新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN (植村朗)
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プロローグ
リナレイさん、第伍話冒頭にIN


「ダメです!信号を受け付けません!」

 

NERV本部、第二実験場にオペレーター達の緊迫した声が交錯する。

汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン零号機の起動実験。

突如暴走した零号機は停止信号も受け付けず、制御不能に陥っていた。

 

白い灯りに照らされた実験棟と、薄暗いオペレーティングルームを隔てる分厚い強化ガラス。

 

それが山吹色の一つ目巨人(キュクロプス)を思わせる零号機の拳に何度も殴りつけられ

蜘蛛の巣のようなひび割れが広がっている。

 

自動射出装置(オート・イジェクション)が作動し零号機のコックピット…エントリープラグが強制排除された。

 

「いかん!」

 

実験を見守っていたNERV総司令・碇ゲンドウは、普段の冷静沈着ぶりからは想像もつかぬ切迫した声で叫んだ。

 

ジェット噴射により、零号機から弾き出された円筒形のプラグは実験棟の天井にぶち当たり、壁にぶち当たり、隅にぶち当たって…

 

やがて推進剤が切れ、重力に従って落ちていく。

 

「レイッ!」

 

パイロットの名を呼ぶゲンドウ。金属質の重い落下音がした。

プラグ内の内用液(LCL)が緩衝材になるとはいえ中のパイロットには相当な衝撃が行っているはずだ。

 

零号機はパイロットを失ってなお暴れ続ける。

まるで人が精神を病んで自らを痛めつけるがごとく。

何度も何度も壁に頭突きを繰り返し…

 

予備電源がゼロになってようやく、頭を壁にめり込ませて停止する…

 

「レイッ!」

 

ゲンドウは再び名を呼びながらプラグに駆け寄り、入口に手を伸ばす…

ジュ、と『焼け付く』音。

 

「ッ、ぐぅぅっ!」

 

金属のハンドルは高熱を帯びており、ゲンドウは呻いて後ずさった。眼鏡が落ちる。

 

だが彼は迷わなかった。眼鏡を拾う暇も惜しんでハンドルを再び握り、回し始める。

両手の皮と肉が焼ける激痛に歯を食いしばり…回し続け…ついに、扉が開いた。

 

生暖かいオレンジ色のLCLが流れ出し、濃厚な血の匂いが広がる。

 

…白いプラグスーツ…いわゆるパイロットスーツ姿の少女が、震えていた。

プラグの内壁に側頭部をぶつけたか、白磁の顔には血の筋が幾つも流れている。

 

「レイ!大丈夫か!?レイッ!!」

 

少女…綾波レイはゆっくりと顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

「…っ、痛ぁ―――っ!大丈夫じゃないよぉ!めっちゃ痛いわ!」

 

「…えっ」

 

その場をつんざく少女の大声に、ゲンドウも、オペレーターや科学者達も目を見開いた。

 

綾波レイは、さながら人形のような寡黙な少女だった。

感情の起伏も現さず、淡々と、最低限の事しか喋らない。

この実験が始まる前もレイは「はい」「問題ありません」程度しか口にしなかった…

 

それが今はどうだ。

 

年相応の不機嫌な顔で、そして同時に手負いの獣のように「うぅー!」と喉を唸らせている。

 

「ちょっとー責任者呼んでこーい!ってか碇司令いるじゃん!

司令が最高責任者じゃん!つーか何よそのヒゲ!剃れ!

「!?」

 

ビシィ、と指差すレイ。ゲンドウはアゴヒゲに触れ、目を見開いた。

オペレーティングルームで、何人かが肩を震わせていた。

 

…碇ゲンドウはNERV総司令…つまり組織の『いちばんえらいひと』だ。

 

本人的にはカッチョイイと思っている、威厳を出すためのヒゲを。

若い女子職員とかには「司令ってムサいよね♪」と思われつつ誰も口に出せないそれを。

 

よりによってお気に入りの美少女中学生パイロットに『剃れ!』とか言われて茫然としてても、誰も笑っちゃあダメなのだ。給与査定とかに響くのだ。

 

(((笑っちゃダメだ。笑っちゃダメだ。笑っちゃダメだ…!)))

 

状況を打開したのは、数人の足音と、寝台(ストレッチャー)の車輪の音だった。

 

「あー、来た来た!衛生兵(メディック)衛生兵(メディッーク)ッ!

って、痛い痛い!優しく運んで優しくー!」

 

実際痛いのだろうが、その痛みを訴える声すらどこか能天気なレイ。

 

彼女が駆けつけた医療班に担ぎ出され、静寂が再び訪れるまで

第二実験場は困惑に包まれていた。

 

キュラキュラと遠ざかる寝台の音を背にゲンドウは、ただ立ちつくし…

流れ出したLCLに沈んだゲンドウの眼鏡が、パキ、と音を立ててひび割れた。

 

「剃るか…」

 

ぼそり、力ない呟きは、誰にも届かなかった。




碇司令が例のヒゲ剃りCM出演する事になった経緯です(大嘘)


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プロローグ続き、リナレイさん、本編前の療養生活にIN

E計画担当責任者、赤木リツコ博士は、綾波レイの病室を訪れる途中、碇ゲンドウとすれ違った。

トレードマークであったヒゲは剃り、ずいぶんとさっぱりした印象の総司令…

 

「マダオ…マダオ…」

 

会釈を向けたリツコをスルーし、ブツブツ言いながらゲンドウは歩き去っていく。不気味だ。

リツコは気を取り直し…プシュ、と音を立ててスライドする病室のドアを潜る。

 

「レイ、調子はどう?」

「…おー、赤木はかせー?こんちゃーっす。

頭ってケガすると血ぃドバドバ出るのねー…まだダルーい…」

「血が集まる場所だから、たとえ浅い外傷でも思いのほか出血するものよ。

脳内出血が起きてないのは、不幸中の幸いだったわね」

 

(やはり、まるで別人だわ。

私や司令を含めたNERV職員の記憶はそのままに…

確かに頭部外傷による性格変化の症例はあるし、ありうる事。

けれど、ここまでポジティブな変化は…正直、戸惑うわね)

 

リツコは手にした検査結果のファイルと目の前の患者…交互に視線を移した。

レイはベッドに身体を横たえたまま、リツコの金に染めたボブカットが揺れるのを見ている。

頭には血の滲んだ包帯…点滴の管を腕に刺すため、袖なしのプラグスーツ姿だ。

 

「碇司令が来てたみたいね。何か話したの?」

「んー?…別に普通だよ?ヒゲ剃ったみたいだから今の方がイケてるよ♪って言ったケド」

 

(?…変ね。碇司令はレイを相当気にかけていたはず。

イメージチェンジを褒められれば上機嫌になりそうなものだけれど。

表向きは平静を装いつつ「…そうか」とか呟いてニヤっと…)

 

「あとついでに、前のヒゲ面は

まるで・不潔(ダーティ)な・()っさん

略してマ・ダ・オって感じだったよねって」

「それか!」

 

先程のゲンドウを思い出し、リツコは戦慄した。

謎は全て解けた!だの

冬月先生(じっちゃん)の名にかけて!だの

謎のセリフを吐くおかしなシルエットが脳裏によぎる程に。

 

レイ自身の心はどうあれ、

ゲンドウがレイに拘っているのはリツコが良く知る所だ。

多少の暴言程度では切り捨てる事は出来まい。

 

ゲンドウの強面(こわもて)ガードをものともせず、

豆腐メンタルにボディーブローをブチかましたレイの悪意なき天然毒舌。

先程のゲンドウの様子を見れば、その威力の程が知れるだろう。

 

(そういえば、さっきすれ違った司令は心なしか恍惚としていたわ…

…ドMに目覚めたかしら?)

リツコは、苦笑する。

 

「…赤木博士、なんか嬉しそう?」

「…!なんでもないわ。と、ともかく、今のところは安静にしていなさい。

『あれ』がいつ来るか…貴女の力は近々必要になるわよ、レイ」

「うぃー…」

 

再びベッドに埋もれつつ、ひらひらと手を振るレイ。

これも以前の彼女ではありえない仕草だ。

 

(この変化が私達にどういう結果をもたらすか…

もう少し注視した方がいいかもしれないわね)

 

そんな事を思いつつ、リツコは病室を後にした。

 




別に碇司令は嫌いじゃないです
例のポーズで「問題ない(ドヤァ)」とかゲンドウごっこするぐらいには好きです


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本編第一部 「じょ」の章
1、リナレイさん、サキエルさん襲来シーンにIN


担当の女性看護師(かんごふさん)も綾波レイの変化に驚いた一人だった。

 

点滴の管が外れてからレイは旺盛な食欲を発揮し、毎回食事のトレーを綺麗に空にしていた。

食べ物をよく噛んで飲み込み、最後は「ごちそうさまでした」と両手を合わせる。

 

病院食というのは常人にとっては薄味で大して美味くもないものだが、

以前はほとんど栄養錠剤(サプリメント)頼りだったレイにとってはそうでもないらしい。

 

栄養バランスはばっちり計算されていることもあり、

生命兆候(パイタル)の各検査数値はみるみる改善している。

 

「もうちょい量が欲しいかなー。それに病院食で塩気のあるものってハムぐらいしかないし。

いやぁハムはいいねぇ。人類の生み出した食文化の極みだね!」

「綾波さん、お肉嫌いじゃなかった?」

「それがねー、食べてみたら美味しかったんよ。

食わず嫌いとか、もったいない事してたわー…あたし、肉食系女子になります!」

「リアルな意味の肉食系ねぇ」

 

にひひ、と冗談めかして笑うレイ。

こんな風に笑える娘だったのか、と驚きつつ、看護師もつられて笑う。

 

そんな穏やかな語らいは、枕元からのビープ音に遮られた。

音源はパイロットおよび関係職員に情報を伝えるためのタブレット端末。

 

 プツ、と音声が繋がる僅かな音の後、若い女性の声が流れる。

『NERV本部、第一種警戒態勢。繰り返します。NERV本部、第一種警戒態勢。

正体不明の移動物体が第3新東京市に接近中…』

 

「あ、伊吹二尉(マヤちゃん)の声だ」

「警戒態勢…?なにかしら…」

 

レイは、制服を着せれば自分の同級生でも通じそうな二尉の愛らしい童顔を思い出した。

タブレットから聞こえた女性オペレーターの声に看護師は不安そうに声を漏らす。

 

画面に指を滑らせ、情報を得るべく端末を操作するレイ。

そして[国連(UN)空軍モニター]の文字をタップする。

 

VTOL戦闘機の一機から映像が送られる。

巨大な人型の物体が、街に近づいていた。

首のないモスグリーンの胴体。胸部にある赤い球体。その上に仮面のような顔…

 

「…あー、これが赤木博士の言ってた『あれ』か…」

 

15年前、人類の大半を失わしめた災厄…セカンドインパクトを起こした『第一使徒アダム』。

それに連なる第三の御使いが、迫っていた。

 

戦闘というには、あまりにも一方的な蹂躙劇が始まる。

VTOLの機銃やミサイルは雨あられと降り注いでいるにも関わらず

使徒はまったくの無傷。一機が裏拳で叩き落とされ、

また一機が使徒の肘から伸びた光り輝く(パイル)に貫かれて、空中で火の玉と化した。

 

「『あれ』相手に通常兵器じゃ無理。行かなきゃ…っうっ」

「綾波さん!」

 目眩と鈍い頭痛に顔をしかめ、ふらついたレイを、看護師が支えた。

まだ万全には程遠い…だが。

 

「…大丈夫!動けない(こた)ぁない!看護婦さん、悪いけどケージまで肩貸して」

「えぇ、解ったわ。…ごめんなさい。本当なら無理させたくないんだけれど」

「いいよ。あたしは『このための』パイロットだもん。

その辺りの情報は、知ってるでしょ?」

 

 脂汗が浮く少女の笑顔に胸を締め付けられながらも、看護師は頷く。

細い腕を己の肩に掛け、ゆっくりと歩き出した。




食事をちゃんと摂取してるせいか、前向きな性格改変に影響されてか、
ここのリナレイさんは本編のレイさんよりちょっと回復速めです。

ズタボロ状態でストレッチャーに運ばれる事はなく
看護師さんの手を借りればなんとか動けるぐらい。

次回シンジくん出せればいいなぁ


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2、シンジくん、第3新東京市にIN

TV版第一話Aパートほぼそのまんま
時間はほとんど進んでません(´・ω・`)


 時は少々遡る。

 

「公衆電話もダメか…緊急時でも携帯よりは繋がりやすいって聞いたのに」

 

回線不通を知らせる抑揚のない音声に少年…碇シンジは受話器を置き、溜め息をつく。

父の職場にも、迎えに来るという女性とも連絡は取れそうにない。

 

父、碇ゲンドウからの手紙には、一言『来い』とだけ書かれていた。

うだるような暑さの第3新東京市に到着したまでは良かったが、

突如発令された特別非常事態宣言に、全交通機関が麻痺。

 

モノレール、バス、タクシー…あらゆるものが動かねば行くも戻るも立ち行かず、

途方にくれたシンジは、手紙に同封されていた一枚の写真を取り出した。

 

『シンちゃん江☆ 迎えに行くから待っててネ☆』

 

マジックで書かれたメッセージの下、グラビアのように胸の谷間を強調し、

ウインクする妙齢の美女は、父の部下だという。

 

「待ち合わせは無理か。仕方ない、シェルターに行こう」

シンジは自分に言い聞かせるように、周囲を見回し…ふと、誰かの視線を感じた。

 

道路の真ん中に、いつの間にか、透き通った白磁肌の美しい少女がいた。

まるで幻想世界(ファンタジー)の住人のように淡い水色の髪、赤い瞳。

灰色のプリーツスカートに、クリーム色の袖なしベストから

赤いネクタイと白いシャツを覗かせる、シンジと同世代と思われる女の子…

 

 

「あ!やっほぉーい!」

 

 

 

彼女は笑顔を浮かべ、底抜けに明るく、シンジに手を振っていた。

 

「へ!?え、ぼ、僕?」

 

まったく面識のない美少女の行動に、間抜けな声をあげてしまうシンジ。

 

 

時を同じくして、さえずりと羽ばたきの合唱を残して飛び去る雀の群れに、

シンジは気を取られ、視線を一瞬、空に向ける。彼が目を戻した時…

 

「あ、あれ!?」

 

少女は、どこにもいなかった。…静寂は、数秒だけ。

 

 

 

轟音。 

 

 

そして 

 

 

振動。 

 

 

「うわぁっ!」

 

民家のシャッターがガタガタと震え、電線が激しく波打った。

シンジは咄嗟に両耳を塞ぎ…ギュッと閉じていた目を恐る恐る開く…

 

「あ、あ、ああぁ…!」

 

その轟音は足音。その振動は重量。

 

街中を歩く首のない巨人が、それを取り囲むVTOL戦闘機の編隊が…

怯えるシンジの眼に映った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そして、時は交わる。

国連の戦闘機達が、首なし巨人…使徒に薙ぎ倒される()の時に。

 

 

戦闘機のうち一機は、シンジの前に堕ちてきたのだ。

 

(死ぬ!)

 

思考と身体が凍り付いたシンジを救ったのは、

その車体で爆発を遮ったスポーツ車…青のアルピーヌ・ルノー。

 

「おまたせっ!緊急事態だから、乱暴なのは勘弁してね!」

「のわぁっ!?」

 

そして、空け放った運転席からパワフルに腕を伸ばして

シンジを()()()()、助手席へと()()()()()紺のノースリーブにサングラスの女。

 

さすがにグラビア水着スタイルではなかったが、写真に映っていた彼女。

不敵な笑みを浮かべる美女、NERV作戦部長、葛城ミサト一尉その人だった。

 

ミサトはギアをバックに入れ、使徒に踏みつぶされそうになるのを回避。

車を反転させてギアを戻し、猛スピードでその場を離脱していく…

 

「すいません、助かりました、葛城さん」

「ミサト、でいいわよ。碇シンジくん」

凄まじいスピードで流れていく風景を見ながら、二人は言葉を交わした。

 

「ミサトさん、この街はなんなんですか?さっきの化け物といい、幽霊といい…」

「あの化け物が私達の敵よ。『使徒』と呼ばれているけど、正体は解らない。

幽霊の方は知らないけど…なに、そんなのいたの?『うらめしやー』って?」

「古いですよその表現。セカンドインパクト世代ですね」

「うぐっ、可愛い顔して遠慮ないわね」

世代格差(ジェネレーションギャップ)を指摘され、ミサトは呻く。

 

「…『やっほー』って、手を振ってました」

「フレンドリーな幽霊ねぇ。見間違いや気のせいならいいけど、

逃げ遅れた市民の可能性があるから保安部には連絡しておかないと。

外見を教えてくれる?」

「女の子だったと思うんですけど、すぐに消えちゃったから詳しくは…

…あれ、ミサトさん。飛行機が化け物から離れてってますよ?」

 

バックミラーに映る光景に気づくシンジ。ミサトは顔色を変え、更にスピードを上げる。

 

「ちょ、ちょっとミサトさん!?速すぎ!」

「チンタラ安全運転してたら私ら焼け死ぬわよ!

国連上層部(うえ)の頭でっかち共め!NN(エヌツー)地雷を使う気だわ!

シンジくん、しっかり掴まってて!」

 

ミサトが毒づいた直後、使徒が巨大な火柱に包まれる…

リアウインドウがひび割れ、突きあげるような衝撃波が二人の乗るルノーを襲った。

 

 

同時刻

 

「っ何?地震!?」

 

ケージに向かう途中の廊下で、突然起こった揺れ。

綾波レイを支えていた看護師は、自分と患者が倒れないよう、足を踏ん張った。

 

「違う、国連軍の爆弾だよ。…ったく偉い人はせっかちだねー。

あたしは怪我人なんだから頭痛に響くっつーの。急ごう、看護婦さん」

「綾波さん…動じないわね」

 

恐怖をまるで感じさせないレイの言葉。

(性格が完全に変わったように見えて、根本は残っているかもね)

看護師はそんな事を思いながら、レイと共にエレベーターへと乗り込んだ。

 




皆様感想、評価ありがとうございます!
予想外のお気に入りの伸びにカクブル(((;゚Д゚)))


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3、リナレイさん、シンジくんより一足先に格納庫にIN

爆心地にクレーターを作ったにも関わらず、

NN(エヌツー)地雷での攻撃は使徒の体表面を僅かに融解させただけだった。

 

自らの所有兵器が通用しないと悟った国連軍の高官達は

直属組織である特務機関NERVの総司令、碇ゲンドウへの作戦指揮権を委任。

それを受諾した後、ゲンドウは専用回線を繋いだ。

 

「葛城一尉、首尾はどうだ」

『ご心配なく。ご子息は最優先で保護しています』

「そうか、ご苦労だった。本部直通のカートレインを回す。赤木博士も迎えに行かせよう」

『い、いえ!彼を迎えに行くのは私が言い出した事ですので!私が最後まで責任を持って…』

「内部構造に慣れていない君が()()迷うのは目に見えている。

…我々には時間がないという事を忘れるな、葛城君」

『は、はひぃっ!』

 

図星を突かれた葛城ミサト一尉の声が上擦る。

要件のみで通信を切ったゲンドウ。

その傍らに立つ白髪の壮年…NERV副司令の冬月コウゾウが横目を向けた。

 

「葛城一尉に連絡を取るなら、同乗しているシンジ君に

声の一つも掛けてやれば良かったのではないか?三年ぶりの再会だろう」

「どの道すぐに顔を合わせる事になる。二度手間だ」

「不器用な奴め。俺には息子との会話を意図的に避けているように見えるぞ」

 

苦笑する冬月を黙殺し、ゲンドウは格納庫(ケージ)にモニターを移した。

 

「レイ、もう一人の予備が間もなく届く。別命があるまでは待機だ」

『ほいほーい、了解~』

 

おそらく同伴の看護師が用意したのだろう。

パイプ椅子に座り、肩からタオルケットを羽織った綾波レイが答えた。

清涼飲料水(スポドリ)を一口だけ啜り、軽く喉を湿らせて看護師へと返す。

 

「ありがと」

「もういいの?」

「や、飲み過ぎてもおしっこ行きたくなるし」

「綾波さん、普通にトイレって言いましょうよ…女の子なんだし」

 

ケージ内の作業員達の眼を気にして赤面する看護師。

レイはどこまでもマイペースだった。

 

 

「お、おしっ…あの、レイが…!?」

「…盗み聞きは感心せんな、碇」

 

ぼそり、冬月が一言。

スピーカーだけを切り、ケージ内の音声を拾っていた総司令。

ヒゲを剃っても、()るで()ーティな()っさん略してMA☆DA☆Oだった。

 

 

 

 

 

場所は変わり、地下空間『ジオフロント』を抜け、NERV本部へと到着したカートレイン。

後部がひしゃげて走るのもやっとという(てい)のルノーと

そこから降りてきた二人を、赤木リツコが出迎えた。

 

「よく無事だったわね、ミサト」

「全力で逃げてきたけど、NNの衝撃波に「カマ掘られた」わ。

まーだ3年近くローン残ってるってのにね。…修理代は経費じゃ落ちないかしら?」

「期待しない方がいいわよ」

「デスヨネー。トホホー」

 

親友たるリツコに愚痴をバッサリと切り捨てられ、ミサトは肩を落とす。

シンジは『ようこそネルフ江』と書かれた資料を脇に抱え、会釈を交わした。

 

広く入り組んだ施設の中を、リツコの先導で歩いていく。

動く歩道、エレベーター、ゴンドラと乗り継いでいく間、

ミサトは「こっちがこうで…」などと呟いており、

案内役を寄こしたゲンドウの判断は正しかったと言えるだろう。

 

オレンジ色の液体が満ちたケージをモーターボートで進んでいく三人…

 

「やっほーい」

 

人工の海に渡された金属製の通路の上から、

看護師に付き添われた少女が手を振って迎えた。

シンジは既視感(デジャヴ)を感じ…ハッと息を飲む。

怪我のためか少々声のトーンを落とし気味。それに服装こそ違えど

間違いなくシンジが先程見かけた水色髪の少女だった。

 

「幽…霊!?」

「む、失敬な。包帯(ミイラ)状態だけど死んでるわけじゃないよ」

「あ、ご、ごめん…」

 

ぷー、と頬を膨らませる少女…レイに、シンジは慌てて頭を下げた。

ミサトは眉を寄せ、リツコに耳打ちする。

 

「…レイは第3新東京市の街中に出てたりはしないわよね?」

「ないわね。病室から看護師の肩を借りて、30分ほど前にケージ入りした所よ」

「シンジくんが、私と合流する前に『幽霊を見た』って言ってたの。

彼に虚言癖や妄想癖があるとも思えないし…どういうことなのかしら?」

生霊(いきりょう)、とでも?心霊現象の大半は見間違いと偶然で片がつくものだけれど…

今は後回しね。…ボスがおいでなすったわよ」

 

『久しぶりだな、シンジ』

「…っ、父さん」

 

上前方、ガラス越しに姿を現すゲンドウと、見上げるシンジ。

感動の再会、という風でもない。張り詰めた空気…。

 

「…あ、親子なん?確かにちょっと似てるかも?ヒゲ剃ったのもあるしネ、司令」

 

レイの能天気な声は、空気を読まなかった。




バタフライ効果かは解りませんが、レイさんの回復が早まったのにつられて、
セリフや時系列が前倒しになってたり、色んな人が少しずつ前もって行動してたりします。
どうなりますことやら


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4、リナレイさん、シンジくんと一緒にエントリープラグにIN

前回までのあらすじ

ゲンドウ「レイの黄金水と聞いて!(ガタッ)」
冬月「お前じゃねぇ座ってろ」


『リフト上昇。エヴァ初号機、第二次冷却に移行。プラグ挿入準備』

 

アナウンスと共に、ケージ内の水面が波紋を立てた。

何かが…徐々に姿を現す…一本の角…紫の頭部…白く光る二つの眼…

西洋甲冑の兜のような、あるいは鬼のような…

 

「顔…?巨大ロボット…!?」

「汎用人型決戦兵器…人造人間エヴァンゲリオン初号機。

唯一使徒に対抗できる、私達の切り札よ。

…碇シンジくん、あなたに乗ってもらいたいの。

こちらの、綾波レイと一緒にね」

 

リツコの視線の先。

看護師に手を借り「痛たた」などと言いつつ立ち上がるレイ。

白い顔には汗の玉が浮く。痛々しい姿に、シンジは息を飲んだ。

 

「見た事も聞いた事もないロボットに、乗れっていうんですか!?

無理ですよ!それに、彼女…綾波さんだって、怪我してるのに!

誰か大人のパイロットはいないんですか、リツコさん!?

…父さん!何とか言ってよ!」

 

「いくら戦闘機や戦車の操縦に熟達していても、『大人』ではダメなのよ。

中学生を戦場に放り込むのは人道に(もと)ると(そし)られても、他に手段がないの」

「エヴァとシンクロ出来る可能性があるのはセカンドインパクト以降に生まれた少年少女…

NERV傘下の組織であるマルドゥック機関によって選出された子供達(チルドレン)だけだ。

…必要があるから、お前を呼んだ。それだけの事」

 

それが、大人達の答え。

早鐘を打つ心臓を抑えるように、シンジは自分のシャツ…胸の部分を握りしめる。

 

「僕と綾波さんが、一緒に乗る理由は?」

「レイは一通りの訓練を受けているけれど、見ての通り負傷中。

シンジくんはマルドゥックの報告書ではシンクロの素質あり…けれどまったくの未経験者。

それで、私は二段構えを提案した、というわけ」

 

次に答えたのはミサト。

 

「…僕は『予備』っていうことですか」

「否定は出来ないわ。ごめんなさい」

 

自分を保護してくれた女性の静かな言葉。

俯いたシンジの心に様々な想いが去来する。

 

(なんでだよ)

(嫌だ、怖い、逃げたい)

(一度僕を捨てた父さんが、何を今更!)

 

(でも、僕が逃げれば、傷ついた綾波さんが一人で乗る事になる)

 

ケージを見下ろすゲンドウは、シナリオ通りの状況にほくそ笑んだ。

確信していた。シンジは、逃げ出せないと。

タイミングを見て、ゲンドウは口を開いた。

 

「乗るのなら早…」

「あー、まぁ向いてなさそーだもんね、キミこういうの。

大丈夫だよ、あたしが一人で乗っとくから帰んなさい」

 

やや無理はしているが笑顔を作り、レイの言葉が割り込んだ。

 

「く…しろ…で、なければ…帰…」

 

(お…俺のセリフ…)

ゲンドウは、ちょっと泣いた。

 

 

 

 

「綾波さんは…それでいいの?」

「ぶっちゃけた話、あたしだって痛いのは()だよ。

でも誰かがやらにゃー、みんな死んじゃうでしょーが」

 

綾波レイは、赤い瞳でシンジを真っすぐに見返した。

数秒の沈黙。シンジの手が、握り、開きを繰り返す。

 

「僕も…一緒に乗るよ」

「無理しなくていいって。逃げたいならさ」

「逃げたいよ、怖いよ!でも、君一人に任せて逃げたらもっと後悔する!だから…」

 

シンジは精一杯の勇気を奮い、レイへと言葉を返す。

そして、周囲の大人達に眼を向けた。

 

「やります…僕も、乗ります!」

「シンジくん…ありがとう」

「私からも、感謝するわ。エントリー準備、急いで!

パーソナルデータは、ファーストチルドレン『綾波レイ』と

サードチルドレン『碇シンジ』の並列(パラレル)で処理!」

 

ミサトが、そしてリツコが、答え…

 

「よーし、よく決めた男の子!んじゃ、ちゃっちゃと倒してこよっか!」

「綾波さんを…よろしくお願いします。碇さん」

 

気合を入れたレイのエスコートを担当看護師から引き継ぎ、シンジは頷く。

戦いが、始まろうとしていた。




本編よりも時間に余裕があるので説明ちょっと多目。
ミサトさんは、レイさんの「全快じゃないけどなんとか動ける」という状態から二人乗りを思いつきました。
よって「彼には無理よ!」→「乗りなさい」の掌返しはせず、最初からシンジくんをコ・パイロットとして当てにしてます

ゲンドウ「レイはとんでもないものを盗んでいきました。私のセリフです…」


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5、シンジくん、戦闘前に思春期真っ只中にIN

エントリープラグにはまずシンジが乗り込み、彼の膝を借りる形でレイが続く。

 

プラグ内に注水されるオレンジ色の液体は、

パイロットを肉体的・精神的に保護するための緩衝材だ。

だが初見のシンジは、窒息を恐れて息を止めてしまう。

 

「大丈夫、肺がLCLで満たされれば、直接血液に酸素を取り込んでくれます」

 

リツコに促され、ようやくLCLを飲み込んだシンジは血の味を感じて顔を歪めた。

 

「ぐっ…気持ち悪い…」

「ま、最初はキツいよね。慣れればどーってことないよ。

ん、頭痛がちょっと和らいでる。LCLは上手く循環してるみたい」

 

レイは躊躇いなく肺の中の空気を吐き出しつつ、落ち着いた様子だ。

電荷作業が行われ、LCLは透明に…外の視界が肉眼で確認できるようになる。

ミサトは腕を組み、悪くない組み合わせだと口の端を持ち上げた。

自分が下手に根性論を口にして、シンジに発破をかける必要はないだろう。

 

「レイ、二人乗り形態(タンデムモード)は覚えてる?」

「イエス・マム、葛城一尉!えーっと確か…

下の方のボタンを押しながらレバーを引き上げてー…よーいしょっとぉ!」

 

レイの思い切りの良い掛け声と共に、ガコン!とレバーが立ち上がる。

前にいるレイが下のグリップ部分を、後ろのシンジがレバー上部の丸い部分を握れる形だ。

 

「んじゃ碇くん。キミはここに手ぇ置いて…どしたの?」

「う、その、綾波さん…あんまり、動かれると…」

 

LCLショックから立ち直ったシンジは、落ち着くにつれて気づいてしまった。

 

ボディラインがくっきり出たパイロットスーツ姿の美少女。

折れてしまいそうに華奢な背中の悩ましさ。

彼女が動くたびに、自分の太ももに伝わる感触…

 

こんな時に。いや、こんな時だからこそ。

()()()()()()が、働いてしまったのだ。

 

「碇くん」

「…はい」

「あたしのおしりに何か当たってんですけど」

「いや、あの」

「なに?あててんの?それやるの普通、男女逆じゃね?」

「わ、わざとじゃないよぉ!しょうがないじゃないかぁ!」

 

振り返り、ジト目でシンジを睨むレイの頬はわずかに紅潮している。

同じく顔を上気させたシンジの声は、オペレーター全員に響いてしまった。

 

 

「おおぅ、二人とも初々しいねぇ」

苦笑する長髪の男、青葉シゲル二尉。

 

「レイちゃんと密着…!?う、羨ましくなんかないぞ!」

わなわなと震える眼鏡の青年、日向マコト二尉。

 

「ふけつです!」

童顔を真っ赤にして涙目の女性、伊吹マヤ二尉。

 

 

(だめだこいつら!早くなんとかしないと!)

ミサトは高く音を立てて、三度手を叩いた。

 

「はいはいはい!使徒が迫ってんだから、そろそろ真面目に行きましょ!

レイ!エヴァ起動準備!」

「了解~…シンクロ・スタート!」

 

…改めて皆、気を取り直す。レバーを握り、意識を集中させるレイ…

 

「マヤ、シンクロ率は?」

「だめです!二桁にも行っていません!エヴァ初号機、起動せず!」

 

(リツコ)の問いかけに、弟子(マヤ)はモニターを見据えたまま答える。

レイの眉間が寄せられた。

 

「うぅー…7ヶ月掛けてシンクロ()()はするようになったんだけどなぁ…

碇くん!一緒にやってみよう!レバー握って『起きろ!』って念じる感じ!」

「う、うん!」

 

状況に流されるまま、シンジはレイの言葉に従う。

 

((起きろ、起きろ、起きろ、起きろ…!))

 

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

モニターの赤ゲージが緑に塗り替えられていくのを、マヤの瞳が映し出す。

エヴァンゲリオン初号機…起動確率0.000000001%(オーナイン・システム)と揶揄された機体が

二人のチルドレンの手が加わった瞬間、あっさりと目覚めた。

 

「…シンクロ率、31.8%。若干の思考ノイズが見られるものの誤差範囲内。

ハーモニクス正常…暴走、ありません!」

「高いとまでは言えないけれど…起動は出来る!行けるわ!」

 

美人科学者師弟の言葉にどよめく発令所内。

エヴァを縛る油圧式ロックボルトと拘束具は次々と除去されていく。

射出進路全良好(オールグリーン)が伝えられると、ミサトは総司令を振り返った。

無言で頷くゲンドウ…

 

「…発進!」

 

ミサトの号令と共に、火花を上げながら紫の巨人は高速で運ばれていく。

 

「「く…!」」

 

重力(G)に呻く碇シンジ・綾波レイの両チルドレン。

エヴァ初号機が地上に姿を現すと同時、夕陽を背にした首なし巨人が、仮面を光らせる…!

 

「目標にエネルギー反応!中距離攻撃、来ます!」

「…フィールド展開!」

 

青葉シゲルの警告を受け、レイは叫んだ。

ギィン…!響く高音。エヴァの目の前に現れた半透明の障壁が、使徒の放った光線を防いでいた。

 

「初号機のA.T.フィールドを確認!ダメージなしです!」

 

マヤの報告にも、シンジはただ目を見開くのみ…

レイが喝を入れるように言い放つ。

 

「碇くん。こーゆーの、習うより慣れろだから。

あたしのやり方を見て、覚えて!」

「う…自信はないけど…やってみるよ」

「いい返事!んじゃあ…

行ィったらぁあー!!」

 

エヴァの背に残った最終安全装置が解除され…レイは、咆哮した。




ゲンドウ「シンジ!色を()年齢(とし)かッ!(背中に鬼のツラを背負いつつ)」
冬月「…思春期だからな。普通に知る歳だろう(ぼそり)」


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6、サキエルさん、天国にIN

今回シリアスさんばっかり出張ってます


「行ィったらぁあー!!」

 

レイは()える。拘束具から解き放たれた初号機は、地を蹴って前へ。

道路に足形が刻まれ、街路樹脇の電話ボックスがひしゃげた。

 

エヴァと使徒。巨体と巨体。

距離はあっという間に縮まる。

 

使徒が前に伸ばした腕、そして、そこから更に伸びる光の(パイル)

エヴァは上体を半身に反らして突きをかわし、間合いを詰める。

 

二つの巨体を取り巻く夕暮れの空気が、僅かに揺らめいた。

互いを守る不可視の障壁…A.T.フィールドが干渉し合って中和される。

 

使徒の胸部にある赤い球体に、エヴァが前蹴りを一撃。

よろめく使徒に、パンチを一発、二発。

 

首なし巨人の肩にあるヒレのような器官が開き、ふわり、と直立したまま飛行…

使徒は後方へ離脱…仮面からまた光線を放つ。

 

「しゃらくさい!」

 

中和区間を離れれば、再びA.T.フィールドは有効に。

レイの張った障壁により斜め上方向に反らされた光線は、十字架型に広がってから空に消えた。

 

「凄い…!」

「エヴァはね、パイロットのイメージ通りに動くの。

けど、そのために必要なシンクロは、碇くんの方が相性がいいみたい」

「え?」

 

レイの戦いぶりに見入っていたシンジは、思わぬ言葉に聞き返した。

 

「自信を持って。碇くんがいるから、あたしは戦えるんだよ」

「綾波さん…」

 

戦い方を知っているがシンクロは不得手なレイ。その逆のシンジ。

欠けた互いを補完し合う、現時点で最も理想的な形。

レイから寄せられた信頼が、シンジを高ぶらせていた。

 

「シンクロ率上昇!41.3%!」

「よーし、良い感じに動きがキレてきた!

使徒は近づかれるのを嫌がってるみたいだし、畳みかけるよ!」

 

マヤの言葉を耳に、レイは再び使徒へと迫った。

…あるいはそれは、驕りだったのかもしれない。

 

使徒の両腕が倍以上に膨れ上がった。

そして、攻撃しようとしたエヴァの両腕を掴む。

 

「ぐあっ…なんだこれ…!?」

 

シンジは腕を締め上げられるような感覚に苦悶した。

エヴァをイメージ通りに動かすための神経接続…

それは、パイロットにもダメージをフィードバックさせてしまう。

 

「だい…じょうぶ…!掴まれてるのはあたし達の腕じゃない…!このぉ、離せっ!」

 

同じ痛みを感じていたレイは、至近で膝蹴りを何度も放つ。

ダメージは通っているはずだが、拘束は解けない。

業を煮やし、頭突きを一発…!

 

ズキリ。LCLの循環で誤魔化していただけの頭痛が、レイを襲った。

 

(しまった!)

 

反動で離れたエヴァの上体は、隙だらけだ。

何度目か、使徒の仮面が、光る。

 

「使徒にエネルギー反応!」

 

青葉シゲルが叫んだ。エヴァの視界が白に染まる。

 

「…(うっそ)(ゼロ)距離…!?」

 

レイが驚愕すると同時、光線はしたたかに一本角の顔面を打った。

腕の拘束は確かに離れたが、それはエヴァが身体ごと後方に吹っ飛ばされての事。

背から地に落ちる鈍痛はシンジにも襲い掛かる。

 

「あぁッ…!」

「やば…ぃ…」

 

レイの身体から、力が抜けた。

 

 

 

 

 

 

「ファーストチルドレン、意識喪失!」

「綾波さん!しっかり!綾波さん!」

「シンジくん!来るわよ!立って!」

 

日向マコトの叫び、そして葛城ミサトの叫び。

気絶したレイに呼びかけていたシンジは、ハッと前を見る。

 

使徒はゆっくりと歩いてきていた。

尻もちをついて倒れた初号機へと右手を伸ばしてくる。

迫る光の杭…

 

「フィ、フィールドッ!」

 

レイの言葉を思い出し、咄嗟に口走る。

杭の切っ先は、眼前で半透明の正六角形に弾かれ…止まる…

マヤが、身を乗り出し、モニターを凝視した。

 

「…っ、使徒もA.T.フィールドを展開!

位相空間が中和…いえ、侵食されます!」

 

杭が、じわじわと、迫ってくる。壁が、貫かれる。

反射的に防ごうとするエヴァの左手が、貫かれる。

 

「ぐあぁぁっ!」

 

伝わる苦痛。シンジには、自分の叫びすらもどこか遠く聞こえた。

 

(痛い、だめだ、怖い、ダメだ、殺される、駄目だ、逃げなきゃ、だめだ)

(だめだ、このままじゃ、ダメだ、死ぬ、駄目だ、逃げ…)

 

痛みと恐怖に歪むシンジの眼に、意識を失ったレイの横顔が入る。

…彼女の口の端から空気の泡が漏れ、LCLの中を昇っていく。

 

思い出す。

 

怪我を押して戦った小さな背中を。

軽い口調なのに、自分を気づかう明るい声を。

苦痛を隠して向けられる笑顔を。

命の重みと温もりを。

 

 

 

 

 

逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ

逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ

逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ

逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ

 

 

 

 

 

 

「…っ、立て!動け!…戦え!」

 

シンジの声。左手を貫かれたまま、エヴァは立ち上がろうとする。

それを阻止せんと動く使徒…

 

「日向くん!兵装ビル、3番と5番!誤射に気をつけて!!」

「はい!」

 

ミサトの声と共に、日向マコトの指がキーを叩いた。

使徒の背中で起こる、無数の短距離小型ミサイルによる小さな爆発。

 

A.T.フィールドが中和されている今、

それは僅かだがダメージを与え、

エヴァ初号機が体勢を立て直すだけの隙を作った。

 

「シンジくん!エヴァの右肩!ナイフがあるわ!

それで、赤い球体を、刺して!」

「っ…はい!っあああああああ!」

 

言葉を一つずつ区切り、ミサトは確実にシンジへの言葉を運んだ。

プログレッシブナイフ…高速で振動し、敵を焼き切るナイフは右手に。

赤熱する刃は使徒の(コア)へと吸い込まれ、火花を散らす…

シンジの声は、まるでレイの気合をなぞるように、高く、高く響く。

 

使徒が、最後の抵抗をと、伸ばした両手から、力が抜けて…倒れた。

 

「パターン青、消失。…使徒、殲滅!」

「…勝った、な」

 

日向マコトの宣言に、冬月副司令の感慨深げな声が続き…

 

発令所に歓喜の声が満ちた。



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7、病院の天井さん、リナレイさんの視界にIN

(…あったかい。ベッドの上?)

(…頭、うっ、まだズキズキする)

(…消毒液の匂い…)

 

…ゆっくりと目を開く。飛び込んでくる色は、白。

 

「あー、めっちゃ見慣れた天井だわ」

 

情緒も何もない言葉。

第三使徒戦を生き延びた綾波レイは、いつもの病室にいた。

 

【挿絵表示】

 

検査の結果、命に別状はなく、後遺症もなかったが、

頭への一撃が効いていたのか、頭突きカマしたのが無茶だったか…

 

レイは頭痛のため食欲が奮わず、重湯(おもゆ)(お粥の上澄み)と具無しの味噌汁という

流動物だけの食事を摂って早々に寝てしまった。

 

…が、翌日になると体調…主に食欲が一気に好転。

 

「うおぉ~!(しゃけ)ぇ~!!」

 

病院食のおかず…貴重なタンパク質にテンションを爆上げし、

担当看護師(かんごふさん)がドン引きするということはあったものの、

朝・昼と完食したレイは、面会も受けられる程までに回復していた。

 

 

 

「良かった…綾波さんが無事で…」

「そっか、あの後、碇くんが使徒を倒してくれたんだね。…ありがと」

 

午後。面会に訪れたのは、同じ病院での治療を終えた碇シンジだった。

レイが助かった事への安堵と、彼女からの礼を受け、シンジは笑顔を紅潮させる。

微笑ましい中学生の男女を眺めながら、看護師はくすくすと笑った。

 

「ふふ、碇さんは綾波さんを凄く心配してたものね?

私達医療スタッフが駆けつけた時なんて…」

「か、看護師さん!?あ、あの時の事は…!」

「なになにー?」

 

途端に慌てふためくシンジの様子に、レイは興味を惹かれた。

なにしろ自分の意識がぶっ飛んでいた時の事だ。気になる。

 

 

 

 

戦闘直後…

ケージに戻り、排出(イジェクト)されたエントリープラグのハッチが開く。

ぐったりとした綾波レイの上体を抱え、駆け寄る医療スタッフ達へと叫ぶ碇シンジ…

 

『早く!早く綾波さんを助けてください!意識がないんです!

僕は後回しでいいですから!綾波さんを!綾波さんを助けてください!』

 

真剣な表情で、何度も、必死に叫ぶシンジもまた、

レイが医療スタッフに預けられると同時に体力が尽き、気絶。

同じくストレッチャーで運ばれていった…

 

 

 

「二人とも命懸けだったから、こんなこと言うのは不謹慎だけど…

碇さんの言葉にお姉さん感動しちゃったわ!もう、綾波さんが羨ましかった!

あそこまで言われたら女冥利(みょうり)に尽きるってものよ!」

「あ、あああぁ…」

 

キラキラした表情の看護師と、羞恥で真っ赤になるシンジ。

そしてそれを聞いたレイはと言えば…

 

「碇くん」

「…はい」

 

またもや既視感(デジャヴ)を感じる言葉の後。

 

「そんな美味しいシチュエーション、なぁんであたしが気絶してる時にやったの!

世界の中心でアイを叫ぶなら、あたしがちゃんと意識ある時にしてよ!」

「意識があったらそもそも言う内容じゃないよ!!」

 

ガチで怒るレイと、ガチで突っ込むシンジ。

看護師は、さすがに二人を弄りすぎたかと反省した。

だが、後悔はしていなかった。

 

 

 

同日、夕刻

「…ねぇ」

「あぁ」

「…なんでわざわざお見舞いの時間を外したの?一緒でも良かったんじゃない?」

「……」

「なに話したらいいか解らない、とか?」

「…っ!」

「あは、わっかりやすい♪」

「私は…」

「…怖い?」

「……」

「…そっか」

「…もう行く。またな、レイ」

「うん、それじゃね、司令」



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8、リナレイさん、学校生活にIN

前回までのあらすじ

ゲンドウ「ヒゲ剃ってから対人コミュが不安でござる(´・ω・`)」
冬月「あれは精神防壁だったのか…」


第3新東京市、第壱中学校に編入学したものの、碇シンジは教室では孤立しがちだった。

 

おはよう、と挨拶をされれば、おはよう、と返すことは出来る。

いかにも真面目そうなクラス委員長からは、

「解らない事は何でも聞いて欲しい」

とは言われている。

 

だが、それで終わってしまう。

知らない街。知らない道。知らない天井。知らない人々。

人との距離を測りかねているシンジは、それ以上を踏み込む事を躊躇っていた。

 

ヤマアラシのジレンマ。

近づきすぎれば互いの針で相手を傷つけ、離れすぎれば凍えてしまう。

そのジレンマの狭間に、シンジはいた。

 

 

 

「おっはよー!っはー、間に合ったぁ!」

 

とある朝。教室に響いた女子生徒の声に、クラスの皆が眼を疑った。

 

綾波レイ。しばらく前に怪我をして入院した、青髪に赤眼の寡黙な…

いや、寡黙「だった」少女が、息を切らせながら教室に入ってきたのだ。

 

「あ…綾波さん!?」

「おっ、おはよー!碇くん、このクラスに転校してきたんだね。これからよろしくね!」

 

息を整えつつ、シンジの席の傍に歩み寄るレイ。

 

「う、うん。綾波さん、もう怪我は大丈夫なの?」

「ん、ばっちり!でも時間ギリギリでさ、パン咥えて走っちゃったよ。

退院早々遅刻しちゃ流石にマズいって感じだよねぇ~」

「あ、あはは…」

 

楽しそうに談笑する二人を見て、クラスの面々は思う。

 

 

綾波ってあんな奴だったか?

ボソボソ話す事すらレアなアイツのあんな声、聞いたことあったか?

…そして、その綾波と親し気に話してるあの転校生は何者なんだ?

 

 

疑問が巡る中、一人の女子生徒がおずおずと近づき、紙束を差し出した。

 

「あの、綾波さん。これ、休んでた間のプリント…」

「お!ありがとね、ヒカリちゃん!」

 

満面の笑顔。素直なお礼。名前にちゃん付け。

綾波レイが今までしたことがない、ありきたりな行動。

この2年A組を見てきた委員長、洞木ヒカリでさえ、彼女のそんな一面を見るのは初めてだった。

 

 

程なく、担任の老教師が入ってきて、ヒカリの「起立、礼」の号令でホームルームが始まった。

 

授業の合間にいきなりセカンドインパクトの苦労話を始め、

『その頃、私は根府川に住んでましてねぇ…』

という口癖から、彼はネブカワ先生の仇名で親しまれている。

 

皺の刻まれた温和な顔…のんびりとした口調で、ネブカワ先生は名簿をチェックする。

 

「ではー、出席を、取ります。えー、相田くん」

「はい」

「あー、秋月さん」

「はい」

「綾波さん」

「はーいっ!」

 

ネブカワ先生はボールペンを持ったまま、レイを見て…

 

「…あー、綾波さん、今日はー、とてもー、元気ですね」

 

(え、『元気』で片付いちゃうの!?)

(綾波、完全に別人だよなぁ?)

(ネブカワ先生、大物すぎんだろ!)

 

生徒達の声にならない声が、教室に満ちていた。

 

「えー、出席、続けます。碇くん」

 

(みんな、なんで綾波さんの事を不思議そうに見てるんだろう…?)

 

「…碇くん?」

「あ、はいっ」

 

反応が遅れ、慌ててネブカワ先生に答えるシンジ。

奇妙で平和な一日が始まった。



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9、ケンスケくん、シンジくんの秘密にIN

「書き続けなきゃ」と気合を入れるより
エタるエタる詐欺してた方が続くような気がする(´-`)


休み時間、シンジの前の席を拝借し、向かい合うように座ったのは

茶色の癖っ毛に眼鏡の男子生徒だった。

 

「よ、転校生。学校(ガッコ)、慣れてきた?」

「えと、確か…相田?」

「そ、相田ケンスケ。覚えててくれたのか。…まぁ、出席番号一番だしな」

 

まだ硬い表情のシンジに、ケンスケは人懐こく笑う。

悪く言えば馴れ馴れしいとも言えるが、

自分から友達を作りにいくのが苦手なシンジにとっては有り難かった。

 

教室の反対側からは女子達の声が聞こえる。

 

「…で、あたしの担当看護婦さんがチョー可愛くてさ。

もぉ、たまんねーな!って感じだったわ!」

「アヤナン、それ完全にオッサン思考だよぉ~。

あんた外面(ガワ)だけ女子中学生(JC)のオッサンじゃん!」

「失敬な!ナウなヤングだよ!イケイケのゴーゴーだよ!」

「死語しかない!レイちょん何時(いつ)の時代の人!?」

「セッ、セカンドインパクト前ッ!?」

「「「キャハハハ…」」」

 

シンジは明るく笑い合う少女達と、その中心にいるレイを見た。

 

「綾波さん…ムードメーカーって感じだなぁ。仇名いっぱいあるんだね」

「あんな奴じゃなかったんだ」

「え?」

 

眼鏡の逆光に視線を隠して女子を見ていたケンスケを、シンジは振り返った。

 

「綾波は一年の時に転校してきてから、ほとんど話さなかったし、友達もいなかった。

今話してる連中とだってそうだ。…あんな仇名、俺も今日初めて聞いたよ」

「想像できないな…あの綾波さんが?」

「俺にとっては『あの綾波』の変わり様こそ信じられないんだよ。

碇、転校生のお前が、いつ綾波と会ったんだ?」

「う、ぁ、えーっと…第三新東京市に来たばっかの…あ、病院、病院で!」

 

危うく『幽霊』に会った時や、使徒との戦いの事を言いかけて、しどろもどろになるシンジ。

前者は未だに自分でも信じがたいし、後者はNERVの機密絡みだ。

 

リツコやミサトからは、シンジがパイロットである、という事自体は

いずれバレてしまう可能性は高いから聞かれたら無理に隠す必要はないが、

それに付随する武器や能力などのデータは口にしないように言われている。

 

「…来て早々怪我でもしたのか?例のロボット騒ぎで?」

「ロッ…!?あ、あぁ、うん。その、巻き込まれて、

いや、大した怪我じゃなかったけど、検査とか、一応…」

「そっか、災難だったな。あ、俺、次の授業の準備しないと。またな、碇」

 

ひらひらと手を振り、席を離れていくケンスケ。

シンジは彼の背中を見送り…ほっ、と一息つく…

 

 

「碇くーん!アヤナンのお見舞い行ったんだってー!?

なにーどういう関係なの二人ー?カレシなのー?」

「うぇ!?ち、違うよ!そんなんじゃ、ちょっと綾波さん!?」

「ごっめ、しゃべっちゃった♪テヘ☆」

「テヘじゃなくて!」

 

おどけるレイと、その手の話題に興味津々の女子達。

シンジはまた混乱の最中に落とされる。

 

「…俺達の知らない綾波、ロボット、あの慌て方…間違いなさそうだよなぁ…」

 

ケンスケの独白は、教室の喧騒に溶けた。



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10、リナレイさん、体育館裏にIN

2、シンジくん、第3新東京市にIN
7、病院の天井さん、リナレイさんの視界にIN
に画像らしきもの…?を追加しました


何日かが経った後。

 

鈍い打撃音が、昼休みの体育館裏に響く。碇シンジは殴り飛ばされて、尻もちをついていた。

 

二週間ぶりに学校に訪れた黒ジャージ姿の男子生徒…

鈴原トウジの突然の行動に反応が遅れ、相田ケンスケは血相を変えて友人を後ろから抑えた。

 

「おいトウジ!まずいよ!」

「離さんかいケンスケ!ワシはな、この転校生を殴らなアカン。殴っとかな気が済まんのや!」

 

 

 

事の初めは、3時間目の授業の終わり頃。

ネブカワ先生がいつも通りセカンドインパクトの苦労話を続けている時、

シンジのノートパソコンにチャットが飛んできたのだ。

 

>碇君があのロボットのパイロットというのはホント?Y/N

 

シンジが振り返ると、後ろの席の女子生徒二人が手を振っていた。

ケンスケは何も言わなかったが、彼と同様、感づいた者はいたという事だ。

 

S.Ikari>ごめん、ノーコメントで

 

小考した上に返したチャットは「違うならNOと返すはずだ」と結論づけられ、

良くも悪くもシンジの正直さゆえに、結局はパイロットである事が露見してしまった。

 

まるでヒーローを祭り上げるようにシンジを取り囲む男女。

授業中だから、と彼らを咎める委員長の洞木ヒカリ。

彼らの様子を見ていたトウジは、奥歯をキリキリと噛みしめていた。

そして、今に至る。

 

 

 

「おう転校生!ワシの妹はな、瓦礫の下敷きになっとったんや!

お前が操縦するロボットが派手にブッ倒れた拍子に、危うく死ぬ所だったんやぞ!

あのバケモンやのうて、味方のヘマで怪我させられてたら世話ァないわ!」

 

殴られた顔と、地に叩きつけられた痛みは、シンジに嫌でもあの戦いを思い出させる。

叩きつけられる怒声で、頭に血が昇り…謝るよりも先に、その言葉が口を突いて出た。

 

「僕だって…好きで乗ってる訳じゃない!」

「…おんどれ、もういっぺんブン殴ったる!歯ぁ食いしばれやぁ!」

 

静かだが、しっかりと通るシンジの声はトウジを激昂させた。

シンジの胸倉を掴んで立たせ、睨みつけ、弓引くようにトウジが拳を振り上げた瞬間…

 

 

 

 

「ちょいやァ――ッ!」

「ぶっふぉっ!?」

 

高い掛け声と共に、助走付きの飛び蹴りが横合いから襲い掛かり、

トウジは、スコォンッ!っと小気味よく吹っ飛んだ。

捲れ上がったスカートの中身が、茫然としていたケンスケの眼鏡に映る。

 

「し、白ッ!?」

「そーい!」

「ほぶわっ!?」

 

余計な事を言ったケンスケもまたハイキックを横っ面に喰らい、沈む。

ようやく身体を起こしたトウジは、シンジを庇うように陣取った『その人物』を見た…。

 

「…あ…!」

「くっそ、誰やねん…あ!?」

「ふうぅゥッ…!おー、すずはらー、やんのかー、おぉー!?」

 

彼女は、気の立った猫科動物のように、赤い瞳を細めて唸っていた。

 

腰を落として身体を半身に…両手の指を獣爪の形に構え…

隙あらば、もう一度飛び蹴りをブチかまさんばかりの体勢を取る、水色髪の女子生徒…。

 

「あ、あ、綾波ィ!?自分、ホンマに綾波か!?」

「おーよ、あたしだよ!綾波レイちゃんだよ!

事情は聞いた。つーか、さっき聞こえた!

妹さんの事はお見舞い申し上げる…だけどね!

 

主操縦士(メインパイロット)はあたしだったの!

よって!これ以上碇くんを殴るんなら!まずはあたしを殴ってもらおうっ!」

「綾波さん…」

 

へたり込んだトウジを前に、レイは構えを解き…肩幅に足を開いて腕を組む。

威風堂々、渾身の直立不動姿勢(ガイナ立ち)…!

シンジには、細身のはずの彼女の背中が、大きく見えた。

 

「…っ、お、女は殴らんわ!ともかく、今度から足元気ィつけや!」

「おー、逃げんのか鈴原ー!?マタ○キ付いてんのかー!?おー!?」

「や、やかましわ!行くで、ケンスケ!」

「うぅ…なんか気持ちよく空を飛んだような感覚が…」

 

中指をぶっ立てて煽るレイ。

その彼女に気圧され、うろたえるトウジ。

トウジに助け起こされるケンスケも、微妙に錯乱している。

レイの蹴りを喰らったケンスケの頬は僅かに赤くなった程度。

眼鏡はまったく無事。絶妙な力加減であった。

 

逃げるように遠ざかる二人を見送り、レイはシンジに手を伸ばす。

 

「さっきNERVから連絡あってさ。非常招集だって。立てる?」

「うん、ありがとう…行けるよ」

 

彼女のひんやりした白い手を取り、シンジは立ち上がった。

 

「…謝れなかった。謝らなきゃいけなかったのに。

カッとなって…売り言葉に買い言葉で返して…。

…人を傷つけたのは、僕だったのに」

「エヴァが倒れたのは、あたしが動かしてた時だから、

鈴原が怒るならあたしの方が妥当なんだけどね。

…碇くんが優しいのは解るけど、卑屈になるのはNGだよ。

あたし達は、やる事はやった。

それに、最終的にこの街を守ったのは碇くんなんだから、誇っていいんだよ」

「…ミサトさんにも、同じ事を言われたよ。でも…」

「あーもう!デモよりストより行動行動!行くよっ!

黒服のおにーさんが運転する車、迎えに来てるし!」

 

自罰のループに陥りかけたシンジに、レイが発破をかける。

二度目の戦いを前に、空は抜けるほど青かった。




この小説を書くにあたり、一番最初に思い浮かんだシーンが
「ちょいやー!」って叫びながらトウジくんに飛び蹴りかますレイさんでした。
ジャージは犠牲になったのだ…ネタ小説の犠牲にな…

なお賢明な読者の皆様はお気づきと思いますが
うちのレイさんは人のセリフを積極的に奪っていくスタイルです。


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11、リナレイさん、ネルフ本部発令所にIN

皆様明けましておめでとうございます
今年も当小説をよろしくお願い致します


黒塗りの車が第3新東京市を駆ける。

 

街のビル群が地下空間(ジオフロント)に収納されていく様が

視界の後ろに流れていくのを、碇シンジは後部座席の窓から見た。

 

前回の使徒戦の後、葛城ミサトに連れられ、夕陽に照らされた高台から

『ビルが生えていく』第3新東京市の光景に目を奪われた事があるシンジだったが、

間近で姿を変えていく風景を見ると、改めて己が

『戦うために作られた街』にいる事を自覚させられ、ごくり、と唾を飲み込む。

 

サイレンの唸りが長く響いた。

シンジが初めてこの街に訪れた時と同様、

特別非常事態宣言が発令されたのは想像に難くない。

 

『NERV本部、第一種戦闘配置。繰り返します。NERV本部、第一種戦闘配置…』

「おっ、毎度おなじみ伊吹二尉(マヤちゃん)のアナウンス。こりゃー冬月副司令(ふゆつきのじっちゃん)が動いたな。

…黒服のおにーさん!最速でヨロシク!」

 

シンジの隣、手元のタブレット端末を弄りながら、綾波レイは運転席に声を投げた。

ハンドルを握る『黒服のおにーさん』こと保安部のエージェントも慣れたもので、

黙って頷くと『さっきまでビルの屋上だった』地面を突っ切り、車をカッ飛ばす。

 

「イィィヤッフゥゥイ!!」

(綾波さん楽しそうだなぁ…)

 

拳を突き出し、ドライブ感覚でテンション上げ上げなレイ。

そのはしゃぎっぷりは、先程殴られたシンジを気遣ってのものか否か…

シンジは、少し心が解れるのを感じていた。

 

 

 

予定よりも早く発令所に訪れたチルドレン達を見て、作戦部長のミサトはニヤリと笑う。

 

「シンジくん、レイ、ご苦労様…良く来てくれたわ。マヤちゃん、お願い!」

「了解。映像、主モニターに回します」

 

指示を受けた伊吹マヤがキーに指を走らせると、

主モニターには我が物顔で箱根山間部を飛ぶ第四の使徒が映し出された。

 

赤黒いボディの形だけ見ればイカの胴体のようだが、

腹部には赤い球核(コア)を挟むようにエビのような節足が四対。

頭部に二つの目玉模様があり、ユーモラスな深海魚にも見える。

 

無人迎撃システムによる機銃やミサイルはA.T.フィールドに防がれてダメージゼロ。

盛大な税金の無駄遣いに、副司令の冬月コウゾウは苦笑していた。

 

国連上層部や委員会との折衝で多忙の父、碇ゲンドウ司令は姿が見えず、

シンジは残念なような、ホッとしたような、複雑な表情でモニターに視線を戻した。

 

「それにしても…来るペースが早いですね」

「この前の使徒は十五年のブランク。今回はたったの二週間だからね」

 

シンジの言葉に、眼鏡のオペレーター…日向マコトが答える。

ミサトが肩を竦めた。

 

「…敵さんはこっちの都合なんて考えちゃくれないってことよ。女に嫌われるタイプだわ」

「え、そう?キモカワイイ系っていうか嫌いじゃないデザインだよ?

あと何か美味しそう。煮込むと良いダシが出そう」

「見た目は関係ないわよ!ていうか飯テロやめてレイ!ビール飲みたくなるでしょ!」

 

レイの素ボケに、ミサトの本音がダダ漏れした。 

…想像する。熱々で旨味たっぷりの魚介スープをアテに、冷えたエビチュをクイッと…

 

「これより、使徒を殲滅じゅる!」

「ミサト、ヨダレ拭きなさい」

 

親友、赤木リツコ博士に突っ込まれる作戦部長。赤面しながら口元を拭いて、Take2。

 

「…改めて。そろそろ上から『エヴァを出せ』ってせっつかれると思うんだけど…」

「葛城一尉、今まさに来ました。委員会からの出撃要請です」

「ありがと青葉くん。という事で、シンジくんには初号機で出て欲しいの。

ここ二週間の訓練でシンジくんの操縦技術は高まっているし、

シンクロ率は二人乗り(タンデム)よりも安定してるわ。

初の一人乗り、がんばってちょうだい」

「は、はい」

 

前回は、先輩パイロットのレイが同乗していた安心感があったこともあり、

緊張した面持ちでシンジは頷いた。

 

「レイは乗機がまだないから今のところ待機で…」

「あ、零号機が凍結解除されてるはずなんで確認ヨロシク。

起動に時間掛かるかもしれないけど、あたしはそっちで出撃するよ」

 

「「「…え?」」」

 

レイの予想外の言葉に、幾つもの声が重なった。




数日前。

レイ「ゲンちゃんの!ちょっといいとこ見てみたい!」
ゲンドウ「ゼ、零号機の凍結を、現時刻を以って解除!」
レイ「ヨッシャアアアア Σd(゚∀゚ )」


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12、シンジくん、再び戦場にIN

シャムシエル戦前のグダグダ
まだバトルしてません


エヴァンゲリオン初号機・LCLに満たされたエントリープラグ内。

プラグスーツに身を包んだ碇シンジは、

何人もの声を、幾つもの言葉を思い出し、反芻する。

 

 

『必要があるから、お前を呼んだ。それだけの事』

(父さんがいないのに、何で僕はまたエヴァに乗ってるんだろう…)

 

『おう転校生!ワシの妹はな、瓦礫の下敷きになっとったんや!』

(人を傷つけて…殴られてまで…)

 

『人道に悖ると誹られても、他に手段がないの』

(リツコさん…仕方ない事なんですよね…)

 

『兵装ビル、3番と5番!誤射に気をつけて!!』

(でも、ミサトさんも、オペレーターの人達も、こんな僕と一緒に戦ってくれて…)

 

『誰かがやらにゃー、みんな死んじゃうでしょーが』

(ああ…綾波さんは強いな…何度も僕を守ってくれた…)

 

「…僕は…」

(ここにいる。今、自分の意思で)

 

 

ゆっくりと目を開き…シンジは、静かに待機していた。

 

 

 

 

赤木リツコ博士がエヴァンゲリオン零号機のデータを確認した結果、

確かにNERV総司令・碇ゲンドウの署名で凍結解除が為されていた。

 

零号機プラグ内の綾波レイはドヤ顔である。

LCLに満たされていなければ「ふんすー」と鼻息の一つも出ていたかもしれない。

 

「再起動実験も経ずに…よく解除されたものね…」

「零号機の暴走は『前のあたし』がビビッてたからっしょ?

それに初号機は実験する間もなくぶっつけ本番起動だったやん?なんとかなるなる!

凍結解除は司令室に乗り込んで『零号機使えるようにしてー!』

って()NE()GA()()しただけだし」

「お願…今なんだか不穏な響きだったわよ、レイ!?」

 

高町式交渉術…意味はよく解らないが、そんな言葉がリツコの脳裏をよぎった。

 

「という事で。司令は偉い人達に言い訳するため、土下座行脚(あんぎゃ)してる真っ最中でーす。

いやー、ありがたい!持つべきものは理解ある上司だね!うんうん!」

「「「Oh...」」」

 

明かされる司令不在の真実。…職員一同、溜め息をついた。

元々は太々(ふてぶて)しいまでの鉄面皮だった碇ゲンドウ司令だ。

土下座はレイが勝手に言っているだけで、嘘かもしれない。

 

が、ヒゲを失ってクリープを入れないコーヒーみてェになって以来、

我らがマダオさんは『女子中学生(JC)にアゴで使われている可哀想な総司令』として

「もしかしたら本当に土下座行脚してる可能性も?」「うん、ありうるかも?」

みたいな印象もある。

 

ともあれ、初号機だけでなく、零号機も戦力として使える事は解ったのだ。

使徒が再び迫っている今、ヒゲなしゲンドウを哀れんでいる暇は、NERVにはない。

 

「使徒、まもなく市内に侵入!」

 

光学観測と索敵レーダーからの情報を日向マコトが伝える。

作戦部長・葛城ミサト一尉の眼が鋭くなった。

 

「来たわね…エヴァの出撃は出来る?」

「初号機はすぐに。零号機はあと360秒で出撃可能です!」

 

伊吹マヤがモニターを見つめたまま答える。

 

「結構。シンジくん、初号機発進準備!レイは体勢が整い次第、零号機で援護!」

「は、はい!」

「りょーかい!」

 

初号機から届くシンジの声は、僅かに震えている。

 

「…碇くん、がんばって。後で、絶対助けに行くから」

「!!」

 

使徒や戦いへの恐怖がなくなった訳ではない。

鈴原トウジとの一件を吹っ切れた訳ではない。

だが、レイの声は、シンジの心に確かに響いた。

 

「…綾波さん、ありがとう。…エヴァ初号機、発進します!」

 

射出レールが火花を立てる。

あの時と同じように重力()に歯を食いしばりながら、シンジは出撃した。



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13、リナレイさん、シンジくん他二名の救助にIN

地上。エヴァンゲリオン初号機の操縦席(エントリープラグ)から、碇シンジは使徒を肉眼で確認する。

 

綾波レイが『キモカワイイ』『おいしそう』などと呑気な事を言っていたその姿。

第一印象では、複数の海洋生物を掛け合わせたように見えたが、

鎌首を持ち上げる様は、むしろ獲物を狙う毒蛇のようにおどろおどろしい。

 

使徒の頭部両脇、T字型の突起からは、まばゆいピンクがかった光が波打ち、揺らめいている。

第三使徒の武器が(パイル)だったのに対し、こちらは(ウィップ)というところか。

 

「A.T.フィールド展開…目標をセンターに…」

 

訓練通りに…作戦通りに。シンジは思考を巡らせながら、

照準の中心に敵を収め、レバーを握り込む。

そして、人差し指でスイッチを押した。

 

パレットガン…エヴァ用の機関銃(マシンガン)が火を吹き、

劣化ウラン弾の嵐が使徒のコア目掛けて叩きつけられる。

 

だがそこで、シンジは実戦が何たるかを思い知らされた。

インダクションモード…訓練では、着弾による爆煙は再現されなかった、という事を。

 

「…っ!?煙で見えない…!ミサトさん!!」

「敵の側面に回って視界を確保!足を止めたら不意打ちを喰らうわよ!」

 

指示を求められた葛城ミサト一尉は、咄嗟にシンジへと答えた。

一度撃ち方を止めて地面を蹴り、サイドステップする初号機。

煙の中から光の鞭が伸び、先程まで初号機がいた地点を薙ぐ。

危うい攻防に、シンジは背筋がゾッとするのを感じた。

噴き出した冷や汗がLCLに溶けていく。

 

「このっ!」

 

シンジは使徒の横に回り、距離を取りながら再びパレットガンを斉射した。

順調にダメージを蓄積させていた攻撃…

だがある時、連続した硬質音と共に、空中に現れた光のモザイク・タイルが弾丸を弾く。

 

(A.T.フィールド!?そうか、離れすぎて中和できる距離を外れたんだ!)

