もしもブレイブウィッチーズにドリフターズのあの人が来たら (ひえん)
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もしもブレイブウィッチーズ2話にドリフターズのあの人が来たら

「雁淵ひかり、行きます!」

 

 航空隊は壊滅、姉である孝美は昏睡して戦闘不能。戦えるのは自分しかいない…艦隊を守るべく彼女は飛んだ。多少ふらつきながらも飛び上がり、やっとの思いで2機のネウロイへと銃口を向けた。その時である…

 

「電探に感、ネウロイと逆方向。当艦隊へ向けて一機何かが来ます!」

「味方か?それとも新手か!?」

「分かりません!雲の中で見えません!」

 

 黒雲をぶち破り、赤い丸を付けた緑色の戦闘機が出現した。

 

「あれは一体…どこの機体だ?」

 

 空母艦橋の皆が困惑した。

 

「なんだバカヤロウ!なァにが起きやがったあ!!」

 

 機体の主は叫ぶ。

 

「おいおいおい、味方の艦隊じゃねえか…さっきまでいなかったってえのに。佐世保から出てきたのか?」

 

 その機体の主は眼前に広がる光景を見た。その形から紛れもない帝国海軍の艦艇であることを確認すると、戦況がひっ迫したこの状況で動ける艦隊がいたことに驚いていた。

 だが、海面に漂う機体の残骸が目についた途端、事の異常さに気が付く。なんと真っ白な零戦の残骸である。恐らく、一一型か二一型だろう。だが、今時こんな塗装で飛んでいるとは思えない。燃える艦隊に古い零戦…よって導き出される結論は…

 

「なんてこった。MI(ミッドウェー)かここはバカヤロウ!」

 

 自分がタイムスリップでもしてしまったのでは…と考えていると、艦隊周辺の海面に光る何かが突き刺さるのが見えた。そして、それが飛んできた正面上空を見ると…2機の黒い異形が赤い光線を撃ちながら飛んでいた。

 

「なんだぁ?異星人の襲来か?」

「なんだか知らねえが、味方に手ェ出すんならタダじゃおかねえぞ!!」

 

 そう叫ぶと愛機、紫電二一型…「紫電改」のスロットルを全開にした。

 

 一方、そんな騒ぎに気付かないひかりは引き金を引く。当たった!だが、すぐに回復してしまう。

 

「再生してる…!コアを狙わないと。」

 

 ひかりを新たな脅威と見なしたのか、ネウロイが光線を撃ってくる。

 

「きゃあ!?」

 

 シールドでなんとか攻撃を防ぐが、体勢を崩してしまう。その隙にネウロイは艦隊へと攻撃を強める。

 

「あっ!」

 

(私のせいだ…私が弱いから…、お姉ちゃんはこの何倍って数のネウロイと戦ったっていうのに…!)

 

 撃ち続ける。だが、ネウロイの急所たるコアには掠りもしないようで効果が薄い。いくら撃ち込んでも再生してしまう。ハッと気が付くと、眼前にネウロイが迫る。衝撃と共にひかりは弾き飛ばされた、ネウロイと接触してしまったのだ。ネウロイはそのまま反転、こちらへと戻ってくる…だが、その瞬間ひかりに一つの変化が起きた。

 

(あれは…?)

 

 コアが見えた気がした…

 そこへ目がけて撃つ。銃弾が当たり、ネウロイの装甲が弾けてコアが露出した。続けて撃とうとするが間に合わない、再び眼前にネウロイが迫る。絶望感と恐怖感がひかりを襲い、次に来るであろう攻撃が頭をよぎる…その時である、ネウロイの直上から機関砲弾の雨が降り注いだ。

 

 露出したコアに20mm機関砲弾が直撃、ネウロイは弾け飛ぶ。そして、ひかりの真正面を一機の戦闘機が急降下して飛び去って行く。

 

「よかった…味方が来てくれたんだ…!」

 

 ひかりは安堵したが、その後に聞こえてきた無線の内容に仰天した。

 

「戦果、「異星人」一機撃墜!!」

「ワレ 突撃ス 目標「異星人!」 目標「異星人!」」

 

「い、異星人!?あの人、何言ってんの!?」

 

 戦場で何を言っているのか、相手はあのネウロイである。子供でも知っている常識だ。それを「異星人」と言うパイロットにひかりは困惑した。

 

「343空 301飛『新選組』隊長 菅野直!」

 

 戦闘機の主、菅野は下から「異星人」を突き上げる。20mm機関砲3門(1門は破損し使用不能)という零戦と比べ物にならない火力が「異星人」に叩き込まれる。

 

「好き勝手味方を撃ちやがって、ムカつくんだよバカヤロウ!」

「テメエが何なのかわからねえが、墜ちろバカヤロウコノヤロウ!」

 

 いくら撃ち込んでもビクともしない。さっきは落とせたのだから弱点はあるのだろう、菅野がそう考えていた時である…戦場にはありえない少女の声が無線に響いた。

 

「コアを…コアを狙ってください!多分さっきと同じ位置だと思います!」

「ああっ!?ガキがなんで無線で喋ってんだ!それにコアって何だぁ!?」

「ひぃッ!」

 

 無線から響く男性の怒声に、ひかりはすっかり怯えてしまった。

 

「コアっていうのを撃てばいいんだな!?ああっ!?さっきのガキッ、聞いてんのかぁ!?」

「は、はぃ…」

「さっきの所と同じ、か…とすると…」

 

 戦闘機が上昇する、再び直上から攻撃を仕掛けるつもりだろうか、ひかりがそう考えていると、ネウロイの背が光るのが見えた。あの戦闘機を攻撃するつもりだ。とっさに無線で叫ぶ。

 

「危ない!」

「チッ!」

 

 いよいよ覚悟を決めるか、菅野がそう考えた時である。機体の背に光の壁が現れ、攻撃を弾いた。

 

「何だこりゃあ!?」

 

 その瞬間、菅野は「少女が生身で飛んできて光の壁で光線を弾く」という、現実離れした光景を目撃したのである。

 

「おいおいおい、今度は超能力者かぁ!?」

「そこの戦闘機、うかうかすんな!」

 

 その少女はそう叫ぶと反転、そのまま黒い異形に急降下して一撃を浴びせる。弱点を撃ち抜かれたのか、黒い異形はぐらりと傾き四散した。

 

 終わったか…、菅野がそう考えた途端、無線に「英語」で警告が入った。

 

「そこの所属不明機に告ぐ、直ちに武装を解除してこちらの指示に従いなさい」

 

 気が付くと、紫電改の周りを空飛ぶ少女たちが取り囲んで銃をこちらに向けている。すると菅野は…

 

「外人?鬼畜米英だコノヤロウ!」

 

 と、無線に怒鳴りつけた。

 

「彼、なんて言ってるの?」

「扶桑語みたいですけど…言ってる意味が分かりません」

 

 戦闘隊長である金髪の少女…アレクサンドラ・ポクルイーシキン「サーシャ」大尉が部下に問う、その中の一人、黒髪の少女…下原定子少尉が困惑しながら答える。そして、今度は彼女が扶桑語で問いかけた。

 

「あなたの所属と飛行目的を知らせてください」

「ああっ!?見て分からんのかぁ!こちらは大日本帝国海軍所属機、飛行目的は領空に侵入する敵機の迎撃っ!以上!!」

「ダイニッポンテイコク…?どこかしら?それに敵機って…」

 

 菅野が答えたものの、少女たちは困惑しているらしい。

 

「見りゃ分かんだろう!下の艦隊と同じ…って、なんだありゃ!?」

 

 業を煮やした菅野が叫ぼうとし、再び艦隊を見て言葉に詰まった。各艦のマストに翻る旗は見慣れた旭日の軍艦旗ではなく、見たこともない旗であったのだ。

 

「ここはどこだコノヤロウ!」

「どこって…オラーシャですが…」

「オラーシャってどこだ、そんな国ねーよ!」

「ええっ…」

 

 そんな問答が続く中、一人の少女が飛んできた。雁淵ひかりである。

 

「待ってください!どうして取り囲んで銃なんか向けてるんですか!」

「孝美、無事だったか…いや、誰だテメエ!」

 

 もう一人の黒髪の少女…管野直枝少尉が食って掛かる。

 

「…雁淵孝美の妹です」

「妹だと!?」

「二人ともそこまで。詳しくは基地で話を聞きます。そこの不明機、あなたも来なさい。その調子だと降りる所も無いのでしょう?」

 

 口論になりそうな二人を制し、サーシャは国籍不明機にブリタニア語で伝えた。

 

「分かった」

 

 ここが日本ではない摩訶不思議な世界であると確信した以上、彼に選択肢は無かった。英語で返し、しぶしぶ指示に従う。

 

 

それから数時間後、ペテルブルグ基地にて…

 

 

「雁淵ひかりの件、先生に任せた」

 

 この502統合戦闘航空団の指揮官であるグンドュラ・ラル少佐は銀髪の隊員…エディータ・ロスマン曹長に言った。

 

「はい」

「で、厄介な問題がもう一つ、か。下原、管野。例の機体はどうだった?」

「艦隊の整備員と共に機体について調べました。計器類は全て扶桑語です。ですが…大日本帝国海軍という聞いたことのない国の軍隊の名前が書いてありました」

「製造元は川西って書いてあったが、こっちも聞いたこともねえ会社だ。しかも、機体名は紫電…孝美のユニットと同じ名前だ」

「機関砲は20mmが4門、うち1門は破損していました。整備員の話だと、零戦の物よりも長銃身だと言っていました。それにフラップも妙だと。後、載せていたチャート(地図)は扶桑の九州地方の物でした」

「ふむ。かなりの重武装だな…性能の方は地上じゃ分からんな。飛ばせそうか?」

「無理だな。部品も整備道具も無いし、機体は損傷でガタガタ。飛ばそうとしてもすぐにドボンだ」

「やはりか。後はパイロットの聴取だが…他所でやっても意味不明でお手上げだそうだ。結局、回りまわってうちでやることになった。そこで管野、お前がやれ」

「はあっ!?」

「隊長、無茶です!」

 

 管野は驚き、サーシャが抗議の声を上げる。

 

「例のパイロットはある程度ならブリタニア語はできるようだが、完璧とは言い難い。扶桑語でやり取りさせた方が確実だろう。それに管野はあんなのでも士官だ」

「なら、下原さんが適任では…」

「無線のやり取りは聴いていたが、相手のあの調子では下原だと萎縮する可能性が大きい。ある程度、口論になっても管野なら適任だろう」

「喧嘩になりそうな予感が…」

 

 そんなサーシャの心配をよそに聴取は始まった。

 

「オレが聴取を担当することになった管野直枝少尉だ。早速始めるぞ。まず、名前は?」

「菅野直」

「ふざけてんのかテメエ!人の名前から一文字取っただけじゃねえか!」

「本名だ、文句あんのかチビ!それに俺は大尉だ、上官を敬えコノヤロウ!」

「「ああっ!!?」」

 

 いきなりの問題発生で同席していたサーシャは頭を抱えた。

 

 

 二人を落ち着かせて聴取を再開する。

 

「国籍は?」

「大日本帝国」

「だからそれはどこだ!」

 

 直枝は机に世界地図を叩きつける。

 

「ここだ!ちゃんと地図に載ってるじゃねえか、文句あんのかコノヤロウ!?」

 

 直は極東の島国に指をさした。

 

「そこは扶桑だ!」

 

 直枝は言い返す。

 

「そりゃ、戦艦の名前だ!」

「ああっ!?」

「やんのかチビ!!?」

「上等だ、表出ろ!!」

 

 二人同時に椅子から立ち上がる。

 

「やめなさい!二人とも正座!!!」

 

 こうして、二人は正座して聴取を続けることとなったのだ。

 

 聴取を続け、所持品を調べた結果。嘘は言っていないということは分かった。証言を個人の妄想だと考えると、謎の戦闘機や所持品の存在がそれを打ち消すのである。正直、扶桑で戦闘機を個人で作るのは不可能だ。彼の証言を認めざるを得ない。そんな中、足が痺れてきた直枝に一つの答えが浮かんだ…昔読んだ小説の中にあった「並行世界」という考えである。

 

「もしかして、並行世界ってやつかもしれない…」

「並行世界?」

 

 サーシャが聞き返す。

 

「この世界と似た世界がたくさんあるって考えだ。しかも、それぞれこの世界とは微妙に違うってやつ」

「ありうるな」

 

 直枝の説明に直もうなずいた。彼も小説で似たような話を読んだ記憶があったのだ。

 

「なるほど。並行世界だとしてそっちはどんな世界なんだ?」

 

 ラルは直に聞いた。サーシャや直枝も興味を抱く。

 

「世界中でドンパチさ」

 

 直はそう言うと、世界の主要国の説明と1930年代から今までの流れを説明した。

 

 日華事変、ドイツのポーランド侵攻、連合国と枢軸国の戦いの始まり、独ソ戦、日米開戦、日本の一時の快進撃、各地の激戦、米軍の反撃、続く負け戦、ドイツの滅亡…

 

「ひどいな。さながら世界大戦か」

「残酷ね…」

「扶桑…いや、日本はどうなってるんだ?まだ戦争中なんだろ?」

「連合艦隊は壊滅!アメリカのB-29に国中焼かれて何もかも灰燼!正直、もう長くは持たんだろう」

「ドイツも灰燼と化したのか?」

「詳しくは知らんが似たようなもんだろうな」

 

 直の説明に室内の反応は様々だ。無理もない。彼女たちは人間同士の争いなど無縁なのだから。

 

「さて、我々の世界の事情も説明しなければな」

 

 ラルが言う。そして、隊長自ら説明を始めたのであった。

 

 1930年代、欧州各地にネウロイと呼ばれる異形の集団が欧州各地に出現。人類は攻撃するも各地で敗北、欧州はネウロイに覆われた。それに対して人類は魔法力を使うことのできるウィッチと魔法力を高めることのできるストライカーユニットを使い反撃、世界各地で人類とネウロイの激戦が繰り広げられていた。

 

「魔法使えんのか!」

「ええ、こんな風に」

 

 サーシャは魔法力を高める。すると、耳と尻尾が生えた。

 

「おお、耳が生えた!触っていいか?」

「駄目です」

 

 即座に断られた。

 

「しかし、女子供が命を懸けて戦うなんてこっちも中々に残酷だな」

「人同士でやりあうよりはましだ。相手はバケモノだからな!」

 

 直の言葉に直枝が返す。

 

「聴取は以上にしよう。菅野大尉、あなたの処遇は追って伝える」

 

 

 そして、その後ラルとサーシャが話し合っていた。

 

「で、彼をどうするおつもりで?」

「うちで引き取る」

「本気ですか?」

「どっかの研究所送りになって人体標本にでもなったら後味が悪いからな」

「それに…」

「それに?」

「彼に関する書類作成は面倒だが、それ以上に面白そうじゃないか。異世界人なんて」

 

 ラルは言った。

 

 

食堂

 

 

「さーて、飯だ、飯。慣れないことやると疲れるなあ」

 

 直枝が食堂の扉を開ける。

 

「どわっははは、この飯うめえぞ!下原ちゃん、おかわりはあるか?」

「はい!たくさんありますからどんどん食べてください」

「私も負けませんよ!」

「お兄さん面白いねえ。今度飲もう!」

 

 さっき見た顔が飯を豪快に食し、502の隊員たちと打ち解けていたのだ。

 

「なんでテメエがいるんだ!?」

「私が許可した。彼を502で預かることになってな」

 

 直枝の疑問にラルが答える。

 

「おー、チビ。来たかー」

「一発殴りてえ…」

 

 すると、白髪の少女が食堂に入ってきた。ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン「ニパ」曹長である。

 

「おーい、カンノー!」

「「ああっ!!?」」

「ひぃ!?」

 

おわり

 




ED曲はダブル菅野!!

