どうも三國志のシーラカンスです (呉蘭も良い)
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幼年期 プロローグ

初めましてマイナー武将好きの作者です
かなり暇人向けの落書き的な作品になるかと思うのでどうぞご容赦下さい





遠くから人の声が聞こえる気がした。

そう感じると同時に深海から水面に上がる様な感覚で微睡みの中俺は目を覚ました。

まるで長い眠りから覚めた様な気分を感じた途端に強い頭痛と目眩、そして吐き気を感じた。

 

「…何が起こったんだよ。」

 

ついそうぼやいてしまい、今自分が何処にいるのかを確認しようと周りを見渡したらここが自分の家だとわかった。

みすぼらしい民家の一室。というか一室しかない民家。

あの扉もそこの箪笥そして今自分が横になってる布団も見覚えのあるものばかりのはずなのに、不思議と違和感を感じる。

 

とりあえず自分の身に何が起こったのかを思い出そうとしたらまた強い頭痛が起こり気を失いそうになる。

そして思い出したのは両親と山に登り山菜を取りに行く最中、雨が降り出しどんどん強くなっていく光景。

なんとか山から抜け出したは良いが最終的に少量の土砂に巻き込まれる記憶。

 

「助かったのか。」

 

ほっと一息ついて両親がいない事にきがついた。

…この家にいないという事は恐らく駄目だったのだろう。

深い悲しみに襲われるが不思議と取り乱したり、泣いたりしなかった。

 

…これはおかしい。

自分はまだ五歳だ、こんなに感情のコントロールは出来ない。

それに先程から思考が大人びている。

 

何故かと思う前にまたもや激しい頭痛がすると共に様々な知識がまるで情報の奔流と言わんばかりにおれの頭を駆け回る。

 

そして全て理解した。

 

成る程違和感を感じる訳だ。

冷静で居られる訳だ。

 

俺は自分自身の前世を思い出した。

それは記憶では無く知識だが、確かに思い出した。

そして、だからこそ、ここが何処で、今が何時なのかが良くわかった。

 

今現在の知識が教えてくれる俺の暮らしているこの大陸と呼ばれる場所はその国の名前を漢と言った。

そして現在の漢を治める皇帝は霊帝と言う。

 

その事から前世の知識が教えてくれるのは今が中国大陸の後漢の末期、所謂三國志の時代であるということ。

それはまだ良い。

いや、良くはないがまだどうにかなんとかなると思えた。

問題は俺の名前だ。

もし俺の知識が正しかったら、俺は三國志の生きる化石。

黄巾党から蜀の崩壊までを戦い続ける。

マイナー武将。

 

廖化 元倹(りょうか げんけん)

 

その人である。

 

あかん、これ人生詰んだんじゃね?

だって廖化だよ?三國志のシーラカンスだぜ?蜀の山○昌だよ?

前世の知識を思い出した俺の結論はこれからの人生に希望が持てないという事だった。

 

何故かと言うと、どうやら前世の俺はそこそこの歴史好きらしく三國志の知識もまぁ(横山三國志やゲームがメインだが)豊富といえる程に色々と知っている事が逆に俺に絶望を与えてくれた。

 

廖化 元倹(りょうか げんけん)

俺の名前であり、三國志にも出てくるその人は、黄巾党の頃にはすでに存在していたらしいが、表だって出てくるのはかの有名な関羽が荊州を治めてる頃だ。

その関羽が呂蒙・陸遜に負けて死ぬ戦いにおいて最前線で戦い、援軍を呼びに単騎で抜け出した事が幸いして死ぬ事は無かったが、結局援軍は来ず、その間に上司である関羽が死んでしまう事になる哀しい人。

その後に一将軍として、諸葛亮の指揮の元ちょくちょく名前が出てくる様になり、諸葛亮亡き後の蜀末期で最終的に大将軍になる。

その廖化の最大の功績と最大の失敗は、対曹魏におけるvs司馬懿戦だろう。

三國志における公式チートの一人諸葛亮が司馬懿を孔明の罠にかけてズタボロに破り司馬懿が逃走する。

その司馬懿を追いかけるのが廖化である。

単騎になった司馬懿は二股の別れ道で片方に己の冠を投げ捨て反対側に逃げる。

その後に来た廖化は冠を拾い、冠が落ちてた方向に追いかけるが、結局司馬懿を取り逃がす事になった。

この戦は蜀軍の大勝利で終了し、廖化は司馬懿の冠を手に入れた事からこの戦の第一功になる。

が、諸葛亮からは関羽だったら司馬懿本人を捕らえて来ただろうにと軽く失望される。

 

まぁ、ここまでは良い。

苦労人だが、物凄く大変かもしれないがここまでは俺次第でどうにかなるかもしれない。

(本当は関羽とか関わりたくないけど。)

 

それでも俺が絶望を感じる最大の原因は劉禅だ。

劉禅とは、蜀を築く三國志の英雄である劉備の子供だ。

廖化は劉備軍のほぼ初期から共に戦ってきた宿将で劉備等と苦労を共にしてようやく、蜀を築く事になる。

前世の知識が様々なエピソードを教えてくれるが、それは割合して本当に苦労して蜀を築くのだが、この劉禅のせいで蜀は滅びる。

蜀が滅びた後、魏軍に捕らえられた廖化は魏の都に送られる最中に年齢的問題もあったのだろうが、蜀が滅びた哀しみの中、牢の中で死ぬ。

 

はっきり言おう。

嫌過ぎる。

 

冗談じゃない、せっかく今回生き延びたのにそんな死に方ゴメンだ。

俺は床の上でゆっくり眠る様に死にたい。

というか、何故五歳なのに死に方の希望を考えないといけないんだ。

前世の知識のおかげで精神年齢が上昇してるせいもあるのだろうが、俺が廖化であるのがいけないんだ。

 

せめて、せめて趙雲だったら。趙雲だったら良かったのに。

スペック的にも。

廖化とか我ながら微妙スペックじゃねぇかよ。

 

最初は勿論、同性同名同字の可能性を考えたさ。

でも前世の知識がそれを否定した。

廖化は荊州の襄陽出身。

そして俺の住むこの邑は、荊州ですぐ近くに襄陽城があります。

 

そうだ、廖化は大将軍にも抜擢される武将だ武力もそこそこはあったはずだ。

確かゲームでは80近くあったはず。

と、思ったが俺は前世の知識を思い出す今日よりも前に小型とはいえ、普通に山で猪を素手で狩った事がある。

 

結論

俺の人生が難易度エクストリームな件

 

やべぇよ。

これ完全に詰んでるよ。

やっぱり劉備軍は鬼門なのかな?

蜀に属さない方が幸せなのだろうか?

 

普通に考えて俺が蜀に属さない、もしくは、他軍に属する事になったとして三國志の歴史は変わるか否か。

…まぁ悲しい事に何も変わらんだろうな。

細かい所は変わるかもしれないが、そもそも廖化が歴史のターニングポイントに関わる事は殆ど無いだろう。

 

つまり前世の知識がある俺が好き勝手した所で三國志は変わらないのではないか?

あれ?こう考えると自由度高いぞ?

蜀に属さなければ案外人生ノーマルモードじゃないかこれ?

別に何処かの軍に属す必要もないし、一人で生きていく武力も最低限の知識もある。

なにより前世の知識がある。

俺が歴史に対する影響力が低いなら、俺の行動によって変わる人の生死も大きくは変わらないだろう。

それなら罪悪感も感じずにすむ。

 

よし、俺は自由に生きる。

誰にも邪魔はさせない。

 




山○昌、日本プロ野球チームの中日竜軍の投手
彼もまた伝説の生きる化石です



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そうだ、襄陽に行こう

前世の知識を思い出して数日。

幸い土砂崩れに巻き込まれたにも関わらず俺に大きな怪我は無かったらしい。

すっかり元気になったのは良いが、ここ最近俺は邑で少し気まずい思いをしていた。

 

現在五歳である俺は、両親を亡くしたため自分の飯を近所の大人達から貰わなければならない状況にある。

無論最初のうちは家にあった物を食べていたが、この時代食料を一般人が大量に保存している訳も無く、ものの2日で消え去った。

 

邑の大人達は両親を亡くした俺に同情して良くしてくれているし、俺が泣きも喚きもせずに両親が死んだというこの現状を受け入れている事を心配してくれている。

物凄く人情味溢れるハートフルな邑だ。

 

まだ両親が死んだ事実を理解していないのではないか?だから、廖化はあんなに静かなんだ。と言う大人もいたし、悲しい時は泣いて良いんだぞ。と何やら俺を諭そうとしてくる大人もいた。

少しうざいが、まぁ俺は五歳だし仕方ない。

 

そんな俺の現状よりも問題なのが、この邑が貧困とまではいかなくとも、決して裕福ではない事だ。

 

そんな邑で飯だけを消費する子供一人を受け入れて貰うのは凄く罪悪感があって気まずいという訳だ。

 

大人達はそんな事気にするなと言ってくれるが、精神年齢が上昇した俺からして見ればやはり皆きつそうに見える。

俺が自分の分は自分で手に入れると山に行こうとしたら、死にかけておいて何言ってるんだ!と、しこたま怒られた。

それに今は俺が死にかけた土砂崩れの関係で山には入らない方が良いらしい。

 

俺の両親は狩人だったから普段山に行き獲物を狩ったり、山菜を摘んだりして邑に持ち帰りそれらを穀物と交換して普段の飯を手に入れていた。

 

つまり俺には邑の皆が働いて耕しているような畑が無い。

 

この現状を変えなければと思い、俺は大人達にある相談をする事にした。

 

「街に行こうと思います。」

 

俺がそう切り出すと大人達は皆神妙な顔をし、反対した。

まぁそうだわな、五歳の子供が急にそんな事を言い出したらそんな反応になるわな。

 

ちなみに俺の言う街とは、襄陽城の事だ。

あそこは交易の場で人が多く稼ぐ場所にも困らないだろう。

それにこの邑から片道約三刻(6時間)で到着する程近いので、何かがあったら直ぐに帰ってこれる。

 

俺がそう説得すると渋々了承してくれた。

まったく、都会に子供を送り出す親かよとツッコミたくなる程この大人達は俺を心配してくれた。

 

それが嬉しかったのは誰にも言うまい。

 

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相談から数日後、俺の家はそのままにして貰い、最低でも月に一度は帰る約束をして俺は着のみ着のまま邑を出た。

 

三刻(6時間)歩くのは流石にキツいか?と不安があったが、五歳とはいえそこは将来の武将スペック、まるで問題無く襄陽の門についた。

 

さてここからが、俺の人生最初の勝負所だろう。

今日ここで、住み込み可能の仕事を見つけられなければ俺は邑にとんぼ返りしなくてはならない。

まぁ、また行けば良いだけだが。

でもそんな事はしたくないので、真剣に仕事を探さなくてはならない。

そこで俺がこの襄陽に来るにあたって前もって考えていた案は書屋で働く事だ。

何故書屋かと言うと、襄陽が交易の場で大陸から様々な本が手にはいるという事と、仕事をして給金を貰いながら学べるからだ。

 

そもそも俺は将来どうするかをまだ決めていないが、此れからは学が必要になると思った。

前世の知識は有用だが、それだけではやって行けないだろうと予測したからなんだがな。

しかし邑に居たら当然だが、学ぶ事なんぞ出来ない。

その事もあって俺は襄陽に来る事を選んだ訳だ。

 

「と言う事で、どうぞ私を住み込みで雇って下さい!」

 

「…何がどういう訳で、と言う事なんだい?」

 

絶賛土下座中である。

この街で一番大きく繁栄している書屋を見つけた俺は中に居た店員らしき女性に日本人の誠意ある行動DO☆GE☆ZAをした。

いやまぁ日本人ではないし、古代中国人だけどもね。

 

俺に土下座をされている店員さんは短い黒髪が凛々しい非常に美しい若い女性なのだが、俺のせいで顔を引き攣らせていらっしゃる。

申し訳無いがこれも交渉術よ、誰かが土下座は暴力とか言っていたからな。

 

「はぁ、…とりあえず顔を上げてきちんと説明して貰えないかい?」

 

ため息を吐かれ、そう言われたので俺は正座のまま顔を上げこれまでの経緯を説明した。

両親が亡くなった事、邑の状況が厳しい事、武力こそ少しはあるが此れから先は学が必要になると思った事、その為に襄陽まで来た事。

 

俺がそれらを語ると女性はうんうんと頷きながら俺の話を聞いて憐れんだのか、涙目になりながら感情移入してくれたようだ。

これにはさすがの俺も心が痛んだ。

嘘は一切ついていないが、こんな同情を買うつもり無かったんだが。

 

「グスッ。…辛かっただろうね。うん君は正しいよ此れから先は、学問が大いに役立つ世になるだろうからね。…わかった君は僕が預かろう。ここで、働きながら学ぶといいよ。」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!…ですが、…あの、店主からの許可は必要ではないのでしょうか?」

 

凄く嬉しいのだが、この女性の一存でこんな話を決定しても良いのだろうか?

そう思い問い直してみると意外な一言が返ってきた。

 

「問題無いよ。私がその店主だからね。」

 

ファッ!?

えぇ!?女性店主!?

この時代にそんな事ありえんのか?

 

俺が戸惑っている事が面白いのか店主の女性がクスッと笑った。

その笑顔の美しい事。

 

守りたいこの笑顔。

 

と言うよりも俺は2度とこの女性の顔を歪ませてはならない。(戒め)

 

「さて、ではまず自己紹介からしようか。先に君の名前を僕に教えてくれるかい?」

 

「はい。私は姓を廖、名を化、字を元倹と申します」

 

俺は名前を聞かれ、なるべく丁寧に礼節ある人物に見えるように自己紹介した。

俺のそんな自己紹介に相手も佇まいを直し、まるで同格の人物を扱うように丁寧に返してくれた。

 

「よろしくお願いいたします廖元倹さん。改めまして、私は、姓を(よう)、名を(りょ)、字を威方(いほう)と申します」

 

きっとこの姿が正しい佇まいなのだろう。

それが俺の楊慮さんを見て思った感想だった。

 

しかし、楊慮と言うのか。

どっかで聞いた事がある気が?

いやだが、三國志関連ならそうとうどマイナーでもないかぎりわかりそうなものだが。

…楊、…楊?うーん。俺の知ってる楊は魏の鶏肋こと楊修と蜀の性格の悪い有能文官の楊儀しかしらないしなぁ

まぁ、そもそも楊慮さんは女性だから関係無いか。

でも女性に字ってあったっけ?

あれれー?何かおかしいぞー?

  

「では廖化君、まずは僕と君の関係性をはっきりさせておこうか。」

 

俺が少し思い悩んでいると楊慮さんがそう言ったので、俺は思考を止めてはっきり答えさせて貰った。

 

「はい!弟子と師匠、店員と店主ですね!」

 

何故か楊慮さんは苦笑いしている。

解せぬ。

 

「うん。違うね。正確にはそれも間違っていないけど、今日から僕と君は同じ家に住み、同じご飯を食べて、同じ職場で働き、同じ勉強をする。…これがどういう事かわかるだろ?」

 

…それは!?…つまり!?夫婦って事ですか!?そんなやだ、楊慮さんったら、私達まだ出会ったばかりなのに、…いやらしい人。…でも嫌いじゃないわ。(ポッ)

 

とまぁ冗談は置いて、しかしその答えを俺から言っていいのだろうか?

これを言ったら最後、俺は楊慮さんにかなり負担を強いる事になる。

とてもじゃないが、自分からは言い出せないと思い俺は自身の眉間にしわが寄っている事を感じた。

 

「…ふぅ。自分からは言い辛いみたいだから、僕が言ってあげるね。」

 

楊慮さんはそう言って句切り、目を瞑り何かしらの覚悟を決めているようだった。

この先を言わせて良いのだろうか?

悩みに悩んだが結局俺は何も言いだせず、楊慮さんが続きを口にした。

 

「…廖化君、今日から僕は君の教師になり、雇い主になり、姉になり、親になる。…僕と君は今日から家族になるんだよ。」

 

そう言ってくれた楊慮さんの顔は慈愛に満ち溢れている。

 

その答えは理解していた、理解していたが、…でも、…でも…。

 

思えば俺は事故から目覚めたあの日から、一度も泣いていなかった。

両親を亡くした哀しみは大きかったが、それ以上に前世の知識を得た事の衝撃がそれを上回りこれからの事を考えて悲しんでいる暇が無かった。

 

今、楊慮さんから与えられた暖かな優しさが両親のそれを思いださせるし、だからなのだろうが、両親を亡くした冷たい哀しさも一気に押し寄せて来て、俺の精神をぐちゃぐちゃに掻き回した。

 

…もう一度だけで良い。父さんと母さんに会いたい。

 

_____

____

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混乱している精神から気がつけば、俺は泣き声こそあげていなかったが、顔が涙だらけで視界がはっきりしない中、楊慮さん、いやもう違う、姉さんに優しく抱きしめられていた。

 

嬉しいのだが、恥ずかし過ぎて死にたい。

 

「ふふっ。最初会った時は随分と大人びている子供だと思ったものだけど、存外可愛い所もあるじゃないか。」

 

そんな俺をよそにこの姉、実に良い笑顔である。

…タイムリープマシンはどこですか?

世界線の変更を希望します。

くそぅ、これ絶対俺の顔真っ赤だろ、顔が暑すぎる。

 




オリキャラ1号のこの楊慮さんは実際に存在した史実の人物です


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三國志ですか?いいえ恋姫です

真名とは、親から個人に与えられた特別な名前である。

それこそ神聖視されていて、本人の許可なく呼んでしまえば殺されても文句を言えない程大切な自分自身を表す名前である。

 

何故今更そんな説明をするかと言うと、

 

「それじゃあ、今日から家族になることだし真名も交換しようか!」

 

姉さんに言われるまでその存在をすっかり忘れていました。

 

いやだって、仕方ないんだよ?

俺最近大きな事故に巻き込まれて大変だったし!

俺は未だに両親以外に俺の真名を呼ばれた事ないし!

俺自身も他人の真名を呼んだ事ないし!

五歳の子供が他人と真名なんて交換しないし!

それに何より、俺の前世の知識に真名なんて存在しないし!

 

一体真名って何だよ。(哲学)

 

いやでも冗談抜きに真名に関してはもの凄く何かのズレを感じる。

今まで、前世の知識を思い出す前までは何も違和感なんて感じずに当たり前のものとして受け入れていたが、良く考えてみたらこれはおかしい。

 

そもそもこの時代の人の名前は、自分の姓名、名前、そして自分でつけるもう一つの名前として字がある。

そこにさらに真名って。

姓名以外に個人を表す名前が3つもあるんですけど?

 

それにやはり一番おかしいのは、俺の今の知識が真名を知ってるのに、前世の知識がそれを知らない事だ。

 

はっきり言って、五歳の子供の知識量なんざたかが知れてる。

なんせそれまでの俺の世界はあの狭い邑の中で完結していたからな。

俺の今住んでるこの荊州のトップが、三國志である程度有名な劉表である事すら知らずに前世の知識にそれを教えて貰ったくらいだ。

にも関わらず真名については、当然の如く認知している。

 

三國志はそこそこ知ってる俺が大切な真名の存在を知らないってどう考えても異常だろ。

それとも俺の知識が変な方向に片寄ってるのか?

 

「おーい。難しい顔してどうしたんだい?…はっ!まさか真名の存在をご両親から教えて貰う前にご両親を亡くして、真名の意味を知らないとか?そして自分の真名がわからないなんて事があったら、…僕は、何て酷い事を…。」

 

なんか凄い勘違いされてる。

今は一旦真名の事は置いて、会話に集中しなくては。

 

「いえ、真名の事は当然知ってますし、自分の真名もちゃんとありますから。」

 

「ほっ、そうかい。それは良かった。それはそうとして、いい加減敬語使うのは止めないかい?これから家族になるんだしさ。」

 

「そう、ですね。…うん。わかった。俺は少し言葉使い悪いかもだけど、そこは勘弁してな。」

 

「ははっ、それが素かい?さっきよりもぜんぜん自然じゃないか。」

 

「そうかな?」

 

おかしいな、かなり礼儀正しく接していたはずなのに。

 

「自覚が無い様だから教えてあげるけど、君はまだ五・六歳って所だろう?そんな子供がさっきみたいな話し方してたら大分違和感あるよ?」

 

…どうやらおかしいのは俺の頭でした。

何か黒歴史が増産されて行くなー。

 

「じゃあ、改めて真名を交換しようか?今度は僕の方から言うよ。僕の真名は(ラオ)、この真名君に預けるよ。」

 

おお、預かってしまった。

そしてこれから俺も預けるのか。

真名を預かるのも預けるのも初めての体験だから少し緊張するな。

…初体験ってちょっとエッチだな。

 

いやこんな時にアホな事考えるのは止めよう。

 

「確かに預かった。俺は蒼夜(ソウエ)、これからよろしくな。…撈姉さん。」

 

やっぱまだ恥ずかしいな。

っておい、姉さんって呼んだせいで凄いニヤニヤしてやがる。

 

「へぇ、蒼夜って言うんだ。凄く綺麗な真名じゃないか。」

 

「まぁね。自分でもそう思うよ。一応両親が亡くなる前に真名の由来を聞いた事あるんだ。…何でも、俺が生まれたのはある夏の夜だったらしいんだけど、その日は星が凄く光って綺麗で夜空が蒼く見えたんだってさ。それが由来らしい。」

 

正確な日付はわからないけど多分天の川かとかが綺麗に見えてた時だったんだろうな。

俺の両親なのに良いセンスだ。

 

「そうなんだ?本当に綺麗な真名だし良い由来だなぁ。…僕は自分の真名の由来とか知らないな。今度両親に会ったら聞いてみよう。」

 

撈も別に悪かないと思うがなぁ。

それよりも、

 

「今更だけど、家族と別居か何かしてんの?俺が一緒に住んで大丈夫か?」

 

姉さんは見た目的に十七・八に見える。

この時代はおおよそ十五歳では成人と言われる世の中だからそこは問題無いけど、この位の歳の女性が独り暮らししているとしたら相当レアじゃないかな?

 

「あぁ、まぁ少し訳があってさ長くなるから理由はまた今度話すけど、今は独り暮らししているから何も心配しないで僕の所に来なよ。」

 

やっぱそうなんだ。

この歳で自立して街で一番大きな書屋の店主って、相当実家が金持ちのはずだから、もしかしなくても姉さんは良い所のご令嬢か何かかな?

 

「ご家族にも一応挨拶に行った方がいいかな?」

 

「いや、いいよ。僕の家は少々口煩い所があってねぇ。君をつれて行ったら何を言われるかわかったもんじゃないよ。特に妹は癇癪持ちでね、君が嫌な思いをするだけだよ。」

 

へぇ、妹居るんだ。

しかし姉さんはこんなに良い人なのにその妹はヒス女とかバランス悪いな。

 

「楊儀って言うんだけどね?まぁ会う事は無いと思うけど、同じ襄陽郡に住んでるから気をつけておきな?」

 

………?

パードゥン?

 

「…その、楊儀?さん?字とかある?」

 

「うん?威公だけど?もしかして知ってるのかい?」

 

知りたくねーよ。

 

「いや、うん、知らない。一応、念のため聞いておこうと思って。」

 

「そう?」

 

「あー、あ、そう、念のため、念のために聞くけど、今の荊州牧って劉表様だよね?」

 

「唐突にどうしたんだい?というより一体何の念を入れてるのさ。…まぁ、劉表様で当たってるよ。」

 

「…劉表様って女性、だよね?」

 

「そうだけど?それがどうかしたのかい?」

 

「ナンデモナイデス。」

 

幻術か?幻術なのか?いや、幻術、やはり幻術。

 

一体何がどういう事だってばよ?

 

男だと思ってた人物が実は女だったでござる。

あるあr、…ねーよ。

 

おいマジかよ。

もしかしなくてもこれが違和感の正体か。

どうりでズレを感じるはずだ、真名の知識を知らないはずだ。

 

ここは、三國志に限り無く近い別世界じゃねーか!

 

あれ?って事はだ、もうタイムパラドックスとか気にしなくて良いし(元から大して気にしていない)俺が廖化だからといって悲惨な最期になるのを気にしなくても大丈夫なのか?

 

いや、油断は禁物、とりあえず蜀に属すのは止めとこう。

 

というか、劉表が女って駄目じゃないか?

いや、楊儀が女なのは百歩譲って良いとしよう。

そもそも古代中国にも姫武将とか居たらしいし、日本も戦国時代は女武将が居たからな。

楊儀が女文官だった可能性は微粒子レベルで存在する事は認めよう。

 

でも劉表、お前は駄目だ。

確か劉備が曹操から逃げて劉表を頼る事になった理由は、諸葛亮が劉表と遠い縁戚関係にあったからじゃなかったか?

そう、諸葛亮の奥さんの月英が劉表の奥さんの蔡夫人の姪だったはずだ。

 

その縁戚関係が無いのに、もし劉備が急に仲間を連れてやって来たらそんなもんただの糞野郎じゃねぇか。

いや、劉備も女の可能性を考えたらただ飯喰らいの糞ビッチか。

 

どちらにしろ三國志ズタボロじゃねぇか。

 

もはや赤壁とかどうなんのかな?

曹操は確か呉に居る美人姉妹の大橋と小橋を手に入れたる的な事を詩にするらしいし、それ聞いた周瑜が戦争の反対派から賛成派に変わって呉は戦う事を決めるんだよな。

 

それの女性版か。

 

そーそー『呉に大橋と小橋とか言うイケメンが居るらしいじゃん?私それ欲しーから戦争しちゃうぞ。』

 

しゅーゆ『私の夫を渡すもんですか!断固戦う!』

 

…oh

三國志はいつから昼ドラになったのだろう?

 

深く考えるのは止めよう。

この世界は三國志じゃない。いいね?

この結論だけ覚えておこう。

 

「ちょっと、蒼夜?さっきから顔が真っ青だけど大丈夫かい?」

 

おっと、いかんいかん。

姉さんを心配させる様な駄目な弟になるつもりはないんだ。

もうさっきの事は忘れてこれからの生活を楽しみにしよう。

 

「あぁ、ごめん。少しお腹がすいただけだから。」

 

「あぁ、そうか。もう大分遅い時間になったからね。君が来たのが昼間くらいだから、かれこれ三刻半(7時間)近くは経ってるか。」

 

良かった、普通に誤魔化せた。

いくら姉さんとはいえ、前世の知識があるとか頭のおかしい事を話せないしな。

 

「それじゃあ、今日はもう帰ろうか。僕達の家に。」

 

そう言って姉さんは微笑んだ。

これから、俺の新しい生活が始まるんだ。

 

そう、俺達の冒険はこれからだ!(未完)

 




作中にも出ましたが、この作品は三國志ではなくあくまでも恋姫です
女の子がキャッキャウフフな恋姫です
大事なことなので2回言いました


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光陰キンクリの如し

タイトル通りこれから先は青年になってからの三國志の始まりまでは多くをキンクリします

そのため廖化の心情である地の文を少なめにし、会話で話し進めます


それからの日々は慌ただしくも平和で楽しい日常だった。

 

 

 

_____

____

___

 

 

 

-蒼夜 五歳 当日-

 

「よーし!まずはお店を閉めてどこかに食べに行こうか!今日は歓迎会として奮発しよう!」

 

「そりゃ有難い。ってか大分今更だけど、昼間からずっと話し込んだけど店は大丈夫だったのか?」

 

「問題無いよ。他に雇っている店員さんも居るからね。」

 

「ほーん。つまり俺の先輩か。明日きちんと挨拶しとこ。」

 

「よし、店仕舞い終了と。…これから食べに行くとして、蒼夜は何が食べたい?」

 

「旨けりゃ何でも。」

 

「うーん。困る反応だなぁ。よし、いっその事やっぱり僕が作ろう!贅沢な食材使って美味しい料理を振る舞うよ!」

 

「へぇ、料理得意なんだ?まぁ独り暮らしだから当然か。…今回は俺も手伝うよ。得意って程じゃないけど、料理は少し出来るし、家族だからな、一緒にやろう。」

 

「ふふ、良いね。俄然やる気が出てくるよ。」

 

 

_____

 

 

「さぁ、ようこそ我が家へ!君の部屋には後で案内するから、まずは厨房に行こうか。」

 

「いや、これ家ってより、屋敷じゃね?結構広くて落ち着かないんだけど。」

 

「そうかい?応接間と個室三つに客室1つ。そこまで広くないと思うけど。」

 

これだからボンボンは。

 

「まぁいいさ。どうせ直ぐに慣れるよ。」

 

「そうだと良いな。…まぁ、まずは料理からだな。」

 

 

_____

 

 

 

「なぁ、それ塩多すぎない?」

 

「ちょっ!焦げてる!焦げてる!」

 

「おい!隠し切れない隠し味は止めろ!」

 

 

_____

 

 

「…姉さん、正座。」←真顔

 

「え?ちょっ「正座」待っ「せ・い・ざ!」…はい。」

 

「これより被告に罪状を言い渡す。被告は今回、様々な料理作りに失敗し、大量の食材を失い、食材を冒涜しました。反論はありますか?」

 

「…ありません。」

 

「よって、被告には今後一切、厨房に入る事を禁止します。」

 

「さすがに横暴じゃないかい!?」

 

「ほう?横暴と。…では、今日の歓迎会の料理を用意したのは?」

 

「…蒼夜君です。」

 

「では、その料理を少ない食材で用意したのは?」

 

「…蒼夜君です。」

 

「では最後にそもそも食材を少なくしたのは?」

 

「…僕です。」

 

「反論は?」

 

「…ありません。」

 

俺がしっかりしなきゃ。(使命感)

 

 

-翌日-

 

「…何で君は文字も読み書き出来ないのに、四則演算は出来るんだい?」

 

前世の知識のおかげです。

 

「まぁ、あれだ、邑に居たら多少はね?食糧の交換の時とかはそういう計算もするから。」

 

「いやその理屈はおかしい。…はぁ。まずは文字を覚える事からだね。今のままじゃ勉強どころか、お店の仕事も雑用以外任せられないよ。」

 

「…急いで覚えます。」

 

 

-その翌日-

 

「ところで蒼夜、君は少し武力もあるんだろう?だったら勉学と平行して身体も鍛えておいたらどうだい?」

 

「まぁ、一応毎日体操はしてるよ。」

 

子供の頃に筋肉をつけたら身長が伸びないらしいから筋トレはしないけど、今は毎日念入りに柔軟体操しています。

 

「あぁ、あの変な動きか。あんなのじゃなくて、ちゃんと鍛えなよ。とりあえずは文武両道を目指すと良いよ。」

 

「変な動きって、あれはあれで大切なんだけどなぁ。まぁいいや、とりあえず鍛えるんなら山だな。」

 

「え?」

 

「え?」

 

………。

 

「…まぁ、僕は武力なんてないからそちらに関しては門外漢だからねぇ。君に任せるけど、あまり危険な事はしないでくれよ?」

 

「問題無いよ。これでも小さい頃から両親と山には入っていたからな。」

 

(…五歳の子供が小さい頃って一体…。)

 

急な勾配に、足元の安定しない悪路。

猪や熊が出る可能性があるサバイバル。

 

下手な筋トレよりよっぽど全身を鍛えあげられるからな。

それに野草や薬草も集められる。

やっぱ山は最高だぜ!

