VividStrikeScarlet! (tubaki7)
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♯ Extra

お気に入り100件突破記念!


 ―――――年の瀬だから絶対に笑ってはいけないをやろう。

 

 そんな我らが家主のトンデモナイ気まぐれから始まった、絶対に笑ってはいけないナカジマジム24時。現在、午前8:30。高町家前。

 

なのは「それじゃ、メンバーの発表をするね」

アスカ「ちょっと待ってなのはさん、なんで俺までやられる側なんですか。話が違います!」

フェイト「アスカを野放しにしとくと絶対悪さするってはやてがこっち側にしたんだって」

アスカ「解せない」

なのは「えっと、それじゃ気を取り直してメンバーの発表ね。メンバーはこのお話の時系列的にヴィヴィオ、リオちゃん、コロナちゃん、アスカ君、そしてアインハルトちゃんに決定します」

アインハルト「あの、なんですかこの絶対に笑ってはいけないというのは?」

はやて「ええ質問やなアインハルト」

アスカ「出たな諸悪の根源」

 

 ―――デデーン!アスカ、アウトー。

 

アスカ「ヴェ!?ちょ、あ、待って、フーカお前は洒落にならぎゅふん!?」バチーン!

はやて「とまあこんな風にゲームマスターの私に物申したい子がいればどうぞ」

一同「あ、ありません!」

はやて「よろしい。で、さっきの質問やけどな?これは私やなのはちゃんの出身である”地球”で毎年年末に行われるいわば恒例行事みたいなもんなんよ」

リンネ「えっと、それって兄さんが前に言ってたクリスマスと関係があるんですか?」

はやて「はい、ケツバット要員のリンネ正解。正確にはちょう違うけど、まあそんなもんや」

なのは「舞台は現段階ではかなり先に設立されるナカジマジムだよ。みんなにはそこで選手ではなく、スタッフとして24時間過ごしてもらいます」

リオ「まだインターミドルすら始まってないのによくできましたねコレ」

はやて「オトナの事情と、作者の混沌とした欲望からやな」

アスカ「メメタァ」

フェイト「ルールはさっきはやてが言ったこととタイトルの通り。ここから先は、何があっても絶対に笑っちゃダメ。もし笑ったりしたら、さっきのアスカみたいになるから気を付けてね」

はやて「ちなみにケツバット要員は・・・」

フーカ「ワシとリンネ、それからジルコーチ他、アニメヴィヴィストのメンバーじゃ。・・・ところでアニメヴィヴィストってなんじゃ?」

リンネ「フーちゃん。きっとそれは兄さん曰く触れちゃいけないナニカだと思うよ」

フーカ「ふーん・・・まあええか。日頃お兄ぃに溜められた鬱憤を晴らすいい機会じゃ。手加減なんてせん、全力で行くぞ!」

リンネ「うん、その意義だよフーちゃん!私も全力で頑張る!」

アスカ「誰か止めて、一生のお願い」

 

 

 かくして絶対に笑ってはいけないナカジマジム24時が始まった!

 

~ナカジマジム前~

 

アスカ「すげぇ、ホントにナカジマジムって書いてある・・・」

ヴィヴィオ「本編でもまだ名前どころかジムって名前さえなかったのに建物まで・・・」

コロナ「なんて言うか、すごいですね。はやてさんって・・・」

リオ「いよいよだね。ここからどんなことがあっても笑っちゃいけないって、それ苦痛だなぁ」

アスカ「仕方ない、こうなった以上やってやろうじゃねぇか!」

アインハルト「・・・あ、そういえばアスカさん」

アスカ「おう、なんだハルちゃん?」

アインハルト「さっきはやてさんからアスカさんに渡して欲しいとこの写真を預かってきました」

リオ「・・・?写真なのに何も写ってないですね」

アスカ「ああ、これはポラロイドって言ってね。ちょっと絵が浮き出てくるまで時間がかかるんだけど・・・どれ、炎熱魔法でどうにかなるかな」ボッ

ヴィヴィオ「わぁ、指先にだけ火を点けられるなんて器用なんですね!」

アスカ「エッヘン。・・・っと、絵が浮き出てきたな――――」

 

  ザフィーラ人間態のフンドシヌード

 

  デデーン!リオ、アスカ、アウトー

 

アスカ「アンの狸があああああああああ・・・あびば!?」

リオ「え、ちょ、リンネさんは勘弁―――んッ!?」

ヴィヴィオ「あ、危なかった・・・というかリンネさん、もの凄く清々しい顔して帰って行ったね今」

コロナ「アスカ先輩をぶったジルコーチも負けず劣らずのフルスイングだった・・・リオ、大丈夫?」

アインハルト「えっと、なんだか申し訳ありません。私がもっとしっかりしていれば・・・」

リオ「いえ、アインハルトさんが誤ることないデス・・・うう、お尻が痛い・・・」

アスカ「どこが痛いの?」

リオ「え?お尻が・・・」

アスカ「お尻が・・・ぶふっ」

 

 

 デデーン、アスカ、アウトー

 

 

ヴィヴィオ「何やってるんですか先輩・・・」

アインハルト「リオさんを笑わせようとして自爆とは・・・私はこんな人に負けたんですか」

リオ「アインハルトさん落ち込まないでください。ここで意気消沈していたらこの先身がもたないですよ」

コロナ「頑張りましょう!」

アインハルト「リオさん、コロナさん・・・ありがとうございます。そうですね、こんなことで挫けていてはフーカの師匠として情けないですからね」

アスカ「その意義だぜハルちゃん。さて、行こうか!」

 

 

 ~ナカジマジム:ロビー~

 

ユミナ「みんないらっしゃーい。待ってたよ。随分と長い前説を見せられてる気分だったよ」

リオ「主にアスカ先輩のせいですけどね」

アスカ「むぅ・・・と、ところでユミちゃん。俺達は何をすればいいかな」

ユミナ「はい。今日はみんなに選手としてではなく、このジムのスタッフとして一日働いてもらいます。あ、これ顔写真付きの個人証明書だからしっかり身に着けておいてね」

アスカ「・・・ねえユミちゃん」

ユミナ「はい、なんですか?」

アスカ「どうして俺だけVジャンプ付録のオベリスクなの?」

 

 

 デデーン!リオ、コロナ、ヴィヴィオ、アインハルト、アウトー

 

 

アインハルト「・・・なるほど、さしずめ、証明写真ってところでしょうか」

 

 

 デデーン!全員、アウトー

 

 

ヴィヴィオ「いった~い・・・まさかイクスまでいるなんてぇ・・・」

アスカ「意外と容赦なかったなあのスイング・・・というか身内から爆弾落とされるとは」

アインハルト「うぅ、申し訳ありません・・・」

リオ「ま、まあまあ。これから気を付けてればいいんですし」

コロナ「そうですよ。さ、早く行きましょう。もう早くお仕事して忘れたいです・・・」

 

 

 

 

 ~ジム内:事務室~

 

アスカ「机部屋まで完全再現とかあの人ガチだな」

ヴィヴィオ「私知ってる。今思い出したけどコレ地球のなのはママの実家にお泊りした時に観た奴だ」

アスカ「こっからはどんな爆弾放り込まれるかわかんねーからな・・・みんな、注意するんだぞ」

コロナ「はい。・・・あれ?この机の引き出しから何か出てる」

アインハルト「アスカって、先輩の名前が書いてある机ですね。見たところ紙袋のようにも見えますが」

リオ「はやてさん、こういう時にはアスカ先輩に容赦なんて欠片もないですからね・・・きっとトンデモナイトラップか何かですよ」

アスカ「無駄にハードル上げんでくれリオちゃん。これ見てる分には楽しいけどいざ自分がやる側になるとかなり精神的にクルな・・・・っと、やぱり紙袋か」

ヴィヴィオ「先輩の机にあったってことは先輩絡みでしょうか」

リオ「ネタの宝庫だからね。時々私達もわからないネタ使う時もあるし」

コロナ「遊戯王なんて、私つい最近知ったばかりなのにさっき笑っちゃったから結構シンドイかも」

アインハルト「知らない方が幸せだったって言葉をちょっぴり信用してしまいそうです」

アスカ「なんか後輩ズがめっちゃディスってくるんですけど・・・これは、形からしてお面かな?」

ヴィヴィオ「・・・・出してみます?」

コロナ「出すの!?」

リオ「かなり危ない予感しかしないんだけど・・・」

アインハルト「ですがコレが入っていたということはそういうことなのでしょう。先輩、お願いします」

アスカ「暗に逝けって言ってるよねそれ。・・・けど仕方ないか。というかいっそ目をつぶってしまえばいいんだよねこういうの。・・・・ホイ、つけたぞ」

 

 

 デデーン!ヴィヴィオ、アインハルト、リオ、コロナ、アウトー

 

 

はやて「わ、ちょ、待ってなのはちゃん!なんでレイジングハート構えとるん!?いや、あの、OHANASIだけはやめ――――」

 

  アァー!

 

 

アスカ「・・・なるほど、これで俺を釣ろうとしたのか」

ヴィヴィオ「そう言えばなんでなのはママは怒ったんだろ?」

アスカ(お面)「ヴィヴィちゃん、知らない方がキミとお母さんの為だよ」

 

 

 デデーン!ヴィヴィオ、アウトー

 

 

ヴィヴィオ「バカ!先輩のバカああああああ、ひゃん!」バチーン!

アスカ(お面)「ヴィヴィちゃんにバカって言われたよリオちゃん」

リオ「わかりました!わかりましたからそのお面外してください!あと近い!顔近い!」

 

 

 

  次々に繰り出される笑いの罠。果たして彼らは、無事に24時間過ごすことができるのだろうか!次回へ続く!(多分)



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♯Extra~その2!~

お気に入り500突破記念!


「貴方、最低です」

「あふん!・・・・い、いいぞぉハルちゃん。もっとだ、もっとォ・・・ッ!」

 

 前略、お父さん、お母さん。私、変態に絡まれてます。

 

  あ、どうも皆さん初めまして。アインハルト・ストラトスです。のっけからトンデモな出来事に絡まれている私ですが、事の発端は約一時間に遡ります。

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、デュエルしましょう」

「藪からスティックになんだいハルちゃん?」

「時系列ならまだヴィヴィストはおろかインターミドルも終わってすらいないです」

「コミックスならまだ5巻の途中ですよ」

「それにこの作品INNOCENT絡んでこないです」

「メタ発言のオンパレードはそこまでです。ちなみにブレイブデュエルではなく、こっちのデュエルです」

 

 そう言って私は持ってきたボストンバッグの中からカードを広げる。もちろん、ちゃんとプレイマットも敷いてありますよ。カードはきっちりとスリーブに入れて保護してます。ちなみに全て4重です。

 

「わぁ、懐かしいねそれ」

 

 キッチンで洗い物をしていたなのはさんが私の持ってきたカード達を見てテンションを上げる。たしかなのはさん達世代は初期の直撃世代でしたね、年齢的に。

 

「遊戯王、か・・・・ハルちゃん、きみ決闘者と書いてデュエリストだね?」

「ええ、その通りです。ですから路上で決闘を挑んだのも――――」

「デュエリストの血が騒いだと!」

「その通りです!」

「いや、そこの改変はしちゃいけないような・・・」

 

 むう。ヴィヴィオさんのツッコミが冴えています。やはり私はボケ担当とかメインは向いてない気も・・・・。

 

「でも私、カードゲームってトランプか花札しかやったことないです」

「待てコロちゃん、なんでミッド生まれのきみが花札なんて知ってんの」

「大丈夫ですよコロナさん。私もアニメを見てそれでルールを学びました。基礎的なことはこのルールブックに載っています。あ、ちなみに付録で付いてきたクリッターはありませんのであしからず」

「クリッターがエラッターってね。しっかしまさかミッドに遊戯王があるとはね・・・・まはや何でもアリだな」

「先輩、ご存知なんですか?」

「ん?まあ、ね。多分なのはさんよりは知識と経験があると思うよ」

「お、言ったねアスカ君。なら私と勝負しちゃう?」

「いいですよ。その代わり、俺が勝ったらなんでもいう事を聞くっていうのはどうです」

「その条件乗った!私が勝っても同じだからね」

 

 なのはさんの食いつき。流石は戦闘民族とファンに言われる高町家の血を受け継いでいるだけありますね。私もこの闘争心を見習わなければ。

 

「じゃあ、私とコロナは二人の対戦を見て覚えよっか」

「うん。ヴィヴィオは?」

「私は大丈夫。六課にいた頃、先輩とよく見てたから。ちなみに好きなキャラクターはハネクリボーだよ」

 

 ・・・・あ、Level10がカウンター系とも言えなくないですね。大型を大量展開するデッキは要注意です。あれ、スキルドレインあっても止まりませんからねー。

 

「では――――」

「――――せーの!」

「「デュエル開始の宣言をしろ、ヴィヴィオ!」」

「そこからやるんですか!?」

「デュエルかいし~!」

 

 ヴィヴィオさんもノリノリですね。あと、めちゃくちゃかわいいです今の。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

「フッフッフ・・・さあアスカ君、私のこのワンターンツークェーサー&コズミックを突破できるかな?ちなみにソウル・チャージを使ったこのターンは攻撃できないからこのままターンエンドだよ」

「す、すごいよリオ。なのはさん、あっという間に主人公カードの中でも鬼畜レベルで強いって言われてるあの二枚をたったワンターンで並べちゃった!」

「しかも難易度最上級のレベル12を一度に三体、おまけに効果無効3回に攻撃無効一回って・・・・さすがの先輩もお手上げかな?」

 

 さすがはヴィヴィオさんのお母様で管理局のエース・オブ・エース。情け容赦無用の全力全開の布陣。これを突破するなんて不可能に近い・・・やっぱり、なのはさん相手に分が悪かったんじゃ・・・・。

 

「あっちゃー、こりゃサレンダーもんかも。とりあえず、ドロー。・・・・一時休戦を発動します。止めますか?」

「次のターンまでお互いダメージ0、まあ私のターンでどのみちゲームエンドだし・・・いいよ、通す」

「では、お互いデッキから一枚ドロー。・・・・なのさん。確かに貴女は強い。ぶっちゃけこの状況をひっくり返すなんて、どのカード使ってもできそうにないッスね」

「おりょ、流石にこれはやっぱやりすぎちゃったかな?ごめんねアスカ君、次はもっと――――」

「――――いいえなのはさん。貴女に次はありません」

 

 顔を上げた先輩が、笑っていた。二人の間の空気が一気に変化するのを感じて私も思わず息を呑む。一体、アスカ先輩は一時休戦で何を・・・・!?

 

「さて、ここでヴィヴィちゃんに問題。アニメDMで主人公である、武藤遊戯が初めて使ったウイニングカードはなんでしょう?」

「え?んー・・・・ッ、まさか先輩今までママの攻撃を防ぐだけだったのは・・・・!」

 

 そこまで言って、なのはさんの顔からみるみるうちに希望が失せていくのが見えた。この、二体のシューティング・クェーサーとコズミックを無力化してライフを削りきるカードを、しかもDM時代に使ってたなんてそんなの――――ハッ!?

 

「まさか!?」

「そうさ。デュエルモンスターの勝利条件は何も相手のライフを0にするだけじゃない。俺が引いた逆転のカード、それは・・・コイツだ!」

 

 先輩の手から並べられる5枚のカード。しかしそれは5枚であって、5枚にあらず。その全てが揃ってようやく意味の成すカード。それが――――

 

「――――封印されしエクゾディア!」

「そんな、エクゾディアだって!?」

「俺がバカみたいにドローソースと攻撃反応型のカードばかり入れてたのはこの為です!」

「ま・・・負けた・・・完敗だよアスカ君」

「凄い、凄いですよ先輩!まさかなのはママに勝っちゃうなんて!」

「いや~でも流石にこれで引けなかったら俺の負け確定だったよ。大博打、大成功だね」

「これもブランクの差っていうのかな・・・・さて、負けは負けだからね」

「お、潔いいですね・・・・ぐへへへ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで先輩はなのはさんに勝利した後、ここでは書けないようなアレなお願いをして、現在なのはさんはグロッキー。次に勝負を挑んだコロナさん、リオさんもたて続きに敗北してなのはさんと同じ末路を辿り、何故か同じように負けたヴィヴィオさんだけが先輩を膝枕するという扱いの差をし、最後には私自慢の”覇王門”デッキが敗北。現在、何だかよくわかりませんが”声が似ているから”という理不尽な理由でわけのわからないセリフを沢山言わされてます。うう、恥ずかしい・・・・というか、全戦ハンドにエクゾディアを揃えるとかどんだけチート能力持ってるんですか貴方は。

 

「さて、次はこのウィッチブレイドからこのセリフを・・・・大人モードで言ってもらおうかな」

「お、大人でですか!?」

「そうだよハルちゃん。敗者は勝者に従う、たとえそれがどんな命令であっても。それが弱肉強食の掟ですって言ってたのはきみだぞ?さぁ、さぁ、言うんだよォォォ!」

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」

「――――なぁにあたしの教え子にトラウマ植え付けてんだこのバカスカぁッ!」

「マサムネ!?」

 

 ・・・・と、このカオスな支配は夕暮れ時という事で私達を迎えに来たノーヴェさんが介入するまで続きました。ちなみにこの後、先輩はルールをきちんと把握したコロナさんにフルボッコにされてました。それがトラウマになったんでしょうか?「ワンターンスリーアメシコウ・・・」とブツブツ呟く先輩が暫く見れました。とてもスッキリした気分になったのは内緒です。




~その後、八神家~

はやて「ドランシア、スターダスト・ドラゴン/バスター二体、バック二枚。んーこんなもんでターンエンドやな。調子悪いなあ今日」
アスカ「アハハハハ、アハ、アハハハハハ!」
ミウラ「あの、なんだか先輩が所謂レイプ目で笑っててかなり怖いんですけど」
ルーテシア「大丈夫よミウラ。私でもああなるわ」

 その後、アスカは暫くの間トラウマを悪化させたという。


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♯Extra ~その3~

※注意!

このお話は本作のネタバレを多大に含みます。読まなくてもストーリーには影響はありませんが、苦手な人は読まないことをお勧めします。

メタ発言があったり、作者の混沌とした欲望が詰まっています。そこら辺を踏まえたうえで読むと言う方はぜひどうぞ。


 ウィンターカップ。秋から冬にかけて行われるU15の大会もひと段落して。そこから色々あって、紆余曲折を経て通じ合った三人の想い。ナカジマジムでは、いつも通り穏やかな日常が流れている。

 

「え?ああ、そうですね。早いですね。本編すら完結してないのにこれをやろうと思ったのは13話があまりにも素敵だったからなんですよ。非力な作者を許してください」

「ユミちゃんどうしたのさそんなメタいこと言って」

「現在進行形で優柔不断なアスカさんの代理で言ってるんです」

「グハッ!?・・・クッ、まさかユミちゃんからダメージを受けるとは・・・!」

 

と、いつもの光景を繰り広げつつアスカは男子更衣室へと入りナカジマジムの選手用ジャージへと着替える。このジャージに袖を通すのも、このジムで練習するのももう大分慣れてきたように感じる。最初の頃は何だか気恥ずかしいような気がしていた自身の紹介ディスプレイも、今では見慣れたものだ。上下青のジャージに身を包めば、専用出入口をくぐると彼女達の練習中の声と音が聴こえてくる。どうやら今はヴィヴィオとミウラのスパーリングの最中のようだ。

 ドアを開ける。一歩踏み出せば、花咲くような笑顔が迎えてくれた。

 

「先輩!」

 

 最初に此方に気付いたのはヴィヴィオだ。こういう時何故かこの彼女はアスカを見つけるのが速い。そうして次点でヴィヴィオの相手をしていたミウラが気づく。

 

「おはようございます!」

「おはよう。いやー相変わらず外は寒いねぇ。おにーさん冬は苦手だよ」

「発言が一々年寄りクサいのう」

「フーカはいいよなぁ寒いの平気でさ」

 

 鍛え方が違うんじゃ。そうドヤ顔でいう妹分に微笑でかえすアスカ。今思えば、本当にこの子には助けられたなとこれまでの事を振り返る。リンネとどう接していいかわからず、リングの上ではただただ対戦相手として彼女を打ちのめすことしかできなかった。そのせいで突き放してしまい、笑顔すら消してしまったものだと思っていた。それを取り戻してくれたのが他でもないフーカだった。チームメイトとして、妹分として、家族として。本当に感謝してもしきれないと、アスカは勝ち誇った顔でドヤるフーカを撫でる。不意に撫でられたことに慌てるフーカだが、その手を退けようとはせず甘んじて受け入れる。

 

「な、なんじゃ急に・・・」

「いや。やっぱフーカはフーカだなってさ」

「理由になっとらんぞお兄ぃ」

 

 そんな感じで会話していると、何やら周囲から妬ましいといった感情を向けられているのに気が付く。フーカは何事かさっぱりわかっていないが、その奥にある黒いものまで見て取れたアスカはビクッとしながらも一人一人同様に撫でていく。ここで補足ではあるが、最年長であるアインハルトとアスカとでは年齢差は僅か二歳差である。

 

「つくづく思うけど、あのハルさんにあんな顔をさせるお兄ぃっていったい何者なんじゃ・・・」

「あはは・・・まあでも、先輩のナデナデってこう、安心するっていうか」

「ポカポカするよね」

「うん。ちょっとクセになる感じ」

 

 ヴィヴィオ、リオ、コロナはそう評価し、ミウラは「抗えないなにかしら」と評する。実際フーカ自身アレを躱せたことは今まで一度もないので本当になにかしらの魔法でも使っているんじゃないかと時々疑いたくなる時がある。

 

「やれやれ、またこれか」

 

 小さく溜息をつきつつノーヴェが遅れて入ってくる。会長としての事務仕事を大方片付けてからの顔だしの為、このタイミングになっている。

 

「ノーヴェもやる?」

「あたしゃそこまで子どもじゃない。それより、ジル達から連絡来てるんだ」

 

 そう言って端末を操作すればホロウィンドウが浮かぶ。画面の向こうにはジルとリンネ、二人の姿が映し出された。

 

「リンネ」

 

 アスカが名前を呼ぶ。それに満面の笑みと「こんにちは」と返事で返すリンネ。

 

『急な連絡ですみません。実はですね・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「青い空!白い雲!そして美少女の水着!大海原が俺を呼んでるぜえええええええええええええええッ!!!!!!」

「やかましいッ!」

「ポセイドン!?」

 

 興奮度MAXのアスカに思いっきりドロップキックをかますフーカ。やれやれと溜息をつきつつ、ビーチに設置されたパラソルチェアーに腰掛ける。その隣ではリンネが苦笑いを浮かべていた。ジルやリンネ達の誘いで日頃の練習と結果を出し続ける選手たちに少しでも癒しを、という理由でこうして交流会も兼ねた旅行へとやってきている。今は冬なミッドに対しここは一年中温かい気候であり、彼方とは反対に寒さとは無縁なほど夏と言って差し支えないくらいには温度も高く、水温も適温だ。

 

「しっかし、ああやって遊んでいる姿を見るとやっぱりリングの上とのギャップがあるもんじゃの」

「うん。ミウラさんもヴィヴィオさんも、普通の女の子みたい」

「ミウさんに至ってはわし等より年上やしの」

「ああ見えて兄さんと一番歳近いんだよね・・・なんだか意外かも」

 

 そう言葉を交わしながら、フーカはゆったりと深呼吸をする。あの非公式試合から、早一か月弱。色々あったものの、今はこうしてリンネと話ができる。気兼ねなく、何を構えるわけでもなく。ただ、また昔のように・・・・それが何故か、未だもって少しくすぐったくもある。不思議な気分だ。

 

「・・・・兄さん、変わらないね」

「そうじゃの。普段から顔を合わせているわしからしてみれば、あの性格をもうちょっとどうにかしてほしいんじゃが」

 

 憎ったらしい、そんなジト目をアスカに向ける。その先では、どこからもってきたのかわからないビデオカメラを回しているアスカの姿があった。後から来たルーテシアに没収されそうになるも、無駄にいい身体能力でそれを回避し未だに撮り続けている。というか、本当にどこから持ってきたんだそんな骨董品。そうツッコミを言葉にはせず溜息として吐きだす。

 

「でも、私は羨ましいかな」

「そうか?」

「うん。私は兄さんと会ったのはリングの上か、誘拐された時に助けに来てくれた時だけだったから。ああやってふざけたり、遊んだりして楽しそうにしてる兄さんを、私は昔でしか知らないから」

 

 それを聞いて、少し黙るフーカ。それもそうだ。アスカはナカジマジム所属で、リンネとは違うジムだ。所属が違えば会う機会なんてそうそうない上に、連絡先も個人のものを知らなかったのであれば話もできない。自分が知っているアスカを、リンネは知らない。それがちょっと優越感であり、申し訳なくもあり。そう考えていると、不意に声をかけられた。

 

「お二人も泳ぎませんか?」

 

 ヴィヴィオが波打ち際から手を振る。

 

「あ、えっと・・・」

「なんというか、その・・・」

 

 渋る二人の反応を見てアスカは何か思い出したかのようにニヤリと口角を歪める。

 

「ヴィヴィちゃん、実は二人はカナヅチなんだよ」

「え、ノコギリじゃないの?」

「シャンテ、そのボケは知る人ぞ知るものがからな。ちなみに俺は吉野屋先生が大好きだぞ――――ってそうじゃない。こいつ等、身体能力はすんげーけどマリンスポーツっていうか、水中じゃまるでダメだからなぁ」

 

 ニッシッシ、と笑うアスカ。それにムッとなるフーカ。

 

「上等じゃ。それなら、泳げるようになってお兄ぃをぎゃふんといわしちゃる!行くぞリンネ。リオさん、コロさん、ご指導ご鞭撻、お願いします!」

 

 挑発にまんまと乗せられたフーカはリンネを連れて意気揚々と海へと入って行く。その姿を眺めつつ、アスカは椅子に腰を下ろす。

 

「たきつけ方が上手いですわね」

「さすがはおにーさんや」

「よせやい、アイツが単に乗せやすいだけだよ」

 

 ジークとヴィクターが言う。

 

「けどホント、あの二人もああしてるとただの子どもだよな」

「ですね」

 

 いや、それはアンタらもだろ?とツッコむのは野暮だろうか。口からでかかった言葉を呑み込んだアスカは改めて泳ぎを教わるフーカとリンネを見る。

 

「先輩は行かないんですか?」

 

 入れ替わるようにして休憩にきたアインハルトとユミナが隣に座る。

 

「ああ。ここで眺めてる方がいい。・・・・すれ違ってた分、いや、それを超えるくらいにアイツらには一緒にいる時間を作ってやりたいんだ」

「そうですか・・・」

「・・・・ハルちゃん。フーカを鍛えてくれて、ありがとう。きみがあの子を見つけて育ててくれたおかげで、俺もリンネも救われた。本当に、感謝してもしきれない」

「そんなこと、ないですよ。それに、私だって先輩やヴィヴィオさん達に助けてもらいましたから」

 

 そう言って笑うアインハルト。その笑顔に、アスカもまた笑って返す。

 

「よしっ、俺もいっちょ泳ぐとするか!」

「あ、ならウチも!」

「折角の海ですものね。わたくしも一緒します」

「お、ならオレ達も行くぜ、な?」

「やれやれ、仕方ありませんね」

「え、何みんな行くの?ならちょっと待って、たしかルーに取り上げられた他にまだスペアのカメラが――――」

「「「「あ、やっぱり却下で」」」」

 

 即座に拒否されるアスカ。そんな、ほぼいつもと変わらない光景を見ながらフーカが呟く。

 

「本っっ当に、アレでジムのトップアスリートなんか疑いたくなるの・・・」

「えっと、U‐15無敗。インターミドルでも優勝、今じゃアレで世界チャンピオンだもんね」

「U‐19では、今のところ黒星なし・・・・」

 

 言葉にしてみれば、本当にどうしてアレで頂点に立てたのかが未だにわからないと理解に苦しむ。泳ぎにもだいぶ慣れてきたようで、既に二人とも補助なしでもある程度泳げるようになりながら話を続ける。

 

「そういえば、無限書庫で初めてフォビアちゃんに出会った時なんだけど。私達、みんな瓶詰にされてたじゃない?その時先輩が闘ってたんだけど」

「うんうん、たしかそうだった。あれでしょコロナ。先輩がなんか叫んでたってやつ」

 

 その話題が出た途端、ボンっ!とヴィヴィオの顔が一気に真っ赤に染まったのをフーカとリンネはしっかりと目撃した。

 

「そーいやなんか言ってたっけ。あたし気絶半分だったからイマイチ思い出せないんだけど・・・陛下、何て言われてたの?」

「さ、さぁ?私も忘れちゃったな~・・・」

 

 白を切るヴィヴィオ。「覚えてないなら仕方ないか」と話題を流すみんなとは逆に、しっかりと聞き取っていたルーテシアだけは不満そうに口を少しとがらせていた。

 

「私だって・・・・」

「ルーテシアさん、何か言いました?」

「なんでもないわ。さ、リンネ。次はクロールやってみよっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~遊んだ遊んだ」

 

 テラスのベンチにドカッと座り込みながらそう呟く。辺りはすっかり陽も傾き、夕日が半分水平線から顔を覗かせ全てをオレンジ色に染め上げる。少し離れたところで、今は夕飯の支度中だ。

 

「お兄ぃは遊びすぎじゃ」

「何をぅ?そういうフーカだってもう一勝負じゃって聞かなかったじゃないか」

「そ、それはお兄ぃが――――」

「はいはい、二人ともケンカしないで」

 

 アスカを挟み、右にフーカ、左にリンネで三人揃って座る。この位置は、三人がホームにいた頃から変わらない並び順だ。その順番で、今もこうして座って何でもない話に笑みを浮かべる事が出来る。少し前までは考えられなかったことを、今こうして過ごせている。それが凄く、幸せに思えた。

 

「・・・ね、今度は三人で来ようか」

「お、ええな。たまには」

「そこでひと夏のアバンチュー ――――」

「「なりません」」

「ですよねー」

 

 そうして、また笑う。こんな瞬間が、今は永遠に続けばいいのにとすら思えた。でも、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。だからこそ「また」と、言うんだろう。

 

「三人とも、料理ができましたよ」

 

 アインハルトの報せに三人は立ち上がる。すると、ごく自然に、ありふれたようにフーカとリンネはそれぞれの場所からアスカの腕に自分達の手を絡ませる。

 

「行こう、兄さんっ」

「わしが肉全て食べちまうぞ?」

「フーカ、お前少しはリンネのお淑やかさを見習えっつの」

「フン、リンネは大人しすぎるんじゃ。わしくらいがちょうどええんじゃよ」

「むっ、私だって!」

「おいおい、こんなとこで張り合うなよ・・・」

 

 やれやれと言いながらも腕を絡められているのでどうにもできないアスカはただそう言って苦笑いをする。自分を挟んだ両端で言い争う二人を止めようとはせず、その姿にただ懐かしさを感じて不意に笑みがこぼれた。

 

「ささ、皆さん写真をとりましょうか」

 

 ジルが三脚にカメラを設置する。レンズの射程内にそれぞれが入る中、三人もまた入り込む。そして、シャッターは切られた。そこには、リングの上では見せない年相応の笑顔達と。止まっていた時間をようやく取り戻した仲睦まじい三人が、片を組んで笑顔で映る写真がしっかりと収められていた。




いや~13話素晴らしいですよね。フーカのキャラソンにリンネのキャラソン。オマケに水着、水着、水着!あ、あと一言。


  ミカヤさん、おっぱい縮んだ?

ミカヤ「アスカ君、きみとは一度OHANASIした方がよさそうだ・・・」
アスカ「いやえ、なんで俺!?あ、あちょ、それは洒落にならな――――ア”ア”ア”ア”!」


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♯ Extra ~その4~

今宵は女子会。故に短いです


ヴィ「緊急会議ですッ!」

 

 そう声高々と告げたのはヴィヴィオだった。現在高町家、ヴィヴィオの部屋に年頃の女子4人。

 

コ「どうしたのヴィヴィオ?」

ヴィ「この作品ももう30話いったわけだけど、いっこうにヒロインが決まらないのは一大事だよ!」

リ「またメタなことを・・・そもそも30話行っただけでヒロイン決まってないのなんて未定ってタグ付いてたりするのなんてそんなもんじゃない?」

ヴィ「甘いよリオ!というか、もはやヒロイン路線から完全に外れきってるからそんなこと言えるんだよ」

リ「おいヴィヴィオ、今言ってはいけないことを言ったなアァン?」

 

 

  閑話休題

 

 

コ「私としては先輩の中で誰が一番心の中で割合を占めてるかにもよると思うな。こういうのってえっと・・・ギャルゲ?っていうんだっけ。そういうのでやってたよ」

ア「コロナさんそんな知識どこで仕入れてくるんですか・・・」

コ「前に先輩がニヤニヤしながらゲーム機と会話してるのを見たんです」

リ「相当沼にハマってるよねそれ・・・」

コ「課金がどーとか言ってた気もする」

ヴィ「それ一番ヤバイ奴だよ。何がかは分からないけどそんな気がする」

ア「ですがそれとこれとでどうして緊急会議なんでしょうか?」

ヴィ「よくぞ聞いてくれましたアインハルトさん!それはこれまでの話数の中でルールーのヒロイン度が尋常じゃないんですよ!」

ア「そういえば・・・・」

リ「幼馴染に世話焼き、ツッコミに恩人経緯・・・うわぁ、属性テンコ盛り」

ヴィ「この中で一番属性としても原作としてもヒロインポジな私とアインハルトさんでさえ最近漸くやっとスポットが当たってきた程度。でもそれも今やミカヤさんとルールーに塗りつぶされる感プンプンだよ!」

リ「ねえコロナ、ヴィヴィオなんかあったのかな?もの凄く鬱陶しいんだけど」

コ「今回ギャグだから仕方ないよ・・・」

ア「それで、現段階においてヴィヴィオさんの言い分はなんですか?」

ヴィ「もっとヒロインしたいッ!」

リ「あんた数話前までやってただろッ!?まだ足りないと申すか!?」

ヴィ「だってメインだよ!?主人公だよ!?なのフェイの娘だよ!?もっとなんかあってもいいじゃん!」

ア「例えば?」

 

 

 

 

  ~以後、ヴィヴィオの妄想~

 

「先輩」

「ん、どうしたのヴィヴィちゃん」

「えへへ・・・なんだか先輩に会いたくなって」

「おかしなこと言うね。・・・でも俺も一緒の気持ちだったよ。これも運命かな?ほら、俺達昔じゃ兄妹だったし」

「そう、ですね・・・あ、でも」

「うん?なんだい」

「昔は兄妹でも・・・・今は、その・・・・」

「フフフ・・・わかってるさ。おいで、小猫ちゃん」

 

 

  ~終了~

 

 

 

ヴィ「なああああああああんって、なっちゃたりしてキャーッ、キャーッ!」

リ「あの、ヴィヴィオ、痛い、痛いから叩かないでっていうかマジで鬱陶しいッ!」

コ「脳内妄想がアホ丸出し・・・ヴィヴィオ、いくらギャグでもこのキャラ崩壊はSLB並だよ」

ア「誰が上手い事を言えと。まあヴィヴィオさんのキャラ崩壊はこの際目を瞑るとして、ルーテシアさんのヒロイン度が尋常ではないのは確かです」

ヴィ「時点で私かシャンテだとしても、その次はアインハルトさんかと言われたら若干怪しいですしね」

リ「過去描写ではシグナムさんがなんか意味深なこと言ってたし・・・・ってこの争奪戦かなり厳しくない?」

コ「公式の情報じゃもう漫画Vividも終わるみたいだし。そうなってくれば、必然的にメインになるのは間違いなくフーカさんとリンネさんの二人!」

ア「これでは、益々私達の影が薄くなる可能性が大ですね」

リ「ただでさえルールーがヒロイン度濃いのが珍しいっていうのにその上まだ増えるとかムリゲーもいいとこですよ」

ヴィ「というわけで、第一回、ヴィヴィスカヒロイン緊急会議を始めますッ!」

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

ヴィ「という訳で、何か具体案を片っ端から上げて行こうかとおもいます。まず私から! ~お色気要素~ 」

ア「お色気、ですか」

ヴィ「そうです。先輩の身の回りにはやたら立派な山脈だったりおまけに美人なおねーさんが勢ぞろいしています」

リ「たしかに。八神家の皆さんだけでもシグナムさんにシャマル先生、それにはやてさん」

コ「今じゃルーちゃんもいるしね」

ヴィ「しかァし!私達にもあるじゃないか、大人モードが!」

ア「でもそれコロナさん以外ですよねあたはまるの」

リ「コロナのはStrike!にならないと出てこないしね。しかも見かけじゃよくわかんない」

ヴィ「チッチッチ・・・わかってないなァリオは」

リ「だからそのキャラ絡みづらいって・・・で、どういう意味?」

ヴィ「コレを見るのです!」

 

 ドン!

 

ア「これは・・・たしか、OVAの」

ヴィ「はい。ヴィヴィストOVAの総合競技の回です。所謂、リオやコロナが目立つ回ですね。そこでこのシーンです!」

 

  ~少女アニメ視聴中~

 

リ「えデカ!?コロナデカ!?」

ア「字面で描くと刑事みたいですね・・・いやそんなことはともかく、そうですね。たしかに大きいと思います」

ヴィ「けしからん!実にけしからん!」

コ「うう・・・最近なんだかおっきくなってきてちょっとコンプレックスだったのにこうなるんだ・・・」

「「「え、もしかして今から?」」」

コ「ふぇ、あ、うん。お母さんからもそろそろ考えなきゃね、って」

ヴィ「マジか・・・」

リ「アタシなんて成長しても大差ないのに・・・」

ア「私なんて皆さんより年上なのに・・・」

 

 

 

  お色気案 否決

 

 

 

ア「次は私ですね。 ~頼れるお姉さん作戦~ 」

ヴィ「はい次ー」

ア「え、ちょ、まだ私何も・・・」

リ「だってそのプランだとこの中じゃアインハルトさん一強じゃないですか」

コ「たしかに。私達って先輩の中じゃどう頑張っても妹ポジションだし」

ア「で、ですが先輩はこの手のものに大変弱いじゃないですか!?」

リ「まあ確かに弱いけど・・・でも私達って体型こんなだし」

ヴィ「正直な話、常時大人モードっていうのはなんというか違う気がするんですよね」

コ「さっきまで色仕掛けしようって言ってた人の感想とは思えない・・・でもまあそうだね。でも線は悪くないかなって思いますよ」

リ「そんなわけでコレいってみよー! ~やっぱコレ!妹作戦~」

ヴィ「我、完全勝利なり」

ア「ここぞとばかりのドヤ顔が妙に癇に障りますね・・・」

コ「このプランに関してはこの中じゃヴィヴィオ一強ですし」

リ「む、私だって負けてないよ?八重歯に元気っ子!おまけに料理もできるし声だって―――――」

ヴィ「ストップリオ。それ言い出すとキリがない」

 

 

  頼れるお姉さん、妹案 否決

 

 

 

ヴィ「結局・・・なぁんにも浮かばないね」

ア「こればかりは流れに身を任せてチャンスを確実にモノにしていくしかなさそうですね」

リ「ところでさ、私達って何のために集まったんだっけ」

コ「そうそう。たしかヴィヴィオが皆に連絡したんだよね?」

ヴィ「あ、そうだった。実はですね、今度みんなでまた合宿をやらないかなっていう事で集まってもらいました」

ア「いいですね、またできるなんて嬉しいです」

リ「前回は引き分けだったから、今度はちゃんと決着つけたいね!」

コ「新しい魔法も練習したし、大会を経験してみんな実力も伸びてるからもっと楽しい勝負になるかも」

ヴィ「それでね、もうなのはママとフェイトママの休みは抑えてあって――――」

 

 こうして、女の子四人のちょっとした女子会は穏やかに過ぎていくのでした。



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♯Extra ~新春!2018~

 間に合えええええええエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!!!!!!!!!!!!!!!


  (※投稿日時でお察しください)


 元旦。それは、一年で最も特別な日。そんな日でも、この男は通常運転だった。

 

「いえええええええええええええええええええええええええいいいいッ!!!!!!!!」

 

 朝からけたましい雄叫びをあげ。

 

「くううううううううううううううぜんッ!ぜつごのおおおおおおおおおおおッ!」

 

 無駄に力み。

 

「超絶怒涛のォ、ナカジマジムファイター・・・・ラブリーマイエンジェルヴィヴィちゃんを愛し、ラブリーマイエンジェルヴィヴィちゃんに愛された男ォッ!」

 

 無駄にアグレッシブルに。

 

「ヴィヴィちゃん・・・ヴィヴィちゃん・・・そしてヴィヴィちゃん・・・すぅべてのヴィヴィちゃんの生みの親ァ!サンシャイイイイイイイイイイイン!ボフ!・・・ア、スゥ、カァ・・・・」

 

 そして。

 

「いえ――――」

「断空拳ッ!」

 

 今年もこの男の派手な撃沈と迷惑以外の何物でもないボケで始まる。

 

「新年早々何をやりだすかと思えばお兄・・・まさか儂がジムに所属するまでずぅっとこの調子でおったんじゃあるまいのぉ?」

 

 ボキボキと拳を鳴らしながらせまるフーカ。その様は七福神だろうが何だろうが素足で逃げ出すレベルのそれは恐ろしい顔をしている。彼女に殴られもはや虫の息のごとくアスカがぴくぴくと四肢を痙攣させながら答える。

 

「だっで、だっで・・・・」

「だってなんじゃ?」

「みんなの振袖姿が可愛すぎるんだもん!」

「ユミさん」

「まってフーカちゃん、それホントに先輩死ぬレベルだからとどまって」

 

 こうしてユミナにより命の危機を救われたアスカは死屍累々としながらも立ち上がる。今日は年の初め、せっかくだからと地球出身組の声かけでミッドから海鳴に初詣に行こうという企画でこうして皆めかしこんでいるわけである。それぞれ自分に合った色合いの着物を着ている為、個性もありなにより普段よりもそのかわいらしさが何倍も引き出されている、というのはアスカの談だ。そしてそのアスカ(バカ)の新年早々餌食となったヴィヴィオはというと、恥ずかしさと嬉しさのあまりなんだかよくわからなくなって顔を耳まで真っ赤にしながら涙を浮かべてそれに耐えている。

 

「か、かわ・・・・いや、でもいつものことだけど今回のはその、色々と・・・・ッ!」

「ヴィヴィオ、頑張って!」

「ここでダメだったら多分今日生きていけないよ!」

「あの、何もそこまで言わなくても・・・・」

 

 コロナからの予期せぬ言葉の打撃を食らうアスカ。

 

「相変わらずハイテンションですね。先輩は着物着ないんですか?」

「おお、ハルちゃんもなんという美しさ・・・・いやぁ俺ってそーいうのは似合わないからさ。それにこういうのは女の子が着てこそなの。野郎なんてお呼びじゃないんだよなぁエリオ」

「どうしてそこで僕に振るのさ。偶々休みが重なったから参加してみたけどアスカのボケ、益々酷くなってない?」

「よせやい、照れる」

「褒めてないから」

「お、みんな揃ってるな」

 

 それから少し遅れてノーヴェが現れる。その後ろにはジルとリンネ、そしてヴィクターとジークの姿もある。

 

「お前らも来たのか」

「折角やからね」

「このような素敵な服を着れるのなら、参加してみたいと思うのが女心というものよ。アスカ、覚えておきなさい」

「へーへー。ま、ヴィヴィちゃんには劣るがな」

「うわッ、ヴィヴィオがついにダウンした!?」

「お兄ィ・・・死にたいらしいのう・・・」

「ヴェ!?あ、ちょ、ナニスルンディス!?」

 

 もはや新年ということもなにもかもがぶち壊しな空気に、リンネはくすりと笑う。ああ、こういう感じがやっぱり落ち着くなと一人嵐の中心から上手い具合に外れた位置から見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ毎度のことやと思とったけど、今回は一段と輪をかけて大所帯になってもうたな」

 

 目指すは海鳴でも隠れた名所とされる神社。そこへ向かいながら、はやては目の前の光景を見て呟いた。

 

「そうだね。学生の頃は私達三人にアリサちゃんにすずかちゃんだけだったけど」

「今はこんな沢山の人たちと一緒にいるんだもんね・・・なのはと出逢うまでは、想像もできなかったかな」

 

 しみじみと物思いにふける三人。大人組はそれぞれの思い出について話している中、前を行く子ども組+αはというと。

 

「フーちゃん、私変わろうか?」

「いや、大丈夫じゃ」

「まったく、フェイトさんとシグナムさんの着物姿見た途端に失神とかどんだけよ・・・」

 

 訳の分からない理由で気を失ったアスカを介抱しながら歩くと言う事態に見舞われていた。

 

「大体どーしてヴィヴィオやフェイトさん達にはこのリアクションなのにあたしは”お、かわいいな”だけなのよ・・・」

「あはは・・・でも先輩ってオーバーリアクションはしますけど、距離感が近い人であればあるほどリアクションが普通になるんじゃないんかって思いますよ?」

「ミウラ、それ自分が女の子として認識されてなかったことに対するフォローにも聴こえるわよ?」

「それを言わないでください・・・」

 

 ルーテシアがミウラの傷口を抉る。エクステまでつけて周りから大絶賛されてミウラの着物姿だが、この男。普段はボーイッシュな恰好の目立つミウラに対して「あ、そーいやお前女の子だったな」とのさばったのだ。そのリアクションにフーカが断空拳を見舞ってから数分後、フェイトとシグナムを見てこうなったという経緯である。一々リアクションが忙しい為ツッコミも今日は大忙しだ。

 

  暫くして、石段のある場所まで辿り着く。

 

「おぉ、着いたか・・・・」

「やっと目が覚めたか・・・まったく、新年早々何をやっとるんだ」

「悪いなフーカ。・・・あ、おぶったわけじゃなくて引きずられてたのね俺。どーりで中途半端に下半身が痛いわけだ」

「着崩れするからの。・・・・折角お兄に見てもらう為に着たのに着崩れなんぞさせてたまるか」

「えっ、なんて?車の音で聞こえなかったんだけど」

「・・・・バカ兄」

「酷い」

「まあまあ・・・さて、ここが今回お参りする神社ですよ!この町でもちょっとした穴場スポットなんです。ひと呼んで、〝ダメ巫女神社〟!」

 

 何とも残念極まりない名前にコケッとなる。

 

「何、その名前・・・」

「なんでも、ここの管理を任されてる巫女さんがどーしようもないダメ巫女らしいからその名前が付けられたらしいぞ。あたし等も家族集まった時には毎年来てるけど・・・まあ、見りゃわかるさ」

「ちなみに本来の名前はなんていうんです?」

「いい質問だなキャロ。本当の名前は・・・・博麗神社。やけくその神様を祭ってるらしい」

「やけ・・・そんなでええんかの?」

「世の中にはいろんな神様もいるんだね、兄さん」

「ああ。きっとどっかに七つの球を集めないと出てこれない設定の癖に、いざ自分より上位の神様が出てくると急に腰の低いサラリーマンみたいな感じになって、神々しさとかそんなの木端微塵に吹き飛ぶくらいの神様とかいるかもな」

 

 何それむしろみてみたい。そんな風に思った矢先に出かけた言葉をフーカは呑み込む。触れてはいけない――――そんな気がしたからだ。そんなことをしている間に石段を登りきれば、そこは少し薄暗かった石段とは違い、拓けた土地の中にポツンと本堂が建てられているというだけのシンプルなものだった。そして中心には、紅白の巫女服に身を包んだ黒髪の少女がなにやらぶつくさ言いながら箒をだるそうに持って落ち葉を掃いている。

 

「ったく、なんであたしがこんなこと・・・」

「霊夢ちゃーん」

 

 なのはが巫女の名前を呼ぶ。この神社の巫女で管理者、泣く子も黙るダメ巫女と名高い博麗神社の主である博麗霊夢だ。年は17、彼氏いない歴=年齢らしい。

 

「なのはじゃない。まーた今年は大人数できたわねぇ。お賽銭、弾んでいきなさいな」

「今年も来たよー。というか、いつもの倍近くになるけどね」

「いいわよあたしは。その分お賽銭が入るなら、ね」

「ホラな、ダメ巫女だろ?」

「なんというかこう、負というか、腐というか・・・・」

「リンネ、ここで言葉を濁すとかえって相手の傷口を抉ることになるぞ。ここははっきりダメ巫女だと言ってやるのが正解じゃ」

「おいお前ら、一人残らずピチュられたいのかアアン?」

 

 傷口に塩どころか垂れていた導火線に油撒いて火をつけたが如く勢いで怒りに燃える霊夢。そんな彼女の事は軽くあしらうとして、一行は賽銭箱の前までやってくる。持っていた小物入れの中から財布を出すところを見れば、先ほどまで曇天に雷のおまけつきだった霊夢の不機嫌も取り出した幸福をもたらす袋と書いて財布を見た瞬間にはあら不思議、小春日和とばかりに優しい笑顔を浮かべる。「そんなだからダメ巫女なんて呼ばれるんだ」と言いそうになったアスカの口を、ルーテシアが塞いだ。

 

「さ、今年一年の抱負とか叶えたい願い事なんかをこの箱の中にお金を入れて、手順に沿ってお祈りするんよ。まずは学生組から」

 

 はやての仕切りでヴィヴィオ達が前に出る。お賽銭を入れて手を数回叩き、つるされている鈴を鳴らして手を合わせ、祈る。しかしながらその内容を声に出すなとは言わなかった為、小声ではあるが、その内容が駄々漏れとなって聴こえてくる。

 

(ありゃまー、これはうちの長男の人気が窺える光景やね)

(はやて、言った方がいいんじゃない?)