なんかすごい事になってる…続くかもしれない


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聖なる夜に

(続きが)できちゃった…

なお、菅野の出番は少ない


南洋島

 

 海水を蹴って扶桑海軍の九七式飛行艇が飛び上がる。任務はいつもと同じ哨戒だ。飛び慣れた南洋を今日も行く。

 

「今日は天気がいいな」

 

 機長が言う。

 

「絶好の海水浴日和でありますな」

「うん、本土からの観光客は大喜びだろうな」

 

 暇つぶしの雑談で盛り上がる中、電探員が言った。

 

「機長、電探に感、3時方向」

「何?妙だな、航路からだいぶ外れているが…」

「漁船でしょうか?」

「ちょっと確認しに行くぞ」

「了解」

 

 九七式飛行艇がいつものコースから外れ、未知の艦影を求めて飛行する。それが漁船や客船ならいいが、違法な密漁船や非合法な行為を行う船である可能性もあるのだ。確認する必要がある。しばらく飛ぶと、搭乗員の目が異様な艦影を捉えた。

 

「前方に艦影!あれは・・・!?」

 

 明らかに民間の船ではない。軍艦の中でも特異な艦影を持つそれは…

 

「空母!?なんでこんな所に…?」

「こいつは…!?なんだ、このひどい損傷は…」

「中型空母と思われますが、所属は不明!」

「司令部に至急電だ!急げ!!」

 

 

ペテルブルグ基地

 

 ひかりが風邪で倒れた。ウィッチはケガや病気になりにくい。だが、ひかりの場合は魔法力が低いことと度重なる実戦による疲労が重なり倒れてしまったのだ。

 問題はそれだけではなく、基地の状況は苦しいものとなっていた。ネウロイの攻撃によって複数の貯蔵庫が破壊され、物資、食料が大きく不足していたのである。

 

「…よって、明日のサトゥルヌス祭は中止にする」

「ええー!!」

 

 ラルの通達にニパは大きな声を上げた。

 

「何が『ええー!!』だ。どうせ、祭でひかりを喜ばせようとしたんだろう」

「分かってるなら賛成してよ」

「物資も食料も不足してるんだ、無理だって」

 

 二人は廊下で歩きながら話す。そして、見舞いのためにひかりの部屋へと向かった。

 

ひかりの部屋

 

 ひかりが目を覚ました。

 

「あ、起きた」

「二人ともどうしたんですか…?」

 

 事情が分かっていないひかりに二人が説明した。

 

「えっ!私、風邪で倒れたんですか!?」

「ごめん、私がソリになんて付き合わせたから…」

「いえ、私の気が緩んでたせいです」

「ひかりのせいじゃないって!」

「私、ただでさえ役立たずなのに、風邪で倒れちゃうなんて…」

「早く元気になって、また一緒に飛ぼう!」

 

 直枝がさらに何か言おうとするニパを制し、ひかりを寝かす。

 

「燃料不足で基地内の暖房が止まってるんだ。温かくしてさっさと寝ろ」

「直枝さん…」

 

 見舞いの帰り道、ニパは直枝に言った。

 

「やっぱり、サトゥルヌス祭をやろう」

「言うと思ったぜ」

「私、少しでもひかりを元気づけたい!この基地に来て良かったって、そう思ってほしいんだ!」

「ったく…でも、隊長が中止しちまったしなあ。そもそも基地にはすいとんぐらいしかないぞ」

「それでも、出来るだけのことはやっておきたいんだ」

「そんなこと言ってもなあ…」

「そうだ!他のみんなにも相談してみよう!」

 

 そして、二人は格納庫や厨房で他の隊員たちにアイディアを募った。その結果、プレゼントはサーシャから、料理は下原とジョゼの二人から提案を受けることができたのだ。

 

「食事とプレゼントの当てはついたね」

「ああ。もっと、なんとかならねえかなあ」

「直さんに相談してみる?」

「アイツに一言でも言ってみろ。あっという間に基地中に話が広まって、終いには隊長にまで知られるぞ」

「うーん…じゃあ、クルピンスキーさんに相談してみようか」

「アイツかあ…」

 

クルピンスキーの部屋

 

 二人はクルピンスキーにこれまでの経緯を話し、相談してみた。

 

「え?祭でひかりちゃんのハートをゲットしたい?」

「そんなこと言ってねえよ」

「冗談だよ、冗談。じゃあ、お詫びにいいこと教えてあげる。実はこの基地にはサトゥルヌス祭の夜に、銀髪の狐女が現れるんだ」

「「狐女?」」

「身長151cm、年は19歳って本人は言ってるけど、ほんとはサバを読んでる婆さん狐で、夜な夜な若いウィッチの生き血を啜って回るんだ」

「生き血を…」

「へっ…そんなヤツ居るわけが…」

 

 その話に怯える二人。その時、クルピンスキーは深刻そうな表情をして指をさした。

 

「後ろに…!!!」

「「うわあああー!」」

 

 二人は叫びながら部屋を飛び出した。それを見て爆笑するクルピンスキー。すると、部屋に誰か入ってきた。狐が使い魔で銀髪の女性…エディータ・ロスマンである、明らかに怒っている様子である。

 

「初耳だわ、そんな言伝え…」

「き、狐女…いや、これはその…ぎゃあー!!!」

 

サトゥルヌス祭当日 司令官室

 

 ロスマンとラルが話し合っていた。それを紅茶を飲みながら暇そうに眺める直。

 

「ニパさんと直枝さんが祭をやるようです」

「そうか。なら、今日は二人とも非番でいい」

「寛大なんですね」

「そうじゃない、今は哨戒任務すら減らして、次の作戦に備えたい状況だ」

「あら、てっきり隊長も祭に興味があるのかと…それと、クルピンスキー中尉の風説の流布に対する懲罰の件ですが」

「モミの木…」

「は?」

「サトゥルヌスにはツリーが必要だ」

「なるほど、モミの木の入手に行かせるんですね」

「そうだ」

 

 話を聞き部屋を出ようとする直。そこにラルが問いかけた。

 

「ん?どうしたアドバイザー?」

「ちょっと野暮用が」

「そうか、厄介事だけは作るなよ」

「分かってるって」

 

 基地の外の森ではクルピンスキーが斧を振るい、盛大にため息を出しながらモミの木を切り倒そうと奮闘していた。彼女の首には「私は虚偽の情報を流布しました」という看板がぶら下げられていた。

 一方、格納庫では直枝、ニパ、サーシャの三人が作業をしていた。ひかりへのプレゼント作りである。作っているのは木彫りの人形だ。三人ともナイフで木材を削る。

 

「サトゥルヌス祭のこと、ひかりさんには言ってないの?」

「うん、ひかりをびっくりさせたいんだ」

「分かったわ。あら、直枝さんできた?」

「できた!我ながらいい出来だぜ」

 

 そういう直枝に対して、サーシャが感想を言った。

 

「かわいい猫ね」

「犬だ…」

 

 その時、格納庫に誰か入ってきた。ひかりである。

 

「おはようございます!」

「うわ、ひかりだ!」

「隠せ隠せ!」

 

 慌てて人形と木材を片付ける三人。そして誤魔化すためにサーシャが直枝を正座させ、ニパが慌ててひかりに駆け寄り言った。

 

「駄目だよ、まだ寝てないと」

「でも、私、昨日一日寝てたからトレーニングをしないと…熱も下がったし…」

「いや、まだ少し熱があるみたいだから寝てないと…」

 

 その時、格納庫にモミの木が投げ込まれた。それに仰天する面々。そして、クルピンスキーが格納庫に入ってくる。

 

「いやー、やっと運んでこれた。一番でっかいヤツ採ってきたからねー。あ、ひかりちゃん見て見て!」

「あっ、中尉、ダメー!」

「ひかりちゃんのためのツリーだよ」

 

 それを見て盛大に頭を抱える直枝とニパ。すべてが台無しになった瞬間である。

 

「私のためのツリー…?」

 

 そう言ってふらふらと倒れそうになるひかりを支えるニパ。

 

「やっぱり、まだ寝てないと駄目だよ」

 

 ニパはひかりを部屋へと運んだ。そして、ひかりをベッドに寝かせるとこれまでの経緯を全て説明した。

 

「私のためにお祭りですか?」

「うん。今、中尉とロスマンさんが美味しいキノコを採りに行ってるよ」

「ニパさんって優しいですね…あっ、私、サトゥルヌス祭ってよく知らないんですが…」

「欧州各地の冬至の伝承が集まって祭りになったんだ」

「へえ…直さんのためにはやらなくていいんですか?」

「あはは、あの人は毎日お祭り騒ぎで楽しそうだから」

「ふふ、そうですね」

「あ、そろそろキノコ届いたかな?ちょっと見てくるね」

 

 そう言ってニパは部屋を出て厨房へと向かった。

 

 厨房に近づく、すると美味しそうな香りが漂ってきた。どうやら、採ってきたキノコで早速料理を作っているらしい。だが、どこか様子がおかしい、やけに静かなのだ。変だな、と思いつつも厨房に入る。すると…

 

「どうしたの、みんな!?」

 

 厨房には下原、ジョゼ、ロスマンの三人がいた。だが、皆机に倒れこんでいた。ニパは仰天して問いただす。

 

「こ、このキノコを食べたら…」

 

 そう言ってロスマンが震える手で器を指さした。ニパが中身を慌てて確認する。すると、今までに見たこともないようなキノコが入っていた。

 

「何、このキノコ…見たことないよ…」

「クルピンスキーさんが、絶対美味しいって…」

 

 下原が弱々しく返事を返す。三人とも息が荒く、顔が真っ赤だ。その時、背後からクルピンスキーに話しかけられた。

 

「ニパ君ごめん、せっかくの祭を台無しにして…」

 

 そう言って、クルピンスキーは崩れ落ちた。彼女も例のキノコを食べたらしく、他の三人と同じような状態だった。ニパの顔が青くなる。最早、祭りどころの状況ではない。早く皆を医務室に運ばなければ…そう思った矢先である。

 

 空襲警報が鳴り響いた。

 

「中型ネウロイ一機、当基地に向けて接近中!」

 

「なんでこんな時に!」

 

 ニパは格納庫に駆け込んだ。すると…

 

「サーシャ!おい、しっかりしろ、サーシャ!」

「くそ、こっちもか…」

 

 サーシャが机に倒れこんでおり、それを直枝が必死に介抱しようとしていた。どうやら、目の前でサーシャが倒れたことでパニックに陥っているらしい。

 

「カンノ!出撃しないと!!」

「でも、サーシャが!」

「医務室に運んでも基地ごとやられたら意味ないよ!行こう!!」

 

 その時、無線が鳴った。隊長からだ。

 

「ニパ、直枝、聞こえるか?今飛べるのはお前たちしかいない。頼んだぞ」

「了解!」

 

 その時、ひかりが格納庫に飛び込んできた。

 

「ニパさん!直枝さん!」

「ひかりは来ちゃ駄目だよ!上官命令だからね!みんなのこと任せたよ!」

「…了解」

 

 ひかりにそう伝えて、二人はストライカーユニットに飛び乗った。その時、ネウロイからの攻撃が基地に着弾した。格納庫前に立てておいたモミの木に直撃、炎上しながら倒れた。

 

「ツリーが!」

「くそ、よくも!」

 

 二人は炎をかいくぐり飛び上がった。すると、格納庫に直が駆け込んできた。

 

「敵か!?」

「あっ、直さん!みんなをお願いします!私、ニパさんたちを手伝ってくるんで!」

「お、おう…?」

 

 そう言うと、外へ勢いよく駆け出すひかり。一方、直はみんなを頼むと言われたが、状況がさっぱり読めない。何が起きているんだ、そう思いながら辺りを見回すと、机に倒れこんでいるサーシャを見つけた。急いで駆け寄り様子を見る。息が荒い、顔も真っ赤だ。

 

「こりゃあ、ただ事じゃねえな」

 

 一方、上空に上がった二人はネウロイを探していた。続けて隊長から無線が飛んでくる。

 

「発見が遅れたのは何らかの能力によるものと思われる。十分に警戒しろ」

「了解!隊長は大丈夫そうでよかった…」

「そうだな、他の連中のことも何とかしてくれるだろう」

 

 ラルは受話器を置き、そのまま机に倒れこんだ。机の上には空の器。ラルも例のキノコを食べていたのだ。そんな事を知らない二人はネウロイを探す。

 

「いた!あそこだ」

「よし、ニパ!行くぞ!」

 

 二人は上昇、ネウロイの上方から攻撃を仕掛けるつもりだ。射程に入った、機関銃を撃つ。すると、ネウロイが姿を消した。

 

「消えた!」

「カモフラージュ!?」

「くそ、どこだ?」

 

 その頃、地上では…司令官室の扉が勢いよく開き、直が駆け込んできた。

 

「おい!隊長大変だ!」

 

 だが、ラルも机に倒れこんでいた。

 

「くそ、こっちも駄目か…」

 

 その時、ラルがフラリと立ち上がった。そして、直へとふらふらと歩いてくる。そして、直に倒れこんできた。慌ててラルを支える直。すると、ラルが何かを呟いた。

 

「神様…」

「は…?」

 

 一方、上空では二人がネウロイを探し回っていた。その時、無線が鳴った。ひかりからだ。

 

「11時の方向にいます!」

 

 その方向へ向けて飛ぶ。だが、見当たらない。

 

「いないよ?」

「え?私からは見えてますけど」

「まさか!?」

 

 ニパは何かに気付いたのか、急降下し高度を下げる。そして、体を反転させ上を見上げる。すると…

 

「いた!やっぱり上だけカモフラージュしてたんだ!」

「姿が見えりゃこっちのもんだ!」

 

 二人はネウロイに機関銃を撃ちまくる。だが、弾が突然出なくなった。

 

「うわ!?弾が詰まった!?」

「嘘だろ!?こっちもだ!」

 

 すると、ネウロイがここぞとばかりに猛反撃してきた。翻弄される二人、必死で攻撃を避ける。

 

「くそ、なんとか近づければ…!」

「なんでこんなにツイてないんだ!」

 

 万事休す、二人がそう考えたその時である。どこからかロケット弾が飛んできてネウロイに命中、コアが露出した。

 

「コア確認」

 

 機銃弾が的確にコアへと撃ち込まれ、ネウロイは四散した。

 

「誰が撃ったんだ…?」

 

 直枝がそう呟くと背後から声が聞こえた。

 

「よう、ニパ!」

「イッル!」

「ネウロイ撃破確認、オールグリーン」

「サーニャさん!」

 

 ネウロイを撃ったのは元501統合戦闘航空団に所属していたエースの2人、エイラ・イルマタル・ユーティライネン「イッル」少尉とサーニャ・V・リトヴャク中尉であった。そして、二人の飛んできた方向を見ると輸送ソリが走ってくるのが見えた。

 

「サトゥルヌスのプレゼントです」

「いい子にしてたかー、ニパ?」

 

 そして、4人は輸送ソリを護衛しながら基地に着陸した。基地の廊下を歩いているとエイラが疑問を口にする。

 

「それにしても、なんで2人だけで戦ってたんだ?」

「それがね、みんな毒キノコ食べちゃったみたいで、倒れちゃって…」

「えっ!?大丈夫なのか?」

「うん。多分、今頃みんな医務室に運ばれてると思うから」

 

 ニパが苦笑いしながら答えていると、ひかりが走ってきた。

 

「大変です!みんなが…、みんなが…!」

 

 顔を青くしたニパと直枝が駆け出した。ひかりの様子から最悪の想像が頭をよぎったのだ。

 

「ここです!」

「おう!」

 

 直枝が勢いよく扉を開ける。すると…

 

 すごく高そうな椅子にふんぞり返りながら座ってサーシャの頭を撫でる直と、それに祈りらしきものを捧げる502の隊員たちという、摩訶不思議な光景が広がっていた。

 それを見て動揺し「どうしましょう」と言うひかり、唖然とするニパ、興味津々といった様子で見つめる客人二人、そして直枝が直に叱りつける。

 

「何やってんだテメエ!!」

「いやー、気持ちえがったー」

「さっさと医務室に運べー!!」

 

 医務室に皆を運び、軍医が適切な処置を施した結果、夕方にはすっかり回復した。なお、キノコを食べた者が口々に「ジャングルで犬人間みたいなのに神様のご機嫌をとるように言われた」と証言したが、キノコによる幻覚症状だろうということで片づけられた。

 

 スオムスからの救援物資を受け取り、格納庫に灯りがともされた。祭の始まりである。

 

「皆さん、料理が出来ましたよ」

 

 幻想的な光景が広がる中、下原とジョゼが料理を運んできた。一方…

 

「先生もキノコ採ったのに、なんでボクだけ…」

 

 クルピンスキーが格納庫でぐるぐる巻きにされて吊るされていた。ついでに首から「私は破壊活動をしました バーカ!バーカ!」と書かれた看板がぶら下げられていた。ちなみに、看板に「バーカ!バーカ!」と書き足し、格納庫に吊るしたのは直である。

 

「あれ?こんなに食材もってきたっけ?」

「さあ?」

 

 エイラとサーニャが首を傾げる。すると、下原がその疑問に答えた。

 

「それは直さんが持ってきてくれたんですよ」

「大尉にもなってギンバイするとは思わんかったわ!」

「ギンバイ?」

 

 ヌハハと笑う直の発言に皆が首を傾げる。

※ギンバイ…海軍用語で不正に食料を入手すること。銀蠅とも言う

 

「おっ!酒があるじゃねえか!!飲むぞ!飲むぞ!」

「たまには付き合おう」

「そうですね」

 

 直がシャンパンの瓶を発見し、ラルとロスマンがグラスを出す。そして、皆に注いで回る。酒が飲めない者にはジュースを注いだ。

 

「では…乾杯!」

「乾杯!」

 

 一方…

 

「ボクもシャンパン飲みたいし、料理も食べたいよ…おーい、誰かー…」

 

 吊るされたクルピンスキーの嘆きは誰にも届かなかった。

 

おわり

 




空神様降臨!

