ナザリック in オラリオ (タクミ( ☆∀☆))
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運命の出会い

おじいちゃん、ごめんなさい。

僕の冒険は冒険に出る前に終わりそうです。

 

なんでこんなことになっちゃったんだろう。

 

今、僕の目の前には魔王が座っています。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「申し訳ございません。」

 

その老齢の執事に声をかけられたのは、僕がおじいちゃんの死を期に冒険者になろうとオラリオヘ向かっている途中だった。さっきまで誰もいなかった気がしたんだけど、気のせいかな。どこかの貴族の執事なのかものすごく凜としていて、僕のおじいちゃんとは全然タイプが違うから突然でかなり緊張した。

 

「は、はい!何でしょうか。」

 

「突然で申し訳ありません、我が主が話をお聞きしたいとのことで大変申し訳ありませんがお時間をいただいてもよろしいでしょうか。勿論、謝礼は出させていただきます。」

 

突然の申し出に頭が混乱しながら貴族様相手に変なことしたら大変だと断ろうと考えたが、目の前のお爺さんの顔を見ると亡くなったおじいちゃんを思いだしなかなか断れず渋々了承した。

 

「ありがとうございます。自己紹介が遅れました、私はセバスと申します。」

 

「あ、えと、僕はベル・クラネルです。」

 

「ではクラネル様、お手数ですが、私についてきて頂けないでしょうか?」

 

そう言うとセバスさんはオラリオとは逆の方向に歩きだした。貴族様のお屋敷に行くんじゃないのかなと疑問を抱いていると、今まで聞いたこともないような大きな霊廟が目の前に現れた。

 

「せ、セバスさん、…こ、ここって?」

 

「遅ればせながら、我が主がおわすナザリック地下大墳墓でございます。」

 

僕の常識は一気に崩壊した。貴族様はお墓に住んでるってこと?直ぐに帰りたいが了承してしまったため言い出しずらい。僕がお墓をキョロキョロと見回していると、セバスさんは誰かと話してるみたいだった。一人しかいない気がするけど…。

 

突然現れた黒い靄を潜るとそこはまさにお伽噺に出てくるような世界だった。一つ一つの調度品が一年働いても買えそうにない豪華なものが飾られていた。セバスさんの後ろを縮こまりながら歩いていると、審判の門とでも言うような扉の前に着いた。ひとりでに開いていく扉に緊張がピークに達していた。どんな御方なんだろうか、失礼のないようにしないとと考えながら門の奥を眺めた。

 

世界が凍ったような気がした。

 

そこには高さが優に2メートルはある白銀の昆虫のようなモンスター、蛙の頭に羽まで生えている悪魔、綺麗な女性には角と黒い羽が生えている。さらに双子のダークエルフと綺麗な女の子……ってこれはいいのか。そして一番奥に堂々と座っている骸骨のアンデッド。

 

見ただけで分かる。絶対に強い、僕は今日死ぬ。セバスさんを見ることも出来ない。もし見たときにヒューマンじゃなかったら立ち直れない。

 

固まっている僕に骸骨の主は声をかけてきた。

 

「ようこ「うわぁーーーーわーー」…」

 

僕は全力で逃げ出した、逃げ道なんて分からないし逃げれるとも思わないけど。後ろから何か聞こえるけどまるで頭に入ってこない。すると突然、何か耳心地の良い声が聞こえてきた。

 

 

「御身の前で失礼ですよ。「戻りたまえ。」」

 

するとそうするのが当たり前のように僕の意思に関係なく体が玉座の間へと歩きだした。全く言うことを聞かない体に抵抗しようとするが

 

「大人しくしたまえ。」

 

この声になすすべもなく玉座の前に連れていかれる。僕は一体どうなってしまうんだろう。やっぱり逃げたのは不味かったよね。自分の身に降りかかる近い将来に悲観しながら断頭台の上に立たされた死刑囚の気分で骸骨の主の言葉を待った。

 

「部下が失礼をしたな。すまなかった。」

 

………あれ、言葉が通じてる。って言うか謝罪された!もしかしたらなんとかなるかもしれない。そう考えていると骸骨の主は自己紹介をし出した。

 

「我が名はアインズ、アインズ・ウール・ゴウン!!」

 

名前とともに放たれたものすごいオーラにあっさりと僕は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一応、アインズ様が主人公のつもり。
次からはアインズ様ターン。


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アインズ・ウール・ゴウン

ユグドラシルのサービス終了からの異変で鈴木悟ことモモンガは混乱していた。現状の確認、身の安全、NPCの忠誠心など確認することは膨大だった。その中にセバスへナザリックの外の確認と知的生命体との接触および情報収集のためなるべく穏便に連れてくることを頼んでいた。

 

セバスから回りが草原になっていることを聞き、ますます異世界へ来た可能性を考えていると、人間らしい生物がいるとの報告を受けた。

 

(もしかしたら他のプレイヤーかもしれない。警戒レベルを引き上げなければ。)

 

セバスからの報告を忠誠の儀が終わったアルベド達に伝え、玉座の間で迎えるよう伝えた。アルベド達からは危険とモモンガの同席を拒まれたが、プレイヤーの場合プレイヤー同士でなければできない話もある。完全武装で同席することで認めてもらった。

 

セバスから連れてきたとの報告を受け、緊張しながら扉が開くのを待った。そこにいたのは兎だった。いや、セバスが連れてきた少年はウサギのようにぷるぷると震えていた。

 

少し緊張感が弛緩するが、まだ警戒心を解くわけにはいかない。

 

「ようこ「うわぁーーーーわーー!!」」

 

少年は一目散に逃げ出した。

 

(……え、俺なんかしたっけ?)

 

何気にビックリして精神が安定したのは内緒だ。

 

(もしかしたらプレイヤーじゃない?現地の人か?だとしたらうまく話をして情報を引き出さないと。まぁいきなりこんなところに連れてこられたらビックリするよな。なるべく大人の対応しないとな。)

 

モモンガが違う方向で認識しているとデミウルゴスが少年を連れてきた。

 

(っていきなり幼い子を支配してるじゃねーか!なんか泣きそうな顔してるし。出会いが最悪だよ、ここからどうやって取り戻そう。先ずは謝った方が良いよね。)

 

「…部下がすまなかった。」

 

(ん、少し顔が明るく……なったか?よし、先ずは自己紹介だよね。………そうだな、みなさん、この名前使わせてもらいますよ。文句があるなら帰ってきてから言ってくださいね。)

 

「我が名はアインズ、アインズ・ウール・ゴウン!!」

 

(ってヤベー、思わず絶望のオーラ出ちゃったよ!)

 

少年はコトリと倒れ込んだ。まだ碌な挨拶もしないままモモンガとベル・クラネルのファーストコンタクトは終了した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「申し訳ありません、いきなり倒れてしまって。」

 

「いえいえ、気にしなくて良いですよ。それよりお体は大丈夫ですか?」

 

アインズは現在、応接室にて最初の会合の時には無かった仮面を着けた状態で少年と向かい合っていた。アインズは玉座の間の一件のあとベルに《記憶操作》を使用し初めから仮面をつけていたこと、さらにモモンガとセバス以外の人物の記憶を消していた。現在、部屋にはアインズとベル、さらにベルが緊張しないようにと見た目が人間に見える階層守護者のシャルティア、アウラとマーレ、後はセバス、プレアデスのユリが居るだけである。

 

(まさかアバターの姿に恐怖していたとは、ユグドラシルでは普通だったんだけどな。それにしても記憶操作の効率悪すぎだろ。なんか魔力が一気に減った気がするよ。まぁこれも実験だと考えるか。)

 

「あ、はい。大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」

 

「いえ、もともとはこちらがお呼びしましたのですから。それでは改めて自己紹介させていただきます。私はアインズ・ウール・ゴウン。この墳墓の主です。」

 

「ぼ、僕はベル・クラネルです。よろしくお願いします。」

 

お互いの紹介を終え、同席しているシャルティアやアウラ、マーレの紹介もする。ベルはどこか照れたような顔をして笑っていた。

 

「失礼します、オレンジジュースで宜しいでしょうか?」

 

よく冷えたジュースを持ってきたユリに緊張した面持ちで答えるベルはアインズから見ても顔が真っ赤だった。

 

 

「クラネルさんは魔法はご存知ですか。」

 

「え、はい。見たことはありませんが、冒険者の方が使うと言うのを聞いたことがあります。」

 

「冒険者?……そうですか、それでは話が早いですね。私は魔法使いです。実は魔法の研究で長年籠っていたのですが、最近失敗をしてしまいこの墳墓ごと別の場所に転移してしまったみたいなんです。それでこの辺りの知識もないためクラネルさんが知っている範囲の知識を教えて欲しいのです。」

 

「え、えーーーー!!!!!…………ゴウン様は魔法を使えるんですか!!!?す、凄いです。しかもこんな大きな建物を転移させちゃうなんて聞いたことないです。凄すぎます!!」

 

「え、…えぇ。しかし失敗しただけなのでそんなことないですよ。」

 

「それでこの辺りの話を聞きたいのですが………」

 

アインズはベルの話に驚き、落胆し、感嘆した。

 

 

(やはりユグドラシルでは聞いたことの無い地名だな。通貨もことなるようだし。やはり異世界の可能性が高いか。しかしかなり気になる話が聞けたな。冒険者という職業にかなり興味はあるが、それ以上にこの世界には神が地上に降りてきているだと。しかも神の恩恵を受けるのか。俺はユグドラシルでは最高レベルの100レベルだが恩恵を受ければさらに強くなれるのか?この少年はまだオラリオに行ったことが無いみたいだから、そこまで詳しくは分からないから近いうちにオラリオに行くべきだな。)

 

「ありがとうございました。とても参考になりました。お礼と言ってはなんですが、何かお渡ししたいのですが生憎手持ちの通貨はこの辺りで使えないみたいですので、どうするべきか…………」

 

そう言ってアインズがチラリとセバスの方を振り向く。その行動にセバスが何か伝えようとするよりも前にベルから提案を受けた。

 

「ご、ゴウン様。……その、できれば魔法を一度見てみたいのですがダメでしょうか?」

 

「魔法ですか?別に良いですが、それで良いんですか?」

 

「はい!僕も冒険者になったら魔法をいつか使ってみたいんですけど一度実物を見てみたいなって思って。」

 

(まぁ、それくらいならいいか。欲が無いというかなんかこの子を見てると裏を考えてる俺が悪く見えてくるな。いつの間に俺ってこんな汚れたんだろ、なんか落ち込むな)

 

アインズ達はベルに魔法を見せるため第6階層の円型闘技場に向かった。

 

 

 

「ではいきますね。《マジック・アロー》」

 

アインズの回りに10個の光球が発生し、藁人形に突き刺さる。さらにアインズは別の魔法を唱えた。

 

「《ファイヤーボール》」

 

火の玉が着弾した藁人形は燃え上がり、余りの威力に跡形もなく消え去った。

 

「こんなところです。クラネルさん、どうですかね?」

 

ベルは跡形もなく消え去った藁人形の痕を茫然と眺めていた。

 

「クラネルさん?」

 

(あれ、やっぱりこんな低位階の魔法じゃダメだったか。ガッカリしたかな。ここはド派手に超位魔法でも………)

 

「ん~~~~~~~、す、凄いです!!カッコいいです!!!」

 

「そ、そうですか。満足して貰えたみたいで良かったです。」

 

「僕も冒険者になったら魔法使えるようになりますかね?《バーニング・トルネード》みたいな。あー早く使いたいな。」

 

キラキラと遥か遠くを見つめるベルにアインズは少年の夢を壊さないように答えてあげた。

 

「え…、えぇ、きっと使えますよ。」

 

「はい、ありがとうございます。僕もいつかゴウン様みたいに凄い冒険者になって、ゴウン様みたいなハーレムをつくってみせます!」

 

「は?………ハ、ハーレム?」

 

「はい、おじいちゃんに言われたんです。ハーレムは男のロマンだって。モンスターに襲われている女の子を颯爽と助けて運命の出会いをするんです」

 

アインズは固まっていた。ユグドラシルでクリスマスに一定の時間過ごすと強制的に貰える嫉妬マスクを持っているようなリアル魔法使いのアインズにとって女性と付き合うどころかハーレムを夢見るこの少年に。

 

その言葉に控えていたシャルティアがベルに語りかける。

 

「人間風情がアインズ様と同等になれると思い上がるのは不敬でありんす。ただ心がけは良いことでありんすね。この私はこの身も心も全てアインズ様のものでありんすからね」

 

「まぁ確かにあんたにできるかは置いといて、アインズ様の凄さを理解できたみたいだね。当然、私もアインズ様の物よ」

 

「ぼ、僕もアインズ様の物です」

 

シャルティアに続き、アウラやマーレも肯定している。さらにセバスやユリまで肯定の頷きをしている。

 

(おいーーー、何勝手なこと言ってるの?非リア充ですよ、魔法使いですよ。ってかセバスまでハーレムに入れてると思われる言い方したら、どれだけ守備範囲が広いと思われるんだよ。ほらなんか変な目で見てるじゃん?)

 

「す、凄いですね。確かに僕ではゴウン様みたいにはなれないと思いますが頑張りますね」

 

「いや、なんか勘違いしてるよね?違うよ、みんな家族って意味だよ?」

 

 

なんとかベルの勘違いを必死でといたアインズだった。

 



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冒険者

「え、どこかのファミリアに入らないと冒険者になれないんですか?」

 

ギルドの受付で大型のグレートソードを持ったフルプレートの男性が落胆した声音で話していた。

 

「はい、ダンジョンにはモンスターが発生します。神の恩恵を受けていない方では例え低層のモンスターでも太刀打ちできません。そのため冒険者になるにはファミリアに入り、神の恩恵を受けていただきます」

 

屈強なフルプレートの男性に怖じ気付くことなくハーフエルフの女性、エイナは答える。

 

「そ、そうなんですか………。でもこう見えても腕には自信があるんですが………」

 

なんとか粘る男だが、規則によって決められていることは変えられない。エイナは淡々と回答した。

 

 

「あ、でも見たところ冒険者向きな体格ですし、直ぐに何処かのファミリアに入れますよ」

 

目の前で項垂れている男性に堪らずエイナはフォローする。

 

「そ、そうですか。すいません。それではまた来ます」

 

「はい、お待ちしております」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ギルドから出てきたフルプレートの男とエルフにも負けない絶世の美女を連れた二人組が周囲から注目を浴びながら歩いていた。しかし、彼らに声をかけるものは居ない。フルプレートの男はその威容に似合わない大きな溜め息をし、後ろの女性は美貌に不釣り合いな目付きで周囲に睨みをつけながら周囲を警戒している。

 

(は~~~~、どうしようかな。いきなり計画が狂ったよ。息抜きのためにナザリックから出てきたのに冒険者になれないならオラリオで生活も出来ないし。そもそもファミリアに入って正体がバレたら不味いしな。いつかはファミリアも考えていたが今はその時じゃないし)

 

今、アインズは冒険者になるべくモモンとしてプレアデスのナーベラル・ガンマことナーベとともに歩いていた。転移後、ナザリックの防衛等が終わり情報収集、兼アインズの息抜きのためオラリオに来ていた。ただの会社員だったアインズにとって支配者の演技を24時間やり続けるにはとてもできなかった。ナザリックの運営を早々にアルベドに任せ、逃げるように息抜きをするつもりだった。アルベドから従者が居ないのは認められないとの声にしぶしぶプレアデスのナーベラルを連れてきていた。

 

 

町にはこれからダンジョンに行くであろうヒューマンやドワーフ、獣人の男達が意気揚々と歩き、それらの冒険者を相手にした武器屋や酒場・屋台の店員が威勢の良い声で呼び込んでいた。

 

(やっぱりこういうのは良いよな~。リアルじゃ栄養重視の食事で味なんて二の次だし。こんな体じゃなきゃもっと楽しめたんだろうけど。アンデットで良かったこともあるけどやっぱりデメリットもあるよな)

 

アインズがキョロキョロと好奇心と屋台から漂う匂いに興味を引き付けられると、屋台の店員のおばさんと目があった。

 

「そこの冒険者のお兄さん。ジャガ丸くんはどうだい。美味しいよ」

 

「え、いや、私は結構です。それに私はまだ冒険者ではないですよ」

 

アインズはそもそもアンデットで中身は骨なので買ったところで食事ができない。そもそもナザリックに金貨や財宝はいくらでもあるが外貨を獲得していないため無一文なのだ。

 

「そうなのかい?そんな格好してるくらいだから、てっきり冒険者だと思ったんだけど。」

 

「今日、初めてオラリオに来たばかりなんですよ。ギルドに行ったらファミリアに入らないと冒険者になれないみたいで帰ってきたところです」

 

「そうなのかい。それじゃあ、また冒険者になったらまた来ておくれよ。サービスするからさ。───そうだ!!うちのアルバイトに団員を募集している神様が働いているんだよ。今、呼んでくるからちょっと待っててね」

 

そういうと店員のおばちゃんはすぐ後ろにある屋台に戻って行った。

 

(ん、神様が屋台で働いているのか?なんか想像していたのと大分違うな。もう少し敬うものじゃないのか?)

 

アインズが疑問を浮かべているとおばちゃんが小さな女の子を連れて来た。ツインテールのかなり顔が整っている遠くから見ても可愛いと思える美少女だ。その幼い顔に似つかわしくない大きな胸が小走りに走る度に大きく揺れていた。間違いなく本物であろうその胸に、あるダンジョンの少女の顔がぷるぷると震えながら悔しがる姿がアインズの脳裏によぎった。

 

「おばちゃん、彼らかい?」

 

「そうだよ、ヘスティアちゃん」

 

「初めまして、モモンと言います。こちらはナーベです」

 

「こちらこそ、よろしく。ヘスティアって呼んでくれ」

 

ヘスティアは正直悩んでいた。確かに団員は募集していたが、つい最近ある少年が入ったばかりだ。かなりお気に入りの子ともう少し二人で居たいとも邪な思いが浮かぶ。しかも男性はともかく女性が入った場合、万が一にもあの子が誘惑されたら目も当てられない。

 

「君たち、僕のファミリアに入りたいのかい?」

 

「あ、いや、どこのファミリアにするかは決めていないのですが」

 

その言葉にヘスティアはニヤリと笑った。

 

「そうなのかい?実は僕のファミリアに入るには条件があるんだ」

 

「え、そうなのかい?ヘスティアちゃん」

 

とっさに思い付きの条件を語るヘスティアに今まで勧誘を受けていた売店のおばちゃんが驚く。そんなヘスティアの態度にアインズの後ろで控えていたナーベラルが青筋をたてながら腰に持っていた剣を抜こうとしていた。

 

「ま、待て!待つのだ、ナーベよ」

 

アインズが慌ててナーベラルをなだめていると、おばちゃんと話していたヘスティアがふとアインズ達を見て気付いた違和感を口にした。

 

「ねぇ、君達、本当に神々(僕達)の子かい?」

 

「えっ?」

 

(不味い、やはり変装していても神には分かるものなのか?)

 

アインズはしどろもどろになりながら答えを考えていた。

 

「ヘスティアちゃんーーー!!火っ!!火っーー!!」

 

「「えっ?」」

 

ヘスティアが横を見るとジャガ丸くんを揚げているフライヤーの油に火が燃え移っていた。

 

三人が思わず立ちすく。慌てたヘスティアはとっさに側にあった水を振りかけた。その瞬間大きな爆発とともに屋台が吹き飛んだ。

 

 

幸い怪我人は出なかったが無惨にも屋台は全損した。ヘスティアは揚げ物担当から外され、修理費を請求されることになった。時給10ヴァリスというもはやボランティアレベルの給料はせめてものおばちゃんの温情だろう。

 

この騒動でヘスティアからの追求を逃れたアインズはいそいそとナザリックへ帰還するのだった。

 

 




原作とは違い冒険者になれなかったアインズ様。

名声も得られない上に必要なお金も稼げないアインズ様はこれからどうするのか……。


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再会

「ハッ!!」

 

モモンはグレートソードを一閃し、コボルトを真っ二つに両断した。

 

(流石に低層階だけあってモンスターは弱いな。十分、この姿でも行けそうだ。いざとなったら即、ナザリックに引き返すことも考えていたが杞憂だったな。)

 

モモンは現在、ダンジョンに潜り冒険をしていた。しかし、ファミリアに入り冒険者になったというわけではない。オラリオでの一件でファミリアに入るのを諦め《完全不可知化》をし、人通りの少ない夜中にこそこそとダンジョンに潜り込んだのだ。今後はナザリックからダンジョンにゲートで移動すればバレることは無いだろう。

 

魔石を拾いながら久々の冒険にアインズは楽しんでいた。始めこそ警戒し第9位階の《心臓掌握》をかけていたがあっさり抵抗することなくモンスターが死んだことに警戒を緩める。因みにモンスターの魔石が粉々に砕け回収はできなかったが。次に試した、《ドラゴン・ライトニング》でもあっさり死に完全に安心した。今は他の冒険者に見られても良いようにモモンの格好でモンスターを討伐していた。

 

(ふぅ結構貯まったな。まぁ、回収したところで換金もできないけど、エクスチェンジボックスで換金すれば運営費は稼げるだろうし、現地通貨はどこか闇市とかでできないかな。多少ぼったくられるのはこの際諦めるとしてこの国の通貨であるヴァリスを稼がなければ。)

 

そんな世知辛い考えをしていると遠くから悲鳴が聞こえてきた。アインズは警戒しながら悲鳴が聞こえてきた方を伺った。

 

 

「うわぁーーーー!なんでこんな低層階にミノタウロスがーーーーー!?」

 

アインズは冒険者がミノタウロスの群れに追われているのを見つけた。さらにその冒険者は見覚えのある白髪頭の少年だった。

 

(あの子は確か、…クラネル君か?冒険者になれたみたいだな。うーん、助けた方が良いか?ただこの格好では初対面だし。見捨てるべきか……、いやこの世界の情報を教えてくれたんだ。受けた恩は返すべきですよね、たっちさん。)

 

ミノタウロスの剛拳がまさにベルに直撃しようとする直前、横からグレートソードが受け止めた。

 

「大丈夫かい?」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「なに、困っている人がいたら助けるのは当たり前さ。」

 

何気にたっちさんの《正義降臨》のエフェクトが出れば良いんだけどと考えにふけっていると、群れの一匹がベルの方に向かった。

 

「早く逃げるんだ!」

 

「すみません!」

 

ベルがミノタウロスに追われながら逃げていくのを横目に早めに片付けようと目の前のミノタウロスの群れを睨み付け、グレートソードを振るった。

 

(先程のモンスターより少し強い気がするな?この階層に出るモンスターじゃないのか?まぁこの程度なら問題ないが少し急がないとな。)

 

アインズはまだ知るよしもないがミノタウロスは本来この階層で出るようなモンスターではない。ベルが死にそうになっていても、冒険者になったばかりの彼には仕方がないことなのだ。しかし、ユグドラシルでレベルをカンストしたアインズにとって先程戦っていたモンスターとミノタウロスの差など誤差の範囲位しかない。一匹につき剣を一閃してあっさりと倒していった。

 

(ふぅ、思ったより時間かかったな。クラネル君は大丈夫か?わざわざ助けたのに死んでましたじゃ寝覚めが悪いしな。)

 

嫌な想像をしながらアインズはベルが逃げていった方に進むのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うーーん、迷ったな。このダンジョンの地図がないからどこに行けばいいかもよく分からん。魔法で探すにしても手掛かりもないしな。」

 

アインズは今、迷子になっていった。ユグドラシルではコツコツと情報を集め慎重に進めていくアインズにとって、初見のダンジョンで人探しは無謀だった。

 

(すまん、クラネル君。)

 

アインズが心の中で亡き少年に謝罪をしていると、前から真っ赤な人型のモンスターが全速力で近づいてきた。ウォーシャドーの亜種か?と考えたがどうやら返り血を浴びた冒険者もといベル・クラネルだった。

 

(どうやら生きていたみたいだな。それにしてもいつも走ってるな。)

 

アインズは声を掛けようと思ったが返り血を浴びているにもかかわらず満面の笑みで走っているベルに躊躇し、やり過ごした。

 

(どうやら少しおかしくなったかもしれんな。まぁこれもいい経験になるだろう。)

 

アインズは遠い目でベルの後ろ姿を見送った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

金髪金目の少女、アイズ・ヴァレンシュタインは助けた筈の少年が一目散に逃げていくのを悲しげな目で見送っていた。後ろには同じファミリアの獣人の青年、ベートが腹を抱えて笑っている。アイズはムッとしながらもベートを無視し、残りのミノタウロスを倒すために歩き出した。

 

 

 

「っ!」

 

「あぁ、どうした、アイズ?」

 

二人の前にはモンスターを倒した後に残る魔石と灰、そしてミノタウロスが使うネイチャーウエポンが落ちていた。

 

「なんだ、もう先に誰かに殺られちまったのか。残念だったな、アイズ。」

 

ベートが皮肉げにアイズに話しかけるが、アイズは反応しない。確かにミノタウロスを倒すことができる冒険者ならいくらでもいる。しかし、問題はそこではない。何故、ミノタウロスを倒せるような冒険者がこんな低層階の攻略ルートでもない奥地に居たのかだ。自分たちはミノタウロスが下層から逃げ出して上層に向かったためこんな所まで来た。しかし冒険をしている者なら奥になど行かず下に降りた方がはるかに効率的で得られる魔石も多い。しかもこれだけのミノタウロスをたいした時間もかけずに倒したのだ。アイズは答えを見いだせないまま、ダンジョンを後にするのだった。

 




オラリオ勢のレベルはランク×10位のイメージ。
まだまだナザリックは強いです。
ただこの世界ではモモンは英雄になれないかな。
神様の恩恵はやっぱりすごい。


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怪物祭

「怪物祭(モンスターフィリア)?」

 

「はい、アインズ様。何でもダンジョンで捕獲したモンスターを民衆の前でテイムする祭のようです。」

 

「ホゥ、面白そうだな。」

 

報告したセバスの目がギラリと光った。

 

「ウム、分かっている。今度はちゃんと護衛を連れていくとする。」

 

「私の我儘を聞いていただきありがとうございます。」

 

(目が怖いよ!そりゃー、勝手に出てったのは悪かったけどさ。)

 

今、ナザリックでは情報収集のためセバスとプレアデスのソリュシャンでオラリオに潜入している。ファミリアや冒険者の情報、生活水準など多岐に渡る。その中でセバスから近くに開かれる祭について報告を受けたところだった。

セバスの視線も仕方がないと理解している。アインズが夜中にダンジョンに勝手に出掛けた際のナザリックのNPC達の動揺は凄まじかった。アインズが呑気に帰ってきた時には危うくオラリオに全面戦争を仕掛ける直前だった。

 

(モンスターフィリアか。なかなか面白そうなイベントだな。冒険者の実力者を見る良い機会だ。連れてくならアウラが良いな。アウラなら実力も図れるだろうし。でもアウラだけ連れてくとマーレが可哀想だな。ナザリックの防衛でも頑張ってくれたし、アウラとマーレで行くか。)

 

「よし、決めた。アウラとマーレを呼んでくれ。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「へぇーーー、これが闘技場かぁ。ナザリックの円形闘技場に比べれば全然大したことないね。」

 

「お、おねぇちゃん、声が大きいよ。」

 

「何?マーレ?あんただってそう思うでしょ?」

 

「そ、それは、…そうだけど。」

 

「ハ、ハ!誉めてくれて嬉しいぞ、アウラ、マーレ。」

 

「いえ、アインズ様、当然のことです。」

 

「そ、そうです。」

 

「それはそうとして、この姿の時はモモンと呼んでくれよ。」

 

「「はい!」」

 

(うーん、子どもとこうやって出掛けるのは初めてだな。リアルではこんな風に過ごすなんて夢のまた夢だったけど、この子達にちゃんと教育できるように頑張らないとな。本当なら屋台のお菓子やジュースでも買ってやりたいんだが………。やはり現地通貨の獲得は急務だな。)

 

闘技場ではガネーシャ・ファミリアの団員がモンスターと格闘し大人しくさせていた。モンスターの攻撃を避けながら戦う団員の一挙一動に歓声が上がっている。

 

「どうだ?アウラ?」

 

「全然大したことありませんね。あの程度のモンスターなら欲しいとも思いませんが、私ならもっと効率良くできます。」

 

「まぁ、そうだろうな。」

 

確かにアインズから見ても大して強そうなモンスターではない。ショーという部分もあるので客に分かりやすく戦っているのもあるのだろうが、それを加味してもお粗末に見えた。

 

「ん、コイツはなかなか良いんじゃないか?」

 

「確かに今までの中で比較すれば良い動きをしていますね。」

 

見ると藍色の髪の麗人が自分の身よりもはるかに大きなモンスターを相手に颯爽と振る舞っていた。どうやら今回のショーの中でも一番人気らしい。

 

(やはりナザリックのレベルにはいかなくても強いものたちは揃っているな。やはり警戒はするべきだな。)

 

アインズがオラリオの冒険者について考察していると、メッセージが入った。

 

(アインズ様、ご報告がございます。)

 

(ん、セバスか?どうした?)

 

(はい、どうやらモンスターフィリアで使用するモンスターが逃げ出したようです。現在、ギルドの職員や近くに居た冒険者がこれに対応しているようです。)

 

(分かった、ご苦労。)

 

「アウラ、マーレ。どうやらモンスターが逃げ出したらしい。ある程度目的は達成した。厄介事に巻き込まれる前に帰るか。」

 

「「はい」」

 

 

アインズ達が闘技場を後にすると直ぐに退場規制がかかった。ギルドの職員達が慌ただしく市民達に説明をしている中、一匹のミノタウロスがアインズ達の近くで暴れだした。慌ててアウラとマーレがアインズの護衛のため前に出る。

 

「アウラ、マーレ、ここで暴れるわけにはいかん。アウラ、すまないが気付かれないように大人しくさせてくれ。」

 

「はい、アインズ様。」

 

アウラはモンスターをテイムするべく、ふぅーと口から誘惑のフェロモンを出した。本来であればレベル差もありこれで完全に服従できるはずだった。しかし、一瞬動きを止めるもののアウラのテイムを上回るかのように再び暴れだす。再度、アウラが服従させようとするが結果は同じだった。

 

「ほう、面白いな。」

 

「こいつ・・・、アインズ様の前で恥をかかせやがって!」

 

みるみるアウラの表情が怒りに覆われていく。硬く握られた拳が今にもモンスターを襲わんとしていた。

 

「アウラ、良いのだ。どうやら少し検証が必要なようだ。こいつを人のいない路地に引き込む。ナザリックで丁重に扱おう。」

 

そう言うとアインズはグレートソードの腹でモンスターを思い切り吹き飛ばした。

 

「みなさん、ここは危険です。私がモンスターを引き付けますので、安全な場所に避難してください。」

 

避難誘導をしていたエイナはその光景に驚愕する。以前冒険者組合に来て対応した時に彼はまだ冒険者になっていなかった。そして、冒険者になったという話も聞いていない。神の恩恵を受けていない状態でミノタウロスを吹き飛ばす力があるとしたら、とんでもない逸材だからだ。一緒にいる仲間は前回とは違いダークエルフの双子だが親子なのだろうか?そんな疑問を抱きながらも、まだモンスターが暴れている状況を思いだし市民の避難誘導に勤める。

 

 

 

「アウラ、この辺りに人は居るか?」

 

「はい、アインズ様。こそこそと建物の中から伺っているようです。不敬な奴らですね、私が行ってぶっ飛ばしてきましょうか?」

 

「いや、そこまでしなくてもよいぞ。」

 

「じゃ、じゃあ・・・僕がこの辺りを一面綺麗にしてしまえばよろしいでしょうか。」

 

「マ、マーレもそこまでしなくて良いのだ。そうだなどこか隠れられる場所があればそこに行くとしよう。」

 

呑気に行き先を決めながら喋っているが、まだ目の前にはミノタウロスが狂いながら暴れている。しかし、この三人の前では子供が癇癪を起こしている程度の認識でしかない。襲ってきても適当に薙ぎ払われて転げ回っていた。

 

「アインズ様、この下に地下空洞があります。この中なら気配も無いため問題ないと思います。」

 

「そうか、では向かうとしよう。」

 

そうしてまたグレートソードの腹でミノタウロスがボールのように地下の空間に吹き飛ばされる。

 

(シャルティア、今からこのモンスターをナザリックに連れていく。ゲートを開いて、一先ずニューロリストに預けてくれ。)

 

(ア、アインズ様。分かりんした。それと今度は妾もアインズ様とデートがしたいんす。)

 

(え、ああ、そうだな。考えておこう。)

 

アインズの目の前にゲートが作られ、アウラがミノタウロスの頭を鷲掴みし、ゲートに放り投げる。一応言っておくがミノタウロスは決して弱いモンスターではない。下級冒険者では決して勝てない中層域のモンスターだが、如何せん相手が悪かったのだ。

 

「さて、そろそろ我々も戻るとしようか?」

 

「アインズ様、こちらに近づいてくる者がいます。」

 

「「ほあぁああああああっ」」

 

アインズがその間の抜けた声がするほうに目を向けるとベル・クラネルと屋台で働いていた少女、神であるヘスティアがモンスターから逃げ回っていた。どうやらこちらには気付いていないようだ。

 

相変わらずトラブルに巻き込まれる少年に同情するが、神であるヘスティアがいるため遠くから様子を伺うだけに留めた。ヘスティアをお姫様だっこで抱えながら逃げ回るベルだが、ついに行き止まりに追い込まれた。

 

アインズは助けることを考えるが、ベルとヘスティアはまだ何か手があるかのように作戦をたてているようだ。しかし、モンスターがその隙を見逃す筈がない。ベルとヘスティアが何をするか気になったアインズはアウラに指示を出す。

 

「アウラ、少し時間を稼いでやれ。」

 

「はい、アインズ様。」

 

そう言うとアウラからモンスターに向けて殺気が向けられる。一瞬にして死を直感したモンスターが身を縮め隙が生まれた。その間にベルはライトアーマーを脱ぎ座り込む。

 

(何をするつもりだ?まだ闘うのを諦めたようには見えんが。)

 

するとヘスティアがベルの背中に文字のようなのを書いている。アインズにはそれが何をしているかが分からなかった。しかし、アウラの一言で理解できた。

 

「アインズ様、誤差の範囲ですがあの人間の力が僅かに上がりました。」

 

「クックック、そうか。あれが神の恩恵というやつか。面白い。もう少し見学させてもらおうではないか。」

 

始めてみる神の恩恵に興味を惹かれる。アインズにはベルの成長率は分からないがまだ冒険者になって半月も経たない少年が格上のモンスターに挑んでいるのだ。

 

今まで貯めた経験値(エクセリア)と新たに発現した憧憬一途(リアリス・フレーゼ)でこの世界で考えれば爆発的に成長したベルはヘスティアから受け取った新たな武器を手に全力でモンスターに突撃をする。

 

「ーーーぁああああああッッ‼」

 

「ガッッッ!」

 

モンスターの核を貫いた一撃に、勢いを殺せずベル自身も吹っ飛んだ。しかし、先程まで明らかに格上だったモンスターをベル自身や武器の性能もあるかもしれないが、神の恩恵が少なくない影響を及ぼしたことにアインズは満足した。

 

「アウラ、マーレ、それではナザリックに戻るとしよう。今回の件を早急に検証し、次の行動を決めるとしよう。」

 

市民の歓喜の声を受けヘスティアに抱きつかれているベルに称賛を送り三人はオラリオから姿を消した。

 

 

 

 




もうすぐだんまちの番外編のソード・オラトリアのアニメが始まる(^^)
楽しみ(*´ー`*)


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二人の超越者

思ったより長くなったのだ途中で切りました・・・



「ほう、面白い。その提案受けようではないか。」

 

ナザリックの玉座の間にナザリックの僕達はアインズの言葉に驚いた。そしてなぜそのような提案を受け入れるのかアインズの智謀に追いつけない自分自身を恨んだ。理解が追い付いたのはデミウルゴスとアルベド位であろう。もちろん彼らもアインズの考えの一部しか理解しきれていないのは承知の上だ。

そして不敬にも絶対の支配者であるアインズにペラペラとのたまう男に視線が集まる。人間の姿に近い僕だけではない。悪魔やドラゴン、アンデッドなど玉座の間に入ることを許された精鋭達からそのようなプレッシャーを受ければ、指一本すら動かすことはできないだろう。実際に男の従者は完全に固まって、固唾を呑んで動向を伺っている。しかし、視線の中心にいる彼は場違いのように笑みを浮かべていた。なぜなら彼もアインズと同じ超越存在(デウスデア)なのだから。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「この前のモンスターフィリアでの騒動は何か分かったか?」

 

アインズは自室の机に座りセバスからの報告書を眺める。報告書には彼の性格が表れているのだろう、要点を分かりやすく纏められている。アインズは軽く目を通し、既に内容を把握しているであろうアルベドに訊ねる。

 

「はい、セバスからの報告ではモンスターを脱走させた犯人は不明とのことです。」

 

「ん、それなりに警備も居たんだろ?誰も目撃していなかったのか?犯人がかなりの強者なのか、それとも警備がお粗末なほど脆弱だったのか?」

 

「事件後の聞き取り調査では、襲われた者は事件前後の記憶を無くしているようです。そしてその者達は心を抜かれたように倒れていたようです。」

 

「ほう、では犯人は《人間種魅了(チャームパーソン)》のような精神支配の能力があるようだな。いや、モンスターも支配していた可能性が高い。《全種族魅了(チャームスピーシーズ)》の方が近いか。」

 

「はい、アインズ様のご推察の通りかと。さらにアウラの支配を上回ることを考えるとかなり警戒をするべきです。」

 

「ニューロニストの所に持っていったミノタウロスはどうなった?」

 

「はい、やはり記憶は不鮮明ですが()()()()()を探させていたようです。ここからは推測ですが、アインズ様の前で畏れ多いですが、神と称する不敬な輩が関係していると愚考します。」

 

「やはりアルベドもそう思うか。神と言うだけあって厄介だな。神の力がどの程度か考慮しなければならない。最悪、精神支配が無効のアンデッドである私すらも支配できるかもしれんからな。」

 

その瞬間、ピシリと空気が凍る。見るとアルベドから黒いオーラが漂っていた。

 

「ではナザリック全軍を持って早急に対処させていただきます。」

 

「よせ、よすのだ、アルベド!!事は慎重に進めなければならん。まだ敵対するような行動は控えるのだ。」

 

「ですが、アインズ様の御身に万が一のことがあってからでは遅いのです。そのためにも徹底的に危険は排除すべきです。」

 

「アルベドが心配してくれるのは嬉しいが、私の計画があるのだ。そちらに影響が出てしまっては意味がない。すまんな、アルベド。」

 

NPCがはやまった行動をしないよう適当に思い付いたことを口にして未来の自分に問題を丸投げする。なんとか納得してくれたかとアルベドをうかがうとクネクネと体を揺らしながらポツリと呟いた。

 

…ですから。」

 

「・・・アルベドよ、お前の設定を変えて「御迷惑でしょうか?」」

 

「いや、その「御迷惑でしょうか?」」

 

被せぎみに問いかけてくるアルベドの気迫にアインズは否定することしかできなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

旅人の服装に身を包み、特徴的な羽の付いた帽子を被る一人の男。その顔立ちは端整で多くの女性がその甘いマスクに惹き寄せられる。彼の名はヘルメス、オラリオでも中位ランクに属するファミリアの主神である。娯楽に飢えているオラリオの神達の例外に漏れることもなく、彼も自由気ままに歓楽街や旅に出るなど勝手気ままな生活をしている。彼は今、オラリオの西のメインストリートの雑踏の中に紛れ歩いていた。

