どらごんたらしver.このすば (ろくでなしぼっち)
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第1章:このぼっち娘に友達を! 第1話:ろくでなしのチンピラ冒険者

「『インフェルノ』」

 

 上級魔法『インフェルノ』。地獄を想起させるその大火を受ければただの人間なんて消し炭だ。

 だから彼女は自分の勝利を確信していた。愚かにもたった一人立ちふさがった少年が業火へ飲み込まれていくのを見て。

 正確には勝利という言葉は正しくないのかもしれない。何故なら彼女はまだこれが勝負だとは思っていなかったのだから。単なる露払い……障害とすら認識していなかった。

 

 

「よっ……と。出会い頭に魔法とはさすが魔王軍。容赦ねえな」

 

 

 業火が切り裂かれ、飲み込まれたはずの少年が無傷で出てくるまでは。

 

 

「でも、俺に炎の魔法を使うとか舐めすぎだろ」

 

 少年は業火を切り裂いた()を肩に抱えながら彼女に話しかける。

 

「…………あんた、もしかしてこの国の王族?」

 

 彼女は思う。魔王の娘である自分が放った上級魔法を受けて、傷一つないこの少年は何者なのかと。

 

「質問に質問で返しやがって…………まぁ、その質問で俺が聞きたいことはわかったから別にいいけどよ」

 

 ため息を付いて、槍を担いだままの少年は続ける。

 

「王族なわけねぇだろ。なんで王族が敵の大将とその親衛隊の前に一人でのこのこやってくんだよ」

「じゃあ、あんたは一体……?」

 

 王族であれば彼女も納得はいかずとも理解は出来た。人間とは言え各国の王族の中には魔王軍の幹部クラスに迫る力を持っているものもいる。今代でそれほどの力を持っている王族はあの勇者の末裔の武闘派王族くらいしか彼女は知らないが、ただ自分が知らないだけだろうと。

 少年は()()で『チート持ち』という可能性もないし、眼こそ紅いが『紅魔族』という可能性もない。一番高いのは『アクシズ教徒』の()()と言う可能性だが、流石のアクシズ教徒も魔法を跳ね返す事はあっても、上級魔法が直撃して無傷ということはないだろう。

 

 そんな非常識な存在はやはり王族、もしくは──

 

(──待って……金髪で、槍使い……?)

 

 可能性を模索していく中で彼女は少年の正体に思い当たる。

 

 

 鳶色の瞳をした金髪の槍使い。

 

 

 それは彼女がこの国へと攻めることになった時、父や他の幹部から警戒するように言われた男の特徴であり、目の前の少年の特徴とも一致する。

 

「そうか……、あんたが最年少ドラゴンナイトなのね。思ってた以上に若くて気づかなかったわ。使い魔のシルバードラゴンも傍にいないし」

「お前も俺と似たような歳だろうに何いってんだか。それにミネアがいないのはお前らのせいだろ。一般兵と主力を分けて攻めるなんて面倒なことしやがって。お陰で頭倒してお帰り願おうって作戦なのに、ミネアと分かれて戦うはめになるとか」

 

 魔王軍の一般兵は彼女よりも先に進軍している。一般兵とは言っても、魔王の娘である彼女の初陣に付いてきた彼らは精鋭であり、並の兵士や冒険者では相手にならない。今回の進軍はテレポートを使った奇襲作戦のため数こそ少ないが、彼女の能力と合わせれば十分過ぎる戦力だ。

 雑兵を一掃し、王国側の主戦力を疲弊させたところで自分や親衛隊が出て止めを刺す。それが彼女の作戦だったが……まさか相手の最大戦力が初手で出てくるとは彼女も思っていなかった。

 

「それとミネアは使い魔じゃねぇ。俺の相棒だ」

「どっちでもいいわよ、そんなの。……あんたを倒せばこの国は落ちたも同然だって聞いてる。殺させてもらうわよ」

 

 想定外では合ったが、この状況は彼女にとっては都合がいい。少年を倒せればこの国を落とすのは容易だ。そしてこの国を落とせば、この地を足がかりにあの勇者の末裔の国を支援する国を一つずつ落とすことも出来るだろう。

 

 仮に落とせなくても、かつての『氷の魔女』と同等の賞金が掛けられてるこの少年を倒せれば戦果として補って余りある。

 

「…………4対1とか卑怯じゃね?」

「魔物使いである私が使い魔と一緒に戦って何が卑怯なのかしら?」

 

 目の前の少年は魔王軍幹部クラスの力を持っていると彼女は聞いているが、彼女自身も魔王軍幹部であり、親衛隊も彼女の強化を受ければ魔王軍幹部クラスの力になる。数だけなく力的にも4対1の差があった。

 

「というより、あんたはなんで一人で来たの? あんたほどじゃないにしても魔王軍幹部に挑むなら上級の騎士や冒険者が付いて当然でしょ? そうじゃないにしてもドラゴン使いがなんでドラゴンを連れてないのよ」

 

「しょうがねぇだろ。俺以外の冒険者や兵は命が出るまで出撃禁止されてる。俺とミネアのどっちかが足止めしなきゃ街が滅ぶし、揃って足止めしてもジリ貧だ」

「…………王国は何を考えてるの?」

 

 魔王軍が攻めてきているのに兵には出撃を禁止する。正気の沙汰とは思えなかった。

 

「さぁな…………俺に死んでほしいんじゃねぇの」

 

 どうでもいいと、あるいはそんな扱いには慣れているとばかりに少年は言う。

 

「無駄話はこれくらいにしようぜ。ミネアに掛けた『竜言語魔法』が解ける前にお前を倒さねぇといけねぇからよ」

 

 少年は肩に担いでいた槍を構え、彼女を真正面に見据える。

 

「多少力を持ってるからと言って人間風情が調子に乗るんじゃないわよ。人に味方する上位ドラゴンがいなくなった今、あんたら人類は私たちに滅ぼされる以外の道は無いんだから」

 

 昂ぶる彼女の戦意に応えるように、あるいは少年の闘気から守るように、親衛隊は彼女の前に出てそれぞれの武器を構える。

 

「そうだとしても黙ってやられる理由にはならねぇよ。くそったれな王と貴族が治める国だが、市井に居るのは良いやつばっかなんだ。……それに、一応姫さんを守るのが俺の仕事だしな」

 

 

 

 それが彼がただ一人ここに立つ意味だった。

 

 

 

「魔王軍次期筆頭幹部────。……一応、あんたの名前も聞いとくわ」

 

 戦いが始まろうとする中、魔王の娘は礼儀として名乗りを上げ、相手にもそれを求める。

 彼はそんな相手の律儀さに少しだけ楽しそうな笑みを浮かべて口を開いた。

 

「俺は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ダスト?……ダストってば!」

 

 聞き慣れた声。耳元で叫ばれるその音と体を揺すられる感覚に俺の意識は夢の中から浮上していく。

 

「ううん…………リーンか?」

 

 日は高いのか、目を開けようとすると眩しい。なんとか薄く目を開ければ胸の薄いパーティーメンバーの姿があった。

 

「やっと起きた……ダスト、あんた何でこんな所で寝てるの?」

「ダスト? ダストって誰だよ。俺は……」

 

 上半身を起きあげながら考える。夢の最後に答えた俺の名前はそんな変な名前じゃなかったはずだ。そう、俺の名前は──

 

()()()。……あんた絶対寝ぼけてるでしょ?」

 

 呆れ顔で大きなため息をつくリーン。

 

「…………悪い。夢と現実がごっちゃになってたわ」

 

 そこでやっと夢から完全に覚めた。

 

 

 俺の名前はダスト。職業は戦士で得物は長剣の冒険者。

 

 趣味はギャンブルとナンパ。

 好きなものは酒とサキュバスサービス。

 特技はマッチポンプと無銭飲食。

 この駆け出し冒険者の街アクセルを取り仕切るイケメン冒険者と言えば俺のことだ。

 

 ……よし、ちゃんと現状認識できるし頭の中もすっきりしてきたな。

 

 

「ほんとしっかりしてよ。……で? もいっかい聞くけど、なんでこんな所で寝てるの? 凄い通行の邪魔なんだけど」

 

 こんな所と言われて周りを見渡してみれば、俺が寝ていた所は街の大通りの真ん中らしい。周りから奇異の視線向けられていた。

 ……まぁ、道の真ん中で寝てるバカがいれば誰だって気になるよな。

 

「おい、お前ら。何見てやがんだ、見せもんじゃねぇぞ」

 

 だからと言ってそれに遠慮して縮こまる俺じゃないが。

 俺のガンつけにびびったのか、それとも俺の悪評を知ってるのか。足を止めて俺に視線を向けてた奴らは全員蜘蛛の子を散らすようにしていなくなる。

 

「ふぅ……これでよしっと」

「いや、普通に立ってここから立ち去ればいいでしょ。なんで全方位に喧嘩売るのよ」

「何言ってんだよリーン。冒険者なんてものは舐められたら終わりだろうが」

「人間として終わりかけてるあんたにそんなこと言われても困るんだけど…………今更だからどうでもいいか」

 

 どうでもよくねぇよ。お前は俺のこと何だと思ってんだ。

 

「……体が普通に動くようになったら折檻だからな覚えとけよ」

「? もしかしてあんた身体動かないの?」

「そーだよ。だから別に俺は寝てたわけじゃねぇ。気絶してたんだ」

 

 話しているうちに何でこんな所で寝ていた……もとい気絶していたのかも思い出してきた。

 

「なーんか、ろくでもない話になりそうな気がするんだけど……」

「言っとくが俺は何も悪くねーからな。悪いのは全部あのぼっち娘だっての」

 

 思い出したらムカムカしてきた。とりあえず話聞きたいって言うリーンに全部愚痴っちまおう。

 

 

 

 

「はぁ……また失敗かよ。やっぱ普通のナンパじゃだめだな。絡まれてる所を助けて惚れさせる作戦でいかねーと」

 

 日課のナンパ。今日は珍しく正攻法でナンパしたが、そこそこ美人だった女にはため息ついて逃げられてしまった。

 いつものようにナンパしようと手伝ってくれる都合のいいやつを探して──

 

 

 

「──ちょっと待って」

「あん? なんだよリーン。話の腰をいきなり折るんじゃねーよ。まぁ俺がナンパしてるのがショックな気持ちは分からないでもないが」

「いや、あんたがナンパ三昧なのはどうでもいいんだけどさ。なんでナチュラルにマッチポンプしようとしてんの?」

「何でと言われても……そっちの方が女の反応がいいからに決まってんだろ」

 

 普通にナンパしてたら10秒以内に逃げられるけどこの方法なら30秒は話を聞いてくれる。

 

「……ちなみにあんたがナンパ成功した回数は?」

「…………話を続けるぞ」

 

 はぁ……一度でいいからナンパ成功しねぇかなぁ。

 

 

 

 

 

「お? さみしんぼのクソガキじゃねぇか。ちょうどいいとこにきたな」

 

 ナンパを手伝ってくれる知り合いを探して歩く俺の前に、見知ったぼっち娘が通り掛かる。

 

「……………………」

 

 そのぼっち娘ことゆんゆんは俺の声が聞こえなかったようにスタスタと通り過ぎ──

 

「って、こらクソガキ。無視して行こうとすんじゃねぇよ」

 

 ──ようとした所を、俺に肩を掴まれてこっちを向く。

 

「クソガキって呼ばないで!」

「いきなり街中で叫ぶなよ親友。常識知らずにも程が有るぞ。ぼっちのお前が世間の常識に疎いのは仕方ねえかもしれないけどよ」

 

 ゆんゆんは肩に掛けた俺の手をパシンと払い除けて、見るからに怒っている。ちょっと声を掛けただけだってにこの反応とか、こいつは世間の常識ってものをもっと知るべきだろう。

 

「ろくでなしのチンピラに常識知らずとか言われたくないんですけど! あとダストさんとは親友でも友達でもありません! 知り合いも辞めたいです!」

 

 クソガキ呼ぶなと言ったり親友呼ぶなと言ったりわがままな奴だ。

 

「せっかく声をかけてやったのに無視しようとしやがって。爆裂娘がエルロード行ってて一人で寂しいだろうって気を利かせてやったってのに」

「べ、別にめぐみんやイリスちゃんに会えないからって寂しくなんてないですよ! 私には他にも友達いますから!」

「ふーん……お前に爆裂娘以外のダチがねぇ。良かったじゃねぇか。なんだよ、今からそのダチの所に向かうのか?」

 

 だとしたら見逃してやらないこともない。こいつのぼっちっぷりは俺が同情するレベルだし、ダチと遊ぶ約束があるならそっちを優先してやろう。

 

「えっと、その……向かう予定と言うか向かう予定だったというか行ったけどそのまま帰ってきちゃったというか…………」

 

 ごにょごにょと訳の分からない事を言うゆんゆん。

 

「あー……めんどくせぇな。結局お前は今暇なのか? 暇じゃねぇなら酒代くれたら見逃してやってもいいぞ」

「暇…………ですけど。ていうか、暇じゃないにしてもなんでダストさんにお酒代をあげないといないんですか」

「金がね―んだよ。俺は酒が飲みたい。でも金はない。そこにぼっちで金を遊ばせてる奴がくる。どうせ使わないんだからと俺に酒を奢らせる。……な? 単純な理由だろ?」

「ダストさんの思考回路が人として終わってることだけはわかりました。とりあえず言えるのはただの知り合いのお酒を奢る理由なんてないです」

「とかなんとか言って、いつも最後には酒代くれるし俺が無銭飲食しようとしたら代わりに払ってくれるよな。だからお前の親友は止められねぇ」

 

 土下座したらあたふたしながら酒代をくれるし、一緒に飯食べた時に俺が無銭飲食で逃げようとしたら店員に頭を下げて金を払ってくれる。

 

「お酒代は土下座してるダストさんのせいで周りに注目されて恥ずかしいからです! 無銭飲食も一緒に食べてたら逃げなかった方に請求が行くのは当然じゃないですか!」

 

 そんなこといちいち気にしてたら冒険者なんて務まらねぇと思うんだがなぁ。どうにもこいつは冒険者って言うには押しが弱すぎる。うちの貧乳ウィザードを少しは見習ったほうがいい。

 

「まぁ、そのへんは今はどうでもいい。んなことより暇ならちょっと手伝えよ」

「……嫌です。どうせダストさんのことですからろくでもないことに決まってます」

「ああ? 話も聞かないでなんでろくでもないことだって分かるんだよ。実はこの街に潜入してる魔王軍に痛い目見せる作戦に付き合えって話かもしれないだろ?」

 

 実際はただのナンパなんだが。

 

「例えそうだとしても最終的にろくでもないことになるのは分かりきってるんで…………というか、自分の行動を少しは考えてみてくださいよ。私の反応は当然だと思うんですけど」

「考えろと言われてもな……」

 

 うーん…………やっぱこいつの胸は大きいんだよなぁ。顔もかわいいし性格もぼっちで凶暴な所以外は悪くない。なんでこいつ俺の守備範囲外なんだよ。もったいねぇ。

 

「あの……? ダストさん? 本当にちゃんと考えてますか? なんだか視線がいやらしいというか思いっきり胸を見られてる気がするんですけど……」

 

 胸を隠すように腕を交差させるゆんゆん。けどこいつの大きな胸はそれで隠せるはずもなく、逆に強調するような形になる。

 

「うん……やっぱお前の身体はエロいわ。守備範囲外のクソガキのくせに。いいぞぼっち娘。もっとやれ」

 

 守備範囲外だから手を出す気にはならないが、目の保養にはなるからな。

 

「またセクハラですか! いつもいつもいい加減にしてください! というか、ちゃんと考えてくださいよ!」

「分かった考える。で、考えたがどうして断るんだよ?」

「一秒たりとも考えてないじゃないですか! というか本当に分からないんですか!?」

 

 怒りと羞恥で顔を真っ赤にして叫ぶゆんゆん。 

 

「そんな叫ぶなよ。ほら、小さなガキンチョに変な目で見られてんじゃねぇか」

 

 こんだけ街の往来で叫べば当然注目を集める。たいていの奴らは関わり合いになりたくないと早足でいなくなるが、好奇心の強いガキはまっすぐにこっちを見ていた。

 

 

 

 そしてついでにガキの母親らしき人物が『シッ見ちゃいけません、あれがチンピラダストよ』と教えていた。

 

 

 

 …………………………

 

 

 

「おいこら待て。なんで俺が変な目で見られてんだよ」

 

 少なくともこの場じゃ意味不明に喚いてるゆんゆんのが非常識だろ。

 

「日頃の行いって奴ですね」

 

 何故か勝ち誇ったような笑みのゆんゆん。殴りたいこの笑顔。

 

 

『ママー、それじゃあのお姉ちゃんは?』

『シッ見ちゃいけません。あれはチンピラダストや頭のおかしい爆裂娘と親友だという恐ろしい子よ。最近ではアクシズ教徒のプリーストとも仲がいいし……魔王軍の幹部とも友達だとか』

 

 

 

 …………………………

 

 

 

「あああああああーっ!」

「おい、こらクソガキ! いきなり殴りかかってくんじゃねぇ! いてェって! 本当のこと言われて八つ当たりしてんじゃねぇよ!」

 

 遠慮なく殴ってくるゆんゆんを止めようと身体をつかむ。

 

「きゃっ! どこを触ってるんですか!『ライト・オブ・セイバー』!」

「魔法までつかってんじゃねえよ! ヘタしたら死ぬだろうが!」

「大丈夫です! ダストさんは何度ボコボコにしても一度も死んでないじゃないですか!」

 

 このぼっち娘は頭おかしいと思う。

 

 

 

 

 

「──って、感じでそこからは魔法飛び交ういつものつかみ合いの喧嘩になってよ。惜しくも負けちまった俺はここで気絶していたというわけだ」

 

 話を終えて俺はため息をつく。人に話せたからかムカムカした気持ちは大分収まっていた。

 

「魔法飛び交うってあんた…………上級魔法食らってよく無事だったわね?」

「あん? 無事じゃねぇよ。無事じゃねぇから気絶してんだろうが」

「いや……まぁあんたが魔法食らっても気絶で済むのはいつものことだから別にいいけどさ」

 

 上級魔法って言っても杖もなければ詠唱省略もしてるから威力は普通の中級魔法くらいだったからな。むしろ身体強化して飛んでくる拳のほうが痛かった。……あのぼっちアークウィザード、接近戦も普通に行けるから困る。

 

「けど、おとなしそうなあの子がねぇ…………あんた一体全体普段あの子にどんなことしてんの?」

「別にいつもお前にやってることとそんな変わらねーよ。ま、あいつは腕が立つからそっち方面で利y……有効活用させてもらってはいるが」

「あー……うん。大体分かった。そりゃ遠慮もなくなるわ」

 

 話が早くて助かるが、一体全体何が分かったんだ。

 

「別にあんたがどうしようもないろくでなしのチンピラなのは今更だからいいけどさ、真面目そうなあの子を悪い道に引き込むのだけはやめなさいよ?」

「分かってるっての。ちょっと詐欺に付き合ってもらって一緒に留置所入るくらいのことしかしねぇから安心しろ」

「なんにも分かってないじゃん! この人でなし!」

 

 体が動くようになるまで、耳が痛くなるほどリーンに怒られる俺だった。



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第2話:お人好しのぼっち娘

「……なにやってんだあいつ?」

 

 今日の夢の中でお世話になろうと貧乏店主さんを一目見にやってきた俺は、ウィズ魔道具店の前でそわそわと歩き回るゆんゆんの姿を見つける。

 

「何してんだよ、無駄に発育のいいぼっち娘」

 

 そう声をかけられたゆんゆんは一瞬ビクリとした後、俺の顔を見て『なんだダストさんか……』と大きくため息をつく。

 …………おい、なんだとはなんだよ。冒険者のくせに近くに来るまで気づかなかったことといい、こいつにはいろいろと教え込まないといけないかもしれない。

 まぁ、とりあえず今はこいつの変な行動を聞くか。 

 

「……で? お前は何してたんだ? ウィズさんの店の前をうろうろして。営業妨害か? そんなことしてもどうせウィズさんの店にお客さんなんて来ないから意味ないと思うぞ」

 

 少なくとも俺がウィズさんの顔を見に来た時に客がいた覚えはない。……サキュバスの店の常連にはよく会うけど、あいつら別に客じゃないし。

 …………というか、なんでこの店潰れないんだろう。バニルの旦那が来る前に潰れてなかったのが不思議でならない。

 

「ダストさんじゃないんですからそんな嫌がらせしませんよ!」

「失礼なことを言う奴だな。俺だって別に誰かれ構わず嫌がらせするような陰湿なやつじゃねーぞ。ムカつくやつには正々堂々と喧嘩売ったり架空請求送りつけたりはするが」

 

 少なくともウィズさんみたいな優しい美人さんに嫌がらせなんてしない。

 

「道歩いてる人に自分からぶつかって治療費払えとか言うチンピラさんにそんなこと言われても信用ならないんですが…………あと、架空請求は陰湿すぎるんで後で通報しときますね」

「それは嫌がらせじゃなくて小遣い稼ぎって言うんだよ。それだって誰かれ構わずじゃなくて金持ってそうなやつをちゃんと選んでるぞ」

「なお悪いですよ!」

「お前が俺の酒代とかメシ代とかサky……喫茶店代とかくれればそんなことしなくても済むんだがな。つまりお前が小遣いをくれないのが悪い」

「…………この人もう一生牢屋で過ごしててくれないかな」

 

 サキュバスサービスを毎日頼めるならそれも悪くないかもしれない。

 

 

 

「話がそれたな。嫌がらせじゃねーならなんでうろうろしてたんだ?」

「べ、別にウィズさんの所に遊びに来たけど、いきなりきて迷惑じゃないかなぁと入るに入れなくてそのまま帰ろうかなと悩んでたわけじゃないですよ?」

「…………お前、もしかしてこの間もそんな感じで何もせずにそのまま帰った所だったのか?」

 

 考えてみればあの時こいつが歩いてきた方向はウィズ魔道具店のある方だった。

 

「………………そ、そんなことないですよ?」

 

 どもってる上になんで語尾上げて疑問形になってんだよ。……ったく、本当こいつはどうしようもねーな。

 

「ま、優しい俺はぼっちの悲しい習性には触れないでおいてやるよ」

「どこに優しい人がいるんですか? 私の前にはろくでもない金髪のチンピラさんがいるだけですけど」

「…………お前は引っ込み思案のくせに言いたいことはほんとズバズバ言うよな。そんなんだからぼっちなんだぞ」

「いえいえ、流石にここまで容赦なく言えるのは友達になりたくない相手だけですから」

 

 俺以外にもわりと毒舌だったりするくせに。あれもしかして無意識なのか。

 

「まぁお前とはいずれ決着をつけるとしてだ……ゆんゆん、今暇なんだな?」

「決着なら既についてると思うんですが…………暇ですけどなんですか? ダストさんに何を言われようとダストさんのやることに協力はしませんよ? むしろ邪魔しますよ? あ、やっぱり邪魔するのもろくな目に合わなそうなので無関係でいたいです」

「よし、じゃあクエストに行くぞ。ジャイアントトード討伐で当分のサキュ……もとい宿代を稼ぐ」

「人の話聞いてますか? ……と言うか、宿代とか言ってどうせすぐお酒飲んで消えるんですよね」

 

 失礼な。サキュバスサービス代だけは計画的に運用してるっての。ギャンブルに負けようがリーンに借りた金を返せと言われようがサキュバスサービス代だけは手を出さない。

 

「……どっちにしろダストさんのクエストに付き合うとかありえないので関係ないですが」

「ごちゃごちゃ言ってねぇで行くぞ。ほら、まずはウィズさんの店で買い物だ」

 

 俺は金ないからウィズさんの顔見るだけだけど。

 

「ちょっ……ダストさん! 人の服引っ張らないでください! 行きますから! ほ、ほんと引っ張らないで、この服脱げやすいんですから!」

 

 …………このぼっちは優等生ぶってるくせになんでそんな無駄にエロい服着てんだろうなぁ。

 

 

 

 

「…………何をニヤニヤしてんだよぼっち娘。無駄に気持ち悪いぞ」

 

 街を出てジャイアントトードが繁殖している所まで向かう中。なにかを思い出してるのかにへらとした笑いを浮かべるゆんゆんに俺は話しかける。

 

「ほら、さっき私ウィズさんに言われてたじゃないですか、ダストさんみたいなどうしようもないチンピラのクエストを手伝ってあげるなんて偉い、友達として誇らしいって」

「どうしようもないチンピラ云々はお前の返しであって、ウィズさんは友達のクエスト手伝うなんて偉いですねって言ってただけだけどな」

 

 別に友達として誇らしいとかも言ってない。こいつ頭の中でどんだけ拡大解釈してんだ。

 

「ダストさんは心が汚いから……ウィズさんの心の声が聞こえないんですね」

 

 そんな自分に都合のいい幻聴が聞こえるようになるなら心が汚くていい。…………というかこいつ爆裂娘に長いこと会えなくてちょっとぼっちがやばいことになってねーか。

 

 

 

「お、第一ジャイアントトード発見。ゆんゆん、『カエル殺し』を使ってみろよ」

 

 そんなゆんゆんにわりとドン引きしながら歩いていたら、のんきに歩いているジャイアントトードの姿を見つける。

 俺の言葉の前にゆんゆんも気づいていたのか、ウィズさんオススメの魔道具『カエル殺し』を取り出していた。

 『カエル殺し』はジャイアントトード討伐に行くと言ったら是非とウィズさんが薦めてきた魔道具だが…………まぁ、値段設定以外はまともそうなので買ってきた。どうせ金払うのはゆんゆんだし、喜ぶウィズさんを見てゆんゆんも喜んでたし。

 …………もうこいつがあの店のガラクタ全部買い取ればいいんじゃねーかな。

 

「はい。あ、ダストさんはここで待っててくださいね。爆発すると危ないですし。私も設置したらすぐ離れますから」

 

 そう言ってカエル殺しを片手に俺から離れてジャイアントトードの近くへ行くゆんゆん。

 普段ぞんざいな扱いしてくるくせにこういう時は素直に忠告してくる。なんだかんだで世話焼きなのはゆんゆんの本質なんだろう。…………それ以上に凶暴性を持ってるのも本質だと俺は睨んでるが。

 

「これで設置よしと……あとはさっさと離れ……って、え?」

 

 ぴょんぴょこと動く『カエル殺し』をジャイアントトードの前に置いたゆんゆんはその場をすぐに離れようとした。したが…………

 

「おー地中から1、2、3……数えるのもめんどくさいくらい出てきたな」

 

 離れるのを邪魔するように地中から次々とジャイアントトードが出てゆんゆんを取り囲む。

 

「なんでこんなに出てくるんですか!?」

「そりゃ、『カエル殺し』がうまそうだからだろう」

 

 ウィズさんが商品説明でもそう言ってたし。

 

 そうこう言ってる内に一匹のジャイアントトードが『カエル殺し』を食べて爆発四散する。が、出てきたジャイアントトードの数を見れば焼け石に水だ。

 

「…………殺すのより呼び寄せる数のほうが多いって欠陥品じゃね?」

 

 誰だよこんな頭の悪い商品作ったのは。そんな頭の悪い商品を買いとっておすすめしてる残念な店主も店主だが。

 

「そんなこと言ってないで早く助けに来てくださいよダストさん! 流石に私一人じゃこの数は……っ!」

 

 身体強化をしておっきなカエル相手に大立ち回りをしているゆんゆんだが流石にあの数のカエル相手に詠唱をしながら戦うのは厳しいらしい。四方八方すぐ近くを囲まれてなきゃ『インフェルノ』でも使えば一発なんだろうが、今の状況じゃ範囲系の魔法は使えない。魔法を放った後に後ろからパクリとやられたらおしまいだ。

 

「助けてやってもいいが…………助けて欲しければ金を貸してくれ。最近リーンが金を返せとうるさいんだ」

「この状況で金の無心とかどんだけクズなんですか!?」

「人の足元を見れるときはとことん見るのが冒険者ってもんだ」

「そんな冒険者はあなたくらいです!」

「いや、カズマだったらもっと足元見るだろ」

「……………」

 

 否定はできないらしい。まぁカズマは鬼畜なことにかけてはアクセルの街では他の追随をゆるさないとバニルの旦那お墨付きだからな。流石は俺の悪友だ。

 

「もういいです! こんな時のためにウィズさんがマジックポーションを安くでくれたんです! 前は自分まで麻痺しちゃいましたけど改良版のこれなら……」

 

 そう言ってマジックポーションを飲み干して詠唱を始めるゆんゆん。

 

「『パラライズ』!」

 

 マジックポーションで強化されたゆんゆんの魔法が発動しジャイアントトードたちの動きが完全に止る。

 

「おう、すげぇな。……で、落ちはやっぱり自分まで麻痺してると」

 

 誰も動かなくなった戦場にスタスタと歩いてきた俺は空になったマジックポーションの取説を読む。

 

「なになに……『パラライズの威力と効果範囲を問答無用で強化するマジックポーションです。以前のバージョンより効果時間を改良しています』。…………頭おかしいんじゃないのか? この道具製作者」

 

 ついでにそんなものを買い取っておすすめしてる貧乏店主も。以前に使っててまた自分まで麻痺してるぼっち娘も。

 

 

 

 

「ま、ゆんゆんのおかげでジャイアントトードも楽にたくさん倒せたしこんだけ買い取ってもらえりゃ当分は宿代に苦労しないな。ありがとよ親友。報酬は倒したジャイアントトードの数で計算して分けるのでいいよな」

 

 動けなくなったジャイアントトードをスパスパと切り倒した俺は未だに動けないゆんゆんにそう言う。ちなみにキルレートはゆんゆん3、俺20。

 

「じゃ、ゆんゆんまたな。俺は今からちょっとサky……喫茶店に行ってくるから」

「この状況で一人だけ帰る気ですか!? せめて私が動けるようになるまではいてくださいよ!」

「動けるようにって……いつ動けるようになるんだ?」

「……分からないです」

「じゃ、そういうことで。心配しなくてもクエスト完了の報告はしとくからよ」

 

 そうすればギルドの職員がジャイアントトードを引き取りに来るだろうし、その時にも動けないようだったら回収してもらえばいい。俺はウィズさんに夢のなかで会うのに忙しいからさっさと帰らせてもらうことにする。

 

「…………分かりました。甚だ不本意ですけど私を街までおんぶしてください」

 

 本当に不本意そうにゆんゆんはそう言う。

 

「嫌だっての。なんで俺が14歳のクソガキをおんぶして帰らないといけないんだ。お前動けないからおんぶするのもめんどくせぇし」

 

 俺の守備範囲は15歳以上だ。14歳のゆんゆんはお呼びじゃない。腕に力入らない相手をおんぶするというのも手間だ。

 だけど……

 

「まぁ、俺は受けた恩を忘れないのとパーティーメンバーには優しいことを自負している男だ。次のクエストも手伝ってくれるならなんとかしてやらないこともないかもしれないな」

 

 今回の儲けは結構なもんだし、こんだけ楽に稼げるならその投資をするのも悪くはない。

 

「……本当にダストさんって最低の屑ですね。分かりました。次だけですからね」

 

 大きな溜息をつくゆんゆん。

 

「こういう状況じゃバニルの旦那はもっとえげつない要求すると思うぞ。いるのが俺でよかったな……よっと」

 

 ゆんゆんの肩とスカートの端に手をやってそのまま自分の胸のあたりまで持ち上げる。

 

「な、なな……なんでお姫様抱っこなんてしてるんですか!?」

「あん? おんぶはめんどくせぇからしょうがねぇだろ。それとも肩に背負えばいいか?」

「そっちのほうがいいですよ!」

「…………まぁ、お前がそれでいいならいいが…………お前のスカートの短さじゃパンツ見えるぞ」

「………………このままでお願いします」

 

 …………本当、こいつはなんでこんな服を着てんだろうなぁ。

 

 

 

「けど、ほんとお前って無駄に発育いいよなぁ……これでクソガキじゃなけりゃ文句ないんだが」

 

 すぐ近くで揺れる胸を見ながら俺は思う。まな板のリーンより出るとこほんと出てるし、かなりエロい。

 ………そうだ、ゆんゆんの年齢を17歳にして夢のなかに出てきてもらうというのはどうだろうか。よし、そうしよう。サキュバスサービスに不可能はない。

 

「なんだか身の危険を感じるんですが…………私襲われたりしないですよね?」

「14歳のクソガキで親友で動けない相手を襲うほど俺は落ちぶれちゃいねーよ」

 

 というよりそこまで溜まってない。サキュバスサービスは街の平和を守ります。

 

「いつもセクハラばっかりしてくるくせに…………あとダストさんは親友じゃありませんよ。ただの知り合いです」

「おう、ただの知り合いでパーティーメンバーだ。一時的とはいえよろしく頼むぜ親友」

 

 何が面白かったのかゆんゆんはクスッと吹き出した。



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第3話:引きこもりのぼっち娘

「ったく……ゆんゆんのやつ、『めぐみんいなくて暇なんで里帰りしてきます』って言っていなくなったくせに、帰ってきても連絡の一つもよこさねぇ。クエスト手伝うって約束はどうなったんだ」

 

 あのジャイアントトード討伐からはや一週間。あの後里へ向かったゆんゆんがアクセルに帰ってきたという噂を聞いた俺は、ゆんゆんの泊まる宿へとやってきていた。

 

「しかも帰ってきてからは部屋に引きこもりっぱなしとか……ぼっちの上に引きこもりとか救いようがねぇぞ」

 

 宿屋の主人にゆんゆんのパーティーメンバーだと言っても信じてもらえなかった(多分ゆんゆんがぼっちすぎて仲間が出来るとは思ってなかったんだろう)が、教えないとぶん殴るぞと脅したらゆんゆんの様子は教えてもらえた。運んだ飯こそ食べてるみたいだが部屋からは全く出ていないらしい。

 引きこもってても飯が出てくるなんていい身分なことだが、あいつには俺のクエストを手伝ってもらわないといけない。引きずり出してでも連れ出すことにしよう。

 

 

「おし……ここだな。……おい、ゆんゆん! 引きこもってねぇで俺に金を貸せ! それが嫌なら約束通りクエストに行くぞ!」

 

 ゆんゆんの部屋を見つけた俺は、バンと鍵のかかってるドアを蹴飛ばして中へと押し入る。

 そうしてそこで俺が見たのは――

 

 

「はい、アンちゃん、今日のご飯だよ? 一緒に食べようね」

 

「オイシイ、アリガトウ、ユンユン」

 

 

 ――安楽少女にご飯を分け与えてるゆんゆんの姿だった。

 

 

 

「………………おい、ゆんゆん。お前そいつがなんなのか分かってんのか?」

 

 安楽少女のことは俺も知っている。俺の実家の近くにもこいつらはいた。下手なモンスターよりもゆんゆんみたいなぼっちには危険なやつだ。

 

「はい?……って、ダストさん!? いつの間にここに…………って、ドアがなんか壊れてるんですけど!?」

「そんなことはどうでもいいんだよ! そいつが安楽少女だって分かってるのかって聞いてんだ!」

「そ、それはもちろん、アンちゃんが安楽少女なのは知ってますけど…………でもアンちゃんはいい子なんですよ? ほら、私と友だちになってくれたんです」

「バカかお前は。そうやって自分の餌を捕まえるのがそいつらの習性だって分かってんだろ?」

「そうですけど…………だ、だけどアンちゃんは私を餌にするつもりないんですよ? アンちゃんは自分の実を食べさせようとしないんです。一緒にごはんを分けて食べてるだけなんです」

 

 たしかにそれならゆんゆんが死ぬことはないだろうが…………。なるほど、この安楽少女の目的が分かった。

 そういう事なら俺もご相伴にあずからせてもらおう。

 

 

「あのな、ゆんゆん。分かってると思うが街の中に許可のない魔物を連れ込むのは重罪だぞ? その中でも安楽少女は街中での危険性がトップクラスに高いからバレたら実刑は免れない」

「な、なんですか……ダストさんのくせになんでそんな正論言うんですか」

 

 俺のくせにってなんだよ。喧嘩売ってんのかこのぼっち娘は。

 

「……ちっ。……お前が爆裂ロリっ子に長いこと会えなくて寂しがってるのは分かるけどよ、だからって犯罪はまずいだろ」

「…………今舌打ちしませんでした? あと犯罪はまずいとかダストさんにだけは死んでも言われたくないんですけど」

 

 …………まぁ、俺も言ってて白々しいとは思うけどよ。このぼっち娘は本当言いたいことはズケズケいいやがるな。

 

「とにかくだ……俺はお前を犯罪者にはしたくない。だけどロリっ子に会えなくて寂しがってるお前がダチになってくれた安楽少女と離れたくないって気持ちは分からないでもない」

「…………ダストさん。あなたにそんなこと言われても全然嬉しくないどころか『カースド・ライトニング』を唱えたくなるんですけど……この気持ちは一体何なんでしょうか?」

 

 反発心とかそんなんじゃねぇの。

 

「……とにかくだ。俺はこの安楽少女と話して本当に害意のないやつなのか確認するからよ。お前はちょっと部屋からでろ」

 

 いろいろと言いたいことはあるがここで爆発させたらご相伴に預かることは出来ない。部屋をめちゃくちゃにしてやりたい衝動を我慢してゆんゆんにそう言う。

 

「そんなこと言って私がいない間にアンちゃんを経験値にするつもりなんですね! 人でなし!」

「なんでモンスターを倒して人でなし扱いされなきゃいけないのか分かんねぇが…………少なくとも今の俺にこいつを殺す気はねぇよ」

 

 殺したらゆんゆんが色んな意味でめんどくさいことになるのは間違いないし。殺すつもりなら最初から問答無用で経験値にしてる。

 

「とにかく出て行けよ。じゃないと話をする前にギルドに報告しちまうぞ」

「っぐ……わ、分かりましたけど……アンちゃんに変なことしたら駄目ですからね? 絶対ですよ?」

「わーってるよ。心配しなくてもちょっと話をするだけだ」

 

 俺の言葉に無理やり自分を納得させたのか。しぶしぶと後ろ髪を引かれながらゆんゆんは部屋を出て行った。

 

 

「……コロスノ?」

 

 ゆんゆんがいなくなり怯えた様子をみせて安楽少女。

 

「殺さねーからその片言やめろ。てめーらが普通に話せるのは知ってんだ」

「…………っち、めんどくせぇな」

 

 演技しても無駄だと本性を見せる安楽少女。……相変わらずいい性格してる魔物だよ。

 

「言っとくけどあの子を殺す気はないよ。だからあんたが心配するようなことは何もない」

「心配? 何を言ってるんだお前は」

「……え? あの子が心配だからあたしと話すって話だったんじゃ…………」

「ああ? 何で俺があんな生意気なクソガキのためにわざわざそんなことしないといけないんだよ?」

「じゃあ、一体全体あんたは何のためにあたしと二人きりで話そうなんて……」

 

 

 

「そんなもん決まってんだろ。俺も一緒にヒモ生活させろ。俺にも何もしなくてもご飯が出てくる生活味合わせろよ」

 

 

 

「…………………………えー」

 

「おい、なんだよドン引きした顔しやがって。お前と俺は同類だろうが」

 

 こいつがゆんゆんを殺そうとしないのはそれが理由だ。ゆんゆん殺して養分にするよりゆんゆんの金で餌を持ってきてもらうのが楽だと判断したってわけだ。

 

「同類かもしれないけど……えー……これと一緒とかちょっと……」

「とにかく。ギルドに報告されたくなければ俺も一緒にゆんゆんに養ってもらうように言え」

 

 そうすればゆんゆんはダチができる俺と安楽少女は何もしなくてもご飯が食べられる。誰もが幸せになれる関係だ。

 

「あー……うん。あたしが間違ってたよ。ゆんゆんが小金持ちだとしってヒモになろうとしたけど、やっぱりモンスターなんだから騙して殺して養分にしないといけないよね。ヒモになるってことはモンスターの誇りを捨ててこんな男と一緒になるということなんだから」

「おい、何を改心してんだ。ヒモでいいんだよ。俺とお前でゆんゆんに飯をたかるんだ」

「ありがとうゴミクズ男。これからはモンスターの誇りを胸に冒険者を騙して養分にしていくよ」

 

 何故かすっきりとした笑顔で言う安楽少女。

 おかしい……こんなはずじゃなかったのに……。

 

 

 その日の夜、ゆんゆんは泣きながら安楽少女を元いた場所に帰したらしい。

 

 

 

 

 

 

「……って、ことがあったんだよ。バニルの旦那」

 

 翌日、俺はギルドの片隅で相談屋を開いてるバニルの旦那に事のあらましを相談する。ゆんゆんは安楽少女もいなくなったのに未だに引きこもったままだ。

 

「ええい、勝手に相談されても金のないチンピラ冒険者に答える義理はないわ」

「そう言わないでくれよバニルの旦那。旦那だってゆんゆんが引きこもったままだと金づると労働力が減るだろ?」

「……はぁ、仕方あるまい。こうして絡まれてたらおちおち仕事もできん。一度だけ見てやるゆえ、それが終わったらさっさと帰るがいい」

 

 大きくため息を付いて見通す力を使うバニルの旦那。

 

「しかし汝ら2人は無駄に見通しづらくて困る…………ふむ、世界最大のダンジョンの地下十階で見つけた卵をプレゼントするが吉。行き帰りは貧乏店主にでも相談するがいい」

「おいおいバニルの旦那。駆け出し冒険者の街にいる俺が世界最大のダンジョンの地下十階になんていけるはずないだろ」

 

 この街じゃ腕利きの冒険者だと評判の俺だが、それはあくまでこの街での話だ。この街でさえ俺より強い奴はそれなりにいる。サキュバスサービスは街の男を強くします。

 

「助言はしてやったので後は知らん。そもそもアクセル随一のチンピラが何故いっちょまえに人の心配などしておるのか不思議でならん」

「え? 心配はしてないぞ? どうせさみしんぼのゆんゆんのことだ。そのうち寂しくなって部屋から出てくるだろうし」

「……やはり我輩の目に狂いはなかったか」

「ただ、早くゆんゆんから金を借りるかクエストをクリアして金を稼がないとリーンに金を返せねぇんだよなぁ」

 

 最近リーンに会っても無視される。金を借りたいのに金を返さないと話もしてくれないらしい。パーティーメンバーに冷たいことこの上ない。

 

「……汝のろくでなしっぷりは相変わらず見ていて清々しいな。悪魔でもそこまで自分中心に考えられるものは少ないというに」

「そんなに褒めないでくれよ旦那。流石の俺も旦那にはいろいろ負けるしよ」

 

 照れるぜ。

 

「ま、バニルの旦那にせっかく助言もらったんだ。なんとかしてみる」

 

 世界最大のダンジョンか……。挑むならいろいろ準備しないといけないな。

 

 

 

 

 

 

「ふーむ…………これをゆんゆんにプレゼントするのか…………」

 

 ダンジョンから帰ってきた俺はその手にある卵に頭を悩ます。

 

「これを売れば一財産どころの話じゃないんだがなぁ……」

 

 苦労して手に入れた卵。それはブラックドラゴンの卵だ。ドラゴンの中でも希少な種族のドラゴンの卵となればいくらの値がつくか想像もつかない。最低でも億単位の値になるはずだ。

 

「まぁ、どんなに落ちぶれてもドラゴンの卵を売ることはしねーけどな」

 

 それをしてしまえば俺は本当の意味で()()()になっちまうだろうから。

 クズでチンピラな俺の譲れないものの一つだ。

 

 

 

 

「……もったいねーけど、俺が持ってても仕方ないもんだしゆんゆんにやるか」

 

 ゆんゆんの部屋の前。そこに来るまでの間に散々悩んだ俺は、結局卵をプレゼントすることにした。

 もともとそのつもりでわざわざ危険な目に遭うの覚悟で世界最大のダンジョンに挑んだわけだし、ぼっちのゆんゆんにプレゼントするものとして人より寿命の長いドラゴンの卵はこれ以上ないものだろう。

 

「てわけでゆんゆん入るぞー」

 

 そんな葛藤と一緒にゆんゆんの部屋のドアを蹴飛ばして中に入る。

 

「何がてわけで、何ですか! 女の子の部屋にいきなり入ってこないでください!」

 

 今度はちゃんと俺が入ってきたの気づいたのか、ゆんゆんは怒った様子で立ち上がる。

 ……怒った理由は作ってたトランプタワーが崩されたからじゃねーよな? なんかゆんゆんが座ってた机に不自然に散らばるトランプがあるけど。

 

「ああ? 女の子だと? 発育が良いだけのクソガキが色気づいてんじゃねーぞ。17歳になってから出直してこい」

 

 17歳のゆんゆんにはお世話になりました。

 

「……何でこの人他人の部屋に押し入ってこんなに強気なんだろう…………って、ダストさんだからか」

 

 よく分かってんじゃねーか。

 

「…………まぁいいです。それで一体全体私に何の用ですか? 用を済ませて早く帰ってもらいたいんですけど」

「おう、一言多いのは気になるが喜べゆんゆん。お前にプレゼントがある」

「ダストさんが私にプレゼントって…………架空の請求書とか要りませんよ? あ、警察に通報する時に証拠で使えそうなんて一応もらっとこうかな」

 

 …………やっぱこいつに卵やるのやめようかな。

 

「ったく……まぁいい。ほら、ブラックドラゴンの卵だ。親が産んだばかりだから生まれるまで少し時間がかかるだろうが」

 

 そのまま帰りたくなる気持ちを抑えて俺はゆんゆんに卵を渡す。

 

「あなたは誰ですか!? こんな高価でまともなものをダストさんが人に上げる訳ありません! あ、分かりましたバニルさんですね! 人をからかうのもいい加減にしてください!」

 

 …………やっぱ、やらなきゃ良かった。

 

「おう、クソガキ表にでろ。人が苦労して手に入れたもんせっかくプレゼントしてやってるってのに……泣いて謝っても許さねぇからな」

 

 引っ叩いてひん剥いてやる……。

 

「おかしい……そのチンピラっぷりは確かにダストさんです。…………もしかして本物ですか? 悪いもの食べたんですか? 駄目ですよ道端に落ちてるものを食べちゃ」

 

 このさびしんぼっちはほんとどうしてくれようか。

 

「あー…………もうとにかくさっさと受け取れ。でもって引きこもってないで俺のクエスト手伝え」

「あ……そういえば、クエストを手伝うって約束でしたね…………。ごめんなさい、アンちゃんのことで一杯で忘れてました」

「別にいいけどな。……まぁ、悪いと思ってんなら金を貸してくれればそれでいい」

「いえ、それはありえませんけど…………お詫びに約束の一度だけじゃなくて、何度かクエストを手伝うくらいはします」

「おう、そうしてくれ。あと気が変わったら金貸してくれてもいいからな」

 

 てかホント金くらい貸してくれよ……。お詫びはいいから金をくれよ……。ゆんゆんが最近引きこもってたせいで酒どころかまともな飯も食ってねーんだよ。……最近は俺がきたら料金先払にしろって無銭飲食も出来ねーしよ。

 あー……酒飲みてぇなぁ……。

 

「ど、どうしたんですかダストさん? いきなり落ち込んで……この卵のこともありますし、少しくらいなら貸しても――」

「――本当か親友! やっぱ持つべきものは親友だな! 流石俺の親友は太っ腹だぜ!」

「少しですからね少し! 後ダストさんは親友じゃありません! 友達の友達です!」

 

 どうやら知り合いから友達の友達程度には認めてもらえたらしい。

 




友達の友達=知り合いor知り合い未満


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第4話:素直じゃない爆裂娘

――めぐみん視点――

 

 

「お頭様お頭様。少しいいですか?」

 

 我が盗賊団の秘密k……もといアジト。ソファーに沈んでいた私に下っ端1号のアイリスが話しかけてきた。

 

「なんですか? いい加減その指輪を私に取り上げられる決心がついたんですか?」

 

 その小さな指にはめられた安っぽい指輪。高貴な彼女には不釣り合い過ぎるそれに苦々しい思いを感じながら私は言う。

 

「……まだそれを言うんですか。たとえ相手がお頭様であろうとこの指輪は絶対に渡しませんよ」

「……まぁ、そうでしょうね」

 

 仮に自分が指輪をもらった立場として、アイリスが王女の立場からそれを寄越しなさいと言おうと絶対に渡しはしないだろう。

 だからと言って納得できるわけでもないので、こうして事あるごとに寄越せと言ってしまうのだが。

 

「その件じゃないならどうしたんですか? またセシリーお姉さんがエリス教徒に嫌がらせをして留置所にいれられたんですか? 言っときますが私はもう引き取りに行くのは嫌ですよ」

「それはまだ大丈夫です。今日のセシリーお姉さんはまだ起きてきていません」

 

 既にもう昼を過ぎているのだが。盗賊団は別にいいとしてもプリーストとしての仕事は何もないんだろうか。あれで一応アクシズ教団アクセル支部の支部長のはずなんですが。

 ……まぁ、アクシズ教徒の生態系なんて考えるだけ時間の無駄ですね。

 

「じゃあ、なんですか? 言っときますが『あれ』に話しかけろと言うんでしたら全力で拒否しますよ」

「さ、流石に『あれ』呼ばわりは酷いんじゃ…………いえ、要件は確かにそれなんですけど」

 

 そう話す私とアイリスの視線の先にいる『あれ』……もとい、ゆんゆんはなんだか見たこともない大きな卵を幸せそうに撫でていた。

 …………たまに思い出したようにニヘラと笑うのがなんだか気味が悪い。

 

 

 

「…………あれ、何の卵かわかりますか?」

 

 強い魔力を持った卵というのは分かりますが……。

 

「多分、ドラゴンの卵じゃないかと…………私も前に本で見ただけなので自信はないですが」

「…………なんであの子は最低でも一つ数千万もするものを持っているんですか」

 

 ぼっちでお金の使いみちがないにしても、流石にそこまでの蓄えはなかったはずだ。

 

「私に聞かれましても…………。ドラゴンの卵というものは基本的に市場には出回りません。ドラゴン牧場で孵化させられて人に慣らされてから市場に出回るからです」

 

 そう言えばじゃりっぱも隣国のドラゴン牧場から買ってきたという話でしたか。

 

「ですので、仮に卵の状態で買おうと思えばどんな竜種の卵でも億単位のお金が必要です。数千万というのは冒険者がダンジョン等で運良く見つけて売る時の値段ですね」

 

 億単位……単独で大物賞金首を倒せばそれくらいのお金は稼げるかもしれないですが……。

 

「それに、市場には出回りませんから買うとしたら独自のツテが必要ですね」

「あ、それでゆんゆんが卵を買ったという線はなくなりましたね」

 

 ぼっちのあの子がそんなツテを持ってる訳ありませんから。

 

「実際、貴族や大商人と言った人たちの中でもそういったツテを持っているのは一部ですからね……。それ以外の人にくるドラゴンの卵売りますという話は十中八九詐欺らしいですし。多分、ダンジョンかどこかで見つけたんじゃないでしょうか」

 

 うちにその詐偽の狙い撃ちにされているのがいるんですが、どうにかならないですかね。

 

「ただ最近は野良ドラゴンが生息しているダンジョンやフィールドが殆ど無いんですよね。野良ドラゴンを見かけるのはエルロードの金鉱山のように、どこからかやってきて棲みついたという話がほとんどです。なのでただでさえ希少な野良ドラゴンのそのまた希少な卵を見つけるとなるとお兄様並の幸運が必要な気が……」

「それもう不可能って言ったほうが正しいんじゃないですか」

 

 あの男の幸運値は魔王軍幹部が驚愕するレベルですから。

 

 

 

「けれど、王族であるアイリスがドラゴンの卵を見たことがないというのは意外ですね。王族であればツテを用意するのも簡単なのではないですか?」

「ベルゼルグにはドラゴン牧場がありませんから言うほど簡単ではありませんよ。無理をすれば確かにどうにかなるかもしれませんが……わざわざ高いお金を払って卵で取り寄せる理由はありませんね」

 

 この国の王族のこういう質実剛健なストイックさは嫌いになれない。

 

「それにドラゴン使いのいないこの国では高いお金を払ってドラゴンを取り寄せてもお金に見合った戦力にはなりませんからね。紅魔族の方やお兄様のような変な名前の方たちの報酬を増やしたほうがよっぽど有意義なお金の使い方です」

「そうなのですか?」

 

 ドラゴンは最強の生物。戦力としてみればかなりのものになると思うのですが。

 

「ドラゴンといえど生まれてすぐに最強という訳じゃありませんから……10年くらいじゃグリフォン並で実際に最強の生物と言える威風を持つのは20年くらい経ってからなんですよ」

 

 まぁ、確かにじゃりっぱが最強の生物と言われても首を傾げますが。

 

「では、その20年くらいたったドラゴンを取り寄せればいいのでは?」

「その頃になりますと値段が羽上がりますし、苦労して取り寄せてもドラゴン使いがいないと割とすぐに死んでしまうんですよね」

「さ、最強の生物とは一体……?」

 

 我が爆裂魔法ならともかくアイリスの爆裂もどきでも一撃でしたし割とがっかりなんですが……。

 

「ステータスは凄く高いんですが知能が普通の魔物より高い程度なので……引き際を間違ってしまうんですよね。魔王軍の親衛隊クラスが数人いれば割と簡単に狩られてしまいます」

「ロマンの欠片もありませんね。……そう言えば、アイリスが倒したあのドラゴンは何年くらい生きたドラゴンなのでしょうか?」

「知能はそれなりに高そうでしたが人語を解してる感じでもなかったので……多分100年くらい生きたドラゴンかと」

「100年生きて一撃とは……」

 

 ドラゴンが想像以上に弱いのかアイリスが規格外に強いのか。

 

「流石にアクアさんの補助魔法がなければ一撃では無理だったと思いますよ。それにララティーナが盾になってくれたからこそ全てを一撃にかけられたわけですし」

「ふっ……勝ちました。私ならアクアの補助なし詠唱なしで一撃でしたよ」

「……お頭様はいろいろおかしいので比べないで下さい。……とにかく、あのドラゴン相手なら実践経験の少ない私一人だと苦戦したと思いますし、けして弱い相手ではありませんよ」

 

 それでも一人では勝てないとは言わないんですねこの子は。聖剣の力と王族のステータスを考えれば当然かもしれませんが。

 ……実践経験をつめばこの子はどれほど強くなるのでしょうね。

 

「しかし……何て言うか、アイリスに物を教えられるとなんだか変な感じがしますね」

 

 いつもは世間知らずなアイリスにいろいろ教える立場なだけに。

 

「あのですね、お頭様。一応私は王族でして……小さい頃からたくさん勉強してるんですよ」

 

 王族が英才教育を受けているのは分かってはいるんですがこうイメージ的にというか……。

 

「それに、ドラゴンのことは重点的に教えられましたからね」

「? 何故ですか?」

 

 最強の生物とはいえ単なる魔物の事を王族が詳しく学ぶ必要があるんだろうか。

 

「だって……魔王軍との戦いが始まった当初、戦いの鍵はドラゴンとドラゴン使いが握るだろうと言われていましたから」

「言われていた……? 今は違うのですか?」

 

 

 

「はい。……私達人間が上位ドラゴンに見捨てられた時から、それは違ってしまいました」

 

 

 

 

 

「ねぇ、めぐみん、イリスちゃん。二人ともさっきから何の話をしてるの?」

「ゆ、ゆんゆん!? い、いつからそこにいたのですか!?」

 

 見捨てられたとはどういうことか。それを聞こうと口を開く前に、いつの間にか私達の傍へやってきていたゆんゆんに話しかけられる。

 変な笑みで上の空だったからと油断していた。まさかアイリスが王族であることとか聞かれてしまったんじゃ……。

 

「いつからって言われても、ついさっきだけど……」

「そ、そうですか……(なら、アイリスが王族であることは聞かれてないみたいですね)」

「(そうみたいですね。……ですが、なぜお頭様は私の正体を隠すのですか? ゆんゆんさんなら話しても問題ないと思うのですが)」

「(何をバカなことを言っているのですか。このぼっち娘は常識人を自称してる面倒くさい子なのですよ。あなたの正体を知ったら更に面倒くさいことになるのが目に見えています)」

 

 まぁ、本当は気づいているのかもしれないし、気づいていても頭のなかで考えるのを拒否してるだけの気もしますが。追い詰められたら開き直る子ではありますが基本的には小心者ですからね。王族を義賊とは言え盗賊団に巻き込んでるなんて事実、この子は認められないでしょう。

 

「何を2人で内緒話してるの? ……めぐみんがエルロードから帰ってきてからこっち、二人共距離が近いよね。言い争いしてるのもよく見るし。もしかしてイリスちゃんも王女様の護衛についていってたりしたの?」

 

 またこの子は判断に困ることを言いますね。やっぱり頭じゃ気づいてても心が認めないとかそんな感じなのかもしれない。

 

「別にあなたに話せないことを話してるだけですよ。なので気にしないでください」

「その言い方で気にしないと無理に決まってるじゃない! ねぇ、めぐみん! 私達親友なんだよね!? 私に話せなくてイリスちゃんに話せることってなんなの!?」

「あなたに話せないことはあなたに話せないことですよ。親友であることは認めてあげないこともないですから聞かないでください」

「…………まぁ、親友だからこそ話せないこととかあるだろうしね」

 

 ……そこで納得してしまうんですか。この子は相変わらずチョロいですね。

 

「(お頭様。ちょうどいいので今、卵のことを聞いていただけませんか?)」

 

 ちょんちょんと私を振り向かせてアイリス。

 ……そう言えばいつの間にかドラゴン講義になってましたが、そういう要件でしたか。

 

(…………けど、聞きたくないですね)

 

 このぼっち娘、そわそわしててどう見ても卵のことについて聞いてほしそうにしていますし。こちらから素直に聞くというのもなんだか負けたような気がする。

 呆けてたくせにこっちに来たのも多分私達がドラゴンのことについて話してたからでしょうし。

 

「納得しましたか? では、私はまだイリスと話すことがありますので。ゆんゆんは向こうへ行っててください」

「そ、そんなこと言わないでもいいじゃない。ほら、めぐみんだって私に聞きたいことあるんじゃないの?」

「ありませんよ」

「う、嘘だよね……? さっきだって、話の内容はよく聞こえなかったけど『ドラゴン』って単語出てたし…………ね? 聞きたいことあるでしょ?」

「ありませんよ。…………たとえ仮にあったとしても、私からは絶対に聞きませんよ」

 

 この子の態度でそう決めた。

 

「…………………………」

「…………………………」

 

「……分かったわよ。ねぇ、めぐみん、イリスちゃん。この卵のことについて聞いてくれない?」

 

 勝った。

 

 

 

「全く……聞いてほしければ最初からそう言えばいいでしょうに。あなたは相変わらず意地っ張りですね」

「ねぇ、めぐみん。それあなたが言う? 言っちゃう?」

「…………正直この場ではお頭様のほうが意地っ張りというか……大人げないと思います」

 

 うるさいですよ。

 

「それで? 結局その卵は何なんですか?」

 

 勝負に勝ったこともあってか私は素直に卵のことを聞く。アイリスの講義で微妙に世知辛い現実を知ってしまったがドラゴンはドラゴン。最強の生物という称号は紅魔族の琴線に大いに触れる。

 

「やっぱり気になってたんじゃない…………んふふー、気づいてるみたいだけど、これはドラゴン、それもブラックドラゴンの卵なんだって!」

「ブラックドラゴン……確か上級の竜種のドラゴンでしたか。あらゆる竜種の中で1番凶暴な性格をしているという話でしたね」

 

 アクアが前にゼル帝がブラックドラゴンになるのだけは嫌だと喚いていた気がする。

 

「ドラゴンは卵の時に与えられた魔力次第で竜種が変わったりしますから、本当にブラックドラゴンが産まれるかは分かりませんが…………ブラックドラゴンは凶暴でほとんど卵を産んだりしませんから、もし本当にブラックドラゴンが産んだ卵ならいくらになるか…………ギルドで売却しても2億エリスは堅いんじゃないでしょうか」

 

 アイリスの反応。…………どうでもいいですが、この子は億単位の金銭感覚は普通に持ってるのですね。串焼きの相場とかは分からないくせに。

 

「…………それ、本物なんですか?」

 

 アイリスの言葉を信じるなら、この卵は希少どころの話じゃない。

 

「私も疑ったんだけど…………感じる魔力的にドラゴンじゃなくても凄い生き物の卵なのは確かだと思う」

「凄い魔力を感じても生まれてくるのはただのひよこという可能性はありますよ」

 

 いえ、ある意味ゼル帝も凄い生き物なのは確かですが。

 

「まぁ、ブラックドラゴンかどうかはともかくイリスの見立てでもドラゴンの卵みたいですし、ドラゴンの卵なのは確かなのでしょうが…………どうしてそんなものを持ってるんですか?」

 

 結局一番聞きたいことはそれだ。他はなんとなく聞かなくても分かるが、それだけは本当に想像がつかない。ブラックドラゴンの卵だと言うなら尚更だ。

 

「………………言えない」

「…………はい? 今なんて言いました?」

「だから…………言えない」

「…………あれだけ聞いてほしそうにしといて、肝心な所でそれとか喧嘩売ってるんですか?」

「だ、だって……! (ダストさんにもらったとか言っても多分信じてもらえないし、信じてもらったとしてもダストさんに貰ったものを大事に抱えてるとか…………言えるわけないじゃない)」

「なんですか? 聞こえないんですが」

 

 ごにょごにょとして一体何を言ってるのか。…………カズマがいれば読唇術で分かったかもしれないんですが。

 

「とにかく言えないの! そ、それよりもめぐみん知ってる? ドラゴンってすっごく頭良くて人が喋ってることも分かるんだって」

「知ってますよ。イリスとその話をしてましたから」

 

 本当に分かるようになるのは最低でも100年くらいかかるのが普通らしいですが。

 

「すごいよね! しかも大きくなったら人の姿にもなれるんだよ? そうだよね、イリスちゃん」

「えっと…………はい。確かにドラゴンは大きくなったら人化の術を覚えるそうですね。(……4、500年くらいしたらの話ですが)」

 

 ……アイリスが小声で言った言葉は聞かなかったことにしよう。

 

「…………まさかとは思いますが、あなたは生まれてきたドラゴンを育てて友達になろうとか、そんなことを思ってるわけじゃないですよね?」

「…………そうだけど、悪い?」

「いえ……悪いとは言いませんが……」

 

 カズマが言うにはボールが友達だという奇特な人もどこかにいるみたいですし。それに比べればドラゴンと友達というのは普通かもしれない。

 …………うん、この子はボールどころか植物と友達というアレな子ですからむしろ健全になってますね。

 

(私にはよく分からない感覚ですけどね……)

 

 元人間であるウィズや、100歩譲って普通に話せるバニルと友達になるというのはまだ分かる。けど、言葉を交わせない相手と友達になるというのはよく分からない感覚だ。ペットや使い魔として大事にするというのなら分かるのだが。

 

(…………あの男なら分かるのでしょうか?)

 

 もしもあの男の正体が本当にアレなのだとしたら。ゆんゆんの気持ちを分かってやれるのかもしれない。

 …………いや、分からないか。あの男だし。どうせ本当にアレだとしてもドラゴンのことなんて道具としか思ってないに違いない。良くて使い魔やペットと言ったところだろう。

 

 

 

 

「……ところで、生まれてくるドラゴンの名前は決まってるのでしょうか?」

 

 あの男のことは今はどうでもいいと、私は頭の中から追い出し、ついでに話題も変える。

 

「決まってないけど…………私がちゃんとつけるからね?」

 

 先んじて牽制するとはやっぱりゆんゆんも成長してるのだろうか。なんだか最近はチョロいだけのぼっちじゃなくなってる気がする。

 

「親友からのお願いです。一生で一度でいいからドラゴンの名付け親になってみたいのです」

 

 けれど親友からのお願いといえば流石に断れないはず。さっきも親友という言葉で誤魔化せましたし。………………じゃりっぱにはごめんなさい。

 

「もう……めぐみん? 親友って言葉はそんな風に便利に使ってちゃ駄目だよ? じゃないとろくでもないチンピラ冒険者になっちゃうんだからね」

 

 なん……だと…………。バカな、あのぼっちで友達がほしいと泣いてた構ってちゃんが…………いえ、別に悪口じゃないですよ? 里でのゆんゆんを客観的に見たらそうだよなぁってだけで。

 …………本当にこの子は成長してるのだろうか。そうだとしたら少しだけさb――

 

「――エクスプロージョン!」

「めぐみん!? いきなり叫んでどうしたの!? というか、今日はもう撃ってるから撃てないのは分かってても爆裂魔法を叫ばれたら心臓に悪すぎるからやめて!」

「……すみません。いえ、本当にただちょっと叫びたくなっただけですから」

 

 ですのでアイリス。そんな部屋の隅っこにいないでこっちに帰ってきなさい。私が悪かったですから。

 

 

「いきなり叫び出すとか……本当にもう、めぐみんはしょうがないんだから……」

「あなたにだけは言われたくありませんよ」

 

 だいたい何で私が叫ぶはめになったと…………いえ、まったくこれっぽっちもゆんゆんは関係ありませんが。

 

「何をいきなり頭をブンブン振ってるのめぐみん? ほら、イリスちゃんがさっきいきなり叫んだのも相まって変なもの見る目してるよ?」

「い、いえ、ゆんゆんさん。私はけしてそのようなことは……! た、ただその……お頭様? 必要でしたら王都でも腕利きのプリーストをご紹介しますよ?」

 

 ……本当に爆裂魔法を唱えてあげましょうかこの子達は。

 

「うちには運と頭に目を瞑れば世界最高のアークプリーストがいますから必要ありませんよ。……まったく失礼にもほどがありますよ」

「今のめぐみんの発言に比べたら全然失礼じゃないと思うけど…………って、あっ! もうこんな時間!?」

 

 時計を見て驚いた声を上げるゆんゆん。

 

「ごめん、めぐみん。私今からちょっと行かないと行けないところがあるんだ。それでお願いがあるんだけど、この卵に魔力を込めるように温めててくれない?」

「はぁ……まぁ、魔力も回復してきたところですし別に構いませんが…………どこに行くのですか?」

 

 卵をゆんゆんから預かりながら私は聞く。

 

「えーっと……単なるクエストだけど」

「冒険ですか!? ゆんゆんさん、私も一緒に行ってもいいでしょうか?」

 

 クエストと聞いて目を輝かせるアイリス。…………エルロードで十分冒険したでしょうにこの子は。

 

「だ、ダメだよ! イリスちゃんをあんなのに付き合わるわけにはいかないから!」

「そう……ですか…………残念です」

「ま、また今度皆でクエストに行こうよ! ね? セシリーさんとかクリスさんとかも一緒にさ!」

「そう……ですね。はい、その時を楽しみにしていますね」

 

 アイリスが納得したのを見て安堵の息をつくゆんゆん。

 ……しかし、ゆんゆんが『あんなの』と表現するとは……一体全体何をするんだろうか。それとも、誰かと……?

 

「と、とにかく時間だから行くね!」

 

 そう言って慌てて出ていくゆんゆんを見送る。一応私もアイリスもいってらっしゃいと言ってあげたのだがあの様子では気付いてないだろう。

 ……あの子はもう少し自分が周りに気にかけられてることに気づいていいと思う。

 

「ところでお頭様。1つお願いがあるんですが」

「なんですか? 今の私は卵を温めるのに忙しいので何かしろと言われても出来ませんよ」

 

 しかしドラゴンですか……ドラゴンスレイヤーの称号にも憧れますがドラゴンを使い魔にするというのもいいですね。……ゆんゆんよりも魔力をたくさんあげれば生まれた時に私を主だと認めるとかないですかね。

 

「いえ、その……私にもドラゴンの卵を温める作業をやらせてもらえないかと……」

 

 目を輝かせてアイリスは言う。

 好奇心の塊のアイリスが……しかもたくさん勉強したというドラゴンの卵を前にしたらそう思うのは当然かもしれない。

 ですが……。

 

「嫌ですよ。……どうしてもと言うならその指輪を私に貸してください。大丈夫ですよ、ちゃんと後で返しますから」

「うぅ……お頭様のいじわる! 出来るわけないじゃないですか!」

 

 恋敵にはちょっとだけいじわるをしてしまう私だった。




一応このあと温めさせてあげたそうです。


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第5話:クエストの帰りに

「なぁ、ゆんゆん。少し相談があるんだがいいか?」

 

 クエストを終えた帰り道。今日も今日とてゆんゆんと一緒に高難易度のクエストを楽にクリアした俺は隣を歩くゆんゆんにそう話しかける。

 

「はい? グリフォンとの一騎打ちで疲れてるんで明日にでもして欲しいんですが…………ダストさんは後ろで応援してただけだから元気有り余ってるでしょうけど」

「そう言うなよ。俺は下級職の戦士だぜ? グリフォンやマンティコア相手にして戦ったら下手したら死んじまう」

 

 ヒュドラにぱくっと殺られた記憶もまだ新しい。

 

「だったらもう少し難易度低いクエスト選びましょうよ……」

「大丈夫だ。お前はこの街でも1、2を争う冒険者だ。グリフォンくらい一人でも余裕だろう」

「なぜでしょう……褒められてるはずなのにダストさんに言われるとイラッとくるんですが」

 

 もう少し人の言葉を素直に受け取れないのかこのぼっち娘は。人がせっかくおだてて利y……やる気出してもらおうとしてるってのに。

 

「一応言っとくが、お前がこの街で1、2を争う冒険者だって意見には何も嘘はねーぞ」

 

 冒険者に限らなきゃバニルの旦那やらウィズさんがいるし、俺の見立てじゃ最近よく見かけるイリスとか言ったロリっ子もこいつより強い気がする。

 それでも、冒険者という枠組みの中で見ればこいつは一番って言ってもいい実力者だ。……カズマパーティーはいろいろ判定しづらいから除外してるけど。

 

「そ、そうですか? そこまで言ってもらえるならダストさんに言われても少しだけ嬉しいですね」

 

 少しだけ恥ずかしそうにはにかむゆんゆん。……一言多いのは目をつむってやろう。

 その代わり明日もマンティコア討伐で頑張ってもらうが。

 

 

 

「それで相談なんだがな」

「あ、はい。相談ってなんですか? まさかこの間貸したお金もう使い切ったんですか? 一応言っておきますけど前のお金返してくれるまでは貸しませんよ?」

 

 …………どっかのまな板と同じようなこと言いやがって。

 

「流石にまだ全部は使い切ってねーよ。……今日リーンに金返す予定だからそれでなくなるけど」

「あの……? それってつまり、私から借りたお金でリーンさんにお金を返すつもりなんですか?」

「? だとしたらなんだよ」

「……いえ、ダストさんはダストさんなんだなぁと」

 

 なんでこいつは呆れたような顔してんだろう。俺が珍しく人に金を返そうとしてるってのに。

 

「ま、とにかく金の相談はまた今度だな。クエストの報酬も入るし一時は大丈夫だ」

 

 ゆんゆんがクエストを手伝ってくれてる間なら返す金以外で困ることはなさそうだし。

 

「じゃあ、なんですか? ダストさんが私に相談することなんてお金のことと女性のことしか思い浮かばないんですが」

 

 ……本当にこいつは俺のことなんだと思ってるんだろう。

 

「よく分かったな。俺がしたいのは確かに恋愛相談だ」

 

 まぁ、それで当たりなわけだが。……実際俺もこいつに相談することなんて金と女の事くらいしか思い浮かばないんだよな。

 

「はぁ…………つまりナンパもといマッチポンプするから手伝えって話ですか? 嫌ですよもう」

「恋愛相談って言っただけでなんでそんな話になんだ。…………あとその生ごみを見るような目はやめろ」

「この間、クエストだって言って騙してナンパの手伝いやらされたからじゃないですかね。…………相手の女性に警察呼ばれてお説教されたのはショックでした」

「……その件は正直悪かった。次はちゃんとうまくやるから安心しろ」

 

 ぼっちのこいつに絡み役をやらせたのが間違いだったんだよな。今度手伝わせる時はサクラとかやらせよう。

 

「反省! 謝罪はいりませんから反省してください! しかもなんで私が付き合う前提なんですか!?」

「そりゃ、親友だからだろ」

「ダストさんは親友なんかじゃありません! 友達の知り合いです!」

 

 ……あれ? 前より好感度下がってね?

 

「ふぅ…………それで? ナンパじゃなければなんですか? 女の子紹介しろって言われても紹介できるのはアクシズ教徒のプリーストくらいですよ」

「アクシズ教徒のプリーストねぇ……アクアの姉ちゃんといい留置所でよく会う女といい恋愛対象として見れる気は全くしねーからいらないな」

 

 どっちも見た目は文句なしなんだが…………まぁアクシズ教徒なんてどいつもこいつもそんな感じだから、ゆんゆんの紹介できるってプリーストも同じ感じだろう。

 

「失礼ですよダストさん。だいたいダストさんはちょっと年齢が離れてるだけで守備範囲外とか言ったり贅沢言い過ぎなんですよ。少しは身の程をわきまえないと本気で一生彼女出来ませんよ?」

「大きなお世話だよ毒舌ぼっち。…………というか最近お前の毒舌本気で酷くねーか?」

「ダストさんの口の悪さに比べたら可愛いものだと思いますけど」

 

 一理ある。

 

「それに、前にもいいましたけどここまで遠慮なく言えるのはダストさんくらいですから。他の人にはちゃんとしてますよ」

 

 まぁ、本当にそうなら別に問題ないんだけどな。こいつは無意識で毒はくことがあるから安心できない。

 

「なんですか? もしかして私の事心配してるんですか?」

「だとしたらなんだよ?」

 

 また大きなお世話ですとでも言うつもりじゃないだろうな。

 

「いえ、ちょっと意外だなって……。本当に心配してもらわなくて大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます」

 

 …………急に素直になってんじゃねーよクソガキが。調子狂うだろうが。

 

 

「まぁ、別に心配とかはしてねーよ。これ以上毒舌酷くなったらダチが増えるどころか逃げ出すんじゃないかって思っただけで」

「私の感謝の気持ちを返してください」

 

 早とちりしたのはお前だからな。俺は謝らないぞ。

 

 

 

「って……待て。一体全体何の話してんだよ。恋愛相談だよ恋愛相談! お前の毒舌っぷりなんてどうでもいいっての」

「本当に私の感謝の気持ちを返してください。…………恋愛相談と言われても、ダストさんに紹介できる女の人はいないってことで結論出たじゃないですか」

「だからそれがそもそも違うんだよ。今日の俺は別に女の子紹介してくれって相談したわけじゃねーんだ」

 

 こいつがナンパだの女の子紹介だの早とちりしただけで。

 

「…………え? ナンパ手伝えとか女の子紹介しろとかいう話以外でダストさんが私に恋愛相談…………?」

 

 おう、気持ちは分からないでもないがその信じられないものを見る目はやめろ。

 

「俺もこんなことをお前に相談するのはどうかと思うんだがよ。他に相談できそうなやつがいねーんだよ」

 

 キースは論外。テイラーも恋愛事じゃ頼りにならない。リーンは……まぁ、置いとくとして。

 

「うーん…………一応真面目な話みたいですね。いいですよ、友達の知り合いとは言え知らない間柄じゃありません。相談を受けましょう」

 

 そこは普通にダチだと認めていい場面だと思うんだが。…………こいつ友達が欲しい欲しい言ってんのに本当俺のことはダチだと認めないな。爆裂娘やバニルの旦那は良くて俺はダメとか割りと謎なんだが。流石の俺もあの二人と比べたらまともな自信があるぞ。……いや、本当にあの二人よりかはまともだよな……?

 

「上から目線なのが気になるが、受けてくれてありがとよ。実はだな、最近夢を見るんだよ」

「夢……ですか?」

「ああ、同じ相手の夢ばかり見ててな…………もしかして俺はそいつのことが好きなんじゃないかと思ったんだ」

「同じ人の夢を見る…………なんだかダストさんらしくないロマンチックさですが……確かにそれは恋かもしれません」

 

 まぁサキュバスサービスでお願いしてんだから見るのは当たり前なんだがな。

 

「それで夢に出てくるという人はどんな人なんですか?」

「そうだな…………とりあえず胸とかは結構大きいな。ルナとかウィズさんよりは小さいけど」

 

 アクアのねーちゃんよりは大きいし、ララティーナお嬢様とだいたい同じくらいか。

 

「いきなり答えるのが胸の大きさとかさすがダストさんですね……」

「後は歳が17歳位で黒髪で赤い目をしてる」

「黒髪で赤い目ってことは紅魔族ですね。見た目はわかりましたけど性格はどんな感じなんですか?」

「生真面目で凶暴」

「……それって一緒に成り立つんですか? まぁ紅魔族は売られた喧嘩は買う主義の人多いですしそういう意味じゃ凶暴なのかもしれませんが」

 

 主義とか関係なく俺の知ってる紅魔族は全員凶暴だけどな。

 

「それでどうだ? 恋だと思うか?」

「これだけの情報で何を判断しろというのかわかりませんが…………とりあえず恋じゃないと思います」

 

 やけに自信満々に言い切るな。

 

「その心は?」

「よくよく考えたらダストさんの話なんですから単なる性欲でしょう」

 

 ………………なるほど。

 

「…………あれ? ここ俺怒らないといけない場面のはずなんだけど何で俺は納得しちまってるんだ?」

 

 何故か怒りの感情は起きず、むしろもやもやしたものが晴れた気分だ。

 

 

 

「……正直ダストさんのそういうチンピラらしい底の浅いところ嫌いじゃありません」

「おう、俺もゆんゆんのそういうぼっちになるのも納得な毒舌嫌いじゃないぜ?」

 

「…………………………」

「…………………………」

 

「『カースド・ライトニング』!」

「いっつもいっつも人をボコボコにしやがって! 今日こそ土の味味合わせてやる!」

 

 晴れた気分を吹き飛ばし、しっかりと怒らせてくれたぼっち娘と、俺はいつものようにつかみ合いの喧嘩を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「――で? 約束してた時間からこんなに遅れちゃったと」

 

 リーンの泊まっている宿の部屋。金を返しに来た俺は、遅れた理由をちゃんと話したのに何故かジト目で見られていた。

 

「そうだよ。あの凶暴ぼっち、クエストの集合には遅れてくるわ、喧嘩売ってくるわで時間を無駄に消費させられたんだ。俺は悪くない」

 

 悪いのは全部ゆんゆんだ。

 

「まぁ、あんたが金返しに来るってだけでも天変地異なんだし、大幅に遅れてきたくらいはいっか。あんたが悪くないかどうかは置いといて」

 

 置いとくなよ。実際今回はそんなに俺は悪くないはずだぞ。

 

「とにかくだ。約束の時間には少しばかり遅れちまったが、借りてた金少しだが返すぜ」

 

 まぁ、俺が悪くないって言ってもこいつが素直に認めるとも思えないし。一応は金を借りてる身だからと言いたいことは飲み込む。

 

「ほいほい……ん、確かに10万エリス返してもらったよ」

 

 金を確認して受取るリーン。

 

「って言っても10万エリスじゃ全体の20分の1しか返せてないからね? ちゃんと残りも返してよ?」

「ケチケチしやがって。元はといえばお前が勝手に俺のヒュドラの討伐報酬をカズマたちにあげたから金を借りるはめになってんじゃねぇか」

 

 2000万という高額の報酬が入っていれば俺は今頃毎日昼夜問わずサキュバスサービスにかよい起きたらナンパを繰り返す日々を送っていただろう。

 

「そのままダストに入っててもすぐ使い込んでなくなってた気がするけどね」

 

 否定はしない。

 

「ま、残りもゆんゆんと高難易度クエストこなしてさっさと返してやるから待っとけよ」

 

 高難易度クエストをこなしていってる内にゆんゆんの俺に対する好感度が上がって友達以上親友未満くらいになれば200万エリスくらいならポンと貸してくれるはずだ。

 

「へー……あんたがまじめにクエストこなしてお金を返してくれるなんて思ってなかったよ。これもあの子のいい影響かな」

「おい、リーン。ゆんゆんはお前が思ってるようなやつじゃないぞ?」

 

 都合のいい勘違いはそのままにしといて都合の悪い勘違いは解いておくことにする。

 

「って言うと?」

「ゆんゆんはまず凶暴だ。こっちが少し下手に出ればすぐに殴りかかってくる」

「……あんたが下手に出ることなんて想像できないんだけど」

 

 金を借りてる相手には少しは優しくしてんだろ。お前含めて。ゆんゆんもクエスト手伝ってくれてるしかなり優しく接してやってるぞ。

 

「次にお前らはゆんゆんを孤高のアークウィザードだとでも思ってるのかもい知れないが、あいつはただのぼっちで友達いないだけだ」

「それは知ってる。……というか仮面の人やあんたがぼっちぼっち言ってるから知ってるんだけど」

 

 ……俺はともかく、旦那は流石に酷いよなぁ……公衆の面前で友達がほしいのかとか大声で言っちまうんだから。

 

「最後にあいつは夢のなかじゃエロい」

 

 17歳のゆんゆんは最高でした。

 

「夢ってなんの話よ。……最後はよく分かんないけど、殴られるのはあんたが悪いだろうし、人付き合いが苦手なのは可哀想だけど別にあの子が悪いってわけじゃないじゃん」

「んだよ、リーンもゆんゆんのこと少しは分かってるじゃないか」

「あの子があんたや仮面の人と付き合い始めてから良くも悪くも今までと違った噂が流れてくるようになったからねぇ…………ま、確かに孤高のアークウィザードって感じじゃないけど悪い子じゃないのは変わらないよ」

「人をいきなり殴ってくるのにか?」

「だからそれはあんたが悪いって」

 

 いや確かに俺が悪い場面もあったかもしれないが……ゆんゆんが短気だった場面も多い気がするんだが……。

 

「前にも言ったが……そんだけ分かってんならリーンがゆんゆんの友達になってやれよ。年も近いんだし」

「確かにあの子とはあんたの被害者同盟ってことで仲良くなれそうな気はするけど……」

「おい、どっちかというと俺はお前らの暴力の被害者なんだが」

 

 街中でぽんぽん魔法ぶつけてきやがって。俺やララティーナお嬢様じゃなけりゃ大惨事だってことこいつらは分かってんだろうか。

 

「寝言は寝て言って。……一回断ってるから今更友達っていうのも言いづらいのよね」

「ああ、あれか…………さすがの俺もドン引きだったしな」

「あれもあんたが悪いんだからね?」

 

 いや、あれだけは絶対俺は悪くない。なんでもかんでも俺のせいにしてんじゃねーぞ。

 

「……でも、ダストのくせになんであの子にはそんなに優しいわけ?…………もしかして好きとか?」

 

 何でもかんでも遠慮なしに言ってくるリーンにしては珍しく、少しだけ聞きづらそうに聞いてくる。

 ……こいつは一体全体何を考えてるんだろうか。()()()のことなんて欠片も好きじゃないくせに。

そもそも、ゆんゆんを好きだとか見当違いにも程が有る。俺があいつに絡んでやってる理由だってこいつはちゃんと知ってんだろうに。

 

「別に打算無しで優しくしてるわけでもないし17歳のゆんゆんならともかく14歳のクソガキを好きになるとかありえないんだがな……」

「17歳のゆんゆんって何よ」

「……ま、そんな打算とか抜きで俺が優しくしてるように見えるんならあいつが一時的とはいえ俺のパーティーメンバーだからだな」

 

 恩がある相手とパーティーメンバーにだけは優しくしようってのが俺のモットー(酷い目にあわせないとは言ってない)だ。

 ちなみにカズマとかバニルの旦那とか、俺が認めた相手には優しくするのはもちろん酷い目にもあわせない。

 ……認めた相手でもパーティーメンバーなら酷い目に合わせてもいいかなぁと思ったり、そのあたりは結構適当ではあるが。

 

「ふーん……ま、確かにあんたってパーティーメンバーを見捨てることだけはしないよね。カズマたちとのパーティー交換で初心者殺しに襲われても一人も見捨てなかったみたいだし。……そうでもなきゃあたしもテイラーもとっくの昔にパーティーから追放してるけど」

 

 …………あのことを思い出させんなよ。どんだけ苦労したと思ってんだ。

 

「後はまぁ……ゆんゆんには今回金を貸してもらったことだしその礼も兼ねて優しくしてんだよ」

「女に借りた金を女に借りて返すとか……クズにもほどがあると思うんだけど」

 

 生ごみを見るような目を俺に向けるリーン。

 ……あ、ゆんゆんが俺が金返すって聞いた時にした微妙な顔はこれが理由か。

 一つ女心を学んだ俺だった。

 

 

 

 

 

 

――ゆんゆん視点――

 

 

「バニルさんバニルさん。ちょっと見通してほしいことあるんですがいいですか?」

 

 ギルドの片隅。相談屋はもうすぐ店じまいなのか、ゆっくりと後片付けをしていると、友達に私は話しかける。

 

「心の中でまで友達言うのをどもるぼっち娘が我輩に相談とは珍しいな。まぁ友達であるからして特別料金の10万エリスで占ってやろう」

「ぼったくりにもほどがありますよ!?……払いますけど」

 

 友達で特別とまで言われたら仕方ない。

 

「(……このぼっち娘は爆裂娘や金髪のチンピラ以外には相変わらずチョロいのだな。……いやあの二人にもなんだかんだで利用されてるあたりチョロいのだが)」

「なにか言いましたか? バニルさん」

「いや、なんでもない。それで我輩に相談というのはそのトカゲの卵のことでよいか?」

「あ、はい。流石バニルさん話が早いです。このドラゴンの卵、このまま育ててたら何ドラゴンになるかなぁと気になりまして」

 

 私の手元にはダストさんから貰った卵。クエストの帰りに盗賊団のアジトに寄ってめぐみんから返してもらってそのままここに来た。

 私がアジトに行った時、卵はイリスちゃんが温めていて、起きてきたセシリーさんが私にも温めさせてと暴れているのをめぐみんが抑えていた。

 ……別に温めさせるだけなら問題ないのだけれど、セシリーさんに温めさせたらそのまま持ち逃げしてどこかに売ってきてしまいそうで怖い。多分めぐみんもそう思ってセシリーさんを抑えてたんだろう。

 クエストの帰りに冗談でセシリーさんをダストさんに紹介するとか言ったけど、実際問題あの二人はお似合いなんじゃないだろうか。自由すぎるというか……根っからの悪人ではないけれど悪人すら呆れさせるような頭の痛い行動ばかりしてるところとかそっくりだ。

 

「ふむ……卵を産んだのはブラックドラゴン、そしてその後魔力与えてるのはアークウィザードの汝か。このまま育てればブラックドラゴンが生まれるであろうな。どこぞの駄女神にでも魔力を与えさせればホワイトドラゴンになる可能性もあるが、アークウィザードである汝は無属性の魔力を与えるゆえ最初のブラックドラゴンの影響で種族は決まるであろう」

「えっと……めぐみんとかイリスちゃん、セシリーさんに長く温めてもらったらどうなるんでしょうか? あ、イリスちゃんとセシリーさんのことバニルさん知ってましたっけ?」

 

 イリスちゃんの名前を出した所でなんだか難しい顔をするバニルさん。

 

「別に見通す力を使えばその程度分かるから良いのだが。……汝は不幸の星の下にでも生まれておるのか?」

「一体全体何を見通しちゃったんですか!?」

「いや……まぁ、気づいてないのならそのままでいい。気づかなければきっと幸せでいれるであろう」

 

 その言い方だと私が何に気づいてないのか凄く気になっちゃうんですけど……。

 

「それで、爆裂娘と自称チリメンドンヤの娘と暴走プリーストが卵を温めた場合であったか。爆裂娘の場合は汝と変わらぬが、後の二人に温めさせればホワイトドラゴンが産まれる可能性が高いであろう」

「そうなんですか。んー……だったらイリスちゃんに温めてもらったほうがいいのかなぁ」

 

 イリスちゃんに温めてもらえばホワイトドラゴンになるって話なら、そうした方がいいのかもしれない。

 

「なんだ、汝はブラックドラゴンが生まれてくるのが嫌なのか?」

「はい。だってブラックドラゴンってなんだか凄く凶暴だって話じゃないですか」

 

 少しだけドラゴンについて調べたけど、ブラックドラゴンはその戦闘力とかは随一だけどその凶暴性凶悪性も随一だとか。

 

「凶暴さなどどこぞの自称駄女神に比べたら可愛いものである。まぁ、汝がホワイトドラゴンにしたいという気持ちも分からぬでもないが…………少なくとも盗賊団のアジトで温めさせるのはやめた方が良いであろう」

「え? 何でですか?」

 

 これからもダストさんとクエスト行かないといけない時はアジトでめぐみんかイリスちゃんに預けようと思ってたんだけど。

 

「我輩の見通す目によると、このままアジトで温めさせているとなんちゃってプリーストがやらかすと出た」

「さ、流石にセシリーさんも仲間のものを売り払ったりはしないですよね……?」

 

 いろいろとやらかす人ではあるけど、悪人ではないことを私は知っている。

 

「悪意はないのだがな…………とにかくやらかしてしまう可能性が恐ろしく高い。…………どんなやらかしをするか聞きたいか?」

「いえ……いいです」

 

 聞いても疲れるだけですし。実際に起きてないことでセシリーさんの評価を下げたくもない。…………というか、なんとなく想像つくし。

 

「まぁ、仮にブラックドラゴンが生まれてくるとしても、あのろくでなしのチンピラに任せればなんとでもなるであろう」

 

 ダストさんに任せたら売り払われそうで怖いんですけど。……というか、なんでダストさん? あの人なんかドラゴンに詳しいんだろうか。全然そんなイメージないんですけど。

 

「ふむ……ブレスに関しては汝の影響を受けているようだな。雷属性のブレスを吐くようだ。これはもう変わるまい」

「雷属性って…………私が関係してるんですか?」

「何を言っている『雷鳴轟く者』よ」

「なんでそれをバニルさんが知って…………って、そういう人でした!」

「悪魔だがな」

 

 にやりと笑うバニルさん。剥ぎ取っていいですかね、その仮面。

 

 

「それとバニルさん、お願いと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

 

 最初は聞きたいことだけだったけど、アジトで温められないとなるとお願いしないといけないこともある。

 

「言っておくが、卵を温めて欲しいというお願いはお断りである。我輩……というより悪魔は神の次にそのトカゲが嫌いゆえ」

「嫌いって……どうしてですか?」

 

 かっこいいのに。

 

「神々との幾度にも渡る戦争…………その決着がつかぬのはそのトカゲの上位種たちが幾度も邪魔してくるからである。神々と我々悪魔両方を相手取ってな」

「神々と悪魔両方を相手にって……上位種のドラゴンってそんなに強いんですか!?」

「キラキラした目で見るななんだかんだで紅魔族の血が流れている娘よ。上位種のトカゲ自体は今の我輩と同格かそれより落ちる程度であるし、地獄であれば我輩の方が断然強い。数も多いわけでないゆえ我々悪魔だけでも本来であれば十分対応できる。……我輩よりも長く生きているという龍帝ともなれば創造神や悪魔王をつれてこないと無理だろうが……そもそも今まで創造神や悪魔王が戦争に出た記録はないし龍帝もそういう存在がいるという噂だけだ。そうなるのは『聖戦』……神と悪魔の最終戦争が起きる時だけだろう」

 

 『聖戦』かぁ……私には想像もつかない戦いだけど、この子は大きくなったらそれに関われるくらい強くなるのかな?