(そこら辺は大丈夫や。ほら)

 

 はやてが指さす方向、そこには耳と目をジークとヴィクターに塞がれたアスカがいた。オマケに何故かは知らないが、口を思いっきりルーテシアに塞がれている。ジタバタと手足を動かすアスカ。ヴィヴィオ達の駄々漏れなお参りが終わったところで漸く解放される。

 

「プハっ・・・こ、殺す気かお前らは!?」

「ごめんごめん」

「乙女の純情、というものですかね。こういう時は殿方は聞いてはいけないものよアスカ」

「というか、貴女達どうして声に出して言ってたのよ。・・・・まさか」

 

 ルーテシアがジロリ、とアスカに睨みを利かせる。

 

「ち、違う!確かに住所とか最後に言わないと神様がわからないから叶いずらくなるとは言ったけど、声に出した方がいいとは一言も言ってないぞ!?」

 

 慌てぶりを見る限り、アスカの言っている事は本当のようだとあたりをつけるルーテシア。長年・・・・とは言葉に語弊があるかもしれないが、漫才じみたことをやってきた経験則が言っている。この反応は嘘をついている時のものではない。では、いったい誰が?思考を巡らせていると、意外な人物へとたどり着いた。

 

「え、お願いって声にだしていうものじゃないの?」

「スバル・・・犯人は貴女だったのね」

 

 そういえば、と溜息をつく。スバルの姓はナカジマ。言葉にして出せば明らかにミッドではあまり聞かない響だし、以前先祖が地球の出身だと言っていたのを思い出す。なるほど、ド天然の彼女が言ったのなら納得がいく。

 

(まさか声に出して言うものじゃなかったなんて・・・・危うくあたしもやるところだったわ)

 

 これにより、一人の若手執務官の窮地が救われたのは、誰もしらない。そうこうしている内に、今度はアスカ達の番がやってくる。大人組の後、さらには周囲が気を使いここはアスカ、フーカ、リンネの三人でお参りをすることに。手順に従い、願いを心の中で呟く。神聖な、厳粛な空気がわずかに流れた後、三人同時に目を開けた。

 

「ねえ、二人はなんてお願いしたの?」

 

 さっそくリンネがきりだす。

 

「ワシは勿論、次の大会の優勝ともっと強くなる為に心身共に無病息災じゃ。リンネは?」

「フーちゃんらしいね。私も試合で一つでも多く勝てるようにってことと、最近始めたお菓子作りがもっと上手くなりますようにって」

 

 互いに話しながら歩いていく二人の背中を眺めながら、その後ろを歩くアスカ。楽しそうに笑う妹二人を見ていると、こっちまで笑顔になると微笑ましく思う。こんな瞬間が、今より少しでも増えてくれたら・・・・。それ以上の喜びはないと、アスカは思った。

 

  だから。

 

「そーいえば、お兄は何をお願いしたんじゃ?」

 

 もし、本当に神様がいるなら。

 

「ん?俺か」

 

 俺の願いは、正直叶わなくてもいいです。

 

「私も兄さんのお願い聞きたいな」

 

 ただ、ひとつだけ。

 

「フッフッフ・・・それはな――――」

 

 ————みんなの願いを、叶えてやってください・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

「あれ?どないしたん二人して」

「なんだかげっそりしてますね・・・・何かありました?」

「ああ・・・ハルさん、ジークさん・・・」

「いや、あのですね。さっき兄さんは何を願ったのかって聞いたんです」

「リンネ、貴女度胸あるわね・・・それで?」

 

 ティアナの問い。しかし二人はその先を言わずにただ壮大に溜息をついて通り過ぎて行ってしまった。何があったのかさっぱりわからず首をかしげるでしかないでいると、とうの本人がやってきたのでとりあえずスバルが事情を聴くことに。

 

「どーしたのあの二人」

「まさかまたくだらないこと吹き込んだんじゃないよね」

「エリオ、お前酷いな・・・・別になんにもしてないさ。ただ・・・」

「ただ?」

「ここって、地球の神様じゃん?んで、俺らってミッドに住んでる。ってことはさ、地球が管轄の神様にいくらお願い事しても俺らミッドだし住所とかわかんなくね?だったらお願い事叶わないしダメじゃん、やっぱダメ神様だなって言っただけなんだけど・・・・って、あれ?なんで皆もそんなげんなりするの?ねー?」

 

 アスカの一言を聞いてテンションをがた落ちさせる一同。年明け早々、結局この男にはしてやられるのかと元旦に思い知らされたのであった。




 ~とある後日談~

「あれ?なんだコレ・・・・アスカ先輩ともっと仲良くなりたい・・・できれば結ばれたい!?しかも同じような内容が沢山ッ!舐めとんのか!?こちとら正月からの受験シーズンで色々忙しいってのにリア充にかまってられるかッ!しかもなんだよ住所ミッドチルダって!何地名なの!?それとも住宅地の総称とか何か!?ダアアアアアアアア、イライラする!やってられっかっての!はい、今日のお仕事もうおしまい!さ、早く帰ってコタツに入って東方M-1グランプリ観ようっと・・・・あっ、新年あけおめことよろー。今年もヴィヴィスカよろしくー」

 


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♯ SPECIAL

という訳でルーテシアifストーリーですどうぞ


 カーテンの隙間から入り込む太陽の光。外では鳥の声が聴こえる。朝だという事を体が感じれば意識がゆっくりと浮上し、覚醒へと至る。それでもなかなか起き上がれないのは異様な気怠さと、僅かに感じる幸福感からだろうか。しかしそれでも朝は朝だ、やることは沢山ある。まず朝食を用意しなければと躰を起こせば、普段感じることのない違和感に気が付く。

 

「・・・重い」

 

 そう呟いて自身の胸元に視線を向ければ、見覚えのない膨らみで下がほぼ視えなくなっていた。いや、どういうことよコレ。

 

「・・・なんじゃこりゃ」

 

 そんな女の子らしくない言葉を口にしてしまうのも、ひとえに彼のせいだなと自己解決した後に改めて触る。うん、中々の大きさ。そして何より柔らかい。

 

「いやそうじゃなくてっ!」

 

 慌ててベッドから出る。乱れた寝間着姿のまま自室の扉を開けてすぐさま廊下へ。途中、バランスを崩して転びそうになるも持ち前の身体能力でそれを回避し階段を駆け下りる。

 

「お母さん!」

 

 リビングにいるであろう母を呼べば、キッチンから顔を出す。

 

「どうしたのルーテシア?」

「えっと、その、なんて言うかこう、よくありがちな何かしらに巻き込まれたような・・・」

 

 この子は朝からどうしたんだ。そんな怪訝そうな顔で首を傾げる母だが、それもすぐに笑顔――――いや、これは笑顔ではない。どちらかと言えばニヤニヤと表現した方がいいだろうか。兎に角そんなイヤな笑みを見せ「あらあらうふふ」と口元に手を添えて笑う。どうしてだろう。たった一人の母親なのに猛烈に殴りたい。ワナワナと震える拳を必死に抑えつつも、そんな力のこもった左拳を見てハッとなる。

 

 薬指に光るリング。そうだ、私結婚したんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ってことがあったのよ」

「せっかちだなぁ。そういうとこ、昔と全然変わらないな」

 

 今朝起きた出来事の一部始終を話すと苦笑いで返される。かなり焦ったんだからとさらに食い下がれば「はいはい」と軽くあしらわれて相手にされない。むぅ、どうしたものかと考えていると不意に彼が何かを差し出してきた。

 

「ここんとこ色々忙しかったからな。これ飲んでちょっと落ち着けって」

 

 そう言って差し出されたのは栄養ドリンクの入った瓶。まだ未開封で少しひんやりとしている。アルミ製の蓋を開ければ、あの何とも言えないどこかいい匂いが嗅覚を刺激しその中身を体内に流し込む。

 

「旅館の経営指導に施設管理、従業員の確保・・・・ホント、スゲーよ」

「貴方と一緒になるって決めた時からずっと視野には入ってたしそれほどでもなかったわよ。それに、ちょっと楽しかったし」

 

 特にアスレチックの増設とか、と付け加えればまた苦笑い。また増やしたのかと言われれば「だってみんなすぐ壊すんだもん」と少しふくれっ面になる。全力で動いてくれるのは凄く嬉しいしやってるこっちも楽しいのだが、いかんせん時間の経過とともにタガが外れだすから困ったものだ。

 

 

 テラスの柵にもたれかかりながら、今日から3泊2日の予定で貸し切りの予約が入っている団体を待つ。そして、それはすぐにやってきた。

 

 

「ルールー!」

 

 明るい弾んだ声にかつての幼さを残しながらも、遠目に見てもはっきりとわかるその成長した姿はルーテシアにとっては親友といっても過言ではない少女の姿だ。二人の母と同じ髪色、髪型で先頭切って走ってくる。

 

「ヴィヴィオ、いらっしゃい。また背伸びた?」

「えへへ、わかる?」

 

 ハイタッチしてそんな会話をする二人。ヴィヴィオから遅れる事数秒でルーテシアも見知った、所謂「いつもの」メンバーが顔をそろえる。

 

「お邪魔します、ルーちゃん」

「はい、なのはさん。結婚式以来ですね」

「そうだね。あの時のドレス、綺麗だったなー・・・私もあんなドレス着たい!ね、ね、ちょっとだけ旦那さん貸してくれないかな?」

「フェイトさん」

「うん、えっと、ゴメンルーテシア。予想以上に毒されてるからもう突っ込むことでしかなのはを止められないよ・・・」

 

 更生は任せた筈ですが、と目を向けるもその返事は聞いての通りでもはや手遅れとなっていた。どこまで他人にボケを感染させるんだと溜息をつきつつ、先ほどのなのはの発言。割とガチで言ってるから始末に負えない。

 

 

  まあ、そんなことは意地でもさせないけどね。

 

 

「ルーさん、お世話になります」

「今年から私も参加させてもらいますね」

 

 次いで挨拶に顔を見せるフーカとリンネ。今や魔法戦技の界隈ではツートップの実力を兼ね備えている二人がこうして顔をそろえるのは極めて珍しいことだ。普段は試合やトレーニングに明け暮れている為、オフの日程を合わせるとかなり難しいのだが、そこは両ジムの会長が少し頑張ってくれたおかげと言えるだろう。その他にも名だたるアスリートや局員もそろい踏みで。戦力だけでみたらいったいどこの世界と次元戦争する気だと言われても否定はできないほど強者ぞろいだ。

 

「ようこそ、いらっしゃいました」

 

 そんな中、肩から羽織りをかけて降りてくる赤髪の男。一際目を引くその姿はまさに”王者”の風格すら伺える。このホテル・アルピーノの総支配人にして、ルーテシア・アルピーノの夫。

 

「このアスカ・スカーレット。皆さんのご到着を心よりお待ちしておりました」

 

 これは、いつかある未来の、ほんの一筋の道をたどった場合の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょ、っと」

 

 案内された部屋に荷物を置き一息つくエリオ。背丈も大きくなり、声変わりもしたことによりかつての幼さはもうどこにもない。少し長くなった髪を後ろで縛り、鍛え上げられた肉体は無駄のない筋肉によって綺麗なシルエットを見せる。所謂、イケメンというやつだ。

 

「イケメン死すべし慈悲はない」

「相変わらず酷い言いぐさだね・・・というか、いい加減普通に入ってこれないの?」

「だってイケメン嫌いなんだもん」

「なんだよそれ・・・」

 

 理不尽だ、そんなことを言いたげに溜息をつく。

 

「いやー、慣れないことするもんじゃないし言うもんじゃないな。肩が凝っていけねぇ」

「発言がお年寄りだよ。でも案外サマになってるとおもうよ?その恰好」

「よせやい、くすぐったい」

 

 二つあるうち、手前のベッドに腰掛けてくつろぐアスカ。エリオはその向かいに腰を下ろす。

 

「いつ以来だっけ、こうして話すの」

「多分フッケバインの一件があった時以来じゃないか?ほら、トーマのことで色々あった時」

「あの時は大変だったねお互い。そういえばトーマは?」

「リィちゃんと一緒の部屋。年頃の男女を一緒にしておくとオモシロイことが起こるからな」

「うわ、最低」

「言ってろ。こういうちょっとしたハプニングがあった方が旅も面白いだろ」

「旅って言うほどの事じゃないんだけどな・・・」

「そういうお前はどーなんだよ。キャロと式挙げたのか?」

「お互いバタついててそれどころじゃなかったから・・・あ、でもいい場所があったからそこでしようかなって話してるんだ。記念日は一緒に祝えそうだよ」

「それ聞いて安心した。ルーも喜ぶ」

 

 男同士、のんびりとした空気の中会話する。いつもは女性に囲まれ息のつまる思いで日々過ごす二人だが、こういう時は本当に貴重な時間だと息をつく。しばらくすれば、そこにトーマ・アヴェニールが合流し三人でアスレチックのある方へと向かう。三人とも訓練着に着替え、ここからは支配人から一人のアスリートへと変わる。

 

「しっかしまたスゴイの作りましたね、ルーテシアさん」

「うん。なんか来るたびにグレードが上がってるような」

「もはや狂気の沙汰とも言えるけどな。ま、それはそれとしてだ」

「先輩!」

 

 こちらを見つけたリオが手を振る。そこで二人と別れ、アスカはアスリート組と合流する。

 

「さて、俺はもう格闘技から身を退いて少し経つが・・・務まるのかね、これ」

「大丈夫ですよ」

「そうそう」

「腐っても公式戦無敗のチャンピオン。これほど相応しい相手がおるか」

 

 コロナ、リンネ、そしてフーカの順で言う。いささか体が訛ってるかもしれないがとさらに付け加えれば「嘘ばっかり」とボソッと呟くルーテシアの声。

 

「ルーテシアさんから聞いてますよ。先輩、毎日トレーニングは欠かしてないそうですね」

「うっ、ハルちゃんそんなことまでお見通しとはね・・・いやー、はは。こりゃバテた時の言い訳を完全に潰されてるなこれは」

「そういうこと。さ、もう諦めて私達の相手してもらうよ兄さん」

「仕方ないね・・・・なら、倒れないよう踏ん張らなきゃな」

 

 そうして、特別トレーニングは幕を開けた。形式は一人一人入れ替わりで行われる試合形式。一定のフィールド内で魔法使用可のインターミドルとさして変わらない裁定で1ラウンド30分間。ダウンした場合はその場で脱落となるいわば耐久戦となっている。アスカ一人に対しヴィヴィオ達はルーテシアも含めた合計8人の入れ替わり。体力は勿論のこと、相手をいかにして早くKOさせるかも絡んでくる。それを全員が音をあげるまでやるのだからかなりの練習量だろう。特務六課組はさらにキツい内容になっているかもしれないが、それに触れるとなのは辺りからOSASOIが来るので考えないようにする。

 

「さて、一番最初は誰だ?」

「はいっ。高町ヴィヴィオ、行きます!」

「初戦でヴィヴィちゃんか・・・さて、お手並み拝見」

 

 直後、開始のゴングが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間というのは、長くもあり短くもあり。楽しいひと時というのは、尚の事短く感じてしまうもので。あっという間に陽も傾き夜となった。

 

「お疲れ」

「ん・・・おう、お疲れ」

 

 差し出されたビールを開けて一口。疲れた体にアルコールがしみわたる感覚がたまらないとは、アスカの談だ。ルーテシアと二人、夜風にあたりながら月を見上げる。

 

「そういえば、お前にプロポーズまがいの告白したのもこんな夜だったっけ」

「そうね。あの時はホントびっくりしたわ」

「我ながら結構緊張してたのすっごい覚えてる。口から心臓が飛び出しそうってのはまさにあのことだな」

「アンタが緊張って想像つかないわ」

「お、昔の呼び方に変わった」

「こーいう時くらいいいでしょ?・・・ヴィヴィオ達がいる時、我慢してたんだもん」

 

 そう言って肩を寄せてもたれかかる。生暖かい風が、ルーテシアの髪を揺らした。

 

「・・・ね、アスカ」

「ん?」

「キス、しない?」

「ブフォ!?」

 

 急な申し出に口に含んだ液体を派手にぶちまけるアスカ。いきなりの事に驚きを隠せないでいると、此方を見上げる赤い瞳と出逢う。潤んだ瞳に温泉あがりで蒸気した紅の頬。艶やかな髪色も相まって、いつもより一際大人っぽく、色っぽく映る彼女の姿に生唾を呑み込むアスカ。かくいうルーテシアも心臓の音がはっきりと聞こえそうなほど高鳴っていた。普段の自分からは想像もできないほど大胆な行動に驚くとともに、今度からこういうことをするときは多少お酒の力も借りようかと頭の隅で考えつつ、二人はごく自然な流れで目を閉じる。そして、二つの影はやがて一つに――――ならなかった。なにやら感じる固い感触。いったいなんだコレはと目をひらけばそこには視界一杯の銀。

 

「何をしてるのかな二人とも」

「私達のいない間に盛り上がるのはちょーっといただけないなぁ」

 

 ビールの缶でキスを阻止するヴィヴィオとリンネの二人。何やら笑っているのに顔が笑っていないのはどうしてだろうか。

 

「笑顔って、本来威嚇する時のものだったらしいよヴィヴィちゃん」

「そうなんですか。で、ルールーは?」

「・・・あたし達、自分で言うのもなんだけど夫婦なんだけど」

「それとこれとは話が別ですよ」

 

 そこにアインハルトも加わる。一触即発。そんな空気が流れたと思ったら、リオの一声でゲームをして決着をつけることに。以前と変わらないノリと勢いでその場を後にするメンバーにアスカは一人小さく溜息をついて月を見上げる。

 

「アスカ!」

「ん?」

「・・・んっ」

 

 名前を呼ばれて振り返れば強引に、そして大胆にも口を塞がれてしまう。

 

「あっ、ルールー抜け駆けッ!」

「フン、これが正妻の実力ってやつよ。さ、決着つけましょうヴィヴィオ」

「グヌヌ、負けないから!」

 

 去り際、いたずらっぽくウィンクするルーテシアにあっけにとられながらも一瞬ではあるが重なった唇を撫でるアスカ。

 

「・・・女の子って、やっぱスゲー」

 

 そんな独り言をつぶやいた。




 ~その後、ルーテシア~

ルーテシア「うーん・・・あさ・・・あれ?さっきまであたしヴィヴィオ達とゲームを・・・」
はやて「ルーちゃん」
ルーテシア「はやてさん?というか、なんでドンキとかでよくある動物パジャマ的なもの着てるんですか」
はやて「実はな。これ、夢落ちなんよ」
ルーテシア「・・・・」
はやて「夢ww落wwちwwなwwんwwよww」

 その後、めっちゃ白天凰したはやてであった


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♯ SPECIAL! ~その2~

祝!お気に入り件数1000件突破記念作品!


 あの日から、もう幾年月。大きな大会や練習試合など、色々とハードな日もありますが私は変わらず元気です。あ、自己紹介がまだでしたね。リンネ・ベルリネッタといいます。気軽にリンネ、って呼んでください。今回は私のとある何でもない、けれどもちょっぴり特別な一日をお届けします。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

「えっとクラス表・・・・あった、校門前」

 

 桜の花の舞う季節。晴れて高校生になった私は念願だった普通の学校生活をこれから送ることになる。今までは何というか、色々塞ぎこんでどこか無理していた気がするからこんな風に何もかも真っ新な気持ちで学校に行くなんて凄く久しぶりな気がする。これも、一生懸命私に向き合ってくれた人たちのおかげで、特にフーちゃんにはどうあっても頭が上がらないなぁなんて思ってたり。

 

「お、おい見ろよあの子!スッゲーかわいい」

「ホントだ、リボンの色・・・あれ新入生か!?」

「髪綺麗、まるで絹みたいにサラサラよ」

「スタイルすっごくいい。・・・・あれ、でもどこかで観たことあるような・・・?」

 

 なんだか周りの人達が騒がしい。もしかして、私が中学の時にやってしまったことが既に・・・・!?そんな、やっと普通に学校生活を送れると思ったのに・・・・。そんな風に怯えていると、すぐ後ろから聞きなれた声がした。

 

「やあ新入生の美少女さん。そこにボーっとしてるとギャラリーで囲まれちゃうから気を付けた方がいいかもよ?」

 

 いつものように、あの頃と変わらない私の心に染み入るみたいに温かく入り込んでくる声。どんな時でも、この人の笑顔を支えに頑張ってきた。時には超えたいと思い、時にはずっと一緒に在りたいと思った、そんな私の大事な人。

 

「兄さん!」

 

 振り向けば、そこには兄さんがいつものように笑って立っていた。

 

「こらこら、学校で兄さんはやめろって。俺まだ死にたくない」

「・・・・?」

「あーこりゃ自覚無しか。うん、そーいやそういうの疎かったよねリンネって」

 

 なんだかよくわからない事を言ってるけど、これって多分私が悪いんだよね?撫でてくれるのは嬉しいけど、謝った方がいいのかな。

 

「ごめんなさい」

「謝る事ないって。それよりホラ、クラス表観て来な。教室の前まではついてってやるから」

「はいっ!」

「・・・・相棒」

『周囲に敵意をむき出しにしているクラスメート多数確認。・・・・レックスさんよりメッセージが届いています。再生しますか?』

「律儀に動画付きとは恐れ入る。だがリンネは我がシスターだ、そんな大事な妹が悲しむ顔は見たくない。というわけで削除ォ!あーんどぅ、トンズラ!」

「兄さん、お待たせ・・・・って、あれ?」

『アスカ様なら、なにやら大勢の男子生徒に追いかけられて校舎内へと入って行きました』

「スクーデリア・・・兄さん、ここでも凄い人望だね」

『いえ、アレはどちらかというと・・・と、マスター。そろそろ時間です』

 

 結局兄さんとは一緒に行けなかったけど後でもいいよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルリネッタさん、ぼぼぼぼ、僕とお友達になってください!」

「ねえねえ、ベルリネッタさんてさ――――」

 

 あうあうあうあう。入学式が終わって教室で先生を待っている間にいつの間にか私の周りにはこんな感じで人だかりができてしまった。みんな顔も名前もまだ覚えきれてないし、色々矢継ぎ早に質問が飛び込んできてどう対応していいかわからない。あうあうあうあう。

 

「ほらほらみんな、ベルリネッタさんが困ってるでしょ?一人ずつ、順番によ。まずは・・・貴方から」

「えっと、ベルリネッタさんて格闘技やってるよね」

「あ、はい。一応・・・・」

「うっそホント!?・・・・って、ああ思い出した!この前テレビで何かおっきい大会出てたよね!?」

「はい。Uー20(アンダートゥエンティー)の公式試合ですね」

 

 って、あの大会テレビ中継されてたんだ・・・・今更だけど、なんだかちょっと恥ずかしい。

 

「もしかしてベルリネッタさんて有名人!?」

「いえ有名人とまでは・・・」

「でもさでもさでもさ、今朝もすっごい騒ぎだったよね。アレもひょっとしたらベルリネッタさんが有名人だからじゃないかな!?」

 

 あ、それ多分私じゃなくて兄さんだと思う。・・・・多分。

 

「はい、次の人」

「べ、ベルリネッタさんて好みの男性のタイプなに?」

「初対面でいきなりその質問?・・・大丈夫?」

「あ、はい。えっと、好みの男性というか・・・その、私自身家族以外に男性とあまりお話した経験がなくて。今も、こんな風に他人と沢山お話する機会はあまりなかったから・・・・だから、凄く楽しいし、嬉しいです!」

「・・・・・・・・ベルリネッタさん」

「はい?」

「・・・・かわいいわね、貴女」

「えっと、ありがとうございます?」

 

 なんだかよくわからないけど、褒められたのは素直にうれしい。・・・・あ、兄さん!

 

「あの、ちょっとごめんなさい!」

 

 席を立ち、廊下から顔をのぞかせていた兄さんの元へと駆ける。

 

「相変わらずすっごい人気だなリンネ。すっかりクラスの中心だ」

「そんなことないよ。それより、どうかした?」

「いや、さっきは悪かったなと思ってさ。それと、今日は俺オフだからよかったら一緒に帰らないかって誘おうと思ったんだけど・・・なんか予定あるか?それとも、家の人が迎えにくるとk————」

「————全然ッ!まったく!むしろ一緒に帰りたい!」

 

 喰い気味で返事を返す。自分でもびっくりするくらいの速さだったけど、折角兄さんと一緒の学校に入ったんだからもっと一緒に居たい。そんな気持ちが大きくなって、つい声をいつもよりも大きく出して返事をしてしまう。それに少し驚きながらも、笑って撫でてくれる。

 

「オッケー。んじゃ、また放課後な・・・・さて、早くも結集されたリンネちゃんを優しく影から見守る会の連中をどうやって黙らせるか・・・・こうなったら燃すか」

『マスター。最近思考がバイオレンスですよ。お願いしますからギンガ捜査官の胃に穴をあけるようなことは避けてください」

「俺リョナって守備範囲じゃないんだよねー」

 

 ・・・・なんだかよくわからない会話をブレイブハートとしながら自分のクラスに戻って行く兄さんを見送ってから、私も席に戻る。すると再び質問攻めに。

 

「ベルリネッタさんって、もしかしてブラコン?」

「つか、今の人ってもしかしてスカーレット選手!?」

「うっそマジかよチャンピオン!?」

「マジかよ!?ベルリネッタさんってスカーレット選手の妹なの!?」

「えっと、妹・・・なのかな。私が一方的に呼んでる気もするけど」

 

 また周囲がざわつく。確かに兄さんは凄いと思う。初めてインターミドルで試合した時からずっと観てきたけどどれも凄くワクワクするし楽しい。リングで再会した時は私がまだ塞ぎこんで迷っていた時期だったから感じられなかったけど、今ならわかる。こう、胸が高鳴って、ちょうどこの音みたいに・・・・って、予鈴が鳴ったんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 HRが終わると私は真っ先にさっき助けてくれた子の元へと向かった。

 

「あ、ベルリネッタさん。さっきは大変だったね」

「はい。あの、さっきは助けていただいて――――」

「いいのいいのそんな気にしなくってさ。それより、お節介しちゃってごめんね。あたしこんな性格だからみてらんなくて」

「いえっ、ちょっぴり困ってたのは本当なので・・・・あの、良かったらお友達になりませんか?」

「え・・・いいの?」

「はい。あ、ご迷惑でしたら、その――――」

「迷惑だなんてとんでもないッ!超嬉しいよ。あ、あたしイース。イース・キャンベル。気軽にイースって呼んで」

「じゃあ、私もリンネでお願いします」

「うん。よろしく、リンネ」

「こちらこそ、よろしくお願いしますイースさん」

「かったいなぁリンネは。もっとこうフランクにさ――――」

 

 高校生活一日目。まだまだ始まったばかりで不安もあるけど、漸く初めての友達ができました!

 

「————ってことがあったの」

 

  教室でのことを歩きながら兄さんに話すと、兄さんは笑って・・・・いや、何故か泣きながら「よかったぁ・・・・よがっだよぉぉぉぉおおおお」と言ってくれた。・・・・どうしてそんなに泣くのかよくわからないけど、うん。喜んでるみたいでよかった。

 

「これでフーカにもいい報告だできるな」

「うんっ!・・・・フーちゃんも同じ学校に通えたらいいのにね」

「仕方ないさ。ジムで働いてる方が性に合ってるって自分で断ったんだし」

 

 確かに、私が受験するって相談した時もフーちゃんはどうするって聞いたら同じこと言ってた。でもね兄さん。それは多分・・・・違うんだと思う。フーちゃんとはホームにいた時にもずっと私のことを一番に考えてくれてた。どんな時でも一緒で、兄さんがはやてさんと一緒に住むようになった後はフーちゃんが私の傍にいてくれた。だからこそ私もわかる。フーちゃんはきっと、気を使ってくれた(・・・・・・・・)んだって。私の気持ちを知ってるから。

 

  私が兄さんを、家族以上の気持ちでみているから。

 

「っと、噂をすればフーカだ」

《お兄、今リンネと一緒か?》

「おう。今帰ってる最中だ」

《ならちょうどええの。今度リンネんとこのジムと練習試合することになったから、その連絡じゃ》

「だってさ」

「そうなの?なら今度は負けないからねフーちゃん!」

《へへん、あの時のリターンマッチか。腕がなるのう》

「その前にきみらは加減忘れて機材を破壊しないように。総合競技じゃないんだぞー」

《逆に総合競技ならええんか》

「あはは・・・」

 

 それから日時とスケジュールをざっくりと確認して通信をきる。そっか・・・・次の練習試合で、兄さんと・・・・。

 

  なら、うん。これにかけてみようかな。

 

「兄さん」

「うん?」

「もし・・・・もし、私が試合に勝ったら・・・・兄さんに、伝えたいことがあるの」

 

 顔が赤くなってるかもしれない。でもそんなこと関係ない。今は私の言える精一杯の気持ちを言葉にするだけ。真っ直ぐ見つめていると、兄さんは少し深呼吸をして「わかった」って返してくる。

 

「なら俺もリンネに言いたいことがあるんだ。俺が勝ったら、それを言う。おまえが勝ったら、好きにしろ。でいいか?」

「うん。俄然、やる気出てきたっ」

「決まりだな。リンネ、負けないからな」

「私だって!」

 

 そう言って互いに拳を合わせる。合わせた時に感じる兄さんの手の大きさ。ああ、やっぱりおっきいや。それに優しい感じも伝わってくる。今思えば、あの時助けてもらった時からこの手のように誰かを守れる人になりたいって思って始めたんだと思う。見下されないようにじゃなくて、この人みたいに強くなりたくて。最初は、きっとそんな憧れから、それがいつの間にか、大きく変わって。今では・・・・そう、これが多分恋心なんじゃないかなって。

 

 それを、伝えるために。ありったけの想いを、今度は拳に込めて。

 

「試合、楽しみにしてるね」

「ああ。・・・・さ、帰ろっか」

「うん!」




いかがでしたでしょうか、リンネ特別篇。好きなキャラだけに書くのが難しい・・・!


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PROLOGUE

躰の芯まで冷え込むほどの寒い冬。時期的に、多分11月も終盤だろうか。そんな季節になってもやることはいつもと変わらない。空は清々しいほどの冬晴れ。雲一つない青空の下で幼い子供達に混じってめんどくさがりながらも手を動かす。こうしないと、昼飯抜きにされるというなんとも前時代的罰が待っているので文句は言えない。生きていくためには喰わねばならんのだ。

 

 ええ、わかってますよマザー。そうかっかしないで、また小皺が増えます―――って、それはダメ!アンタの拳骨はマジの奴だからダメだって!

 

 昔、格闘家だっただの、聖王教会騎士団のお偉いさんだっただのと色々噂されるだけあってこの人の拳はかなり痛い。石頭と自負しているものの、あの拳だけはどうにも耐え難いものがある。

  アスカ・スカーレット・・・それが俺の名前だ。このマザーと呼ばれる女性と、周囲にいる子供達。これが、今の俺の家族(・・・・・・)。ミッドチルダ首都クラナガンより少しはずれの郊外にある孤児院で暮らしている。ちなみに引き取られたのは赤ん坊の時だったから親の顔どころか声すら知らない。これだけ見れば結構な境遇だが驚くことなかれ、実は前世の記憶なんてものがあったりする。そう、転生って奴だ。気が付いたら赤ん坊でおぎゃあおぎゃあと泣いていたのを今でも覚えている。どんな理由で、何がきっかけでこうなったかはわからないがとりあえず今はこうして第二の人生を謳歌している。・・・・多分。

 

 んー?どうしたよ・・・・えっと・・・誰だっけ。

 

 何か困り顔で白髪美少女が俺の前にやってきた。なにやら伝えたいことがあるらしいが引っ込み思案な性格なのか、素直に自分の気持ちを伝えられないようだ。こういう時はなんて言ったらいいんだろうか・・・いかんせんこんな先生じみたことなんてやったことないからどうしていいかわからない。他のガキんちょなら、適当にあしらってもいいのだが。だって美少女だよ!?どうみても将来有望だもん!オニイサンこんな子の相手なんて二十数年生きてきたけどわからないよ!

 

  まあ、今は10歳だったりするんだけどね。そんなことよりどうした?・・・って、聞くまでもないか。

 

 後ろの方で何やらガキんちょ達が人だかりを作っている。その中心に目をくれてみれば、またいつものようにトラブルを起こしているガキんちょを見つける。あれがこの子の困り顔の原因だ。

 

 まったく・・・ホレホレ、また何をもめてんだんだお前らは・・・ほう、リンネがまた意地悪されていたから、此奴らをしめていた、と。よしわかった、俺も手伝おう。え?年上の癖に止めないのかって?やかましい。こんな可愛い子を泣かす方が悪い。可愛いは正義。ジャスティス。そしてそれを信じる俺もジャスティス。つまり、俺が正義だジャスピオン!――――あ、マザー。揃って拳骨ですね。遠慮しておこう!

 

  その後、滅茶苦茶説教された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 おや皆さん。また逢いましたね。ドーモ、ドクシャ=サン。アスカ・スカーレットデス。・・・いや、うん、ヘンな電波入っただけだからそんな目で俺を見ないでくれよ。流石にお前まで俺をそんな風に見たらいよいよ面目丸潰れじゃないか。

 

 クリスマスツリーの飾りつけを終え、年長組は施設裏で薪割り。始めてから約1時間。子どもの作業効率なんて微々たるもので、まだノルマは達成できていない。男の俺はともかくとして、女の子二人にはこの季節の薪割りなんてキツいだろ。つか、なんで薪割りよ。魔法があんでしょーが。

 愚痴ってても仕方ないので、ここらへんで溜息をつきつつ薪を割る。いい加減飽きてきた。そんな中、また例の白髪美少女が困り顔に。今度はなんだ?

 

  はあ。フーちゃんがお腹空いているからお菓子を分けてもいいか、と。一々かわいいなコンチクショウ。

 

 とはいえ、この子が持っているお菓子も二人で分けるにはちと小さいな・・・よし、ここはオニーサンに任せなさい!――――って大それたこと言っても自分で隠し持っていた物をポケットから出しただけなんだけどな。ほれ、コレやるから食べなさい。・・・なに?お兄からお菓子分けられたとか一生の恥じゃ?・・・ならあげないでもいいんだぞツンデレよ。俺は白髪美少女と二人で分けて食べ―――いや、うん。そんなグヌヌって顔しないでもあげるから。

 もぐもぐとお菓子を食べる二人。うん、やっぱりこういう場面は見ててほっこりする。可愛い女の子が口いっぱいに頬張りながらもぐもぐしてるって癒しだなぁ・・・片割れガサツだけど。

 

 ん?今度は寒いとな。まぁこんだけ冷えてれば寒いのは致し方なしって感じだけど・・・うん。ならこういうのはどうだろう。

 

 

  火でも、起こそうか?

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 これを才能というべきなのかどうか。このミッドチルダと呼ばれる世界に住む人間は割と見慣れているかもしれないであろうモノが、よくわからないが俺も使えたりする。寄せ集めた枯れ葉や小枝に向かって手を翳し、意識を集中させる。すると足元に三角形の文様が大きく現れて紅く発光する。自分の髪と目の色と同じ深い紅が、一瞬まばゆく光る。すると、盛られた枯れ葉と小枝に突如としてボッと音を立てて小さな火がともった。これには二人も目を輝かせながら感激している。

 

 魔法。そう呼ばれるモノを、俺は使えた。ちなみに他の人にはナイショだったりする。だってヘンに騒がれたくないし。三人だけの些細な秘密。そんな如何にも子どもらしい約束事が、俺達三人を繋ぐ物を強くしてくれていた。2人がこの施設に入ってから今まで、寝る時以外はほぼずっと一緒の、家族といってもいい存在。親なんていないし学校にいってるってわけでもない。普通の、同年代の子らとは全く違う日常だけど、それでも、コレはこれで楽しいし幸せ・・・なんだと思う。これから先も、こんな感じで生きていくんだと――――そう、思っていた。

 

 

 嵐は、突然やってくる。

 

 

 ストーブの熱が室内を温め、外の風が窓ガラスを揺らす。施設の応接室に、俺はどこの誰かもわからないおかっぱ頭の黒服さんと一緒にいた。

 

  はあ。聖王教会のシスターさん・・・ですか。そういやこの施設の管轄でしたっけ。・・・まぁ、その程度の知識ってだけですけど。

 

 簡潔に言うと、さっき裏でやってたたき火の一部始終をマザーとこの人に見られていて、こんなところに拉致られてるわけです。そんなにマズいことだったのか?あの魔法。―――あ、マズいってことでもないのか。それなら安心。・・・はあ、問題はじゅつしきの方、と。術式・・・って、あの三角形の奴って結構大事なわけ?

 結構な大事だったらしい。なんでも、アレは古代ベルカ式と呼ばれるもので、かなり貴重なものなんだとか。そんなものをなんで俺が?って疑問が浮かんだけど、どうやら彼方さんはそれどころではないっぽい。あ、ちなみにストーブの火は俺が魔法で点けました。いやー炎熱変換て便利だよね。冬はこうして暖をとれるし、何よりサバイバルにおいては大きなアドバンテージにもなる。

 

 はい、何でしょうシスターおかっぱさん・・・はぁ、聖王教会本部で。いやぁ働いてみないかと言われても俺まだ10歳ですよ?そんな子どもに働けとかそれなんて鬼畜・・・あ、そういや奉仕活動って遠巻きに働いてることになるのか。いやでもあれって残業とかないじゃないですか。・・・あ、残業ってないんですね。お金ももらえる、と・・・。そーいやもうすぐクリスマスだし・・・よし、ここはいっちょ働いてみますか。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 そんなこんなで聖王教会で働くことになりましたとさ。あ、働くっていっても子どもだからそんな大したことはさせられないってことで――――

 

  コラ!テメーまた手ェ洗ってねぇな!?――――年上ってだけで指図すんな?・・・よろしい、ならばOSIOKIだ。

 

 ってな感じで子どもの御守りですはい。しっかしこのオレンジ髪なんなんだいったい?まるで狂犬だぞ。さっきからガルルって唸ってるし。・・・あぁ、ちょうだいいところに来たシスターおかっぱさん。この子なんなんです?てか、働くって保育士じゃないんですけど・・・・はぁ、歳も近いから話もできるだろう、と。いやそれならリンネとフーカの凸凹コンビの方が・・・ああ、なるほど。こうなるって薄々感づいてたわけですかそーですか。というかこんなザマならあの二人には任せらんねーよな。で、魔法を扱えてコントロールもできてる俺ならもしもの時でもなんとかできるだろうと。才というかなんというか、見込んでくれたのは嬉しいけどこの子がこんなんじゃ取りつく島もないわけで。施設のガキんちょどもは割と最初から懐いてくれたからいいけど、この子の場合、どうやら貴女にしか心を開いてないっぽいし。

 

 ん、なんだオレンジ。・・・いや開いてないって、俺がここに来た時真っ先におかっぱさんの後ろに隠れたキミが何を言うかね。・・・え?あ、名前ね。シャンテっていうの。つかなんで名前教えてくれなかったのさおかっぱさん。

 

 ってなわけでシャンテの御守りがスタートしましたよっと。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 12月も中旬。今日も今日とてシャンテの御守り・・・の、筈なんだが。なんだかよくわかんねーけど、めっちゃおかっぱシスターとドンパチやってるんですがこれはいったい何がどうしてこうなったわけ?

 

  あ、ありのまま起こったことを話すぜ!いつものように御守りしに来たら年下跳ねっ返り幼女が騎士とガチのドンパチしてたんだ。なんだかよくわかんねーけどとりあえず中庭ですんなお前らァ!!

 

 まったく、いい年したシスターがなに子ども相手に本気になってんの!怪我したらどーすんのさええッ!?止めに入らなかったら今の大怪我してたかもだよ!つかお前もお前だ!トンファー的な奴ぶん回してるよりもっとやることあるでしょーよ!・・・って、なに二人してそんなハトが豆鉄砲でも喰らったような顔してんのさ。え?試験?なんの。・・・シスターになるための。え、シスターってこう教会でお祈りとかしてるイメージの聖職者って感じなんだけど凶器ぶん回したりもするわけ?シスターも色々あるんだなぁ。で、なんでそんな顔してんのさ。あ、結構ガチだったのね。まあそれはなんとなく雰囲気で察してたけど。ところで、ってなんでしょおかっぱさん。

 

 

  格闘技を、やってみないか――――と。

 

 

 とまぁそんな感じでよくわからない流れで何故かシャンテ共々シスター(戦闘要員)の皆さんと同じ訓練を受けることに。内容は、まぁ・・・言うのもはばかれるほど厳しいもんで。というかこんなの受けてたんだなシャンテ。ちょっと見直したぞ。

 

 いや、別にお前の事尊敬してもいいとか言われてもする要素が一つも存在しないんだが。あ!俺のクッキー!表出ろやこの狂犬幼女ッ!

 

  さて。そんなこんなで訓練以外では教会のシスター(一応男なので執事見習いという扱い)をちょいちょいやらせてもらえるようになったんだけど、最近あの凸凹コンビにまったく会ってないことに気が付いたので、とりあえず午前中で終わりな日を見計らって久しぶりに会おうと思い、今日にいたるわけだが・・・結果的にすっかり辺りは夕暮れ。急がないと日が暮れる。そんな道中に、目撃してしまった。

 

 

 フーカとリンネが、年上の男子たちに囲まれているところを。

 

 

 最初は遊んでいるだけなのかとおもった。でも、フーカの強張った、相手を睨む敵意むき出しの目から察するにそれはない。そしてその後ろで怯えるリンネ。それから――――フーカの頭に、水がぶっかけられた。明らかに虐めである。それに手を出さず、グッと拳を握るフーカ。今にも泣きそうなリンネ。そんな光景を見て、流石に黙っていられる程このアスカ・スカーレット、薄情ではない。

 

 

  気づいた時には、拳が相手の顔面にめり込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 いやぁ、我ながら律儀なもんだと思ったよ。フーカがあのガキんちょどもに手を出さなかった理由が、「お前はすぐ魔力で強化した拳でぶん殴ろうとするから喧嘩禁止」って約束を守ってんだから。あのねぇ、破ってもいいのよああいう時は。え?お兄との約束だから我慢した・・・なんだお前、いつになくしおらしいじゃないか。

 

  はぁ、お兄が頑張ってるから、年上のワシが頑張らんといかん、か。まったくこの子はいい子なんだかそうでないんだか・・・まあ実際いい子なんだろうけど。リンネも、あんな怖い中よく泣かずに我慢したな。偉かったぞ。

 

 2人を撫でてやると、嬉しそうに笑ってくれた。うん、やっぱり男女問わず子どもは笑ってるのが一番だなとおもうよお兄さん。え?発言が一々オッサンくさいのうって?前言撤回だフーカ、お前はOSIOKIだ!

 

  そんなこんなで、季節は過ぎていく。時と共に状況は目まぐるしく変化し、やがてすべてを変える。

 

 新暦0079年。笑顔の時は、突如として終わりを迎えた・・・。



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♯1

 アスカ・スカーレットの朝は早い。10キロのランニングから始まり、シャドウ、そして朝食後は自宅近くの浜辺にてスパー。これを毎日欠かさずやっている。もちろん、14歳という年齢であるため学校に行くのも欠かさない。

 

  つまり、何が言いたいかというと。

 

「ハードすぎるんだよなぁ・・・」

 

 いくら鍛える為、強くなるためだと言ってもこれは流石にキツイと音を上げる。リビングのテーブルにグデーっとなりながら溜息を吐きだして出た言葉に、家主の女性は苦笑いでエプロンを着こみながらキッチンに立つ。

 

「まあせやかて、それであの二人もアスカの事期待しとるんよ?もちろん、私も」

「そりゃあ、まあ・・・」

 

 それを言われると、である。何も言い返せずに頬を膨らませるだけしかできないアスカに、家主である女性八神はやては手を止めるでもなく、振り向くでもなく続ける。

 

「アスカがウチに来てから四年・・・家族も増えて、益々賑やかになったし、道場の子ども達にも人気あるし。ホンマ大助かりや」

「いやだから保育士じゃないッス」

 

 ここで否定しとかないと本当にこのキャラが定着しそうだから恐い。というか、なんでこんな子どもに好かれる体質してるかな俺は。そんなことを考えながらテーブルの上にダレていた躰を起こし、天井を仰ぎ見る。そこでぼんやりと、これまでのことを思い出していた。

  四年前。聖王教会騎士長であるカリム・グラシア経由でアスカのことを知ったはやては当時まだ孤児院暮らしだったアスカを引き取り、養子縁組をした。その際は院の子ども達から猛反発を喰らったが、それを宥めたのがフーカとリンネの二人だった。「お兄に頼ってばかりじゃワシらがダメになる。じゃけん、これからはワシらがお前たちのおねーちゃんじゃ」と。「おまえじゃ無理だろー」などと反抗もあったものの、二人の後押しもアリ、渋々アスカはこうして八神家にやってきた。それから現在までの間、色々騒動に巻き込まれながら(・・・・・・・・・・・・・)も、自身の強くなりたいという意志を強固にし、現在では八神道場で練習と学業に明け暮れる日々が続いている。

 

「将来はそっちの道もええかもわからへんよ?」

「いや遠慮しときます。俺、格闘技でやってくつもりなんで」

「言い切る辺り自信アリやなあ・・・、と、できたで。ホンマにラーメンでええの?」

「いいんですよ。いただきます」

 

 ゴトン、とテーブルに置かれる一杯の味噌ラーメン具なし。これにニンニクチューブで濃いめにした奴がたまらない、とオッサン全開の発言をして再び苦笑されるアスカ。ズルズルと音を立てて麺をすすり、幸せそうに頬張る姿を見ているとこっちまで空腹に襲われてくる。

 

  そういえば、最近心なしか太ったような・・・だってめっちゃ美味しそうに食べるんやもん。

 

 そんな言い訳を心中でしながらもそういえばと手を叩いてホロウィンドウを出す。コンソールを片手で操作してから、届いていた電子メールの内容を食事中のアスカへと見せる。

 

「これ、ヴィヴィオから届いとったよ。今年は私らは参加できひんけど、是非アスカにって」

「あ~・・・また、やるんスね」

 

 アスカの顔から血の気が引いた。真っ赤な髪とは裏腹にサーっと顔が青くなっていくのを見てニコニコと笑うはやて。何がそんなに面白いのかと聞いても、「逃げ惑う姿が滑稽なんやもん」とかいうドS発言でこちらのテンションが急降下するだけなのでやめて置く。どうあがいてもこの人と接戦では勝てそうでも舌戦では勝てそうにない。

 

「いやあモテる男は違うなぁ」

「主に年下から、ですけどね」

「あら、イヤなん?年下」

「いや別にイヤってわけじゃ・・・って、何言わせんですか」

「だって気になるやん。息子の恋愛事情って」

 

 息子って言われるとなんだか年齢差的にものすごく違和感がある二人の会話は、はやてのその発言にどう返していいかわからずにげんなりとしたアスカの沈黙で終わりを迎えた。そしてそこへ、時を見計らったかのようにベストなタイミングでデバイスである愛機、”ブレイブハート”が通信を知らせるコールを鳴らす。

 

『ヴィヴィオ様からの通信です。繋げますか?』

「もちろん」

 

 断る理由も、むしろあの子ならいつでもウェルカムだと付け加えて回線を繋ぐ。するとホロウィンドウが表示され、相手の顔が動画となって表示される。金髪で、左右色の違う緑と赤の瞳の明るい印象を受ける少女。控えめに言って、美少女であるがこの場合アスカ・スカーレットという少年は自重しない。

 

  すなわち、叫ぶことはもう決まっていた。

 

「ラブリーマイエンジェルヴィヴィオちゃあああああああああああああああああん!!!!!!!!!」

《うああ!?な、何言い出すんですか急にッ!?》

「ヴィヴィオ、狼狽えたらアカンよ。毎度の事なんやし」

《いや今初めてですよこの反応!?》

 

 軽い漫才をしつつ、満足したのかふう・・・と息をついてアスカは精一杯のキメ顔を作ってこう言った。

 

「こんにちはヴィヴィオちゃん。今日もかわいいね。いや、かわいいね」

《嬉しいんですけど、そのキメ顔のせいで何もかもが台無しですよ先輩・・・》

「ですよねー。で、どうしたのかな?」

 

 そして何事もなかったかのようにして本題に入ろうとするあたり、この子も割とタフな性格なのかもしれない。

 

《あ、メールでもお知らせしたんですけど、やっぱり直接お誘いしたくって・・・》

「なのはさん、娘さんを僕にください」

《ダメだよ~》

「アスカ、話進まへんからボケもホドホドにしーや」

「割と本気なんですけど」

 

 さっきまで保育士がどーとか言ってたわりにコレである。相手が相手なだけにわからないでもなかったりするが、これでは・・・と、言う前に画面の向こうのヴィヴィオは照れとこの年の乙女特有の嬉しさで顔が真っ赤である。憧れの先輩から、告白される。女の子なら誰もが憧れるであろうシチュエーションをサラッとボケに使ったにもかかわらずそれを真面目にとらえてしまう辺りやっぱりこの子は純粋だなとはやては親友の娘をみてほのぼのとする。

 

《え、えっとですね。話を戻しますとまた今年もみんなで合宿をやろうって感じで・・・そちらの予定なんかも聞きたいなって》

「もちろん空いてるよ。空いて無くても空けるけどね。例えそれがヴィータさんとザッフィーの地獄の特訓であても!」

「ほう、だったらヴィヴィオ、なのはに伝えて置いてくれ。このバカの馬鹿が治るよう全力全開でボコれってな」

 

 突如聴こえてきた声に振り向けば、仕事から帰宅したヴィータが上着を脱いでこちらに歩み寄っていた。どうやら全部話を聞かれた上になにやら地雷を踏んだらしいとまた青ざめる。身内に味方がいないとは、何とも哀れなものだと肩をすくめた。

 

《あははは・・・えっと、それじゃ出発は明後日になるので準備をお願いします。あ、集合は私の家になるので》

「オッケー、わかった」

 

 それじゃ、と言って通信を切る。そこでまたはやてがニヤニヤとしながらアスカに視線を向けた。

 

「モテモテやね~。天使からのお誘いもちろん受けるんやな」

「誘いは天使でも行き先地獄って言わないですかねこの場合」

「まーなー。でも地雷踏んだのお前だろ?ま、今回はアタシら全員仕事やらなにやらで参加できねーから、そこら辺は去年よりマシだろ」

「チーム変えでなのフェイコンビの集中砲火を受けた時の悪夢を俺はまだ忘れない」

「アレは酷かったなぁ」

 

 差し向けたのはアンタだけどな。そんなことは口が裂けても言えないので、大人しく黙るアスカ。とはいえ、と。あの合宿は自分にとって非常にプラスな経験を沢山させてもらえるし、何より今回は今までとは違い新人(・・)もいる。――――と言っても、その新人も知り合いには変わりないが。しかし、それでも。経験を積めるということはかなり大きい。これは行かなければむしろ損と言えるだろう。

 

 

  たとえ、その先に地獄が待っていても。

 

 

「現役で第一線で活躍してる局員とみっちり訓練できるんだ。しっかりモノにしてこねーとアイゼンの頑固な錆にしてやるから覚悟しとけ」

「相変わらず容赦ないッスね」

「お前にはこれぐらいがちょうどいいんだよ」

 

 ぶっきら棒に頑張ってこいと遠巻きに言うヴィータ。そんな幼くもとても大きな背を見て、アスカは静かに頷く。さて、これから準備に取り掛かろうと席を立った時、ふと思い出したかのようにヴィータを呼び止めた。振り返ったヴィータにアスカは言う。

 

「ミウラへのお土産、何がいいッスかね?」

 

 後輩へのお土産を訊かれ、ヴィータは少し考えた後に口を開く。

 

「温泉まんじゅうとかでいいんじゃねーか?」

「ですよね」

「アスカ、合宿行くんよね・・・?」

 

 珍しく自らツッコミを入れた八神はやてであった。



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♯2

 翌日、高町家。事前準備も済ませボストンバッグを肩にかけ威風堂々と現れたアスカ。なんでそんなに大げさに胸を張って歩きながら鼻息を荒くしているのかとツッコみをいれたくなるヴィヴィオだが、それをやったら後が長引きそうなのでスルーするこに決める。

 

「い、いらっしゃいませ・・・」

「やっはろー。・・・ん、俺一人?」

 

 玄関にあるであろう靴がこの家の住人+現在自分が穿いている分しかないことに首を傾げる。

 

「これから来ますよ。――――あ、噂をすれば!」

 

 呼び鈴が鳴り、ヴィヴィオがドアを開ける――――為に靴を履こうとした瞬間、アスカが一足早くドアを開けて開口一番にこういった。

 

「ウチの娘はやらんぞォォォォォォォォォッ!!!」

「やかましいッ!」

 

 すぐさま飛んできた拳が顔面にヒットし、哀れに沈むアスカ。この男は一々ボケを挟まなければ死んでしまう病気にでもかかっているのか。だとしたら一刻も早くそれなりに設備の整った医療機関に隔離しなくては。できれば、二度と出てこないように。そうとわかれば善は急げ、とばかりに愛機”クロスミラージュ”に促すティアナ・ランスター。外見の美しさとは裏腹に何ともエゲツナイことをするが、それが此奴の扱い方だと認知している為これはこれで正解なのかもしれない。

 

  だが、救急車を呼ばれてもどこもわるくないわけで・・・まあ、今殴られたから右頬がひりひりするけど。

 

「ティア、そこら辺にしとかないと。ホラ、ヴィヴィオ達困ってる」

 

 相方で相棒のスバル・ナカジマのおかげでなんとか呼ばれずに済んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「まったく、なんでったってアンタは毎回会うたびにそうなのよ。ちょっとはエリオを見習ったらどう?」

「そこで彼奴を出されると、なにも言えないんですよねー・・・あ、ヴィヴィちゃんコーヒーどうも」

 

 なんでその年でブラックなんて飲めるんだ。私だって未だに苦手なのに。そう聞こえないように吐き捨てて自分も一口。甘め、ミルク入りだ。車をまわし、迎えに行ったヴィヴィオの友人であるコロナ・ティミルとリオ・ウェズリーはオレンジジュースである。スバルはティアナと同じコーヒー。各々出されたもてなしを口にしながらホッと一息をつく。こんなのんびりしていていいものなんだろうかと思うが、これからのことを考えればこんな時間も貴重なのだとアスカは軽く何かに諦めをつけながらコーヒーを飲んだ。

 

「あとは・・・フェイトちゃんが来れば全員かな?」

「フェイトママ、今アインハルトさんを迎えに行ってもらってるんです」

「覇王っ子か・・・何もかもが皆懐かしい」

「いやつい二週間前くらいの出来事でしょーが」

 

 いやあツッコミがいるとボケがはかどるはかどる。そうケラケラと笑う14歳に疑いの目を向けながら思う。此奴、本当は自分達と同い年かそれ以上なのではないだろうか。そんな疑念を抱いていると今度はただいま、と声が響く。フェイト・T・ハラオウンの帰宅、同時にアインハルト・ストラトスが来宅したことを意味していた。ヴィヴィオにとっては憧れの、アスカとは別の意味(・・・・)での尊敬する先輩。感極まって思わずリビングから飛び出してわざわざ迎えに行く姿からは、かつて見た光景からは想像もつかないほど。

 

「いやあヴィヴィちゃんはホント天使ですね・・・」

「見てると癒されるよね」

 

 アスカの言葉に同意するかのようにスバルが呟く。母親のなのは同様、彼女が笑えばその場に花が咲きそうなほどにヴィヴィオの笑顔で元気一杯な姿は見る者すべてに癒しを与える。あれ?この子が映ってるホームビデオとかを紛争地域とかに流したら争い根絶できんじゃね?と、そんなことをマジで考え出すほどにアスカはその笑顔に魅了されていた。そんな彼女が手を引いて再びリビングに戻ってくる。ヴィヴィオに半ば強制的に連れてこられたアインハルトはどうしていいかわからない戸惑いと、ヴィヴィオのあまりにもの大胆さで顔を少し赤らめながら入ってきた。ふと目が合い、アスカは手を上げて挨拶をする。

 

「えっと・・・」

「こうして会うのは二度目だな。改めて、アスカ・スカーレットだ。よろしく、ハルちゃん」

「は、ハルちゃん・・・?」

「あ、流石にあだ名はキツかったか」

 

 フレンドリーに行くのが堅苦しくなくてよかったんだがな――――そう言って苦笑いするアスカ。それに慌ててアインハルトも自分の反応のフォローをしようとする。

 

「あ、いえ、そういうわけではなくて・・・」

「まあ次第に慣れるさ。今はちょっとぎこちないでもさ。・・・コイツの場合、それが嫌でもわかるようになる」

 

 フォローに入るノーヴェ。だが最後の方は明らかに何かに対しての諦めと「そういうものだから」という自己暗示をかけているような気さえしてきたアスカは彼女が一体、自分をどう認識しているのかを問うてみたくなる。しかし時間的にもそれをやっている余裕などない為、なのはとフェイトの引率の元それぞれの荷物を持って車に。そこから約一時間を費やし一行は次元港へ。向かうは御用達、次元世界”マウクラン”。アルピーノ親子の下へ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 次元世界”マウクラン”とは、もともとは無人の世界だ。しかし近年ある人物により開発が進められ、現在ではレジャーシーズンになるとここを訪れる渡航者も少なくない。運営するは若干14歳の少女とその母親、プラスα。今回は施設すべてを友人という間柄で貸し切りにし、営業している。紫の髪を風に靡かせ、真っ白なワンピースを着こなす少女こそ、この施設の設計者であるルーテシア・アルピーノだ。

 

「いや~いつ来てもすっげェや・・・」

 

 流石のアスカもボケるのを忘れて素直に感嘆の声を漏らす。それにドヤ顔で笑うルーテシア。何故だろう、ちょっと負けた気がする。というかこの子ここ数年で性格変わりすぎてやいませんかねぇ。もはや別人って言って差し支えない程なんだが――――久しぶりに会う友人にそう心中で漏らしつつ、自分の荷物をあらかじめ割り振られていた部屋に置いてテラスへとでる。この旅館、全ての部屋にこんな広いテラスが付いているとか、ホント何をどうしてこうなるんだと不思議に思いつつ、精一杯体を伸ばす。

 

「アスカ、荷物置いた?」

 

 開いたドアから廊下より覗く形で同室のエリオが顔を見せる。

 

「おう、エロオ。今回も期待してるぜ、お前とフェイトさんの一騎打ち!」

「期待通りに絶対にならないしそのあだ名だけは絶対に定着させないからね」

 

 鉄の意志と鋼の強さとでも表そうか。握った拳が今にもこちらに飛んできそうなのでそれ以上のボケは危険だと判断し、愛想笑いを返して部屋を出る。一階へと続く階段を降りながら、アスカはエリオから今日一日のスケジュール表を手渡された。

 

「うげぇ、やっぱ俺って大人組に割り振られるわけね…」

「とかなんとか言いながら結構本気になるよね、始まると」

「でなきゃ死ぬ。つか、俺資格は持ってても管理局に勤めてるわけじゃないんだけどなあ」

「え、そうなんだ?」

「いやいや、お前今までどう認識してたんだよ」

「だってアスカって元は聖王教会で騎士団に入ってたんでしょ?」

「見習いって扱いだったし、そう長くはいなかったけどな。少ししてから、はやてさんに拾われてるから」

 

 話しながら、自分が初めてはやてと出逢った時を思い出す。あれはちょうど、リンネとフーカをイジメていた子どもたちをボッコボコにしてから翌日だっただろうか。騒ぎを聞いたマザーとシスターシャッハが顔を真っ青にしていたのを思い出すと、笑いが出てくる。この少年、若干14歳にして心が歪みすぎではなかろうか。

 

 

 

 

  閑話休題(そんなことはどうでもいい)

 

 

 

 

 かくして、それぞれのメニューに沿っての訓練が始まる。無人のビル街が立ち並ぶ道路の真ん中で互いに距離を取って向かい合う、ジャージ姿のなのはとアスカ。今日最初の模擬戦は、いきなり高町なのはという名のラスボスが相手という地獄のような組み合わせから始まる。何故このような進行にしたのか、若干の悪意を感じつつも胸元に鎖でつながれた赤い宝石を手に取る。なのはのデバイス、”レイジングハート”とほぼ同型の待機形態をした愛機はアスカの意志に反応するかのように、握った手の中からまばゆく光を放っている。それは、アスカの闘志の表れでもあった。

 

  セットアップ。

 

 そう音声コードを唱えれば、ジャージからバリアジャケットへと早変わり。手足には展開式の装甲が備わり、白を基調としたパンツ、そしてジャケット。動きやすいように上着の丈は短めになり、所々に彼の魔力色と同じ紅のラインが走っている。全体的なシルエットで言えば、スバルのそれが一番近いだろうか。アシンメトリーな髪型は、長い方をピンで留め、普段より視界の広いようあしらわれている。戦闘形態へと姿を変えたアスカは、同じく真っ白なバリアジャケットを纏ったなのはと相対する形で構える。腰を落とし、右手は手刀のようにして前へ。左手は握りこぶしを作って胸の前で留める。なのはも、”レイジングハート”の戦闘形態である杖をさながら槍でも振るうかの如く両手で構えた。

 

 2人の臨戦態勢が整ったのを見届けたルーテシアの母、メガーヌがホロウィンドウを操作し、二人の間にカウントを知らせる数字が表示された。それが5から始まり……やがて0に。直後、轟音を轟かせてアスカにとって地獄とも言えるほど濃い合宿は幕を開けた。



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♯3

人生で初めて”恐怖”という感情を覚えたのは、マザーに皺の数を数えているところを目撃され、笑顔でボコられた時。あれは壮絶だった、この世の修羅が見えた。よくあの地獄から生還できたもんだ――――では、”死”という感覚を覚えたのはいつだろうか。

 そもそも死ぬというのは、医学的には心臓が停止、又は脳が機能しなくなった場合に起こる身体的行動あるいは機能の完全停止を意味する・・・・らしい。それが死という物ならば、その時に直面する死期というものはどんなものなんだろう。

 

  アスカ・スカーレット14歳。中身は20後半の少年は、二度目の死というものを目の当たりにした。

 

「もう!なのはママってばいっつもこうなんだから・・・」

「あははは・・・ごめんなさい」

 

 娘に怒られ正座で反省させられる母というなんともシュールな光景で昼を迎えた。昼食は一階のテラスにてバーベキュー。スタミナをつけ、きっちり休んで翌日の模擬戦に備える。これが毎回行われている合宿メニューだ。そんな中で、ただ一人毎回のように地獄を見てガクブルと震えて顔を真っ青にしているアスカは隅の方で膝を抱えている。

 

「あの、先輩。大丈夫ですか・・・?」

「アA、ヴぃヴぃちゃん。俺はだいzよーブだYO」

「もうママッ!恐怖のあまり先輩がなんだかよくわからない言葉使いになってきてるよッ!」

「うう・・・で、でもねヴィヴィオ?ママはもうアスカ君相手に加減してたら思いっきり殴られるからちょこっとだけ、ほんのちょこ~っとだけ、全力でやっても――――」

「ママ?」

「な、なにかな?」

「OHANASI・・・する?」

「・・・スミマセンデシタ」

 

 あの母にしてこの娘あり。ここ数年でなにやらよからぬものまで似てきてしまったヴィヴィオは、慰めるようにしてアスカの目の前でしゃがみ、頭をそっと撫で始めた。

 

「先輩・・・えっと、元気だしてください」

「ぐすん・・・もうお家帰りたい」

「そんなこと言わないで・・・ほら、お肉ももう少しで焼けますよ?」

 

 どうにかしてアスカを励まそうと努めるヴィヴィオ。初等科4年生に励まされる中等科2年。これではどちらが年上で先輩かなどわかったものではない。未だにいつもの調子に戻らないアスカに呆れたのか、ハァ、と溜息を残してリビングへと入っていくルーテシア。そんな彼女を見てエリオとキャロが追いかけると、何故か自室に入っていってしまった。少しの間があり、出てくるとその手には一枚の写真が。どうやら、今日撮ったものらしい。そういえば、と今日のことを思い出してみる。アスカを含めた元機動六課組は小学生チームとは別に訓練メニューをこなしていた。しかし、その時にルーテシアの姿はなかったことを思い出す。

 

「ルーちゃん、その写真どうするの?」

「まあ・・・見てればわかるよ」

 

 なにやら不服そうにムスッとしながらそれを持って体育座りでふさぎ込んでいるアスカの元まで歩み寄ると、持っていた写真を差し出した。

 

「これあげるから、元気になりなさい」

「ルー、それなんなの?」

「・・・なんで私のじゃダメなのよ」

 

 ボソッと呟くルーテシア。何をあげたんだろう?横からのぞき込むヴィヴィオ。そこに映っていたのは――――

 

 

 

  ――――ヴィヴィオの、水着写真。

 

 

 

 

「さ、ヴィヴィちゃん。ごはん食べよっか」

「え、いや、あの、今私の写真――――」

「なのはさん。貴女の娘さんは大変素晴らしい天使です。控えめに言って天使です。大げさに言うと女神です。貴女も女神です」

「私の事はいいんだ。でもねアスカ君、流石に控えめに言って天使ですはないと思うの」

「間違えました、女神ですね」

「うん、それそれ」

 

 もう嫌だこの二人。救いの目をフェイトに向けるも、それもうんうんと肯定の意を示すかのように頷くだけでヴィヴィオにとっての救いはどこにもなかった。

 