その後ろを歩くのは彼のファミリアの団長であり、勝手気ままに過ごすヘルメスの代わりにファミリアを纏めているヒューマンの女性、アスフィ・アンドロメダだ。チャームポイントの彼女の眼鏡の奥にある目の下にはくまができており、彼女の気苦労がうかがいしれる。

 

「どうだい、アスフィ?手がかりは見つけられたかい?」

 

「はい、いくつか目撃情報があります。対象の名前はモモン、そしてナーベです。また別の日に双子と思われるダークエルフの子供がいますが名前は分かっていません。」

 

彼らが追っているのはモンスターフィリアの際にミノタウロスを剣で吹き飛ばしたとされる冒険者だ。その全身鎧の男はまだファミリアに入っていないという。もしそれが本当であればかなりのイレギュラーだ。娯楽好きのヘルメスにとってぜひ会ってみたいものだ。

そして、アスフィがさらに報告を続ける。

 

「騒動以降、彼らの姿を目撃したものはいません。」

 

「どういうことだい?オラリオの外に出た訳でも誰かが匿っている訳でもダンジョンにいるということでもないのかい?」

 

「はい、忽然と姿が消えています。いくらどこに居ようと痕跡を消すことは出来ません。しかし、ミノタウロスと闘っていた場所を最後に完全に消息を絶っています。」

 

ヘルメスはアスフィの報告に考えを巡らせる。

 

「それともう一点気になることが。この二人が現れた同時期にラキアから取引で来ているという商人の娘とその執事が居るのですが、オラリオを出る際にラキア方面ではなく例の丘に向かっているようです。」

 

「例の丘っていうと一夜にしていくつもの丘が出来たという曰く付きの場所かい?」

 

「はい、発見時に調査したときは特に何も見つけられませんでしたが・・・。それと取引と言うことですが、彼らは魔石を売っているようです。もちろん冒険者でもない彼らが正式な取引は出来ませんので裏ルートで安く買い叩かれているようです。」

 

「商人が魔石を?かなりきな臭いな。今、その二人はどこに居るんだい?」

 

「今はオラリオに滞在しています。しかし、周りを警戒をしている素振りは全くなく、逆に罠なのではないかと考えたくなる程です。」

 

「そうか。・・・分かった、じゃあ案内してくれ。」

 

「って今の話聞いてたんですか?罠の可能性が高いんですよ!」

 

「罠なら喰いついてあげなきゃ何も得られないだろ。なぁにいざとなったらしっかり俺を守ってくれよ。期待してるぜ。」

 

そう言うとヘルメスはアスフィの頭をポンポンと叩いた。

 

「もうやだ・・・」

 

アスフィのため息混じりの言葉はヘルメスには届かなかった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ヘルメスとアスフィが訪ねたのはオラリオでも中級レベルの宿の一室だった。清潔さは低レベルな宿に比べれば高いが、簡易のベッドがあるだけの質素な宿だ。しかし、その部屋に入ると周囲と隔絶した雰囲気を感じた。

 

中に居たのは調査通り二人。しかし、明らかに雰囲気が違う。報告では商人の娘は我儘で傲慢なお嬢様らしく滅多に人に会うことはないが、絶世の美女と聞いている。しかし、中に居た彼女はあまり見かけないデザインだが遠くから見ても高級な素材のメイド服を着て迎えている。その姿はこの姿が本当の姿であるように様になっていた。またもう一人の執事は格好こそ代わりないが温厚な好々爺という報告とは対照的に鋭い眼光でこちらを迎え入れた。

 

「ようこそ、お待ちしておりました。()()()()()、我が主、アインズ・ウール・ゴウン様が歓迎したいとのことです。」

 

アスフィは聞こえない程度に舌打ちをした。すでにこちらの情報を把握しているだけでなく、先程ここに来ることを決めたことすらも知られているからだ。

 

「ヘルメス様、ここは危険です。お下がりください。」

 

しかし、ヘルメスはアスフィの手で制し、下がるように促す。

 

「アスフィ、大丈夫だよ。彼等は僕達を歓迎してくれるみたいだ。」

 

ヘルメスはアスフィの頭をポンポンと叩き落ち着かせる。普段と変わらないヘルメスの姿に安心を感じる。冷静さを取り戻したアスフィはヘルメスの言う通りヘルメスの後方に下がった。

 

「準備は整ったでしょうか?それではこちらになります。」

 

セバスは何事も無かったかのように二人を奥に案内する。アスフィはヒヤリと汗を流した。少し前まで一触即発の可能性があったにも関わらず、セバスはそれを意にも介していなかったからだ。

セバスが案内した先には人が全身を写すほど大きな鏡のようなものの前が置かれていた。しかしそこに写るのは前に立つセバスの姿ではない。全てを飲み込みそうな深い深い闇が渦を巻いて広がっていた。

 

「この中をくぐっていただければ我が主、アインズ様がおられるナザリック地下大墳墓へと繋がります。それでは私は先に失礼いたします。」

 

そう言うとセバスは闇に飲み込まれるように消えていった。その光景を目にした万能者(ペルセウス)の二つ名をもつアスフィは驚愕する。しかし、意を決し前を歩くヘルメスへと続くのだった。

 

 

 

 

 




二人の超越者がついにナザリックで接触を果たします。
さていったいどうなることやら・・・


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会合

思ったより進まない・・・orz


「アインズ様、セバスからの報告で監視されているとのことです。」

 

「ほう、そうか。相手は分かるか?」

 

「はい、ヘルメスファミリアの団員ルルネ・ルーイ。二つ名は【泥犬(マドル)】、Lv.3の盗賊(シーフ)です。」

 

「なかなかの相手が喰いつてくれたかな?」

 

「情報を抜き取るにはよい相手かと思います。」

 

アインズは現在、セバスを囮にして釣りをしていた。目標はならず者の冒険者だ。さらに言えば神の恩恵を受けた冒険者が発現したステータスやスキル、魔法だ。わざわざセバスにアインズがダンジョンで得た魔石を裏のルートで大量に売らせ、その情報をエサに相手がかかるのを待っているのだ。

 

「本当なら消えても良いような犯罪者が良いんだが、あまり弱すぎても使い物にもならんしな。それに団員が失踪した場合、神の反応が分からん。今回はキャッチアンドリリースってやつだな。」

 

「ではセバスがオラリオから出るタイミングでオラリオの外まで釣れれば作戦を決行したいと思います。」

 

アインズが本日の仕事を終わらせ、一息つく。最近の専らのリラックス方法は入浴だ。しかし、体の洗い方についてブラシでは肋骨や背骨など細かすぎて逆にストレスが溜まり新しい洗い方を模索中だった。

 

「・・・アルベド?本日の仕事はもう終わっただろう?退室しないのか?」

 

「アインズ様、前日アウラとマーレを連れてデートに行かれたとお聞きしました。」

 

「デ、デート?いや、そう言うわけでは無い。あれはオラリオの冒険者の実力を図るためにだな・・・」

 

アインズがアルベドの気迫に圧されながら答えると、本日のアインズ当番のメイド、シクススがシャルティアの訪問を知らせる。

 

「ご機嫌麗しゅう、我が君。」

 

「今日はどうしたシャルティア。」

 

「はい、それはもちろん愛しのアインズ様にお会いするためにまいりんした。」

 

「そう、じゃあ早く出ていきなさい。今、私とアインズ様とで重要な話をしているところよ。」

 

「これだからおばさんは、賞味期限が近いせいか見境がなくて嫌でありんす。」

 

「そういうあなたには賞味期限があるのかしら・・・」

 

「アインズ様、以前お話になられた()()()の件ですが、いつがよろしいでしょうか?」

 

シャルティアがアルベドの話を遮り、アインズに話を振った。アルベドはシャルティアの発言に口を開けて固まっている。逆にアインズは急に話を振られ戸惑っている。

 

「前回、ミノタウロスをナザリックに転移されたときにお約束していただいたのをお忘れになりんしたか?」

 

「ああ、あの時か。いやもちろん忘れてはいないぞ。」

 

アインズの返答にアルベドは白目をむいて立ったまま失神をしている。アルベドのライフは0だ。

ニヤリと笑みを浮かべるシャルティアはさらに畳み掛ける。

 

「アインズ様、今度ダンジョンに潜られる際はぜひ妾と一緒に行きんしょう。」

 

「ア、アインズ様。それでしたらアインズ様をお守りできる私の方が相応しいかと。」

 

アルベドが意識を取り戻し、慌ててアインズに涙目で訴える。

 

「アインズ様!妾が先にお願いしたんでありんすから先にご一緒するのは()でありんすよね。」

 

「いえ、アインズ様をお守りするには守護者最硬の()が適任かと!」

 

「児戯は止めよ。」

 

「「申し訳ありません、アインズ様。」」

 

「ダンジョンに潜るメンバーは考えている。」

 

メンバーはナーベラルを考えていたが、それを口にするとまた争いが起きそうなため、あえて口にはしない。

すると助け舟のようにセバスからメッセージが入る。

 

《アインズ様。現在、滞在している宿に監視をしているファミリアの主神であるヘルメス及び団長のアスフィ・アンドロメダが向かっているとのことです。いかが対処しましょう。》

 

《何、神自らが動いたのか?》

 

《はい。あと三十分ほどでこちらに着くかと。》

 

(やはり神の行動原理が読めん。どこまでがバレている?くそ、どうする。)

 

「アルベド、現在セバスの所に監視していたファミリアの主神が来るようだ。」

 

「ではナザリックに迎えいれてはいかがでしょうか?」

 

「この神聖なナザリックに下等生物を迎えるのでありんすか?」

 

「ええ、アインズ様のご計画を進める良い機会になるわ。」

 

(へー、アインズ様のご計画なんだー。そのアインズ様ってのは誰だ?ぜひ話を聞いてみたいものだ。)

 

アインズが現実逃避をしていると、シャルティアから質問が飛ぶ。

 

「ア、アインズ様。ぜひ妾にもそのご計画をお教え下さい。」

 

先程と攻守が交代しシャルティアが必死にアインズに詰めよる。

シャルティアに問われるが、そもそもそんな計画などないアインズはアルベドに丸投げする。

 

「アルベドよ。シャルティアに分かるように伝えてやるのだ。」

 

「しかし、アインズ様。これはまだ()()()()()()()で計画中の草案段階のもの。謁見での話し合いにより、今後の政策も変わる可能性があるため、まだ話すには早計かと。」

 

アインズに見えないようにシャルティアにチラリと笑みを見せつける。

 

(えー、なんだよ草案って。しかし余り聞くと分かってないと思われるし・・・)

 

「アインズ様、それでは準備の方を整えますがよろしいでしょうか?」

 

「え、・・・ああ、頼む。」

 

「それとナザリックの威光を見せつけるために、玉座の間にナザリックの精鋭を集めたいと思いますがよろしいでしょうか?」

 

「・・・許可する。」

 

「聞いた、シャルティア。あなたも早く玉座の間に入れる配下を選びなさい。これはナザリックの名誉に関わる問題よ。私は他の階層守護者に連絡するわ。急ぎなさい。」

 

「は、はいでありんす。」

 

「それでは私も準備に取りかかりたいと思います。」

 

そう言うと、アルベドとシャルティアはアインズの部屋を後にした。残されたアインズは一体何をすればいいか分からず無いはずの胃をキリキリとさせるのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

アスフィはナザリックという組織の力に圧倒されていた。まず、先程くぐった鏡のようなマジックアイテムだ。くぐった者を別の場所に転移させるマジックアイテムなど万能者(ペルセウス)の二つ名で自らもマジックアイテムを作成する者として余計に理解できてしまう。このアイテムがレベルの違うアイテムであると。

そして転移した先の光景だ。人よりも審美眼はあるつもりだった。しかし、置いてある調度品は今まで見たことも無いような細やかな装飾が施され、価値など図ることができない。それが何でもないように無数に飾られ、さながら神の神殿に来たような錯覚すら覚える。

 

「へー、これはすごいね、アスフィ。一つくらいお土産にもらえないかな?」

 

「ちょっ、ちょっとヘルメス様!壊したら私たちのファミリアでは弁償は不可能です。フラフラしないで下さい。」

 

「こちらにあるものなどたいした物ではありませんよ。壊した位であれば、わざとでなければ我が主はお怒りにならないでしょう。流石に私の権限でお渡しはできませんのでお会いになってご確認下さい。」

 

相変わらずマイペースの主神に落ち着くと同時に、これのどこがたいした物ではないのか聞きたくなる。

しばらく歩くと、審判の門とタイトルをつけたくなるような見事な扉が見えてきた。自然と唾を飲み込む。この先にどんな神物(じんぶつ)がいるのかと想像すると足が重くなる。

 

「じゃあ、行こうかアスフィ。」

 

「はい、大丈夫です。」

 

アスフィの覚悟が決まったのを確認するように扉がゆっくりと開かれた。

 

そして世界が凍りついた。いや、凍りついたような気がした。Lv.4のアスフィが見ただけで勝てないと判断できる程の異形のモンスター達がヘルメスを、アスフィを睨み付ける。一段上の玉座の回りにいる幹部であろう者達では遊び相手にもならないだろう。そして玉座に座るアンデッド、正に死の象徴だった。ヘルメスを守ろうと前に出ようとするが、まともに体が動かない。そんなアスフィをしりめにヘルメス様はつかつかと前に出て、帽子をとり、挨拶をした。

 

「初めまして、お会いできて光栄です。私の名はヘルメス。そんなに注目されては恥ずかしいじゃないか。ほら、彼女も固まってしまったようだ。ああ、彼女はアスフィ。うちのファミリアのエースだ。」

 

ヘルメスの挨拶に最初に答えたのは死の象徴の横に控えるカエル頭の異形のモンスターだった。

 

「アインズ様の前で不敬ですよ。《跪きたまえ》。」

 

するとアスフィは自らの意思とは無関係に身を屈めようとする。なんとか意思で留めるが、気を緩めれば直ぐに跪いてしまうだろう。逆にヘルメスはあっさりと跪いていた。視線がアスフィに余計に集まる。

 

「よせ、デミウルゴス。神に対して失礼ではないか。」

 

「は、申し訳ありません。アインズ様。《楽にしたまえ》。」

 

その声に体が軽くなる。モンスターが理性をもって話していることに軽く衝撃をうけるが、それ以上に納得もしてしまうほど隔絶した力量を感じた。

 

「いやー、助かったよ。」

 

「申し訳ない、私の部下が失礼をした。」

 

「何、うちの団員もあなたの部下を監視していたみたいなんだ。お互い様さ。」

 

「そうか、ではこれでお互い遺恨はないな。こちらこそお会いできて光栄だ、神ヘルメスよ。私はナザリック地下大墳墓の主、アインズ・ウール・ゴウンだ。」

 

「よろしく、ゴウン様…でいいかい?ところで今回はあなたに一つ提案があるのだがよろしいかな?」

 

「ほう、なんでしょうか。」

 

「うちのファミリア、ヘルメスファミリアに入らないかい?」

 

 

 

 




次回、さすデミタイム・・・の予定。


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ファミリア

デミウルゴスは悪くないんです(ToT)
全て私が悪いんです( ノД`)…
もっと頭のいい子なんですorz


「私のファミリア、ヘルメスファミリアに入らないかい」

 

玉座の間が沈黙に包まれる。その沈黙の時間が一秒毎にがアスフィの精神をガリガリと削る。そして、その沈黙を破ったのはアインズではなく、横に控えるシャルティアだった。

 

「ナザリックの軍門に下るの間違いじゃないでありんすか?」

 

シャルティアがヘルメスに見下しながら言うが、アウラがシャルティアの後頭部を叩いた。

 

「静かにせよ」

 

アインズの堂の入った言葉に言われた二人だけでなく玉座の間に居る全員の背筋がヒヤリとする。

 

「どうだい?」

 

「分かった、ヘルメスファミリアに入ろう」

 

玉座の間に居る僕達がざわつく。僕だけでない、アスフィもまたアインズの考えに理解が追い付かない。

 

「そうか、それは良かった。それでファミリアに入るに際して何か聞きたいことはあるかい?」

 

「そうだな、ファミリアに入るのは私だけということかな?」

 

「ん、いや特に制限はないよ。ただ余り子供達から外れた外見の者は控えて欲しいな。正体が露見する可能性もあるからね」

 

「了解した」

 

「もういいのかい?それじゃあ入団する人に恩恵を刻みたいんだけどいいかな?」

 

「分かった、どうすればいいのだ?」

 

「それじゃあ服を脱いで背中を見せて欲しいのだけれど」

 

その言葉に男性守護者と女性守護者(主にアルベドとシャルティア)で全く違った反応を示した。一方はヘルメスが主に敵対的行動をしないか警戒して、もう一方はアインズの体をなめ回すような視線を向けた。

 

「すまんが、アウラ。二人の様子を見ていてくれ」

 

アインズは身の危険を感じ、アウラにアルベドとシャルティアの監視を頼んだ。そしアインズはヘルメスを連れて別室で恩恵を刻むべく移動した。

しかし、そこで異変が起こった。ヘルメスがアインズに恩恵を刻もうとしたとき、何者かに妨害されるかのように拒絶されたのだ。

試しにセバスやマーレ、一般メイド、召喚したモンスターに至るまで試してみたがやはり結果は同じだった。

 

(くそ、アンデッドや肉体の有無だけではないみたいだな。やはりユグドラシルのステータスを引き継いでいるのか。)

 

「すまない、私では力になれなかったみたいだ。ただ、ファミリアのエンブレムは使ってくれて問題ないので登録の方はそれで行ってくれ」

 

「分かった、また何かあればこちらから連絡しよう」

 

こうして二人の超越者(デウスデア)の会合は終わった。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

ヘルメス達が帰った後、玉座の間にはアインズと守護者達が残り、アインズに真意をうかがっていた。

 

「アインズ様。なぜあのようなものの下につくようなことをしたのでしょうか?」

 

「ぼ、僕にも教えて下さい」

 

「申シ訳アリマセン。愚カナ私ニモオ教エ下サイ」

 

「妾にもお願いいたしんす」

 

みな、アインズの真意を理解し少しでも期待に応えられるよう必死だ。アインズ自身がそれを知りたいが、聞くわけにはいかない。そこでナザリックの頭脳であるデミウルゴスに丸投げする。

 

「ではデミウルゴス。私の代わりに説明してやってくれ」

 

「はい、アインズ。今回、アインズ様には三つの意図がありました」

 

「さすがだな、デミウルゴス。私の意図を全て把握しているとは」

 

デミウルゴスが嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「いえ、あの一瞬でここまで考えが及ぶアインズ様の知謀には敵いません。それでみなさん今回、ファミリアに入ることに何の意味が有ると思う?」

 

「んー、それはやっぱり冒険者として活動ができるとか、それに対する現地通貨が得られるとか」

 

(それは分かる、というかそれがメインな気がするが。後は何だ?)

 

「そうだね、アウラ。それは目的の一つだ。後は分かるかい?」

 

「新タナスキルヤ魔法ハ得ルコトガデキナカッタガ」

 

「確かに我々の能力を高めることができなかったのは残念だったね。もし、それができていればナザリックの増強ということで目的は四つになっていただろう。ナザリックの増強ができない以上、オラリオの冒険者達の力は正しく把握すべきだ」

 

「で、でも・・・他の冒険者のスキルは秘密なんじゃ。」

 

「そうだね、マーレ。確かに町中では難しいでしょう。しかし、ダンジョンでは何が起こっても不思議ではありません。冒険者となれば堂々とダンジョンに潜り、しかもその中で監視される危険性は限りなく低いでしょう。そして三つ目ですが、現在オラリオにはいくつものファミリアがありますが、その中でも現在二大勢力としてフレイヤファミリアとロキファミリアがあります」

 

「フレイヤとロキでありんすか」

 

「そう。ただ以前は別のファミリアが勢力を誇っていたらしい。詳しくはまだ調査中ですが、その二つのファミリアに追い出されたようです。ではこれからオラリオの最大勢力になるのはどこだろうね?」

 

守護者達がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「オラリオは世界の中心と言われているようです。オラリオの全てを手にいれようではありませんか。」

 

一人話についていけていないアインズを残して守護者達は野望を燃やすのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「とまぁ、ここまでは考えてるかもしれないね」

 

ヘルメスはあっけらかんと答える。

 

「そ、そんな。ではなぜファミリアに入団させたのですか?」

 

「だってそうでもしないとあそこでゲームオーバーになってたぜ。今のところ対抗策もないし。思わぬ誤算だったのは彼らがこれ以上強くなることはないって分かったことかな。まあそれでも勝ち目はないけどね」

 

ヘルメスはお手上げといったポーズをして天を仰いだ。

 

「それは・・・確かにそうですけど」

 

「まあ、部下達はともかく、あの子がどこまで押さえてくれるかにかかってるかな」

 

「あの子・・・ですか?」

 

「いやなんでもない。そうだアスフィ、悪いが旧友に会う予定があるんだ。すまないがしばらくオラリオを離れるよ。その間、ファミリアを頼んだ」

 

「ちょっと、待ってください。こんな大事の時にオラリオを離れるのですか?」

 

「なあに、すぐ戻るさ。じゃあ、後は頼んだ。みんなによろしく言っといて」

 

そういうとアスフィの頭をポンポンと叩き、ヘルメスは雑踏の中に消えていった。

 

しばらく休みをとろうと誓うアスフィだった。

 

 

 




やっと書きたかった冒険者に入れるよ(*´∀`)♪
長かった・・・


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祝・冒険者

やっと冒険者として歩み出せました(*´∀`)♪
書いてて面白いです(^^)


漆黒のフルプレートに身を包み、瞬く間に襲ってきたモンスターを二本のグレートソードで返り討ちにする。モンスターは頭と胴体が今生の別れを果たした。その斥力は下級冒険者のステータスを優に越えており、自称Lv.1の冒険者とは疑わしい。

 

「ソリュシャン、この辺りにまだモンスターはいるか?」

 

「いえ、もうこの辺りには居ないようです」

 

「そうか。残念だ。では次の階層に進むとするか」

 

「畏まりました。こちらが攻略ルートになります」

 

現在、アインズもといモモンはナザリックの僕からパーティーを組みダンジョン攻略にあたっていた。現在のパーティーはモモン、シャルティア、ナーベラル、ソリュシャンだ。このパーティーを発表したときのNPC達の阿鼻叫喚の様はいい思い出だ。

ただ、アインズとしてはこのメンバーは決定ではない。なぜならヘルメスファミリアに入ったのは四人だけではないからだ。そう冒険者登録をした日を懐かしく思い出す。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

フルプレートに身を包みモモンとして再びオラリオに戻ってきたアインズは感情が抑制される程度に浮かれていた。

 

「チッ、また抑制されたか。お前達、絶対に街の中で騒ぎを起こすんじゃないぞ。」

 

そう言うとアルベド、シャルティア、アウラ、マーレ、セバス、ユリ、ルプスレギナ、ナーベラル、ソリュシャン、エントマ、シズの11人が頷いた。

本当はアルベドにはナザリックの運営のためにナザリックに居て欲しかったが登録だけでもと泣きつかれ渋々了承した経緯がある。ちなみにコキュートスにも懇願されたがどうしようも無いため諦めて貰った。逆にデミウルゴスは自ら辞退していた。

 

冒険者の登録と言っても面接などがあるわけでなく所属しているファミリアと人物の確認、名前を記入して終わりだ。雑務は僕の役割と言われたが、ユグドラシルでナザリックの管理をしてきたアインズは自分がやりたいと固辞し、代表してカウンターに向かった。

 

「モモンさん!ファミリアに入ったのですか?」

 

その声が聞こえたほうに目をやると前回対応してくれたハーフエルフの女性、エイナだった。

 

「ええ、おかげさまで。」

 

「おめでとうございます。それとありがとうございました。」

 

アインズが感謝の意味を理解できず困惑すると、エイナから説明が加えられた。

 

「覚えていませんか?モンスターフィリアの時に市民をモンスターから守って下さったことです。あの時はまだ冒険者ではなかったですが、ギルドを代表して感謝を伝えます。」

 

「困っている人が居たら助けるのは当たり前、ですからね」

 

「素敵な言葉ですね。」

 

「ええ、私の憧れている人の言葉です」

 

「それで今回登録するのはモモンさんだけですか?」

 

「いえ、私の他に後11人居ます」

 

「そんなにも居るのですか?」

 

「ええ、みんな私の最高の友人たちの子供みたいなものです」

 

アインズが誇らしげにエイナに自慢をすると、エイナは微妙な反応を見せていた。慌ててモモンは後ろにいる僕達に目をやる。僕達が居た場所にはたくさんの人垣ができていた。

 

「ねぇねぇ、僕達と一緒にご飯食べに行こうよ」

 

「フフ、お戯れを」

 

そう言うと眼鏡をクイッとあげながら肩を組もうとする男神の手を素早く叩き落とす。

 

「これがいいんすかっ?」

 

「はい、お願いします」

 

隣では四つん這いになった男神の臀部を足で踏んでニヤニヤと喜んでいる。二人とも凄く幸せそうだ。

 

「この蛆虫が、気安く話しかけるな」

 

「ありがとうございます!」

「おい、次は俺の番だぞ!」

 

「えぇい、気持ち悪い。よるな!」

 

「ソリュシャンちゃん達はどこのファミリアなの?」

 

「ヘルメス様のファミリアです」

 

「「「「ヘルメスのヤロォォォ~~~~~~!!!!!!」」」」

 

「あいつさえいなければソリュシャンちゃんはおれのファミリアに入る予定だったのに~~~!」

「ヒッヒッ、怨みは無いがあいつには天界に還ってもらうぜ!」

「まぁ、ありがとうございます。楽しみにしてます」

 

「エントマちゃん。これ食べる?」

 

そういうとエントマは無言でジャガ丸くんを頬張る。その光景を男神は幸せそうに見届ける。そしてすぐにまた新たなお菓子を買いに走っていった。

 

「シズちゃん、こっち向いて」

 

「・・・・」

 

「このツンデレがたまらない!」

 

「ねえ君の名前はなんて言うの?」

 

「マ、マーレ・・・です」

 

「ちょっとマーレ!こんなのにいちいち答えてるんじゃないの!」

 

「で、でも、お姉ち~ゃん・・・」

 

その時男神達に天啓が下りた。

(((男の娘だと!!!!!)))

「俺にはレベルが高すぎたよ、燃えつきちまったぜ。真っ白によ」

「俺始めて見たよ。生きてて良かった」

「神に感謝を」

 

「ぅ、うへヘェェぇっーーーー●∈▼↑$〇〆〃」

一人の男神が発狂し、シャルティアを抱えて走り出そうとした。その動きはレベルがカンストしているはずのシャルティアをも驚かせた。

しかし、それよりも早く回りの男神達がその男を袋叩きにする。呆然とするシャルティア。

 

「「「イエス、ロリータ。ノー、タッチ!」」」

 

こいつらダメだ、そう思いモモンはナザリックの良識、セバスを探す。

 

「ねえ、セクシーなお・じ・さ・ま。私達と遊びに行かない?」

「申し訳ありません、主を待っていますので。」

「じゃあその後なら良いのね」

「い、いや・・・」

汗をハンカチで拭きながら女神達の誘惑を丁寧に断っている。

 

モモンはアンデッドで良かったと心から思った。肉体があれば間違いなく泣いていただろう。

 

人知れずひっそりとモモンは光に包まれた。

 

その中で一人、誰からも相手にされていない僕がいた。そう、アルベドだ。モモンと同じ全身鎧を身に纏い、シルエットから女性と判断できるが、目の前に色とりどりの美女が揃っているなかわざわざ彼女を選ぶ必要はない。

アインズは僅かながらにアルベドに同情する。

 

「アルベドよ、気にすることはないぞ。アルベドの溢れでる魅力に気付かないとは愚かな事だ」

 

完全に蛇足だった。後にアインズはこの時の発言をこう評した。

 

プルプルと震えているアルベドに不安になってアインズが声をかけた。

 

「ど、どうしたアルベド?」

 

「ア、アインズ様~~~~!!!!もう我慢しなくて良いんですよね!ほんの少しでいいんです。そう、天井の染みを数えている間に終わります。」

 

「アルベド!!!だっ、誰か!アルベドが乱心した!!!」

 

 

こうして冒険者初日からギルドのど真ん中で騒動を起こし出禁になりかけた一行はなんとか無事に冒険者として歩み出すことができた。

 

ちなみにアルベドは謹慎が言い渡された。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふぅ・・・」

 

「お疲れでありんすか、アインズ様」

 

「いや、問題ない」

 

あの時のことを思い出すとまだ心が沈静化される。アルベドは疲れていたんだ。少し休みを取らせた方がいい、そうアインズは固く信じている。

 

「アインズ様、前方に人間が二人居ます。」

 

ソリュシャンの索敵に入ったのだろう。やはりソリュシャンの盗賊のスキルは使えるなと確信する。

 

「ふむ、あまりダンジョンで冒険者に近づきすぎないのがルールらしい。別のルートを探すか」

 

「畏まりました。ですがどうやら一方の人間は倒れているみたいです。もう一人の方も座り込んでいます」

 

「なんだと、どういう状況だ?少し気になるな。案内してくれ」

 

「畏まりました。こちらです」

 

モモン達はソリュシャンの案内で通路を抜け視界が開けたルームへと入った。

そこには金髪金眼の美少女が座り込んでいた。そしてその膝には見覚えのある白髪の少年ベル・クラネルが寝ている。いわゆる膝枕というやつだ。

 

「バッ、バカヤロ~~~~~~~~!!!」

 

どいつもこいつもイチャイチャ、イチャイチャしやがって冒険しにきたのじゃないのかよ。モモンは捨て台詞を吐いてルームから飛び出した。慌てて追いかける僕達。そして意味不明のままポツンと取り残されたアイズ。

 

その夜、モモンの悲痛な叫びがこだました。




徐々にベル君とも接点を増やしたいですね(о´∀`о)


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ルーキー

なんとか冒険者になったアインズ様一行

新たな一歩が幕をあける・・・かも


「初ダンジョンでセーフティポイントまで行った~~~~~~!?」

 

日が沈みかけた夕方のギルドには多くの冒険者達が探索を終え、獲得した魔石を換金のためごった返していた。その中でギルド職員のエイナの声が大きく轟いた。

 

「え、は、はい。ダメだったのでしょうか?」

 

それに戸惑いながら答えたのは前回冒険者になったばかりのルーキー、モモンだ。ちなみに他のメンバーはアインズの命令で渋々ギルドの別室で待機している。と言うのも前回の騒動でギルドから目をつけられているからだ。

 

新たに担当を請け負ったエイナは一週間ぶりに顔をだした冒険者モモンに安堵すると共に大きな溜め息をした。

 

「あのですねぇ、中層に行くには少なくともLv.2の上級冒険者になって、さらにしっかりと準備してからでないと危険なんです。いくらモモンさんがミノタウロスを吹き飛ばすほど強くてもダンジョンでは何が起こるか分からないですから無茶はしないで下さい。命は一つしかないんですから、冒険者は冒険してはいけないんですよ」

 

エイナの勢いに年上であるはずのモモンは小さくなって謝った。

 

「あの本来はLv.2に上がらないと中層に向かうのはお勧めしないのですが、モンスターフィリアの時に見せて頂いたようにモモンさんの実力は把握しているつもりです。ですが念のためステータスを見せていただけないでしょうか?」

 

「え、でもステータスは他人に見せるものでは無いと聞いたのですが・・・」

 

「はい、なので絶対に余計な箇所は見ませんし、口外もしません。もし、約束を破ったらなんでもします。お願いします」

 

アインズは躊躇するがこの女性は自分を心配して話してくれているのだと理解できた。

 

「いえ、そこまでしていただかなくても大丈夫ですよ」

 

そう言ってアインズはフルプレートを脱ごうとした。しかし、突然モモンの動きが止まった。

 

「? どうかされましたか?」

 

アインズは一瞬トラウマが脳裏をよぎった。もちろん彼女は何も悪くない、頭では分かっていてもどうしても不安を拭いされなかった。

 

「す、すいません。少しだけ後ろを向いていただけないでしょうか」

 

「あ、すいません。・・・はい、もう大丈夫です」

 

モモンはエイナから距離をとりフルプレートを脱いだ。もちろんその下にあるのは骨の体だが幻影を見せている。触れられなければ問題はない。

 

エイナはモモンの合図で振り向いた。そこには予想通りエイナより年上のヒューマンが立っていた。顔は東洋系の顔をしており、エイナのタイプという顔ではなかった。体を見るがそこまで筋骨粒々という訳ではない。どこからあのパワーが出るのか疑いたくなる。そしてお目当てのステータスを確認した。

 

 

モモン

 

Lv.1

力:A 801 耐久:B 775 器用:D 574

敏捷:C 683 魔法:I 0

 

 

(冒険者になったばかりでこのステータスはかなり異常なレベルね。ただこれではミノタウロスを倒せる筈はないんだけど・・・。スキル?)

 

エイナはスキル欄をどうしても気になり申し訳無いと心の中で謝りながらスキル欄を見た。

 

《スキル》【】

 

思いの外スキルの欄には何も記載されていない。まだまだ神の恩恵については不明な部分もある。これ以上追求するのは諦めた。

 

「すみません、ありがとうございました」

 

「もうよろしかったですか」

 

「はい、ステータスだけをみるとまだ中層に向かうには早いですが、実績もありますし特例として認めるとしましょう」

 

「ありがとうございます」

 

「た・だ・し、中層に向かうのであればせめてサラマンダーウールは人数分用意してください」

 

そう言ってエイナは割引券をモモンに差し出した。

 

「これは・・・、ありがとうございます。ですがどうしてここまでしてくださるのですか?ギルドは中立と聞いていましたが」

 

「そうですね、本当は同僚にも深入りするなとは言われているんですけど。それでも私が担当している冒険者が帰ってこなくなるんじゃないかと思うと少しでもできることがないかって考えるんです」

 

アインズはエイナの想いに過去の自分を重ねる。

 

「・・・そうですね。仲間が帰ってこないのは悲しいですからね」

 

モモンのポツリと言ったその言葉にエイナは重みを感じた。過去に仲間を失ったことがあるのだろうと推測する。あまり過去を聞くのは野暮だと話を切り替えた。

 

「そうですよ。私を悲しませるような事はしないで下さいね。そのためにモモンさんにはダンジョンの知識をできるだけお伝えしたいのですがお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 

「ええ、そういうことであれば喜んで」

 

「今、ちょうど別の新人冒険者の方にも教えているんです。ご一緒でもよければダンジョン探索が終わった後にギルドまで来てください」

 

モモンは了承すると、一週間貯めた魔石を換金するため換金所に向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ダンジョン地下2階、モモンは攻略ルートから外れた奥深くにいた。

 

「ここは行き止まりっと、だいぶこの階のマップも埋まってきたな。」

 

アインズは以前エイナに叱られたこともあり、少しずつ攻略していくことに変更した。エイナとの勉強の約束もあるため日帰りで帰ってくる必要があるのも理由の一つだ。何より上層などであれば地図が出回っているのは知っているが、自分で地図を作製し埋めていくという冒険をする事が楽しかった。どれだけモンスターを倒したところで経験値が稼げないのであれば下に急いで潜る必要はない。日銭稼ぎをするよりも未知を概知にしていくほうが冒険者らしく感じる。

 

「ここは食料庫(パントリー)というやつか」

 

見るとルームの中心にある水晶の樹木から染み出た液体をモンスターたちが摂取している。染み出た液体によって小さな池ができていた。

 

「ほう、なかなか美しいものじゃないか」

 

そうモモンが呟くと控えていた僕達が一斉にモンスターに襲いかかっていた。

 

「ん~、やっぱりぃ~美味しくないよぅ」

 

エントマがポリポリとゴブリンだったものの足を食べている。ギリギリ生きているのかまだ灰にはなっていない。

 

「そんなにこんなものが食いたいんすか?じゃあ手伝ってあげるすっよ」

 

ルプスレギナはパントリーの池に顔をつけていたコボルトの頭を鷲掴みし溺れさせている。

 

マーレはアインズに誉めてもらおうと、池の回りに局地的な地震を起こした。地割れに巻き込まれモンスター達の憩いの場は地獄とかした。そして一瞬にして食料庫(パントリー)など初めからなかったかのように部屋はもぬけのからになっていった。

 

「マ、マーレ。頑張ってくれるのはうれしいがダンジョン内で地震を起こすのは止めような」

 

誉めてもらえると思ったマーレは思いもよらない言葉に垂れた耳をさらに下に垂らした。

 

しばらく探索し約束の時間が迫ってきたためダンジョンの入り口に戻ろうとしているとモモンを呼ぶ声が遠くから聞こえてきた。

 

「あのーー、すいません。以前、ミノタウロスから守ってくださった方ですよね?」

 

モモンはその声の主に目をやるとベル・クラネルが小走りで近づいてきた。

 

「君はクラネル君か?」

 

「あれ、前自己紹介しましたっけ?はい、ヘスティアファミリアのベル・クラネルです。以前は危ないところを助けて頂きありがとうございました」

 

アインズは自分がモモンの時に挨拶をしていなかったことを思いだし焦った。

 

「いや、とんでもない。無事そうで何よりだ」

 

「ベル様、ベル様。この物凄く強そうなお方はどなたですか?」

 

「ああ、リリ。この人は僕がミノタウロスに追われていた時に助けてくれた、・・・えーっと、まだ名前を伺ってなかったですね」

 

まだ自己紹介が済んでいないことに気付きモモンの方を伺う。

 

「自己紹介が遅れました。私はモモン、そして後ろにいるのがルプスレギナ、エントマそしてマーレだ」

 

ルプスレギナは新しい玩具(おもちゃ)を見つけたようにニコニコと手を振った。残りの二人は特な興味もなく無反応だった。

 

「・・・・あれ、マーレ、ちゃん?」

 

「え?」

 

ベルの様子にモモンは戸惑う。

 

「マーレちゃんって、確かゴウン様のお屋敷にいたと思ったんだけど・・・。」

 

そして何かに気付いたようにベルはプルプルとモモンを指差し震えだした。

 

「ま、ま、まさか?ゴウン様ですか!?」

 

「しーー!静かにするんだ。これには深い訳があってだね、お忍びでここにいるんだ。この事は私と君だけの秘密だよ」

 

ベルの口を抑えこそこそと話している二人にリリは疑いの目を向ける。

 

「それでベル君、彼女は君の新しい仲間なのかい?」

 

「あ、はい。ゴ・・・()()()さん。と言ってもまだ最近会ったばかりなんですけどね」

 

わざとらしく話を切り替える二人に疑念の目を向けるが、自分の話を振られたため自己紹介をする。

 

「はい、ベル様のサポーターとして雇っていただいているリリルカ・アーデといいます」

 

「サポーター?」

 

「モモン様はサポーターをご存知ないのですか?」

 

「ああ、まだ最近冒険者になったばかりなんだ」

 

「サポーターというのは要はその名の通り冒険者のサポートをするのが仕事です。ただし、モンスター討伐などの支援はできません。サポーターとは冒険者になれなかった落ちぶれものです。冒険者の後ろで荷物を持ったり冒険者の邪魔にならないように動くのが仕事です」

 

「リリ、そんなことないよ。僕は凄く助かってるから」

 

ベルは必死に否定するがモモンはリリの容姿から確かに冒険者向きではないことを悟る。

 

「ここでお会いしたのも何かの縁です。見たところサポーターは雇っていないようですし、もし残念なことにベル様との契約が切られたときはぜひお雇い下さい。お安く働きますよ」

 

「ああ、私たちのパーティーには必要がない。これがあるからね」

 

そう言ってモモンは小さな袋を取り出した。

 

無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)とは言うものの500kg程度しか入らない袋だがダンジョン探索には役にはたつ。ベル君、よければ一つ貸そうか?」

 

ベルとリリは見たこともないマジックアイテムに驚愕する。特にリリにとってはそんなアイテムが市場に出回ったら仕事など回ってこないだろう。

 