 

「一応三日に一回は午後から暇をあげるから、好きに身体を鍛えてくれ。ちなみに今日からね。」

 

「唐突すぎませんかねぇ?…じゃあ折角だから山に行ってくる。籠と短刀貸して。」

 

「短刀も持って行くのかい?本当に危険な事は止めてくれよ?」

 

「だから大丈夫だって。野草とか取ってくるから夕御飯は期待しといてよ。」

 

 

_____

 

 

「ただいま。」

 

「おぉ、おか…!?えっ!?ちょっ!?何それ!?」

 

「ん?あぁ、野草と薬草。後は、猪。」

 

「それは見たらわかるよ!?そうじゃなくて!その真っ赤な血!」

 

「あぁ、これ?猪を血抜きする時に少しついちゃってさ。今日は運が良いよ。俺でも倒せる小型の猪が出たからな。」

 

「…ソウデスカ。」

 

 

-一ヶ月後-

 

「うし、…姉さん。もう文字は覚えた。」

 

「本当かい?なかなか早かったじゃないか。疑う訳じゃないけど、一応試験させて貰っていいかい?」

 

「任せろ。」

 

 

_____

 

 

「うん。これなら問題無いね。さっそく明日からお店で働いて貰おうか。」

 

「ようやくか。これでただ飯喰らい兼自宅警備員とはおさらばだな。」

 

「いや、君はしっかり家事をしていたし、時折山から食材を取って来てたじゃないか?それに自宅警備員って、たまに変わってる面白い表現するよね君。」

 

前世の知識です。

 

「それよりも、これからはちゃんと勉強が開始される訳だけど、君の学びたい分野は何だい?…一応これでも僕はそこそこ優秀だからね、政治、経済、政略、戦略、戦術、思想、まぁそれ以外も、何でもござれだよ。」

 

とんでもなく優秀じゃねぇか。

何でこの人三國志的に有名人じゃないんだろ?

 

「…うーん。俺はどの分野を学ぶか決めてなかったから少し困るが、強いて言うなら…。」

 

「言うなら?」

 

「全部。」

 

「…えっ?」

 

「とりあえずは全部。」

 

「…わかった。そこまで言うなら僕の全知を君に叩きこむ。覚悟してくれ。」

 

えっ?

浅く広く的な意味だったんだけど。

何かいけない扉を開いたかもしれない。

 

 

-半年後-

 

カリカリカリカリカリ

 

「蒼夜も竹簡に書き込むのが大分速くなったねぇ。」

 

「…まぁな。鬼の扱きがあるからな。」カリカリ

 

「ほほう?誰の事だい?」

 

「鏡見ろよ。そこに写ってるぞ。」カリカリ

 

「残念だけど、可愛い顔しか写らないね。」

 

「はんっ。だったらお相手でも連れて来い。」カリカリ

 

「…一応これでもモテるんだから。」

 

「…俺のせいで結婚出来ないんだったら、俺は直ぐにでも出ていく覚悟はあるからな。」ピタッ

 

「…そう言うのは冗談でも止めてくれ。本当にそんなんじゃないから。蒼夜はここに居てくれ。ここが君の家なんだから」

 

「…はぁ。だったらマジで相手を連れて来い。俺のせいじゃないかと不安なんだよ。」

 

「そこは、ほら、僕も理想とかあるし?何か見合う人がいないんだよね。」

 

「おいっ。あんた十七だろ。十七って言ったら十分結婚適齢期じゃねぇか。急げとは言わんが、探しはしろ。」

 

どこぞの女教師みたいにファース○ブリットとか撃つ様になったら俺が困るぞ。

 

「いや、本当、親にもそれ言われてるから勘弁して。」

 

(五歳の子供に結婚の心配されて説教される僕って…。)

 

「頼むから、俺が成人するまでには結婚してくれよ。」

 

「…ガンバリマス。」

 

本当に何でこの人が結婚出来ないんだろ?

俺がどうにかしなきゃ。(使命感)

 




これから一気に話の時間を進めたいです

更新に関しては、最低でも2・3日に一回は更新したいです


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やせい の しばき が あらわれた!

-一年後 蒼夜 六歳-

 

「蒼夜、来月に羅馬から商隊が来るから大きな市を開くって話聞いたかい?」

 

「そうなの?初めて聞いた。」

 

「うん。だから街の外からもたくさん人が集まるだろうってさ。…そこで僕達も外からの人向けに竹簡を出店しようと思うけど、どうだろう?」

 

「?何で?ここに大きな書店があるじゃん?」

 

「そうだろうね。君はわからないだろうね。」

 

「…何が。」

 

「蒼夜、君はこの一年どれだけ写本してきた?」

 

「…えーと、孫子、孔子、老子、韓非子、あー、…まぁ有名所は大体全部。」

 

「自分でもどれだけやってきたか把握してないじゃないか。」

 

あんたがやれって言ったんだろうが。

 

「いいかい?全部だよ。書屋にある物も含めて僕の持つ全部の書物を君は写本したんだよ。それも同じ本なのに、違う学者の解説付きも含めてね。」

 

「努力の成果だな。」

 

「いやまぁ、僕がやれって言ったからね、それは良いんだ。むしろ良くやったと誉めるよ。けどね、この前久々に空き部屋を覗いてみたらそこが物置どころか書庫になっていたんだよ。…あれをどうにかしないと。」

 

「…だからって売るのかよ。俺の努力の結晶をっ!」

 

「いや、売りにくくなる事言うの止めてくれない?大体、今も写本してるんだろう?」

 

「あぁ、今はまた孫子を写本してる。もうこれ何周したかわかんねぇよ。解釈の数が多すぎて何回も別の本の同じ文章読んだわ。今では目を瞑っても書けるぞ。」

 

「いやいや、目を瞑っても言えるじゃなくて目を瞑っても書けるとか、…君は恐ろしい事言うね。」

 

だからお前がやれと…。

 

「まぁ、そう言う訳だから、来月は君の写本全部安くで売るからね?」

 

まぁ仕方ないか。

別にまた写本すれば良いしな。

 

 

-一ヶ月後-

 

「おぉ、凄い。人がゴミのようだ。」

 

「ちょっと、恐い事言うの止めなよ。」

 

一度は言ってみたいセリフだったからなぁ。

 

「それより、この竹簡の山を売ったら僕達もこの市を見て回ろうよ。」

 

「それは今から楽しみだわ。さっさと処分しようぜこれ。」

 

「いや、処分って、君の努力の結晶じゃなかったのかい?まったく。」

 

よーし、作戦はガンガン売ろうぜ!

 

 

_____

 

 

とは言え、流石に全然売れないな。

まぁこの時代は識字率微妙だからなぁ。

珍しい書物の写本は割と早くに売れたけど、有名所は有名なだけあって持ってる奴も多いんだろうなぁ。

 

ここらでガツンと大量購入者がこないと今日は見て回れないかもなぁ。

 

まぁ仕方ないか、この市は一週間やるみたいだから別の日に見て回ろう。

 

「あれ?水鏡先生?」

 

ん?

 

「あら、撈じゃない。久しぶりね。」

 

なんだこの美熟女、姉さんの知り合いか?

ってか今水鏡先生って言った?

…まさかな。

 

「お久し振りです先生。今日はお一人で市を見に?」

 

「えぇ。羅馬からの物品は珍しいから。出来れば外国の書物も欲しくてね。」

 

「え?先生は羅馬文字も読めるのですか?」

 

「違うわよ。二年前に辞書を手に入れてね?それを使って解読するの。」

 

「なるほど、相変わらず勤勉でいらっしゃる。」

 

「ふふっ、ただ書物が好きなだけよ。」

 

凄い親しげだが、俺が空気過ぎて困る。

 

「撈も今日は出店してるのね。この竹簡の山がそうかしら?随分と値段が安いようだけど、お店の売れ残りかしら?」

 

「あぁ、いえ、これは僕の弟子で新しく家族にもなったこちらの廖化が写本した物です。蒼夜、自己紹介して。」

 

ようやく出番か、おら待ちくたびれちまったぞ。

 

「ご紹介に預かりました。私は姓を廖、名を化、字を元倹と申します。現在は楊威方様を我が師、我が姉と仰ぎ、共に暮らし学ばせて貰っている所です。」

 

ふはっ!どうよこの礼儀正しい完璧な自己紹介は!

 

「あら、ご丁寧に有り難う御座います。私は司馬徽(しばき)。周りからは水鏡(すいきょう)と呼ばれてるわ。よろしくね廖化君。」

 

普通にあしらわれてしまった。

っていうか、やっぱり司馬徽かよ!

うおぃ、三國志の大物に初めて会ったぜ。

 

「…はぁ。何で君はこんなに堅苦しい挨拶するかなぁ?」

 

仕方ないだろ。この時代礼儀知らずは簡単にぶっ殺されるんだぞ。

 

「それにしても、この竹簡の山は全部廖化君が?…凄い量ね。」

 

(それに凄く丁寧ね。これだけで彼の才能がわかるわ)

 

「えぇ、我が師の指導の賜物です。」

 

お陰で地獄を見たがなぁ!

 

「…これなら。…撈、この竹簡全部譲ってくれないかしら?勿論お金は出すわ。」

 

おっふ。マジか。ドカンと大量購入来ましたぁー!

 

「僕は別に構わないんですが、…その、良いのですか?」

 

「えぇ。この竹簡なら授業で使えるわ」

 

おっとー、授業と来ましたか。

って事は水鏡塾はもう有るって事だよな?

もう既に諸葛亮やら鳳統は居るのか?

それとなく探ってみるか。

 

「あの、司馬徽様は我が師からも先生と呼ばれておりましたし、今授業と仰いましたが、塾か何かを開いていらっしゃるのですか?」

 

「えぇ。水鏡女学院と言ってね、将来有望な子に私が一対一で教えてるの。丁寧に教えている分、人数は少ないけどね」

 

ん?女学院?

…女子専門かよ。

って事は少なくとも諸葛亮や鳳統も女子なのか。

 

「もしや、我が師は司馬徽様の教え子なのですか?」

 

「いや、僕は違うよ?何度か師事した事は有るけど、指で数えられる程度だからね。それに、水鏡先生の塾の卒業生は先生から帽子や羽扇を貰えるからね。」

 

「あら、もしかして撈も欲しかったのかしら?ふふっ。今からでも入学は遅くないわよ?と言っても、もう私から撈に教えられる事は無いでしょうけど。」

 

おおっ。あの司馬徽にそこまで誉められるとは、やはり姉さんは相当優秀らしいな。

 

「からかわないで下さいよ。『人生全ての時間を使っても学ぶに足りない。故に常に学べ』って先生が仰ったじゃありませんか。…まぁ、それでも今は僕も教師をしてるので先生の提案は飲めませんけど。」

 

「それは残念。撈なら私の後継者として、良い教師になると思ったのだけど。…廖化君が女の子なら一緒に女学院にも入れられたのにねぇ。」

 

おっ、チャンス!

 

「私は司馬徽様の塾に入るに足るのですか?」

 

「えぇ。かなり将来有望と言えるわ。」

 

何故か俺の評価が高いなぁ。

まぁいいや、嬉しいし。

 

「その、大変失礼ですが、実際の所私より才能のある生徒は多いのでしょうか?」

 

これで全員が俺より才能が上とかなら流石にへこむなぁ。

まぁ、諸葛亮や鳳統が居るのかを確認出来ればそれでいいや。

 

「そうねぇ。…ふむ。…貴方より、と言うと少し難しいけど、同等の才能なら、徐庶と言う子が居るわね。その子も貴方と同じくらいの歳の子よ。」

 

ほう、ほう。ほほう、ほう。

徐庶って、徐庶 元直さんでしょ?

かなりの有能軍師さんじゃないですかー!

 

やべぇ。買いかぶりが半端ない。

俺にそんな才能あったら、三國志の蜀はもっと保っていた可能性もあるだろうよ。

 

ってか、徐庶が俺と同い年か。

確か史実では、諸葛亮等は徐庶の後輩にあたるから現在は五歳以下。下手したらまだ産まれてない可能性もある。

 

それに俺との才能比較で名前が出ないって事はまだ入学もしていないな。

 

「なんだい?さっきから質問ばかりだね。もしかして君も水鏡先生から習いたいのかい?」

 

「あら、そうなの?それなら、去勢して将来は宦官に成って出世する道も用意出来るわよ?」

 

「いえ、お断りします。我が師は楊威方様只一人です」キッパリ

 

冗談じゃない!

男の尊厳を無くしてたまるか!

 

大体、今の皇帝が霊帝って事は未だに董卓とかが出て来ていないって事だろ?

それに黄巾の乱もまだだろうし、史実では廖化は黄巾に参加していたらしいから、最短でも俺が成人してからが三國志の始まりだろうよ。

 

って事はだ、絶対にあり得ないが、もし俺が宦官になったら、袁昭の宦官大虐殺の時にぶっ殺されるじゃねぇか

 

何が楽しくて金○切って、殺されに行かなきゃならないんだよ。

 

「…あ、そうだ蒼夜。この竹簡の山を先生の塾まで運ばないといけないから、お店から人を二人呼んで来てくれないかな?」

 

「わかりました。」

 

これ以上この話を続けるのは危険だ。

さっさと離脱させて貰おう。

 

 

_____

 

 

「凄く良い子ね。」

 

「…僕には勿体ない弟です。」

 

「師は貴女一人だそうよ?ふふっ。照れちゃって、あんな追い払い方しなくてもいいでしょうに。」

 

「うぐっ!」←顔真っ赤

 

「まったく、嫉妬してあんな意地悪を言うからよ。」

 

「…すいません。」

 

「人格者としては、貴女程優れてる人は多くないでしょうに。…教師として嫉妬するとは、まだまだね。」

 

「此れから学んで行きますよ。蒼夜と一緒に。」

 

「…大切にしてあげなさい。」

 

「…はい。」

 




主人公は勘違いしてますが、この世界の廖化はあくまで恋姫の廖化です。
ですので勿論、恋姫用に才能もスペックも史実と別物です。


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パクり?リスペクトですが何か?

ここから本格的に廖化君が暴走を始めます。



-二年後 蒼夜 七歳-

 

ひ・ま・だー。

 

どうもここ最近の生活サイクルに飽きてきた。

お店、勉強会、写本、山、そしてたまに邑への帰省。

最初のうちはそこそこ忙しく感じていたけど、慣れたらそうでもない。

 

お店はぶっちゃけそこまで忙しくないし、俺の他にも店員さんがいる。

勉強会は姉さんの都合で開かれるから一週間で二回くらいの不定期。

写本は死ぬ程やった。ってか今でもまだやってる。そのせいで最近薄めの本なら一冊を半刻(1時間)で仕上げられる。

山は今でも鍛える場所として行っているが、最近熊を倒して俺が山の主になった。まぁ武器は使ったから、次からは金太郎ばりに素手で挑む。

邑には帰るメリットが別に無いから最低限の約束である一月に一回しか帰ってない。それに急げば片道一刻(2時間)を切る。

 

何かが、したいです。安○先生。

 

考えてみたら俺って趣味が無くない?

この時代スポーツやら芸能やらもあんま無いしなー。

本も創作的な小説みたいなのも無いから、暇つぶしも出来ないしなー。

 

………。

待てよ?

 

小説が無いなら、作ったら売れるんじゃね?

俺の前世の知識からパクり、もとい、参考にしたら受けるんじゃないか?

 

前世ではありきたりな王道物でも、この時代なら先進的になるな。

 

…ふむ。やってみるか。

 

そうだな、まずはラヴロマンスが定番だな。

 

時代は昔の戦乱時代が良い。

主人公は地方の太守に仕える誠実な青年下級将校で、ヒロインはおしとやかで美しい太守の娘。その身分差の恋。

主人公がヒロインに一目惚れするも、身分差でそれを諦めようとする。

そのときに巨大な隣国の悪の太守がヒロインを嫁がせろと迫ってくる。

このままでは戦争が起こるかもしれないが、太守は自分の大切な娘を敵に差し出したくなくて悩む。

そんな時に筆頭将軍が太守を殺し、さらにヒロインをつれて隣国に降ろうと主人公側を裏切る。

そこを間一髪でヒロインを助ける主人公。

だが将軍には逃げられてしまう。

後日その将軍を筆頭に十万の軍が隣国からやってくる。この時自軍は2万。

その時主人公はヒロインを助けた功績で上級将校になり裏切り者の将軍と相対する。

激しい戦いの末に主人公が奇襲で将軍の首を取る。

この功績で主人公が筆頭将軍になる。

最後は、悪の太守が大軍を引き連れて来るも何とかそれを守りきり、平和が訪れる。

そして主人公とヒロインは結婚して主人公が太守になる。

 

よし、粗筋は出来た。

これに挿絵も三枚くらい付けて歴史風なロマンスラノベにしよう。

これで一本仕上げてみるか。

 

 

_____

 

 

「姉さん、ちょっと良いか?」

 

「何ー?」

 

「実は創作で本を書いたんだよね。推敲と感想をお願いして良いか?」

 

「ほうほう。わかった。じゃあ明後日までには読んどくよ。」

 

「よろしく。後、辛口評価は心が折れるから少なめで頼むよ。」

 

「だったら何で書いたのさ?」

 

暇つぶしだよ。

 

 

_____

 

 

「蒼夜さん、こちらにどうぞ。」

 

何故敬語?

 

「この本を拝見させて頂きました。すばらしい出来です。」

 

ちょっと、この人誰だよ?

俺の姉さんどこ行った?

 

「創作物とは言え、時代背景も良いですね。」

 

あんたに腐る程歴史書読まされたからな。

 

「また戦争時の戦術や地形的配慮もあって非常に身近に感じる、実に臨場感のある文章になっていました。」

 

戦術書も腐る程読まされたからな。

 

「何より!あの燃える様な、情熱的な、禁断の身分差がある恋が素晴らしい!」

 

お、おぅ。←ドン引き

 

「是非量産しましょう。直ぐにでも店にこれを置かせて下さい。あ、水鏡先生にも送りましょう。…これは流行りますよ。…それで、次回作の構想はありますか先生?」

 

ファッ!?先生!?

自分の先生に先生と呼ばれたでごさる。

ちょっとした出来心だったのに!

 

歴史書+戦術書+ラノベ=姉の暴走

ど う し て こ う な っ た

 

 

_____

 

 

-一ヶ月後-

 

「別に売れてないじゃん?」

 

「見通しが甘いね蒼夜。後二月もすれば凄い事になってるだろうよ。」

 

そんなもんかねぇ。

もしかして今の時代には先進的過ぎたかな?

いやでも姉さんは面白いって言ったしなぁ。

 

「とにかく、君はそんな心配しなくても良い。そんな事より早く次回作を書いてくれ。」

 

もうやだこの人。

 

-二ヶ月後-

 

最近結構売れて来たな。

 

「ねぇ、次はまだー?」

 

うっさい!

 

-三ヶ月後-

 

…もの凄い売れた。

それはもう爆発的に書を読む人物達の間で大流行した。

 

「ね?言ったでしょ?」

 

何であんたがどや顔してんの?

 

「見てよこれ。蒼夜宛に凄い手紙来てるよ?」

 

ほう?所謂ファンレターか。

どれどれ?

 

『楽しく読ませて貰ったわ。うちの子達にも凄い人気よ?次回作を楽しみにしてるわね。 司馬 徳操』

 

おぉ、水鏡塾でも人気なのか。

 

『こんな男居ないわよ!女で書き直す事を所望するわ! 匿名希望』

 

これはファンレターじゃないな。

ってか、主人公を女にしたら百合になっちゃうだろうが。

 

『何か僕の幼馴染みの親友に、太守の娘が似てるんだけど? 田舎眼鏡』

 

知らんがな。

それ俺に報告する必要ある?

 

『素晴ら●く、想像●掻き立て●●る本でし●。●回作を●しみに●て●す。 戯●才』

●=血痕

 

恐いよ!?何で血痕だらけなんだよ!?書き直せよ!あと恐い。

 

「と言う事で、先生、次回作はまだですか?」

 

…急いで仕上げなきゃ。(本物の義務感)

 

 

_____

 

 

とは言っても、あくまで暇つぶしで書いただけだったから、構想とか無いんだけどなー。

 

…ほんと、どうしよ。

 

とりあえずラヴロマンスはもう止めよう。

決してあのファンレターが怖かった訳ではないよ?ほんとだよ?(震え声)

 

そうだなー。また今度も書けって言われる事を考えたら、シリーズ物が良いな。

先進的過ぎるけども、ミステリーとかが無難かな?

幸い前世の知識には、子供になった名探偵だったり、名探偵の孫だったりする漫画の知識もあるし、普通に有名な小説の知識もある。

これらをリスペクトしながら考えるか。

 

今度は時代を現在に合わせよう。

場所は司隷(洛陽近辺)が妥当かな?都心部で起こる謎の殺人事件とかありがちだろ。

主人公は書物を愛する、グータラな下級文官で天職である書庫の管理を担当をしてるので、出世欲の無いダメ人間に見える感じがいいな。

そんで、事件を持ってくる可愛い幼馴染みが洛陽の尉官(警察)あたりが妥当だろう。

 

キャラが立つ様に主人公をハイスペックにして、どこぞの灰色の脳細胞みたいに、書庫の中で事件を解決させるか。

 

この設定で適当に二つ程事件を解決させて、二巻分稼ごう。

その後にライバルとして、同じく推理力が高いイケメンの高位文官をだそう。

んで、最後に悪のカリスマみたいな、悪を持って悪を制すみたいなキャラだしたら、まぁしばらくは保つだろ。

 

 

_____

 

 

-数ヵ月後-

 

『凄く面白いのですよー。人の黒い部分が良く出てるのです。 宝譿』

 

『主人公にはー、とってもとっても、共感出来ますー。 本好き』

 

『実に興味深い。機会があれば是非一度会って話をしてみたい。 周 公瑾』

 

あれ?

これ周瑜じゃね?

 

『私が大成した暁には是非貴方を召し抱えたいわ。 曹 孟徳』

 

………。

魏王様じゃないですか。

 

え?マジで?

 

俺のファンレターで赤壁が起こってる件

 

「…姉さん。俺暫く邑に行くわ。」

 

「えっ!?」

 

「落ち着いたら帰って来るよ。」

 

「ちょっ!蒼夜!?」

 

 

_____

 

 

誰がこんなもん予想出来るか。

俺のファンに偉人が混ざってるとかあかんやろ。

 

今回の事でわかったのは、そう簡単に前世の知識を使ったら駄目だと言う事。

 

うちゅうのほうそくがみだれる!

 

こうなる訳だ。

これからは気をつけなきゃ。(戒め)

 




最初から想定していた事ですが、作品の都合上どうしても廖化の名前が売れてる必要がありました。
これから先も暴走しますが、ご了承下さい

ファンレターが届く仕組みについて
頭の良い人達は何処がこの書物の発信地点か調べがついてます。
なので作品の著者の名前である廖元倹の名前で襄陽に出したら届く訳です。

最後に、風の頭に乗ってる人形のほうけいですが、何故か“けい”の漢字を探せませんでした。
申し訳無い

追記
誤字報告で編集されました。有難うございます。


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おかね は なかまをよんだ!

どうやら りょうか は こんらんしている。



-三年後 蒼夜 八歳-

 

最近、あほみたいにお金が懐に溜まっていく。

まぁ俺の本が売れてるおかげだが。

しかしこれ使わないと経済的に意味が無いじゃん?

そこで俺は考えた訳だ。

 

漫画喫茶を作ろう、と。

 

正確には漫画が無いので、書物喫茶だが。

 

前世の知識は自重する予定じゃなかったか?だって?

そんなもんとっくに諦めたわ。

最早後戻り出来ない段階まで来てたらしく、小説は最低でも半年に一度は刊行しなくてはならなくなったし、少しでも遅くなったら脅しのファンレターまで来たからな。

 

ファンって何だろう(遠い目)

 

まぁそんな事よりも、これでようやく俺が今まで書き貯めた凄い量の竹簡も役に立つし、お金も建物を作る所から始めると沢山消費出来る。

うん。経済に貢献してる俺。偉い。

 

「姉さん、ちょっと良いか?」

 

「…。」

 

何か凄く嫌そうだな。

 

「忙しいなら後でも良いけど?」

 

「…別に大丈夫だけどさ。」

 

 

「君の“ちょっと”は、全然ちょっとじゃないからね。」

 

…心当たりが有りすぎる。

申し訳無い。

 

「…いや、うん。まぁ、そうだね。」

 

「今回もそうなんだろう?」

 

「…はい。」

 

ほんますんまそん。

 

「…はあぁぁ。…それで、今回は何?もう僕も覚悟出来たよ。」

 

そんなこれ見よがしに溜め息吐かなくても良くない?

いやまぁ、俺が悪いんだけどね?

 

 

_____

 

 

 

カクガクシカジカシカクイムーブ

 

「…と、言う感じで、書物の読める喫茶店を作ろうと思う。」

 

「…悪くない発想だね。」

 

だろ?

 

「それで?土地は何処を考えてるんだい?」

 

「出来れば姉さんの書屋の近くが理想的だね。お互いにお店の宣伝も出来るし、協力も出来るでしょ?」

 

「確かにね。じゃあその方向性で話を決めて行こうか。」

 

 

_____

 

 

-数ヵ月後-

 

ついに俺の城(店)が完成した。

 

ヒャッホーイ!俺の城だぁー!

八歳で自分の店持ちだぜ!

将来性半端無いだろ俺!

 

ヘイヘーイ!ヘイヘイヘイヘーイ!

 

イカンな、テンションが上がり過ぎた。

でもしょうがないね。自分の店だからね。(ニヤニヤ)

 

 

_____

 

 

ふぅ。ようやく落ち着いて来たな。

さてと、先ずは内装を整えないと。

 

カウンター作って、本棚置いて、個室は少なめで良いか。オープン席を多めに作って、グループ席も作って、後は奥に遊戯室作ったら出来上がりと。

 

遊戯室には頭を使う象棋や囲碁などのボードゲームを置いて、仲間うちや見知らぬ人とも対戦してもらおう。

そのうち前世の知識を活用して、将棋やチェス、麻雀もおこう。

 

飲み物と軽食、後お菓子のメニューは手が汚れない物を適当に選んで料理人でも雇うか。

俺が作っても良いけど、一日中料理はしたくないからな。

 

料金設定は普通のネカフェに倣って時間制でOK。

 

店員を雇って指導をしたら、一月後には開店出来るな。

ふっ。己の才能が恐ろしいぜ。

 

 

_____

 

 

-数週間後-

 

という事で俺の理想の書物喫茶が完成したので、早速姉さんに体験して貰った。

 

「如何でしょうか?」

 

「凄く快適で良いね。特に個室が良い。椅子も疲れにくい高級品だし、あんな風に独りの世界になったら、集中して時間を忘れちゃうよ。」

 

そうでしょう。そうでしょう。

こだわりましたよ?

その変わり個室の料金は割高だけどね。

 

「飲み物も軽食も美味しかったし、書物の種類は僕の店と同等には有るし、料金も居すぎなければ安く済むから良いね。」

 

「それは良かった。…って事は、これで行ける?」

 

「良いんじゃないかな?僕もまた利用させて貰うよ。」

 

よし、最終チェックしたら来週にでもオープンしよう。

 

「…あ!そうだ、遊戯室はどうだった?」

 

「いや、僕一人でどう遊戯しろと?」

 

そりゃそうだ。

 

「じゃあ今から俺とやろうぜ。」

 

考えてみりゃ、姉さんには囲碁や象棋のルールを教えて貰っただけで一度も対戦した事無かったな。

 

「…まぁ君が良いなら、良いんだけどね。」

 

「何か不味い事あんの?」

 

「いやぁ、…僕と盤戯をする人はみんなつまらないって言うんだよね。」

 

おいそれって…。

 

「それでもやるかい?」

 

…やったろうじゃねぇか!

師匠を超えるのが弟子の務めだ!

俺は負けない!

 

 

_____

 

 

…姉さんには勝てなかったよ。

 

「…つ、強すぎる。」

 

おかしいぞこれ。

普通強くても中盤くらいから形勢が傾き始めるもんだが、姉さんの場合は中盤にはもう勝負がついている。

 

しかもそれに気がつかない。と言うよりも、終わってみて初めて、あれもしかしてあの時点で詰んでた?って状態になる。

しかも象棋、囲碁問わずだ。

 

これはつまらないって言われる理由もわかるな。

 

「あー。…ごめんね?」

 

「謝んなよ。余計に惨めになるわ。」

 

まぁ、目も当てられない程ボコボコにされたから、謝る気持ちもわからんでもないが。

 

だが、しかーし!

俺には将棋がある!

チェスは駒を作るのが大変で間に合わなかったが、将棋は直ぐに作れたからな。

これのルールを説明して、改めて勝負だ。

勿論わかってる。どうせ一・二局指したら俺を超えて行くんでしょ?

だがそれでも勝ったという事実が欲しいものさ。

 

 

_____

 

 

カクガクシカジカシカクイムーブ

ホウホウフムフム

 

「と言う訳で、象棋を改良して作ったこの将棋で勝負しようぜ?」

 

「…ふむ。…最大の特徴は取った駒を再使用出来る所か。…大部意味合いが変わってくるなぁ。」

 

説明しただけなのに、なんか敗北フラグが立った気がするんですが?

 

「よし、やってみようか。」

 

ビビるな、やったれ!

退けば老いるぞ…臆せば死ぬぞ!

 

 

_____

 

 

なん…だと…。

予想してたとは言え、まさか初回から負けるとは。

 

おい、将棋は穴熊が強いって言った奴誰だよ。

一方的にやられたんですが?

 

「これ面白いね。元々象棋は得意だけど、これの方が僕に合ってるかも。」

 

…才能って恐い。

 

でも姉さんがここまで強いのは嬉しい誤算だな。

これなら特別対局の目処が立つ。

 

「…姉さん、ちょっと協力してくれないか?」

 

「うわ、また出た、“ちょっと”。」

 

「まぁそう言わずに。姉さんにも悪い話じゃないよ?」

 

「はぁ。良いよ。言ってみな?」

 

「うん。週に一度、有料で希望者を募って姉さんと特別対局して貰う。何で対局するかは自由。そこで希望者が姉さんに勝った場合は一月の間お店の利用を無料にする。…この話を受けてくれるなら、…面倒だけど、今回は早めに俺の新刊を出すよ。」

 

「乗った!」

 

よしきた。

 

「けどそれは僕が負け混んだら不味くないかい?」

 

「あぁ、それは無いから大丈夫でしょ。」

 

「凄い信頼されてるなぁ。」

 

まぁな。俺の見立てが正かったら司馬徽でもどっこいじゃねぇかな?

ま、黒字は確定だろうな。

 

「じゃあ来週に店を開くから、姉さんの出番は来月位からお願いしようかな?」

 

「了解。…君も約束を守ってくれよ?」

 

お、おぅ。

ストック貯めといて良かったぁ。

 

 

_____

 

 

-オープン当初-

 

ほむほむ。

物珍しさからそこそこ客入りは良いな。

まずはこいつらを常連に仕立てあげよう。

…ケケケ、骨の髄までしゃぶったるわぁー!

 

(うわぁ。蒼夜が凄く悪い顔してる。)

 

 

_____

 

 

-一ヶ月後-

 

《挑戦者求む。当店の遊戯室に有る盤戯で荊州の“棋聖”楊 威方に勝った方には当店のご利用が一ヶ月間無料になります。》

 

「…“棋聖”って何だい?」

 

「姉さんは強いからね。わかりやすく称号をつけてみたんだよ。」

 

「それにしても、流石に大袈裟じゃないかい?」

 

良いんだよ。この時代は誇大広告は犯罪じゃねぇからな。

大体そんな事言ったら、あっちこっちに最強の将軍が居るじゃねぇか。

最強は呂布だろ!

そこは流石に揺るがんだろ。揺るがないよね?

 

「ま、サクッとボコボコにでもしてやりなよ。」

 

「了解。頑張ってみるよ。」

 

 

_____

 

 

-数週間後-

 

俺の店も軌道に乗って、売上も黒字の右肩上がりだぜ。

何時の時代でも漫喫(書物喫茶)は需要があるなぁ。

 

ふっ。笑いが止まらん。

 

「…ねぇ。…最近、皆僕の事を棋聖様って呼ぶんだけど。…どうしてくれるの?」

 

知らんがな。

あんたが対戦相手を完封なきまでにボッコボコにしてるからだろ。

 

俺のターン!して相手のライフがゼロになってもまだ痛めつけてるからねこの人。

 

最早“棋聖”じゃなくて“遊○王”名乗った方が良いんじゃない?

