

 

 苦笑する四糸乃姉。

 

 「ルサールカは、クインヴェールがプロデュースしてくれてるグループだから。卒業生がいるのは、やっぱりちょっと違うと思うんだよね」

 

 「ですが・・・!」

 

 「勿論、それだけが理由じゃないよ」

 

 九美の反論を遮る四糸乃姉。

 

 「ルサールカを辞めるのは・・・私の夢を叶える為でもあるんだ」

 

 「夢・・・?」

 

 首を傾げる俺。四糸乃姉が笑みを浮かべる。

 

 「私の夢はね・・・シーちゃんみたいな存在になることなの」

 

 「シルヴィみたいな・・・?」

 

 「うん。シルヴィア・リューネハイムといったら、世界のトップアイドルでしょ?皆がシーちゃんのことを、『至高の歌姫』と呼ぶ・・・私はそんなシーちゃんと、肩を並べられるような存在になりたいの」

 

 「四糸乃姉・・・」

 

 「ルサールカにいたら、きっと皆に甘えちゃうから・・・だからこそルサールカを辞めて、誰にも甘えられない環境に身を置きたいんだよ」

 

 キッパリと言う四糸乃姉。あの四糸乃姉が、そんなことを考えてたなんて・・・

 

 「だから・・・ゴメンね、くーちゃん。私は自分の意思を曲げられない」

 

 「・・・ズルいです、四糸乃姉さん」

 

 泣いている九美。

 

 「そんな夢を語られたら・・・もう何も言えないじゃないですか・・・!」

 

 「くーちゃん・・・」

 

 四糸乃姉に抱きつく九美。そんな九美をあやすように、頭を撫でる四糸乃姉。

 

 「ひっぐ・・・ぐすっ・・・」

 

 「フフッ・・・よしよし」

 

 ルサールカのボーカルとして歌う四糸乃姉に、九美はずっと憧れてたからな・・・だからこそ、ルサールカを辞めてほしくなかったんだろう。

 

 でも、四糸乃姉の夢を知った今なら・・・きっと応援してくれるだろう。

 

 ここは二人っきりにしておいてやるか・・・

 

 「・・・ニーナ」

 

 「・・・うん」

 

 そっと病室から出る俺達。四糸乃姉の方へ視線を向け、静かに手を振る。

 

 四糸乃姉は微笑み、口パクで『ありがとう』と言いながら手を振り返してくれたのだった。




どうも~、ムッティです。

今回から新章に突入しました。

シャノン「チーム・赫夜のこれからの展開は、オリジナルなんだよね?」

うん。今のところ《獅鷲星武祭》が始まる前までしか描かれてないからね。

準々決勝でチーム・ヘリオンに勝つけど、負傷して棄権っていう結末は明かされてるけど。

その後原作に登場はしたけど、クロエの処遇がどうなったか明かされてないし。

なので勝手にオリジナル展開にしてしまおうと思います。

シャノン「果たしてどうなることやら・・・」

まぁクロエの話は一旦ここまでにして、次回からクローディアの話に入っていきます。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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緊急事態

高橋未奈美さんと佐倉綾音さんの歌う『明日への扉』が良すぎる・・・


 ニーナをチーム・赫夜の病室へと送り届けた俺は、ロビーにあるソファに座って一息ついていた。

 

 ニーナから聞いたのだが、チーム・赫夜の皆はもう少し入院が必要らしい。少なくとも、《獅鷲星武祭》が終わるまでは入院するように言われているそうだ。

 

 まぁ、あれだけの重傷を負ったわけだしな・・・と、いきなり後ろから目隠しされる。

 

 「だ~れだっ♪」

 

 「《狂暴治癒師》」

 

 「だからその二つ名は止めてよ!?」

 

 涙目の一織姉。やれやれ・・・

 

 「仕事はどうしたんだ?」

 

 「今は休憩時間中よ」

 

 俺の隣に座る一織姉。

 

 「七瀬こそ、こんな所に来てて良いの?明日は準決勝なのに」

 

 「午後から皆でトレーニングするよ。といっても、今日は軽めにするけどな。明日に疲れを残すわけにもいかないし」

 

 「遂にチーム・黄龍との試合だもんね。勝てそう?」

 

 「勝てるか勝てないかじゃないさ。勝つよ」

 

 「おっ、頼もしいねぇ」

 

 笑っている一織姉。

 

 「でもその為には・・・《万有天羅》の一番弟子をどうにかしないとね」

 

 「・・・暁彗か」

 

 アイツには一回も勝てないまま、界龍での修行は終わったんだよな・・・

 

 最後の手合わせも、良いところまではいったけど負けちゃったし・・・

 

 「まぁそれを言ったら、他のメンバーも強敵だけどな。八重も順調に力をつけてるみたいだし、侮れないよ」

 

 「八重はずっと、七瀬を目標にして頑張ってたからね。七瀬と八重が《星武祭》で戦う日が来るなんて、私も歳をとったなぁ・・・」

 

 「年寄り臭いぞ」

 

 溜め息をつく俺。と、一織姉がポツリと呟いた。

 

 「・・・零香姉さんのこと、二葉から聞いたわ」

 

 「・・・そっか」

 

 二葉姉、やっぱり一織姉に話したんだな・・・

 

 「正直、驚きすぎて声も出なかったわ。まさか零香姉さんが当時、《蝕武祭》に参加してたなんて・・・全く気付かなかった」

 

 悔しそうに唇を噛む一織姉。

 

 「もし私が、少しでも異変に気付いていたら・・・」

 

 「止めろよ」

 

 強い口調で一織姉の言葉を遮る俺。

 

 「一織姉と二葉姉が、何も異変に気付かなかったんだ。だったら他の誰が零香姉と一緒にいたところで、誰も異変に気付けるわけがない。自分を責めるようなマネは止めろ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「もしもの話をしたって仕方ないだろ。俺達のすべきことは変わらない。零香姉を連れ戻して、ちゃんと罪を償わせる・・・あの時そう決めただろ」

 

 「・・・うん、そうだね」

 

 微笑む一織姉。

 

 「ゴメン、ちょっと落ち込んじゃってさ・・・七瀬の言う通り、私達のすべきことは変わらないよね。しっかりしなくちゃ」

 

 「・・・まぁ、俺も七海に気付かせてもらったんだけどな」

 

 苦笑する俺。

 

 「だからまぁ、あまり偉そうなことは言えないけど・・・自分を責めないでくれ。誰も一織姉のせいだなんて思ってないし、一織姉が自分を責めるところを見るのは・・・もう見たくないから」

 

 一織姉は責任感が強いから、何かあるとすぐ自分を責めるのだ。前々回の《獅鷲星武祭》の時もそうだった。

 

 『私のせいで負けてしまった』と言って号泣する一織姉を中継で見て、どれほど胸が痛かったか・・・

 

 「一織姉、俺・・・絶対優勝するから」

 

 「・・・うん、期待してる」

 

 笑みを浮かべ、俺に寄りかかってくる一織姉。

 

 「・・・ありがとね、七瀬」

 

 返事の代わりに、そっと一織姉の手を握る俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「う~っす」

 

 集合時間ギリギリにトレーニングルームへ行くと、既にユリス・綺凛・綾斗・紗夜が待っていた。

 

 「遅いぞ七瀬」

 

 「ゴメンゴメン。ちょっと治療院に行ってたもんだから」

 

 ユリスに苦笑しながら謝る俺。

 

 一織姉とまったりお喋りしてたら、いつの間にか時間ギリギリだったんだよな・・・

 

 「四糸乃さんや九美さん達はどうでしたか?」

 

 「もう大丈夫っぽいぞ。すっかり元気になってたし」

 

 「それなら良かった」

 

 綺凛の問いに頷くと、紗夜がホッとしたような表情を見せる。

 

 「色々と心配かけてゴメンな。もう大丈夫だから。とにかく今は、次のチーム・黄龍との戦いに集中しないとな」

 

 暁彗、セシリー、虎峰、沈雲、沈華、八重・・・全員が強敵であり、何の策も無しに勝てるような相手ではない。

 

 しっかり対策を練らないと・・・

 

 「そういや、クローディアはどうした?姿が見えないけど」

 

 「まだ来てない」

 

 「え・・・?」

 

 紗夜の返事にポカンとしてしまう俺。マジか・・・

 

 「いつも一番早く来てるのに・・・珍しいな」

 

 「まぁ大方、生徒会の業務が長引いているのだろう。それより・・・」

 

 俺をジト目で見てくるユリス。

 

 「七瀬、お前・・・クローディアと何があった?」

 

 「エ?何モ無イヨ?」

 

 「相変わらず嘘をつくのが下手だな・・・」

 

 呆れているユリス。

 

 「ここ最近のお前達は、どこかギクシャクしているからな。今までのような距離の近さが無くなっているし、何かあったことはバレバレだぞ」

 

 「・・・別に大したことじゃないさ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「俺がクローディアに信頼されていない・・・それだけの話だ」

 

 「それは無いでしょう」

 

 言い切る綺凛。

 

 「会長が一番信頼しているのは、間違いなく七瀬さんだと思いますよ?」

 

 「・・・その根拠は?」

 

 「信頼もしていない人を、自分の部屋に住まわせるなんて有り得ないでしょう。ましてや異性ですよ?会長は身持ちの堅い方ですし、普通そんなことしないと思います」

 

 「俺も綺凛ちゃんの意見に同感だな」

 

 綾斗までそんなことを言う。

 

 「何か困ったことが起きた時、クローディアはいつも七瀬を頼ってるじゃないか。そのクローディアが、七瀬を信頼してないなんて有り得ないよ」

 

 「・・・どうだろうな」

 

 本当の目的を何も教えてくれず、聞き出そうとしたら拒絶される・・・

 

 それで本当に信頼があると言えるのだろうか・・・?

 

 「力になりたいのに、それを許してくれない。もっと頼ってくれても良いのに、それをしようとしてくれない。俺としては、それが一番悲しいんだけどな・・・」

 

 「七瀬・・・」

 

 その場が重い雰囲気になりかけていた時、俺の端末に着信が入った。

 

 クローディアか・・・?

 

 「・・・って、レティシアじゃん」

 

 端末を操作すると、空間ウィンドウにレティシアの顔が映った。

 

 『もしもし!?七瀬!?』

 

 「レティシア?そんなに慌ててどうした?」

 

 『そこにクローディアはいまして!?』

 

 「クローディア?まだ来てないけど・・・珍しく遅刻みたいだぞ」

 

 『あぁ、やっぱり・・・!』

 

 焦っている様子のレティシア。どうしたんだ・・・?

 

 「クローディアに直接かけたら繋がるんじゃないか?」

 

 『繋がらないから七瀬にかけていますの!事は一刻を争うのですわ!』

 

 「・・・何かあったのか?」

 

 どうやらただ事ではないらしい。ユリス達も真剣な表情で聞いていた。

 

 『七瀬、今すぐクローディアを探し出して下さいまし!このままでは、クローディアが危険ですわ!』

 

 「ッ!?まさか、銀河が動いたのか!?」

 

 『そのまさかですわ!』

 

 苦々しい表情のレティシア。

 

 『先ほどガラードワースの諜報機関・・・《至聖公会議》から連絡が入りましたの!銀河の実働部隊が、アスタリスクに入ったそうですわ!』

 

 「実働部隊って・・・まさか、クローディアを消す為に!?」

 

 『その可能性が極めて高いですわ!』

 

 「ッ!ユリスと綺凛はクローディアの部屋へ向かってくれ!綾斗と紗夜は生徒会室の方を頼む!」

 

 「分かった!」

 

 「了解!」

 

 四人が大急ぎで走っていく。俺はレティシアへと視線を戻した。

 

 「レティシア、もう四の五の言ってる場合じゃない。クローディアの本当の目的を教えてくれ。それが分からないと、クローディアを救えないかもしれない」

 

 『・・・もう隠している場合ではありませんわね』

 

 溜め息をつくレティシア。

 

 『直接会って話しましょう。一応《至聖公会議》用に対策して通信していますが、もう長くはもたないでしょうから』

 

 「分かった。何処で落ち合う?」

 

 『人気の少ない場所が良いですわ。七瀬、密談に向いていそうな場所に心当たりは?』

 

 「いや、そんな心当たりあるわけ・・・あっ」

 

 一つ思い当たる場所があった。空間ウィンドウを操作し、マップをレティシアに送る。

 

 「そこで落ち合おう。すぐに向かう」

 

 『了解ですわ。ではまた後ほど』

 

 通信が切れる。俺はすぐにトレーニングルームを出て、走って現地へと向かう。

 

 「クローディア・・・!」

 

 クローディアの身を案じる俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

遂に事態が動き出しました。

シャノン「会長の身に危険が・・・」

ヤバいよね・・・よし、シャノンを影武者にしよう。

シャノン「私に死ねと!?」

あ、そもそも外見が違いすぎて無理か。

特に・・・チラッ。

シャノン「ちょ、今どこを見て言ったの!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「答えろおおおおおっ!」


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運命の相手

久々にポケモンやりたい・・・


 「確かにここなら、密談には向いているでしょうけど・・・」

 

 呆れているレティシア。

 

 「ビルの屋上を指定されるとは思いませんでしたわ・・・」

 

 「仕方ないだろ。ここぐらいしか思い当たらなかったんだから」

 

 俺とレティシアは、《歓楽街》にあるビルの屋上に来ていた。以前フローラが誘拐された時、シルヴィと待ち合わせした場所である。

 

 どうやらこのビルは長いこと使われていないらしく、中には入れないが屋上なら人の目を気にすることも無い・・・って、前にイレーネが教えてくれたんだよな。

 

 シルヴィとの待ち合わせにこの場所を使ったのも、イレーネの助言があったからだったりする。

 

 「まぁ良しとしましょう・・・それより、クローディアは見つかりましたの?」

 

 「・・・どうやら遅かったらしい。クローディアは、既に襲撃を受けたみたいだ」

 

 「ッ!?」

 

 息を呑むレティシア。

 

 先ほどユリスから連絡があり、クローディアの部屋の内部を見せてもらったが・・・酷い有り様だった。

 

 メチャクチャに荒らされており、ところどころ血痕が飛び散っていたのだ。恐らく、多人数でクローディアを襲ったのだろう。

 

 「では、クローディアはもう・・・」

 

 「いや、逃げた可能性が高いらしい」

 

 絶望の表情を浮かべるレティシアに対し、首を横に振る俺。

 

 「もし実働部隊がクローディアの暗殺に成功したなら、現場の後始末ぐらいはしていくだろう。それをしなかったということは、それをするだけの余裕が無かった・・・つまりクローディアに逃げられ、後を追うことを優先した結果である可能性が高い・・・って、これは現場を見た綺凛の推測だけどな」

 

 血の量も多くなかったらしく、致命傷を負ったとは考えにくいそうだ。

 

 それなら、まだクローディアは生きていると考えて良いだろう。

 

 「良かった・・・まだクローディアは生きているのですね・・・!」

 

 「あぁ。ただ、一刻も早く見つけないと危険だ。実働部隊から逃げてるだろうしな」

 

 綾斗からも連絡があったが、生徒会室の方にはいなかったそうだ。

 

 まぁ、星導館の内部にいる可能性は低いだろうな・・・恐らく、学園の外まで逃げているはずだ。

 

 「俺も早くクローディアを探しに行きたいけど・・・その前に聞いておかないとな」

 

 レティシアを見つめる俺。

 

 「レティシア、教えてくれ。クローディアの目的は何だ?アイツは何が目的で、こんな自殺行為みたいなことをしてるんだ?」

 

 「・・・誰にも口外しないという約束でしたが、この状況では致し方ありませんわね」

 

 溜め息をつくレティシア。

 

 「順を追って話しましょう。私とクローディアは子供の頃から、欧州の武闘大会で毎年のように優勝を競い合うライバルでした・・・まぁ、私は一度も勝てなかったのですが」

 

 悔しそうなレティシア。

 

 それでレティシアは、クローディアに勝つことに執念を燃やしてるわけか・・・まるで一時期のレスターだな・・・

 

 「ところが、ある年の武闘大会でのクローディアは・・・いつもと様子が違いました。明らかに調子が悪そうであるにも関わらず、珍しく浮かれた表情を見せていたのです。どうやらその時、彼女は《パン=ドラ》を手に入れた直後だったようですわね」

 

 「・・・《パン=ドラ》って、星導館の学有純星煌式武装だよな?まだ星導館の学生じゃなかったクローディアが、その時にはもう《パン=ドラ》を保有していたのか・・・?」

 

 「えぇ。まぁ彼女の場合、母親が母親ですから。娘に純星煌式武装を渡すなんて、容易いことだったと思いますわ」

 

 「・・・俺には理解出来ないわ」

 

 イザベラさんが、《パン=ドラ》の代償を知らなかったはずが無い。

 

 それを知ってて娘に渡すとは・・・とてもじゃないが、母親のやることとは思えない。

 

 「まぁそれは置いておくとして・・・クローディアはその時、こう言っていたのです。『やっと私にも、叶えたい望みというものが出来ました』と」

 

 「叶えたい望みって?」

 

 「私も聞いたのですが、教えてもらえませんでしたわ。そこで私は、決勝戦で勝利したら教えてくれと賭けを持ち出したのです」

 

 「結果レティシアは負けて、結局何も教えてもらえなかったと・・・お疲れさん」

 

 「ちょっと待ちなさいな!?」

 

 クローディアを探しに行こうとした俺の襟首を、レティシアが掴んだ。

 

 「何故私が負けたと決め付けるのですか!?」

 

 「だって一度も勝てなかったって言ってたじゃん」

 

 「それはそうですが!引き分けという可能性もあるでしょう!」

 

 「・・・フッ」

 

 「あっ!?鼻で笑いましたわね!?」

 

 「寝言はそのモッサモサの髪を刈ってから言えや」

 

 「私の髪は羊の毛ではありませんわよ!?とにかく話を聞いて下さいまし!」

 

 レティシアは一通りツッコミを入れると、真剣な表情で話し出した。

 

 「明らかに体調を崩していたクローディアとの決勝戦は、引き分けという結果になりましたの。これは本当のことですわよ!?」

 

 「大丈夫、疑ってないから・・・フッ」

 

 「明らかにバカにしてますわよねぇ!?」

 

 「そんなわけないだろ。ツッコミとか良いから、早く続きを話してくれよ」

 

 「・・・納得いきませんが、まぁ良いでしょう。試合終了後、クローディアは私にこう言ったのです。『誰にも口外しないなら、私の望みを半分だけ教えて差し上げましょう』と」

 

 「半分・・・?」

 

 つまりクローディアの望みは二つあるのか・・・?

 

 「それで、クローディアの望みって?」

 

 「運命の相手に身を捧げること、だそうですわ」

 

 「・・・クローディアってそんなキャラだったっけ?」

 

 「私もポカンとしてしまいましたわ。しかもその運命の相手とやらを聞いても、『まだお会いしたことがない』とのことでしたから」

 

 「いや、会ったことがないって・・・」

 

 そこまで言いかけたところで、俺は一つの可能性に思い至った。

 

 《パン=ドラ》・・・運命の相手・・・会ったことがない・・・

 

 「おい、まさか・・・」

 

 「そのまさかでしょうね」

 

 溜め息をつくレティシア。

 

 「クローディアは、《パン=ドラ》の悪夢の中で運命の相手に出会った・・・そう考えて間違いないでしょう」

 

 「その相手に身を捧げる為、アイツはアスタリスクへ来たのか・・・?」

 

 ちょっと待てよ?そういやクローディアのヤツ、綾斗を『先見の明』とか言って特待生として星導館に迎え入れてたよな・・・

 

 生徒会長としての権力を使って、スカウト陣の猛反発を押し切ってまで・・・

 

 「まさか、クローディアの言う運命の相手って・・・綾斗か!?」

 

 「私も最初はそう思いましたが・・・違いましたわ」

 

 首を横に振るレティシア。

 

 「確かにクローディアは、天霧綾斗を強引に特待生として推挙しています。ですが、もし天霧綾斗が運命の相手だとするなら・・・辻褄が合わないのです」

 

 「どういうことだ?」

 

 「クローディアはどのような相手に対しても、一定の距離を置く傾向にあるのですわ。身内や友人に対しても、ある一定の距離から先へは踏み込もうとしません。相手にも踏み込ませず、常に一定の距離を保つ・・・天霧綾斗も、その例外ではありませんでした」

 

 「・・・まぁ確かにアイツ、そういうところがあるよな」

 

 常に笑顔で愛想は良いが、心の奥底は誰にも見せない・・・それがクローディア・エンフィールドという人間だ。

 

 「ですが・・・ただ一人だけ、クローディアが心を許している人物がいるのです」

 

 俺を見つめるレティシア。

 

 「七瀬、貴方ですわ」

 

 「俺!?」

 

 思わず驚きの声を上げてしまう。そんなバカな・・・

 

 「えぇ、貴方です」

 

 レティシアが頷く。

 

 「クローディアの七瀬に対する態度は、他の方々に対する態度とは違いますわ。私が初めて七瀬と出会った時のことを覚えていて?」

 

 「あぁ、《鳳凰星武祭》の開会式の後だろ。アーネストと一緒に、俺と綺凛の控え室に来てくれて・・・確かあの時、クローディアもいたよな」

 

 「そうですわ。あの時のクローディアの笑顔・・・『望みができた』と言って、珍しく浮かれていた時のクローディアの笑顔そのものでしたわ」

 

 「・・・そうか?いつもと変わらなかったと思うけど・・・」

 

 「クローディアとは子供の頃からの付き合いですから、これでも表情の違いくらいは分かりますわ。いつものクローディアの笑顔は、あくまで外面を良くする為のもの・・・要は作りものの笑顔なのです。ですが七瀬と一緒にいる時のクローディアは、本当の笑顔でした。七瀬がクローディアの言う運命の人なのだと、あの時分かりましたわ」

 

 「・・・その運命の相手が俺だったとして、だ。それならそもそも、銀河を敵に回すような行動を取る意味は無いはずだよな?」

 

 「そこがクローディアの望みの、残りの半分の部分だと思いますの。七瀬、何か心当たりはありませんの?」

 

 「・・・全く無いな。クローディアに本当の目的を聞いてみたけど、『教えられない』の一点張りでさ・・・」

 

 クローディアの望みの半分は、運命の相手に身を捧げる・・・

 

 ・・・身を捧げる?

 

 「なぁレティシア、身を捧げるってまさか・・・命を捨てるってことじゃないよな?」

 

 「っ・・・運命の相手の為に、自分自身の命を投げ出すということですの・・・?」

 

 「でもそれだと、銀河を敵に回す意味が無いよな・・・わざわざそんなシチュエーションを用意するなんて、自殺行為にもほどがあるし・・・」

 

 「自殺・・・」

 

 そこでレティシアが、ハッとした表情を浮かべる。

 

 「まさか、クローディア・・・《パン=ドラ》によって何度も死を体験させられて、生きる価値を見出せなくなってしまったのでは・・・」

 

 「でもそれだと、運命の相手とやらはどうなるんだよ?」

 

 「もしもクローディアが、運命の相手が出てきた夢を再現しようとしているのだとしたら・・・その夢の結末が、クローディアにとって幸せな死だったとしたら・・・」

 

 「確か《パン=ドラ》の見せる悪夢は、不確定ではあるけど有り得る未来・・・つまりクローディアの行動次第で、それを現実に出来る可能性がある・・・」

 

 つまりクローディアは、本気で命を捨てようとしているってことか・・・?

 

 「・・・あくまでも推測の域を出ませんが、有り得ない話ではありませんわ」

 

 顔が青ざめているレティシア。

 

 「そう考えると、これまでのクローディアの行動に辻褄が合います。あえて自分を不利な状況に追い込んでいたのも、最初から命を捨てる気だったから・・・」

 

 「・・・嘘だろオイ」

 

 じゃあアイツは、死ぬ為にアスタリスクへやって来たっていうのかよ・・・

 

 「もしそれが本当なら・・・俺はクローディアを許せないわ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「・・・とにかく今は、クローディアを探すことが先決だな」

 

 深く息を吐く俺。

 

 「ありがとな、レティシア。後は俺達に任せて、お前はガラードワースに戻ってくれ。お前が動いていることがバレたら、運営母体のE=Pが黙ってないだろうから」

 

 E=Pを含めた他の統合企業財体は、恐らく今回の銀河の動きを静観するだろう。銀河がクローディアの暗殺に成功しても失敗しても、銀河の弱みを握ることができるのだから。

 

 その意向に逆らったら、レティシアに何かしらの処罰が下されてもおかしくない。レティシアもそれが分かっているようで、悔しそうに唇を噛む。

 

 「・・・申し訳ありませんわ」

 

 「いや、謝るのはこっちだよ。クローディアとの約束、破らせちゃってゴメンな」

 

 レティシアは静かに首を横に振ると、俺に小さなお守りを渡してきた。

 

 「これは・・・?」

 

 「昔、クローディアから誕生日にプレゼントされたお守りです。何でも、幸運が巡ってくるのだとか・・・彼女を見つけたら、それを渡して下さいませ」

 

 真剣な表情のレティシア。

 

 「七瀬・・・クローディアを頼みましたわ」

 

 「あぁ、任せとけ」

 

 レティシアは俺に一礼すると、ビルから飛び降りて姿を消した。

 

 さて・・・

 

 「盗み聞きとはいい度胸だな・・・夜吹」

 

 「ありゃ・・・バレてたか」

 

 物陰から姿を現す夜吹。

 

 「いつから気付いてた?」

 

 「最初からだよ。俺が学園を出た時から、ずっと後をつけてただろ」

 

 「おいおいマジか・・・じゃあ何でずっと黙ってたんだよ?」

 

 「お前に聞きたいことがあったからだよ・・・《影星》のエージェントであるお前にな」

 

 「ッ!?」

 

 驚愕している夜吹。

 

 「お前・・・何でそれを・・・」

 

 「その反応・・・やっぱりそうか」

 

 俺は溜め息をつくと、夜吹を睨むのだった。

 

 「クローディアは何処だ・・・『ナイトエミット』」

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「会長にとって、ななっちが運命の相手だったと・・・」

この設定は最初から考えてたんだけどね・・・

問題は、ヒロインがシルヴィということなんだ・・・

シャノン「ここでヒロイン複数化構想が再燃するわけか・・・」

まぁどうなるか分からないけどね。

とりあえず話を進めていきたいと思います。

シャノン「私にもヒロインになれる可能性が・・・」

それだけは絶対に無い。

シャノン「断言!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「どうせモブキャラだよおおおおおっ!」


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ナイトエミット

今年の梅雨は、本当にガッツリ雨が降るなぁ・・・


 「何で七瀬がその名前を・・・」

 

 呆然としている夜吹。俺は溜め息をついた。

 

 「界龍で修行してる時、冬香が言ってたんだよ。日本で特異な血族を形成している集団は、『梅小路』と『夜吹』の二つしかないってな」

 

 「・・・《神呪の魔女》か」

 

 「あぁ、その時に教えてもらったんだ。『夜吹の一族』・・・通称『ナイトエミット』は、銀河からの依頼を専属で請け負っていると。星導館にいる夜吹英士朗っていう男は、恐らくその一族の一員だろうってさ」

 

 「・・・ったく、余計なことを喋ってくれるなぁ」

 

 溜め息をつく夜吹。

 

 「で、俺が《影星》のエージェントだって分かったのは何でだ?」

 

 「単なる推測だよ。そんな一族の一員であるお前が、銀河の運営する星導館にただの生徒として在籍してるわけがない。それに、お前と似たような立場のヤツも知ってるしな」

 

 クロエも《べネトナーシュ》の一員でありながら、クインヴェールの生徒として在籍している。夜吹もそのパターンだろう。

 

 「やれやれ、お前さんには敵わないわ・・・まさかバレてたとはな」

 

 呆れている夜吹。

 

 「ただ、一つだけ訂正させてもらうぜ。俺は確かに『夜吹の一族』の血を引いてはいるが、既に里を出た身だ。別に縁は切れちゃいないが、銀河からの任務に一族の一員として参加することは無い」

 

 「・・・やっぱり実働部隊ってのは、お前の一族のことか」

 

 「みたいだな。久しぶりに親父殿と会ったが、『任務の邪魔はするな』って釘を刺されたよ。ったく、あれが息子に対する扱いかっての」

 

 「親父殿・・・?」

 

 「あぁ。『ナイトエミット』を率いてんのは、俺の親父さ」

 

 「・・・マジかよ」

 

 つまり夜吹は、一族の長の息子ってことか・・・

 

 「・・・何か俺、お前の親父さんに同情するわ」

 

 「何でだよ!?」

 

 「だって里を出た息子がグレて、マスゴミに成り下がってんだぞ?」

 

 「グレてねーわ!そこそこまともな学生生活を送ってるわ!」

 

 「諜報工作機関にいる時点でまともではないだろ」

 

 「急に正論!?それ言われたら何も言えねぇ!」

 

 「おい、北●康介の名言パクんなよ」

 

 「パクってねぇし、そんなつもりも無かったわ!」

 

 ツッコミの入れ過ぎでゼェゼェ言っている夜吹。

 

 「お前のおふざけに付き合ってる時間は無い。クローディアは何処だ?」

 

 「ふざけてたのはお前だ、っていうツッコミは置いといて・・・素直に教えるとでも?」

 

 夜吹が笑みを浮かべる。

 

 「今回《影星》は、『ナイトエミット』のバックアップに回っている。つまり会長を助けようとしているお前さんと、《影星》のエージェントである俺は・・・敵同士ってわけだ」

 

 「あっそ。じゃあ自分で探すわ」

 

 「ちょっと待てええええええええええ!」

 

 その場を去ろうとする俺を、必死に止めてくる夜吹。

 

 「そこは『力ずくでも吐いてもらう!』っていう展開じゃねーの!?」

 

 「あぁ、あるよなそういう展開。『戦ってる暇があるなら早く探せよ』って思うけど」

 

 「何でそんな冷めた見方してんの!?」

 

 「いや、熱血系主人公ってちょっと苦手なんだよね。特に綺麗事しか言わない主人公とか、マジでイライラするんだよ」

 

 「性格が捻じ曲がりすぎじゃね!?ってか誰のこと言ってんの!?」

 

 「まぁそんなわけで、俺はクローディアを探しに行くから。じゃあな」

 

 「だから待てって!?会長の居場所を教えてやるから!」

 

 「え、教えてくれんの?」

 

 夜吹の方を振り向く俺。

 

 「さっさと教えろマスゴミ。クローディアは何処だ?」

 

 「だからその呼び方は・・・まぁいいや。会長なら、学園の港湾ブロックにいるぞ」

 

 「港湾ブロック・・・あぁ、学園の外縁にある場所か」

 

 港湾ブロックは星導館の敷地ではあるが、普段学生が立ち入ることは無い。

 

 主に物資を貯蔵しているエリアなので、倉庫街みたいなものだからだ。

 

 「ってことは、まだクローディアは星導館の敷地内にいるのか?てっきり学園の外に逃げたと思ってたけど・・・」

 

 「都市部へ逃げられると、いくら銀河といえども証拠隠滅が難しいからな。だからこそ学園の敷地内で、最も人目につかない場所へ追い立てようってわけさ。まぁ会長の部屋で暗殺に失敗した時点で、『ナイトエミット』にとっては失態だけどな」

 

 してやったりな表情の夜吹。

 

 「まさかお前、クローディアに情報を・・・?」

 

 「まぁな。絶賛反抗期中なもんで、親父殿の言うことを聞きたくないんだよ」

 

 愉快そうに笑う夜吹。

 

 「まぁ、俺も会長をそれなりに気に入ってるしな。こんなところで死んでほしくないってのが本音なんだわ」

 

 「夜吹・・・」

 

 「ってなわけで、以上が俺の知っている情報だ。信じる信じないは七瀬の自由だぜ」

 

 そう言っておちゃらける夜吹。

 

 俺の自由、ね・・・

 

 「・・・信じるさ。お前はこういう場面で嘘をつくヤツじゃない」

 

 「お、一応信頼はしてくれてんのか?嬉しいねぇ」

 

 「・・・それなりにな。ってか、こんな簡単に情報を流して大丈夫か?」

 

 「気にすんな。『ナイトエミット』にも《影星》にも、忠誠を誓う義理はねぇよ。俺は俺のやりたいようにやる・・・そんだけだ」

 

 「・・・お前らしいわ」

 

 俺は苦笑すると、夜吹を見つめた。

 

 「クローディアは必ず助ける。後は任せとけ」

 

 「・・・気を付けろよ。親父殿は相当強いぞ」

 

 「生憎、界龍でバケモノとは戦い慣れたんだよ。星露との手合わせに比べたら、こっちの方が遥かにマシだ」

 

 俺の返答に、夜吹が苦笑する。

 

 「ハハッ、どうやら心配は要らないみたいだな」

 

 拳を突き出してくる夜吹に、拳を軽くぶつける俺なのだった。

 

 「後は任せた」

 

 「あぁ、任された」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 《クローディア視点》

 

 「はぁっ・・・はぁっ・・・」

 

 何とか追っ手から逃れた私は、コンテナの陰に身を潜めていました。コンテナに背中を預け、ゆっくり呼吸を整えます。

 

 「・・・ふぅ」

 

 少し落ち着いて空を見上げると、分厚い雲からポツポツと雨粒が落ちてきました。

 

 確か予報では、次第に雨脚が強まっていくと言っていましたっけ・・・

 

 「・・・流石に厳しいですね」

 

 自分の身体へと目を向けると、制服があちこち破れて血が滲んでいます。

 

 幸い軽傷で済んでいますが、問題は疲労です。明け方に襲撃されてから、既に半日近い時間が経過しています。

 

 その間ずっと追ってから逃げていたので、正直もう疲労困憊です。

 

 「覚悟はしていましたが・・・しんどいですね」

 

 思わず溜め息をついてしまいます。

 

 まぁ夜吹くんからの情報のおかげで、何とか奇襲に対処することが出来たのは良かったですけどね。

 

 こうなることを見越して、七瀬を男子寮に移しておいて正解でした。

 

 「・・・七瀬」

 

 正直、七瀬には全てを話してしまいたかった。

 

 私がアスタリスクへ来た理由、叶えたい望み・・・出来ることなら、隠すことなく打ち明けてしまいたかった。

 

 でも・・・

 

 「・・・出来るわけないじゃないですか」

 

 七瀬は本当に優しい人です。全てを話したら、七瀬は絶対に私を止めようとしたでしょう。

 

 だからこそ、七瀬だけには話すわけにはいきませんでした。たとえ七瀬が、私に失望したとしても・・・

 

 「・・・七瀬のあんな表情、見たくなかったですね」

 

 自らの願いを叶える為に、世界で一番大切な人を傷付けてしまった・・・本当に私は、どうしようもなく愚かな人間です。

 

 それでも・・・

 

 「スミマセン、七瀬・・・もう引き返せないんです・・・」

 

 生きる価値を見出せなくなった私が、初めて叶えたいと思った望み・・・私は命を賭けて、その望みを叶えてみせます。

 

 「・・・信じてますよ、七瀬」

 

 空を見上げつつ、小さく呟く私なのでした。

 




どうも~、ムッティです。

シャノン「夜吹くん、ただ者じゃなかったんだね・・・」

そうそう。シャノンは知らないふりしといてね。

シャノン「いや、そもそも物語に出てくる私は何も知らない設定だから」

いや、設定って・・・まぁそうだけども。

シャノン「そして会長・・・やっぱりななっちのことが・・・」

果たしてクローディアはどうなってしまうのか・・・

ヒロイン複数化構想は実現するのか・・・

今、作者の手腕が問われるッ!

シャノン「本音は?」

マジでどうしよう・・・

シャノン「正直でよろしい」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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影星

そういや、レスターとランディが全然登場してないじゃん・・・


 「それにしても、夜吹が《影星》の一員だったとはな・・・」

 

 溜め息をつくユリス。

 

 ユリス達と合流した俺は、夜吹から教えてもらった地下通路を通って港湾ブロックへと向かっていた。

 

 「しかもクローディアを襲っている実働部隊が、アイツの一族だったとは・・・」

 

 「すっかり騙された。帰ったらぶん殴る」

 

 不機嫌そうな紗夜。夜吹、ドンマイ・・・

 

 「まぁまぁ。その夜吹のおかげで、クローディアの居場所が分かったんだからさ」

 

 「この地下通路も、夜吹先輩が教えて下さったわけですし」

 

 ユリスと紗夜を宥める綾斗と綺凛。まぁ夜吹には感謝しないとな・・・

 

 そんなことを思いながら歩いていた時だった。

 

 「お、出口が見えてきたぞ」

 

 通路の先がほんのり明るくなっていた。走って外へと出てみると・・・

 

 「っ・・・酷い天気だな・・・」

 

 激しく打ち付けてくる雨粒に、顔を顰めているユリス。

 

 そういや、雨脚が強まるって天気予報でも言ってたっけ・・・

 

 「ここが港湾ブロック・・・」

 

 「・・・初めて来た」

 

 辺りを見回す綾斗と紗夜。

 

 巨大なクレーンや倉庫が立ち並び、向こうにはコンテナが積まれているのが見える。

 

 既に周囲は薄暗く、辺りに人の気配は・・・

 

 「・・・ざっと十人ってとこか」

 

 「七瀬さん・・・?」

 

 「《超電磁砲》」

 

 首を傾げている綺凛をよそに、俺は《超電磁砲》を倉庫の一つに撃ち込んだ。

 

 撃ち込まれた倉庫は爆発し、煙を上げて炎上している。

 

 「七瀬!?何してんの!?」

 

 「三人くらい屠っただけだよ」

 

 「え・・・?」

 

 驚いている綾斗にそう答えると、俺は声を張り上げた。

 

 「ああなりたくなかったら、大人しく姿を見せろ!」

 

 その直後、次々と人影が現れる。全員フードを被っており、顔を窺い知ることは出来ない。

 

 中心に立つ人物が、苦々しい声で話しかけてきた。

 

 「・・・容赦ないですね。死んではいないようですが、相当な重傷だと思いますよ?」

 

 「命をかける覚悟も無い奴らが、俺達の前に立ちはだかるんじゃねぇよ」

 

 声の主を睨み付ける俺。

 

 「また俺の前に姿を見せるとは・・・良い度胸してんな、サイラス」

 

 「「なっ!?」」

 

 驚愕するユリスと綾斗。フードを取ったサイラスが、深く溜め息をついた。

 

 「流石は七瀬さんですね・・・バレていましたか」

 

 「・・・まさか、またお前と会うことになるとはな」

 

 アルルカントと通じて星導館の有力な学生を襲い、ユリス・レスター・ランディに怪我を負わせた張本人・・・

 

 《影星》が処理を一任されていたはずだが・・・

 

 「コイツら《影星》だろ?何でお前が一緒にいる?」

 

 「苦肉の選択というやつですよ」

 

 忌々しそうな表情のサイラス。

 

 「星導館が僕をダシにしてアルルカントと取引を行った以上、僕が自由になることは金輪際有り得ません。そんな時、《影星》に入らないかと誘われたんです。地下に繋がれたままでいるか、使い捨ての駒になるか・・・後者を選ぶしかありませんでした」

 

 「そんなもの自業自得だ」

 

 バッサリ切り捨てるユリス。

 

 「お前のくだらない選択に興味は無い。大人しくそこを退け」

 

 「それは出来ない相談ですね、ユリスさん」

 

 サイラスが指を広げると、いくつかのコンテナが空中に浮かび上がった。

 

 「銀河から『ナイトエミット』のバックアップを任されている以上、貴方達をここから先へ通すわけにはいきません。大人しく帰るか、我々《影星》とやり合うか・・・どちらを選びますか?」

 

 「どどーん」

 

 ヴァルデンホルト改を展開した紗夜が、浮かび上がったコンテナ全てに銃弾を撃ち込んだ。

 

 爆発して崩壊するコンテナ。

 

 「くだらない質問は止せ。私達は本気」

 

 「・・・でしょうね」

 

 サイラスは苦笑すると、別のコンテナを浮かび上がらせた。

 

 「そうこなくては、こちらとしても面白くありません」

 

 「・・・七瀬さん」

 

 綺凛が小さく呟く。

 

 「ここは私達が何とかします。七瀬さんは会長のところへ行ってください

 

 「・・・良いのか?サイラスはともかく、他の《影星》は結構な手練っぽいぞ?」

 

 「こんなところで、無駄に時間を使っている場合ではないからな」

 

 ユリスが真剣な表情で俺を見る。

 

 「お前なら、クローディアが何処にいるか分かるだろう?アイツも相当疲弊しているだろうし、早く合流してやらないと危ない」

 

 「・・・分かった。ありがとな」

 

 「内緒話は終わりましたか?」

 

 サイラスが手を振り下ろす。

 

 「なら・・・そのまま潰れてしまいなさい!」

 

 コンテナが俺達に向かって落下してくる。紗夜がヴァルデンホルト改を構えた。

 

 「どどーん」

 

 コンテナが爆発すると同時に、俺はその場から駆け出した。

 

 フードを被った《影星》達が止めようとしてくるが・・・

 

 「はぁっ!」

 

 「やぁっ!」

 

 綾斗と綺凛が割って入り、相手の攻撃を受け止めてくれる。

 

 「逃がしませんよ!」

 

 サイラスが新たなコンテナを俺にぶつけようとするが・・・

 

 「咲き誇れ!六弁の爆焔花!」

 

 ユリスがコンテナを爆発させ、それを防いでくれる。俺はサイラスとの距離を詰めた。

 

 「《雷華崩拳》ッ!」

 

 「がっ・・・!?」

 

 サイラスの顔面に、雷を纏った拳を叩き込む。

 

 炎上している倉庫に吹き飛んでいくサイラスを見ることもなく、俺は雨の港湾ブロックを駆けるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 《クローディア視点》

 

 「はぁっ・・・はぁっ・・・!」

 

 私は水溜りの中に身体を沈め、荒い呼吸を繰り返していました。

 

 全身に刻まれた傷から流れる血が水溜りに溶け、最早血溜まりのようになっています。

 

 「・・・大したもんだわい」

 

 少し離れた位置に立っている老人が、感心したように呟く。

 

 「奇襲から逃げ、追っ手をかわし、儂の攻撃をここまで凌ぐとは・・・素直に賛辞に値するのう」

 

 「フフッ・・・光栄です・・・!」

 

 何とか力を振り絞り、ゆっくりと立ち上がる。

 

 「『ナイトエミット』のご当主に・・・褒めていただけるとは・・・!」

 

 そう、この老人こそが『ナイトエミット』の長・・・夜吹憮塵斎。

 

 その名は襲名制であり、一族の中で一定の技量に達した者の中から選出されるそうです。場合によっては空位となることもあるらしいその名を、目の前の老人は四十年近く前に襲名したと聞いています。

 

 自ずとその力量が窺い知れるというものですが、実際に対峙して痛感しました。

 

 この老人は・・・相当強い。

 

 「しかし分からんのう。そこまであがいて時間を稼いで、一体何になるというんじゃ?結末が変わらんことくらい、お嬢ちゃんも分かっておろうに・・・それとも、お嬢ちゃんほどの者でも生にしがみつきたくなるもんかの?」

 

 「フフッ・・・それなら最初から・・・銀河を敵に回したりしませんよ・・・!」

 

 私は今、胸の高鳴りが止まりませんでした。全身ボロボロだというのに、気分が高揚して仕方ありません。

 

 「もうすぐです・・・もうすぐなんですよ・・・!」

 

 「・・・お嬢ちゃん、相当イカれておるのう」

 

 溜め息をつく憮塵斎殿。

 

 「まぁ良い・・・すぐ楽にしてやるわい」

 

 「こっちのセリフだクソジジイ」

 

 私の耳に、聞き慣れた声が届きました。

 

 あぁ、来て下さったんですね・・・!