  ああ、お家帰りたい・・・・できれば、このおバカさん達のいないところがいい。高町ヴィヴィオ、10歳。親バカをカンストした母親二人とどうしようもなくダメ人間な先輩に恵まれてしまい、友人と最近できた尊敬と癒し要素のある先輩に囲まれて今日も頼もしく生きています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 時刻は、午後19:00。大人組は明日の模擬戦フィールドの最終確認とチーム構成の為外に。午後の訓練を終えた女子たちは今入浴中で、メガーヌとガリュウで夕食の支度をしている。そして、貸し切りの男湯に赤い頭が二つ。

 

「あ”~・・・いい湯だ」

「アスカってホントおじさんクサいよね」

 

 ほっとけ。そう突っぱねて再びだらん、と手足を湯の中で伸ばす。女湯と広さは同等の為男二人では手に余るその広い湯船にただただ脱力して身を任せれば、背泳ぎでもするかのように体がぷかぷかと浮遊する。雨をしのぐために設けられた屋根から波に従って外に出てみれば、そこには満天の星空が広がっている。ミッドでも星は見えたが、ここまで多くの、そして澄んだ夜景は自然ならではと言えるだろう。上から見れば、湯船が鏡のように反射して星の鏡とでもいうような幻想的な光景が広がっている。こうしていると不思議な気分になると、アスカは目を閉じた。

 瞼の奥に映るのは、あの日見た幼い笑顔。彼女たちと離れて暮らすようになってからもう4年が経とうとしている。あの子達はどうしているだろうか。今も元気にやっているだろうか。

 

  同じ空の下で、笑いあえているだろうか。それが気がかりだった。

 

 まるで自分だけが幸福な世界に来てしまったようで、アスカは少し心が苦しくなった。

 

「・・・なあ、エリオ」

「なに?」

「女湯、覗くか」

「ちょっと待って、いまの雰囲気からどうしてそうなるのか一時間くらい問いただしたいんだけど」

「男なら・・・いや、(おとこ)なら温泉に来てまで女湯を覗かないなど男子にあらず」

「ティアさん、僕のツッコミセンスじゃやっぱりアスカの相手は無理です・・・」

 

 ここに来る前、任せたとサムズアップをしたティアナの顔を思い出すエリオ。そういえばやたら何かしらの苦痛から解放されたっぽい清々しい顔をしていたなあとぼんやり思い出し、そこで気が付いた。

 

 

  あ、こういうことか。

 

 

 

「そこにロマンがあるなら!やるしか、ないじゃないッ!」

「いやそもそもなんで男ならやって当然みたいなことになってるの!?降りなよ、また去年みたいに見つかってヴィヴィオに暫く口きいてもらえなくなるよ!」

「それはイカン、今すぐやめ――――」

 

 なければ。そう言い切る前に、何やら女湯の方で悲鳴が聞こえてきた。イタズラされたとかではなく、本気の悲鳴だ。まさか、この無人の星に何か有害な生き物が・・・いや、もしかしたら、管理局の目をすり抜けて潜伏していた次元犯罪者かもしれない。

 

「ヴィヴィちゃん、聞こえるか!?」

《せ、先輩!》

「今そっちに行くから!」

《うぇ!?いや、あの、ああリオ!そっちは男湯――――》

 

 

  直後、ドーンという轟音を響かせて何かが頭の上に振ってきた。その前後の記憶は、未だもって思い出せない。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「おい」

「あんだよ?」

「こンのダメシスター!いいのは顔だけかお前は!?ヴィヴィちゃん達がうっかり怪我でもしたらどーすんだッ。ルールーがシスターシャッハに口きいてくれたからいいものの、営業妨害で訴えでもさえたら俺はお前を逮捕しなきゃなんねーんだぞごはんおかわり!」

「いいじゃんかよあたしも遊びたかったんだよはいごはん!」

「開き直ってんじゃねぇよ水色頭朝食うめぇな!」

「そっちこそ年上にグチグチ細かい事いってんじゃねぇよ赤色頭ありがとう!」

 

 褒めながら説教と開き直りをして、且つ朝食を食べると言う並列分断思考(マルチタスク)(物理)を繰り広げるセインとアスカ。「いつも元気ね~」なんてのんきなことを言うメガーヌとは反対に、イライラが爆発したティアナに制裁を受けたのは言うまでもない。そんな賑やか極まりない朝食をしっかりととった後は、昨夜なのは達が下見と準備を行った模擬戦フィールドへ。ゴーストタウンとなった市街地をモデルとしており、そのビルの廃墟と化した姿や所々草花の生えているコンクリートなど、細かな部分に至るまで非常によく再現されている。

 

「さっすがはルールー。これならいいガンプラとか作れそう」

「ガンプラ・・・?なんだかよくわからないけど、この私にかかればどんなモンでもアッと驚くようなものに変えてみせるわよ」

 

 自信満々のルーテシア。そして、フェイトとなのはからチーム分けが発表される。

 

「俺は・・・青組か」

「あれ?でもこれ、人数が偏ってますよね」

 

 配置を見ていたキャロがそんなことをもらす。

 

「今回ははやて達が参加してないからね。でも、その差を埋める意味を込めて今回は助っ人もいるよ」

「助っ人?」

 

 と、辺りを見回してもそれらしき人物は見当たらない。いったいどこにいるんだと首を傾げると、突然聞きなれた声がアスカの耳に飛び込んできた。明るくくだけた口調に、白と黒のセインと同じシスター服。背丈は小柄で、帽子からはオレンジのツインテールが歩くたびにふわりと揺れてる。それはまさに、アスカにとっては久方ぶりとなる再会だった。

 

「シャンテ・アピニオン、お呼びに預りただいま参上!・・・なんてね」

「あ、チェンジで」

「ちょ、久しぶりに会った幼馴染に開口一番がそれ!?」

 

 なんとも締まらない雰囲気のまま、シスターシャンテ。参戦。



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♯4

「はいみんな集合ッ!」

 

 突然の招集にアスカ属する青組は戦闘態勢からゾロゾロと集まってくる。そして、審議が始まった。

 

「ねえねえ奥さん、あの子参戦ですってよ?やぁね、最近の若い子ったら」

「いやアンタと一つか二つしか年齢変わんないでしょーが。というか何事かと思えばそんなこと?」

「そんなこととは何だそんなこととは。重要なことだぞこれは」

 

 またクダラナイことを。そう溜息をつくエリオ、ルーテシアはこのままスルーしようかとも考えたが後々駄々をこねられても面倒なので一応付き合おうことにする。

 

「ハイハイ。んで、何がそんなに重要なのよ」

「胸囲の格差社会」

「きょうい・・・?」

「シャンテさんって、そんなに脅威なんだ・・・ッ!」

 

 何故か気を引き締めるリオと、彼女の実力をある程度知っているヴィヴィオはリオと同じように険しい表情に。しかし真意がわかってしまったエリオは顔を真っ赤にして口をパクパク。ルーテシアは今にも飛び出してしまいそうな己の拳と怒りをワナワナしつつ何とか抑え込み、唯一なんのことかさっぱりわかっていないなのははかわいらしく首を傾げた。

 

「なのはさんって、やっぱヴィヴィちゃんのお母さんだよなぁ」

「そうだね~。で、アスカ」

「はい」

「向こうでティアが、後でOHANASIだって言ってるよ」

 

 試合後も地獄が確定したアスカであった。

 

 

「・・・アレ?私って、もしかしておいてけぼりくらってる・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 初めて出逢った日のことを今でもよく覚えている。当初は他人に対しても自分に対しても、常に何かに警戒心を抱いていた。大人たちにはもちろん、同年代にだって見下されるのは我慢ならなくてよく喧嘩にも明け暮れた。育ちは決していい方とは言えないし、所業だって褒められたものではない。

 

  貧困地域の、スラム街育ち。わかりやすく言えば、そんな場所が自分の育った場所だった。

 

 そんなゴミの吹き溜まりみたいな場所から、連れ出してもらって。あったかい手に引かれてたどり着いた場所は、餓えに苦しむ者も寒さに震える者もいない、穏やかで綺麗な笑顔溢れる場所。ベルカ領にある聖王教会本部、そこへと自分はやってきた。なんでも、シスターをやってみないかということらしい。言葉遣いも他人とのかかわり方も荒いしわからない自分がシスターなど務まるはずがない。ましてや、この人のように誰かに笑いかけるなど。睨みを利かせる事なら得意ではあるのだが。それと真逆、ましてや慈しみの心なんてクソくらえと思って生きてきたのだから、ここはいかんせん眩しすぎる。

 

  そんな私が、シスター。笑い話もここまでくるともはや苦笑しかでてこない。

 

 馬鹿々々しい。でも、不思議と人間の順応力という物は優れているようで。いつもどこかに連れまわされている内に、ある程度の関係者とは打ち解けられるようにはなっていた・・・・と、思う。多分。それでもまだあの人以外では、話すことすら少しの窮屈さはあった。そしてそんなある日、アイツと出逢った。自分より年上で、なんだか気に入らなくて。やれ「おやつは手を洗ってから」だの「食事は残さず喰え」だのと色々と口喧しいにもほどがある。オマケにこれで喧嘩も強いときたもんだからもう手に余る。ここに来る前は、誰にも負けない自信と実力があったのにここに来た途端コレだ。このままではいずれ、また子どもだからと見下される。

 

  そして、あの人からも見放される。

 

 考えてからの行動は早かった。なんでもシスターには騎士職も兼ねた戦闘要員の者もいるらしい。コレだと思った。自分の力を見せるにはいい機会だと。そしてそれからはアイツに隠れて慣れない勉強の毎日。最初はもう紙媒体の物を見るだけで吐き気を催すほどに嫌いになりかけたが、それでも成果が出るのを見るたびに嬉しかったし、教えてくれるあの人も笑ってくれた。それをもっと見たくて、さらに努力した。その結果、デバイスまで与えてもらって。いよいよ、その全てを出し切る時が来た。

 

  だと言うのに。そんな時に限って、アイツがやってきた。

 

 邪魔するな。ただそう一言怒鳴ってやろうかと思ったけど、アイツは本気で自分を心配してくれていたことに驚いた。アレだけ喧嘩して、拒絶して、嫌々だと思っていたのに。あの人に食ってかかるほどに、自分のことを、心の底から案じてくれた。それがたまらなく嬉しくて、訳が分からなくて。今までこんな感情、他人に抱いたことなんてなかったのに。出逢ってきた人間は皆、敵だった。敵にしか見えなかった。そんな自分を連れだして、広い世界を見せてくれた人。そして、初めて長く付き合った少年。多分、これから先もこんなことないくらいに沢山の出逢いと初めてを教えてくれた人たち。そんな大切が溢れているこの場所がいつの間にか大好きで、大事に思えて。初めて、本当の意味で強くなりたいと思った。

 

  だからこそ、今日は魅せてやる。自分と離れていた時間を、後悔するほどに。

 

 

「ヘッヘッヘ・・・アスカ、久しぶりだねぇ。元気してた?」

「真っ黒で変な笑い方しながらトンファーをブンブン振り回すような知り合いを持った覚えはない」

「いやあの、ツッコミはごもっともなんだけどさ。本気で忘れられてるんじゃないかって軽く不安なんだけど」

「んなわけあるか。じゃじゃ馬だったおまえと距離を縮めるのにどれだけ胃に穴を空けたと思ってる。おかげでリンネはふてくされるし、フーカに至っては顔を合わせるだけで殴りかかってくる始末だったんだぞ」

「それはなんというか・・・ゴメンナサイ」

 

 あれ?なんでこんな話してるんだっけ。冷静になった頭でよく考えてみれば、今はもう開始のゴングが鳴った直後だ。エンカウントした――――というか、そうなるよう動いた――――アスカに久々の再会と宣戦布告を言ってやろうかと思ったが、何故か謝罪をするハメに。

 

  というか、リンネとフーカって誰。

 

「えっと・・・シャンテも先輩も、もう試合始まってるんですが・・・」

「そういやそうだった。てなわけだシャンテ。再会の挨拶はこれくらいにして、今は試合に集中しようぜ」

「挨拶なの!?今のが挨拶なの!?」

「まあまあ。ってなわけでヴィヴィちゃん、リオちゃん。悪いけど、ここは二人っきりにしてくれないかな」

 

 ふざけたテンションから、その一言で空気が変わったことをこの場の誰よりも付き合いが長いヴィヴィオは表情を見ることなく察した。「わかりました!」とだけ返し、二人はその場を離れてフィールドの奥へと進んでいく。その後ろ姿を見送ったあと、再びシャンテに向き直る。目が合うと、その面立ちからはかつての尖った、他人を拒絶するような雰囲気はすっかりなくなり。一見すれば、人懐っこい印象の明るい女の子。

 

  その笑顔に、闘志が宿っていなければの話ではあるが。

 

「わざわざ人払いまでするなんて・・・いいの?このアタシと1on1なんてしちゃってさ」

「むしろこっちのエースはヴィヴィちゃんだし、スゥさんはノーヴェとマッチしてもわなきゃ困る。それにフェイトさんの速さについて行けるのはエリオくらいだし、ルーはフルバック。なのはさんはティアさんと撃ち合っててくれないと数の均衡を保てないんだよね。それに、現状最年少組の中で最も強いハルちゃんはヴィヴィちゃんじゃないと抑えらんないし。コロちゃんのゴーレムクリエイトも初見殺しだから俺には分が悪いからリオちゃんでないと対応できないからさ。ンで、そーなってくると俺が相手できるのっておまえしかいないわけよ」

「アスカが頭を使ってる・・・聖王様、哀れなおバカに頭脳の救済を」

「おいそこの万年見習いシスター(笑)が。とっととかかってこいよ」

「誰が(笑)だッ!もう一人前だっつの!」

 

 唸りながら愛機”ファンタズマ”を振りかざすシャンテ。瞬間、踏み込んだと思ったら視界から突如その姿を消す。気配を感じて振り返れば、既に目の前まで彼女の剣がその刃を煌めかせ眼前にまで迫っていた。それをなんとか特殊性のガントレットで防御する。ガキンッ!と金属同士がぶつかるような音を響かせた後にシャンテは詰まっていた距離を今度は最初のように5Mほど離して着地した。

 

「フ~、あっぶね・・・」

「初見で防ぐとは思ってたけどああもあっさりいかれるとはね・・・シャンテさん、ちょっぴりショックかも」

「だったらそのままショックで動けなくなっててほしいんだけど。つか、シスターがそんな卑猥な服着てていいのか?」

「い、いいんだよ!これは動きやすさ重視なのッ」

「あと、俺と色が被る!なんで赤なんだよ違う色あったろ!」

「こ、これは別に、その・・・あ、赤はアタシの好きな色なんだからしょーがないだろッ!」

 

 そこで、ハッとなる。走った寒気にその場を跳び退けば、直後に地面を抉る炎を纏った拳。開かれた装甲から赤い粒子を散らしながら振りぬかれたそれは、あっさりと地面に小さなクレーターを作り不発となった。

 

「ちょ、乙女の純情を利用するとかこの外道!」

「乙女の純情?なんのことか知らんが俺は苦情を言って奇襲をかけただけなんだが」

 

 いわれのないツッコミをくらい納得のいかない顔で首を傾げるアスカ。またしても口が滑りそうになったシャンテは我ながらどうしようもないわかりやすさに顔を紅に染めつつも構え直す。

 

「だぁもう怒ったもんね。ちょっとは手加減してあげようかと思ったけど、やーめた。本気でブチのめしてあげるよ・・・!」

「ハッ、その言葉。そっくりそのまま返してやるぜ」

 

 直後、拳と刃が交錯した。



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♯5

 少年がその拳を振るえば、衝撃と同時に炎が舞い上がる。その足を振りぬけば、その軌跡に真紅の華がもうもうと咲く。毛色と、瞳と、纏う服の色。名にスカーレット(真紅)の名を冠するだけあって、鮮やかな紅が青空と無機質なコンクリートの灰とに彩りを添えていく。しかしその炎は身をも焦がすほどの力を持っていた。現に今、一人の少女がその炎に呑まれ陽炎のように揺れて消える。そんな光景を物陰から気配を消して注意深く眺める少女は、かつて対峙した時の少年と今の少年の実力が天と地ほどの差が開いていることに驚愕し、また自分の今できることを思考する。

 

(わ、また一体消された・・・彼奴、どんだけよ)

 

 自慢の分身術ももはや見慣れさせてしまっている。子どもの頃、ムシャクシャした時は決まってこの能力を使ってイタズラしていたのが今になってあだとなるとは誰が考えようか。それにしてもあの時は心から笑えた。初めてこの幻術を見せた時はそれはもう尻もちをついて驚いていたっけとクスクスと笑う。今にして思えば、この能力を初めて荒事以外に使ったのも彼が初めてかもしれないと聖王教会シスター兼騎士見習いのシャンテは思い出す。

 

 

  もう、あれから5年近く経つのか。なんだか懐かしいな。

 

 

「クッソ、シャンテの奴・・・さっきから幻影ばっかりばら撒きやがって」

『それが彼女の作戦なのでしょう。マスターはシスターシャンテの事はよく存じていますね』

「ま、フーカとリンネを除いたら付き合いが長かったのは彼奴だしな。何だかんだで八神家にお世話になるってなった時も連絡は取ってたし」

『ええ。よく会えないのか、予定は空いているかと、シスターが言っていたのを記憶して――――』

「何勝手にねつ造してくれてんのよアンタはッ!?」

 

 耐えかねなくなって顔を真っ赤にしたシャンテが建造物の中から飛び出してきた。ツッコミをいれつつ、間合いを一瞬で詰めて愛機を振り下ろす。その太刀筋は見習いと言うには鋭く、そして的確にこちらの急所を狙ってきていた。死角からの攻撃。冷静さを少し欠いているとはいえ、この動きは師であるシスターシャッハの教えの賜物だろう。が、それで墜ちてしまうほどアスカも甘くはない。シャンテの行動に気付いて左に跳んで躱し、地面に手をついてハンドスプリングの要領で手をバネのようにして跳び、着地する。

 

「人聞きが悪いこと言うなよ!ホントのことだろ!」

「そもそも連絡してないし、お前の事なんてどーでも―――」

『えっと・・・アスカ。今度の週末、会えないかな・・・?』

「ワーワーワーワーワーッ!!」

 

 これが証拠だと、善意で録音データを再生するブレイブハート。そんなものをいつの間に撮っておいたんだと聞けば、『マスターのネタ肥しです』と返ってくる。このデバイス、些か狂ってると思うがアスカからしてみれば自分に似てきたなぁと喜びを覚えることだ。・・・・弄られる側にいたっては、たまったものではないが。

 

「こんのっ、主人が主人ならデバイスもデバイスかよ!」

「いやぁ、案外かわいいトコあるんですねぇ。シャ・ン・テ・ちゃん」

『は、はやてさん!シャンテと約束しちゃったけど何着て行けばいい!?』

『はいはい、もーアスカはこういう時は年相応やね~。そこがかわええんやけど。今お母さんが選んだるから待っときや』

 

 そしてすかさず流れ出す、これは先ほどのシャンテとの会話の後のアスカとはやての会話だ。結局この後は会うことは叶わなかったが。

 

「~・・・・ッ!」

「いやぁ、案外かわいいトコあるんですねぇ、ア・ス・カ・くん」

「ぶっ潰すッ!」

「かかってこいやぁッ!」

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

「このバカッ!」

 

 ゴン、という重い音をたててルーテシアの拳がアスカの脳天を直撃した。シャンテとの一騎打ちは魔力を使いすぎの大振りオンパレード。おまけに相手のHPを0にできず撤退を許してしまうというズタボロな結果に終わり、回復の為転移魔法で戻されて今に至る。言い訳をしようにも、ルーテシアの怒りはごもっともであり、作戦の中枢に位置するアスカを下げてしまったことで若干ではあるが押されてしまっている状況になってしまった。なのはが何とかアインハルトを止めたものの、このままでは数の均衡を崩され畳みかけられない。

 

「まったく、だからあれほど真面目にやれっていってるのに・・・」

「すまんルー。次は真面目にやるからさ、このとーりっ」

 

 手を合わせて深々と頭を下げるアスカ。フン、とそっぽを向くもここまでされて許さないというのもなんだか自分が悪い気がして釈然としない。しかし、やったことは重大なわけで。取り返せないことはないが、それでもここで許してしまうと・・・・などとジレンマで揺れるルーテシア。そんな彼女の耳に、リオから通信が入る。

 

《ルーちゃん、ティアナさんの姿が見えないよ!》

 

 コロナを下し、先を進んだリオからティアナが姿を消したとの報告が入ってきた。既に作戦は第二段階に入っている。アスカがシャンテを下したタイミングで数はこちら側がわずかに有利になった。そのタイミングで発令した二対一のツーマンセル方式での撃破指令。これによりある程度の展開が望めたが、彼方も一筋縄ではいかず押し切られている組も存在する。そして、このタイミングでティアナが姿を消した。それが意味するのは・・・・――――

 

「青組のみんなに通達します。今から大きいの撃つから、合図したら下がって!それからアスカ君!」

「はい!」

「名誉挽回だよ。準備が整うまで私の護衛、できるよね?」

「なのはさんの背中を守れるなら、喜んでッ!」

 

 回復も充分にされたアスカがフローターフィールドを形成しながらなのはの近くへと跳ぶ。配置に付いたのを確認するやいなや、なのはは魔力を収束させ始めた。

 

「させるかァッ!」

 

 威勢のいい叫びと共に黄色いレールが目の前を走る。ノーヴェだ。それを確認するやいなや、繰り出された蹴りを拳で受け止める。なのはに到達する前に、アスカが間に入って妨害することに成功した。

 

「奇襲をすんのにこえだしてちゃ意味ないぜノーヴェ!」

 

 しかし、ノーヴェは笑う。まるであざ笑うかのような彼女の笑みに危機感を覚えたアスカは背後のなのはを見る。感じた気配は・・・・アインハルト。先ほどなのはによってダウンさせられたダメージも回復され、既に拳には魔力が満ちている。そして自分はノーヴェを抑えている為動けない。

 

 

  このままでは・・・。その時だった。

 

 

「やらせないは、こっちもおんなじ!」

 

 アインハルトの死角から跳びあがる影。母と同じくサイドポニーの髪型に普段とは違うキリッとした顔つきで立つその姿はまさに格闘家と言って差し支えないほどの佇まいだ。

 

「ヴィヴィちゃん!」

「私だけじゃないですよ!」

「そうそう!」

 

 そして、ノーヴェと同じく空を走る青い道。頭上から繰り出される拳を何とかシールドを張ってそらすアインハルトだが、これで完全に奇襲作戦は失敗に終わってしまった。

 

「チッ、もう追いついてきやがったのか」

「でも、そのおかげで魔力もだいぶ使っちゃったかな・・・」

「なるほど・・・一度下がったハルちゃんがここにいるのはノーヴェの仕業ってわけ、ね!」

「その通り。あえてティアナが戦場から姿を消すマネをして注意を反らし、アタシとアインハルトがおそらく収束砲を撃つためにチャージに入るであろうなのはさんに奇襲をかける。アタシが囮でお前を引きつけてアインハルトが一撃で落とすって手はずだったけど・・・ま、結局は失敗だったわけだ」

 

 拳と拳、蹴りと蹴りをぶつけながら両者は激しく軌跡を描く。このまま抑えるのはいいが、ここではなのはにトバッチリがいかないとも限らない。ここはやはり、別の場所に移すのが最善か。

 

「スゥさん!」

「オッケーアスカ!」

 

 スバルがアインハルトを、そしてノーヴェをアスカが、それぞれ投げの体勢にはいる。ここでこれを許してしまったら遠投されるのは目に見えている。せっかくここまで来て振出に戻るなど、あってはならない。二人は地面に根っこでも生えたがごとく踏ん張り、足払いにも耐える。

 しかし、スバルがアインハルトを抑えたことでフリーになったヴィヴィオが魔力スフィアを展開してノーヴェとアインハルトの足を払う。それにより機を見出した二人は魔力で強化した腕をフルに使い面一杯投げ飛ばすことに成功する。

 

「あんのバカ、なんて腕力だよ・・・ッ!」

 

 我が姉ながら異常だと、ノーヴェは地面に着地して飛ばされてきた方向へと目を向ける。既に桜色の光はフィールド半分まで吹き飛ばされても視覚できるほどに大きく膨れ上がっていた。

 

「けど、ティアナだって負けてねぇ。そーだろ!」

《あったりまえでしょッ!もういいわ、下がって!》

 

 その通知はアインハルトにも届いていた。そしてなのはとティアナ、師弟の必殺の切り札がそれぞれさく裂する。轟音を轟かせ、建造物を破壊しながら膨張する魔力の本流は全てを呑み込まんとフィールド全体へと拡散する。

 

「マズい、ヴィヴィちゃん!」

 

 巻き込まれる、そう察知したアスカはいの一番でヴィヴィオを抱える。ひざ裏に右腕を、そして左腕で彼女の背を抱えて足元に魔力を集中させる。

 

「ちょ、先輩!?」

「喋ってると舌噛むよ!?相棒ッ」

『いつでも』

「よし・・・”抜剣”(ばっけん)ッ!」

 

 コールと共に脚部の装甲が展開され、そこから真紅の粒子が散る。魔力が高まり、それがやがて炎となって吹き出してくる。叫びをあげて力いっぱいに足場を蹴れば、天高くへと跳びあがった。それにより間一髪のところで難を逃れ、ヴィヴィオを守ることに成功する。しかしそれて引き換えに自分の魔力もほぼ空っぽに近い状態にまで追い込まれてしまった。

 

「・・・、ヴィヴィちゃん」

「は、はい!?」

「たぶんだけど、あっちはティアさんがまだ生きてる筈だ。あの様子だと、相殺しちゃった」

「はい・・・」

「俺はもう戦える状態じゃないから、残った魔力全部使ってきみを下まで安全に降ろす。そうしたら、後は――――」

「私がティアさんを抑えて、ですよね!」

「ああ。頼めるかい?」

「もちろんです!」

 

 後輩の頼もしい返事に頭を撫でると、嬉しそうに眼を細めた。それを確認して今度はヴィヴィオを背負い、迫りくる地面に向かって両手を突き出す。

 

「ありったけの火力でぶっ放す!抜剣ッ!」

 

 残った魔力を全て使い、さながらロケットがエンジンに点火したがごとく炎を噴射する。それにより落下速度を極限まで弱め――――ヴィヴィオの下敷きとなり、着地した。それによりライフは0。あとの事をヴィヴィオに託して、アスカは意識を手放した。



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♯6

今回は短いデス


 昼間の青空から打って変わり、現在は陽も暮れて夕食も済ませた頃。模擬戦の激しさからくる疲労により小学生組+アインハルトはぐったりとベッドで横たわっていた。

 

「もう動けない・・・」

 

 リオがもぞもぞとシーツの上で動きながらそう声を絞り出す。眠気は不思議とない、遊びたいという子どもならではの欲求はあるにも関わらず体が言うことを聞かないことがジレンマだった。どうしたものか、そう思っているとドアがノックされる。返事を返せば冷えたレモネードを人数分のコップに注いだものをトレイに乗せて運んできたアスカとルーテシアだった。

 

「あらまあ、みんなものの見事にグロッキーだね」

「そういうルーちゃんは流石だよね・・・」

「先輩も、なんていうか凄いですね。私とノーヴェさんだけでなく、シャンテさんも相手にしていたというのに」

「ま、これも年長者の成せる技っていうのかな。と言っても、実際はハルちゃんといっこしか違わないわけだけど・・・はい、疲労回復用のセイン特製レモネードだよ。味の保証は毒見したエリオが保証するよ」

「待ってください、今何か不吉なワードが聴こえた気がするんですけど」

 

 そうは言っても実際毒なんて入っているわけがないので手渡されたものを受け取る。するとドアを開けた時にも嗅覚を刺激したかぐわしい爽やかなレモンの香りがより一層強く感じられ、それに反応してか体もわずかに言うことを聞いてくれるようでなんとか体を起こす。ベッドのシーツを汚さぬようしっかりと持ちながらストローから中の液体を体内に流し込む。爽やかな香りと味。甘すぎず、かといって味も薄すぎずとちょうどいい塩梅のそれは疲れ切った心身に染みわたるようだ。

 

「ところでハルちゃん」

「はい?」

「合宿、どうだった?」

 

 明日で最後となる日程を前に、アスカはアインハルトに問う。ミッドにいた頃はまだ渋っていた彼女だったが、周りの熱気ややる気に刺激を受け今では率先してメニューをこなすほどになっている。しかし、それでもまだアインハルトには小さくくすぶっているものがあった。それは、自らの在り方と強さという概念の価値観の問題。自らの先祖、覇王クラウスの記憶を色濃く受け継ぐ彼女にとって、今の状況は目指すものからはかけ離れたことではある。それは忘れることはなく、今でもアインハルトを悩ませている種の一つだ。覇王流が、クラウスの積み上げてきたものこそがこの世界を統べるに相応しいと。だが――――

 

 

 ――――言いたいことは、まあわかったっていえばわかったけどさ。じゃあ、きみ(・・)の求めてるものってなんなのさ?

 

 

 あの時、街頭下で交わした言葉が脳裏をよぎる。彼は今と変わらない、真っ直ぐな瞳と言葉でそう言った。真に己にとっての強さとは何なのかと。そしてここに来る直前、ノーヴェにも言われたことがある。

 

 

 ――――この合宿が終わったら、おまえの答えを聞かせてほしい。

 

 

 答え・・・・。今まで漠然とした目的の中で探していたかもしれないこと。でもいつしか忘れていたこと。クラウスの無念を自分が成し遂げたい。できれば、納得のいく形で。でもやっていたことは結局ただの独りよがりで。過去の記憶を言い訳にして、ただがむしゃらに、その記憶から逃れたくてやっていたに過ぎないのかもしれない。だとしたら・・・この胸のモヤモヤはどうしたらいい?どうしたら晴れる?どうしたら・・・・。そんな中で、出逢った鮮烈。そして――――敗北。烈火の炎は言う。それでもいいと。でも、それは自分自身なのかと。自らに土をつけた男は、どこまでも素直で愚直なまでにブレない。芯の通った、しっかりとした意志の宿る真紅の瞳が今でも自分を映し、しかしながらその色は優しさを湛えている。まるで、微笑みかけるかのように。

 

「・・・自分の観ていた世界が、とても小さく感じました」

 

 黙って、ただひたすらにアインハルトの言葉を待つ。

 

「そして・・・まだまだ、強くなれる、強くなりたいと。反省点も見れました。今の私では、きっと・・・・」

 

 クラウスも、認めてはくれない。その先を綴ることなくアインハルトの言葉は止まる。それにアスカとルーテシアは互いに顔を見合わせてホロウィンドウを広げる。

 

「それなら、こういうのはどうかな」

 

 映像に映し出されているのは、何かの大会の開会式だろうか。スタジアムに集った男女が規則正しく整列し、その先頭に立つ眼鏡をかけて何かを言っている少女の言葉に耳を傾けているように見える。音声はないが、みな顔つきが真剣そのもので厳粛な雰囲気からそう感じた。

 

「これは?」

「あ、それって前回のDSAAの開会式の映像ですよね」

「DSAA?」

 

 リオの言葉の気になった単語を訊き返す。

 

「ディメンション・アクティビティ・アソシエイション・・・・公式魔法戦競技会の略ね」

「出場資格は10~19歳までの男女混合。全管理世界から若い魔導師たちが自分の力を競う為に集まった大会――――インターミドル・チャンピオンシップ」

「今年からは私達も参加資格があるんで、初参加するんですよ!」

 

 ヴィヴィオが嬉々とした表情で半ばオドオドしているようなアインハルトに言う。

 

「この大会には、色んな世界から色んな競技選手たちが集まる。その規模は毎年違うが、おそらく今回のはかなり多いだろうな」

「ええ。そしてこの大会の予選を突破し、首都本戦にコマを進めて」

「そこで勝てば・・・文句なし、次元世界最強ファイターって訳だ」

 

 次元世界最強。その言葉に、心が踊った。沸き立つ興奮、高まる高揚感。この舞台に、もしかしたら・・・・。そんなアインハルトに、ヴィヴィオが言う。

 

「アインハルトさん。私、今年からこの大会に出るんです。もちろん目指すは優勝・・・でも、それよりももっと、やりたいことがあります」

「やりたいこと?」

「はい。・・・・この大舞台で、アインハルトさんと、戦いたいんです」

 

 真剣な瞳。目の前の彼と同じような、あの時見た真っ直ぐな瞳がアインハルトをとらえる。そして、それに返すように自分もヴィヴィオを見据える。そして。

 

「・・・わかりました。私も、この舞台に立ちたい・・・この大会に、私も参加したいと思います」

 

 待ってました。そう言わんばかりにアスカが笑った。

 

「そうと決まれば、早速ノーヴェに報告と・・・あとはデバイスだな。そっち方面は俺に任せてくれ。俺も含めてバリッバリの古代ベルカ専門みたいなもんだからな」

「アンタは違うでしょ」

「使ってる術式は一緒なんだから問題なし!よし行くぞルー!」

「あ、コラ待ちなってば!・・・アインハルト、とにかくデバイスは任せてくれて大丈夫だから。貴女は貴女でできる事、やってくれればいいから。ちょっとアスカ!?」

 

 そう言って出て行くルーテシア。高まる胸の鼓動を抑えようとしてもどうにもならないほどの高揚を抱えたままアインハルトはヴィヴィオ達と大会への想いを語り合った。

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

「・・・まったく、なぁにが年長者の成せる技よ。いっぱいいっぱいのくせに」

「いや~はは、ルーにはバレてるか」

 

 追いかけて行けば案の定。肉体が悲鳴をあげているのは自分も同じだと言うのにこの男は色々と無茶をする。部屋から離れた廊下の壁に背中を預けて座り込んでいる姿を発見し溜息をついた。

 

「あたりまえでしょ。アンタの事なんてわかんないことなんてないわよ」

「さっすがルー。こりゃ勝てないわ」

「ホラ、肩かしてあげるから。立てる?」

「面目ない・・・」

 

 苦笑いを浮かべながらルーテシアの介抱を受けるアスカ。彼女に寄り添ってもらいながら、自分の部屋へと戻る。

 

「そんなんじゃ、大会で勝てないわよ」

「心配ご無用。それまでにはきっちり仕上げるからさ」

「フン、どーだか。アスカのことだから絶対土壇場になって風邪とかひきそう」

「そういうルーこそ、いざって時に体調崩しそうだよな」

「私は自己管理しっかりしてますからご心配なく」

 

 ぴしゃり、と論破するルーテシア。たとえ同い年でもお前には負けないという意地のようなものを見せつけアスカを負かす。

 

「・・・ね、アスカ」

「んー?」

「私、絶対勝ち上がるからさ。そしたら・・・私と、戦ってよ」

「なんだよ急に。言われなくったって戦うさ。ヴィヴィちゃんもリオちゃんもコロちゃんも、それにハルちゃんだって。俺は皆と全力の真剣勝負がしたいさ」

「違うわよ」

「何が?」

「・・・強くなったのよ、あの時と比べて。それを見てほしいの。もう、あの頃の泣いていた私じゃないってとこ」

 

 そう話すルーテシアの横顔は、とても真剣で。少し頬を紅に染めながらも、しっかりとした言葉でそう言った。自分の成長を見てほしいと。それは、小さいころ、暗い孤独にとらわれていた自分を救い出してくれた少年に向けた決意の言葉でもあった。

 

「・・・ま、勝つのは俺だけどな」

 

 なんだか、返事を返すのが照れくさくて。ぶっきら棒にそう返して互いに見えないよう、小さく笑みを浮かべた。



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♯7

アスカ・スカーレットは学生である。故に昼間は学校、放課後は練習と多忙を極めている。しかしそんな彼にももう一つの顔が存在していた。それが、時空管理局嘱託魔導師の肩書だ。連絡が入れば学校だろうと練習だろうと現場に急行し対処に当たるのが仕事。そして今回、将来の一つのビジョンの為にとティアナ・ランスターの仕事に同行することとなった。仕事内容は極めて軽く、要人警護と保護(・・)というもの。

 

「って、なんで保護?」

 

 次元航行船、ティアナから渡されたチケットに記された座席に腰掛けジュースを飲みながら今回の内容を確認していたアスカがそう繰り返した。

 

「なんでも迷子らしいのよ」

「迷子って……要人警護ってくらいだから普通SPの一人や二人くらいついてるようなもんだと思うんすけど」

「それがその人、そういうのが必要ないくらい強いらしくって」

 

 釈然としない。話せば話すほどわけがわからなくてってきたアスカは首を傾げる。それこそ自分達などいらないであろうに。片や奇跡の部隊とも言わしめた元機動六課所属の、しかもエース・オブ・エースの愛弟子である若手敏腕執務官とも名高いティアナ・ランスターにこの任務をまかせるなど、それほど管理局も暇というわけではなかろうに。考えれば考えるほど謎が深まる仕事内容をジッと見つめるアスカの耳に、次元港到着の報せが届いたのはそれから約5分後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あぢぃ……」

「な、なんでこんなとこにいんのよ……」

 

 次元港からでた二人は第30管理世界へと降り立っていた。この世界は年中通して気温が高く、この世界産の果実や野菜はミッドでも有名なものが多い。しかし比較的安定した気候のミッドとは違いここは言うなれば砂漠地帯のようなカラッとした暑さ。執務官服の黒を身にまとっているティアナと暑さが苦手なアスカにはとてつもない苦痛であった。

 

「つか、大会参加者ならなんでこんな場所で練習してんだよ……」

「なんでもかなりの有名人らしくって。民間施設はおろか、会員制のスポーツジムでも人だかりができちゃうかららしいわ」

 

 そう言ってティアナはアスカにスティック状の端末を渡す。巻物を開く要領でそれを展開すれば、ホロウィンドウが表示され、今回の依頼主のデータが見れる。

 

「今回、貴方を連れてきた理由なんだけどね。その人の要望でもあるのよ」

「要望?……俺、こんな綺麗な人と会ったことないんですけど」

「何、知り合いじゃないの?」

「はい。えっと……ヴィクトーリア・ダールグリュン?って人。あ、でも名前ぐらいは聞いたことあるかも。たしか前回の大会でランカーになってたから」

「そう……にしても、暑い……」

 

 早くホテルに行きたい。そう呟きそうになって、ふと路地の裏に目を向けた。そこには、屈強な体つきをした男が5人とガラの悪そうな女性が4人。まるで、何かを見下ろしているかのように男たちは立っている。その後ろで、女達は不機嫌そうにしながら木箱の上に腰をかけていた。この町は治安がいいというわけではない。ある程度の、こういう輩は存在する。だから尚更こんなところはアスリートの練習になど向いてはいないのだが……。

 

「どーしたんすか?」

 

 グロッキーなアスカが立ち止まったティアナに声をかける。彼女が注視している視線の先には、何やらモメているような雰囲気の人だかりができていた。

 

「おいおい、どうしてくれんだよねーちゃん。俺の大事な小猫ちゃんの服に壮大にアイスぶちまけてくれてよう」

「せ、せやから謝ったやないですか。服もクリーニングしてお返し――――」

「ねーねー、こんな奴さぁ、とっととまわしちゃおうよ……きっといい声で鳴くかもよ?」

「へっ、そいつぁいい。ここんとこ溜まってたしなぁ……」

 

 にやり、と口角を釣り上げてじりじりとこちらににじり寄ってくる男たち。発言からして、まず最悪なことになるのは間違いないと感じ――――ティアナは飛び出した。

 

「そこまでよ」

 

 凛とした声が、まるで圧するかのように男たちの足をピタリと止める。

 

「ンだぁ?」

「さっきの発言、聞き捨てならないわね。貴方達、その子から離れなさい」

「チッ、管理局か。けどいいのかァ?こっちは5人、そっちは一人。揚句人質だぜ?」

 

 ティアナが管理局。しかも執務官だと見抜いて尚挑発をする男。余程囲んでいる少女に頭に来ているらしい。しかし、いくら彼女に原因があるとはいえ、非人道的な行いを見逃すほど彼女の目と心は腐ってなどいない。亡き兄の夢を継ぎ、自らの信じる正義と信念の元に悪を裁く管理局員として、何より女性として見過ごすなどありえないことだ。

 

「あら、強姦未遂に公務執行妨害までつけてほしいのかしら」

「……よく見たらアンタの方がいい躰してんじゃねーか」

 

 ゲスが。そう心の中で吐き捨てる。その直後、男の一人が飛び出してきた。その屈強で大柄な体を生かしたタックルの姿勢で向かってくる。身長はゆうに2mはあろうかという巨体。それがさながら津波のようにティアナを襲おうと両手を広げて……次の瞬間には地面に倒れ臥していた。突如として意識を刈り取られた男は、自分が何かされたことにも気づけないまま、白目を剥いて悶絶する。後ろのメンバーも、突然起きたことに理解が追いつかず、それ以上声を荒げることもできない。そして倒れた男の向こう側目を向けると、そこにはティアナではなく、紅い髪の少年が左肘を突き出した体勢で立っていた。

 

  まさか、こんなガキに……!?

 

「ちょっとアスカ。穏便にすませようとしたのにどうしてくれんのよ。ていうか、貴方仮にも格闘技選手でしょうが。大会どころか、ライセンスはく奪されるわよ?」

「なぁに言ってんすか。自分だって相手挑発してたくせに。それに、今の俺は選手としてじゃなくて・・・嘱託魔導師としての、アスカ・スカーレットですんで。何よりこれは公務であり、襲われたところをやり返しただけの正当防衛です。ホラ、問題ないでしょ?」

 

 ああ言えばこう言う。まったくもって扱いづらい子どもだと溜息をつきつつ、その反骨精神にかつての自分を重ねて僅かに笑みを浮かべた。あの時の師も、今の自分と同じような気持ちだったんだろうか。そんな懐かしさに浸りつつ、愛機”クロスミラージュ”を構える。

 

「時空管理局執務官、ティアナ・ランスターよ。全員その場に伏せなさい。抵抗しなければあなた達には弁護の機会が与えられます。これ以上罪を重ねない為に……指示に従ってちょうだい」

 

 たとえどんな外道であろうと、相手をまず説得する。武力ではなく、言葉での解決を試みる。それがティアナがまず学んだことであり、師……高町なのはと、フェイト・T・ハラオウンを見て培ったものだった。

 

「たかがガキと女一人で、どうこうできるほど柔じゃねぇんだよ!」

 

 そして言葉での解決が困難と判断した場合は――――

 

「アスカッ!」

「了解!」

 

 己の力をもって、ぶつかる。これも、二人から教わったことであった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「身柄は自警団に引き渡したから、もう大丈夫よ。しかし驚いたわ、まさか依頼の対象が前年度の格闘チャンプだったなんて」

「い、いやその、大したことないですよ」

「大したことあるっつの。て言うか、警護ってこういうことだったのか」

 

 原則として、格闘技選手というものはその力を一般人に対し如何なる理由があろうとも振るうことは禁則とされている。それが世界チャンピオンともなれば一歩間違えれば相手を殺しかねない。しかし、こんな辺境の地でたった一人で女の子がうろつけば今回のようなことにも繋がりかねないわけで。相手は要人、VIP待遇でしかも指名がティアナというのはこれで合点がいった。より確実に連れてきてほしい、そんな観点からだろう。

 

  が、どうしても腑に落ちないことが一つ。それはやはり、アスカの同行だった。

 

「さっきはおおきに。……と、まだ自己紹介しとらんかった」

 

 そう言ってフードを取る。目立つのが嫌だったのか、それともこの日差しと暑さからなのかジャージのフードを深く被っていたようだ。中に押し込まれていた美しい黒髪のツインテールが解放され、さらりと揺れる。そして、人懐っこそうな青い、アスカとは正反対の目。その目を見た瞬間――――ナニカが、突如脳裏をよぎった。

 

 まるで、頭の中の引き出しを強引に無作為に開かれていくような気持ち悪い感覚。得体の知れない何かに、その場に膝をついてしまう。

 

「ちょ、アスカ!?」

 

 いつものボケではない。口元を抑え、今にも吐きそうに顔を真っ青にするアスカに少女とティアナが駆け寄る。

 

「きみ、大丈夫?」

 

 心配そうに覗きこむ少女。しかしそれがアスカの不快感を加速させた。グルグルと、まるで壊れた映画のフィルムのように次々とシーンが頭の中を流れていく。その幾つかはアスカのものの様で……しかし、アスカのものではない。セピアに色褪せた幾つかの光景。それが自分のものではない他人のものであると理解した途端、とてつもない吐き気に襲われそのまま嘔吐してしまう。ただ事ではないと悟ったティアナはすぐに救急車を手配する。

 

「な、なんだコレ…頭が……ッ!?」

 

 次々に浮かんでくるワードに頭が割れそうになる。そしてそれがピークに達した時、急に目の景色が変わった。路地から一変、穏やかな緑の芝の生い茂る庭のような場所。視界を動かせば、反対側にはバラの美しい赤と噴水の青が織りなすコントラストに目を奪われる。「いったいこれは……」と混乱するアスカに、突如声が聴こえた。

 

「炎帝!」

 

 弾んだ声。しかしその声の印象はどこか懐かしく、聞き覚えすらあるほどに耳に心地よかった。振り向けば、そこには二人の男女。金髪に、異彩光色の瞳。そして、銀髪に少女と同じく左右で色の違う瞳。それはまるで――――

 

「ヴィヴィちゃん……ハルちゃん!?」

 

 この場にいるはずのない、つい数時間前にマウクランで別れた後輩達によく似た姿に思わず名前を叫んでしまう。しかし彼の声はまるで聴こえていないのか、そのまま素通りして行ってしまう。その先には、先ほど炎帝と呼ばれた男がバラを見ながら立っていた。

 

  真紅の瞳に、髪の毛。その姿はまるで――――・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 ハッとなって、目が覚める。荒い息を整えつつ、辺りを見回すと、そこはまた違った風景が見えた。よく効いた空調に白いシーツ。それだけ見れば、自分がベッドの上に寝かされているのだということが理解できた。「ここはいったい……」そうこぼすとティアナが安心したように微笑みを讃えて部屋の奥から出てくる。

 

「よかった、目が覚めたのね。急に意識を失ったと思ったらうなされ始めるんだもの・・・流石に焦ったわ。調子はどう?」

「あ、いやその……なんて言うか、あまり良くはないっす。ティアさんが美人に見えます」

「……はぁ。その様子じゃ、大丈夫みたいね」

 

 呆れた、と溜息を吐いて水を持ってくると再び奥に。そしてティアナと入れ違うようにして、先ほどの少女が現れた。

 

「えっと……大丈夫?」

 

 倒れたのが自分のせいだと思っているのか、遠慮がちに聞いてくる。しかし先ほどのような吐き気もなければ違和感もないようで、笑みすら浮かべてアスカは言う。

 

「大丈夫大丈夫。あ、さっきはごめん。急に」

「ううん、ウチこそなんか厄介ごとに巻き込んで……」

「それは言いっこなし。人助けが、今の俺の仕事だから。あ、俺アスカ。アスカ・スカーレット」

「スカー・・・・レット・・・・」

 

 苗字を、何やら自分の中で確かめるかのように繰り返す。

 

「えっと・・・?」

「・・・ウチは、ジークリンデ・エレミア。・・・エレミアの末裔や」

「エレミアの、末裔・・・」

 

 そこで、アスカの中で何が引っかかる。この名前は知っている。しかも、随分前に。雑誌やネットで観たという類ではなく、記憶として残っているのだ。自分の中奥深くに刻み込まれた、記憶そのもののように。そして、アスカは思い出すかのようにジークリンデを見返す。

 

「知ってる……エレミアの末裔。でも、なんで……そんなの知らない筈なのにどうして……」

「……何やら、訳ありっぽいわね」

 

 コップに水を入れたティアナが戻ってきてアスカにそれを渡す。一気に流し込んでようやく落ち着いたのか、深く深呼吸をして冷静さを取り戻す。

 

「あの場できみを見た時、すぐにわかったよ。きみが炎帝……古いベルカの時代の人の末裔やって」

「炎帝……聞いたことないわね。聖王や覇王っていうならまだ理解できるけど」

「つか、いきなり話がぶっ飛びすぎてんだけど……」

 

 いきなり炎帝だの生まれ変わりだのと言われてまだ若干混乱している頭の中を整理しながらアスカはジークリンデの言葉に耳を傾ける。

 

「炎帝いう人は実在した人なんです。ただ、その……ちょっと訳ありで」

「訳あり?」

「……聖王家を裏切った、反逆者とされているんです」

「……またまたぶっ飛んでるな、ソレ」

 

 にわかに信じがたい。しかし、ここまでの出来事がで、全てただの妄想だとも断言できないだけの何かをアスカも感じ取っていた。だが、なんとも唐突な話ではある。自分が古代ベルカの偉人の末裔で、しかもその人が聖王家という、当時は国家の君主とされている家系を裏切った大罪人だと言われて誰が素直に信じられようか。

 

 それでも、今語られた事が全て真実であると判断してしまうくらいには、自分の中で納得できてしまっている。

 

「さっきアスカが体調を崩したんは、多分ウチと接触して記憶が掘り起こされたからやと思う。ウチも、そんな感じやったから」

「そっか……」

「いやそっかって、アンタそんな簡単に鵜呑みにしていいの?あたしは未だに混乱してるんだけど」

「でもこの子が嘘言ってるとは思えないし、現に俺もさっきまであんなだったし。……えっと、ジークリンデ、ジークでいい?」

「かまへんよ。ウチももうアスカって呼ばせてもろとるし」

「なら、ジーク。この事、後で詳しく教えてくれないか?今は大会も控えてるし、そっちもその方がいいかと思うんだけど」

「え、アスカも出るん?」

「おう。後輩達と初参加だ」

「そっか、ならライバルやね」

「チャンピオンにライバルって言われるとなんかヘンな感じするけど……ま、よろしく」

「こちらこそ」

 

 互いに握手を交わす二人。テンションの切り替えの速さと話の濃さに未だ着いていけていないティアナではあったが、ここで自分がどうこう悩んでも仕方ないと割り切りをつけ、依頼主であるヴィクトーリアに連絡を入れる。

 

 さて、また何か起きそうだ。そんな予感を抱きつつ、ティアナはホロウィンドウを操作した。



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♯8

「では、確かに」

「はい。やはり貴女に依頼して正解でした。ありがとうございます、ランスター執務官」

 

 ジークと共にミッドに帰ってきた二人はヴィクトーリアの依頼を解決するために彼女の屋敷を訪ねていた。次元港から降りるなり執事のエドガーに案内されミッドでもあまり見ない豪邸へと通された二人は終始そのゴージャスさにヴィクトーリアに声をかけられるまでぽかーんとなっていた。

 

「ジーク、お前すっげーな・・・こんなお嬢様が友達なのか」

「うん・・・せやけどその”お嬢様”っていうんはヴィクターの前ではやめた方がええよ?形式上は仕方ないけど、プライベートで言われるんはあんま好かんらしいから」

 

 ヴィクトーリアについての諸注意をジークから耳打ちされたところで彼女と目が合う。こちらに向かって微笑みかけるその姿はまさに美しい絵画のよう。年上の雰囲気のあるお姉さん。アスカにとって、どストライクなタイプだ。そうとなっては、この男が動かない筈はなかった。

 

「お嬢さん、この度はこのアスカ・スカーレットをご指名いただき感謝いたします」

 

 ヴィクトーリアの手を取り跪くアスカ。その姿にあっけにとられるジークと溜息をつくティアナ。またこれか。と言うか、年上の異性なら誰でもいいのかこのダメ男は。そうツッコミをいれつつヴィクトーリアからアスカを引きはがす。

 

「ご、ごめんなさいね!?、うちのバカが粗相を・・・」

「い、いえ・・・・ところで、ランスター執務官」

「はい」

「彼と少しお話がしたいんですが・・・よろしいでしょうか」

「・・・・警備、いりますか?」

 

 ちょっと待ってくれ、どんだけ信用無いんだ。そう言いたげな視線をティアナに向ける。ヴィクトーリアは苦笑いで大丈夫と意を伝えると、執事のエドガーにジークを風呂に入れるよう伝える。ティアナは先に帰ると言ってダールグリュン亭を後にし、二人は中庭へとやってきた。設けられたテーブルには既にティーセットとお菓子が準備されている。最初からどうやら自分と話すつもりだったらしい。椅子に座るよう促され着席すれば、向かいの席にヴィクトーリアが腰を掛ける。

 

「さて・・・まずは、改めてお礼を言うわ。ありがとう」

「いや、俺は何も」

「謙遜しなくてもいいわ。貴方がジークを守ってくれたんだもの。友人として、お礼をさせてちょうだい」

 

 なんともやりずらい。こういったかしこまった雰囲気が苦手なアスカはさっそく居心地の悪さを感じ始めた。

 

「そりゃ、どうも・・・あ、そういえば、なんでティアさんだけじゃなくて俺も同伴って内容だったんです?」

「・・・貴方のご先祖様。炎帝フロガ・スカーレットのことはジークから聞いてるかしら」

「はい。・・・こう、目が合った瞬間に頭の中から無理くり引っ張り出されるような感覚で思い出したって感じで」

 

 アスカの供述にやはり、とヴィクトーリアは真剣な顔つきへと変える。

 

「アスカ・スカーレット・・・私の知り合いに貴方の事を知っている人がいるの。その人から話を聞いてもしやとは思っていたけど・・・まさかこうも・・・」

 

 なにやら一人で思考を始めるヴィクトーリア。完全に置いてきぼりをくらったアスカはどうしていいかわからず、先ほどから気になっているお菓子に手を伸ばす。しかしそれは急に思考の海から帰ってきたヴィクトーリアによって阻まれてしまう。

 

「フロガのことはどの程度まで知っているのかしら?」

「えと、ジーク(・・・)から聞いた話だと、聖王家を裏切った反逆者云々・・・と」

「そう・・・実際、私のご先祖様とも交友があったらしいからフロガのことはある程度の知識があるの。もっとも、詳しいことはあまりわからないけど」

「俺のご先祖様って、どんな人だったんですか?」

 

 少し遠慮がちに言う。・・・いや、遠慮と言うよりは恐怖だろうか。知るのが怖い。自分じゃない、もう一人の自分。生前の記憶と、アスカ・スカーレットとしての自分。そして、つい最近知ったフロガ・スカーレットという人物。それらが頭の中でゴチャゴチャになり、”自分”という存在があやふやになりそうで。

 

 だがそれでも、知らずにはいられない。たとえなんであっても。

 

「・・・書物の通りなら、聖王家を潰そうとした大罪人ね。でも、オリヴィエやクラウスにとってはそうでもなかったみたい」

「え・・・?オリヴィエって、聖王家の人間だったんですよね。自分達を潰そうとした奴を憎めなかったってことですか?」

「それは本人達しかわからないことだけど・・・でも、私が所持している伝記では違っているのよ」

 

 そう言ってヴィクトーリアは古びた一冊の本を取り出す。紙媒体とは珍しいとマジマジと見つめていると、彼女が本を開き中身を見せる。ページをパラパラと数枚めくれば、一枚の絵で動きが止まる。そこには、若い男女が3人。顔に笑みをたたえて映っていた。

 

「こっちの男性がクラウス。隣に座っているのがオリヴィエ。そしてその隣にいるのが・・・」

 

 ヴィクトーリアの指さす先。その人物は、アスカが夢の中で観た人物そのものだった。炎帝、フロガ・スカーレット。自分と瓜二つの顔をした男だ。

 

「この人が・・・」

「・・・私が貴方とジークを引き合わせたのは、あの子の友達になってほしいからだったの」

「友達?」

「ええ。あの子のご先祖様・・・エレミアの力と記憶を継承しているおかげで、あの子はどこかふさぎ込んでいる節があるの。それに、ちょっとした不安もね。・・・そんな暗い部分を、貴方なら照らしてくれる・・・私はそう考えているの」

 

 その表情は友を想う少女で。しかしながら、どこか母性のようにも見て取れる。言葉にこもった強い想いを感じ取ったアスカだが、それでも疑問が残る。何故、自分なのかと。過去に何らかの関係があったにしても、”今”の自分達はまだ出逢って1か月と経っていない。それなのに確信めいた強さを放ったヴィクトーリアの言葉にアスカは戸惑いを覚えていた。

 

「どうして俺なんです?」

「・・・フロガの末裔である貴方なら、彼女の闇を照らせる。かつての二人がそうであったように・・・きっと」

 

 やっぱり、よくわからない。そう言うように顔を顰める。

 

  でも、まあ・・・大体わかった。

 

「ヴィクトーリアさんの言いたいことはよくわかんねーけど・・・でも、俺はもうジークと友達だと思ってるぜ?」

「・・・ヴィクターでいいわ。それから中途半端な敬語もね」

 

 満足そうな笑顔を浮かべ、二人の笑い声が風に溶けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

「ってな感じで俺は美女とひと夏のアバンチュールを過ごしていたわけだ」

「唐突すぎてよくわからない上になんでお土産が熊の木彫りなんですか」

 

 八神家に帰宅してみると、そこには弟弟子(妹弟子?)のミウラ・リナルディが夕食を食べに来ていた為、お土産ついでと合宿から今まで経緯を言って聞かせていた。

 

「フロガ・スカーレット・・・か」

 

 夕食を食べ終えお茶を飲んでいたシグナムが意味深に名前を繰り返す。

 

「シグ姉、なんか知ってんの?」

「ああ・・・思い返す度に、殺意が湧く」

 

 そこで何故か故人への憎しみのトバッチリをくらうアスカ。理不尽に理由のない殺意を向けられたせいで恐怖のあまりミウラの後ろに隠れてしまう。

 