 

兵士が長生きするためには臆病さこそ重要、とは言われるが…今回は引き過ぎた。

 

回頭し、再び正面を向いた使徒が、鞭を振るう。届かぬはずの一撃。

…だが初号機のA.T.フィールドが『見えない何か』を防ぎ、

空気が破裂する大音響に、シンジの足が竦んだ。

 

「使徒の鞭の先端は、音速を超えていますっ!」

「ソニックブームだわ…!」

 

青葉シゲルの分析報告に、赤木リツコ博士が驚愕の声を漏らす。

『戦闘機などが音の壁を超えた時に起こる衝撃波』…

シンジは、友人の相田ケンスケが目を輝かせながら語った軍事知識を思い出した。

 

(迂闊に近づけない。でも近づかなければ有効打は与えられない)(どうする…どうする!?)

 

シンジの動揺が、戦いの均衡を崩した。

使徒は這うように低空飛行で迫り、フィールドを中和…

二本の鞭を縦横に、無茶苦茶に、出鱈目に振るい、

初号機を四肢と言わずボディと言わず打ち据え、打ち倒す。

 

文字通り、全身を鞭打たれる痛みに苛まれるシンジ…

弾の切れたライフルが、そして防壁ビルが見る間に細切れにされ…

 

「ケーブル断線!エヴァ初号機、内部電源に切り替わりました!

活動限界まで残り5分…あぁっ!?」

 

エヴァに電力を供給するヘソの緒(アンビリカル・ケーブル)をも切り離される。

それを伝えた伊吹マヤが叫んだ時、初号機は光の鞭に足首を絡め取られ、空中に放られた。

 

小高い山の斜面に仰向けに叩きつけられる初号機。

浮遊感と落下の衝撃に呻きながらも、

立ち上がろうとしたシンジは、視界の隅に()()()()()を見つけ、目を見開いた。

 

「相田…!鈴原…!?」

 

自分を殴りつけた生徒、鈴原トウジと、彼を止めようとした初めての男友達ケンスケ。

初号機の巨大な指の隙間で、シンジと因縁浅からぬ二人が怯え、震えていた。

 

NERVの頭脳とも言えるスーパーコンピューターMAGIが

二人の身元を割り出し、発令所のモニターに表示する。

 

「シンジくんとレイのクラスメート!?」

「何故こんな所に!」

「第334地下避難所のロックが外れています!内部から解除された模様!」

 

ミサトとリツコの疑問に、周辺情報を探っていた日向マコトが答えた。

 

(…何故、こんな時に、厄介な事を)

 

ミサトは唇を噛んだ。

言いたい事は山ほどあるが、決めるべき事もまた然り。

シンジへの指示は交戦か撤退か。民間人は救出するや否や…

だがその時、もう一つのカードが()に出た。

 

「零号機、スタンバイOK!」

「葛城一尉ーッ!あたしいつでも行けるよ!命令(オーダー)ちょーだい早く早く(ハリーハリー)!!」

 

マヤの報告に、どこぞの吸血鬼漫画みたいなセリフを吐くレイの声が重なった。

ミサトの表情が、いっそ凶暴な笑みに転じる。

 

「シンジくん!いま()()()()()が届くわ!防御しつつ街まで撤退!

出来れば二人にシェルターへの退避を促して!」

「りょ、了解!」

「いいわよ、レイ!出撃!」

「待ぁってましたぁ!ちょっくら捕らわれの王子様を助けに行ってくるわ!

あとついでに2年A組(うち)のバカ共も!」

 

エヴァンゲリオン零号機…山吹色の単眼巨人(キュクロプス)が高速リフトで地上へと滑り出す。

 

お転婆な美少女操者は

『ちょっとコンビニにプリン買いに行ってくる』

ぐらいのノリで、戦場へと飛び込んでいった。



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14、シャムシエルさん、○○○にIN

「最終安全装置解除!エヴァンゲリオン零号機、リフトオフ!頼んだわよ、レイ!」

「任せといて葛城一尉!あ、日向二尉(メガネくん)!現場に一番近い電源プリィーズ!」

「呼ばれ方はアレだけど了解、レイちゃん!B-8のソケットビルを開けておくよ!」

 

作戦部長・葛城ミサトの号令に、エヴァ零号機から綾波レイの元気な声が返ってくる。

日向マコトの指がキーに走ると同時、伊吹マヤ、青葉シゲル両名が目を凝らした。

 

「零号機、ハーモニクス正常、暴走なし!シンクロ率…ろ、67.0%…!?」

(すげ)ぇ…今のシンジくんを超えてるぞ…!」

「ほーらね?結局は相性の問題だもん。

初号機は碇くん、零号機はあたし。ついでに餅は餅屋ってことよ!」

 

先の暴走事故はどこへやら。零号機は軽やかに街から郊外への道のりを走る。

発令所のモニターには、レイの不敵な笑みが映し出された。

 

 

 

碇シンジの駆るエヴァンゲリオン初号機は、

前方から第四使徒に迫られ、後方には守らなくてはならない級友達が控え…

頭の上からはカウントダウンを刻むデジタル数字に追い詰められている。

 

「…相田、鈴原!早くシェルターに!もう僕に、これ以上傷つけさせないでよ!」

 

言い方にも響きにも余裕はない。

シンジの言葉は、お世辞にも格好の良いものではなかった。

 

だがそれでも、使徒の前に立ちはだかり、

A.T.フィールドで衝撃波(ソニックブーム)を防ぎ…

近づかれてフィールドを中和されれば、エヴァの手で光の鞭を押さえつける。

 

エヴァのプログナイフ同様、高速で振動し、高熱を発する光の鞭に

手掌部の装甲が融解し、シンジは苦痛に顔を歪めた。

 

(逃げちゃ…だめだ!)

 

民間人…級友の相田ケンスケ、鈴原トウジを守ることから逃げはしない。

エヴァの集音マイクは足元にいる彼らの声を拾えなかったが、頷いたのはトウジ。

うろたえるケンスケを何やら一喝し、彼の手を引いてシェルターへと向かった。

 

痛みと焦りで心理パルスは乱れ、初号機の動きにはブレが出ている。

シンジは、ミサトの出した撤退命令を遂行するべく

使徒を引きつけながら初号機を走らせていたが、

級友二人が安全域まで離脱したことが、皮肉にも気の緩みを産んでしまった。

 

「あぁっ!?」

 

光の鞭に足を払われてバランスを崩した初号機は、無様にも野原に倒れ込んだ。

赤黒い使徒の節足がユラユラと不気味に揺らめきシンジを威圧する。

 

(街まで、もう少し、なのに…!バッテリーは、残り…32秒!?こんな所でっ!)

 

…その時、太陽を背に跳躍する巨人の影が閃いた。

 

 

「うぉら喰らえぇA.T.フィールド中和ニードロップぅぅ!」

 

べちこーん!少女の叫びと共に、デカく、それでいてどこか間の抜けた音が響いた。

零号機の重量と落下エネルギーを乗せた膝が使徒の背中を直撃し、その身体を地面に縫い留める。

 

「綾波さん!」

「電源パージッ!碇くん!()()使って!」

 

バシュウッ…!射出音が電気の光を伴い、零号機からソケットが外れる。

オペレーターの日向マコトが用意した、現場に最も近い電源紐(アンビリカル・ケーブル)

レイは『身に着けて』持ってきたのだ。

 

その意図を汲んだシンジはソケットを初号機の手に取り、自らの背中に差す。

残り4秒。危うい所で外部電源に切り替わった。

 

「かーらーのー!?」

 

レイは第四使徒の背中に零号機の膝をブッ刺したまま、

鞭を発生させているT字型の器官に手を掛け、力任せに引き上げる…

みっしみしみしみし!!使徒の体組織が軋む音がした。

 

「「パロスペシャルぅ!?」」

「し、使徒の目玉模様が、涙目になってますぅ…!」

 

使徒のT字器官が『腕』に相当するかは不明だが、

昔の漫画で見覚えのあるプロレス技に青葉(ロンゲ)日向(メガネ)が声を揃え、

伊吹二尉(マヤちゃん)は両拳を胸に引いてカタカタ震えている…

 

ジタバタと、どこかコミカルに見える動きで暴れる使徒は、

ホールドされたT字器官から伸びた鞭を必死に振るって零号機を振り落とそうと試みていた。

 

(いった)(あっつ)!でも案外大したことないな!ぬっふふふ、そうだよねぇ~!

武器が(それ)じゃあ背中にいるあたしをブッ叩こうとしても上手く狙えないよねぇ~!?」

(((やだこの娘こわい!!)))

 

脳内物質(アドレナリン)がドバドバ分泌されてハイな気分のレイに、発令所中の職員一同が(おのの)く。

 

「そんじゃー…いーたーだーきーます!!」

 

次の瞬間、零号機の一つ目の下…つるりとしていたそこに()()()()()()が姿を現し、

獣のように使徒の頭…右脇に()()()()()()

 

「ゼ、零号機…顎部(がくぶ)拘束具…解除…!」

「まさか、暴走!?」

「いいえ、心理グラフはやや興奮状態を表していますが、レイの意識ははっきりしています!」

 

青葉二尉の震え声に、赤木リツコ博士が問うた。しかし彼女の弟子…マヤがそれを否定する。

ぐぐぐぐ、と食らいついたまま、首を持ち上げる零号機…腹部のコアが露わになり、

日向二尉はハッとして上司のミサトを振り返る。

 

「葛城さん!今なら!」

「ええ!シンジくん、聞こえる?レイが隙を作ってくれたわ!

…作戦変更!使徒にとどめを!」

「は、はい!うぉああああああっ!!」

 

シンジが我に返る時間は充分。気合い一閃。

プログレッシブナイフを装備し、身動きの取れない使徒のコアを一突き。

30秒そこそこで、赤いコアは光を失い…使徒は完全に機能を停止した。

零号機の予備電源を3分ほど残しての完勝である。

 

パリッ…ポリッポリッ…パリッ…ポリッ…

 

「ちょっとー!味覚ってフィードバックされないのぉ!?

イカせんべいっぽい良い音してるのに味が全然(ぜんっぜん)ないじゃん!

誰よ旨味出そうとか言ったの!うそつきー!」

 

使徒を咀嚼している零号機の中で、レイは過去の自分に対し呑気な悪態をついていた。

あまりに場違いなレイの言葉に、日向マコトの肩が震えている。

 

「しっししし使徒っ、せんめつ、ですっ!っははははは!」

 

笑い混じりの報告に緊張が一気に解け、伝染するように笑いに包まれる発令所。

その中でリツコと冬月コウゾウ副司令は、『何か』に気づき…冷や汗を流していた。



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15、トウジくんとケンスケくん、SEKKYOU部屋にIN

新劇場版(サクラちゃん)ともゲーム版(ナツミちゃん)とも別の世界線なんで
鈴原妹ちゃんは違う名前にしてます。


数時間前。第334地下避難所。男子トイレ。

 

 

……

 

………

 

 

「なぁトウジ、シェルターのロック外すの手伝ってくれ」

「はァ!?ケンスケお前…わざわざ連れション誘ったと思えば何言うとんねや。

ただでさえ洞木(イインチョ)に嫌味ィ言われてまでなぁ…」

 

「『もぉー!すずはらぁ?トイレぐらい避難前に済ませておきなさいよね!』」

「真似せんでええわ気色悪い。…んで?」

 

「ここで電波を受信しても、報道管制が敷かれてるからな…

公共放送で流れてんのは、綺麗な風景画と、長ったらしい文字説明だけだ。

…死ぬ前に見ときたいんだよ。本物(ナマ)戦争(ドンパチ)を!」

「はァー…お前が筋金入りの軍事マニア(ミリオタ)なのは知っとるがな…

外出たら冗談抜きに死んでまうでぇ?」

 

「シェルターにいれば絶対に安全、なんて保障はないだろ?

それに、『敵』が次にいつ()()()()()か解らない…

『…この時を逃しては、あるいは永久にっ!』」

「なんや声色まで変えて…世界大戦時代の旧日本軍か?

何のためにNERVがおるんやドアホウ」

 

「そのNERVの決戦兵器って何だよ?碇と綾波のロボットだよ!

あいつらが戦わなかったら俺達、生きてなかったぞ?

それをあんな風に殴っちまって…おまけに綾波には()()()()野郎扱いされて…」

煩い(じゃかぁし)!タ、タマぐらいあるわい!

大体な!あのロボットがヘボだったせいで、アキの奴が怪我を…」

 

「トウジは妹の仇を取ったつもりかも知れないけどさ、

あの優しいアッちゃんが『パイロットを殴ってくれ』なんて言うと思うか?」

「そ、そりゃあ…!」

 

「…トウジには、碇と綾波の戦いを見守る、義務があるんじゃないのか?」

「…それ建前やろ…お前、ホンマに自分の欲望に素直な()っちゃな…」

 

………

 

……

 

 

 

同日夜。NERV本部、ある一室。

 

 

「アホか――ッ!!」

 

エヴァンゲリオン零号機パイロット、綾波レイは会話の概略を聞くと、

バァン!と両手で机をぶっ叩き、絶叫。級友二人を赤い瞳で睨みつけた。

 

「相田ケンスケーッ!ちっぽけな満足感のために!なんでこんなバカやったーッ!?」

「か、返す言葉も、ございません…」

「鈴原トウジーッ!なんで便乗したーッ!?なんで相田を止めなかったーッ!?」

「ホンマ、軽率でした…スンマセン…」

「あの、綾波さん…二人とも反省してるし、そのへんで…」

「甘い!甘いよ碇くん!キミ当事者だよ!?てゆーか被害者だよ!?」

 

ケンスケとトウジは固い椅子に座り、縮こまっていた。

たしなめようとした碇シンジをもレイは一喝。

がるるる、と喉を鳴らして唸っている。

彼女が纏うLCLの残り香は血の匂い。まさに獣だ。

 

ちなみにレイとシンジが来る前にも、二人は多方向から

()()()()()絞られており、疲労と憔悴が見てとれる。

 

まずはNERV職員である彼らの父親達が召喚された。

トウジの父はアホをやらかした息子に、特大の拳骨を落とした。

 

『パパはね…ケンスケくんは、もう少し分別のある子だと信じてたんだけどね…』

ケンスケの父親が溜め息を交えながら口にした失望の言葉は、怒声以上に息子を震え上がらせた。

 

次に現れたのは、黒服二人を伴った葛城ミサト一尉だ。

 

戦闘を妨害し、シンジを危険に晒した事に始まり、

開けっ放しのシェルター入口から、同じように子供や同級生が出たらどうするのか…

家族に、級友に、教師に、どれだけ多くの人に迷惑や心配を掛けたのか…などなど。

 

厳重注意は長きに渡り、ケンスケが撮った映像(テープ)は機密として没収された。

最悪、スパイとして射殺される可能性もあった事を考えれば、温情のある措置だ。

 

ミサト自身は言わなかった事だが、場合によっては二人を

エヴァ初号機のエントリープラグに緊急避難させる選択肢も考えていた。

 

その場合、収容する際に無防備なプラグを攻撃されるリスクがあったし、

『別の人間の精神』という()()が混入すればシンクロ率低下も懸念された。

 

零号機という援軍がなければ、そうせざるを得なかった可能性も高く、

レイの強引な手腕により凍結が解除されていたのは、非常に幸運だったと言える。

 

…ただミサトは、彼らの心がポッキリ折れた後、話の最後に、

 

「もう二度と、こんな事はしないこと。それと…

思う事はあるだろうけれど、出来ればシンジくんやレイとは仲直りしてちょうだい」

 

と締めくくり、柔らかく微笑んでみせた。

 

 

数時間の説教の後、彼ら二人とパイロット二人の面会がようやく叶った。

 

「…碇、綾波、すまんかった!」

「俺からも…ごめん…こんな事になるなんて」

 

トウジとケンスケは、これ以上ないほど頭を下げた。

 

レイはまた言葉を叩きつけようとして、

隣のシンジが何かを言おうとしているのに気づき、彼に頷いて言葉を促す。

 

「その…僕も、ごめん!妹さんのこと、謝らなきゃいけなかったのに…」

「アキの…妹のことで八つ当たりしとったのはワシや。

それに、ワシらのせいで危のうなったのに、身体張って守ってくれたやないか。

この期に及んで碇を責めるなんて、ワシには出来(でけ)へん。

…落とし前や。ワシの事も殴っ(どつい)てくれ!」

「俺も、殴られる覚悟は出来てるから、頼むよ。

自分でも恥ずかしい事言ってると思うけど…ケジメは着けておきたいんだ!」

「…えっ!?そんな事、僕には…」

 

 

 

 

「だが断る!!」

「「えぇー!?」」

 

シンジが答えあぐねている間に、レイは腕を組み、言い放った。

渾身の覚悟を切り捨てられ、声を揃えるケンスケとトウジ。

 

「この綾波レイの最も好きな事のひとつはなんちゃらかんちゃら~って訳じゃないけどさ、

あたしは思ったわけだ。キミら殴っても、あたしらにメリットないじゃん?って。

()()は別の形で返してもらった方が面白いんじゃないか?って!」

「綾波ィ!?お前ホンマは性格悪いんとちゃうか!?」

「イヤーンな感じ!!」

 

うろたえる二人。言葉を失ったシンジを、レイは横目に映す。

 

「碇くん、甘いもの好き?」

「え?あ、うん。嫌いじゃないけど…」

「甘いもの食べたいと思わない?」

「い、いや、僕は別に…」

「ちなみにあたしは食べたいんだけど」

「アッハイ」

 

これ「NO」って言えないパターンだ、と悟ったシンジは、早々にレイの軍門に下った。

 

「よーし、んじゃー相田と鈴原にはケーキバイキングでも奢ってもらおうかな!

それでチャラってのはどーよ?あ、洞木委員長(ヒカリちゃん)も呼ぼう!

彼女にも迷惑かけたよねー?ねー!?」

「そ、そっち方面で借りを返せっちゅーんかい…小遣いが吹っ飛んでまう…」

「エヴァのパイロットって給料とか危険手当とか凄いだろうに…うぅー…」

「収入とか関係なく、()()()()()()スイーツは美味いのだよ、ふっふっふ」

 

嘆く二人をよそに、にんまりと笑うレイ。ちなみにその後、

 

「あ、僕は、ケーキバイキングじゃなくて、喫茶店のケーキセットでも、いいかなって…」

 

というシンジのフォローにより、予算は当初の1/3以下に収まり、

辛うじて財布の枯渇を免れたトウジとケンスケは、シンジに泣いて感謝した。

予定通りクラス委員長の洞木ヒカリ嬢も呼ばれ、和解も兼ねて和やかなお茶会が開かれたという。



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16、リナレイさん、シャムシエルさん置き場にIN

メンバー違う以外はほぼ原作通り。自己解釈あり


戦闘のあった山の麓は、金属製の衝立(ついたて)で空間が区切られていた。

横たわっているのは第四使徒の巨体…。比べてしまえば、周りの作業員は小人サイズ。

忙しく動いている重機の群れも、まるでミニカーだ。

 

「これが…僕達の敵…」

「ほぉー。エヴァ視点と違って、ナマで改めて見るとデッカいねぇ~」

 

エヴァンゲリオンのパイロット…碇シンジ、綾波レイの両名は使徒を見上げていた。

学校帰りの二人は学生服に、『NERV備品』と書かれた工事現場用のヘルメットという姿だ。

鉄骨で組まれた足場の上で、状況を見分しているのはE計画責任者、赤木リツコ博士。

なお葛城ミサト一尉は、作戦部長として今回の戦いのレポートを作成中のため不在である。

 

「第三使徒に続き、第四使徒もコア以外はほとんど無傷。

原形をとどめた理想的なサンプルって、研究者としてはありがたいわ。

零号機(だれかさん)が齧ったところ以外はね」

「てへぺろ(・ω<)☆」

 

使徒の頭には、しっかりと()()がついている。

リツコの皮肉めいた苦笑に、レイは軽くおどけてみせた。

一方のシンジは真面目な表情のまま、階段を下りてくるリツコへ視線を移す。

 

「それで…使徒の正体って解ったんですか?」

「コードナンバー601…コンピュータは解析不能を提示したわ。

辛うじて解った事は、使徒は粒子と波、両方の性質を備える、光の様な物で構成されている事。

動力部らしきものはあったけれど、作動原理もさっぱりなのよ」

「めっちゃ形がしっかりしてるのに粒子と波って…どゆコト?どう見てもUMA(トンデモ生物)じゃん」

 

レイは首を傾げた。零号機越しにフルボッコした感覚は、固体そのものだったからだ。

少なくとも、光やら波やら…はっきりしないモノ、という感じではない。

 

「生物と当てはめていいのか解らないほど、使徒は()()()()()が非常識なのよ。

LCLに近い有機成分こそ検出されているけれど、

この暑さの中、第三使徒は二週間以上たった今でも腐敗する兆候すらないわ。

そのくせ両使徒の固有波形パターンは、人間の遺伝子情報と99.89%一致しているの」

「それって…サルとかより、使徒の方が人間に近いんですか!?」

「ワケ解らんモノの塊かぁ。そりゃーコンピュータも全力で匙投げるわ」

 

専門家のリツコですらこの有様。中学生二人にはなお難解であった。

 

「人間の知恵の浅はかさが思い知らされた形ね。ミサトにも同じ事を伝えるつもりだけれど、

残念ながら作戦部長殿に有用な情報を提供することは出来なさそうだわ。

ひとまず、コーヒーでも飲んで一服しましょう」

 

休憩所に二人を案内する前に、リツコはもう一度第四使徒…『零号機の噛み跡』を振り返る。

 

(司令と副司令は、今頃()()()について委員会で詰問されてるかしらね)

 

パイロット達に複雑な表情は見せる事無く、リツコは歩き出した。



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17、リナレイさん、学校のプールにIN

セカンドインパクト以降、常夏の国になった日本…

第壱中学…校舎に併設されたプールは、さながら天国。

 

各コースに仕切られたプールでは、クロールの競争が行われていて、

プールサイドには女子達の明るい声が満ちていた。

 

「行っけーヒデコ!」

「アヤナンがんばれー!…あ、着いた!ゴールゴォール!」

 

声援を受けていた『アヤナン』こと綾波レイは、ぶっちぎりの一位だった。

水から上がってキャップを取り…陽光を受けて光る水滴を纏う姿…

幻想的な青髪も相まって、現実離れした妖精のよう…

 

「へっへー!あたしやったよー!いぇーい!」

「いぇーい!」「アヤナーン!超速かったよー!」「レイちょんナイスー!」

 

…でもなかった。

 

めっちゃノリノリで、パァン!と良い音を立てつつ、ハイタッチを友人達と交わしていた。

身体を冷やさないよう、フェンスにかけたバスタオルを手に取って肩を拭きながら、

レイは眼下のグラウンドを見下ろした。そして気づく。

女子達のスクール水着姿が、小休止中の男子の眼の保養になっていたことに。

 

「こーら、性欲持て余した健康優良児どもー!

炎天下の中ずーっと上向いてると、鼻血吹いてブッ倒れっぞーおまえらー!?」

 

レイは前傾姿勢で腰に手を当て、「にぃっ」と悪戯っぽく笑った。

彼女が声を落とした先には、見慣れた級友達がいた。

先程までレイとハイタッチしていた女子生徒達も、一緒にキャーキャーと騒ぎ出す。

 

「やだぁ、なんか鈴原って目つきヤらしぃーっ!」

「相田の奴、カメラ回してないでしょうねー!?」

「あれ?碇くんもバカコンビとつるんでんのー?お目当てはアヤナンかなー?」

 

「バカとはなんや!それに何でセンセェだけ扱い違うねん…」

「シンジィ、お前ガン見しすぎてたんじゃないの?」

「見てたのはトウジとケンスケだろ?なんで僕まで…」

 

慌てて逃げるように、ランニングを始める男三人組。

使徒戦後の説教部屋と、その後の茶会を経て、彼らは互いを名前で…

あるいは碇シンジの事を「センセェ」なる仇名で呼び合う間柄になっていた。

 

「綾波…ええ乳しとったな…なぁシンジ?」

「あのふともも…ふくらはぎ…『グッ!』と来るものがあったな。なぁシンジ!?」

「だからどうして僕に振るのさ!別に、そんなつもりで見てた訳じゃ…」

 

と、いいつつシンジの顔は赤い。

なにより、健康的な性衝動(リビドー)がほとばしっている年頃の少年である。

 

レイの胸は、大きすぎるでも小さすぎるでもなく、素晴らしい形をしていた。

すらりと伸びた白い足は、少年達の目を釘付けにするだけの魅力があった。

この手の話に免疫のないシンジを、悪友二人はニヤニヤと弄る。

 

「嘘が下手だなぁシンジは。そんなつもりじゃないなら、なんなんだよ?」

「ムッツリスケベは()ぉないでぇ?ワシの目ェは誤魔化されへん!」

「まだ、信じられなくてさ。昔の綾波さんが、ほとんど喋らない人だったなんて」

 

彼女の肢体に色々な所が『熱く』なったのは確かだが、

シンジが未だに疑問に思っている事も間違いではなかった。

 

「まぁ、そらなぁ。何があったかワシらが知りたいくらいや」

「綾波もパイロットな訳だしさ、NERVの人が知ってるんじゃないの?」

「そうだね。じゃあ帰ったらミサトさんに聞いてみるよ」

「「…()()()()?」」

 

トウジとケンスケの足が止まり、

半オクターブほど低くなった声がハモる。

振り返って4つのジト目に睨まれたその時、

シンジは自分の失言に気づいて顔を引きつらせた。

 

「シンジ、ミサトさんってあの作戦部長さんだよな?

葛城一尉だっけ?あの時、俺達を注意した…」

「えらい美人(べっぴん)さんやったな。のォ…センセェ。

なんで帰ったらミサトさんがおるんや?キリキリ吐いてもらおか」

「あ…いや、あの。保護者、なんだよ。だから一緒に住んでて…」

 

トウジとケンスケの頭には、同じような言葉が羅列されていた。

一緒に住んでる…男と女が…一つ屋根の下で…つまりは…同棲!?

 

「「う、裏切りも~~ん!!」」

「えぇー!?何がー!?」

 

ケンスケは号泣しながらシンジの肩をガックンガックン揺すり、

鬼瓦の形相をしたトウジはヘッドロック&拳で頭グリグリ攻撃を仕掛け…

ランニングをそっちのけにしていたバカコンビ+シンジ…

後の『2年A組の3バカトリオ』は、

体育教師より校庭5周追加の罰を言い渡される事となった。

 

そして、放課後。

 

「もしもし…ミサトさん?お疲れ様です。

あの、今日トウジとケンスケが家に来たいって言ってて…

あ、はい。あの時の二人です…

え、えぇ!?ミサトさんが夕飯作るんですか!?

いや、確かに当番はそうですけど…

リツコさんも来るんですか?えぇ…解りました…じゃあ…」

「ミ、ミサトさんの手料理やて!?」

「男の夢じゃないかぁ!」

 

盛り上がる悪友達をよそに、電話をしているシンジは、気が気ではなかった。

彼らは知らないのだ。ミサトの料理が()()()()()を。

この時点で、本来の目的であった綾波レイの話題は忘却されていた。

 

心なしか、教室の反対側にいる洞木ヒカリ(イインチョ)の目が冷たい。

この前のお茶会ではトウジの隣に座って、ほんのり頬を染めていたから、

多分そういうことなのだろう。

 

逃げたい。逃げちゃダメかな?ダメか。

 

「二人とも…ウチに来るのはいいけど…後悔しないでよ」

「「ありがとぉっ!碇くんっ!」」

 

碇シンジの目は、ただただ、虚空を見つめていた…




みんな喜べ。美人のお姉さん()の料理だぞ。
この次もサービスサービスゥ(白目)


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18、リツコさん&3バカトリオさん、ミサトさん宅にIN

今回レイさんは写真でしかINしてません。


中層マンション・コンフォート17。葛城ミサトの部屋。

夕食の鍋には、焦茶色の水っぽい何かが満たされている。

 

「なによこれー!?」

ミサトの親友、赤木リツコの叫びが全てを現していた。

 

「ミサトさんお手製のカレーです…

トウジ、ケンスケ…ご飯は大盛りでいい?」

死んだ魚のような目で配膳するミサトの同居人、碇シンジ。

女性の手料理が食べられる、という事で

ウキウキしながら正座待機していた友人達はというと…

 

「い、いや!俺は少な目でお願いするよ!

俺、わりと食が細いし、残しても悪いしさ!ハハハ…」

声と顔を引きつらせた、相田ケンスケ。

 

「ワシも…なんちゅうか…スマンかったな…シンジ…」

テンションお通夜状態の鈴原トウジ。

 

「ク…クァァ…」

ペット用の皿に盛られたカレーライス()()()を前に、

弱弱しく鳴き声を上げるのは、

葛城家のもう一羽(ひとり)同居鳥(どうきょにん)たるペンギン…

 

「あ、シンちゃーん!私はここにカレー入れちゃって!どっぷゎぁ~っと!」

「正気ですか!?」

一人ご満悦なのは、このカレー()()()()()の作成者…

サイズ1.5倍(当社比)のカップラーメンを差し出したミサト。

 

混沌が、そこにあった。

…少なくとも、夕食の前までは平和だったのだ。

そう、この時までは…

 

 

**2時間半前・下校途中**

「シンジー!いい加減白状しろよ。

あんな美人と一緒で、何もない訳ないだろ?」

「お、大人の階段を昇ってしもうたんか…センセェ!」

「だから何にもないってば!もう、二人ともしつこいなぁ~」

 

**2時間前**

「お帰りなさいシンジくん。相田くんと鈴原くんも、ゆっくりしていってね?

仲直りしてくれて私も嬉しいわ。これからも、シンジくんをよろしくね!」

「「はい!ミサトさんっ!」」

「はぁ…」

 

**1時間半前**

「クェー?」

「なんか…二足歩行の鳥がおりまっせ?」

「あぁ、彼?新種の温泉ペンギンよ。名前はペンペン!可愛いでしょー?

シンジくんってば、始めて家に来た夜…お風呂で鉢合わせちゃって…

ぷぷっ、真裸(マッパ)で慌てて飛び出してきたっけー?」

「ミサトさんっ!?」

「センセェ…(しょ)(ぱな)から露出プレイとか…飛ばしすぎやろ…」

「ちなみに普通サイズだったわよ?」

「ミサトさんっ!!」

「シンジはふつーサイズ。ちぃ、おぼえた」

「ちぃって誰やねん…」

 

**1時間前**

「あの、やっぱり僕が作りますよ…」

「いいのよー、シンちゃんは座ってて?ふふーん♪

せっかくのお客様だし、ちょーっち腕をふるっちゃうわよん♪」

「嫌な予感しかしない…」

 

**30分前**

「お邪魔するわね。あら、シンジくんのお友達?こんばんは」

「どうも、リツコさん、こんばんは」

「金髪のクールビューティー…これは絵になるぞぉー!

すいません!写真撮らせて頂いてもいいですか!

全身とバストアップを!それと後でミサトさんとの2ショットも!」

「はァ~…ホンマNERVは美人(べっぴん)さん揃いやな…

こりゃあ華やかな夕食になりそうやなぁ!」

「悪い気はしないけれど、褒めても何も出ないわよ?フフフッ」

 

 

**そして、現在**

 

「「「「う゛っ」」」」

 

スプーンを口に運んだリツコ、シンジ、トウジ、ケンスケの呻きが重なった。

カレーの風味は、ほんのりと残っている程度。不自然に甘くて、苦くて、しょっぱい。

 

「ミサト…レトルトを原料に何故こんな味になるの!?」

 

「んー?量を確保する為にお水でしょー?味が薄くなるからお醤油でしょー?

元が甘口カレーだからお砂糖入れてー…隠し味に飲みさしのビール!

ラーメンに入れる時は、スープとお湯を少な目にしとくのがコツよん♪

行けるのよーこれが!最初からカレー味のラーメンじゃ、この深みは出ないのよ!」

 

「ミサトさん…隠し味が隠れてないです…

カレーの甘口と、砂糖の甘さは別物です…

あと、そのラーメンが『行ける』のは人工の旨味です…

カップラーメンの科学調味料でマシになってるだけです…」

 

「ど、独創的なカレーですね!

初めての味でっ、お、俺、なんか、涙がっ…!」

 

「ケンスケ、顔真っ青でフォローせんでええって…

ワシ、次来る時はシンジが当番の時に頼むわ…」

 

ズルズルと美味そうにカレーラーメンを啜る家主。消沈する他の面々。

ドサ、と何かが倒れる音に、シンジが様子を見にいくと…

 

「あぁっ、ペンペン!ペンペェーン!!」

「グ…グァ…」

 

一口食ってそのまま横倒しになり、ヒクヒクと痙攣する哀れなペンギンがそこにいた。

リツコは深い溜め息をつき、困ったような笑みを浮かべる。

 

「シンジくん、やっぱり引っ越しなさい?

ガサツな同居人のせいで、人生を棒に振ることはないわよ?」

「もう慣れました…それに、普段の食事は僕が作りますから」

「この分だと、普段の掃除もシンジくんの担当ね?」

「はい…初めて来たときは『ちょっち』散らかってました…

ビールの空き缶と、カップラーメンの容器と、ゴミ袋で」

 

なんとか息を吹き返したペンペンを撫でながら、シンジは淡々と答える。

リツコは悟った。ミサト基準の『ちょっち』はゴミ屋敷だ。間違いなく。

 

「赤木博士、人間の環境適応能力を侮ってはいけないわ!」

魔窟を創り出す本人(ダンジョンマスター)が言う事じゃないわよ、もう…」

失礼(しっつれい)ねー。それに引っ越すったって、手続き面倒よ?

シンジくん、正式(ホンチャン)のセキュリティーカードもらったばっかりだもの」

「カード…そうだわ、忘れてた!」

 

むくれるミサトを他所に、リツコはバッグを探って一枚のカードを取り出した。

 

「レイの更新カード、渡しそびれたままになってたの。

シンジくん、明日NERV本部に行く前に、彼女の所に届けてもらえるかしら?」

「あ、はい…ん?」

 

IDカードを見たまま、シンジの動きが止まる。

綾波レイの顔写真…その表情は、まるで人形のように冷たく、

ある意味、ゾッとするような美しさがあった。

 

「なんやセンセェ、綾波の写真、ジーっと見おってからに」

「いや…綾波さんらしくない表情だな、って」

「俺とトウジが見慣れてるのは、こっちの綾波だよ。

そうだ、ミサトさんとリツコさんがいるんだし、聞いてみようぜ?」

 

級友達の言葉は、肩越しにシンジの手元を覗きながらのもの。

状態異常:毒から回復し、ようやく、本来の目的を思い出した所だ。

 

「あぁ、それはね…」

 

リツコは機密に触れぬ範囲で、レイが変わった時の事を話し出した。



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19、シンジくん、リナレイさん宅にIN

前回までのあらすじ

シンジ「ペ…ペンペーン!!」
ペンペン「(ヒクッ…ヒクッ…)」
リツコ「毒よッ!毒にやられているわ!」
トウジ「なんちゅうことを…(憤怒)」
ケンスケ「衛生兵!衛生兵ーッ!!」
ミサト「(*´3`)~♪」


『事故…ですか?』

『そう、あの時…彼女は頭を打って…それからよ。にわかには信じ難いけれど』

『野菜惑星出身の戦闘民族が、頭を打って穏やかになった例もありますからねぇ』

『それマンガの話やろ?で、実際、大丈夫なんでっか?』

『前は、ちょーっち意思疎通に問題あったし、むしろプラスだと思うわよ?

今の方が話しやすいしねん♪』

 

 

……

 

………

 

ダンッ……ダンッ……

建築作業らしき、工事の打音が響く。

 

碇シンジが向かっているのは、街外れの団地区画。

今日も今日とて朝から暑く、

ドミノのように並んだ灰色の建物群が、陽炎に揺られていた。

 

メモ用紙に書かれた住所は、綾波レイのマンション…

建物の外壁は、ところどころ崩れていて、

窓ガラスに穴が開いた部屋まである。

 

ここに来るまでの道路も、アスファルトがひび割れており、

シンジは、どうしようもなく不安になった。

 

「一応、エレベーターは動いてる…

電気は来てるから、廃墟じゃないんだろうけど…うわっ」

 

エレベーターの扉が開く。

通路には、紙屑やペットボトルが散乱していた。

少なくとも数ヶ月単位で清掃業者が来ていないらしい。

 

気を取り直して通路を進み、たどり着いた部屋には、

確かに【402 綾波】という表札があった。

 

インターホンを押す。

 

………

 

……

 

 

反応がない。

 

「ごめんくださ…」

 

 

バスッ、ボスッ、ドスドスドスッ…!

 

 

部屋の中から聞こえる鈍い連続音に、シンジの挨拶が途切れた。

外で聞こえる工事音とは別の、柔らかいモノを叩く音。

 

何かを、殴る音?

 

何者かが部屋に押し入って、

レイが暴力事件に巻き込まれたのでは…!?

不吉な想像が、シンジの脳裏をよぎった。

 

「綾波さん!?」

 

ドアには鍵が掛かっていなかった。

あっさり回ったドアノブが、シンジを余計に焦らせる。

飛び込んだシンジの視界に、殺風景な部屋の光景が広がった。

 

打ちっぱなしのコンクリートが露出した壁。

奥には血らしき染みのついた枕を乗せたベッド。

小さなタンスと冷蔵庫…そして…

 

 

「っしゃーおらー!」

 

気合…というには少々不思議な声を上げながら、

スタンドに吊るされたサンドバッグ相手に、連撃を加えている綾波レイがそこにいた。

 

黄色と白…横縞柄(ストライプ)のスポーツブラを纏った上半身からは、

ワンツーパンチに合わせて汗の玉が散る。

 

黒のスパッツからスラリと伸びた足が、鞭の様なミドルキックを決めた。

キィ、キィ…と鎖が鳴き、サンドバッグは左右に揺れる。

 

シンジは、しばし茫然とレイのモーションに見入っていた。

自分の想像が杞憂だったから安心した、というのもある。

しかしそれ以上に、レイのその動きが、その姿が、美しかった。

 

「…っふー…あれ、碇くん?なんでここに?

あ、ヤバッ、あたしカギ閉めてなかった?」

 

振り返りざまの、呑気なレイの声…。

 

 

(なんでここに?

そうだ、僕は綾波さんに用があって来たんだ。

なんだっけ。渡すものが。ええっと。

あぁ、綺麗だな、綾波さん。

…違う、そうじゃない。

僕は、なにを、混乱して、考えが、まとまらな…)

 

 

「ご、ごごごごめん!なんか、音がしたから!

別に僕は、勝手に上がるつもりじゃなくてっ、その!

カ、カード!カードが、新しくなったから、届けてくれって!

あぁあ!ごめん、靴脱いでなかった!」

 

トマト色の顔から湯気を噴きながらテンパるシンジ。

べちっ、という痛そうな音を立て、レイは彼の両肩を勢いよく叩いた。

レイの赤い瞳が、シンジの見開かれた黒目を見据える。

 

「落ーちーつーけー!まず息を整えて!

はい深呼吸ーっ!ひっひっふー!ひっひっふー!」

「そ、それラマーズ法!深呼吸じゃないよ!?」

 

「はーいどうですかー碇さーん、生まれそうですかー?」

「生まれないよ!?お腹撫でないで!」

 

「うん、今日もツッコミがキレてるね!

これだけツッコめるなら大丈夫そうだね!

…ツッコめるですって!?碇くんのえっち!」

「僕何も言ってないよ!?」

 

レイがボケて、シンジがツッコむ。

そんなやりとりが5分ほど続いた後…

 

「な…なんで僕、こんなに疲れてるんだろ…」

「いやー。碇くんってば良い反応してくれるから、

つい楽しくなっちゃって…メンゴ」

 

orz(よつんばい)でゼーゼー言っているシンジ(靴は脱いだ)を見て

レイは冷蔵庫から2リッターのペットボトルを取り出し、

清涼飲料(スポドリ)を二人分のコップに注ぐ。

 

 

「で、なんぞ?カードって?」

「うん、綾波さんの新しいID。リツコさんに頼まれて」

「赤木博士から?おー、ありがと!

危うくNERV本部の前で立ち往生するところだったわ!

ま、飲みねぇ飲みねぇ。熱中症対策は大事だから。

水分と必須アミノ酸を身体中に巡らせておきんさい」

 

カードを受け取ったレイは、コップの中身を一気に飲み干し、

肩に掛けたタオルで顔の汗を拭うと、早々にお代わりを注いだ。

 

彼女とは対照的に、シンジは喉を湿らせるようにチビチビとドリンクを啜る。

一息つくと、シンジは改めて灰色の部屋を見回した。

 

「その…綾波さん、凄い所に住んでるね。不便じゃない?」

「電気・ガス・水道…一通りのライフラインは揃ってるし、住めば都だよ。

こんな見た目でもエアコンは効いてるし、Wi-Fi環境もあるしね。

電話一本で通信販売(ツーハン)は来るし、別に不便って(こた)ぁない。

…あと、武骨なコンクリの壁って()()()っぽくて超カッコよくね?」

 

ベッドに腰かけ、レイはニヤリと笑う。

5本の指で上から掴んだコップをゆるやかに弄ぶと、

半分ほど残ったスポドリが静かに波打った。

 

「カッコいいっていうか、ちょっと怖い、かな。

周りの建物は妙に荒れてるし、治安が心配だよ。

それに、さっき鍵、閉め忘れてたじゃないか」

「あー、そこはあたしの不注意だった。

今は呼び鈴(ピンポン)もブッ壊れてるしね。

でもまぁ、来たのが碇くんで良かったよ」

「どういうこと?」

「碇くんには、あたしを押し倒すような度胸はないっしょ?」

「お、押したっ…!?」

 

シンジには短絡的な行動に及ばないだけの理性はある。

だが年頃の男としての欲求もあり、理性のタガが外れる可能性も然りだ。

 

そういえばレイは、四肢もヘソも露わなスポーツウェア姿のままだった。

仲間として信頼されているのか?

それとも単に無害な存在として見られているのか?

 

…いや、第三使徒戦の前、エヴァ初号機のエントリープラグの中で

レイはシンジの()が反応していたのに気づいていた。

体育の授業中も、わざわざプールから挑発するようなことを言ってきた。

レイとてシンジに人並みの性欲がある事は理解しているはずだ。

 

胸の中のモヤモヤした何かに駆られてシンジは立ち上がり、

ベッドに腰かけたレイを、見下ろす。

 

「ぼ、僕だって男なんだからさ!

綾波さんの、そんな無防備な姿を見せられたら…」

()()()()()()()?」

 

 

次の瞬間。

 

 

シンジは左手首と右肩を掴まれるのを感じ。

 

 

ベッドの上に仰向けになって。

 

 

レイに、マウントされていた。

 

 

「忘れちゃった?

あたしはNERVで年単位の訓練受けてるんだよ?

…無防備なのは碇くんじゃないかなぁ?

丸腰であたしの領域(テリトリー)に入ってきたんだからさ」

 

 

彼女の不敵な笑みと、灰色の天井が視界に広がる。

 

あっ

ここも

知らない天井だ

 

シンジの思考は、場違いなままに固まっていた。




この後めちゃくちゃ以下略
R-18枠へは作者名から飛んでください


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20、シンジくん、再び思春期的なアレにIN

R-18枠に19.5話があります。
ABCのうちB止まりなのであしからず。


碇シンジはゆっくりと目を開けた。

視界に入ったのは灰色の天井。そして、赤い瞳と青い髪。

丸椅子に座り、制服に身を包んだ家主の少女…。

タブレット端末をいじる綾波レイだ。

 

「綾波さん…?」

「おっはー碇くーん。お昼寝タイムは堪能したかね?

いま12時半(ヒトフタサンマル)なんで出発準備よろしく~。

あ、服はソコね」

 

ここに来たのは午前中だったから…だいぶ時間が過ぎてしまっている。

半身を起こしたシンジは、ぼやけた視界のまま目を動かした。

レイが指差した枕元には学生ズボンと、白いブラウス。

ソックスに、アンダーシャツに…ブリーフ。

そう…一番上にあったのは、ブリーフである。

 

「服…?僕の…?」

「寝ぼけてそのカッコのまんま外に出ないようにね?おまわりさんに捕まっちゃうゾ♪」

 

レイは己の唇に指をあて、小首を傾げてニンマリと笑む。

シンジはようやく気づいた。自分が全裸であったことに。

 

「へ…?うわあぁぁっ!?」

 

シンジは裏返った声を上げ、慌てて布団を引き上げた。

…仰向けで転がされたあと、レイとベッドの上で何をしたかを思い出す。

()()までは行っていないが、()()()()は出していた。

 

疲労で意識を飛ばしてしまったシンジだが、汗をかいたはずの肌はさっぱりしている。

寝ている間にレイが彼の身体を()()()()拭き清めてくれたのだろう。

シンジは、発火しかねないレベルで熱い顔面を、両手で覆った。

 

「いやー、良くお休みだったようで。本部に行く前に頑張っちゃったねー?」

「……」

「ところで碇くん!日本語では頑張ることを『精を出す』といいますな!」

「言い直さなくていいよッ!?服着るから向こうむいてて!」

「んもぅ、男の子なのに言う事が乙女だなぁ」

「綾波さんが直球すぎるんだよ…」

 

どことなく泣きそうな声色のシンジに対し、

くすくすと喉を鳴らしながら、レイは体育座りで背を向ける。

着替え終わったあと、シンジは彼女と背中合わせで座った。

 

「ねぇ…なんで僕なんかと…あんな事」

「なんだよなんだよーぅ。あたしじゃ不満かー?んー?」

「そ、そうじゃないけど!その、びっくりしたから」

 

やや芝居掛かったレイの声とともに、ぴたり、と背中同士がくっつく。

シンジは身を跳ねさせたが、拒絶はしない。

 

レイは強引ではあったが、決して不快ではなかった。

なにより、先の『じゃれ合い』は『とてもとてもきもちのいいこと』だった。

 

「あえていうなら…絆…かな」

「絆?」

 

少々の間のあと、言葉を紡いだレイに、シンジは聞き返す。

 

「ほら、一緒に死線をくぐり抜けた、いわば()()ってやつじゃん?

NERVのみんなも、そうっちゃそうなんだけど…

現場にいるのは、エヴァに乗ってるあたし達だし。

…温もりを感じておきたかったんだよ、碇くんの」

「…いつ死んでもいいように?」

「違うよ。二人とも、生き延びられるように。

よし、いい時間だし、そろそろ行こっか!」

 

レイが立ち上がり、シンジも続く。

愛だの恋だのとも少々違う、男女の戦友としての絆。

シンジは全てを理解は出来ぬまま…

だが、レイの無根拠にも見える自信に、安心感を得ていた。




原作でのキーアイテムであるゲンドウさんの眼鏡は、この世界では回収されてません。
ゲンちゃんとの絆?どっかにあるんじゃない?(適当)


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21、リナレイさん、またまたネルフ本部にIN

NERV保安部のメンバー達は、綾波レイ・碇シンジ両チルドレンの出発を確認。

途中コンビニに寄り、軽食と飲み物を買って本部へ向かう彼らを、

無線で連絡を取り合いながら見守る。

 

例の事故以降、能面のような表情がずいぶんと柔らかくなったレイだったが、

シンジと共に歩んでいる今日は、特に顕著だった。

 

レイが積極的に話しかけ、シンジが相槌を打つ、という構図。

笑うレイ、きょとんとするレイ、頬を膨らませてむくれるレイ、再び笑うレイ。

対するシンジは、時折戸惑いながらも彼女に笑顔を返し、または顔を赤くする。

 

更新されたセキュリティーカードを入口のスリットに通し、

ゲートの向こうへ行く二人を見送るまでが保安部の仕事である。

彼らとてプロ。保護対象に多少の変化があっても動じる事はない。

ただ粛々と、任務を遂行するのみ…だが。

 

「…甘酸っぺぇな」

「そうッスね」

 

子供達が本部へ消えた後、そんな言葉が交わされた。

 

 

 

午後二時(ヒトヨンマルマル)。NERV本部第一実験場。

 

元々のタイムスケジュールではレイとエヴァ零号機の再起動実験だったが、

すでに凍結解除が為されていた事もあり、

先の第四使徒戦での起動データ、および戦果をもってこれを省略。

疑似操縦席(デストプラグ)(もち)いた通常のシンクロテストが行われていた。

 

「凄いですよ先輩。二人ともシンクロ率は右肩上がりです。

シンジくんは心理グラフに振れ幅がありますけれど、レイの方は…」

「えぇ。シンクロ率70%台に到達。

天才と言われたドイツの第二の適格者(セカンドチルドレン)にも届こうかという勢いね」

 

伊吹マヤ二尉は幼さの残る両目を大きく見開き、赤木リツコ博士が彼女に答えた。

だが、テストが次のフェイズに移行しようという時…

「警戒」という赤文字がモニターに割り込む。

 

第3新東京市南東の海上より、未確認飛行物体が接近…

オペレーターからの分析パターンは…青。

司令席の傍らに立つ初老の男、冬月コウゾウ副司令が渋い顔をする。

 

「早くも第五の使徒襲来か。碇、周期(スパン)が短すぎはしないか」

「災いは何の前触れもなく訪れるものだ。十五年前と同じようにな。

…シンクロテスト中断。総員、第一種警戒態勢!」

「了解。総員、第一種警戒態勢。繰り返します。総員、第一種警戒態勢」

 

碇ゲンドウ総司令は机の上に組んでいた指から顎を上げ、マヤが指示を復唱する。

長髪の情報オペレーター、青葉シゲル二尉がコンソールを弾いた。

 

「映像、最大望遠で主モニターに回します」

「これはまた…前二つとは随分と毛色の違う奴ね。

第三、第四使徒にあった『生命体(いきもの)らしさ』が全然ないじゃない」

 

それが作戦部長・葛城ミサト一尉の感想だった。

無機質な、美しいコバルトブルーの正八面体が、一定速度で空を飛んでいる。

眼鏡の作戦オペレーター、日向マコト二尉がミサトを振り返った。

 

国連軍(UN)、および戦略自衛隊(センジ)は動かず。

今回は()()()()NERVに作戦権を移すようです」

「ま、第三使徒戦であれだけ被害が出ればね。

意地やメンツでどうこう出来る相手じゃない事は理解したんでしょ」

「そーこーでーエヴァの出番ってわけですよ!葛城一尉~、行っていいー?」

 

レイが通信回線を開いた。

操縦桿(インダクションレバー)を指でリズミカルに叩きながら、

上前方を見上げるような彼女の顔がモニターに映し出される。

パイロット両名は、テストプラグから早々にエントリープラグへと移っていた。

 

「まだよレイ。まずは兵装ビルで牽制を仕掛けるわ」

「え?でもA.T.フィールドで防がれるんじゃ…」

 

初号機のプラグ内で、シンジが疑問を口にする。

使徒に通常兵器は通じないのは、ミサトも知っているはず…

尤もだ、と頷きながらも、ミサトは続ける。

 

「いい、シンジくん?今回は私達(ネルフ)が初会敵よ。

敵のフィールド出力程度のデータを取る事は出来るでしょう?

上手くすれば手の内も見えるかもしれない。

…日向くん!7番ビル!やって!」

「はい!」

 

ミサトの指示を受け、ミサイルの連弾が放たれた。

煙の筋が、扇状の軌道を描く。

レイはそれを見つつ、むぅー、と唸っていた。

 

「なんでー?めんどい事しなくても(チョク)で調べりゃ良くね?

あたしめっちゃ調子いいよ?もう空飛べそう!具体的には月ぐらいまで…」

「目標内部に高エネルギー反応!円周部を加速、収束して行きますっ!」

 

レイのやる気アピールは、青葉の報告に遮られる。

上下に重なった青いピラミッドの接合面が輝き…

そして、発令所の主モニターに光が満ちる。

次の瞬間…ミサイルは花火と化し、7番兵装ビルには()()()()()()()()

 

「か…加粒子ビーム砲…!」

 

リツコが声を震わせ…ところどころから息を飲む音が聞こえる。

融点を迎えたコンクリートが、マグマ状に液化して道路を焼いている。

もしエヴァを直接出していたら…

最終安全装置が外されるまでのタイムラグで直撃を受けていただろう。

ミサトは冷や汗を流しながらも、口の端を上げていた。

 

「なんか()ーな予感してたのよ。私の()()()も、案外捨てたモンじゃないわね。

…どう、レイ?行ってみる?

FLY ME TO THE MOON(私を月まで連れてって)どころじゃなく、

太陽まで行けるかもしれないわよ?」

「…あ、危うくお空の果てにバイバイキーンされるところだったでござる…」

 

レイはそう呟くことしか出来ず、シンジは目を点にしていた…



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22、ネルフのみなさん、作戦会議にIN

NERV本部作戦課、第二分析室。薄暗い部屋には五人の人影が集っていた。

採取されたデータを鑑みて、あーでもない、こーでもないと相談の真っ最中である。

 

「エヴァンゲリオン等身大の囮風船(デコイ)…展開当初は無反応。

ですが、模擬銃を構えた途端に加粒子砲で狙撃され、一瞬で蒸発しました」

「先の兵装ビルでの牽制を踏まえると、

目標の行動パターンは一定距離内の外敵を自動排除するものと推測されます。

()()に対して、反撃(カウンター)を加える…といった感じですね」

 

モニターを指さすのは男性オペレーター陣。

情報部より青葉シゲル、作戦部より日向マコト。

 

「ビームで落とされなかったミサイルも、A.T.フィールドで完全に防がれてますね…」

「映像越しに肉眼で見えるレベルって凄いよコレ。ほーら綺麗な六角形!」

 

パイロットの碇シンジ・綾波レイ両名は一度エヴァから降り、

シャワーを浴びたあと制服に着替えてこの場にいた。

腕を組み、映像に映し出された正八面体の使徒を睨むのは葛城ミサト作戦部長。

 

「敵意に対して反撃…ならば私達が攻撃しなければ大人しくしてくれる…

っていうなら良いんだけど…そうじゃないのよね?」

「はい。現在、使徒は我々の直上、第3新東京市のゼロ・エリアにて空中静止。

下部から出た直径17.5メートルの巨大掘削機関(シールド・ドリル)がネルフ本部に向かって穿孔中です。

22層の装甲版を破って地下空間(ジオフロント)に到達するのは、日付変更直後と推定」

 

青葉がキーを叩き、地上カメラの映像を出した。

今まさに地面がリアルタイムで抉られているところだ。

タイムリミットは十時間弱…。重い沈黙が落ちる…

 

「やだ…第3新東京市に(ぶっと)いのが刺さっちゃってる…」

「レイ…あんた本当に変わったわね」

 

両手で朱の差した自分の頬を抑え、クネクネと身体を揺するレイ。

空気を読まない彼女の発言も、この時ばかりは場を緩めるのに役立つ。

ここに伊吹二尉(マヤちゃん)がいなくて良かった、とミサトは苦笑した。

 

「日向さん、遠距離からの射撃は…やっぱり厳しいですか?」

赤木博士(リツコさん)からは試作20式陽電子銃(ポジトロンライフル)のデータを預かってる。

現時点で最高火力のエヴァ専用銃器だけど、

A.T.フィールドを貫通するには出力がまるで足りていないんだ。

よしんば足りたとしても、最低1億8000万キロワットのエネルギーをどう調達するか…」

 

シンジの問いに、日向は首を横に振った。

ミサトは顎にL字にした指をあてて思案する。

 

「A.T.フィールドを中和せず、レンジ外からの超長距離射撃か…。

その線で行くなら、発射装置(ランチャー)のアテは一応あるわ。

戦略自衛隊研究所(センジケン)の自走陽電子砲…そのプロトタイプを借りるのよ。

エネルギーは、それこそ計画停電してでも日本中から掻き集める。

送電網の構築は…急ピッチで進めれば、日が変わる前にギリギリってところかしら」

()()()…というか、NERVの特務機関権限で強制徴発ですか…

背に腹は代えられないとはいえ、関係悪化は避けられませんね」

 

長髪の影で、青葉の眉根が寄せられる。

表向きは人類を守るため、共闘関係にあるものの、

秘密主義のNERVと、現時点で地上最強の軍隊たる戦略自衛隊の仲はよろしくない。

まして多額の費用を掛けた研究者達の努力の結晶を、一瞬で取り上げられれば面白いはずもない。

 

ただでさえ互いの諜報部が水面下で鎬を削っているのだ。

これ以上関係がこじれれば、いつ()()()()()()()()おかしくない状態になるだろう。

大義名分があるとはいえ、ミサトもそこは理解している。

 

「もし他に案があるなら、遠慮なく言ってちょうだい。

三人寄らば文殊の知恵。五人いればもっといい案が出るかもしれないしね」

「「「「……」」」」

「ないのね?じゃあ…」

「ちょっと待ったぁ!」

 

ミサトの言葉に割り込んだのは、ガバッ!と顔を上げたレイだった。

 

青葉二尉(ロンゲくん)!兵装ビルでミサイル攻撃した時の映像!もう一回(っかい)見せて!」

「ロ、ロンゲくんって…」

「いいじゃないかシゲル。僕なんか()()()()()だったぞ?」

 

安直な仇名をつけられた男性オペレーターズは汗を垂らしながらも、

レイの言う通りに動画を再生した。

 

ミサイル群が扇型の軌道をとって使徒へと向かい…

八割方が爆散。残り二割はA.T.フィールドに防がれる…

 

「もう一度!」

 

レイは興奮気味に言った。

映像が巻き戻され…

ミサイル群が扇型の軌道で使徒へ…

八割爆散…二割はA.T.フィールドに…

 

「要はビームを何とかやり過ごせばいいんだよね?

使徒は水平方向(まよこ)からの攻撃には反撃するけど、

垂直方向(まうえ)からの攻撃はA.T.フィールドで防いでる…ってことは…」

「あのビーム…真上には撃てない?」

 

シンジの言葉にレイは「うん」と頷き、ミサトの方へ向き直る。

 

「ね、葛城一尉。エヴァの射出リフトを調整して、使徒の直上に飛ばすって出来ないかな?

相手は地面にドリル刺してるし、身動きはとれないっしょ?

いざ取りついちゃえば、フィールド中和して通常兵器の援護でもダメージ行くんじゃね?」

「…まるで竜騎士ね」

 

冗談半分に肩を竦めつつ、ミサトは答える。

シンジは怪訝な顔をした。

 

「リュウキシ?なんですか、それ」

「セカンドインパクト前の、私が小学生時代にやってたゲームの話。

ジャンプして敵の頭上から攻撃するの。

…レイ、案を出した以上、やれるのかしら?」

「葛城指揮官殿の、ご命令とあらば」

 

性格変化以前は、()()()()()()()()()()()()のレイ。

だが今は、冗談を交える余裕すらあった。

 

「OK、戦自研には援護射撃の要請をしときましょう。

MAGIによる遠隔サポート付きでね。

強権(ムチ)を使わず手柄(アメ)を譲る形になるけど…カードの切り時は、今だわ」

 

ニヤ、と女二人が不敵な笑みを交わした。




ヤシマ作戦は盛り上がるし私も大好きなエピソードですが、今回はあえて外しました。
「笑えばいいと思うよ」ってゆーかレイさん現時点で笑いまくってるっちゅーねん。


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23、リナレイさん、自販機コーナーにIN

◇さんとの戦いはまだです。
イチャり成分を入れたかった。
ほら、生&性の衝動(リビドー)って生き延びるためには大事やし(震え声)


今回の作戦は碇ゲンドウ総司令・冬月コウゾウ副司令に伝えられ、承認された。

 

葛城ミサト作戦部長は戦略自衛隊と交渉しに筑波へ。

赤木リツコ博士はエヴァ射出リフトの調整のため、

技術部と整備部の共同作業指揮に大忙しだ。

 

青葉シゲル二尉が政府、および関係各省への通達に追われる中、

パイロット両名は作戦概要の確認を日向マコト二尉から、

そして使用する武器の説明を伊吹マヤ二尉から受けた。

 

その後、作戦時間までは待機となったわけだが、

職員用の仮眠室でベッドに腰かけ、

うつむいている同僚…碇シンジを見つけた綾波レイは、

しゃがみ込んで彼の顔を見上げるように覗き込んだ。

 

「…夢を見たんだ」

 

掠れた声でシンジは呟く。

 

 

青水晶めいた使徒の放つビームが、初号機の胸を直撃する。

電荷が解けて、澱んだオレンジ色に戻ったプラグ内用液(LCL)がゴボゴボと沸き立ち、

シンジの吐いた血が、赤い靄になってその中に散る。

 

鳴りやまないビープ音。真っ赤な警告(WARNING)の文字。

悲鳴のようにシンジの名を呼ぶミサト。

そして視界の隅にあるのは、体表面を無残に融解させ、倒れているエヴァ零号機…

 

 

シンジは自分の絶叫で目を覚ました。

夢のはずなのに、痛みや熱さまで感じたような錯覚がある。

 

「夢で良かったって安心した。

けれど現実になったらどうしようって不安になった。

…死ぬかもしれないって思ったんだ。

 

…ごめん、作戦の前なのにこんな事言って。

…でも怖いんだ。震えが止まらないんだよ!

 

ビルもドロドロに溶かすような、あんな攻撃を喰らったら…

それに、もし…綾波さんが撃たれたら…!」

「碇くん、今は余計な事考えないでお茶しよう」

「…へ?」

「お茶しましょう。何かあったかいモノ飲もう。ホレ、あっち」

 

シンジの言葉を遮り、レイは親指で自販機コーナーの方向を差した。

 

二人だけで廊下を歩く。

広いNERV本部の中でも奥まった区画だ。人はあまり通らない。

自販機コーナーに入った所で、レイは不意に足を止める。

 

「ここね、ちょうど防犯カメラの死角なんだ。

何か聞かれても飲み物買ってましたーって()()()出来るし」

「え?んんっ!?」

 

シンジの唇はレイの口で塞がれていた。

細く、しなやかな両腕は、見た目よりも力強く彼の身体を抱く。

…吐き出される弱音を全て封じ、心に巣くった恐怖を喰らい尽くすように。

 

ふは、と息継ぎをし、レイは至近距離でシンジを見つめた。

 

「あ、綾波さん…?」

「…エネルギー注入!どーぉ?元気出た?」

 

蒼白だったシンジの顔に血色が戻っていくのを見ながら、レイは笑う。

 

「ねぇ、この街に来た日を思い出してみて?

碇くんは、自分の意思でエヴァに乗った。

怖い思いをして、痛い思いをして…それでも逃げなかった。

気絶したあたしを守ってくれた。そして…使徒に勝った!」

 

少女は、少年の手を取り、指を絡める。

赤い瞳には、真剣な光が宿っていた。

 

「言っとくけどね、あたしは空気なんて読んであげない。

碇くんがどんだけ後ろ向き(ネガ)になっても、

一緒に絶望なんてしてあげないよ。

あの八面サイコロ、一緒にブッ飛ばしに行こ?ね!」

「…強いんだな、綾波さんは」

「そーだよ。超強いよ。だから安心しなさい」

 

レイの言葉は九割方ハッタリと勢い任せだったが、

時としてそれは生き延びる強さになりうる。

シンジはいつしか、彼女と共に笑っていた。

 

三回目の戦いは、近い。



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24、ラミエルさん、お空の彼方にIN

午後八時(フタマルマルマル)。夜闇が落ちた第3新東京市。

煌々とした満月がコバルトブルーの正八面体を照らしている。

 

使徒下部から穿孔を続けるシールド・ドリルは等速で進み続け、

地下の特殊装甲は、全22層のうち実に半分以上…13層までもが貫通されていた。

 

遥か下…NERV本部にて反撃を狙う者達は、虎視眈々と牙を研ぐ。

作戦部長・葛城ミサト一尉は、細く長く、息を吸い込んだ。

 

「いいわね、シンジくん、レイ。

この作戦は、A.T.フィールドの中和がカギとなります。

…人類の未来、あなた達に預けるわ!」

「はい!」

「いつでもどーぞ!」

 

碇シンジのエヴァンゲリオン初号機、および綾波レイの同零号機から通信が返る。

シンクロ率は70%台にて安定、ハーモニクス正常…ミサトは頷いた。

 

「まずはデコイを展開!奴の気を引いて!」

 

郊外に、4つの巨大な人影が浮かび上がった。

エヴァの1/1バルーン・ダミー…零号機型と初号機型が2体ずつ。

それらが模擬銃を構えると、使徒の内部に高エネルギーが収束する。

闇を切り裂いて走る、大出力の加粒子ビーム砲…

直撃を受けたダミーが次々と餌食になり、蒸発していく。

 

 

そしてその光は…

 

 

開戦の狼煙(のろし)となった。

 

 

 

「エヴァ零号機、初号機、高速射出!竜騎兵作戦(オペレーション・ドラグーン)…発動!」

 

 

ミサトの号令で、二機のリフトが火花を散らしながら上へ上へと走る。

本来であれば、地上で一度止まって拘束具を解除するところ、

調整を施されたリフトはエヴァ両機を、勢いを殺さずに空中へと飛ばす。

高さ、幅、ともに1kmを超える巨大クリスタルの上方へ、二体の巨人が舞った。

 

ダミーにカマけていた使徒は、そちらへの対応が遅れ…

再び放たれた加粒子ビーム砲は、エヴァの下方をすり抜けていく。

 

「…ぃ良しッ!」

「…っ!」

 

短く快哉するレイ。油断は出来ぬと表情を引き締めるシンジ。

眼下に流れるビームは、さながら破壊エネルギーの奔流。

飲み込まれれば終わり…だが、彼らは第一関門を超えた。

 

「碇くん!最高高度に到達したら、推進装置(スラスター)噴かすよ!」

「解ってる!目標直下、第五使徒!」

「せぇ~~のっ!」

「「フィールド全開!!」」

 

合図を交わした二人は、背部スラスターに点火。

ロケット噴射の白光に落下エネルギーを上乗せした二機のエヴァは

円錐型のA.T.フィールドを纏った二筋の矢となり、

青いクリスタルの表面を砕いて突き刺さった。

 

 

 

初号機が持っているのは耐熱光波防御兵器…すなわち等身大の黒い盾。

元々は宇宙船(SSTO)の底面を加工したものだ。

急造品で不格好ではあるが、表面には電磁コーティングが施されている。

 

大気圏突入時の摩擦熱に耐えうるだけあって、耐熱、耐久性とも折り紙付き。

今回の作戦では、盾自身の尖った下部…船首部分であった所を武器としていた。

 

片や零号機が装備しているのは両手持ちの20型陽電子銃(ポジトロンライフル)

先端に取りつけられた銃剣型の刃(バヨネット)は、プログナイフの開発段階でお蔵入りになっていたものだ。

 

「エヴァ両機、使徒に取りつきました!A.T.フィールド中和!通常兵器、今なら有効です!」

「ナイスよ二人とも!次っ!」

 

伊吹マヤ二尉の報告に、ミサトは拳を握った。

作戦名となった竜騎兵(ドラグーン)は二重の意味を持つ。

エヴァは未知の(フィールド)を破壊する、言うなれば創作の竜騎士(ドラグーン)

続いて攻撃を加える通常兵器は、史実における銃兵(ドラグーン)だ。

 

青葉シゲル二尉と日向マコト二尉が、状況を伝える。

 

「独12式自走臼砲、照準よし!誤射なしで撃てる兵装ビルは、14番から19番です!」

「戦略自衛隊、つくば技術本部より入電!自走陽電子砲、発射準備完了しました!