 

 「テメェの残り少ない命・・・今ここで終わらせてやるよ」

 

 憤怒の表情を浮かべた七瀬が、私を庇うように立つのでした。




どうも~、ムッティです。

シャノン「久々にサイラスくん出てきたね」

まさかの再登場だよね。

原作を読んだ時は驚いたけど、また登場するのかなぁ・・・

シャノン「《影星》の一員なら、また登場するかもね」

っていうか、原作でランディが全然出てこないんだけど。

シャノン「確かに・・・って、それを言ったらこの作品もでしょ。レスターくんですら出てこないし」

完全に空気になっちゃったよね・・・

まぁ近々再登場する・・・はず。

シャノン「断言はしないんだね・・・」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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夜吹憮塵斎

まだ六月だというのに、どうしてこんなに暑いのか・・・


 「《雷帝》・・・星野七瀬か」

 

 俺を見据える老人。

 

 こうして対峙してみると、凄まじい威圧感だな・・・

 

 「アンタが夜吹英士朗の父親か?」

 

 「うむ、夜吹憮塵斎じゃ。いつも愚息が迷惑をかけておるの」

 

 「全くだよ。一から教育し直してくんない?」

 

 「かかっ!言いおるわ!」

 

 愉快そうに笑う憮塵斎。

 

 「で、一応聞いておくが・・・何の用かの?」

 

 「じゃあ、一応答えておくが・・・クローディアを助けに来た」

 

 憮塵斎と俺の視線がぶつかる。

 

 「無理を承知で頼むけど、引いてくんない?」

 

 「かかっ!その実直さは嫌いではないが、生憎そうもいかんのよ」

 

 手に持っている錫杖を鳴らす憮塵斎。

 

 「こちらも無理を承知で頼むが、引いてはくれぬかの?儂はこう見えても、無駄な殺生は好まんのでな」

 

 「生憎、俺も仲間を見捨てられないんだよ」

 

 お互い引く気はゼロ・・・戦うしかないようだ。

 

 「悪いんだけど、一分だけ待ってくんない?クローディアと話がしたいんだけど」

 

 「・・・まぁ良かろう」

 

 憮塵斎が頷く。

 

 俺はクローディアの方を振り返った。全身ボロボロで、あちこちから出血している。

 

 「・・・酷い有り様だなオイ」

 

 「フフッ・・・流石に疲れました・・・」

 

 足元がふらついてバランスを崩すクローディアを、そっと受け止めて地面に座らせる。

 

 「大人しく座って待ってろ。すぐに終わらせるから」

 

 俺はそこでレティシアの言葉を思い出し、ポケットからお守りを取り出した。

 

 「これ、レティシアから預かった。お前に渡してほしいんだってさ」

 

 「え・・・?」

 

 戸惑っているクローディア。俺はお守りを、クローディアの内ポケットへと入れた。

 

 「幸運が巡ってくるお守りなんだって?お前もこういうプレゼントを、人に贈ったりするんだな」

 

 「え、えぇ・・・でも、こんなの私は・・・」

 

 「何で戸惑ってるんだよ・・・じゃ、行ってくるわ」

 

 「あっ・・・」

 

 俺がクローディアに背を向けると、クローディアが俺の制服の袖を掴んできた。

 

 「七瀬・・・どうかご無事で・・・」

 

 「おう」

 

 短く返答し、憮塵斎と向き合う俺。

 

 「悪い、待たせた」

 

 「儂の方こそすまんのう。最期の逢瀬くらいゆっくりさせてやりたかったが、これ以上時間をかけるわけにもいかんのよ」

 

 「最期なのはアンタの方だろ。遺書の準備は出来てんのか?」

 

 「かかっ!本当に言いおるわい!」

 

 憮塵斎が笑みを浮かべた瞬間・・・その手元から飛苦無が放たれる。

 

 俺は雷を放出し、飛んでくる飛苦無をなぎ払った。

 

 「悪いが、俺に飛び道具は効かないぞ」

 

 「そのようじゃのう。厄介な能力を持ちよって・・・」

 

 今度は弧を描きながら手裏剣を投げてくる憮塵斎。

 

 再び雷でなぎ払ったものの、一瞬目線を切った隙に憮塵斎が姿を消す。

 

 「ッ!?」

 

 咄嗟にしゃがむと、俺の首があった場所を憮塵斎の錫杖が通過していた。

 

 「はぁっ!」

 

 「ぐっ!?」

 

 憮塵斎の顎に下から拳をぶちかます。よろめいたところに、今度は脇腹へ膝蹴りをお見舞いした。

 

 「がっ!?」

 

 吹き飛んでいく憮塵斎。しかし流石と言うべきか、空中で一回転して着地した。

 

 「ふぅ・・・お主、なかなかやりおるの。あの攻撃は、相手に気配さえ悟らせぬというのに・・・何故かわすことが出来た?」

 

 「さぁな。ボケない為の脳トレだと思って考えてみろや」

 

 相手の星辰力の波動が読めて助かったな・・・

 

 気配がまるで感じられなかったし、能力が無かったら今の攻撃で終わってたわ・・・

 

 「・・・まぁ良い。真正面から刎ねるだけよ」

 

 憮塵斎の身体がゆらりと揺らぎ、次の瞬間には俺の間合いに現れる。

 

 俺は咄嗟に首筋へ星辰力を集中させた。そこへ憮塵斎の錫杖による攻撃が当たる。

 

 「ぐっ・・・!」

 

 「ぬっ!?」

 

 驚いている憮塵斎をよそに、俺はありったけの雷を放出した。

 

 「ぐあっ!?」

 

 もろに雷を受け、吹き飛んでいく憮塵斎。

 

 今度は受け身を取れなかったようで、そのまま地面に激突した。

 

 「くっ・・・なるほど・・・」

 

 苦々しい表情で起き上がる憮塵斎。

 

 「その膨大な星辰力量を生かし、防御して耐えてから攻撃とはの・・・しかし防御一辺倒では、いずれお主の星辰力も底が尽きよう」

 

 「そこまで粘る必要もないだろ」

 

 首筋から流れる血を拭う俺。

 

 「明日は《獅鷲星武祭》の準決勝なんだ。こんなところで無駄な体力を使ってる暇はないんだよ・・・《雷帝化》」

 

 雷と一体化し、黄金の光に包まれる俺。

 

 「さぁ・・・終わりにしようか」

 

 「舐めるなよ小僧!」

 

 俺の拳と憮塵斎の錫杖がぶつかり合う。力が拮抗し、攻撃の余波で辺りの地面にヒビが入っていく。

 

 だが・・・

 

 「終わりだと言ったはずだ」

 

 もう片方の手で錫杖を握る俺。そして・・・

 

 「《万雷放電》ッ!」

 

 「がああああああああああッ!?」

 

 憮塵斎の身体に、ありったけの雷を流し込む俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《クローディア視点》

 

 「悪く思うなよ、爺さん」

 

 煙を上げて倒れる憮塵斎殿を見下ろし、七瀬が呟きます。

 

 『ナイトエミット』の当主を、こうもあっさり倒してしまうとは・・・流石は七瀬と言うべきでしょうか。

 

 「さて・・・クローディアを連れて、ユリス達と合流しないとな・・・」

 

 七瀬がこちらへと視線を向けた瞬間・・・憮塵斎殿が素早く立ち上がり、錫杖を七瀬へ向けて放ちました。

 

 「ッ!?」

 

 不意を突かれた七瀬は、防御することが出来ません。

 

 憮塵斎殿の錫杖が、七瀬の胸を貫く瞬間・・・私が間に入り、両手を広げて七瀬を守ります。

 

 (あぁ、ようやく・・・ようやくこの瞬間を迎えられました・・・)

 

 私の心は、幸せで満たされていました。この瞬間を迎える夢を見てから、どれほどこの瞬間を待ち侘びたことか・・・

 

 私はこれから、七瀬を庇って錫杖に胸を貫かれます。そして七瀬の腕に抱かれ、静かに息を引き取る・・・

 

 その夢を現実のものにする為だけに、私はアスタリスクへとやってきたのです。生きる価値を見出せなくなった私にとって、この夢が最後の希望でした。

 

 (七瀬、貴方に出会えて本当に幸せでした・・・ありがとうございます)

 

 笑みを浮かべた私の胸に、憮塵斎殿の錫杖が突き刺さる・・・

 

 「はぁっ!」

 

 「ぬっ!?」

 

 直前で、突如として現れた七海さんが錫杖を叩き折ります。

 

 そして・・・

 

 「くたばれクソジジイッ!」

 

 「がはっ!?」

 

 七瀬の渾身の拳が、憮塵斎殿の顔面にめり込みます。

 

 憮塵斎殿は吹き飛び、コンテナに激突した後ピクリとも動かなくなりました。今度こそ気絶してしまったようです。

 

 「やれやれ、やっぱり狸寝入りだったか」

 

 「往生際の悪い人ですね。マスターの言う通り、スタンバイしておいて正解でした」

 

 「助かったよ。ありがとな、七海」

 

 そんな・・・私が見た夢は、こんな展開では無かったはず・・・

 

 七瀬と七海さんの会話を聞いていた私は、段々と意識が遠くなり・・・その場に倒れてしまうのでした。




どうも~、ムッティです。

シャノン「夜吹くんのお父さんとの戦い、すぐ終わっちゃったんだけど・・・」

それだけ七瀬が強かったってことで。

シャノン「あと、お守りのくだり必要だった?」

それは思ったわ・・・

まぁ後々少し触れる予定でいるから。

ちなみに次の投稿は一週間後くらいになりそうです。

シャノン「あれ、ちょっと空くの?」

ちょっと忙しくなりそうなんだよね。

ストックも無くなったので、また書き溜めないと・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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動機

暑い日が続くなぁ・・・

梅雨が明けるの早すぎだろ・・・


 《クローディア視点》 

 

 目が覚めると、私はベッドの上に横たわっていました。

 

 「・・・ここは?」

 

 「治療院だよ」

 

 隣から声がします。そちらへ顔を向けると、七瀬がベッドの側の椅子に座っていました。

 

 「ったく・・・気を失った人間を、二人も運ぶことになるとはな」

 

 「二人・・・?」

 

 「お前と・・・あの爺さんだよ」

 

 溜め息をつく七瀬。

 

 「まだ別室で寝てるから、一織姉に見張ってもらってる。まぁ身体は拘束してるし、目が覚めても問題は無いと思うけど」

 

 「あの後、どうなったんですか・・・?」

 

 憮塵斎殿が倒れたとはいえ、他の《ナイトエミット》や《影星》が止まってくれるとは思えませんが・・・

 

 「とりあえずユリス達と合流して、爺さんの身柄を盾に《ナイトエミット》や《影星》を脅迫した。『俺達に攻撃を仕掛けるようなら、爺さんの命は無い』ってな。おかげで連中は手を出せず、俺達は普通に治療院まで辿り着けたよ」

 

 「何してるんですか・・・」

 

 『ナイトエミット』の当主を人質に取るなんて、タダで済むとは思えませんが・・・

 

 「その後夜吹を通じて、あの人に交渉を持ちかけたんだが・・・来たみたいだな」

 

 七瀬がそう言った直後、来訪者を告げるチャイムが鳴りました。七瀬が空間ウィンドウを操作して、部屋のドアを開けます。

 

 そこから入ってきたのは・・・

 

 「お母様・・・」

 

 「こんばんは、クローディア」

 

 にこりともせず挨拶してきたのは、なんとお母様でした。

 

 では、七瀬が交渉を持ちかけた人物というのは・・・

 

 「お待ちしてました、イザベラさん」

 

 「・・・とんでもないことをしでかしてくれましたね」

 

 溜め息をつくお母様。

 

 「七瀬さん、ご自分が何をしたか分かっているのですか?」

 

 「えぇ、よく分かってますよ」

 

 頷く七瀬。

 

 「そして銀河が、こちらの交渉に応じるしかないということも」

 

 七瀬の言葉に、お母様が顔を顰めます。

 

 どういうことでしょう・・・?

 

 「銀河が実働部隊を動かし、自身の運営する学園の生徒会長の抹殺を企んだ・・・この事実は、既に他の統合企業財体も把握済みです。つまり銀河は既に、他の統合企業財体に弱味を握られているということになります」

 

 淡々と説明する七瀬。

 

 「これだけでも、銀河にとってはかなり痛いはずです。さらに実働部隊の一族の長が、自身が運営する学園の一生徒に敗北したなんて知られたら・・・こんな美味しいネタを、他の統合企業財体が見逃すはずがありません。銀河の権威は失墜するでしょうね」

 

 お母様の表情が、見たこともないほど険しいものになっていきます。

 

 お母様でも、こんな表情をすることがあるのですね・・・

 

 「あ、だからって今度は俺達を抹殺しようなんて考えないで下さいね。そんなことしたら、全ての事実が白日の下に晒されますから」

 

 「・・・どういうことでしょう?」

 

 「簡単な話です」

 

 あっけらかんと言う七瀬。

 

 「既に他の学園の生徒会長達に、情報を流したんですよ」

 

 「なっ!?」

 

 驚愕しているお母様。情報を流した・・・?

 

 「クインヴェールのシルヴィア・リューネハイム、ガラードワースのアーネスト・フェアクロフ、界龍の范星露・・・レヴォルフとアルルカントを除く三つの学園の生徒会長達には、今回のことを話しておきました。今は胸の内に留めておいてくれるそうですが、俺達チーム・エンフィールドに何かあったら・・・今回のことを、全て公にするように頼んでおきました。証拠となる写真や映像も送っておいたので、言い逃れは出来ませんよ」

 

 遂に言葉が出なくなってしまったお母様。七瀬、貴方という人は・・・

 

 「『ナイトエミット』当主、夜吹憮塵斎の身柄もこちらの手中にあります。銀河はもう、こちらの要求を呑むしかない・・・お分かりいただけましたか?」

 

 「・・・まるで悪夢ですね」

 

 「クローディアが見てきた悪夢に比べたら、遥かにマシでしょうよ」

 

 お母様の呟きを、バッサリ切り捨てる七瀬。

 

 「そもそも貴女がクローディアに《パン=ドラ》を渡していなかったら、こんなことにはならなかったんですから。自業自得です」

 

 「・・・降参です。そちらの要求を呑みましょう」

 

 溜め息をつくお母様。七瀬は何を要求するつもりなのでしょうか・・・?

 

 「では、金輪際クローディアの命を狙わないことを誓って下さい。俺達チーム・エンフィールドのメンバーについても同様です」

 

 「・・・分かりました」

 

 「それから・・・夜吹英士朗の身の安全を確保していただけますか?」

 

 「はい・・・?」

 

 ポカンとしているお母様。夜吹くんの身の安全・・・?

 

 「今回夜吹には、色々と情報を流してもらいまして。それがバレてしまうと、『ナイトエミット』が夜吹を抹殺しようとするかもしれません。《影星》も黙ってないでしょうし、銀河の力でどうにかしていただけないかと」

 

 「・・・そういうことだったのですね」

 

 呆れているお母様。

 

 「良いでしょう。彼の身の安全は我々が保障します」

 

 「ありがとうございます」

 

 一礼する七瀬。

 

 「とりあえず、今のところ要求は以上です。夜吹憮塵斎の身柄はお返しします」

 

 「・・・それだけですか?てっきりもっと要求されるかと思いましたが・・・」

 

 「まぁ今後何かあったら、力を貸していただくこともあるかもしれませんが・・・俺達は別に、銀河を脅す為に戦ったわけではないので」

 

 七瀬はそう言うと、私の方を見ました。

 

 「クローディアの命が守れた・・・それで十分です」

 

 「っ・・・」

 

 思わず顔が熱くなります。恐らく今の私の顔は、真っ赤に染まっていることでしょう。

 

 「・・・貴女もそんな顔をするのですね、クローディア」

 

 驚いているお母様なのでした。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「そんなわけで、クローディアも俺達も身の安全が保障されたから」

 

 「・・・とんでもない男だな、お前は」

 

 「銀河の最高幹部と交渉・・・っていうか、もう脅迫に近いですよね?」

 

 表情が引き攣っているユリスと綺凛。俺はユリス達に、イザベラさんとの会話の一部始終を話して聞かせていた。

 

 っていうか・・・

 

 「何で一織姉までいんの?」

 

 「七瀬が巻き込んだんでしょうが!」

 

 怒っている一織姉。

 

 「怪我したエンフィールドさんと知らないお爺さんを抱えてきた時は、一体何事かと思ったわよ!?しかも説明も無いまま、『爺さんの見張りよろしく』って酷いじゃない!」

 

 「あぁ、そうだったな・・・」

 

 あの後、爺さんの身柄はイザベラさんに引き渡した。爺さんは既に目覚めており、イザベラさんから俺との交渉内容を聞いて渋い表情をしていた。

 

 だが依頼主の決定に逆らうつもりは無いらしく、大人しく治療院を後にしたのだった。

 

 「まぁ事情はさっき説明した通りだよ。巻き込んでゴメンな」

 

 「全くもう・・・何で七瀬はいつも危ないことに首を突っ込むかなぁ・・・」

 

 「自分から突っ込んでるわけじゃないぞ。向こうから突っ込んでくるんだから」

 

 「トラブルに愛される男、それが七瀬」

 

 「おいそこの一年中迷子」

 

 紗夜の呟きにツッコミを入れる俺。俺はトラブルなんかゴメンだっていうのに・・・

 

 「まぁ良かったじゃないか。これで銀河と敵対しなくて済むんだから」

 

 綾斗が苦笑しながらそう言う。いやホント、良かった良かった。

 

 「・・・申し訳ありませんでした」

 

 ベッドの上に座りながら、クローディアが皆に頭を下げる。

 

 「私のせいでこんなことになって・・・皆さんを危険に晒してしまって・・・」

 

 「・・・そう思うなら、事情をちゃんと説明してくれ。最初から全部だぞ」

 

 俺の言葉に、クローディアが溜め息をついた。

 

 「あの場所で、七瀬の腕の中で息を引き取ること・・・それが私の望みでした。その望みを叶える為に、私はアスタリスクへとやってきたのです」

 

 皆が息を呑む。やっぱりそうだったのか・・・

 

 「《パン=ドラ》の悪夢に苛まれる内に、私は生きていることに価値を見出せなくなっていきました。どうあがいても人は死ぬ・・・それを何度も夢の中で体験している内に、『どう死ぬか』ということの方が重要ではないかと思ったのです」

 

 ユリスが声を上げかけたが、俺が手で制した。言いたいことがある気持ちは分かるが、今はクローディアの話を聞く時だ。

 

 「そんなある時、私は夢の中で七瀬に出会ったんです。私のピンチに駆け付けてくれ、私を守る為に戦ってくれました。そして私は、そんな七瀬を守る為に死ぬ・・・最期を迎えることに対して絶望ではなく、充実感を感じたのはそれが初めてだったんです」

 

 「クローディア・・・」

 

 「私はその夢を見た時から、七瀬・・・貴方に恋をしていたんですよ」

 

 俺を見つめ、微笑むクローディア。

 

 「だからこそ私は、その夢を現実のものにしようと誓いました。高等部の入学式の日、正門の前で七瀬を見た時は・・・感動のあまり泣きそうになりましたよ」

 

 そういや、あの時クローディアが声をかけてくれたんだっけ・・・

 

 あれがキッカケで、俺達は仲良くなったんだよな・・・

 

 「じゃあ、綾斗を特待生として星導館に迎え入れたのは・・・?」

 

 「勿論、その時に見た夢を再現する為です。夢の中にはユリス・沙々宮さん・刀藤さん・綾斗の四人も出てきました。ユリスは中三の時に転入してきましたし、沙々宮さんと刀藤さんは入学者リストに名前がありました。ですが綾斗の名前が無かったので、必死に綾斗を探して星導館に迎え入れようとしたんです」

 

 「そういうことだったのか・・・何の実績も無い俺を、特待生として招待しようなんておかしいとは思ったけど・・・」

 

 納得している綾斗。

 

 「登場人物達も出揃い、後は夢のシナリオ通りに進めていくだけでした。ですが・・・」

 

 俺を見つめるクローディア。

 

 「私が見た夢の結末とは、全く違う結果になってしまいました。七瀬、一体何をしたのですか?」

 

 「特別なことは何もしてないさ」

 

 肩をすくめる俺。

 

 「レティシアからお前の望みの半分を聞いた時、お前が命を捨てようとしている可能性に気付いた。《パン=ドラ》で見た夢の通りにしようとしてるんじゃないかってな。その時に、リーゼルタニアでのことを思い出したんだよ」

 

 「リーゼルタニア?」

 

 首を傾げているユリス。そういや、あの時ユリスは気を失ってたっけ・・・

 

 「初めて七海が人型になって、皆の前に姿を見せた時のことだ。クローディアは七海を見て、驚いてたんだよ。つまりクローディアが見た夢の中に、七海は登場していないということになる。そうだろ?」

 

 「・・・えぇ、七海さんは登場していませんでした」

 

 「だから七海には人型になってもらって、コンテナの陰に身を潜めてもらってたんだ。いざっていう時、すぐに俺達の間に割って入れるようにな。クローディアが命を捨てようとしてるなら、必ずそういった場面が来るはずだと思ったよ」

 

 「マスターの読み通りでしたね」

 

 笑っている七海。

 

 「恐らくマスターの修行成果が、クローディアさんが見た夢のものより大きかったということでしょう。ずいぶん前に見た夢のようですし」

 

 「界龍で修行しといて、マジで良かったな」

 

 星露に感謝しないとな・・・と、クローディアが俯いた。

 

 「・・・以上が全てです。思う存分詰っていただいて構いません。私は自分の夢の為、皆さんのことを利用したのですから」

 

 「クローディア・・・」

 

 皆、何も言えないでいた。

 

 それぞれ怒りたい気持ちもあるだろうが、クローディアの想いを知った今・・・どう言葉をかけるべきか、悩んでいるんだろう。

 

 「・・・皆、一度席を外してもらえないか?」

 

 「七瀬・・・?」

 

 「クローディアと二人で話がしたいんだ。皆も言いたいことを纏めるのに、ちょっと時間が欲しいだろ?」

 

 「・・・分かった。席を外す」

 

 皆が部屋を出て行くのを見届け、俺はクローディアに向き直るのだった。

 

 「さて・・・少し話をしようか」




どうも~、ムッティです。

シャノン「ななっちの脅迫によって、皆の身の安全が保障されたわけだね」

銀河を脅迫する男・・・色々ヤバいな。

シャノン「そして会長の動機が明らかに・・・ななっちはどうするんだろう?」

さて、どうなっていくのやら・・・

早いとこ執筆を進めないと・・・

シャノン「進んでないんだね・・・」

大丈夫、まだ九割しか本気出してないから。

シャノン「九割も本気出しちゃってんじゃん!?残り一割じゃん!?」

やれば出来るとはかぎらない子、それがムッティ。

シャノン「言い切った!?それじゃダメじゃん!?」

まぁ何とかなるっしょ。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「不安しかないなぁ・・・」


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生きる価値

唐突ですが、今回でこの章は終了です。

次回から新章に入ります。


 部屋には重苦しい雰囲気が漂っていた。クローディアは俯き、俺の言葉をジッと待っている。

 

 さて、何から話そうか・・・

 

 「クローディア」

 

 目の前で今にも泣き出しそうな顔をしている、大切な仲間の名前を呼ぶ。

 

 「俺は《パン=ドラ》の悪夢を見たことが無いから、『お前の気持ちが分かる』なんて軽々しく言えないけど・・・俺も昔、死のうとしたことがあるんだ」

 

 「え・・・?」

 

 驚いているクローディア。俺は話を続けた。

 

 「両親を失ったあの日・・・零香姉に刺された俺は、しばらくして意識を取り戻した。目が覚めて、泣いて喜んでくれた皆に・・・俺は何て言ったと思う?」

 

 「・・・何を言ったんですか?」

 

 「『あのまま死にたかった』って」

 

 「っ・・・」

 

 ずっと味方でいてくれたシルヴィを殺しかけ、ずっと支えてくれていた両親は零香姉に殺された・・・

 

 俺はあの日、全てに絶望してしまったのだ。

 

 「特に一織姉には、ずいぶん酷いことを言ったよ。『一織姉が治癒能力に目覚めなかったら、あのまま死ねてたかもしれないのに』って」

 

 「・・・一織さんは何と?」

 

 「・・・ただ一言、『ゴメンね』って。泣いて謝ってたよ」

 

 本当に、あの時の自分をぶん殴ってやりたいわ・・・

 

 「で、その日の夜中・・・俺は自殺しようとした。《断罪の一撃》を、自分に向けて放とうとしたんだ。まぁ、寸前で一織姉に止められたんだけど」

 

 「一織さんが・・・?」

 

 「あぁ。ずっと俺の様子を見てたらしくてさ・・・思いっきり平手打ちされたよ」

 

 あの時の一織姉の怒りようは凄まじかったな・・・あんなに怒った一織姉を、今まで見たことが無かったし。

 

 「散々説教された後、俺にしがみついてきてさ・・・『お願いだから生きてくれ』って。『今は絶望してるかもしれないけど、死んでしまったら本当に希望なんて無くなってしまう。私達の為だと思って生きてくれ』って・・・号泣しながら言われたよ」

 

 『七瀬が死んだら、私も後を追う』とも言ってたっけ・・・

 

 一織姉にそこまで言わせてしまった自分が、本当に情けないと思った。

 

 「こんな俺でも、死んだら悲しんでくれる人がいる・・・それほど大切に思ってくれる人を、悲しませたくない・・・そう思ったから、俺は生きることにした。自分の為というより、俺を大切に思ってくれる人の為に」

 

 「七瀬・・・」

 

 「・・・まぁその考え方を、お前に押し付けるつもりは無いよ。考え方なんて人それぞれだし、夢を実現させようとしたお前の覚悟は相当なものだと思う。だから・・・俺の気持ちだけ伝えておく」

 

 クローディアを見つめる俺。

 

 「俺はクローディアに死んでほしくない。今の俺にとっては、クローディアのいる生活が日常になってるから・・・いなくなったら寂しい」

 

 「っ・・・」

 

 「生きることに価値が見出せないなら、俺がその価値を作る。『生きてて良かった』って思ってもらえるように、精一杯頑張るよ。だから・・・もう少しだけ生きてみないか?っていうか今すぐ価値を作るのは無理だから、マジでちょっと時間を下さい」

 

 「・・・フフッ」

 

 笑うクローディア。その目には涙が滲んでいた。

 

 「バカですね、七瀬は・・・私にそこまでする義理など無いでしょうに」

 

 「バカって言ったヤツがバカなんですぅ」

 

 「フフッ、子供みたいですね」

 

 クローディアはひとしきり笑うと、俺の手を握ってきた。

 

 「ですが・・・初恋の相手にそんなこと言われたら、私もそう簡単に命を投げ出せませんね」

 

 「クローディア・・・」

 

 「ですから・・・もう少しだけ生きてみることにします。七瀬が作ってくださるという『生きる価値』にも興味がありますし」

 

 「・・・ヤベェ、ハードル高くね?」

 

 「えぇ、高いです。エベレストより高いですよ」

 

 「そんなに!?」

 

 俺のツッコミに、面白そうにクスクス笑うクローディアなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《ユリス視点》

 

 「・・・どうやら大丈夫みたいですね」

 

 微笑みながら小声で言う綺凛。

 

 私達は病室の前で、七瀬とクローディアの会話に耳を傾けていた。二人には悪いと思ったのだが、どうしても様子が気になったのだ。

 

 「全くあの子ったら、あんな昔話までしちゃって・・・」

 

 溜め息をつく一織さん。

 

 「一織さんでも、七瀬に平手打ちとかするんですね」

 

 「まぁ、あの時はねぇ・・・」

 

 綾斗の言葉に苦笑する一織さん。

 

 「どうにか思い留まってくれたけど・・・『私達の為だと思って生きてくれ』っていうのは、言うべきじゃなかったかもしれないわね」

 

 「どうしてですか?」

 

 「それからの七瀬が、ますます自分のことを考えなくなっちゃったからよ。いつも私達を優先して、自分のことは後回し・・・もっと自分の為に生きてほしいんだけどね」

 

 「一織さん・・・」

 

 「だからこそ私達家族が、七瀬のことを考えてあげようって・・・そう決めたの。七瀬にとっては、余計なお節介かもしれないけどね」

 

 照れ臭そうに笑う一織さん。やはり、星野家の絆は深いな・・・

 

 「ただ、ここからが問題だと思う」

 

 紗夜がポツリと呟く。

 

 「エンフィールドは七瀬に恋をしている。だが七瀬には、既にリューネハイムという恋人がいる。これは修羅場の予感がする」

 

 「あぁ、それなら大丈夫よ」

 

 何でもないことのように言う一織さん。

 

 「シルヴィは器の大きい子だもの。これぐらいで修羅場になったりしないでしょう。後は七瀬次第よ」

 

 「心配じゃないんですか?」

 

 「全然」

 

 私の問いに、一織さんは笑顔で答えるのだった。

 

 「だって私の自慢の弟だもの」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「まぁそんなわけで、銀河との交渉は上手くいったよ。ありがとな、皆」

 

 『全く、ななくんったら無茶するんだから・・・』

 

 『ハハッ、七瀬らしいじゃないか』

 

 『銀河を脅迫するとは、やりおるのう』

 

 溜め息をつくシルヴィに、笑っているアーネストと星露。

 

 星導館へと戻ってきた俺は、三人と空間ウィンドウ越しに通信で会話をしているのだった。

 

 「人聞きが悪いぞ星露。脅迫じゃなくて交渉だ」

 

 『相手が呑むしかない交渉など、脅迫同然じゃろうて』

 

 「それは迂闊なマネをした銀河が悪い。俺はそこに付け込んだだけだ」

 

 『ななくん、それを世間では脅迫って言うんだよ?』

 

 『まぁ良いじゃないか。ミス・エンフィールドも七瀬も無事だったんだから』

 

 苦笑するアーネスト。

 

 『チーム・エンフィールドの面々の身の安全も保障されたんだろう?これでもう、銀河から命を狙われることもないわけだ』

 

 「まぁな。ただ、今日の戦闘で皆ずいぶん疲弊しててさ・・・このコンディションで明日の準決勝を迎えるのは、正直ちょっと辛いわ」

 

 『それはご愁傷様じゃのう』

 

 星露も苦笑している。

 

 『暁彗達はやる気満々じゃぞ?コンディションもバッチリじゃ』

 

 「だよなぁ・・・まぁ、こっちも負けるつもりは無いけど」

 

 皆の願いを叶える為にも、クロエを助ける為にも・・・絶対に負けられないな。

 

 「そういやアーネスト、レティシアはどうした?」

 

 『先ほどミス・エンフィールドから通信があったから、楽しく会話してる最中だと思うよ。何だかんだ言いながら、凄く心配していたからね』

 

 「やれやれ、レティシアも素直じゃないな」

 

 レティシアって、何となくユリスに似てるよな・・・

 

 本当はとても心優しいのに、それを必死に押し隠そうとするところとか・・・

 

 「とりあえず、報告は以上だ。ホントにありがとな」

 

 『ホホッ、気にするでない。とにかく、明日に備えて早めに休むと良いぞ』

 

 『僕としては、是非七瀬と戦ってみたいからね。勝ち進むことを望んでいるよ』

 

 「おう。じゃ、お休み」

 

 星露とアーネストの空間ウィンドウがブラックアウトする。

 

 と、シルヴィだけ通信が繋がったままの状態になっていた。

 

 「シルヴィ?どうした?」

 

 『ねぇ、ななくん』

 

 俺を見つめるシルヴィ。

 

 『《千見の盟主》の気持ちに、どう応えるつもりなの?』

 

 「・・・どうすべきなんだろうな」

 

 実はクローディアとの会話後、シルヴィには全てを話していた。クローディアの行動の動機や、俺に恋をしていたという事実・・・

 

 それらを話し終えた後で、アーネストや星露に連絡をとったのだ。

 

 「先に言っておくけど、俺が好きなのは間違いなくシルヴィだよ。クローディアのことは、本当に大切な仲間だと思ってる。ただ・・・」

 

 『ただ・・・?』

 

 「・・・クローディアは、少し特別なんだ。一緒に暮らしてたからかもしれないけど、愛しさを感じるっていうかさ・・・」

 

 『つまり好きってこと?』

 

 「自分でもよく分からないんだよ。勿論クローディアのことは好きだけど、それが異性に対する好きなのかどうか・・・ゴメンな、こんな曖昧な答えで」

 

 『仕方ないよ。人の心は複雑なんだから』

 

 苦笑しているシルヴィ。

 

 『ただ、ちゃんと答えは出さないとね。向こうはずっとななくんに恋してるんだし』

 

 「・・・そうだな。ちゃんと答えは出すよ。ただ、これだけはハッキリ言っておくぞ」

 

 シルヴィを見つめる俺。

 

 「俺のシルヴィに対する想いは変わらない。だからシルヴィの手を離すことは有り得ない。それは絶対だから」

 

 『フフッ・・・つまり《千見の盟主》の気持ちを受け入れたら、ななくんは二股をかけることになるわけだね』

 

 「・・・そう言われると、何か自分がゲスい男に思えてきたわ」

 

 『冗談だよ』

 

 笑っているシルヴィ。

 

 『私はななくんの側から離れたりしないし、ななくんの決定に従うつもりだよ?もし《千見の盟主》の気持ちを受け入れるなら、重婚の認められてる国に移住したら良い話だし。あ、でも正妻の座は譲れないからね!』

 

 「・・・シルヴィには敵わないわ」

 

 苦笑する俺。

 

 「・・・ありがとな、シルヴィ。ちゃんと答えは出すから」

 

 『うん。それと、明日の準決勝頑張ってね』

 

 「あぁ、絶対に勝つよ」

 

 『フフッ、期待してるね。それじゃ、お休み』

 

 「お休み」

 

 シルヴィの空間ウィンドウがブラックアウトして、今度こそ全員と通信が切れた。

 

 俺はベッドに寝転がり、天井を見上げた。

 

 「とにかく今は、明日の準決勝・・・そこに全力を注ぐべきだな」

 

 暁彗、セシリー、虎峰、沈雲、沈華・・・界龍で世話になったヤツらと、全力で戦う時が遂にきた。

 

 そして・・・

 

 「八重・・・」

 

 愛しい妹の顔を思い浮かべる。

 

 星露の教えを受けている以上、かなり強くなっているはずだ。油断など出来ないし、俺も全力でいかないといけない。

 

 妹や親友達が相手とはいえ、絶対に負けるわけにはいかないのだ。

 

 「クローディア、ユリス、綺凛、綾斗、紗夜・・・」

 

 大切な仲間達と、それぞれの叶えたい願い・・・

 

 「クロエ・・・赫夜の皆・・・」

 

 どうしても助けたい人と、その仲間達から託された思い・・・

 

 「四糸乃姉・・・ルサールカの皆・・・」

 

 全力で俺に向かってきた愛する姉と、その仲間達の思い・・・

 

 「シルヴィ・・・」

 

 そして最愛の彼女・・・俺は力強く拳を握り締めるのだった。

 

 「待ってろよ黄龍、そしてランスロット・・・勝つのは俺達だからな」




どうも~、ムッティです。

シャノン「ななっちは、まだ答えが出せないみたいだね」

まぁすぐにはね・・・

おいおい答えは出る予定です。

シャノン「ゲスの極み七瀬の誕生かな?」

おい止めろ。

某キノコ頭とは違うんだよ。

そして今回でこの章は終了です。

次回からはいよいよ《獅鷲星武祭》の続きです。

シャノン「いよいよかぁ・・・果たして優勝できるのだろうか・・・」

さぁ、どうでしょう?

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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第十章《龍激聖覇》
作戦会議


新章突入でございます。

いよいよ《獅鷲星武祭》もクライマックスです。

っていうか毎日暑すぎるんだよおおおおおっ!

夏なんて滅びろおおおおおっ!


 《獅鷲星武祭》準決勝当日。俺達チーム・エンフィールドの面々は、控え室に集合していた。

 

 大事な試合の前ではあるが、皆それぞれ気持ちを落ち着かせて・・・

 

 「な、七瀬・・・お、おはようございます・・・」

 

 いないヤツが一人だけいた。

 

 顔を赤く染め、声を震わせながら挨拶してくるクローディア。俺がクローディアへと視線を向けると、恥ずかしそうに顔を背けてしまう。

 

 おいおい・・・

 

 「・・・誰この乙女」

 

 「こんなクローディアは初めて見るな・・・」

 

 ユリスが呆れている。

 

 俺の知ってるクローディアは、こんな乙女チックなキャラじゃないんだけど・・・

 

 「・・・クローディア」

 

 「ひゃいっ!?」

 

 ビクッと身体を震わせるクローディア。

 

 今思いっきり噛んだな・・・

 

 「何でそんなに緊張してるんだよ・・・」

 

 「そ、それは・・・は、話の流れとはいえ七瀬に・・・こ、恋してることを暴露してしまったので・・・!」

 

 これ以上ないほど赤面しているクローディア。完全に涙目である。

 

 「な、七瀬にどんな顔をしたら良いのか・・・じ、自分でも分からなくて・・・!」

 

 「・・・クローディア先輩、案外可愛らしいところありますね」

 

 「クローディアも女だったということか・・・」

 

 「紗夜、その発言は失礼だと思うけど・・・」

 

 綺凛、紗夜、綾斗がヒソヒソ話している。溜め息をつく俺。

 

 「・・・クローディア」

 

 「ひゃいっ!?」

 

 「いや、それ二回目だから。そろそろ慣れてくんない?」

 

 軽くツッコミを入れてから、俺は自分の思いを告げた。

 

 「まず伝えたいのは・・・こんな俺を好きになってくれて、ありがとな。まぁ死のうとしたことはともかく、その気持ちは本当に嬉しかったよ」

 

 それは紛れも無い事実だ。

 

 クローディアは例の夢を見てからずっと、俺のことを想ってくれていたのだから。

 

 嬉しくないわけがない。

 

 「俺もクローディアのことは好きだよ。ただ、それが異性としてなのかって聞かれると・・・自分でもハッキリとは分からない。一緒に住んでたからかもしれないけど、クローディアへの気持ちは少し特別なものだから」

 

 「七瀬・・・」

 

 「だから、本当に申し訳ないんだけど・・・答えを出せるまで、もう少し待ってほしいんだ。ダメかな?」

 

 我ながら本当に情けない話だが、今はまだ答えが出せない。

 

 半端な気持ちのままで回答するのは、クローディアに対して失礼だしな・・・

 

 「・・・私は一向に構いません。ですが、よろしいのですか?七瀬には既に、恋人がいるというのに・・・」

 

 「シルヴィにはちゃんと話したよ。『受け入れるなら、重婚が認められている国に移住しなきゃね』なんて言ってたけど」

 

 勿論シルヴィにも、複雑な思いはあっただろう。それでも笑顔で、『しっかり答えを出せ』と言ってくれたのだ。

 

 本当に感謝してもしきれないな・・・

 

 「俺のシルヴィに対する気持ちは変わらないし、どんな答えであってもシルヴィと別れることは有り得ない。それでも・・・待ってくれるか?」

 

 「・・・勿論です」

 

 微笑むクローディア。

 

 「七瀬の彼女に対する想いが変わらないように、私の七瀬に対する想いも変わりませんから・・・お慕い申し上げております、七瀬」

 

 「っ・・・」

 

 不覚にもドキッとしてしまった。

 

 改めて告白されると、何か照れ臭いな・・・

 

 「・・・必ず答えは出す。待っててくれ」

 

 「えぇ、いつまでも」

 

 「・・・コホンッ!」

 

 場の空気に耐え切れなくなったのか、大きく咳払いをするユリス。

 

 「と、とにかくだ!二人の話がまとまったところで、本題に入るぞ!」

 

 「あらユリス、何故貴女が恥ずかしがっているのですか?」

 

 「う、うるさい!恥ずかしがってなどいない!」

 

 ユリスをからかうクローディア。ようやくいつも通りになったようだ。

 

 「フフッ・・・まぁそれはさておき、確かに話し合わなくてはなりませんね。今日の試合の対戦相手・・・黄龍について」

 

 全員の表情が真剣なものになる。

 

 今まで戦ってきたチームの中で、一番の強敵であることは間違いないからな・・・

 

 「特徴としては、六人全員が近接戦闘をこなせる攻撃手であるという点が挙げられますね。ですがその分、チームプレーに重きを置いていません。連携よりも個人の判断を優先しているようです」

 

 「だろうな。界龍では各々がそれぞれ腕を磨いてるし、チームを組んで連携プレーなんて基本的にやらないから。沈雲と沈華は別だけど」

 

 あの二人もそれぞれ腕を磨いているが、基本的には二人でタッグを組んでるからな。

 

 まぁ、それぞれ得意とする技の相性が良いっていうのもあるんだろうけど。

 

 「その黎兄妹は、遊撃手のような役割を果たしているようですね。星仙術で有利な環境を作り、他のメンバーは適時それを利用しています。連携とは呼べませんが、サポートはしているといったところでしょう。なのでこの双子は、私が一人で抑えます」

 

 「えっ?クローディア一人で?」

 

 驚いている綾斗。

 

 「確かに、他のメンバーよりは格下かもしれないけど・・・十分に手強い相手だよ?」

 

 「それは承知していますが、この双子の相手は私が適任なんですよ」

 

 「性格の悪さなら負けないもんな」

 

 「あら、想い人にそう言われると傷付きますね」

 

 笑っているクローディア。否定するつもりは無いようだ。

 

 「次に《雷戟千花》ですが・・・ユリス、お願いします」

 

 「あぁ、任された」

 

 頷くユリス。

 

 技の多様性において、ユリスの右に出る者はいないからな。セシリーの術に対抗できるとしたら、ユリスしかいないだろう。

 

 「さて、ここからが悩みどころですね・・・」

 

 ここにきて、クローディアの表情が曇った。

 

 「《天苛武葬》と八重さんを、誰が相手取るか・・・二人とも体術は相当なものですし」

 

 「おまけに一番の強敵・・・《覇軍星君》もいるからな」

 

 ユリスも険しい表情をしている。だが、俺の心は既に決まっていた。

 

 「暁彗は俺が相手をするよ。この中でアイツと戦った経験があるのは、俺だけだしな」

 

 「・・・大丈夫ですか?相当な強敵ですよ?」

 

 「よく知ってるよ。身をもって体験したからな」

 

 心配そうな綺凛に、苦笑しながら返す俺。

 

 「正直に言って、倒せるかどうかは分からない。ただ・・・もう負けるつもりはない」

 

 今回は組み手ではない。正真正銘の真剣勝負・・・負けるわけにはいかないのだ。

 

 「だから綾斗は虎峰、綺凛は八重を頼んだ。紗夜は大変だと思うけど、状況に応じて俺達のサポート・・・特にクローディアを中心に頼む。あの双子を一人で相手にするのは、かなりしんどいと思うから」

 

 「了解。こっちは任せて」

 

 「その代わり、そちらは任せましたよ」

 

 「きっちりサポートするから、安心して戦うといい」

 

 綾斗、綺凛、紗夜が頷いてくれる。これで役割分担は決まったな。

 

 「まぁ、状況によって色々変わることもあるだろうけどな」

 

 「えぇ、そうですね」

 

 クローディアが頷く。

 

 「戦術は今言った通りですが、あくまでも基本です。その時の状況に応じて、それぞれ臨機応変に対応して下さい。では続いて、具体的な連携についてですが・・・」

 

 クローディアが説明を始めた時、俺の端末にメッセージが届いた。チーム・黄龍のメンバー達からだった。

 

 【暁彗:戦えるのを楽しみにしている】

 

 【セシリー:絶対に負けないからね!】

 

 【虎峰:お互い正々堂々と戦いましょう!】

 

 【沈雲:悪いけど勝たせてもらうよ】

 

 【沈華:首洗って待ってなさい!】

 

 そして最後に、八重からのメッセージが届いていた。

 

 【八重:あの日の誓いを果たしてみせます】

 

 あの日の誓い・・・俺より強くなること、か。俺に勝てたら、俺より強いってことだもんな・・・

 

 俺は笑みを浮かべ、全員に同じメッセージを返すのだった。

 

 【勝つのは俺達だ】




どうも~、ムッティです。

シャノン「新章に突入して、いよいよ《獅鷲星武祭》も大詰めだね」

果たして七瀬達は優勝できるのか・・・

そしてシャノンの出番は・・・無いな。

シャノン「断言!?」

ここからどうやって出すのよ?