閲覧数に驚く→続きを構想する→ネタに困る→ドリフターズ全巻読み返す→ネタに困る→「最後の撃墜王」を読み返す→史実の菅野のイメージが混じって菅野のイメージがカオスになる→菅野には幸せになってもらいたい→ヒロインが決まる→でも、ヒロインとかいてもいいの?→大 迷 走


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短編:夢の中

 これは夢だろうか?管野直枝はそう考えた。

 視界は真っ白。妙な浮遊感のみ感じる。突如、視界が広がった。青い海、両岸には山々と街並みが広がる。どうやら雲を抜けたらしい。そして、どこかで見たことのある風景…、瀬戸内海だ。

 

「まったく、内地の夢か?」

 

 激戦と変人のせいで疲れて古郷が恋しくなったかな、そう思いつつ辺りを見回す。柱島の辺りだろうか。しかし、何かがおかしい。記憶にある風景と一致しないのだ。それに艦艇や船舶の姿も少ない。

 

「妙だな、こんなに船が少ないなんて」

 

 そう思って柱島泊地の方へ目を凝らしてよく見てみると、確かに艦はいる。だが、見覚えのない艦が多い。戦艦は榛名だろうか、日向らしき艦も見える。空母は見知った鳳翔が見えた程度で他は知らない艦だらけだ。どれも小型から中型といった具合である。

 更に見渡すと大きな艦影が一つ。まるで島みたいにでかい。あれは大和?そう思った時、地上のあちこちからサイレンが鳴り響くのが聞こえた。小型艦が慌てて動き出す。はて、何事か?もしやネウロイ?そう考えていると、体が徐々に四国側へと流されていく。

 

 たちまち、松山基地上空まで流された。嫌にリアルな夢だ。まるでストライカーユニットで空を飛んでいるような気分である。爆音が聞こえて下を見る。1000メートル程下方に何かが見えた。

 

「戦闘機…どこの機体だ?」

 

 濃い青の塗装が施された見たことの無い機影の編隊が呉を目指し飛んでいるのが見える。数は30機程だろうか。いや、後ろにまだいる。同じ数の編隊が何十と続いているのが見える、尋常な数ではない。戦闘機だけではない、攻撃機や爆撃機と思しき機体も多く飛んでいる。向かう方角は北、呉のある方向だ。つまり…

 

「あいつら、まさか呉を!?」

 

 そう思った矢先、目の前を戦闘機の群れがダイブして突っ込んでいく。濃い緑の塗装、胴体に赤い丸を付け、低翼でずっしりした機体…見覚えがある。異世界からやって来た菅野の乗っていた機体…紫電改だ。それが複数機、攻撃隊と思われる編隊に攻撃を仕掛けた。優位な位置からの奇襲である。たちまち何機かの航空機が火に包まれ地上へと落ちていく。それを皮切りに激しい巴戦が始まった。

 

 こうして、やっと状況を把握した。これは菅野の言っていた向こうの世界大戦の夢だ。ここは扶桑…いや、日本上空という事だろう。そして、相手は話に出ていた大国アメリカだろう。ネウロイ相手の戦いとは違う。人と人が命を懸けて戦う正真正銘の戦争の光景が目の前に広がっていた。呆然と見ているしかない。多くの航空機が煙や炎を吐き出しながら飛び交い散っていき、ふわりふわりと落下傘が落ちていく…これは本当に夢だろうか?呆然と眺めていると、無線が聞こえた。

 

「鴛淵一番、鴛淵一番、飛行場上空で交戦中!」

「菅野一番、菅野一番、敵編隊捕捉!」

 

 どこかで聞いた声が聞こえてきた。

 

「アイツは相変わらずなんだな…」

 

 そして、そのアイツはどこにいるのだろうと探していると、腹に響く炸裂音が聞こえてきた。

 呉周辺の高射砲が盛んに撃ち出され、上空は炸裂した砲弾の煙で覆われる。その中を多数の航空機が勇猛果敢に潜り抜け、急降下していく。海面に巨大な水柱が次々と立ち上る。瀬戸内海の中を駆逐艦が全速で走り回り対空砲を撃ち上げる。巡洋艦から爆炎が立ち上るのが見えた。恐ろしい、悪夢としか言いようのない光景が目の前に広がっているのである。早く朝になって誰か起こしてくれ、そう願っているとまたも無線が聞こえた。

 

「菅野一番、菅野一番、機体が火を噴いた!脱出する!」

 

「えっ…?」

 

 その瞬間、飛び起きた。体は汗を拭きだしている。見慣れた自分の部屋だ。やはり夢だったのだ。

 

「ひでえ夢だ、あんなの御免だな…」

 

 

 

 野山を戦国武者たちが駆け回る。とんでもない人数だ。

戦国時代の夢かな、と雁淵ひかりは考えた。弓矢に鉄砲が飛び交い、槍を持った足軽たちが激突する。だが、戦いは終盤なのか一方的な感じに見える。

 そんな中、戦場のど真ん中で動きが見えた、武者の一団が突撃を始めたのだ。丸に十字の家紋、その一団が戦場のど真ん中から優勢な側の本陣へ突き進み始めた。本陣は慌てふためき、馬上の総大将が刀を抜いた。

 

「首置いてけ!!」

 

 独特な訛りのある叫び声が戦場に響いた。

 

「なんで戦国時代の夢なんだろ?」

 

 ひかりはそこで目を覚ましたのであった。




あの人が夢の中にちょっと出てきたようです

お待たせしました。ということで短編です。
最近色々起こったりしてなんとか時間が作れればなあ、と考えてたらずるずると…


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衝撃の手紙

 鬱蒼とした森林地帯の上空をウィッチ二人が飛び回る。地上に目標を発見、そのまま機銃弾を叩き込む。

 

「目標撃破!」

「まだあそこに!」

 

 線路沿いを駆け回り、森林に身を隠そうとする小型ネウロイの一団。しかし、そこに容赦なく数発の爆弾が突き刺さる。瞬く間に爆炎と破片の暴風を浴びたネウロイは纏めて消し飛んだ。

 

「よっしゃ!ザマアミロ、バカヤロウコノヤロウ!!」

 

 無線に叫び声が響く。そして、爆撃を終えた一機のIl-2が上昇。叫んだ主は菅野直、異世界に流れ着き、第502統合戦闘航空団に拾われた日本海軍のパイロットである。なお、現在乗っている機体は基地の近所に放棄されていた初期型のIl-2を拾ってきて修復した機体であった。

 

「直さん、流石!」

「周辺に敵影無し、これで終わりね」

 

 共に飛ぶ二人のウィッチ、下原定子とジョーゼット・ルマールが菅野の戦果を確認。そして、基地へこの地点の制圧を報告した。

 

 ここはペテルブルグより北、ラドガ湖を超えたペトロザヴォーツク周辺の森林地帯。ここを攻撃する理由はバレンツ海方面とペテルブルグの鉄道による補給路を確保する為である。よって、各地でネウロイを掃討すべく陸空で戦闘が繰り広げられた。そして、遂にバレンツ海方面への補給路を奪還する事に成功したのだ。

 

 

 

 そして、基地へ帰還した後の事である。下原とジョゼの二人に管野直枝が声をかけた。

 

「おう、二人とも今日は大活躍だって?最近ずっと調子いいな」

「ええ、あのアドバイスしてくれる人のおかげで」

「ん…?誰だ?」

 

 直枝は首を傾げる。そういう人物は身に覚えがない。

 

「え?夢に出てくるあのローマ人みたいな人」

「えーと、確かス…ス…ああ、スキピオさん」

「そうそう、凄く助かるよねー」

「お…おう…そうなのか…」

 

 その会話を聞いた直枝は近くにいたニパとひかりに小声で話しかけた。

 

「おい…サトゥルヌス祭の時の怪しいキノコ食ってからみんなやっぱり変だ…」

「他の人も似たような話してたよ…食べた人全員の夢の中に必ずローマ人が現れるなんて…やっぱり何か後遺症が残ったんじゃ…」

「私、いいお医者さん探してみます!」

 

 そんなことがありつつも昼食時、部隊の皆が集まり食事を始める。本日のメニューはトナカイ肉のシチュー、基地の食料事情はスオムスからの救援物資で幾分か回復していた。更に今後は新たな補給路から物資が運ばれる為、今までの物資不足から解消される見通しだ。そういった事情から部隊内の緊張感はある程度、解消されてきた。

 

「うめえなあ、いくらでも腹に入りそうだ。下原ちゃん、おかわり!」

「定ちゃん、私ももう一杯…」

「はいはい、たくさんあるからもっと食べていいよ」

 

 皆が食事をしていると、クルピンスキーが食堂に入ってきた。すぐに席に座り食べ始めた。

 

「お、今日は豪勢だねえ。しかし、これには『ぶどうジュース』が欲しくなるなあ」

「ぼやかさずに素直に『葡萄酒』と言えばいいだろう」

「ハハハ…いやー、飲めない子もいるから、ね?」

 

 クルピンスキーの一言に直のツッコミが飛んだ。しかし、無いものは無いのである。欲しがろうとも出ては来ない。ただし、何故か直の部屋にはいつも酒が転がっている。何故あるのか、それはこの基地の謎の一つである。

 そんな最中、部隊長であるラルとロスマンが資料を持って食堂に入ってきた。

 

「そのままでいい。新しい任務だ」

「ブリタニアからの輸送船団がバレンツ海のムルマンに入港します。そこで、その船団を護衛してほしいという要請がありました」

「ネウロイの出ない安全地帯だが、断れん。派遣人数は5人、菅野大尉とクルピンスキーに行ってほしい。他に連れて行く三人は二人で自由に決めていい」

「えー…面倒だなあ。他の人でよくない?」

 

 クルピンスキーは露骨に嫌そうな顔をする。そこでロスマンが写真を取り出す。

 

「万が一の為、船団にはこのウィッチが護衛として配属されています」

「むむっ、美人…行きます、行かせていただきます」

 

 写真を見て即座に任務に志願。要するに写真のウィッチ目当てである。それを見てロスマンは頭を抱えていた。

 

「また、現地で新型ストライカーユニットを受領して戦力増強を行います」

「新型!?行く、行かせてくれ!」

「よし、一人決まり。後は、ニパ君とひかりちゃんにしよう。これでいい?大尉殿」

「餅は餅屋だ。専門家に任せる」

「じゃあ、決まりで」

 

 人員が決まったところにラルが一言付け加えた。

 

「ああ、今回は物資輸送も兼ねる。だから輸送機でムルマンまで行ってもらう」

「輸送機?それはまた珍しい」

「単純な理由だ。そもそも大尉が飛べんし、ストライカーだけだとまともに荷物が運べん」

「ああ、なるほど」

「出発は明朝。準備をしておけ」

 

 そして、翌朝。基地から少し離れた仮設滑走路に作戦参加者である直、機材破壊の常習犯3人組(直枝、ニパ、クルピンスキー)とひかりが集まる。滑走路の側では輸送任務に参加するC-47がエンジンの暖機運転を行っていた。その間に貨物としてストライカーユニットと装備が積み込まれていく。

 

「ほう、ダグラス輸送機か」

「そっちではそう呼ぶのか」

「ああ、メーカーの名前でな。DC-3をみんなそう呼んでた」

「なんか似たような名前の会社があったな…というか、そっちにもDC-3あるのか」

「やれやれ、今日はのんびり座っていられるなあ」

「みんなも一緒なら今日こそは故障や事故には合わないで済むね!」

「おい、ニパを今すぐ基地に戻せ。オレは落ちたくない」

「えー…なんか扱いひどくない?」

 

 雑談しながら出発時間を待っていると、下原が基地からやって来た。

 

「お、下原ちゃん。どうした?」

「直さん、これどうぞ。お弁当です、こっちのポットにはスープが入ってます。途中、皆さんで召し上がってください」

「おお!朝早くにすまんな。お前らー!喜べ、差し入れだー!」

 

 弁当という旅のお供を手に入れた作戦参加者の士気は上がる。そして意気揚々とC-47のタラップを駆け上がっていく。両翼のエンジンが唸りを上げて機体が滑走路へ移動する。外では下原と整備員達が手を振って送り出す。それを見たひかりとニパが窓から手を振り返す。エンジンの回転がさらに上がる、機体がぐんぐん加速してそのままゆっくりと朝の空へと浮き上がる。そして、一行を乗せた機は北へと針路を向けた。

 

 ペテルブルグからムルマンまでは約1000km。航路はネウロイの行動範囲から外れているものの、万一を考えて内陸を飛ぶ。4、5時間のフライトである。機内には座席が並べられている。ただ、旅客機と違う点は座席が胴体の左右両端に配置され、互いに向かい合う形となっている点である。片側に直、直枝、クルピンスキー。反対側にニパとひかりが座る。機体の後方にはストライカーユニットと武器が置かれていた。帰りには持ち帰る物資もあるから空きスペースは無くなるだろう。飛行は今の所順調。輸送機とはいえ、原型は大ベストセラーの旅客機とだけあり、戦闘機やストライカーユニットよりもはるかに快適である。ひかりは物珍しそうに機内をあちこち見て回る、コクピットへ見物に行って興味津々の様子である。ニパは座席ですやすやと寝ていた。

 

 そして、向かい側の座席では…

 

「そういえば、ちゃんと聞いたことが無かったけど、大尉殿は今までどんな所で飛んできたんだい?」

 

 クルピンスキーが直に聞いた。

 

「オレか?だいたい太平洋の南の島だ。その後はずっと内地」

「いいなあ、この北国より快適そう」

「バカ言え、ただの地獄だ」

「海に落ちても寒くないし」

「サメに喰われる」

「それは嫌だな」

 

 直枝も話に加わった。

 

「なあ、敵機を撃墜した事ってあるのか?」

「そりゃあるさ」

「撃墜されたことは?」

「ある、機体が火達磨になった。なんとか脱出はできたが」

「そうか…」

 

 直枝は数日前の不思議な夢を思い出す。直の話を聞いてそれがただの夢では無いという妙な確証を覚えたのだった。

 

「それより、チビ。今度本貸せ」

「あ?絶対貸さねえ」

「ケチ」

「うるせえ、自腹で買え!」

 

 元文学青年と文学少女の大喧嘩が始まりかけたものの、機はそのまま順調に飛んだ。そして、昼頃に輸送機は目的地の滑走路に降り立つ。貨物扉からストライカーユニットが降ろされる。この基地で直枝とクルピンスキーは新型機を受領する事となっている。しかし、この後の船団護衛任務に参加する事になっている為、すぐに慣熟飛行をしなければならない。新しいユニットでいきなり実戦を飛ぶわけにはいかない。不慣れな状態だと事故のリスクが跳ね上がるのである。整備によるユニットの点検が終わるまで、一行は受け取る物資の確認へ向かった。

 

「こりゃ凄い」

「基地の品薄っぷりが嘘のようだぜ」

「これでもまだ一部みたいだよ」

 

 基地の敷地はどこも物資が山積みとなっていた。担当者に案内されて倉庫に入る。受領する物資は、ラルとロスマン向けの新しいユニットと他のユニットの整備部品、補充用の武器弾薬、食料と日用品に医薬品…輸送機に積み込む物資は急を要する一部だけであり、他の物資は陸路である鉄道を使って運ぶ。特に急を要するのは新ユニットと整備部品である。それらを確認し終えた所でクルピンスキーが趣向品の入った木箱を開ける。そして、中身を取り出してニヤリと微笑んだ。そこに整備からユニットの点検と整備が完了したという報告が飛んできた。一行はユニットのある格納庫へ向かう。

 

「おお、新型だ。紫電二一型…オレの紫電改だ!」

「こっちはボクのBf109Kだね」

 

 ニパに整備員が報告を入れた。持ってきたユニットを一緒に点検してもらっていたのだ。

 

「えっ!?ユニットが壊れてて飛べない!!?しかも重整備送りじゃないと直せないの!?」

「じゃあ、明日の作戦はどうするんです?」

「ニパ君、これ使いなよ。ボクは念のために持ってきたユニットがあるし」

「え、いいの?」

「ボクは使い慣れたユニットの方がいいからね」

 

 そして、直枝とニパの二人が新ユニットで空を飛ぶ。

 

「二人とも、慣らしなんで無茶しないでほしいとの事です」

「分かってらぁ!管野一番、出るぞ!」

「カタヤイネン行きます!」

 

 2人のウィッチが飛び上がる。一気に加速してフワリと飛び上がった。そのまま上昇、動作を確かめる為に少しづつ旋回や上昇降下を行っていく。

 

「今までと大違い、加速力も切り返しの速さも段違いだ」

「カンノー、こっちのK型もすっごい速いよ!」

「くっそー。雁淵のやつ、こんないいもん乗ってやがったのか」

 

 下から直とひかりの二人が、上空の直枝とニパの曲芸紛いで飛ぶ姿を見ていた。

 

「おーおー、新しいの貰ったからってずいぶんと舞い上がってらぁ」

「二人ともどうですかー?」

「へっへー、もうお前らにでかい顔はさせねえぞ」

「うるせえバカヤロウコノヤロウ、調子に乗んな!」

「ああっ!?やるかテメエ?」

「上等だ、後で海にぶん投げてやらあ!」

「ああ、こっちこそ全力で殴ってやらあ!」

「ま…まあまあ、落ち着いて」

 

 そんな中、クルピンスキーはさっき木箱から取り出した瓶の栓を開けていた。

 

「うーん、たまらないねえ。ああ、うまいっ!」

 

 それにひかりが尋ねる。

 

「何飲んでるんです?」

「これは美味しいぶどうジュースだよ」

「えー、ジュースなら私も飲みたいです」

「駄目だよひかりちゃん、これは大人のぶどうジュースだから…おお!あそこに陸戦ウィッチのかわい子ちゃんが!」

「ああ、どう見てもワインだな」

「えー、お酒かー」

 

 そして、そのまま飛行を終えた二人が降りて来て解散となった。ウィッチ一行はサウナに入った後、そのまま宿舎で就寝していた。直は外を歩いていた。飛行場に駐機していた機体を見ていたのだ。

 

「あ、大尉殿」

 

 クルピンスキーが手を振りながら呼び掛けてきた。明らかに酔っている。

 

「一人でずいぶん楽しんでるな」

「まあまあ、大尉殿。お酒なら各国のやつがより取り見取りだよ」

「おっ、こっちにもくれ」

 

 二人で基地の片隅で飲みだした。空き瓶の数が増えていく。

 

「クルピンスキー、今回あの三人を何故選んだんだ?」

「ああ…それはね、経験を積ませたかったから。ウィッチは20歳頃から魔力が低下して戦えなくなる。うちの基地のベテラン…具体的には隊長やロスマン先生だね。あの二人もあと数年で第一線を退かないといけない。その抜けた穴を埋めるためにも年少三人組に多くの経験を積んでほしいんだ」

「お前、意外と真面目なんだな」

「ひどいなあ。ボクだって士官で中尉だよ」

「素行不良」

「大尉殿には言われたくないねえ」

「うるせえ、もっと飲め!」

「え?その酒は強すぎる…ちょ…うわあ!」

 

 夜は更けていく。

 

 翌朝、船団護衛任務に飛ぶために皆が集まる。しかし、指揮官たるクルピンスキーがいつになっても来ない。

 

「どうしたんでしょう?」

「さあな。何やってんだか…」

「あ、来た」

「…おはよう、みんな」

 

 ふらふらとした足取りでクルピンスキーが歩いてくる。顔は真っ青である。

 

「クルピンスキーさん、大丈夫ですか!?顔がおかしいですよ!」

「大丈夫、大丈夫…ひかりちゃんは今日もかわいいねえ…」

「今日は休んだ方が…」

「ニパ君、心配無用だよ。どうしても行かないと…」

「中尉…そこまで頑張るなんて」

「ボクは護衛のかわい子ちゃんを迎えに行くんだ…!」

「うわあ…」

「5発ぐらい殴りてえ…」

 

 そんな中、直が格納庫に入ってきた。

 

「よお、今から出撃だろう。見送りに来たぞ」

「直さん、クルピンスキーさんが!」

「ん?…二日酔いだな、情けない」

「大尉殿は何故あれだけ飲んでケロッとしてるの…?」

「適当に何か機体借りて俺も行くか?」

「いやいや、大尉殿。任務は専門家に任せて…代わりに物資受領の書類片づけといて」

「よし、蹴るか」

「おう、その後に殴らせてくれ」

「おっと、もう時間だ。飛ばないと」

 

 ダブルカンノから襲撃される危機から逃げる為、クルピンスキーはそそくさと飛び上がって行った。

 

「あ、テメエ。勝手に一人で飛ぶな!」

「ああ、待って!待って!」

「おいて行かないでくださーい!」

 

 残りの三人も慌てて飛び上がって行った。残された直は…

 