 

「まぁ、光栄な事だと思って受け入れれば?」

 

「光栄ではあるんだけどさぁ。僕の店にまで来て、『一手御指南お願いします。』とか言う奴も居るんだよねぇ。」

 

それは迷惑だな。

 

「じゃあそんな事したら俺の店に出禁の仕組みにしとくよ。」

 

「うん。よろしく。」

 

しかしこの姉、未だ無敗である。

損になるけど姉さんに勝てる奴を見てみたいな。

 




またまたやらして頂きましたぁ!(ジョセフ風)
廖化の暴走が留まる事を知りませんね。
若干ですが、想定よりずれてきてます。

ちなみに、冒頭の方にあった脅しのファンレターですが、出した人物は恋姫キャラです。
一人いますよね?ロリ軍師以外にまだファンレターを送ってない軍師キャラ。


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美少女に出会うとテンションが上がるよね

やっと恋姫キャラを出せます。
お待たせしました。


-四年後 蒼夜 九歳-

 

俺が店で働いてるある日の事だった

 

「いらっしゃいませ。」

 

カランカラン

と鈴の変わりにドアに設置した竹束が鳴ったので、俺が接客しに行ったらそこに浅黒い肌が健康的な二人の美少女が入って来た。

 

おっふ。物凄い美少女達だぜ。

二人とも俺より少し上くらいで、十二歳くらいに見える。

一人は桃色の髪のロングヘアーで笑顔が可愛らしい。

もう一人は長い黒髪で赤いフレームの眼鏡が特徴的な美人系の顔。

 

こういう時はいつも思う。

やっぱ俺の前世の知識は別の世界の物なんだなぁ、と。

 

いやだって、桃色の髪とか、この時代に眼鏡とかありえんでしょ。

 

しかしこのくらいの年齢の少女達がこの店に来るのは初めてだなぁ。

このくらいの歳の子は良い所の出身じゃないと、普通は中々文字も読めないからね。

多分名家か豪族か、何かの出身だろ。

俺?俺は前世の知識持ちの例外だからね。

 

「当店のご利用は初めてですね?よろしければ、料金のご案内をさせて頂きますが。」

 

「あぁ。ここでは飲食しながら書を読めると聞いた。よろしく頼む。」

 

「えぇ。ここの書物の多さは当店の自慢ですので、満足されると思いますよ。」

 

そう言って料金案内をしようとしたら眼鏡少女の隣に居る桃髪少女が不満そうにした。

 

「えぇー!本当に書物を読むの冥琳?私が暇になるわ!」

 

「はぁ。お前もたまには書を読め雪蓮。」

 

ふむ。桃髪少女は書物を読まんタイプか。

 

「でしたら奥の遊戯室を使うのはどうでしょうか?様々な盤戯を置いてありますし、当店独自の盤戯もありますよ?見知らぬ他人とも打てますし、人が足りない場合は私共店員が相手を致しますが。」

 

「うーん。じゃあそれでいっか。じゃあお相手よろしくね。店員さん。」

 

え、俺?

まぁ良いか。適当に接待プレイでもするかな。

 

 

_____

 

 

あの後少女二人に料金案内をして、俺は桃髪少女を相手に予定通り接待プレイをしていた。

 

「参りました。凄くお強いですね。」

 

ニコニコの営業スマイルで少女をよいしょする俺。

この少女達には是非とも常連になって頂きたい。

美少女が日常的に居るのは嬉しいし、なんと言っても目の保養になる。

 

姉さん?綺麗だけどもう見飽きた。

それに家族はそういう対象にならんしな。

 

「…ねぇ、手加減してるでしょ。」

 

…何故ばれたし。

 

「そんなこ「嘘。わかるわよ。」…。」

 

せめて最後まで言わせてくれませんかねぇ。

 

「…大変失礼しました。しかし何故わかったのでしょうか?不自然な点でもございましたか?」

 

「ううん無かったわ。」

 

「では、何故?」

 

「勘よ。」

 

おい、勘って。理不尽な。

 

「次は本気でやって。」

 

「…わかりました。もし私に勝利出来ましたら、今回の詫びとして今日の料金は無料とさせて頂きます。」

 

まぁ仕方ない。不備があった時はこういうサービスもしなくちゃな。

 

「言ったわね?」

 

おう、やる気まんまんだな。

 

 

_____

 

 

「ぐ、…参りました。」

 

まぁそう簡単には負けんよ。

俺だって姉さん以外にはまだ負けてないからね。

 

「ちょっと、待ってなさい。」

 

 

桃髪少女がそう言って遊戯室を出て行ったと思ったら、眼鏡少女の手を繋いで直ぐに戻って来た。

 

「さぁ、冥琳、私の仇を打って!」

 

「いきなり何だ、どういう事だ雪蓮?」

 

そうだ。どういう事だ桃髪少女さん?

 

「私この人にボロボロにされちゃったの。」

 

おい!その言い方は止めろ!

これだから桃髪は淫ピって言われるんだぞ!

 

「はぁ。勝負なんだろう?そんな事で一々私を呼ぶな。」

 

「そんな事じゃないわよー。冥琳は私が負けたままでもいいの?」

 

「構わんな。」

 

おっふ、辛辣だなぁ。

 

「ぐぬぬ。……あっ、そうだ冥琳! この子に勝ったら今日は無料らしいわよ?」

 

「ん? それは本当か?」

 

「えぇ、まぁ。」

 

何度も言うが、そんな簡単には負けんよ?

 

「ふむ。では折角だから一局頼む。」

 

ほいほい。っと。

 

 

_____

 

 

「……ありません。」

 

「ふふっ、良い対局だった。」

 

「キャー! 冥琳カッコいいー!」

 

キャー! 俺カッコわるーい!

 

まじか、正直子供と思って舐めてたわ。……俺も子供だけど。

 

しかし、これは強い。(確信)

 

まぁ無料くらい別に良いか。

 

「ふふん、どうよ!これが冥琳の実力よ!」

 

……イラっとするな。

っていうか、お前がどや顔すんな。

将棋だったら俺が勝ってたわ。

まぁこの眼鏡少女がルール知らんからだけど。

 

ちっ、俺も奥の手を出すか。

 

「お客様はかなり盤戯がお強いですね。」

 

「あぁ、この手の遊戯は得意なんだ。」

 

「そんなお客様には、私共は特別対局をお勧めしていますが、……いかがですか?」

 

「ほう?」

 

よし、食いついてきた。

 

俺はここで、特別対局の説明をしてどうするか聞いてみた。

 

「どうでしょう。“棋聖”に挑んでみますか? ……普段は挑戦料がかかりますが、お客様は今回無料となっていますので料金はかからずに挑めますよ?」

 

「面白そうだ。やってみよう。」

 

「頑張ってね、冥琳。」

 

頑張って、か。……だが無意味だ。

そう俺の奥の手とは、つまり、助けてあねえもん!

 

 

_____

 

 

「……それで僕が呼ばれた訳か。」

 

姉さんがジト目で俺を見てくる。

 

そんなもん知るか。さぁ俺の仇をとれ。

 

「貴女が荊州の“棋聖”か、未だに無敗だとか。」

 

「まぁ一応ね。」

 

「ふっ。面白い。その無敗伝説に私が終止符を打つ。」

 

(あっ、これ不味いかも。冥琳が調子乗ってる)

 

敗北フラグがビンビンに立ってるな。

もしこれで姉さんに勝ったら、俺直々に“棋王”の称号でもプレゼントしたるよ。

 

 

_____

 

 

「……ぐっ! ……ありません。……もう一局お願いします。」

 

この眼鏡少女めっちゃ負けず嫌いだな。

もう既に三局やってるぞ。

無論、全部姉さんの勝利。

 

「……いやまぁ、僕は良いんだけどさぁ。……連れの子がいい加減眠っちゃってるよ?」

 

「うっ、……はぁ。申し訳無い、今日はここまでにしておきます。」

 

凄い残念そうだな。

それにしても桃髪少女さん、涎垂れてるよ?

 

「……はぁ、起きろ雪蓮。」

 

「んぁ? ……あぁ、冥琳……勝てた?」

 

おぅ、寝起きに傷口を抉って行くスタイル。嫌いじゃないぜ?

 

「……」

 

「あぁ、やっぱり。」

 

予想済みでしたか。

 

「……まぁ良い。今日はもう宿屋に帰るぞ雪蓮。」

 

「はーい。」

 

おや遠出の方達でしたか。

これは常連にするのは難しそうだなぁ。

 

「ん? 君達は旅人かい?」

 

「えぇ、揚州の盧江郡から。距離もそう遠くない事ですし、最近話題の襄陽が気になったので。」

 

へぇ、最近話題なんだ? ……何の?

俺の耳に入らないなんて珍しいな。

 

「と言う事は、もしかして廖元倹を探しに来たのかな?」

 

え、何だって?

おかしいな、おじさん耳が遠くなっちゃったよ?

 

「その通りです。是非一度会って話しをしてみたく。……この店にはその旅の途中で噂を聞き参った次第です。」

 

「だってよ? 蒼夜?」

 

こ っ ち み ん な

 

「まさかこの人が!?」

 

「おぉ。運が良いね、冥琳。」

 

「チガイマスヨ?」

 

俺はプライベートまで作者じゃないんだ!

まじで勘弁してくれ。恥ずかしいじゃんよー。

 

「そんな嘘つかないで。どうせ周りに聞き込みされたら直ぐにばれるよ?」

 

……そうっすね。

やたら勘の良い少女も居るし、誤魔化せないか。

 

「それに僕は、君が歳の近い友達が居ない事を少し気にしていたんだ。これを機に友達になったらどうだい?」

 

「それは願ってもない。是非よろしく頼みます。」

 

おっふ。期待の眼差しが痛い。

 

「……はぁ。改めまして、私は姓を廖、名を化、字を元倹と申します。貴女が探している、本の作者とこの店の店主をしております。」

 

「えぇ!?」

 

「……なんと、……店主でもあられたか。」

 

あ、そっち?

まぁ確かに普通あり得んわな。

 

「じゃあ、ついでに僕も。姓は楊、名は慮、字が威方。よろしくね。」

 

棋聖の自己紹介が抜けてますよー。

 

「あの、失礼ですが楊家と関係が?」

 

「あー、うん。気にしないで?」

 

まぁ襄陽郡の名家だからな。

 

「……何か事情が有る様ですね。大変失礼しました。」

 

いや、この人士官するのが嫌で家出に近い形で飛び出して来ただけよ?

 

「改めて、私達も自己紹介させて頂きます。我が名は、姓を(しゅう)、名を()、字を公瑾(こうきん)と申します。お会い出来て光栄です。廖化殿、楊慮殿。」

 

………。

 

「私は親友の、(そん)(さく)伯符(はくふ)。よろしくね!」

 

……あぁ、……うん。……そうですか。

 

前言撤回。常連にならなくて構いません。

帰ってどうぞ。

 




初会合はちび冥琳とちび雪蓮でした。
イメージはそんまま小さくして下さい。

ちなみに冥琳は遊技が弱い訳ではありません。
十二歳と言う年齢的な経験不足の為まだ相手にならないだけです。


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周瑜が友達になりたそうにこちらを見ている

久しぶりに年齢が進まなかったです。

本日二度目の更新です。
これにて一先ず幼年期の終了です。
想定として、五歳から九歳を幼年
十歳から十四歳を少年
十五歳からを青年としてます。




自己紹介した後、俺と姉さんは我が家に帰って来た。

 

……周瑜と孫策を連れてな。

 

しかし周瑜(こいつ)、機会は待つものじゃない、創るものだと言わんばかりに、まじで会いに来やがった。

 

「廖化殿? 難しい顔をしていらっしゃるが、……やはり迷惑でしたか?」

 

迷惑です。

……って言ってやりたい。

 

「いえ、そんな事はございませんよ。周家の方と、あの孫 文台(そん ぶんだい)のご息女を我が家にお連れした事に緊張しているだけでございます。」

 

「……はぁ。だからさ蒼夜、堅苦しいって。」

 

あのねぇ。孫策は権力者の娘よ?

無礼を働いたら首チョンパだからね?

 

「そうよー。もっと軽く話しましょう?」

 

「ふむ。私は、周家と言っても分家筋の者ですし、雪蓮もこの通り適当な性格をしてますので、あまり形式ばらなくても構いませんよ?」

 

おまいう。

じゃあ九歳の俺に敬語を使ってるお前はどうなんだと。

 

「それでしたら、周瑜様もどうぞ口調を先程の様に崩して下さい。私から崩すのはどうも気が引けますので。」

 

「そうか。ではそうさせて貰おう。」

 

「ほら蒼夜も崩しな?」

 

「……おう。……まぁ、改めてよろしく。」

 

よろしくしたくねー。

 

 

_____

 

 

「それにしても元倹殿は書物にしろ書物喫茶にしろ面白い発想をするな。 特にあの事件物の書は素晴らしい。実に現実味がある。」

 

お、おぅ。

評価高けー。

 

姉さんにしろ、司馬徽にしろ、周瑜にしろ頭の良い奴は皆ミステリー好きだなぁ。

……後将来の魏王様もね。……毎度ファンレター来るんだよなぁ。

 

「ありがと。まぁ正直に言えば、こんな話有ったら面白いな。 って言う暇潰しから産まれた作品だから、ここまで評価されると恥ずかしいんだよね。」

 

なんたって色んな作品を合体させながらパクr……ケホンケホン。リスペクトしながら二次創作のつもりで書いてるからな。

 

「へぇ、冥琳がそこまで誉めるなんて。……そんなに面白いんだ? 私も読んでみようかな?」

 

いいよ読むなよ。絶対だぞ?

 

「だから、前から読んでみろと言っていただろうが。」

 

「うん。僕も読んだ方が良いと思うよ? 身内贔屓に聞こえるかもしれないけど、本当に面白いからね。」

 

おい、そのどや顔止めろ。

母親が、この子はやれば出来るんです。みたいな顔すんな。

恥ずかしい。

 

「しかし、暇潰しから産まれたのか。」

 

「まぁな。どうにも娯楽的な書って少ないじゃん? だからじゃあ書くかってね。」

 

「それであれが書けるのか。……貴方は頭がおかしいな。」

 

えぇー?

 

「いや、すまん。言い方が悪かった。常人には無い発想をしている。 と言いたかったんだ。」

 

あんまり意味合い変わらなくないか?

 

「それよりも書物喫茶でしょ。あの店の店主だよ? 普通あり得ないわよ!」

 

非常識で悪かったな。

 

「やっぱり他の人が聞いてもそうなるよね? 僕も最初は驚いたもん。」

 

嘘つけ。割と直ぐに受け入れてたじゃねぇか。

 

「で? 実際にどのくらい儲けてるの?」

 

ちょっと孫策さん?

切れ味の良い質問するの止めてくれない?

 

「……そうだなぁ、元は取った。 とだけ言っておく。」

 

「……ほぅ。……成る程。」

 

あ、計算された。

何か凄いロックオンされてるんだけど、本当の俺は小物なのよ?

 

 

_____

 

 

大分暗くなって来たな。

 

「じゃあ俺はそろそろ飯作るから。」

 

「もうそんな時間か。……楽しい時間は速く過ぎるな。」

 

どうやら大都督様には楽しんで頂けた様だな。良かった。

 

「冥琳、私達はどうする? 何処かで食べる? それとも宿に戻る?」

 

「此処で食べて行きなよ。 何だったら泊まっても良いよ?」

 

おい、誰が作ると思ってんの?

しかも泊めるとか、……俺に一日中周瑜と孫策の相手をしろと?

 

「しかし、そこまでご迷惑を掛ける訳には……。」

 

「大丈夫だよ! 是非食べて行きなよ!」

 

だからさぁ。

 

「折角だからご好意に甘えましょ?」

 

「……はぁ。すまない元倹殿。 ご同伴に預かって良いだろうか?」

 

「ハハ、モチロンイイヨ。」

 

……こんなん断れる訳無いじゃないですか。

 

「ふふっ、じゃあ決まりだね。」

 

…良いな。あんたは楽しそうで。

 

「あ、お客様も居る事だし、今日は僕も手伝おうか?」

 

はっ?(威圧)

 

「ヤッパナンデモナイデス。」

 

「姉さんは公瑾殿に将棋でも教えて対局してみれば?……公瑾殿も今日は一度も将棋やってないでしょ?」

 

「将棋と言うと、元倹殿の店に有る独自の盤戯だったな。 確かにやってない。……それも元倹殿が考案したので?」

 

「あぁ、象棋に似てるけどね。」

 

これも前世の知識だから、多分嵌まるでしょ。

 

「成る程。……威方殿、教えて貰ってもよろしいでしょうか?」

 

「えぇ? 冥琳、また負けるわよ?」

 

本当貴女は人の傷口を抉るねぇ。

ドSですか?

 

「お? やるかい? 僕は碁よりもこっちの方が得意だよ?」

 

「今更貴女に勝てる等とは思ってませんよ。 御指南の程、よろしくお願い致します。」

 

んじゃ、今のうちに飯を作ってこよ。

 

 

_____

 

 

「うぃー。出来たぞー。」

 

「……もう少しだけ待って貰って良いだろうか?」

 

うん。嵌まってますねー。

 

「えぇー、私もうお腹空いたー。 冥琳、早く負けなよ。」

 

「せめてそこは私の応援をしろ、雪蓮。」

 

「じゃあ勝てそうなの? 私の勘だと、もう冥琳に勝ち目無さそうに見えるけど?」

 

まじで?

俺にはまだ目はありそうに見えるね。

 

「……御飯も出来た事だし、もう終わらせようか。」

 

……姉さんから強キャラのオーラが出てるんですが。

 

 

_____

 

 

「はい。詰みだね。」

 

「……ふぅ。心底、参りました。」

 

……終わらせよう宣言から、まじで五分と掛からず終わらせやがった。

おい、誰か羽○さん連れて来い。

 

「じゃ、早く御飯食べよう?」

 

あんたね、少しは周瑜の事も気にしてやれよ。

あんたら断金の絆なんでしょ?

 

「おっ、今日は鍋か。……昨日の猪?」

 

「あぁ、早く使わないと悪くなっちまうから。 それにこれは豪華に見えるだろ?」

 

そう俺が作ったのは牡丹鍋です。

旨いんだよな。これが。

 

「ふむ、元倹殿は料理も得意なのか。」

 

「得意って程じゃないけどね。……この人がまるで駄目だから俺が作るしかないんだよ。」

 

「ちょっ! 人前でそういう事言うの止めてくれないかい!?」

 

未だに厨房入り禁止令は解かれてませんよ?

 

「へぇ、私猪食べるの久しぶりだわ。」

 

「おぅ、昨日狩って来たばかりだから旨いぜ?」

 

もう猪なんて楽勝ですよ。

 

「……へぇ。」

 

ゾクッ

 

え? 何今の? 凄い悪寒走ったんだけど?

 

「おい、雪蓮!」

 

「わかってるわよ冥琳。」

 

……貴女達は一体何がわかり合えたんですか?

もしかして何かいけない存在でも見えるの?

 

「それじゃ食べようか!」

 

そうだね。

暖かい物食べて、さっきの悪寒を忘れよう。

 

 

_____

 

 

ごっそぉさんっと。

 

「はぁ、食べたー。お腹一杯。ありがとう、美味しかったわ。」

 

「雪蓮お前は少し遠慮を覚えろ。……すまん、元倹殿。 だが確かに美味だった。」

 

まぁ大量にあったし、旨かったのなら良いのよ?

 

「満足してくれて良かったよ。」

 

「だな。 普段はこんな飯より旨いもん食ってるんでしょ? 正直自信無かったよ。」

 

高級食材とか割と食ってそう。

 

「いや、そうでもない。……その、なんと言うか、私達の料理を作ってくれる方は雪蓮よりも大雑把な方でな…。」

 

「祭の事?」

 

「あぁ。……その方は調理の腕自体は良いのだが、酒のつまみ用の濃い味付けが多くてな。…いや、決して悪口ではない、あの方の料理も好きではあるんだ。」

 

何か言い訳が始まったんですが?

 

「あぁー、わかる。 祭の料理って味付け濃いよね。 祭が言うには、酒が飲める様になったら良さがわかるって言ってたわよ?」

 

うわぁ。孫家にはとんでもない酒豪が居るなぁ。

って言うか、身内ネタで盛り上がるの止めてくれない?

 

「お酒かぁ。僕も最近飲んでないなぁ。」

 

「飲みたいのか?」

 

「有ったら飲みたいって程度かな?」

 

じゃあ無いから無しで。

 

 

 

_____

 

 

「さて、そろそろ宿に戻ろうか雪蓮。」

 

「おや、泊まっては行かないのかい?」

 

おぅ。もぅどうなろうと俺は構わんよ。

人生は諦めが肝心らしいじゃない?

 

「いえ、もう宿も取ってありますし、今回はこれで。」

 

「じゃあ、ありがとね! 楽しかったわ!」

 

え? 帰るの? 帰ってくれるの?

 

「そっか、それは残念だなぁ。……襄陽には何時まで居るんだい?」

 

「そうですね。目的も達せられた訳ですし、明日には戻ろうかと。」

 

……ふむ。

 

「じゃあ帰りましょうか冥琳。」

 

「あぁ、今日は世話になった。感謝する。元倹殿、威方殿。」

 

「うん。僕も楽しかった。またいつでも訪ねてよ。」

 

「……ちょっと待ってろ。」

 

俺はそう言って一度部屋に戻り、ある竹簡を手に戻って来た。

 

「……ほれ、土産だ。」

 

「これは?」

 

「まだ世に出てない俺の新刊だよ。」

 

ま、折角来てくれたんだ。このくらいはな。

……なんかツンデレみたいで気持ち悪ぃな俺。

 

「えぇ! ……僕もまだ読んでないのに。」

 

あんたはいい加減にしろ。

 

「こんな貴重な物を……有難う元倹殿。 大切に読ませて貰う。」

 

どうせ暫くしたら世に出るから良いんだよ。

 

「ふふっ。良かったね冥琳。」

 

「あぁ。では元倹殿、威方殿。また何処かで。」

 

おぅ。機会が有ったらな。

 

 

_____

 

 

-一ヶ月後-

 

………。

 

……あのさぁ。

 

確かにまたって言ったよ?

機会が有ったらって思ったよ?

 

「やぁ、元倹殿。」

 

「やっほー!」

 

「……イラッシャイマセ。」

 

…こいつら、常連になりやがった。

 

おう誰か孫堅(保護者)連れて来い。

こいつら、出禁にしたろか?

 




勧誘じゃなくて本当に興味本位で会いに来ただけでした。

まぁ比較的に周瑜の出身地が襄陽に近いから初会合相手に選んだだけです。
そして周瑜が居たら当然孫策もついてきますよ。

当然あの覇王様が来ない理由はありませんよ?


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少年期 それでも俺は出して無い

今回はやらかし穏です。



-蒼夜 十歳-

 

「全く、雪蓮には困ったもんだ。 あいつには次期当主としての自覚が足りない。」

 

「いやぁ、でもさ、あの自由な所が魅力的な人物でもあるわけだしさ…。」

 

「……そうかもしれんが、だとしても度合いと言うものがあるだろう。」

 

「まぁね。」

 

でもね冥琳、一々俺の所に来て愚痴らなくても良くない?

 

 

_____

 

 

そう、常連になるのが決まったあの日から我が友冥琳は何かあるたびに俺に愚痴を言いに来る様になった。

 

えぇ、もう友達と認めますよ。

意外と気が合うんだよね。

それに真名で呼ぶのも許して頂きましたとも。

 

「蒼夜、奴を矯正する手段は無いだろうか?」

 

ねぇよ。

お前に出来ない事が俺に出来る訳ないだろ。

 

冥琳繋がりで雪蓮にも真名を許して貰って、度々行動を共にするようになったからわかるが、奴のフリーダムっぷりはおかしい。

史実でも孫策は相当自由な奴なのだが、この世界の本人は更にぶっ飛んでいるからな。

きっと、守りたい世界でもあるのだろう。

 

「……冥琳、良い言葉を教えてやる。……『人生は諦めが肝心』 だそうだ。」

 

えぇ、私も色んな事を諦めましたとも。

 

「……なんだ、その疲れきった大人がいいそうな台詞は。 大体、この前雪蓮と試合をして、私が止めに入った時は『諦めたらそこで試合終了だろうが!』 とかぬかして最後まで粘っていただろう?」

 

え? 言ったっけ?

まぁ、あの時はテンションがハイになってたからね。

人と闘うのは初めてだし、雪蓮は俺がギリギリ勝てないくらい強いし。

 

「……しかし、そうだなぁ。こんな君主が理想像ですよ……的な本でも書こうか?」

 

幸い、俺の前世の知識にはその名の通り君主論の知識もあるからな。

これをリスペクトして、この時代に合わせて書けば出来なくもない。

 

「……ほぅ、それは面白そうだ。 是非とも一枚噛ませて欲しい。」

 

「いや何言ってんの?」

 

「駄目か?」

 

「違う、違う。本にするからには万人向けに書くつもりだけどさ、元々は雪蓮に読ませる為に書く事にしたんだぜ? ……冥琳が手伝うのは当然だからね?」

 

寧ろ主導して欲しいまである。

 

「そうか、当然か。…ふふっ。そうだな、任せろ。」

 

なんか凄い機嫌良くなったな。

なんだったら、このままこの話中止にして帰ってくれても良いのよ?

 

 

_____

 

 

まぁ勿論帰るなんて事は無く、冥琳と二人して作りあげましたよ。

君主論は俺の中で色々と不味いから、名君論に名前は変えたけどね。

 

……うん。今回の作品は今までの中で一番不味い。名前もそうだが、内容も結構過激になってるし、何より、今まではまだリスペクトの範囲で済んでたけど、これ、もう…。

 

まぁ良いや。

量産してないから、どうせ雪蓮にしか見せる予定ないし。

 

「これはかなりの大作になったな。 正しく理想の君主像がこれには書かれている。」

 

おぅ。かなりご満悦ですね。

 

「しかし流石蒼夜だな。 一緒に作るとは言ったが私は殆ど何も出来ず、少しの助言くらいしか出来なかった。」

 

「そうでもないよ? 冥琳の助言が的確だからここまで早く仕上がったんだよ。 俺一人で作ってたら一週間以上は掛かるし、内容ももう少し薄くなっていただろうよ。」

 

「そう言って貰えると有り難い。」

 

いや、有り難いのは俺だからね?

将来の大都督様にアドバイスを貰いながら本を書けるなんて、どんだけ贅沢なのよ。

 

「……しかし、一つ疑問がある。」

 

「何の?」

 

「この本の締めの部分だ。」

 

神妙な顔して何を言うかと思えば。

 

「あぁ、この最後の 『もし、この名君論の理想通りの君主が存在するなら、その君主は最早人ではない。』 と言う一文か。」

 

「それだ。 何故そうなる? この本の根底を覆す一文だ。」

 

ここで俺はある有名なラノベの主人公の台詞を借りる事にした。

 

「良いか冥琳? 『理想は、理想だ。現実じゃあない。』 だからこんな君主は居たらおかしい。……わかるか?」

 

「……言っている事はわかる。 だが、それではこの本の主旨と矛盾していないか?」

 

「いや、してない。 これはあくまで理想像だからな。 目指すべき姿であって、こう成れる訳じゃない。 …寧ろ成ったら駄目なんだ。」

 

二次元とはいえ、理想に生きすぎて、人から理解されずに破綻した型月の騎士王を俺は知ってるからな。

古代中国で言えば、始皇帝もこれに近い。

 

「……例えばだが、雪蓮がもしこの名君論の君主の様に合理的で、大の為に簡単に小を切り捨て、法の元なら重臣ですら重く裁くような、私を捨て公しかないような主君になったら、……それを冥琳は雪蓮と呼べるのか?」

 

俺は無理だ。

 

「……不可能だ。」

 

「まぁ、当然だな。 そんなの雪蓮じゃない。 いや、例え誰であっても、人としての情が有って判断を間違えたり、特定の人物を優遇したり等々、その人の個性があるから慕われたり、嫌われたりするもんさ。」

 

だからって何でも個性で許される訳じゃないけどね。

 

「つまり、この本は正しい君主を表している訳ではなく、参考にして下さい程度なんだよ。」

 

「………。 ……はぁ。 お前は理論派の癖にそこに感情論を混ぜて来るな。 しかも納得出来ると来た。 ……本当におかしな奴だよ。」

 

なんか微笑してやれやれみたいな雰囲気出してるけど、そこまで大層な事言ってないでしょ俺。

 

「言っておくけど、俺は感情派の人間だぜ? 理論的思考は姉さんに植え付けられた、指導の賜物だ。」

 

「なら、お前は威方殿に感謝すべきだな。」

 

してますとも。

これ以上無く、な。

 

 

______

 

 

「さて、早速これを持ち帰って雪蓮に読ませるとしよう。……しかし、良いのか? まだ複製を作ってないだろう?」

 

「あぁ、別に良いよ。 それを世に出すつもり無いし。」

 

こんなもん完全に全太守と皇帝に喧嘩売ってる様なもんだかんな。

 

「それよりも、問題はそれを持ち帰った所で雪蓮がおとなしく読むとは思えない所だな。」

 

「それについては問題無い。考えがある。」

 

ほぅ。流石。

 

「んじゃ、今度はちょっとの事で、一々来んなよ?」

 

「まぁ、そう言うな。 なんだかんだお前も楽しんでいるだろう?」

 

「……ねーよ。」

 

「ふっ、そう言う事にしておく。……ではまたな。」

 

ちっ、人を見透かした態度しやがって。

はよ帰れ。

 

 

_____

 

 

-数週間後-

 

『すまない。 孫家に仕える陸遜(りくそん)と言う人物に名君論の書が見つかってしまい、勝手に量産され売り出されてしまった。 著者の名前こそ書かれてないが、世に出すつもりの無い書が出てしまった。 この詫びはいずれする。 周 公瑾』

 

……まじかよ。

何してくれてるの陸遜さん。

お前、俺がキレたら夷陵攻めすっぞ?

……失敗するけど。

 

まぁ、俺ってばれなきゃ良いか。

 

 

_____

 

 

-数日後-

 

「蒼夜、ちょっと良いかい?」

 

「どした?」

 

「うん。……僕の店にね名君論って書物が入荷されたから読んでみたんだけどさ、……あれ、書いたの君だよね?」

 

ファッ!? な、何故ばれた!?

 

「……何で、……わかったのさ?」

 

「君の文章の表現の仕方は少し癖があるからね。」

 

……前世の知識の弊害か。

 

「多分いくら発信地が別の場所で、著者の名前が無くても、わかる人には気づかれると思うよ?」

 

まじで?

 

「今回の書も面白いとは思えたけどさ、……流石に少し過激だね。…どうしてこの内容を出そうと思ったんだい?」

 

出すつもりなんてまるで無かったんだよ。

 

 

_____

 

 

「と言う訳で、俺の意思じゃない。」

 

俺は、姉さんに名君論が出来た経緯から量産され売り出された理由まで説明した。

 

「……はぁ。それは、何と言うか、……まぁ、しょうがないか。」

 

心配させてすまん。

 

「さっきも言ったけど、気づく人も絶対にいるだろうから、君も身辺に一応気を付けてくれよ?」

 

そうしたいのは山々なのだが、こういうのってどう気を付ければ良いんだろう?