 

「なんだか凄い壮大ですね。……でも、上位ドラゴンよりバニルさんたちのほうが強くて、ドラゴンの数も多くないのにどうして両方の勢力を相手取れるんですか?」

「それはだな、トカゲ共は卑怯にも人間を連れて我々の戦争を邪魔しに来るのだ」

「人間って…………流石にそんな人知を超えた戦争に人を連れて行っても役に立たないんじゃ……」

 

 勇者とか言われる人でもバニルさんに勝てる所は思い浮かばない。目の前にいるバニルさんでさえそうなのに、地獄にいるバニルさん本体に戦える人間なんて想像もつかない。

 

「そうか。汝はまだ知らぬか。ならば覚えておくがよい。『ドラゴン使い』そしてその上級職である『ドラゴンナイト』はトカゲ共の力を何倍にも高める。ドラゴン使いとともに戦う上位種のトカゲは文字通り最強だ」

「『ドラゴンナイト』? ドラゴンナイトってあのドラゴンナイトですか?」

 

 めぐみんたちがエルロードに行く前に探した、元貴族で凄腕の槍使いさんの職業で、イリスちゃん曰く超レア職業のドラゴンナイトなんだろうか。

 

「少なくとも他のドラゴンナイトを我輩は知らぬ。人の身でありながらトカゲを最強の存在へと昇華させ、自らもトカゲの力を宿しトカゲとともに戦う……上位種のトカゲと契約できるのであれば間違いなく最強の職業、それが『ドラゴンナイト』である」

 

 どういう職業かはイリスちゃんの話だけではよく分からなかったけど、バニルさんの話を聞く限り神魔の戦争を左右するくらい凄い職業らしい。

 そんな超レア職業に最年少でなって、その上隣国でも1番の槍の使い手って…………私達が探していた人は本当に凄い人だったみたいだ。もし見つけても流石に仲間になってもらうのは無理だったろうなぁ……。

 

「ところでバニルさん。なんだか凄そうな話なのに、バニルさんがトカゲトカゲ言ってるんで凄さがいまいち実感できないんですけど」

 

 やっぱりドラゴンって言って欲しい。

 

「そんなこと我輩に言われても……嫌いなものは嫌いなのだから仕方あるまい。あの自称駄女神とでさえドラゴン嫌いについては喧嘩しながら一晩語り合っても良いくらいだ」

 

 どんだけ嫌いなんですか。……というかアクアさんは自称女神ですけど、別に自分で駄女神とは自称してませんからね?

 

「……って、あれ? もしかしてアクアさんもドラゴン嫌いなんですか?」

 

 語り合ってもいいって。

 

「嫌い……というよりは、怖がっておると言ったほうが正しいやも知れぬがな。大戦を経験しておる悪魔や神々であればドラゴン使いとともにいる上位ドラゴンの強さはトラウマとして植え付けられておるゆえ」

「そうなんですか……」

 

 …………ん? あれ? なんだかバニルさんの話だとアクアさんが本当に女神だと言ってるような…………。

 いや…………流石にそれはないよね。何かの言い間違いか私の勘違いに決まってる。

 

 

「とにかくそのトカゲの卵は貧乏店主にでも温めさせるがいい。どうせ客の来ない店で暇してるか余計なことして借金増やしてるかのどっちかだ」

「まぁ、そういう理由なら仕方ないですね。ウィズさんに頼みます。それと聞きたいことなんですが……」

 

 私が盗賊団やダストさんとクエストに行くときはウィズさんにお願いすることにして、私はもう一つの話題へと移す。

 

「ふむ、何故あのろくでもない人でなしの穀潰しでどうしようもないチンピラゴミクズ冒険者がトカゲの卵などという高価で貴重なものを自分にくれたのか聞きたいのか」

「いえ……そこまで酷くは…………ありますけど。確かに聞きたいことはそれです」

 

 お金がないないと人にお酒をせびってくるダストさんがなぜ一つ数千万以上するドラゴンの卵をタダでくれたりしたのか。……クエストを手伝わされているが、どう考えてもその価値に見合った労力とは思えない。

 

「実はあのチンピラに相談を受けてな。『ゆんゆんが引きこもってるからどうにかして元気させたい』と。それで我輩はトカゲの卵をプレゼントしてやるといいと言ってやったのだ。そしたらあの男は世界最大のダンジョンに乗り込み見事トカゲの卵を手に入れてきた。……その後は汝の知っての通りである」

「そんな……この卵がそんなに苦労して手に入れたものだったなんて…………私なら普通の犬とか猫とか植物でよかったのに…………」

 

 こんなに高価なものを私のために苦労して手に入れてくれるなんて…………私はもしかしたらダストさんのことを勘違いしてたかもしれない。ダストさんの『親友』という言葉には嘘はなく本当に私のことを大切に思って――

 

「まぁ、実際プレゼントするのは何でも良かったのだが、あの男はトカゲの卵以外は全て汝にプレゼントする前に売っぱらってしまうのでな。理由があって売れないトカゲの卵しかプレゼントできるものがなかったのだ」

 

 ――るはずはないらしい。やっぱりダストさんはどうしようもないろくでなしのチンピラだ。

 

「極上の悪感情大変美味である。汝ら二人と一緒にいれば何もしなくても悪感情が味わえてありがたい」

 

 …………友達はやっぱり選んだほうがいいかもしれない

 



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第6話:この健気な娘に友達を!

――ゆんゆん視点――

 

 

「そういや、ゆんゆん。少し聞いていいか?」

「はい? マンティコアとの一騎打ちで疲れてるんで明日にでもして欲しいんですが…………ダストさんは後ろで応援してただけだから元気が有り余ってるでしょうけど」

 

 クエストを終えた帰り道、ギルドまであと少しという所。後ろを歩くダストさんの言葉に私はそう返す。

 グリフォンとの一騎打ちよりかはマシだったけど、マンティコアもグリフォンに近い力を持った魔獣だ。解毒ポーションを用意してるとは言えマンティコアの毒を食らうのは危ないし、体力や魔力的にはそこまで消耗してないけど精神的には結構疲れてしまった。

 ……ダストさんが盾役ちゃんとしてくれたら結構楽だったと思うんだけどなぁ。この人下級職の戦士だって言ってサボってるけど、タゲ取りして私の詠唱の時間稼ぐくらいは余裕な気がする。このチンピラさんは避けるのが無駄に上手いから私も喧嘩の時に魔法とか当てるの苦労するし。

 

「……悪かったよ。今日は俺の奢りでギルドで飯食っていこう」

 

 そんな私の考えてることが顔に出てたんだろうか。ダストさんはなんだかバツの悪いような感じでそう言う。

 ……一体全体何を考えてるんんだろう? これくらいのことで悪かったとか思うような殊勝な人じゃないと思うんだけど。

 また何かろくでもないことを考えてて私が不機嫌だと都合が悪いとかそんな感じかな。

 

「私が一人で頑張ったクエストの報酬で奢られてもお得感皆無なんですが…………ダストさんが奢ってくれるなんて天変地異の前触れとしか思えないですし」

「…………とりあえず報酬をルナから受け取ってくるから先に座っといてくれ」

 

 ちょうどついたギルドの入り口。私の警戒した言葉に苦虫を踏み潰したような顔をしたダストさんは、そう言って中へと入っていく。

 

「…………本当に何を考えてるのかな?」

 

 なんだかダストさんらしくないなぁと思いながら。その様子が少しだけ気になった私は素直にその言葉に従うことにした。

 

 

 

 

「それでダストさん。聞きたいことってなんですか?」

 

 一通り飯の注文を終えた所で私は話を切り出す。

 

「ああ、別に大したことじゃねぇんだが、あのドラゴンの卵がどうなってるかと思ってな。様子とか名前を決めたかどうかとか聞きたくてよ」

「え? それが聞きたかっただけなんですか?」

「だとしたらなんだよ」

「いえ……別にだからどうという話はないですけど」

 

 ……てっきりまたお金なくて貸してほしいとかそんな話だと思ったんだけど。このチンピラさんが下手に出るのってだいたいお金と女性が絡んだときだけだし。

 

「様子なら昨日バニルさんに見てもらいましたよ。今の調子だと雷属性のブレスを使うブラックドラゴンが産まれるみたいです」

 

 とりあえず盗賊団の集まりやダストさんに付き合わないといけない時はウィズさんが。それ以外の時は私が卵を温めるという話になった。その場合だとまず間違いなくブラックドラゴンが産まれるというのがバニルさんの話だった。

 

「ブラックドラゴンか…………。なぁ、ゆんゆん。生まれそうってなった時は俺を呼べよ?」

「えー……ダストさん生まれたドラゴンの子を奪って売り払ったりしそうなんですけど……」

 

 まぁ、売り払うなら幼竜よりも卵の時のほうが高いみたいだから本当にそうするとは思わないんだけど。

 ただ、なんていうか理屈ではしないと分かってても感情的には全く信じられない。…………根っからの悪人ではないって分かってはいるんだけど、だからなんだというくらいには碌な目に合わされてないし。例外は本当に卵のことくらいだ。

 

「…………まぁ、どうなってもいいというなら知らねぇが」

「ふふっ……嘘ですよ嘘。そんなにふてくされた顔しないでください。一応ダストさんからプレゼントされたものですからそんな礼知らずなことはしません」

 

 まぁ、だからこそその例外のことに関してだけは少しだけ譲歩してもいいのかなって気持ちはある。この人に甘い態度をとってもつけあがるだけなのは分かっているけど。

 ……私の言葉にちょっとだけ残念そうな顔をしたダストさんを見ると、そんな気持ちが強くなってしまった。

 

「……ふてくされてなんかねぇよ」

「やっぱりふてくされてるじゃないですか。……あ、後一応ドラゴンの子の名前は決めてますよ。バニルさんにドラゴンの話を聞いてて閃いたんです。もしかしてダストさんもドラゴンに名前つけたかったんですか?」

 

 ちなみにめぐみんはまだ名付け親になるのを諦めていないらしい。決めたと言っても諦めないって本当どうなんだろう。

 

「いや……ちゃんと考えてるならそれでいい。ドラゴンの名前は人と違って変えられない。その名前で何百何千という時を過ごすんだ。変な名前つけられたら可哀想だからな」

「…………もしかしてダストさんってドラゴンについて詳しいんですか?」

 

 今の口ぶりといい、昨日のバニルさんの話で出てきたことといい。なんだかそんな雰囲気がある。

 

「別に詳しくはねぇよ。これくらいは常識だし。ま、年の功だ。クソガキよりはいろいろ知ってるかもな」

「それじゃ、ドラゴン使いとかドラゴンナイトって知ってますか?」

「………………それくらい誰でも知ってるだろう。……っと、そうか。この国には紅魔族がいるからお抱えはいねぇのか」

「知ってるんですね。バニルさんとの話の中で気になったんですけど上位種のドラゴンは魔王軍の幹部クラスなんですよね? それでドラゴン使いはその力を何倍にも強化する。……そんな人達がいるならなんで魔王軍に攻められる現状はないと思うんですけど」

 

 今現在魔王軍と正面切って戦っているのはこのベルゼルグの国だけだ。それは国境が魔王軍の領地と接しているのがこの国だけという理由はもちろん、魔王軍と真正面から戦えるような精強な騎士や冒険者がこの国にしか揃っていないからだと聞いている。他の国は物資や精鋭を送ることでその支援をしているという話だけど、バニルさんの話が本当なら上位ドラゴンをつれたドラゴン使いの人たちが送られてきていれば戦況が膠着している今はないと思う。

 

「ま、実際そうだな。……いや、そうだった、が正しいか」

「どういうことですか?」

「ゆんゆんの言った通りだ。上位ドラゴンを連れたドラゴン使いなら魔王軍の幹部相手にも優位に戦える。上位ドラゴンと契約できるようなドラゴン使いは少ないが、それでも各国のドラゴン使いが集まってベルゼルグに協力してれば魔王軍と戦えばとっくの昔に戦いは終わってただろうよ」

「……実際はそうならなかったんですね」

 

 この国ではドラゴン使いやドラゴンナイトという職業の人を見たことがない。いないということはないんだろうけど本当に数えるくらいなんだろう。

 

「ドラゴン使いは国の最高戦力だ。それこそ上位種をつれたドラゴン使いともなればその一組だけでその国の半分以上の戦力を意味する。……それが失われるのを恐れた王族や貴族は温存したのさ。魔王軍を倒した後……国同士の戦争を見越して」

「でも、最初はそうだったにしてもこれだけ魔王軍に攻められてるなら国も改心するんじゃないですか?」

 

 そういう理由で戦力を出し惜しみするのは納得はできなくても理解は出来る。でもつい最近まで魔王軍に押されていた状況でも出し惜しみていたのはどういうことなんだろう。この国が落ちれば他の国も危ないだろうに。ドラゴンとドラゴン使いがどんなに強くても国という広大な範囲を全て守りきるのは出来ないのだから。

 

「はっ、ねえよ。王族や貴族ってのはどいつもこいつも糞ばっかりだ。この国はララティーナみてーな貴族もいるし、あったことはねーが王族は割りと好感持てる。だが他の国はひでぇもんだぜ。最悪民はどうなろうと自分たちさえ助かればそれでいいって奴らばっかりだからな。それに改心したとしてももう手遅れだ。そんな国に呆れ果てた頭のいい上位種のドラゴンたちはみんないなくなっちまった。ドラゴン使いとの契約を破棄しいなくなったやつ、ドラゴン使いとともにいなくなったやつ…………今じゃどの国にも上位ドラゴンはいねぇ。ドラゴン使いこそ変わらずお抱えしてるがそれと契約してるドラゴンは良くて中位種、下位種のドラゴンがほとんどだぜ」

 

 そう言えばめぐみんのエルロードの土産話だと、あの国は王族貴族がギャンブルに遊び呆けて財政破綻寸前だったんだっけ。それを魔王軍のスパイが立て直してあげていたそうとか。

 …………うん、ダストさんの言ってる意味とは違うんだろうけど、他の国の王族や貴族がろくでもないだろうなっていうのは想像がつく。一応エルロードの王子様は改心したという話だけどその前は魔王軍と取引しようとしていたみたいだし。

 

「でも、お抱えってそういう意味なんですね。それでこの国には紅魔の里があるからドラゴン使いのお抱えはいないと」

「あの里は色んな意味で頭おかしいからな……中位種と契約したドラゴン使い分隊と同じくらいの戦力はある。単純なステータスだけでみれば魔王軍幹部8人を同時に相手してもお釣りが出る計算だ。…………ほんとに人間なの? お前ら」

「これでも紅魔族なんで売られた喧嘩は買ってもいいんですからね?……けど、ドラゴンとドラゴン使いのコンビがそんなに強いならなんでこの国はドラゴン使いをお抱えしないんですかね? 紅魔族や『チート持ち』って言われる人たちがいるから必要には迫られてないのかもしれませんけど」

 

 戦力はいくらあってもいいと思うんだけど。他の国から派遣してもらえないならベルゼルグの国自身がドラゴン使いをお抱えするってことはないんだろうか。

 

「そのあたりはまぁこの国にはもともとドラゴンがいなくてドラゴン使いもいなかったってのが一番の理由だな。ベルゼルグの元は遠い昔の勇者が作った国らしいし」

「? まぁ、そうですね。その後比較的穏やかに周辺の村や里を吸収して領土を増やしていったって話ですけど」

 

 なお比較的穏やかな領土拡大だけれど、その方法はその村や里が困ってる魔物や敵対国を武力で排除することで取引として行ったというのがイリスちゃんから聞いた話。…………この国の王族ちょっと武闘派すぎませんかね。実際それだけ強い王族が率いる国に庇護されるのは魅力的ではあるんだろうけど。

 

「で、そこで問題なんだが、ドラゴン使いがそもそもレアな職業だってのは知ってるか?」

「ドラゴンナイトが超レアな職業だってのは聞いていますけど……ドラゴン使いもそうなんですか?」

 

 まぁ、簡単になれるんだったらもう少しこの国でも知られて良さそうではあるけど。

 

「ドラゴン使いもプリーストと同じでステータスがあっても適正がなきゃなれないクラスだからな。ぶっちゃけドラゴン使いの適正持ってるやつはプリーストの適正持ってるやつの10分の1くらいだ。ドラゴンナイトはその適正持ってる上でソードマスター、クルセイダー、アークウィザード、アークプリーストになれるだけの高いステータスが必要だから超レア職業だって言われてるんだ」

 

 ……上級職4つを極めたら勇者になれるとか里の言い伝えにあるんですけど、ドラゴンナイトは勇者の職業なんですかね?

 

「とりあえず、ドラゴン使いとドラゴンナイトが凄い珍しい職業なのはわかりました。でも、それだけなら少ないだけでもう少しいてもいいと思うんですけど」

 

 ドラゴンナイトは難しいかもしれないけどドラゴン使いはいても良さそうな気がする。

 

「そうだな。なりにくい職業ってだけならもっとドラゴン使いはいただろうさ。…………1番の問題はドラゴン使いはドラゴンいなけりゃただの一般人と変わらねーとこなんだよ」

「………………えー」

 

 なんだろう、ここまで散々凄そうな感じだったのに、そう言われると凄い残念な職業に思えてくる。

 

「ただでさえドラゴン使いになれるやつは少ないのに、ドラゴンいなけりゃ意味のない職業。しかもドラゴンは買うとしたら恐ろしく高い値段になる。…………貴族が運良くドラゴン使いの適正持ってりゃなろうかなって感じのクラスなんだよドラゴン使いってのは」

 

 ……まぁ、普通の冒険者にはドラゴンなんて買えませんよね。

 

「でも、だったら国がドラゴンを買って上げてドラゴン使いになりたい人に支給してあげればいいんじゃないでしょうか?」

「まぁ、実際ドラゴン使いが憧れの職業として知られてる国じゃそういう制度があるな。ドラゴン使いやドラゴンナイトには資格を与えて、その資格に見合った国の保有するドラゴンと契約の機会を与える」

「じゃあ、この国もそういう制度を作ればいいんじゃないですか?」

 

 既にある制度なら真似すればいいのに。

 

「この国の財政事情なんて俺は知らねーけどよ。多分そうするだけの金がねーんじゃないか?」

「…………なんでしょう、なんだか凄くロマンのない話になってしまった気がします」

 

 ドラゴンナイトのくだりはなんだか興奮したんだけどなぁ。

 

「……そうだ。ダストさんはこの街に最年少でドラゴンナイトになった凄腕の槍使いの方がいるって噂を知ってますか?」

 

 どうやらダストさんはドラゴンやドラゴン使いのことについて私よりも詳しいみたいだし。なんだかんだで顔の広い人だから知ってそうな気がする。

 イリスちゃんは多分他の街に行ったと思ってるみたいだし、めぐみんもあんまり乗り気じゃない。私もイリスちゃんと同じような感じではあるんだけど…………それでも、こうして聞いてしまうくらいにはあの話はロマンチックだった。ドラゴンナイトという職業がどれだけなるのが困難なものか知ってその気持ちは更に強くなっている。

 

「俺は――」

 

「――大変よ! 大変なのよ! 大事件なの!」

 

 私とダストさんが話してる横を見覚えのある青い髪が通り過ぎ、その髪の持ち主はお仕事終了時間間際のルナさんの机を叩いてそう叫ぶ。

 

「お、落ち着いてくださいアクアさん。一体全体どうしたんですか?」

「これが落ち着いてられるもんですか! ゼル帝が攫われたのよ!」

 

 その瞬間、少しだけ緊張が走っていたギルドに元の空気が流れた。『ああ、なんだあのひよこか』と。

 ……アクアさんあのひよこを本当に溺愛してるからなぁ。

 

「緊急クエストよ! 緊急クエストを出してちょうだい!」

「は、はぁ……まぁクエストを出すのはいいですけど…………アクアさんでも駄目な相手なんですか? それとクエストを出すとしたら報酬はいくらいくらい出せますか?」

「あいつら変な道具でジャイアントトードを操ってるのよ。あのカエル相手じゃ手も足も出なくて…………それと、報酬はその…………5000エリスくらいでおねがいします」

 

 人間相手の奪還クエストで5000エリスかぁ…………普通にジャイアントトードを買い取って貰ったほうが儲かりそう。

 

「一応その条件でクエスト出すのはいいですが…………サトウカズマさんにお願いして報酬金をもっと用意しないと誰も受けないと思いますよ?」

「そんな暇ないわよ! ジャイアントトードと一緒だから移動速度は遅いけどカズマさん説得してたら流石に逃げられちゃう!」

「そうかもしれませんが……現状ここでやれることはありませんし、頼んでみたらどうですか?」

「うぅ……分かった」

 

 ルナさんの言葉におちこみながらアクアさんはギルドを急いで出て行く。…………どうしよう? 私が受けてこようかな?

 

「あれ? ダストさん、いきなり立ってどうしたんですか? お手洗いですか?」

 

 そんなことを思ってたら、私よりも先にダストさんが立ち上がる。

 

「ゆんゆん。俺はちょっと行ってくるから。……帰っててもいいが、できればちょっとだけ待っててくれるか? すぐ帰るから」

「は、はぁ……まぁ一人遊びは得意ですから別にいいですけど……どこに行くんですか?」

「緊急クエストだよ」

 

 ……緊急クエスト?

 

「え!? あのアクアさんのクエストをダストさんが受けるんですか!?」

「…………だったらなんだよ?」

 

 ジト目をしてダストさん。

 

「また何か悪いものでも食べたんですか? ダメですよお金がないからって道に落ちてるものを食べちゃ」

「お前帰ってきたらマジで覚えとけよ。そのエロい服ひん剥いてやるからな」

 

 ……よかった。いつものチンピラさんなのは変わらないらしい。ダストさんがまともだとなんだか落ち着きませんからね。

 

「ダストさんがあのクエストを受けるというのは謎すぎるんですけど、そういう話だったら私もクエスト手伝いますよ」

 

 アクアさんが困っているなら助けてあげたいし。

 

「いや…………俺一人で十分だろうからお前はここで待ってろ」

「……え? いつも私にクエストの戦い任せっぱなしのダストさんが一体何を言ってるんですか?」

 

 やっぱりこの人なにか悪いものを食べたんじゃ……。

 

「俺も本当はそうしてーんだが…………いいから、待っとけよ。一人遊びは得意なんだろ」

 

 そう言うダストさんはガシガシと頭を掻いていて、なんだか言いたいことが言えなくてもどかしい……そんな様子だった。

 

「まぁ、そこまで言うならおとなしく待っておきますけど。……えっと、頑張ってきてください?」

「おうよ。……疑問系じゃなければ完璧な見送りありがとよ」

 

 …………やっぱり今日のダストさんはなんだか変だなぁ。

 ルナさんの元へ向かうダストさんの背中を見つめながら私はそんなことを思っていた。

 

 

 

――ダスト視点――

 

 

「てわけでルナ。その緊急クエスト受けるからよこせ」

 

 クエスト板に緊急クエストと手描きで書かれた紙を貼ろうとしていたルナに俺は手を出す。

 

「…………なにか悪いものでも食べましたか? ダストさん」

「どいつもこいつも俺を何だと思ってんだよ! いいから胸揉まれたくなければさっさと寄越せ」

 

 ゆんゆんといいルナといい。そんなに俺が金にならないクエスト受けるのがおかしいのかよ。

 …………自分でもおかしいと思うけど。

 

「誰も受けないようなクエストですから特に断る理由はないからいいんですが…………似合いませんよ?」

「大きなお世話だ。……一応、アクアのねーちゃんは俺の命の恩人だ。困ってんなら助けねーと俺のモットーに反するんだよ」

 

 ひよこをドラゴンだって言い張ってるのに思うところはあるが、あのひよこをアクアのねーちゃんが大事にしてるのには変わりない。

 ただでさえ俺はそういう話にだけは弱いってのに、それが命の恩人が大事にしてるペットだって言うなら助けるしかねーだろ。

 

「そのモットーかなりガバガバですよね。――はい、クエストの受注処理完了しました。冒険者『ダスト』さん、ご武運をお祈りいたします」

 

 ルナの社交辞令な応援の言葉を受けて、俺はギルドを出てアクアのねーちゃんの報告があった場所へと向かった。

 

 

 

 

――サイドA:ゆんゆん視点――

 

 

「ダストさん、本当にどうしたのかな?」

 

 アクアさんの緊急クエストを受けるだけでもおかしいのに、一人でいこうとするなんて。いつもなら私が行きたくないと言っても無理やり連れて行こうとするのに。

 

「……本当に悪いものでも食べたんじゃないかなぁ」

 

 目の前に広がる美味しそうな料理を前にしながら私はそんなことを呟く。

 そう疑ってしまうくらいには今日のダストさんは色々とおかしかった。

 

「…………一人で料理に手を付けるのもなんだかさみs……もとい申し訳ないんですよね」

 

 本当に珍しく、あのダストさんが奢ってくれると……一緒にご飯を食べようと言ってくれた。それなりに交友のある相手に奢ってもらいごはんを一緒に食べるというのは私にとってうれs……もといほんのちょっとだけ楽しみだった。…………いやいや、別に楽しみでもないけど。相手に不満がありまくるけど。

 

「……どうしたの? えーと……ゆんゆんだっけ? いきなり頭を振り回したりして」

「べ、別に自分が流石にちょろすぎるとか思ってなんかないですよ!?」

 

 いきなり声をかけられたことにびっくりした私は言わなくてもいいことを口走ってしまう。

 

「って、え? リーンさん? 私に話しかけてくれたんですか?」

「そ、そうだけど…………話しかけちゃまずかった? なんだか悩んでるみたいだったし」

 

 ……傍から見たら私って独り言喋って頭をブンブン振り回してたおかしな女だったんじゃないだろうか?…………リーンさんに話しかけてもらえてよかった。あのままだったら私はめぐみん並に頭のおかしい紅魔族として有名になっていたかもしれない。

 

「ありがとうございます……リーンさん。リーンさんのお陰で私は救われました」

「ごめん、ちょっと何言ってるかわからない」

 

 ごめんなさい。恥ずかしすぎてちょっと混乱してます。

 

「……けど、あたしの名前覚えててくれたんだ。一度しか話したことないよね? それにしてもほとんど話してないのに」

「リーンさんのことならよくダストさんに話を聞いてますし………………わりと衝撃的だったので」

 

 ゆんゆんと友達になってくれ→え? やだよ、何言ってんの? のコンボは正直きつかったです。

 

「…………ごめん」

「い、いえ! いいんですよ! 私だってダストさんの紹介で友達になれって言われたら警戒しますし! それより、リーンさんもよく私の名前覚えてくれてましたね。すごく嬉しいです」

「ああ、まぁ最近のダストの話はゆんゆんのことばっかりだしね。……ゆんゆんが金貸してくれたらお前に金返せるだの、ゆんゆんは凶暴だの、ゆんゆんはぼっちだの…………ほんとそんな話ばっかだよ」

 

 今度ボコボコにしてもいいですかね。

 

「それよか、ゆんゆんってたくさん食べる系なの? なんか二人分くらい並んでるけど」

「あ、実は――」

 

 私はリーンさんに珍しくダストさんが奢ってくれると言って一緒に食べるところだったこと、そしてダストさんは食べる前に一人でアクアさんのクエストに行ったことを説明する。

 

「ふーん……てことは、もしかしてゆんゆん、ダストが帰ってくるの待ってるの?」

「えと……その…………まぁ、一応」

「健気だねぇ…………じゃあさ、ダストが帰ってくるまで少し話しない?」

 

 ダストさんが座るはずだったはずの場所にリーンさんが座ってそう言う。

 

「あ、はい。私なんかで良ければ」

「そ、よかった」

 

 そう言って可愛く微笑むリーンさん。

 

(可愛い人だなぁ…………でも私よりはやっぱり『大人』って感じがする…………)

 

 年はそう変わらないと聞いているけど、確かにこの人と比べたら私は『クソガキ』かもしれない。……って、あ。

 

「ん? どしたの? あ、もしかしてこれゆんゆんが食べる予定だった?」

「い、いえ、私の注文したのはこっち側なんで大丈夫です」

「そっか。なら良かった」

 

 …………ダストさんの食べる予定だった料理だけど、きっとそういうことが許される仲なんだろう。

 

「なにか聞きたいことでもあるの?」

 

 マジマジと見てしまっていたのかリーンさんがそう聞いてくる。

 

「あ、いえ…………そ、そうだ。どうしてダストさんはアクアさんのクエストを受けたのかなって」

「あー……まぁダストは一度アクアさんに助けられてるからね。ほんとに意外だけどダストってそういう恩は忘れないのよ」

「意外すぎて信じられないんですが…………」

「気持ちは分かる。でも実際あれで自分が受けた恩は返そうとする奴ではあるのよ。金貸してたらちょっとだけ優しくなるし。…………ほんとちょっとだけだけど」

 

 話を進めながらもリーンさんはダストさんの頼んだ料理をどんどん平らげていく。…………いいのかなぁ。

 

「……ほんと、ゆんゆんって優しい子だね。あんなダメ男待ってるなんて。食べててもいいんだよ? あいつって口では文句言っても実際は気にしてないし」

「あ、いえ……その……」

 

 言い返そうにも言葉がでない。いや、出なくて正解か。もしも言葉が出てもそれはきっと言い訳にしかならなかっただろうから。

 

 

 

 

「…………うん。この子ならあのバカの言葉関係なく、なってもいいかな」

 

 何かに納得したのだろうか。柔らかい笑みを浮かべたリーンさんが一つ頷き続ける。

 

 

「ねぇ、ゆんゆん。あたしと友達になろっか」

 

 

「はい。……………………はい!?」

「? どったのゆんゆん。そんなに驚いて」

「だ、だだ…だって! と、友達って……!?」

「うん。友達になろうって言ったんだけど。…………とりあえず深呼吸でもして落ち着きなよ」

 

 え? 本当に? 私の聞き間違いじゃないの?

 そんなことを考えながら、すぅはぁと何度も深呼吸してから私は口を開く。

 

「なんで私なんかと……」

「なんでって…………じっくり話してみたらゆんゆんがいい子だったからだけど」

「いい子だなんてそんな…………私なんて里では変わり者扱いでしたし…………良くて普通だと思うんですけど」

 

 めぐみんとかと比べれば確かにいい子な自信はあるけど……それはあくまで相対的でしかないと思う。

 

「んー……本当に聞いてた通りの子だなぁ。……ん、やっぱりあたしは友達になりたいな。ゆんゆんが嫌だって言うなら諦めるけどさ」

「そ、そんなわけありません! 私もリーンさんとと、友達になりたいです!」

「そっか……なら良かった。それじゃ、今からあたしとゆんゆんは友達ってことで」

 

 こくこくとリーンさんの言葉に私は強く頷く。

 …………これ夢じゃないですよね?

 

 

 

 

「それじゃ、あたしはそろそろ帰ろっかな。もう少しゆんゆんと話したい気もするけど……それはいつでもできるしね」

 

 ごちそうさまと綺麗にダストさんが頼んだ料理を平らげたリーンさんはそう言って席を立つ。

 

「あ、はい。リーンさん、話し相手になってもらってありがとうございました」

「ううん、こっちこそ。…………今度は一緒にご飯食べようね」

 

 そう言って手を振りギルドを出ていくリーンさんを私も手を振って見送る。

 

「『今度は』……か。えへへ…………」

 

 その言葉の意味に頭を溶かされた私は自分でも顔が緩みきってるのが分かった。

 

 

 

 

 

――サイドB――

 

「……あれだな」

 

 くすんだ金髪を持つチンピラ――周りからはダストと呼ばれている青年――は得物の長剣に手をかけて呟く。

 クエストの目標、自称女神が大事にしているひよこを盗んだ集団が、ジャイアントトードを引き連れて街道から外れた場所をゆっくりと移動していた。

 

(相変わらずバニルの旦那の占いは正確だな。……んじゃ、行くか)

 

 頭のなかで手順を確認しながら目標へと迫る。手順と言っても策と呼べるものは何もない。今のダストに遠距離攻撃手段はないし、気配を消す手段もない。夜に紛れて奇襲する……突撃するだけだ。

 

「まずは一匹」

 

 集団の1番外側を跳ねて歩くジャイアントトードの後ろ足の筋を切る。その動きが止まったのを確認した瞬間に次の目標へとダストは動いていた。

 

「て、敵襲だ!」

 

 ダストの存在に気づいた男が叫び、その動きを止めようと武器を構えながらその前へと出る。

 

「準備も終わってないのに前に出てくんじゃねーよアホ」

 

 ダストは男の存在に足を止めることなく、勢いそのままに男の顔を殴って横を駆け抜ける。

 

「2匹目」

 

 駆け抜けた先、目標である2匹目のジャイアントトードを1匹目と同じように無力化したダストは少しだけ状況を確認する。

 

(まだ、俺の存在に混乱してるな。今のうちにカエルを全部やっとかねぇと)

 

 駆け出し冒険者のカモとして知らられるジャイアントトードだが、それは対策さえしていれば危険がほぼないからだ。ジャイアントトードは基本的に鎧など堅いものを着込んでいれば飲み込もうとしない。だから駆け出しであってもジャイアントトード相手なら一方的に攻撃することが出来る。

 ダストも軽鎧ではあるが着ているため、本来であればジャイアントトードに飲み込まれることはほぼないが、今回のジャイアントトードは変な魔道具で操られているということだった。したがって鎧を着込んでいても飲み込まれる可能性は十分以上にあり、複数のジャイアントトードに囲まれた時の厄介さは前にゆんゆんが証明している。

 

「てめぇ! 俺らが天下に轟く『八咫烏』だって――」

「――知らねーよ。そんな名前」

 

 『八咫烏』だと名乗った男をさっきと同じように殴り飛ばしたダストは、またジャイアントトードを無力化するために動き出した。

 

 

 

 

 

 

「良くもやってくれたな…………ジャイアントトードをやったことといい俺らを殴ったことといい……高く付くぞ」

 

 八咫烏の男。この集団のリーダーは後ろにメンバーを並べてダストに相対する。そのメンバーの半数くらいはダストに殴られた跡か、顔が腫れたり青くなってるのが月明かりの中でも見えた。

 

「別にジャイアントトードは殺してねーぞ。生きてるから治療したらまた戦えるだろうよ」

「治療? なんでそんな面倒なことをするんだ。この魔道具があればカエルどもはいくらでも言うことを聞かせられる。手間だが治療するよりも安く済むし簡単だ」

 

 石のようにも見える怪しげな光を放つ魔道具をダストに見せつけながら、八咫烏のリーダーは侮蔑の笑みを浮かべて言う。

 

「あー…………やっぱ殺さないで正解だったのか」

「? 何を言っている。俺の話を聞いていなかったのか? 俺たちの報復を恐れて殺さなかったんだろうが、そんなことよりも殴ったことを後悔するんだな」

「てめーらみたいな奴らに操られて死ぬなんて可哀想すぎるからな。本当殺さなくてよかったぜ」

 

 これが魔獣使いの操る魔獣であれば、ダストは必要なら殺したかもしれない。けれど、今回の相手は魔獣使いではなく、魔道具でジャイアントトードを操っているという話だった。それを聞いた時から、ダストはジャイアントトードを殺さないと決めていた。……この集団が恐らくは自分が最も嫌う手合だと想像していたから。

 

「いいこと教えてやるよ。俺はお前らみたいな自分のために戦ってくれるやつを道具扱いする奴らが貴族と同じくらい嫌いなんだよ」

「ちっ……正義の味方気取りか。お前ら相手は一人だ! やっちまえ! 警備屋の本領を見せてやるぞ!」

「正義の味方ねぇ…………俺には似合わねーことこの上ないな」

 

 自嘲気味に笑って、ダストは迫りくる八咫烏の男たちに長剣で応じた。

 

 

 

 一閃。ダストの剣撃に腹を切られて八咫烏の男が一人倒れる。致命傷ではないが、治療をするまではまともに動けないだろう。

 だが、それと同時にダストの身体のあちこちに無数の刃物傷ができる。

 

(……やっぱり、意地はらねーでゆんゆんでも連れてくるんだったか)

 

 そうすればどっかのまな板がうるさいだろうと思いながらも、ダストはそう考える。命には代えられないと。

 

 すでに八咫烏の半数はダストの手によって倒されている。けれどダストの身体にも数え切れないほどの矢傷や切り傷が出来ている。致命傷となる傷は一つもないが、致命傷でないだけで放置すれば危ないような傷は多々見られた。

 

(ちくしょう……目が霞んできやがる……)

 

 痛みと血を流した影響か。ダストの視界が光に関係なく点滅する。それでも、迫ってくる敵の剣から目をそらすことはなく、返しの刃でまた八咫烏の男を倒した。

 

(……よえーな、俺)

 

 一人で十数人を相手にして戦う。それが出来るだけでも十分強いという意見はあるかもしれない。実際、八咫烏の男たちは目の前の金髪の男のしぶとさに怖さを覚えてきている。

 けれど、それくらいは出来て当然なのだ。このダストという青年はレベルだけはこのベルゼルグの国でも上から数えたほうが早いほど高い。高くてもレベルが20~30ほどの八咫烏の男たちなら十数人相手にできるくらいのステータスは当然ある。

 

(避けるだけなら幾らでもできるんだ……でも、攻撃すればやっぱダメだ)

 

 それだけのステータスがあるのにこうして死にかけているのは、ダストという剣士がレベルに比べれば弱すぎるからだ。剣士としての技量を見るならそれこそ八咫烏の面々と同じくらいだろう。ゆえに、数の差で少しずつだが傷を増やしていく。

 

(……下手に槍なんか使うんじゃなかったな)

 

 思い出すのは世界最大のダンジョンに挑んだときのことや、駆け出しの槍使いに槍を教えてやったときのことだ。あの時の感覚に引っ張られて長剣での戦いの感覚がズレてしまっている。

 

「こ、こいつ何を笑ってやがるんだ……」

 

 ダストの様子に八咫烏のリーダーは気味悪がって距離を離す。

 

「? 俺は笑ってんのか?」

 

 ダストにはそんな自分の様子はわからない。傷の痛みと血を多く失った影響は体の感覚を鈍らせている。

 

「くくっ……そっか、俺は笑ってんのか」

 

 今度は自覚してダストは笑う。ダストが後悔だと思っていた考えは全く逆の感情だったらしい。それを気づいたダストは危機的な状況にも関わらずなんだか楽しくなってしまった。

 

「こ、こいつマジで頭おかしいんじゃないか。……おい! お前ら引くぞ! 倒れてる奴ら回収して馬車に乗れ!」

 

 ダストのしぶとさといきなり笑いだした不気味さに相手していられないと思ったのか。八咫烏のリーダーは部下にそう命じて撤退に移る。

 

「待て、お前ら……その前にひよこを……っ」

 

 逃げる相手を追おうと足を前に踏み出すが、ダストの足はその体重を支えることが出来ずに倒れる。

 血が抜けすぎて力の入らない身体をやっとのことで立ち上げたときには八咫烏の姿はどこにもなかった。

 

 

「くそっ……クエスト失敗かよ。情けねぇ……」

 

 大きな岩にその身体を預けながらダストは毒づく。

 

「アクアのねーちゃんになんて言えばいいんだ……」

 

 自分の大切にしてるものを奪われそうになる苦しみをダストは強く知っている。それが完全に奪われてしまった苦しみになる所をダストは見たくなかった。

 

「ポーション飲んで回復したら追わねーと……って、あ…れ……?」

 

 カランと音を立てて地面に回復ポーションの入った瓶が落ちる。ダストはそれを拾おうと腕に力を入れるが、手のひらを向けて地面に落ちたまま動かない。

 

「…………やっぱ、意地なんてはらなきゃよかったなぁ」

 

 腕が動かず回復ポーションが飲めない。その事実にダストの意志は折れてしまった。ここでなんとしてでも生きてやると強い意志を持っていたのならおそらくダストの腕は動いた。けれど、もともとダストというチンピラはそういった意思が弱い。適当に生き、自由に生きるだけの存在だ。死に対してもそれは同様で死んでしまうならそれでもいい、むしろ――

 

 

 

「――あなたに女神アクアの祝福を『ヒール』」

 

 薄れ行く意識の中で、ダストは自分に回復魔法が掛けられていることに気付く。誰だと閉じてしまっていた瞼に力を入れて目を開く。そこには、

 

「…………なんだよ、留置所のなんちゃってプリーストじゃねーかよ」

「流石にここでその反応はお姉さん傷ついちゃうんですけど。留置所の金髪のお兄さん?」

 

 留置所でよく会うダストの顔なじみの姿があった。

 

「それより、どう? お姉さんの『ヒール』は? 結構効いたでしょ?」

「おう……割りとびっくりしてる。お前本当にプリーストだったんだな」

 

 細かい傷が多かったからか。なんちゃってプリーストの『ヒール』によってダストの傷はほとんど治っている。失った血こそ回復していないが、体に力は入るし危ない状況は一気に脱していた。

 

「今まで信じてくれてなかった事実にお姉さんびっくりなんですけど」

「むしろ留置所の常連になってる自分の行動鑑みて信じられてると思ってるお前に俺がびっくりだよ」

 

 ダストがこの残念プリーストに会うのは留置所の中でばかりだ。そんな状況で信じろと言われる方が難しい。……アクシズ教徒ということも知ってるので、ありえるかもしれないと思ってもいたが。

 

「ま、いいや……助けてくれてありがとよ。礼はまた今度留置所の中で会ったらするぜ」

 

 回復ポーションを口にしながらダストは力を入れて立ち上がる。全快とは言えないが、八咫烏を追ってひよこを取り戻さないといけない。

 

「礼はこちらがするほうよ、金髪のお兄さん。……アクア様の大事にしているひy……ドラゴンを助けられたのはあなたの助力のおかげです。この場では教団を代表して感謝を。近日中には最高司祭ゼスタ様からの感謝状と御礼の品が届くでしょう」

 

 なんちゃってプリーストはいつものふざけた様子を潜めて、アクシズ教団アクセル支部の支部長として恥ずかしくない作法で感謝の念を伝える。

 下げたその頭の上にはこの場では誰よりも大きな魔力と態度をしたひよこ……キングスフォード・ゼルトマン、通称ゼル帝の姿があった。

 

「…………やっぱお前らもアクアのねーちゃんの正体に気づいてんのか」

 

 ゼル帝が助けられている事実に安堵の息をつきながらダスト。

 

「さぁ? 何の話かお姉さんには分からないわね。……でも、気づいてるのはお姉さんや金髪のお兄さんだけじゃないでしょ?」

「…………そうだな」

 

 自称女神の正体についてはダストだけでなく勘のいい冒険者であれば大体気づいている。それだけあの自称女神のアークプリーストはアクセルという街に馴染んでいた。

 

「ま……感謝状とかそういう堅苦しいものはいらねーよ。……俺も受けた恩を返してるだけだしよ」

 

 この程度のことですべての恩が返せたとダストは思っていない。だから、これからもあの自称女神が困っていれば力を貸すだろう。

 恩は忘れず、仲間は大切にする。それがどうしようもないチンピラでクズを自認するダストの譲れないものだから。

 

「お姉さんも金髪のお兄さんがまともなこと言っててびっくりなんですけど。お兄さん変なものでも食べちゃったの?」

「そのネタはもーいい」

 

 普段の自分の行動を考えればそう思うのも当然だとはダスト自身も分かってはいるが。だからといって会う人全員に同じ反応されれば辟易もしたくなる。

 

「……ま、とにかくだ。感謝ってんなら傷を治してもらっただけで十分すぎんだよ」

 

 むしろ、借りを作ってしまったとダストは思っていた。形はどうあれ、このプリーストにも命を救われた。その恩はどこかで返さないといけないと。

 

「いいえ、アクア様のために命をかけたあなたの功績はこの程度で済まされるものではありません。名誉アクシズ教徒になってもおかしくない……それほどの貢献です」

「頼みますからそんな恐ろしいものに俺をしないでください」

 

 思わず敬語になってしまうダスト。

 

「…………では、私が出来ることを一ついえ……いくらでも聞くというのはどうでしょう? お姉さん、わりとお兄さんのこと気に入ってるから、体を捧げろという命令とかでも大丈夫よ?」

「悪いが14歳以下のクソガキとアクシズ教徒は守備範囲外なんだ」

「おかしい……金髪のお兄さんからちっとも照れ隠しの気配を感じないんですけど」

 

 照れ隠しなんてしてないから当然だとダストは思うが、それを言ったら面倒なことになるだけなので話題を変えることにする。

 

「あ、そうだ。なんでもいう事聞くんだったらお願いがあるんだけどいいか?」

「なになに? お姉さんアクセル支部の支部長になってから結構自由に使えるお金あるからどんな願いでも叶えられるわよ?」

 

 それは本当に自由に使って良いお金なんだろうか。そんな疑問がダストの頭のなかに浮かぶが、スルーしてお願いを口にする。

 

「ゆんゆんってぼっちの冒険者知ってるか? そいつのダチになってやってくれねーか? 悪いやつじゃねーのは保証するからよ」

「? ゆんゆんさんってあの紅魔族でぼっちのゆんゆんさん? もうお姉さんあの子と友達なんですけど」

「…………アクシズ教徒ともダチとかあいつの交友関係どうなってんだ」

 

 ゆんゆんの友達を思い浮かべてダストは少し苦い顔をする。……根っからの悪人はいないがどいつもこいつも色物ばかりとか本当にどうなってるのか。

 

「まぁ、友達だって言うなら話は早いか。……あいつに自分たちがダチだってこと確認したことあるか?」

「? え? 友達って確認するようなものなのかしら? お姉さん疑問なんだけど」

「普通はそうなんだろうけどなぁ……あいつにとっちゃそういうもんらしい」

 

 ダストから見ればゆんゆんはそれなりに友達がいる。けれどゆんゆんからみればゆんゆんに友達はほとんどいない。

 

「ってわけだ。今度あったときにでも『おねえさんたち友達だよね』とでも言ってやってくれ」

「それはもちろん大丈夫なんだけど…………やっぱり金髪のお兄さんおかしいわよ? もっと『ヒール』かけてあげようか?」

「おう、なんでも言う事聞くって言ったよな? お前ちょっと服脱げ。ウィズさんの店で外れない首輪買ってきて街中を散歩してやる」

「ちょっ……流石のお姉さんもそんな上級者プレイは無理よ? ゼスタ様なら喜んでやるかもしれないけど、私はまだその域には……!」

 

 街へ向かって逃げるプリーストを追いかけてダストもまた走っていく。馬鹿騒ぎが出来るくらいにはダストの体には力が戻ってきていた。

 

 

 

――ゆんゆん視点――

 

 

 

「なーにをふやけた顔してやがんだぼっち娘。こっちはわりと疲れてんのに」

 

 頭に何か温かいものが載ったと思ったら聞き慣れてしまった声がかけられる。

 

「あ、ダストさんお疲れ様です。クエスト大丈夫だったんですか?」

「おうよ。お前の頭の上にいる奴がその証拠だ」

 

 頭の上からはぴよぴよという鳴き声からは卒業しつつあるひよこの声。……うん。アクアさんの大事にしてるひよこのゼル帝だ。

 

「てわけで、ゆんゆん、俺は疲れたから飯食って…………って、俺の飯がねぇんだが…………」

「わ、私は別に食べてないですよ?」

「あー誰も疑ってねぇよ。ゆんゆんがそういうことできる奴じゃねぇのは知ってるし…………ん、ちゃんとリーンのやつ来たみたいだな」

「? ちゃんと?」

 

 まるでリーンさんがくることが予定通りのようなダストさんの言葉に私は首を傾げる。

 

「まぁ、リーンのことは置いといて…………ゆんゆん、お前に頼みがあるんだが、いいか?」

「……ダストさんの頼みとか言われると身構えるんですけど、一応聞くだけはします」

「別に悪いことじゃねぇよ。俺は疲れたしアクアのねーちゃん相手する元気はねぇからよ。そのひよこをアクアのねーちゃんに返してやってくれ。そろそろアクアのねーちゃんがカズマの説得を失敗して泣きながら来る頃だろうから」

「それくらいならまぁいいですけど……」

 

 ダストさんの頼みの中じゃまともなほうだし、奢ってもらってる手前それくらいならいいと思う。

 

「ああ、後、そのひよこを取り戻したのはゆんゆんってことにしとけ」

「……え?」

「アクアのねーちゃんはそのひよこ溺愛してるらしいからな。そのひよこを助けたって言えば友達にくらいなってくれるんじゃないか?」

「え? え?」

「ほら、アクアのねーちゃんが案の定涙目で来たぞ。…………大丈夫だ、あのねーちゃんは俺と似たようなチンピラだが根は素直で単純だ。……きっかけさえあればお前ならすぐ仲良くなれる。……ちゃんと友達になりましょうって言うんだぞ?」

 

 ほら、とダストさんは私の背中を押してアクアさんの前に立たせる。アクアさんは私の頭の上にいるひよこに気づいて――

 

 

 

――ダスト視点――

 

 

「ったく、リーンのやつ。人の飯全部食いやがって」

 

 遠慮なしにも程が有るだろう。

 

「まぁ、今回は許してやるか」

 

 俺は手元にあるリーンの置き手紙を見る。

 

『ゆんゆんと友だちになった。貸し一つだからね』

 

 俺の視線の先ではアクアのねーちゃんに抱きつかれて困ったような嬉しそうな顔をしてるゆんゆん。

 

「一日でダチを二人……いや三人も作るとかぼっちのくせに生意気だな」

 

 俺は冷めたゆんゆんの飯を下げてもらい、新しく3人分の飯を――

 

 

 

「ねぇねぇ、金髪のお兄さん。私の分のご飯も注文してほしんですけど」

「…………お前の分は奢らねーぞ。むしろアクアのねーちゃんの分もお前が払えよ」

 

 

 ――もとい、いつの間にか隣にいたプリースト含めて4人分の飯を注文するのだった。




ちなみにカエルを操ってた変な魔道具ですが、元はあらゆる魔獣を操る神器だという裏設定が。(アルダープの持ってたやつとはまた別)担い手じゃないのでジャイアントトードしか操れない魔道具になってますが。
クリスが回収して湖に一時的に封印していたものをどっかの駄女神がきれいな石だと持ち出して酒の場でうっかり落としたのを情報収集をしていた八咫烏のメンバーが拾ったという。
つまり今回の事件が面倒になったのはどっかの駄女神のせいです。カエルさえいなければアクアは八咫烏のメンバーくらい余裕で殴り飛ばせるんでそもそもクエストすら発生しません。


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第7話:このドラゴンの子どもに祝福を!

「……また、お前か」

 

 留置所。ちょっとやらかした俺が入って反省していろと看守に連れてこられた牢屋には既に見飽きた残念プリースト。

 

ほひーはんもはつほんはへふ?(お兄さんもカツ丼食べる?)

「何言ってるか分かんねーから飲み込んでから喋れ」

 

 牢屋で無駄に美味しそうなもの食べてる女に俺はため息を付いた。

 

 

 

「んぐもぐ……つーかなんだよこれ。この留置所こんなに美味しい食いもんあったのかよ」

 

 残念女と同じもの食わせろと看守に喚いて持ってきてもらった食い物。『カツ丼』とか言うらしいがこんなに美味しいもの食べたのはカズマがエリス祭の時に出してたYAKISOBA以来だ。

 この留置所にはもう何年も通ってるって言うのに今までなんで出さなかったのか。看守の野郎は今度外であったら因縁つけて喧嘩売ってやろう。

 

「ふふーん、このカツ丼はうちの名誉アクシズ教徒が留置所や取調室にカツ丼はないのはありえないって作ってもらったんですって。つまり今あなたがその美味しいカツ丼が食べれてるのは女神アクアのお導きなのよ」

「へー……アクシズ教徒はろくなことしないイメージしかないがたまにはいいことするんだな」

 

 女神アクアの導きかどうかは置いといてその名誉アクシズ教徒には感謝してもいいかもしれない。

 

「ところでお兄さんはどうして留置所に入れられたの?」

「まぁ、ちょっとばかしナンパ失敗しちまってな」

 

 具体的にはいつもナンパに付き合わせてる知り合いにもう限界だと警察にチクられた。……あいつには今度暇な時にジャイアントトードの卵を送りつけてやろう。

 

「そういうお前は…………まぁ、どうでもいいか。どうせいつもと一緒だろ」

「あのね? その台詞はどちらかというと私の台詞だと思うんだけど。お兄さんこそ大体喧嘩しただのナンパ失敗しただの無銭飲食しただの同じような理由で入ってくるじゃない」

「失礼なやつだなお前は。少なくとも無銭飲食じゃ最近捕まってねーぞ」

 

 ここ1年位はもう俺に先払い以外で飯を出してくれる店がないからな。

 

「……なんだかお兄さんから私達と同じ匂いがするんだけど。ねぇ、お兄さんもお姉さんと一緒にアクシズ教に入らないかしら?」

「その勧誘台詞何度目だよ。俺みたいな品行方正な冒険者を変人集団に誘うんじゃねーよ」

「…………うちの教団でもお兄さんと同じくらいアクシズ教の教義に忠実に生きてる人って、お姉さんみたいな支部長クラス以上だと思うんだけど」

 

 同じようなことをバニルの旦那にも前にも言われた気がするんだが。実は悪魔とアクシズ教徒は似たもの同士じゃねーの?…………それは流石に悪魔に失礼か。

 

「というかお前は俺にお姉さんだって自称してるくせに呼び方はお兄さんって呼ぶよな。結局お前って俺より年上なのか?」

 

 こいつとはもう1年以上留置所で会う中だが、考えてみれば俺はこの女の歳を知らない。年齢どころか性別すら感じさせない残念さで興味持てなかったからだが。

 

「んー……お兄さんの年齢知らないから確かなこと言えないけど多分年上かしら? お兄さん呼びしてるのはお姉さんがお兄さんの名前聞いてないからってだけよ」

「あー……そう言えば俺もお前の名前知らねーな」

 

 なるほど。微妙な違和感の正体が分かった。年齢どころか名前知らなければこんな風にもなるか。

 

「ところで看守。少し聞きたいことがあるんだがいいか?」

 

 一つ疑問みたいなものが解けた所で、俺はもう一つ気になってることを牢屋の外で頭を痛そうにしている看守に聞くことにする。

 

「……そこは普通にその女と互いに自己紹介する場面じゃないのか。……聞きたいこと? そのカツ丼の値段なら800エリスだが」

 

 金取るのかよ。そんな金俺持ってねーぞ。…………まぁ、金は迎えに来たリーンかゆんゆんにでも払わせればいいか。

 

「いや、そんなことはどうでもいいんだけどな。なんで俺が牢屋に入れられる時にこの女と一緒に入れられるのかなって。一応こいつも女なんだから一緒に入れるなら男じゃなくて女にしろよ」

 

 俺もこいつも留置所にお世話になる回数が多いとは言え、毎回のように同じ牢屋に入ってるのには何か理由があるんだろうか。

 

「そのプリーストと女を一緒に入れる……? 恐ろしいことを言う男だな。……まぁ、一度そのプリーストと同じ牢屋に入れられた女冒険者は二度と悪いことはしませんと泣いて誓っていたから極悪人の女なら考えないでもないが」

「…………何したんだよお前」

「えへへ……可愛かったからちょっと」

 

 …………この女、性別関係なしなのか。ゆんゆんはこいつと友達で大丈夫なんだろうか。

 

「ま、そういうことか。だからこいつとの相部屋は俺みたいな男だけなんだな」

 

 そういう理由なら仕方ない。我慢しよう。

 

「『俺みたいな』というより、その女と相部屋になるのは貴様だけだぞ? 貴様以外の奴を一緒に入れれば男女関係なく精神を病むからな」

「本当にお前何してんだよ!?」

「だって……入ってきた男の子がすっごく可愛かったら襲いたくなるし、全然好みじゃない男にエッチな目で見られたらへし折りたくなるし、エリス教徒だったら断罪したくなるわよね? お姉さんはちっとも悪くないと思うの」

 

 わよね? とか同意求められてもそんなのはお前だけだとしか言いようがない。…………いや、多分アクシズ教には他にもいるんだろうけど。

 カズマの奴がこいつらどうにかしてくれねーかな。多分これあいつがどうにかしないといけない問題だ。保護者の保護者的な意味で。

 

「てか、だったらなんで俺はこんな危険人物と一緒に入れられてんだよ?」

「貴様ならその女と一緒に入れても特に問題がないからに決まっているだろう」

「いや……普通に別々にしろよ。問題児ばっかのアクセルとは言え一つくらい専用の牢屋あってもいいだろ」

 

 一緒に入れたら精神病むような自由過ぎるやつは隔離しろ。

 

「そんなことしたら我々監視側が病んでしまう」

「この女本当にろくでもねーな!」

 

 流石アクシズ教徒。伊達に最狂集団の名を欲しいままにしてない。

 

「何を他人事の言ってるのか知らないが貴様もその女と似たようなものだぞ」

「いや……確かに俺もろくでもなしなのは認めるけどよ……流石にこれと一緒にされるのはちょっと……」

「……それもそうだな。すまない」

 

 俺と看守の間に妙な連帯感が生まれる。……今度こいつと外であったら喧嘩した後に酒でも飲もう。……こいつの奢りで。

 

「まぁとにかくだ。その女は貴様と一緒にいればあまり被害を出さない。だからその女が問題起こしたときは貴様を適当な罪で捕まえ……」

「……おい」

 

 最近妙に捕まりやすいと思ったら。

 

「あー、ごほん。そろそろ交代の時間だな。貴様らも反省しているようだし迎えが来たら自由に出ていいように伝えておこう」

「おいこら待て。逃げようとしてんじゃねーよ。反省しないといけないのは俺らじゃなくてお前らじゃねーか!……くそっ、マジで逃げやがった」

 

 俺の同情とか共感とか返せよ。

 

「ふふっ、お兄さんったら策士ね。私と二人っきりになろうと言葉巧みに看守のお姉さんを誘導するなんて」

「お前と二人っきりになってどうするんだと本気で問いたい」

 

 守備範囲外どころかセクハラすらする気がない女相手と二人っきりになっても面倒なだけだってのに。

 

「ん……あー、でもあれか。一応二人っきりの時に聞こうと思ってたことはあったな」

 

 看守には聞かれたらまずくて、今までここじゃ聞けなかったことが。……外でわざわざこいつに会いに行くとかまずないし、この機会に聞いとこう。

 

「なにかしら? 悪いけどお姉さんのスリーサイズはトップシークレット事項よ。聞きたければ今すぐこのアクシズ教入信書に……って、ああっ!?」

 

 ゴミを綺麗な紙吹雪へと変えてスッキリとした所で俺は疑問を口にする。

 

「結構前の話になっちまうけどよ、アクアのねーちゃんのひよこ……今は雄鶏が誘拐されたことあったろ」

「ゼル様は雄鶏じゃなくてドラゴンだけど、そんなこともあったわね。半年くらい前だったかしら」

 

 もう、そんなになんのか。まぁ、ゆんゆんにやったドラゴンの卵がそろそろ孵化するってバニルの旦那も言ってるし、それくらいの時間経ってて当然か。

 

「あの時、お前はどうやってひよこを助けたんだ?」

 

 俺はやた……なんとかって奴らをひよこを奪還する前に逃してしまった。だが、目の前の女は俺の知らない間にひよこを助け出し、ついでに俺の命まで救った。 

 

「どうやってって言われても…………お兄さんが暴れてる間にこっそり馬車の中を探させてもらっただけだけど」

「俺を囮にしたってわけか」

 

 そんなところだろうとは思っていたが。……ただ、俺は戦ってる間にこいつの存在に気づかなかった。もともと俺自身は気配探知とか得意じゃないし、あんだけ劣勢だったら気づかないこともあるかもしれないが…………俺も隙があれば馬車の中に入ってひよこだけさらっていけないかと、馬車の方に意識を向けてただけに違和感がある。

 

「囮って言い方は人聞きが悪いと思うの。私はあの神敵たちをつけてゼル様奪還の機会を伺ってただけよ? そこにお兄さんがタイミングよくやってきてくれただけなんだから」

「タイミングよくねぇ…………ちなみに俺が来なかったらどうするつもりだったんだ?」

 

 違和感はあるが、そのあたりのことを聞いてもこの女が答えてくれるとも思えない。…………案外あっさり答えてくれそうな気もするが、その答えがどうであれ俺にとってこいつは変な女プリーストに変わりはないのだからわざわざ詮索しなくてもいいだろう。

 

「んー……寝静まった頃に見張りに見つからないようにどうにかするつもりだったわよ? もしそれが難しいようでも、連中が向かってる先がアルカンレティアの方向みたいだったしどうにでもなったと思うわ」

 

 ……アクシズ教団の総本山にアクアのねーちゃんが大事にしてるひよこを奪った連中がのこのこと向かってたのか。…………よかったな、やたなんとか。俺に襲撃されてなきゃお前ら吊るされてたぞ。

 

 

 

「ねぇねぇ、お姉さんも聞きたいことがあるけどいいかしら?」

「あん? なんだよ聞きたいことって。…………あと、密かに体を近づけてくんな」

 

 残念女のくせになんだか甘い匂いがして…………って、これ女の匂いじゃなくて普通に甘い菓子とかの匂いじゃねーか。緊張して損した。

 

「あの時のお兄さんの戦いを見てても思ったんだけど、お兄さんってなんで戦士なんかやってるの?」

「…………どういう意味だよ?」

 

 まさかこいつ俺の正体に気づいて……。

 

「だって、あれだけしぶといんだからクルセイダーになるだけのステータスはあるわよね? 一応一撃で相手を倒してたしソードマスターにもなれると思うんだけど」

「……ああ、そういうことか」

 

 実際この女の言う通り俺はなろうと思えばクルセイダーにもソードマスターにもなれる。一応アークウィザードにだってなれるはずだ。素質がないからアークプリーストにはなれないにしても、そういった上級職になれるくらいのステータスは確かにある。それなのになぜ戦士なんて下級職についてるかと聞かれれば……。

 

「さぁな…………。いろいろ理由がありすぎて自分でもよく分からねーや」

 

 リーンやテイラー達の強さに合わせてパーティーバランス取るためだったり、中途半端に強い職に就くくらいなら戦士のほうが良いって気持ちが理由だったり。他人に説明するとなるといろいろと面倒くさい。

 

「ただ言えるのは……俺みたいなチンピラ崩れには上級職なんて似合わねーってことだな」

 

 他人に言っても問題ない理由じゃ、多分それが1番大きい。

 

「俺がクルセイダー……聖騎士なんてなってみろよ? それだけで笑えるっての」

 

 というか自分で想像してみると少し気持ち悪いレベルだ。

 

「そうかしら? お兄さんって自由気ままに生きてるだけで根は割りと普通だからありだと思うんだけど。そういう所がめぐみんさんに似てて私は好きなんだから」

「…………俺が爆裂娘に似てるとか勘弁してくれ」

 

 俺はあんなに頭おかしくねーぞ。

 

「めぐみんさんもきっと同じことを言うわね。…………というか、お姉さんの好きって言葉に少しも動揺してないのはどういうことなのかしら?」

「どういうこともなにもそういうことだよ」

 

 15歳以下のクソガキとアクシズ教徒は守備範囲外(セクハラしないとは言ってない)だからな。というか、こいつの好きって言葉には親愛しか感じられないし。男女の情愛じゃなけりゃ動揺する理由は全くない。

 

(…………というかこいつがまともに恋愛してるところなんて想像できないしな。男女構わずセクハラばっかりしてるイメージしかない)

 

 看守の話とか俺との話とか合わせたイメージだが……多分そんな間違ってない気がする。

 

「何故かしら……お兄さんから凄い失礼なことを考えられてる気がするわ」

「別に失礼なことは考えてないぞ。お前が恋愛するなんてありえないよなって思っただけだ」

「…………何故お兄さんは、そんなに素敵な笑顔でそんなに酷いことが言えるのかしら。お姉さんだって女の子なのよ?」

「俺より年上とか既に20超えてんだろ? 既に行き遅れてるくせに女の子とか……っ……くくっ……おい、俺を笑い死にさせる気かよ」

 

 流石アクシズ教徒。伊達に宴会芸の神様を崇めてないな。笑いのレベルが高すぎる。

 

「……。ねぇ、お兄さん。今私達が二人きりなのは覚えてるかしら?」

「くくくっ……ん? だからなんだよ?…………ってか、お前流石に近づきすぎだ。暑苦しいから離れろよ」

 

 幽鬼のように動く残念女は、俺の言葉に従わず、離れるどころか密着してくる。

 

「ふふっ……捕まえたわ。最後に男の人にセクh……可愛がったのはいつだったかしら? 最近は可愛い女の子ばっかりだったからちょっと新鮮ね」

「お、おい。お前何を言って……って、こら人のベルト外そうとしてんじゃねーよ!」

「心配しなくても大丈夫よ。お姉さん上手だから痛くなんてしないわ。…………ちょーっと恥辱で死にたくなるような目にあわせるだけよ」

「本当お前らアクシズ教徒は男も女も変わらねーな! おい! 看守! 誰でもいいからこの女止めろ!」

 

 抵抗むなしく俺のズボンが脱がされそうになる。そんな状況で俺の声に反応してか走ってくる足音。

 その足音の持ち主は牢屋の前にたどり着き、中の状況に一瞬息を呑んで……そのまま大きなため息を付いて続けた。

 

「…………なにしてるんですか。ダストさん、セシリーさん」

 

 足音の持ち主、ゆんゆんはゴミを見る目をして俺らを眺めていた…………。

 

 

 

 

 

「聞いてゆんゆんさん! この男が嫌がる私を無理やり……!」

「お前本当にふざけんなよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ? ドラゴンがもうすぐ生まれそうだって? 旦那の予知じゃ明後日くらいじゃなかったか?」

 

 街道。牢屋を出た俺は隣を歩くゆんゆんが迎えに来た理由を聞いていた。……ちなみにあの残念プリーストはゆんゆんに出して貰えずに今なお牢屋の中だ。

 

「そうなんですけど…………まぁ、流石のバニルさんでも予知が外れることがあるんじゃないですか?」

「俺が知る限りじゃなかったはずだけどなぁ」

 

 見通せなかったことはあっても外したことはなかったと思うんだが。……中途半端に見通しづらくて見誤ったとかだろうか。

 

(……それにしてもどうして見通しづらいのかとか分からねーし…………考えても無駄か)

 

 旦那の予知が外れた理由は気になるが今ここで考えても分かることでもない。一旦そのことは頭の外へと追い出す。

 

「それで、ドラゴンが生まれそうだから俺を迎えに来たのか」

「はい、一応そういう約束でしたし、バニルさんにも生まれる時はダストさんに任せたほうがいいって言われてましたから」

「旦那にねぇ…………」

 

 やっぱ、旦那には俺のこと知られてんのか。…………旦那には頭上がらねーな。

 

「あと、ダストさん以外にも卵を温めてもらった人とかバニルさんとか呼んでますよ。結構人数が多くて私の宿の部屋だと狭そうだったんで、アジt……もといイリスちゃんの別荘に集まってもらってます」

「…………お前が宿の部屋に入り切らないほどの人を呼ぶだと……?」

「一番驚いているのは私ですからダストさんは驚かないでいいです」

 

 それもそれでどうなんだ。

 

「具体的に呼んだのは誰なんだ?」

「ダストさん以外だと、めぐみんにイリスちゃん、バニルさんとウィズさん。後はアクアさんですね」

 

 ゆんゆん入れても7人か。確かに宿の部屋に集まれば微妙に狭そうな気がするが。…………こいつやっぱ友達少ねぇなぁ。

 

「し、仕方ないじゃないですか! リーンさんは今日は王都の方に転送屋利用していないですし、クリスさんもこの街にいなかったんですから!」

「あーはいはい。別に何も言ってねーから言い訳しなくてもいいぞぼっち娘」

「い、言い訳なんてしてないですよ! というかぼっち娘言わないでください!」

 

 ぼっち娘をぼっち娘と呼んで何が悪いのか。めんどくさいやつだな。

 

「でもよクソガキ。だったらなんでお前はあの残念プリーストを出してやらなかったんだ? あれでも一応お前の友達なんだろ? 友達を多く見せるくらいは役立つだろ」

「セシリーさんはその…………流石にバニルさんとウィズさんに会わせるわけには…………あとクソガキ言わないでください。私だってもう15歳なんですから」

 

 あの残念プリーストは生粋のアクシズ教徒だからな。バニルの旦那はもちろんリッチーらしいウィズさんにも会わすのはまずいか。

 

「15歳以下なんてクソガキだろ。クソガキをクソガキ言って何が悪いんだ」

「何が悪いのか分からないのが悪いですよ! というか前は14歳以下がクソガキだって言ってたじゃないですか! 適当に変えないでください!」

 

 細かいことを気にするやつだな。

 

「別に適当じゃねーぞ。俺の年齢が今は19だからな。それより4つも下な15歳なんてクソガキに決まってんだろ」

「…………つまり、私はいつまで経ってもダストさんにとってはクソガキで守備範囲外ってことですか?」

「まぁ、そうなるな」

 

 エロい体してるから目の保養にはなるが、本格的に手を出そうとは思わない。

 …………で? こいつはなんでガッツポーズなんてしてんだろう。ぶん殴られたいんだろうか。

 

 

 そんなやり取りをしながら。俺とゆんゆんはイリスとかいうロリっ子の別荘へと急いで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ドラゴンの誕生に立ち会えるとは……紅魔族として胸を高まらせずに入られません。感謝しますよゆんゆん」

「そっか、めぐみんはゼル帝の誕生には立ち会えなかったのよね。まぁ、私もあの時はそこの木っ端悪魔がうるさくてまともに立ち会えなかったんだけど…………というかいい加減ゼル帝返しなさいよ」

「未だにこの雄鶏をドラゴンと言い張る駄女神はいっそのこと哀れである。いい加減認めてそんな偉そうな名前でなく唐揚げとでも改名するがよい」

「ば、バニルさん、アクア様を挑発するのはやめてください!」

「そうですよ、ハチベエ。そんな失礼な態度を取っては……。申し訳ありませんアクア様。ハチベエは気のいいお調子者ですが、けして根が悪いものでは……」

「プークスクス。ハチベエとか超受けるんですけど。変な仮面してる道化悪魔にはぴったりね。ぷーくすくす」

「ええい、放せ二人とも。この女とは決着を付けねばならん。そもそもこんな残念な自称駄女神を様付けなどする必要ないわ」

 

 イリスとか言うロリっ子の別荘だという屋敷。アクセルの街で一番大きいその屋敷に集まるのはゆんゆんとその友達。

 頭のおかしい爆裂娘、自称女神のアクシズ教徒、魔王軍元幹部の仮面の悪魔、実はリッチーらしい貧乏店主、自称チリメンドンヤの孫娘。

 …………おい、ゆんゆん。友達は選んだほうがいいぞ。色物しかいないじゃねーか。

 

「しかし、ゆんゆん、話には聞いていましたが本当にあの悪魔と友達になってしまったんですね。…………友達は選んだほうがいいと思いますよ」

 

 後ろで旦那とアクアのねーちゃんが光線飛び交う喧嘩をしてる中。ウィズさんとロリっ子がその喧嘩を必死で止めようとしてるのもスルーして爆裂娘はそんなことをゆんゆんに言う。

 ……人が思ってても言わなかったことを。お前こそ選んだほうがいい友達筆頭のくせに。

 

「えっとね、めぐみん。確かにバニルさんは人をおちょくるのが生きがいでお金に汚いけどそれ以外は結構まともだから」

 

 ……旦那をそれ以外はまともだといえるこのぼっち娘はどういう感覚してんだろう。そして旦那は良くて俺はダメというゆんゆんの友達基準が本当に謎すぎる。

 

「まぁ、あの悪魔には一応借りのようなものなきにしもあらずなのでゆんゆんが納得しているなら私は何も言いません。…………ところでダストは何をしているのですか?」

「あ、うん。なんでもドラゴンの凶暴な本能を生まれる前に封印してるんだって」

「はぁ……確かに攻撃性の強いドラゴンが生まれる時にはそういう処理をするのが普通とは聞いたことがありますが…………ダストにそんな器用なことできるとは思えないのですが」

 

 おい、俺にそんな胡散臭いものを見る目を向けるな。

 

「……ったく、別に本能の封印くらい手順知ってたら誰でも出来るっての」

 

 そりゃスキルを覚えてたら楽なのは確かだが。ちゃんとやり方を覚えてたらスキル無しでも誰でも出来る。

 

「あ、ダストさん。封印の処理は終わったんですか?」

「おうよ。卵から生まれた時に自動的に封印がかかるようにした。後は生まれるのを待つだけだな」

 

 その生まれるのも本当にもうすぐって所だ。殻を破ろうとする音が休み無しに聞こえてくる。

 

「…………やっぱりダストがあれなんですかね」

「……んだよ爆裂娘。さっきから変な目で俺のこと見やがって」

「まぁ、話の真相はともかく、ダストがどうであろうと私にはどうでもいいことですが。…………ゆんゆんが知ったらどんな反応するかは気になりますね」

 

 俺の疑問を無視して、爆裂娘はなんだかよく分からないことを呟いている。

 

「おい、ゆんゆん。爆裂娘の様子がおかしいんだが…………大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないですか。めぐみんは大体いつも様子というか頭がおかしいですよ」

「…………それもそうだな」

 

 頭のおかしい爆裂娘の心配なんてするだけ無駄か。

 

「…………やはりゆんゆん。あなたはそのチンピラとお似合いだと思いますよ。お幸せに」

 

 そうとびっきりの笑顔で言うめぐみんに

 

「頭がおかしいって言ったのは謝るからそれは撤回して! それだけは何があってもありえないから!」

 

 ゆんゆんは悲壮さが混じった表情で否定の声を上げた。

 

 

 

 

 

「バニルさんバニルさん、ドラゴンの子、何ドラゴンが生まれてくるんでしょうか?」

「馬鹿ねウィズ。女神である私が神聖な魔力を与えたのよ? 仮面悪魔に聞かなくてもホワイトドラゴンが生まれてくるって分かりきってるじゃない」

「……まぁ、駄女神がどんな反応するかが楽しみでここにいるようなものであるからして、我輩は生まれるまで黙っておくことにしよう」

 

 ……俺も封印の処理の中で分かっちまってるけどアクアのねーちゃんがうるさそうだから黙っておこう。

 

「ところでお頭様。さっきからアクア様やハチベエが互いに女神とか悪魔とか言っていますが……」

「イリスは知らないでしょうが、庶民の間では女神と悪魔になりきって喧嘩するのが流行っているんですよ。だから気にしないでいいのです」

「そ、そうなのですか……? 女神を名乗るのは恐れ多いですし悪魔を名乗るのも不吉だと思うんですが……。やはり世間は私の知らないことばかりですね」

 

 それで騙されるのか。あのロリっ子相当世間知らずだな。ララティーナお嬢様以上じゃねーか?

 

 

 

「そろそろだな。おい、ゆんゆん。ドラゴンの卵にお前の魔力を与えてやれ。多分それで勢いついて出てくるから」

 

 卵を破ろうとする音が一旦止んだのを確認して俺はゆんゆんにそう助言する。今ドラゴンの子は殻を破る最後の力を溜めるために休憩しているところだろう。魔力の塊であるドラゴンに魔力を与えればその力が溜まるのは早くなるはずだ。そしてその役割はもっとも長い間卵に魔力を注いでドラゴンが馴染んでいるだろうゆんゆんが最適だ。

 …………本当はドレインタッチできてゆんゆんの次に魔力を注いでいたウィズさんが最適解だったりするが、それは流石に空気読んで言わない。

 

「は、はい……いよいよだと思うと緊張しますね」

 

 本当に緊張しているのだろう。卵を抱き上げたゆんゆんの手は震えている。

 そんなゆんゆんが魔力を与えるのを見守りながら、女性陣は緊張と興奮が混じった様子でその瞬間を待った。

 

 そして皆に見守られる中――

 

 

『ぴぎぃ?』

 

 

 ――殻を破り、ブラックドラゴンの子どもが生まれた。

 

 

「こ、これがドラゴンの誕生ですか。そして黒き鱗に赤き瞳とは…………紅魔族の使い魔に相応しいドラゴンですね」

「お頭様! 本当にブラックドラゴンですよ! 凄い……ブラックドラゴンなんてドラゴン牧場では育てられませんし……その誕生を見れるなんて王族であっても一生に一度あるかないかなのに」

 

 その誕生に素直に感動している様子なのはロリっ子二人。…………金髪ロリっ子の方はなんか感動する所間違ってる気もするが。

 

「なんでよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「フワーッハッハッ! 駄女神の悲鳴が心地よいわ!」

「えーと……アクア様? 一応、私もアンデットの王リッチーですので…………私が魔力与えてた時間が長かったせいだと思います。ごめんなさい」

「ウィズぅぅぅうう!…………はぁ、まぁいいわよ。この性悪悪魔のせいだったら浄化させてるとこだけど。思ったより凶暴そうでもないし」

 

 ロリっ子二人に比べて大人組……というかアクアのねーちゃんはうるさい。凶暴じゃないのは俺がちゃんと本能封印してるからだってのに、相変わらずこの自称女神は人の話を聞いていない。

 

 

 

「おい、ゆんゆん。呆けてないでそいつに名前をつけてやれ。そいつはお前が死ぬまで…………いや、その子孫まで何百何千という時を共に過ごしてくれる『友達』だ」

 

 騒ぐ外野も気にせず、陶然とドラゴンを抱くゆんゆんに近づき俺はそう口にする。

 ……そう、ドラゴンは友達だ。家族でもいいし、相棒でもいい。人が接し方さえ間違えなければドラゴンはそれに応えてくれる。

 だから俺は悩んだ末にゆんゆんにドラゴンの卵を渡した。

 

 友達を求めるゆんゆんの気持ちにドラゴンが応えてくれると俺は知っていたから。

 根は優しく世話焼きなゆんゆんならドラゴンを大切にしてくれると信じられたから。

 

 

 

「はい。…………この子の名前は『ジハード』……ね? いいかな?」

 

 

 

 ゆんゆんの問いかけに『ジハード』はぴぎゃぁと嬉しそうな鳴き声を上げる。

 

「ジハードね…………かっこいい名前じゃねぇか。ジハードはメスみたいだが……まぁドラゴンだしかっこ良くて問題ねーな」

「そうですか? かっこいい名前なら『ちょむじろう』とか『かずま』とかいろいろあるでしょう」

「「めぐみん(ロリっ子)は黙ってて(ろ)」」

「私のネーミングセンスに文句があるなら聞こうじゃないか」

 

 喚いてるネーミングセンスがあれな紅魔族は無視するとして……

 

「なぁ、アクアのねーちゃん。いろいろ思う所はあるかもしんねぇけどさ。ジハードのこと祝福してやってくれねぇか?」

 

 バニルの旦那に殴りかかろうとするのをウィズさんに抑えられてるアクアのねーちゃんに俺はお願いする。

 

「仕方ないわねぇ……まぁゼル帝の最初の子分だしね。ちゃんと祝福してあげるわ」

 

 …………最強の生物ドラゴンが雄鶏の子分か。

 

 

 

「ドラゴンの子『ジハード』の誕生と、この素晴らしい出会いに『祝福』を!」

 

 

 




実質的なプロローグ終了です。どらごんたらしなのにドラゴンいないとかいうタイトル詐欺状態はやっとおさらばです。


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第8話:見習い主とドラゴンバカ

――ゆんゆん視点――

 

「んぅ……ダメだよめぐみん……私達女の子同士だよ……んにゃむにゃ…………ん? うーあー…………夢かぁ」

 

 目を開ければ見知った天井。私は今さっきまでの光景が夢だったということを理解する。…………まぁ、冷静に考えればあんな夢ありえないんだけど。私とめぐみんがその……あれなことするなんて。

 

「隣にめぐみんが寝てるわけじゃないし完全に夢だよね。…………って、あれ?」

 

 ベッドにある空白。自分の横に広がる風景に私は違和感を覚える。少し考えればその違和感の正体はすぐに分かった。寝る前と今でそこにある風景が変わっていたから。

 

「……ハーちゃん?」

 

 一緒に寝ていたはずの使い魔。ブラックドラゴンのハーちゃんがいなくなっていた。

 

 

 

 

「いつかやるかもと思ってたけどこんなに早く行動に移すなんて……」

 

 ハーちゃんがいないと気づいた私はスキルを発動させて冷静にいる場所を探した。

 『使い魔契約』のスキル。バニルさんに教えてもらったそのスキルは、契約を結んだ使い魔の大まかな感情や意志を察することが出来て、離れていてもどこにいるのかをすぐに探すことが出来るすぐれものだ。

 かつては多くの魔法使いや魔獣使いが使っていたという話だけど、今ではアークウィザードやモンスターテイマーの人でも使う人はほとんどいない。特に魔法使いの間では使い魔を飼っているなんて物語の中での話になってるし、こんなに便利なスキルがあるなんて私は知らなかった。便利なのにどうして廃れたのかをバニルさんに聞いたらモンスターを従えるだけならもっと効率の良いスキルがあるからとか。

 

 そんな感じで覚えたスキルのおかげでいなくなったハーちゃんの場所はすぐに分かった。と言うよりスキルがなくてもすぐに見つけたと思う。だってその場所は私がハーちゃんが生まれてからずっと警戒していた所だったから。

 

「まぁ、馬小屋にいるってことは売り払うとかそういうつもりじゃないとは思うけど…………人の部屋に入って人の使い魔連れていくとか普通に犯罪だよね。本当にダストさんはどうしようもない人だなぁ」

 

 ハーちゃんが生まれてからこの一週間。ダストさんがドラゴンのこと好きらしいってのは薄々と言うか普通に分かってたことだ。わざわざ安い宿から私が泊まっている宿の一階にある馬小屋に停まるようになったのも、私一人じゃハーちゃんの面倒見きれるか心配だからって話だし。

 多分今回も私みたいにハーちゃんと添い寝がしたくてハーちゃんを連れて行ったんじゃないかと思う。だからと言ってそれが許されるかと言われたら全然違うけど。

 

(せめて一言でも言ってくれたら………………日頃の恨みから普通に断るだろうけど……ハーちゃんの匂いが移った枕を貸すくらいはしたのに)

 

 勝手に連れて行かれたんじゃ情状酌量の余地ははない。ハーちゃんのことで色々世話になってるけどそれはそれこれはこれ。私がハーちゃんの主だってことをダストさんにはっきり言わないと。

 

「ダストさん? 入りますよ?」

 

 こんこんと宿側にある馬小屋の扉を叩く。ダストさんが泊まっている馬小屋の区画は宿に一番近い所だから起きているならこれで気付くはずだ。

 

「…………物音もしないですしやっぱり寝てるみたいですね」

 

 スキルではっきりと感じるハーちゃんの気配と馬小屋から物音がしないこと。想像通りダストさんはハーちゃんと添い寝してるんだろう。…………私は起きたらすごい虚しさを感じたと言うのに羨ましい。

 

「まぁいいです。寝てるならハーちゃんを取り返して帰るだけですし」

 

 ダストさんと朝早くから喧嘩してたら宿の迷惑になる。文句をいうのは朝ごはんを食べてからでもいい。

 そんなことを思いながら私は静かに馬小屋の扉(馬小屋なので当然鍵なんてない。というか外からだと扉って言えるのもないし)を開ける。

 

 

 そこには想像通りハーちゃんと添い寝が出来て幸せそうな――

 

 

「…………ダストさん? うなされてるんですか?」

 

 

 ――姿なんてどこにもなかった。

 

 

 

 

 悪夢でも見ているのか。ダストさんは苦しそうな息を上げ、うわ言のように何かを喋っている。

 そして肝心のハーちゃんはそんなダストさんを慰めるように汗や涙を舌で舐め取っていた。

 

(…………涙?)

 

 あのどうしようもないろくでなしのチンピラさんが涙を流している状況に私は夢でも見ているんじゃないかという気持ちになる。

 そしてもしもこれが現実なら私が見てはいけないものなんじゃないかと、ぐるぐると混乱している頭でそれだけは思った。

 

(このまま見なかったことにして出ていったほうがいいよね……?)