「ベル様!リリはもう役立たずなんでしょうか?」

 

「いやいや、そんなことないよ。リリにはいろいろダンジョンの事とか教えてくれてるし、すごい助かってるよ。モモンさん、申し訳ありません。凄くありがたいお話しなんですけど、お断りさせていただきます。それに最近大切な物を落としたばかりなのにそんな価値のあるもの怖くて持ち歩けません」

 

「そうか?別にたいしたものじゃないと思うが・・・」

 

リリはモモンという男の価値観の違いに圧倒される。もしモモンからマジックアイテムを奪えれば簡単に目標を越えるであろう。しかし、彼の後ろに控えている少女達をチラリと伺う。

リリには分かる。あれは絶対に敵に回してはいけないと。サポーターという弱者の中で培った処世術が警鐘を鳴らし続けている。

 

「ではベル様。換金所が冒険者で混んでしまいます。そろそろ行きましょう。」

 

「え、うん。それではモモンさん。これからもよろしくお願いします」

 

「ああ、お互い頑張ろう」

 

リリに引っ張られるようにベルはダンジョンの入り口に向かっていった。そしてモモンもそれに続き歩きだした。

 

 

 

 

 

「あ、モモンさん。お疲れ様でした。ちょうど今から勉強会を開こうとしていたんです」

 

エイナがギルドに顔を出したモモンに声をかける。

 

「こちらが私のもう一人の担当冒険者のベル・クラネル氏です」

 

「え?」

 

そういうと白髪の少年がモモンの方を顔を向けた。

 

「はじめまし・・・、あれ、モモンさん?」





まだリリはベルの仲間になっていません

分かりにくかったらごめんなさいorz


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感情






「で、できた~~~~」

 

「はい、お疲れ様でした。ではモモンさんもそろそろ終わりにしましょうか」

 

ベルはエイナに用紙を渡すと机に伏した。隣にいるモモンは終始、エイナから講習を受けていた。というのもモモンはこの世界の言語である共通語(コイネー)が書けなかったからだ。

アンデッドであるアインズと違い、朝から晩までダンジョンに潜りエイナのスパルタ教育を受けたベルはクタクタになっていた。

 

「すごいですね、モモンさんはまだまだ余裕そうですね」

 

「いや、そんなことはないさ。まさかこんな遅くまで付き合ってもらえるとはエイナさんには感謝しないといけないですね」

 

アインズはダンジョンのイロハを丁寧に教えてくれるエイナに素直に感謝した。アンデッドとなり人間への共感が薄れている感覚があるため、余計に強く思わないと人間だった鈴木悟としての感覚を忘れてしまいそうな気がした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝、モモンは今日も別のNPCを引き連れダンジョンに向かっていた。今日のメンバーは反省を生かし、カルマ値の高めのメンバーを連れている。セバス、ユリそしてシズだ。今日はトラブルが起こりようもない布陣に安心をする。

しかし、アインズの期待は簡単に裏切られた。モモン達がダンジョンの入り口の広場にやって来た時、セバスから喧騒に素早く気付いた。

 

「モモン様。よろしいでしょうか」

 

「この姿の時は様を付けるな。どうした?」

 

「申し訳ありません、モモンさん。あちらでクラネル氏がトラブルに巻き込まれているようです」

 

セバスが指す方向を見るとベルが男性冒険者に詰め寄られていた。ベルのトラブルを呼び寄せる体質に呆れるが、セバスとユリは鋭くモモンを見据えている。

 

(カルマ値が高いとこういう事があるのか・・・)

 

「仕方がない、仲裁に入るぞ」

 

「「ハッ!」」

 

 

 

「このクソガキがぁ・・・」

 

二人はにらみ合い一触即発だった。童顔のベルもありったけの力を眉間に込めている。それが気に障ったのか男が腰にさした剣を抜こうと手をかけた。咄嗟にベルも及び腰だが対抗してナイフに手をかけようとした。

 

「それくらいにしたらどうですか」

 

「あぁ?なんだジジィ、邪魔をす・・・」

 

続きを言おうとしたが自分の置かれた状況に気付いた。既に周囲は囲まれており、何より目の前の老人の鋭い視線に怖じ気づいた。

男は自分の不利を悟り、舌打ちをしてベル達から離れていった。

 

「どうやら余計なお世話をしてしまったようですね、クラネルさん」

 

「いえ、とても助かりました。ありがとうございました」

 

「ところでどうしたんですか?ベル君は相手に絡むような性格ではないと思っていたが。あの男は何で君に絡んで来たんだ?」

 

ベルはモモンの質問に一瞬顔をあげ何かを言いそうになるが、すぐに下を向き口を紡いだ。

 

「言いたくないのなら別に言わなくて良い。ただ、一つ年上の者として忠告しておこう。昨日、君といたサポーターとは余り一緒にいない方がいい。君は優しすぎる」

 

モモンの忠告にベルはハッと顔を上げた。

 

「すまない。盗み聞きをするつもりはなかったのだが、耳はそれなりに良い方なのでね。彼女にどのような背景があるかは知らない。ただあんな小さな子が生きていけるほどダンジョンとは生易しいものではない筈だ。ましてや落ちこぼれと言われるサポーターとしてだ。君には想像できない事もしているかもしれない」

 

「そ、それでも、それでも僕は・・・」

 

そう言ってベルは悔しそうに俯いた。

 

「すまない、君を責めているわけではないんだ。君のパーティーだ。君がしたいように決めれば良い」

 

そう言うとモモン達は先にダンジョンへと向かった。ベルはまだ何かを考えているように下を向きながら立っていた。そしてその一部始終を見つめる小さな少女の姿があった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

翌日、モモンもまた変わらぬ日課を過ごしていた。

 

(昨日はベル君は勉強会には来なかったな。まあ、いろいろと考えることもあるだろう。あの子は優しすぎる、いや、甘さと言うべきか)

 

「どうかなされましたか?モモンさーーーん?」

 

「相変わらずナーベラルはその癖抜けないね」

 

「そっすよ。ナーちゃん。リラックス。リラックス」

 

「そう言うルプスレギナは気を抜きすぎ。いくらなんでも不敬でしょ」

 

「いやよいのだ、アウラ。今はモモンとして、同じパーティーのメンバーだ。固くなる必要はない」

 

モモンはアウラの頭をポンポンと頭を撫でる。アウラは嬉しそうな顔でモモンを見つめている。これには二人も羨望の眼差しを送った。

 

「さてそろそろダンジョン探索に行くとしよう」

 

モモン達がバベルに向かうとエイナが冒険者に何かを訴えて居るのが見えた。軽く挨拶をし通り過ぎようと考えたが、エイナはモモンに気付くと小走りで走ってきた。

 

「すいません、モモンさん。こんなことをモモンさんに頼むのは筋違いなのですがベル君がトラブルに巻き込まれる可能性があるんです」

 

「それはもしかして例のサポーターの件ですか?」

 

エイナは軽く驚き、小さく頷いた。

 

「それでは協力はできません。私は既に彼に警告をしています。その上で彼女と関係を持つのであれば、それに関する厄介事は彼が責任を負うべきだと思います」

 

エイナはモモンが正しい事を言っていると理解できる。これはベル自身の問題である。それにそもそもモモンには関係がないことだ。

 

「ただ、それでも、どうしても私はベル君に居なくなって欲しくないんです」

 

モモンは少し考えていた。依頼を断る理由ではない。エイナがベルを想う気持ち、自分が失いかけている人間への共感を。

 

(やはり人間は眩しいな・・・)

 

「分かりました。エイナさんには恩があります。恩には礼で返さなくてはいけませんからね」

 

「ありがとうございます!」

 

「ところで先程話していた女性は?」

 

「ご存知ないですか?彼女はロキファミリアの第一級冒険者のアイズ・ヴァレンシュタイン氏です。彼女もベル君とお知り合いというか・・・ちょっと微妙な関係なんですけど今回の件をお願いしております」

 

(そう言えばこの前ベル君をひざ枕していた子に似ているな。彼女か?)

 

「分かりました。そんな方が手助けしているのならば私など必要ないと思いますが出来る限りのことはしましょう」

 

モモンはエイナと別れ、ダンジョンに入った。

 

「ではアウラ、どの程度探索範囲を広げられる?」

 

「上層程度であればほぼ把握はできるかと」

 

「分かった、最短経路で行くぞ。案内を頼む」

 

「はいっ!!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「リリ、何を言ってるの?」

 

「ごめんなさい、ベル様。もうここまでです」

 

ベルは未だに信じられないような顔でリリを見つめる。

 

「さようなら、ベル様。もう会うことはないでしょう」

 

リリはベルからヘスティアのナイフを奪い、霧の中に消えていった。すぐにでもその後を追いたいが囲まれたオークの群れに対応を余儀なくされた。

 

 

 

 

「モモンさん、こちらです。」

 

「だろうな、所々にモンスターが死んでいる。恐らく先に向かった第一級冒険者を襲って返り討ちにあったのだろう」

 

まだ灰にもならず一撃で倒されているモンスターが通路に転々と転がっている。最短で進んでいるモモン達がまだ追い付けない事を考えると、さすが第一級冒険者と思える。

 

モモン達が10階層に到着した時、既にアイズがベルを囲うモンスターを倒し包囲を破っていた。その一瞬の隙をついてベルは無理矢理包囲網を破っていった。

 

「ルプスレギナ、ナーベラルはベルを追跡せよ。私は少しあの者を観察する」

 

その命令に即座にルプスレギナ、ナーベラルはベルを追いかけた。

 

 

 

(・・・見られている?)

 

アイズは自分を観察するような視線に気付いた。オークを一撃で沈めながら視線のする先を目指す。

 

「・・・あなたは?」

 

「私はモモンといいます。先程、ギルド職員から貴方と同様の依頼を受けたものです。ですが私は不要だったみたいです。さすがは第一級冒険者ですね」

 

「私の後をついてきたの?」

 

「ええそうですが、何か?」

 

アイズは自分がほぼ全力でここまで来たことを思い出す。ベルを探し、モンスターを倒しながらと言ってもそれほど時間をかけたつもりはない。ましてやそれはこのモモンという冒険者も同じ条件だ。しかもモモンという冒険者など聞いたことはない。冒険者はランクアップすれば嫌でも名前が売れる。逆に言えば名前を知らないものはランクアップをしていない可能性が高い。目の前のモモンという男に興味を示しているとモモンから声をかけられた。

 

「これは・・・ベル君のつけていた装備みたいですね。アイズさんが渡した方が良いでしょう。宜しく頼みます」

 

彼女と決めつけているモモンにアイズは首を傾げながらもベルが落としたプロテクターを受け取った。

 

 

 

 

《ナーベラル、ベルの様子はどうなっている?》

 

《ハッ、モモンさーーん。現在、ボロ雑巾のようになった蛆虫を助けています》

 

《ん、どういうことだ?》

 

《そ、それはすいません、分かりかねます。あ、あのルプスレギナから報告があるとのことです》

 

《モモンさん、ルプスレギナが報告するっす。恐らくですがリリちゃんは今まで盗んできた被害者にリンチされたんだと思うッス。まあ、自業自得って所ッスね》

 

《ほう、よく分かったな》

 

《そりゃー、私ならどうすれば一番面白くなるかって考えれば想像はつくッスよ》

 

《・・・そうか。所でそいつらは特定できるか?》

 

《大丈夫ッス。残り香は覚えてますから。うまくいったと思った所を突き落とす。さすがアインズ様ッス》

 

《もうベルの方は本人に任せればいい。そいつらの所に案内してくれ》

 

 

 

 

「ギャハハハッ、うまくいったな、カヌゥ。」

 

「あそこまでうまくいくとはな。最後に俺達のサポートができたんだ。アーデも本望だろうよ」

 

カヌゥはリリから奪った貸金庫の鍵を見て下卑た笑みを浮かべている。

 

「フフフ、安心したよ。この世界にもお前らのようなヤツが居てくれて」

 

突然聞こえてきた声にカヌゥ達は一気に警戒心を高める。

 

「だ、誰だ?出てこい!」

 

暗闇から現れた全身鎧の男は躊躇することなくカヌゥ達に近づいてくる。明らかに自分達より格上の相手に身を固くする。

 

「おいっ、それ以上近づくんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ!!」

 

威嚇をするが全く効果がない。

 

「何、気にする必要はない。私には別に君達の行いを責める権利はない。私だって必要があれば似たようなことをするしな」

 

「じゃ、じゃあ見逃してくれるんだな・・・」

 

カヌゥは少しだけ安堵する。警戒しつつ横を通り過ぎようとした。それを最後にカヌゥ達はダンジョンから姿を消した。

 

 

「悪いな。私は非常にワガママなんだ」




気づけばもう11話・・・

原作だとまだ2巻くらい・・・

もっとサクサク進むと思ったのに(´・ω・`)


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第一級冒険者

(なんで俺、こんな所に居るんだろ・・・)

 

金髪金眼の美少女にひざ枕をされる少年とそれを見つめるおっさん。場違いな思いを感じながら、まだ日の昇らない空を眺めため息をついた。

 

 

 

数日前...

 

「アイズ・ヴァレンシュタインさんと特訓をすることになった?」

 

ベルとモモンはエイナのダンジョン講習の休憩時にベルから相談を持ちかけられた。モモンの脳裏にダンジョンでの二人のひざ枕を思い出したが、大人の対応をした。

 

「良かったじゃないか、アイズさんは上級冒険者ですし得られる経験も多いと思いますよ」

 

「いや、でも二人きりというのは少しというかかなり緊張するのですが・・・」

 

「今更、何を言っているんだ、ベル君。そう言うときこそ男性である君がリードしないと」

 

モモンことアインズ、いや鈴木悟としての経験を持ってしても知識のない内容だが、ユグドラシル時代の女性ギルドメンバーの会話の内容を思い出し出来る限りのアドバイスをする。

 

「リードするとか、逆に思いっきりリードされそうな気がしますよ。・・・そうだ!モモンさん。僕と一緒に特訓に付き合ってくれませんか?モモンさんが強いのは知ってますけどアイズさんが相手ならきっと為になりますよ」

 

モモンはベルとアイズがキャキャ、ウフフと仲良く稽古をしている横でポツンと立っている自分の姿を想像した。

 

「いやいや、おかしいだろ。付き合ってる君達二人の間に関係ない私が居たら彼女は怒るだろ。さすがにそれくらい私でも分かるぞ」

 

「え、いやいやいやいや、僕、アイズさんとお付き合いなんてしてないですよ。憧れているといかすごい綺麗な方だなって思いますけど・・・。付き合うなんて夢のまた夢ですよ」

 

「え、でもこの前ダンジョンでひざ枕されてなかった?」

 

モモンの質問に一瞬呆けたような顔をした後、一瞬にして顔を真っ赤にして慌て出した。

 

「な、な、なんでそれを知ってるんですか~~?」

 

「え~~~!ベル君、ヴァレンシュタイン氏からひざ枕してもらってたの!?なんでそれを私に報告しないの?」

 

横から入ってきたエイナが話に加わる。こうして講習をそっちのけでベルへの追及が始まった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

特訓初日、ベルはアイズにモモンも特訓に参加してよいかお願いした。アイズからは断られるかとも思ったが思いの外、了承を得られた。特にベルに対して特別な感情が感じられずモモンはベルに少なからず同情をする。

 

特訓はアイズの不馴れな指導もあり、実践形式で行われた。モモンとベルの交代でアイズと対戦をしていく。

 

「ハッ!」

 

モモンがグレートソードを横一線に振るう。風が巻き起こり、当たれば只では済まない一撃だ。しかし、アイズはヒラリとかわす。

 

「あなたは凄い力がある。でも剣士としてはまだまだ未熟」

 

モモンは追撃をするがアイズの使うサーベルで軌道をそらされてしまう。

 

「それでは剣を振り回しているだけ。懐に入られると対処できない」

 

そういうとアイズはモモンの大振りの剣をかわし、モモンの懐に入る。すぐにサーベルがモモンの全身鎧の弱点であるスリットをめがけ直前で寸止めをした。

 

「・・・参りました。さすがですね」

 

アイズはサーベルを持った痺れの残る右手に目をやった。不壊属性(デュランダル)を持つ武器だが、衝撃までは防げない。改めてモモンの下級冒険者としては桁外れの攻撃力に目を見張る。いや、それだけではない。反応速度やスタミナ、あらゆる項目が第一級冒険者と言われてもおかしくないレベルだ。ただ戦士としての経験がないだけのように感じる。

圧倒的なスピードで成長していくベル、下級冒険者としての限界をはるかに越えているモモン、アイズは自らの成長のため二人の強さの秘密を知りたかった。

アイズは強さの秘密を考えながら特訓をしていると、グェッと潰れたカエルのような鳴き声をして石壁にぶつかるベルの姿があった。

 

「だ、大丈夫かい、ベル君!?」

 

慌ててかけよるモモンと呆然とするアイズ、ベルは最後の力を振り絞ってアイズに親指を立て大丈夫な事を知らせ力尽きた。モモンはベルの健気な行動に心のなかで涙を流した。

 

アイズはベルに駆け寄り、石畳の上で正座をしだした。

 

「アイズさん⁉何をされてるのですか?」

 

「リヴェリアが償いをするならこれをすればいいって」

 

「・・・そ、そうですね」

 

ベルが目覚めるまで暫く休憩することになった。

 

(やはり上級冒険者と対戦すると勉強になるな。ベル君は・・・幸せそうじゃないか。なんかやっぱり二人きりにしたほうがいいんじゃないか?)

 

その後、何度かの交代とベルの失神を繰り返し初日の特訓を終えた。

 

ーーーーーーーーーー

 

(やはりもったいなかったかな。上級冒険者を直に観察できる機会だったからな。でもこれもベル君のためだ)

 

モモンは現在、ダンジョン探索を理由に朝の特訓を断っていた。最初、ベルに伝えたときは泣きそうな顔をしていたが、心を鬼にしベルの恋を応援することにした。その特訓も昨日で終わったらしく、ベルがどこまで色々な意味で成長できたか親戚のおじさんのような気持ちで見守っている。

 

モモンは現在、9階層までマッピングを進めていた。かなり驚異的なスピードで進出階層を進めているが、そもそもモンスターなど相手になるわけでもなく魔石が持ちきれずに換金しに戻る必要もないため順調に進めることができた。またエイナからの講習の効果もあり出現するレアモンスターやドロップアイテムの補足知識も追加しより完璧な地図ができているとモモンは満足していた。

 

「モモンさん、10数名の冒険者がこちらに近づいてきます」

 

「なに?シャルティア、大人しくするのだぞ」

 

シャルティア以外にユリ、ソリュシャンもいるが、シャルティアだけに注意をするのは日頃の行いだろう。

暫くするとソリュシャンの言う通りルームの入り口からアマゾネスの集団が現れた。アマゾネス達はモモン達をなめ回すように伺っている。鈴木悟であれば間違いなく顔を真っ赤にしていただろうその妖艶な出立ちは、草食系のモモンにとって苦手なタイプだった。

 

「アイシャ、なかなか良い男が居るじゃん。ちょっとだけ遊んでも良い?」

 

「やめとけ、相手は猛者だ。遊んでる余裕はない」

 

「そもそもあいつが中層でミノタウロスと遊んでるってホントかよ?」

 

「そんなの知るかよ。とりあえず本当だろうが嘘だろうが主神が行けって言うんだ。うちらはそれに従うだけだよ」

 

「ざーんねん、じゃあまたね、お兄さん。今度遊びに来てよ。たっぷり楽しませてあげるからさ」

 

モモンはトラウマを思いだし、身を震わす。そんなモモンの横をアマゾネス達は通りすぎていった。

 

「なんだあれは・・・」

 

「恐らくイシュタルファミリアの戦闘娼婦(バーベラ)と思われます」

 

「ほう、よく分かったなソリュシャン。所属を証明するようなものは無かったと思うが」

 

「以前、潜入捜査をしていた時に有力な上級冒険者はある程度覚えております」

 

「すごいでありんすね、妾には違いがさっぱり分かりんせん。まあ愉しそう者ではありんしたね」

 

シャルティアが想像していることが理解できたモモンはつとめて無視をした。

 

「シャルティア、あいつらが言っていた《猛者》とは誰のことだ」

 

「はい、モモンさん。《猛者》はオッタルというものの二つ名です。現在オラリオ最大の派閥、フレイヤファミリアの団長、唯一のLv.7の冒険者です」

 

「なに、そいつがこの辺りをうろついてるのか?気になるな。私たちもあいつらを追うぞ」

 

 

ーーーーーーーーー

 

(いったいあいつらは何やってるんだ?)

 

モモンはコソコソとアマゾネス達に気付かれないようについていき様子を見ていた。アマゾネス達は目的の相手オッタルを見つけると早速喧嘩を吹っ掛けていた。

数こそアマゾネス達は多いが個として圧倒的に強いオッタルには敵わない。しかし、オッタルは後ろにある大きなカーゴを守るように戦っており本来の力を発揮できていないよう見えた。

 

「何が入っているんだ?分かるかソリュシャン?」

 

「はい、少々お待ちください。・・・中には拘束されたモンスターがおります」

 

なぜ彼等が争うかも分からないモモンはモンスターを運んでいる状況に余計に混乱する。しばらく様子見をしているがどうやら状況は膠着しているらしい。

 

「一応、よくわからんが一対多では不利だろう。お前達はアマゾネスを対応してくれ。シャルティア、殺すんじゃないぞ」

 

 

アマゾネスの大戦斧がオッタルを襲う直前、モモンのグレートソードが間に入った。二人の視線がグレートソードの持ち主を見る。

 

「テメェ、邪魔すんじゃないよ!」

 

「なにをダンジョンで争っているんだ?少し落ちつきたまえ」

 

相変わらずアマゾネス達は攻撃を仕掛けようとするが、シャルティア、ユリ、ソリュシャンがそれを防ぐ。シャルティアはアマゾネス達が攻撃してくるのを寸前でかわし、アマゾネスの薄布を一枚一枚剥いでいった。アマゾネス達は明らかに遊ばれていることにさらに怒りを強め攻撃をしてくるが脱がすものが無くなると一撃で沈められていった。シャルティアは凄く爽やかな顔をしている。

 

その間もオッタルは無言でモモン達を見つめている。

 

「ところでその中に入っているミノタウロスはどうするつもりですか?」

 

モモンの質問に僅かにオッタルの眉間が動いた。

 

「オラリオには持ち込めない筈ですが・・・」

 

モモンがさらに問い詰めようとしたとき、オッタルの思い口が開いた。

 

「・・・悪いが邪魔をされる訳にはいかん」

 

そういうとオッタルはモモンに一瞬で近づきモモンの鎧の上から直接殴った。

モモンの巨体がダンジョンの壁にめり込む。しかし、アイズとの特訓のお陰かギリギリでグレートソードで防御できていた。

 

しかし、それを見ていた僕達は一瞬でオッタルに肉薄した。シャルティアは誰よりも早くオッタルに接近し、オッタルを殴り飛ばした。

 

「下等生物風情が、至高のお方であらせられるアインズ様に向かって」

「よせ、シャルティア。ユリ、ソリュシャンも控えよ」

 

「し、しかし!」

 

「私は下がれと言ったはずだ」

 

モモンの言葉にしぶしぶシャルティア達は下がった。

モモンは正直驚いていた。オッタルのパワーとスピードはモモンとして相手するには危険であると。そしてまた、オッタルもシャルティアと呼ばれた少女に驚いていた。傲っているつもりはないがオラリオで最強であるという誇りはあった。しかし、殴られるまで気付かないほどのスピードと今まで経験したことが無いほどの力を体験した。もはやオッタルの体はまともに動かない。しかし、

 

「あのお方の期待に応えねばならん」

 

小さく呟くと、後ろにあったカーゴの蓋を壊し、カーゴごと通路に放り投げた。そして即座にその通路の入り口を破壊し、通路の目の前に立ちふさがった。

 

「悪いが、ここを通すわけにはいかん」

 

モモンは正直、あのミノタウロスに興味はない。ただし目の前のオッタルには非常に興味が湧いた。見れば今にも倒れそうだ。まともに門番として動けないだろう。しかし、彼の目はまだ死んでいない。彼の突き動かす動機が知りたかった。そして、手元に引き入れたくなった。

 

「オッタル、私の下にこないか・・・」

 

「笑止、我が命はあのお方のためにある」

 

「そうか、非常に残念だ」

 

しばらくお互いを見つめあった後、アインズはポーションをオッタルに放り投げた。

 

「また会おう」

 

そう、言い残しモモン達は消えていった。

 

 




いったいどこに向かっているのか...

連載されてる皆さんはすごいです




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神会

テレテレテッテッテー!
ベルはレベルが上がった!
スキル《英雄願望》を身に付けた!

ベルは恥ずかしくて耳が真っ赤だ。


オラリオの中央、摩天楼(バベル)の30階にある会場にオラリオの神々が集り、神会(デナトゥス)を開催しようとしていた。彼等には一つ共通点がある。彼等のファミリアにLv.2以上の団員が所属していることだ。

その神会(デナトゥス)に初めて参加する一柱の神、ヘスティアの姿があった。彼女の唯一の団員、ベル・クラネルが今回ミノタウロスを倒し、一ヶ月半という最速記録でランクアップしたのだった。

 

そしてもう一人、できれば参加したくはなかったが自分の眷属()の二つ名で遊ばせる訳にはいかないため参加した男神、ヘルメスも神会(デナトゥス)の会場に来ていた。彼の懸念はもちろんアインズ達のことだ。極力悪目立ちしないようお願いしてはいるが、そもそも下級冒険者でおさまるレベルではない。しかし、いきなりLv.2、3と申請するのも目立ってしまう。いっそのこと全部ぶちまけてしまおうかと現実逃避をしていた。

 

二人の心境とは裏腹に滞りなく会は進んでいった。会の進行をするロキはやけにテンションが高い。おそらく彼女のお気に入りの眷属()がランクアップしたからだと思う。そもそも自分勝手な行動をとる神達が大人しく話を聞いている訳でもない。これもロキの手腕と最大派閥ということが関係しているだろう。

しかしその中でも進行とは関係なく喋っている二人の女神がいた。

 

「フレイヤぁ、おたくの子はランクアップしてないみたいだけど、わざわざ参加してるなんて天下のフレイヤ様が暇を持てあましてるの?」

 

「そうなのよ、イシュタル。退屈は私たちを殺す毒ね」

 

回りの神達はイシュタルがフレイヤにちょっかいを出している姿を冷ややかに見ている。もちろんヘルメスも二人の会話に聞き耳をたてている。

 

「暇って言えばあんたの子も相当暇みたいね。中層に留まってミノタウロスと戯れていたみたいだけど。・・・そうそう、上層でミノタウロスが暴れてたみたいだけどあんたの子と関係があるのかい?」

 

「それが聞いてちょうだい。私の眷属()がミノタウロスと遊んでいたら所属不明のアマゾネスの集団に襲われたらしいのよ。そのせいでミノタウロスが暴れたみたいで、本当に不躾よね。何処かのファミリアの眷属()が間に入って大人しくさせてくれたみたいだけど。でもアマゾネス達、ダンジョンで裸で寝てたみたいなのよ。品の無いところも親に似たのかしら。親の顔が見てみたいわ。」

 

「・・・ッ!!」

 

フレイヤの返答にイシュタルは苦虫を噛んだように顔を歪め、問い詰めるのを止めた。

その話に聞き耳をたてていたヘルメスはフレイヤファミリアとイシュタルファミリアの仲裁にわざわざ立つ酔狂でかなりの実力がある冒険者を想像してしまい冷や汗を流した。

そんな空気を吹き飛ばすように司会のロキは進行を進めた。

 

「ほな、お待ちかねの命名式やーーー!」

 

ベルの二つ名がかかっているヘスティアは緊張が走る。なんとしても無難な二つ名を獲得するために。

 

命名式は神々の阿鼻叫喚と爆笑を織り混ぜながら滞りなく進んでいった。

 

そして最後の一人、飛び込みでランクアップしたヘスティアファミリアのベル・クラネルの番がやってきた。

 

「おい、ドチビ。二つ名を決める前に聞かせろや」

 

ヘスティアはドキリと心臓が鼓動した。

 

「うちのアイズでもランクアップするのに1年かかったんやぞ。それを一カ月やと?うちらの恩恵ってもんはそんなもんやないやろ?」

 

ヘスティアが神の力(アルカナム)を使用したのではないか、そう思われても不思議ではない異常なベルの成長速度にロキはヘスティアに詰め寄った。

 

「不正なんてしていないっ!」

 

ヘスティアはベルのレアスキル【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】の秘密をばらす訳にはいかない。かといってこの場を乗り切るうまい言い訳も思い付かなかった。

長い沈黙を破ったのはフレイヤだった。

 

「あら、いいんじゃない。ヘスティアは不正をしていないって言ってるんだし。ファミリアの内部情報は不干渉でしょ」

 

「アホか、一ヶ月やぞ。この数字の意味がわかってんのか?この色ボケ女神」

 

「子供達の可能性はまだ私達にも把握しきれていないわ。それにヘルメスのところには冒険者になってすぐにミノタウロスを倒しちゃう眷属()がいるみたいだし」

 

それまでヘスティア、ロキそしてフレイヤに注がれていた視線がヘルメスに向けられた。

 

「聞いたわよ、ヘルメス。あなたのところに最近入った眷属()がこの前のお祭りの時に逃げ出したミノタウロスを倒したって聞いたけど、確かランクアップはしてないからLv.1なんじゃないかしら」

 

急に話を振られるが、ヘルメスは予め考えておいた設定を伝える。

 

「いやー、流石はフレイヤ様。彼らは僕がオラリオの外で勧誘しファミリアに入れたんだ。最近、色々あってオラリオにまとめて来ることになったから冒険者としてはルーキーと言うわけさ。」

 

「ならなんで今回の神会(デナトゥス)でお前のとこの子が出てこんのや?」

 

ヘルメスはわざとらしいほど大袈裟に帽子を脱ぎ、頭を下げた。

 

「あぁ、すまない。しばらくオラリオを離れていたせいで申請するのを忘れていた。私としたことが申し訳ない。次回の神会(デナトゥス)で報告するよ」

 

中断もあったがベルの二つ名も決まり、ヘスティアは心の中でガッツポーズをとった。そして今回の神会(デナトゥス)は幕を閉じたのだった。

 

なんとか乗り切った・・・と深いため息をつきヘルメスはおもむろに席を立とうとしたとき、一柱の神が近づいてくるのに気づいた。美の神でありオラリオ最大派閥の一つの主神フレイヤだ。

 

「そうそう、ヘルメス。この前、私の眷属()が怪我をしたみたいなの」

 

「そ、そうなのかい。」

 

「ええ、よくダンジョンでちょっかいをかけられるみたいだから心配はしていたのだけど、あまり目に余るようなら・・・ねぇ、ヘルメス」

 

「フレイヤファミリアに喧嘩を売るような奴はいないと思うけど、もし見つかったらイの一番に伝えるよ」

 

「フフ、ありがと、ヘルメス。・・・そうそう確かオッタルが言っていたのだけど、《アインズ》って呼ばれていたそうよ。参考になったかしら?」

 

フレイヤの目がヘルメスを射抜くように向けられた。変わらない笑顔だが逆にそれが恐ろしく感じる。

 

「ア、アインズね。分かったよ」

 

フレイヤはそう言うと会場からコツコツと出ていった。その後ろ姿を見ながらヘルメスはフレイヤとアインズの狭間を翻弄する自分に胃を痛めるのだった。




ということで次回の神会を実施するでー。
お題はヘルメスんとこの子らの二つ名や!

作者はスペックオーバーやorz
神々の皆さん、意見を出してやーm(__)m


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散策

二つ名はもうちょっとかかりそうorz

やっぱり神様はすごいよ。




「これが三千万ヴァリス?」

 

モモンはショーケースの奥に並べられている武器を眺め、素直な感想を口にした。

摩天楼(バベル)の 四階、ヘファイストス・ファミリアがフロアまるごと借りているそのフロアでモモンは並べられた武器を見て回っていた。ヘファイストスファミリアはオラリオでも随一の商業系ファミリアだ。

鍛冶神ヘファイストスが作る武器と考えればある意味、ユグドラシルで考えるなら世界級(ワールド)アイテムは規格外と考えても、その名の通り神級(ゴッズ)アイテムクラスだと推測できる。アインズのコレクター魂に火が点いた。

それにエイナの講習で発展アビリティというものを知った。ランクアップ時にその人物の行動により何が選択できるかは違うが、その中から一つだけ得られるスキルとのことだ。その中には「鍛冶」や「耐異常」、「魔導」さらに「神秘」というのもあるらしい。

ますますナザリックの強化ができないのは残念だが、できないのなら仕方がない。ナザリックに引き入れれば済むことだ。

この世界に来てダンジョンばかりに気をとられオラリオの町を散策していなかったついでに商業系ファミリアを回って見ることにした。

 

 

そうと決まれば次は誰を連れていくかだ。NPC達を連れていくと騒ぎになるのは困る。カルマ値が善よりのNPCを連れて行けば良いという簡単な話ではない。オラリオの神たちからちょっかいをかけられることもある。さすがに短くないオラリオの生活で少しずつ神の考えが理解できてきたアインズは再び悩んだ。

しかしたった一人、神の食指に触れない僕がいた。そう、アルベドだ。角と翼を隠すため全身鎧を身に纏っていたため、神達は興味を示さなかった。しかもアルベドは防御に特化しており、余り僕を連れ回したくないアインズにとってはうってつけだ。ただ一つ懸念があった。暴走しないかだ。以前の冒険者登録のようなことがあれば、間違いなくアインズはアインズでなくなってしまう、そんな気がした。しかし、あれから謹慎期間を経て反省をしているとアルベドの姉のニグレドから報告をうけている。アインズは賭けに出た。

 

《アルベドよ、用件がある。私の部屋まで来てくれ》

 

《はっ、アインズ様。早急に参ります》

 

良い感じてはないかとメッセージのやりとりで感触をうかがう。しばらくしてアルベドがアインズの自室にやってきた。

 

「失礼します、アインズ様」

 

「ご苦労、アルベド。して用件なのだが近いうちにオラリオの商業系ファミリアの視察をしようと考えている」

 

「分かりました。早急に警護のメンバーを召集します」

 

「いや、今回は目立ちたくない。私とアルベドで行こうと思うが予定は空いているか?」

 

アインズは自分の発言を恐る恐る口にし、そしてアルベドの様子を確認する。

 

「いつでも問題ありません。引継ぎ等の問題はまた上申させていただきます」

 

普段と何も変わらないアルベドにアインズは肩透かしをくらった。天井に張り付いているエイトエッジアサシンも警戒姿勢を緩めた。

 

「そ、そうか。忙しい所すまないな。まあ、普段ナザリックに籠りきりなのだから、たまには気分転換になると良いがな」

 

余り嬉しくはないのかとアインズは労いの言葉を加え、アルベドの様子を見てみた。そしてアインズは気づいてしまった。アルベドが必死に歓喜の衝動を隠そうと腰の羽を抑えているがバサバサと羽ばたいていることに。そして同様に体もプルプルと震え、不自然な動きをしていた。

 

「ありがたき御言葉、それでは失礼します」

 

「ぁ、ああ、それでは頼んだぞ」

 

アルベドは羽をバサバサと撒き散らしながらアインズの部屋から出ていった。アインズは内心不安にかられているがアルベドが喜ぶのであれば良しとした。

 

「よっっしゃぁあぁーーーーー!!!!」

 

アルベドが退室した直後、アルベドによく似た奇声があがった。しかし、アルベドはそんなはしたないことをする子ではないと信じ、アインズは努めて無視をした。

 

ーーーーーーーーーーー

 

こうしてオラリオの地に全身鎧のカップルが現れたのは話し合いをしてから数日後のことだった。

ダンジョンに行くわけでもないのに揃ってフル装備をして並んでいる姿は冒険者の街であるオラリオでも奇異に見えた。ただし、冒険者には様々な事情を抱えている者も多いためあえて声をかける住民はいない。

 

「アルベド、こっちにヘファイストスの店があるみたいだぞ!」

 

「アルベド、これはエレベーターになっているみたいだ。近くにこい」

 

「アルベド・・・」

「アルベド・・・」

 

アルベドは今、正に幸せの絶頂にいた。最愛のモモンガ様と二人きりでデートをする日がくるとは、あの謹慎を言い渡された日には想像もつかなかった。このまま手を繋いでいただけたら同意を得たようなものだと勘違いしてしまいそうだ。

しかし、アルベドは自分を戒める。まだ、まだ早いと。今は釣りで言えば様子見で餌をつついている程度だ。まだガッツリと食い付いてはいない。焦ってはいけない。少しずつ少しずつモモンガ様が気付かないように既成事実を作っていくのだ。もう逃げられないところまで来たらその時は一気に釣り上げれば良い。

アルベドは虎視眈々とスリットの奥に隠した激情を悟らせないように今回のデートを成功させることを姉のニグレドに誓うのだった。

 

そんなこととは知らずアインズはヘファイストスの店の前で一つ一つ武器を見ていた。ナザリックにはいくらでも金貨や財宝はあるが、まだ冒険者となって一ヶ月程度しか経っておらずオラリオでも有数のヘファイストスの店で買うほどヴァリスは貯まっていなかった。

 

モモンが店の前で様々な武器を眺めていると、その姿が店の中から見えたのか店員が話しかけてきた。

 

「いらっしゃいませー!今日は何のご用でしょうか、お客様?」

 

「ああ、いえただ眺めているだけですよ・・・、あれ?」

 

モモンはいつぞやに見かけた幼女に驚く。ジャガ丸くんの露天でバイトをし、その見た目には似つかわしくない二つの双丘が特徴的なベルの主神であるヘスティアだった。モモンはバイトの掛け持ちをする神の姿にやるせない気持ちになった。

 

「き、君はっ!僕のファミリアは入れないよ。これ以上ライバルを増やす訳にはいかないんだ」

 

ヘスティアはモモンのことを思いだし、そしてそれに追従していた美女に危機感を募らせた。

 

「いや、もうヘルメス様のファミリアに入ってるんで大丈夫です。それよりもここにはヘファイストス様が作られた武器はないのですか?」

 

「なんだ、そうなのかい。それならいいんだ。ヘファイストスの?無い無い、そんなのまともに値段なんかつけられないし、つけたとしても誰も買えないよ」

 

「そうなんですか?ベル君が大切に持っていたナイフを見てヘファイストス製の武器が気になってたので」

 

モモンの話を聞き、ヘスティアの顔がにやけてきた。

 

「へ、へへぇ~。あれかい。あれは僕とベル君の愛の証だからね。(二億ヴァリスのかいがあったというもんだよ)

 

「え?二億?」

 

「いやいや、なんでもないよ。まあ、まだ冒険者になったばかりなんだ。君達にはまだこの店は早いよ」

 

「確かにそうですね。・・・そうだ、ヘスティア様にならこれをお預けしても良いですね。これで武器、・・・そうですね、ナイフを作ってもらいたいんです。こちらはサンプルです」

 

そういうと、モモンは懐から神聖な輝きをしたインゴットとその素材で作られたナイフを取り出した。

 

「それかい?おっととっ、スゴい武器だね。君は相変わらず不思議な感じがするけど、不思議な物まで持ってるんだね。僕もそれなりにここで働いてるけど初めて見るよ」

 

ヘスティアの小さな体に金属の塊とナイフが手渡される。

 

「ええ、とある理由で手に入れたのですが私では加工できなくて。神でありベル君の主神である貴女であれば信用できますしね」

 

「そうかい、じゃあ大船に乗った気で待っててくれ。ただし、ヘファイストスがやってくれるとは思わないでくれよ。」

 

「えぇ、それで構いません。お代は受け取り時にお支払いしますので」

 

モモンは用が済むと礼を言ってヘスティアのもとを離れていった。一部始終を見ていたアルベドはアインズに質問をする。

 