 

 

_____

 

 

-一ヶ月後-

 

「貴方が廖 元倹ね?」

 

俺がいつも通り店で働いている時、ある少女に名前を問われた。

この店では、当然ネームプレートなんてしてない。

にも関わらずこの少女は俺を知ってる。

 

少女の体格はチンチクリンで、金髪にドクロの髪飾りをしてお嬢様風なクルクルヘアー。

それと大きい態度に強い目力が特徴的で、かなり良い家の出身に見える。

 

……正直、嫌な予感しかしない。

 




くーるー、きっとくる、彼女はくーるー。
と言う事でお待ちかねのあの人です。


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突撃!隣の覇王様

覇王様が突撃です。


なんかあからさまにヤバイ奴が来たな。

 

それが俺のドクロの少女に対する第一印象だった。

 

しかもこの少女はかなりのお嬢様なのだろう。

護衛らしき美少女が二人もついている。

 

一人はおでこが素敵な長い黒髪のオールバックでアホ毛が可愛い。

もう一人は水色の髪で右目が隠れるヘアースタイル。

ねぇそれ右目見えてんの?

 

この二人は多分冥琳達とそんなに年齢が変わらないだろう。

 

俺はとりあえず何事も無いかのように、接客してみる事にした。

 

「いらっしゃいませ。 お客様の仰る通り、私が当店の店主を勤めております、廖 元倹と申します。」

 

「店主?……へぇ。 それは初耳だわ。」

 

と言う事は、やっぱり書物関連の奴か。

はぁ、嫌だな~。何か怖いな~。(稲○風)

 

「質問する事が増えたわね。 まぁいいわ。 まずは最初の用件から尋ねましょう。」

 

そう言ってドクロの少女が出したのは名君論だった。

 

「この書は貴方が書いた物で良いかしら?」

 

……まじで気づく奴いたのかよ。

ご、誤魔化さねば。

 

「はっはっはっ、私はしがない店主ですよ? そんな大それた物を書ける訳が無いじゃないですか?」

 

「貴様! 誤魔化すな!」

 

ちょっと恐いよ、オデコちゃん。

 

「落ち着きなさい、春蘭。……まずは確認をしましょうか。」

 

その言い方だと俺が犯人で貴女が探偵なんですが?

 

「貴方はこれまでも数々の書を出しているわね? ……秋蘭。」

 

「はっ。」

 

そう言って水色ちゃんが取り出したのは俺の著者名が書かれた、俺が今までに出した小説だった。

 

「貴方はそもそも書物の作者でしょう?」

 

うむ、想定通りだ。

 

「……えぇ、まぁ。 しかし私は目立つのを好みませんので、公表は控えさせて頂いてます。 ですがだからと言って、その書物とは関係ありませんよ? そもそもその書物の発信地は揚州ではありませんか。」

 

「えぇ、そうね。 細かい表現方法や、章の作り方等、同一の人物と思われる所もあるけど、決定的な証拠にはならないわね。」

 

ふっ、勝った。

その通りだ。証拠を出せ、証拠を。

 

「けれど貴方の義姉と呼ばれる、楊 威方には既に確認が取れているわ。」

 

姉さーーーーーん!!!

や、野郎、俺を裏切りやがった!

あんたが気を付けろとか言ってた癖に、あんたがばらしてるじゃねーか!

 

それにしてもこいつ、……推理ゲームかと思わせといて、こんなん只の確認ゲームじゃないか!

 

「これで認めるかしら?」

 

「……それを口にする事は出来ませんが、……私は名君論に“詳しい”ので質問にはお答えさせて頂きます。」

 

「貴様! 潔く認めろ!」

 

それは出来ないんだオデコちゃん。

 

「良いのよ春蘭。」

 

「しかし、華琳様…。」

 

「この書の内容は捉え方によっては、漢王朝への批判とも取られかねないわ。……真意はどうあれ、著者である事を認めないのは当然の事なのよ。」

 

そう言う事だ。

それがわかっていながら、何故俺を追い詰めた?

嫌がらせ?

 

「それと勘違いしてる様なので説明すると、楊 威方は今までの書物の著者が貴方である事は認めても、名君論に関しては何も明言していないわ。」

 

こっ、こいつ、会話の中で俺にミスリードを仕掛けてやがった。

ニヤニヤしやがって、……化け物が。

 

っていうか、すまない姉さん。

あんたが俺を裏切るはずなかった。

あんたを信じきれなかった俺が馬鹿だった。

 

くそっ、どれもこれも冥琳が悪い! 陸遜が悪い!

 

「……場所を変えて話をさせて下さい。」

 

もう良い。

どうにでもなーれー。

 

 

_____

 

 

とりあえず数少ない個室のグループ席に少女一行を案内して、いざ話を切りだそうとした所で、雇っている店員が俺の所に来た。

 

「お話の最中に申し訳ありません店長。 公瑾様と伯符様がお見えになられました。 なんでも詫びに来たとか…。」

 

やった! 冥琳来た! これで勝つる。

 

「直ぐにここに通してくれ。」

 

ナイスタイミングだ冥琳。

詫びと言うなら後は全部お前に丸投げさせて貰うぜ。

 

「申し訳無い。 今私の友人が店に来たのですが、その友人は名君論に“詳しい”のです。 恐らく貴女の希望に沿うかと思われるので、ここに招待させて頂きます。」

 

「へぇ、そう。……貴方よりも“詳しい”のかしら?」

 

「同等であるかと。」

 

言外にもう一人の作者が来たから呼んだぜ? って言ったのがきちんと通じて良かった。

まぁ、この少女になら通じると思ったから言った訳だが。

 

コンコン

 

「公瑾様と伯符様をお連れしました。」

 

「入ってくれ。」

 

頼むよ冥琳。後はお前が頼りだ。

そして雪蓮さん、あんたは何で来たの?

 

「失礼する。」

 

「どうもー。」

 

「よく来てくれた。 冥琳、雪蓮。」

 

「うっわ、蒼夜が歓迎してくれるなんて……どしたの?」

 

なんっつー事を人前で言うんだ。

俺は何時も歓迎……してないな。

 

「……どうやら間が悪い時に来たようだな。」

 

何言ってるの、今までで一番最高だよ。

 

「さて改めまして、この方が私の友で、私と同等に名君論に“詳しい”、周 公瑾です。 隣にいるのがそのご友人の孫 伯符です。」

 

「……なんですって?」

 

おっほー。 俺から一気に視線が冥琳と雪蓮に移った。

いいぞ。もっとだ。

 

「……そう言う事か。……はぁ。 今紹介にあった、周 公瑾だ。 よろしく頼む。」

 

「なんかよくわからないけど、よろしくね?」

 

理解力が高くて無駄な説明をしなくて済むから助かるぜ、冥琳。

雪蓮、お前は帰れ。

 

「まさかこんな所で、美周郎と江東の虎の娘に会えるとはね。 廖 元倹に会いに来たつもりが、それと同等以上の人物に会えるとは、……遠出はしてみるものね。」

 

こんな所で悪かったな。

それと、俺がこいつらと同等な訳無いだろうが。

 

「まだ私も名乗っていないからちょうど良いわね。」

 

そう言えばまだ聞いてないな。

でもどうせ有名人でしょ? 知ってる、知ってる。

もうこの二人で慣れたよ。

 

「私の姓は(そう)、名が(そう)、字が孟徳(もうとく)よ。 よろしく頼むわ、周 公瑾、孫 伯符。 そして、廖 元倹。」

 

「ヒェッ」

 

「どうした蒼夜?」

 

「……なんでもない。ちょっとしゃっくりしただけ。」

 

ヤバイ。

ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!

 

「貴女達も挨拶なさい。」

 

「はっ! 私は姓は夏候(かこう)、名は(とん)、字が元譲(げんじょう)。 ここに居られる曹 孟徳様一の家臣だ。」

 

「同じく、姓は夏候(かこう)、名は(えん)、字は妙才(みょうさい)だ。 よろしく頼む。」

 

………。(白目)

パクパク

 

「ほぅ。……洛陽北部尉官の曹 孟徳に、それに付き従う夏候姉妹か。 聞いた事あるな。」

 

「ふふっ。 無論私達も貴女達の事は知っているわ。」

 

「私も聞いた事ある。 確か、元譲ちゃんは強いんだよね?」

 

「あぁ! 私は華琳様の剣だからな!」

 

「姉者、ここは店の中だ。 もう少し静かに。」

 

………。

 

「ちょっと、皆様のお飲み物をお持ち致しますので、席を外します。」

 

 

_____

 

 

事案発生

俺の店で赤壁勃発

 

うぉーい!!! 曹操かよ!!!

何でこのタイミング!?

 

冥琳と雪蓮も、間が悪いってレベルじゃねーぞ!

 

頼むよー。 もう勘弁してくれよー。

俺の胃に火計仕掛けるの止めろよ。

胃炎になっちゃうだろ。

 

……帰りたい。

姉さんの邪気の無い笑顔が恋しい。

助けてあねえもん。

 

あー気が重い。

 

_____

 

 

かなり時間をかけてお茶を入れた俺は、戻って来て驚いた。

 

「へぇ、それで名君論が出来上がったのね?」

 

「あぁ、だが結局見ての通り雪蓮には意味が無く、無駄に蒼夜に借りを作ってしまった。」

 

「成る程。 元倹殿は意図して名君論を世に出した訳ではないのか。」

 

 

 

 

「ねぇ元譲ちゃん、後でちょっと死合わない?」

 

「む? 私は構わんが、華琳様の赦し許しが必要だ。 まぁ華琳様は寛大なお方なので赦してくれると思うがな。 後ちゃん付けは止めろ。」

 

キャッキャッウフフ

 

あんれー?

何このムード?

 

意外とこいつらって気が合うの?

 




という事で小さくても頭脳は大人、名探偵カリンの回でした。


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奸雄からの勧誘

意外とあっさりしています。


意外と和気藹々なムードで話をしているこいつらを見て思った。

 

もしかしてこの世界じゃ魏と呉は戦争しなくて済むんじゃね?

 

このまま仲良く将来は同盟でも結んで、優しい世界を築いて欲しいもんだ。

 

 

_____

 

 

「さて、元倹も戻って来た事だし、改めて名君論の真意でも聞きましょうか。」

 

「ん? まだ説明してなかったのか? 冥琳。」

 

「あぁ、作った経緯を説明して、それが何故揚州から発信するかになったのかを説明しただけだ。」

 

えぇー。 面倒くせー。

お前が説明しろよ。

 

「冥琳が言うには、九割方貴方が作ったそうじゃない。 なら作者として、貴方には内容を説明する義務があると思うのだけど?」

 

あ、真名を交換したんすか?

仲良くなんの早いなー。

 

しかし義務ねぇ。

そんなつもり無かったんだよなぁ。

まじ陸遜許すまじ。……どっちだよ。

 

「……はぁ。 では私に答えられる範囲でお願いします。」

 

「そうね。 聞きたい事は色々あるけれど、……やはり最後の一文からかしら。 あの一文のせいで、その意味を考えて、各地で知者が論議を交わしているそうよ?」

 

……まじっすか。

でも、またあの説明すんの?

面倒くせー。

 

 

_____

 

 

「と言う事で、あくまで参考程度に考慮して頂ければ幸いです。」

 

結局冥琳の時と同じ説明をしました。

 

「……成る程、個性か。 確かに我等姉妹は、華琳様の能力や君主としての力量よりも、その個性に惹かれたと言える。」

 

おぅ、夏候淵がうんうん納得してる。

 

「……理解は出来るわ。 けどそれなら何故その事を書かなかったのかしら。 これだと説明不足になるわ。」

 

「まぁ、元々雪蓮にしか読ませるつもりが無かったと言う事もありますが、本来は読んだ人にその事を気づいて欲しいからですね。」

 

「なら、今回は読み手の力量不足と。」

 

「……いえ、あの、そんな事は…。」

 

止めてー!

俺のライフはもうゼロよ!

 

「ふふっ。 華琳殿、あまり蒼夜を苛めてやらないでくれ。」

 

冥琳!

俺の味方はお前だけだ!

 

雪蓮の奴は何時の間にか夏候惇とどっか行きやがったからな。

詫びに来たんじゃないのかよ。

もうあいつのフリーダムっぷりはまじでどうにかしなきゃ。

冥琳! フォースシルエット!

……それは最終的な敗北フラグか。

 

「ふふっ。 ごめんなさい、只の冗談よ。」

 

あのねぇ、貴女の冗談は冗談に聞こえないのよ?

 

「私も気になっていた事を質問させて貰って良いだろうか?」

 

「あ、はい。 どうぞ妙才様。」

 

「そんなに畏まらないでくれ。 気軽に妙才で良い。」

 

「じゃあせめてさん付けで。」

 

何でこの世界の人って礼儀を割と軽視するんだろ?

 

「あぁ、それで良い。 質問と言うのはこの店の事だ。」

 

「あら秋蘭、貴方も気になっていたの?」

 

「えぇ。 この店、書物喫茶だったか? そこの店主をしていると言っていたな。 どういう事だろうか?」

 

あぁ、それね。

 

 

_____

 

 

「とまぁ、そんな経緯です。」

 

お金を使う目的で作って更にお金を集めちゃったんだよなぁ。

まぁ俺が経営者魂を奮わせたからだけど。

 

「……なんと。 ここの書物は全部元倹殿の写本であるのか。……凄まじいな。」

 

そんなに誉められる事じゃないよ?

只の惰性で続けてたら貯まっただけだからね。

 

「……へぇ。」

 

………oh。

なんか魏王様に凄まじくロックオンされてるんですが。

 

「その話は私も聞いてないな。」

 

「あれ? 言ってなかったっけ?」

 

「あぁ、ここにある書物がお前の写本とは聞いてないな。」

 

「そっか。 まぁ姉さんの指導方針の基本は写本だからね。 これでも一回全部売った事もあるんだぜ?」

 

水鏡塾で今も使われてるのかな?

今だったらもしかしたら、諸葛亮や鳳統が俺の書いた書物を読んで勉強してるかもな。

 

「……ふーん。 書物棚を見て回っても良いかしら?」

 

「えぇ。 勿論構いませんよ。 そういうお店ですからね。」

 

寧ろさっきまでが不自然だったんだよなぁ。

 

 

_____

 

 

「……量もそうだけど、種類が凄いわね。」

 

「姉の威方の店と同等に取り揃えておりますので。」

 

新刊が入荷される度に写本してるからね。

 

「学者の解説別も取り揃えてあるのか。……これは! 私が前から読みたかった書じゃないか!」

 

お、おう。

妙才さんの目がキラッキラしてる。

楽しんで貰える様で何よりです。

 

「改めて見るとやはり凄いな。」

 

あぁ、冥琳は最近読みにじゃなくて愚痴を言いに来てたからね。

 

「……成る程ね。」

 

……この人は一体何を理解したんですかねぇ。

 

 

_____

 

 

「……あら、ここは?」

 

「当店自慢の遊戯室でございます。」

 

ここが割と人気なんだよね。

……そして姉さんの人気も凄いんだよね。

 

「ほぅ。 様々な盤戯が置かれているのか。 ん? すまない、あそこの『当店独自の盤戯』とは何だ?」

 

流石妙才さん、お目が高い。

 

「将棋の事ですね? 象棋を元に私が改良した盤戯になります。」

 

「ば、盤戯を作ったのか? ……末恐ろしいな。」

 

この世界の将棋はわしが作った。

そして未だにチェスの駒は完成しない。

あれ凄い芸術性が必要なんだよね。

 

「どうだろう、折角なのでどの盤戯でも良いが一局指してみないか華琳殿。」

 

「えぇ。 面白そうね。 是非とも相手をお願いするわ。」

 

おぉ!

世紀の一戦、曹操vs周瑜の盤戯による赤壁だぁー!!!

 

 

_____

 

 

ゴクリ。

 

パチ …パチ パチ ………。

 

「……参りました。」

 

ふぅ。

 

「流石華琳殿、お強い。」

 

「良く言うわ。……碁では私がやられたじゃない。」

 

そう、この二人殆んど互角の強さなのだ。

ただ、それぞれが得意な盤戯でほんの少し差が出るくらいだ。

 

将棋は残念ながらやってない。

曹操がルール知らんからな。

 

「しかし冥琳は凄いな。 この手の勝負事で華琳様が負けるのを初めて見た。」

 

ほぅ。 未だに無敗の方でしたか。

良かったな冥琳。 無敗伝説に終止符が打てたぞ?

 

「私程度大した事無い。 本当に凄まじい打ち手に出会った時はただただ、感動するからな。」

 

おぅ、冥琳お前も姉さんのファンか。

 

「貴方にそこまで言わせるなんて、……何者かしら?」

 

俺の姉さんです。

 

「ふふっ。 貴女も知っている。……蒼夜の姉の威方殿ですよ。」

 

「あの方か。 そこまで強いのか?」

 

「少なくとも私は手も足も出なかった。 “棋聖”の称号は伊達ではない。」

 

「……へぇ。 面白い。 是非私も打ちたいわ。」

 

ギラギラした目でこっち見ても駄目だぞ!

お、お前、俺の姉さんをどうするつもりだ!(震え声)

 

 

_____

 

 

「……はぁ。 それでまた僕が呼び出された訳か。」

 

だって、あの人が凄い睨むんだもん。

 

「先程ぶりね、楊 威方。 急で悪いけれど、冥琳を倒したという実力を見せてくれないかしら。」

 

「どうも、孟徳さん。 その様子だともう真相は知っちゃった訳だね? まぁ、相手をしてくれと言うなら僕は構わないけどね。」

 

「すまないな、威方殿。 華琳様に付き合ってくれて。」

 

「良いよ、良いよ。 気にしないで?」

 

「私は後ろから勉強させて頂きます。」

 

冥琳の姉さんへの尊敬度が半端ねーな。

 

「では、まずは碁からお願いしようかしら。」

 

 

_____

 

 

「……ぐっ! ……ありません。」

 

どっかで見た光景だなー。

 

「……まさか、……本当に華琳様が全敗するとは。」

 

「……はぁ。 まだまだ遠い。」

 

冥琳なら多分後三年もしたら、追い付くと思うんだよなぁ。

 

「……何処が悪かったかしら。」

 

あれだな、曹操と冥琳の違いは、冥琳はひたすら打ちたがっていたけど、曹操は一々感想戦をする所だな。

負けず嫌いな所は一緒だけど。

 

「……じゃあ、悪いけど僕もうお店に戻るからね?」

 

おぅ、呼び出して悪かったな。

 

 

_____

 

 

「華琳様、只今戻りました。」

 

「ただいま冥琳。」

 

すんごいボロボロになって雪蓮達が帰って来た。

ただし凄い良い笑顔で。

 

「満足出来たのか雪蓮?」

 

「えぇ。 凄く楽しかったわ!」

 

全く、これだから戦闘狂は。

 

「どうだった春蘭?」

 

「はい。 雪蓮の奴は中々出来る奴かと。」

 

お宅等も真名を交換してたのね。

 

「すまないな、元倹殿。 姉者が汚れたまま店に入ってしまって。」

 

「気にしないで下さい。 雪蓮もあの通りですので。」

 

あー、妙才さんと話すと落ち着くなぁ。

 

あれかな、冥琳と言い、妙才さんと言い、常識的な人と合うな俺は。

 

 

_____

 

 

「さて元倹。 私達は今日はもう帰るけど、最後に言っておく事が有るわ。」

 

 

「何でしょうか?」

 

「今はまだ私に貴方を召し抱える力は無いけれど、いずれはそうしたいと思っているわ。」

 

……おっふ。

史実では人材オタの曹操に勧誘されたでごさる。

この世界でもそうなのか?

って事は今回は俺を勧誘しに来たのか?

 

……我が人生最大の買いかぶりをされたかもしれん。

 

「出来れば貴方の姉も呼びたいくらいだわ。 それでは、考えておいてちょうだい。 また来るわ。」

 

曹操はそう言うと二人を連れて去って行った。

 




姉さんもロックオンされました。
あっさりと覇王様は帰って行きました。
が、暫くしたらまた来ます。

言い訳をするならまだ早送りの最中ですので、ここで時間を取られる訳にはいかないのです。


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孫家流謝罪術

お詫び回です。
この回で、十歳が終わり、次回から十一歳です。


「ふっ。 実に華琳殿らしい去り際だったな。……それで、どうするつもりなんだ蒼夜?」

 

笑い事じゃないんですが?

 

「……とりあえず、今は孟徳さんの気の迷いだと思っとく様にする。」

 

いざとなったら逃げよう。

 

……でも、何処に?

 

大陸の上半分は最終的に魏の物になるんだぞ?

蜀は論外だし、……呉か? 呉なのか?

うーん。 でもなぁ。

冥琳と雪蓮の事は好きだけど、呉もなぁ…。

 

まぁ、いいや。

行き当たりばったり上等。

今までだってそうして来たんだ。

後で考えりゃいいや。

多分どうにかなるでしょ。

 

「えー。 蒼夜、うちに来なよ。」

 

「あぁ。 適当に考えとくわ。」

 

おいおい答えは出すよ。

 

「おい雪蓮! 私達は蒼夜にとてつもない借りがあるんだぞ。 そんな私達が孫家に仕えろだなんて間違っても言うな!」

 

あ、意外と気にしてたんだ。

 

「でも冥琳も来て欲しいでしょ?」

 

「……だとしても、言って良い事と悪い事がある。 そもそも私達は今日、詫びに来たんだぞ。」

 

曹操の相手してくれたからチャラで良いよ?

 

「そーだけどさー。」

 

「別に深く気にしなくても良いよ? 確かに今回の孟徳さんみたいに、俺の所に直接来るみたいな事があったら困るけど、普通はそう無いだろうし。」

 

「ほら、こう言ってるじゃない?」

 

だからと言って孫家に仕える訳じゃないからな?

 

「……お前まで事の重大さを理解してないのか。」

 

えー?

 

「重大さって。 言っちゃ悪いけどさ、それは殆んど孫家の問題だろ? 俺関係無いじゃん。」

 

「そんな訳あるか。」

 

「あるよ。 だってさ、あの本は俺が主導で冥琳と一緒に作ったじゃん?」

 

「そうだな。」

 

「で、誰の為に何で作った?」

 

「……雪蓮に読ませる為だ。」

 

「その通り。 あの本は雪蓮に読ませる為に作って、雪蓮に、ひいては孫家に贈った本だ。 その本をどう使おうが、どう扱われようが、それは孫家の自由だ。 俺は関係無い。」

 

それを量産されたり、売られたりしたのは純粋に孫家の管理不足でしょ。

 

「……止めてよ。 なんか私が悪いみたいじゃない。」

 

「「いや、お前は悪い。」」

 

おぅ、ハモった。

 

「……しかし、それでは私達の面子もあるし、何よりお前の名誉が…。」

 

面子と名誉ってあんた、ヤ○ザじゃないんだから。

 

「要らない、要らない。 そんなもんどうでも良いから、今回みたいな直接俺に被害が出るのを防いでくれるようにしてくれりゃ、後はどうでも良いよ。 あの本に関する損も得も全部孫家で片付けてくれ。」

 

ぶっちゃけ名君論にはもう関わりたくないしな。

 

「……はぁ。 わかった。 今回の事は孫家の大きな借りとして残しておく。 それと、今回の犯人にはキツく罰を与えておこう。」

 

「雪蓮に与える奴くらい?」

 

「それ以上だ。 こんな事二度と起こらない様に徹底的にきちんとしておく。」

 

……oh

冥琳の目が恐ろしい。

陸遜さん御愁傷様です。

ま、自業自得だね。

 

「では、雪蓮。」

 

「はいはーい。」

 

ん? 何? どしたの?

佇まいを直したりなんかして。

 

「廖 元倹殿。 此度の一件の事を孫家の代表、孫 文台の名代として、孫 伯符がお詫び致します。 多大なご迷惑をお掛けして大変申し訳ありません。」

 

……ファッ!?

だ、誰だこいつ! 貴様雪蓮じゃないな! 雪蓮を何処にやった!

 

「お、おぅ、あ、いえ。 んん! ……廖 元倹、孫家の謝罪を確かに受け取らせて頂きます。」

 

び、びびったぁ!

 

呉郡一帯の県令をしている孫堅の名前で正式に謝罪されるとは思わなかった。

殆んど太守みたいな、そんな権力ある人が簡単に謝って良いのかよ?

こちとら只の物書きだぞ?

 

「はい。 じゃあ堅苦しいの終わりね?」

 

あぁ、良かった。 雪蓮さんおかえり。

 

「後日、正式に書類としてまた持ってくる。 そこに陸遜の処遇も添えておく。」

 

い、いらねー。

 

「……だが、本の売り上げも本当に要らんのか?」

 

「あぁ、要らん。 金なら有る。 無駄に増やすつもりも無いさ。」

 

ただでさえ最近増えすぎてどうすっか困ってるんだ。

 

「それに、孫家から俺に金が流出してるのを誰かに知られる方が遥かに恐い。 言ったろ? その本に関する損も得も孫家で片付けてくれと。」

 

「……そうか。 お前がそう言うなら、そうしておく。」

 

「でも今回の一件は凄い大騒ぎになったわよねー。」

 

そうなん?

陸遜がやらかした! あの馬鹿!

で、済むかと思ったわ。

 

「一時期は穏の首を差し出して謝罪するべきって意見もあったぐらいよ?」

 

「いらねーよ!? そんなもん絶対に止めろよ!?」

 

「まぁそう言うだろうと思い、その意見は却下されたがな。」

 

当然だろうが。

人の首みて、良しじゃあ赦す。 みたいな事俺は言わねーよ。

 

って言うか、まじで発想がヤ○ザなんですが。

 

「文台様が直接謝罪に行くと言う案もあったな。 まぁ流石にそれは不味いし、文台様は忙しい方なので無理だったが。」

 

……あのさぁ、あんたらさぁ。

そんなもん謝罪じゃなくて、寧ろ暴力だよ?

民衆の前で土下座して赦しをこう様なもんよ?

……俺も昔は姉さんに似たような事やったな。

 

「もう、この話は終わりにしようぜ? 俺の胃が痛い。」

 

「まぁ、待て。 一応お前の孫家に対する希望は何かないか? 出来る範囲の事は何でもするつもりだが。」

 

「別に無いけど、……孫家の出来る範囲ってどんくらい?」

 

太守レベルの権力持ってる人の出来る範囲って凄そうだな。

 

「そうねー、……あ! これも謝罪案の一つだったんだけど、私の妹を嫁に出す、ってのもあったわよ? 大体そのくらいまでなら大丈夫なんじゃないかしら?」

 

うぇ?

 

「……あの、雪蓮の妹、って言うと…。」

 

「文台様の次女、仲謀(ちゅうぼう)様の事だ。 名を(けん)と言う。 歳はお前と同い年だ。」

 

孫権かよぉ!!!

 

「もしかしてそれが良い? 多分蓮華(れんふぁ)もまんざらじゃないと思うのよね。 もしそうなったら、私の事は雪蓮お姉ちゃんって呼んでも良いわよ?」

 

「ナイッス。」

 

「ん?」

 

「キボウトカナイッス。」

 

本当に夢も希望もねぇ。

 

「なんだ、ざーんねん。 蓮華は相当蒼夜の事気にしてたわよ? あの本読ませた後に、それを書いたのが同い年の男の子だと教えてあげたら、すっごい質問責め! 今日も来たがっていたくらいなんだから。」

 

いいよ、もう。

曹操でお腹いっぱいなんだよ。

既に過食気味なのに孫権とか、……せめて別の機会にしてくれ。

 

「……しかし、そうなると孫家には借りを返す宛が思いつかなくなってくるな。」

 

「いらねーよ。 もういいよ。 この話を掘り返さないのが一番の謝罪だよ。」

 

孫家の謝罪は、謝罪じゃねーよ。

 

「そうも行くまい。 こんな大きな借りを放って置く等、末代までの恥だ。」

 

「じゃあもう、その恥を持っておくのをお前らの謝罪にしろよ。」

 

「……なんか、凄い投げやりになって来たわね。」

 

当たり前だろうが。

寧ろ俺としてはよく付き合った方だよ?

 

「はい! じゃあこの話終わり! それより俺は腹へった。 飯にしようぜ、飯。」

 

「全く、お前は…。」

 

「あはは! こういう所が蒼夜らしいじゃない。 ね、冥琳?」

 

「……はぁ。 そうだな。」

 

そう、俺はまだ登り始めたばかりだからな、……この果てしなく胃の痛くなる坂をよ……。

未完!

 

 

_____

 

 

-数ヶ月後-

 

「蒼夜、先日言った正式な文書を持って来た。」

 

「と、いう言い訳で遊びに来たわよー!」

 

「おぅ、そんなん要らないから帰……えぇ?……あの、そちらにいらっしゃるのは…。」

 

「初めまして、いつも姉様と冥琳がお世話になっています。 私はこちらに居る、孫 伯符の妹の孫 仲謀と申します。 お目にかかれて光栄です。 ご迷惑とは存じますが、是非ともあの書に関して御指南の程を承りたく、此度は参上致しました。」

 

「ア、ハイ。 リョウ ゲンケンデス。」

 

……そうですか。

孫家はそんなに俺の胃に恨みがあるのですか。

 

……助けてあねえもん。

 




と、言う訳でちょこっとだけ蓮華さんが出ました。
でもこれからも暫くは出番少ないかも。


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予期せぬ襲来

前回の捕捉

孫堅「謝罪と言う名目で、蓮華を嫁に出して、こいつをウチに取り込もうぜ!」

こんな感じです。



-蒼夜 十一歳-

 

さーて今日始まりますのは、姉さんによる勉強会です。

 

参加者は、俺と姉さんのお店の店員さん達。

……そして、

 

「よろしく頼みます。威方殿。」

 

「お願い致します。威方様。」

 

……冥琳と孫権さんです。

 

どうしてこうなった?

 

_____

 

 

-数日前-

 

「あのさぁ、冥琳。 前から聞きたかった事だけど、お前らってそんなに地元離れて良いのかよ?」

 

お前ら孫家で仕事無いの?

そんなに暇人なの?

 

「問題無い。 今私に振り分けられている仕事は一月の間に三日もあれば終わる様なものばかりだ。 それに雪蓮は未だ仕事らしい仕事をしていない。 故に時間は余っている。」

 

ほーん。

まぁこれでもコイツらまだ十四歳だから、そんなもんか。

最近やたら尻や胸がおっき、……ケホンケホン!

いや、何でもない。

 

「来年になれば私達も立派な成人だ。 もう好き勝手動けなくなる。……ここにもそう簡単には来れなくなるだろう。 そうなる前に文台様が好きにしておけとな。」

 

「……成る程、そりゃ迷惑な話だ。」

 

「ふっ、お前のその憎まれ口を聞くのも、後何回になるかわからんな。 残り時間はあまり長くないだろう。」

 

………。

 

「……何かやっておきたい事はあるか? 普段は俺か雪蓮の我が儘に付き合うだけだろ? たまには冥琳の我が儘にも付き合うぜ?」

 

ま、たまにはね。

 

ただ、これだけは言っておきたいが、九割方雪蓮の我が儘なんだよなぁ。

 

「ふふっ。 ありがとう。 お前のそういう人を気遣う優しい部分は好きだぞ蒼夜。」

 

「お、おぅ。」

 

お、落ち着けぇー!!!

なんて事は無い! ただ誉められただけだ!

 

……心臓バクバク言ってるんだけど!?

 

落ち着け俺、相手は冥琳だ。

あのくそったれフリーダム、雪蓮の親友の冥琳だぞ!

……あ、何か落ち着いて来た。 ありがとう雪蓮さん。 お前に怒りが湧いて来たわ。

 

「それで? 何かしたい事は無いのかよ?」

 

「む? そうだな、……そう問われると存外やりたい事が思いつかない物だ。……ふむ、私は思ってたよりもつまらない人間かもしれないな。」

 

……もう良い、もう……休め、冥琳。

 

あぁ、今まで雪蓮に振り回されて来たから自分のしたい事が見つからないなんて、……なんて可哀想な冥琳。

 

「そ、そうか、……グスッ。 何も今じゃなくても良いんだ。 やりたい事が思いついたら言ってくれ。」

 

俺が全力で叶えてやる。

 

「あ、あぁ。 それは有り難いが、……何故泣いているんだ?」

 

何故だろうね?