 

 冷静に考えてもそれが正解に思えた。

 普段のダストさんを考えればこんな様子を見せたいなんて思わないはずだ。リーンさんならともかく、クソガキだと言っていつも馬鹿にしている私にこんな姿を見せたいはずがない。

 そして何より、私にはここで踏み込む理由がない。この人にはいつもくだらないことに付き合わされてばかりで酷い目に合うことばっかりだし、恨みこそあれ恩なんて――

 

 

 

『……で、だ。お前ら、年近いだろ? リーン、よかったらこの生意気なのと友達になってやってくんねえ?』

 

『ほら、アクアのねーちゃんが案の定涙目で来たぞ。…………大丈夫だ、あのねーちゃんは俺と似たようなチンピラだが根は素直で単純だ。……きっかけさえあればお前ならすぐ仲良くなれる。……ちゃんと友達になりましょうって言うんだぞ?』

 

『おい、ゆんゆん。呆けてないでそいつに名前をつけてやれ。そいつはお前が死ぬまで…………いや、その子孫まで何百何千という時を共に過ごしてくれる『友達』だ』

 

 

 ――ないこともないけど。それでも、ここで踏み込むまでの理由にはならないと思う。むしろ中途半端に恩があるからこそ、ここで見ないふりをするのが正しく思えた。

 

 

 だから私は帰る。

 

 

 

 

「…………ダストさん、起きてください。あなたに言わないといけないことがあります」

 

 

 

 

 もしもこの場所に大切な使い魔の姿がなければきっとそうしていた。

 

 

 

(仕方ないよね。だってハーちゃんがこの人を助けようとしているんだから)

 

 大切な使い魔がそうすることを望んでいて、けど大切な使い魔は生まれたばかりでどう助ければいいか分からない。ならどうすれば助けられるか、それを教えてあげるのが主としての役目だと思う。

 そしてそれは同時に友達としての役目でもあると思うから。私はここで踏み込む。

 

 

 

「っ……ミネア、待ってろ……俺がすぐに――――になって迎えに行くから」

 

 ミネアって誰だろう? 女の人の名前だけど。迎えに行くって許嫁か何かなんだろうか。…………モテないっていつもナンパばかりしてるダストさんにそんな人いるわけ無いか。

 ダストさんのかすれかすれのうわ言にそんな感想を抱きながら。私は声だけでは起きないチンピラさんの身体を揺らして本格的に起こそうとする。

 

「ほら、起きてくださいって。もう朝ですよ」

「ぅ……母さん……?」

「誰が誰のお母さんなんですか。寝ぼけてないでさっさと起きてください」

 

 普段クソガキ言ってる相手を母親と見間違えるとかどんだけ寝ぼけてるんですか。

 

「…………なんだ、守備範囲外のクソガキで身体だけはエロい生意気ぼっち娘か」

「起こしてくれた相手に言う一言目がそれですか!?」

 

 まだ半分寝ぼけてるっぽいのになんでそんなにスムーズに憎まれ口が叩けるんだろう。

 …………普段から本当にそう思ってるからとかだったらこの人との付き合い方を考えないといけない。

 

「てかなんでお前がここにいるんだよ。馬小屋とはいえ人の借りてる部屋に入るのは不法侵入だぞ」

「ダストさんにだけは言われたくないんですけど……って、そうでしたその話をしたくてわざわざダストさんを起こさないといけないんでした」

 

 もともとその話をするために着たわけだし。

 起こしたことはハーちゃんのためだし、うなされていたことについて踏み込む理由はやっぱり私にはない。

 

「あん? 話ってなんの話だよ。お前にわざわざ朝早くから起こされてまでするような話は思い浮かばないんだが」

「とぼけないでくださいよ。ハーちゃんを私の部屋から勝手に連れていったことは分かってるんですからね」

「は?…………確かにさっきからジハードが俺の回りを嬉しそうに飛び回ってるが…………お前が連れてきたんじゃねーのか?」

 

 あれ? なんだか本当に意外そうな顔だ。ダストさんに腹芸なんて出来るはずないし、本当にここに連れてきたのはダストさんじゃないんだろうか?

 

「違いますよ。私は起きたらハーちゃんがいないのに気づいて探したんです。そしたらここにハーちゃんがいたからダストさんが勝手に私の部屋に入って連れて行ったんだろうなって……」

「その状況でなんで俺を疑うんだよ。お前紅魔族のくせに栄養が胸にばっか行って知力足りないんじゃねーか?」

 

 呆れた表情でそんなことを言うダストさん。

 

「むぅ……ドラゴンが好きなどうしようもないチンピラさんがいて、いなくなったドラゴンがその人のもとにいるんですよ? 疑って当然だと思うんですけど」

 

 普段呆れされてばかりの人にそんな態度をされたら紅魔族として喧嘩を買わないといけない気になるけど、今は原因究明が先だ。カースド・ライトニングをぶつけるのはダストさんの見解を聞いてからでも遅くない。

 

「ジハードはお前と一緒に寝てたんだろう? 羨ましすぎるから死んでくれ。だったら戦士の俺にはお前の部屋に入るのは無理だろ。もしくは俺も一緒に寝させろ。誰かを疑うなら俺よりも解錠スキルか『アンロック』覚えてるやつにしろよ」

「話が入ってきにくいんで願望を途中で挟むのは止めてください。…………実行犯的にダストさんが無理なのは言われてみればそうですけど、誰かを脅してダストさんがやらせたんじゃないんですか?……お金で雇ったということはないですけど」

 

 実行犯じゃないからと言ってダストさんの疑いが晴れる理由にはならない。

 

「なんでお金で雇った線はないって断言してんだよ」

「え? 誰かを雇えるくらいのお金をダストさん持ってるんですか? だったら私に借金返してくださいよ」

「…………誰かを脅してやらせたって可能性の話だったな」

 

 都合の悪い話になったらすぐ話を逸らすのはダストさんの悪癖だと思う。…………いや、それくらいこの人の悪癖の数々の中では可愛いものだけど。

 

「そりゃ入らせる部屋がそこらの一般人ならともかく、頭のおかしい爆裂娘やアクシズ教徒のプリーストと友達のお前の部屋だぞ? 俺に脅されたくらいで入るには割に合わなすぎるだろ」

「人の友だちを魔獣や悪魔みたいに言わないでください。…………今回の件でダストさんが潔白だというのは納得しましたけど」

「…………納得してるお前も十分酷いからな」

 

 いや……うん。だって……。…………これ以上考えるのはやめよう。

 

「でも、だったら一体誰が私の部屋からハーちゃんを連れて行ってわざわざダストさんの部屋に……? もしかしてダストさんに恨みを持った人がダストさんを陥れようと……陥れようと……? 既にこれ以上ないくらい落ちきってる人を陥れても仕方ありませんよね」

 

 謎は深まるばかりだ。

 

「おう、ちょっと表出ろ。クソガキの分際で年上の男に舐めた口聞くのもいい加減にしろよ」

 

 ダストさんの戯言はスルー。今はハーちゃんを連れて行った犯人を見つけるのが先だ。…………喧嘩は後で買ってさっきバカにされた恨みは晴らそう。

 

「一体全体誰がハーちゃんを連れて行ったんだろう。動機を持ってる人がダストさんくらいしかいなくてダストさんには状況的な証拠がある。これが噂の迷宮入りですか?」

「何が迷宮入りだよ。少し考えればなんでジハードがここにいるかくらい想像つくだろ。これだから胸だけ成長してるぼっち娘は……」

 

 あとで覚えててくださいね。絶対黒焦げにしますから。

 

「ジハードを連れて行くやつが誰も居ないけど、ジハードがここにいる。……普通に考えればジハードが自分でここまで来たって分かりそうなもんだろ」

 

 …………はい?

 

「ついに頭がおかしくなりましたかダストさん。……いえ、初めて会った時から頭はおかしかったですけど、それはあくまで欲望に正直なだけだと思っていたのに」

「人のこと頭おかしいやつ扱いしてんじゃねーよクソガキ! 頭がおかしいのはお前の親友の爆裂娘だけで十分だ! ……ったく、信じられないならジハードに聞けばいいだろ。使い魔契約してるならジハードのいいたいことだいたい分かるだろ?」

「あのですね、ダストさん。確かに使い魔契約のスキルのおかげでハーちゃんの気持ちとかは大体分かりますし、私の意志も大体伝えることは出来ますけど、流石にそこまで複雑なことを理解させて聞くことは出来ないです」

 

 スキルで分かるのは『お腹が減った』とかそういうレベルだし、私が伝えられるのも『あれを攻撃して』とかそういう大雑把なレベルだ。

 

「あー…………なるほど。お前と俺の間で見解の相違が出るわけだ」

「? 何を納得してるんですか? 微妙に馬鹿にされてる気配もするんですけど」

「馬鹿にはしてねーが呆れてはいるな。スキルなんかに頼りっきりだから気づいてないんだろうが、ご主人様としては失格言われてもしかたねーぞ」

「な、なんなんですか。ご主人様失格ってどういうことですか」

 

 確かに私はドラゴンの知識について足りないところがある。それでなぜだかドラゴンの知識を持っているダストさんに不本意ながら何度か助けてもらったのも認める。

 それでも私なりにハーちゃんのことを大事にしてる自信はあるし、ダストさんも意外だけど知識がないことで私を馬鹿にしたりすることはなかったのに。

 それなのにどうして今ここで私は今までで1番のダメ出しをされているんだろう。

 

「何でも何もねーよ。お前、ジハードのご主人様のくせしてジハードが俺達の言葉を理解してることにも気づいてね―のかよ」

「理解って…………え? 長く生きたドラゴンが人の言葉を理解するのは知ってますけど…………ハーちゃんはまだ生まれて一週間ですよ?」

 

 早く理解するようにならないかなとは生まれる前から願ってたけど。

 

「一週間だが理解してるもんは理解してるんだからそれでいいだろ。普通のドラゴンじゃ100年以上生きてやっと人語を解するが…………まぁ、ジハードは紅魔族のお前を始めとしてウィズさんやらアクアのねーちゃんと言ったこの世界でも有数の魔力持ってる奴らに温められて生まれたドラゴンだからな。知力が普通より高く生まれることもあるかもしれない」

「…………そうなの? ハーちゃん」

 

 私の問にダストさんの回りを飛び回っていたハーちゃんが嬉しそうにキュィと鳴いて返事をする。…………スキルで感じるハーちゃんの意志も肯定だ。

 

「そっかハーちゃん私の言ってることちゃんと理解してるんだ。…………それなら確かに自分で内側から鍵を開けて外に出るくらいは出来るよね」

 

 どの程度の理解かはまだ分からないけど、多少なりとも一週間で人の言葉を理解していることから相当賢いことは分かる。鍵の仕組みや扉の仕組みくらい分かってて器用に開けることくらい出来るんだろう。

 

「……確かに私がハーちゃんのことちゃんと理解してあげれてなかったのは認めます。でも、ご主人様失格だって言われるほどじゃないと思うんですけど」

 

 これが一年以上気づいてなかったって言うなら確かにご主人様失格かもしれないけど。私だってまだハーちゃんの主になって一週間なんだから。

 

「確かに気づいてなかった事自体は仕方ねーかもな。俺もそれだけだったらご主人様失格とまでは言わねーよ。知識や経験はまだまだだが、お前なりにジハードを大切にしようってのは分かってるしな」

「だったらどうして…………」

「お前がやる前からジハードが理解できないって決めつけてたからだよ。…………ドラゴンってのは可能性の塊だ。その可能性を主であるお前が信じてやらないでどうするんだ」

 

 言われて考える。

 確かにダストさんが言った事を私は否定できない。でもそれはハーちゃんのことを信じられなかったというより……。

 

「…………ぼっちのお前のことだ。自分の気持ちを相手に伝えるのが苦手だってのは理解してやる。だけどな、それを理由にして言い訳すんなら本当にご主人様失格だからな」

「っ……」

 

 何でこの人は……普段は馬鹿でアホで呆れる言動しかしないのに、ハーちゃん……ドラゴンのことになると真剣で鋭いことを言うんだろう。

 ここまではっきりと……それも真正面から言われてしまえば誤魔化すことが出来ない。…………こんなどうしようもないチンピラさんの言葉でも素直に受け取らないといけないなんて凄い納得がいかないのに。そういうことがこの一週間でも何度かあった。

 

 

「えっと…………ハーちゃん? その……ごめん、ね……?」

 

 流石のハーちゃんも私が何を謝ってるのか分からなかったんだろう。人と同じように首を傾げて困惑の感情を伝えてくる。

 

「きゃっ……もう、ハーちゃん、くすぐったいよ」

 

 でも、私が落ち込んでいることは分かったんだろうか。慰めるようにして私の顔を舐めてくれる。

 …………うん。この子になら自分を出すことを怖がる必要なんてないのかもしれない。

 

「ちっ……イチャイチャしやがって……。おい、ゆんゆん用はもう終わっただろ? 俺はもう少し寝るからお前らもさっさと自分の部屋に帰れ」

「あ、はい。それと今日のことなんですけど……」

 

 確かにもうダストさんなんかに用はないしここにいる理由はない。…………というかいろいろあってちょっと気まずいし。

 ただ、この後、今日の予定については確認しておきたかった。

 

「分かってる。バニルの旦那の所に付き合えって話だろ。もともと俺から勧めた話でもあるしちゃんと覚えてるから安心しろ」

「そうですか……よかったです」

 

 ダストさんに付き合ってもらって良かったというのはなんだか凄い不思議というか落ち着かないことだけど。バニルさんに言われた通り、ドラゴンのことに関してはダストさんは頼りになる…………というより、その部分に関してだけは信頼してもいいんじゃないかというのはこの一週間、そして今回のことで理解した。今回バニルさんのところへ行く用事を考えればダストさんに付き合ってもらえるのは不本意ながら心強い。

 

(それ以外のことは相変わらずと言うか……怒ったり呆れたりすることばっかりだけどね) 

 

 

 

 どうしようもないろくでなしだけどドラゴンのことだけは頼りになるチンピラ。それが今の私のダストさんに対する印象だった。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……バニルさん、もう限界です。確かに私はリッチーですから死にません。たとえお砂糖とお水しかもらえなくても働けます。だけどたまにはもっとお腹に残るものを食べさせてください。具体的に言うとたんぱく質をください。そうすればもっとお仕事がんばれますよ」

「汝にはむしろ頑張ってなど欲しくないのだが…………まぁ、仕方あるまい。汝がそろそろそんなことを言うと思って串焼き屋に余った肉を貰ってきている。我輩の人徳によりただで貰ってきたものゆえ遠慮なく食べるがよい」

 

 小さな鐘の音を鳴らして入ったウィズさんのお店。リッチーな店主さんとバイトの大悪魔さんは二人でなんとなく楽しそうに話していて、私が来たことに気付かず話を続けている。

 

「…………そんなこと言ってまた私の前で美味しそうに食べるつもりじゃないですよね? バニルさんがそんなに素直にくれるなんてちょっと信じられないです」

「我輩も鬼ではない。昨日の汝は珍しく赤字を出さずに大人しくしていた。……店を開いているのに冷やかしだけで一人も客が来なかったのもどうかと思うが、それでも汝にとっては大きな前進だ。その褒美だと思うが良い」

 

 …………なんというかいろいろ突っ込みどころのある会話だなぁ。バニルさんは鬼じゃなくて悪魔ですよねとかすごく突っ込みたい。

 そんなことを考えていたらバニルさんはポケットの中から袋に入ったお肉のようなものを取り出してウィズさんへと渡す。

 

「…………あの? バニルさん。これどう見ても生肉なんですが…………普通串焼きって焼かれてるものですよね?」

「串焼き屋に余った肉を貰ったと言ったが別に誰も串焼きをもらったとは言っておらん。文句があるなら捨ててくるがよい」

「だ、誰もいらないなんて言っていませんよ! ちょっと期待したものと違っただけで十分うれしいです!……あぁ、でもどうしよう……うちにはタレなんてものあるわけありませんし、塩コショウもなければ塩すら……。調味料であるのは砂糖だけですし………………砂糖?」

 

 塩コショウくらいいくらでも私が買ってきますからその選択肢を本気でありか考えないでください。というか串焼きくらい私に言ってもらえばいくらでも買ってきてきますから。

 …………あぁ、でも私が買っていったらバニルさんが奪ってウィズさんの目の前で美味しそうに食べて二人分の悪感情を美味しくいただく未来しか見えない。

 

「ところでバニルさん、一つ気になることを聞いてもいいですか?」

「何を遠慮することがあるのだ。我輩と汝の仲であろう。1つと言わずいくらでも聞くがよい」

 

 うわぁ…………バニルさんすごいいい笑顔だ。経験上あれは絶対ろくでもないことを考えている。言うなればごちそう(悪感情)を前にした時の顔。

 

「では遠慮なく。…………この生肉バニルさんのポケットの中から出しましたよね? 『カースド・クリスタルプリズン』で作った氷の箱の中じゃなくて」

「うむ、我輩のぬくぬくポケットの中でしっかりと保存しておったぞ」

「…………このお肉、余った肉だと言っていましたが、もしかしなくても」

「うむ、腐りかけゆえ商品にならないものを串焼き屋の店主よりもらってきた」

「……………………袋の中から凄い臭がするんですが、一体全体いつもらってきたんでしょうか?」

「一週間くらい前だな」

「どう考えても腐りきってるじゃないですか!」

 

 ある程度予想してたけどこれは酷い。いつも砂糖水だけで生きてる人にこの仕打はないと思う。…………いや、前提条件が何よりもおかしいけど。

 

「なんだ気に入らないのか? これでも大変だったのだぞ。匂いにつられてカラスにまとわり付かれて追い払うのに苦労した。危うくカラススレイヤーの称号を失うところであったわ」

 

 …………そこまでしてウィズさんからかいたかったんですね。

 

「まぁ、汝がいらないというのであれば仕方あるまい。その肉は野良ネロイドにでも食べさせてこよう。よこすがいい。……ムシャムシャ」

「少しもったいない気がしますけどしょうがn…………って、何を美味しそうに食べてるんですか!?」

「見ての通りの串焼きである。今日の朝、ゴミを捨てに行った帰りに串焼き屋の店主に『いつもカラスを追い払ってくれてありがとう』ともらったのだ。少し冷めているがタレが染み込んで美味しいぞ」

「私の前で美味しそうに食べたりしないって言ったじゃないですか! 悪魔は嘘をつかないんじゃないんですか!?」

 

 悪魔は嘘をつかない。そう言えばそんなことを前にホーストとかいう悪魔が言ってたような…………あれ? 微妙に違った気もするけど。

 

「それは勘違いであるな。確かに悪魔はウソを付くことを好まぬが、必要であれば喜んでウソを付く。口約束だけとしても『契約』は破らぬがな」

 

 そういう所はある意味人間よりよっぽど律儀なんですよね悪魔って。曲がりなりにもバニルさんと友達をやれているのはそういう所があるからだと思う。

 …………ウィズさんとの今のやり取りを見ていると友達を続けて大丈夫なのかと本気で考えさせられるけど。

 

「そうなんですか? それなら仕方な…………仕方なくないですよ!」

「そもそも我輩は別に嘘などついておらぬぞ。我輩は何時の問いに『鬼ではない』と答えただけだ」

「そんなのただの屁理屈じゃないですか! バニルさんの鬼! 悪魔! 人でなし!」

 

 あまりの扱いに限界だったんだろうか? ウィズさんはそこまで言ったと思ったらそのまま私の横を通り抜けて店を出ていってしまう。

 

「だから我輩は鬼ではないと…………。ふーむ、少しばかりやりすぎてしまったか。あれは『見通す力』で未来が見えぬゆえ、反応を予測できぬのが面倒だな」

 

 ウィズさんにあげるつもりだったんだろう、隠していた串焼きを持て余しながらバニルさんは嘆息する。

 

「……だったら、からかったりしなければいいじゃないですか」

 

 そんなバニルさんにため息を付きながら、私はハーちゃんと一緒に近づいていく。

 

「なんだチンピラごときに使い魔の主としてダメ出しされたぼっち娘ではないか。来ていたのか」

「それだけ高性能な見通す目を持ってて気づかないなんておかしくないですかね!?」

 

 ダストさんなんかにダメ出しされたとか誰にも知られたくなかったのに……。

 

「そんなこと言われても、気づかなかったのは本当に気づかなかったのだから仕方あるまい」

「あの……? からかうのはバニルさんの趣味だから仕方ないですけど、そういう時はちゃんとトーンを変えるというか、いつもみたいに悪い笑みを浮かべて言ってくださいよ。そんな風に普通に言われたら本当に気づかれなかったかと思うじゃないですか」

 

 最初は気づかなかったかもしれないですけど、流石に今の今まで気づかないとか……。

 

「…………そうだな、次からは気をつけよう」

 

 だから本当にそんな思わせぶりな言い方はやめてくださいよ!

 

 

 

「さて、ぼっち娘にとって悲しい現実の話はここまでにして商談に移るとしようか。確かそのトカゲの能力を見通して欲しいという件と取り寄せたドラゴンフードの売買の件であったな。ドラゴンバカなチンピラと一緒に来るという話だったが先に進めてもよいのか?」

 

 話の調子を変えてバニルさん。からかいモードから商売人モードに移ったみたいだ。

 

「えーっと…………ダストさんならちゃんとここにいるじゃないですか」

 

 少しだけ気まずさを感じながら私は左手に掴んでいる物体を指差す。

 

「…………はて、我輩の殺人光線を受けた貧乏店主のような物体しか見えぬのだが、まさかそれがあのチンピラとでも言うつもりなのか?」

「はい…………。ちょっとむしゃくしゃしてていつもの喧嘩でやりすぎてしまって……」

 

 カースド・ライトニングの威力の調整をちょっと間違えてしまった。

 

「…………汝は本当にそのチンピラには遠慮がないというか容赦がないというか…………ある意味あの爆裂娘より遠慮がないのではないか?」

「んー……言われてみればそうですね。ダストさんになら別に嫌われても全然困りませんし、遠慮する理由がないですからね」

 

 それにダストさんに遠慮なんてしてたらどんどん利用されるだし。色んな意味で遠慮なんてやってられない。

 

「まぁそのあたりはどうでもよいか。その黒い物体がどうしようもないチンピラなのは分かったが、そのまま商談を進めてもよいのか?」

「…………回復ポーションを買わせてください。適当にかけてたらそのうち復活すると思いますんで」

 

 ダストさんって戦士の割には魔法防御力高いし、見た目は酷いけど実際はそうでもないはずだ。

 

「まいどあり。…………では商談を始めようか。我輩としては先にドラゴンフードの売買の話をしたいのだが」

 

 ダストさんに回復ポーションを掛け終わった所でバニルさんはそう言って商談を進める。

 

「そっちはダストさんと一緒に進めたほうがいい気がするんで先にハーちゃんのことを見通してもらえますか?」

 

 私にはドラゴンフードの良し悪しなんて分かりませんし。

 

「ふーむ…………。とりあえずブレスに関しては卵の時に見通した通り雷属性のブレスを使うようだな」

 

 雷属性ってことは『サンダーブレス』かぁ。威力はともかく『ライトニング』とかと同じような形で使えそうかな。

 

「それと二つの固有スキルを持っているようだな。…………だがこれは…………」

「? 固有スキルってなんですか?」

 

 なんだか難しい顔をしているバニルさんに私は聞く。

 

「うむ、固有スキルというのはその名の通りブレス能力以外でそのトカゲが持っている固有のスキルのことだ」

「もしかしてその固有スキルというのはとても珍しくてハーちゃんは凄い特別なドラゴンなんですか!?」

「ええい、暑苦しいからそんなキラキラした目で聞いてくるでない、変な名前の一族の血を引く娘よ。…………別にトカゲが固有スキルを持っていることはそう珍しい話ではないし、3つくらいなら固有スキルを持って生まれるトカゲもいたりする。別に固有スキルを二つ持ってる事自体はないこともない程度の話だ」

 

 そうなんだ……少しだけ残念というか…………ハーちゃんが凄いドラゴンだったら邪神を使い魔にしてるめぐみんにも自慢できたかもしれないと思ってしまった。

 もちろん凄かろうが凄くなかろうが私にとってハーちゃんが大切な使い魔だというのは何も変わらないけれど。それはそれ、これはこれ。めぐみんに対するライバル心はいろいろと複雑だ。

 

「んー……でも、固有スキルを二つ持ってることがそこまで珍しくないのならなんでバニルさんはさっきから難しい顔をしてるんですか?」

 

 気のせいかなとも思ったけど、やっぱりバニルさんはなんだか難しい顔をして私と話しながらも思案している様子だ。

 

「覚えている固有スキルが最高の組み合わせというべきか最悪の組み合わせというべきか……。卵を温めていたあれとあれの影響だというのは分かるが…………。とりあえず、その治りかけの黒い物体で1つは実演させるとしよう」

「黒い物体ってダストさんですか? これ以上ダストさんを痛めつけるとかでしたら流石の私も止めますよ?」

 

 不本意ながらハーちゃんはダストさんに懐いてる気がするし、そんなダストさんをハーちゃんに傷つけさせるのは可哀想だ。

 

「その逆のことをさせるのだから安心するがよい。ぼっち娘よ、そのトカゲにチンピラの傷を治すよう命令するのだ」

「傷を治す……? ハーちゃん、そんなこと出来るの?」

 

 私の問いに応えるように、ハーちゃんはダストさんの傷ついた身体を小さな舌で舐めていく。すると、回復ポーションで治りかけていたダストさんの身体の傷が舐めたところからどんどんと治り消えていった。

 

「バニルさん、これってもしかしなくても……」

「うむ、回復魔法。それがそのトカゲが持つ固有スキルの1つである。…………どっかの自称女神が魔力を与えた影響であろうな」

 

 アクアさんはプリーストとしての能力は文句なしで高いからなぁ。その影響を受ければ確かに回復魔法くらいは覚えるのかもしれない。

 

「っ……ん? ここはウィズさんの店か? 何で俺はこんなところに……」

 

 左手に引っ張られるような感覚を感じてみてみれば、掴んでいたダストさんが身じろぎをしてその目を開けていた。

 

「起きたか。最近ドラゴンと触れ合えてご機嫌なチンピラよ」

「お、バニルの旦那じゃねーか。奇遇だな……って、ウィズさんの店だから奇遇でもなんでもないか。旦那はなんで俺がこんなところにいるか分かるか?」

「それは汝の右にいるバレぬよう手を放そうとしているぼっち娘に聞けば分かるのではないか?」

 

 バニルさんの言葉にビクッとしてそろりと放そうとしていた手を掴み直してしまう。

 

「ゆんゆん……? あー……そういやまたゆんゆんと喧嘩したっけか。それで惜しくも負けちまって気絶したのまでは思い出したわ」

 

 いえ、全然惜しくはなかったですけどね。私の圧勝でしたよ。

 

「…………で? 人のことぼろぼろにしたぼっち娘さんよ。何で俺はお前に掴まれてここにいるんだ?」

「ほ、ほら、今日は一緒にバニルさんのところに行ってくれるって話でしたし、今朝確認しても分かってるって言ってくれたじゃないですか」

 

 ジト目でみてくるダストさんの視線から目をそらしながら、私はそう答える。

 

「それは喧嘩してボロボロにされる前の話だろうが! 普通ボコボコにした相手をその日のうちに自分のことに付き合わせるかよ!」

「私もちょっとどうかなぁとは思いましたけど、喧嘩売ってきたのはダストさんですしいつものことだから別にいいかなぁって」

 

 それにダストさんは連れてこなければ連れてこなかったで多分文句言ってくるし。………………この人本当に面倒くさいなぁ。

 

「…………ま、男に二言はねーからいいけどよ。今度喧嘩する時は俺が勝つからな」

 

 面倒くさい上に懲りない人だなぁ……。

 

「それよりぼろぼろになってたのを治してくれたのバニルの旦那なのか? どっかの凶暴ぼっちは手加減なしに上級魔法撃ってきたから結構ひどい傷だったと思うんだが」

「半分はそうであるな。ぼっち娘が割高で買った安い回復ポーションを汝に使ったのは我輩だ」

「別に割高で買った覚えはありませんよ!?」

「半分ってことはもう半分は違うってことか。もう半分はなんなんだ? 旦那」

「後の半分はどこかの友達いないぼっち娘の使い魔の能力である」

「と、友達いないなんてことないですよ! というか二人共、人のことをぼっちぼっち言わないでください!」

 

 私にだって里になら友達それなりにいますし、アクセルにだってそれなりに友達できたんですからね。

 

「へー……ってことはジハードの固有スキルは回復魔法か。回復系の固有スキル持ってるドラゴンは多いけど、他人にも使えるってなると少し珍しいな」

「? 回復系の固有スキル自体は珍しくないんですか?」

 

 人間だと回復系のスキル使えるのは私が知ってる限りだとプリースト系の職業の人かそこから教えてもらった冒険者の人だけなのに。

 

「ジハードが回復魔法使えるならどっかの身体がエロいのだけが取り柄のぼっち娘にボコボコにされても安心だな」

「それは困るな。うちで数少ないまともな商品である回復ポーションを買うものが一人でもいなくなれば、どこかのお金を余らせているぼっち娘にでも割高で買ってもらわねば店が潰れてしまう」

 

 ……………………

 

「分かりましたよ。ダストさんのことをボコボコにしたのは謝りますし、回復ポーションも割高で買いますから。…………だから、私を無視して話を進めるのは止めてください」

 

 あと、私の事ぼっちぼっち言うのも二人がかりで言われると地味にへこみます。

 

「最初っから素直にそう言っときゃいいのに。本当可愛くねーガキだぜ。今度酒奢れよ」

「紳士として知られる我輩としたことが何やら強請ったようになってしまったな。ぼっち娘よ、無理して割高で買う必要はないのだぞ。…………ところで話は変わるのだが、うちの貧乏店主が勝手に売れると言って買い集めたガラクタの数が少し洒落にならない在庫になっていてだな……」

 

 …………なんで私はこの人達に頼ろうって思ってしまったんだろう。

 

 

 

 

 

「……で? なんだっけか、ドラゴンが回復系の固有スキルを覚えてるのが珍しくないってのが聞きたいのか」

 

 一通りウィズさんが仕入れた魔道具を買わされた後。ダストさんが話を再開する。

 

「はい。回復スキルって結構レアなイメージなんですけど、ドラゴンだとそうじゃないんですか?」

「まぁな。もともとドラゴンってのは傷の治りは早い。魔力の塊って言われてるだけあって生物でありながら精霊のような魔力の集合体に近い性質を持ってるんだ。だから魔力さえ十分ならその回復は人間のそれとは大きく違う。だからそれがスキルといえるくらい異常な回復能力となったドラゴンはそう珍しくはないんだ」

 

 なるほど。精霊は攻撃しても魔力が減るだけで傷が出来ないって話も聞いたことあるし、それに近い性質をドラゴンが持ってるなら回復が早いって言うのも納得だ。

 

「というか、回復スキル持ちのドラゴンならお前だって見たことあるだろ」

「え?…………あっ、クーロンズヒュドラ!」

 

 大物賞金首クーロンズヒュドラ。あの亜竜は確かに恐ろしいくらいの自己再生能力を持っていた。

 

「ジハードの回復魔法は流石にクーロンズヒュドラの自己再生ほどの回復量はないだろうが、他人にも使えるって点はヒュドラよりも勝ってる。魔力やそれを扱う技術が上がれば回復量もあがるだろうし……ジハードが上位ドラゴンになった時が恐ろしいくらいだな」

「つまり私の使い魔は大物賞金首よりも将来的には凄いドラゴンになるんですね!」

 

 これはめぐみんにも自慢できるかもしれない。それに大物賞金首よりも凄いとか紅魔族の琴線に凄い触れる。

 

「まぁ、回復能力的にはそうだし、亜竜のヒュドラよりも純血のドラゴンであるジハードのほうが最終的に単純な能力は高くなるってのは確かにそうなんだが…………あの大物賞金首は自己再生スキルよりももう一つの固有スキルが厄介だったから一概にジハードのほうが凄いとは言えないんだよな」

「クーロンズヒュドラにもう一つ固有スキルですか? 自己再生以外に何かありましたっけ?」

 

 戦った時に厄介だと思ったのは自己再生くらいだったんだけど。

 

「ドレイン能力…………あのヒュドラは土地から魔力を吸い取る固有スキルを持ってたからな。そのスキルがあったからあの亜竜は普通よりも大きくなるのが早かったようだし、潤沢な魔力で自己再生能力もたくさん使えた。どっちか片方だけならあのヒュドラは大物賞金首とまでは言われてなかったろーよ」

 

 クーロンズヒュドラってそんな能力まで持ってたんだ。カズマさんの説明じゃ自己再生能力くらいしか説明されなかったし知らなかった。

 …………というか、なんでこの人はそんなこと知っているんだろう。調べれば簡単に分かることだろうけど、普通そんなこと調べない。やっぱりこのチンピラさんはドラゴンバカなんだろうか。

 

「そのことなのだがな、ぼっち娘にドラゴンバカと思われているチンピラよ。そこの使い魔だが…………ドレイン能力を持っているぞ? しかもドレイン能力としてだけなら完全にあの大物賞金首よりも上位互換のものを」

「「……え?」」

「その黒いトカゲの二つ目の固有スキル。それは相手の生命力と魔力を奪い、時には逆に分け与える……リッチーの使うドレインタッチと同じスキルだ」

 

 つまり私の使い魔は大物賞金首よりも凄いってこと……?

 

「キャー! ハーちゃん凄いよ! ハーちゃんってば可愛いだけでも最高なのにすっごく賢くて、その上能力も凄いなんて!」

 

 ハーちゃんの前足を掴んで一緒にぐるぐると回って喜びを表現する。ハーちゃんもそれが楽しいのか、それとも私が喜んでるのが分かっているのか、使い魔契約のスキルで喜びの感情が伝わってくる。

 可愛いドラゴンってだけでも私にはもったいない使い魔なのに、それだけじゃなくて人の言葉もわかるくらい賢くて、大物賞金首にも負けない潜在能力を持ってるなんて。

 

 

「…………なぁ、旦那。流石にやばくねーか?」

「うむ。駄女神とポンコツ店主の影響なのは見通す力を使わずとも分かるが、この二つの能力を持った純血のドラゴンとなれば…………下手すればあの機動要塞をも超える史上最悪の賞金首が生まれかねないであろう」

 

 喜んでいる私とハーちゃんとは裏腹に、バニルさんとダストさんはなんだか別世界のように難しい顔をして話している。…………朝も思ったけど、ダストさんって真面目な顔が本当に似合いませんね。別に変な顔ってわけじゃないし、むしろいつものチンピラ顔よりはかっこいいんだけど、イメージと合わなすぎる。

 

「なぁ、ゆんゆん。俺と約束してほしいことがあるんだがいいか?」

「なんですか改まって。ダストさんに真面目な顔されるとなんだか背中が痒くなっちゃうんですけど」

「このクソガキは本当に口が減らねーな!」

 

 それはわりとこっちの台詞だと思います。

 

「すみません、ちょっと本音が漏れてしまいました。……それで、ダストさん、約束というのは?」

「お前は後でちゃんと謝罪の意味を調べろよ。全然謝れてねーからな」

 

 ダストさん以外の相手ならちゃんと謝罪出来ますけどね。ダストさん相手だとまぁ…………私に限らず誰でもこうなると思う。

 

「ま……お前の毒舌な生意気っぷりは置いといて真面目な話だ。…………ジハードを戦わせる時は絶対に俺と一緒にいるときだけにしろ」

「なんでですか? やっと私にもいつも一緒に戦ってくれる大切な友達ができたのに、どうしてそんなこと言うんですか?」

 

 やっぱりまだボコボコにしたことを根に持ってるんだろうか。それともぼっちはぼっちらしくしてろということなんだろうか。

 

「一人で戦うのが嫌なら爆裂娘でも残念プリーストでもリーンでも誘えばいいだろ」

「誘うって…………それができたら苦労しませんよ!」

 

 誘われて一緒に誰かと戦ったりというのは結構増えたけど、自分から誘うとなると今でも凄い難易度が高い。だからこそ誘うまでもなくいつも一緒なハーちゃんと戦えるのは私にとってすごい大きいことなのに。

 

「お前の悲しいぼっちの習性は分かってやらないこともないが、それとこれとは話が別だ。…………いいからとにかく約束してくれ」

「見通す悪魔が助言する。ぼっち娘よ、チンピラと約束するがよい。そうするのが汝と汝の使い魔のためだ」

「…………理由を話してくださいよ。そうじゃないと納得できません」

 

 ドラゴンのことに関しては間違ったことを言わないダストさんに、契約を重んじるという悪魔のバニルさんがそこまで言うってことは、きっと約束した方がいいんだとは思う。

 でも、だからといって頭ごなしに言われただけで納得できるはずもない。…………大切な使い魔で友達のことで、知らないままに約束なんて出来るはずないのだから。

 

「単純に危険なんだよ。ジハードの能力は」

「確かにハーちゃんの能力が凄いってのは分かりましたけど…………危険って何でなんですか?」

 

 回復能力とドレイン能力。確かに凄いけど、それがどうして危険って話になるんだろう。ハーちゃんは賢くて私の言うこと聞いてくれるし、本能を封印されてるのもあるだろうけど、凄く大人しいのに。

 

「多分お前はその凄いってのもちゃんと分かってない。亜竜のヒュドラと違って純血のドラゴン……それも上級種のブラックドラゴンがドレイン能力を持ってる意味がどういう意味か本当に分かってんのか?」

「えっと…………相手から魔力を奪えればいくらでも回復魔法やブレス攻撃ができるってことですよね?」

「それだけじゃない。純血のドラゴンならどのドラゴンでも持ってる特性、それは魔力を持っていれば魔力を持っているほど強くなる。亜竜のヒュドラならどこかで肉体的な制約がかかるが純血のドラゴンならそれがないに等しい。……ジハードがドレイン能力を使えば本当にどこまでも強くなるんだよ」

「それは……」

 

 それは本当に凄いって言葉で片付けていいんだろうか?

 

「た、確かにハーちゃんが凄いって言葉じゃ収まらないくらい凄いのは分かりました。でも、だからと言ってハーちゃんを危険な存在みたいに言うのは止めてください」

 

 ハーちゃんはこんな私でも主だって認めてくれる優しい子なんですから。

 

「俺だってジハードが可愛くて賢いのは分かってるし危険な存在だって言うのは本当は嫌なんだよ。それでもこれは言わなきゃいけないことだ」

「…………どうしてですか?」

 

 嫌だというのなら。ハーちゃんの優しさを知っているのなら。どうして危険だと言うんだろう。

 

「どこまでも強くなる。だけど、その強さをどこまでもジハードが制御できる訳じゃない。幼竜のジハードじゃ中位ドラゴンくらいの力を振るおうとすれば暴走しちまうだろう。……その先はヒュドラどころかデストロイヤーすら凌駕する史上最悪の賞金首の誕生だろうな」

「もしそうなった時は人にはどうにもできぬ。恐らくは天界から神が派遣されて滅ぼされることになるであろう。むしろそこで終われたら幸運なほうだ。滅ぼせなかった場合の未来はこの世界にとどまる話ではなくなる」

 

 バニルさんの補足はちょっと壮大過ぎて把握しきれないけど、ダストさんの話だけで十分に危険性は分かった。というよりハーちゃんのためを思うならダストさんがいようといまいと戦わせるのは止めたほうがいいんじゃないだろうか。

 そんなことをダストさんに聞いてみると。

 

「力の扱い方を学べば暴走の可能性は低くなるし、そのためなら能力も含めて実践で戦ったほうが効率的だ。俺が目を光らしてたら絶対に暴走なんてさせねーし。お前もジハードと一緒に戦いたいって気持ちは変わらねーんだろ?」

 

 そう言って私にまた約束を迫ってくる。

 自分がいたら暴走させないなんて言う謎の自信はともかく、言ってきた事自体はまともだし、一応とは言え私の気持ちも汲んでくれている。

 …………ここで撥ね退けたら子供みたいだよね。

 

「分かりましたよ。約束します。ハーちゃんと一緒に戦いたい時はダストさんを呼ぶ。…………それでいいんですよね?」

「上出来だ。ま、俺が無理な時はバニルの旦那でもいいんだろうが…………旦那は基本的に忙しいからなぁ」

「うむ。未だにまとまった資金が溜まらぬゆえ相談屋をやめられぬし、貧乏店主一人にこの店を任せていればすぐに潰れる。カラススレイヤーとしてカラスを追い払うのも毎日かかせぬし、行き遅れ受付嬢の愚痴を聞かねばならないときもある。我輩めっちゃ忙しいぞ」

 

 …………この悪魔さん、本当に地獄の公爵なんですかね?

 

 

 

 

 

「お、流石旦那だな。頼んでたドラゴンフードをちゃんと取り寄せてくれるなんて」

「少しばかり苦労したが未来の大手取引先を作るためなら当然のことである。今は取引量が少ないがあのドラゴンが大きくなれば食べる量は膨れ上がる。10年後が楽しみだ」

「下位ドラゴンの成長期はすごい量を食べるからなぁ。まとめ買いにして多少安くなるにしても金額は凄いことになる。…………ま、ドラゴンがいればそれくらいのお金はすぐ稼げるから別に問題はないだろうけど」

「というわけでぼっち娘の代理人よ。単価はこれくらいでどうだ?」

「旦那ー? 流石にそれはぼったくりすぎだろ? 旦那には俺もゆんゆんも世話になってるし多少は多く手数料取ってもらってもいいけどよ、この単価じゃ成長期は払いきれない。せめて……このくらいだな」

「ふーむ…………また絶妙な所を」

「一応、旦那が得してゆんゆんが損しすぎないところだと思うんだが……」

「確かにこれくらいが妥当と言ったところか。…………妥当すぎてつまらぬ。こうなるから汝が起きる前にぼっち娘とドラゴンフードの売買契約を結んでおきたかったと言うのに」

「ま、そのあたりはゆんゆんにウィズさんが仕入れた品を買わせればいいんじゃないか? ドラゴンフードのこと以外は別に俺は何も口だす気はないし」

 

 

「何ていうか…………ダストさんって本当にドラゴンのことは詳しいんだなぁ」

 

 店の窓によりかかりながら。バニルさんとドラゴンフードの売買契約を話しているダストさんを見ながら私はそんなことを呟く。

 

「ハーちゃんには凄い優しかったり…………ドラゴンのことになると人が変わるっていうか。……ハーちゃんもダストさんには妙に懐いてるし」

 

 はぁ、と大きなため息をつく。そんな私をどうしたのと言った瞳でハーちゃんが見つめてくるが、その純粋な瞳が今はなんだか辛い。私はその視線からそらすように身体を振り向かせて窓の方へ向く。

 

「あ……」

「…………何してるんですか? ウィズさん」

 

 そして何故か窓の外から店内を見ていたウィズさんと目があった私は窓を開けて声をかける。

 

「いえ……そのですね? ちょっとバニルさんと喧嘩をして店を出たんですけど…………ほとぼり冷めたらなんだか帰りづらくて」

 

 喧嘩? あれはウィズさんにとっては喧嘩だったんだろうか? 私にはそうは見えなかったんだけど。

 …………というか、私はウィズさんが出ていったところに出くわしてたんですけど。…………本当にバニルさん含め気づかれてなかったんだろうか。

 

「どうせ、バニルさんがいつもみたいに酷いことをしたんじゃないんですか? ウィズさんが気を使う必要はないと思うんですけど」

 

 少なくともあれはバニルさんが悪いと思う。

 

「そうなんですけど…………よくよく考えたら店を出ていくほどでもなかったかなって。ゆんゆんさんの言う通り『いつも』のことですから」

 

 それはそれでどうなんだろう。あんな扱いをいつもされたら私なら耐えられない気がする。

 

「それにバニルさんは平気で酷いことをする悪魔ですけど、酷いことだけをする悪魔じゃありませんから。……よくよく考えたら今日のパターンは上げて落として上げる、悪感情の回収と次の悪感情回収への繋ぎのパターンだったのに上げて落とされた所で私が逃げちゃうのはバニルさんにとって予想外だったんじゃないかなって」

「すみません、ウィズさんが何を言ってるのかよく分からないです」

「ふふっ……そうですね。私も自分で何を言ってるかよく分からないです。ただ、その……私もバニルさんの友達としてまだまだだなぁって」

 

 ウィズさんの言葉。その意味は私にはよく分からなかったけど、感じている気持ちは今の私と一緒なんじゃないかってそう思った。

 

「……そういう時、ウィズさんはどうするんですか?」

「そうですね……とりあえず謝ります。そしてたくさん話して相手のことを理解できるように頑張るんです。相手にふさわしい自分になれるように」

「…………そうですよね。それしかないですよね」

 

 うんと、ウィズさんの言葉を胸に刻んで頷く。

 ハーちゃんの主として、友達として今の自分が相応しくないというのなら。相応しい自分になるために頑張るしかない。

 そのためならどうしようもないチンピラであろうとも認める所は認めて知識や経験をもらっていくのも必要だ。

 

 そう思ったらなんだかもやもやしていた気持ちが嘘のようになくなり、自然と安堵のため息が出た。

 

「ところでゆんゆんさん。バニルさんとダストさんって凄い仲がいいですけど、実はあの二人が付き合ってるということはないですかね?」

「…………ウィズさんって意外に恋話とか好きですよね」

 

 なんだか目を輝かせているウィズさんに気づかれないよう私は小さくため息を付いた。



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第9話:最初の一歩

「ゆんゆん入るぞー……って、なんだよ鍵かかってんじゃねーか」

 

 朝。ゆんゆんを迎えに来た俺は鍵のかかった扉にそれを阻まれる。

 

「中でなんかバタバタしてるみてーだし、起きてるのは起きてるみたいだな」

 

 なんか『ハーちゃん開けちゃダメ!』とか言ってるゆんゆんの声が聞こえるし。

 

「さて……どうするかね」

 

 俺が取れる選択肢は――

 

 

1:ジハードにお願いをして鍵を開けてもらい部屋に入る

2:扉を蹴飛ばして部屋に入る

 

 

 

「――てわけだ。ゆんゆん入るぞ」

 

 少し考えた俺は扉を蹴飛ばして部屋へと入る。いくら俺に懐いているとはいえ主人のゆんゆんに開けるなと言われていたら、ジハードも鍵を開けることはないだろう。となればアンロックも解錠スキルも使えない俺には扉を蹴飛ばして部屋に入るしか方法はない。

 

「きゃっ!? な、なな……何が『――てわけだ』なんですか!? 女の子の部屋にいきなり入ってこないでください!」

 

 着替え途中だったのかゆんゆんは小さな悲鳴を上げた後、服で体を隠すようにして文句を言ってくる。

 

「はっ、守備範囲外のクソガキがいっちょ前に色気づきやがって」

「だったら私の事そんないやらしい目で見ないでください!」

「まぁ、それはそれ、これはこれ。お前身体はエロいし顔は悪くないからな」

 

 実際に手を出す気にはなれないが、目の保養にはなる。それにサキュバスサービスで頼む夢の内容の参考にはなるし。

 

「それに俺は入る前に入るぞって声かけただろ。いきなりでもなんでもないぞ」

「問題はそこじゃないですよ! 扉を壊して入ってきたのが問題なんです!」

「はぁ? 鍵がかかってるなら俺が入るには扉壊すしかないだろ。俺は盗賊でも魔法使いでもないんだぞ」

「いえ……そもそもなんで入らないって選択肢がないんですかね……?」

「せっかく人が迎えに来てやったってのに部屋にも入れず外で待たすつもりなのかお前は? 常識知らずにも程が有るぞ」

 

 ゆんゆんが今日ジハードと一緒にクエストやりたいと言ったから俺はわざわざ早起きしてやってきたと言うのに。

 ……けして俺がドラゴンと一緒に戦うのが楽しみで待ちきれずに来たわけじゃない。年上の男としての甲斐性ってやつだ。

 

「とりあえず世間一般的な常識では女の子の部屋に許可もなく扉を蹴飛ばして入ってくるような男性は問答無用で留置所行きだと思います。なので常識知らずなのはダストさんの方ですね」

「ちっ…………しゃーねーな。だったら今回はどっちも常識知らずだったってことで手を打ってやるよ」

 

 こんなことで喧嘩してる時間がもったいない。俺としては早くジh……ゆんゆんとクエスト行って金を稼ぎたいんだから。

 

「…………この人なんでこんなに自信満々で上から目線なんですかね?」

 

 俺としてもゆんゆんみたいなぼっちが年上の男相手に遠慮なしに色々言ってくるのは謎なんだがな。

 

 

 

 

 

「とりあえず無駄話はこれくらいにして、さっさと着替えろよ」

「だったら早く出て行ってください」

 

 着替えを急かす俺にゆんゆんはジト目でそう返してくる。

 

「おー、ジハードは今日もかわいいな。よしよしっと」

 

 そんなゆんゆんはどうでもいいので置いとくとして。俺の回りを嬉しそうに飛び回るジハードを捕まえて頭をなでてやる。きゅぅんと鳴く声が可愛い。

 あー……やっぱドラゴンはいいよなぁ……かっこいいし可愛いし。俺もジハードと一緒に添い寝とかしてーなぁ。

 

「人の話聞いてくださいよ! 着替えられないから早く出て行って!」

「あんまり大きな声出すなよ。ジハードが怖がってる」

 

 主人の大きな声にびっくりしたのか、少しだけビクついているジハードを宥めながら俺はゆんゆんに注意する。

 

「………………ダストさん、ハーちゃんには甘いですよね。チンピラのくせに」

「そりゃ、ジハードはかっこいいし可愛いからな」

 

 猫可愛がりするのも仕方ないだろう。ジハードの可愛さに触れれば誰だってそうなるはずだ。ならないやつは折檻してやらないといけないレベル。

 

「というかハーちゃんもハーちゃんで私よりダストさんの方に懐いてるような……」

 

 訝しげというか不満げな表情でゆんゆん。……ったく、そんなことも分からないから俺みたいなチンピラにダメ出しされるんだよ。

 ダチに対してもそうだが、ゆんゆんはそういうところに対する自信が圧倒的に足りない。そこさえどうにかなればダチももっと出来るだろうしジハードの主としても及第点上げてもいいんだが…………。

 

「んなこたーねーよ。俺とゆんゆんどっちを選ぶかって言われたらゆんゆんを選ぶだろうさ」

 

 俺はジハードの祖父みたいなもんでゆんゆんはジハードの母親みたいなもんだ。甘やかしてくれる方によく懐いているように見えても本当に自分を大事にしてくれてる方はちゃんと分かってる。

 …………俺がどれだけ今のゆんゆんが羨ましいか、こいつはきっと全然分かってないんだろうな。

 

 

 

 

「で? お前はいつになったら着替え終わるんだ? グズグズしてると俺が着替えさせるぞ」

「いいからさっさと出て行ってください! 『カースド・ライトニング』!」

 

 ゆんゆんから放たれた黒い稲妻に吹き飛ばされて俺の体は部屋から押し出される。バタンと鍵の壊れた扉もしまり、閉めだされてしまった。

 

「いてて……相変わらず容赦ねぇなぁ」

 

 ゆんゆんと出会ってからもう1年以上経ってるってのに、あのぼっち娘は出会った頃と全然変わらない。ダチは多少増えたみたいだけどぼっちな雰囲気がなくなる様子は全然ないし、俺に対しては口を開けば憎まれ口ばっかりだ。未だに俺のことをダチじゃなくてただの知り合いだって主張してるし、出会った頃と俺とゆんゆんの関係はほとんど変わってない。

 

「……っと、いつもわりぃなジハード」

 

 ぺろぺろとジハードが舐めたところの傷が綺麗に消えていく。ジハードの今の治癒能力じゃ大きな怪我はなおせないだろうが、これくらいの傷なら十分な効果がある。

 もちろん、上級魔法をくらってこれくらいの傷で済むのは、俺がどっかの変態クルセイダーほどじゃないにしても魔法抵抗力が高いことと、一応あれでもゆんゆんが手加減して撃ってくれてるわけだからだが。…………ただ、ジハードに回復魔法の固有スキルがあるって分かってから微妙に手加減が雑になってる気がするのは俺の気のせいだろうか。

 

(…………ま、変わったとしたら、やっぱジハードが生まれたことか)

 

 俺とゆんゆん二人の関係は特に変わってはいない。けど今はジハードがいる。ジハードを含めた3人(二人と一匹)の関係はそもそも前までなかったものだから、それに関してはある意味大きく変わったと言ってもいいのかもしれない。

 

「ダストさん? いつまで寝てるんですか? そこで寝てたら宿の人に邪魔ですからさっさとクエストに行きましょう」

 

 着替え終わったらしいゆんゆんは部屋から出てきてそういう。

 

「……誰のせいで寝るはめになってんだよ」

「ダストさんの自業自得だと思いますけど」

 

 否定はしない。しないが…………やっぱこいつ可愛げないよなぁ。少しは年下らしく年上を敬う気持ちとかみせてくれないもんかね。

 

(…………いや、そうなったらそうなったでなんか気持ち悪いな)

 

 こいつが可愛くなった所で守備範囲外なこいつに手を出す訳じゃないし。エロい身体を見て楽しむ分には今のままでも特に問題はない。

 そう考えれば今まで毒舌ばっかだった相手からいきなり敬われる方が違和感がすごい気がした。

 

「まぁゆんゆんの毒舌は今更だしいいか。今日もリーンに返す金を稼ぐために(ゆんゆんが)頑張りますか」

 

 そんなことを考えながら俺は治癒をしてくれたジハードを撫でて、そのまま立ち上がる。

 

「……なんか小声で酷いこと言いませんでした? ……そういえばリーンさんとこの前ショッピングに行った時ダストさんがお金を返してくれないって嘆いてましたよ?」

 

 歩きだした俺の横に並ぶゆんゆんの顔は少しだけ楽しげだ。リーンと一緒にショッピングに行ったときのことを思い出してるのかもしれない。

 

「一度はちゃんと全部返したというのにあいつは…………まぁその後すぐ借りたけど」

 

 まさか税金でリーンに返した後に残った金を全部取られるとは思ってなかった。

 

「ちなみにダストさん。私は一度もダストさんにお金返してもらった覚えがないですからね」

「………………ジハードは今日もかっこいいなぁ。よしよし」

「ハーちゃんを誤魔化すのに使うのはやめてください。誤魔化せてませんし」

 

 誤魔化してなんてないぞ。そんなことより俺にとってはジハードを撫でることのほうが大事なだけだ。けして返す気がないわけじゃない。

 

「…………とりあえずクエストに行こうぜ。お金の話はまた今度な」

「まぁ……ダストさんですし(期待してないんで)いいですけど。今日はアクアさんとウィズさんの店で紅茶を飲む約束してますし」

 

 やっぱりなんだかんだでこいつもダチが増えてるのは確かなんだよな。アクアのねーちゃんやらイリスってロリっ子やら。金髪碧眼の暴走プリーストとか。

 

「ま、それなのにぼっちな印象が全然なくならないからぼっち娘なんだけどな」

「なんでいきなり私ぼっち娘とか言われてるんですか? 喧嘩売ってるんですか?」

「売ってねぇからさっさと行くぞ凶暴ぼっち」

 

 俺は事実を確認しただけだしな。

 

「売ってます! どう考えても喧嘩売られてます!」

 

 なんか喚いてる凶暴なぼっち娘と可愛くてかっこいいジハードと一緒に。俺達はひとまず宿で朝食を取ってからギルドへ向かうことにした。

 

 

 

 

 

「へっへ……嬢ちゃん、エロい体しt……エロい体はしてないな」

「エロい体はしてないが可愛い顔してんじゃねぇか。一緒にいい所行こうぜ」

 

「喧嘩売られてるのかな? というかあたし忙しいからキミたちのナンパには付き合ってられないよ」

 

 ギルドへの道。早道をしようとちょっとした路地へと入った所。ジハードを可愛がる俺たちになんだかチンピラみたいな声と呆れた声が聞こえてくる。

 

「ダストさんダストさん! ナンパです! ダストさんみたいなナンパしてる人がいます!」

「失礼なこと言ってんじゃねぇよクソガキ。俺はあんなチンピラ見てぇなナンパはしねぇ。ここで颯爽と助けに入って惚れさせるナンパならするが」

 

 何事かと見てみればどうやら男二人が盗賊風の格好をした女をナンパしているらしい。

 あんな風に絡んでも女に煙たがられるだけだって分からないのかねあのチンピラたちは。ナンパレベルが低すぎるな。

 

「それはナンパじゃなくてマッチポンプだって何回言えば認めるんですかね。とにかく助けに入りますよ!」

「おう、確かにここで助けに入れば彼女にはならなくても一発くらいならやらせてくれるかもしれねぇしな」

 

 いつものマッチp……ナンパと同じような状況だ。上手く行けばもしかするかもしれない。

 

「……いえ、それはないと思いますよ?」

 

 夢くらい見させろよ。

 

 

「というわけでそこまでです!」

 

 ゆんゆんの台詞とともにナンパ二人とナンパされてた女の子の間に入り込む俺たち。

 俺はなんかやる気が削がれて適当だが、ゆんゆんはなんだか格好つけて女の子を守るように立っている。なんだかんだでこういう場面で活き活きしてるのはこいつが紅魔族の血が流れている証拠なんだろう。

 

「あん? なんだ? 可愛くてエロい子とチンピラっぽい金髪と…………ドラゴン?」

「お、おい、もしかしてこいつら冒険者ギルドで注意するよう言われた『レッドアイズ』じゃねぇか?」

「黒髪紅眼の紅魔族に金髪紅眼のチンピラ……最近飼いだしたって言う黒い体に赤い目のチビドラゴン…………確かに言われたとおりだ」

 

 ん? なんだこいつら。俺らのこと知ってんのか。

 

「あの……ダストさん? なんですか?『レッドアイズ』って」

「俺が知るかよ。お前がこういうことに首突っ込んでばっかだから悪評が広まったんじゃねーか?」

 

 むしろ俺が聞きたい方だっての。

 

「詐欺だろうがマッチポンプだろうが自分の目的のためなら手段を選ばない奴ららしいぜ」

「もしかして俺達のナンパを利用してまな板の子を口説くつもりなんじゃ……」

 

 

「完全にダストさんのせいの悪評じゃないですか!」

「それに毎回付き合ってるからゆんゆんも共犯にされてんだな」

「付き合ってません! 私は毎回止めようとしてるだけです!」

 

 止められてないけどな。……ま、ギルドで俺のこと気をつけろって新人冒険者とかに喚起するのなんて今更だし、爆裂娘にバニルの旦那といったこの街でもあれな連中とよく絡んでるこいつが注意を促される方になっててもおかしくはない。……というかゆんゆんも街中で上級魔法を結構な率で使ってるし普通に問題児だしな。

 

「じょ、冗談じゃねぇ! この紅魔族の子は魔法で人をボコボコにするのも厭わないって聞いた! 命がいくらあっても足りねぇよ!」

「あ、待て! 俺を置いてくな!」

 

 そう言って二人のナンパ男は一目散に逃げていく。

 

「待って! 私がボコボコにするのはダストさんだけですから! 他の人間の人ならちゃんと手加減しますから!」

 

 ……うん。やっぱりこのぼっち娘はいろいろおかしいわ。

 

 

 

「ってわけでお嬢さん無事か?…………あん? なんだよパンツ剥かれ盗賊じゃねーか」

 

 ナンパ撃退してお楽しみの助けた女の子とご対面してみれば。いつぞやのカズマにパンツ剥かれて泣いて帰ったまな板盗賊。名前は確か……クリスとか名乗ってたか。

 

「その呼び方はやめてくれないかな!? ラ…じゃなかった、ダストは相変わらずチンピラやってるんだね」

 

 ………………

 

「そうでもないぞ。最近の俺は大人しいってことでルナに心配されてるくらいだ」

 

 まぁ、捕まったらどっかの残念プリーストと留置所に会う羽目になりそうだし、捕まってる間はジハードに会えないから極力犯罪ごとは控えてるだけだが。

 

「こんなこと言ってますけど、ダストさんのチンピラっぷりは全然変わってないですよクリスさん。相変わらず口は悪いですし、他の人に迷惑かけることが少なくなっただけで私に迷惑かかることが増えてるだけです」

 

 否定はしない。

 

「……ゆんゆん? なんでキミはそんな人と一緒にいるの? キミはこの街でも数少ない常識人なんだから友達は選んだほうがいいよ」

 

 こいつが常識人になるとかこの街はもう駄目かもしれない。…………というか、このクリスも言うほど()()()じゃない気がするんだがな。

 

「……っと、こうしちゃいられないんだった。早くカズマに会いに行かないと。それじゃまたね、ゆんゆん、ダスト」

 

 そう言って手を振りながら走ってカズマの屋敷の方へいなくなるクリス。忙し(せわし)ないやつだな。

 

「えへへ……『またね』って言われちゃいました」

「……それくらい誰でも言うから喜ぶなよボッチー」

 

 喜び顔のゆんゆんと呆れ顔の俺を見てジハードは不思議そうに顔を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ゆんゆん。本当にグリフォン退治なんてするのか? ジハードと初めて一緒に戦うんだしもう少し弱い……一撃熊くらいの討伐クエストで良かったと思うんだが」

 

 グリフォンが棲みついたという丘への道を歩きながら。俺は意気揚々と歩くゆんゆんにそう話しかける。

 内容は今からしようとしている討伐クエストのこと。グリフォン討伐についてだ。

 

「グリフォンならいざとなったら私一人でもなんとかなるしいいじゃないですか。それにもう受けてしまったんですから、もし今から断れば失敗扱いでペナルティ料払わないといけないですよ?」

「それはそうなんだがな……」

 

 実際ゆんゆんは一度苦戦しながらもグリフォンを一人で倒している。心配しすぎと言われたら確かにそうなんだが……。

 

「ほら、ダストさん、そんなこと言っているうちにグリフォンが住んでいる丘につきましたよ。…………グリフォン、普通に丘の先で寝てますね」

「…………ま、ここまで来て帰るって選択肢も確かにないか。ただ、仕掛ける時は慎重にしろよ」

 

 眠っているグリフォンの大きさは民家並。間違いなく成獣だ。グリフォンの成獣ともなれば中級から上級の冒険者がパーティーでやっと勝負になるかというレベルの難敵だし、ドラゴンと言えど10歳に満たない程度の下位ドラゴンでは狩られる対象になる。魔獣の中では最強クラスと言っていいだろう。

 

「はい、分かってます。…………でも、ハーちゃんと一緒に戦うって言ってもどう戦えばいいんですかね?」

「…………やっぱ今からでもいいからグリフォン討伐はやめとこうぜ」

 

 不安になるようなこと言いやがって。…………いや、多分ゆんゆん自身も不安なのか。だから俺なんかに聞いてくる。

 

「基本的にドラゴンの武器といえば巨大な身体と硬い爪と牙、そして何よりブレス攻撃だ。見りゃ分かると思うが前者は今のジハードじゃグリフォンには通用しない」

 

 民家並みのグリフォンに対して今のジハードは俺らよりも小さい。犬みたいな大きさだ。そんな差があれば身体を武器にした攻撃がどうなるかなんて少し考えるだけでも分かる。かと言って……。

 

「ということはブレス攻撃ですね! ハーちゃん、『サンダーブレス』!」

「って、人の話は最後まで聞け!」

 

 やっぱこいつ緊張してるだろ!

 

 俺の制止が間に合うわけもなく。ゆんゆんの命令を受けたジハードは眠っているグリフォンへと向けて雷のブレスを吐く。ゆんゆんの使う雷撃魔法と同じくらいの速さで向かうブレスは俺らとグリフォンとの間を一瞬で駆け抜け、グリフォンの額へとぶつかっていった。

 

「…………あの、ダストさん? グリフォンさん、全然ダメージ受けてる風がないんですが。しかもなんだか起きてお怒りの様子なんですが」

「まぁ……気持ちよく寝てるところにビリビリされたら怒って当然なんじゃねーの?」

 

 誰だって怒る。俺だって怒る。

 

「そうじゃなくて! ハーちゃんの攻撃効いてないですよ!?」

「誰もジハードのブレスがグリフォンに効くなんて言ってないだろ。むしろジハードのブレスも今の威力じゃグリフォンには効かないだろうって言う前にお前が先走ったんだよ」

 

 このぼっち娘は緊張したりしてるとわりと先走るところがあるみたいだからなぁ。追い詰められると開き直れる奴でもあるんだが、こういう中途半端な緊張感が苦手なやつだってのはこの1年でよく分かっている。

 …………そこまで分かってるのに言い方間違えた俺に責任あるきがしないでもないが、俺は悪くない。

 

「とにかく今は逃げて体勢立て直すぞ。……とりあえずお前が緊張抜けないと使いものにならないってわかったし」

「使いものにならないってダストさんにだけは言われたくないですけどね!」

 

 怒って一直線に向かってくるグリフォンから離れるように俺らは横へと走って逃げる。

 

「あー……やっぱグリフォンって移動速度も速いんだよなぁ……これじゃすぐに追いつかれるな」

 

 あの巨体でなんであんなに速く動けるのか。ドラゴンと一緒で魔力使って空飛んでるのは分かるんだが、実際に見ると怖すぎる。

 まぁ、ドラゴンならグリフォン以上の大きさでグリフォンよりも数段早く飛べるんだがな。全くドラゴンは最高だぜ。

 

「なんでダストさんはそんなに余裕なんですか!?」

 

 これくらいの修羅場は数え切れないくらい踏んできてるしなぁ。まぁ、今の俺じゃこのままだと死にそうだけど。

 

「そりゃ、俺だけなら絶体絶命だけどジハードがいるからな。負ける気はしないぜ」

「そのハーちゃんの攻撃が効かなくてピンチなんですけど!?」

 

 この状況でどうすればいいかなんて、頭のいいこいつならすぐに分かりそうなもんなんだけどな。やっぱり緊張してると使い物にならないってか…………パーティーでの戦闘に慣れてなさすぎる。自分が指示して戦うって立場になれてないんだろう。スイッチが入っていれば話は別なんだろうが、今のゆんゆんはまだただのぼっち娘モードだ。

 ……もう、めんどいからジハードだけ連れて逃げようかな。そしたらぼっち娘のこいつは普通にタイマンでグリフォンに勝つ気がするんだが。

 

「な、なんですか、その顔は。なんだかろくでもないことを考えてる気がするんですが――きゃっ!」

 

 俺の顔を見ながら走るなんて器用なことをしていたからか。ゆんゆんは足を引っ掛けてその場で転んでしまう。

 

「ちっ……あのバカ……! おいゆんゆん! 後はなんとかするからテレポートでもなんでもいいから逃げろ!」

 

 転んだ獲物を見逃す理由なんてグリフォンには当然ない。獲物をゆんゆんへと定めたグリフォンはその鋭い爪で引き裂こうと振りかざしてゆんゆんへと迫る。

 

「え……あ…………っ!? ハーちゃん来ちゃダメ!?」

 

 迫る爪からゆんゆんを守るように、ジハードは小さな体をゆんゆんとグリフォンの間へと投げ出す。その体格差は歴然としていて、ただぶつかるだけでもジハードの身体は粉々に砕けるかもしれない。

 

「ダメッ! ハーちゃん!」

 

 そんなジハードをゆんゆんは身体に抱き込み守ろうとする。自分を守ろうとしてくれた相手をけして殺させまいと。

 …………そんなことしても自分ごと死ぬだけだってのに、本当に馬鹿なやつだ。

 

 

 だけど…………俺はそういうバカは嫌いじゃない。

 

 

 

(距離は……間に合う、だが真正面から受けても俺じゃ止められない)

 

 衝突地点。そこへと加速しながら俺はその瞬間をイメージする。どっかの変態クルセイダーと違って俺の防御力は常識の範囲内。家ほどの大きさのグリフォンの衝撃を止められるはずがない。

 だけど、何も出来ないほど無力でもない。たとえどんなに弱くなっていようと、この程度の状況で愛すべき馬鹿を見捨てるような修羅場はくぐってきていないのだから。

 

「ゆんゆん! 左に逃げろ!」

 

 声をかけ、ゆんゆんが指示通りに左に逃げたのを確認して俺は長剣を上段に構える。

 

 当然だが家ほどの大きさがあるグリフォンが相手なら今更多少逃げた所で逃げられるはずがない。むしろ体勢を崩してしまう分、その場所で身を固めていたほうがマシかもしれない。

 一応ゆんゆんはソロならトップクラスの冒険者。それくらい分かっていないはずがない。それでも俺に従ってくれたということは――

 

「おらっ! 吹き飛んでろ!」

 

 構えた長剣を走ってきた勢いを乗せてグリフォンの鷲の顔の横へとぶつける。どんなに剣が下手くそだろうと一応はそれなりにレベルのある冒険者。巷で一応凄腕だと言われている俺の斬撃はグリフォンの軌道を元から斜めへと逸らす。

 だが、それだけだ。グリフォンの顔に傷はできている。だがそれでグリフォンの戦闘力が落ちるかと言えば違うだろう。俺の予想通り、一度身体を止めたグリフォンは今度は俺目掛けて襲ってくる。

 俺もそれに応えるようにグリフォンへと向かって走る。勢いを付けられれば俺に向かってくるグリフォンを止めるすべはない。だとしたら勢いを付けられる前に接近して戦う他生き残る道はなかった。

 

(…………ったく、今の俺にグリフォンとタイマンなんて自殺行為だっての)

 

 グリフォンとの打ち合いの中で俺の身体には幾重にも傷ができている。特に爪で貫かれた腹の傷は致命傷に近い。大して打ち合っていないのに流石グリフォンと言うべきか、俺が弱すぎると思うべきか。

 そんな状況だったがまぁ、死ぬ気はしなかった。

 

「『カースド・ライトニング』!」

 

 こんな状況でいつまでもスイッチの入らないような弱い女なら、俺はドラゴンの卵を渡したりなんかしないのだから。

 

「ダストさん、大丈夫ですか!?」

 

 ゆんゆんの魔法にダメージを受けたのだろう。俺を殺そうと躍起になっていたグリフォンは一旦下がって警戒するように俺達から距離を取る。

 それを見たゆんゆんがジハードを連れて俺の元へとやってくる。

 

「無事か?」

 

 ゆんゆんの問いには答えず、俺はそう聞く。

 

「え……? あ、は、はい! 私はダストさんに守ってもらえましたから無事です! それよりダストさんの方が――」

「――はぁ? 誰もお前が無事かどうかなんて聞いてねーよ。ジハードは無事かって聞いてんだ」

 

 それくらい分かりそうなもんだが。

 

「…………………………そうでした。この人はどうしようもないろくでなしのチンピラでドラゴンバカでした。……ハーちゃんはもちろん大丈夫ですよ」

 

 そうでしたそうでしたとなんか繰り返し呟いてるゆんゆん。

 

「んで? 後は任せても大丈夫か?」

 

 流石にこれ以上戦うのはきつい。

 

「大丈夫ですよ。ダストさんはハーちゃんに回復魔法をしてもらっててください。後は私一人でなんとかしますから」

「それじゃ俺が怪我までした意味がねーだろ。ここまで来たんだ、ジハードの力を使って勝て」

 

 そのための道筋はもう見えてんだ。

 

「でも、ハーちゃんじゃグリフォンにダメージを与えることは……」

「まだ使ってないジハードのスキルが有るだろ。……ドレインスキル。あれならグリフォンが相手でも致命打になる攻撃になる」

 

 魔力の塊と言われるドラゴンであればその吸収速度は本家リッチー並のはずだ。ドレインタッチが使えるだけの下手なアンデッドよりもジハードの吸収速度のほうが速い。それだけドラゴンとドレインスキルは相性が良すぎるのだ。

 

「だ、ダメですよ! そんな危険なことハーちゃんにはやらせられません!」

 

 まぁ、当然だな。そのままジハードのドレインタッチしろだなんて死ねと言ってるようなもんだ。だから、そこでゆんゆんの出番なわけだ。

 

「なぁ、ゆんゆん。お前はドラゴン使いでもなけりゃ魔獣使いでもない。使い魔を上手に操って戦うのがお前の仕事じゃないんだ。その上で使い魔と一緒に戦いたければ…………頭のいいお前ならここまで言えば分かるよな?」

 

 言うことは言ったと俺は座り込む。流石にこの傷で立ちっぱなしはきつい。それでもこれから歩み始める主従の姿を見ようと前だけは見た。

 

 

 

「そっか…………私は魔法使いだから…………。ハーちゃん、行こう? 私達の初めての連携をチンピラさんに見せてあげよう」

 

 俺の前にゆんゆんは立ち、ジハードはその横に並んで飛ぶ。

 その姿に何か危機感を覚えたのだろうか。様子をうかがっていたグリフォンは弾けるようにしてこちらへと襲ってくる。

 

「『カースド・クリスタルプリズン』」

 

 そのグリフォンの翼がまず凍らされた。魔力を使って飛んでいるとは言え翼がなければ飛べないのだろう。グリフォンは揚力を失って地べたへと落とされる。

 

「『カースド・クリスタルプリズン』」

 

 それでもなお足を使い向かってくるグリフォンに、ゆんゆんはまた魔法で前足を凍らせる。

 

「『カースド・クリスタルプリズン』…………行って、ハーちゃん。『ドレインバイト』」

 

 まともに動けなくなったグリフォンに止めとばかりに後ろ足を凍らせたゆんゆんは、ジハードに最後を任せる。

 身動きの取れなくなったグリフォンの首筋へとジハードは噛み付き、その魔力と生命力を根こそぎ吸い取っていく。

 

 そうして、皮のような身体だけを残してグリフォンは息絶えたのだった。

 

 

「…………やっぱりドラゴンにドレイン能力は反則だな。えげつない」

 

 ジハードに回復魔法をかけてもらいながら。俺は今見た光景を思い出す。…………うん、わりとえぐかったな。

 冒険者ならこれくらい慣れっこだが、一般人が見たら卒倒するかもしれない。

 

「やっぱりハーちゃんは凄いドラゴンなんですね。10秒位でグリフォンが干物になっちゃいましたよ」

 

 干物言うな。…………確かに干物みたいだけど俺は食いたくないぞ。

 

「その上魔力を吸えば吸っただけ強くなるんですよね。なんだかハーちゃん私達より大きくなってますし」

「ま……それが純血のドラゴンが持つ特性だからな」

 

 と言っても、普通はドラゴンに直接魔力を与えるなんて出来ないし有名無実な特性なんだが。本来はせいぜい卵の頃に魔力を多く与えたら生まれた時強く生まれる程度の話だ。

 その特例はそれこそあの大物賞金首であるクーロンズヒュドラくらいで、そのヒュドラも亜竜だったから限界があった。

 その限界が純血のドラゴンであるジハードにはないってのを考えれば本当にチートもいいところだろう。

 

(……だからこそ気をつけないといけねーんだけどな)

 

 ゆんゆんにも言った通り際限なく強くなると言ってもそれを制御できるかどうかは別の話だ。もしもジハードが自身の力を制御できなくなったら。その力がゆんゆんに向けられたとしたら……。

 

「どうしたんですか? ダストさん。変な顔して。傷が痛むんですか?」

「変な顔なんてしてねぇよ。どう見てもイケメンだろうが」

「え……? イケメンとか本気で言ってるんですか?………………え?」

「おい、その可哀想なものを見る目はやめろ! さすがの俺も心が折れて泣くぞ!」

 

 このぼっち娘は本当に口が減らない。ジハードを助けるためとは言え一応こいつもついでに助けたんだからもうちょいいい感じの言葉をかけてくれてもいい気がするんだが。

 

「ふふっ。そうそう、ダストさんには今みたいなチンピラ顔が似合ってますよ。変に悩んだ顔なんて似合いません。……ハーちゃんもそう思うよね?」

 

 ジハードも同意するような声を上げる。

 

「……チンピラ顔ってマジでなんだよ」

「ダストさんがいつもしてる顔ですよ」

 

 くすくすきゅきゅとゆんゆんとジハードが笑う。

 

「……ま、いいけどよ」

 

 そう楽しそうに笑われると怒る気も失せる。

 

 

 本当はこんなこと悩むことでもなんでもない。俺はその解決手段を持ってんだから。本当はジハードのためにもそうしてやりたい。でもそれを日常的にしてしまえばきっと俺は――

 

 

「――ほひ、はひひへんは(おい、なにしてんだ)

 

 いきなり人の頬をつまんできやがって。

 

「だから、そんなふうに悩んだ顔しないでって言ってるじゃないですか。ダストさんがそう言う顔してたらこっちの調子が狂うんですから」

「……ちょっとまじめに考えただけでこれかよ」

「日頃の行いってやつです」

「そうかよ…………ったく。じゃあ、そろそろ帰るか。ジハードのおかげである程度傷は治ったしよ」

 

 まぁ、今はまだ悩まないでもいいのかもしれない。ジハードの持つ危険性はちゃんとゆんゆんも分かってる。なら、俺が目を光らせていれば滅多なことは起きないはずだ。今はまだこのままで……。

 

「…………少なくとも彼女ができるまではこの街にいたいからな」

「はい? ダストさんなにか言いました?」

「アクセルの街は最高だよなって言っただけだ」

 

 

 

 彼女も出来ずにサキュバスサービスがあるこの街から離れるのだけはごめんな俺だった。

 




変人揃いだけどそれに目を瞑ればアクセルは最高の街(行き遅れ女性に対して以外)


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第10話:ろくでなし二人

「つつっ……やっぱジハードの回復魔法じゃ大きな傷は治りきらねーな」

 

 グリフォン討伐クエストからの帰り道。街中を歩く俺は頭の上を飛んでるジハードから回復魔法を受けていた。だが、小さな傷こそ治ったものの大きな傷、特にグリフォンに爪で貫かれた腹の傷はいくら回復魔法を受けても治る様子がなかった。

 

「大丈夫ですか、ダストさん。あんまり痛むようでしたらアクアさんに治してもらったほうがいいんじゃ…………ちょうど今日はこの後アクアさんとウィズさんの店で会う約束してますし、一緒に行きますか?」

 

 そんな俺の横を歩くゆんゆんは珍しく素直に心配そうな様子を見せてそんなことを言う。

 ……こいつもいつもこんな感じなら少しは可愛げがあるんだけどなぁ。

 

「あー……アクアの姉ちゃんか。ただでさえ借り作ってるからあんまり世話にはなりたくないんだよな」

「? そうなんですか? むしろゼル帝ちゃんの件でダストさんが貸しを作ってる方だと思うんですけど。…………というか、リーンさんから聞いてはいましたけど、貸しとか借りとかをダストさんって本当に気にするんですね。すごく意外です」

 

 やっぱこいつ可愛げないわ。あと、ゼル帝ちゃんって凄い違和感のある呼び方やめろ。

 

「いろいろあんだよ。あの雄鶏の件はゆんゆんが助けたことになってるから借りを返したことにはならないし。…………そもそも何で俺がお前みたいなクソガキにかm――」

「? 私がどうかしたんですか?」

「……いや、なんでもねーよ」

 

 …………別に()()はこいつに言うことでもないか。言ってもこいつは俺に余計なお世話ですって言うに決まってるし。

 

「んなことより、お前の最後の魔法凄かったな。『カースド・クリスタルプリズン』三連発。詠唱破棄であれは凄いんじゃねーか?」

 

 グリフォンの動きを完全に止めてたし。

 

「そ、そうですか? でも、あれって凍らせてはいますけど冷気はそれほどでもないんですよ? あくまで一時的に固定させるのだけが目的で冷たさだけならカズマさんのフリーズの方が上なくらいで。もちろんちゃんと詠唱すれば冷気も伴いますけど、今日のあれじゃグリフォンにダメージはほとんど与えられてないと思います」

 

 なるほどな。冷気を捨てることで詠唱破棄による魔法の不安定さを軽減したのか。

 

「あの状況でジハードと一緒に戦うって意味じゃそれで問題ねーよ。初めての連携ってのも考えれば90点位上げてもいいな」

 

 本当、こいつは土壇場になれば強い。その土壇場の強さがいつも発揮できればジハードの主として一人前だと認めていいくらいだ。

 

「あ、ありがとうございます。ダストさんに褒められてもいつもは全然嬉しくないですけど、ハーちゃんとのことで褒められるのは素直に嬉しいです」

 

 …………なんでこのぼっち娘は毎回毎回一言多いのかね。照れて顔赤くしてるのはちょっとだけ可愛いのにもったいねー。

 

 

 

「あーっ! なんだかゆんゆんさんと金髪のお兄さんが甘酸っぱい雰囲気出してる!!」

「「…………………………」」

 

 そんな感じで歩いていた俺らの前方からする甲高い声。その声の主が誰かちらりと確認する俺とゆんゆん。

 その声の主が想像通りのあれだと確認した俺らは――。

 

「あれ? ハーちゃんの大きさが元に戻ってますね」

「回復魔法ずっとしてたから魔力を吐き出しきったんだな。おいジハード、もう無理すんな。後は回復ポーションか何かでどうにかするからよ」

 

 ――何も見なかったことにした。

 

「ねえ、なんで二人共私のことを無視するの? お姉さんが2人のいい雰囲気を邪魔したことを怒ってるの? でも、仕方ないじゃない。ゆんゆんさんにも金髪のお兄さんにも私という運命の人がいるのに、2人でイチャイチャするなんて。浮気はいけないことなのよ?」

 

 見なかったことにした何かが俺らの横に並んで何か訳の分からないことを言っているがスルー。

 …………いや、本当にこいつが何を言っているかマジで分からない。こんな奴のこと留置所で一緒になったならともかく街中であったなら無視するに限る。

 

「あの……セシリーさん? 私とダストさんがイチャイチャなんてするはずないのもそうなんですが、いつ私がセシリーさんの運命の人になったのかとか、浮気はいけないとかどの口が言うんですかとかいろいろ突っ込みどころがありすぎるんですが……」

「バカっ! なんで無視しねーんだよ!」

 

 ちょっとツッコミどころありすぎること言われたくらいで釣られてんじゃねーよ!

 

「あっ……。で、でもしょうがないじゃないですか! ダストさんとイチャイチャしてるなんて思われるのは正直我慢できませんし! それに、話しかけたのに無視されるって凄い辛いんですよ! ダストさんならともかくセシリーさんにそんな対応するのは流石に可哀想かなって……」

「俺ならともかくってなんだよ俺ならともかくって。どう考えてもこの節穴プリーストに比べれば俺のほうがまともだろうが。それに俺だってお前みたいな毒舌ぼっちとイチャイチャしてるなんて思われたくねーっての」

 

 それでもこの残念プリースト相手するよりかはマシだと思ったからスルーしてたってのに。こいつのぼっち経験とお人好しっぷりを舐めてたわ。スルーじゃなくて逃げ出すべきだったか。

 

「ねぇ、二人共お姉さんに何か恨みでもあるのかしら? 私なんていなかったみたいにされて目の前でイチャイチャされると流石のお姉さんも悲しくて泣いちゃうわよ?」

「「誰もイチャイチャなんてしてねーよ(ません)っ!」」

「…………やっぱりお姉さんちょっと泣いていいと思うの」

 

 そんなこと言って本当にしくしくと泣き出す残念プリースト。

 …………たまにちら見してわざとらしくまた泣き始めるのが凄いうざい。

 

 

「それでゆんゆんさんと金髪のお兄さんは2人で何をしていたの? デートだというのならお姉さんも混ぜてほしいんだけど」

 

 泣くのに飽きたのか、残念プリーストは横から覗き込むようにして俺らにそんなことを言ってくる。…………ちっとも目が赤くなってねぇ。やっぱり嘘泣きじゃねーか。

 

「何してたっていうか、単なるクエストの帰りだよ。ギルドで報酬もらったあとは解散するだけだ。……こんなクソガキとデートなんてありえねーよ」

「それは間違いなく私の台詞ですからねダストさん。というかそう言うならいつものセクハラやめてくれませんかね?」

 

 だからそれはそれ、これはこれ。恋愛対象にならないこととセクハラ対象にならないことはまた別だ。…………横を歩いてるこのプリーストは恋愛対象にもセクハラ対象にもならないが。

 

「金髪のお兄さんばっかりゆんゆんさんにセクハラするなんてずるいと思うの。私にもゆんゆんさんをセクハラする権利はあるはずよ!」

「別にダストさんにもそんな権利はありませんから! セシリーさん、それ以上近づいてこないでください! なんだか身の危険を感じます!」

 

 なんだか手をわきわきさせてゆっくりとゆんゆんに近づいていく残念プリースト。このまま見逃せば間違いなくこの女の魔の手によってゆんゆんはエロいことをされてしまうだろう。

 

 止めるべきか見逃すべきか

 

 

1:止めない

2:見逃す

 

 

 ………………このまま見逃すか。

 少しだけ考えて俺はそう結論を出す。というか考えるまでもなく俺がゆんゆん助ける理由ないし。このまま見逃せば間違いなく無駄にエロい光景が見れるしむしろ見逃す以外の選択しない。

 

「せ、せせ、セシリーさん!? 一体どこを触って……っ! って、なんでダストさんは親指立てていい笑顔してるんですか!? 見てないで助けてくださいよ!」

 

 そんなこと言われても、こんな光景前にして止められる男がいるはずない。見た目だけはぐうの根も出ない美少女2人(片方は行き遅れだけど)の絡み最高だわ。見てみれば街中で広げられるそんな風景に俺以外の男たちも親指立ててるし。

 

「やっ…だめっ……そこは…っ、本当にダメっ……んっ………………」

「ふふ……ダメとか言いながら身体は正直ねゆんゆんさん」

 

 お、おお……? いけ、残念プリースト、そこだもっとやれ。

 

「んっ…あっ………………って、本当にいい加減にしてください!」

 

 そこで堪忍袋の緒が切れたのか。ゆんゆんは自分にセクハラの限りを尽くしていたプリーストは投げ飛ばす。

 …………綺麗な一本背負いじゃねーか。やっぱこいつ体術も侮れねーな。

 

「正座してください」

「ゆ、ゆんゆんさん? 美少女にお仕置きされるのも悪くはないんだけど、少しだけ休ませてくれないかしら、綺麗に投げられたから怪我はないけどちょっとだけ目が回って……」

「正座してください」

「は、はいっ!」

 

 跳ぶようにしてゆんゆんの前に正座するプリースト。……元気いっぱいじゃねーかよ。

 

「…………何を他人事みたいに見てるんですかダストさん。あなたも一緒に正座してください」

「はぁ? 何で俺まで正座しなきゃなんねーんだよ」

「正座してください」

「……お、おう。正座してやるからそんな怖い目でみんなよ」

 

 しぶしぶとプリーストの横に座る俺。くそっ、この格好地味にきついな。誰だよ正座なんて座り方考えたやつ。

 

「セシリーさん。言い訳があるなら聞きますけど、何かありますか?」

「だって……金髪のお兄さんばっかりずるいと思うの。可愛い女の子はみんな私のものなんだからお姉さんにもゆんゆんさんにセクハラする権利があるはずだもの」

「…………素直に謝ったら、正座十時間コースは許そうと思ったんですが」

「ごめんなさい。お姉さんもちょっと悪乗りしすぎました」

 

 おう、清々しいまでの土下座だな。この土下座なら雪精をいじめても冬将軍が許してくれるに違いない。

 

「ダストさんも何か言い訳がありますか?」

「はぁ? 言い訳も何も何で俺まで正座させられてんのか分かんねーっての」

 

 ゆんゆんの目が人殺しそうな目してたから従っただけだ。

 

「…………まぁ、ダストさんですしね。女の子の微妙な気持ちを分かれというのが無謀でしたね」

 

 はぁ、と大きなため息をつくゆんゆん。本当にこいつは何を言いたいんだろうか。

 

「おい、残念プリースト。お前にはゆんゆんが何を言いたいか分かるか?」

「金髪のお兄さんったら馬鹿ね。ゆんゆんさんはお兄さんに助けてもらいたかったのよ。お兄さんなら助けてくれるって信じてたのに裏切られてゆんゆんさんは傷心中なのね」

「まじかよ…………いつの間にか俺はゆんゆんのフラグを立てちまってたのか」

 

 いやぁ……モテる男は辛いぜ。これで守備範囲外のクソガキじゃなければ宿屋に今すぐ連れ込むってのに。

 

「…………二人共正座二十時間コースがお望みですか?」

「「ごめんなさい」」

 

 二人して土下座。

 

「まったくもう…………。別に最初からダストさんが助けてくれるなんて欠片も思ってないですよ。ただ、ダストさんに恥ずかしい所見られたのが恥ずかしすぎて誤魔k…………なしです。今のは聞かなかなかったことにしてください」

 

 なんだ、ただの照れ隠しかよ。…………照れ隠しで正座させるとかほんとこのぼっち娘可愛くねーな。

 

「ごほんっ。…………そんなことよりお二人に聞きたいことがあるんですけど」

 

 わざとらしく咳払いをしてゆんゆん。

 

「何かしら? ゆんゆんさんと私の仲よ。なんでも聞いてちょーだい?」

「答えたら正座やめていいなら答えてやるよ」

「あ、お兄さんずるいわよ! ねえ、ゆんゆんさん、私も答えたら正座やめてもいいかしら? お姉さん的には美少女からのお仕置きも悪くはないんだけど、もっと雰囲気のある所でしたいのよ」

「…………まぁ、答えてくれたら正座やめてもいいですよ。といっても、聞きたいことと言っても大したことじゃないんですが」

 

 ただの照れ隠しの照れ隠しで聞こうとしてるだけだもんな。

 

「その…………お二人とも、どうしてお互いを名前で呼び合わないんですか? セシリーさんとダストさんって、私2人のこと何度か呼んでますよね?」

 

 あー…………そのことか。確かにゆんゆんがこの女のことを『セシリー』って呼んでるのは知ってるし、この女がいる前でゆんゆんが俺のことを『ダスト』って呼んでるのは確かだ。不思議に思うのも仕方ないかもしれない。

 

「だって、お姉さん、金髪のお兄さんの名前教えてもらってないもの」

「そうだな。俺もこの残念プリーストの名前を教えてもらった覚えはないわ」

 

 まぁ、だからといって自己紹介しあったわけでもなければ他人に紹介されたわけでもないわけで。わざわざ名前を呼ばないといけない理由もない。

 …………というか、覚えにくいんだよ『セシリー』って名前。3日くらいしたら毎回忘れてるから残念プリーストでいいやってなったんだよな。

 それに……こいつの名前は『セシリー』じゃなくて他にあるんじゃないかって、何故かそう思っちまうんだよな。だからこそ俺はこいつの名前を覚えられないんじゃないかってそんな気もする。

 

「だったら、今ここで自己紹介しあってくださいよ。そしたら正座やめてもいいです」

 

 …………ま、何か確信があるわけでもなし。凶暴なぼっち娘の機嫌が取れるなら別に拘るほどのことでもないんだが。

 

「あーっ……俺の名前はダストだ。セシリー……だっけか。よろしくはしないが、今度会っちまった時はそう呼ばせてもらう」

「ふふっ、お兄さんは相変わらず素直じゃないのね」

 

 いや、多分お前に対してだけは100%正直に生きてると思う。

 

「私の名前はセシリー。よろしくね()()()()

 

 ……………………

 

「おい、どうして君付けなんだよ。お前基本的にさん付けだろうが」

 

 こいつは年下でもさん付けが普通だし、目上のやつなら様付けするやつだったはずだ。

 

「え? だってダスト君って君付けした方が喜ぶでしょ?」

「ああ? 何を根拠に。そもそも今まで俺を君付けしたような女は一人も…………」

「いなかったの?」

「…………2人くらいしかいねーよ」

 

 しかもそのうち一人は母親だし。

 

「…………なんだかダストさん顔がお赤くなってませんか? もしかして、ダストさんって甘えさせてくれるお姉さんタイプに弱い……?」

「そ、そんなことねーよ!」

「…………ダスト君?」

「おう、クソガキ。ふざけんのも大概にしろよ。ぶっ飛ばすぞ」

「んー……やっぱり赤くなってますね。これはもしかしてダストさんに対する切り札を得たんじゃ…………リーンさんにも教えてあげよっと」

「それは本当にやめろ!」

 

 あいつに君付けとかされたら…………マジで頭上がらなくなりそうじゃねーか。

 

「あれ…………? ここはダスト君とお姉さんがいい雰囲気になるシーンじゃなかったのかしら? どうしてダスト君とゆんゆんさんがちょっといい雰囲気になってるの?」

「悪いがそんなシーンはどこにもないしこれからもない。あと別にゆんゆんともいい雰囲気になるとかもありえない」

 

 あくまでこのぼっち娘はセクハラ対象。

 

「珍しくダストさんと同意見ですね…………って、ダストさんその血どうしたんですか!?」

「ん? あー…………腹の傷がやっぱ塞がってなかったか」

 

 ダラダラとは流れていないが止まらない血は俺が正座している地面を赤黒く濡らしていってる。

 

「えーっと……、は、ハーちゃん、回復魔法を!」

「やめとけ、ジハードはもう魔力使い切ってるし、いくらやっても今のジハードじゃ治せねーよ」

 

 今のジハードは魔力効率が悪すぎる。まぁ、生まれてから一週間ちょっとって考えれば逆に少しの傷くらいなら治せるだけで驚きなんだが。

 

「なんでそんなに冷静なんですか!? このままじゃダストさん死んじゃいますよ!?」

「いや……これくらいの傷じゃ死なねーよ。ウィズさんの店で回復ポーション買えばなんとかなるだろ」

 

 安い回復ポーションは全部使っても治らなかったから少しは高いの買わないといけないけど。…………まぁ、グリフォン討伐クエストの報酬に比べれば安いもんだ。

 

「むしろ、なんでおまえはそんなに慌ててんだよ。これくらいの傷冒険者の俺らにしたら慣れっこだろ」

 

 こいつがいくら凄腕のアークウィザードって言っても全く怪我をしないなんてことはないはずだ。後衛職だから俺みたいな前衛職ほど怪我をするわけじゃないだろうが、ソロで戦ってきた以上無傷でずっと過ごしたなんてことないはずだ。ゆんゆんの若さと今のレベルを考えればこれくらいの傷も経験せずに来れたとは思えない。

 

「それは……そう…………ですけど…………」

 

 俺の言葉にゆんゆんは落ち着いたのか返す言葉がないのか。慌てていたのから一転して黙り込む。自分でもどうして慌てていたのかわからないのかもしれない。

 

「ふふっ……ゆんゆんさんは本当に優しい子なのね。あの素直じゃないめぐみんさんが親友だって言うだけはあるわ」

 

 そう言ってセシリーは正座から立ち上がり…………立ち上がり…………?