「よろしかったのでしょうか?あのようなものにナザリックの秘宝をお渡しして」

 

「よい。それに伝説級(レジェンド)クラスだ、ヘファイストスファミリアとの関係をつくるのにちょうど良いだろう」

 

こうしてモモン達は再びオラリオの街の散策を再開していった。



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【幕間】神会(その2)

疲れたorz
神の真似事なんて荷が重いですわ。




「よっしゃー、始まったでーー!今回もウチが司会やらさせてもらうで!」

 

相変わらず暇を持てあまし、面白いことに目がないロキが勝手に進行を進めていく。

 

「第ウン千回神会(デナトゥス)を開催させてもらう!」

 

「前もウン千回って言ってたぞ」

 

「うるさいわ、ボケェー!」

 

細かい男神の突っ込みにドツキでかえすロキの芸は健在だ。円卓を見渡しヘスティアが居ないことを確認する。おそらくバイトで来れないのだろう。ヘスティアを弄れないのは残念だが、切り替えて進行を進める。

 

「じゃあ、早速今回のお題に行くで。今回はヘルメスファミリアでランクアップした眷属()らの命名式や。なんや一気に12人もおるとは、ヘルメス、何か隠しとらんか?」

 

「そんなことないさ、ロキ。今回はお手柔らかに頼むよ」

 

「そんなもんウチが決めることやない。なあ・・・」

 

ヘルメスは回りの神々を見渡すと明らかに含みのある笑みをしていた。

 

「じゃあ、早速行くで!先ずはコイツや!」

 

ロキは手元の資料を一枚持ち上げた。

 

「何々、モモンちゅうやつや」

 

円卓に座る神達も手元の資料からモモンの似顔絵を眺める。

 

「頼むよ、みんな。お手柔らかに・・・」

 

「「「「断るっ!!!」」」」

 

「っていうか甲冑着てちゃ良いアイデア出ないじゃん」

 

「ねぇねぇヘルメス!中はどうなのよ?」

 

ヘルメスの脳裏に骸骨の顔が浮かぶ。

 

「え、どうって言われても?神々(おれたち)と比べたら可愛そうなんじゃない」

 

「それはそうか。ということは醜男ってことだな・・・、そうだ、【厄災の箱(パンドラ)】ってのはどうだ?」

 

「実は裏があったりして、【破滅王(カタストロフィー)】ってのは?」

 

「いや、ここは【漆黒(ダーク・ウォーリアー)】だろ!」

 

「おお、久々にピッタリな案が出たな」

 

『異議なし!』

 

「よし、じゃあサクサク行くで!次はこの子や。えーと、おぉ、可愛い子やな。六人姉妹の長女、ユリちゃんや」

 

男神達のテンションがモモンの時とは違い気合いが入ってるのが分かる。

 

「僕っこキター!ここは俺に任せてくれ。あの僕って言った後に言い直す姿がたまらん。【慈愛の微笑(カタルシス)】だ」

 

「馬鹿野郎!眼鏡クイッの鞭でパンッはお決まりだろうが!【聖心の支配(サークレッド・ルーラー)】の方が良い」

 

「それならイタズラをした俺にお仕置きをして欲しいな。【激昂の鉄拳(パニッシュメント)】!」

 

『それだ!』

 

「よし次や、なんやこの子も可愛い子やな、ウェアウルフのルプスレギナちゃんや」

 

「くぅ、またしごいてほしいな。ルプーちゃん。ここは俺に任せてくれ。【駄犬(ケロベロス)】だ」

 

「お前はご褒美を頂いている時の顔を見ていなかったのか?【狂犬の冷笑(クレイジー・シニカル)】だろ」

 

「止められない、止まらない。癖になりそうだぜ。【狼の媚薬(ウルフズベイン)】が良い」

 

『決定!』

 

「よし、次!っておいぃ、ヘルメス。なんなんやこれは。お前は顔で選んで入れとんのか?」

 

「ロキ、よくぞ言ってくれた。おかしいだろ!ヘルメス!」

 

「そ、そんな訳ないだろ、たまたまだよ」

 

「ヘルメスの手に毒されるくらいなら・・・フヒヒッ」

 

「この女たらし野郎が!」

 

「まあ、ええ。次はナーベラルちゃんや」

 

「馬鹿野郎!」

突然、一柱の神が資料を眺めながら苦々し顔をして、円卓を叩いた。

「本物はこんな優しい目じゃねぇ。もっとこう俺を虫のように蔑むような目をしているんだ」

そう言いながら何かを思いだし恍惚な表情をしている。

 

「じゃあ、【絶対零度(アブソリュート・ゼロ)】ってのはどう?」

 

「電撃の魔法が得意みたいだし、俺の嫁になるから【稲妻(ライトニング)】がいいだろ」

 

「馬鹿か、お前は?ナーベラルちゃんは俺の嫁だ」

 

「はい、はい。不毛な話はその辺にしとき。他に案はないか?」

 

「お前らは何も分かっていない!表では酷いことを言っていても、二人きりでは甘えてくるんだよ。彼女こそ【天邪鬼(ツン☆デレ)】が一番似合う」

 

「俺もナーベラルちゃんがデレる所を見てみたい」

 

『それじゃあ、決定!』

 

「次、行くで!もう突っ込むのも疲れたわ。ソリュシャンちゃんや」

 

「金髪縦ロールか、レベル高いな」

 

「ソリュシャンちゃんは俺のことが好きに違いない。俺のファミリアに来たいって言ってくれたし、間違いない。期待に応えてやるぜ。【誘惑の小悪魔(テンプテーション)】!」

 

「それはお前の気のせいだ。俺にも言ってくれたしな。それよりも彼女に手を出したら後戻りができなくなりそうな気がするぜ。ってことで【禁断苹果(ユーサネイジア)】!それでも俺はソリュシャンちゃんを諦めないがな!」

 

「それでこそ、ファンクラブ会員第一号だな」

 

『よし、採用!』

 

「あほくさ、次、次。えーと、今度はエントマちゃんかな」

 

「この前、奢りまくってたら眷属(こども)達に怒られたよ。どれだけ持ってってもすぐ食べちゃうんだもん。・・・可愛かったけど。【暗黒空間(ブラックホール)】とかどう?」

 

「エントマちゃんの可愛さが伝わらねぇよ。あのしゃべり方、俺の荒んだ心を癒してくれるぜ。【天使甘言(エンジェル・フラッタリー)】」

 

「俺はエントマちゃんの笑顔を見てみたい。眷属(こども)達に何度言われようが俺がエントマちゃんの心を溶かしてやるぜ。【真実の仮面(ペルソナ)】」

 

『それで行こう!』

 

「次、えーと、今度は眼帯が特徴的なシズちゃんや」

 

「頼む、俺の推しメンなんだ。この子にはこれを採用してくれ。【零落聖女(ラストヒロイン)】」

 

「それ使い回しじゃねぇか。お前にはシズちゃんの癒し属性が分からないのか?【天の癒(シエスタ)】だろ」

 

「いや、シズちゃんの純粋で綺麗な目を推すべきだろ。あの眼帯をとったらどうなるか気になる。【翡翠の隻眼(ジェイド・アイ)】だな」

 

『分かるわ~』

 

「次は双子のダークエルフの姉弟や。先ずはお姉ちゃんのアウラちゃんからや」

 

「双子のダークエルフってのがポイント高いよな。【深緑の妖精(メロウ)】とかは?」

 

「俺はあのオッドアイが良いと思う。【緑青の麗人(ソレイユ・ジェミニ)】」

 

「お前らはアウラちゃんのことを何も分かっていない。それならマーレちゃんも同じじゃねぇか。」

「そうだそうだ。アウラちゃんの無邪気な明るさとお姉ちゃんとしての責任の狭間で揺れる感情の葛藤を。【太陽加護(サンライト・ブレス)】」

 

『良いね』

 

「次は双子の弟、マーレちゃんや。ってこの子、女装してるのか?どういう教育させてるんや」

 

「何言ってるんだ、ロキ」

「男の娘なんて親は分かってるぜ!」

 

「マーレちゃんが走る所見たことあるか?スカートを押さえながら走るんだぜ。凄く初々しいんだよ。【魔法少女(マジカル・ボーイ)】」

 

「マーレちゃんにはアウラちゃんとは対照的な輝きがある。【月虹(ルナ・ティンクル)】!」

 

「お前らの言いたいことは分かる。だが、マーレちゃんは決して汚れてはいけない。俺達の手で守っていくんだ。そう、【超♀神聖(スーパーノヴァ)】だ!」

 

「「「おおぉ!!!」」」

 

『決まったな』

 

「次はおっ、この子はなかなか渋い子やね」

 

それまで生塵(なまごみ)を見るような目で男神を見ていた女神が黄色い声をあげる。

 

「ケケケ、コイツには俺が引導を渡してやるぜ。【老召使(オールド・サーバント)】だ」

 

「「「あぁん!?」」」

 

女神達が一斉に男神を睨み付ける。

 

「すいませんでしたぁあぁぁ!」

 

男神(馬鹿)は放っておいて、シンプルに【女神の執事】ってのは?」

 

「それなら女神と執事の秘密の恋よ。【禁断の愛(ヒルドラ)】」

 

「でもあの服の上からでも分かる力強さが足りないわ。姫を守る騎士、理想的なシチュエーションだわ。【龍の忠義(ロイヤリティ・ドラゴン)】」

 

『それにしましょう』

 

「次は、シャルティアちゃんかな」

 

「本命キターーーー!!」

「触っちゃダメだ、触っちゃダメだ、触っちゃダメだ。イエス、ロリータ。ノー、タッチ!」

「俺の愛を受け止めてくれ!【狂愛者(ルナティク・ラバー)】」

 

「シャルティアちゃんの愛の奴隷になりたい。【欲望の暴君(デザイア・タイラント)】!」

 

「返り血も滴る良い女・・・、【鮮血姫(ブラディ・プリンセス)】」

 

「言っている意味は良く分からんが、凄いインパクトだ」

 

『じゃあ決定』

 

「よし、これで終いか?」

 

ロキが手元の資料に目を落とすと、一枚の申請書が落ちた。

 

「ん、まだ一枚残っとったんかいな。何々、アルベドちゃん・・・女の子やね」

 

ロキが資料に目を通すとモモンと変わらず全身鎧に包まれ顔を伺うことはできない。

 

「う~ん、なんかもう今日は疲れたわ」

 

明らかに回りの神達のやる気が無くなっている。それまでの美男美女があった後に全身鎧の彼女では乗り気になれなかった。

 

「さっきのモモンに似てるし、【漆黒の嫁(ダーク・ワイフ)】で良いんじゃね?」

 

『それでいこう』

 

あっさり決まったアルベドの二つ名だったが誰よりも本人が喜ぶのだった。

 




馬鹿野郎!そんな二つ名似合わねぇよ!!

甘んじて受け入れます(。´Д⊂)

お手柔らかに...


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デート

「え、このお酒が12万ヴァリスもするの?」

 

モモンは立ち寄ったお店で並べてあったお酒の価格に驚愕し、店主に聞いてみた。

 

「ええ、何て言っても神酒《ソーマ》ですからね。今じゃ何をやったのかギルドから酒作りを禁止されて、内にあるのもそれだけなんですよ。それでも欲しい人なんて五万といるでしょうけど」

 

(酒作りが趣味の神か?本当にいろいろいるんだな。それにしても酒で12万って高すぎだろ。)

 

鈴木悟の時に数度、アルコールを飲む機会はあったが自分から飲みたいと思わなかったし、そんなお金を掛けるくらいならユグドラシルに注ぎ込んでいたアインズにとってソーマの価値はよく分からなかった。

 

「私には手が届きそうにないですね、また今度にします」

 

モモンは当たり障りの無いことを言うと店を後にした。

 

(さてあと残るは・・・)

 

モモンが次の行き先を考えていると、アルベドに声を掛ける男が現れた。

 

「そなたは冒険者かな?怪我をするといけない。私が作ったポーションだ。ぜひ使ってくれ」

 

爽やかな美青年が心配をしてくれれば普通の女性なら高い好感を得るだろう。しかし、今回は相手が悪かった。

 

「下等生物風情が邪魔をするなぁぁあぁーーー!!!」

 

ヒステリックに声を荒らげるアルベドにモモンと声をかけた男は驚いた。モモンは男を見るとその整った容姿とセバスからの報告からその男が神だと理解した。

 

「お、落ち着け、アルベドよ。申し訳ありません。彼女は少し冒険の疲れで興奮しているみたいです」

 

「そうか。それはいかんな。ぜひこれを役立ててくれ」

 

そう言ってアルベドに渡しそびれたポーションをモモンに渡した。

 

「ありがとうございます。あのお代ですが」

「いや、それには及ばない。将来のお得意様になるかもしれない者に顔を売ると言うやつだ。こちらにも利があるんだ、気にしないでくれ。初めて見る顔だと思うが、紹介させてくれ、私はミアハファミリアの主神、ミアハと言うものだ。これからよろしく頼むよ。」

 

「いえ、こちらこそよろしくお願いします。実は今オラリオの街を回っていて、これからミアハ様のお店に行くところだったんです」

 

「そうなのか?それはありがたい。ではこちらだ、案内しよう」

 

そう言ってミアハはモモン達を先導した。モモンは快く受け入れるが、アルベドは二人きりの時間を邪魔されたことにミアハに殺意を抱いていた。

 

 

「...いらっしゃいませ」

 

ミアハの店「青の薬舗」に入ると戸棚を整理していた犬人(シアンスロープ)の女性が抑揚の無い声音で出迎えた。

 

「ナァーザ、お客さまが来られたんだ。もう少し歓迎の気持ちを出せないのかい?」

 

ナァーザと呼ばれた女性はモモンの後から入ってきたミアハの姿に驚いたように、眠たげで半開きだった(まぶた)を広げた。

 

「これはミアハ様、まさか誰彼構わずポーションをタダで配り歩く以外にお客さまを連れてくることがあるのですね」

 

棘のあるナァーザの口調にバツが悪そうなミアハをしている。

 

「あの、そろそろ商品の方を見せていただいても良いですか?」

 

気不味い雰囲気を変えるためモモンは話をふった。

 

「ああ、すまない。これがポーションにハイポーション、こっちはマジック・ポーションだ。それとこれは新商品で目玉のデュアル・ポーションだ」

 

(やはり同じポーションでもユグドラシルとは違うな。サンプルとして幾つか買っていくか)

 

「では各ポーションを五本ずつ貰えますか」

 

「そんなにも買ってくれるのかい。ではサービスさせてもらうよ。」

 

性懲りもなく割引をしようとするミアハにナァーザはじっとミアハを見据えている。その視線を察したモモンは助け船を出した。

 

「いえ、これ以上は申し訳ないです。先程の件もありますしね。今回は払わせて下さい」

 

「ぅむ、そうか」

 

渋るミアハだが取引は公正にしたいアインズは袋からお金を取り出すとナァーザに渡した。不自然に左手で受け取ろうとするが、アインズはナァーザの右腕が義手であることに気付いた。彼女の過去を推測し、あえて口にはしなかった。

 

「また来させてもらいますよ。」

 

モモンは店をあとにしながら今後の計画を練っていく。

 

(ユグドラシルのポーションを製造できれば良い差別化ができるのではないか?欠損した一部などの治療などもできれば良いがあまり目立ち過ぎるのもいかんな。今後の検討課題にあげておくか)

 

「そろそろ帰るか、アルベド」

 

「あ、あのモモン(...ガ)様、ナザリックに帰る前にその、手だけでも握っていただけないでしょうか?」

 

少し考えたアインズだったが、アルベドを信じて手を差し出した。

 

ガシッ!

 

お互いに手甲をしていため金属が接触し合う音が響く。互いの温りも何も感じないがアルベドは今日の目標を達成し感極まっていた。

 

「ふぇえぇん~~」

 

「ど、どうした、アルベド?」

 

突然泣き出したアルベドにアインズは戸惑った。そのような経験値が無いためどうしていいか分からず、ただ手を握ったままアルベドの頭をポンポンとなだめた。

 

「落ち着いたか?」

 

「はい、申し訳ありませんでした」

 

「何、気にするな。アルベドには日頃世話になっているからな。これからもよろしく頼むぞ」

 

 

二人が帰る前に広場まで手を繋ぎながら歩いていると、前方からヘルメスの姿が見えた。ヘルメスも二人の姿を見つけニヤニヤしだした。

慌ててアインズは手を離す。

 

「やあ、お二人さん。熱々だね。流石は夫婦って感じだよ。ただ、手を離しちゃ可愛そうじゃないかい?」

 

そう言ってアルベドの方に目をやる。アルベドもヘルメスに同意しているように手をモモンに出した。

モモンは恥ずかしがりながら再び手を繋ぐ。ヘルメスも意味深に頷いている。

 

「ところで話は変わるんだけど、緊急のクエストが入ってね。できれば手伝ってもらえると助かるんだけど」

 

「クエストですか?」

 

「あぁ、内容は冒険者の救出だ。」

 

「それは構いませんが、その冒険者というのは誰ですか?」

 

「ヘスティアファミリアのベル・クラネル、また同じパーティのリリルカ・アーデ、ヴェルフ・クロッゾの三名だ」

 

アインズはベルの名に軽く衝撃を受けた。詳細を聞くためヘルメスに詰め寄る。

 

「ベル君が帰ってきていないのですか?」

 

「知り合いかい?残念ながらそうらしい。昨日、中層に初探索に向かってから戻ってきていないんだ。僕たちはこれから中層に潜れる実力のある冒険者を集めて今日の夜にでも潜る予定だ。君はどうする?」

 

「私たちはこれからすぐに向かいます。悪いが、あまり手の内を晒したくないのもあるが、足手まといは要らない」

 

「そうか、すまないが頼むよ」

 

 

ヘルメスが二人の後を去ったあと、アルベドがアインズに質問をした。

 

「恐れながら申し上げます。わざわざアインズ様が助ける価値があるのでしょうか?」

 

アインズはしばらく考えながら自分自身を納得させるように語った。

 

「なぜ、助けるのだろうな。困っているものがいたら助けるのは当たり前、というだけなのか。いや、・・・あの子には何か期待したいものがあるのかもしれんな」

 

アインズはそう呟くとベル達を見つけるべくパーティの編成を考えた。アルベドはモモンに呼ばれるまで握っていた手を見つめ続けた。

 

 

 




書いててニヤニヤが止まらない(///∇///)


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捜索

「これは...」

 

モモンはベル達の救助のため、ダンジョンに潜っていた。しかし、モモンの前には崩落した壁と瓦礫の山がそびえ立っていた。瓦礫の中には冒険者が巻き込まれたのか武器やアイテムの破片が落ちている。

 

「アウラ、ソリュシャン、ルプスレギナ、この辺りにベル達はいるか探せ」

 

アインズの号令で探索を開始するがすぐに回答が帰ってきた。

 

「ア、...モモンさん、ここにはおりません。この瓦礫の奥にも魔石やアイテムが点在しています。おそらく、持てなくなった荷物を捨て奥に進んだと考えられます」

 

モモンはアウラの話を聞き、確認のためソリュシャンとルプスレギナにも目で確認を求めるが、二人とも同意見だと返答した。

 

「そうか、では先に進むぞ」

 

モモンは少し安心したように先に進む。ダンジョンの中層には上層よりもさらに薄暗く、上層では見られなかった強力なモンスターも多く出現する。最初の死線(ファーストライン)とも呼ばれ、下級冒険者と上級冒険者を分ける境界にもなっていた。

しかし、このパーティにはその境界など微塵も感じさせないほど変わらぬスピードで進んでいった。ランクアップした冒険者でも恐れるヘルハウンドの吐く炎がモモン達を襲う。しかし、モモンに炎を向ける前にアウラの鞭でヘルハウンドはこの世から去った。

 

「アウラ、すまんな。この階にはいそうか?」

 

現在、モモンは16階層に辿り着いていた。相変わらず命知らずなモンスターが襲ってくるがモモンに近づく前に一蹴されている。

 

「いえ、この階層にも気配を感じません」

 

モモンがアウラから報告を聞いていると、ソリュシャンが冒険者が落としたらしい汚れた袋を見つけた。

 

「モモンさん、こんなものが落ちていました」

 

「クサッ!!ソーちゃん、それ臭いっす!」

 

モモンは手にとってみたが特に何も感じない。

 

「ルプスレギナには臭いを感じるのか?」

 

「う~、はいっす。大分薄れてるみたいっすけど、モンスター避けに使ってたみたいっすね。あと、リリちゃんの臭いも微かにするっす」

 

モモンはまだ彼らが諦めずに生き延びていることを確信する。

 

「すぐに出発するぞ、この階にいないのならばさらに下に行く」

 

モモン達が 17階層に来るのはこれで二回目だった。初めて来たときは無駄に広いスペースがあり、モンスターも出てこなかったため特に気にせずに通りすぎた。しかし、エイナの講習を受けこの先に何がいるか思い出す。

通常のモンスターとは次元の異なる存在、迷宮の孤王(モンスター・レックス)。17階層は階層主、ゴライアスが出現する。ベル達が遭遇した場合、まず勝つのは難しいであろう。ここがおそらく探す最終地点だとモモンは考えた。

モモン達が17階に到達すると同時にけたたましいうなり声と大きな岩が砕ける音がフロアに響いた。

 

「オオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

 

「モモンさん、こちらです!」

 

うなり声の聞こえた方向にアウラがモモンを誘導する。モモンがゴライアスが現れる大広間《嘆きの大壁》に到着したとき、ゴライアスに追われるベルの後ろ姿を捕らえることができた。ベルはボロボロの体に加え、意識を失ったパーティ二人を抱え18階層に繋がる反対側の出口に向け必死に逃げていた。後ろからせまるゴライアスの巨大な拳をぎりぎりで避け、最後の力を振り絞って出口の通路に飛び出した。ゴライアスもベルを逃がすまいと拳をベルに叩きつけるが、僅かにベルのスピードが上回りベルが通りすぎた後の通路を破壊するだけに留まった。

18階層はモンスターが出ないセーフティーポイントであることを知っているモモンは一先ず安心をする。

ベル達を取り逃がしたことが腹立たしいのかまだゴライアスは壁を破壊していた。

 

「アウラ、この木偶は階層主と呼ばれているみたいだぞ」

 

モモンの言葉にアウラがゴライアスを見つめ暗い笑みを浮かべた。

 

「へぇー、あんたも階層を任されてるんだ?じゃああたしとどっちが強いのかな」

 

アウラはルプスレギナ、ソリュシャンに手出しをしないように伝えた。未だに背を向けているゴライアスにアウラは鞭を地面に叩きつけ気付かせる。

ようやく新たな敵に気付いたゴライアスはけたたましい咆哮とともに地響きをたてながらアウラに近づいてきた。七メートルもある巨体はアウラと比較するとあまりに大きい差がある。しかし、アウラは微塵も恐れてはいない、恐れる理由などないからだ。

ゴライアスの大きな手がアウラを掴みあげる。今この場に来た者がいれば少女が紙くずのように握り潰されてしまう凄惨な場面を想像するだろう。しかし、いつまでたってもゴライアスは動かない。いや、動けなかった。アウラの細腕にゴライアスの腕力が押し負けていたのだ。

 

「ねぇ、こんなもんなの?あんまり服汚したくないんだけど」

 

相変わらずゴライアスは咆哮をあげながら手の中の少女を潰そうと力を込めている。

 

「あっそ、まぁいいや。あまりモモンさんをお待たせするのはいけないからね。じゃあ死んで良いよ」

 

そう言うとゴライアスの手をへし折り拘束から抜け出した。ゴライアスはもう片方の腕でアウラを捕まえようと手を伸ばすが、すでにアウラはゴライアスの後方に移動していた。

アウラの鞭がゴライアスの首をめがけ勢いよく振られた。

 

グシャ

 

熟れた果実が落下したような音とともにゴライアスの頭が地面に落下する。

 

「ブイッ!!」

 

アウラは両手でピースサインをつくりながらモモンの方を向いて得意気な顔をしている。

 

「よくやったぞ、アウラ。こいつはどうだった?」

 

「体がでかいだけで、力もスピードも無くて、よくこんなので階層主なんて呼ばれているか不思議ですね」

 

「ナザリックの基準にあわせたらそう思うだろうな」

 

アウラの頭を撫でながら消えていくゴライアスを見つめる。

 

「さて、こいつも片付いたし、さっさとベル君のところに行くか」

 

ゴライアスが破壊した通路の瓦礫を吹き飛ばし、18階層のセーフティーポイントに到達した。一面には17階層のゴツゴツとした岩肌ではなく、草木が生い茂っていた。天井にはクリスタルの輝きで昼のように明るい。ダンジョンの中とは思えない光景に息を飲む。さながらナザリック地下大墳墓の第六階層ジャングルと似たところを感じた。もちろん負けるつもりはないが。

 

モモンは入り口の辺りに転がっているであろうベルの姿を探したが見つからなかった。代わりに金髪金眼の少女がベルをお姫さま抱っこをしている状況に出くわした。

 

「ア、アイズさん?」

 

「モモンさん?」

 

互いにお互いの存在を確認し疑問を浮かべた。

 

「私達はベル君達を探していました。ベル君達が中層に進出してから帰ってこず、捜索のクエストが発生し、それを受けてここまできたところです」

 

「そうなんだ、もう中層にまで来たんだね」

 

胸の中で眠るベルに顔を落としながら、アイズは改めてベルの成長に驚く。

 

「すまないが、先に彼らを休ませてあげたいんだが、どこか良い場所は無いだろうか?」

 

モモンの言葉に重症をおったベル達の状況を思いだし、モモン達を自分達のキャンプ地へ案内する。

 

「こっちに私たちのキャンプ地がある、彼らを運ぶのを手伝って貰っても良い?」

 

ベルはアイズに抱えられているが、アイズだけではリリとヴェルフは一度に運べず往復を考えているところだった。

 

「分かりました。問題ありません」

 

ここでもNPC達が自分達でやると言うが体格的に一番恵まれているモモンが女子供に運ばせている姿はさすがに不味いと感じ、ベルのパーティのリリとヴェルフを肩に背負いロキファミリアのキャンプ地まで連れていった。

 

 

 

 

「すいません、お世話になってしまって」

 

「なに、気にすることじゃない。それに君達は彼らを助けるためにわざわざここまで来たんだ。誇ることはあっても邪険にするようなことはしないさ」

 

モモンはロキファミリアのキャンプ地で最も大きなテントの中に居た。モモンの前で話を聞いているのはロキファミリアの首領(トップ)である小人族(パルゥム)の【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナだ。そして、その両サイドに控えるのは幹部の【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴと【重傑(エルガルム)】ガレス・ランドロック。三人とも第一級冒険者だ。

 

「紹介が遅くなってしまい申し訳ありません、モモンと言います」

 

「こちらこそすまない。僕はフィン・ディムナ、そして彼らはリヴェリアにガレスだ。申し訳ないがモモンという名前は聞いたことがない。どこのファミリアなんだい?」

 

「ヘルメスファミリアです。最近、オラリオに来たばかりなので仕方ありませんよ」

 

その後、ベル達が目が覚めるまで休ませてもらうようお願いし、モモン達は自分達はこれ以上迷惑はかけれないとキャンプ地から出ていった。

フィンはモモンの代わりに入ってきたアイズにモモンの印象を尋ねる。

 

「アイズ、彼について何か知っていることはあるかい?」

 

「分からない、ただ彼の力はLv.1の限界を軽く突破している。ステイタスだけで言えば私達すら超えている部分もあると思う」

 

アイズの答えにガレスやリヴェリアも驚く。フィンは右手の親指を舐め、モモンが出ていった入り口を見つめていた。

 





もう4月・・・早いっす。

でもアニメは楽しみです(о´∀`о)


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異常事態

「いやー、ごめんごめん」

 

ヘルメスはモモンに手を合わせながら謝っていた。しかし、その顔は笑みを浮かべ、謝罪をしているようには見えない。

相変わらず主人に対し不敬な態度をとるヘルメス()にアウラは静かに怒りが込み上げていた。主人が許していることに対し、(しもべ)が文句を言うのもおかしいためじっと我慢をしていた。アウラは主人が不快に感じたら即座に動けるように様子を伺うと、突然主人が神々しい光に包まれた。

 

 

 

 

 

モモン達が18階層のセーフティーポイントに到着してから数時間後、ロキファミリアの治療のおかげでベル達は無事に意識を取り戻した。さらに数時間後、ヘスティアとヘルメスを連れたベルの救出チームが18階層に到着した。

ベル達はロキファミリアが滞在する予定の明日まで休息をとっていた。今はセーフティーポイントにある街《リヴィラ》を訪れている。

 

ベルとは別行動をしているモモンは先程、ヘルメスに会い突然謝られたのだった。

 

「何のことですか?ベル君達を救助に行ったことの礼なら既に受けたと思いますが」

 

謝罪の理由を把握できないモモンにヘルメスは一枚の紙を手渡した。モモンがその紙に目を通し終わったとき、神威(アルカナム)を解放した神のように神聖な光がモモンを包んだ。

 

「な、何ですか、これは!?」

 

「いやぁ、君達はLv.1じゃ規格外過ぎて逆に目立つから、ランクアップしたってことにしたんだ。でもそうすると二つ名を決めないといけないだろ。君達の意見を聞ければ良かったんだけど、時間もなくてね。決まった二つ名を会ったときに伝えようと思ったら今回のことがあってバタバタしてたから。・・・まぁ、とりあえずランクアップおめでとう!」

 

一人盛大に拍手するヘルメスを尻目にモモンは再び二つ名の書かれた紙に目を落とした。

 

(【漆黒(ダーク・ウォーリアー)】は格好良いから良いとして、まぁ似合ってる二つ名のNPCも何人かいる。しかし、アルベドの【漆黒の嫁(ダーク・ワイフ)】ってなんだ?適当過ぎるだろ)

 

「あの、このアルベドの二つ名何ですが・・・」

 

「ああ、それかい。凄いピッタリな二つ名じゃないか。最初はちょっと問題かなって思ったけど街で見かけた様子だと正に理想の夫婦に見えたし」

 

モモンは街で出会ったときのヘルメスの顔を思いだし、なぜ手をつなぎ直すように促した理由を理解した。

 

「モモンさん、何が書いてあるんですか?」

 

後ろで控えているアウラ達が興味津々な様子で質問してくる。

 

「これは私達がランクアップした際に決められた二つ名を纏めてある。アウラは・・・【太陽加護(サンライト・ブレス)】、ルプスレギナは【狼の媚薬(ウルフズベイン)】、ソリュシャンは【禁断苹果(ユーサネイジア)】だな」

 

「どうせつけなきゃいけないなら、モモンさんにつけてもらいたかったです」

 

「いやいや、なかなか似合ってると思うぞ。《太陽の加護》なんてアウラの元気一杯なところを表していていいんじゃないか」

 

アウラの文句にモモンがフォローしたことで、すねた顔はみるみる明るくなっていった。

 

「あの、モモンさん。私も似合ってるっすか?」

 

アウラだけズルいとルプスレギナがモモンに尋ねる。さりげなくソリュシャンもルプスレギナのすぐ後ろでモモンの意見を聞きたそうにしている。

 

「あぁ、二人ともそれぞれの特長や能力に合ってる気がするぞ。私でもここまで思い付けるかどうか、さすがは神といったところだな」

 

モモンの誉め言葉に皆が幸せになる。その話を聞きながらヘルメスは名付け親の思いと受け止め側の思いが違いながらもお互いが良いと思うのであれば、結果良かったと感じた。

 

「ちなみに他の方はどんな二つ名何ですか?」

 

ソリュシャンの質問にモモンが固まる。なかなか読み上げないモモンに代わりにヘルメスが全員の二つ名を教えた。

 

 

 

「アルベドだけズルい!私もその二つ名が良いです!」

 

先程まで喜んでいたアウラの表情が再び曇る。ルプスレギナもソリュシャンも口には出さないが羨ましいそうにしている。

 

モモンはアウラの愚痴を聞きながら【漆黒の嫁(ダーク・ワイフ)・正妻】、【漆黒の嫁(ダーク・ワイフ)・側室①】、【漆黒の嫁(ダーク・ワイフ)・側室②】、・・・と続きそうな二つ名を想像し、絶対に阻止することを誓うのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

翌日、ロキファミリアがオラリオに帰るのについていく形でベル達も中層から脱出する予定だった。しかし、直前になって問題が発生した。ヘスティアが何者かに連れ去られたのだ。

ベルが犯人の要求で単身向かった先には、冒険者達が待ち構えていた。彼らはベルの急激な成長に快く思っておらず憂さ晴らしのためにヘスティアを拐いベルを呼び出したのだった。彼らのリーダー、モルドは姿を消すマジックアイテムを使い、一対一という名の一方的な見世物(ショー)を行った。

そんな彼らを遠く離れた木の上から見つめる神物(じんぶつ)がいた。ヘルメスだ。相手が持つマジックアイテムを貸し出し、彼らをけしかけたのはヘルメスだからだ。

 

「悪趣味ですね」

 

ヘルメスの従者であるアスフィは眼下の光景を見ながら自分が作成したアイテムがこんな茶番に使われていることにため息をつく。

そんな二人の会話にもう一人加わった。

 

「確かに良い趣味とは言えないな」

 

「やあ、君はこっちに来たのかい?てっきり向こうに行くかとも思ったんだけど」

 

ヘルメスはベルの異変に気付いた彼の仲間達が救援に向かっている姿を見ながら訊ねた。

 

「なぁに、その気になればあいつらをすぐにでも皆殺しにできるさ。それよりもこんな茶番を用意したんだ。何か意図があってやったんだろ?」

 

「やっぱり分かるかい?一応、これでもベル君のことは推してるんだぜ。強いていうなら、彼の成長のため・・・かな?」

 

「これがどう成長になるのですか!?」

 

冒険者に囲まれ傷付いているベルの姿を見てアスフィはたまらず二人の会話に入った。

そんなアスフィとは対照的にモモンは冷静にベルの姿を見て納得した。

 

「人間の悪意に触れるためか」

 

モモンの回答にアスフィが理解するため耳を傾ける。モモンの回答に答えるようにヘルメスは説明を加えた。

 

「彼は今まで周りの環境に恵まれていたんだろう。人間の負の部分に触れる機会が極端に少なかった。人間の綺麗な部分だけじゃない、悪趣味でもなんでも人の醜い部分にも触れてほしかったのさ」

 

ヘルメスの回答を聞きながらモモンはベルの長所とその危うさを思い出していた。確かにヘルメスの言う通り将来より大きな悪意に晒された時、心が壊れ立ち直れなくなってしまうだろう。そのためにこのような形で人の醜い部分に触れた方が良いと思う。その一方でモモンはベルになにか別の答えを求めていた。その答えを確かめるようにモモンはベルの様子を眺めていた。

 

 

モモン達の会話を尻目にベル達の状況は徐々に変化してきた。観衆だった冒険者達はベルの仲間たちにより迎撃に向かい、ベルとモルドの完全な一騎討ちになっていた。一方、相変わらず見えないはずのモルドの攻撃をベルが防御するようになっていった。

最初はタイミングがずれて攻撃を受けていたが、少しずつだが確実にモルドの攻撃を防いでいた。これに焦りを感じたのはモルドだ。見えないはずの自分の攻撃が受け止められている。タイミングや方向を変え攻撃するがベルはモルドが見えているかのようにその全てを受け止めた。理由の分からないベルの変化もとい成長に、いたぶるだけの遊びが遂に本気となりモルドは剣を抜いた。しかしベルもその攻撃を受け止め反撃に出た。ベルの攻撃が当たり、マジックアイテムを壊され姿を現したモルドは力任せにベルに襲いかかる。

その時、ヘスティアの声が響き渡った。

 

「やーーーめーーーーろーーーーーーっ!」

 

神の前に冒険者(こども)達は一斉に動きを止めた。ヘスティアの姿にベルは安心した表情を変わった。しかし、モルドだけは後戻りはできないと再びベルを襲おうとした。

しかし、ヘスティアの一声で再び動きが止まった。いや、先程以上に力のある言葉に誰もが息をのんだ。

 

「止めるんだ!」

 

ヘスティアが超越存在(デウスデア)として下界で抑えていた神威(アルカナム)を解放した。下界のものを平伏させる神の威光がモルドだけでなく全ての者を金縛りがあったように停止させる。

 

遠くから様子を見ていたモモンはヘスティアの力に驚いていた。普段の遊びとは違う正に神としての姿に。

モモンはオラリオの暮らしで神が下界で暮らすために決めたルールをつくったことを知った。神の力を使わず人間のように不自由な暮らしを楽しむ。そのルールを破ったものは天界に強制送還され、二度と下界に戻ることはない。

今回のヘスティアの行為は反則すれすれだろう。しかし、争いあう子供達を止めるためだけに神威を解放した。神達は子供達のことを多かれ少なかれ愛している。恐らく子供達が重大な危機に遭遇したとき、神の中にはそのルールを破ってでも子供達を守る者も現れるだろう。モモンはそれを想像し改めて警戒を強めた。

 

 

 

 

 

ビキッ

 

突然セーフティーポイントの天井に広がるクリスタルが明滅し、中央の巨大なクリスタルにヒビが入った。それと同時にダンジョン全体に地響きが起こる。クリスタルの亀裂は徐々に大きくなっていき、遂に完全に割れた。

そしてその中からセーフティーポイントに発生するはずのないモンスターが落下してきた。そのモンスターは階層主のゴライアスに似ているが肌は浅黒く異様な雰囲気を放っている。

 

「ウオオオオオオオオオォォ!」

 

セーフティーポイントの中央にある巨大樹を踏み潰し、咆哮とともに神にすら想像できない異常事態(イレギュラー)が発生した。

 



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英雄

「バレた・・・?」

 

ヘスティアの小さな呟きをモモンは敏感に聞き取った。

 

「アスフィ、リヴィラの町に行って冒険者達の応援を呼んでくるんだ」

 

「応援?あれと戦うのですか?逃げるのではなくて?」

 

ヘルメスの依頼に質問で返すが、その回答はすぐに納得できた。

 

「たぶん、逃がすつもりは無いよ」

 

その直後、けたたましい音が響いた。アスフィはその先を見ると17階層につながる通路が崩れた壁によって塞がれていた。あの瓦礫を退かすには半日以上はかかるだろう。そしておそらく退かす余裕などくれる筈もない。

 

「生きて帰れなかったら恨みますからね、ヘルメス様!」

 

恨み節を残し、アスフィはリヴィラの街に飛び出した。その後ろ姿を見ながらヘルメスは残っているモモンに話かけた。

 

「さて、君には説明が必要みたいだね」

 

「バレた、とはなんのことだ?」

 

モモンの質問を予め知っていたかのようにすぐにヘルメスは答えだした。

 

「元々このダンジョンは神々(おれたち)が下界に降りる前の古代の時代から存在していた。モンスターが溢れ出る大穴を下界に降りた最初の神と子らで防ぎ、なんとか蓋をすることができたんだ。それがこのオラリオの前身である要塞都市というわけだ。だからだろうね、恨んでるのさ、こんな地下空間(ところ)に閉じ込めた神々(おれたち)を」

 

ヘルメスの話を聞き、モモンは違和感を感じる

 

「ちょっと待て、それではダンジョンそのものが意思を持っているようではないか?」

 

「詳しくは分からない。だが今回のことはダンジョンが俺やヘスティアの存在を敏感に察知して起こした可能性が高い」

 

「きっかけは神ヘスティアが神威を解放したことか」

 

「いつもはギルドの長であるウラノスの祈祷でモンスター達の力を抑えてはいるのだが、こんなことは前例がない」

 

モモンはヘルメスの話を聞きながら神の言うイレギュラーを見つめた。

 

 

ベル達は近くに居合わせたモルドを助けるべく動き出していた。ヘスティアを誘拐しベルを襲った張本人にもかかわらず。

 

「フッフッフッ、────────チッ、抑制されたか」

 

ベルの行動にモモンは思わず笑いが込み上げてきた。すぐに抑制されてしまったが。

 

(相変わらず甘いな。しかし、それが君の答えか)

 

ベルの姿にモモン、いや鈴木悟が憧れていたタッチ・ミーの姿が重なる。もちろん力を比べれば足元にも及ばない。しかし、ベルはアインズにはない強さを持っていた。

 

「君も助けてくれるのかい?」

 

「別に神がどうなろうと私の知ったことではない。しかし、あれが私の前に立つというなら容赦はしない」

 

モモンの回答に十分だと答え、ヘルメスはこの物語の結末を見守るために特等席へ移動した。

 

 

 

「アウラ、ルプスレギナ、ソリュシャン!」

 

モモンの号令と共にモモンのもとに(しもべ)が集まる。すぐにでも動ける準備はできているというようにモモンの顔を注視している。

 

「私たちはあいつに手を出すつもりはない」

 

アウラ達はモモンの言葉に理解ができず戸惑っている。

 

「あいつを殺すのは簡単だ。しかし、冒険者達がどこまでできるのか見てみたい。それに冒険者が倒せなくてもそれを倒した私達の評価はさらに上がるだろう」

 

モモンの回答に納得したようにアウラ達はうなずいた。

 

(さて、見せてもらうぞ、ベル君。君の冒険を)

 

 

 

 

冒険者達はアスフィ、そしてかなりの実力がある覆面の女を囮に戦っていた。ゴライアスの咆哮(ハウル)は通常の相手を『恐怖』状態に追い込み身動きをとらせるのではなく、魔力を込め純粋な砲撃として遠距離からの攻撃が冒険者達を苦しめた。さらにゴライアス自体も巨大な体と厚い皮膚に覆われまともな攻撃が与えられない。足元に集まる冒険者達にゴライアスが雄叫びをあげる。その雄叫びは18階層に棲息していたモンスター達を呼び寄せた。冒険者達はゴライアスだけに集中できず、ベルもまた戦闘不能に陥った冒険者を助けながらモンスターと戦っていた。

事態が動いたのは冒険者達が放った長文魔法だった。前衛攻役(アタッカー)が引き付けている間に詠唱を終え、放たれた爆炎や雷槍、氷柱など幾重もの魔法がゴライアスを直撃する。黒煙をあげながら動きを止めたゴライアスに一気に畳み掛けようと追撃を加えようとした。

しかし、ゴライアスは余りある魔力を使い急速なスピードで自己再生を行った。迂闊に近付いた冒険者は巨大な鉄槌に蹴散らされ、遠くの魔法詠唱者は前衛壁役(ウォール)ごと咆哮(ハウル)によって吹き飛ばされた。

なんとか難を逃れたベルはランクアップ時に新たに得たスキル【英雄願望(アルゴノウト)】で蓄力(チャージ)する。リィン、リィンと(チャイム)の音が響く右腕は白い燐光が明滅していた。蓄力(チャージ)ができる最大の三分をかけ、通常とは桁外れの【ファイヤーボルト】を放った。狙うはゴライアスの中心にあるであろう魔石だ。いくら回復しようがこれが無ければ死んでしまうモンスター共通の弱点。しかし、ゴライアスは負けじと咆哮(ハウル)を放つ。【英雄願望(アルゴノウト)】によってベルの極大の【ファイヤーボルト】はゴライアスの()を吹き飛ばした。

外した、ベルの思いを知るかのようにゴライアスは頭すら再生させた。力を使い果たしたベルをゴライアスは容赦なく吹き飛ばした。ベルを守るために間に前衛壁役(ウォール)が入り直撃を防いだようだが、その甲斐無くベルは戦線を離脱した。

 

(ここまでか・・・)

 

ベルの奮闘にアインズはよくやった方だと考えた。彼のスキルなのだろう。ゴライアスの頭を吹き飛ばしたのは十分な偉業だ。幸いまだ死んではいない、後は自分達の出番だと動き出そうとしたとき、ベルの治療をしているヘスティア達のもとにヘルメスが現れた。

英雄の条件(祖父の教え)を口にするヘルメスにベルが覚醒する。想い人(アイズ)に恥じないように、何より仲間を守るために再び立ち上がろうとする。

 

「ルプスレギナ、治療をしてやれ」

 

思わず口にしてしまった。英雄に憧れた自分が英雄になる男の姿を見たくて。

 

「【大治癒(ヒール)】、モモンさんに感謝するっすよ」

 

突如現れたルプスレギナにヘスティア達は驚くが、ベルの傷がみるみる回復していった。立ち上がったベルは再び想いを込め蓄力(チャージ)を開始する。

 

限界解除(リミット・オフ)

 

ベルの想いが神の恩恵を凌駕し、戦いに一石を投じる英雄の一撃へと昇華させた。

 

ゴォン、ゴォォン!