地球自転、磁場、重力の影響をMAGIにより修正!誤差、0.001%(オースリー)!」

「了解!レイッ、援護射撃に合わせて!…()てぇ!!」

 

列車の線路を利用した自走臼砲が、陽電子の閃光を放ち、

別方向からはその数倍の威力のビーム…

戦自の秘密兵器、大型自走陽電子砲の攻撃が飛んだ。

 

「3、2、1…行ったらぁー!」

 

罅の入った表面を()()にし、銃剣を突き刺して構えていた零号機。

援護射撃が使徒に着弾する瞬間、レイはライフルの引き金を引いた。

零距離射撃…陽電子の光が、間欠泉のように余波を散らしながら、

青い結晶の表面に穴を穿(うが)つ。

 

反対側から飛んだ兵装ビルのミサイルが連鎖爆発。

その光を受け、使徒から砕け落ちた無数の青い欠片が、恐ろしくも美しい光景を彩った。

 

 

 

『ヒイイィィィアアァァァアアアアッ!!』

 

使徒は、無機質な見た目と真逆の、まるで女の悲鳴のような『声』を上げる。

整っていた結晶の表面は、いまや蜘蛛の巣状にひび割れていた。

 

だが敵もさるもの…反撃の加粒子砲が火を吹く。

 

次々と崩壊していく兵装ビル。

続く光の一閃に、独12式自走臼砲を擁していたディーゼル機関車が、

線路と石橋もろとも、丸く切り取られたように()()した。

 

「ッまだまだぁ!デコイ再展開!第二射は!?」

「ヒューズ交換しました!現在、砲身冷却中!」

「使徒、次射体勢!…ヤバい!戦自の陽電子砲が、狙われていますっ!」

「なんですって!?」

 

日向と叫びを交わしていたミサトは、青葉の報告に声を裏返した。

デコイには見向きもしない。これはまるで…

使徒に()()()()()()()()()()()()ようではないか。

 

「いかん!知恵をつけたか!」

 

冬月コウゾウ副司令が狼狽する。

使徒と、戦自の陽電子砲が攻撃を放ったのは同時…

二つの光線は、さながら光の蛇のようにぐにゃりと曲がって軌道を変える。

その結果…

 

「のわぁあ~~っ!?」

「綾波さんっ!?」

 

素っ頓狂な声を上げたレイ。

フィールド中和に従事していたシンジが、彼女を振り返る。

とっさに屈んだ零号機の頭上を、陽電子砲の放ったビームが掠めていった。

 

「だ、大丈夫!野郎(んにゃろ)ぉ~零号機に()()()()が出来る所だったじゃんよ!

どさくさ紛れ(ドサマギ)にあたしを亡き者にする気かー戦自ぃー!?」

「違うわ、加粒子と陽電子が干渉しあって軌道がズレたの!

気をつけて!次に使徒が『脅威とみなす相手』は、エヴァよ!」

 

赤木リツコ博士の警告の直後、再び使徒にエネルギー反応が起こる。

零号機の攻撃は、使徒の体表に穴を開けるだけのダメージを与えていたが、

それが皮肉にも、()()()()()()()()()()()()を、作ってしまった。

 

使徒の()()…開いた穴から斜め上に放たれた細いビームは、

零号機の使っていたライフルを、その()()()()()()()消し飛ばした。

 

バランスを崩し、山吹色の単眼巨人は、使徒の斜面を転がり落ちていく。

 

「あぁうッ!」

 

苦痛に悲鳴を上げながらも、レイは辛うじてレバーを握り、

スラスターを何度か噴かして勢いを弱めながら、地面に受け身を取る…

衝撃そのものと、背からのフィードバックダメージ…

レイの口から空気の泡がLCLに吐き出された。

 

「まずい!使徒の射線上だわ!避けて、レイ!」

 

ミサトの悲鳴が響く…上下のピラミッド接合部に宿る光。

零号機は…動きが鈍い。上体を起こすだけで精一杯だ。

回避は、出来そうにない。

 

(あー…()()()()()は…これで終わりか…)

 

レイは妙に冷静な諦念にかられた。

使徒から、死の光が放たれようとした瞬間…

 

 

 

 

割り込んだのは、紫の鬼。

 

 

スラスター全開で目の前に降り立った、エヴァ初号機だった。

 

 

「碇くん!?」

「ッッ!!ぐ…うぅぅぅっ!」

 

放たれる加粒子砲。襲い来る圧と熱と光。

歯を食いしばり、かろうじて開いた右目で前を睨みながら、

シンジは両手で初号機の持つ盾を保持した。

 

互いのフィールドが中和されている以上、攻撃を防ぐのは盾と装甲。

そして、エヴァ自身のボディのみだ。

理論上、使徒の加粒子砲に17秒耐えられるという盾は、

熱したバターのように溶けていく。

逆光の中に立つ初号機の背中へ、レイはヒステリックに叫んだ。

 

「もういいよ!あたしは戦えない!逃げてっ!」

「嫌だ!綾波さんは…死んでも守るっ!」

「だめ!碇くんは、()()()()()()()()()()()()()()()()

だめぇぇぇぇ―――――っ!!」

『オオオオオオオオオオオッ!!』

 

零号機が咆哮する。レイの赤い眼は、比喩でなく()()()()宿()()()()()

フィードバックの痛みを紛らわすように、脳内物質(アドレナリン)が大量分泌される。

感情の高ぶりから来る涙は、LCLの中に溶けていった。

 

「…碇くんを助けなきゃ…武器、武器、なにか、武器っ!!」

 

渦巻く思考を口走るレイ。それと共に、零号機の腕の切断面に光が宿り…姿を変えていく。

 

「ゼ、零号機、右腕(うわん)復元!?

A.T.フィールドに似た高エネルギー体が、螺旋状に収束していきますっ!!」

「凄い…!」

 

驚愕に満ちた青葉の報告に、ミサトは茫然と呟くことしか出来なかった。

使徒とエヴァ2機の『壁』としてのフィールドは、干渉しあって中和されている。

だがそれとは明らかに()()()()()()()()が、零号機から発せられているのだ。

 

「う、ぁああああああっ!!」

「戦自、陽電子砲!第三射、着弾っ!!」

 

レイの言葉にならぬ叫びと、青葉の報告が重なった。

突き出された零号機の腕は、赤み掛かったまばゆい白光…強烈なエネルギーの螺旋を放つ。

それは奇しくも、時を同じくして撃たれた援護射撃とX字型に交差して、使徒の青い体表を貫通。

コアを直撃した。

 

『キイイイイィィィイオオオオオオォォォォ………』

 

使徒は再び悲鳴めいた断末魔を発して…パターン青は消失した。

 

 

 

初号機が持った盾は飴細工のように溶けて、ほぼ残骸となっていた。

装甲が焼けただれ、立っているのがやっと、という有様…。

それももはや限界で、初号機は膝を突き、ゆっくりと前のめりに倒れる。

 

「碇くんっ!?」

 

レイは、零号機に僅かに残った内部電源を振り絞って初号機に駆け寄った。

カバーを外し、エントリープラグをイジェクトする。

緊急排水されるLCLからは、湯気が立っていた。

 

レイも零号機のプラグを飛び出し、緊急脱出用のロープづたいに地に降りる。

その場にはムッとする熱気が立ち込め、彼女が駆け寄った初号機プラグも、その入口のハンドルも未だ高熱を持っている。

レイはプラグスーツの設定を調整し、両手に循環液を集中させ…ハンドルを掴んだ。

 

「う…ぐ…碇くん…いかりくん…!!」

 

スーツの保護があってもなお、その熱はレイの掌を苛む。

何度も、何度も、彼の名を呼びながら細い腕にあらん限りの力を込めてハンドルを回し…

ついに、扉は開いた。

 

「碇くん!大丈夫!?…碇くん!!」

 

インテリアシートに疲労困憊した身を預けていたシンジは、ゆっくりと眼を開けた。

痛々しいその様子に、彼が生きていた安堵に、こみ上げる想いに、レイの表情が歪む。

 

「っ…うわああああああああん!!」

「あっ、あやなみ、さんっ!?」

 

大泣きしながらしがみついてくるレイに、シンジは目を見開いた。

 

「出撃前に、『死ぬかもしれない』なんてっ…縁起でもないこと言わないでよっ…!」

「…あ…」

「『死んでも守る』なんてっ…自分の命を放り捨てるような事しないでよぉっ…!」

「…ごめん」

 

ひっく、ひっく、と、しゃくり上げながらのレイの言葉に、

シンジは言葉少なに謝りながら、彼女の頭に手を置いた。

レイは無理矢理に笑顔を作り、緩く首を横に振る。

 

「…うぅん。いかりくんは、またあたしを、守ってくれた。だから」

「うん…」

「もうちょっと…このままで…」

「うん…」

 

ハッチから差し込む月の光と、夜の風が、プラグ内の熱と血の香りを僅かに洗っていった。

 

 

 

「…碇。()()より先に『一人目』が目覚めたな」

「何事にもイレギュラーは存在する。シナリオの修正は必要ない」

 

冬月の言葉に、碇ゲンドウ総司令は腕を組んだまま答える。

 

「前回の()()SS(エスツー)機関の発現は確認されなかったはずだが、

零号機のあれは明らかに使徒が使っていた武器と同じ力だ。また委員会が騒ぎ出すぞ」

「問題ない。むしろ我々の手札が増えたのだ。喜ぶべきだよ、冬月」

「レイ自身の事もか?」

「……」

「まぁいい。お前はいつもその調子だ。老人達が煩いのもな」

 

冬月は溜め息をつきながら、事後処理に追われる発令所を眺めた。




テレビ版6話、新劇場版「序」相当が終了しました。
戦術を変えつつも美味しい表現は原作から持ってくるという、
二次創作ならではの良いとこ取りを目指してみた次第です。
次回は原作との差異込みの人物紹介を入れる予定。


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登場人物(第一部「じょ」の章 終了時点)

・綾波レイ

原作でのヒロインの一人。本作での主人公。

零号機暴走事故によって頭を打ち、その拍子に性格が変化。

リナレイさんと化す。

 

病院食を残さず食べるうちに、肉嫌いが単なる食わず嫌いだったことが判明。

肉食系女子にクラスチェンジする。碇くんも現在進行形で食われてる。

 

生身・エヴァとも戦闘スタイルは基本的に徒手格闘。

彼女が操縦している時、サキエル戦、シャムシエル戦は完全に素手で戦ってた。

武器を使ったのはラミエル戦が初。

 

書いてく内にだんだん暴走していって「リナレイ」からもズレつつある気がする。

むしろラジオではっちゃけてた頃の中の人に近いか。

 

 

 

・碇シンジ

原作での主人公。本作ではヒロイン枠。男なのに。

性格などは原作とほぼ同じはずだが、リナレイさんがいるため心にはだいぶ余裕あり。

ガンガン押されると快楽に流されちゃう。中学生だし仕方ないよネ。

 

原作と違って呼び捨てではなく「綾波さん」なのは、最初に会った時の印象のため。

セガサターン版の新世紀エヴァンゲリオン(無印)では、

記憶をなくしたシンジくんが「綾波さん」呼びをしていたのでそれを参考に。

 

 

 

・葛城ミサト

気のいいお姉さん。性格は原作より丸くなっている模様。

リナレイさんという不確定要素のため、やはり余裕が出てきたのかもしれない。

 

原作に比べて戦闘時の失策が少ない理由は、

1.実はサードインパクトからの逆行帰還者説

2.実は昔アンチミサト系SSを読み漁ってた現実世界からの転生者説

とかも考えてみたけど、たぶん実際は運よく「当たり選択肢」を引いてるだけ。

 

料理下手とゴミ屋敷はなおってないし。

 

 

 

・赤木リツコ

原作とほぼ同じ立ち位置。ただしレイを間近で見てた人なので、変化に困惑中。

レイに対するドロドロした憎しみっぽいのは薄れているかも。

出番は少な目だけれど戦闘では時々解説する。知っているのかリツ電!

 

 

 

・碇ゲンドウ

プロローグ時点でリナレイと化した綾波さんに「ヒゲ剃れ!」って言われて実際剃った。

以後もリナレイさんには色々吹っ掛けられて、なんだかんだでNOと言えず押し切られている。

原作における名台詞の数々も、カットされたりリナレイさんに奪われたりしてる。

多分この小説の中で一番「キャラ崩壊」タグの影響を受けてる人。かわいそうなゲンちゃん…。

 

 

 

・冬月コウゾウ&オペレーター三人衆

だいたい原作と同じ。状況変化によってちょいちょい台詞が追加される程度。

リナレイさんからの呼称は

「冬月のじっちゃん」「ロンゲくん」「メガネくん」「マヤちゃん」

 

 

 

・相田ケンスケ

チルドレン達の関係に興味を持ち、原作よりも早くシンジの友達になった。

シンジが殴られた時にトウジを止めようとしたのもそのため。

リナレイさんのパンツ見たばっかりにハイキックを喰らう。し、白ッ!?

 

 

 

 

・鈴原トウジ

立ち位置自体は原作とほぼ変わらないが、彼がいなければこの小説は生まれなかった。

(「10、リナレイさん、体育館裏にIN」の後書きを参照)

妹の名前はアキちゃん。新劇ともゲーム版とも違う世界線ということで敢えて変更。

でも過去のエヴァ二次創作でアキと名付けられた妹ちゃんを最近発見しました。

作者様、あいすみません。

 

 

 

・洞木ヒカリ

出番は少ないけど頼れる委員長。縁の下の力持ち。原作同様ジャージラブ。

リナレイさんからの呼称は「ヒカリちゃん」。

下記の女子グループではないけどレイさんとの仲は良好。

 

 

 

・リナレイさんの女友達

2年A組のモブ子さん達。数人のグループ。

リナレイさんを「アヤナン」とか「レイちょん」とか呼ぶ。にゃんぱすー。

村宮ユウコとか原林メグミとかどっかで聞いた名前と声の子達。

 

 

 

・女性看護師

病室でリナレイさんの担当だった人。

地の文だと「看護師」だけどレイさんからの呼称は「看護婦さん」。

原作一話で初号機ケージに寝台を引っ張ってきた人達の一人かもしれない。

推定二十台前半。リナレイさんいわく「かわいいなーたまんねーなーうへへ」

 

 

 

・ネブカワ先生

えー…これが世にいう…セカンドインパクトであります。

そのころー私は…根府川に住んでいましてねぇ…

無限ループってこわくね?

 

 

 

・ペンペン

クワーコココッ、クワー♪



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幕間 「じょ」と「は」の間
幕間1、ミサトさん、リツコさんの執務室にIN


R-18の方で何かやってます(24.5話)
表現をややソフトにして前半の一部分を引用しました。


碇シンジは戦いの前に死を幻視し、

綾波レイは窮地の中で一度は生を諦めかけた。

 

少年は少女を守り、少女は少年を助けるために力を振るい、

その末に、使徒から薄氷を踏むような勝利をもぎ取る。

 

二人は死を強く意識したが故に、

命の温もりが、生き延びる力となった事を感じた。

 

 

あの戦いから数日…。

 

シンジとレイは、深く、絡み合うような口づけを交わし合っていた。

 

 

「いつ死んでも悔いが残らないように」

という言葉は、いささか語弊がある。

どんな形であれ、死にゆくものは今わの際に悔いを残し、

残された者は、続く生を後悔するだろう。

 

だがそれでも、それだからこそ、

彼らは、生を、存在を、確かめ合っていた。

 

何度目かの息継ぎの後、レイは一度ついばむような口づけをして、

シンジの左胸に耳を当てた。感じる、彼の鼓動の音。命のリズム…。

 

「碇くん、頭なでて」

「うん」

 

求められるままに、シンジは青く柔らかな髪に掌を置き、

頭頂部から後頭部へ…壊れ物を扱うように…何度も、何度も、撫でる。

レイはその心地よさに溜め息を漏らしながら、

少年の胸に、すりすりと己の頬を繰り返し擦りつける。

 

「ふぁぅ…碇くん、碇くん、いかりくん…

ぽかぽかするよぅ…溶けちゃいそうだよぅ…」

 

女子生徒としての快活な声とも、エヴァを駆る戦士としての姿とも違う。

呂律が怪しくなりながら、何度も自分の名を呼ぶ愛らしい声と、

安心しきって甘える仕草を、シンジは優しく見守った。

 

「綾波さん、なんだか猫みたいだ」

「んー?ふふっ…エヴァのインターフェース、借りてこよっか」

 

シンクロ補助のためのインターフェース・ヘッドセットは、

ちょうど猫耳に似た三角の形だ。

トロンとした瞳のまま冗談めかすレイの言葉に、シンジは笑い返した。

 

レイの部屋…冷たいコンクリートの壁とは裏腹に、熱は高まっていく。

二つの人影は、一つになっていく…。

 

………

 

……

 

 

NERV本部内。

技術一課長室の扉には、白猫と黒猫の絵があしらわれたネームプレート…。

流麗な筆記体で[Ritsuko Akagi]とあった。

 

部屋主である赤木リツコ博士の元を訪れているのは、

作戦部長…である前に、彼女の友人である葛城ミサト。

 

書類の山、怒涛の作業、ひっきりなしの連絡、長丁場の会議、etcetc(などなど)

 

多忙を極める戦後処理の合間。

効率を上げるための休憩時間は重要であり、

ミサトは友人の淹れる美味いコーヒーを目当てに訪れ、

リツコもまた、彼女との雑談を丁度良い気分転換にしている。

 

「ところでミサト?シンジくんが、レイの部屋によく行っているらしいけれど」

 

どこか咎めるような口調のリツコに、ミサトはカップから顔を上げた。

 

休み(オフ)の日の話でしょー?週一回のおうちデートぐらい大目に見てやんなさいよ。

あの子達だって娯楽ぐらいなくちゃ、息が詰まっちゃうわ。

出かける前、私に断りを入れるときの名目も『技術交換』って、なかなか感心な話じゃないの」

「技術交換?」

「シンジくんは料理を教えて、レイは格闘を教えてるみたい。

レイってサンドバッグ買ってたんでしょ?さしずめ『綾波道場』って所ね。

シンちゃんもお料理上手いから、レイの胃袋、掴まれちゃうかもしれないわねー♪」

 

楽し気なミサトに対し、リツコは懐疑的に眉を寄せていた。

あくまで名目上、であり、本音は先に言った通り「おうちデート」なのだ。

 

「あの二人に、何か()()()があったらどうするつもり?」

「大丈夫よ、シンちゃんに避妊具(ゴム)は渡してるわ。

()()()()()()。先人はいい言葉を残したわねぇ?」

「あ、あなたねぇ!?あの二人は中学生なのよ!?

保護者自らが一線を超えることを推奨するとか、何を考えてるの!」

()()()()

 

声を荒げるリツコに対し、ミサトは低い声を返し、コーヒーを飲み干した。

 

「…その中学生に汚い大人(わたしたち)は世界の命運を背負わせてるのよ。

特務機関権限で法を捻じ曲げてまでね。

第五使徒戦だって、偶然や幸運が少しでも足りなければ…

どちらかが、あるいは二人とも死んでたわ。

 

進んで死なせたくはない。

けれど私は指揮官の立場上、あの子達を死地に送らなければいけない。

()()()は、これでも全然足りないくらいよ」

「……」

「コーヒーごちそうさま。会議室、先行ってるわ」

 

スライドドアの向こうに消えるミサトの背中。

 

「不器用なバランスの取り方ね。…人のことは言えないか」

 

自嘲的な部屋主の呟きだけが、その場に残った。




司令室にて

レイ「たのもー!碇司令!息子さんをあたしに下さい!」
ゲンドウ「ブッフォ!?(コーヒー噴出)」
冬月「うわっ、碇、おまっ、汚っ、エンガチョ!」


なお、シンちゃんの料理を食べたリナレイさんの言葉は
「あたしのために味噌汁作ってくれ」
だった模様。


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本編第二部 「は」の章
25、アスカさん、日本領海にIN


前回までのあらすじ

ネブカワ先生「えー…綾波さんの…希望進路ですが…」
レイ「碇くんの嫁です」
ネブカワ先生「えー…綾波さん…もう一度…よろしいですか?」
レイ「あるいは碇くんをあたしの婿(おれのよめ)にします」
リツコ「Oh…」


「ほら、見えてきたわよ、レイ」

「おぉー、船がいっぱい!葛城一尉~、真ん中の奴すっごいデカいね?」

「あれが国連軍(UN)・太平洋艦隊の旗艦…

正規空母『オーバー・ザ・レインボー』よ。

セカンドインパクト前のヴィンテージ艦…

良くも悪くも、浮いてるのが不思議な()()()ってところね」

 

黄土色の軍用輸送ヘリ『Mil 55-D』…

その後部座席からNERV作戦部長・葛城ミサト一尉は苦笑交じりに、

綾波レイは赤い目を丸くしながら、太平洋を見下ろしていた。

 

空母5…戦艦4…そして周囲には海原を埋め尽くすように巡洋艦多数…大艦隊である。

 

「これは相田あたりがヨダレ垂らして喜びそうな光景だなぁ」

「相田くん…あぁ、クラスメートの?彼、確か軍事関係好きだったわね。

別に連れてきてもよかったのに」

「いやー、やめといた方がいいと思うよーあたしは」

「あーら、シンジくん以外には冷たいわねーレイちゃーん♪」

 

ミサトはここぞとばかりに揶揄した。

なお、碇シンジ本人は『極度の筋肉痛と疲労』により同行していない。

特に含むところはない。…ないはずである。

 

話題に出た相田ケンスケであるが、改めてレイは首を横に振った。

 

「いやいや、碇くんは関係なくてさ。

興奮のあまり絶対()()()()って、相田の奴は。

カメラ持って『凄いー!凄すぎるー!』とか叫びつつクルクル回るね!

あたしも葛城一尉も一緒に笑われちゃうよ、きっと」

「そ、それはさすがに考えすぎじゃ…」

 

「んで、嫌な匂いの葉巻をスパァーッて吸ってる国連軍のお偉いさんから

『おやおや、ボーイスカウト引率のお姉さんでしたか』

みたいなコト言われたりしてさ」

「ちょ、ちょっと、レイ?」

 

「そのあと相田はうっかり()()()系の軍人さんに捕まって

『HEY,ボーイ。ココは立ち入り禁止区域だゼ。身体に教えてやるヨ,HAHAHA!』

みたいな感じで、後ろの貞操的なものがアッ――!って…」

「ありえない、とは…言い切れないわね…」

 

想像力たくましいレイに、ミサトは笑いを引きつらせた。

何しろケンスケにはシェルター脱走事件という()()があり、自分も説教をした身だ。

確かに連れてくるのはレイだけで正解だったかもしれない、と思い直した。

 

せっかくワインレッドのビシっとした軍服に身を包んできたというのに、

引率のお姉さん扱いされては、ミサトとしてもたまったモノではない。

 

ヘリの高度は徐々に下がっていき、空母『オーバー・ザ・レインボー』の甲板に着艦する…

 

………

 

……

 

 

「ヘロゥ、ミサト。元気してた?」

「えぇ、貴女も、背伸びたんじゃない?」

「まぁね。他のところも、ちゃーんと女らしくなってるわよ!」

 

彼女達を迎えたのは、レイと同じ年頃の少女だった。

 

レモンイエローのタンクトップと、デニム地のショートパンツ姿…

長く伸びた健康的な四肢が、その長身とモデル体型を強調し、

少女の自負通り大人びて見える。

 

赤味掛かった長い髪を風に遊ばれながら、

来訪者達へ向ける青い瞳には、勝気な光が溢れていた。

タイプこそ違えど、レイに勝るとも劣らぬ美少女である。

 

「紹介するわね。彼女がエヴァンゲリオン弐号機専属パイロット。

第二の適格者(セカンドチルドレン)…惣流・アスカ・ラングレーよ」

「あら可愛い♪」

 

ミサトの紹介に、他ならぬ美少女(レイ)本人が、打算も皮肉も世辞もなく、そう言った。

レイにしてみれば女子中学生(JC)同士の間で自然に交わされる「可愛い」だったが、

アスカとしては少々予想外だったか、青い眼がぱちぱちと瞬く。

青髪赤眼というレイ自身の外見の珍しさもあり、アスカの視線はそちらに移った。

 

「えーっと、アンタが噂の第一の適格者(ファーストチルドレン)?」

「うぃー!綾波レイでーす!よろしくねーアスカっちー!」

「あ、アスカっちぃー!?なんなのよ、その呼び方!?」

 

満面の笑顔で挙手するレイに、面食らったように一歩下がるアスカ。

いきなり作られた愛称に、馬鹿にされているのか、と睨みかけるも、

レイの表情にまったく悪意はなく、アスカは困惑した。

 

「アスカっちって言うと、なんだかサスカッチみたいだね?」

「アタシを勝手にトンデモ生物(UMA)の雪男みたいに呼ぶんじゃないわよ!

ちょっとミサト!?どうにかならないのコイツ!?」

「あらー早速打ち解けてるみたいじゃなーい?仲良きことは美しきかな。

私のことは気にせず、若い二人で続けてちょーだいっ♪」

「あぁもう、話にならないわ!アンタ達、とりあえず着いてきなさい!

このアタシが直々に艦長のところまで案内してあげるから、感謝すんのよ!?」

「お、キツめの言い方に反して面倒見がいいね?ちょっとデレが入ったねーアスカっち」

「アスカっち言う(ゆー)な!!」

 

真っ赤に染まったアスカの表情は怒りによるものか、あるいは照れによるものか…

走るようにブリッジに向かうアスカを、ミサトとレイが追った。




アスカさんの出番が延びちゃいそうだったので
TV版第7話相当の話は飛ばしてます

時田さん&農協ロボは後々出してみたい


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26、リナレイさん、お船のブリッジにIN

前回までのあらすじ

レイ「アスカっちーアスカっちー」
アスカ「その呼び方やめぇや!」
レイ「めんごめんごー!でさーアスカっちー」
アスカ「ガァーッ!!w(゜皿゜#)w」


国連軍正規空母『オーバー・ザ・レインボー』の上。

 

エヴァ弐号機パイロット、惣流・アスカ・ラングレーはブリッジの扉を開け、

NERV本部からの来客を中に招き入れた。

 

彼女達を迎えたのはアッシュグレーの口髭を蓄えた艦長…。

50代後半という年齢ながら、白のブラウスから覗く腕は見事な筋肉を湛えており、

いかにも歴戦の将校、といった風情の男である。

艦長の椅子の横には、彼より一回り年下…40代と思われる副長が立っていた。

 

白帽の下から値踏みするがごとく、艦長の眼が光る。

軍服に身を包んだNERV作戦部長・葛城ミサト一尉は、敬礼を向けた。

 

お会い出来て光栄ですわ、艦長(I'm glad to meet you,Sir.)

我が艦へようこそ(Welcome to"OVER THE RAINBOW")葛城くん(Ms.Katsuragi)

 

挨拶もそこそこに、艦長はミサトに伴われた少女の姿に目を奪われ、言葉を失った。

青い髪、赤の瞳…妖精を思わせるその非現実的な容姿…綾波レイは、可憐に小首を傾げる。

 

輸送ヘリ(Mil55-D)の中でミサトがレイに施した自然な感じの化粧(ナチュラルメイク)は、意外な程の効果を上げていた。

 

レイは一歩進み出て、ぺこり、と頭を下げる。

 

「んー、と…はろー!

マイネーミーズ レイ・アヤナミ!

ザ・パイロット オブ エヴァンゲリオン・ゼロ!

ナイス トゥー ミーチュー キャプテン!」

 

レイの英語の成績は悪くない。むしろテストでは高得点をマークしている。

が、筆記は出来ても英語を喋るのは片言、という日本人は多いもので、レイはそのタイプだった。

 

留学経験者であるミサトや英語圏の人間(ネイティブスピーカー)である艦長…

そして飛び級で大学を卒業し、日・独・英の三ヵ国語を滑らかに操るアスカに比べれば、

レイの英語は(元気な声ではあるものの)明らかにたどたどしい。だが…

 

こちらこそ(Nice too meet you,too)綾波嬢(Miss Ayanami.)

…ここから先は日本語で構わんよ。私は親日家なものでな」

「あ、ありがとーございまーす!さんきゅーべりーまっち!」

 

不慣れなりに懸命な姿が、逆に艦長の表情を緩めることになった。

屈強な『海の男』の気づかいに、レイは日本語と片言英語を混ぜ、明るく笑う。

 

「ふふっ、私達(ネルフ)の秘蔵っ子…せっかくの美少女なんだし、第一印象は大事よねん♪」

「あざといわねぇミサト…」

 

アスカは旧友の呟きに、呆れ気味の小声で突っ込んだ。

 

………

 

……

 

 

ドイツのヴィルヘルムスハーフェンより航行してきた国連軍…

 

太平洋艦隊の任務は、エヴァンゲリオン弐号機の輸送、

およびそのパイロットであるアスカの護衛である。

その話題が出た時、彼女は得意げに胸を張っていた。

 

一方、ミサト達がヘリで運んできたのは、エヴァの非常用電源ソケット。

レイを相手に一時は心を解した艦長だったが、

エヴァ弐号機受領書へのサインは渋った。

 

「上層議会がエヴァンゲリオンに重きを置いている事は、私達も承知している。

しかし、あの人形を海上で起動させる要請を受けてはおらん。

引き渡しは、新横須賀港に陸揚げするまでは待って頂こう。

 

フン…宅配屋紛いの任務は、我が軍としては不本意ではあるがな。

こういった仕事が増えたのは、いつからだったかな、副長?」

「5年前…()()()が結成された頃からだと記憶しています」

 

その某組織(ネルフ)の超法規的措置があるとはいえ、

軍人たるもの、中学生(コドモ)達を矢面に立たせるのは抵抗がある。

『海の上は我らの管轄』…そういったプライドというものも然り。

ゆえに、皮肉の一つも出ようというものだ。

 

「正直な話、今回は過剰とも言える護衛だ。太平洋艦隊勢ぞろいだからな」

 

艦長の言い草に眉をしかめたミサト。

三度の使徒戦を経験した彼女からすれば、

エヴァの重要度、および使徒の危険度を鑑みて、

これでも足りない位だ、と言葉が出そうになる。

 

が、レイに袖を掴まれ、

「葛城一尉、深呼吸深呼吸」

と囁かれ…我を取り戻した。

 

吸って…吐く。それだけで、心の余裕が生まれる。

(…これじゃ、どっちが年長者か解らないわね)

自嘲的に苦笑しながらも、ミサトは同行者の少女に感謝した。

 

「…セカンドインパクト後の混乱・紛争の終息は、

(ひとえ)に国連軍の皆様のご活躍・ご尽力があってのこと。

わたくしも、それは重々承知しております。

事実、この大艦隊ならば、テロリストの海賊行為程度を相手取るには、

充分すぎる戦力でしょう」

「Ms.葛城。それが解っているなら…」

「ですが」

 

ミサトは一度彼らのプライドを擽った後、続く言葉を遮った。

 

「エヴァンゲリオンでA.T.フィールドを中和しない限り、

あの敵生体…使徒に生半可な通常攻撃は無効です。

NN級(エヌツークラス)の攻撃手段があるなら、

一時的な足止めは出来るでしょう。しかし、()()()()です」

「…!!」

 

艦隊の持つ魚雷やミサイルに、そんな威力はない。

仮に有ったとしても、強大な衝撃を伴うNN兵器を海上で使えば、

艦隊を丸々巻き込みかねない大惨事だ。おいそれとは使えない。

 

それが足止め程度にしかならない、となれば…艦長と副長は、息を飲んだ。

 

「逆に言えば、A.T.フィールドを中和することで、

通常兵器でもダメージが見込めるのは、先の使徒戦でも確認しています。

()()()()()()の際には、ご協力をお願いしますわ、艦長」

「…解った。葛城くん、書類を渡したまえ」

 

NERVと国連軍の共闘の必要性を説かれ、ようやく折れた艦長はペンを手に取った。

ミサトは活路をくれたレイにウインクして見せ、レイは親指立て(サムズアップ)を返す。

 

「よ、葛城。相変わらず凛々しいねぇ?」

「あっ、加持先輩!」

「う゛ぇ゛っ!?」

「加持くん!君をブリッジに招待した覚えはないぞ!」

 

割り込んだ男の声。

アスカは顔をほころばせ…そしてミサトは、先程までの凛とした言葉とは逆の、濁った呻きを上げた。

艦長の批難と同時に、レイはそちらを振り返る。

 

「これは失礼、艦長。お嬢様がたをお茶に誘ったら、早々に退散させて頂きますよ」

 

加持と呼ばれたその男…年の頃は三十前後…ミサトと同世代か。

不精ヒゲに後ろ縛りの髪…整ってはいるが、その顔は「イケメン」というには少々軽薄にニヤついていた。



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27、日独ネルフのみなさん、喫茶室にIN

空母『オーバー・ザ・レインボー』喫茶室。

 

「…迂闊だったわ。加持が来るのは充分想像出来たはずなのに…!」

「何があったか知らないけど、ドンマイッ、葛城一尉!」

 

テーブルの片側にはNERV日本本部より葛城ミサト、綾波レイの二名。

溜め息をつくミサトの肩を、レイがポンポンと叩いた。

 

 

「ふふーん♪加持さんがエスコートしてくれるってだけで、

この退屈な船旅にも価値があるってものよ!」

「ま、そういうことだ。彼女の随伴がてら、

本部の皆様へ御挨拶に伺った…というわけさ。

…自己紹介が遅れたな。NERVドイツ支部、監査部所属…

加持リョウジ一尉だ。改めてよろしく、綾波レイさん」

 

上機嫌に声を弾ませる惣流・アスカ・ラングレーの隣で、加持が飄々(ひょうひょう)と続けた。

名を呼ばれ、「ん?」と首を傾げるレイ。

 

「あたしのコト、知ってるの?」

「そりゃそうさ。エヴァンゲリオン零号機、専属パイロット。

未知の敵を相手に、見事な戦いぶりじゃないか。

俺達の間じゃ有名だよ」

「むぅー…」

 

憧れの人物が自分以外を褒めているとなれば面白くない。

アスカは一転して頬を膨らませ、レイをジト目で睨む。

 

「やぁんもぉー、そんな熱い目で見ないでよアスカっちー。

…でも実際、使徒との戦いでは碇くんに助けられてるけどねー」

「初号機の碇シンジくんか。出来れば彼にも会いたかったな。

()()()()()()()()()()()()()()、聞きたかったんだが」

「えぇっ!?」

 

加持とミサトの過去の関係を何となく察したアスカは、

ややオーバーアクション気味に仰け反った。

 

「な…な…なに言ってんのよアンタはぁッ!?」

「その様子じゃ、相変わらずか」

 

したり顔で口の端を持ち上げる加持。

一方のミサトは、一気に顔に血を昇らせ、声を裏返す。

彼女に叩かれたテーブルがガタン!と音を立て、コーヒーが跳ねた。

 

 

「葛城一尉のは知らないけど、碇くんは寝相いいよ」

「いぃっ!?」

「あと碇くんの寝顔はチョーかわいいよ」

「ハハ、参ったな。最近の中学生は進んでるねぇ」

 

レイの発言に、アスカの表情は百面相。

加持は苦笑しつつも驚きもせず、肩を竦める。

 

 

「…悪夢よ…悪夢だわ…」

 

子供達(チルドレン)の前で汚点を暴露されたミサトは一人、頭を抱えて震えていた。

 

………

 

……

 

 

一時解散後。

甲板にてアスカは手すりに腰を掛け、太平洋に向けて脚を遊ばせている。

一歩間違えば海に真っ逆さまだが、少女のバランス感覚に危なげはなく、

加持は壁に背を預けたまま、彼女を横目に見た。

 

「どうだった?綾波レイちゃんは?」

「頭の軽そうな女!やたらとなれなれしいし、おまけに色ボケ!

あんなのがアタシより先に選出された第一の適格者(ファーストチルドレン)だなんて、幻滅!」

「おぉ、はっきり言うねぇ?」

 

まくしたてるようなアスカに、加持は楽しげに笑い…その後、表情を引き締めた。

 

「だが、彼女の能力や戦果は確かだ。シンクロ率を含めた戦闘データ、知ってるだろ?

天才パイロット・アスカ様といえども、うかうかしていられないんじゃないか?

最近は、ずいぶんと訓練に熱が入っていたようだったしな」

「解ってますよ、加持先輩。好き嫌いと実力の有無は別だわ。

…負けてらんないのよ、アタシは」

 

IQ、身体能力ともに優れていたアスカにはエリートパイロットの自負があり、

シンクロ率80%台に乗った頃には天狗になっていた。

だがある時、加持が()()してきたデータが、他人に興味を持っていなかった彼女を変えた。

 

日本のチルドレン達…

戦闘をこなすごとに上がっていくシンクロ率…

作戦立案能力、機転の速さ…そして純粋な戦闘能力。

 

井の中の(かわず)であったアスカが、その時、大海を見た。

天才ともてはやされ、能力に胡坐をかいて難なくこなしていた訓練から、

自らを追い込み、叩き上げる訓練へと切り替えた。

 

…そうして気合を入れてこの空母に乗り込んだ結果、

レイ本人のお気楽な態度に肩透かしを食らったわけだが…

 

(とはいえ、切磋琢磨できるライバルが出来たのは良い傾向だ。

今まで、アスカに同年代の友人はいなかったからな。

綾波レイへの感情も…嫌い、というよりは、戸惑い、か)

 

潮風に揺れるアスカの赤毛を眺めながら、加持は煙草を咥え、火をつけぬまま揺らした。

 

………

 

……

 

 

「艦長さん、話の解る人だったね?」

「国連軍の将校ともなれば、プライドは高いものだけれど…

書類に上手いことサインもらえたのはレイのおかげよ、ありがと」

「えへへー」

 

ドイツ組から遅れることしばし。

お茶のお代わりを飲み直してようやく落ち着いたミサトは、

緩く笑うレイと共に長い船内エスカレーターに運ばれていた。

 

「…それに加持一尉も、面白そうな人だったなぁ」

「ぐっ、軽いのは昔からなのよ!あの馬鹿(ブヮカ)ッ!」

 

思い出したくない、とばかりにミサトは語気を荒げる。

一定速度で上がっていくエスカレーター…

その終点に、レイとミサトを仁王立ちで見下ろすアスカの姿があった。

 

「…ファーストチルドレン!ちょっと付き合いなさい!」

「お、女の子同士でっ!?でも…アスカっちだったら…あたし…」

「あらーレイちゃんご指名ねー?私はお邪魔かしらん♪」

 

頬を抑えるレイ。ニヤニヤしているミサト。

悪ノリする日本勢に、アスカはガシガシと頭を掻く。

 

「そういう意味じゃない!

アタシに着いてこいって言ってるの!

ミサト!こいつ借りてくわよ!」

「オッケー、楽しんでらっしゃーい♪」

「強引だねーアスカっちは。

あたしの事はアヤナンとかレイちょんとか、

気軽に呼んでくれていいのよ?」

「うっさいバカナミ!さっさと来なさい!」

 

きゃいきゃいとはしゃぐ少女二人を、ミサトは微笑ましく見送った。




アスカさんに「バカナミ」は一度言わせてみたかった。
愛称として割と気に入ってます。


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28、アスカさん&リナレイさん、弐号機にIN

綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレーの両チルドレンは

兵士の一人に運転手役を頼み、小型ボートで別の艦へ移っていた。

 

冷却用のLCLに満たされたコンテナの中、

ドラム缶に板を張った(イカダ)を足場に、奥へと進む二人…。

アスカが『何やら大きな塊』に掛かったシートをめくってみせる。

 

「へぇー?赤いんだねーエヴァ弐号機は。お目々は4つあるし」

「違うのは、カラーリングやフォルムだけじゃないわ。

これこそが世界初、実戦用に作られた本物のエヴァンゲリオンなの。

正式タイプのね!」

 

目をパチクリさせたレイを尻目に、

アスカは弐号機の赤く大きな頭部に、身軽に駆け上がっていき

振り返ってレイを見下ろしながら、芝居がかった動作で左腕を広げた。

 

「しょせん零号機と初号機は、開発過程のプロトタイプとテストタイプ…

アンタみたいなアーパー女や、ド素人のサードチルドレンに、

いきなりシンクロしたのが良い証拠よ!」

「ふぅーん、へーぇ、ほぉーぅ?」

 

レイは棒読み気味にアスカの言葉を流した後、不機嫌そうに口を尖らせる。

相手が少しでも悔しがる姿を期待したアスカだったが、

小馬鹿にするようなレイの反応に、青い瞳を鋭くした。

 

「なァによバカナミ!喧嘩売る気!?」

「愛機を自慢するのも、あたしがどーこー言われるのも、まぁ良いとしよう。

『バカナミ』ってのも、アスカっちなりの親しみ込めた愛称だと、笑って受け止めよう。

でも、この場にいない碇くんが貶さ(ディスら)れるのは、なんかヤダ」

 

ぷー。両頬を風船のように膨らませたレイに、アスカは「ケッ!」と吐き捨てた。

 

「はいはい碇くん碇くん!さぞかし素敵な王子様なんでしょうねぇ!?

ったく、息するように惚気(ノロケ)てんじゃないわよ…ッ!?」

「おっ…!?」

 

アスカの言葉は、唐突な揺れに遮られた。

レイは足を肩幅に開き、腰を落として体勢を安定させる。

 

「水中衝撃波だわ!」

 

アスカの顔に緊張が走る。

水中衝撃波…すなわち、近くの海域で爆発が起こった事を意味していた。

レイの胸元からコール音が響き、取り出したタブレット端末のスピーカーをONにする。

 

「ハイ、こちら綾波~」

『こちら葛城!レイ、今どこ!?』

「いま別の艦…アスカっち!ここ、名前なんだっけ?」

「オセローよ!輸送艦オセロー!」

『アスカ!?オセローって事は、二人とも弐号機のそばにいるのね?

いま、艦隊が正体不明の敵の攻撃を受けているの。おそらくは…使徒よ!

エヴァの起動、出来る!?』

 

端末から聞こえる葛城ミサトの声に、アスカが獰猛な笑みを浮かべた。

 

「是非もないわ!チャンスが向こうから来てくれたって奴じゃないの!」

『頼もしいわね。ではレイと二人で乗り込んで!個別に避難するより危険が少ないわ。

シンクロ率にも致命的な問題は出ないはずよ!』

「バカナミも?フン、まぁいいわ。予備のプラグスーツはあるし、

どの道、特等席でアタシの華麗な操縦を見せてやるつもりだったから」

「タンデムかー。最初の使徒戦以来だね」

 

出撃許可を取る手間が省けたのは、幸運だったと言えるだろう。

かくして作戦部長とパイロットとのすり合わせが済み、迎撃と相成った。

 

………

 

……

 

 

コンテナの隅で、アスカはバッグから真紅のプラグスーツを二着取り出した。

素肌に直接フィットさせる関係上、二人とも一度全裸になる必要があるわけだが、

女二人では恥ずかしがる事もなく、手早くポイポイと脱いでいく。

 

レイのプロポーションは均整が取れており、胸も決して小さいわけではないのだが、

いざ比べてみるとそこは人種差。アスカの身体は14歳とは思えぬほどにメリハリがあった。

 

「…体型()()大和撫子(つつましやか)ね、アンタ」

「なんだとーぅ?その乳袋にはドイツビールでも詰まってんのかっ!」

「何ですってぇ!?」

 

…そんな()()()()会話を交えつつ、ペアルックに身を包んだ二人は、

弐号機のエントリープラグへと入っていく。

まずはアスカ。彼女の膝の上にレイ。第三使徒戦と同じシフトだ。

 

LCL 満水。(LCL Fullung.)

起動開始。(Anfang der Bewegung.)

神経接続開始。(Anfang des Nerven anschlusees.)

圧着ロック解除。(Ausloses von links-Kleidung. )

 

シンクロ開始(Synchro-start.)

 

アスカが音声による起動シークエンスを進めている最中、

急にビープ音が鳴り、プラグの中は「FEHLER」という赤文字に満たされた。

 

「ねぇ、弐号機ちゃんが『○ェラ』とか言ってんですけど」

()()()!卑猥なこと言ってんじゃないわよエロナミッ!

アンタが日本語で考えてるから、思考ノイズが入ったの!

ちゃんとドイツ語で考えなさいよね!」

「ドイツ語ー?アスカっちは無茶ぶり女王だねー?

…クーゲルシュライバァーッ!!

「あんたバカァ!?もういいわよ!

思考言語切り替え!日本語をベーシックに!」

 

羞恥やら怒りやらで顔を弐号機カラーにしながら、アスカはヤケ気味に叫んだ。

ちなみにレイが言った「クーゲルシュライバー」とは「ボールペン」。

『意味は大したことないのにドイツ語にすると超カッコよく聞こえる言葉』の代表格である。

 

「エヴァンゲリオン弐号機、起動!」

 

アスカの言葉に、赤い巨体が体を起こす。

エヴァンゲリオンによる、初の海戦が行われようとしていた。




「クーゲルシュライバー」って言いたかっただけの回。
次回お魚使徒戦の予定。


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29、ガギエルさん、海の底にIN

前回までのあらすじ

弐号機「ドイツ語でおk」
レイ「クーゲルシュライバーッ!」
アスカ「えぇ…(困惑)」


正体不明の敵の攻撃を受けた太平洋艦隊。

 

正規空母オーバー・ザ・レインボーには、

艦艇が次々と沈黙させられるという悪い知らせ(バッドニュース)が舞い込む。

その中で、輸送艦オセローからは『エヴァ弐号機・起動』との入電があった。

 

「葛城くん!?君が命令を出したのかね!?」

「艦長!今起こっているのが()()()()()()です!

各艦には回避を最優先に!エヴァが取りつくまで、弾薬は温存させてください!

それと、甲板の上に非常用ソケットの準備を!」

 

葛城ミサトは、問いへの肯定代わりに艦長へ要請する。

そこに、慌て気味の副長の声が被さった。

 

「し、しかし大丈夫ですか!?エヴァ弐号機はB装備のままです!」

「っ!?」

 

ミサトは息を飲む。

B装備…武装はプログナイフのみ。

外装も陸戦仕様のため、水中戦闘は期待できない。

書類上は引き渡しが済んだ弐号機だったが、元は艦長も言っていた通り、

海上での起動は想定していなかったのだ。

 

(海に落ちたら不味いかしら?)

ミサトの表情が渋くなりかける。

だが船外を見て状況を確認すれば、そこはNERVの作戦部長。

いつもの不敵さを取り戻した。

 

「…艦長、副長。大丈夫です、ほら」

「「な…何ぃ~~ッ!?」」

 

ミサトが指さした先…

二足歩行・大質量の巨大な人型が、()()()()()()()()()()()()()のを見て、

船長と副長は揃って口をアングリと開ける。

 

足と水面が接触するたびに、高い硬質音を上げながら円形に広がる光の力場…

A.T.フィールドが、その無茶を可能にしていた。

 

 

……

 

………

 

「こんな所で使徒襲来とは。

少々シナリオが違いませんか、碇司令?」

 

加持リョウジは、船室の窓のブラインドを指で広げ、外を覗きながら、

携帯電話で連絡を取っていた。荷物の一つ…アタッシュケースを横目で見る。

 

『そのためのエヴァ弐号機だ。保険としてレイもつけてある。

最悪の場合、君だけでも脱出するのがよかろう』

 

電話越しに聞こえるNERV総司令・碇ゲンドウの声。

加持は再び外に視線を戻し、海を走る弐号機を見た。

 

「…同じ逃げるにしても、みっともない格好を見せて、

前線で戦っているお姫様達に嫌われるのは気が咎めましてね。

やれる事はやります。ま、あくまで僕なりにですが」

『…好きにしたまえ』

 

加持の道化めいた笑いは伝わらぬままに。

ゲンドウの静かな声をもって通話は切られた。

 

………

 

……

 

 

 

「うっひょお~!さっすがアスカっち!シンクロ率・8割強!

ニンジャか波紋使いかレツ・カイオーかって感じだねー!すっげぇー!」

「ワケ解んないわよっ!舌噛むから大人しくしてなさいバカナミッ!」

 

海を駆ける赤い巨人…エヴァンゲリオン弐号機のエントリープラグの中。

 

惣流・アスカ・ラングレーはエヴァの操縦桿を強く握りながら、

ハイテンションな同乗者…綾波レイに怒鳴り返す。

 

(ホント、変なヤツね…)

 

アスカはそんな事を思いつつも、レイが口にした裏表のない称賛に、

荒い口調とは裏腹の柔らかい笑みを無意識に浮かべていた。

 

弐号機はなおも軽やかに、オーバー・ザ・レインボーに近づく。

 

エ、エヴァ弐号機、本艦に接近中!(EVA-02 is approaching this ship!)

総員っ、着艦時の衝撃に備えろ!(All hands!Prepare for the impact of landing!)

心配性ね(Don't worry)甲板潰すような無粋なマネはしないわよ(I'll not destroy the deck)

「おー、なめらか英語!」

 

副長と艦長の懸念にアスカは通信を返すのを聞き、レイは呑気に感心していた。

艦上を飛び越えざま、電源ソケットを()()()()()()()()()()

空母には僅かな振動を与えるに留め、そのまま空中でソケットを装着…

A.T.フィールド越しに着水。

 

アスカは弐号機が外部電源に切り替わったのを確認した後、

エヴァ右肩部のウェポンラックから武器を取った。

 

弐号機の手の中、専用のプログナイフがカッター型の刃を伸ばす。

 

「敵はっ!?」

「来てるよ!右舷三時方向!」

 

レイの返答に、アスカは視線を向ける。

爆発炎上している数隻の巡洋艦を背景に、水の中を走る『何か』…

第六使徒は徐々に浮上し、その姿を現した。

 

深海魚ともシャチともつかぬ、クリーム色の巨体。

ボディに見合った大きな口中に、鮫のような多数のギザ歯…

その奥には、赤い球体が不気味に光っている。

口の上には等間隔で無数に並んだ、目玉と思しき真紅の小球体群。

 

 

奈落の如き(あぎと)を開いて食らいつこうとする異形の化け物を、

エヴァ弐号機は横飛びに回避し、擦れ違い様にナイフを走らせる。

 

「チィッ、浅い!」

 

悪態をつくアスカ。使徒の側面に一筋の傷…なれど致命傷には遠い。

回頭して再び接近する敵に、アスカは弐号機を向き直らせ、

順手で持っていたナイフを逆手に反転…振り下ろしの構えをとった。

 

「ふん、海の上で闘牛士(マタドール)の真似事か。相手が魚じゃ、サマになりゃしないわ」

「あの使徒、弐号機が赤いから興奮してんのかねー?

どーするアスカっち、3枚におろして料理しちゃう?」

「どうせ大味で旨かぁないわよ、あんなデカブツ!」

 

少女二人とも、軽口を交わすだけの余裕はある。

狙うのは、使徒が再び喰らいつこうとする瞬間…

アスカは弐号機で海面を蹴り、跳躍にて突進を避け…

同時に、その背に飛び乗ってナイフを突き立てた。

 

「聞こえる、ミサト!?A.T.フィールド中和したわ!」

『艦長!有効射程内の艦に、通達願います!魚雷、一斉射!』

『心得ておる。…魚雷、一斉射!(Torpedo Salvo!)

 

艦長の号令と共に、魚雷が次々と放たれた。

硬質だった第五使徒とは違い、魚のような第六使徒そのものの身体は柔らかく、

魚雷が起こす水中爆発の形に、巨体は面白いように削れていく。

 

だがそれでも、巨大な身体全体からすれば微々たるダメージ。

動き自体は止まらず、使徒はエヴァを取りつかせたまま、艦隊の包囲網を抜けるように泳いだ。

 

「くっ!図体が大きいだけあって、タフな奴ねぇ!」

「コアは口の奥にあったよ。背中を切り開くには、ナイフじゃキッツいなぁ…」

『もう一押し、いるかい?』

 

アスカとレイの会話に男の通信が混じった。

上空には青緑色の戦闘機の姿…アスカの表情が明るく花開く。

 

「加持さんっ!」

『Yak38改は戦闘機としちゃ旧式(ロートル)もいいところだが、

空対地ミサイルはあってね。アスカ、回避しろよ!』

「任せてっ!」

 

ともすれば誤射しかねない位置だが、アスカは加持を疑わなかった。

爆風の余波程度なら、たとえフィールドが中和されていても装甲で防げる。

エヴァ弐号機は、倒立するように射線を空ける。

戦闘機と使徒の相対速度を合わせ、放たれたミサイルは使徒の背に着弾。

半球状に抉られた背肉に赤い球体が露出したのを、レイが指さした。

 

「アスカっち!あそこっ!」

いただきっ(マールツァイト)!!」

 

エヴァ弐号機はアクロバティックに姿勢を変えながら、

左手でもう一本のプログナイフを抜き…

蜂のような一刺しを見舞う。コアは光を失い…完全に沈黙した。

 

『状況終了だな。アスカの勇姿も見届けられたし、俺は先に本部に向かってるよ。

じゃあレイちゃん、彼女のことを頼む』

「はいっ、ありがとうございました、加持先輩っ!」

「うぃー!おつかれー加持一尉ー!」

 

明るく言葉を交わし合う面々…。

戦闘機が空に消え行くのを、アスカはうっとりと見送っていた。

 

「んふふふふー、アスカっちー?乙女の顔ですなぁ。

憧れの加持一尉のナイスアシストに目がハートですなぁ。

カワユスなぁカワユスなぁ」

「う、うるさいわよバカナミ!こらっ!抱きつくなっ!頭撫でるなっ!」

 

図星を突かれた恥ずかしさと、レイの過剰なスキンシップに赤面しながらも、

アスカの抵抗は強いものではなかった。

 

 

……

 

………

 

「Ms.葛城?大丈夫ですか?もしや熱でも?」

「な、なんでもありませんのよ副長!?ほほほほ!

太平洋艦隊のご助力に、感謝致しますわ!」

 

そして、戦闘機の消えた方向を赤い顔で見送っていた女は、ここにももう一人。

狼狽のあまり口調がおかしくなっているミサトである。

()()()が見せた思わぬ漢気に、あやうく惚れ直しかけてしまった、という所か。

 

(加持の奴とはもう何も関係ないはずでしょ!しっかりしなさいよ私!

…それにしても、使徒の動き…どうにも()()()()()()()()()()()わ。

海中に逃げようと思えば出来たはず…どうして…?)

 

落ち着くにつれ、浮かぶのは疑問。その答えは出なかった。




読者の皆様の感想を幾つか反映させて頂きました。
海の上を走ったのはリナレイさんじゃなくてアスカさんでしたが…

原作と違い、Yak38改は加持さん自身が動かしてます。
多芸な人だしパイロット免許ぐらいは持っておろう、ということで。


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30、アスカさん、学校にIN

第3新東京市・第壱中学校。

2年A組、朝のホームルーム。

 

「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく!」

 

アルファベットで黒板に書かれた彼女の名。

 

ふわり、と赤毛を揺らし、振り返った転校生の美貌に、

クラスじゅうの目が釘付けになった。

 

「「「おぉぉ…」」」

「あの子、ハーフ?」「クォーターだってさ」

「超可愛い…激マブじゃん!」「スタイルいいなー。うらやましー」

 

 

(『和を(もっ)(たっと)しと為す』…かぁ。

ふふん、ミサトの言ってた事はよく解らないけど、

この称賛と羨望の視線は悪くないわね)

 

上官たる作戦部長・葛城ミサトの言葉を反芻しつつ、

笑顔の下に本音を隠しながら、アスカは胸を張る。

 

ドイツで大学まで出たにもかかわらず、中学校(ジュニアハイ)に通う事になった彼女。

子供(ガキ)にしか見えない同世代の生徒達や、今更な基礎学問…

日本の『義務教育』というシステムに、初めこそ文句をつけていたが、

教室を満たす声に上機嫌になる辺りは、アスカもまた年相応の子供であった。

 

だが、教室の喧騒に混じった()()()()()()()()が、アスカの動きを止める。

 

「やっふー、アスカっちー♪」

「バッ…んぐっ…!?」

 

アスカの視線の先には、先日()()()()()()濃い出会い方をした綾波レイがいた。

窓側の席で、手のひらをグーパーグーパーする青髪の少女に、

アスカは喉から出かけた仇名(バカナミ)を飲み込む。

クラスメート達の前でせっかく被った猫が、危うく引っ(ぺが)される所だった。

 

「あー…惣流さんの席はー…そうですね…

いま、手を振っているー…綾波さんの隣がー…空いてますのでー…

そこでーお願いします…」

「ハ、ハイ…」

 

担任の老教師、ネブカワ先生の間延びした声に促され、

アスカは笑顔を引きつらせて席へと向かった。

 

「よ、よろしくね、綾波さん!

ってっ…なんでアンタが同じクラスなのよぉッ!?

えー、いいじゃーん?仲良くしようよー

 

余所行きの挨拶の後、小声で()に戻るアスカ。

同じく小声で返すレイに「ぐっ」と喉を鳴らし、彼女は憮然として席についた。

 

この先、共同戦線を張る関係上、パイロット同士で親睦を深めておく事はアスカとしても(やぶさ)かではないが…

レイの何とも言えない()()は、どうにも掴みどころがなかった。

 

(やりにくいわね…)

 

戸惑いの中、惣流・アスカ・ラングレーの日本での学校生活は始まった。



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31、リナレイさん、屋上にIN

「えー…南極に大質量の隕石が落下し…未曾有(みぞう)の大災害を引き起こしました…

これが世にいう…セカンドインパクトでありまして…その後…」

 

ホームルームが終わり、退屈な四時間が始まった。

隙あらば授業中にセカンドインパクトの苦労話を挟む老教師がその原因である。

 

何度も繰り返されるネブカワ担任の話に辟易(へきえき)したのもそうだが、

それ以上に惣流・アスカ・ラングレーを疲弊させたのがクラスメート達だった。

 

授業と授業の合間…休み時間のたびに集まってきては、

やれ「趣味は何?」だの、やれ「ドイツで彼氏は居たのか」だの質問攻めだ。

 

日本語ペラペラの外国人…それもとびきりの美少女とくれば嫌でも目を引くもので、

チヤホヤされるのは悪い気はしないが、度を過ぎればアスカとて苦痛になってくる。

 

「アスカちゃーん、オレと付き合わなーい?」

「っせぇい!」

「おグほォッ!?」

 

ヘラヘラ笑いながら近づく軽薄な男子生徒に、ついにアスカの臨界点が振り切れ、

名も無き勇者(みのぼどしらず)は股間に蹴りを喰らって教室の床に沈む事となった。

アスカの猫被りは結局ひっぺがされ、皆が怖気(おじけ)て終わるかと思いきや、

 

「アスカ様、踏んでください」

「『あんたバカァ!?』はマジで言われたいです」

 

と真顔で言い放つ()()()が台頭。

さすがのアスカもドン引きし、「ひっ」と息を飲んだ時…

 

「不潔よっ!あなた達いい加減にしなさい!惣流さんが困ってるでしょう!?」

 

2-Aのクラス委員長・洞木ヒカリの叫びに、ようやく人垣は散っていく。

二つ縛りのお下げにソバカス顔…素朴な顔立ちではあるものの、

意思の強さと優しさを併せ持つヒカリの笑顔に、アスカは救われた。

 

 

……

 

………

 

「いやぁモテモテだねぇアスカっち~♪」

「うっさいバカナミ…やっぱ中学校にいるのは、バカとガキだけだわ…

NERVの訓練よりも精神的に疲れるってどういう事よ…」

 

昼休み。アスカは机にぐったりと突っ伏していた。憎まれ口にも覇気がない。

顔だけ横に向け、笑顔でからかう綾波レイを恨めし気に見る。

 

「クラスでマトモなの、ヒカリぐらいしかいないじゃない…

この分じゃ期待は出来ないわね。…で、どこ行ったのよ『アイツ』?」

「誰が?」

「あんたバカァ?()()()()()()()()よ、アンタの彼氏!」

 

億劫そうに身体を起こすアスカ。

出席の時に確認した少年の席には、今は誰もいない。

顎に指先を当て、レイは思案するように天井を見た。

 

「んーと…多分ね…」

 

………

 

……

 

 

校舎屋上。

 

「猫も杓子も惣流、惣流…。エラい人気やのぉホンマ」

「あれだけの容姿だ。被写体としても映えそうだしな。

映像には苛烈な性格が出ないのが幸いだね。ぬふふふ…写真、売れるぞぉ~?」

 

購買部のクリームパンを牛乳で喉に流し込み、

鈴原トウジはレイと同じ感想を口にする。

一方、相田ケンスケはカメラを片手にゼリー飲料を啜り、邪な笑いを浮かべた。

 

「ケンスケ…せめて惣流さんの許可は取りなよ、トラブルになるよ?」

「解ってないなぁシンジ。身構えてない自然な表情がいいんじゃないか!」

 

学校では別の意味の3バカトリオの3番目(サードチルドレン)

しかし『3バカの良心』でもある碇シンジは、完食した自作の弁当を片づけながら、

いかにもな理由をつけて盗撮を正当化しようとする悪友に溜め息をついた。

 

 

「やっぱここにいた!おーい!」

「……」

 

男所帯に割り込んだのは、ぶんぶんと手を振る青髪の少女と、

仏頂面をした話題の人物…

 

「お、綾波に惣流やないか」

「おぉっ!?噂をすれば!?」

鈴原(ジャージ)相田(メガネ)に用はないわ。…碇シンジ、ちょっと(ツラ)貸しなさい」

「なんやとぉ!?」

「イヤーンな感じィ!」

 

憤ったり嘆いたり忙しい男二人をスルーし、ジリジリと歩を進めるアスカ。

ただならぬ雰囲気を察したシンジは後ずさる…。

 

「あ、あの…惣流…さん?」

「ふぅーん?」

 

距離は二、三歩、といったところか。

値踏みするようにシンジを睨みあげていたアスカは…突然、足払いを放った。

 

シンジは顔に緊張を走らせ、腰を落として膝を軽く曲げる。

ガッ…!鈍い打撃音と共に、アスカの蹴り足を()()()()()

 

「ハッ!冴えない顔してる割には、やるじゃないの。

無警戒だったらスッ転ばせてやるところだったわ」

「なにするんだよっ!?」

「一緒に戦うパイロットにふさわしいか、試してやるってのよ。

セカンドチルドレンのアタシがね!」

 

手荒い()()に対して抗議するシンジに、青目を据わらせて構えるアスカ。

 

「ちゅうことは…あの女…」

「惣流も、エヴァのパイロット!?凄い、凄すぎるっ!」

 

唐突に始まった生身のバトルと、二人の間で交わされた言葉に、

トウジは茫然、ケンスケは興奮気味にカメラを構える。

 

「おーおー、アスカっちは中々過激な親愛表現をなさるねぇ。

さて、碇くん。どうしのぐ?」

 

ニヤリと笑ったレイは彼らを止める事無く、傍観者に徹するように腕を組んだ。




新劇であっさり喰らってた足払いはガードしました。

シンちゃんは名目上だけじゃなく、
綾波道場で格闘訓練はちゃんとやってた設定です。
ベッドの上だけじゃなく、一応。

次回、ステゴロ手合せ回の予定。


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32、シンジくん、バトル展開にIN

前回までのあらすじ

アスカ「ケンカの話の時間だ!コラァ!!」
扉(グァシァァァ!バァァァン!)
         "!?"
3バカ「「「なっ…」」」
アスカ「相田、鈴原、碇ィ!てめーらブッ殺す!!」
         "!!"


学校の屋上で対峙する二人の適格者(チルドレン)

片や臨戦態勢の惣流・アスカ・ラングレー。

戸惑いながらも迎え撃つは碇シンジ。

 

彼らの戦いを見守る観戦者は三人。

ビデオカメラを構えた相田ケンスケ。

手に汗を握った鈴原トウジ。

そして、腕を組んだ綾波レイ。

 

(んー、NERV(ウチ)保安諜報部(クロフク)は動く様子はないな。

アスカっちも怪我しない程度には手加減する構えだし、

よっぽどヤバくなきゃ静止はナシか。

鈴原の「お前を殴らなアカン事件」の時もスルーだったしね)

 

レイが一度周囲を見回し…そして視線を戻した時、アスカが踏み込んだ。

距離を測るために、祈るような片手を眼前に構えていたシンジは、

アスカが打ち出したワンツーパンチを、掌と手の甲で続けて打ち払う。

 

続けて繰り出された前蹴りを、サイドステップで軸をずらして回避…。

動から静へ…二人の間を、一迅の風が流れた。

 

「…か…かかっ…格好イイ~~ッ!!まるでアクション映画だぁ!」

 

ファインダーを覗き込んだまま大興奮なのはケンスケである。

 

アスカは次いで身体を反転させ、シンジの側頭部を狙って上段蹴りを放った。

フォンッ…!と風を切る音が響く。シンジ、これを頭を屈めて回避。

掠められた黒髪が巻き上がり、少年の冷や汗を散らせる。

アスカの髪が赤い渦を巻くように流れ…陽光を反射して煌めいた。

 

「いやぁ絵になるなぁ!おっ、ハイキック!?