シャノン「・・・次の章に期待するわ」

諦めがよろしい。

まぁ次の章も分かんないけども。

シャノン「そこは『出す』って言ってよ!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「私に出番をくれえええええっ!」


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通過点

毎日気温が35℃以上・・・

これだから夏は嫌なんだ・・・


 作戦会議終了後、俺は会場の外のベンチに座っていた。

 

 試合開始まで少し時間があったので、外の空気が吸いたくなったのだが・・・

 

 「・・・思ったより寒いな」

 

 「当然でしょう」

 

 後ろから声がする。振り向くと、私服姿の三咲姉が立っていた。

 

 「今は秋の終わり・・・もうじき冬なんですから。暖かくしないと風邪をひきますよ?」

 

 そう言って、着ていたコートを俺に掛けてくれる三咲姉。

 

 暖かいな・・・

 

 「試合、観に来てくれたの?」

 

 「えぇ。明日の決勝に備えて、今日は休養日になりましたから」

 

 俺の隣に座りながら言う三咲姉。

 

 「九美と戦えなかったのは残念ですが・・・チームとしては、今日を休養に充てられるのは大きいですね」

 

 「決勝に向けて、しっかりコンディションを整えられるしな。俺達が勝っても黄龍が勝っても、今日の試合での疲弊は免れない。つまり明日の決勝は、コンディションの面でランスロットが優位に立てるわけだ」

 

 「その通りです。だからと言って、油断など一切しませんけどね」

 

 不敵な笑みを浮かべる三咲姉。

 

 やれやれ、厄介なことこの上ないな・・・

 

 「・・・まぁ、今はランスロットのことを考えても仕方ないか。まずは黄龍を倒すことに集中しないとな」

 

 「フフッ、その意気です。八重も強くなっているようですし、楽しみですね」

 

 「八重には悪いけど、兄として負けるわけにはいかないからな。絶対に勝つよ」

 

 「それを言うなら、私は姉として負けられませんね」

 

 立ち上がる三咲姉。

 

 「七瀬が相手でも、八重が相手でも・・・私は負けません。優勝するのは我々です」

 

 「いつまでも最強チームの座を守れると思うなよ」

 

 俺も立ち上がり、三咲姉を見据える。

 

 「優勝するのは俺達だ。首洗って待っとけ」

 

 「えぇ、期待しています」

 

 三咲姉はそう言うと、俺の肩を軽く叩いて会場へと向かっていった。

 

 「七瀬さ~ん!」

 

 三咲姉の背中を見送っていると、綺凛が小走りでやってきた。

 

 「そろそろ時間ですよ。控え室に戻りましょう」

 

 「おう、了解」

 

 「あれ?そのコートどうしたんですか?」

 

 「あぁ、これは・・・激励の証、かな」

 

 「はい?」

 

 首を傾げている綺凛。俺は笑いながら、綺凛の頭を撫でた。

 

 「何でもないよ。行こうぜ」

 

 「はいっ」

 

 歩き出す俺達。

 

 と、綺凛の表情がいつもより硬い気がした。

 

 「綺凛、ひょっとして緊張してる?」

 

 「・・・分かりますか?」

 

 少しバツが悪そうな綺凛。

 

 「実は、色々と考えてしまって・・・この戦いは、私だけのものではありませんから」

 

 「・・・まぁな」

 

 チーム戦というのは、メンバーの思いも背負って戦わないといけない。

 

 その重みは、自分一人で戦う時とは比べ物にならないからな・・・

 

 「確かに一人だけのものじゃないけど・・・だからこそ、一人で背負う必要はないぞ」

 

 綺凛の手を握る俺。

 

 「《鳳凰星武祭》の時、綺凛も言ってくれただろ。『一人で背負うな』って」

 

 「あっ・・・」

 

 「お前の側には、五人も仲間がいるんだ。気負いすぎんなよ」

 

 「・・・ありがとうございます」

 

 俺の手を握り返してくる綺凛。

 

 「《鳳凰星武祭》では、準々決勝で負けてしまいましたけど・・・今回はそこを超えて、準決勝まできましたね」

 

 「ここもあくまで通過点だ。優勝まで突っ走るぞ」

 

 「はいっ!」

 

 笑顔を見せる綺凛なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 『今回の《獅鷲星武祭》も、遂に準決勝までやってまいりました!』

 

 シリウスドームに、実況の梁瀬さんの声が響き渡る。

 

 『決勝でチーム・ランスロットと対戦することになるのは、チーム・エンフィールドなのか!?それともチーム・黄龍なのか!?注目の一戦です!』

 

 大歓声が降り注ぐ中、俺達はステージの中央へと歩みを進める。

 

 そこには既に、チーム・黄龍の面々がスタンバイしていた。

 

 「おっ、来たね」

 

 ニヤリと笑うセシリー。

 

 「遅いじゃないか。こっちは早く戦いたくてウズウズしてんのにさ」

 

 「やかましいわ、このルーズボラ女」

 

 「何その新しい罵倒ワード!?」

 

 ルーズでズボラな女、略してルーズボラ女・・・セシリーにピッタリだと思う。

 

 「お前の二つ名、今日から《ルーズボラ女》で良いんじゃね?」

 

 「嫌だよ!?何でそんなカッコ悪い二つ名を名乗らなきゃいけないのさ!?」

 

 「いえ、セシリーにはピッタリだと思います」

 

 「虎峰!?」

 

 ショックを受けているセシリー。

 

 ってか、虎峰が足に着けてるのって・・・

 

 「・・・使うんだな、《通天足》」

 

 「えぇ」

 

 頷く虎峰。

 

 『拳士は道具に頼ることを良しとしない』という考えの虎峰は、日々己の身体を唯一の武器として磨き上げていた。

 

 その虎峰が、《通天足》という道具を使ってこの試合に臨もうとしている・・・勝利への執念を見た気がした。

 

 「・・・負けないからな」

 

 「それはこっちのセリフです」

 

 お互いの拳を合わせる。一方・・・

 

 「久しぶりだね、《叢雲》。それに《華焔の魔女》」

 

 沈雲と沈華が、綾斗とユリスに向き合っていた。

 

 「《鳳凰星武祭》では負けてしまったけど、今回は負けないよ」

 

 「絶対に勝ってみせるわ」

 

 二人の真っ直ぐな視線に、綾斗とユリスが面食らっている。

 

 「・・・君達、何かあったの?」

 

 「もっとこう・・・意地悪く絡まれるかと思ったのだが・・・」

 

 「ハハッ、まぁそう思うだろうね」

 

 苦笑する沈雲。

 

 「自分達が優位な状況で、ひたすら相手を嬲る・・・それが如何に無様で愚かしいことか、身をもって知ったからね。七瀬がいなかったら、あの時どうなってたことか・・・」

 

 あぁ、二人がリンチされてた時か・・・そんなこともあったっけか・・・

 

 「それにそんな戦い方じゃ、いつまで経っても成長できないもの。七瀬にどんどん差をつけられて、そのことをようやく実感したわ」

 

 溜め息をつく沈華。

 

 「だからこそ私達も、今日まで必死に特訓を重ねてきた。あの時の私達とは違う。だから七瀬・・・」

 

 沈華が俺を見据える。

 

 「個人としては、私も沈雲もアンタに遠く及ばないけど・・・チームとしてアンタ達に負けるつもりは無いわ。この試合、勝つのは私達だからね」

 

 「寝言は寝てから言えや痴女」

 

 「だから痴女じゃないわよ!?」

 

 「そんないやらしく胸の谷間を強調しやがって」

 

 「強調してないから!そういう服なんだから仕方ないでしょ!?」

 

 「隣のセシリーに謝った方が良いぞ」

 

 「七瀬!?それじゃ私が貧乳みたいじゃん!?」

 

 「あ、ウォン師姉・・・申し訳ありません」

 

 「沈華!?アンタ喧嘩売ってんの!?」

 

 「やかましいぞセシリー」

 

 「あたっ!?」

 

 暁彗がセシリーの頭を小突く。そして俺の方を見た。

 

 「・・・師父の期待に応える為、俺は負けられん。手加減はせんぞ、七瀬」

 

 「手加減なんかしたら、強制的に坊主にしてやるよ・・・セシリーを」

 

 「何で私!?」

 

 「・・・手加減しても良いかもしれん」

 

 「大師兄!?」

 

 悲鳴を上げるセシリー。と、八重が前に進み出てくる。

 

 「・・・お兄様」

 

 「八重・・・」

 

 視線がぶつかる。ここまで来た以上、特に言うべきことはない。

 

 あえて言葉をかけるとするなら・・・

 

 「・・・お互いベストを尽くそうぜ」

 

 「っ・・・はいっ!」

 

 それだけ言葉を交わすと、俺達は所定の位置へと戻った。

 

 「まさかあの双子が、揃って改心しているとはな・・・」

 

 唖然としているユリス。

 

 「七瀬、お前何をしたんだ?」

 

 「色々あったんだよ。なぁ、クローディア?」

 

 「えぇ、色々ありましたね」

 

 クスクス笑っているクローディア。

 

 「あの時は、根は悪くない方々だと思いましたが・・・本当に変わりましたね」

 

 「性格の悪さは変わってないけどな」

 

 とはいえ、もう以前のように人を見下したりすることはない。

 

 だからこそ、こうして戦うとなると厄介なんだけどな・・・

 

 「気を付けろよ、クローディア。本当に《鳳凰星武祭》の時とは違うぞ」

 

 「えぇ、承知しています」

 

 頷くクローディア。俺は皆を見渡した。

 

 「アイツらは強い。それでも・・・俺達は負けられない。絶対勝つぞ」

 

 「「「「「応ッ!」」」」」

 

 改めて、全員の心が一つになる。

 

 『さぁ、いよいよ試合が始まります!勝つのはどちらのチームなのでしょうか!?』

 

 梁瀬さんの声と共に、機械音声が試合開始を告げるのだった。

 

 『《獅鷲星武祭》準決勝、試合開始!』




どうも~、ムッティです。

シャノン「いよいよ黄龍戦が始まるね」

果たして七瀬達は勝てるのか・・・

そしてセシリーは坊主になるのか・・・

シャノン「それはマジで止めたげて!?」

まぁ冗談はさておき・・・

『刀藤綺凛の兄の日常記』の作者である綺凛・凛綺さんが、再び毎日投稿を始められました!

本編の方も再開したので、皆さん是非チェックしてみて下さい!

シャノン「主人公の綺優くんだけじゃなくて、周りの登場人物達も続々と人間を卒業してる感じだよね」

ホントそれな。

まさにThe Asterisk Warが始まる予感・・・

これからの展開が楽しみです。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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弱点

暑くて干からびそう・・・


 「急急如律令、勅!」

 

 試合開始と同時に、セシリーが刀印を切る。

 

 轟音と共に、無数の雷撃が雨のようにステージへ降り注いだ。

 

 「開幕からド派手だなオイ!?」

 

 雷を避けつつ、暁彗へと向かう俺。

 

 だが、その前に虎峰が立ちはだかった。

 

 「行かせませんよ!」

 

 「それは困るな」

 

 《通天足》の蹴りによる攻撃を、綾斗が間に入り《黒炉の魔剣》で受け止めてくれる。

 

 「《覇軍星君》の相手は七瀬に任せてるんだ。君の相手は俺が務めさせてもらうよ、《天苛武葬》」

 

 「あの《叢雲》に相手をしていただけるとは、光栄ですね」

 

 笑みを浮かべる虎峰。

 

 「しかし残念ながら、貴方の相手は・・・」

 

 「趙師兄ではありません」

 

 「ッ!?」

 

 虎峰の背後から現れた八重が、綾斗へと拳を放つ。

 

 綾斗が後方へと跳んで避けるが、そこへ待ち受けていたのは・・・

 

 「お前の相手は俺だ・・・《叢雲》」

 

 棍を構えた暁彗だった。いつの間にあんなところに!?

 

 「マズい・・・!」

 

 「行かせないと言ったはずです!」

 

 方向転換する俺の前に、虎峰と八重が立ち塞がる。

 

 暁彗が綾斗へと棍を突き出した瞬間・・・

 

 「やぁっ!」

 

 綺凛が棍を刀で受け止めた。何とか体勢を整える綾斗。

 

 危なかった・・・

 

 「貴方の相手は僕達ですよ」

 

 虎峰が構えながら言う。

 

 「二対一というのは少々気が引けますが・・・勝負ですから致し方ありません」

 

 「・・・二対一なら勝てるとでも?」

 

 身体から雷を迸らせる俺。

 

 「いくら《通天足》を使っていても、《雷帝化》した俺にはついてこれないぞ。八重と二人で挑んできたところで、それは変わらない」

 

 「でしょうね」

 

 アッサリと認める八重。

 

 「だからこそウォン師姉には、開幕から派手な雷撃をお願いしたんですよ。目眩ましの意味合いもありますが、何より・・・お兄様の知覚能力対策の為に」

 

 「っ・・・」

 

 まさか八重のヤツ、気付いてたのか・・・?

 

 「お兄様は《魔術師》の能力により、知覚能力が格段に上がっています。相手の星辰力の流れを読み取れるなど、チート能力と言ってもいいでしょう。ですが・・・その能力にも弱点はあります」

 

 淡々と説明する八重。

 

 「お兄様は知覚能力が上がっている影響で、相手の能力による攻撃に意識がいってしまいます。そうすると、攻撃している相手以外の人の星辰力の流れを読み取るのが疎かになってしまう・・・だから私が趙師兄の後ろに潜んでいたことや、大師兄が移動していたことに気付くのが遅れたんでしょう?」

 

 八重の言う通りだった。俺はセシリーの雷撃に意識がいっていたのだ。

 

 虎峰の攻撃は視界に入っていたが、八重と暁彗には気付いていなかった。

 

 「加えて、ウォン師姉が雷撃使いという点も大きかったはずです。あれほど雷撃が降り注いでいたら、同じ雷の能力を持つお兄様は余計に敏感に反応してしまうはずですから」

 

 「・・・そこまで見抜かれてたか」

 

 我が妹ながら、見事な観察眼だ。まるで三咲姉だな・・・

 

 「でもそれが分かったところで、何も変わりはしないだろ。セシリーの雷撃はいずれ止むだろうし、今の俺の意識はお前達に集中している。逃がしはしないぞ」

 

 「いえ、大きく変わりますよ」

 

 答えたのは虎峰だった。

 

 「僕達に意識が集中している・・・それで十分です」

 

 「は・・・?」

 

 その瞬間・・・俺の両脇に、沈雲と沈華が現れた。

 

 「ッ!?」

 

 「「急急如律令、封!」」

 

 俺の右肩に沈雲、左肩に沈華が触れる。突如として鎖が現れ、俺の身体に巻き付いていった。

 

 「がああああああああああっ!?」

 

 「七瀬ッ!」

 

 身体に激痛が走る中、駆けつけたクローディアが双子に攻撃を仕掛ける。

 

 何とか攻撃を避けて距離を取った双子だったが、その顔は疲労困憊といった様子だった。

 

 「やれやれ・・・この術を使うのはしんどいな・・・」

 

 「全くだわ・・・既に身体がキツいもの・・・」

 

 「よくやってくれたな、二人とも」

 

 虎峰が双子を労う中、鎖が消えて俺の身体の痛みも引いていった。

 

 「七瀬!?大丈夫ですか!?」

 

 「あぁ、何とか・・・」

 

 【マスター、大変です!】

 

 七海の慌てた声が聞こえる。

 

 「七海?どうした?」

 

 【雷の力が使えません!】

 

 「・・・え?」

 

 言われてみると、隣にいるクローディアの星辰力の流れさえ読めない。

 

 雷を迸らせようとするが・・・

 

 「っ・・・使えない・・・?」

 

 「悪いわね、七瀬」

 

 沈華が疲れきった声で言う。

 

 「今アンタに使った術は、相手の能力を一時的に封印する術・・・私と沈雲が編み出した術なのよ。まぁ代償として、二人の体力をごっそり持っていかれるんだけどね」

 

 「最初からこの術を君に使う為に、皆それぞれ動いていたのさ。一番厄介な相手は、間違いなく君だからね」

 

 沈雲も疲れきった様子で説明してくれる。

 

 「今の君は《魔術師》じゃない。星辰力の量が多い、ただの《星脈世代》だよ」

 

 「っ・・・」

 

 全てはこの為に動いてたってことかよ・・・

 

 ここにきて連携プレーとはな・・・

 

 「これで形勢逆転です」

 

 そういう虎峰の表情は、何処か冴えなかった。

 

 「今の七瀬では、《神の拳》を使って僕と同等といったところでしょう。ですが、こちらには八重がいます。二対一なら、今の七瀬に勝つことは容易いはずです」

 

 「申し訳ありません、お兄様」

 

 八重の表情も暗い。

 

 「このような形で勝ったとしても、私は胸を張って『お兄様を超えた』とは言えないでしょう。ですが・・・負けられないのです」

 

 真剣な眼差しで俺を見据える八重。

 

 「私にも叶えたい願いができました。それを叶える為にも、私は勝ちたいのです」

 

 「・・・だったら謝んなよ」

 

 「っ・・・」

 

 俺は八重と虎峰を睨んだ。

 

 「これは真剣勝負だ。そして俺はお前達の作戦にハマった・・・ただそれだけだろ。二人揃って後ろめたそうな顔すんなよ」

 

 「お兄様・・・」

 

 「ったく、ずいぶん舐められたもんだ・・・七海」

 

 【はい、マスター】

 

 俺の両手に《神の拳》が装着される。

 

 「クローディア、お前は予定通り双子の相手を頼む。虎峰と八重は任せろ」

 

 「・・・よろしいのですか?」

 

 「あぁ」

 

 ユリスと紗夜はセシリーと、綾斗と綺凛が暁彗と戦っている。

 

 セシリーの方はともかくとして、暁彗の方はかなりキツいはずだ。

 

 「ここで油を売ってる暇は無い。さっさと終わらせるぞ」

 

 「了解です」

 

 頷くクローディア。

 

 俺は拳を構えると、八重達を見据えるのだった。

 

 「さぁ・・・仕切り直しといこうか」




どうも~、ムッティです。

シャノン「ななっちの能力が封じられるとは・・・」

果たして七瀬はどうするのか・・・

それはさておき、最近感想で色々と意見をいただきます。

主にヒロイン複数化についてですね。

シャノン「結構反対意見もいただいてるよね」

そうそう、『ヒロインはシルヴィアのみにすべきだと思う』っていう意見ね。

中には、『クローディアの恋は実らないでほしい』っていう意見もあったり。

その一方で、『シルヴィアと別れても良いからクローディアの恋が実ってほしい』という意見もありました。

シャノン「まぁ読者さんによって意見は分かれるよね」

人それぞれだからね。

まぁ正直なことを言うと、恐らくヒロインは複数になると思われます。

展開を色々と考えた結果、恐らくそうなるなと・・・

ヒロイン複数化に反対の方々、大変申し訳ありません。

読者の皆様には、今後も温かく見守っていただけると幸いです。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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仲間達

週末に台風が上陸するかもしれないなんて・・・

ホント勘弁してほしいわ・・・


 「はぁっ!」

 

 虎峰の回し蹴りが飛んでくる。

 

 それをしゃがんで回避すると、今度は右側から八重の蹴りが飛んでくる。

 

 「やぁっ!」

 

 「おっと」

 

 「そこです!」

 

 背後へ転がって避けるが、虎峰が追撃で拳を放ってくる。

 

 俺はそれを受け止めると、攻撃を仕掛けようとしてくる八重へ虎峰を投げ飛ばした。

 

 「うわっ!?」

 

 「きゃっ!?」

 

 慌てて八重が避け、虎峰が空中で一回転して着地する。

 

 「《断罪の流星》ッ!」

 

 「ッ!?」

 

 俺の拳から放たれた光線を、虎峰が《通天足》で防いだ。

 

 チッ・・・

 

 「やっぱり純星煌式武装には防がれるか・・・改良の余地ありだな」

 

 【修行は主に、マスターの能力を制御する為のものでしたからね。私・・・《神の拳》で使える技も増えましたが、やはりまだまだといったところでしょうか】

 

 「だな。《獅鷲星武祭》が終わったら、また修行すっか」

 

 【ですね】

 

 『七瀬選手、趙選手と八重選手を余裕で相手取っております!しかも試合の最中に純星煌式武装と会話しているーっ!?』

 

 『《魔術師》の力が使えないというのに・・・大したものですな』

 

 七海と会話していると、梁瀬さんと柊さんが何か言っていた。

 

 いや、別に余裕ではないんだけども。

 

 「・・・どうやら、七瀬の力量を見誤っていたようですね」

 

 悔しそうな表情の虎峰。

 

 「《通天足》を使っていてもダメージは与えられず、八重と共に戦って初めて互角に勝負出来るだなんて・・・『僕と同等』だなんて嘯いた自分が恥ずかしいです・・・」

 

 「生憎、能力に頼った鍛え方はしてないんだよ」

 

 そう、あくまでも《魔術師》の能力は付随したものだ。

 

 俺の武器は己の肉体であり、それを磨き上げてこそ《神の拳》や《魔術師》の能力も生きてくる。

 

 「俺は拳士じゃないから、純星煌式武装だって能力だってバンバン使うけど・・・そこはちゃんと分かってるつもりだよ」

 

 「・・・参りますね、本当に」

 

 苦笑する虎峰。

 

 「身体を鍛える一方で、純星煌式武装や能力の訓練も怠らない・・・ずっと思っていましたが、七瀬は界龍の生徒に向いてますね」

 

 「お兄様、今からでも遅くありません。転校しましょう」

 

 「勘弁してくれよ・・・」

 

 界龍なんかに行ったら、星露に何されるか分かったもんじゃないからな・・・

 

 暁彗&アレマっていうバケモノも揃ってるし・・・

 

 「何より・・・来年には星導館に十萌が入って来るんだぞ!?転校なんて出来るか!」

 

 「そんな理由ですか!?」

 

 「『そんな理由』とは何だ!俺にとっては何よりも大きな理由だわ!」

 

 「・・・私が星導館に転校するのもアリですね」

 

 「八重!?」

 

 虎峰が焦っている。

 

 「まぁ、無駄口はここまでにして・・・そろそろケリをつけようか。いい加減、ヘルプに入らないとマズそうだしな」

 

 俺の視線の先には、ボロボロになった綾斗と綺凛がいた。

 

 そして星導館の新旧序列一位を相手に、傷一つ負っていない暁彗・・・

 

 やっぱりアイツはバケモノだ。

 

 「舐めないでいただきたいですね」

 

 構える虎峰。

 

 「二対一で互角というのも喜べませんが・・・それでも状況は拮抗しています。ここから七瀬が、我々二人を倒せるとでも?」

 

 「それに我々には大師兄以外にも、ウォン師姉・黎師兄・黎師姉がいらっしゃるということをお忘れですか?」

 

 「八重、その見立ては甘いぞ?」

 

 俺がそう言った瞬間・・・

 

 

 

 『黎沈雲・黎沈華、校章破壊!』

 

 

 

 機械音声が、黎兄妹の敗北を告げた。視線をやると、クローディアがにこやかに笑っていた。

 

 「フフッ、七瀬の能力封じに力を使い過ぎたようですね」

 

 「・・・だからといって、こうもアッサリ負けるとはね」

 

 「流石は《千見の盟主》・・・恐れ入ったわ」

 

 脱力して倒れこむ沈雲と沈華。そして・・・

 

 

 

 『セシリー・ウォン、校章破壊!』

 

 

 

 ユリス達の方も決着がついたようだ。セシリーが大の字で倒れている。

 

 「あーあ、やられちゃった・・・」

 

 「開幕から飛ばし過ぎたな」

 

 ユリスがセシリーを見下ろしながら言う。

 

 「途中から明らかにバテたのが分かったぞ。私達を舐めすぎだ」

 

 「いやぁ、舐めたつもりは無かったんだけど・・・アンタ達に雷撃が全然通用しないもんだから、焦っちゃってさぁ」

 

 「雷撃対策はバッチリしてきた」

 

 グッと親指を立てる紗夜。

 

 「七瀬の雷撃に比べたら、お前の雷撃は優しい方だ。模擬戦で食らった七瀬の雷撃といったら・・・摸擬戦なのに死ぬかと思ったくらいだ」

 

 「あぁ、あれはゾッとしたな・・・」

 

 心なしか身体が震えている二人。

 

 あれ?手加減はしたんだけどな・・・

 

 「ハハッ、完敗だね。アンタ達にも・・・七瀬にも」

 

 力なく笑うセシリー。さて・・・

 

 「俺も俺の仕事をしますかね」

 

 「そんな・・・ウォン師姉達が・・・」

 

 信じられないといった表情の八重。

 

 「俺の仲間達を舐めるなよ?クローディアもユリスも紗夜も、星導館・・・いや、アスタリスクで指折りの実力者だ。力を使い過ぎたセシリー達じゃ、どうにも出来ないだろうさ」

 

 俺はそう言うと、拳を構えた。

 

 「虎峰、八重・・・行くぞ」

 

 「望むところですッ!」

 

 虎峰が飛び出してくる。《通天足》による蹴りを放ってくるが・・・

 

 「はぁっ!」

 

 拳を放ち、蹴りを受け止める。

 

 それを待っていたかのように、八重が俺の校章を目掛けて拳を放ってくる。

 

 「これで終わりですッ!」

 

 「お前がな」

 

 足で八重の拳を蹴り上げる。

 

 受け止めていた虎峰の足を掴み、そのままバットを振るように虎峰を八重の校章へと叩き付けた。

 

 「ぐあっ!?」

 

 

 

 『星野八重、校章破壊!』

 

 

 

 校章を破壊され、吹き飛んでいく八重。

 

 そのまま虎峰も、ハンマー投げの要領でステージの壁へと投げ付けた。

 

 「がはっ!?」

 

 勢いよく激突した虎峰は、地面に倒れこんで動かなくなった。

 

 

 

 『趙虎峰、意識消失!』

 

 

 

 『八重選手と趙選手もやられたーっ!これでチーム・黄龍は、リーダーの武暁彗選手一人となってしまいましたーっ!』

 

 『これは予想外の展開ですな・・・』

 

 梁瀬さんと柊さんの声をよそに、俺は《神の拳》を暁彗に向けていた。

 

 「《断罪の流星》ッ!」

 

 「っ!」

 

 綾斗と綺凛を相手取っていた暁彗は、後ろへ大きく飛び退いて距離をとった。

 

 「・・・遂にお前と戦う時が来たか、七瀬」

 

 嬉しそうに笑っている暁彗。

 

 「この時を待ち望んでいたぞ」

 

 「奇遇だな。俺もだ」

 

 拳を構え、暁彗を見据える俺なのだった。

 

 「絶対にお前を倒す。覚悟しろよ、暁彗」




どうも~、ムッティです。

いよいよ黄龍戦も大詰めを迎えております。

シャノン「これで六対一・・・普通に考えたら、ななっち達が有利だよね」

普通に考えたら、ね。

暁彗の兄貴はバケモノだから。

シャノン「確かに・・・どうなるか分かんないよね・・・」

そんなわけで、続きをお楽しみに。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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バケモノ

溶ける~溶ける~、俺~た~ち♪

流れ~る汗がハンパ~な~い♪

いつも~こんな~、暑~け~りゃ♪

やがて~干からびてゆく~だ~ろ~♪



・・・暑いんだよバカ野郎おおおおおっ!


 「綾斗、綺凛、大丈夫か?」

 

 「うん、何とかね・・・」

 

 「スミマセン、力及ばず・・・」

 

 側へと歩み寄ると、二人ともかなり疲れ切っている様子だった。どうやら、ダメージの蓄積が大きいようだ。

 

 「いや、よくやってくれた」

 

 続いてやってきたユリスが、二人を労う。

 

 「お前達が《覇軍星君》を抑えてくれていたおかげで、他のメンバーを片付けることが出来たからな」

 

 「ユリスの言う通り。二人とも頑張った」

 

 「六対一になったのは、相当大きいですよ」

 

 紗夜とクローディアも頷いている。一方の暁彗は、一定の距離を保ったまま動いていなかった。

 

 時間をくれるとは、ずいぶん余裕だな・・・

 

 「綾斗と綺凛は、少し下がって休んでてくれ。暁彗の相手は俺達がする」

 

 「いや、全員でかかった方が良いんじゃ・・・」

 

 綾斗がそう言うが、今のままでは綾斗も綺凛もまともに動けないだろう。

 

 ここで無理をして、リタイアになってしまったら元も子もないからな。

 

 「万が一試合が長引いた場合、二人にも動いてもらわないといけない。そうなった場合に備えて、少し身体を休めてくれ。クローディア、お前もな」

 

 「えっ・・・いえ、私は・・・」

 

 「・・・身体、ホントは結構しんどいんだろ?」

 

 「っ・・・」

 

 息を呑むクローディア。

 

 試合の序盤、クローディアは黎兄妹に自由行動を許してしまっている。恐らく身体が万全ではなく、黎兄妹を止められなかったんだろう。

 

 しかも体力をごっそり消耗した黎兄妹を倒すのに、少し時間がかかっていた。いつものクローディアなら、瞬殺できていたはずだ。

 

 「まぁ無理も無い。昨日あれだけ体力を消耗して、至るところに怪我を負い・・・満身創痍の状態でこの試合に臨んでるわけだしな」

 

 「ですが、それは七瀬達も同じで・・・」

 

 「クローディア」

 

 クローディアのセリフを遮る俺。

 

 「お前がリタイアした瞬間、俺達の敗北が決まるんだ。分かってくれ」

 

 「七瀬・・・」

 

 俯くクローディア。俺はクローディアの頭を撫でた。

 

 「万が一の時は、お前に動いてもらうことになる。だからちょっと休んでろ」

 

 「・・・分かりました」

 

 悔しそうに頷くクローディア。

 

 「リーダーとして、本当に申し訳ありませんが・・・頼みます」

 

 「おう」

 

 俺は頷くと、ユリスと紗夜へと視線を向けた。

 

 「俺が前衛でユリスが遊撃、紗夜が後衛でいく。サポートは任せたぞ」

 

 「あぁ、任された」

 

 「バッチコイ」

 

 二人が力強く頷いてくれる。俺は暁彗へと身体を向けた。

 

 「・・・話し合いは終わったか?」

 

 「おかげさまでな。時間をくれるなんて、余裕の表れか?」

 

 「真正面からお前達を打ち負かす・・・それだけだ」

 

 「人の能力を封じておいてよく言うぜ」

 

 「アレは八重が考えた策でな。師父は八重に作戦を一任していた故、俺も口を挟んだりしなかっただけだ」

 

 「・・・八重のヤツ、ずいぶん星露から信頼されたな」

 

 まぁ八重は頭も切れるし、そういうの向いてるかもしれないけど。

 

 「さて・・・始めようか」

 

 棍を構える暁彗。

 

 「能力無しで何処までやれるか・・・俺が見極めてやる」

 

 「ハッ、そりゃ有り難いな」

 

 拳を構える俺。そして・・・

 

 「「はぁっ!」」

 

 同時に地面を蹴る俺と暁彗なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「らぁっ!」

 

 暁彗へ向けて拳を放つ。しかし暁彗は、いとも簡単に棍で弾いてみせた。

 

 「なっ!?」

 

 「はぁっ!」

 

 暁彗が掌打を繰り出そうとした瞬間・・・

 

 「咲き誇れ!呑竜の咬焔花!」

 

 ユリスの能力によって生み出された焔の竜が、暁彗に襲いかかる。咄嗟に避ける暁彗だったが、そこへ紗夜が銃口を向けた。

 

 「どどーん」

 

 アークヴァンデルス改が火を噴く。暁彗が棍で銃撃を受け止めた瞬間、凄まじい爆発が巻き起こった。

 

 「七瀬、大丈夫?」

 

 「あぁ、何とかな」

 

 紗夜の問いに頷く俺。

 

 「紗夜もユリスもありがとな。助かったよ」

 

 「気にするな。しかし、あの棍は何だ?純星煌式武装である《神の拳》を弾くなど、同格の純星煌式武装にしか出来ないはずでは・・・」

 

 「・・・恐らく呪符だ。相当な枚数が貼られてるんじゃないか?」

 

 「いかにも」

 

 煙が晴れた先では、暁彗が無傷で立っていた。棍の表面で呪符が燃え尽き、灰となって地面に落ちていく。

 

 「この呪符を潰さないかぎり、《神の拳》でもこの棍は破壊できない」

 

 「・・・だから綾斗とやりあえたのか」

 

 恐らく《黒炉の魔剣》も、呪符に邪魔されて斬れなかったんだろう。

 

 ただの棍を厄介な武器にしやがって・・・

 

 「本気でこい、七瀬。俺も全力でいく」

 

 「言われなくてもそうするさ!」

 

 全力で地面を蹴り、暁彗との距離を詰める。

 

 「はぁっ!」

 

 連続で拳、そして蹴りを繰り出す。しかし暁彗は、それを最小限の動きで避ける。

 

 「・・・あれからまた強くなったようだな」

 

 感心したように呟く暁彗。

 

 「お前の体術は、既に虎峰を超えている。だが・・・」

 

 暁彗は俺の拳を避けると、俺の腹に掌打を打ちこんだ。

 

 「がはっ・・・!?」

 

 「・・・まだ俺には及ばない」

 

 吹き飛ぶ俺。追撃しようとしてくる暁彗に、紗夜が銃口を向ける。

 

 だが・・・

 

 「ふんっ!」

 

 暁彗の投げた棍が、アークヴァンデルス改の銃口に突き刺さった。銃が暴発し、銃口が爆発する。

 

 「なっ!?」

 

 驚愕している紗夜に、凄まじいスピードで接近する暁彗。そうはさせじと、ユリスが攻撃を仕掛けた。

 

 「咲き誇れ!隆炎の結界華!」

 

 炎の柱が、地面のあちこちから噴き出す。紗夜と暁彗の間にも噴き出すが、暁彗は動じずに拳を構えた。

 

 そして・・・

 

 「はぁっ!」

 

 暁彗の拳による衝撃波が炎の柱に穴を空け、その先にいた紗夜に直撃した。

 

 「かはっ・・・!?」

 

 もろにくらって宙へ浮いた紗夜に、暁彗の掌打が突き刺さる。紗夜の目から光が消えた。

 

 

 

 『沙々宮紗夜、意識消失!』

 

 

 

 「紗夜ッ!」

 

 叫ぶユリス。今度はユリスを狙い、暁彗が拳を繰り出すが・・・

 

 「させるかっ!」

 

 体勢を立て直し、暁彗の拳を蹴りで跳ね上げる俺。がら空きになった腹部に、渾身の右ストレートを叩き込む。

 

 「ぐぅっ・・・!」

 

 呻き声を上げる暁彗だったが、吹き飛ぶことなくその場に留まった。そのまま放たれた膝蹴りが、俺の脇腹へと突き刺さる。

 

 「がっ・・・!?」

 

 「はっ!」

 

 その隙をついて校章に掌打を放ってくるも、身体を捻って何とか校章を守る。しかし掌打はもろにくらってしまい、再び吹き飛ばされた。

 

 「このっ・・・咲き誇れ!赤円の灼斬花!」

 

 炎の戦輪が一斉に襲いかかるも、軽い身のこなしでユリスとの距離を詰める暁彗。

 

 そして・・・

 

 「はぁっ!」

 

 暁彗の蹴りがユリスの腹部にめり込んだ。

 

 「がはっ・・・!?」

 

 呻き声を上げたユリスの校章に、暁彗の掌打が放たれる。

 

 

 

 『ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト、校章破壊!』

 

 

 

 「ユリスッ!」

 

 くそっ、コイツやっぱりバケモノだ・・・!

 

 「次はお前だ、七瀬」

 

 地面を蹴り、俺との距離を詰めてくる暁彗。

 

 だが・・・

 

 「はぁっ!」

 

 「やぁっ!」

 

 綾斗と綺凛が間に入り、暁彗を牽制してくれる。暁彗は後方へ跳んで距離をとるが、二人はすかさず間合いを詰めて攻撃を仕掛ける。

 

 「七瀬ッ!」

 

 クローディアが駆け寄ってくる。

 

 「・・・悪い。倒せないどころか、お前達が休む時間さえ稼げなかった」

 

 「大丈夫ですよ。さっきより身体も動くようになりましたから」

 

 そう言ってくれるクローディアだが、表情には疲労の色が濃く見えた。

 

 これ以上の長期戦はこちらが不利か・・・

 

 「・・・七海」

 

 【何でしょう?】

 

 「かなりリスキーだが・・・沈雲と沈華に施された封印を解く。力を貸してくれ」

 

 【仰せのままに】

 

 同意してくれる七海なのだった。




どうも~、ムッティです。

シャノン「アニキ・・・強すぎじゃない?」

だってアニキだもの。

そりゃ紗夜もユリスも敵わないわ。

シャノン「私もこんな風に強くなりたいなぁ・・・」

え、筋肉ムキムキになりたいの?

シャノン「言ってないよ!?」

じゃあライザ●プ行ってきなよ。

シャノン「何でライ●ップ!?痩せたいわけじゃないんだけど!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノンはラ●ザップに行く為、しばらくお休みします。

シャノン「そんなわけあるかあああああっ!」


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勝ちたい

期間が空いてしまってスミマセン・・・

忙しくてなかなか執筆できず・・・

早く《獅鷲星武祭》を終わらせたいなぁ・・・

それではいってみよー!


 「綾斗!綺凛!」

 

 暁彗と対峙している二人に向かって、俺は声を張り上げた。

 

 「一分で良い!時間を稼いでくれ!」

 

 「了解!」

 

 「分かりました!」

 

 二人は力強く返事をすると、暁彗に向かって駆け出していく。

 

 「七瀬、私も時間稼ぎに・・・」

 

 「ストップ」

 

 二人の助太刀に行こうとするクローディアの手を掴む。

 

 「お前がやられたら俺達の負けだって言ったろ。今のお前じゃ、暁彗を相手にすることは難しい。ここは綾斗と綺凛に任せとけ」

 

 「ですが・・・!」

 

 「いいから大人しくしとけ」

 

 クローディアを強く抱き寄せ、身動きが取れないようにする。

 

 「なっ、七瀬!?」

 

 「・・・俺の側にいろ。絶対に離れんな」

 

 「はうっ!?」

 

 勝手な行動をしないよう、少々強めの口調で言ったのだが・・・何故かクローディアの顔が真っ赤になっていた。

 

 身体から力が抜け、俺に身体を預けるような形となっている。

 

 「クローディア?どうした?」

 

 「あ、あうぅ・・・」

 

 「・・・まぁいいや」

 

 何故か目を回してまともに喋れないクローディアを放置し、俺は目を閉じた。

 

 「七海、俺のイメージは伝わってるな?」

 

 【えぇ、危ない橋を渡ろうとしてることが伝わってきてます】

 

 溜め息をつく七海。

 

 【本当にやるんですか?】

 

 「あぁ、頼む」

 

 【・・・了解です。いきます】

 

 七海がそう言った直後、俺の頭に七海のイメージが流れ込んできた。

 

 【今マスターの身体とシンクロして、異常を探しているんですが・・・どうやら、マスターの身体にコーティングのようなものが施されていますね】

 

 「やっぱりか・・・」

 

 《魔術師》や《魔女》は、大気中の万応素とリンクすることで能力を発動させている。

 

 つまり能力が使えないということは、大気中の万応素とリンク出来ない状態になっているというわけだ。

 

 「封印っていうより妨害だよな、これ」

 

 【ですね。自分達の星辰力をコーティングに使い、大気中の万応素とマスターのリンクを妨害するとは・・・】

 

 つまりこのコーティングを剥がせさえすれば、再び能力が使えるようになるというわけだ。

 

 そしてその手段として、俺は一つの方法を思いついていた。

 

 「さて・・・やるぞ、七海」

 

 【・・・くれぐれも加減を間違えないで下さいね?】

 

 「分かってるさ・・・ほらクローディア、起きろ」

 

 力が抜けているクローディアの頬をぺちぺち叩く。

 

 「んんっ・・・ハッ、私は何を!?」

 

 「あ、戻ったな」

 

 俺は立ち上がると、《神の拳》を自分自身へと向けた。

 

 「少し下がってろ。何があるか分かんないからな」

 

 「七瀬・・・?」

 

 怪訝な顔をしているクローディアに微笑む。そして・・・

 

 「・・・《断罪の一撃》」

 

 自分自身に、光輝く《神の拳》を当てた。

 

 「ッ!?七瀬ッ!?」

 

 驚愕しているクローディアだが、あまりの眩しさに顔を覆う。

 

 俺の身体は《神の拳》による光に包まれ、そして・・・

 

 「・・・成功だな」

 

 俺の身体から、激しく雷が迸るのだった。

 

 「さぁ・・・決着をつけようか」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《綾斗視点》

 

 「ハァ・・・ハァ・・・」

 

 《黒炉の魔剣》を地面に突き刺し、それを支えにしながら踏ん張って立ち上がる。

 

 この試合、何度地面を転がっただろうな・・・

 

 「綺凛ちゃん、大丈夫かい・・・?」

 

 「・・・正直、そろそろ限界です」

 

 同じように《千羽切》を地面に突き刺し、よろよろと立ち上がる綺凛ちゃん。

 

 「強いことは分かっていましたが、これほどまでとは・・・」

 

 「・・・ホント、嫌になるよね」

 

 俺達の視線の先には、悠然と構える《覇軍星君》が立っている。汗一つかいておらず、呼吸も乱れていない。

 

 本当に恐ろしいな・・・

 

 「ですが・・・ここで諦めることは出来ません」

 

 《千羽切》を引き抜き、構える綺凛ちゃん。

 

 「私は勝ちたい。絶対に負けたくありません」

 

 「同感だね」

 

 《黒炉の魔剣》を引き抜く俺。

 

 「ほう・・・まだ立ち上がるか」

 

 感心している《覇軍星君》。

 

 「だが、お前達では俺を倒せんぞ」

 

 「えぇ、分かっています」

 

 綺凛ちゃんが悔しそうに頷く。

 

 「ですが、私達の役目は時間稼ぎ・・・後は七瀬さんにお任せします」

 

 「・・・よほど信頼されているのだな、七瀬は」

 

 《覇軍星君》が笑みを浮かべた。

 

 「七瀬は実に不思議なヤツだ。師父だけでなく、アレマ、冬香、セシリー、虎峰、沈雲、沈華・・・その他の師父の門下生達まで、アイツを気に入っているのだから。無論、この俺もな」

 

 目を閉じる《覇軍星君》。

 

 「もし俺が七瀬のような人間だったら・・・師父の渇きを満たすことも、出来たのかもしれんな」

 

 「渇き・・・?」

 

 妙な言い方に引っかかりを覚えた時だった。七瀬とクローディアがいる方が、眩く光ったのだ。

 

 「これは・・・!?」

 

 あまりの眩しさに、腕で顔を覆う。そして光が収まった時、そこにいたのは・・・

 

 「・・・成功だな」

 

 身体から雷を迸らせた七瀬だった。

 

 「さぁ・・・決着をつけようか」

 

 「・・・封印を解いただと?」

 

 驚いている《覇軍星君》。

 

 「一体どうやって・・・」

 

 「《断罪の一撃》で吹き飛ばした」

 

 あっけらかんと答える七瀬。えっ・・・

 

 「《断罪の一撃》って・・・まさか自分に撃ったの!?」

 

 「撃ったけど?」

 

 「何で無事なの!?」

 

 確か《断罪の一撃》は、相手を消し飛ばしてしまえる程の技のはず・・・

 

 それを自分に撃ったのに、何で七瀬は無傷なんだ!?