「仕方ない、やるか…」

 

 物資の積み込みの手伝いと、書類を片付けるべく基地の施設へと歩いて行った。そして、書類を片付け終わり、輸送機に積む積荷の搭載を見ていると、格納庫の隅に積みあがった物資の山の片隅にある物を見つけた。そして、輸送機乗員に尋ねた。

 

「おい、後どの程度積む余裕がある?」

「そんなにでかい物でなければまだ乗ります」

「そうか、すまんな」

 

 そして、基地の物資担当者にも尋ねる。

 

「おい、あれは貰って行ってもいいか?」

「ああ、あれですか。扶桑からこっちに展開していた部隊宛に運ばれてきたのですが、その部隊は受け取る前に帰国してしまったのです。このままだと捨てるしかないのでいいですよ。むしろ持って行って貰えるならありがたいです。置場が少しでも空くので」

「おお。では、ありがたく」

 

 そのある物を土産として輸送機へと積み込んだ。

 

 そして、しばらく経った頃…飛び上がったウィッチ3人が真っ青な顔で直の元にすっ飛んできた。

 

「大変です!クルピンスキーさんが!」

「何!?」

「事故か被撃墜で海に落ちました!それで病院に運ばれたとのことです!」

「すぐに病院に行くぞ!」

 

 基地の病院に4人が転がり込む。そして医師からクルピンスキーの状況を確認した。意識ははっきりしており、怪我もそこまでひどいものでは無いとの事であった。皆がホッとしてクルピンスキーの病室へと向かう。

 

「アイツめ…一人でカッコつけて大物に殴り込むからああなるんだ」

「なんだ、大物が何匹も来たのか?」

「2体も大きいのが来たんだ。船団護衛のウィッチはすぐにやられちゃったみたいで…」

「大変でしたよー。大きいのから小さいネウロイがいっぱい出て来て」

「まあ、船団の大部分が無事たどり着いてよかったぜ。向こうの指揮官も喜んでたし」

 

 戦闘の様子をウィッチ達が直に話しながら病院の廊下を歩く。規模の大きい病院らしく広い。ほぼ話し終わったところでクルピンスキーの病室にたどり着いた。ひかりがドアをノックして扉を開ける。

 

「失礼しまーす」

「クルピンスキー、大丈夫か?って…」

 

 クルピンスキーは片足を怪我したようで、その足をギプスで固定していた。が、問題はそこではない何故か船団護衛のウィッチに親身に看護されていたのだ。どうやら、先の活躍で惚れ込んだらしい。クルピンスキーもそのウィッチに口説き文句を並べていた。一方、それを見た4人は呆れていた。

 

「よし、予定通りペテルブルクに帰ろう」

「ああ、そうしよう」

「中尉なら一人で帰れるもんね」

「ちょっと、みんな酷くない!?」

「だって元気じゃないですかー」

 

 そんな病室に一人の兵士がやって来た。

 

「こちらに菅野直大尉はいらっしゃいますか?」

「俺だ」

「手紙をお持ちいたしました」

「俺に手紙だぁ?」

「飲み屋の請求書じゃねえの」

「ねえよ」

 

 そんな事を言いながら手紙を受け取る。その兵士は足早に帰って行った。そして、手紙の裏の差出人を見る。すると、直が一瞬固まって細かく震え出した。

 

「おい、誰からだ?」

「どわっははは!生きとったんか!!」

「お、おい、どうした。誰からだったんだ!?」

「『人殺し多聞丸」め!」

 

 差出人には「大日本帝国海軍少将 山口多聞」と所属と氏名が書かれていたのであった。

 

「何!?向こうの世界の人間からの手紙!?部隊外の人がいるここで話すのは不味い、場所を変えよう!」

 

 病院の外の広場に移動して手紙の中を見る。直枝とひかり、ニパものぞき込む。

 

「うーん、扶桑語…?読めない」

 

 ニパの一言に全員がずっこけた。

 

「仕方ねえ、訳してやる」

 

 オラーシャにいるという日本海軍航空兵へ

 扶桑政府関係者から同じ日本人がこの世界にいると聞き、この書を認める。私は大日本帝国海軍少将 山口多聞である。貴官は新鋭戦闘機と共にこちらへ来たと聞いたが、当方は空母「飛龍」と共にこちらへ来た。現在は欧州各地を視察中である。一度、貴官に会って話を聞きたいと思っている。もしも、貴官に当方と会いたいという意思があれば下記に返信されたし。

 

「直さん!会いに行きましょう!!」

「向こうにも飛龍という艦名の空母があるのか…しかし、空母ごと来るなんて」

「直さん、どうするの?」

「バカヤロウ、そりゃ会うに決まってらぁ!」

 

 すぐに手紙を送った。次は502基地に手紙を送られたし、と記載して。

 




あの人から手紙が来たようです

スキピオ先生に出番が出来たよ!やったね!!

502各キャラからのダブルカンノの呼び方の区別をどう付けるかが意外と厄介だったり

※追記
皆さんありがとうございます!
久々の投稿ですが、マイペースで完結まで進めていきたいと思います
誤字訂正


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短編:デブリーフィング

 C-47が夕暮れの中、重そうに滑走路へと着陸する。ムルマンから物資を搭載し、ペテルブルグに戻ってきたのだ。C-47がエンジンを止めると、物資を運ぶ為の車両と整備員が機体へと集まりだした。機体から新型ストライカーと各種装備、更にその他軍需品や医薬品が降ろされてトラックに載せられていく。最後に降ろされる扶桑産の米や調味料、ムルマンで直が貰ってきた物である。

 

「あー、やっと着いた」

「行きは美味い弁当があったからまだよかったけど、帰りは暇だったぜ」

「えー、快適だったじゃないですかー」

「いや、暇だったな。飛行機は自分で飛ばすに限る」

 

 輸送機から直、直枝、ニパ、ひかりの四人がタラップを降りてくる。クルピンスキーは軍医から入院を命じられた為、ムルマンのあの病院に置き去りである。数日で基地に帰還する予定にはなっているが、療養が必要な状況であり、暫く実戦に出ることはないだろう。

 

 手荷物を抱えて歩きながら直枝が直に話しかけた。

 

「あの手紙の件は隊長たちにどう報告するつもりだ?」

「そりゃあ手紙の現物見せればいいだろう」

「直さん、翻訳しないとみんな読めませんよ」

「よーし、雁淵コノヤロウ!言い出しっぺのお前が翻訳しろ」

「ええっ!?」

「そーだそーだ、外国語の勉強になるぞ!一石二鳥!!」

「ああ、もう二人ともひどい!」

 

 そんな冗談を飛ばしながら四人は基地へと歩く。

 

 そして、隊長であるラルに物資受領と船団護衛成功の報告を行うべく執務室へと入って行く。執務室ではラル、サーシャ、ロスマンの三人が待っていた。

 

「皆、ご苦労だった。船団護衛は成功したが、クルピンスキーの負傷は手痛い損害だな」

「すまんなぁ、戦力になれず」

「菅野大尉が責任を感じる必要はない。ネウロイを過小評価し過ぎたこちらのミスだ。それに物資輸送関連の仕事はしっかりやっただろう」

「隊長、ちょっと話が」

「なんだ、もう新しいストライカーを壊したのか?」

 

 その瞬間、隊長の隣にいるサーシャがニパと直枝を睨みつけた。

 

「いやいや、待て!違う!!」

「直さんの件だよ!私たちは関係ないし、何も壊してないよ!だから正座は勘弁!!」

 

 真っ青になり慌てて否定する二人を無視しつつ、直は机に手紙を置いた。

 

「ああ、こんな手紙が俺宛に送られてきた」

「ふむ…すまんな、扶桑語は読めん」

「ああ、やっぱり」

 

 ひかりが予想した通りの結果となった為、皆で手紙を翻訳する。

 

「なるほど、菅野大尉と同じ異世界の国の将官が手紙を送ってきた、と」

「ああ、そういう事だ」

「会いに行くつもりか?」

「ああ、あの山口少将なら会うしかない。届いてすぐに返事を送った!」

「まったく、そんな急がなくても部隊に相談してからでもよかったんじゃ…」

 

 それを聞いたロスマンが頭を抱えた。

 

「菅野大尉が私たちに相談したとしても結果は変わらんだろう」

「まあ、そうでしょうね。でも、空母ごと来るなんて…扶桑は大騒ぎでしょうか」

「そういう話があったとはまったく聞かんな。余程うまく隠し抜いたのか…ん、もうこんな時間か。もう遅いから夕飯にしよう」

 

 皆で食堂へと向かう。食堂の扉を開けると既に配膳も終わっていた。

 

「あ、皆さんお帰りなさい」

「クルピンスキーさんは大丈夫そうでしたか?」

 

 下原とジョゼが出迎える。今夜はカレーとサラダらしい。

 

「怪我以外はいつもの調子だよ」

「そうですか、よかった」

「直さん、あんなにたくさんの米や調味料ありがとうございます」

「向こうで余っていたから貰ってきた。これでうまいメシがたくさん食えるな!」

「ええ、腕が鳴ります」

 

 直の土産に下原が感謝し、皆が席に座ろうとした時であった。

 

「あ、直さん。電報届いてましたよ」

「何ぃ!?」

 

 ジョゼが直に電報を手渡した。事情を知る皆が慌てて駆け寄った。

 

「みんなあんなに慌ててどうしたんだろ?」

「さあ?」

 

 手紙の件を知らない下原とジョゼは不思議がっている。そして直は電報の内容を見る。

 

『スウェーデン ノ ストックホルム ニテ マツ イソギコラレタシ』

 

 やはり山口少将からの電報であった。

 

「場所を指定してきたか。ここからスウェーデンにはどう行けばいい?」

「…スウェーデンってどこだ?」

「暗号?いや、でもストックホルムって…」

 

 502の面々は首を傾げる。それもそのはず、この世界にはスウェーデンという国名は存在しないのだ。

 

「地図だ、欧州の地図を見せろ!!」

 

 直枝が地図を取り出した。元の世界とはどこか異なる世界地図。そして、直が場所を示した。その場所はカールスラントの北。

 

「バルトランドか!」

「ふむ、思ったより近い場所だな」

「スオムスから鉄道ですかね?」

「それが確実かなあ」

 

 場所が分かった502の隊員は次々と案を出す中、そこに下原が質問した。

 

「あのー…一体何があったのでしょうか?」

「あ」

 

 下原とジョゼが蚊帳の外になっていることに皆が気付き、慌てて経緯を説明した。

 

「直さん、同じ世界の人から手紙が来たんですか!」

「しかも少将なんて偉い人!それならその人の部下とかも来ているかも」

 

 話を聞いた下原とジョゼも仰天し興奮している。そして、ラルが何かを思いついたらしい。

 

「そうだ、ちょうどストックホルム発の輸送機が明日の朝に来るな」

「ああ、そういえば。帰りに便乗させてもらう手がありますね」

 

 ラルの一言にロスマンがアイデアを出した。解決策が見つかり、皆がホッとした様子で席に座る。食事を始めたその時、ラルがもう一言付け加えた。

 

「ああ、休暇にはちょうどいいな。下原、ジョゼ。菅野大尉に同行してこい」

「え?」

「私たちが?」

「お前たちは軍務以外で働き過ぎだ。たまには基地から離れて休め」

 

 しかし、直枝の一言が飛んだ。

 

「この前、下原がいなくて食事が悲惨になった事があったが…行かせるのか?」

「安心しろ、その時の原因は今ごろ病院で寝ているから今度はやらかさない。基地にいるコックの食事を確保しておくさ」

「なるほど、そういう意味でもちょうどいい」

「では、問題無いな。三人で行ってこい」

「了解!」

 

 食事を終えた一同は自室へと引き揚げる。だが、直枝は直を呼び止めた。

 

「おい」

「よう、チビ。どうした?」

「チビ言うな。まあいい…気を付けて行ってこい」

「分かってらあ。土産でも買ってきてやるよ」

「そうか、期待しないで待ってるよ」

 

 そして、夜は更けていく。

 

 夜が明けて空が明るくなった頃、ペテルブルグの滑走路に轟音を響かせてリベリオンの国籍マークを付けたC-46が降り立った。前回一行が載ったC-47よりも大型で強力な2000馬力のエンジンを2つ積んだ輸送機だ。人員や郵便物の積み下ろし、点検と補給が済めば輸送機はストックホルムへと飛び上がる。そんな中、仮設飛行場にトラックに便乗した直、ジョゼ、下原の一行がやってきた。休暇という事もあり、下原とジョゼは旅行カバンを抱えている。

 

「C-46…ダグラス輸送機よりでけえ」

「じゃあ、行きましょうか」

「うん、定ちゃんのお弁当楽しみだなあ」

「今日のお弁当はおにぎりと卵焼き」

「おおっ!扶桑料理」

「そりゃうまそうだ」

 

 三人は輸送機の機内へと乗り込んだ。機内は人員輸送用にびっしりと座席を配置している。乗客はまばらだが、ペテルブルグ発だけあってどこかで見たような顔が多い。通路を通る間に数人から声を掛けられながら席に着く。すると、コクピットから機長が出発を告げた。機体はゆっくりと動き出す。滑走路に入り、エンジンが唸りを上げる。すると機体がグッと加速し、離陸速度に達すると機体が浮いた。

 

 一行を乗せたC-46は機首を北西へと向け、大空目がけて飛んでいく。




あの人が手紙の差出人へ会いに行くようです

C-46の資料少なすぎませんかね…機内写真があんまり無い
そして動きの少ない会話ばかりのシーンは基本的に文章書くのが苦手という…


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出会い:前編

 ペテルブルグを離陸したC-46はバルト海に出ず、スオムス内陸を飛ぶコースを飛行する。洋上を飛ぶ最短ルートではネウロイと遭遇するリスクが大きいのである。そして、機体は北欧の森林地帯を眼下に眺めながら高度3000m程をのんびり飛行する。気候も安定しており、機内はほぼ揺れが無い状態であった。

 機内の座席は横4列、通路を挟んで2席ずつ配置されている。人員輸送専用に改修されただけはあり、座席は旅客機と同等の物らしい。並みの軍用機では味わえない座り心地だ。

 

「そろそろご飯にしましょうか」

「やった!」

 

 下原の提案にジョゼが喜んで返事を返した。荷物の中から弁当箱を三つ取り出して、ジョゼと菅野直大尉に手渡す。メニューは三角形に握ったおにぎりが三つに卵焼き、沢庵、いつの間に調理したのか根菜入りの煮豆も付いている。直がおにぎりを一口食べる、中の具は醤油で和えた鰹節だ。

 

「おっ、おにぎりの具はおかかだな」

「ええ、直さんが持って帰ってきたお土産に鰹節がいくつも入っていたので使ってみました。他のおにぎりは違う具ですのでお楽しみに」

「定ちゃん、これ美味しい!」

「よかった、急いで用意したけどうまくできたみたい」

「この煮豆もなかなか…」

 

 ジョゼは卵焼きに夢中だ。機体の前方を見るとこの機の乗組員達もパンやサンドイッチを齧り、コーヒーを啜りながらも忙しなく操縦や航法に専念している。窓の外を見ると、陸地の向こうに海が見えてきた。機体はスオムス内陸の上空からボスニア湾の中間辺りを渡り、バルトランド上空に入る予定だ。湾上空の空域は絶えず複数のレーダーサイトで警戒されており、ネウロイが侵入する恐れがあれば即座に迂回を指示される。だが、機は針路を変える様子は無い。今回は安全と判断したようだ。そのまま機体は海の上に出る。陸地に近い洋上には漁船らしき小さな船が何隻か見えるが、それもすぐに視界の後ろへと過ぎ去っていく。少し飛ぶと陸地が見えてきた。目的地であるスウェーデン…こちらの世界ではバルトランドと呼ぶ国だ。機体は首都ストックホルム郊外の飛行場へと機首を向け、乗組員が着陸に備えるようにと客室に呼び掛ける。

眼下には街が見えてきた、いよいよ到着だ。

 

「おおっ、まさに北欧といった街並みだ」

「ええ、首都だけあって活気がありますね」

 

 そんな事を話していると、高度がぐんぐん下がっていく。着陸態勢に入ったのだ。そしてC-46の主脚が滑走路に触れた、少し揺れるが綺麗な着陸である。パイロットはなかなか腕が良いらしい。機体は滑走路を出た後、駐機場に入ってエンジンを停止した。そしてタラップが機体に取り付けられて扉が開いた。乗組員の指示を受けて席を立った乗客は荷物を持ってぞろぞろと降りていく。

 

「直さん、降りましょうか」

「ああ」

「定ちゃん、カバン忘れないようにね」

「大丈夫、ちゃんと持ったから」

 

 荷物を抱えてタラップを降りると、機体の前で待機している迎えのバスに乗って飛行場のターミナルへと向かう。

 

「なんだ、ここは民間空港なのか」

 

 直がふと窓の外の景色を見て気づく。それに下原とジョゼも珍しげに駐機された旅客機を見る。

 

「ああ、確かに。あれもそれも民間の旅客機ですね」

「この国はネウロイ来てないから運航続けてるのかも」

 

 そんな事を話しながらもバスが飛行場のターミナルに到着した。下原は早速到着したことを知らせる為、ペテルブルグの502基地へ電報を送る。そして、ジョゼも前日届いた電報に記された差出先へと電話を掛けていたが、話が終わったらしく、受話器を置いて戻ってきた。

 

「30分ぐらいで迎えが来るみたいです。まず宿に送ってくれるそうで」

「じゃあ、そこの喫茶店で待ちますか」

 

 下原の提案を受けて近くの喫茶店へと入る。そして、店の外に面したテーブル席へ案内された。ウィッチの二人は休暇というだけあって私服だ。だが、直はいつもの飛行服である。私服の女性二人と飛行服を着たパイロットの組み合わせはとても目立つ。すれ違う通行人も気になってちらちら見る程だ。

 

「何ジロジロ見てんだコノヤロウ!見世物じゃねえぞ!!」

「まあまあ、私達は気にしてないので」

 

 言葉は通じないが雰囲気は伝わるらしく、通行人達はそそくさと立ち去っていく。それを見て下原とジョゼは苦笑いしながら紅茶を飲んでいる。そして、頼んだ飲み物を飲み切った頃である。突然、扶桑語で呼び掛けられた。相手は士官服を着た背の高い男性だ。