パンモロ来るかっ!?くぅぅっ…見えっ…ない!!

スパッツ装備済みか!いや、だがこれはこれで!!

「黙んなさい外野!エッチ、バカ、変態!信じらんない!」

「こっ、これが惣流のマシンガン罵倒!?ご…ご褒美じゃないかぁ!」

 

ケンスケの欲望ダダ漏れ発言に、アスカの頭の中で「ぷつん」と何かが切れた。

 

「気持ち悪いっ!」

「ウッボァーッ!?」

 

怒りのハイキックは、今度はケンスケの方に牙を剥き、

彼はレンズがひび割れたカメラを構えたまま屋上に倒れた。

 

「…続けるわよ!」

「う、うん」

 

再び向き合うアスカとシンジ。

意識を失ってなお幸せそうな顔でヒクヒクと痙攣するケンスケは、

見事にドM勢の仲間入りを果たしていた。

 

………

 

……

 

 

トウジは、目の前の戦いに完全に見入っていた。

 

「惣流のヤツ、めっちゃ喧嘩慣れしとるやないか!

しかしセンセェもあの攻撃をよう捌くのぉ…

いつの間にあんな強うなったんや?」

「碇くん、格闘訓練は苦手だったんで、

オフの日は、あたしが自主訓練に付き合ってたんだよね。

アレだ。『碇くんはワシが育てた』ってやつよ」

 

「どやー」と胸を張るレイに、トウジは呆れ顔を返す。

 

「綾波…お前が師匠ってガラかいな」

「まーそれは冗談として…。実際、コツさえ掴めば上達は早かったよ。

料理とか楽器演奏が趣味なだけあって、器用で機転も利くしね」

「はァー…センセェは大したもんやな。隠れた才能っちゅう訳か」

「…とはいえ、碇くんにも弱点はあってさ」

 

アスカがまたラッシュを仕掛けた。

パシパシッ、と小気味よく拳と掌が打ち合う音が連続する…

クリーンヒットは未だないが、シンジの表情は徐々に陰っていった。

 

「くっ…!」

「ほらほら、どうしたの!?避けてばっかじゃアタシには勝てないわよっ!」

 

トウジはハッと目を見開く。

そう、アスカに対し、シンジは一度も()()していないのだ。

 

トウジ自身『女は殴らない』を信条とはしているが、

今回ばかりはシンジにそれを強要は出来ない。

してしまえば、今のような打たれっぱなしのままだ。

 

ぽりぽり、レイはコメカミを指で掻く。

 

「良く言えば優しい性格、悪く言えば引っ込み思案。

碇くんは根本的に()()()()()が苦手なんだよねー。

だから防御は上手いんだけど、攻め手に欠ける。

…アスカっちを殴る事を躊躇っちゃってる感じかな」

「ジリ貧やないか!ほんならどないすんねん!?」

「あたしに聞かれても知らんよ、そんなん。

碇くん自身が何とかしない事には、しょーがない」

 

慌てたトウジに、レイは突き放すように言った。

プライベートでは甘ったるいレイとシンジだが、それはそれ。これはこれ。

 

以前、トウジが食って掛かった時には、シンジが怪我をする可能性や、

非常招集という緊急性も踏まえてレイが割り込んだが、

今回は実力試しの手合せだ。私情は挟まない。

 

「シンジィ…」

 

トウジは、心配そうに友人を見守る事しか出来なかった。

 

 

……

 

………

 

シンジは攻めあぐねていた。

慣れていない試合形式の手合せ…

そして、相手が()()()である事。

 

レイとは『深い関係』になっている上、

多少拳が身体に当たっても、互いに訓練と割り切っているからいい。

だが、アスカは別だ。

 

顔や腹は殴れない。胸や下半身も同様。

女への暴力・セクハラの(そし)りは(まぬが)れず、

万一他の女子生徒に見られたら社会的に死ぬ。

建前上フェミニズム半分、本音として自己保身半分といった所か。

 

アスカから仕掛けてきた戦いだというのに理不尽だとはシンジも思うが、

おそらくアスカ自身はそこまで深くは考えていまい。

 

せいぜいが名目通りの腕試し…

あるいは教室で溜まったストレスの発散程度だろう。

 

さらに、シンジの心を掻き乱す要因として、

アスカの持つ『中学生にしては立派なもの』は…揺れた。

激しく動くたびに、ぽよんぽよんと跳ねた。

必死に連撃をかわしながらも、シンジの顔に血が昇る…。

 

「どこ見てんのよ!まったく、なんで男の子ってこうバカでスケベなのかしら!」

「しょうがないじゃないか!目立たないようにサラシでも巻いとけばいいだろ!?」

「キツいから嫌よ!」

「じゃあどうしろっていうんだよ!」

「うるさい!さっさと沈みなさい!」

「ほんっと理不尽だなぁ!」

 

アスカとシンジの舌戦は、観戦していたレイにも影響を及ぼした。

太平洋艦隊…輸送艦オセローでアスカに掛けられた言葉を、ふと思い出す。

 

 

『体型()()は慎ましやかね』

 

 

だけは… だけは…… だけは………

 

(アスカっち…あたしの胸見て鼻で嗤ったんだよなぁ…。

チクショウ、心の中でエコーしてるじゃんよ。

…あ、思い出したらなんかムカムカしてきた)

 

次の瞬間、レイはシンジとトウジまでもを唖然とさせる言葉を叫んでいた。

 

「碇くん!構う事ぁない!おっぱいもいじゃえ!!

「「はぁッ!?」」

「アンタもアンタで女を捨ててんじゃないわよバカナミッ!

もういいわ、これで終わりよ!」

 

アスカはシンジの鳩尾(みぞおち)を狙って正拳突きを放つ。

踏み込みにスピードが乗った一撃だったが、

怒りに捕われたその拳は、いかんせん荒い。

 

「っ…ここだ!」

 

後退する一方だったシンジは、その一瞬を待っていた。

斜め前に踏み出し、アスカの拳に右手を、手首に左手を添え…

自らの身体を反転させつつ、捻る。

 

「きゃっ!」

 

関節を極められたアスカはバランスを崩し、

今までの狂戦士ぶりが嘘のような可愛らしい悲鳴を上げて尻餅をついた。

 

「セ、センセェ…今、何やったんや?」

「小手返し。合気道をベースにした技だね」

 

理解の追い付かないトウジに、レイが答える。

NERV式格闘術は様々な武術や格闘技を取り込んだ総合格闘術…。

シンジは、外傷を負わせずに相手を制圧する技を、

懸命に覚えようとしていた。

 

…ちなみにレイが第四使徒戦で使ったプロレス技(パロスペシャル)は、

格闘術のカリキュラムには入っておらず、完全に趣味である。

 

一方のアスカは、自分の状況を見直し、溜め息をついた。

 

「…手首が完全に極まってるか。無理に動いたら関節が外れるわね。

チッ!悔しいけど、アタシの負けだわ。アンタを認めてあげる。

でも、次は負けないわよ!」

「勝てたのは運だよ。でも、惣流さんに認めてもらえたのは光栄だな。

お手柔らかにね」

()()()。特別に、アスカでいいわ。

アタシも…その…バカシンジって呼ぶから」

「うん。よろしく、アスカ」

 

紅潮した頬を隠すように顔を反らすアスカ。

バカ呼ばわりは彼女なりの親愛表現か。

シンジは軽く笑い、握った手でアスカを引き起こした。

 

緊張が解けたトウジは、倒れたケンスケを背負う。

 

「さてさて…一件落着やな。ワシはコイツを運んでくかの」

「放っておきなさいよ、そんな奴!」

「しょっちゅうアホな事抜かすけど、ケンスケはワシの友達(ダチ)や。

惣流はあんまり良い印象持っとらんかもしれんが、悪気はないねん。

許したってくれんか」

「ふん。友達想いですこと。アンタに免じて、保留しておいてあげるわ」

 

困ったようなトウジの笑いを受け、アスカは憮然と返す。

昼休みの終わりは近い。皆揃って屋上を後にした。

 

「つーかバカナミ…『もいじゃえ』はないでしょアンタ」

「ふーんだ。これ見よがしにアピールするアスカっちが悪いんだよ。

またぷるんぷるんしよったら、もぐぞ!むしろ揉むぞ!」

「やめなさいよ、このバカッ!」

 

戦いの合間の、平和な会話であった。




エンディングテーマ:チチをもげ!(歌:2年A組地球防衛バンド&NERVオペレーターズ)

途中で委員長とかマヤちゃんの「不潔よ!」「不潔です!」って合いの手が入る。


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33、リナレイさん、放課後の空き教室にIN

前回までのあらすじ

アスカ「やるな(ガシッ)」
シンジ「お前もな(ガシッ)」

トウジ「おめでとさん!(パチパチ)」
ケンスケ「めでたいなぁ!(パチパチ)」
レイ「( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!」

委員長「えっ、なにこれは(ドン引き)」


今となっては日本から夏以外の季節は失われてしまったが、

第3新東京市・第壱中学校では(こよみ)上の秋に文化祭を行う事になっている。

2年A組出席番号1番・相田ケンスケは、当イベントに向けて熱意を燃やしていた。

 

エヴァのパイロット3名を擁するこのクラスで、

『地球防衛バンド』なる活動を行うのが彼の望みだった。

 

「と、いう事で…俺の歌を聴けェ~~ッ!」

 

元より多趣味なケンスケは音楽関係にも手を伸ばしており、

放課後の空き教室に級友(クラスメート)達を集めて、

自ら作詞・作曲した楽曲を、スピーカーから流しはじめる。

 

パソコンのフリー音楽作成ソフトとはいえ、

音はなかなかリアルなもので、刻まれる金属質なギターサウンドと、

それに被さるような歌詞無し(スキャット)コーラスで曲が始まった。

弦楽器(ストリングス)とトランペットが場を盛り上げる。

 

セカンドインパクト前、つまり彼らが生まれる前のロボットアニメ…

リアルタイムではなく、()()()で聞いたような、

()()()()()()()()()()()()()メロディだった。

 

「おっ、悪くない感じやないか」

「ふふっ、なんだか懐かしい曲調ね」

「…ガキ臭い。アタシの好みじゃないわ」

 

ケンスケの友人である鈴原トウジ、

そしてクラス委員長・洞木ヒカリの感想は、まず好印象。

一方、惣流・アスカ・ラングレーは『子供っぽさ』を一蹴した。

ジャンルがジャンルだけに、評価が割れるのは致し方ない所である。

 

仮歌はケンスケ本人が歌っている。

特段、美声というわけではないが、喋る時のハイテンションが抑えられ、

丁寧に歌い上げるその歌は、中々に聴きごたえがあるものだ。

 

吟味するように静かに聞き入っていた綾波レイと碇シンジは、

歌詞の端々に聞こえる単語に、時折眉を動かす…。

 

『エヴァ』の名はほぼ知れ渡ってしまっているから仕方ないとして。

その正式名称…出撃時の号令…組織名…武器名…そして…

彼らパイロットが、使徒との戦いで聞き慣れたワード。

()()()()()()()()()()()()()言葉が、そこにあった。

 

「ケンスケ…これ、まずいよ。なんでキミがA.T.フィールドまで知ってるのさ」

「ちょっとパパのIDをちょろまかして…」

 

シンジに問われ、サラリとケンスケは答えた。

NERVデータベースへの不正アクセス…真っ黒(ギルティ)である。

レイは微笑んでいた。目は…笑っていなかった。

 

「いい曲だ。感動的だな」

「おぉ、綾波!解ってくれるか…」

「だが無意味だ」

「ギャアアアアッ!?」

 

次の瞬間、レイの手がケンスケの顔をガッチリ捉えた。

鉄の爪(アイアンクロー)と呼ばれるプロレス技である。

 

「おっ()コレ機密情報漏洩ソングじゃん!どーすんだよ相田こらァッ!

NERV(ウチ)から黒服の兄ちゃん達(ブラックメン)が来るレベルだぞオイッ!」

「ゆ、指ィーッ!指がコメカミに刺さってる!痛い痛いイタタタ!

も、もう少し手心というかっ!なんというかっ!ア゛ァ゛ァァアッ!?」

「『痛くなければ覚えませぬ』っていうだろーがっ!てゆーか覚えろ!」

 

シェルター脱走事件に続く大問題に、さすがのレイもブチ切れであった。

ギリギリギリギリ…それはもう締まる締まる。容赦なく締まる。

 

「このアホメガネ!あんたバカァ!?

予想より遥かに洒落になってない事やらかしてるじゃないの!」

「ごめんなさい相田くん。私じゃフォローしきれないわ」

 

アスカもヒカリも怒るやら呆れるやら、といった所。

シンジは携帯電話を取り出し、上司兼保護者の番号を呼び出した。

 

「…ひとまず、ミサトさんに相談してみるよ。

いくら友達でも、これは黙ってるわけにはいかないし。

出来るだけ便宜は図ってもらえるようにお願いするけど…」

「地球防衛バンド、始まる前に頓挫しそうやのぉ…」

 

トウジは多難な前途を想い、窓の外を見やる。

 

「ふぅゥ―ッ!がるるるる…」

「……」

 

獣のように唸るレイと、コメカミからプスプスと煙を上げて横たわるケンスケから、目を反らすように…。




挿入歌:奇跡の戦士エヴァンゲリオン(作詞作曲・相田ケンスケ)
隠れた名曲です


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34、ケンスケくん、NERV尋問室にIN

チルドレンは今回みんなお休み


NERV本部・白一色のみの尋問室。

 

「お久しぶりね、相田ケンスケくん…

()()貴方を()()に呼ぶことになるとは思わなかったわ」

「ど、どうも…ミサトさ…葛城一尉」

 

淡々としたミサトの声が、縮こまるように座るケンスケを真綿の如く締め付けた。

 

美女と密室で二人きり、というのは少年の憧れのシチュエーションではある。

そんな美人に叱られる、というのも一部の人々に取っては垂涎モノではある。

 

だが、ケンスケが()()()()()のは二度目という事もあり、

空調装置による温度よりも冷たい空気が、その場に張り詰めていた。

 

 

「…さて、『例の歌』だけれど…

幸い、歌詞だけでは実質被害が出ていないわ。

機密と言っても単純な用語だけだしね」

「は、はい」

 

今のところ、大問題は起こっていない旨をミサトは伝えた。

 

特務機関NERVの特令には『コードB-22』という報道機関(マスコミ)向けの情報操作があり、

第三、第四使徒による街の被害は、()()()は爆発事故などとして処理されている。

 

ただ鈴原トウジの妹、アキ嬢のように逃げ遅れて使徒を目撃してしまうケースや、

前回のシェルター脱走などのイレギュラーは起こり得る以上、管制も万能ではない。

 

まして第五使徒に至っては、第3新東京市のド真ん中に

あの青いクリスタルの如き巨大な残骸が、半分ほど解体途中で残っているのだ。

隠しおおせるはずもない。

 

また碇シンジが懸念していたA.T.フィールドについても、

NERVをライバル視する何処ぞの民間企業が、

すでに諜報部を掻い潜って情報を得たとの報告もある。

 

機密は半ば、機密ではなくなりつつあった。

 

「さすがに歌の中で武器のスペック解説でもやってたら、

相田くんも拘束待ったなしだったでしょうけど」

(あ、あぶねぇーッ!)

 

ケンスケの冷や汗が滝になる。

…実は、曲の間奏に入る予定だったのだ。

 

『説明しようッ!プログナイフとはッ!』で始まるお決まり(アレ)が。

 

デモテープに間に合わなかったのは、逆に幸運だったと言えるだろう。

 

 

「ただ問題は、あなたが相田リュウノスケ二尉…

NERV職員であるお父様のIDを不正利用したという事実。

いくら損害が出なかったとはいえ、明確な犯罪行為をお咎めなし、とは行かないわ」

「…っ!」

 

来た、とケンスケは思った。

不正アクセス…嗚呼、軽率極まりない行動を取ってしまった。

罰金…懲役…そんな言葉が()ぎる。

あるいは監督不行き届きで、父が失職させられてしまうかもしれない…

 

身体が震える…息が詰まる…

 

「そこでっ、相田ケンスケくん!あなたには労役(しごと)をしてもらいます!

内容は『地球防衛バンドをプロデュースすること』!

CD音源とプロモーションビデオ…そして文化祭でのライブ映像を、NERVに提出しなさい!」

「…へっ?」

 

ピッ、と人差し指を立て、悪戯っぽい笑みを浮かべてウィンクしたミサトに、

ケンスケは間抜けな声と共に顔を上げた。

 

「今回の件は事件にせず、あなたやお父様の責任は追及しません。それが報酬よ。

音楽スタジオの使用料や、楽器のレンタル費用はNERV(こちら)で持ちます」

「お、俺は有り難いですけど…どうしてそこまで…?」

 

眼鏡越しに瞬きするケンスケに、ミサトは微笑んでみせる。

 

「あの音源、オペレーターのみんなにも凄い評判だったのよ。

軍歌っていうと変だけど、組織の士気向上に役立つんじゃないかってね。

かくいう私も、テンション上がったわー♪」

「マ、マジですか!?ミサトさんが…なんだか、意外ですね?」

「あら、私もセカンドインパクト前は小中学生(コドモ)だったわ?

()()()()()()()()()()()()()()()とか好きだったもの。

…期待してるわよ?」

「お任せください!男、相田ケンスケ!やってみせます!」

 

立ち上がり、拳を握るケンスケ。

地球防衛バンドは…かくして、始動に至った。

 



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35、リナレイさん、スタジオにIN

某音楽スタジオの一室には、バンドメンバーが集まっている。

 

木質床材(フローリング)の清潔感のある部屋の中、

いまいち乗り気でない惣流・アスカ・ラングレーは、

マイクを手に仏頂面で周囲を見回した。

 

 

 

「んじゃ行くぞォ~!ワーン、トゥー、スリー、フォー!」

ドラムセットの丸椅子に座り、スティックを頭上で打ち鳴らしてカウントを取るのは、

全ての元凶である相田ケンスケ(アホメガネ)

 

低音四弦(ベースギター)でリズムを刻んでいるのはアスカの親友、洞木ヒカリ(イインチョ)だ。

中高生という目立ちたい年頃には地味な印象で敬遠されがちな楽器も、

ヒカリにとっては新鮮で楽しいらしく、ドラムと合わせたリズム帯は非常に安定している。

 

鈴原トウジ(ジャージ)はいつになく真面目な顔でギターを掻き鳴らしており、

彼を横目で見るたびに、ヒカリのお下げがピョコピョコと上機嫌に跳ねていた。

 

(優等生のヒカリが、3バカ&バカナミと絡むなんて珍しいと思ったけど…

ふーん、そういうことか…あんな関西弁山猿のどこがいいのかしら?)

 

親友の恋は応援するべきだろうが、アスカの想いは複雑だった。

 

 

 

キーボード担当の碇シンジ(バカシンジ)は、5歳の頃から「先生」と呼ばれる親戚の勧めでチェロを習っており、そういう意味ではこのメンバーの中で最も古くから音楽に触れていると言えた。

鍵盤楽器はチェロの調律の時にピアノを使う程度ではあったが、

持ち前の感覚で『それっぽい』メロディを奏でられるようになってからは、

説明書を片手に演奏領域(レイヤー)を分割し、多数の音色を使い分けている。

 

「Woo~♪Oh~♪Ah~♪」

先日はケンスケの顔にアイアンクローをかましていた綾波レイ(バカナミ)も、

NERVからGOサインが出た今では、ノリノリでスキャットを歌っている。

演奏中、視線交換(アイコンタクト)と笑みを交わすレイとシンジを見て、アスカは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

(はいはいゴチソウサマ!言葉もなく惚気やがって。ケッ!)

 

優しい彼氏を持ったレイに嫉妬しているのか。

それとも悪友(レイ)を彼女にしているシンジにか?

アスカ自身にも解らなかった。

 

………

 

……

 

 

レイと共にツインボーカルを務めるアスカは、その身体能力の高さから歌声にパワーがある。

 

しかし曲調の子供っぽさはやはり気に入らず、

可もなく不可もない()()()歌い方になってしまっていた。

叩いていたドラムを止め、ケンスケは胸を掻きむしる。

 

「違う!違うんだよ惣流!

Bメロとサビの間には『ジャカジャカジャンッ』ってタメが入るんだ!

『ジャカジャカジャンッ』がさぁ!」

「あぁーっもう!知らないわよアホメガネ!

やってられないわ!こんなの小学校の学芸会…

いいえ、幼稚園の()()()()の延長じゃないの!」

 

苛立ちに任せ、アスカはスイッチが入ったままのマイクを床に叩きつけた。

 

ガゴンッ!キィィ――――ッ!!

 

「うわっ!」「きゃっ!」

 

マイクが増幅した落下音と同時に、不快なハウリング音が起こり、

シンジとヒカリが短く悲鳴を上げて耳を塞ぐ。

 

「おい惣流!機材は大事にせんかい!」

「うるさいわね!どうせ壊れたって修理費はNERV持ちでしょ!?」

 

トウジに咎められたアスカは、怒鳴り返して部屋の防音扉に手を掛ける。

 

その逆の手首を、細く白い手がガッシリと掴んだ。

噛みつかんばかりにアスカは振り返る。

 

「離しなさいよバカナミ!」

「アスカっち、子供のお遊戯っていうのが嫌ならさ、

アイドルみたいなモンだと思えばいいんでない?

美貌とカリスマでみんなの視線を釘づけなんて、アスカっちにピッタリじゃん?」

「ふん、そういうのは転校初日で懲りたわよ!

()()()相田(アホメガネ)みたいな有象無象(うぞうむぞう)に媚びろってぇの?アタシに!」

「例えが凄くイヤーンな感じ!」

 

レイがアスカを説得する合間に、ナチュラルにディスられ、仰け反るケンスケ。

 

「いーや、観客の中に加持一尉がいるって想像してみたらどうよ?

衣装もメイクもバッチリ決めたアスカっちの姿…

歌もダンスも最高に磨き上げて、観客席にいるカレに捧げる…どうよっ!?」

「…っ!?」

 

憧れの男性…加持リョウジの名を出され、アスカは息を飲んだ。

昔の女(ミサト)に言わせれば不精髭のだらしない男も、

アスカにとってはワイルドで素敵な大人の男性だ。

5秒…10秒…考え込んだままアスカは静止する。

 

 

「…センセ、誰や『カジ』て」

「あぁ、NERVのドイツ支部から出向してきた人だよ。

アスカのボディーガードだって」

「ほォー…」

 

トウジに耳打ちされ、シンジは小声で答えた。

たっぷり1分考えたあと、アスカは顔を赤らめてマイクを拾い上げる。

 

「ふ、ふん。このまま逃げ出すのもカッコ悪いしね。

まぁいいわ。続けてやろうじゃないの」

 

(チョロいな)

(チョロいね)

(チョロいのぉ)

(チョロいわね)

(アスカっちチョロかわ)

 

誰も何も言わぬまま、皆が同じ事を思っていた。

 

 

ちなみに加持本人は、シンジとの初対面時、

空母(O・T・R)で聞けなかった葛城ミサトの寝相について改めて尋ねたところ、

当のミサトに手加減なしの腹パンを撃ち込まれてNERV本部の廊下で悶絶していた。

シンジがそれを暴露しなかったのは武士の情けである。

 

 

その後、NERVでの訓練や学校が終わった後にスタジオ入りし、

演奏に歌に踊りにとパフォーマンスを磨き上げていく地球防衛バンドの6名。

 

チルドレン達に緊急招集が掛かったのは、

開始からちょうど一週間経った日…練習の真っ最中だった。




地球防衛バンドはちょっと担当パートが変わってます。
イインチョがボーカルからベースに変更。
アスカっちとリナレイさんがボーカルに。
3バカは原作通りです。

次回、甲乙なアイツの予定


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36、イスラフェルさん、紀伊半島にIN

紀伊半島沖を哨戒していた国連(UN)・第二方面軍の巡洋艦「はるな」より、海中の巨大潜航物体発見の報があったのは、その日の午後だった。

 

先の第五使徒戦で第3新東京市は、復旧した兵装ビルを含めても、迎撃システムの半分以上を失っており、実戦での稼働率はほぼ期待出来ない状態である。

 

 

故に、作戦部長・葛城ミサトは上陸直前の目標を水際で迎撃するべく、エヴァンゲリオン3機を輸送機(ウィング・キャリアー)に搭載。一路、西へと飛ばした。

 

セカンドインパクトの際、津波や地球規模の水位上昇で水没した沿岸部の都市は多かったが、ここ紀伊半島も例に漏れず、かの災害から15年経った今でも、海からは建物の残骸が覗いている。

生々しく爪痕が残った海辺で、パイロット達はエヴァ各機に搭乗。

地上の輸送部隊が運んできた電源ソケットを装着し、フォーメーションを組んだ。

 

 

惣流・アスカ・ラングレーの駆るエヴァ弐号機、および綾波レイの零号機は、ソニックグレイブという薙刀状の武器を手に前衛を担当。

 

碇シンジの初号機は、第五使徒の加粒子砲のダメージが素体そのものに残っており、格闘戦を行うには機動性に不安が残るため、長銃身(ロングバレル)の実体弾ライフルで後衛を担当する。

 

「NERV松代支部・MAGI2号の分析では、波長パターン青。

目標は、第七使徒と判明したわ。

国連軍との会敵の結果、ビーム攻撃、およびA.T.フィールドを確認。

どちらも出力は第三使徒と同等。またはそれ以下というデータが出てる。

少なくとも、第五使徒のように難攻不落の要塞ではないわね」

 

ミサトは後方の通信車両より、データをエヴァ各機へと送りながら言葉を付け加えた。

 

「楽勝じゃん!アタシ一人で充分ね!」

「なんで急に弱いのが出てくるんだろう?何か、裏があるんじゃないかな」

「はァん?ビビッてんの、ヘタレシンジ?

怖いならバカナミと一緒に第3に帰って、バカップル同士で乳繰り合ってれば?」

「なっ、なんだよ、そんな言い方ないだろ!?

僕は油断しない方が良いって言いたいだけで!」

 

映像回線で噛みつき合うアスカとシンジ。

その間にレイの明るい青髪が、割り込むようにポップする。

 

「まーまー碇くん、いい機会だしさ。

格好(カッチョ)よく啖呵(タンカ)切った()()()()()()()()()様のゲルマン魂、見せてもらおーじゃないの。

あ、あとアスカっち、あたしらは休日(オフ)ん時に存分にイチャついてきたから。

お気遣いは無用だよん♪」

「ちょっ、綾波さん!?」

「あーそうですかー!お熱いわねぇっクソったれ(シャイセ)ッ!」

 

弄るつもりがカウンターを返され、アスカは母国(ドイツ)語で悪態をついた。

明るく惚気るレイと真っ赤なシンジを、ミサトは呆れ半分、苦笑半分に見やる。

 

「あんた達ねぇ……まぁいいわ。

バンド練習を通じて、忌憚なくモノを言い合える仲になった、としておきましょう!

アスカ!今回は、そのやる気を買って先鋒を務めてもらうわよ!」

「望むところよ!来たわっ!」

 

 

第七使徒は、飛沫を上げて海中から姿を現した。

エヴァと同等の大きさ、そして頭のない二足歩行という点では第三使徒と同じだが、

上半身から伸びる両腕は三日月のように一繋がりでシャープな形だ。

胴体と下半身はヒョロっと細長く、ヤジロベエに近い。

 

金属質な光沢とは裏腹に、その三日月はゴムめいた柔軟性を持っており、

万歳でもするように、上弦と下弦を行ったり来たりした。

 

 

文字通りの()()()。アスカは一気にレバーを押し込んだ。

足と海水の接触面にA.T.フィールドの疑似波紋を広げ、弐号機は高速で使徒に迫る。

 

零号機のフィールドでは水を拒絶しきれず、

浅瀬にエヴァの足首を沈めながら、レイは弐号機を追った。

 

「くぅー、やっぱシンクロ率80パーが境目か!

さすがにあたしにゃ()()()()()は無理だな……ん?」

 

レイは使徒の胴体に目をやる。

三日月型の腕の中間点には、赤と青の勾玉を横に重ねたような、陰陽(Yin&Yan)に近い正円。

その下には、小さな赤い球体が縦に並んでいた。

 

「アスカっち!この使徒、コアが二つある!」

「だったら一緒に叩ッ斬りゃいいだけよ!」

 

使徒が陰陽円から放ったビームを跳躍回避し、弐号機はその流れで大上段から薙刀(グレイブ)の刃を振り下ろす。

頭の無い三日月の中心から股下まで、見事な唐竹割りだった。

極彩色のゼリーのような切断面が覗いている。

 

「ふん、あっけないわね。やっぱりアタシ一人で……なにこれ!?」

 

アスカは目を疑った。二つのコアはそれぞれ右と左に移動し、刃を()()()のだ。

ずるり、と脱皮するように、使徒は姿を変えた。

 

陰陽円はボーリング玉のような三つ穴のついた円に。

そしてコアは一つに変わっていたが、それ以外は攻撃前と同じ姿の使徒が()()立っている。

 

「くっ!……えぇっ!?」

 

アスカは後方に跳んで距離を取ろうとし、バランスを崩す。

相手のA.T.フィールドを中和した時、()()としてのフィールドも中和されていたため、弐号機の足も浅瀬に取られたのだ。

 

赤い機体を後ろから抱き止めるように辛うじて支えたのは、追いついた零号機。

もう片手で突き出したグレイブを、分裂した片方の使徒に突き立てて足止めする。

 

「バカナミッ!?助けろなんて言ってないわよ!」

「こら!強がってる場合と違うぞアスカっち!複数には複数で……ヤバッ!?」

 

使徒のもう片方がエヴァ二体に飛びかかる。三日月腕の先端に光るのは、鋭い爪。

 

「目標をセンターに入れて……スイッチ!」

 

後衛にいたシンジはスコープ越しにもう一体を睨みつけ、トリガーを引いた。

初号機の狙撃(スナイプ)は、使徒の中心を捉えてその身体を後方に押し戻す。

爪の攻撃はギリギリで反らされ、その隙を見て零号機と弐号機は後退した。

 

薬莢を排出し、シンジはもう一度銃声を響かせたが、

使徒の胸にある赤い光球は、ヒビを見る間に修復していく。

 

「ミサトさん!コアを直撃してるはずなのに効いてないっ!奴の弱点はどこですか!?」

「いま解析中よ!三人とも、なんとか持たせて!」

「もーっ!なんなのよコイツ!こんなんインチキッ!」

第五使徒(サイコロ)より楽かと思ったらこれだよ!」

 

不安を交錯させるNERVの面々。

戦いの行方に、暗雲が立ち込めていた。



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37、ネルフの皆さん、即席ライブにIN

「もぉーっ!潔く倒れなさいよ、うっとうしいわねぇ!」

「うひー!切っても切っても生えてくるよ!こいつらプラナリアかってーの!」

「ダメだ、銃も効かない!」

 

アスカ、レイ、シンジ…3人の子供達(チルドレン)の不平が交差する。

分離した第七使徒と、エヴァ零号機・弐号機との剣戟(チャンバラ)は終わることなく続いていた。

 

薙刀(グレイブ)でコアを突いても、さりとて腕や足を切っても敵の傷は再生する。

初号機による狙撃もまた、どこに当たっても効果は見られない。

 

二体の使徒は、弐号機へと肉薄した。

 

避けろナッパァ!

「誰がナッパよっ!」

 

レイの警告に対し、アスカは自棄(ヤケ)気味にツッコミを入れながら、

袈裟掛けに振り下ろされる使徒の腕…三日月の先にある『爪』を横飛びに回避する。

 

 斬 ッ 

 

水面から突き出たビルの残骸が()()()()()()()()、海に沈んだ。

風化が進んでいるとはいえ、鉄筋コンクリートの建物が、だ。

その切れ味に目を見開いたアスカは、もう一体の接近を許してしまう。

 

三日月型の腕の一端が鞭のごとく()()()

アスカの駆る弐号機はグレイブを構えて爪を防ぐも、

腕そのものにアッパーカットの要領で下から打ち上げられ、遠く吹っ飛ばされた。

 

「きゃあっ!」

 

へし折られたグレイブを飛び散らせ、頭から落ちていく弐号機。

真下に伸ばした片手の先にA.T.フィールドを展開し、海面を弾いてバク転した。

両足と左手をつき、屈んだ体勢で着水…空いた右手でプログナイフを装備する。

 

「クソッ、見た目ショボいくせに馬鹿力ね!

危うく『イヌガミケ』になる所だったじゃないのよ!」

 

アスカは以前、興味本位で見た日本映画のワンシーンを思い出す。

湖から逆さまに両足が出ているシュールな図…

自分の弐号機に、あんな恥ずかしい格好はさせたくない。

 

しばしの後、エヴァのパイロット達に通信が入った。

 

『聞こえますか!NERV本部の伊吹です!

二体は元々同じ使徒…互いのダメージを補い合っている模様!

()()()()()()()()()破壊しないと即時回復してしまい、殲滅できません!』

「マヤちゃんってばっ!簡単にっ!言ってくれるなぁ!ってか手数多い多いっ!」

 

本部と松代支部、二台のMAGI総動員でのデータ解析結果を、童顔の技術オペレーターが伝える。

その最中に使徒二体は目標を零号機へと変え、レイはその回避行動に掛かりきりになっていた。

 

弐号機が追いついて2対2に戻るも、同時にコアを攻撃するのは至難の技だ。

片方が当たったと思えばもう片方が外れ、コアは瞬く間に修復されてしまう。

 

「バカナミッ!3秒遅いわよ!」

「アスカっちが2秒速いんだってば!」

「臨機応変!合わせなさい!」

「無茶をおっしゃる!って、わぁあ!」

 

使徒も黙ってやられてはくれない。

爪の横一閃で零号機のグレイブも刃を吹っ飛ばされ、ただの棒になったそれをレイは投げ捨てた。

状況を見守っていたミサトは、苦い顔で目を細める。

 

(らち)が開かないわね。最悪の場合、国連軍にNN爆雷の投下を要請するしか…』

「エヌツぅ~~!?そんなんやったら地図が描き変わっちゃうじゃん!

冬月副司令(ふゆつきのじっちゃん)、胃に穴空いちゃうよ!!」

 

エヴァ以外で現状唯一ダメージを与えうる兵器の名に、レイは声を裏返す。

 

第三使徒戦でも、郊外に大きなクレーターを作りながら、使徒の()()()しか出来なかった。

NN兵器の使用要請は、国連軍から法外な値段の請求書を送られることに繋がり、

破壊された施設の被害についてはNERVの責任が追及される。

 

予算を捻出する上層議会からの嫌味と、セカンドインパクトからようやく復興してきた一般市民から来る抗議との板挟みだ。

さらに碇ゲンドウ総司令は、副司令の冬月に面倒ごとをブン投げる事が多く、レイはそれを懸念していた。

 

作戦部長のミサトとて、出来ればあの破壊兵器は使いたくない。

甚大な被害は免れず、始末書の海に溺れるのは自分なのだから。

 

不意に、シンジの初号機がライフルを放って前に駆け出した。

素体ダメージが残っているぶん、反応(レスポンス)は鈍いが、

推進装置(スラスター)を吹かせば前線で戦う二機に合流できる。

 

『シンジくん!?今の初号機で格闘戦は不利よ!』

「ライフルは誤射の危険があるだけで使徒に効きません!

囮とA.T.フィールドの中和だけなら僕にも出来ます!

アスカと綾波さんが、タイミングを合わせる隙を作らないと…」

『タイミングを…合わせる?()()だわっ!日向くん!()()()を流して!』

『あ、あれを、ですか?』

『はやく!』

『は、はいっ!』

 

シンジの言葉に『得たり』とばかりにミサトは手を打ち、傍らの部下…

日向マコト二尉に命令を出した。

 

本部発令所と、エヴァ各機のエントリープラグ内に曲が流れ始める…

 

「なによこれ、今バンドで練習してるアレじゃないの」

「ははーん?メロディーに合わせればタイミングも合うか!」

 

聞き慣れたメロディーに怪訝な顔をしたアスカに対し、レイはニヤリと笑った。

双使徒は同じ動きでエヴァ零号機と弐号機に爪で刺突…

 

エヴァ二機は()()()後方に飛びすさり、

使徒から()()()放たれたビームを、

()()()A.T.フィールドで防いだ。

 

(身体が自然に動く!?なにこれっ!?まさか、あの曲の振りつけ!?)

 

アスカは、自分の動きに驚く。

学園祭ライブを想定し、作曲者の相田ケンスケが自ら考案したモーション…

ボーカル担当のレイとアスカが鏡合わせに動く振りつけは、

この一週間で身体に染みついていた。

 

無論、戦いはそれ自体が生き物である以上、動きにはアドリブが必須だが、

それでも零号機と弐号機の動きは、見事なまでに同調(ユニゾン)していた。

 

「アスカっち!5分(フルコーラス)とは言わない。

1分半(アニメOPサイズ)でケリつけるよ!」

「その言い方で解るアタシが嫌だわ!

どっかの相田(アホメガネ)が熱く語ってたせいでね!」

「碇くん!サポートよろしく!」

「やってみる!」

 

初号機は、使徒達のちょうど真ん中を目指すように突進。

両手に一本ずつ持ったプログナイフで爪を受け、力に逆らわずに流す。

キーボードの役目は音の隙間を埋めること。

勝負を決めるのは主役のボーカルだ。

 

動きの鈍い今の初号機で敵にダメージを与えることは期待しない。

敵二体を引きつける囮役と、A.T.フィールドの中和に専念し、

零号機と弐号機が、同時攻撃できるだけの隙を作れれば、それで充分…!

 

「綾波さん!アスカ!今だっ!!」

「「やぁ――っ!!」」

 

赤と黄、二機が高く跳躍し、降り注ぐような飛び蹴りを放つ。

同時にコアに突き刺さるつま先…

相互補完されていたダメージは行き場を無くし…使徒は十字架型の爆発を起こした。

 

水しぶきは高く高く…紀伊半島の空に虹が掛かる。

歌の一番が終わったタイミングジャストでパターン青、消失。

人類はまた、使徒との戦いで勝利を納めたのだ。

 

 

 

「わぁーっ!溺れる!溺れる!泳げないんだよ、僕はーっ!」

「落ちつけー碇くーん!LCLがあるんだから窒息しないぞー!」

「バカシンジ!ヒーローアニメを気取るなら最後くらい格好よく決めなさいよっ!」

 

なお、その爆発により水底が盆のような形に削れたため、周りからは大量の海水が流れ込んだ。

じたばたと暴れる初号機の首根っこを掴み、零号機と弐号機が曳航していく、

なんとも締まらない図になったという…

 

………

 

……

 

 

時は少々遡る。

 

葛城ミサトが突発でユニゾン作戦を提唱し、曲が始まった頃。

司令席のゴンドラが下からせり上がり…碇ゲンドウ総司令その人が上がってきた。

 

髭を剃ったため、幾分強面度は下がったものの、

長身黒服サングラスという姿はやはり威圧感があった。

 

その司令が、手に、()()()()()()()()()

 

「「「司令!?」」」

「碇、お前…」

 

どよめく職員一同。ドン引く冬月副司令。

ゲンドウは瞳をサングラスの逆光に隠したまま、マイクを手に取る。

 

「青葉二尉」

「は、はい!碇司令」

エアギターを弾きたまえ

「へっ!?」

「二度は言わん。曲が始まってしまう。やらんなら…帰れ!

「イ、イエス・サー!青葉シゲル、エアギター、やらせていただきます!!」

 

青葉は命じられるままに実体のない楽器を構え、ゲンドウは渋い喉を響かせて歌い出した。

 

モニターの中ではエヴァ三機が、即席のユニゾンアタックで使徒を圧倒している。

それに合わせて、ゲンドウはマイクを掲げ、空いた腕を伸ばし、キレッキレの動きで踊る。

青葉が高く掲げた左手でエアギターのエアネックを抑え、右手のエアピックでエア弦を掻き鳴らす。

 

「…Wooooo!!」

「ジャッジャッジャッジャジャジャン!!」

「…あ、パターン青、消失しました…状況終了です…」

 

戦闘が終了した事を、遠慮がちに伝える日向マコト二尉。

 

無駄にクオリティの高いパフォーマンスを終え、

NERVの『いちばんえらいひと』とロンゲオペレーターは、

()()()()()顔でキメていた。ドヤァ…。

 

「碇め…恥をかかせおって…」

 

職員達がフリーズしている中、冬月は一人、目頭を押さえていた。




エンディングテーマ:「奇跡の戦士エヴァンゲリオン(歌:碇ゲンドウ)」

碇司令、学生時代はバンドのボーカルやってたらしいよ。確か、タカダバンドとかいうの


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38、ロンゲくん、バンド指導にIN

前回までのあらすじ

ラジオDJ「では、次の曲です!
ラジオネーム『コマンダー☆ゲンちゃん』さんからのリクエストで…
『奇跡の戦士エヴァンゲリオン』!どうぞっ!」

オペレーター衆「「「あっ(察し)」」」


第壱中学2年A組・地球防衛バンドは、スタジオ練習を再開していた。

今は指導役として、NERVオペレーターにしてバンドマンの青葉シゲルが、

ギターを担いで訪れている。

 

「俺の特訓は厳しいぜぇ~?」

と、冗談交じりに笑っていた青葉だったが、実際の彼は面倒見が良く、

バンドメンバー全員が音響機器(PA)の使い方を一通り覚えた。

またギター担当のトウジ、ベース担当のヒカリの演奏技術は、各段に上達していた。

 

1時間程練習したあと休憩を取り、

青葉の前に6人の少年少女が、お茶やジュースを手に扇状に並ぶ。

 

「いやー、あたし正直ロンゲくんを見直したわ。

バンド全体の音が気持ちよくまとまったもん」

「いいんですか、青葉さん?使徒戦の事後処理で忙しいのに…」

「ハハッ、大丈夫だって。葛城さんからは

『経験者として地球防衛バンドを助けてやって欲しい』

って頼まれてるからね。

俺の方も、若い世代との交流は刺激になるから、大歓迎だよ。

()()()()()()ギターにも触れるしな」

「…すいません。父さんが暴走したばっかりに…」

 

シンジは申し訳なさそうにしているが、青葉の表情は楽しげだ。

レイから『ロンゲくん』と呼ばれるのも最早慣れたし、称賛されれば悪い気はしない。

 

ケンスケとトウジは練習の汗を拭いながら、充実した顔をしている。

 

「資金的にも技術的にも、NERVの全面サポート有りで音楽活動が出来るなんて、

まさに持つべきものは友達って感じだよ、なぁトウジ?」

「せやなぁ、センセェ達にもシゲル()ィにも頭下がりっぱなしや!

ミサトさんにも、よろしくお伝え願いますわ!」

「葛城さんも昇進して忙しい時期だからな。

あの曲も今じゃNERVの応援歌みたいになってるし、

君達が頑張ってくれれば、励みになると思うよ」

 

青葉の言葉にアスカが小首を傾げ、ヒカリはパチリと手を叩いて表情を明るくした。

 

「えっ、ミサト…昇進したの?」

「まぁっ、おめでたい事ね!」

「しょっ、昇進んん~~!?一尉から、三佐になったって事かぁーっ!?」

 

突然興奮しだしたケンスケに、皆がギョッとして顔を向けた。

青葉が乾いた笑いを浮かべる。

 

「ケ、ケンスケくん、ちょっと落ち着きなって…」

「これが落ち着いていられますか青葉二尉っ!?

NERVの作戦部長として功績を重ね、あの若さで佐官にまでなったんですよ!

綾波、惣流!ミサトさんの襟章は確認したか?ラインが増えてなかったかっ!?」

「やー知らん。そこまで見てないよあたしは」

「そんなマニアックな所を見るの、アンタぐらいよアホメガネ」

 

ふるふると首を横に振るレイに、ドン引きした様子のアスカ。

ケンスケは何とも言えぬ形相で顔を動かす。

 

「じゃ、じゃあシンジは!?

ミサトさんの家にお世話になってるシンジなら、

それがどれだけ凄いことか…解るだろう!?」

「いや、ミサトさんは何も言わなかったし…

あ、でも冷蔵庫の中のツマミの種類が、やけに増えてたなぁ…

お店でも開くんじゃないかってぐらいに。そうか、昇進してたのか…」

 

葛城家の飼いペンギン(ペンペン)がその恩恵に預かり、

子持ちシシャモの袋を爪で器用に開け、優雅に晩酌していたのを、

シンジはようやく思い出した。

 

「あぁぁっ…嘆かわしい!

一番身近にいるはずのパイロット達が、この有様とは!

君達には思いやりというモノはないのかっ!?」

「ホンマやでぇ。人の心ォ持っとるのはワシらだけやな!」

「ふん、バッカみたい」

 

大げさにガックリと項垂(うなだ)れるケンスケと腕を組んで頷くトウジを、アスカは鼻であしらう。

 

 

「でも確かに、ちゃんとミサトさんに『おめでとう』って、言ってなかったな」

 

友人達の言葉に思う事があったか、シンジはポツリポツリと零した。

 

「だったら、今からでも遅くないわ。

葛城さんにはバンドとしてもお世話になってるし、お祝いしましょうよ!

わたし、お料理だったら作るわよ?」

「ヒカリちゃんのお料理かぁー。お弁当いつも美味しそうだから期待大だなぁ。

あたしも碇くんから教わったの、チョイチョイ作ってみよっかな?」

 

ヒカリとレイが相槌を打つ。

 

(幸せだな、葛城さんは)

自然と盛り上がる子供達の話に、青葉は目を細めて場を見守った。




ロンゲくんこと青葉さんが地球防衛バンドの指導要員に入る話は、
サターン版2ndインプレッションより。

ミサトさん、失策の少なさから原作よりも使徒二体ぶん早く昇進。
これにより葛城家の冷蔵庫がツマミ天国と化す。

なお、即席ユニゾンをサクッと成功させちゃったので、
アスカっちは葛城家に同居してません。
おそらくNERV職員寮在住。

しばらく細かいエピソードは順番シャッフルされる予定です。


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39、地球防衛バンドのみなさん、ミサトさん昇進パーティにIN

メシを食うだけの回。セリフは新旧いろんな所から


中層マンション・コンフォート17の一室。

葛城ミサト三佐昇進パーティは大所帯だった。

 

誕生日席には『本日の主役』と書かれた(タスキ)を掛けたミサト本人。

 

親友のリツコは、明るい緑基調のカジュアルな服に身を包んでおり、

怜悧な白衣姿の『赤木博士』とは違う、柔らかい印象を纏っている。

加持リョウジは普段と同じクールビス姿だ。

 

そしてテーブルを囲うのはパーティを企画した第壱中学・地球防衛バンドの6名…

プラス、()()

 

 

「それでは僭越ながら、わたくし、相田ケンスケが音頭を取らせて頂きます!

葛城ミサト三佐!ご昇進、おめでとうございます!乾杯!」

「おめでとうございまーす!」「かんぱーい!」「クァックァー!」

「ありがとうみんな!」

 

成人はビールを、子供達はソフトドリンクを手にコップを掲げる。

葛城家のマスコット、ペンペンまでも、両羽で挟んだ缶ビールで乾杯に参加していた。

 

(なぁんでアホメガネが仕切ってるのよっ!

こういうのは素敵な大人がやってこそじゃないの?

アンタなんか加持さんに比べれば月とスッポン…

いいえ、月とゾウリムシよっ!)

 

…約一名、不満げにコーラをあおった少女もいたが、めでたくパーティは始まった。

 

 

所狭しと並ぶ料理に、思い思いに手を付ける面々。

白っぽいソースの小鉢にはポテトチップスが添えられており、

まずはケンスケがそれを掬って口に運ぶ。

 

「…これはっ、クリームチーズの濃厚さ、ツナの旨味っ!

普段食べてる駄菓子が、こうも美味しくなるとは!まさに驚愕だよ!」

「ふっふっふ、碇くん直伝のチーズディップだよん♪

『混ぜれば出来る』って、料理初心者にはありがたいよねー♪」

「ふぅん、まぁまぁね。バカナミにしちゃ、やるじゃないの」

 

基本的に()()()()()はレイが担当しており、

アスカは明太子マヨネーズで味付けされたマッシュポテト…

薄ピンク色のタラモサラダをパクつきながら評する。

『まぁまぁ』と言いつつ、アスカの箸のペースは早かった。

 

 

 

 

テーブルの中心には、シンジが作った魚介パスタが山盛りになっている。

皿に取り分けたそれを口にしたミサトが、目を見開いた。

 

「うンまっ!ホタテの貝柱が効きまくってるわ、このパスタッ!

あとシンちゃん、アンチョビなんていつ買ったの!?」

「買ってませんよ。パスタに入ってる魚は、煮干しのオリーブオイル漬けです。

ニンニクと鷹の爪を一緒に漬けこみました。

その、勝手にツマミを料理に使っちゃってすいません」

「いいのいいの。こんだけ美味しくなるなら大歓迎よん♪」

 

上機嫌な本日の主役を横目に、加持は同じくパスタを味わっている。

ミサトの料理の酷さを知る加持は、ニヤついていた。

 

「葛城、お前中学生に負けてるんじゃないか?」

「祝いの席に水を差さないでくれる?

加持一尉、後で覚えておきなさいよ」

「ハッ、失礼致しました!いやぁ参った参った。

上官殿に不敬を働いたら処罰されちまうなぁ?」

「なァに言ってんのよ、バァカ」

 

加持は一瞬だけ真面目な表情を作って敬礼した後、すぐに表情を緩めて軽口を叩き、

ミサトはビールで喉を湿らせながら、ジト目を返す。

睨まれた加持は、おぉ怖い、と悪びれもせず肩を竦めた。

 

「しかしシンジくん。見事な味付けだな。台所に立つ男はモテるぞぉ?」

「いや、そんな…」

「リョウちゃん、必ずしもそうとは言えないみたいよ?」

 

リツコがクスリと笑い、視線をやった方向には、

ガツガツと掻っ込むトウジと、食べっぷりを嬉しそうに見つめるヒカリがいた。

 

「イインチョ!この唐揚げめっちゃ美味いで!メシ何杯でも行けるわ!」

「あ、ありがと…でも、鈴原?

野菜サラダも作ったんだから、ちゃんとバランスよく食べなさいよ!」

「わかっとるがな!イインチョはまるで母親(オカン)みたいやのぉ!」

「なっ、何を言うのよっ!?」

 

他意のないトウジの言葉に真っ赤になり、その実、満更でもなさそうなヒカリ…

別の意味で腹いっぱいになりそうな光景に、加持とリツコは苦笑する。

 

(まぁ作る側としても、美味しく食べてくれる人がいれば嬉しいもんな)

普段からレイとイチャついて甘い空気を作っているシンジは、少々ズレた事を思っていた。

 

 

 

 

 

「クワァ~~ッ!クォッコッコッ!クァァッ!!」

「ちょ、ちょっと!せっかく分けてやったのに何よその反応!?」

「惣流の唐揚げ、全部レモンかけちゃっただろ。

ペンギンくん、かけない派なんじゃないの?試しに…ほーら、食った」

「クァフクァフ…クァー♪」

「鳥の分際で面倒くさい好みね!?アタシがアホメガネに負けるなんて…屈辱だわ!」

 

 

「センセェのスパゲッティも美味いのぉ!」

「トウジも作ってみる?よければ教えるよ?」

「ングッ!?いや!ワシゃ台所には立たんぞ!男のすることやない!」

「僕も男なんだけどな…」

「す、すまん!そういうつもりやなくてやな…!」

 

 

「ヒカリちゃーん!唐揚げうまー!外カリッカリで中が肉汁ジュワーでたまらん!」

「あ、ありがと…綾波さんのポテトサラダのレシピも教えてくれる?」

「おっけー!あ、でも明太子の分量どうだったかな?碇くーん!」

 

 

 

 

「本当に、変わったわ」

 

子供達の楽し気な声が交差する中、リツコはレイを見て呟いた。

人形めいた無表情さ、寡黙さも、最早見られない。

かつてはレイが()()()だったなど、誰が信じるだろう?

 

「生きるって事は、変わっていくってことさ」

変えようとする力(トランジスタシス)維持しようとする力(ホメオスタシス)ね」

 

加持の相槌に、リツコは科学者的な答えを返した。

そして昇進という()()を経た本人…

ミサトは、ちびちびとビールを啜りながら少年少女を見ている。

 

「浮かない顔だな、葛城。

晴れて三佐昇進、子供達も幸せそうに笑ってるってのに」

「私だって嬉しくないわけじゃないのよ、加持くん。

けれど、出世が目的でNERVに入ったわけじゃないもの」

「……」

 

加持とミサトの話を、リツコは黙って聞いていた。

子供達と同じ思春期にセカンドインパクトを経験した三人。

それなりの苦難や辛酸は味わってきている。

 

中でもミサトは父・葛城博士の調査隊に同行し、

2000年の南極でセカンドインパクト()()()()を体験した。

 

満身創痍の父により救命カプセルに入れられ、

ただ一人生き残ったミサトは、

光り輝く四枚の羽を広げる第一使徒・アダムを目撃。

 

セカンドインパクトは表向き、巨大隕石の衝突とされているが、

彼女は隠蔽された真実を知る数少ない人間のうちの一人だった。

 

 

「使徒を倒し、世界を守るなんて、ただの建前。

私は…最初、レイやアスカやシンジくんを復讐の道具として見ていたわ。

けれど、あの子達が私の心を変えたのも確かなのよ。

 

子供を危険に晒したくはない。

でもエヴァの操縦はあの子達に頼るしかない。

なら、しばらくは『気のいいお姉さん』で有り続けるわ。

偽善と解っていてもね」

 

喋って乾いた喉を、ミサトはビールで潤した。

 

「貴女も変わってきてるのかしらね、ミサト」

「いいえ、日常を守りたいだけよ」

「トランジスタシスとホメオスタシス、か」

 

静かな大人達と、賑やかな子供達。

穏やかに時は流れた。



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40、アスカさん、新型プラグスーツ試験にIN

第七使徒を最速で倒した結果、第八使徒は未だ出現せず。

原作とは違い、例のアレをぶっつけ本番じゃなく、
本部でテストする時間が取れたようですが…


「なんなのよーこれー!」

「あらアスカ、説明したはずよ。耐熱仕様プラグスーツの試験。

これは火山帯など、高熱地帯に使徒が出現した時を想定した局地戦用装備を…」

「そうじゃなくてっ!このっ!格好よっ!

冗談は金髪だけにしときなさいよね、このマッド科学者っ!」

 

アスカのプラグスーツは冷却ガスにより膨張しており、

結果、彼女は関取(おすもうさん)のような姿になっていた。

 

NERV本部・実験棟に響く少女の不満の声もどこ吹く風とばかり。

平然と生命兆候(バイタル)関係のデータを取り続け、異常がない事を確認する赤木リツコ博士。

 

超高性能コンピュータ・MAGIは、被験者の脳波から様々なデータを数値化しているが、

中でも高いストレス値は、アスカが()()()な事を如実に示している。

リツコの隣で、作戦部長・葛城ミサト三佐が咳払いした。

 

「赤木博士、人命を守るために性能重視するのは解るわ。

でもエヴァのパイロットとしては、精神(メンタル)の問題も重要でしょう?」

「配慮はしているわよ。少なくとも今回のテストに立ち会うのは女性スタッフのみ。

この先、男性を含めた不特定多数の目がある()()に出るまでは、私達技術部も改良を続けます。

…とはいえ、外見に関しては()()()()としか言えないわ」

 

安全面に比べれば、外見改善の優先度は低い、とリツコは暗に告げた。

 

「善処って言ったって…女の子のアスカに、この格好はあまりにも…ぷふっ

「ミサト!笑ったわね?今笑ったわね!?」

 

笑いを堪え、たまらず顔を反らすミサトに、アスカは声を荒げた。

試験の順番待ちで待機していたレイは、

口元に拳を当て、ミサトと同様に肩を震わせ…

 

「バカナミ!アンタも笑ってんじゃ…」

「やだ…アスカっちってば、超キュート…」

「え…」

 

レイは潤んだ赤い瞳を細め、膨れたアスカの姿を見つめ、歩み寄り…

 

「惣流さーん、大きくなりましたねー。()()()はいつですかー?」

誰が妊婦かっ!お腹をさするなっ!(いつく)しむ様な目で見てんじゃないわよっ!」

 

慈母の如き笑みを浮かべる青髪少女を前に、

アスカはテスト終了まで元気に吼え続けていた。

 

 

 

 

さて、次はレイの番である。

 

現状、耐熱装備は正式量産型(プロダクションモデル)のエヴァ…つまりは弐号機以降にのみ合った規格であり、

初期型(プロトタイプ)である零号機、および試作型(テストタイプ)である初号機には対応していない。

 

だが、万一アスカが負傷してエヴァに乗れない場合など、

弐号機のコアを変換してでもレイやシンジが乗る可能性も否定できず、

新型耐熱プラグスーツのテストは全員が一通り行うことになっている。

シンジも今頃は、男性スタッフのみの試験場で力士になっているはずだ。

 

白のプラグスーツに身を包んだレイは、

腕の曲げ伸ばしを繰り返し、腰を捻り、自らの身体を見回した。

 

「ん~、今の段階だと見た目も着心地も普通のプラグスーツと変わらんね。

赤木博士~、操作はどこだっけ?」

「右手首のボタンを押せば、スーツ内部の冷却剤がガス化するわ」

「りょーかい!そんではポチっとなっ…お、おぉお~!?」

 

たちまちレイが()()()()()に早変わりした。

スマートな身体に戻ったアスカは、

滑稽な姿に変わったレイを見て溜飲を下げたのか、

鼻を鳴らして笑い、ビシリ、と指をさす。

 

「いい格好ね、バカナミ!これでちょっとはアタシの気持ちも解ったでしょ?

さっきは散々いじりまわしてくれたわねぇ!ほら、なんとか言ってみなさいよ!」

 

(いくら成績優秀とはいえ、アスカもまだまだ子供ね…)

リツコは小さく溜め息をつき、やや冷めたコーヒーを口に運ぶ…

先のアスカの実験で、レイがどんな姿になるかは解っていたし、

『科学者たるもの、常に冷静にあるべき』の信念のもと、

いちいち笑ったりはしない。そう、しないのだ。

 

「ごっつぁんですっ!」

「ブフゥ――ッ!?」

 

前言撤回。冷徹な科学者も()()()()には弱い。

力士を真似て、わざわざ低く掠れた声色を出すレイに、

リツコのブラックコーヒーが霧状に吹き出された。

 

「はァ~~どすこいーどすこいっ!どすこいーどすこいっ!」

「レ、レイッ…!ひっ!やめっ…やめてっ…!ひはっ…!」

「あぁっ、先輩が笑い過ぎて過呼吸にーっ!?今、私が助けますっ!先輩っ!」

伊吹二尉(マヤちゃん)っ、落ち着きなさい!?」

「葛城三佐!マウス・トゥ・マウスが必要なんです!

これは役得…じゃなくて人命救助です!離してください!HA☆NA☆SE!」

 

伊吹二尉すら、いつもの「ふけつです!」を言うことを忘れて暴走。

アスカは、混沌と化した状況を茫然と眺めた。

 

(あぁ、失念してたわ…バカナミは容易(たやす)()()()()()()()んだったわね…

たかが格好がどうこうで、コイツがヘコむわけないじゃないの…)

 

「稽古はーっ本場所のごとくーっ!本場所はーっ稽古のごとくーっ!

はァ~どすこいーどすこいっ!」

 

綾波関、大相撲NERV場所を制し、堂々の優勝であった。




ゲンドウ「げりおんっ!(超ノリノリ)」
アスカ「Get It On(ゲリオンッ)!(ヤケクソ気味)」

【挿絵表示】

ロゴ作成は「けいおん!風ジェネレータ」をお借りしました。
http://k-0n.com/

なお、先程の放送の字幕に誤りがありました。

「けいおん!」原作者・かきふらい先生 となっていましたが、
正しくは NERV総司令・碇ゲンドウさん でした。
訂正し、お詫び申し上げます。


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41、リナレイさん、NERV内の大プールにIN

前回までのあらすじ

ゲンドウ「実験開始」

耐熱プラグスーツ(プシュー ドスコーイ)

シンジ「……」
職員一同「「「「「……」」」」」

「…プフッ」

冬月「デデーン。ゲンドウ、アウトー」
シンジ「裏切ったな、父さん!僕の気持ちを裏切ったなぁ!?」


ここ数日、疑似操縦席(テストプラグ)での戦闘シミュレーション、シンクロテスト、およびハーモニクス・テストに、通常時と膨張式耐熱服(どすこいプラグスーツ)作動時のデータ差分を記録する過程が加わっている。

それだけでもアスカを不機嫌にするには充分だったが、余計に彼女を荒れさせる出来事があった。

 

第壱中学の二年生一同が沖縄へ修学旅行に行くことが決まったものの、

有事対応のためにエヴァパイロット達は本部待機が命ぜられたのである。

 

「せっかく加持さんに買い物つきあってもらったのにぃ!

シンジ、バカナミ、アンタ達もなんとか言ったらどうなの!?」

「いや、僕はなんとなく、こうなる気がしてたから…」

「葛城三佐の言う事にも一理あるしねー。

使徒の出現場所とか時間が解るなら、苦労はしないってさ」

「ハン!これだから日本人は!

()()()()のイエスマンばっかなのよね、情けない!」

 

聞き分けの良いレイとシンジを前に、アスカは言葉も荒々しい。

 

命令を出した葛城ミサト作戦部長本人としても、

修学旅行ぐらい行かせてやりたいのは本心であったが、

使徒という正体不明の敵生体が不定期に攻めてくるこのご時世、

そうも行かないのが現状である。

 

ミサトは少し考えて、改めて三人を見回した。

 

「ごめんね、みんな。せめてNERV本部内の大プールを貸し切りにしてあげるわ。

沖縄の(ちゅ)(うみ)とはいかないけれど、邪魔されず伸び伸び泳げるから、それで我慢してちょうだい」

「潮の匂いも眩しい日差しもない、()()()()()()()()で埋め合わせになるとでも思ってんの!?」

「んー、あたしは泳げるんならどこでもオッケーかな。

沖縄の美味しいものが食べられないのは残念だけど、

ヒカリちゃん達がお土産買ってきてくれるって言ってたし」

「バカナミ!アンタ塩素くさいプールで満足なわけ!?」

「わりと好き。あの塩素消毒(カルキ)のにおい」

「はァ…やっぱアンタ変だわ。仕方ないわね、今回は折れてやるわよ」

 

アスカも何もしないよりは気が紛れると判断したのか、プールへと歩き出す。

女子達のやりとりを前に、シンジは虚空に視線を泳がせていた。

 

「あ、あの、ミサトさん。

僕は次の、物理・化学(リカイチ)のテストが不安なんで、自習したい…んですけど…」

 

第七使徒戦後、発令所にいたNERV職員達の前で泳げない事をカミングアウトしてしまったシンジは歯切れの悪い口ぶりで逃げようとするも、ミサトの楽し気な笑みに身を固まらせた。

 

「シンちゃーん?これは逆に弱点を克服するいい機会じゃないのー?

そ・れ・に♪水着の美少女ふたりに手取り足取り()()()()()()取ってもらって、

泳ぎを教えてもらうなんて、世間の野郎共が羨むシチュエーションよん♪

こーの幸せもの♪」

「なんですか、色んなところって!」

 

素面(シラフ)のはずのミサトだが、シンジを弄るときは常時酔っ払いテンションである。

ミサトの言葉に合わせ、()()()()()()を取るようにレイは両手をワキワキさせており、

シンジは、背すじに冷たいものが走るのを感じた。

 

 

 

泳げない人間が海パン一丁になる、というのは中々に不安なものだ。

屈伸、伸脚、跳躍…。レイの勧めで、シンジは念入りに準備運動する。

 

MAGIにより適切な温度管理をされた温水プールは冷たすぎず、ぬる過ぎず、心地よい。

シンジはまず水中歩行で身体を水に慣らし、それから水泳指導を受ける事になった。

 

 

レイの水着は、彼女の髪色と同じライトブルー単色のパレオ付きビキニ。

休み時間にお喋りしている女子グループ…レイを「アヤナン」だの「レイちょん」だの多彩な仇名で呼ぶ少女達…と一緒に選んだ水着は、健康的な色気で彼女の白肌を際立たせている。

 

アスカの水着もまたビキニタイプだが、こちらは紅白の横縞模様(ストライプ)にフロントファスナーという大胆なデザインで、彼女の抜群のプロポーションを強調していた。

加持リョウジ一尉のエスコートで買いに行ったという話だが、デパートの女性用水着コーナー周辺を連れまわされた加持が気まずい思いをしたのは想像に難くない。

 

パイロット達にとって、見慣れたプラグスーツはボディラインがくっきりと見える代物だし、レイに至ってはシンジと身体の隅々まで見合った仲だが、それでも水着というものは()()

やはり別の刺激があった。

 

「碇くーん、バタ足バタ足~、がんばってー」

「バカシンジー、全然進んでないわよー」

(うぅ…恥ずかしい…)

 

問題は、その刺激的な姿をした彼女達に()()()()()()()()()()()を受けるという二重(ダブル)の恥ずかしさだ。

レイの両手に掴まって、水中で両足をバタつかせるシンジ…

アスカが呆れるのも道理で、シンジの足はまるで推力になっていなかった。

 

「諦めるなよーぅ。出来る出来る気持ちの問題だって!」

「泳ぎの得意な綾波さんならともかく、僕の身体は浮くようには出来てないんだよ…」

「泳げないなんて、ただの自己欺瞞じゃないの。

シンジ、アンタ息を止める前に、ちゃんと吸い込んでる?

水に顔つける前に、肺を膨らませるのよ」

 

シンジは言われるまま、息を深く吸い込む…そして顔を水に浸け…

(…え?あ…あれ!?なんでこんな簡単に!?)

あっさりと()()()()()()自分に驚く。

 

今までは溺れまいと息を止める事ばかりに意識が向いていた。

僅かな空気を守るために、身体の各所に余計な力を入れ、もがいていただけで、

『泳ぐ』レベルまで行っていなかったのだ。

 

非常にゆっくりではあるが、手助け無しに水の中を進むシンジを見て、

レイは我が事のように顔を明るくほころばせ、拍手していた。

 

「大進歩だよ碇くん!アスカっち先生のおかげで泳げるようになったじゃん!」

「気づきさえすれば、後は簡単なもんでしょ?