俺にもわからないけど、……何故か心が痛いんだ。

 

_____

 

 

そんなやり取りがあった後に冥琳が俺に頼んで来た事は、姉さんの勉強会に参加したいと言う事だった。

 

正直に言えば、そんなもんお前に必要ねーだろ、とツッコミたかったが、それが望みと言うなら好きなだけ参加したら良いと言ってやった。

無論姉さんの許可はとってある。

 

その結果が、

 

「元倹殿も、よろしくお願い致します。」

 

これだ。

 

なんで孫権?

もうこの前来たじゃん。

あの時も大変だったのよ?

すんごい質問責めにされたばかりじゃん。

まだ聞きたい事あんの?

 

「すまんな蒼夜。 威方殿の勉強会に参加をすると話をしたら、蓮華様も来たいと言い出してな。 私個人としては、どちらかと言うと雪蓮に参加して欲しかったのだが…。」

 

……冥琳って意外とロマンチストだよな。

雪蓮が参加する訳が無いだろ。

もし奴が参加したら天地がひっくり返るわ。

 

「……まぁ、冥琳の頼みだから断らんが、 仲謀様には、個人の教師とかいないのか?」

 

普通この手の権力者の娘には家庭教師が付くもんでしょ?

 

「居るには居るのだが、……なんと言うか、……文台様のご意志でな、学ぶも遊ぶも、教師を選ぶも個人の自由にさせろとな。」

 

「……あぁ、……なんっつうか、うん。 凄く雪蓮との血の繋がりを感じるな。」

 

あの親があるから雪蓮は産まれたのか。

フリーダムの上にはストフリが居たみたいな話だな。

 

「申し訳無い、元倹殿。 やはり迷惑だっただろうか?」

 

「あぁ、いえ、お気になさらず。 仲謀様の家柄的にこういう所まで来るのが珍しく思っただけですので。」

 

権力者の娘は、教師を呼び出す事は有っても、あまり塾とかには来たりはしないからね。

 

でも何で孫権はこんな堅物になったんだろ?

……やっぱ雪蓮のせいかな?

まぁ、あんな姉が居たら妹はしっかりするわな。

あー、俺の姉が姉さんで良かった。

 

「家柄だなんて、……そもそも孫家は母が一代で築いた家なので、家格はあまり高くありません。 格で言うのなら冥琳の所の周本家や、先日ご迷惑をお掛けした、穏、……陸遜の陸家の方が余程高いと思います。」

 

でも孫家はその周家や陸家を取り込んでるでしょ?

 

「おーい。 雑談はそろそろ終わって、授業を始めようか。 じゃあ折角来て貰ったんだし、仲謀さんに今日学びたい事を決めて貰おうかな?」

 

「え? あの、授業の内容は決められていないのですか?」

 

あ、そっか。

今日学びたいテーマを決めて、討論して行く水鏡スタイルの授業は初めてなのか。

 

「うん。 僕の勉強会では、何を学びたいかその都度決めて、皆で意見を出しあって学習する方針なんだ。 水鏡先生って知ってるかな? その人から教えて貰ったやり方なんだけどね?」

 

「ほぅ。 成る程、かの有名な司馬 徳操のやり方でしたか。 しかしそれは、教える側に相当な知識量が無いと成り立ちませんね。 流石は威方殿。」

 

俺命名、“歩く図書館”が俺の中の姉さんの異名だからな。

 

「あはは。 そんな大層な物でもないけどね? それで何か学びたい事でもあるかい? 分野でも構わないよ?」

 

「では、是非とも名君論に関して、元倹殿の師匠である威方様の意見が聞きたいです。」

 

……ねぇ、冥琳。

俺はその話を掘り返さないでって言ったよね?

それちゃんと孫家に伝えた?

 

 

_____

 

 

「と言う事で、僕個人としては面白いと思うし、君主としても有りな姿と言っても良いと思う。 けど、儒教的に見たらとんでもないね。 この大陸の漢と言う国からの視点で見たら、禁書になってもおかしくない本だと言えるね。」

 

ですよねー。

 

「では、この名君論は間違っているのでしょうか。」

 

「うーん、……それは何とも言えないなぁ。 極論になるけど、結局の所読み手次第なんだよね。 この本に書かれている君主を目指すのも、儒教的に考えて否定するのもどちらも別の視点から見たら間違っていない訳だからね。」

 

そう結局の所、何時の時代でも、この手の本を出したら賛否両論になるんだろうな。

 

「その本に“詳しい”私としては、決して儒教とも相容れない訳ではないと主張したいですね。」

 

完全には無理だけどな。

でもまぁ、光武帝みたいな限りなくそれに近い君主も存在するしな。

 

「うん。 儒教と名君論、両方の良い所を取っていくのが、良いあり方かもしれないね。」

 

「……成る程。 勉強になります。」

 

「あはは。 そりゃ勉強会だからね。 勉強になってくれなきゃ僕が困るよ。 っ! コホッコホッ!」

 

「姉さん?」

 

「コホッ! あぁ、ごめん。 少し、コホッ! むせたみたい。 コホッコホッ!」

 

おい、大丈夫か?

 

「水持ってこようか?」

 

「お願い。 コホッ!」

 

ったく、しゃあねーな。

 

 

_____

 

………。

 

「威方殿! 威方殿!」

 

水を運んで来た俺が見た光景は絶対にあってはならないものだった。

 

「ヒュー ヒュー」

 

……姉さんが、血を吐いて倒れていた。

 

目の前がクラクラする。

俺が今見ているこの光景はなんだろうか。

 

持ってきたはずの水はいつの間にかこぼれていて、俺の足を濡らしていた。

 

「元倹殿! しっかりして下さい! 元倹殿!」

 

孫権の声が聞こえる気がするが、何を言っているのか上手く聞こえない。

 

俺の目に映るのは、血で口回りを紅く染めて、虫の息で呼吸する最愛の姉の姿だけだった。

 




蓮華さんの襲来?
答えはシリアスさんです。


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理不尽なんざ認めない

史実における楊慮 威方は、十七歳という若さで亡くなっています。


……昔からおかしいとは思っていたんだ。

我が姉、楊慮 威方、……撈姉さんは、とんでもなく優秀だった。

 

その優秀さは、あの司馬 徳操を持ってして、教える事が無いと言わせる程だ。

 

そんな姉さんの名前を俺は三国志で知らない。

有名になってもおかしくない程の優秀さを持っているにも関わらずだ。

 

最初は、この世界が俺の知る三国志とは違うので、微妙な齟齬があるのだろう思った。

 

だが冥琳や雪蓮等、三国志で有名な人物に接する程、この世界は別の世界だが、限りなく俺の知ってる三国志の知識に近いと感じていた。

 

そこで俺が思い至ったのは、三国志の楊慮と言う人物は世に出なかったか、……あるいは、……大成する前に亡くなったかの、どちらかだろうと言う事だった。

 

……そして俺は前者であると思っていた。

士官を嫌がり家出する様な姉さんだ。

てっきり、三国志の方でもそんな人物なのだろうと勝手に思っていた。

 

そもそも姉さんに、そんな予兆は無かったはずだ。

身体の調子が悪い様子なんて一度も見た事が無い。

 

俺が全く気がつかなかっただけなのか、もしくは……ただ、純粋にここで死ぬ運命なのか……。

 

「……っっっ!!!」

 

「……蒼夜?」

 

「認めるかよ! そんな事!!!」

 

俺は、廖化だ! 廖 元倹だ!

だが、それがどうした!

あの日を思い出せ!

両親を亡くして前世の知識を思い出したあの日に、俺は自分の魂に誓っただろう!

 

俺は自由に生きると!

運命も歴史も関係無い、自分の人生は自分で決めると! 運命に抗うと!

 

誰にも邪魔はさせないと!

例え偉人だろうが、英雄だろうが邪魔なんかさせないと!

 

今回も同じさ!

歴史の都合だろうが、修正力だろうが知ったこっちゃない!

姉さんが死ぬ運命なんざ否定してやる!

 

そんなもの、この俺が認めない!

認めてたまるか!

 

そうさ俺は、前世の知識を思い出した廖 元倹だ!

小説の主人公の様に、漫画の主人公の様に、誰よりも格好良く、誰よりも自由で、誰よりも面白おかしく生きるんだ!

そうだろ! 蒼夜!

 

「冥琳! 今こそ、孫家の借りを返して貰うぞ!」

 

俺の鬼気迫る様子に冥琳は一瞬怯んだが直ぐに立ち治り答えてくれた。

 

「あ、……あぁ! 何でも言え!」

 

 

_____

 

 

「……ちっ!」

 

あれから二週は経つが姉さんの容態は一向に良くならない。

……寧ろどんどん悪化して行く。

 

俺の漢方的な薬草の知識だけでは限界がある。 ただの時間稼ぎにしかならない。

それに、襄陽に医者が居ないのが何よりも辛い。

……この時代に医者が少な過ぎる。

 

……今俺が持っている物は、金も知識も武力もまるで役に立たない。

……前世の知識があった所で姉さん一人助けられない。

 

「……蒼夜、……ごめんね。」

 

っっ!!!

 

「……何で、姉さんが謝るんだよ。」

 

あんたは何も悪くないじゃないか。

 

「……あまり、……寝てないんだろう?……隈が、凄いよ?」

 

「大丈夫だ、こんなもん問題ねーよ。……それより、喋るのもキツいだろ? 無理しないで眠ってろ。」

 

姉さんが謝る事は何も無い。

寧ろ姉さんに謝らせたい奴等が居るくらいだ。

 

姉さんが倒れて様々な見舞い客が訪れたが、……姉さんの家族である楊家は一向に現れなかった。

だから俺が姉さんの現在の状態を記した手紙を送ったら、返って来た返答がこれだ。

 

『そちらの楊 威方と私達は無関係である。 これ以上こちらに手紙を送るのは止めて頂きたい。』

 

くそったれが!

 

この手紙に激怒した俺はその場で直ぐに破き棄てた。

血の繋がりが無い天涯孤独の俺からして見ればこいつらの仕打ちは許せるものじゃない。

何でこんな奴等から姉さんが産まれたのか信じられないくらいだ。

血の繋がりは無いが俺と姉さんの方がこんな奴等よりもよっぽど大切な家族だ。

 

「……俺が、必ずなんとかするから。」

 

口ではこう言っているが、最早俺に出来る事は何も無い。

 

後は冥琳に頼んだ賭けに、頼るしかない。

 

 

_____

 

 

「ガホッ! ガハッ!」

 

「姉さん!」

 

不味い!

姉さんが大量の血を吐いた。

もう体力的に限界まで来てるのかもしれない。

 

「……蒼夜、……僕は、まだ、……大丈夫。 君が、……居て、くれる、……なら、……まだ、頑張れる。」

 

「わかった! わかったから!……喋らなくて良い!」

 

もう限界だ。

姉さんの手を繋ぐ事しか出来ない俺はそう感じていた。

姉さんの体温が低くなっているのを感じるし、手から力が抜けてるのもわかる。

 

もう、駄目かもしれない。

俺が認めない事を決めたあの時の事は何の意味も無かったのかもしれない。

……俺の足掻きは、ただ悪戯に姉さんが苦しむ時間を伸ばしただけなのか。

 

「待たせた蒼夜! まだ威方殿は無事か!?」

 

冥琳!

 

「俺が医者だ! 患者は何処に居る!?」

 

来た、間に合った!

俺は賭けに勝った!

 

「ここだ!」

 

「俺が来たからにはもう大丈夫だ! 必ず救ってみせる!」

 

 

_____

 

 

俺が冥琳に、……孫家に頼んだ事は、呉郡一帯に居る一番優秀な医者を探して貰う事だった。

何故なら、そこには三国志で一番優秀な医者と言われる華佗(かだ)が居る可能性が高かったからだ。

 

無論居ない可能性や、まだ医者じゃない可能性もあったがそんな事は言ってられなかった。

藁にもすがる思いとはこう言う事なのだと体験した。

 

冥琳が連れて来たあの医者が華佗かは知らないが、少なくとも呉郡一帯で一番優秀な医者なのだろう。

それなら期待も出来る。

 

「……あの男が孫家の領地内で一番優秀な医者の、華佗と言う者らしい。 正直、どの程度腕が立つかはわからんが、……最早華佗に託すしかない。」

 

やはり華佗だったか。

 

「……孫家は良くやってくれた。 ありがとう冥琳。」

 

だがこれで全ての解決じゃない。

もし華佗でも駄目なら、もう俺に打つ手は無い。

 

……頼む。

 

「………。」

 

華佗は、鍼を構えて姉さんを観察している。

……鍼か、……知識としては知っているがどのくらい効果があるのか。

いや、治ってくれたら何でも良い。

この時代としては異端だろうが、外科手術をする事になったとしても文句は言わん。

 

「っ! 見えた! 我が身、我が鍼と一つになり!一鍼同体!全力全快!必察必治癒……病魔覆滅!元気に、なれぇぇぇっっっ!!!」

 

本当に治療なんだろうなそれ!

 

「ガフッ!」

 

姉さん!?

 

「……スー スー」

 

え?……えぇ!?

姉さんの息が落ち着いて、顔色も良くなった。

 

……はりってすごい。

 

「ふぅー。 もう安心だ! まだ完治した訳ではないが峠は越えた。」

 

「……威方殿が死ぬ危険は、もう無いのだな?」

 

「あぁ。 命の保証は俺がしよう。」

 

そ、そうか、もう安心なのか。

 

「はぁぁ、ふぅぅぅ。……間に合わないかと、思った。……俺の足掻きは無駄かと思った。」

 

安堵からついそう呟いてしまった。

 

「そんな事は無い。 寧ろ良くやった! お前のその献身的な治療が彼女を生き長らえさせ、救ったんだ。 俺は最後の一押しをしただけだ。」

 

お世辞だと思うが、この名医がそう言うのなら、……良かった、俺の行動は無駄じゃなかったのか。

 

「あ、あぅ、……あ、あり、」

 

おかしい、上手く声が出ないな。

 

「ありが、とう。……ありがとう、華佗先生。 ありがとう、冥琳。」

 

上手く喋れないだけじゃない。

涙も鼻水も出て来ていやがる。

恥ずかしいったら、ありゃしない。

……でも、本当に良かった。

……本当にありがとう。

 

 

_____

 

 

姉さんが華佗による鍼治療で峠を越した安心感からか、一気に今迄の疲労がやって来た。

 

……そういや数日は眠ってなかったかもしれん。

ずっと姉さんに付きっきりだったから記憶も曖昧になってる。

 

そこで俺がふらっとしたら、目敏く華佗に気づかれた。

 

「む? お前も体調を崩している様だな。 姉が心配なのはわかるが、あまり感心せんな。 どれ、お前にも鍼を打とう」

 

え? 俺もあれされんの?

 

 

_____

 

 

 

ゲンキニナレェェェ!!!

グァッ!

 

……改めて思った、はりってすごい。

 

物書き失格な考えだが、どう表現したらいいかわからん。

 

刺された! と思ったら、何かが身体中を走り、一気に疲労が抜けた。

 

鍼にこんな効果があるとは知らなかった。

 

「有り難うございます。 疲れが抜けました。」

 

「疲れは抜けたかもしれんが、寝不足は抜けない。 後でしっかり眠ってくれ!」

 

華佗ってめっちゃ良い人だ。

ただ、恩人に向かって大変失礼だが、……非常に暑苦しい。

 




華佗「元気になれぇぇぇ!!!」
シリアス「ぐわぁぁぁ!!!」

と、言う訳で作者の作品では姉さん生存ルートです。
感想欄に沢山の方から華佗はよこいの感想を頂いてました、ありがとうございます。
が、最初から姉さんは死なない予定でした。
この為に呉に借りを作ったりしましたからね。(寧ろデカイ恩を貰いました。)

折角のオリキャラなので姉さんのイメージ図を顔だけですが、描いてみました。
ですが、作者は絵が下手なので、もの凄く恥ずかしいです。
活動報告に乗せてありますが、明日の更新には消そうと思います。



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ゴットヴェイドォォォ!!!

この投稿を持って活動報告の絵は消させて頂きます。


華佗が姉さんを救ったその日、俺は結局直ぐに眠ってしまった。

 

どうやら俺は丸一日眠っていたらしく、冥琳が言うには、それこそ死んでる様だったとか。

 

華佗も居るのにそんな事言うの止めろよな。

 

俺が眠っているその間は冥琳と華佗が姉さんの看病をしてくれたらしい。

 

今回の一件で孫家には借りを返して貰う所か、大きな借りを作ってしまった様に思う。

 

多分俺は華佗と孫家には一生かけてもこの恩を返せないだろう。

 

 

_____

 

 

「姉さん、調子はどうだ?」

 

「うん。 もうすっかり良くなった。……ありがとう、蒼夜。」

 

まだ床の中で横になって貰っているが、姉さんはかなり回復したようだ。

 

「君のお陰で、僕は生きてるよ。」

 

……泣きそうになる事を言うのは反則だろうが。

 

「……それは冥琳、いや、……孫家と、孫家が探して来てくれた、華佗先生に言ってやれ。……俺は殆ど何も出来なかった。」

 

今回の事程、自分の無力さを知った事は無い。

 

「ふふっ。 勿論言ったよ。 そしたら、先ずは君に言ってやれってさ。」

 

「……そっか、……じゃあ、俺も。 姉さん、生きててくれてありがとう。」

 

「……うん。……僕は、本当に良い弟を持った。……あの日、君と出会えたのが僕の人生の最大の幸福なんだろうね。」

 

「逆だよ。 俺が姉さんに会えた事が本当に幸福な事なんだ。」

 

あの頃、襄陽に来る事を選択したのは、俺の人生の最大の功績だろう。

 

「お互いにそう思うなんて、僕達は幸せ者だね?……ふふっ、本当に嬉しいな。……君のご両親には申し訳無いけど、きっと僕と君は家族になる運命だったんだろうね。」

 

そんな事は無い、と俺の前世の知識は言っているが……。

きっと、そうなのだろうと俺も信じたい。

 

その後は暫くの間、久し振りに俺と姉さんは静かに家族の時間を過ごした。

 

 

_____

 

 

「華佗先生、此度は我が姉を救って頂き、誠に感謝致します。 つきましては、私は先生に何をお返ししたらよろしいでしょうか?」

 

仮に全財産と言われても、私は一向に構わん。

 

「先生は止めてくれ。 俺はそんな大層な人間じゃない、華佗で良い。」

 

貴方が大層な人間じゃなかったら、この世の大体の人はしょうもない人間って事になるぞ。

 

「それに俺は、見返りを求めて人助けをしている訳ではない。 患者がいるから医者をしているだけさ。」

 

やべぇ、この人に足を向けて寝られない。

こういう人の事を聖人って言うんだろうな。

 

「ですが、せめて何か感謝の気持ちを示したいのです。」

 

「……そう言われてもな。」

 

困らせるつもりは無いが、少なくともこのまま『ありがとう』だけで終わらせる訳にはいかない。

俺の面子にかけてな!

……これじゃ孫家と一緒じゃねぇか。

 

「……では、そうだな。 蒼夜、君は本来物書きだそうじゃないか。」

 

「はい。 僭越ながら、世に私の書いた書物を出させて頂いています。」

 

リスペクト品ばかりだけどな。

ちなみに、華佗にはとっくに俺と姉さんは真名を預けた。

 

真名を預けた時に本人が言っていたが、華佗の方はどうやら、字や真名ではなく、そのまま華佗と呼んで欲しいらしい。

 

「出来れば、君のその物を書く力を使って、薬草学の本を世に出して貰えないだろうか? 無論、俺も手伝う。」

 

それは……。

 

「……私としては、寧ろ願ってもない事ですが、……しかしそれは謝礼になるのでしょうか?」

 

華佗の知識を借りてそんな本を書けるなんて、ご褒美だろ。

 

「あぁ! 是非ともそうして欲しい!」

 

あ、熱い。

 

「俺は大陸中の、病気に苦しむ患者を治す為に旅に出る事が多いのだが、……どうしても、間に合わない時がある。……だが! もし今回の君の様に薬草の知識等で、出来るだけ生き長らえていて貰えれば、俺の救える人も増える!」

 

……本当に、この人は根っからの医者なのだろう。

華佗へのお礼の話のはずが、華佗が人を救う話に変わってしまった。

……だが、

 

「廖 元倹、確かに承りました。」

 

この話を受けない理由は無い。

 

 

_____

 

 

さて、華佗からの依頼の薬草学の本を書く前にもう一人会っておかねばならない奴がいる。

 

……まぁ、冥琳の事だけど。

 

……何か会うのが恥ずかしい。

色々と今回は醜態を見せてしまったからな。

急に叫んだり、顔中ドロドロになったのを見られてしまったり、……深く考えるのは止めよう。

 

「冥琳、今回はありがとう。 孫家には借りを返して貰う所か、大きな借りを作ってしまったな。」

 

「何を言う。 この程度借りを返した内には入らんさ。 それに、私自身も威方殿の為に何かしてやりたかったんだ。 今回の件は私の為でもある。」

 

「……だとしても、ありがとう。」

 

本当に感謝の言葉しか出ないもんだ。

 

「ふっ、気にするな。 私とお前の仲だろう?」

 

「お、おぅ。」

 

お、落ち着け、大丈夫。

純粋に仲が良いだけだ。

 

「それと、威方殿にはまだ盤戯で勝っていないからな。 あの方には私が無敗伝説に土を付けるまで死なれたら困る。」

 

「くはっ! くくっ、……冥琳って意外と執念深いのな?」

 

「笑うな。 私の目標なんだぞ?」

 

「ごめんって、……拗ねるなよ。 まぁ、近い将来冥琳なら勝てるよ。」

 

最近は惜しくなって来てたしな。

 

「さて、冥琳。 ここからはちょっと真面目な話だけど、今回の件の事、孫家に正式に感謝したい。 落ち着いたら孫家に挨拶に行こうと思う。 それを伝えておいてくれないか?」

 

孫 文台には直接礼を言わなきゃな。

 

「わかった。 だが、出来れば少し時間を置いた方が良いかもしれん。 最近この荊州近辺の豪族と不和があってな? 現在孫家は少し慌ただしい。」

 

そんな時に華佗を探して来てくれたのか、……本当に頭が上がらないな。

 

「そっか、まぁ俺は都合が良い時で良いから。」

 

「あぁ、その時は私と雪蓮で迎えにこよう。」

 

「よろしく頼むよ。」

 

 

_____

 

 

それじゃあ、約束通り薬草学の本でも書こう、……と思ったが、少し疑問があるので、俺は華佗に聞いてみた。

 

「華佗さん、薬草学の書物を書くのは良いのですが、貴方の医術は書かないのですか? 正直、貴方の医療知識を書いた方が延命措置に繋がると思うのですが……。」

 

「あぁ。 基本的な医療知識は教えても良いのだが、俺の鍼を使う医術、五斗米道(ゴットヴェイドォォォ!!!)は病巣のツボに気を送り込む治療なので、普通は出来ない。 それに五斗米道(ゴットヴェイドォォォ!!!)は一子相伝だからな。」

 

き、気? ツボ? 一子相伝?

……一体何処の世紀末暗殺拳だよ。

 

「はぁ、五斗米道(ごっとべいどう)ですか。 初めて聞きました。」

 

「違う! 五斗米道(ごっとべいどう)ではない! 五斗米道(ゴットヴェイドォォォ!!!)だ!」

 

ア、ハイ。

意外と発音に厳しいな。

 

「すいません。 それで、気とは何でしょうか?」

 

いや、勿論聞いた事はあるし、知識として知ってはいるよ?

でも正直眉唾だから信じてなかったんだよね。

 

「む? 何で君が知らないんだ? 君の気の流れから見て、君は武力のある人間だろう? なら普段から使っているはずだが。」

 

え? そうなん?

俺にいつの間にか気が?

……かめ○め波とか撃てんのかな?

今度山でやってみよ。

 

 

_____

 

 

……残念。

かめ○め波は出来ないのか。

でも、センスがある奴は気弾を撃てるらしい。

……練習しよっかな?

 

気について華佗に教えて貰って思ったのが、これどっちかっつうと具現化と特質が無い念○力に近くね?

と言う感想だった。

華佗も恐らく鍼を使って自己治癒能力の強化とかしてるのだろう。

……俺も水見式しなきゃ。

 

まぁ冗談はさておき、俺は華佗の要望通り、基本的な医療知識とそれに伴う詳しい薬草学の本を作りあげた。

その本の名前を『神農本草経』と言う。

かなり詳しく書いたので、この本の通りにきちんと処方すれば、かなり役に立つだろう。

そして、この本の著者として俺の名前を、監修として華佗の名前を書いた。

 

今までと違い、前世の知識は殆んど介入していないので、ある意味この本こそが俺の真の処女本と言える。

 

……個人的に言わせて貰えば、今まで出したどの本よりも一番良い出来だと、確信を持って言える。

 

まぁ、世間がどう評価するかは知らんがな。

 

「では、出来上がったこの本を複製して世間に売り出しますね?」

 

「あぁ! 医者の俺から見てもこの本は素晴らしい! 是非よろしく頼む!」

 

とりあえず、冥琳と曹操には沢山送って近場にばらまいて貰おう。

 




神農本草経は後漢時代に実際に存在する薬学の本です。
著者が不明になっていますので、この世界では主人公と華佗が作り上げた医療系統の薬草学の本として、出版されました。


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しあーわせのよーかん

ボーイミーツガール。
と、言う事でロマンス回です。


-数日後-

 

「うむ。 今回の治療で、撈殿の治療は終了だ。 完全に治ったと言って良いだろう。」

 

「再発の可能性はございませんか?」

 

こんな事は二度とごめんだぞ。

 

「完全に無いとは言い難いな。 病魔とはいつ何時に来るかはわからんからな。 だが限り無く再発の可能性は低いだろう。」

 

完全じゃないのは怖いが、華佗が保証するなら一応は大丈夫なのだろう。

 

「ありがとね? 華佗君。」

 

「君付けは止めてくれ。 恥ずかしいではないか。 普通に華佗で良い。」

 

「えー? なら君も僕に殿って付けるのを止めてくれるかい? 僕の事は撈で良いよ。」

 

「うーん、しかしだなぁ……。」

 

「良いじゃん? ほら呼んでみなよ?」

 

「そうか? では、改めてよろしく頼む撈。」

 

「う、うん! よろしくね華佗。」

 

………。

 

……え?

何この空気?

 

え? えぇ!?

もしかして、……姉さん……。

いや、しかし、……でも。

つまり、……そう言う事なのか?

 

 

_____

 

 

俺は今、寝室で正座して精神統一をはかっている。

今日はそこに姉さんを呼び出した。

 

コンコン

……来たな。

 

「……入ってくれ。……姉さん、大事な話がある。」

 

今回はちょっとじゃ済まさないぞ?

 

「どしたの?」

 

うむ、単刀直入に行こう。

 

「……あんた、……奴に惚れたね?」

 

「ゴフッ!」

 

おぅおぅ、真っ赤になっちゃってまぁ。

 

「ちちち、違うよ!? 本当、違うから!? 別に華佗の事なんか好きじゃないよ!?」

 

ほぅほぅ。

 

「語るに落ちてるじゃねぇかよ。 誰も華佗の事なんて言ってねぇぞ?」

 

「いや、その、……あれだよ、今はウチに華佗が居るから。」

 

そう、今は、なんだ。

明日、遅くても明後日には華佗はウチを出て襄陽を去る。

 

その前に、なんとしてもこの俺が恋のキューピットとしてくっ付けねば!

 

この行き遅れにはなんとしても幸せになって貰わねばならんからな。

 

「いや、否定しなくて良いから。 見りゃわかるから。」

 

「ぐっ!……まぁ、その、……そうです。」

 

おぅおぅ、先日の病気が嘘のように血色の良い事で。

そう思ってたら、姉さんはどんどん表情を曇らせて来た。

何だ? 何か不味い事でもあるのか?

 

「……でも正直言って、無理だよね。」

 

「何? もしかして年齢の事気にしてんの? 大丈夫、大丈夫。 姉さんまだ綺麗だから、あんま気にすんなよ!」

 

「……蒼夜、怒るよ?」

 

何で!?

俺誉めたよね?

そんなおかしな事言った?

 

「まぁ、綺麗って言ってくれたから今回は許してあげる。」

 

「お、おぅ。 すまんね? けどじゃあ、何を気にしてんだよ?」

 

「いや、だから、……華佗はもうすぐ襄陽からいなくなっちゃうじゃん。……そしたらもう僕とは関係無いよ。」

 

はぁ?

 

「ちょっと言ってる事がよくわかんないですねぇ。」

 

え? 何? どゆこと?

 

「普通に華佗に付いてきゃ良いじゃん? 一緒に医療の旅に出なよ。」

 

「えぇ!? ちょっと蒼夜! 自分が何言ってるのかわかってるのかい!?」

 

勿論わかってますが?

 

「当たり前だろ。 行き遅れの姉さんの最後の機会だろ? これを逃がしちゃ駄目だ。」

 

それに華佗なら信用して姉さんを送り出せる。

 

「……蒼夜、僕怒るって言ったよね?」

 

え? え?

 

 

_____

 

 

……しこたま怒られた。

 

このくらいの女性に年齢の話や、行き遅れの話はいかんらしい。

……俺の前世の知識としては、まだ若い部類なんだけどなぁ。

まぁこの時代的にみたら、もう子持ちでもおかしくないレベルか。

でも少し気にし過ぎな気もするけど。

 

「……まぁとにかく、昔した約束を果たすと考えて、華佗を狙いに行って、俺が成人するまでに結婚してくれ。」

 

「……でもさぁ、……蒼夜はどうするの?」

 

「俺? ここで暮らすよ?」

 

独り暮らしのスキルもあるしな。

 

「……独りでかい?」

 

「? そうだけど?」

 

「……それは、ちょっと……。」

 

おい、まさか俺に気を使ってるのか?