 

 「封印だけ消せるように、威力調整したから」

 

 「え、出来るの!?」

 

 「まぁな。昔と違って七海とコミュニケーション取れるし、力に振り回されることもなくなったから」

 

 【能力制御の修行をした甲斐もありましたね。おかげで星辰力の細かい調整が出来るようになって、私の威力を調整できるようになりましたし】

 

 「ホントそれな」

 

 楽しげに会話している七瀬と七海さん。いやいやいや・・・

 

 「さらっと言ってますけど、ご自分に《断罪の一撃》を撃ったんですよね!?それって威力調整を間違ったら死にますよね!?」

 

 「うん、死んじゃう」

 

 あっさり頷く七瀬。

 

 「だからリスキーな方法ではあったんだけど・・・七海のサポートもあって無事に成功したわけよ。ありがとな、七海」

 

 【いえいえ、マスターのお力ですよ】

 

 能天気に会話している二人。もう何でもアリだな・・・

 

 「・・・流石に予想外だったな」

 

 《覇軍星君》も驚きを隠せないようだ。

 

 「一歩間違えたら、自分自身が消し飛ぶというのに・・・何故そこまで・・・」

 

 「勝ちたいからな」

 

 《覇軍星君》を見据える七瀬。

 

 「別に死にたいわけじゃないが・・・お前に勝とうとしてるんだから、それぐらいの覚悟は必要だろうよ」

 

 「・・・何故そこまで勝ちにこだわる?」

 

 「そんなもん決まってんだろ」

 

 雷に包み込まれる七瀬。これはまさか・・・

 

 「自分自身の為だ」

 

 《雷帝化》・・・七瀬の身体が、金色に光り輝いている。

 

 「仲間の願いを叶えたい、友達を救いたい・・・全て俺のわがままだ。そのわがままをどうやったら通せるか・・・答えは一つ、優勝するしかない。なら、こんなところで負けられないだろうよ」

 

 「・・・なるほど、実にお前らしい理由だな」

 

 苦笑している《覇軍星君》。

 

 「それだけの力を手に入れたというのに・・・お前は変わらんな」

 

 「生憎それで一度・・・いや、二度失敗してんだよ」

 

 今度は七瀬が苦笑する。

 

 「俺はもう力に呑まれることも、溺れることもあってはいけない・・・それだけだ」

 

 そこまで話すと、七瀬は拳を構えた。

 

 「さぁ・・・そろそろ終わりにしようか、暁彗」

 

 「・・・そうだな」

 

 笑みを浮かべ、拳を構える《覇軍星君》なのだった。

 

 「お前には負けられん・・・いくぞ、七瀬」




どうも~、ムッティです。

シャノン「いよいよ黄龍戦もクライマックスだね」

次の話で決着がつきます。

っていうか、早いところ《獅鷲星武祭》を終わらせたいのよね。

書きたい話もあるし、コラボもやりたいし。

後は・・・チラッ。

シャノン「え、何?何で私を見てるの?」

フッ・・・色々と考えているのだよ。

シャノン「はっ!?まさか私でいかがわしい妄想を!?」

・・・・・はぁ?

シャノン「ごめんなさい!冗談だからそんな冷たい目で見ないで!?」

ナニソレイミワカンナイ。

シャノン「何で急に西●野真姫ちゃん!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

次回からはシャノンではなく、西木●真姫ちゃんを登場させます!

シャノン「作品的に無理だよねぇ!?」


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渇き

久々に日刊ランキングにランクインしてました。

皆様、本当にありがとうございます。


 「はぁっ!」

 

 「破ッ!」

 

 俺と暁彗の拳がぶつかり合う。力が拮抗する中、俺は更に力を込めた。

 

 「はあああああっ!」

 

 「ぐぅっ・・・!」

 

 暁彗の表情が歪む。俺は拳を振り抜いた。

 

 「らぁっ!」

 

 「ぐあっ!?」

 

 吹き飛ぶ暁彗。俺は手に雷の槍を形成した。

 

 「《雷帝の閃槍》ッ!」

 

 暁彗に向かって投擲する。暁彗は体勢を崩しながらも、槍を足で蹴り上げた。

 

 「疾ッ!」

 

 槍が軌道を変え、暁彗の上を通過する。だが・・・

 

 「《放電》」

 

 俺が指を鳴らした瞬間、槍が爆発する。

 

 槍のすぐ側にいた暁彗は爆発に巻き込まれ、ステージの壁へと叩きつけられた。

 

 「がはっ・・・!?」

 

 「休憩してる暇は無いぞ」

 

 既に距離を詰めていた俺は、暁彗に向かって拳を突き出す。

 

 咄嗟に身を屈めて避けた暁彗が、すがさず俺の足を払いにくるが・・・

 

 「読めてるよ」

 

 「があっ!?」

 

 払いにきた足を全力で踏み潰す。痛みに苦悶の表情を浮かべる暁彗だったが、すぐさま懐から呪符を取り出した。

 

 「爆ッ!」

 

 「チッ・・・」

 

 呪符の爆発を避ける為、一度後方に跳んで距離を取る。爆発の煙が収まると、暁彗がよろよろと立ち上がるところだった。

 

 「なるほど、これが《雷帝化》・・・道理で八重が封じたがるわけだ」

 

 苦々しい表情の暁彗。

 

 「お前は俺をバケモノといったが・・・お前も十分バケモノだな」

 

 「否定はしないさ」

 

 肩をすくめる俺。

 

 「俺の勝ちたいヤツらって、お前を含めて全員がバケモノクラスなんだよ。倒そうと思ったら、俺もバケモノになるしかない」

 

 「・・・お前は本当に勝ちにこだわるのだな」

 

 暁彗が寂しそうに笑う。

 

 「俺にも勝利への執念があったら・・・師父の渇きを満たせたかもしれんな」

 

 「渇きねぇ・・・」

 

 星露が暁彗に満足しないのは、暁彗が星露の真似事しかしないからだ。自分の教えた技のみしか使わないヤツが相手では、あの戦闘狂が満足するわけがない。

 

 だからこそ星露は暁彗のことを、『儂の作り上げた最高の失敗作』と称しているのだ。

 

 「だったらアレマを見習え。星露を倒すことに挑戦してみたら良い」

 

 「師父を倒す・・・?」

 

 「あぁ。星露から教えてもらった技じゃなくて、自分で新しい技を身に付けて挑むんだよ。まぁ簡単に勝てる相手じゃないけど、だからこそ倒し甲斐があると思うぞ」

 

 「・・・それで師父は喜んでくれるのか?」

 

 「おいそこの師父コンプレックス、略して師父コン」

 

 ダメだコイツ、星露に喜んでもらうことしか考えてない・・・

 

 星露は暁彗に、もっと自分自身のことを考えてほしいって思ってるんだけどな・・・

 

 「・・・どうやらお前は、一度敗北を味わう必要があるらしいな」

 

 「ッ!?」

 

 俺の放つ殺気を感じ、暁彗が瞬時に身構える。

 

 「その後、何をどう感じるのか・・・それはお前次第だ。自分で答えを導き出せ」

 

 右手に雷のエネルギーを凝縮していく。やがてそれは、巨大な槍へと形を変えた。

 

 「いくぞ暁彗・・・《雷帝の閃槍》ッ!」

 

 極太の雷の槍を、暁彗へと投擲する。暁彗はそれを避け、俺との距離を詰めてきた。

 

 「そんなもの、当たらなければ・・・!」

 

 「どうってことはないよな」

 

 そう言いつつ指を鳴らすと、暁彗の足元に魔法陣が出現する。そこから現れた巨大な雷の蛇が、一気に暁彗を呑みこんだ。

 

 「ぐあああああっ!?」

 

 「《逆襲の雷蛇》・・・引っかかったな」

 

 《雷帝の閃槍》を放ったのは、暁彗に避けさせて進路をずらす為・・・

 

 そう、俺が仕掛けた罠へと誘導する為だ。

 

 「舐めるなぁッ!」

 

 雷の蛇の腹を蹴破り、暁彗が飛び出してくる。あちこちボロボロで、肩で息をしている状態だ。どうやら、相当なダメージを受けたらしい。

 

 「この程度で俺を倒せるなど・・・!」

 

 「思ってないさ、最初からな」

 

 俺が再び指を鳴らした瞬間・・・暁彗の背後から、雷の槍が突き刺さった。

 

 「がはっ!?」

 

 「《雷帝の閃槍》は、俺の意思で自在に操れるんだよ」

 

 この技は、ユリスの《鋭槍の白炎花》を参考にしてるからな。だからこそ、最初に雷のエネルギーを注ぎ込んでおいたのだ。

 

 「チェックメイトだ、暁彗・・・《放電》」

 

 指を鳴らし、雷の槍を爆発させる。濃密な雷のエネルギーが暁彗の身体に流れ込み、眩い光に呑み込まれた。

 

 「がああああああああああっ!?」

 

 暁彗の絶叫が響き渡る。光が収まった時、そこには・・・全身ズタボロの暁彗が仁王立ちしていた。

 

 「・・・まだ立てんのかい」

 

 「・・・俺の・・・意地だ・・・」

 

 息も絶え絶えの暁彗。どうやら、もう限界のようだ。

 

 「七瀬・・・優勝・・・しろ・・・よ・・・」

 

 「・・・あぁ、必ず」

 

 俺が頷くと、暁彗は笑みを浮かべ・・・そのまま倒れ込むのだった。

 

 『武暁彗、意識消失!』

 

 『勝者、チーム・エンフィールド!』

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「大師兄ッ!」

 

 セシリー、沈雲、沈華が暁彗の元へ駆け寄ってくる。暁彗は、穏やかな表情で意識を失っていた。

 

 「・・・目が覚めたら、暁彗に伝えといてくれ。ナイスファイト、ってな」

 

 「七瀬」

 

 その場を去ろうとする俺を、セシリーが呼び止めた。

 

 「前々回の《鳳凰星武祭》のファイナリストとして、一つ忠告しといてあげる。決勝戦で負けて、相手が優勝する瞬間を見るのは・・・本当に悔しいよ。そんな思いをしたくなかったら、絶対に勝ちな」

 

 「・・・肝に銘じておくよ。ありがとな、セシリー」

 

 セシリーの頭に手を置く。

 

 「今の忠告に免じて、坊主の件は無かったことにしてやるよ」

 

 「アレ本気だったの!?」

 

 セシリーのツッコミをスルーして、八重と虎峰の方へと歩み寄る。

 

 気を失った虎峰を、八重が介抱しているところだった。

 

 「虎峰の様子はどうだ?」

 

 「直に目を覚ますと思いますよ。とても悔しがるでしょうけどね」

 

 苦笑している八重。

 

 「参りました、お兄様・・・やはり私がお兄様に勝つなど、まだ早かったようです」

 

 「作戦は良かったけどな。だいぶ苦戦させられたよ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「俺もまだまだだな・・・もっと強くならないと」

 

 「まだ強さを求めるのですか・・・?」

 

 「当たり前だろ」

 

 苦笑する俺。

 

 「今の俺じゃ勝てないヤツなんてたくさんいる。常に上を目指していかないとな」

 

 「・・・敵いませんね、お兄様には」

 

 八重が笑みを浮かべた。

 

 「お兄様が上を目指すのなら・・・私もお兄様の背中を追って、上を目指します」

 

 「俺の背中なんて追っても、しょうがないだろうに・・・」

 

 「お兄様だって、お姉様達の背中を追っているではありませんか」

 

 「・・・まぁな」

 

 俺は八重の頭を撫でた。

 

 「強くなろうな、お互いに」

 

 「はいっ」

 

 笑顔で頷いてくれる八重。と、俺はそこであることを思い出した。

 

 「そういや、叶えたい願いができたって言ってたけど・・・何だったんだ?」

 

 「・・・零香お姉様の捜索です」

 

 八重の表情が引き締まる。

 

 「零香お姉様が《蝕武祭》に参加していたことは、二葉お姉様から聞きました。指名手配されているとはいえ、六年経っても居場所が掴めないのなら・・・統合企業財体の力を借りようかと思いまして」

 

 「・・・なるほどな」

 

 八重らしいというか何というか、一人で考え込みやがって・・・

 

 「俺には一人で背負うなって言っておきながら、お前も一人で行動してんじゃん」

 

 「そ、それは・・・!」

 

 「全く・・・そんなところまで俺の背中を追わなくていいっつーの」

 

 優しく八重を抱き締める。

 

 「零香姉のことは、家族全員で何とかする・・・そう決めただろ?」

 

 「お兄様・・・」

 

 「・・・この大会が終わったら、一度皆で集まって話し合おう。現状を把握する為に」

 

 全員で情報を共有して、これからの方針を打ち出す。二葉姉のところに、新しい情報が入ってるかもしれないしな。

 

 「まぁ今はとりあえず・・・明日の決勝を見届けてほしい。三咲姉との戦いをな」

 

 「・・・分かりました」

 

 頷く八重。

 

 「私達の分も頑張って下さいね」

 

 「あぁ、勿論」

 

 拳を合わせる八重と俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

シャノン「チーム・黄龍に勝利して、次はいよいよ決勝戦だね」

やっとここまできたよね。

っていうか、ちょっと聞いておくれよ。

シャノン「急にどうしたの?」

いや、ヒロイン複数化構想の話なんだけどさ。

あれから感想欄で、多くの反対の声があったのよ。

シャノン「アララ・・・」

まぁ仕方ないよなぁ、なんて思ったんだけどさ・・・

よく読み返してみたら、あることに気付いてしまったんだ。

シャノン「あることって?」

反対意見を書いている人の名前なんだけどさ・・・

どれも名前は違うんだけど、全部IDが一緒なんだよね。

シャノン「えっ、それって・・・」

そう、同一人物ってこと。

ログインユーザーじゃない人だと思うんだけど・・・

名前だけ変えて、毎日のように反対意見を書いてんのよ。

「七瀬を弱体化させろ」「シルヴィ以外の女性キャラを全員退場させろ」みたいな意見も書いてたり・・・

シャノン「それはヒロイン複数化が嫌っていうより、ただの嫌がらせなのでは・・・」

まぁ運営対応になって、今はその人の感想は見れなくなってるんだけどね。

最近は感想も書いてないみたいだし。

まさか同じ人だとは思わなかったから、気付いた時はビックリしたよね。

シャノン「それは確かにビックリするわ・・・」

勿論、その人以外の方々からも反対意見はあったんだけどね。

貴重なご意見、ありがとうございました。

シャノン「で、結局方針は変わらないってことで良いの?」

うん、ヒロイン複数化の方向で進めていくよ。

反対の方々には申し訳ありませんが、温かく見守っていただけると幸いです。

よろしくお願い致します。

シャノン「お願い致します(ぺこり)」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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想いと願い

ちょっと涼しくなったと思ったら、また暑さが戻ってきやがった・・・

マジで夏なんて滅びてしまえ・・・


 「あー、しんどい・・・」

 

 うつ伏せでソファに寝そべる俺。

 

 クローディア、ユリス、綺凛、綾斗もそれぞれ寝そべったり座り込んだりしている。

 

 「紗夜は大丈夫かな・・・」

 

 「直に目を覚ますだろうって、救護スタッフの人達が言ってたよ」

 

 綾斗が答えてくれる。

 

 「治癒能力者の手当ても必要無いみたいだし、大丈夫じゃないかな」

 

 「なら良いけど・・・問題は俺達のコンディションだな」

 

 「・・・正直キツいな」

 

 溜め息をつくユリス。

 

 「今日が準決勝で、明日が決勝・・・この日程はどうにかならないのか?」

 

 「しかも相手のランスロットは、不戦勝で今日は休養日・・・明日は万全の状態で来るでしょうね」

 

 険しい表情のクローディア。ランスロットか・・・

 

 「まぁ幸いというべきか、ランスロットについては既に研究済みだからな。今さら試合映像を見る必要も無いし、作戦会議は明日で良いだろ。とにかく今日はゆっくり休んで、明日に備えようぜ」

 

 「ですね。出来る限りコンディションを整えないと」

 

 綺凛が頷いてくれる。

 

 と、来訪者を告げるチャイムが鳴り響いた。空間ウィンドウを覗いてみると・・・

 

 「・・・やっぱり来たか」

 

 予想通りの人が映っていたので、ドアのロックを解除する。

 

 険しい表情で控え室に入ってきたのは・・・

 

 「一織さん?」

 

 クローディアが呟く。そう、入ってきたのは一織姉だった。

 

 「・・・来ると思ってたよ」

 

 ソファから立ち上がり、一織姉と向かい合う俺。

 

 一織姉はそんな俺にツカツカと歩み寄ってくると・・・俺の頬に思いっきり平手打ちをかましてきた。

 

 「一織さん!?」

 

 クローディア達が驚く中、一織姉は俺を睨み付けていた。

 

 「・・・何で叩かれたか分かる?」

 

 「・・・《断罪の一撃》を、自分に向けて撃ったからだろ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「あの時・・・俺が死のうとしてやったことだもんな」

 

 それを聞いて、皆の表情が一斉に曇る。

 

 俺がクローディアに話した過去の話・・・それを皆が病室の外で聞いていたことは、最初から気付いていた。

 

 「一織姉には怒られるだろうなって思ったよ。それに・・・傷付けるだろうなとも思った。あの日のことを、思い出させてしまうだろうから」

 

 「だったら何で・・・」

 

 一織姉の目に、みるみる涙が浮かんでくる。

 

 「だったら何であんなことしたのよ!?少しでも加減を間違えたら、死んじゃうかもしれないのよ!?何で七瀬は自分のことを大事にしないの!?」

 

 「一織姉・・・」

 

 「私は・・・お父さんとお母さんを救えなかった・・・!」

 

 一織姉の頬を、とめどなく涙が伝っていく。

 

 「しかも目の前で七瀬が刺されて・・・私は何も出来なくて、七瀬まで失ってしまうのかって・・・だから七瀬を救えた時、本当に嬉しかった・・・!」

 

 俺を抱き締める一織姉。

 

 「お願いだから・・・もっと自分を大切にしてよ・・・私はもう二度と・・・大切な家族を失いたくないの・・・!」

 

 号泣する一織姉。俺は一織姉を抱き締め返した。

 

 「・・・ゴメンね、一織姉」

 

 優しく頭を撫でる。

 

 「一織姉は、ずっと後悔してるんだよね・・・父さんと母さんを救えなかったこと」

 

 もし自分が、もっと早く治癒能力に目覚めていたら・・・

 

 もっと早く、現場に駆け付けることが出来ていたら・・・

 

 そんな思いを、一織姉はずっと抱えてきたんだろう。だからこそ、唯一救えた俺を本当に大切にしてくれている。

 

 父さんと母さんの分まで、俺に愛情を注いでくれているのだ。

 

 「・・・ありがとう、一織姉」

 

 背中を優しく叩く。

 

 「一織姉が救ってくれたから、こうして今ここにいられる・・・本当に感謝してる」

 

 「七瀬・・・」

 

 「自分の命がどうなってもいいなんて、今はそんなこと考えてないよ。家族がいて、仲間がいて、恋人がいて・・・俺一人の命じゃないってことは、ちゃんと分かってる」

 

 そう、俺一人の命じゃない・・・それは皆が教えてくれたことだ。

 

 「それでも・・・命がけじゃなきゃ守れないものがある。貫き通せないものがある。それだけは分かってほしい」

 

 「・・・七瀬のバカ」

 

 一織姉の腕に力がこもる。

 

 「そんなこと、ちゃんと分かってるわよ・・・でも家族としては、自分の命を大事にしてほしい・・・だから怒ってるんじゃない・・・」

 

 「・・・ゴメン」

 

 「全く・・・根本的な部分は、昔から全く変わらないわね」

 

 涙を拭う一織姉。

 

 「まぁ、それが七瀬らしいんだけど・・・私を含めて、皆が心配してるってことだけは忘れないでね」

 

 「・・・うん、ありがとう」

 

 「分かってるなら良いの」

 

 一織姉が、そっと俺の頬に触れる。

 

 「叩いちゃってゴメンね。痛かったでしょ?」

 

 「そりゃあもう・・・暁彗の攻撃の比じゃないぐらい痛かったわ」

 

 「そこまで!?」

 

 「うん、主に心が」

 

 「うっ・・・ゴメンなさい・・・」

 

 バツが悪そうな一織姉。俺はひとしきり笑うと、一織姉を抱く腕に力を込めた。

 

 「・・・決勝、頑張るから。絶対勝つよ」

 

 「・・・うん。応援してるわ」

 

 微笑む一織姉。

 

 クローディア達が優しく見守ってくれる中、俺は改めて決意を固めるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「決勝進出おめでとう、七瀬!」

 

 「次の試合に勝ったら優勝ですね!」

 

 美奈兎と柚陽が笑顔で祝福してくれる。

 

 試合終了後、俺は星導館へ帰る前に治療院へとやってきていた。

 

 「おう、ありがとな。決勝も頑張るよ」

 

 「うん、応援してる」

 

 ニーナが笑顔でそう言ってくれる。と、九美がおずおずと話しかけてきた。

 

 「あの、兄さん・・・八重ちゃんの様子はどうでしたか?」

 

 「スッキリした感じ・・・では無かったかな。やっぱり悔しかったと思う」

 

 「ですよね・・・」

 

 俯く九美の頭に、ポンッと手を置く。

 

 「・・・退院したら、たくさん労ってやってくれ。八重も九美に会いたいだろうし」

 

 「兄さん・・・はいっ」

 

 笑みを浮かべる九美。八重も九美の顔を見たら、きっと元気が出るだろうしな。

 

 「次はいよいよ、お兄様達のチームとの戦いですわね」

 

 険しい表情のソフィア。

 

 「お兄様やレティシアは勿論のこと、他のメンバーも強敵ですわよ。特に七瀬さんのお姉様・・・三咲さんは、お兄様と互角の強さですから」

 

 「だろうな。よく知ってるよ」

 

 『ガラードワースの二大剣王』と称されるアーネストと三咲姉、《魔女》のレティシア、《聖杯》の使い手であるパーシヴァル・・・

 

 反則級の戦力が揃っている以上、苦戦は免れないだろうな・・・

 

 「それでも・・・負けるわけにはいかない」

 

 俺はクロエへ視線を向けた。

 

 「約束したからな・・・必ず自由にしてやるって」

 

 「ありがとう、七瀬」

 

 微笑むクロエ。

 

 「私は貴方を信じてるから」

 

 「おう、任せとけ」

 

 拳を合わせる俺とクロエ。

 

 と、そこで俺の端末に着信が入った。相手は・・・

 

 「シルヴィ?」

 

 俺が端末を操作すると、空間ウィンドウにシルヴィの顔が映った。

 

 『もしもしななくん?試合お疲れ様』

 

 「ありがとう。試合観ててくれたのか?」

 

 『中継で観てたよ。ななくんったら、ホントに無茶するんだから・・・』

 

 「・・・ゴメン、心配かけたよな」

 

 『ホントだよ・・・まぁ無事だったし、試合にも勝ったから良かったけどさ』

 

 嘆息するシルヴィだったが、やがて笑みを浮かべた。

 

 『決勝進出おめでとう。あと一勝だね』

 

 「あぁ、絶対に勝つよ」

 

 『フフッ、期待してるよ。明日は応援に行くから』

 

 「マジで?それは余計に負けられないな」

 

 そんなやり取りをしていると、シルヴィの後ろからペトラさんが顔を覗かせた。

 

 『シルヴィ、その辺にしてもらえませんか?』

 

 『えー、仕方ないなぁ・・・ななくん、ペトラさんから話があるんだって』

 

 「話?ひょっとして・・・」

 

 『えぇ、クロエの件です』

 

 ペトラさんの言葉に、赫夜の皆の表情が引き締まる。

 

 どうやら、W&Wから回答があったみたいだな・・・

 

 『W&Wに、七瀬さんからの提案を伝えさせていただきました。その結果、『条件付きで交渉のテーブルに着く』との回答でした』

 

 「条件・・・?」

 

 『《獅鷲星武祭》で優勝すること、だそうです』

 

 淡々と答えるペトラさん。

 

 『そして願いとして、クロエの購入を望むこと・・・それがW&Wの出した条件です。金額等の具体的な交渉は、それから始めようとのことでした』

 

 「なるほど、『解放』ではなく『購入』ですか・・・」

 

 『解放』となると、W&Wはタダでクロエを手放すことになる。損しか無いとはいえ、望みは絶対に叶えないといけない。

 

 だから『購入』を望みとさせて、利益を得ようという判断なんだろうな。

 

 「そんなの律儀に守る必要ないじゃん!」

 

 『購入』という言葉にカチンときたのか、美奈兎が声を荒げる。

 

 「七瀬が優勝したら、クロエが自由になることを望んで・・・」

 

 「それは止めた方が良いな」

 

 首を横に振る俺。

 

 「その場合、自由になった後のクロエの身が危ない。W&Wが、不慮の事故に見せかけてクロエを始末しにくる可能性が高いだろうし」

 

 「そんな・・・」

 

 「それにクロエには、《べネトナーシュ》の一員として得ている情報がある。それを手に入れる為に、他の統合企業財体がクロエを狙う可能性も否定できない。だからこそ、W&Wにはクロエの後ろ盾になってもらわないと困るんだよ」

 

 「まさか七瀬さん、最初からそこまで計算して交渉を・・・」

 

 「まぁな」

 

 唖然としている柚陽の言葉に、苦笑しながら返す俺。

 

 「ペトラさん、W&Wには『承知しました』と返事をしてもらって良いですか?」

 

 『分かりました』

 

 頷くペトラさん。

 

 『では七瀬さん、明日の決勝頑張って下さいね。まぁ私としては、貴方に負けていただいた方が良いのですが』

 

 『もう、ペトラさんったら・・・じゃあななくん、明日応援に行くからね!』

 

 「おう、ありがとな。ペトラさんもありがとうございました」

 

 俺の言葉にシルヴィが笑顔で手を振り、ペトラさんが一礼したところで通信が切れる。

 

 「・・・兄さん」

 

 俺の手を握ってくる九美。

 

 「お願いすることしか出来なくて、本当に申し訳ありませんが・・・クロエ先輩を助けて下さい」

 

 「あぁ、勿論」

 

 九美、美奈兎、柚陽、ニーナ、ソフィア・・・そしてクロエ。

 

 全員を見回した俺は、力強く宣言するのだった。

 

 「必ず優勝して、クロエを自由にしてみせる」




どうも~、ムッティです。

映画が観たいわぁ・・・

シャノン「どうしたの急に」

『コー●ブルー』『七つの●罪』『銀●』・・・

観たい映画が結構あるんだけど、時間が無くて観に行けない・・・

シャノン「作者っちは映画好きなんだね」

勿論ですとも。

アスタリスクも映画やったら良いと思う。

ってか三期やって。

そして『クインヴェールの翼』アニメ化して。

シャノン「おっ、そしたら私の出番も・・・」

あるわけねーだろモブキャラ。

シャノン「辛辣!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「出番が欲しいよおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!」


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処刑刀

早く夏終われええええええええええっ!!!!!!!!!!


 「悪い綾斗、遅くなったわ」

 

 「大丈夫だよ。俺もさっき終わったところだし」

 

 笑いながらそう言ってくれる綾斗。

 

 綾斗も遥さんの顔を見ておきたかったらしく、俺達は二人で治療院に来ていた。

 

 俺は四糸乃姉のところにも顔を出してきたので、先に面会を終えた綾斗を待たせてしまったのだ。

 

 「四糸乃さんや赫夜の皆はどうだった?」

 

 「すっかり元気になってたよ。明後日には退院できるってさ」

 

 「良かったね」

 

 そんな会話をしながら、綾斗と星導館への帰り道を歩く。

 

 「遥さんはどうだった?」

 

 「変わらないね。やっぱり封印を解かないと、目覚めさせることは出来ないみたいだ」

 

 「そっか・・・」

 

 遥さんは何を思って綾斗に、そして自らに封印を施したんだろうか・・・

 

 本人に聞いてみなきゃ分からないか・・・

 

 「そういや、綾斗の封印はどうなんだ?最後の封印は解けそうか?」

 

 「んー、もう少しって感じではあるんだけど・・・」

 

 もどかしそうな表情の綾斗。

 

 遥さんは三段階に分けて、綾斗の力を封印しているらしい。その内の二つ目までは解けているそうだが、最後の三つ目が解けないのだそうだ。

 

 何か条件があるんだろうか・・・

 

 「最後の封印が解けたら、もっと七瀬の力になれるのに・・・」

 

 「俺の力・・・?」

 

 首を傾げる俺。どういうことだ?

 

 「・・・俺達がここまで勝ち進んでこれたのは、七瀬のおかげだよ。準々決勝のルサールカ戦に、準決勝の黄龍戦・・・四糸乃さんも《覇軍星君》も、俺達じゃ倒せなかった。七瀬が二人を倒してくれたから、俺達は決勝までこれたんだ。俺達はずっと、七瀬におんぶに抱っこの状態なんだよ」

 

 綾斗が悔しそうな、申し訳なさそうな表情を見せる。

 

 「だからこそ、俺の最後の封印が解けたら・・・もっと七瀬の負担を減らせるんじゃないかって、そう思うんだ」

 

 「・・・バーカ」

 

 綾斗の肩を思いっきり叩く。

 

 「確かに、四糸乃姉と暁彗を倒したのは俺だ。でも二人を倒せたのは、間違いなくお前達のおかげなんだよ」

 

 「えっ・・・?」

 

 「ルサールカも黄龍も、全員手強いメンバーだった。そんな中で、俺がタイマンを張れるようにしてくれたのはお前達だ。俺一人だったら、まず間違いなく負けてるよ」

 

 綾斗、クローディア、ユリス、綺凛、紗夜・・・誰か一人でも欠けていたら、ここまで辿り着くことは有り得なかった。

 

 皆がいたからこそ、決勝まで勝ち進んでこれたのだ。

 

 「俺達は六人で一つだ。だから・・・六人で掴み取ろうぜ、優勝を」

 

 「っ・・・あぁ!」

 

 力強く頷く綾斗。と、その時だった。

 

 

 

 

 

 「フフッ・・・素敵な友情ね」

 

 

 

 

 

 突如として響いた声。声のした方を振り向くと・・・

 

 「流石は私の弟、良いこと言うわ」

 

 「零香姉・・・」

 

 長い黒髪をなびかせ、微笑んでいる零香姉が立っていた。

 

 このタイミングで現れるか・・・

 

 「っ・・・この人が・・・」

 

 「初めまして、天霧綾斗くん。いつも七瀬がお世話になってるわね」

 

 「・・・どうも」

 

 警戒している綾斗。それを見て、零香姉が溜め息をついた。

 

 「初対面なのにそんな反応しなくても・・・お姉さん傷付いちゃうわ」

 

 「零香姉がやったことを考えたら、当然の反応だろ」

 

 綾斗の前に出る俺。

 

 「それで?何の用?」

 

 「答えを聞かせてもらおうと思って」

 

 俺を見据える零香姉。

 

 「七瀬、私と来る気は無い?」

 

 「無い」

 

 俺は冷たく返した。

 

 「逆に聞きたいんだけど・・・大人しく自首する気は無いの?」

 

 「無いわ」

 

 即答する零香姉。

 

 「私にはやるべきことがあるの。捕まっている暇なんて無いのよ」

 

 「・・・交渉決裂だな」

 

 雷を迸らせる俺。

 

 「俺は零香姉についていくつもりは無いし、零香姉も自首するつもりは無い・・・これを解決する方法は、たった一つしかない」

 

 「相手に力ずくで言うことを聞かせる・・・分かりやすくて良いわね」

 

 零香姉も星辰力を練り込んでいく。

 

 「この間みたく、手加減なんてしないわよ?」

 

 「上等だよバカ姉。やれるもんならやってみろ」

 

 一触即発の空気が流れ、俺と零香姉が戦闘を始めようとした時だった。

 

 

 

 

 

 「落ち着きたまえよ、零香」

 

 

 

 

 

 何処かで聞いたことのあるような声が響いた。

 

 「・・・貴方が何故ここにいるのかしら?」

 

 零香姉が声のした方を睨み付ける。そこには・・・

 

 「そう怖い顔をしないでくれ。少し用があってね」

 

 仮面をつけた男が立っていた。その後ろに控えている女は、俺にも見覚えがあった。

 

 「っ・・・ヴァルダ・・・」

 

 「久しいな、零香の弟・・・七瀬といったか?」

 

 《ヴァルダ=ヴァオス》・・・シルヴィの恩人である、ウルスラ=スヴェントの身体を乗っ取っている人物・・・いや、純星煌式武装か。

 

 「ってことは、そこの仮面も仲間か・・・」

 

 「こんばんは、星野七瀬くん。そして天霧綾斗くん」

 

 笑みを浮かべる仮面の男。

 

 「私の名前は《処刑刀》・・・零香やヴァルダの同士だ」

 

 仮面の男・・・《処刑刀》はそう名乗ると、懐から煌式武装の発動体を取り出した。それを起動させると、巨大な真紅の刃が形成されていく。

 

 まさかアレって・・・

 

 「《赤霞の魔剣》ッ・・・!」

 

 「ほう、よく知っているね」

 

 感心している《処刑刀》。一方、綾斗は《黒炉の魔剣》の発動体を握り締めていた。

 

 「七瀬、アレは何だい?《黒炉の魔剣》が反応してるみたいなんだけど・・・」

 

 「《赤霞の魔剣》・・・《黒炉の魔剣》と同じ、四色の魔剣の一つだ」

 

 「ッ!?アレが!?」

 

 驚愕している綾斗。俺は《処刑刀》を睨み付けた。

 

 「《赤霞の魔剣》はレヴォルフの学有純星煌式武装で、今は凍結処理が施されているはず・・・何でお前がそれを持っている?」

 

 「色々あってね」

 

 俺の質問をかわす《処刑刀》。俺の脳裏に、あの憎きブタの顔がよぎった。

 

 まさか・・・

 

 「邪魔しないでもらえるかしら?」

 

 不機嫌オーラ全開の零香姉が、《処刑刀》に向けて殺気を放っている。

 

 「私は七瀬に用があるの。姉弟の時間に水を差さないでちょうだい」

 

 「私としてもそうしたいところなんだがね」

 

 溜め息をつく《処刑刀》。

 

 「零香、あまり独断行動は止めてくれないか。七瀬くんをこちら側に勧誘するなんて、何を考えているんだい?」

 

 「私の勝手でしょう?口出ししないでもらえるかしら?」

 

 「そうもいかないんだよ。計画に支障が出かねないからね」

 

 諭すような口ぶりの《処刑刀》。

 

 「勝手に故郷へ帰ったり、七瀬くんをこちら側に勧誘したり・・・あの時だって、君は遥を仕留め損ねただろう?そのせいでどうなったことか・・・」

 

 「ッ!?」

 

 それを聞いた瞬間、俺の頭に最悪のシナリオが浮かんだ。

 

 零香姉は《蝕武祭》の選任参加者だった・・・遥さんは《蝕武祭》に参加していた・・・

 

 そして今の《処刑刀》の言葉・・・零香姉が遥さんを仕留め損ねた・・・?

 

 「まさか・・・《蝕武祭》で遥さんを負かした相手って・・・」

 

 「・・・知っていたのね」

 

 力なく微笑む零香姉。そして綾斗へと視線を向け、驚愕の真実を口にするのだった。

 

 「六年前、貴方のお姉さん・・・天霧遥を斬ったのは、この私よ」




どうも~、ムッティです。

シャノン「天霧くんのお姉さんを斬ったのが、ななっちのお姉さんだったとは・・・」

この設定も前々から決めてました。

零香の過去はどんどん明らかになっていくので、お楽しみに。

シャノン「ねぇ作者っち、私の過去編とか無いの?」

モブキャラの過去編に需要があると思うなよ?

シャノン「酷い!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「きっと私にも涙の過去が・・・」

ありません。

シャノン「チクショオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!」


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意思

もう八月も終わりかぁ・・・

どうでもいいけど、早く涼しくなってほしい・・・


 辺り一体が静寂に包まれた。綾斗の身体が震えている。

 

 「貴女が・・・姉さんを斬った・・・?」

 

 「えぇ」

 

 頷く零香姉。

 

 「私は《蝕武祭》の選任参加者だったのよ。ちなみに、この男は専任闘技者だったわ」

 

 零香姉が《処刑刀》を指差す。コイツも《蝕武祭》の関係者か・・・

 

 「六年前、私はこの男に命令されたのよ。『天霧遥と試合をしろ』ってね。結果は私の勝ち、彼女は重傷を負ったわ」

 

 「『身体が動かせなくなるくらい痛めつけろ』とも言ったはずなんだがね」

 

 やれやれといった様子の《処刑刀》。

 

 「遥は重傷を負ったものの、まだ余力が残っていた。君がちゃんと私の言うことを聞いてくれていたら、あんなことにはならなかっただろうに・・・」

 

 「そんなこと知らないわよ」

 

 素っ気無く返す零香姉。

 

 「私が斬った時点で、彼女は倒れて動かなくなったんだもの。あれで余力が残ってるなんて・・・」

 

 「はああああああああああっ!」

 

 零香姉のセリフの途中で、綾斗が鬼のような形相で零香姉に斬りかかった。

 

 すかさず《処刑刀》が間に入り、《黒炉の魔剣》を《赤霞の魔剣》で受け止める。

 

 「おっと・・・危ないな」

 

 「お前達が姉さんを・・・詳しく話を聞かせてもらおうか・・・!」

 

 「ははっ、流石だな」

 

 嬉々として綾斗の相手をする《処刑刀》。

 

 あの《処刑刀》とかいう男、何処かで見たことが・・・声も聞き覚えがあるような・・・

 

 「止めておけ」

 

 俺の様子を見て、ヴァルダが静かに語りかけてくる。

 

 「ここは既に私の結界内・・・《処刑刀》に関する認識は阻害されている。《処刑刀》の正体を見破ることはできない」

 

 「・・・そこまでするってことは、間違いなく俺の知ってるヤツだよな」

 

 あんな物騒な男、知り合いにいたか・・・?

 

 「まぁいいや・・・三人まとめて倒す」

 

 「フフッ、貴方達二人にやれるのかしら?」

 

 「誰が二人ですって?」

 

 零香姉の言葉に、聞き覚えのある声が問い返す。俺が後ろを振り返ると・・・

 

 「三咲姉!?」

 

 「七瀬、無事ですか?」

 

 《聖王剣》を構えた三咲姉が立っていた。鋭い目で零香姉を睨んでいる。

 

 「まさかアスタリスクで会えるとは・・・僥倖ですね」

 

 「・・・ヴァルダ、人払いはしていなかったの?」

 

 「認識阻害に力を注いでいる以上、人払いはどうしても疎かになってしまうのだ。常人ならともかく、ソイツのような力強き者を防ぐことはできん」

 

 「・・・あの男のせいってわけね」

 

 溜め息をつく零香姉。と・・・

 

 「ぐあっ!?」

 

 「綾斗!?」

 

 綾斗がこちらへと吹き飛んできた。あの綾斗が圧されている・・・?