 

突如鳴り響いた大鐘楼(グランドベル)に全ての者が息をのんだ。大剣を抱え燐光を明滅させるベルに全てを賭ける。

 

「いけぇぇぇぇぇ、てめぇらぁぁぁぁ!!!」

 

ゴライアスも同時にベルのことを敵として認識した。近づけさせまいとモンスターをベルに集結させる。冒険者達はベルに近づけさせまいと道をつくった。アスフィ達もベルの蓄力(チャージ)が貯まるまでゴライアスを惹き付けた。

全ての冒険者達の協力を経てベルは蓄力(チャージ)を完了させて、全ての力を込め一撃を放った。

 

「ああああああああああああああッッ!!」

 

純白の極光が辺り一面を覆う。視界が回復したものはおそるおそる様子を伺うとゴライアスの上半身が吹き飛んでいた。特大の魔石がこぼれ落ち、残された体は大量の灰となって消えた。

冒険者達の大歓声が上がり、ベルの回りに集まった。そこには先程までベルを妬んでいた姿はない。その光景にモモンはベルに称賛を送った。

 

「ベル君、おめでとう」

 

全力を使ったベルは体の力が入らないのか座り込んでいたが、照れたように笑っている。ベルの無事に安堵したヘスティアやリリに抱きつかれて顔が真っ赤だ。

 

 

 

 

冒険者達はひとしきりお互いを称賛しあうと、戦利品に群がりだした。特に巨大な魔石にはどう分け合うかでいさかいが起こっている。

モモンも巨大な魔石を眺め触れた瞬間、声が聞こえた気がした。

 

 

(見つけた)

 

 

その声と同時に目の前にあった魔石が消滅した。目の前の出来事に周りにいた冒険者達は阿鼻叫喚の騒ぎだが、モモンだけは体の違和感に黙りこんでいた。消えたのではない、体に取り込まれたような違和感を感じて。

 

今だ歓喜に包まれるベル達とは対照的にアインズは言い知れない不安を感じるのだった。

 

 






今後の展開を考えてタグを追加しました。
楽しんでもらえれば幸いですm(__)m


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古代

薄暗い石造りの通路を()()()()は歩いていた。アインズがいるのはダンジョンの中ではない。そしてアインズを先導するのはアインズと同じフードを被った骸骨の男だ。アインズが召喚したモンスターではない、フェルズと名乗った男に言われるがままひんやりしたとオラリオの地下にある秘密の通路を進んでいった。

 

アインズはこの前の18階層で発生した事件でヘルメスが語ったダンジョンの成り立ち、そして最初の神々のことについて知るためにギルドの長、ウラノスのところにやって来たのだった。

ヘルメスにウラノスと会えるよう仲介を頼んだところ、確認するためしばらく待って欲しいとのこだった。

暫くしてナザリックに一人の訪問者が現れた。自ら【愚者】と名乗るフェルズにアルベド他NPC達は侮蔑の目線を送るが、シャルティアのみうっとりとした目線でフェルズを見つめていた。そんなシャルティアと目が合ったフェルズは戸惑った様子で話を続けた。

 

「神ヘルメスから貴方の話は聞いています。我が主も貴方にお会いしたいとおっしゃっています。しかし、ダンジョンへの祈祷をしなければならず離れることはできません。申し訳ありませんが、ギルドへお越し頂けないでしょうか?」

 

「下等生物の分際でこちらに来いとは不敬にも程があります」

 

「良いのだ、アルベド」

 

「しかし───」

 

アルベドを手で制し、フェルズに話を戻した。

 

「すまないな、それで私はギルドに行けば良いのか?」

 

「ありがとうございます。しかし、貴方様がギルドに来られるといくら冒険者のモモンとしてでも不審に思うものはいます。私が案内しますのでついてきて頂けないでしょうか?」

 

「アインズ様、危険です!」

 

アインズを敵の中心に向かわせるような行為にたまらずアルベドは声を荒らげた。

 

「ッ、良い!!!・・・すまない」

 

アインズの強い口調にアルベド他全ての(しもべ)が制止した。

 

「申し訳ありません」

 

「いや、良いのだ私の心配をしてくれたのだろう」

 

アルベドはアインズの焦ったような姿、他の守護者達は気付いていないが最後にダンジョンから帰ってきた時から感じる違和感に不安を抱いていた。

 

「フェルズとやら、すまないな。それでは今からでよいのだろう?案内を頼むぞ」

 

─────────────

 

アルベド他、数名の部下を引き連れアインズはフェルズについて通路を突き進んだ。長く迷路のように続く通路を歩いている間、アインズは気になったことを質問した。

 

「お前は何ものなのだ」

 

()人間ですよ。無限の知識を得るために永遠の命を求めた様がこのような結果です。生きる亡者ですよ、私は」

 

見た目が似ていることや元人間であることもあり、少なからずアインズは共感を覚えた。

 

「───死にたいと思うか?」

 

アインズの率直な質問にフェルズは少し答えを考えた。しかし、フェルズも素直な今の思いを答えた。

 

「・・・そうですね、そういうことを考えなかったと言ったら嘘になります。ですが今はまだやるべきことがありますからもう少しこのままでいようと思います」

 

「そうか、分かった。もしその時が来たら私の元に来い。慈悲をくれてやろう」

 

アインズの言う慈悲が何を指しているのかを理解し、フェルズは感謝した。

 

「───ありがとうございます」

 

 

しばらくお互いに沈黙のまま歩くと行き止まりにさしかかった。フェルズが手をかざし、呪文を唱える。

 

「───」

 

アインズは今、【開けゴマ】と聞こえたような気がしたが、そんな簡単な呪文な訳がないと頭を振って否定した。フェルズの呪文に壁がスライドし開いた。通路より開けた石畳の広間に目的の神物(じんぶつ)は座っていた。

 

「あなたがウラノスか?」

 

巨大な石の玉座に2メートルを越すたくましい体格は他の神よりも存在感だけでなく神威も大きく異なる。白髪で白髭を蓄えた老神だが、その目は鋭く正にギルドの支配者といえる。ウラノスは椅子に座り不動のままあり続けていた。

 

「いかにも私がウラノスだ。よく来たな、アインズ・ウール・ゴウンよ。話はヘルメスから聞いている。私の分かる限り話をしよう」

 

「そうかよろしく頼む。【上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)】」

 

アインズの魔法により黒曜石で生み出された玉座が現れた。別に立って聞いていても疲れる訳ではないのでいいのだが、(しもべ)達が文句を言いそうなので作ったのだった。

 

アインズの行動にフェルズは驚愕する。

 

「ハハッ、何が【賢者】だ。【賢者】と呼ばれうかれていた自分が情けない。未だかつて、こんな魔法は聞いたこともない」

 

フェルズの呟きを無視し、アインズは話を進めた。

 

「ダンジョンとは何だ?いつ、どうやって発生した?」

 

 

【それじゃあ、ウラノス、『力』の行使の許可を】

 

アインズの話を遮り、突如響いてきたのはヘルメスの声だ。ウラノスはアインズに断りを入れヘルメスに回答した。

 

「───許可する」

 

すると、ウラノスとアインズの間に円形の窓、神の力(アルカナム)【神の鏡】が現れた。そこに写るのはベルを含むヘスティアファミリアだった。

 

アインズはヘスティアファミリアが戦争遊戯(ウォーゲーム)をすることを思い出していた。少し気になったが、話を進める。

 

「途中ですまないな。悪いがダンジョンについて詳しくは分からない。神ですらその深淵は伺うことができないからだ。そして、下界を見ていた者の話では、私たちが下界に下りる前、1000年以上前に突然、巨大な穴が現れたらしい。」

 

「1000年だと!」

 

「ああ、それから我々が下界に下り溢れ出るモンスターを眷属(こども)達と抑え蓋をつくったのだ。それまではモンスターを抑える術もなく地上は滅亡の危機だった」

 

アインズは一つの仮説を立てていた。その仮説が正しいのか一つ一つ確認しようとした。

 

「その当時、お前達が感じる違和感をもった存在というやつはいたか?」

 

長い沈黙の後、ゆっくりと思い出すようにウラノスは語りだした。

 

「───居た、かもしれない。神のごとき神器を持ち全てのモンスターを操る圧倒的な強者が。そうお主のような」

 

「そいつはどうした?倒したのか?」

 

「いや、他を隔絶するほどの強さだった。長い闘いの後、姿を見せなくなった所で蓋をし封じたので倒せた訳ではない」

 

アインズは戦慄を覚えた。遥か昔に自分と同じように転移した者の存在を知って。おそらく自分と同じようにギルドの拠点ごと転移したのだろう。そして今もまだ溢れ続けるモンスターは拠点を守る自動POPのモンスターである可能性が高い。それを1000年以上出し続けるなどどれだけの金貨が必要か分からない。どんな手段でそんな離れ業をしているか分からないが、間違いなく上位ギルドである可能性がある。

 

「三大冒険者依頼(クエスト)は知っているか?」

 

アインズが考えていると、ウラノスは質問を投げてきた。アインズが否定すると、ウラノスは説明した。

 

「オラリオに世界全土から求められている三つのクエストだ。古代の頃に地上に進出した強力な三匹のモンスターだ」

 

「何だと?」

 

アインズはその三匹のモンスターがプレイヤーもしくはNPCの可能性を考える。

 

「15年前、当時二つ最大ファミリアがこのクエストに挑み、陸の王者(ベヒーモス)海の覇王(リヴァイアサン)はなんとか討伐できた。しかし、その代償は大きかった。最後の一匹、隻眼の竜の前に全滅した。」

 

「ではまだ、その隻眼の竜は生きているのだな?」

 

「ああ、そうだ」

 

「それが分かれば十分だ。そのクエスト、このアインズ・ウール・ゴウンが引き受けよう」

 

そう言うとアインズは立ち上り、踵を返した。それと同時に魔法で作られた黒曜石の玉座が消えてなくなる。立ち上るときに、神の鏡を伺うとベルが相手のファミリアの団長らしき男と戦っていた。ベルの動きが前よりもさらに良くなっていることに嬉しく思う。

 

 

あの時聞こえた声と体に起こった違和感に戸惑いを感じていたアインズだが、正体がユグドラシルのプレイヤーの可能性があれば対処は早い。

迂闊にダンジョンに潜るのは避けねばならないが、外にいる奴ならまだ手はある。出来る限り情報を聞き出し一気に潰す。

 

(この世界にもプレイヤーが来ていたとはな。だがこのアインズ・ウール・ゴウンに喧嘩を売ったことを後悔させてやる)

 

静かに怒りを燃やすアインズは【ゲート】を開き消えていった。

 

ウラノスとフェルズはその後ろ姿を静かに見守っていた。





ベルとアインズがウォーゲームに参加する話が書きたかったorz

《案1》
モモンとして助っ人の一人として出る
→リューとかぶってたいした活躍なし

《案2》
【ウォーゲームの舞台】ナザリック大墳墓
【攻撃側】アポロンファミリア
【防衛側】ヘスティアファミリア

「誰も攻略できません!」


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家族

アインズはウラノスとの会談を終え、隻眼の竜・黒竜を倒すために作戦を考えていた。しかし、早々に問題にぶち当たった。アインズが討伐に行っている間、モモンをどうするかだ。答えは出ている。アイツをモモンの代わりにすればいい。ただ、まだこの世界に来て一度も会っていなかった。

 

「はぁ」

 

肺がないためため息のしようがないが、人間だった頃の残滓のせいか思わずついてしまう。アインズは覚悟を決め立ち上がった。

 

「アルベド、ついてきてくれ。宝物殿に行く」

 

「宝物殿ですか?」

 

「ああ、パンドラズ・アクターに会いに行く」

 

ついにこの時が来たとアルベドは身を構えた。

 

「パンドラズ・アクターといえばアインズ様が御自ら創造された(しもべ)ですね」

 

「知っているのか?」

 

「はい。会ったことはありませんが、守護者統括という立場上、全てのNPCは把握しております。宝物殿の管理者として、ナザリックの財政面での責任者であり、私たちと同様の強さと頭脳を持ったアインズ樣が創造された唯一のNPCだと存じています」

 

アルベドはモモンガが直接創造したパンドラズ・アクターに嫉妬していた。愛する者に創造される、すなわち被造物主のことを考えその全てを知るということ。羨ましすぎる状況に怒りすら込み上げる。

しかし、今は違う。モモンガ様とは自他共に認める夫婦となったのだ。パンドラズ・アクターはモモンガ様の子、つまり私の子でもあるのだ。子に嫉妬する親などいない。アルベドは広い心でパンドラズ・アクターを受け入れることにした。

つまり今日は初めて家族揃って団欒をとるということだ。何事も第一印象は重要である。しっかりと母親として認めて貰えるよう身なりを整えた。

 

「そうか会うのは初めてか」

 

「はい、宝物殿に行く許可も手段も持ち合わせておりませんので」

 

「確かにそうだったな、すまないな。確かにアルベドには早くこれを渡すべきだったな」

 

そう言うとアインズは無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)から一つの指輪をアルベドに手渡した。

 

アルベドは超位魔法【失墜する天空(フォールンダウン)】が直撃したかのような衝撃を受けた。ついに、ついに婚約指輪をいただく時がきたのかと。

 

「【リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン】だ。これがあればナザリック内の特定の箇所以外なら回数制限なく転位出来るぞ」

 

アインズはアルベドに指輪の効果を説明するが、感動に内震えるアルベドは全く耳に入ってこなかった。

 

(うやうや)しく指輪を受けとると、アルベドはさっそく左手の薬指にはめた。

その様子にアインズは戸惑ったがアルベドが嬉しそうなのであえて口にはしなかった。

 

「さてそろそろパンドラズ・アクターに会いに行くか」

 

「くふー、ゴホン。はい、アインズ様。────あの、二人きりの時は『あなた』の方がよろしいでしょうか?それとも『お父さん』の方がよろしいでしょうか?」

 

アルベドの突飛な発言に固まるアインズだが、しばらくフリーズした後、アインズと呼ぶように頼んだ。それはそれでアルベドは凄く嬉しそうだった。

 

 

────────────

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで宝物殿に転移したアインズとアルベドは無造作に山積みにされた金貨の山の前に来た。ここにある金貨だけでもジャガ丸くんを無限に食い続けることができる量だが、ナザリックの秘宝はさらにこの奥にある。アインズは一面黒い壁の前にやって来た。

 

「えーとっ、解錠方法はなんだったかな?───アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

 

アインズの言葉に黒い壁に文字が浮かんだ。

 

「たしか、かくて汝、全世界の栄光を我が物とし、・・・暗き者は全て、汝より離れ去るだろう、だったか?」

 

アインズのうろ覚えの合言葉だったが、正しかったのか黒い壁が消滅しさらに奥へと進める通路が出現した。

 

「この先が目的地の霊廟になる」

 

「霊廟ですか?」

 

アルベドには『同じお墓に入ろうね』と言われてるようにしか聞こえなかった。例えプロポーズの言葉でも愛するモモンガ樣が死ぬことなど想像したくない。しかし、あくまで例えであることは明確だ。ここは妻として諌めるべきか『はい、喜んで』と答えるべきか悩んでいた。

そんなアルベドを無視してアインズは目的の場所に着いた。

そこには人の体に蛸のような生物が頭部のついた歪な生物が居た。その姿を見たアルベドは思わず目を見開いた。

 

「タブラ・スマラグディナ樣!?───いや、違う。いくら姿形を似せても創造主までは間違えたりしない。お前は誰だ?」

 

「もうよいパンドラズ・アクターよ、元に戻れ」

 

アルベドがアインズを守ろうと全力で警戒しているのをよそに、アインズは声をかけた。

すると姿がみるみる変わり、ピンクの卵のような頭にドイツの軍服を着たドッペルゲンガーが姿を現した。

 

「ようこそおいで下さいました。私の造物主たるモモンガ様!」

 

つるんとした頭に目と口の部分だけ穴の開いた顔に似合わず、敬礼を決める姿はなかなかのギャップを感じる。

 

「ところで今日はどうされたのでしょうか?」

 

「少しお前に手伝ってもらいたい、それと世界級(ワールド)アイテムをいくつか取りに来た」

 

「ワ~~ルドアイテム!!至高の御方々の証。ついにそれを使うときが来たと?」

 

パンドラズ・アクターの一挙手一投足にアインズの精神が削られていく。

 

「後で必要な時と物を選出する。それと、私は名前を変えた。これからはアインズ。アインズ・ウール・ゴウンと呼べ」

 

「承りました。我が創造主、ん~~~アインズ様!」

 

いちいちポーズを決めるパンドラズ・アクターにアルベドは思わず顔をしかめた。

 

(頭がおかしいのかしら?・・・はっ、いけないわ!母として子の個性を尊重しないと。モモンガ様が創造されたのですもの、きっと何か特別な意味があるのだわ。モモンガ様も子供に会えて嬉しくて震えてるもの)

 

「おい、ちょっとこっちに来い」

 

モモンガはたまらずパンドラズ・アクターを呼び寄せた。

 

「その服は格好いいからいいとして、敬礼はやめないか?」

 

アインズの迫力にさすがのパンドラズ・アクターも圧倒される。

 

Wenn es meines Gottes Wille(我が神がお望みならば)

 

「ドイツ語だったか?それも止めような」

 

また一つパンドラズ・アクターのアイデンティティーが消えかけようとした時、救世主が現れた。

 

「アインズ樣、よろしいでしょうか?私はパンドラズ・アクターの個性は素敵だと思いますよ」

 

アインズはその言葉に戸惑いを浮かべた。横から口を挟むアルベドにパンドラズ・アクターは尋ねた。

 

「そちらのお嬢様は?」

 

お嬢様扱いされたことにアルベドは少し怒りを覚えたが、我慢し自己紹介をした。

 

「私は守護者統括アルベドです。そしてアインズ様の妻であり、あなたの義母(ははおや)です」

 

アルベドの衝撃発言に二人は固まっていた。

 

「驚かせてごめんなさい。でもこれは事実なの。私の二つ名は【漆黒・妻(ダーク・ワイフ)】。アインズ様の二つ名は【漆黒(ダーク・ウォーリアー)】。これは神々が決めたことなの」

 

「アインズ様、事実なのですか?」

 

「確かにそうだ()「Herzlichen Glückwunsch zur Verlobung!」」

 

アインズが続きを言おうとしたが、感動に内震えたパンドラズ・アクターにかき消された。

 

「えーと、今のは何て言ったのかしら?」

 

わざとらしく口に手を当て左手薬指の指輪を強調する。

 

「おぉ、これは失礼しました。『ご結婚おめでとうございます』と言わせていただきました、Meine Schwiegermutter(我が義母よ)

 

「クフーーーーー!」

 

アルベドの奇声が宝物殿に高く響いた。



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戦略会議

「静かにせよ!」

 

アインズの一声に守護者達は一斉に静かになる。しかし、グスッと鼻をすする音だけが静寂な空間に響いた。その音の主はシャルティアだ。いや、アルベドも泣いていた。

 

きっかけはアルベドがシャルティアにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを見せつけたことだった。ただでさえシャルティアはアルベドの二つ名に散々文句を言っていた。なんとかアインズがなだめ、おさめた経緯があった。そんなところにシャルティアを挑発するように指輪を見せ、妻だ義母だとのたまった。

シャルティアは暴れた。泣きながらアルベドに飛び付き、リングを奪おうとした。回りの守護者達も流石にこれ以上は不味いと二人を抑える。二人を止めたのはやはりアインズだった。

 

「何をしているのだ!?」

 

二人の言い分を聞き、沙汰が下りた。アルベドの指輪はしばらく没収することになった。これにはアルベドも泣きながら慈悲を求めた。しかしアインズは認めずアルベドは泣き崩れた。そしてシャルティアも任務終了後に謹慎が言い渡されることになった。

 

────────────

 

二人の泣き声が響く気不味い会議の中、一人だけ笑みを浮かべる男がいた。デミウルゴスだ。

 

「デミウルゴス、すまないな。ではさっそく報告を聞かせてくれ」

 

「はっ、アインズ様。黒竜の居場所についてですが居場所は特定できておりません。しかし、居場所を見つける手掛りはございます」

 

今までアインズ様の役に立つ機会が少なかったデミウルゴスはここぞとばかりに興奮した様子でプレゼンをしていた。

デミウルゴスはアインズ達がダンジョン攻略をしている間、アインズから許可を貰いオラリオだけでなく世界の情報を手に入れていた。デミウルゴスの得た情報は国家の勢力、貴族が破滅するような情報やファミリアが隠す不正、女神の借金まで様々なことを手に入れていた。

 

「さすがはデミウルゴスだな。よくやってくれた。なにか褒美をしなければな」

 

「いえ、そんなもったいなき御言葉。主に仕えるのは家臣の役目です」

 

「そう言うな、信賞必罰は組織には必要だ。何でもいいぞ」

 

しばらく考えた後、デミウルゴスは欲しい褒美を答えた。

 

「では、アインズ様より二つ名を決めていただければ幸いです」

 

守護者達に衝撃が走った。その手があったかと。冒険者では無いコキュートスはもちろん、既に二つ名がある守護者達もアインズ様が直接決める二つ名など垂涎物だ。

 

「そんなもので良いのか?」

 

「もちろんでございます。アインズ様に二つ名をつけていただけるなど光栄の極み。何物にも代えがたい栄誉です」

 

「ではデミウルゴスの二つ名は考えておくとしよう。それで黒竜の情報はどんなものがある?」

 

「はい、黒竜がダンジョンから地上に進出し多くの場所で被害を出している情報を掴んでおります。数年前にも村が壊滅し、ほぼ全ての人間が死んだようです。特定の棲みかがあるわけでなく、定期的に棲みかを変えていると考えられます。ですが、オラリオの北側にある村に時折、『竜の鱗』というものを持った人間が現れるそうです」

 

「ふむ、竜の鱗か・・・、世界中を歩き回るよりは行く価値がありそうだな。では案内を頼む」

 

「アインズ様、私モゼヒオ供ニオ連レ下サイ」

 

ナザリックの防衛を任されているとはいえ、他の守護者達より目立つ活躍ができなかったコキュートスはいつにもまして主張した。

 

アインズはコキュートスの気持ちもよく分かるが、まだ相手を見つけたわけではない。あまり目立つ行動は控えるためにも許可するわけにはいかなかった。

 

「すまんな、コキュートス。お前にはナザリックの防衛を任せたい」

 

コキュートスの表情は分かりにくいが明らかに落ち込んでいるのが分かった。

 

「しかし、もし黒竜と戦うときは私の手助けを頼むぞ」

 

「オ任セ下サイ!」と力強く答える姿にアインズも満足げだ。

 

「では、デミウルゴス、シャルティア、マーレ。私と共に北の村に赴くぞ。その間、アルベドを中心にナザリックの防衛を厳にせよ。パンドラズ・アクター、お前はモモンとしてダンジョン探索を任せる。メンバーはお前の好きに決めよ。ただし、中層以下に行くことは許さん。モモンの存在をアピールする程度で構わん。決して無理をするな。では各自、行動を開始せよ」

 

「「「ハッ!!!」」」

 

──────────────

 

アインズ達は竜の鱗を持った者が現れるという町に来ていた。

 

「アインズ様、お手を握ってもよろしいでありんすか?」

 

アインズはシャルティアの突然の発言に警戒するが、シャルティアは微塵も後ろめたいことがないかのように天使の笑顔を見せている。流石のアインズも断りきれず了承した。

 

ニヤリ、シャルティアはアインズが見えないところでほくそ笑んだ。シャルティアは今回の旅に賭けていた。これ以上アルベドのリードを許す訳にはいかないと。

 

「ん、どうしたマーレ?」

 

もじもじと何かを言いたげなマーレに気付きアインズが尋ねると、マーレがアインズとシャルティアの手を見ていることに気付いた。

 

「なんだマーレ、手を繋ぎたいなら言えば良いぞ。遠慮する必要はない」

 

アインズはシャルティアの手を握っている反対側の手を差し出しマーレの手を握った。嬉しそうなマーレとは対称的にシャルティアはマーレを睨み付けている。デートを想像するシャルティアの思いとは裏腹に、アインズ達を見た村人は子供を連れて歩いているようにしか見えなかった。

 

デミウルゴスの情報によりオラリオの北にある町を遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で見つけ【ゲート】で転移していた。町と言っても農作物が盛んなのどかな所でオラリオに出ていく若者も多く、年寄りの姿が目立つ。町には片手で数える位のお店しか無いため、聞き込みをするのは簡単だった。

もちろん、シャルティアには難しいため、アインズ自ら話を聞いて回った。

 

どうやら『竜の鱗』を持つ者は定期的にやってくるらしく、山菜や民芸品を売ったお金で薬や食糧、農具などを買いに来ているらしい。さらにほぼ決まった人物が買いに来ていたらしいが、最近別の者に代わったとのことだった。

 

「さて、ある程度情報は手に入れた。どうやら目的の人物はこのベオル山地に居るようだな」

 

アインズが見る方向には険しい山々がそびえ立ち、道はあるがまともに舗装されていない。この道を通る人物など見る限り誰もいなかった。

 

「わざわざ住むほど価値のある場所には見えんがな。まあいい、【下位アンデット創造】ボーン・ヴァルチャー(骨のハゲワシ)

 

アインズは上空から発見するためにモンスターを召喚した。

 

「あ、あの、アインズ様。僕達が飛んで探しに行かないのですか?」

 

「そうだな、マーレ。確かに我々が上空から探した方が早い。ただし、相手の方が先に見つかる可能性の方が高い。迂闊に魔法や転移を使用するのも危険だ。今回の敵がユグドラシルに関係している以上、細心の注意をするべきだぞ」

 

アインズの話を聞き、理解できたのか元気よく返事をした。しばらくアインズ達が道なりに歩いていくと、先程召喚した監視用のアンデットから反応があった。しかし、しばらくしてアンデッドの反応が途切れてしまった。

 

「なんだと!」

 

突然声を荒らげたアインズにNPC達は驚いた。

 

(さっそく反応があるとは運がいいな)

 

「先程召喚したモンスターが消滅した。普通の人間程度で倒せるモンスターではない。注意して前進せよ」

 

アインズの号令と共に守護者達は召喚したモンスターが消滅した場所へ警戒しながら進んでいった。そこにいたのはハーピィの群れだった。半人半鳥、女面鳥体のモンスターだ。半人と言っても顔は見るのもおぞましい醜い顔をしており、とても人と呼べるものでは無いが。

 

アインズは気づいた。召喚したモンスターを襲ったのはこいつらだと。今更、自分の失態に気付いたアインズはどうNPC達に伝えれば良いか悩んだ。その間にもシャルティア達は愚かにも襲ってくるハーピィを何の苦労もなく葬り去っていった。

 

(そ、そうだ、私でも失敗するというメッセージにすればよいのだ。そうすれば、これからもう少し相談がしやすくなるかもしれん。───いや、それでは守護者達が想像するイメージが崩れてしまうかもしれん。どうすれば・・・)

 

異世界転移してから悩み続けている命題に陥るが、デミウルゴスの一言で解決された。

 

「アインズ様、我々のことを気遣って頂きにありがとうございます」

 

「「えっ!?」」

 

それに驚いたのはシャルティアとアインズだ。デミウルゴスはシャルティアに分かるように丁寧に説明した。

 

「シャルティア、君はここに来るまで少し注意が散漫じゃなかったかい?それはもちろんマーレもだ」

 

デミウルゴスの言葉にシャルティアとマーレがここまでの行動を振り返り頷いた。それを確認するとデミウルゴスは再び説明を始めた。

 

「アインズ様はわざわざあのような攻撃力もないモンスターを召喚し、野生のモンスターに襲わせたんだよ」

 

デミウルゴスの発言に理解ができず二人は疑問を浮かべている。

 

「もしこのまま黒竜と遭遇してしまった場合、相手を弱いと決めつけて隙を見せることになるだろう。そうなればアインズ様はどうなる?」

 

デミウルゴスの質問にシャルティアとマーレは顔が引き締まった。

 

「そう、アインズ様は私たちを信頼していただいて少数精鋭で来たんだ。アインズ様に危害が加わる様なことは万が一にも許されない。それを教えて頂いたのです」

 

デミウルゴスの話にシャルティアとマーレは頭を深く下げ謝罪した。

 

「い、いや、分かってくれれば良いんだ」

 

しばらく歩くと特に何事もなくエダスの町に着いた。

 




キャラクターの考えを想像しながら書くのは難しいですな(ーー;)

さて、これからどうするか・・・



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黒竜

「これが『竜の鱗』か」

 

アインズ達は村人達に案内され竜の鱗が保管されている小屋に来ていた。石造りの堅牢な小屋は食べ物が供えられ、村人達が竜の鱗を崇めていることが分かる。いや、竜の鱗が持つモンスターを避せつけない力にすがっているのだろうとアインズは考えた。

 

ここまで案内してくれた村長は語りかけるようにアインズに説明をした。

 

「モンスターに頼っているのはおかしな話なんですが、こうやって生かしてもらっているのも事実なんです」

 

「村長、もし仮の話だが黒竜が冒険者に倒されたらどうする?」

 

「───そうですね。それも運命なのだろう、そう考えたかもしれません」

 

死を受け入れる村長の話にアインズは黙って続きを聞く。

 

「元々、私はこの山に死ぬために来ました。それが死にきれず、何の因果か今では義子達を養い、この村の村長になりました。ですから村人達だけは村を棄てでも生き延びてもらいたいです」

 

村長の答えに満足したアインズはある提案を考えた。

 

「我々はこれから黒竜を倒しに行く。そうすればこれは何の価値も無くなるだろう」

 

「やはりそうでしたか。何となくですがあなた様が来られた時、そうではないかと感じました」

 

「ではどうする?この村を棄てるか?」

 

「そうですね、村人に伝え避難させます」

 

「お前はどうするのだ?」

 

「あなた様には失礼ですが、もしもの時があります。その時に手入れをしていない村に戻ってきた村人は暮らせません。私は残ろうかと思います」

 

アインズは村長の覚悟を聞き

 

「そうか、分かった。ではこの村を私の保護下に置こう。それであればわざわざ村人総出で逃げる必要もあるまい」

 

アインズの言葉に村長は驚いた顔をしている。

 

「もちろん私が討伐に失敗すれば手間も省けるしな」

 

笑いながら言うアインズに村長はアインズの実力が理解する。確実に黒竜を倒してくるだろうと。

 

「これから黒竜を探す。すまないが村長、しばらく外してくれないか。何、別に鱗をどうこうするつもりはない。企業秘密というやつだ」

 

戸惑う村長だが了承し小屋から出ていった。村長が出ていくと、側で話を聞いていたシャルティアがこの村を保護下にする必要性を聞いてきた。

 

アインズは適当に黒竜の情報を探すためと答えたが、自分自身答えが分からなかった。何となく村長の想いに惹かれたのか、それとも単純に黒竜を探す為だけの方便なのか。ふと、アインズは今までの出会いを思い出した。ベルやエイナなどに触れ人間としての感情を思い起こしていたことに。少なからず影響されたのかと何となく感じた。

 

「ではそろそろ居場所を見つけるぞ。相手はユグドラシルに関係している可能性が高い。充分に対策をするぞ」

 

アインズは幾つものスクロールを取りだした。

 

探知したときに反撃されないための対策や逆探知されたときに偽の情報を流す魔法、さらには探知の効果を高める魔法など出来る限りの対策を行った。これは至高の41人の一人、ぷにっと萌え考案の『誰でも楽々PK(プレイヤー・キラー)術』の一つだ。そして万全の対策を終え、アインズは相手の居場所を見つけるべく最後のスクロールを使用した。

 

「【探知落主(ロケート・オウナー)】」

 

スクロールが燃え上がり、アインズに落とし主、今回でいう鱗の持ち主の距離と方角が浮かび上がった。どうやら相手は探知系の対策をしていないようだ。アインズはぷにっと萌えの言葉を思い出し、心の中で笑みを浮かべる。『勝負は始める前に終わっている』と。

 

充分な成果を得てアインズ達はナザリックヘ一度帰還した。

 

 

───────────────

 

「アルベド、ニグレドからの報告は来ているか?」

 

「はい、すでに居場所は確認できております。監視に気付いている様子もなく、今は大人しく巣穴で寝ております」

 

アインズは違和感を感じていた。なぜ情報を垂れ流すような真似をするのか、ユグドラシルのプレイヤーであれば情報は何よりも大切な武器になる。プレイヤーではなくNPCの可能性も考え守護者達に指示を出した。

 

「そうか、では諸君。相手が油断していようが必ず侮るな。ユグドラシルの関係者である以上、ワールドアイテムを使用する可能性もある。合図をしたら一気に叩け」

 

「「「はっ!」」」

 

 

 

アインズ達は全ての階層守護者を率い、人里離れた深い山奥に来ていた。標高も高いため木々は無くゴツゴツとした岩が転がっていた。各守護者達には世界級(ワールド)アイテムを持たせ、さらにバフをかけ万全の状態で望んでいた。

 

しかし、アインズは初めから敵対しないよう奇襲は行わなかった。相手を警戒させないように、最初に姿を見せるのはアインズとアルベドだけだ。

 

「お前はユグドラシルのプレイヤーか?私はモモン、ユグドラシルのプレイヤーだ」

 

あえて名前を偽ったのはアインズ・ウール・ゴウンの悪名が知れ渡っており、無用な争いを避けるためだ。

 

アインズの質問にゆっくりと起き上がった黒竜はアインズを認識すると咆哮をあげ、突然猛突進でアインズに突っ込んできた。咄嗟にアルベドがスキルを使用してアインズと黒竜の間に入った。

 

「大丈夫か、アルベド?───おいっ!ユグドラシルのプレイヤーだと言っているだろっ!」

 

「アインズ様、危険です。お下がりください」

 

なおもアインズの言葉に耳をかさず攻撃を加えてくる黒竜にアルベドはアインズの身の危険を考え進言する。控えていた守護者達も一斉に姿を現した。

 

(なんだこいつは、まるで獣だ。こんな奴がプレイヤーな訳がない、NPCにしてもお粗末すぎる)

 

アインズは仕方なく黒竜を捕まえ、情報を得るように切り替えた。

 

「守護者達よ、黒竜を殺してはいかん。捕まえ情報を得る」

 

アインズの言葉に守護者達は手加減の具合を悩みながらも思い思いの攻撃をしていく。

 

スポイトランスを装備したシャルティアは真っ直ぐ突っ込んでくる黒竜に【不浄衝撃盾】を使用し、黒竜を吹き飛ばした。さらに追撃にMPを使用した【清浄投擲槍】で攻撃を避けようとした黒竜に必中の攻撃を加える。

 

「ちょっ、シャルティア、あんた手加減って意味知ってるの?」

 

「相手もそれなりの強さでありんすから、これぐらい大丈夫でありんすよ」

 

アウラは反省していないシャルティアに呆れるが、黒竜も鼻息を荒くして突撃してくる。

 

「そうみたいね、じゃあ私も遠慮無く」

 

アウラはターゲティングで黒竜に狙いを定め、一射を空にめがけ放った。豪雨のように光り輝く矢が降り注ぎ黒竜を襲う。激しい攻撃の中、黒竜も灼熱の炎を吹いた。

 

「ヤバッ」

「ウ、【ウッドランド・ストライド】」

 

アウラはマーレの魔法により別の場所に転移し、黒竜の炎を避けた。ゴメンゴメンと手を合わせマーレに謝る。

 

鋭く巨大な爪を振り上げる黒竜にセバスは片腕で受け止め、逆にカウンターの掌底を黒竜の腹に打ち込む。黒竜の腹にセバスの手形が残るほど強く撃ち込まれた攻撃にたまらず黒竜はうずくまる。

 

「やれやれ殺すのではありませんよ、皆さん。【悪魔の諸相:豪魔の巨腕】」

 

デミウルゴスの腕が体と比較して明らかにバランスが悪くなるほど巨大化する。その腕でうずくまっている黒竜の頭を殴り飛ばす。

 

守護者達による一方的な攻撃が繰り返される中、一人の守護者が負けじと身を構えた。

 

「───三毒ヲ切リ払エ、倶利伽羅剣!【不動明王撃】!」

 

「い、いかん!」

 

守護者達が活躍するなか、自らもアインズの前で力を振るおうとコキュートスは本気で黒竜に斬りかかった。その威力に黒竜が死ぬ可能性があると判断したアインズは焦った。

 

バキッッ!!!