 

「おい、お前何を遊んでんだよ」

 

 正座の姿勢から中途半端に起き上がらせて、そっから動こうとしない。

 

「…………ごめんなさい、足が痺れて立ち上がれないの。30秒だけ待っててもらえないかしら?」

 

 …………おう、待っててやるからさっさとしろよ。…………俺も、足崩しとこう。大事な場面で立ち上がれないとかかっこ悪すぎる。

 

 

 

「ふふっ……ゆんゆんさんは本当に優しい子なのね。あの素直じゃないめぐみんさんが親友だって言うだけはあるわ」

 

 取り直しのように。セシリーはそう言って正座から立ち上がりゆんゆんの前へとやってくる。

 

「あの…………さっきのはなかったことにするんですか……?」

「さっき……? 何のことかお姉さんには分からないわね」

「おいこらゆんゆん。お前は鬼かよ。ちょっといいこと言おうとカッコつけようとした所であれだぞ? 普通なら今すぐ逃げ出したいだろうに、それをなかったことにして話を始める勇気をお前は台無しにするきか」

「お兄さんもちょっと黙っててくれると嬉しいわね!」

 

 ちっ……留置所でさんざん迷惑かけられた仕返しをしようと思ったってのに。まぁ、いいか。今度会った時に今のことで憂さ晴らししよう。

 

「お姉さんはその場を見ていないからただの推測なんだけど、金髪のお兄さんの傷はゆんゆんさんを庇って出来た傷なんじゃないかしら?」

「…………はい」

「いや、誰もゆんゆん庇って傷なんて受けてないぞ。俺が庇ったのはあくまでジハードだっての。だれがゆんゆんみたいな生意気なガキを――」

「――ダスト君はちょっと黙っててって言ったわよね?」

「…………おう」

 

 分かったよ黙ってればいいんだろ黙ってれば。だから満面の笑顔なのに目が全然笑ってないとか器用なことすんな。

 

「自分を庇って傷ついた相手を、照れ隠しとは言えそれを忘れて正座なんてさせちゃった。…………そのことに責任を感じてゆんゆんさんは慌てちゃったのね」

「…………そう、かもしれないです」

 

 なるほどなー。…………そんなこと気にしてたら冒険者なんてやってられねーだろうに。お人好しにも程が有る。

 …………それとやっぱこのプリーストは侮れないというか、妙に鋭い所あるし油断ならねーな。単なるアホなら適当にあしらっときゃいいんだが。アクシズ教徒ってのは狂ってるだけで頭が悪いわけじゃないってのが面倒な所だ。特にこのセシリーって女はその面が強い。

 

「じゃあ、ゆんゆんさん、自分がどうすればいいか分かるわよね?」

「はい。…………というわけでダストさん。アクアさんの所が良いですか? ウィズさんの所が良いですか?」

 

 自分の気持ちが分かってスッキリしたのか。ゆんゆんはいつもの調子を取り戻してそう聞いてくる。…………少しだけ俺に対していつもより優しい気がするのは気のせいだろうか。

 

「そうだな…………やっぱアクアのねーちゃんに借り作るのはあれだしウィズさん所が良いな。ポーションを奢ってくれるんだよな?」

「はい、最高級のポーションを買いますね」

「うんうん、そうそう、それで…………って、違うと思うの!! ねぇ、ゆんゆんさんもダスト君もどうして普通にポーションを買いに行くって話になってるの!?」

 

 俺が立ち上がった所でセシリーはさっきまでのゆんゆんと同じように慌てた様子でそう聞いてくる。

 

「? そりゃこの傷そのままにしてたらまずいからな。流石に治療くらいはするぞ」

 

 死にはしないと言ったが、放ったらかしてたら流石に死ぬし。

 

「いえ、治療するのは当然だと思うの。でも、ほら……? ポーションを買いに行かなくても治療は出来ると思うの?」

「えっと……ハーちゃんの回復魔法のことですか? 見てたかどうかはしらないですけどハーちゃんの回復魔法じゃ治りきらなかったんですよ。だからいい回復ポーションを買いに行かないといけないんです」

 

 というか、その話はセシリーも聞いてた気がするんだが。なにをこの残念プリーストは言ってるんだろう。

 

「いいわ、二人共落ち着いて話をしましょう」

 

 落ち着くのはそっちじゃねーかな。

 

「ねぇ、ゆんゆんさん、ダスト君。私の職業が何か覚えているかしら?」

「えーっと…………セシリーさんは盗賊だったような…………」

「何言ってんだよゆんゆん。一応こいつは残念プリーストだったろ」

 

 それくらいは流石に覚えといてやれよ。いや、信じたくない気持ちもわかるけど。

 

「ダスト君正解! いえ、別に残念はいらないんだけど……。と、とにかくお姉さんはプリーストよね?」

「そーだな」

 

 だから何だという話だが。…………いや、こいつが何を言いたいかくらい流石の俺もゆんゆんも分かってはいるんだが。

 

「プリーストが何をする職業なのかは二人共知ってるわよね?」

「えーっと…………アクシズ教徒のプリーストの仕事ってなんでしたっけ? セシリーさんっていつも寝てるかお酒飲んでるかところてんスライム食べてるかエリス教徒に嫌がらせしてるか可愛い女の子にセクハラしてるかのどれかしか見たことないんですけど」

 

 このプリースト本当ろくなことしてないな。本当どうにかしろよカズマ。

 

「確かにそれも大事な仕事だけど…………ほら、基本的にプリーストにしか出来ない仕事があると思うの」

 

 それを大事な仕事だと認めるのかよ。もうだめだこいつ。早く誰かなんとかしてくれ。

 

「あー…………そういうことですか。セシリーさんはダストさんに回復魔法をかけてあげたいんですね」

「そう、それ! お姉さん回復魔法には凄い自信があるのよ」

 

 まぁ、俺が死にかけてた時にこいつに助けてもらったこともあるし、こいつの回復魔法なら確かにこれくらいの傷ならすぐ治るんだろうがな。

 

「…………でも、だったら普通に何も言わずにダストさんに回復魔法をかけてあげたらいいんじゃないですか? 別に私は止めませんよ?」

 

 結局そこなんだよな。何を遠回りして言ってんだろうか。

 

「ほら、そこは『助けてセシリーお姉ちゃん』ってゆんゆんさんに言って欲しくてね?」

 

 …………欲望に正直だなぁ。流石アクシズ教徒。

 

「たまに思うんですけど、セシリーさんってダストさん並みのろくでなしですよね」

「おう、流石の俺もここまでは酷くはねーぞ。こいつに比べれば俺はまともなはずだ」

 

 このアクシズ教徒に比べれば俺はまともだって断言できる。

 

「それはないです」

「それはないと思うわ」

 

 …………断言できるはずだ。

 

「とにかく、お姉さんとしてはゆんゆんさんに『助けてセシリーお姉ちゃん』って可愛くポーズを取って言って欲しいのよ!」

「そこまでする理由が私には全く無いんですが…………ダストさんが今すぐ死ぬって言うなら1時間くらい考えた後にお願いするかもしれないですけど」

 

 そんな状況で1時間も考えられたら俺死んでるだろ。というよりウィズさんの店かアクアのねーちゃん所に行ったほうが絶対早い。

 

「そんなこと言わないでゆんゆんさん! お姉さんどうしても可愛い女の子に可愛く頼られてみたいのよ!」

「それもうなんだか趣旨変わってませんかね!? ダストさんを助けるって話じゃなかったんですか!」

「それはそれ、これはこれ。私にとってはどっちも大切なのよ!」

 

 …………この茶番いつまで続くんだろうな。流石に付き合いきれないんだが。

 

「ん、ジハードどうした? お前も流石に付き合いきれないのか?」

 

 俺の頭に乗ってきたジハードは退屈そうにあくびをしている。ジハードも俺と同じような感じらしい。

 

「そうだな。俺らは先に帰るか。ギルドで報酬受け取った後にウィズさんの店に行こうぜ。それでこの際だから回復魔法の練習するか」

 

 ウィズさんに協力してもらって魔力を供給してもらいながら、魔力の効率的な使い方を教えてあげよう。

 そう考えるとこの傷もちょうどいい傷だな。

 

 

 

 

 

「ゆんゆんさんお願い! 友達として一生のお願いよ!」

「と、友達の一生のお願い……!? そ、そこまで言われたら仕方ないですね…………って、あれ? ダストさんとハーちゃんはどこに…………?」

「いなくなってしまったものは仕方ないわゆんゆんさん。それよりも今すぐ『助けてセシリーお姉ちゃん』って――」

「…………はぁ、私も帰ろうっと。そろそろアクアさんとウィズさんの店に行く時間ですし」

「あれ? ゆんゆんさん? どうしたの? わたしはいつでも抱きしめる準備はできてるわよ? ねぇ、どうして私に背を向けて歩きはじめてるの? ねぇ……って、走った!?」

 

 

 

 

 

 ゆんゆんがウィズさんの店に来たのは、ちょうど俺の傷がジハードによって全部治された頃だった。

 …………茶番に最後まで付き合わないで本当に良かった。




セシリーお姉さんはダスト並みのろくでなしだと思います。
あとダスト並みになんか謎の有りそうなキャラな気がします。


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第11話:喧嘩するほど

――サイドA:めぐみん視点――

 

「お頭様、是非ともお耳に入れておきたい話があるんですが……」

 

 どっかのプリーストに居座られて、来る度に小汚くなっていくその屋敷。どっかのぼっち娘には『ここってアジトじゃなくてただのたまり場だよね』とか言われようが紛うことなき我が盗賊団のアジトにて。

 爆裂魔法を撃ったいつもの倦怠感でソファーに沈む私に、約束無しで呼び出されたアイリスがそう話しかけてくる。

 

「なんですか下っ端ナンバー3。あなたを呼び出すために撃った爆裂魔法で疲れているのです。話があるなら一眠りした後にしてください」

「あの……お頭様? 自分で呼び出しておいて、呼び出した相手を放って置くのは流石に酷いと思うのですが……」

「そうですか? うちのクルセイダーはわりと喜びますよ? 高貴な身分の人間はみんなそういう扱いを望んでいるのでしょう?」

「王族や貴族を何だと思っているのですか!?」

 

 何だと思ってるかと聞かれても……。

 

「ドMの変態じゃないんですか?」

「違いますよ!……そ、それは確かに王族や貴族の中には性的嗜好が歪んだ人が多いのも確かですが……全員が全員ララティーナのような嗜好を持っているなんてことは……」

「そうなのですか。それは素直に謝りましょう。…………しかし、イリスから性的嗜好とかそういう言葉が出てくるとなんだか新鮮ですね」

 

 ドMの変態の意味もちゃんと分かったみたいですし。純真培養で育ったはずのアイリスがそういうことの知識があるのはなんだかすごく意外だ。

 

「…………3割ほどはお頭様の()()だと思いますよ」

「なるほど。私が先輩としていろいろ教えてあげた()()()ですか。残りの7割はなんですか?」

「3割はお兄様とララティーナの二人でしょうか」

 

 あの二人を見てたらそうなりますか。あの二人は純粋な子供には絶対に見せられないようなやり取りを普段から平気でやってますからね。エルロードへの旅路から先、結構な間あの二人のやり取りを見る機会はあったでしょうし。

 一応アイリスの前だと自重はしていたはずですが、自重したくらいでまともになるかと言われたらそんなわけもなく。

 …………カズマとダクネスにはこのことは黙っておいてあげますか。全てじゃないとは言え自分たちのせいでアイリスが俗世に汚れてしまったと知れば本気で落ち込みそうです。

 

「あぁ…………小さい頃私を可愛がってくれたララティーナはどこに行ってしまったのでしょうか」

「多分、その頃からダクネスの本質は変わってないと思いますよ」

 

 今でも真面目にやっていれば完璧な令嬢ですし。あの男といるとダメな本質がよく表に出てきてしまうと言うだけで。

 

「それより、残りの4割は何なのですか?」

 

 私やあの二人の他にこの子に影響をあたえるような人物は思い浮かばないのですが。

 

「…………クレアです」

 

 …………四六時中アイリスと一緒にいる変態がそう言えばいましたね。

 

「最近のクレアはなんだかおかしいんです。私がお風呂に入っている時自分も入ってこようとしたり……ど、同性同士で愛し合うこともあるんですよとか講義の中で教えてきたり……」

「今すぐクビにした方がいいですよ」

 

 冗談抜きで。姫様付きの護衛がそれとか流石にまずいでしょう。

 ダスティネス家に並ぶ大貴族の令嬢が王女に手を出したとかいう国が傾きかねない事件が起きる前に手を打ったほうがいいんじゃ……。

 

「そ、それ以外のところでは普通に優秀ですし……私がなんだかんだでここに遊びにこれるのはクレアがお目こぼししてくれてる面もあるので。…………お兄様の所に行こうとしたら全力で止められるんですが」

「いい護衛ではないですか。これからも雇い続けるべきです」

「いきなり言ってることが変わっていませんか……?」

 

 いや、まぁ教育的に考えればカズマに会わせないというのは間違っていないと思いますよ。……会わせようとしないのはそういう理由からではないでしょうが。

 

「それで? 結局何を私に話したいんですか? 今ならちょっとだけ聞いてもいいですよ」

 

 思わぬ所に私の恋路の協力者がいると分かったことですし。

 

「なぜお頭様は勝ち誇ったような顔をしているのでしょうか……」

「おや、それは失礼。ポーカーフェイスを自称する私としたことが」

「そのような自称は初めて聞いたのですが。お頭様はクールに見えて実際話したらアレですし、ポーカーフェイスからは程遠いような……」

「大きなお世話ですよ! あなた最近私に対する遠慮とかなくなり過ぎじゃないですかね!?」

 

 どっかのぼっち娘も遠慮しなくなってきてるんですが、この子もそれに負けていない。……最初の頃の何をするにも新鮮そうに私に色々聞いて頼ってきたこの子はどこへ行ってしまったのか。一体誰の影響で――。

 

「私の遠慮がなくなっているとしたらそれはお頭様の影響が1番だと思います」

 

 ――そうですか、私のせいでしたか。なら仕方ありませんね。

 

「…………まぁ、いいです。それでお頭様に聞いて欲しい話なのですが、実は例の最年少ドラゴンナイト様の詳しい話を仕入れてきたんです」

「最年少ドラゴンナイト? ああ、あの槍使いの話ですか。お姫様との真相が分かったんですか? それなら少し興味があります」

「お姫様との真相……? それはもう以前私が話したと思うのですが」

 

 いえ、あれは王族や貴族の令嬢が勝手に噂しているだけの話だったでしょう。

 

「んー……じゃああまり興味ないんですが。それでその最年少チンピラナイトがどうかしたのですか?」

「ち、チンピラナイト?…………えっと、最年少ドラゴンナイト様なんですが、クレアも探しているみたいで、私がレインより聞いた話よりも詳しい話が聞けたのです」

「? あの変t……ダスティネス家に並ぶ大貴族のシンフォニック家の令嬢が何のために探すんですか? 婿探し……なんてことはないですよね」

 

 貴族や王族が才能あるものの血を取り入れようとする事はよくあることではありますが、ダクネスやクレアといった大貴族であれば勝手に周りからそういう話がやってくる。変な血を入れるわけにもいかないから上流になっていくほど保守的になっていく傾向があるらしい。むしろ王族や下級貴族のほうがそういう話に積極的だったりするというのを以前ダクネスが話していた気がする。

 下級貴族は成り上がりたくて優秀な血を入れたいというのは分かりますが、なぜ王族が乗り気なのか。……まだ強くなるつもりなんですかね。今でも既にアレなんですが。

 

「はい、クレアは私の護衛役の仕事の他に軍事の相談役としての仕事にもついているんです。それで隣国で英雄だった最年少ドラゴンナイト様を我が国に騎士として正式に招きたいみたいですね」

「はぁ……槍の腕が凄いのは認めますが、それだけでわざわざ招き入れる必要はないと思いますよ。イリスの話では確かドラゴンナイトの資格を奪われたので今はそれ以外の職についているのでしょう?」

 

 超レア職業だというドラゴンナイトについている上で国1番の槍使いだった男なら確かに招き入れる価値があるかもしれませんが。この国には『チート持ち』と呼ばれる冒険者や紅魔族がいることですし。凄腕の槍使いをわざわざ探して招き入れる必要があるとは思えない。

 

「あの…………お頭様の口ぶりだと最年少ドラゴンナイト様に会ったことがあるように聞こえるのですが」

「気のせいですよ」

 

 まぁ、十中八九あの男なんでしょうが。別に確認したわけじゃありませんし。仮にあの男がそうだとしても、最年少ドラゴンナイトとしてのあの男と話したことなんてありませんしね。

 

「そう…………ですか? それならよいのですが。……お頭様の質問ですが、確かに最年少ドラゴンナイト様は隣国でドラゴンナイトとしての資格を奪われました。なので隣国ではギルドで転職しようとしてもドラゴンナイトにはなれません。ですが、この国であれば話は別です」

「? それは、この国であればドラゴンナイトになれるということですか? いまいちそのあたりの話は分からないのですが」

 

 ギルドや国の罰で強制転職と、転職禁止の罰があるというのはよく聞く話だ。特に盗賊職が盗賊のスキルを冒険以外の悪行で使った場合などに刑されることが多いらしい。最年少ドラゴンナイトとやらもそんな感じでドラゴンナイトにはなれないと思っていたのですが……。

 

「はい。もともと転職禁止の刑はギルド側が発する場合と国がギルドに頼み発する場合があります。前者であれば例え国が変わろうと禁止された職へと就くことはかないません。けれど後者の場合であれば、国が変わればギルドで普通に転職を行うことが可能です。最年少ドラゴンナイト様は後者でしたのでこの国であれば好きに転職ができるのです」

 

 なるほど。そういうことであれば最年少ドラゴンナイトをわざわざ招き入れる価値がありますか。

 

「?…………ですが、そういうことならなぜあの男はドラゴンナイトをやっていないのでしょう?」

「やっぱりお頭様は最年少ドラゴンナイト様に会ったことがあるんですね!?」

「気のせいですよ。ちょっと言い方を間違えただけです」

「…………本当でしょうか? では、どうして最年少ドラゴンナイト様がこの国でドラゴンナイトをやっていないと知ってるのですか?」

 

 ちっ……細かいことを気にする下っ端ですね。

 

「別に知っているわけじゃないですよ。ただドラゴンナイトなんて超レア職業についていたらすぐに見つかるだろうと思っただけです」

「それは…………確かにそうですね。お頭様の疑問ですが、ドラゴンナイトをやっていないのはおそらく契約しているドラゴンがいないからだと思います。…………ところで今舌打ちはしませんでした?」

「気のせいです。……契約しているドラゴンがいないというのはどういうことですか?」

「クレアの話では最年少ドラゴンナイト様が契約していたドラゴンは国の保有している中位ドラゴンだったそうです。ドラゴンナイトの資格が取り上げられれば契約は破棄され、国の保有へとまた戻りますから」

 

 そしてドラゴンがいなければドラゴン使いはただの一般人。ドラゴンナイトと言えどドラゴンと契約していなければ普通の上級職についていたほうが戦力的にも上ということですか。…………何故かあの男は下級職の戦士なんかやってますけど。戦士なんて中途半端な職に就くくらいならカズマみたいに初級職の冒険者やってたほうがマシだと思うんですけどね。

 

「イリス、少しあなたに聞いてみたいことがあるのですが。その最年少ドラゴンナイトが槍も普段は使わず職業も上級職ではなく下級職をやってるとしたらどんな理由を思いつきますか?」

「…………やっぱりお頭様は最年少ドラゴンナイト様に会われたことがあるんじゃ……?」

「そうですけど、そんなことはどうでもいいじゃないですか。質問に答えてください」

「そうですか気のせい…………って、本当に会われたことがあるのですか!?」

「ただの言葉の綾です。気にしないでください。とにかく質問に答えてくださいよ」

 

 興奮気味のアイリスをあしらいながら私は答えを促す。考えれば考えるほどあの男がやってることはチグハグだ。

 …………こうなるからあまりあの男のことについては考えないようにしていたと言うのに。

 

「何が言葉の綾なのか全然わからないのですが…………お頭も後でちゃんと答えてくださいね? 仮に槍すら使ってないとすればそれは自分の正体がバレるとまずいと考えているということだと思います」

「そうでしょうね」

 

 それくらいは考えなくても分かる。というよりそうじゃないのに使ってないとすれば単なる舐めプだ。…………槍を使うことが嫌になる出来事が会った可能性もあるでしょうが、そんなセンチメンタルな男にはまったくもって見えない。というか、初心者の冒険者に普通に槍使ってましたし精神的な理由で使ってないことはまずないだろう。

 

「そして正体がバレるのがまずいとしたらどこからか追われているという可能性ですね」

「追われている……? 一体全体あのチンピラを誰が追うのですか?」

「もう突っ込みませんからね。後で絶対教えて下さいよ。…………例えば魔王軍とかになら追われている可能性はありますよ。最年少ドラゴンナイト様はかつてこの国にいた『氷の魔女』と呼ばれた凄腕のアークウィザードとほぼ同額の懸賞金を魔王軍に掛けられていたという話ですから」

「なんですかその『氷の魔女』というアークウィザードは。私を差し置いてそんなかっこいい二つ名を持っているアークウィザードがいるんですか」

 

 私にも何かかっこいい二つ名がないでしょうか。

 

「お頭様は既に魔王軍に『頭のおかしい爆裂娘』として懸賞金が掛けられているという話ですよ。もしもお頭様が魔王軍戦線の最前線に向かったりしたら真っ先に狙われると思うので気をつけてくださいね」

「私の二つ名それですか!?」

 

 もっとあるでしょう! 『終焉をもたらす破滅の魔女』とかそんな感じのかっこいい二つ名が!

 

「そんなことを私に言われましても…………文句があるなら魔王軍の方へ言ってもらわないと」

「…………そうですか」

 

 まぁ、今度魔王軍と戦うことがあれば思いっきり爆裂魔法を食らわしてやることにしましょう。

 

「それで、その『氷の魔女』とやらは今何をやっているのですか? 最強の魔法使いを目指す身としては高名な魔法使いには是非とも勝利しておきたいのですが」

 

 アクセル最強の名はどこかの鬼畜な男に取られてしまいましたが、アクセル最強の魔法使いの座は今も私のままなことですし。その氷の魔女とやらに勝てば世界最強の魔法使いの座もそう遠くはない気がする。

 

「さぁ……私が生まれたばかりの頃に活躍していた魔法使いの方らしいので詳しいことは」

「なんだババアですか。それなら老衰で私より先に死ぬでしょうし無理して戦うことありませんね。私の勝ちです」

 

 また戦わずして勝ってしまいましたか。

 

「お頭様の謎理論は置いておきましょう。…………最年少ドラゴンナイト様の話だったはずなのですが。どうしてお頭様やお兄様と話しているとすぐに脱線してしまうのでしょうか」

「そんなこと知りませんよ。ええっと…………ああ、最年少ドラゴンナイトが魔王軍に懸賞金が掛けられているという話でしたか」

 

 それでドラゴンいなくて弱くなってる相手を殺して一攫千金を狙うやつに追われていると。確かに正体を隠す理由で筋は通っていますね。

 

「魔王軍以外であの男を追う可能性がある所はいますか?」

「魔王軍以外だと特には……。最年少ドラゴンナイト様が元いた国は追放した形で追う理由はありませんし」

「そうなのですか? 例えばあの男がお姫様の婚約指輪を盗んで持っていったとか、国の保有してるドラゴンを拐かして連れて行ってしまったとか」

「確かにそれだけのことをすれば追われる可能性はありますが…………最年少ドラゴンナイト様は人格者だと伺っていますし、その可能性はないと思いますよ(…………お兄様ではないですし)」

 

 なるほど、通りであの男が正体隠してるわけです。隣国に追われていたからですか。多分あの男のことですから姫様の指輪やドラゴンを売り払ったりしたのでしょうね。いろいろと得心しました。

 

「ところで今小声で聞き逃せないことをいいませんでしたか? 下っ端」

「気のせいですよ、お頭様」

 

 …………この子は本当に一筋縄じゃいかなくなりましたね。

 

 

 

 

 

「めぐみーん……ダメだった、セシリーさんどうやっても起きないわ」

 

 二階から階段を降りてきながらゆんゆん。

 …………小汚くなっていく屋敷をどうにか当人に掃除させようと思いましたが無理でしたか。それとも私には遠慮なくなってきたとは言え基本的に引っ込み思案なゆんゆんに起こさせようとしたのが間違いでしたかね。

 

「それより二人共、何の話をしてたの? なんだか二階までキャッキャ楽しそうな声が聞こえてきて私凄い寂しかったんだけど」

 

 そんなことくらいで寂しがらないでくださいよ。相変わらず重いというかめんどい子ですね。

 

「ゆんゆんさん、いいところに来られました。最年少ドラゴンナイト様の話をしていたのですが、なんだかお頭様は食いつきが悪くて……」

「え!? 最年少ドラゴンナイトの人の話をしてたの! 聞きたい聞きたい!」

 

 そう言ってゆんゆんはアイリスに迫って話を促す。アイリスもそんなゆんゆんの反応が嬉しいのか、楽しそうに私にした話をもう一度繰り返していく。

 

(…………私も、最年少ドラゴンナイトの正体があれだと気づかなければ少しは楽しめたのかもしれないですがね)

 

 気づいてしまったのだから仕方ない。姫様と本当は何が会ったのかは気になりますが、その人物像には全く興味が持てなくなりましたし。どんな人物か込みで想像して楽しんでいる二人とは前提が違いすぎる。

 

(しかしゆんゆんの食いつきよう…………もしも最年少ドラゴンナイトの正体があれだと気づいたらどんな反応を示すのか)

 

 姫様との真相同様、それは少しだけ興味がある。

 

 

「ところで下っ端。結局あなたが私たちに耳に入れたいという話は何だったんですか? あの白スーツが最年少ドラゴンナイトを探しているって話しか聞いてないのですが」

 

 アイリスとゆんゆんの話が一段落ついたところで私はそう聞く。いろいろと回り道をしただけで、最年少ドラゴンナイト自体に関する情報と言えるのはそれだけだ。

 

「あ、はい。それでクレアの話ですが、やはり最年少ドラゴンナイト様はこの街にいる可能性が高いということでした」

「それは本当なのイリスちゃん!?」

「まぁ……そうでしょうね」

 

 興奮するゆんゆんに対して私はどうでもいい感じで返事する。…………うん、知ってたらこんな反応になっても仕方ないですよね。

 

「結局新情報といえるほどのものはありませんか。名前でも知れたらまだ情報としてありでしたが」

 

 この街にいるという話ももともとあった話ですし。

 

「クレアは最年少ドラゴンナイト様の名前を知っているような感じでしたけどね。…………教えてくれそうなところで今日の呼び出しがありましたので」

「そういうことなら仕方ありませんね。次に呼び出すまでに聞き出しといてください」

 

 正直私は興味ありませんが…………まぁ、嬉しそうにしているアイリスを見るかぎり指示を出してよかったのでしょう。…………ドラゴンを飼いだしてからこっち最年少ドラゴンナイトへの興味が増しだしてるゆんゆんも喜ぶでしょうし。

 

 そんなことを考えながら。2人が楽しそうに話す声を子守唄に私は限界になった眠気に身を任せるのだった。

 

 

 

 

 

――サイドB:バニル視点――

 

「相変わらずウィズの淹れる紅茶は美味しいわね。ねぇウィズ、こんな儲からない店なんて畳んで家に来なさいよ。ウィズなら家でメイドとして雇ってもいいわ」

「そんな、アクア様、恐れ多いです! 私なんかの淹れる紅茶なんて普通です」

 

 今日も今日とて。暇を持て余している自称女神が我輩のバイトする店でくつろぎポンコツ店主と茶番を繰り広げている。

 ……また小僧たちと一緒に旅に行ってくれないものか。できればポンコツ店主も連れて行ってくれれば最高であるが、せめてこの凶暴モンスターだけでもいなくなってもらわねば仕事にならん。

 

「本当ウィズって謙虚よね。どうしてそこの変な仮面の悪魔と仲がいいのか不思議だわ」

 

 その仲がいい理由をちゃんと話してやったのに途中で眠りこけてたのは貴様であるが。…………泣いて頼まれてもウィズとの昔話はもうしないと決めてある。

 

「あはは…………バ、バニルさんもあれで結構いい所があるんですよ? 確かに悪魔ですからいろいろ変なところはありますけど」

 

 汝にだけは変とか言われたくないのだがな、働けば働くほど赤字を生み出す奇特な才能を持つ店主よ。

 

「ふーん……ウィズって本当優しいわよね。こんな木っ端悪魔を庇うなんて。アンデッドにしておくのがもったいないわ」

「本当にバニルさんにもいいところはあるんですよ? 近所ではカラススレイヤーのバニルさんとか言われて評判いいですし。相談屋も結構お客さんが来ててこの店の稼ぎよりも多いくらい評判が良いんです」

 

 貧乏店主よ、笑顔で言っておるが、後半のそれは全然笑い事ではないからな? 駄女神ではないが本当に小僧の家にでもメイドとして送り出したくなる。

 

「へー……じゃあカラススレイヤー、お菓子持ってきなさいよ。あんた近所や相談屋で評判いい悪魔なんでしょ? そんなすばらしい悪魔だったらお客さまにお茶に合うお菓子くらい持ってきて当然よね?」

「我輩の見通す目を持ってしても『お客さま』の姿などどこにも見えぬのだが。見えるのは毎日毎日来てるのに買い物せずお茶だけ飲んでいく…………世間ではなんと言ったか。確か…………そう、『乞食』と言われるものであったか」

 

 

「「……………………………………」」

 

 

「『セイクリッド・エクソシズム』!」

「華麗に脱皮!」

 

 

 閑話休題

 

 

「駄女神が来ると本当にろくなことにならぬ。うちのポンコツ店主がまた消えかかっておるではないか」

「それウィズを盾に取ったあんたのせいじゃない。人のせいにすんじゃないわよ」

 

 はて、ウィズを盾に取ったのは確かに我輩だが、それに気にせず浄化魔法を使ったのはこの駄女神だが。

 

「まぁ、ウィズが浄化されちゃったら寂しいけど、それはそれで新しい人生やり直せるから悪くはないからね」

 

 我輩の考えてることが分かったのか、そんなことを言ってくる駄女神。

 後半は自分勝手な神らしい考え方だが前半はどうか。…………この駄女神、地上に降りてきて人に毒されすぎである。神としても人としても中途半端というか。

 

(女神アクアと言えばあの悪名高いアクシズ教徒の首魁にして、創造神が最初に産んだ4柱の神の一柱。格だけで言えば我輩と同格だと言うのに)

 

 同時にその頭と運の悪さから出世できず、同期の他の三柱が神々を率いて我ら悪魔と戦う立場なのに対して、中途半端な地位にしか付けない残念な女神として有名ではあるが。

 

「まあ、そんな歳ばかり無駄に食ったババア女神のことはどうでもよいか。ウィズには砂糖水をやって回復させておくゆえ、貴様はさっさと帰るがよい」

 

 しっしと、犬を追い払うように手を振って駄女神を帰そうとする。

 

「言われなくてもウィズが起きてないんじゃ用はないし帰るわよ…………って、言いたいんだけど、あんたに聞きたいことあったのよね」

「なんだ、あの雄鶏の美味しい調理のしかたでも聞きたいのか。我輩の見通したところ照り焼きにするが吉と出ておる。さっさと帰って小僧に調理してもらうがいい」

「やめなさいよ! 最近本当にカズマさんのゼル帝を見る目が怖いのよ! あんた、冗談でもカズマさんにそんなこと言ったら塵も残さず浄化してやるからね!」

 

 小僧に最近雄鶏が煩くて朝眠れないからどうにかしてくれと相談を受けているのだが。…………そのことは黙っておいてやるとしよう。その代わり今度小僧から相談を受けたらさっさと照り焼きにするがよいと言うが。

 

「ではなんだ。答えたらさっさと帰ると約束するのであれば答えてやるゆえ、さっさと質問するがいい」

「…………この店にずっと居座ってやろうかしら」

「そうなった時はあの手この手で嫌がらして鬼畜な保護者に泣きつかせてやるゆえ覚悟するがよい」

 

 制限されているとは言え本体で来ている上位神相手では流石の我輩も土塊で出来た仮の姿では分が悪いが、それは正攻法で行った場合だ。嫌がらせして泣かせるくらいであればむしろこの体のほうがいろいろ都合がいい。

 

「…………まぁ、いいわ。今日は暴れた後だし、見逃してあげる」

「ふん、それで? 聞きたいこととは何だ。行っておくが貴様の未来を見通せと言われても我輩には無理である」

「別にそんなこと頼まないわよ。私の未来が明るいことは木っ端悪魔に見通されなくても分かっているし」

 

 その自信がどこから来るのか謎である。我輩が知る限りでもこの駄女神は泣いてばかりなのだが。

 

「で、聞きたいことはあれよ。ほら、ゆんゆんって最近あのチンピラとよく一緒にいるじゃない? だから、付き合ったりする未来があるのかなって」

 

 …………本当、これは我ら悪魔の天敵である神なのであろうか。俗世に染まり過ぎなのだが。

 

「…………仮に付き合う未来が見えたらどうするのだ?」

「それは、ゆんゆんはいい子だしあんなチンピラにはもったいないから別の男を勧めるわよ」

「なんだかんだであの金髪のチンピラと貴様は話があって仲は悪くなかった気がするのだが」

 

 だいたいエリスの胸はパッド入りだとかエリス教徒はパッド率高いとかそんなことばかり話しているようだが。

 

「それはそれ、これはこれよ。ダストと話をするのはうちの教徒と話してるような気持ちになってそんなに嫌いじゃないけど、ゆんゆんはもっといい人がいると思うのよ」

 

 この駄女神に言われるとはあの男も相当である。

 

「ふむ……まぁ、あの2人のことは我輩も知らない仲ではないゆえ見通してやろう」

 

 あの2人は無駄に実力があるゆえ、二人一緒に見通すとなると無駄に骨なのだが…………まぁ、出来ないこともないはずだ。この駄女神やウィズの未来を見通せとなれば不可能であるが、ぼっち娘とドラゴンのいないチンピラくらいならなんとかなるだろう。

 

「ふむふむ…………これは…………ほぉ…………」

「なになに? 何が見えたのよ、一人で納得してないで教えなさいよ」

「うむ…………何も見えんな」

「ふっざけんじゃないわよ! 見えないなら見えないで無駄に意味深な反応すんじゃないわよ!」

「別にふざけてるわけじゃないのだが。2人が付き合う未来を見ようとして見えないということは相当なことである」

 

 基本的に我輩の眼は見通せる未来の中で1番可能性の高いものから順に見通していく。だがそれは一番高い可能性だけしか見通せないわけではない。可能性があるものであれば全て見通せるし、そういう未来が見たいのであれば、そういう未来へと繋がるまでの道筋を見通せるのが我輩の見通す力だ。

 だから、どんなに可能性が低くとも可能性があるのなら2人が付き合う未来を見ようとすれば見れるはずなのだが……。

 

「ふーん…………ってことは、あの2人が付き合うことはありえないってこと?」

「見えないということはそういうことであろうな」

 

 今のあの2人が我輩以上の実力者ではない以上、見通せないということはそういうことだ。例外は我輩自身が深く関わることであるが…………まさか我輩含めた3人で付き合うことになるから見通せないとかそんなオチではあるまいな。

 

「うーむ………………ん? 駄女神よ、我輩の見通す力に一つだけ2人が付き合った先の未来が見えたのだが」

「そんだけ見通す力使って一つだけってことは相当可能性低いのね。少しだけ安心したわ。……で? どんな未来なのよ」

 

 ふーむ……これは駄女神に言ってもよい未来なのかどうか。駄女神の言う通り相当可能性の低い未来ではあるのだが。

 …………まぁ、言ってしまうか。この未来を我輩の胸の内だけで終わらすのもなんだか気持ちが悪い。

 

 

「うむ、なんだかよく分からんが、ぼっち娘が魔王になっておったぞ」

 

 

「なにそれ? 何かの冗談?」

「冗談ではないが我輩に聞かれても何も答えられん。過程も何も見通せずその未来だけぽつんと見えておるゆえ」

 

 だからこそ気持ちが悪いのだ。こんな見え方をしたのは長いこと存在してきて初めて…………ん? まて、そういえば、あのドラゴンが生まれたときも……。

 

「駄女神よ、我輩はちょっと考えることが出来たゆえ、さっさと帰れ」

「なによー、ゆんゆんが魔王化するとか私もすっごい気になるんですけど」

「お土産に貧乏店主がまた勝手に仕入れたゴm……もとい『カエル殺し』をくれてやる」

「しっかたないわねー。これは貸し1だからね。次来た時はちゃんと美味しいお菓子用意しときなさいよ」

 

 仕方ないとか言いながらゴミを嬉しそうに受け取ってる駄女神。…………こんなゴミで喜んで帰ってくれるならいくらでもくれてやるのだが。

 あと、むしろたまには貴様が菓子折りでやってこい。

 

 

 そんな感じで駄女神を追い払った我輩はウィズに砂糖水を与えるのも忘れて思案にふけるのだった。




喧嘩しても仲がいいめぐみんとアイリス
喧嘩ばかりして仲良さそうに見えるときもあるけどやっぱり仲が悪いアクアとバニル

喧嘩するほど仲がいいというのは当てはまる場合と当てはまらない場合の両方あります。


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第12話:微妙な気持ち

「というわけで彼女がほしい」

「……帰っていい?」

 

 冒険者ギルドの酒場。俺の前には呆れた顔の貧乳魔法使いが一人。

 

「そう言うなよリーン。今日は俺の奢りだからよ」

 

 この間のグリフォン討伐報酬のおかげで少しだけ懐が潤ってることだし。

 ……明日は残った金で久々にギャンブルしてくるか。でも、この街じゃギャンブルって言ってもしけてるからなぁ。あー……俺もエルロードいきてーなぁ。もしくはこの街にもカジノとかできればいいんだが。

 

「金貸してる相手に奢られても反応に困るんだけど。…………はぁ、大事な話があるって言われたから来たってのに。――あ、お姉さん注文いいですか?」

 

 反応に困るとか言いながら思いっきり注文してんだがこの貧乳娘。

 

「ご注文を繰り返します。『大若蛙の唐揚げ』に『一撃熊の手の姿煮』。お飲み物に『地獄ネロイド』。デザートは『アクシズ教団のアレ』でよろしかったでしょうか?」

「あ、それでお願いします」

「全然よろしくねーよ! ジャイアントトードの唐揚げ以外法外な値段じゃねーか!」

 

 唐揚げも拘りのジャイアントトード使ってるやつみたいで千エリスと割りと高いのに、他の奴は1万エリス超えてやがる。…………というかアクシズ教団のアレってなんだよアレって。

 

「あんた奢ってくれるって言ったじゃん。無理だっていうならあたしは帰るよ」

「っぐ…………人の足元見やがって」

 

 ここでリーンに帰られたら相談できねーし…………まぁ、払えない額じゃないし仕方ねーか。

 …………これで相談した結果が散々だったら覚えとけよ。

 

「というわけでお姉さんよろしくー。ダストは何頼むの?」

「あー……俺は大蛙の唐揚げ定食にでもするか。飲みもんは酒だったら何でもいーや。酒持ってきてくれ」

 

 メニューを眺めながら俺はボリューム美味しさ安さに定評のある初心者冒険者に人気の定食と、酒を頼む。

 最近はジハードと一緒にいること多くて酒飲むの自重してたし、たまには酔っ払うくらい酒を飲ましてもらうか。

 

「申し訳ございません、お客様へお酒は出せません」

 

 そんな感じでうきうきしてたのにウェイトレスは冷たい目をしてそんなことを言う。

 

「はぁ? なんだよ、金の心配か? 一応今日は金持ってるから心配すんな。もし足らなかったらここにいるリーンかゆんゆんとかいうぼっちに請求すればいいから」

「あんた奢るって言ったのに何いってんの?」

 

 リーンの分の飯は奢るが自分の分を他人に払わせないとは言ってないだろ。だからリーン、そのゴミを見るような目はやめろ。ただでさえウェイトレスの目が妙に冷たくてぞくぞくしてるってのに。どっかのお嬢様みたいな性癖が目覚めたらどうしてくれんだ。

 

「いえ、代金の問題は別に何も。あなたの場合は料金を先払いしてもらうだけなので」

 

 ……ちっ、最近はここじゃゆんゆんと一緒に食べること多くて後払いでも許されてたんだが、リーンと一緒じゃ無理か。まぁ、リーンはゆんゆんと違って俺の分まで素直に払ってくれるたまじゃねーし仕方ないが。…………いや、ゆんゆんも別に喜んで払ってるわけじゃねーけど、あいつは店のこと考えて払っちまうお人好しだからな。そのあたりも店側も分かってるから許されてるんだろう。

 

「じゃあなんで酒出せないってんだよ」

 

 金の問題じゃねーってんなら客に注文したもの出さないとかどういうことだよ。

 

「この間あなたがこの店で酒を飲んだ時に問題を起こした件数が500件を超えたので…………ギルドの方からあなたにお酒を出す禁止令が出たんです。なのでギルドから許しが出るまではあなたはこの国だけでなく他の国でもギルド系列の店でお酒を飲むことは出来ません」

「はぁ!? ふざけんじゃねーぞ! 俺が一体全体何をしたってんだよ! ちょっと酒飲んでいい気分になってただけだろうが!」

 

だと言うのにこの店どころか他の街や国でもギルドじゃ酒飲めないとか横暴にも程がある。

 

「そのちょっといい気分のままにウェイトレスや他のお客様にセクハラの限りを尽くしてることが問題なんですが。…………私だけでもお尻を触られたりスカートをめくられたり、酷い時はガーターベルトを脱がされたり……………………あの、すみません、死んでもらえませんか?」

「うわぁ…………あんたの酒癖悪いのは知ってたけど、そこまでしてたんだ。…………死んだほうがいいんじゃない?」

「わーったよ! 酒は諦めるからその生ゴミ見るような目はやめろ!」

 

 …………というか、酒飲んだ時の俺はそこまでしてんのか。尻を撫でたりくらいは覚えてるが、ガーターベルトを脱がすとか。覚えてないのが残念で仕方ない。

 

 

 

 

「で? 何の話だったっけ?」

 

 氷点下の目をしたウェイトレスに俺とリーンの飯を運んできて後。高い飯を幸せそうに食べながらリーンはやっと本題に入ってくれる。

 

「だから、俺が彼女欲しいって話だよ」

「あー…………そういえばそんな話だったね。…………正直面倒なんだけど、相談に乗らなきゃダメ?」

「別にいいがその場合はちゃんと飯代は自分で払えよ」

 

 というより既に代金は俺が払ってるからその分俺に渡せよ。

 

「ちぇっ……仕方ないなぁ。正直ダストの恋愛云々なんてどうでも良すぎるんだけど」

「お前に取っちゃそうかもしれないが俺にとっちゃ死活問題なんだよ」

 

 もしこの街を離れることになった時に彼女がいなければ俺はどうやって性欲を処理しないといけないのか。目の前でパクパク美味しそうに飯食ってる女は俺が手を出そうとしたらダガーでちょん切ろうとするアレな女だし。ナンパが一度も成功したことがない俺じゃ行きずりの女とってわけにもいかないだろう。そうなると風俗しかないわけだが…………サキュバスサービス知ってると風俗なんかに金使うの馬鹿馬鹿しいんだよなぁ。

 

「死活問題とか言われてもへーそうなんだ、としか。……あ、この一撃熊の手美味しい。ねぇ、ダストもう一つこれ頼んでいい?」

「…………後で覚えとけよ。というか、そんなに食ったら太るぞ」

「熊の手ってなんか美容にいいとか聞いたし大丈夫なんじゃない? というわけでお姉さんこれと同じやつもう一つお願いします」

 

 人の金だと思いやがって。というか美容とか関係なしにそんなに食ったらマジで太るぞ。

 

「…………そんだけ遠慮なしに頼んでんだから相談乗ってくれるんだよな?」

「ま、飯の代金がわりに聞くだけは聞いてあげるけど」

 

 仕方ないなぁとため息をつくリーン。

 その態度に折檻してやりたい気持ちが湧くが今は相談のほうが大事だ。頭のなかでリーンのほっぺを思いっきり引っ張りながら俺は話を切り出す。

 

「そうか。じゃあ相談なんだがな………………俺に女の子の友達を紹介してください」

「え? やだよ。何いってんの?」

「………………なんでだよ?」

 

 頭のなかで『生意気なこと言うのはこの口か』とリーンのほっぺたを限界まで引っ張りながら。俺は感情を押し殺してそう聞く。

 

「だって、ダストとか紹介したら友達の縁切られそうじゃん」

「ふざけんなよ! このまな板娘が! 人が下手に出てたら調子乗りやがって! 表出ろ!」

 

 飯食えなくなるまでそのぷにぷにしたほっぺたを引っ張ってやる!

 

「あ、一人だけダストに紹介できそうな友達いたかな」

「犬と呼んでくださいリーン様」

「…………あんた、プライドとかないの?」

 

 そんなもんで彼女ができるなら苦労しない。

 

「それで、俺に紹介できる女の子はどんな子なんだよ」

「えっとね…………まず、胸がそこそこ大きいかな」

「おう、さすがリーン俺の好み分かってんじゃねぇか」

 

 やっぱ胸の大きさは大事だよな。小さくてもそれはそれでいいもんだが、大きい方が揉んだ時に楽しいし。

 

「それで、顔はこの街でも上から数えたほうが早いくらい可愛くて、性格もこの街で一番と言っていいほど優しくて常識人」

「顔は良くても性格残念なのが多いこの街でそんな理想的な女性がいるだと……」

 

 カズマパーティーの女たちを筆頭に見た目だけはいい女が多いこの街。ただ蓋を開けてみれば顔の良さなんて色んな意味で可愛く見えるアレな性格なやつばかりなだけで……。本当にそんな女がいるならちょっと本気で口説いてもいいかもしれない。

 

「後は、髪は黒で目は紅い15歳で巷じゃレッドアイズの切り込み隊長だって噂の」

「ゆんゆんじゃねぇか!」

 

 期待して損した。

 

「えー……どう考えてもあんたにはもったいない女の子なんだけど、何が不満なのさ?」

「容姿は確かに悪くねぇよ。性格もまぁ確かにこの街じゃまともなほうだろうさ。……でも、15歳とか守備範囲外。あと人のことボコボコにしてくるし」

 

 見た目がいいのは認めてるし性格も生意気な所に目を瞑れば悪くない。だけど流石に4歳下を恋愛対象にすんのは無理がある。…………セクハラはまぁするし夢の中じゃ17歳のゆんゆんにお世話になってるが。

 

「…………ま、いいけどさ。そんなこと言っててゆんゆんに彼氏が出来たとかなったら悶えるくせに」

「……まぁ、それも否定はしねぇよ」

 

 勘違いだったとは言えリーンの時だってそうだったんだから。

 

「……もう、この際贅沢は言わねぇ。リーンでいいから付き合ってくれ」

 

 胸に目を瞑ればこいつの容姿も悪くないし、性格も生意気な所に目を瞑れば悪くない。何よりこいつは一応俺の守備範囲内だし。

 

「嫌に決まってんじゃん」

 

 そんな俺の妥協案をバッサリと切り捨てるリーン。

 

「…………なんでだよ?」

「だって、あたしは好きな人いるし。なんでダストと付き合わなきゃならないのさ」

「…………そうかよ」

 

 結局俺に彼女は出来なそうだ。

 

 

 

「あ、きたきた。うーん……最近はこれ食べるのも一苦労なんだよね。昔は飽きるくらい食べたんだけど」

 

 リーンに笑顔でデザートを持ってきたウェイトレスが俺に氷点下の目を一瞬だけ向けていなくなる。

 …………あの冷たい目をしたウェイトレスが俺にガーターベルトを脱がされたのかぁ。覚えてないことなのになんだが胸がドキドキしてくる。もしかしてこれは恋なんだろうか。

 

「ねぇ、ダスト。あたしの話聞いてんの?」

「ん? ああ、聞いてるぞ。お前の胸はもう大きくならないから諦めろ」

「聞いてないし…………いや、別にどうでもいい話だから聞いてなくてもいいんだけどさ…………そのいやらしい目をウェイトレスにずっと向けてたら店から追い出されるよ」

 

 …………それは困るな。ほどほどにしとくか。

 

「ん? お前の食ってるそれ…………」

 

 リーンの食ってるデザート。『アクシズ教団のアレ』とやらを前に俺は妙な引っ掛かりを覚える。

 

「? どったのダスト。もしかしてダストって『ところてんスライム』知らないの? もしかしてダストの故郷にはなかったとか?」

「いや、別にそんなことねーよ。というか『ところてんスライム』は俺の故郷の国が発祥だし。特に貴族や王族の女性の間じゃ人気でよ……俺の母さんもよく食ってたな」

 

 というかあの国で俺の周りにいた女はところてんスライムばっかり食ってた気がする。

 

「ふーん…………じゃあ、何をまじまじと見てるの? 今でこそご禁制の品で手に入りにくいけど、珍しいものじゃなかったでしょ?」

「いや…………ところてんスライムの匂いを最近どっかでよく嗅いでるなぁって」

 

 どこだっけか。ご禁制の品だし俺自身は別に好きでもないから嗅ぐ機会なんてそうそうないはずなんだが…………割りと頻繁に嗅いでる気がするし、ついこの間も嗅いだような…………。

 

「…………あ、セシリーか」

 

 あの残念プリーストからしてる菓子みたいな甘い匂い。ところてんスライムだったのか。

 

「? セシリーって誰? 女の人?」

「おう、一応性別上は女のプリーストだな」

 

 だから何だというのがあの女だけど。

 

「…………なによ、あたしに相談しなくても普通に女の知り合い居るんじゃん。そっちに相談でもナンパでもすればいいのに」

「なんだよ今更嫉妬か? だったら俺が付き合ってって言った時に素直に――」

「――いや、それはありえないけど」

 

 ……最後まで言わせろよ。

 

「ただ…………その…………なんていうか…………分かるでしょ? あんたみたいなのでも一応は仲間なわけだし…………こう…………微妙な気持ちになるというか」

 

 まぁ、分からんでもない。こういうのは好きとか嫌いとかそういうもんじゃないもんな。リーンも俺と同じようなもんなんだろう。

 だけど……。

 

「…………言っとくが、そのセシリーってのはアクシズ教徒だぞ? それでも微妙な気持ちになるか?」

「あ、全然そんな気持ちなくなった。そっかぁ……アクシズ教徒かぁ…………それならあんたと間違い起こっても問題なさそうだしいっかな」

 

 …………あれ? 微妙な気持ちになってたのってそういう理由?

 

 

 

 

 

 

「そんなはずないわ! あのドラゴンはキョウヤが一撃で倒したはずだもの!」

「そうよ! そうよ!」

 

ギルドの受付。俺とリーンが座ってる席から見える所で、槍を背負った女と盗賊風の女がルナに絡んでいた。

 

「あ、いえ別に以前のクエストの結果を疑っているというわけではないのです。ミツルギさんたちからの報告はなかったとは言え、それ以降にドラゴンの目撃報告がなくなったのは事実なので。シルバードラゴンなので恐らくは別のドラゴンなのでしょうが、最近またギルドに目撃報告がありまして。以前にも討伐クエストを受けたミツルギさんたちのパーティーに確認をお願い出来ないかという話です」

「う……でも、今はキョウヤとは別行動だし、二人でドラゴンにあう可能性があるとか……」

「……あの時も私達何もしてないしね」

 

 

 

 

「ねぇ、ダスト。あの話って……」

「分かってる。ちょっと行ってくる」

 

 リーンをその場に残して俺はルナのところに行く。

 

「おい、ルナ。そのクエスト俺が受けるが問題ねぇよな?」

「はぁ、まぁ確認さえしてきてくれるなら誰でも問題無いですよ。…………ただ、確認クエストなので報酬はそこまで高くないのですが大丈夫ですか?」

「それでも一撃熊の討伐クエストくらいの報酬はあんだろ。十分だ」

 

 まぁ、ドラゴンに会う可能性を考えれば危険に見合った報酬じゃないのは確かだが。いないってのを確認するだけでも報酬がもらえる確認クエストじゃそれも仕方ない。

 

「確かにミツルギさんたちが受けられないのでしたらダストさんたちが適任かもしれませんね。(……ですがいいんですか? ドラゴン関係のクエストとなるとあなたを探している人たちの目に触れられる可能性がありますが)」

「(まぁ、大丈夫じゃねーの? そこまであの国も魔王軍も暇じゃねーよ)」

 

 小声で聞いてくるルナに俺も小声で返す。

 

「(てーか、そういや思い出した。お前ロリっ子共に俺の正体ばらしやがっただろ?)」

「(? 何の話ですか?)」

 

 本当に何の話かわからないのか首を傾げるルナ。…………くそっ、可愛くとぼけたふりしても許さねーぞ。

 

「(あ……もしかして、金髪で凄腕の冒険者としてダストさんを紹介した件ですか? でもあれはギルドとの契約は関係ないのでは……)」

 

 …………マジでルナのやつ気付かず紹介したのかよ。いやまぁ、俺がギルドとの契約をした時、こいつはまだ受付嬢見習いだったし詳しいこと知らなくても仕方ないんだろうけど。

 

「まぁ、いいか。とにかく問題ねーならそのクエスト俺とゆんゆんで受けるわ」

 

 終わったことを今更あーだこーだ言っても仕方ない。反応見る限りどっかの爆裂娘やらパンツ取られ盗賊には俺の正体がバレちまってるみたいだが、あいつらは言いふらすタイプでもないだろう。今はそれよりもドラゴンだ。

 

「ちょ、ちょっと、いきなり出てきて何言ってんのよ!」

 

 ルナと話がまとまったと思ったら、槍を背負った女がそう文句を言ってくる。

 

「お前らが受けるかどうかを悩んでるから俺が受けるって言ってるだけだろうが。それともお前らが受けるのか? それならそれで別にいいぞ」

 

 こいつらが行く前にこっそり先に探しに行くだけだし。

 

「………………こ、今回は忙しいからそのクエスト譲るわ」

「キ、キョウヤのレベルに追いつくまでモンスター狩りで手一杯だものね」

 

 こいつらホント魔剣のいけすかねぇ兄ちゃんいねぇと何も出来ねぇんだな。まぁ、ドラゴン関係のクエストなんて冒険者の中でもトップクラスの奴らじゃなきゃ受けるだけ無謀だし妥当な判断なんだが。

 

「てわけだ、ルナ。そのクエストは俺とゆんゆんで受ける」

「了解です。冒険者パーティー『レッドアイズ』のクエスト受注処理完了しました。ご武運をお祈りします」

 

 ……いつのまにそれ俺らの正式名称になったんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

――ゆんゆん視点――

 

 

「それでいきなり呼び出されたわけですか…………明日じゃダメだったんですか?」

 

 アクセルの街の近くにある山脈の奥深く。周りを警戒しながら私はダストさんにそう聞く。

 

「そんなに警戒して歩かなくてもいいぞ。得意じゃねーが今日は俺がちゃんとやってやる。ジハードと俺がやりゃ十分だからよ」

「…………またなにか悪いものを食べましたかダストさん」

「その反応はもう良いって言ってんだろうが! ……ったく、お前の言う通り明日でも良かったんだが、ちょっと俺的に急ぎたくてよ。だから少しだけ悪いと思ってんだよ」

 

 …………ダストさんがそんな気遣いをしてるなんて明日は槍でも降るんじゃないだろうか。やっぱり悪いものでも食べたのかもしれない。もしくは……。

 

「急ぎたいって何か理由があるんですか?」

「…………別にそういうわけでもねーよ。ただの気まぐれだ」

 

 そう言ってるけど、今のダストさんは妙に焦ってる気がする。なんだか話をしてても心ここにあらずというか…………言うなれば、そう、変な顔をしている。

 

(こうして真面目な顔をしているとなんかかっこいいというか品があるような感じだけど…………ダストさんがそんな顔してるとすごく変)

 

 私の知らない人が隣りにいるような気がしてすごく落ち着かなくなる。

 

「けどみたらしさんたちって凄いですね。エンシェントドラゴンって凄い強そうなのに討伐したとか」

 

 落ち着かない気持ちを誤魔化すように私はさっきの話の中で気になった事を質問する。

 

「ちゃんと報告してねーみたいだし、多分エンシェントドラゴンを倒してなんかいねーよ。ドラゴンを倒したって言うのは多分本当だろうけど」

「つまり、ドラゴンを倒したけど、それはエンシェントドラゴンじゃなかったってことですか? どうしてそう思うんですか?」

「エンシェントドラゴンっていったら上位ドラゴンの中でも最上位に位置するドラゴンだ。種族ではなく途方もない時間を過ごしたドラゴンに与えられる称号みたいないもんなんだが、その大きさは王城と比べてもまだ大きいほどだって言われているし、本気のブレスは爆裂魔法にも匹敵するとか言われてる。……そんなやつが駆け出しの街のすぐ近くにいるとも思えないし、あの魔剣がどんなに凄くとも一人で勝てるような相手じゃねーよ」

 

 王城よりも大きい相手と一人で剣で戦うとかたしかに無理ですね。

 

「それで報告してないのも考えれば勘違いだったと思うわけですね」

 

 ギルドの人が冒険者カードを見ればどんなモンスターを倒したかはっきり分かるから。

 

「でも、ちゃんと報告しなくてもいいものなんですか? 普通討伐クエスト受けたらちゃんと報告しないと失敗扱いでペナルティもらったりしますよね」

「ドラゴン討伐クエストには報告義務はねぇよ。失敗する可能性が高いクエストだしペナルティもない。というより失敗したら帰ってこれない可能性が高いクエストだからな」

「…………やっぱりドラゴンって生き物としての格が違うんですね」

 

 この間苦労して倒したグリフォンだってそんな特例措置はない。それだけドラゴンという存在が特別ということなんだろう。

 

「まぁ、最強の生物だからな。そりゃ個体差はあるだろうが種族としてみれば最強の生き物なのは間違いねぇよ」

 

 隣を飛んでるハーちゃんもいつかはそんな存在になるのかな。

 

「ところで目撃されたって話のドラゴンはシルバードラゴンなんですよね? どんなドラゴンなんですか?」

「どんなドラゴンって言われてもな…………取り敢えず言えんのはシルバードラゴンはすごい綺麗なドラゴンだってことだな」

「綺麗…………ダストさんにそんな風に思う感情があっただなんて意外ですね」

「なんとでも言え。あいつを前にしたら誰だってそういう感想を思い浮かべるに決まってんだよ」

 

 …………あいつ、ねぇ。

 まぁ、ダストさんのドラゴンバカは分かりきってることだし、それに限って言えば綺麗とかいう感想を持つのも不思議ではないんだけど。

 

「それと、シルバードラゴンもブラックドラゴンやホワイトドラゴンほどじゃないにしても珍しいドラゴンだな。希少さだけなら黄金竜と同じくらいだ」

 

 黄金竜ってめぐみんたちがエルロードで倒したっていう、凄い買取価格がつくっていう? 素材としてはまた違うんだろうけど、そんな希少なドラゴンよりもハーちゃんは珍しいドラゴンなんだ。………………本当に何でこの人はそんなドラゴンの卵を私に無償でくれたんだろう。

 

「ま、希少さなんてどうでもいいさ。どんなドラゴンでもドラゴンってだけで十分過ぎる価値があんだからよ」

 

 …………この人は本当にドラゴン好きというか、ドラゴンのことになると別人みたいにまともになる。

 いつも今みたいなことを言っていたらこの人の評価ももっと違うものになっているだろうに。

 

 

「それにドラゴンは竜種よりも生きた年月のほうが重要だ。上級の竜種でも100年も生きてない下位種じゃ上位種の亜竜には勝てない。……まぁ、あのクーロンズヒュドラですら中位種のドラゴンだし、今じゃ机上の空論なんだけどな」

 

 クーロンズヒュドラでも中位種なんだ。

 

「ダストさんは……」

 

 どうしてそんなにドラゴンのことを詳しいんですか、と。そう聞きたい気持ちがある。認めたくないけれど、この人のドラゴンの知識に助けられたことは多いから、その根源がどこから来たのか聞いてみたい。

 

「? どうしたよ、言いにくそうな顔しやがって。いつもみたいに毒舌混じりで遠慮なく聞きたいこと聞けよ」

 

 でも、今の私はそれを聞くことが出来ない。いつも適当なことしか言っていないこの人はドラゴンのことに関してだけはどこまでも真摯だから。私が持っている興味という理由じゃ、それに応えられないから。

 

「…………ダストさんは、今から確認しようとしてるドラゴンに心あたりがあるんじゃないですか?」

 

 だから、私はそれだけを聞いた。興味ではなく既に私が確信を持っていることで、ダストさんもまた気づかれているだろうと思っていることを。

 

「…………ああ。ここにいるのはシルバードラゴンのミネアって名前の中位ドラゴンだ」

「……どういう関係か聞いたら教えてくれますか?」

「…………俺の友達だよ」

「そうですか。それじゃ早く見つけてあげないといけないですね」

 

 もっといろいろ聞きたいという気持ちがある。でも同時にそれ以上のことを聞くのが怖いという気持ちもあった。

 真摯さに応えられないという理由とは別にある私の感情。それはなんだか不安という感情に似ている気がして…………私はそれ以上踏み込まないということで自分を納得させた。

 

(そういえば『ミネア』って、ダストさんがうなされていた時に言ってた名前だよね)

 

 それも合わせて考えればダストさんの言葉に誤魔化しや嘘はない。今は取り敢えずそれだけでいい気がした。

 

 

 

 

 

『グォォォオオオ』

 

 低く唸るような鳴き声。声のした方向を注視してみればくすんだ銀のウロコを持ったドラゴンが岩陰から顔を出している。

 

「ミネア!」

 

 その姿を見たダストさんは一直線に走りだしてドラゴンのもとに行く。

 

「ハーちゃん、私達も行こう?」

 

 遅れて私とハーちゃんもダストさんの後を追う。

 

「良かった、無事だったんだな!…………って、こら、人の顔を舐めるな!」

 

 ダストさんは文句を言いながらも嬉しそうにドラゴンの大きな頭を撫でている。

 ミネアと呼ばれたドラゴンもまた気持ちよさそうにダストさんの撫でる手に任せていた。

 

(……ハーちゃんに向けてる笑顔と一緒)

 

 ダストさんらしくない普通の青少年みたいな笑顔。それはきっとドラゴンだけに向けられるもの。……私が知ってて、そしてほんとうの意味では知らない顔。

 その顔を私はハーちゃんと一緒にダストさんが撫で終えるまで眺めていた。

 

 

 

 

「……それで? 結局ミネアさんはどうするんですか?」

 

 撫で終えた後。なんだかまだ撫でたりなそうな顔をしているダストさんに私はそう聞く。

 

「…………どうしたら良いと思う?」

「質問に質問を返さないでください」

 

 そんなこと私に聞かれても。私は確認クエストに付き合っただけですし。

 

「とりあえず、この場所にいたらまた目撃されて討伐クエストが発生しかねない。てわけでここからどっか別の所に移動させないといけないんだが……」

「アクセルの街に連れ帰る訳にはいかないんですか?」

 

 これだけダストさんに懐いてたら大丈夫な気がするんだけど。

 

「それができりゃ苦労しないというか…………こいつもお尋ね者だしなぁ」

 

 くぅぅんと鳴くミネアさん。………………大きいのに可愛い。私も後で撫でてみようかな。

 

「だったら、ひとまず紅魔の里に行きませんか? あの里ならドラゴンの一匹や二匹連れて行っても喜ばれるだけですよ?」

 

 ミネアさんがどこから追われてるかは分からないけど、あの里ならどんな勢力からも守れるはずだ。たとえベルゼルグの王様であってもあの里が望まない事を強要は出来ないんだから。

 …………私はそんな里の族長の娘。私がお父さんに頼めば、ミネアさんを匿うくらいはしてくれると思う。

 

「…………いいのか?」

「?……いいって何がですか?」

「いや……ゆんゆんがそれでいいなら助かる。一旦ルナにクエストの報告したらミネアと一緒に紅魔の里に飛ぼう」

「?……はい」

 

 …………って、あれ? 紅魔の里にミネアさんとハーちゃんとダストさんを連れて帰る?

 ……………………………………………………………ダストさんを連れて紅魔の里に帰る?

 

「あれ!? なんかこの後の展開が読めたんですけど!?」

 

 今更撤回するわけにもいかず気づくのが遅い私だった。

 



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第13話:ろくでなしでドラゴンバカな友達

「よくやった! ゆんゆん! 流石は私の娘だ!」

 

 紅魔の里。中央に位置する大きな家で、俺とゆんゆんは紅魔族の族長……つまりはゆんゆんの父親と相対していた。

 

「まさか2匹もドラゴンを使い魔にして帰ってくるとは…………もう世代交代しないといけないかもしれないな」

「い、いや、あのね、お父さん。使い魔なのはハーちゃん……ここにいるブラックドラゴンだけで外にいるドラゴンさんは違うから」

 

 興奮気味というか感動している親父さんにゆんゆんは宥めるようにして説明する。

 

 ゆんゆんの説明通り、ミネアは庭で俺達の話が終わるのを待っている。夜だというのに子どもやら大人が、狭そうにして庭に収まるミネアの姿を遠巻きに見て興奮していた。

 ……ガキどもが近づいてきてミネアの綺麗な体に触れないだろうな。今のところ大人たちが危ないと止めているが、その大人たちもどこか触れたそうな雰囲気出してるから不安だ。

 

 …………別に触れてもミネアが嫌じゃないなら問題ないんだけどな。俺でさえまだ満足にミネアと触れ合ってないのに羨ましいって気持ちさえ無視できれば。

 

「なんだ、そうなのか。だが、魔法使いが使い魔を持つ事が廃れた今、ドラゴンを使い魔にするとなれば偉業と言ってもいい。この里のアンケートでも使い魔にしたい生き物ランキング不動の1位はドラゴンだからな」

 

 通りで外にいる奴らが興味津々なわけだ。紅魔の里……頭のおかしい集団だと聞いていたが、なかなかどうして話がわかる奴らだな。少しだけならミネアに触っても良いかもしれない。

 

「それに、まさかこの方を伴侶として連れてくるとは思ってもいなかったが…………」

「ダストさんが伴侶とかありえないから!…………って、あれ? お父さん、ダストさんのこと知ってるの?」

「ダスト? 何を言っているんだ、この方は――」

「――おおっと、俺としたことが名乗りが遅れたぜ! 俺の名はダスト! アクセルの街を牛耳ってる冒険者だ。巷じゃチンピラのダストだのろくでなしのダストだの言われてるがよろしく頼むぜ」

 

 話がまずい所へと向かっていることに気づいた俺は慌てて名乗りを上げて親子の会話に割り入る。

 …………ミネアのこと考えてたら反応が遅れちまった。この親父さんと会ったらこういう展開になることは分かっていたはずなのに。 

 

「きゃっ……もう、ダストさんいきなり叫ばないでくださいよ。夜ですし近所迷惑ですよ」

「…………ふむ、ダストさんか。どうやら私の勘違いのようだ」

 

 いきなりの声にゆんゆんはいつもの迷惑そうな顔を俺に向け、族長は少しだけ意外そうな顔をして頷いた。

 なんとか誤魔化せたというか、族長には俺の意図が伝わったか。……別にゆんゆんにならバレても問題ないっちゃ問題ないんだが隠せるのなら隠しておきたい。もしバレたらゆんゆんが落ち込むのは目に見えてるし、落ち込んでるゆんゆんの面倒臭さは半端ないし。

 

「そうだよ、ダストさんはただのチンピラなんだから『方』なんて呼ばれる人じゃないよ」

「おい、こらぼっち娘。人をただのチンピラ呼ばわりしやがるんじゃねーよ。自分で言うのはいいがお前みたいな凶暴ぼっちに言われるとムカつくぞ」

 

 こっちが珍しく気遣ってやっているのにそれとか。

 

「あ、すみません。ダストさんはすごいチンピラでしたね。流石自覚のあるチンピラは格が違いますね」

「最近はちょっとおとなしいと思ってたがやっぱり毒舌クソガキじゃねーか! 表出ろ!」

「それはこっちの台詞です! 最近はちょっとだけまともなんじゃないかなって勘違いしてましたけどやっぱりダストさんはろくでなしのチンピラです!」

 

 二人して立ち上がり決着をつけようとミネアの待つ庭へと向かう。

 

「……きみたち仲いいね。お父さん置いてけぼりで寂しいんだけど」

「「仲良くなんてない! 勘違いしないで(くれ)!」」

 

 掛けられた言葉に俺達は揃って否定の声を上げ、

 

「…………やっぱり仲いいじゃないか」

 

 そんな俺達を見て族長は寂しそうにため息を付いた。

 

 

 

 

 

 

「族長、ゆんゆんは眠ったのか?」

 

 喧嘩して決着を付けた(今回は惜しくも俺が負けた)後。ゆんゆんは疲れが出たのか眠そうにうとうとしていた。それを見た族長は容赦なく『スリープ』をかけてゆんゆんを部屋へと連れて行った。…………ジハードも一緒について行っちまったのが少しだけ寂しい。

 

「ええ、よく眠っていますよ」

「そうか…………悪いな。親子でもっと話したかっただろうに」

「いえいえ、あの子が元気そうにしてる様子がみれただけで十分ですよ。それに今は妻があの子についています。あれもあの子と触れ合う時間が必要でしょう」

「ゆんゆんのお袋さん……いたのか。全然出てこないから父子家庭なのかと思ってた」

 

 もしかして俺が気に入らないから出てきてないとかそういうことだろうか。

 

「妻は極度の男性恐怖症でして……知らない男の人がくるといつもこんな感じなのです。それ以外は普通の紅魔族なのですが」

 

 男性恐怖症で普通の紅魔族。なんてーかゆんゆんを数倍面倒くさくした人っぽいな。

 

「というか、族長はよくそんな人と結婚できたな」

 

 攻略難易度やばいだろ。

 

「苦労はしましたが……惚れた弱みというものですよ」

 

 はっはっはと笑う族長は本当に幸せそうだ。

 …………羨ましいな。紅魔族同士なら価値観が違って大変なんてこともねーだろうし。ゆんゆんの母親だ、それはもう美人さんなんだろう。

 

「けど、ゆんゆんのやつ、あれくらいの喧嘩で疲れるとは思えないんだが、なんか他に疲れることしてたかね」

 

 ミネア探しに行く時に警戒して歩いてはいたけど、冒険者じゃそれくらい慣れっこのはずだし。むしろぼっち冒険になれてるあいつにしたら軽いもんだろう。

 

「テレポートは魔力と質量と魔法抵抗力でその負担が決まります。魔力の塊であるドラゴンを2匹も……そのうちの一匹は中位種のドラゴンをテレポートさせたんです。さすがのあの子も限界に近かったというか…………よく成功させたものです。私が思っている以上にあの子は成長しているようだ」

「あー……テレポートってそういうもんなのか。定員が4人で魔力消費が結構大きいってことくらいしか知らなかったわ」

 

 考えてみれば分かることではあるが。何でもかんでも飛ばせるならテレポート最強すぎるし、魔法抵抗力を高めればテレポートで飛ばされるのに対抗できるってのはそのあたりで決まるんだろう。

 

「まぁ、あいつが成長してるって話は確かにそうだな。俺が初めてあいつとあった時と比べても大分強くなってるぞ」

 

 初めてあった時も孤高(笑)のアークウィザードとしてアクセルじゃ有名な実力者ではあったが、今はその頃よりも数段強い。……というよりあいつの親友を始めとして数少ない友人連中がどいつもこいつも強い奴らばっかりで、強くならざるをえないってのが本当のとこだが。

 

「それは分かりますよ。テレポートのこともそうですし、得意の得物ではないとは言えあなたを喧嘩で圧倒できるほど強いのですから」

「べ、別に圧倒なんてされてねーぞ。今日の喧嘩も紙一重の敗北だったっての」

「…………いえ、それ流石にないかと」

 

 正直な反応ありがとよ!

 

「しかし、強さもそうですが、あなたと喧嘩をしているあの子を見て少しだけ安心しました。引っ込み思案だったあの子が遠慮なしに言い合える相手はめぐみんくらいしかいませんでしたから心配してたんです」

「そうか。あれで俺以外にも言いたいことはズケズケ言うやつだから安心していいぞ。なんだかんだでアクセルの街でも友達はそれなりにいるし」

 

 その友達はどいつもこいつも問題ある気がするが。

 

「……そうですか。里でこそ認められましたがこの里以外であの子がうまくやっていけるか心配だったので、それは本当にうれしいです」

 

 穏やかな笑顔で族長。

 紅魔族ってのはおかしな感性してるって言うが、こういう所は普通の奴らと変わらないんだな。親の心ってのはどこであっても変わらないのかもしれない。

 

「これで、あなたがゆんゆんを貰ってくれれば何も心配はなくなるのですが」

「…………貰うってどういう意味だ?」

「もちろん結婚していただけないかと、そういう意味ですが」

 

 …………直球だなぁ。からかわれるくらいなら覚悟してたが、ここまで真剣に言われるとちょっとだけ驚く。族長とは初対面ではないとは言え、前に一度会っただけだ。ゆんゆんがはっきりと否定してるのにそう言われるとは思っていなかった。

 

「悪いが年が離れてて守備範囲外だ。……それにいいのかよ? 族長の娘にこんな得体のしれないチンピラを薦めて」

 

 ゆんゆんは一応族長の娘で本人も族長になることを望んでる。その夫になる男となればいくら変人の里と言っても得体のしれない男はまずいだろう。ゆんゆん自身がそれを望んでいるのなら話は少し変わってくるが。

 

「むしろあなたの才能と実績を考えれば紅魔の族長という地位は釣り合わないと思いますよ。自慢の娘ですが、族長の地位と合わせたとしても今はまだあなたに釣り合うほどではないでしょう」

「言ったろ? 今の俺はアクセルの街のただのチンピラだっての。…………ゆんゆんは俺なんかじゃ釣り合わないいい女だ。年が離れてなきゃとっくの昔に手を出してる」

 

 そして間違いなく撃退されてる。あいつ嫌なことははっきり嫌だって言うタイプだし。

 

「そうですか…………あの子はあなたにそれほど評価されるほどの女性になりましたか。では、あの子が大きくなれば貰ってくれる可能性があるということですね?」

「ねーな。4歳下とか一生守備範囲外。なので諦めろ。…………つーか、この話マジでやめよーぜ? 俺もゆんゆんもそんなつもりは全然ねーからよ」

 

 あくまであいつは俺に取っちゃセクハラ対象だし、恋愛対象とかそういう風に見るつもりは全然ない。ゆんゆんに至ってはジハードのことがなければ今すぐ縁を切りたいくらいだろう。未だに俺のこと知り合いだって言い張ってるし。

 

「ふーむ…………そうなると、何の話をしましょうか。あの子の最近の様子を聞いても良いのですが、それはあの子本人から聞きたいことですし」

「俺としちゃ族長と奥さんの夫婦の営みの話とかドラゴンの話とかしたいんだが」

「前者は流石にお断りします。後者はあなたにいろいろドラゴンのことを教えてもらえるならありですが…………今回は、私とあなたが初めて会った時の話をしませんか?」

 

 …………ま、そんな流れになる気はしてたけどよ。

 

「もう何年前になるんだっけか。あの国で俺が死にかけてたのを族長が率いる紅魔族が俺を助けてくれたんだったな。…………あの時は世話になった。感謝する」

「ピンチに現れるのは紅魔族の特権ですから礼なんていりませんよ。それにあなたが時間を稼いでくれたから私達も間に合ったのです。だからお互い様というものでしょう」

「…………まぁ、あんな国でも魔王軍に落とされればこの国も厳しくなるからな。そういう意味じゃ礼はいらないんだろうが…………やっぱり礼くらいはさせてくれ。ミネアを始めとして、あの国で俺が守りたいものを守れたのはあんたらのおかげだ」

 

 ミネアや俺に良くしてくれた町の人達、ついでにあいつ。糞ったれな貴族共はどうでもいいというかむしろ死んでくれだが、たとえ自分が死んでも守りたいものが守れたのは紅魔族のおかげだった。

 

「そうですか、では素直に感謝を受け取りましょう。…………ところで、気になるのですが、どうしてあなたは今『ダスト』さんをやっているんですか?」

「……何でって聞かれると面倒だな。一から話すと長いんだが…………聞きたいか?」

「ええ、是非とも」

 

 ……別に面白い話じゃないんだがな。

 

「ま、ミネアのこと頼むわけだし事情知ってた方がいいか。あれは俺が族長たちと初めてであってから一月くらいしてからのことだったか――」

 

 

 

 

「――なるほど。そういうことがあったのですか。苦労されたようだ」

 

 一通りの話が済んで。族長は労るように俺にそう言ってくれる。

 

「ま、あの頃は何度死のうかと……何度復讐してやろうかと思ったもんだが今はわりと楽しくやってるよ」

 

 この楽しい今が終わってしまうのが怖くなってしまうくらいには……な。

 

 

 

 

 

「……っと、そうだ。族長。ブラシとタオルかしてくれねぇか?」

 

 話も一段落したことだし、俺はやりたいことをやらせてもらおう。

 

「いいですが……寝ないのですか? もう良い時間だと思うのですが」

「眠いけどその前にミネアの体を綺麗にしてやんねーと。あいつのせっかく綺麗な鱗がくすんじまってるから」

 

 磨いてやらないと気になって眠れやしねー。

 

「…………やはりあなたはいい男だ。娘は何が不満なのか」

「俺が言うのも何だが……多分ドラゴン関係以外はただのチンピラなところじゃねぇかな」

 

 本当自分で言うのもなんだけど。

 

「…………真顔で言われると心配になるんですが……冗談ですよね? 娘任せて大丈夫ですよね?」

「冗談じゃねーが大丈夫だ。ゆんゆんは俺の親友だからしっかりと利y……もとい面倒見てやるから」

「頼みますよ!? 『利y』とか聞こえなかったことにしますからホント頼みますよ!?」

 

 放任主義だか過保護だかよく分からないゆんゆんの親父さんだった。

 

 

 

 

――ゆんゆん視点――

 

 

「お父さんおはよう」

 

 台所でお母さんが料理してる懐かしい雰囲気を感じながら。私は居間で読書をしているお父さんに挨拶をする。

 …………読んでる本のタイトルに『紅魔族英雄伝 第二章』とか書かれてる気がするのは私の見間違いだろうか。…………見間違いにしとこう。

 

「おはよう、ゆんゆん。よく眠れたか?」

「うん。……私、いつの間に寝たんだっけ?」

 

 疲れてたのかな? ダストさんといつもどおり喧嘩したのまでは覚えてるけどその後の記憶はあやふやだ。

 

「うとうとしていたから仕方ないだろう。ちゃんと私が(スリープで)寝かせつかせたから安心しなさい」

「うん。なんだか聞き逃せないこと言った気がするけどありがとう」

 

 まぁ、別に無理やり眠らされるくらいはいいんだけどね。……夜中に目が覚めたらお母さんが隣で寝てたのにはびっくりしたけど。

 

「そういえばダストさんはどこで寝たの?」

「…………結局、夜通しだったみたいだね。明け方近くまで音が聞こえてたから」

「? 何の話?」

「庭に出れば分かるだろう。…………ただ、静かにね」

 

 庭って何の話だろうと思いながら玄関を出る。そうしたらお父さんの言ってた意味はすぐに分かった。

 

「……ダストさん、ずっとミネアさんの体を綺麗にしてたんだ」

 

 ミネアさんのくすんでいたはずの鱗が朝陽に照らされ白く輝いている。そしてダストさんはと言えばミネアさんに体を預けて幸せそうに寝ていた。

 

「くすっ……ダストさんでも寝顔は可愛いんですね……えいえい」

 

 思わずぷにぷにとほっぺたを突っついてしまう。

 

「おいこら、ゆんゆん……」

「っ! だ、ダストさん起きて――」

 

 いきなりの声に突っついてた指を後ろに隠す。

 

「――ダチは選んだほうがいいぞ……むにゃむにゃ」

「って、寝言ですか。驚かせないでくださいよもう……」

 

 驚かされた腹いせに少しだけ強くほっぺたを突っつく。なんだか寝苦しそうにしてるけど気にしない。

 

「というか、どんな夢見てるんですか?」

 

 ダストさんの夢の中で私はどんな風なんだろう。さっきの寝言にどう応えただろう。ここにいる私なら……

 

「……ダストさんがその台詞を言わないでくださいって……そう言うだろうなぁ」

 

 そこまで口にして気づく。

 

「そっか……私、ダストさんのことちゃんと友達だって認めちゃってるんだ」

 

 どうしようもないろくでなしだけどドラゴンの事になると真剣になるこのチンピラ冒険者のことを私は嫌いじゃないらしい。

 

 

 

 

「ダストさん、すぐにアクセルに帰るのも味気ないんで紅魔の里を案内しましょうか?」

 

 朝食を食べ終えた後、眠そうな顔をしているダストさんに私は提案する。

 ミネアさんを預けるという話自体はもう済んでるから、今すぐアクセルに帰っても問題はないんだけど。ハーちゃんの卵を貰ってからだと里帰りするのは初めてだし。久しぶりに里の雰囲気を味わってからアクセルに戻りたい気がする。

 友達に里を案内するというのは私の夢の一つだったし、一応友達だと認めてしまったことだしダストさんを案内するのも悪くない気がする。リーンさんを里に呼んで案内する時の予行演習にもなるし。

 

「あん? 俺はこの後見た目だけは綺麗なのが多い紅魔族をナンパしまくる予定なんだが……」

「……紅魔の里でナンパとかただの自殺行為ですよ?」

 

 流石に命までは取られないと思うけど…………。

 

「……ま、親友がせっかく故郷を案内してくれるっていうんだ。好意に甘えるとするか」

「日和りましたね。……一応言っときますけど、ダストさんは親友じゃありませんよ、ただの友達です」

「はいはい、いつもの返しありがとよ。いい加減認めてもいい…………って、ん?…………友達?」

 

 骨が喉に詰まったような顔してるダストさんを横目にしながら、私はお父さんに話しかける。

 

「というわけでお父さん。これからちょっとダストさんと里を歩いて回ってきます」

「デートするのはいいがあまり遅くなり過ぎないようにな。子作りは結婚してからだぞ」

「デートじゃ…………って、いきなり何を言ってるの!?」

 

 デートってくらいはからかわれるの予想してたけど、子作りとか直球過ぎてドン引きなんだけど。

 

「族長、年上としてクソガキとデートするくらいはいいが流石にエロいことするとなると俺にも選ぶ権利があるぞ」

「ダストさんも大概失礼ですね! というかダストさんに選ぶ権利とかないですから!」

 

 アクセルの街でナンパ振られ記録更新中のダストさんに選ぶ権利とか本気でないと思う。

 

「そうか……じゃあ、デートだけなら夜までには帰ってくるな。夕飯は準備しておこう」

「おう、明日には帰る予定だから夕飯は豪華に頼むぜ」

「……厚かましいにもほどがありますからねダストさん」

 

 はぁと私は大きなため息を付いた。

 

 

 

 

 

「おや、ゆんゆんじゃないか。ドラゴンの子と年上の男を引き連れて歩くとは出世したものだね」

 

 ダストさんとハーちゃんに紅魔の里を案内していたら懐かしい声がかけられる。

 

「あるえ! 久しぶり」

 

 めぐみんと同じ眼帯をした元クラスメイト。私の中の紅魔族のイメージそのままの少女、あるえ。

 私の数少ない友達と言える少女の声に私は喜びながら応えた。

 

「ああ、久し振りだね。……それにしてもゆんゆんがドラゴンを使い魔にして男と一緒に帰ってきたと聞いた時は半信半疑だったけど、本当だったとはね」

「なんか勘違いしてる気もするけど…………説明するのもめんどくさいからもういいかな」

 

 ドラゴンを使い魔にして一応男であるダストさんと一緒に帰ってきたのは本当だし。こうなることは昨日の時点で分かってたことでもあるし。

 あるえ以外にもこんな感じで何人に話しかけられたことか。…………まぁ、内容はともかくたくさんの里の人に話しかけてもらったのは割りと嬉しいんだけど。

 

「おい、ゆんゆん。この痛い眼帯してる胸の大きい子を紹介してくれ」

「……私の同級生ですよ?」

「なんだ守備範囲外のガキか。…………でも、この胸の大きさは…………うーむ」

 

 なんか悩んでるダストさんはとりあえず無視することにする。

 

「あるえは最近どうしてるの?」

「別に以前と変わらないよ。ああ、でもこの間書き上げた『紅魔族英雄伝 第六章』は最高傑作だった」

 

 ……うん。あるえはほんとに相変わらずらしい。

 

「そういえば、ふにふらさんとどどんこさんどこにいるか知らない? 結構歩いて回ってるけど会えてないんだ」

 

 この街で数少ないあるえ以外の友達の二人。前に里帰りした時はすぐに会えたんだけど、今回は探しても探しても見当たらない。

 

「ああ……ふにふらとどどんこか…………」

 

 何故か沈痛な面持ちをするあるえ。と言っても紅魔族のお約束みたいなものなので心配は特にしない。

 

「どどんこなら自分探しの旅に出たよ」

「……そ、そうなんだ」

 

 …………アイデンティティがないの気にしてたからなぁ。

 

「そしてふにふらは弟と駆け落ちしていなくなった」

「……………………」

 

 わりと本当に重かった!?