 

「菅野直大尉でしょうか?」

「ああ、そうだ」

 

 直が敬礼を返しながら答える。

 

「山口少将の命により、お迎えに参りました。そちらのお二人は502の下原少尉とルマール少尉ですね」

「ええ、そうです…あっ、失礼しました」

 

 相手の階級を見ると扶桑海軍の中尉である。それに気づいた下原とジョゼが慌てて敬礼をすると、すぐに敬礼を返してきた。

 

「いえいえ、気になさらず。まず宿にお送りいたします」

「よろしくお願いします」

 

 荷物を持って迎えの車へと向かう。運転席には同じく扶桑海軍の下士官が乗っている。まず宿に行くとなると、山口少将と会うのはどうやら明日になるようだ。無理もない、もう夕方に近いのだ。3人が車に乗り込むと、車はそのままストックホルム市内の中心部へと向かう。

 

「宿は確保してありますのでご安心を。ああ、あれです」

「うわあ、大きいホテル」

 

 迎えの中尉が指さす先に宿が見えてきた。見るからに歴史あるお高そうなホテルであった。車がホテルの玄関前に止まる。運転手の下士官に礼を言い、3人と中尉が車から降りる。立派な造りの玄関を抜けてロビーに入ると、中尉が一足先にホテルのフロントへ向かった。そしてチェックインを済ませると、部屋の鍵を2つ持って戻ってきた。

 

「これが部屋の鍵です。夕食はご自由にどうぞ」

「ありがとうございます。おや、二部屋ですか」

「ええ、どちらも二人部屋ですので好きな方をお選びください」

 

 下原が部屋の鍵を受け取る。

 

「菅野大尉。明日、9時頃またお迎えにあがります」

「ああ、分かった」

「では、失礼します」

 

 中尉は敬礼をして足早に玄関から出て行った。

 

「さあて、部屋にでも行くとするか」

「そうですね」

 

 鍵を見ると3階の部屋である。エレベータに乗って移動する。3階のエレベーターホールから少し歩いた先に鍵と同じ番号の部屋があった。303と304号室である。部屋の前でどちらにしようか暫し考える3人。きりがないので中を見て決める事にする。

 

「この303から見てみますか」

「うん」

 

 303号室のドアを開ける。部屋の壁は白く、室内は隅々まで清掃が行き届いた清潔感漂う趣である。そして、机やクローゼットなどの家具は歴史を感じるアンティーク調の物が中心だ。そして大き目のベッドが2つ並んでいる。大き目な窓の外にはストックホルムの街並みがよく見える。

 

「凄いなあ、流石こういうホテルは違うね」

「あら、ジョゼもこれぐらい掃除やベッドメイクを綺麗にこなすじゃない」

「えー。定ちゃん、褒めたって何も出ないよ」

 

 実家がガリアの宿屋であったジョゼは興味津々といった具合に部屋を観察している。ちなみに隣の304号室も同じ間取りであった。その為、最初の部屋を下原とジョゼが使い、304号室を菅野が一人で使う事となった。

 

「直さん、なんかクローゼットに袋が入ってますよ」

「んー?いや待て、これは…」

 

 袋の中身を開けてみる。紺色の士官服が入っている…細部を見ると扶桑海軍の物とは若干異なる。間違いない、これは日本海軍の士官服だ。

 

「なんか扶桑の士官服とはどこか違うような…」

「そりゃそうだ、こいつは帝国海軍の士官服だ!どうしてこんなものが」

「あ、なんかメモが」

 

 更に袋の中にはメモ書きが入っている。

 

「何々…土産の一つだ、食事に行くときに使うといい。どういうことだ?」

「あー…」

 

 メモ書きの中身を見た下原とジョゼが菅野の服装を見て納得といった感で頷いた。それもそのはず、彼の服装はいつもの使い込んだ飛行服。こんな平和な街中ではとにかく目立つ。それならばまだ士官服の方が違和感は少ないだろう。

 

「直さん、レストランなんかのドレスコードに備えてじゃないですかね」

「ああ…なるほど」

 

 海軍士官は海外で活動するケースが多い為、それに備えて海軍兵学校で各種マナーを1から10までしっかり叩き込まれる。その為、その単語の意味するところは即座に察しがついた。

 

「服装ちゃんとしないと入れないような高い飯屋に行くつもりはないんだがなぁ」

「いやいや、そうでなくとも街中で飛行服はやっぱり目立ちます」

「駄目か?」

「駄目でしょ」

「さっきも喫茶店で通行人から注目されてたじゃないですか」

 

 ブレイブウィッチーズの中でも真面目な方の二人から言われると直も流石に従わざるをえない。着替えてから夕飯を食べに街へ出る事となった。

 




手紙の差出人の所に出かけたようです

とりあえず、長くなりそうなので前編投稿
もうちょいで完結まで持っていけそうな感じです。


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出会い:後編

 夕食を食べる為に夜のストックホルム市内へと繰り出した菅野たち一行。出かける前に宿泊先のホテルでおすすめのレストランを何軒か教えてもらっていた。そして、そのレストランを目指して現在徒歩で移動中である。

 なお、菅野は部屋に置かれていた士官服を着ている。下原とジョゼからまぶしい笑顔で「外出ですので是非着てください」とお願いされた以上、いつもの飛行服から着替えざるをえなかったのである。

 

「で、ここの名物って何だ?」

「ええと、確かミートボールだったかなあ」

「肉団子…つくねみたいなもんかぁ」

「つくねとは味付けとかも違うみたいですね。あー…あと、海産物も名産だとか」

「ほぉ、夕飯はカニかエビにでもするかぁ」

「エビかあ…ロブスターかなあ」

 

 ちなみにジョゼは部隊一の食いしん坊である。これから食べる料理に期待を膨らませ、内心ワクワクしながら歩く。果たして夕飯は一体何なのか…

 そして、そのままぶらぶら歩く事数分。街中には軍服や水兵服を着た人々がちらほら見える。戦地に行った帰りの休暇か、それとも戦地に向かう前に貰った短い休暇か、どうもそういった雰囲気のようだ。夜になったばかりというのに早くも千鳥足で歩く若い兵士がいる。果たして彼は無事に帰れるだろうか。

 そして、しばらく歩くと教えてもらったレストランにたどり着く。しかし、1軒目は満員との事で諦めた。2軒目の店は幸い1テーブルだけ空いていたのでなんとか滑り込むことに成功。店内はお堅い雰囲気のレストランではなく、街の料理屋といった趣だ。そして、席に座ってメニューを眺める。しかし、言語の壁によりメニューの内容が全く読めない。三人とも首を傾げる。こういう時に北欧生まれのニパでもいれば手っ取り早かったかもしれない。

 

「…これなんだ?」

「う、うーん…?」

「ブリタニア語のメニューがあるか聞きます?」

「…そうしよう」

 

 店員にメニューを変えてもらった。この戦争の影響で世界各国からこの国にやってくる人が多く、それに合わせてここ最近外国語のメニューを用意したとのことだった。

 

「初めからこっちのメニューを出してくれればいいのに」

 

 ジョゼはふくれっ面気味に呟く。

 

「まあまあ。さて、何にしましょう?」

「ロブスター!あと、このサーモンのフライ!」

「そりゃあ決まってらぁ。ビールとつまみ!!」

「じゃあ、せっかくなのでミートボール。んー、飲み物は…」

 

 とりあえず料理の第一陣は決まった。注文が終わるとすぐに飲み物と軽いつまみ類がやって来る。

 

「では、とりあえず…無事に到着した事を祝って乾杯!」

「乾杯!」

 

 直はビール、下原とジョゼは気分だけでもとグレープジュースである。ソーセージや酢漬けにされたニシンといった軽い前菜類をつまみながら話は弾む。

 

「そういえば、直さんの出身ってどちらでしたっけ?」

「んー、育ちは宮城だ」

「へえ、宮城ですか」

「まぁ、宮城と言っても仙台とは離れた田舎だがな。そういや、下原ちゃんはどこの生まれなんだ?」

「私ですか?尾道の生まれです」

「ほー、尾道…広島かぁ」

「ええ、海がよく見える良い街です。坂だらけでちょっと大変ですけど」

 

 下原が瀬戸内海沿いの街特有の悩みを苦笑いしつつ答える。

 

「そういや、雁渕のヤツはどこの生まれだったか」

「ああ、彼女は佐世保ですね。直さんは佐世保には?」

「よく考えるとあまり縁がないな。同じ長崎なら最後の方は大村基地にいたが」

「大村かあ…湾の対岸に広がる海岸が複雑な地形をしていて、それがまた風光明媚でいい所ですよね」

「確かに風景は絶景だった。だが・・・思い返すとあまりいい思い出が無くてな…」

「直さん…」

 

 急にトーンダウンした直の態度から、ただ事では雰囲気を察したジョゼと下原であった。恐らく、最後の方と言っていた事から大村で激戦を潜り抜けてきたのかもしれない。

 

「私たちもまあ…色々ありましたからね、なんとなく分かりますよ。戦地の地名聞いてふと暗い気持ちになる事もよくあります」

「ああ、すまんな。しかし、ジョゼもなるぐらいだからこいつは立派な職業病だな」

「大丈夫です。そういう時は美味しいものを食べれば一発で気分が晴れますよ!」

「うまい酒の方がいいんだがなあ」

「むー、ロブスターはまだかなあ…」

 

 そんな空腹気味のジョゼがぼやいていると、店員がやってきた。ついに待望の料理が来たのである。皿が次々とテーブルに置かれていく。

 

「ああ、やっと来た」

「そりゃあ…こういうやつは時間がかかるだろうなぁ」

「うわあ、調理するだけで大変そうなサイズ…」

 

 テーブルに置かれた大皿には茹でたロブスターが鎮座している…だが大きい、とにかく大きい。全長50cmを軽く超えているように見える。だが、ジョゼはナイフとフォークを持ち食べる気満々である。

 

「美味しそう…じゃあ、食べようか」

「ジョゼはほんとよく食べるねえ」

「やだなあ、定ちゃん。これぐらい普通だよ」

 

 ジョゼが晴れやかな笑顔で普通の量と答えるが、それを聞いた直は首を傾げつつひそひそと下原に疑問を投げかけた。

 

「普通・・・?ヨーロッパの感覚ではあれぐらいが普通なのか?」

「いや、一人分より多いです…多分きっと」

「二人とも扶桑語で話し始めたけどどうしたの?」

「いやー、伊勢海老とどっちが大きいかなー、って…なあ!」

「え…ええ、そうそう!ほんとに大きいなあ、って」

「イセエビ?」

 

 笑って話をごまかす二人であった。

 

 そして、料理を楽しみつつ話し込み、気が付くと入店から2時間ほど時間が経っていた。料理も美味しく、居心地もよくてついつい長居をしてしまったのだ。

 

「さて、そろそろ宿に帰りましょうか」

「そうだね。それにしても美味しかった」

「おっと、あんなところに酒屋が…ちょっと酒買ってくる」

「まだ飲むんですか?」

「あたぼうよ、部屋で飲む」

「うわあ…」

「という事でちょっと待ってろ」

 

 直は見つけた酒屋に夜のお供を求めて駆け込む。下原とジョゼは仕方なくその近くで待つことにした。外はすっかり夜の闇、街灯の明りが明るく輝いていた。

 

「やあ、そこのお嬢さん方。今暇かい?」

 

 すると突然背後から話しかけられた。相手を見ると若い水兵が二人組、所謂ナンパというやつである。

 

「えーと…」

「すみません、ちょっと人を待っていて」

 

 いつもの軍服なら話しかけられることも無かっただろう、彼らよりこちらの方が階級ははるかに上なのだ。しかし、今は私服。この様子ではウィッチとすら思われていない。

 

「いいじゃない、ちょっとぐらいさぁ」

「そうそう、俺たちもちょっと寂しくてねえ。戦地で明日もどうなるか分からないから、一夜の楽しい思い出ぐらい頼むよ」

 

 やんわりと断るもののまだ粘る。はて、困った。階級の証明になるものが今あっただろうか。そう下原が考えた時である。勢いのある大声がその場に響いた。

 

「よう、水兵!ツレが世話になったようだなぁ…で、そんなに寂しいならちょっとそこで話でもしようやコノヤロウ」

 

 声の主を見た水兵は真っ青になって凍り付く。相手は見るからに扶桑の士官服、他国の士官とはいえトラブルを起こすとどうなるか分かったものではない。しかも、相手は見るからにかなりお怒りだ。こうなった時に彼らの取るべき行動はただ一つ…

 

「すみませんでした!失礼します!!」

 

 彼らは謝罪をしながら走って逃げた。

 

「陸に上がって羽目を外しすぎた、バカヤロウ」

「あー、ぐいぐい来るから怖かったぁ…」

「直さん、すみません。助かりました」

「いや、気にするな。さて。酒も手に入れたし戻るか」

 

 そして、その後は妙な輩に絡まれることも無く、そのままホテルに戻って解散となった。明日は迎えが来るのが早い為、下原とジョゼは早めに就寝する。だが、直は本を読みながら買った酒を楽しんでいた。ちなみにこの本はどさくさに紛れて直枝の部屋から拝借したものである。(もちろん無断)

 

「しかし、あいつも良い本の趣味してるな。さあて、明日は鬼が出るか、蛇が出るか…」

 

 夜は静かに更けていく。

 

 そして、翌朝。

 朝食を終えて待ち合わせの玄関前に行くと、迎えの車が既に来ていた。そして、例の中尉と共に車に乗り込む。行先はどうやら港らしい。そして、車を暫く走らせ、港の入り口の検問を通過する。港には民間船だけでなく軍用輸送船や駆逐艦やフリゲート等の各種艦艇が停泊している。もちろん軍人も多い。この港は北欧各方面の一大後方基地となっているようだ。そして、車は大きな倉庫の前で止まる。直が窓の外を見ると、誰かが立っているのが見えた。そして、その人物が誰なのか認識する。

 

「マジだ、マジで多聞丸だ」

「では、あの人が例の?」

「ああ、そうだ」

「大尉、着きました。どうぞ、お降りください」

 

 車のドアを開けて勢いよく外に飛び出す。

 

「海軍343航空隊、戦闘302飛行隊『新選組』隊長、菅野直大尉でありまぁす!!山口少将、いきなりですが、とりあえず相撲を一つ!」

「ん?」

 

 そして、直は勢いよく山口少将と相撲を始めた。

 

「なんで相撲を…?」

「定ちゃん、あれなに?」

「えーと…相撲」

「こういう時にするものなの?」

「少なくとも扶桑ではこういう時に相撲なんてしないわ…」

「えぇ…」

 

 そして、それを見て困惑する同行人二人。

 

「大尉、いきなりどうした」

「ええ、あのMI作戦で艦と共にミッドウェーに沈んだと聞いたもんで、幽霊かどうか確かめようかと」

「なるほど。で…大尉、私は君を知らん。いつの人間だ?」

「1945年8月初め!」

「ほう、日本はどうなった?まあ、うまく行っていないとは思うが」

「流石ですなぁ。勝ってるか、と聞かない辺り」

「そりゃあ君、MIで散々悲惨なものを見たからな。それに相手があの国だ…っと」

「あっ!!」

「…ああ、引き落とし」

 

 その瞬間、山口少将が一歩引いた勢いで直を叩き落とした。文句なしの山口少将の勝利である。下原がポツリと決まり手を呟いて、一瞬の沈黙が場を包み込んだ。

 




あの人が手紙の差出人とやっと会えたようです

とりあえず、話の終わりがやっと見えてきました。
目指せ完結


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紫電改の帰還

 あいさつ代わりの相撲を終えて、直は地べたに座り込む。そして、傍観していたウィッチ二人も駆け寄ってきた。そこに山口少将が一つの問いをぶつけてきた。

 

「で、菅野大尉。君は元の世界で何を見聞きしてきた?」

 

 山口少将の問いに一瞬考えてから口を開く。そこからは雪崩のような勢いであの戦争の出来事が並べられていく。

 

「そうですねぇ…まず、ニューギニアやソロモン方面での地獄の消耗戦!太平洋各地では島嶼戦での玉砕!マリアナ、レイテでの海戦で敗北!そして、連合艦隊はほぼ壊滅、大和も武蔵も沈んだ!本土はB-29の空襲で焼け野原ですよ!!」

「そうか…で、そのB-29というのは?どこから爆撃された?」

「高度1万メートルをそこらの戦闘機並みの速さで飛行することが可能、マリアナから本土のほぼ全域まで爆撃可能、銃座の配置はほぼ死角のない怪物ですよ。B-17なんて比較にもならない」

「やはり、あの国はとんでもない飛行機を作るな…巨人機開発の噂はちらほらあったが。海の方も酷いか?」

「ええ、海に至っては大型の正規空母が二桁の数で大量の艦艇を引き連れてやってきますよ。あの様子じゃこの戦争ももう長くないでしょう。この調子だと敵が更に何か投入してきてもおかしくない」

「そうか…だが、我々は何故かこんな世界に飛ばされてしまった」

「ですねぇ、どうしてこうなったのやら」

「私と一緒に飛龍までこっちに飛ばされたが、不思議な事があってな」

「ほう?」

 

 そう言うと山口少将は煙草に火を付けながら呟いた。そして、静かに青空を見上げる。

 

「私以外の乗員が艦内から消えていた。戦死者も含めて一切な」

「それは…実に奇妙ですな」

「で、我々の世界には存在しない太平洋の巨大な島の近くに座礁しているところを扶桑という謎の国に助けられた。初めは唖然としたさ。そして、今はアドバイザーのような立場として扶桑海軍に身を置いている」

「自分は九州沖で空戦した後にいきなりバルト海に放り出されましたね。そして、あのネウロイとかいうバケモンに遭遇して撃ち落とした」

「ほう、君も戦闘中にか。共通点はそこか?しかし、そうだとしたら他の乗員の説明が付かない…」

「確かに、まるで特定の人物だけを選んでいるような」

 

 首を傾げつつ考える直であったが、山口少将が話題を変えた。

 