「あー、シグナム。幾らほぼ・・・いや、中身のバカさ加減は一緒か。でもアスカには向けてやるなよ。ビビッてミウラまでびくついてんぞ」

 

 ストレッチをしていたヴィータがやれやれと言った感じでシグナムを宥める。そこでハッとなった彼女は慌てて二人に謝罪をした。

 

「すまない。いや、なんだ。過去の事だ、気にするな」

「イヤ俺めっちゃ睨まれてたんですけど。完全にレバ剣抜く気満々だったでしょ今!?」

「お前も落ち着けアスカ」

「スカーレット卿に関しては、私達もまだ記憶には残ってるの。シグナムの場合はそれが濃いだけなのよ」

 

 ザフィーラがアスカを律し、シャマルがフォローを入れる。

 

「なんやシグナム。その人に何かされでもしたん?」

「いや、まぁ・・・その・・・」

「しょっちゅー風呂覗かれてたよな」

「ヴィータっ!」

 

 普段からは想像できないような声色と赤面で俯いてしまうシグナム。烈火の将、剣の騎士と異名を持っていてもこういう時は一人の女性なんだなとアスカはシグナムへの意識を改める。

 

「アスカもそのフロガって人も変わらんね。でもそれくらいやったらそない怒らんとちゃう?」

「それはまあ。私も何度か覗かれたこともありますが・・・」

「アタシもだ。・・・・おい、なんだお前らその目は。見栄を張るなって視線はやめろ」

「いや、別にそんなことないですよ?ヴィーさんのその慎ましい・・・いや、うん。そんなことないですよ」

「ぶっ潰す」

 

 ミウラを間に挟みガヤガヤと騒ぐ二人をよそにはやては洗い物を終えてシグナムの隣に座る。

 

「で、なしてそない怒っとったん?」

「実は・・・一度も、勝ったことがないのです」

「・・・それは、なんというか・・・」

 

 シグナムがどれほど強いかははやて自身よく知っている。彼女が負けるところなど、管理局内で行われる大規模模擬戦闘であろうとなんであろうと見たことがない。常に先陣を切って己の愛刀を振るい、はやてを、そして仲間を護って戦ってきた自分の知る限り最強の剣士だ。そう断言できる。そんな彼女が、ただの一度も土をつけられなかったとは驚愕だ。

 

「おまけにあの性格ですからね・・・シグナムの気持ちもほんの少しわかります」

「恐るべし、アスカのご先祖様・・・」

「ちょ、アスカ先輩ボクを楯にしないでくださいよ!?」

「ミウラ、俺を守ってくれ!俺は無実なんだ!」

「やかましいッ!今日と言う今日は徹底的に――――」

 

 その後、リィンとアギトの仲裁が入るまでその騒動は続いたという。



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♯9

最近色んななのは小説観て回ってますがコラボとかやってる人多いですね。・・・・やりたいなぁ。願わくば。そんな今日この頃。今回は原作で言う特訓回に相当します


 インターミドル選考会まで、あと一週間。この日八神道場に集められたミウラとアスカの二人。いよいよ大詰めとなってきたと肌で感じつつ、ヴィータ、ザフィーラ、シグナムの到着を待つ。

 

「いよいよ来週かあ・・・なんか緊張してきた・・・・」

「今からそんなじゃ、おまえ予選落ちかもな」

「そ、そんなことないですよ!ボクだって、ちゃんと練習を頑張ってきたんです。強くなる為に・・・そして、いつか追いつきたい人の為に」

 

 胸の内の決意を真剣な眼差しで語るミウラ。いつもはなんだか頼りない姿が印象に強く残るが、こういう時の妹弟子はハッキリ言ってかっこいいとすら思う。こんな風に自分の気持ちをストレートに言葉にできる彼女が、少しだけ羨ましく思えた。

 

「んじゃ、その追いつきたい人とやらを発表してみよーっ」

「ええ!?」

「ミウラちゃんもお年頃ですしぃ?まあそーいう人(・・・・・)の一人や二人いないとねぇ」

 

 ニヤニヤとゲスな笑みを浮かべながらミウラに迫るアスカ。端から観たら幼い女の子に迫るただのド変態だ。何も知らない人間がこの光景を見たら間違いなく彼は逮捕だろう。そんなカオスな空間だが、生憎と今はツッコミ役が不在なため止める者がいない。つまり、ミウラに救いの手はないということだ。涙目で怯える少女にもはや逃げ場など無い。

 

「さぁ、さぁさぁ!言うんだよォ!」

「え、えっと、その・・・あ、あ――――」

「なぁにしてんだテメーはァッ!?」

 

 怒号と共に一瞬にして首から上を黒こげにされるアスカ。一体誰だと振り返ると、そこには待ちわびた師匠たちの姿が。ミウラにとっては救いの神にでも見えたのであろう、猛ダッシュで駆け抜けシグナムに抱き着く。

 

「し、シグナムさん!」

「あー・・・そうか。すまなかったなミウラ。おまえとあのクズカを二人っきりにしてしまったことがマズかった。怖かったろう。私もアレと二人っきりにされたら発狂してしまいそうだからな。・・・それに、その気持ちは私も経験があるからよくわかるぞ」

「慰めとディスリを同時にこなせるシグ姉マジTURUGI。つかどんだけ他人にトラウマ植え付けてんだ俺のご先祖は」

「アレはシグナムじゃなくても発狂するぞ」

「あの聖王オリヴィエでさえ笑顔のまま失神するほどだからな・・・トラウマ製造機とは、よく言ったものだ」

「子孫の俺でさえ引くとか・・・ん?待てよ、俺が生まれてるってことは誰かと結婚したってことだよな・・・一体その気の毒な人誰だ」

 

 

 

 

 閑話休題(はなしがすすまない)

 

 

 

 

「で、なぜにアギトまでいるんでしょうかお姉さん」

「フン、今日はお前にコイツの使い方をみっちり叩き込んでやる」

 

 そう言いながら大きいサイズのアギト(とはいってもミウラより少し身長が高い程度)が手のひらに炎を発生させる。

 

「・・・アスカ。おまえの強さの源はなんだかわかるか?」

 

 真剣な問。そこにいつものテンションで切り返すほどのバラエティさは存在しない。ここからはオフザケ一切なしの流れだと悟り、アスカは脳内を巡らせる。

 

「炎の魔力変換資質と、術式に縛られないスタイル。シスターシャッハが見つけて、シグ姉とヴィーたんが鍛えてくれた、拳と蹴り」

「そうだ。そしてお前はそれをフルに使い、アインハルトに勝ってみせた」

「でも・・・それは、俺の実力なんかじゃない」

 

 褒めることから始める。シグナムはアスカが褒められて伸びるタイプだと思っていたからこその指導の仕方ではあったが、その褒めをアスカ自身が真っ向から否定してきた。何か思うことでもあったのだろう、その真意を聞く。

 

「ヴィクターやジークに話を聞いてわかったんだ。俺がハルちゃんに・・・・覇王流に初見で勝てたのは、俺の中にあるフロガのおかげなんだって」

「自分の実力ではないと?」

 

 コクン、と一つ頷く。

 

「俺の中には、フロガの記憶が生きてる。それが自衛の為無意識に引き出された結果、ハルちゃんの技にも対処できたし勝利することができた。この炎だって、もしかしたら・・・・。俺は、今までずっと、他人からの借り物で戦ってたに過ぎない。こんなんじゃ、あの子達と戦う資格なんてない。胸をはって、彼奴らにも会うことなんでできない・・・だから!」

「私とアギトの二人で、お前に教えられることは全て叩き込む。ここから先は音を上げることなど許さないと思え」

「アタシらの特訓は厳しいぞ~・・・やるか?アスカ・スカーレット」

 

 一度、目を閉じてみる。瞼の奥に浮かぶのは、自分を慕ってくれている後輩達。そして、幼き日に見た二人の笑顔。今どこで、何をしているのかさえもわからない。でも、この道を歩んでいたら、必ずどこかで会える気がする。そんな確信がアスカにはあった。もう一度、笑顔で出逢う為に・・・・そのためには、今のままではダメだ。もっと強く、もっと先に・・・・。

 

  どうするかなんて、決まってるじゃないか。

 

「このぐらいで逃げ出すようじゃ、アスカ・スカーレットの名が泣くってもんだぜ。やるさ・・・やってやる!」

「その意義だ。そうでなくてはこの為にわざわざ一週間の有給を取った意味がないからな」

「さて、そんじゃ先ずはいつも通りの模擬戦からだ。覚悟は、いいな?」

「・・・押忍ッ!」

 

 インターミドル開催まで、残り一週間。それぞれの決意と想いを胸に抱き、少年少女達はもがく。信念を貫くために。憧れに追いつくために。栄光を手にするために。全ては・・・・己の為に。

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

「ところでアスカ、さっきミウラと何話してたんだ?」

「そういえばそうだったな」

「えっとですね、憧れてる人に云たらかんたらって・・・あって言葉しか聞き取れなかったッス」

「あ、か・・・・、ほう・・・・」

「フーン・・・・なあアスカ。お前、爆発しろ」

「ヴェ!?」

 

 かくして特訓は始まった!




今回はかなり短くしました。次回からはインターミドル編、スタートです

・・・・コラボ、やりたいなぁ・・・・


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♯10

今回はヴィヴィオメインの回


「うーん・・・・」

 

 高町ヴィヴィオは悩んでいた。自室の勉強机に向かって座りたまにぽつりぽつりと独り言をぼやきながら腕を組んで難しい顔をしている。しかし彼女も初等科4年生。浮いた話の一つや二つあってもおかしくはない、いやむしろあってくれとすら母である高町なのはは願っていた。

 

  主に、将来自分のようにならない為にも。

 

 悩む娘の後ろ姿を部屋の外でそっと見守りながら何故か自分のメンタルを抉るという訳の分からない行動をとる幼馴染を不思議そうに首を傾げて見るのはフェイトだ。大会も近いとあり、連日の激務に言づけて溜まりに溜まっていた有休を消化している為珍しく高町家はそろい踏みである。

 

「なにやってるのなのは?」

「フェイトちゃんもその内わかるよ。これが、所謂”行き遅れ”って奴なんだね。お姉ちゃん・・・!」

 

 こっちもこっちで何やら勝手にダメージを受けて蹲り姉に共感を覚えている。何故だろう、最近彼に毒されつつある気がすると思うのは気のせいだろうか。・・・いや、きっとそうに違いない。それなら自分がしっかりしなければと気合を入れるフェイト。大の大人が二人もポンコツだとこうも話が進まないものか。

 

「ヴィヴィオ、今朝からずっとあんな感じだよね。練習で行き詰ってるのかな?」

「ノーヴェからは順調だって聞いてるからそれは多分ないと思うんだけど・・・だとしたら、もしかして」

 

 何やら勘付いたようで嬉々とした表情を浮かべながらドアをノックするなのは。ヴィヴィオの了承の声を聴いてから、二人で中へと入る。

 

「ヴィヴィオ、どうかした?具合でも悪い?」

「あ・・・ごめん、聞こえちゃってたかな。ううん、違うよ。私は今日も元気っ」

 

 フェイトの心配を払拭するかのように笑顔を浮かべるヴィヴィオ。顔色もいいし、なにより朝食はいつも通りしっかりと食べていた為どうやら気鬱だったようだと胸をなでおろす。

 

「ふふーん、当ててあげようか」

 

 何やらイタズラをする子どものような感じで怪しく笑うなのは。こういう所は本当に毒されてきたと思う。

 

「ズバリ、アスカ君でしょ!」

「ヴェ!?な、ななななんで先輩がそこで出てくるの!?」

「わかりやすいねヴィヴィオは。というか驚き方まで一緒になってきたことにお母さん軽く心配だよ」

 

 それは貴女も、というツッコミを呑み込んでフェイトはなのは同様ベッドに腰掛ける。顔を真っ赤にしながら両手を大きく振って否定してくるあたりもはや言葉にするまでもないとフェイトは娘の行動を微笑ましく思う。

 

「で、なんでそこまでアスカの事考えてたのかな?」

「うう・・・えっとね。どうして先輩は強くなりたいのかなって」

「んー・・・どうして、か」

「それは、本人に聞くのが一番なんじゃないかな」

「でも、いきなりそんな事聞いてヘンな子だって思われたりしないかな・・・?」

 

 本気で怖がっているようで大きな瞳をうるうるさせながら見つめるヴィヴィオ。そんな究極にかわいい娘の姿をこっそりと愛機にフォトショットしてもらい外見上はなんとか真面目を繕って返す。

 

「大丈夫だよ。だってアスカ君だよ?たとえどんなことでも笑って受け入れてくれるよ」

「それはそれで逆に心配だけど・・・・」

「ヴィヴィオは、どうしてそれが気になるのかな」

 

 フェイトの質問に空気が少し変わる。ややあって、ヴィヴィオは何故そう思ったのかの経緯を語る。

 

「アスカ先輩は、私の今より小さいころから、ずっと一緒にいてくれた優しいお兄さんで・・・泣いてるときは、必ず手を取って傍にいて笑ってくれた。ママ達と同じ、お日様みたいな感じで・・・でも、あの事件(・・・・)の後から何だか変わった気がするの。一緒に格闘技ができて、前よりもっと一緒にいれる時間が増えたのは凄く嬉しいよ?でも、何だか近くて、遠い・・・。だから知りたいんだ」

 

 娘の真剣な眼差しと言葉を受け、二人は顔を見合わせて互いに頷き合う。

 

「ヴィヴィオ、今日はアスカ君も呼んで一緒に晩御飯食べよっか」

「えっ、いいの!?」

「うん。連絡しておいで」

「うんっ。行こうクリス!」

 

 友人であり、相棒でもある愛機のうさぎのぬいぐるみ型デバイスのセイクリッドハートと共にリビングへと降りていくヴィヴィオ。はしゃぐ愛娘の姿を見送ったなのはは小さく息をついて。

 

「なんだか妬けちゃうなー」

「フフ、そうだね。何だかんだでヴィヴィオの中ではアスカが一番なのかも」

「・・・ね、もしヴィヴィオが大きくなってアスカ君と結婚する~!なんて言ったらどうする?」

「え、ええ!?・・・うーん・・・ヴィヴィオがちゃんと選んでそれでって言うなら私は反対しないけど・・・」

「アスカ君だしねー・・・よからぬことを考えそう」

「あり得る」

「・・・いや、でもそれでもいいかも」

「えっ?」

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

「お呼びに預りこの不肖、アスカ・スカーレットただいま参上いたしましたァ!」

「えと、いらっしゃいませ・・・?」

 

 相変わらず対応に困るような登場をするアスカ。彼の辞書に”普通”と”常識”という文字はおそらく霞んで見えなくなっているに違いないとなのはは軽く溜息。水道の水を止め、自らも玄関に迎えに行く。

 

「いらっしゃいアスカ君。ごめんね、大会も近いのに」

「いえいえ。我らが女神のお呼びとあらばどこからでも飛んできますよ」

「ん?今どこからでも――――」

「なのはさん、それ貴女が言うと洒落にならない奴なんでストップです」

 

 やっぱり毒されてきてると確信するフェイト。仕事上の書類整理を終えて自室から階段を伝って降りてくればそんな光景が見えたので益々しっかりしなければと気合を入れ直す。

 

「いらっしゃいアスカ。あと、これ以上なのはを毒さないでね?」

「俺が何をしたって言うんですかフェイトさん」

「さ、先輩行きましょっ」

 

 手を引いて足早にリビングへと招き入れるヴィヴィオ。これまた微笑ましい姿に二人の口角が上がる。

 

  ヴィヴィオとアスカ。二人の出逢いは今から数年前に遡る。まだ機動六課が試験運用中だった期間内に起きた大規模テロ事件。後の”JS事件”と呼ばれる出来事が出逢うきっかけとなった。ミッド市内を放浪していたヴィヴィオを保護した病院で迷子になっていた彼女を保護して以来、懐かれてしまったらしく母親的存在であるなのはとフェイトが任務で留守にする時は決まって彼女の面倒を見てもらっていた。もはや兄妹と言って差し支えないであろうその関係は今もなお続いている。

 

「ご馳走様でした。いやー、やっぱお二人の手料理も美味いッスね。はやてさんも美味いですけど」

「はやてちゃんには負けるよー。でもありがとう。洗い物は私とフェイトちゃんでやるから、二人はゆっくりしてて」

「先輩、庭に出ませんか?今日は晴れてるし星も綺麗ですよ」

 

 ヴィヴィオの誘いに頷いて二人は縁側に腰掛け空を見上げる。空には雲一つない綺麗な星たちが数多に輝いており、遠い空の向こうから二人を照らす。風も程よく頬を撫で、春特有の温かい風が家の中を満たす。

 

 ややあって、ヴィヴィオが今朝の事を打ち明ける。

 

「あの、どうして先輩は強くなりたいんですか?」

 

 素朴な疑問。ヴィヴィオの色鮮やかな瞳がアスカの横顔を見つめる。少女の問いにアスカは少し笑みを浮かべて不意に頭を優しく撫で、ヴィヴィオもそれを受け入れる。

 

「・・・前に、約束したことがあってね。どんな事があっても、絶対に離れないって。でもさ、俺その約束を守れなかったんだ」

「約束・・・?」

「うん。弱くて、何もできなくて、ただその子が泣いているのを見ていることしかできなくて・・・最後は、大人の人に助けを求めて。本当は自分の手で守りたかった。でも、それができないってわかった途端にさ。すっごく悔しかったんだ。もうこんなのは嫌だって思って――――それからかな。俺が強くなりたいって思ったの。今度こそ、ちゃんと守れるようにって。みんなに笑顔でいてほしい・・・それが俺の、強くなりたい理由かな」

 

 少年の、初めて聞いた胸の内。憧れだった、一緒に歩いていきたいと思った背中の、本当の想い。それを知ったヴィヴィオは自分の手を見つめる。この人も同じなんだ。守りたい人たちがいて、その人達に胸を張れるように。笑顔でいてほしい・・・幸せで、あってほしい。その為に、強くなりたい。

 

「そうですか・・・でも、その約束した子って、誰ですか・・・?」

 

 聞くのが少し怖かった。どうしてかはわからないけど、答えを知ってしまったら・・・。それでも、気になって仕方なかったから。恐る恐るでた問いに、アスカは少し困ったように笑いながら「う~ん」と頬を掻く。

 

「・・・ナイショ、かな」

 

 イタズラっぽく笑って、そう返した。

 

  楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。それからゲームしたりしてのんびりとした時間を過ごした二人は夜遅くにならないうちに解散となった。途中、まだ一緒にいたいと駄々をごねるアスカだったが迎えに来たシグナムにより強制連行されズルズルと引きずられていった。せめてもと見送るヴィヴィオは、ふと自分の心にあったモヤモヤに気が付く。

 

「・・・ママ」

「なに?ヴィヴィオ」

「私、先輩の事・・・・ううん、やっぱり何でもないっ」

「え、何?ヴィヴィオさん、今のは何なの!?」

「教えなーいっ。明日は朝早いからもうお風呂入って寝るね!」

「ちょ、ずるいよヴィヴィオ!私達に教えてよー!」

 

 今はまだ、胸の中にしまっておこう。そしていつか、この気持ちを打ち明けられる時が来たら。

 

「その時が来たら、私の気持ち。受け取ってくれるかな・・・」

 

 高町ヴィヴィオ、10歳。特別な春に、特別な気持ちに気づけた、そんな一日だった。




 ※一方その頃八神家では

はやて「ハッ!?なんやらラブコメの波動を感じる・・・ッ!」

 一人電波を受信したはやてであった。


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♯11

 ――――第27回インターミドルチャンピオンシップ。選考会場となるクラナガンにある総合魔法戦技の民間施設で、その開会式が行われる。毎年激戦区と称されるミッドでは数多くの総合選手が名を連ねており、現チャンピオンであるジークリンデもここミッドチルダの出身地ということで他とは規模も違っていた。見渡す限り人、人、そしてまた人。

 

 それを見た少年は、こう呟いた。

 

「見ろ、人がゴミのy――――」

「やかましいッ!」

 

 ・・・・呟けなかった。

 

「~、ッテーなルールー!何すんだよいきなり!」

「アンタ公共の面前でなんてこと口走ろうとしてくれてんのよ!バカなの!?ねえバカなの!?」

「バカじゃない!」

「じゃあなによ」

「アホだ!」

「ハッ倒すわよ!?」

 

 大会に参加するためミッドに来ていたルーテシアはそのまま八神家に泊まり、アスカと付き添いであるセインとウェンディと共に会場入りしていた。いや、お前こそ公共の面前でよくそんなツッコミができるなと半ば引き気味に笑いを浮かべるが、それが良かったのか悪かったのか、先に来ていたミウラとザフィーラと合流を果たす。

 

「何をやってるんだお前たちは・・・」

 

 呆れ切った顔で迎えるザフィーラ。後ろ二人とミウラは苦笑い、ルーテシアは顔を真っ赤にして俯いている。原因などわかりきったことだ。

 

「いやあこうも人が集まるとつい」

「そのついでいらぬトラブルを招かれては困る。気を引き締めろ」

「ザッフィーがいつになく真面目だ・・・ま、そうだろうね。今回は俺もミウラもおっきい大会は初めてだし」

「俺はいつも真面目だ。まったく・・・これから受付に行く。はぐれるなよ」

 

 保護者三人と受付エントリーを済ませ、アスカとミウラ、そしてルーテシアの三人は開会式が行われる為コート内に集まっている。ゼッケンをつけ、いつもの練習着を着てこのような場所に立っているとさすがのアスカでも気が引き締まる思いで呼吸を一つする。ここにいる、全ての選手がそれぞれの想いと夢を持ってここにいる。その中には、自分では決して超えられないようなものを持った選手がいるかもしれない。実力、精神、どれもこの時の為に鍛えてきた。辛い特訓も、もはや死刑に近いような修羅場もたくさん味わってきた。たとえどんな相手が来ても・・・一歩先へ、一秒前よりも強く。教わった全てを出し切って、勝つ。そして・・・彼女たちに、胸を張ってまた会えるように。今度こそちゃんと守れるものを守れるようになる為に。

 

「上へ行こうぜ、相棒。俺とお前の二人で」

『はい。貴方となら、どんな高みへも』

 

 首下で点滅する愛機の頼もしい返事を聞いて今度は頭をいつもの調子に戻し、見慣れた後ろ姿を見つけて声をかける。

 

「ヴィーヴィちゃん、おっはよ」

「あ、先輩っ」

 

 花が咲いたように笑うヴィヴィオ。以前一緒に食事した時からより一層距離感が近くなった気がするその後輩の少女は、自分を見つけると笑顔を浮かべ駆け寄ってくる。その友人二人も彼女の後に続いて此方に寄ってきた。

 

「リオちゃんとコロちゃんもおはよ。ハルちゃんは?」

「おはようございます先輩」

「あー、アインハルトさんなら、あそこです・・・」

 

 リオが指さす先。そこには鼻を抑えてなにやら悶える、いつもとは違うガッチガチに緊張しているアインハルトがそこにいた。どんな時でも、凛とした空気というかキャラを崩さない彼女だけにその姿はとても新鮮に見えた。

 

「あのハルちゃんでも流石に緊張するか」

「そういうアスカ先輩は緊張してないんですか?」

「そりゃコロナ、だって先輩だし」

「あー・・・そっか」

「おいちみ達。それはいったいどういう意味かおにーさん超気になるんだけど」

 

 後輩二人に軽くディスられたことにツッコミを入れていると、後ろで若干もじもじしているミウラに気が付く。それを見て。

 

「どうした、トイレか?」

 

 そんなデリカシーの欠片も存在しないことを言った。

 

「違いますッ!えっと・・・」

「ん・・・ああ、そっか。お前は会うの初めてだったよな。この子は俺の将来のお嫁さんの高町ヴィヴィオちゃん」

「え、ええッ!?」

「お、おおおおお嫁さん!?」

「ちょ、ヴィヴィオいつの間にッ!?」

 

 真っ赤になってパニックになるヴィヴィオ。それに慌てるリオとコロナの二人。ポカーンと思考停止するミウラ。まさにカオスがそこに広がっていた。

 

「アンタね、そんな言い方したら勘違いするに決まってんでしょうが。安心してミウラ。ヴィヴィオはお嫁さんじゃなくて、幼馴染で妹的存在ってことだから」

「ん?割と本気だぞ。ヴィヴィちゃんかわいいし天使だし。・・・いや待て、リオちゃんの元気っ子八重歯スマイルも捨てがたい・・・やや、コロナちゃんのこの年で母性溢れる包容力も・・・しかしハルちゃんの年齢ミスマッチ美人も中々・・・ええい、選べん!こうなれば、お前たちが俺のつば――――」

「天誅ッ!」

「ヘブン!?」

 

 マシンガンで止まらなくなった揚句いよいよ危険度が増したアスカの脳天に拳を叩き込むことで黙らせるルーテシア。本来はバリバリの後衛型である彼女が最近前衛もいけるんではとなのはに言わしめた戦闘スキルのルーツはここにあるのかもしれない、と観客席から見守るノーヴェは思った。ルーテシアによって意識をブラックアウトさせたアスカはそのまま首根っこを掴まれる。

 

「ごめんねみんな、このバカは私が責任もって手綱握っとくから。それじゃ、もう列に並ばないとだからまた後でね!」

 

 ズルズルと引きずられていくアスカ。ヴィヴィオら三人と一言二言言葉を交わしたミウラも二人の後を追いかける。

 

「ったく、此奴は毎回毎回どうしてこう落ち着きがないのか・・・」

「・・・フフ」

 

 愚痴をこぼすと、隣を歩くミウラが小さく笑った。

 

「どうしたのミウラ?」

「だってルーテシアさん、アスカさんの事を話す時って怒ってるのに何だか嬉しそうに話すからおかしくって」

「嬉しい?・・・まさか」

「本当ですよ?昨日の夜もそうでしたけど、何だかんだで一番近くにいるなって思いました」

「そ、それは偶々此奴の隣が空いてるからつい・・・」

「・・・もしかしたら」

「ん?」

「アスカさんの強くなりたい理由・・・それって、ルーテシアさんの事かもしれないですね」

 

 アスカの強くなりたい理由。以前、聞いた事があった。その時はうまくはぐらかされたが、確かこう言っていた。

 

  ――――約束、なんだ。とある子とね。その約束を果たす為に、俺は強くなりたい。

 

 だが、ヴィヴィオを除けば自分が一番あの中で付き合いが深い。そんな約束をした覚えなど、もちろんない。単に忘れているだけということもあるかもしれないが、彼と交わした約束を自分が忘れるなどありえないと、ルーテシアは絶対的なまでの自信で言い切ることができる。それでも、覚えはない。となれば、考えられることは一つだ。

 

「・・・どうかしらね」

「違うんですか?」

「多分。こう言っちゃなんだけどさ、あたしアスカとは結構古い付き合いなのよ。だから考えてることはある程度わかるし、約束事なんて尚更忘れるわけない。でもね、思い当たる節がないの。だからそれ、あたしじゃない」

 

 話していて、心がチクリと痛んだ。自分じゃない、他の誰かの為に強くなろうとしている少年。暗闇から、自分を救ってくれた少年。そんな彼の原動力とも言うべき根本的理由。それがなんなのかがわかるから、余計に辛かった。

 

 少し声のトーンを落として話したルーテシア。そんな彼女に何か悪いことをしてしまったのかとそわそわするミウラ。

 

「・・・あ、何もミウラがそうなることないのよ?」

「いや、でもボクなんだか話しちゃいけないことだったのかなって・・・」

「・・・アスカも、ちょっとは貴女ぐらいの可愛げがあってもいいのにね」

 

 ハア、と軽く溜息。

 

「まったく・・・どーしてこんな奴に惚れたのかしらね、あたしは・・・」

「え、ルーテシアさんてアスカさんの事好きなんですか?」

「え・・・ウソ、やだあたし声に出して・・・あああああ、ミウラ、今の聞かなかったことにして!ね、ね!?」

「うぁ、は、はいっ!・・・でも、ルーテシアさん。その気持ちなら・・・多分、ボクも負けませんよ」

 

 急に返された発言にルーテシアは一瞬面食らってしまう。

 

「・・・ボクも、先輩からたくさんのこと教わりました。引っ込み思案だったボクを八神道場に誘ってくれて、一緒に鍛えて・・・。あの時、アスカ先輩の誘いがなかったら、きっと今もボクは自分の中に閉じこもったままでした。そんなボクを、先輩はみんなと一緒に引っ張り出してくれた。だからボクは、先輩を想う気持ちなら誰にも負けないです」

 

 それは、恋・・・・と言うには、少しズレていて。でも確かに強い想いが伝わってきた。真剣に、真っ向から話すミウラ。そっちがそうなら、とルーテシアはあくまでも冷静にいつも通りにアスカを引きずって歩いていく。

 

「そう・・・ま、でもあたしも負ける気はないけどね」

 

 試合にも、もちろん恋も。だから。

 

「言っとくけど、あたしけっこー手強いから」

 

 いつもの通りに、ちょっぴり小悪魔に笑ってみる。




 その後、開会式。

《えいえい、オーッ!》

「・・・な、ルー」
「一応聞くけど、何」
「えいえいオーって、なんか古くないか?」
「あー、それはわかる」
「あ、ボクもです」
「うんうん」
《ちょ、ええ!?まさかの満場一致ですか!?」

 かくして開会式は無事に終わった。


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♯12

選考会の組み合わせはA~Dブロックに選手をエントリーナンバーごとに振り分け、番号が近い者同士で組み合わせて試合をする。そこでの勝敗の結果で予選リーグへの決まるという流れだ。

 

《Aブロック第一試合。ゼッケン913vsゼッケン319》

「・・・ナンバーに悪意がある気がするのは俺だけ?」

 

 不満を漏らしつつもリングに上がるアスカ。選考会での試合には幾つかルールがある。その一つに魔法とデバイスの使用を禁止するというものだ。とはいっても武装、主に槍や剣といったアームドデバイスの場合、選手本人のスタイルの根本に関わるような事に関しては使用を認められており、魔法もまたしかりだ。原則としてこの選考会では本人のコンディションの良し悪しと極めて実力が近い者同士で振り分ける為のものであり、規則とは言ってもそこまで拘束力があるというわけではない。その為か、武器を持参している参加者も少なくはないのだ。

 

「アスカ、気を抜くなよ」

「オッケーザッフィー。んじゃ、ちょっくら勝ってきますかね」

 

 セコンドアウトが告げられ、試合開始のブザーが鳴り響く。

 

「フン、随分と舐めた口きいてくれるじゃないの坊や」

「おねーさん相手にこれくらいの虚勢張らなきゃ、自分を奮い立たせるなんて無理だからね」

 

 言葉と行動が逆になるかのようにアスカの表情には恐れがまるでない。むしろ言葉通り、既に勝ち誇ったような顔で対戦相手を見つめる。軸足である右を前にして少し腰を落とし、右手は拳を作り胸の前に。そして左手はさながら手刀のようにして前に出す。

 

「へぇ、変わった構ね」

「かっこいいでしょ」

「そうね。・・・もう見られないのが、残念だけど――――ッ!」

 

 瞬間、相手が踏み込む。体勢を低くし、さながら獲物を狩る豹が如く駆け抜けアスカに肉薄する。しなやかな動きでリングを移動し、拳を繰り出す。スピードが乗っている分、インパクトの瞬間にかかる力は普通に殴るよりも威力が増す。

 

  しかし。アスカはそんな拳を微動だにせず、ただじっと待つ。

 

「んー、確かに見納めだね」

 

 迫りくる拳。アスカはそれを右に体重移動して体の軸をブらせるという僅かな動作のみで躱し、すれ違いざまに腹部に拳を叩き込む。勢いを逆に利用された相手はそのまま成す術もなく肺から無理やり空気を排出され、意識をこん倒させられる。よろめいたそこにすかさずもう一発の拳を叩き込み、相手をリングに沈めた。試合時間は会話を含めてもおおよそ一分もかかっていない。この結果に、周囲がざわめいた。

 

《し、試合終了!ゼッケン913、勝ち抜け!》

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

「おお、ヴィヴィちゃんとミウラも勝ち抜けか」

 

 試合後、観客席に腰掛けて後輩達の試合を見ながらドリンクを飲む。ザフィーラはミウラのセコンドの為今は彼女と一緒、現在は彼一人となっている。

 

「予選4組・・・あちゃー、こりゃ身内同士でつぶし合いか・・・」

 

 ヴィヴィオとミウラ。是非とも見たい組み合わせではあるが、それと同時に戦いたいとも思っているアスカにとってそれは少し不満のある組み合わせだった。こうなることは予想はしていたが、試合で当たりたかったという気持ちもないわけではない。残念だ、と溜息をつくと隣に誰かが腰掛けてきた。上下真っ黒なジャージに、バケツのような大きさのカップに山盛りのポップコーンを抱えている。

 

「不審者だ」

「ちょ、そない勘弁してぇな!」

 

 特徴的な喋り方。こんな口調をしる人物はアスカの知りうる限りでは二人しかいない。内一人は今は仕事中ともなれば、誰かを特定するなどたやすい。

 

「ジークか」

「アスカって、意地悪やね」

「そうか?これでも優しい方だけどな」

「そうなん?・・・って、意地悪ってことは否定せーへんのな」

「それよりなんでお前がここにいるんだ?」

「強引に話反らした・・・」

 

 頬を膨らませるジーク。

 

「ウチかてチャンピオン言うても、特別シードってわけやあらへんから。予選で戦って、そこで勝ち抜いて地区代表でその次に・・・ってな具合で、これから対戦するやろうなって子がどんな選手か観に来たんよ」

「敵情視察ってやつか・・・こりゃ俺も見られてたかな」

「もちろん。あんな速い人をキッチリ抑えてのKO勝ち、見事やったで」

「チャンピオンに褒めてもらえるなら、これほどの名誉はないな」

 

 おどけてみせるアスカ。それにすっかりなじんだジークはクスクスと笑う。と、そこへまた一人やってきた。

 

「みーつけたっ」

 

 そう言ってジークのフードを取るのは、現在彼女が下宿している・・・・筈の家主、ヴィクトーリア・ダールグリュンだ。アスカにとっては約半月ぶりとなる。

 

「またこんなジャンクフード食べて・・・朝ごはんも食べないでどこに行ったのかと思えば」

「だって、アスカの試合見たかったんやもん・・・それよりウチのポップコーン返して~」

 

 端から見たら姉妹、もしくは親子にでも見えるのだろうか。そんな姦しい光景を見ながら眼福だと手を合わせて拝むアスカ。

 

「お疲れさま、アスカ」

「そっちもな、ヴィクター。いやぁ朝から美少女と美女のイチャイチャを見れて眼福眼福」

「貴方、出逢った時も思いましたけど発言が一々おじさんクサいですわね」

「よせやい、照れる」

「・・・はぁ。それでジーク。今年は最後までやれそう?」

「・・・・うん」

 

 ヴィクターの問いに少し表情を曇らせて頷くジーク。

 

「なんだ、ジークは途中退場でもしたのか?」

「ええ。ちょっと、ね」

「ふーん・・・どんな事情があったかはしんねーけど、今年はやるんだろ?だったら最後までやってもらわないとな」

「え?」

「だってそうじゃなきゃチャンピオンって名乗れないだろ?不戦勝しても後味悪いだけだしな。ま、仮にそうなったとしても探し出して首根っこ捕まえてでも俺と戦ってもらうけど」

「あら、貴方ジークを倒すと言うの?」

「倒す。全力のジークを、俺の全力で。それが俺の目標だからな」

 

 しっかりと言い切るアスカ。それにジークは笑みで返す。

 

「せやったら、ウチも負けんようしっかりせなアカンね」

「もう、私を忘れてもらってはこまりますわよ?」

 

 三者三様で宣戦布告をする。そんな中、今度は慌てた様子で駆けこんでくる人影が。

 

「アホのエルスが生意気に選手宣誓なってすっから笑いに来てやったのによー・・・お、ヘンテコお嬢様じゃねーか」

「あら、ポンコツ不良娘じゃない。どうして貴女がここにいるのかしら」

「選手だからに決まってんだろ。それにそれはこっちのセリフだっつの。なんでおまえが―――」

 

 目が合ったとたんに何やら言い争いを始める二人。犬猿の仲、と言う奴だろうか。罵倒に続く罵倒。売り言葉に買い言葉で話は展開していく。正直ヴィクターのお淑やかで凛とした雰囲気しか知らないアスカにとって彼女の意外な一面は面食らうには充分なものだった。

 

「えっと、あの子はハリー・トライベッカいうてヴィクターとは因縁の相手なんよ」

 

 そこでジークが耳打ちする。なるほど、それでかと納得のいったアスカはスッと席を立ち、二人の間に割って入る。

 

「はいはいお二人さんそこまで」

「なっ、アスカっ!」

「何すんだテメー!」

 

 強引に引き離されたものだから当然ヒートアップしたふたりの矛先はアスカへと向けられる。しかしそこで自分もカッとはならずにビシッと指を立てて言う。

 

「あのね、公共の面前でなにやってんのさアンタらは。ここには少なからずアンタらに憧れて大会に参加したって選手だって大勢いるかもしれないんだぞ?そんな人達に、こんなキャットファイト見せていいのか」

「そ、それは・・・」

「そう、ですけど・・・」

「けども何もない。それに、争うならもっと別の物で争え」

「例えば?」

「俺を巡って、とか」

「なあ、コイツ殴っていいか?」

「ええ、いいわよ」

「ちょ、酷いっ!?」

 

 説教を始めたと思ったらこのオチ。まったくもってこういうダメなところは先祖も子孫も変わらないなと呆れ気味に溜息をつくジーク。そしてそこに突如無数の鎖が駆け抜けて、ヴィクターとハリーを拘束してしまった。鎖型の捕縛魔法、チェーンバインドだ。それもかなり高密度のもの。

 

「なんですか、都市本戦常連組の上位選手(トップファイター)がリング外で喧嘩なんて。会場には選手のご家族もいらっしゃるんですよ?インターミドルがガラの悪い子達ばかりの大会だと思われたらどうします!」

「うっひゃー、すっげーバインド。さすが上位入賞選手は違うわ・・・」

『魔力濃度、コントロール、どれをとってもマスターより上ですね』

 

 冷静に分析するブレイブハードと素直に驚くアスカ。その光景を見て、エルスは驚愕する。先ほど自分は確かにこの三人を射程に収めていた。狙いも完璧だったし、死角からの捕縛だ。後ろに目でも付いていない限りは悟られることは決してない。でも、何故かこの少年だけは外にいる(・・・・・・・・・・・・・・)。破られはしても回避はされたことなど無い、自慢の捕縛魔導。試合ならいずしらず、完全シラフでの回避・・・。

 

「そやけどリング外での魔法使用もよくないと思うんよ・・・」

「――――あぁ!?チャンピオン!」

 

 エルスが発したチャンピオンという言葉。それに一気に会場がざわつく。それもそうだ。都市本戦の、一昨年の世界覇者がこの選考会の会場にいることがそもそもレアであることに他ならないのだから。そうなれば当然、周囲の人間の視線は一気にジークに注がれる。ヴィクターやハリーもスター選手ではあるが、彼女の場合はその比ではない。あまりにもの羞恥心に、ジークはアスカの背中に隠れるようにして身を隠す。

 

「あ、先輩!」

 

 と、そこに聞きなれた声に下をみる。

 

「ヴィヴィちゃん、みんな」

「アスカ先輩、通過おめでとうございます!」

「ありがとうコロちゃん。あ、紹介するよジーク。あの子達が俺の後輩で友達。普段一緒に遊んだりしてるんだけ――――」

 

 と、不意に反対側の観客席に目を向ける。そこに見る、白髪の少女の姿。後ろ姿ではあるが、それは紛れもない、幼き日に自分を兄と慕ってくれた少女のそれだ。

 

  リンネだ。リンネがいる。

 

「ジーク、ゴメン、また今度。えっとバインドのおねーさん?でいいのかな。あの二人のことよろしく!」

「あ、ちょ、待ちなさい!」

 

 エルスの制止も聞かぬまま、アスカは人だかりをかき分けてリンネが歩いていったであろう後を追う。が、彼女の姿は結局発見できずそれがリンネ本人だったのかすらわからないままモヤモヤとした気持ちをかかえてアスカはミウラとザフィーラ、そしてルーテシアとウェンディ、ディエチと合流した。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

「リンネ・・・」

 

 確かに見た。少し背丈が伸びていたけど、アレはたしかにリンネだった。そう確信するだけの根拠が自分の中にはあると、アスカは昼間のことを思い返す。リンネが来ていた。でも、何故?格闘技なんてやるような子ではなかった筈だ。それじゃ、もしかしてフーカが出場していて、それの応援?!いや、でもそれなら自分の方も観に・・・・。

 

「なーに黄昏てんのよ」

 

 テラスに出て海を見ながらひとりふけっているアスカにルーテシアが声をかける。

 

「幼馴染がいたんだ。妹みたいな子でさ。ホームでずっと一緒だった・・・」

「・・・ああ、確かリンネとフーカ、だっけ」

 

 コクンと頷く。

 

「おかしいわね、リストにもシードにも名前はなかったはずだけど・・・」

「でも、あれは間違いなくリンネだったんだ・・・きっとそうだ!」

「ちょ、近い、近いって!」

 

 いつの間にか熱が入っていたようで、ルーテシアの顔が目と鼻の先にあることに気が付くアスカ。慌てて離れる二人にぎこちない空気が流れる。波の音だけが、静寂の中で響く。

 

「・・・開会式の時にさ」

「ん?」

「ミウラに聞かれたのよ。もしかしてアスカ先輩の強くなりたい理由って、ルーテシアさんなんじゃないかなって」

「彼奴、余計なことを・・・」

「・・・実際どうなのよ」

「教えるわけないだろ。恥ずかしい」

 

 プイ、とそっぽを向くアスカ。その顔に若干赤みがかかっていたことを、ルーテシアは見逃さなかった。

 

「照れることないでしょうに」

「お、男には秘密の一つや二つはあった方がミステリアスでモテるんだよ!」

「女からしてみれば、自分をさらけ出してくれた方がよっぽど好感度高いと思うけど?」

 

 グヌヌ、と唸るアスカ。初めて口で負かせた気がして心地いい高揚感に包まれるも、それでも内心は少し穏やかではなかった。ややあって、ルーテシアが言う。

 

「・・・ヴィヴィオでしょ。強くなりたい理由」

 

 その解答に、アスカは黙って頷く。

 

「・・・なんて言うか、それに関しては――――」

「ストップ。それは言いっこなしだぜ」

 

 言葉の続きを、指を当てられてシャットアウトされる。

 

「あの時は、単に俺が弱かっただけだ。そのせいで、あの子に沢山怖い思いもさせた・・・一緒にいるって約束も、守れなかった。あの時からずっと、俺の中でくすぶってたものがようやく火が付き始めたんだ。強くなりたい。もう誰も、傷ついてほしくないから。皆に・・・大事な人たちに笑顔でいてほしい。その為に、強い自分に――――誇れる自分になる為に」

「・・・・そっか。そっかそっか」

 

 しみじみと呟くルーテシア。そこで、昔言われた言葉を思い出す。

 

  ――――俺はきみにも笑ってほしい。だから、この手を伸ばすんだ。握ったら、絶対離さない。

 

(そうよね。初めてあの時、私はアスカを・・・)

 

 自分の気持ちを再確認し、ルーテシアはフフ、と笑ってテラスから歩き出す。

 

「お、おい?」

「・・・アスカ」

「ん?」

「私、負けないから。絶対アンタに届かせて見せる。だから、覚悟しときなさい」

「・・・よくわかんねーけど、わかった!」

 

 そう言って、笑いあう二人。インターミドルチャンピオンシップ、選考会。アスカ・スカーレット・・・・スーパーノービスクラス、決定。対戦相手は――――エルス・タスミン。




※コミックス5巻のおまけストーリーにて

はやて「あ、ヴィータがなのはちゃんにお姫様抱っこされとる!」
アスカ「なんだとぅ!?よしリイン、アギト!キャメラだ!キャメラを持てぃ!」
リイン「一眼レフ、スタンバイ!」
アギト「デジタル録画もばっちりだぜ!」
アスカ「これでしばらくはネタに困らないぜ・・・デュフフフフ・・・!」

 その後、案の定バレて説教された4人であった。


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♯13

 インターミドルチャンピオンシップは早くも予選リーグが開始された。その中でチームナカジマ、そして八神道場や教会チームも確実に勝利をものにし、順調に勝ち進んでいる。そして今日は、妹弟子であるミウラにとっては大事な試合。相手は公式戦最高成績都市本戦第三位の実力を誇るミカヤ・シェベル。今年で出場回数が7回目の熟練だ。そんな相手が、こうも早く出てくるとは正直予想はしていたが・・・ミウラは果たして戦えるだろうか。

 

「――――っ、」

 

 いや、自分が信じてやらないでどうする。彼女も共に苦楽を共にしてきたじゃないか。決して弱くない。チームメイトとして、そこは応援しなければ。頭を切り替えつつ、さらに踏み込んで強く、鋭く蹴る。一撃一撃を、想定する相手を切り替えながら何度も拳と蹴りを交互に繰り出していく。

 

「なあアスカ」

「はい?」

 

 スパーを繰り返すアスカ。誰もいない浜辺で打ち付ける音と寄せては返す波の音の中で、特徴的な語調で自分の名前が呼ばれたことに返事を返す。

 

「ミウラの相手って、エリートクラスの選手なんやろ?観にいかへんでええの?」

「・・・俺は、俺のやるべきことをやります」

「そかー」

 

 そして再びの沈黙。

 

「・・・アスカ」

「はい?」

「お尻、破けとるよ」

「マイッチングぅ!?」

 

 嘘やけど、とおどけて笑うはやてに憎ったらしい視線を送る。そんなに退屈なら自分も行けばいいのにとボソっと呟くとそれが聴こえていたようで返事が返ってきた。

 

「ミウラも大事やけど、アスカもおんなじくらい大事なんよ。あの子にはヴィータとザフィーラが付いてくれてるし、そっちの方はまあ心配せんでも平気や。そやから私は、こっち。八神家の頼れる長男、期待しとるで」

 

 笑顔の励ましを背に受け、少しこそばゆくて鼻をかく。温かいものが心の底から湧き上がる。それを止めようとはせず、むしろさらに高ぶらせて意識を集中させる。腰を落とし、右足に魔力を収束させていく。三角形の鮮やかな紅が大きく広がりまばゆく輝きながら回転する。

 

「・・・勝ちますよ。あの子も、俺も。この期間の為に、ずっと磨き上げてきたスタイルと魔法。教えてもらった一つ一つが大事で、今の自分を作ってるんだって、わかってます。誰が来ようと、絶対に負けない・・・そう、鍛えてもらってきましたから」

 

 そして、一気に蹴り抜く。離れた距離にある筈の木の人形が、アスカが振りぬく軌道に合わせて生み出された炎によって炎上する。さながら斬撃のようにも見えるそれが弧を描き、直撃したのだ。回し蹴りを終え、ふぅ、と息をついて顔を上げる。

 

「八神家の長男として、道場の門下生として。最高の結果を残してみせます」

「うん・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

「勝ちましたーっ!」

 

 帰ってきたミウラは、少し疲れ気味で開口一番そう言った。

 

「よくやったぞミウラ!あのおっp・・・ミカヤ選手に勝つなんてすげぇよ!やっぱすげぇよミカは!」

「ありがとうって言いたいんですけど今確実に比較してはいけないところ比較しましたよね。というか最後のなんですか。最終的に原型なくなってるんですけど」

 

 たとえグロッキーであってもツッコミをせざるをえない。それが八神家である。そんな訳の分からない理不尽な暗黙の了解にミウラも従いながら疲れを癒す為浴室へ。反省会はまた後にして、今は小さな妹弟子が挙げた大きな成果を祝うとしよう。はやてが腕によりをかけた料理がテーブルの上に所狭しと並べられ、風呂から上がったミウラを迎える。それから少し大げさではあるが、まずは大きな山場を越えた事を労い祝いの席となった。

 そして、一週間後。この日はアスカの試合の日である。

 

「ひやー、すんごい人だねぇ」

「今日の試合は人気選手がそろい踏みだからね」

 

 ごった返す観客席を見渡してシャンテがそうもらし、ルーテシアが今日は目玉といっても過言ではないと返す。

 

「あ、ルールー、シャンテ!こっちこっち!」

 

 声に振り向けば、そこにはヴィヴィオとリオがちょうど見晴らしのいい席を四人分確保していた。

 

「陛下、リオっち。助かったよー、立ち見とか勘弁だったから」

「でもよく取れたわね?ここ、ほぼ最前列じゃない」

「フッフッフ、それに関してはこのヴィヴィオがですねぇ」

「ちょ、リオ!?」

 

  顔を赤らめて急にあたふたし始めたヴィヴィオに二人は「あ、なるほど」と言った顔で納得したかのように手を打った。今日の第一試合、誰が出るかをわかっていればこの子が早朝で家を出て席取りに並ぶ光景などいとも簡単に思い描くことができる。

 

  現に自分もそうしようとしたところで、互いを発見して断念したわけだから。

 

 先を越された、そんなことは思わないがそれでも一抹の口惜しさはある。次こそはと心に決めつつも会場内にアナウンスが響き渡った。

 

《さぁいよいよ始まりますプライムマッチ第一試合。ブルーコーナーからは昨年度都市本戦第8位!結界魔導師、エルス・タスミン!学校では風紀委員長ということで、制服姿での入場です!》

 

 選手説明のアナウンスが流れる中、声援に包まれながらエルスが入場する。エリートクラスともなるとやはり観客の反応も段違いだと本人でもないのに若干のアウェー感をかんじてしまう。

 

《そしてそして、レッドコーナーからは今年度初出場にして最多KO記録を更新中!超新星のダークホース、アスカ・スカーレットォ!》

「せーのっ――――」

「アスカー!頑張れー!」

 

 エルスへの声援に負けぬよう、4人で声を揃えて大きな声で声援を送る。そんな彼女達に気付いたのか、此方を見て手を振ってくる。

 

「随分と可愛らしい応援団ですね」

「自慢の後輩達ですよ。皆強いし優しいし、何より美少女だ」

「フン・・・年下だからと言って容赦は一切しませんからね」

「押忍!そっちの方がむしろありがたいってもんですよ、先輩」

 

 売り言葉に買い言葉で返す二人。レフリーの指示で互いにバリアジャケットを身に纏いいよいよ試合開始のゴングが鳴る。先に動き出したのはエルスの方からだった。複数の魔法陣を展開させ、そこから幾重もの鎖を伸ばして来る。目的はもちろん此方の捕縛、そこからのライフダメージを狙っているのだろう。しかしアスカはそれを極最小限の動きで躱し、弾きながらエルスへと接近する。拳を構え、まずは一撃・・・・とはいかず、シールドによって防がれてしまう。そのままパワーで押してラッシュ、とはいかずすぐさまその場から離れるアスカ。

 

「ほう、あの時も思いましたが、いい勘をお持ちですね。まさか見破られるとは」

「ねえルールー、先輩はなんであのままラッシュに持ち込まなかったの?」

 

 ヴィヴィオの疑問に、ルーテシアが解説する。

 

「たしかにアスカのパワーならあのシールドを突破して、打撃を与えられたかもしれない。でもそうしなかったのはアレがトラップだってわかったから」

「シールドバインド。防いだと見せかけてそれがスイッチとなって捕縛魔法が発動する・・・」

 

 厄介だよ、とシャンテが締めくくり、アスカは再びバインドの追跡を受ける。

 

「さぁ、どうしました!?先ほどの威勢は虚勢だったのかしら」

「ちッ、いくら躱してもキリがない・・・だったら!」

 

 脚を止め、魔法陣を展開する。そして。

 

「・・・抜剣ッ!」

 

 両腕の装甲が展開され、紅い粒子が舞い散る。そしてそれがやがて大きなうねりとなり、炎の渦を生み出した。その渦に鎖は弾かれ、軌道が逸れたところでアスカはそこから飛び出し、拳に炎を纏わせ、放つ。

 

「”クリムゾンスマッシュ”!」

 

 熱く、重い一撃がガード越しにエルスに当たる。華奢で身長差もあってかそのパワーは強烈で体を吹っ飛ばされてしまうが、やはりそこはエリートファイター。なんとか踏ん張ってリングアウトだけは回避した。

 

「うっ・・・炎熱変換に収束魔法・・・しかもこんな短時間での魔法処理とは、中々どうして楽しめそうですね」

「先輩こそ、さっきのバインドの応酬にはヒヤヒヤしたぜ・・・けど、こっからは俺のターンだッ!」

 

 激闘は、続く。




 ※浜辺にて

アスカ「そういえば俺が長男ってことはザッフィーはどうなんすか?」
はやて「ペットや」
アスカ「ゲスい!この人ゲスいぃ!」


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♯14

「いいかアスカ。お前には弱点がある。まずは炎熱変換だ」

 

 手のひらにボウっと炎を出しながらアギトが言う。

 

「これはお前の持ち味であって、最も欠けている部分でもある。ちょっとやってみろ」

 

 言われて足元に魔法陣を展開する。掌を上にして、そこに淡く灯す・・・・具体的にはロウソクに炎を灯すイメージで意識を集中させ、少し間を置いて炎が出る。

 

「遅い。実戦での活用を考えるなら1秒と掛かる前にやれ。最悪0,5秒だ」

「俺は宇宙刑事かなんかですか!?」

「言い訳はよせ。・・・・フロガは呼吸をするよりも当たり前にやっていたぞ」

 

 フロガ・スカーレット。古代ベルカに実在した、”炎帝”の異名を持つ凄腕の騎士。アスカにとっては先祖にあたるその人物の名前を出されて、少しムッとなる。さらにやる気をだしたようでアスカは再度手のひらに意識を集中させる。しかしその僅かな精神の乱れが、コントロールを鈍くさせ必要以上の火力で炎を灯してしまう。さながらフランベでもしたかのように火柱が上がり驚いて尻もちをつく。

 

「炎熱変換はコントロールが最も難しい。現在確認されている電気、氷結、そして風・・・希少価値の度合いはあれど、最も魔力コントロールを要求されるのがこの炎熱だ」

「一歩間違えれば自分が燃える。援護のつもりが仲間を燃やしちまう・・・言ってみりゃ、くじでハズレを引いちまったようなもんだ」

「自滅については他の属性にも言えることだが、炎の大きさや温度と言った細かな所まで考え、コントロールしなければならない」

「けど、それをモノにすりゃあアタシやシグナムみたいな戦い方だってできる。合宿の時、もしお前がこの力を使いこなせていたなら・・・そう思う場面は何度もあった。自分でもわかるな?」

 

 アギトの問いに静かに頷くアスカ。

 

「魔力とは言っても、それもエネルギー体の一種だ。そう言ったものは全て”熱”から始まる。我らの力は、その熱を”炎”という概念に変えて形と成している。それを極める事が出来れば、砲撃魔導師の最高難度技術(エクストラスキル)である収束も今よりもっと速くなるだろう」

「それに、威力も増す。普通に収束砲をぶっ放すのと炎の属性変換を付与させてぶっ放したのとじゃ全っ然違ってくるんだぜ」

「・・・つまり、使いこなしてさえいれば、あの砲撃戦も」

「ああ。ティアナの”スターライトブレイカー”を相殺させ、なのはの”スターライトブレイカー”を通すことも夢物語というわけではない。・・・ま、わかっていてもあの規模は私とアギトでもどうしようもないがな」

「マイスターでも出てこない限りアレはムリゲーだよな」

 

 どこか遠い目で話す二人。何故か知らないが地雷を踏んだらしい。ともあれ、二人の言いたいことはよくわかった。――――要は、「使いこなせなきゃ勝ち上がるのはまず無理」ということだ。選考会はまだいい。大半の大型魔法が使えないし、体術が基本だからだ。が、予選や本戦はそうはいかない。使いこなせなければ、即敗北・・・・。

 

 

  約束を守る。強い自分になる。後戻りなど、する気はない。

 

 

「・・・教えてくれ。俺に、全部」

「・・・良い顔になった。では、特訓を再開するぞ」

「押忍ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッ!」

 

 毒づきながら、エルスは鎖を操作して対象を追う。リングの中を縦横無尽に駆け巡り、寸でのところでいつも回避される。捕縛系魔法を使う身としては、これほど厄介極まりない回避の仕方はない。動かないと思って速度を上げて拘束しようとすれば、急に動かれて停止の命令が追いつかずに空ぶって次につなげるのにロスが生じる。懸念されていた展開ではあったが、ここまでとはエルスも予想はしていなかったようでイマイチ攻めきれない。

 一方、それはアスカも同じであった。近づこうにも行く手を阻まれて、しかも強引に突破しようとすれば相手の思う壺というわけだ。でも、隠し玉がないわけではない。しかしそれをこんなに早く使っていいものかどうか・・・・。

 

 思考するアスカに、ベルト型になって腰にその割っている相棒から激が跳ぶ。

 

『何を躊躇っているのですか』

《ブレイブ・・・》

 

 思念通話で愛機の言葉に耳を傾ける。

 

『貴方は開会式の時、私に言いました。上に行こう、と。なのに今は、それを躊躇っているように見えます。貴方の想い、貴方の夢・・・貴方の強さは、こんなものですか?私は・・・こんなものでは、ありませんよ』

 

 ――――炎熱変換に限らず、魔力変換はデバイスにも負荷をかけることになる。

 

 訓練の際、シグナムが言っていたことを思い出す。力は確かに力だ。しかし、それを手なずけるとなれば話は変わってくる。自分一人でも力は使える。しかし、それを”制御”するにはまだアスカはあまりにも幼い。

 

 故に、必要なのだ。自分と共に戦い、高みを目指せる”戦友(とも)”が。そして今、自分はその友と一緒に戦っている。

 

(そうだ・・・戦っているのは、俺だけじゃない)

 

 回避に徹していたアスカがその動きを止める。そして迫り来る鎖。観客席では、まさかの光景に息を呑むヴィヴィオ達。

 

「・・・行くぜ、相棒」

『オーライ、バディ』

 

 エルスの魔法が、遂にアスカを捉える。腕、足、腰、首。四肢の全ての自由をエルスが手中に収めてしまった。

 

「先輩ッ!」

「アスカ、どうしたのよ急に!?」

「こらアスカ!お前こんなとこで負けたら承知しないかんな!?」

「・・・アスカ先輩・・・」

 

 躊躇う必要はない。教えてもらったことは、ちゃんと自分の中にある。恐れるな・・・今度は、ちゃんとできる。うまくやれる。だって俺は・・・・いや、俺達(・・)は。

 

  ――――一人じゃ、ない。

 

 腕と脚の装甲が赤く、淡く輝く。そこから炎が鎖を伝って走り・・・分解する。捕縛魔法は常に使用者の演算処理を要求される。この理論は主にデバイス側で処理するのだが、多くの魔法を同時に発動、使用するには術者である人間の方にも高度な演算能力が求められる。エルスの場合、デバイスと術者であるエルス自身がその能力に秀でている為より高度で強力な魔法の行使が可能となっている。しかし、それはあくまでも彼女が冷静であったならばの話だ。

 バインドの拘束から脱出するには主に二つの方法が用いられる。一つは、使用者よりも高度な演算処理で魔法の処理を上回り、瓦解させる。もう一つは・・・ただ単純に、破壊(・・)すること。幸いなことに”ブレイブハート”もアスカも演算能力は高い方ではない。故にバインドの使用頻度も成功確率も低い為、多用はできず、捕まってしまえばそこから抜け出すには時間もかかる。逆に破壊しようとすれば、ダメージ覚悟でやらねばならない。

 

  しかし、今の彼は違う。破壊という手段を行使したとしても、炎熱変換能力を使いこなせばこの程度のことはたやすいのだ。

 

 想定外すぎる行動に、エルスは一瞬あっけにとられてしまう。そしてその一瞬は、アスカにとって最大のチャンスであった。

 

「抜剣ッ!」

「いけないっ!」

 

 伸びきっていた鎖を素早く手元に戻す。再度捕らえようとした――――その時。引き寄せた鎖に、紅い粒子が付着しているのが目視できた。それも、大量に。それはエルスのジャケットにも付着する。それを見たアスカの顔が・・・・笑っていた。その笑みに悪寒を覚えたエルスだったが、もうその時にはアスカの術が発動している。軸足とは逆の右足を回し蹴りの要領で振りぬく。そのモーションがスイッチとなり、散らばっている魔力の粒子が燃えて蹴りの軌跡を描き出す。離れている距離であっても、目視できるのであれば術の行使が可能だ。一種の起爆魔法で少量であれば威力は大したことはないが、今はアスカの体に接触し、且つ魔力に当てられている。それが今、ほぼゼロ距離で燃え盛る。さながら本当に蹴りの直撃を喰らったかのような衝撃は防御するよりも早くエルスへと叩き込まれ、その華奢な体をリングの外へと叩きだした。

 

《・・・な、なんということでしょうか!触れてもいないのにエルス選手の体が突然爆発に吹っ飛ばされリング外に!》

「クッ・・・・やってくれますね・・・!」

「なんの。本当の勝負はこっからだぜ!」

 

  第一ラウンド。エルス、場外。第二ラウンド・・・・開始。




 ※特訓中の一コマ

シグナム「男なんだろ」
アギト「グズグズするなよー」
アスカ(・・・火をつけろってことか?)