 

 

 

 

 

「――と、一応これで里は一回り出来ましたかね」

 

 あるえと別れた後も里の案内を続け、今はもう夕暮れだ。

 

「どうですかダストさん? 紅魔の里の感想は」

「ま、ほんと変な里だな」

「否定はしません」

 

 私も変だと思ってますし。

 

「……でも、良い里だ。人は多くねーが活気に溢れてる。きっとここで暮らせば楽しいだろうな」

「……はい。私もそう思います」

 

 昔の私ならともかく、今の私ならそう自信持って言える。この里は良い里だ。この里の長になりたいという思いは以前よりも強い。

 

「そうだ、この里を案内してもらったお礼だ。俺も一つゆんゆんを案内してやるよ」

「はい? 案内ってどこにですか? 今から遠くには行けませんよ?」

 

 夕飯の時間も近い。今から行けるところとなるとオークの集落くらいなんだけど…………流石のダストさんといえどそんな自殺志願者みたいなことはしないよね。

 

「そんなに時間はかからねーよ。むしろ一瞬で行ける所だ」

「一瞬? ダストさんは戦士ですからテレポートとか使えないはずですし一瞬で行ける所って……?」

 

 何かのなぞなぞだろうか。

 

「ばーか、何を考え込んでんだよ。俺らがここに来た理由思い出せばすぐに分かるだろ」

「むぅ……分からないから考えてるんじゃないですか。ダストさん意地悪です」

 

 今更なことだけど、この人は本当に性格がねじ曲がっている。

 

「これくらいのことでむくれてんじゃねーよ。せっかくとっておきの場所案内してやろうってんだからよ」

「…………結局その場所ってどこなんですか?」

 

 ジト目で睨む私の何が面白いのか、一通り大笑いしたダストさんは、人差し指を上に向ける。

 

「…………上?」

「そうだ…………空の上にお前を案内してやるよ」

 

 

 

 

 

「ふわぁ……空を飛ぶってこんなに気持ちよくて…………こんなに綺麗な景色が見れるんですね!」

 

 ミネアさんの大きな頭に乗って私はダストさんと夕日の浮かぶ空を飛んでいた。ハーちゃんはそんな私たちの横を一生懸命な様子で飛んでいる。

 

「最高だろ! 空の上は!」

「はい! こんなに気持ちいいのは、こんなに開放感があるのは生まれてから一番かもしれません!」

 

 そう思えるくらいに空は広くて……そこを飛ぶという開放感は今まで感じたことがないほど素晴らしい。

 この景色と空をつかむ感触を前にしたらちっぽけな悩みなんてすぐになくなりそうだ。

 

「おし! じゃあ、少しだけ速く飛ぶからな! しっかり捕まっとけよ!」

 

 ダストさんがミネアさんの角を掴んでいるため、私は飛ばされないようにダストさんの体にしがみつく。

 

(……他に掴まるところないんだから仕方ないよね)

 

 ダストさんの意外と鍛えられた体と体温の暖かさを感じながら私はそう思う。

 

「……よかった、ダストさんを友達だって認めて」

 

 認めてなければきっと私は下りた後に微妙な気持ちになってたと思うから。

 …………友達だって認めたから私は今素直にこの光景を楽しめる。

 

「なにか言ったか!?」

 

 風の音で聞こえなかったのかダストさんはそう叫ぶ。

 

「なんでもありません! それよりもっと速く飛べないですか!?」

「おう! 度胸あるじゃねーか! ミネア! 全速力だ! 派手に飛ばせ!」

 

『グォオオオオオ!』

 

 加速する速度に吹き飛ばされないよう私は友達の背に強く抱きついた。

 

 

 

 

 

――ダスト視点――

 

「族長。わりぃがミネアのことよろしく頼むぜ。まぁこの里とドラゴンを相手にちょっかい出してくる馬鹿はいねーと思うが」

 

 翌日。アクセルへと帰る時間。ミネアの頭を撫でながら俺はゆんゆんの親父さんにそう頼む。

 

「分かっていますよ。魔王軍だろうがどこかの国の正規軍だろうがミネアさんは守ります。なんてったってドラゴンはロマンですからね」

 

 やはりこの里の人間は分かってやがる。

 

「それじゃ、お父さん。私もアクセルの街に行きますね。……ほら、ハーちゃんも挨拶して」

 

 ゆんゆんの挨拶の後にジハードもぴぎゃあと鳴く。

 

「ゆんゆん、いつでも帰って来なさい。お前が望むならいつでも私は族長の座を渡そう。今のお前なら里の皆も認める」

「ううん、お父さん。私はまだまだだって思う。何か、誇れることを成し遂げたら……その時こそ私は胸を張って帰ってくるよ。…………里帰りはテレポートも覚えたしちょくちょくすると思うけど」

「そうか……なら私はその時を楽しみに待っていよう」

 

 族長はゆんゆんの言葉には嬉しそうに笑い、そして俺の方を向く。

 

「ダストさん、ミネアさんの力が必要になった時はすぐに言ってください。…………娘を頼みます」

 

 俺は頷き――

 

「『テレポート』!」

 

 ――ゆんゆんの魔法で紅魔の里をあとにした。

 

 

 

 

「ふぅ……帰ってきたな」

 

 アクセルの街。平和そうな町並みを前に俺はそう口にする。

 一日二日空けただけだってのに随分と久しぶりな気がするのはなんでなんだろうな。

 

「うーん……何ででしょう。私も帰ってきたって気がします。紅魔の里でも帰ってこっちにきても帰って……なんだか不思議な気分です」

 

 ゆんゆんも俺と同じような気持ちなんだろうか。安堵の表情の中に疑問の色を乗せて待ち行く人を見ていた。

 

「お前は紅魔の里の人間でもあって同時にアクセルの街の住人でもあるってだけだろ。1年以上この街に住んでたら染まって当然だ」

 

 俺と知り合ってからだけでもう1年以上。その前からこいつはこの街に住んでいたことだし下手すれば2年近くこの街にいるはずだ。

 ぼっちで引っ込み思案なこいつが友達だといえるやつがそれなりに出来る位の時間は過ぎた。…………2年近く経ってるのにこの街で出来た友達が下手すれば一桁しかいないってのは置いといて。

 

「そうですね…………確かにここはもう私の第二の故郷です」

「おう。俺にとってもここは第二の故郷だ」

 

 第一の故郷に戻れないのを考えればある意味ここが唯一無二の故郷だって言っていい。

 …………駆け出しの街が自分のホームになるとか、昔の俺に言っても信じねーだろうなぁ。

 

「……って、あれ? ダストさんってアクセル出身じゃないんですか? それじゃあもとはどこに――」

「――あ、いたいた。ラ……じゃなくて、ダストだったよね。探したよ。一体どこに行ってたのさ」

 

 ゆんゆんが何かを聞こうとするのに被せられるようにして、なんかまな板っぽい声がかけられる。

 

「あん? なんだよパンツ剥かれ盗賊じゃねーか。俺になんか用か?」

「その呼び方はやめてって言わなかったかな!? えっと……この街じゃダストくらいにしか頼めないことがあってね。……てわけでゆんゆん、悪いけどダストを借りてくよ」

 

 そう言ってパンツ剥かれ盗賊こと、別名まな板のクリスは俺の服を引っ張って歩いて行く。

 

「おい、こらちゃんと歩くから引っ張るな! わりぃ、ゆんゆんまたな!」

「…………あ、はい。ダストさん、また明日」

 

 クリスに連れて行かれる中、何故か寂しそうなゆんゆんの別れ際の顔が気になった。

 

 

 

 

「……で? なんだよクリス。俺に用ってのは」

 

 喫茶店にて、水を飲みながら俺はクリスにそう聞く。

 

「なんでそんなに不機嫌なのさ。……もしかしてゆんゆんとの逢引邪魔されたから怒ってんの?」

「あいつとはそんなんじゃねぇよ…………ただ、ちょっと別れ際の顔が気になってるだけだ」

 

 本当にそれだけだ。クソガキと話してるのをいきなり邪魔されて不機嫌になってるなんてことは断じてない。ないったらない。

 

「……素直じゃないなぁこのチンピラ君は」

「ない胸をさらに凹まされたくなければさっさと要件言え。カズマの女といえど容赦はしねぇぞ」

「ちゃんと胸あるから! あと助手君とはそんな関係じゃないから!」

 

 俺の見立てじゃこいつの胸ってパッドしてるんだが。本当に女性らしい膨らみあるんだろうか。後、助手君ってなんだ。カズマのことか。

 

「……こほん、それでお願いなんだけどね」

 

 叫んで周りの客に注目されたのが恥ずかしかったのか。小さく咳払いをしてクリスは続ける。

 

「これはダストというか……君の正体の方にお願いなんだけどね」

「……悪いがそういう話なら帰るぞ」

「待って! もしダストに断られたらゆんゆんに頼むことになる…………話だけでも聞いてくれないかな?」

 

 帰ろうとする俺の服を慌ててつかみ。クリスは困った表情でそうお願いしてくる。

 

「…………ちっ、まな板は性格悪い奴しかいねぇのか」

「胸の大きさは関係ないよ!? 確かにゆんゆんのことをだしにするのはちょっと卑怯かもしれないけどそれだけ切羽詰まってるんだよ!」

 

 どっちかというと切羽詰まってるのは胸がまな板な方な気がするのは気のせいだろうか。…………言ったら殺されそうなんで流石に言わないけど。

 

「へいへい、……で? 話だけは聞いてやるから話を進めろよ」

「いや、うん。こっちが頼んでる方だから仕方ないんだけど、ここまで上から目線で色々言われるのはアクアせn……アクアさん以来だなぁ」

 

 俺の態度が珍しいのか。どう反応すればいいか困ったように頬の傷跡をかいているクリス。

 …………ふーむ、やっぱり()()なのかねぇ。()()だとしたら俺はどんなに面倒でも頼みを聞かないといけないんだが。

 

「まぁ、それはいいか。えっとね、まずあたしと助手君がやってることなんだけど――」

 

 クリスは自分とカズマが世間を騒がしてる銀髪盗賊団(断じて仮面盗賊団ではない)であること。神器と呼ばれるものを集めていて、それを持っているのは大体悪徳貴族のために義賊のようなことをやっていることを説明した。

 ついでにめぐみんがその正体に気づいてよくついてくるようになったことや、めぐみんが作った銀髪盗賊団の支援組織にゆんゆんやらセシリーにイリスとかいうロリっ子が入っていることも。

 

「……それで、その銀髪だか仮面だか知らんがたった2人の盗賊団+おまけが俺に何のようなんだよ。2人でイチャイチャしながら盗賊でも義賊でもやってりゃいいじゃねーか」

 

 爆裂娘がついてくるようになったならイチャイチャすんのは難しいかもしれないが。どっちにしろ俺には何も関係ない。

 

「実はこの前、王都にいる悪徳貴族の所に神器を盗みにはいろうとしたんだけど…………なんだか銀髪盗賊団が有名になりすぎたみたいでね? あたしと助手君でも侵入できないくらい警備が厳しくって……」

「王城で大暴れしたっていう銀髪盗賊団が入れないってなると相当だな」

 

 かm……銀髪盗賊団と言えば割りと大物な賞金首だ。恐らくは捕まえて罰則を加えるというより、捕まえて国の戦力として雇用したいがための賞金なんだろうが。

 その仮m……もう仮面でいいか。仮面盗賊団が入れないとなると王城よりも厳しい警備体制ということになる。

 

「というわけでダストには警備の陽動をお願いしたいんだ」

「何がというわけだこのまな板盗賊が。そんなもん二人いるんだからどっちか片方がやればいいだろうが。もしくは爆裂娘に爆裂魔法撃ってもらえ」

 

 陽動には最適だろあの魔法。…………一人でやったら確実に捕まるけど。

 

「めぐみんの爆裂魔法は論外というか最後の手段だから置いとくとして。あたしも助手君も一人で戦うのには向いてないよ? 助手君はなんか満月の夜になると絶好調になるけど、それでもあの数相手するのは無理だと思う」

「カズマなら何とかすると思うけどなぁ…………でも、あいつは自分からそんな危険な目にあおうとする奴でもねぇか」

 

 カズマはやるときはやる男だが同時にやる気を滅多に出さない男でもある。本気を出せば歴史に名を残すようなどでかいことするんじゃねーかと思ってるんだが。

 

「…………で? そんな危険な役目を善良な一般市民である俺に頼みたいと」

「善良な一般市民がどこにいるか分からないけどとりあえずはそういうことだよ」

 

 ふーむ…………まぁ、言いたいことは分かったんだが少しだけ腑に落ちないな。

 

「…………何で俺なんだ? 囮なら下部組織に入ってるっていうゆんゆんとかイリスとかいうロリっ子に頼めばいいじゃねーか。喜んでやると思うぞ」

 

 セシリーはまぁ、あれだから頼めないってのは分かるけど。

 

「貴族の屋敷には警備の傭兵の他にドラゴンがいてね、ゆんゆんじゃちょっと相性が悪いから」

 

 魔力の塊って言われるドラゴンは魔法抵抗力が恐ろしく高い。下位ドラゴンならゆんゆんでも倒せないことはないだろうが、それはタイマンの時の話だ。周りに凄腕の傭兵が入るって言うなら確かに危険だろう。

 

「じゃあイリスってロリっ子だな。あいつならドラゴンだろうが傭兵だろうが敵じゃないだろ」

 

 持ってる剣も魔剣の兄ちゃんの魔剣に劣らない魔力持ってるし、立ち居振る舞いから相当高度な戦闘技術を叩き込まれてることが分かる。…………同時に凄腕の騎士や冒険者が持つ凄みみたいなのは感じないから実戦経験はそんなにないだろうとも思ってるが。

 

「あの子を囮として使うとか絶対にありえないから!」

「お、おう…………分かったからそんな悲壮な顔すんな」

 

 なんなんだよ。あのロリっ子に何があるってんだ。金髪碧眼だから貴族の出だってのは分かるがララティーナお嬢様に比べたら可愛いもんだろうに。

 

「とにかく、条件を考えたらダストが適任だったの。助手君もダストならまぁいいかって言ってたし」

「カズマが? あいつって俺のことそんなに信頼してたっけか」

 

 俺としては悪友だって思ってるし気の置けない仲であることも確かなんだが。……あいつもゆんゆんと同じで俺のことダチとは認めないしな。

 

「あー……うん。ある意味じゃ信頼してたよ」

「その反応はろくでもない意味の信頼っぽいな…………まぁいいけど」

 

 どうせ俺の扱いなんてどこでもそんなもんだ。

 

「……その悪徳貴族は王都にいるって言ったよな?」

「うん、そうだよ」

 

 ここまでのクリスの話をまとめて、自分にメリットがないかを考える。

 そして少し考えれば自分がどうすればいいか答えは出た。

 

「…………よし、分かった。やってやるよその陽動の役。どうせやるなら盛大にな」

 

 場所が王都であると言うなら大局的に見ればそう悪い話でもない。

 

「いいの?」

「ああ。ただ、その代わりといっちゃなんだがよ……この仕事が終わったら――」

「――駄目だよ! そういうのは『フラグ』なんだよ!」

「お、おう…………じゃあ、その話はまた終わった後にでも」

 

 フラグってなんだよと思ったがクリスの剣幕がすごいのでとりあえずそうしとく。

 

「まぁ、なんだ。クリス様には死んだ時に世話になったからな。一度くらいは手助けしてやるよ」

「え? ダスト、今なんて……」

 

 

 別れてすぐだがさっそくミネアの力を借りることになりそうだった。




ここまで友達だと認めてなかったという衝撃の事実。
まぁ、ダストだから仕方ないですね。


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第14話:この悪徳貴族に天罰を!

「よ、カズマにクリス。待たせちまったみてーだな」

 

 クリスに頼まれた日から二日後。王都の待ち合わせ場所にはコソコソとしてる悪友冒険者とまな板盗賊の姿があった。

 ベルゼルグの王都は昔ちょっと来ただけだったから少しばかり迷っちまったが、待ち合わせ時間にはギリギリ間に合った…………はずだ。

 

「遅いぞダスト。土壇場になって逃げたんじゃないかとちょうど話してた所だ」

「そうは言うがなカズマ。それだったらもう少し分かりやすい所を待ち合わせ場所にしよーぜ。お前らと違って俺は王都にそんな来てないんだからよ」

 

 路地裏の路地裏とか、王都に住んでる人間でも迷いかねない所を待ち合わせ場所にした方にも問題があるだろ。そりゃ、お尋ね者の気持ちは分かるからしょうがないのも分かってるが。

 

「だったら俺とお頭と一緒に来ればよかっただろ?」

「んなこと言われてもな…………いろいろこっちにだって準備があるんだよ」

 

 アルカンレティア経由で王都に来た二人と違い、俺はゆんゆんに送ってもらって紅魔の里経由で王都に来た。カズマの言う通り二人と一緒に来れば迷うことはなかっただろうが、その場合は自分の目的どころか、囮としての役割すら果たせないから本末転倒だ。

 

「準備? そういえばなんか金髪がいつもよりキラキラしてるような…………準備ってまさかそれのことか?」

「それも含めてではあるんだが……まぁ、気にすんな。どうせこの仕事終わったらまた脱色するしよ」

 

 というかこの金髪も紅魔の里でちょちょいと魔法でしてもらっただけだし天然ものの輝きはない。ただ、夜の暗さの中であれば本物と見分けはつかないはずだ。 

 

「貴族の屋敷に忍び込むってのにそんな目立つ髪でいいのか?…………って、ダストは陽動だからそれで良いのか」

「ま、そういうこった。カズマとクリスが目的達成するくらいまではちゃんと警備を引きつけといてやるから安心しろよ」

「本当に大丈夫か? 警備はなんか凄腕の傭兵がやってるみたいだし、貴族が飼ってるドラゴンまでいるんだぞ? 確かにダストがそれなりに腕が立つのは認めるけど、あくまでそれなりだろ?」

 

 実際いつもの俺じゃ無理だろうな。だからこそ準備が必要だったわけだし。

 

「あー、まぁ助手君。本人が大丈夫だって言ってるんだから信じてあげなよ」

「このチンピラを信じて良いのかは疑問なんだが……お頭がそう言うなら信じるか。…………ダストなら捕まってもそのうち何事もなかったように帰ってくるだろうし」

 

 おい、悪友。流石にそれは冷たすぎねーか?

 

「あはは…………ま、ダスト。こんなこと言ってるけど助手君なりに心配しての言葉だから許してやってね?」

「おう、カズマはツンデレだからな」

「仮に俺がツンデレだとしてもただの知り合いにデレる理由はないんだが」

 

 はいはいツンデレツンデレ。…………カズマの顔が完全に何言ってんだこいつ状態の真顔なのは気にしない。

 

 

「んで? 揃ったことだしそろそろ行くのか?」

 

 既に街は寝静まっている時間だ。警備しているのが凄腕の傭兵であるというなら、これ以上タイミングを遅くしても難易度は変わらないだろう。

 

「あー……俺たちもダストが来たらそのまま行くつもりだったんだがな。まぁ、そろそろ帰ってくるだろうからもう少し待っててくれ」

「あん? 帰ってくるって誰がだよ。カズマにクリスがいるし、俺が来たんだから全員揃ったんじゃねーのか?」

 

 俺以外にも誰か助っ人頼んでんのか?

 

 

 

「ふふっ……助っ人の分際で私を置いていこうとはいい度胸ではないですか」

 

 そんな俺の疑問に答えるようにして頭上から掛けられる声。そういえばそんなことをクリスが言っていたなと思いながら、俺は声の持ち主に当たりをつけながら上を向く。

 

「――真打ち、登場」

 

 向いた先。屋根の上にはなんだか盗賊っぽい露出の多い服を着た爆裂娘がかっこつけたポーズを決めていた。

 

「おい、めぐみん。気が済んだらさっさと降りてこいよ。トイレ行ってから長いと思ったら、トイレから普通に返ってくるのが恥ずかしくて、出るタイミング伺ってたんだな。…………正直、その登場のほうがトイレより恥ずかしいと思うんだが」

「ちょっ、カズマ! 何をいきなりバラし…………じゃなくて、紅魔族はトイレなんて行きません!…………ちょっとお花を摘みに行っていただけです。なのでトイレトイレと連呼しないでください」

「そのネタまだ引っ張るのか? 幽霊騒ぎの時に一緒にトイレに行った仲だってのに」

 

「一緒にトイレって…………」

「めぐみんってそこまで大胆だったんだね……」

 

「そこのチンピラと盗賊! 違いますからね! 別に一緒にトイレに入ったとかそういうことはないですよ! というかそこまでいったら私がただの痴女みたいじゃないですか!」

 

 今のお前の格好は十分痴女みたいだろと思ったが、流石にそれはかわいそうだから口に出さない。

 

「いや、今のめぐみんの格好も十分痴女っぽくないか?」

 

 カズマ、お前……。

 

「これは私とアイ…………イリスで考えた盗賊っぽい服です! そんなふうに見ないでくださいよ!」

 

 ふーん……あのロリっ子とねぇ。…………あれ? ゆんゆんは一緒に考えてないのか?

 

「大体、私の今の服が痴女っぽいならクリスのいつもの格好なんて完全に痴女じゃないですか!」

「あたしに飛び火はしないでもらえると嬉しいかな!?」

「お頭は男に間違われたりするからセーフ」

「何がセーフなのか全然わからないんだけど!?」

 

 …………こいつら仲いいなぁ。

 

 

「ところでよ、路地裏とは言え屋根の上に登ってるやつと一緒になってこんだけ騒いでたら流石に衛兵に見つかって怪しまれると思うんだがどうよ?」

『?……おい、お前たち! そこで何をやっているんだ?』

 

 俺の懸念とほぼ同時に、路地裏の入り口の方から衛兵が俺らの姿を見つけて声をかけてくる。

 当然ながら今の状況で衛兵に取り調べなんかされたらまずいわけで……

 

「「「そういうことは早く言えよ(言ってくれないかな)(言ってください)!」」」

 

 騒いでた三人に何故か俺が怒られながら。俺達はその場から逃げ出したのだった。

 

 

 

「全く……めぐみんとダストのせいで酷い目にあったな」

「まだ言いますかこの男は。どちらかと言えば乙女の照れ隠しにあんなセクハラまがいのデリカシーのない返しをしたカズマの方が原因だと思いますよ。なので悪いのは私じゃありません、カズマとダストです」

 

 なんかもう帰りたくなってきたんだが。なんで俺が悪いのは前提みたいになってんだよ。

 …………まぁ、いつものリーンやゆんゆんの俺に対する扱いに比べたらまだマシだからいいけど。

 

「けど……聞いてはいたけど本当に爆裂娘を連れて行くのか? 言っちゃ何だが、王城より厳しい警備のとこに連れて行くならあのロリっ子は役立たずだろ」

 

 衛兵から逃げる時の体捌きとかを見る限り隠密に向いているようには見えない。

 

「それはそうなんだけどね。でも……たとえ何かできなくても付いていきたいってめぐみんの気持ちも分からないでもないから」

「甘いもんだな。クリスもカズマも」

 

 まぁ、俺はただの助っ人だし、本職二人の決定に異を挟むつもりはない。正直なことを言えば俺は俺の目的を果たせればいいから、2人に爆裂娘がついていって盗賊団としての目的が果たせなくても問題はないし。

 

「そうでもないよ。流石に今回はめぐみんをあたしたちと一緒に連れてけないってのは助手君もめぐみんも分かってる」

「はぁ? じゃあ、あのロリっ子はただの見送りかよ」

 

 王都まできてただの見送りってのもすげーな。

 

「見送りじゃないよ? ただ、あたしたちと一緒に潜入するのは無理だからダストと一緒に陽動をしてもらおうかなって」

「……………………は?」

 

 あの爆裂魔法しか出来ないロリっ子と一緒に陽動する…………?

 

「ダストもめぐみんの爆裂魔法は陽動に最適だって言ってたし何も問題はないよね」

「問題ありまくりだろ。爆裂魔法を撃つにしても撃たないにしても結局俺は爆裂娘を守りながら陽動を成功させないといけないってことじゃねーか」

 

 もともと俺は誰かを守りながら戦うなんてことが1番苦手だ。というのも一緒に戦う相棒が自分よりもずっと強かったから、俺はそれに追いつこうとして必死で…………誰かを守ろうと思ったら危険から遠ざけることしか出来ない。

 

(…………だから俺にあいつの護衛役なんて最初から無理だったんだよ)

 

「? どうしたのダスト。なんか難しい顔して。そんなに嫌だった?」

「…………いや、別になんでもねーよ。嫌は嫌だけど、陽動の方なら無理なハンデでもないしな」

 

 今さら過ぎ去った後悔に言い訳なんてしても仕方ない。俺はあいつらと一緒にいることを決めて、そのために今ここにいるんだから。

 

「そう? まぁ、キミが本気出すならそれくらい余裕だよね」

 

 …………正直、本気の本気って意味じゃ久しぶりすぎてまともに戦えるかは自信ないんだけどな。

 

「はい、というわけでダストの分の仮面。ドラゴンっぽいので良かったんだよね」

「おう、流石はクリス様。分かってんじゃねーか。仮面盗賊団の名は伊達じゃねぇな」

 

 俺が今回の仕事を受けることにしてクリスに出した条件の一つ。ドラゴンの仮面を受け取ってつける。

 ……うん、目の部分が広く開いてるタイプだから視界もそこまで狭まらないな。これなら戦うのに問題なさそうだ。

 

「仮面盗賊団じゃないから! 銀髪盗賊団だから!」

 

 なんかまな板が喚いてるのは無視。そろそろ忍び込むにはいい時間だし、また騒ぎすぎて衛兵に目をつけられたらやってられない。

 

「よし、じゃあお頭に兄貴、俺とおまけが陽動するからその間に目当てのものをさっさと盗み出してくれ。危なくなったらとっとと逃げるから急いでな」

「おい、誰が誰のおまけなのか詳しく聞こうじゃないか。私は正式な仮面盗賊団の一員ですよ? むしろ単なる助っ人のあなたの方がおまけですよ」

 

 なんかまな板が喚いてるのは無視。…………というかまな板しかいないなこの盗賊団。もうまな板盗賊団に改名しろよ。

 

「仮にも年上のダストに兄貴とか言われても嬉しくないんだが…………めぐみんのことは頼んだぞ、子分」

「助手君といい助っ人君といい、お頭言われてもちっとも尊敬されてない気がするのは気のせいかな…………ま、助っ人君とめぐみんもしっかり頑張ってね」

 

 そうして銀髪盗賊団+助っ人(+おまけ)の作戦が始まる。

 

 

 

 

「おーい、誰か開けてくれー」

 

 カズマたちと別れた俺は堂々と悪徳貴族の館の門をたたく。

 

「陽動とは言え、こんなに真正面から行ってもいいんですか? 逆に相手にされない気がするんですが」

「だろうな。ま、誰か一人でも来てくれたらそれでいいんだよ」

 

 俺の後ろにいるめぐみんはバニルの旦那の仮面のようなものをつけて杖を構えている。

 …………もしかしてこの頭おかしい爆裂娘は最初っから爆裂魔法を撃つつもりだったんだろうか。いや、捕まるの前提なら確かに悪くない手なんだが、それだと俺の目的が全然果たせないからされても困る。

 

「というか、あなた得物はどうしたんですか? 実は素手での戦闘のほうが得意とかどこかのドMなお嬢様みたいなことはないですよね?」

「そんな名前が無駄に可愛いお嬢様みたいな事実はないから安心しろ。…………ま、お前にはどうせ、俺の正体バレてるしな。別にいいか。……ミネア!」

 

 紅魔の里から俺を王都まで送り届け、そしてその後は俺の上空をずっと飛んでいるミネアに声をかける。

 

「ただ、俺の正体をバラすのはやめろよ。俺はまだあの街から出たくはね―んだ」

 

 ミネアから落とされた槍を手に構え、俺はめぐみんにそう頼む。

 

「別に言うつもりは最初からないんですが…………ゆんゆんにも黙っているのは何故ですか? あの子は基本的にぼっちですし誰かにバラすことなんて出来ないでしょうに」

「わざわざバラす理由もないからな」

 

 バレた時はバレた時だが…………それまでは今のままでいい。

 

「――っと、来たか。傭兵さまのお出ましだぜ」

 

 他愛のない話をしていたら門の向こうから冒険者のような武装をした男…………恐らくはこの屋敷の警備を任されているという凄腕の傭兵たちの一人がやってきているのが見えた。

 

「……こんな時間に何ようだ」

 

 門を開けずに俺らを警戒しながら問いかける傭兵。

 

「おう、警備の傭兵さんか。世間を騒がす銀髪盗賊団がやってきましたよ」

「金髪にドラゴンの仮面をした男に、黒髪に変な仮面をしたおt……女?…………とにかく、手配の2人とは違うようだな」

 

 おい、ロリっ子。男に間違われそうになったからって前に出ようとすんな。

 

「……陽動か。屋敷の警備を厳重にしろ!」

 

 流石は凄腕の傭兵さん。それなりに修羅場はくぐり抜けてるのかこっちが陽動だとさっさと見ぬいた。…………まぁ正面からやってくる盗賊なんていねぇし気づいて当然なんだが。

 

「…………どうするんですか? むしろ警戒させただけで、あっちの邪魔をしたんじゃ。今からでも爆裂魔法を撃ちましょうか?」

「いや、こっから先は本気出して陽動するからロリっ子はとりあえず後ろで見てな」

 

 陽動だと気づかれて無視されるなら、陽動だと気づかれても無視できないくらい暴れればいい。

 それが出来るだけの力が今の俺にはある。

 

 

 

「そうですか…………では、『最年少ドラゴンナイト』の実力をゆっくり見学させてもらいましょうか」

「おう、その実績が伊達じゃねーってとこ見せてやるよ」

 

 数年ぶりに俺は『ドラゴンナイト』として戦いを始めようとしていた。

 

 

 

 

「さてと……傭兵さんは門を開けてくれねーみたいだし、勝手に開けさせてもらうか」

 

 一閃。俺は槍を振りぬいて門を真っ二つにしてこじ開ける。

 

「なっ…………!?」

 

 俺達の動きを警戒していた傭兵も、まさか鉄の門を真っ二つにされるとは思っていなかったのか。分かりやすいくらいに驚いている。

 一方、俺の後ろにいるめぐみんはと言えば特に驚いた様子もなく、むしろなんで傭兵が驚いているのか不思議そうな顔をしていた。

 

 ……まぁ、紅魔族ならライト・オブ・セイバーで余裕だし、ララティーナお嬢様も素手で鉄の門くらいならこじ開けかねない。この頭のおかしい爆裂娘の周りじゃ、これくらいのことなら出来るやつが多いんだろうな。

 

「驚いてるとこ悪いけどよ…………こっちに増援送ってもらわなくて良いのか? 今の俺なら今この場にいる警備くらいすぐに終わらせちまうぞ」

 

 ドラゴン使いやドラゴンナイトの持つ固有の能力。それは契約したドラゴンの力を強化し、そしてその契約したドラゴンの力を借り受けること。ドラゴンナイトとして上空にいるミネアの力を借りてる今の俺ならこの程度の数の警備なら何の障害にもならない。

 …………あぁ、この万能感は本当に久しぶりだ。

 

「増援だ! 全力でこの侵入者を排除するぞ!」

 

 流石は凄腕の傭兵と言ってやるべきか。驚きを見せていたのは数秒ですぐに俺たちへの警戒度を跳ね上げ増援を呼ぶ。

 

「ミネアは……必要ねーな。あいつじゃ殺しちまうだろうし」

 

 増援を呼ばれたことで陽動としての役目は果たした。盗賊としての仕事は2人がうまくやるだろう。となれば後は後ろのロリっ子を守りながらこっちの目的を果たすだけだ。

 

「殺しちゃいけねーのは面倒だが……ま、なんとかなるか」

 

 悪徳貴族に雇われてるとは言え、この傭兵たちが何か悪いことをしたわけでもない。流石に殺しはまずいだろう。殺さないで無力化するってなるとかなり面倒だが…………そのあたりはこの陽動を受ける時点で分かってたことだ。仕方のないことだと割り切る。

 

(槍の腕は全盛期の頃と比べれば訛っちまってるが……まぁ、良いハンデか)

 

 ドラゴンナイトとしてドラゴンの力を借りることに関してはあの頃と変わらない。そうであるなら槍の腕が訛っているくらいならどうとでも出来る。

 

「……でも、これが終わったら槍の訓練も隠れてやらねーとなぁ」

 

 正直、ここまで槍の腕が落ちてるのはショックだ。あの国で王国一と言われた俺の槍の腕前がこの程度だというのは捨てたはずのプライドが疼く。

 …………ミネアも帰ってきたことだし、その隣にいつでも戻れるよう、腕を磨かないといけない。

 

「(……ま、今はこの槍の腕でなんとかしますか)『速度増加』『反応速度増加』」

 

 『竜言語魔法』。ドラゴン使いとドラゴンナイトにのみ許された竜の魔力を借りて使う魔法。攻撃魔法や回復魔法などいろいろ種類があるが、ドラゴン使いは強化魔法を好んで使い、契約したドラゴンの真の力を引き出す。

 そしてその上級職、ドラゴンナイトであればその強化を自分にも使いドラゴンと並んで戦う事ができる。

 ドラゴン使いは自分の身体に強化をかければ身体の方が耐えられないが、ドラゴンナイトなら耐えられる。それが同じドラゴンの力を借りる二つの職を分ける大きな違いだった。

 

 そして俺が使った二つの竜言語魔法『速度増加』と『反応速度増加』は俺がよく好んで使う魔法だ。効果は自分の動きが速くなることと、相手の動きが遅く感じるようになること。その二つを同時に使えばどうなるかと言えば――

 

 

 

「――馬鹿な……100人いる我が傭兵団がたった一人に全滅だと……」

 

 まぁ、そうなる。もともとレベルだけは傭兵たちの2倍位はあったし、その上でこっちは中位ドラゴンであるミネアの力を借りて、訛っているとは言え得意の得物で戦っている。もともと力の差があったところでこっちが2倍の速さで動いて、向こうは実質2分の1くらいの速さでしか動いてないとなればどんだけ数が集まっても負けるほうが難しい。

 …………あくまで、この程度の相手たちであればの話だが。

 

「あんたが団長さんか? 心配しなくても手加減したから死人は出してねぇよ」

 

 基本的には武器を破壊して、それでも向かってくるような命知らずなら四肢の腱を切って。

 …………思った以上に槍の腕が鈍ってたから、ちょっと手加減間違えてほっといたら致命傷なやつもいるかもしれないが、…………ま、まぁすぐにプリーストに見てもらえば大丈夫だろう。

 

「これほどの力を持って金髪……? まさかジャティス王子…………? いや、あの方は今前線にいるはずだし、何よりその瞳の色が違う」

 

 俺の正体が何者なのか考えているのか、傭兵団の団長は考えに耽っている。…………この様子じゃ、俺の正体は知らないみたいだな。まぁ、この国じゃ噂になった程度だろうし、それももう数年前の話だ。今も噂があるアクセルならともかく王都じゃ知らないやつのほうが多いだろう。

 

「思ってたよりも強かったですね。もしかしたらアイ……イリスと同じくらい強いんじゃないですか? まぁ、私の爆裂魔法には遠く及びませんが」

「お前の爆裂魔法は色々頭おかしいから比べるんじゃねーよ」

 

 無詠唱で爆裂魔法撃てるとか自爆覚悟でやられたらこいつに勝てる人間なんていないっての。

 

「てーか、あの金髪のロリっ子は今の俺と同じくらい強いのか。だとすると相当いい家系の貴族なんだな」

 

 中位ドラゴンの力を借りてその上強化魔法まで受けてる俺と同じくらい強いとか。流石勇者の国ベルゼルグ。槍の腕が衰えてるとは言えあの国じゃ最強だって言われてた俺と同じくらい強いロリっ子がいるとか。

 

「…………そうですね、イリスはすごく良い家系の子ですよ」

「おい、なんでお前は目を逸らして言ってんだ?」

 

 クリスの反応といいあのロリっ子に一体全体何があるってんだ。

 

 

 

 

 

 

「何をしている! 貴様らには高い金を払っているのだ! たった一人の侵入者くらいさっさと殺してしまえ!」

 

 耳障りな怒鳴り声。見れば身なりは良い小太りの男が屋敷の方から歩いてきていた。……なるほど、あれが悪徳貴族か。

 

「…………なんだか、ダクネスを狙っていたあの男を思い出しますね」

「奇遇だな爆裂娘。俺もちょうど思ってた所だ」

 

 見た目といい話し方といい。アルダープの野郎にそっくりだ。

 

「し、しかし……この男の実力は並みではありません……おそらくは魔王軍幹部クラス……我々では何人集まっても勝負にならないかと」

 

 

「…………なんてことを言われてますが、数多の魔王軍幹部を屠ってきた私に言わせてもらえば、そんなにあなたが強いとは思えないのですが」

「そうだな。槍の腕が鈍ってる俺が魔王軍幹部クラスはねーよ。竜言語魔法の強化込ならステータスだけなら近いものがあるかもしれないが」

 

 あいつらが本当に怖いのはステータスの高さじゃないし。

 まぁ、何人集まっても勝負にならないって評価は俺も正しいと思うけどな。そんな俺でも勝ち目がないのが魔王軍幹部クラスってだけで。

 

「ええい、役に立たん傭兵どもめ! もういい! ドラゴムよ、この侵入者を八つ裂きにしてしまえ!」

 

 傭兵の煮え切らない言葉にしびれを切らしたのか。悪徳貴族は庭で眠っていたドラゴンを起こす。起きたその体はこの前倒したグリフォンよりも数段大きく、見るものを圧倒する巨体だ。…………と言ってもミネアと比べれば一回り以上小さい。下位種のドラゴンだな。

 

「どうしますか? そろそろ私の爆裂魔法の出番ですか? 撃ってもいいですか?」

「お前の爆裂魔法じゃドラゴン殺しちまうだろーが。下位ドラゴンくらいなら俺一人でもなんとかなるから後ろで見てろ」

 

 うずうずしてるめぐみんを抑えて俺はドラゴンの方へ出る。

 

 

『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 

 

「こんな貴族でも飼い主だもんな。守ってやろうと必死なのか」

 

 ドラゴンのブレス攻撃をよけながら俺は思う。

 下位ドラゴンってのは基本的に知能は犬並だ。普通の生き物よりは賢い程度。ジハードのように人と意思疎通できる知能をもった個体なんてほとんどいない。だからどんな悪人であろうと飼い主には従う。

 

「悪いな…………ホントは傷つけたくねぇけど、流石に無傷じゃドラゴンは止められねぇ。『筋力増加』」

 

 竜言語魔法で更なる強化を自分にしてドラゴンへと突撃する。

 

(狙うのは四肢にそれぞれある魔力の中枢点……そこを穿てば終わる)

 

 魔力の塊と言われるドラゴンは仮に人間のように腱を切られようがその程度なら魔力を使って問題なく動くことが出来る。だが、魔力の中枢点と呼ばれる所を突けば話は別だ。魔力の流れが乱れ、その動きも阻害される。

 

 なんて言えば簡単にできそうだが、竜の皮膚の固さを穿てるだけの力と、その中枢点の場所を知らなければ出来ないから、普通できるのはドラゴン使いかドラゴンナイトくらいだ。新たなドラゴンと契約するために殺さないでドラゴンを倒さないといけないから磨かれた技術であって、それ以外の人間なら普通に戦ったほうが断然勝率が高い。

 

「少しの間動けねーだろうが、我慢しといてくれよ……っと」

 

 四肢にある魔力の中枢点。それを魔力を込めた槍で順番に穿つ。すると狙い通りにドラゴンはその身体を支えることが出来ずに地面へと倒れた。

 

「さてと…………もう隠し玉はいねーよな?」

 

 槍を肩に抱えながら俺は腰を抜かして倒れてる悪徳貴族に近づく。

 

「く、くるな! か、金ならいくらでも払うから、来ないでくれ!」

「お、そうか。なら欲しいもんがあるんだがいいか?」

「なんでもやる! やるから命だけは助けてくれ!」

 

 ほんと貴族ってのは調子がいい。さっきまで殺してしまえと言っていた相手に命乞いかよ。

 

「じゃあ、そこのドラゴン、俺にくれるか?」

「ば、馬鹿な……そのドラゴンにいくらの金をかけたと思っている! 私の全財産の半分以上をつぎ込んだんだぞ!」

 

 …………なんでこういう奴らってのは何でもかんでも金で価値を測ろうとすんのかね。金なんてものそれこそギャンブルに使えば一夜で全部なくなるもんだってのに。

 

「なぁ、糞貴族。俺はお前みたいな貴族がこの世で一番嫌いなんだよ。それこそ、何回殺しても飽きたらないくらいにはな。……もう一度聞くぜ? そこのドラゴン俺にくれよ」

 

 コクコクと頷く悪徳貴族。

 ……脅しすぎたかね。可哀想だとは欠片も思わないが。

 

「わりぃな……傷つけちまって。まぁ、ドラゴンの生命力なら大丈夫だと思うが」

 

 応急手当をしながら俺はドラゴンに語りかける。

 

「もしも、ここにいたいって言うならここにいてもいいぞ。……でも、こんな小さな庭じゃなくてドラゴンには大空を駆けていて欲しいんだよ、俺は」

 

 こんな小さな庭で番犬のような扱いを受けているなんてドラゴンには似合わない。

 

 

 

 

 

「そこまでだ!」

 

 静止の声に振り向いてみればどっかで見た白スーツの女の姿。そしてその後ろへと続くのは――

 

「流石にやりすぎたんじゃないですか? 数えるのも面倒なくらい騎士やら冒険者がうじゃうじゃいるんですが」

「そっちどうとでもなるからいいんだが…………魔剣の兄ちゃんまでいんのはちょっとやばいな」

 

 めぐみんの言うとおり白スーツの後ろには王国の騎士やら冒険者やらがずっしり。そして白スーツのすぐ後ろには魔剣の勇者様……たしかみたらしとかそんな名前のやつの姿があった。

 …………こうなるようにと派手にやったんだが、魔剣の兄ちゃんまでくるのはちょっと予想してなかったな。存在を忘れてたから仕方ないっちゃ仕方ないが。

 

「? みたらしさんがどうかしたのですか? あの人は確かに強いという話ですが私やうちの鬼畜男に負けていますし、イリスと同じくらい強そうなあなたならどうにかなるでしょう」

「無茶言うなっての。今の俺じゃあいつに勝てる気がしない」

 

 ステータスって意味なら総合的には俺のほうが上だろう。だがずっと怠けてきた俺と最前線で戦い続けるみたらしじゃ戦闘技術に差がありすぎる。勝負にはなるだろうがタイマンでも負ける確率のが高い。

 

「そうなのですか? 意外と強かったのですね魔剣の人」

「カズマたちが魔王軍幹部を倒し始めるまで、人類側はずっと綱渡りを続けていたんだ。その泥沼の中で頭角を現し名前が売れた魔剣の勇者様が弱いわけねーだろ」

 

 まぁアクセルで喧嘩した時まで俺は知らなかったし、ついさっきまで存在忘れてたけど。

 

「じゃあ、どうするのですか?」

「ま、カズマに頼まれたしな。俺がなんとかしてやるからお前は爆裂魔法をいつでも撃てるように準備しとけ」

 

 無詠唱で爆裂魔法を撃てるこいつに準備が必要なのかは謎だけど。

 

「どうにかするって…………まさか、爆裂魔法で騎士や冒険者を皆ごr――」

「ただ逃げるだけだからそんな物騒な考えはゴミ箱に捨てとけよ」

 

 ここまで騎士や冒険者が来たなら俺の目的は多分果たせる。となれば、ここに留まっている理由なんて一つもない。

 …………盗賊してる二人には悪いが、危なくなったら逃げるって言ってるしな。

 

 

「ここに倒れている傭兵たち、そしてドラゴンまで……これを全て貴様たちがやったのか?」

 

 白スーツの女が前に出てそう疑問を投げかけてくる。魔剣の兄ちゃんはその少し後ろで既に魔剣を抜いて構えている。

 ……こっちはやりあう気なんて欠片もないんだからその殺気向けるのやめてくれねーかな。

 

「俺がやったとも言えるし俺だけの力じゃないとも言える……ま、ミネアの力を借りて俺がやったっていうのが正しいか。あ、このちみっこいのはただのおまけでなにもしてねーぞ」

 

 合図をして上空にいるミネアを俺の横へと降ろす。その突然現れた巨体と威容に騎士や冒険者たち恐れおののいている様子が見えるが俺は構わずその頭を撫でて可愛がる。

 こんなに可愛いってのに何を怖がってんのかね。…………あと、爆裂娘、ちみっこいって言われたことかおまけと言われたことがどっちが気に障ったか知らねーが背中をドスドス殴るのはやめろ。お前だけ置いていってもいいんだからな。

 

 

「貴様、ドラゴン使いか。……まて、ドラゴン使いだと?」

 

 白スーツは俺とミネア、両方に目をやり、そして何かに気づいたかのように息を呑んだ。

 …………都合がいいな。この場で一番偉いやつが俺のこと知ってるなら俺の目的は確実に果たせる。

 

「さてと……俺らはそろそろ御暇させてもらうぜ? お頭たちは流石にもう目的を達しただろうし銀髪盗賊団の助っ人としての役目は果たしただろう」

 

 本格的に逃げるタイミングだと俺は空気読まないでドスドスしてる爆裂娘に合図をして準備をさせる。合図の意味はわかったのかめぐみんはドスドスしていた右手で杖を構え、そして左手でドスドス殴るのを再開した。

 …………こいつ本当おいてってやろうか。

 

「シルバードラゴンを連れた金髪の槍使い……? まさか、貴様は……いや、貴殿は『ライン=シェイカー』か!?」

「さーてな。一時はこの王都にいるから捕まえられたら教えてやるよ」

 

 ま、本当に一時も一時、夜が明けるまでくらいの話だけどな。ただその意味をどう捉えるかはこの場にいるモノ次第で、そしてどう捉えようとも、俺がこの王都にいるという噂は生まれる。

 

「その仮面の奥の鳶色の瞳を見れば間違いない! ミツルギ殿、すみませんあの者を捕まえてください! 貴様らもミツルギ殿の援護を頼む! あの者をこの国に引き込めれば魔王軍との戦いに終止符を打てるかもしれない!」

 

 流石は魔剣の勇者様。白スーツの言葉を最後まで待たずに捕縛しようとこっちへと突っ込んでくる判断の速さは流石だ。後ろの騎士や冒険者がもたもたしてる間にこっちとの距離を半分にまで縮めてる。

 もしもこの兄ちゃんの得物が剣じゃなくて弓とかなら捕まっちまってたかもな。

 

「ロリっ子!」

「誰がロリっ子ですか! あなたまで巻き込んで撃ってもいいんですよ!」

 

 軽口を叩きながら放たれる最強の攻撃魔法。人が持てる最高にして最大の攻撃手段は夜空に月よりも強い光となって爆風を巻き起こす。

 

「おっしゃ、ナイスだロリっ子。逃げるぞ」

「ちっ……外しましたか」

 

 なんか物騒なことを言ってる動けない爆裂娘を片手で回収、俺はミネアの頭に乗ってすぐに飛ばせる。ミネアは俺が指示を出さなくても下位ドラゴンの身体をしっかりと持っていてくれた。

 

「そんなこといってちゃんと俺は巻き込まないようにして、その上で魔剣の兄ちゃんたちの方へは爆風だけ行くように調整したんだろ? さすがは頭のおかしい爆裂娘だな」

 

 慌てている騎士たちや静かにこっちを睨んでいる魔剣の兄ちゃんを眼下において飛び去りながら。爆裂魔法をそこまで調整しているこのロリっ子に純粋な敬意を示す。

 

「誰が頭のおかしい爆裂娘ですか!…………まぁ、私にかかればそのくらいチョチョイのチョイです。もっと素直に褒めてもいいのですよ?」

「お前を褒めすぎたら調子乗って大変になるからこれ以上は無理だ。カズマにでも褒めてもらえよ」

 

 パーティー交換した時の悪夢を俺はまだ忘れてねえからな。

 

「ところでダスト。そろそろ普通にドラゴンの背に乗せてくれませんかね? 腕引っ張られるのが凄い痛いんですが」

「ドラゴンの背っての特等席なんだよ。簡単に乗せることはできねーな」

「……そんなこと言って力が入らない私を背に乗せるのが面倒だって思ってるだけじゃないでしょうね?」

「それもある」

 

 むしろ、それが一番の理由だ。…………ま、ドラゴンの背が特等席で俺が認めたやつしか乗せたくないってのも本当だけどな。

 

 

 

 

 

――クレア視点――

 

「すみません、クレアさん。逃してしまいました」

「いえ……私が指示をだすのが遅れましたし……弓を持った騎士たちがもっと早く反応していれば止められたかもしれません。ミツルギ殿が気に病むことではないですよ」

 

 レインを連れてきていればまだ可能性はあったかもしれないが……終わったことを言っても仕方がない。ミツルギ殿は自分のやることをきちんと果たしたが我々が不甲斐なくて逃してしまった。その事実は変わらない。

 

「ところであの男は何者なんですか?……その、一緒にいた黒い髪の娘には心当たりがあるんですが」

「奇遇ですね、私もあの爆裂魔法使いには心当たりがあります」

 

 まさか、あのアイリス様の気晴らしの場所であるあの集まりにあの男まで所属したのだろうか。なんにせよ、めぐみん殿には今度あった時に探りを入れなければ。

 

「それとあの金髪の男ですが……ミツルギ殿はアクセルで仲間探しをしたりすることがありますよね。でしたら聞いたことがあるのではないですか。『最年少ドラゴンナイト』で『凄腕の槍使い』の噂を」

「…………仲間から聞いたことがありますね。そうですか、あの男が」

「『ライン=シェイカー』。最年少でドラゴンナイトになり、その上王国一と言われるほどの槍の腕前を持った隣国の英雄。数年前に歴史の表舞台から消え、今なおその実力を求める国や恐れる魔王軍から探し続けられてる……それがあの男です」

 

 そして貴族や王族の令嬢からは悲恋でありながらロマンチックな物語の登場人物として噂されている。

 

「…………それほどの人物が何故盗賊の真似事を?」

「分かりません。ただ…………あの盗賊団ならまぁ、ありえないこともないのでは、と」

 

 …………一国の王女が盗賊団に所属して下っ端と言われている状況を考えれば普通にありえるのではないだろうか。もともとあの街には最年少ドラゴンナイトがいるという噂があったことであるし。

 

「どちらせよ、あの男の話では一時は王都にいるという話。ひとまず王都にて賞金をかけて捜索することにします」

 

 この『一時』という言葉が厄介だが。……まぁ、どういう意味で捉えたとしても結局捜索しなければなるまい。そうすれば王都に『最年少ドラゴンナイト』がいるという噂が流れるだろうが…………それが向こうの狙いだとしてもこっちにはどうしようもない。

 

(最年少ドラゴンナイト『ライン=シェイカー』か。あの男といいアイリス様といい、何故あの盗賊団にはこれほど実力者が集まるのだろうか)

 

 まるで神のイタズラのようだと私は思った。

 

 

 

 

 

 

 

――ダスト視点――

 

「悪い悪い。遅れちまったな」

 

 貴族の屋敷から逃げ出した俺とミネアとおまけは一旦王都を出た。そして貴族が飼っていたドラゴンを山で野生に返してから集合場所に戻ってきた。

 あのドラゴンが今後どんな道を歩むかはしらないが、その道が誇りと幸せに満ちたものであることを願っとく。…………できればどっかのドラゴン使いと契約でもしてくれりゃいいんだが。まぁ、それは高望みってものだろう。たとえ冒険者に狩られる運命だとしてもあんな貴族のもとで飼い殺しにされるよりかはずっといいのだから。

 

「お、おい、めぐみん大丈夫か? なんだか凄い青い顔してるけど」

「…………大丈夫ですよ。このチンピラには今度爆裂魔法食らわすって決めましたから」

 

 おう、普通に死ぬからやめろ。俺はカズマと違って次死んだら終了なんだよ。

 てーか、ちょっと腕掴んで空を飛び回ったくらいで大げさだろ。

 

「まぁ、カズマあれだ。とっととこのロリっ子背負うの変わってくれ。こいつ背負って帰るのはお前の役目だろ」

 

 俺はしょうがなく背負っていた爆裂娘をカズマへ移す。しょうがねぇなぁと言いながらカズマは素直に爆裂娘を背負っていた。

 

「けど、ダストもよく無事だったな? めぐみんが爆裂魔法撃たないといけないくらい追いつめられたのによく逃げられたもんだよ」

「無事じゃねぇよ。傭兵100人いるわドラゴンまでいるわ…………イケメンなドラゴンナイトの人が助けてくれなきゃ逃げるどころか死んでたぜ」

 

「「ぷっ……」」

 

 おい、何笑ってんだよまな板ども。

 

「白スーツとカツラギが探してた『ライン=シェイカー』って人か。……何で助けてくれたんだ?」

 

 落ちそうになるめぐみんを背負い直しながらカズマ。…………しっかしまぁ、爆裂娘の幸せそうな顔なこと。

 

「さあな……どっかのパッド神の日頃の行いが良かったんじゃねぇの?」

「助手君どいて! そいつ殺せない!」

「お頭! 誰もお頭の話はしてないから落ち着け!」

 

 俺に襲いかかろうとするクリスをめぐみん背負いながらもなんとか押しとどめるカズマ。…………片手で背負って片手で押しとどめてって器用なことするな。

 

「あ、ドサクサに紛れとどこ触ってるんだよ! セクハラ禁止って言ったじゃないか!」

「い、今のはわざとじゃないって!」

「カズマ? 『今のは』ということはわざとしたこともあるということですか? まったく……私やダクネスに対してのセクハラだけでは飽き足らないというのですかこの男は」

「今のはただの言葉の綾だからお前も本気で怒るな! いてててっ……ちょっ、まじで肩が外れるからそれ以上力入れるのはやめろ!」

 

 イチャイチャしだした鬼畜な悪友とまな板たちに俺は溜息をつく。………………ああ、彼女欲しいなぁ。まな板に囲まれてる今のカズマが羨ましいとは全然思わないけど。

 

 

 

「……っと、そうだ。おいクリス。この話受ける代わりにお願いがあるって言ったの覚えてるよな?」

 

 カズマたちのイチャイチャが終わった所で。俺はそろそろいいかと今回手伝ったもう一つの理由を切り出す。

 

「あ、うん。あたしができることならなんでもするよ。……えっちぃ事以外なら」

「俺は別にどっかの鬼畜冒険者と違ってダチの女に手を出すほど鬼畜じゃねぇから安心しろ」

「おい待て、その鬼畜冒険者って俺のことじゃないよな? 俺だってそこまで鬼畜じゃないぞ」

 

 何を言ってるんだ仮面の悪魔に鬼畜のカズマさんとお墨付きもらっといて。

 

「…………確かにそういうタイプの鬼畜ではないのは確かなんですが、この男はむしろそれより鬼畜なことを平気でするんですよね」

「前にも聞いたかもしれないけどなんでめぐみんはそんな人のこと好きになっちゃったかな。ダクネスは仕方ないけど。…………あ、それとダスト。あたしと助手君は別にそんな仲じゃないからね」

「頼むからそういう話は俺のいない所でやってくれ!」

 

 …………また、イチャイチャ始めやがった。終いには泣くぞこら。

 

「それで? 結局ダストがお願いしたいことってなんなの?」

「はぁ…………まぁ、別に大したことじゃねーんだがな――」

 

 ため息を付いた後。俺はクリスにちょっとしたお願いをした。

 




知ってる方がほとんどだと思いますがシェイカーというのは『どらごんたらし』の主人公の名字だったりします。知らなくて気になった方は原作者HPに掲載中の『どらごんたらし』を読みましょう(布教)。


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第15話:このさみしがりやな娘に友達を!

――ゆんゆん視点――

 

 

「ダストさんダストさん、この前ダストさんがミネアさんとでかけた日に王都では銀髪盗賊団が出たらしいですよ。しかも今回は『ライン=シェイカー』っていう最年少ドラゴンナイトさんも一緒だったらしいです」

 

 ギルドの酒場。運ばれてくる料理を待ちながら、私はイリスちゃんから聞いた話をダストさんにしてみる。

 

「ふーん……ライン=シェイカーねぇ。この街にいるって噂だったが王都に移ったのか」

 

 興奮気味に話してる私とは対照にダストさんは興味が無いんだろうか。頬杖をつきながら欠伸までしていた…………って、あれ?

 

「もしかしてダストさんって最年少ドラゴンナイトさんの名前を知ってたんですか?」

「あん? それくらいこの街に長くいるなら知ってるやつのが多いっての。まぁ、最年少ドラゴンナイトが『ライン=シェイカー』ってのは知ってても得物が槍だってのまでは知らないやつも多いだろうがな」

 

 そう言えば、前に私達が最年少ドラゴンナイトさんを探してた時は金髪で凄腕の槍使いを探してたっけ。もしかして普通に元最年少ドラゴンナイトの人を探せば名前くらいはすぐに分かったんだろうか。

 

「けど、最年少でドラゴンナイトになった上に王国一の凄腕の槍使いとか本当にすごい人ですよね。……どんな人か会ってみたいなぁ」

「最年少ドラゴンナイトって言っても元貴族なんだろ? どうせ性格悪い残念男だぜ」

「えー、そんなことないですよきっと。友達を置いて女の人についていったり、友達を足に使っといて肝心の目的の場所には連れて行ってくれないような薄情な人じゃなくて優しい人だと思います」

 

 最年少ドラゴンナイトさんはお姫様のお願いを叶えるために英雄としての立場を捨てるくらいの人だし。目の前の性格悪いチンピラさんとは全然違うはずだ。

 

「……前者はともかく後者は悪かったよ。謝るから機嫌直せよ」

「ふーんだ……謝られても許しません」

 

 そっぽを向く私に面倒そうなため息をつくダストさん。

 自分でも今の自分は面倒だなって思う。

 

(でも……私はもう、ダストさんを友達だって認めてしまったから)

 

 だからこれくらいの文句は許されても良いはずだ。……友達に置いていかれることは凄く寂しいことだから。

 

「ったく……このさみしんぼっちはすぐに機嫌悪くするから困るぜ」

「機嫌悪くするようなチンピラさんが悪いと思いますけど。……そういえば、どうしていきなり昼食に誘ってきたんですか?」

 

 たまにクエストの帰りにご飯誘ってくれることはあるけど、ご飯だけに誘われたことは考えてみればない。だからこそ自分が怒ってる相手の誘いにほいほいのっちゃったんだけど。

 

「ん? まぁ、そろそろ来るからだろうから気にすんなよ…………っと、ごちそうさん」

「来るって……誰か来る予定なんですか?…………って、何で一人だけ食べ終わっちゃってるんですか。一緒にご飯食べるって言うから来たっていうのに」

 

 こっちはまだ注文した料理も来てないんですけど。

 

「んだよ? もしかして俺と一緒に飯食いたかったのか?」

「…………一人で食べるよりかはマシですから」

 

 たとえ相手がどんなに性格の悪いチンピラさんであろうとも。一人で食べるよりは何倍もマシだ。

 まぁ、贅沢を言うならめぐみんやイリスちゃんと食べたいんだけど。

 

「お前……最近妙に素直だよな。なんだよ? もしかして俺に惚れたのか?」

「すみません、そういう笑えない冗談はやめてもらえますか?」

「おう、真顔で言うのやめろ。ちょっと傷つくだろうが」

 

 そんなこと言って実際は全然傷ついてないくせに。セクハラこそしてくるダストさんだけど、本当に手を出そうとしてきたことは一度もない。守備範囲外という言葉に嘘はなく、私のことをそういう対象としては見てないというのはこれだけ付き合っていれば分かっていた。

 

「なんかお前のその顔ムカつくな。なんつーか、俺のこと見透かしてるような…………あ、リーンに似てやがんのか」

「まぁ、私やリーンさんに限らずダストさんと長く付き合ってたら誰でもこんな顔するようになると思いますよ?」

 

 チンピラっぷりにさえ慣れてしまえばこれほど分かりやすい人もいないと思う。

 

「よし、お前ちょっと表出ろ。どっちが上か思い知らせてやるからよ」

「嫌ですよ。もうそろそろ料理届くと思いますし。そんなに喧嘩したければ壁とでも喧嘩してきてください」

「…………お前、本当リーンに似てきやがったな」

「リーンさんにはダストさんのあしらい方とか教えてもらってますからね」

 

 そういう所で似てくるのは当然だと思う。

 

「何を教えてんだよあいつは……」

「曲がりなりにもダストさんと付き合っていくには必須の技能ですし、リーンさんには本当感謝しています」

 

 本当にリーンさんと友達になれたのは幸運だった。

 

「お前らは俺を何だと思ってんだよ!?」

「どうしようもないろくでなしのチンピラなドラゴンバカさんですかね」

 

 穏やかな言い方するとそんな感じだと思う。

 

 

 

「あはは……キミ達って仲良いのか悪いのかよく分からないよね」

「…………やっと来たか。遅いぞクリス。お前らが早く来ないからぼっち娘の毒舌に無駄にストレス溜まったじゃねーか」

 

 適当に話をする私達に笑いながら近づいて来るのはクリスさん。そしてそのすぐ後ろには……。

 

「一応約束通りの時間だと思うんだけど…………ま、いっか。ごめんごめん。……ほら、ダクネスもちゃんと挨拶しなよ」

「や、やあ、ダストにゆんゆん。今日はお、お招き…あ、ありがとう」

 

 めぐみんのパーティーメンバーであるダクネスさんの姿があった。

 ……なんか声が震えてるというか、見る限りに顔が強張ってるけど、緊張しているんだろうか?

 かくいう私もいきなりの来客にちょっと緊張してるんだけど。……クリスさんにしてもダクネスさんにしても、盗賊団とかめぐみんを通じてそれなりに付き合いはあるんだけど、あんまり話したりはしてないからなぁ。

 

「? 何を緊張してんだよララティーナお嬢様。俺もゆんゆんも別に知らない顔じゃねーだろうが」

「私をララティーナとよぶな!……だって、仕方ないだろう? 今日は私とクリスがゆんゆんと――」

「あー、ごめんねダスト。なんだかんだでダクネスもぼっち属性だから」

「そうか、ぼっちなら仕方ねーな」

「それで納得できるのか!?」

 

 なんだろう、ダクネスさんから私と同じ匂いがする。

 

 

「ま、お前らが来たんなら俺はもういいよな? クリス、後は頼んだぞ」

 

 そう言ってダストさんは席を立ち上がり、そのままギルドを出ていこうと歩き出す。

 

「ダストさん、行くんですか?」

「…………お前は、もう少し自分に自信持てよ。お前ならそれだけでいくらでも友達できるだろうからよ」

 

 思わず呼び止めた私の頭をぽんとなでたと思ったら、ダストさんはすぐにギルドを出ていってしまった。

 

 

 

 

――サイドA:ダスト視点――

 

(しっかしまぁ…………ララティーナお嬢様も意外と可愛いとこあんだな)

 

 あれでも大貴族の令嬢。社交性はあるはずだし、実際冒険者の奴らと話す時も性癖除けばまともだ。だからこそ今回の話に適任だと思ってたんだが……。

 

(……ま、そのあたりはクリス様がしっかりやってくれるか)

 

 ゆんゆん(あいつ)もなんだかんだで少しは成長してるはずだしなんとかなるだろう。

 

「けど…………このあと何するかね。クエストする気分じゃねーし、ジハードも今日はぐっすり寝てて起きないみてーだし…………暇だ」

 

 思わず口に出してそう言ってしまう。今更あいつらの所に戻るのも格好付かないし…………久しぶりにナンパでもするか?

 

「では、少し私に付き合っていただけないでしょうか? 『ダスト』様」

 

 そんな俺の呟きを拾って、待ち構えてたかのように掛けられる声。

 

「……ん? そろそろ誰かが来る頃だとは思ってたがお前が来たのか金髪のロリっ子」

 

 確か名前はイリスとか言ったか。白スーツの女とどっちが来るかと思ってたがこっちが来たんだな。

 …………薄々気づいてたがこのロリっ子相当上級の貴族か。あれだけの騎士や冒険者を指揮していた白スーツの女が護衛についてるくらいだし。クリスやめぐみんが変な反応してたのもそれなら説明がつく。

 

「その様子では私がどのような要件で来たか分かっておられるのですね」

「ま、お前とあの白スーツの女にはちょっと接触しすぎてたしな。爆裂娘と一緒じゃなければまだバレなかった可能性もあるだろうが……」

 

 冷静に考えれば気づいて当然なだけの手がかりは残っている。

 

「…………ひとまず場所を移しませんか? 私としてもこれからする話は他の方に聞かれたくないのです」

「それもそうだな。……喫茶店にでも行くか?」

 

 ああいう店は座る場所や時間帯さえ間違えなければ人に聞かれたくない話をするのに適している。

 

「そうですね…………それもいいのかもしれませんが、今回は街の外にしませんか? 街中ですとクレアにすぐ見つかってしまう気がするので」

「あの怖い白スーツの姉ちゃんか。ま、そういうことならいいぜ」

 

 移動に時間がかかるのが難点だが……どうせ今日の俺は暇している。

 

「ただ、もしモンスターに襲われた時はちゃんと俺のこと守れよ? ジャイアントトードやはぐれ白狼くらいならなんとかするが初心者殺しやグリフォンの相手は無理だからな」

「任せてください。私、戦うことは得意ですから」

 

 カズマみたいなロリコンならすぐに落ちそうな笑顔で、金髪のロリっ子はやる気(殺る気)満々でそう言った。

 

 

 

 

「『エクステリオン』『エクステリオン』――『セイクリッド・ライトニングブレア』!…………ふぅ、これでゆっくりとお話ができますね」

「お、おう……」

 

 チャキンと聖剣を鞘に収めて振り向くイリス。その何事もなかったかの様子に俺はドン引きしながらもなんとか声を出して応える。

 

(何が俺と同じくらい強いだよ爆裂娘のやつ。普通に今の俺の本気より強いじゃねーか)

 

 グリフォンを瞬く間に倒すとか。ステータスだけならミネアの力を借りた俺もそう変わらないだろうが、その戦闘技術と得物の差は比べるのも馬鹿らしい。

 というか、最近グリフォンがこの街の近辺に流れ着きすぎだろ。爆裂娘たちがグリフォンとマンティコアのクエストを消化してからこっち、野良グリフォンが出没しすぎだ。一種の空白地帯みたいなもんなんだろうが…………そのうちアクセル周辺のモンスター分布にグリフォンが追加されかねない。

 

「さてと……話を始める前に、改めて名乗らせていただきましょうか」

「あん? 名前はイリスじゃねーのか。たしかそう呼ばれてたよな」

 

 ゆんゆんの話の中によくイリスって名前は出て来るし。めぐみんやクリスも確かそう呼んでたはずだが。

 

「この街では確かに私はチリメンドンヤの孫娘イリスと名乗っていますが本当の名前は違います。…………あなたと同じように」

「…………本当の名前ってのは?」

『ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス』。それが私の本当の名前です」

 

 ベルゼルグっておい…………この国の王族じゃねーかよ。通りでアホみたいに強いわけだ。

 

「……あなたのお名前もお聞かせ願えますか?」

「俺の名前はダストだ。昔はまぁ……『ライン=シェイカー』って呼ばれてたが」

 

 今も冒険者カードに乗ってる名前は『ライン=シェイカー』ではあるが、そっちの名前を使う気は今のところない。あいつと一緒にいると決めてからの俺はダストで間違いないのだから。

 ……このさい冒険者カードの名前も変えたいんだけどなぁ。名前の変更は聖職者になって名前を新たにもらうとかそういうのじゃない限り出来ないのが難しい所だ。おかげで俺やララティーナお嬢様みたいに偽名で冒険者したければギルドに金払って協力してもらわないといけない。

 

「……あまり、私の正体に驚かれてないのですね」

「十分驚いてるっての。……まぁ、相当高貴な血筋ってのは薄々気づいてたことだし、貴族や王族の相手すんのも慣れてるからな」

 

 だから驚く以上に得心したってか、いろいろ腑に落ちてなかった所が解消出来たって気持ちのほうが大きいのも確かだ。

 

「やはりあなたが最年少ドラゴンナイト様なのですね」

「ま……ここに来て否定はしねーよ」

 

 その称号は捨てたものだから心情的には否定したいところだが。

 

「でしたらこの国の王女としてお願いします。どうかこの国の騎士として魔王軍と戦っていただけないでしょうか?」

 

 青い瞳でまっすぐに俺を見つめて。アイリスは真摯に願ってきた。

 

「…………答えを出す前に聞いてもいいか?」

 

 その瞳から目をそらしながら。俺は質問する。

 

「俺の正体に気づいたやつ。王国側じゃどれだけいる?」

 

 その答え次第で俺の今後の行動が決まる。

 

「気づいたのは私一人です。……おそらく今後気づくのも私一人ではないでしょうか」

「ホントかよ…………ほら、あの白いスーツの女とか気づかないほうがおかしいと思うんだが」

「それはそうなんですが…………あの様子では気づかないと思われます」

 

 ダストの時に何度かあって追い掛け回されてるし、この間も普通に会話したんだぞ? なんで気づかないんだよ。

 

「気づかないって思う根拠はなんだよ?」

「えっと…………ですね。あまりこの話はしたくないといいますか、先方の名誉のために名前は伏せますが…………とある魔法使いの方にクレアが最年少ドラゴンナイト様の正体をしつこく訪ねまして」

 

 …………とある魔法使いってどう考えてもあいつか。

 

「…………それで?」

「魔法使いの方は『よくよく考えたら私があの男を庇う理由などないじゃないですか』とおっしゃいまして…………」

「…………おう」

 

 あいつには今度ジハードを噛みつかせて一日一爆裂出来なくしてやろう。

 

「ダスト様の正体をクレアにバラしたのですが、クレアは『あんなチンピラがシェイカー殿であるわけないだろう』と笑い飛ばしまして…………まぁ、その…………そんな感じなのです」

「…………俺が言うのも何だが、この国大丈夫なのか?」

 

 いや、本当に俺が言うのもなんだけど。騎士を指揮してたあたり一応お偉いさんだろ?

 

「言わないでください…………クレアは基本的には聡明なのですが、自分より下と見たら見下す悪癖があって…………きちんと力を示せば認める柔軟さもあるのですが」

 

 ようは少しでも俺がまともなところを見せていればバレてたかもしれないってことか。

 

「それでダスト様。お答えをお聞かせ願えますか? どうかこの国で一緒に魔王軍と戦ってください」

「…………お前はいい目をしてるよな。この国の王族はどいつもこいつもそんな目をした奴らばっかだ。…………ほんとあの国の王様に爪の垢飲ませたいぜ」

「? お兄様……ジャティスお兄様やお父様と会われたことがあるのですか?」

「一度だけな。俺がドラゴンナイトになってすぐの頃一緒に戦ったことがある」

 

 その時の功績と最年少ドラゴンナイトの実績から俺はあいつの護衛になったから、本当にその一度きりだったが。この国で曲がりなりにも俺の噂が流れてるのはその時のことも理由の一つだろう。

 

「では……また一緒に戦っていただけるでしょうか?」

 

 その瞳は本当に真っ直ぐで澄んでいて……貴族や王族が嫌いと言ってはばからない俺をして好意的に捉えざるを得ない光がある。

 

 ミネアが戻ってきた今、もしも俺が一人だったらきっとこの誘いに乗っていた。

 もしも俺があの国から逃げ出してから最初に出会ったのがジャティスやこいつだったのなら魔王軍と戦っていた今もあっただろう。

 

 だけど……それは全部仮定の話だ。俺の答えは最初から決まっている。

 

「悪いが俺はもう国のために働く気はないんだ。『騎士』になんか絶対なりたくねーし、自分から魔王軍と戦いに行く気もない。…………ジャティスや国王のおっさんには悪いが、一緒に戦うことはねーよ」

「…………どうして、と聞くことは許されるでしょうか?」

 

 どうして、ね。いろいろと理由はあるが、それを全部ひっくるめて言うなら……。

 

「俺が『ダスト』だからだよ」

 

 俺はもう最年少ドラゴンナイトの『ライン=シェイカー』なんかじゃない。ただの街のチンピラ『ダスト』だ。

 

「こんなどうしようもないチンピラには魔王軍と戦う理由なんてねーし、戦って生き残るだけの力もない。そもそもが見込み違いなんだよ」

 

 今の俺が戦線に参戦しようが大局は変わらない。俺に強化されたミネアは確かに戦場で最強かもしれない。でも今の俺はその隣で戦えるほどの力はない。すぐに死んじまうのが落ちだ。

 

「…………本当の理由は話してくれないのですね」

「別に嘘は言ってねーんだがな……」

 

 確かにそれが一番の理由ではないが。どちらにしても今の俺が『ダスト』だからって言葉に全部込められている。それを一から説明する気は確かにない。

 

「……で、だ。俺がこの国で騎士として戦う気はない。それはどれだけ言葉を重ねても変わらない。その上でお願いと言うか取引がしたいんだが……」

 

 断っておいて虫の良い話だとは分かっているがしないわけにもいかない。どうせ俺はどうしようもないろくでなしなのだからと開き直って切り出す。

 

「ダスト様の正体を隠していて欲しいという話でしょうか? 別に最初から誰かに伝えるつもりはありませんよ。あなたほどの経歴の持ち主が名と実力を偽りはじまりの街にいる……その意味は分かっているつもりです」

「そう言っててあっさりばらしたらしい爆裂娘(魔法使い)がいたみたいだけどな」

 

 いや、まぁ確かにあいつには俺の正体隠す義理なんてないから仕方ないけどよ。

 

「いえ……本当に安心してください。めぐみんさんもクレアの質問がしつこすぎて答えてしまっただけです。私にそこまで強く質問できる人はこの国にはいませんし、たとえされてもベルゼルグの名にかけてバラしません」

「まぁ……別にお前のこと信じてないわけじゃないんだがな」

 

 ゆんゆんの話の中でこのロリっ子がどういう奴かは分かってるつもりだ。筋の通らないことをするタイプじゃないだろう。

 

「ただ、それじゃ俺の気がすまねーんだよ。ここでお前の好意に甘えたら俺はお前に借りができちまう。……ただでさえ最近借りを作っちまったやつが多いからそれは避けたい…………って、なんだよその意外そうな顔は」

「いえ…………その…………ゆんゆんさんから聞いていた話から伺える人物像とは大分違いまして…………」

 

 あいつは俺のことなんて話してるんだよ。……いや、だいたい想像つくけどよ。

 

「とにかくだ。お前が俺のこと黙っててくれるってのはありがたい。だけどその代わりになんか俺にやって欲しいことを言ってくれ。可能な限りなんとかしてやる」

 

 だから取引。今回のことを貸しでもなく借りでもない形で終わらせる。そんな自分本位でろくでもないお願いだ。

 

「…………難しいですね」

「まぁ、こんなチンピラに頼むことなんてないか」

 

 なんてったってこいつは王族。望めばたいていのことは叶ってしまう。そんなやつが街のチンピラなんかに頼むことなんてそう思い浮かばないだろう。

 

「いえ……色々ありすぎて困っているんです。例えばドラゴンの背に乗せてほしいとか、お姫様との逃避行中の話を教えてほしいとかあるのですが……どれか一つとなると…………」

 

 …………前者も後者もできれば勘弁してほしいんだが。あんまりあいつのことは思い出したくないし。

 

「…………決めました。あの……私に戦いを教えてもらえませんか?」

「はぁ? 戦いって俺がお前に何を教えんだよ。ぶっちゃけお前今の俺より強いだろうが」

 

 それに今の俺は曲がりなりにも剣を使って戦ってるが、人に教えられるほどじゃない。槍ならともかく聖剣使いのこのロリっ子に教えられること何てほとんどないだろう。

 

「戦闘技術という意味では確かにそうかもしれません。私は小さい頃から魔法に剣術にいろいろ教わってきましたから」

 

 今でも十分小さいけどな。……まぁ、そう言えるだけの間叩き込まれてきたんだろう。王家の才能を余すところなく開くために。

 

「ですが……私は『戦い』を知りません。お兄様やお頭様のように『冒険』をしたことがない…………今の私では本当の強敵が現れた時にお兄様は頼ってくれません」

「…………そういうことか」

 

 俺がこいつに感じていたこと。このロリっ子はたしかに強いが、それを裏付ける『凄み』がない。実戦経験が圧倒的に足りない……もしくは実戦経験があっても自分が圧倒的に有利な状況でしか戦ったことがないんだろうとは思っていた。

 そういう奴は自分よりも弱い相手であれば問題なく勝てるが自分より強い相手になると全力を出せず負けてしまうことが多い。…………戦場じゃ1番死にやすいタイプだ

 

(つっても……このロリっ子より強い敵なんて数えるほどしかいねーだろうし、そんな相手に王族をぶつけるはずもない)

 

 だから問題なんてないはずなんだが…………それなのにこうして頼んでくるのは王族としての強さを求める性か。あるいは……。

 

「……ま、いいぜ。そういうことなら俺でも教えられることはあるだろうしな。お前が納得するまでお前を鍛えてやるよ」

「本当ですか!?」

「おう、まぁ大したことは教えられないだろうけどな」

 

 それにこれは俺にとってもそう悪い話じゃない。訛ってしまった槍の腕。それを鍛え直す相手にこのロリっ子はうってつけの相手だろう。

 

(…………けど、それじゃ借りを返したことにはならねーな)

 

 自分にも得のある話じゃ当然そうなる。結局、このロリっ子にも借りを作ることになりそうだった。

 

 

 

 

 

 

――サイドB:ゆんゆん視点――

 

(……自分に自信を持つなんて…………それができたら苦労しないのに)

 

 去っていくダストさんの背中を見つめながら。私は服をぎゅっと掴んで不安な気持ちを誤魔化す。

 

「おい、クリス。あの男は誰だ。私の知っているダストはもっとこう…………残念なふうにクズなチンピラだぞ」

「あー……まぁ、なんかいいことでもあったんじゃないかな。もしくはなにか悪いものでも食べたとか」

「なるほど……悪いものを食べたと考えればあの様子も頷ける」

「…………事情知らなければあたしもそう思うあたり人徳だなー」

 

 なんか失礼なことを言ってるダクネスさんとクリスさん。ダストさんの評価はどこでも同じらしい。

 

 

 

「さてと……あたしたちのご飯も来たしそろそろ本題にはいろうかな。…………さっきからダクネスもゆんゆんも話さないであたしばっかり喋ってるし」

「……すみません」

「すまない……」

 

 クリスさんたちのご飯が来るのを待ってる間のやり取りを思い出して私は顔を俯けながら謝る。

 けど、私はいつものことと言ったらいつものことだけどダクネスさんはどうしたんだろうか。めぐみんやカズマさんと一緒にいる時のダクネスさんはもっと堂々としていた気がするんだけど。

 

「そ、それで私に用事というのはなんですか?」

 

 ダクネスさんのことを考えてたら少しだけ気が紛れたのか。なんとか気を取り直した私はそう話しかける事ができた。

 

(…………けど、私に用事って本当に何なんだろう?)

 

 もしかしてギルドでトランプタワーを作るのは迷惑だからやめてほしいとかだろうか。

 それともバニルさんと友達ということがバレて悪魔と友達なんて魔女の所業と裁判に掛けられるんだろうか

 はたまた…………って、ダメダメ。どうしてこう悪い方悪い方に考えちゃうんだろう。めぐみんとかダストさんが傍にいる時はもっと前向きになれてる気がするのに。

 

(…………うん。とにかくもっと前向きに考えないと)

 

 暗いことばっかり考えてたら暗い顔になってしまう。クリスさんもダクネスさんも心優しい人たちだって事は知ってる。だからもっと楽しいことを考えてもいいはずだ。

 たとえば……そう。私とと、友達になって欲しいとかそういう話をしにきたんじゃないだろうか。

 

「うん。その用事なんだけどね。ねぇ、ゆんゆん。あたしとダクネスと友達になってくれないかな?」

「そうそうこんな感じで………………って、え!!? 友達って私とですか!?」

「他に誰がいるのさ?」

 

 ダクネスさんもクリスさんの言葉に頷いている。……え? これ夢じゃないの?

 

「で、でも、どうしていきなり友達になんて話になるんですか?」

 

 もしかしてこれは壮大なドッキリなんじゃ…………。

 

「あー……実はダストに頼まれたんだよ。手を貸す代わりにゆんゆんの友達になってくれないかって。それでせっかくだからってことでダクネスも連れてきたんだ」

「…………そうですか。ダストさんに頼まれて」

 

 …………結局そうだ。私は自分で友達なんて作れはしない。バニルさんの時もアクアさんの時もそして今も。お膳立てされた場がなければ私なんて……。

 

「確かにダストの言う通りかもね。ゆんゆんはもっと自信を持つべきだと思うよ」

「そうだぞゆんゆん。確かに私もクリスもダストの提案でこうしてこの場にいるが、この場に来ようと思ったのは相手がゆんゆんだからだ」

「ダクネスの言う通りだよ。あたしもダクネスもゆんゆんとなら友達になりたいって思ったからダストの提案に乗ったんだ。……というよりあたしは今結構ショックなんだからね? あたしとしてはもうとっくにゆんゆんと友達になってたと思ってたのに」

 

 うつむいていた顔をあげる。目の前には少しだけ強張った顔をしたダクネスさんと、いたずらっぽい笑みを浮かべたクリスさんが優しい眼差しで私を見ていてくれた。

 

「…………本当に私()()()でいいんですか?」

 

 その優しい眼差しに勇気を出して私は聞く。本当はこんな質問をするなんて相手に失礼だって分かっているけど…………不安な気持ちの中にいる私はどうしてもその答えを聞きたかった。

 

「本当はここはお説教しないといけないんだろうけど…………それは友達になってからでもいいかな。……キミ()いいんだよ、ゆんゆん」

「むしろその質問は私のほうがするべきだろう。ゆんゆんこそ私のようなへn…………何をするクリス。いくら私がドMの変態だからといっていきなり太ももを抓られても困るぞ」

「嬉しそうな顔でそう言われても説得力ないんだけど!? というか、ダクネスちょっと空気読もう? じゃないとこれから一ヶ月の間ララティーナって呼んじゃうよ?」

「…………最近その恥ずかしい名前で呼ばれるのも慣れてきたというか、少しだけ嬉しく感じるようになってきたんだが……クリス、どう思う?」

「とりあえず黙ってればいいと思うよ。…………あ、ごめん、謝るからその嬉しそうな顔やめて。普通に喋ってお願いだから…………って、ゆんゆん? 何を笑ってるの?」

「っっ……ご、ごめんないさい……二人のやり取りが面白くて……」

「べつに漫才をやってるわけじゃないんだけどなぁ……」

 

 ぽりぽりと顔の傷跡を掻きながら。クリスさんは困ったようにそう言う。

 

「まぁ、いいじゃないかクリス。おかげで私もゆんゆんも緊張が解けたようだし」

「…………ま、それだったらいいんだけどね。それで、ゆんゆん。納得はできたかな?」

「えっと…………はい。まだ、少し本当にいいのかなって気持ちはありますけど…………」

 

 この二人が本当に私と友達になりたいと思ってくれていることは信じられる。

 ほんの少しだけ不安というかしこりのようなものが残っているのは否定出来ないけれど……。

 

「なぁ、ゆんゆん。まだ少し引っかかっているようだが、これくらいのことはなんでもないことなんだぞ?」

 

 そんな私の様子に気づいているんだろうか。ダクネスさんはそう言って続ける。

 

「友達の紹介で友達が増える。それはどこにでもある普通の話だ。そんなに身構えることじゃない」

「……それ、さっきまで緊張してたダクネスが言っても全然説得力ないんだけど。……ま、確かにダクネスの言う通りよくあることだよ」

 

 そっか……ダストさんは友達だから、その紹介で友達になっても何もおかしいことはないんだ。

 

「クリスさん、ダクネスさん。どうか私と友達になってくれませんか?」

 

 そう思った私はすんなりとその言葉が言えた。

 

「うん。改めてよろしくね、ゆんゆん」

「こちらこそよろしく頼む」

 

 こうして私にまた友達が2人も増えた。

 

 

 

「しかし、ダストにあんなまともな所があるとは驚いたな。てっきりたんなるヘタレたチンピラだと思っていたんだが……」

 

 一緒に楽しくご飯を食べ終えて。代金を払おうとカウンターに並ぶ私達三人は、無駄にカッコつけて去っていったダストさんの話をしていた。

 

「まぁ、あれでこの街じゃ1、2を争うくらいに過去に色々あったみたいだからねぇ…………チンピラやってるのは素だろうけど」

「ダストさんのチンピラはもうどうしようもありませんね。……でも、あれでドラゴンにはすごく優しいんですよ。ハーちゃんダストさんに撫でられるとすごく嬉しそうな声で鳴きますし」

「あのチンピラにそういう面が…………意外過ぎるな」

「まぁそうだろうね」

 

 そうこう話している内に私達の会計の番になる。

 

「それと……本当にたまーにですけど友達にもちょっとだけ優しいです。……あ、ここは私が払いますね」

「ダメだよ、ゆんゆん。こういうのは割り勘ってのをするのが友達なんだから。ね? ダクネス」

「…………お前、私にはいつも奢ってと言ってなかったか?」

「それはそれ、これはこれ。3人以上の時はいつも割り勘してたじゃん」

「そもそも3人以上で食べることが少なかっただろう…………全くお前は調子のいいやつだ」

 

 ため息をつくダクネスさんはでも同時に楽しそうで…………この二人が本当に親友なんだなってことを実感させられた。

 私もこの二人の間に少しでもはいっていけるように頑張ろう。

 

「先に帰られた金髪の男性の代金と合わせて1万500エリスになります。…………お会計はどうなされますか? 別々に勘定することも出来ますが」

 

「「「…………………………」」」

 

 ウェイトレスの言葉に絶句する私達。私も二人もせいぜい1500エリス分くらいずつしか食べてないのにこの値段……。

 

「ねぇ、ゆんゆん。誰が友達にちょっとだけ優しいって?」

「あの男……カッコつけていなくなったくせに食い逃げか……」

「えっと…………その…………さっきの言葉聞かなかったことにしてください…………」

 

 

 今度会ったら色んな意味であのチンピラの友達にはお礼をしようと決める私だった。




しっかりダストの分まで払っちゃうゆんゆんはお人好しが過ぎます。


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第16話:木漏れ日の昼下がり

「ラインは本当にドラゴンが好きだな」

 

 目付きの鋭い、えてして人相が悪いと評されるだろう男が、俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

「うん!だってドラゴンは強くて格好よくて可愛いから!俺、絶対父さんみたいなドラゴン使いになるんだ」

 

 あぁ……これは夢だ。そんなことは考えるまでもなくわかる。

 

 この夢はもう何度も繰り返し見たものだし、人相が悪いのにいつも楽しそうに笑っている目の前の男はもうどこにもいないのだから。

 

(早く……起きねーと……)

 

 今見ているこの幸せな夢はまだいい。だが、この夢はすぐに悪夢へと変わる。

 

「あらあら、お父さんみたいなドラゴン使いになりたいなんて大きく出たわね。ラインのお父さんはこの国唯一のドラゴンナイトで、王国一と評判の槍使いよ?」

 

 起きないといけない。分かっているのに俺の意識はこの光景から離れようとしない。……いや、離れられるわけがないのかもしれない。たとえこの先の結末がどうであろうと、この光景は数少ない両親との幸せな思い出なのだから。

 そんな感傷が俺みたいなチンピラにまだ残っているというのは最高に滑稽だが。

 

「うぅ……でも、父さんみたいな強面のろくでなしが母さんみたいな美人で優しい人と結婚出来たのは凄いドラゴン使いだからだろうし……」

「おい、こら息子」

「俺も母さんみたいな多少変な名前でも美人で優しい人と結婚したいんだ」

「ライン君? その何も考えないで喋る癖やめようっていつも言ってるよね?……女好きな所といい本当どこかの誰かさんにそっくりなんだから」

 

 ため息をつく母さん。その輪郭は既にぼやけていて思い出せないが、その髪と瞳が綺麗な黒色だったことだけは覚えている。

 

「いや……ラインのこの思ったことを素直に言う口の悪さはどう考えても母さんの――」

「『カースド――」

「土下座して謝るんで雷撃も氷漬けも勘弁してください!」

「もう…………ライン君? ライン君はお父さんみたいなろくでなしになっちゃだめなんだからね?」

 

 母さんの言葉にコクコクと頷く俺。普段は優しい人だが、家族に怒る時だけは本当に容赦がない人だった。

 

「ごほん……まぁ、母さん。そう無理な話でもないんじゃないか?」

「? 何の話?」

「ラインが俺のようなドラゴンナイトになるという話だよ」

 

 土下座をやめて父さんは続ける。

 

「ラインが俺の子どもってだけなら難しいかもしれないが、母さん……この国一番の魔法使いの子どもでもあるんだ。案外俺なんかよりずっと早くドラゴンナイトになるかもしれんぞ」

「うーん……確かに才能はありそうだし私の息子ってだけなら信じられるんだけど…………お父さんと同じろくでなしの血筋だからなぁ。私みたいなお目付け役がいないと怠けて才能ダメにしちゃうんじゃないかな」

「…………信用されてないなぁ、息子」

「この場合は信用されてないのは父さんじゃね?」

「…………可愛くねーなぁ、息子」

 

 人相は悪いのにそうやって不貞腐れている様子は子供っぽくて……大人と子供が同居している、そんな印象の父親だった。

 

 

 

「よし……そろそろ休憩はいいな。もう少し槍の特訓するか? それともモンスター相手でレベル上げするか?」

「レベル上げ」

「……即答だな息子。ぶっちゃけ俺らドラゴン使いにはレベルなんて大して意味ねぇから、槍の特訓させたいんだがな……ま、モンスター相手の戦い方覚えるのも大事だしいいけどよ」

「それじゃ『魔物寄せ』使うわね」

 

 魔道具によって呼び寄せられる魔物。それを横目にしながら父さんは俺の頭を乱暴になでながら。

 

 

「いいか、ライン。これだけは覚えとけ。『子は親を超えなければならない』。お前がどんなろくでなしになろうと構わない。だが、この言葉だけは絶対に忘れるな」

 

 それは、戦うこと以外はまともに教えてくれなかった父さんが唯一俺に教えてくれた教訓。俺が一番つらかった時期を支えてくれた言葉。

 

「さーてと……んじゃ、ライン、俺達の戦い方をよく見とけよ。――ミネア、休憩終わりだ。いつまでも寝てねぇでお前も準備しろ。母さん、よってきた敵はどんな感じだ?」

「敵感知の魔法に引っかかる感じじゃ見えてるだけね。つまりグリフォンとドラゴンゾンビとマンティコア2体」

「…………いやまぁ、このあたりのモンスターの分布じゃ確かにありえない組み合わせじゃないんだが…………やりすぎただろ? 母さん」

「大丈夫大丈夫。この国一番の竜騎士様とその相棒のドラゴンならこれくらい余裕余裕」

「……倒すだけならともかくラインにとどめを刺させるために手加減しねぇといけないんだぞ? このレベル上げ考えたのは母さんなんだからちゃんと援護してくれ」

「別に私が考えたわけじゃないんだけどなぁ……ま、お父さんをサポートするのが私の仕事だからいいけど」

 

 

 

 俺はもう父さんの顔なんてほとんど思い出せない。声もあやふやならきっと話し方だって正確じゃない。

 だけどその背中……ミネアと一緒に並び立つその後姿だけは今でも鮮明に思い出せる。

 

 その姿に憧れた。

 その背中に追いつきたいと願った。

 

 ただのチンピラとなった今にして思えばどこまでも滑稽な幼いドラゴン使いの夢。

 

 

 

(…………さっさと起きろよ、俺)

 

 これから先はもっと滑稽で嗤うしかない光景が続くって分かっているんだから。

 

 

 

「…………セレスのおっちゃん、これ……何……?」

 

 夢が変わる。暗い家の中で俺は二つの指輪渡そうとする兄弟子にそう問いかけていた。

 

「…………それが何か、ラインが一番分かっているだろう」

「……『双竜の指輪』…………」

 

 シェイカー家に代々伝わる二つで一つの役割を果たすマジックリング。

 …………両親(ふたり)が肌身離さず互いに一つずつつけていたはずのものだ。

 

「…………なんで?」

 

 それがどうしてここにあるのかと幼い俺は聞く。…………そんなこと聞くまでもなく分かっているはずなのに。

 

「……とある大物賞金首にお前の両親は襲われたそうだ。戻ってきたのはミネアとこの二つの指輪だけだ」

「意味……わかんねーよ…………父さんと母さんが…………あの二人がやられるわけないだろ?」

「…………勝てないと思ったあの2人はどうにかしてミネアだけでも逃がそうとしたんだろうな。……お前がドラゴン使いになるためにはミネアは……ドラゴンは絶対に必要だから」

「…………ミネアは?」

「今は竜舎にいる。傷だらけだが治療も終わってるし命に別状はないってよ」

 

 そこまで聞いて幼い俺は兄弟子から指輪を受け取って竜舎に走り出す。

 

「ライン! お前の面倒は俺が見る! 心配すんな、俺だって下級だが貴族のはしくれでドラゴン使いだ。不自由はさせねーよ。それにあの2人に頼まれてるからな。2人にもしものことがあったら俺が代わりにお前を立派なドラゴン使いにしてくれってよ!」

 

 その兄弟子の申し出を受けたのはいつだったろう。一週間か二週間か。ミネアと一緒に帰ってくるはずのない両親を待ち続け……ろくに飯も食わなきゃ寝ることも出来なくて死にかけた後だったのだけは覚えている。

 

(…………ああ、本当に嗤えるな。ここで死んどけばよかったのによ)

 

 これから先に起こることと今を思えば本当にそう思う。

 

(ま……悪いことばかりでもなかったけどな…………)

 

 短かったけど姫さんと過ごした日々は悪くなかったし、()()()に出会ってダストになったことも後悔はしてない。……最近はわりと生きてて楽しいしな。

 

 

 

 

「ん……んぅ…………」

 

 次の夢へと引っ張られそうになる意識を俺は無理やり覚醒させようと、瞼に力を入れて目を開けようとする。

 

「あ、ダスト君、起きた?」

「…………姫さん?…………ちっ、まだ夢の中かよ」

 

 でも……まぁ、いいか。姫さんの夢ならもう少しなら付き合っても……。

 

「ダスト君、もしかして寝ぼけてるの?」

「あん? 夢の中なんだから寝ぼけてて当然だろ。相変わらずおかしなこと言う姫さんだな」

「おかしなこと言ってるのはダスト君だと思うんだけど……お姉さんのこと誰かと勘違いしてない?」

 

 勘違い? こんだけところてんスライムの匂いさせてる女なんて俺は母さんと姫さんしか知ら…………って、あれ?