 

 「まぁこんなものか」

 

 余裕の表情で歩いてくる《処刑刀》。

 

 「さぁ、どんどんかかってきたまえ。相手になってやろうじゃないか」

 

 「それでは、相手になっていただこうかな」

 

 またしても聞き覚えのある声。綾斗の持つ《黒炉の魔剣》と、《処刑刀》の持つ《赤霞の魔剣》が振動している。

 

 これはもしかしなくても・・・

 

 「大事な試合を明日に控えた選手を、こんなところで闇討ちとは・・・感心しないね」

 

 ガラードワース生徒会長、アーネスト・フェアクロフが悠然と現れた。その手には既に、《白濾の魔剣》を起動させている。

 

 「アーネスト!?」

 

 「やぁ七瀬」

 

 アーネストは俺に挨拶すると、《処刑刀》へと鋭い視線を向けた。

 

 「僕の友人を闇討ちしようとした罪・・・今ここで償ってもらおうか」

 

 「《絶剣》と《聖騎士》が参戦か・・・流石に分が悪いな」

 

 《処刑刀》はそう呟くと、零香姉とヴァルダへ視線を向けた。

 

 「どうやら潮時らしい。撤退だ」

 

 「させるかっ!」

 

 綾斗が地面を蹴り、《黒炉の魔剣》で斬りかかるが・・・

 

 「零奈」

 

 「あいよ」

 

 光と共に現れた零奈が、《黒炉の魔剣》を受け止めた。

 

 「なっ!?」

 

 「悪いな。アタシも純星煌式武装だから、その剣と打ち合えるのさ」

 

 零奈はニヤッと笑うと、綾斗の腹部へ蹴りを放った。

 

 「がはっ!?」

 

 「天霧くんっ!」

 

 吹き飛ぶ綾斗を、アーネストが咄嗟に受け止める。

 

 「では諸君、明日の決勝を楽しみにしている」

 

 《処刑刀》が大きくジャンプし、その場から離脱しようとする。

 

 「待ちなさいッ!」

 

 三咲姉が後を追おうとするが、その前に零香姉が立ち塞がった。

 

 「悪いわね、三咲。追わせるわけにはいかないのよ」

 

 「っ・・・貴女は何故、あの男の仲間になどなったのですかッ!」

 

 「貴女に教える義理は無いわ」

 

 零香姉は冷たく返すと、ヴァルダへと視線を向けた。

 

 「ヴァルダ、もう認識阻害は良いでしょう?」

 

 「あぁ」

 

 ヴァルダが頷いた途端、強烈な黒い輝きが放たれる。頭を掻き回すかのような苦痛が走り、全員動きが止まってしまった。

 

 「またしても勝負はお預けね・・・残念だわ」

 

 零香姉の声が響いてくる。

 

 「また会いましょう、七瀬。私は貴方を諦めないから」

 

 やがて輝きが収まった頃には、零香姉達の姿は何処にも見当たらなかったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「悪いな、アーネスト」

 

 「気にしないでくれ」

 

 俺の言葉に笑顔で返すアーネスト。

 

 俺・三咲姉・アーネストの三人は、ガラードワースの送迎用の車で星導館へと向かっていた。

 

 あんなことがあった後では危険だからと、アーネストが星導館まで送ることを申し出てくれたのだ。

 

 「いや、ホント助かったよ。危うく星導館に帰れなくなるところだったし」

 

 溜め息をつく俺。

 

 三咲姉が二葉姉に連絡していたらしく、あの後すぐ星猟警備隊がやってきた。

 

 二葉姉は泣きながら俺を抱き締め、『今日から私の家で暮らしなさい。七瀬には指一本たりとも触れさせないわ』などと言い出したのだ。

 

 最終的にヘルガさんが拳骨で黙らせ、アーネストの申し出もあって二葉姉はしぶしぶ折れた。

 

 「二葉姉様は、七瀬のことになると見境が無くなりますからね」

 

 「分かってるなら二葉姉に連絡するなよ・・・」

 

 面白そうに笑う三咲姉に対し、再び溜め息をつく俺。

 

 ちなみに綾斗は《処刑刀》との戦いで軽い怪我を負ってしまった為、治療院で手当てを受けている。

 

 手当てが終わり次第、星猟警備隊の車で星導館まで送ってもらえるそうだ。

 

 「でも助かったよ。アーネストと三咲姉が来てくれてさ」

 

 「見舞いの為に治療院へ向かう途中で、ただならぬ殺気を感じてね。急いで駆け付けて正解だったよ」

 

 苦笑するアーネスト。

 

 「三咲から話は聞いていたが、あの女性が零香さんか・・・戦いはしなかったが、相当な強さだろうね。彼女から感じるプレッシャーは、尋常ではなかったよ」

 

 「腐っても我が家の長女ですからね」

 

 忌々しそうな表情の三咲姉。いや、腐ってもって・・・

 

 「ところでアーネスト、さっき見舞いって言ってたけど・・・ソフィアのことか?」

 

 「あぁ。時間もできたことだし、兄として顔を見に行こうと思ってね」

 

 「・・・悪い。邪魔しちゃったな」

 

 「七瀬のせいじゃないさ」

 

 アーネストは肩をすくめると、表情を少し曇らせた。

 

 「・・・まぁ、今さら僕が兄だなんて言えた義理ではないんだけどね」

 

 「え・・・?」

 

 「ソフィアがアスタリスクに来たのは・・・僕の為なんだ」

 

 溜め息をつくアーネスト。

 

 「《星武祭》で優勝して、僕の代わりにフェアクロフ家を継ごうとしていたらしい。そうすることで、僕を家のしがらみから自由にしたかったみたいだよ」

 

 「・・・それがソフィアの願いだったのか」

 

 フェアクロフ家は、欧州でも有名な名家らしい。名家ともなると、それ相応のしがらみ等も存在するのだろう。

 

 そこからアーネストを自由にすべく、ソフィアは頑張っていたのか・・・心の優しいヤツだな・・・

 

 「昔、ちょっとした事故があってね。ソフィアは僕の大切な友人を傷つけてしまったんだ。それ以来、その友人の家とフェアクロフ家は疎遠になってしまって・・・ソフィアはそのことに対して、未だに責任を感じているらしい。だからせめてもの罪滅ぼしとして、僕を自由にしようとしているんだろうね」

 

 「じゃあ、ソフィアが人を傷付けられないのって・・・」

 

 「あぁ、その事故が原因だよ。トラウマになっているみたいなんだ」

 

 剣の腕前は、アーネストを上回るかもしれないと言われているソフィア。

 

 だがソフィアには、相手を傷付ける攻撃が出来ないという致命的な弱点があるのだ。その弱点がある以上、一人で相手に勝つことはとてつもなく難しい。

 

 だからこそ今回、美奈兎達とチームを組んで《獅鷲星武祭》に参加していたのだ。

 

 「僕は家のしがらみを受け止めているし、不自由さだって飼い馴らしている。それが負担になっているように見えたのなら、僕の至らなさだろうね」

 

 「・・・負担になっているように見えないから、じゃないかな」

 

 「え・・・?」

 

 俺の呟きに、アーネストが驚いたような表情を見せる。

 

 「家のしがらみを受け止めていることも、不自由さを飼い馴らしていることも・・・アーネストにそれだけの才覚があるってことは、ソフィアが一番よく分かってるはずだ。それでも、アーネストをそこから自由にしようとしているのは・・・自分自身を当然の如く犠牲にしようとするのを、見ていられなかったからじゃないのか?」

 

 「っ・・・」

 

 息を呑むアーネスト。

 

 「その事故とやらで、責任を感じているってこともあるんだろうけど・・・一番の理由はそこじゃないのか?多分ソフィアは、アーネストに自分の意思で生きてほしいんだと思う。家や周りの意思じゃなくて、他ならぬアーネスト自身の意思で」

 

 「僕の意思・・・」

 

 「まぁあくまでも推測だ。本当の意図は違うかもしれないけどな」

 

 考え込むアーネストを見て、思わず苦笑する俺。

 

 「だからまぁ、今度ソフィアとゆっくり話してみたらどうだ?お互いの思いをぶつけ合ってみたら良い」

 

 「・・・それだと喧嘩にならないか?」

 

 「喧嘩したって良いだろ。五和姉と六月姉なんてしょっちゅう喧嘩してるけど、お互いの考えを遠慮なくぶつけ合えるからこそ仲が良いんだぞ」

 

 「まぁあの二人の場合、五和が六月に丸めこまれるパターンが多いですけどね」

 

 三咲姉が苦笑している。まぁ確かに・・・

 

 「・・・そうだね。良い機会だし、一度ソフィアと話してみるよ」

 

 「あぁ、その方が良い。ソフィアもきっと喜ぶだろうし」

 

 そんな話をしていると、車がゆっくりと停車した。窓の外を覗いてみると、星導館の正門前に到着していた。

 

 「着いたか・・・じゃ、二人ともありがとな」

 

 「礼を言うのはこっちの方さ。ソフィアの件、助言をくれてありがとう」

 

 笑みを浮かべるアーネスト。

 

 「やはりソフィアには、七瀬のような男性と一緒になってもらいたいものだ」

 

 「止めとけ。俺みたいな男じゃもったいないくらい良い女だよ、アイツは」

 

 苦笑しながらそう返す俺。と、三咲姉が真剣な表情で俺を見つめていた。

 

 「七瀬・・・明日はお互い全力で戦いましょう」

 

 「勿論だよ、三咲姉」

 

 こちらも真剣な表情で、三咲姉の目を見据える。

 

 「優勝は譲れない。絶対に勝つ」

 

 「私だって譲れません。勝つのは私達です」

 

 お互いに勝利を宣言した後、二人でフッと笑みを零す。

 

 何だかんだ言いつつ、明日の決勝を心待ちにしている俺と三咲姉なのだった。




どうも~、ムッティです。

シャノン「いよいよ次回は決勝戦が始まるのかな?」

その予定だよ。

やっとランスロット戦が書けるよね。

シャノン「途中で会長の話を挿んだから、結構長く感じるよね」

それな。

とりあえず、早く《獅鷲星武祭》を終わらせたいところです。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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決勝戦

劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』を観てきました!

いや、マジで名作だった・・・

っていうか、ヒロインの桜良が可愛い!

やっぱりLynnさん最高です!

まだ観ていない方には、是非ともオススメしたいです!


 翌日。

 

 「そんなことがありました。以上」

 

 「報告が軽くない!?」

 

 シリウスドームの控え室で、俺は皆に昨晩の出来事を話していた。

 

 一織姉・二葉姉・八重も、応援の為に控え室を訪れてくれていた。

 

 「ちょっと二葉!?全く聞いてないんだけど!?」

 

 「いや、決勝が終わったら話そうと思ってたのよ・・・重大な話だし」

 

 「それをお兄様が、決勝前にさらっと話してしまったと・・・」

 

 「皆いるし、ちょうど良いかなって」

 

 まぁ四糸乃姉と九美は入院中だし、五和姉と六月姉はランスロットの控え室に行ってるから居ないけど。

 

 「全く、本当にどうしていつもいつも・・・」

 

 「流石はトラブルに愛される男」

 

 「まぁそれが七瀬さんですよね」

 

 「綺凛、お前までそれを言うか・・・」

 

 自分からトラブルに首を突っ込んでるわけじゃないんだけどなぁ・・・

 

 「それで綾斗、怪我は大丈夫なのですか?」

 

 「うん、大した怪我じゃないから」

 

 クローディアの問いに笑って答える綾斗。俺は綾斗へと視線を向けた。

 

 「綾斗・・・ゴメンな」

 

 「姉さんのことなら、七瀬が謝ることじゃないよ」

 

 綾斗が首を横に振る。

 

 「六年前、姉さんを斬ったのは零香さんだった・・・その事実が分かった今、俺は零香さんに良い感情は持てない・・・ゴメンね、七瀬のお姉さんなのに」

 

 「・・・当然のことだろ。自分の姉を殺しかけた人なんだから」

 

 「でも、七瀬に責任なんて無い。勿論、一織さん達にだって責任は無い。だから謝らないでほしい。逆に俺が申し訳なくなっちゃうよ」

 

 「綾斗・・・」

 

 自分の姉を斬ったヤツの家族に対して・・・何処まで優しいんだよ・・・

 

 「それに姉さんは生きてるんだ。今はただ、姉さんに早く目覚めてほしい。そしたら、六年前のことだってきっと分かる。だから・・・優勝しようね、七瀬」

 

 「っ・・・あぁ、必ず」

 

 俺は綾斗と拳を合わせた。と、そこに四つの拳が加わる。

 

 「私達もいるからな」

 

 「フフッ、燃えてきましたね」

 

 「何が何でも勝つ」

 

 「全力で戦いましょう!」

 

 ユリス、クローディア、紗夜、綺凛が笑みを浮かべていた。お前ら・・・

 

 「・・・相手は強敵だ。何しろ、ガラードワースの最強チームだからな」

 

 現在二連覇中のランスロット・・・メンバーが変わっているとはいえ、核となる二人はずっと在籍している。

 

 《聖騎士》の二つ名を持つ序列一位、アーネスト・フェアクロフ。

 

 《絶剣》の二つ名を持つ序列三位、星野三咲。

 

 『ガラードワースの二大剣王』と称されるこの二人がいたから、チーム・ランスロットは《獅鷲星武祭》二連覇を達成したのだ。

 

 そして今、前人未到の三連覇に王手をかけている。だが・・・

 

 「優勝は譲れない・・・勝つぞ、お前ら」

 

 「「「「「応ッ!」」」」」

 

 改めて、皆の心が一つになった。

 

 「・・・良いチームね、二葉」

 

 「・・・えぇ、本当に」

 

 一織姉と二葉姉が微笑んでいる。

 

 「皆・・・悔いのないよう、全力で戦ってきてね」

 

 「死に物狂いで戦いなさい。必ず勝機はあるわ」

 

 「私達の分まで頑張って下さい!」

 

 「・・・ありがとな、三人とも」

 

 三人に見送られながら、俺達は控え室を出た。そしてステージに繋がる通路へと、足を踏み入れるのだった。

 

 「さて・・・行こうか!」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 『今回の《獅鷲星武祭》も、いよいよ決勝戦を残すのみとなりました!』

 

 梁瀬さんの声がドームに響き渡る。

 

 『まず登場してきたのは、星導館学園のチーム・エンフィールドだーっ!』

 

 大歓声が沸き起こる中、俺達はステージへと降り立った。

 

 『序列二位の《千見盟主》、クローディア・エンフィールド選手がリーダーを務めるチーム・エンフィールド!準々決勝ではクインヴェールのチーム・ルサールカを、準決勝では界龍のチーム・黄龍を破ってきました!柊さん、このチームで注目している点は?』

 

 『やはり七瀬選手でしょうな』

 

 柊さんの声が聞こえてくる。

 

 『ルサールカ戦も界龍戦も、七瀬選手が相手チームのリーダーを下して勝利を収めています。このチームのエースは間違いなく彼ですし、決勝でも活躍を期待したいですな』

 

 「フフッ・・・頼みますよ、エースさん」

 

 「いや、エースはユリスだろ。能力的に」

 

 「そっちのエースではないからな?」

 

 クローディアにそう返すと、ユリスからツッコミを入れられた。

 

 「え、マジで?火拳とか撃てないの?」

 

 「撃てるかっ!私はメラメラの実の能力者ではないぞ!?」

 

 「じゃあマグマグの実?」

 

 「赤犬でもないからな!?」

 

 そんなやり取りをしていると、反対側のゲートからチーム・ランスロットの面々が現れた。確かな足取りで、ゆっくりこちらへ進んでくる。

 

 『聖ガラードワース学園の、チーム・ランスロットが登場しました!こちらは序列一位の《聖騎士》、アーネスト・フェアクロフ選手がリーダーを務めるチームです!果たして《獅鷲星武祭》三連覇はなるのでしょうか!?』

 

 『アーネスト選手は勿論ですが、私は三咲選手に注目したいですな。三咲選手は七瀬選手のお姉さんですし、この姉弟対決をどちらが制するか注目です』

 

 柊さんがそう話す中、ランスロットの面々が俺達の前へとやってくる。

 

 「やぁ七瀬・・・遂にこの日が来たね」

 

 「あぁ、待ちくたびれたよ」

 

 アーネストと会話する俺。

 

 「お互い全力で戦おうぜ」

 

 「あぁ、勿論」

 

 「絶対に負けませんわ」

 

 高らかに宣言するレティシア。

 

 「勝つのは私達です。優勝はいただきますわ」

 

 「やかましいわ、このお嬢様もどき」

 

 「もどき!?私はブランシャール家の令嬢ですわよ!?」

 

 「ブランチュール?」

 

 「それはお菓子ですわ!」

 

 「おかしいのはお前の髪だろ。早く刈ってこいよ」

 

 「だから羊の毛ではないと言ったでしょう!?」

 

 「ハハッ、面白いなオイ」

 

 ゲラゲラ笑っている軽薄そうな男子。この人が《黒盾》、ケヴィン・ホルストか。

 

 「レティをここまでからかえるのは、お前ぐらいしかいないと思うわ」

 

 「確かにこういった光景は珍しいな」

 

 頷いている真面目そうな男子。《王槍》、ライオネル・カーシュだっけ?

 

 「《雷帝》とレティシアは仲が良いのだな」

 

 「クローディアとレティシアの仲の良さには負けるわ」

 

 「七瀬!?」

 

 「あらあら」

 

 少し恥ずかしそうなレティシアと、ニコニコ笑っているクローディア。

 

 否定はしないあたり、レティシアも少しは素直になったのかな?

 

 「七瀬」

 

 そんなことを考えていると、パーシヴァルが前へ進み出てきた。

 

 「良い試合にしましょう」

 

 「あぁ、お互いにな」

 

 握手を交わす俺達。

 

 その時、パーシヴァルの後ろにいた三咲姉と目が合うが・・・三咲姉はすぐに目を逸らし、開始位置へと下がっていった。

 

 「・・・言葉を交わさなくて良かったのですか?」

 

 「言いたいことは、お互いもう言い合ったからな」

 

 パーシヴァルの問いに、肩をすくめる俺。

 

 「今の俺達の間に、余計な言葉はもう要らない。後は戦うのみだ」

 

 「・・・君達の関係が羨ましいよ」

 

 苦笑するアーネスト。

 

 「僕とソフィアも・・・君達のような関係になれるだろうか?」

 

 「なれるよ、お前達兄妹なら」

 

 俺はアーネストへと拳を突き出した。

 

 「兄貴として、病室で試合を見ている妹に良いところ見せなきゃな。お互いに」

 

 「それもそうだね。お互い頑張ろう」

 

 アーネストは拳を合わせると、レティシア達と共に開始位置へと戻っていった。

 

 「さて・・・いよいよだな」

 

 「ですね」

 

 頷くクローディア。

 

 「作戦はミーティング通りでお願いします。それぞれ状況に応じて、臨機応変に対応して下さい」

 

 「了解」

 

 それぞれ開始位置につく俺達。いよいよ決勝か・・・

 

 「・・・このチームで試合に臨むのは、これで最後なんだな」

 

 俺がポツリと呟くと、隣にいたクローディアが俺の手を握ってきた。

 

 「寂しいことを言わないで下さい。試合に臨むのは最後かもしれませんが、この六人の絆は永遠です。それは何があっても絶対に変わりません」

 

 「・・・だな。ありがとう、クローディア」

 

 クローディアの言葉が心に沁みた。こういう時、クローディアの気遣いや励ましの言葉が本当にありがたい。

 

 クローディアの存在に、俺がどれほど救われてきたことか・・・

 

 「ハハッ・・・答えなんて、考えるまでも無かったな」

 

 「七瀬?どうかしましたか?」

 

 「後で話すよ。それより・・・始まるぞ」

 

 改めて気を引き締める。やがて機械音声が、試合開始を告げるのだった。

 

 『《獅鷲星武祭》決勝戦、試合開始!』




どうも~、ムッティです。

シャノン「本日9月6日は作者っちの誕生日!おめでとう!」

お、ありがとー。

シャノン「誕生日を迎えた感想は?」

俺も歳をとったなぁ、って思う。

シャノン「まだ二十代だよねぇ!?」

いや、そうなんだけどさ。

もうこんな歳かぁ、とも思うわけよ。

シャノン「そういうもんなんだ・・・じゃあ、これからの抱負をどうぞ!」

んー、抱負ねぇ・・・

毎日を大切に生きたい、かな。

『君の膵臓をたべたい』を観て、そう思ったよね。

シャノン「メッチャ影響されてるね・・・」

影響されやすい人間、それがムッティです。



皆さん、いつもこの作品を読んでいただいてありがとうございます。

皆さんのおかげで、ここまで書き続けることが出来ました。

これからもこの作品をよろしくお願い致します。



シャノン「え、失踪するの?」

いや、しないわ・・・多分。

シャノン「そこは言い切ってよ!?」

続けられるかぎり続けるから大丈夫・・・多分。

シャノン「だから言い切ってってば!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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一進一退

ソードアート・オンライン、4クールキタアアアアアッ!!!!!

しかもOPはLiSAさん、EDは藍井エイルさんとか神すぎる・・・

アリシゼーション編を、余すところなくやってほしい。


 試合開始と同時に、前衛の綾斗・綺凛・クローディアが飛び出す。

 

 向こうからもアーネスト・三咲姉・ライオネルさんが飛び出し、それぞれがステージの中央で激突する。

 

 「天霧くんが相手か・・・同じ四色の魔剣を持つ者として、負けられないな・・・!」

 

 「それは俺も同じです・・・!」

 

 「私の相手は綺凛さんですか・・・相手にとって不足なし、ですね・・・!」

 

 「七瀬さんじゃなくて申し訳ありませんが、ご期待に添えるよう努力します・・・!」

 

 そんな会話が繰り広げられている中、レティシアが能力を発動させる。半透明の光の翼が八枚、背中から広がっていく。

 

 「さぁ、参りますわよ!」

 

 レティシアが叫んだ途端、光の翼が綾斗達へと襲い掛かった。

 

 だが・・・

 

 「《反射の雷壁》」

 

 綾斗・綺凛・クローディアを庇うように、三つの雷の壁を出現させる。光の翼が雷の壁に突き刺さった途端、翼を通じてレティシアに電撃が流れ込んだ。

 

 「ぐっ・・・!?」

 

 「レティ、今すぐ能力を解除しろ!」

 

 ケヴィンさんが慌てて叫び、レティシアから光の翼が消える。その隙をつき、ユリスが攻撃を仕掛けた。

 

 「咲き誇れ!九輪の舞焔花!」

 

 九つの可憐な炎の桜草が、舞い踊るようにしてレティシアに襲い掛かった。

 

 「させるかっ!」

 

 ケヴィンさんがレティシアの前に立ち、巨大な黒い盾で攻撃を防ぐ。

 

 「チッ、えげつねぇ攻撃しやがる・・・!」

 

 「ケヴィン、左だッ!」

 

 アーネストの慌てた声。残念ながら遅かったな。

 

 「なっ!?」

 

 言われた方向を振り向き、驚愕しているケヴィンさん。何故なら・・・既に俺が、レティシアとケヴィンさんを攻撃圏内に捉えているからだ。

 

 パーシヴァルが咄嗟に、短銃型の煌式武装を向けてくるが・・・

 

 「どどーん」

 

 俺と共に移動していた紗夜が、ホーミングブラスターを撃つ。パーシヴァルが転がって避ける中、俺は右手に雷の槌を形成した。

 

 「《雷帝の鉄槌》」

 

 「きゃあああああっ!?」

 

 「ぐああああああっ!?」

 

 そのままレティシアとケヴィンさんに向けて振り下ろす。雷に呑み込まれた二人の悲鳴と共に、凄まじい爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 『レティシア・ブランシャール、意識消失!』

 

 『ケヴィン・ホルスト、意識消失!』

 

 

 

 

 

 機械音声が二人のリタイアを告げる。

 

 『い、一撃だーっ!?《光翼の魔女》と《黒盾》を、一撃で沈めたーっ!?』

 

 『これは思わぬ展開ですな・・・』

 

 驚愕している梁瀬さんと、唖然としている柊さんの声が聞こえてくる。

 

 何にせよ、これでパーシヴァルを守る壁は無くなったな・・・

 

 「任せたぞ、紗夜」

 

 「任された」

 

 パーシヴァルを追撃する紗夜。パーシヴァルも応戦し、二人の撃ち合いが始まった。

 

 「汝らに、慈悲と贖罪の輪光を」

 

 パーシヴァルの頭上に浮かぶ巨大な杯が、黄金の光を溢れさせる。そしてその光の奔流が、ステージを薙ぎ払うかのように迸った。

 

 「来るッ!全員注意ッ!」

 

 紗夜の掛け声と共に、綾斗達が光の奔流から離れる。

 

 だが・・・

 

 「はっ!」

 

 三咲姉が《聖王剣》で、光の奔流の先の空間を斬る。異次元空間への裂け目ができ、そこへ飛び込む三咲姉。それに続いて、光の奔流が裂け目へと吸い込まれていった。

 

 「マズい!全員気を付けろ!」

 

 咄嗟に叫ぶ俺。その瞬間、ユリスの後ろの空間に亀裂が入った。

 

 「ユリスッ!」

 

 「ッ!?」

 

 気付いた時には遅かった。裂け目が生まれ、光の奔流がユリスを呑みこむ。光が消えた後、ユリスは力なく倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 『ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト、意識消失!』

 

 

 

 

 

 『ここでリースフェルト選手も脱落!これが《贖罪の錐角》の恐ろしさです!』

 

 『相変わらずえげつない能力ですなぁ・・・』

 

 物理的破壊力は一切無いが、精神力を削り一瞬で意識を刈り取る・・・それこそがパーシヴァルの持つ純星煌式武装、《贖罪の錐角》の能力なのだ。

 

 「序盤からこの手を使うことになるとは・・・完全に予定外でした」

 

 裂け目から出てくる三咲姉。

 

 「レティシアとケヴィンを一撃で沈めるなんて・・・侮っていたつもりはなかったのですが、してやられました」

 

 「・・・こっちのセリフだよ」

 

 思わず苦い表情になる俺。

 

 「そういう組み合わせ技があったとは・・・今まで隠してたってわけか」

 

 「使う機会が無かっただけです」

 

 肩をすくめる三咲姉。

 

 「その前に勝負がついてしまいましたから。こんな手を使うまでもなかった、ということです」

 

 「・・・流石は王者。格が違うな」

 

 「その王者を相手に、この手を使わせた七瀬も流石でしょう」

 

 三咲姉は溜め息をつくと、《聖王剣》を構えた。

 

 「これが私にとって最後の《星武祭》・・・出し惜しみなどしません。全身全霊で貴方達を叩き潰します」

 

 「残念ながら、潰されるわけにはいかないんだ・・・七海」

 

 【はい、マスター】

 

 俺の手に《神の拳》が装着され、そのまま《雷帝化》する。

 

 「三咲姉は俺が抑える。綺凛、お前はクローディアの援護を頼む」

 

 「了解です。ここは頼みました」

 

 駆けて行く綺凛。俺は三咲姉を見据え、拳を構えた。

 

 「さて・・・やろうか」

 

 「えぇ・・・やりましょう」

 

 俺達は睨み合うと、同時に勢いよく地面を蹴るのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《綾斗視点》

 

 「はぁっ!」

 

 「くっ・・・!」

 

 フェアクロフさんの攻撃を受け止める俺。

 

 やはりこの人は強い。戦闘力では《覇軍星君》が上かもしれないが、剣に関しては他の追随を許さないレベルだ・・・一人を除いて。

 

 「やぁっ!」

 

 「らぁっ!」

 

 その一人である三咲さんは、今まさに七瀬と死闘を繰り広げていた。《聖王剣》と《神の拳》がぶつかり合い、激しく火花を散らしている。

 

 「どうやら、向こうも激しい戦いをしているようだね」

 

 一度俺から距離をとったフェアクロフさんが、三咲さんと七瀬の戦いを見て苦笑する。

 

 「それにしても、星野家は凄いね・・・揃いも揃って強すぎる」

 

 「同感です」

 

 《鳳凰星武祭》と《獅鷲星武祭》を通じて、それはよく理解できた。どういう教育を受けてきたのか、純粋に興味がある。

 

 「特に七瀬の成長は凄まじいな。あの三咲と互角にやり合えるとは・・・」

 

 そう言うフェアクロフさんの声色には、喜びが入り混じっていた。

 

 「七瀬とは一度、一対一でやり合ってみたいものだよ」

 

 「・・・私闘は《白濾の魔剣》が許さないのでは?」

 

 「ハハッ、そこが難点だよね」

 

 フェアクロフさんは再び苦笑すると、俺へと剣の切っ先を向けた。

 

 「さて・・・続きといこうか、天霧くん」

 

 「望むところです!」

 

 今度はこちらから攻撃を仕掛ける。だがフェアクロフさんは、それを軽々といなしていた。

 

 やはり力が及ばないのか・・・!

 

 「第二波がくるッ!全員注意ッ!」

 

 紗夜の叫ぶのと同時に、光の奔流が迸った。一度フェアクロフさんから距離を取り、その場を離脱するが・・・

 

 「逃がさんッ!」

 

 「ぐっ・・・!」

 

 カーシュさんがクローディアに攻撃を仕掛けていた。クローディアはかろうじて避けているものの、その場から離脱出来ずにいる。

 

 「マズい・・・!」

 

 「行かせないよ」

 

 助けに行こうとした俺の前に、フェアクロフさんが立ち塞がる。光の奔流は、カーシュさんとクローディアのすぐ側まできていた。

 

 リーダーであるクローディアがリタイアしたら、その時点で俺達の負けだ。このままじゃ・・・!

 

 「俺と共にリタイアしてもらうぞッ!《千見の盟主》ッ!」

 

 「それは困ります」

 

 綺凛ちゃんが間に割って入り、カーシュさんの攻撃を受け止める。

 

 「なっ!?《疾風刃雷》!?」

 

 「綺凛!?」

 

 「残念ながら、ウチのリーダーと貴方の価値は釣り合いません。なので・・・」

 

 綺凛ちゃんがクローディアを突き飛ばす。光の奔流のライン外へと。

 

 「私で我慢して下さい」

 

 ニッコリと笑みを浮かべる綺凛ちゃんと、悔しそうな表情のカーシュさん。次の瞬間、二人は光の奔流に呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 『ライオネル・カーシュ、意識消失!』

 

 『刀藤綺凛、意識消失!』

 

 

 

 

 

 機械音声が流れ、光が消えた後・・・カーシュさんと綺凛ちゃんが倒れ込んだ。

 

 「綺凛ッ!」

 

 悲痛な叫び声を上げるクローディア。綺凛ちゃん・・・

 

 「・・・流石だな、ミス刀藤」

 

 フェアクロフさんが尊敬の眼差しで、倒れている綺凛ちゃんを見ていた。

 

 「自分の身を犠牲にして、リーダーを守るなんてね・・・ライオネルの覚悟も見事だったが、彼女の覚悟も立派だ」

 

 「・・・えぇ。その覚悟に応えないといけませんね」

 

 ふつふつと力が湧き上がってくるのを感じる。これは・・・

 

 「フェアクロフさん・・・俺達は絶対に負けませんッ!」

 

 その瞬間・・・俺の中で何かがカチリと音を立て、勢いよく弾けるのだった。




どうも~、ムッティです。

シャノン「決勝戦、結構展開が早いね?」

あまり長引かせるのもよろしくないかなって。

原作でも、決勝戦の展開早かったし。

シャノン「まぁ確かに」

投稿の期間が空いてしまうこともあるかと思いますが・・・

細々と続けていくつもりなので、よろしくお願いします。

シャノン「お願いします(ぺこり)」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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奥の手

映画『銀魂2』メッチャ面白かった!

クオリティ高すぎてヤバいわ・・・

是非『銀魂3』もやってほしい。


 「はぁっ!」

 

 「チッ・・・!」

 

 三咲姉の《聖王剣》による突きを、上体を反らして何とか回避する。

 

 そのままバク転して着地し、体勢を立て直すが・・・

 

 「やぁっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 《聖王剣》の斬撃が飛んできたので、咄嗟にしゃがんで回避する。

 

 危ねぇ・・・

 

 「・・・強くなりましたね、七瀬」

 

 感慨深そうな表情の三咲姉。

 

 「《魔術師》の能力を取り戻して、たった一年程だというのに・・・今にも私を追い抜いてしまいそうです」

 

 「・・・あの三咲姉から、そんな言葉が聞けるとはね」

 

 小さい頃は、模擬戦をやっても軽くあしらわれてしまった。それが今では互角の勝負が出来ている。

 

 だが・・・

 

 「・・・互角じゃダメなんだよ」

 

 拳を強く握る俺。

 

 「勝たないと・・・三咲姉を倒さないと・・・願いが叶えられないんだ」

 

 ここで負けたら、倒れていったユリスや綺凛にも顔向け出来ない。

 

 だから・・・

 

 「三咲姉・・・俺は今ここで、アンタを超えるッ!」

 

 そう宣言した瞬間・・・とてつもない星辰力の波動を感じた。俺が咄嗟に振り向いた先では・・・

 

 「はああああああああああっ!」

 

 「ぐっ・・・!?」

 

 アーネストが綾斗に圧されていた。ってか、綾斗のヤツ・・・

 

 「封印が・・・解けてる・・・?」

 

 綾斗の身体からは、あの鎖に縛られたような感じがまるでしなかった。つまり綾斗は、全ての封印から解き放たれたということになる。

 

 「あのアーネストが!?」

 

 驚愕している三咲姉。綾斗のヤツ、マジかよ・・・

 

 「・・・ハハッ、流石だなオイ」

 

 笑いがこみ上げてくる。ホント、頼りになる男だよ。

 

 「さて・・・七海」

 

 【マスター・・・アレをやるんですね?】

 

 「あぁ、頼む」

 

 【了解しました】

 

 七海がそう言った直後、《神の拳》が眩い光を放った。

 

 俺の身体も、その光に呑み込まれていく。俺の身体に、力が流れ込んでくるのが分かる。

 

 「なっ!?七瀬!?」

 

 三咲姉の叫び声が聞こえる。やがて光が収まった時・・・そこに《神の拳》は無かった。

 

 『こ、これは一体どういうことでしょう!?七瀬選手の手から、《神の拳》が消えています!柊さん、一体何が・・・柊さん?』

 

 『まさか・・・有り得ない・・・!』

 

 どうやら、柊さんは気付いたようだ。流石は二葉姉の同僚だな。

 

 「・・・よく分かりませんが、嫌な予感がします」

 

 強張った表情で《聖王剣》を構える三咲姉。

 

 「七瀬から感じるプレッシャーが、段違いに跳ね上がりました・・・一体何故・・・」

 

 「すぐに分かるさ」

 

 俺は勢いよく地面を蹴り、三咲姉の懐に入った。

 

 「ッ!?」

 

 「《雷華崩拳》ッ!」

 

 雷を纏った俺の拳が、三咲姉の腹部に入る。

 

 「かはっ・・・!?」

 

 血を吐き、ステージの壁に激突する三咲姉。

 

 『な、何ですか!?今何が起きたんですか!?』

 

 突然の出来事に混乱している梁瀬さん。

 

 『《絶剣》と称される三咲選手が反応すら出来ず、壁に叩きつけられたっ!?七瀬選手の《雷帝化》は確かに凄いですが、三咲選手はそのスピードについていっていたはずでは!?』

 

 『・・・ついていけないスピードになったんですよ』

 

 落ち着きを取り戻したのか、柊さんが答える。

 

 『こんなこと、到底信じられないかもしれませんが・・・七瀬選手は、《神の拳》と一体化したようです』

 

 『えっ・・・?』

 

 ポカンとしている梁瀬さん。

 

 『い、一体化・・・?』

 

 『えぇ。要するに七瀬選手は今、ウルム=マナダイトを身体の中に取り込んだ状態ということです』

 

 『・・・えええええええええええええええっ!?』

 

 梁瀬さんの絶叫が響き渡った。

 

 『ちょ、ちょっと待って下さいッ!?そんなこと可能なんですかッ!?』

 

 『・・・目の前で起きている以上、可能だったということでしょう。今まさに七瀬選手こそが、純星煌式武装のようなものですね』

 

 流石は柊さん、やっぱり分かっていたようだ。

 

 「・・・嘘・・・でしょう・・・?」

 

 三咲姉が、《聖王剣》を地面に突き刺して立ち上がる。その姿はあまりにも弱々しく、今にも倒れてしまいそうなほどだった。

 

 「一体、どうやってそんなことを・・・」

 

 「俺と七海の間には、パスが通ってるんだ。そこから七海に星辰力を送ることで、七海は実体化したり力を使ったりしているわけだけど・・・それなら、逆も可能だと思わないか?」

 

 「・・・つまり七海さんが、七瀬に力を送るということですか?」

 

 【その通りです】

 

 俺の身体から、七海の声が響く。

 

 【そして、私の力を全てマスターに送ったら・・・どうなると思いますか?】

 

 「っ・・・無茶苦茶です・・・!」

 

 三咲姉の表情が驚愕に染まる。

 

 「そんなことをして、無事で済むわけが・・・!」

 

 「まぁぶっちゃけ、時間制限はあるんだよね」

 

 隠すことでもないので、この際だから教えておく。

 

 「五分が限界だな。そこを超えると、俺の身体がウルム=マナダイトの力に耐えられなくなって・・・死ぬだろうね」

 

 「っ・・・」

 

 【まぁ、その前に私がマスターの身体から出ますけどね】

 

 苦笑する七海。

 

 【でも、私がマスターの中にいる五分間・・・マスターはほぼ無敵ですよ?】

 

 「《雷神化》・・・本当の奥の手だよ」

 

 《雷帝化》と違って乱発出来ないから、決勝まで温存出来て良かったわ・・・

 

 「さて・・・終わりにしようか、三咲姉」

 

 雷を迸らせる俺。

 

 「さっきも言ったけど・・・俺は三咲姉を超えていくよ」

 

 「・・・良いでしょう」

 

 《聖王剣》を構える三咲姉。

 

 「私を超えてみなさい・・・超えられるものならッ!」

 

 勢いよく地面を蹴り、接近してくる三咲姉。

 

 「七瀬ええええええええええッ!」

 

 無駄の無い動きで、俺に向かって《聖王剣》を振りかざしてくる。まさに《絶剣》にふさわしい剣技だった。

 

 だが・・・

 

 「・・・遅いよ」

 

 《雷神化》した俺には、全てが見えていた。

 

 最小限の動きで避け、三咲姉の胸の校章を拳で叩く。校章は粉々に砕け散った。

 

 

 

 

 

 『星野三咲、校章破損!』

 

 

 

 

 

 その場で倒れる三咲姉。先ほどの攻撃で、既に限界だったのだろう。

 

 「フフッ・・・本当に・・・超えられて・・・しまいましたね・・・」

 

 寂しげに笑う三咲姉。

 

 「試合はまだ・・・終わっていません・・・行きなさい・・・」

 

 「・・・分かってる」

 

 俺は三咲姉の方をあえて見ず、そのまま歩き出した。

 

 「・・・ナイスファイト」

 

 三咲姉の小さな呟きが、俺の耳に届くのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

《クローディア視点》

 

 「・・・つくづく思う。七瀬は無茶苦茶だ」

 

 「・・・全くですね」

 

 銃を撃ってガードナーさんを牽制している紗夜の呟きに、私も頷いてしまいました。

 

 ウルム=マナダイトと一体化って・・・

 

 「まぁそれはさておき・・・早く勝負をつけたいところ。長引くとこちらが不利」

 

 「ですね。何とかしたいところですが・・・」

 

 アーネストの相手を綾斗、三咲さんの相手を七瀬がしてくれている今・・・紗夜と私で何とかガードナーさんを倒したいところです。

 

 「このまま足を引っ張り続けては・・・綺凛に会わせる顔がありません」

 

 私を庇い、《贖罪の錐角》の光に呑まれてしまった綺凛・・・私がカーシュさんを相手に手間取ってしまったせいで・・・

 

 「うじうじしない」

 

 「あたっ!?」

 

 紗夜のチョップが飛んできました。痛いです・・・

 

 「綺凛の覚悟を無駄にするな。落ち込んでる暇なんて無い」

 

 「・・・そうですね。スミマセン」

 

 頭を切り替え、勝つ為の策を考えていると・・・

 

 「汝らに、慈悲と贖罪の輪光を」

 

 「ッ!来るッ!」

 

 紗夜が叫びます。光の奔流から逃れるべく、ライン外へと跳ぼうとする私と紗夜。

 

 しかし・・・

 

 「逃がしません」

 

 私達が跳ぼうとしたところに、ガードナーさんの短銃型煌式武装の銃弾が連続で飛んできます。

 

 辛うじて防ぐことは出来ましたが、連続射撃のせいでライン外に逃れられなくなってしまいました。

 

 「マズい・・・!」

 

 光の奔流は目と鼻の先・・・このままでは・・・!

 

 「クローディアッ!」

 

 「っ!?」

 

 紗夜が私の腕を掴み、そのまま空中へと投げ飛ばします。

 

 「紗夜ッ!?」

 

 「後は任せた」

 

 紗夜は親指を立て、そのまま光の奔流へと呑み込まれてしまいました。

 

 私は視線を前へ向けると・・・ガードナーさん目掛けて一直線に飛んでいきます。紗夜は自らを犠牲に、私をガードナーさんへ向かって投げてくれたのです。

 

 「ッ!?」

 

 慌ててこちらへ銃を向けるガードナーさんでしたが・・・

 

 「遅いですッ!」

 

 「かはっ・・・!?」

 

 ぶつかる寸前、《パン=ドラ》で彼女の校章を叩き斬ります。衝撃で後方へ吹っ飛んでいくガードナーさん。

 

 

 

 

 

 『紗々宮紗夜、意識消失!』

 

 『パーシヴァル・ガードナー、校章破損!』

 

 

 

 

 

 機械音声が流れ、紗夜とガードナーさんのリタイアを告げます。

 

 「・・・ありがとうございました、紗夜」

 

 意識を失って倒れている紗夜に視線を向け、感謝の言葉を呟きます。

 

 足を引っ張ってばかりのダメなリーダーですが・・・貴女達の仇はとりましたよ。

 

 

 

 

 

 『星野三咲、校章破損!』

 

 

 

 

 

 「っ・・・」

 

 機械音声が三咲さんのリタイアを告げます。

 

 慌てて振り向くと・・・倒れている三咲さんと、それを見下ろす七瀬の姿がありました。

 

 「七瀬・・・」

 

 最後の大会に臨んでいる姉を、自らの手で倒す・・・七瀬にとって辛いことでしょう。

 

 「・・・これで相手は、アーネストのみですか」

 

 そのアーネストは今、完全に封印が解けた綾斗が相手をしています。

 

 今の綾斗なら、アーネストを倒すことも不可能ではない・・・そう思った直後でした。

 

 「フフッ・・・ハハハッ!」

 

 アーネストは狂ったように笑い出し・・・《白濾の魔剣》を投げ捨てたのでした。

 

 「もう我慢するのは止めた・・・存分に力を振るってやるッ!」




どうも~、ムッティです。

シャノン「決勝戦もいよいよクライマックスって感じ?」

だね。次話で終わるんじゃないかな?

《龍激聖覇》編が終わったら、オリキャラ紹介を書こうと思ってます。

シャノン「色々オリキャラ出たもんねぇ」

まぁそんな感じで、のんびりやっていきたいと思います。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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決着、そして・・・

最近、『ラブライブ!サンシャイン!!」のssを読むのにハマってます。

・・・まぁアニメ観たことないんですけど。

今度観ようっと。


 《綾斗視点》

 

 「・・・それが本当の貴方というわけですか、フェアクロフさん」

 

 「あぁ。そして今の君が本当の天霧くんというわけだね」

 

 睨み合う俺達。

 

 先ほどまでと違い、フェアクロフさんは凶悪な笑みを浮かべていた。フェアクロフさんから放たれるプレッシャーも、禍々しさを感じさせるものだった。

 

 「さぁ・・・戦おうか」

 

 バスターソード型の煌式武装を起動させるフェアクロフさん。

 

 俺は《黒炉の魔剣》を待機モードに戻し、予備のブレード型煌式武装を起動させた。

 

 「・・・気を遣ってくれているのかい?」

 

 「まさか。そんな余裕ありませんよ」

 

 首を横に振る俺。

 

 「《黒炉の魔剣》は大きすぎて、今の貴方のスピードについていけそうにないので」

 

 「ハハッ、どうやら君は星辰力の細かい調整が苦手と見える」

 

 「返す言葉もありません」

 

 そんなやり取りをした後、俺達は互いに剣を構えた。

 

 そして・・・

 

 「はああああああああああっ!」

 

 「うおおおおおおおおおおっ!」

 

 お互いの剣がぶつかり合い、激しく火花を散らした。

 

 『星導館の序列一位と、ガラードワースの序列一位!果たしてどちらに軍配が上がるのでしょうか!?』

 

 実況の興奮した声が聞こえてくる中、何度もぶつかり合う俺達。フェアクロフさんは俺の剣を弾くと、すかさず足をかけて俺を引き倒してきた。

 

 「うわっ!?」

 

 背中から地面に倒れた俺の校章目掛けて、フェアクロフさんの剣が振り下ろされる。地面を転がってそれを避け、今度はフェアクロフさんへと突きをお見舞いする。

 

 「ッ!?」

 

 脇腹を掠っただけで、身を捻って避けられてしまう。そのままフェアクロフさんが剣を横に薙いできたので、反射的に身を屈めて何とかやり過ごした。

 

 「ハハハッ!素晴らしい高揚感だッ!生を感じるよッ!」

 

 「普段どれだけ厚い仮面を被ってるんですか貴方はッ!」

 

 思わずそんなツッコミを入れてしまうほど、今のフェアクロフさんは完全に別人だ。二重人格を疑うレベルである。

 

 「言っただろうッ!これが本当の僕だッ!」

 

 「ぐあっ!?」

 

 鍔迫り合いの最中、至近距離から顎に肘を打ち込んでくるフェアクロフさん。口の中の血を吐きたくなるが、こらえてフェアクロフさんの脇腹に膝蹴りをぶち込んだ。

 

 「がはっ!?」

 

 地面を転がっていくフェアクロフさん。俺はすかさず距離を詰め、フェアクロフさん目掛けて剣を振り下ろそうとする。

 

 しかし・・・

 

 「はっ!」

 

 「ッ!?」

 

 フェアクロフさんが突きを放ってきた。咄嗟に剣の腹で受け止めたが、その衝撃で剣が折れてしまう。

 

 「しまっ・・・!?」

 

 「終わりだッ!」

 

 俺の校章目掛けて、剣を振り下ろすフェアクロフさん。

 

 クソッ、ここまでか・・・!