 ボッ!←丸太人形に炎を付ける

アギト「ああ!?ヴィータ姉御のお手製丸太人形が!?」
シグナム「誰が燃やせと言った馬鹿者ッ!」
アスカ「え?だって今火を付けろって」
アギト「そこは”胸のエンジンに”って歌詞だったろうがッ!」
リイン「みんな、差し入れ持ってきたです・・・ってわーッ!?」

 その後、めっちゃ錆にされたアスカであった。


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♯15

「粒子爆発?」

 

 ルーテシアから受けた解説で気になった単語をリオが繰り返す。

 

「炎熱系の特殊魔力はその特性ゆえにコントロールがかなり難しいの。少しでも手元が狂えば、暴発して術者を焼死体に変えかねないほどにね」

「うげぇ・・・ってことは私もその可能性があるってこと!?」

「リオはちゃーんとできてるから大丈夫。でも、彼奴はそうじゃない」

「ええ。リオと違って、アスカは家柄で格闘技やそれに類似した訓練を幼いころからみっちり積んでいたってわけじゃない。たまたまシスターシャッハにスカウトされて、たまたま訓練を受けていただけ」

「その期間も短かったし・・・ある意味、あたし等の中じゃ一番素人かもしれない」

「さて、さっきの続きだけどね。粒子爆発っていうのは炎属性特有のもので、術者の指示一つで極小の爆発を起こさせることができるの。ヴィヴィオは経験あるんじゃない?」

 

 ルーテシアに言われてヴィヴィオは記憶の中にある出来事を掘り起こす。そこで思い当たったふしがあったようで「ああ!」と手を叩いた。

 

「シグナムさんと模擬戦でマッチングした時!」

「そう。シグナムさんの剣は素の状態でも結構切れ味鋭いし威力も高いけど、そこに炎の魔力付加を与えることによって爆発的に威力を高めているの」

「刃が対象に接触した途端、高熱と爆発で相手の得物を真っ二つ!なーんて事もやっちゃうからね」

「アスカの場合、それを相手の得物に付着させてモーションをスイッチにして爆破。エルス選手からしてみれば、いきなり自分の体が吹っ飛んだようにしか感じられないと思うんだけど・・・どうやらそう甘くはないみたいね」

 

 ルーテシアの言葉が示す通り、リングインした途端に始まった第二ラウンド。そこでエルスのとった戦法は・・・なんと、近接戦。捕縛魔法を得意とし、それを生業としていたあのエルスがだ。これには観戦に来ていたハリー・トライベッカも目を見開いて驚く。

 

「あのエルスが、殴り合い?」

「アスカの炎を危険視してのことね。使う猶予を与えず、ラッシュで攻め込む・・・体格差を生かした戦法ね。けど、それがどこまで通用するかしら」

 

 隣に座るヴィクターが意味深なことを言ってしめる。注意深く、二人の激突する光景を見るエリートファイターのハリーとヴィクター。一人のアスリートとして、いくらアスカが新人といえども決して侮るようなことはせず、相手を観察しそのアクションに対する自身の返しを脳内で組み立てつつ試合の行く末を見守る。

 

(一発一発は軽いのに、この速さ・・・!)

 

 エルスのラッシュを受け止めているアスカは思いもよらない彼女の行動に驚いていた。型は少し荒いが、それでも打撃としての役目は果たしている。装甲越しでも伝わる覇気と闘志が、徐々にアスカを精神的に追い込んでいく。

 

(たしかに私は体格的にも腕力的にも彼に比べたら劣っている。でも・・・だからと言って、それが諦める理由にはならない。ずっと見てきた・・・憧れと、尊敬と、敬意を込めて・・・ッ!)

 

 チラッと、視界の隅に小豆色のポニーテールが映る。いつも、目の上のたん瘤のように思っていた彼女。それでも一人の競技選手として、エルスはハリーを高く評価していた。どんな逆境でも、自分のできることを全力でやりきる。計算なんてあったもんじゃない、そんな荒々しい彼女の戦いぶりに、辛口をききつつも憧れていた。そして・・・・勝ちたいと、思った。

 

 だから。

 

「撃ち抜きますッ!」

 

 右拳に魔力を込めて力いっぱい撃ち抜く。防御されはしたものの、リング端まで追いやられてしまうアスカ。ライフポイント的にも余力は残されていない。文字通り、まさに崖っぷちに立たされてしまった。

 

「・・・あの子ね、前に言ってたのよ。私には、努力しかない。貴女みたいな爆発力も、私みたいな特異体質も、ミカヤ選手のような技術もない。ましてやチャンピオンのように特別な力もない。ないもの尽くしで総合格闘技なんて向いてない。それでも、自分が初めて心からやりたいと思ったことだからって。その為なら、努力することをやめないって」

「彼奴、そんなこと・・・」

「それに、追いつきたい背中があるとも言ってたわ。・・・さて、誰なんでしょうね?」

 

 イタズラっぽく笑うヴィクター。それが何を意味するのか少しだけわかってしまったことに恥ずかしくなったハリーはそれを悟られまいと観客席の手すりに手をかけ、身を乗り出して叫ぶ。

 

「おいデコ助!おまえここで負けたら承知しねーからなッ!おまえをブッ倒すのは、このオレ様だ、よく覚えとけ!」

 

 そんなつっけんどな事を言い、レフリーから注意を受けてしまうもフン、と鼻を鳴らしてドカッと元の席に腰掛ける。

 

「素直じゃないわね」

「うっせ」

 

 ハリーの思いもよらない激励。それを受けて、消失しかかっていたエルスの心にまた火がともる。魔力もそろそろ底をつく。ライフも多くない。相手には自分の得意技がほぼ通用しない。そんな絶望的な状況でも・・・・前を見据えて、不敵に笑う勇気をくれた。そんな応援に恥じぬように。不器用なあの子に少しでも近づけるように。エルス・タスミンは、構える。

 

「空気が変わった・・・」

『おそらくさきほどのハリー選手の言葉が今の彼女を支えているのでしょう。貴方がヴィヴィオ様方の応援を支えにしてるように彼女もまた、大事な約束と意地を通す為に』

「これで終わらせに来る、か・・・だったら、こっちもそれに乗っかろうじゃん!」

 

 腰を落とし、上半身は脱力。けだるいような印象を受ける格好のアスカの足元には真っ赤な魔法陣が展開されて輝く。

 

「お互いライフも魔力もあとちょっと。多分これが最後の一撃」

「ならば、そこに全てを注ぐまで!」

 

 互いに魔力を高ぶらせていく。濃密で大きなエネルギーがみるみるうちにアスカの脚部装甲へと収束されていくのがわかる。それをみて、エルスの脳裏にはあのミウラという少女の使った技が浮かんだ。ミカヤすら退けたあの攻撃。それと同等・・・もしかしたら、それ以上。時間をかけていては危険だ。ならば、やることは一つ。

 

「させません!」

 

 鎖を伸ばし、アスカを拘束する。ギリギリと締め上げる鉛の塊が徐々にライフを削っていくも、それも関係ないと言わんばかりに足に魔力を集中し――――コールする。妹弟子と同じ、あの言葉を。

 

「抜剣ッ!」

 

 装甲が展開され、技を撃つエネルギーが充分に溜まったことを表すように赤い粒子が漏れている。低くなっていた体勢から、駆けだす。エルスに向かって、ただ真っ直ぐに。

 

「先輩!」

「仕掛けたわね・・・!」

 

 ある程度の距離を詰めれば、ピンと張っていた鎖はだらんと垂れ下がり意味を成さなくなる。そこで解除されたと同時に跳躍。空中でくるりと一回転した後、雄叫びと共に右足を突き出す。それに合わせ、魔力を溜めていた拳を突き出すエルス。二つの技がぶつかり合い、しばしの鍔競り合いのようなものが起こった後にそれまで拮抗していたバランスが崩れて押し負けたエルスにアスカのキックが直撃する。吹っ飛びながら、何回も小規模な爆発を起こし、最後は壁に衝突して意識を刈り取った。

 

《試合終了ッ!勝者、アスカ・スカーレットォ!》

 

 アナウンサーが勝者をコールしたのは、静寂が訪れてから数秒後のことだった。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 目が覚めれば、そこには白い天井。香る薬品の匂いからしてここが医務室だということが理解できた。未だ少し視界がぼやけているのは、自分が眼鏡をかけていないせいかとあたりを注意深く見回す。

 

「ほらよ」

 

 聞きなれた声とともに差し出されたそれを受け取ると、視界がクリアになってずれていた焦点が漸く重なった。そこで見たのは、小豆色の髪をしたポニーテール――――ハリー・トライベッカだった。

 

「・・・私は、負けたんですね」

 

 しみじみと、試合の結果を呟く。エルスの言葉にハリーは何も言わず、ただ黙って首を縦に振った。

 

「悔しいですが、今回はここまでですね。・・・ハリー選手?」

 

 未だ口を開かないハリーを疑問に思ったのかエルスは顔を覗きこもうと身を乗り出す。しかしハリーはいきなりガタっ、と音を立てて椅子から立ち上がり背を向けてこう言った。

 

「・・・おまえの仇は、オレがとる」

 

 いやいや、別に私死んでないですけど。そうツッコミをいれようかとも思ったが、震えるハリーの手を見てそれを呑み込む。

 

「そうですか。でしたら、お願いしましょうか」

 

 まったく、不器用な人ですね。そう心の中で呟いてから、去って行くハリーの背中を見送ってから深く溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

「先輩、おめでとうございます!」

 

 試合を終え、更衣室から出てきたアスカをヴィヴィオ達が出迎える。

 

「まったくハラハラさせてくれるわね。ま、でも勝ったからよしとしますか」

「ホント。あーんな隠し玉まで出しちゃってさ。おかげで他に対策されちゃってもしーらない」

「うん、きみら普通に出迎えるってことできないのかな?」

「で、でもかっこよかったですよ!最後のキックなんてなんかヒーロー番組ぽかったです!」

「きみは天使だリオちゃあああああん!」

「ひゅわ!?」

 

 ウルウルと涙を流しながらリオに抱き着くアスカ。よっぽど同年代二人に責められたのが傷ついたのかまるで子どものようにリオに救いを求める。先ほどとはうってかわってこのテンション。真面目なのか不真面目なのか本当にわからなくなるが、重要なのはそこではなかった。今、リオはアスカに抱き着かれててんやわんやしている。そう、抱き着かれているのだ。それをまんざらでもないような、ちょっと得したかも、的な顔で受け入れるリオもリオだ。この子はまったくノーマークだったのにとシャンテはグヌヌと唸る。

 

「ほらアスカ、リオも困ってるんだから離れなさいっ」

「えー、まだリオちゃんに癒されてたい――――すみません、ダガーは勘弁してくださいお願いそれホントに痛いんだから!?」

 

 強引に引きはがされたことに文句を言うアスカに対しルーテシアの制裁が下る。それに苦笑いのヴィヴィオは「あ、」と声を漏らす。

 

「ヤッホー、みんなお疲れ」

 

 なのはとヴィータだった。私服姿を見る限り、仕事終わりだったのだろう。

 

「その様子を見る限り、勝ったみてーだな。相手が上のクラスの選手って聞いた時はちとヤバイかとも思ったが・・・ま、シグナムがあそこまでして教導したんだ。勝って当然だな」

「教導って言う名の調教を受けた気もしますが」

「・・・んじゃ時間も時間だしどっかで飯でも食ってくか。はやては今日昼帰ってこねーみてーだしな」

「ちょっと待ってヴィーたん、今完全に俺の事無視したよね?ね?」

「あ、なら私いいお店知ってるんでご案内しますよ」

「お、シャンテ気が利くぅ!」

「ねえねえ、ほら、教導と調教をかけて、ね?」

「じゃ、そうと決まれば早速行きましょうか」

 

 誰一人、アスカのボケに反応すらしない。スルーというより、初めからそこにいなかったかのような扱いを受ける理不尽さ。ああ、これが下ネタを言った男子にたいする女子のスルースキルなのかと紳士に受け止めながら、アスカは一人後を追いかけた。

 




というわけでアスカvsエルス、完結です


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♯16

今回は短いですが、少し物語を動かします


「はあ・・・・」

 

 翌朝。試合後、まったくと言っていいほど何も手に付かないアスカはただ一人バルコニーに出て海を眺めている。こんな状態が朝から続きもう時刻は昼になろうという時間だ。

 

「呼んでも来ないから何をやってるのかと思えば・・・アンタさ、いい加減割り切ったら?友達で後輩とはいえ、大会に出るならこうなることもわかってたでしょ」

「はあ・・・」

 

 上の空。まったくと言っていいほど聞いてすらいないアスカの様子にいい加減腹が立ってきたルーテシア。此奴、一発本気でぶん殴るか地雷皇か白天皇の餌にしてしまおうか。そんな危ない事を考えていると不意に、ふっと湧いた出来心で手すりにもたれかかる背中を凝視する。今、この八神家宅には自分とアスカ、そして非番でリビングで寝ているヴィータだけ。お昼の支度も整っているし、掃除も終わっている。家事類は完璧だ。

 

  今なら、チャンスなんじゃないか?

 

 そう思ったルーテシアはソロリ、ソロリと背後から忍び寄り――――背中にもたれかかった。我ながら何をやっているんだとツッコミを入れたくなったがそれをやってしまうと恥ずかしさのあまり昏倒してしまいそうなので考えないことにする。そして「どうだ」とアスカの顔を覗き込む。常日頃から・・・・というより、この家に下宿させてもらってからではあるがこの男の意味不明なボケやノリに散々振り回されてきてるんだ。少しはこうやって恥ずかしい目に合えばいい。・・・・こちらももの凄く恥ずかしいことに変わりはないのだが。

 

「はあ・・・・」

 

 しかしこの男、どういうわけか無反応。いつもなら驚きのあまり飛び上がってこの二階のテラスから真っ逆さまに落ちそうなものなのに、何故かノーリアクション。しかも溜息のおまけつきとはどういうことか。アレか、やはりヴィヴィオでないと興味はないと。シグナムやフェイトのようなオトナな女でないとダメだと。自分のような発展途上ではダメだと、そういうことを言いたいのかこの男は。せっかくこんな近くにいれるように努力しても、こんなにアピールしてるのにまだ気づかないというのか阿呆は。それとも何か、まだ足りないとでも?だったらこっちにも考えがある。ルーテシアはただそっと寄り添っただけの体勢から前に腕をまわし、本格的に抱き着く姿勢になる。恥ずかしい。普段のキャラとか他人からのイメージとかそんなの金繰り捨てて今すぐに全速力でこの場から逃げ出したくなる衝動をグッと堪えて少女はただ想い人の鈍感をぶち破ることだけにそのメンタルをガリガリと削っていく。「さあ、これでどうだ!」と今度は自信ありげに覗きこむ。自分で言うのもなんではあるが、大人モードを抜けば彼と歳の近い交友関係でいえば自分は大きい方だと自負している。気を遣うのも欠かしたことはない。

 

  が、そんなルーテシアの純情な頑張りも無駄に終わる。

 

「リンネ・・・なんで逃げるんだよ」

「は・・・?」

 

 今、なんて言った?リンネ?え、てことは何か。今まで悩んでいたのは次の試合でアインハルトとコロナが対戦するからどっちを応援したらいいかわからないとか、先輩としてどう声をかけたらいいかわからないからなんてことではなく。ただ、気になる女の子(・・・・・・・)がいるからその子にどうしたら振り向いてもらえるかを考えて悩んでいた、と。

 

  へー。ふーん。あ、そう。そういうこと。

 

 グッと、魔力で強化した腕で締め上げる。その時メキョ、とかヘンな音が聴こえた気がしたがそんことは心底どうでもいい。

 

「ごふッ!?あれ、なんで俺抱き着かれてんの?というかルーテシアさん、苦しいのと何だか肋骨がめちゃくちゃ痛いのとなんだか背中が幸せな感触でわたくし非常にワケワカメなんですが説明して――――」

「死に晒せこの阿呆がァ!」

「このすばッ!?」

 

 そのままジャーマンスープレックスに持って行きアスカを沈める。

 

「おーい、今なんかデカい音とヤバイ声が同時に聴こえたんだがあまりツッコミに精を入れるなよ?疲れるぞルーテシア」

「もう疲れてます・・・でもなんだかスッキリしたからこれでいっか」

 

 何故か鼻歌混じりに出ていくルーテシア。一体俺が何したっていうんだと言い残し、アスカは理不尽なまでの仕打ちに意識をブラックアウトさせた。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

「幼馴染が観に来てた?」

 

 昼食を食べながらヴィータが言う。

 

「そう。施設にいた時の、妹みたいな子で――――」

「――――フン」

「・・・・選考会の時に見かけたんだ。でもすぐ見失って」

 

 未だ不機嫌なルーテシア。醤油をとってと仕草でアピールするも無視。本当にいったい何をしたんだろうか。

 

「そうか。ま、観に来てたってことはまた会える機会もあるだろーさ」

 

 楽観的にそう言って最後の一口を食べたヴィータは食器を片付けて上着を羽織る。

 

「それよりそんな呑気に食べてていいのか?今日アインハルトとコロナの試合だろ」

「――――ああ!もうこんな時間!?」

「マズい、あいや料理はもちろんうまいけどマズい!」

「何つまんないボケかましてんのよ!味がイイのなんてわかってんだからさっさと食べる!」

(こいつ等、ホントにこれで夫婦漫才してる自覚ないんだから世の中平和だよなー)

 

 その後、ヴィータの運転で会場までなんとかギリギリに駆け込む三人。時間的に、あともう少しで二人がリングインするタイミングだという時、それは来た。

 

『会場付近で誘拐事件発生。マスターに緊急の出動要請がとどいています』

「誘拐!?ったくこんな時に誰がゆ――――、ヴィーたん、ルー。ごめん、俺ちょっと呼び出しくらっちゃったから後お願い」

「アイゼンにも届いてる。アタシが行くからお前は観戦してろ。一応お前の後輩でもあるんだし、対戦相手にもな――――」

「ごめん。それはできない」

 

 きっぱりと即答するアスカ。これから行われる試合は、アスカにとってはかなり特別な意味を持つ試合だ。かわいい後輩の、死力を尽くした試合。そんな濃密で貴重なものを観戦せず、ヴィータに任務を任せることもせず。アスカは自分が行くと言い切った。

 

「・・・アスカ。お前がそこまで言うってことは、まさか・・・」

 

 静かに頷くアスカ。行かせてやりたいが、と悩むヴィータだが、ルーテシアが声をあげる。

 

「行ってきなさいよ」

「ルーテシア?」

「その子の事、大事なんでしょ?だったら行ってきなさい。その代わり、戻ってきたらどういう事か説明してもらうから。・・・・いいわね?」

「・・・悪い、恩に着る!」

 

 ルーテシアからの後押しを受けて駆けだすアスカ。そんな姿を見送ろうとした時、アスカを呼び止める声が響く。振り返れば、そこにはティアナがいた。

 

「駐車場に停めてあるわ。アンタの身長なら、使えるでしょ」

 

 そう言って何かが放られたのを見てキャッチする。手の中にあるそれは、何かの鍵のようだ。

 

「あたしのミッドでのプライベート用なんだから、あんまり雑な扱い方したらぶっ飛ばすから」

「・・・ありがとうございます!」

 

 ティアナからバイクのキーを受け取ったアスカはその場で一礼すると改めて走り去る。

 

「いいのかよ。おまえにも報せいったんじゃねーか?」

「はい。でも・・・ね?」

「な、なに・・・?」

「べっつにー。ただあたしには、”旦那が戦場に赴くのを見送る妻”に見えただけだからなんとなーくドラマのワンシーンみたいでちょっと面白かったからそのまま行かせただけよ。それに、この類の事はアスカは何度も経験してます。大丈夫ですよ」

「ティアナがそう言うなら、まあ大丈夫か。で、誘拐された女の子の身元ってなんだっけ」

「えっと、たしか名家の子でしたね。名前は――――」

 

  ――――リンネ・ベルリネッタ誘拐事件、発生。




次回、シリアス。シリアルにはおそらくなりません


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♯17

 大切な人達がいる。大好きな人がいる。それはごくごくありふれたことであり、私にはもう、手の届かないもの。酷い事をした。理不尽な暴力を振るった。今も残る泣き叫ぶ声が、恐怖に歪んだ顔が責め立てる。

 

  これは、お前に与えられた罰なのだ――――と。

 

 理不尽は目に合ったのは自分も同じだ。いや、そんな言葉では生ぬるいほどにアレは残酷だった。自身の弱さがそうさせた。もし私が強ければ、あの人のようにもっと強ければこんな事にはならなかった筈だ。そんな口惜しさと後悔の念が、心の中で音を立てながら何かを崩していく。

 

  ああ、もう何もかもどうでもいい。

 

 ビリリ、と制服のシャツが強引に破かれる。自分を誘拐した男たちのリーダー各のような男がナイフ片手に歪んだ笑みで見つめてくる。

 

「・・・罰を受ける前に、特別に快楽ってもんを教えてやるよ」

 

 男が下半身を露出する。見たこともないナニかが目の前に出されあまりの気持ち悪さに声が漏れそうになるのを堪える。助けに来てくれた女性は、隠れていた男に取り押さえられて身動きが取れない。せっかく助けに来てくれたというのに、自分に関わってしまったが為にこの有り様だ。必死にやめろと叫んではいるものの、やがて口を塞がれてそれすらもできなくなってしまう。絶望・・・・ああそうか、これが絶望というものか。今まで酷い仕打ちを受けたことなど数え切れないほどあったが、これまでのどれをとっても比べものにならない。自分一人ならまだいい。でも今回は他人まで巻き込んでしまった。それが少女――――リンネ・ヴェルリネッタをさらに責め立てる。しかしもうどれほど懺悔しようと泣き叫ぼうと、助けなど来るわけがない。今更恐怖を感じるなんてつくづく自分は弱い存在だと呆れさえ出てくるが、もうそれすらも考えられなくなるだろう。

 でもせめて。せめて純潔だけは、散るならあの人に・・・・。そんな乙女の儚い純情。それももうじき消える。

 

(フウちゃん・・・兄さん・・・ッ)

 

 瞼の向こうには、自分に向かって微笑みを向けてくれる大切な家族(・・)。ああ、ごめんなさい。私はもう、貴方達とは・・・そう別れを告げようとしたその時だった。

 

「ぐああああああああああああッ!?」

 

 突如男が目の前で発火(・・)したのは。苦しみに悶えながら断末魔のような声を上げて地べたに転がる男。そしてそれと同じように、周囲の男たちもまるで体内から直接炎が出ているが如く燃えている。いったい何が起こっているのか。それはリンネにもわからずにいた。

 

「おい」

 

 パリン。ガラスを靴で踏みつぶした音とその声はほぼ同時に聴こえた。ゆっくりと、二人は声の主を見る。炎と同じ赤い髪と瞳。纏う雰囲気は違えど、それでもその顔はリンネもよく知る、今まさに逢いたいと願った人物の姿だった。

 

「その子に何をしようとした?」

 

 ドスのきいた低い声。静かに怒りを顕にするその声は男たちの断末魔の中でもよく通って聴こえた。

 

「・・・ああ、そうだった。これじゃ喋れないよな」

 

 気が付かなかったとでも言うように少年は手を翳すことで炎を消す。魔力で生成されたそれらは人体に軽い火傷を負わす程度であるものの、その迫力と出火した時の光景だけを見ればかなりのものだ。

 

「こ、これは、罰だ」

 

 落ち着きを取り戻してきた男がそう言い放つ。

 

「ソイツに病院送りにされた俺の妹は、今でもベッドの上で毎日怯えている・・・一方的に暴力を振るわれたんだぞ!そんな奴に報復して何が悪い!?」

「そう・・・報復。へえ。こんな強姦紛いなことしておいて、報復・・・・!」

 

 ギリッと奥歯を噛む。握った拳は爪が食い込んで手のひらからわずかに血を流す。何かを必死に堪えるようにワナワナと震える手は、とても痛々しく見えた。

 

「マザーが言ってた。男がこの世でやってはいけないことが二つある。食べ物を粗末にすることと・・・・女の子を泣かせることだ」

 

 瞬間、立ち上がろうとしていた男の鳩尾めがけて拳が叩き込まれた。ミシミシと、骨のきしむ音がはっきりと聞こえるほど強力なその打撃は相手の意識を刈り取るのには十二分すぎるほどの威力を持っており、直後叩き込まれた男は白目をむいて気絶し倒れ込む。それを目撃した他の男たちは恐怖に顔を歪ませながら逃げようとするが、それすらも絶つように外からサイレンの音が鳴り響いてくる。

 

「・・・過剰って言われても、文句は言えねーな」

 

 そう吐き捨てた少年は、自分に振り返れば笑顔を浮かべ。

 

「助けに来たぞ、リンネ」

 

 そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 間に合った。間に合うことができた。そう安堵しながら自身の上着を肩から掛ける。このままでは風邪をひかせてしまうし、何より目のやり場に困るからだ。それにこの子のこんな姿を誰にも見せたくはない。そんな兄心から、その行為が自然と出る。しゃがんで目を合わせれば、やがてゆらゆらと揺れる瞳。怖かっただろう。痛かっただろう。でも、もう安心だ。そう言い聞かせるように、あの時と変わらぬやり方でそっと頭を撫でる。そうすれば、堪えていたものを全て吐きだすように涙が溢れ出て頬を伝う。アスカはその姿に孤児院時代の幼いリンネの面影を重ね、そっと抱きしめる。

 

「ごめんリンネ。遅くなって」

「ううん、そんなことない・・・兄さんが来てくれた、それだけでも私は・・・」

 

 再び声をだして泣きじゃぐるリンネ。彼女が泣き止んだのは、警邏隊が到着してから少しばかり時間が経った頃だった。

 

  アスカ・スカーレットは魔法戦競技選手であると同時に時空管理局嘱託魔導師の身でもある。事件発生の報せを受け、それが終わったならば簡易的でもその場で可能であれば上司へと報告をするのが任である。故に今は彼の上司であるギンガ・ナカジマに対して業務報告を行っている最中だ。

 

「――――以上で、報告を終わります」

「はい。任務ご苦労様。にしても、随分と派手にやったわね・・・」

 

 ハァ、と呆れたように溜息をつくギンガ。それに何も返すこともできないアスカはただ謝ることしかできずしゅんとなってしまう。彼らしくない、といえばらしくはないのだが。

 

『ナカジマ捜査官。お言葉を挟むようで差し出がましくはありますが、マスターはこれでも十二分に抑えたつもりです。怒りに我を忘れないよう必死に己を抑えていたことを私は知っています』

「わかってるわブレイブハート。貴方もこの子のストッパー役として頑張ってくれてたんでしょ?お疲れさま」

『いえ。マスターのデバイスとして当然です』

 

 主に忠実でありながら時折その主並にネタに走る時があるクセの強いデバイスに労いをいれるギンガ。「さて」と言って軽く手を打って空気を切り替える。

 

「あとのことは私達に任せて、貴方は会場に戻りなさい。アインハルトとコロナさんの試合、もう終わるんじゃない?」

「いっけね、そうだった!・・・と、ギンガさん。最後にリンネに会っていってもいいですか?」

「ええ。会ってあげて」

 

 ギンガに敬礼し、彼女の前から走り去る。その姿を見送りながら、ギンガはふぅ、と息をついた。

 

「・・・私もああいうお兄ちゃん、欲しかったかなー・・・今度アスカに頼んでみようかしら」

 

 そんな呟きが後に残った。

 

「リンネ!」

 

 ギンガに報告を終えたアスカは再びリンネの元に駆けてくる。それまで少し不安そうだったリンネだが、アスカの顔を見た瞬間にまるで花が咲いたように笑みを浮かべる。

 

「兄さん、その・・・さっきはありがとう。本当に、兄さんが来てくれて凄くうれしかった」

「気にすんなって。それよりも悪かったな。今まで連絡してやれなくて・・・」

「・・・ううん。平気だよ。だって、またこうして兄さんと逢えたんだもん」

 

 久しぶりの再会に言葉を交わす二人。そこへ居心地の悪さを感じつつも、ジル・トーラが割って入る。眼鏡をかけたその端正な顔立ちは些か童顔ではあるもののキリッとした大人の女性を思わせる印象を受ける。

 

「失礼。貴方、確か・・・」

「あ、はい。アスカ・スカーレットといいます」

「・・・・そう。貴方が・・・・」

 

 なにか含みを持たせるような呟きをして顎に指を当てて考えるような仕草をするジル。それに首を傾げつつも、服の裾を引っ張るリンネに向き直る。

 

「兄さん。私・・・格闘技をやろうとおもうの」

 

 リンネから出た決意の言葉にアスカは一瞬ではあるが目を丸くする。あのリンネが、だ。いつもフーカと自分の後ろをついてきたリンネが自分から格闘技をやりたいと言い出した。これは、それほど彼女に今回の事が大きく影響を与えたということだろう。少しの見つめ合いの後、アスカは口を開く。

 

「それは、どうして?」

「・・・私が弱かったせいで、色んな人を傷つけた。守れなかった約束もあった。だからもう、こんな事は嫌だって。だから強くなろうって決めたの。誰にも見下されないように、今度はちゃんと、自分の力で守れるように」

 

 リンネの口から出た強くなりたいという言葉。その言葉が本物であり、確かな覚悟をもってのものだとアスカも察することができた。だが、そう思う反面その奥にある言い知れぬ何かを感じ取ってしまったことで素直に背中を押せないでいる。うまく言葉にできないでいると、ジルが入ってきた。

 

「なら、私のところで格闘技やりませんか?」

「本当ですか?」

「ええ。その代わり、私の指導は厳しいですよ」

「・・・やります。やらせてください」

「わかりました。・・・では、スカーレット選手」

「あ、はい」

「私達は一度事情聴取の為失礼しますので」

「はい。・・・・リンネ」

「うん」

「・・・・また、逢おうな」

「うん。またね、兄さん」

 

 小さく手を振ってジルと共に車に乗るリンネ。アスカはその姿が見えなくなるまで、あとを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか、コロちゃん負けちゃったんだ」

 

 一連の騒動から帰った時には、もうすでに試合は終わった後だった。現在アインハルトとコロナはそれぞれ医務室で治療中とのことだった。

 

「そーそ。て言うか、なんでアスカがあたしの所にいるわけ?もうそろそろ入場なんだけど」

「帰ってきた途端、ルーにシャンテのところに行けってやたら言われたから」

 

 あの子も余計な気づかいを。そう心中で吐き捨てるシャンテだが、その実心を弾ませた。

 

「何かあったようですが、もういいのですか?」

「心配ないッスよシスターシャッハ。もう解決してきたんで。それよりもシャンテ。対戦相手のヴィクターは強力だ。浮かれてると足元すくわれるぞ」

「は?なんであたしが浮かれてんのさ」

「だってお前、嬉しいこととかあるとすーぐ右足でリズム刻む癖あるだろ」

 

 そう言って指摘しながら右足を指さす。アスカの言う通り、シャンテは右足で軽くリズムを刻んでいた。そのことに赤面し、慌てて姿勢を正す。

 

「プフっ、シャンテもわかりやすいねぇ」

「何か言ったセイン?」

「なんにも?」

「・・・シャンテ」

「あによ?」

 

 からかわれてムッとなるシャンテ。その後に名前を呼ばれてそのままの態度でアスカの方に向く。

 

「・・・上で、待ってるからな」

 

 いつもとは違う、真剣な顔で言うアスカ。それに思わず面をくらってしまい、一瞬ポカンとなってしまうシャンテ。だがすぐにそれも戻り、不敵に笑ってアスカに返す。

 

「あたしが負けるなんてあり得ないっての。アスカこそ、合宿の時の借りを返すまで負けたらしょーちしないかんね」

「・・・ああ!」

 

 ハイタッチを交わし、シャンテはそろそろ入場の為アスカと別れてシャッハ、セインのセコンド二人と共に会場へと控室を出て歩いていく。その道中、タッチを交わした手のひらを見つめ、ギュッと胸の前で握り締める。

 

  大丈夫。あたしなら、絶対にやれる。

 

 そう信じ、シャンテは戦いのリングへと登る。相手はエリートクラス、最高成績都市本戦三位入賞の強敵。”雷帝”――――ヴィクトーリア・ダールグリュン。




 ~シャッハ&セイン、念話にて~

《しっかしシャンテもお嬢も素直じゃないねぇ、とっとと好きって言っちゃえばいいのに》
《まあ、そこはあの子達も年頃ですから》
《そんなこと言ってたら、あっという間に陛下とかアインハルトに取られちゃうよ?》
《え、アインハルトもそうなんですか?》
《えっ?》
《え?》

  サラッとアインハルトの内情が暴露(?)された瞬間であった


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♯18

今回は短いです


「え・・・アスカ、もう会えないのか?」

 

 突然言い渡された知らせにシャンテは柄にもなく寂しさのにじんだ声色でつぶやいた。

 

「おう。なんでもヤガミって人が俺を引き取りたいんだってさ。おかげでこっちはホームに帰れば毎日のようにリンネがくっついてまわるから大変なんだよ。この前なんか一緒に風呂入るどころかトイレにまでついてきてさ----」

 

 アスカの愚痴さえ、今のシャンテには届かない。もう会えない、その事実がまるで銃弾のようにまだ幼い少女の心を射抜く。チリチリと熱いものが頭を、そして体全体を包んでいくようで不快感がこみ上げる。唐突別れ・・・・正直言えば、彼とのこの不思議な関係は気に入っていた。兄貴風を吹かせるのがたまにイラッとしたこともあったが、兄弟や家族といった肉親のいないシャンテにとってはここでアスカと過ごす時間が唯一と言っていいほど心が安らぐものだった。そんな時間が、なくなる。どこか遠いところへ行ってしまう。実際には永久の別れということではないにしろ、まだ幼いシャンテからしてみれば、それも同然のことのようにとらえてしまう。

 

  ゆえに、彼女の行動は早かった。

 

「あたし、シスターカリムにじきそしてくる!」

 

 一目散に駆け出そうとするシャンテ。とんでもないことを大声で叫んだ彼女を、アスカの手が引き留めた。

 

「おいおいおいおい待てって!どーしたんだよ急に」

「どーしたもこーしたもないよ!アスカはそれでいいの!?」

「いいも何も、養子縁組してくれるって言ってくれてるし・・・家族ができるんだぜ?」

「じゃあアスカはあたしと一緒じゃ嫌なの!?家族じゃないの!?」

 

 目じりに今にも零れ落ちそうなほどの大粒の涙を浮かべるシャンテ。そんな、いつも強気で泣き言なんて一度も言わない見せないだった彼女の見せた意外すぎる一面に、アスカはハッとなる。

 

「あたしは・・・・寂しいよ・・・・」

 

 絞り出すように、うつむいてでた言葉。そこでアスカは気が付く。この子にとって、ここが安心できる唯一の場所。悪いことをすれば叱ってくれる大人がいる。一緒に笑いあえる友達がいる。それが突然なくなってしまうことがどれほど大きなショックになることか。それは計り知れないだろう。そんな悲しみを、今シャンテはその小さな体で乗り越えようと戦っているのだ。彼女とて、そうそう物わかりの悪いという訳ではない。彼の言っていることが自分たちの境遇の子供たちにとってどれほどのものかをよく理解できる。そうしたほうがいいということなど、わかりきっている。

 

  でも、それとこれとは別という言葉があるように。頭と心とでは、かみ合わないものだ。

 

「・・・シャンテ。ここには、シスターシャッハも騎士カリムもいる。それにシスターの人たちは騎士団のみんな。シャンテはもう、独りぼっちじゃないんだ」

「そんなの、わかってるよ。あたしだって馬鹿じゃないもん。みんな、こんなあたしにあったかく接してくれるし、悪いことしたら怒ってくれる。ここにいる人達みんなが、あたしの家族だ----そんな家族が、どこか知らないところに行こうとしてるのに、黙ってることなんてできないよッ!」

 

 行ってほしくない。

 

「アスカの言ってることが正しいってこともわかる!」

 

 ここにいてほしい。

 

「これが、あたしの我儘だってこともわかてる!」

 

 ずっと一緒にいたい。

 

「でもッ!----」

 

 ----それでも。

 

「・・・・あたしは、アスカと離れたくない・・・っ」

 

 それはきっと、ダメなんだ。

 

「今までずっと一緒だったんだもん。今更、そんなのって・・・」

 

 声の限りに叫んで、それが小さくなったら今度は涙が溢れて。そうやって素直な気持ちをやっとの思いで吐き出したシャンテに、アスカは何かを言うでもなく、繋いだ手を離さないよう、ただぎゅっと握る。きっと、どう言葉を尽くしたところでこの子はきっと自分の意志を曲げないだろう。初めて逢った時と変わらない、駄々をこねては自分を振り回す。今だってそうだ。これはいつもの風景。いくら騎士としての訓練を積もうと、いくらシスターとしての修業を積もうと。子供は子供、こうやって散々気持ちをぶちまけて、最後には疲れて眠ってしまう。それでいいと、アスカは思った。少なくとも今は、そういう時間だから。こうして頻度こそ少なくなってきたけど、年相応の彼女を表に出せる。そんな時だから。

 

  今はただ、この子と一緒にいよう。何をするでもなく。何を話すでもなく。ただ、一緒に。手を繋いでいよう

 

 

 それからしばらくして、シャンテは散々泣いて最後には泣きつかれて寝てしまった。それでも繋いだ手を放さなかったのは彼女なりの意地だろうか。仕方がないということで、その日はホームへと戻らずにシャンテの部屋で二人で寝ることにしたのだが----。

 

「----腰痛ぇ・・・」

 

 同じベッドに入って寝るというわけにもいかず、椅子に腰かけて寝ることにした為目覚めは最悪だ。そして目が覚めたシャンテはアスカが自分の部屋にいたことに驚いて起きるなり悲鳴を上げて右ストレートを叩き込んだ。おまけとして、今は左頬が痛い。

 

「ア、アスカ!」

 

 見送りする、と言って今まで仏頂面でシャッハの後に続いて歩いていたシャンテが叫んだ。

 

「ンだよ。こっちは腰と首の可動域が増えそうでかなり痛いんだがねシャンテさんよ」

「うう・・・そ、そんなのおまえが弱っちいのが悪いんだろ!?」

「ハァ!?」

「そもそもあんなパンチ一発で伸びるんだから大したことないよね」

「言いやがったなこのツンデレテンプレ娘がッ!」

「誰がツンデ・・・ツンデレ・・・・?あぁ!とにかく!」

 

 ビシっ!と、腰に手を当ててアスカを指さすシャンテ。

 

「次会った時にはあんたよりもっと強くなって、そんでもってもっと大人っぽくなってやるから覚悟してな!」

「・・・・あ、そう」

 

 興味ない。そう言いたげな顔で返すアスカ。それにワナワナと震えながら拳を握るシャンテに、アスカは。

 

「だったらせめて、俺に勝てるようになるんだな。訓練の模擬戦成績、俺のほうが勝ち越してるんだからさ」

「にっしっしっし、言ったなぁ・・・後で泣いて謝ったって許してあげないかんね!」

「言ってろ。・・・・じゃーな、シャンテ」

 

 そう言って、最後にシャンテの頭をポンポンと軽く叩いてから背を向けて去っていくアスカ。その先には、褐色のショートヘアの女性が立っている。これからアスカはあの人と一緒に行ってしまう。悲しいのは変わらないけど、それでも嫌な別れではなくなっていた。今度会う時は・・・・そうやって、いつもみたいに別れて手を振る。いつか、あの背中に追いつけるように。もっと強くなろう。今よりも、ずっと。そして、いつの日かその時がきたら・・・・----。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 湧き上がる歓声と、金属同士がぶつかり合う甲高い音。火花が散ったかと思えば次の瞬間には青い電流がほとばしって空間を貫く。目まぐるしく入れ代わり立ち代わりで繰り広げられる攻防に、観客席から閲覧している競技選手からもため息がもれた。

 

「すっごいなシャンテの奴」

「ええ。今日の彼女はいつにも増してコンディションが良好です」

 

 対戦相手はエリートクラスのトップファイターの一人であるヴィクトーリア・ダールグリュン。鉄壁を誇るとすら言われている彼女の防御と固有スキルを織り交ぜた見事な立ち振る舞いにもものともせず果敢に攻めに転じている。

 

「どーしたのさお嬢様、さっきから防御一辺倒じゃあたしに勝てないっ、よ!」

 

 シスターシャッハ譲りの双剣術でその小柄な体型からは想像できないような鋭く、重い一撃を次々に繰り出していくシャンテ。そんなシャンテを捉えきれずにスピードで圧倒されてしまうヴィクターは未だに防戦一方の流れを崩せないでいた。死角からの一撃をハルバードで受け止め、押し込んで距離を離す。

 

「随分とすばしっこいですわね・・・」

「へへん、速さには自信があるかんねー。あ、あとそれからいいこと教えたげるよ」

 

 ステップを踏みながら、両手のトンファーを起用に回してリズムを取るシャンテ。そして構えなおしてヴィクターを見据えながら----

 

「----()する乙女は、強いんだよ」

 

 そう呟いて、再び刃を振るった。




 ~リンネ、ジル。とあるスポーツジムで練習の合間にて~

「・・・・ということがあったので、その時はずっと兄さんと一緒にいたんです」
「貴方たちってホント仲が良かったのね。・・・・って、ちょっと待ってくれるかしらリンネ。今なんて言ったかしら」
「え?えっとですね。お風呂に一緒に入って、トイレも一緒で、それに寝るときもずっと兄さんと一緒にいましたよ。あ、でもなんだかその時の兄さんなんだかとって疲れたような顔をしてました。それに、なんだか殴られたような跡も。ってことは兄さんを殴った人がいる・・・・許せない、兄さんを・・・・ワタシノニイサンヲ・・・・」
(逃げて!誰か知らないけど超逃げて!)


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♯19

シャンテvsヴィクター決着。短いです。


 ――――恋する乙女は最強。

 

 以前、そんな見出しの雑誌を読んだことを思い出す。ヴィクトーリア・ダールグリュンという少女は外見こそオトナの女性といった艶美な美しさがあるものの、中身は年相応の女の子。そういったことにまったく興味がないという訳ではない。だからファッション雑誌だって読むし、そういったものも手にとる機会もある。が、本で得た知識という物は所詮は知識でしかない。経験と知識とでは雲泥の差があり、またこれが彼女も身を置いている魔法戦競技にもなればそれが尚の事よく表れてくる。

 

(百聞は一見にしかず、とは・・・中々うまい言葉ですわね)

 

 繰り出される斬撃をハルバードで受け流しながらヴィクターは内心で感心したように呟く。正直な話、もっと楽な試合運びができるはずだった。相手は今年初参加のルーキー。片や此方は幾つもの場数を踏んだハイランダー。実力、経験という意味ではかなりの差がついてもおかしくはない。データでは聖王教会騎士とあったが、それでも見習いのような扱いを受けていると執事のエドガーから聞いていた。これだけなら、自分に手こずる理由も道理もない。

 

  なのに、だ。この状況は少し・・・・いや、かなり不快だ。

 

「どーしたのさお嬢様、さっきからぜんっぜんあたしをとらえきれてないよ」

 

 あざ笑うかのような、それでいて露骨に挑発するような口ぶりはなんとも腹立たしい。しかしながらそれを差し引いても実力はそれなりのものだと評価してしまう自分も腹立たしい。ああ、どうしてこんなにも苛立ちが募るのだろう。

 

「――――ッ」

 

 雑念を振り払うように得物を横一閃に振るう。その軌道上にいたシャンテの分身がまるで立体映像の如く一瞬で消え失せる。さっきから攻撃を当てているのにまるで当たっていないことにヴィクターの苛立ちはさらに嵩を増す。状況は、シャンテが優勢だ。

 

「凄い、シャンテおしてる!」

 

 ルーテシアの言う通り、一見して静かな立ち上がりだった第1ラウンドとは違いこの第2ラウンドはシャンテに流れが向いているといっても過言ではない。現にヴィクターはシャンテの動きを一向に見切ることができないでいる。

 

(恋する乙女は強い、か・・・)

 

 ふと隣の少年をチラリと覗き見る。縦横無尽にリング内を動き回るシャンテに意識を集中させているのか、こちらの視線にはまったく気づく気配はない。かといって気づいてほしいわけではないのでこれでいいのだ。見ているのがバレたら後でひたすらネタにされること必須だからこれでいい。いいのだが・・・・。

 

(ちょっとは気づきなさいよ、バカ)

 

 この男に恋愛感情はあるのかどうか時々疑わしくなる。こっちが必死でアピールしているにも関わらずそれを好意ではなく厚意として受け取ったり、「なんだ、今日はスキンシップ過剰だな」くらいにしか思ってない。あんなに露骨に内心をさらけ出しているシャンテにでさえそうなのだからもはや手に負えないと白旗を挙げそうになる。

 

(後ろから抱き着いても効果なし!)

(せっかくバリアジャケットの色をお揃いにしたのにあのリアクション!)

「「コンの素っ頓狂がァ!」」

「ヴェ!?」

 

 勝手に苛立って勝手に憂さを晴らすルーテシアとそんな彼女にシンクロしたシャンテが同時に拳を突き出す。寸分たがわないその行動に殴られたアスカは訳が分からず頭にクエスチョンマークを浮かべて目をまわし、突然のことに面食らったヴィクターは思わず体が硬直してしまう。

 

(しまった!?)

 

 直後、チャンスと笑みを浮かべてシャンテは一気に畳みかけに行った。今までの分身の数をさらに増やし、得意のスピードを生かしてヴィクターの装甲を徐々に徐々に削り、最後には大技も叩き込むことに成功した。

 

「やるじゃないシャンテ!」

「あの、なんでボクは殴られたんでしょうか・・・」

 

 立ち込める煙。フフン、と勝ち誇った笑みを浮かべ、後方を振り返る。視線のあったアスカに「勝ったぞ」とブイサインをするシャンテ。

 

  ――――随分と余裕ですわね?

 

 聞こえた声と躰を駆け巡った悪寒に跳び退こうとするも、それよりも速く相手の得物が分身を消す。

 

「残念、そっちはハズレ!」

「知っていますわ。・・・ところで、貴女に一つ聞いておきたいことがあるのですけれど」

「ちょ、ダウン判定にすらなってないのかよ・・・なに?」

「・・・貴女、アスカのこと好きなの?」

 

 ボン、と。まるで爆発でもしたかのような漫画みたいなリアクションをするシャンテ。それを見て図星か、とあたりをつけるヴィクター。

 

「な、なななななんでアスカがそこで出てくんのさ!?」

「おーいルー?なんで俺の耳塞ぐんだ」

「いいからアンタはこのまま塞がれてなさい」

 

 友人の――――いや、戦友の名誉の為なんとか聞かれることを阻止するルーテシア。

 

「恋する乙女は強い、ね・・・・面白くないわ」

 

 足元に広がるベルカ式の魔法陣。そこからバチバチと電撃を散らしながら高ぶる魔力。相対しているシャンテには、それが途方もなく大量のものと肌で感じることができる。それほどまでに、ヴィクターは力を温存していた。

 

  全て、この一撃で終わらせるために。

 

「貴女に見せてさしあげますわ。雷帝の力・・・その一端を」

 

 ハルバードを頭上で一回転させ、それを高ぶる魔力の泉に波紋を打たせるがごとく突き立てる。すると辺りに電が走り、19人はいるであろうシャンテの分身を一瞬で消し飛ばしてしまう。圧倒的な魔力濃度は施設の設備にも影響を及ぼしたようで、実況の声もスピーカーからかろうじて聞き取れるかどうかといった感じでノイズ混じりの声を響かせる。リング上にいたシャンテは、ヴィクターの電撃――――”神雷”を受けて大ダメージを負いながらも辛うじて立っていた。しかし電撃系特有の麻痺効果も相まって、とても動ける状態ではない。負けるもんか・・・そんな意地が、シャンテを支える。その様子を見て少し胸をなでおろすアスカ。よかった、まだ立っている。

 

  しかし、そんな彼の安堵すら完膚なきまでに叩き潰さんとするかのようにヴィクターの手がシャンテを掴み・・・そのまま、リングに沈めた。

 

 静まり返る場内。やがてヴィクターの勝利を告げるコールが響くと湧き上がる歓声。そして、ぴくりとも動かないシャンテ。

 

「シャンテ?・・・・おいシャンテッ!?」

「・・・お嬢様らしくありませんね」

「そうかしら」

「ええ。少し・・・いえ、かなりやりすぎです」

「手加減できる相手ではありませんでしたもの。むしろこれでも善処したつもりですわ」

 

 観客席から飛び出してシャンテに駆け寄るアスカをチラリと見ながらそう評価するヴィクター。

 

(・・・後で、謝らなければなりませんわね)

 

 そう息を吐いてエドガーからドリンクとタオルを受け取ると歩いてきたゲートへとはけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

「行ってあげないの?」

 

 試合後、医務室へと運ばれたシャンテはすぐに目を覚ました。当然その報せはアスカにも届いていたが、今彼は施設からでた人気のない場所で一人シャドウをしている。ルーテシアはそんなアスカを見て呟いた。

 

「俺が行って、なんになるんだ?」

 

 冷たい反応。少し意外だと思うと同時にムッとなる。

 

「こういう時は慰めてほしいもんよ、女の子って」

「それなら、シスターシャッハがいる。俺じゃ、かえってアイツに気を使わせるだけ、だ」

「そんなこと――――」

「――――それに。・・・・アイツが本当に素を見せられるのは、シスターシャッハだけだ。だから、今は行かない」

 

 行けない(・・・・)の間違いでしょ。そう心の内で突っ込みをいれつつ不器用だなと小さく息をつく。

 

「それよりも、この後はヴィヴィオとミウラでしょ。それにすら行かないつもり?」

「ああ」

「なんでよ」

「・・・・どっち応援したらいいかわかんねー」

 

 そこは正直なのにどうしてこう、この男は・・・。あきれ果てるルーテシア。

 

「まあでも、どっちが上がってきても負けるきはしないけどね。・・・・勝つのは、俺だから」

 

 拳を突き出す。その後は蹴り、そしてまた拳と一通り繰り返す。どうやら先ほどのシャンテの試合を観て居てもたってもいられなくなったようだ。

 

「少し走ってくる。ルーはどうする?」

「あたしはパス。アンタの代わりに、二人の試合を見届けなきゃでしょ」

「ん・・・結果、後で教えてくれ」

「アスカ」

「ん?」

「・・・行ってらっしゃい」

「おう。行ってくる」




次回からは番外編をちょろっとやろうかなと思います


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♯20

番外編など無かった(キリッ

というか18巻読んだですよ。涙が、涙が溢れるですよ。ほんとね、みんないい子達ですよ。

 という訳でヴィヴィオ対ミウラ開幕です!


 あの人との出会いは、少し変わっていて。まだ幼くて、何もわからずにただ泣いていた時。どうしようもなく不安でただ泣く事しかできなかった私の手を握ってくれたのが全ての始まりだった。

 

 きっかけは、ホントに偶然で。偶々見かけた砂浜での光景の壮絶さに、目が離せなかった。別に格闘技に興味があったわけじゃないけど、それでもその人が作り出す軌跡がなんだかかっこよくて、綺麗で。そこで声をかけてくれたのが、始まりだった。

 

  出逢った場所も時間も違う。過ごした時間も何もかもがバラバラ。でも、胸に秘めた想いは同じ。――――憧れに、追いつきたい。そしていつか、追い越して・・・。今、二人の少女がついに激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「え!?アスカ居ないの!?」

 

 ルーテシアの隣に座るシャンテがそう叫んだ。ヴィクターとの試合後、シャマルの治癒によりある程度まで回復したシャンテはヴィヴィオが試合をするということで医務室を出て観客席に来ているのだが、アスカがいないということを聞いて思わず立ち上がってしまう。

 

「落ち着きなさいシャンテ」

「そーだぞ、それにおまえまだ本調子じゃないんだからそんなオーバーリアクションすっと・・・・って、言わんこっちゃない」

 

 声にならない声で悶えるシャンテを介抱するように座らせるセイン。

 

「どっちを応援したらいいかわからない、だってさ」

「~、ったくそんな理由で観ないとか・・・」

「まあ先輩も二人の事大好きですし・・・私もアインハルトさんと対戦が決まった時はちょっと複雑でしたから」

 

 コロナがリングにあがるヴィヴィオを見つめながら言う。同門で、先輩後輩で、友人で。そんな関係であってもいつかは戦う時が来る。同じ大会に出場しているのであれば避けては通れない道だ。でも、と思うのもまた本音。

 

(ま、アイツからしてみればそれ以外の事情もあるけど・・・)

 

 二人は、どう思うかしらね。

 

(先輩・・・・やっぱり観に来てないのかな)

 

 観客席を軽く見渡してみても特徴的な赤い髪は見当たらない。少しの寂しさを覚えつつ、ヴィヴィオは深呼吸をする。観てくれていないのは寂しいし不安もある。でも、それと同じくらい今これからに胸が高鳴るのもわかる。選考会の時から気になっていたミウラとこんなにも早く対戦する機会に恵まれた。それが嬉しくて、楽しみで。一方ミウラはというとおっかなびっくりでリングに上がっている。

 

「ミウラ、油断するなよ!」

「は、はいっ!」

 

 セコンドであるザフィーラの激にビクッとして返すミウラ。ハイランダーの選手相手に勝利をもぎ取ったというのにいまだ慣れないこの観衆はミウラにとって少しやりずらいのかもしれない。元々大人しく引っ込み思案だった子だ。そんな子がそこまで間をおかずに出た公式の大きな大会。そこで格上に勝利するというジャイアントキリングを成し遂げたのだから少しは良くなってくれていると思ったが・・・。

 

(そうそう上手くはいかないか)

 

 試合開始のゴングがやがて鳴り響く。構えるミウラ、その目に映ったのは・・・目の前に肉薄した(・・・・・・・・・)ヴィヴィオの姿だった。驚く間も防御をする間も与えず、小柄で華奢な躰が宙を舞った。先手を取ったのはヴィヴィオだ。

 

「しっかりしろミウラ!まだ試合は終わってないぞッ!」

 

 ヴィータの叱咤する声にハッとなって起き上がる。クラッシュシミュレートは脳震盪をミウラに忠実に再現する。フラフラになりながらも立ち上がって構える。レフリーに試合続行の意志表示を示して再び試合再会。

 

(ヴィヴィオさんの一撃、思ったよりも鋭い。でも、逃げるとかない・・・前進、あるのみッ!)