要は浮力よ、()()。石ころは水に沈むし、風船は水に浮くのと同じってね。

肺に空気を溜めれば、原理は風船と同じ…()()()の初歩よ。

『テストが不安』なんて逃げ口上を使うまでもないわ」

「うん、ありがとう、綾波さん、アスカ。

でも、理科Ⅰのテストが不安だっていうのも確かでさ」

 

礼を向けつつも、シンジは申し訳なさそうに肩を縮こまらせた。

 

シンジとて決して不真面目ではないのだが、

物理・化学における()()()

理論や数式にするのは不得意だったのだ。

 

「次のテスト範囲って、確か熱膨張とかでしょ?

ずいぶん幼稚な事を…としかアタシには思えなかったわ」

「あれは割と単純な話だと思うけどなー。

物は暖めれば膨らんで大きくなるし、冷やせば縮んで小さくなるってヤツよ」

 

アスカが小さくため息をつく。

そしてレイは、自分の眼前に向かい合わせた掌を広げ、狭めを繰り返した。

 

「バカナミー?アンタの小振りな胸も、暖めれば少しは膨らむんじゃないのー?」

「ほーぅ?言う(ゆー)たなアスカっち?

それ思うだけならともかく、口に出したら戦争だろがっ!

よろしいッ、ならば戦争だ!大きさが自慢だというなら、

あたしが暖めて膨らましてくれるわーッ!」

 

アスカが、禁句に触れた瞬間。

レイは彼女の背後に回り、紅白縞の膨らみを揉みしだく。

揉む揉む。もにゅんもにゅん。

 

「きゃあああぁっ!なにすんのよバカナミーッ!アタシにそっちの気はないわよっ!」

絶叫で抗議するアスカを物ともせず、レイはノリノリで両手を動かした。

 

「おぉ~っ?ドイツのお菓子はバームクーヘンみたいな()()()()()ばっかかと思ったら、なかなかどうしてフワッフワな()()()()()()()じゃーないですか!」

「やめなさ、あんっ!そこはダメだってばっ!

シンジッ!アンタの彼女でしょ!どうにかしなさいよ!」

「ご、ごめんアスカ!こうなった綾波さんは、僕にはどうにもできないんだ!

というか、僕も、ヤバいっ…!」

「ちょっとっ!逃げるなバカシンジ!いやぁ!助けてー加持さーん!!」

 

美少女ふたりの痴態から背を向け、慌てて水から飛び出て逃げ出すシンジ。

とある一か所が()()()してしまったゆえの緊急事態(?)であった。




保険ながらガールズラブタグ追記。もにゅんもにゅん。


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42、リナレイさん、職員食堂にIN

「このっ、もぐっ!惣流・アスカ・ラングレー様をっ、はぐっ!

甘い物で釣ろうなんてっ、むぐむぐっ、安く見られたものねっ!

ごくっ、おかわり!!」

「見事に釣られてるじゃないか…」

「さすがアスカっち。チョロいっ、かわいいっ!」

「そこのバカップル、なんか言った?」

「「いいえ、なにも」」

 

NERV職員食堂のテーブルには細長く巻かれた「フルーツたっぷりクレープ(クリーム増し増し)」が山盛りになっており、アスカはそこからひょいひょいとクレープを取って黄色い山を削っている。

レイはその様子を眺めながら、マイペースにクレープを()()()()とパクついていた。

 

女同士とはいえ堂々と乳揉み(セクハラ)かましたレイと、彼女を止めずに恐れを為して逃げ出したシンジ。

 

アスカのプライドを傷つけた落とし前をどうつけるか、という話になり、

レイから「クレープ食べ放題奢るよ!」という提案が出た結果…

 

「絶対にスイーツなんかに負けたりしない!(キリッ)」

「やっぱり勝てなかったよ…(´・ω・`)」

 

というお決まりの流れになったわけである。

 

 

桃、バナナ、キウイといった果物に生クリームとチョコソースを絡め、

しっとりしたクレープ生地で包んだNERV職員食堂の人気スイーツメニューは、

アスカの舌を充分に満足させる出来だった。

 

 

「あれ、碇くんは紅茶だけ?食べないの?クレープおいしーよ?」

「いや、甘い物は好きだけど、この量はさすがに…

カロリーが凄く高そうで、見てるだけで胸やけが…うぅっ…」

「あんたバカァ?アタシがこの程度で太るわけないじゃないの」

 

青ざめた顔で砂糖なしのホットレモンティーを啜るシンジをよそに、女子組は余裕である。

 

運動量のせいか新陳代謝が良いのか、アスカは『いくら食べても太らない』という

NERV女性職員から羨ましがられそうな体質だった。

実際に太った経験がないだけに、疑似的にではあるがお相撲さん体型になる耐熱プラグスーツは、

アスカには耐えがたかったのかもしれない。

 

その時、三人の携帯端末にコールが入った。

チルドレンの非常招集…すなわち、使徒が出現した可能性が高いことを意味する。

レイは眉を動かし、シンジは顔に緊張を走らせ…

アスカは手に残ったクリームをペロリと舐め取って不敵に笑った。

 

「ほら、アタシ達の仕事よ。

ちょうどいい腹ごなしが出来そうじゃないの」

「気楽だなぁアスカは。えぇっと場所は…浅間山」

「アサマヤマ?どこよ?」

「長野と群馬の県境にある活火山だね。

標高2400mちょい。セカンドインパクト前はもっと高かったみたいだけど…」

「火山…!?まさか…」

 

シンジは端末で確認した情報を、アスカに伝えていく。

彼女の顔色が沈むのとは対照的に、レイはにっこりと花のように微笑んだ。

 

「うむ!高熱地帯ですな!

例のどすこいスーツとエヴァ弐号機・耐熱(D型)装備の出番でしょうな!

やったねアスカっち!活躍の場が増えるよ!」

「ちょっと、その言い方は洒落にならないから止めなさいバカナミッ!

嫌ぁー!あんなみっともない格好はいやぁー!」

 

取り乱すアスカ。

耐熱局地戦の場合、パイロットが膨張式のスーツを着るだけでなく、

エヴァ弐号機にも特殊装甲が装備されることになっている。

 

CG(コンピュータ・グラフィックス)で、ずんぐりとした()()()そっくりの耐熱耐圧防護装備…

通称D型装備をまとったエヴァ弐号機のシミュレーション映像を見た時、

レイは「ちょっとカワイイ♪」との感想を抱いたのに対し、

アスカは先のような悲鳴を上げたものだった。

 

「よーし、腹くくっていこーかーアスカっち!非常招集(ひじょーぅしょぉーおしゅー)~♪」

「アスカ、しょうがないよ。任務だからね」

「いーやぁ~~~~!!」

 

レイのカードで清算を済ませ、食堂を後にする三人。

アスカの叫びが空しく響いた。



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43、ミサトさん、浅間山地震観測所にIN

別枠:R18で何かやってます(41.5話)
本編:チルドレンはみんなお休み。放っておかれてたアイツが登場。


浅間山上空を旋回する国連軍(UN)の哨戒機より、NERV本部にデータが送られてきた。

 

火口外部からの透過画像では、マグマ内に『影』のような異物がある事は検知されたものの、正体は不明。

スーパーコンピューター・MAGIの予測では、これが使徒か否かは半々(フィフティ・フィフティ)との事である。

 

現地…浅間山・地震観測所に向かったミサトと、彼女の副官である日向二尉がVTOL機から降りた時…

出迎えたのは、同観測所の所員ではなかった。

 

やや斜に構えたスーツ姿…三十代半ばといった年頃の、少々前髪が後退気味の男。

初対面ではあるが、データ上で見覚えのある顔に、ミサトは息を飲んだ。

 

日重(ニチジュウ)の時田シロウ代表…!?何故ここに…」

「こぉれはこれは、NERVの女傑・葛城ミサト作戦部長殿!一足遅かったようですなぁ!?

なぁに。マグマ内の『異物』…その観測・回収は我々に任せてもらいたいのですよ」

 

政府を後ろ盾に持ち、ロボット工学ではNERVに迫ろうかという技術力を持つ民間組織…

日本重化学工業共同体のトップ・時田は笑いに顔を歪める。

嫌悪を催す表情に、ミサトは鼻を鳴らした。

 

「この件に関してはNERVの方が専門です。余計な手出しはご遠慮願いたいわね。

迂闊なことをして、セカンドインパクトの二の舞は御免だわ」

()()が例の敵生体と決まったわけではないでしょう。

日本政府…そして、あなた方の上層組織である()()()からも正式に許可を頂いております」

「委員会が…?」

 

怪訝な表情のミサトの眼前に、時田は判子を押されたA4の書簡を掲げ、正式な書類である事を示した。

ミサトの後ろに控えていた忠実な副官が進み出て、時田を睨みつける。

 

「君は?」

「こちらの葛城の部下…NERV作戦部の日向マコト二尉であります。

貴共同体が開発したロボット…ジェットアローンと言いましたか。

確かリアクター内蔵による長時間行動を売りにしていたと記憶しています。

()()()()()を溶岩に投入すれば、この辺り一帯が高濃度汚染区域・待ったなしかと思われますが」

「心配ご無用。新たに開発した局地仕様の機体『ジェットアローン・マグマダイバー』は、核動力を使っておらんよ。

それに…パイロットを危険に晒してまで有人ロボットを潜航させるよりは、遠隔操縦のJAの方がよほど人道的と考えるがね」

「…っ!」

 

ギリリと奥歯を噛みしめた日向をミサトは片手で制し、時田へと向き直った。

 

「解りました。ですがもしマグマ内の異物が()の敵生体であった場合は、

倒せるのは我々NERVだけです。その時は特務機関権限を行使させて頂きますので悪しからず」

「A.T.フィールド、ですか?その研究は我々も日々進めています。

…いつまでもNERVの時代ではないのだよ、()()()()

「若く見られるのが嬉しい年頃になったとはいえ、

相手と言い方によっては、こんなに虫唾が走るなんてね。

行くわよ、日向くん。時田代表のお手並み、とくと拝見しましょう」

「…はい」

 

(諜報部を出し抜いたのは、こいつか…!)

地球防衛バンドとは別件で外部に流れた情報の欠片(ピース)が、ここでハマる。

時田の脇を抜け、ミサトは携帯電話を取り出し…本部へとコールを入れた。



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44、リナレイさん&技術部さん、作戦会議にIN

|_ ̄;)ストーリーは遅々として進まないけどビッグサイト行く前にちょこっと


NERV本部・作戦会議室。

技術オペレーター・伊吹マヤは、滑らかな手つきでキーボードに指を走らせる。

その隣には、彼女の上司である赤木リツコ博士が席に着き、

向かい合わせにエヴァパイロット達…レイ、アスカ、シンジの3名が並んでいた。

 

「現場の葛城三佐、日向二尉よりデータが届きました。

日本重化学工業は局地仕様の人型ロボット、ジェットアローン・マグマダイバーを投入。

同機をサポートするため、通信車両や補給車両が浅間山周辺…

つまり、足場の悪い山岳地形に先行しています。

その関係でこちらの車両台数が制限され、エヴァの展開は二体が限界です」

 

マヤは童顔に渋い表情を浮かべ、モニターに地図を映し出す。

日重の車両配置ポイントが赤い光点で、NERVのそれが青い光点で示されていた。

 

「それと、もう一つ悪い知らせが…。

さきほど情報部の青葉二尉から連絡がありましたが、

葛城三佐が要請した『特令A-17』は、委員会により却下されました」

「まさか、このタイミングで外部の介入とは…状況は(かんば)しくないわね。

恐らく日重は、NERVに対抗できるだけの力を溜めていたんだわ」

 

リツコは愛弟子に相槌を打ちつつ、溜め息をついた。

『A-17』はNERV権限を最優先させる強力な特令であり、他組織の介入に対して資産凍結の可能性をも含むが、それが却下されたという事は、日重のバックにいる日本政府に根回しされていたのだろう。

 

アスカが来日する直前頃に予定されていたジェットアローン完成披露パーティーは、リツコが思い返す限り急遽延期になっていた。

ミサトの話では時田代表はA.T.フィールドの情報まで得ていたという。

第五使徒戦…攻守ともに優れた敵生体との戦闘データも手に入れ、機体に反映させているかもしれない。

 

(時田シロウ代表…自己顕示欲が強いだけの俗物ではないという事かしら)

思案を巡らせるリツコの表情を伺いつつ、シンジが遠慮がちに挙手する。

 

「あの…エヴァは今回、二体しか出せないんですよね?編成はどうすれば…」

「そうね。弐号機は今回外せないから、零号機と初号機、いずれかが待機よ。

どうするかは貴方達で決めてちょうだい。なるべく早く、ね」

 

名指しされた肝心の弐号機パイロット…

アスカは尊大に腕と足を組んだまま、口を『へ』の字に曲げている。

ひょい、とレイが彼女の顔を覗き込んだ。

 

「アスカっち、ご機嫌ナナメだねー?」

「あったりまえよ!もしマグマの中の『何か』が使徒だったとして、

その日本重ナンチャラって組織が捕獲成功したら、アタシ達NERVは出し抜かれた事になる。

失敗したら失敗したで、アタシと弐号機が()()不格好な耐熱装備でマグマに潜るわけでしょ。

不機嫌にもなるわ!」

「じゃあコアを変換して、僕か綾波さんが弐号機に乗れば…」

「それはもっと嫌!アタシが弐号機で出るのは確定よ!」

 

椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がったアスカは、腰に手を当てて残る二人(バカップル)を見下ろした。

シンジがたじろいで身を引くのとは対照に、レイは小首を傾げる。

 

「やっぱ、愛機を()()()()()()()に任せるのは我慢できない?アスカっち的には」

「…そこまでは言わないわよ。NERVでもバンドでも、それなりの時間を過ごしたもの。

バカナミとは二人乗り(タンデム)もしたし、シンジの腕が悪くないのも知ってる。

でもアタシにとって、弐号機は特別なの。それだけは解って」

「りょーかい。んじゃーアスカっちのバックアップには、あたしが付こうか」

 

レイはそれ以上アスカの事情に踏み込まず、相方に立候補する。

出遅れたシンジは二人の間で視線をさまよわせ、アスカはそれを見て肩を竦めた。

 

「シンジ、もし迷いがあるなら待機しときなさい」

「でも、綾波さんとアスカを戦わせて、僕だけが…」

「まさか『戦いは男の仕事』なんて前時代的なコト考えてんじゃないでしょうね?

それとも…ふふぅん?()()()()()()()と四六時中一緒にいないと気が済まないの?」

「うぐっ」

 

図星を突かれて真っ赤になったシンジを見て、機嫌を直したアスカは悪戯っぽく笑う。

椅子から立ち上がったレイも、前傾姿勢でシンジに視線を合わせた。

 

「大丈夫だよ、碇くん。

良い子にしてたら、お土産に温泉まんじゅう買ってきてあげるから…

あ、ヤバッ!今の約束って、なんか死亡フラグっぽかった!?

ここは逆に()()()()()()()()()()()()生存ルートに切り替えないと!

どうしよう?パインサラダ作る!?結婚する!?

「え、えぇぇ!?」

「暴走してんじゃないわよバカナミッ!ほらっ、とっとと行く!」

 

「はぁ…先が思いやられるわね…」

「ふふっ、でも先輩。なんだか、この子達らしい気がします」

すっかり緩んだ空気にリツコは額を押さえ、マヤは苦笑しつつもデータを入力した。

 

エヴァ弐号機:惣流・アスカ・ラングレー 出撃

エヴァ零号機:綾波レイ 出撃

エヴァ初号機:碇シンジ 本部待機

 

布陣決定である。



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45、ジェットアローン(局地仕様)さん、マグマにIN

日本重化学工業共同体は、浅間山火口付近にワイヤーレールを設置。

レーザー射出装置がマグマ内に向けて閃光を打ち込み、機体のルートを確保した。

やがて、装置と場所を入れ替えるように巨大ロボットが降下位置に陣取る。

 

JA(ジェットアローン)・マグマダイバー…

その名を現す耐熱装甲は、赤熱する溶岩以上に明るく赤い。

高さはエヴァンゲリオンと同等だが、胸部と頭部が一体化しているあたり、

フォルムはむしろ第三、第七使徒寄りだ。

 

ワイヤーレール、およびJAの各部に取りつけられたカメラからのモニター情報は、

日重の通信車両を通して、隠す事無くNERV側へ伝えられている。

 

『自分達が秘密主義のNERVとは違う事をアピールするため』か。

あるいは『JAの力を知らしめるため』か。

モニターの一つから届く画像…JAの背から伸びる()の形状に、ミサトは顔を顰めた。

 

「非核の()()()が聞いて呆れるわ。

アンビリカル・ケーブルの丸パクリじゃないの!」

『人聞きの悪い事は言わないで頂きたいねぇ、葛城三佐。

只の電源ケーブルに権利を主張するなど、笑い物だよ』

 

NERVと日重、互いの通信車両に分かれ、モニター越しに両者は牽制しあう。

『イニシアティブは日重側にある』とばかりに薄笑いを浮かべる時田シロウ。

ミサトは唇を噛みつつも、コンソールに向き合う眼鏡の副官に目を向けた。

 

「ふん、舐められてるのは癪だけど、映像を共有出来るのは好都合だわ。

MAGIによる解析が可能なら、()()()()()にはなるもの。

…日向くん、こちらの状況は?」

「布陣はエヴァ弐号機を主力に据え、零号機がバックアップ。

現在、高速リニア・ラインで移送中ですが…」

「間に合うかどうかは…微妙か…」

 

強化断熱素材のケーブルを伸ばし、灼熱のマグマ内に進攻するJAの姿は、

見せつけられるようにNERVの通信車両に届いていた…。

 

 

 

 

 

「状況はどうだ?」

「現在、深度1100メートルを突破。CTモニターにより索敵中です。視界、透明度98」

「機体ダメージは?」

「マグマによる損耗率7.2%、各部動作は正常。作戦行動に支障ありません」

「よーしよし、いいぞ。そのまま続けてくれ」

 

日重の通信車両内で、時田は満足げに口を吊り上げていた。

オペレーター達と言葉を交わしながら、JAから送られてくる映像を見つめる。

『いつまでもNERVの時代ではない』と大見得を切った時田は実際、

()の組織を決して侮ってはおらず、自信と警戒の微妙なバランスを保っていた。

 

かつて時田はエヴァを『外部電源なしでは5分も動かぬ決戦兵器』と揶揄していたが、

彼を戦慄させ、考えを改めさせたのは、独自のルートで入手した第五使徒戦の戦闘データだった。

 

NERVの葛城ミサト作戦部長は竜騎兵作戦(オペレーション・ドラグーン)を立案。

エヴァンゲリオン2機と第3新東京市の防衛機能をフルに活用…

戦略自衛隊の協力を得て、常識外れの攻撃力と防御力を持った使徒を殲滅せしめた。

 

仮にその時、もし完成したばかりのJA一号機が参戦したら、どうなっていたか?

…おそらくは、あの正八面体に近づく前になすすべもなく加粒子ビーム砲に狙い撃ちにされ、日向マコトの懸念通り、第3新東京市を放射能まみれにしていたに違いない。

JAの売りである『核動力による150日間の連続行動』など、短期決戦においてはまったくの無意味だ。

 

NERVを吊し上げるつもりが、自らが恥を掻きかねない事に気づき、時田は顔を真っ青にしてJA完成披露パーティーの延期を決定。

今日(こんにち)に至るまで、資金・労力・時間…多くの資源(リソース)を開発・改良に費やした。

その結果、こんな過酷な状況下にあって、JAは未だ健在でいられるのだ。

当地震観測所の観測機では、マグマの熱と圧力により()()()()()()()()()()()()()()()()()潰れていただろう。

 

…深度を進めるJAのレーダーに、大きな黒い影が写る。

オペレーターの一人が、時田へ振り返った。

 

「目標物、捕捉。軸線に乗りました!」

「さぁ皆、ここが正念場だぞ。慎重に、正確に…我々日重の腕の見せ所だ。

捕獲せよ(キャプチャー)!」

 

時田の号令に合わせ、JAの両腕が『それ』に伸びていく…

 

 

 

 

 

地上を走るエヴァ専用のリニア・ラインは空路や海路よりも速い移動手段ではあったが、レイとアスカが現場に到着したその時、火口付近の映像がエヴァ両機のエントリープラグ内に映し出された。

 

煮えたぎる溶岩から引き上げられたJAは、重量上げのような格好で『楕円形の何か』を頭上に掲げている。

カプセルに包まれた胎児のように見えるが、体高数十メートルの巨大ロボットが持ち上げていることから、サイズはかなりのものであるのが伺えた。

 

『っ…くくくっ…はぁーっはっはっはっ!

見たかNERV!これが私達の…ジェットアローン・マグマダイバーの実力だよっ!』

「間に合わなかった!?くっ、なによ!

あんな()()()()ロボットに先越されたっての!?」」

「ぐぬぬぬ。コミカルなカッコしてる割に中々やるじゃーないの…ん?」

 

勝ち誇った時田の高笑いがモニター越しに響き渡り、アスカは悔し気に唸る。

だがレイは何かに気づき、凝らしていた瞳を日重のモニターに向けた。

 

「あのー、日重の時田(トッキー)さん?

そちらのジオン水泳部っぽいロボが『獲ったどー!』のポーズで担ぎ上げてるソレ…」

『んん?なにかね、NERVパイロットの…あぁ、君は綾波レイ嬢か。

これは私達が回収したモノであって、最早君たちの出る幕は…』

今めっちゃ(かえ)ってるんですけど

NOOooo(ノォ――――)ッ!?

 

胎児状の物体は急速に姿を変えていき…JAの手に収まらないほど激しく暴れ出す。

プラグ内に表示されたBLOOD TYPE:BLUE(パターン青)に「やっぱりねー」とレイが呑気に呟いている中、時田は顎が外れんばかりに絶叫していた。




ミサト「ちわぁーッス。NERVですけどォー!
例の敵生体に対する的確な対処はいかがッスかぁ~?(゜∀゜)」
時田「プルプル(((゜皿゜#)))プルプル」


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46、サンダルフォンさん、バトルにIN

戦闘BGM:ペンペンとかが出てくる時のギターが軽快なアレ


人間の胎児めいた姿はどこへやら。

孵化した第八使徒は、ヒラメやカレイのような平たい魚状に退()()していた。

明確に魚類と違うのは、ボディーの下部に()()()()を持っている事だろうか。

 

「なんでアンタと組む時に限って、いっつも『魚』が相手なのよっ!

バカナミ、アンタ祟られてんじゃないの!?」

「そーいやそうだネ!結局第六使徒(まえのおさかな)は三枚おろしにし損ねちゃったし…

よーし、倒したら()()()()()するか!あっ!あの形からして、煮つけとか美味しいかも!」

「食べないわよ!供養なら寺に任せりゃいいでしょ!」

「ところで『使徒』って名称だとキリスト教系っぽいけど…

仏教系のお寺でも供養してくれるのかな?」

知るかぁーッ!

 

呑気なレイと、声を荒げるアスカ。

少女達が漫才を続けている間、第八使徒は持ち上げられたまま人形(JA)の両手を押さえつけた。

 

 

使徒の身体…下部前面にある口が開き、

牙とも触手ともつかぬ()()()の器官が何本もJAの頭部に伸びる。

メインカメラは『自らが喰らいつかれる映像』をドアップで流しており、

さながらB級モンスター映画のような様相を呈していた。

 

『どうした!?振りほどけ!』

『デ、データ上の馬力は拮抗しているはずですがっ!

機械手(マニュピレータ)が、()()()()()()に阻まれて掴み返せません!』

『オォーゥッ!?JA――ッ!?ノォーゥッ!?JA――ッ!?』

 

オペレーターの報告に毛髪後退気味の頭を抱え、これまたB級洋画の端役(モブ)っぽい嘆きの声を上げる時田。

散々嫌味を浴びていたミサトは、通信越しに聞こえる日重車両からの音声に、胸の()くような想いで笑んだ。

 

「おぉおぉ、中々いい()()()()()じゃないのジェットアローン!

A.T.フィールドはあくまで『研究中』で、対抗手段はまだまだみたいね。

アスカ、レイ!補給車両の位置情報を転送するわ!電源と武器をゲットして交戦よ!」

「了解っ!」「りょうかー…ってこっち来たぁあ!?」

 

ミサトの指示に答えた二人だったが、レイの言葉は高く裏返った。

 

第八使徒は()()()()と齧っていたJAを『あ、これ食えねーや』とばかりにポイッと投げ捨て、

零号機目掛けて山の上方から滑空するように突っ込んできた。

赤木リツコ博士をして『正体不明』と言わしめる使徒の謎動力は、普通に重力を無視した動きをやってのける。

 

リニアから立ち上がりかけた状態で、使徒の特攻を受け止める零号機。

互いのA.T.フィールドがぶつかり合い、虹色の光壁となって可視化した後、

掻き消えるように中和されて、至近での組み合いとなった。

 

 

(なぁに)やってんのよバカナミッ!」

()()が、せっかちなもんで…!」

「もぉー!零号機の内部電源が続く間で良いわ!

準備してくるから、なんとか持たせなさい!

アンタ得意でしょ、()()()()!」

「で、出来るだけ早くしてねアスカっち!?」

 

アスカは弐号機を駆り、グレーの山肌に巨大な足跡を刻みながら補給車両を目指した。

レイは遠ざかる相方の赤い背中に催促を向けつつ、使徒との格闘を続ける。

 

「とはいえっ、この状況で時間稼ぎっつったら、

このまま使徒さんとお手合わせするぐらいしかないんだけども…えっ!?」

 

突如、プラグ内に響く警告音。温度の急上昇を知らせるゲージを、レイは凝視する。

マグマの中で手に入れた能力だろうか、使徒の甲殻が()()し、至近距離で格闘する零号機を高熱で(さいな)んだ。

当然、エヴァの受けたダメージはパイロットへとフィードバックされ…

 

「ぅ(あっち)ゃア~~ッ!?」

「レイッ、落ち着いて!プラグスーツを耐熱シフトに!」

「た、耐熱ぅ!?あ、例のアレか!」

 

いまいち緊張感に欠けるものの、熱さに叫ぶレイに、ミサトは指示を飛ばした。

レイはプラグスーツ右手首にあるボタンを押し、冷却ガスをスーツ内に充填させる。

 

アスカと違い、格好を気にしないレイは()()姿を躊躇いなく選び、

その結果、レイ自身は熱によるフィードバック・ダメージから解放され、思考する余裕を得た。

 

(ふぃー、危なかったぁ…どーする、今からでも電源取りにいくか?

…ダメだな、あの距離じゃ補給車両につく前に内部電源が切れちゃう。

操縦者(あたし)だけスーツで守られてても、機体(エヴァ)のダメージが無くなるわけじゃなし。

アスカっちが助けに来るのを信じて、時間ギリギリまで交戦するかっ!)

 

レイは操縦桿(インダクションレバー)を押し込む。

零号機は膝蹴りを巨大ヒラメの腹に叩き込んだ後、プログナイフを抜いて頭に振り下ろし…

ひどく硬質な音を、浅間山に響かせた。

 

(かった)ぁ―!なんぞこれ―!?

日向二尉(メガネくん)!フィールドは中和してるはずだよね!?」

「今データ解析した!使徒の甲殻は、マグマの高温・高圧に耐えられる構造だ!ナイフじゃ通らない!」

「まァじでェー!?ただでさえ時間ないのにっ!」

「零号機、活動限界まで10秒!9、8、7…!」

 

カウントを読み上げる日向の顔色は悪い。

レイの目には、使徒の口が開かれ、JAに齧りついていた触手らしき器官が伸びるのが映る…

ガンッ…!()()から伝わる重い衝撃。

 

「うっぐ!?」

 

身体を揺らされ、呻くレイ。零号機の電源は切れなかった。

弐号機が持ってきた電源紐(アンビリカルケーブル)のソケットが零号機に装着されていたのだ。

零号機に食らいつかんとしていた使徒の口には、弐号機がもう片手に持っていた巨大なホースが突っ込まれている。

 

「バカナミ、まだ寝るなっ!足止めとフィールド中和…役目は果たしてもらうわよ!」

「アスカっち来た!これで勝つる!って、そのホースは?」

()()()っ!バカシンジの苦手科目が、いいヒントになったわ!」

 

モノは温めれば膨らみ、冷やせば縮む…プールで何気なく交わした会話を、アスカは覚えていた。

ホースから使徒の体内に流れ込む『それ』は本来、弐号機をマグマの中に潜航させるための冷却液。

現地の補給車両から引っ張ってきたものだ。

 

温度差による蒸気を派手に吐きながら、使徒は暴れる。

電源供給を得た零号機は、必死に踏ん張ってその魚めいた身体を抑え込みながらA.T.フィールドを中和。

弐号機にホースをさらに捻じ込まれた使徒は不意に動きを止め…あっけなく形象崩壊していった。

 

「パターン青、消滅!使徒殲滅確認しました!」

 

日向の報告にミサトは満足げに頷き、モニター越しのレイとアスカへ親指立て(サムズアップ)と笑顔を向けた。

 

「アスカっちもお疲れー。今日のMVPだね!ホント助かりましたわー」

「当然よっ!もっと褒め称えなさい!」

「いやでも、アンビリカルケーブルを差し込まれた時の衝撃は、ちょっとビックリしたな」

「なによ、せっかく持ってきてやったのに。命拾ったんだから、感謝しなさいよね!」

「だって…いきなり()()()()()()()()とか…

あんなの、碇くんにだってされた事ないのに…

やっかましいわエロナミ!

 

ほんのり赤く染まった頬を抑え、身体をくねらせるレイに、

機嫌の良かった表情を転じさせ、青筋浮かべて吼えるアスカ。

 

「あんた達、相変わらず仲が良いわねー。

機体損傷度のチェックするから、補給車両に向かってちょうだい」

「ほーい!」「誰が仲良いってのっ!」

 

いつものやり取りにミサトは頬を緩ませ…ふと、山肌に倒れている機体…JAに目を向けた。

 

(さて、どうなってるかしらね。我らがライバル、日本重化学工業共同体の皆様は)

 

どう『ご挨拶』したものか…ミサトは思案を巡らせた。




レイ「あっ、お魚食い損ねた」
アスカ「まだ言うか」

日重関係の戦後処理がおかしかったので結構削りました(9/1)
後の話で修正して出す予定です。


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47、リナレイさん、NERV通信車両にIN

エタったかと思った(他人事)短いですスマセン


エヴァを整備班に預け、医療検査(メディカルチェック)で異常がない事を確認したパイロットの二人がNERVの通信車両に戻った時、葛城ミサト作戦部長はクツクツと低い忍び笑いを漏らしていた。

それを聞いたアスカが、悪寒に肩を震わせる。

 

「…なによ、気持ち悪いわね」

「いやー、さっき日重と連絡取ったんだけどね?

向こうの通信車両内…完全に()()()()()だったわ!

エヴァに対抗するために開発した虎の子のロボットが使徒に完封された上、

撃墜(ホシ)は私達に持ってかれたのが相当堪えたみたいね。

時田の奴なんて、通信が繋がった瞬間に眼ェ血走らせて

『何かねッ!?哀れな道化を笑いにきたのかね葛城三佐ッ!?』

っと来たもんよ。ざまぁないわ、あの()()()!」

「…確かにいけ好かないオヤジだったけど、アンタも大概よ、ミサト」

「また髪の話してる…(´・ω・`)」

 

溜まった鬱憤が一気に吹っ飛んだ解放感(カタルシス)に、ミサトのテンションはどこかおかしくなっており、アスカはドン引き。

 

一方のレイは、時田の事を『キャラが濃そうで面白いおっちゃん』程度に受け止めていた故、毒の沼地のごとくダメージを受け続けているであろう彼の毛根に同情した。

 

「…んで、結局どーしたん葛城三佐。

悔しさで肩をプルプルさせてる時田氏(トッキー)の前で、

ねぇねぇどんなきもち?とか煽りつつサイドステップしたり?」

「あらーレイ。そこまで私は鬼じゃないし、ご助力にはお礼も言っといたわよ?

いや、気持ち的にはそんぐらい追い打ち掛けたかったけど

「あーもう、これだから日本人はっ!やる方もやられる方も陰湿で反吐が出るわっ!

それにお礼も何も、あのジェットアローンとかいうポンコツ…役立たずも良い所よ!

A.T.フィールドの前には、まったく無力だったじゃないの!」

 

会話に割り込んだアスカに、毒を吐き出してスッキリしたミサトは笑んでみせた。

 

「逆に言えばA.T.フィールド無しで()()()()を成し遂げたのは、中々の快挙よ?

本部にデータ送ったら、リツコが目の色を変えてたわ。

物理耐久性と、マグマをものともしない装甲技術については、是非とも協力を願いたいって言ってたしね。

『人の好き嫌いと、能力の有無は別物』って、アスカの座右の銘でもあるでしょ?」

「そ、それはそうだけどぉ…」

「考えてみりゃーJAが潜航して使徒を引き上げたから、アスカっちが潜らずに済んだわけで…

その辺は日重さんに感謝しても良いんでないの?

…まぁ(シャア)ズゴックっぽい見た目なのに使徒(グラブロ)にボコされちゃうのはアレだったけど」

「解ったから相田(アホメガネ)みたいな例え方は止めなさいよ、バカナミ」

 

最早レイに突っ込む気も失せたのか、アスカは大きな溜め息をつく。

耐熱スーツとエヴァ用の耐熱装備の不格好さには散々文句を言っていた以上、

『そこだけは確かに感謝してもいいかも』と思い直した。

 

「何はともあれ、二人ともお疲れ様。

近くにいい温泉旅館があるから、今日は一晩羽を伸ばして…

ゆっくり疲れを取ってちょうだい」

「やりー!温泉おんせーん!」

「へぇー、たまにはミサトも気が利くじゃないの」

「たまには余計よっ」

 

軽口を叩きつつ、女戦士達は休息を取ることとなった。



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48、リナレイさん、温泉旅館にIN(前編)

第八使徒戦の終了とともに非常事態宣言は解除され、浅間山の麓にある温泉旅館は営業を再開していた。

だが客足が回復するまでには至っておらず、宿泊客を記入するブラックボードに書かれているのは『歓迎・ネルフご一行様』の文字のみ…実質貸し切り状態だ。

 

こじんまりとした外観の割に内装はしっかりしていて、それでいて木と畳の穏やかな香りが満ちている。

旅館の女将によると営業は前世期から続いており、セカンドインパクトの際は一時的な避難所として人々の拠り所となっていたこともあるらしく、非常に居心地が良い。

 

 

「すいませーん!NERVの人ー、いますかぁー?お届けものでーす!」

「ほいほーい、今いきまーす!」

「もぅミサトってば、どこ行ったのかしら?責任者なら荷物の受け取りぐらい立ち合いなさいよね!」

 

呼び出されたレイとアスカは旅館の玄関に向かった。

二人ともシャツと短パンという、楽な格好である。

 

「ではーここにサインを…はい、どうもっ、ありがとうございましたー!」

 

宅配業者は事前にNERV保安部による入念な荷物検査とボディチェックを受けていて、ようやく荷が下りた事で晴れやかな顔で礼をして立ち去っていく。

 

「お?送り主は加持一尉みたいだよ、アスカっち」

「加持さんからっ!?なにかしら?」

 

送り状を確認したレイの言葉に声をはずませ、箱の封に手を掛けるアスカ。

粘着テープをはがそうとした途端…ダンボールは()()()勢いよく開いた。

 

 

「クウォウォウォウォウォッ!!」

「っきゃぁぁあ――――っ!?」

 

視界を埋め尽くすつぶらな黒目と、真っ赤な眉毛のような二筋のトサカ。

至近で聴覚に突き刺さる羽ばたきと、文字通りの怪鳥(けちょう)音。

アスカは絹を裂くような悲鳴を上げ、尻もちをついた。

 

「おぉー?ペンペン来たんだぁー!ほーら高い高ーい!」

 

()()()便()で送られてきた葛城家の飼いペンギンは笑顔のレイに持ち上げられ、楽しげに翼をバタバタさせている。

アスカは立ち上がれないまま、震える指でペンペンを差した。

 

「な…なななななんでコイツがここにいるのよっ!?」

「クァーコココッ、クァー♪」

「ペンペン氏いわく『温泉と聞いて、俺、参上』だそうで」

「はァ!?バカナミ、アンタ動物の言葉が解るの!?」

「いや、なんとなく」

「適当かっ!!」

 

レイにツッコミを入れた後、アスカは改めてペンペンを睨みつけた。

考えてみればこの鳥類…喋れはしないものの、ところどころ人語を解しているように見えたり、生意気にも新聞の経済面なぞを読みふけるような奴である。

 

おそらくミサトが外出している間、ペンペンの世話を加持に任せていたのだろうが、なにぶんペンギンというには規格外(イレギュラー)な謎生物だ。

送り状やらダンボールやらを自前で調達してきて、加持に『俺を送れ』とジェスチャーで伝えて送り状を書かせるぐらいの芸当をやらかしかねない。

 

「よーし、ペンペン来たし、温泉入ろうかー!アスカっちも一緒に行こー!」

「クァックァー!」

「はぁ…もういいわよ…」

 

意気揚々と風呂場に向かうレイとペンペン…アスカは考えるのをやめて彼女達に続いた。

 

 

 

 

 

「あっはァ~ん♪来たわねぇ~?お肌ピッチピチな女子中学生(JC)コンビめぇ~♪」

 

二人と一羽が夕焼け空を望む露天風呂に足を踏み入れた時、葛城ミサト作戦部長は熱燗のお盆を湯に浮かべており、ふやけた表情でくつろいでいた。

道理で、どこにも姿が見えなかった訳だ。

 

「うわぁ…」

「こりゃまた、ずいぶん()()()()()()ますなー…」

「クァー…」

 

露骨に顔をしかめるアスカ。苦笑するレイ。

そして、シンジと同居する前によく見ていた『ある意味いつも通り』の主人を平然と眺めるペンペン。

裸の付き合いが基本の社交場、湯に浮いたミサトの胸は遠慮なく曝け出されているが、そのだらしなく色気の欠片もない表情にアスカは呆れた。

 

「どんだけ飲んでんのよ…()()()()()()()()()()じゃないの!」

「いやーでも葛城三佐、なかなか立派なモノをお持ちで…ん?」

 

レイはミサトの豊かな胸元に、周りの肌と違う色の場所を見つけて目を瞬かせた。

 

「手術の痕?胸の病気だったとか?」

「あぁ、これ?…セカンドインパクトの時、ちょっちね…」

「っ、バカナミ!」

「あ、ご、ごめん!」

 

酔っていたはずのミサトは、声のトーンを落とす。

意図せずに彼女の辛い過去の記憶に触れてしまったレイは、アスカに咎められ、慌てて頭を下げた。

数秒の沈黙を破り、ミサトは、ふ、と表情を和らげる。

 

「…やーねぇ、昔の事よ昔の事!

ねーアスカァー?そーんな暗い話題はいいから、女同士のスキンシップと洒落込もうじゃないのーんっふふふ(わっぶ)なっ!?

 

…だが、流石に()()()()()()()()()()()のセクハラは拙かったか、手裏剣の如く石鹸が飛び、ミサトの頬ギリギリを掠めた。

サイドスローの投擲モーションのまま、アスカは憤怒の表情を浮かべている。

 

「あーもうっ!心配して損したわ!エロい手つきのバストマッサージなら、バカナミにやってやりなさい!」

()ぁよ~()()()に手ェ出してシンちゃんに刺されたくないものー♪」

()()()でアタシの乳を揉もうとするなっ!!」

「あばふっ!?」

 

カポォン!と良い音を立てて木製の桶に顔面をクリーンヒットされたミサトは、目を回して仰向けにダウン。

その隙にペンペンは、ミサトが飲んでいた熱燗を拝借して()り始める。

忠鳥(ちゅうペン)など、この場には居やしないのだ。

 

「…()()よ。死にゃしないわ」

「桶って峰あんの?」

 

アスカが発した思わぬパワーワードに、珍しくレイの方が突っ込む。

結局はミサトを()()()()()()()()し、少女達はゆっくりと温泉を堪能する。

ヒグラシがカナカナと鳴く声だけが、オレンジ色に染まった露天風呂に響いていた。




温泉回にはお色気要素が欠かせない。
そう思ってた時期が、ボクにもありました(刃牙並感)


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49、リナレイさん、温泉旅館にIN(後編)

「みんなで川の字になって寝ましょうよ!」

「却下!加持さんが言ってたじゃない!ミサトの寝相は最悪だって!」

「ごめんねー葛城三佐。ペンペンに慰めてもらってちょ♪」

「そんなぁー…」

「クァックァー?」

 

夕食後。ミサトの提案は、アスカとレイにより速攻かつ食い気味に一蹴された。

石鹸やら桶やらで滅多打ちされた割にピンピンしていた彼女だったが、

さすがにこれは凹んだ模様。

共に暮らし、()()()()()()()()()()()愛鳥(ペンペン)だけが『ご主人、強く生きろよ』とばかりに沈んだミサトの背を翼でペチペチと叩き、共に部屋へと引っ込んでいく。

 

 

 

 

20分後、女子中学生組の部屋。

 

「…うん、うん、あたしは大丈夫だよー?

あはっ、やだもぅ!なに泣きそうな声になってんの!心配しすぎだって!

明日には第3に帰るからさ、あ、お土産買ってくからねー!

うん、じゃーまたね!おやすみー!」

 

レイは寝間着代わりの浴衣に身を包み、携帯を片手に布団に横たわっている。

表情と明るい声、そして足を交互に揺らす上機嫌な仕草を見ていれば、()()()()()は聞かずともアスカには解った。

 

「…相変わらず、砂糖吐くぐらいのバカップルぶりね。ブラックコーヒーが欲しくなるわ」

「アスカっち先生ー、寝る前のカフェイン摂取は身体に良くないですぞー?」

「皮肉よ、皮肉っ!解りなさいよっ!」

 

こんなやり取りも何度目になるだろう。

天然なのかスルースキルが振り切れているのか、レイに嫌味は通じない。

 

 

「あんな風に甘やかして…シンジの奴、そのうちダメになるわよ?」

「甘えられる時に甘えといた方が、いいガス抜きになるんだよ。

それにさ、絆っていうか、温もりっていうか…

こう…『生きて帰ろう!』って気になるじゃん?」

「そんなの、ただの依存!共生関係なだけじゃない!

ようするに傷を舐め合ってるだけなのよ、アンタらバカップルは!

…いい、バカナミ?アタシ達は、常に危険と隣り合わせなの。

依存する相手が消えたら、残された方は心がブッ壊れるわよ?

アタシがパイロットに選ばれた時なんて…っ!?」

 

アスカは、ふと何かを思い出したように言葉を途切れさせた。

勢いに任せ、余計な事まで言いそうになったのを、辛うじて喉の奥に留める。

きょとんとしているレイを前に、アスカは一つ咳ばらいをした。

 

「と、とにかく!そんな甘ったるい態度で一緒に戦われたって、迷惑だわ!

人類を守るパイロットの誇りって奴は、アンタ達にはないのかしら!?」

「ないなぁ、そーゆーのは」

「はぁっ!?」

 

レイの即答に、アスカの声が裏返った。

パイロットである事にプライドを持つアスカは、聞き捨てならぬとばかりに片眉を吊り上げる。

レイは「よっ」という掛け声に合わせて上体を起こし、胡坐(あぐら)の体勢でアスカを見返した。

 

「元々あたしのパイロット適性はギリギリだったし、碇くんも望んでパイロットになった訳じゃないからね。

今でこそエヴァが使徒を倒すのに一番有効だけど、それ以外でも勝てるんなら別にいーよ」

「まったく…同僚がこの有様じゃあ、今まで必死に訓練してきたアタシがバカみたいじゃないの」

 

アスカは溜め息をつき、ガシガシと後頭部を掻く。

その様子に、レイは小首を傾げた。

 

「アスカっちの自立心や向上心は、本当に凄いって思うけどさ。

パイロットにだって『エヴァに乗る以外の幸せ』があったって良いっしょ?

最終的には碇くんが…うぅん、誰もエヴァに乗らなくて済むんなら、それがいいと思う」

「…っ!!」

 

レイの言葉に悪意はない。

アスカとて、戦いが終わるならそれが一番いいと()()()()()()()()()

 

だからこそ余計にイラついた。

エヴァに乗る事こそが、アスカの存在理由(レゾンデートル)…それを否定されたような気がした。

不機嫌な顔を隠すようにレイに背を向け、自分の布団に(くる)まる。

 

「もういいわ、寝る。おやすみ」

「ん、おやすみー。電気消すよー」

「……」

 

レイの緩い声に、アスカは答えなかった。

 

 

 

 

 

 

「…寒っ!超さっむ!クーラー効き過ぎじゃね!?」

 

深夜、寒さに目覚めたレイは、自分の両肩を抱いて震えた。

『切』のタイマーをつけ忘れた彼女自身にも落ち度はあるのだが、

年代もののエアコンは少々融通がきかず、設定温度を1度下げただけでやたらと寒くなる。

隣を見れば、アスカの背も震えているのが見えた。

 

「あー、やっぱアスカっちも寒いかー。

風邪引いちゃまずいよね。お布団を掛け直さないと…」

「…ッ…」

「ん?」

 

ギュッと目を閉じたまま、小さく呟くアスカ。

レイは耳を寄せ、それを聞き取ろうとする。

 

「…ニヒト…テーテ…」

「多分…ドイツ語、かな?意味は解らないけど…」

 

目尻に浮いた涙。きつく歪められた表情。

アスカの震えは寒さのせいだけではないのが伺える。そして…

 

「ママ…ママァ…」

「お母さん、か…」

 

断片的に聞こえる()()()()だけは、レイにも解った。

いつも強気で、自信家のアスカが、こんなにも縮こまっている。

アスカと母親に何があったのか知る(よし)はない、が。

 

(え、と。確か、こうやって…)

 

レイは添い寝するような形で、アスカと向き合う。

左手で背を抱き寄せて、右手を頭の上に乗せる。

頭頂部(つむじ)から後頭部(あたまのうしろ)にかけて撫でる…

 

シンジが自分にしてくれた、心地良い、安心する撫で方を真似て、ゆっくり、ゆっくり。何度も、何度も…。

しゃくり上げるようなアスカの呼吸は、次第に「すぅ、すぅ」と静かなものに転じていった。

 

(そーいや、碇くんも小さい頃にママが亡くなったんだっけ。

記憶はほとんど無いって言ってたけど…

この優しい撫で方って、本能で覚えてたのかな)

 

「……バカナミ……?」

 

うっすらと、アスカの目が開いた。

 

意識は、まだボヤけている。

暖かいものに包まれる感触とともに、嫌な夢が不意に掻き消えて…

頬の横に、生温い水が流れた跡があって…

 

でも、目の前の戦友はそれを馬鹿にせず、微笑みながら、頭を撫で続けるだけで…

 

「違う…違うの…アタシは…もう、泣かないって決めたの…

自分で考えて…一人で生きるって…決めたのに…」

「知ってるよ。アスカっちは、強い子だもんね。

これは、あたしが寝ぼけて、夢を見てるだけ。

だからさ…今は、いいんだよ?」

「…っぅううぅっ…!」

 

普段のアスカなら、プライドに遮られるはずの行動…

だが、夢で抉られた心の傷(トラウマ)に、その言葉はあまりにも優しすぎた。

レイの胸に顔を埋め、嗚咽(おえつ)する。

アスカの涙が浴衣を濡らしても、レイは撫でるのを止めなかった。

 

「…ムカつくわ」

「ん…」

「顔も、声も、匂いも。ママとは全然違うはずなのに…」

 

レイは、己の背にすがりつくように回されるアスカの両手を、穏やかに受け入れる。

 

(なんで、こんなに落ち着くのよ…)

 

アスカは再び眠りに落ちる。

今度は、悪夢は見なかった。




原作の鬱要素をちょっとずつ持ってきて
ちょっとずつ削ってくだけの簡単な作業
アットホームな職場です 特務機関NERV


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50、第3新東京市さん、静止した闇の中にIN

陽炎が揺らめくアスファルト、緑の葉を繁らせる街路樹、やかましく鳴き続けるミンミンゼミ…。

前の戦いから幾日かが過ぎ、エヴァパイロットの三人はNERV本部までの道のり…見慣れた光景に戻ってきていた。

 

「みんな…元気そうで良かった。心配してたんだよ」

「アンタもクラスの連中も大袈裟ねぇ。たかが数日会わなかっただけで感動の再会ー、みたいな雰囲気作っちゃってさ」

 

安堵の表情を浮かべるシンジに、アスカが呆れ気味に答える。

 

沖縄への修学旅行から帰ってきた第壱中学2年A組の面々は、

洞木ヒカリ委員長をはじめとして、綺麗な褐色に日焼けしていた。

 

日焼け対策を勧められた時に「んなチマチマした事やってられるかいな」と言い放ったトウジと、

女子の水着姿をカメラに収めることに没頭していたケンスケは、

中途半端に皮が剥けて()()()()()になったが、おおむね皆無事である。

 

レイは温泉旅館の売店で買い込んだ温泉まんじゅうをクラスメート達の沖縄土産と交換しまくっており、大振りのビニールバッグを手にホクホクした顔をしている。

道すがら、今も()()()の一つをポリポリと齧っていた。

 

「んで…バカナミは何食べてんの?歩きながらは行儀悪いわよ?」

「はいアスカっち」

「あんっ?」

 

パリッ…

 

「はい碇くん」

「んっ」

 

ポリッ…

 

レイが口元に差し出した()()の何かを反射的に噛んだアスカとシンジ…。

 

「んぐっ!?」

(にっが)ぁい!なによこれー!?」

 

悶える二人を余所に、レイはパリパリポリポリと同じものをハイペースに食べ進めていた。

 

「ゴーヤチップス。慣れると結構いけるよ!この苦味が癖になる感じでさ」

「誰よ、こんな()()()()買ってきたの!」

「むらみー」

「あぁ…村宮さん…ならしょうがないか…」

 

村宮ユウコ。

茶色のストレートヘアに釣り目勝ちな、レイと仲の良い女子グループの一人の名に、シンジは納得した。

()()()()()()()()()()な上に結構ないたずら好きな少女だ。

 

アスカとピッタリ合わせた『サラウンド・あんたバカァ?』や、

微妙にタイミングをずらして被せつつ徐々に音量を下げる

『エコー・あんたバカァ…バカァ……バカァ………?』

など多彩な技をやってのける、なかなかの強者である。

 

「アイツ!今度シメてやるわっ!」

「まぁまぁ、後でお口直しに『ちんすこう』あげるからさ。むらみーは許してあげてよ」

「ちんす…何?」

 

アスカは別のものを連想して、顔をしかめた。

 

「沖縄のクッキーみたいなやつ…あ、もしかして響きでエロい想像しちゃった?んもーぅアスカっちもお年頃だなぁ♪」

「音楽の授業で作曲家の名前に過剰反応する奴に言われたかないわよ。

『マーラー』やら『ドビュッシー』やらが出るたびにゲラゲラ笑うとか男子かアンタは」

「あ、あはは…」

 

レイにジト目を返すアスカ。

シンジは二人のやりとりに乾いた笑いを漏らしつつ、本部前のゲート…カードスリットに、IDを滑らせる。

 

「…あれ?」

 

反応がない。開くはずのゲートは沈黙したまま。ディスプレイもまったく無反応。

シンジの顔に、不安がよぎった。

 

「どしたん?普通にカード通せば…およ?」

 

レイが挑戦し、同じく何も起こらず、首を傾げる。

アスカが二人を押しのけ、進み出た。

 

「ちょっと、退きなさい!ん…?んん……?

もーっ、壊れてんじゃないのぉ、これぇ!?」

 

何度IDカードを前後させても、うんともすんとも言わぬまま。

アスカの声が、閉じたゲートの前に響き渡る。

 

レイ達は気づいていなかった。信号が不意に消えていた事に。

科学の街、第3新東京市は、完全に沈黙していた。




お友達女子グループのモブ子さん達の名前は多分ご想像通りです。
次回、ザトウムシ使徒…まで行くかは不明。真っ暗な本部内を進撃予定。


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51、リナレイさん、真っ暗なネルフ本部にIN(前編)

|_ ̄;)戦闘はまだです。ザトウムシが遠い…


レイ達三人は、メインゲート以外の扉を片っ端から調べたが、軒並み無反応。

 

本部に連絡を取るべく携帯電話を確かめてみたところ、全員が『圏外』。

緑色の公衆電話も試してみたが、呼び出し音すら鳴りはしない。

有線・非常回線ともに完全不通の状態だ。

 

一部故障などという生易しいものではなく、大規模な停電…。

正・副・予備の三系統からなるNERV本部の電源が一度に落ちるという、

()()()()()()()()()()()()()が現実となっている。

 

緊急時のマニュアルに従って『第7ルート』と呼称される非常地下通路へと向かった三人は、

薄闇の中で「07」と赤くナンバリングされた扉の前に立っていた。

 

扉の横には『緊急時のみ(EMAGENCY ONLY)』と注意書きされた手回し(クランク)式のハンドル…

普段は電子ロックで閉じられていて、無理に開けようとすれば警報が鳴る仕組みだが、

それらが動かない今、この『手動ドア』が役に立つ。

 

「ほーら、シンジ。()()()()よ」

「…男女で仕事を分けるのは、前時代的だって言ってなかったっけ?」

「あーもうっ!いちいち細かい事ばっかり覚えてるわね!

適材適所!アンタ、女に力仕事やらせる気?」

「わ、解ったよ。アスカって、こういう時だけ人に頼るんだもんなぁ…」

「大丈夫大丈夫。碇くん、前に比べてだいぶ筋肉ついたし、楽勝よ。

ほらっ、腰落として!上腕(じょーわん)背筋(はいきん)っ!

意識して、いってみようっ!」

「うん、やってみるよ」

「ふーん、バカナミ相手には素直じゃないの。

彼女の前だからってカッコつけちゃってさー」

「っ…うるさいなぁ…うぅんっ…!」

 

少女達に答えつつ、シンジは開閉装置の前に踏ん張り、レバーに両手を掛ける。

軽々とは行かぬまでもクランクは確実に回り、両開きの金属扉はゆっくり開いた。

ふぅ、と一息つくシンジ。レイは彼の背をポンポンと(ねぎら)うように叩いて微笑み、暗がりの中に半歩ほど踏み入れて二人を振り返る。

 

「お疲れー碇くん。んじゃ、行こうか!」

「ちょっとバカナミ、なにリーダー気取ってんの?勝手に仕切らないでよ!」

「んー、アスカっちがリーダー張りたいんなら、別に構わないけどさ。

本部の構造解る?あたしは大体頭に入ってるけど、慣れないとマジで迷路だよ?」

第3(ここ)に一番長くいるのは綾波さんだからね…。

素直に任せた方がいいんじゃないかな?()()()()、だろ?」

「うぐっ…!そ、それは…」

 

シンジに自分の言葉を返され、アスカは口籠った。

シンジがこの街に訪れてからせいぜい数ヶ月、アスカが来日したのは更に後…

基地構造の点では、年単位で過ごしているレイと比べれば差は歴然だ。

 

プライドが先行し、リーダーシップを取りたがったアスカだが、

この非常時…真っ暗な本部の中で迷ってしまったら、大惨事どころではないのは理解している。

リーダーとは威張るだけでなく『何かあった時に責任を取る』のが仕事なのだから。

 

「とゆーことでアスカっち()()

不肖、綾波レイ…ご命令とあらば見事、本部発令所までご案内致しましょう!」

「へっ…?」

 

人差し指を立ててみせたレイに、アスカは間の抜けた声を上げる。

アスカにリーダーの名目を譲りつつ、自分がナビゲートできる形をレイは提案した。

 

少女達のやりとりを見てクスクスと笑うシンジ。

「むっ」と喉声を搾って彼を睨んだアスカだったが、やがて諦めたような笑みを浮かべた。

 

「あぁ、もう…アタシの負けよ。じゃあ、()()()()()()、バカナミ!」

了解(イエス・マム)命令(オーダー)、承りましたっ!」

 

ビシリ、と敬礼を決めるレイ。

改めて三人は、暗い基地の中へと歩を進めていく…

 

 

 

 

いつもならばエレベーター、エスカレーターを使い、

5分と掛からず行けるジオフロントまでの道が、今はとてつもなく長い。

 

暗い道を照らす灯りは、アスカが身に着けた腕時計のライトのみ。

この停電がいつまで続くか解らない以上、携帯電話のライトは使うことを避けてバッテリーを節約している。

 

「うわっ!?」

「ほら、碇くん、あたしの手ぇ取って」

 

実質、裏道のような第7ルートは、整備のための予算がほとんど行き届いておらず、コンクリートも配管も剥き出しになったままである。

シンジはデコボコの足場に(つまづ)き、危ういところでレイにフォローされた。

 

「こんな時までイチャつかなくてもいいでしょうが、このバカップ…!」

「はい、アスカっちも」

「っ…!?」

 

差し出されたレイの左手に、アスカは言いかけた文句を飲み込んだ。

何秒かの間があり、アスカはおずおずとその手を掴む。

 

体温が低いのか、レイの手はひんやりと冷たく…

なのに、適度に力を入れた柔らかい掌は、何故か温もりと安心感があった。

その感触に、温泉旅館での一件を思い出し、顔を背ける。

暗さで紅潮した顔が解らないのは、アスカにとって幸いだった。

 

暗闇の中…危なげない足取りで二人の手を引くレイが、しばらく進んだあと、ハッ、と息を飲む。

 

「なによバカナミ」

「あたし…気づいちゃった」

「どうしたの、綾波さん。ま、まさか、道を間違えたとか…?」

「右手に美少年、左手に美少女…

今のあたしって両手に花じゃね!?」

知らんわこのバカッ!

 

ベチィッ!音量こそ小さいが、やたら通る打撃音が暗闇に響いた。

 

(いった)ぁーい!両手塞がってる時に本気(マジ)デコピンはひどいよアスカっちー!」

()やかましいッ!大体アンタは非常時にしょーもない事ばっかり…!」

「二人とも、静かに!何か聞こえる!」

「なによシンジ!?」

 

涙目のレイと、噛みつくアスカの喧嘩を遮り、シンジは頭上を指さした。

 

「車の音だ…それにこの声…日向さん!?」

 

鉄骨の隙間から、かなりのスピードで走る車のヘッドライトが漏れていた。

スピーカー越しの作戦オペレーターの声が、うっすらと聞こえる。

 

事実上、スーパーコンピュータ・MAGIが市政を運営している第3新東京市において、

ほぼ形骸化してはいるものの、市議選挙は行われていた。

日向マコトは非常事態ゆえにNERV権限を行使し、偶然通りかかった選挙カーを接収したのだろう。

 

『…徒……近……!使徒…接近中…!ただちに…』

「「使徒接近!?」」

 

日向の声は途切れ途切れだったが、かろうじて聞き取れた言葉に、アスカとシンジが声を揃えた。

 

「メガネくんが、あんなに焦ってるって事は…こりゃー急がないとヤバいな。

よし、近道しよう!二人ともー、ちょっと手ぇ離すよー」

「近道?あるの、そんなの?」

 

驚いたように問うシンジに、レイは壁の一つを指さす。

正確には、壁にしつらえられたタラップと、ブリキ製の四角い穴だ。

 

「バカナミ、まさか…」

「イエス・マム!通風孔(ダクト)であります、アスカっち隊長。

ここを通れば時間を遥かに短縮できるものと愚考いたします、マム!」

 

楽し気に、そしてわざとらしい程に、先程の設定を蒸し返すレイ…。

苦虫を噛み潰すが如きアスカの表情は、暗闇に紛れた。



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52、リナレイさん、真っ暗なネルフ本部にIN(後編)

「…まるでネズミかヤモリの気分だわ」

「ちょーっと我慢してちょ、アスカっち。あと何回かダクト経由するしー」

「うぇぇ…」

 

レイが先導し、アスカとシンジが続く形で、狭いダクトを四つん這いで進んでいく。

あまり格好の良いものではないのは確かであり、アスカの声には不機嫌さが滲んだ。

 

「き、きっと大丈夫だよ!だんだん『下』には向かってるみたいだし…このまま進めば、本部に着けると思うよ?」

「あぁーハイハイ。()()()()()()()を疑うワケないですわねー?

まったく、すっかり飼い慣らされて…女の尻に喜んで敷かれる男なんて、最低(サイッテー)!」

「むっ…なんだよアスカ。そんな言い方ないだろ?」

 

懸命のフォローをアスカに一蹴され、シンジが唸る。そこに、振り返ったレイが一言。

 

「どっちかっつーと尻に敷くっていうより、あたしが()()()()()()()()方が多…」

「わー、わーッ」

「うっさいわねバカシンジ!

大声で誤魔化さなくたって、バカナミの話を聞いてればアンタ達が『どんな事してるか』ぐらい大体察しが着くわよっ!

間違っても委員長(ヒカリ)の前で、その手の話はしないでよね!」

「ご…ごめん」「てへぺろー☆」

「てへぺろじゃないわよ、ったく万年脳味噌()ピンクのバカップルがっ!」

 

使徒が接近しているこの状況で、なんとも緊張感のないことではあるが、『いつも通りのしょうもない会話』は、子供達の心を紛らわすにはちょうど良かった。

 

ダクトを出て、別の通路に降り立ち、レイが分かれ道を選別する…

果てない暗闇の中、僅かな明かりを頼りにまたダクトへ…その繰り返し。

 

(僕一人だけだったら、道も解らないし、不安で、怖くて、途方に暮れてただろうな)

 

床も壁も無機質で変わり映えせず、『進んでいる』という実感は、あまり得られない。

だが7番ルートから侵入して行軍するうちに、壁に書かれたルートの名が『75番』になった事から、順調に奥まで来られている事はシンジにも解った。

 

それにしても…地上とほぼ同じ速度で歩き続けるレイの背に、シンジは声をかける。

 

「綾波さん…こんな真っ暗な中で、よく平気で進めるね」

「言ったっしょ?本部の構造は、大体頭に入ってるって。

それに『視覚』は五感のうち、たった一個だよ?

その場の『空気』には、色んな情報があんの。

()()の反響具合、顔に当たる風の()()、含有水分量で変わる空気の()()()

ほら、他の四つの感覚、みーんなカバーされてるじゃーないですか!余裕余裕(よゆーよゆー)

「余裕って…」

「アタシはドイツ支部で暗中格闘訓練を受けたことがあるけど、それが言う程簡単じゃない事は解るわ。

…バカナミ、アンタ何者なの?」

 

あまりにも、人間離れしている。

シンジとアスカが抱いた疑問に、レイは歩きながらコメカミを掻いた。

 

「ま、『自分は何者であるか?』みたいな哲学(てっつがくぅ)~なお話はおいおい、ね。

そろそろ75番のゲートが見え…うっはぁ!?」

「これは…手じゃ開けられないよ…」

 

飄々(ひょうひょう)と話をはぐらかしたレイの声が裏返り、ゲートを見たシンジは溜め息をひとつ。

過去の使徒戦の振動で崩れたのか、肝心のゲートは下半分ほどが瓦礫で埋まっていた。

 

瓦礫の前には、建築資材と思しき鉄パイプや金属製の足場板…

大きなスコップなどが、無造作に打ち捨てられている。

以前に復旧工事を行おうとして、断念したのかもしれない。

レイの正体はさておき、今は目先の問題…アスカは横目に溜め息をついた。

 

「…どーすんのよ。ダクトの入口も、ここらには見当たらないわよ?」

「昔の偉い人は言いました。道がないなら作っちゃえばいいんじゃね?

「?」

 

怪訝な顔をするアスカを余所に、レイは(おもむろ)に鉄パイプの一本を手に取る。

シンジは、ハッと息を飲んで、レイの考えている事を察し、声を上げた。

 

「アスカッ!耳塞いで!」

「なによシンジ、ちゃんと説明しなさ…」

「そうるらぁっ!きゃおらぁっ!」

 

ゴォン!ギィン!ガァン!ゴォン!めりっ!めりめりっ!!

 

「いぃィッ!?」

 

耳をつんざく金属同士の打撃音に、アスカは反射的に耳を塞いで身を縮めた。

どこぞの格闘士(グラップラー)漫画の登場人物よろしく珍妙な気合を発しながら、レイは鉄パイプでダクトの()()()を打ち据える。

 

過去の事故で劣化していたのか、ダクトのブリキ板にはたやすく隙間が出来た。

そこに鉄パイプを突っ込んで、テコの原理で一枚をメリメリと()()()()()

 

額の汗を拭って、晴れやかな笑顔。本日の綾波レイは、非常に暴力的(バイオレンス)だった。

 

「ふー!いい仕事したっ!そんじゃ行くよ二人ともー!」

「こ…この独善者っ!手段ぐらい選びなさいよっ!」

「でも、綾波さんのおかげで本部に行けるよ。その、かなり、強引だったけど」

「この手に限るっ!」

 

耳を覆っていた手を恐る恐る離して絶叫するアスカと、困惑気味に苦笑するシンジ。

そんな二人を前に、レイは鉄パイプを己の肩に乗せ、ドヤァ!と胸を張る。

本部発令所は、目の前だった。




道に迷ってないので、チルドレンは原作より早く着けそう。
その煽りでザトウムシ兄貴を目視確認するシーンはカットです。
しょせん奴は最弱…我ら十七使徒の面汚しよ…


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53、マトリエルさん、停電した街にIN(前編)

ザトウムシさんの事マトリエルっていうのやめろよ!

ん…?間違ったかな…?(アミバ並感)


第3新東京市、ならびに本部のブレーカーは事故で()()()のではなく、

悪意ある第三者によって意図的に()()()()()というのがNERV幹部級の見解だった。

強権・利権を有する特務機関NERVには敵が多く、下手人(ゲシュニン)の心当たりは『有りすぎて特定出来ない』。

「しょせん()()()()()()()だよ」とは、総司令・碇ゲンドウの弁である。

 

いかに科学万能の都市とはいえ…否、だからこそ、というべきか。

科学の『血液』たる電気が止まれば、身動きが取れないのが現状だ。

 

そんな中、作戦オペレーターの日向マコト二尉は、偶然通りかかった選挙カー…

『市議会議員候補 高橋覗(タカハシノゾク)』のプレートをつけたワゴン車を接収し、発令所に直接突入。

 

「使徒接近中。ただちに、エヴァ発進の要有りと認む」

 

日向が拡声器(メガホン)越しに叫んだ()()()()()()()()()()に、発令所は騒然となり…

職員・作業員達は薄闇の中、各々の仕事に追われていた。

 

 

 

カァァン……コォォン…… 不意に発令所内に響く、金属の叩かれる音。

 

カンカァン…コォン… 金属音の、間隔は。

 

カンッ ガンガンガンッ ゴンッ! 徐々に、短く、大きくなっていく。

 

 

 

すわ、どこぞの組織の特殊工作員か。

点々としたロウソクの明かりに照らされた職員達の顔に、緊張が走った。

久方ぶりに手書き(アナログ)で情報をまとめていた長髪のオペレーター、青葉シゲル二尉は、

ガコンッ! という何かが外れる物音にペンを止め、顔を上げる……

 

 

 

「突撃っ!NERVの晩ごはぁ~んっ!」

「うっわぁ――――ッ!?」

 

次の瞬間、青葉の眼前に通風孔(ダクト)の金属板が落下。

がっしゃぁーん!ごゎんごゎんごゎん…

騒がしく(たわ)みながらバウンドした。

 

暗闇で時間感覚は狂いそうだったとはいえ、夕飯にはずいぶんと早いはず。

そんなん構わん、と言わんばかりのハイテンションな若い女の声に、青葉は床にへたり込みながら絶叫する。

 

闖入者は()()()()()()()()ではなく()()()()を抱えていた。

闇の中で光る瞳は、後続にもう二対…合計三人分の視線が、ダクトに空いた穴から降り注ぐ。

青葉は、ひぃっ、と喉を引きつらせた。

 

「おーっすロンゲくーん!元気かねー?」

「す、すいません青葉さん!大丈夫ですか!?」

「ちょっとー、この高さから飛び降りたら怪我しちゃうじゃないのよー!