 

「…………なんだよ、セシリーじゃねえか」

 

 紛らわしい匂い漂わせやがって。

 

「流石のお姉さんも膝枕してる相手にため息されたら傷つくんだけど…………これはもう責任取って結婚してもらうしか……」

「ふぁーあぁ…………ねみぃ…………もう少し寝るか」

 

 流石に嫌な夢の続きは見ないだろう。

 

「おーい、ダストくーん? 流石のお姉さんも完全スルーは予想外なんだけどー?」

「しらねーよ……いいから寝かせろよ。昨日の夜遅くて寝不足なんだよ……」

 

 だからこうして木の下で昼寝してるってのに。…………なんでこのプリーストが膝枕してるかはしらないけど。

 

「寝不足? なになに? エッチな話?」

「うぜぇ…………なんでいきなりそんな話になんだよ」

「え? だってダスト君って私と同レベルの変態さんじゃない? 寝不足って言ったらそういう話になると思うのよ」

「変態なのは否定しねーがお前と同レベルってのは死ぬ気で否定してやる」

 

 というか仮にも性別女だったらもっと慎み持てよ。

 

「私以上の変態…………もしかしてダスト君はゼスタ様クラス……?」

「ねーよ! 何で俺がお前以上の変態になんだよ!?」

「だってダスト君って私を裸にして首輪つけて散歩させようとしたことがあったじゃない? さすがのお姉さんもドン引きだったわよ?」

 

 …………………………

 

「で、何でお前は俺を膝枕なんてしてんだよ?」

「ダスト君って本当誤魔化すの下手ね」

 

 うるせーよ。あと、あれのこと考えてもこいつのほうが絶対変態だって。

 

「んー……膝枕の理由って言われても、ダスト君が硬そうな所で寝てるから膝枕してあげたってだけよ?」

「暇人かよ……」

「だって最近めぐみんさんもアイリスさんもアジトに来ること少なくって…………ゆんゆんさんは定期的に掃除しに来てくれるけど」

「いや、お前の本職はプリーストだろうが。プリーストの仕事しろよ」

 

 というかゆんゆんは何してんだ。このプリースト甘やかしたらろくなことならないんだから自分で掃除くらいさせろよ。で、俺の借りてる馬小屋の掃き掃除する回数をもっと増やせ。

 

「でも、ダスト君。プリーストの仕事って何をすればいいのかしら? アクシズ教団の例のアレを売る仕事とエリス教会に喧嘩を売りに行く仕事ならちゃんとやってるけど」

「そんな仕事はネロイドにでも喰わせて一緒に飲んじまえ」

「お姉さん的には食べさせるなら生きのいいところてんスライムに食べさせてから頂きたいわね」

「……てーか、ところてんスライムも取扱禁止なの考えれば犯罪スレスレというかアウトの行為しかしてないじゃねーか。それを仕事とか言うのはやめろよ」

 

 一応アクシズ教徒の教義の中にも犯罪はまずいって内容があっただろ。『犯罪じゃなければなんでもやっていい』とかそんなの。…………別に犯罪やったらダメって内容じゃねーな。

 

「それはダストくんにだけは言われたくないんだけど…………ダスト君マッチポンプを仕事と言って何度も捕まってるわよね?」

「記憶にないな。ゆんゆんか誰かと勘違いしてるんじゃないか」

 

 あいつは確かマッチポンプ詐欺で捕まってたよな。

 

 

 

「ダスト君って本当ろくでなしよね」

「ま……お前には言われたくないけどな」

 

 俺がどうしようもないろくでなしのチンピラだってのは間違いない。

 

「でも…………初めてあった時に比べたら凄くいい笑顔をするようになったかな」

「あん? お前と初めてあったときって言ったら留置所だっけか。…………別に変わったきはしねーんだが」

 

 あの頃と違ってジハードとミネアがいるし、そういう意味じゃ笑うこと増えてるかもしれないが。こいつとあった時から俺はダストとして好き放題してるし。

 

「うん……確かに変わって変わって……でも、本質的な所は全然変わってないわね」

「いや…………マジでお前が何言ってるか分からねーんだが。つーかお前が俺の何を知ってんだよ」

 

 ただの友達の友達のくせに人のこと分かったようなこと言いやがって。

 

「ダスト君が『――たがり』なのは知ってるわね」

「………………やっぱ俺お前のこと苦手だわ」

 

 そのことは誰にも言ったことがないってのに。

 

「そう? お姉さんはダスト君のこと好きよ」

「そうかよ」

「…………………………」

「………………………?」

 

 何をこいつは似合わない真面目な顔して俺のこと見つめてきてるんだ? 凄い気持ちわr……もとい気色悪いんだが。

 

「ねぇ、ダスト君」

「なんだよ」

「…………そろそろセシリーお姉ちゃんに惚れた?」

「お前そのいきなり訳の分からないこと言い出す癖マジでやめろ」

 

 毎回毎回反応するのに苦労してんだからな。

 

「あの……? 一応でもこんな美少女が好きだって告白してるのよ?」

「しらねーよ。一応の上に美はともかく少女じゃねー守備範囲外に告白されたからってなんだってんだ。つーか、お前のその告白はいつものことだろうが」

 

 その後何も言わずに見つめてきてたのだけが謎なだけだ。

 

「おかしいわ…………マリスに教えなきゃ最近パッドを付け始めたことを街中にバラすわよと脅して教えてもらった告白方法なのに……ミステリアスな雰囲気から告白したらどんな男でもイチコロというのは嘘だったのかしら?」

「あの処女プリーストが男の扱い方知ってるわけねーだろ。適当だ適当」

 

 てかあの貧乳プリースト、パッドをつけ始めたのか。キースに今度教えてやろう。

 

「てかだな。そもそもお前は守備範囲外だって何度も言ってるだろうが。クソガキとアクシズ教徒にどんなに情熱的に告白されようが俺にとっちゃ問題外だっての」

「そんなこといってさっきからダスト君太もも撫でてきてるわよね?」

 

 ただしセクハラしないとは言ってない。いや、本当こいつも見た目だけは悪くないんだよな。自分からセクハラする気はないけど膝枕までされてる今の状況だと触ってもいいかな程度には思ってしまう。

 

「まぁ、あれだ。もう少し言うなら仮にお前がアクシズ教徒じゃないにしてもお前の好きって言葉じゃ揺さぶられないと思うぞ」

「どうして?」

「だってお前いろんなやつに好きだ好きだ言ってるけどそれ全部親愛だろ? 恋愛的な意味で言われてないなら別になんとも思わねーよ」

 

 こいつが示す愛情は親愛と敬愛と性愛だけだ。恋愛なんてもの欠片もない。

 

「…………私、ダスト君のそういう所苦手だわ」

「そりゃ両思いだな」

 

 俺もこいつの妙に鋭い所は苦手だし……ってさっき言ったよな。

 

「けど、ダスト君って童貞なのにそういう乙女の機微がちゃんと分かるのね。ちょっとだけ意外だわ」

「おいこら待て。誰が童貞だ誰が。勝手に決めつけてんじゃねーぞ」

「お姉さんダスト君のそういう強がりな所は好きよ?」

 

 ぐぬぬ……本当に童貞じゃないってのに。…………夢の中じゃ百戦錬磨だっての。

 

「今ダスト君から邪悪な気配を感じたんだけど…………もしかしてお姉さんに内緒で悪魔に関わることやってないわよね?」

「お前らアクシズ教徒のセンサーはどうなってんだよ!?」

 

 こいつの前じゃサキュバスサービスのことを思い浮かべるのはやめたほうが良さそうだ。

 

「まぁ……あれだ。俺は乙女心なんて全然分かんねーけどよ。『好き』って言葉が親愛か恋愛かどうかくらいは分かるんだよ」

「乙女心より普通そっちの方が難しいと思うんだけど……お姉さんの『好き』って言葉を親愛だと見破ったのなんてダスト君くらいよ?」

 

 お前は親愛と一緒に性愛も混ぜてやがるからな。普通混ぜないもんを混ぜてるから誰だって勘違いするわ。俺がそれを勘違いしないのは……

 

「…………親愛の言葉を勘違いして痛い目に二回くらいあってるからな。流石に三回目は勘弁だ」

 

 ……二回目の時は危うく性別変わりかけたし。

 

「んー…………なんだろう、このダスト君からする勘違いしてるのを勘違いしてるような微妙な雰囲気は」

 

 何でこいつは可哀想なものを見るような目を俺にしてるんだろうか。

 

「つーか……お前のせいで完全に目が覚めちまったじゃねーか。今日の夜も遅くなりそうだからもうちょい寝たかったってのに」

「そう言えば、さっきそんなこと言ってたわね? エッチなことじゃないなら何の用事があるの?」

「何って言われるとすげー説明がしづらいんだが……」

 

 ちゃんと説明するとなると俺とイリス(ロリっ子)の正体を話さないといけないし。

 

「簡単に言うならちょいと良家のお嬢様に家庭教師をしてんだよ」

 

 ロリっ子に特訓してほしいってお願いを叶えるため。俺は自分の槍の訓練がてらあのドラゴンスレイヤーと模擬試合のようなことをしている。

 夜にレインとかいう女が迎えに来てロリっ子が待つ所に連れて行かれるから、訓練が白熱すれば自動的に睡眠時間が削れてしまう。

 

(聖剣なし魔法なし身体能力低下でようやく互角とかあのロリっ子狂ってるよなぁ)

 

 なにをどうやったらあの歳であの域になるのか。俺は槍を使ってて武器の利があるっていうのに、こっちが押され気味なのはなんといえばいいのか。

 ハンデありとは言え自分と互角に戦ってくれる相手が珍しいのか向こうは喜んでるみたいだが。…………おかげで毎回のように白熱して睡眠時間削れるのはそろそろなんとかしたい所だ。

 

「ふーん…………夜が忙しいのはわかったんだけど、その分朝を遅くすればいいんじゃないかしら? ダスト君別に早起きキャラじゃないわよね?」

「早起きキャラってなんだよ……。いや言いたいことは分かるけど。…………俺としてもゆっくり寝たいんだがな、あのぼっち娘がクエスト行きましょうと起こしてきやがるんだよ」

「ぼっち娘って…………ゆんゆんさん?」

「そ、あの毒舌ぼっち娘」

 

 人が気持ちよく寝てるのも気にせずいつまで寝てるんですかと起こしてきやがる。

 前は俺が構ってやらなきゃ俺のとこにくることなんて殆どなかったのに、最近は妙に干渉が多い。まぁ、汚くしてたら馬小屋の掃除とかもしてくれるし、文句を言える立場じゃないんだが。

 

「……最近お姉さんの所にもゆんゆんさんが来て、朝起こしてくれたり朝食作ってくれてたりするんだけど…………お姉さんの所だけじゃなかったのね」

「…………あいつは本当何やってんだ」

 

 どんだけお人好しなんだよ。世話焼きなのは知ってはいたが。

 

「ついにお姉さんの魅力にゆんゆんさんが惚れちゃったのかなと思ってたんだけど…………ダスト君の所にも行ってるってことは――」

 

 まぁ、あいつの友達に対するスタンスが変わったってことだろうな。今までは遠慮して友達でも自分から関わっていけなかった所がなくなったと。お人好しの世話焼きのあいつならそうなるのも分からないでもない。

 

「――二股ということね!」

「想像通りの台詞をありがとよ。お前は本当ブレねーな」

 

 こいつと話してると真面目に物を考えるのが馬鹿らしくなるわ。

 

 

 

 

「な、なな……っ! 何をしてるんですか!?」

「ん? なんだよぼっち娘じゃねーか。お前こそこんな町中でいきなり叫んでどうしたんだよ」

 

 驚いたような叫び声に目を向けてみれば、妙に顔を赤くしているぼっち娘とそれに付き従うジハードの姿。

 

「それはこっちの台詞ですって! ダストさん、セシリーさん、こんな町中で一体何をやっているんですか!?」

「何って言われてもな…………一応昼寝……か?」

 

 寝れてないけど。

 

「お姉さんはダスト君に膝枕してるだけね」

「とぼけないでください!」

 

 俺とセシリーの回答に納得がいかないのか。さっきよりも顔を赤くしてゆんゆんは叫ぶ。

 

「おい、残念プリースト。あのぼっち娘は何をあんなに怒ってるんだ?」

「んー……お姉さんにもよく分かんないわね。ただ、あれは単純に怒ってるというより同時に恥ずかしがってる雰囲気よ」

 

 恥ずかしがる……ねぇ。今更街中で叫んだことが恥ずかしかったんだろうか。けど、どっちにしろ最初に怒って叫ぶ理由が謎だな。

 

「というわけだ。ぼっち娘。お前が何を言ってるか全然分かんねーから、ちゃんと説明してくれ」

「ちゃ、ちゃんと説明って…………セクハラするのもいい加減にしてください!」

 

 セクハラ? なんで怒ってる理由説明しろって言ったらセクハラになるんだ?

 

「あ…………お姉さん、ゆんゆんさんが恥ずかしがってる理由わかったかも」

「お、マジかよ。何だよ分かったんならさっさと教えろよ」

 

 というか、もしかして怒っていることより恥ずかしがってることの方が主題なのか。

 

「えー……でも、恥ずかしがってるゆんゆんさん可愛いし……説明してもらってもっと恥ずかしそうにしている様子が見たいわ」

「お前に頼んだ俺がバカだったよ」

 

 ゆんゆんはこいつと友達で本当にいいんだろうか。

 

「まぁいいや。この変態プリーストは当てにならねーからゆんゆん、お前が何で怒ってるか教えてくれ」

「…………もしかして、本当にダストさん気づいてないんですか?」

「気づくと言われてもな…………マジで俺は昼寝してただけだぞ」

 

 なのになんで叫ばれたりセクハラ言われないといけないのか。

 

「…………だ、だったら自分の両手が今どこにあるのかちゃんと確認してください」

 

 はて? 俺の両手?

 

 右手。セシリーの尻。

 左手。セシリーの下乳。

 

 ふむ…………。

 

「よく分かんねーな。おいぼっち娘。何がどう悪いのかちゃんと説明してくれよ」

「その顔完全にわかってますよね!? というか、気づいたんならすぐやめてくださいよ!」

「やめるって言われてもなあ……俺は別に昼寝してるだけだし……なぁ? セシリー」

「そうよね。私もダスト君も別に変なことしてるつもりはないもの。ちゃんと言葉にしてもらわないと分からないわ」

 

 セシリーはわざとらしいくらいにニヤニヤしてそんなことを言う。多分俺の顔もそんな感じだ。

 

「こ、このろくでなし二人は…………わ、分かりましたよ……ちゃんと言いますから、言ったらすぐに止めてくださいね」

 

 そう言って覚悟を決めたのか。うぅ、と呻いた後に続ける。

 

「ダ、ダストさん。こんな町中でエッチなことは止めてください。……お、お尻や胸からすぐに手を離して……」

「「ごちそうさん(ごちそうさま)」」

「…………何で私こんな人達と友達になっちゃったんだろう」

 

 満足気な俺たちにゆんゆんは魂の抜けたような顔してそんな今更なことを言っていた。

 

 

 

「いやー……しっかしマジで無意識だったな。太もも撫でたあたりくらいまでは自分の意志でやってたんだが」

 

 ぽよんぽよんとセシリーの胸を押して遊びながら。俺は自分の無意識にちょっとだけ驚いていた。

 

「ぁん……もう、ダスト君ったら、女の子の胸はあんまり強く押しちゃダメよ?」

「お前はもう女の子って歳じゃないだろ。だからセーフ」

「セーフ……じゃないですよ! 止めてっていったのにさっきより酷くなってるじゃないですか!?」

 

 そんなこと言われてもなぁ……。

 

「意識して触ってみると触り心地が良すぎてやめられないんだよ。お前も触ってみるか?」

 

 この残念プリースト。性格は残念を極めているが体と顔は全然残念じゃない。

 

「結構です!」

「まぁ、お前は自前のがあるもんな。触りたきゃ自分の触ればいいか」

 

 このプリーストのよりも大きくて立派なのが。

 

「セクハラにも程がありますよ!?」

 

 ……流石にこれくらいにしてやるか。あんまり怒らすとゆんゆんは明後日の方向に吹っ切れちまうからな。魔法が飛んでこない内にからかうのは止めとくか。

 

「あら? もうお終いなの?」

「おう、また今度気が向いたらな」

 

 多分気が乗ることはないと思うが。なんてーか…………一旦離れてみるとやっぱこいつにセクハラする気なんて全然起きないんだよな。不思議だ。

 

「おう、よしよし。ジハードは相変わらず可愛いな」

 

 俺がセシリーから離れて起き上がった所で。ゆんゆんの傍にいたジハードが飛んできてじゃれついてくる。

 

「あー……やっぱジハードの触り心地は最高だなぁ…………ミネアにも負けてないぜ」

 

 その黒い宝石のような体を撫でながら俺はその感触にひたる。…………あぁ、もうずっとジハードを撫でていたい。ジハードも嬉しそうな声あげてるし別にいよな。

 

「この人……さっきまで女の人にセクハラしてたと思ったら、いきなり無邪気に人の使い魔を撫で始めてるんですけど…………なんなんですか…………」

「ダ、ダスト君? なんだか幸せそうだけど、そんな堅い鱗に覆われてる体より、お姉さんのおっぱいのほうがさわり心地いいわよね?」

「あん? ふざけたこと言ってるとぶっ飛ばすぞ。ジハードのさわり心地の方がいいに決まってんだろうが」

 

 比べることすらおこがましいっての。

 

「うん…………この人女好きだけどそれ以上にドラゴンバカでしたね。まぁ、ハーちゃんが嫌がってないみたいだから好きにさせますけど」

「そ、そんな……お姉さんのパーフェクトボディ以上の触り心地なんて…………」

「嘘だと思うならお前も触ってみるか? ちょっとだけならジハードも許してくれると思うし」

 

 あんまりジハードをゆんゆんや俺以外に触らせたくはないんだが…………まぁ、胸と尻を触った分くらいは許してやろう。

 

「ハーちゃんの許しも大事ですけどその前に主である私の許しも得てくれませんかね。…………聞いてないみたいですしもういいですけど」

 

「そうっとだぞ? あんまり強く撫でるとジハードが嫌がるからな」

「分かったわ。…………っ、嘘、何この触り心地…………堅いのに妙に弾力があって……まるで柔らかい宝石みたい……!」

「すげーだろ? この柔らかさは生まれて2、3年のドラゴンにしかねーからなぁ。それ以降もまた格別のさわり心地ではあるんだが」

 

 まぁ、なんにせよドラゴンの触り心地は最高ってことだ。その中でもジハードとミネアの触り心地は至高。

 

「これは悔しいけどお姉さんの負けを認めるしかないわね…………ねぇ、ダスト君。もっと強く撫でていいかしら?」

「ちっ、しゃあねぇな。俺がドラゴンのちゃんとした撫で方を教えてやるよ。そしたらジハードも嫌がらねぇだろうしよ」

 

 俺と同じように夢心地でジハードを撫でているセシリー。ドラゴンの魅力に気づいたのならそれを無下にするというのも可哀想だろう。

 

 

「あー……私の使い魔人気者だなぁ………………いいなぁ」

「ん? 何してんだよぼっち娘。そんなとこに突っ立ってないでこっち来てお前も一緒にちゃんとした撫で方覚えろよ」

 

 ゆんゆんの撫で方は丁寧ではあるんだがおっかなびっくりって感じで撫でても撫でなくてもあんまり変わんない感じなんだよな。そんなんじゃジハードも喜びきれないし、ゆんゆんもジハードの触り心地をちゃんと楽しめない。いい機会だからちゃんと教えてやろう。

 

「えっと…………私も一緒でいいんですか?」

「はぁ? なんか一緒じゃダメな理由でもあんのか?」

 

 何故か来たそうにしてるくせに来ようとしないゆんゆん。

 

「だって……お二人って付き合ってるんですよね? 恋人同士がイチャツイてる所に入っていくのはなんだかなぁって」

 

 ……………………

 

「おい、あのぼっち娘ついにぼっちをこじらせて頭おかしくなったんじゃないか?」

「うふふ……お姉さんとダスト君の熱い関係がついにバレちゃったみたいね」

「ダメだ。最初から頭おかしいこいつに聞いた俺がバカだった」

 

 学習能力ないな俺。こいつにまともな会話を求めるとか。

 

「あ、あれ!? その反応付き合ってないんですか!?」

「いや……むしろ何でお前は付き合ってるだなんて思ったんだよ」

 

 俺とこいつの間にそんな雰囲気なんて欠片もないだろうが。

 

「だって……街中であんなエッチなことしてたんですよ? セシリーさんも嫌がってる様子じゃなかったですし…………」

「いや……この女がセクハラされて嫌がるわけ無いだろ?」

「む、失礼ねダスト君。私だってセクハラされて嫌な相手くらいいるわよ。可愛い女の子やカッコイイ男の子とダスト君ならいつでも歓迎だけど」

 

 ま、こんなやつだからな。嫌がってないから恋人同士だなんて考えるなんてバカバカしすぎる。

 

「で? なんでかっこいい男と俺を別のカテゴリで言った?」

「そんなことを私に言わせたいの?…………ダスト君のえっち」

 

 …………やっぱこいつとまともに会話しようとするほうが間違ってるな。

 

「てわけだ。俺とこいつは恋人同士だなんてありえないからさっさとこいよ。俺もこいつもお前の友達なんだから遠慮する理由はねーだろ? むしろ俺に取っちゃ友達の友達のセシリーが遠慮するなら分かるが」

 

 ジハードの主はゆんゆんなんだから、セシリーなんかよりずっと学ぶ権利と義務がある。

 

「え? ダスト君お姉さんのことそんな風に思ってたの? 友達以上恋人未満の甘酸っぱい関係だと思ってたのは私だけ?」

「間違いなくお前だけだから安心しろよ守備範囲外。…………ん? 何を笑ってんだよゆんゆん」

 

 こっちに歩いてきながら。ゆんゆんは肩を震わせて笑っている。

 

「いえ…………っっ……すみません。なんだか楽しいなぁって」

「はぁ? お前もわけわかんないやつだな…………まぁいいや。んじゃ、講義始めてやっからそこに座れ」

 

 何が楽しいのか分からないゆんゆんを座らせ、

 

「ねぇ、ダスト君! せめて友達! 友達になりましょう! これだけ付き合ってて友達の友達なんてあんまりだと思うの!」

「あーはいはい。ジハードが怯えるからあんまり騒ぐんじゃねーよ。友達くらいなら認めてやるから静かにしろ」

 

 うるさい残念プリーストを黙らせて、

 

「うし、じゃあまずはドラゴンの撫で方の歴史から説明始めるぞ――」

 

 平和な昼下がりの中、講義を始めるのだった。




どんな過去があろうとダストがろくでなしのチンピラなのは変わらないです。


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第17話:二人の関係

 刃もないただの木剣。本来なら殺傷能力なんてほとんどないはずの訓練の用の剣が、当たりどころが()()()()()()死にかねない威力を持って俺に迫ってくる。

 

(っ……ほんとこのロリっ子は狂ってるな!)

 

 その一撃を紙一重で避けながら俺はアイリス――この模擬試合の相手――の強さを改めて実感する。

 

「流石ですね、今のを避けるなんて」

「槍使いが自分の間合いより内側に入られてる時点で褒められるもんじゃねーよ」

 

 続けてくる斬撃に近い打撃の波を穂のない槍で弾きながら、俺は防戦一方の今の状況に歯噛みして答えた。

 

(剣に対する槍の優位性はその間合いの広さだ。その優位性を簡単に譲ってたら話にならねぇ)

 

 魔法も何もない武器のみの戦いではどうやって自分の間合いで戦うかが一番重要だ。槍の間合いで戦えば剣は勝てないし剣の間合いで戦えば槍は勝てない。そして、その自分の間合いに持っていくのは間合いの長い方が簡単だ。

 

(集中しろ……ライン(昔の俺)なら息をするより簡単にできたはずだ)

 

 何年もサボっていた俺があの頃と同じように戦えるなんて都合のいい話はない。だが、死と隣り合わせで駆け抜けたあの日々が全てなかったことになるなんてこともないはずだ。

 

 月日に埋もれたその残滓を掘り起こし、かつての自分を可能な限り再現する。

 

「……切り替わりましたか。少しずつ早くなっていますね」

「本当は槍持った時点で切り替えて―んだがなっ!」

 

 剣と槍。互いの間合いを見定めた俺は、ロリっ子の攻撃を大きく弾き、後退する。

 

「仕切り直し…………ここからが本番ですね」

「俺は最初っから本番なんだけどな…………ま、たしかにお前にとっちゃここからが本番か」

 

 互いの間合いの外で。楽しそうに笑うアイリスに冷や汗をかきながら。一つだけ大きく息を吐いて槍を構え直す。

 

「こいよ。少しは楽しませてやる」

 

 一段階スピードを上げて迫ってくるアイリスを構えた槍で迎えて。俺は自分の間合いを維持するのだけに集中して打ち合いに応じていった。

 

 

 

「だーっ……また負けかよ」

 

 その場に自分の体を投げ捨てながら。模擬試合の結果に俺は悔しがる。

 

「こんなことならもう少しくらい『槍修練』スキルにポイント振っとくんだったか」

 

 『修練』系のスキルはその武器を使用した時の威力や命中率を上昇させる効果がある。ポイントを振れば振るほど効果が上がるそのスキルに俺はライン時代に1ポイントだけ振っていた。

 

「……その話、今でも信じられないのですが。王国一と言われた槍の使い手のダスト様が、『槍修練』スキルにほとんどポイントを振っていないなんて……ぃっっ」

「アイリス様、口の中も切られてるんですか? 回復ポーションを塗りますから口を開けてください」

「れ、レイン! 口の中は後で鏡を見ながら自分でするから! というより、もう普通に飲ませて!」

 

 治療をしてくれているレインにアイリスは顔を赤くして抗議している。口を開けて薬塗ってもらう所を他人に見られるのが恥ずかしいんだろうか。

 まだまだロリっ子なんだから気にすることね―だろうに。まぁ、今が成長期みたいだし1年後は結構大人の体になってそうではあるが。

 

「ダメですよアイリス様。怪我をそのままにして帰ってクレア様に気づかれたら大変なことになります。…………大変なことになるのはダスト殿でしょうし、別にいいような気はしますが」

 

 おいこら。

 

「それに回復ポーションは確かに飲んでも効果はありますが、塗ったほうが少量で効果が高いんです。戦闘中ならともかくそんな無駄遣いはダメですよ。……この回復ポーション一ついくらすると思ってるんですか」

「…………はーい。……はぁ、なんだか最近レインが前よりも口うるさくなった気がします」

「それはアイリス様が以前よりもわがままをおっしゃられることが増えてるからですからね」

「……お兄様の所に家出をしようかな」

「泣いてお願いしますからからそれだけはやめてください!」

 

 …………どこの国の姫様付きも変わんねーんだなぁ。少しだけ親近感わくし助け舟出してやるか。

 

「アイリス、さっきの話だが、俺が『槍修練』のスキルにポイント振ってないのがそんなに不思議か?」

「あ、はい。凄腕と言われる武器使いの方はたいていその武器の修練スキルを多く振っておりますので。ミ……ミタラシ様も確かそうでしたし」

「ミツ……ルギ殿ですよアイリス様。ミツルギキョウヤ殿です。なんですかそのなんだか美味しそうな名前は」

 

 え? 魔剣の兄ちゃんの名前ミタラシじゃなかったのかよ。爆裂娘もみたらし言ってたしそっちが正しいと思ってた。……あー、でもあの白スーツの女はミツルギとか呼んでたような気もしないでもない。

 

 ……………………まぁ、どうでもいいか。魔剣の兄ちゃんは魔剣の兄ちゃんだ。

 

「確かに修練スキルにポイント振れば確実に腕前は上がるし、たくさん振れば国一番の腕前になるのも簡単だろうな」

 

 レベル上げの時間を考えなきゃすぐに腕前上がるし。初期ポイントが多いやつなら冒険者カード作った時点で凄腕と言われる武器使いになるのも可能だろう。

 どんなに訓練しても攻撃が当たらないクルセイダーでも修練スキルにポイントを振ればすぐに攻撃が当たるクルセイダーに早変わりだ。

 

「だがな、修練スキルを取らなきゃ凄腕になれないなんてことはない。……ちゃんと時間かけて特訓して、多くの実戦を経験すればその腕前はちゃんと上がるんだよ」

 

 よっぽどその武器を使う才能がないとかじゃない限り。つまりララティーナお嬢様は諦めろ。まともに戦いたければ大剣修練スキルにちゃんとポイント振れ。……あの不器用さだと大剣修練スキルにポイント振るのにも余計にポイント消費しそうだけど。

 

「ま、スキルシステムってのは結局補助具みたいなもんだ。スキルを取ればそれが確実に出来るようになるってだけで、なくてもできるやつは出来る。スキルによって難易度はぜんぜん違うけどな」

 

 簡単なもので言うなら料理スキル。あれば美味しい料理が作れるがなくても美味しい料理を作るやつは作る。ただ、スキルなしで美味しい料理を作るやつは長年料理を続けている事が多い。

 逆に難しいのは魔法系のスキルか。あれも理論上はスキルなしでも覚えられるが、覚えるには膨大な知識と魔法を操る感覚を自分で掴まないといけない。もう少し体系が整理されたらスキルポイントなしでも2、3年の修行で覚えられるようになる時代がくるかもしれないが……今の時代じゃ素直にスキルポイントに頼ったほうが現実的だ。

 

「スキルを取ればすぐに腕前が上がるし、しかもどんなに怠けても腕前が下がるなんてことはない。……ホント便利なもんだぜこのシステム」

 

 一体全体誰がなんのために作ったのかね。冒険者カード自体は人間が作ったと聞いてるが、その作った人間は間違いなくまともじゃない。

 

 

 

「ポイントを振らなくても腕前が上がるというのは分かりました。ポイントをほとんど振らずに王国一の槍使いと言われるほどになるとは、相当訓練されたのですね」

 

 アイリスの治療を終え、俺の横にやってくるレインを見ながら。俺はアイリスの質問に答える。

 

「訓練はぶっちゃけそんなしてねーな…………おい、レインのねーちゃんよ、なんでそんなに離れて座ってんだ。それじゃ治療しにくいだろ?」

「………………近くに座ったら毎回セクハラされるのでダスト殿とはこの距離が最適だと学習しました」

 

 しっかりしてるねーちゃんな事。そういうところも含めて割りと好みの女だ。貴族じゃなければ本格的に口説くんだが。

 

「訓練をしていない…………では、それだけダスト様が槍使いとしての才能に溢れていたということですか」

「……才能があった事自体には否定しねーが、それだけで王国一になれるほどあの国は甘くねーよ」

 

 あの国は兵の数こそ少ないが兵の質は悪くない。流石に一兵卒まで下がればこの国の兵士には負けるだろうが指揮官クラスやその直属くらいまでなら負けていない。特に最上位クラス、ドラゴン使いとドラゴンナイトのみで構成された騎竜隊は局地戦では無類の強さを誇る。

 上位ドラゴンがいなくなった今、その強さは全盛期の半分以下まで落ち込んじゃいるだろうが、それでも人類側が持つ最強の部隊のはずだ。

 だっていうのに、その部隊が魔王軍と戦い続けているこの国に派遣されず遊ばされてるあたり、あの国の糞っぷりが分かる。風のうわさじゃ最近は魔獣使い、モンスターテイマーの雇用も推し進めてるらしいし、本当何を考えているのか。

 

「ダスト殿はアイリス様と戦っている時や、何か考え込んでいる時は別人のような顔になりますよね。いつもそうしていれば多くの女性に慕われるでしょうに」

「なんだよ、俺に惚れたのか?」

「そういう笑えない冗談はちょっと……。すぐにチンピラ顔に戻られなければ少しは考えるんですが」

 

 どっかのぼっち娘にも言われたがチンピラ顔ってマジで何なんだよ。

 

「レイン、私としてはレインがダスト様と付き合ってこの国に引き抜いて来れたら嬉しいんですが……レイン、そっちの方面で籠絡とかやってみませんか?」

「しませんよ! というか誰ですかアイリス様にそんな事を教えたのは!?」

「お兄様ですね」

「…………アイリス様、そろそろあの人やあの人が教えたことは忘れてくれませんか?」

「マジ無理ですね」

「…………本当恨みますよカズマ殿」

 

 そもそも本人の前で籠絡しろとか言ってどうすんだよ。……知ってても美人に迫られたら引っかかりそうではあるが。

 

「けど、本当カズマってロリコンだよなぁ……爆裂娘といいアイリスといい、ロリに手を出す率高すぎだろ」

 

 本人はロリコンじゃないと否定してるが。まぁ、ララティーナお嬢様ともいい雰囲気なってるみたいだし拗らせてないだけマシか。

 

「お兄ちゃんをロリコン扱いしないでください! マジぶっ飛ばしますよ!」

「お、おう…………。おい、このロリっ子やばくね?」

 

 お姫様としてこの言葉遣いはまずいだろ。

 

「…………これでも私が元の言葉遣いに戻るように頑張ったんです。おかげで普段は割りとまともなんですが、怒ったりするとこれなんです」

「誰の影響でって……カズマの影響以外ないか。あいつもろくなことしねーな」

 

 流石俺の悪友。アクセル随一の鬼畜冒険者なだけはあるぜ。

 

 

 

「…………あれ? レイン、私たちは一体何の話をしてましたっけ?」

「…………なんでしたっけ? もう、ダスト殿がまともな顔をするから忘れたじゃないですか」

「それ本当に俺のせいか? どいつもこいつもとりあえず俺のせいにしとくかみたいなスタンスは何なんだよ」

 

 レインみたいな基本的にまともなやつにまでそんな扱いされるとちょっとへこむぞ。

 

「? ダスト様はそういう扱いをされると喜ぶんじゃないんですか? セシリーお姉さんにそう教えてもらったのですが……」

「あの残念プリーストか……」

 

 今度あったらどうしてくれよう。………………本当どうしてやればいいのか。あの女生半可なことじゃなんでも喜びそうだから困る。まじで首輪つけて散歩でもさせるしかないかもしれない。

 

「まぁ、いいや。何の話って俺の槍の腕前の話じゃなかったか?」

 

 それが何故か二転三転するというか、脱線しまくってるけど。

 

「そうでした。才能だけじゃ王国一になれないのなら、特訓はほとんどせずにどうやって王国一に……」

「決まってんだろ。実戦だよ。……気を抜いたら一瞬で死ぬような実戦続きで、生き残るためには腕を上げるしかなかったんだよ」

 

 もちろん、最初に振っていた『槍修練』スキルと、両親健在の頃に教えてもらった事が技術が前提ではあるんだが。それを伸ばしていったのは間違いなく実戦の日々だ。

 

「死ぬような……? ダスト様は中位ドラゴンと契約されていたのですよね? 中位ドラゴンと契約されているドラゴン使いが死にかける戦いとなるとそれこそ魔王軍幹部や大精霊クラスの相手しかないような……」

「ん? ああ、そういや言ってなかったっけか。両親が死んでから俺は契約するドラゴンがいない時期があってよ。ドラゴンがいないドラゴン使い状態で国から出されたクエスト消化してたんだ」

 

 本当あの頃は明日死ぬんじゃねーかっていつも思ってたな。

 

 『ドラゴン使い、ドラゴンいなけりゃただの人』

 

 ドラゴンのいないドラゴン使いとか本当に何の能力もないからな。むしろ全職業中唯一基本ステータスに制限がかかる職業だし、ドラゴンいない状態だと間違いなく最弱。ドラゴンナイトになればステータス制限はなくなって全体的に少しだけ上昇するからドラゴンいなくても多少はマシだけど。

 

「ドラゴンいなけりゃ竜言語魔法も使えないし本当槍一本が俺の武器だったからなぁ。一緒に戦う仲間もいないのにそれだけで白狼の群れを相手にしたりマンティコアやグリフォン相手にしてたら…………あれ? 何で俺死んでないんだ?」

「「それはこっちの質問です」」

 

 だよな。まぁ、聞かれてもどうして生き残ったかなんて分かんねーんだけど。

 

「まぁ、あれだ。とにかく死ぬような目に国に合わされ続けた俺は、はれてドラゴンナイトになる資格を得てミネアと契約。最年少でドラゴンナイトになって王国一の槍使いって呼ばれるようになったってわけだ」

 

 だからまぁ、才能があった事自体は否定しないが、才能だけでなれたとは言えない。というより才能がなくてもあの日々を生き残れるなら、誰だって国一番の槍使い位にはなれるんじゃねーかな。才能ゼロなら多分途中で死ぬけど。

 

「最年少ドラゴンナイト様…………話は聞いていましたが、まるで冗談のような方なんですね」

 

 まぁ、俺も昔の俺は冗談みたいな存在だと思うが…………。

 

「お前にだけは言われたくないぞロリっ子」

 

 実戦経験がほとんどないのにアホみたいに強いこいつにだけは本当に言われたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~あぁ…………ねみぃ……帰り着いたらさっさと寝るか」

 

 レインにテレポートでアクセルに送ってもらった後。馬小屋への道を歩きながら俺は大きな欠伸をする。

 

(やっぱ遅くなるんだよなぁ……はぁ、明日のゆんゆんとのクエストサボりてぇなぁ……)

 

 でも、ジハードとのふれあいの時間も欲しいんだよなぁ…………ゆんゆんだけクエストにいかせてジハードは俺が預かるとか出来ねーかな。

 

 そんなことを考えながら。俺は眠たい足を引きずってなんとか借りている宿の馬小屋へとたどり着く。

 

「あ、ダストさん、やっと帰ってきました。もう少しで今日の『夢』はキャンセルになるところでしたよ」

「…………もう、そんな時間かよ。悪かったなロリサキュバス。待たせちまったみてーで」

 

 帰り着いた殺風景な馬小屋には、そこに似つかわしくない可憐さと少しの淫靡さを漂わせる幼い少女の姿。俺らあの店の常連からは新人ちゃんだのロリサキュバスだの呼ばれているサキュバスの姿があった。

 

「別にいいですよ。今日の私の担当さんはダストさん以外は鬼畜の常連さんだけでしたし」

「またカズマの奴来てんのかよ。最近多くねーか?」

 

 またこの宿に泊まりにきてんのか。アクアのねーちゃんがいるからあの屋敷じゃ頼めないのは分かるんだが…………こんなに頻繁に外泊してて怪しまれないだろうな。

 

「なんでも最近焦らしプレイばっかりだそうで……夢を見なきゃやってられないと」

「……カズマも苦労してんなぁ」

 

 もしかしたらその苦労の原因は、俺がララティーナお嬢様をけしかけた事に少しあるかもしれないが。

 

「ちなみに今日のカズマの夢の内容は?」

「いつも言ってますけど、そのあたりは守秘義務があるんです。破ったら地獄に送還されちゃいます」

 

 流石は安心安全のサキュバスサービス。客のプライベートはきっちり守ってやがる。

 

「しっかし地獄ねぇ……サキュバスはバニルの旦那の領地に住んでんだっけか」

「そうですよ。クイーン様のもとでたくさんのサキュバスたちが住んで働いています。……ちなみに、地獄に強制送還されたサキュバスはクイーン様に恐ろしい罰を与えられるとか」

「ちょっとその罰を詳しく教えてくれ」

 

 サキュバスクイーンがやる罰とか絶対エロいだろ。

 

「…………ダストさんって本当自分の欲望に正直ですよね。悪魔の私が感心しちゃうレベルって凄いと思いますよ」

「それ絶対褒めてないよな?」

「いえ、褒めていますよ? その生き方は悪魔の理想そのものです。バニル様がダストさんの事を気にいっているのも多分そのあたりがあるんじゃないでしょうか」

「…………褒められてんだろうが全然褒められてる気がしねぇ」

 

 実際俺がそうして生きてるのは間違いないから否定はできないんだが。

 

「ふぁー……まぁいいや。さっさと寝るから『夢』はよろしく頼むぜ」

 

 藁に敷かれた白布の上に疲れた体を預け、俺はロリサキュバスに一日の最後の楽しみを頼む。

 

「それは仕事ですからもちろんですけど…………また、同じ夢でいいんですか? ここ最近ずっと同じ夢ですよね?」

「気持ちいい夢ならなんだっていいしな。シチュエーション考えてリクエストするのも面倒だし、かと言って新人ちゃん言われてるお前に今からおまかせすんのもあれだし」

 

 このロリっ子はまだサキュバスとしちゃ未熟って例の店の店長が言ってたからな。

 

「これでも最近は腕を上げてるんですよ? 鬼畜の常連さんとかムッツリの常連さんとかは結構いろんな状況の夢をリクエストされますから、私も色々勉強させてもらってるんです」

「ふーん……カズマとテイラーがねぇ…………あいつらが見ている夢を見せてもらうとかは…………出来ねぇんだよな」

 

 サキュバスが勉強になるという夢の内容。男としては非常に気になる。…………まぁ、同じ男だから大体分かる気もするが。

 

「はい、守秘義務違反ですからね。そんなに気になるのでしたら本人に内容を聞き出してください」

「そうするか」

 

 教えてくれるかどうかはしらねーけど。まぁ、教えてくれなければバニルの旦那に付き合ってもらって見通す力使ってもらおう。

 

「それでは、今日の夢はいつもと同じ『17歳のぼっち娘とのイチャラブ』で宜しいですか?」

「おう、それで頼むわ」

「…………でも、あの怖い魔法使いさんってあと1年位で本当に17歳になりますよね? その時はどうするんですか?」

 

 あいつももう16だもんなぁ。確かに1年経てば17になる。

 

「その時は普通に『18歳のぼっち娘とのイチャラブ』になるだけだから心配すんな」

「いえ、別に心配してるわけじゃないんですが…………いまいちダストさんとあの怖い魔法使いさんとの関係がよく分からないです」

「奇遇だな、俺もよく分からねーわ」

 

 あいつとの関係は色々混ざりすぎて何が何だか分からない。強いて言うなら『ダチ』なんだろうが……それもなんかしっくりこないんだよな。

 

「まぁ、あんな守備範囲外のクソガキのことはどうでもいいや。じゃなロリサキュバス。俺は寝るわ」

 

 そう言って俺はさっさと目を閉じる。このまま起きてたら夢の途中でゆんゆんに起こされる事になりかねないし。

 

「はい、おやすみなさいダストさん。いい『夢』を」

「おう、おやすみ…………くぅ……」

 

 途切れかけの意識でなんとかおやすみを返して。疲れた体はすぐに俺の意識を『夢』の中へと連れて行ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ダストさん、起きましたか? おはようございます」

 

 外から差し込まれる朝の光に起こされて。目を開けた俺の視界に入ってくるのは大きな胸とぼっち娘の顔。頭に感じる藁とは違う柔らかい感触も合わせて考えればこれはあれか。膝枕か。

 

「おはよう……何をしてるんだ?」

「何って……膝枕ですよ」

「いや……なんで膝枕してるのかを聞いたんだが……」

 

 まぁ、いいか。いつものことと言ったらいつものことだ。

 

「えっ!?」

「? どうかしたのか?」

 

 そんなに驚いた顔をして。

 

「い、いえ…………なんでも…………。その……ダストさん? 私っていつもこんなことしてましたっけ?」

「はぁ? そんなこと聞くまでもないだろ?」

 

 聞かなくても自分が一番良くわかってるだろうに。そういう意味じゃいつもと様子が違うのかもしれない。

 

「けど本当こうしてみるとゆんゆんって顔と体だけは完璧なんだよなぁ……性格が生意気で歳が守備範囲外じゃなければ本当俺の理想の女だわ」

「えっと……どうしたんですか、いきなり? ダストさんが私のこと褒めるなんて……」

「? ゆんゆんのいない所じゃわりとゆんゆんのことは褒めてるぞ?」

 

 生意気だし俺に対しては毒舌ばっかだから本人に直接褒めることは少ないが。リーンとかとゆんゆんのことについて話す時はわりと褒めてる気がする。

 

「…………もしかしてダストさん、気づいてますか?」

「? もしかして俺が気づいてるって気づいてなかったのか? 旦那」

「…………通りで汝の反応がおかしかったわけだ」

 

 ゆんゆんの顔でため息を付いて。バニルの旦那は話し方を変える。

 

「どこで気づいたのだ? 少なくとも見た目は完璧のはずなのだが」

「うーん……どこって言われると難しいんだが…………なんとなくだな」

 

 たとえばゆんゆんなのにジハードが一緒にいないこととか。たとえばゆんゆんからジハードの匂いがしないからとか。そんなことが重なってゆんゆんじゃないなって判断したに過ぎない。

 

「…………汝のドラゴンバカっぷりを忘れておったわ」

「そんなに褒めるなよ旦那」

 

 俺のドラゴンバカっぷりなんてまだまだだっての。

 

「というか、そういう旦那こそ俺が気づいてるってなんで分からなかったんだ? 旦那の見通す力があれば余裕だろ?」

 

 それくらいすぐに分かりそうなもんなんだが。

 

「ふーむ……前にも言ったやも知れぬが、汝やぼっち娘はどこぞの駄女神やポンコツ店主程でなくとも見通す力が効きにくい。表層意識を読み取るくらいであれば容易だが無意識で思っている事を読み取るとなると面倒なのだ」

「ふーん……見通す力もそんなに万能じゃないんだな」

 

 まぁ、面倒なだけでちゃんと読み取ろうと思えば読み取れるんだろうけど。

 

「そういや、なんで俺やゆんゆんは見通す力が効きにくいんだ? 未来を見通すならともかく無意識を読み取るのが阻害されるくらいに俺やゆんゆんが強いとは思えないんだが」

 

 まぁ俺はレベルだけは高いし、ゆんゆんも優秀なアークウィザードであるのは確かなんだが。ただ、アクアのねーちゃんやウィズさんほど旦那の実力に迫ってるとは全く思えない。

 

「うむ……だから、汝ら2人に見通す力が効きにくいのは強さ以外にも何か理由があると睨んでおるのだが……」

「その理由がわからないのか」

「一応仮説はある……が、現状はその程度であるな」

 

 なんとなく当たりはつけてるけど確証は全く無いってところなのか。

 

「ま、いいや。旦那ならそのうち答えを見つけるだろうし、その時に教えてもらえばよ」

「我輩の想像通りであれば汝に協力を頼むやもしれぬ。分かった時は汝にも教えよう」

 

 旦那が俺に協力を頼むねぇ……。逆は結構あるけど頼まれたことは一度もないよな。それだけ旦那にとって大事なことが関わってるんだろうか。

 

 

「ん…………そういや頼むっていや、俺も旦那に頼んどきたいことがあったんだ」

「ほぉ……この地獄の公爵にして七大悪魔である我輩に頼み事か。ちゃんと対価は用意しているのだろうな?」

「えーっと…………俺に対する貸しじゃダメか?」

 

 対価って言われても今の俺は大したもの持ってないからなぁ。

 

「我輩と汝の仲だ。別に構わぬが…………汝への貸しが結構溜まってきておるが大丈夫か?」

「大丈夫じゃねーけど…………というか、旦那が借りを返す機会作ってくれないのも問題だと思うぜ?」

 

 契約を大事にする悪魔への借りというのは言葉以上に重い。旦那は軽く言っているが、もしも俺が借りをなかったことにしようとすれば、()()()命を落とす。

 

「まぁ、悪魔との契約の意味をちゃんと分かっている汝であれば大丈夫であろう。頼み事を言ってみるといい」

「恩に着るぜ旦那。…………結局借りを返す機会については触れないあたりになんか嫌な予感がするけどよ」

 

 旦那のことだし本気で俺が嫌がることはさせないとは思うが。

 

 

「それで頼みというのは何なのだ? 我輩が今つけているぼっち娘の皮を譲って欲しいと、そういう頼みか?」

「守備範囲外のクソガキの皮もらってもなぁ……」

 

 守備範囲内なら是非とも貰いたいんだが。

 

「そうか……汝であればぼっち娘に化けて女湯に堂々と入りたいなどと考えていると思ったのだが……」

「旦那、後でゆんゆんの皮を譲って貰うことについて相談な」

 

 その手があったか。女同士なら警戒も薄いだろうしいつもよりセクハラも捗りそうだ。旦那天才かよ。

 

「汝のそういう所は好きにならざるをえない」

「俺も旦那のことはドラゴンの次くらいに好きだぜ」

 

 本当、旦那と一緒にいると楽しいことばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに。俺が旦那に本命のお願いを終えた所で、本物のゆんゆんが来てしまい、『ゆんゆんに化けてセクハラ作戦』は実行の前段階で失敗に終わるのだった。



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第18話:デリカシーのないチンピラ

「ふざけんな! なんでミネアを連れていくんだよ! ミネアは家のドラゴンだろ!」

 

 幼い俺はミネアの前に立ち、下卑た笑みを浮かべる男に叫ぶ。

 

「知っていますよ。ですが今は非常事態……魔王軍との戦争中なのです。上位ドラゴンがいない今、最高戦力である中位ドラゴンを遊ばせているわけにはいかないのですよ」

「遊ばせるって……ミネアは俺と契約するんだ。国のために働けって言うなら働くからそれでいいだろ」

 

 両親が命懸けで俺に残してくれたドラゴン。俺にとって相棒であり家族であるミネアを連れていかれまいと幼い俺は必死だった。

 

「面白いことを言いますね。国の最高戦力である中位ドラゴンを何の実績もない10歳の子供と契約させる? そんなドラゴンを殺してしまうような危険を犯すくらいなら遊ばせていた方がましですよ」

「どうやってもミネアを連れていくってのかよ……っ!」

「最初からそう言っていますが?」

 

 短いやり取りの中で幼い俺は理解してしまう。ミネアを連れていかれるのを止められないと。

 目の前の貴族が言っていることは暴論ではあるが理屈は通っている。その理屈を国が正論として認めてしまっているのであれば、それを覆すことは難しい。

 口八丁に振る舞えば、この場は追い返して時間を稼ぐことは出きるかもしれない。だが、出来るのはそれまでだ。国の正論に何の実績もない子供の正論では結果は見えている。

 

「……ミネアは国の保有ドラゴンになるんだよな?」

「そうなりますね」

 

 俺の故郷の国において。ドラゴン使いはその実績に応じて国が保有するドラゴンと契約する機会が与えられる。

 

「だったら俺が実績を……国が無視できないくらいの功績をあげれば、ミネアと契約できるはずだ」

 

 連れていかれるのが止められないのなら。俺とミネアがまた一緒にいるためにはそれしかない。……馬鹿な――まだあの国の貴族の悪辣さを知らなかった――俺はそう考えた。

 

「そうですね、ドラゴンナイトにでもなれば認めるざるを得ないんじゃないですか」

「……だったらすぐだな。俺のステータスならあともう少しでドラゴンナイトになれる」

 

 この時の俺のレベルは15。力のステータス以外は既にドラゴンナイトになれるだけの水準を満たしていたし、力も20レベルになるまでには届くだけの高さがあった。

 

「ほぉ……それは凄いですね。ドラゴン使いの素質を持ったものはステータスが著しく低いのが特徴だと言うのに。流石はあの男の息子と言ったところですか。…………まぁ、この国でドラゴンナイトになるにはそれだけじゃ資格が足りないのですが」

「……資格?」

「? 知らなかったのですか? この国において『ドラゴンナイト』の職に就くには資格が必要なことを。具体的には『ドラゴン使い』の職に就いてる状態で国が指定したクエストを500件達成することで資格を得ます」

「……なんでそんな制限があるんだよ」

 

 500という数が多いのか少ないのかは分からないが、すぐに達成できる数でないのは確かだ。

 

「普通に考えれば当たり前の話だと思いますがね。『ドラゴン使い』はまだ弱点が多く対処が可能ですが『ドラゴンナイト』には弱点などなく強大な力を持つ。そんな職になんの制限もつけないなど正気の沙汰ではありませんよ。力を悪用されれば盗賊などよりも多大な損害を国に与える」

 

 この貴族のことは殺したいほどに恨んでいるが、この言葉だけは今も返す言葉を持たない。むしろ何の制限もなしに就けるベルゼルグが異常だと俺自身思っている。

 

「……だったら俺が契約できる国のドラゴンはいるのか?」

「先程と同じ言葉を返しますが……なんの実績もない10歳の子供に契約させるドラゴンなど下位ドラゴンでもいませんよ」

「…………じゃあ、俺がミネアと契約するにはドラゴンのいない『ドラゴン使い』として500のクエストをクリアしろってことか?」

「そんな無理をしなくても15にでもなれば下位ドラゴンとなら契約させてあげますよ。一応はあの男の息子ですし、才能もあるようですからね」

「5年も待てるかよ……っ!」

 

 ミネアは俺にとってただの使い魔なんかじゃない。大切な相棒で家族だ。両親が死んですぐのこの頃の俺にしてみれば5年という時間は耐えられるものじゃなかった。

 

「なら、槍一つを武器にして『ドラゴンナイト』の資格を満せばいいでしょう。資格を満たせば年齢を問わずこのドラゴンとの契約を認めてあげますよ。……ドラゴンと契約しているドラゴン使いを前提としたクエストを500も生きてやり遂げられるとは思いませんがね」

「それでも…………ミネアと早く一緒にいる方法がそれしかないのならするだけだ」

 

 

 

 それから俺は何度も死ぬような目に遭いながら『ドラゴンナイト』としての資格を得るために戦い続けた。そして2年半という月日の末に『ドラゴンナイト』になってミネアとも契約を結ぶことが出来た。

 

 だが今にして思えば、滑稽なことこの上ない。死ぬような目に遭いながらあの国の言うことを聞き続ける必要なんてどこにもなかった。

 …………結局俺はあの国を捨てて逃げ出すのだから。だったらこの時点で逃げ出してた方がミネアとずっと一緒にいれただけマシだ。

 

(……もし、本当にここで逃げ出してたら俺はもう少しマシな自分だったのかね)

 

 こんなチンピラとしてでなくドラゴン使いとして過ごす今があったんだろうか。

 

(……でも、その俺はきっと()()()()とは出会ってないんだろうな)

 

 それは少しだけ寂しいかもしれない、と俺は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダストさん! 朝ですよ、起きてください!」

 

 俺の意識を浮上させようとする聞き慣れた声。

 

「…………あと1時間寝かせてくれ」

 

 だが藁の上に敷かれたシーツの感触と朝の肌寒い空気は俺に二度寝をしろと猛烈に誘惑し、浮かびそうになる意識をまどろみの中へと引きずり込む。

 

「私だけだったら寝かせてもいいですけど今日はテイラーさんたちも一緒ですよ。起きないとリーンさんが何て言うか……」

「知らねーよ…………あいつがなんだってんだ」

「そんなこと言ってリーンさんが怒ったらたじたじになるのダストさんじゃないですか」

「すぅ……その時はその時だ。とにかく今は寝る…………くぅ」

 

 頭の片隅じゃなんかまずいなと思っているが、今の俺の意識の大半は夢の中だ。適当に返事して全力で二度寝に励む。

 

「駄目です起きてください! って、タオルどれだけ強く握りしめてるんですか。ハーちゃんごめん、引っ張るの手伝って」

 

 俺に心地よい温もりを与えていたタオルが二人分の力で引き剥がされる。

 

「うぅ…………さみぃ…………」

「寒いんだったら起きてくださいよ…………というかダストさんの寝間着ボロボロですね。そんなだから寒いんじゃないですか? 買い換えればいいのに」

「寝間着なんて買う金ねーんだよ……ぐぅ……」

「一応最近はクエストちゃんとやってるのになんで金欠なんですか…………って、本当いい加減起きてください!」

 

 声の主は本格的に俺を起こそうと、遠慮なしに体を揺さぶってくる。だが、この程度で素直に起きるほど俺は甘くない。

 と言うよりここまでくると起きたらなんか負けな気がするし。

 

「『カースド――」

「――分かったよ。起きりゃ良いんだろ起きりゃ」

 

 暴力に屈して。ふぁ~とあくびをしながら起き上がれば見慣れた――出会った頃と比べれば大人びてきた――ぼっち娘の顔がすぐそばにあった。

 

「おはようございます、ダストさん。よく眠れましたか?」

「遠慮なしに起こしといてその台詞は喧嘩売ってるぞゆんゆん。昨日寝るの遅くてもうちょい寝ときたかったのによ。…………ま、おはようさん」

 

 ただでさえ馬小屋生活でよく眠れない環境で夜も遅いってなると朝は本当にきつい。そんな状況で遠慮なしに起こされたりしたら不機嫌にもなる。

 

「遅いって…………何をしてたんですか?」

「別に日課の鍛錬に少し興が乗っちまっただけだよ」

 

 半年前から始まったアイリスとの模擬試合。最近じゃ俺の槍の腕も大分戻ってきて試合が長引くようになってきている。最初の頃はアイリスに弱体化系の魔法をかけてなんとか戦えてたのが今じゃそれなしでも勝負になるあたりライン時代の7~8割くらいは戻ってきていると思っていいのかもしれない。アイリスに借りを作らないために始めた模擬戦だが、やはりというか俺にも得する部分が結構あった。

 …………アイリスが自分は聖剣あり、俺はミネアの力借りてる状態で本気で戦いましょうとか言った時は本気で頭抱えたが。

 

「鍛錬って…………ダストさんまたセクハラですか?」

「……なんでセクハラになんだよ?」

「それを私に説明させようとするとか…………そんなだからダストさんは未だに童貞なんですよ」

「絶対お前の思考回路がエロいだけだと思うんだが。……というかなんで俺が童貞だって知って……いや、別に俺童貞じゃねーからな」

 

 夢の中で百戦錬磨の俺は童貞じゃないはずだ。………………はずだ。

 

「キースさんがダストさんは童貞だってこの前教えてくれましたよ?」

 

 あいつはあとで一発ぶん殴ろう。

 やっぱテイラーはともかくキースもゆんゆんと引き合わせたのはまずかったか。なんだかんだで俺やリーンと付き合いが長くなってきたの考えれば、ゆんゆんもあいつらとダチになって損はないと思ったんだが。

 

「まぁ、ダストさんって信じられないくらい女の人にモテませんし、そうだとはずっと思ってましたけど」

「お前もお前で本当口が減らねーな!」

「むしろ最近は増えてる気がしますね」

 

 全くもってその通りなんだが、なんでこのぼっち娘はそんな台詞を笑顔で言ってるんだろうか。こいつ本当俺に対して遠慮なくなりすぎじゃねーかな。

 …………最初から俺に対してはなかったような気もするけど。

 

 

 

「まぁ、さっさと着替えていくか……リーンが怒るとめんどくせぇし」

 

 俺はボロボロの寝間着を脱いで冒険服に着替え始める。

 

「きゃっ……なんでいきなり脱いでるんですか!?」

「だから着替えるって言ってんじゃねぇか」

 

 人の話ちゃんと聞けよ。

 

「着替えなら私が出て行った後にしてくださいよ!」

「別に見られて減るもんでもねぇし……」

 

 守備範囲外のクソガキに見られたからってなんだってんだ。

 

「私が恥ずかしいんです!」

「はっ……16のクソガキがいっちょ前に色気づきやがって」

「そう言うならいつもセクハラしてくるのもやめてくれませんかね!……まぁ、ダストさんに今更口説かれても困惑するだけだからいいですけど」

「心配しなくても4つ下のお前を口説くなんてこと一生ないから安心しろよ。……ほら、着替えるの待っててやるからさっさと出ていけよ」

「うーん……確かに安心なんだけど同時にムカムカするこの気持ちは何なんだろう」

 

 微妙に苛立った様子で馬小屋を出て行くゆんゆん。

 

「…………生理か?」

 

 ボソリと呟く俺に外から飛んできた黒い雷が直撃した。

 

 

 

 

――ゆんゆん視点――

 

「なんでダストさんってあんなにデリカシーが無いんでしょう」

 

 微妙に苛々した気持ちが残りながら私はクエストの場所への道を歩く。

 

「そりゃ、ダストだからじゃないか?」

「……デリカシーがあるダストというのも違和感あるな」

 

 そんな私のつぶやきを隣を歩くキースさんとテイラーさんが拾ってくれた。

 

「…………納得してしまいました」

 

 そうだよね……ダストさんだからデリカシーがなくて当然なんだよね。

 

「…………納得されるダストも可哀想だなぁ」

「日頃の行いだろう。キースも気をつけろよ」

「ああ、ゆんゆんにデリカシーのない男だと思われるのは勘弁だからな」

 

 いえ、既にもうキースさんのデリカシーの無さはダストさんと同レベルですよ?

 とは思ってても口には出さない。私は大人な女性で毒舌なクソガキなんかじゃないんだから。

 

「でも、本当キースさんって話に聞いていたとおりの人ですよね」

 

 初めてリーンさんに会った時、自分と仲良くするのは止めたほうがいいって言っていた理由を、私はしっかりと実感していた。

 

「…………聞いてた通りってのはダストやリーンが俺について話してたことか?」

「? そうですけど」

 

 そもそも私が普段話すのは盗賊団のみんなとダストさんとリーンさんくらいだし。その中でキースさんのことを話すのはその2人に決まっている。

 

「おい、テイラー。もしかしなくてもゆんゆんの俺に対する好感度、ダスト並みに落ちてねーか?」

「知らん。だとしたら自業自得だろう」

「えっと…………流石にダストさんよりはマシですけど…………どうしてそう思ったんですか?」

 

 話に聞いていたとおりと言っただけなのに。

 

「そりゃ、あの2人が俺について話すことがまともなはずないからな」

 

 …………まぁ、確かに。キースさんことを話す2人は『悪いヤツじゃないんだが』って頭につけてるだけで散々ないいようでしたね。実際その通りだからあれなんですけど。

 

「実際キースはダスト並みにあれなやつだから仕方ないだろう。…………ちなみに俺のことについて2人は何か言っていたか?」

「えっと…………二人共テイラーさんは頼りになるって言ってましたね」

 

 ちょっとムッツリスケベな所はあるけど、そこは男だから許してやれとはダストさん。

 

「…………俺とテイラーで差がありすぎないか?」

「日頃の行いだ。悔しかったら反省しろ」

 

 ……反省したくらいでダストさん並みのチンピラがどうにかなるとは思えないなぁ。

 

 

 

 

「っと、そうだリーン。『あれ』また頼むわ」

「えー……別にしなくてもいいじゃん。『あの』噂は王都の方に移ったんだし」

「それはそうなんだが……最近は『あの』ことを知ってるやつが増えてるしよ。金はちゃんと払うから頼むぜ」

「金払うとか言って毎回ツケにしといてよく言うよ」

 

 

 

 前を歩く二人の会話。指示語が多いが2人はちゃんと意味が通じているらいしい。

 

「……ダストさんとリーンさんってお似合いですよね。付き合ったりしないんでしょうか?」

「ダストとリーンが? ……ないよな? テイラー」

「……まぁ、ないだろうな」

 

 私の言葉にキースさんとテイラーさんは揃って否定する。

 

「どうしてですか? お互いのことよく理解してますし、良いカップルになりそうですけど」

 

 ドラゴンのこと以外はチンピラなダストさんが、リーンさんのことは結構心配してたりするし。リーンさんもダストさんへの対応だけ他の男の人と違う気がする。だから、二人共憎からず思ってるんじゃないかなって思うんだけど……。

 

「だって……なぁ?」

「ああ……リーンは『ライン=シェイカー』が好きだからな」

「ライン=シェイカーさんってあの最年少ドラゴンナイトのライン=シェイカーさんですか?」

 

 今は王都の方にいるって噂だけど前はこの街にいたらしいし、会ったことがあるんだろうか。

 

「ああ、そのライン=シェイカーで間違いない。俺達は会ったことがないが昔色々あったそうだ」

「…………そんな人が好きなんじゃ確かにダストさんに勝ち目はないですね」

 

 ダストさん可哀想……。正直ダストさんの相手をしてくれる女の人なんてリーンさんくらいだし、リーンさんがダメならダストさんは一生童貞さんのままなんじゃ……。

 

「でも、そんな凄い人が相手だったらリーンさんの失恋の可能性も高いですし、ダストさんにもチャンスはあるんじゃないですかね」

 

 噂を聞く限りライン=シェイカーさんは多くの女性に慕われてるって話だし、その中からリーンさんが選ばれる可能性は低い気がする。例の話のお姫様や、今隣を歩いている相手を選ぶんじゃないだろうか。

 

「お、おう……そう……だな」

「…………あ、ああ」

 

 そんな私の言葉に何故かぎこちない返事をする2人。

 

「? どうしたんですか? 二人とm…………」

 

 どうしてそんな返事をしたのかは前を見ればすぐに分かった。

 

「おう、ゆんゆん。誰がこんなまな板をおこぼれで貰うって? 怒らないから言ってみろ」

「ゆんゆん? あたしたち友達だよね?…………だから誰の失恋の可能性が高いか言ってみて? 怒らないから」

 

 いつの間にか前を歩いていた2人が私を挟み込むようにして隣を歩いている。その顔は清々しいほどの笑顔なのに目が全然笑っていない。

 

「既に怒ってるじゃないですか! 謝ります! 謝りますから笑顔で近づいてくるのやめてください! って、キースさんもテイラーさんも逃げないでください! ハーちゃんも何で一緒に離れてるの!?」

 

 薄情な友達と使い魔に見捨てられた私は、怒った友人2人にほっぺたをつねられながらこちょこちょされるという生き地獄を味わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダスト視点――

 

「……ったく、ゆんゆんのやつ大きなお世話だっての」

 

 クエストが終わり、ゆんゆんたちと別れた俺は隣を歩くリーンにそう愚痴る。

 

「あはは…………まぁ、今回のことに関しては同意してあげる。たとえあたしがライン兄にフラれたとしてもダストと付き合うとかありえないしね」

「へいへい……俺だってできればお前みたいなまな板じゃなくて胸とか大きいやつと付き合いたいっての」

「モテないくせに高望みしちゃって」

 

 どうせ誰とも付き合えないなら理想くらい高く持ってもいいだろ。妥協して誰かと付き合えるなら妥協するけど。

 

「あ、でもあのアクシズ教徒のプリースト……セシリーさんだっけ? あの人ならダストでも付き合えそう」

「見た目は文句ないが……妥協するにしてもあれはちょっと……」

 

 それにあいつは多分付き合おうとかそういう雰囲気見せたら遠ざかっていくタイプだ。…………エロいことするだけの関係なら行けそうな気はするが。

 

「あの人付き合いだしたら尽くしてくれるタイプな気がするんだけどねー」

「それは分からないでもないが」

 

 あいつの女神アクアへの信仰っぷりを見てたらそう思える。……ま、だからこそ難しい気がするわけだが。

 

 

 

「ん……おい、リーン。鍵開けてくれ」

 

 目的地。リーンの泊まる宿の部屋について。鍵のかかった扉を前にして俺はリーンに頼む。

 

「ほいほい、――『アンロック』。ほら、入って」

 

 魔法で鍵を開けたリーンが先に部屋に入り、俺を招き入れる。

 

「……本当便利だよなぁ、魔法って」

「そう思うなら魔法使いになればいいのに。あんたって確かあたしより魔力と知力高かったよね?」

「まぁ……知力はともかく魔力だけはゆんゆん以上にあるし、アークウィザードになれるだけは確かにあるんだがな」

 

 母親の影響なんだろうが、何気に俺のステータスで一番高いのが魔力の値だったりする。レベルが追いつかれたら流石に負けるだろうが現状ならゆんゆんよりも魔力が上だ。…………戦士やってる俺には無意味過ぎることだが。

 

「もったいないよね。使わないならあたしに分けて欲しいんだけど」

「お前が俺と付き合うって言うなら分けてやらないこともないぞ」

「あ、じゃあ無理だ」

 

 即答しやがってこのまな板娘……。

 

「それに今はジハードちゃんがいるし魔力切れの心配もほとんどなくなったしね」

「本当魔法使いにとっちゃ便利すぎるよなドレインタッチ」

 

 それを自前で出来る高位の魔法使いとかリッチー怖い。

 

「残魔力気にせず魔法使えるようになったらから最近レベル上がるの早いんだよね」

「キースとテイラーにもちゃんと経験値回せよ? レベル差が付きすぎるのはいろいろ危険だからな」

「…………それ、ダストが言う? 今でもあたしより倍以上レベル上のくせに」

「まぁ……それはそれだ」

 

 実際俺のレベルが高すぎるからうちのパーティーはいつまで経っても駆け出しの街を出られない。

 まぁ、今となってはサキュバスサービスがあるから出たいとも思わないんだが。

 

 

「ま、いいや。ほら、ダスト。ここに座って」

 

 いろいろ話している間に準備が終わっていたのか。俺はリーンに促されて椅子に座る。

 

「悪いないつも」

「良いよ別に。このために貴重なスキルポイント使ったんだから」

 

 リーンは俺の後ろに立ち、魔法の詠唱を始める。…………これでリーンの胸が大きければ肩のあたりに胸が当たるラッキーイベントが起きたかもしれないが残念ながらまな板ウィザードでは望むべくもない。

 

「なんか失礼なこと考えられてる気がするんだけど気のせい?」

「別にリーンってまな板だよなって改めて実感しただけだ」

「…………加減間違えて白髪になっちゃったらごめんね」

「悪かった! 謝るからいつもどおりちょっと金髪がくすむくらいで頼む!」

 

 20歳で白髪とか勘弁だぜ。

 

「はぁ…………ほんとダストって口が減らないよね」

「ま、それは俺のアイデンティティだからな」

 

 姫さんの護衛をやってた頃はかしこまった話し方を強要されたこともあったが…………基本的にはいつだってこんな感じだった。

 

「……なんだかんだでライン兄も素だと口悪かったし、そういう所は変わらないのよね」

「…………正直な話なんだがな。俺の正体を知ってて、どうしてお前がそんなに『ダスト』と『ライン』を別人扱いするのか分からねぇ」

 

 俺の正体を知ってる奴らのほとんどは『ダスト』と『ライン』を同一視している。『ライン』という槍使いが『ダスト』というチンピラに偽装して過ごしていると。そんな中で徹頭徹尾別人として扱っているのはリーンと俺くらいだ。

 

「全然違うよ。あたしの知ってるライン兄は……あたしの大好きなライン兄は口は悪くても優しくて、ちょっと三枚目な所もあるけどかっこ良くて……それで誰よりも強い男なんだから。

 それに対してダストは……あたしの大嫌いなダストは口は悪ければ性格も悪いし、完全な三枚目でかっこいいところなんて全然ないし……ちょっと腕が立つと思ったら油断して簡単に死んじゃうし。

 ……ほら、ぜんぜん違うじゃん」

「…………そうかよ」

 

 ラインに関しちゃ美化入ってる気がするがダストに関しちゃその通りなんで否定はできない。

 

「……でも、最近のダストはなんだかライン兄に戻ってきてる気がする……ゆんゆんのおかげかな」

「どうだろうな。俺自身には自覚なんてねーけど……一番俺を見てきたお前がそう言うならそうかもしれねぇ」

「うん……絶対そうだよ」

 

 今更俺みたいなチンピラが『ライン』に戻れるとも思えないし、戻りたいとも思っちゃいないが……リーンが言うならそうなんだろう。

 

 

 『ダスト』になった俺をずっと見てきたリーンが言うなら。

 『ライン』が『ダスト』になった理由のリーンが言うなら。

 

 

 

「ね、ダスト。あたしがライン兄と会った時のこと覚えてる?」

「…………忘れるわけねーだろ」

「そっかな? だって、もう7年も昔のことだよ?」

「もう、そんなになるのか…………」

 

 7年。それだけの時間が経てば確かに何かを忘れるには十分過ぎる。

 

「だけど、やっぱり忘れるわけねーよ」

 

 

 ミネア以外全てを捨ててきた俺を救ってくれた少女との出会いを。

 他の全てを捨ててでも『ダスト』になろうと決めた少女の願いを。

 

 

 ――――忘れられるわけがない。



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第19話:魔王軍幹部

――7年前――

 

 

「あーあ……これからどうするかね」

 

 いろいろあって……本当にいろいろあって俺はあの国を出ることになった。

 

(……『出ることになった』とか綺麗に言い過ぎか。俺はあの国を捨てて逃げ出したんだ)

 

 今頃、俺のことがセレスのおっちゃんに知られている頃だろうか。

 …………シェイカー家が取り潰しになった原因を作り、何も言わずにミネアを連れてこの国を捨てる俺を、親代わりだった兄弟子はどう思うのか。

 

「……そんな心配そうな声するなよミネア。お前がいてくれたら何があっても大丈夫だからよ。俺はお前がいてくれたらそれでいいんだ」

 

 俺を乗せて飛ぶミネアの頭を撫でながら。俺は偽りのない本音を語る。

 ……偽りなんてないはずだ。俺はミネアと一緒にいるためにずっと頑張ってきたのだから。

 

「……なんでそんな悲しそうな声するんだよミネア」

 

 その悲しそうな声は俺の心を見透かしているようで、ばつが悪くなる。

 

 

 

 だから、それに気づいたのはある意味必然だったのかもしれない。

 

 

 

「…………あれは、どう見ても魔王軍だよな」

 

 気分を紛らわそうと見下ろした大地。そこに蠢く『アンデッドナイト』と『ポイズンスライム』の群れ。軍として見るなら小規模から中規模って所だが、自然発生する野良の群れとして見るなら数が多すぎるし、動きが整然としすぎている。特に本能的な動きが多いとされるスライム系モンスターでこれは異常だ。

 

「懲りずにまたあの国を落としに来たってとこか。…………魔王軍の勝利は揺るがねーのに勤労なことだ」

 

 あの国が落ちれば確かに戦略的な意味は大きい。

 魔王軍と勇者の国の戦い。それが曲がりなりにも戦いになっているのは一方面だけに戦線が集中しているからだ。もしもあの国が落とされて戦いが二方面になれば持って半年と言ったところだろう。

 

(だけど……『騎竜隊』っていう最強の部隊があるあの国を狙うのは何でなのかね)

 

 確かにあの国には魔王軍と正面切って戦う戦力はない。『騎竜隊』は人類側の最強戦力の一つだが、それはあくまで局地戦での話。戦線が長く広がる全面戦争になれば勝ち目はないし、そもそも『騎竜隊』は魔王軍幹部との相性も悪い。

 だが、ベルゼルグが健在な限り魔王軍は大軍で攻めることが出来ず、精鋭同士の戦いになるならあの国はある意味ベルゼルグ以上に落とすのが厄介な国だ。あの国を狙うくらいなら同じくベルゼルグの隣国で戦力なんてないに等しいエルロードを狙えばいいと思うんだが……。

 

(…………まぁ、どうでもいいか。俺にはもう関係のない話だ)

 

 あの国を捨てた俺には眼下に広がる魔王軍なんて何も関係ない。このまま何も見なかったことにして飛び去ればいいだけだ。

 

 

 

 

 

「お前ら、魔王軍だよな? 悪いがここから先に行かせるわけにはいかねーな」

 

 …………なのに、何で俺は魔王軍の前に降り立ってるんだろう。

 

「シルバードラゴンに金髪の槍使い…………当たりだな」

「みたいだな。……おい、さっさと終わらしちまえ」

 

 ドラゴンを連れて降り立った俺を見ても驚いた様子はなく、2人の指揮官らしい男たちは何かを話している。

 そして、黒ずくめの鎧を着ている方が右腕で()()()()()()()()て、左手で俺を指差し――

 

「汝に死の宣告を。お前は一週間後に――」

「――『状態異常耐性増加』!」

 

 ――『それ』が発動する前に目の前の首無し騎士(デュラハン)が何者かを理解した俺は、間一髪で自分の状態異常耐性をあげる。ミネアの力を借りている俺はもともと状態異常耐性がクルセイダー並に高いが、そんなもの簡単に超えてくるのが目の前のデュラハンだ。

 

「ふむ……レジストされたか。流石は最年少ドラゴンナイトと言ったところか」

「手を抜いてんじゃねーよベルディア。一週間なんてけちなことしねえで、一ヶ月後くらいに伸ばせばお前の死の宣告なら耐性抜けただろうが」

「そうは言うがなハンス。期限を伸ばせば確かに成功率は上がるが、それだけ解呪される可能性も上がる。それに今の手応えだと一ヶ月でも成功するかどうかは微妙な所だ」

 

(『チート殺し』ベルディアと『死毒』のハンスだと……!)

 

 俺は自分の選択が完全に間違っていたことを理解する。やっぱり何も見なかったことにして飛び去るのが正解だった。もしくは恥も外聞なくあの国に逃げ帰って『騎竜隊』と一緒に戦うか。必要最低限の竜言語魔法は俺にもミネアにもかけて強化してるが、それだけで楽観できるような相手ではないのだ、この魔王軍幹部の2人は。

 

「そんなこと言ってウィズが結界破って来た時のことがトラウマになってるだけだろ?」

「そ、そんなことはないぞ。いや、確かに死を目前にした人間の破れかぶれは油断ならないと思っているが」

「やっぱり怖がってんじゃねーか。心配しなくても今の魔王城の結界を破れるやつなんていないから、安心して死の宣告バラまきゃいいのによ」

「べ、別に怖がってるから前線に必要最低限しか出ないとかそんなことはない。ただちょっと部屋でごろごろしたり、ボーリングするのに忙しいだけだ」

「なお悪いじゃねえか。…………真面目に魔王軍幹部やってんの俺とシルビアだけなの本当なんとこしろよ爺。シルビアのやつも『死魔』に顔をいくつか喰われてから目に見えて弱体化してやがるしよ」

 

 …………本当に、こいつら俺の思ってる2人なんだよな? 魔王軍幹部で億単位の賞金がかかってる人類の敵。話聞いてるとなんか普通のおっさんたちっぽいんだが。いや、内容はちょっと情けないだけで物騒なんだけど。

 

「お前とシルビア以外は魔王城に引きこもってばかりだからな。引きこもってないやつも温泉回りしてたりだし。シルビアもシルビアで美形ばかり食おうとしなければさっさと力を取り戻せるだろうに」

「全くもって同意だが、そう思うならお前もちゃんと働け。……魔王の娘(嬢ちゃん)が筆頭幹部になるって聞いた時は楽できると思ったのによ。どっかの誰かと引き分けちまってからは修業が忙しいって言って前線に出ようとしねえし」

 

 …………どっかの誰かって誰だろうなぁ。

 

「というわけでどっかの誰かさんよ。後数年は俺が中心で働かないといけなくなったんだ。責任取って死ね」

 

 あー、はい。やっぱり俺ですかそうですか。

 

(…………今からでも飛んで逃げるか?)