 

 「あぁ、終わりだな」

 

 そんな声が聞こえた瞬間・・・俺とフェアクロフさんの間に、七瀬が立っていた。

 

 「なっ!?」

 

 「七瀬!?」

 

 振り下ろされる剣を、右腕で受け止める七瀬。その瞬間、剣が粉々に砕け散った。

 

 「何ッ!?」

 

 「今の俺の身体は純星煌式武装と同じ・・・ただの煌式武装じゃ打ち合えない。《白濾の魔剣》を捨てたのは失敗だったな、アーネスト」

 

 そう言いながら、拳を握る七瀬。

 

 そして・・・

 

 「《雷華崩拳》ッ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 校章を砕かれ、そのままステージの壁に衝突するフェアクロフさん。

 

 『アーネスト・フェアクロフ、校章破損!』

 

 『試合終了!勝者、チーム・エンフィールド!』

 

 その機械音声が流れた瞬間・・・大歓声が沸き起こった。

 

 『し、試合終了おおおおおおおおおおッ!見事優勝の栄光を手にしたのは、星導館学園のチーム・エンフィールドだああああああああああッ!』

 

 大興奮していると思われる実況の絶叫が響き渡る。

 

 俺達が、優勝したんだ・・・

 

 「おいおい、何で固まってんだよ」

 

 尻餅をついたまま呆然としていると、七瀬が手を差し伸べてくれた。

 

 「いや、何か夢みたいで・・・」

 

 「現実だって。ほっぺたぶん殴ってやろうか?」

 

 「そこは普通つねるんじゃないの!?」

 

 「いや、普通じゃつまんないかなって」

 

 「そこで奇を衒うの止めてくんない!?」

 

 そんなやり取りをしつつ、七瀬に起こしてもらう。

 

 本当に夢じゃないんだな・・・

 

 「七瀬ええええええええええっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 クローディアが七瀬に駆け寄り、思いっきり抱きついた。

 

 「優勝ですよ!?私達、優勝したんですよ!?」

 

 「はいはい、分かってるよ」

 

 苦笑しつつ、クローディアの頭を撫でる七瀬。

 

 「それより・・・悪い・・・もう・・・限界・・・」

 

 「え?」

 

 首を傾げるクローディア。その瞬間、七瀬の身体から力が抜けた。

 

 「七瀬!?」

 

 慌てて七瀬を抱きとめるクローディア。

 

 【気を失っただけですよ】

 

 七海さんの声が響く。

 

 【《雷神化》の反動なんです。ウルム=マナダイトによって力の限界を超える分、反動が大きくて・・・身体の疲弊も相当なものですし、星辰力も枯渇寸前です】

 

 「っ・・・スミマセン!大至急救護をお願いします!」

 

 「急いで下さい!」

 

 大慌てで救護スタッフを呼ぶ俺とクローディアなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・ん」

 

 目が覚めると、ベッドに横たわっていた。

 

 この天井は見覚えがあるな・・・

 

 「・・・治療院?」

 

 「正解だよ」

 

 すぐ側で声がする。ベッドの側の椅子に、シルヴィが腰掛けていた。

 

 「気分はどう?」

 

 「・・・身体がダルい」

 

 「あれだけ身体を酷使したら、そうなるのも無理ないよね」

 

 苦笑するシルヴィ。

 

 「どれくらい寝てた?」

 

 「そんなに寝てないよ?お昼に試合があって、今は夜だから」

 

 立ち上がってカーテンを開けるシルヴィ。窓から月の光が差し込んできた。

 

 「おっ、今夜は満月か・・・綺麗だね」

 

 「シルヴィの方が綺麗だよ、とか言った方が良い?」

 

 「うん、言い切ってくれたら百点だったかな」

 

 「シルヴィの方が綺麗だよ」

 

 「言い直さなくていいよ!?」

 

 シルヴィのツッコミ。俺はベッドから出て、シルヴィの隣に並んだ。

 

 「あっ、まだ起きない方が・・・」

 

 「これくらい大丈夫だよ。それに・・・シルヴィの温もりを感じたいし」

 

 「・・・バカ」

 

 寄り添ってくるシルヴィ。俺もシルヴィの腰に手を回した。

 

 「優勝おめでとう、ななくん」

 

 「ありがとう。これで皆の願いを叶えられるよ」

 

 「ななくんの願いも、ね」

 

 「そうだな」

 

 W&Wとの交渉次第だが、これでクロエが自由になる可能性は高まった。何とか約束を果たせそうだ。

 

 「赫夜の皆、号泣しながら喜んでたよ。あのクロエでさえ、声を上げて泣いてたもん」

 

 「・・・そっか」

 

 それだけ喜んでくれたのなら、頑張った甲斐があったな・・・

 

 「それにしても、ウルム=マナダイトと一体化とはねぇ・・・相変わらずななくんは無茶苦茶だなぁ」

 

 「まぁ普通なら無理だよな。俺も七海とじゃなきゃ出来ないし」

 

 「どういうこと?」

 

 首を傾げるシルヴィ。

 

 「七海は昔から、俺の《魔術師》の力を封印してくれてただろ?だからこそ、俺と七海のシンクロ率は百パーセント・・・逆に言うと、シンクロ率が百パーセントじゃなきゃ一体化なんてまず無理だ」

 

 「まぁ確かに・・・しかも普通、シンクロ率百パーセントなんて有り得ないからね」

 

 「だろ?しかも本来《魔術師》や《魔女》は、ウルム=マナダイトと相性が悪い。それでシンクロ率百パーセントっていうのは、ある意味奇跡に近いんだよ」

 

 俺と七海だからこそ出来た芸当、というべきだろうな。

 

 もっとも、同じことが出来そうな人に心当たりはあるのだが・・・

 

 「でも、あんまり無理しちゃダメだよ?反動が大きいみたいだし・・・」

 

 「分かってる。これはあくまでも切り札だからな」

 

 シルヴィを抱き寄せる俺。

 

 「・・・いつも心配かけてゴメン」

 

 「全くだよ。本当に無茶苦茶な彼氏を持っちゃったなぁ」

 

 「返す言葉もございません」

 

 「・・・まぁ、そんな君に惚れたんだけどね」

 

 柔らかな笑みを浮かべるシルヴィ。

 

 「私はななくんを信じてる。だからななくんは、そのまま真っ直ぐ突き進んでほしい。私がずっと側で支えるから」

 

 「・・・ありがとう」

 

 そんな彼女の言葉を受け・・・俺は一つの決断を下した。

 

 「シルヴィ」

 

 俺はシルヴィの名前を呼ぶと、意を決して口を開いたのだった。

 

 「クローディアのことなんだけど・・・」




どうも~、ムッティです。

シャノン「遂に《獅鷲星武祭》も終わったね」

ようやくだよね。

後はちょっと後日談的な話があって、《龍激聖覇》編は終了かな。

シャノン「そろそろ私の出番も・・・」

・・・考エテオクヨ、ハハハ。

シャノン「考える気無いよねぇ!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「逃げるなあああああっ!」


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乾杯

もうすぐ9月も終わりかぁ・・・

年末まであっという間なんだろうなぁ・・・


 翌日。

 

 「七瀬えええええっ!」

 

 「七瀬さあああああんっ!」

 

 「グッジョブ!」

 

 「うおっ!?」

 

 ユリス・綺凛・紗夜が病室になだれ込んできて、ベッドに座っていた俺に思いっきり抱きついてきた。

 

 お、重い・・・

 

 「優勝だぞ優勝!私達が《獅鷲星武祭》を制したんだ!」

 

 「七瀬さんのおかげです!何とお礼を言ったら良いか!」

 

 「流石は七瀬、頼りになる!」

 

 興奮状態のユリスと綺凛。紗夜もいつになくテンションが上がっていた。

 

 「皆、とりあえず落ち着こうよ」

 

 「そうですよ。七瀬は病み上がりなんですから」

 

 綾斗とクローディアが苦笑しながらやってくる。

 

 「七瀬、身体の調子はどう?」

 

 「もう大丈夫だよ。午後には退院して良いってさ」

 

 「本当ですか?それは良かったです」

 

 そんなやり取りをしていると、病室のドアがノックされた。

 

 「どうぞ~」

 

 返事をすると、静かにドアが開かれた。

 

 現れたのは・・・

 

 「やぁ七瀬、失礼するよ」

 

 「お、アーネスト」

 

 穏やかな笑みを浮かべ、アーネストが入ってくる。その後ろから、ランスロットの面々も入ってきた。

 

 「大勢でお邪魔してすまないね。三咲が七瀬のお見舞いに行くというから、少し挨拶しようと思って」

 

 「全然構わないよ。わざわざありがとな」

 

 感謝の言葉を口にすると、レティシアが前に進み出てきた。

 

 「七瀬・・・今回は私の完敗ですわ」

 

 悔しそうな表情のレティシア。

 

 「開始早々に瞬殺されるなんて・・・私もまだまだ未熟ですわね」

 

 「それを言ったら俺もだぜ、レティ」

 

 ケヴィンさんが苦笑している。

 

 「まさか一撃で倒されるとはな・・・《黒盾》の名が泣くぜ」

 

 「俺が二人を倒せたのは、あくまでも意表を突けたからだよ」

 

 首を横に振る俺。

 

 「真正面から対峙したら苦戦すると思ったから、ああいう戦法で攻めただけ・・・二人が未熟だったとか、そういう話じゃないさ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「レティシアやケヴィンさんと戦えて良かったよ。ありがとう」

 

 その言葉に、二人が揃って顔を見合わせる。そして・・・

 

 「フフッ、七瀬は本当に変わってますわね」

 

 「全くだ。三咲が溺愛するのも分かる気がするな」

 

 笑い出す二人。どうやら少しは気が晴れたようだ。

 

 「《疾風刃雷》」

 

 ライオネルさんが、綺凛に手を差し出す。

 

 「見事な覚悟だった。感服したよ」

 

 「こちらこそ。お見事でした」

 

 笑顔で握手に応じる綺凛。

 

 自らを犠牲にしてまで、チームを守ろうとする心・・・そういった芯の強さで言うと、この二人は似てるかもな。

 

 「沙々宮さん、素晴らしい射撃でした。私の腕では及びませんでしたね」

 

 「いや、お前の腕前も凄かった。敵ながら感心してしまったほど」

 

 お互いを称え合うパーシヴァルと紗夜。二人とも無表情ではあるが、相手の腕前を尊敬していることが窺える。

 

 「《千見の盟主》も、最後の攻撃はお見事でした」

 

 「フフッ、紗夜のおかげですよ」

 

 「クローディア、重い・・・」

 

 パーシヴァルに褒められ、笑顔で紗夜に抱きつくクローディア。

 

 紗夜も口では文句を言うものの、表情は満更でもなさそうだった。

 

 「天霧くん」

 

 アーネストが綾斗へ笑みを向ける。

 

 「君と戦えて良かった。本当に楽しかったよ」

 

 「こちらこそ」

 

 握手を交わす二人。

 

 「自らを解放して戦えたおかげで、だいぶスッキリしたよ。これでまた十年くらいは我慢出来るんじゃないかな」

 

 「ガラードワースにいる間くらい、我慢しなくて良いんじゃないか?もう《白濾の魔剣》に縛られることもないんだし」

 

 俺の言葉に、アーネストが驚きの表情を浮かべる。

 

 「七瀬、どうしてそれを・・・?」

 

 「あれだけ好き勝手に暴れたら、《白濾の魔剣》に見限られるに決まってるだろ。現にお前は今、《白濾の魔剣》を帯剣してないしな」

 

 「・・・気付いてたか」

 

 苦笑するアーネスト。

 

 「《白濾の魔剣》は、エリオットに譲ろうと思ってる。生徒会長の椅子と共にね」

 

 「エリオかぁ・・・」

 

 確かに相応しいとは思うけど、アイツ真面目だからなぁ・・・

 

 プレッシャーに押し潰されないと良いんだけど・・・

 

 「エリオを生徒会長にするなら、ノエルを生徒会に入れるべきだと思うな。ノエルならエリオを支えられるだろうし、エリオもノエルが側にいた方が心強いだろ」

 

 「僕もそう思うよ。近々エリオットやノエルと話をする予定だ」

 

 「そっか、それなら大丈夫そうだな」

 

 そんなやり取りをしていると・・・

 

 「・・・七瀬」

 

 三咲姉が前に進み出てきた。

 

 「・・・優勝、おめでとうございます」

 

 「・・・ありがとう、三咲姉」

 

 短い言葉のやり取り。そして・・・

 

 「ッ!」

 

 俺の胸に飛び込んでくる三咲姉。俺は三咲姉を受け止め、そっと抱き締めた。

 

 「私は・・・私はっ・・・!」

 

 「大丈夫。言わなくても分かってる」

 

 三咲姉の背中を優しく叩く。

 

 弟が優勝したことを祝福してあげたい・・・でも負けたことが悔しくて、心の底から祝福できない・・・そんな自分に嫌気が差す・・・

 

 三咲姉の性格をよく知っている分、考えていることが手に取るように分かる。

 

 「お疲れ様、三咲姉・・・最後に三咲姉と戦えて、俺は幸せだったよ」

 

 「っ・・・」

 

 涙を流す三咲姉。

 

 「今はゆっくり休みなよ。ずっと突っ走ってきたんだから、少しくらい立ち止まったって良いだろ」

 

 「・・・フフッ、そうかもしれませんね」

 

 涙を拭い、俺から離れる三咲姉。

 

 「ありがとうございます、七瀬・・・お邪魔しました」

 

 三咲姉はクローディア達に一礼すると、そのまま病室を出て行った。

 

 「・・・レティシア、三咲姉を頼んで良いか?側にいてやってほしいんだ」

 

 「了解ですわ。任せて下さいまし」

 

 

 レティシアはそう言って微笑むと、三咲姉の後を追っていった。

 

 「・・・本当に君達の絆は素晴らしいね」

 

 微笑むアーネスト。

 

 「七瀬と三咲を見習って、僕もソフィアと腹を割って話さないとね」

 

 「なら、早くソフィアの所に行ってこいよ。せっかく治療院に来てるんだから」

 

 「・・・それもそうだね。少し顔を出してくるよ」

 

 「それなら、俺達は仕事を進めておくか」

 

 「だな。アーニーもレティも三咲もいないんじゃ、俺達がやるしかないっしょ」

 

 「そうですね。頑張りましょうか」

 

 「・・・ありがとう、皆」

 

 アーネストは笑みを浮かべると、こちらへと視線を向けた。

 

 「では七瀬、また会おう」

 

 「お邪魔しました、七瀬」

 

 「しっかり身体を休めろよ」

 

 「じゃあな」

 

 「またなアーネスト、パーシヴァル。ケヴィンさんとライオネルさんも、お見舞いありがとうございました」

 

 四人が病室を出て行く。

 

 と、クローディアが持っていた紙袋をテーブルの上に置いた。

 

 「さて、我々だけになったところで・・・やりますか」

 

 「何を?」

 

 首を傾げる俺。クローディアは笑みを浮かべ、紙袋の中からシャンパンを取り出した。

 

 「勝利の乾杯です。昨日は七瀬がいなかったので、今日やろうという話になりまして」

 

 「え、昨日やらなかったのか?」

 

 「当然でしょう。全員揃わないと意味無いですから」

 

 テーブルの上にグラスを並べる綺凛。

 

 並べられた六つのグラスに、クローディアがシャンパンを注いでいく。

 

 「これで良し・・・では七瀬、乾杯の音頭をお願いします」

 

 「いや、それはリーダーがやるべきなんじゃ・・・」

 

 「ほら七瀬、早く早く」

 

 紗夜が催促してくる。他の皆も、じーっと俺の方を見ていた。

 

 「・・・分かったよ」

 

 苦笑しつつ、グラスを手に取る。他の皆も、同じように手に取った。

 

 「えー、じゃあ手短に・・・ありがとな、皆」

 

 俺は感謝の言葉を述べた。

 

 「優勝できたこともそうだけど・・・このメンバーで《獅鷲星武祭》を戦えたことを、心から誇らしく思う。本当に最高のチームだった」

 

 綾斗、綺凛、紗夜、ユリス、クローディア・・・五人のかけがえのない仲間に出会えたことを、本当に幸せに思う。

 

 「これからもよろしくな」

 

 俺は笑みを浮かべると、グラスを高く掲げた。

 

 「それじゃあ、チーム・エンフィールドの《獅鷲星武祭》優勝を祝して!乾杯!」

 

 「「「「「乾杯!」」」」」

 

 六つのグラスのぶつかる音が響き渡るのだった。




どうも~、ムッティです。

シャノン「もう《龍激聖覇》編も終わる感じかな?」

多分あと2、3話くらいで終わるんじゃないかな?

そしたらオリキャラ紹介をやろうかなと思ってます。

シャノン「話の続きは考えてあるの?」

色々悩みながら考えてるよ。

とりあえず、頑張って書いていきたいと思います。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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答え

今回で《龍激聖覇》編は終了です。


 「あー・・・何かドッと疲れたわ・・・」

 

 「フフッ、お疲れ様です」

 

 笑いながら労わってくれるクローディア。

 

 治療院を退院した俺は星導館へと戻ってきており、今はクローディアと男子寮の俺の部屋でまったりしていた。

 

 さっきまではそれどころじゃなかったからなぁ・・・

 

 「ですが、皆さんが喜んでくださって何よりでしたね」

 

 「・・・まぁな」

 

 乾杯の後、一織姉・二葉姉・四糸乃姉・五和姉・六月姉・八重・九美が襲来してきた。

 

 九美はチーム・赫夜の面々も連れてきており、あっという間に俺の病室は人でいっぱいになってしまった。そのままドンチャン騒ぎとなった結果、コルベル院長が怒鳴り込んできたことは言うまでもない。

 

 まぁ退院する時、ボソッと『おめでとさん』って言ってくれたけど。何だかんだで優しい人である。

 

 「あれで終わりだと思ったら・・・まだ続きがあったとはなぁ・・・」

 

 「どうやら、七瀬の退院を待ち構えていたようですよ」

 

 クスクス笑うクローディア。

 

 星導館へと戻った俺を待っていたのは、クラスメイト達によるサプライズパーティーだった。夜吹・シャノン・凛香の三人が中心となって企画したらしく、教室に連行されてそのままパーティーがスタート。

 

 それがつい先ほど終わり、俺はようやく部屋に戻ってくることが出来たのだ。

 

 「っていうか、ちゃっかり谷津崎先生まで参加してたよな・・・シャンパンとかメッチャ飲んでたし」

 

 「いつになくはっちゃけてましたね。よほど喜んでいただけたんでしょうか」

 

 「まぁ、先生には特訓でお世話になったからなぁ」

 

 豪快に笑いながら俺に抱きついてきた時は、『この人ホントに谷津崎先生?』と思ってしまったほどだ。

 

 まぁ『流石はアタシの教え子!鼻が高いぜ!』とか言ってくれたし・・・喜んでもらえたなら何よりだけどな。

 

 それよりも・・・

 

 「ところでクローディア、部屋の修復はどんな感じなんだ?」

 

 「明日には終わるそうですよ。先ほど連絡がありました」

 

 俺の質問に答えるクローディア。

 

 ナイトエミットの襲撃で、クローディアの部屋は悲惨な状態になってしまった。現在修復中の為、昨日からクローディアは俺の部屋に泊まっているのだ。

 

 「私としては、このまま七瀬の部屋で生活したいところですけどね」

 

 笑顔でそんなことを言うクローディア。全く、コイツときたら・・・

 

 「そんなことを男子の前で言うんじゃありません。勘違いされるぞ」

 

 「七瀬にしか言わないので大丈夫です」

 

 「いや、全然大丈夫じゃないんだけど。俺も男なんだけど」

 

 「七瀬なら勘違いしていただいて構わない、ということです。もっとも、私の本心的には『勘違い』ではないのですが」

 

 堂々とそんなことを言われると、俺としては何も言えない。俺の様子を見て、クローディアが面白そうに笑う。

 

 「フフッ・・・返事はいつまでも待つ、と申し上げたはずですよ?逆に言うと、それまで私は七瀬にアピールを続けますので。覚悟しておいて下さいね?」

 

 「・・・覚悟、ねぇ」

 

 確かに覚悟は必要だろう・・・俺が進もうとしている道は、誰にでも理解してもらえるものではないのだから。

 

 「クローディア」

 

 「何でしょう?」

 

 真剣な表情で名前を呼ぶと、クローディアが不思議そうに首を傾げる。俺は一つ深呼吸すると、意を決して口を開いた。

 

 「俺にはシルヴィア・リューネハイムという、大切な彼女がいる」

 

 「・・・存じ上げています」

 

 「もう何があっても、シルヴィの手を離すつもりはない」

 

 「・・・でしょうね」

 

 「それでも・・・俺についてきてくれるか?」

 

 「はい・・・え?」

 

 目を伏せていたクローディアが、驚いたように顔を上げる。

 

 「それは・・・どういった意味で・・・?」

 

 「・・・言っただろ?クローディアへの気持ちは、少し特別なものだって」

 

 それが異性に対する『好き』なのかどうか、俺にはよく分からなかった。

 

 一緒に暮らしていたことで、少し情が湧いただけなのかもしれない。家族みたいな情愛を持ってしまっただけかもしれない。

 

 そんなことを色々考えたが・・・答えは至ってシンプルだった。

 

 「俺はクローディアに・・・側にいてほしいと思ってる。何処へも行ってほしくない、俺の隣にいてほしいって・・・そう思ってるんだ」

 

 「七瀬・・・」

 

 「この気持ちは友達として、仲間としてじゃない。多分、一人の男として・・・クローディア・エンフィールドという、一人の女性に対する気持ちなんだと思う。だから、俺はきっと・・・」

 

 俺はクローディアの目を見て、自身の想いをハッキリと口にした。

 

 「クローディアのことが好きなんだ」

 

 「っ・・・」

 

 クローディアの目に、みるみる涙が溜まっていく。口元を両手で押さえ、『信じられない』といった表情をしていた。

 

 「な、七瀬が・・・私を・・・?」

 

 「・・・そうみたい」

 

 苦笑する俺。

 

 「・・・昨日の夜、シルヴィにも話したよ。クローディアが好きだって」

 

 「彼女は何と・・・?」

 

 「『今度きちんと顔合わせの機会を作ろう』ってさ。あと、『正妻の座は譲らない』とも言ってたな。そこさえキチンとしてくれるなら、後は俺に任せるって」

 

 「・・・私を受け入れるというのですか?」

 

 目を見開くクローディア。まぁ、普通そういう反応だよな・・・

 

 「勿論、思うところはあるだろうけどな。それでも・・・シルヴィは受け入れてくれたんだよ。ホント、俺にはもったいないくらい良い女だと思う」

 

 まぁ、クローディアの事情を知っているっていうのもあっただろうけど・・・

 

 最悪、引っ叩かれても文句は言えなかったな・・・

 

 「・・・クローディア」

 

 再び名前を呼ぶ。

 

 「答えを聞かせてほしい・・・俺についてきてくれるか?」

 

 俺のことが好きだとは言ってくれたが・・・ついてきてくれるかは別の問題だ。

 

 というか、普通ならお断りされるだろう。彼女がいるのに『ついてきてくれ』とか、百年の恋も醒めてしまうであろう最低の告白だと自覚している。

 

 だが・・・

 

 「・・・申し上げたはずですよ、七瀬」

 

 クローディアは・・・泣きながら微笑んでいた。

 

 「七瀬の彼女に対する想いが変わらないように、私の七瀬に対する想いも変わらないと・・・」

 

 「クローディア・・・」

 

 「大体、私がどれほど七瀬に会える日を待ちわびたと思っているのですか?あの夢を見た日から何年もの間、私は貴方に会いたくて仕方が無かったのですよ?」

 

 俺の頬に、クローディアの手が添えられる。

 

 「七瀬に恋人がいるとか、私が正妻になれないとか・・・言い方は悪いかもしれませんが、ハッキリ言ってどうでもいいです」

 

 俺の目を見て、ニッコリと笑うクローディア。

 

 「七瀬の隣にいられるのなら・・・私は何も望みません。私はただ、七瀬と一緒にいたい・・・それだけです」

 

 「・・・良いのか?」

 

 「当然です」

 

 力強く頷くクローディア。

 

 「何処までも貴方についていきます・・・お慕い申し上げております、七瀬」

 

 我慢の限界だった。クローディアの背中へと手を回し、思いっきり抱き締める。クローディアの温かさが伝わってきた。

 

 「・・・ありがとう、クローディア」

 

 「・・・お礼を言うのは私の方です」

 

 俺の胸に顔を埋め、肩を震わせるクローディア。

 

 「まさかこんな日が来るなんて・・・生きてて良かった・・・あの時死ななくて、本当に良かった・・・!」

 

 クローディアの頬を涙が伝う。

 

 「私に・・・生きる価値を与えてくださって・・・ありがとうございます・・・!」

 

 「・・・死ぬなんて許さないからな。生きて俺の隣にいて・・・一緒に歩んでくれ」

 

 「っ・・・えぇ、いつまでも・・・!」

 

 どちらからともなく顔が近づき・・・その距離がゼロになる。

 

 唇に触れる柔らかな感触を感じながら、俺は幸せを噛み締めるのだった。




どうも~、ムッティです。

シャノン「ななっちと会長、無事に結ばれたね」

何とかここまで話を持ってこれたよね。

ヒロイン複数化には、賛否両論あったけども・・・

温かく見守っていただけると幸いでございます。

シャノン「次回からはオリキャラ紹介やるんだっけ?」

その予定だよ。

八重・九美・十萌・万理華あたりかな。

零香・零奈・千里・百愛は悩み中だけど。

シャノン「まだ謎が多いもんね」

そうそう。とりあえず上の四人はやると思う。

その後で新章に入る感じかな?

皆さん、これからもこの作品をよろしくお願い致します。

シャノン「お願い致します(ぺこり)」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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第十一章《刃心切磋》
クロエのやりたいこと


投稿間隔が空いてしまって、本当にすまないと思っている(キリッ)

七瀬「《断罪の一撃》」

ちょ、止め・・・ギャアアアアアッ!?


 「以上で手続きは終了となります」

 

 全ての空間ウィンドウを閉じ、俺へと視線を向けるペトラさん。

 

 クインヴェール女学園の理事長室にて、俺とペトラさんは向かい合う形で座っていた。

 

 「ただ今をもちまして、クロエの所有者は七瀬さんになります」

 

 「いや、所有者って・・・嫌な言い方しますね」

 

 「あら、事実じゃない」

 

 俺の隣に座っているクロエが、面白そうに笑う。

 

 チーム・エンフィールドが《獅鷲星武祭》を制してから、およそ一ヶ月・・・願いを叶えてもらえる権利を手にした俺は、すぐにクロエの購入を希望した。

 

 そして交渉の末、こうしてクロエの所有権を引き渡してもらうことに成功したのだった。

 

 「今日から七瀬のことを、『ご主人様』って呼ぼうかしら」

 

 「おい止めろ。俺にそんな趣味は無いから」

 

 「あら、七海には『マスター』って呼ばせてるじゃない」

 

 「呼ばせてるわけじゃねーよ。七海が自主的にそう呼んでんだよ」

 

 「じゃあ私も『ご主人様』で・・・」

 

 「お前の名前を『クロエ』から『メス豚』に変えてやろうか」

 

 「すいませんでした」

 

 そんなやり取りをしていると、ペトラさんが苦笑していた。

 

 「・・・変わりましたね、クロエ。いつも無表情で淡々と任務をこなしていた貴女が、そんな軽口を叩けるようになるなんて」

 

 「・・・えぇ、自分でもそう思います」

 

 微笑むクロエ。

 

 「美奈兎、柚陽、ソフィア先輩、ニーナ、九美・・・そして七瀬。かけがえのない仲間達に出会えて、私は本当に幸せです。これからは過去を振り返るのではなく、仲間達と今を生きていきたいと思います」

 

 「・・・そうですか」

 

 眩しそうに目を細めるペトラさん。

 

 「七瀬さん・・・クロエをよろしくお願いします」

 

 「勿論です」

 

 頷く俺。

 

 「クロエが自由に生きることが出来るように、全力でサポートするつもりです。なのでそちらも約束通り、サポートをよろしくお願いします」

 

 「承知しました」

 

 クロエの所有権がクインヴェールから俺に移ったことで、他の統合企業財体がクロエを引き込もうとする可能性は否定出来ない。《べネトナーシュ》の一員として活動していたクロエを、情報目的で狙う恐れがあるからだ。

 

 そこで交渉の結果、クロエは引き続きクインヴェールに所属することになった。ただし《べネトナーシュ》からは抜け、普通の学生として生活することになる。

 

 クインヴェールに所属している以上はW&Wに守られるので、他の統合企業財体が手を出すことは出来ない。こちらとしてはクロエの身の安全が保障されるし、W&Wとしては情報漏洩を阻止することが出来る。

 

 双方にメリットのある、まさにWin-Winの関係だ。

 

 「そういえば、先ほど名前の話が出ましたが・・・」

 

 クロエに視線を向けるペトラさん。

 

 「クロエ、本当に名前は今のままで良いのですか?」

 

 「えぇ、構いません」

 

 頷くクロエ。

 

 確か『クロエ・フロックハート』っていう名前は、ペトラさんが付けたんだっけ。PMC時代は、『ミネルヴィーユ』っていう名前だったんだよな。

 

 「引き続きこの学園に所属する以上、途中で名前が変わるとややこしいでしょうから。それに私、今の名前は結構気に入っているので」

 

 「まぁ確かに、いきなり名前が変わるとややこしいよな・・・昨日まで『クロエ』だったのに、いきなり『メス豚』に変わってたら周りは戸惑うわ」

 

 「それは違う意味で戸惑うでしょうね!どんなプレイだと思われるわよ!?」

 

 「普通に『メス豚』って呼ぶべきか、愛称で『メーちゃん』って呼ぶべきか・・・」

 

 「そこじゃない!悩むところはそこじゃない!」

 

 「そうだよな・・・呼び方なんで人それぞれだもんな」

 

 「違うわ!名前そのものがおかしいって言ってるのよ!」

 

 「確かに・・・おかしいよな、レティシアの髪」

 

 「何の話よ!?」

 

 ツッコミを入れるクロエを、苦笑しながら見つめるペトラさんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「自由だああああああああああっ!」

 

 「おい美奈兎、犬井ヒ●シのモノマネは止めろよ」

 

 「そんなつもり無かったんだけど!?っていうか懐かしすぎない!?サバ●ナの高●さんが『エ●タの神様』でやってたキャラだよねぇ!?」

 

 「美奈兎、とりあえず静かにしなさい。周りに迷惑でしょう」

 

 「あっ、すいません・・・」

 

 何事かとこちらを見ている人達に頭を下げつつ、大人しく席に座る美奈兎。

 

 理事長室を後にした俺とクロエは、クインヴェール内にあるカフェへとやってきていた。そこで美奈兎・柚陽・ソフィア・ニーナと合流し、報告をしつつお茶を楽しんでいるところだった。

 

 「でも良かったですね、クロエさん」

 

 嬉しそうな笑みを浮かべる柚陽。

 

 「これで晴れて自由になれましたね」

 

 「本当に良かった・・・」

 

 涙ぐんでいるニーナ。

 

 「私達が棄権になっちゃった時は、どうなることかと思ったよ・・・」

 

 「・・・ありがとう」

 

 ニーナの涙を拭いつつ、柚陽に笑みを向けるクロエ。

 

 「皆と出会えたから、私は自由になりたいって思えた。皆に出会えていなかったら、今の私はいないわ。本当に・・・心から感謝してる」

 

 「うぅっ・・・クロエえええええっ・・・!」

 

 「いや、ソフィアは泣き過ぎだから」

 

 号泣しているソフィアの背中を、優しく擦ってやる。

 

 「とりあえず、ちょっと落ち着いて・・・」

 

 「七瀬さんっ!」

 

 ソフィアにガシッと手を掴まれる。

 

 「私は感動しましたわ!何とお礼を申し上げたら良いか!」

 

 「いや、お礼ならたくさん言ってもらったから」

 

 「私で力になれることがあったら、何なりとお申し付け下さいまし!」

 

 「うん、とりあえず落ち着いてほしいわ」

 

 「ソフィア先輩、周りの迷惑ですよ」

 

 「あっ、すいません・・・」

 

 周りの人達に頭を下げるソフィア。

 

 この人、美奈兎のポンコツがうつって・・・いや、元から結構ポンコツだったわ。

 

 「まぁそんな感じで、とりあえずクロエは自由の身になったから。今後もクインヴェールに所属することになったし、美奈兎達と一緒に学園生活を送れるよ」

 

 「やったぁ!」

 

 「美奈兎、暑苦しい」

 

 笑顔でクロエに抱きつく美奈兎。クロエも口ぶりとは裏腹に、満更でもない表情をしている。

 

 と、クロエが俺に視線を向けた。

 

 「・・・ありがとう、七瀬」

 

 姿勢を正し、深々とお辞儀をするクロエ。

 

 「貴方のおかげで、私は自由になれた。いくら感謝の言葉を述べても、言い足りないくらい感謝してる。本当にありがとう」

 

 「よせよ」

 

 そんな風に真面目にお礼を言われると、こちらも照れ臭くなってしまう。

 

 「お礼ならシルヴィやクローディア、それから一織姉達に言ってあげてくれ。俺は何もしてないよ」

 

 クロエの所有権についての交渉の際、シルヴィやクローディアには色々と相談に乗ってもらった。生徒会長という立場上、こういった交渉については二人の方が詳しいしな。

 

 購入の費用も一織姉達が《星武祭》で稼いだお金から出ているし、俺は本当に何もしていない。お礼を言われるような立場ではないのだ。

 

 「勿論、彼女達にもちゃんとお礼を言うつもりよ。でもね七瀬、私は貴方に一番感謝しているの」

 

 微笑むクロエ。

 

 「貴方は私を自由にする為に、《獅鷲星武祭》で優勝してくれた。どんな願いでも叶えてもらえる権利を、自分の為ではなく私の為に使ってくれた。それが本当に嬉しかったの」

 

 「クロエ・・・」

 

 「貴方には本当に、感謝してもしきれないわ。だから私は・・・貴方から受けたこの恩を少しでも返す為に、これからの人生を歩んでいこうと思う」

 

 真っ直ぐ俺を見つめるクロエ。

 

 「私の命は貴方のものよ、七瀬。私は貴方の為に・・・貴方の力になる為に生きる」

 

 「は・・・?」

 

 ポカンとしてしまう俺。いやいやいや・・・

 

 「ちょっと待てって。確かにクロエの所有権は俺が持ってるけど、だからって俺の為に生きる必要なんて無いぞ?」

 

 「所有権の問題じゃないの。私が七瀬に恩返ししたいだけよ」

 

 「いや、そんなこと考える必要無いって。俺はクロエに自由に生きてほしいんだよ」

 

 「だからこそよ。誰かから強要されたわけじゃなくて、私自身が七瀬に恩返ししたいと思ったの。貴方の為に生きることが、今私が最もやりたいことなのよ」

 

 真っ直ぐに言葉をぶつけられ、逆にこっちが言葉に詰まってしまった。

 

 美奈兎達はというと、そんな俺の様子を見て微笑んでいた。

 

 「まさかお前ら・・・知ってたのか?」

 

 「まぁね。クロエから聞いてたから」

 

 笑いながら言う美奈兎。

 

 「七瀬が思ってる以上に、クロエは七瀬に恩を感じてるよ。だから今度は自分がっていう気持ちが強いみたい」

 

 「受け入れてあげて下さい、七瀬さん。クロエさんは本気ですよ」

 

 「お願い七瀬。クロエのやりたいようにやらせてあげて」

 

 柚陽とニーナまでそんなことを言ってくる。マジでか・・・

 

 「いや、でも・・・」

 

 「七瀬さん」

 

 先ほどとは違う穏やかな表情で、ソフィアが俺を見ている。

 

 「クロエは義務感で動いているわけではありません。心からそうしたいと思っているから、七瀬さんに真っ直ぐな気持ちをぶつけているのです。クロエの気持ちを尊重してあげて下さい」

 

 「ソフィア・・・」

 

 そこまで言われてしまったら、もう何も言えないな・・・

 

 俺は溜め息をついた。

 

 「・・・自由に生きることが出来るように、全力でサポートするって約束したしな。クロエがそれで良いなら・・・よろしく頼むよ」

 

 「えぇ、こちらこそよろしく。全力で七瀬の力になることを誓うわ」

 

 「言っとくけど、俺はクロエに何かを強要するつもりは無いからな」

 

 「フフッ、分かってるわよ」

 

 笑うクロエ。

 

 「だからこそ、貴方の力になりたいと思うんじゃない」

 

 「・・・物好きなヤツだな、お前も」

 

 「あらご主人様、従者に対してその物言いは酷いんじゃないかしら?」

 

 「ご主人様言うな」

 

 「じゃあマスター?」

 

 「それも止めろ」

 

 「いっそのこと、七瀬の妹になるっていう選択肢も・・・」

 

 「無いわ!」

 

 俺とクロエのやりとりに、皆が笑っていた。全く・・・

 

 「妹って言えば、誰か九美の近況を知らないか?何かやたら忙しいって聞いてるけど」

 

 当然今日のお茶に九美も誘ったのだが、予定があるとのことで断られたのだ。

 

 『兄さんからのデートのお誘いなんて夢のようなんですが、どうしても外せない用事がありまして・・・!』って血涙を流してたけど・・・

 

 っていうかデートじゃねーし。

 

 「あれ?九美ちゃん話してないの?」

 

 首を傾げる美奈兎。

 

 「九美ちゃんのことだから、七瀬には真っ先に話してると思ったんだけど」

 

 「何を?」

 

 「恐らく、実際に見た方が早いと思います」

 

 「それもそうね。私が案内するわ」

 

 クロエが柚陽の言葉に頷き、椅子から立ち上がる。

 

 「じゃあ七瀬、行きましょうか」

 

 「何処に?」

 

 「決まっているでしょう。九美のところよ」

 

 微笑むクロエ。

 

 「貴方の愛しい妹が頑張っているところを、どうか見てあげてちょうだい」

 

 クロエの言葉の意味が分からず、首を傾げる俺なのだった。




どうも~、ムッティです・・・(ボロッ)

シャノン「作者っち、そんなにボロボロでどうしたの?」

大丈夫。ちょっと軽く死にかけただけだよ。

シャノン「それ大丈夫じゃないよねぇ!?」

まぁそんなことより、8ヶ月も失踪してすみませんでした・・・

シャノン「またずいぶんと失踪してたね・・・」

モチベーションも下がってたし、仕事も忙しかったし、『ラブライブ!サンシャイン!!』のssも書いてたし・・・

シャノン「おい最後」

『刀藤綺凛の兄の日常記』の作者である富嶽二十二景さんがハーメルンに復帰されたということで、自分も頑張らねばと思いまして。

不定期ではありますが、また投稿していこうと思った次第です。

投稿間隔が空くことも多々あると思いますが、頑張って細々とやっていきたいと思います。

シャノン「サンシャインの方は?」

勿論続けるよ。

なので皆様、これからも温かい目で見守っていただけると幸いでございます。

シャノン「よろしくお願いします(ぺこり)」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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ヴィオラ

早くアスタリスクの新巻出ないかなー。

続きが気になるところだぜ・・・


 クロエに連れられてやってきたのは、クインヴェール内にある広大なホールだった。

 

 ステージ上では、今まさに演奏が行なわれている最中・・・って、あれ?

 

 「ステージで演奏してるの、ルサールカじゃん。リハーサルでもやってんの?」

 

 「えぇ、もうすぐカウントダウンコンサートだもの」

 

 「そっか、アイツら頑張って・・・ん?」

 

 ステージの中央に立っている人物を見て、俺は一瞬目を疑ってしまった。

 

 見間違うはずもない。あれは・・・

 

 「九美!?」

 

 そう、紛れも無く九美だった。ルサールカの演奏をバックに、マイクを持って歌っている。

 

 え、どういうこと・・・?

 

 「あれ?なーちゃん?」

 

 不意に声をかけられる。振り向くと、四糸乃姉がこっちに近付いてくるところだった。

 

 「何でこんなところに・・・って、クロちゃんが連れてきたんだね」

 

 「えぇ。七瀬が九美の様子を気にしていたから、実際に見せた方が早いと思って」

 

 「あぁ、なるほどね」

 

 納得している四糸乃姉。

 

 「四糸乃姉、どういうこと?何で九美がルサールカと一緒に?」

 

 「実はね、くーちゃんはルサールカに加入することになったんだよ」

 

 「ハァッ!?」

 

 ビックリしてしまう俺。え、ルサールカに加入!?

 

 「ちょっと待って!?何でそんなことになってんの!?」

 

 「んー、色々あってねぇ・・・」

 

 苦笑する四糸乃姉。

 

 「私が抜けると、ルサールカはボーカル不在になっちゃうでしょ?他のメンバーが歌ってカバーするか、それとも新しいボーカルを探すのか・・・色々と話し合ってる時に、くーちゃんが直訴してきたんだよ。『私をルサールカのボーカルにして下さい』って」

 

 「九美が・・・?」

 

 「うん。それでとりあえず、くーちゃんのボーカルとしての実力を見極めようってことになったんだけど・・・くーちゃんの歌唱力は、なーちゃんもよく知ってるでしょ?」

 

 「あぁ、勿論」

 

 頷く俺。

 

 九美の歌唱力は極めて高い。至高の歌姫と呼ばれるシルヴィや、そのシルヴィに匹敵すると評される四糸乃姉には劣るかもしれないが・・・

 

 それでも、人の心を惹きつけるほどの歌声を持っている。

 

 「ミーちゃん達もその実力を認めて、くーちゃんはルサールカの新ボーカルとして加入することになったの。今度のカウントダウンコンサートでは、私のルサールカ卒業とくーちゃんのお披露目を同時にやることになってるんだ」

 

 「・・・そうだったのか」

 

 ステージ上の九美へと視線を向ける俺。

 

 「あの九美がアイドルデビューかぁ・・・俺も歳をとったもんだ」

 

 「私も歳をとったんだねぇ・・・」

 

 「二人とも年寄り臭いわよ」

 

 四糸乃姉と二人でしみじみしていると、クロエに溜め息をつかれた。

 

 「ちなみに、九美は序列三位まで上がったわよ。序列的に言えば、もうクインヴェールの顔と言っても過言では無いわ」

 

 「えっ、序列三位って・・・じゃあ四糸乃姉は・・・?」

 

 「序列外になっちゃった」

 

 「何で!?」

 

 嘘だろ!?あの四糸乃姉が序列外!?