コーチ!脚立(キャタツ)持ってきて脚立ー!」

「レ、レイちゃん?シンジくん?アスカちゃん?」

 

それぞれ違う呼び方で己を呼ぶ声に、青葉はようやく相手が見慣れた少年少女達だと気づいた。

ちなみにアスカが『コーチ』と呼んだのは、青葉が地球防衛バンドの指導を担当しているためである。

…もっとも指導者・年長者への敬意はなく只の愛称であり、容赦なく彼をパシリに使ったのだが。

 

 

 

 

なにはともあれ…青葉が大急ぎで持ってきた脚立を使い、三人は無事に…

スカートの中身を気にしたアスカがキャーキャー騒ぐというトラブルはあったものの…

まぁ、とりあえずは無事に、発令所に降り立った。

 

「みんな、これを見てくれ。日向二尉(マコト)が車内から撮影した、使徒の映像だ」

 

青葉はノートパソコンを開き、バッテリー残量を確認してからファイルをダブルクリックした。

顔を寄せ、画面を見つめるレイ達…。

日向二尉の携帯端末からUSBケーブルで吸い出した動画が再生される。

 

 

第3新東京市の建物の間で動く…()()()()()()()()の『細長い何か』。

蜘蛛だかザトウムシだかの足のような『へ』字型の巨大な棒が四本…

轟音を立てながら曲げ伸ばしを繰り返し…()()()いた。

 

『使徒を肉眼で確認…!ヤバいぞ、これは…!』

『と、当管区内における、非常事態宣言にともないっ…

緊急車両が通ります…って、あのっ、行き止まりですよぉっ!?』

 

撮影者である日向の切迫した独白に、上擦った女性の声が重なる。

選挙カーに運悪く乗り合わせていたウグイス嬢だ。

 

『いいから突っ込め!なんせ非常時だからなっ!』

『了ぉぉ解ぃぃっ!!』

 

日向の怒鳴り声に答えたのは、運転手の男だろうか。

極度の興奮状態…最ッ高にハイな感じなのが、聞いていて解る。

 

『嫌ぁぁあ~~っ!?もう止めてぇ~~っ!?』

バッキャアァッ!!

 

ウグイス嬢の悲鳴と、何かを破砕した小気味よい音と共に、動画は終わった。

 

 

 

「…メガネくん、超楽しそうだね。なに、カーアクションでもやってたん?」

「トンネル前を塞いでたプラスチック製のバーを、そのまま()()()()()()()本部まで乗り入れたんだ。

そりゃマコトの奴も爽快だっただろうよ」

 

レイの視線から逃げるように、青葉は顔を反らす。

高橋議員の車に乗っていた面々は全員が降車しており、日向は拝借したメガホンを片手に、私服のまま職員達の間を駆けずり回っていた。

 

栗色ボブヘアーの、恐らく伊吹二尉と同年代であろう可愛らしいウグイス嬢は、

子供のようにしゃくり上げながら女性職員に慰められていて、

運転手のオッチャンは、男性職員からハッカ味の禁煙パイプを受け取り、

「や、どうもスンマセンねぇ」などと笑いつつ呑気に一服している。

混沌とした状況に、アスカは肩を竦めた。

 

「状況は大体解ったけど…それにしても暑いわねぇ…なんだか気持ち悪いわ」

「空調が止まってるからな。不快なのは勘弁してくれ。

冬月副司令の指示で、生き残った回線は全てMAGIの維持に回しているんだ。

副司令も『やりきれない』と嘆いていたよ。

現代科学の粋を極めた施設が、この有様じゃあな」

 

青葉は視線を上…司令席へと向けた。

冬月は必要とあらば指示を出すべく、全体の状況を俯瞰(フカン)している…

本来、指揮を取るべき、冬月の隣にいるはずの最高司令官の姿はそこになく…

 

「各機、エントリープラグ挿入準備!手動でハッチ開け!」

 

「父さん!?」

「おぉー…碇司令、いつになくやる気出してんね」

「ホント、あんな司令、初めてみたわ」

 

電気のない状態で、()()()()()()()()()()()()べく…

作業員達の間近で直接指示を出すゲンドウの姿に、子供達は目を凝らした。



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54、マトリエルさん、停電した街にIN(後編)

TV版ではこの戦いから零号機が青くなってますが、今作では黄色のままです。
ラミエルさんの初撃を喰らわなかったのと、装甲を溶かされた初号機も原作零号機よりは被害少なかった関係上、改修せずに済んでいます。


エントリープラグをエヴァの首の後ろまで持ち上げ、ハッチを開ける作業は基本的に滑車とロープ…

そして多くの男手を総動員した大仕事だ。

総司令という自らの立場も省みず、ゲンドウは作業員達に混じり、汗も拭わずロープを引いている。

シンジは光源の限られた薄闇の中、歯を食いしばった父の真剣な表情に見入っていた。

 

「碇司令は、君達が来るのを信じていたんだ。

電気なしで何も動かないなら、人の力で、ってね。

こっちで作業を進めてるうちに、君達も準備を頼む。

あそこの備品倉庫の中に、プラグスーツの予備があるから」

「はい」

 

青葉に背を叩かれ、シンジは頷く。

レイは両拳を腰だめに握りしめ、「よっしゃ」と気合を入れた。

 

「ここまでお膳立てされちゃー頑張らない訳にはイカンわな!

いっちょやりますかぁ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!ここで着替えろっての!?」

 

更衣室までは遠く、仮に到着しても扉を強引にこじ開ける必要がある。

時間と手間を省かなくてはならないのは、アスカにも解っているが…

プラグスーツに着替える…ということは、すなわち一度全裸になることを意味しているのだ。

シンジもそれに気づき「あっ」と間抜けな声を漏らす。

レイは己の唇に指を当て、中空を見つめた。

 

「どーせ暗いんだし、その辺でちゃちゃーっと脱いでちゃちゃーっと着ちゃえば良くね?」

「…時々アンタがアタシと同じ女なのか疑わしくなるわ」

「うん、僕も流石にそれは…」

「備品の中に大きめの布があるはずだから、入口に目隠しを張って、そのまま倉庫内で着替えてくれ。

明かりは、中にある懐中電灯を使うといいよ」

 

人並みの羞恥心と人一倍のプライドを持つアスカはもとより、シンジとしても恋人(レイ)の肌を不用意に人目に晒したくなかった、というのが本心である。

結局のところ、レイの発言は却下。

青葉の案が採用され、まずはシンジ、次に女子組が着替えを済ませた。

 

ケージに向かわんとする最中に、シンジは一度足を止める。

 

「父さん!」

「…なんだ」

 

ゲンドウは息を整えながら、短く息子に答えた。

…数秒の沈黙。シンジは言葉を探して口ごもる。

職員・作業員の目が、碇親子に集まった。

 

 

「あの…」

「どうした?早く言──」

「エヴァの準備、ありがとう!行ってきます!」

「え…、あ、あぁ…」

 

苛立ち、声を荒げて急かそうとしたゲンドウは、息子の発したあまりにも単純(シンプル)な言葉に面食らう。

 

「んじゃ、そーゆーことなんで!行ってくんね、司令!」

「パパへの挨拶は済んだんでしょ?使徒はそこまで来てるんだから、集中しなさいよシンジ!」

「時間取らせてごめん!行こう!」

「……」

 

レイは二本指の敬礼をしつつ悪戯っぽく笑い、アスカは「フン」と鼻を鳴らす。

身を(ひるがえ)し、エントリープラグに走っていく息子と、並走する少女二人…

ゲンドウは何かを思うように、黙って立ち尽くしていた。

 

「ありがとう」という感謝の言葉も、「行ってきます」という当たり前の挨拶も、

長い間、互いに接触を避けていた二人に取っては相当久しぶりの…

もしかしたら初めてのことかもしれない。

 

「親子そろって…不器用なのだな。生きる事が」

 

冬月副司令は、一連のやりとりを司令席から見下ろしながら苦笑した。

 

 

 

パイロット達が搭乗したあと、仕上げの作業だけは電力を使わざるを得ず、

緊急用のディーゼル発電機によって歯車が回され、エントリープラグのカバーが閉じられた。

その後、エヴァ上部を留めるロックボルトを外すため…作業員達が各部の油圧チューブを斧で断ち切る、という()()での拘束解除が行われる。

双眼鏡で状況を確認したマヤが、声を上げた。

 

「圧力ゼロ、状況フリー!」

「構わん、各機、残りの拘束具は実力で排除!出撃しろ!」

 

ゲンドウの号令を受け、エヴァ全機は前部を押さえつける第二拘束具を腕力で押し出して退けていく。

5分足らずの内部電源を補うため、背部のアンビリカル・ケーブルの接続口には非常用の巨大電池(バッテリー)が搭載された。

 

準備が整い、いざ発進…したのはいいが、基本移動手段はエヴァを使っての()()

狭い横穴は匍匐(ほふく)前進で進んでいく。

 

「もぉ~っ、カッコ悪ぅい!来る時と変わらないじゃないのっ!」

「しょうがないよ、リフトが使えないんだから…綾波さん、次はどう行けばいい?」

「突き当たりを強引に蹴り破ることになるけど、そっから縦穴に出られるよ。

…っと、通信来た?」

 

エヴァ同士で通信を交わすパイロット達のプラグ内に、パネルがポップする。

水色単色背景に『音声のみ(SOUND ONLY)』『節電設定(SAFE MODE)』の黒文字。

稼働電力1.2%の旧回線頼り…辛うじて維持されているだけのMAGIでも通信が繋がるのは、せめてもの救いである。

 

『みんな、聞こえて?本部の赤木よ。

日本重化学工業(ニチジュウ)からの技術提供で、エヴァの手の甲に新しくサブカメラを搭載してあるわ。

解っていると思うけれど、基地内外のカメラが軒並み()()()()()今、MAGIによる情報分析にはエヴァからの(ナマ)の映像が不可欠となります。

各自、慎重に行動してちょうだい』

「サブカメラぁ?なんか地味ィ~な改造ねぇ?どうせなら武器でも新調すればいいのに!」

「何をおっしゃるアスカっち。情報は武器だよ?

ジェットアローンの技術を惜しみなく開放なんて、時田氏(トッキー)もなかなか太っ腹じゃないの。

よーし、こんど育毛剤でも差し入れてあげるかっ!」

 

レイは冗談を交えながら零号機で突き当たりの扉をゲッシゲッシと蹴り抜き、日の光が差し込む縦穴への道を開いた。

左手甲をそこに差し出し、上に向ける。「サブカメラ・オン」の一言で、視界の隅に縦穴内の映像が浮かび上がった。

 

「お、これ便利!えーっと…縦穴の幅はー…

エヴァが手足を突っ張れば、よじ登れるぐらいかな?

上は…遠くてよく見えない。最大望遠!」

 

倍率が一気に上がる。

縦穴の終点…地上付近に陣取った、極彩色の()()が映った。

そこから、多量の(だいだい)色の液体が降る…。

 

ジュウッ、という音と共に、それを浴びた零号機の手が白煙を上げた。

 

「うっひゃ!?なんじゃこりゃっ!?」

「バカナミ!?」

「大丈夫!?」

「死にゃーせんけど地味に痛い!

ちっくしょーA.T.フィールド張っときゃよかった!

はかせー!赤木博士ー!なんぞこれー!?」

 

レイは熱したヤカンに触れた時のように零号機の手を引っ込めながら仲間に答え、サウンドオンリーの通信パネルに問うた。

 

『目標は、円盤状の胴体下部にある目玉から強力な溶解液を分泌中。

歩行に使っていた4本の足で、縦穴をまたいでいる形ね。

弱点(コア)もその目玉だと推測されるわ。

…問題は、どうやってフィールドを中和するか…』

「「「うーん……」」」

 

リツコの分析に子供達(チルドレン)は頭を悩ませる。

いきなり液体を浴びなかっただけでもサブカメラ導入の意義はあったが、

断続的に目の前を通り過ぎる()()()()()を避けるため、三体のエヴァは横穴に身を潜めるしかなかった。

 

パレットガンの射程内ではあるが、フィールド中和範囲からは外れていて、一方的な射撃は不可能。

横穴から銃口だけ出して撃ったところで、()()()で壁は射抜けない。

 

高低差を縮めるためにエヴァの両手足を突っ張って縦穴をよじ登ろうとすれば、中和範囲に入った途端に溶解液をモロに浴びてしまう。

 

囮と遊撃に戦力を分けて、別ルートから地上に向かう事も考えられたが、これはバッテリー残量が許さなかった。

試作品の非常用電池は長持ちするものではなく、内部電源と合わせても到底時間が足りない…。

 

ふと、アスカが意を決したように沈黙を破った。

 

「…アタシがフィールド中和と()()をやるわ。

弐号機の装甲板なら、あの強酸っぽいドロドロにも多少は耐えられるでしょ。

隙を見て射線を空けたら、零号機と初号機の二機がかりでパレット一斉射。どう?」

「そんな、危ないよ!」

「だからよ!大見得切ってリーダーに名乗り出た以上、危険な役目はアタシが引き受ける。

たまにはカッコつけさせなさい!それに…信じてるからね、アンタ達の事」

「やだ、アスカっちカッコいい!惚れそう!抱いて!」

「バカップルの間に入って馬に蹴られる趣味はないから遠慮しとくわ」

 

シンジの弱気も、レイの軽口にも免疫がついてきたのか、サラリと流すアスカ。

通信の向こう、リツコは分析を続けていた。

 

『MAGIの試算では、作戦の成功率は約六割といったところね。

悪くはないけど、手放しで安心出来る確率ではないし、弐号機の損傷が大前提になる…

いいの、アスカ?』

「是非も無し、ってね!…行くわよ(ゲーヘン)っ!」

 

横穴の淵に弐号機の手を掛けていたアスカは、サブカメラ越しにタイミングを計り…

溶解液が途切れた瞬間を見計らって、逆上がりの要領で弐号機を縦穴の上方に跳ね上げた。

 

A.T.フィールド同士が干渉し合う距離に陣取り、四肢を大の字に広げ、使徒の目玉に背を向ける形で身体を固定。

溶解液が再び落ち始め…アスカの背中に、熱い痛みがフィードバックダメージとなって伝わった。

 

「うぅ…ぐぅぅぅっ!こンのくらいぃぃいっ!!」

 

全天周囲モニターにノイズが走り、ダメージを警告する赤文字が点滅しても、アスカはそこを動かず耐える。

 

『A.T.フィールド、中和されたわ!』

「アスカッ、避けて!」

「腐れザトウムシがーッ!(タマ)()ったらァ!!」

 

約一名、任侠映画っぽい啖呵を切っていた少女もいたが…それはともかく。

通信越しの声に、アスカは壁側に弐号機を寄せ、自由落下しつつ射線を空けた。

横穴から縦穴へ、上向きに突き出された零号機と初号機の銃口が…

落ちていく弐号機の脇を抜けて二つの火線を走らせる。

 

目玉は見る間に蜂の巣にされ、意外なほどあっさりと、第九使徒は沈黙。パターン青は消滅した。

 

「碇くん!」

「解ってる!」

 

レイの合図に合わせて二機は縦穴へと飛び出す。

両足と、両肩のラックを壁に突き刺し、両腕を広げ、弐号機を受け止めんとする。

 

アスカは、不意に浮遊感を感じた。

 

(この感じ…ママ?うぅん、違う。バカナミとシンジのA.T.フィールド…拒絶じゃなく、守るための…心の…壁?)

 

「うぐっ!」

 

落下の衝撃が、アスカの思考を途切れさせる。

それでも、二機掛かりで受け止められた分、予想よりは遥かにダメージは少なかった。

 

「アスカっち、お疲れ、がんばったね」

「アスカ、無事か!?」

「…あったりまえでしょ。アタシを誰だと思ってんの」

 

(仲間…そうか。アタシ、笑えるんだ)

 

機体越しのはずなのに、感じるのは温もり。アスカは、穏やかな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

それから数十分。ようやく、基地内の電気が復旧する。

エレベーターを待っていたリツコとマヤ、そして日向の前で、扉が開き…

 

「ぬぉおおお~~~っ!トイレトイレトイレぇ~~っ!おしっこ漏れるぅぅぅ!!」

 

鬼気迫る顔で叫びながら飛び出したのは、葛城ミサト三佐。御年29歳。

床には蹴っ倒され、踏み越えられた加持リョウジ一尉が哀れにもうつ伏せに転がっている。

 

「葛城さん…見えないと思ったら、閉じ込められてたんですね…」

「あのバカ…」

「ふけつです…」

 

締まらないところも多々あったものの、使徒戦はかくして幕を閉じた。



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55、地球防衛バンドさん、文化祭にIN

前回までのあらすじ

ゲンドウ「ぬぉぉぉ腕がぁぁぁ肩がぁぁぁ腰がぁぁぁ」
冬月「筋肉痛だな」


街一つが停電するという大事件から数週間。

 

第3東京市・第壱中学校は、11月の最終日曜日に文化祭を開催した。

セカンドインパクト以前は、土日の二日間で文化祭を行う学校が多かったが、同校では一日だけ。

エヴァパイロットという重要人物が集まっている関係上、警察やNERV保安部でガードをガチガチに固める必要があるため致し方ない。

それでも、相次ぐ使徒襲来の爪痕に沈む空気を吹き飛ばすように、各クラス、部活、同好会の出し物がお祭りモードを演出する。

 

 

文化祭も終わりに近づいた午後三時…学校側の計らいで、大講堂がライブステージと化していた。

 

「大停電がなんだ!使徒(バケモノ)がなんだ!

来るなら来てみろ大災厄(インパクト)

でもNN(エヌツー)兵器だけは勘弁な!!

第3新東京市は!否、地球の平和は!

俺達の手で守ってみせる!」

「「「「「「地球ッ!防衛バンド!!」」」」」」

 

ケンスケの語りと、バンドメンバー全員の掛け声と共に、舞台が照らされた。

 

祭のラストを飾るのは2年A組・地球防衛バンド。

メンバー以外のクラスメート達も、音響機材・照明などの効果演出を手掛けている。

強制参加ではないにも関わらず、全校生徒の半数近くが観客として訪れているあたり、その期待の程が伺えた。

 

クラスの女子達がデザインを凝らした多層フリルの手作りドレスに、小さなシルクハット型の飾りをあしらった可愛らしいカチューシャ。

アスカは真紅、レイは水色、ヒカリはライトグリーン…鮮やかな衣装を纏った少女達の姿に、生徒達の歓声が上がった。

 

一方の野郎連中は、シンジがTシャツとジーンズ。ケンスケが迷彩服。

トウジに至っては、いつもの黒ジャージに()()()の野球帽という有様だったが、男共が地味な方が女子達が際立つ、という事でそのままとなっている。

 

ギター・ベース・ドラム・キーボード…タイミングを合わせて始まった演奏…

目を引いたのは、やはり主役…美少女パイロットコンビ、レイとアスカのツインボーカル。

かつて分裂型の第七使徒戦でバンド練習が役に立った事があったが、歌もダンスも当時から更に精度を高めており、息はピッタリだ。

 

「「見よ!我ァが(まな)()ァ~っ!第壱中学校ォ――ッ!」」

 

よりによって、最初に演奏した曲が()()()()()()()()()()である。

『クサい・ダサい・でもカッコいい』を旨とする洋楽ヘヴィメタル調に作り替えられた校歌は、笑いと共に生徒達の心を掴む事に成功した。

間奏に入り、サイリウムが織りなす色とりどりの光の海へ「いぇ~い!」と余裕で手を振ってみせるレイ。心底ライブを楽しんでいる様子である。

 

曲と曲の合間には、

「罵ってください!」「踏んでください!」

「アンタらバカァ!?」

「「「ありがとうございます!ありがとうございます!」」」

という、赤き歌姫(アスカ)名もなきドM衆(ゆかいなげぼくたち)との()()()()()()()()もあったが、まぁ『いつもの事』である。

学年とクラスの垣根を越えている分、ドM衆が普段より大規模だったり、「アスカお姉様ぁ!」という女生徒らしき声が混じっているあたり、性別の垣根まで越えている節もあるが、ささいな事だ。たぶん。

 

 

二曲目、前世期に流行したアニメソングのカバー曲では、ベース担当のヒカリが思わぬ行動に出た。

おそらくは様々なアーティストのステージ動画を見て研究したのだろう。

弦楽器同士が背中合わせで演奏するという…つまり、ギター担当のトウジに寄り添うという大胆な位置取りをしたのだ。

生来の真面目さでベースラインを淡々と保ちながらも、はにかむような笑顔を見せるヒカリの姿に聴衆はどよめいた。

 

「な、なんか今日の委員長、めっちゃ可愛くね!?」

「あの堅物(カタブツ)の洞木さんが…」

「アレは間違いねぇ。恋する乙女の顔ですわ」

 

そして『台本にない行動』を仕掛けられたトウジ本人は、ざわめいている彼ら以上に驚いており、真横に『温もり』と『良い匂い』を伴った少女の微笑みが現れた途端、ギターをトチりまくった。

 

「うっははは!トウジの奴、焦りすぎだろ」

「おーい、しっかりしろよ()()()()!」

硬派(笑)(コーハ・カッコワライ)になってんぞー!」

「や、やかましわい!」

 

男友達に(はや)し立てられ、ユデダコ状態で声を裏返すトウジ。

後ろでビートを刻み、時折ペン回しの如くドラムスティックを器用に回転させていたケンスケも流石に目を見張った。

 

(うぉ~~っ、委員長の激レアショット!?カメラ担当、ちゃんと撮ってくれてるだろうな!?)

ドラムを叩きながらも騒ぐカメラ小僧の血。

プロモーションビデオを作るため、今回はクラスメートに撮影を任せているが…

ケンスケはこの時ほど『身体が二つ欲しい』と願った事はなかったという。

 

 

シンジはメンバー達の様子を確認しつつ、後方でキーボードを弾いていた。

エヴァパイロットという肩書を持ってはいるものの、教室では普段から必要以上に目立とうとしないシンジ…

本人としてもライブ本番では脇役に徹するつもりで、職人のようなストイックさで多彩な音色を操っていたが、

「「「い・か・り・く~ん!」」」という少女達の黄色い声には危うくミスしかけた。

 

声を上げたのはレイと仲の良い女子グループ。

どうやらレイからの仕込みだったらしく、仕掛けた張本人は、にまーっ、と笑っている。

 

(綾波さん、時々こういう悪戯するんだよなぁ。ビックリするし、なんだか恥ずかしいや。でも…)

 

嫌ではない。むしろ嬉しいし、楽しい。

学校(ここ)にいる時はパイロットの意味を持つ適格者(チルドレン)ではなく、遊び、学ぶ、()()()()()()()()に戻れる。

 

往年のジャズ曲のアレンジバージョン、そして、バンドの切っ掛けとなったオリジナル楽曲でセットリストは終了。

拍手と歓声、そしてアンコールの声の中…シンジは、仲間達の笑顔を眺めながら、表情を緩めた。




原作ではザトウムシエル君とゼンエーゲイジュツエル君の合間だったミサトさん昇進パーティを前借りしちゃった関係上、日常回として地球防衛バンドのライブが入りました。
セガサターン版無印&2ndインプレッションだけのパラレル設定ですが、ベタすぎるぐらい青春してて好きです。


ちなみにライブ当日のセットリストは、

1.第壱中学校校歌
(ヘヴィメタル風アレンジバージョン)

2.残酷な天使のテーゼ
(この世界観では別のアニメのOP曲)

3.FLY ME TO THE MOON
(J-POP風アレンジバージョン)

4.奇跡の戦士エヴァンゲリオン
(地球防衛バンド・オリジナル楽曲)

となっていました。

アンコールでは「チチをもげ!」をやろうとしたケンスケが、アスカっちとイインチョから全力のダブルパンチを喰らって沈み、「今日の日はさようなら」のアコースティックで綺麗に終わったそうです。


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56、リナレイさん&アスカさん、更衣室にIN

12月第二週某日。

NERV本部、女子更衣室。

 

「まったく、装甲(ガワ)が変わっただけだってのに、なんでこんなにテストが長引くのよ」

「システムの方にも、影響は出るらしいよ?あたしも詳しくは知らんけども」

 

ブツクサと文句を言うアスカに、レイが下着をつけながら答える。

第九使徒戦でサブカメラが役に立ったのを皮切りに、日本重化学工業(ニチジュウ)との技術交換は着々と進んでいた。

 

現在行われているのは、NERVと日重の技術を合わせた、軽量かつ頑丈な装甲への換装…。

結果、その調整にパイロット達も付き合わされ、かなり長居させられてしまっている。

 

とはいえ、アスカにはテストが延びた理由を聞く気はなかった。

エヴァンゲリオンの性能アップに携わる技術部・整備部のスタッフ達…。

彼らは良く言えば全員が機械工学のプロフェッショナル。

…悪く言えば、()()()()()()()()()()()揃いだ。

 

部のトップに立つ赤木リツコ博士など最たるもので、

「よくぞ聞いてくれたわっ!」

とばかりに、嬉々として説明してくれるだろう。

 

(命を預けるアタシ達としては、仕事熱心なのは有り難いけど、絶対に話が()()()()わよね)

 

いくらアスカが飛び級で大学を卒業していても、技術畑は専門外だ。

チンプンカンプンな用語まみれの長話なんぞ、疲れている時に聞きたくはない。

 

一足先に着替え終わったアスカは、更衣室中央の青いプラスチックベンチに腰を掛け、携帯電話を見ていた。

正確には携帯にぶら下がった青い天然石のオブジェを、溜め息をついて眺めている。

彼女の肩の後ろからブラジャー姿のレイが、ひょい、と覗いた。

 

「あらっ、可愛いねぇ、そのストラップ」

「加持さんからのプレゼントよ。タンザナイト…12月の誕生石だって」

「へぇー…って、アスカっち、誕生日だったの!?いつ!?」

「4日よ。先週の金曜日。いいから上ぐらい着なさいよバカナミ」

 

アスカのジト目もなんのその。

「そっかそっか誕生日かー」などと口にしつつ、ブラウスを着るレイ。

 

「言ってくれれば、皆でお祝いしたのに」

「どんちゃん騒ぎはバンドの打ち上げで、もうやっちゃったでしょ。

誕生日だからって、わざわざ仲間内でパーティ開くこともないわよ」

「んー…まぁ確かにいつもの面子よりは、デートの方が貴重かぁ。

でも、せっかく加持一尉と二人っきりになれたのに、表情が浮かないね?」

「そりゃあ、加持さんからのプレゼントだし、嬉しいわよ?けど、アタシだって女だもの。

指輪…みたいに重い事は言わないけど、せめてブローチかネックレスなら、って思ったわ。

そう言ったらさ…」

 

『俺みたいなオッサンのプレゼントしたアクセサリーなんて身に着けてたら、

アスカにボーイフレンドが出来た時、嫌な想いさせちまうだろ?』

 

「…だって」

「あー…うん…」

 

アスカのどこか寂しげな笑みに、レイまで心を締め付けられたように目を伏せた。

憧れていた、自分を大切にしてくれる大人の男性…。

結局はその気づかいが、父親が娘を見守るようなものだったと、解ってしまったのだ。

 

「アタシは子供の自分を捨てて、早く大人になろうとして…

でも加持さんは、アタシの成長を見守りながら、()()()()()も同時に守ろうとしてた。

…加持さんやミサトは、そう出来なかったから、って」

「セカンドインパクト?」

 

レイの言葉に、アスカは頷く。

体験者に「地獄しかなかった」と言わしめる大災厄。

大人と子供を隔てる、その壁の高さに、アスカは寂しさを感じた。

 

「…でもね、思ったよりショックじゃなかったのよ。

地球防衛バンドだって、元々は加持さんに見せたくて練習してたはずなのに…

いつの間にか、歌うことが楽しくなってた。

青葉一尉(コーチ)やアンタ達とジュースで乾杯した時は、使徒と戦った後より達成感があったわ。

あぁ、加持さんが言ってた事って、こういう事だったんだ、って」

「アスカっち…」

「っ…あぁーあ、ガラにもない事ベラベラしゃべっちゃった!帰るわよ、バカナミ!」

 

吹っ切るように立ち上がり、アスカは笑った。

いつもの調子を取り戻した彼女に、レイも笑い返す。

 

「失恋して泣きたいなら、また抱きしめてあげようかと思ったんだけどナ♪」

「ふん、アンタの(うっす)い胸なんて二度も三度も借りないわよ、バァーカ。

ママの代わりを務めようなんて、十年早いっつうの!」

「おーっ、()うたなぁーコイツぅ~?」

「ふふっ、あははっ!」

 

楽し気な少女達の声が二つ、更衣室から遠ざかっていった。



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57、サハクィエルさん、衛星軌道上にIN(前編)

ある日の昼休み。

昼食を済ませたレイは、ペットボトルの緑茶を啜りながら「平和だねぇ~」と呟き…

女友達に「アヤナン、縁側のおばあちゃんみたいだよ」と笑われた。

 

ある日の放課後。

ケンスケが編集した地球防衛バンド・文化祭ライブのビデオを見て、バンドメンバー一同で笑い合い…

シンジは、こんな日常が続けば良いな、と願った。

 

ある日の夜。

ハーモニクス試験を終えたアスカは大きく伸びをして…

「使徒が来ないとテストばっか!つまんなぁ~い!」

と愚痴り、オペレーター達を苦笑させた。

 

 

だが災いは忘れた頃にやってくるもの。

またある日の午前中。第壱中学校・2-A教室。

 

「その頃私は…根府川に住んでいましてねぇ…今では海の底に沈んでしまいましたが…ん?」

 

ネブカワ担任が、セカンドインパクトの話をしていた最中、サイレンが鳴った。

それを追うように、生徒達の持つ携帯電話が『不安感を催す警告音』を鳴らし始める。

 

全国瞬時警報システム…通称Jアラート。

液晶に映し出されたメッセージを見た生徒達がどよめいた。

 

D-17

政府より特別宣言『D-17』が発令されました。

以下の区域の住民は、各区長の指示に従い、ただちに指定の場所に避難してください。

 

 

表示された地図は、第3新東京市の中心…NERV本部から半径50km圏内を示していた。

普段のシェルター避難とは一線を画す規模…焦燥、不安、恐怖…教室の空気が凍りつき…勝気な洞木ヒカリ委員長ですら、顔を蒼ざめさせている。

 

…そんな中、三人の男女が立ち上がり、前に進み出た。

碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレー、そして…綾波レイ。

彼らの端末には「避難」ではなく、「非常招集」のメッセージが届いていることだろう。

 

そして、この非常事態に加えて、彼らの出番という事は…

この街の、この国の、あるいは…この星の存亡に関わる重大な危機が迫っている、という事なのだ…

 

 

 

「んじゃ、ちょっくら行ってくるね♪」

「「「「「「軽ッ!!」」」」」」

 

すちゃっ!と指を揃え、にっこり笑ったレイ。

一般生徒達に総ツッコミを受け、張り詰めた空気は一気にほどける。

次いでアスカが、すれ違いざまにトウジの上腕を軽く小突いた。

 

「ジャージ」

「なんや、惣流」

「ヒカリのこと、ちゃんと守ってやるのよ。男なんだから」

「お!?お、おぉ…そら、イインチョも一応女やからの」

「鈴原ぁ!?なによ一応って!」

「ひゃっ!?堪忍やイインチョ!」

「そうそう、沈んでる場合じゃないわ。

ヒカリにしか出来ないこと、あるでしょ?」

「っ…!?あ、ありがとう、アスカ。

みんな、集まって!これから避難します!」

 

()()()()()()()()()()をいじるのに慣れてきたアスカは、いつものペースを取り戻したトウジとヒカリを見て、悪戯っぽく笑う。

 

 

「…じゃあ、先生」

「解っています。碇くん、綾波さん、惣流さん。気をつけて行きなさい」

 

黒ぶち眼鏡越しの穏やかな眼を細め、シンジに答える老教師。

彼らが教室を飛び出すタイミングでケンスケはハッと我に返り、廊下に顔を出した。

 

「三人とも、がんばれよ!」

「おーぅ!(まっか)せぇ~い!」

「言われなくても、チャチャッと片してくるわよ!」

「ありがとう、ケンスケ!」

 

非力な一般生徒でも、応援なら出来る。

地球防衛バンドのリーダー…ケンスケの声が、エヴァパイロット達の背を押した。

 

 

 

 

インド洋上空の衛星軌道を巡回していた第6サーチ衛星団。

その一部が、何者かの干渉を受けて破壊されたのが始まりだった。

潰される寸前、人工衛星が送ってきた分析パターンは、使徒を現す『青』。

 

NERV本部の発令所に緊急招集された三人の子供達を前に、作戦部長・葛城ミサト三佐は説明を始める。

 

「これがギリギリ捉えられた、第十使徒の映像よ」

「ぶふっ!?っははははは!(すっげ)ぇ――っ!芸術が爆発してるっ!なにこれっ!?

この前の第九使徒(ザトウムシ)といい、使徒さん達の間では目玉がブームなの!?あはははは!!」

 

片手でモニターを指さし、もう片手で腹を抑え…レイは涙すら流して笑い転げた。

画面に広がったのは、暗いオレンジ色の、細い線で横に連なった三つの丸。

真ん中には極度に単純化された『真っ黄色の目玉模様』がある。

左右の丸は、やや小さな目玉模様が縦向きに配置されており、カエルの手のように丸く枝分かれしていた。

 

アスカは眉をひそめてミサトを横目に見る。

 

「…常識を疑うわね」

「私も同意見よ。けど…姿は滑稽でも、能力は決して侮れないわ。ほら、見て」

 

二機の人工衛星が、挟み込むように撮影していたのか、視界の対面、使徒の後ろにはもう一機の衛星が見え…

突如、対面にあるそれが()()()()、時を同じくして映像が灰色の砂嵐に変わった。

おそらく撮影していた衛星も同じ運命を辿ったのだろう。

シンジが「あっ」と声を上げた。

 

「衛星の太陽光パネルが、まるでアルミ箔みたいに…!

ミサトさん、あれってA.T.フィールドですか!?」

「そうよ。リツコいわく、新しい使い方らしいわ。

そして…生き残った衛星から送られてきた画像が、これ」

 

太平洋に大きく点々と残った円形の窪み…

あの奇怪な使徒から雫のように切り離された一部が、

その落下エネルギーとA.T.フィールドで()()()()()()()()()()()()()()

 

しかもそれは、徐々に誤差修正しながら日本列島に近づいてきている…

レイの馬鹿笑いが、さすがに止まった。

 

「えーっとこれ、次は、本部に直接来る感じ?

落ちたらアレかな?芦ノ湖とか増えちゃう?」

「街ひとつ丸々抉られて第3新東京()が誕生するわ」

「スンマセン、調子に乗ってました。指さして笑ってスンマセンでした」

「レイ、モニターに土下座しようが、落ちてくる物は落ちてくるわよ」

 

言葉の前後に謝罪をつけて平服するレイを、ミサトは苦笑しながら引き起こす。

文字通り、天から降り注ぐ災いに対処するべく、ミサトが子供達に告げた作戦…

 

 

「えぇ~~っ!?手で、受け止めるぅ!?」

 

 

前代未聞のそれに、アスカが声を響かせた…



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58、サハクィエルさん、衛星軌道上にIN(中編)

セカンドインパクトの爆心地…南極に、碇ゲンドウ司令と冬月コウゾウ副司令はいた。

防毒・防塵能力完備の国連軍空母…『科学の盾』に守られながら、という条件付きではあったが、この地に生きたまま立っている。

()の大災厄は、その科学を『人の力』と過信した罰であったのか否か…。

 

かつては生物学者達が(こぞ)って研究していた、極度の低温と大量の酸素を含んだ海水が創り出す、特異な環境。

独自の生態系を築き上げていた生き物達の楽園は、今や見る影もなく。

いかなる生命の存在も許さぬ、血のごとき赤に染まった海…まさに、死海そのものと化していた。

 

「用が済んだら早々に引き上げたい、と思った矢先に使徒出現か」

「全ては葛城三佐に一任してある。何も問題はないよ、冬月」

「彼女も子供達も、お前の無茶振りによく応えてくれている。

散々振り回されている私からすれば、同情を禁じ得ないがね」

 

仏頂面のゲンドウを横目に、「いつも通り丸投げか」と冬月は苦笑する。

使徒のA.T.フィールドが衛星の電波までも遮っているのか、それとも別の能力で妨害(ジャミング)(おこな)っているのか。

このNERV2トップが本部へ連絡する手段は全て途絶してしまっており、あとは現場に任せるしかない。

 

後ろを振り返れば強化ガラス越しに、空母の甲板そのものにも匹敵する細長く巨大な何か…

シートに包まれた『槍』の如きものが括りつけられているのが見えた。

 

「碇、本当にいいんだな?」

「私が、迷っているとでも仰いますか?冬月()()

「レイを始めとして、シンジくんもアスカ嬢も変わってきている。

大人達の用意したシナリオも飛び越えるほどにな。

君は優秀な生徒ではあったが、想定外(イレギュラー)を前にすると途端に臆病になる。

まぁユイくんは、そんな君の本質を見抜き、惹かれたのかもしれんがね」

「……」

 

司令と副司令から、いつしか元教授と元学生の会話へ。

最愛の女性の名に、サングラスに隠されたゲンドウの目尻が、ピクリと動く。

風のない南極の死んだ空気は、どこまでも静かだった。

 

 

 

 

 

第3新東京市・NERV本部。

チルドレンが招集される、少し前の事。

 

主モニターには国連軍の衛星によるNN(エヌツー)航空爆雷が、軌道すら変える事が出来ずに()()()()()()()()()となってしまった映像が映し出されていた。

 

スーパーコンピュータ・MAGIは三系統とも全会一致で撤退を推奨していたが、臨時責任者たる葛城ミサト作戦部長はデータのバックアップを松代支部に委託。

ここで敵を迎え撃つことを決めた。

 

『宇宙から飛来する使徒を、エヴァンゲリオン3体のA.T.フィールド全開で受け止める』

 

通常兵器が無効なのは明らか。

ならば目には目を。A.T.フィールドにはA.T.フィールドを、という結論ではあるが…

 

技術部が算出した作戦成功確率は0.01%(オーツー)

文字通り()()()()()である。

 

「エヴァ初号機、最初の起動確率は0.000000001%(オーナイン)だったのよ?

今回はその100万倍。余裕じゃない?」

「葛城三佐、冗談が通じる事態ではないのは解っているでしょう?

そもそも作戦と言えるの?このプランが」

「無茶は承知よ、だから…」

 

ミサトが呆れ顔の親友・赤木リツコに語った内容は、その後、到着した子供達にも改めて伝えられた。

 

 

 

 

「…だから、嫌なら辞退できるわ。その場合は、全員で撤退。

松代支部を拠点に、再起を目指す形ね」

「でも、逃げたらこの街が…第3新東京市が、消えてしまうんでしょ?

暮らした期間は短くても、ここは僕達の街です。

…逃げちゃダメだって、そう思います」

「ま、ミサトの無茶は今に始まったことじゃないし?

それに敵前逃亡なんて、アタシのスタイルじゃないわ」

「あーの面白愉快な目ン玉模様、一発ブン殴ってもっとアーティスティックな色合いにしてやらんとね!

このあたしに土下座させた事を、後悔させてくれるわ!」

 

ミサトの消極的意見を、シンジとアスカは即否定。

レイに至っては左掌と右拳を打ち合わせ、バシ、と小気味良い音を立てて気合を入れている。

ミサトは胸にかけた十字のペンダントを、祈るように握って一度瞑目した後、改めて子供達を見返した。

 

「シンジくん、アスカ、レイ…ありがとう…。

一応、規則では遺書を残すことも出来るけど?」

「やめてよね、縁起でもない。

最初から死ぬつもりじゃ、勝てるものも勝てなくなるわよ」

「僕もいいです」

「あたしも別に…あ、いや、ちょっと待って?

綾波レイ、辞世の句…

『親方!空から前衛芸術が!』

ってのはどうよ!?」

「あんたバカァ!?遺言でネタに走るとか不謹慎にも程があるわ!

だいたい五・七・五にすらなってないじゃないの!」

「そこはそれ、自由律って奴で…」

「アスカ、綾波さんはこういう人だから…」

「知ってるわよ!」

 

(絶望的な状況でも、いつも通り。この子達なら…)

 

何度でも、奇跡を起こせる。

ミサトはそう確信して微笑んだ。

 

悲壮感はない。やる事は変わらない。

奇跡は待つ物ではなく、捨て身の努力で勝ち取るものだと、皆、本能で知っていた。




作戦成功率、原作よりゼロが減っているのは、みんなのシンクロ率や共闘性の高さ、日本重化学工業の技術提供による外的要因のためです。

それでも普通に考えれば絶望的な数字ですが…
言うてもMAGIさんの言う確率って大体アテにならんし(´・ω・`)


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59、サハクィエルさん、衛星軌道上にIN(後編)

第十使徒は、電波攪乱によってレーダーから消失。

それから約2時間弱が経過しており、目標ロストまでの速度から計算して、そろそろ現れるものと推測された。

 

MAGIが算出した落下予測範囲は、地図上の第3新東京市をスッポリと覆ってなお余りある面積を真っ赤に染めていた。

エヴァンゲリオン三体は該当範囲内…北・南東・南西の三角形に配置され、パイロット共々待機している。

 

ミサトが「皆で危ない橋を渡ることはない」と職員・作業員達に退避を促した時も、首を縦に振る者はいなかった。

オペレーター衆が「子供達ばかり危険な目には合わせられない」と声を揃えたのが、皆の意見を代弁していた。

 

サポート態勢は万全。

その甲斐あってか、パイロットの三人は体調(バイタル)精神(メンタル)共に安定。

作戦前とあって多少の緊張はあれど、表情は穏やかだった。

 

『みんな、聞こえる?本部の葛城よ。

特別宣言D-17によって、全市民の避難は完了しているわ。

作戦開始したら、街だろうが森だろうが、気にせず突っ走って。

まずは、()()()()()()()を最優先に考えてちょうだい』

「かえすがえすも無茶よねぇ?

復興予算だって、湧いて出る訳じゃないでしょ?

どれだけの金が動くのやら」

「エヴァが一歩歩くだけで、アスファルトがヒビ割れるぐらいなのに…

使徒ならともかく、僕達のせいで住み慣れた家や、

町が壊される人の事を考えると、つらいですね…」

 

こんな状況なのに、いや、こんな状況だからこそ、だろうか。

周囲に気を回すアスカとシンジに、ミサトは苦笑した。

 

『気にするな、とは言わないわ。確かに責任の所在は大事なことよ。

けれど、あなた達子供に最前線で戦わせてるのは私達大人だもの。

最終的な資金や責任の問題…一番面倒なことぐらいは、任せてちょうだい』

碇司令(ゲンちゃん)が南極クルージングから帰ってきたら、

また偉い人達に土下座行脚(あんぎゃ)する日々が始まるお…」

『ぷふっ!』

 

組織の総司令を容赦なく弄るレイの言葉に、ミサトは噴き出す。

普段と変わらず振る舞えるのは、頼もしい限りだ。

 

改めて作戦を確認した三人は、深くLCLを吸い込み、深呼吸する。

 

 

(不思議だ…こんな時なのに、僕は凄く落ち着いてる。

エントリープラグの中…LCLは、血の匂いがするはずなのに…)

 

(確かに感じるわ。暖かくて安心する。

これは、ママの匂い…?うぅん、まさかね…)

 

(この感じ…碇くんと、アスカっちと、エヴァで繋がってる、あたし達の絆。

あんな目ン玉に、ブッちぎらせるもんかいっ!)

 

 

彼らが同時に目を開いたその時、プラグ内に赤いアラートランプが灯った。

 

『レーダーに反応あり!パターン青!使徒、再出現!』

『距離、25000!進路は想定コース内です!

本部への直撃確率、99.999%(ファイブナイン)!』

『おいでなすったわね、エヴァ各機、発進準備。

二次的データが当てにならない以上、以降は現場の判断に委ねます。

…エヴァとあなた達に、全てを賭けるわ!』

 

日向、青葉両オペレーターの報告を受け、ミサトは子供達に檄を飛ばした。

エヴァ各機はそれぞれの持ち場で、クラウチングスタートの態勢を取る。

 

「アスカっち、号令よろしく!」

「了解。奴が高度20000切ったら、始めるわ」

「うん、いつでも行けるよ」

 

大停電時、暗中行軍した時の流れか。

チームリーダーには自然とアスカが据えられていた。

レイとシンジが、映像回線越しに頷く。

 

走り出す前に電源を外す必要がある以上、エヴァの稼働時間は内蔵電源頼りの5分。

使徒が地表に落下する前に受け止め、殲滅までしなければならない…

高度20000フィートでのスタートは、そのギリギリのバランスを保った距離設定である。

 

『距離、20000!ゼロタイム!』

「…状況開始(シュタルト)!」

 

青葉の再報告を受け、アスカは叫ぶ。

電気の光を噴き、勢いよくパージされる電源紐(アンビリカルケーブル)

走り出す姿はランナー…されど獰猛な勢いは、鎖から放たれた獣の如し。

三体のエヴァは、それぞれのスタート地点から大股の足型を刻みながら、地図上に記された落下予測地点へと駆け出した。

 

 

「アスカ!綾波さん!頭頂部サブカメラをオンにして!

この方が使徒の位置情報を追跡(トレース)しやすい!」

「弐号機了解!どうせなら都市部を避けて迎撃するわよ!ポイント240(ニーヨンゼロ)!」

「零号機、240(フタヨンマル)了解っ!行っくよぉー!」

 

シンジが、エヴァに増設されたサブカメラの存在を思い出した事が幸いし、三機は地図上の一点…土色の山肌へと収束していく。

日本語、それも専門用語の細かな読みに慣れていないアスカに対し、レイがわざわざ軍隊式に言い直したのは御愛嬌というところか。

 

アスカの弐号機は、木々を薙ぎ倒しながら逃げる鳥の群れを背景に…

シンジの初号機は、山道を足場に大きく跳躍…眼下に田園風景を望み…

レイの零号機は、ハードル走のように、送電線を飛び越えていく。

 

(あの子達…!)

 

確かに「現場の判断に委ねる」とは言ったが、ミサトは子供達のやり取りと動きに、舌を巻いた。

共に日常を過ごし、一緒に修羅場を潜り抜けた、その信頼の賜物か。

エヴァという()()()()()を動かしている以上、被害ゼロは無理にしても、建物の損壊は最小限に食い止められている。

 

使徒の高度は12000フィート。

落下を続ける目玉模様を中心に、真っ白な雲がA.T.フィールドの干渉を受け、美しい円形の渦を巻きながら広がって、散らされていった。

 

「あっ、あの野郎(あんにゃろ)っ、オモシロ前衛芸術の癖に無駄にカッコいい演出しやがって!」

「文句つける所が違うでしょバカナミッ!来るわよ!」

「絶対に落とさせない!」

 

山の上に、三体の巨人が円陣を組む。

相対的に近づけば、もう目と鼻の先…

視界には、原色の巨大な目玉が迫っていた。

 

「「「A.T.フィールド、全開!!」」」

 

空に掲げられた六本の腕。硬質の衝撃音が響き渡る。

エヴァの掌と、使徒の目玉の接触面…地面と水平に広がる、光の八角形。

可視化したA.T.フィールドは天体現象(オーロラ)とも見紛う鮮やかさで明滅した。

これが、街を守る最後の砦。最後の壁だ。

 

「「「っっっ…!!」」」

 

歯を食いしばる三人の少年少女。

双肩に掛かる重圧、めり込んでいく足元。

ギリギリ拮抗してはいるが、危ういバランスだ。

 

もとより、無謀は承知の作戦。

まず使徒が大きくコースを反れたらアウト。

エヴァの機体が衝撃に耐えられなくてもアウトだった。

この第一、第二関門をなんとか突破出来ただけでも、ほぼ奇跡に近い。

 

だが、まだ最大の難関が待っている。

エヴァには稼働時間に制限があり、その中で使徒を殲滅できなければ作戦失敗だ。

カウントダウンは赤文字。残り1分を切った。

 

「う、ぐぅぅっ!?」

 

シンジが呻くと共に、初号機の人工筋肉が断裂し、その腕から血液めいた赤い液体が噴き出す。

 

(ヤバい、攻撃に回らないと時間が切れる!

碇くんは重心を支えてて、身動きは取れない。

A.T.フィールドを破るには…あたしの『コレ』しかない!)

 

瞬間、零号機の掌から赤み掛かった光のエネルギーが発せられ、使徒のフィールドに突き刺さった。

第四使徒を『喰った』事で得た、使徒の武器。使ったのは、第五使徒戦以来である。

中和、というよりはフィールドの表面を引っ掻くように強引に切れ目を入れて、

零号機の手でベリベリとフィールドを()()()()目玉(コア)への道を空けた。

力技、ここに極まれり、という所だ。

 

「アスカっちぃぃ!」

「解ってるわよ!」

 

レイが作った穴に向け、弐号機は全力でプログナイフを刺し込む。

 

手応え、有り。

 

使徒の巨体が張力を失ったように、エヴァのA.T.フィールドの上にベチャリと潰れた。

 

『も、目標のA.T.フィールド消失を確認。使徒、沈黙』

『やった、の?』

 

日向の言葉に、ミサトが問う。

モニターのグラフを見ていた伊吹マヤ二尉が、血相を変えた。

使徒の身体は、重油のような粘っこい液体がボコボコと泡立つように膨れていく。

 

『変です、使徒のボディーが、膨張しながらエネルギー反応を高めて…これは、まさか…!?』

『自爆する気!?』

 

リツコが、最悪の可能性に思い至る。慌ててマイクを取るミサト。

 

『三人とも、A.T.フィールド展開を続行!爆発に備えて!』

「や、やってるけどさ!エヴァの残り電源があと15秒ぐらいなんよ!

しかも(やっこ)さん、タイミング的に()()てるみたい!

こっちのエネルギー切れ待ってるんじゃないの!?」

『そんな…!』

 

レイの声も、さすがに上擦っていた。

エヴァの電源が切れて、A.T.フィールドが消えたタイミングで使徒が爆発すれば、何もかもが水の泡だ。

 

ここまで来て。ここまで奇跡を起こして。何も守れないのか。

誰もが、目の前が暗く…否。()()()なった。

 

 

 

どこからともなく、極太の白光…()()()()()()()が、A.T.フィールドの消えた使徒の横合いから飛んだ。

醜く膨れ上がった使徒は大穴を開けられ…エヴァ三機のA.T.フィールドの上で爆発を起こし、そのエネルギーは真上へと逃げる。

 

エヴァの電源が落ち、フィールドが消えたのはその数秒後。真っ白な光に包まれていたモニターが回復した。

 

「状況はっ…?」

「パターン青、消失!エヴァは…初号機が小破、零号機、弐号機ともに損傷軽微!

各パイロットの生存を確認しました!」

 

眼鏡を直し、日向が報告する。

 

「あの援護射撃は…いえ、聞かなくても解るわ。戦略自衛隊(センジ)ね?」

 

ミサトは、唯一の可能性に気づく。

第五使徒戦でも効果を上げた、自走陽電子砲。

威力はあの時よりも随分上がっているようだが、どんな魔改造を施したのか…。

 

使徒はボディーの大部分を吹っ飛ばされ、爆発規模を大きく削られていた。

それだけではない。誘爆によって爆発が早められ、エヴァのA.T.フィールドが残っているうちに、間に合った。

 

「この街が、あの子達が、私達が救われた。…今は素直に感謝するべきね。

みんな、ありがとう」

 

奇跡。上手く行きすぎたぐらいの奇跡。

それらは全て、人の手によって為されたのだと、ミサトは疲労と安堵の中で感じた。




陽電子砲は、この世界線ではポジトロン・スナイパーライフルとして接収されておらず、戦自の所属のままです。
(22、ネルフのみなさん、作戦会議にIN より)

あと色々魔改造されてます。気が向いたら閑話として書くかも。


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60、リナレイさん、ラーメン屋台にIN

※当作品のリナレイさんはめっちゃ肉食系です
お肉嫌いな原作レイさんはウチにはいません
(プロローグ続き、リナレイさん、本編前の療養生活にIN より)


夜景の中をモノレール…第3新東京環状線が走る。

 

特別宣言D-17が解除されて間もないが、これだけしょっちゅう非常事態宣言が発令されれば()()()()()()くるのか…

車内は普段のようなギュウギュウ詰めの帰宅ラッシュではないにしろ、それなりの乗車率となっている。

 

くたびれた様子で溜め息をつくサラリーマン。何組かの親子連れ。

幼い少女が床に置いた大きなバッグに腰かけ、座席に座った母親と談笑しているという微笑ましい光景も見られる。

避難先からもすぐに戻ってこられるあたり、第3新東京市民のフットワークの軽さが伺えた。

 

乗客の中には、ひと仕事を終えたミサトと、制服姿のレイ、シンジ、アスカの姿もある。

奇跡に近い確率の作戦成功を祝して、作戦部長自らが子供達を食事に連れて行くと言い出したのだ。

 

「奢ってくれるなら、思いっきり食べるからね?約束は守ってもらうわよ、ミサト!」

「はいはい。大枚おろしてきたから、なんだって耐えられるわよ?

フレンチフルコースでも満漢全席でもステーキでも、どんとこいっ!」

「本当にいいんですか、ミサトさん?綾波さんもアスカも、僕よりよっぽど食べますよ?」

 

上機嫌なアスカとは対照的に、シンジは心配そうにミサトを見る。

地球防衛バンドの練習後、「ファミレスで何か軽く食べて行こう」という話になった時、この二人が『軽く』の範疇を越えてガッツリ食べるのを、シンジは何度も見てきた。

 

細身の美少女達の、どこにそれだけの食事が入るのか…

これで二人とも体型が変わらないのだから恐れ入る。

一見、穏やかな微笑みを浮かべたレイの瞳は攻撃的にギラついており、ミサトの頬に一筋の汗が伝った。

笑うとは本来、獣が牙を剥く行動に由来する…とかなんとか。

 

「いーの?あたし最高級ステーキ頼んじゃうよ?A5肉いくよA5肉。

給料日前だろーが飲み代が無くなろーが遠慮しないからね?」

「お、女に二言はないわ!」

「マジで?サイドメニュー()()()()()()上乗せとかでも?」

「…あ、あの、レイちゃん?もう少し、手心というか、なんというか…」

「葛城三佐、(懐が)痛くなければ覚えませぬ。

食の道は死狂ひ也(シグルイなり)無惨無惨(むーざんむざん)♪」

「たっはァ…早まったかしらぁ…」

『えー、次はー、新宮ノ下~、新宮ノ下~。お出口は~、左側に~、変わります…』

 

間延びした男性車掌のアナウンスが低く流れる中…

ミサトは己の財布が真っ二つになる残酷無惨な光景を幻視し、額を抑えた。

 

 

……

 

………

 

「…ま、バカナミはあぁ言ったけど、アタシ達だってミサトの財布の中身ぐらい解ってるわよ」

「僕達は、ミサトさんの気持ちだけで充分ですから」

「その代わり、トッピングいっぱい乗っけちゃうからねっ?」

「スンマセンッ、スンマセンッ、ほんとありがとっ…」

 

赤提灯の灯った、ガード下のラーメン屋台。

子供達を(ねぎら)うつもりが逆に気遣われ、ミサトは低頭して両手を合わせた。

 

「…らっしゃい。(なん)に致しやしょ?」

 

彼女達を迎えたのは、五分刈りの白髪、頭に手ぬぐいを巻いたダミ声の壮年。

セカンドインパクトを生き抜き、「俺にはこれしか出来ねぇ」とばかりに長年ラーメンを作り続けたオヤジである。

 

彼の背後には、渋い色合いの木札が並んでおり、ラーメンの品目と値段を記したメニュー代わりとなっていた。

場に満ちる、食欲をそそるスープの香り…

二人の美少女はそれを堪能するように息を深く吸い込み、ビシリ、と揃って挙手する。

 

「フカヒレチャーシュー大盛り!トッピングは味玉2個とメンマ!麺柔らかめ!」

「ニンニクラーメンチャーシュー増し増し!麺バリ硬に海苔ダブル、半ライス追加っ!」

「あいよ、フカチャー大の柔らかめに卵2・メンマ。

ニンニクバリカタ、チャーシュー増し増しノリノリ半ライスね」

 

最初からフルスロットルのアスカとレイ。店主は静かに注文を繰り返す。

二人に気圧されるようにシンジは肩を縮め、改めて木札を見た。

 

「飛ばすなぁ二人とも…僕は、もやし野菜炒めラーメン。

えーっと、麺は小盛りの油少なめで…」

「あー!碇くんが一人で女子っぽい注文してるー!

塩分もカロリーも高いからこそラーメンは美味いんですよ!

今さら健康志向とか裏切りと知れ!」

「なっさけないわねー、アンタそれでも男?」

「い、いいだろ別に!?」

 

使徒戦の緊張が解けたか、軽口を叩き合う子供達の様子に、ミサトはクスリと喉を鳴らした。

 

「おやじさん、私は味噌バターラーメン。あとビールね」

「あいよ、モヤサイの小盛り・油少なめ、味噌バターにビール一丁…」

 

淡々と答えつつも、オヤジは手早く麺を茹でる。彼は、職人であった。

 

 

「「「「いただきます」」」」

 

程なく、出来上がったラーメンに手を合わせ、四人は箸を進める。

 

アスカはフカヒレとトロトロ半熟卵の黄身が絡んだ麺をじっくり味わい、「やっぱりあのグルメ雑誌、当たりだったわね」と満足げだった。

 

レイは大量の海苔を半分に分け、パリパリ食感のまま麺を巻いたり、おろしニンニクと共にスープに溶かしてペースト状にした後、半ライスに乗せてチャーシューと共に食べたりと、様々なバリエーションを楽しんでいる。

 

シンジとミサトも、シンプルなメニューながら深みのある旨味を味わっていた。

とはいえ、シンジが浮かべる笑顔は、単にラーメンの美味さだけではないのだが。

 

「さっきからずーっと笑いっぱなしね、シンジ。司令(パパ)に褒められたのが、そんなに嬉しかったの?」

「うん、初めて父さんから褒められたけれど…やっぱり、嬉しいよ」

「ふーん?」

 

レンゲでフカヒレスープを掬い、口に運びながらアスカはシンジの横顔を見る。

思い出すのは作戦終了後、パイロット三人が発令所に戻った時の事だった。

 

………

 

……

 

 

 

「申し訳ございません。わたくしの独断で、エヴァ初号機を破損してしまいました。責任はすべて、わたくしにあります」

『構わん。むしろ情報も少ない中でよくやってくれた。使徒殲滅に際し、この程度の被害で済んだ事は幸運と言える』

『あぁ、よくやってくれた、葛城三佐』

 

使徒によって妨害されていた南極との音声通信が回復して間もなく。

サウンドオンリーのパネル越しではあるが、姿勢を正して報告するミサトを、冬月コウゾウ副司令と碇ゲンドウ司令が労った。

 

『…碇!他にも言う事があるだろう?』

『…あー、その……なんだ。よく、やったな、シンジ』

 

しばしの沈黙の後、冬月に促され、いつもの厳格なゲンドウらしからぬ、どこか()()()()()言葉がパネルから聞こえる。

シンジは、父からの突然の称賛に驚きながら「あ、はい」とだけ答えた。

 

驚いたのはミサトやオペレーター陣など、周囲の面々も同様。

「50近いオッサンの()()なんて誰が得するのよ!?」

と、アスカは思わず小声ながらツッコミを入れた。

 

…が、当の息子(シンジ)は褒められた実感が湧いてきたのか、表情が緩んでいたし、レイはレイで、

「アレかな、停電の時に碇くんが言ってた『エヴァの準備、ありがとう!』が効いたのかな!」

と笑っていたので、なんだかんだで()()()得していたようである。

 

 

……

 

………

 

「きっとお父さんも、シンジくんの事を認めてくれてるわよ」

「だと、いいんですけど。何年も隔たりがあるから、まだ戸惑う事も多くて」

「ま。隙間はゆっくり埋めてけばいいのさ♪

()()()()()()()()()()の親子関係は、ポカポカしてて欲しいしねー♪」

「あはは、ポカポカ、か。あんまりイメージ湧かないな」

 

ラーメンを啜る合間…ミサトとレイの言葉に、シンジは相槌を打つ。

 

(シンジもミサトも、過去に家族を失ってる。

そういえば、バカナミ自身の事って、聞いた事なかったわね…?

…まぁいいか。家族の話が出てこないって事は、なにか訳ありかも知れないし。

過去に無暗に触れてほしくないのはアタシも一緒だし、アイツには恩もある。

せっかくのラーメンを不味くする必要はないわ)

 

「どったのアスカっち?マジな顔してるけど」

「なんでもないわ。おじさん!アタシも半ライス追加!」

「あいよ」

 

戦いの後は、穏やかなままでいい。アスカは、心の中に言葉を留めた。



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61、リナレイさん、特殊実験棟にIN

前回までのあらすじ

レイ「こんな目玉模様ひとつ!エヴァで押し返してやる!」
戦自砲兵「NERVばっかりに良い格好はさせませんよ!」
アスカ「なっ…!?やめなさい!アタシ達に付き合う必要なんてないわ!」
時田「第3新東京市がダメになるかならないかなんだ!やってみる価値ありますぜ!」
シンジ「ジェットアローンまで!?無理だよ、下がれっ!」
レイ「エヴァンゲリオンは…伊達じゃないっ!

マヤ「奇跡です…第十使徒が、地球から離れていきます…!」

BGM:♪BEYOND THE TIME


レイ「…という夢を見たのさ♪」
アスカ「殲滅できてないじゃないの!」


NERV本部を貫く巨大な縦穴…中央大垂直溝(セントラル・ドグマ)に沿って作られた長距離エレベーターが、三人のエヴァ・チルドレン達をB棟下層に位置する特殊実験棟・プリブノーボックスと運んでいく。

エレベーターの扉が開き、三人は()()()()()()()姿()で小分けされた各部屋へと現れた。

 

「NERVもとんだ変態組織ね!これがお望みの姿ってわけ?」

「うー、洗われすぎてお肌ヒリヒリする。

あたし色素少ないんだから加減してよー赤木博士ー」

「リツコさん、本当にここまでやらなきゃいけないんですか?」

『ここから先は、超クリーンルームなの。下着を変えてハイOK、とは行かないわ』

 

憮然と腕を組むアスカ。己の腕を擦るレイ。半ば諦めながらも問うシンジ。

互いに姿は見えぬままスピーカー越しに会話する三人に、オペレーティングルームからリツコがにべもなく答えた。

 

未知なる敵生体との戦いの最前線、特務機関NERVにおいては、ありとあらゆるデータが必要となる。

それにはパイロットが、()()()()()()()()()()()にエヴァに乗った時のものも含まれていた。

 

MAGIは今回の試験で、規定値以上の雑菌の存在を許してくれず、子供達は熱湯、冷水、熱風、冷風、消毒液etcetc(などなど)…実に17段階にも及ぶボディ・クリーニングを施されていた。

 

『では三人とも、通路を進んで、その姿のままプラグに入ってちょうだい』

「えぇーっ!?」

 

リツコの指示に、アスカは顔に血を昇らせながら、高く裏返った声に不満を乗せた。

明白色の無機質な壁は、否応なく人の肌を目立たせる。

シミュレーションプラグの小部屋の前…目線を左上にやれば、カメラらしきものも見える…。

プライドの高いアスカには、少々酷な仕打ちだ。

 

リツコは、事務的に言葉を続けた。

 

『大丈夫よ、映像モニターは切ってあるから。あなた達のプライバシーは保護されているわ』

温度感知(サーモグラフィー)みたいに、僕達の身体がシルエットで表示される感じですか?

恥ずかしいですけど、それならなんとか…」

「バカシンジ!丸め込まれてんじゃないわよ!

そういう問題じゃなくて、アタシの気持ちの問題だって言ってんの!」

「『モニターは切ってある』…

赤木博士の言葉を信じたばかりに、うら若き中学生男女の、あられもない姿が動画に収められてしまうのでした…

んで、流出させられたくなかったら、あたし達にあんなコトこんなコトしろって言うんでしょ!?

エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!

「相方も相方でホンット救いようがないわね、このバカップルは!

あぁもうヤケだわ!オペレーティングルーム!ぜぇーったいに見ないでよ!?」

 

洒落にならないことを楽し気に紡ぐレイを一喝しつつ、アスカは大股で…

シンジはどこか頼りなさげに周囲を見回しながら通路を抜けていく。

 

「デッデッデッデッ デーンデーンデ♪デーンデーンデ♪デーンデーンデ♪」

 

レイのシルエットは軽快なベースラインを口ずさみ…

指先をピッと伸ばしてリズミカルに肩を上下させながら、通路を進んでいった。

エロくない。残念な全裸である。仮にモニターが生きていても、エロティシズムは息をしていないだろう。

 

『レイ…なんでヒゲダンス知ってるのよ?』

『く…くくっ…』

 

呆れ顔で呟くミサト。

その後ろでは、すっかり笑いの沸点が低くなったリツコが顔を反らして震えていた。

 

………

 

……

 

 

オペレーティングルームから望む分厚い強化ガラスの向こう側には、無菌水が満たされている。

青く澄んだ水中に、巨人の上半身…エヴァンゲリオンの模擬体(ダミー)が三体、壁から()()()ように並んでいた。

 

材質はエヴァの素体と同じく、機械と有機物が混合した()()()()であり、頭のない首の付け根にはプラグ挿入口も存在する。

子供達を乗せたシミュレーション用のエントリープラグが挿入されると、MAGIシステムが模擬体と接続され、モニターの中を高速でプログラムが流れていった。

 

『おぉ~、早い早い。MAGI様々だわ。

あるいはリツコやマヤちゃん達…技術部の努力の賜物かしら?