 

 不可能か可能で言えば可能だろう。ベルディアとハンスに基本的には飛び道具や飛行能力はない。精々ハンスがスライムとして自分の体の一部を投げてくるくらいか。ミネアに乗って逃げ出せれば逃げ切ることはそこまで難しくないはずだ。

 

 

「はぁ…………なんでこう、俺は貧乏くじばっかり引いちまうのかね」

 

 そんな理屈に反して。俺は槍を構え、二人の魔王軍幹部に改めて向き合う。

 

「ミネアは、アンデッドナイトとポイズンスライムたちを頼む。一緒に戦えれば良いんだが…………正直あの二人を相手にするには相性が悪い」

 

 ドラゴンとドラゴン使いのタッグは最強の組み合わせだ。ドラゴンはドラゴン使いの強化で強くなるし、ドラゴン使いもドラゴンの魔力を借りて強くなる。だからこそ一緒に戦えば敵なしに思えるかもしれないが、一概にはそう言えない。

 ドラゴンとドラゴン使い、その互いに補助しあう能力と反して、一緒に戦うには体格が違いすぎるのだ。だからこそ、大きな相手と戦うのであれば一緒に戦ってもその力を十分に発揮できるが、小さな相手……人形程度であればそうはいかない。

 人形程度を相手にするのであれば、それぞれ別の相手と戦うか、素直にドラゴン使いは下がって竜言語魔法での援護に徹するか。そういった方法が取られる。

 だが、今回の2人を相手するにはミネアは相性が悪い。ベルディアの剣技やハンスの毒は強化されているミネアの防御力や状態異常耐性を抜いてしまう。

 それでも俺が戦うよりかは勝率は高いだろうが、ミネアをそんな危険に付き合わせる気はない。これは俺のわがまま…………いや、単なる気まぐれなのだから。

 

「そんな恨めしそうな目をすんなよミネア。心配すんな、俺は一人で戦うのに慣れちまってるからよ」

 

 それに、数の差で言うなら魔王の娘と戦った時のほうが厳しかった。その時と比べれば数が半分になってるし、なんとかなるだろう。

 

(…………なんて自分を騙せれば気が楽なんだけどな)

 

 ステータスだけだった魔王の娘とその親衛隊と違い、この2人はそれに経験が伴い、厄介な特性まで持っている。俺以上に多くの死線をくぐり抜けてきた2人を相手に、一人で戦えば負けるのなんて見えている。

 

(それでもやるっきゃねーよな)

 

 何故やるしかないのか、なんてことは考えない。そんなことを考えても俺は答えられないのだから。

 

「ほぉ……一人で立ち向かうか。……ハンス、手を出すなよ。死したとは言え元は俺も騎士。同じ騎士を相手に2対1で戦うことなどできない」

「ちっ……また悪い癖が出やがったか。……好きにしろ。だが、さっさと殺せよ? ドラゴンが戦い始めれば目立つ。邪魔が入る前に終わらせろ」

 

 ミネアがアンデッドナイトやポイズンスライムの元へ向かうのを幹部二人は見逃して。一人残った俺を前にしてそんなやり取りをしている。

 

「……ミネアを見逃していいのか?」

 

 二人のやり取りを見る限りハンスの方は俺とは戦わないようだ。だとすればミネアの方を相手にするのが普通だと思うんだが……。

 

「あん? お前を殺しちまえばあのドラゴンはただの中位ドラゴンだろ? わざわざ強化されてる今を相手する理由なんてねえよ」

 

 何を当たり前のことを言っているんだという風にハンス。

 

「……ま、手を出さないって言うなら有り難いからいいんだけどよ」

 

 その冷静な状況判断能力や、倒されるだろう魔物たちの命を何とも思ってない様子には薄ら寒いものを感じずにはいられないが、これはチャンスだ。2対1ならともかく、1対1ならまだ生き残る芽はあるかもしれない。

 ……ハンスがこの状況にリスクが少ないと判断していることを思えば、その芽は小さすぎるものだろうが。

 

 

 

「それじゃあ始めるとするか、最年少ドラゴンナイト。遊んでやろう」

 

 剣すら持たず、こいこいと手招きするベルディア。その余裕に頭に血が上りそうになるが、今は冷静さを失う訳にはいかない。

 一度だけ大きく息を吐いた俺は、自分の最速を持ってベルディアへと迫り突きを繰り出す。

 

「速いな。だが、真っ直ぐ過ぎる」

 

 並の相手であれば一撃で終わる……たとえグリフォンであろうとも形勢を決めるだろう一撃をベルディアは最小の動きで避け、地面に挿していた大剣を返しの刃で寄越してくる。

 

「だろうな……っ!」

 

 避けてからのカウンター。その動きを読んでいた俺は、大剣に槍の穂を合わせて弾き、その勢いを利用して大きく距離を開ける。

 

(一応最初の目的通り、相手の間合いは掴めたが……今の反応、相当厳しいな)

 

 今の突きは隙きの多いものだったしカウンターがくること自体は予想できていた。だが、剣を構えていなかった相手からの、しかも予想していたカウンターを防ぐのにギリギリというのは相当厳しい。

 

(下手には攻められねぇか……)

 

 槍は総じて見れば剣よりも優れた武器だ。間合いや突きの鋭さ、切り払いの速さなど、有利な点は多い。だが、一つ。防御の点で見るなら槍は剣に劣る。攻防優れた武器である剣に比べて、槍は攻撃に傾いている。つまり、自分より勝るやつを相手にするのであれば極力攻撃を受ける側になってはいけない。

 

(間合いを維持して戦えば、戦えないことはないだろうが……一撃を入れられるイメージがないな)

 

 ベルディアの大剣の間合いより、一応俺の槍の間合いの方が長い。ただ打ち合いをするだけなら続けることができそうだ。問題はそれじゃいつまでも勝てないってことだが。

 

「っ……話には聞いてたが、魔王軍幹部ってのは本当化け物じみてやがるな」

 

 それでもただ立っているだけという訳にはいかない。勝ちの目が見えなくとも、勝ちの目を探すために。俺はベルディアの大剣と打ち合いを始める。

 

「その歳でこの腕前…………貴様も十分化物だろう。たかが13歳の子供がウィズと同額の懸賞金を掛けられていると聞いた時は半信半疑だったが……魔王の娘(お嬢)を倒したことといい、俺の『死の宣告』をレジストしたことといい、確かにそれだけの実力はあるようだな」

「……魔王の娘は別に倒せてねーよ。相打ちだった」

「向こうはそう思っていないようだがな。実際、国を落としに行って戦果が敵の最高戦力と相打ちでは実質敗北だろう」

「…………なんか、恨まれてそうだな、魔王の娘に」

 

 さっきのハンスの話と合わせるとそんな感じだ。

 

「魔王軍筆頭幹部…………次期魔王の初陣に黒星をつけたのだ。当然恨まれるだろう」

 

 …………嫌だなぁ…………あいつとまた戦うとか考えたくないんだが。あの時はまだ魔王の娘に実戦の経験とかそういうのが足りてなかったみたいだからまだ勝負になったけど、次戦う時はそんなものなくなってそうだし。

 

「まぁ、そう気にすることでもない。貴様は今日ここで死ぬ。…………殺さねばなるまい」

「別にお前らならいつでも俺を殺せるだろ。そんな無理して殺さないでもいいんじゃねーか」

 

 そんでもって今日の所は俺とミネアを見逃してくれて、ついでにあの国を狙うことも延期してくれたら最高なんだが。

 

「今の貴様ならたしかにいつでも殺せるだろう。だが、未来は分からない。……正直驚いている。本気ではないとは言え、俺とこれほどの間打ち合える人間など数えるほどしかいなかったというのに」

 

 …………さっきまで余裕見せてたくせに、いつの間にかその余裕(ゆだん)なくなってやがる。こっちはまだ全然勝ちの目が見えてないってのに。

 

「というわけだ。貴様がまだ俺の手に負える今で殺してやろう。…………1対1でこれを使うのは随分久しぶりだ」

 

 何かがくるのを察した俺は打ち合いをやめて大きく距離を離す。だが――

 

「――判断は悪くない。だが、遅いな」

 

 ()()からの声。その声が届く前に、俺の体は頭部(かせ)のなくなったベルディアによって複数の傷がつけられる。

 

「ふむ……仕留め損ねたか。1対1で仕留め損ねたとなると…………もう覚えてないな」

 

 感心している様子のベルディア。興味深そうな……あるいは楽しそうとも言えるベルディアに反して、俺は心底焦っていた。

 

(…………完全に超えられた)

 

 自分の速さを。自分の予想を。

 

 頭部を投げることでデュラハンであるゆえのハンデをなくしたベルディア。その動きは、俺の対処できる速さを完全に超えていた。致命傷こそ避けられたが、次も避けられるかは分からない。続けられればどこかで終わるのは目に見えてた。

 

「…………こっちは攻撃当てられる気がしないのに、向こうは確実にこっちを削ってくる。これ詰んでねーか?」

「詰んでるな」

 

 …………そんな簡単に言わないでくれませんかねベルディアさん。いや、実際詰んでるんだろうし質問したのは俺だけど。

 

「抵抗しないなら苦しまずに殺してやるがどうだ? 勝負の決まった戦いをネチネチと続けるのは性に合わないのだが」

「…………まだ、決まってねーよ。手はないわけじゃない」

 

 確かに最初に決めた勝利条件を満たすって意味なら詰んでる。

 だが、勝利条件を変えるのなら、勝てないことはない。

 

(…………でも、それは最後の手段だ)

 

 今はまだ諦める時じゃない。ハンスも言っていたがドラゴンが戦っているのは目立つ。誰かが助けに来てくれる可能性は0じゃないのだ。騎竜隊の誰か…………セレスのおっちゃんあたりが来てくれるならまだ可能性は残っている。

 

「そうか…………なら、俺は苦しまず死ねるよう、本気で行ってやろう」

 

 

 

 

 そこから先は一方的な戦いになった。俺は攻撃を当てることが出来ず、相手は確実に俺の命を削ってくる。

 だが、それでも俺は一縷の望みをかけて致命傷だけは避けることを…………時間を稼ぐことを繰り返した。

 

(…………他力本願なことこの上ないけどな)

 

 でも、それはある意味それはドラゴン使いの本質だ。一人では何も出来ない……ドラゴンと一緒になって初めて意味を成す、それがドラゴン使いという存在なのだから。

 

「楽しいな最年少ドラゴンナイト。人間相手にここまで粘られたのは初めてだ。その槍の腕、かつての勇者、ベルゼルグ2代目国王に迫っているのではないか」

「楽しいのはお前だけだろうが首無し騎士。…………もしも、俺が最強の槍使いだと言われたベルゼルグの2代目国王と同じくらい強けりゃとっくの昔にお前を倒してるよ」

「ふっ……ちがいない。だが、お前が今のまま強くなっていけば、そうなる可能性もあるだろう。勇者となり魔王を倒す…………貴様にはその可能性がある」

 

 ベルディアはそれを本気で言っているのだろう。だからこそ、俺を殺そうと本気で来ている。

 

「…………強くはなるかも知れねーな。だけど、俺が勇者になることはない。俺がなれるのは――」

 

 続けたはずの言葉。だがそれは声にならず、ただひゅうひゅうという息の漏れただけの音になる。

 

「ちっ……外したか。おい、ベルディア止めを刺せ。どうせ放っておいても俺の毒で死ぬだろうが、こいつはドラゴンナイトだ。万一がある」

 

 俺の心臓を狙ったんだろうか。外したというハンスの腕は俺の右胸を貫いている。その上、触れただけでも死ぬと言われるハンスの毒が俺の体を蝕んできていた。

 

「…………ハンス。手を出すなと言ったはずだが」

「文句は言わせねーぞ? 俺も言っただろうが、さっさと終わらせろと。てめぇがチンタラやってるから時間切れなんだよ」

 

 そう言ってハンスが指差した先には俺らに向かって飛んでくるミネアの巨体。俺が時間稼ぎをやっている間にミネアはアンデッドナイトやポイズンスライムたちを倒したらしい。

 

 その巨体からは想像できない速さで近づいてきたミネアは、その速さを殺さずにハンスを大きな爪で攻撃する。

 

「ちっ…………こうなるからさっさと仕留めろって言ったってのに」

 

 俺の体から腕を抜いて。ハンスはミネアの攻撃を避け、ベルディアと並んで俺らから距離を取る。

 

「ベルディア、2人がかりでさっさと殺すぞ。ここまできて取り逃がしたんじゃ爺やオカマになんて言われるか。向こうも二人になったんだ文句はねーよな」

「…………分かっている」

 

 

(…………ああ、もう終わりだな)

 

 この傷は致命傷だ。胸に風穴が空き、死毒まで食らったんじゃ、今すぐ治療を始めても生き残る芽はないに等しい。

 

(…………だから、もう仕方ないよな)

 

 たとえ今すぐに助けが来たとしても俺は死ぬ。……ミネアと一緒に生き残るという勝利条件はもう満たせそうにない。

 なら、もう勝利条件を変えるしか俺達が勝つ事はできない。

 

「……ミ、…ネア。おまえ……『竜言語魔法』がきれかかってるじゃねーか……」

 

 掠れそうになる声に力を入れて。俺はミネアに語りかける。

 …………これが、最後の話になるのだから、情けない様子は見せられない。

 

「『筋力増加』……くふっ…『速度増加』――」

 

 何度か血を吐きながらも、俺は一つずつ自分が覚えている『竜言語魔法』をミネアにかけて強化していく。

 

「おい、ベルディア。何を突っ立って見てやがる。中位ドラゴンでもドラゴン使いに強化されたら上位ドラゴン並だ。掛け終わる前にさっさと殺すぞ」

「そう思うなら自分で行けばいいだろう。俺は止めはしない。だが、俺はその必要性はないと思うぞ」

「ああ? てめぇ、何を言って……」

 

 

「よし……これでいいな…。ミネア、俺が戦ってい…る間にちゃんと逃げろよ? 強化されてるお前一人なら…逃げられるはずだか…らよ……」

 

 全ての強化を終えて。俺は最後にそう言ってミネアの頭を撫でてやる。

 あー……やっぱりミネアのさわり心地は最高だ。できることならずっと撫でていたかった。

 

「ハンス。二人がかりだ。あの男を全力で殺すぞ。……油断はするな」

「? お前ら狂ってんのか? せっかく強化したドラゴンは戦わせなかったり、正々堂々いつもうぜえくせにいきなり物分りいいこといい出したり」

「言っただろう、俺は『死を目前にした人間の破れかぶれ』を恐れていると。もう一度言うぞハンス。油断はするな。すれば喰われるのはこっちだ」

「…………分かんねえな。あんな死に体の何を怖がってんだ」

 

 

「……じゃあな、ミネア。…今まで…ありがと、…よ」

 

 最後の別れを済ませて。俺は魔王軍幹部の二人へと向かって前に出る。

 

「……『筋力増加』」

 

 流れでる血と毒によって力の入らない体を竜言語魔法で無理やり動かす。

 

「…『速度増加』『反応速度増加』」

 

 本来なら戦えるはずのない体で俺は駆ける。ただ1つの勝利条件――ミネアが生き残る――を満たすために。

 

「『状態異常耐性増加』『自然治癒増加』」

 

 一撃でも多く。一秒でも長く。ただそれだけを思って死にゆく体を動かし続ける。

 

 

「――――っ――――っ!」

「――――」

 

 驚愕するハンス。

 笑っているベルディア。

 

(…………ダメだな。もう耳が聞こえねーや)

 

 まぁ、別にもう聞こえなくてもいいか。どうせやることは何も変わらない。

 

 

 

 ベルディアの大剣が俺の腕を切り裂く。だが腕は落ちていない。返しの刃でベルディアの体を槍で貫く。

 ハンスの手が俺の肩を掴み毒が広がる。だが動きに影響はない。返しの刃でハンスの腕を切り落とす。

 

 

 本来なら致命傷……戦いを決めるはずの二人の攻撃。だが、今の俺を止めるものにはならない。

 死ぬことを前提にした竜騎士がこの程度の攻撃で止まるはずがない。

 

(…………どうせ、ミネアは逃げねーだろうしな。ミネアのために少しでもダメージ与えねーと)

 

 逃げろと言ったのに逃げない相棒の姿を横目にしながら。俺は命と引き換えにして魔王軍幹部へ攻撃を当てていく。

 

(本当は一緒に戦いたいだろうに、ちゃんと理解して待っててくれる。本当、俺には過ぎた相棒だったぜ)

 

 生き残って欲しいという俺の気持ちを。今の俺と一緒に戦っても邪魔になるだけということを。あの俺の家族であり相棒であるドラゴンは分かってくれている。

 

 

 だから、俺は今、命を賭けられる。

 

 

 

――――――

 

「はぁ……はぁ……やっと倒れやがった」

「だから言っただろう、死を目前にした人間は手強いと」

「死にかけただけで人間が全員こいつみたいに強くなられてたまるか。ちっ……腕生やすのも楽じゃねえってのに」

 

 悪態をつきながらハンスは切り裂かれた腕を生やす。デッドリーポイズンスライムであるハンスであれば傷をすぐ治すことが出来るが、それには多くのエネルギーを使う。消耗具合という意味ではハンスもベルディアも変わらない。

 

「……まだ息はあるようだな。どうする? シルビアに持って帰れば喜びそうだが」

「俺の毒を食らってる時点で食えるわけねーだろ」

「いや、割とあいつ好みの男だろうと思っただけだが」

「考えたこっちが寒くなるような事言うのはやめろ!……ったく、まだ息があるならさっさと殺しちまえよ。その死に体いつ動き出すか分かんねえから怖い」

「そうだな。本当ならもっと正々堂々と戦い決着をつけたかったが…………ここで情けをかけるのもこのドラゴンの騎士に失礼だろう。あのドラゴンも待っていることだしな」

「…………あのドラゴンはなんで待ってるんだ?」

「さあな。主の命令をギリギリの所で破らないためかもしれないし…………あるいは、まだこの男が起き上がると思っているのかもしれない」

 

 唸る巨体に2人はまだ戦いが続くことを理解していた。同時に危険は去ったとも。

 強化されているあのドラゴンは確かに強敵だが、いずれその効果はなくなる。二人で戦うのであれば効果がなくなるまで時間を稼ぐのも容易だ。

 

 

 2人のその考えはある意味正しかった。ラインという少年が稼いだダメージは少なくはないが、ミネアだけで押し切れるほど大きなダメージではない。

 

 

 

 だがそれはある可能性を考えなかった時の話だ。

 

 

 

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』!」

 

 強烈な退魔魔法。並の悪魔やアンデッドでは余波だけで消えかねない魔法を、ラインへ止めを刺そうとしていたベルディアは紙一重で避ける。

 

「最上級の退魔魔法だと…………てめえなにもんだ?」

 

 危うく浄化されそうになって荒い息を吐いているベルディアに変わって、ハンスは魔法を放った男に問う。

 

「初めまして魔王軍の皆さん……と言っても2人だけのようですが。わたくし、アクシズ教団、アークプリーストのゼスタと申します」

「…………ゼスタ? ゼスタだと!?」

 

 その名前に更に荒い息になってるベルディアに変わって、ハンスが驚きの声を上げる。

 

「こと、戦闘において、アクシズ教団で私以上のアークプリーストはいないと自負しております。――以後、お見知りおきを」

 

 

 

 ラインが命をかけて稼いだもう一つのもの――時間――は、アクシズ教、ひいては人類最強のアークプリーストを間に合わせ、形となった。



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第20話:出会い

――――――

 

「アクシズ狂団のナンバー2……既に次期最高司祭の座が決まってる大物が何でこんなところに居やがる。てめえらの本拠地はベルゼルグの国だろうが」

 

 最大限の警戒をして。後ろにベルディアを庇いながら――実際はベルディアが隠れてるだけだが――ハンスは乱入者に問う。

 

「おや、私の事をご存知でしたか。魔王軍幹部……その中でも高い賞金を懸けられているあなたに知られているのは光栄ですね」

 

 言葉とは裏腹に、少しも目が笑っていない様子で乱入者であるゼスタは答える。

 

(……俺らの正体はバレてるか。めんどくせえな)

 

 ドラゴンに倒された魔王軍の残骸やベルディアの姿を見れば、ハンス含め彼らの正体は想像ができる。ハンス自身、ラインにすぐバレるようにと軍の編成をしていたのもあって、面倒であると同時に仕方ないとも思っていた。

 

「なぜ、ここにと言う質問ですが、面白い噂を聞いたのであの国に布教に向かっていたのですよ。その途中で派手に戦っている気配に気づいたまでです」

「ちっ……単なる偶然かよ」

 

 あの国の切り札である『騎竜隊』や領土が接している紅魔族の邪魔が入る可能性はハンスも考えていた。だからこそベルディアにいつもの神聖魔法耐性特化の鎧ではなく魔法やブレス耐性特化の鎧をつけさせ、邪魔が入っても有利に戦えるように備えていた。だと言うのに実際にきたのは人類最強クラスのプリースト。備えが裏目に出たと言わざるをえない。

 

「偶然……とは言えないかもしれませんがね。私が聞いた噂を考えれば必然かもしれません。…………まぁ、こうして間に合ったのはアクア様のお導きでしょうが」

 

 後ろに庇うラインをちらりと見て。ゼスタは敬愛する女神に感謝する。

 

「間に合った? まさか、そのガキを助ける……いや、助けられるつもりなのか?」

 

 ゼスタの実力を考えるなら確かに死にかけているものを助けるのは簡単だ。仮に死んだとしても蘇生魔法で生き返すことも可能かもしれない。

 だがそれはハンスの毒に侵されていない時の話だ。毒をどうにかしない限り回復魔法も蘇生魔法もすぐに意味をなくしてしまう。そしてハンスの毒を浄化するのには途方もない労力と時間がかかる。たとえ人類最強のプリーストであろうとも一人でどうしようもない。それこそ女神本人でも来ない限り魔法でどうにかすることは不可能だった。

 

「可能性はあると思っていますよ。その少年が噂のドラゴンナイトであるのなら」

「……そうかよ。だったら無駄な足掻きでもするんだな」

 

 ゼスタの言うとおり、単純に毒からの回復という意味ではラインが助かる可能性はある。本来なら致命傷どころか即死していないとおかしいラインだが、戦場から離脱さえできれば生き残る芽はまだ残っているのだ。だからこそ、ハンスは早くラインに止めを刺したかったのだから。

 

(だが、これはチャンスだな。ここで最年少ドラゴンナイトとアクシズ狂の次期最高司祭を殺せれば()()が決まる)

 

 単純な戦力として見ても人類最強クラスの2人を倒せるのは大きい。その上ゼスタに限って言えばアクシズ教団の次期最高責任者。現在アクシズ教最高司祭である人物は余命数年もないと言われている。そんな状況で次期最高司祭であるゼスタがいなくなればアクシズ教団はまとまりを失うだろう。それどころか色んな意味で我の強いアクシズ教徒たちなら自分たちで争って内部崩壊する可能性も大きい。紅魔族に並んで厄介なアクシズ教団が機能しなくなれば魔王軍の勝利は確定する。

 そして、虫の息のラインを助けるためには流石のゼスタと言えど無詠唱の回復魔法では効果は見込めない。最上級の回復魔法をきちんとした詠唱のもと行使するとなれば隙が出来る。シルバードラゴンのミネアがそれを守ろうとしてもハンスとベルディアの二人がかりなら余裕で殺せる。

 

「おいベルディア。いつまで後ろに隠れてやがる。そろそろ遊びは終わらせるぞ」

「べ、別に隠れてるわけではない。ただ……そう、お前の背中に見惚れていただけだ」

「気持ち悪いこと言ってるとお前の相手はゼスタにさせるぞ」

「頭下げるから勘弁してくれ」

 

 そう言って抱えていた自分の頭部を地面に転がすベルディア。

 

「ふーむ…………ウィズとかウォルバクならこの視点だと絶景なんだがなぁ……ハンス、ちょっと美少女に化けてくれないか?」

「蹴飛ばすぞこの変態アホ騎士が!」

 

 カッコつけてラインと一騎打ちをしていたり、ゼスタの登場に怯えていたりと、いろいろ忙しいやつだとハンスは思うが、実際余裕を見せられるくらいには彼らにとって状況はいい。ゼスタがラインのことを見捨てていれば油断ならない状況だっただろうが、今の状況でラインを助けようと回復魔法の詠唱を始めればゼスタはすぐに死ぬだろう。

 遊んでいるようにみえるベルディアが頭部を地面に下ろしたのも、ゼスタが詠唱を始めたら最速で切るための準備なのだ。

 

(…………だが、待て。何かを見落としてねえか?)

 

 今の状況でゼスタが回復魔法を詠唱し始めればハンスたちが勝つ。これは間違いない。

 ゼスタが回復魔法をせず戦い始めても多少苦戦はするだろうがハンスたちが勝つだろう。戦いの途中でラインは死ぬだろうし、ミネアの強化も遠からず解ける。消耗していることを考えても負ける可能性は1割あるかないか。

 

 冷静に状況を判断するなら誰にだって分かる状況だ。それをゼスタが理解していないはずがない。

 

 

 

「ベルディア! 今すぐゼスタを切れ!」

「? 待て、切るのはちゃんと回復魔法の詠唱だと確認してから――」

「ちっ、だったら俺が行く!」

 

 見落としていた可能性。それに気づいたハンスはゼスタに向かって走る。だが――

 

「――『スピードゲイン』。……一歩、遅かったようですね」

 

 ()()()の魔法。ゼスタによって速度上昇の支援を受けたミネアがハンスの前に立ちふさがる。

 

「ベルディア! 俺がドラゴンは抑えるから、ゼスタを殺れ!」

「分かっている!」

 

 ハンスの速さでは今のミネアを抜くことは出来ない。状況を理解したベルディアはラインを圧倒した速さをもってゼスタに迫る。

 

「『パワード』『プロテクション』」

 

 だが、追加の支援魔法を受けたミネアはハンスの妨害を振り切り、ゼスタにベルディアを近づかせない。

 

 

 

 

 

「ふむ……少し心配でしたがちゃんと効果はあるようですね。宗派が違えば支援魔法の効果が重複することは周知のことですが、竜言語魔法による強化にもその法則は当てはまるようです。……では、綺麗なドラゴンさん。少しの間頼みますよ」

 

 

 竜に護られた聖人は自身に使える最上級の回復魔法を丁寧に詠唱を始める。

 

 

「ベルディア、作戦変更だ。先にドラゴンを殺すぞ」

「…………すまんな。お前の意図を汲むのが遅れたせいで」

「謝るんじゃねえよ。お前が謝ったら俺まで謝らねえといけなくなる。あの時点でお前がすぐに動いてもギリギリ……俺が気づくのが遅すぎたのもあるからな」

 

 

 魔王の幹部たる2人は立ちはだかる竜を前に自身の打った悪手を実感する。

 

 

「グルルルルルアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 竜は。()()()を待ち我慢し続けた竜は。傷つき押されながらも短くも長い()()()までの時間を稼ぐ。

 

 

 そして――

 

 

「――――『セイクリッド・ハイネス・ヒール』!」

 

 

 ――竜の騎士はまた戦場に立ち上がった。

 

 

 

 

――ライン視点――

 

「…………何で俺死んでないんだ?」

 

 意識失った時はもう死んだ気持ちだったんだが。毒で体が死にそうなほど痛いのと、ミネアがハンスとベルディア相手に戦ってなければ天国かどこかだと思ってる所だ。

 

「…………まぁいいか。生きてて体が動くなら戦うだけだ」

 

 ミネアが俺の言いつけ守らないで戦ってるし。あいつが俺が生きているのにそんな真似をしているってことは、両方生き残れる可能性が出たってことだ。

 

「まさか、戦うつもりですか? というか、何故立ち上がれるんですか? 見える傷や生命力は回復させましたが、ハンスの毒はまだ体を蝕んでいるままのはずです。動く度に……動かなくても激痛が走っているのでは?」

「ん? もしかしてあんたが助けてくれたのか。体も物理的にちゃんと動くようになってるし耳も聞こえる。凄いなあんた」

 

 死にかけてた俺を一人でここまで回復させるとか。ベルゼルグの最前線にもこんなレベルのプリーストはいないってのに。どっかの教団のお偉いさんかね。

「いえ、だからですね――」

「あ、悪い。後でちゃんと礼はするからよ。今はミネアの所に行かせてくれ。あいつが2人相手に戦ってるのに俺が後ろで見てるわけにはいかねーんだ」

「…………まぁ、いいです。うちの教徒以外でこれほど無茶が出来る人間がいるのは少し驚きですが。……微力ながら、一緒に戦わせてもらいますよ」

「大丈夫……って、聞くまでもなく大丈夫そうだな」

 

 ドラゴンとドラゴン使いが一緒に戦う戦場に付いてこれるかと聞こうかと思ったが愚問だった。本当何者なんだろうこのおっさん。ミネアがいつもより強くなってるっぽいのもこの人のおかげだろうし。

 

 

 

「ベルディア、退くぞ」

 

 俺と謎のおっさんがミネアの横に並んだ所で。ハンスは攻撃の手を止めてベルディアにもやめさせる。

 

「ハンス、確かに状況は悪くなったが、それでもまだこっちが有利のはずだ。あの2人をやれるチャンスをみすみす逃すのか?」

「そうだな。確かにまだ俺らのほうが優勢だ。6:4で俺らが勝つだろうよ」

 

 ……まぁ、そんな所だろうな。俺の体はハンスの毒で体力削られていく一方だし定期的に回復してもらわないといけないだろう。そして謎のおっさんがどんなに凄腕のアークプリーストだとしても、最上級の回復魔法を人の身で何回も使えるとは思えない。状況は好転したが逆転はしてないのだ。

 

「なら――」

「ベルディア。冷静になれ。()()も負けるんだ。魔王軍幹部である俺らが、だ。戦術的に見れば有利に見えるかもしれないが戦略的に見れば……9割以上勝利が確定してるこの戦争単位で見ればマイナスどころの話じゃねえんだよ」

「だとしてもだ。死に体のはずの身でまた立ち上がった竜騎士を前に逃げるなど――」

「――ベルディア。俺とお前は同じ魔王軍幹部。同格だ。だがこの場における指揮官は誰だ? 命令を聞け」

「……………………分かった」

 

 …………通りで幹部の中でも高い賞金がかけられるわけだ。徹底的なリスクとリターンの把握に戦術的だけではなく戦略的な視点も持っている。その上ベルディアにある甘さのようなものがハンスには全くない。相性で言えば俺はベルディアよりもハンスのほうが戦いやすいが、どちらに怖さを感じるかと言われればハンスのほうが格段に怖い。

 

「最年少ドラゴンナイト! この場は引き分けということにしておく。次に会った時に決着をつけよう。腕を磨いておくがいい」

「次に会う機会とか勘弁してくれ。俺はもうお前らみたいなのと戦いたくねーよ」

 

 なんか次にベルディアと戦ったりしたらあっさり死にそうな気もするし。

 

「一時はこの国攻めるのは中止だぞ。嬢ちゃん含めて魔王軍幹部が2度もテレポートでの侵略を失敗してんだ。次はベルゼルグを攻め落としてからだろうな」

 

 そういうことなら、この国からはなれても大丈夫か。多少無理してもこの国に接してる紅魔の里に厄介になろうと思ってたんだが。追手もあるかも知れねーし死にかけてる体が治ったらベルゼルグの国を転々とするかね。ミネアと一緒にとなると目立つから一所に留まることはできないし。

 

「おや、逃げるのですか。私としては魔王の下僕などここでしばいときたいのですが。まぁ、今回はラインさんに免じて見逃すとしましょう」

 

 ……あれ? 俺、この人に名前言ったっけ? まぁ、中位種のシルバードラゴン連れてる槍使いなんて俺くらいだし分かるか。

 

「…………ゼスタ。てめえらアクシズ狂団は俺が絶対に潰してやる」

「では、その時があなたの最後ですね。……女神アクアのご加護がある限り我らアクシズ教団が滅ぶことなどないのですから」

 

 ………………ゼスタってあのゼスタかよ。なんでこんな大物がこんな所うろついてんだ。

 

 

 

「ところでハンス。別れが済んだのはいいがどうやって帰るんだ? テレポートの術者はドラゴンに殺されたみたいだが」

「歩いて帰るしかねえだろ。紅魔の里の方行けばシルビアがいるはずだし、なんとかなる」

「…………それ、紅魔族の領域を越えないといけないということか?」

「………………どっかで休憩してからなら大丈夫のはずだ」

 

 そんなやり取りをしながらハンスとベルディアは本当に歩いて帰っていく。…………魔王軍幹部も大変なんだなぁ。可哀想とかは全然思わないけど、その後姿には哀愁を感じずにはいられない。

 

 

「…………で、だ。ゼスタ……様? ちょっといいか?」

「なんですかラインさん。そんな他人行儀に。私とあなたの仲ではないですか。気軽にゼスタきゅんと呼んでもらって構いませんよ?」

 

 俺とあんた会ったの今日が初めてだよな? というか仮に長い付き合いだとしてもこのおっさんを君付けとかありえないと思うんだが。…………まぁ、そのあたりは今度ツッコもう。

 

「…………そろそろ倒れていいか?」

 

 いい加減限界だった俺はゼスタにそう言って意識を手放していく。

 自分の体が倒れていく感覚を感じながら、俺は次起きた時も生きていればいいなとなんとはなしに思っていた。

 

 

 

 

――――

 

「よくここまで立っていられたものです。ハンスの毒は本来なら即死級……流石はドラゴン使い、その中でも一握りのドラゴンナイトに最年少でなっただけはあるということですか」

 

 ゼスタは自分の半分も生きていないだろう少年がその域にあるという事実に感心する。イレギュラー……世界のバグとも時に言われるドラゴン使いの中でもこのラインという少年は特殊のようだ。

 

「さて、ドラゴンさん。一緒にあの国へ連れて行ってもらえますか? あの国のプリーストたちと力を合わせればハンスの毒と言えども解毒は可能でしょう」

 

 流石にハンスの体の一部を浄化するともなれば厳しいかもしれないが、単なる毒であるなら体中に毒が回っているとしても時間をかければ大丈夫のはずだ。…………即死級の毒が体中に回っているのに未だ生きているというのは本当にドラゴン使いは規格外もいいところだろう。

 

「? どうしたんですか、ドラゴンさん。唸った声を出して」

 

 既に治療の段取りを考えていたゼスタは、ミネアが動こうとせず、それどころか警戒するような声を出しているのに気づく。ミネアは中位種のドラゴンであり、人語を解するだけの時を過ごしているので、ゼスタの言っていることが理解できないということはないのだが。

 

「…………まさか、あの国に帰る訳にはいかないということですか? それは少し困りましたね」

 

 ゼスタの予想が当たっていたらしくミネアは唸り声をやめる。だが、仮説が当たったからと言って状況は変わらない。ラインを確実に助けるためには近くの国でアークプリーストの協力が必要だ。そういったことは当然ミネアも分かっているだろう。だというのにそれを選ばないということは――

 

「――それがあなたの相方の望みということですか」

 

 ゼスタは知らない。

 ラインがミネアと一緒にいるために国を捨てたということを。たとえ自分が死ぬとしてもミネアと一緒に少しでもいることを選ぶ人間だということを。

 ただ、ラインとミネアにとってそれが意味のある意地だということは理解した。

 

「……ここに、うちの最高司祭が一年という年月をかけて生成した聖水があります。本来は魔王軍に対する切り札として持ち歩いているものですが…………これを飲めば、ハンスの毒でも浄化することができるでしょう」

 

 アクシズ教団の最高司祭。戦う力こそ失われて久しいが、その信仰力……プリーストとしての能力だけは未だにゼスタ以上のものがある。その最高司祭が一年という長い期間をかけて作った聖水ともなれば魔に属するものは全て浄化する力を持つ。

 

「ですが、それでも浄化するまで最低でも3日…………毒が浄化されるまでに彼の生命力が尽きれば死にます。ドラゴン使いはドラゴンの生命力を借りれるとは言え、ハンスの毒の影響力を考えればあなたの生命力を足してもギリギリ足りるか足りないか。あなたとラインさん共倒れする可能性が高いです」

 

 ゼスタ自身が一緒についていけば助かる可能性は大きく上がるが…………そうすればきっとラインとミネアの前提を満たしてやることができない。王都の方から飛んできているドラゴンの姿を見ながらゼスタはそう思う。

 

「それでもいい…………なんて聞くまでもありませんでしたね。ラインさんは本当にいい相方を持ったものです」

 

 ミネアの覚悟は聞くまでもない。なら、ゼスタとしても貴重な聖水を使うことに否はなかった。命をかけて願いに準じて生きる彼らにゼスタは強い共感を覚えているのだから。

 

「私の魔力ではあと2回が限度ですが、最後に回復をします。それが終わったらあなた達はすぐに逃げてください。こちらに向かってきているドラゴン使いは私の方でなんとかしますから」

 

 最上級の回復魔法。ゼスタはそれをラインとミネアに一度ずつ使う。ついでに自分の手持ちのポーションを全部ラインの懐へといれてやった。ラインが目覚めればそれを使うことで少しは生命力を回復できるだろう。……ドラゴンの生命力に比べれば微々たるものだろうがないよりはマシだ。

 

「……少しだけ魔力が残っていますね。では、もう一つだけ魔法を。――あなた方に女神アクアの祝福がありますように『ブレッシング』」

 

 最後に全魔力を込めて祝福を贈り。ゼスタは小さな英雄と美しき竜を見送った。

 

 

 

 

 

 

――ダスト視点――

 

「っ……」

「あ、お兄さん起きたの?」

 

 身体の痛みに起こされて俺は薄っすらとまぶたを開ける。

 

「おまえは…………、っ!」

「駄目だよ! 身体を動かそうとしたら! まだ凄い熱なんだから!」

 

 見れば俺は服を脱がされ濡れたタオルで冷やされていた。……この眼の前の少女が看病してくれていたんだろうか。

 

「本当は街に連れて行ってプリーストの人に見てもらったほうがいいんだけど…………連れて行こうとしたらそこのドラゴンが吠えるから」

「…………ミネア」

 

 少女の言葉に見てみれば共に戦ったドラゴンの姿が。ただ、その姿はからはいつもの覇気が感じられず、魔力も見るからに落ち込んでいる。

 

「…………なぁ、嬢ちゃん、ここがどこか教えてくれるか」

「むぅ……そんなに歳も違わないのに嬢ちゃんなんて呼ばないでほしいな。あたしはリーンって言うの。……それで、ここだけど、アクセルの街の近くの洞窟だよ」

 

 アクセル…………確かベルゼルグにそんな名前の街があった気がする。ということはミネアは俺が気を失った後、ここまで飛んできてくれたのか。

 

(ハンスの毒は…………まだ少し残っているか)

 

 ゼスタのおっさんが何かをしてくれたのだろう。今も毒が浄化されている感覚はある。だが、既に俺もミネアも限界だ。毒が消えるまで生命力が持つかどうかは微妙な所だ。ミネアだけは俺のことを見捨てさせれば助かるだろうが…………可能性がある限りミネアが俺のことを見捨ててくれるとは思えない。

 

「ねぇ、お兄さんって貴族なの? 金髪だし、こんな大きなドラゴンを連れてるし。……目が碧眼じゃなくて赤いから純血じゃないんだろうけど」

「…………今の俺の目は赤いのか?」

「うん。綺麗な……鳶色っていうのかな?」

 

 たしかに俺の目はミネアの力を使って戦っている時は赤くなる。だが、普段は母さん譲りの黒い目だったはずだ。

 

(…………戦っている時と同じか、それ以上にミネアが力を分けてくれているってことか)

 

 気を失ってからどれだけの時間が経っているかは分からないが、ミネアの消耗具合を見る限り1日以上は間違いなく経っているだろう。それだけの間魔力と生命力を与えられていたとしたら、何か影響が出ているかもしれない。ありそうなのは目の色が鳶色のまま戻らないとか、魔法抵抗力が異常に高くなっているとか。実際歴戦のドラゴン使いにはそういった症状が出ているやつも多い。

 …………あとは有り余る生命力の影響か、無駄に性欲が高くなるとか。そんな話もあったな。

 

「……リーンって言ったか。おm……君は一人か?」

「うん。そうだよ。薬草を摘みに来たら洞窟の中からなんか声がするから覗いてみたらお兄さんがいたんだ。……あと、言いにくいならお前でもいいよ」

「一人で薬草を積みに…………ってことは、お前はその歳で冒険者なのか」

 

 このあたりのモンスターの分布は知らないが、最弱のモンスターであっても一般人には脅威だ。いくら勇者の国とは言え一般人がモンスター相手に普通に戦えるとは思えない。

 

「え? そんなわけないじゃん。冒険者なんて儲からない職になんでつかないといけないの?」

「は? 冒険者や騎士じゃないと街の外はモンスターがいて危ないだろう?」

「他の所は知らないけどアクセルの周辺は魔物が狩り尽くされてて逆に魔物を見つけるのに苦労するくらいだよ。今の時期はジャイアントトードもほとんどいないし。だから危険なんてないよ?」

「…………そんなところもあるのか」

 

 魔王軍に侵攻され、人口が減り続けているこの世界にそんな平和なところがあるのかよ。

 

「けど、冒険者じゃないってことはリーンは一般人なんだろ? 何の目的があって俺を助けたんだ?」

「? 傷ついてる人がいたら助けてあげるのはふつうのコトでしょ?」

「………………そうだな」

 

 思い出してみればあの国でも王や貴族はどうしようもないクズばっかりだったが、市井には優しい人たちが多かった。ゼスタにしたって見ず知らずだった俺を助けるために魔王軍幹部相手に命をかけてくれた。……国に裏切られたからって疑心暗鬼になりすぎだろ俺。あの国が腐ってたのなんて最初から分かってたろうに。

 

「? リーン。そこにある回復ポーションはお前が持ってきたのか?」

「え? それはお兄さんの服を脱がした時に出てきたやつだよ?」

 

 ……ってことはゼスタのおっさんがくれたのか。何から何まで世話になっちまってるな。

 

「お兄さんが苦しそうにしてる時に何個か使っちゃったんだけど…………もしかしてダメだった?」

「ダメじゃねーけど……使ったってどうやって使ったんだ? 寝てる俺に使うのは面倒だったろ?」

「えーっと…………塗って使ったんだけど、ダメだったかな?」

「ダメじゃねーけど…………もったいないな」

 

 回復ポーションは基本的に二つの使い方がある。飲む方法と塗る方法だ。飲む方法では生命力を回復しやすく、塗る方法では外傷を治す効果が高い。今回の俺は外傷はないし飲んだほうが効果が高いんだが…………まぁ、眠ってる相手に飲ませるのは難しいしそこまで望むのは酷か。

 

「残ってるポーションは3つか…………少し足りないな」

「ごめんなさい…………勝手に使っちゃった分は弁償するから」

「そんなことはしなくていい。ってか俺はそんな鬼畜そうに見えるか?」

 

 口は悪いが、そこまで性格ねじ曲がってるつもりはないんだが。

 

「えっと…………ちょっと怖そうには見えるかな?」

 

 …………そういや姫さんにも最初は怯えられてたっけ。父さん譲りの人相の悪さはどうしようもなさそうだ。

 

「でもでも、ちょっと怖そうだけど、それ以上にかっこいいというか……うん。あたしはお兄さんの顔好きだよ?」

「………………褒めても何も出ないからな」

「あ、恥ずかしがってる様子はちょっと可愛いかも。お兄さんってかっこいいのにもしかして女の人に免疫ないの?」

「……うるせえよ」

 

 俺の回りにいる女なんて姫さんとミネアくらいだったし。市井じゃ確かにモテてた気はするが、それは上辺だけの付き合いで、こんんなにまっすぐ言われたことなんてない。

 

「…………って、そういや、俺の持ち物はどうしたんだ?」

「ポーション以外はそっちの方に置いてるよ」

 

 リーンの指差す方を見れば俺が持ち出した荷物が洞窟の壁の横に置かれている。……槍はもちろん、俺が逃げ出す時に持ち出した金目の物も全部あるな。

 

「お前、あれ持って逃げようとか思わなかったのか? あれを売れば少なくとも1年は遊んで暮らせるくらいの価値はあるんだぞ?」

 

 ミネアも俺の看病をしてくれた相手だ。それくらいは目を瞑るだろう。

 

「むぅ……お兄さんだって失礼だね。あたしって、そんなに意地汚く見える?」

「…………まぁ、見えないわな。どう見ても人畜無害なガキだ」

 

 そもそもそうでもなきゃ死にかけの看病なんてしない。

 

「だから、あたしはガキじゃないってば。もう11歳なんだよ?」

 

 十分ガキじゃねえか。……まぁ、思ったより歳の差はないけど。姫さんに比べればガキにも程がある。

 

「じゃあ、大人で優しいリーンに頼みがあるんだがいいか?」

「? なに?」

 

 俺のおだてに見るからに期限良さそうにしているリーン。やっぱりまだ子供じゃねーかな。

 

「そこにある金目のもの全部持っていっていいからよ、それで回復ポーションを買ってきてくれないか? ここにあるポーションだけじゃ足りそうにないからよ」

「えっと…………それこそいいの? 帰ってこないかもしれないよ?」

「その時はその時だ。別に恨んだりもしねえよ」

 

 リーンが助けてくれなきゃどうせ死ぬんだ。なら信じる他ないし、裏切られたからって恨むのも筋違いだろう。

 

「うん、信じてくれるならもちろん行くよ。でもさ…………その前にあたしに言うことないかな?」

「言うこと? なんで俺が死にかけてるか、とかそんな話か?」

 

 話せば長くなるからそういうのは元気になってからにしてもらいたいんだが。

 

「違うよ。…………本当にわからない? 『お兄さん』」

「…………そうか。まだ名乗ってなかったな。俺の名前は『ライン=シェイカー』だ。リーン、よろしく頼む」

 

 信頼する相手に名乗らないってのは失礼すぎたな。

 

「『シェイカー』? 変な名前だね。苗字みたい」

「ああ、この国は名前が後だっけか。名前はライン、姓がシェイカーだ。ラインって呼んでくれ」

「ライン兄……だね。うん。分かった。ライン兄、安心してね。ライン兄が元気になるまではあたしがちゃんと面倒見るんだから」

 

 そう言って張り切るリーンの笑顔。全然似ていないはずなのにそれが何故か姫さんの笑顔に重なって見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライン兄、食料持ってきたよ」

 

 やってきたリーンの姿に俺は槍の訓練の手を休める。

 

「いつも悪いななリーン」

「ううん。ライン兄の面倒はあたしが見るって言ったもん。当然だよ」

「その約束は俺が元気になるまでだったろ? 俺はもう大丈夫だぞ」

「えー……じゃあ、あたしがライン兄の面倒みたいからでいいよ」

 

 そう言って恥ずかしそうに笑うリーン。

 

 

 

 リーンと出会ってもう一ヶ月の時が過ぎた。目が覚めてから二日後には危険な状態は脱し、リーンの看病が良かったのか一週間後には自分で動けるようになった。

 それからさらに一週間、リーンに手助けしてもらいながらリハビリした俺は、このあたりのモンスター相手なら余裕を持って倒せるくらいには回復した。…………ちなみにミネアはハンスの毒が抜けきった次の日には元気に飛び回っていた。ドラゴンの生命力はむちゃくちゃすぎるというか、魔力と生命力が回復しただけで元気になる当たり人間とは構造が違いすぎる。

 

 元気になったからにはいつまでも洞窟ぐらしというわけにもいかない。というより気が滅入るので森の奥にあった廃屋を軽く修理して隠れ家にして住み始めた。水とかは何とかなるが食料などはリーンに最初に渡した金目の物を使って準備してもらってる。

 さっきはからかうように言ったが実際は凄く助かっている。森のなかでは水はともかく食料を準備するのは面倒だ。サバイバルするスキルは持っているが、狩りはともかく採集するのは性に合わない。それにこのあたりの生体もそこまで詳しくないから毒を持ってる生き物を食べたりしたら面倒だ。……いや、ハンスの毒食らっても生き残った俺が今更食中毒を怖がるのもあれなんだが、毒持ってる生き物食べるのってなんか嫌だし。なんでも気にせず食べる悪食のドラゴンのようには流石になれない。

 

 

 

「面倒みたいって……物好きなやつだな」

「むぅ……物好きなんかじゃないもん、好きな人の面倒を見たいってのは女の子の願いとしては普通だよ」

「…………それが、一番物好きだっての」

 

 何を思っているのか。リーンは事あるごとに俺のことを好きだと言ってくる。正直俺みたいなドラゴンバカを好きになるとか正気とは思えないので、助けた相手を好きになるとかそういうあれだろうと思っている。つまりは一過性のもので、俺がいなくなればすぐにでも忘れるんじゃないだろうか。

 

「え? だってライン兄って貴族なんでしょ? 付き合えたら玉の輿じゃん」

「貴族じゃねぇよ。『元』貴族だ。『シェイカー家』は取り潰しになったからな」

 

 両親が死んで最後の俺までいなくなれば再興の芽もない。まぁ、家とか土地の財産は縁の深いセレス家に相続されるだろうこと思えばまだ救いがある。

 

「うーん、それでも貴族特有の顔立ちの良さは変わらないし、口は悪いけどなんだかんだで優しいし……年頃の少女としては意識せずに入られないよ」

「…………そうかよ」

 

 特段優しくした覚えはないがそこまで言われて嬉しくないわけもなく。子供っぽいとは言え美少女と言ってもいい容姿のリーンにそう言われれば気恥ずかしさもある。

 

「ちょっ、ライン兄! 髪をぐしゃぐしゃにするのやめて! せっかくセットしてきたのに!」

 

 そんな想いを誤魔化すために。俺は柔らかいリーンの髪をグシャグシャにしてやるのだった。

 

 

 

 

 

 

「さてと……もうすぐ暗くなる。リーン、そろそろ帰れよ」

「あ、うん。そだね。また明日来るよ」

 

 楽しそうに話すリーンに相槌をうち、たまにからかってやるだけの時間を過ごして。俺は夕陽の気配を感じて、楽しい時間に終わりを告げる。

 

「食料は今日持ってきてもらったし、一時は来なくても大丈夫だぞ?」

「そうだけど、あたしが来たいからくるの」

「……ま、俺も来てくれたら嬉しいから止めねぇけど」

 

 ミネアがいればそれだけでいいと思っていたが、人と言葉をかわすというのは思っていた以上に重要だった。リーンがいない時間の物寂しさに俺はそれを強く実感していた。

 

「えへへ……よかった。なら明日もくるからね」

 

 嬉しそうな顔で手を振り帰っていくリーン。

 

「…………こんな生活があとどれだけ続くかね」

 

 今のところリーン以外の人間に見つかってはいないし、あと1年位は続けられるかもしれない。だが、それ以上となると難しいだろう。お尋ね者の俺とミネアは追手から逃げるように金を稼ぎながら場所を転々としていかないといけない。もしくは思い切ってベルゼルグの王家に騎士として雇ってもらうか。どちらにしろリーンと一緒に過ごせる時間は終わる

 

 

 

『きゃああああああああっ!』

 

 リーンの悲鳴。俺は考えるのをやめ、すぐに槍を持って隠れ家を出る。

 

「一撃熊か……!」

 

 隠れ家を出てからわりとすぐ近く。リーンとそれを襲う一撃熊の姿を見つける。

 

(リーンに聞いた話じゃこのあたりにこのレベルのモンスターはいないはずだってのに)

 

 その地域のモンスター分布にいないはずのモンスターが出現するというのはありえない話ではない。だがそれは同時になんらかの異常の副産物としてだ。よくあるのは凶暴で強大な存在に棲み家を追われて出現するということだろうか。最強最悪の賞金首、デストロイヤーが接近する時などによく起こる現象……らしい。

 

「間に合えよ……!」

 

 原因も気になるがそれは今は後回しだ。『速度増加』の竜言語魔法を自分にかけてリーンの元へと急ぐ。

 

「ライン兄!」

 

 俺の姿に気づいたのか、リーンが安堵の声で俺の名前を呼ぶ。……まだ一撃熊の方が俺より近くにいるっていうのに気が早いことだ。

 

 

 まぁ、この距離なら一撃熊がリーンを害するより俺が一撃熊を倒すほうが早いのは確かだが。

 

 

 

「ふぅ…………大丈夫かリーン? 怖かったろ」

 

 一撃熊を逆に一撃で倒して。俺は振り向いてリーンに声をかける。

 ドラゴンのいないドラゴン使いの時は苦労して倒した覚えのある一撃熊だが、今の俺はドラゴンナイト。ステータス制限がなくなりミネアの力まで借りてる俺の敵じゃない。

 

「うん。大丈夫。……でも、怖くはなかったよ。ライン兄が助けに来てくれるって信じてたし」

 

 …………………………

 

「ちょっ、だからやめて! 髪ぐしゃぐしゃにしないで!」

 

 だったらお前もそのこっ恥ずかしい台詞やめろ。童貞にその台詞はきく。

 

「もう……ライン兄って乱暴なんだから…………」

「おうよ。だからこんな男好きにならないほうがいいぞ」

「うーん…………無理かな。だってかっこよくて優しくて、それでいてこんなに強い人なんてあたし他に知らないもん」

「…………買いかぶりすぎだろ」

 

 俺よりかっこいいやつなんていくらでもいるだろうし、優しいやつなんてそれこそ巨万(ごまん)といる。そして自分の無力さを俺はついこの間実感したばかりだ。

 

「ううん。ライン兄よりかっこ良くて優しい人なら多分いると思うけど…………かっこ良くて優しくてこんなに強い人なんて見つからないよ」

 

 それでも、そう思うリーンの言葉に嘘はないんだろう。たとえそれが幻想に過ぎないにしても、リーンにとってそれが真実なのだ。だとするなら、その幻想を俺がいなくなるその日までは守ってやりたいと思う。それが戦うこととドラゴン以外は何もない俺が出来る唯一の恩返しだと思うから

 

「――って、だからライン兄! あたしの髪をグシャグシャにするのはやめて!」

 

 恥ずかしいから照れ隠しはするけどな!

 

 

 

 

 

 そんな感じで過ごすリーンとの日々。

 いつまで続くのか――いつまで続けられるのか。そう思い始めていた頃。

 

 

「ライン兄お願い助けて! このままじゃ、アクセルの街が滅んじゃうの!」

「リーン? そんなに慌ててどうしたんだ?」

 

 

「炎龍がアクセルの街に向かってきてるの!」

 

 

 その日々はリーンの知らせにより終わりを告げられた。




強いゼスタ様を書いてるとアクアのおかしさがよく分かります。
あれで本来の女神の力は制限されてるとか……。


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第21話:この猛々しい精霊に終炎を!

『大物賞金首』

 

 それは人類種の天敵たちの総称だ。いずれも強大な力を持つ存在で、その力と人類に対する敵対度合により賞金額が決められている。ついこの間戦ったベルディアやハンスも億単位の賞金が懸けられた大物賞金首だ。あいつらの強さと厄介さは経験した通り。大物賞金首と呼ばれる奴らはどいつもこいつもそんな奴らばかりと思っていい。

 『炎龍』はそんな大物賞金首の中でも特に高い賞金の懸けられている存在だ。最強最悪の大物賞金首と呼ばれる『機動要塞デストロイヤー』や、明確な人類の敵対者である『魔王』ほどではないが、何度も討伐が試みられながらも失敗し、多くの街が滅ぼされた点では変わらない。

 

 デストロイヤーが『最強』の賞金首で、魔王を『最恐』の賞金首だとするなら、炎龍は『最凶』。

 火の精霊であるサラマンダーを多数引き連れ、自らの思うがままに行動し、行った先々を火の海にして滅ぼす炎の権化。

 

 

 

 

 

「……で? なんで、そんな危険な奴の相手を俺が出来ると思ったんだ?」

 

 戦いの準備を整えながら。俺は不安そうにしているリーンにそう聞く。

 

「だって、ライン兄ってドラゴンのこと詳しいでしょ?」

「炎龍はドラゴンじゃねぇよ。そう見えるだけで実際は精霊……火の大精霊だ」

 

 大精霊ともなれば最低でも上位種のドラゴンクラスの実力を持つ。つまりは魔王軍の幹部かそれ以上の相手だ。炎龍といえば冬の大精霊と同格の力を持ちながら、凶暴な性格で慈悲はない。その炎の息に飲まれればただの人間なんてかけらも残らず燃え尽きる。無効化されないだけまだデストロイヤーよりマシだが大精霊である炎龍が相手じゃ魔法の効果も薄い。デストロイヤー討伐が無理ゲーなら炎龍討伐は無茶ゲーだ。

 

「……じゃあ、ライン兄でも無理なの?」

「いや……、俺なら……、俺とミネアなら可能性がある」

 

 可能性があるって言っても高いとは言えないものだが……。それでも上位種のドラゴンがいなくなった今、人類側で炎龍と戦える可能性があるのはミネアと契約する俺くらいだろう。

 魔王軍なら魔王の娘が他の幹部と一緒に戦えば有利に戦えるだろうが……あいつらは結界があるからデストロイヤー同様に炎龍はスルーしてんだよな。

 

「勝率はともかく炎龍は俺らでなんとかする。だけど、問題は回りのサラマンダーだな。炎龍相手じゃ流石に俺一人で戦うのは無理だ。ミネアと一緒に戦うことになる。だが、そうなるとその間サラマンダーを相手にする奴がいない」

「それなら街の冒険者が頑張るって言ってたよ。というか炎龍相手でも引く気はないみたいだった」

「……駆け出しの街の冒険者に任せて大丈夫か……?」

 

 というか、根無し草の冒険者が普通の街一つ守るために命をかける……? ギルドが緊急クエストを出そうが勝ち目のない戦いからは逃げるのが冒険者って生き物だと思ってたんだが、アクセルの街の冒険者は違うんだろうか。

 

 

 

「それより、ほんとにお前もくるのか? 森の中にいたほうが安全だぞ」

 

 準備を終えて。小屋の外に出てミネアを呼んだ俺は、ついて来ようとするリーンに忠告する。

 

「一緒に戦えないのはしょうが無いにしても、自分の住んでる街がどうなるかを見届けられないなんて嫌だよ。……ライン兄にお願いしといて自分一人だけ安全なところにいるなんてできない」

「…………俺はお前に危険な目にあってほしくないんだがな」

 

 絶対に勝てるなんて言えない相手だ。その影響力を考えるなら勝てたとしても周りに被害が出る可能性が高い。

 

「だけど……自分が生まれ育った街がどうなるか見届けたい。その気持ちもわかる」

 

 国を捨てた俺が言うのも白々しいかもしれないが……捨てたからこそその気持ちは痛いほど分かった。

 

「お前とお前の住んでる街は俺が絶対に守ってやる。……だから見届けろ」

 

 たとえ俺が勝てないとしても、それだけは絶対に成し遂げてやるから。

 

「ありがとう、ライン兄。…………信じてるからね」

 

 俺はこいつに命を救われたのだから。その命をかけてリーンとリーンが大切にするものを守る。

 俺を信じて安堵の笑みを浮かべるリーンに、俺は心の中でそう誓った。

 

 

 

 

「ね、ねぇ、ライン兄。掴まる所ってないの?」

 

 ミネアの頭に乗り込んで。俺の後ろに座るリーンはこれから飛ぶことが怖いのか手を彷徨わせながらそう聞いてくる。

 

「……俺の背中くらいだな。ミネアの角掴むのはリーンの体格じゃ無理だろうし」

 

 仮に前に座らせて角を掴まえさせたとしても、リーンの力じゃ体を安定させることはできないだろう。だったら俺が角を掴んでリーンには俺に掴まってもらうのが1番安全だ。急ぎじゃなければ他にも方法はあったかもしれないが……。

 

「ライン兄の背中…………抱きついていいの?」

「おう、掴まっていいぞ」

「えへへ……うん。じゃあ抱きつくね」

 

 何故か嬉しそうな様子でリーンは力を入れて俺に掴まってくる。……こいつ状況分かってんのかね? 今から俺は死地に向かうってのに。

 

「? ねぇ、ライン兄。顔赤くなってない?」

「…………気のせいだろ」

「そうかなぁ…………今も赤くなってる気がするんだけど」

 

 …………抱きつきながら上目遣いすんのマジでやめろ。俺まで今の状況忘れそうになるだろうが。

 

「……とにかく準備はいいな? 飛ぶぞ?」

「うん。炎龍がアクセルに来ちゃう前に行かないといけないもんね」

 

 状況を本格的に忘れていないみたいなのは何よりだ。

 俺はミネアに合図を出して空を飛ばせる。目的地は冒険者たちがアクセルを守るために作ったという最終防衛ライン。そこにリーンを下ろしてから俺は炎龍の元へ向かう。

 

 

 

「……しっかしまぁ、やっぱリーンはお子様だなぁ。こんだけくっついてるのに全然胸の膨らみを感じないとか」

「ライン兄今の状況ちゃんと分かってるの!? それにあたしは今から成長期だもん! これから大きくなるんだから!」

 

 なんか大きくならない気がするけどな。

 空を飛ぶ風の音に負けないくらいの声で恥ずかしがって怒るリーンを宥めながら。俺は全速力でミネアを飛ばせるのだった。

 

 

 

 

「さてと…………ここまででいいか? というか、流石にこっから先へは連れてけねえぞ」

 

 最終防衛ラインよりアクセルの街に近い場所で。リーンを下ろした俺は周りを見渡しながらそう言う。

 …………最終防衛ラインって言っても防衛線は二つだけか。しかも最終防衛ラインの方には冒険者でも騎士でもないような男たちの姿もある。前線の面子がどんな奴らかはここからじゃ分からないがあまり期待はしないほうがいいかもしれない。

 

「でも、ここからじゃ、ライン兄が戦ってる様子が……」

「我慢しろ。炎龍だけならともかくサラマンダーまでいるんだ。俺がサラマンダーの相手できないってこと考えればここでも近すぎる」

「じゃあ……サラマンダーがみんな倒されたらもっと近づいてもいいの?」

「まぁ……俺が戦ってる所が見える場所くらいならいいんじゃねえの」

 

 実際は駆け出しの冒険者にサラマンダー全部倒せるとは思えないんだが。こうでも言っておかないとリーンは納得しないだろう。

 

「…………うん、分かった。でも、ライン兄。だったらサラマンダーが全部倒されるまで絶対に負けないでよ? あたしの知らないところでライン兄が死ぬなんて絶対イヤなんだから」

 

 分かっている。心配するな。そう返そうと口を開くが、リーンのその真っ直ぐ過ぎる瞳を――何故か姫さんに重なる面影を――見ると口が止まってしまう。

 数秒の後。やっとのことで返せた言葉は、言おうと思っていたこととは全く違うものになっていた。

 

「なぁ、リーン。この戦いの結末がどうであれ、俺はもうここにいられないと思う」

「…………え?」

 

 まずい、と思う。だが、一度開いた口は閉じることなく言葉を続ける。

 

「ミネアと一緒に戦うってことは俺が『ライン=シェイカー』だと宣言するようなもんだ。俺がここにいると知れれば魔王軍やあの国の追手に狙われるだろう」

 

 魔王軍幹部を二度も退けた俺を魔王軍が見過ごすとは思えない。そしてあの国も姫さんこそ快く送り出してくれたが、王を含め俺をよく思っていない勢力が権力を掌握している。

 

「…………ここにいれば俺はリーンを危険に晒すようになっちまうんだ」

 

 姫付きの護衛なんてやってはいたが、俺はもともと守るための戦いが得意じゃない。だからこそ姫さんは俺にあんな約束をさせたのだろうから。

 

「だったら……だったら、あたしもライン兄と一緒に連れてってよ!」

「そりゃ無理だ。冒険者でもないやつをずっと守り続ける自信は俺にはない」

 

 そしてそれは冒険に出たとしても一緒だ。むしろそっちの方が危険は多いかもしれない。

 

「……お前は、器量いいんだし普通の幸せを掴めるよ。俺なんかさっさと忘れたほうがいい」

 

 俺と一緒になってもきっと幸せになれない。……俺が住んできた世界とリーンが住んでいる世界は違いすぎる。

 

「それでも……それでもあたしは――」

「――悪い。そろそろ行く。先行してきたサラマンダーの姿が見えてきた」

 

 リーンの話を遮って。俺はミネアを飛ばせる。実際に戦う前に前線で戦う冒険者たちの様子を見てこないといけない。

 

「ライン兄! 絶対に帰ってきてね!」

 

 それは、俺が死ぬことを心配しての言葉か。それとも戦いが終わった後俺がそのままいなくなることを心配しての言葉か。

 

(…………リーンのこんな顔初めてみたな)

 

 考えてみればリーンとはまだ出会ったばかりだ。当たり前だがリーンの事は知らないことのほうが多いんだろう。

 …………別れる直前にそんな事気づいてもどうしようもないってのに。

 

 

「おう、お前とあの街は絶対守ってやる。命を懸けてもな」

 

 だから俺はリーンの言葉(帰ってきて)にそうとしか返せなかった。

 

 

 

 

 

「あんたらがこの街を守るって冒険者か。…………なんで、こんな街にいるんだ? あんたらの身のこなしから見るにかなり高レベルの冒険者だろ。王都で戦ってて不思議じゃないレベルの」

 

 前線へと来た俺は防衛線を固める冒険者にそう声をかける。

 

「この街に守りたいものがあるのさ。それこそ命をかけてでも恩を返さないといけないものがある。……だから、俺たちゃこうしてここにいるのさ」

「守りたいものってなんだよ」

「坊主にゃまだ早いな。もう少し大きくなったら教えてやるよ」

 

 なんか気になるんだが…………まぁ、高レベルの冒険者がいるのは嬉しい誤算だ。サラマンダーの相手は任せても大丈夫そうだな。

 

「坊主こそなにもんだ? こんな大きなドラゴン見たことねぇ。ドラゴン使いか?」

「ドラゴン使いじゃなくて俺はドラゴンナイトだよ」

「ドラゴンナイトだと? ドラゴン使いの上級職って噂の? 初めて見たぜ……しかもその若さでとは、坊主ほんとに何もんだ?」

「気にすんなよ。俺はただの通りすがりだ。この戦いが終わったらいなくなる」

 

 自分の言葉に何故かリーンの泣きそうな顔が頭をよぎるが、それに蓋をして続ける。

 

「それより、炎龍の相手は俺とミネア……このドラゴンに任せてくれ」

「…………正気か? 相手はあの炎龍だぞ? いくらドラゴンナイトとは言え自殺行為だろう」

 

 まぁ、実際そうだろうけど…………炎龍相手に一緒に戦えるやつがいないんだから仕方ないだろう。ここにいる奴らがどんなに強かろうと炎龍相手じゃ一瞬で溶けるだけだ。自殺行為と言われようが俺とミネアだけで戦うしかない。

 

「ま、心配すんなよおっさん。炎龍の強さはちゃんと分かってるし、その上で簡単に負けるつもりもないからよ」

 

 少なくともリーンとあの街を守るって勝利条件は絶対に満たす。

 

「それに…………俺は証明しないといけねえからな」

「? 証明って何をだ?」

 

 

「ドラゴン使いと一緒に戦うドラゴンは最強だってことを…………あの炎龍倒して証明してやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……お見えになったぜ。ミネア。『炎龍』……火の大精霊のお出ましだ」

『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 

 俺の言葉か見えた炎龍に反応してか、ミネアは威嚇の声をあげる。

 前線からも離れた場所で。俺達と炎龍は対峙しようとしていた。

 

「……準備はいいな? 分かってるとは思うが本気の本気で行くぞ」

 

 ミネアにも自分にも竜言語魔法による強化は全てかけた。今の俺達は上位種のドラゴン並の力を持っていると言っていい。

 それでも、今回の相手は油断すれば一瞬で殺られる……そんな相手だ。

 

『……………………』

 

 炎龍は俺らを視界に入れても吠えない。もしかしたら声など出せないのかもしれない。

 ただ、極熱のブレスを挨拶代わりとばかりに俺らに向かって吐く。その炎は地獄の炎(インフェルノ)すら可愛く思えるような凶暴な炎熱。そのブレスをくらえばただの人間だろうが、凄腕の冒険者だろうが炭すら残らない。

 

 

 

 それを俺はミネアの魔力を乗せた槍で切り開いた。

 

 

『………………?』

 

 俺とミネアのことを塵とでも思っていたのだろうか。自分のブレスを無傷で乗り越えた俺たちに炎龍は首を傾げている。

 

「……この程度で不思議がってんじゃねぇよ。ミネアは『炎』のブレスを使うシルバードラゴンだ。この程度の炎じゃ俺らは殺せない」

 

 それが俺らが唯一人類側で炎龍と戦えるという理由。炎のブレスを使うミネアは炎属性に大きな耐性を持っていて、それはその力を借りて戦う俺も同様だ。竜言語魔法による強化も含めれば、直撃さえしなければ耐えることが出来る。

 ……まぁ、直撃すりゃ俺は大やけどだろうしミネアも無傷とは言えない。それでも、俺らくらいの耐性がなきゃ余波だけで消し炭になるのを考えればまだ炎龍との相性は悪くないのだろう。

 

(炎属性の上位ドラゴン並の火耐性がねぇと戦いの舞台にすら立てないとか……大精霊ってのはほんと化け物じみてやがる)

 

 炎龍が大精霊の中でも冬の大精霊に並んで強大な力を持っているってのもあるんだろうが。

 …………炎龍も冬の大精霊みたく慈悲のある存在ならこんな苦労しなくてよかったんだけどなぁ。

 

 

『…………!』

 

「またブレス来るぞ! ミネアは飛べ!」

 

 炎のブレスを切り裂くなんて言う一歩間違えれば即戦闘不能な綱渡りを何度もする気はない。周りへの影響を考えながらも基本的にブレスは避ける方針で行く。

 そして俺とミネアが離れれば標的は2つ。避ける回数も半分になるため、気は抜けないが反撃のチャンスは増える。

 

「おら! よそ見してんじゃねぇ!」

 

 炎龍がミネアへブレスを吐いた隙を狙い、俺は炎龍の首筋を魔力のこもった槍で切り裂く。

 大精霊である炎龍にはリッチーなどと同様に単純な物理攻撃はほとんど効果を見せない。魔法剣などを持たないのなら『魔力付与』を使って武器を魔力で強化することは必須だ。…………炎龍の場合『魔力付与』で武器を強化してないと武器自体が溶けるし。

 

(手応えなんてあってないようなもんだな……!)

 

 切り裂いた炎龍の首筋からは血などでない。精霊はドラゴンと同じく魔力の塊と言われているが、ドラゴンとは全く違う点がある。それはドラゴンは一応生物として扱われるが精霊は生き物ですらない…………ある種の概念に近い存在だ。だから殺せば終わるという話じゃない。魔力がなくなるまで滅ぼさなければこの存在は終わらない。

 

(……そのうえ、滅ぼしてもいずれまた人の想念が集まって復活するとかチートだよなぁ)

 

 また炎龍として復活するか、あるいは炎の魔神あたりの姿を取るか。それは分からないが、できれば今度は冬の大精霊のように慈悲のある存在として復活してもらいたい。

 まぁ、それもこれも俺がちゃんと炎龍を倒せたらの話か。

 

 

 ………………倒せんのかなぁ。改めて考えてみると無謀としか思えなくなってきたんだが。

 

 

 

「っと、ブレスが効かないと思ったら今度は爪か」

 

 炎龍の巨体から放たれる爪での攻撃を俺は槍の先で受け流す。

 

「ミネア!」

 

 炎龍が受け流されて体勢を崩した先。そこにはミネアが勢いをつけ向かってきていた。

 

『…………!』

 

 勢いそのままに炎龍へと吸い込まれていくミネアの爪。魔力の塊と言われるドラゴンの爪は俺の槍同様――それ以上に――全てを切り裂く特性を持っている。

 炎龍の巨体をしてもミネアの爪での攻撃は効いたのか。初めて苦悶のような表情を見せた。

 

『グゥッ!』

 

 藻掻くようにして暴れる炎龍はバンッ!と尾をミネアにぶつける。苦し紛れとは言えその巨体からくり出される尾の勢いは、続けて攻撃しようとしたミネアの身体を大きく吹き飛ばした。

 

 「しっぽまで武器とか…………まぁ、基本的にはドラゴン相手にすると考えりゃいいか」

 

 吹き飛ばされながらも体勢を整えて飛行に戻ったミネアの無事を確認しながら。俺は炎龍の攻撃方法やその特性を頭のなかでまとめる。

 

 

 基本的に炎龍の攻撃方法は炎を使うドラゴンと一緒と考えていい。つまりは俺がこの世界で1番よく知っている攻撃方法と一緒だ。尾による攻撃だけは予想外だったが、ミネアの様子を見る限り、爪やブレスでの攻撃と違い一撃必殺の威力はないだろう。…………俺が食らったら多分無事じゃすまないが。

 防御の面はかなり厄介そうだ。生物じゃないから急所はない上に、俺やミネアの攻撃を受けても消耗している様子はない。ミネアの攻撃を受けた時の反応を見る限り効果がないというわけじゃないんだろうが、その耐久力――魔力の塊である炎龍は魔力そのものがそれに当たる――は思った以上に多そうだ。

 

 攻撃手段がドラゴンと同じであるならどれだけ力量に差があっても2対1という数の差でなんとか戦える。問題は炎龍の魔力が先に尽きるか俺とミネアの気力か魔力が先に尽きるか。……それでいて、こっちは一撃じゃ倒せず、向こうの攻撃は俺に当たれば一撃必殺。ミネアも爪や牙での攻撃受ければやばい。

 

「…………やっぱ、逃げたほうが賢かったなぁ」

 

 でも、ここには俺以外にも命をかけてるものがいる。近くには俺を信じて待っている奴がいる。

 そして、俺はドラゴンナイトだ。ドラゴンとともに戦いドラゴンが最強だと証明するものだ。なら、たとえここで死のうとも逃げる訳にはいかない。

 

 俺が負けるのはかまわない。だがミネアは負けさせない。

 

 

「こいよ、『炎龍』。大精霊ごときが『最強の生物(ドラゴン)』に勝てると思ってんじゃねーぞ」

 

 自分が逃げ出したい気持ちごと炎龍を挑発して。俺は終わりの見えない戦いへと挑んでいく。

 

 

 

――リーン視点――

 

 はぁ、はぁという自分の息が煩い。胸は爆発するんじゃないかというくらいに痛く動いているし、道じゃない所を走ったせいか足が引きずりたくなるくらいに痛い。

 あたしの身体はかつてない酷使をされて早く休め、せめて歩けと叫んでいる。

 

「ライン兄…っ……ラインにい……っ!」

 

 そんな身体の叫びを無視してあたしは走り続ける。命を懸けて守ってくれると言った人の元へ。……でも、帰ってくると言ってくれなかった人の元へ。

 

「嬢ちゃん、そっちは行っちゃダメだ!」

 

 サラマンダーと戦い、そして全てを倒しきった冒険者の一人があたしに制止をかける。でも、それは声だけで身体は動いていない。それはそうだろうと思う。サラマンダーと冒険者たちの戦いは半日にもかかった。明るかった日も既に落ちきり夜になっている。命を懸けて戦った冒険者たちにそんな気力も体力も残っているはずがない。むしろ、暗がりを走るあたしに気づいた冒険者は余裕があったほうだ。

 

(行かないと……! 見届けないと!)

 

 少しずつ近づいてきた緋色の光。今も戦いが続く場所まであたしは走り続ける。

 

 

 だって、その時を見届けなければあたしは絶対に後悔するから。

 だって、今行かないとライン兄があたしの前からずっといなくなる気がするから。

 

 

「きゃっ……はぁ、はぁっ……ごめん、なさい……っ」

 

 暗がりの中必死に走り続けたからか。あたしは前にいた人の姿に気づかずぶつかってしまう。

 

「ふむ? 我輩としたことが興味深い事に気を取られすぎていたようだ。こちらこそ謝ろう野菜好きの娘よ」

 

 あたしがぶつかった人は大分大きな人みたいだ。暗くて顔はよく見えないけど、今のあたしとは見上げるような身長差がある。

 

「……って、あれ……?」

 

 ふらりと、頭から血が引き下がる感じがしたかと思うと、そのまま地面が近づいてきた。

 

「おっと…………ふむ、貧血のようだな。無理して走りすぎたようだ」

「何を冷静に言っているんですか――さん! 早く、このポーションを飲ませてあげてください」

 

 地面にぶつかる寸前に。あたしの身体は大きな体の人に受け止められる。女性の人も一緒にいるらしく、何か2人であたしのことについて話しているみたいだけど、朦朧としている意識ではその内容は入ってこない。

 

「魔道具店を開こうというものがそう簡単に商品をあげてどうするのだ?」

「多分、私は困っている人がいればいつもこうすると思います。――さんのためにお金稼ぎも頑張りますけど……」

「はぁ…………もういい、飲ませるゆえさっさと寄越せ」

 

 冷たい瓶の感触が唇に当てられたかと思うと、そこから苦味のある液体が私の口の中に入ってきて、そのまま喉を通っていく。

 

「…………流石ですね――さん。普通そんなふうに飲ませたら吐き出させちゃうと思うんですけど」

「我輩を誰だと思いっているのだ。これくらい我輩の――力で余裕である」

 

 あたしが飲まされたのは回復のポーションだったらしい。苦しくて動けないと叫んでいた身体は落ち着きを取り戻し、もう一度あたしの意志に応えてくれる。

 

「ありがとう、お兄さん、お姉さん。このお礼はいつか絶対するから!」

 

 立ち上がったあたしは、お礼もそこそこにまた走り始める。ライン兄が戦っている場所はもう見えるところまで来ていた。

 

 

 

 

 

――ライン視点――

 

「ハァ…ハァ……、そろそろ限界じゃねぇか? 炎龍さんよ」

 

 炎龍の爪を避け、返しの刃でその眼に槍を突き刺す。すると一瞬だけだがその巨体が薄くなった。

 

(……もう少しだが、俺もミネアも限界だ)

 

 終わりは見えているが、それ以上にこっちの限界が来ている。魔力はギリギリ、気力はとっくに限界を超えていた。それでも戦えているのは一人ではなく二人で戦っているからに過ぎない。

 

「っ!? しまっ!?」

 

 疲労からくる思考に飲まれて出来てしまった隙を炎龍は見逃さなかった。その牙が俺の身体を引き裂こうと迫ってくる。

 距離的にミネアは間に合わない。炎龍は凄絶な笑みを浮かべ――

 

『…………!?』

 

 ――その巨体は黒き稲妻を受けて俺の身体の前で止まった。

 

「ミネア! 一気に行くぞ!」

 

 何が起こったのかは分からないが、これが最後のチャンスだ。自分に残った魔力すべてを使い切る覚悟で、俺とミネアは炎龍へ最後の攻撃へと移る。

 

「っ! っ! っ! よっと!……ミネア!」

 

 槍の得意技である突きを三発食らわせ、大きく切り払いまでくらわせた俺は一旦炎龍から距離を取った。

 

『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 その間を埋めるように、ミネアは爪と牙を炎龍の身体へと突き刺さす。そのまま炎龍の身体を痛め続け、動かないように固定をした。

 

「これで正真正銘最後だ! 頼むから終わってくれよ……!」

 

 持てる魔力――ミネアの持つ魔力も含め――すべてを槍の先に集め炎龍へと突進。その巨体の真中を止まることなく最後まで突き抜けた。

 

 

 

 パァンと音がなり、炎龍の巨体が消え去る。その代わりにあたりは火の粉のような色の淡い光が降り注いだ。

 

「……形をとる前の火の精霊か。綺麗なもんだな」

 

 夜の暗闇の中で光るそれは幻想的なものがある。それがあんな怖い存在になるってんだから世の中不思議なもんだ。

 

「……不思議といや、あの黒い稲妻はなんだったんだ?」

 

 上級魔法の『カースド・ライトニング』だろうってのは分かるが、大精霊の魔法防御力を抜けるような魔法なんて紅魔族でも一人で使えるやつはいないだろう。それこそ魔王軍幹部でも上位の実力者ならあるいはってレベルだ。

 

「……ま、誰でもいいか。助けてくれてありがとよ」

 

 誰だか知らない実力者に俺は感謝の気持ちを送った。

 

 

 

――――

 

 

「バニルさんバニルさん。凄いですね。本当に炎竜を倒してしまいましたよ。何者なんでしょうか? あの少年」

「知らぬ。忌々しいトカゲと一緒にいるということはドラゴン使いかドラゴンナイト…………中位種のトカゲを連れて倒せたのだからドラゴンナイトだろうが、この距離からでは我輩でも見通せぬ」

 

 リーンを助けた2人――魔王軍幹部の中でも上位の力を持つ人畜無害の悪魔とリッチー――は、ラインたちの戦いを見届けて、その結果に大小違いはあれど驚いていた。

 

「バニルさんでも簡単に見通せない実力者のいる街ですか……。決めましたよバニルさん。本当は温泉のある街が良かったんですけど、この街に店を建てようと思います。……ここは思い出の街でもありますしね」

「そうか、では見送りはここまでということだな」

 

 夢をかなえるため。悪魔との約束を守るため。店を出すと魔王城を出ることにしたリッチーを、バニルと呼ばれた悪魔は見送りに付いてきていた。……見送りというよりも付添人と言ったほうが正確かもしれないが。

 

「はい。ありがとうございましたバニルさん。店が出来たら遊びに来てくださいね。頑張ってダンジョンの建築資金をためますから」

「……見通す力を使わずとも結果が見えているゆえ、そのうち我輩がバイトに来るかもしれん。汝に任せていたらいつまで経っても金が貯まらぬだろうからな」

 

 『氷の魔女』と呼ばれていた人間時代ならともかく、今のリッチーはどこか抜けているというか、一言で言うならポンコツ気味だ。先程リーンを無償で助けた様子を考えても商売に向いているとは考えられない。その上致命的なまでに商品を選ぶセンスが無いのを考えれば…………バニルの出番はそう遠くないうちに来るだろう。

 

「心配しなくても大丈夫ですけど……バニルさんと一緒に働くのも楽しそうですね。魔王さんにはお礼を言っててください」

「この残念リッチーに宝をたかられずにすんで魔王も喜んでいるだろうが……とりあえずよろしく言っていたと伝えておこう」

 

 そんな心配をよそに脳天気に言うリッチーにバニルは心の中でため息をつく。そして少なくともリッチーの言う一緒に働く日々が退屈しない日々になるのだけは見通す力を使わずとも確信できた。

 

「っと、そうでした。バニルさん。もうこれは私には必要ないものなので預けておきますね」

 

 そう言ってリッチーがバニルに渡したのは彼女が愛用している魔法の杖だ。『氷の魔女』と呼ばれた冒険者時代から使っているもので、紅魔族が作った最高傑作の杖らしい。

 

「いらぬというのなら売れば開店資金の足しになるだろうに……なぜ、わざわざ我輩に預けるのだ」

「だって、店主の私にはもう必要ないものですけど、魔法使いとしての私には必要なものですから。……私が魔法使いに戻らないと行けない時が来たら返してください」

「ふむ……そういうことなら預かろう。まぁ、汝が魔法使いに戻る日など来ないほうがよいのだろうがな」

 

 ただ、いずれそういう時が来るだろうことはバニルにも予感があった。……許せないと思った存在がいた時、彼女はきっと魔法使いに戻るだろう。

 

 

「それじゃ、バニルさんまた会いましょう」

「ああ、駆け出しリッチーあらため駆け出し店主よ、また会おう」

 

 再会の約束をして。友である2人は別々の方向へ歩み始めるのだった。

 

 

 

 

 

――ライン視点――

 

「ライン兄!」

 

 ドンっと、小さな身体がぶつかり、限界だった俺の身体は倒れる。それでも、その少女が傷つかないよう抱きとめることだけは意地でもした。

 

「何でお前がここに……って、サラマンダーも倒されたのか」

 

 炎龍との戦いに必死で気づいてなかったがサラマンダーも全て倒されたらしい。つまり、この街の危機は去ったということになる。

 

「よかった……、ライン兄が無事で…………」

「あたりまえだろ? 俺は最年少でドラゴンナイトになった天才だぜ? これくらいの相手なら余裕だっての」

「……嘘つき。最後油断して死にそうになってたくせに」

 

 よく見てんじゃねぇか。実際あの黒い稲妻の助けがなきゃ俺は死んでたし、余裕なんてもの最初から最後までなかった。

 

「でも、ライン兄が強いって、…………誰よりも強いのは分かったよ」

 

 言葉とともにぎゅうっと俺に抱きついてくるリーン。

 

「……惚れなおしたか?」

「ライン兄の馬鹿。ここまで惚れさせといていなくなるとか……ホント馬鹿」

「悪い……」

 

 軽口に返されたのは悲しみとも怒りとも言えない感情。

 

「ねぇ、本当にどうにもならないの? あたし、ライン兄と離れたくないよ……」

「それは……」

 

 出来ないことはないかもしれない。今回の炎龍討伐の報酬を使えば冒険者ギルドに都合をつかせてある程度の口封じもできるだろう。その上で俺が『ライン』であることをやめれば……。

 本気で過去と決別するのなら――

 

「出来ないことはない。……でも、きっとそうして一緒にいる俺はリーンの好きな俺じゃなくなる」

 

 ドラゴンナイトであることをやめ、槍も使ってないとなれば俺が『ライン』であると気付く奴はいないだろう。この国では俺の顔は知れ渡ってはいないのだから。

 だが、そうすればきっと俺は腐っていくだろう。大好きな相棒と一緒に過ごせず、思うように戦えない日々は、俺をリーンの好きなかっこ良くて優しく強い『俺』ではなくする。

 自分らしく自由に生きる。あの国を出る時に決めた俺の願いは、ミネアと一緒じゃなければその輝きを失うだろうから。

 

 

 俺は今の俺のままじゃいられない。

 

 

「――それでも、いいか?」

 

 それでも……リーンが望むのなら。俺の命の恩人が俺と一緒にいることを望むのなら。

 

「うん……どんなライン兄でもいい。あたしはライン兄が好きだから」

 

 リーンのそばにいることを選ぼう。リーンが望む限り……リーンに見捨てられないかぎり。

 

「ああ……分かった。一緒にいるよ」

 

 

 

 それがどんなに苦しい日々であろうとも、俺は『ダスト』になろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――リーン視点:今――

 

 ホントはね、ダスト。あたしにダストのことを嫌いだなんていう資格ないんだよ? だって、あたしは知ってる。ライン兄がダストになったのはあたしのためだって。

 あたしに誰かの面影を重ねているだけだとしても、あたしの願いでダストになったのは変わらない。だから、どんなに呆れることが多くても嫌いになるなんてことは出来ない。

 

 でも……ドラゴンが大好きなライン兄にとってドラゴンと触れ合えない日々は。凄腕の槍使いとして名を馳せたライン兄とってなれない長剣で思うように戦えない日々は。あたしが想像している以上に苦痛の日々だったんだろう。そんな日々はライン兄を疲弊させ腐らせ本当に『ダスト』にしていった。

 

 それを止めないといけないのはあたしだった。でも、あたしにはそれが出来なかった。……だから、あたしにはダストを好きだなんて言える資格がなくなった。

 あたしと一緒にいるなんてことを選ばなければ、きっとダストはもっと自由で楽に生きられただろうから。大好きなドラゴンとも別れる必要がなく、出会った頃のライン兄のままでいられたはずだから。

 

 

 

 あたしが好きと言っていいのは思い出の中のライン兄だけ。ただそれだけの話。

 

 

 

「……ね、ダスト。もしもゆんゆんが好きならあたしは応援するからね」

 

 だってあの子はあたしがしたくても出来なかったことをしてくれたから。

 

「だから別にゆんゆんとはそんな関係じゃねぇって言ってんだろ。体と顔は悪くないがあんな生意気な守備範囲外のクソガキは問題外だっての」

「うん、知ってる。ダストもゆんゆんもお互いに友達だとしか思ってないって」

 

 少なくとも今はまだ。何もなければこのままずっと。それでも、何があるか分からないのが恋だ。それに……。

 

「でも、ダストってもしゆんゆんに告白されたら凄い悩むでしょ?」

「………………ノーコメントで」

 

 あの子はある意味であたしと同じだから。あの子が本気で願ったのなら、その願いをダストが『守備範囲外』という言葉だけで捨てられるわけがない。

 仲間は大事にし、恩は忘れない。それだけはいつまで経っても変わらない。だからあたしはダストのことを見捨ててあげられないのだから。……まだ一緒にいてもいいのだと思ってしまうのだから。

 

「……ま、流石にそんなことありえないと思うけどね」

 

 それがあたしの予想なのか願望なのか。それは自分でもよく分からなかった。

 




過去編終了です。シリアスが続いたので次からしばらくは日常編になります。


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第22話:チョロい

「彼女がほしい」

「そうですか。帰っていいですか?」

 

 ギルドの酒場。俺の目の前には呆れ顔のボッチーが一人。

 

「まぁ、そう言うなよゆんゆん。今日は俺の奢りだ」

「いえ、お金をいつまでも返してくれない相手に奢られても…………嬉しいのは嬉しいですが複雑ですよ」

 

 嬉しいのかよ。相変わらずチョロすぎて心配になる。

 

「まぁ、ダストさんは仮にも友達だって認めちゃってるんで恋愛相談くらいは乗りますよ。でもまともな恋愛相談になる気が全くしないんでやっぱり帰ってもいいですか?」

 

 …………こいつほんとに俺のこと友達だと思ってんのか?

 

「まぁ、ゆんゆんの口が悪いのは今更だから置いとくとして……」

「ダストさんに口が悪いとか言われたら死にたくなるんですが……」

「さっきからなんなの、お前。反抗期なの? それとも喧嘩売ってんの?」

 

 こっちが下手に出てるときくらいはまともな対応しろよ。

 

「喧嘩を売ってるつもりはないんですが……ダストさんにそういう話題出されるとムカムカするといいますか……」

「なんだよ。嫉妬か?」

 

 まぁ、俺みたいなイケメンとこれだけ一緒にいれば惚れないほうが難しいかもしれないが。残念ながらこいつは守備範囲外だし、惚れられても困るだけなんだよなぁ。

 

「いえ、ダストさんのナンパに付き合わされた時の酷い目を思い出してるだけです」

 

 そんなこったろうと思ったよ!