 

 「この間の公式序列戦、私は参加しなかったの。それで私は序列外になって、序列三位の座は空位になったんだよ。で、その空位を巡って激しい戦いが繰り広げられて・・・」

 

 「・・・勝ち取ったのが九美だったと」

 

 「正解」

 

 笑う四糸乃姉。

 

 「私はもう《星武祭》には参加しないつもりだし、あと一年でクインヴェールも卒業する身だからね。だったら《冒頭の十二人》には、これからのクインヴェールを担う子に入ってもらった方が良いと思って」

 

 「全く・・・《ライアポロス=ディーヴァ》は九美に譲ったくせに、序列三位の座は譲らずに競わせるなんて・・・優しいんだか厳しいんだか分からないわ」

 

 呆れているクロエ。マジか・・・

 

 「《ライアポロス=ディーヴァ》、九美に譲ったんだ?」

 

 「あれは他の《ライアポロス》と一緒に使って、初めて真価を発揮するからね。適合率も問題無かったし、くーちゃんが持つべきだと思って」

 

 ステージ上の九美を見つめる四糸乃姉。

 

 「でも序列は別。譲ってもらうものじゃなくて、自分の力で勝ち取るものだから。まぁでも、くーちゃんなら勝ち取ってくれるとは思ってたけどね」

 

 「序列三位かぁ・・・」

 

 学園は違えど、俺と同じ順位まで上がってきたということだ。

 

 三咲姉も俺が序列三位になった時、こんな気持ちだったのかな・・・

 

 「これからは、くーちゃんが新しいルサールカを作ってくれる。クインヴェールのこれからを担ってくれる。だから私は、安心してルサールカを卒業できるよ」

 

 「・・・そっか」

 

 これから四糸乃姉は、一人の歌手として活動していこうとしている。これまで共に歩んできた、ルサールカを卒業して・・・

 

 「・・・今までお疲れ様、四糸乃姉」

 

 「なーちゃん・・・」

 

 「『シノン』から『星野 四糸乃』になっても・・・ずっと応援してるからね」

 

 「・・・うん、ありがとう」

 

 俺に身を寄せてくる四糸乃姉。

 

 「こんな私だけど・・・これからも支えてね」

 

 「勿論」

 

 二人で笑い合っていると・・・

 

 「コラアアアアアッ!」

 

 ホールに大きな声が響き渡った。九美がビシッとこちらを指差している。

 

 「何イチャイチャしてくれちゃってるんですかあああああっ!四糸乃姉さんばかりズルいです!私だって兄さんとイチャイチャしたいんですよおおおおおっ!」

 

 「あ、気付いてたんだ」

 

 「兄さんがこのホールに入ってきた時から気付いてましたよ!私の兄さんセンサーを舐めないで下さい!」

 

 「そんなセンサー今すぐ壊してしまえ」

 

 「こらヴィオラ!リハーサルを止めない!」

 

 「あっ、すいません・・・」

 

 周りに頭を下げる九美。この光景、今日何回見たかな・・・

 

 「っていうか、『ヴィオラ』って何?」

 

 「九美の芸名よ」

 

 パイヴィが説明してくれる。

 

 「流石に一人だけ本名、それも漢字だと浮いてしまうもの。最初は『ヴァイオレット』の予定だったんだけど、長いから『ヴィオラ』になったの」

 

 「あぁ、九美の髪の色から取ったのか」

 

 「ふふん!モニカが考えたんだよ!」

 

 「道理で安直だと思ったわ」

 

 「酷い!?」

 

 涙目のモニカ。何故モニカに考えさせたのか・・・

 

 「でも、悪くない名前だろ?」

 

 「・・・まぁ確かにな」

 

 トゥーリアの言葉に頷く俺。『ヴィオラ』か・・・

 

 「っていうか、何で兄さんがここにいるんですか!後で驚かせようと思ったのに!」

 

 「あぁ、そういうことだったのね」

 

 納得しているクロエ。

 

 「ごめんなさい。七瀬が九美を心配してたから、連れてきちゃったわ」

 

 「兄さんが私を心配・・・えへへ・・・」

 

 「アハハ・・・ヴィオラさんは分かりやすいですね・・・」

 

 苦笑しているマフレナ。と、ミルシェが手を叩く。

 

 「ほら、リハーサル再開するよ。全員準備して」

 

 「「「「「了解!」」」」」

 

 それぞれの位置に戻っていく皆。俺は九美に声をかけた。

 

 「頑張れよ、九美」

 

 「フフッ、任せて下さい!」

 

 満面の笑みで頷く九美。

 

 その姿がいつもより大きく、頼もしく見えて・・・妹の成長した姿を見て、心から嬉しく思う俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「では九美さんは、ルサールカに入ることになったんですね」

 

 「そうなんだよ・・・っていうかシルヴィ、お前絶対知ってただろ」

 

 「アハハ、ゴメンね。ななくんを驚かせようと思って」

 

 クインヴェールを後にした俺は、クローディアやシルヴィと共に夕飯を食べにやってきていた。

 

 ここは芸能人御用達のお店らしく、完全個室制で人目を気にすることなく寛げる点が人気なんだとか。

 

 シルヴィがここの常連らしく、こうして連れてきてもらったのだ。

 

 「メニューが豊富ですね・・・シルヴィのオススメは何ですか?」

 

 「オススメかぁ・・・クローディアって結構食べる人?」

 

 「そうですね。割と食べる方だと思います」

 

 「じゃあこれとかオススメかな。ボリュームあるし、味も文句無しだよ」

 

 「良いですね。是非頼んでみましょう」

 

 仲睦まじく身を寄せ合い、メニュー表を見ている二人。初めて三人揃って顔を合わせて以来、この二人はすっかり意気投合していた。

 

 ギクシャクしないだろうか・・・という俺の心配は、ただの杞憂で終わったようである。

 

 「そうやって並んでると、まるで姉妹みたいだな」

 

 「そうかな?まぁ確かに、すっかり仲良くはなったけどね」

 

 「これまでも生徒会長という立場上、お互い顔を合わせることはありましたが・・・世間話が出来るような間柄でもありませんでしたからね」

 

 「そうそう。生徒会長同士が集まると、基本的に腹の探り合いになっちゃうもんね。アーネストとか星露はまだ良いとして、《悪辣の王》とかホント勘弁してほしいよ・・・」

 

 「彼は本当に面倒なタイプですからね。アルルカントの左近さんも、気弱そうに見えて頭が切れますし・・・嫌なタイプですよね」

 

 「あぁ、あの人ねぇ・・・」

 

 生徒会長同士による愚痴が始まる。こういうところで共感し合えるのも、二人が仲良くなれた要因の一つかもしれない。

 

 「クローディアとは仲良くしたかったんだよねー。女の子同士だし、歳も近いし」

 

 「私もです。生徒会長達の中で、一番仲良くなれそうだと思ってましたよ」

 

 「クローディア・・・!」

 

 「シルヴィ・・・!」

 

 ひしっと抱き合う二人。ホント仲良くなったね、君達・・・

 

 「ところでななくん、今年の冬期休暇も実家に帰るの?」

 

 「あぁ。クローディアとクロエも連れて行くつもりだよ」

 

 正式に恋人になってから、家族にクローディアのことを紹介できてないからな。

 

 クロエもお礼が言いたいとのことだったので、一緒に連れて行くことにしたのだ。

 

 「シルヴィもカウントダウンコンサートが終わったら、四糸乃姉や九美と一緒にこっちに来なよ。皆待ってるから」

 

 「勿論!またお邪魔しちゃうよー!」

 

 テンションの高いシルヴィ。と、クローディアが遠慮がちに手を上げた。

 

 「あの・・・私は本当にお邪魔してよろしいんでしょうか・・・?」

 

 「当たり前じゃん。何で?」

 

 「いえ、その・・・私のことを、七瀬のご家族はどう思っているのかと・・・」

 

 「あぁ、そういうことか」

 

 まぁ普通に考えれば、恋人が二人いるなど有り得ない話だ。国王を務めるヨルベルトさんのような人であれば、公認の愛人が何人もいたりするわけだが・・・

 

 俺は一般人、それも普通の学生だ。普通の家族であれば、『何を考えているんだ』となるところだが・・・

 

 「大丈夫。ウチの家族は普通じゃないから」

 

 「ななくん、その言い方だと誤解を招くよ」

 

 苦笑するシルヴィ。

 

 「大丈夫だよ、クローディア。万理華さん達なら、ちゃんと受け入れてくれるから」

 

 「そうそう。予め事情も説明してあるから、そんなに心配することないって」

 

 クローディアの手を握る俺。

 

 「皆クローディアに会いたがってる。だからクローディアは、堂々と俺の恋人だって名乗ってくれれば良いから」

 

 「こ、恋人・・・」

 

 クローディアが恥ずかしそうに俯く。こ、これは・・・

 

 「クローディア可愛いいいいいっ!」

 

 「俺の彼女が可愛すぎる件について」

 

 「ちょ、シルヴィ!?七瀬!?」

 

 シルヴィと俺に抱きつかれ、顔を赤くしながらあたふたするクローディアなのだった。




どうも~、ムッティです。

前回告知し忘れましたが、富嶽二十二景さんがコラボ作品をリメイクして下さいました!

シャノン「最初にコラボさせてもらったやつだよね?」

そうそう。

最初のものとは別に投稿させていただいたので、読んでいただけると幸いでございます。

富嶽二十二景さんとは『またコラボしましょう』と話しているので、ひょっとするとそのうち新しいコラボをお届けできるかもしれません。

シャノン「その前に失踪しないでね?」

大丈夫。失踪してもコラボはするから。

シャノン「そこは失踪しないって言いなさいよ!?」

恐らく今後も投稿間隔が空くことになるかとは思いますが、皆様どうか温かい目で見守って下さい。

シャノン「よろしくお願いします(ぺこり)」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「またね~!」


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それぞれの願い

私は帰ってきたッ!どーん

シャノン『くたばれえええええっ!!!!!』

ギャアアアアアッ!?


 翌日・・・

 

 「おぉ、お父さんが遂に釈放されたのか!」

 

 「えぇ、おかげさまで」

 

 嬉しそうに頷く綺凛。

 

 いつも通りのメンツで昼ご飯を食べていた俺達は、綺凛から喜ばしい知らせを聞いていたのだった。

 

 「再審で減刑され、刑期満了になって釈放まで一ヶ月か・・・流石だな」

 

 感心しているユリス。

 

 綺凛は《獅鷲星武祭》で優勝した際の願いとして、お父さんの釈放を希望していた。

 

 それが無かったら、綺凛のお父さんはこの先数十年は収監されたままだっただろう。

 

 流石は統合企業財体、腐っていても権力だけは凄まじいな・・・

 

 「・・・おめでとう、綺凛」

 

 綺凛の頭を撫でる俺。

 

 「本当に良かった・・・よく頑張ったな」

 

 「っ・・・七瀬さん・・・!」

 

 涙ぐんでいる綺凛。

 

 「七瀬さんのおかげです・・・何とお礼を言ったら良いか・・・!」

 

 「よせよ、相棒」

 

 笑みを浮かべる俺。

 

 「俺とお前の仲だろ。水臭いこと言うなよ」

 

 「フフッ、少し嫉妬してしまいますね」

 

 俺の隣に座っていたクローディアが、笑いながら抱きついてくる。

 

 「恋人の私が隣にいるというのに、綺凛のことを口説くなんて」

 

 「口説いてねーわ。俺が口説いたのはお前とシルヴィだけだよ」

 

 「っ・・・」

 

 恥ずかしそうに頬を赤く染めるクローディア。

 

 ホント乙女になったよな、コイツ・・・

 

 「・・・綾斗、コーヒーが甘い。ブラックが飲みたい」

 

 「いや、それブラックだから。七瀬とクローディアのせいで甘く感じるだけだから」

 

 紗夜にツッコミを入れる綾斗。

 

 失礼な、イチャイチャしたわけでもないのに。

 

 「コ、コホンッ!それで実は、父が直接お礼を申し上げたいとのことでして・・・ご都合が合えば、冬期休暇に皆さんを私の家にお招きしたいのですが・・・」

 

 綺凛がそんなことを言う。綺凛の実家かぁ・・・

 

 「ふむ・・・その申し出はありがたいが、私は遠慮させてもらおう」

 

 残念そうに首を横に振るユリス。

 

 「来年の《王竜星武祭》に備えて、冬期休暇はトレーニングに費やすつもりなのでな」

 

 「あれ?リーゼルタニアには帰らないのか?」

 

 「あぁ、残念ながらな」

 

 頷くユリス。

 

 ユリスは《獅鷲星武祭》で優勝した願いとして、リーゼルタニアの王権の拡大を希望した。

 

 現在はヨルベルトさんが統合企業財体へ根回しを行なっているらしく、各統合企業財体間のパワーバランスを調整しながら詳細を詰めていくつもりらしい。

 

 その作業で今はヨルベルトさんも忙しいだろうし、ユリスも遠慮したのかもしれないな・・・

 

 「私も行きたいのは山々だけど・・・冬期休暇はどうしても外せない用件がある」

 

 申し訳なさそうに言う紗夜。

 

 「煌式武装開発施設の移設が始まるから、それに立ち会っておきたい」

 

 「あぁ、そういや冬季休暇にやるんだっけ」

 

 思い出す俺。

 

 今までアルルカントにしか無かった煌式武装の開発施設が、この度星導館にも導入されるのだそうだ。

 

 サイラスの一件によって始まった、星導館とアルルカントによる新型煌式武装の共同開発がキッカケになったらしい。

 

 そう考えると、サイラスってマジヤバくね?

 

 「実は紗夜のお父上である沙々宮創一氏には、来年度から星導館の装備局技術顧問として施設のアドバイザーに就任していただく予定なんですよ。ね、紗夜?」

 

 「うん。近いうちに、お父さんとの直通回線を新設する予定」

 

 嬉しそうに微笑む紗夜。

 

 紗夜は《獅鷲星武祭》で優勝した願いとして、ずばり金銭を希望した。

 

 紗夜のお父さんは過去の事故で身体を喪失し、今はドイツにある自宅のラボと一体化しているんだとか。

 

 その維持とメンテナンスにそれなりのお金がかかるらしく、紗夜としては万が一の時の為にバックアップが欲しかったらしい。

 

 っていうか、ラボと一体化って・・・流石は紗夜のお父さん、規格外過ぎる・・・

 

 「ユリスと紗夜がパスか・・・綾斗の予定はどうなんだ?」

 

 「俺は実家に帰るよ。姉さんのことを、父さんと話し合わないといけないし」

 

 俺の問いに答える綾斗。

 

 綾斗は《獅鷲星武祭》で優勝した願いとして、姉である遥さんを目覚めさせることを希望した。

 

 そこで提示された方法は二つ・・・一つは、治療院のヤン・コルベル院長に協力を仰ぐこと。

 

 そしてもう一つは・・・

 

 「・・・《大博士》の提案を受け入れる、か。簡単には下せない決断だよな」

 

 「あぁ、全くだよ」

 

 苦い表情を浮かべる綾斗。

 

 コルベル院長の方は、少なく見積もっても十年はかかるそうだ。

 

 一方《大博士》の方は、ペナルティが解除されればすぐにでも遥さんを目覚めさせることが可能らしい。

 

 調査の結果、それが本当だということも判明しているそうだ。

 

 「綾斗、以前にも言ったが・・・私はお前が《大博士》の力を頼ることになったとしても、責めるつもりは一切無いぞ」

 

 綾斗を気遣うように声をかけるユリス。

 

 「私の問題とお前の問題は別だ。私に気を遣う必要は無いからな」

 

 「ありがとう、ユリス」

 

 微笑む綾斗。

 

 「これからについては、父さんと話し合って決めたいと思ってる。だから一度実家には帰るけど・・・冬季休暇中ずっと滞在するつもりは無いし、迷惑でなければ綺凛ちゃんの実家に顔を出させてもらおうかな」

 

 「め、迷惑だなんてとんでもないです!ありがとうございます!」

 

 頭を下げる綺凛。

 

 となると、後は俺とクローディアか・・・

 

 「クローディア、俺達も綺凛の実家にお邪魔させてもらおうか?どうせ年が明けてからじゃないと、皆揃わないもんな」

 

 「そうですね。そうさせていただきましょうか」

 

 頷くクローディア。

 

 シルヴィも四糸乃姉も九美も、カウントダウンコンサートが終わるまでは帰って来られないしな。

 

 最近デビューしたクロエもコンサートに参加するらしいから、シルヴィ達が連れてきてくれることになってるし。

 

 「じゃあ綺凛、俺達三人はお邪魔させてもらうから。実家の方に伝えてもらえるか?」

 

 「はいっ!」

 

 嬉しそうな綺凛。

 

 綺凛のお父さんって、どんな人なんだろうなぁ・・・

 

 「さて、綺凛の実家にお邪魔することが決まったところで・・・少々よろしいですか?」

 

 話を切り出すクローディア。

 

 「次の《王竜星武祭》について、確認をしておきたいのですが・・・この中で出場を決めていらっしゃる方は?」

 

 クローディアの問いに、三つの手が同時に上がった。

 

 ユリス・紗夜・俺の三人だ。

 

 「なるほど、三人ですか・・・綾斗は出場しないのですか?ユリスと同様、貴方にもグランドスラムの可能性がありますが・・・」

 

 「姉さんの件に目処がついた今、他に叶えてもらいたい願いは無いからね。三人の邪魔はしたくないから」

 

 「相変わらず綾斗は無欲ですね・・・それなら、銀河はユリスにグランドスラムを期待するでしょうね。まぁ絶対王者が君臨していますから、難しいことは重々承知しているでしょうけれど」

 

 「オーフェリアは私が倒すさ」

 

 「いや、俺だ」

 

 宣言するユリスに対し、口を挟む俺。

 

 「《孤毒の魔女》とは、リーゼルタニアで再戦を約束したんだ。綾斗とユリスを殺されかけた恨みもあるし・・・アイツとシルヴィを倒すことに関しては、俺も譲れないぞ」

 

 「私のことも忘れないでほしい」

 

 さらに口を挟んでくる紗夜。

 

 「カミラ・パレートとの決着を着ける為に、私はアルディとリムシィを倒す。その前にユリスや七瀬と当たったら・・・容赦はしない」

 

 「やれるものならやってみろ。煌式武装ごと丸焼きにしてやろう」

 

 「じゃあ俺は二人の頭を丸刈りにするわ」

 

 「「それは止めて下さい」」

 

 土下座してくる二人。よっぽど丸刈りが嫌らしい。

 

 「やれやれ・・・では、綺凛はどうするのですか?」

 

 「ふぇっ!?わ、私はその・・・まだ決めていなくて・・・」

 

 言葉を濁す綺凛。

 

 そんな綺凛に、クローディアが優しく微笑みかけた。

 

 「フフッ、じっくり考えて決めて下さい・・・とはいえ学園側の意向としては、出来れば出場は控えていただきたいのが本当のところですか」

 

 「・・・グランドスラムの邪魔になるから、ということか?」

 

 「落ち着けお転婆お姫様」

 

 「あたっ!?」

 

 クローディアに凄むユリスの頭に、チョップをお見舞いする。

 

 「な、何をするのだ七瀬!?」

 

 「綺凛はもう、《星武祭》に二回出場してるんだぞ?中等部の段階で三回目を消費するのは勿体ないだろ」

 

 呆れながらユリスに説明する俺。

 

 「綺凛は綾斗に負けるまで、ウチの序列一位を張っていた実力者だ。年齢的にもこれからが伸び盛りなんだし、急ぐ必要は無いだろうよ・・・まぁ身体の一部に関していえば、本当にこれ以上伸びるのか疑わしいぐらい大きいけど」

 

 「「「・・・確かに」」」

 

 「どこ見てるんですか!?」

 

 ユリス・紗夜・クローディアの視線に、慌てて胸を隠す綺凛。

 

 綾斗は苦笑しながら目を逸らしていた。紳士だなぁ・・・

 

 「まぁ、綺凛の胸が大きいのはさておき・・・」

 

 空間ウィンドウを開くクローディア。

 

 「そんな綺凛に、是非とも検討していただきたいものがありまして」

 

 空間ウィンドウを綺凛の前に送るクローディア。

 

 そこに映し出されていたのは・・・

 

 「これは・・・日本刀?」

 

 「いや、よく見るとかなり小さいコアがある・・・煌式武装じゃないかな?」

 

 ユリスと綾斗が覗き込み、感想を漏らすが・・・

 

 「・・・いや、違うな」

 

 覗き込んだ俺は、それを見て確信した。

 

 「クローディア、これ・・・純星煌式武装だろ」

 

 「正解です。流石は七瀬ですね」

 

 拍手するクローディア。

 

 「日本刀型の純星煌式武装・・・その名も《芙堕落》です。銀河から届いたばかりの新品なのですが、是非とも綺凛に使っていただきたいと思いまして」

 

 「わ、私ですか・・・?」

 

 「えぇ。勿論適合率検査は受けていただきますが、貴女は序列外とはいえ相当の実力者です。優先的にチャンスが与えられても文句は言われないでしょうし、日本刀といえば貴女ですから」

 

 「まぁ確かに・・・綺凛にピッタリだな」

 

 俺も頷く。

 

 「綺凛の《千羽切》は、もう修復出来そうにないみたいだし・・・新しい刀が必要になるだろうしな」

 

 実は《獅鷲星武祭》での激戦により、綺凛の愛刀である《千羽切》は深刻なダメージを負っていた。

 

 決勝でクローディアを守る為、ライオネルさんの攻撃を真正面から受け止めたのがトドメだったらしい。

 

 もう実戦では使うことが出来ず、今はブレード型の煌式武装を使っているくらいだ。

 

 「綺凛、試しに使ってみたらどうだ?お前なら適合率検査も問題無いだろうしさ」

 

 「そ、そうでしょうか・・・」

 

 明らかに逡巡している綺凛。どうしたんだろう?

 

 「まぁ別段、強制したいわけではありません。検討していただけると幸いです」

 

 「は、はい・・・」

 

 クローディアの言葉に、力なく頷く綺凛。

 

 《獅鷲星武祭》が終わった直後あたりから、綺凛の様子はどうもおかしかった。

 

 何か思い悩んでいるようで、溜め息をついたり沈んだ顔をしていたり・・・

 

 少し気になっていたのだが、そろそろ話を聞いてみるべきかな・・・

 

 「それでは、そろそろお開きにしましょうか。昼休みも終わってしまいますし」

 

 クローディアの言葉をキッカケに、次々と席を立つ皆。

 

 俺も席を立つと、いきなりクローディアが抱きついてきた。

 

 「・・・大胆になったな、お前」

 

 「フフッ、恋は人を変えるんですね」

 

 クスクス笑っていたクローディアだったが、急に声のトーンを落とした。

 

 「・・・今日の放課後、お話ししたいことがあります。ホテルでお待ちしていますね」

 

 「それで抱きついてきたのか・・・っていうか、夜のお誘いに聞こえるんだけど」

 

 「そ、それはまだ心の準備が・・・!」

 

 カァッと赤くなるクローディア。

 

 何この子、可愛いんだけど。

 

 「それではまた後ほど・・・あぁ、それと・・・」

 

 クローディアは俺から離れてその場を去ろうとしたが、再び俺の方を向いた。

 

 「今七瀬に抱きついたのは、その件を伝えたかったからではなく・・・私が七瀬にくっつきたかっただけですから」

 

 恥ずかしそうに微笑むクローディアに、思わずドキッとしてしまう俺なのだった。




お久しぶりです、ムッティです・・・(ボロッ)

シャノン『このダメ作者っち、サンシャインのssと両立するって言ったよねぇ・・・?』

はい、言いました・・・(土下座)

シャノン『全然両立できてないでしょうが!サンシャインばっかり更新してるでしょうが!』

Aqoursが可愛いんだから仕方ないでしょうが!

シャノン『まさかの逆ギレ!?じゃあ何で戻ってきたのさ!?』

アスタリスクの新巻を読んだら、アスタリスク熱が復活したんだよ。

シャノン『相変わらずの単純さ・・・まぁ確かに面白かったけども』

最後のユリスが可愛すぎてもう・・・

それから綾斗、テメェは許さん。

シャノン『綾斗くんが何をしたって言うの!?』

だってアイツ綺麗事しか言わないんだもん!

『だとしても、俺は止める』じゃねーんだよおおおおおっ!!!!!

ユリスがどんだけ悩んで出した答えだと思ってんだあああああっ!

御坂を止める上条かテメェはあああああっ!

シャノン『さ、作者っちの怒りが爆発してる・・・』

まぁ綾斗の気持ちも分かるんだけどさぁ・・・

もっとユリスの気持ちを考えてあげてほしかったよ・・・

皆さんはどう思いましたか?

気になるので教えて下さい。

シャノン『皆さんが気になってるのは、この作品が続くかどうかだと思うんだけど』

すいません、続けますので許して下さい(土下座)

とはいえ、相変わらず不定期にはなりますが・・・

とりあえず、十一巻の内容は終わらせたい。

シャノン『その先までいけや』

が、頑張りまゆゆ・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン『またね〜!』


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集いし面々

アスタリスクの三期やってくれないかなぁ・・・

《獅鷲星武祭》編をアニメで見たいわぁ・・・


 「ここに来るのも、学園祭の時以来だなぁ・・・」

 

 そんなことを呟きつつ、ホテル・エルナトの廊下を歩く俺。

 

 あの後クローディアから、このホテルの部屋番号と時間が書かれたメールが送られてきたのだ。

 

 わざわざこんなところに呼び出すくらいだから、きっとかなり重要な話なんだろう。

 

 緊張しながら歩いていると、やがて目的の部屋へと辿り着いた。

 

 フロントで受付をした際に渡されたカードキーを差し込み、恐る恐る中に入ると・・・

 

 「よし、上がり!」

 

 「負けたあああああっ!?」

 

 一織姉と二葉姉がトランプで遊んでいた。

 

 「何やってんだあああああっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 「ごふっ!?」

 

 二人の頭に拳骨をお見舞いする。

 

 「え!?七瀬!?」

 

 「何でアンタがここに!?」

 

 「それはこっちのセリフだわ!っていうか何でトランプやってんの!?」

 

 「「暇だったんだもん」」

 

 「《放電》」

 

 「あぁっ!?」

 

 「トランプがっ!?」

 

 トランプが黒焦げになったところで、俺はソファで寛いでいるもう一人の人物へと視線を向けた。

 

 「まさかお前もいるとはな・・・シルヴィ」

 

 「ヤッホー、ななくん」

 

 笑顔で手を振るシルヴィ。一体どういうことなんだ・・・?

 

 「んんぅ・・・騒々しいですね・・・」

 

 のっそりとベッドから起き上がる人物がいた。

 

 えっ・・・

 

 「三咲姉!?」

 

 「ふわぁ・・・こんばんは、七瀬・・・」

 

 大きな欠伸をして立ち上がる三咲姉。

 

 何で三咲姉まで・・・

 

 「ちょ、それより三咲さん!?その格好はマズいって!?」

 

 「格好・・・?」

 

 「早く服を着て!?ななくんがいるんだよ!?」

 

 慌てるシルヴィ。

 

 今の三咲姉はガラードワースの制服を着ておらず、完全に下着姿だった。

 

 抜群のスタイルの良さに加え、扇情的なランジェリーを身に纏う三咲姉は・・・弟の俺から見ても、とてつもなくエロかった。

 

 「別に良いじゃないですか。私も他の男にこんな姿を見られたくありませんが、七瀬は別です。七瀬だったら、裸を見られても大丈夫ですから」

 

 「どこまでブラコンなの!?」

 

 「安心しろ、シルヴィ。要は男として見られてないってことだから」

 

 苦笑する俺。

 

 見慣れたわけではないが、姉さん達のこういう姿は何度も見てきている。

 

 今に始まったことではないので、別に慌てることもないのだ。

 

 「おや、それは聞き捨てなりませんね」

 

 俺に抱きつく三咲姉。

 

 豊満な胸が俺の胸板に押し付けられ、ムニュッと形を変える。

 

 「私は七瀬のことを、ちゃんと男として見ていますよ。心を許しているから、見られても大丈夫だと言っているんです」

 

 「そんなこと言ってると、本当におっぱい揉むよ?」

 

 「構いませんよ。七瀬が望むのなら、その先も・・・」

 

 「ストップううううううううううっ!?」

 

 慌てて俺と三咲姉を引き剥がすシルヴィ。

 

 俺を思いっきり抱き寄せ、涙目で三咲姉を睨みつける。

 

 「な、ななくんは渡さないんだからっ!」

 

 「フフッ、嫉妬ですか・・・シルヴィも可愛いですね」

 

 「三咲、からかうのもその辺にしておきなさい」

 

 呆れている一織姉。

 

 「そろそろ彼女達が来る頃だし、制服を着ておいた方が良いわよ」

 

 「それもそうですね」

 

 いそいそと制服を着始める三咲姉。

 

 全く、この人ときたら・・・

 

 「三咲姉が寝る時、寝巻きを着ないのは知ってたけど・・・何でここで寝てたの?」

 

 「最近生徒会の業務が忙しくて、疲れてるんですよ。集合まで時間があったので、少し仮眠をとらせてもらったんです」

 

 「仮眠どころか爆睡してたでしょ」

 

 溜め息をつく二葉姉。

 

 「それより七瀬、何でアンタがここにいるの?聞いてないんだけど?」

 

 「クローディアに呼び出されたんだよ。俺の方こそ、姉さん達やシルヴィがいるなんて聞いてないんだけど」

 

 「すみません。セキュリティの関係上、どうしても情報は最低限にしておかないといけなかったもので」

 

 部屋へと入ってくるクローディア。

 

 そしてそんなクローディアの後から、一人の女性が入ってきた。

 

 「イザベラさん・・・?」

 

 「こんばんは、七瀬さん」

 

 クローディアの母親であるイザベラさんが、穏やかな笑みを浮かべて挨拶してくる。

 

 何がどうなってるんだ・・・?

 

 「・・・イザベラさん、これはどういうことでしょう?」

 

 静かに切り出す二葉姉。

 

 冷静だが、怒っているのがよく分かる。

 

 「何故この場に七瀬がいるんですか?まさか、七瀬を巻き込むおつもりで?」

 

 「巻き込むも何も、七瀬さんは当事者でしょう」

 

 淡々と話すイザベラさん。

 

 「星野零香が七瀬さんを狙っている以上、七瀬さんに何も知らせないわけにはいきません。ですので今回、七瀬さんをお呼びしたのです」

 

 「・・・あわよくば七瀬を危険な目に遭わせ、抹殺してしまおうとお考えですか?銀河にとって、七瀬の存在は厄介でしょうからね」

 

 イザベラさんを睨みつける三咲姉。

 

 イザベラさんが溜め息をつく。

 

 「アーネスト・フェアクロフは、貴女に例の一件を教えてしまったようですね。我々としては、あまり知られたくないのですが」

 

 例の一件とは、恐らくクローディアを暗殺しようとした時のことだろう。

 

 それを利用して俺は銀河を脅迫したわけだが、どうやらアーネストはそれを三咲姉に話したようだ。

 

 「心配せずとも、銀河に七瀬さんを狙う意思はありません。弱みを握られていることは事実ですが、それを盾に無茶な要求をしてくることもありませんし・・・何より七瀬さんは、《ヴァルダ=ヴァオス》と行動を共にしている星野零香が狙う人物です。彼女達を刺激したくない我々が、七瀬さんの抹殺を企む理由はありません」

 

 「だったらどうして・・・!」

 

 「そこまでにしておきなさい」

 

 二葉姉の言葉を遮る一織姉。

 

 「イザベラさんの言う通り、七瀬は当事者よ。この場に参加する権利がある」

 

 「でも・・・!」

 

 「もっとも・・・私達には、事前に話を通してもらいたかったけどね」

 

 凄まじい殺気を放つ一織姉に、二葉姉も三咲姉も思わず口を噤む。

 

 ここにいる全員が、一番キレているのは一織姉だと理解した瞬間だった。

 

 「・・・申し訳ありません、一織さん」

 

 イザベラさんでさえ固まる中、クローディアが深々と頭を下げる。

 

 「お怒りなのは重々承知しています・・・本当に申し訳ありません」

 

 そんなクローディアの姿に、一織姉は溜め息をついた。

 

 「・・・参ったわね。義理の妹になるかもしれない貴女に謝られたら、これ以上怒るわけにもいかないじゃない」

 

 「ぎ、義理の妹って・・・私が七瀬の・・・お、お嫁さんに・・・!?」

 

 ボンッと顔が赤くなるクローディア。

 

 可愛すぎかオイ。

 

 「可愛すぎかオイ」

 

 「二葉姉、人の心の声と被せないで」

 

 「私もだからね!?私もななくんのお嫁さんになるんだからね!?正妻だからね!?」

 

 「はいはい、分かってますよシルヴィ」

 

 涙目で抗議するシルヴィの頭を、三咲姉が呆れながら撫でる。

 

 「・・・クローディアのこんな姿、初めて見ました」

 

 驚いているイザベラさん。

 

 「あの子も年頃の娘だったのですね・・・」

 

 「当然です。クローディアは俺が幸せにします、イザベラさん・・・いえ、お義母さん」

 

 「さりげなく『お義母さん』と呼ぶのは止めていただけますか!?」

 

 ツッコミを入れるイザベラさんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

シャノン「まさかの二日連続投稿とは・・・」

まぁまだ続き書いてないから、一旦止まるんだけどね。

シャノン「また半年ぐらい失踪しないでね?」

・・・善処しまゆゆ。

シャノン「そこは失踪しないって言いなさいよ!?」

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン「逃げるなあああああっ!?」


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利害の一致

最後の更新からニ年半・・・

今ッ!ムッティが帰ってきたッ!

シャノン『そのままあの世に帰りやがれえええええッ!!!!!』
 
ちょ、止め・・・ギャアアアアアッ!?


 「金獅子のシキ同盟?」

 

 「どこのフワフワの実の能力者ですか・・・金枝篇同盟です」

 

 「お母様、ワ●ピースをご存知なんですね・・・」

 

 呆れたようにツッコミを入れるイザベラさんに、同じく呆れているクローディア。

 

 俺達は今、イザベラさんとクローディアから金枝篇同盟なる存在について説明を受けていた。

 

 「最近になって我々の情報網に、この組織が六花で暗躍しているらしいという話が引っ掛かるようになりました。どうやらこの組織には、《処刑刀》が関わっているようです」

 

 「《処刑刀》・・・」

 

 その名を呟く俺。

 

 あの男が関与しているということは・・・

 

 「零香姉やヴァルダも関わってるってことか・・・」

 

 「えぇ、そう見て間違いないでしょう」

 

 頷くクローディア。

 

 「七瀬には以前お話しましたが、ヴァルダこと《ヴァルダ=ヴァオス》はラディスラフ・バルトシーク教授が創り出した純星煌式武装です。能力は精神干渉で、人の認識や記憶に干渉したりすることが出来るそうですよ」

 

 「なるほど、あれが認識干渉ですか」

 

 納得している三咲姉。

 

 そういえば《獅鷲星武祭》の決勝戦前日、ヴァルダの人払いを破って三咲姉が助けに来てくれたっけ・・・

 

 「七瀬と天霧くんの助太刀に入る前、何故か『ここから先に立ち入ってはいけない』という気持ちになりました。普通であれば、先に進もうとは思わなかったでしょうね」

 

 「三咲姉、よくそれを破れたね?」

 

 「心を強く持っていれば、抗えないものでもなかったですから。それに・・・」

 

 俺に抱きついてくる三咲姉。

 

 「可愛い弟の為だと思えば、あの程度どうということはありません」

 

 「いつになくスキンシップが激しいな・・・二葉姉に毒された?」

 

 「どういう意味よ!?」

 

 二葉姉のツッコミ。

 

 自覚の無い人のツッコミはさておき・・・

 

 「つまり身体を乗っ取られるのは、その能力の代償なのか・・・まぁヴァルダに意志がある以上、能力を使う気がなくても強制的に乗っ取られるんだろうけど」

 

 「じゃあウルスラの身体を操っているのは、《ヴァルダ=ヴァオス》という純星煌式武装の意志というわけね?」

 

 「そういうことになります」

 

 シルヴィの問いに頷くクローディア。

 

 「一番最初にヴァルダに操られたのは、開発者であるバルトシーク教授です。ヴァルダは能力を使って多くの学生を洗脳し、あの《翡翠の黄昏》を引き起こしました」

 

 「えぇっ!?」

 

 「《翡翠の黄昏》!?」

 

 驚愕しているシルヴィと三咲姉。

 

 一方、一織姉と二葉姉は表情を変えなかった。

 

 「その様子だと、二人は知ってたみたいだね」

 

 「七瀬もね」

 

 溜め息をつく一織姉。

 

 「私達には、事前にイザベラさんから説明があったのよ。三咲とシルヴィは他学園の人間だから、今日が初めての説明なの」

 

 「それで姉さんとアタシにも立ち会ってほしいってお願いされたってわけ」

 

 「あぁ、なるほど・・・っていうか今さらなんだけど、何で一織姉達までこんな話を聞かされてんの?」

 

 「星野零香の関係者、及び星導館の関係者だからですよ」

 

 俺の疑問に答えるイザベラさん。

 

 「我々としても、金枝篇同盟について探る味方が欲しかったので。星野零香の行方を追う一織さん達と、利害が一致したわけです」

 

 「いや、一人ガラードワース関係者がいますけど」

 

 「あぁ、そういえば言ってませんでしたね」

 

 ガラードワース関係者こと三咲姉が、衝撃の事実を口にする。

 

 「私、星導館の教員試験に合格しました。ガラードワース卒業後は星導館で教鞭をとるので、れっきとした星導館関係者ですよ」

 

 「「ええええええええええ!?」

 

 絶叫してしまう俺とシルヴィ。

 

 嘘だろオイ!?三咲姉が星導館の教師に!?