初試験の時、足掛け一週間近く掛かってたのが嘘みたいね』

『MAGIの定期検診、済ませておいた甲斐がありましたね。

テストは、約三時間で終わる予定です』

 

歓声を上げるミサトに、伊吹マヤ二尉が嬉しそうに答える。

ただ、各自の精神(メンタル)には、プラグスーツ着用時に比べて若干の誤差(ブレ)が見られた。

 

2番のプラグ内、長髪少女のシルエットが、己の手をじっと見ているのを気づき、マヤが童顔を傾げる。

 

『アスカ、どうしたの?』

「感覚がおかしいわ。右手だけハッキリしてて、後はボヤけてる感じ」

「あぁ、それでいつもと違う感じがしたのか…」

 

シンジが納得したように呟き、レイも同意するように「うんうん」と頷いていた。

 

『レイ、右手を動かすイメージを思い描いてみて』

「ぐー・ちょっき・ぱー♪ぐー・ちょっき・ぱー♪

…あれ?なんか反応(レスポンス)弱くね?」

 

リツコに応え、操縦桿(インダクションレバー)を押し込むレイ…

0番のプラグを納めた模擬体の指はユラユラと動くだけだった。

 

『模擬体同士の間隔は近いし、いきなり一人ジャンケンされたら危ないですからね。

事故が起こらないように制御装置(リミッター)が掛けてあるとはいえ、あまり余計なことはしないでちょうだい』

「イエス・マム!ちぇー、怒られちった」

 

レイの不意打ちから腹筋を守るように白衣の腹部を押さえるリツコ。

プラグ内の三人からデータが収集されるペースは、おおむね順調であった。

 

この特殊実験棟(プリブノーボックス)直上のタンパク壁に異常が、本部発令所から知らされるまでは…



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62、イロウルさん、NERV本部にIN

BGM:次回予告の時のアレ

ミサト「突如、NERV本部に侵入した使徒の群れ!
『こんな事もあろうかと!』
リツコはアンチA.T.フィールドの銃弾(ナマリダマ)を用意していた!
善戦するも多勢に無勢、次第に追いつめられるミサト達…!
ついに炸裂する、ゲンドウと冬月のNERV神拳!!
迫りくる使徒共を千切っては投げ、千切っては投げ…!!
次回、新世紀エヴァンゲリオン!
『飛んで火にいる夏の使徒!汝ら死すべし、慈悲はない!』
この次も、サービスサービスゥ!
って…これマジ?」

レイ「 *   *
 *   + うそです
  n ∧_∧ n
+ (ヨ(*´∀`)E)
  Y   Y  *」

加持「(台本を)すり替えておいたのさ!」


プリブノーボックスでの実験が始まって間もなく、その直上にある第87タンパク壁に『染みのような何か』が確認された。

原因はおそらく、搬入されたパーツに気泡が混じっていたことによる侵食。

 

報告を受けた情報オペレーターの青葉シゲルは、工事の杜撰(ずさん)さを愚痴っていたが、

なにしろ第3新東京市(このまち)は非常に短いスパンで使徒による襲撃に晒されているのだ。

工期がギリギリまで圧縮されているこの状況では、イレギュラーが発生するのも無理はない。

 

 

発令所から内線を受けた伊吹マヤ二尉は、技術責任者・赤木リツコ博士にその旨を伝えた。

オートパイロット試験は重要なテストゆえ、多少の懸案事項を理由においそれとは中止するわけにはいかない。

だが同時に、この小さな(ほころ)びが基地そのものを揺るがす『蟻の一穴』になる可能性も否定できない…。

 

「タンパク壁の修復」と「実験の完遂」…両方やらないといけないのがNERVのつらい所だが、

「覚悟はいいか?」と問われれば「俺は出来てる」と答えるのがこの組織。

現状、実験に支障が起きていない事を理由に、リツコは続行を指示。

彼女が「碇司令もうるさいし…」とボヤくのを聞いて聞かぬふりをする情けは、職員達にも存在した。

 

 

……

 

………

 

事件は、模擬体経由でエヴァ零号機に微弱な出力のA.T.フィールドを発生させた時に起こった。

点滅する『警告(ALERT)』の赤いランプと、耳障りなブザー音に、オペレーティングルームが騒然となる。

 

『どうしたの!?』

『シグマ・ユニットAフロアに汚染警報発令!第87タンパク壁が発熱しています!』

『第6パイプに異常発生!』

 

「なんだ…?何が起こってるんだ!?」

 

リツコの問いかけに、マヤをはじめとしたオペレーター達の緊迫した声が返る。

それを受けて、シンジが不安の声を上げた。

 

「なぁに、赤木博士と技術部なら大丈夫でしょ。

アレだよアレ。NERVの科学力は世界一ィィってさ」

「バカナミ、それ相田(アホメガネ)が言ってた()()()とかいう奴じゃないの?」

 

サウンドオンリー表示の零号機パネルに、届かぬジト目を向けるアスカ。

根拠のない楽観は足を掬われる原因となる…

アスカは胸によぎる嫌な予感に、表情を陰らせた。

 

オペレーティングルームから聞こえる報告は未だ好転しない。

リツコは流石に実験を中止し、亀裂の発生したパイプ周りを隔壁で物理閉鎖させた。

しかし侵食は止まらずに壁伝いに爆発的に広がり、確実に特殊実験棟に近づいている。

 

『ポリソームを出して!』

 

リツコの号令により、無菌水槽の壁が開き、小型の無人潜水艇が数機、一対の後部スクリューを回して進み出た。

侵入者迎撃用の水中ドローン『ポリソーム』は、ホバリングするヘリコプターのような動きでエヴァ模擬体の周囲に展開する。

 

ポリソーム各機の『目』である水中カメラは人工知能(A I)制御でズームを調整。

侵食の進む壁に狙いを定め、機体下部の銃身…レーザー射出装置を構えた。

 

静寂…10秒…15秒…20…

 

 

(いだ)だだだだだっ!?なんじゃごりゃあーっ!?」

『『レイッ!?』』

 

レイの素っ頓狂な声が沈黙を破り、ミサトとリツコが同時に目を見開く。

 

勢いよく振り上げられる0番の模擬体の右腕。

剛腕に巻き込まれた一機のポリソームが、無残にひしゃげた。

 

模擬体はそのまま、自身が固定されている壁に腕を叩きつける。

実験棟全体を襲う、轟音と振動…。

オペレーター達は反射的に机にしがみつき、立っていたミサトは咄嗟に重心を落として足を踏ん張り、転倒を回避した。

 

 

「ひー!明らかに制御装置(リミッター)が仕事してないんですけどー!

それともこれは()()()()をやれという神の思し召し!?

くっ…また暴れだしやがったか!

邪気眼を持たぬものに、この苦痛(いたみ)理解(わか)るまい…

静まれ、あたしの右腕ぇー!」

「綾波さんっ、そんなこと言ってる場合じゃないだろ!?」

「あのバカッ!早速フラグ回収してんじゃないのよ!」

 

…仲間二人は気が気ではなかったが、非常事態にも関わらず額にある(という設定の)()を疼かせているあたり、レイは割と余裕である。

花も恥じらう中学二年生。中二病に罹患するのは仕方ないのだ。多分。

 

そんな緊張感のないレイをよそに、暴走状態の0番模擬体は上半身しかない身体をねじって悶え続ける。

まるで攻撃的な意思を持っているかのように、首無し巨人がオペレーティングルームに向かって手を伸ばした。

 

『…っ!』

 

リツコはコンソールのアクリル板を叩き割り、非常用のレバーを引いた。

模擬体の腕が根元から千切れて、強化ガラスに激突、蜘蛛の巣状にひび割れる。

直撃は防いだが、いかに超強度を持つ強化ガラスといえども長くは持つまい。

 

『パイロットは三人とも健在!

しかし、0番模擬体は未だ制御できません!このままでは危険です!』

『全プラグ、緊急射出!データとモニターは全て発令所に引き継いで!』

部屋(ボックス)は破棄します!総員退避っ!!』

 

緊迫したマヤの報告に、リツコとミサトは顔を見合わせて頷き、その場にいる皆に指示を出した。

オペレーター達は書類を回収する暇もなく、出入り口へ。

ミサトとリツコが飛び出た後、扉を緊急閉鎖…

 

幸い、誰も溺れ死なずに済んだが、この後NERVは初めて()()()()()()()使()()()を経験する事となった。

 

 

………

 

……

 

 

「外は…本部はどうなってるんだろう?」

「もぉーっ、裸じゃどこにも出られないじゃないのぉー!」

 

緊急脱出させられた子供達のエントリープラグは、地下空間(ジオフロント)の片隅…

芝で緑化された地区に転がっており、シンジとアスカは不安と不満を漏らす。

レイは一人、インテリアシートに身を預け、眠っていた。

 

いずれはプラグから発信される電波を頼りに保安部のエージェント達が回収に来るだろうが、

情報が手に入らなければ、それもいつになるかは解らない。

 

「うぅ…」

 

うなされているのか、時折、レイの唇からは呻き声が漏れる。エントリープラグの中はある種の隔離空間。

彼女の右手の甲が、僅かに()()()()しているのを、見る者は誰もいなかった。

 

 

 

レイは、奇妙な夢を見ていた。

 

崩れた建物が広がる、茫漠とした廃墟。

どこまでも広がる、血のような赤い海。

水平線の向こうには、真っ白い巨大な人の頭が横たわっている…。

 

それは、縦に半分になり、目を見開いて張り付いた不気味な笑いを浮かべた綾波レイ(自分自身)の顔だった。




思わせぶりな〆にしましたが、イロウルさんはINして即画面外にOUTしてます。
殲滅方法はTV版と同じでリナレイさんが関わる余地がないためバッサリカット。
経過などには微妙な違いがあるかもですが、それは後々出す予定。

次回、完全放置だったおじいちゃん達が本作初登場。


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63、ゼーレのおじいちゃん達、会議にIN

あらゆる場所に様々な機器類が満ちているNERV本部だが、中にはひどく殺風景な小部屋も存在する。

 

『そこ』で目立つものといえば、武骨で機能的な造りの机と椅子のみ。

ライトグリーンがかった明単色の壁。空調が静かに稼働する音。

おおよそ()()()()もしない空間であった。

 

総司令である碇ゲンドウが歩を進め、席に着いた途端に、小部屋の明かりが不意に落ちる。

 

十秒近い沈黙の後、暗闇を照らすように淡く光る長方形のテーブルと、それを取り囲む人影が浮かび上がった。

ゲンドウから見て左前方に二人、右前方に二人……。

国籍こそバラバラだが、いずれも年齢を重ね、老獪な光を目に称えた男達の虚像(ホログラム)

 

NERVの上層組織である『委員会』…その正体は、圧倒的な財力と、裏世界の人脈をバックボーンに暗躍する、秘密結社SEELE(ゼーレ)

そう。ここは特別に(しつら)えられた()()()である。

 

『久しぶりだねェ、碇ゲンドウくん』

『随分と、()()()のようだな』

「恐れ入ります。皆様におかれましては、ご壮健でなによりです」

 

向かって左、七三分けの委員と、黒縁眼鏡に口髭の委員が、挨拶代わりに言葉を発した。

彼らを前にしてもゲンドウは机の上で指を組んだまま姿勢を崩さない。

 

『ふん、皮肉も通じぬか。先日の件…忘れたとは言わせんぞ』

『さよう。全てが水泡に()すところであったのだ。我々としても、看過はしかねるよ?』

 

ゲンドウの慇懃(いんぎん)な敬語に刺激されたか…反対側、鷲鼻の委員が吐き捨てた。

それに続くのは他の三人の低音に比べ、妙にかん高くねちっこい丸眼鏡の委員の声。

 

(…この老人達はいつもそうだ。俺を吊るし上げる事こそが、最大の娯楽らしい)

ゲンドウは白手袋に口を沈め、冷笑を隠した。

 

『皆、静粛に。その辺りも含めて、今までの出来事を振り返りながら聞かせてもらおう』

 

(しゃが)れた声とともに、ゲンドウの対面に最後の人影が浮かび上がる。

白い髪をオールバックに撫で付け、目元をバイザータイプの色眼鏡で隠した老人…

SEELEの首魁、キール・ローレンツ議長であった。

 

『では、会議を始める』

 

 

……

 

………

 

闇の中、今までの使徒との戦いの記録…

NERV・国連軍・戦略自衛隊・日本重化学工業共同体…使徒戦に関わった各機関から提供された、動画と静止画が織り交ぜられたスライドショーが映し出された。

 

 

胸部に仮面をつけたモスグリーンの首無し巨人 第三使徒 サキエル

 

複数の海洋生物を組み合わせたような飛行体 第四使徒 シャムシエル

 

無機質な美しい正八面体の青いクリスタル 第五使徒 ラミエル

 

大海原を自在に駆けて国連海軍を苦しめた怪魚 第六使徒 ガギエル

 

合体・分離機能を有する細身の人型 第七使徒 イスラフェル

 

二つの腕と強固な外殻を持つ溶岩魚 第八使徒 サンダルフォン

 

強力な溶解液で本部への侵入を試みた四つ足の虫型 第九使徒 マトリエル

 

自らを爆弾としてはるか上空から本部を狙った前衛芸術のごとき異形 第十使徒 サハクィエル

 

 

戦いの過程・結果や予算のデータを添えて、それらが順々に映し出されていく。

莫大な桁の金が、それこそ()()()()()()()ように動いていた。

 

だがエヴァンゲリオンと子供達の活躍の甲斐あって、殲滅が比較的スムーズに行われている事。

また、戦自や日重といった外部機関の介入が図らずもプラスに働いている事から、想定に比べて被害はかなり少なく済んでいる。

それでもセカンドインパクト復興にしわ寄せが行っていることは揺るぎなく、発展途上国では数千人単位の餓死者が出てはいたが。

 

 

『碇があの()()()()を息子にくれてやったと聞いた時には肝を冷やしたが…

ここまでは幸先が良いではないか。我々の先行投資が無駄にならなかったのだから』

『フン、まだ解らぬよ。エヴァンゲリオンはそれ自体が金喰い虫だ。

ヒト、モノ、カネ、そして時間。

この先、維持にも運用にも、いくら使うか知れたものではない』

『そして、今回に至っては使徒に本部……

それもセントラルドグマにまで侵入を許したではないか。

いかんなこれは。早すぎる!』

「どれだけ科学技術が進歩したところで、使徒は人智を越えた存在です。

彼らが我々の上を行っただけの事…想定外の事態ですよ」

()()()!君達日本人は、事故や災害のたびに何かとその言葉を使いたがるな!

伝家の宝刀のつもりかね?』

 

 

議員達の視線と声が、ゲンドウに容赦なく突き刺さり、その反論にも怒号が返る。

第十一使徒イロウル…ナノマシンのような極小の個体が寄り集まった群体は、短期間の内に進化を遂げ、NERV本部に容易く侵入した。

メインコンピューターであるMAGIが一時は使徒に乗っ取られ、自立自爆を提唱。

 

それに対し技術部長の赤木リツコと、彼女の弟子である伊吹マヤが回線をMAGIに直結。

使徒に逆ハッキングを仕掛け、自滅促進プログラムを送り込む、という背水の陣で、NERV史上初・エヴァ無しでの使徒戦に臨んだ。

NERVオペレーター達が同時進行で懸命の防衛作業をおこなったお陰もあり、あわや、というところで使徒を沈黙させることに成功している。

 

『まあ良かろう…結果的には勝利を納めたのだ。

今回、君の罪と責任については追及しない』

「ありがとうございます、キール議長」

『だが、それ以上のイレギュラーがあるのを忘れてはおるまい。

エヴァンゲリオン零号機…そして、パイロットの綾波レイだ』

「!」

 

ゲンドウが眉を動かす。

次の瞬間、蒼髪赤目の美少女がいたずらっぽい笑みを浮かべてピースサインを作っている画像が映し出された。

相田ケンスケなる級友が撮った写真データである。

 

『零号機起動実験の事故から始まって、かつては厭世主義者(ペシミスト)めいていた少女が、ずいぶんと変わった。

君の息子、碇シンジをはじめ、級友のほぼ全てにまで影響を及ぼしていると聞く。

極め付けは、セカンドチルドレン…惣流・アスカ・ラングレーだ。

利己の塊だったあのドイツのジャジャ馬に()()()()()()など、元の綾波レイでは到底出来ぬはずだからな』

「子供達の事をよく解っておいでのようだ。教育委員会に転向なさったらいかがです」

『貴様…キール議長に対して言葉が過ぎるぞ、たかだか五十前の()()がッ!』

 

皮肉を口にするゲンドウに、鷲鼻の委員が声を荒げた。

キール本人は動じる事無く詰問を続ける。

 

『…第四使徒戦の段階で早々に零号機を復帰させたのは君だったな、碇。

使徒の一部を零号機に()()()()のは、君独自のシナリオか?』

「誓って、そのようなことは」

『気をつけて喋りたまえよ、碇くん。この席での偽証は()()()()()ぞ?』

 

甲高い声の委員が、くつくつと陰気に笑った。

ゲンドウとて嘘をついているつもりはない。

…つもりはないが…話題のレイが、完全に彼の制御外の事をやらかしてしまっていた、

 

零号機の早期復活は、パイロットであるレイからの要請によるものであるが、最終的に承認したのは、もちろん責任者であるゲンドウだ。

レイの笑顔の圧力により、あれよあれよと凍結解除の手続きを進めた結果…その数日後、司令不在時に第四使徒が襲来。

 

結果、零号機は使徒を()()()()()()のようにポリポリ喰らうという暴挙に出たのだ。

表情を変えぬまま、ゲンドウはコメカミに汗をたらりと伝わせた。

 

『改めて言っておこう。君が新たなシナリオを作る必要はない』

「解っております。全ては、SEELEのシナリオ通りに」

 

釘を刺すがごときキールの言葉に、ゲンドウは抑揚なく答えた。

 

………

 

……

 

 

一方そのころ。

 

「ぶぇっくしょいオラチクショウィ!!」

「あっはははっ!なに今のクシャミっ!?」

「アヤナン、すっげーオヤジっぽかったよ!超ウケる!」

「うー、誰かが噂してるのかなー…」

 

学校でいつもの女子グループとおしゃべりに興じていたレイは、呑気にズビズビ鼻をすすっていたという…



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64、リナレイさん、旧劇ラスト…からの夢オチにIN

(また、あの夢)

 

 

視界を満たすのは、崩れた廃墟の群れ。

子供が戯れにへし折った枝のごとく…無数の電柱が散乱していた。

 

 

赤く広がる海は、おそらくLCL。

夢であると解っているのに、なぜか血の匂いがはっきりと解る。

 

 

水平線の向こうには、縦に割られた()()の顔。

不気味な笑みを浮かべる『それ』にも、もはや慣れてしまった。

 

 

終末を思わせる、荒れ果てた世界。

なのに、薄雲の掛かった夜空だけは、やけに美しい。

 

 

出来すぎたプラネタリウムのような無数の星と、煌々とした満月。

街の灯りは全て死んでいるから、余計に明るく感じる。

 

 

しかし、今回はそれだけではない。

赤い波が寄せて返す砂浜に、男女の人影があった。

 

 

片や長い赤髪を砂に汚し、仰向けで横たわる虚ろな瞳の少女。

片や彼女に馬乗りになり、両手で首を絞める学生服の少年。

知っている。彼は、彼女は、自分の…

 

 

…彼?…彼の名前が思い出せない。

彼女?彼女の名前が思い出せない。

自分?自分の名前が思い出せない。

 

 

伸ばした手のひらが、見えない壁に遮られていた。

音もなく、痛みもなく、空中に波紋のような光が広がっていた。

 

 

(行けない。どうして?

そう、これはA.T.フィールド…

全てを拒絶する、心の壁… 

彼の心が…恐怖と、絶望が、伝わってくる…)

 

 

自分の手も声も、二人には届かない。

ただ、傍観するしかない。

 

 

それまで無抵抗だった少女の手が、ゆるゆると持ち上がり、少年の頬に触れる。

少女の首を絞めていた手から、力が抜けた。

 

 

光のない青い瞳は、彼を見ていない。何も見ていない。

身体は空を向いていても、星を見てすらいない。

 

 

少女の手が少年の頬から離れ、上げた時と同じ緩慢さで、再び白い砂に沈んだ。

 

 

ぽたり、ぽたり。少女の顔に落ちる、少年の涙。

ひくひくとしゃくりあげる、彼の嗚咽が波音に混じる。

少女は視線だけを少年に向け…掠れて消えそうな呟きを漏らした。

 

 

     (「きもちわるい」)

 

 

それっきり。少女はもはや動かず。

ただの()()と化した。

 

 

しばらく茫然としていた少年は、幽鬼めいてフラフラと立ち上がる。

 

 

「う…うぅっ…!っ…ひ、ぐぅっ…!

っく、くふ、は…はは……あはははははっ!!」

 

 

嗚咽は、だんだんと狂ったような笑い声へと変わっていき…赤い世界に響き渡る。

涙は流れゆくまま。なにもかもを諦めたように。

壊れかけた自分の心を守るために、彼は笑い続けた。

 

 

「はは、はははっ…。これが、僕が望んだ世界?

だって…だって僕は、どうすれば良かったんだ…?

ねぇ…なにか言ってよ…答えてよ……

()()ぃぃっ…!」

 

 

喉を搾るように吐き出された、その名前…

呼んでも、呼ばれても、誰も、何も、できなかった。

一切の救いが、その世界にはなかった…。

 

 

 

……

 

………

 

「相互互換テスト?」

「エヴァとパイロットを入れ替えて、データを取るってヤツね。

要はアンタが零号機に乗って、バカナミが初号機に乗るってことよ」

 

NERV本部、自販機コーナー。

シンジは壁に寄り掛かり、携帯のメールを確認していた。

アスカは飲み終えたコーヒー飲料のスチール缶をリサイクルボックスに放り込み、振り返ってはドヤ顔ひとつ。

 

「…ま、アタシの弐号機は正式量産型(プロダクションモデル)だから関係ないけどぉー?

せいぜい互換性のある()()同士で、仲良く機体交換してなさいな」

「はぁ…結局アスカは、自分のエヴァが僕達のよりも上だって自慢したいだけかぁ…」

「む、何よーつまんないヤツ…にしても、アイツ遅いわね」

「綾波さんは時々、目覚ましのアラームを付け忘れるんだよ。

保安部の人がいるから、遅刻することはないと思うけど…あ、噂をすれば」

 

二人がそんな事を言った先に、特徴のある蒼髪が走ってきた。

キキィ、と靴底と通路が擦れ合ってブレーキと化す音が響く。

 

話題の少女…綾波レイは、しばらくぜいぜいと息を整えていたが…

顔を上げるや赤い瞳を潤ませ、シンジとアスカを両手にガッシリと捕らえた。

 

良がっだぁぁぁ二人(ふだり)ども無事だっだぁぁうぁぅぁあ!

もうさ、碇くんってば、アスカっちの首を()()()()()()絞めてたじゃんっ?

ねぇ碇くん、ストレスとか溜まってない?この世の全てを恨んでたりしない!?

「ちょっ…!?恨んでないよ!どうしたのさ綾波さん!」

「あー、アスカっち生きてるぅ…あったかーい…」

「勝手に殺さないでよ…ギャグみたいなご登場の癖に、内容がブラックすぎて笑えないわね」

 

アスカは冷静になれたのは、シンジが慌てていたおかげか。

彼女は溜め息をついて、未だ泣き止まぬレイの頭を抱き寄せ、撫でる。

 

「まったくもう、世話の焼ける…シンジ、こいつちょっと借りるわよ」

「う、うん…アスカって、綾波さん相手にそんな優しい顔できたんだね」

「あんたバカぁ?何が起こったかは解らなくても、()()()()()()ってのは一目瞭然でしょ。

アタシだって、こんな状態のバカナミを突き放すほど鬼じゃないわよ。

ホントは彼氏(あんた)の役目なんでしょうけど、目の前でイチャつかれるのは嫌だしね」

 

普段のアスカは過剰なスキンシップを苦手としていたから、シンジはその様子に眼を丸くしていた。

アスカにしてみれば第八使徒戦後、レイに()()()()()()()意図でもあったが、それは二人の少女の間だけの秘密だ。

立場はあの時と完全に逆だったが、レイの呼吸は次第に落ち着いていき、己が見た『夢』の内容を話し始めた…。

 

………

 

……

 

 

「世界の終りみたいな夢ねぇ…?」

「…うん。一番最初に見たのが、確か例の()()()()の時。

同じ夢を、ここ一週間で二、三回見てる気がする」

「想像できないなぁ。そりゃあ確かに学校生活やバンド活動中に、アスカと言い合いになった事はあったけどさ」

 

レイは充血が残った目で二人を交互に見た。

アスカは元々歯に衣着せぬ発言をするタイプ。

そしてシンジも気弱に見えて、言い返す時は言い返すタイプである。

 

そも、彼ら二人のファーストコンタクトは()()()()()()()だったが、いくら喧嘩がエスカレートしたところでサスペンス・ドラマよろしく首を絞めるにはそうそう至るまい。

結局、良き友人同士であるのに変わりはないのだから。

 

「碇くん、泣き笑いみたいな(すっご)い表情で『綾波ぃぃ…!』って叫んでてさ…

生々しくて、怖かったなぁ」

「…僕が?綾波さんを?…呼び捨てで?」

 

普段の呼び名と比べ、違和感を覚えたシンジ。

レイはコメカミを掻いて、視線を泳がせた。

 

「あり?そーいやそうだネ。でも、()()()()ではそれが普通だったっぽいんだよなー…」

「ドラマの設定じゃあるまいし、肝心な所がデタラメなら、しょせん夢は夢ってことでしょ。

そんな調子で、今回の相互互換テスト…大丈夫なの?」

「へーきへーき、体調はいいから」

「ならいいけど…」

 

アスカの見たところ、レイは笑顔を取り戻したように見え、それ以上は何も言わなかった。

 

エヴァとのシンクロは本来、体調よりも深層心理の方が重要ではあるのだが、

パイロット達がリツコよりもシステム面に詳しい道理はなく…

これがどういった影響をテストに及ぼすのか…彼女達は、まだ知らない。



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65、リナレイさん、相互互換テストにIN

緑成す山々。 水面を揺らす湖。 青空と田園。 降り注ぐ太陽の光。  

風に揺れる一面のヒマワリ畑…。 第3新東京市の美しい夜景…。

 

レイの意識は、順々に切り替わっていくイメージの中に浮かんでいた。

 

(あー…落ち着くー…癒されるー…

そうそう、『夢』ってのは、こう…穏やかーなヤツじゃなくちゃね。

なーにが悲しゅうて自分の顔面の ※※※検閲削除※※※ 画像なんぞ見なきゃイカンのかってーの)

 

ここしばらくの夢見のせいか、『何でもない風景』が逆に幸せだと感じてしまう。

イメージがまた変わっていく。夕日…オレンジの雲…赤い空。

 

(っ…! 赤。赤かぁ…夕焼けは綺麗だけど、あんまり好きな色じゃないなぁ…。

例の夢のLCLの海とか。血の色とか。警告ランプとか。色々思い出しちゃう。

あと赤といえば…弐号機? いや、弐号機ちゃんは許すわ。

かわいいかわいいアスカっちに免じて

 

そんな取りとめのない思考を境に、イメージが切り変わった。

思い浮かべた勝気な赤髪の少女の姿が現れたのをはじめ…

景色が消え、闇を背景にして泡沫のごとく、いくつもの人物像が目の前を流れていく。

 

(…碇くん? 葛城三佐? 赤木博士?

あたしの知ってる人達…あたしを知ってる人達…)

 

続いて浮かぶのはNERVのオペレーター達や、2年A組のクラスメート達の姿…

彼らが通り過ぎた後、レイは暖かな光に包まれた。

 

(あたし以外の誰かが、『ここ』にいるのを感じる。

誰だろう? この感じ…幸せな感じ…碇くん…?

うぅん、()()が似てるけど、違う。

…女の人だ)

 

『レイ……レイ……』

 

レイ。綾波レイ。自分の名。自分を表す記号。

名前を呼ばれて、宇宙のような、水のような…不安定な場所に、自分の姿が見えてくる。

暗く何もない空間に、プラグスーツ姿で頼りなく浮かぶ自分を、その光が守ってくれているような感じがする。

 

『レイ……ふふっ……そう。もういいの?』

 

(…優しい声。

なんでだろ…? この人に名前を呼ばれるのは、初めてのはずなのに。

凄く安心して、懐かしい感じで、泣きそうになる…)

 

レイが手を伸ばす。光には実体はなく、暖かな空気に触れているような、不思議な感触があった…。

 

 

……

 

………

 

 

NERV本部・第二実験場…使徒襲来前、エヴァンゲリオン零号機が暴走し、ようやく修復された場所である。

現在は第一回・機体相互互換試験の最中。

つまりは、零号機と初号機のパイロットを入れ替えてデータ取りを行っていた。

 

強化ガラスの向こう、白い実験棟では初号機が壁に拘束具で繋がれ、直立している。プラグ内にいるのはレイ。

彼女が初号機に乗ったのは、第三使徒サキエルとの戦いでシンジと二人乗り(タンデム)をして以来のことだ。

 

「レイ、気分はどう? 久しぶりの初号機だけど…」

『……』

「レイ?」

 

技術オペレーター・伊吹マヤ二尉は、被験者からの返答がない事に童顔を傾げた。

マイクはちゃんとオンになっているし、音量バーは反応している…。

別のデータに目をやったマヤは「えぇ…」と困惑に眉を寄せた。

 

「どうしたの?」

「先輩、それが…」

 

後ろから覗き込むリツコへ振り返るマヤ。

彼女が指さしたのは、脳波の波形パターンを表すグラフだった。

 

「…レム睡眠の状態ね。レイは夢を見ているわ」

『はァ!? バカナミの奴、テスト中に寝てるわけ!? やる気あんのアイツ!?』

『さっき、あんな状態だったからね…綾波さん、あんまり眠れてないんじゃないかな』

 

リツコは溜め息をひとつ。弐号機と零号機のプラグからも、それぞれの反応が返る。

マヤは苦笑いしつつ、コンソールに視線を戻した。

 

「…でも凄いですね。シンクロ率は、零号機の時とほぼ同じですよ?

レイ自身は、機体とパイロットの相性があるって言っていましたけど…

そんなことは微塵も感じさせないデータです」

「…ちょっと待って、それはレイが起きていた時のデータ?」

「いえ、今現在です。つまり眠ったままで…」

マヤ! シンクロ全面カット!

寝ぼけたままA.T.フィールドでも展開されたら、大惨事になるわよ!?」

「っ!? はっ…はい!!」

 

A.T.フィールドは盾であると同時に、強力な武器にもなるのは今までの使徒戦でも証明済である。

声色を急に変えたリツコに、マヤは慌ててキーを叩いた…。

 

………

 

……

 

 

レイはまた、別のイメージを見ていた。

陽だまりの中…自分の大きなお腹を幸せそうに眺めながら擦る女性。

傍らには、あまり良いとは言えない目つきで…それでも精一杯彼女のお腹を優しく見つめようとしている、不器用そうな印象の男が立っている。

年の頃は、三十代半ばだろうか。

 

「あれ…さっきの女の人だ。

隣にいるのは…碇司令!? うっわ、若ッ!!

じゃあアレか、あの人は碇くんのママ? 

んで、お腹の中にいるのは…」

 

『あなた。名前、決めてくださいました?』

『あぁ。男だったらシンジ。

女だったら…レイ、と名付ける』

「!?」

 

独白に被さるような若夫婦の会話に、レイは身を乗り出した。

少なくとも、乗り出そうとした。

夢の中ゆえ、実際に出来たかは解らないが。

 

「ちょ、ちょちょちょちょっと待ってヤング司令!?

今っ! いますっげー聞き捨てならない言葉が聞こえた!!

その話もう少し詳しくおぅわわわわわっ!?

 

 

 

ガクガクと身体が揺れる感覚。

レイの意識は、現実に強引に引き戻された。

 

夢は夢として全て消え、レイを取り囲んでいるのは無機質なエントリープラグ。

電化が解けて、オレンジ色に戻ったLCLが満ちている。

 

オペレーティングルームからの干渉でプラグスーツを揺さぶられ、眠りから引き起こされたのだ。

モニターパネルには、額に青筋を浮かせた赤木リツコ博士の引きつった笑顔が。

その隣には、弐号機プラグから呆れ顔を送るアスカのパネルがある。

 

『…おはようレイ。テスト中に寝るなんて、貴女も図太くなったわね』

『ねぇリツコ。どうせなら電気ショックでもくれてやれば良かったんじゃないの?

プラグスーツにそういう機能あるんでしょ? 心肺蘇生用のヤツ』

『流石に命に関わるような起こし方はしないわよ。()()()()()はね』

「ス、スマセン…真面目にやります…」

 

今のところは、イコール、場合によっては選択肢を排除しない、とも聞こえる。

無論、アスカの案は冗談の範疇ではあるのだが、それに答えるようなリツコの()()()()()()()は洒落にならないと、レイは低頭して謝る。

レイと同じように恐怖を感じたのか、マヤが軽く身を震わせた後、一度深呼吸して問いかけた。

 

『改めて聞くわね? 久しぶりの初号機だったけれど、気分はどうだった?』

「んー、そうだなぁ…優しい感じがした、かな?」

『優しい?』

 

鸚鵡(おうむ)返ししたマヤに対し、レイは穏やかな笑顔を浮かべる。

 

「…うん。断片的なイメージだけ覚えてるんだけど…

()()()()って、あんな感じなのかな、って」

『っ!?』

 

息を飲んだのは、マヤではなく、その後ろのリツコ。

彼女の狼狽に気づく者はいなかった。

 

 

被験者と機体を変え、実験は続いていく。




シンクロの深さやテスト被験者自身の変化により、原作では先の話数で起こるはずのイベントが前倒しに発生しています。
エヴァさんとの好感度で変化するイベント。ギャルゲーかな?(すっとぼけ)


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66、シンジくん、相互互換テストにIN(前編)

※本作ではエヴァ零号機は黄色のままです
(54、マトリエルさん、停電した街にIN(後編) 前書きより)

アスカっちが青葉ロンゲくんの事を「コーチ」と呼んでいるのは、彼がバンドのギター指導担当していた事に由来します
(53、マトリエルさん、停電した街にIN(前編) より)


『エヴァ弐号機、機体各部正常。パイロット、異常なし』

「…当ったり前でしょ。アタシはいつもと同じ事やってるんだから。

ねぇ青葉二尉(コーチ)、バカナミは先に上がっちゃったんだし、こっちもさっさと終わらせてよ」

『いままでの使徒戦での反応速度や、動作パターンを基にしてシステムを調整してるんだ。

今回弐号機の連動試験が長いのは、それだけアスカちゃんが優秀だって事さ。容赦してくれ』

「むぅー、とりあえずおだてておけば良いと思ってぇ…」

 

肩を竦めて笑う青葉に、アスカは憮然とした呟きを返した。

 

レイは既にオペレーティングルームに引き上げている。

プラグスーツ姿のまま、指を組んだ両腕を頭上に持ち上げて気持ちよさそうに背伸びをするレイがモニターに映っていた。

その様子から、「んー!」と呑気な声でも漏らしているに違いない。

アスカは頬を膨らませた。

 

 

一方、相互互換テストは被験者をシンジに、機体を零号機へと変えて続いている。

 

『どう? シンジくん。零号機のエントリープラグは?』

「不思議な感覚です。初めての機体なのに、なんていうか…」

『違和感があるのかしら?』

 

シンジは数秒間、視線を上に向けて思案した後、モニターパネル越しのリツコとマヤを見返した。

 

「そうだ…逆に、()()()()()()()()()んです。

確かに初号機の方が慣れてるし、勝手も解るんですけど。

別の意味で、しっくりと嵌まるような…

…なんでだろう? 綾波さんの()()がするからかな…?」

 

血臭のするLCLが満ちている以上、ここでいう『匂い』とは嗅覚によるものではない。

だがシンジの感覚は、『気配』よりも『匂い』と表現した方が一番近いと感じた。

ピッ、と電子音がして弐号機からの通信パネルがポップし、やたらと早口でまくし立てる声が割り込む。

 

(ぬぁーに)が匂いよ? マニアック過ぎんじゃないの!?

別にバカップルが今更どうイチャつこうが構いやしないけどさ! どうせアレでしょ? 

あぁーんレイちゅわ~ん♪ いい匂いだよぉ~ クンカクンカー♪ スーハースーハー♪

みたいな感じなんでしょ、普段から!?

あぁーもう甘いわ! 甘ったるいったらありゃしないっ!!』

『あ、ごめんアスカっち。それむしろあたしの方が碇くんにやってる

『要らんわそんなカミングアウト!!』

『レイ! アスカ! ノイズが混じるわ。邪魔しないで頂戴!』

『アッハイ』

『はいはい! 悪ぅござんしたねー赤木博士!』

 

『…騒がしくてごめんねシンジくん。興味深いデータだわ。もう少しテストを続けてくれる?』

「わ、解りました…」

 

通信越しに聞こえた美少女二人の会話がリツコによって遮られるまで、シンジは口を挟む間もなかった。

 

『ふふっ…匂いをかぎ合うって、なんだか子犬みたいで微笑ましいわね。

シンジくんとレイが犬耳を頭に付けてじゃれ合ってる所を想像したら、ちょっと和んじゃったわ』

「うっ!? いや、その…」

 

口元に片拳を当ててクスクスと笑うマヤに、シンジはしどろもどろになる。

 

潔癖症のマヤのことだ。

シンジとレイがカップルだと知ってはいても、おそらくは前世紀の少女漫画のようなプラトニックな絵を想像していることだろう。

 

レイとの『関係』を考えれば、実際の映像はもう少し()()()()のだが、それを言う訳にはいかない。

真実を誤魔化す後ろめたさを振り払うべく、シンジは深呼吸し…肺の中にLCLを循環させた。

 

 

……

 

………

 

「シンクロ率は、初号機の時とほぼ変わらず…いや、零号機の方が少し高いぐらいですね。

シンジくんの事だから、僕の見立てではもう少し緊張すると思ったんですが」

「んっふっふー♪ 愛しのレイちゃんの機体だからじゃなーいのぉ?

本人達さえ良ければ、このまま機体を交換して実戦運用を目指すのも、視野に入れるかしらね?

もちろん、調整は今まで以上に念入りにする必要があるけど」

 

日向マコト二尉が浮かべた驚きの表情に対し、直属上司のミサトはニンマリと口の両端を持ち上げる。

『少しでも機体とパイロットのシンクロ=総合力が上がる方法を模索する』という意味では、非常に有意義なテストだった。

 

「でも葛城さん。弐号機の方は…」

「…そうねぇ。確かに互換性は効かないわ。

正式量産型(プロダクションモデル)のエヴァは、初号機・零号機とはパーソナルパターンがまるで違うし。

まぁ、性能的にもピーキーな弐号機を乗りこなすのはアスカが一番の適任だから…

互換を考えるにしても、参号機以降が配備されてからね」

「はい…」

 

新たなエヴァの配備は天文学的な額のカネをはじめとして、関係各所の複雑な思惑や責任問題が関わる事象だ。

こればかりは『上』の決定を待つ以外にはない。作戦部の二人は、揃って真剣な表情に転じていた。

 

………

 

……

 

 

 

A10(エーテン)神経、接続開始』

『ハーモニクスレベル、プラス20…』

 

リツコとマヤのアナウンスが、零号機のプラグに届く。

エヴァンゲリオンと繋がる…シンクロする感覚。

暖かなものに包まれるような馴染みの感覚に、別のものが混じるのをシンジは感じている。

 

(やっぱり、綾波さんの()()がする。

本人はモニターの向こうにいるはずなのに、なんでこんな近くに感じるんだ?)

 

オペレーティングルームのレイは、四六時中シンジを見ている訳ではない。

マイクがOFFになっているため音声は届かないが、ミサトや日向…その他作戦部の面子数人と何か言葉を交わし、思案したり、頷いているところだ。

 

 

突然、シンジの視界が真っ暗になった。

 

 

「っ!? なんだ!?」

 

 

…不具合で、エントリープラグ内の照明が落ちたのか?

いや、その割には機械の動作音の一つもしなかった。

 

 

それに、プラグそのものにも独立した電源は存在する。

不測の事態だとしても非常灯が()くのは、前回の緊急脱出で経験済みである。

 

 

だが、それすらもない、完全な闇。

 

 

LCLの循環が止まっている様子はない。

座席(インテリアシート)操縦桿(インダクションレバー)の感触はある。

マイクが生きていることを期待して、シンジは外部へと通信を試みる。

 

 

「リツコさん! マヤさん! どうなってるんですか!?

ミサトさん! 日向さん! 青葉さん! 聞こえますか!

アスカ! 綾波さん! いるなら返事してよ!」

 

 

沈黙。じわりとした恐怖が、シンジの心に迫る…。

 

 

「…綾波さん…」

 

 

縋る様に、もう一度呟く少女の名…。

 

 

(あなたにとって、綾波レイとは、なに?)

 

(!? なんだ…? 頭の中に、なんだこれっ…!?)

 

 

『それ』は声ではない。音ではない。

心の中に直接響く、()()()()()()()そのものだ。

 

 

(あなたにとって、綾波レイとは、なに?)

 

(綾波さんは、僕の、大事な人だ)

 

 

もう一度、まったく同じ言葉で繰り返された問いかけに、シンジは答える。

 

 

(本当に?)

 

(ひっ…!?)

 

 

燐光を伴って眼前に現れたのは、蒼髪に白磁の肌…

よく見知っているはずの少女。

 

だがその顔は、魚眼レンズで覗いたかの如く。

(いびつ)に、(ゆが)んで、(ひず)んでいる。

 

見開かれた赤い瞳は、ギョロリと白目を目立たせ…

美しいはずの顔が、醜悪な笑みを浮かべ、シンジを見ていた。




あのギョロっとした綾波さん、昔は超怖かったんですが何回か見返すうちに可愛いと思えてきました(錯乱)
次回、エヴァンゲリオン特有のクソ長哲学回くん予定


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67、シンジくん、相互互換テストにIN(後編)

シンジは目の前の人物から目を離せぬまま、両手に力を込めた。

闇の中、手探りで握る操縦桿(インダクションレバー)

その硬質の感触こそが、己の存在を確かめる為の命綱だ。

 

 

見知った少女に似た『それ』は裸身で、きめ細やかな白磁の肌を晒している。

だが、その表情を見てしまえば劣情を催す余地など有りはしなかった。

 

 

曖昧な光を放ち、ゆらめく蒼い髪。

白目を剥き出した赤い瞳。

三日月型に持ち上がり、狂気を孕んだ笑みを浮かべる唇。

 

 

眼を反らしたい。逃げたい。

眼を反らすな。逃げちゃダメだ。

 

 

シンジの本能は、矛盾する二つの思考を撃ち出し…

そして、ギリギリ踏みとどまって、後者に従った。

逃げようと震える心を叱咤し、抑えつけ…目の前の『それ』に問う。

 

 

(君は…誰だ!? なんで綾波さんの姿をしている!?)

(私はアヤナミレイ。あなたが知っている『綾波さん』と同じモノであり、まったく別のモノ)

(…綾波さんと同じで、まったく違う?)

(何も知らないのね。()()()()のはずなのに)

 

 

鸚鵡返ししたシンジに、アヤナミレイは(わら)った。

あのギョロリとした目で、見透かすように。

その言い草に神経を逆撫でされ、シンジは吼える。

 

 

(知ってるさ! あの明るい性格も、あの笑顔も、温もりだって!

僕は綾波さんのことなら、なんだって…!)

(うそつき。何も()()()()()()()()()癖に。

『綾波さん』が、なんであんな廃墟みたいなマンションに一人で住んでるか知ってる?

両親、家族のことは? 誕生日だって、聞いた事がないのに?)

 

(綾波さんにだって、事情や辛い過去があるかも知れないじゃないか!

そんなの、無理に詮索する必要なんてないだろ!?)

(過去を聞くことで、今の幸せが壊れるかも知れない…だから、詮索()()()()()んでしょ?

彼女のことが大事、それは建前。本音は、刹那の快楽に流されていたいだけ。

甘えて、甘えられて、互いの欲求を満たす…共依存の関係が心地いいから、手放したくないだけ。違う?)

 

(違う。違う。違うっ!)

 

 

シンジは必死に否定を繰り返しながらも、図星を突かれていることに気付いていた。

最初こそ「何故」という思いはあった。

だが日々の日常と、戦いという非日常の狭間で、いつしか疑問を抱かなくなった。

 

レイと会話を交わすのが楽しかった。

言葉もなく肩を並べるだけで落ち着いた。

身体を重ねるのは、この上ない安らぎだった。

自分も彼女も、笑うことができた。

 

けれど、もし真実に触れて、その関係が壊れてしまったら?

 

 

(…そう。そうかもしれない。

怖いんだ。綾波さんに嫌われることが。温もりを失うことが。

…トウジやケンスケは、『お前はヒーローだ』って言ってくれた。

エヴァに乗って、戦って、みんなを守れるんだからって。

でも本当の僕は、使徒との戦いから逃げたくてしかたない…臆病で、弱い人間だ。

綾波さんが側にいてくれなかったら、きっととっくに逃げ出してた)

(……)

 

(でも、それを依存って言うなら、どうすればいいんだよ!?

綾波さんを大事だと思って、何が悪いんだよ!?)

(良いとも悪いとも言わないわ。ヒトは一人では生きていけない。

迷いながら、間違いながらでも、進んでいかなくてはいけない。

それが、ヒト)

 

 

怒鳴り散らすようなシンジの声に、別方向から答えが返る。

あの恐ろしい笑いを浮かべたアヤナミレイの斜め後ろにもう一人。

第壱中学校の制服姿の綾波レイが立っていた。

 

無表情で淡々としたしゃべり方…同じ姿、同じ声質なのに、まるで別人のように見える。

おそらくはミサトやクラスメートが言っていた、性格が変わる前の()()()()()()()()()()…。

 

その隣に別の…赤いスカートの子供服を着た五歳ほどのレイが現れ…

幼い姿と声に似合わない、大人びた口調で続けた。

 

 

(知っていること、知らないこと。それによって、あなたが選べる道は変わっていく。

あなたは何も知らなかった。今までは、それでたまたま上手くいっていただけ。

けれど、あなたは知らなくてはいけない。その上で決めなくてはいけない。

()()綾波レイ…あなたが『綾波さん』と呼ぶ彼女と、共に歩んでいくかを)

 

(道…? 決めなきゃいけないって… 何をさ?)

(教えてあげる。真実の、ほんの一部を)

 

 

歪んだ笑みのアヤナミレイがそう告げると、シンジの視界には、ある光景が飛び込んできた。

 

 

******

 

 

鈍色の質素な家具。 埃をかぶった電子機器類。 硬そうなベッド。

そして、打ちっぱなしのコンクリートの壁と床。

 

 

(まるで綾波さんの部屋だ…)

(NERV本部最奥…ターミナルドグマ。綾波レイが生まれた場所。

彼女の…私の深層心理を構成する光と水は、ここのイメージが強いの)

 

 

シンジはハッとして、初めてレイの部屋に訪れた時を思い出す。

スポーツドリンクの入ったコップを弄び、四肢とヘソを露にした格好でニヤリと笑う彼女を。

 

 

『住めば都だよ……あと、武骨なコンクリの壁って()()()っぽくて超カッコよくね?』

(冗談でも強がりでもない…この光景こそが、綾波さんの原風景だったんだ…)

 

 

(そしてこれが、また別の真実)

 

 

制服姿のレイが、いつの間にかシンジの隣に立っていた。

場面が切り替わり、円筒形のガラスに囲まれた暗室の光景が広がる。

透明な壁の向こうには、オレンジ色の液体が満たされていた。

 

そこに浮かぶ、同じ顔の、一糸まとわぬ少女の群れ。

一様に張り付いたような笑みを浮かべている彼女達は…。

 

 

(綾波さん… LCLの水槽…!?

同じだけど、まったく違うって… まさか、クローン人間!?)

(そう。これは綾波レイを構成するパーツ。魂の入れ物。

ある人間の遺伝情報から引揚(サルベージ)され、造り出された、ヒトの形をしたモノ)

(造り出された… そんな… そんなことって…)

(…私が死んでも、代わりはいるもの)

 

「あんたなんか、死んでも代わりはいるのよ、レイッ! あたしと同じね!」

(!?)

 

少女の独白に被せて、背後から聞こえたヒステリックな声に、シンジは振り返った。

切り替わった光景は…最低限の電気のみが灯った、薄暗い本部発令所。

 

赤い服を着たあの幼いレイが、白衣姿の中年女に首を絞められていた。

化粧こそ濃いが、すらりとした体形…かつては相当の美人だったであろう顔が、般若のごとく歪んでいる。

誰かに似ているような…だが、それを考える余裕は、シンジにはなかった。

 

 

(やめろ!)

 

 

少年は手を伸ばす。これは過去の光景であり、その手は届きはしないと解っていながら。

首を絞められている童女は恐れも苦悶もなく、薄笑いを浮かべていた。

 

 

(エヴァを動かすためには、魂を宿らせる必要があった)

(やめろ)

(零号機のコアに宿っているのは、一人目の綾波レイ(わたし)

(やめろ…!)

(あの()()()()が、その過程を踏むのも、すべて織り込み済み)

(やめろぉぉぉっ!!)

 

 

それは凄惨な場面に対してか、それとも少女が語る言葉に対してか…。

シンジの絶叫は、夢と現実、過去と現在が入り乱れた光景の中に響いていた。

 

 

 

******

 

 

 

オペレーティングルームには警報ブザーが響き、赤い警告ランプが点灯していた。

見ればエヴァンゲリオン零号機は、その身体を悶えさせ、唸り、拘束から逃れようとしている。

 

「どうしたの!?」

「パイロットの神経パルスに異常発生! 精神汚染が始まっています!」

 

ミサトの問いかけに、マヤが緊迫した声を返す。

リツコが身を乗り出し、愛弟子のコンソールを覗き込んだ。

 

「まさか! このプラグ深度では、有り得ないわ!」

「プラグではありません! エヴァからの侵食です! 零号機、制御不能!」

『シンジッ! バカシンジ! なにやってんのよぉっ!?』

 

振動は仕切られた向こう側のスペースにいる弐号機にまで届き、アスカが通信越しに毒づく。

零号機は一瞬動きを止めたが、すぐに行動を再開した。

 

拘束具など全力のエヴァにとっては所詮気休め。

機体が強引に前へ進めば容易く(ひしゃ)げ、ついにはその背が壁から離れる。

 

 

「回路断線! 零号機のエントリープラグ内、モニターできません!」

「くっ…! これ以上は拙いわ。マヤちゃん、電源落として!」

「了解! ケーブル、パージします!」

 

日向の報告に、ミサトは(かぶり)を振る。

マヤは頷いてキーボードを手早く叩き、零号機の外部電源は火花を噴きながら外れ飛んだ。

 

だが、かつて起こった零号機事故を考えれば、稼働時間が残り数十秒の内部電源でも、この第二実験場を滅茶苦茶にするには充分すぎる。

あの時とほぼ同じ状況…違うのは、当時のパイロットであったレイが、プラグ内ではなく、オペレート側にいるということだ。

蒼髪の少女はツカツカと青葉シゲル二尉の席へ歩んでいく。

 

「…ロンゲくん、ちょっとマイク借りんね」

「だめだレイちゃん! 通信は完全に途絶してるんだぞ!?」

 

慌てる青葉の静止を無視し、マイクをひったくるレイ。

スゥゥ――――……息を細く長く吸い込み……

 

「いぃぃっかりくぅぅぅん!!!!」

「「「っ!?」」」

 

レイの凄まじい声量が、オペレーティングルームの空気を震わせた。

マイクが、キィンッと悲鳴のごとき音割れを起こす。

オペレーター衆が身を竦め、あるいは咄嗟に耳を塞いだ。

 

 

******

 

 

「…はっ!?」

 

誰かの声が『聞こえた』瞬間、シンジは目を覚ました。

 

エヴァが強引に前進している感覚…背後の壁には引きちぎられた拘束具と、前進に伴って空いた穴があった。

そこから延びた今にも切れそうなか細い計測コード群が、零号機の背中に引っ張られて悲鳴を上げている。

 

弓引くような拳を振りかぶった山吹色の一つ目巨人(キュクロプス)

その単眼の先、拳が狙う先…そして、プラグ内のシンジの視線の先には、オペレーティングルームの強化ガラス…。

 

周囲の職員達に指示を飛ばすミサトとリツコが見える。

必死にキーを叩くオペレーター達が見える。

そして、マイクを手にした、蒼髪の少女の姿が見えて…

 

『どしたーっ!? 寝ぼけてんのかーっ!? ピリっとしろよサードチルドレン!!』

『さっきまでの自分を完全に棚上げしてんじゃないの! 頭にドでかいブーメラン刺さってるわよ!』

 

アスカに突っ込まれながらも、レイは無駄に明るくマイクに叫び続けていた。

 

「っっっ!!」

 

シンジは操縦桿を全力で引く。

零号機の拳は、強化ガラスを殴りつける寸前で…止まった。

 

『通信、回復…シンジくん、無事か!?」

「だ、大丈夫です日向さん。でも、僕は…零号機はっ…!」

『今は自分を責めないで。すぐに医療班を向かわせるわ!』

 

シンジの顔色は蒼白だ。

一歩間違えれば、オペレーティングルーム内にいる全員の命を危険に晒すところだった。

自分を責めるな、と言われて出来るほど器用な少年ではないとミサトも解ってはいる。

なればこそ、精神汚染の悪影響を抑えるべく、自責の言葉を口早に遮った。

 

 

『碇くん』

「綾波さん、僕は…」

 

 

医療班を待つ間、レイから声が掛かるも、シンジは顔を上げられぬまま。

零号機の中で見た悪夢…ただの夢と思いたかったが、それにしては生々しすぎた。

自分の、レイへの思い。レイの正体。真実を確かめるか否かの葛藤…答えはまだ出ない。

 

 

『ね…碇くん』

 

 

もう一度呼ばれて、シンジは恐る恐るレイの方を見た。

いつもの笑顔だ。能面のような無表情でも、いびつな笑いでもない。

過去に何度も、壊れそうな心を癒してくれたその笑顔、そして、声。

 

 

『自信を持って。碇くんがいるから、あたしは戦えるんだよ』

第三使徒戦。初号機を果敢に駆る彼女の言葉が、何も知らない彼には頼もしかった。

 

 

『…エネルギー注入! どーぉ?元気出た?』

第五使徒戦前。彼女の口づけと微笑みが、悪夢に怯えた彼に勇気をくれた。

 

 

『あはっ、やだもぅ! なに泣きそうな声になってんの!』

第八使徒戦後。電話越しの声に、待つしかできなかった彼は安堵した。

 

 

(…確かに依存だったかもしれない。正しい選択だったのかは解らない。

けれど…綾波さんが助けてくれたから、今まで生き延びられたのも事実なんだ)

 

 

「…ありがとう、綾波さん」

『どーいたしまして』

 

 

()()()()の笑みに、シンジは不器用ながら笑い返した。

 

 

******

 

 

「あの時、通信は完全に途切れていた…なのに、なんで零号機は止まったの?

科学的にも物理的にも、有り得ないことだわ…」

「そりゃあ、エヴァってガチな機械じゃなくて()()()()だもん。

言ってみりゃ半生(ハンナマ)ですよ半生。

あの子、案外根性論が通じるよ?

アスカっちが通信した時点で、零号機が一瞬止まったからさ。

あたしが思いっきり叫べば、声が届くかなーって思って」

「え、えぇぇ……?」

 

科学者らしく理論派のリツコは、この時ほどレイに困惑させられたことはなかったという…。



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68、リナレイさん、司令室にIN

その部屋は、とにかく()()()()()()空間だった。

低い天井と冷たい床は黒く磨き上げられ、何やら幾何学的な文様が描かれている。

『十個の丸』を規則的に並べ、『二十二の道』で縦長の六角形状に繋がれたそれは、オカルトや神話に詳しい者であればユダヤ教の神秘学にある『生命樹(セフィロト)』だと解るだろう。

 

 

パチッ…… パチン……  パチンッ…… パチッ…… 

 

 

そんな一種異様な雰囲気を持つ場に、盤と駒のぶつかる音が響いていた。

 

 

盤を挟んで相対するは、二人の人物。

片や第壱中学校の制服を着た蒼髪の少女、綾波レイ。

片やブラウン基調のNERV高官服を纏う初老の男…同機関の副司令、冬月コウゾウ。

木製の戦場を舞台に、真剣勝負の真っ最中である。

 

パチィッ…! ピンと伸ばし、揃えられたレイの人差し指と中指が、盤に大駒を叩きつけた。

少女の赤い瞳は対手を見すえ、不敵に笑む。

 

「王手ッ! どぉーよ、じっちゃん!」

「ふむ」

 

パチン。盤上を斜めに走る角行の進路(カクミチ)は、冬月が張った歩兵(ふひょう)にあっさりと遮られ、レイは目を見開いた。

 

「なにぃっ!? A.T.フィールド!?

「盤上にそんなもの有りゃせん。

察するに…『王手』と()()()()()()()()ではないか?」

「おぉう…バレてーら…」

「解らいでか。見ろ、飛車・角行・金将(ヒシャカクキン)落ちだったにも関わらず、今やその角行以外、全てが私の手の内だ。

『どう攻め、どう守るか』『何を犠牲にし、何を生かすか』…勝つためには、常に冷静でなくてはならん」

「ぐぬぬぬ、まるで将棋だな!」

「まるでも何も将棋そのものだ。十七手先でお前の詰みだぞ、レイ」

 

お前は何を言っているんだ、とばかりの表情を浮かべる冬月。

ウンウンと唸った末に、レイは両手をついて一礼した。

 

「うぅー最早これまで! 負けました! 

チックショー! そのうちじっちゃんにキャーン言わせてやるからなぁー!」

「駒の動きを覚えたばかりの小娘には、まだまだ負けはせんよ。

このジジィのつまらん王将(クビ)で良ければ、いつでも獲りに来い」

 

素直に負けを認めたかと思えばガバッと顔を上げ、相手に人差し指を突き付けるレイ。

対する壮年の副司令は、年長者の余裕で笑ってみせる。

 

ここしばらくは多忙で、合間を見て詰将棋の問題集と睨めっこするだけだった冬月。

相手は初心者とはいえ久々の対人戦とあって、とても満足げであった。

 

 

「…あの、冬月先生。一応ここ、司令室(おれのへや)なんですけど。…本題入って良いッスか」

「おぉ、そういえばお前もいたな、碇」

 

将棋盤の隣。

机に肘をつき、組んだ指で口元を隠すいつものポーズのまま。

遠慮がちに口を挟んだのはNERV総司令、碇ゲンドウさん(48)。

冬月としては、普段彼から面倒な仕事を押し付けられている事へのささやかな報復である。

 

ゲンドウの威厳が削られ始めたのは、いつからだっただろう。

性格変化直後のレイに「剃れ!」と言われてヒゲを剃ってからか?

第七使徒イスラフェル戦でテンションが無駄に上がり、マイクを持って歌い踊ってしまってからか?

 

少しずつだが、部下であるNERV職員達から親しまれるようになったのは良い傾向かもしれない。

…決して舐められている訳ではないはずだ。多分、きっと、おそらく。

 

だが、それにしてもこれは。

自分の領域である司令室にいながら、()()()()されるというのは。

扱いがぞんざい過ぎるのではないか。

あんまりと言えばあんまりではないか。

 

「あー、メンゴメンゴ。将棋にハマってすっかり忘れてた。ま、強く生きろゲンちゃん」

「問題ない……問題ないっ……」

 

ケラケラと笑うレイ。ゲンドウのサングラスの下から、つぅ――…と、一筋の雫が流れた。

 

******

 

「んで、あたしの任務はエヴァ初号機を運用…

NERV本部最下層・ターミナルドグマに安置された『白い巨人』に『槍』をぶっ刺すだけの簡単なお仕事、と」

「そうだ」

 

ゲンドウは改めて作戦を復唱したレイに、淡と答えてみせた。

ようやく気を取り直したか、と苦笑したのは彼の隣に立つ冬月。

 

簡単なお仕事…作業自体は単純だが、内容は重要だ。

白い‌巨人とは、第一使徒アダム…休眠状態でありながら強大なエネルギーを内に秘めた、大災厄セカンドインパクトの元凶。

ごく一部の例外を除き、使徒がまっすぐにこの街に向かってくる原因は、このアダムと接触してサードインパクトを起こすのが目的だという。

 

そして『槍』は第十使徒サハクィエルとの戦いの最中、南極から運搬されてきた『ロンギヌスの槍』。

イエス・キリスト処刑の際、彼の脇腹を突いた兵士、ロンギヌスの名前にちなんだ、古き聖遺物の名を冠するモノである。

アダムは休眠状態であるが未だ死んではおらず、活動を抑制するためのストッパーとして槍を刺すのが今回の目的だった。

 

レイが思案する時の癖…彼女は唇に指を当てて、上を見る。

天井の紋様…生命樹(セフィロト)の頂点にある円…『思考』をつかさどる王冠(ケテル)小径(セフィラー)が、赤い瞳に飛び込んだ。

 

「ねーゲンちゃん。初号機を使うのはなんで?

零号機をあたしのデータに戻した後、特に暴走なく再起動したっしょ?

だったら零号機で作業やった方が安定しそうなもんだけど」

「零号機には既に第四使徒の因子が組み込まれている。

アダムと接触すればサードインパクトが起こりかねん」

「えー、なにそれこわい。

んじゃあ日本重化学工業共同体(ニチジュウ)からジェット・アローンを一機リースしてみたら? 

割と器用だから、槍刺す作業ぐらい出来るっしょ。

時田氏(トッキー)だったらきっと()()()()してあげれば、嬉々として手ェ貸してくれるよ?」

「アレを十全に扱うには、あちら側のオペレーター…すなわち外部の人間を使わねばならん。よって却下だ」

「なるほどねー。ある程度は機密に触れてて、かつエヴァも使えるあたしが適任ってか。

ま、碇くんは病み上がりだし、アスカっちはこういう地味ィ~な作業に弐号機を使いたがらないだろーしね」

 

 

先日の相互互換テストは、零号機の暴走により中断。

同機が停止したのち、パイロットの碇シンジは救出された。

 

見たところシンジに目立った外傷はなく、ミサトやアスカ、オペレーター陣が見舞いに来た時の受け答えも明瞭であったが、リツコとの問診の際には何故か不意に目を反らしたり、レイが病室を訪れた時にも「何かを話そうとして、言いあぐねる」という様子が見られた。

症状はあくまで軽度の心労の範囲であり、懸念されていた精神汚染の後遺症が残っている可能性は低いようだが、念のため精密検査を含めて入院措置が取られている。

 

 

「セカンド・サード両チルドレンをこの件に関わらせるつもりはない。レイ、お前だけしか出来んのだ」

「そりゃまぁ場所が場所だし、扱うブツがブツだし、気持ちは解るよ?

でもさ、司令は碇くんのパパでしょ? 信じられない? 自分の息子が」

「それは」

「ぶっちゃけた話ね、碇くんとアスカっちには、全部話してもいいと思ってる。()()()()()の事も含めてね」

「「!?」」

 

タンッ…! レイの掌が机を叩き、NERV2トップを見据える。

ゲンドウと冬月は、強い意志を持った少女の瞳に、()()()()の面影を見て…言葉を失った。

 

(ユイ…!?)

(ユイくん…まさか)

 

「『どう攻め、どう守るか』『何を犠牲にし、何を生かすか』『勝つためには、常に冷静に』

…だったよね、じっちゃん? あたしにも独自の情報と()()()()があるんだ。

とゆーことで! 第一の適格者(ファーストチルドレン)綾波レイ。

見事作戦を遂行して参ります…っとくらぁ!」

 

姿勢を正したレイは一度敬礼…そこから慌ただしく身を翻して司令室を後にした。

 

「参ったな碇。詰まされているのは、俺達の方だぞ」

「問題な…いや、問題しかない」

 

残された大人二人の背は、煤けていた。



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69、リナレイさん、ターミナルドグマにIN

「ふぅーふふふっふ~ん♪ ふふふっふ~♪ ふふふっふぅ~ん♪」

 

互換テストの結果、エヴァンゲリオン初号機を問題なく操縦できると判断されたレイは、同機のエントリープラグの中で鼻歌を歌っていた。

直訳すれば「私を月に連れていって」という曲名を持つジャズのスタンダードナンバー。

だが現状、初号機は空のお月様とは逆方向……NERV本部を貫く巨大な縦穴(セントラルドグマ)をゆっくり降下中である。

 

下へ下へと伸ばされる特殊鋼ワイヤーを片手に掴み、ワイヤー下部先端の(あぶみ)に片足を引っ掛けた直立姿勢。

もう片手にはエヴァの身長……ちょっとしたビルの高さよりも長い、二又の赤い『槍』があった。

 

「ふんふーふふぅ~~♪ ふ~ふぅぅ~ふ~♪ ……よいしょぉっ!」

 

ドグマの底近く。レイの掛け声と共に、初号機は鐙を蹴る。

本来、愛を囁く歌詞でしっとりと締めくくられるはずの名曲は……

ドズゥゥンというドデカい着地音により、台無しになって終わった。

 

「背部バッテリーよーし! 各部動作、問題なーし! さーて参ろうか。

いつぞやの匍匐前進と違って、徒歩で行けるのが嬉しいわ」

 

レイは計器類と周囲を目視確認。一人軽口を叩きつつ、操縦桿(インダクションレバー)を押し込んだ。

エヴァは縦穴の底から横穴へ……照明が壁面に等間隔で配置された、車両用のトンネルのような通路を進む。

 

突き当りで、レイは操縦桿脇のコンソールを操作した。

碇ゲンドウ総司令から教えられた極秘の電波周波数とパスを入力する。

開閉装置の横にあるモニターの文字は、赤い閉鎖(CLOSED)から緑の開錠(UNLOCKED)に切り替わり……

天国の扉(ヘヴンズドアー)なる大仰な名前の分厚い八角形が、上下にスライドして開いていく。

 

地下2008メートル。NERV本部最奥部、ターミナルドグマ。

巨大な赤い十字架に両掌を杭で打ち付けられ、磔刑(たっけい)のごとく巨人が吊るされていた。

エヴァが手に持っている『ロンギヌスの槍』…

これでキリストの処刑を再現しろ、というのが碇司令(ボス)からのお達しである。

 

十字架を伝って、白い巨人の身体から流れ出ている液体はLCLだ。

エヴァの腰ほども深さがあるオレンジ色の池を、ザブザブと掻き分けていく。

近づけば解る、詳細な姿。

 

上半身だけのボディは真っ白で、体形的には恐らく男性。

頭髪はなく、紫色をした楕円の金属板…表面に逆三角形と七つの眼を象った奇妙な仮面をつけている。

腰から下は幾つものコブがより合わさったようになっていて、小さな人間の下半身らしきものが無数に、そして無造作に『生えて』いた。

 

「…第一使徒アダム。

セカンドインパクトを起こした()()()が、()()()()の向こうに幽閉されてるって、皮肉だねェ。

あたし個人は恨みはないけど…NERVにはセカンドインパクト世代のヒト達がいっぱいいらっしゃる訳で……」

 

レイは肺にLCLを吸い込んで瞳を閉じ、刺突の構えをイメージした。

エヴァ初号機はロンギヌスの槍を両手持ちに、狙いを定め……

 

「往生しなっせぇ――ッ!!」

 

カッ、と目を見開き、レイは気合一閃。

足を半身に開き、腰を落ち着け、腕に力を連動させ……アダムの胸を二又の切っ先で貫いた。

 

その瞬間、十字架に拘束されていた白い両手が、ヌルリと外れ……

杭で貫かれていたはずの掌には傷一つなく、まるで我が子を抱擁する親のように、初号機の背に回る。

 

「っ!? なに!? アダムって、休眠状態じゃないの!? って、(いだ)だだっ!?」

 

己の右手に走った痛みに、顔をしかめた。

エヴァではない。自分自身の手の甲が、()()()()している。

 

レイはこの感覚に覚えがあった。

エヴァの模擬体に、全裸で乗り込んだ時に起こった、あの事件。

ナノマシン型の第十一使徒…イロウルによる侵食である。

 

スーパーコンピューターMAGIに寄生した本体は技術部によって沈黙していたが、()()()はレイの手の甲に宿って共生し、生き延びていたのだ。

NERV医療部の精密検査、技術部の検索能力すら掻い潜るほどに、巧妙に己を変化させながら……。

 

(チックショ、アダムが()()()のはコレが原因かぁ!