 

「そもそも、何をどう勘違いしたら嫉妬してもらえるなんて思えるんですか?」

「勘違いってお前……。俺みたいな強くてかっこいい奴が傍にいたら惚れちまうのが女ってもんだろ?」

 

 だというのになんでこの目の前のボッチーはさっきから俺のことを生ごみを見るような眼をして見てるんだ。

 

「あのですね、ダストさん。ダストさんの顔がそれなりに整っているのは認めないこともありません。真面目な顔をしているときはちょっとだけかっこいいなって勘違いしちゃうことありますし」

「お、おう……そうだろ?」

 

 勘違いってのは引っかかるが、意外と俺の顔はゆんゆんの中で高評価なのか。意外すぎて動揺しちまったじゃねーか。

 

「でも、顔以外の身だしなみは人として最低限レベルでだらしないですし、顔はそれ以上にだらしない表情してるので、ダストさんの見た目は総合的にはマイナスです。多分、私以外に聞いてもダストさんの見た目に関する評価は変わらないと思います」

「お、おう……そうなのか」

 

 …………何で俺は貶されてるのに安心してんだろう。

 

「それとダストさんは確かにこの街じゃトップレベルで強いですよ? 喧嘩してるときに無駄によけられてイラッとすること結構ありますし、真面目に一緒に戦ってくれる時は頼もしいなって思うことあります」

「お前は一言多くないとすまない病気にでもかかってんのか」

 

 褒めるならもっと普通に褒めろよ。……多分マジで普通に褒められたら気持ち悪いって言っちまうけど。

 

「ただ、別に私より強いってわけじゃないので強さ自体に魅力を感じるかと言われたら……。それに普通の人にとって見ればダストさんみたいなチンピラが無駄に強いのってマイナス要素にしかなりませんよ?」

「いや、たとえチンピラでも強い男に守ってもらえば惚れるもんじゃねーのか? 悪漢から守ってもらえば『素敵! 抱いて!』って普通なるだろ?」

 

 だからこそ俺はそんな状況を作ってマッチp……ナンパするわけだし。

 

「そういう考え自体ちょっとあれですけど、裏声は本当に気持ち悪いのでやめてください。……確かに、下心無しで守ってもらえたなら多少はときめくと思いますけど、ダストさんの場合最初から下心しかないですし、悪漢から守ってもらっても、次の瞬間にはダストさんという悪漢に狙われるだけだから意味ないですよね」

「お、俺だっていつも下心だけで動いてるわけじゃねーよ」

 

 多分。ちょっと今そういう状況で動いた時のことを思い出せないだけで。純粋な善意で人助けしたことくらいおそらくある。

 

 

「え? 今更私に見栄なんてはらなくていいですよ? ダストさんがどんなにろくでなしでもこれ以上評価下がったりしませんし」

 

 ……なんで、こいつはいきなり優しい顔して……って、違うな。これは俺を憐れんでる顔だ。

 

「まぁ、結論を言うと、ダストさんがかっこよくて強いことを少しは認めないことはないですけど、それを余裕で台無しにするチンピラさんなので、嫉妬することなんて一生ないと思います」

「ぐぬぬ……お前最近チョロいのかチョロくないのか分かんなくなるな。出会った頃の俺に簡単に騙されてた純粋なゆんゆんはどこに行ったんだ」

「そんな私はバニルさんとダストさんに出会って割りとすぐに死にました」

 

 まぁ、俺や旦那と曲がりなりにも友達やってるならチョロいままじゃいられないか。

 

「今の私は友達って事を引き合いに出されない限り騙されたりなんてしないですよ」

 

 前言撤回。やっぱこいつチョロいわ。というか何も進歩してねえ。いや、友達って言葉に弱いと自覚してるだけ進歩してるのか……?

 

「それに友達って言われても何でもかんでも言うこと聞くって訳でもないんですからね。ちゃんと嫌なことは嫌って言えるんですから」

 

 そんな当たり前の事をなんでこのボッチーはどや顔で言ってるんだろうか。しかも押しの弱いこいつの場合、嫌って言ったとしても本当に断り切れるかどうかは微妙なところだ。

 ……やっぱこいつは、一人にしてたらまずいな。俺や旦那、爆裂娘やリーンがちゃんと目を光らしててやんないと、どんな悪い奴に騙されて利用されるか分かったもんじゃねぇ。俺が言うのもあれかもしれないが、俺よりも性質の悪い人間なんていくらでもいる。アルダープの野郎みたいな悪徳貴族なんていくらでもいるし、人間のくせに魔王軍に与してるような奴だっている。

 

「なんつうかあれだな……俺に心配されるって、お前のチョロボッチーっぷりヤバイな」

「変な造語は止めて! というかダストさんに心配されるって心外にも程があるんですけど!」

「心外とか言われてもな。俺がそう思ったのは本当なんだから仕方ねーだろ。嫌だったら友達たくさん作ってそのぼっちっぷりを治せ」

 

 友達増えてもこいつのぼっち気質が根本的になくなる気はしないが。それでも多少はましになるだろう。こいつのことをちゃんと見ていてやれる奴が増えてくれれば少しは安心できるしな。

 

「……なんで私ダストさんにダメ出しされてるんですか? 元々はダストさんが私に相談あるって話だったはずなのに」

「むしろそれは俺が聞きたい。なんでゆんゆんのぼっちっぷりなんていう今更過ぎる話題を飯奢ってまでしないといけねーんだ。早く俺の恋愛相談にのれよ」

 

 というか、もうこれだけゆんゆんの心配してやったんだから飯奢る必要ないよな。むしろ金持ってるゆんゆんが奢るレベルのはず。

 

「なんで相談持ちかけた方がこんなに偉そうなんですかね?……まぁ、大人な女性の私は広い心で受け流して相談のってあげますけど」

「本当に大人な女性は自分のことをわざわざ大人なんて言わねーぞクソガキ。お前は身体だけは文句無しでエロく成長してるけどそういうガキっぽい所は変わんねーな」

 

 ……本当見た目だけは完璧に成長したよなぁ。初めてあった時も十分過ぎる豊満な身体だったが、それから2年以上たった今は更に成長している。年齢や中身を知らなければ土下座してエロいことしてくれと頼んでいるくらいだ。

 

「むぅ……またクソガキって……。別にダストさんに女性扱いされないのは構わないですけど、子供扱いされるのだけは納得いかないです。ダストさんのほうがよっぽど子供っぽいのに」

 

 頬を膨らませて拗ねるゆんゆん。そういう所がガキっぽい言われるんだよ。…………こいつの見た目でやられると可愛いというか妙な色気も感じるが――

 

「――って、待て俺。見た目に惑わされるな。こいつは見た目はともかく中身は生意気で暴力的なぼっち娘だ。守備範囲外のこいつに色気なんて感じてどうする。俺はロリコンじゃねーんだぞ」

 

 カズマと違って。

 

「んー? あれ? もしかしてダストさん私にドキドキしちゃったんですか? まぁ、私みたいな大人な女性の魅力はダストさんみたいなモテない男の人には刺激が強すぎるから仕方ないですけど」

 

 …………うぜぇ。さっきまでむくれてたくせに、ニヤニヤしやがって。自分の魅力なんて全然理解してないだろうがお前。本当に理解してるんならいつもの無防備さをどうにかしろ。

 

「そういうわけでダストさん。相談したいなら今ですよ? 今の私はちょっとだけ機嫌がいいのでいつもより親身に応えちゃいます」

「……おう、じゃあよろしく頼むわ」

 

 正直調子乗ってるゆんゆんに相談するとか軽い屈辱なんだが……そんなプライドより今は彼女が出来ることが大事だ。

 

「それでダストさん。彼女がほしいって好きな人でもできたんですか? それともいつもみたいに何でもいいからエロいことできる都合のいい女がほしいって話ですか? 前者なら友達として手伝わないこともないですよ」

「えっと…………人聞き悪いってツッコミは置いとくとして後者ですが、どうか相談に乗っていただけないでしょうかゆんゆん様」

 

 机に頭を付けてお願いする俺。

 

「こんなプライドないサイテー男と友達な私っていったい……」

 

 なんでゆんゆんが泣きそうになってんだよ。泣きたいのは年下のぼっち娘に頭下げてまで相談してる俺だろ?

 

「…………まぁ、ダストさんが最底辺のチンピラだという事実を再認識した上で話を続けましょう。後者の話だと私には友人を紹介するくらいしか出来ませんよ?」

「まぁ、それでいいんでお願いします。選り好みとかしないんでお願いします。いい加減彼女がほしいんですお願いします。もう一人で寝るのは嫌なんだよ! お願いします!」

 

 ルナみたいな行き遅れになるのは勘弁だし、キースに童貞だってバカにされるのもいい加減我慢ならないんだよ!

 

「必死過ぎてドン引きなんですが…………。とりあえず私が紹介できる女友達って言ったら……あるえはどうですか?」

「あの巨乳の子か。ゆんゆんと同じ年なら守備範囲外。却下」

 

 確かにあの巨乳は一考の価値があるが…………でも、4つ下とか無理。というかそれでいいならとっくの昔にゆんゆんに手を出してるっての。

 

「選り好みしないってさっき言いましたよね? 私と一緒であるえももうすぐ17ですし、4歳差くらい気にならないと思うんですけど」

「しょうがねぇだろ、守備範囲外は守備範囲外なんだから。17歳以上なら何も文句言わないんでお願いします!」

 

 この際見た目や性格には目をつぶる。…………流石にオークみたいなやつは勘弁だが。

 

「17歳以上ってなると…………クリスさんやダクネスさんは?」

「カズマの女だろ。却下というかダチの女に手を出すほど俺は鬼畜じゃねぇよ」

 

 クリスの方はいまいち読めないが、カズマが1番仲良い男なのは間違いないしな。…………別にリーン以上のまな板に興奮できるか心配なわけじゃないし、どうせ紹介されるなら他の女の方がいいとかそんなこと思っているわけじゃないぞ。

 あと、ララティーナお嬢様はカズマの女じゃなくても勘弁してくれ。あんな変態相手に出来るのはカズマくらいだから。

 

「…………その顔は裏でろくでもないこと考えている顔ですね。まぁ、ダクネスさんは最近カズマさんといい感じだってめぐみんも言ってましたし、クリスさんもダストさんみたいなチンピラを相手にするとは思えないから本気で紹介する気はなかったですけど」

 

 だったらなんで名前出したんだよ。…………って、そうか。こいつの女友達って言ったらそもそも選択肢ないに等しいのか。

 …………あれ? 俺相談するやつ間違えてね?

 

「他に17歳以上の人ってなるとセシ――」

「――却下だ却下。16歳以下のガキとアクシズ教徒は守備範囲外だっていつも言ってるだろうが」

「まだ最後まで言ってないじゃないですか…………いえ、まぁそう言うだろうなとは思ってましたけど」

 

 だったら最初から言うんじゃねえよ。

 

「でも、実際セシリーさんくらいしかダストさんのこと好意的に見てる女の人いませんよね?」

「いや、仮にそうだとしてもあれはないだろ…………もう少しでいいからまともな人にしてくれ」

 

 それにあいつは好意的であってもあくまで親愛でしかない。恋人にするとかなると多分1番難易度高いぞ。

 

「うーん…………そうなるとウィズさんですかね?」

「ウィズさんはその…………ウィズさん自身に文句は全く無いんだがな? よくよく考えて見ればウィズさんと付き合ったらバニルの旦那がついてくるだろ?」

「まぁ、そうなりますね」

「バニルの旦那は嫌いじゃないし、付き合ってて楽しいんだが、一緒に暮らすのはちょっと……………………」

 

 ちょっとというか大分きつい気がする。仮に俺がウィズさんと付き合ったりしたら毎日のように旦那にからかわれて悪感情を食べられることだろう。旦那と一緒にからかう立場なら望む所だが、からかわれる立場となると……。

 

「…………そうですね。ウィズさんは流石に駄目ですね。というかウィズさんはよくバニルさんと一緒に暮らせますよね」

 

 まぁ、ウィズさんは天然入ってるからな。バニルの旦那がツッコミに回ること多いし。

 

「というわけでダストさん。私がダストさんに紹介できる女の子はリーンさんしか残ってないです。でもリーンさんはライン=シェイカーさんが好きみたいなんでダストさんに勝ち目はないです諦めてください。というかもう彼女作るの自体諦めたほうがいいんじゃないですか?」

「今日のお前の毒舌いつもより酷くねぇか?」

「ダストさんに対してはだいたいいつもこんな感じな気がしますけど」

 

 一理ある。

 

「はぁ………………彼女欲しいなぁ」

 

 やっぱ相談する相手間違えたなぁと思いながら。どうしよもなさそうな願望をため息と一緒に吐露する。

 

「そんなに欲しいんですか?」

 

 そんな俺を見てゆんゆんはどこか不思議そうな表情で聞いてくる。こいつも年頃だろうに、俺の恋人求める気持ちが分からないんだろうか。

 

「ああ。…………ゆんゆんは彼氏欲しいとか思わねぇのか?」

「今のところ特には…………ちょっと気になる人はいますけど」

「へぇ、誰だよ」

 

 親友兼保護者としては少し気になる。こいつの男っ気のなさは異常だからな。というか、爆裂娘相手に百合ってるんじゃないかと疑ってるレベルだし。そんなこいつが彼氏が欲しいかと聞かれて気になる人はいるって言われれば興味が湧くのも仕方ない。

 

「ライン=シェイカーさんですよ。噂を聞く限り、強くてかっこいい人みたいですし。あのリーンさんが恋い焦がれる人ですから結構気になってはいます。流石に恋とかそういうのじゃないですけどね」

「…………ちっ。どいつもこいつもラインライン。そんないい男じゃねぇっての」

 

 リーンのやつといい、なんで『ライン』に拘るんだよ。そりゃ『ダスト』に比べたら――

 

「男の嫉妬は見苦しいですよダストさん。そりゃダストさんはラインさんに比べたらゴミみたいなものだから悔しい気持ちも分かりますが……」

「いい加減表出ろこのクソガキが! 人が大人の余裕で許してやってたら調子乗りやがって!」

 

 たとえ本当のことでも言っていいことと悪い事あるって分からせてやる!

 

「なんだか今日の私はむしゃくしゃしてますんでいいですよ。その喧嘩買います。ダストさんなんかより私のほうがずっと大人だってことを思い知らせてあげます」

 

 

 ――というわけで。

 

 

「レッドアイズのお二人には街中での魔法や武器を用いた喧嘩をしたペナルティとして一週間の奉仕活動か刑務所生活をお願いします」

 

 満面のお仕事笑顔でそう告げてくるルナ。

 

「奉仕活動とかめんどいな…………ゆんゆん、一緒に刑務所ぐらしと行こうぜ」

「嫌ですよ! ああ、やっぱりダストさんの恋愛相談になんか乗るんじゃなかった!」

 

 心底後悔したゆんゆんの叫びは、ギルドの喧騒の中でも強く響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ダストさん。質問いいですか?」

「あん、なんだよ質問って。飯の注文の仕方をもう一度レクチャーしてもらいたいのか?」

 

 まぁ、ここでの飯の注文の仕方はコツがいるからな。下手だとまずい飯しか出てこねえし。前にゆんゆんが来た時は恥ずかしがってやらなかったが、今回はゆんゆんも美味しい飯が食いたくなったのかね。

 

「そんなこと教えてもらわなくていいですというか、せめて私といる時は恥ずかしすぎるんでやめてもらいたいんですが…………」

「じゃあなんだよ? ここでやることと言ったら飯食うことと寝ることくらいだぜ? ああ、でも二人いるならトランプくらい出来るな」

 

 こいつのことだ。どこに行くにも一人遊びの道具くらい持ち歩いてるだろうし。

 

「え!? 一緒にトランプしてくれるんですか!? じゃ、じゃあ『大富豪』とかどうですか?」

「『大富豪』? どんなゲームだよそれ」

 

 聞いたことないゲームだな。紅魔族特有のゲームか?

 

「えっとですね――」

 

 はてなマークを浮かべる俺に得意げにゲームの説明をするゆんゆん。

 

「なんだよ『大貧民』のことかよ。ベルゼルグにもあったんだな」

 

 こっちの国に来てからはガキ臭いゲームなんてやってなかったから知らなかったぜ。

 

「『大貧民』……? えっと、同じゲームだとしたらなんでついてる名前が真逆なんですか?」

「知らねえよ」

 

 あの国で広めたやつが『大貧民』呼びをしていて、ベルゼルグで広めたやつは『大富豪』呼びをしていたってのは分かるが。

 

「つーか、2人でやって面白いか……?」

「ひ、一人でやった時はつまらなかったですけど、めぐみんに泣きついて一緒にやった時は100倍楽しかったですよ」

「…………分かった分かった。一緒に遊んでやるからもうお前のぼっち話はやめろ」

 

 一人でどうやって大貧民をプレイしたのかは少しだけ気になるが、それ以上にいたたまれなくなるから聞きたくない。

 

「ま、牢屋の中じゃ本当娯楽なんてないに等しいからな。どんなにつまらないトランプ遊びでもないよりましか」

「そうですね、牢屋の中って本当に…………って、聞きたいことはそれですよ! なんで私達留置所に入れられてるんですか!?」

 

 思い出したかのようにしてゆんゆんはそう叫ぶ。さっき言ってた聞きたいことってそれかよ。……一緒にトランプしてやるって言っただけで忘れるとか、どんだけ誰かと遊ぶことに飢えてやがんだ。

 

「なんでと言われてもな……そんなもん看守にでも聞けよ」

 

 ちょうど、ゆんゆんの叫びに何事かと睨んできていることだし。

 

「い、いえ……そこまでして聞きたいわけじゃないんですけど……」

 

 その看守の視線に気づいたのか、声を小さくして身体を縮こまらせるゆんゆん。…………なんでこいつはここで小さくなっちまうのかねぇ。俺や爆裂娘相手するみたいにもっと堂々と出来れば友達だってもっと増やせるだろうに。

 

「そ、その……私達って奉仕活動するってことでルナさんに伝えましたよね……?」

 

 看守に話を聞かれたくないのか、口を寄せてこしょこしょとゆんゆん。……別にそれくらい普通に聞けばいいのに。逆に疑われるぞ。

 

「まぁ、そうなんだが……ギルドと公権は協力関係にはあるが指揮系統は違うからな。問題を起こした俺らをここの連中が捕まえたくなった理由があるんだろ」

 

 奉仕活動でお咎めなしってのもあくまでギルド側が責任持って冒険者に温情を与えるってだけの話だし。公権側が俺らを捕まえたいと言ってくればそれを断る権利はギルドにない。

 

「捕まえたくなる理由……? ま、まさかダストさんまた何か悪巧みを考えてるんじゃ……」

「またってなんだよまたって。人を年中悪巧みしてるみたいに言うんじゃねえよ」

 

 こう言っちゃ何だが、最近の俺は留置所に捕まることなかったんだぞ。

 

「てか、そういう理由だったらお前がここにいる理由がないだろ」

 

 俺が悪巧みしてるからってことならこいつが一緒に捕まる理由にはならない。……まぁ、こいつが共犯になって捕まるってことは結構あるし、一緒くたにされて捕まった可能性はあるが……同時にこいつの善良性も知られてるから何もしてない状態で捕まえるとも思えない。

 どっちにしろ俺も悪巧みしてるわけじゃないわけで、ゆんゆんの懸念は的外れなわけだが……。

 

「そ、それは……その……私がいるのは…………うぅ…………ダストさんのバカ」

 

 何でこのぼっち娘はもじもじしてんだ? というか、何で俺今罵られたんだよ。

 

 

「そ、それじゃあ、どうして私たちは捕まっちゃったんですか? 悪巧みしてるわけじゃないならギルドでの奉仕活動で良かったと思うんですけど」

「まぁ、あれだ……俺たちが捕まったのは俺たちには理由がないんじゃねえか?」

 

 そう考えればこの状況に説明がつく。ようは警察は俺たちを捕まえたくなったところでちょうど俺らが問題を起こした。だから捕まったんだろう。

 

「えっと……意味が分からないんですが……」

「分からないほうがいいぞ。国家権力ってものを信じていたいならな……」

 

 俺はもう二度と信じないって決めてるが。

 

「そう言われると気になるというか怖くなるというか……」

「ま、気にすんなよ。それより、トランプやるんだろ?」

 

 実際気にしても仕方のないことだ。だったらあーだこーだ言ってる暇があったら遊んでいたほうがいい。

 

「そうですね! ……えへへ……友達と一緒にトランプって1年ぶりくらいです」

「…………おう、トランプくらい誘えばいつでもやってやるから」

 

 だからそれくらいのことで喜ぶな。こっちが悲しくなる。

 

「てわけだ、看守! 酒持ってきてくれよ酒! 素面でゲームやっても盛り上がらねえからよ」

「出せるか馬鹿者! ……くっ、あのプリースト対策で呼んだが、やはりこのチンピラも面倒過ぎる……」

 

 本音漏れてるぞ看守。…………つうか、やっぱりあいつ絡みかよ。

 

「あ、あの……ダストさん。今日一緒に遊んでくれるお礼に外に出たらお酒奢りますから、今は……」

「ちっ……しゃあねえな。そこまで言うなら奢られてやるか。良かったな看守」

「いや、別に良くも悪いもないが…………貴様、その娘に奢らせるためにわざと騒いだのではないだろうな?」

 

 そんなことは9割くらいしかないぞ。

 

「んじゃ、ゲームを始めるか。シャッフルは任せていいんだよな?」

「任せてください! 一人遊びで極めた私のカード捌きはプロ顔負けなんですから!」

 

 そう言ってカードをシャッフル始めるゆんゆん。マジでプロ顔負けと言うか……カジノのディーラーみたいなカードシャッフルをしてやがる。

 

 …………正直本格的すぎてちょっと気持ち悪い。

 

 

 

 

 

 カードシャッフル以外は普通に『大貧民』をして遊ぶ俺とゆんゆん。……2人でする『大貧民』が普通といえるかどうかは微妙だが……。

 

「『革命』だ」

「『革命返し』です!」

「じゃあ『革命返し返し』」

「なんの――」

 

 ……まぁ、普通にやってたらありえない大技の応酬は少しだけ楽しいかもしれない。相手の手札が完全に読める時点でゲームとして成り立ってるかどうかは微妙な所だが。

 

「…………何やってるの? ゆんゆんさん、ダスト君」

 

 そんな俺らの牢屋の中に入ってきたのは自称美人のプリースト。アクセルの街じゃ俺と並んで問題児扱いされてるセシリーだ。

 

「あん? 見てわかんねーのかよ『大貧民』だ『大貧民』」

「あ、うん。やっぱりそうなのね。…………2人で『大貧民』するとか正気なのかしら? 2人とも何か悩みがあるならアクシズ教徒の美人プリーストとして名を馳せているお姉さんが聞くわよ?」

 

 ………………すげぇ憐れんだ目をしてるんだが。いや、気持ちは分からないでもないが、こいつにそんな目を向けられると思うと凄いムカつく。

 

「セ、セシリーさん! ダストさんは私の遊びに付き合ってくれただけですから! いつものダストさんはともかく、今日のダストさんは正気ですよ!」

「お前もお前でいつもの俺が正気じゃないみたいな言い方はやめろ! というか、それだとお前は正気じゃないことを認めることになるがいいのか!?」

「いい加減私だって一人遊び関係の私が普通じゃないことくらい分かってますよ! それが認められるくらいには大人になりましたし、友だちもできたんですから!」

「………………おう、そうか」

 

 そんなこと叫ばれても。俺は憐れめばいいのか、喜べばいいのか、どっちだよ。

 

「…………あの、すみません。今の私の言葉は忘れてください。それが出来ないならせめてその生温かい目はやめてください……」

 

 自分の叫びを冷静に考えて後悔しているのか。さっきまで楽しそうに遊んでいたのが嘘のように気落ちしているゆんゆん。

 まぁ、俺だけじゃなくセシリーや看守にまで変な目で見られてたら気落ちするか。

 

「(おい、残念プリースト。お前のせいだぞ。この空気なんとかしろよ)」

「(ふふっ……つまりここはアクシズ教徒流美少女慰め術の出番ということね)」

「(あ、やっぱいいわ。お前は黙ってろ)」

 

 アクシズ教徒流って時点で嫌な予感しかしないし。…………というか絶対ただのセクハラだろ。

 

「まぁ……そのなんだ…………せっかくセシリーも来たんだ。三人で『大貧民』やろうぜ」

 

 何で俺がぼっち娘の機嫌治そうとしてんだろうと思いながらも。俺は小細工もなく単純にそう提案する。

 

「うぅ…………ダストさんに気を使われるとか軽い屈辱なんですが…………」

「お前とは一生トランプなんてやってやらねぇ」

 

 人がせっかく気を使ってやったのにその反応とか。

 

「ふふっ…………今のは謝りますから機嫌直してくださいよダストさん」

 

 何で俺が機嫌直す方になってんだよ。気落ちしてたのはお前の方だろうが。

 …………ま、こいつが憎まれ口叩けるってことはいつもの状態に戻ってるって証拠でもあるんだが。

 

「ありがとうございます。たとえダストさんでも友達に気を使ってもらえるのは素直に嬉しいです」

「おう。一言多いのは気になるが感謝しろよ」

 

 俺が気を使うなんて百年に一度あるかないかだからな。

 

「ダスト君ってツンデレ君よねえ……ゆんゆんさんのこと大事に思ってるならもっと素直に表現すればいいのに」

「おう、お前の千倍くらいは確かにゆんゆんのことは大事だぞ」

 

 そんなことはいまさら言うまでもない。

 

「だ、ダストさん……!? どうしたんですかいきなり! 熱でもあるんですか!?」

「なんてったってゆんゆんは俺の金蔓だからな。大事じゃないわけがない」

 

 今日だって酒奢ってくれるって約束してくれたし。

 

「あ、いつものダストさんだ。よかったぁ……熱はなさそうですね」

 

 お前も俺の友達を認めるならこれくらいの流れくらいは読め。リーンなんて俺が何も言わなくても察するぞ。

 

「…………なんていうか、二人共すっかり仲良しさんなのね。お姉さんちょっとだけ嫉妬しちゃうかも」

 

 相変わらずこのプリーストの考えは読めないな。何をどう考えたら今の流れで俺とゆんゆんが仲良しだなんて発想になるのか。そりゃ、ダチなのは確かだが、今の流れはそれを疑うだろ?

 

「えへへ……まぁ、私とダストさんが友達になっちゃったのは確かですね。すっごく不本意ですけど」

 

 ……ま、ご機嫌になってるゆんゆんを見ればわざわざそれを突っ込もうとは思わないが。

 

 

 

 

 

「すぅ……すぅ………んぅ……」

 

 セシリーの太ももに頭を載せ、膝を丸めてすやすやと眠っているゆんゆん。

 三人で『大貧民』をやった後。散々楽しんだゆんゆんははしゃぎすぎて疲れたのか、うつらうつらと船を漕いでいた。

 それを見たセシリーは自分の太ももに誘導、今の状況が出来上がったというわけだ。

 

「ふふっ……可愛いものね。こんなに美人さんに成長したのに。出会った頃と変わらない純粋さを持っているなんて……ちょっと卑怯なくらいよね」

「そいつのはただガキっぽいだけだろ。……おい、看守。毛布持ってきてくれ。3人分な」

 

 本当、こいつは子供っぽいというか…………襲う気はないとは言え、男のいる部屋で無防備で寝すぎだろ。見ようと思えば簡単に下着見れるんだぞ。

 

「そう思うならダスト君はなんでゆんゆんさんと友達になったの? 本当に金蔓だからとかは言わないわよね?」

「それも理由の1つなのは本当だぞ」

 

 もちろんそれだけではないが。

 

「一番の理由はジハードだな。ジハードの事が心配だからご主人様のこいつの面倒見てるってのが大きい」

 

 今日は紅魔の里でミネアと遊んでいるらしくゆんゆんの傍にジハードの姿はないが。ジハードの存在がゆんゆんのことを気にかけさせる一番の理由なのは間違いない。

 

「じゃあ、ジハードさんが生まれる前……卵もなかった頃からゆんゆんさんに絡んでたのは何でかしら?」

 

 …………あの頃か。

 

「…………綺麗だって、思っちまったんだよ」

「え?」

 

 思い出すのは暗闇を切り裂いた強い光だ。

 

「…………なんでもねえよ。そんな昔のことは忘れたっての」

 

 実際、始まりはどうあれ、今の俺とゆんゆんには関係のない話だ。

 

「ダスト。毛布だ。3枚でよかったのだろう?」

「おう、ありがとよ…………って、やっぱ薄いな」

 

 看守から毛布を受け取るが、ちゃんと確認するまでもなくその薄さが分かる。牢屋の難点は枕の硬さこの毛布の薄さだよなぁ……まぁ、馬小屋よりはマシだけどよ。

 

「ダスト、お前に言っても仕方のないことだろうが…………できればその娘は大事にしてやれ」

「あん? いきなりどうしたんだよ」

 

 看守のやつが珍しく真剣な表情で俺のことを見てやがる。いつもは適当というかいろいろ諦めた表情をしているのに。

 

「お前は今回、その娘と一緒に牢屋に入れられたことを不思議に思わなかったか?」

「はぁ? まぁ、おかしいとは思ったが……どうせ俺とゆんゆんにセシリーの面倒を見せようと思っただけだろ?」

 

 ゆんゆんまで必要なのかとは思ったが……ゆんゆんまで入れば俺含め制御がし易いだろうと判断したんじゃなかったのか。

 

「確かにお前はそこの残念プリーストの面倒を見せようとわざと捕まってもらったが、その娘は違う。……というより我々も流石に善良なものを自分たちの都合で捕まえたりはしない」

 

 善良じゃなければ自分たちの都合で捕まえていいのかよ。

 

「その娘は『例えダストさんでも一人で牢屋に入るのは寂しいだろうから』と、そう言ってお前と一緒に牢屋に入ることを選んだ。…………その気持ちに少しは報いてやれ」

「そんな理由で牢屋に入るとか…………本当このぼっち娘はお人好しだな」

 

 そんなお人好し加減でよく冒険者なんてやってられるもんだ。

 

「つっても、ゆんゆんが勝手にやったことだろ? それに報いてやれ言われてもどうしろってんだ」

 

 看守から背を向けてゆんゆんとセシリーの傍まで毛布を持って近づく。

 

「あー……やっぱり下着見えてんじゃねえか。本当こいつは無防備すぎるな」

 

 それを隠してやるように俺はゆんゆんに毛布をかけてやる。

 

「って、このバカ。短いんだから包まるんじゃねえよ」

 

 だが、寒かったんだろうか。ゆんゆんはかけてやった毛布を自分で引き寄せ、上半身を包ませる。……結果として隠してやった下着は見えたままだ。

 

「ったく…………しょうがねぇなぁ」

 

 どっかの鬼畜男と同じようにつぶやきながら。俺はもう一つゆんゆんに毛布をかけてやって下着を隠してやる。

 

「…………おい、なんだよセシリー。そのニヤニヤした顔はやめろ」

「んー? お姉さんは微笑ましいと思ってるだけよ? 別にニヤニヤなんてしてないわ」

 

 この状況じゃどっちも一緒だろうが。

 

「ちっ……ほら、お前もさっさと寝ちまえ。格好がきついんだったら俺が変わってやる」

 

 セシリーに毛布を投げつけて俺はそう言う。

 

「んふふ……ダスト君って案外ゆんゆんさんに負けず劣らずチョロいわよね。優しくされることになれてないのかしら?」

「うぜぇ…………お前明日になったら覚えとけよ」

 

 今騒いだらゆんゆんが起きちまうから何にもできないが、起きてしまえばこっちのもんだ。折檻してやる。

 

「楽しみにしてるわ…………ふふっ」

 

 本当覚えとけよ……そのにやけ顔を戻らなくなるくらい引っ張ってやるからな。

 

「ダスト、追加の毛布だ。サービスで貸してやる」

 

 ばふっと俺の頭にかかる薄い毛布。振り返ってみればセシリーと同じようにニヤニヤしている看守の姿が――

 

 

「あー……マジでうぜぇ」

 

 

 

 旦那に借りを作ってでもこいつらに嫌がらせをしようと決める俺だった。



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第23話:夢の中で

「アイリス、ここ20回くらいの模擬戦の勝敗覚えてるか?」

 

 いつものアイリスとの特訓。模擬戦と表現するにはちょっとばかし物騒な戦いが始まる前に。俺は気になっていたことをアイリスに質問する。

 

「ええと……私が12勝7敗1引き分けですね。なのでダスト様の戦績はその反対になります」

「ふーむ……ただの棒きれ同士の戦いじゃ拮抗してきてるってところか」

 

 特訓始めて最初の頃はアイリスに弱体化の魔法かけてそれでも全敗だったが、今はそのデバフもしていない。剣士としての自分から槍使いの自分への意識の入れ換えもすぐに出来るようになったし、順調に勘を取り戻せていると言っていいのかもしれない。それでも負け越してるのは単純に戦士としての俺よりアイリスの方がステータスが断然高いからだろう。

 ……俺これでもレベル50越えてんだけどなぁ。下級職の戦士とはいえ、レベルが30代のアイリスのほうがステータスが上って本当どうなってるんだ。ベルゼルグの王族のデタラメっぷりは知ってたつもりだが、その中でもアイリスの潜在能力は歴代で上位な気がする。

 

(つっても、その潜在能力もこのまま模擬戦続けてるだけじゃ開かねぇよな……)

 

 俺が順調に槍の腕を取り戻せていると言っても、そろそろ今の模擬戦だけじゃ上達しない域に来ている。それはアイリスの剣の腕も一緒で、ステータスの制限をなくした頃から剣技の上昇は見られなくなった。

 俺にしてもアイリスにしても、ここから剣や槍の腕を伸ばしたいのなら特殊な状況下での特訓か、多くの実戦を経験していくしかないだろう。才能や()()()だけでは至れない場所はどうしてもある。

 スキルポイントを振れば剣や槍の腕を伸ばすことも容易だろうが、俺なら『竜言語魔法』、アイリスなら聖剣や王族限定のスキルにポイント使ったほうが強くなれるからあまり効率的とはいえない。

 

 そもそも、この特訓を始めた理由は単純な強さを上げるためじゃないしな。

 

 

「というわけだ、アイリス。お前魔法解禁して戦っていいぞ」

「はい? えーと……ダスト様? ちょっと何をおっしゃっているのか分からないのですが……」

 

 俺が色々考えて出した結果にアイリスは目を丸くしている。

 

「逆になんで分からないのか分からねーぞ。単純に模擬戦でお前は魔法使っていいって言ってるだけだろ?」

 

 そこに何の疑問が挟まるんだ。

 

「いえ、それは分かっているのですが…………何でそんなことをいい出したのかマジイミフです」

 

 まだ治ってないのかよその喋り方。おい、レイン。そこで頭抱えてないでさっさと矯正してやれ。王族がこの喋り方は国際問題に発展しかねないぞ。

 …………まぁ、姫さんの奔放さに比べれば可愛いものだが。

 

「もともとこれは私が逆境でも十全に戦えるようにと始めた特訓……ですよね? 弱体化の魔法をしないようにしだした時も少しおかしいと思ったのですが……」

「ああ、そういう意味か。お前は自分が逆境に立って特訓すると思ってたんだな」

「? そうではないのですか?」

 

 首を傾げるアイリスにそういや説明してなかったかと頭を掻きながら。俺はどう説明してやろうかと頭のなかで言葉をまとめる。

 

「実際、逆境の状況を作って特訓するのが有効なのは確かだ。実戦に比べれば効率は格段に落ちるが逆境下で実戦とか危なすぎるのを考えればお前にやらす訳にはいかないしな」

 

 危険をなしに逆境下での対応力を身につけるなら訓練でそういう状況を作ってやるしかない。……アイリスが普通だったなら俺もそう思っただろう。

 

「ではなぜ……?」

「んなもん、お前が天才すぎるからに決まってんだろうが」

 

 正直こいつと特訓してるといろんなことがアホらしくなる。それくらいにアイリスの持っている才能は規格外だ。

 

「ええと…………ありがとうございます? それで、それと特訓と何が関係あるのでしょうか? マジちんぷんかんぷんなんですけど」

「お前の言葉遣い聞いてると俺の頭の中がちんぷんかんぷんだよ。……じゃあ、一から説明してやるか」

 

 レインと同じように痛む頭を抑えながら。俺は一つずつ説明を始める。

 

「第一に。これが1番大きな理由なんだが……お前を逆境下に置くのが面倒過ぎる」

 

 言うまでもなくアイリスは強い。アイリスにデバフをかけて俺にバフをかければ確かに逆境にはなるだろうが、それは中途半端な逆境だ。特訓で逆境下での対応力を鍛えようと思うならそんな中途半端な逆境はほとんど意味がない。

 となると、俺がドラゴンナイトとしてミネアの力を借りなければ十分な逆境は作れない。だが毎日のように転職繰り返してミネアを呼び出してとなると流石に現実的じゃない。いくらギルドが隠してくれているとは言え、俺の正体を訝しむ奴も出てくるだろう。今はまだアクセルの街を離れる訳にはいかないし、それはできるだけ避けたい。

 

「第二に。訓練とは言えお前を不利な状況に落として戦うとなるとお前のお付きが怖い」

 

 レインじゃない方にそんな特訓してるとバレたら…………絶対ろくなことにならない。あいつ以外もベルゼルグの国王とかアイリスのこと猫可愛がりしてるし。

 ……前に一緒に戦った時とか娘自慢うざかったんだよな。というか基本的に実戦に出ないアイリスに聖剣持たせてるとか親ばかにも程がある。

 

「第三に。……ぶっちゃけお前の天才具合なら俺の戦い方を吸収して逆境での戦い方も学べるだろ」

 

 というか、実際学べてる。槍の腕が戻るに連れて俺が勝つ試合が増えてきたが、その中でアイリスは負けそうな状況でしなきゃいけない戦い方をしっかりと実践していた。

 最初は俺もミネアを呼ばないといけねえなと思っていたが、それを見てその必要はないと方針を変えた。むしろ下手に逆境作って特訓するより今のままの方が効率良いなと思ったくらいだ。

 

「とまぁ、こんな理由なわけだが……何か質問はあるか?」

 

 質問されても答えられるかどうかは知らないが…………分からない質問があったらレインにでも投げよう。そもそも俺が教師役みたいなのやってるのがおかしいわけだし。

 

「ええっと…………では二つだけ」

「おう、なんだ? なんでも答えてやるぞ」

 

 俺はともかくレインならきっと答えてくれるはずだ。

 

「一つ目なんですが……、相手が逆境の状態でも学べるなら、何故今まで私は逆境での戦い方を学べていなかったのでしょうか?」

「なんだそんなことか。それくらいは気づいてると思ってたんだけどな」

 

 まぁ、こいつの場合それが『普通』だったんだろうな。どんなに賢くても比較するのが0と1だけなら気付けることも気づけないか。

 

「単純な話だよ。お前に戦い方を教えてた奴ら……この国でもトップクラスの騎士なんだろうが……そいつらがお前を倒そうと本気で戦ってたことなんてあったか?」

 

 模擬戦という形すら滅多になかったんじゃないかと俺は思っている。そりゃそうだろう。アイリスはこの国の姫。それを守るのが仕事の騎士が本気で――怪我をさせるつもりで――アイリスと戦えるはずがない。騎士でなくともこの国出身なら姫様を傷つけるとなるとかなりの抵抗があるはずだ。

 となると、騎士以外……冒険者でできればこの国出身以外のもの。そんな相手を一国の姫の教育係にするとか正気の沙汰じゃない。

 

「なるほど……ダスト様のように私を遠慮なく傷つけてくれる相手は確かにいませんでしたね」

「おうよ。お前のことを容赦なく叩けるのは俺くらいだからな感謝しろよ」

 

 カズマのやつもアイリスには妙に甘いらしいからな。バニルの旦那もアイリスには甘いし。…………こいつ甘やかしてないの俺と爆裂娘だけなんじゃねえか?

 

「ダスト殿の場合はもう少し手加減してほしいといいますか…………治るとは言えアイリス様の顔に傷がつく度にどれだけ私の心臓が縮まる思いをするか少しは想像してもらいたいのですが……」

 

 なんかレインが向こうで呟いているのが聞こえるがスルー。正直レインの立場になって考えれば心底同情するが……そんなこと気にしてたらアイリスの特訓相手なんて務まらないからな。

 …………今度酒でも奢って愚痴でも聞いてやるか。

 

 

「で? もう一つの質問ってのは何だ?」

「はい。魔法を解禁とおっしゃられましたが…………本当に大丈夫ですか? 木剣と違って魔法は当たればマジヤバですよ」

「お前の喋り方のほうがマジヤバだよ。……そのあたりは実際に見せたほうが早いな」

 

 アイリスの懸念は普通に考えれば最もなものだが……俺には当てはまらない。

 

「何でもいい。攻撃魔法を俺に向けて撃ってみろ。手加減はいらない。……あ、でもレインを巻き込まないように気をつけろよ? そこまでは流石にカバーしきれないからな」

 

 アイリスから軽く距離を取り、穂のない槍を構える。

 

「ええと……じゃあ、レインは私の後ろに回ってください。……本当に手加減はいらないのですか?」

「二度手間になるだけだからな。むしろやめてくれ。それに俺はどっかのドMお嬢様ほどじゃないが魔法抵抗力が高い。仮に直撃しても爆裂魔法以外じゃ即死はしないと思うぞ」

 

 …………爆裂魔法でも死なないあのお嬢様は本当どんな腹筋してるんだろうか。

 

「それでは遠慮なく……レイン、準備はしていてくださいね。――――」

 

 止めるなら今ですよと言わんばかりのゆっくりとした詠唱。聞きなれないこの詠唱は……ゆんゆんが言っていたあの魔法か。爆発魔法クラスってなると少しは気合入れないとヤバそうだな。

 

「――『セイクリッド・ライトニングブレア』!」

 

 アイリスに紡がれ完成した魔法。それは白い稲妻となって放たれる。

 暴風と共に迫るその稲妻の範囲は点ではなく面。『ライトニング』という名前が含まれているが、その範囲はインフェルノなどの広範囲魔法に近い。……それでいてライトニング級の速さで迫ってくるのだから普通の相手は逃げられず耐えるしかないだろう。

 

 そんなベルゼルグの王族の理不尽さを象徴するような魔法を――

 

 

「よっと。……っっ、やっぱミネアの力借りてなきゃ無傷とはいかないか」

 

 ――俺はいつものように切り払った。

 

 

「「…………はい?」」

 

 主従で目を丸くする2人。なんかそんな反応久しぶりに見るな。

 

「あの…………ダスト様? 今、何を……?」

「何って言われてもな…………魔法を切ったんだよ」

 

 あとは切った後、魔力で魔法の通り道を作って直撃を避けただけだ。

 

「…………魔法って切れるものなんですか?」

「魔法剣とかの魔力の通ってる武器や『ライト・オブ・セイバー』なら切れるな」

 

 イメージとしてはリッチーや大精霊を切ってるようなものだ。あいつらにダメージを与えられるのならタイミングを合わせれば魔法は切れる。……リッチーや大精霊にダメージを与えるレベルってなるとちょっとやそっと魔力がこもってるくらいじゃ無理だけど。

 

「ダスト様が持ってるのはただの長い木の棒ですよね……?」

「ただの長い木の棒ではあるが『魔力付与』しときゃ魔法切る分には普通の槍と変わんねーよ」

 

 どうせ俺の魔力は無駄に高いくせに使いみちがこれしかないから全力で魔力込められるし。

 

「…………薄々分かってましたが、ダスト様も大概化物ですね。全盛期のあなたはどれほど強かったのですか?」

「ちょうど今の聖剣持ったお前くらいじゃねーか。ドラゴンの力も借りてない自力でそんだけ強いお前のほうがよっぽど化物だと思うが」

 

 死ぬ気で戦い続ける日々を送り、ミネアの力を借りた俺が強いのは当然といえば当然だ。だが、アイリスは未だに実戦経験は片手で数えるほどしかない。

 ……正直才能に差がありすぎて嫉妬する気すら起きない。ま、俺の場合、自分と契約したドラゴンが最強だったら強さに関して他はどうでもいいってのもあるんだが。

 

「私からすればお二人とも十分化m……いえ。なんでもありません」

 

 流石にレインは自重したか。流石に自分が仕える姫様を化物呼ばわりはまずいもんな。俺は別にアイリスに仕えてるわけでもなければこの国出身でもないから気にしないけど。

 

「というか…………お二人に高レベルのプリーストの方をつければ魔王も倒せるのでは?」

「駄目です! 魔王を倒すのはお兄ty……いえ、なんでもないです」

「まぁ、状況次第じゃ確かに倒せるだろうが興味ねぇなぁ」

 

 倒せる状況に持っていくのが何より大変だし、そもそも俺には魔王を倒す資格がない。

 

「アイリス様が何を言いかけたかは後でゆっくり質問するとして…………ダスト殿が興味ないというのは意外ですね。魔王を倒せばお金だろうと女性だろうと思うがままですよ?」

「そりゃ魔王討伐報酬は欲しいけどよぉ……ぶっちゃけその労力にあった報酬じゃねーだろ? 俺は楽して儲けたり女にモテたいんだよ」

 

 魔王倒すなら世界の半分くらいは欲しい。むしろ魔王に世界の半分くれるって言われたら迷わず魔王に加勢するし。

 

「ダスト殿のそういう俗物な所を見ると安心するようになったのですが……この気持ちは何なのでしょう?」

「それは恋だな」

 

 間違いない。

 

「いえ……残念ながらそれはないと思いますよ? レインはお金を持っている人が好きなんです」

「誤解のある言い方はやめてくださいアイリス様! 確かに私はお金に多少困ってはいますが、それだけで男性を選んでいたりしませんから!」

 

 …………なんだろう、レインにまた共感を覚えてしまった。金に困ってたり姫に困らされてたりなんか境遇がかぶるんだよなぁ。

 

「…………ダスト殿からの視線に何故か屈辱を感じるんですが。とにかく、ダスト殿には魔王討伐の意志はないんですね」

「まぁ、魔王は勇者が倒すものって相場が決まってるからな。勇者になれない俺には土台無理な話だよ」

 

 だから資格がない。

 

「勇者になれない……? それはどういう意味なのですか、ダスト様」

 

 不思議そうに聞いてくるアイリス。レインも同じ気持ちなのか俺が口を開くのを待っている。

 俺が勇者になれない理由なんて言うまでもない気がするんだけどなぁ……。

 

 

「決まってるだろ? 俺が勇者になれないのは、俺が『ドラゴン使い』だからだよ」

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ダストさんお帰りなさい。お待ちしてましたよ」

「よぉ……ロリサキュバス。お仕事おつかれさん」

 

 アイリスとの特訓が終わり疲れた足で帰った馬小屋。そこにはいつもと同じように俺に夢を見せるために待っているロリサキュバスの姿が…………って、あれ?

 

「…………なんでお前村娘の格好してんだよ? お前いつも仕事の時はサキュバスの格好してたよな?」

 

 今のロリサキュバスの格好は普段街の中を歩いている時の格好と変わらない。

 

「はい。だってお仕事時間外ですからね。もう今日の私の営業時間は終わってますから」

「あー……そうなのか。悪いな時間外に仕事させちまってよ」

 

 わざわざ俺のために残業してくれるとは…………今度またこいつに男のイロハを教えてやるかね。

 

「いえいえ、別に謝ることはありませんよ? 別に私残業するつもりはありませんから」

「え?」

「というわけでダストさん。キャンセルした分の返金です。契約で1割は私が貰ってますけど……一応確認しますか?」

 

 そう言ってロリサキュバスは風俗代としては安すぎる貨幣の入った封筒を渡してくる。

 

「いやいや……返金とかどうでもいいっての。…………は? キャンセル?」

「どうでもいいんですか? お客さんが返金を受け取らない場合は全部もらっていいことになってるんですけど……本当にいいんですか?」

「ああもう返金返金うるせえな! とりあえず受け取るからキャンセルがどういうことがちゃんと説明しろ!」

 

 封筒を乱暴に受け取って俺はロリサキュバスに説明を促す。

 

「説明しろって言われても……契約した時間を過ぎてもダストさんが寝てなかったから自動でキャンセルになっただけですよ? 悪魔の契約は絶対ですからね」

 

 そういや前に遅くなった時ももう少しでキャンセルになる所だったとか言ってたか。……アイリスとの特訓も魔法を使い始めたからか大分長引いちまってたもんな。仕方ないか……。

 

「いやいや! そんなことで納得できるわけねーだろ! ジハードとのふれあい以外の俺の唯一の楽しみなんだぞ!」

「唯一の使い方微妙に間違ってません? と言うかダストさん、夜中にそんな大声で叫んじゃダメですよ?」

 

 これが叫ばずにいられるかっての。

 

「よし分かった。取引をしよう」

「残念ながらあの店で働くサキュバスは仕事以外で男性の精気を頂くことは禁じられているんです。破ったら地獄に送還なんですよ」

 

 はい取引終了。取り付く島もないとはこのことか。

 

「私も残念なんですよー? ダストさんの精気は生きが良くて美味しいから結構楽しみにしてるのにお預けなんて。……まぁ、今日はカズマさんの精気も頂いたんでお腹すいてないからまだいいですけど」

 

 カズマ最近マジで多すぎねえか? 話聞いてる限りじゃ爆裂娘やララティーナお嬢様と一線越えるかどうかのとこまで来てるって感じらしいのに。…………そんな状況で一線越えずにうろついてたらそりゃ溜まるか。

 

「正直お前が楽しみにしてたとか空腹かどうかとかどうでもいいんだけどよ……マジで夢見れねえのか?」

 

 マジでそれは困るんだが…………。まあ、明日はクエストの予定入ってないし、仮に見れなくても最悪ではないか。

 

「次夢を見せる時、なんだか間違ってオークに襲われる夢を見せてしまう気がします」

「マジで謝るんでそれだけはやめてください」

 

 潔く土下座。

 

「まぁ、お仕事なんで本当にそんなことはしませんけど。…………そんなに夢が見たいんですか?」

「まぁ……明日が休みだから、いつもに比べればまぁ別にいいかって気もする」

 

 と言っても見たい物は見たい。良い夢見ながら寝たいって気持ちはいつだってあるからな。

 

「…………(やっぱり、『良い夢』を見ないとちゃんと眠れないんですね)」

「あん? なんか言ったか?」

 

 なんか小声で言ってた気がするが。

 

「いえ……良い夢がみたいんでしたら一応方法はありますよ?」

「詳しく」

「あの……いきなり近づいて来ないでください。ダストさんの顔って直近でみると結構怖いんですから」

 

 おう、微妙に傷つく事言うのはやめろ。というか悪魔が人の顔怖がるってどうなんだ。

 

「方法は二つです。一つはお店に今から行ってアンケートを書く。私が時間外なだけで勤務している先輩は普通にいますからそっちと契約すれば夢を見せてもらえます」

「……あのお店ってこんな時間でもアンケート書きに行けたのか」

 

 基本昼しか行ったことなかったから知らなかったぜ。

 

「本当はダメなんですけどね…………そこは私が口添えをすればなんとか」

「もう俺はお前しか指名しない。一生ついていくぜロリサキュバスの姐さん」

「ダストさんに姐さん呼ばれても全然嬉しくないのでやめてください。……ただ、この時間帯に頼むとなるといつもの二倍くらい代金がかかると思うんですが……ダストさんお金持ってます?」

「…………出世払いでいいなら」

 

 明日の分のサキュバス代は持ってるがその2倍となると……さっき返金で帰ってきたお金足しても足りねえな。

 

「じゃあこの話はなかったということで」

「いやいや、お前が取ったキャンセル手数料を俺にくれればきっちり足りるんだよ」

「そうですねー。というわけでこの話はなかったということで」

「お前は鬼か!」

「悪魔ですよ?」

 

 うぜえ!

 

 

「それでこっちが本命の方法なんですが。ダストさんさえ良ければ私がただで夢を見せてあげますよ?」

「…………何を考えてやがる?」

 

 ただで良い夢を見せてくれる? そんな虫の良い話があるはずがない。

 

「ダストさんって妙なところで警戒心見せますよね。……別に仕事以外で夢を見せる練習がしたいなって思っただけですよ。だからダストさんの希望通りの夢を見せるって訳にはいかないですけど……ちゃんとエッチな夢を見せますから」

 

 そういうことか。ま、確かにこいつは技術的に足りないし実践的な練習が有用なのは言うまでもないからな。そういう話ならただでも違和感はないか。

 

「じゃあ頼んでいいか? お前におまかせってのはちょいとばかし不安があるが……背に腹は代えられねえ」

「なんか言い方に納得行かない所もありますが…………任せてください! 今までで1番エッチな夢を見せてあげます!」

 

 

 そうして俺は床につき、夢の中へと落ちていく。その夢の中で出てきた女は――

 

 

 

 

 ――サキュバスの格好をしたロリサキュバスだった。

 

 

「おいこら待て」

「だ、ダストさん? どうしたんですか? 今夢を始めたばかりですよ?」

 

 飛び起きた俺にびっくりしたのか。夢を見せていたらしいロリサキュバスは目を白黒させている。

 

「お前ふざけてんのか?」

「ふざけてるって……一体全体何の話ですか?」

 

 首を傾げているロリサキュバス。マジでわかんねーのかよこいつは。

 

「お前、エッチな夢を見せてくれるって言ったよな?」

「言いましたけど…………まだ始まったばかりでエロくなかったって言われても困りますよ?」

「始まったばかりとかそういう問題じゃねえよ。なんで出てくる女がお前なんだよ。欠片もエロくない女が相手じゃどんなシチュエーションでも無意味だろうが」

 

 サキュバスを出すにしてもロリサキュバスじゃなくてあの店のリーダーやってる姉ちゃんとかそっちを出せよ。ロリサキュバスとか誰得だよ。

 …………カズマとかのロリコンなら得するか。俺はロリコンじゃないから得しないけど。

 

「…………………………………………分かりました。そうですよね。ダストさんにはもっと女性らしい体つきの女の人が良かったですよね。忘れてました。次はちゃんとやりますから」

「お、おう? やけに物分りが良いじゃねえか。次こそ頼むぜ?」

 

 

 そうしてまた俺は眠りにつき夢の中へ。その夢の中で待っていたのはむっちりとした身体の――

 

 

 

 

 

 ――メスオークだった。

 

 

 

「そんなこったろうと思っったよ!」

 

 飛び起きた俺はロリサキュバスを文句を言おうとその姿を下がす。

 

「って、いねえし。あいつ逃げやがったな」

 

 そりゃそうか。あんな夢見せといて素直に待ってるとかドMを疑う。

 

「絶対許さないからな。見つけ出して折檻してやる」

 

 どうせ夢を見ないのなら夜は長い。朝になるまでにロリサキュバスを捕まえてやろうと俺は馬小屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁぁぁああ。あぁ……ねみぃ」

 

 大きな欠伸をして。俺は閉じそうになる意識を少しでも覚醒させる。と言っても徹夜の身にそれは焼け石に水らしく眠気が覚める様子はない。

 

(実は隣の馬小屋に隠れてましたーとか反則だろロリサキュバスの奴。こっちは街中探し回ってたっていうのに)

 

 疲れ果てたのとアホらしい事実に怒りもどっかに行ってしまって、結局見つけたロリサキュバスはほっぺたを戻らなくなるくらい引っ張ってやるだけで許してやった。何故かロリサキュバスは不満げだったが…………俺の寛大な処置の何が気に食わなかったのかが分かんねえ。

 

『クゥ?』

「おっと……悪い悪い。せっかくジハードの手入れしてんのに上の空は失礼だったな」

 

 パンパンと自分の頬を叩いて意識に気合を入れる。せっかくゆんゆんからジハードを強だt……借りてきたんだからこの時間は大切にしねえと。

 

「しっかしジハードも大きくなったなぁ」

 

 ジハードと俺がいるのはアクセルの街中にある公園。その木陰に入りながら俺はジハードの身体をタオルやブラシを使って綺麗に手入れをしていた。

 

「もう大型の白狼より大きいんだよなぁ……そろそろゆんゆんと同じ部屋で過ごすのは無理かもしれねぇな」

 

 この調子で大きくなれば来年には部屋の大きさ的にはともかく部屋の扉を通るのは厳しくなる。

 

「ま、その時は俺の泊まってる馬小屋にくればいいから安心しろ」

 

 くぅぅんと嬉しそうに鳴くジハード。大きくなっても可愛いやつめ。ブラシでワシャワシャしてやろう。

 

「ま、流石にあと3、4年したら馬小屋も無理になるだろうしいろいろ考えねぇとなぁ」

 

 ドラゴンには加速度的に大きくなる時期がある。所謂下位種と呼ばれる時期だ。幼竜期から下位竜期に入れば下手な一軒家を押しつぶすような大きさにすぐになってしまう。そうなるとどんなに大きな家でも家の中で買うというのは不可能だろう。

 いっそのことカズマの屋敷の庭に屋根のない小屋とか作らせてもらうか。

 

「……もしくは、あと3、4年したらゆんゆんは紅魔の里に帰ってるかもしれねぇし、それなら何も問題ないか」

 

 ゆんゆんはいずれ紅魔の里に帰るだろう。実力的には既に紅魔の里でもトップクラスのはずだ。あとは何か功績をあげればゆんゆんは胸を張って紅魔の里に帰れる。そうなればジハードの大きさの問題なんてどうにでもなるだろう。あの里では中位種であるミネアだって問題なく暮らせているのだから。

 

「…………帰っちまうんだよなぁ」

 

 その時俺はどうするだろうか。アクセルの街に残って見送るか。それとも一緒に紅魔の里についていくか。それとも……。

 

「あっちにはミネアもいるんだよなぁ。足(テレポート)もいなくなってジハードもいなくなると俺はまたドラゴン欠乏症にかかっちまう」

 

 それはわりとマジで避けたい。

 

「でも紅魔の里じゃリーンやテイラーを連れて行くにはちょっと厳しいよなぁ。……それに紅魔の里にはサキュバスサービスねぇし」

 

 それもわりとまじで避けたい。

 

「いっそのこと行くなってお願いしてみるかねぇ…………あ、駄目だ。何言ってんだこいつって目をして俺を見るゆんゆんが想像できた」

 

 というよりほかが想像できない。爆裂娘あたりが頼めば聞いてくれる気もするが……あいつがそんなこと言うはずもないし、紅魔の長になりたいって言ってるあいつを引き止めるのもなんか違う気がする。

 

「あー……ジハードと離れたくねぇなぁ……ドラゴンと一緒にいてぇ。…………あと彼女も欲しい」

 

 ………………ドラゴンの彼女とか出来ねぇかなぁ。上位種のドラゴンなら人化できるし。ドラゴンハーフでも可。

 

「………………美人な上位ドラゴンや可愛いドラゴンハーフを侍らしてるドラゴン使いがいたらぶん殴りたい。ジハードもそう思うだろ?……って、あれ」

 

 俺の手入れが気持ちよかったのかいつの間にかジハードは寝ていた。

 

「気持ちよさそうに寝てんなぁ。…………ふぁ~……あー、俺もねみぃな。手入れも終わったし俺も寝るか」

 

 流石に意識を保っているのも限界だ。やることやったし俺も当初の予定通りジハードと一緒に眠らせてもらおう。ジハードと一緒ならサキュバスたちに頼らなくとも『良い夢』を見れるだろうから。

 

「ちょっと、身体を借りるぜ、ジハード」

 

 傍にいるだけでも十分だが、せっかくなのでピカピカに磨いたジハードの身体を枕にさせてもらう。鱗は硬いが体温は高くもなく低くもない感じで気持ちがいい。というかこの感触が俺は大好きだった。

 

 

 

 

――ゆんゆん視点――

 

 

「ダストさんってほんとドラゴンの事になると真剣になるというかドラゴン馬鹿というか……私だってちゃんとハーちゃんのこと綺麗にしてるのに」

 

 ダストさんが行くと言っていた公園に向かいながら私は愚痴る。

 

 今日の朝いつものようにダストさんが私の宿の扉を蹴り開けて入ってきたと思ったらハーちゃんを見て『おいこら、ゆんゆん。ジハードの手入れが足りねぇんじゃねぇのか。ちょっと見てらんねぇから俺が手入れしてくる』とか言ってハーちゃんを連れて行ってしまった。

 

「というか、絶対あれ自分が手入れしたいだけだよね」

 

 ダストさんの人間性は疑いまくってる私だけど、ドラゴンに対する愛情愛着だけは疑う余地なかったりする。ダストさんにとってのドラゴンは、めぐみんにとっての爆裂魔法と同じくらい大切なものだと理解していた。

 

「あ、いたいた。ダストさん、ハーちゃん…………って、寝てるじゃないですか」

 

 公園の木陰には気持ちよさそうに寝ているどうしうようもないチンピラさんと可愛い使い魔のドラゴン。

 いつかうなされていたのが嘘のようにその寝顔は安らかで、深い眠りについているのが分かった。

 

「しかもダストさんってばハーちゃんを枕みたいにして………………羨ましい」

 

 最近はハーちゃんがベッドに入り切らなくて一緒に寝れてないし、私だってハーちゃんと一緒にお昼寝したい。

 

 

 

「…………でもダストさんも寝てればわりと可愛げあるというか……やっぱり顔は整ってるんですよね」

 

 普段は性格の悪さがにじみ出てるし、目つきも悪いから可愛げあるなんて感想出てこないけど。顔のパーツが悪くないのだけは認めざるをえない。

 

「ゆんゆん……頼む、行かないでくれ…………むにゃむにゃ」

「また寝言ですか。…………いい加減出演料もらいますよ」

 

 朝起こしに行った時なんか私でいかがわしい事してるような寝言を何度か聞いている。それを問い詰めたらお前じゃなくて17歳のゆんゆんだからとか訳の分からないこと言ってたけど。

 

(けど行かないでくれって、どういう意味だろう?)

 

 ダストさんの前から私がいなくなろうとしてる夢でも見てるのかな? だとしたらそれは――

 

「…………ダストさん、そんな夢見ないでくださいよ」

 

 ――私が紅魔の里へと帰る夢なんだろう。そんな時が来るのは分かっているけど、今の私はあまり考えたくない。

 

「そうか……ありがとな、ゆんゆん……むにゃむにゃ……」

「……むぅ、人が微妙な気持ちになってるのに気持ちよさそうに寝ちゃって」

 

 夢の中の私はなんて答えたんだろうか。ダストさんは穏やかな寝顔をしている。その寝顔を見ていると、私も夢の中の私と同じように答えられたら良いのになと、なんとなく思ってしまった。

 それはきっと私が選んではいけない選択肢のはずなのに。

 

 

「…………私も寝ようかなぁ」

 

 このまま考えているとなんだか気落ちしそうな気がする。ダストさんのことを考えてそうなるのはなんだか負けた気分になるので何も考えないで済むようにさっさと眠ってしまいたい。

 それに木陰でドラゴンを枕にして寝るのはすごく気持ちよさそうだ。幸いなことに大きくなったハーちゃんにはダストさんに枕にされててもまだキャパシティがあるし……隣で寝ても大丈夫だよね。

 

 大変嬉しくてイラッとすることに、私はダストさんにとって守備範囲外のクソガキらしいので襲われる心配もないし、安心して眠ることが出来る。むしろダストさんのほうが起きたら私が隣で寝ていてびっくりでもするかもしれない。

 

「よいしょっと……それじゃ、お休みハーちゃん」

 

 ダストさんをずらして空いたスペースに私は寝転ぶ。ハーちゃんの感触を味わいながら目を閉じると、ごとんと何かが小さく落ちた音がした。

 

(……ダストさんの頭がハーちゃんから落ちた音かな?)

 

 そこまで考えた私は自分には関係ないことかと切り捨てて、そのまま意識を手放していった。

 

 

 

――ダスト視点――

 

 

「…………このクソガキ」

 

 頭の痛みと冷たい地面の感覚に目を覚まして見れば、俺がさっきまで寝てた場所で気持ちよさそうに寝ているぼっち娘の姿が。

 

「ま、いいけどよ」

 

 今日はジハードを貸してもらった立場だ。蹴飛ばして起こしたい感情は飲み込む。

 

「はぁ…………これで俺の守備範囲内なら襲ってやるのにな」

 

 それが出来ないのを分かってるからこのぼっち娘は安心した表情で寝てんだろう。

 

「ま、俺も寝足りねぇし、もう一眠りするか」

 

 このぼっち娘に腹を立てても睡眠不足がなくなるわけじゃない。わざわざゆんゆんを起こして眠気が覚めるよりかは、このまま眠気に任せて眠ってしまったほうが良い。スペース自体は空いてるからゆんゆんが一緒に寝ても別に問題はないだろう。

 

「よいしょっと……これでよし。じゃあジハード。またよろしく頼むぜ」

 

 ゆんゆんを端っこに追いやり、空いたスペースをゆったりと使って俺は眠りにつく。ごとんと何かが小さく落ちた音がしたが、どうせゆんゆんがジハードから落ちた音だろう。俺には関係のないことなので俺はそのまま――



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第24話:男運が最悪です

「おい、ルナ。ちっとばかし賭けをしねえか?」

「ギルドを出禁にしますよ?」

 

 ギルドの受付にて。いつもと同じように忙しくしていたルナは俺の言葉ににっこりと笑顔でそう返す。

 ……お仕事笑顔もここまで来ればスキルみたいなもんだな。目が全然笑ってねえのに綺麗な笑顔をしてやがる。

 

「そんなつれねえこと言うなよルナ。俺とお前の仲じゃねーか」

「私とダストさんの仲と言われましても……私がギルドで働き始めた頃にダストさんもこの街で冒険者始めたってことくらいじゃないですか」

 

 そう考えればルナとの付き合いもなげーな。俺が冒険者始めた頃の受付で残ってんのはもうルナくらいだし、リーンは1年間魔法学校行ってて一緒に居れなかった時期もあるから、付き合いだけならこの街でルナが1番長いのか。

 俺が冒険者になってからって考えればもう7年だか8年経ってる。…………そりゃ、ルナも行き遅れだって焦るわけだ。いなくなった受付嬢は他の街で寿退社してるって話も聞くし。

 俺ももうすぐ21でルナはそれよりも2歳くらい歳上なわけだから…………もうすぐ賞味期限切れるな。

 

「…………なんだかダストさんに憐れまれてるような気がするんですが」

「別に憐れんでるわけじゃねえよ。お前もそろそろ行き遅れだって笑えなくなる年齢だなって思っただけだ」

「ギルドでダストさんに賞金懸けますよ?」

「マジで謝るんでやめてください」

 

 ただでさえラインの方にも魔王軍から億単位の賞金懸けられてるって話なのに、人類側からも賞金懸けられてたら俺の住める場所なくなるじゃねえか。

 

 

「……はぁ。まぁ、ダストさんのデリカシーのなさは今更だからいいですけど。次言ったら本当に懸けますからね?」

「お、おう……気をつけるぜ」

 

 今更だからいいとか言いつつ最終通告してんじゃねえよ。思いっきり気にしてんじゃねえか。

 

「それと、ダストさん。最近『マジ』って言葉を使いすぎじゃないですか? 元からバカっぽい喋り方なのに更に頭悪そうになるから止めたほうがいいですよ?」

「マジかよ? 別にそんなつもりはねえんだが…………って、あ……」

 

 い、今のはノーカンだろ。

 

「自覚がないということは相当ですね……。誰かダストさんの周りにダストさんより酷い喋り方をする人いましたっけ。キースさんもダストさんと似たような感じですけど、それだったらもっと前から影響されてますよね」

「…………まぁ、ここ1年位『マジ』って言葉を印象的に使う奴とわりと頻繁に会ってるのは確かだ」

 

 そうか……あの王族娘の喋り方に影響されてたか。基本的に丁寧な喋り方なのにたまに頭おかしい喋り方になるから印象に残ってるんだろうな。……と言うかルナ。俺とキースの喋り方がデフォで酷いみたいな言い方はやめろ。

 

「原因が分かったなら気をつけたほうがいいですよ。お節介かもしれませんが。……はい、ということでダストさんお疲れ様でした。次の方どう――」

「――勝手に話を終わらせようとすんなよ。話の本題に入ってないだろうが」

「あの……後ろを見ていただけますか? ダストさんの無駄話に付き合ってる暇はないんですが」

 

 さっきから後ろに並んでる奴らの視線が痛いのは確かだが、俺がその程度のことを気にするやつだとでも思ってるのか。

 

「だったら、さっさと俺の本題に付き合えよ。賭けをしようぜ賭け」

「いえ……あのですね? ダストさんがいつも正気じゃないのは知っていますが、ギルドの受付に賭け話を持ってくるとかどういう神経を持ってるんですか?」

「別に金銭がかかる賭けをしようって話じゃねえから堅いこと言うなよ。忙しそうにしてるお前の息抜きになればって思って提案してんだからよ」

 

 なんだかんだでルナには俺の正体隠しでも世話になってるからな。報酬はギルドに払っているとは言えルナ本人にも少しは恩返ししてやろうって思っての行動だ。

 

「今この瞬間もダストさんのせいで仕事が忙しくなっていってるんですが…………。はぁ、分かりました。とりあえず懸けの内容を言ってみてください。内容次第じゃ聞かなかったことにしてあげますから」

「おう、流石ルナ。婚期を遅らせてまで冒険者の相手してるだけあって話が分かる……ぜ…?」

 

 ニコニコと笑顔のままのルナ。だが長年冒険者をしてきた勘が、その笑顔に最大級の危険があると伝えてくる。

 

「とりあえず、話を聞く前に…………後ろに並んでいる方たち、ダストさんを好きにしていいですよ? ギルドは見なかったことにしますんで」

 

 ぽん、と肩に手を置かれて振り返ってみれば厳つい顔をした冒険者の姿。そいつ以外にも無駄にレベルが高いアクセルの冒険者たちが指を鳴らして――――

 

 

 

 

「……し、死ぬかと思ったぜ…………というか、アクアのねーちゃんが通りすがらなかったらマジで死んでたぞ」

「ダストさんがこの程度のことで死ぬわけないじゃないですか。ダストさんのしぶとさは私も冒険者もよく知ってますよ」

 

 そんな嫌な信頼いらねえ……。

 

「それに、いい加減後ろに並んでいる人たちのイライラが限界だったみたいですからね。さっき解消させてなければもっと酷い目にあってたと思いますよ?」

 

 ルナの言葉の真偽はともかく、俺をボコボコにしてくれた冒険者たちは気が済んだのか、別の受付の所に並んだり、俺が話を終えるまで酒場の方で飯を食ったりと散らばっていた。冒険者たちをあしらうことにかけてはこの街でバニルの旦那の次に上手いルナがそう言うなら、それは本当なんだろう。

 

「だとしてもだな……お前ならもうちょい穏便に事を済ませられただろ?」

「さあ……少なくともさっきの私はダストさんの心無い言葉にイライラしててそんな方法は思い浮かびませんでした」

 

 ……いろいろ言いたいことはあるがここは俺が納得してやるか。実際俺やルナみたいなやつにとって恋人いないってのは死活問題だし、そこをからかわれたら怒るのもしょうがない。

 

「それで、ダストさん。結局賭けって何をしたいんですか?」

「やっと本題か。まぁ、ちょっとしたゲームみたいなもんなんだがな。俺とお前でどっちが先に恋人出来るか勝負しようぜ」

「…………。それで、賭ける物は何でしょうか?」

「ん? なんだよ、やけに物分りがいいな」

 

 そんなバカな勝負やりませんとか言うかと思ったんだが。どうにかおだてたり挑発して賭けに乗らせようと思ってたのに策が無駄になったじゃねえか。

 

「単刀直入言うぜ。俺が勝ったらお前の大きな胸を揉ませろ」

 

 最近ゆんゆんの胸の成長が酷い。無駄にエロく成長してて、その上無防備だから手を出すつもりがない俺でも目に毒だ。昔は目の保養になるくらいでちょうど良かったんだが、最近は手を出したくなるようなエロさというか。

 守備範囲外で毒舌娘のあいつにそんな感じで悶々としてるのはなんか負けた気がするので、あいつと同じくらい大きなルナの胸を揉んでそれを解消したい。

 

「なるほど。私が勝った場合はダストさんは何をしてくれるんですか?」

「…………本当に物分りがいいな。なんだよ、何を考えてるんだ?」

 

 勝負の内容も賭けの対象もルナが激怒しそうなものだってのに。いや、簡単に受けてくれるならこっちとしては楽でいいんだが…………なんか企んでそうでちょっと怖い。

 

()()何も考えていないですよ? 変なことを考えてるのはダストさんじゃないですか」

「……まぁ、いいか。俺が負けたら何でも一つ言うこと聞いてやるよ」

 

 どうせ、今更ルナに恋人ができるわけもない。俺も本当の恋人は出来る気がしないが、一日恋人くらいならロリサキュバスあたりをおだてときゃ演技で付き合ってくれるだろう。最悪セシリーを付き合わせりゃいいし、勝負は勝ったようなもんだな。

 

「分かりました。その条件でダストさんの勝負を受けます。…………本当にいいんですよね?」

「あん? こっちから持ちかけたんだ、いいに決まってんだろ。むしろルナのほうが本当にいいのかよ。負けて嫌だって言っても俺が勝ったらそのでかい胸揉ませてもらうからな」

「…………、まぁ、そこまで言ってもらえるとこっちとしても気が楽です。ダストさんのろくでなしっぷりの良さはこっちの良心が全然痛まないことですね」

「良心? おい、ルナ。お前何を言って――」

 

 ルナの少しだけ申し訳無さそうな顔。こいつがこんな顔をしている時はろくなことにならないと長い付き合いから分かっている。カズマをおだてて仕事させてるときとかもこんな顔しているから間違いない。

 

「――ふむ? 最近ぼっち娘の色香に惑わされて悶々としているドラゴンバカではないか。奇遇であるな」

「べ、別にあんな守備範囲外のクソガキに悶々となんてしてねえし……って、旦那か。奇遇だな、いつもの相談屋か?」

 

 振り向いてみれば怪しい仮面をした大悪魔。バニルの旦那の姿があった。

 

「いや、今日は相談屋は休業中である」

「そうなのか? だったらギルドに一体何のようが……」

 

 多分この街にいる連中は全員忘れているだろうが、バニルの旦那は一応魔王軍の元幹部だし、幹部をやめた今も公爵級の大悪魔であることは変わらない。人間に害をなす性質じゃないだけで基本的に冒険者ギルドとは敵対関係じゃなきゃおかしいんだが……そんな様子は本当ないよなぁ。

 

「なに、我輩の恋人に呼ばれた気がしてな。こうして参上したというわけだ」

「………………はい? 旦那に恋人?」

 

 色恋沙汰って意味じゃ俺やルナ以上に鈍感で気配のない旦那に恋人? 一体全体誰だよそれ。ウィズさんあたりならまだ分からないでもないが、その姿はギルドにないし。

 

「というわけでダストさん。紹介しますね。私の一日恋人をやってもらっていますバニルさんです。……賭けはこれで私の勝ちですね」

 

 隣に並んだバニルの旦那をそう言って紹介するルナ。紹介された旦那はいつもの人の悪感情を楽しんでいる時の顔をしていて――

 

「――って、そういうことかよ。流石にそれは反則じゃねえのか……」

 

 通りでルナが賭けを普通に受けてたわけだ。旦那の見通す力で俺が賭けをしかけてくることから、ここまでの流れを予想してたってことか。

 勝てると思ってただけに……ルナの胸を揉めると楽しみにしてただけにこの結果は残念すぎる。全部旦那の手のひらの上かよ……。

 

「うむうむ。汝の悪感情も美味であるな。……ふむ? 何故か行き遅れ受付嬢からも悪感情を感じるのだが、これは一体どうしたことか」

「いえ、気にしないでください……。一日だけとは言え恋人ができて喜んでいる自分に絶望しているだけなので」

「絶望までされると我輩好みの悪感情じゃなくなるのだが……。まぁ、汝であればそのうち本物の恋人ができる。そう気落ちしなくてもよかろう」

「…………本当ですか? ちなみに、それはどんな方でしょうか?」

「うむ、我輩の見通す目によるとそこのチンピラと付き合っている汝の姿が…………冗談であるから、その絶望の感情はやめるがよい」

 

 俺と付き合う未来があったら絶望ですかルナさんよ。

 

「だったら、ちゃんと私の未来を見通してくださいよ。できればイケメンでお金があって優しくて強い方とどうやったら付き合えるかを教えてください」

「ふーむ……行き遅れ受付嬢が行き遅れじゃなくなったら極上の悪感情の供給源がなくなってしまうのだが…………まぁ、見通すだけはしよう」

 

 乗り気ではない様子でルナの顔をマジマジと見る旦那。

 

「ふむふむ…………ふむ?……………………。どうしたことか、本当に超低確率でこのチンピラと付き合っている未来しか見えないのだが。控えめに言って汝の男運は最悪であるな」

「やっぱり聞かなければ良かったああああああああああっ!」

 

 バンと受付の扉を開けて外へと飛び出していくルナ。

 なんつーかあれだな……。

 

 

「「「「これは酷い」」」」

 

 

 俺以外の騒動を見守ってたやつも旦那の衣着せない言い方に苦言を呈す。たとえ本当にそんな未来しか見えなかったとしても、そこら辺はぼかして伝えるべきだろ。

 

「バニルさん!」

 

 あんまり酷いと思ったのか、酒場で働くウェイトレスがバニルの旦那に詰め寄る。ルナはギルドの人気者だし、仇を取ってやろうってことだろう。

 

「よりによって、唯一見えた未来がこのチンピラと付き合う未来なんて酷すぎます! ルナさんに一生独身でいろってことですか!?」

 

 なんでだよ。むしろ俺と付き合える未来があるのが唯一の救いだろ。

 …………なんで周りもウェイトレスの言葉にうんうん頷いてんだよ。

 

「そこのチンピラにガーターベルトを脱がされたことのあるウェイトレスよ。汝も見通す力を持っているのか? 汝の言うとおり我輩としてはあの行き遅れ受付嬢には一生独身でいてもらいたいのは確かである」

 

 ………………なんつうかあれだな。

 

「旦那はやっぱり悪魔なんだな」

 

 俺も含め、ギルドの想いが一致した瞬間だった。

 

 

 

 

「というわけで受付嬢の一日恋人改め一日受付嬢のバニルである。受付嬢との賭けに負けたチンピラよ。汝は受付嬢の言うことを何でも一つ聞かなければならないのだったな」

「……確かに賭けには負けたけど、それはまた今度だろ。ルナのやつエスケープしたからいねえし」

「そんなこともあろうかと、我輩はちゃんと男運最低な受付嬢から汝への願いを聞いておる」

「…………やっぱり全部旦那が仕組んだことだったんじゃねえか」

 

 見通す力反則過ぎねえか。

 

「はて、我輩には汝が何のことを言っているのかさっぱりであるが。……とにかく、汝への願いはとある塩漬けクエストの消化である」

「塩漬けクエスト? 前に爆裂娘の妹が来た時に全部消化しなかったか?」

「あれからもう一年以上経っているのだ。新たな塩漬けクエストが出来ていても仕方あるまい」

 

 そう言われてみりゃそうか。特に最近はグリフォンみたいな凶悪なモンスターがアクセル周辺に出没するようになってるし、ゆんゆんやたまに来る魔剣の兄ちゃんが受けてなけりゃそれが塩漬けになってたりするのも仕方ない。

 

「ま、ゆんゆんに任せりゃいいだけだし塩漬けクエストの一つや二つくらいなら余裕だしいいか」

 

 最近はジハードとの連携も取れるようになってるし、今のゆんゆんなら大抵のクエストは余裕だろう。俺が援護するならグリフォン3体くらいまでならどうにかできるはずだ。

 

「それで、具体的なクエスト内容を見せてくれよ旦那」

「やけに乗り気であるな」

 

 クエストの紙を渡しながら旦那。

 

「最近金欠が酷いからな。高難易度のクエストなら報酬も高いだろうし、受けなきゃいけないなら真面目に受けるさ」

 

 サキュバスサービス代くらいはちゃんと確保しときたいしな。

 

「なになに……『丘に出没する未確認モンスターの討伐。モンスターのランクは推定B-』か」

 

 B-ランクってことは一撃熊よりは強くてグリフォンよりは弱いってとこか。これで報酬が100万エリスって……チョロいなおい。ゆんゆんが一人いれば余裕じゃねえか。

 

「なんでこれが塩漬けになってんだ? この街の冒険者ならB-のモンスターくらい狩れる奴らいるだろ」

 

 サキュバスサービスのおかげかこの街の冒険者たちのレベルは無駄に高い。レベル30代のやつもチョロチョロいるし、40代のやつも少ないがいる。税金騒動の後は金欠の冒険者も増えているし、こんな美味しいクエスト塩漬けにならないと思うんだが。

 

「一日受付嬢の我輩に聞かれても……そのあたりのことは詳しくは聞いておらぬ。1つ言えるのは塩漬けには塩漬けの理由があるだろうということだ」

 

 この内容が本当なら塩漬けになる気がしねえんだけどなあ。少し気になるのは未確認のモンスターってとこだけど。あとはわざわざルナが俺を指名してきたってとこもか。

 

「旦那の見通す力で何か分からねえか?」

()()を持っていくが吉。ぼっち娘と一緒に行くが吉。……教えられるのは今回はそれだけであるな」

 

 得物……つまり槍を持っていけってことか。ゆんゆんと一緒に行くことは最初から決めていたが。

 

「教えられるのがそれだけってどういうことなんだ?」

「これ以上教えたら汝は間違いなくこのクエストを受けない。それは我輩としても困ることなのだ」

「困る……? もしかしてこのクエストを俺達が受けることで見えた未来が旦那にとって好ましいものだってことなのか」

 

 だから俺らにクエストを受けて欲しいと。…………でも、クエストの全容教えたら受けないってどういうことだよ。やっぱり旦那はこのクエストがなんで塩漬けになったのか分かってるんじゃないのか。

 

「今はまだなんとも言えぬ。だからこそそれを見極めるためにも汝にはこのクエストを受けてもらいたいのだ」

 

 旦那にしては歯切れの悪い言い方だな。本当に旦那自身分かってないのだろうか。

 

「ま、旦那にそこまで言われたら断るわけにも行かねえか。俺とゆんゆんでそのクエスト受ければいいんだな」

 

 明日はリーンたちともクエスト一緒にする予定だったが……それは別の日に回すか。あいつらを連れて行くのは危険な気がするし、冒険者としての勘がこのクエストを後回しにすることが危険だと告げている。

 

 

 

「さてと……ま、賭けの話はこんなところか。とにかく明日ゆんゆんと一緒にクエスト受けてくるぜ」

 

 できれば槍を使う事態にはなりたくないが……もしもの時はそうも言ってられないのかね。

 

「そうか、では素直な汝には一つだけ助言をしてやろう。『牢屋に逃げ込むことは凶、女に助けを求めるが吉』。今日これからの汝の運勢を決める言葉ゆえ、覚えておくがいい」

「…………なんか、すげえ嫌な予感がするが、分かった。助言感謝するぜ旦那」

 

 

 旦那の助言に嫌な予感を感じながらギルドに出る。そいつに遭遇したのはその次の瞬間だった。

 

 

 

 

「ダストさんを好きにできると聞いて飛んできました!」

 

 

 

 

 

 

「リーン俺を匿ってくれ!」

 

 ガンと鍵の掛かった宿のドアを蹴り破り。リーンの部屋へと押し入った俺は開口一番そう頼む。

 

「どったのダスト? あんたがそんなに慌ててるなんて珍しいね。とりあえず壊したドア代は借金に追加しとくから、そこ締めてくれない?」

「お、おう……。…………俺が言うのも何だが、いきなり部屋に入られてその冷静な反応はなんなんだ」

 

 壊れたドアを元の場所にはめながら。何事もなかったように野菜スティックをかじってるリーンに俺は聞く。

 

「本当あんたが言うことじゃないね。冷静も何もあんたの破天荒っぷりにいちいち驚いてたら心労で倒れちゃうじゃん」

 

 一理ある。……いや、それにしてもこいつの反応はおかしい気がするけど。

 

「で? 匿ってくれってどうしたの? ゆんゆんを怒らせて追われてるとか?」

「あん? あのぼっち娘を怒らせたからってなんだってんだ」

「いや……あんたあの子怒らせて大体ボコボコにされてるじゃん」

「まぁ、毎回紙一重で負けちまってるのは認めざるを得ないが、だとしてもあいつから逃げる訳無いだろ」

 

 あんなクソガキに舐められるのもあれだし。喧嘩売ってくるなら正々堂々と受けるっての。

 

「紙一重ってなんだっけ? まぁ、確かにあんたの性格からしてゆんゆんから逃げるってのはないか。……ん、そこ座っていいよダスト」

「ありがとよ。……てーか、リーン。お前行儀悪すぎんぞ」

 

 椅子に座った俺とは対照に。リーンはベッドに寝転び、野菜スティックをかじりながら本を読んでいる。

 

「ダストにだけは言われたくないんだけど。あんたたまーにあたしやゆんゆんの保護者っぽいこと言うよね」

「なんだかんだで俺はお前らより歳上だからな。頼れる兄貴分としちゃ妹分の心配くらいはするっての」

 

 だと言うのに世間じゃリーンやゆんゆんが俺の保護者みたいに扱われてるのはなんなんだろう。

 

「まぁ、あれだ。お前もルナみたいに行き遅れになりたくなけりゃ男の前で位は行儀よくしとけよ」

「むぅ……本当ダストにだけはそんなこと言われたくないんだけど。それにダストの前以外ならあたしはちゃんとしてるし」

「俺の前ならちゃんとしなくていいってなんだよ」

 

 俺だって男だろうが。

 

「だって、あんたって口でなんて言ってても、実際は行儀悪かったくらいで印象悪くしないでしょ?」

「…………まぁ、俺個人の意見でいいなら行儀なんて糞食らえだからな」

 

 人間自由に生きるのが1番だ。自分を殺して生きるなんて馬鹿のすることだと本気で思う。ただ、自由に生き過ぎたら俺みたいになっちまうから、リーン達はそうならないよう小言が出ちまうんだろうな。

 

「それで、結局誰から匿えばいいの、ダスト。言いたくないなら別に言わなくてもいいけどさ」

「…………言いたくないから黙秘で」

 

 口にだすのも気分が滅入るからな。

 

「あ、ダストの反応で大体分かった。んー……いいよ匿ってあげる。その代わり、明日のクエストの帰りにご飯奢ってよね」

「助かる。だけど明日のクエストの帰りは無理だな……ってか、明日のクエストは延期だってお前らに言おうと思ってたんだ」

 

 本当にB-ランクを倒すだけのクエストなら大丈夫だろうが、旦那が俺に槍を持って行けというクエストだ。正直嫌な予感しかしない。そこにリーンやキースたちを連れて行きたくはなかった。

 

「延期って……なんで? まさかまた何か妙なこと企んでるんじゃ……」

「別に何も企んでねーよ。ちょっと厄介なクエストを受けることになってな。明日は俺とゆんゆんだけでクエスト受けたほうがいいと思っただけだ」

「…………なんで? 厄介なクエストだって言うなら人手があったほうがいいよね?」

「あー……言い方間違えたか。厄介ってか単純に危険そうなクエストなんだよ」

 

 B-討伐クエストだとしても、テイラーはともかくリーンやキースの実力不足は否めない。それ以上の難易度のクエストになるかもと思えば例え槍を使ったとしても守りきれると自信を持って言えなかった。

 

「…………危険なクエストでもゆんゆんは連れていくの?」

「そりゃ、あいつは俺より強いしな。連れていけるなら連れて行くっての」

 

 仮に槍を使って戦ったとしても俺はゆんゆんに勝てない。そう断言できるくらいにはあいつの魔法使いとしての技量は高い。

 

「ねえ、ダスト。やっぱり匿ってあげる条件変える。明日、あたしもクエスト連れて行ってよ」

「はあ? お前話を聞いてなかったのかよ。明日のクエストは危険だって言ってるだろうが」

 

 なのになんでこいつはわざわざ危険に飛び込もうとしてるんだ。

 

「いいから。連れて行ってくれないなら匿ってあげないからね」

「……わけわかんねえな。どっかのドMなお嬢様じゃねえんだから避けれてる危険は避けろよ」

「…………だって、それじゃなんであたしが――」

「――とにかく、お前を連れて行くのはなしだ。匿ってくれねえなら別の所に逃げるさ」

 

 けどどこに逃げるかねぇ…………旦那の助言だと女に助けを求めろだったか。

 そんなことを考えながら俺は部屋の窓を開け、2階から飛び降りようと足をかける。

 

「ダスト! あんたが何を言おうとあたしは絶対ついていくからね!」

 

 そんなリーンの言葉には何も返さず、飛び降りた俺は次の逃亡先を思い浮かべながら走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「てわけだ、ゆんゆん。助けてくれ」

 

 リーンの部屋同様にゆんゆんの部屋のドアを蹴飛ばして入った俺は、部屋の主に助けを求める。

 

「何が『てわけだ』なのか全然分からないんですが……。と言うかこの人何度人の部屋のドアを壊したら気が済むんですか。誰が修理代を払ってるか知ってるんですかね」

「そんなことはどうでもいいから匿ってくれよ」

 

 というか文句あるならお前もリーンみたいに借金に上乗せしろよ。多分返すのはずっとあとになるだろうが。

 

「…………追い返そうかなぁ。でも追い返したら追い返したで後が煩そうなんだよなぁ」

 

 よく分かってんじゃねぇか。

 

「…………分かりました。とりあえず話を聞いて決めます。それで何から匿えばいいんですか? ダストさんがそれだけ怖がるってことはグリフォンとかマンティコアクラスのモンスターに追われてるんですか?」

「は? なんで俺がグリフォンやマンティコアを怖がらねぇといけねぇんだよ。俺はクーロンズヒュドラですら恐れず前に出る男だぜ」