 

 踏み込んで、拳を振るう。しかし躱されこそしたものの、一発の重みとスピードではミウラの方が上だ。当たれば大ダメージを与えることができる可能性が高い。しかし、ヴィヴィオもまたミウラの試合を観て入念に研究してきた。癖、タイミング、得意な間合いと試合運び・・・。その一つ一つを覚え、復習し、試合に生かす。たとえ自身の欠陥(・・)が大きなハンデだとしても、それを上回るようできることを全てやってきた。そして今、それをヴィヴィオは見事に生かしている。

 

  が、ミウラもそれだけで超えられるほどやさしくはない。

 

 ダメージを受けながらも、それでも退くことをせずに一歩踏み出す。繰り出す拳は、ガードの上からでもヴィヴィオに強い衝撃を与える。大人モードで体格差のあるミウラだが、一見してその小さな躰からは想像もできないほどの爆発力を見せ、ヴィヴィオを場外へと叩きだしてしまう。リングアウトしたヴィヴィオは壁に叩きつけられ、ぐったりとなる。それを見たなのはとフェイトは今にも悲鳴をあげてしまいそうな表情をし、その反対ではやては余裕の笑みすら見せている。

 実況がダウンか否かと様子をうかがう。しかし直後ヴィヴィオが見せたのはダメージで歪む顔でも痛みを堪えるものでもなく――――笑顔だった。

 

(さすがミウラさんだ。映像で見た時も思ったけど重いし速い。当たれば痛いし強い。正直恐いけど・・・楽しい!)

 

 セコンドのノーヴェとウェンディの心配をよそに元気な様子で再びリングに戻るヴィヴィオ。そんな彼女の姿に、ミウラは戦慄する。

 

(うっそ!?結構本気で撃ちこんだのに・・・でも、そうこなくっちゃ!)

 

 そしてまた、ミウラもヴィヴィオと同じように笑みを浮かべる。

 

「・・・こういう時、先輩だったらなんて言うんでしたっけ」

 

 ヴィヴィオの言葉に、ミウラが答える。

 

「・・・本当の戦いは、ここからだッ!ですよね」

 

 ヴィヴィオとミウラ。スタイルが噛み合う者同士の対決。それは楽しくて、譲れなくて。憧れとワクワクを募らせて、再びゴングが鳴り響いた。





~とあるメールのやりとりにて~

 『先輩、次の試合頑張りますので、応援よろしくお願いします!もし勝ったら・・・フフ、先輩にまた撫で撫でしてほしいです!
                         byヴィヴィオ』

『アスカ先輩。ボク、頑張りますよ!だから、その・・・応援、してほしいです・・・(*ノωノ)
                         byミウラ』



BH『というメールが届いていますが』
アスカ「どうしたらいいだあああああああああああああああああああああああああああ!?」

 こんなメールが送られてきたことが原因だとは、誰もしらない・・・。


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♯21

高町ヴィヴィオという少女は、かなりの努力家だ。少なくとも、自身の交友関係の中ではトップと言って差し支えないとアスカは言い切るほどに彼女のひたむきな向上心に心から感服するほどだ。それはひとえに、彼女自身の特性からくるものである。率直な話ではあるが、ヴィヴィオは格闘技をやるにはあまりにも脆い。アインハルトのような頑丈さも、ミウラのような打撃力も持ち合わせてはいない。生まれ持っての才――――そう言いくるめられても、反論はできないだろう。

 

  だが、才で全てが決まるほど世の中甘くはない。努力が才能を凌駕することもあるのだから。

 

 事実、彼女はそうやって己を鍛え上げこのインターミドルチャンピオンシップという大きな舞台にまで立ち、年齢も性別も違う選手相手に勝利をおさめ勝ち上がっている。師であるノーヴェが見つけた彼女の”見切って反撃する戦法”であるカウンターヒッターは、その練習の成果もありかなり高いポテンシャルまで仕上げられている。それもこれも、ノーヴェの教えとヴィヴィオ自身の強くなりたいという強固な意志からくるものだろう。以前、彼女から聞いたことがあった。大事な人たちを守れるくらいに強くなりたいと。それはアスカも同じ志であり、そう頑なな意志を宿した綺麗な瞳を持つ少女もまたその内の一人だった。

 

  果たせなかった、約束の為。救ってくれた、人の為。二人は今、同じ道を歩いている。それだけに、ヴィヴィオは止まらない。

 

 繰り出す拳はしっかりと相手を捉え、相手の攻撃をしっかりと見て躱し、反撃を的確に撃ちこむ。ダメージは確かに蓄積されている。しかしながらそれはヴィヴィオも同じだ。ミウラの攻撃はアスカまでとはいかないまでも見た目からは想像もできないほど重い。格闘技を初めて僅かな期間でここまでの成長を遂げた彼女もまた、才だけの人材ではない。努力と想い。その濃さと大きさは、ヴィヴィオにも引けを取らないほどに強い。撃たれては撃ち返し、そうやって続いていく二人の激闘。

 

  ああ、楽しい。こんなにも格闘技が楽しいなんて。

 

 当然、痛いし辛い。普通の女の子ならこんな風に公式の場とはいえ殴り合うなんてことは絶対にしないだろう。でも、それでいい。だってそれは、こうして互いの全てをぶつけ合えている二人にしかわからないことだから。

 

 楽しい時間は、いつだってあっという間で。どんなに望んでもそれは止まることのない時間という大きな流れに生きている限りそれは覆ることはない。だから、

終わらせよう。全身全霊、全力全開の術を持って。そうして、二人の少女は幾重の激突の果てを迎える。その胸に、憧れと希望を抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 あがる息を整えつつ、アスカはアリーナのロビーへと入る。どれぐらい走っただろう、服は汗で肌に張り付くほどに湿っている。

 

「もう、試合終わった頃か・・・」

『結果、ご報告しましょうか?』

「・・・・いや、その必要はなさそうだ」

 

 自身を見つけてミウラが駆けてくるのが見え、相棒の報告を取りやめる。元気な弾んだ声、その微笑みはまさに先ほどまで行われていた試合の結果を物語っていた。ミウラの後ろには、セコンドを務めていたヴィータとザフィーラ意外にも八神家一同、そしてルーテシアの姿もある。

 

「・・・あのヴィヴィちゃん相手によく頑張ったな。おまえ、ホントすげーよ」

「いえ、そんな・・・――――でも、ボク・・・・」

 

 笑顔かと思えば急に表情に影がさす。疑問に思ったアスカはヴィータへと視線を移し念話で事の経緯を聞く。

 

《ヴィヴィオが攻撃のショックで意識を失っちまってな。さっき目を覚ましたんだが、アレじゃ当分動けねぇ》

《なるほどそれでか・・・》

 

 なんともまあ、純粋な子だ。そう苦笑いをしつつ、そっとミウラの頭の上に手を置く。

 

「ミウラ。おまえは全力でヴィヴィちゃんと戦った。そしてあの子も、そんなおまえに応えるように全力で戦った。悔いはない・・・違うか?」

「・・・・、」

 

 目じりに涙を浮かべながらも、アスカの問いに頷くミウラ。

 

「それならいいじゃねーか。それに、勝ったのはお前だぞ?もし俺がお前なら、涙は見せないぜ」

 

 そう言いながら撫でる。勝ったのはミウラだ。それなのにしこりを残したままではいい試合なのできない。敗者でなく勝者としてミウラは今ここにいる。それをわからせるために、アスカは諭すかのように言った。涙を拭くミウラ。まだ少し赤いものの、先ほどまでの揺らぎは残ってはいない。それを見てアスカは笑顔で答え、今度はわしゃわしゃと撫でた。

 

「にしてもホント、よくやったよ。こりゃ俺もうかうかしてらんねーな」

「アスカ」

 

 呼ばれて、ルーテシアの方を見る。すると彼女はアスカの方へと歩み寄り、耳元で囁く。

 

「ヴィヴィオに会ってあげて」

「・・・なあルー、それはシャンテの時とおんなじで――――」

「――――でしょうね。でも、あの子の本音を引き出せるのは、アンタだけよ。なのはさんの前でも見せられない、本当のヴィヴィオを」

 

 そう言われ、ウィンクとともに背中を叩かれる。

 

「さ、ミウラ。帰って体を休めないと」

「そーだな。んじゃ、あたし等はこれで失礼すっから、アスカ。後は・・・わかってんな?」

 

 ヴィータにまで念を押され、ザフィーラとシグナムには諦めろと半ば苦笑気味で言われる。アギトとリインはニヤニヤと笑みを浮かべ、ミウラはルーテシアに強引に連れていかれてしまった。何をそんなに期待してるんだか、と頭をかきながら足をヴィヴィオがいる医務室へと向けた。

  コンコン、と軽くノックをすれば扉の向こうからなのはの声がする。

 

「アスカです。入っても大丈夫ですか?」

 

 やっと来たか。そう息をついて了承の意を伝えれば少しぎこちなさそうにアスカが入ってくる。そんな彼を見て、ヴィヴィオはすぐに笑顔になった。

 

「先輩・・・」

 

 でも、声はどこか力がない。いつものヴィヴィオではないということを、なのはだけでなくアスカも察することができた。本人がそれを自覚しているかまでは、わからないが。

 

「・・・アスカ君、凄い汗だね。何かあった?」

「あ、いえ、その・・・ちょっと走り込みしてたんで。臭いキツイですか?」

「ううん、大丈夫。それより、そんなに汗掻いたなら水分取らないとだよね。私も何か飲みたいから買ってくるけど・・・スポーツドリンクでいいかな」

「あ、おかまいなく」

「いいのいいの。ヴィヴィオもアスカ君と同じでいい?」

「うん」

 

 それじゃ、あとはお願いね。そう言い残してなのはは退室した。明らかに意図的にこの状況を作り出そうとしてのものだと瞬時に悟ったアスカはどうしていいかわからず、未だ整理のつかない思考をまとめながらヴィヴィオに促され椅子に座る。

 

「・・・ごめん」

 

 少しの沈黙の後、最初に切り出したのはアスカだった。唐突の謝罪の言葉に、ヴィヴィオは戸惑う。

 

「試合、観れなくて」

 

 それを聞いてなんだそんなことか、とホッと息をついて胸をなでおろす。

 

「先輩が謝ることなんて何もないですよ。それに、そうさせたのは私とミウラさんですから」

「へ?」

「見ましたよね、私達からのメール。実はアレ、二人で相談してやったことなんです。・・・先輩がいるってわかってると、多分二人とも集中できないからって、共通見解で。だから、意図的に先輩がいずらい状況を作ったんです」

「そうだったのか・・・」

 

 なんだか狐につままれた気分だと溜息を漏らすと乾いた笑い声で吐きだす。

 

「・・・・でも、本気だったんですよ?あのメール。試合に勝てたら、っていうの。・・・結果は、負けちゃいましたけど」

 

 その言葉で、ヴィヴィオの声のトーンが少し下がった。些細なことではあるが、アスカにはしっかりとそれが聴き取れた。

 

「やっぱり悔しいですね負けちゃうと。おっきい大会だと、沢山強い人がいて。そんな人たちと自分の全力を出し切って試合するのが凄く楽しいって思えて・・・でも、それは試合の最中だけで。今まではずっと楽しいで終わってたけど、負けちゃうとこんなにも悔しいんですね・・・」

「・・・・」

「でも、ウジウジしてらんないですよねっ。先輩、次の試合私の分も――――」

 

 頑張ってくださいね。言い切る前に、ヴィヴィオの頭はアスカの懐へと抱き寄せらていた。突然のことにパニックになるヴィヴィオ。顔を真っ赤にしながら小さくあたふたする。唯一の救いがあるとするなら、なのはと一緒にクリスが出て行ったことだろうか。必死に冷静を取り戻そうとするヴィヴィオにアスカは囁くような声で言う。

 

「ヴィヴィちゃん。俺はきみの笑顔が大好きだ。沢山励まされたし、勇気も貰った。いつまでもずっと見ていたいとすら思うよ。でも・・・今のきみの笑顔は、見ていて辛い」

「・・・どうしたんですか先輩。なんか今日はいつもの先輩じゃないみたいです」

「悔しい時はさ。泣いたっていいんだよ。無理して笑うことなんかないんだ」

「ホント、どうしちゃったんですか先輩。あ、ルールーのツッコミで頭打っちゃったとかですかね!?それならシャマル先生に――――」

「――――もういい。もういいんだ。大丈夫。今は、俺ときみだけだから。きみが一番涙を見せたくない人は今は、ここにはいないから・・・だから、本当の事を言ってくれ」

「・・・・楽しかったのは、本当なんです。でも、終わってから段々と悔しくなってきて。だけど、泣かないって決めたから・・・・どんな時でも、笑顔でいようって、決めたから・・・・泣いちゃったら、また弱い私に戻っちゃうから、だから・・・・ッ」

「・・・・だとしても、それは弱さじゃない。きみが一生懸命もがいて掴み取った”強さ”だ。だから、恥じることなんてなにもないんだよ。その涙はきっと、ヴィヴィちゃんを強くしてくれる」

 

 どれぐらいぶりだろうか。こんな風に泣いてる子を慰めるっていうのは。そう思いながらアスカはヴィヴィオの背中を撫で続ける。その外で、一部始終を聴いていたなのはは小さく溜息をつく。

 

「・・・やっぱり、アスカ君には敵わないかな」

「かもね」

 

 そう言ってフェイトがなのはの隣に同じように、通路の壁にもたれかかる。

 

「知らない間にあの子に無理させちゃってたんだなって。私、ちゃんと母親できてると思ってたけど・・・まだまだだね」

「それは私も一緒だよ。あんまりヴィヴィオと一緒にいられないし。あーあ、執務官やめちゃおっかな」

「ちょ、フェイトちゃん!?」

「うそ。冗談だよ。でも・・・うん、ちょっとはそう思っちゃったかな。悔しいけど」

「ならフェイトちゃんも私の胸で泣いてみる?」

「もうそこまで子どもじゃありません。・・・フフッ」

「にゃははは」

「あ、その笑い方。昔のなのはの笑い方だね」

「え、うそ、今そんな風に笑ってた?」

「うん。何かいいことがあった時とかに今もしてるよ。それ」

 

 そっか。そう思ってもう一度少し空いた扉の向こうの光景を見る。もし、そうだとしたら。それはきっと、あの子の小さな枷をすこし垣間見れたから、かな。未だ泣き止まぬ愛娘の少し大人になった姿を見つつ、なのはは笑みを浮かべた。




 ~ヴィヴィオ対ミウラ、試合後~

ヴィヴィオ「・・・もうちょっと」
アスカ「はいはい」 ナデナデ

フェイト「ね、なのは。アスカの撫で撫でをよくヴィヴィオが話すけど・・・どれだけいいのかな」
なのは「それ、私も気になった・・・うずうず」
フェイト「・・・こんど、してもらおうかな」
なのは「フェイトちゃん」
フェイト「なに?」
なのは「今の、エロい」
フェイト「なんでそうなるの!?」


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♯22

投票受付は今日までとなります、お早めに。そしてここからはすこーしだけ、日常回的なものになります


 激動だったインターミドル第三回戦も滞りなく行われ。敗者と勝者に振り分けられた選手たちは、それぞれの日常へと一端戻って行く。ヴィヴィオとミウラの後に行われた三回戦最終試合であるリオ対ハリーの試合は、まさに見る者を文字通り”圧倒”する戦いだった。

 

  そうして、ひと段落が終えた頃。八神家ではルーテシア、ミウラ、そしてアスカの三人の祝勝会が行われていた。

 

「よぉしミウラ、飲め!」

「いやあの、先輩これオレンジジュースですよね?なんで酔ってるんですか」

「うるちゃいうるちゃいうるちゃい!それともなにかぁ、きみはぁ、ボクの淹れた果汁百パーセントジュースが飲めないんですかぁ?」

「はやてさんなんとかしてください!」

「んー、パス」

「あっさり見捨てられた!?」

 

 まったく、と溜息をついてミウラからアスカを引きはがすルーテシア。そんな彼女に抗議の目を向けるも一瞬にしてそれを反らし、「スミマセン」と何故か片言になってソファで正座する。よほど怖かったのだろう。その後もガヤガヤと賑やかな喧騒は続き、時刻は日付変更まで針がまわっていた。夜の星と、寄せては返す波の音だけが響くテラスでアスカは一人、浜辺に腰掛ける。これまでの事を一つ一つ思い出しながら、考えることは次の対戦相手の事と――――自身のこと。

 炎帝、フロガ・スカーレット。古代ベルカにおいて無敗を誇った騎士にして、自分の先祖だ。そんな偉大な人から受け継いだ力は、今こうして自分の物となっている。記憶はまだまだ薄っすらと霧がさしているように見えることは叶わないが、それでもこうして思い返してみると彼の生きた時間のほんの一部を追体験できる。それは温かくも、少し冷たい。愛しい人達と笑いあった時間。守りたいものの為、血を流した時間。そんな二つの時だ。

 

「なーにふけってんのよ」

 

 そこへ皿洗いを終えたらしいルーテシアがやってくる。

 

「ここいい?」

「ああ」

 

 隣に腰掛け、アスカと同じように星を見上げる。温かく心地よい風が紫の髪を攫う。

 

「・・・俺、あの子とどう接していいかわからなかった」

「ヴィヴィオのこと?」

 

 肯定の意を示すように静かに頷く。

 

「負けた後、今まで積み上げてきたものを全部失くしちゃうんじゃないか。もうあの子の笑顔を見れなくなるんじゃないか・・・・そう考えたら、凄く怖かった。そりゃ、ミウラが勝ったのは嬉しいぜ?でも・・・」

「優柔不断ね、相変わらず。あたしが施設にいた頃もそうだった。毎度毎度遊びに来ては一緒にご飯食べてさ、覚えてる?その時サラダにかけるドレッシングを和風にするか中華にするかって些細なことでずっと悩んでたでしょ」

「あー、そんなことあったなそういや」

「結局、あたしが見かねてゴマかけたのよね」

 

 渇いた笑い。こういう時は、この子には敵わないと舌を巻くアスカ。

 

「アンタが考えてるほど、あの子達は弱くないわ。きっと、もっと強く大きくなってまた次に繋げてくる」

「・・・ああ。そうだな」

「んで、そういうアスカの悩みはまだあるんでしょ」

「なんでわかった。エスパーか!?」

「おいなんでそんなに距離を置く」

 

 もの凄い勢いで距離を空けたアスカにツッコミをいれつつ、「アンタの事ならアンタ以上に知ってる自信あるわよ」と付け加えて自爆する。サラッと勢いで言ってしまった言葉にこれじゃ告白と変わんないじゃないと一人後悔とパニックに陥る。そんな、アスカからしてみれば急に悶え始めた奇天烈なルーテシアをいぶかし気に見つつ再び空を観る。

 

  満点の星空だ。こんな空も、ベルカでは観ることができたんだろうか。

 

「そんなに気になるんなら、後で無限書庫でも行って調べてみれば?」

「けど俺、古代文字とかわかんねーし。精々グロンギ語が読解できる程度だし」

「ちょっと待てなんでそれわかってベルカ語読解できないのよアンタ」

 

 ヘンな方向にステ振りを全開しすぎている、もはや相方と言われても否定できないまでの関係にまでなってしまったことに軽く絶望しながらもツッコミをいれるルーテシア。アハハハ、とまた乾いた笑い。やはり今日のアスカはどこかおかしいと、直感で悟る。

 

「あたしはそーいうのよくわかんないけどさ、そこまで気にするほど?だってアスカはアスカ、先祖は先祖でしょうに」

「そりゃそうなんだけどさ」

「それに、そう言ってアインハルトに論破したのに今更それ真に受けるっての?」

「そん時は、まさか自分が古代ベルカの騎士の末裔だなんて知らないし・・・」

 

 ブツブツと小声でいうアスカ。

 

「・・・聖王家を裏切った反逆者。そうヴィクターから聞いた」

「ヴィクター・・・たしか、ヴィクトーリア選手よね。シャンテと戦った」

「ああ。詳しい事はわかんねーけど、ご先祖様が残した書物にはそう書かれてたらしいぜ。まぁ、だからってわけじゃないんだけどさ・・・・時々、ほんの時々だけど、恐くなるんだ。俺も、ひょっとしたら誰かを裏切るんじゃないかって」

 

 珍しく弱弱しい事を言うアスカ。そんな彼の言葉をただ黙って待つ。

 

「ハルちゃんがクラウスの記憶に引っ張られそうになる時があるって言ってたんだけどさ。今になってわかるよ。俺もそうだ。自分が自分で無くなる気がする。それでもしかしたら・・・・って」

「・・・・”きみはきみだ。他の誰でもないきみ自身だ”。アインハルトから聞いたわよ。まったくよくこんなクサい台詞言えるわよねアンタ」

「い、いいじゃんかよ別に」

「だったら、そんなウジウジしてるんじゃないっ。あたしの知ってるアスカ・スカーレットは、とんでもないバカでお調子者で、それでいて優柔不断で鈍感で」

「あの、ルーテシアさん?それってフォローになってな――――」

「――――だけど、あたしの事を助けてくれた。今でも忘れられない、ヒーローみたいな人・・・・ね」

 

 立ち上がって、此方に振り向きながらそういうルーテシア。星に混じって、一際明るく輝く月。そんな月を水面に映しながらも揺蕩う波は、空からの光を反射しながらより一層その美しさを際立たせる。そんな幻想的な風景も余ってか、アスカの目にはルーテシアがとても魅力的に見えた。

 

「・・・よ、よせよバカ、何がヒーローだよまったく」

 

 そう言って慌てて立ち上がって着いた砂を払うアスカ。踵を返すも砂に足を取られてよろめくが、なんとか立て直してそそくさと家へと戻って行く。そんなつっけんどな態度をみて、ルーテシアは顔を烈火の如く赤くしながら声を荒げる。

 

「なによそれ!折角ひとが褒めてあげてんのにその態度はないでしょ!?」

「ハっ、おまえに褒めてもらわなくてもヴィヴィちゃんの笑顔みれば一発で元気百倍アソパソマソだぜ!」

「言ったわね!?もう絶対心配なんてしてやるもんか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という事があったので今は喧嘩中です」

「私の赤裸々な事情を暴露された上にどうして先輩はこう、間が悪いと言うか空気が読めないというか。兎に角あとで謝ってくださいね」

 

 昨夜の事を学校帰りで偶々出逢ったアインハルトに話す。最寄りの喫茶店で一息つきながら、アインハルトは少し甘めのアイスコーヒーを一口飲む。

 

「それにしても、なんだか新鮮な感じですね。先輩の制服姿」

「これでも学生だからな。来年には受験だけど」

「将来のこととか、もう決まってるんですか?」

「んー、それがまだぼんやりと。ただ、格闘技は好きだし、魔法戦技競技もやっていきたいってのもあるし・・・多分、第一志望としてはプロかな。あとはギンガさんとゲンヤさんからウチの隊に正式所属しないかって話もあるね」

「で、また優柔不断発動中と」

「そーなんだよねー・・・」

 

 ぐったり、とテーブルにへ垂れ込む。

 

「でもさ。やっぱ今一番気になるのは自分のことなわけよ」

「炎帝・・・フロガのことですか」

「そ。さっすがに記憶を持ってても何も知らないってのは・・・ね」

 

 ストローでアイスティーの氷をグルグルとかき回しながらそう呟く。

 

「・・・知らない方が、幸せなこともありますよ」

「それは、経験からかな?」

「一応、先輩よりは経験してますから。・・・・だから、ですかね。それだけにあの時言ってもらった言葉が凄く嬉しかったです」

 

 ――――”きみはきみだ。他の誰でもないきみ自身だ”。

 

「あー・・・・いやはや、なんというか」

「その言葉と、出逢った人たちの支えがあって今の私がいる。そう実感できるんです。戦いの中だけでなく、今こうして先輩とお話している自分。ヴィヴィオさん達と一緒にトレーニングに励む自分・・・どれもみんな、おんなじ私なんだって」

「・・・ハルちゃんもそういうこと、割とサラッと言うよネ」

「そうでしょうか?感謝の気持ちを素直に表しただけなのですが」

 

 恥ずかしい台詞禁止っ!と言ってやりたいがこれ以上やりとりを続けると周囲の生暖かい視線がさらに生暖かくなるのでこれ以上は精神衛生上よろしくない、そう考えたアスカは慌ててアインハルトを連れて店を後にする。道中、いつもの調子を取り戻そうとボケを放ってみるもやはり空回りしてしまいあっという間に二人はアインハルトの住む部屋があるマンションまでやってきた。

 

「今日はありがとうございました」

「いやこっちこそ。ゴメンね、なんか愚痴っちゃって」

「いえ。なんだかいつもとは違った先輩の一面をみれたので、楽しかったですよ」

「ははは・・・そう言ってもらえると助かるよ。じゃ、またね」

「はい。・・・・あの!」

「ん?」

「・・・・今週の日曜日、何か予定はありますか?」

「ないよ?」

「でしたら、その・・・・つ、付き合っていただきたいのですが!」

 

 精一杯。本当に、これが精一杯だと、アインハルトは心臓が口から飛び出しそうな程バクバクしているのを堪えるが如く、スカートのをギュッと握り締める。皺になるとか、そんなことに気遣える余裕など今の彼女にはなかった。ややあって、アスカが口を開く。

 

「喜んで」

 

 ・・・・なぜだかこれ見よがしにキリッ、という効果音をつけてキメ顔をしてきたのが非常に納得がいかないがそれでも了解はもらえた。そのことに内心ガッツポーズをしながらもアインハルトは嬉々とした表情で別れを告げ駆け足でマンションへと入って行った。

 

「・・・・ひゃっふぉい美少女とデートだヒャハーッ!」

 

 ただ一人、無駄に浮かれるアスカを残して。




 ~アスカ、ルーテシア。夜の浜辺にて~

ルーテシア(何やってんのよあたし!今のは告白する流れでしょーがッ!)
アスカ「あの、なんでみんなしてニヤニヤしてるんでしょうか」
八神家一同「(・∀・)ニヤニヤ」


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♯23

 その日、アスカは朝から上機嫌だった。いつもより早く起き、鼻歌混じりに身支度を整え鏡の前で決め顔を連発するその姿は八神家の皆に吐き気と寒気を与え、ルーテシアにはおまけに苛立ちゲージの最大値振り切りという、なんとも害悪しかない振る舞いを見せていた。

 

「だああああああああッ!何なのよ朝から鬱陶しい!」

「あのさ、やった俺も俺だけど扱い酷くね?」

「いや、じゅーぶん気持ち悪いぞお前・・・ンで、一応聞いとくけど・・・つか、聞かないといつまでもやりそうだからな」

「よくぞ聞いてくれました!」

「いやまだ何も言うてへんよ」

「なんとこれからッ」

「人の話を聞かない・・・どこまで此奴はフロガと一緒なんだ・・・」

「ハルちゃんと!おデートなんですッ!」

 

 ビシっ!そう効果音でもでそうな某漫画のような立ち方で立つアスカ。手に負えないとヴィータとザフィーラは早々に諦めてリビングを出て、シャマルとリイン、アギトは朝食の片付け。シグナムは新聞に目を戻し、はやてはテレビを付け――――全員が戻ってきた。

 

「おいちょっと待て、今おまえ誰とデートっつった!?」

「ハルちゃん」

「もしもしノーヴェか!?至急アインハルトの部屋まで行ってくれ!手遅れになる前に!」

「ついに、ついにやっちまったのかアスカ・・・シショーとして、あたしは悲しいぞ!?」

「リインは、リインはそんな子を弟に持った覚えはないですよ!」

「主、離してください!手遅れになる前に、せめて・・・せめて私の手で!」

「あかんて、あかんてシグナム!そない殺生はあかん!」

「そうよみんな!冷静になって、アスカだって年頃の男の子だもの。デートの一つや二つくらいするわよ。さ、アスカ。出かける前に私の作ったプリンでもどう?」

「おいお前ら、誰一人として味方はいねーのか」

 

 アインハルトにデートに誘われた、そう口走っただけでコレである。普段この一家に自分がどう思われてるのかが一目瞭然だ。不審者として扱われてるあたりもう家出したいと切に思うアスカ。

 

「デート・・・あのアインハルトから誘ったというの・・・?」

 

 そしてすぐ隣でなにやら小刻みにワナワナと震えるルーテシア。テーブルから下げようとしていた空のコップをあり得ないほど力を込めて破壊するその様は本当にコイツフルバックかと疑いたくなるほどの衝撃だ。ともあれ、ここにいる人間全員が天変地異でも起きたかのような取り乱しようにツッコミを禁じ得ない。しかしここまでカオスになってしまってはもはや手遅れだろうと見つからないようこっそりとその場を立ち去り、アインハルトと待ち合わせした場所まで急ぐことにした。

 時刻は10:00。定刻通りの到着だ。待ち合わせしたのは、二人が初めて出逢った場所。当時まだアインハルトが”覇王”の異名でストリートファイトをしていた頃に出逢った、想い出の場所。ビジネスビルが立ち並ぶ一角にある公園、そこにある時計の下に彼女は待っていた。髪の色と同じエメラルドのワンピース。普段ジャージや制服、バリアジャケット姿しかあまり見たことのないアスカにとって、その姿はとても新鮮だった。

 

「ごめんハルちゃん、待たせちゃったかな?」

「いえ、私も今来たところですので」

 

 そんなお決まりな会話から始まる。アインハルトとこれから二人きり――――とはいかず、当然彼女の相棒であるアスティオンも一緒ではあるが、それでも二人なのには変わりない。

 

「それじゃ、行こっか」

「はい。今日はよろしくお願いしますね」

 

 笑顔で言い、二人は街中へと歩き出す。そして、それを追って複数の影もまた動き出した。

 

「アインハルトさん、まさか本当にデートだったなんて・・・」

「旦那から連絡もらった時は一体どんな緊急事態かと思ったけど、これは別の意味で緊急事態だな」

「ところでコロナ、なんで私達こんな格好なの?」

「尾行といえば、サングラスは必須なんだよリオ」

「随分とズレたセンスしてるわねコロナって」

 

 順にヴィヴィオ、ノーヴェ、リオ、コロナ、そしてルーテシアのチームナカジマ+αの面々がお揃いのグラサンをかけながら二人の後をばれぬようについて行く。当然、念話やデバイスという物があるにも関わらずコロナの強い要望でトランシーバーまである。そんな骨董品をどこで手に入れたんだとツッコミを入れたいノーヴェだが、それを一々やってたら今日一日もたない気がしたのであえてスルーすることに決める。

 

「まずはどこ行きましょうか」

「ん~・・・なら、あそこなんてどうかな」

 

 二人が目指す先。それは大型ショッピングモールだ。

 

「こちら、ゴーレム。ターゲットはどうやらショッピングモールへと移動中。状況を報告せよ、オーバー」

「こちらラビット。ねえねえ、あのクレープすっごい美味しそう!」

「ホントだ!」

「二人ともやる気があるのかないのか・・・」

 

 ボケの集中力が途切れたところでクレープ屋に入ろうとするヴィヴィオとコロナを止めるリオ。ダメだこいつ等、ボケに走らせると使い物にならない。リオは改めてアスカのボケの重要性に気付く。

 

「なにやってんだ。ホラ行くぞ」

 

 二人が入った店は可愛らしいぬいぐるみが所狭しと売られているホビーショップだ。

 

「へー、アインハルトさんってこんなかわいいぬいぐるみが欲しいんだ」

「なんか意外だね。あ、このクマかわいいーっ」

 

 普段凜としてリングの上でもクールで冷静な先輩の意外な一面を見れたことと店内の雰囲気にテンションの上がる初等科組。それとは逆にほんの少し場違い感を覚えるノーヴェとルーテシアはいたたまれない気持ちを苦笑いで誤魔化す。

 

「先輩、このようなものはどうでしょうか」

「お、いいね。それ買う?」

「はいっ」

「・・・やばい、あのアインハルトさん可愛すぎる」

「クマのぬいぐるみをギュッと抱きしめながらの笑顔・・・同じ女の子でも、アレは反則だよ」

「へぇ、アイツ、あんな顔もするんだな」

「むぅ・・・ちょっと悔しい」

「奇遇ねヴィヴィオ。私もよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~大分回ったね」

「はい。あ、少し休憩していきますか」

 

 ひとしきり目的の店であろう店舗を回った後は、時刻もあって昼食を取りにカフェへとはいる。当然、5人も入って行く。

 

「ホビーショップに服屋、どれもなんだかターゲット年齢層低めな感じね・・・これって全部アインハルトの好きなジャンルなのかしら」

「あたしも流石にそこまではわかんねー。何だかんだでアイツが自分の趣味のものとか買ってるとこ見たことないしな」

「あ、このパンケーキ美味しそう」

「すみません、コレ三つください!」

「あ、私はホイップクリーム多めでお願いします!」

「もうお前ら飽きたんだな?」

 

 マイペースな年少組はさておき、ちゃんと分析を始めるノーヴェとルーテシア。ルーテシアにいたっては自身の恋心がかかっているとだけあって余念がない。

 

「・・・いいなぁ」

 

 ボソッと、小さくだがたしかにそう呟くヴィヴィオ。何だかんだで、この子も自分と想いは一緒なんだなとルーテシアは思った。

 

「このウサギ型パンケーキ」

「私の感心返せコラ」

 

 やはり、自分がしっかりしないと。そろそろツッコミが追いつかなくなりそうだと軽く危機感を覚えるも、注文した品をきっちりと食べ終えて再び尾行を開始――――したのだが。二人を追えば追うほどどんどんクラナガンから離れていくのに気が付く。モノレールの改札をくぐったかと思えば、それが行きつく先を見てヴィヴィオは何かを察したようで小さく笑う。

 

「どうしたのヴィヴィオ?」

「・・・ううん。ただ、なんとなくだけどわかちゃったかなって」

 

そう語るヴィヴィオの表情はどこか憂いを帯びているようにも見えて。それでいて嬉しそうにも見える。時刻は午後16:00。陽も傾き始めオレンジの光が世界を染め上げようとする時刻に向かったのは――――ベルカ自治領。聖王協会だった。




 ~チームナカジマ+α尾行中にて~

ノーヴェ「ところでコロナ、二人の呼び名がなんでゴーレムとラビットなんだ?」
コロナ「それは私の得意魔法と」
ヴィヴィオ「クリスから連想したものだよ」
ノーヴェ「なるほどな。それだとアタシやリオとルールーは何になるんだ?」
コロナ「んー、コーチはツンデレで」
ヴィヴィオ「リオはモンキーかな?なんだかお猿さんみたいにいつも元気いっぱいだし」
リオ「褒められてるのか貶されてるのかイマイチよくわかんないけど・・・ルーちゃんは?」
ヴィ&コロ「オカン」
ルーテシア「言いたいことはよぉーくわかったわ・・・」

 ルーテシアの明日はだっちだ!?


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♯24

「やめておくかい?」

 

 物静かで厳粛な雰囲気すら漂うタイルの廊下を歩きながら、アスカは浮かない顔をするアインハルトに言う。聖王教会本部に入ってからというもの、どうにも記憶がフラッシュバックしてしまい中々思うように足が運べないのも彼女が暗い顔になる要因の一つだ。

 

「イクスを封印したのは他でもないクラウスです。彼女の最後の言葉も、私は記憶しています・・・」

 

  生きたい。ただ、人間として。それが禁忌を犯し、罪と力を背負ったまだ幼い少女のたった一つの願いだった。しかしそれをかなえられる程、当時の世界は優しくはない。強くなければ全てを奪われ、力がなければ生きていくことができない弱肉強食の世界。誰が望んだわけでもなく、人間としての本能がそうさせたのだ。他国より上へ、もっと上へ。優れた才を、絶対的力を手に入れようと、”王”と呼ばれた人物達はその生贄となって手に入れた。平穏と引き換えにして。それを知ってしまっているアインハルトだからこそ、その渦中にいた二人が会うというのは複雑なものなのだろう。

 

「そうだね」

 

 それがきみの中にあるもう一人のきみの一部だからと、アスカは付け加えてその上で「でも」と言う。

 

「それは”アインハルト・ストラトス”じゃないでしょ?」

 

 立ち止まり、笑みを浮かべて話す。

 

「記憶に引っ張られるって感覚は俺もわかる。辛くて、痛くて、悲しくて・・・・でもさ、それだけじゃなかった。ちゃんとあるんだ。楽しかったこと、嬉しかったこと。その一つ一つが、”今”の俺に希望をくれる」

「希望・・・」

「どうあがいたって過去は変えられっこないんだ。だったらせめて、今を頑張って、明日を楽しくしようじゃん」

 

 きっと、そうやって続いてくんだとおもうよ?と笑う。その笑顔に、記憶の中にあるフロガと重ね合わせる。そするれば、どうだろうか。似てはいる。だが、それだけだ。よく似てはいるものの、フロガとアスカとではその本質が違う――――ような気がした。

 

「・・・ふふっ」

 

 少し間を空けて思わずアインハルトが吹き出す。

 

「あれ、俺なんかおかしい事言ったかな?」

「いえ、先日ルーテシアさんから先輩の愚痴を聞かされたのを思い出しまして。先輩、恥ずかしい台詞禁止っ!ですよ」

 

 少し前にでて、ウィンクしながら左手を腰に、そして右手の人差し指を立ててすこし前かがみで言う。キャラじゃない。後々アインハルトはそう語ったものの、今のアスカにはこの時の彼女はとてもかわいくて。それでいてなんだかとても楽しそうに見えていた。

 

「やっヴぁい」

「ひゃ、先輩鼻血が!?」

「もっかい!今のもっかいやってハルちゃん!お願いなんでもするから!」

「・・・今、なんでも?」

「・・・うん、言った後でまさかとは思ったけどホントに言うとは思わなかった」

 

 この子の前ではボケの濃度を控えようか、そんなことを考えているとおもむろに手を差し伸べられたのでそれを握り返す。

 

「行きましょうか」

「そうだね。イクスが、待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乙女心は秋空のように変わりやすい。誰かがそんなことを言っていたっけと、ノーヴェは目の前の光景をみて痛感する。先ほど繰り広げられていたアスカとアインハルトのやり取り、その一部始終をしっかりと見ていたのだがいかんせん端から見たら落ち込む彼女を励ます彼氏にしか見えない。そのせいか、一緒に行動している年下女子たちのよくわからないボルテージが最高潮に達しようとしていた。

 

「なんですかアレ。完っっっっっっっっっっっっっっっ全に、カップルじゃないですか」

「しかも手まで繋いで・・・・!」

「えっと、おまえら?その辺にしとけよ。特にヴィヴィオとルールーはもうちょっとその真っ黒いような何だかよくわからない魔力光みたいなのしまおう、今すぐやめよう」

「ううぅ・・・ノーヴェ・・・」

 

 悔しさ半分、嬉しさ半分といった感じでこちらを向くヴィヴィオ。何だかんだでアインハルトがどこか吹っ切れたことに対して嬉しさを感じているらしいが、最後のアレを目にしては恋心が許さないというものなのだろうか。リオとコロナも、どこか納得がいかない様子でグヌヌ、と唸っている。ルーテシアもヴィヴィオとほぼ同様で、かなり悔しい様子だ。

 

「ハイハイ、わかったわかった。ほら、泣いてないで早く追いかけないと見失――――」

「――――うことはないから安心していいよみんな」

 

 ギクッと肩を上げるて体をこわばらせる。次にギギギ、と油のきれた機械のような軋んだような音が聴こえそうな動作で振り返る。そこには仁王立ちしてこちらを見ているアスカの姿があった。

 

「探偵ごっこは楽しかったかな?」

「先輩、いつから・・・!?」

「割と最初からかな。だってコロちゃん目立つんだもん」

 

 と苦笑いして指摘する。それにコロナは頬を朱に染めながら俯きちいさく「ごめんなさい」と呟く。その一言を皮切りに次々に謝罪を口にするヴィヴィオ達。

 

「あたしも悪かったな」

「いや、ノーヴェに関しては巻き込まれただけだしいいよ。というか、怒ってなんかないしね。ただ、コロちゃんも無理してボケなくてもいいんだよ?」

「うう、恥ずかしい・・・」

「ところでアインハルトは?」

「ああ。今イクスと会ってる。二人っきりで話がしたいんだってさ」

「・・・先輩、なんだか嬉しそうですね」

「そりゃもちろん」

 

 ――――だって、あの子が笑ってる気がするから。夕焼けに染まりゆく空を見上げながら、アスカはそう心の中で呟いた。

 

「お、アスカに陛下たちも来てたんだ」

 

 とそこにシャンテが現れる。

 

「ようサボり魔法少女。ソウルジェム濁らせてるかー?」

「どんな挨拶だよそれ・・・つかソウルジェムって何」

「気にするな。で、なんでおまがここに?まさか自力で脱出を!?」

「まあそんなとこ」

「ボケをマジレスで返す・・・これが俗に言う”ボケ殺し”って技か・・・」

「コロナ、私コロナのこれからが心配になってきたよ・・・」

 

 割と真剣にメモを取るコロナ。この子のキャラは一体どこに向かっているのか想像もできないが直感で碌なことにならないだろうと感じっとたリオは一応のツッコミをいれておく。

 

「そうだ、これあげるよ」

 

 そう言ってシャンテがポケットから何かを取り出す。それは綺麗にラッピングされた袋に入れられたクッキーだった。

 

「月に何回かある集会でさ、あたしらシスターと街のご老人達と一緒にクッキー焼いてお茶会してたんだけど、その余りだけど・・・良かったら食べる?」

 

 あ、これ絶対わかってて作ってきたな。そうバレバレな態度でアスカに渡すシャンテ。今日彼がここに来ることはおそらく事前のアポイントメントで知っていたのだろう。逃げ出してきた、というのもおそらくはここで鉢合わせるための口実に違いない。つまりシャンテは、アスカに自分が作ったクッキーを渡す為にこの状況を作り出しているのだ。その証拠に、アスカ以外のクッキーは用意されていない。あざとい。そう心中で呟くルーテシア。

 

「まさか毒なんて入ってないだろうな?」

「あたしゃどっかのポイズンクッキングキャラとは違ってちゃーんとレシピ通り作ってるから」

「さりげにシャマ姉をディスったな・・・ま、本当のことなんだけどさ」

 

 袋を開ければ焼きたてなのかバターや砂糖の香しく甘い香りが嗅覚を刺激した。

 

「うまそうだな。そんじゃ、いただきまー ――――」

「すっ!」

 

 パクッと、アスカが手に取ったそれをヴィヴィオが横から奪い取って頬張った。

 

「ちょっ、陛下ズルい!?」

「ふん、シャンテもアインハルトさんも抜け駆けは許しません!」

「そーよシャンテ。それにしても貴女、ずる賢いのは知ってたけど意外とえげつないことするわね・・・私も一つもーらおっ」

「あ、私も私も!」

「なら私も」

 

 ルーテシアに続きリオ、コロナ。そして何故かノーヴェまで食べる始末。結果一枚しか残らなかった為アスカはその一枚を頬張る。

 

「んん!」

「では先輩、御味の方は」

「う”う”う”う”う”まアアアアアアいいいいいい!」

「参りましょうう”う”う”う”う”まアアアアアアいいいいいい!」

「コロナー!?戻ってきてー!」

「アレは相当重症だねぇ」

「アスカ、あんたコロナにまで何したのよ・・・」

「おい待て、今回は俺乗っただけだぞ」

 

 そうして、穏やかな休日は過ぎていった。余談ではあるが、この後コロナはシャマルに診察を受けたという話があるが、それはまた別のお話。




 ~アインハルトとイクス、イクスの眠る部屋にて~

アインハルト「イクス。私は今、とても幸せです。沢山の人に・・・友達に囲まれて。それに、一番大事な――――」

 ――――う”う”う”う”う”まアアアアアアいいいいいい!

アインハルト「・・・・大事な・・・・ええ、きっと・・・・多分・・・すみません、何だか私やっぱりヘンな人が近くにいて困ってるかもしれません」

 その夜、何故か夢の中でイクスに小一時間以上説教されたアスカであった。


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♯25

「ハルちゃんの応援に?」

「はい。何かできることないかなって」

 

 4回戦まであと三日。その日の学業を終えたアスカを放課後に呼び出したヴィヴィオ達三人は眉毛を「ハ」の字にして難しい顔をする。特訓の相手、というのもあったがそれだけでは何かが足りないということらしい。アインハルトの次の対戦相手は前々回とはいえ世界チャンピオンの称号を持つジークリンデ・エレミアだ。未だ公式戦において黒星をつけた者はおろか、膝をつかせた者すらいないと評判の超強敵。そんな相手にどうやったら勝てるか、なんてことは本人とコーチであるノーヴェの役割であって、自分達ができることは限られている為こうして頭を悩ませているらしい。

 

「信じてあげるのが一番の応援だと思うけど・・・」

「それはわかってはいるんです。だけど――――」

「気持ちを伝えるっていう意味ではどうにも案が出なくて」

「声援を送るのはもちろんなんですが・・・」

 

 欲を言えば形にしたい、というのがとどのつまりである。自分達でできることをと考えてもやりつくした感が否めないという事でアスカに白羽の矢が立ったというわけだ。ファストフード店の四人掛けのテーブルに腰を下ろし、ポテトを口に咥えて腕組みをしながら「う~ん」と唸る。対面のコロナとリオ、隣に座るヴィヴィオは何かを期待しているのかアスカをジッと見つめる。しかしながらヴィヴィオに至っては若干の下心があるのかないのか、時間が長引けば長引くほどどんどん距離を詰めていく。ちなみにこれを本人は無自覚なのだからもはや手に負えない。

 

  そこで。

 

「キラッとひらめいたッ!」

「あわわっ!?」

 

 急に眼をカッと開き腕組みを解いて指を立てるアスカ。それに慌てたヴィヴィオは漸く気づいたのか少し赤面しつつも元の位置に戻る。

 

「ん?どったのヴィヴィちゃん」

「い、いえなんでも。それより、何か浮かんだんですか!?」

「うん。ハルちゃんに渡して邪魔にならないようなものがいいかなと思ってさ。お守りなんてどうかな」

「オマモリ?」

「ヴィヴィちゃんは知ってるよね」

「はいッ。地球での、なんて言うかおまじないみたいなものですよね」

「そう。掌サイズで握れるほどの小ささだから鞄とかに付けておいてもいいんじゃないかな。大会規定にはアクセサリーの類は厳しくない筈だし」

「いいですねそれ!よーし、コロナ、ヴィヴィオ。さっそく作ろう!」

「うんっ。先輩、ありがとうございました!」

 

 コロナのお辞儀に習うように二人も頭を下げる。

 

「いえいえ。みんなの役に立てたようで何よりだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ってことがあってね」

「ふーん、おまえにしては随分と気が利くじゃねーか」

「かわいい後輩の頼みだからね。これくらいはとーぜん!あ、それうららで」

「うげぇ・・・それにしても慕われてんなおまえ。それ、ハンマーシュート発動!」

「アスカはなんやかんやでしっかりお兄さんしとるからなぁ。ちなみにヴィータ、今そのクリスタルウィングはWW(ウィンド・ウィッチ)の効果で出て来とるからカード効果では破壊されへんで」

「なにィ!?」

 

 夕食後の団欒。今日あったことを話しつつカードゲームに勤しむヴィータとアスカ。さげた食器をシャマルとはやてが洗い、他のメンバーは二人の勝負の行く末を見守るといった構図だ。

 

「勝負あったなヴィータ。どれ、次は私か」

「やっちまえシグナム!」

「ところでアスカは何かあげるの?」

「んー、お守りはヴィヴィちゃん達と被るからそれは避けたいんだよね」

「試合中は身に着けるものって言うてもそこまでは規則は緩ないやろうし・・・いっそのことていs――――」

「――――はやてさん?」

 

 「じょーだんやってじょーだん」と、さもわざとらしくいうはやて。この人、タヌキな上にアスカ並のボケを本家以上に容赦なくぶっこんでくるから気を抜けないとげんなりするルーテシア。それにしてもミウラはよくこんな一家とちょくちょく会食なんてできるな、自分なら精神がもたないと軽く尊敬の意をこの場にいないミウラに向ける。

 

「やっぱ六部衆か・・・」

「私の紫炎は一味違うぞ?」

「最近強化されましたからねー。リインも水属性強化がきてウハウハです」

「炎もこねーかなぁ・・・っと、話が逸れちまった」

「リストバンド、は作れそうにないですし・・・」

「いっそのこと、手紙とかでもいいんじゃないか?心の籠ったものであれば、アインハルトならきっと受け取ってくれるはずだ」

「拝啓神様へー、えっと、始めまs――――」

「――――黒歴史はあかんよ?」

「それ、シンクロ召喚だ」

「あッ!?ノリに乗ってたらリンカ撃つタイミング逃した!」

 

 この家族、どうしてこれで会話が成り立つんだ。そうツッコミたいルーテシアだがもはやそのことに誰も違和感など抱いていないことに対してやがて自分もこの色に染まるんだろうなと思うと恐怖感を覚えた。帰りたい、切実に。ああ、まだ自分の母親の方がボケの濃度が薄い。ここは魔境だ、そう気づくまでにここまでかかるとは。アスカばかりに気を取られていたツケがこのザマだ。

 

「私は・・・どうしてコイツを・・・」

「ん?どうしたルー。頭なんて抱えて」

「頭痛?それともアレかしら・・・大丈夫?」

「いえ、大丈夫デス」

 

 自分がしっかりしなければ。そう心に固く誓い、お風呂へと向かうルーテシアであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 そして、いよいよ4回戦当日。開幕がアインハルトvsジークリンデということもあり会場は早くも満員となっている。控室からでも客席の喧騒を感じ取れるほどだ。これほど大きな舞台、経験したことのない緊張感が今は心地いくらいだとアインハルトは深呼吸する。握る手の中には、ヴィヴィオ達から貰ったお守りが握られていた。

 

  ドアをノックする音に、反射的に入室を許可する旨を伝える。そうすると、入ってきたのは赤髪の少年だった。

 

「先輩。大丈夫なんですか?ここに来て」

「俺の試合はまだ先だからね。ハルちゃんの試合観てからアップしても充分に余裕はあるから。それより、はい」

 

 そう言って手渡された一枚の紙。サイズはA4程でくるりと巻かれてリボンで結ばれている。

 

「お守りだとヴィヴィちゃん達と被るから俺は俺にできるもの何かなって探したんだけどさ。色々案は浮かんだんだけど、こういう事しかできなくて」

「先輩・・・」

「ハルちゃん。きみは強い。それは戦った俺が一番よく知っている。ジークも強いけど・・・でも俺はそれでもきみを、ここまできみが頑張って培ってきた力と勇気を信じてる。だから・・・また、戦おう。今度はちゃんとした、リングの上で」

「はい。必ず。その時は正々堂々と、全力で」

 

 拳を軽くぶつけて、最後に笑って頭を撫でる。すると心地よさそうに笑みを浮かべる彼女を見た後に、アスカは控室を出た。一人残されたアインハルトはもう一度深呼吸。そして――――

 

「――――行きますよ。ティオ」

「にゃっ」

 

 愛機と共に、戦意に火を灯した。




 ~アインハルト控室にて~

ノーヴェ「アインハルト、行くぞ・・・って、それアスカからか?」
アインハルト「はい。あ、見てからでも?」
ノーヴェ「おう。それぐらいなら構わねーよ。つか、あたしもあのバカがどんなトンデモを放り込んだか確認したい」
アインハルト「そんな大げさな――――って絵ウマ!?」
ノーヴェ「ウマッ!?え、ちょ、アイツ絵ウマ!?」
アインハルト「ノーヴェさん」
ノーヴェ「ウマ―――なんだ?」
アインハルト「私、今ならエース・オブ・エースすら倒せる気がします」
ノーヴェ(ちょろいなぁ・・・)

 アインハルトの明日はどっちだッ!?


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♯26

「うわっ!」

「あっはははは、そんな事では新米兵さえ打ち取れませんぞ王子」

「グヌヌ、まだまだァッ!」

 

 拳が空を切る。渇いた音が空間に響く。それを見ながら用意された紅茶とお菓子をつまみつつ空を見上げる。青い空、澄み切った、青い空がどこまでも広がっている。

 

「ふむ、中々やるようになりましたね王子・・・では、これはどうですかなッ!?」

 

 目まぐるしく動く赤。それを必死に目で追いガードする緑。しかし人知を超えたかのような速さで動く相手を捉えることはできず未だ反撃のチャンスをうかがうばかりで攻めに転じられないで苦虫を噛みしめた顔で守りを固める。

 

「さぁさぁどうしましたクラウス殿下!?」

「クッ・・・というか、なんだその動きは!?なぜ足を横に開いた状態でさっきからカサカサと、そう気持ち悪い動きをする!?」

「ハッハッハ!殿下、相手は時として予想だにしない動きをしてくるものです。それが強者であればあるほど、不測の事態は付き物。これは殿下の対応力を試すだけでなく、全てにおいての観察眼を――――」

「――――そこまでです」

「カバディッ!?」

 

 呆れて物も言えず思わず足が出てしまった。急にリズムを崩され且つスピードに乗りきっていた躰は強靭な体幹をもってしても制止や体勢を立て直すといったリカバリーをさせてはもらえず、そのままゴロゴロと転がって壁に叩きつけられてしまう。

 

「申し訳ありませんクラウス殿下。我が騎士、フロガが無礼な真似を・・・」

「い、いえ。その、なんというか、言っていることはごもっともでしたし・・・えっと、大丈夫ですか?」

「ご心配なく。この程度で血を流すほど我が騎士は柔ではありませんわ」

「おっしゃる通りですよ殿下、わたくしめは傷一つありません・・・あ、視界がぐらぐらゆれる」

「思いっきり頭から血を流してますよ!?」

 

 なんてことない、それが日常だった。その頃の自分達はまだ幼く、そして世界が少しだけ優しかった。でも、何時からだろうか。こんな時間さえ、尊く儚いものだと思うようになったのは。そんな曖昧で、そして酷く混濁した記憶が脳裏にフラッシュバックする。頭を振り、一度深呼吸。今は大事な試合の最中なんだ。気を引き締めなくてはならないと、構をとる。

 

  試合開始から約10分。ジークリンデ・エレミアの戦闘スタイルはまさに〝総合選手〟といった感じのものだった。距離を離せば射撃魔法が。逆に近接で挑めばすかさず密着状態(ゼロレンジ)からの投げ、そして関節技(サブミッション)。まだ奥の手を隠しているようにも見えるが、それでもここまでの戦いぶりは王者の何に恥じない戦いぶりだ。だが、アインハルトも負けていない。投げられながらも、技を決められながらも、的確にそして逆に押し返すつもりで防御と攻めを巧に操る。試合の最中、二人で何か話しているようだが、観客席にいるアスカ達には聞き取れないほどに離れてしまっている。

 

「凄い、さすがアインハルトさんだ!」

「あのジーク相手にここまで食らいつくとはなぁ。正直驚いたぜ」

 

 リオとハリーが感想をもらす。その前、席の構造上下にはなるが、その位置でアスカは食い入るように試合を見つめる。まるで、こみあげる何かを抑えるかのように。そんな彼の様子が気になってか、ヴィヴィオが膝の上で震える手にそっと手を添えてきた。アスカがヴィヴィオを見ると、いつものように明るい笑顔で応える。

 

「大丈夫ですよ先輩。アインハルトさんなら、きっと」

「・・・・ああ。そうだね」

「・・・・正直、予想外やったわ。きみならもっと硬派な動きするおもっとったけど、エラい動くしウチの攻撃も随分見られてきてる・・・・これまでの試合じゃそんな目ぇ持ってない筈なんやけど」

「思い出したんですよ・・・いえ、教えてくれた――――と言った方が正しいですかね」

 

 それを聞いて「なるほど」と頷くジーク。そうか、それなら生半な攻撃や防御はかえって危険か。ならばこちらも真打を使う以外あるまい。もとより、そのつもりではあるが。タイミングが少し早い気もするがそれでもこの試合は楽しみにしていたものの一つだ。悔いが残ってはたとえ勝ったとしても笑えない。ならば、そう。使う以外ありえない。それに彼女はコレを使うに値する選手だ。

 

「――――〝鉄腕〟、解放」

 

 そのワードをキーとしてジークの両腕の肘から下を黒い装甲が覆う。それを見たヴィヴィオ、アインハルト、アスカは表情を変える。その腕、そして次に取った構はまさに、自分達もよく知っている(・・・・・・・)ものだったからだ。

 

「エレミア・・・・ッ」

 

 〝黒のエレミア〟――――格闘戦技など無かった時代において、己の五体だけで人体を粉砕する技術を極めていった一族。それが、ジークリンデ・エレミアの源流。今彼女が取る構が何を隠そう、古代ベルカにおいて最強を誇った人物。ゆりかごの聖王こと、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。

 

「オリ、ヴィエ・・・!?」

 

 息が苦しい。鉄腕を展開してからこの会場に入った時から感じていた違和感がアスカの中で大きくなる。そしてこれに類似しているものを、アスカは一度味わったことがあった。

 

(初めてジークと逢った時にも感じた、この感覚・・・でも、今回のはあの時の比じゃない。色んなものが頭の中でグルグル混ざり合って、意識が・・・持って行かれる!?)