零号機に取り込んだ第四使徒の因子どころじゃないじゃんっ!?

ヤッバいよコレ、あたし自身がサードインパクトのトリガーとか、洒落にならないっての!!)

 

歯を食いしばって痛みに耐えつつ、とにかくアダムを振りほどこうと、レイはレバーを前後させる。

だが初号機は完全にホールドされていて、身動(みじろ)ぎする事すら難しい。

 

ふと、アダムから七眼の仮面が外れ、ガンッ、と鈍い音を立ててエヴァ初号機の頭を打ち、そのままバウンドしてLCLの海に飛沫を散らしながら沈んでいく。

 

「痛ったぁ!? 金ダライじゃないんだからさ! もーいい加減に……!?」

 

危機的状況に似合わない、前世紀のバラエティー番組のような攻撃(?)と、フィードバックダメージの痛みに、レイはアダムの素顔を睨みつけてやろうと視線を向け……そして、愕然とした。

 

白いノッペラボウが優しそうな女の顔に、輪郭もショートヘアのようなそれに変わっていく。

何より男性的だったアダムの上半身は、いつの間にか女性特有の丸みを帯びていた。

 

相互互換テストの最中、夢の中で見た女性……。

レイの赤眼から戦意が消え、何も解らぬまま溢れた涙が、LCLに溶けていく。

 

「マ……ママ……?」

 

無意識に呟くレイに、白い女巨人の姿をとったアダムは微笑んだ。

 

 

おかえりなさい



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70、アダム?さん、第3新東京市にIN

エヴァンゲリオン特有の視点がコロコロ変わりまくる回。

某女巨人さんは原作よりもかなり小さめ(大気圏越え→特撮怪獣サイズ)
姿はあの人です。


少年は夢を見ていた。

見覚えのある本部施設の明るい実験棟を俯瞰(フカン)する視点。

だがオペレーター達は皆知らない顔で、制服のデザインも現在のNERVのものとは違う。

 

幼い頃の自分が、白衣姿の女性科学者を見上げ、無邪気に笑いかけていた。

 

「何故子供が……」

「所長の息子さんだそうで……」

「ここは託児所では……」

 

不機嫌そうな壮年の男性と、困惑気味の女性科学者が話し合う声。

壮年の隣には、若き日の父が座っている。

『所長』……そう、『司令』とは呼ばれていなかった。

 

 

『ごめ…なさ……月先生。私が…れてきた…です』

 

スピーカー越しに聞こえる、別の女性の声……。

少年にとっては聞き慣れた声のようで、どこかが違う。

 

「ユ…くん! 今日は君の…験……だぞ!」

『この子に…未来を……』

 

ノイズ交じり、途切れ途切れで聞き取りづらい会話。

それをさえぎるように、赤いランプが点滅する。警報が鳴り響く。

オペレーター達が、自分に解らぬ専門用語で怒号を交わし合っている。

 

4歳の自分は何が起こっているかも解らず……

消えていく大事な人に向かって、笑いながら手を振っていた。

 

それが誰だったのか、思い出した。今なら解る。

 

 

(あの人は、僕の)

 

 

そして、視界も音も、ホワイトアウトする。

 

 

 

―――NERV総合病院・201病室―――

 

「……っはっ!?」

 

目を覚ました時、シンジの眼に入ったのは白い天井……四角いカバーに覆われた蛍光灯。

第三使徒戦後以降、もうずいぶんと見慣れたが、あまり好きな天井ではない。

 

先のテストで零号機は暴走を起こしたが、幸いにして外傷はなかった。

NERVの面々が見舞いに来てくれたが、その実、体調自体は良好そのもの。

懸念されていた精神汚染の後遺症もなく、医師からは問題なく退院できると言われている。

 

湿った病衣の胸元を掴み、涼しい空気を招いた。

 

(変な夢だったな。汗掻いたせいで、気持ち悪いや。

あぁ、そうだ、夢。

綾波さんに、零号機の中で見た夢のこと、結局聞けなかった。

聞きづらいけど……いつか、聞かないと)

 

昨日見舞いに来たレイは、マシンガンのごとく学校での出来事を語った。

シンジ自身、彼女の話を楽しんでいた事もあり、なかなか話を切り出せず、一度聞こうとして、ためらってしまった。

 

 

おぞましい表情の、アヤナミレイの嗤い。

LCLの水槽に浮かぶ、無数のクローン体。

首を絞められて動かなくなった、幼いレイ。

 

 

思い出したくない。だが忘れられない。

ただの夢だと一笑に伏すことが出来れば楽だっただろうが、心を離れない。

 

物思いにふけっていたその時、通信端末から聞こえた非常招集の音が、不安に駆られるシンジの心臓を更に跳ねさせた。

 

 

 

―――NERV地下最奥部・ターミナルドグマ―――

 

二又の聖槍(ロンギヌス)に胸を貫かれていることすら意に介さず、アダムと呼ばれていた白い女巨人は初号機を抱きしめた。

プラグ内のレイにフィードバックされるのは、あまりにも優しい、暖かいものに包まれる感覚……

使徒と戦っている時に馴染みのある痛みや熱とは、真逆のそれだ。

 

レイの右手は赤い光を宿したままだが、既に痛みはなく……

しかし操縦桿(インダクションレバー)を握ったまま震えるばかりで、抵抗しようという意志は最早なかった。

 

 

「……解る。今なら、ママを想って泣いてたアスカっちの気持ちが解るよ。

ヒトの心は()()()だから、痛みを癒してくれる温もりを求めているんだって。

大好きな誰かを守りたくて、この温もりを与えたいんだって。

きっと、あたしは碇くんに、でも、でもあたしは……」

 

 

レイは唇を歪め、なおもLCLに涙を溶かしながら肩を震わせた。

自分は、普通の人間のように生まれてはいないはずなのに。

否、だからこそ……心地よい、この温もりを感じていたいと思ってしまう。

 

 

女巨人は微笑みをたたえたまま、半液体のように真っ白な胴体を波打たせ、初号機を取り込んだ。

胎内回帰……すなわち、私に(かえ)、とばかりに。

 

エネルギー保存法則、質量保存法則、その他あらゆる物理法則を無視し……

女巨人はそのサイズを大きく変えながら、コンクリートの壁も、特殊鋼の隔壁もすり抜けて上へと昇っていく……。

 

 

―――NERV本部発令所―――

 

「碇、あれは……!」

「あ、ああぁ……!」

 

冬月コウゾウ副司令に言葉を向けられた碇ゲンドウ司令は、無意識に立ち上がっていた。

おおよそNERV職員達が見たこともない組織2トップの狼狽(うろた)え方である。

赤木リツコ博士もまた、信じられない、という表情で口元を手で隠していた。

 

主モニターに映し出されたのは、異様な光景だった。

地上カメラからの映像……夜の(とばり)が降りた第3新東京市に、突如現れた白い女巨人。

ビルディングの数倍の高さを持ち、均整の取れた艶姿はそれ自体が光源となって、暗闇の街で絶大な存在感を誇っている。

 

葛城ミサト三佐は、NERV幹部達の表情に眉を動かした後、モニター類の中にメッセージを見つけ、その目を険しく細めた。

 

EVA-01    LOST

1st Children  LOST

 

(初号機とレイが行方不明!? このタイミングで!? 

それに、あの謎の巨人を見た司令達の様子……

間違いない。彼らは私が知らない何かを知っている。隠している……!

けれど今は……)

 

作戦部長として、目の前の事態に対応しなければならない。

ミサトはなんとか唾を飲みこんで乾いた喉を湿らせた後、副官である日向マコト二尉に問う。

 

「使徒なの? あの女巨人は?」

「分析結果が出ました。パターン、赤!? に、()()ですっ!」

「そんな……!?」

 

スーパーコンピューターMAGIが全てシステム正常なのは確認済み。

日向マコト二尉から返ってきた答えに、ミサトは声を詰まらせた。

 

「う、うぅぅっ……!」

 

眼をきつく閉じて呻き声を漏らし、吐き気をこらえて口元を抑えたのは伊吹マヤ二尉。

あまりにもヒトに似た……そして、MAGIによってヒトとされたモノ。

 

もしこれが敵だった場合、NERVは女巨人を倒さなければ……

もとい、中学生の少年少女に()()()()()()()ならない。

潔癖の気があり、なまじ頭の回転が速いマヤにとって、この現実は生々しすぎた。

 

ミサトは、勢いよく息を吸って吐き……性急に酸素を肺に取り込んで、青葉シゲル二尉に視線をやった。

 

「青葉くん、国連軍と戦略自衛隊に通達。彼らが先走らないように釘を刺しておいて。

日向くんは分析を続行。兵装ビルでの攻撃はせず、警戒待機」

「「了解」」

「あとは、パイロットね」

 

既に招集は掛けた。

シンジとアスカには、自分から状況を伝えなくてはならない。

ミサトは、唇を噛んだ。



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71、レリエルさん、夜の街にIN・そのいち

「うぉぉ、酔いそう。なんじゃこりゃ!?」

 

エヴァ初号機ごとアダムに取り込まれ、母の胸に抱かれるが如く安らいでいたレイ。

気がつくと彼女は、白黒のマーブル模様が渦巻く謎の空間に()()()()()()

 

夢の中にしては、意識ははっきりしている。

だが足は地についておらず、なんとも非現実的で、不安定だ。

 

同時にレイは、背中から暖かく柔らかい感覚が伝わってくるのを感じていた。

あの女性化したアダムが……もっとも、今はレイより少し身長が高い程度だが……抱きついてきている。

レイが「あ、どうも」と間の抜けた挨拶をすると、人間サイズのアダムは黙したまま優しく微笑み返した。

 

一時は涙が溢れるほど動揺していたレイだったが、いざ冷静になってアダムの顔を見てみれば、思い当たる事はあった。

 

 

「やっぱり、碇くんのママだよね?

本人じゃなくてアダムさんが仮の姿を取ってるだけだと思うけど……

今は、この気持ち悪い空間から、脱出することを考えんと」

(させない。逃がさない。ようやく見つけたんだもの。アダム)

「んっ!?」

 

 

レイが慌てて視線を戻した先、目の前の空間に人影がまろび出た。

自分と同じ蒼髪、顔立ち、身長、体型の少女。

白目のない瞳と、身に着けたスクール水着めいた衣には、背景と同じように白黒が渦巻いている。

 

レイにとっては、自分の姿を使った出来の悪いコラージュを見せられたようなもの。

警戒に赤眼を鋭く細め、レイは相手に問うた。

 

 

「あなたは、だぁれ?」

(使徒。あなた達が、使徒と呼ぶ()()

「使徒? ヒト? はっきりしないな。まー、ともかく……

今まで力押しだった使徒さんが、今回は精神的に干渉しに来たってワケですか。

いや、『アダムをようやく見つけた』って事は……あたしは()()()か?」

 

(いぶか)しむレイに対し、ためらいも急ぎもせず、使徒は大胆に歩み近づく。

 

サードインパクトは、私が主導で起こす。そのためには、アダムが必要。邪魔をしないで)

「だぁぁっ!? サラッと洒落にならん事言ってるな、この子!? こっち来るなぁッ!」

 

 

レイは右手を突き出し……その手の甲が、()()()()()

 

キィン、という高い硬質音とともに、半透明の虹色をした障壁が現出……使徒は後退(あとずさ)る。

もっとも使徒以上に驚いたのは、レイ自身の方だったが。

 

 

「うぉ、なんか出たっ!? あたし、素手でA.T.フィールド出してる!?」

(第十一使徒イロウルを取り込んだのね。

やはり貴女は、究極の不確定要素(イレギュラー)だわ)

「一人で勝手に納得してんじゃないよ、このドッペルゲンガーめ。

会話は言葉のドッジボール……じゃなくてキャッチボールだって、学校で習わんかったか!?」

(貴女が、綾波レイが……()()()()を言う時点で、この()()は全てが狂っているのよ)

「くっそぉ、ムカつくなぁ……ワケ解んない事を、解ったよーに言われんの!

それもあたし自身の姿でさぁ!」

 

心の壁(A.T.フィールド)を隔て、レイは鏡合わせのような使徒を睨んだ。

 

 

******

 

後手後手ながら市民の避難が完了した頃、第3新東京市の地上にも変化は訪れていた。

白い女巨人が胸の前に差し出した両手の上に、何の前触れもなく白黒縞(ゼブラ)の球体が出現したのだ。

 

直径100メートル前後……奇妙なモノクロの真球。

アスファルトをすり抜けて湧き出た巨人と同じく、やはりあらゆる物理法則を無視して空中静止している。

 

 

「あの巨人の武器なの?」

「いいえ、球体は巨人とはまったく別の個体です。

パターンオレンジ。使徒とは断定出来ず……

修正! 巨人の直下にパターン青! 使徒発見!」

「直下!?」

 

 

ミサトと日向が言葉を交わした、その直後。

夜闇より暗い『漆黒そのもの』が、パターン青が検出された地面に広がった。

空中の球体が落とすにしてはあまりに大きい、直径にして5,6倍はあろうかという円形の影である。

 

 

ず、ずずずずっ、ずっ……

 

 

ビル群が、電信柱が、信号機が、無人の自動車が……

まるで底なし沼にでも飲み込まれるように消えていく。

その中心で女巨人だけが沈むことなく、ゼブラの球体を見つめていた。

発令所がどよめき、ミサトは息を飲む。

 

 

「街が……なんてこと!? あの影に飲まれたらひとたまりもないわ!

でも、なぜ巨人は影響を受けないの? 実体がないのかしら?」

「巨人からはエネルギー反応がありますが、質量がほぼゼロ。

使徒の持つマイナスエネルギーと、干渉しあっています。

……しょ、初号機の反応あり! 巨人の体内ですっ!」

「初号機!? じゃあレイは?」

「反応は一瞬だけです。安否不明!」

 

 

焦り気味の青葉の声に、ミサトは頼りの親友を振り返る。

赤木リツコ博士は幾分平静を取り戻していたが、首を横に振った。

 

 

「目下解析中よ、葛城三佐。

けれど、今回は規格外が多すぎるわ。

巨人と影の使徒の相関関係は、未だ不明……。

大質量のエヴァがあの巨体の内部にいるはずなのに、この計測結果だもの」

 

(不可解な事……そして私達人類にとって幸運な事。

アダムと使徒が接触している以上、()()()()()()()()()()()()のサードインパクトが、まだ起こっていない。

もっとも、首元にナイフを突きつけられている状態で、予断を許さない状況だけれどね)

 

リツコは真実を隠したまま、コンソールと格闘を続けた。



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72、レリエルさん、夜の街にIN・そのに

技術部の解析の結果、直径680メートル、厚さ約3ナノメートルの『影』が使徒の本体であり、奇妙なゼブラの球体は偽物(フェイク)だと判明した。

 

偵察用のドローンを数機飛ばしたところ、地上20メートルほどの距離で二機が立て続けに制御を失って影に落下し、音信不通に。

だが30メートル圏内にいたドローンは離脱に成功しており、電波攪乱の能力は微弱であると推測される。

 

問題は、使徒の真の能力。

影の内部は『ディラックの海』なる虚数空間に繋がっているという、常識はずれの仮説を赤木リツコ博士が打ち出した。

弱点であるコアはほぼ無限の広さを誇る空間の中に隠されていて、外部からの干渉しようにも、攻撃を含めた物理的接触自体が困難である。

 

白い女巨人(アダム)は、使徒と何らかのエネルギー干渉を行っているものの、その場に佇んだまま。

一瞬だけ反応があったエヴァ初号機は、MAGIが計測した動きから()()()()()()()()()()影に飲まれてしまった可能性が高い。

初号機の残存エネルギーは内部電源と、背部に装着された非常用バッテリー……。

エントリープラグのAIが上手く働いて、モードを自動で生命維持に切り替えていれば、綾波レイ(パイロット)の命は丸一日ほど持つ計算だ。

 

しかし、いまだ引揚(サルベージ)する手立ては見つかっていない。

結果、ミサトからパイロット達に下された命令は……

 

******

 

「なんだよ、待機って! 綾波さんが、こんな事になってるのに!」

 

シンジが水平に振った腕……拳底が、休憩室の壁を叩いた。

ガツッという鈍い打撃音に、ベンチに腰掛けたアスカが顔をしかめる。

 

「うっさいバカシンジ。大人しくしてなさい。

やれる事がない時は休んでおくのもパイロットの仕事のうちでしょ」

「休んでなんていられないよ! すぐに使徒を倒さないと!

綾波さんを、助けに行かなきゃいけないのに!」

「だァから! その手段を技術部(リツコたち)が探してる最中じゃない!

策もなしに闇雲に出てったって、あの影に飲み込まれて()()()()になるのがオチよ?

それに初号機がないなら、アンタが零号機に乗るわけでしょ?

また暴走したら、戦う以前の問題でしょうが!」

 

アスカは立ち上がった。

水色の少年と、赤色の少女……二人のプラグスーツ姿が睨み合う。

 

シンジの精神状態は乱れていた。

 

互換実験時の『夢』。病室で見た『夢』。

影のような使徒と、敵か味方かも解らない、女性の姿をした巨人(アダム)

そして、行方不明のレイと初号機。

 

解析結果を改めて確認しても、手の出しようがない状態だ。

『謎』は無数にあるのに、どれもレイを救うための手立てにはなりそうにはない。

 

誰かが慌てている時は、誰かが冷静になる、というのはよく聞かれること。

アスカは口調こそ荒いものの、(もっぱ)らシンジをいさめる側だった。

 

 

「冷たいんだな、アスカは。綾波さんが心配じゃないのかよ」

 

 

シンジが苛立ちから、八つ当たりめいたその言葉を発した瞬間。

アスカの両手はシンジの胸倉を掴み、彼の背を壁に激しく叩きつけていた。

休憩室に、衝撃と打音が響く。

 

「ぐっ! かはッ……」

 

シンジの肺から空気が弾き出される。

一度良い勝負をしたとはいえ、本気になったアスカの実力はまだ遥か上だ。

シンジとてレイに鍛えられているはずだが、まともな抵抗は出来なかった。

 

「何すんだ、よっ……!?」

「……ほんっと予想してた通りだわ。

()()()()()()()()()()()()()()()がいなくなれば、もう片方がこんな風になるのは当然よね」

「っ!」

 

依存。以前にも指摘された言葉に、シンジは肩を跳ねさせる。

だがそれ以上に、アスカの真剣な顔が、彼の胸を突いた。

怒りに釣り上げられた青い瞳は、涙を浮かべてシンジを射る。

 

甘ったれてんじゃないわよ!

大事な彼女がいなくなれば、そりゃあ不安でしょうけどね!

アタシにとっても、バカナミは大事な仲間なの!

口を開けば『綾波さん、綾波さん』……

アイツの事を心配してるのが、つらい思いをして待ってるのが、アンタ一人だけだとでも思ってんの!?

幼児(ガキ)みたいに泣いて! それでアイツが戻ってくるんなら!

アタシだって幾らでも泣いてやるわよっ!

 

アスカの言葉は、最後には甲高く裏返っていた。

シンジの胸元を掴んだ手は、震えていた。

 

シンジは気づく。

アスカが不安とやるせなさを感じていた事も、やり場のない怒りを抱えていたのも同じだったと。

それに加えて自分の情けない姿が、彼女をイラつかせたのだと。

力を緩めたアスカの手が離れ……シンジは一度深呼吸した。

 

「ごめん、アスカ」

「別にいいわ。

アンタがヘタレてたおかげで、欲求不満(フラストレーション)を吐き出す切っ掛けになったもの。

そこは感謝しといてあげる」

「……それはそれで複雑だけど」

「と、ともかく! バカナミを助けるためにも、コンディションは整えておきなさいってことよ!」

 

大声で感情を露にした恥ずかしさから、赤い顔を反らすアスカ。

不器用に笑いながらも、シンジは平常心を取り戻そうと務めた。

諦めはしない。レイを救う手段は見つかると信じて、今は待つ。

 

 

******

 

 

白と黒の異空間。対峙するレイと少女使徒。

使徒は二人を隔てる虹色の光壁(A.T.フィールド)に掌を合わせた。

 

強固な障壁が溶けて、歪み、使徒の手が侵入……レイが守る白い女性(アダム)に触れようとする。

 

「ちぃっ! 中和……いや、()()か!? うん、そーだよね!

使徒さんならA.T.フィールド出せるし、そりゃ出来るわなっ!」

 

レイは侵略してきた少女の掌を真正面から握り止め、自分と同じ顔を睨んだ。

ぐるぐると回るゼブラ模様の眼が、レイを見返す。

 

(A.T.フィールドは、誰もが持つ心の壁。

他者と己を隔て、拒絶し、侵食するもの。

その本質は、絶対的恐怖(Absolute Terror)……。

何人(なんぴと)にも侵されざる聖なる領域(Field)

使徒(わたし)達はね、とても()()()で、()()存在なの。

単体として完結しているがゆえに、他者を拒絶することしか出来ない。

アダムより産まれ、アダムに還ることを本能的に望んでいる。

貴女も解っているでしょう?)

 

わっかんねーよコンチクショウ! 電波ポエムか!! 

大体ね! こーんなウニョウニョした不思議空間にあたしを引きずりこんどいて

いまさら『我は四天王の中では最弱……』みたいなムーブやられても困るわ!」

 

(けむ)に巻くような使徒の言葉を()ね付け、レイは吼えた。

 

エヴァというメイン戦力による正攻法が効かない相手。

自称弱かろうが、(から)め手で攻めてくるタイプの使徒は厄介極まりない。

そもそもこの異空間で繰り広げられている()()()()()()は、レイの心と使徒の心のぶつかり合いを形にしたものに過ぎないのだ。

レイの肉体は、未だ初号機のプラグの中にあるのだから。

 

今、彼女達がいる空間と、外との情報は完全に遮断されている。

現実世界はどうなっているのか……NERVは。そして、愛しい少年は……。

 

("イカリクン"の事を案じているの?

心配しなくても、やがて全てが一つになるわ。

世界は虚無に還るのよ。私の手で)

 

「ちょっ!? コラッ、人の心を勝手に見るなっ!

あとサードインパクトとかいう()()()()()()()だけは勘弁な!」

 

直接接触している手から、()()()()()()()()

レイは、反射的に使徒を()()する。

 

光量を増したA.T.フィールドに使徒は弾き飛ばされ、侵食の穴は見る間に塞がる。

鏡合わせの少女使徒は、相変わらずの無表情のまま、クルリと後方宙返りして体勢を立て直した。

 

(そう、見られたくないのね。心を、貴女自身を)

 

「おーよ! 見せていい相手は選ぶよ!

あたしと同じカッコしてたって、キミはあたしじゃないんだ。

()()は犯罪だぞ、えっち、ばか、変態! 

アスカっちに罵られちゃえ!……あ、これご褒美だったわ」

 

(軽口で()()()()()()()()()()()のは解るわ、綾波レイ。

でももう準備は整った。貴女の心の壁(フィールド)では、アダムを守り切ることは出来ない)

 

果てなく広がっていたかに見えた白黒マーブルの空間は、球形に。

使徒と、レイと、アダムを囲う。

 

球の容積は徐々に小さく……空間を支える『内向きのA.T.フィールド』が、狭まっていく……。

 

「なっ……!? 場所そのものを操るとか、ズルっ子にも程があんでしょーっ!?」

(終わりよ。そして、始まるの)

 

レイの非難に対し、少女使徒は淡々と返すだけだった。



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73、レリエルさん、夜の街にIN・そのさん

――――NERV本部・第6ケージ――――

 

午前一時半(マルヒトサンマル)、現場の作業員が異変を報告した。

『零号機の眼が断続的に発光している』とのことである。

 

エネルギー反応は微弱。

無人のエヴァが活動している以上、これも『暴走』には違いないだろうが、拘束具を引きちぎるような無茶をする様子はなく……

だが、真っ赤な単眼は、瞬間的なフラッシュと、一定の長さの点灯を繰り返していた。

 

 

I am waiting for 3rd Children(サードチルドレンを待っている)

 

 

それが、MAGIが解析した()()()()()()の内容だった。

 

 

――――本部・発令所――――

 

 

「外部、あるいは使徒からの干渉の可能性は?

もし加持が悪質なイタズラでも仕込んでるなら、アイツの眉間に風穴を開けてやるわ」

 

ケージから送られてきた映像を確認。

指でL字を作って銃を模したミサトに対し、リツコは首を振った。

 

「リョウちゃんの動きが読めないのは今に始まった事ではないけれど……考えにくいわね。

それにいくら彼でも、情報科学のエキスパートである青葉くんの裏をやすやすと掻けるとは思えない。

あの影の使徒が、前回のナノマシン型使徒のようなハッキング能力を持っていない事も判明済みよ。

間違いなくメッセージ発信源は零号機。しかし鵜呑みにするのは危険だわ」

「かといって、技術部発案のプランAだって、犠牲が大きすぎるでしょうが」

 

エントリープラグ未挿入のエヴァから()()()()が来るなど前代未聞であり、正体不明の何者かの罠を疑うのは当然である。

しかし元の策(プランA)は、といえば、これもまた現実的ではなかった。

 

MAGIの試算によると、影の使徒が作った虚数空間を破壊するには、現存するNN(エヌツー)爆弾993個ぶんの爆発に匹敵するエネルギーが必要というデータが打ち出されたのだ。

それも、零号機と弐号機がA.T.フィールドで1/1000秒だけ干渉し、威力と範囲を収束させる必要がある、というおまけ付きである。

 

空間に閉じ込められた初号機とレイは言わずもがな、残る二機のエヴァも無事では済まないし、爆心地となった第3新東京市も焦土と化すだろう。

こんな馬鹿げた案を実行させる訳にはいかない……再び思案を巡らせ、ミサトは口を開いた。

 

 

「シンジくんは先の互換実験で、暴走が起こるまでは初号機以上のシンクロを叩き出していた……

今回、零号機が彼を名指しで呼んだことには、必ず意味があるわ。

彼が零号機を……A.T.フィールドを()()()()の形で具現化する『あの能力』を使いこなせたとしたら?」

「そうね、ディラックの海の特性を考えれば、NN兵器による物理的手段よりは有効なアプローチになりえる。

……けれど、あれは第四使徒から取り込んだ力よ。この状況で、更に使徒の因子が関わるのは危険だわ。

第一、シンジくんを零号機に乗せるというのはどういう事か……貴女も解っているはずよ、葛城三佐」

「この期に及んで、安全策なんてありゃしないわよ。

火中の栗を拾わなければ餓え死にするレベルまで来てるんだから、私達は」

 

 

第五使徒(ラミエル)にとどめを刺し、第十使徒(サハクィエル)のフィールドを切り裂いた光は、元はA.T.フィールドに似たエネルギー……

内向きのA.T.フィールドで支えられたディラックの海にも干渉できるかもしれない。

だが、第十二使徒と第一使徒(アダム)が既に接触している現状である。

これを刺激にサードインパクトを誘発しかねない事……

そして、以前起こった相互互換テストにおけるエヴァ零号機の暴走を鑑みて、リツコは難色を示した。

 

 

「赤木博士、構わん。サードチルドレン……シンジを、零号機で出撃させろ」

「碇司令、よろしいのですか?」

「我々が手を(こまね)いている間にも、カウントダウンは進んでいるのだ。

サードインパクトを座して待つよりは、使える手札を切るべきだろう。

……葛城三佐、頼む」

「はい」

 

司令席から二人へと降る、最高司令官の声。

ミサトは敬礼と共に短く答えてシンジ達へ連絡を取り、リツコも少々躊躇ったものの結局は頷いて部下達への指示に走り出す。

にわかに動き出す発令所の中、冬月だけがゲンドウの傍らで佇んでいた。

 

 

「お前が彼女との再会を一番望んでいたのは、私もよく知っている。

待ち焦がれた姿だろうが……『あれ』はユイくん自身ではない」

「解っています、冬月先生。

しかしアダムがあの姿を取った以上、初号機となんらかの干渉を行ったのでしょう。

そこにユイの意思を感じずには、いられないのです」

「希望的観測だな。だが、そう信じたくなるのは解る。

ユイくんの遺した福音(エヴァンゲリオン)か……」

 

 

サングラスの脇から覗くゲンドウの眼を見て、変わったな、と冬月は思う。

 

セカンドインパクト前、初対面時のゲンドウは、チンピラ同然の嫌な眼をした男だった。

愛する妻、ユイを失ってからのゲンドウの眼は、狂気と危うさを秘めていた。

 

いまだ威圧的な三白眼で、決して良いとは言えない目つきではあったが……

憑きものが落ちたかの如き、静かな光をたたえた眼は、長い付き合いの冬月ですら初めて見るものだった。

 

 

――――虚数空間・『ディラックの海』内部――――

 

 

「あ、あれ?」

 

レイは一人、非常灯に照らされた薄暗い初号機エントリープラグ内にいる事に気づいた。

己を囲む球形の空間が、急激に狭まっていったところまでは覚えている。

潰される、と思った瞬間に意識が途切れて、()()()()()()()()()のだ。

 

状況を確認する。

座席の後ろに表示された運転モードは『ドライブB』。

稼働電力を極力抑え、パイロットの生命維持を重視する状態だ。

 

周囲のモニターは真っ白で、レーダーにもソナーにも反応がない。

今いる空間が広すぎるのだろう。

初号機を取り込んだアダムすらもいなかった。

 

おまけに外は宇宙空間と同じ真空状態。空気も熱もない。

スペースシャトル以上の装甲を持つエヴァと、人工羊水(LCL)に満たされた揺り篭(エントリープラグ)の保護があって、辛うじて生き延びられている。

 

「やっべぇ、ほぼ詰みじゃんコレ。あーのお目目グルグルちゃんめ。

お邪魔虫のあたしを追い出して、アダムさんと百合塔(キマシタワー)でも建設しようってのか」

 

先程まで精神世界でドツキ合いを交わしていた自分と同じ姿の少女使徒に、レイは毒づいた。

背部の非常用バッテリーはまだあるが外部との接触が断たれている以上、闇雲に動けば内部電源を加味しても10分もせずにエネルギー切れを起こす。

生命維持モードのままなら、あと半日は持つだろうが……その後は。

 

 

「生命維持。逆に言えば、なかなか死ねないって事だよね。

タイムアップになったら、血の匂いに澱んだ冷たい水の中で、ジワジワ死んでくのか……

ヤだな、最期まで苦しんだ酷い顔なんて、碇くんに見せたくないよ」

 

 

泣き叫んだりはせず、冷静なまま。

レイは生存が絶望的な現状を理解してしまう。

 

痛いのも苦しいのも嫌だ、という思いはある。

だが『自分の死そのもの』よりも、『自分の死に様』の方を心配するあたり、どこか恐怖が希薄だった。

自分が『創られた命』だからか。『死んでも代わりがいるから』か。

 

しかしまったく恐怖を感じない……というわけではない。

世界がサードインパクトで滅びるよりも、シンジの温もりを失う方が怖かった。

 

 

「アスカっちは『そんなの、ただの依存!』って怒ってたよね……ハハ、否定できないや。

いつからだっけ……碇くんが、あたしの心の拠り所になったのって」

 

 

第五使徒戦で加粒子砲からレイを庇ったシンジが死にかけて、大泣きして縋りついた時か。

IDカードを届けにきた彼と、戯れに身体を重ねた時か。

第三使徒(サキエル)を相手に、初号機に二人で乗り込んだ時か。

 

いや、もっと、ずっと前。

()()()()からだった気がする。

何故かは解らない。けれど、今は。

 

 

「碇くんに……甘えたいな……」

 

 

身体を体育座りのように丸め、目を閉じたレイは、そんな弱音を漏らした。

 

 

――――第3新東京市・地上――――

 

 

シンジが乗り込んだ零号機は、懸念されていた暴走をすることなく起動に成功。

今は使徒の作る影の範囲外、防壁ビルの屋上を足場に待機していた。

彼にとっては、零号機が使っていた未知の能力を解放する、初めてのミッションだ。

 

オペレーター達へは音声通信がしばし途絶えることを事前に伝え、深く深く、シンクロを行う。

 

 

(本当に来てくれたのね、イカリクン)

(君が呼んだんだろ)

 

 

脳裏に響く幼い声、零号機のコアに宿った『一人目の綾波レイ』に、シンジは淡と思考を返す。

 

 

(思ったよりも冷静なのね。吹っ切れたのかしら?)

(吹っ切れた? ……解らない。でも、少しずつ自分の心が見えてきた気がする。

僕が綾波さんに依存してるのも、でも同時に、大事だと思ってるのも事実だ。

それは僕だけじゃないって、アスカにも喝を入れられた。

上手くやれる自信なんてない。その覚悟もない。

けれど……綾波さんは、絶対に助けたい)

 

 

背部のサブカメラ……後方の防壁ビル屋上には弐号機が立っていた。

普段リーダーシップを取りたがるアスカが、今回は完全にバックアップに回っている。

力押しが効かない使徒だと解っているからか、それともレイとの関係を想って、あえてシンジに主導権を譲ったのか。

姿なき『一人目』の雰囲気に、驚きが混じった。

 

 

(そう……あの弐号機パイロットが……なら教えてあげる。

A.T.フィールドは、心の壁……そして、心の力なの。

もう一人の綾波レイ(わたし)を、『綾波さん』を助けたいと思うなら、ただ強く想えばいい。

あなたの望みを)

(僕の、望み……)

 

 

零号機は右手を大きく開き、左手で手首を握る。

背部のアンビリカル・ケーブルから供給される電力とはまったく異質のエネルギーが、掌に収束していく。

上空にあるゼブラの球体も、それを掲げる白い女巨人も眼中には入れない。

狙いは斜め下……『影』の中心。

 

「綾波さんを……」

 

紺色の空が白く塗り替えられていく。

いつしか、日の出の時刻が訪れていた。

 

「返せぇぇぇ!!」

 

少年は咆哮する。零号機の掌から放たれたまばゆい紅光が、全てを飲み込む闇に突き刺さった。




レリエルさんは前中後編に収まらなかったのでナンバリングに切り替え。

本作ではサキエルさん襲来時、初号機がシンジくんをかばうシーンがなかったため、プラグ未挿入のエヴァが動くのはこれが初めてです。
現存するNN爆弾が原作より一つ多いのは、第七使徒戦で足止めにNN爆弾を使わなかったことに由来します。


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74、レリエルさん、夜(明け)の街にIN・そのよん

(ついに、叶う)

 

球形に閉ざされた世界で、少女使徒は呟いた。

母たる存在……第一使徒アダムへと還ること。

己の意思を主導とした衝撃(インパクト)を起こし、新たな世界を創造すること。

それが彼女達、使徒の目的だ。

 

仮に第五使徒(ラミエル)が目的を果たしていたら、蒼水晶のごとき無機質な世界が生まれていたかもしれない。

 

あるいは第八使徒(サンダルフォン)が目的を果たしていたら、マグマの煮えたぎる原初の地球が再現されていたかもしれない。

 

そして第十二使徒が目的を果たせば……世界は虚無の闇に還るだろう。

 

サードインパクトとは、大いなる生贄の儀式。

全ての古き生命との生存競争を勝ち抜く手段なのだ。

 

(『防壁』になっていた綾波レイは排除した。

あとは、アダムと接触するだけ……? いいえ、これは)

 

しかし『彼女』を前にして、使徒は戸惑った。

目の前にいる、碇ユイの姿をとった白い女性……()()()()()()()()()()()()()()()

綾波レイの姿を借りた己とよく似ていたが、()()()が決定的に違っていた。

 

(違う。これは……第二使徒(リリス)!?

今までの使徒は、私も含めて誤認させられていた……?

そういうことなのね、人間(リリン)

 

 

リリス。

伝承から秘されし者。最初の男(アダム)の最初の妻。

イヴ=エヴァよりも古き女。邪悪なる雌蛇。夜魔の女王。

 

 

その名を冠する第二の使徒は、第一使徒アダムを起源としない、独立した使徒だ。

強大なエネルギーを内包しているのは確かだが、それを解き放つための()()が違うため、このままではサードインパクトを起こせない。

 

(ならば、鍵穴を強引にこじ開けてしまえばいい。

使徒(わたし)の能力で、リリスを侵食すれば……

なに? ……何かが来る。『私の世界』に(ほころ)びが生じている。

()()()()()が、近づいてきている……)

 

『外の世界』から放たれた光線が、『この世界』の外壁をしたたかに打った。

モノクロの閉鎖空間に七色の波紋が広がる。

A.T.フィールド同士が干渉しあっている証拠だ。

 

『返せ……綾波さんを……返せぇっ!!』

(A.T.フィールドを通して、心の声が伝わってくる……

これは……碇シンジ! そう、第四使徒(シャムシエル)の力を解放したのね。

けれど、邪魔はさせない)

 

少女使徒は、渦巻く白黒の目を細めた。

 

 

******

 

 

零号機の光線が撃ち込まれて間もなく、第3新東京市に広がった漆黒円に波紋が生まれる。

物理攻撃無効の『影』への干渉が初めて成功したのを見て、ミサトは口端を持ち上げて笑んだ。

 

『手ごたえ有り、か。

シンジくん、虚数空間のエネルギーシフトを送るわ。

()()になっている所が、フィールドが綻んでいると思われる場所よ。

そこを優先的に狙って!』

「了解!」

 

シンジの目の前には、波打つ水槽のように立体化されたグラフが映し出されていた。

発令所からのデータを元に『当たり』の反応がある場所を探して、零号機の手を向ける。

しかし現世と虚数空間の境界が波打ち始めた時、地面にあった影は、嘘のように消えた。

 

「っ、なんだ!?」

 

道路の舗装を焼く手応えに、シンジは慌てて光線の照射を止める。

上空を見上げるとゼブラの球体が、すぅっ、と音もなく横へ動き……、

たたずんでいた女巨人(アダム)、もとい第二使徒(リリス)の胸に吸い込まれていった。

 

「なによアレッ!? あの球体は、実体のない偽物(フェイク)だったはずでしょ!?」

『パターン青が移動したのを確認した!

本体(かげ)の危険を察知して、コアを球体(あっち)に移したんだ!』

 

アスカの悲鳴じみた疑問に、青葉が分析結果を伝える。

 

女巨人は、己の両肩を抱き、朝焼けの空を仰いだ。

白磁の肌は、黒がかった灰色に染まり……背には、闇色をした12枚の羽根が伸びる。

禍々しくも美しい姿は、堕天使か。黒き聖母か。

 

巨人の頭上には、赤系極彩色に縁どられた黒い渦が現出する。

『極薄で巨大な円形』という意味では、ディラックの海がそのまま上空に移った様。

だが、その周囲の空気を通して見える雲は、明らかに歪んで見えていた。

 

(ガフ)の扉が開いたか……」

「……」

 

冬月が小さく呟き、ゲンドウはその隣で黙していた。

 

 

 

 

『巨人のパターン、赤から青へ! 使徒に乗っ取られた模様!』

『正体不明の渦から、持続的な空振を感知しました!

信じられない……光と熱が、上空の渦に奪われています!』

『虚数空間の時点で、あの使徒は現代科学に真っ向から喧嘩売ってるのよ。

いちいち驚いてたらキリがないわ。

シンジくん、作戦中止! 一度撤退して!』

「でも、まだ綾波さんが……うわっ!?」

 

日向とマヤの報告を受けて、ミサトは指示を飛ばし……反論しようとしたシンジの声が途切れる。

エヴァ零号機は、その重量もろとも防壁ビルの屋上から()()()()()()

 

(渦に吸い込まれる!? 撤退しようにも、制御が効かない。それに……寒い!

熱を直接持っていかれてるみたいだ。LCLの防壁能力を越えてるのか!?)

 

シンジは奥歯をカチカチ鳴らしながら、渦を睨んでいた。

ブラックホールのように無差別ではなく、エヴァだけを狙ったような吸引。

背中のアンビリカルケーブルが唯一の命綱となり、ピンと張る。

 

「シンジッ!?」

 

アスカは操縦桿(インダクションレバー)を強く押し込んだ。

エヴァ弐号機は地に降り立ち、道路を抉りながら救助に向かう。

 

「アスカ、ダメだ! 君まで巻き添えになる!」

「バカッ! ヤケクソになって『俺に構うな』なんて、B級映画だけで充分よ!」

 

乱暴に言葉を投げてから、アスカはただ、全力で走った。

弐号機の速度とパワー……そしてあの渦の吸引力も加味して、ジャンプの角度を頭の中で計算……背部スラスターを全開。

たった一度のチャンスを逃すことなく、零号機と空中で肩を組むように接触した。

 

「日向さん、ケーブルリバース! 二機ぶん、最高速でね!」

『了解! 舌を噛むなよ!』

 

()()()が始まった。

大質量の人型兵器を動かす電源ケーブルともなれば重量は相当なもので、それを巻き取るのに必要な力は充分な武器に成り得るし、体勢を立て直して渦に向き合うことが出来る。

 

しかし渦の引力圏から離脱するには至らず、拮抗状態。

いや、ケーブルの強度を考えれば、引きちぎられるまでの僅かな猶予が得られただけ、と言ったところだろうか。

 

「ごめんアスカ……僕のせいで……」

「内罰的思考なんて捨てなさい。

考えるのはアイツを……バカナミを奪い返すことだけよ!」

「!!」

 

アスカの言葉は、ストレートにシンジの心に叩きつけられる。

同時にそれは、アスカが自分自身に言い聞かせるための言葉でもあった。

 

自分が傷つくのが怖い。

他人が傷つくのを見るのが怖い。

だが、大事なものを失うことは、もっと怖い。

 

恐怖にかられて何度も忘れかけ、勇気を振り絞って何度も思い出す。

逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

不器用で、無様で、利己的で……それでも、真剣な想い。

 

「綾波さんを、助けたい」

「そうよ。あの寝坊助を、アタシ達が叩き起こしてやらなきゃ」

 

その想いが、A.T.フィールドの形を変えた。

普段の戦いで展開する虹色の光壁ではない。先程撃ったあの光線でもない。

白く白く……エヴァ両機を中心に、光が広がっていく。

 

『二人の精神波長が……A.T.フィールドが共鳴しているの!?』

 

リツコは驚きと共に、光が上空へと到達する光景を見ていた。

 

 

非現実的な闇の渦は、白く染め上げられていき……

べりべりべりべり。

大判のポスターを体当たりでブチ破るような、妙に現実的な音と共に貫通された。

 

「チェスト・サードインパクトぉぉぉ!!」

「「「「「「!!??」」」」」」

 

レイの大声は全回線を通じて発せられ、発令所の面々もパイロット達も一様に言葉を失い……

閉鎖空間より飛び出したエヴァンゲリオン初号機は、落下エネルギーにスラスター推力を乗せて、第十二使徒と融合した女巨人(リリス)の胸に、真紅の二又槍(ロンギヌス)を突き立てた。

 

 

******

 

 

「やぁ、第十二使徒(おめめグルグル)ちゃん」

 

白一色の世界で、同じ姿の少女二人は再び相対していた。

第二使徒(リリス)に刺したロンギヌスの槍を通して、第十一使徒(イロウル)のハッキング能力で侵食。

レイは、リリスと融合した少女使徒へと精神接触したのだ。

 

(綾波レイ……私は、負けたのね。精神に干渉してきたのは、意趣返しかしら)

「ちょっとは、それもある。

けど、どっちかってーと、あたしがキミと話したかったから、ってのが本音かな。

なんでサードインパクトを起こしたかったのか、とかさ」

 

十秒ほど、沈黙。

 

(私は消えたいの。欲しいものは絶望。虚無こそが、私の安息だから)

「違うね。そりゃ()()()()綾波レイ(あたし)の記憶だ。それも()()()の。

使徒の記憶は連続してる。だから、どっかでゴッチャになってるでしょ」

(!!)

 

指摘を受け、少女使徒の眼……白黒の回転が早まった。

超越的存在である使徒が動揺しているのを見て、レイはニヤリと笑う。

 

「グルグルちゃん言ってたよね? 『この周回』では全てが狂っている、って。

ロンギヌスの槍をハッキングして解った……いや、思い出したっていうべきかな。

『この世界』は、何度も繰り返されてる。

今回は、たまたま零号機起動実験の暴走事故で()()()()()()()()()()()()……

『有り得たかもしれない綾波レイの可能性』が目覚めてしまった。そうでしょ?」

 

例の事故以前のレイは、NERVでも学校でも()()との接点がほぼなく、自我は希薄。

元々綾波レイという人間に、一般常識や、ましてサブカルチャー等の知識は皆無だった。

 

頭を打って、性格が変わるだけならまだしも、()()()()()()が増えることはありえない。

にも関わらず、普通の女子達の会話や、相田ケンスケのオタク話についていける時点で、全てがおかしかったのだ。

 

()()()()で起こったサードインパクトで、全生命が溶けたLCLの海から雑多な知識を吸収したレイの魂が、事故を起点に()()()()のレイの魂と混ざってしまった。

この街に来て間もないシンジに惹かれていたのも、各周回で積み重ねてきた『不器用な自分』の想いが、無意識のうちに発露していたためだ。

 

(そう、私は……貴女の欠片を追っているにすぎなかったのね。

これで、私の存在理由(レゾンデートル)はなくなってしまった。

さぁ、私を消して。人間(リリン)使徒(わたしたち)……

滅びを免れ、未来を与えられる生命体は、いずれか片方しか選ばれないのだから)

 

「んもー、グルグルちゃんってば隙あらば電波ポエムを語りだすー!

(ガフ)の扉さえ閉じればインパクトは防げるんだから、命で払われたって困るわ。

あたしゃ使徒スレイヤー=サンじゃないし、キミを消滅させたいほど憎いとか、そういう感情は別にないんだよね」

 

(なぜ? 貴女と私は敵同士だった。全てを滅ぼそうとしたのに)

 

「そう、それだよそれそれ。

サードインパクトを起こして、全部虚無の中に沈んじゃったらさ。

確かにそれ以上争いは起きないけど、さみしーじゃん? そういうの」

 

だから、こっちにおいで、と。レイは少女使徒の手を取った。

 

(暖かいわ。貴女の(こころ)が)

 

「虚無の中は、ずっと寒かったでしょ? いいよ、(ぬく)まっていきなよ」

 

第十二使徒は、レイの心に寄り添い……白一色の精神世界は、一つになっていく……。

 

 

******

 

 

ダークグレーの堕天使めいた女巨人は、紅く明るい光を発して槍に吸い込まれるように消えていき……

影に飲まれる前そのままの街並に、エヴァ初号機だけが立っていた。

 

『第十二使徒、および巨人のパターン青消失を確認。パイロットは、全員無事です!』

「綾波レイ、戻って参りました! 第3新東京市よ! あたしは帰ってきた!

 

日向の宣言と、それに続くレイの言葉……一歩間違えば、NN(エヌツー)バズーカでもブッ放しそうな……に、発令所が歓声で溢れた。

 

「まったく、こっちは散々苦労したってのに、呑気なもんね」

「ハハ、安心して、力が抜けちゃったよ……」

 

……渦の引力が急に消えたせいで、ケーブルに引っ張られていた零号機と弐号機は、地面にへたり込んだまま引きずられていた、というオマケつきではあったが。

それでも、モニターパネル越しに顔を合わせれば、笑みがこぼれる。

 

「……碇くんとアスカっちの声、聞こえたよ。

二人ともありがとう……ただいま」

「「おかえり」」

 

再会を祝すように、第3新東京市には、セカンドインパクトから降る事がなかった雪が舞っていた。




本来ならTV版第十四使徒ゼルエル・新劇第十使徒戦相当までを「は」の章とするべきかもしれませんが、レリエル戦が思いの他やべー事になったため、ここで章を区切らせて頂きます。

原作ではバルディエルさん以降トラウマ級の使徒が続きますが、こちらではリナレイさんがアップデートされてたり、世界自体が色々改変されてるのでどうなるか解りません。
人類補完計画はシナリオめちゃくちゃでSEELEのおじいちゃん達は涙目だし、ゲンちゃんや冬月のじっちゃんは色々言い訳に奔走する羽目になるかもしれないけど、まぁちかたないね。

エタらなければ次回から「きぅ」の章予定。
更新予定は未定。


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2019エイプリルフール
??話「世界の中心で碇くんへのアイを叫ぶリナレイさん」


前回までのあらすじ

第十三~第十六使徒は、みんな一緒くたにロンギヌスの槍で貫かれた後
凄く雑な感じでお空の彼方に飛んでった

-----------------------------------------------------
※エイプリルフール(2019/4/1)投稿です。
ストーリーは可能性の一つであり、確定ではありません。


「♪~~」

 

一人の少年が、上機嫌な鼻歌と共に海岸を歩む。

曲はベートーヴェン作曲、交響曲第9番第4楽章『喜びの歌』。

整った横顔は、火星(マルス)の如き夕焼けに染まっていた。

 

涼やかな風に銀髪を弄ばれながらメロディーを紡ぐ姿は幻想的だ。

白シャツに黒の学生ズボンというありきたりな格好ですら、彼の際立った容姿を引き立てている。

 

 

ざ、ざ。砂を踏む足音はもう一人ぶん。

背中越しに感じる新たな気配に、少年は歌と足を止めた。

 

 

「歌は良いねぇ。歌は心を潤してくれる……人間(リリン)の生み出した文化の極みだよ。

そう感じないかい? 綾波レイさ「どっせいおりゃあああ!!」うぉぉっ!?」

 

背後からの気合と殺気に、振り返りざまの少年は目を見開いた。

咄嗟に身を反らし、乱入者……綾波レイの飛び蹴りを、頬を掠める形で回避。

 

「ちぃっ、外したっ!? やるじゃーないの!」

 

ずざざざ、とレイの足が砂浜に()()()()()の跡を残した。

第壱中学校指定の女子制服、エメラルドグリーンのスカートがフワリと翻る。

 

腰を落とした半身の姿勢で左腕を弓引き、右掌底を眼前に……

歌舞伎の見得にも似た、攻撃的な構えを取るレイ。

少年は肩を竦めた。

 

「スカート姿のまま、ずいぶんと大胆なご挨拶だね。

()以外の男……特にボクに見せてもいいのかい?」

初心(うぶ)未通娘(おぼこ)じゃあるめーし、見えた所で別に減りゃあせんわ。 

それともアレか? 『きゃーっ、このパンツ覗き魔~!』とか言うとでも思ったか!? 

どこの世界線のあたしだよ!?」

「それも()()()()()()()()()()だっただろう? 否定することはないさ」

 

左手をズボンのポケットに突っ込み、右手で前髪を掻き上げる気障な仕草を自然にやってのけた少年に、レイは不機嫌に鼻を鳴らした。

 

「スカしたヤツめ。()()()()()()か、渚カヲル」

「これは驚いたな、綾波レイ。『今回』キミと接するのは初めてのはずだけれど……

あぁ、赤い海(LCL)の中で全てを知ったのか」

 

 

言うほど驚いていない様子で少年……渚カヲルは微笑んだ。

その正体は第十七使徒タブリス。最後のシ者。

その役割は(おおむ)ね、どの周回でも同じだ。

 

傷ついたシンジのもとに現れ、性別を越えて彼を魅了し、拠り所となる。

そして彼の目の前で、あるいは彼の手で死に、心の傷をさらに抉る。

 

だが今回に関しては、レイも、クラスメート達も、NERVの面々も、今のところは全て無事。

第3新東京市も激戦で消耗してこそいるが、未だ要塞都市としての機能を保っている。

ゆえに、シンジの心は壊れていない。何より、彼の隣にはレイがいる。

 

 

それでも、渚カヲルはこの街に現れた。彼がもたらすのは福音か。あるいは終焉か。

口元のみを持ち上げるアルカイック・スマイルからは、その真意は読み取れない。

 

 

「ボクを、実力行使で止めに来たのかな?」

「実力ぅ? バカ言っちゃいけない。

保安部(クロフク)をようやっと撒いたってのに、A.T.フィールドを出してガッキョンガッキョンぶつかり合おうモンなら、我らがスーパーコンピューターMAGI様にバレバレだわ。

個人的なエゴで、あんたを張り倒しに来ただけだよ。

()()()()()()()は、絶対譲らないからなぁ!?」

 

 

レイは飛びかかる。

初手での上段回し蹴り。スカートの中身は相変わらず考慮しない。

しなやかに伸びたレイの蹴り足を、カヲルは片腕でガードしながら後方に飛んで衝撃を逃がした。

 

カヲルは上体を屈め、水面蹴りを放つ。

レイに取っては軸足を狙われた形だが、彼女はその一本足で跳躍回避した。

 

 

レイもカヲルも、そのスペックは並の人間とは一線を画している。

片や第二使徒(リリス)の魂を宿し、第十一使徒(イロウル)第十二使徒(レリエル)を取り込んだ少女。

片や最初の使徒(アダム)に最も近い、光や粒子すらも遮断する『結界』とまで言われるA.T.フィールドを持つ最後の使徒。

 

力を使おうものなら、この辺り一帯が誇張でなく消えるだろうが……

そんな人外の二人は、夕暮れの海岸で前世紀の不良漫画よろしく素手喧嘩(ステゴロ)に興じていた。

 

 

「ボクの想いは変わらない。シンジくんを幸せにしてみせる。それだけさ」

「本当に碇くんの幸せを考えてるんなら、毎回のごとく()()()()()()()()()()()トラウマ刻むな。

黒ヒゲ危機一髪かっつーの」

「各周回でのボクの死は、ただの結果だ。それは申し訳なく思ってるよ」

「どーだか!」

 

レイが顔面狙いの右ストレートを放つ。

だが、カヲルの掌がゆらりと流れてレイの手に伸びた時、彼女は慌てて攻撃を中断し、距離を取った。

 

相手に外傷を与えずに無力化する事に()けた、合気道の関節技。

獰猛な獣のように攻めかかるレイに対し、カヲルの反撃は静かで優雅だった。

 

 

「手首を取らせてはくれなかったか。勘が鋭いな」

「戦い方まで碇くんに似せやがって。嫌味か! それとも手加減(なめプ)か!」

「キミを舐めている訳じゃない。彼へのリスペクトさ。

それに、ボクの性的趣向とフェミニズムは相反することはないよ。

同性愛(ホモ)異性愛(ヘテロ)は等価値なんだ。

ボクにとってはね」

「自分の名台詞を自分で台無しにすんなっての。さぁて、どう攻めるか……」

「もうやめてよ、綾波さん、カヲルくん!」

 

 

シンジの静止の声が割り込んだ。走ってきたのか、息が荒い。

毒気を抜かれたレイは一息ついて苦笑した。カヲルもまた構えを解く。

()()()()()()()()()である。当人が出てくれば、矛を収めるしかなかった。

 

 

「んもー碇くんってばー……

このタイミングで『私のために争わないで』とか、完全にヒロインムーブですやんか」

「ハハ、シンジくんらしいよ。今回は時間切れだね。この場は引くとしよう」

 

シンジがここに辿り着いたという事は保安部も周囲に再展開、待機しているだろう。

一度撒かれたとはいえ、NERVの黒服達は優秀だ。

 

「カヲルくん」

「なんだい、シンジくん」

 

立ち去ろうとした背が振り返る。あの穏やかな笑みを浮かべて。

 

 

「僕は全て思い出したよ。

カヲルくんには、感謝してる。

けれど今回は、綾波さんと生きることに決めたんだ。

だから……ごめん」

「いいさ。シンジくんが決めたことなら。

戦いが終わって、キミと彼女が結婚という形で結ばれても、それはゴールじゃなく、旅の始まりにすぎないんだよ。

もし旅に疲れ果てたら、ボクはいつでもキミを受け入れよう」

「ふん、残念だったな。

シンちゃんとの間に子供が生まれたら、碇司令のことを『ゲンじぃじ』って呼ばせる約束をしてるんだ。

あたしが、綾波レイが、容易い相手じゃない事を教えてやる!」

「あの強面の御父上が『じぃじ』とはね。フフッ、確かにキミ達は手強い相手だ。

じゃあ、次は戦場で会おう。結末がどうなるかは解らないけれどね」

 

そう。彼らの戦いは、これからだ。




完(クソデカ赤文字)

長らく放置してすみませんでした。
原作からネタを色々前借りしすぎたこともあり、展開がだんだん難しくなってきて筆が進みませんでした。

エイプリルフールということで『ありえるかもしれないエンディングのひとつ』です。
エヴァンゲリオンなのにエヴァが出てきやしねぇ。

第十三使徒以降の物語は流石に改めて書く予定です。
さすがにソードマスターヤマト並に団子刺しは、あんまりっちゃあんまりだでな……

更新予定未定、不定期投稿ですが、今後ともよろしくお願いいたします。


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本編第三部 「きぅ」の章
75、混沌(かおす)


生きてた( ̄_ ̄)

読者の皆様にはお手数お掛けしますが、「感想投稿のガイドライン」を今一度ご確認頂けるようお願い致します。
https://syosetu.org/?mode=faq_view&fid=114


「どおりゃあああっ!!」

「うおぁぁぁぁぁっ!!」

「ちょいやっさああ!!」

 

アスカの裂帛(れっぱく)の気合が、シンジの咆哮が、レイの珍妙な掛け声が。

NERV本部・パイロット用シミュレーションルームに響く。

 

戦闘技術向上のため、技術部が発案したミッションは、使()()()()()()()()()の想定。

『武器収納ビルをフル活用して、使徒の群れを迎撃・殲滅せよ』というものだった。

 

近接武器は短刀(ナイフ)(ホーク)薙刀(グレイブ)

遠距離武器は実弾系狙撃銃(スナイパーライフル)大砲(バズーカ)陽電子銃(ポジトロンライフル)……

武蔵坊弁慶もかくや、とばかりに武器を持ち換え、A.T.フィールドを叩きつけ合い、あるいは中和し合う。

 

エヴァンゲリオン各機と使徒達の戦いはさながら特撮映画の怪獣大決戦。

今までミッションは一度も完遂できておらず、仮想空間に投影された第3新東京市は今回も()()()()()である。

 

「ねぇ、これってっ! アクションゲームのボス・ラッシュ!?」

『そうね。街一つまるまる買えるだけの予算をつぎ込んだ、贅沢なゲーム機*1だけれど』

 

使徒の一体をスマッシュホークで一刀両断し、別の獲物に飛び掛かりながらアスカは皮肉った。

技術責任者の赤木リツコ博士は涼しい表情で(のたま)ったが、ともかくこの贅沢なゲーム……もとい戦闘訓練用シミュレーター。難易度は狂気的(ルナティック)である。

なにしろ今まで遭遇・殲滅してきた使徒達が大挙して襲ってくるのだ。

 

第七使徒(イスラフェル)を分裂させ同時攻撃で殲滅、というパターンは、先制攻撃兼オトリ役一人とトドメ役二人を誰が役割を入れ替えても30秒弱で済ませられるレベルにまで連携を高める事は出来ている。

 

第四使徒(シャムシエル)が低空飛行で迫る中、本来海にいたはずの第六使徒(ガギエル)や溶岩が主戦場の第八使徒(サンダルフォン)が同じような動きでブッ飛んでくるというパターンも、落ち着いて各個撃破すればどうということはない。

 

しかし終盤。第十二使徒(レリエル)によって足場を制限され、ビルの陰から飛び出した第三使徒(サキエル)に不意打ちで自爆攻撃を仕掛けられれば、彼ら彼女らとて消耗するのは必然だった。

 

また実戦ではあっさりと倒され、レイからは()()()()()()()()()などと揶揄されていた第九使徒(マトリエル)は、黒いGのようなキモい動きでカサカサと動き回るわハイジャンプして上空から酸のシャワーを降らせるわと厄介極まりない魔改造を施され、出現(ポップ)次第速攻で倒すのがパイロット達の共通認識になっている。

(ちなみに伊吹二尉(マヤちゃん)はカサカサムーブを見た時、卒倒しかけた)

 

「くっ……武器交換のタイミングがない!」

「まだまだぁ! やったるぞこらー! もう地球10回ぐらい滅んでるけど!

 

シンジが険しい表情で弾の切れたライフルを捨て、すでに武器を失ったレイは蹴りwith A.Tフィールドで暴れまわっている。

その満身創痍の奮闘すら嘲笑うように、使徒の中でも特に()()がトドメを刺しに来た。

 

「……ちょっとぉ、最悪の組み合わせじゃないのコレ!?」

「ちくしょうっ……こんなぁぁっ!?」

「ぎゃぁーっす!?」

 

最後のレイの悲鳴がどうにも締まらないが、まあともかく。

空から降ってくる第十使徒(サハクィエル)を支えている最中、第五使徒(ラミエル)に真横から加粒子砲(ごんぶとビーム)を撃たれればひとたまりもなく、三機ともTHE ENDである。

 

『……三人ともお疲れ様。戦闘タイムは15分32秒。

だいぶ()()ようになってきたわね。

これからも練度を高めていきましょう』

「持つも何もないわ! 何よ最後のアレ! 

難易度以前の問題じゃない! この鬼! 悪魔! リツコ!」

『誰がババアですって!?』

「言ってねぇー!!」

 

アスカとリツコはギャースカギャースカと仲良く喧嘩中。

かつての冷徹美人(クールビューティー)キャラも何処へやら、自分の年齢まで自虐ネタに使う辺り、リッちゃんも丸くなったものである。

センパイ疲れてるのかなぁ、などと苦笑しながら、マヤはパイロット達に音声を繋いだ。

 

『訓練は終了です。お疲れ様でした。三人とも、ゆっくり休んでね』

「よーしみんなーお疲れー! 明日も元気に地球を滅ぼしていこう!

「いや、救うことを考えようよ!」

 

笑顔を咲かせるレイに対し、即座にツッコミを入れるシンジ。

戦闘経験を積むのも一苦労だと、溜め息と共にLCLを吐き出した。

 

******

 

同時刻。

 

NERVのロゴをペイントされた深緑色のヘリコプターが、箱根山上空を飛んでいた。

眼下に広がる巨大クレーターは、第十使徒サハクィエルが大爆発を起こした時に出来た第二芦ノ湖*2……元の芦ノ湖と繋がって水が流れ込み、前方後円墳のような形を成している。

 

エヴァンゲリオンとパイロットの子供達の活躍……

そして戦略自衛隊の援護が無ければ芦ノ湖が更に増えるか、第三新東京市そのものが消し飛んでいた可能性もある。

それを考えればまだ幸いな方かも知れない。

 

「SEELEの幹部連中は、完全に()()()()()だったな。まぁ無理もないか」

「人類補完計画は事実上、白紙に戻ったようなものですからね。

我々も身の振り方を考える時が来たということでしょう」

 

言葉を交わしているのはNERVの2トップ、碇ゲンドウ司令と冬月コウゾウ副司令。

非公式の場では上司と部下ではなく、元学生と恩師として会話をしている。

()()()()()であるゲンドウが、多忙なスケジュールの狭間で()()()()を覚えた事に冬月は緩く笑っていた。

 

NERV本部地下に、第一使徒アダムとして安置されていた白い巨人……

実際は第二使徒リリスであったそれが、早々に表に出てしまった事。

 

影の使徒、第十二使徒レリエルがエヴァンゲリオン初号機もろとも綾波レイを取り込み、リリスと接触した事。

 

さらには虚数空間から脱出した初号機がリリスをロンギヌスの槍でブチ抜き、消滅させてしまった事。

 

SEELEの老人達を激怒させるには充分であり、彼らは真相究明を求めた。

しかし肝心の綾波レイは、使徒に取り込まれ接触していた時間帯の記憶が曖昧になっており、具体的な情報は得られず。

 

ならばエヴァ初号機のボイスレコーダーを提出せよ、という話になったのだが……

「碇くん碇くん碇くんうわぁぁぁぁぁぁん! 碇くんに会いたいよぉ碇くんとイチャコラしたいよぉカリカリモフモフきゅんきゅんきゅい!」(以下省略)

という、ネット上の怪文書をそのまま音読したような叫びしか入っておらず、SEELEの議員を凍り付かせた。

これに関してはキール・ローレンツ議長をはじめ、誰もゲンドウ達に非を問う事も出来ず、微妙な空気のまま議会は閉会となった。

 

「私は今までに、キール議長があそこまで困惑したのを見た事がないよ」

()()()に至っては『さよう』しか言えなくなっていましたからね。貴重な体験でした」

 

憂鬱なだけの吊るし上げ大会よりは良い。

我ながら不謹慎だな、と一人ごち、冬月は改めて顔を引き締めた。

 

「……だが碇、我々も楽観はできまい。()()()()()()()()そうじゃないか。赤木博士の独断か?」

「えぇ、文字通り全ての個体が()()しました。しかし彼女は無関係ですよ。

仮に自壊(アポトーシス)プログラムを作動させれば、ボディの残骸が残るはず。

いくらリツコくんでも、痕跡を一辺も残さずにダミーを処分するなど不可能です」

 

第十二使徒戦直後。

ターミナルドグマのLCL水槽にあったレイのクローン体は、全て姿を消していた。

理由は不明だが、今や()()()()()()()()()()()()()()

事態は、彼らが望むと望まざるに関わらず、確実に動いていた。

 

()()()が関わっている可能性は?」

「低いでしょう。彼は有能でありますが、万能ではない。今は泳がせておきます」

 

ゲンドウは窓の外に視線を移す。

プロペラの音だけが、やかましく響いていた。

*1
セガサターン版新世紀エヴァンゲリオン(無印)より。赤木リツコ談

*2
本作では第七使徒イスラフェル戦でNN爆雷を使っていないため『第三芦ノ湖』は出来ていません



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