 

 「ちょ、マジで!?ガラードワースは何て!?」

 

 「何も言われませんでしたよ?」

 

 「嘘でしょ!?何で!?」

 

 「何でと言われましても・・・」

 

 シルヴィの問いに苦笑する三咲姉。

 

 「卒業後の進路について、学園側から口出しされることは基本ありませんよ?まぁ学園の機密情報等を知っている場合、他学園に関わる仕事に就くのを止められることはあるかもしれませんが・・・私は生徒会の役員をしていただけで、特にそのような情報は持っていませんから」

 

 「でもガラードワース的に、星導館に人材が流出するのは面白くないんじゃ・・・」

 

 「その辺りは、アーネストが上手く口添えしてくれました。おかげで円満に卒業、円満におさらばです」

 

 「いや、おさらばって・・・」

 

 「まぁそういうわけなので、来年度から好きなだけ七瀬と会えます。あぁ、今からワクワクが止まりません・・・!」

 

 目がキラキラしている三咲姉。

 

 ヤッベ、来年度からどうしよ・・・

 

 「コホン・・・まぁそんなわけです」

 

 仕切り直すイザベラさん。

 

 「ちなみにシルヴィア・リューネハイムを呼んだのは、現在ヴァルダが身体を乗っ取っているウルスラ・スヴェントなる女性の関係者だからです。そして彼女の目標がヴァルダを捕えることにあるならば、我々とは利害関係が一致しますから」

 

 「・・・つまりクインヴェールやW&Wには内密に、私と手を組みたいってこと?」

 

 「理解が早くて助かります」

 

 「・・・分かった。その話、乗らせてもらおうじゃない」

 

 「シルヴィ!?本当に良いのか!?」

 

 「勿論。ウルスラのことは諦めないって、前にも言ったじゃない」

 

 苦笑するシルヴィ。

 

 「っていうか、ななくんは知ってたんでしょ?ヴァルダの正体を」

 

 「・・・まぁな。巻き込みたくないから黙ってたけど」

 

 「協力するって言ったくせに」

 

 「うっ・・・ゴメン」

 

 「フフッ、冗談」

 

 俺の頬に手を当てるシルヴィ。

 

 「私を想ってのことなのは、よく分かってる。でも私は、どうしてもウルスラを取り戻したいから。その為にアスタリスクに来たのに、何も出来ないのは嫌なの」

 

 「シルヴィ・・・」

 

 「それに・・・ななくんの力になれないのも嫌だから」

 

 俺の額に、自分の額をコツンと合わせるシルヴィ。

 

 「私はななくんの彼女なんだから・・・好きな人の力になりたいじゃない」

 

 「・・・ズルいなぁ」

 

 そんな言い方をされたら、もう『巻き込めない』なんて言えないじゃん・・・

 

 「・・・ありがとう、シルヴィ」

 

 「フフッ、どういたしまして」

 

 俺達が笑い合っていると・・・

 

 「・・・私の存在を忘れていませんか?」

 

 拗ねた表情のクローディアが、背中から抱きついてくる。

 

 「私だって七瀬の彼女です。力になりたいと思っているのは、シルヴィだけではないんですからね」

 

 「忘れるわけないだろ」

 

 クローディアの頭を撫でる俺。

 

 「クローディアが思ってる以上に、俺はクローディアのことが好きなんだから」

 

 「っ・・・///」

 

 「あっ、クローディア照れてる~♪可愛い~♪」

 

 「シルヴィ!?茶化さないで下さい!」

 

 顔を赤くするクローディア。

 

 こんな良い彼女が二人もいるなんて、幸せだなぁ・・・

 

 「・・・何か複雑だわ。弟が彼女とイチャイチャするのを見るのって」

 

 「ホントそれ・・・しかも二人よ二人・・・複雑さも二倍だわ・・・」

 

 「あのクローディアのこんなところを、目の前で見る日が来るとは・・・」

 

 「・・・私も混ざってきて良いでしょうか?」

 

 「あっ、三咲が壊れたわ・・・」

 

 「戻ってきなさい三咲・・・アンタが壊れたら、アタシ達どうしたらいいのよ・・・」

 

 何故かげんなりしている大人達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「コホン・・・話を元に戻しますが、これが《翡翠の黄昏》の真実です」

 

 イザベラさんの前でイチャイチャしてしまったことが恥ずかしかったのか、気まずそうに本題へと戻るクローディア。

 

 「銀河としては《ヴァルダ=ヴァオス》、そして金枝篇同盟を野放しにしておくわけにはいかない・・・理由はお分かりですね?」

 

 「《ヴァルダ=ヴァオス》が、テロリストを量産出来るからでしょう?そんな純星煌式武装を世に解き放った責任を問われようものなら、銀河の存亡に関わりますから」

 

 「そんな《ヴァルダ=ヴァオス》が、今度は金枝篇同盟なる組織で暗躍している・・・これ以上の騒ぎを起こさせたくない銀河としては、放っておけないよね」

 

 厳しい表情の三咲姉とシルヴィ。

 

 金枝篇同盟か・・・絶対ろくでもないことを企んでるだろうな・・・

 

 「そして、そんな《ヴァルダ=ヴァオス》と行動を共にしている《処刑刀》・・・かつて《蝕武祭》で闘技者を務めていた彼もまた、要注意人物ですね」

 

 溜め息をつくイザベラさん。

 

 「報告は受けていますが、彼は未だに《赤霞の魔剣》を使用しているそうですね?」

 

 「えぇ、この目で見ました」

 

 頷く俺。

 

 「レヴォルフの学有純星煌式武装である《赤霞の魔剣》を、何で《処刑刀》が持ってるんですかね?凍結処理中だって聞いてますけど・・・」

 

 「彼は《蝕武祭》時代から《赤霞の魔剣》を持っていました。《蝕武祭》の主催者と思われるダニロ・ベルトーニは、レヴォルフの運営母体・ソルネージュの幹部でしたから。何か手を回したのかもしれませんね」

 

 俺はそこで、以前ヘルガさんから聞いた話を思い出した。

 

 「そういえば、ダニロ・ベルトーニは精神操作を受けていた可能性があるって・・・まさか・・・」

 

 「そのまさか、でしょうね」

 

 二葉姉が同意する。

 

 「ダニロ・ベルトーニに精神操作を施していたのは、恐らく《ヴァルダ=ヴァオス》でしょう。《処刑刀》とヴァルダが、当時から行動を共にしていたのなら・・・」

 

 「えぇ。仮面を被った《処刑刀》の正体が、誰にもバレなかったことも説明がつく」

 

 真剣な表情の一織姉。

 

 「そして当時から、あの二人と零香姉さんは手を組んでいた・・・」

 

 「・・・何を考えてるんですか、あの人は」

 

 忌々しそうな表情の三咲姉。

 

 金枝篇同盟が何を企んでいるかは知らないが、俺達としても放置出来ない。

 

 これ以上、零香姉に手を汚させるわけにはいかないのだから。

 

 「金枝篇同盟については、まだほとんど実害がありません。その為、どこの統合企業財体も本腰を入れて対処はしていないようです」

 

 シルヴィへと視線を向けるイザベラさん。

 

 「危機感を持っているのは我々と、べネトナーシュを何人か失ったそちらくらいです」

 

 「へぇ・・・それも知ってるんだ」

 

 鋭い視線をイザベラさんへ向けるシルヴィ。

 

 べネトナーシュが・・・

 

 「つまり我々は、大々的に動けないというのが現状です。直轄の部隊を動かせば、先日のように他の統合企業財体の知るところとなります。何を勘ぐられるか分かったものではないので、我々は秘密裏に動かなくてはならないのです」

 

 イザベラさんはそう言うと、ゆっくり立ち上がった。

 

 「こちらも何か分かったことがあれば、クローディア経由で皆さんにお伝えします。ですので皆さんも情報を掴んだら、クローディア経由で報告をお願いします。通信にはくれぐれも気をつけて下さい。それでは」

 

 「あっ、イザベラさん!」

 

 立ち去ろうとするイザベラさんを、俺は呼び止めた。

 

 「何でしょう?」

 

 「一応、ちゃんとご報告させていただこうと思いまして」

 

 俺はクローディアへと視線を向けた。

 

 「貴女の娘であるクローディアと、お付き合いさせていただくことになりました」

 

 「えぇ、聞いていますよ。目の前でイチャイチャされましたしね」

 

 イザベラさんの言葉に、クローディアの顔が赤く染まる。

 

 まぁそれもそうか・・・

 

 「クローディアが誰と付き合おうが、クローディアの自由です。反対などしません」

 

 「・・・既に彼女がいる男でも、ですか?」

 

 「クローディアが納得しているのなら、それでも構わないと思いますよ」

 

 淡々と答えるイザベラさん。

 

 「もういい歳なのですから、それくらいは自分で判断出来るでしょう。私が口を出すことではありません」

 

 「・・・銀河を脅した男でも、ですか?」

 

 「二人の交際は、銀河の不利益になることではありませんから。そうならないかぎり、別に良いのではないでしょうか?」

 

 「・・・そうですか」

 

 この人は本当に、銀河にとって利益か不利益かでしか物事を見ていない。

 

 どちらでもない場合は、本当にどうでもいいんだろう。

 

 これが精神調整プログラムを受けた、統合企業財体の最高幹部か・・・

 

 「・・・ですが」

 

 そのまま出口へ向かおうとしていたイザベラさんが、背中を向けたまま立ち止まる。

 

 「その・・・良かったのではないでしょうか」

 

 「え・・・?」

 

 「クローディアはずっと、七瀬さんを想い続けてきたのでしょう?それが叶ったのですから・・・喜ばしいことではあると思いますよ」

 

 「お母様・・・?」

 

 信じられないものを見たような表情でイザベラさんを見るクローディア。

 

 「一応、私の娘ですから・・・人を見る目があった、ということでしょうね。それでは」

 

 それだけ言うと、そそくさと部屋から出て行くイザベラさん。

 

 全く・・・

 

 「素直じゃないんだから・・・クローディアそっくりだわ」

 

 「ちょ、七瀬!?私とあの人のどこがそっくりなんですか!?」

 

 「いやぁ、やっぱり母娘だねぇ」

 

 「シルヴィ!?」

 

 「これからよろしくね、クローディア」

 

 「歓迎するわ、クローディア」

 

 「七瀬のことは頼みましたよ、クローディア」

 

 「急に馴れ馴れしくなりましたね!?」

 

 姉さん達に絡まれ戸惑いながらも、イザベラさんが去っていった出口へ視線を向けるクローディア。

 

 その口元が、嬉しそうに少し緩んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「さて・・・とりあえず、今後の方針を決めようか」

 

 皆を見渡す俺。

 

 「恐らく零香姉は、また俺に接触してくると思う。零香姉を捕まえるなら、そのタイミングがベストじゃないかな」

 

 「でしょうね。零香さんを捕らえることが出来れば、《処刑刀》やヴァルダについての情報も得られますから」

 

 頷くクローディア。

 

 「とはいえ、七瀬の身が危険に晒されることになりますが・・・」

 

 「そんなの今さらだろ」

 

 肩をすくめる俺。

 

 「それに星導館の敷地内であれば、零香姉も迂闊には手を出せないはずだ。手を出してくるとすれば、公共エリアに出た時だろうな」

 

 「じゃあ、公共エリアに出る時は護衛をつけて・・・」

 

 「それは止めた方が良いでしょうね」

 

 シルヴィの提案に、苦々しい表情で首を横に振る二葉姉。

 

 「中途半端な護衛は、零香姉さん相手に何の意味も無いわ。時間稼ぎにもならない」

 

 「・・・前々から思ってたんだけど、零香さんってそんなに強いの?私、零香さんが戦ってるところって見たことなくて・・・」

 

 「悔しいことに、メチャクチャ強いわよ」

 

 苦笑する一織姉。

 

 「私は単独じゃ勿論、二葉と一緒に挑んでも勝てたことが無いもの。二葉と組んで《鳳凰星武祭》への出場を決めた時も、零香姉さんにお願いして二対一の模擬戦を何度もやったけど・・・全敗だったわ」

 

 「しかも全部完敗だったっけ・・・あれは悔しかったなぁ」

 

 「・・・本気で言ってる?あの一織さんと二葉さんが?」

 

 「かつての星導館の序列一位と二位・・・しかもその《鳳凰星武祭》を制したお二人が、二人がかりで一度も勝てなかったと・・・?」

 

 シルヴィは勿論、クローディアまでが唖然としていた。

 

 「本当よ。本人がその気なら序列一位は勿論、グランドスラムも達成出来たでしょうね」

 

 「道理で《星武祭》に参加しないと思ったら、《蝕武祭》に参加してたとはね」

 

 忌々しそうな二葉姉。

 

 「しかも危ない連中と手を組んで・・・何をしようとしてるのかしら・・・」

 

 「それは本人に聞いてみるしかないでしょうね」

 

 溜め息をつく三咲姉。

 

 「護衛と言うのであれば、一織姉様・二葉姉様・私の誰かがつくべきでしょうが・・・仕事の都合上、それは厳しいでしょうね」

 

 「護衛なんて要らないさ」

 

 首を横に振る俺。

 

 「零香姉は俺が捕まえる。もう手を汚させはしない」

 

 「でも七瀬、くれぐれも気をつけてね」

 

 一織姉から忠告される。

 

 「なるべく一人で行動しないことと、もし零香姉さんが現れたらすぐに連絡すること。時間さえ稼いでくれたら、すぐに駆けつけるから」

 

 「了解。心配してくれてありがとな」

 

 苦笑する俺。

 

 「それから、《処刑刀》とヴァルダの行方だけど・・・」

 

 「それは私の方で探りを入れてみるわ」

 

 「私もお母様と情報を共有しつつ、色々と当たってみます」

 

 「私も《歓楽街》の捜索を続けるよ」

 

 二葉姉・クローディア・シルヴィがそう言ってくれる。

 

 「よろしく。それと・・・」

 

 俺はもう一つの可能性に言及した。

 

 「《金枝篇同盟》には・・・《悪辣の王》が関与してる可能性がある」

 

 「《孤毒の魔女》絡みね?」

 

 一織姉の言葉に頷く俺。

 

 ヴァルダは俺達の故郷に現れた時、《孤毒の魔女》の名前を口にした。

 

 レヴォルフの序列一位である《孤毒の魔女》が《金枝篇同盟》に関わっているなら、あのブタが無関係とは思えない。

 

 それに・・・

 

 「レヴォルフの生徒会長であるアイツが、学有純星煌式武装である《赤霞の魔剣》の現状を知らないはずがない。凍結処理中とはいえ、学園に無かったら普通は気付くだろ」

 

 「でしょうね。学有純星煌式武装は厳重に管理されていますから」

 

 同じく生徒会長という立場のクローディアも同意する。

 

 「《悪辣の王》についても、少し探りを入れてみます」

 

 「私もまだガラードワースの生徒会役員なので、少し調べてみますね」

 

 三咲姉もそう言ってくれる。

 

 あとは・・・

 

 「一織姉、綾斗のお姉さん・・・遥さんはどう?」

 

 「残念ながら、封印の解除は難しそうね」

 

 険しい表情の一織姉。

 

 遥さんが治療院にいることが明らかになった今、一織姉はコルベル院長に協力して封印解除の道を模索してくれていた。

 

 「院長が言うには、統合企業財体のバックアップがあれば可能性はあるみたいなんだけど・・・一番早くて確実なのは、《大博士》の力を借りることでしょうね」

 

 「・・・やっぱりか」

 

 遥さんが早く目覚めてくれれば、色々と情報が得られそうではあるが・・・

 

 こればかりは綾斗の気持ちがある。

 

 《大博士》の力を借りるというのは、綾斗としては避けたいところだろう。

 

 ユリスの気持ちを考えれば尚更だ。

 

 「とりあえず、引き続きそっちは頼むな」

 

 「えぇ、色々と探ってみるわ」

 

 頷いてくれる一織姉。

 

 とりあえずはこんなところか・・・

 

 「まぁ、もうすぐ冬季休暇だ。実家にも帰ることだし、零香姉については家族で話し合おう。他の件は他言無用で」

 

 「了解。まぁ簡単には話せないものね」

 

 苦笑する二葉姉。

 

 「七瀬はいつ実家に帰るの?」

 

 「クローディアや綾斗と綺凛の家にお邪魔することになってるから、年明けかな。シルヴィ達と同じくらいに帰るようにはするよ」

 

 「フフッ、クローディアとクロエを紹介しないとだもんね」

 

 「あ、あのっ!よろしくお願い致します!」

 

 「アハハ、そんなに緊張しないでよクローディア」

 

 「そうですよ。自分の実家だと思って来て下さい」

 

 盛り上がる俺達なのだった。




どうも〜、ムッティです・・・(ボロボロ)

シャノン『オイコラ、今まで何してたクソ作者』

あれ、シャノンってこんなキャラだったっけ・・・

シャノン『誰のせいだと思ってんの!?』

本当にすまないと思っている( ー`дー´)キリッ

シャノン『・・・・・(カチャッ)』

止めて!?無言で銃を構えないで!?

本当に申し訳ありませんでした!(土下座)

シャノン『七ヶ月どころか二年半も空白期間作るとか何やってんの!?何してたのさ!?』

いやぁ、モチベーション低下しちゃって・・・

シャノン『今年に入ってからはサンシャインも更新されてないしさぁ!』

虹ヶ咲とスーパースターに目移りしてました(笑)

シャノン『しばくぞコラ』

ホントすいませんでした!(土下座)

シャノン『で?何で戻ってきたわけ?』

学戦都市アスタリスクが完結したからです!

三屋咲先生、おめでとうございます!

そしてお疲れ様でした!

シャノン『なるほど、それでモチベーションが復活したと』

そうなのよ。

本編が完結したわけだし、この作品をこのままにしとくのも嫌だなぁなんて思ってさ。

シャノン『じゃあまた更新を続けるの?』

その予定なんだけど、多分更新頻度はスローペースになると思う。

とりあえず失踪しないようには頑張りたい願望。

シャノン『願望で終わらせるなや』

が、頑張ります・・・(震え声)

失踪中も続きを期待して下さる読者の方もいて、本当にありがたかったです!

少しずつマイペースに更新出来たらと思うので、どうか温かい目で見守っていただけると幸いです!

これだけ失踪しておいて『また応援して下さい』と言うのも身勝手な話だということは、重々承知しております。

少しでも『仕方ない。また読んでやるか』と思って下さる方がいらっしゃれば、目を通していただけるとありがたいです。

これからもこの作品をよろしくお願い致します。

シャノン『お願い致します(ぺこり)』

次回の更新日は未定ですが、なるべく早く更新出来たらと思っています。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン『またね〜!』


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綺凛の悩み

アスタリスク、最後までアニメ化してくれないかなー。

クインヴェールの翼も含めてアニメ化してほしい(切実)


 「寒い寒い寒い寒い寒い・・・」

 

 「どんだけ寒がってんの?」

 

 身体を震わせる俺に呆れる綾斗。

 

 俺・綾斗・クローディア・綺凛の四人は、アスタリスクの湖を走る船の上にいた。

 

 アスタリスクの湾岸都市へ行き、そこから高速鉄道で綺凛の実家へ向かう為だ。

 

 「七瀬さん、デッキじゃなくて船の中にいた方が良いんじゃ・・・」

 

 「景色が見たい寒い寒い寒い・・・」

 

 「そんなに寒がってまで見る必要あります?」

 

 綺凛まで呆れている。

 

 だって退屈なんだもん・・・

 

 「ちょ、誰かユリス連れて来て・・・煉獄さんと松岡●造さんも連れて来て・・・」

 

 「いや、ユリスも煉獄さんも暖まる為に炎出してるわけじゃないからね?松●修造さんに関しては炎出せないし」

 

 「心を燃やしてもっと熱くなれよ!」

 

 「お二人の言葉を合体させないで下さい」

 

 「うぅ、クローディアぁ・・・暖めてぇ・・・」

 

 「はいはい、ただいま」

 

 後ろから俺を抱き締めてくれるクローディア。

 

 クローディアが羽織っているコートの中に、デッキの椅子に座る俺の身体がすっぽり収まる。

 

 「こんなこともあろうかと、大きめのコートを羽織ってきた甲斐がありましたね」

 

 「あぁ、暖かい・・・クローディア、愛してる」

 

 「フフッ・・・私も愛してますよ、七瀬」

 

 「綺凛ちゃん、温かいブラックコーヒーいる?」

 

 「いただきます、綾斗先輩」

 

 何故か何とも言えない表情でホットブラックコーヒーを飲む二人。

 

 いや俺にもくれよ。

 

 「それにしても、綺凛の実家かぁ・・・どんなところなんだろうなぁ・・・」

 

 「刀藤流の本家ですからね。立派なお屋敷を想像してしまいます」

 

 「確かに。武家屋敷みたいな?」

 

 「そ、そんなに期待しないで下さい・・・」

 

 タハハと力なく笑う綺凛。

 

 元気無さげなその表情が、俺は少し気になった。

 

 「綺凛、何かあった?」

 

 「え・・・?」

 

 「いや、最近様子がおかしかったから。今も元気無さそうだし」

 

 「・・・バレてました?」

 

 「バレバレだわ」

 

 「バレバレですね」

 

 「バレバレだね」

 

 「アハハ・・・」

 

 俺達の答えに苦笑する綺凛。

 

 やがて息を一つ吐き、俺達に向き直る。

 

 「・・・今更ですが、実家に帰るのが怖いんです」

 

 「怖い?」

 

 「えぇ、父に会えるのは嬉しいんですが・・・大叔母様と顔を合わせるのが、少し気まずいと言いますか・・・」

 

 浮かない表情の綺凛。

 

 「大叔母様は父がいなくなった後、刀藤流の宗家を取りまとめて下さっている方です。とても素敵な方で、私も尊敬しているのですが・・・実はその大叔母様から、『すぐに戻って宗家を継いでほしい』と言われているんです」

 

 「・・・それはつまり、星導館を退学しろということですか?」

 

 「・・・はい」

 

 クローディアの問いに頷く綺凛。

 

 おいおい、マジかよ・・・

 

 「大叔母様はあくまで臨時の代理であり、父は再度宗家の座に戻ることを固辞しているそうで・・・」

 

 「・・・綺凛はそうしたいの?」

 

 「い、いえ!私はこのまま星導館で、先輩達と腕を磨いていきたいと思っています!」

 

 「それなら、自分の気持ちをちゃんと伝えれば良いじゃん。綺凛が尊敬する人なら、綺凛の気持ちを蔑ろにするような人じゃないだろうし」

 

 「・・・普段ならそうかもしれません。ですが大叔母様は鋭い方なので、きっと私の心の迷いを見抜かれてしまうでしょう」

 

 憂鬱な表情で水面を見つめる綺凛。

 

 「私は・・・私の剣を、どう鍛えるべきなのか」

 

 「それは・・・難しい問題だね」

 

 言葉を選ぶ綾斗。

 

 同じ剣士として、色々と思うところがあるんだろう。

 

 「昨年の《鳳凰星武祭》準々決勝、私はユリス先輩を倒すことが出来ませんでした。それどころか隙を突かれ、綾斗先輩を足止めしてくれていた七瀬さんへの攻撃を許す始末・・・あの試合は、私のせいで負けたんです」

 

 「いや、それを言ったら俺にだって責任が・・・」

 

 「誤解しないで下さい。引きずってるわけじゃないんです」

 

 俺の言葉に苦笑する綺凛。

 

 「《鳳凰星武祭》閉幕後、私は私なりに鍛錬を積んできたつもりでした。もう二度と、仲間の足を引っ張らないようにと。ですが・・・」

 

 唇を噛む綺凛。

 

 「今年の《獅鷲星武祭》準々決勝のルサールカ戦、準決勝の黄龍戦、そして決勝のランスロット戦・・・私は何も出来ませんでした。四糸乃さんや《覇軍星君》の相手を、七瀬さんにお願いすることしか出来ず・・・決勝は途中でリタイアしてしまったんですから」

 

 「それは綺凛ちゃんだけじゃないよ。少なくともルサールカ戦と黄龍戦は、俺達だってそうだったんだから」

 

 「そうですよ。それにランスロット戦のリタイアは、私を庇ったせいで・・・」

 

 綾斗とクローディアが声をかけるが、綺凛はゆっくり首を横に振った。

 

 「私が何も出来なかったことは事実です。だからこそどうしても悔しいですし、もっと強くなりたい。その為に、私はこれからどうすれば良いのか・・・それを迷っています」

 

 「つまり星導館で俺達と共に成長するか、実家に戻って刀藤流を極めるかで悩んでるってことか?刀藤流を極めたいなら、実家に戻った方が良いのは間違いないしな」

 

 「えぇ。私としては、星導館を離れたくありませんが・・・今後のことを考えると・・・どうすべきなのか・・・」

 

 「なるほどな・・・《芙堕落》の話を保留したのも、それが理由か?」

 

 「はい。《天苛武葬》のように、純星煌式武装を手にすることも一つの道だとは思いますが・・・本当にそれでいいのかどうか・・・」

 

 「まぁアイツも《通天足》を使うことに関しては、だいぶ葛藤したらしいしな・・・」

 

 前に虎峰のヤツ、『これは弱さの証であり、浅ましさの自負なんです』なんて言ってたっけ・・・

 

 綺凛も純星煌式武装を手にすることに、少なからず葛藤があるらしい。

 

 「・・・私はもう、どうすればいいのか分からないんです」

 

 か細い声で呟く綺凛。

 

 やれやれ・・・

 

 「クローディア」

 

 「はい」

 

 俺の意図を察したクローディアが、俺から離れる。

 

 俺は綺凛の前に立つと・・・

 

 「ていっ」

 

 「あうっ!?」

 

 思いっきりデコピンをかました。

 

 「ちょ、七瀬さん!?何するんですか!?」

 

 「一人でうじうじ悩まない。綺凛の悪い癖だぞ。伯父さんの時のこと、忘れたわけじゃないよな?」

 

 「はうっ!?」

 

 顔が赤くなる綺凛。

 

 俺に抱きついて号泣したことを思い出したらしい。

 

 「もっと早く相談しろよ。俺達は危うく何も知らずに、お前の実家にお邪魔するところだったんだぞ」

 

 「あうぅ・・・すみません・・・」

 

 「全く・・・まぁ、綺凛の悩みはとりあえず放置な」

 

 「えぇっ!?」

 

 「まずお前がすべきは正座だ」

 

 「何でですか!?」

 

 「いいから正座しろロリ巨乳!」

 

 「は、はいぃっ!」

 

 ロリ巨乳へのツッコミも忘れ、その場に正座する綺凛。

 

 俺は腕を組んで仁王立ちした。

 

 「まず《鳳凰星武祭》の準々決勝・・・確かに綺凛がユリスを倒してくれていれば、俺達は勝てたかもしれない」

 

 「・・・はい」

 

 「でもその前の五回戦で、綺凛が五和姉と六月姉を止めてくれてなかったら・・・俺達はあの試合で敗退してた」

 

 「っ・・・」

 

 息を呑む綺凛に構わず、俺は言葉を続けた。

 

 「《獅鷲星武祭》だってそうだろ。綾斗と綺凛が時間を稼いでくれなかったら、俺は封印を解けずに暁彗に負けてた。綺凛が身体を張ってクローディアを守ってくれなかったら、俺達はあの時点で負けてた。お前がいなきゃ、優勝は有り得なかったんだ」

 

 綺凛の頭を撫でる俺。

 

 「強くなりたいっていう気持ちを否定したりしないけど、『何も出来なかった』なんて二度と言うな。メチャクチャ感謝してるんだぞ、相棒」

 

 そう言って笑うと、綺凛の目から涙が零れ落ちる。

 

 「あ、ありがとうございます・・・うぅ・・・」

 

 「あらあら、泣かないで下さいな」

 

 「俺達だって、綺凛ちゃんには感謝してるんだよ」

 

 綺凛の目元をハンカチで拭うクローディアに、微笑んでいる綾斗。

 

 とりあえず言いたいことは言ったので、次の問題に移るとしよう。

 

 「説教が終わったところで、綺凛の悩みについて考えようか。意見ある人いる?」

 

 「いや、ノリが軽くない?」

 

 苦笑する綾斗。

 

 「まぁ、無いわけじゃ無いけど」

 

 「え、マジで?」

 

 「綾斗、何か考えがあるのですか?」

 

 「うん、一応」

 

 俺とクローディアの問いに頷くと、綾斗は綺凛に視線を移した。

 

 「綺凛ちゃん、凄く申し訳ないんだけど・・・今からご実家に連絡して、帰るのは何日か遅くなるって伝えてくれないかな?」

 

 「え・・・?」

 

 キョトンとしている綺凛。

 

 「そ、それは構いませんが・・・どちらへ行かれるおつもりですか?」

 

 「んー、あんまり頼りたくない相手ではあるんだけど・・・」

 

 困ったような笑みを浮かべる綾斗。

 

 「とりあえず皆、これから俺の実家に行こうか」

 

 「「「・・・はい?」」」

 

 首を傾げる俺・クローディア・綺凛なのだった。




どうも〜、ムッティです。

《空白の二年七ヶ月》を経て再び動き出したこの作品ですが、内容的にまだ11巻なんですよね・・・

シャノン『その前に《空白の七ヶ月》が二回もあったからね。そりゃ進まないわ』

とりあえずサクッと進めて、早く《王竜星武祭》編にいきたいかな。

シャノン『流れとか考えてあるの?』

大まかな流れは考えてあるよ。

七瀬が『ピー』して『ピー』と『ピー』が『ピー』みたいな・・・

シャノン『いやピーピーうるさいわ!そこ伏せるなら最初からしゃべんないでよ!?』

ご期待に添えるか分かりませんが、楽しみにしていただけると幸いです。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン『またねー!』


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綾斗の父

最近急に寒くなってきた・・・

まぁ夏より冬派だからいいけど( ̄ー ̄)


 「へぇ、ここが綾斗の実家かぁ・・・」

 

 立派な平屋の日本家屋を前に、感嘆の声を上げる俺。

 

 俺達は予定を変更し、綾斗の実家へとやって来ていた。

 

 「わ、私っ!やっぱり手土産を買ってきますっ!」

 

 「だからそんなの要らないって」

 

 苦笑しながら綺凛を止める綾斗。

 

 「父さんはそういうの気にしないし、逆に気を遣われるのを嫌がるから」

 

 「ちなみに俺とクローディアは、バッチリ手土産を用意してるけどな」

 

 「綺凛のご実家用に用意した手土産ですが、まぁ良いでしょう」

 

 「私だけ用意してないとか、絶対失礼な娘だと思われますうううううっ!」

 

 「いや、ホントそういうの気にしない人なんだって」

 

 そう言いながら家の扉を開ける綾斗。

 

 「ただいまー」

 

 「あら、綾斗さん?」

 

 「え・・・?」

 

 固まってしまう綾斗。

 

 あれ、今の声って・・・

 

 「ゆ、柚陽ちゃん!?」

 

 「お邪魔しております」

 

 天霧家の居間で、柚陽がお茶を呑みながらまったりしていた。

 

 「やっぱり柚陽じゃん」

 

 「あら、七瀬さん!」

 

 ニッコリ笑う柚陽。

 

 「遊びにいらしたんですか?」

 

 「まぁそんなところかな。クローディアと綺凛も一緒だぞ」

 

 「ごきげんよう」

 

 「こ、こんにちは!」

 

 「エンフィールドさん、刀藤さん、ご無沙汰しております」

 

 一礼する柚陽。

 

 そういや《獅鷲星武祭》の開会式で紗夜が迷子になった時、柚陽は二人と顔を合わせてたっけか・・・

 

 「っていうか、何で柚陽ちゃんがここに!?」

 

 「冬季休暇に入ったので、実家へ帰省したのですが・・・家に誰もいなくて」

 

 肩を落とす柚陽。

 

 「お母様に連絡したところ、お父様と二人で旅行中とのことで・・・冬季休暇中は家にいないことを、私に伝えるのをすっかり忘れていたと・・・」

 

 「あー・・・」

 

 気まずそうな表情の綾斗。

 

 顔には『あの人なら有り得そう・・・』と書いてあった。

 

 「とはいえ、またアスタリスクへ戻るのも大変なので・・・正嗣さんのご厚意で、天霧家に泊めていただいているんです」

 

 「そうだったんだ・・・大変だね」

 

 「ご迷惑おかけします・・・」

 

 同情する綾斗と、落ち込んだ様子で頭を下げる柚陽。

 

 いたたまれないなぁ・・・

 

 「ところで父さんは?」

 

 「正嗣さんでしたら、道場にいらっしゃいます」

 

 「了解。ちょっと挨拶してくるよ」

 

 綾斗はそう言うと、俺達を道場へと案内してくれる。

 

 「柚陽のお母さんって、もしかしておっとり天然系?」

 

 「うん、のほほんとしてる人だね」

 

 「・・・やっぱり親子って似るんだな」

 

 「アハハ・・・」

 

 苦笑する綾斗。

 

 まぁそれはさておき・・・

 

 「綾斗のお父さんって、天霧辰明流の宗家なんだろ?やっぱり門下生って結構いんの?」

 

 「いや、今はいないよ。元々そんなにメジャーな流派でもないし」

 

 「とはいえ、今話題沸騰中の流派でもありますけどね」

 

 クローディアが口を挟む。

 

 「綾斗が《鳳凰星武祭》と《獅鷲星武祭》を制したことで、天霧辰明流の門下生希望者が殺到したんですよ。まぁ綾斗のお父様のご意向や銀河の根回しもあって、全てお断りすることになりましたが」

 

 「まぁ父さんは、たくさんの人に物を教えられるほど器用じゃないからね。それに静かな雰囲気を好む人だし、騒がしくなるのを嫌がったんでしょ・・・あっ、ここだよ」

 

 綾斗はそう言って、開け放たれた扉の前で立ち止まる。

 

 中には一人で正座し、静かに瞑想する男性が一人・・・

 

 「・・・ただいま、父さん」

 

 「・・・戻ったか、綾斗」

 

 ゆっくりと目を開き、一切の音も無く立ち上がる男性。

 

 鍛え上げられた体格、身体から滲み出る威圧感・・・

 

 何より、まるで隙が無い。

 

 この人が綾斗のお父さん・・・

 

 「初めまして、星野七瀬です」

 

 「クローディア・エンフィールドと申します」

 

 「と、刀藤綺凛ですっ!」

 

 三人揃って頭を下げる。

 

 「天霧正嗣だ。いつも息子が世話になっているようで、感謝の言葉も無い。特にエンフィールドさんには、門下生の件で大変世話になった」

 

 「いえいえ、お安い御用です」

 

 笑顔で答えるクローディア。

 

 次に綺凛へ視線を向ける正嗣さん。

 

 「刀藤流のご息女か・・・まさか刀藤流ほどの一大流派のご息女と、こうして相見えることになろうとは・・・光栄だ」

 

 「こ、こちらこそっ!お会い出来て光栄ですっ!」

 

 緊張の面持ちの綺凛。

 

 綺凛の様子に苦笑した正嗣さんは、俺の方を見て目尻を下げた。

 

 「・・・・・」

 

 「・・・?」

 

 「父さん?」

 

 じっと見つめてくるので首を傾げていると、綾斗も疑問に思ったのか声をかける。

 

 ハッとした表情を浮かべる正嗣さん。

 

 「あぁ、すまない・・・何故かは分からないが、君を見ているとどこか懐かしさを感じてしまってね・・・」

 

 「・・・あれ、もしかして口説かれてる?」

 

 「七瀬!?何言ってんの!?」

 

 「そうですよ七瀬!それと綾斗のお父様!私の恋人を口説くマネは許しませんよ!?」

 

 「クローディア!?何で本気にしてるの!?」

 

 「大丈夫ですよ綾斗先輩。私はちゃんと分かってますから」

 

 「綺凛ちゃん!?何でそんな離れたところに立ってるの!?」

 

 「いや、私に息子の友人を口説く趣味は無いのだが」

 

 「分かってるから!父さんはマジレスしないで!」

 

 ツッコミの入れ過ぎで息切れしている綾斗。

 

 まぁ冗談はさておき・・・

 

 「何日かお世話になります。よろしくお願いします」

 

 「あぁ。むさ苦しいところだが、ゆっくりしていきなさい」

 

 正嗣さんはそう言うと、道場の出口へと歩き出す。

 

 「そろそろ夕飯の支度をしよう。終わったら呼びに来るから、それまで休んでいなさい」

 

 そう言って出て行く正嗣さん。

 

 正嗣さんが道場を出たところで、俺は口を開いた。

 

 「なぁ、綾斗・・・正嗣さんって《星脈世代》じゃないのか?」

 

 「あぁ、言ってなかったっけ?そうだよ」

 

 頷く綾斗。

 

 「《星脈世代》なのは俺と姉さん、それと亡くなった母さんだね。父さんは常人なんだ」

 

 「えっ、綾斗のお母さんって亡くなってるのか・・・?」

 

 「あぁ、それも言ってなかったね」

 

 苦笑する綾斗。

 

 「母さんは俺が小さい頃に亡くなってるんだ。俺もほとんど覚えてないんだけど」

 

 「マジか・・・」

 

 ってことは普段、正嗣さんはこの家に一人きりなのか・・・

 

 寂しいだろうな・・・

 

 「ですが、常人であの隙の無い姿勢・・・凄まじいですね」

 

 真剣な表情の綺凛。

 

 「一体どれほどの鍛錬を積んできたのか・・・」

 

 「うん。だから綺凛ちゃんの悩みについても、良いアドバイスをくれると思うよ」

 

 「もしかして綾斗、行き先をここに変更したのは・・・」

 

 「そういうこと」

 

 クローディアの問いに頷く綾斗。

 

 「俺が知る限り、最も剣の道を極めている人だから。自分の剣の道に迷っているなら、話を聞いてみて損は無いと思うよ」

 

 「綾斗先輩・・・ありがとうございます!」

 

 深々と頭を下げる綺凛なのだった。




どうも〜、ムッティです。

シャノン『作者っち、私の出番まだ?』

え、しばらくないけど。

シャノン『何で!?』

いや、ここから綺凛ちゃんの実家に行くんだよ?

次は七瀬の実家だよ?

モブキャラの出番があるとでも?

シャノン『モブキャラ言うな!そこを何とかして出すのが作者っちの仕事でしょうが!』

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン『話の途中で締めるなあああああ!!!!!』


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手合わせ

もう11月かぁ・・・

秋だなぁ・・・


 「それにしても、まさかソフィアまでいるとはな」

 

 「私も驚きましたわ。ここで七瀬さんにお会いするなんて」

 

 一緒に夕飯の片付けをしながら会話する俺とソフィア。

 

 正嗣さんに呼ばれて居間へ行ったところ、何と柚陽と一緒にソフィアが座っていたのだ。

 

 何でもソフィアは天霧辰明流に興味があったらしく、柚陽にお願いしてここまで連れて来てもらったらしい。

 

 天霧家に泊めてもらいながら、正嗣さんの手ほどきを受けているそうだ。

 

 「本当は柚陽の家に泊めてもらう予定だったのですが・・・」

 

 「本当にすみません・・・」

 

 肩を落とす柚陽。

 

 何かメッチャ可哀想・・・

 

 「それにしても・・・貴女とお会いするのは久しぶりですわね、クローディア」

 

 「えぇ。お久しぶりです、ソフィア」

 

 挨拶を交わすソフィアとクローディア。

 

 レティシア同様、この二人も顔馴染みらしい。

 

 「・・・貴女、何だか変わりましたわね」

 

 「そうでしょうか?」

 

 「えぇ、表情が柔らかくなったというか・・・以前までの貼り付けたような笑顔と違って、何だか幸せそうな笑顔ですわ」

 

 「フフッ・・・でしたら、七瀬のおかげでしょうね」

 

 俺の腕に抱きつくクローディア。

 

 「好きな殿方と結ばれたんですから、幸せじゃないはずがないでしょう?」

 

 「・・・砂糖を吐きそうですわ」

 

 「「アハハ・・・」」

 

 苦笑する綺凛と柚陽。

 

 そんなに甘いかなぁ?

 

 「それにしても、クインヴェールと星導館の生徒会長を誑し込むなんて・・・流石は七瀬さんというべきでしょうか」

 

 「酷い言い草だなオイ」

 

 「事実でしょうに」

 

 溜め息をつくソフィア。

 

 「全く・・・ちゃんと二人とも幸せにしてあげて下さいな」

 

 「勿論」

 

 そんなこんなで、五人でテキパキと片付けを進めていく。

 

 ちなみに綾斗と正嗣さんは、何か大事な話をしているらしい。

 

 二人が話し合いに集中できるよう、俺達は夕飯の後片付けを買って出たのだった。

 

 「よし、これで終わり・・・って綾斗?」

 

 片付けが終わって顔を上げると、綾斗が玄関で靴を履いているのが見えた。

 

 「どっか行くのか?」

 

 「・・・ゴメン。ちょっと出てくるね」

 

 綾斗はそれだけ言うと、早足で外へと出て行った。

 

 「・・・何かあったのでしょうか?」

 

 「・・・正嗣さんとケンカしたのかもしれません」

 

 クローディアの呟きに、困ったような表情を浮かべる柚陽。

 

 「遥さんがいなくなってから、あまり折り合いが良くないと聞いていますから」

 

 「・・・とりあえず様子見だな。あんまり戻って来ないようなら迎えに行こうぜ」

 

 そんな話をしていると、正嗣さんが廊下を歩いてきた。

 

 「すまないな。後片付けを任せてしまって」

 

 「ご馳走していただいたんですから、これくらいは当然ですよ」

 

 俺の言葉に正嗣さんはフッと笑うと、後ろの綺凛に視線を向けた。

 

 「刀藤さん」

 

 「は、はいっ!」

 

 「綾斗から話は聞いている。何でも、剣の道に迷っているとか」

 

 「・・・はい」

 

 俯く綺凛。

 

 正嗣さんは頷くと、くるりと背を向けた。

 

 「ならば、道場へ来なさい」

 

 「え・・・?」

 

 「剣士たるもの、剣を交えることで会話するとしよう」

 

 そう言って道場へと歩いていく正嗣さん。

 

 どうやら、剣士の先達として綺凛の悩みに付き合ってくれるようだ。

 

 「ほら綺凛、行ってきな」

 

 「は、はいっ!」

 

 俺が背中を押すと、綺凛は慌てて正嗣さんの後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ふぅ、さっぱりした」

 

 お風呂から上がり、縁側で涼んでいる俺。

 

 すっかり暗くなった空に浮かぶ、綺麗な月を見上げる。

 

 「・・・何か、ウチの実家と似てるな」

 

 そんなことを思っていると、道場の方から物音が聞こえた。

 

 「綺凛と正嗣さん、まだやってるのかな・・・?」

 

 様子を見に道場へと足を運ぶ俺。中を覗いてみると・・・

 

 「はっ・・・はっ・・・はっ・・・」

 

 竹刀で素振りを繰り返す、正嗣さんの姿があった。

 

 それにしても・・・

 

 「凄いな・・・」

 

 思わず呟いてしまう。

 

 全く無駄の無い洗練された動きは、とても美しいものだった。

 

 「・・・星野くんか」

 

 こちらに気付き、素振りを止める正嗣さん。

 

 「七瀬で良いですよ。お邪魔してすみません」

 

 「構わんさ。少し剣を振りたくなっただけだからな」

 

 汗を拭う正嗣さん。

 

 あ、そういえば・・・

 

 「綺凛はどうでしたか?」

 

 「吹っ切れたような顔をしていた。迷いは消えたようだ」

 

 「良かった・・・ありがとうございます」

 

 「少し手合わせに付き合ってもらっただけだ。私は何もしていない」

 

 綺凛をここに連れて来て良かった・・・

 

 綾斗にも感謝しないとな。

 

 「・・・綾斗は戻ってきたか?」

 

 「えぇ、さっき」

 

 戻ってきた綾斗の表情は、少し明るくなっていた。

 

 綾斗を迎えに行った柚陽の話では、紗夜と電話していたそうだ。

 

 幼馴染との会話が、気を紛らわせてくれたんだろう。

 

 「・・・どうにも私は、言葉が足りないらしい」

 

 「え・・・?」

 

 「伝えたい思いがあっても、上手く伝わらない。言葉にして伝えるというのが、どうにも苦手でな。親として未熟者だ」

 

 淡々と語っているように見えるが、俺には酷く落ち込んでいるように見えた。

 

 正嗣さんは正嗣さんなりに、綾斗のことを想っているんだろう。

 

 「遥がいなくなってから、綾斗の笑顔を見ることはほとんど無かったが・・・久しぶりに見た綾斗は、とても楽しそうに笑っていた。きっと七瀬くん達のおかげだろう。父親として礼を言わせてほしい。ありがとう」

 

 「それなら、一つお願いしても良いですか?」

 

 俺はそう言うと、道場の扉の側に置いてあった竹刀を一本手に取った。

 

 「俺とも是非、手合わせをお願いしたいんですが」

 

 「・・・七瀬くんは剣を使わなかったと思ったが?」

 

 「えぇ、久しく使ってません」

 

 「久しく・・・?」

 

 「昔は使ってたんですけど色々あって使わなくなったんですよ。でも正嗣さんの素振りを見てたら、少し懐かしくなって・・・お手合わせ願えますか?」

 

 竹刀を構える俺。綾斗が紗夜との会話で気が紛れたというなら、正嗣さんだって気が紛れても良いだろう。

 

 それこそ、剣を交えることで。

 

 「・・・良いだろう」

 

 正嗣さんはフッと笑うと、俺に向かって竹刀を構えた。

 

 「では、上段を打ち込んでみなさい」

 

 「了解です」

 

 俺は勢いよく床を蹴ると、竹刀を上段から打ち下ろした。

 

 「はぁっ!」

 

 しかしその瞬間、正嗣さんがそれを巻き取るにして竹刀で受け流した。

 

 えっ・・・

 

 「今度はこちらの番だ」

 

 踏み込んでくる正嗣さん。

 

 使ってきた技は、天霧辰明流剣術初伝“貳蛟龍”だった。

 

 俺はそれを受け止めるが・・・

 

 「っ・・・」

 

 何だこれ・・・

 

 綾斗より鋭くて、まるでそのまま竹刀をすり抜けそうな・・・

 

 「ほう・・・やるな」

 

 感心している正嗣さん。

 

 「久しく使っていないと言っていたが、久々に剣を振るった者の太刀筋では無いぞ?」

 

 「・・・実戦では、久しく使っていませんよ」

 

 竹刀を下ろし、肩をすくめる俺。

 

 「鍛錬はずっとやってます。小さい頃からずっと」

 

 「それであれば、実戦でも使えたのではないか?」

 

 「ずいぶん前になりますけど、一番上の姉が両親を剣で殺すという暴挙に出まして。ついでに俺も腹を刺されて死にかけました」

 

 さらっとしたカミングアウトに、流石の正嗣さんも固まる。

 

 「それ以来、剣を使うことにちょっと抵抗があって・・・怖いわけじゃないんですけど」

 

 「・・・君のお姉さんの何人かは、剣士だったはずだが」

 

 「あの人達は俺と違ってメンタル強いんで、乗り越えたんですよ」

 

 零香姉が剣で父さんと母さんを殺したのなら、その剣で零香姉を超える・・・

 

 それが三咲姉・五和姉・六月姉の結論だった。

 

 俺はどうしてもそんな気持ちになれなかったが。

 

 「でも、いつまでもそれじゃいけないんですよ。あのバカ姉を倒そうと思ったら、俺が使えるものは何でも使わないといけないですから」

 

 「・・・使う気なのか?」

 

 「えぇ」

 

 頷く俺。

 

 「本当は剣を交えることで、正嗣さんの気が少しでも紛れたら良いと思ったんですけど・・・逆に俺が助けられちゃいました」

 

 「・・・それなら、今度は私のワガママに付き合ってもらおう」

 

 「え・・・?」

 

 正嗣さんは口元を緩めると、再び竹刀を構えた。

 

 「もう少し手合わせ願おう。あまり丁寧に手ほどきする時間も無いが、盗める技は盗んでいくと良い」

 

 「・・・良いんですか?」

 

 「構わん。門下生のいない今、人に教えることなど無かったが・・・君や刀藤さんやフェアクロフさんのような若者の力になれるなら、私に教えられることは全て教えよう」

 

 「正嗣さん・・・ありがとうございます」

 

 俺はお礼を述べると、再び竹刀を構えた。

 

 「では・・・お願いします」

 

 その日の俺は夜遅くまで、正嗣さんと手合わせを続けたのだった。




どうも〜、ムッティです。

ヤベェ、全然話が進まねぇ(絶望)

シャノン『まぁ早く竜王星武祭まで行きたいよね』

ホントそれ。

もう間の話は全部ぶった斬っていい?

シャノン『いいわけあるかっ!訳分からなくなるでしょうが!』

ってシャノンが言うので、カットはしません。

苦情はシャノンに言って下さい。

シャノン『まさかの責任転嫁!?』

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャノン『逃げるなあああああ!!!!!』


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