 

「言っておくが、俺に気を使ってるなら止めろ。 これも昔に言っただろうが、邪魔になったら出て行くって。 今回の件は本気だぞ? 姉さんが華佗を諦めるとか抜かしたら、俺は出てくからな。」

 

「えぇ? 何でそうなるのさ?」

 

「あんたの足枷になるつもりは無いんだよ。」

 

華佗が好きなら華佗と行けよ。

俺は姉さんが生きて幸せならそれで良いんだから。

 

「いい加減、俺の事より自分の幸せを考えてくれ撈姉さん。」

 

「……別に僕は、君と居られたら充分幸せだよ。」

 

「じゃあ一生二人で暮らすのか? 俺と結婚するとか言うのかよ?……例えば、俺が成人して誰かと結婚したらどうするんだ? 一緒に暮らすのか?……俺を心配してくれるのは嬉しいが、俺を理由に自分の幸せを探さないのは止めてくれ。」

 

俺が貰う将来とか嫌だぞ。

 

「……君を理由に、か。……うん、そうだね、そうかもしれない。 僕は今まで結婚しない事を、君を理由にしてきたんだろうね。」

 

お見合い話とか昔からあったのに全部拒否してきたからな。

 

「……確認するけど、君は僕が華佗と旅に出ても、それで良いんだね?」

 

「あぁ、俺の姉さんに対する要望は一つ、生きて、幸せである事。……それが叶ってるなら例えどんなに遠くに居ようとも俺はそれで良い。」

 

「そっか、うん。……例え離れても家族って事なんだろうね。 うん、僕もそうだ。 例え離れても君が幸せならそれで良い。」

 

決まりだな。

……姉さんは、華佗と行く。

後は華佗本人に確認するだけだ。

 

 

_____

 

 

「華佗さん、ちょっと良いですか?」

 

「どうした?」

 

「華佗さんは明日には襄陽を去るのですよね?」

 

「あぁ、撈の治療も終わった事だし、俺はまた大陸の旅に出ようと思う。」

 

「……姉さんをその旅に連れて行って下さい。」

 

恩人に申し訳無いがここからはごり押しさせて貰うぞ。

 

「な、何!? 何故だ!?」

 

「後で本人から説明がありますが、どうやら今回の一件で自分の様に病気で苦しむ人達を助けたいと思ってる様です。」

 

勿論これは嘘ではない。

だが、一番の理由でもない。

 

「それは素晴らしい心掛けだが、……何も俺の旅に付いてくる必要は無いのではないか? 言っては何だが、俺の旅は中々過酷だぞ?」

 

ふむ、それは吊り橋効果も期待出来るな。

 

「それでも、貴方と一緒に行きたいのですよ。 それに私も貴方になら安心して姉さんの事を頼めます。……お願い、出来ませんか?」

 

「しかしだな……。」

 

「姉さんは体力は人並みですが、その知識量は並ではありません。 無論、医療系統の知識もあります。 何かと役に立つと思われますが。」

 

「……はぁ、わかった。 一度彼女と話し合いをしてみる。 それから決めさせて貰おう。」

 

よしきた。

後は姉さん次第だ。

 

「何卒、よろしくお願い致します。」

 

 

_____

 

 

-翌日-

 

結局、華佗はそのまま姉さんに押し切られてしまい、断る事をしなかった。

 

「……蒼夜、僕がいないからって、適当に生活しちゃ駄目だよ? ちゃんとご飯食べなよ? 夜も遅くなっちゃ駄目。 周りの大人は尊重しなよ?……それから、……」

 

「わかった、わかった。 心配しなくてもちゃんとするから。……姉さんこそ、約束を守れる様に努力しろよ。」

 

おめーは母親かよ。

……まぁ、似たようなもんか。

 

でもそんな事より、この人の結婚の方が遥かに重要だ。

 

「……頑張ります。 あ、それと君が成人する頃には必ず一度襄陽には帰ってくるよ。」

 

「ほぅ? その時には良い報告を期待しよう。」

 

その頃になって、結局駄目でしたとかは洒落にならんぞ?

 

「さて、別れもそこそこに、そろそろ出発しようか、撈。」

 

「うん。 これからよろしくね、華佗。」

 

「あぁ! こちらこそよろしく頼む!」

 

うむ、中々良い雰囲気だ。

もし姉さんを悲しませたりしたら、死なない程度にぶっ殺してやる。

 

……何気に俺って重度のシスコンだなぁ。

まぁそれも良いかな。

 

「……姉さん、六年間ありがとう。 本当に世話になった。……達者で。」

 

「うん。……離れても君を愛してるからね。……それだけは忘れないで。」

 

その言葉を皮切りに姉さんと華佗は旅立った。

 

……はぁ、寂しくなるなぁ。

 




と言う事で、姉さんは華佗について行きます。
最初から想定されてた事でした。
出番は減りますが、これからも一応少しは出ます。

これにて十一歳の本編は終了です。
次回は閑話として、時期ネタを挟み、それから十二歳を開始します。


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閑話 初めてのメリー苦しみます

久々の頭空っぽのお馬鹿回です。

この時代に、正確な日付をどうやって知っただの
古代中国は暦の読み方が違うだのはスルーして頂けるとありがたいです。


-蒼夜 十一歳 十二月二十四日-

 

クーリスマスがことしもやぁてくるー。 っと。

 

……あー、フライドチキン食いてぇー。

知識としては知ってるけど、食った事ねーんだよなぁ。

……いや、まてよ?

その気になれば作れなくもないな。

小麦粉もあるし、鶏もいるし。

 

……よし。

りょうねる げんだーすに俺はなる!ドン!

 

ってーな訳で、

 

「冥琳、知ってるか? 明日は羅馬では聖人の生誕として特別な日らしいぜ?」

 

パーティー開いて食べよう。

 

「ほぅ? 初耳だな。 どういう日なのだ?」

 

まぁ、本当にこの世界でもそうなのかは知らんがな。

でも騒ぐ口実にはピッタリだ。

 

「何でも、神の子と呼ばれる人が生まれた日らしい。 それで、その事を祝って祭りをするらしいぜ? 例えば赤い服着た長い白髭のおっさんが、子供達が寝てる間に玩具とかを子供に配るんだとさ。」

 

いやまぁ、サンタの発祥はもっと後の時代だけどね?

まぁ、多少はね?

 

「……何だそれは? 一体、その聖人の生誕とどんな繋がりがある。」

 

「知らんがな。」

 

まぁ、そもそもサンタと生誕祭は別枠ですし。

 

「まぁ、それは置いといて。 俺達もそれに乗っかって雪蓮でも誘って馬鹿騒ぎしようぜ。」

 

「……はぁ。 ただでさえ奴は騒がしいのにわざわざ騒ぐのか。……まぁ、良いだろう。 雪蓮には私から伝えておく。」

 

「おぅ、よろしく。 料理とか飲みもんは俺が用意するから夜までにはウチに来てくれ。 あ、あと贈り物の交換をそれぞれでするから、その事も伝えておいてくれ。 久し振りに三人のみで騒ごうぜ?」

 

「わかった。 しかし贈り物か、ふっ、楽しみにしておけ? 私も楽しみにしておく。」

 

「ほぅ? 思わせ振りじゃねーか。 ま、明日を楽しみにしとくわ。 じゃあ、また明日な。」

 

 

_____

 

 

さて、料理は別に明日作りゃ良いから、プレゼント選びだな。

 

まぁ、最初から決まっているけど。

んなもん服一択しかない。

 

何故ならば、あいつらここ最近身体のあちこちが大きくなって来たから、服の新調が激しい。

……そして、ここからが重要な事だが、……ここ最近のあいつらの服は胸元から臍下までがっつり空いてる露出服なのだ。

 

……一体何が哀しくて親友と言っても差し支え無い友人達の露出姿を見なきゃならんのだ。

 

いや、目の保養にはなるよ?

けどさぁ、あんなんさぁ……。

 

まぁ、とにかく、今は真冬で寒い時期だ。

風邪をひかれても困るし、暖かい羽織でもプレゼントしよう。

 

 

_____

 

 

と言う事で、俺は服屋で良質な布地の羽織を六種も買って来た。

 

しかし、これでは芸が無い。

ここは物書きとして、この羽織の背中部分に文字を入れよう。

前世の知識にも、文字Tシャツとかあるしな。

 

……ただ、刺繍するとなると面倒だなぁ。

まぁ、いいや後でそういう服の店に頼もう。

 

それよりも、何を書くか。

……一人三つか。

 

まぁ、雪蓮は簡単だな。

まずは、『虎娘』これだろ?

んで次に『我が生涯に一片の悔い無し』

最後に『働かない』

……うむ、良い出来だ。

 

問題は冥琳だな。

……さて、何て書こうか。

とりあえずは『美周郎』だな。

そんで『知識の探求者』これは入れとくか。

最後に何て書こうかなぁ。

……なんか、ネタ枠が良いなぁ。

……冥琳、冥琳。

あっ、いや、……でも、……まぁ俺にしか通じないから良いか。

『黒髪眼鏡の女教師』

うむ、素晴らしい。

実に冥琳らしい言葉だ。

 

 

_____

 

 

-十二月二十五日-

 

今日は朝から割りと忙しかった。

掃除と料理だけで、日が傾き始めてる。

 

さて、そろそろ冥琳達も来るだろうな。

 

「蒼夜、来たぞ。」

 

「蒼夜、きたわよー。 さぁて、騒ぐわよー!」

 

早い、早い!

まだ騒ぐな!

 

「へい、らっしゃい! 飯は出来てやすぜ? 早速食べますか?」

 

「まぁ、食事は頂くが、……何だ? その食事処の店主の様なしゃべり方は?」

 

まぁ、なんだかんだ俺も初めてのクリスマスパーティーだからな。

知識としては知ってるが、正直テンションが上がってるんだよ。

 

「おぉ! この料理、蒼夜が作ったの? 初めて見るけど、美味しそうね!」

 

そうでしょう?

なんたってフライドチキンだからね?

……俺も今日初めて食うけど。

 

「んじゃ、とりあえず飯食おうぜ?」

 

アーユーレディ? レッツパーリー!

 

 

_____

 

 

「これ、美味しいー! 何て料理なの?」

 

え? フライドチキン。

……何って言ったら良いんだろ。

 

「あー、……揚げ鳥?」

 

「何で疑問系なんだ。 お前が作ったのだろう?」

 

いや、そうなんですけどね?

 

「まぁ何でも良いけどね? これ沢山食べて良いのかしら?」

 

「おぅ、好きなだけ食え。 なんなら持ち帰って良いぞ?」

 

冬だし多分明日までは持つでしょ。

 

「しかし、この揚げ鳥? 以外の料理も美味しいな。 腕を上げたな蒼夜。」

 

そりゃどうも。

 

「よし、そろそろ贈り物の交換会をしようぜ?」

 

ふっ、こいつら俺のプレゼント貰った時にどんな反応するかな?

 

 

_____

 

 

「じゃあ俺から渡すな? ほいっ、雪蓮、冥琳。」

 

「おー、ありがとう。 ん?」

 

ふっ。

 

「あぁ、ありが……何だ?」

 

よしよし、良い反応。

 

二人は貰った時は普通だったが、文字を見て変な顔をした。

 

「……これって。」

 

「……お前。」

 

「面白いだろ? 一応暖かい良い質の羽織だから、寝間着にでも使ってくれ。」

 

いやー良いネタプレゼントになった。

 

「ちょっとぉ! 『働かない』って何よ!」

 

「いや、それに関しては実にお前らしいだろう雪蓮。 それよりも、何だこの『黒髪眼鏡の女教師』とは?」

 

それも実にお前らしいぜ?

エロい所とか。

 

「まぁ、深く気にすんなよ? 適当に書いたから。」

 

「あ、でもこの『我が生涯に一片の悔い無し』ってのは良いかも。 この言葉好き。」

 

おぅ、そこに反応すんのか。

……まぁ、一応お前も将来は小“覇王”だかんな。

 

「私も、この『知識の探求者』というのは好きだな。」

 

それは特にネタでもないけどな。

でも意外と文字羽織受けるなぁ。

 

「まぁ、気に入ってくるたなら良かった。 好きに使ってくれ。」

 

「あぁ、ありがとう。」

 

「大事に使うわね?」

 

適当に扱っても構わんよ?

 

「じゃあ次は、私が出すわね?」

 

雪蓮のプレゼントかぁ。

まぁ正直期待してないけど。

 

「冥琳にはこれ。」

 

そう言って雪蓮が玄関の方に置いてあった、大きい麻袋から出したのは、鞭だった。

鞭ってあんた。

……似合うなぁ。

……これから冥琳の事を女王様って呼びそう。

 

「……お前は、……はぁ。 まぁ良い、ありがとう雪蓮。」

 

「どういたしまして。 蒼夜にはこれね?」

 

俺も武器系か?

 

雪蓮が取り出したのは案の定武器でした。

……けど、これ、

 

「おぉ! 格好いいなこれ? ありがとう雪蓮。」

 

雪蓮が俺にくれた武器は、双頭槍だった。

 

「蒼夜は槍系とか棒系が得意でしょ? この武器はウチでは使ってる人いないから、蒼夜にあげるわ。 これで今度やりましょ?」

 

まじかぁ。 嬉しいなぁ。

 

「おぅ、慣れたら一戦頼むわ。」

 

今度山に籠ろう。

 

「さて、最後は私だな? 雪蓮にはこの髪飾りだ。」

 

冥琳がそう言って渡したのは綺麗な髪飾りだった。

うわぁ、値段高そう。

 

「ありがとう冥琳。……どう? 似合うかしら?」

 

「おお、割と似合ってる。」

 

「あぁ、私の目に狂いは無かった。」

 

「そう? 良かった、ありがとう。」

 

何か雪蓮が一気に大人っぽくなったなぁ。

 

「さて、蒼夜にはこの着物だ。」

 

冥琳が俺に渡した物は、黒と蒼色の混ざった着物で、星空みたいな模様があしらってある物だった。

これは……。

 

「ふっ、お前の真名にちなんだ着物だ。 言っただろ? 期待しておけと。」

 

「お、おぅ、ありがとう冥琳。 凄い嬉しいわ。」

 

こんな良い物を貰って良いのだろうか?

俺なんてただのネタ羽織だぞ?

……不味い、何か他にもプレゼントしなきゃ。

 

「こんな良い物、……羽織だけじゃあれだから何か他に欲しい物あるか冥琳?」

 

「ふむ、別に羽織だけで構わないのだが、……折角だ、お前の新刊を頂けるか?」

 

そんなんで良いの?

 

「わかった。 今ある世に出してない分を全部持ってくる。」

 

三巻分はあったはずだ。

 

「えー? 私には追加は無いの?」

 

「今度闘うでしょ?」

 

「あ、そっか。 じゃあいいや。」

 

ね? 貴女にはそれが一番のプレゼントでしょ?

 

 

_____

 

 

よーし、プレゼント交換会も終わったし、本命を出すか。

 

「さて、雪蓮さん、冥琳さん、私は今日お酒を用意しました。 って事で飲もうぜ!」

 

初めてのお酒。

お酒は二十歳になってから?

そんなルールはここに無い。

 

「おぉ! 流石蒼夜、私飲んでみたかったのよねー。」

 

「酒か、……初めて飲むな。」

 

「おぅ、俺も初めてだ。 まぁ楽しむ程度に軽く飲もうぜ。」

 

まぁ、アルコール度数低いし大丈夫でしょ。

 

 

_____

 

 

-二時間後-

 

うひゃひゃひゃひゃ!

 

「あー、お酒って美味しー! 祭が好きな理由もわかるわぁ。」

 

「全くお前達は、いつもそうだ、……クドクドクドクド……。」

 

「あっははは! 冥琳の話がなげぇーぞぉー。」

 

「そうだぁ! 長いのよー!」

 

「うるさい! 黙って聞け!」

 

「「あっははは!」」

 

「クドクドクドクド」

 

 

_____

 

 

-翌日-

 

うぅ、頭が痛い。

誰か、華佗を呼んでくれ死にそうだ。

 

「……み、水ぅ。」

 

「あー、何これ、……気持ち悪い。」

 

雪蓮、お前もか。

 

「……雪蓮、蒼夜、どうやら私はここで死ぬようだ。 周 公瑾、お前達に出会えた事に感謝しているぞ。」

 

やべぇ、冥琳が最後の言葉を残していやがる。

 

「死なないで冥琳。 私、貴女が居なくなったら困るわ。」

 

「……雪蓮、……すまない。」

 

「冥琳? 冥琳、めいりーん!」

 

もう、そんな小芝居良いから、大きな声出さないで。

 

……もう酒は飲まん。

 




次回から十二歳です。

年始年末は忙しいので、更新出来ない日もあると思います。
申し訳ありませんが、ご了承頂けるとありがたいです。


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閑話 モテる男はつらいぜ

次回から十二歳と言っておきながら、お茶濁しで申し訳ありません。
修業?回です。
いえ、修業をしようとする回です。


-蒼夜 十二歳-

 

姉さんが華佗と旅に出て、ある程度の時がたった。

俺は姉さんが居なくなった後、暫くの間その後始末に追われていた。

 

まずは姉さんの書物の店、そこは俺がオーナーとして引き継ぎ、一番長く働いていたリーダー的店員さんに、雇われ店長として働いて貰う事で店を存続させた。

これらの引き継ぎは凄く時間がかかった。

 

次に“棋聖”への挑戦の廃止、これが何かと問題になった。

……どうやら姉さんのファンは相当居たらしく、かなりの数の問合せが店に来た。

……冥琳もまた、がっかりしていた。

 

その冥琳達だが、最近ようやく成人と認められ孫家の一員として働き始めた。

そのせいで、襄陽に来る事が無くなり俺は寂しさと暇を持て余す事になった。

 

 

_____

 

 

……そろそろ将来を考えて本格的に修業するか。

 

暇を持て余した結果、やる事の無い俺は以前に雪蓮から貰った双頭槍の訓練に励む事にした。

 

姉さんがいない今、俺に勉学を教えきれる人物が襄陽にいないので、暫くはたまに読書をして毎日訓練する、今までの生活と逆の事をしようと思った訳だ。

 

そこで俺はお店の事を店員達に任せ、最低限の荷物を持ち、山に向かった。

 

昔から一応山で鍛えてる俺は崖の登り降りだろうが関係無くスムーズに行動出来る。

以前雪蓮と来た時は、雪蓮にその移動力はおかしい、とさえ言われている。

多分全体的に能力が結構上がっているのだろう。

 

そんな俺が久々に山でピンチを迎えている。

 

熊でさえ割りと楽に倒せる俺は、今やこの山の主と昔から言えるのに、その俺に立ち向かって来る奴がいるのだ。

 

 

_____

 

 

……やべぇ、やべぇよ。

超でっかいよ。

アイツ絶体俺の事喰うつもりだよ。

めっちゃヨダレ垂らしてるもん。

あのでかさはヤバイだろ。

あれってシベリアトラだろ?

何で居るんだよ、おかしいだろ!

絶滅危惧種じゃねーのかよ!

……あ、これ前世の知識か。

 

まぁとにかくヤバイ。

どのくらいヤバイかっつうと、曹操が赤壁で蔡瑁をぶっ殺して、鳳統を信じて、黄蓋の裏切りを信じるくらいヤバイ。

 

「ぐらぁぁぁ!!!」

 

「きゃーーー!!!」

 

死ぬ! 死ぬー!!!

 

俺は形振り構わず逃げる事にした。

虎が追って来れない様に勾配の厳しい崖のような所を使って全速力で逃げた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 

崖を登りきり振り返れば反対側の崖で虎は俺を睨んでいた。

 

へ、ざまぁないぜ。

……俺を喰おうなんざ百年は早ぇ。

 

「けっ、一生そこでさまよってろ糞猫が!」

 

「がぁぁぁぁ!」

 

俺が悪態をついた次の瞬間、虎は崖を勢い良く降った。

そして無事に降りきり、今度は俺側の崖を勢い良く登り始めた。

 

「嘘! 嘘だから! 来んな! 来んなぁー!!!」

 

いやぁーーー!!!

 

どうする? どうするんだ、俺!?

ラ、ライフカード、ライフカードどこ!?

ねーよ!? んなもん!

 

これ以上逃げ回ってもいずれ俺の体力が切れて死ぬ。

それに近場でここ以上に激しい勾配の崖らしい場所は無い。

 

……やるしかねぇじゃないか!

 

「くそっ、たれがー!!!」

 

俺は虎が崖を登り切って着地した瞬間を狙い、その顔面に向かっておもいっきり双頭槍で突いた。

 

「ぐらぁぁぁ!!!」

 

運良く、……いや運悪く、俺の突きは眉間から少しずれて虎の大きな右目を貫いた。

……重傷こそ負わせたが、これでは致命傷にならない。

 

「ぐるるるる!」

 

それでも虎の勢いを消し、警戒させるには充分だったようで、虎は低い体勢の臨戦態勢のまま唸っているだけだった。

 

……このまま押しきれるか?

……それとも逃げるか?

 

尋常じゃない程汗をかいてる。

双頭槍を掴んでいる柄の部分が汗で滑りそうだ。

 

……退いた方が良いかもしれん。

 

俺は刃を虎に向けながら、ゆっくり、ゆっくりと後ろに下がった。

 

ガサリ

 

虎に意識を集中していた俺は後ろから音が聞こえて、はっとして振り返ってしまった。

 

俺が振り返ったそこには、熊がいた。

 

不味い!

 

「がぁぁぁぁ!」

 

熊がいたのも不味いが、虎から目を離したのが不味かった。

目を戻した時には一瞬の隙で、虎は飛び掛かってきていた。

 

考える猶予も無く、俺は手にしていた双頭槍を離し、横っ飛びしてクルリと地面を転がりなんとかそれを回避した。

 

そして直ぐ様顔を上げ、虎と熊を確認したら、熊は立ち上がり両手を上げて虎に威嚇しており、虎の方も熊に向かって唸っていた。

二頭はお互いを敵と認識したのか、今にも交戦しそうな雰囲気だ。

 

……今のうちに逃げられないだろうか。

 

一瞬そう思ったものの、俺は逃げる考えを諦めた。

何故ならば、虎の飛び掛かりを回避する為とはいえ、双頭槍を手放してしまったからだ。

 

あれは雪蓮から貰った大切な武器だ。

親友から貰ったものを手放して逃げる事は、俺の本当に数少ない矜持に反する。

 

命あっての物種だし、後から拾いに来るのが賢いやり方かもしれないが、それは俺の中で雪蓮に対する裏切りだ。

 

双頭槍は闘う為の武器だ。

俺にそれを贈ってくれたのに、棄てて逃げたら雪蓮に顔向けが出来なくなる。

 

俺の中では危険な相手と闘う事の拒否は出来る。

自分の命を危険に晒してまで闘う趣味は俺に無い。

だが自分の命を優先して、親友から贈られた大切な物を逃げ棄てる事は許されない。

……そんなクソヤローに俺はなりたくない。

 

……なんとか、取り戻さないと。

 

二頭は警戒しあって、今は俺に目もくれず唸りあっている。

 

……まるで俺は存在しない様な扱いだな。

……くそったれが。

これじゃあ、俺が雑魚みたいじゃねぇか。

 

この時、頭の中で何かが切れる音がした。

 

「山の主は俺だ! てめぇらまとめてぶっ殺してやる!」

 

 

_____

 

 

そこから記憶が曖昧だ。

アドレナリンやらエンドルフィンやらが大量に出てたのかは知らないが、少なくとも超興奮状態だった俺が気がついた時には、俺は熊を素手で撲殺した後らしく、虎も近くで頭を下げて伏せていた。

 

……どういう状況だこれ?

もしかして俺にビビったのか?

 

良く見れば虎の方にも打撃痕が残っている。

 

……嘘だろ?

俺ってば、虎に素手で挑んだのかよ。

……一体いつから俺は愚地 独○になったんだろう?

武神とか名乗っていいのかな?

 

……とりあえず、雪蓮から貰った双頭槍を拾わなきゃ。

 

俺が虎の近くに落ちている双頭槍を拾う為に虎に近づいたら、ビクッと反応して凄く怯えているようだった。

 

でもその虎のビクッに反応して怖かったのは俺の方でもある。

 

俺は虎を警戒しながらも、なんとか双頭槍を取り戻し、ある程度ほっとした。

 

……さて、この熊どうしよう。

 

いつもなら捌いて持って帰り、食料にするのだが、正直そんな元気が残っていない。

 

それでもと思い、一応殺したからには礼儀として食べようと俺は熊を捌く事にした。

 

 

_____

 

 

重い。

 

熊を捌き終えて、肉塊にしてもまだかなり重く、正直これを持って帰るのが面倒に思えた。

 

そこで思い至り、俺はまだ近くにいた虎に熊肉を半分程やる事にした。

 

「……食うか?」

 

俺が結構な量の肉を目の前に差し出したら、虎はオドオドと近寄り肉を貪り始めた。

 

「……これって、餌付けになんのかな?」

 

とりあえず、俺が上でお前が下という事は肉体言語で教えてやったらしいので、俺に歯向かう事はもう無いだろうが、俺になつかれても困る。

俺に虎を飼う趣味は無い。

 

「……とりあえず今日は家に帰ろう。」

 

死ぬ思いまでして、疲れきった俺は、虎の食事が終わるのを待たずさっさと山から降りる事にした。

 

 

_____

 

 

家についた時はもう外も真っ暗で、食事をする気力も無い俺は直ぐに床についた。

 

それから目覚めたのは翌日の昼過ぎで、トイレに行こうと思い、床から出ようとしたら全身に激痛が走り、俺は床の中で悶え苦しんだ。

 

こんな筋肉痛、大分久しぶりだ。

 

その日は一日中、何をするのも億劫で、最低限の食事だけして、後は寝て過ごした。

 

その後一週間くらいは街で過ごし、店の状況をチェックしたり、本を書いたり読んだりして過ごした。

 

……さて、そろそろまた山に向かうか。

 

 

_____

 

 

そこまで来たい訳でもなかったが、いつまでも倒したはずの虎にビビって街に引きこもる訳にもいかない。

なんせ、この先の時代は少なくとも虎くらい倒せる程強くないと生きて行けない。

……何処に所属するかは全然決めていないが、蜀以外の魏か呉に行くなら俺は一町人としては暮らせないだろう。

……もう、曹操にも雪蓮にも目をつけられてるからな。

 

まぁ気持ち的にはどっちでも良い。

と思わなくもないが、多分安泰なのは魏だろう。

……でも呉にはデカイ借りもある。

 

……多分冥琳と雪蓮は呉に行ったら喜んでくれると思う。

けど、だからと言って魏に行った所で文句は言わないだろう。

 

まぁなんにしても、俺は強くないとやって行けないのは確実だ。

 

「ぐるる。」

 

そんな考え事をして山を歩いていたら、目の前にまた虎が来た。

右目に大きな傷があるし、先日の虎だろう。

 

なんだ? リベンジか?

いいだろう、受けてたってやる。

 

一度倒した経験からかあまり恐怖を感じない俺は、今度こそこいつに上下関係を教えてやろう考えた。

 

……膝が笑っているのは、きっと武者震いだ。

 

「がぁ。」

 

うひゃぁ!

く、来るか!?

 

だが、予想に反して虎は俺に頭を下げて伏せている。

 

……これはあれか?

山の主に挨拶に来た感じか?

 

とりあえず、恐る恐る近づき頭を撫でてみると、何やら気持ちよさそうだった。

 

……どうしよう。

めっちゃなつかれてる。

俺に虎を飼う趣味は無い。……はずだ。

でもこいつ可愛いな。

 

……これから先はこいつより物騒な奴等が闊歩する時代が来るのか。

 




今年はこれで投稿を終わらせて頂きます。
大変申し訳なく思いますが、年始年末は忙しいのです。

また来年に落ち着いてから投稿を再開します。
それでは良いお年を。


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当てにならない前世

なんとかなった今年最後の投稿です。
2話連続で出します。

……ストックもう無いぞ。


-蒼夜 十二歳-

 

孫家から連絡が来ない。

 

姉さんの一件で孫家に借りがある俺は一度感謝の挨拶をしに行こうと考えている。

その事を冥琳に頼んでいたのだが一向に連絡が来ないまま、早くも半年以上の時間がたった。

 

冥琳と雪蓮が襄陽に来なくなってからは、週に一度は冥琳から手紙が届いてたのだが、それもここ最近は届かない。

 

それどころか、俺宛てに届くファンレターも最近は少ない。

 

……なーんかキナ臭いなぁ。

 

もしや荊州近辺で戦でもあるのだうか?

冥琳が言うには、現在は孫家と荊州の豪族が緊張状態にあると前に言っていたが、それが原因だろうか?

 

けどぶっちゃけ今の孫家に喧嘩を売るとは頭が悪いとしか思えん。

孫堅はこの大陸屈指の猛者だ。

前世の知識でもかなり強い武将に入るだろう。

それに確かこの時期なら呉郡一帯を支配下に置いていると言っても過言じゃない程の権力者だった筈だ。

袁家には及ばないだろうが、それでも間違いなく手を出したら駄目な所の一つだろう。

 

そんな奴等に、たかが一豪族が喧嘩を売るのは自殺行為だ。

 

……俺はこの時普通に高を括っていた。

 

 

_____

 

 

江東の虎、死す。

 

この急過ぎる情報が襄陽に流れ、俺の耳に入るまでは時間がかからなかった。

 

……そんな馬鹿な。

孫堅が死ぬのは、反董卓連合が組まれた後の筈だ。

 

この時初めて自分の三国志の知識が役に立たない事を知った。

 

……わかっていた、筈なのに。

 

この世界は、あくまで近しい世界であって、歴史の通りになる世界ではないと。

 

三国志の人物やその関係性が似ているだけで、三国志とはまるで別物である事を知っている筈だった。

 

だがそれは、知った気分になっているだけだった。

 

ここで孫堅が死ぬ筈が無い。

そしたらこの先の歴史がずれる。

 

そんな、安易な考えがあった。

いや、考えもしなかった。

俺が思ったのは、孫家と争いがあるんだ、ふーん程度だ。

 

だが俺の前世の知識から知る歴史はまるで今とは無関係だった。

きっとこの先、例え三国志に似た様な事があったとしても、それも俺の知ってる事とは別の事が起こり得るのだろう。

 

……昔、勉強を姉さんに教えて貰っていた頃に姉さんに教えられた事を思いだした。

 

本物の愚か者とは、知識を持っているにも関わらず、その知識を活かせず、目の前の現実を安易に考える人物であると。

 

……まさに俺じゃないか。

 

「は、はは、はははははは。」

 

……笑えねぇ。

 

 

_____

 

 

……とりあえず情報を整理しないと。

 

これ以上愚か者である事は無い様にしないといけない。

俺は必死になって、たくさんの情報を集めた。

そして目の前の現実にある情報と俺の前世の知識を照らし合わせて、これから先を思案しよう。

 

……それから、雪蓮達に会いに行こう。

 

まずは、孫堅はどのようにして亡くなったか。

 

そこはある程度は前世の知識に近い所もあった。

そもそも、今回孫家と争っていた豪族とは蔡家だ。

その蔡家と孫家が何で争っていたかは流石に知らないが、察するに長江の利権問題が濃い線だろうか。

 

まぁそれは置いとくとして、この両者の争いに介入したのが劉表だ。

劉表はどうやら蔡家に助力を頼まれたらしく、それを承諾した形らしい。

 

……何故劉表は承諾したのか?

おそらくだが、劉表は荊州の豪族を纏める形で州牧を成してるので、きっと断れなかったのだろう。

 

だから、黄祖と呂公が万を超える兵と共に蔡家に援軍として貸し与えられた。

ここで劉表vs孫堅の形が出来る。

 

最初は孫家が次々に勝利していたが、とある戦の追撃で孫堅が伏兵にやられる。

致命傷を負った孫堅は最後の死力を振り絞り、黄祖、呂公、そして蔡瑁の首をも取ったらしい。

なんとも勇まし過ぎる最期を遂げた。

 

では今回、孫堅の死を回避する事が出来たかどうか。

 

……俺には出来る気がしない。

俺の知識では、やはり孫堅の死は反董卓連合の後だ。

そして黄祖か呂公かはあやふやだが、結局伏兵にやられる。

 

そこで、仮に俺が前もって孫堅に会ってたとしても、何と言ったら良いのだろうか?

貴女は追撃しない方が良い、か?

それとも伏兵には気を付けろ、か?

 

……馬鹿にしてると思われるのがオチだ。

未来を知っている等と意味不明な事をカミングアウトする訳にもいかない。

孫堅の死は俺にはどうしようも無い。

 

……だがそれで俺は納得するしか無いのか?

それで雪蓮と冥琳に顔向け出来るか?

 

……出来る訳が無い。

 

もしこの世界で孫堅の死を回避する方法、可能性があったとしたら、それは俺が鍵を握っているんじゃないかと思う。

 

確かに、どうしたら良いのかはまるで見当がつかない。

……だが前世の知識を持つ俺なら可能性は低くとも、きっと死を回避する未来を作れたのではないか?