 

 何とか踏ん張るアスカ。僅かに残る正気で隣に視線を動かせばヴィヴィオも同じようなものを感じているらしく苦しそうに胸を抑えている。ただごとではない、そう直感したルーテシアとシャンテが二人に回復魔法を当てる。徐々に回復を見せる二人だが、それでも調子は良くない。

 

「ちょっとちょっと、陛下もアスカもどうしたのさ急に?」

「わからない。でも・・・」

「はい。きっと、私達に関係してることだけはたしかなの」

私達(・・)、か。ってことはもしかして、最近アスカが悩んでるのと関係があるんじゃ・・・)

 

 試合はより一層激しさを増す。鉄腕を見た瞬間からアインハルトは普段の冷静さを欠き、さながら咆えるように叫んだと思ったら荒々しいラッシュに突入。しかしジークがこれを丁寧に捌き、逆にカウンターとトリッキーな射撃魔法を織り交ぜてアインハルトの猛攻を難なく潜り抜ける。しかしそれでも箍が(たが)が外れた獣のように攻め入るアインハルトは、止まらない。

 

「わかるよ、きみの気持ち。鉄腕(コレ)を見てこーなるんよるなってことは大方予想ついてたから。・・・せやけど、もーちょい冷静になろ、かッ!」

 

 低姿勢で踏み込んできたアインハルトを首を掴んで受け止める。グッと腕に力を込めてこのまま投げ技まで持って行こうと力を籠める。が、そこで自身の脇腹に違和感を覚え咄嗟に腕を脱力しようとするがその時にはすでに相手の拳から技が放たれた後だった。ズザザザ、と脚を踏ん張ってなんとかリング内にとどまる。

 

「・・・・ご先祖様の誇りを持つんはええことや。そやけどきみは、ご先祖様の為に生きとるんか?」

「――――ッ」

 

 突き付けられた問。それに対しての答えはもう既にある。でも何故?どうしてこんなにも――――

 

「私は、私です。自分の為にここにいて、私の意志で戦うだけですッ!」

 

 ――――心が、ざわつく?

 

「・・・そうは見えへんからのお節介なんやけど」

 

 踏み込むアインハルト。しかしそれはあまりに愚策、そのまま突っ込めばジークのカウンターを諸に食らいライフダメージもクラッシュシミュレートも相当なものを味わうことになるだろう。

 

  そう。そのまま突っ込めば(・・・・・・・・・)

 

 ダンッ!と強く足を踏みける。そこで勢いを止め、前へと出る力を逃すことなく拳に乗せる。体格差からして、カウンターがギリギリ届かない距離とタイミングでの変化がジークの意表をついた。が、それさえも止められてしまう。

 

「アレは止めた!?」

 

 アインハルトの咄嗟の行動にも驚くものがあるが、ジークの反応速度も驚愕だ。受け止めた腕はそのまま捻るようにして関節を決め、フリーになっている左手で手刀を作り、そのまま相手の肩に振り下ろす。重い一撃が、意識を刈り取るかのようにダメージとなってアインハルトを襲った。そのまま倒れ、カウントがコールされる。

 

(この人は、まだ半分の力をだしてない。それに、〝エレミアの神髄〟だって使ってない。あの時(・・・)と同じだ・・・・何も守れず地に伏し、目の前の相手に戦ってすらもらえない。全てを懸けた戦いですら、憐みの笑顔を向けられる。それは私が弱いからで・・・)

 

 長く続く後悔と自身の弱さへのジレンマが混ざり合い、渦巻く。倒れるわけにはいかないのに、立つことすらままならない。戦いたいのに、戦えない。

 

  いや、そもそも私はどうして戦ってるんだっけ?クラウスの為?自分の為?

 

 わからない。どうしてなのか、どうしたらいいのか。

 

(ティオ・・・ごめんさない。非力な私で・・・)

 

 共に戦ってくれた相棒に心の中で謝罪する。意識が消えて、闇に溶けていくのを感じながら、アインハルトは――――。

 

「――――立てッ、アインハルト・ストラトスッ!」

「・・・アスカ?」

「たしかにきみは、きみじゃない誰かの為に戦ってきたのかもしれない。でもそれはきみの意志がそうさせたからだろ!?弱いのが許せなくて、守りたくて、強くなろうって、必死に努力してきたんだろ!?もがいて、足掻いて、やっとできた大切なモノだってあるじゃないか。どんなに苦しくてももう無理だって思っても・・・・それでも歩いてきたんだろッ!?だったらッ!」

「――――ッ」

「諦めるなッ!!」

 

 たった一つ。闇の中に消えゆく意識が光を見出す。それは、かわいくも頼もしい友人たちから受け取った小さな袋。なんてことはない不格好なお守りだ。そして、案外頼りなくもそのくせ頼もしくもある、笑顔をくれたあの人。自分を鍛えてくれたコーチ。

 

「そうでした・・・私はまだ、倒れるわけにはいかない・・・!」

 

 立ち上がるアインハルトに湧き上がる歓声。皆が皆、興奮でわく中、たった一人悲痛な顔を見せるジーク。

 

「・・・そか。でもまあ、最初よりはちょうマシにはなったかな。ホンマ、スカーレットの血筋(・・・・・・・・・)っちゅうんかなこーいうのは。なりふりかまわず色んなとこで・・・。けど、それでもや。やっぱりきみの戦いは痛々しすぎる。せやからもう・・・終わりにしよか」

 

 その一言で、ジークの雰囲気がガラリと変わる。立ち込めるオーラと漂う気。肌に感じるピリピリとした刺すような気配は、それまで試合を楽しむかのようだった彼女の雰囲気とは一線を画すかのよう。

 

「マズいですわね・・・」

「うん。ついに来るか・・・ッ」

「・・・・〝エレミアの、神髄〟・・・ッ」

 

  それは、まるですべてを刈り取るようで。触れた先からまるで積み木を崩すが如く破壊を刻んでいく。一方的な攻撃は、ダメージの激しいアインハルトに容赦なく浴びせられていく。絶望的な状況の中、必死に食らいつくアインハルト。たとえライフと魔力を犠牲にしてでも、彼女はそれでも倒れない。気力を振り絞り、精一杯立ち上がる。

 

「アインハルトさん・・・」

「ハルちゃん・・・クッ」

「目、反らしたらアカンよ」

 

 思わず目を背けそうになる息子に、母であるはやてはひと時も離さず言葉のみを向ける。

 

「よぉ見るんや。あの子の、アインハルトの頑張りを」

「・・・・、押忍」

 

 ぶつかり合う、力と力。そして意地。もうアインハルトはとっくに限界を超えている。そしてアスティオンも既に力は残されていない。それなのに、まだだ、まだ終わらないと一向に倒れない。勝つんだ。勝って、約束を果たす。強い自分になる。その一心で。

 

  だが、その踏ん張りもとうとう限界を迎える。キャパを超えたヒーリングをアインハルトに施し彼女の中で倒れるアスティオン。それを汲み、敗北のほぼ決まった状況下で尚前に進もうとする強い意志を拳に託して踏み出すアインハルト。しかしそれは世界王者という高い壁には届かず、カウンターを決められ地へと伏した。

 

「ハルちゃん・・・・」

「・・・アスカ」

「・・・・俺、余計な事しちゃったかな」

「・・・そんなことないんじゃない。だってさ、覇王っ子はアスカの応援があったからあそこで立ち上がれたんだし。それにさ、あの子には多分アスカの声が一番響いたと思うよ。あたしは・・・うん、わかるから」

 

 首を垂れるアスカにシャンテが言う。

 

「・・・・そうだと、いいな」




 ~アインハルトvsジーク試合中~

ジ「そーいえば、フロガの事について思い出したんやけど」
ハ「はい、なんでしょう?」
ジ「実はああ見えて、犬が苦手らしいで」
ハ「そう言えば、クラウスの鍛錬後、オリヴィエの怒りに触れたフロガが犬に追い回されていたような・・・?」

ア「ぶふぇっくしょんッ・・・・あの二人、なに話してんだろ」
は「きっと嬉し恥ずかしな昔話やね」
ヴィ「あ、ヴィヴィスカコラボ集絶賛(?)連載中ですのでそちらもあわせてどうぞ!」
ア「・・・・え、ちょ、今回のあとがきオチなし!?」


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♯27

「おい、デュエルしろよ」

 

 開口一番にそう告げられ危うく持っている皿の上のオードブルを落としそうになるジーク。

 

「あ、アスカ?」

「・・・・」

 

 ジークの声にアスカはただ彼女をジッと見下ろすだけで何も答えようとはしない。重い沈黙が広がる二人の間は何人(なんぴと)たりとも割って入る隙間はないように見えた。

 

「こらバカスカッ、お前は顔合わせて言う一言めがそれってどーいうつもりなのさ!?」

 

 シャンテに思いっきり後ろからどつかれるアスカ。後頭部にジャストミートしたシャンテの手刀の衝撃はすさまじかったようで頭を抱えて蹲る。そして振り返り、抗議の声を上げた。

 

「止めんなシャンテ!此奴は俺のスターダストを――――じゃない、ハルちゃんをだな!?」

「やかましいッ!」

「アスミスッ!?」

 

 なんだかよくわからない声と単語を口にしながらもう一度手刀をくらい、沈むアスカ。それまでの一幕を見せられたジークはただただポカーンと眺める事しかできず、一向に状況の把握ができないでいた。そんな彼女を見かねてか、アインハルトが声をかける。

 

「あの、気にしないでください。先輩はいつもあんな感じなので」

「あ、うん。けどなんというか・・・」

 

 〝ガイスト〟の使用に〝イレイザー〟の発動。試合中は絶対に使わないと決めた禁じ手を二つも使ってしまったジークとしてはこのアインハルトとの対面は些か気が引けるものもあったが、風呂場でのハリーとミカヤの助言により今はさほど気にならなくなっている。とはいえ、いざこうして直に顔を合わせるとなんだか自然と距離を置こうとしてしまうのは否めない。

 

「大丈夫ですよ。さっきはあんな風に言ってましたけど、先輩はジークさんのことも心配してましたから」

「え・・・?」

「あの試合の後、私の所に来て言ったんです。ハルちゃんも大事だし、ジークも大事。だから、競技選手とはいえ二人に何かあったら俺は・・・って。それはそれは結構な剣幕でしたよ?私とコーチの反省タイムを中断してしまうくらいには」

 

 そう笑顔で語るアインハルト。その笑みは嫌味を言っているものでは欠片もなくて。本当に面白い、愉快だったと語るそんな笑顔だった。

 

「・・・・ホンマ、そっくりやね」

「ええ。他人に甘すぎるところとか特に」

 

 そう言って笑いあう二人。打ち解けていくアインハルトとジークを見ながら、はやては保護者(ツッコミ)代理として半ば強制されてこの場にいるシャンテからアスカを引き取ると、全員に聴こえるように声を出す。

 

「皆、食べながらでええからちょう聞いてな。もう知っての通り、今日試合をした二人には浅からぬ因縁がある。〝黒のエレミア〟継承者、ジークリンデ・エレミア。覇王クラウスの末裔、アインハルト・ストラトス。二人を繋ぐのは、聖王女オリヴィエ。さらに〝雷帝〟の血族であるヴィクトーリアちゃんにここにはおらんけど、他にも古代ベルカにゆかりのある人もおる。・・・・そして、多分すべての鍵を握っとる〝炎帝〟」

 

 その単語を口にしながら腋に控えているアスカチラリとを見る。

 

「これだけの人がこの時代に集まるいうんは私もそこんとこに関わる者としても、大人としてもちょうきになるとこでな?おっきな大会の大事な時期や。みんなが事件事故に巻き込まれんよう私は守っていきたい。せやから二人のご先祖様のお話をするこの場に私も参加させてもらいたいんよ」

「はい。もちろんです」

「私達の過去と今・・・お話いたします。できうる限り」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、まだ少し空が明るかった頃。このベルカの時代において、青い空を見ることもほとんどない。気象や様々な条件が揃わない限りは太陽さえ拝むことができないとは何ともイヤな話だ。そう溜息をつきながら少年は愛馬の上で愚痴を言葉ではなく息として吐きだす。

 

「どうかされたかな騎士フロガ」

「こうも空が暗いと少しばかり気が滅入るなと。それにしてもグラファン卿は素晴らしいですな。こんな陰鬱な空なのに底なしに明るい。まるで太陽のようだ・・・そうだ、貴殿を天高く上げればきっと空も晴れ、我が君の微笑みも尚輝くこと――――」

「スカーレット卿、まだ城の食堂でわしが食べてしまったスコッチのことを気にしておるのか?」

「ッたりめーだこのクソジジイ!騎士長だろうが何だろうが食い物の恨みは一国の王を戦場へと駆り立てるほどの力があると知れッ!」

 

 またやってるよこいつ等。そんなうんざりとした溜息が周りから聴こえてくるがそんなことは知ったことかと言い争いを繰り広げる騎士長と、位だけで言えばこの列の一際目を引く馬車の中にいる人物とほぼ同等に近い少年騎士。国の中でも外でもこの空気感と面倒くささは変わらないのだなと諦めをつける。

 

  長く続いた旅路も終わり、漸く城の中を自由に歩き回れるようになったオリヴィエは数名の侍女と自身の専属騎士であるフロガとともに中庭を散策していた。美しく手入れされたバラを見ては目を輝かせるオリヴィエから少し距離を置いてフロガはその様子を見守る。

 

「それにしてもスカーレット卿よろしいのですか?グラファン騎士長は大雑把故、手続きに不安しかないのですが」

「きっとお酒を片手にサインしなくてもいいような書類にさえサインしてしまいますよ?」

「貴女達どれだけあの人に対して信頼性薄いんですか・・・」

「だって・・・ね?」

 

 今更ではあるが王族の一部の人間や官僚たち以外の城の人達は何かこう、少し砕けすぎではないだろうか。そうツッコミを入れるとジト目で「貴方のせいです」と罪を被せてくる侍女二人。それに「あ、そうか」と納得がいったようで手をうつフロガ。城内部の空気が些かギスギスしてたりなんだかよくわからない固執があったりと色々息苦しかったのを見かねて色々ぶっ飛ばした(・・・・・・・・)結果こうなってしまったようだ。まあそれでも雰囲気は明るくなったので気にしてはいないフロガだが、その中でも騎士長であるグラファンに対しての評価は下の者の印象は些か酷いものだった。やれ〝万年酔っ払いジジイ〟だの〝スケベオヤジ〟だの言われたい放題である。本当は実力もカリスマ性も申し分ないほどにいざという時は頼りになる強者の騎士ではあるのだがいかんせん普段の印象がフロガと揃ってあまり評判のいいものではない。が、いくらそれでもフォローするのが下の者の努めというもの。

 

  まあ、結果的にフォローなどしたところで無駄なのだが。

 

「フ―――――スカーレット卿、エレミアの腕は?」

「アレは武具ですので、現在審査中でございます。ですから何かありましたら私に何なりとお申し付けくださいませ我が君」

「・・・むぅ」

 

 そう言うと頬を膨らませるオリヴィエ。彼女は生まれながらにして両腕がない。その為義手を付けての行動が常なのだが、その義手は武具としての役割も果たしている為、入国する際の荷物審査での許可待ちとなっており現在はしていない。それがないのが不満なのだろう、残念そうに今度は溜息をついた。

 

「おや、ここにいらっしゃいましたか」

 

 聴こえてきた爽やかな声。それに振り向けば、オリヴィエと同じ左右色の違う瞳を持った端正な顔立ちの少年が傍らに豹を連れている。

 

「クラウス殿下!?」

「初めまして。シュトゥラ第一王子クラウス・イングヴァルトです」

「〝聖王連合〟ゼーゲブレヒト家より参りました。オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと申します。初めまして、クラウス殿下」

 

 挨拶を交わし、まるで太陽のような微笑みを讃えるオリヴィエ。

 

「そちらは?」

「お初にお目にかかります。〝聖王連合〟ゼーゲブレヒト家が王女、オリヴィエ様の専属騎士。フロガ・スカーレットと申します」

 

 オリヴィエよりも少し下がった位置まで移動し跪いて頭を垂れながらそう告げるフロガ。

 

「なんと・・・貴方があの、最年少騎士とされるスカーレット卿でしたか。かの〝炎帝〟と名高い騎士とこうして会えるとは光栄です」

「有難きお言葉。そのように聞き存じておられるとは・・・いやはや少々の照れもありますね」

 

 その後も一言二言と言葉を交わすうちに会話が弾むクラウスとフロガ。あっという間に親しくなった二人の距離感に些かまた不満げなオリヴィエは頬を膨らます。

 

「――――と、我が君。どうかされましたかな?」

「・・・ズルいです。私も殿下とお話したいです!」

「ハッハッハ。とまぁこのような感じで少々オテンバな姫様ですが、仲良くしていただけると私としても安心です」

「いえ、こちらこそ・・・改めて、よろしくお願いします」

 

 こうして、二人の王と一人の騎士は出逢った。クラウス、オリヴィエ共に十と二。フロガ、十と四。後に語り継がれることとなる悲しき物語の主人公達のまだ幼い時であった。




 ~城内中庭にて~

フ「ところで殿下、この子は?」
ク「ああ、雪豹のライゼです。ライゼ、ご挨拶を――――」

 ラ「にゃー!」(訳:おもちゃ!)

フ「ぎゃあああああああああッ!?」
オ「あらあら、フロガは動物に好かれますね」
フ「いやあの、そんな日頃のうっ憤を晴らすような清々しい目してないで早く助けてギャアアアアアアアアアらめえええええええええええッ!」
ク「スカーレット卿!?」

 こうしてライゼはおもちゃを手に入れた。


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♯28

 語られた過去。それは重く、辛く、痛々しい王たちの数奇な運命。よくある英雄物語でも、ましてや夢や希望の溢れるファンタジーなどではない。現実に起こり、戦乱の世に翻弄された者達の悲しき記憶。王であるが故に、守りたいが為に願った未来すらすれ違う。そうやって幾重にも重なった記憶だけが、少女の中へと受け継がれていた。

 

「私が話せるのは、ここまでです」

 

 そう静かにアインハルトは物語に幕を降ろした。覇王クラウスの記憶を色濃く受け継ぐ彼女から語られた物はその場の誰もが息を呑み、言葉を挟む隙間すら与えないほどの壮絶さだった。こんなもの、今までずっと背負ってきたのかと思うとアインハルトの心がどれだけ疲れ切っているかがわかる。

 

  それ故に、この男の行動は早かった。

 

 すぐに席から立ち上がり、椅子に座って物悲し気な顔をするアインハルトの元まで歩み寄る。その前に跪くように目線を合わせると、その頭にそっと手を置いた。急なことに驚き赤面するアインハルト。

 

「ありがとう」

 

 ただ一言。その一言と眉を下げて微笑む彼の顔が、記憶の中の人物と重なる。

 

  ああ、そうだ。こうやってあの人は、あの時も私を。

 

 過去の想いに馳せつつ、一筋の涙が頬を伝う。そこで漸く何か憑き物が取れたようにふと心と躰が軽くなったのを感じた。

 

「・・・・しかしまあ、なんだな。俺のご先祖様もだいぶやらかした人だったんだな。けどその気持ち、なんだかわかるよ。俺だって大好きな人が理不尽に振り回されてたら全部敵に回してでも(・・・・・・・・・)守りたいって思う。その果てが自滅でもさ。でもハルちゃんの話聞いてわかった。やったことは許されたこじゃないかもしんないけど・・・・それでも、俺はご先祖様のやったこと。かっこいいと思うよ。・・・こんなこと言ったら反感くらうかもしなんないけどさ」

「ぼ、僕は、その・・・先輩と同じです」

 

 アスカの想いを肯定するかのように、ミウラがおっかなびっくりに声を上げる。

 

「時代が変わっても人が変わっても、中身だけは変わんないよねー。アスカもそのフロガって人もさ。どっちも変態だ」

「おいシリアスぶち壊してなぁに言ってくれちゃってんのかねこの痴女シスターは。下乳見えてんぞこの発展途上」

「なッ・・・、やっかましい!大体アインハルトの話聞いてだでしょうが、なんで騎士が主君の着替え覗こうとしたりすんのさ!?」

「そこに美少女がいるならッ!男として、いや漢として見なければならないと思うのが性だろうッ!?」

 

 そして唐突に始まるシャンテとアスカの漫才。それまで厳粛だった雰囲気の一切合切を木端微塵にぶち壊した揚句、溜息と笑いを誘う。それまでどこか苦しそうだったアインハルトとジークからもそれまでの暗い表情から笑みを浮かべる。と、そこでヴィヴィオが何か思い出したようにリオとコロナの三人で話す。

 

「先輩!」

「なんだいヴィヴィちゃんちょっと待ってね。今この分からず屋に説教を――――」

「い い か ら 聞 い て」

 

 ヴィヴィオの剣幕に圧されて正座するアスカ。

 

「その、アインハルトさんが話してくれた古代ベルカ絡みの記載された本・・・もしかしたら、その本のタイトルにエレミアって文字があったかもしれないんです」

「それで、それがたしか〝無限書庫〟にあった気がして」

「三人ともそれを思い出したから、ひょっとするとあるかもなんです」

 

 ヴィヴィオ、リオ、コロナの三人が期待に胸を躍らせて言う。もし本当にあるのだとすればもっと当時の事がわかるかもしれない。しかし、だ。

 

「でも無限書庫って許可が必要でしたよね?」

 

 エルスの言う通り、無限書庫内部への一般の立ち入りは行われていない。主に調査資料目的で訪れる捜査官や執務官、後は施設の局員が利用できるぐらいでその全貌はアバウトにしか明かされていない。

 

「八神司令、社会科見学という名目で中に入ることは叶いますか?」

「ん、私が許可出してもええけどもっと手っ取り早い方法あるよ。な、アスカ」

 

 何故そこでアスカ?と一部を除いた全員の視線が彼へと集中する。

 

「あ、俺一応管理局員なんで」

「・・・・え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうみんな酷いよッ!どーして俺が嘱託やってるってだけで根底から疑おうとするのさ!?」

「だから謝っただろそれはよぉ」

 

 翌朝。無限書庫へとやってきたはいいものの、最後の最後まで疑われ続けたアスカはなお不満を爆発させ続けている。

 

「やれ犯罪者予備軍なんじゃなかったのかだの、保育士の間違いだろだのなんだの・・・・」

「実際チビちゃん達には好かれてるからじゃないか?」

「だまらっしゃいハリー選手の舎弟その1マスクウーマン!」

「もっとマシないじり方しろよリアクションしずらい・・・」

 

 そうギャーギャーと騒ぎつつ、一行はロビーへとやってきた。

 

「それにしても驚いたよ。まさかヴィヴィオちゃん達も司書資格を持っていたなんてね」

「えへへ」

「私とコロナは入場パスだけですけどね」

「いつも学校の調べものとかの宿題の時は三人で使ってるんで、結構中の構造は詳しいですよ」

 

 宿題で局員限定施設を使用する小学生。そんなパワーワードにもはやツッコむ気力すらなくなってきたハリーはあえてスルーする。

 

  今回探索する区画は古代ベルカ関連の資料が納められている迷宮型といって非常に迷いやすく、未だ手付かずで整理のされていない場所も多い区画だ。それだけに探すのも時間がかかるとうことで手分けして探すことに。各々組みたい人と組む中アスカは――――

 

『マスター』

「・・・なにも言わないでくれ」

 

 ボッチだった。

 

「いやね、人数的なもんとかそれぞれの仲とか色々考えたら薄々わかってたよ?でもさ、シャンテいるから大丈夫かなって考えてたけど・・・何なの!?アイツ朝の軽い練習終わったら教会に戻っちゃったじゃん!そりゃイクスのお世話とかあるから仕方ないけどさぁあ!?せめてこう、ねぇ!?」

 

 哀れな一人愚痴が書庫内部を反響していく。

 

「ヴィヴィちゃぁん、どーしてぼくをみすてたのぉぉおおおぉぉぉおおお・・・・」

 

 実際は取り合いになるからあえてそうしたんだけど、という意図を理解しているブレイブハートとは違いハブられたと勝手に勘違いするアスカ。オロオロとみっともなく泣きながら――――というよりはもはやうめき声に近いが。そんな声をあげながらも律儀に検索魔法を展開する。

 

「ぐすん・・・・こういう魔法って、ルーの方が向いてるのになんでアイツ今日いないんだ?」

『ルーテシア様は負荷の激しいアスティオンの整備で八神家宅にいます。セイクリッドハートも一緒ですよ』

「そう・・・はぁ。なんだか寂しい・・・」

 

 メンタル面において急に脆くなる主人を客観的に「ああ、この人ダメ人間だやっぱり」と決める。普段はや試合時は頼もしい程にタフなのにどうしてこういう時はダメなのか。

 

「あー・・・でもこう、無重力空間ってなんだか落ち着くわ」

『武闘家であれば煩わしく感じるものですがね』

「そりゃ地に足ついてた方が踏ん張りもきくし力もでるさ。でもほら、俺達って周りが周りだったじゃん?」

 

 かたや一等空尉、かたや海上司令。肩書だけ並べればお偉いさんのオンパレードな八神家。それも空戦と近接のスペシャリストが教導資格を持っていてそんな人たちに訓練されているのだから浮いているのが落ち着くという表現もありといえばありなんだろうか。最近は滅多に空戦もしないがたまにはやるのもいいかもしれないなと考えながらも検索魔法を展開していく。苦手と言いつつも、やはりこれもルーテシアやヴィヴィオと言った本好きの影響を受けているからなのだろうか。慣れた手つきでペラペラと本から情報を収集していく。

 

  が、その時だった。突如背中を駆ける悪寒に展開していた魔法を閉じる。

 

「なんだ、今の?」

『エリア6内で魔力反応消失を確認。他にもエリア2から4までの封鎖と結界の展開を認識しました』

 

 平和な筈の書物庫に起こった似つかわしくないトラブルの報告に、アスカは警戒心をとがらせる。

 

「外との連絡は?」

『ダメです。シュベルトクロイツ、ジェット、共にロストしました。おそらくこれは――――』

「ああ。封鎖結界だな。しかもちょっと細工してんのか、ベルカと感覚が違う」

 

 どんよりと、まるで肌にまとわりついてくるようなこの不快な感覚。立ち込める緊迫感が、徐々に忍び寄っていた。

 

「――――やっと見つけた」

 

 気配を感じて、振り返る。そこには黒い衣装をまとった金髪の少女が浮いていた。

 

「・・・・迷子かな?ここは一般人は立ち入り禁止エリアだよ」

「・・・・」

 

 返事はない。寧ろどこか睨むような眼でこちらを見ている。

 

「そんなに見つめられると、おにーさん照れちゃうな――――」

「――――アスカ・スカーレット。これを見て」

 

 そう言って何やら小悪魔をモチーフとしたぬいぐるみを差し出す少女。その瞬間、何かを直感したアスカはバリアジャケットを展開。すぐさまその場から緊急離脱を測り、回避する。

 

『対象物から魔力を検知しました。どうやらデバイスのようです』

「ヴィヴィちゃんやハルちゃんと同じタイプのやつか・・・さて、と。ねえお嬢ちゃん。聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「・・・・なに」

「そのスカートにチェーンでぶら下げてる瓶の中。最初は可愛らしいアクセだと思ってたけどよく見るとあられもない姿で閉じ込められてる俺の大事な人達っぽいんだよね・・・・――――おい。その子達に何した?」

「・・・・」

「・・・・なンとか言えよォッ!?」

 

 炎を散らし、突撃するアスカ。しかし繰り出された拳は目には見えない不可視の障壁によって阻まれ、少女に至るまで届かない。

 

「貴方はフロガと違ってわかりやすい・・・」

「フロガ――――ッ、どうしてそれを!?」

「答えるつもりもない。答えを知る必要もない。だって貴方はここで――――」

 

 攻撃が来る。そう反応した時は既に遅く、体は錐揉みしながら壁に叩きつけられていた。魔法発動のモーションが全くなかった。それどころか彼女はデバイスすら使用してないようにも見える。いったいどういうからくりだと探りを入れるアスカの目の前で、少女はその身を変えた。等身は大きくなり、纏っていた服も変化している。

 

「――――ここで私に、呪われるのだから」

 

 その一言と共に体を、その空間にまで作用しているかのような強烈なGがのしかかってくる。地面に這いつくばるかのようにアスカはうつ伏せになり、なんとか動かせる首だけを少女の方へと向ける。

 

『魔法式がミッドともベルカとも違います。おそらくは固有術式のものかと推測されます』

「服も相まって、まるで本物の魔女だな・・・・っ」

「そう。私は魔女、ファビア・クロゼルグ」

 

 ファビア。その名前を聞いた瞬間、アスカはハッとなったように思い出す。その名前には見覚えがあった。

 

「ファビア・クロゼルグ・・・たしか、まだ勝ち残ってる選手の中に裁定ギリギリの勝ち方をしてる選手がいるってルーが言ってたっけ・・・でもどうして、こんなことを?ヘタをすれば選手登録抹消だって」

「そんなことはどうでもいい。私の目的はエレミアの書記と、貴方たちに思い知らせること」

 

 さらに重力魔法の威力を強めるファビアと名乗る少女。

 

「クッ・・・ソ・・・!」

『――――カ――――アスカ!?』

「その声、ルーか・・・!?」

『やっと繋がった・・・ごめん間に合わなくて。ずっと監視してたはずなのに裏をかかれてこんな・・・、今すぐ助けに行くから、無茶しないでよ!?』

 

 無茶。そう言われてアスカはフォビアのスカートから下がっている二つの瓶を見る。その中で囚われているアインハルト、そしてヴィヴィオとミウラの三人。ヴィヴィオは今しがた気が付いたらしく、此方に向かって必死に叫んでいる。

 

「先輩!」

「ヴィヴィちゃん・・・!」

「っ、どうしてこんなことをするんですか!?」

 

 ヴィヴィオが問いかける。しかしその声にもファビアがだした答えは同じだった。

 

「言ったはず。聖王オリヴィエ、覇王イングヴァルト。そして現代のエレミアと・・・・炎帝フロガ。貴方たちに思い知らせるの。魔女の誇りを穢した者は、未来永劫呪われよ・・・・これは、そう。復讐」

「復讐?」

「・・・・ふっざけんなぁああああぁぁああッ!」

 

 咆哮。無理矢理体を起こし、立ち上がろうとするアスカ。それを見てファビアの顔が初めて驚愕に変わる。

 

「正直きみがどこの誰で、どうしてそんなに俺達のご先祖様のこと恨んでるのかってのはまあ、一つも心当たりがないってわけじゃないんだけどさ・・・・ここにいンのは!普通に学生やってて、格闘技が好きで!今を一生懸命生きてる普通の女の子なんだよ・・・きみの気持ちもわかるけど、こんな事許されていいわけないだろッ!」

(そんな、この状況で立ち上がるって・・・!?)

「・・・相棒ッ!」

『フルオープン』

 

 手、足、全ての装甲が開く。そこから赤い粒子が散り、魔力が高まっていく。

 

「フル抜剣ッ!」

「・・・それなら」

 

 ズドン、と音を立ててさらに強力になる重み。

 

『このままこの術を受け続けると危険です』

「先輩、ダメです!逃げて!」

「・・・今ここで逃げたら、また(・・)約束を破ることになる。そんなのは――――死んでも御免だよッ!」

 

 跳躍。できるはずのないその行為を、愛機による術式への演算ハックを行うことで強引にやってのける。同じ目線まで昇ったところで、再び繰り出される拳。今度は弾きき返されまいと、懸命に踏ん張る。

 

「か、固ぇ・・・ッ」

「先輩ッ!」

「大丈夫だよ・・・今度こそ、絶対」

「でも・・・でもッ」

「・・・諦めるかぁぁぁぁあああああああああああああッ!」

 

 二度目の咆哮。一発でダメなら、二発。二発でダメなら三発。そうやってひたすらに障壁を殴るアスカ。

 

「亀裂が・・・ッ、何故そこまでこだわるの?貴方がいう事が正しいなら、この子だって――――」

「――――思い知らせる為さ。きみが見てる世界は、そんなに狭いものじゃないって!」

『両腕の負傷、40%を超えました。骨に影響が出ます』

「たかだか40ェッ!」

 

 骨に亀裂が入ったのがわかる。それを示すように切れた皮膚から血も出ている。それでも、アスカは止まらない。

 

「フロガの末裔・・・あなたは一体・・・!?」

「俺は俺だ・・・・アスカ・スカーレットだッ!」

「――――お兄ちゃん!(・・・・・・)

 

 ヴィヴィオからでた言葉に、アスカから笑みがこぼれる。そして、それまで感じていた痛みが不思議と和らいだのも。

 

「・・・今はただ、きみだけを守りたいッ!」

 

 一端距離を置く。そしてありったけの魔力を右手に集中させ、踏み込む。雄叫びと共に魔力で極限まで強化した拳をを構え、突き出す。技も何もあったものではないが、その一撃がファビアの障壁を破り彼女まで到達する。殴り飛ばすその刹那、振りぬいた拳を精一杯伸ばして強引に瓶を引きちぎり奪還することに成功した。

 

「やっ・・・た・・・っ」

「アスカッ!」

 

 と、そこへ漸くたどり着いたルーテシアが現れる。

 

「この馬鹿!無茶しないでよって言った傍から・・・ッ」

「悪い・・・けど、ほら。こうして今度はちゃんと守ったからさ」

 

 そう言って誇らしげに瓶を見せるアスカ。力なく笑う彼を、ルーテシアはそっと抱きしめた。




 ~裏にて~

アスカ「ああん、ボケたい!ボケが足りない!なんだこれはあああああああああああああああ背中がかゆいいいいいいいいいいいいいいッ!」
ルーテシア「たまに主人公したと思ったらコレ。ホントこのバカはまったく・・・」
ヴィヴィオ「ホクホク」
ルーテシア「だあああああああああッ!この子もか!?この子まで私を煽るっていうの!?というか何よこの展開は!?漫画10巻じゃここは私がかっこよく決めるとこでしょ!?大幅改変もはなはだしいわよッ!」
はやて「ルールー」
ルーテシア「はいッ!?」
はやて「ヒロイン(笑)>(´▽`*)」

 その後めちゃくちゃ白天凰したはやてであった。


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♯29

 ――――これより、エレミアの書記より抜粋。

 

 

「ほえー・・・」

 

 そこは、幾つもの本が床を埋め尽くす空間。少年と出逢ったのはつい最近の出来事だった。そこから直ぐに仲良くなり、現在ではこうして研究部屋へと案内されるまでに距離は縮まっている。

 

「ん、やあリッド。いらっしゃい」

 

 リッド。黒髪に紺色の瞳、フロガよりも頭一つ分背は低いがその立ち振る舞いからいっかいの兵士よりも腕がたつということは明らかだ。現にフロガ自身その戦闘能力の高さには舌を巻くほどのもの。普段は礼儀正しい爽やかな印象を受けるが、一度戦闘ともなるとそれは豹変する。そんな姿はオリヴィエともどこか似ていた。

 

「なんだか、以前入ったときよりもさらに、散らかってないかい?」

「いやぁ研究に没頭してたらいつの間にか片付けるのを忘れてしまってね。それより、何か用かな」

「ああ、そうだった。ヴィヴィ様が呼んでいたよ」

「なんと。それならば早急に御身の元へと駆けねばな」

 

 そう言うと壁際に設けられた机に乗り、窓を開ける。

 

「え、ちょフロガ!?」

「ん、どうしたリッド?」

「どうしたもこうしたもないよ!普通に行けばいいじゃないか!」

「何を言うんだ。我が主君のお呼びだ。最速、最短で行かねばなるまいよ」

「そうだけどここ城内にある研究棟の最上階じゃないか!?」

「我に不可能はぬわぁぁぁぁぁいッ!」

 

 そう言って跳ぶフロガ。ぶっ飛んでるというレベルではない、この男の辞書に恐怖心と常識という言葉は存在しないのだろうか?そう疑いたくなるリッドだったが散らばった本を踏むことすらいとわずにフロガが跳んだ後を見る。空いた窓から下を覗きこめば、そこには芝生の上を颯爽と駆けて行く怪我一つなく、高笑いを上げながら疾走するフロガの姿があった。初めて出逢った時どことなく不思議な人間だなと思っていたが、訂正しよう。

 

 

  この男、多分人間じゃない。

 

 

 シュトゥラの城内、美しく手入れされた花の咲き誇る中庭の庭園。そこはオリヴィエにとってお気に入りの場所の一つとして彼女がよく散歩をする場所だ。武芸に勤しむのも好きだが、こうして和に花を眺めながらのんびりと歩くのも悪くない。

 

「――――我が君ッ!」

 

 この男の妙なハイテンションさえなければ。こういう空気の読めないところを今まで幾度となく改めさせようとしてきたが最早手の付けようがないと悟って以来ずっとこんな調子だ。呼ばれればすぐ来るというのは騎士というより従者の鏡だが、地上10mほどある塔の上から飛行魔法なしに飛び降りて走ってこいなどと命令した覚えなどオリヴィエにはもちろんない。時々思う。この男を騎士にしてしまったのは間違いだったんではなかろうか、と。

 

  しかしながらオリヴィエ自身他言できない深く強い繋がり(・・・・・・・・・・・・・)がある為そんなことは言わず。言う気など微塵も起きないが偶に、ごく偶に言ってしまおうかと本気で考える時がある程度にはキテいた。

 

「お呼びでしょうか」

「・・・そろそろ鍛錬の時間でしたので呼びましたが――――」

「お断りしますッ!」

「・・・・お兄様(・・・)ッ!少しは大人しくしてください!」

「ちょ、ヴィヴィ声が大きいっ。わ、わかった、わかったからそんなに涙ぐまないでくれ。それから、二人きりの時はいいって決めたけど本当はダメだからな?」

「何故です・・・」

「以前話しただろ?・・・〝ゆりかご〟内で生まれた二人の子のうち、一人は異端(・・)だった。後に生まれた子は母体の聖王核を宿し生まれた奇跡の子・・・髪の色も瞳も、何もかもが違う私はゼーゲブレヒトの家にとっては隠しておきたい汚点だ。故に私は騎士として、おまえの傍でせめて母上が命がけで守ったオリヴィエ()だけは、笑顔でいてほしい。その為なら私はどんな過酷な試練だろうと耐え抜いてみせる。だからおまえは生きろ、と――――そう約束しただろう」

 

 フロガの言葉に憂いの表情を見せるオリヴィエだが、その後すぐにいつもの怒った顔をする。頬を膨らまし、さながらパンのようにふっくらと表情を変える。

 

「そんなことはわかってますっ。私が言いたいのはその無駄に高いテンションをどうにかしてくださいということです」

「それはできません!」

「だからなんでですか!?」

 

 やがて言い合いに発展する二人。端から見れば主君にたてつく無礼者、なんて目で見られそうではあるがこのシュトゥラでも二人の関係性は広く知られている。主従の垣根を超えた、さながら本物の兄妹のような姿は見ていて微笑ましいと。しかしそれに巻き込まれる人間からしてみればまったく別の話になるが。

 

「殿下!殿下はどう思われますか!?」

「そこでこちらに振るのか・・・」

 

 ちょうど定刻通りに来たクラウスに話をふるフロガ。クラウスとしてはオリヴィエの言い分に賛同したいところではあるが、フロガのこの性格に彼自身助けられているのもまた事実なのでどちらかを選んでということはできない。多少やりすぎだと思っていてもだ。

 

 

  そこでちょうどフロガの後を追ってやってきたリッドに話を投げたのは言うまでもないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数年。平和な時間はいつの間にか過ぎ去り、オリヴィエとクラウスは二人で戦へと赴くことも多くなった。戦乱の時はその渦を瞬く間に拡大し、ゆくゆくは禁忌にすらも手をかけるほどに至ってしまう。そのせいで以前よりも青空を見る機会も減ってしまったと、フロガは嘆いてた。

 

  そんな時、魔女クロゼルグと出逢った。

 

 天真爛漫を絵に描いたような猫耳が印象的な活発な性格の少女。出逢ってすぐ仲良くなり、クラウスとフロガ――――特にフロガにはよく懐いていた。というよりは――――

 

「よし魔女っ子、お手!」

「にゃ!――――ハッ!?」

 

 調教されていた。

 

「ぐぬぬぬ、フロガ何するんだよ!?」

「いやはやその動物耳を見たらなんとなくいけるかなと」

「いけるかなってだけで無意識に反応するまで仕込むきみの行動力を私は見習いたいよ」

「クラウス、見習ってはダメです。貴方までダメになりますよ」

 

 オリヴィエの容赦ないツッコミを受けハッとなるクラウス。よく三人で行動しているせいか段々とフロガに毒されている自分がいることに絶句する。違う、こんなのは自分じゃない、そう必死に言い聞かせるクラウスを見てクスクスと笑うオリヴィエ。

 

「クラウスは王様にならなきゃならないのにフロガを見習っちゃったら王様なんてなれないよ?」

「ああ、わかってる。わかってはいるんだ。でもこう、年々これでもいんじゃないかと思えてきてしまう自分もいるんだ」

「大分毒されてるね」

「というよりもはや手遅れかもしれませんね。もっと早く騎士としての任を解くか、長期の前線での任を任せるべきでした」

「あの、何だか年々扱いが酷くなってきてませんか?」

 

 そんなこと知った事かと吹っ切れたオリヴィエはそっぽを向く。体だけでなく心も成長したことを兄としては喜ぶべきところなんだろうが別の意味でも成長してしまった妹をなんだか素直に喜べない自分もいる。

 

 

 その可愛さと美しさだけは、拍車が付いていることを喜ぶのだが。

 

 

 ともあれ、戦で命を懸けた戦いをしていたとしてもこうして何もないごくわずかな時だけは幼い頃のまま平和な時間を過ごすこともできる。いつかは終わってしまう時が来てもクラウスが王となればそれも心配することはないだろう。彼は人格、実力ともに申し分ない。聖王家が〝ゆりかご〟を起動させるとの報告もあるが、その前にこの戦乱を終わらせてしまえばいい。そしてそれができれば、きっとまたこんな風に過ごせる時が来る。

 

  この時までは、誰もがそう思っていた。



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♯30

 もし、神というものが実在するならば。

 

 もし、運命という物が実在するならば。

 

 私はそれを一生・・・・いや、未来永劫呪うだろう。

 

  いつしかそんな言葉が彼の口から度々でるようになっていた。

 

「酷い・・・森が滅茶苦茶だ」

 

 燃え盛る木々と逃げ惑う動物たちを交互に見ながらリッドがそう呟く。昨日発せられた聖王家よりの声明は瞬く間にこの大地へと広まった。その内容とは〝ゆりかご〟の起動。そしてそれに従わなければ滅ぼす・・・要するに脅しであった。戦乱の世であれば言葉よりも暴力がものをいう。力こそ全てのこの時代で聖王家の所有する〝ゆりかご〟はまさに最強を名乗るに相応しいほどの力を持っている。それを使用するという声明が大々的にだされたのだ。

 

 

  全ては、争いを止める為に。しかしそれは返って火種を撒き、こうして降りかかっている。

 

「姫様とリッドは兵達とともに生き残った者達の避難と警護を。賊の駆除(・・)は私と殿下で引き受ける」

「私も行きます」

「それはなりません」

「何故です!?私が出れば、より早く解決を――――」

 

 その先を言おうとして、此方を肩越しに見たフロガと目が合う。その瞳はいつもの明るい、太陽のような温かな赤ではなく。冷たい鋭利な刃物のような鋭さをもって怒りを讃えていた。その目に見られただけで、身体がすくむ。

 

「たしかに貴女様が出られれば早いでしょう。ですが、今の私は少々気が荒くてですね・・・・頑丈な殿下ならともかく、貴女まで焼き殺さない自信がない」

 

 言葉だけ取れば、主君に向けていいようなものではない。だが、フロガの恐ろしさをこの場の誰よりも知っているオリヴィエは大人しくその言葉の前に引き下がる。それを見たフロガは小さく溜息をついてから手のひらに一冊の魔導書を出す。

 

「リッドと姫様がいれば心配はいりませんが・・・万が一という事も考えらえます。私の固有戦力のうち二機をつけましょう。湖の騎士と盾の守護獣、治癒と防衛に関してはベルカ一と言っても過言ではありません。どうか、お下がりください」

「・・・わかりました。ですがあまり無理はしないでくださいね。二人とも、怪我をしたら後でお説教ですから」

 

 そう努めて明るく言い、負傷者と二機の守護騎士と共に森から離れるオリヴィエとリッド。彼女らの離脱を確認するまでもなく、二人は炎の中へと駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 その出来事が切っ掛けか、或はその前からこうなることが決まっていたのか。聖王家の思惑とは逆に、争いはさらにその戦火を広げていく。民も、兵も、国も、土地も。全てが疲弊しやがて枯れ行くのを待つしかないようにも思えた。

 

「お兄様・・・私、ゆりかごに行きます」

 

 オリヴィエが静かにそう言った。誰もいない、彼女の部屋に呼び出されたフロガはただ黙ってオリヴィエの言葉を待つ。

 

「適合率がやはりよかったようです。これで、争いも終わり――――」

「――――いいわけ、ないだろ」

「・・・・」

「アレに乗れば、お前は得られたはずの幸せも、人としての生も、何もかもを全て失うんだぞ!?それなのに、何故そう・・・・笑顔でいられるんだ・・・・ッ」

 

 背中越しに問いかけた言葉に振り返れば、オリヴィエはただ笑みを浮かべていた。聖王女、そんな言葉に恥じない慈愛に満ちた顔で。

 

「わかってます。ですが、それが私の運命だったんです。遅かれ早かれ、こうなることは薄々わかってましたから」

「だからってそんな――――」

「――――お兄様。私、幸せだったんですよ?決まり事や不自由な体だったけど、貴方と一緒で、色んな景色を見て。沢山の友人や大切な人・・・もう、抱えきれないほどに沢山、大切なものに巡り逢えました。彼らの未来を、明日を、争いのない世界に繋げられるなら・・・私にとって、これ以上の望みはありません」

 

 そう口にするオリヴィエの屈託のない笑顔に、フロガはただ唖然と見入ることしかできなかった。「ダメだ」、「やめろ」。そんな言葉すら、口にできずに。ただ黙って、彼女の言葉を受け入れてしまった。

 

  そして。遂に、時は訪れる。

 

「・・・いいのか主よ」

「何がだいシグナム」

「クラウス殿下への連合のジジイ共からの咎めはなし・・・あんなドンパチやらかしたのになんにもねーってことは、ヴィヴィ様が掛け合ったって聞いたぜ」

 

 式典準備の行われている様子を自身の研究室から見下ろしながら、夜天の書の守護騎士であるシグナムとヴィータと言葉を交わす。

 

「そうだね。殿下がしたことは決して許されないことだ。でも、それ以上にその行動にはちゃんと意味があったよ」

「それが、今回の策・・・というわけですか」

「ああ。シャマル、首尾はどうだい?」

「主の望みを遂行、完遂するのが私達の使命です。もちろんですが・・・・その、何と言いますか」

「珍しいね。普段一番冷静沈着なきみが言い淀むなんて」

「シャマルだけではありません。我ら四機、今回の貴方の行動には少々納得がいっておりません」

 

 ザフィーラが言う。

 

「私の知っている限り、おまえ(・・・)は下衆だ。そして変態でどうしようもなくバカだ。それも救いようのない程に」

「酷い言われようだなぁ・・・これでもきみらの主なんだけど」

「・・・だが、それ以上に。私達――――いや、私にとって、おまえはた――――」

「――――ストップ。そこから先は、ダメだよシグナム」

「しかしッ」

「これは私の我儘だ。それを押し通す為にきみ達を利用する。できればこんな事を任せたくはなかったけど」

「だったらなんでこんな事すんだよ!?もっとマシなやり方あるんじゃねぇのか!?ホラ、いつもみたいに無駄にずる賢い頭使ってさ!・・・そうだ、リッドのとこ行こうぜフロガ!もしかしたらいい案をくれ・・・・る・・・・」

 

 静かに首を横に振るフロガ。そして、笑顔。

 

「これが私にできる最善だ。・・・・ヴィヴィにも、殿下にも、リッドにも・・・・皆に、幸せであってほしい。だから、行くよ」

「・・・・承知しました。我らが守護騎士。主の剣となり、盾となり、主の願いの為・・・・その望みのままに」

 

  こうして、フロガ・スカーレットにより起こされた聖王連合への叛乱は彼の望むままに事が運んだ。元老たちは彼の騎士によって命を絶たれ、オリヴィエ(・・・・・)はというと。

 

「・・・・どうしましたリッド」

「・・・なんでさ。なんでこんな事するんだよッ!?姫様(・・)を守るのが生きがいじゃなかったのかよ?!フロガッ!」

 

 ゆりかご内部、玉座の間に響く声。反響するリッドの声をしっかしと聞きながら、オリヴィエの体が一瞬の光に包まれて変わる。

 

「シャマルの変身魔法、時々自分でもわからない時があるのによく見破ったね。さすがリッドだ」

「からかうのはよしてくれ。それよりも、どうしてこんなことをッ!?」

「どうして・・・・か。リッド、きみは好きな人の為に世界を敵に回す覚悟はあるかい?」

「質問に質問で返さないでくれるかな。僕は真面目に――――」

()にはある」

 

 フロガの一言に押し黙ってましまうリッド。

 

「ヴィヴィは俺にとって、たった一人の家族だ。そんな大事な人をこんなことの為に失うなんて我慢ならないんだよ」

「だからって、こんなんじゃきみが孤独になってしまうじゃないか!?連合はもう、犯人がきみだと気づいている。いずれ直ぐに事実が民にも知れてしまう。そうなったらもう取り返しがつかないんだぞ!?そうなったら、ヴィヴィ様もクラウス殿下も・・・・()だって!」

「悲しむかい?その心配ならいらないさ。もうここら一体には記憶操作の魔法術式も展開済だ。直に発動して、何もかも上手くいく」

「そんな、いつの間に・・・・、まさかッ!」

「長かったよ。こうなると予想してずっと探って、そして手に入れたこの魔導書。ありとあらゆる知識の数々・・・・全ては、この日この時、この瞬間の為に用意してきた。・・・・さて、もう時間だ」

「フロガッ!・・・・最後通告だ。今すぐやめるんだ。でなければ私は貴方を――――」

 

 言いかけて、視界がぐらりと揺らいだ。一体なにが起こったのかも分からず、リッドの体内から強制的に酸素が吐きだされる。まだある意識を繋ぎ留めながら視線を動かせば、彼女の鳩尾を抉るように拳を叩きつけている銀髪の女の姿が見えた。

 

「主に敵意を向ける者は、私が排除する」

「く・・・・そ・・・ッ」

 

 ドサっ、とその場に倒れるリッドを銀髪の女が抱える。意識を失った事を確認するとフロガは彼女のもとに歩み寄りそっと腰を下ろし、頭を撫でた。

 

「・・・・まったく、本当に予想外だったよ。殿下もヴィヴィも封じたと思ったのに、まさかリッド・・・・きみにこちらの切り札を使うとはね。すまない、手間をとらせてしまって」

「いえ。私にできる事は、貴方を少しでも手助けすることだけですから・・・」

「ありがとう。・・・・リッド。きみもありがとう。戻ったら、まずはヴィヴィの傍にいてあげてほしい。あの子、こういう事には耐性強いから少し混乱すると思うけど、直ぐに安定するからさ。あと、殿下にもよろしく言っておいてよ。それから、殿下はまだきみの事女の子って気づいてないみたいだからそこら辺も気を付けた方がいいかもね。あの人の全力で殴られれでもしたらせっかくの可愛らしい顔が台無しだ。・・・・本当に、本当にありがとう。多分・・・・初恋だった」

 

 そう別れを告げ、転移魔法で外へと送る。そうして後で深く深呼吸をし、再び玉座へと戻る。

 

「そうだ、いつまでも〝きみ〟じゃ不便だね。名前を考えてあげないと」

「よろしいのですか?」

「もちろん。少しの間かもしれないけど一緒にはいるんだし。シグナム達だけ名前があるのもちょっと不公平だからね」

 

 そう言って「うーん」と考えるフロガ。そこでふと、過去の事を思い出す。

 

  幼い頃、妹と笑いあった想い出。クラウスと出逢い、共に訓練に勤しんだ想い出。リッドに出逢い、沢山の本と知識に触れた想いで。――――四人で、過ごした数多の時間。短い間ではあったけれど、それでも大切な想い出だ。どうか、そんな時間を過ごすことができる人達に、悲しい雨が降らないよう。優しい風と共に、青空がそこにありますように。

 

「・・・・幸運を運ぶ、祝福の風。そんな意味を込めて、きみに名を送ろう。リイン・フォース(・・・・・・・・)

「・・・・個体識別名所。〝リイン・フォース〟登録完了。・・・・我らが夜天の騎士、貴方と共に」

「ありがとう・・・・」

 

 

  こうして、ゆりかごは天高く浮上した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・あれ、ここは?」

 

 目が覚めると、そこには見知らぬ天井が広がっていた。白く清潔感溢れるベッドと部屋、少し薬品の匂いがする辺りここはどこかの医療施設の病室だろう。そうあたりをつけて辺りを見回す。

 

「先輩ッ」

 

 蛍光灯の光をさえぎって影を落としたのは、金髪オッドアイの少女だった。

 

「ヴィヴィちゃん・・・よかった、無事だった」

「よくないですよもうっ。あんな無茶して・・・」

 

 涙ぐむヴィヴィオ。そんな彼女は小さな手でアスカの右手をギュッと握りしめている。若干痛い気もするが、今はそれがどこか安心するようで咎めはしない。

 

「ごめんね心配かけて。でも・・・今度はちゃんと守ることができてよかった」

 

 そう言って笑ってヴィヴィオの手を握り返す。少ししてからなのはが顔をだした。

 

「アスカ君、目が覚めたんだ」

「はい。・・・・あの、すみませんでした。俺、なんか色々迷惑かけちゃったみたいで」

「そんなことないよ。むしろヴィヴィオやみんなをちゃんと守ってくれた・・・ちょっとヒヤヒヤしたけど、でもみんな無事だったから。あんまり無茶しちゃダメだよ?今は大会の最中なんだから」

 

 フォローとしっかりとお説教をくらったところで、アスカはそれまでの経緯をヴィヴィオの口から聞くことに。エレミアの書記に書かれていたこと、それを読んだことでフロガが施した記憶のロックが解除されたこと、それにより思い出したことなど。それはアスカ自身も眠っている間に自然と思い出したらしく聞いている間にその時の情景や感情が入見だって多少の混乱はあったものの、現状の把握はできた。

 

「いやーでも嬉しいな。まさか前世でヴィヴィちゃんと兄妹だったなんて。これってやっぱり運命だと思うんですよ。だからなのはさん、娘さんをボクに―――――」

「――――ダメです。というか、この話されて出てきたことがソレって・・・やっぱりアスカ君はアスカ君だね」

 

 マイペースを崩さないアスカの調子に苦笑いで返す。どうやら心配などするだけ気苦労だったようだ。

 

「・・・それで、ヴィヴィちゃんはどうするのかな」

「・・・私は―――――」




 ~とある場所にて~

 ガシャァン!

ジル「どうしました?今スゴイ音が・・・ってリンネ、どうしたんですか!?」
リンネ「あ・・・すみませんコーチ。なんだか兄さんの事を考えていたら何だか他の女の子に爆弾発言した気がしてつい全身鏡を全て割ってしまいました・・・」

 ドォンッ!

フーカ「すまんのう・・・いまのワシはちと機嫌が悪うての。加減はできんぞ?」



アスカ「ガクブルガクブル」
ヴィヴィオ「せ、先輩大丈夫ですか!?」
アスカ「なんだか怒らせちゃいけない人達怒らせてる気がする・・・というか俺無実でしょ!?」

 リリカルマジカルそれも乗り切れ!