 

黒竜は倒れた。しかし、コキュートスの一撃を受けたからではない。アルベドが間に入り腕を犠牲にしたが黒竜が死ぬのを防いだ。黒竜は守護者達のダメージが蓄積し倒れたのだった。

 

「アルベド、大丈夫か?」

 

「はい、問題ありません。───コキュートス、アインズ様は殺すなと言われた筈よ。相手のダメージ量くらい把握できるでしょう。あなたがしたことは命令違反よ」

 

アルベドの言にコキュートスは頭を下げ、謝罪した。

 

「では黒竜を拘束せよ。ナザリックヘ連れていく」

 

 

 

ナザリックヘ連れていかれた黒竜は拘束されまともに動けないほど血を流しているにも係わらず、暴れ自らの血を飛び散らせていた。

 

「ブレインイーターのニューロリストに脳を吸わせますか?」

 

「いや、よい。こいつにまともな知能も無さそうだしな」

 

同じプレイヤーの可能性が殺すことを戸惑わせた。未だに暴れる黒竜に、いったいそこまでして何を求めているのか理解が出来ないアインズは【記憶操作(コントロール・アムネジア)】を使用し、記憶を覗いてみた。

 

そこにあったのは『無』だった。

 

ただだだ黒く、飲み込まれそうなほどの暗闇に呪いのような声だけが響いていた。

《────こ、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、全て殺す、皆殺し、───喰う、喰う、肉を喰う、人間を喰い尽くす、壊す、壊す、人を、村を、町を、何もかも、燃やし尽くす》

 

アインズは黒竜を記憶を探って悟った。こいつは堕ちたのだと。1000年以上もの長き間竜として生き、その強靭な肉体は死ぬことは無かった。しかし、この世界の人間を殺し、人の肉を喰い、竜としての本能に負け人間だった記憶すらも忘れたのだろうと。

 

アインズ自身も人間を別の生き物に感じることはオラリオでの生活を通して気付いていた。もし鈴木悟の残滓を忘れ、アンデットの本能のまま生者を憎み続ければ目の前の竜に自分がなっていたのだろうと感じた。

 

「もうよい、こいつには慈悲を与えてやる─────【真なる死(トゥルー・デス)】」

 

黒竜はアインズの魔法により眠るように死んだ。黒竜の体は次第に灰となり一際大きな魔石だけが残こされた。

この世界の人間は死んだ時、神の居る天界に送られるらしい。では異世界から来たアインズ達はどこに行くのだろうか、アインズは灰となった黒竜を見ながらそんなことを考えていた。

 





最初は
鱗→ロケート・オブジェクト→黒竜発見
って考えてたら魔法の効果が違ったorz

なので急遽、新しい魔法にしました。
それにしても「探知落主」、ネーミングセンスが無さすぎる・・・


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休日

アインズはウラノスに黒竜を倒したことを報告をするため、フェルズに連れられギルドの地下、祈祷の間に来ていた。今回はヘルメスも同行し、アインズの報告を聞いていた。

 

「黒竜は倒した」

 

アインズの簡単な報告にウラノスはそうか、とだけ答えた。しばらくの沈黙の後、アインズはウラノスに問いかけた。

 

「黒竜は何者なのだ?何故あそこまで全てを憎んでいる?」

 

「───分からぬ。初めはあそこまで人を襲うことなど無かった。ダンジョンを守る手段として襲ってきても、殺すことは無かった。しかし、ダンジョンから地上に進出した日を境に変わっていった」

 

ウラノスの話にアインズが考えた暴走の可能性を強く感じ、アインズ自身そしてNPCがどうなっていくか静かに考えた。

 

「───永遠を生きるお前達は何を思う?生物は子孫を生むために生き、生涯を終える。それが無いお前達は、神は何のために存在する?」

 

アインズの、鈴木悟の質問に神、ヘルメスは答えた。

 

「そんなに堅苦しく考える必要はないさ。神と言っても様々さ。子供達のために生きるもの、戦いに生きるもの、愛を求めるもの、趣味を謳歌するもの、神だって万能じゃない。自分の好きなようにしていけばいい」

 

その答えにアインズは今まで考えていた想いをぶつけた。

 

「俺は、───私は今はいない友のために、世界中の全ての者にアインズ・ウール・ゴウンの名を知らしめる」

 

「そうか。それが君の望みなんだね」

 

アインズは頷くと、ヘルメスはできる限り手伝おうと言ってくれた。

 

部屋を出ようとしたアインズだが、ヘルメスから一つ質問があった。

 

「───そう言えば今度から彼がモモン君をやるの?」

 

先程の雰囲気とは変わり、ヘルメスは笑みを浮かべていた。アインズはパンドラズ・アクターのことだと分かり、否定しておいた。

 

 

 

───────────────

 

「モモンさん、今日はうちに寄っててよ!」

 

「モモンさん、この前はありがとうございました!」

 

「モモンちゃん、安くするよ。どうだい?」

 

「兄貴、良い情報を手に入れたんですよ」

 

アインズは見ず知らずの飲食店の店主や新人(ルーキー)から熟練の冒険者、果ては妖しい雰囲気の娼婦までがモモンに声をかけてくる。アインズは鈴木悟だった頃の営業スキルにより無難な回答で返事をし対応していた。

 

(あいつはいったい何をしたんだ。俺はダンジョンで無理はするなと言った気がしたが・・・)

 

アインズはパンドラズ・アクターへ命令した内容を思い出してみた。

 

『────パンドラズ・アクター、お前はモモンとしてダンジョン探索を任せる。メンバーはお前の好きに決めよ。ただし、中層以下に行くことは許さん。()()()()()()()()()()()()()程度で構わん。』

 

アインズは理解した。パンドラズ・アクターは命令通り忠実に任務を遂行したのだと。モモンはずっとオラリオに居た、そう思わせるだけで良かったアインズとは違い、パンドラズ・アクターは文字通り存在を遺憾無くアピールした。

モンスターに襲われ危機に瀕した冒険者を颯爽と助け、道に迷った老婆が居れば案内し、悩みを持った女性が居れば悩みを解消する。パンドラズ・アクターが扮したモモンは急激に知名度を挙げていった。

もちろんランクアップし、人気の出てきたモモンを妬む者も居るが全て返り討ちに逢った。さらにそれだけにとどまらず、そんな者まで相談に乗り一緒に酒場に行き飲んで騒いでモモンの配下に取り込んでいった。

 

(どうするんだ、これ・・・。)

 

モモンの回りに集まる人集りに戸惑いを覚える。そもそも知らない人物に親しくされても対応できるほどコミュ力は高くない。モモンはギルドに行くと言い振りきっていった。

 

「あ、モモンさん。相変わらず凄いですね」

 

アインズにとっては久々だがパンドラズ・アクターが仕事をしていたのでモモンとしては毎日会っていたのだろう。いつもと変わらない挨拶をしてきた。

 

「それにしてもモモンさんのイメージが変わりました。モモンさんってもう少し固い人かと思ってました。でもダメですよ、女の人に余り思わせ振りな態度をとるのは。綺麗なお嫁さんも居るんですから」

 

年下の()に諭されながら、アインズはパンドラズ・アクターが何をやったのかかなり気になったが深入りすると暫く立ち直れなくなりそうなので止めた。せっかくの休みをアインズは全く落ち着くことなくナザリックヘと帰還した。

 

 

 

──────────────

 

「『休日』・・・ですか?」

 

「そうだ、思えばここに来てから休みなく働かせていた。それではいざという時に充分な働きができまい。しっかりと体を休め、リラックスすることも重要な仕事だ」

 

鈴木悟の時にブラック企業で毎日遅くまで働いていたアインズは自分が上に立った今、同じ道をましてや仲間達の子にさせるのは忍びなかった。

 

「あの、アインズ様。アンデットの妾には『休日』というのは不用かと思いんすが」

 

「ちょっとシャルティア、自分だけズルい。アインズ様、私もこの【リング・オブ・サステナンス】があるから『休日』はいらないです」

 

アインズの思いとは裏腹に守護者達は休日を断った。アインズのために働くことこそが生き甲斐の彼らに『何もするな』というのは苦痛でしかない。

 

「あ、あのアインズ様、『休日』とは何をするのですか?」

 

マーレの質問にアインズは戸惑った。そもそも鈴木悟の時は休みがあればユグドラシルに一日中ログインしていた。それ以外の過ごし方など何も思い付かない。

 

「マーレがしたいことをすれば良いんじゃないか?ほら、例えば・・・・・・・買い物とか?」

 

「僕はアインズ様と一緒に居たいです!」

「妾も『休日』をいただけるなら、アインズ様と一緒に居たいでありんす」

 

(それじゃあ、いつもと変わらないんじゃ・・・)

 

休日を強要したため過ごし方にまで強く指示をすることはできなかった。こうして日替わりで守護者達はアインズと過ごすこととなった。

 

男性守護者とは仲間達がユグドラシル時代に憧れて作った大浴場【スパリゾートナザリック】に入りに行った。お互いに背中を洗ったりしたのは良い思い出だ。女性守護者達が風呂場で暴れルシ★ファーが設置したゴーレムが作動したのは洒落にならなかったが。

コキュートス、デミウルゴスとアインズでバーにも行った。もちろんアインズはお酒は飲めないが、副料理長の計らいで数種類の香りを楽しむお酒を用意してもらった。コキュートスは前回の失敗を引きずっていたが、アインズは軽く気にするなと言うと涙は流さず大人泣きしていた。泣き上戸なのか、アインズはコキュートスの意外な一面を知ることが出来た。

別の日にはアウラとマーレで視察も兼ねて支配下においたエダスの村までアウラのお気に入りの魔獣、フェンリルとクアドラシルに乗って行った。エダスの村は様々なヒューマン、デミヒューマンがおり、もちろんエルフ居るためアウラやマーレが外の世界を知る機会になると感じた。ゆくゆくは教育のために学校をつくるのも良いなと村の開拓シミュレーションを練っていった。ついでに回りにいるモンスターも掃討し、しばらくは安全に過ごせるだろう。

良い思い出が出来た、アインズは本当にそう思っていた。だが残りの二人を思い、無いはずの肺でため息をついた。共に謹慎経験のある二人だ。反省はしているだろうが心配になる。そんな時、二人から話があると連絡があり部屋に呼んだ。

 

「アインズ様、次の『休日』ですが私とシャルティアとでオラリオで過ごしたいのですがいかがでしょうか?」

 

「何?一人一日でなくて良いのか?」

 

「はい、私もシャルティアもアインズ様にご迷惑をかけたこと深く反省しております。私達に『休日』をと言っていただけるなら、アインズ様も『休日』を過ごす必要があるかと思います。その一日を私達からお渡しできれば幸いです」

 

シャルティアも同じ意見だと頷く。

 

「お前達、そんな気を使う必要は無いんだぞ。だがお前達の思い、嬉しく思う」

 

「では明日はごゆっくりお過ごし下さい。明後日、アインズ様とオラリオを楽しめるようにしたいと思います」

 

「そうするとしよう」

 

 

 

アインズはアルベド達から貰った一日がパンドラズ・アクターによって振り回され、またモモンのキャラクターが変わってしまったことにまた一つ頭を悩ませる事が増えることになった。

 




ダンまちのOVA面白かったヽ(*´▽)ノ♪

私とブルマを秤にかけるのは止めなさい(笑)
ヴェルフ・・・

来週から楽しみです


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デート(その2)

「良いわね、シャルティア。明日のアインズ様とのデートでどちらが正妃に相応しいか決めるわよ」

 

「良いでありんす。妾の本気を見せてあげるでありんす」

 

「では決定ね。ルールはこうよ。午前と午後に別れて行動するわ。勝敗はアインズ様とのキスよ!先にキスできた方がアインズ様の正妃ということにしましょう」

 

「分かったでありんす。ではどちらが最初にアインズ様と過ごすでありんすか?」

 

「貴女に先を譲るわ」

 

「良いでありんすか?先に妾がキスしたらアルベドの出番は無いでありんすよ」

 

「フフッ、私はアインズ様を信じるわ」

 

 

シャルティアは昨日のアルベドとの約束を思い出し気合いを入れていた。前日から予行練習をし、いかにキスまで持っていくか練っていた。昨日から一睡もせず手下のヴァンパイア・ブライドを相手にシミュレーションをし準備は万端だ。寝る必要はもともと無いが。イケる、シャルティアは勝利を確信した。

 

「あ、すいません、モモンさん。私、少し用事を思い出しました。また後で合流しますので失礼します」

 

わざとらしくアルベドが用事を思い出したと言い、モモンとシャルティアから離れる。計画通りの展開にシャルティアは気合いを入れた。

 

「───あ、そう言えばこの前モモンさんが依頼した武器ですが完成したみたいです」

 

去り際に放ったアルベドの言葉にモモンは思い出したかのように了解の手をあげアルベドを見送った。

 

「シャルティア、それではどこか行きたい所はあるか?」

 

「あ、いえ、オラリオに詳しくないでありんすから、特には無いでありんす」

 

「そうか───では少し寄りたい所があるんだ。一緒に来てくれるか?」

 

シャルティアはアインズに連れられ、ヘファイストス・ファミリアのお店に行った。

 

「すまない、以前武器の作成を依頼したモモンだが───」

 

入店したモモンに見覚えのある幼女の女神が近づいてきた。

 

「やぁ君か。───ん、今日はまた別の娘を連れてるのかい。まったく、あまり良いことじゃないよ。街で女神に声をかけてるのも見たんだ。ハーレムなんて馬鹿なことは考えちゃいけないよ」

 

相変わらずパンドラズ・アクターの行動に怒りすら感じるが、素直に謝っておいた。

シャルティアはアインズと話す女に目をやると、そこにはうらやま・・・もとい目を見張るほどの双丘がそびえていた。シャルティアは目にも止まらぬ速さでヘスティアの背後に回り込んだ。そしてその小さい手でその双丘を持ち上げる。その行動にアインズは思わず固まり、ヘスティアは大声をあげた。そしてシャルティアに衝撃が走った。

 

(やはり本物・・・)

 

シャルティアは自分の胸を見下ろした。そこにはヘスティアには劣るが丘がそびえている。しかし、それは人口造成物だ。シャルティアは崩れ落ちた。

 

「な、なんだい。この娘は?」

 

両腕で胸を隠すヘスティアにアインズは平謝りだ。

 

「まあ、いいけど、それよりヘファイストスが君に会いたいらしいよ」

 

モモンは気を取り直し、うまくいったことを確信した。前回渡したインゴッドはこの世界に無い材質のものだ。それを渡せばヘファイストス・ファミリアの目に必ず止まる。主神にいきなり会えるとはなかなか良い働きをしてくれたみたいだ。

 

店舗から執務室へと案内されると、部屋には主神の女神であるヘファイストス、そしてファミリアの団長である【単眼の巨師(キュクロプス)】椿・コルブランドが居た。案内したヘスティアも席に座る。

 

「あなたがモモンさんですか?」

 

「ええ、よろしくお願いします。神ヘファイストス」

 

「これが貴方から預かっていたナイフよ」

 

サンプルとして渡していたナイフを差し出され、アインズは受け取った。

 

「それとこちらが貴方から預かっていたインゴッドから作ったナイフよ」

 

ヘファイストスの手にはサンプルと同様かそれ以上の出来のナイフがあった。

 

「ありがとうございます。ではお代の方ですが、おいくらになるでしょうか?」

 

「お金は良いわ。それよりもいくつか質問をしても良いかしら?それが支払いの対価ってことにしてくれない?」

 

「───答えられる範囲であれば」

 

「ありがとう、それで良いわ。じゃあ一つ目、これはどこで手に入れたの?」

 

「とある鉱山で発見しました。場所は教えられません」

 

「───そう。そのナイフは誰が作ったものなの?」

 

「私の友人が試作で作ったものです。不要になったので譲り受けました」

 

「まだ他にもインゴッドはあるのかしら」

 

「ええ、ありますよ。今回お渡しした物だけじゃなく、他の材質の物も」

 

「分かったわ。じゃあ、最後の質問よ。良かったら、ウチのファミリアと直接契約してくれないかしら」

 

「直接契約?」

 

「ええ、貴方の持ってきたアイテムを私達が鍛え格安で譲る契約のことよ。もちろん鍛冶は上級鍛冶師(スミス)が行うわ。ここにいる椿もその一人よ」

 

「その中には貴女(ヘファイストス)は入っていらっしゃいますか?」

 

モモンの強気な態度にヘファイストスと椿の視線が鋭くなる。特に椿は自分では物足りないと言われているようなものだ。

 

「───ええ、入っているわ」

 

ヘファイストスの言葉に椿は勿論、ヘスティアも驚く。

 

「それは光栄です。分かりました、直接契約を結びましょう。幾つか見繕って早速持ってきます」

 

アインズが礼を言い、部屋から退室すると緊迫した室内の雰囲気が弛緩した。

 

「まったく、なんなのあの子。本当にヘスティアの言った通りね」

 

「だろ、絶対ヘルメスのヤツ、何か隠してるに違いないよ」

 

「まあ、質問には全て正直に答えてたようだけど。───椿、貴女はどう思った?」

 

「【漆黒(ダーク・ウォーリアー)】モモンか・・・、ランクアップしたばかりと聞いたが間違いなく嘘じゃな。相当の実力を隠しておる」

 

Lv.5のヘファイストスファミリア、随一の椿が答える内容に二人の女神も納得した表情だ。

 

「まあ、直接契約を結べたし、これから少しずつ分かってくるでしょう」

 

今日はもう疲れたと机の上に置かれた書類を椿に渡し、ヘファイストスは机に顔を伏せるのだった。

 

 

────────────

 

シャルティアはヘファイストスとアインズが喋っている間、話についていけず静かに座っていた。交渉がうまくいき、アインズの機嫌が良かったのでシャルティアは満足していた。今は引き続きアインズが行きたい所があるとのことでオラリオを歩いていた。

隣で歩くモモンとは歩幅が違うため少し早歩きになっている。上機嫌に歩くモモンは気付かず先に行ってしまう。シャルティアは勇気を出してモモンに声をかけた。

 

「あ、あのモモンさん。その・・・手を握ってもよろしいでありんすか?」

 

少し後ろにいるシャルティアに気付き、慌ててモモンは手を差し出した。

 

「すまんな、シャルティア」

 

シャルティアは感激した。この前のマーレと一緒ではない、間違いなく二人きりで街を歩くデートに。しばらく歩くと目的の場所に着いたようだ。

 

「すまない、ミアハ様はいらっしゃるだろうか?」

 

「────いらっしゃい」

 

アインズの挨拶に抑揚の無い返事が帰ってきた。アインズ達がやって来たのはミアハ・ファミリアのお店『青の薬舗』だった。対応したのはナァーザだ。

 

「あぁ、貴方はこの前の・・・、ミアハ様ならまたどっかでポーションを配ってるんじゃない」

 

「そ、そうか。今回、訪ねたのは私と『直接契約』を結んで欲しいと思ったのだが?」

 

モモンのいきなりの提案に疑問を浮かべるナァーザはとりあえず話を聞いてみた。

 

「この前買ったポーションが素晴らしかったのでね。直接契約というものを知って、ミアハ・ファミリアと契約を結びたいと思ったんだ」

 

「それはありがたいけど、私が言うのもなんだけどウチは余り大きくないし、大した物も作れないわよ」

 

「正直に言うと他のファミリアも考えたが、余り主神が信用できなかった。その点、ミアハ様なら信頼できる」

 

ナァーザは何かとミアハに対抗してくる神、ディアンケヒトが脳裏に浮かんだ。少し共感を覚える。

 

「ウチにメリットは?」

 

「優先的に必要な材料を渡すことを約束する。そして、出来た商品は定価で買い取ろう」

 

直接契約のメリットである安く買い取ることを放棄する提案にナァーザは驚く。

 

「貴方のメリットが無い、貴方の要求は?」

 

「私に優先的に商品を売ってくれるようお願いする。特にマジックポーションだ。それと新たに開発するならマジックポーションを優先的に行うようにしてくれ」

 

「私達が開発したデュアルポーションじゃなくて?」

 

「ああ、確かにあれも素晴らしいが魔力を回復することを特化したものがいい」(そもそもポーションを使用するとアンデットはダメージをくらうし)

 

「分かった、ミアハ様には伝えておく。それと私は直接契約を結んで良いと思ってる」

 

「ありがとう、ではこれを渡しておいてくれ。これは直接契約の件とは別だ。この前のお礼だと思ってくれればいい。まあ、考える材料になってくれればありがたいがね」

 

そう言ってアインズはユグドラシル製のポーションを渡した。

 

「これは?」

 

「私が知っているポーションさ。だいぶここのポーションとは違うから興味が湧いてね。すまないが製法までは分からない。ぜひ開発の参考にしてくれれば良いんだが」

 

ナァーザはモモンからポーションを受けとると、じっくりと観察した。容器が明らかに高価な物に入っているが、それ以上に中身は真っ赤な色をしており今まで見たこともない。様々なファミリアでポーションは作られるが、どんな製法でも作られるポーションの色は青色だ。蓋を開け、一滴だけ手にたらし舐めてみた。

ポーション特有の甘味はあるが、今まで感じたことの無いほど高級な味わいがする。そして何よりたった一滴にも関わらず効果を僅かに感じた。

ナァーザはこれが作れればデュアルポーションに次ぐかそれ以上の売れ筋商品になると確信した。

 

「では良い返事を期待してます」

 

出ていくモモンにナァーザは親指を立て見送った。

その後帰ったミアハにナァーザは契約を結ぶよう強要し、モモンとミアハ・ファミリアは正式に直接契約を結べた。

 

 

 

「さて、これで私の行きたい所は全て行ったがシャルティアはどうだ?」

 

「あの・・・それでは少し疲れたので、先程通った所にある宿で休みたいです」

 

露骨なシャルティアにアインズが戸惑うと、モモンを呼ぶ声が聞こえた。

 

「モモンさ~~~~ん、すみません。遅くなりました」

 

アルベドだ。シャルティアは愕然とした。なぜアルベドがもう来るのだと。そして慌てて時計を見た。針は丁度十二時を指している。

シャルティアは気付いた。なぜアルベドが先を譲ったのか。アルベドはヘファイストスの所へ行くように誘導していた。アインズはそれに従い時間を過ごし、さらに別の所に行き二人で過ごす時間など無かった。一方、アルベドはアインズの用事が済み後はフリーだ。

 

この大口ゴリラァアアァ・・・、シャルティアの視線がアルベドに突き刺さる。しかし、アルベドは全身鎧のスリットの中から勝ち誇ったような視線を送った。

 

「モモンさん、シャルティアは少し疲れたようですね。少し休ませてあげましょう。───ああ、そうだ、私、少し行きたいところがあるのです。付き合っていただけませんか?」

 

「──ンッ!!!」

 

シャルティアは自ら休みたいと言ったこと、さらにアルベドとの約束によりこれ以上居れば負けを認めることになる。

 

「も、申し訳無いでありんす、モモンさん。妾はこれで失礼するでありんす」

 

了承を得たシャルティアはアルベドの背中を姿が見えなくなるまで睨み続けていた。

 

(フッフッフッ、妾が簡単に諦めると思ったら大間違いでありんす。徹底的に雰囲気をぶち壊してやるでありんす)

 

シャルティアはアルベドにバレない程度に慣れない尾行をしていた。

 

(フッ、シャルティア。貴女がこの程度で諦めないことは折り込み済みよ)

 

アルベドはシャルティアの行動を予測していたかのように細かい路地に入っていった。慣れない尾行に手間取るが、そこは持ち前の潜在能力によりなんとかついていけた。

 

「アッ、お前は!」

 

そんなシャルティアに声をかける女達が現れた。シャルティア自身は忘れているが、以前シャルティアがダンジョンで素っ裸にした戦闘娼婦(バーベラ)達だ。

 

「今度は負けないよ」

「よくも恥をかかせてくれたね」

 

シャルティアが知らず知らず来たのはイシュタル・ファミリアのホームがあるオラリオの歓楽街だった。もちろんアルベドの策の一つである。戦闘娼婦(バーベラ)達はどんどん集まりシャルティアを囲んでいる。

 

「妾は今、忙しいでありんす。お主達と遊んでいる暇は無いでありんす」

 

そして歓楽街に嬌声が響き渡った。



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イシュタル・ファミリア

表現が難しすぎるorz



「アイシャ!例のあいつがいる。うちらだけじゃ手に負えない。早く手伝ってくれ」

 

叫声と共に声の主のアマゾネスは慌ただしくファミリアのホームから出ていった。一方、アイシャと呼ばれたアマゾネスは落ち着いた様子でその後ろ姿を眺めていた。

 

「───何事だい?」

 

騒がしいホームの様子に自室から出てきた主神、イシュタルがアイシャに問いかけた。僅かに震える腕を必死に抑えながらアイシャはイシュタルに答えた。

 

「以前、ダンジョンでオッタルとの戦いの間にしゃしゃり出てきた冒険者が歓楽街に入ってきたので迎え討っている所です」

 

イシュタルは神会(ディナトゥス)でのフレイヤとの会話を思い出し怒りが込み上げてくる。

 

「そんな奴を調子づかせるんじゃないないよ。フレイヤとの戦の準備も整っているんだ。さっさと片付けてきな」

 

「───はい。我が主、イシュタル様の御心のままに」

 

アイシャはダンジョンであった少女の動きを思い出していた。彼女と対峙するとき、アマゾネスとしての闘争本能よりも生物としての生存本能が上回っていることを感じていた。これから起こるであろう戦いに決死の覚悟で挑むのだった。

 

 

──────────

 

「ふぅ、少しは気が晴れたでありんす」

 

歓楽街のど真ん中でシャルティアは爽やかな笑顔を振り撒いていた。その回りには裸のアマゾネス達が恍惚の表情で倒れている。ちなみにシャルティアはよつん這いのアマゾネスの上に腰掛けていた。アインズの殺さずの教えがこの程度で済まされたことはシャルティアの成長の賜物と言えよう。

 

シャルティアはアインズとアルベドを尾行していたが、アマゾネス達に邪魔をされてしまった。初めはすぐに片付けようかと考えたが、裸にしては倒して、また現れるアマゾネスに次第に当初の目的を忘れてしまった。

 

アイシャはシャルティアの回りで寝転がっている同僚を見て予想通りの光景にため息をついた。

 

「おや、次はお主が相手でありんすか。もう少し骨があれば妾の夜伽の一人に加えてやってもいいでありんすが」

 

「悪いが期待に応えられる自信はないな」

 

アイシャは本心で答えた。冷静に考えて目の前の女はイシュタル・ファミリアの蟇蛙(ヒキガエル)より強いと確信していた。

 

「そうでありんすか、残念でありんす。それでは蹂躙を開始んす」

 

そう言うとシャルティアはよつん這いのアマゾネスに目にも止まらぬ秘技を使い屈服させる。アマゾネスは手足をガクガクとさせ崩れ落ちた。改めてアイシャは対面する少女、【鮮血姫(ブラッディ・プリンセス)】シャルティアの恐ろしさを痛感する。アマゾネスとして人並み以上の経験はしてきたつもりだ。しかし、一度として自分が落ちることは無かった。いつも相手の男が脱け殻になるのを見ていたが、まさか自分の番が来るとは想像もしていなかったからだ。

 

「準備はできたかえ?」

 

アイシャは精神を集中し身を構える。シャルティアは反応の無いアイシャに準備ができたと判断しスカートを軽く摘まんでお嬢様のように挨拶をした。

 

「では一方的に楽しませてもらいんす」

 

シャルティアは一歩ずつまるでアイシャなど居ないかのように軽快に歩を進めた。全く何も知らない者が見れば普通に歩いているようにしか見えないだろうが、対峙しているアイシャにはそれが死刑宣告のように感じる。

そしてついにシャルティアがアイシャの攻撃範囲に入った。

 

「ッくらえぇぇ」

 

アイシャのハイキックがシャルティアの側頭部を襲う。普通の人間がLv.3のアイシャの全力攻撃を頭に受ければ即死か運が良くて植物状態になるほどの威力だ。しかし、その攻撃はシャルティアの頭に直撃する直前で止められた。アイシャ自身が困惑する。見るとシャルティアは指一本でアイシャの攻撃を防いでいた。しかもそれだけではない。アイシャの足に何の痛みも無いのだ。仮に全力の攻撃を狭い範囲で止められれば衝撃はその一ヶ所に集中する。しかし、シャルティアはアイシャの攻撃を見極め絶妙なバランスで衝撃を殺したのだ。アイシャは愕然とした。殺されると・・・、そこに聞き覚えのある汚い声が聞こえてきた。

 

「おい、アイシャアァ!裸で何やってるんだぁい?これだからブスは見苦しいんだよおぉ」

 

イシュタル・ファミリアのペット、もとい団長の【男殺し(アンドロクトノス)】フリュネだ。二メートルを越える身長とずんぐりとした体格、巨大な顔にギョロギョロと動く目、大きく裂けた口は正に巨大なヒキガエルだ。そんな見た目にも係わらずその美的センスは独特だ。彼女のセンスに共感できるのはナザリックではニューロニスト位だろうか。

一方、アイシャはフリュネの発言に驚いていた。

(裸?私が?)

アイシャは蹴りをいれたポーズのまま自分の姿を見て固まっていた。いったいいつ脱がされたのか全く気が付かなかったからだ。

 

「あれは何でありんすか?」

 

疑問を浮かべるシャルティアを無視し、アイシャはフリュネを睨み付けた。

 

「フリュネ・・・、何しに来た?」

 

「ゲゲゲッ、イシュタル様が様子を見てこいって言うから来てみたら面白いもんがみれたよ」

 

「何でありんすか、このオークは?お主らはこんなのを夜伽相手にするほど餓えているんでありんすか?」

 

「なんだい、このブスは!?あたいの美貌に嫉妬でもしてるのかぁい?」

 

「下等生物の真似をした芸をさせてるようでありんすが、どうやら失敗のようでありんすね」

 

「このブ()────」

 

フリュネが許されたのはそこまでだった。シャルティアはフリュネには容赦しなかった。もちろん死なない程度だが。オークの戯れ言とは言え、至高の御方に創造された自分を貶されたのだ。

フリュネの潰れた顔はさらに潰れ、ギリギリ生かして貰った程度だ。

 

「豚の分際で至高の御方に創られた妾に冗談でもそんな戯れ言は許さねぇぞ。あぁ?おい、お前!ペットのしつけくらいしておけよ!」

 

口調の変わったシャルティアの発言に恐怖を感じながらアイシャはうなずいていた。

 

「まったく興冷めじゃねぇか。おい、お前、私の相手でもしてもらうぞ」

 

アイシャは一人残された事を後悔し、シャルティアを連れてイシュタル・ファミリアのホーム【女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)】へと向かった。

 

 

────────────

 

「イシュタル様!大変です!」

 

イシュタル・ファミリアの戦闘娼婦(バーベラ)達が慌ててイシュタルのいる部屋に入ってくる。

 

「なんだ?騒々しいぞ」

 

「ヘルメス・ファミリアのシャルティアを逃がしました」

 

「何?フリュネまで向かわせたんだぞ?あいつはどうした?」

 

「そ、それが、顔を潰されて気絶していました。今はエリクサーを数本使って回復させたところです。ですが・・・もう顔は戻らないでしょう」

 

「なんだと!」

 

イシュタルは如何にフリュネとはいえあれ以上顔が潰れたことに気の毒に思った。あれ以上だとモンスターの方がよっぽどかわいく見えてしまう。

 

「それとアイシャが見当たりません、おそらく連れ去られたんじゃ・・・」

 

「お前達は何をやってたんだ!」

 

「すいません、気を失ってました」

 

「お前達全員がか?」

 

「はい・・・」

申し訳なさそうなアマゾネス達だったが、対峙した時を思い出す。

「───でもあれ凄かったよな!」

「ホント、男であそこまでされたことはねぇーよ」

「シャルティア姉さんと呼ぼう」

「今度はホームに来てもらおうぜ」

 

アマゾネスの本性である優秀な雄の遺伝子を残すこととは全く関係ないシャルティアとの行いに目覚めだしたアマゾネス達にイシュタルはシャルティアの恐ろしさを認識した。

 

「すぐにアイシャ、そしてシャルティアを探せ!」

 

その時だった。階下から聞き覚えのある熱っぽい悲鳴が響いてきた。

 

「───(自主規制)─────」

 

その声と声の主のイメージが全く合わず全員が困惑する。そして急いでその声が聞こえた部屋へイシュタル達は向かった。

 

「何でありんすか?ここは相変わらず騒々しいでありんすね」

 

麝香(じゃこう)の香りが漂う薄暗い室内にシャルティアはあられもない姿でベッドに横たわっていた。その隣に意識を無くしたアイシャが寝ている。ついでにベッドの回りにはシャルティアが今回のデートでアインズと使用する予定で持ってきた不思議な道具が転がっていた。

 

「落ち着かない場所ではありんすが、気に入ったでありんす。たった今から妾の所有物として可愛がってあげるでありんす。光栄に思うがいいでありんすよ」

 

ありがとうございます、と喜んでいる一部のアマゾネスをよそに人のホームでその様な戯れ言をのたまうシャルティアにイシュタルは驚愕した。しかし、フリュネが倒された今、砂上楼閣だ。虎の子の切り札を出すか考えたがそれでも勝てる気はしなかった。

何か手は無いか考えた時、イシュタルは最高と思える手を思い付いた。イシュタル(美の女神)の力で魅了し、引き入れてしまえばいいのだと。フリュネのような醜く言うことを聞かない奴より、シャルティアのように美しくさらに遥かに強い力を持っている方がいい。

 

「シャルティアとやら、次は私がお相手しようじゃないか」

 

「お主は?」

 

「このファミリアの主神、イシュタルだ」

 

「ほう、おもしろそうでありんすね。では文字通りこの場所をかけて勝負といくでありんす」

 

・・・・・

・・・

 

(ふぅふぅふぅ、危なかった。危うくやられるところだった。これほどの技をいったいどうやって習得したんだ?)

 

シャルティアの後ろにサムズアップするバードマンを幻視したが気のせいだろう。

 

「よく耐えたでありんすね、まぁ風前の灯火といったところでありんすが」

 

「次はこちらの番だ。行くぞ!」

 

イシュタルは持てる全ての技を駆使し、さらにシャルティアを魅了する。声で、匂いで、吐息で、全ての五感を刺激させた。

シャルティアはすぐに異変に気付いた。精神異常が無効な筈のアンデッドが精神支配されかけている。シャルティアは油断していた。目の前の女は至高の御方と同じ超越存在(デウスデア)なのだ。

薄くなっていく意識の中でシャルティアは全力で抵抗をしようとした。

 

「こ、の・・・」

抵抗するシャルティアの前に先程顔を潰したフリュネが床を突き破って襲いかかってきた。

「この糞餓鬼があぁ!!よくもあたいの顔をおぉ!!!」

シャルティアとイシュタルの間に図らずも割って入る形になったフリュネは自らの死と引き換えにシャルティアを魅了する僅かの時間を生んだ。

 

シャルティアはフリュネの頭が飛び散る姿を最後に意識を手放した。




フリュネ程度でシャルティアが止められるかは疑問ですが、そうしないと洗脳できないのでフリュネには犠牲になってもらいましたm(__)m


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嵐の前の静けさ

時間は少し遡る────

 

シャルティアに邪魔をされないよう歩き回っていたアルベドだが、完全に撒けた、そう確信し早速行動に出た。

 

「モモ()「ん、あれはベル君か?どうしたんだ、こんなところで?」」

 

アルベドの声に被せるようにベルに気付いたアインズが声をかけた。

 

「やあ、久しぶりだな。戦争遊技(ウォーゲーム)見たよ。すごい活躍じゃないか」

 

「あ、モモンさん。お久しぶりです」

 

「忙しそうだね。邪魔をしたかな?」

 

「あ、いえ。引っ越し作業が少し残ってたんですが、ほとんど終わったところです」

 

「引っ越し?」

 

「この前の騒ぎで前のホームが壊れてしまって。それで神様が試合に勝ったら相手のアポロン・ファミリアのホームをもらうことになってたんです」

 

「そうか、それでは戦勝祝いと引っ越し祝いを兼ねて何かあげないとな」

 

「いえいえいえ、そんな悪いですよ」

 

全力で断りを入れるベルだが、たいしたものじゃない、とモモンはベルにあげるものを考えている。ベルはモモンの『たいしたものではない』という言葉が説得力の無いことは既に知っていた。

 

「そうだ、このナイフなんてどうだ?ちょうど同じものを作ってもらって余っているんだ」

見ると神秘的な輝きのナイフを見せられた。ベルに鑑定する力は無いが、ヘスティアのナイフと同じくらい高価に見える。

「いえ、僕にはこのナイフがあるんで。それにヴェルフっていう僕の仲間の鍛冶師(スミス)が作った武器を使いたいんです」

 

慌てて否定するベルにモモンは残念だと再び考える。

 

「じゃあ、前に渡せなかった無限の背負い袋(インフィニティ・ハブァザック)はどうだ?」

 

「荷物なら自分達で持ちますから。そんな貴重な品を持っていたら心配で冒険なんてできません」

 

ベルの答えにアインズは再び悩む。適当に袋の中を探っていると、一つのゴミアイテムを手に取った。

 

「これは・・・」

 

アインズは金色に輝く顔の大きさくらいの卵を取り出した。

 

「何の卵なんですか?」

 

「ああ、これは【一欠片の希望(ピース・オブ・ウィシュ)】と言って持ち主の想いによって成長する卵だ。まあ、ペットみたいなものだな」

 

ユグドラシル時代に大型アップデートの一つとして追加されたペットシステムより加わったアイテムだが完全にランダムで外装を決めるこのアイテムは誰得?、と運営の頭を疑うゴミアイテムだった。

 

一応、モモンはベルに進めてみた。ベルは相変わらず高価なものはと受け取りを拒否しようとした。

「っっ───!!!」

ベルは異常に鍛えられた直感が働いた。殺気を放つのはモモンの後ろにいるアルベドだ。ヘルムのスリットから極寒の視線を送っている。

ベルは理解した。もしこれ以上長引かせるならただでは済まないと。

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「ん、こんなものがいいのか?」

 

「はい、ありがとうございます。邪魔をして申し訳ありませんでしたあぁぁーーー!」

 

ベルはモモンから卵を受けとると何回もお辞儀してから逃げるように走っていった。モモンは駆け足で去っていくベルの後ろ姿を見ながら何が起こったのか理解できずにいた。

 

「ん?どうした、アルベド?」

「モモン()様、あの男(邪魔者)も行ったことですし、あの公園で落ち着いてお話がしたいのですが」

 

「ん、おぉ、分かった」

 

アルベドに引っ張られながらモモンはベンチに座らされた。

 

(後、少しよ、アルベド!多少の邪魔は入ったけど、この場所で決めてみせるわ。フフッ、シャルティア、あなたは良いライバルだったわ)

 

最初は警戒していたアインズだったが、他愛もない会話でアインズの警戒を徐々に緩めていった。計画通り、心の中で悪魔の笑顔を見せるアルベドは最高の雰囲気ができていることを確信した。

その時、図らずもアルベドの肩に羽虫が止まり、それを見つけたアインズが払い除けると、偶然にも肩を掴む形になった!