と、自問自答してしまう。

 

……雪蓮達に何と言えば良いんだ。

 

無論、貴女の親が死ぬのを知ってたとは言うつもりは無いが、どうしようも無かった、しょうがない、残念だった、等と間違っても言えない。

 

俺の大切な姉さんを救うきっかけを探して貰いながら、雪蓮の大切な親の死を、今だと知らなかったからと言って、仕方無いで済ませて良い訳が無い。

 

……それでも俺には孫堅を救えた方法が思い浮かばない。

 

……もう、俺には雪蓮と冥琳を親友と呼ぶ権利は無いかもしれない。

 

 

_____

 

 

多少自己嫌悪で落ち込んでしまったが、そうもなってられない。

……こんな俺よりも、雪蓮達の方が落ち込んでいるだろうし、これからは大変だろう。

 

そんな雪蓮達を俺は助けたい。

 

俺は孫堅の死に対して何も言える事は無いので、そんな事は無いとわかっているが、仮に雪蓮達から嫌われたとしても、俺はあいつらを助けたい。

 

だから、これからの孫家の未来を考えようと思う。

 

確か知識では孫堅の死の後は、孫家はバラバラになって、瓦解する筈だ。

そして、孫策は袁術を頼る事になる。

その後に孫堅が昔拾った玉璽と引き換えに兵を借り、将来呉の領土となる場所を一つずつ治めて行く事になるのが俺の知る知識だ。

 

……だが現実では問題が何点か有る。

 

そもそも、玉璽は孫堅が反董卓連合の時に拾う物だ。

今は無い可能性がある。

っていうか、あったら色々とヤバイ。

 

そして袁術の人柄だ。

俺の知っている袁術とこの世界の袁術との誤差がわからない。

仮に玉璽を持っていたとしても、袁術が頭のおかしな人物だった場合は、下手に渡したりなんかしたら、どうなるかわかったもんじゃない。

というか、頼る事すら不味い場合もありえる。

 

そして、最大の問題は未だ漢王朝が存続している事だろう。

今この時に兵を挙げたりしたら、反逆と思われかねない。

その場合は孫家に安寧がもたらされる所か、賊軍扱いになる。

 

かと言ってそのままにしていたら孫堅の持っていた地位は返還されて、継承する事も難しいので、孫家が瓦解する。

 

……八方塞がりな気がする。

雪蓮達には受難が続くかもしれないな。

 

だが俺はこの受難を少しでも軽くしてやりたい。

いや俺が受けた恩と、孫堅に対して何もしてやれなかった罪、……とも言えない“何か”を考えればそれでも足りないくらいだろう。

 

……どうするのが最善だろうか。

 

そもそも、これから雪蓮達はどうしたいのだろうか?

 

……どれもこれも結局は会わなきゃわからないか。

 

俺は雪蓮達に会う覚悟を決めて、襄陽を発つ事にした。

 



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自己嫌悪からの自己満足

俺は直ぐに襄陽を発ち孫家の本拠地である建業に向かった。

 

……既に孫家の本拠地が建業だというのも初めて知った。

長沙とかじゃなかったのかよ。

 

考えてみれば俺は孫家の事を何も知らない。

俺の事は沢山雪蓮や冥琳に話をしたが、雪蓮達の事についてはあまり聞いてなかった。

 

勝手に前世の知識で判断して現在がどういう状況なのかも知らなかった。

……こんな些細な事でも自分のマヌケさが良くわかる。

 

そしてこんな些細な事でも、自分の知識が当てにならないと理解出来た筈なのに。

 

……最近、自己嫌悪が凄まじい。

 

 

_____

 

 

-建業-

 

……ここが建業か。

割と発展してるな。

 

まぁ将来は呉の首都になると考えれば当然なのかもしれないが。

 

……それにしても街行く人々の顔が暗い。

 

……孫堅が亡くなった影響だろうか?

だとしたら、凄く庶民からも愛されていた偉人だったのだろう。

 

そんな事を考えて、俺は街の中央を歩き城の門の前に着いた。

 

「そこで止まれ。 お主この城に何の用だ。」

 

門に着いたら当然の如く門番に止められ、用件を問われた。

 

「私は襄陽の廖 元倹と申します。 孫 伯符様か周 公瑾様にお繋ぎをお願い致します。 もしくは、孫 仲謀様でも構いません。」

 

「……少々待たれよ。」

 

そう言って、門番の一人が城の中に入って行った。

 

 

_____

 

 

……待たされるなぁ。

 

いや、忙しいのかも知れない。

手紙を出す前に急に来ちゃったからなぁ。

 

そんな事を待たされている間ずっと考えていたら、城の中からようやく誰かが来るのが見えた。

 

「お久しぶりです、元倹殿。 お待たせして申し訳ない。」

 

俺を迎えに来たのは孫権だった。

あれ? こういうのって普通、本人か下っぱが案内するもんじゃない?

……あぁそういや俺、一応孫権の名前も出しちゃったか。

 

「お久しぶりです、仲謀様。 最後に会ったのは姉が倒れて以来でしたね。 その件につきましては、お見苦しい所をお見せし大変申し訳ありません。 また孫家には華佗を探して来て頂き、多大な感謝をしております。」

 

「いえ、孫家としては貴方に借りを返しただけです。 それに威方様が無事であった様で何よりです。」

 

孫家は借りを返しただけと判断しているのか。

……個人的には非常にデカイ借りを作っちゃった気分なんだよなぁ。

 

「……そう言って頂けると有り難いです。」

 

……あぁ、こっから先の言葉を口にしたくねぇ。

 

「……今回は孫 文台様の弔いに参りました。 しぇれ、……伯符様や、公瑾様はいらっしゃるでしょうか?」

 

公的面会って訳じゃないけど、こういう時に真名で呼ぶもんじゃないからな。

 

「……そう、ですか。……母を弔いに。 ありがとうございます。 生前、母も元倹殿に会ってみたいと仰っていたので、喜ばれると思います。」

 

……感謝なんてしないでくれ。

俺は貴方達の母親が死ぬのを知っていて、何も出来なかった奴なんだ、何もしなかった奴なんだ。

 

「姉様も冥琳も、元倹殿が弔いに来てくれたのを知ったら喜んでくれると思います。 どうぞ、案内致しますので着いて来て下さい。」

 

「……はい、ありがとうございます。」

 

俺は罪悪感で心が痛む中、孫権の後を着いて行った。

 

 

_____

 

 

「久しいな、蒼夜。」

 

「蒼夜、いらっしゃい。」

 

……顔を合わせるのが辛いな。

 

「……あぁ、久しぶり。」

 

俺が孫権に通された部屋には冥琳と雪蓮が居た。

……二人とも眼に凄い隈を作っているが、俺を見て笑顔で出迎えてくれた。

 

その笑顔が俺の心臓を締め付ける。

 

「……こんな事聞きたくないが、……大丈夫か? 酷い顔だぞ。」

 

「あー! 乙女に向かって酷い顔とは、言ってくれるわねぇ!」

 

「まったくだな。 少しは女心を考慮する様にしたらどうだ?」

 

「考慮した結果だ。 今更お前等に媚び売るつもりは無いぞ。」

 

普段通りな二人とのやり取りに、つい口を緩めて軽口を言ってしまったが、……逆に気付いてしまった。

 

……こいつら、俺に気を使わせない様にわざとこんな態度をとってやがる。

 

一度気付いてしまったら、二人の態度が痛々しく見えてしまった。

 

「……はぁ。 俺が気を使いに来た筈が、逆にお前等に気を使わせてしまった様で悪いな。」

 

「……気付くか?」

 

「……目敏いわねー。」

 

わからない訳が無い。

伊達に三年も付き合ってない。

 

「まぁ、ある程度付き合いがあるから、という事もあるが、……流石に不自然だぜ? 今この時にそんな余裕そうな態度はな。」

 

あぁ、心が痛む。

孫堅の死は俺にはどうしようも無い、と思う反面、俺ならどうにか出来たかも、という矛盾が余計に苦しい。

……せめてどちらかに割りきれた方がまだましだったかもしれない。

 

「……確かにそうね。……蒼夜ってさぁ、私に勘が良いやら、汚いやら色々言うけど、蒼夜も大概よね?」

 

「俺のは勘じゃねぇよ。 只の洞察力と推察力だ。」

 

「ふっ、私から言わせて貰えば、それも充分並ではないぞ?」

 

そうだろうか?

こんなもん割と持ってる奴居ると思うが。

正直言って俺なんて精々、察しが良い程度だろ。

 

「……まぁ良いさ。……孫 文台に会わせてくれ。」

 

「……わかった。」

 

 

_____

 

 

俺が連れて行って貰ったのは、郊外にある丘の上だった。

……孫堅の墓はそこにあった。

 

「……この場所は、生前の文台様が好きな場所でな。 その為ここに墓を作る事になった。 知っているのは孫家でも一部だ。 誰にも言ってくれるなよ?」

 

「あぁ、わざわざ悪いな。 そんな大切な事を俺に教えて貰って。」

 

「別に蒼夜だったら良いわよ? 信頼してるもの。」

 

……その信頼には全力で応えられる様に頑張ろう。

 

俺は孫堅の墓の前で正座して目を瞑った。

……手を合わせる文化が無いからな。

まぁ、今の俺も相当おかしいだろうが。

 

……ふぅ。

……孫 文台、貴女には姉の事で非常に感謝している。

それなのに貴女自身の助けに成れず本当に申し訳無い。

……罪滅ぼしではないが、雪蓮達の事は俺の出来る範囲で助ける。

それを俺からの孫家への感謝の証としたい。

 

俺は瞑目して、それらを孫堅に心の中で述べた。

自分自身で再確認した、とも言える。

 

およそ数秒でそれらの出来事は終えたのだが、目を開けた時には雪蓮も冥琳も不思議そうに俺を見ていた。

 

「何してたの?」

 

「どうしたんだ?」

 

うん、まぁ、そういう反応になるよね?

 

「まぁ、ちょっとな。……あー、あれだ、本当は本人に言うつもりだった事を心の中で言っただけだ。」

 

「ふーん、……それで? 母様は何て言ってた?」

 

「知らねーよ。 俺が勝手に報告しただけだもの。」

 

「なら私が教えてやろう。 文台様ならきっとこう言う。 『好きにやってみな。』だ。 お前が何を考えてたかは知らないが、あの方ならきっと似たような事を言う。」

 

「あー、言いそう。 母様ってば適当な所があるからねー。」

 

「「お前が言うな。」」

 

……ふっ、くくく。

……なーんか心が少し軽くなったな。

自己満足でもしたのかな?

まぁ、良いさ。

 

「……なぁ雪蓮、冥琳、教えてくれないか? 孫 文台がどんな人だったのか。」

 

今となっては、純粋に会えない事を勿体なく思えるよ。

 

 

_____

 

 

それから雪蓮と冥琳は楽しそうに、懐かしむ様に、生前の孫堅がどのような人物であったのかを語ってくれた。

 

その様子は二人がまだ子供の様に見えて、とてもじゃないがこれからの孫家を背負って行く様には見えなかった。

 

守りたいこの笑顔。

 

……冗談なんかじゃなく、本当にそう思った。

 

「……なんっつーか、……あれだな、人を弔っている筈だけど、……その人の生前を想って笑顔が出るのは良い事だな。」

 

「……そうだな。 確かにここ最近は湿っぽかった分、あの方が笑顔をくれた気がするな。」

 

「うん。 母様は湿っぽいのより笑い顔の方が好きだから、こっちの方がらしいかもね?」

 

「なら、来て良かったよ。」

 

俺はそう言って立ち上がり、懐から小さめの酒瓶を取り出し、中味の酒を孫堅の墓石に掛けた。

 

「あー! 言ってくれたら私もお酒持って来たのにー! 母様だけに用意するなんて、蒼夜ってば準備わるーい。」

 

「まぁそう言うなよ、俺達は帰ってから飲もうぜ? まだ話したい事も沢山あるしな。」

 

「ふっ、そうだな。 今日は久しぶりに三人で飲むか。」

 

でも量を考えないと、いつぞやみたいに大変な事になるけどね。

 

俺達はそんな会話をしながら城へと帰って行った。

 




これでラストです。
次回投稿は一週間後あたりを目安にします。


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孫家の脅威

二話連続投稿します。
この章はほのぼの回です。


さて、建業の城に戻って来たのは良いが、俺は少し大変な目にあっている。

 

「お主が廖 元倹か。 儂はこの孫家の将をしておる、姓を(こう)、名を(がい)、字を公覆(こうふく)と申す者じゃ。 色々と冥琳や策殿が世話になっとるようじゃの? これからも宜しく頼む。」

 

「私はぁ、(りく)家の(そん)と言いますぅ。 字は伯言(はくげん)ですぅ。 あの書物の件は本当にすみませんでしたぁ。 冥琳様にも沢山叱られましたしぃ、本当に反省してますぅ。」

 

「ご丁寧にありがとうございます。 私の名は知ってる様ですので省きますが、廖 元倹と申します。 伯符様や公瑾様には私の方が大変世話になっております。 伯言様も、どうぞ過ぎた事はあまり気にしないで下さい。 これからも良いお付き合いが出来る様にこちらこそ、宜しくお願い致します。」

 

そう大変な事とは、黄蓋と陸遜の事だ。

……何が大変かって?

 

おっぱいである。

もの凄いおっぱいである。

大事な事なので二回言いました。

 

いやでも、本当にめっちゃデカイ。

これは目のやり場が大変だ!

本当にありがとうございます!

 

最近は雪蓮と冥琳もとんでもない大きさになってるし、黄蓋も相当デカイ。

……そして陸遜、こいつ俺とそんなに年齢が変わらないだろうに、それでも姉さんよりも豊かである。

姉さんは割と普通だったからなぁ。

そんな訳で、実に色んな意味で将来有望な人材と言える。

 

現在、この空間に俺とその四人が居る訳だが、その四人全員がデカイとはどういう訳だ?

前後左右全てがおっぱいで囲まれている俺に死角は無いのか?

男のロマン溢れ過ぎでしょ?

 

えぇい! 孫家のおっぱいは化け物か!

 

……呉に所属しても良い理由が増えたな。

 

いやまぁ冗談はさて置き、陸遜はともかく何で黄蓋みたいな将軍がわざわざ俺に挨拶に来たんだ?

接点も何も無いよね?

 

「? 策殿が懇意にしてる割には、随分と堅い奴じゃのぉ? どちらかと言うと権殿との相性の方が良さそうじゃが?」

 

俺を見極めに来たのか?

 

「あぁ、祭殿。 それは蒼夜の礼儀用の顔ですよ。 普段はもっと雪蓮の様に大雑把な奴です。」

 

ちょっと冥琳?

比べる相手おかしくない?

あんなにフリーダムじゃないよ俺?

 

「そうなんですかぁ? 私的にはぁ、あのような書物を書ける方なので、割と納得したんですけどぉ。」

 

「と、思うじゃない? これでも私とも立ち合えるくらいには武力もあるし、私が飽きないくらいに変な行動力もあるのよ?」

 

……ほぅ。

お前が俺の事をどう思ってたのか良くわかったよ雪蓮。

てめぇ覚えてろ?

その変な行動力で痛い目をみせてやる。

 

「ほーぅ。 策殿とも立ち合える程か。 それに書物を書ける程の知識に、礼儀を欠かさぬ人物か。……ふむ、成る程。」

 

怖い、怖い怖い!

俺をロックオンすんの止めろ!

 

俺は本来何処にも所属したくはないんだぞ!

……まぁ将来は知らんけど。

 

「今から三人で飲もうと思っていた所です。 どうです? 祭殿もたまには私達と一緒に。 穏もどうだ?」

 

え? 誘うの?

俺が気を使うじゃん。

 

「はっ! まさか、冥琳が儂を誘うとはのぉ。 余程機嫌が良いと見える。 よし、乗った。」

 

「あぅ、すみません。 私も是非参加したいのですが、まだ仕事があるんですよぉ。 残念ですが、次の機会にしておきますぅ。」

 

えー?

黄蓋参加かよー。

ちょっとやりづれぇなぁ。

 

「そうですか。 伯言様と飲めないのは残念です。 公覆様、宜しくお願い致します。」

 

陸遜は参加しないらしくて良かったわ。

酔ったら絶対あの時の文句出ちゃうもの。

 

「機会があれば今度はもっとお話しさせて下さいね。 それでは失礼しますぅ。」

 

陸遜はそう言って去って行った。

……さよならおっぱい、また会う日まで。

それでも、まだ沢山あるけどね。

 

「しかし堅いのぉー。 冥琳達に接する様にもっと楽にしてくれて構わんぞ?」

 

「いえ、しかし……。」

 

「蒼夜、いつも通りで良い。 祭殿は堅いのを好かない人物なんだ。」

 

一体何で庶民の俺が将軍相手にタメ語で話さなくちゃならないんだ。

おかしいでしょ。

……雪蓮と冥琳は既に使ってなかったや。

 

「……あー、うん。 わかったよ。……よろしく公覆殿。」

 

「うむ。 と言いたいが、ちとしっくりせん。 儂の事は(さい)で良い。」

 

おーい!

 

「あの、それ、真名っすよね? 良いんすか?」

 

大切な名前とは一体何なのか?

 

「構わん。 お主になら預けても良いと判断しただけじゃ。」

 

……出たよ、俺に対する謎の高評価。

一体俺の何がそこまで評価されるのだろうか?

出会って間もない相手に真名を預ける程か?

 

しかしまぁ、真名を預かるなら俺も預けなきゃな。

 

「じゃあ祭さん、俺も蒼夜で大丈夫なんでよろしくっす。」

 

「うむ、よろしく頼む蒼夜。」

 

「じゃあ早速で悪いけど、祭はつまみを何か作ってくれる? 冥琳がお酒の準備はするから。」

 

……雪蓮、お前……。

 

「お前も手伝え雪蓮。」

 

本当それな。

 

「私は蒼夜の相手をしとくもーん。 ほら、蒼夜を一人待たせておく訳にもいかないでしょ?」

 

あー、確かに。

知らない所で一人待たされるのは苦痛だなぁ。

 

「……はぁ、わかった。 なら部屋で大人しく待ってろ。……では祭殿、申し訳無いが、頼めるだろうか?」

 

「あぁ、了解した。」

 

「酒のつまみ用の濃い味付けで美味しいのを頼むっすよ?」

 

いつぞや誰かさんが言ってたからね。

 

「お、おい! 蒼夜!」

 

「? まぁ基本的に儂の料理はそんなもんじゃが、……何を慌てておるのじゃ、冥琳?」

 

「な、何でもありません。 では私はお酒を取って参ります。」

 

ぷぷ、焦ってやんの。

 

「ちょっとぉー。 うちの冥琳を苛めないでくれるー? って言うか、随分古い話を覚えてるわね?」

 

「いや俺もさっき、思い出してな? 祭さん、冥琳がいないから内緒で教えますけど、冥琳は祭さんの料理結構好きらしいっすよ?」

 

「ほぅ? それは初耳じゃな。 ふっ、ならばちと腕によりをかけて料理を作ってくるとしようかの。」

 

そう言って祭さんは機嫌良く厨房に行った。

旨いのを期待してるぜ?

 

「後で冥琳に怒られても知らないわよ?」

 

「知ってるか? 旨い飯を食ってる時って、人は基本的に怒りが湧かないんだぜ?」

 

だから相当不愉快な事があって、旨い飯が不味くなったら、その怒りは半端じゃない。

 

「ふーん。 ま、確かに美味しい物を食べてる時って、ちょっとの事なら赦せるわね。」

 

そういうこった。

 

 

_____

 

 

そんな訳で飲み会が始まったのだが、……。

 

「どうじゃ冥琳? 旨いか?」

 

「……やはり、少し味が濃いのではないかと思いますが。」

 

「ん? 何じゃ、嫌いか?」

 

「い、いえ、嫌いな訳ではありません。」

 

やべぇ、祭さんがめっちゃニヤニヤしながら冥琳に絡んでる。

これ俺のせいだよね?

……すまん、冥琳。

 

「私は好きよー? お酒飲む様になってから祭の料理とっても美味しいもの。」

 

俺も助け船出さなきゃ。

 

「確かに旨いっすね、これ。 特にこの青椒肉絲、どうやって作るんすか?」

 

「ん? あぁ、これはの……」

 

と、祭さんの料理講座が始まったのは良いが、何か冥琳の方が食い付きが良い様な気がするなぁ。

口は挟まないが熱心に聞き入っている。

……もしかして、これが一番好きなのだろうか?

 

「そういや、雪蓮達から聞きましたけど、祭さんが孫家の飯を作ってるって本当っすか?」

 

「昔はの。 今は各自それぞれってところじゃ。」

 

「昔って、祭さんそんなに歳とってないくらい綺麗じゃないすか。 いつ頃から作ってたんすか?」

 

……あ、やべ。

女性に年齢系はタブーだったや。

姉さんで学んだ筈なのに、……酔っちゃったかなぁ?

 

「ほぅ? 祭殿には随分と女心を考慮した発言をするのだな?」

 

「へぇ? ちょっと癪ねぇ。 蒼夜ってば、年増が好みなの?」

 

棘が凄いよ君達?

それに年増って、祭さんは姉さんとそんなに変わんないだろ?

……そういや姉さんはもう年増って言われてもおかしくない歳か。

いや、個人的には二十四はまだ若いと思うよ?

……それでも、まじで華佗と上手く行きますように。

 

「これこれ、その程度で妬くでないわ全く。 しかしそうじゃの、……儂が堅殿に仕えたのが十三・四の頃じゃから、今から十年近く前の事かの。 ふっ、懐かしいわ。」

 

あ、やべ、しんみりしちゃった。

振る話題間違えたなぁ。

 

暫く無言のまま、静かに飲み会か続いた。

 



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たまにする真面目な話

連続投稿です。

前もって言い訳をさせて頂きますが、かなり大雑把な展開になります。
もうちょい考えて書け的な思いをする方もいるでしょうが、ご了承頂けると有り難いです。


よし、切り替えて今のうちに孫家のこれからを聞かなきゃな。

 

「なぁ雪蓮、冥琳、ちょっと真面目な話するぜ? 答えられない事は言わなくて良いから、質問させてくれ。」

 

「えぇー? お酒飲んでる時くらい真面目な話は止めましょうよー。」

 

「……どうした? 藪から棒に、それは酒の席で話す様な事なのか?」

 

「……ふむ、邪魔な様なら儂は退散するが?」

 

別に邪魔ではないけど、下手したら不愉快になるかもなぁ。

 

「いや、そこまで身構えなくて良い。 あくまで一友人として聞きたいだけだから、……だから祭さんも居てくれて構わないっすよ。」

 

出来ればもうちょっと気軽に聞きたかったけどな。

 

「……孫家は、これからどう舵をとるつもりなんだ?」

 

……あかん、ちょっと聞き方間違えたかもしんない。

全員の杯を持つ手がピタリと止まってガン見されちゃった。

 

「いや、すまん。 答えられないなら何も言わなくて良い。」

 

俺がそう言うと、全員が一斉にため息を吐いた。

……あんたら仲良いっすね。

 

「……儂から言う事は何も無い。……ここからは静かに飲んで様子を見て置こう。 後は策殿と冥琳でどうするか決めよ。」

 

うわぁ、まじすんません。

 

「……私は別に蒼夜だったら言っても良いと思うけど、……話すかは冥琳に任せるわ。」

 

「……はぁ、……話すかどうかの前に一つ聞かせてくれ。 仮に話を聞いたとして、お前はどうするつもりだ?」

 

あー、思った以上に重い空気に、胃が痛い。

 

「聞いてみなきゃ、どうするかもわからん。……けど俺が助けになれるなら、そうしたい。」

 

孫堅にもそう報告したしな。

 

「……そうか。 まぁお前の事だ、粗方予想はついているんじゃないのか?」

 

「……まぁ、当たってるかは知らんが多少はな。」

 

前世の知識が大部分だけどな。

 

「ふーん、……蒼夜の言う、洞察力と推察力ってやつ? 聞かせてみてよ?」

 

そんな大それた物じゃないがな。

 

「……はぁ、……まぁ俺の考えだと、このまま行けば孫 文台の持っていた権力は朝廷に返還する事になるので、孫家は権力が無くなる。 権力が無くなったら、この建業を含めてその他もろもろの土地を統治する事が不可能になるので、兵も含めて現在孫家に仕えている人達を養う事が不可能になる。 また、孫 文台を恐れて統治されていた豪族等もこれを機に孫家から離れて行く事が予想される。 それに、呉郡一帯の県令達が孫家を離れ再び独自で統治を始めるとも思われる。 まぁ簡単に言えば、孫家は瓦解する可能性が高い。」

 

……何で俺がこんな死刑宣告みたい事を友人達に言わなきゃならんのだ。

 

「離れて行く豪族や名家、県令達はともかく、孫家に仕える人達を含めて、このまま孫家を瓦解させない為には孫家は急ぎ雪蓮に権力を与えなければならない。 ……が、まだ成人して間もないし、実績の無い雪蓮に孫 文台と同等の権力を与えるのは不可能に近いと思われる。 なので、考えられるのは何処かの権力者に頼る事だ。 だが、規模が小さくなってもそれでも孫家は大きい。 孫家くらい大きな所を匿えるのは、州牧並でもないと不可能だ。 それにこの呉郡の近くでないと意味がない。 なので考えられるのは、隣接している荊州の劉表か、豫州の袁術だ。 だが、劉表は直接的ではないにしろ孫家へと害をなした人物だ。 頼る事はあり得ない。 それに劉表自身もそんな申し出があった所で却下するだろう。 だから、孫家は袁術を頼るのではないか? 幸い、冥琳の周本家は袁家とも近しいだろう? おそらく袁術も孫家に頼られて断る事をしないだろう。 と、いうのが俺の予想だ。」

 

得意気に語ったけど、何も面白くねぇ。

こんな未来は認めたくないね。

 

「……はぁ、お見事。 細かい所は少し違うが、大筋は間違っていない。」

 

……やっぱ袁術を頼るのか。

 

「……やっぱ蒼夜も色々おかしいと思うのよねー。」

 

「言ったろ? 只の推察だ。 こんなもん頭が回れば割とわかる奴はいる。」

 

多分曹操とかも余裕だと思う。

 

「……それで? これ以上何が聞きたい? 全てお前の予想通りと言えるのだが?」

 

「ん? あぁ、雪蓮と冥琳はどうしたいのかと思ってさ。」

 

「? お前が言った通りにするつもりだが?」

 

「違う違う。 それは孫家がどうするかだ。 雪蓮と冥琳はどうしたいの?」

 

こいつらの個人的意見を俺は聞きたいんだ。

それから俺の方針が決まる。

 

「……私は、か。……そうね、私としてはやっぱり母様が築いたこの建業、呉郡を孫家のものとして取り戻したい。 時間が掛かってもそうするつもりよ。」

 

……呉を孫家に、か。

 

「私も似た様なものだな。 文台様が築いた呉郡一帯の平和をそのまま孫家の手で成したい。」

 

こちらも呉か。

 

………。

なんと言うか孫 文台に縛られているようにも見えるが、とにかく必死なんだろうな。

 

「わかっているだろう蒼夜。 気持ちはとても嬉しいが、一個人に手伝える範疇をこの件は超えている。」

 

「私は蒼夜が助けたいって言ってくれただけでも嬉しいわ。」

 

ちっ、そんな嬉しくなさそうな笑顔なんざ見たくないな。

 

それに俺のターンはまだ終わってないぜ!

 

「いや、まだだ、まだ終わらんよ! 冥琳、最後の質問に答えてくれ。」

 

「蒼夜?」

 

「ぶっちゃけ聞く、……今の孫家は兵を挙げるとしたらどのくらい、出せる?」

 

「……何故そんな事を聞く?」

 

「俺の考えた腹案が出来るか確かめる為だ。」

 

「……はぁ、良くて二千だ。」

 

充分だ。

 

「なら行けるかもしれん。 冥琳、直ぐ様兵を挙げてこの呉郡の盗賊、山賊、紅賊、何でも良いが数百人程度の賊を討て。 その功を持って雪蓮を呉郡の県令にしよう。 権力は小さくなるし、少し苦しいかもしれないが、そしたら孫家は独自でやっていける。」

 

「それは考えたが無理だ。 その程度の功で県令に出来る訳が無い。」

 

それが出来るんだよ。

 

「甘いぜ冥琳、わざわざ本当に数百人なんて報告する必要は無い。 戦の報告の様に多少人数を盛れば良い。 そうだな、五・六百程度なら妥当か? そんでこちらの戦力は少なく報告すれば良い。」

 

この時代に地方の正確な情報なんて存在しねぇ。

 

「……だとしても、それで確実に県令に成れる訳ではないだろう?」

 

「成れるんだよ。 何の為の売官制度だ。 中央に賄賂を贈ってその地位を買えば良い。 その為に功を立てるんだ。 周本家なら可能だろ?」

 

この時代の最低な制度だが、この状況で使わない手は無い。

 

「な!……いや、だがしかし、孫家にそんな金は……。」

 

「言ったろ冥琳。 助けになるって。 俺が今まで貯めた全財産を以て助けてやる。 孫家の財と合わせりゃ、地方の県令くらいなら買えるくらいにはある筈だ。」

 

「……いや、だが……。」

 

冥琳は額に手を置き、黙ってしまった。

恐らく俺の案が出来るかどうか思案しているのだろう。

 

「……修正は必要だろうが、本当にギリギリ、……可能かもしれん。」

 

よし。

 

「なら、雪蓮。 俺の案を採用するか、……決めるのは、お前だ。」

 

何故なら、雪蓮の決定が孫家の決定だからだ。

 

「……その前に、……何で蒼夜は私達にここまでしてくるの? 正直、少し異常だと思うわ。」

 

……まぁ確かに普通じゃない。

 

「理由は色々あるが、……こんなもん当然の事なんだよ。」

 

「何で? 何がそこまで蒼夜をそうさせるのよ。」

 

「……雪蓮、俺が孫家にどれ程感謝してるかわかるか?」

 

多分この程度の事では到底返せないレベルだと俺は判断している。

 

「俺の家族は姉さん只一人だ。 その姉さんを死の淵から救って貰う切り札を孫家は俺に与えてくれた。 あの時、俺の無力感と言ったら酷かった。 武力も、知恵も、金も、俺の持つ何もかもが役にたたず、只毎日姉さんが苦しんでいるのを見ている事しか出来なかった。 金で買える未来があの時は無かった。」

 

……だが今回は違う。

 

「今回は孫家の未来を金で買えるんだ。 俺が受けた恩を金で誤魔化す様なもんだぜ、こんなの。……言ったろ? 当然なんだよ。 雪蓮や冥琳を助けたい。 孫家に恩を返したい。……けど俺に出来る事なんて、案を出して金を渡すくらいしか出来ない。 本当は申し訳無いくらいなんだよ俺は。」

 

……熱くなっていらん事まで言っちゃった。

 

呆然と見つめる雪蓮達の目線が痛い。

……恥ずかしい。

 

「と、とにかく、どうするか決めてくれ。」

 

「……はぁ、……冥琳はどう思う?」

 

「……お前が決める事だ。 と、言いたいが、個人的にはともかく、孫家としては蒼夜の助力を受けるべきだと思う。」

 

「……祭は?」

 

「……儂は静観すると言った筈じゃがの。……しかし、そうじゃな、これ以上なく有り難い申し出ではないかの?」

 

俺の案を採用した所で良い未来が確定した訳じゃないがな。

でも助けにはなると思う。

 

「……決まりね。 蒼夜、今回は甘えさせて貰うわ。」

 

……その笑顔を見る為なら多少は頑張るさ。

俺の数少ない愛すべき親友達だからな。

 




次回の投稿にはまた暫く掛かると思います。


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格好つけるのは男の性

書ける時に書いて、ストックしないですぐに投稿していくスタイル。

暫くはこんな感じで投稿していきます。


……現在、馬上である。

 

「これより、賊を殲滅する! 相手は百人程度だ! 一気に飲み干すぞ! 儂に続けぇ!!!」

 

オォー!!!

 

……そして、戦場である。

 

ど う し て こ う な っ た

 

 

_____

 

 

-飲み会当日-

 

「ほんじゃ、俺は明日直ぐに襄陽に帰ってから、資産纏めてまた持って来るわ。」

 

「あぁ、すまん。」

 

冥琳さん、こういう時は謝罪じゃなくてお礼ですぜ?