「で、話は変わるが・・・大尉。君はこの世界をどう思う?」

「ええ、ファンタジー紛いの妙な力があって、戦争の代わりにあちこちでバケモンとドンパチしている。それ以上はなんとも」

「この世界は我々の世界と同等の兵器や技術を持っているが、それらはだいたいあの化け物との闘いの経験しかない」

「つまり?」

「あの化け物は海にいない。よって、我々の専門分野である現代航空機の戦いや艦対空の戦いはこの世界において、全くの未知であるという事だ。それが証拠に、こっちの連中がズタズタになった飛龍を見て真っ先に『おそらく巡洋艦辺りに砲撃されたのだろう』と判断したぐらいだ・・・急降下爆撃と艦内誘爆でこうなったと説明した時には連中ポカンとしていたよ。艦内に偶然転がっていた不発の爆弾を見て慌てながらやっと信じたが」

「航空機では航行中の艦艇撃沈は難しい、という開戦前によくあったあの考え方のままという事ですな」

「ああ、化け物からは散々手痛い目に遭ったようだが、自分たちが使っている航空機からは何も味わっていない。マレー沖どころかタラント夜襲すらな。それでいざ人同士の戦争が起こった際に、このままでは悲劇が起きかねない…それを避けるべく、自分は扶桑海軍にこれまでの知識と経験を伝える事にした」

「流石将官、自分にはとてもできそうにないですなぁ」

「まあ、国籍と身分を保障してもらった家賃替わりみたいなもんだ・・・で、今は欧州がどうなっているか、視察する為にあちこち回って歩いているという訳だ」

「なるほど、それで自分の噂を聞きつけて手紙を送ってきたと」

「ああ、そうだ。扶桑の士官から話を聞いて、君の機を見た時には驚いた…おっと、そちらのお嬢さん方をすっかり忘れていた。彼女らが噂のウィッチか?」

「ええ、そうです。居候先の部隊員です」

 

 山口少将と目が合った下原とジョゼが慌てて、それぞれの敬礼で返す。

 

「やあ、そんなに固くならんでよろしい。私は大日本帝国海軍少将、山口多聞だ。わが軍のパイロットが世話になった」

「第502統合戦闘航空団所属、扶桑海軍少尉、下原定子です。いえ、菅野大尉にはとてもお世話になっています」

「同じく、自由ガリア空軍少尉、ジョーゼット・ルマールです」

「よろしく。統合戦闘航空団所属のウィッチは腕利きと聞く」

「いえ、私はそんな大層なものでは…」

「いや、国から遠く離れて職務をこなしている時点で立派なものだ。誇っても罰は当たらんさ」

「ありがとうございます」

「まあ、外で立ち話もあれだ。続きは中で話そう。それに大尉、君に土産がある」

「自分に…ですか?」

「ああ、ついて来たまえ」

 

 山口少将は倉庫の中へと入っていく。それに続いて直達も倉庫の中に入っていく。そして、その中に置かれていたものは…

 

「大尉、これが土産だ」

「あ・・・直さん、これって」

「ああ!間違いない…俺の紫電改だ!修理が終わったのですか!」

「ああ、先月に扶桑の工廠でやっと終わった。しかし、私もこれを見た時は驚いた。零戦の後にこんな機体が出てくるとは」

「ええ、こいつは飛龍に載っていた零戦二一型よりも格段に速くて武装も強力。まぁ、流石に小回りと足の長さは劣りますがね」

「川西製の局地戦闘機と聞いたが」

「ええ、見ての通り着艦フックも付いていません。純粋な陸上戦闘機であります」

 

 格納庫内に鎮座している紫電改に近づきながら直が説明していく。ピカピカになった愛機を見てどこか嬉し気だ。

 

「大尉、修理に携わった扶桑の技術者も機体性能に仰天していたよ。だが、同時に違う点でも驚いていた」

「なんです?」

「エンジンオイルや配線系を含めてあちこち質が悪い、と」

「やはり見る人が見れば分かるもんですなぁ。向こうは色々とギリギリだったもんで」

「問題のある個所は全部交換しておいた。こちらの世界はその辺りの事情が良いのが救いだな…破損した機関砲は扶桑で生産準備中の新型がかなり似通っていたので、それに載せ替えた」

「おお、20mmが4門勢揃い!これで思う存分戦える」

「あの光線出すような化け物とやりあうつもりかね?」

「もちろん」

 

 山口少将の問いに直はニヤリと笑う。

 

「直さんはこれで大型ネウロイを一体落としましたからねえ」

「あれを見た時には驚きましたよ。機体があんなに破損しているのに、別のネウロイも攻撃しにいったし…」

「部隊に入った後も拾ったオラーシャの攻撃機を直して爆撃までしていましたし」

 

 下原とジョゼが直の今までの暴れっぷりをにこやかに話す。それを聞いた山口少将はポカンとしながら呟く。

 

「君は無茶をするなあ」

「戦闘機乗りですからねぇ…戦場を前にじっとはしていられんのですよ」

「直さん、愛機を手に入れたからって無理は駄目ですからね!」

「そうですよ、何かあったらみんな悲しみますからね!」

「安心しろ、愛機を壊すつもりはねぇからな」

 

 紫電改の右主翼前縁を撫でながら直は笑って答える。下原も近づいて機体に触れる。そして、一言呟いた。

 

「しかし、この機体と私達が使っているストライカー・・・同じ名前が付いているなんてすごい偶然ですよね。別の世界だというのに不思議な話だと思いませんか?」

「そういえば…あのチビが使っているのも紫電改とか言ってたなぁ」

 

 そして、山口少将も会話に加わる。

 

「ああ、それにこの世界で配備されている航空機は元の世界とおおよそ同じような雰囲気だ。だが、こちらの1944年時点で零戦が新鋭扱いで明らかに開発ペースが遅い」

「では、直さん達の世界では零戦っていつ頃配備されたんですか?」

「んー、昭和15年採用だから…1940年頃だな」

「そんなに前に…こっちにもその頃にあったらなあ」

「私にとってはついこの前の話だが、菅野大尉にとってはかなり前だろう」

「ええ、1944年ならとっくに五二型が中心ですよ。二一はすでに二線級」

「そんなに改良したのか」

「ええ、後釜がなかなか出来ないもんで…まあ、その後も新しい型を作ってますが」

「なるほど、苦労したな」

 

 一方、ちょっと離れた所でジョゼはボーっと三人を見ていた。無理もない、三人は熱心に日本語(扶桑語)で会話しており、とても会話に加われないのである。そんな様子を山口少将がちらりと確認すると、手招きしてジョゼを呼んだ。

 

「すまんな、我々だけで話に熱中してしまって」

「いえ、皆さん真剣そうでしたし…」

「さて、先ほど面会に来たガリアの軍人から貰った菓子があるのだが」

「!!」

「では、ここらで一度切り上げて茶でも飲むとするか」

 

 この一言だけでご機嫌回復である。

 

倉庫の内部に作られた小さな事務室に皆で入る。そして、下原が人数分のコーヒーを淹れる。豆はもう挽いてあり、後はドリップで淹れるだけだ。

 

「客人なのにすまないね」

「いえいえ」

「えーと、お砂糖は…あった。直さん、使います?」

「いや、ブラックで」

「で、お菓子は…」

「ああ、これだ。なんでも大使館の料理人の手作りだとか」

 

 山口少将が箱を取り出す。中にはスポンジケーキが入っていた。

 

「シンプルだけどそれがまたいいねえ」

「じゃあ、切り分けましょうか」

「ほー、大使館の料理人ともなると形が見事ですなぁ」

 

 下原が皿にケーキを切り分けてコーヒーと共に皆に配る。そして、コーヒーとケーキのいい香りが辺りに漂う。

 

「さて、食べながらで悪いが・・・大尉、もう一つ話がある」

「なんです?うまいな、これ」

 

 モグモグとケーキを食べる直に山口少将が話を振った。

 

「この国に来る前にフランス・・・ここだとガリアか。そこでちょっとした情報を得た」

「ほう」

「どうも、自分達以外にも向こうから飛ばされた人々が世界各地にいるらしいとのことだ」

「ええ!?」

「それは本当ですか?」

「ああ、まだ直接接触出来ていないが・・・先進的な兵器付きでやって来た例が多く、一部の国では存在を秘匿しつつ研究しているらしい。ああ、対応に困って公表していない場合もあるな」

「少将、つまり直さんも出現位置が悪ければ…」

「ああ、不時着後に幽閉されていたかもしれん」

 

 その一言で場が静まりかえる。直の性格を考えると、下手をすればそのままどこかの国と交戦状態になった可能性もある。彼は実に運がよかったのである。

 

「まあ、この件については情報を集めてみる。どうやら別に調べている組織もあるらしい」

「そんなの調べる組織なんてあるんですか?」

「どうも化け物対策の研究組織だとか」

「んー…どこだろう、連合軍?」

「さあ、まだ分からん。その内接触してくるかもしれない」

 

 そんな事を話し合っている内に皆がコーヒーを飲み終える。帰りの飛行機を考えるとそろそろ切り上げなければならない。しかし、直は飛行服を荷物から取り出す。

 

「直さん、これに乗って帰るんですか?」

「当たり前だ、船便だとどうなるか分かったもんじゃない」

「まあ、それはそうですが・・・ここから基地まで届きます?」

「うちの国の戦闘機の足の長さ舐めちゃいかんぜ。なに、最悪駄目そうなら途中で補給すればいい。どうせ北欧はどこも味方だろう?」

 

 ニヤリと直は笑う。下原とジョゼはやれやれと苦笑いしながら頷いた。

 

「大尉、必要になったら今後君を呼ぶかもしれない。その時は来てくれるか?」

「もちろんです、少将」

「そうか、達者でな。また会おう」

 

 紫電改を押し出す。この場にウィッチ二人がいたのは心強く、魔法力で筋力を強化したおかげで軽々移動出来た。そして、周りから整備員が駆けつけきた。後は彼らが始動準備を始め、準備が整うとエナーシャハンドルを回す。点火プラグを交換したおかげか、軽々とエンジン始動。2000馬力の誉エンジンの爆音が響く。港の隣に増設された連絡機用の滑走路に移動…したところでウィッチ二人が気付く。

 

「あ、私達どうしましょう」

 

 流石に3人とその分の荷物は紫電改に入らない。

 

「あー…いいや、先に空港まで飛んで待ってる」

「了解。こちらで空港に連絡しておきます。では、また後で」

 

 それを聞いた直が手を振る。そして、紫電改は動き出す。スロットルを一気に押し込んで加速。エンジンが轟音を鳴らし、ある程度スピードが付いた所で機体がふわりと浮いた。そしてそのまま高度を上げて右旋回。空港のある方向に針路を向けた。

 

「楽しそうに飛んで行ったね」

「ええ、飛び方が凄く嬉しそう・・・じゃあ、行きましょうか」

「うん、定ちゃん」

 

 下原とジョゼも車に乗って空港へと向かった。そして、しばらく車に揺られて二人が空港に着くと…既に紫電改は着陸しており、直が機体の外で待っていた。

 

「直さん、お待たせしました」

「ああ。で、どの機で帰るんだ?」

「えーっと・・・あそこのDC-3みたいですね」

「そうか。じゃあ、あの機の後ろから上がるからな」

「了解、お気をつけて」

「そっちもな」

 

 そして、二人に荷物を預けて直は紫電改に飛び乗る。DC-3は乗客と荷物を積み込むとエンジンを始動。紫電改も同じくエンジンを回す。そして、両機とも滑走路に入るとDC-3が先に離陸、続いて紫電改も離陸した。2機は一路ペテルブルグを目指して飛行する。ストックホルムに別れを告げながら…

 

 そして、数時間後。西日の当たるペテルブルグの滑走路に2機が降り立った。一方、出迎えに来ていた直枝、ひかり、ニパの三人は直の紫電改を見て仰天したのであった。

 

 そして、基地に帰還後の事である。隊長の執務室へ入った直はラルにストックホルムでの出来事を報告していた。

 

「という事で、どうやら他にも向こうから来たヤツが何人もいるらしい」

「そうか。目的以上の収穫があった訳だ」

「ああ、今後の事を考える必要がありそうだ。愛機も手に入ったし」

「しかし、よその世界から来た人が他にもいるとは初めて聞いた。まったく、お偉方はずるいな。そういう事は私にもちょっとは教えてくれればいいのに」

 

 そして、ラルが冗談を言うと途端に話題を切り替えた。

 

「そういえば…扶桑から新しくウィッチが来る」

「ほう」

「ひかりの姉、雁渕孝美中尉だ」

「アイツに姉がいたのか」

「ああ、大尉が来たその日に負傷して送り返された」

「あー…なんかそんな話していたな」

「ゴタゴタしていたから無理もない。まあ、話は以上だが・・・で、大尉。件の少将に呼び出されたら行くつもりか?」

「もちろん」

「そうか、その時は明るく送り出してやるさ」

「すまんな、隊長殿」

「ああ、気にするな。やりたいようにやってくれ」

 

 そうして、ペテルブルグの夜は更けるのであった。

 




紫電改の修理が終わったようです

異世界人を調査する組織・・・果たして何者なんだ


さて、もうちょっとだけ続くよ!
次で最後!


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ドリフターズ

いよいよ最終話。
勢いとノリでゴリ押し気味でございます。


 別れは唐突にやって来る。それがこの日の朝であった。直が別の部隊に行くこととなったのだ。

 

「直さん、本当に行っちゃうんですか?」

「そう言うな、こんな時こそ明るく送り出してやろうじゃないか。士官に転勤は付き物だ」

「大尉、無茶しないでくださいよ。くれぐれも他の人に迷惑はかけないように」

「大尉がいなくなると寂しくなるなあ」

「ただまあ、これでこの基地は平穏になるかもね…いてて、ギブ!ギブ!!」

「まったく…達者でね」

「また、必ずお会いしましょう…約束ですからね!」

「直さん、落ち着いたら手紙くださいね!」

「まったく…死ぬなよ」

 

「そう簡単には死なねえよ。じゃあな、チビ。ああ、そうだ。貴様にこいつを預ける」

「これは?」

「日本の小説だ、飛龍艦内にあった本を貰ってきてやった。未完の本だが、しっかり読めよ!それと、またな!!」

 

 そして、502の隊員たちが手を振って別れを告げながら、紫電改はペテルブルグを飛び立った。朝の陽ざしを背に浴びながら。

 

 

 

 

 

 それから暫くの後の事…

 

 第502統合戦闘航空団は連合軍と共に一大作戦に臨んでいた。目標はこの方面のネウロイの巣「グリゴーリ」、それを叩き潰してこの方面のネウロイを完全に駆逐するというものである。

 そして、作戦は最終局面。502の面々はネウロイの巣に突入、内部でのネウロイとの戦闘で各隊員は残弾を撃ち尽くし、その止めの一撃は雁渕ひかりの手に託された。

 

「これで…最後!」

 

 ひかりは残り一発の銃弾を巣のコアに撃ち込んだのであった。

 

「やった!502がやったぞ!巣が消えた!司令部に打電しろ!!」

「よし、これでこの地域は安泰だ…長かった」

 

 各地で兵士たちが歓声を上げる。上空からは502の隊員たちがフラフラと降下してくる。既に弾薬、魔力、体力を使いつくしており、一刻も早く帰還せねばならない。何人かのストライカーユニットは煙を吐き、今にも止まりそうな状態だ。

 

「まったく、みんな揃ってストライカーが不調とは…」

「いつもの三人の物を壊す癖が伝染したのかしら」

「さあ、さっさと帰るぞ。ブレイクウィッチーズ!」

「その名前は勘弁して」

 

 そんな時である、急報が飛び込んだ。

 

「オラーシャ内陸部より、多数のネウロイ移動中!間違いない、巣の跡を目指しているぞ!!」

「何!?」

 

「東方上空で哨戒中の700SQが接敵、複数の中型ネウロイ!700SQは退避開始。701SQを支援に向かわせた」

「各飛行隊、戦闘続行不能な規模の損害を受けています!地上部隊も同様!!」

「何?502は…無理か」

「消耗しきっています、これではとても戦闘なんて…」

「くそ!スオムスに応援要請だ!大至急!!!」

 

 敵侵攻の一報が飛び込み、蜂の巣を突いたような騒ぎになった司令部のドアが突如勢いよく開く。そして、奇妙な身なりの人間が一人、司令部の中にずかずかと入り込んでくる。

 

「あらやだ、大作戦の割には随分としけた建物ね」

「誰だ!い、いや…あなたはサンジェルミ伯!何故ここに!」

 

 それを見た兵士が呟く。

 

「おい、誰だ。あの変人」

「シッ、聞こえるぞ。あれはサンジェルミ伯、ガリアの大貴族で世界中の政財界、軍事関係者と幅広く交友を持っているという大物だ」

「なんでそんな貴族様がこんな最前線に?」

「知らん。あ、聞いた話だとあの貴族、なんでもここ80年ぐらい変わらず同じ姿だとか…」

「なんだそりゃ。流石に嘘だろう…」

 

 サンジェルミ伯は来て早々そこの指揮官に向かって言った。

 

「ネウロイの巣撃破おめでとう。でも、困っているそうじゃないの」

「ええ…まあ、新手の敵が現れましたが…現状余剰戦力皆無でして」

「なるほど。絶賛大ピンチという事ね。そんな皆さんに良いお知らせを持ってきました」

「なんでしょう?」

「頼れる増援を連れて来てあげたわ」

「なんですと!?」

 

「遅れて申し訳ない」

 

 更にもう一人司令部に入ってきた。見た目で判断する限り、東洋人である。

 

「その服装…まさか、魔術結社の十月機関か!?」

「お初にお目にかかる。十月機関の長、安倍晴明と申します」

「今更そんな連中が戦力になるとでも?大昔から続く怪異退治の専門家集団だが、ネウロイには無力ではないですか」

「我々がストライカーユニットの戦力化にどれ程協力したか…もうお忘れか?まあ、それはともかく…私は増援の手助けに来ただけです。戦力は実質サンジェルミ伯が用意した物となりますので」

「そうそう、呪いとかそういうのではないわ。まあ、ちょっと変わってるけど…ああ、連合軍総司令部直々の命令書もあるわ。さて、そろそろ来るかしら」

 