 

来たあぁぁーーー!アルベドは心の中で叫んだ。アルベドを見つめるモモンガに思いきり顔を近付けた。

 

ドォォーーンッ!!!!

 

巨大な物体に衝突されたような大きな音が響き渡った。回りの住民はその音がした方を振り向くと、そこには吹き飛んで倒れているモモンの姿があった。

今までフルプレート同士のカップルであるモモンとアルベドはそもそも鎧を脱がない限りキスなどできるはずもない。さらに興奮したアルベドの勢いのついたキスはヘッドバッドと化し、リラックスをしていたモモンを襲った。

 

尻に敷かれてるんだ、回りの住民達はモモンに憐れみの目を送る。アルベドはアワアワとしながらモモンの無事を確かめると、バルディッシュを首にあて自殺しようとする。それを見たモモンは慌てて止めている。

 

病んデレなのか、アルベドの性格を推測し異常(アブノーマル)な夫婦の形を暖かく見守る住人達だった。

 

──────────────

 

 

「何なんだこいつは?」

 

女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)イシュタルは自室にてシャルティアの背中を見て疑問を浮かべていた。シャルティアの背中には神聖文字(ヒエログリフ)で書かれたステイタスがどこにも無かった。もちろん(ロック)され他人に見えなくしている訳ではない。素の力でフリュネを殺害したのだ。

 

(ありえん!フリュネはLv.5の上級冒険者だぞ。それが手も足も出なかった。それにこの感覚、ヒューマン(子供)では無い。感じる雰囲気はモンスターに近い)

 

虚ろとしているシャルティアにそっと触れる。触れた手が感じるのは人の温もりではない。そして生者であれば必ずある心臓の鼓動も無かった。神にも予想できない異常事態(イレギュラー)に困惑する。

 

(くそ、ヘルメスは何を隠している。ギルドは、ウラノスは知っているのか?確か、この前の神会(ディナトゥス)でヘルメス・ファミリアの団員が一度にランクアップしていたな。確かその時の一人がシャルティアだ。ということは他にもこんな化け物が居る可能性が高い)

 

「おい、タンムズ!前回の神会(ディナトゥス)でランクアップしたヘルメス・ファミリアの団員を確認しろ!すぐにだ!」

 

イシュタルの従者が慌てて確認に走る。

 

(───ヘルメスがいくら隠そうが私の魅了の前では無力。そして襲ってきたとしてもそいつを魅了すれば済むこと。クックックッ、ツキはどうやら私に向いてるようだね。フレイヤァ、もうすぐお前をそこから引きずり下ろしてやるよ)

 

イシュタルはオラリオの中心にある摩天楼(バベル)を見上げながら、高笑いをしていた。

 

 

───────────────

 

「ウラノス、不味いことになった」

 

ギルドの最奥、祈祷の間にて黒衣を纏う男、フェルズが慌てた様子で隠し通路から現れた。ウラノスは変わらず不動の姿勢を崩さないが、普段とは違うフェルズの様子に重大な問題が起こったことを予想した。

 

「イシュタル・ファミリアがアインズ・ウール・ゴウンの配下の【鮮血姫(ブラッディ・プリンセス)】シャルティアに喧嘩を売っている。その中で、イシュタル・ファミリアの一人が殺されたようだ」

 

そうか、ウラノスは短い返事だったが、フェルズは危惧していたことが起こったのだと感じた。しかし、フェルズはウラノスさえ想像していなかった事態を伝える。

 

「悪いがウラノス、それだけじゃない。イシュタルの手によりシャルティアが魅了された」

 

「何っ!!!」

 

予想していなかった事態にウラノスも動揺の色を隠せなかった。これから起こりうる事態を想像すると、この前のファミリア同士の抗争、戦争遊技(ウォーゲーム)どころでは済まない。最悪の場合オラリオ事態の危機になる。

 

「急いでヘルメスを呼んでくれ」

 

分かった、と答えるとすぐにフェルズは部屋から飛び出ていった。ウラノスはアインズに残された希望(人間性)に賭けるのだった。

 

 





アインズとアルベドのデートの行方が書きたかったので、今回は休み回です。



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奪還作戦

「何?シャルティアが反旗を翻しただと?」

 

アインズの確認にアルベドは肯定しながら、その根拠となる理由を提示した。マスターソースのNPCの欄にはシャルティアの名前が薄黒く表示されていた。他のNPCの欄を見るが白く表示されている。

 

(あり得るのか?この表示は操られて一時的に敵対行動を取っていることを表している。アンデッドのシャルティアが精神支配など受ける筈がないが・・・)

 

「死んだ・・・その可能性はない・・・よな」

 

「はい、死んだ場合一時的に一覧から表示が消えます」

 

「───そうだよな。くそっ、いったい何が起きた?とにかくシャルティアの居場所を把握しなければ──」

 

アインズとアルベドが話していると、セバスから来訪者の連絡があった。

 

《セバスか?今は忙しい、後にしろ》

 

《ハッ、分かりました。そのように伝えます》

《───いや、ちょっと待て、来たのは誰だ?》

 

《ヘルメス様になります》

 

 

《ヘルメスが・・・、先程のは取り消す。すぐに通してくれ》

 

メッセージを切ってから暫くするとヘルメスがセバスに連れられ玉座の間にやって来た。いつもの陽気な笑みは無く、側にいるアスフィの姿も無い。

 

「挨拶など不要だ。シャルティアのことで知っていることを全て話せ」

 

このタイミングでナザリックに来たということは既にシャルティアの事は知っていると確信したアインズは不要な確認を排除し、必要な事だけを問いただした。

 

「───分かった。彼女は今、イシュタル・ファミリアにいる」

 

「それだけか」

 

冷えきった言葉にヘルメスは手に汗をかいていることに気付いた。

 

「ふざけるなよ、ヘルメス!シャルティアが私の許可もなくナザリックから離れるとでも、ましてや反旗を翻すなど有る筈がないだろ!」

 

「すまない、そんなつもりはなかった。私の知っている事実は確かにそれだけだ。ただイシュタルは美の神として魅了の力を持っている。彼女も魅了されていると思う」

 

「魅了だと・・・」

 

何度も沈静化が起こりながら、冷静になったアインズはヘルメスの説明に以前、怪物祭り(モンスター・フィリア)で会ったミノタウロスを思い出した。アウラの誘惑すらも上回る強力な支配の力を。

 

(くそ、なぜその可能性に気付かなかった!もっと気を付けていればこんなことにはならなかった。私の失態だ。いや、今は反省する時では無い。すぐにシャルティアを取り戻すことが先だ!)

 

「アルベド、直ぐにイシュタルの所に行くぞ!ナザリックに手を出したことを後悔させてやる!」

 

直ぐに動き出そうとするアインズ達に待ったをかけたのはヘルメスだ。

 

「少し、待ってくれないか」

「なんだ、ヘルメス?もうお前に用は無い。私は忙しい」

 

「君はどうするつもりなんだい?」

 

「知れたことだ。イシュタルに、そのファミリアに全ての関係したものに終わりなき苦痛を与えるまでだ」

 

アインズのその答えにヘルメスはゴクリと喉を鳴らした。しかし、ヘルメスとしてもそれを簡単に容認するわけにはいかない。

 

「待ってくれ!今回、彼女を魅了したのはイシュタルだ。子供達は関係ない」

 

「それがどうした?何もオラリオの全ての者を皆殺しにするわけじゃない。これは償いでもあり、私達に手を出すことの愚かさを知らしめる見せしめだ」

 

「どうしても子供達も殺すのか?」

 

「当然の報いだ」

 

「───分かった、では私も神として、そして仮にも君のファミリアの主神として神の力(アルカナム)を使用してでも止めてみせる」

 

「愚かな、それで私達に勝てると思っているのか?それに地上で力を使えば天界に戻ることになるのだろ?」

 

「構わないさ、それで子供達が、そして君が助かるなら」

 

「?──なぜ私が助かるということになる?」

 

「君は黒竜の最後を見たのだろ?自我すら無くし、世界の災いとして忌み嫌われた姿を」

 

アインズは人を、平和を、全てを恨み、死ぬまで暴れ続けた黒竜を思い出した。

 

「私があのようになるとでも思っているのか?」

 

「分からない、だがあのドラゴンも初めはそうなるとは思っていなかったんじゃないかな?」

 

少しの沈黙の後、アインズは絞り出すように答えを出した。

 

「ヘルメス、お前の言い分は分かった。無関係の者は極力殺さないようにしよう。ただし、私達に歯向かう者、そしてイシュタルだけ絶対に許さない。そしてシャルティアは私達が必ず取り戻す。やり方に口出しは出させない」

 

「───分かったよ。全ての責任は私が取ろう」

 

ヘルメスはできるだけの譲歩は取り付けられたと考えた。後はできる限り被害がでないよう祈るだけだ。

 

 

──────────────

 

ヘルメスが帰った後、守護者達を集めアインズはシャルティア奪還のための打合せを始めた。

 

「既に知っていた情報を軽視し、お前達を危険に晒したのは私の失態だ。いくらでも責めてくれ」

 

アインズが頭を下げ謝罪する姿に守護者達から慌てて否定の言葉が飛ぶ。さらにはシャルティアが反旗を翻すことなど許されないことだとシャルティアへの批判になったので、アインズはそれ以上の責任追及は止めさせた。

 

「恐れながらアインズ様。今回の件ですが、シャルティアがアインズ様に対峙するようなことがあれば我々守護者にお任せください」

 

「いや、しかし───」

 

アインズは子供達同士で武器を向け合うことが嫌だった。ギルドメンバーの面影が残るNPC達が争う、それはギルドメンバー達が争うように感じるからだ。

 

「しかし、アインズ様の身にもしものことがあれば───」

 

一方、守護者達も唯一残られた至高の御方に万が一のことなど絶対にあってはいけない。アルベドは必死にアインズを止める。

 

「アルベド、少しいいかい?」

必死に説得するアルベドを制止したのはデミウルゴスだ。

 

「アインズ様、シャルティアが精神支配されている根本原因はイシュタルです。そのイシュタルさえ消せば、シャルティアの洗脳も解けると愚考します。イシュタルも簡単にはやられまいとシャルティアを出して来たときは我々がシャルティアを止めます。その間にイシュタルを叩き潰すべきです」

 

「分かった、私はイシュタルを潰す。それは譲れん。良いな?」

 

「───分かりました。それでは後一つ・・・今回の作戦ですが陽動や隠蔽などを兼ねていくつか策を弄したいのですがよろしいでしょうか?」

 

「無関係の人間を殺す可能性は?」

 

「もちろんございません。と言ってもあまり抵抗されればこちらもやむを得ない場合もありますが」

 

「許す。ナザリックの為に考えてくれているのだろう。では指揮はデミウルゴスに任せる」

 

「はっ、ありがとうございます」

 

 

 

─────────────

 

満月の出る夜、ヘスティア達はイシュタル・ファミリアの領域(テリトリー)、歓楽街の境界に居た。彼女の眷属であるベル・クラネルとヤマト・(みこと)が歓楽街にいるためだ。彼らは命の幼なじみの狐人(ルナール)の少女を救うため潜入していた。そしてヘスティア達はそんなベル達を救おうとしていたがイシュタル・ファミリアのアマゾネス達によって妨害されていた。

 

その時だった。突然、オラリオを囲むように巨大な炎の壁があがった。オラリオの周囲を囲う外壁よりも高い炎の火柱に、暗闇に包まれた街が再び明るくなる。全く予兆の無かった事態に全ての者が瞠目した。

 

「いったい何が起こったんだい?」

 

ヘスティアを含めた神々も事態を把握できていない。すると突然、至るところから悲鳴があがった。

 

「モンスターが現れたぞ!」

「早く逃げろ!」

「ギルドは何をやってるんだ!」

 

その声と共にヘスティア達の前にもモンスターが現れ、襲ってきた。しかし、ヴェルフは大太刀を一閃するとすぐに倒すことができた。しかし、一向にモンスターが減る様子はない。

 

対峙していたアマゾネス達もオラリオ全体の危機に一時休戦しモンスターを掃討する。

 

「なんだ、こいつら。たいしたことないぞ」

 

「ヴェルフ様、油断は禁物ですよ。ここにはヘスティア様も居るんです。それにどんどん増えています」

 

ヘスティアを守るようにヴェルフ達は戦っている中、ヘスティアはベルの居るであろう歓楽街を心配そうに見つめていた。





アインズ様がそんな簡単に納得するか!

うぅ、すいませんorz

でもまだ怒りの炎は収まってないんで大目に見てくださいm(__)m


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神殺し


皆さんが納得するか不安(´;ω;`)


「フフッ、後少し。シャルティアを筆頭に殺生石さえあればフレイヤなど怖れるに足りん」

 

イシュタルは儀式の条件に必要な満月を見ながら優越感に浸っていた。

 

「貴様がイシュタルか?勝手に私の部下を連れていくとは良い度胸じゃないか?覚悟はできているのだろうな?」

 

誰も居ない筈の部屋に突如現れた全身鎧の二人組の男女にイシュタルは先程のは余裕は消え、警戒心を露にする。

 

「お前達が【漆黒(ダーク・ウォーリアー)】モモンと【漆黒の嫁(ダーク・ワイフ)】アルベドか?よく来たな」

 

少し嬉しそうなアルベドを無視し、アインズはそうだ、と返答した。イシュタルはその官能的な美貌を見せながらモモンを誘惑する。

 

「私の()()にならないか?その女より良い思いをさせてやるぞ?」

 

その言葉に先程とは一変してアルベドは容赦ない殺気を放った。

 

「なめた口を開くなよ、このアバズレがあぁぁーーー!」

 

アルベドが先に切れたため、アインズは怒るタイミングを失った。

 

「ヒィ!シャ、シャルティアァーー!」

 

イシュタルの悲鳴に虚ろな表情のシャルティアが壁を破って現れた。

 

「シャルティア───」

「シャルティア、アインズ様に逆らうなど不敬よ」

 

「フッ、無駄だ。シャルティアは私が完全に魅了している。すぐにお前達も私の虜になるさ」

 

「クソガァアァァァーーー!!!」

アインズの怒りが頂点に達した。

「貴様はただでは殺さん。一思いに死ねると思うなよ!!!」

 

──────────────────

 

オラリオのとある一角───

 

守護者達は最後の確認をしていた。彼らの手には一人一つずつ世界級(ワールド)アイテムが装備されている。

 

「───では皆さん、アインズ様の事を頼みましたよ」

 

「デミウルゴスニ言ワレナクテモ分カッテイル」

「は、はい。ちゃんとアインズ様を守ります」

「全くシャルティアのやつ。アインズ様に歯向かうなんて何考えてんだか」

「所でデミウルゴス様、あなたはどうするのですか?」

 

デミウルゴスは含んだ笑みを浮かべ、楽しそうに答えた。

 

「もちろん、アインズ様の為にお仕えするのですよ」

 

デミウルゴスのすることに一抹の不安を感じていた。しかし、アインズ様から今回の指揮を一任された以上、デミウルゴスを問いただす訳にはいかない。お願いします、とだけ伝えセバス達はアインズの下へ向かった。

 

セバス達がシャルティアを止める為に向かった後、デミウルゴスに声を掛ける者が現れた。

 

「よく来てもらえました」

 

「それはもちろん我が主、ん~~アインズ様の為と聞いたら飛んできますとも」

 

「ありがとうございます。では計画通りに」

 

──────────────

 

ロキ・ファミリアのホーム『黄昏の舘』

 

「フィン、指示を頼む」

 

「分かった。ガレスはロキを含めホームの守護を頼む。アイズ達は各自の判断で掃討してくれ。Lv.3以下の者達は三人一組のチームを作り住民達の保護を中心に行動してくれ。リヴェリア、君は少しこの状況の確認したい、手伝ってくれ」

 

ロキ・ファミリアの団長フィンの号令により一斉に動き出す。特にアイズを含めた上級冒険者は既に何匹ものモンスターを倒し街に駆けて行った。

 

ロキ・ファミリアの幹部、ベート・ローガがモンスターを蹴り飛ばすと反動で小屋に穴が開いた。

 

「チッ、雑魚が!弱い癖に数だけはいやがる」

 

「ちょっとベート、あんまり街壊したら後で叱られるよ」

 

「っうるせぇ、おめぇらに言われたくねぇよ、バカゾネス」

 

「はあぁ?いつ私が壊したのよ!ねぇ、アイズ」

 

一人黙々とモンスターを切り続けるアイズは違和感に気付いた。

 

「───モンスターが強くなってる?」

 

「はぁぁ、アイズ!こいつらのどこが強いんだよ」

 

ベートがモンスターを蹴り飛ばす中、確実にアイズ達を襲うモンスターの種類が変わってきた。一振りで倒したモンスターが二振りになり、次第に自分達が探索する深層のダンジョンに近いレベルになっている。

 

「ねぇ、こんなやつらが相手じゃ他の冒険者はすぐ死んじゃうよ」

 

しかし、遠くで戦っている冒険者達は先程ベートが雑魚と言っていたモンスターと奮戦をしていた。

 

「いったいどういうことだ?」

 

「足止め?」

 

ベートの問いにアイズが答える。すぐに団長に知らせるべきだと考えるが、やはりモンスターに阻まれ足止めくらった。

 

 

 

 

「フィンの言う通りだったよ。モンスターは無作為に動いている訳じゃないようだ。あいつらの目的は冒険者の足止めだ」

 

右手の親指を舐めながらリヴェリアの報告を聞いたフィンはこの騒動の目的とモンスターを操る犯人を考えながら次に起こる行動を予測するのだった。

 

 

──────────────

 

「シャルティア!こいつらを足止めしろ!」

 

イシュタルの言葉にスポイトランスを装備し一瞬でアインズとの間を詰めた。

しかし、シャルティアの姿はそこで突然消えた。残ったのはモモンとアルベドだけだ。

 

「何をした?」

 

「私がそれを一々説明するほど愚かだと思っているのか?貴様はシャルティアを洗脳しただけでなく、一瞬でも私に刃を向けさせたのだぞ!────ふぅ、いかんな。直ぐに感情が抑制されてしまう」

 

「くそっ、タンムズ!」

 

「こいつもお前に操られているのか。憐れだな」

 

アルベドがタンムズの頭を掴み床に叩きつける。床にヒビが入り、さらに突き抜けて階下に落ちていった。一瞬で自分の側近が潰されたことに恐怖を感じる。

 

「そ、そうだ!私を抱かせてやろう」

 

モモンに一歩ずつ近づくイシュタルにアルベドが動こうとするが、モモンは手で制止させた。

服を脱ぎながら近づくイシュタルは不動のままのモモンに魅了の効果を確信する。

 

「フフッ、そうだ。私を抱けばお前はもう私の虜だ」

 

ゆっくりと腕を回すモモンはイシュタルの体を包んだ。勝った、そう確信するイシュタルだがモモンはさらに強く抱き締める。

 

「お、オイッ、苦しいでは無いか。お前は女を抱いたことがないのか?」

 

何気にアインズを傷付ける言葉を発するが、モモンはさらに強く抱き締める。あまりの圧力に息すらも苦しくなってくる。

 

「ッ、オイッ・・・き、さま」

 

尚も強くなる圧力にイシュタルはモモンを力の限り叩き、暴れまわる。背の高いモモンにより抱き上げられる形となっているため、足を使って蹴るが腕以外は一向に不動のままだ。イシュタルは魅了が効いていないことに戸惑う。

 

「そろそろネタばらしといくか」

 

沈黙を解いたモモンは変装を解き、アンデッドの姿を現した。

 

「や、は・・・り」

 

「お前も気付いていたか?まあ良い。もし私にも魅了が効くなら超遠距離から一撃で頭を吹き飛ばすしかないかと考えていたが、効かなくて良かったよ」

 

アインズは右手を上げどこかへ合図を送る。片手が空き、イシュタルは逃げようとするが相変わらず身動きは取れなかった。

 

「そう簡単に天界に逃がすと思うなよ」

 

窪んだ髑髏の目に浮かぶ紅い光がギラリと強く輝く。

 

「死の抱擁か、貴様らしい最後じゃないか」

 

尚も強くなる圧力にもはや言葉すらでない。ゆっくりと時間をかけ潰されるイシュタルは最後にフレイヤのいる摩天楼(バベル)を見つめた。

何故こんなことになったのか、と。そしてその直後、一気に潰されたイシュタルは口から血を吐き出し、アインズの足元に解放された。

 

致命傷を受けたイシュタルは死ぬまいと『神の力(アルカナム)』を発動する。光輝くイシュタルはその力の発動と共に光輝く柱に包まれ天界に強制送還された。

 

その光景を目にしながら、これでシャルティアも解放されただろうと安堵する。

 

「ではシャルティアを迎えに行くぞ!」

 

再びモモンの姿に戻り、シャルティアの所に行こうとしたが、アルベドの返事がない。

 

「どうした、アルベド?───アルベドッ!?」

 

アルベドは立ったまま気絶をしていた。

 

 





次はデミウルゴス達のターンの予定(*´ω`*)


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暗躍

あれ、いつのまにか30話Σ(゜Д゜)

私の拙い妄想を読んでいただきありがとうございますm(__)m




「おぃ、ディックス!街中でモンスターが暴れてる!ここも直ぐに見つかる。早く例の場所に逃げるぞ」

 

薄暗いホームの中でディックスと呼ばれた男はソファーに座り手に持った手記を眺めていた。慌てている男とは対照的に落ち着いて未だに座っている。その態度にたまらずグランは再度呼び掛けた。

 

「オイッ!ディックス!」

 

「うるせぇよ、聞こえている。行きたきゃ勝手に行けよ。()は持ってるんだろ?」

 

「そ、そうかっ?ヘッヘッ、悪いな。じゃあ先に行かせてもらうぜ」

 

ドタドタと音をたて走り出す男達を眺めながらディックスは大きくため息をついた。

 

「───あなたは逃げないのですか?」

 

一人取り残された筈のディックスに問いかけるが者が現れた。軍服と言う見慣れない服装をしたそれは今までディックスが見てきた商売道具(モンスター)とは明らかに隔絶していた。ディックスはそれが分かっていたかのように、何事も無く答える。

 

「逃がしてくれるのか?」

 

「逃げたいのならお好きにどうぞ。まあ、余りお勧めはしませんが」

 

「いや良い・・・」

 

「そこまで落ち込む必要はありません。我々の役に立てるのですから、これ以上の栄誉はありませんよ。それに私は貴方に、貴方の家系に、そしてあなたが飼っているペットに興味があります」

 

そのモンスターはグランが持っていた筈の()を手に持ち興味深そうに見つめている。

 

「そこまで知ってるのか───で、俺はどうなるんだ?」

 

「私達に忠誠を誓って貰えればそれで良いですよ」

 

そのモンスターの横に漆黒の渦が出来る。モンスターはこの中に入るよう指示を出した。

ディックスは選択肢など初めから無いのだろうと諦めた。黒は更なる漆黒によって塗りつぶされる。ディックスは地獄の釜の中に自らの足で入っていった。

 

───────────

 

「エイナァ~~~」

 

「大丈夫だった?ミィシャ!」

 

「うん、なんとかぁ。それよりもせっかくの休みがぁ~~~」

 

ギルドに入ってきた同僚の無事に安堵したエイナだったが、彼女はそれよりも休みが潰れたことに落胆していた。

 

「しょうがないでしょ。今、ギルドが全ファミリアにミッションを出したところだよ」

 

ギルドには様々な冒険者達が事態を把握しようと出入りしている。ギルドは市民を守るよう全ファミリアに街に溢れるモンスターを倒すように指令を出した。エイナも冒険者達や住民達の対応に追われ目の回るような忙しさだった。

 

「あれ、どうかされたんですか?」

 

エイナが気付いたのは金髪のパルゥム、ロキ・ファミリアの団長である【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナだ。その横には副団長のリヴェリアもいる。エルフの王族だったリヴェリアに思わず背筋が伸びる。

 

「そんな畏まる必要は無いよ」

 

笑顔で手を振るフィンだが、相手はロキ・ファミリアの団長と副団長だ。エイナは愛想笑いしかできない。

 

「それよりも何か変わったことはないかい?」

 

「いえ、このモンスターが現れてから冒険者の方が入れ替り押し寄せてるくらいで特別に何も」

 

エイナの報告に、そうか、とだけ答え考え込むフィンにエイナはただ黙って見つめていた。

 

「───金庫室はどうだい?」

 

フィンの言葉にエイナは質問の意図が理解できなかった。

 

「えっと、ギルド長が金庫室の鍵を管理しているので特に何も無いと思いますが」

 

「ロイマンはどこにいる?」

 

「自室にいると思います」

 

「すまないが会わせてくれ!」

 

正直、ロイマンが苦手なエイナは断りたいが、フィンの圧力にロイマンに話を持っていった。

忙しい、そう言われ追い返されたエイナは仕方なくその旨をフィンに伝える。

 

「すまないが、後で責任はとる」

 

エイナを振り切りフィンはロイマンのいる部屋へと向かった。忙しい、相変わらず怒鳴り散らすロイマンだがフィンはロイマンの異変に気付いた。

 

「リヴェリア、頼む」

 

リヴェリアが魔法を唱えるとロイマンは崩れるように倒れこんだ。

 

慌てるエイナにフィンはロイマンが操られていたことを伝える。

 

フィンはエイナに教えられギルドの金庫室へと向かった。

 

「まさかここに到達する方がいらっしゃるとは。少し甘く見ていましたね」

 

そこにはスーツを着た覆面の男が立っていた。ヒューマンに近いが男の背後から出ている禍禍しい尻尾は明らかにヒューマンでは無いことを窺わせる。

 

「君が首謀者かい?」

 

「───まぁ、そんなところです」

 

「何者だ」

 

「人の名を聞くなら、と言うところですが既に知っていますからね。【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナと【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴ。私の名はヤオダバルド。以後お見知りおきを」

 

「だいたい想像はついているが、目的は情報かい?ここだけではないと思うけど、ファミリアのホームも狙ってるのかな?」

 

「さあ、どうでしょう。ただ、情報戦は戦いの基本ですから」

 

「それは我々と戦争を起こすつもりと考えて良いのかな」

 

「まさか、戦争になんてなりませんよ」

 

「それは大人しく投降するという訳では無さそうだね」

 

「ええ、我々が気を付けるべきなのは神だけだと───」

 

フィンは体に似合わない長槍で一気に距離を詰める。しかし、ヤオダバルドは何事も無く避けた。睨みあいが続くなか、空に輝かしい光の柱が上がった。

 

「さてこれで我々の目的は達成しました。これ以上の長居は無用です」

 

「逃がすとでも思っているのかい」

 

「フッフッ、では失礼します」

 

フィンの長槍は空振りに終わりヤオダバルドは黒い渦の中に消えていった。

 

 

───────────

 

「ちょっと、馬鹿シャルティアッ!」

 

虚ろな目をしたシャルティアはアウラ達守護者にスポイトランスで襲いかかった。アウラは他の守護者達のサポートを受けながら攻撃を避ける。

 

山河社稷図を使用し、シャルティアをイシュタルから隔離した守護者達は未だ操られたままのシャルティアと戦っていた。

守護者最強といえどLv.100のNPCが四人も居れば攻めきれない。ましてやイシュタルを倒すまでの時間を稼げば良いのだ。アインズから防御を重視して相手するよう言われている。

 

「この偽チチッ!」

 

手は出してはいけないと言われたが、口は出してはいけないと言われていないのでアウラはこれでもかと不満をぶちまける。

 

しばらくすると魅了が解けたのかシャルティアはその場に倒れこんだ。と同時にアインズが山河社稷図の異界空間にやって来た。倒れているシャルティアに驚き、守護者達に問いかける。

 

「シャルティアは無事か?」

 

「はい、私達は手を出していません。突然倒れました。それでイシュタルはどうなったのですか?」

 

「ああ、天界に送った。魅了は解けたと言うことか」

 

アインズは寝ているシャルティアを抱き抱えると、意識を取り戻したシャルティアと目が合う。

 

「あぁ、アインズ様・・・」

 

「すまん、私のせいでお前を危険な目に合わさせてしまった」

 

「いえ、アインズ様が悪いことなど何もありません。それよりも私はここで初めてを───」

 

アルベドが口を出そうとした瞬間、シャルティアは俊敏な動きでアインズにキスをした。キスと言っても歯に直接当たっているだけだが。

 

「な、な、な─────」

アルベドは開いた口が塞がらない。アインズも何度も沈静化をし、固まっていた。

 

「フッフッフッ、私の勝ちでありんすね。第一妃は妾に相応しいということが証明されたでありんす」

 

勝ち誇った顔でアルベドを見るシャルティアは完全に自分が魅了される前後の記憶を無くしていた。

 

「何を言っているの、私の方が先にしたわよ」

 

アルベドの爆弾発言に全員が固まる。

 

「アルベド、何の話をしているのだ?」

 

「お忘れになったとは言わせませんよ。公園でキスをしたではありませんか?」

 

「え───あれはキスなのか?」

 

アルベドに頭突きをくらった記憶しか無いアインズはアルベドにとって致命的な発言をした。

 

「やだやだ、ついに妄想と現実の区別もつかなくなったでありんすか?キスとは今、アインズ様としたものを言うのでありんすよ」

 

アルベドはシャルティアの言葉とそれ以上にアインズの言葉に超位魔法級のダメージをくらった。

 

「うわぁ~~~~~ん」

 

突然、アルベドは泣きながら鎧を脱ぎ出した。

アルベドの奇行にアインズも慌てて止めにはいる。

「何をしているのだ、アルベド!!」

 

「裸ですか?裸になれば抱いてくれるんですか?」

 

「ちょ、おま───」

 

「何でありんすか、それは?」

アルベドの言葉にシャルティアも脱ぎだす。カオスな状況は守護者達に止められるまで続いた。

 




果たしてギルドに忍び込む必要はあるのか・・・
というかどこまで情報を持っているのかorz
最後まで悩みましたが、なんかあるだろうと言うことと、モンスター達の指揮命令の意味で居たことにしましたm(__)m


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後片付け

「───リーシャ、そっちは無事だったかい?」

 

「ん、なんとか・・・。ステイタスが封印されてモンスターが現れた時は流石に死んだと思ったけど、何故かこっちには向かってこなかったから」

 

そうかい、アイシャは妹のように扱っていたリーシャ達の無事に安心したように胸を撫で下ろした。

 

「結局、うちの被害はイシュタル様とフリュネだけってことか」

 

どちらも良い思い出はないが、それでも自分が前まで所属していたファミリアだ。全く何も感じないということはない。

 

「あんたらはどこのファミリアに行くつもりだい?」

 

「そういうアイシャはどうするのさ?」

 

ステイタスが封印されている状況では今までの借りとばかりに他の冒険者に襲われる可能性もある。彼女達は同時に発表することにした。

 

「「「ヘルメス・ファミリア!!!」」」

 

全員が一致した。

お互いに顔を見合わせ、愛想笑いを浮かべる。おそらく考えていることは同じだろう。

 

「よっしゃ、そうと決まれば早速ヘルメス様の所に行こうぜ!」

「待っててください、姐さん!」

 

「ちょっと待ちなぁ!お前達ぃ!!!」

突然、彼女達を呼び止める怒鳴り声が聞こえた。その声に一番驚いたのはアイシャだ。

 

「お前・・・フリュネか?」

 

そこには以前とはまるで面影もないフリュネの姿があった。

 

「よくも、よくも、私をこんな不細工にしてくれたねえぇぇーーー!!!シャルティアはどこにいるんだぁい!」

 

「何で生きてるんだ?というか不細工って、お前・・・、目茶苦茶()()になってるぞ?」

 

「あたいが美人なのは知ってるよ!ただこの顔のどこが美人なんだい。私の美しいパーツが一つも無いじゃないか」

 

フリュネはアインズの実験という名目で復活を果たしていた。しかし、潰れた顔のまま蘇生した為、あまりにも気の毒に思ったアインズは修復するようルプスレギナに頼んだが、「いやー、さすがにこれは無理っすよ(笑)」と言われ、ニューロニストに整形手術をするよう頼んだ。

ニューロニストはルプスレギナから元は凄い不細工だったという情報から、ニューロニストがイメージする不細工を基に整形手術もとい改造手術を行った。

そもそも骨格からして違うが、ニューロニストは弄る必要のない体も顔に合うよう行い奇跡の作品が出来上がった。ちなみにイメージはアルベドだった。

 

「絶対に復讐してやるっ!!!」

 

「そ、そう、頑張りなよ。あたし達はこれから『改宗(コンバーション)』しに行くから・・・」

 

執念に燃えるフリュネだが永遠に成就する事はない。さらに蘇生にあたりレベルダウンが起こり、オラリオ初のランクダウンをすることとなる。しかし、フリュネはこれから別の意味で【男殺し(アンドロクトノス)】として名を広めることとなるのだった。

 

 

────────────

 

「ヘルメス様ッ!今回の件どうするんですかっ!?」

 

「う~~~ん、どうしよう、アスフィ・・・」

 

「イシュタル・ファミリアの崩壊、オラリオへのモンスター進行、冒険者達の情報流出、また一部の冒険者や市民からモンスターに資産を持っていかれたとの報告がありますね。少し調べましたが裏がある者ばかりでしたから放っておいてもいいかも知れませんが。現在、分かっているだけでもこれだけあります」

 

アスフィの報告にヘルメスは頭が痛くなる。

 

幸いなのは人的被害は冒険者が怪我を負った者が数名いるが、命に別状は無いところくらいか。死んだ筈のイシュタル・ファミリアのフリュネも整形していただけというよく分からない情報だがとりあえず無事らしい。

 

《ヘルメス、今回の件で話がある。ナザリックへ来てくれ》

 

突然、ヘルメスの頭にアインズの声が響く。慣れないなぁ、そう思いながら分かったと答えた。

 

「すまない、アスフィ。今、アインズに呼ばれたんだ。一緒に行くかい?」

 

「断っても良いんですか?」

 

「ん~~~、だめ」

 

アスフィはため息をしながらヘルメスと共にナザリックへと向かった。

 

 

 

玉座の間にはアインズが玉座に座り、守護者達がその回りに控えていた。

 

「今回、結果としてシャルティアは無事だったが、これから同じようなことが起きるとも限らん。そちらも決してナザリックに手を出すことの無いように肝に命じてくれ」

 

「それはわかっているさ。それより今回の事件をどうやって納めるつもりだい?」

 

「その件に関してはデミウルゴスに任せている。デミウルゴス、頼むぞ」

 

「はい、畏まりました。それでは私より説明させて頂きます。先ず、イシュタル・ファミリアがあるアイテムを手にいれようとヘルメス様に依頼していたことは把握しています」

 

ヘルメスは突然名前を出されドキリとする。そして全てを知っているデミウルゴスに警戒する。

 

「そのアイテムを今回、モンスターを召喚するアイテムだった、ということにします。そしてイシュタルはそのアイテムを使ってモンスターを召喚し、魅了することで支配下に置く予定だった。しかし、モンスターに逃げられあげく殺されたということにしましょう」

 

「それじゃあ持ち込んだ俺が責任とらされるんじゃ・・・」

 

「それは仕方ありません。それに全ての責任はとる、とおっしゃられたと思いますが」

 

後ろからアスフィの拳骨が背中に刺さる。

『そんな事言ったんですか~~~』

『すまん』

 

「まあ、そんな効果があるとは知らなかったとでも言ってしらを切れば良いでしょう。後、ギルドに根回しして残されたイシュタル・ファミリアの管理をヘルメス領にしてもらいます」

 

「そんなっ!!いくらなんでも無理があります」

 

「問題ありませんよ。ほぼ全てのアマゾネス達がヘルメス・ファミリアに入るように手筈を打っています」

 

「そんな・・・実質、ヘルメス・ファミリアがイシュタル・ファミリアを乗っ取ったようなものじゃないですか。───ヘルメス様、相当皆さんのヘイトを集めますね」

 

ヘルメスの顔がますます青くなる。

 

「それで、元イシュタルのいたエリアはヘルメス様の第二のホームとします。管理は私達で行いますので気にしなくて良いすよ」

 

笑みを浮かべるデミウルゴスにアスフィは実質、ナザリックがヘルメス様を隠れ蓑にイシュタル領を統治するようなものだと痛感する。

 

「───分かりました。よろしくお願いします」

 

「いえいえ、私達も同じファミリアの一員ですから」

 

 

──────────

 

「アインズ様、こちらがオラリオでの我々の拠点となります」

 

アインズはイシュタル・ファミリアの旧ホーム『女主の神娼殿(ベレート・バビリ)』の最上階にいた。

 

「デミウルゴス、拠点ができたのはありがたいがここは・・・」

 

ほぼそのままヘルメス・ファミリアに移籍しただけのため相変わらず歓楽街の様子は変わらない。昼の今はまだそこまで賑わいは無いが、夜はアウラ達の教育上良くない。

 

「分かっております。ここはあくまで足掛かりです。アインズ様を見下ろすなど許されません。次は摩天楼(バベル)と言うことですね」

 

違う、と言おうとするがデミウルゴスの宝石の目はいつもよりキラキラと輝いていた。

 

「すいません、お目通りをお願いしたいと言うものがおられます」

 

ユリがアインズに報告をするとデミウルゴスは了解を貰い転移でナザリックへと消えていった。アインズもモモンへと姿を変える。

 

「あ、失礼します。あたし・・・私はアイシャ・・です」

 

「そんな畏まる必要はありませんよ。一応、ここの管理をヘルメス様から任されてるだけでアイシャさんの方が冒険者として先輩なんですから」

 

「そ、そうか?すまないね、助かるよ。とりあえずこれからよろしく頼むよ、モモン。あたしはアイシャだ。───ところで姐さんはどこに居るんだ?」

 

「姐さん?」

 

「ああ、すまない。シャルティア姐さんだ」

 

「?───シャルティアなら呼べば来るが、何かあったか」

 

「本当か?もし良かったら呼んでくれないか」

 

「シャルティアか?何か用なのか?少し待ってくれ」

 

アインズはメッセージでシャルティアを呼んだ。シャルティアが来るまでアイシャと話をする。

 

「ところでシャルティアに何の用なのだ?」

 

「え?そりゃこの前の借りを返すのさ」

 

「何だとっ!!!」

 

アイシャの言葉にアインズは警戒する。

 

「ん、あんたもやるかい?」

 

「私に勝てるとでも思っているのか?」

 

「さすがシャルティア姐さんが慕っているだけの事はあるね。でも負けないよ」

 

「愚かな、さあかかってくるがいい」

 

「ここでやるのかい?まあいいさ」

 

そういいながら服を脱ごうとするアイシャ、慌ててアインズは止めに入る。

 

「おいっ、何をしている?」

 

「はぁ?何ってそりゃ服脱いでやることは一つだろ」

 

またか、アインズはこの展開に溜め息をつく。

 

「すまん、勘違いをしていた。服を着てくれ」

 

「おいおい、ここまで来てやめちまうのかよ。まあ、姐さんが来るしいいか」

 

お互いに椅子に座り待っていると、シャルティアがやって来た。

 

「ご機嫌麗しゅう、愛しのアインズ様」

 

お辞儀をし、アインズの前にやって来た。アイシャはおもむろに立ち上がると四つん這いになる。シャルティアは自然にその上に座った。

 

「ところで何かご用でしょうか?」

 

何事もなく話し出すシャルティアにアインズはドン引きした。

 

「───いや、その私ではなく、その者が呼んだのだ」

 

「?───よく調教されてる犬でありんすね」

 

「ワン(ありがとうございます)!!」

 

「誰が吠えて良いと言ったでありんすか」

 

シャルティアはアイシャのお尻を叩く。アイシャはすごく嬉しそうな顔をしていた。

 

「───すまん、シャルティア。ここはお前に任せようと思う。可愛がってやれ」

 

「ハッ、この前の失態を払拭できるようアインズ様の領地を命懸けで守り抜くでありんす」

 

アインズは手を降って去っていった。ナザリックでデミウルゴスに会うと歓楽街の防衛を依頼し、ひっそりと自室に籠った。

 

 




またアイシャにひどい扱いをしてしまったorz

イメージぶち壊してすいません( ´△`)


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えぬ・ぴー・しー?