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♯31

 天瞳流。ミカヤ・シェベルの用いる剣技の流派でその歴史は決して浅くはない。何物をも瞳が瞬く間に奔る斬撃にて繰り出される抜刀術の前ではその刃を防ぐことは至難の業だ。しかしその剣技をもってしても、不敗の王者であるジークリンデ・エレミアには届かなかった。そして今大会でもその夢であり目標であり、悲願はたった13歳のルーキーの少女により妨げられてしまった。

 

  しかし、それで彼女の刃は手折られるほど容易くはない。現に今、こうして自分ができることをやっているのだから。

 

 空を切る刀。その一閃は迷いなく澄んでおりその刀身と同じく一片の曇りもない。的確に相手との間合いを測り、自らの刃が届く距離に置き続け、斬る。流石はベテランの選手だと回避(・・)しながらアスカは思考し、唯一の隙である刀を鞘に納刀するその一瞬に攻勢に出ようと踏み込む。が、その対策をミカヤがしていない筈もなくものの見事にカウンターを食らい、床に倒れる。そこへミカヤが切っ先を突きつけて試合終了となった。

 

「だぁー・・・・やっぱスゲーよミカは」

「何を言ってるんだいきみは。今私は少し自信を無くしそうだよ」

「なんでさ?」

「天瞳流は、言ってみれば速さが売りな流派でもあるんだ。私も速さには覚えがあったけど・・・いやはや、実際こうして相対してみるときみのその〝目〟は本当に大したものだよ」

 

 グデっと項垂れるアスカにミカヤは汗をタオルで拭いながらそう評価する。

 

「アスカといい、ミウラちゃんといい。八神道場の選手は剣撃に対しての耐性がずば抜けているね」

「そりゃ、管理局一の剣士が師匠にいるんでね」

「なら尚更わからないんだ。そんな凄い人が身近にいるのにどうして私の所に急に練習を持ち掛けてきたんだい?」

「・・・実は言うとちょっと迷ったんだよね。ヴィクターにするかミカにするか。んで一度ヴィクターに連絡入れようかなと思ったんだけど、あの人はジークの恐ろしさは知ってるけど、怖さ(・・)は知らない」

「・・・なるほどね。つまりきみは、ジークの本気を超える為にあの子の技を引き出した私を相手に選んだ、と」

 

 それが今回アスカがミカヤを選んだ理由だった。ジークとヴィクターにはまだ二人が幼い頃から交流があった為よく知ってはいる。だが、本当の恐怖は彼女の技を味わった者にしかわからない経験がある。その経験を、アスカはミカヤを通じて学ぼうという事だ。

 

 起き上がり、コクンと頷くアスカ。

 

「エルスさんの時はなんとか勢いで押し切れたけど、ファビアみたいに固い防御持ってたり番長みたいなパワー特化がきた時に手数でも劣る。そうなったら俺に残ってるのは今のところ炎熱変換と、集束だけ。多分、今の俺じゃミウラにも勝てない。だから知る必要があるんだ。自分の出来る事、覚えられるだけの事は片っ端から吸収してものにする。でなきゃ、上になんて行けないから」

「見上げたものだな。まさかアスカの口からそんな真面目な言葉がでてくるとは思わなかったよ」

「あははは・・・・ま、後はシグ姉が本来多忙っていうのもあんだけね」

「で、本音は?」

「おっきいおっぱいのお姉さんと練習して強くなれるなんてめっちゃ俺得じゃね!?」

「斬る」

 

 それから命の危機を幾度となく掻い潜り、メンタル的にも危機管理能力的にも経験を積むことになったアスカ。その最中で自重という言葉を犠牲にしながらも、ミカヤとの特訓は続く。そんな、ある日。

 

「今日は少し休もうか。今朝は軽く躰を動かす程度に抑えて、それからは私に一日付き合ってほしい」

「それってデート!?」

「クネクネしないでくれ、殺意が抑えられないから」

「ア、ハイ。でもなんでいきなり?」

「私だって女子だぞ?たまにはそういう気分の時もある。それに息抜きも時には必要だ」

 

 そう言ってミカヤの決めた通りに朝は軽く試合を二本ほどこなした後、一度アスカは帰宅することとなった。

 

「おりょ、今日はやけに早いな?」

 

 リビングに入れば、はやてが掃除機をかけ窓の外にはルーテシアが洗濯物をシャマルと共に干していた。理由を問われるとアスカは荷物を降ろし、バッグの中から道着を取り出しながら「これからミカとデートなんだ」と返す。

 

「・・・・・・・アスカくーん?今お母さん聴こえヘンかったなぁ。もう一回大きな声でいってみよか。誰が、誰と、何をするんて?」

「俺が、ミカと、デート」

「・・・・シャマルッ!至急家族会議や!え、仕事?ンな呑気なこと言ううとる場合ちゃうで!今大事な大事な我が子が犯罪に手を染めてまう寸前やっちゅーのに仕事しとる場合ちゃうやろ!?ティアナかフェイトちゃんのお世話ンなる前に私らで更生せなアカンッ!」

「私まだ何も言ってません!というかとりみだしすぎよはやてちゃん!」

「なあルー。俺って養子組む家庭間違えた気がするんだけど」

「また・・・・増えた・・・・また・・・・倍率上がった・・・・」

 

 はやての過剰なまでのリアクションにあたふたしながらもツッコミを入れるシャマルと、もはや意味不明なことをぶつぶつと言うルーテシア。ああ、この家族と幼馴染はどうしてこうもバラエティーにとんでいるのか。真剣に自分の身の回りの人間関係を見直した方がいいかもしれないと思い始めてきたアスカは溜息をつき、取り出した道着を持って汗を流す為にシャワーへと向かおうとする。それを、ルーテシアが手を掴んで止めた。

 

「なんだよルー。俺だって女の子とデートする権利ぐらいあっても―――――」

「―――――わ、私も行くッ!」

 

 勢いで出た言葉。後からやってしまったと後悔して顔を赤くするもそれを表に出さぬよう必死で冷静を装うルーテシアは、少し俯きがちだった顔を上げる。

 

「あ、アンタ胸の大きい女の子にはホントに何しでかすかわかんないし?私が見張り役として同行します。それならいいですよねはやてさん?」

「ヴェ!?ナラダイジョブヤ!」

「いやなんでオンドゥルってんのさ・・・・まあ二人じゃなきゃダメってわけじゃないし、そんなに遊びたいなら一緒に行くのもいいけどさ?理由がイマイチ納得できない」

「だったらアンタのクローゼットの中にある洋服タンスの上から二番目奥の方にあるブツを本来の持ち主(・・・・・・)に返した揚句色々暴露するわよ」

「是非行こうルーテシアさんッ!いやむしろきみが一緒じゃないとイヤだ!俺と来てくれルーテシア!」

「誰がそこまで言えと言った無自覚タラシッ!」

「フアンッ!?」

 

 そんな経緯があり、アスカはミカヤに断りの連絡を入れてから準備をして二人で家を出る。待ち合わせ場所に行けば、先に来ていたミカヤがこちらを見つけて手を上げる。

 

「やあルーテシアちゃん。こうして二人で話すのは初めましてになるかな?今日はよろしく」

「いえいえ、こちらこそよ ろ し く」

 

 何故かミカヤに対抗心を燃やすルーテシア。訳の分からないアスカは置いてきぼりになるが、理由をある程度察したミカヤは敢えてその好戦的な態度に乗ることにする。

 

「それじゃ早速行こうか、アスカ(・・・)

 

 そう言って腕を絡ませるミカヤ。同年代の男子よりも身長が高めなアスカはミカヤとの身長差がかなりあるという訳でもないので彼女の豊かな胸元は当然、彼の肩へと当てられる形となる。

 

「ヴェ!?」

 

 母子揃って反応が一緒かよ、というツッコミはどうでもいいとしてミカヤにしてやられたルーテシア。自分との格差を完璧にわかった上で最大限の武器を早速投入してきた強敵に対して彼女も黙ってはいない。すかさず自らも同様に腕を配置する。

 

「ハァン!?」

「ちょっとミカヤさん、今日は暑いんですしそんなにくっ付いたら歩きずらいじゃないですか。暑 苦 し く て っ」

「今日は休日で人通りも多いから逸れると大変だからね。申し訳ないね自分で言うのもなんだがお お き く て ね」

 

 そして飛び散る火花。なんでこうなっているのかさっぱりわからないアスカはただ一人両腕の感触に挟まれながらも困惑するのであった。




 ~八神家出発後、道中にて~

アスカ「そう言えばルー。なんでおまえ俺のアノ隠し場所知ってたんだよ。というかもっと怒られるかと思ったのになんでだ?」
ルーテシア「えッ!?いや、それは・・・・そ、そう!乙女の直感よ直感!それにまだ一回目だし?私もそうそう鬼じゃないし無限書庫で無理させちゃったってのもあるからその・・・お、お詫びよお詫び!」
アスカ「乙女の直感スゲーな!?」
ルーテシア(言えない・・・自分のも混ざってたから嬉しさも相まって許しちゃったなんて絶対言えない・・・・!)


  ◇


 ~同時刻、キングスジムにて~

リンネ「兄さん・・・また妙なことを・・・・ッ!」
ヴィクター「ねえ、最近リンネのこうなる頻度増えてないかしら?」
ジル「ええ。はあ・・・この子がコレでさらにやる気になってくれるのはありがたいのだけれど同時に殺る気まで出してしまうのが最近の悩みです」


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♯32

 どうしてこうなった。そんな何度目かももうわからない程に溜息をつくアスカはまるで重荷でも背負っているかの如く背中を丸め、肩を落とす。

 

  視線を上げれば、美女と美少女。なのにだ。

 

「いったいどういうつもりかなルーテシアちゃん?」

「どうもこうも、私はアスカの保護者(・・・)として来てるんです。ミカヤさんこそなんですかその破廉恥な恰好は。アスカのいい餌食になってしまいますよ」

「どうも服のサイズが合わなくてね。はて、また大きくなってしまったかな?」

 

 ルーテシアの煽りをさらに倍以上の質量で返すミカヤ。舌戦で負かされつつあるルーテシアを見るのは初めてのことでそれに新鮮さを感じつつも二人の間に割って入る。

 

「はーいはい、二人とも喧嘩しないで。ここはショッピングモール、大衆の目もあるんだから自重してよもう」

「・・・これではどっちが保護者かわからないね」

「むっ・・・フン、アスカ。さっさと行くわよ」

 

 強引に、しかししっかりとアスカに腕を絡ませるルーテシア。しかし表情はなわばりを荒らされ相手を威嚇する猫が如く敵意むき出しでミカヤを見るルーテシア。対し、そんなことなどどこ吹く風ですまし顔。それがさらにルーテシアの苛立ちを煽る。ここに来る前まではやれダブルデートだの両手に花だのと浮かれていたが、実際なってみるとこんなにも疲れる事だったとは。しかしこのまま放っておくのもマズいので。

 

「まずはどこから行こうか」

 

 そう切り出して、当初の目的だったミカヤの用事をすませることにした。まず最初に訪れたのは和物のアンティークショップ。戦闘スタイルといいジャケットのデザインといい、彼女はどうやら地球の日本文化が好みのようだ。ちなみにミッドでも有数のこのアンティークショップはフェイトの義母であるリンディ・ハラオウンも御用達の店として一部ファンから根強い人気の店舗だ。棚に並ぶ商品は食器類からちょっとした小物、中には用途不明の物まで幅広く取り揃えており、敷地もそれなりに広い。

 

「お、湯呑か。家にあるのもう古いしこの際だから買い換えようかな」

「な、なら私も・・・」

「ん?メガーヌさんへのお土産か」

「アスカ。こう言ってはなんだがきみは素で言ってるのかい?」

 

 やれやれ、と今度はミカヤが溜息。

 

「あ、このお茶碗かわいい・・・」

 

 と、ミカヤはデフォルメされた犬の絵が描かれた茶碗を手に取る、見かけはシンプルでその絵以外は真っ白で言ってしまえばごくありふれたものである。しかし彼女はそれが大層気に入ったようで早速買い物かごに入れていた。

 

「ミカヤさんってああいうのが趣味なのね。少し意外」

「ああ見えて可愛いもの好きか・・・ギャップ萌え!3ポイント進呈」

「・・・聞きたくもないけど、ちなみにそのポイントが貯まったらどうなるのかしら」

「俺からのあっつぅ~いキッス」

「もしもしはやてさんですか?お宅のお子さんちょっとイってるんですけど」

《元からやで》

「ひでぇ扱われかたしてんなー」

 

 そんなこんなで、買い物はおおむね順調。途中フードコートで昼食を済ませてから再び買い物を再開する。が、その前に銀行へ行きたいとのことで施設内にある銀行へと足を運ぶ三人だが、ここでアスカが何やらダルそうな顔でお金を降ろすミカヤを見ていることに気づく。

 

「なんて顔してんのよ。ていうか、今度は何?」

「あいやな。この前読んだ電子ノベルによくある手法が使われてたんだ。だいたい決まってこういうパターンは銀行強盗がだな――――」

 

 と、言いかけて後ろから悲鳴が聴こえてきた。その直後、黒ずくめの男たちが六人がかりで入ってきた。

 

「――――そうそう!こんな風にありきたりなセリフ言って銃持って入ってくんの。つかよくよく考えたら騒ぎ起こしたら警察来るのわかんのにどうして彼らは銀行強盗だってわざわざアピールして入って来るのか到底理解できねーよな。だいたいそんなマシンガンだのなんだのってどっから入手してくるんだっつの。脈絡ない上に典型的なイベントパターンで使い古されてる感すげーけどさ?まあ俺としては嫌いってわけじゃないんだよね案外」

「ほう、だったら好きなのか坊主?」

「実はいい人でしたパターンが多かったりするからねそういうのって。で、おじさん誰?」

「その銀行強盗だよッ!」

「マイッチングぅ!?」

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 銀行強盗さんがログインしました。人質なう。そんな感じでSNSにでもアップしようものなら絶対頭に風穴開けられる感が満載なほどピリピリとした空気の中、手足を縛られて座らされているにも関わらず、ルーテシアは器用に指を動かしてアスカの腕を思いっきりつねる。悶絶しようにも口がふさがれている為声を出すことすらできずに「ん~ッ!」っと、バレない程度に悶える。

 

《困ったね、これじゃ身動き取れない》

《ですね。無理矢理やろうと思えばできないこともないですけど、今は私達の他にも多くのお客さんがいる》

《けど幸運なのは、アイツらが俺達を魔導師だって気づいてないことかな。エリート選手のミカを見ても何も反応なかったし》

 

そう三人は予想を述べる。デバイスで既に通報はした、後は管理局の到着を待つばかり――――だが。

 

「・・・ん?」

 

 犯人グループの一人がいぶかし気に此方を見ている。気づかれたか、不審がられたかもしれない。緊張感が一気に高まる中、もしもの時に備えてアスカは覚悟を決めた。

 

「・・・そこのおまえ、こっちに来い」

 

 ニヤリ、と口角を歪めていびつな笑みを浮かべる。そんな男が指名したのは――――ルーテシアだった。

 

(ちょ、私!?)

 

 視線を向けられた時から何やら悪寒はしていたが、まさか本当に自分に来るとは。ヘタに拒否反応や騒いだりしないよう注意を払い、ルーテシアは男の指示に従う。足の拘束は解かれたが、手は後ろで縛られたままだ。男はルーテシアをボスらしき男の元へと連れて行く。

 

「・・・誰かと思えばガキじゃねーか。俺の趣味じゃねぇな」

「そうは言ってもですぜボス。このガキ、見た目に寄らず中々でっせ」

 

 下っ端の口調のクセが凄い!?そうツッコミたくなる衝動を抑えるアスカ。

 

「ほう。言われてみりゃ・・・・ん?おまえ、どっかで見た顔だな・・・・」

 

 まじまじとルーテシアの顔を見つめる男。そこで、ハッとした顔になった直後に彼女の顔へと男の裏拳がさく裂した。

 

「ボス、どうしたんです!?」

「どーもこーもねぇ!此奴ぁ魔導師だ!」

 

 気づかれた。焦りが三人を揺さぶる。今動くべきか、動かざるべきか。

 

「俺も昔魔導師でな。随分前に事故で使えなくなっちまったが・・・それでも魔力を感知することぐらいはできるんだよ。舐められたもんだ、ったく」

 

 そう言って銃を倒れたルーテシアに突きつける。向けられる目は冷徹で、人を殺めることに対して一切の躊躇いのない鋭い眼光を放っている。そして引き金に指を懸けた――――次の瞬間。赤い閃光が駆け抜け、銃を真っ二つに斬り裂いた(・・・・・・・・・・)。小脇にルーテシアを抱え、アスカは男たちから距離を取る。その一部始終を男たちは唖然とし、ルーテシアは驚愕の表情で見ていた。そして、ミカヤは。

 

「今の・・・!」

「できた・・・?」

 

 自身の右手を見てぼんやりと呟くアスカ。ルーテシアは切られた銃とアスカの手とを交互に見る。

 

(まさか、手刀で斬ったっていうの?)

 

 あっけらかんとする空気。そこにようやく正気を戻した男たちがあわただしく出張ってきた。金を詰める為金庫に潜っていた者も合わせれば目視だけで10人と言ったところか。

 

「ちょっとアスカ、何してんのよ!?」

「ごめん!けど、ルーが酷い事されるかもって考えたら躰が動いてた。後でいくらでも説教聞くから、ここは俺に任せてくれ」

 

 そう言ってルーテシアの肩を抱き寄せる。そのことに顔を真っ赤にさせるも、今度は強引に頭を胸に押し付けられる。ちょっと痛い、そんな苦言を言おうとしたところで、アスカがボソッと囁く。

 

「見ないでくれ。見せたくないから」

 

 その言葉の次に、今度は悲鳴が聴こえた。それは・・・・そう、言うなれば断末魔。

 

「な、なんだこれ!?」

「体が、俺の体がァァァァァァァ!」

「熱い、熱い!」

「助けてくれェェェェ!」

 

 アスカのいう事を無視して振り向けば、そこには体の内側から(・・・・)炎を噴き出して苦しみ悶える犯人グループの姿があった。その光景はまさに地獄絵図のようで中にはもう気絶している者もいる。

 

「・・・・ッ!」

 

 翳していた手を引っ込めるアスカ。息を荒くし、額からは大粒の汗が滝のように雪崩落ちている。

 

「アスカ!」

「ハァ・・・ハァ・・・できればこんなの、使いたくなかったんだけどさ・・・ごめん、イヤなもの見せて・・・」

 

 相当集中力を酷使したのか、顔色が悪い。観てみると、犯人達の服には焦げ跡こそあるものの目立った外傷はない。精々軽い火傷を負っている程度の状態で全員倒れている。絶対に殺すことなく、一定の温度でキープしつつ魔法で炎を出す。脳には相当の負荷がかかったはずだ。ヘタをすれば対象を殺しかねない。そんな無茶を、彼はやったのだ。

 

「アスカ、大丈夫!?」

 

 自力で拘束を解いたミカヤが駆け寄ってくる。それと同じ頃に外で待機していた突入部隊が入ってきた頃には、アスカは気を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

「そう・・・・まったく、無茶してくれるわね毎度毎度」

 

 ギンガはそう吐き捨て溜息をつく。

 

「すみません。その・・・私がしっかりしていれば」

「いいのよシェベル選手。貴女はアスカを気遣って今日の事を提案してくれたんでしょ?」

 

 ギンガの言葉にミカヤは驚愕する。

 

「どうして、それを?」

「最近、大会もあってこっちの・・・ああ、嘱託の方ね。色々やる事とか多かったから、私の方でもハードワークだってことはわかってたのよ。でも中々言う事聞いてくれなくってね。少しは羽目を外して遊ぶなり休息をとるなりしなさいって言っても、俺は大丈夫ですからって、こうやってね」

 

 苦笑いを浮かべながらサムズアップをするギンガ。なるほど、あの子ならやりかねないなとミカヤも苦笑い。

 

「しばらくはあの子にはこっちの方の仕事は回さないつもり。これ以上は無茶させらんないから。それじゃ、アスカの事お願いね」

「はい」

 

 ギンガと別れ、ミカヤはベンチでルーテシアに膝枕されているアスカの元へと戻る。

 

「怪我、どうだい?」

「私はなんとも。それよりも・・・」

 

 目線を眠っているアスカへと移す。気絶してから目を覚まさないが、ブレイブハートを通じてシャマルに診てもらった結果では特に異状はないらしい。極端に魔力を消耗したことと、疲れがたたった影響だろうと、シャマルは言っていた。もう直に迎えが来るらしい。

 

「まったくもう・・・いつもいつも、どうしてコイツは・・・」

「・・・ルーテシアちゃんは、アスカの事が好きなのかな?」

「ふぇっ!?どどどど、どーしてそうなるんですッ!」

「だって、わかりやすくて」

 

 そんなにわかりやすいか。隠しきれないほどに目立った行動はしていない筈だが、と今朝の事を思い返してみて色々と思い当たることが出てきて頭を抱えるルーテシア。その様子がどこかおかしくて、ミカヤは小さく笑う。

 

「たしかにこの子は無茶をするね。私との訓練の間も、よく無理をする。私が言えた事じゃないかもしれないけどね。でもそれは、きっと大好きな人達を守りたいからなんじゃないかな」

「大好きな人達・・・?」

「そう。きみやヴィヴィオちゃん達、家族の方々・・・自分が大事たと思うものを守りたいから。だからどんな無茶をしても・・・ってね。まぁあまり褒められたことではないけど」

 

 そう言ってアスカの額を撫でる。

 

「お、いたいた。ルーちゃん、ミカヤちゃん」

 

 と、そこへ迎えに来たはやてが駆けてくる。

 

「アスカ、どない?」

「はい。今は気絶して眠ってます」

「そか。・・・ホンマ、よう無茶をする子やね。そーいうとこ、なんだかなのはちゃんに似とるわ」

 

 我が子の寝顔に親友の姿を重ねつつ、はやては年齢の割には小柄な体型からは想像もつかないほど軽々とアスカを背負う。

 

「ごめんなミカヤちゃん」

「いえ、あの・・・目が覚めたら、アスカにありがとうと伝えておいてもらえませんか?」

「うん。しっかり伝えておくよ。・・・って、ミカヤちゃんも自宅まで送ってくよ?」

「あ、私は買うものがまだ残ってるのでここで」

「そか。じゃ、気ぃ付けて帰ってな?」

 

 そう言ってミカヤと別れ車に向かうはやてとルーテシア。その道中に何やら難しい顔をしているルーテシアにはやてがぽつりと話しかけた。

 

「アスカのあの技、見たんやね」

「・・・はい」

「私もブレイブハートからの映像観る前はにわかに信じがたかった。まさか人体から直接炎噴出させるなんてな。きっとその力もフロガから受け継いだもんやろな、きっと」

「・・・だとしたら、ちょっと心配です」

 

 古代ベルカ絡みの話は、決まって悲しいものが多い。ゆりかごしかり、エレミアの書記しかり。誰かが不安や理不尽な不幸にさいなまれてしまう。自分も、そんな内の一人だ。そしてアスカの力もまた、フロガ・スカーレット――――古代ベルカゆかりのもの。ルーテシアはどうやらアスカが自分の力を忌み嫌ってしまうのが心配のようだ。

 

「・・・だとしても――――」

 

 ややあって、はやてが口を開く。

 

「きっとアスカなら、乗り越えてくれる。そう私は信じとるよ。だって、そーいう子やから。この子は。いつだって私らの予想なんて知った事じゃないって具合に飛び越えてビックリするくらいの事をしてくれる。シグナムが言うとった、〝アイツは太陽みたいな人間です。どんな事でも、照らせないものなんてないんでしょうね〟って。それは多分、ルールーが一番ようわかっとるやない?」

 

 そう笑みを浮かべ、車の後部座席を空けてアスカを座らせる。倒れたりしないようシートベルトをしっかりと閉め、はやては運転席へ、そしてルーテシアは助手席へと座る。こちらもシートベルトをしたのを確認すると車のエンジンをつけ、道路へと躍り出ていく。

 

「私は、アスカに救われました。ずっと暗いところに閉じこもって、ゼスト・・・さんや、アギトにガリュー。自分の中の世界だけしか見れなくて誰も信じようとしなかった。でも、アスカが私の手を握ってくれたんです。だから・・・・だから私も、守りたい。守られてばかりじゃなくて。今度はちゃんと私が・・・・私が・・・・だぁぁぁぁッ、何言ってんのよ私は!?」

「ハッハッハ、おもろいなぁルールーは」

「はやてさんもからかわないでくださいよッ!危うく柄にもないこと言う所だったじゃないですか!?」

「もう言うとるよ」

 

 そう言ってどこからともなく取り出したボイスレコーダーを再生するはやて。それを聞いてまた沸騰するルーテシア。怒りを通り越して、今度は壮大に溜息。この日、ルーテシアは思い出す。

 

 

 

  あ、一番ヤバイのはこの人だった、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェ!?俺が寝ている間にそんなことが・・・・」

 

 数日後の朝。八神家のリビングには愕然と項垂れるアスカの姿があった。原因はその後の事をはやてから聞かされたことにある。

 

「ヴィヴィちゃんとハルちゃんが試合してて、それがとぉーっても大事な試合で・・・・それを見過ごす俺って、ほんとバカ。あ、これなんだかよくわからないけどリオちゃんに言ってほしい」

「なんの電波を受信したか知らへんけどそれ色んな人から叩かれるで。あ、それからそのヴィヴィオからこんなものが届いとるよ?」

 

 そう言ってはやてが取り出したのは何やら長方形の紙だった。端っこが点線で区切られているあたりなにかのチケットのようだ。そこに書かれていたのは――――

 

「学院祭?」

「そそ。そろそろstヒルデの学院祭やから、アスカに是非ってお姫様からのあつーいご所望やで」

「はやてさん」

「なんや?」

「ヴィヴィちゃんは天使です」

「あ、うん。ソーデスネ」

 

 病み上がりなのにも関わらず「ヒャハー!」とテンションを上げるアスカ。そしてそこにどこからともなく取り出したハリセンでツッコミをという名の鉄拳制裁を加えるルーテシア。うん、いつもの光景だと満足げに笑みを浮かべつつ、アスカに此方に来るよう手招きし、耳打ちする。

 

  まあ、せやけど無茶したことは反省させんとな。

 

「あとでルールーに感謝しとき。寝とる間、ずーっと付きっ切りで看病しとったから」

「ちょっ、はやてさんそれ言わないでくださいよ!?」

「だって事実やもん。それにルールーってば、大胆にもな――――」

「OHANASI・・・しますか?」

 

 その後、何故か対象が自分へと移り変わってしまったはやてととばっちりを受けるアスカが八神家で見れたという。

 




 ~stヒルデ学院中等科、1年B組の教室にて~

ユ「そういえばアインハルトさんて、あのスカーレット選手ともお知り合いだったりするんでか?」
ア「はい」
ユ「凄い!で、スカーレット選手ってどんな人なんです!?」
ア「えっと・・・(言えない、どんな人かなんてとても言えない・・・)」
ユ「ワクワク」
ア「・・・えっと、個性的な人?ですかね」
ユ「あ・・・・うん、なんだろ。今のでだいたいわかったった気もするんだけど・・・そーいうことですかね?」
ア「で、でもいいところもあるんですよ!?優しいですし笑顔が素敵ですし、いざって時には頼りになるし、あでもボケのクセが凄すぎてついて行けない時も多々ありますけど・・・でもでも、それは場を和ませようとしてのことですし、それに先輩は――――」
ユ(あ、これフラグ建ってるやつだ)

 アインハルト、またしても他人に内心を知られる。


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♯33

 もし、この世に〝楽園〟と呼べるものがあるとするならば。そこには天使がいるのだろう。

 

 もし、この世に〝かわいい〟以上にその姿を褒め称える言葉があるならば。この哀れな少年に教えて欲しい。

 

 もし、この世に〝バカ〟と形容できるものがあるとするならば。それは間違いなく彼だろう。

 

「くうううううううううううううぜんっ、ぜつごのおおおおおおおおッ!超絶怒涛n————」

「————やかましいッ!」

「フェニックス!?」

 

 いつぞやのアスカ並の手刀を今度はルーテシアが叩き込む。脳天に直撃を受けて蹲るアスカだが、今日のこの男は一味も二味もクセが強い。一瞬のうちに復活し、今度はどこぞの変態科学者よろしく高笑いをする。周囲の目もいよいよ険しいものになってきた。

 

「滾るぞプリティ!漲るぞライフ!震えるほど・・・ジャアアアスティイイイイイイイイイイスッ!」

「はやてさん」

「泣くのはアカンでルールー。泣いたらそれこそ乙女心を否定してまう」

 

 はやての励ましと同行しているヴィクターとミウラの慰めもあってなんとか正気を保つルーテシア。この二人がいなければ、きっと彼女は心折れて今までの恋心全てを否定していただろう。そんな校門前でのコントもひと段落し、5人は校舎の中へと入って行く。今日は年に一度のst.ヒルデ魔法学院の学院祭。言うなれば、文化祭だ。こちらの学校は魔法を基礎から学ぶという特色もあって魔法を使った一味違う催し物が多い。単に喫茶店と言っても、その風貌は様々である。例えば・・・・そう。ヴィヴィオ達のクラスではゴーレムを使ったファンシーな雰囲気溢れる可愛らしいものがある。他にも様々な思考を凝らした展示品やイベントなど多種多様なもので、まるでテーマパークにでも来たかのような錯覚を覚える。

 

「おろ?ヴィヴィオのクラスは満席みたいやね」

 

 お目当てのヴィヴィオのクラスの前まで来てみたはいいものの、そこには長蛇の列――――とまではいかないまでも、店内は既に満員状態。加えて今はショータイムとだけあって中の様子を一目見ようと立ち見の客すらいる状態だ。

 

「ぐぬぬぬ・・・だから言ったじゃないですかはやてさん!早く行こうって」

「あんなアスカ。早朝の5時から来たところで誰一人として学院内におらんどころかそれ地球の運動会の風習やん、なんでそんなこと知っとるん?」

 

 あ、そういえば俺って転生してるんだったとはやてのツッコミで思い出すアスカ。今まで色々なことが一度に起こりすぎて忘れていたが、そういえばそうだったなとふと物思いにふける。

 

  自分も学生の頃、文化祭が楽しみだったなぁ・・・・あ、俺の行ってた学校文化祭なかったわ。

 

 そんなどうでもいいことはさておき、このまま立ち見では勿体ない。とのことで出入口付近にいたリオを見つけ声をかける。

 

「先輩、皆さんも来てたんですね!」

「リオちゃんかわいいんでお持ち帰りしていいよね。答えは聞いてないッ!」

「せめて聞いてくださいよ!?じゃなくって、実はうちのクラス、隣のクラスとも提携してるんですよ。良かったらどうですか?」

 

 言われるがままリオに案内される。そんな彼女の顔は着ているメイド衣装とは似つかわしくない何ともイタズラを企んでる感あふれる笑みを浮かべていた。教室の扉には〝ストライクデビル〟と書かれている。ルールを読み込んでいくと、つまるところ的当てゲームのようだ。モードが幾つか別れており、それぞれのステージをクリアすると個々に景品もあるらしい。ちなみにその中でも最上級のエクストラはとんでもない位難しく、未だ達成者0人とある。なんでも、隣のクラスから(・・・・・・・)超強力な助っ人を呼んでいるとか。

 

  そこで、この男が動いた。

 

「この助っ人・・・感じる!これはきっとヴィヴィちゃんのことだそうに違いないというかそうじゃなかったら俺切腹するわ」

「何を感じ取ったのかはさておき、まあ十中八九そうでしょうね」

「じゃあ外れたらマジで切腹な?シグナム監修で」

「ちょ、その監修いらないっていうかジョークっすよジョーク。HAHAHA」

「くだらないことやってないでとっとと入るわよ・・・」

 

 中に入ると、ルート別に通路が別れている仕様のようで選択したエクストラハードモードの方へと案内に従って進む。と、そこには小悪魔を催したメイド服を着たヴィヴィオが待っていた。

 

「・・・・・・・」

「は、はやてさん!先輩が気絶してます!」

「あまりの可愛さに失神したんやなぁ。わかりやすい子やねぇホンマ。けどそれやとせっかくのヴィヴィオのおめかしがもったいないからここは戻ってきてもらおか」

 

 そう言って軽く手刀を首元に叩き込むはやて。それで意識を取り戻したアスカはこれまでにない位のだらしない顔でヴィヴィオを見る。

 

「ど、どうですか先輩・・・?」

「ヴィヴィちゃん、マジで結婚しよう」

「ハイハイ、現実に帰ってきなさい」

 

 今一度後頭部にビンタをくらうアスカ。その様子を後ろから見るヴィクターは驚愕する。そのツッコミの容赦のなさと身内とは思えない扱いの酷さに。

 

「ねえミウラさん。アスカというか、貴女の身の回りっていつもこんななの?」

「あははは・・・まあそうですね。でも今日は輪をかけて酷いかもです」

 

 もはやフォローする気にもなれないミウラ。それはさておき、今はゲームをしに来たのであってヴィヴィオの可愛らしい姿をいつまでも見続けているという訳にもいかない。軽く改めてルール説明を口頭から受け、トップバッターはミウラが務めることとなった。

 

「ミウラ、アレやってみよか」

 

 そうはやてが耳打ちする。

 

「あの、このボールって蹴っても大丈夫ですか?」

「いいですよ。ガンガン来ちゃってください!」

 

 ヴィヴィオの自信たっぷりな様子から察する限り、絶対にセーブするという確信があるのだろう。それを見取ったミウラは手加減することもなく、ボールを宙に一端放り、落ちてきたところを思いっきり蹴り抜く。魔力を帯びたそれはヴィヴィオの横斜めを弧を描いて飛んでいく。が、しかしそれはいともたやすくキャッチされてしまった。

 

「ええ!?」

 

 こちらも自信ありで蹴り抜いていたミウラも驚く。周囲のざわめきも大きくなり始めたところで、ここが一番盛り上がるだろうと今度は全員一斉にと許可を出す。

 

『どう思いますかマスター』

「ん?防ぐとおもうよ。今のヴィヴィちゃんなら、これくらいはやってのけるさ」

 

 一目見ただけでわかった、彼女の瞬発力。以前よりも格段にアップしているのは間違いない。今日まで、きっと彼女は沢山練習してきたのだろう。格闘技に向いていないとわかっていても、それでも自分を信じて教えてくれたコーチの為、共に切磋琢磨する仲間と一緒に強くなる為に。小さな少女の頑張りに、つい頬が緩んでしまうアスカ。

 

「すごい、まさかアレを同時にさばき切るなんて・・・」

「さて、まだ終わりじゃないですよね。・・・先輩!」

 

 誘われて、乗らない手はない。嬉しくなると同時に、闘争心に火がともる。

 

「・・・・行くよ」

 

 ミウラ同様、蹴りで攻めるつもりらしい。ボールを宙に放り、蹴り抜く。赤い魔力を帯びたそれは、まるで放たれた矢の如く飛び的を目指す。

 

「甘いですよ、先輩!」

 

 しかし当然の如く、ヴィヴィオはキャッチしてしまった。

 

「お見事」

 

 が。それで終わらないのが、この男である。

 

「けどヴィヴィちゃん。それ、囮なんだよね」

 

 「え?」と、ヴィヴィオが声に出すよりも速く後方の的が射抜かれた音がした。振り返ると、そこにはボールが。じゃあ、これは?とヴィヴィオが手の中にある光る球体を見るとパン、と弾けて消えてしまった。

 

「ルールはちゃんと読んだし聞いてたよ。ボール以外の物を飛ばすのは禁止だよね。でも、一度に投げていいボールの制限は5球までだ」

「ってことはさっきのは!?」

「もちろんボールだよ、注意を引きつけるために魔力込めすぎちゃったから弾けちゃったけどね。で、さっきのはヴィヴィちゃんが一球目にくぎ付けになってる間に投げたボールさ」

 

 ニッシッシ、と笑うアスカ。汚い手だとヤジが飛ぶも、れっきとしたルールにのとってやっているので文句は出しようがない。クリアとホロウィンドウで表示されるとどこからともなくクラッカーが鳴らされる。

 

「あっちゃー、クリアされちゃった」

「さすがアスカ、汚い」

「ちゃんとルールにのっとってのプレイです」

 

 はやての抗議の目などどこ吹く風で受け流すアスカ。

 

「おめでとうございます先輩。それじゃ、景品の授与ですね」

 

 そう言って渡されたのは、お手製のメダル。なんとも手作り感あふれる品物で、裏には証明書付きだ。

 

  そして。

 

「・・・・えっと、先輩。もう一つ景品があるので、その・・・しゃがんでもらえますか?」

「お、何かな?ひょっとしてデビルヴィヴィちゃんからお菓子のあーんとかしてもらえたり――――」

 

 言い切る直前。何やら柔らかい感触が頬に触れたのを感じ、アスカは固まる。

 

「な、ななななな、ヴィヴィオ貴女・・・ッ!?」

「えへへへ、これぐらいはいいよねルールー。だってルールーは大会期間中は先輩と一つ屋根の下なんだもん」

「だからって、貴女キ、キキキキ、キスってぇ!?」

 

 キスと言っても、頬にだ。唇ではない。しかしそんな細かなことなど乙女心には関係がない。してやったりと笑うヴィヴィオのその姿は、まさに小悪魔のようだった。

 

「はやてさん、今度は心肺停止してますよ!?」

「それホンマ洒落にならんやつやん!?」

 

 st.ヒルデ魔法学院学院祭。まだ、宴は始まったばかりである。



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♯34

「ところで皆さんお昼食べました?」

 

 ヴィヴィオのクラスに戻りお茶をしているとコロナがそんなことを呟いた。時計を見れば既に正午、お昼時となっていた。既に大人組のファイター何人かは試合に備えて練習メニューを消化する為帰路についており、残った面々でお昼をということになる。当然ここにきてから何も食べていないので空腹感は充分だ。

 

 昼食はリオの勧めもあって中庭のベンチで食べることに。日当たりも程々で寒くもなくかと言って暑くもなく。ちょうどいいスポットで各々売店で購入したり事前に持ってきた弁当をつまむなどして食事をとる。そんな中、遅れてアインハルトが同級生を連れて合流した。

 

「初めまして、ユミナ・アンクレイヴです。ミウラ選手とアスカ選手ですよね!?」

 

 来るや否や早口で自己紹介をすると、目を輝かせてミウラとアスカに詰め寄るユミナ。アインハルト曰く、格闘技が好きで自分達の試合も観ていたとのこと。

 

「お、ユミナちゃんは俺のファンなのかな?」

「はいッ!」

「・・・あ、うん。えっと、ありがtぅ」

「珍しい、先輩が壊れた」

「ボケってこういう風に潰されると対処できないんだ・・・・メモっとこ」

 

 コロナが何故かメモを始めるのをあえて見ないフリするヴィヴィオ。最近、この子の方向性が大分危ぶまれるような気がするのは多分当たっているかもしれない。

 

「〝抜剣〟、凄いですね!お二人とも同じ技なのに全然違うなんて・・・・なんだかこう、兄妹って感じで熱いです!」

「よく見てますね」

「え、違うんですか?」

「うん。俺のはどっちかっていうとミウラより集束は遅いけど威力はその分高い。逆にミウラは速い代わりに威力は俺よりも劣る」

「炎熱変換がある分、先輩の方がボクより重いし痛いんですよね・・・・ちなみにヴィヴィオさんのラッシュに何とか食らいつけたのも正直な話先輩がスパーの相手だったからっていうのもあったりします」

「最初の頃は面白い具合にポンポン飛んでたからなぁ。ミウラって軽いからやるたびに飛距離伸ばしてたっけ」

「あ、ソンナコトモアリマシタネ」

 

 何故か片言になり遠くを見るような目でスイッチが入ったミウラと、当時を思い出してケラケラ笑うアスカ。八神道場、こうして見るとやはり魔窟だなと思ってしまう自分はおそらく間違えてないとアインハルト含めた四人は思う。

 

「あ、お二人もお昼まだですよね。実はこれ、お母さんが皆でって作ってくれたんです!」

 

 そう言ってリオが取り出したのは大きな重箱、段数にして四段はある。袋から取り出すと同時に空気に溶けて鼻へと抜ける香ばしいごま油の香りから察するにジャンルは中華とみて間違いない。そんな目星をつけたとたん、アスカの胃袋が壮大に声を上げた。

 

「ちょ、なんですか今の!?」

「すまんなリオちゃん。俺のストマックがそれを早くプリーズとコールするんだ」

「喋りのクセが凄い」

「アインハルトさん」

「ユミナさんの言いたいことはわかります。でもこれが先輩の素なんです。イメージを壊してしまって申し訳ないですが・・・・」

 

 約一名軽く絶望しながらもなんとかノリに適応しようと精神的に奮闘ユミナ。一体どんなイメージを抱いていたのかはさておき、そこに思わぬ来客が訪れた。遅れてやってきた、スバルとディエチ。そして――――

 

「————イクス!」

 

 ヴィヴィオとアスカの声が重なる。自分達の知っている姿とは大分異なるが、その愛くるしい姿はまさにあの日言葉を交わした友人のイクスヴェリアその人だ。大きさからしてユニゾンデバイスとしての姿の時のリインやアギトが近いだろうか。フワフワと浮遊しながら二人の元へとやってきて笑みを浮かべる。

 

「イクス、ごきげんよう」

 

 ヴィヴィオがそう言うとかわいらしくワンピースの裾をつまんでぺこっと挨拶をする。その姿にリオとコロナはあまりのかわいさに「きゃ~!」となり、アスカに至っては。

 

「・・・ッ、いかん、危うくキュン死にするところだった」

 

 軽く生死の境を彷徨った。

 

「一人だけリアクションのクセが凄い・・・」

「まあアスカだからね。ん~、それにしてもいい匂い!」

「あ、良かったら食べますか?もちろんイクスも」

「いいの?じゃあお言葉に甘えちゃおっかな」

「リオちゃんリオちゃん」

「はい、なんです?」

「スゥさん、大食いだから気を付けて。油断したら器まで持ってかれるよ」

「私はグラトニーか」

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

「うめぇ・・・・バナn」

「バナナなんて入ってないですから。でも、そんなに喜んでもらえるなんて嬉しいです」

「リオちゃん」

「はい?って、顔近い・・・」

「結婚してくれ」

「アスカって見境ないっていうかさ、前まで保育士じゃないですとか言いながら今はこんなだよね」

「美少女で、八重歯の元気っ子で!しかも料理まで上手い!これほどポテンシャルの高い子なんてそうはいないんですよ!?」

 

 だからと言って流石に節操がない・・・と言おうとした瞬間、何やら多方向から凍てつくような視線を感じてスバルとディエチは瞬時にイクスを守るようにして立ち上がる。冷静にその先を追いかけてみれば、照れに照れまくるリオと逢ったばかりのユミナ以外からのものだと理解する。ああ、この男は一体どれだけ周囲にフラグを建てるのか。きっと自分達はいつか救助対象として彼を助けろと言われそうな気がしてならない、とスバルとディエチは溜息をつく。

 

「アスカ、皆が大事なのはわかるけどお願いだからティアのお世話になるようなことはやめてね」

「え、それ逆なんじゃ――――」

「それ以上は本気で殴るよ」

 

 スバルの拳は一番ヤバイとアスカ自身身に染みているのでそれ以上のボケはなかった。うん、やっぱりこうやって黙らせた方がいいんだと学習するアインハルト。現在ツッコミ役のルーテシアがいない為最年長はスバルとディエチ、そしてミウラを除けば自分だ。なら、私がしっかりしなければと心に誓うアインハルト。そんな光景を窓から見ていた保護者組、中でもフェイトはアインハルトを見てシンパシーを感じたのはまた別の話。

 

  食事を終え、一端その場は解散となる。アスカはアインハルトとユミナと共に体育館へ。

 

「しっかしこの学校の学院祭すごいね」

「先輩は初めてですか?」

「実のところ、来るのは初めてって訳じゃないんだ。毎年ヴィヴィちゃんから招待状貰ってるから、今年で四回目」

「・・・・もしかしてですけど、去年の学院祭でやたらテンションの異常な人ってまさか・・・」

「あ、それ多分俺ー」

 

 サッ、とユミナの顔から血の気が引いたのをアインハルトは見逃さなかった。一体なにをしでかしたんだこの人は。初対面でこれだけ他人に好印象から悪印象を与える人もそうはいまい。我ながら、つくづくどうして・・・。

 

  まあ、それ以上にこの人にはいいところが沢山あるわけで。それを知っているのは今は自分だけということに一人優越感に浸ることで良しとする。

 

 衣装に着替える都合でアインハルトと別れたアスカはユミナと共に他の種目も参加することに。サッカー、ボウリング、ストライクアウト・・・どのスポーツ種目でも無双するアスカの姿にもはや選手としての面影はまったくなく、対戦相手が年下の女の子であろうと圧倒的結果で叩き潰していく容赦のなさは観ていて大人げないという言葉が生ぬるいようにも思えるほどだった。

 

「というか、かなり身体能力高いですよねアスカ選手」

「アスカ、でいいよ。皆名前か先輩って呼ぶから」

「あ、はい・・・先輩は格闘技の方はいつから?」

「んー、今のヴィヴィちゃん達よりも前の年からやってたかな。その頃はあまりよくわかってなくてさ。でもやってく内に強くなりたい切っ掛けができて・・・それで本格的に訓練積むようになったんだ。だから、元々素質があったとかそこまで大それたもんじゃないよ。無我夢中で、ただ自分の定めた目標に向けて突っ走ってきて。偶に無茶とかしたりして、今の俺があるのかな・・・なんて」

 

 少し照れくさいのか、苦笑いで頬を掻く。そんな姿に崩しかけていた印象を見直しつつ、アインハルトが準備ができたということで二人で向かう。

 

「・・・ユミちゃん(・・・・・)

「はい?って、先輩今私のこと――――」

「ハルちゃんのこと、よろしくね。あの子、クールだけど繊細な子だから。ユミちゃんならきっと、いい友達になってくれると思うからさ」

 

 そう言って笑う。そんな彼を見てまたユミナも。

 

「はい、もちろんですっ」

 

 負けないくらい、笑顔で返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

「アームレスリングで台が壊れるってハプニングはありましたけど、まさか消し炭になるなんて予想しませんよ誰も」

「うう、面目ない・・・」

 

 アインハルトとアスカのアームレスリング。互いに全力でやるもんだから熱中しすぎてアスカのうっかり炎熱変換により台は真っ黒に焦げ、あわや大惨事。観ていたはやてが氷結魔法でアスカごと凍らせて事なきをえたが、ユミナの指摘はごもっともである。台が壊れるかもしれない。これはまあ、魔力を使っていればあり得る話。しかし誰が消し炭になるかもしれないなどと考えるだろうか。そんなことを言い出したら台一つだけで一クラスの予算どころか全学年のクラス予算を足しても耐性抜群の台などできはしない。

 

「・・・・でもまあ、期待の新星ファイターの二人のガチバトルが観れたので不問とします」

「ユミちゃんありがとう愛してる!」

「それはいらないです」

 

 今日一日ですっかりアスカの扱いに慣れてしまったユミナ。

 

「・・・・あ、終演セレモニー始まりますよ!」

 

 中央に設けられた木の祭壇に火が灯る。すっかり陽も沈んだ校舎を濛々と燃える炎の灯りが照らし、幻想的な雰囲気が漂う。

 

「そういえば、この後ダンスもあるんだっけ?」

 

 ダンス。このシチュエーションで、しかもダンスとくれば出てくるのはそう、ド定番のフォークダンスだ。ここミッドでは多少その呼び名は異なるらしいが、それでもその形式は地球となんら変わりない。しかしそんなことは割とどうでもいい。重要なのは、それを誰と踊るかだ。

 

  なのはの何気ない一言が引き金となり、その火ぶたが切って落とされる。

 

 一気に詰め寄る後輩ズ。それを見て出遅れたと痛恨のミスを悔やむルーテシア。いらぬプライドが邪魔をしてしまい、結果アスカに近づく事すらできなかった事に口惜しさを噛みしめる。

 

「凄いですね先輩の人気・・・・」

「あははは。まあ、相変わらずですかね」

「ミウラ選手は行かないんですか?」

「ボクはダンスは苦手なので。観るだけでも楽しいですし」

「うちの長男はな、それはそれは人気なんよユミナちゃん」

「なんだかんだで面倒見はいいし、何よりあの性格だ。・・・・まあ、一部を除けばってのが付くが」

 

 上げて落とされる。本人のあずかり知らぬところでこんな風に話題で扱われる人も中々そうはいないだろう。

 

「あーやっぱ困っとるな」

「うん。アスカ人気だからね」

「・・・・よし、ならここは」

 

 何故か意気込んで歩み寄るのは事の引き金を引いた高町なのは本人だ。

 

「アスカ君」

「はい、なんでしょう?」

「私と、踊らない?」

 

 えっ、と誰かが呟いた。まるでハトが豆鉄砲でもくらったかのような場の静まり返り方に傍観していたはやて達も思わずポカンとなる。

 

「あ、はい」

 

 思わず返事を返してしまったアスカはそのままなのはに手を引かれダンスの輪の中へと入って行ってしまった。

 

「ちょ、ヴィヴィオどーいうことコレ!?」

「わ、私にも何がなんだか・・・えぇ!?」

「なのはさん、いや嘘ですよね・・・?」

 

 きっと、冗談だ。そう期待を込めて見る。が、その視線に気づいて返ってきたのはイタズラっぽい笑顔とウィンク。そしてそれが意味するものを、娘であるヴィヴィオと幼馴染二人は知っていた。

 

 

  あ、この人割とマジだ――――と。

 

(・・・・んー。ちょっとからかっちゃおってそれだけの気だったんだけど・・・・なんでかな。こんな風に手を握りたかった私がいる。うーん、本当にそれだけのつもりだったのに・・・・けど、何か忘れてるような・・・・?)

 

 自分のした行動に疑問を抱きつつ、なのははアスカと踊りつつ濛々と燃える炎と目の前の少年を見て自問自答を少しの間繰り返した。




 ~某所~

「ねーねー王様、ボクら今年映画で大活躍だったからこっちでも出られるかな!?」
「知らぬ。というか、我らを使う度量も采配も、この塵芥にあるわけなかろう」
「それが王、そうでもないようです」
「・・・・マジか」
「あ、王様ちょっと嬉しそうな顔したー」
「なッ、そんな筈なかろう!?」
「フロガの末裔に会えるのが嬉しいのか、はたまた出番がある事が嬉しいのか・・・」
「きっと両方だね」
「ええい、やかましい!」



 そんな会話がどこかであったとか、ないとか。


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INNOCENT編
♯35


 〝春光拳〟————それは、ルーフェンという星に古くから伝わる古流武術である。リオの使う特徴的な動きや技の全てはこの春光拳からなるものであり、ヴィヴィオ達は彼女の実家のあるルーフェンまで赴いている。

 

 

  の、だが。

 

 

「なぁんで俺は留守番なわけ」

 

 一人愚痴を垂れる哀れな少年が一人。

 

「しゃーないやろ?学校のテストなんやから」

「せやかて工藤!こんな中途半端な時期にテストとかこれも何かの陰謀としか!」

「工藤やない、八神や。ま、それもこれもインターミドルとドン被りやったのが原因」

「学校行事ですから、疎かにするわけにはいきませんからね」

 

 シャマルがトドメと言わんばかりにアスカに向けた言葉はキッチリとダメージを与えたようでその体はガクッと床に倒れる。

 

「せめて・・・せめてヴィヴィちゃん達と一緒に修行できないまでも遊びたかったってばよ」

「雑誌の枠を超えてのコラボしとる場合ちゃうよアスカ」

「そーだぞ。お前今日ティアナに付いてロストロギアの簡易的な回収任務があんの忘れてねーか?」

「げ、そうだった」

 

 時計を見ればあと数十分ほどでティアナが迎えにきてしまう。いそいそと準備を終え、何とか間に合いティアナと合流し任務へと着く。

 

「ったく、はやてさんも人使い荒いよ。いくら局の仕事にも興味あるっていってもティアさんみたいな敏腕執務官の調査依頼に俺みたいなド新人で、しかも嘱託の魔導師なんてつけないでしょフツー」

「仕方ないでしょ?未だに人手不足なのは否めないし、ましてや貴方みたいな貴重な人材は覚えさせておいて損なんてないんだし」

 

 本局にある次元港から専用の艇に乗り込みながらもアスカの愚痴は続く。

 

「こーいう時だけ優秀って言われてもねぇ・・・」

「つべこべ言わないの。それに八神司令から聞いてるでしょ?例の話」

「そりゃ、まあ」

「〝特務六課〟・・・・まだまだ部隊立ち上げには足りないものだらけだけど、アスカだって数には入ってるんだもの。期待されてるのよそんだけ」

「・・・・そう言われると、なんか複雑・・・」

 

 はやてが語って聞かせてくれた夢。その夢が、今再び形になろうとしている。彼女の嬉しそうに話す顔が脳裏をよぎった。その為それ以上アスカが何かを言えるわけでもなく、むしろ感謝の念すら湧き出てくるのを否定できなかった。自分を拾ってくれて、あまつさえこんな貴重な経験をさせてくれる。それだけでも、はやてがアスカの将来を考えているということは明白だ。

 

 ゆえに、応えたい。あの人の期待に。

 

「・・・さ、見えてきたわよ」

「えっと、たしか名前は・・・・————」

 

 ————エルトリア。かの地は始まりの地にして悲劇の場所。そして・・・・高町なのはの、初めて墜ちた場所でもある。

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 その場所は、かつては最先端の技術が幾つも試験的に運用実装され栄えた都市があった。多くの研究員が家族とともにここで暮らし、作業に没頭した場所。しかしながら現在はとある事故によりとてもではないが人の住める土地ではなくなってしまっている。以前二人がジークを迎えに行った惑星とは違い、ここは文字通り何もない場所となってしまっている。

 

「惑星エルトリア・・・管理外世界の中で最も文化レベルが低い星で、昔はミッドと並ぶ程に栄えた星・・・か。それが今じゃ、こんな殺風景になっちまったってわけ」

 

 調査団の艇から現地局員と合流しキャンプ地へと向かう車中で資料を読みながら、アスカがそんな事を呟いた。

 

「ええ。それに、まだなのはさんが駆け出しの新人魔導師だった頃・・・初めて、墜落した場所よ」

 

 それを聞いて資料から顔を上げて外を見る。そこには腐敗した人工物の破片が無数に散らばり、無機質な世界で唯一人の痕跡らしきものが残る光景だった。そんな近くに設けられたテントの近くで車は停車し、二人は下車する。迎えの局員と軽く挨拶を交わしてから早速ロストロギアの回収へと向かう。

 

「しっかしなんでこう、お決まりかのようにこんな遺跡みたいな場所ってあるんですかねー。ま、これはこれでゲームの世界っぽくて俺は好きですけど」

「そう?あたしは割とイヤなのよね。こういう時は決まってよくないことが起こるし。〝マリアージュ事件〟の時もたしかこんな場所だったわね」

「ちょ、アレクラスは勘弁してくださいよ。流石に殺人鬼と命のやり取りを何度もするなんてイベントはアレだけでお腹いっぱいです」

「あたしだって本音は同じよ。でもこれは仕事。さ、早く回収してさっさと終わらせましょ」

 

 互いに愚痴をこぼしながら遺跡のような場所を散策する。ここが発見されたのはつい最近の事で、その時から今まで施設内部から微弱ではあるが魔力反応にも似たエネルギーの発生が確認されている。今回ティアナが来たのは内部で何かが起きた時の対処の為でもある。

 

「んー・・・ん、なんだこれ」

 

 歩いていると、ちょうど足元に何かを発見した。アスカはそれを拾い上げると、誇りを軽く手で払って裏返す。

 

  ————フローリアン家、家族写真。

 

「・・・・お、かわいいなこの子達」

「・・・アスカ、あんたそーいう趣味?」

「いやなんでそうなるんですか。いくら小さな女の子たちが笑いながら映ってる写真みてかわいいって言ったからってロリコン判定とかそんなの理不尽です」

「矢継ぎ早に言わないでも冗談よ冗談、でも確かになんだか微笑ましい写真よね。・・・・きっと、ここに住んでいた人のものだったのかもしれないわ」

 

 感傷に浸るティアナとアスカ。引き続き探索を続けていると、今度は中央に置かれた遺跡のようなものに触れる。見たところ、ここから件のエネルギーが発せられているようだ。

 

「クロスミラージュが反応を検知したわ。これで間違いなさそうね」

「けどこんなデカいのどーやって――――」

 

 ————タスケテ

 

「・・・ティアさん、今なんか言いました?」

「ちょ、そういうオカルトとか私勘弁よ?」

「いや、今しっかりと声が・・・————」

 

 ————タスケテッ!

 

  瞬間。遺跡から光が溢れ出す。異常なまでの数値をデバイスが示し、一刻も早くこの場を離れようとティアナはアスカに促す。段々と光はその光量を増していき、今にも爆発でもしそうなほどこの空間を満たしていく。やがて眼も開けられないほどに視界が白に染まった後、その奔流は時間をかけて徐々に消えていき、やがて元の静寂が訪れた。

 

「なんだったの今の・・・アスカ、大丈夫・・・・・・・・アスカ?アスカ!?」

 

 隣にいたはずの少年に安否の確認をしようと振り返れば、そこには彼の姿はなかった。

 

「・・・・うそ、でしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺、フライアウェイ。なう。

 

「そんなこと言ってる場合じゃねええええええええええええええええええええええええ!?」

 

 急に眩しくなったと思ったら今度は足元が無くなり気づいたら空の上。急展開と言うには実に生ぬるいような出来事にアスカは完全にパニックに陥ってしまう。

 

「落ちるッ!ママ落ちるぅ!?飛行石はいずこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

『姿勢制御、お呼び飛行術式を展開します』

 

 ブレイブハートのアドリブのおかげでなんとか落下は免れたアスカ。が、パニックなことに変わりはない。

 

「ここはどこ、私は誰!?お前は誰だ!?俺の中の俺~・・・」

『完全にパニックですね』

 

 一向に冷静さを欠いたままの主に代わり状況把握に努めるブレイブハート。しかしどう検索をかけてもこの場所がヒットしない。ということはここはエルトリアでも、ましてやミッドではない未知の土地ということになる。

 

  ここは一体何処なのか。そう考えているところに、何者かが接近してくるのを検知する。

 

『後方700m先に接近する反応があります』

「うそ、今度は何!?」

『サーチ開始・・・・これは』

「————あの、そこの方!」

 

 愛機が何かを報告する前に、その物体との距離がはっきりと見える距離まで接近してしまっていた。しかし、此方に語り掛けてくる声にアスカは僅かばかりの覚えがあるのに気が付く。振り返ると、そこには。

 

「えっと、今はメンテ中で他のサーバーからはアクセスできない筈なんですが・・・何処からアクセスしてきてますか?」

 

 色々小さくなった(・・・・・・・・)高町なのはがいた。




久しぶりの投稿、内容改変。根詰まりに根詰まった挙句消去された話は、いったいどこへ。そしてこの作品の舵を切った先に、tubaki7が生み出した物とは。


  次回、~GOD編と言ったな。アレは嘘だ~


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