「レーダーに感あり!なんだこれ…高度約1万2000mに機影?しかも速い…ネウロイか?」

「味方よ」

「なんですって?そんな高高度を高速で飛ぶ機体なんてまだ実用機には…」

「あるのよ。まあ、拾い物だけど」

「はあ?」

 

 そして、外の見張りが叫んだ。

 

「見えた!あれだ!」

 

 戦場の上空、遥か高高度に飛行機雲を引きながら1機の4発機が飛ぶ。塗装は無く、機体は日光を反射して銀色に輝いていた。

 

「こちらシルバーアロー、制空隊及び地上部隊へ。あー…地上に真っ黒な一群がぞろぞろ動いているのが見える。おや、空中にも多数…中型が30体ぐらいか?」

「了解、そのまま監視を続けろ。何かあればすぐ知らせよ。制空隊、各機攻撃準備。手筈通りにかかれ」

「了解、片っ端から落とすぞ!しかし、あのB-29も味方にいると便利だ」

「一番槍は我々が貰っておくぞ。後は任せる!」

 

 戦場近くでは502のウィッチ達が敵発見の報告を受けて地上に降りていた。手近な所で急いで補給を受けようとしていたのである。だが、そこの地上部隊の指揮官は引き留めようとする。

 

「無茶だ、あれだけ戦って体力もまともに残っていないだろう!」

「いや、前線に残された連中を見捨ててなどおけない。だから弾をくれ」

「ええ、せめて時間ぐらい稼がせてください!」

「いや、しかし…」

「な、なんだありゃ!?」

 

 その刹那、頭上を轟音が飛び去っていった。その音は後方の司令部まで響く。

 

「あれはジェット戦闘機!?いやまさか…ノイエ・カールスラントでまだ試作中のはずじゃ…」

「ええ、“ここ”ではまだ実戦配備されてないわ。“ここ”ではね」

「サンジェルミ伯、それはどういう…?」

「おっと、それは後でのお楽しみ」

 

 ドイツ空軍のマークを付けた3機のジェット戦闘機…Me262はネウロイの群れに向かって真っすぐ進む。

 

「見えた!中型ネウロイとやらだ。さーて、米軍のコンバット・ボックスとどっちがマシか」

「小隊長!いつも通りにやるだけでしょう。おおっと、撃ってきた」

「よし、攻撃開始!」

 

 ネウロイから放たれた光線に怯むことなく、3機のMe262はタイミングを見計らって主翼下にぶら下げたロケット弾R4Mを一斉に放った。その数、3機合計で70発以上。まさに面制圧といった状態でネウロイの群れにロケット弾の雨が飛び込む。そして、うまく命中した弾の信管が作動、弾頭が炸裂して周囲に破片が飛び散った。炸裂炎と破片をもろに浴びたネウロイはたまらず編隊を崩す。

 

「よし、やったぞ!一度退避する」

 

 Me262は一度旋回してネウロイの群れから離れる。そして、散り散りになったネウロイの群れに向かって様々な戦闘機が襲い掛かった。機種もラウンデルもバラバラだ。

 

「菅野一番から各機、獲物が崩れた!かかれ!ブチカマセー!!」

「言われなくとも!海軍さんに負けちゃいられん。疾風と陸軍航空隊の強さを見せてやらねば」

「おっと、日本やドイツにばかりカッコいい思いはさせんよ。アメリカ陸軍航空隊の意地を見せてやる」

「やれやれ…RAF(イギリス空軍)もいるんだがなあ。しかし、なんでこんな所で戦っているんだが…」

「まあ、気にすんな。敵がなんかよく分からんバケモンになっただけさ。こうなったら米海軍戦闘機乗りの精強さも見せないと」

「そうだな、活躍したら下の連中がうまい酒を奢ってくれるかもしれない」

「ああ、それにそこらでウィッチのかわい子ちゃんたちも見てるんだろ?こんな時こそやる気出さないと」

 

 その最後の二言に対して一斉に無線が飛び込む。

 

「おい、貴様ら!真面目にやれ!!」

 

 紫電改、四式戦闘機、P-51D、タイフーンにF4U、G.55等々…様々な戦闘機が轟音を鳴らしながらネウロイに空中戦を仕掛けた。

 

「あれはいったい…どこの国の戦闘機でしょうか?」

「ああ、この世界の戦闘機ではないわ。よその世界から流れ着いた戦闘機とパイロットよ」

「噂で聞いていましたが…まさか本当だったのですか!?」

「ええ、私やそこの晴明も同じくそうだもの」

「えっ」

 

 地上ではまた別の一団が動き出していた。彼らが見つめる先には陸上を疾走するネウロイの群れ。中型と小型で構成された一群である。林に挟まれた細い一本道を突き進む。

 

「来よった、来よった。うじゃうじゃおるわい…囲地にぞろぞろと入って来よった。よーし、今だ。やれ!」

 

 命令が下ると即座にネウロイの群れの前に石の壁が次々とせり上がる、針路上に置かれた札によるものだ。それに反応してネウロイは止まろうと減速を始めるが間に合わない。次々と壁にぶつかっていく。そして、その後ろのネウロイも連鎖的に接触。玉突き状態となり、中型ネウロイは次々擱座。小型ネウロイはその倒れ込んだ中型ネウロイに潰される物もあった。

 

「与一!仕掛けろ」

「承知」

 

 林の中から幾本もの矢が飛ぶ。矢には爆薬が括りつけられている。それが動きを止めたネウロイの群れに次々と突き刺さる。そして、炸裂。いくつかの小型ネウロイはそれを受けて行動不能に陥った。攻撃を受けたネウロイは周囲に制圧射撃を始めるが、相手の位置をまだ掴めていない。

 

「おお、やっぱり凄いな。この火薬ってやつは…よし、弓衆は移動。このまま相手に見つからないように」

 

 弓矢を持った平安武者の命令を受けて配下の兵たちが次々動く。その兵達には特異な点が一つあった。普通の人間より耳が長いのである。

 

「エルフは機敏だからこういう時便利」

「与一さん、どこから撃ちます?」

「よし、あの大きな木の向こうにしよう。第二射用意。それと、信さんに連絡」

 

 次の矢が飛ぶ。そしてその刹那、別の林から猛然と複数の戦車が飛び出す。それらの車種と国籍はやはりバラバラである。

 

「戦車隊前進!戦車乗りの真髄をこの世界の連中に見せつけて教育してやれ!目標正面、撃て!!」

「機銃手、かまわん!手当たり次第に撃ちまくれ!!」

 

 ティーガー、M4A3、T-34、コメット等の各種戦車が砲撃開始、中型ネウロイに砲弾を叩き込む。精強無比、幾多の修羅の巷を掻い潜った歴戦の戦車乗り達は動けない目標に容赦なく砲弾や銃弾を撃ち込む。

 

「大きいのはあらかた片付いたかのう…あの細かいのはおい達の獲物ぞ!構えぃ!走りながら撃つ!!島津豊久ぁ、推参!!!」

 

 猿叫が鳴り響き、鎧兜の一群が各々銃を撃ちまくりながら小型ネウロイに襲い掛かった。そして、その一群の指揮官は迷い無く間合いに飛び込むと、勢いよく刀を抜いて振り下ろす。まともに刀を受けた小型ネウロイはばっさりと両断された。

 

「ほほう、京の都の陰陽寺…?の坊さんのまじないはすごいのう…あんなに硬かった化け物がぬるりと切れる…よーし、兵子ども!今こそ功名時ぞ!!このまま斬り伏せぇ!!!」

「応っ!」

 

 その中でも身長が低く、ずっしりとした体つきの戦士たちは大斧を振るって小型ネウロイを叩く。それに負けじと島津十字の家紋を付けた指揮官たる武者も刀と小銃でネウロイを潰す。

 

「この銃もすんごいのう!!よう当たる!!!」

 

「なんておっかねえ随伴歩兵だ…あ、誤射すんなよ。あんなんでも味方だ」

「ひえー、サムライこえー」

「あんな斧でぶん殴るドワーフも大概だ…」

「ああ、スクラップが増える増える」

 

 戦車隊はその乱戦を軽く引きながら見ていた。いざとなれば戦車砲や重機関銃で直ちに援護するのである。そして、離れた高台からそれを見守る髭面の胡散臭い男が一人…織田信長である。彼は豊久一行の強行突撃を見て呆然とした顔である。そして、その周りで同じように異世界から流された魔導士オルミーヌ等の面々も頭を抱えている。隣に置かれた無線機からは薩摩武士とドワーフの叫び声がひたすら鳴り響く。

 

「ああああっ…もう、お豊は無茶苦茶しおる…」

「ノブさん、どうしましょう…」

「どうにもならん!それともあれか、なんとかミーヌ!お前があの“すとらいかあ”とかいうやつ履いて戦うか?」

「いい加減名前覚えろジジイ!というか無理です、私があれを使っても動かせません。使う術が別物過ぎます!」

「なんでえ、使えんのう」

「はー、そうですか。石壁出すのやめてもいいんですけど」

「あ、すんません。ほんとすんません…(しかし、未来は兵器も技術もやはりすげえな。これ揃えてもう一回やり直してみてえなあ…)」

「与一さーん!お豊さんの援護を!!すぐに!!!あーもう、この世界に飛ばされて凄い魔導士に弟子入りできてラッキーって思ったのに、なんでこんな目に!!」

「あー!じいちゃんがまたどっか行っちゃう!」

「うるせー!大人しくさせる為に木苺を与えておけー!!」

 

 司令部や現地部隊は皆混乱していた。突如現れた援軍、それはまだいい。だが、その航空機も車両も見た事のない国籍マークが描かれている。挙句の果てには鎧兜の武者である。理解が追い付かないのも無理はない。

 

「どう、増援は?部隊名は第50独立混成戦闘団…ドリフターズよ」

「ドリフターズ…漂流者ですか。まさにぴったりの名前ですな。しかし、サンジェルミ伯。よその世界から来た兵士たちが何故この世界の為に戦ってくれるのでしょうか?」

「ああ、国籍と身分と給料を保障するって言ったら喜んで力を貸してくれるって。それに彼らは今まで人間相手に戦争してきたの。それで化け物相手に戦って人助けできるなら…そんな調子で戦ってるわ」

「人間同士で戦争を…?」

「ええ、よそはこっちと違う苦労が色々あるのよ」

「兵士たちの事は分かりましたが、えーと…あのファンタジー感全開な連中と侍達はどこから…」

「んー…更に別の世界から…?多分。あれは晴明がどっかの森の中から拾ってきたからよく知らん」

「えぇ…」

「サンジェルミ伯!豊久殿が勝手に突っ込みました!!」

「なぁんですってぇ!!!」

 

 一方、戦場に程近い502の面々は空を見上げていた。その視線の先で繰り広げられていたのは多種多様な戦闘機とネウロイの空中戦である。

 

「あっ、あれ!直さんの紫電改!」

「本当だ!つまり、あれが例の異世界から飛ばされた連中の部隊か!」

「凄い性能…それにジェット機まで飛ばすなんて」

「おい、高高度になんか飛んでるぞ。飛行機雲を引いてる」

「あれは爆撃機?高度は1万m以上かしら…大尉が言っていたB-29?」

「まったく、連中も普通の戦闘機で無茶苦茶やるな」

「まさに命知らずというかなんというか…」

「あ、また落とした」

「弾と魔力と体力さえ残っていればボクも負けないんだけどなあ」

「無いものは無い、諦めろ」

 

 彼女たちはその空中戦を見物し、思い思いに感想を言い合っていた。空戦の様相は戦闘機隊が勢いで押し切るような形になり、ネウロイは次々と数を減らしていく。

ここまで彼らが善戦できた理由は対ネウロイ用に十月機関が準備した武器弾薬があったからこそであるが、対ネウロイ用として弾や刃に一つ一つに術や魔力を込めた清明の弟子達の苦労は恐らく語られないであろう。

 

 戦場から少し離れた洋上では一隻の艦艇が航行していた。その艦は空母飛龍…この世界の同名艦との混同を防ぐ為に「飛龍丸」と仮の名前が与えられ、艦種も特設通信支援艦とされた。しかし、それは仮の艦籍であり、修理の際に装備を色々と変更したものの実質は空母のままである。艦内では整備員や乗組員が忙しそうに駆け回って艦載機の発艦作業を進めている。ネウロイ追撃の為の攻撃隊である。

 そして、その甲板上では日本海軍の士官服を着た男性が一人、空を見上げながら呟いた。

 

「今回は勝ったかなあ」

 

 

 

「よし、勝った!」

「…ああ、見ていてヒヤヒヤものだったわ。あの人はどうしてこう無茶ばっかり」

「まあ、直さんですし」

 

 戦場上空のネウロイは全て撃墜、陸上のネウロイも撃破か撤退に追い込まれていた。502のウィッチ達はとりあえずトラックに乗って手近な野戦飛行場に移動中であった。そこで整備員達と合流するつもりなのだ。すると、頭上を戦闘機が飛び越していく。脚を降ろしている為、このまま目的地の滑走路に降りるのだろう。そして、トラックも滑走路脇にたどり着く。ウィッチ達はボロボロになって飛行不能なストライカーユニットを抱えながらトラックから降りる。すると、無線から久々に聞く声が鳴った。

 

「菅野一番、菅野一番。今から着陸する!」

「了解。見物させてもらうぜ」

「おー、チビじゃねえか。いたのか」

「うるせえ、502全員勢揃いだ。ヘマすんなよ!」

「うっせえ、そっちこそちゃんと見てろ!芸術的な着陸を見せてやる」

 

 そして、黄色い二本のストライプを付けた紫電改はするりと着陸した。主翼の銃身周りは発砲炎と硝煙で煤けている。かなりの数を撃ったのであろう。それだけであの空戦の凄まじさが見て取れる。飛行場の整備員達は見慣れぬ機体に困惑しつつも急いで駆け寄っていく。そして、機体が停止するとコクピットから直が勢いよく降りてきた。そして、502の面々も紫電改へと駆けていく。

 

「直さーん!」

「おお、雁渕!元気にしとったかー、えー」

「私やりました!ネウロイの巣に止めを刺したんですよ!!」

「ほー、すごいすごい」

「あ、ひどい。この人絶対嘘だと思ってる」

「本当ですよ」

 

 ひかりの戦果に疑問を抱く直に下原が笑いながら事実だと告げる。

 

「ああ、下原ちゃんが言うなら本当なんだな。雁渕、よくやった」

「あ、ありがとうございます」

 

 褒められたひかりが恥ずかしそうにしていると、ラル達もやってきた。

 

「まったく、こんなに早く再会するとは思わなかったぞ」

「まあ、おかげで助かりましたけど」

「全員ボロボロじゃないか。無茶すんなぁ」

「大尉には言われたくないなあ。あんなにネウロイに噛みついていたんだから」

「バカヤロウ、あれぐらい普通だコノヤロウ」

「まあ、お互い無事でよかった」

「ああ。さっきは4機落としてやったわ」

 

 そして、直枝が直に言った。

 

「ああそうだ。お前が出ていく時に置いて行った小説読んだけどなあ、読みごたえは確かにあったが…社会背景違いすぎてよく分からんぞ」

「あ?それぐらい想像力で補えバカヤロウ。貴様それでも読書家かぁ?」

「解説無しだと無理だって言ってんだろ!知らん単語や固有名詞なんてどうしろってんだ!…そうだ、今度はこっちの小説読ませて同じ気分にしてやる」

「ほーう、かかってこい」

 

 小説の感想でどうのこうのと論戦を始めるダブルカンノを見てサーシャとロスマンが頭を抱える。

 

「ああ、熱心な読書家っていうのも考え物ね…」

「仲がいいのか悪いのか…」

 

 こうして、戦闘は終結。オラーシャ北部に平穏が蘇ったのであった。

 

 この戦場跡の幾人かの大騒ぎは別として。

 




こうして第50独立混成戦闘団…ドリフターズの初陣は勝利で幕を閉じた。
第502統合戦闘航空団の大戦果と共に

という事で完結となります。
短編から勢いで連載を始めたものの、どうにかこうにか完結まで持ち込むことができました。これも読者の皆さまから頂いたたくさんの感想のおかげでございます。

ほぼ勢いで胴体着陸(機体全損レベル)したような最終話ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

という事でこれまでありがとうございました。またどこか別作品でお会いしましょう。


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おまけ
廃城の侍


愉快な侍三人のお話


 ここは関ケ原、一人の武者が這うように霧に包まれた道を進む。その体は全身傷だらけ、槍が貫通した深い傷もある。そんな満身創痍で幽鬼のような姿でも彼はなお進む。

 

「帰る…必ず、薩摩へ…」

 

 その武者の名は島津豊久、薩摩の大名である島津家の武将である。彼はこの関ヶ原の戦いにて敵中真っ只中から叔父である総大将を逃がす為、命懸けで敵の追撃を迎え撃った。そして、敵将に深手を負わせて退却に追い込むという活躍をしたものの、その引き換えに自身も深手を負ってしまったのである。そんな彼は朦朧としながらも進む。故郷である薩摩へ帰る為に。

 霧は更に濃くなっていく、周囲の様子すらよく掴めない。

 

 すると、当然霧が晴れてきた。だが、周囲の様子は一変していた。まず、先程までとは植生が様変わりしている。更に空気もどこか違う、戦場に漂う血や硝煙の臭いが一切無くなっている。

 

「妙だ…こりゃあ、ついにあの世か?」

 

 豊久の視界が歪む。合戦後と負傷による体力の限界もあったが、咄嗟の出来事で思わず張りつめていた気力も途切れてしまったのだ。もう指一本まともに動かない。そして、倒れ込むその間に、視界の隅にある建物が見えた。しかし、見た事の無い造りである。あれは城か?そう考えるも視界はそのまま暗転する。

 

「人だ…これは武者か…?」

「何事か、黒い化け物がまた空に出たか?」

「人です。しかも、武者にございます」

「武者だと…生きておるのか?」

「ええ、辛うじて…といったところですが」

「手当てしてやれ、運が良ければ助かるやもしれん。しかし、面白いのう…ここに来て三か月、やっと新たに見つけた人間がまた武者とは…」

 

 何者かの話し声が聞こえるが、豊久の意識はそこでついに途絶えた。

 