「良くできてるじゃないか」

 

デミウルゴスに先導されアインズは1000年以上をかけて作られた人工ダンジョンに入った。アインズは知るよしもないが案内のため同行しているディックスは以前より痩せ細り、欲望のためにモンスターを殺すような残虐性も成りを潜めていた。そこにいるのは指示されたことを淡々やる機械のような人間だ。

 

「ほう、面白いな。この鍵を使ってオリハルコンの扉を開けるわけか。確かにこれなら簡単に破られることは無いな」

 

アインズがキョロキョロと回りを見ながら進んでいく。これだけのアダマンタイトを用意し、加工してダンジョンを作っていくなどその執念に驚く。

 

「それでこのダンジョンはどこまで続いているのだ?」

 

「18階層のセーフティーポイントまでです」

 

「何?その1000年かけてその程度なのか?───いやこれだけのものだ。それでも頑張ったほうなのか。だがその程度ならたいして意味が無いが・・・」

 

しばらく歩くと少し開けた部屋のような所に着いた。そこには多くの檻が置かれ、中にはモンスター達が入れられていた。

 

「こいつらは何だ?」

 

「ディックス達がダンジョンで捕まえたモンスター達です」

 

「どういうことだ?」

 

「はい、ここのモンスター達は人語を話し、感情を持っています」

 

「何だと?それではNPCと言うことか!?」

 

「はい、その可能性はかなり高いと思います」

 

「おい、お前は創造主のことを知っているか?」

 

アインズは檻の中に入れられたモンスター達に問いかける。しかし、檻に入れられたモンスター達は怪我をしているものやモモンの姿を見て怯えているものまでいる。回りに転がっている拷問の道具を見てアインズは理解した。

 

「チッ、仕方ない。ペストーニャを呼んでくれ。少しは落ち着くだろう」

 

アインズはペストーニャを呼び、回復させるように指示をする。ペストーニャの異様と回復魔法に先程より安心したようだ。

 

しかし、一匹だけ特に怪我もしていないモンスターが居た。試しにアインズは話しかけてみる。

 

「おい、お前!」

 

「ひぃぃー、殺さないで欲しいでござるよ!」

 

アインズの前にはハムスターのようなモンスターがお腹を見せて降伏している。ハムスターと違うのはその大きさと蛇のような尻尾が生えているだけだろう。

 

「おい、お前。名前は何と言う?」

 

「お願いでござる。殺さないで欲しいでござる」

 

「分かった、分かった。それで名前は何と言うのだ?」

 

「某、『森の賢王・ハムスケ』、そう呼ばれているでござるよ」

 

先程の怯えた様子を一変し、フフンと自慢げに名前を語るハムスターにアインズはエクレアと同じ系統か、そう密かに思った。

 

「そうか、ではハムスケ、お前の創造主は誰だ?」

 

「創造主?なんでござるか、それは?」

 

「は?お前は何を言っているんだ?お前はNPCだろ?」

 

「えぬ・ぴー・しー?それは某の種族の名前でござるか?」

 

「いや、お前はハムスターだろ。NPCだ、NPC!」

 

「ひぃぃー、ごめんなさいでござる」

 

「すまん、別に怒った訳ではない。本当に何も知らんのか?」

 

「も、申し訳ないでござるよ。それがしダンジョンで生まれてからずっと子孫を残そうと彷徨っていた所を捕まってしまったのでござる」

 

アインズはディックスの方をチラリと見た。目があったディックスは肩を揺らし怯えだす。アインズは特に気にせずハムスケの話に耳を傾ける。

 

「雄を紹介してくれると言ったからついていったのに気付いたら檻に押し込まれていたでござるよ」

 

捕まった経緯を思い出し、プリプリと怒るハムスケにやはり名前負けだな、とアインズは感じた。

 

「デミウルゴス、こいつからは情報は引き出せそうに無いな」

 

「ハッ、では始末しておきます。ちょうど良い革がとれそうですしね」

 

「ひぃぃー、殺さないで欲しいでござるよぉぉーー!」

 

「デミウルゴス、すまんな。一応、こんなものでも殺さないと約束したのだ。私が嘘をつくわけにはいかん。しかし、敵のNPCをナザリックに置くわけにはいかんな。かと言ってオラリオにも置けんし・・・」

 

「では以前、ベオル山地のエダスの町を保護するために作った牧場がありますので、そこに送ってはどうでしょう。野生のハーピィの討伐をさせるなり、役にたたなければスクロール作りを手伝わせることもできます」

 

「そうか、それならデミウルゴス頼んで良いか?すまんな、いろいろデミウルゴスに負担をかけさせてしまって」

 

「いえいえ、アインズ様のためなら喜んでやらせて頂きます」

 

デミウルゴスは口角を上げ、ニヤリと笑う。

 

「では、ハムスケ。お前達はデミウルゴスについていけ」

 

「あのー、某は殺されないでござるか?」

 

「ああ、殺さん。それに働き次第ではお前の(つがい)を見つけることを約束しよう」

 

「うほぉーー!本当でござるか!?それでは某、殿のために働かせてもらうでござるよ」

 

「殿?まあ、いい。よろしく頼む」

 

ハムスケの設定を予想しながらアインズは気合いに充ち溢れるハムスケの後ろ姿を見送った。

 

 

───────────────

 

「アイズさん、神様のことありがとうございました」

 

アインズがハムスケと話している頃、ラキア王国の主神、軍神アレスに付き合わされたラキア軍がオラリオに進行し、オラリオの冒険者達にボロ雑巾のように蹂躙される恒例行事が行われていた。

しかし、一矢報いたアレスの手によってヘスティアがオラリオから連れ拐われてしまった。救出の要員としてアイズが選ばれ、自分の主神であると言うことで無理を言いベルはアイズについていった。

ベオル山地でアレスからヘスティアをなんとか救いだしたものの川に流され、山の天候も崩れていたため足止めをくらっていた。アイズが山奥に村を見つけたため、村の村長に事情を話し、体調を崩したヘスティアの看護のため暫く村に滞在することにした。

 

「この小屋は何があるのですか?」

 

滞在している間、村の手伝いをしていたベルとアイズは一度も立ち入ったことのない石造りの立派な小屋が気になり村長に質問をした。

 

「ああ、ここは祭壇として使っていたんですが、今は使ってないんですよ」

 

「祭壇、ですか?今は使っていなってどういうことなんですか?」

 

「使っていない、と言うよりもう意味が無くなったと言った方が早いかも知れませんね。見てみますか?」

 

そう言うと村長はベル達を小屋の中に案内した。そこには黒く輝く鱗が飾られていた。

 

「!──これはいったい?」

 

「これは黒龍の鱗です」

 

その言葉にベルは目を見開いて驚く。物語の中のモンスターが鱗とは言え目の前にあるのだ。そしてベルの隣で話を聞いていたアイズはいつにもまして目を鋭くさせた。

 

「私たちは今までこの鱗のお陰で長年モンスター達に襲われずに生活することができていました」

 

「えっ?今までってどういう、それにさっき言っていた今は使っていないって?」

 

「おや、ご存知無いですか?もう黒龍は討伐されたではありませんか?だからこの鱗もモンスターに対してなんの意味もありません」

 

その言葉にベルは驚くが、誰よりも驚いたのはアイズだった。

 

「───黒龍が・・・死んだ?」

 

「ええ、モモン様とそのお仲間達が来られ、黒龍を倒したと。実際、この鱗はモンスターに対してなんの効果も無いですから事実だと思いますが。オラリオには知られていないのですか?」

 

「「────モモンさんが?」」

 

村長から出てきた顔見知りの名にさらに二人は驚く。

 

「はい、今はモモンさんにこの村を守っていただいているので本当に感謝しています。ぜひお会いしたら感謝を伝えてください」

 

戸惑いながらはいっ、と答えるベルの横でアイズは黙って黒龍の鱗を見つめ続けた。

 

 




遂にハムスケ登場(^o^)

たいして活躍はしません(。>д<)


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ゼノス

「おい、てめぇ!竜女(ヴィーヴル)を見なかったか!」

 

強面の男に問いかけられたベルは咄嗟に火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)を少女に纏わせ、背中に隠す。

 

「それより、ポーションはありませんか?仲間が炎鳥(ファイヤー・バード)に襲われて怪我を負ったんです」

 

ベルの苦手な嘘だが先程倒した炎鳥(ファイヤー・バード)との闘いの後や使用したポーションの空瓶もあり、男は納得したのか舌打ちをして去っていった。

 

 

クソッ、ディックスはいつもの冷静さが無いほど焦っていた。現在、ディックスはデミウルゴスの命令でダンジョンに潜り『異端児(ゼノス)』とその巣を探していた。もともと異端児(ゼノス)を捕まえ、いたぶることで自らの呪われた家系の呪縛を紛らせていたディックスにとって何一つ変わらない行いだが、もう彼はそんなことをしたいとも思っていない。

ナザリックのことを知ってから全てが変わったのだ。自分達がモンスター共に行っていた拷問も怪物趣味の貴族(変態共)相手にモンスターを売り捌いたりなどしていたが、自分達がどれだけ子供だましだったのかよく分かった。

皮を剥がされ死にかければ無理矢理回復しそれを何度も何度もやられた。もう嫌だ、と音をあげれば体の中から蝕まれ、あげくタコのような化け物に体の中をいじくり回される。少しでも抵抗すればオラリオ最強のオッタルが可愛く見えるような化け物がねじ伏せてくる。

ディックスは先に逝ったグラン達を羨ましく思った。もうディックスには自分の欲望も血の呪縛も何もなかった。ただ言われたことを黙々とやるだけだ。二度とあそこには行かないために。

しかし、せっかく異端児(ゼノス)の情報が出たのに一足遅く逃がしてしまった。体の震えを抑えながら再度ダンジョンを探し回るのだった。

 

 

──────────────

 

「ウラノス、すまないが私はアインズを信用することができない」

 

ギルドの最奥、祈祷の間でフェルズは主神ウラノスに訴えていた。

 

「前回のオラリオでのモンスター進行は全てあの男が仕組んだものだ。確かに彼の仲間がイシュタルに魅了され奪われたことに対する報復はまだ理解できる。だがそれとオラリオの住民を危険に晒すのは関係がない」

 

訴えるフェルズをウラノスは黙って見つめている。構わずフェルズは尚も訴えた。

 

「まだ把握していないが彼らが我々の追っている組織と繋がったとの情報もある。もちろん彼らからそんな情報は何も入っていない。このまま放置すれば、必ずこのダンジョンかそれ以上の災いとなって我々に牙を向くことになる」

 

これ以上アインズ達を放っておくことはできないと言うフェルズにウラノスは目を瞑り、暫くの沈黙の後頷いて了承した。

 

その後、ヘスティア・ファミリアが異端児(ゼノス)を保護し、匿っていることやその異端児(ゼノス)が逃げ出し街で騒ぎになったことを報告した。

 

ヘスティア・ファミリアへの対応を話しているとアインズからこれから向かう、と連絡が入った。ウラノスが了承するとすぐにアインズは供を引き連れ転移をしてやって来た。フェルズはそのアインズが使用する魔法に骸骨の体にも関わらず寒気を覚える。

 

「久しぶりだな、ウラノス」

 

「ああ、そうだな」

 

「挨拶はこれくらいにして、早速本題を話そう。つい最近、街でモンスターが暴れたそうなんだ。それについて知りたい。何か情報は無いか?」

 

ウラノスはチラリとフェルズを見る。フェルズは言葉は出さないが、下を向き伝えるべきではないとサインを送る。

 

「───すまない、それについては情報を集めているところだ」

 

「───そうか。何か分かったなら連絡してくれ。ダンジョン攻略に繋がる可能性がある」

 

「分かった、約束しよう」

 

「それとは別に喋るモンスターを知らないか?そう、私達のようなものだ?」

 

「───前にも言ったように地上に降りてきたときは見かけたが、それ以降は見かけていない。会ったことがあるのか?」

 

「いや、気になって聞いてみただけだ。では先程の件、頼んだぞ」

 

再びアインズが転移で姿を消すとフェルズは緊張を和らげようと、ないはずの肺でため息をついた。

 

───────────────

 

「ミッション!?」

 

ベル達はギルドからの強制ミッションとして手紙を渡された。そこに書かれていたのは匿っている竜女(ヴィーヴル)のウィーネをダンジョンの特定の場所に連れていくというものだった。

ベル達が隠していた事実を既にギルドが知っているということに驚き、さらにダンジョンに連れてくるという内容に戸惑った。ベル達はウィーネの正体を知るためにもダンジョンへ行くことを決めた。

 

 

ディックスはベル達に悟られないようベルの後を尾行していた。以前ベルに会った時の違和感を思いだし、情報を集めていた所、やはりヘスティア・ファミリアが匿っていると判断した。そして再び竜女(ヴィーヴル)を連れダンジョンに潜るベル達に異端児(ゼノス)の巣の場所まで案内させるのだ。しかし、中層へ進んでいるとき違和感に気付いた。まるで誰かに監視をされているような違和感に。

ディックスはこれ以上失態を晒すわけにはいかなかった。しかし、仮に二重尾行ならば罠に嵌まる可能性もある。このまま続けるべきか悩んでいたとき、ある男の声が頭に響いた。声を聞いただけで全身が震えそうになるあの男の声が。

 

『尾行されているみたいですね。失敗は許されませんよ』

 

『申し訳ありません。しかし、相手を撒くにも人手が足りません』

 

『そうですか、仕方がありませんね。貴方を尾行している者は私の方で処理しましょう。その代わり───分かっていますね』

 

『ありがとうございます。必ず見つけ出します』

 

しばらくするとディックスを監視する違和感は消えた。どうやって自分を監視しているか分からないが、間違いなくミスは許されないことは分かる。

先を行くベル達は目的地に到着したらしくルームの中央で動きを止めていた。ディックスは息を潜め遠くから様子を伺うと、突然ベル達の気配が消えた。慌ててルームに入るとベル達の姿が消えていた。行き止まりの筈のルームにディックスは回りにを見渡す。壁を覆い尽くす石英(クオーツ)が今まさに修復し元に戻ったところをディックスは見逃さなかった。ディックスはこの奥に巣があることを確信し、石英(クオーツ)の前に立った。

 

 

 

ベル達は呆気にとられていた。先程まで命懸けの戦闘を繰り広げていたかと思えば、今度はモンスター達が人語を操りながら笑っているからだ。状況についていけてないベル達だったが、リドと名乗るリザードマンはベル達がウィーネを本当に守り抜くのか試したと言い謝罪した。

鋭い牙と爪に大きく広がる口を開け仲直りの握手を求めるリドにベルは正直に言えば怖さがあった。しかし、ベルの後ろに立つウィーネを見て、覚悟を決める。ベルはリドの手をとった。

突然、歓声があがる。なぜなら異端児(ゼノス)達にとってそれは彼らの儚い夢の第一歩だったからだ。一斉に隠れていた異端児(ゼノス)達がベル達、人間の珍客を取り囲む。

 

モンスターと人間が輪になって宴を開き、宴の最後ベルとウィーネは別れを済ませた。それがウィーネの幸せだと信じて。ベル達は去り、リド達もまた別の巣に移動する最中、その男は突然現れた。

 

「こんなところに隠れていたとはな。そりゃあ簡単には見つからねぇよな」

 

「お前は───フェルズが言うハンターか?」

 

「全く人間とモンスターが仲良くやってるとはな、笑っちまうぜ。所詮は力のあるやつに全てを決められるんだよ。ああっ、ハンター?そんなもんとっくに廃業だよ。俺はあるお方の前にお前らを連れてくだけだ」

 

「お前、正気か。一人で俺たち全員を相手するつもりか?」

 

「数なんてもんは関係ねぇよ。お前らも抵抗するだけ無駄だ。知られた時点で終わりなんだよ、俺も、お前達も」

 

絶望の顔をするディックスとは対称的にリド達は早く目の前の男を倒し移動しようと攻撃を仕掛けた。

 

「たくっ、面倒くせぇな。あまり傷もんにしたくはないが逃がすわけにもいかねぇ」

 

そう言うとディックスは左手を前に差し出した。

 

【迷い込め、果てなき悪夢(げんそう)

【フォーベートール・ダイダロス】

 

その呪い(カース)の幻惑、錯乱の効果によりリド達は壁を、石英(クオーツ)を、自らを、仲間を傷付け暴れ始める。

暴れ過ぎ動けなくなったものからディックスは縛りつけ身動きを封じていた。

そこに一匹のモンスターが現れた。筋骨隆々の体に冒険者達が落とした防具を装備し、両手には斧を構えたその姿は闘うために生れたと言って良いほど様になっていた。そのモンスターはミノタウロスという良く知られたモンスターだが、通常のミノタウロスとは違い黒く、猛牛というイメージとは違い体の内に激情を抑え込んでいた。

ディックスは確信する、殺されると。しかし、これで解放されるとどこか安堵している自分が居た。願うのは再び地獄で目を覚まさないことを祈って静かに目を閉じた。

 

ディックスの呪い(カース)から目を覚ましたリド達は仲間のミノタウロス、アステリオスに礼を言った。しかし、リド達の前に再び脅威が訪れた。それは空間を割くように現れる漆黒の渦の中から───。

 

 

────────

 

「すっかり遅くなってしまったな」

 

フェルズはダンジョンの中を急いで進んでいた。ベル達がリド達と会う一方、地上ではヘスティアとウラノスを会わせる目的があったからだ。案内を済ませフェルズは待ち合わせの場所に急いだ。

 

突然、フェルズを呼ぶ声が聞こえた気がした。夜中のダンジョン、そしてフェルズを知るものなど異端児(ゼノス)位しかいない。しかし、今はベル達と会っている筈である。警戒しながら辺りを見回した。そこには少女が居た。先程まで居なかった場所に突然現れたその少女に警戒をする。

 

「お前は誰だ・・・」

 

「ふふっ、初めまして、フェルズさん。───そしてさようなら」

 

その言葉と共に目の前に現れた少女を最後にフェルズは意識を手放した。

 

 

 



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地震

リド達は突如目の前に現れた異形の存在に戸惑った。ライトブルーの体にリザードマンのリドすらも見上げる体格、その昆虫のような顔からは呼吸の度に冷気が漏れている。そして感じるのはその圧倒的な強さだ。リドは今まで感じた事のないプレッシャーを感じた。

仲間を守るためにもリドは捨て身の覚悟で前に出ようとする。しかし、震えるリドよりも先にミノタウロスのアステリオスが前に出た。

 

「コキュートス、あまり怯えさせるな。私たちは何も殺しに来たわけではない」

 

コキュートスと呼ばれた虫のモンスターの後ろからフェルズと同様の骸骨のモンスターが現れた。しかし、そのオーラはフェルズの比では無いが。

 

「申シ訳アリマセン。アインズ様」

 

「よい、コキュートス。さて突然、驚かせて済まなかったな。私はアインズ・ウール・ゴウンという。君達のリーダーのような者はいるか?」

 

アインズと呼ぶその骸骨はすぐに闘うようでは無い様子だ、抵抗しても意味は無いだろうが。リドは自分だと名乗り出る。

 

「俺がこの群れを率いてるリドだ」

 

「そうか、リド。お前達の捕まった仲間を助けた。今は私の庇護下にある」

 

アインズの言葉にリドだけでなく他の異端児(ゼノス)達も声をあげた。捕まった仲間の安否を気にしアインズに仲間の名前を伝える。

 

「すまないが、全ての名前を知っているわけではない。ハムスケというハムスターみたいなやつは知ってるぞ」

 

リドはハムスケの名は知らないが恐らく嘘はついていないと感じた。

 

「仲間を助けてくれて感謝する。それで今はどこに居るんだ?」

 

「ベオル山地という地上だ。人目のつかないところにいる」

 

地上、その言葉に地上に憧れている歌人鳥(セイレーン)の少女が声をあげた。

 

「そこで提案だ。私の下につくか、つかないか、選んでくれ。もちろんどちらを選んでも君達の安全は約束しよう」

 

「それを信用する根拠はあるのか?」

 

「そんなものは無いさ。ここで死ぬまでこそこそと生きるか、私の下で外に出て生きるか」

 

リドはアインズの言葉に揺さぶられた。しかし、そんな中、一人アインズの言葉に惑わされない者がいた。

 

「ベルは?もうベルとは会えないの?」

 

その言葉に全員がハッとする。先程までベル達と友好が築けたばかりだ。もしかしたらこれから隠れて生きる以外の可能性も見つかるかもしれない。リドは仲間達を見渡し頷いた。

 

「すまないが、俺たちは「今、ベルと言ったか?」」

 

「えっ───」

 

「お前達はベルを知っているのか?」

 

「あ、ああ、彼女、ウィーネがダンジョンで死にそうになっていたところを助けてくれたんだ」

 

「フッ、さすがベルと言ったところだな。まさかモンスターにも優しいとはな。とことん甘いな」

 

「貴方もベルを知っているんですか?」

 

アインズはモモンの姿に変装し答えた。

 

「私はこうやって冒険者として活動している。彼とは冒険者になる前から知り合いだよ。まあこのことはさすがに教えていないがね」

 

「そうなのか、やっぱりベルっちはすげーな」

 

「ベルっち?─まぁ、いい。それでどうする?」

 

「俺達はベルっちを待ってる」

 

「そうか、分かった。お前達が地上に出られることを祈っているよ」

 

「せっかく誘ってくれたのに申し訳ない」

 

「いや、正直どちらでもよかったんだ。それよりお前達はダンジョンのことをどれだけ知っている?」

 

「ダンジョン?いや、特に何も。下に行けばモンスターが強くなるくらいしか」

 

「やはりそうか。分かった。それではいつか会おう」

 

アインズ達が去ろうとした時、アステリオスが前に出た。

 

「ん、なんだ、こいつは?」

 

「バカッ!アステリオス!いくらお前でも・・・」

 

「アインズ様、コノ者ハ我々ニ闘イヲ挑ミタイヨウデス」

 

「そうなのか?」

 

「すまない、そいつはある男との闘いに勝つために強くなりたい変り者なんだ」

 

「ほう、どう言うことだ?」

 

「俺達は生まれた時から夢を見るんだ。俺なら夕日の見える世界で生きたい、歌人鳥(セイレーン)のレイなら光の世界で羽ばたき、人に愛されたいとかな。人それぞれだけど前世の記憶、憧れがあるんだ」

 

「面白い話だな。──キャラ設定か?いや、それとも異世界転移した影響か?」

 

「?」

 

「いや、なんでもない。それであいつは自分を負かした相手に勝ちたいということか」

 

「そういうことだ」

 

「いいだろう、コキュートス。胸を貸してやれ。殺すなよ」

 

「ハッ!」

 

リドはアステリオスを前にしてもこの圧倒的な余裕に戦慄を覚える。

 

「名ハ何ト言ウ」

 

「───アステリオス」

 

「コキュートスダ」

 

勝つことはできないだろう。しかし、それでも引くことはできなかった。まだ誰かも思い出せないあの男に会うために。

 

二人の間に静寂が訪れる。アステリオスはゆっくりと腰を落とし両手に斧を構える。対してコキュートスは無防備のまま立っていた。先に動いたのはアステリオスだった。コキュートスが何も持っていなくても関係無い、自分はただ本気で挑戦するだけだと。

 

アステリオスの両刃斧(ラビュリス)がコキュートスの胸に衝突する。ミノタウロス本来の斥力とダンジョンでモンスターと闘い、魔石を食べ強化したアステリオスの力に普通であれば壁まで吹き飛んでもおかしくない衝撃を生み出す。しかし、コキュートスは受け止めるどころか、平然と立っていた。体には傷一つついていない。

 

「スマナイ、ソノ程度ノ武器デ私ヲ傷ツケルコトハデキナイ」

 

アステリオスは倒せないことは分かっていたが、目の前の光景に一瞬固まる。しかし、すぐに動きだしもう片方の斧、魔剣を起動させる。

斧を中心に目映い雷光が走る。第一級冒険者ですら間近でくらえば電撃と共に麻痺状態に陥る攻撃だ。

しかし、やはりコキュートスには通用しない。

 

「面白イ攻撃ダカ、コノ体ニソノ程度ノ魔法攻撃モ通用シナイ」

 

無傷のコキュートスにアステリオスは分かっていたかのように顔を歪ませた。直後、アステリオスの腹にコキュートスの鋭いスパイクのついた尾が直撃する。無防備だった所に強烈な一撃を喰らったアステリオスは壁まで吹き飛ばされ、盛大に口から血を吐いた。

圧倒的な力の差に見ているリド達も愕然とする。もはやアステリオスは立つことすら難しいだろう、そう誰もが思った。

しかし、アステリオスは尚も立とうと震える足を抑え、斧を杖がわりにしている。コキュートスを傷つける手段すら無い中、何が彼をそこまでさせるのかは誰にも分からないだろう。彼の目の前に立つ同じ武人以外は。

コキュートスはアインズに一言謝ってから、立ち上がったアステリオスに向かって斧を差し出した。

 

「スマナイ。アステリオス。オ前ヲ見クビッテイタ。コレヲ使エ。コノ武器ナラ私ヲ倒ス事モ出来ルダロウ。シカシ、コレヲ持ッタ時、私ハ手加減ハシナイ」

 

コキュートスの言葉にアステリオスは武者震いを起こした。アステリオスは顔を歪ませて笑う。ダンジョンの下層に行っても出会えなかった相手に会えたことに。アステリオスはコキュートスから丁寧に斧を受け取った。これでもう後には戻れない。

再び二人は向かい合った。先程までの痛みは既に忘れている。極限の感覚の中、再びアステリオスから先に動く。

風をも切り裂く渾身の一撃を振り下ろす。間違いなく今までで最強の一撃だ。しかし、コキュートスに当たる直前に白銀の筋がアステリオスの前を通過した。

痛みや出血すら置き去りにし、ゆっくりとアステリオスの右腕は地に落ちた。その後、盛大に傷口から血を吹き出す。遥かな高みを目に焼き付けようとアステリオスは体が倒れるまでコキュートスを見続け意識を失った。

 

「そこまでのようだな。そいつは回復させてやる。少し預かるぞ」

 

「えっ、あっ、ああ。お願いします」

 

コキュートスがアステリオスを抱き上げた時、突然ダンジョンがかつて無いほど大きく揺れた。

 

 

────────────

 

ギルド最奥の部屋、ウラノスが居る祈祷の間に黒衣の男が入ってきた。ギルド長が出入りする扉ではなく、その男がいつも使用する秘密の通路からだ。

ウラノスは見知ったその男にいつも通り話しかける。

 

異端児(ゼノス)とヘスティア・ファミリアとの接触は上手くいったか?」

 

しかし、返事は返ってこなかった。

 

「どうした、フェルズ?」

 

「───いや、なんでもない。うまくいったよ」

 

「そうか────」

 

ウラノスは返答したフェルズの後ろにフェルズを操る女の姿を幻視した。その瞬間、フェルズがウラノスに切迫する。黒衣に隠された禍禍しい長剣がウラノスの胸を突き刺した。

 

「───さようなら、ウラノス。この忌々しい封印からもこれでおさらばだ」

 

フェルズとは違う高い声の笑い声にウラノスは最後の力を振り絞り神の力(アルカナム)を使用した。

 

チッ、その声と共にフェルズは術者から解放された。意識を取り戻したフェルズは目の前で胸に剣を突きつけられたウラノスの姿とその剣を持つ自分の手に愕然とする。

 

「一体何がっ!?」

 

「───すまない、アインズに早く伝えてくれ。封印が解かれた」

 

その言葉を最後にウラノスは神聖な光に包まれ天に送還された。

 

その直後、オラリオを巨大な地震が襲った。

 

 



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崩壊

この展開は不安しかないです(ToT)
お手柔らかにm(__)m


最初に異変に気付いたのはダンジョンの中に居た冒険者達だった。巨大な揺れに慌てて頭上の安全を確認し、身を屈めていた。揺れが収まった頃、仲間達の安全を確認し早めに探索を切り上げようとした時、壁に大量の亀裂が入った。先程の地震のせいではない。

 

怪物の宴(モンスター・パーティー)

 

突発的なモンスターの大量発生が冒険者達を襲った。取り囲まれた冒険者達は絶望の顔を浮かべる。

しかし、モンスター達は冒険者達には目もくれず一目散に通路に走り出した。

安堵する冒険者達だがモンスターの謎の行動に理解が追いついていなかった。しかし、モンスターが去った後、ようやく謎が解けた。冒険者達が街に帰る唯一の出口、そこに大量のモンスター達が殺到していたのだ。

 

その時、床に大きな亀裂が走った。徐々に拡大する亀裂はついに床を破壊し、運悪くその上に居たモンスター達は階下へと落ちていった。代わりに出てきたのは人を掴めるほど大きな手だった。近くに居たモンスターを踏み潰しながら出てきたそのモンスターは下級冒険者であっても、聞いたことはあるほど有名な存在だ。18階層の階層主、ゴライアス。

地上に進出するなど聞いたこともない異常事態(イレギュラー)が発生した。

 

 

───────────

 

オラリオの街は静寂から一変し、喧騒へと包まれた。冒険者達もまだ身支度を整える前の早朝にそれは突然起こった。

大きな地震、住民達を叩き起こす強烈な揺れは序章にすぎなかった。大きな揺れに飛び起き、外の様子を見ようと外に出た住民は空に輝く神聖な光を目にする。それが何を指しているのか分からない。しかし、徐々に街の中心部にそびえる摩天楼(バベル)の方から悲鳴が上がった。その悲鳴はオラリオの中心から外に向かって広がっていった。

 

広場を埋め尽くすほどのモンスターが放射状に伸びた道に沿って進んで行く。いち早く動けた冒険者達は直ぐに住民達を保護する。しかし、あまりのモンスターの数に手が回らなかった。

 

「直ぐに住民達をオラリオの外に出せ。モンスターは絶対に通すなよ」

 

街の治安に協力しているガネーシャ・ファミリアの団員達が率先して誘導にあたる。飛び起きた冒険者達やギルド職員達もこれに協力する。

 

 

 

「ベル様っ!後ろです!」

 

ベル達は異端児(ゼノス)との接触を終え、ダンジョンから出た直後モンスターの地上進出に遭遇した。

 

「なんなんだ、いったい?」

「春姫殿、私の後ろに!」

 

すぐに戦闘体制になり襲ってくるモンスターを迎え撃つ。そんな中、ベルの動きは普段より良くない。異端児(ゼノス)の存在を知り、モンスターを倒すことに躊躇をしてしまったのだ。ベルの本調子では無い動きを補うためヴェルフと命、リリは懸命にサポートをしながらホームに急いだ。

 

 

ロキ・ファミリアのホーム、黄昏の館でフィンはこの異常事態にすぐさまチームを分けた。主神のロキを守りつつ市民を誘導するチームと大元であるダンジョンの入り口でモンスターがこれ以上溢れないよう押さえ込むチームだ。

 

「ガレス、ロキの事は任せた。リヴェリア、アイズ、ティオネ、ティオナ、ベート、僕達は摩天楼(バベル)に向かいモンスターのこれ以上の進出を防ぐ」

 

ロキ・ファミリアの幹部達が摩天楼(バベル)に向かって駆け出した。

 

「おいおい、嘘だろ」

「エッー?ここ地上だよ!なんでゴライアスが居るの?」

「とにかくすぐに片付けるわよ。こいつが暴れたら被害が広がるわ」

 

第一級冒険者のベート、ティオネ、ティオナが摩天楼(バベル)の壁を突き破って出てきたゴライアスに切迫する。

 

「オラァァアァ!」

 

ベートがゴライアスの膝を蹴り、関節を破壊する。崩れ落ちるゴライアスが止めを指そうとするティオナに巨腕を振るい迎え撃つ。しかしティオナは大双刃(ウルガ)を振り回し全て切り伏せた。最後にティオネが湾短刀(ククリナイフ)でゴライアスの核に向け切りつける。

 

「そんなトロくせぇ攻撃が届くか!」

「うるさい、ベート!」

 

三人で纏めて核を狙い、ゴライアスは地上の進出は一歩しか許されなかった。

 

「私一人で殺れたのに邪魔するんじゃないないわよ」

「はあぁ?オメェのトロい攻撃じゃ時間がかかるんだよ」

 

「ベート、ティオネ、そこまでだ。すぐに他のモンスターを倒すんだ」

 

フィンが指示を出した所で、少女の声が聞こえてきた。

 

『おいおい、雑魚でも復活させるのはタダじゃないんだぜ』

 

直ぐ様辺りの警戒をするがどこにも見当たらない。

突然、広場の中央に巨大な鏡のようなものが現れた。本来、ものを写す面は漆黒に塗り潰され何も写していない。

 

「団長、これはいったい?」

 

「───分からない、だが親指がうずいている。みんな、気を付けろ!」

 

その直後、鏡の黒い面から巨大な腕が飛び出してきた。フィン達はその見覚えのある腕に驚く。なぜならそれは先程、ベート達が倒したばかりのゴライアスの腕だからだ。本来、ゴライアスの復活のインターバルは一週間と考えられている。それが十分も経たない内に出てきたからだ。

 

『少しはできるやつが居るみたいじゃないか。またすぐに倒されても面白くない。本当はもう少し後で出すつもりだったが、まあいい』

 

再び少女の声と共に出てきたゴライアスの後ろから巨大な骸骨のモンスターが現れた。

 

「嘘だろ、あれはウダイオスじゃねぇか」

「後ろにまだいるよ」

 

37階層の階層主に続き、49階層の階層主 バロールが姿を表す。さらに隅から深層のモンスター達が現れた。

直ぐにフィンは指示を出した。

 

「リヴェリア、詠唱を頼む。アイズ、ゴライアスを倒せ。倒し次第、他のメンバーの助太刀に入るんだ!」

 

「分かった。《テンペスト》」

 

フィンの司令にアイズは直ぐに行動を開始する。

 

「ちょっとー、手が足りないよ!」

「うるせぇ、バカゾネス!口動かしてねぇで手を動かせ」

 

ロキ・ファミリアの幹部だけでは手が回らず思わず愚痴が出てしまう。

 

「君は・・・」

 

フィンの前にフレイヤ・ファミリアのオッタルが現れた。その後ろにはフレイヤ・ファミリアの第一級冒険者達もいる。

 

「全ては、主が望むままに」

 

「そうかい、助かるよ」

 

これで押さえ込める、そう期待した直後だった。階層主が出てきた鏡のような渦とは別に()()の渦がフィン達を取り囲むように現れた。

 

『楽しんで貰えると嬉しいな』

 

その声と共に渦から異形のモンスターが現れた。オラリオの冒険者なら誰しもが知る伝説のモンスター。かつてオラリオの頂点に居たゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアが倒し、そしてファミリアの解散に追いやられた原因となったモンスター。

陸の王者(ベヒーモス)海の覇王(リヴァイアサン)、隻眼の竜、三大クエストのモンスターが現れる。

 

「おいっ、ベヒーモスとリヴァイアサンは死んだって聞いたぞ」

 

「まさかこいつらも復活するというのか・・・」

 

フィンは苦虫を噛んだように、普段見せることの無い表情を浮かべた。

 

「───頑張ってね」

 

先程まで響いていた少女の声が遥か上空から聞こえた。フィンは空を見上げる。少女は龍が描かれたチャイナドレスを身に纏い、背中には天使のような羽をひろげ空を飛んでいた。その顔は神のように整っており、こんな状況で無ければその笑顔に心惹かれていたかもしれない。

 

「君かい?この騒動の張本人は?」

 

「当ったり~~!まあ分かるか。──じゃあ一生懸命足掻いてよ」

 

 

─────────

 

 

「皆、聞いてくれ。私はオラリオを救いたい」

 

アインズはナザリックに戻り、守護者を集め会議を開いていた。アインズは素直に自らの想いを伝えた。それがナザリックを危険に晒す愚かな考えだと分かっていても、それでも見捨てることはできなかった。

 

「恐れながら申し上げさせて頂きます。それは余りにも危険です。相手はユグドラシルのプレイヤーです。迎え撃つのが上策と具申します」

 

「アルベドに同じく私も同様の意見です。それに今は様子を見る方が先決かと。相手の戦力を把握し、オラリオの戦力とぶつける、または犠牲が広がれば神の力(ファルナ)を使用する神も現れるでしょう」

 

アルベドとデミウルゴスの意見に他の守護者も同様の意見だと頷く。しかし、アインズはそれでも守護者達に訴えた。

 

「お前達の意見は全て正しい。私もこの世界に来た直後であれば同じ判断をしただろう。しかし、私は知ってしまった。この世界の者達の事を。そして何より今暴れているのは元々私の世界に居た者だ。同じ立場の者として見過ごすことはできない」

 

「しかし、アインズ様っ!アインズ様が出る必要はありません。私達にご命令頂ければ直ぐにでも」

 

「確かにそうだ。ただこれは私の我が儘と言うやつだ。お前達だけに手を汚させる訳にはいかない。責任は私が取りたいのだ」

 

「しかしっ───」

「アルベド・・・、しっかり私を守ってくれよ」

 

食い下がるアルベドにじっとアインズは見つめ優しく諭した。

 

「───分かりました。アインズ様にはお怪我の一つもつけさせません」

 

「すまんな、アルベド。─デミウルゴス、作戦を立ててくれ。なるべく住人に被害が出ないよう頼む」

 

「ハッ!アインズ様の領地を土足で踏みつける愚か者に相応しい結末を用意します」

 

「コキュートス、アウラ、マーレ、シャルティア、セバス。存分に暴れてこい。ナザリックが威を示せっ!」

 

「「「「ハッ!」」」」

 

「パンドラズ・アクター、守護者達に世界級(ワールド)アイテムの準備をせよ。お前は万が一に備えナザリックの守護を任せる」

 

Wenn es meines Gottes Wille(我が神がお望みならば)

 

「───まぁいい、頼んだぞ」

 

 

 

「みんなっ、逃げろ!あれは多分かなりヤバイっ」

 

突如現れた少女は直ぐに何かを唱えたかと思うと、彼女を包み込む球体が現れた。見たこともない文字が目まぐるしく動き、一時も同じ状態を留めていない。

しかし、フィンやリヴェリア達にはそれが魔法を唱えていることは簡単に予想ができた。長文詠唱は桁違いの威力をほこる。遥か上空で唱える彼女にまともな攻撃も与えられない。

詠唱が終わりに近づいたのか球体に描かれた文字が先程と変わりゆっくりになってきた時、突如少女が爆発に巻き込まれた。フィン達が不発かと見上げると、もう一つ別の影がどこからともなく現れた。

 

「私の前で簡単に超位魔法が使えると思ったか?」

 

漆黒のローブにスパルトイを思わせる白骨の体。しかし、その迫力は比ではない。

 

「───フフッ、久々の実戦だから忘れてたよ。やあ、やっと会えたね」

 

爆発に巻き込まれながらも何事も無かったかのように少女は笑顔で挨拶をした。

 



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