 

 

 草木が覆うガリアの片田舎、いくつかの廃屋が点在する集落跡を二人の女性が歩く。

エレオノール・ジョヴァンナ・ガション軍曹…エリーとグレイス・メイトランド・スチュワード少佐、二人はウィッチで構成された音楽隊であるルミナスウィッチーズに所属している。

 ここガリアはつい先日、第501統合戦闘航空団の活躍によってネウロイの制圧下から解放された。そして、この国が故郷であるエリーは軍の広報任務として部隊長であるグレイスと共にガリアを訪れたのである。そして、その任務の合間を縫って、エリーは陥落前に自分が住んでいた地域へとやってきたのだ。

 

「もしかして、この家に住んでいたの?」

「はい。実は一つ気になる事があって…昔、猫を飼っていて、疎開する時にその子を連れていけなかったんです」

「猫か…あの騒ぎの中じゃ厳しかったものね」

「ええ。あの頃はいつもその猫と一緒に遊んでいて…ああ、近くの廃城なんかでも遊んだりしていたなあ」

「え?お城があるの?」

「ええ。古い小さなお城です、近所の子達と秘密基地にしていたり」

「見てみたいなあ…」

 

 グレイスの目はキラキラ輝いたようにエリーへとその視線を向けていた。

 

「ほら、リベリオンってそういうの無いじゃない?ヨーロッパのお城とかってちょっと憧れちゃったりするのよねえ」

「あー、そのー…綺麗なお城ではないですよ?」

「ふーん、でもなあ」

「…行ってみます?」

「是非!」

 

 そんなグレイスの圧に負け、エリーは話に出た城へと歩き出す。獣道の様に細い道をしばらく歩くと、そこには古ぼけた石造りの城があった。二人はそのままその城へと進んでいく。

 

 

 

「人です、人の姿が見えます」

 

 城の物見塔から一人の武者が言う…その武者の名は那須与一、平安時代の武者である。その手は自然と自身の武器である弓を握る。しかし、階下からそれを止める声が響いた。

 

「いや、待て。そやつらは何者か?また武者か?」

 

 その声の主は織田信長、言わずと知れた戦国の世にて天下を取りかけた大武将である。そして、更に別の声が飛ぶ。

 

「で、やって来たのは誰ぞ。敵か?敵ならば首を獲るが」

 

 そんな物騒な事を言いながら刀を抜きかける男…島津豊久は窓から様子を探る。それに対して与一は声を抑えて言った。

 

「見えました、女子が二人。見た事の無い身なりです」

「女子が二人だけだと?どういう事だ…」

「つまらん、それじゃあ手柄にならん」

 

 向かってくる二人は女性だと聞くと、豊久は刀を抜く手を引っ込める。それに対して信長は一瞬考える素振りを見せると言う。

 

「いーや、待て。これは好機とも言える」

「はあ?どういう意味じゃ」

「俺が本能寺からここにすっ飛ばされて半年、この地でお前ら以外の人を見ていない。だが、周囲の建物には確かに人が住んでいた痕跡があった。つまり、何らかの理由でこの地を一時的に去っていた住民が戻ってきたのかもしれぬ…」

「なるほど。で…ここがどこだか聞くと」

「ああ」

 

 しかし、監視を続けていた与一の声色が変わる。

 

「どうでしょうかね、片方の動き…歩き方や身のこなしはどうも素人とは言い難い気がします。多少なりの稽古を受けた様子がある。ただの百姓のそれには見えない」

「何?では、密偵か?」

「道案内を連れた斥候…なんて事も」

「怪しいのなら…用心に越した事は無い。お豊、仕事だ」

「斬るか?」

「いーや、捕まえる。情報だ、とにかく情報を得るのだ…かかれ!」

「応よ」

 

 そして、三人は音もなく立ち上がると上の階へと急ぐ。待ち伏せる為である。

 

 

 

「おお、なかなか雰囲気あるじゃない」

 

 目を輝かせながらグレイスは城の中を見回す。しかし、エリーは首を傾げた。なんか当時と物の配置が色々変わっているような…城の中の様子を一目見てそう考えていたのだ。すると、突如異変が起きた。グレイスの背後に上から人が降ってきたのだ。

 

「え!?」

「何!?というか、誰!?」

 

 そして、グレイスの喉元に刀の刃が突き付けられる。戦地で扶桑のウィッチや士官達が持つ実物の刀を幾度も見た経験から、混乱しつつも彼女は確信する。

 

「た、隊長…後ろに侍が、侍が…」

「え、嘘…?これ、本物…」

 

 対抗する武器もない、絶体絶命の事態にグレイスの顔が青ざめた。

 

 

 

「貴様らは何者か?答えねば首を斬る」

 

 豊久は怪しげな女性に刀を突き付けながら言う。しかし…相手の話している言葉が全く理解できない。

 

「何言うちょるのか分からん…日本語ではなか。こりゃあ南蛮人か?」

 

 豊久はそう言うと、玄関に向けて言う。

 

「おい、第六天魔王!南蛮語は喋れんのか?俺にはさっぱり分からんぞ!!」

「馬鹿言え、俺だって分からんわ。そういうのはな、専門家の仕事なんだよ!」

 

 玄関の戸の向こうから火縄銃を構えた信長が現れる。その髭面の男性の姿を見たエリーは咄嗟に周囲を見回す。すると、薄暗い通路の奥にもう一人いる…鈍い光がギラリと輝く。あれは弓矢だ、こちらを狙っている。銃と矢で狙われている事に気付いたエリーの顔も青ざめる。グレイスが最早人質同然の状態で手が出せない、それ以前にストライカーユニットも武器もない。そして、どうしてこんな所に言葉の通じない時代錯誤なサムライがいて、自分達を脅しているのかという疑念にも襲われていた。

 

 矢を構えながら与一も部屋の中へと入ってきた。そして、信長に尋ねる。

 

「信さん、その南蛮人って?」

「ああ、異国…大陸のずっと奥深くから船に乗ってやってきた連中だ。日本にこの銃なんかを持ち込んだ」

「へえ、という事は…ここはその南蛮とやらで?」

「分からん、こんな服見た事も無いし、話もさっぱり通じん。正直、お手上げだ」

 

 すると、豊久が言う。

 

「この二人、俺の姿を見て侍と言っとったわ。つまり、日本の事は知っちょるかもしれん」

「ほう、どれどれ」

 

 それを聞いた信長は豊久に指をさし、青ざめた表情を浮かべる二人の女性に聞く。

 

「これ侍?分かる?侍」

「サムライ!サムライ!!」

「じゃあ、これは?これこれ」

「カタナ!カタナ!!」

「ふむ、確かに知識はある。じゃあ、あれは?」

「That's an arrow!」

「ふむ…分からん!さて、困った。言葉が通じんとどうしようもねえな」

 

 そして、信長は女性に刀を突き付ける豊久の姿を見ると気まずそうに口を開く。

 

「なあ、やっぱりこいつら間者とかじゃないんじゃね?武器も持ってないし、そもそも手ぶらだし」

「はあ?今更何を言うか。捕らえるように言うたのはお前ぞ」

「しかしだな…傍から見ると、やべー扱いされるのは間違いなく俺らの側だろ」

 

 信長がそう言うと、その場になんとも言えない微妙な空気が漂う。どうすんの、これ?という考えが武者三人の脳裏を駆け巡っていた。そのまま豊久と与一の視線が信長に向けられる。何とかしろよ、と念のこもったズシリと重たい視線で。

 そして、捕まえた二人も何か言っている。言っている意味は分からないが、その表情から何が言いたいのかはおおよそ分かる。場をなんとか収めたいのだろう。そんな一同の雰囲気に気づいた信長が頭を掻いて何か言おうとしたところで再び異変が起こる。

 

「なんじゃこりゃ!?」

 

 大量の紙が城の中に突如として吹き込んできたのだ。そして、その紙の群れは一点に集まる、まるで人が覆い隠れる事が出来るような大きさである。そして、その中から声が響く。

 

「刀を収められよ」

 

 その紙の山から二人の人影が現れ、場の面々は唖然と口を開く。しかし、与一は紙を見てある事に気が付く。

 人形の紙…これには見覚えがある。まじないや儀式等に使う紙、京の都の陰陽師なんかが使う類である、と心の内で考えた。つまり、この人物は…

 

「貴様ら…鬼か?物の怪か?」

 

 その人影を豊久は射るような瞳で睨みつける。どこからともなく突如として現れる…とても人間業ではない。よって、この人影を化け物の類と疑う事は自然であった。それに対して、二人の内の一人…男性がこう答える。

 

「私は安倍晴明(はるあきら)と申す」

「はるあきら…まさか、晴明?安倍晴明か!」

 

 その名を聞いた信長は驚いたように言う。

 

「はい、のちの世ではそう伝わっているそうで」

「そりゃあ凄い…それならあれも納得だ。あんたも飛ばされてきたのか?ここに」

「ええ、京の都で普段通りに過ごしていたある日、突然に」

「同じ立場の人間がいてよかったわい。で、ここがどこだか分かるか?」

「あなた方がいた時代よりも遥か後の時代とはある意味で言えます…しかし、事情が複雑。別の世と言えば通じましょうか…ここに日本は無い。扶桑という国が同じ位置に存在しています」

「扶桑…そいつは国の呼び方の問題ではないのか?」

「世の成り立ちからして別物と言えます。そして、ここでは当たり前のように術が存在している」

「術…今やったようなヤツか?」

「いえ、私が使う術とは別のものです。そして、それは魔法と呼ばれています」

 

 しかし、そこで豊久が口を挟む。

 

「よう分からん話じゃのう…で、誰だ、そいつ。信の知り合いか?」

「知らんのか?安倍晴明だよ、あの有名な」

「知らん、どこの誰ぞ」

「え、ほんとに知らんの?」

「知らん」

 

 すると、晴明は自己紹介を始める。

 

「私は安倍晴明と申します。京の都で陰陽師をしておりました」

「京…つまり都人か。で、京のおんみょう寺の坊主ちゅう訳か」

「…陰陽師です」

「おんみょうじ…寺ではないか。で、京の坊主はそんな妙な服を着ちょるのか。頭も丸めとらんし…奇抜じゃのう」

 

 豊久の発言に晴明は頭を抱える。

 

「これはこちらで仕立てた服です…」

「あー…そこの豊久は薩摩生まれで戦しかできない残念な子だから、気にしないで…」

 

 信長が晴明に頭を下げながら言う。

 

「服を仕立てたちゅう事は…近くに人は住んどるのか?」

「いえ、現在この国…ガリアに民は住んでおりません。皆、他国に逃げております」

「国から逃げた…?どういう事か?だが、そん前に…お前らは何しにここに来た」

 

 その豊久の問いに晴明は答えた。

 

「私はあなた方の様に異なる世界から飛ばされてきた人々を保護しているのです」

「そいは同情によるもんか?どうもしっくりこん」

「同情…まあ、それもありますが…実のところ他の目的もあります」

「ほう、やはりそうか」

 

 すると、晴明は視線を背後に向ける。そして、その視線の先には眼鏡をかけた女性が立っている…晴明と共に現れた人物だ。

 

「この後ろにいるのは我が弟子、オルミーヌ。彼女は更に別の世界からこの世界に飛ばされた人間です」

 

 それに信長が首を傾げながら口を開く。

 

「更に別とはどういう事だ?」

「全く似通った点が無いのです。国名、文化、言語、地理…あらゆる面で。そして、私の使う術とも、この世界に存在する術とも違う術の力を彼女は有している」

「つまり、何が言いたい?」

 

 それに対して与一が口を開く。

 

「力が欲しい、そういう事でしょう。目的は分からないけど」

「いえ、厳密には知識や技術を集めるという目的です。もしかすると、世界を自由に行き来する力もあるかもしれない…」

「なるほど。で、こちらにはあなたの様に術の類を使える人間はいませんが…どうするおつもりで?」

「衣食住は提供しましょう。その先はまあ後々考えるとして…で、そろそろそちらの女性達を解放してもいいのでは」

「…あっ!」

 

 その一言で三人はやっと武器を引っ込めた。二人の女性は力が抜けたようにへなへなと座り込む。そして、慌ててオルミーヌが介抱し始めるとそれを見た信長は晴明に問う。

 

「で、こいつらは何者だ?」

「ウィッチ、この世界で魔法という術を使える者です。そして、彼女達は軍人」

「軍人?これが?全く大した事がなかったが」

「それは当然でしょう。彼女達が戦う相手は人ではない、怪異やネウロイと呼ばれる化け物です」

「化け物?もしや、あの空に浮いていた真っ黒なやつか?」

 

 晴明は頷く。

 

「おそらくそうでしょう。ここガリアはつい先日までその化け物に土地を全て占領されていましたから」

「人が逃げたって話はそれか」

「ええ」

 

 そんな会話を続けていると、座り込んだグレイスが晴明に問う。

 

「リベリオン陸軍少佐グレイス・スチュワードです。その、あなた達は何者ですか…?」

「我々は十月機関の者です」

「じゅ…十月機関!?」

「少佐、彼らについてはこちらで対処致します。ただ、ここで見たものは他言無用でお願いします。いいですね?」

「わ、分かりました…」

 

 

 

 そうして、二人のウィッチは解放された。そのまま城から集落跡へととぼとぼ歩く。

 

「ひどい目にあった…」

「ごめんなさいね、私があんな事言い出さなければ…」

「隊長のせいじゃないですよ。それに二人とも無事だったから…ん?」

 

 すると、猫の鳴き声が響く。エリーはとっさに顔を上げた。視線の先には廃屋があり、そこにはエリーがかつて飼っていた猫の姿があった。ただ、そこにいたのは一匹だけではない。

 

「もしかして、あの猫がさっき言っていた子?」

「はい、そうです…色々あったけど、これで安心しました」

「どうする、連れていく?」

「いいえ、やめておきます。あの子にはここが一番でしょうから」

 

 彼女の猫には既に家族がいた。よって、その生活を壊してしまうのはよくないと考え、エリーは猫に別れを告げると静かにその場を立ち去るのであった。

 

 

 

 二人は車に乗って、地上部隊が展開する近くの町へと移動。そこで一先ず休憩をとる事にした。車から降りて手近な椅子に座る。すると、エリーはグレイスに質問を飛ばす。

 

「あの十月機関って何なんです?」

「大昔から魔法なんかを研究している組織よ。それで怪異とかネウロイとの戦いでも各国にかなり貢献しているの。だから私程度じゃ頭も上がらないわ」

「あー、だから素直に言う事聞いたんですね」

「そうよー、世の中面倒な事だらけなの。しかし、あの侍達って結局何だったのかしら…」

 

 すると、傍から声が飛んでくる。

 

「面白そうな話をしているじゃない、詳しく聞かせなさい。スチュワード少佐」

 

 グレイスとエリーがその声がした方へと振り向く。そこには一人のド派手な格好をした人物が立っていた。

 

「…えーと、どちら様でしょう?」

「あら、失礼しちゃう。スポンサーの顔も知らないだなんて…あたし、他の出資者より地味だったかしら」

 

 すると、エリーが仰天したように口を開く。

 

「サ…サンジェルミ伯!?隊長、サンジェルミ伯ですよ!ガリアの大貴族でたくさんの領地を持っている凄い大金持ちです!!」

「ガリア出身だけあってそっちはあたしの事知っているのね」

「えっ!?」

 

 エリーからその名前を聞いたグレイスの顔が青ざめて勢いよく頭を下げる。確かに聞き覚えのある名前だったからだ。

 

「失礼しました、サンジェルミ伯!お顔を拝見したのはこれが初めてでして、部隊がこうして各地で活動出来ているのも数多くのお力添えがあったおかげと…」

「まあいいわ。こっちもルミナスウィッチーズのレコードなんかの売り上げでがっぽがっぽよ。これからもよろしく頼むわ」

 

 そして、グレイスが恐る恐るサンジェルミ伯に質問する。

 

「しかし、サンジェルミ伯は何故こちらに…?まだ一般人は国外に疎開中のはずでは…」

「ネウロイがいなくなったから自分の領地を見に来ただけよ。悪い?」

「いいえ、何の問題もありません!」

「で、少佐。十月機関がどうしたって?」

「あー、それがその機密でして…」

「あら、面白い事言うわね。あたしに機密なんて無意味よ、無意味。あなた、あたしの立場知っているでしょ?」

「…あはは、そうですよね」

 

 冷や汗を流しながらグレイスは先程あった事を語る。そして、それを聞いたサンジェルミ伯はニヤリと笑う。

 

「ふーん、十月機関…面白い事をしているじゃない」

「ええと…サンジェルミ伯、どうする御積もりで?」

「決まっているじゃない、調べて見に行くわ。だってサムライよ、サムライ。面白そうじゃない」

「はあ」

「それに、気に入らないの。裏で連中がこそこそ動いているというのが」

 

 そうしてグレイスが猛烈なプレッシャーに押しつぶされていると、エリーが驚いたように声を上げる。突然、真っ黒な色をした大きな鳥が車の上に降りて来たのだ。

 

「大きい鳥…うわ、なんか怖い顔してる」

「え、何?鳥って…どこ?」

 

 グレイスにはその鳥の姿が見えていないらしい。エリーがポカンとした様子でその鳥を見ていると、サンジェルミ伯が口を開く。

 

「あら、あの鳥は誰の使い魔?」

「使い魔…?あ、そういう事か…いえ、私達のではないです」

「ふーん、じゃあ精霊ね。で、あの鳥はあなたに用事があるみたいだけど」

「へ?」

 

 その鳥はエリーへと視線を向けたままである。

 

「というか…サンジェルミ伯は使い魔や精霊の姿が見えるんですか?」

「そりゃあ、あたしぐらいになるとその程度は朝飯前よ。あなたの肩の上にいる猫も丸見え」

「はあ…」

 

 ウィッチ以外に使い魔や精霊の姿を見る事はまずできない。だけど、この人なら何が出来ても不思議じゃないか…そう考えつつ、エリーはその鳥へと近づいていく。この鳥がルミナスウィッチーズのあるメンバーに大きな影響を与える存在であるとは知らずに。

 




ルミナスウィッチーズが無事終了したのでおまけを投稿。
鹿児島弁はよく分からない…


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