 

「多分一週間は掛かると思うけど、大丈夫だよな?」

 

ここでタイムオーバーになったら洒落にならんからな。

 

「あぁ、その間に私は賊の情報を纏めておく。 明命、居るか?」

 

何やら冥琳がドアの方に誰かを呼んだら、直ぐに可愛い女の子が目の前に現れた。

 

「はい! 何でしょう、冥琳様?」

 

……oh.ninja

え? マジで?

 

……忍者は存在した。

しかもくの一で。

 

……一体この世界はどうなっているんだ。

 

「明命、直ぐにこの呉郡の賊の情報を集めてくれ。 早ければ、一週間後には討伐の兵を出す。」

 

「はい! わかりました!」

 

くの一はそう答えると煙の様に消えて行った。

 

……孫家の人材は恐ろしいな、本物の忍者が居るじゃねぇか。

 

「今のは孫家が誇る有能な諜報だ。 いずれきちんと紹介しよう。」

 

「お、おぅ。」

 

……普通、諜報って知られちゃ駄目だよね?

それを何でわざわざ俺に。

……深く考えるのは止めよう。

 

「ふむ。 では儂は出兵までに調練でもし、兵を纏めておこう。」

 

「頼みます祭殿。 雪蓮、お前も今回は働いて貰うぞ。 調練もそうだが、今ある仕事も速やかに終わらせる。」

 

「まぁ、仕方がないか。 蒼夜に免じて今回は暫く働くわ。」

 

……君は孫家の代表でしょ?

毎日働けよ。

 

「でもさぁ、そんな都合よく賊なんているかしら? 自慢じゃないけど、母様が賊なんて殲滅してたからこの呉郡は平和そのものだったのよ?」

 

「ふむ、確かにの。 これで賊がおらんかったら前提から台無しじゃな。」

 

ところがどっこい。

 

「現れる可能性は高いっすよ?」

 

「同感だな。」

 

「「何で(何故じゃ)?」」

 

「その孫 文台が凄かったからだよ。」

 

「つまり文台様が亡くなった今、抑圧されていた奴らが再び現れるという事だ。」

 

そゆこと。

 

孫堅は消えた!

ヒャッハー!

 

って事だ。

 

「ふーん。……何かムカつくわね。 賊が出たら私も行くわ。 母様が居なくなっても、私が居るってのを教えてやるわ!」

 

「最初からその予定だ。」

 

「寧ろお前の名前を売る為の作戦だからな。 派手に暴れて来い。」

 

もう心配無い、何故って? 私が来た!

 

みたいなのが良いね!

 

「成る程の。 ならば儂の出番は無さそうじゃの?」

 

んな訳無い。

 

「逆ですよ、祭殿。 雪蓮は初陣ではないとは言え、きちんと軍を率いた事はありません。 その為、祭殿の力が必要です。」

 

そこまでは知らんかったけど、わざわざ経験豊富な有能な将軍を外すメリットが無い。

まぁ、牙門旗は雪蓮だけだろうけど。

 

「なら、私は暴れるだけね? 簡単じゃない!」

 

「あぁ、だがきちんと作戦は立てる予定だ。 下手に突っ込むなよ、雪蓮?」

 

「大丈夫、大丈夫。 冥琳は心配症ねぇ。 まっかせときなさーい!」

 

……雪蓮は楽しそうだけど、何だこの不安は。

 

まぁ賊討伐は俺には関係ないか。

頑張れ、冥琳。

 

 

_____

 

 

-一週間後-

 

「おいっす。 資産纏めて来た。 これで足りるか、計算してみてくれ。」

 

予定通り資産を纏めて建業に再び訪れたら、今回は門番に止められる事も無く、速やかに客間に通された。

 

前回居た門番は俺が客間に通される様な人物だと知って、今回は非常に態度が良かった。

それがちょっぴり面白かった。

 

そこで客間に通された後は五分と掛からず冥琳が現れたので、荷馬車に大量に積んである資産の目録を冥琳に渡した。

 

「……充分だ。 と言うより、よくもまぁこれ程溜め込んだものだ。 この目録に書いてある分と、孫家が売ったお前の名君論の売り上げだけで県令の地位を買えそうな程だ。 実質、孫家はお前の資産に助けられたな。」

 

おぉ、マジか。

俺ってそんな金持ちだったのかよ。

 

俺の資産で半分に届けば良いなくらいの気持ちだったんだが。

もし足りない場合は書物喫茶店を売るつもりだったし。

 

「なら良かった。 それなら雪蓮が呉郡の県令に成った後も少しは余裕が出るな。」

 

「そんな訳あるか。 それでもギリギリだ。」

 

マジかよ。

孫家って貧乏なの?

 

「まぁ良いや、それで? 賊の方は何か情報あった?」

 

「あぁ予想通り、ちらほらと賊は出始めている様だ。」

 

「ならさくっと討伐して、後は周本家次第だな。」

 

俺の役目は終わりかな?

 

「あぁ、……と言いたいが、少し誤算もある。 中央とのやり取りは問題無いが、実は賊が予想以上に多い。」

 

「? まさか千はいないだろ? 仮に千だとしても問題ある数じゃないだろうし、何が問題なんだ?」

 

「確かに数の問題ではない。 数自体は数百程度だが、……問題はそれが別地域で多発している事だ。」

 

うげぇ、めんどくせぇ。

 

「どちらもあまりやりたくない手だが、軍を割って同時に対処するか、一度で全て殲滅して回るかをしなくてはならん。」

 

「んー、……だったら、一度で殲滅して回る方が良いだろ。 祭さんみたいにまともに軍を率いる事の出来る人物って他に居る? 仮に居たとしても建業に守備を残さなきゃいけないし、ここで軍を割るのは悪手だと思うんだけど?」

 

「同意見だ。 かと言って一気に呉郡を回るのが良い訳ではないが、……まぁそこは仕方あるまい。」

 

うわぁ、軍師って大変そう。

 

「俺は何も出来んけど、頑張れよ冥琳。」

 

「ん?」

 

「え?」

 

……。

 

「あ、いや、すまない。 てっきり最後まで面倒を見てくれるのかと思っていた。 本来ならお前には関係ない事だものな、本当にすまん。」

 

冥琳は本当に申し訳無さそうにしているけど、……そんな風に言われちゃったらさぁ。

 

「馬鹿野郎! お前俺に出来る事があるなら言えよお前!」

 

……そう言うしか無いんだよなぁ。

つい、格好をつけてそう言ってしまった俺を責める事は誰も出来ない筈だ。

 

 

_____

 

 

それで気づけばあら不思議、軍に同行している俺がいる。

 

……なんだよそれ、青春ラブコメでも間違っているのかよ。

……間違っていそうな気がしてきた。

 

「……考えてみりゃ、これ俺の初陣だわ。」

 

俺がそうぼそっと溢してしまったら、その言葉に隣に居た冥琳が反応した。

 

「ん? そう言えばそうなるのか。 悪いな、孫家のゴタゴタに巻き込む形で初陣を飾ってしまって。」

 

別にそれは良いんだ。

俺が自ら巻き込まれた訳だし。

 

「なぁ、思うんだけど俺って何枠だよ? 軍師? 武将? って言うかそもそも客将的な感じか?」

 

別に雪蓮に仕えている訳でもないし、そんな感じだよね?

 

「ふむ、まぁ客将じゃないか? 後、お前は軍師でも将でもどちらも出来そうだからな、戦況を見て好きに動いてくれ。」

 

何で疑問系なんだよ。

ってか好きに動けって、信頼されてるなぁ。

 

そんな事を考えてたらもうそろそろ開戦しそうな雰囲気だ。

さっき祭さんが檄を飛ばしていたし、敵も見えて来た。

 

今更だが本当にどうしよう?

 

俺は大陸産まれの大陸育ちだ。

人殺しに大きい忌諱感がある訳ではない。

……人が死んで腐って蛆が沸いてるのだって何度か見た事もある。

 

と言うか動物狩って食ってるんだ、動物とは言え殺しはしている。

自分が生きる為に相手を殺すと考えりゃ割りきれる部分もある。

 

だが前世の知識もあるからな、常識的に考えりゃ人殺しは駄目とも思う。

 

なんとも優柔不断な考えだが、中々に困ったもんだ。

 

……まぁいずれは通る道だったんだ。

予定が少し早まっただけと考えよう。

 

今からぶつかるであろう賊と孫家の軍を見ながら、俺は静かに人殺しの覚悟を決めていた。

 




次回も連休中に投稿したいです。


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やめろーぶっとばすぞー!

何とか今日中に更新出来て良かったです。
平日の更新は期待しないで下さい。


俺の覚悟が完了した所で、戦とも呼べぬ殲滅戦が始まった。

 

敵は多分百人前後、こちらは千人近く居る。

 

圧倒的じゃないか! 我が軍は!

 

最早俺が何もしなくても勝てそうな程だ。

 

そんな俺だが、一応自身の護衛兼部隊として百人程預けられた。

まぁ簡単に言えば特別百人将と言った所か、……うむ、格好いい。

キン○ダムなら出世コースだ。

王○将軍は何処ですか?

僕はここにいますよ?

 

冥琳から好きにして良いと言われたので、現在はちょっとだけ後方で全体を見ている。

 

……決してサボっている訳でも、ビビっている訳でもない。

戦況を確認しているだけだ。

そ、そう、俺は知将だからな。

 

……何か言い訳みてぇだな。

 

そんな事を考えていたら、乱戦が始まってしまった。

 

あれ? おい、包囲殲滅じゃなかったのかよ!

はよ囲め!

 

と、思って良く見りゃ雪蓮が一人で突っ込んでやがる。

 

「あの馬鹿野郎!」

 

俺の怒声に隣に居た兵がビクッとしてたが、そんなもんどうでもいい。

 

「おい! そこのあんた! 直ぐに祭さんに賊を囲めと伝令に行け! そこのお前! 冥琳に雪蓮が突出したと言いに行け、後俺が助けに行くと伝えろ!」

 

俺がそう命令している間に雪蓮が囲まれ始めた。

 

「ちっ! 腕自慢十人は俺に着いてこい、雪蓮を援護する! 残りは直ぐに裏に回って、囲いを助けろ!」

 

俺はそう言い切ると直ぐ様雪蓮が居る場所へと馬を走らせた。

 

雪蓮は既に囲まれていて、俺達以外の兵も近づこうとしていたが、中々近づけずにいた。

 

だが俺には関係ない。

 

「どけっ! 邪魔すんな!」

 

俺は馬に乗ったまま、無我夢中で双頭槍を振り回し、目の前の賊を蹴散らして雪蓮が居る場所へと向かった。

 

「あ、蒼夜。 わざわざ来てくれたの? 別に平気だったのに。」

 

……俺が助けに来た雪蓮の最初の一言はそれだった。

 

……久々にキレちまったよこの野郎。

 

その後は雪蓮と中から暴れ回り、予定通り包囲殲滅して賊の討伐は終了した。

 

 

_____

 

 

「いやぁ、楽勝だったわねー。」

 

戦が終了して、俺の目の前を意気揚々と歩いている雪蓮がそんな事を言い出したので、俺はついに我慢していた堪忍袋の尾が切れてしまい、雪蓮の尻を思いっきり蹴り上げた。

 

「いぎゃ! ったぁー、……ちょっと何するのよ! 蒼「おい、正座しろ。」え?」

 

「え? な「正座しろ。」え? え?」

 

聞こえてないのかよ。

 

「正座しろ!」

 

「は、はい。」

 

俺の怒声に戸惑いながら漸く雪蓮は正座した。

……あんまり俺を怒らせるんじゃねぇよ。

 

「ねぇ伯符さん、今回の作戦何でしたっけ?」

 

「は、伯符さん!? 「答えろ。」は、はい。」

 

「……えっと、確か今回の作戦は賊に一当てした後に直ぐ様包囲して殲滅だった筈です。」

 

その通りだ。

 

「わかってるじゃありませんか。……で? 何処の馬鹿野郎が一人突出して孤立した?」

 

「ば、馬鹿野郎!? ちょっとそれは酷「あ?」……な、何でもありません、私です。」

 

「……言い訳はあるか?」

 

「いや、別に、賊の百人くらい余裕かなーって。」

 

「あぁ、あぁ、余裕だ。 余裕だろうさ。 更に言えばお前が作戦通りに行動してたら、命の危険も無く、もっと余裕だったわ!」

 

「いや、その、悪いとは思っているわよ? でも、別に命の危険なんて無かったじゃない?」

 

こいつ全然わかってねぇ!

 

「本当にこの馬鹿! 命の危険が零から一になるだけでも駄目なんだよ! あの孫 文台でさえ、戦になったら死ぬ事もあるんだ! そこから少しは学べ! こっちはお前が死なない様に冥琳とわざわざ頭捻って策とか考えてるんだよ! ぶっ殺すぞ、この野郎!」

 

俺の怒りが少しは届いたのか、雪蓮も少し反省した様だ。

 

「……すいませんでした。」

 

「マジで反省しろよテメー、そんなに命が惜しくないなら俺がお前の首取って、孫家の当主を仲謀様に変えたろうか?」

 

そんな俺の説教にストップをかけたのは遠くから急いで来た冥琳だった。

 

「ま、まぁ落ち着け蒼夜。 兵が怯えてる。」

 

その言葉にはっとして、回りを見渡してみたら、冥琳の言う通り兵が俺と目を合わせない様にしてささっと逃げて行った。

 

……待て違うんや。

俺は普段優しい人間なんや。

雪蓮があかんのや。

 

俺が回りの反応に落ち込んでいると、冥琳が雪蓮にフォローと言う名の追い討ちを掛けていた。

 

「言いたい事は蒼夜がキツく言ったので、私から言う事はあまりないが、少しは私達の気持ちも考えてくれ雪蓮、皆お前を心配してるのだ。」

 

「ん。……次からはちゃんと作戦通りに動くわ。」

 

本当もう頼みますよ?

俺だって本当は説教なんてしたくはなかったんだよ?

 

そんな事を考えていたら、祭さんまでこちらにやって来た。

 

「お主はあれじゃの? 怒ると人格でも変わるのかの?」

 

そんな事無いんだけどなぁ。

 

「んな事無いっすけど、まぁちょっとやり過ぎた感はありますね。 でも正論言ってるつもりっすよ?」

 

「確かにの。 これで策殿がちっとは武将や当主として自覚してくれたら良いのじゃが。」

 

出来ればそういう教育は孫家できちんとしてくれ。

 

ってか今更だけど、予定とは言え一領主を兵の見てる前で説教って、これ完全に打ち首レベルの事しでかしてしまった。

 

いやまぁ雪蓮達がそんな事しないとは信じているけど、俺も反省しなくちゃ。

 

もっと人目のつかない場所で冥琳と二人でオブラートに包んで言うべきだった。

 

……自分自身じゃわからんけど、意外と激情家なのかな俺?

 

 

_____

 

 

その後、次の賊討伐に向けて再び部隊を編成して行軍を開始したのだが、……俺に対する兵士の呼び方が、元倹“殿”から元倹“様”になっていた。

 

……兵士から様付けで呼ばれる一般庶民って何だよ。

 

「その、蒼夜? まだ怒ってる? 本当ごめんね?」

 

「もう怒ってないよ。」

 

ちょっと落ち込んでるだけっす。

 

って言うか、凄い雪蓮が俺に気を使ってくる。

……一応あの説教も効果はあったのか。

 

「……はぁ、兵士が居る前であんなに怒って悪かったな雪蓮。 もうああいう事をしない様に俺も気を付けるよ。」

 

「あ、うん。 今回は私が悪かったから、あまり気にしないで?」

 

そうは言うが気にしないなんて無理なんだよなぁ。

 

やはり、俺が戦場に出るのは間違っている。

 

……このタイトルで今度一つ本を書いてみよ。

 

俺は現実逃避しながら、地平線を眺めていた。

 

 

_____

 

 

-side 冥琳-

 

行軍の最中に私は雪蓮達の後ろから彼女達の様子を見ていたが、正直笑いを堪えるのに必死だった。

 

蒼夜は先程の事を気にしているのか、普段の様子からかけ離れて意気消沈と遠くを眺めているし、雪蓮は蒼夜の説教が効いたのか、酷く狼狽えていた。

 

特に雪蓮は、蒼夜から“伯符さん”と呼ばれた事が効いたらしく、私に涙目でどうしようと聞いてきた程だ。

 

これを機に多少はあいつも回りの事を考えてくれる様になってくれたら言う事は無いのだがな。

 

それにしても、蒼夜があんなに雪蓮の事を気に掛けてくれてた事に少し驚くと共に嬉しさが湧いてくる。

 

確かにあの説教は少しやり過ぎな部分もあったが、その内容は主に雪蓮を心配しての事なので、寧ろ良く言ってくれたと思う部分もある。

 

……このまま蒼夜が孫家に居てくれたら。

 

ここ数日、ずっとその考えが頭を過る。

 

だが恐らくそれは無い。

 

あいつが私達を助けてくれる理由は、威方殿の件と私達が友人だからという二点だけだ。

 

あいつは本来縛られる事を嫌う自由な奴だからな。

この件が済んだらまた襄陽へと帰るのだろう。

 

……いつの間にかあいつを心の頼りにしている私が居るな。

ふっ、少々悔しいので今のうちに沢山こき使ってやるか。

 




初めての視点変換でしたが、これからもちょくちょくあるかもです。


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虎が可愛い事を確認した今日この頃

なんとか休みの間に一話アップ出来ました。

オリジナルな設定がありますが、ご了承下さい。


さて、呉郡の賊も粗方片付いて来て、次で最後の大詰めの段階まで来た。

 

その間、俺もそこそこ奮戦して戦場って奴に慣れてきた。

……いや、わかりやすく言おう。

俺も人殺しに慣れた。

 

最初こそ雪蓮の馬鹿野郎のせいで無我夢中だったが、一度やったら慣れたのか次からはあまり何も考えずに効率良く殲滅する方法とかを普通に考えていた。

 

ふん、所詮この世は弱肉強食、強ければ生き、弱ければ死ぬだけよ。

 

と、若干どこぞの包帯ミイラ人斬りの様な思考に俺もなってきたわけだ。

 

いや別に悪い事をしたり、殺しが楽しい訳ではないけども。

 

そんな事より困った事がある。

あの説教以来、俺に対する回りの態度がおかしい事だ。

 

雪蓮はもう問題無い。

一時は俺に気を使っていたりしたが、それも直ぐに元に戻った。

 

問題は兵士だ。

 

何やらこいつらは俺が恐ろしい人物か何かと勘違いしているようで、俺の近くに来ると凄くビクビクする。

 

……屈強な男達に怯えられる俺の気持ちにもなって頂きたい。

 

軽く耳に挟んだが、どうやら俺は“守護鬼(しゅごき)”と呼ばれているらしい。

 

……何だよ守護鬼って、どう見ても可愛いプリティーな十二歳の少年だろうが。

 

後から聞いた話、どうやら俺の戦の様子と雪蓮への説教からそう呼ばれる様になったらしい。

 

……恥ずかしいから止めろと、声を大にして言いたい。

 

 

_____

 

 

「蒼夜、少し困った事が起こった。」

 

行軍を中断して一時休憩をしている最中に冥琳が俺の所に来て、そんな事を言い出した。

 

「どったの? また雪蓮が何かやらかした?」

 

「どうしてそこで雪蓮が出てくる?……いや、良い何も言うな。」

 

まぁ彼女は前科が沢山ありますからねぇ。

 

「実は次の賊の事だが、その賊が少し変でな? お前の意見を聞こうと思った訳だ。」

 

「別に俺で良けりゃ構わんけど、あまり期待すんなよ?」

 

浅知恵の廖化とは私の事です。

 

「うむ、次の相手は長江近辺の邑を根城している江賊でな? 数は二百程度と少し多いくらいで問題は無いのだが、奴等はどうも賊らしくはないのだ。」

 

「ごめん、話が見えない。 どゆこと?」

 

「あぁ、今までの賊は近隣の邑を襲ったりとわかりやすい悪事を働いて討伐するに何も問題無かった訳だが、この江賊はそういう事は一切行っていないようだ。」

 

んん?

 

「……それって賊なの? 一体何を以て賊と言われている訳?」

 

「奴等は長江を行き来する商船を護衛する変わりに金を取っているらしい。 これは私達の許可無くして行っている事だが、実際に他の賊からその商船を守ったりもしている。 だから感謝される事もあれば、うっとおしがられて、賊扱いされる事もある。 一応は分類的に強盗扱いとも言える。」

 

め、めんどくせぇ。

 

「聞けばこの江賊は文台様が健在な頃から存在しているらしくてな? 恐らくだが、文台様も暗黙の了解をしていたのではないかと思われる。」

 

「えぇ? じゃあもうこっちも暗黙の了解したら?」

 

「それも考えたが一応賊扱いされているし、雪蓮の為にも後一つ功が欲しい所でもある。 とは言え近隣からもそこそこ評判の良い奴等でな、こちらで討伐して人心が離れるのも避けたい。 そこで私に案が無い訳ではないが、お前の意見を聞こうと思ってな。」

 

いやいや、軍師はあんたでしょ?

自分で決めなよ。

って言うか、雪蓮と決めろよ。

 

「あー、んー、……もうその江賊を孫家で取り込んだ方が良いんじゃない? んで、賊は解散したとか言って功績にすれば良いでしょ。」

 

俺のその言葉に冥琳は待ってましたと言わんばかりに笑顔で頷いた。

 

……つまりここまでは予想通りな訳か。

嫌な予感が。

 

「うむ、私もその案で行こうと考えていた。 そこで、その江賊相手に交渉しに行こうと思うのだが……」

 

いゃぁー! 待って! その先は言わないで!

 

「……お前も、来てくれるよな?」

 

「……ハイ。」

 

冥琳の顔には拒否権なんて存在しなかった。

 

 

_____

 

 

ドナドナの気分ってこうなのかな?

 

現在、俺は冥琳に連れられて江賊の根城にしている邑に向かっている。

 

一応交渉人兼護衛って事らしい。

 

もうめんどくさいから交渉の席に着いたら、冥琳の後ろに黙って立ってよう。

 

と俺が売られて行く子牛の気持ちになっていたら、目的の邑が見えて来た。

 

どうやらこの邑が例の江賊が拠点としている場所らしい。

 

一応前以てこの邑に人を派遣して交渉の席を設けて貰ったが、実際に目の前にして、やっぱテメーら殺すってなったらどうしよう?

 

俺一人で冥琳を守りきる事が出来るだろうか?

って言うか、これ俺の命も危ないよね?

 

そう俺がネガティブ思考に陥っていたら、ついに邑の前に着いてしまった。

 

……今からでも遅くない、引き返そうぜ冥琳?

 

俺が帰りたい気持ちで一杯の中、邑の前で俺達の到着を待っていた屈強な男に冥琳は挨拶されて邑の中へと案内されていた。

 

俺も急いでその後を追い、最早後戻りが出来ない状況だと悟った。

 

 

_____

 

 

俺と冥琳が屈強な男に案内された場所は、この邑で一番大きな屋敷……とまでは行かなくとも、中々大きい建物だった。

 

……賊のくせにまぁまぁ良い所に住んでるじゃねぇか。

 

その建物の恐らく客間であろう場所で待たされている間、部屋を眺めながら俺はすっかり諦めの境地に達していた。

 

……ここで一気に武装した奴等が入ってきたら死ぬな。

 

俺は心の中で必死に交渉でお願いします、と相手に祈っていた。

 

「……お待たせして申し訳ありません。」

 

来た!

と思い、俺は直ぐに部屋へと入って来た人物を見た。

 

この江賊の頭目であろうその人物は、帯剣こそしているが、他に護衛等を連れている訳でもなく、純粋にこの交渉の席に着いてくれるらしい。

 

その事にほっと一安心するが、それ以上に俺はある衝撃に襲われた。

 

……その頭目が俺とさして年齢が変わらないであろう女の子だったのだ。

 

いや、いやいや、……まぁ確かに冥琳達が女性である事を考えたら、そう言う事もあるかもしれん。

 

でも、賊だよ? 江賊だよ?

 

……一体この子はどんな人生歩んでいるんだよ。

ちょっと、ベリーハード過ぎない?

 

俺達の目の前に現れた頭目であろう女の子は、目付きこそ恐いが、身長は俺とそう変わらず、肌を健康的に焼いており、髪をお団子に纏めて、何と言うか、賊と言われなければ気付かないのではないかと思う様な風貌をしていた。

 

ギン!

 

ひぇっ!

に、睨まれた!

 

俺は一瞬、もの凄い目力でこの女の子に睨まれた。

その迫力は先日に出会った虎の比ではなく、誇張無しに一瞬身体が強張って動けなかった程だ。

 

……やべぇよ。

こいつ若くして賊の頭目に成っただけあるわ。

多分戦ったら俺より強いかもしれん。

 

……冥琳は怖くないのだろうか?

正直、俺は結構一杯一杯なんだが。

 

俺が背中に凄い汗をかいてる中、この女の子の挨拶が始まった。

 

「ほ、本日は我が邑へようこそおいでくださいました。 わ、私は、この邑の者を纏めている、姓を(かん)、名を(ねい)、字を興覇(こうは)と、も、申す者です。」

 

……あれ?

……もしかして緊張してる?

 

って、違う! 違う!

こいつ甘寧かよ!

……そういや甘寧って元は賊だったっけ?

……道理で迫力ある筈だわ。

 

「あぁ、私は此度貴殿等と交渉する為に孫家の名代として参った周 公瑾だ。 よろしく頼む。」

 

わぁ、堂々と名乗って、冥琳格好いい。

あ、俺も名乗らなきゃ。

 

「同じく、交渉する為にやって参りました、廖 元倹と申します。」

 

「そ、孫家の周 公瑾様のご、ご高名は常々、そ、そちらの元倹殿の名もまた聞き及んでおります。 こ、こちこそ、よろしくお願いいたします。」

 

あ、やっぱ緊張してるのか。

さっきのは睨まれたんじゃなくて、純粋に緊張して目に力が入っただけか。

……それにしてもすげー怖かった。

虎以上の迫力を持つ女の子に初めて出会ったわ。

 

……と思ったが、そうでもなかった。

夏候惇とか曹操もあの時の雰囲気は穏やかだったのに、謎の迫力があったわ。

……後は戦闘中の雪蓮とか雪蓮とか雪蓮とか。

 

いやでも流石将来の大将軍、甘寧の名は伊達ではなかった。

俺みたいな、なんちゃって大将軍とは訳が違うね。

 

って言うか、俺の名前が知れ渡ってるってどういう事?

もしかして俺の本でも持っているのだろうか?

……な訳無いよな?

 

どういう事だってばよ?

 




という訳で、甘寧さんを江賊と表現させて頂きました。
まぁ本当は全然違うんですけどね?

-追記-
紅なのか江なのか
誤字報告で両方来ちゃったので、もう江で統一しようかと思います。


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恐怖の鈴の音が聞こえてきそう

まだまだ続く孫家の話。
そろそろ話を進めたいのだが、中々上手く行きません。


さて、甘寧との交渉は非常にスムーズに行われた。

 

簡潔に纏めよう。

 

お前達の行いは特別に悪い事じゃないけど、孫家の許可無いでしょ?

周りから賊扱いされてるから、いっその事孫家に属して公的事業って事にしない?

一応頭目の貴女は武将って事で雇うよ?

 

本当ですか?

願っても無い事です。

きっとあいつ等も喜ぶと思います。

 

まぁ、こんな感じだ。

 

いや本当はもっと硬い口調で回りくどい言い方だったし、他にも話している内容はあるけど、ようするにこう言う事なんだ。

 

今回の交渉はお互いにwin-winの関係だからな、断る理由が無いだろう。

 

孫家としては、江賊を解散させたという功になるし、今まで戦い続けていた精鋭が手に入るし、将来の将軍候補が手に入る訳だ。

 

江賊側としても、今まで自分達がしてきた事が罪にならず、これからも同じ行いが出来る。

しかも今度は公的権力者の後ろ楯付きで。

 

だから問題が起こらず実にスムーズに交渉は終わった。

俺が最初にしていた心配は意味の無い物だった。

 

……ただこれだけは言いたい。

 

俺が居る意味あった?

 

いや本当、今回俺何もしてないもの。

時たま振られる冥琳からのパスに、おう、やら、あぁ、やら只肯定してつっ立っていただけだからね?

 

……何で冥琳はわざわざ俺を連れて来たのだろうか?

嫌がらせ?

 

確かに最初は冥琳の後ろでつっ立ってよ、と思っていたけども、ここまでする事無かったら逆に怖くなる。

 

……冥琳の意図が読めぬ。

 

「さて興覇、貴殿が正式に孫家の者となるには雪蓮……孫 伯符の許可が必要だが、まぁそこは問題無い。 後日、合流した際に正式に任命する。」

 

「はっ。 有り難く。」

 

「そこで、一応だが貴殿の実力が知りたい。 噂では貴殿は相当の腕前らしいではないか?」

 

んん?

何でそこで武力の話?

 

待って、待って、止めて冥琳。

 

「どうだろう? そこの廖 元倹と立ち会ってみないか?」

 

おいやめろ。

てめぇ、この為に俺を連れて来やがったな?

 

そんなもん雪蓮にでもやらせりゃ良いじゃねぇか。

あの戦闘狂なら喜んでやるだろうが。

何で俺なんだよ。

 

「まぁ待て冥琳。 お前がどう感じているかは知らんが、そこの興覇さんは多分俺より強いぞ? だから、模擬戦は雪蓮か祭さんに頼めよ。」

 

ね? そうしよ?

俺は戦わなくて嬉しい、雪蓮は戦えて嬉しい。

こっちもwin-winの関係だよ?

 

「ほぅ? それほどか、……ならばこそ宜しく頼むぞ蒼夜。」

 

……話を聞こうぜ?

 

何か知らんが、今回はやけに押しが強いな。

 

「いえ、私程度が最近噂である孫家の“守護鬼”に勝てる等、とても思えません。」

 

何で知ってるの!?

って言うか、俺の名前知ってる理由はそれか!?

 

「あの、……何故それを?」

 

「貴殿方孫家の戦を見てた奴等が、私の仲間内に居るのですが、何でも鬼の形相で賊を凪払っていたやら、もの凄い怒声が聞こえたやら、後これは嘘だと思いますが、主君である孫 伯符様を蹴りあげたやら言っておりました。」

 

……うん。

嘘じゃないね。

 

ってかそれ、全部初戦の奴!

……見られてたのかよ。

 

「その後もご活躍の噂が我々の耳にも届いております。 また孫家の兵の者達が貴方の事を守護鬼と呼んでいる噂も流れております。 この呉郡において、孫家の皆様の話は有名ですが、そこに新しく貴方の噂が流れた物ですから、物珍しさもあり、ここら近辺では貴方は有名だと思われます。」

 

……聞いてないぞ、そんな話。

 

嘘だろ? 嘘だと言ってよ冥琳?

 

俺がちらっと冥琳を見たら、冥琳は俺と甘寧から顔をそらし、プルプル震えながら必死に笑いを堪えていた。

 

……知ってやがったなこのヤロウ。

 

誰もこんなの望んでいないのに、どうしてこうなった。

人生とは儚く無情な物だ。

 

 

______

 

 

結局、それから俺は断る事が出来ずに甘寧と模擬戦をする事になった。

 

嫌だよぉ。 帰りたいよぉ。

 

俺は雪蓮と違って戦闘に喜びは見いだせないんだよ。

何で明らかに自分より強い奴に挑まなきゃいけないんだ。

 

俺は戦闘民族じゃないんだ。

ワクワクもしなけりゃ、死の淵から蘇ってもパワーアップしないんだよ。

純粋に痛くて怖いだけだからね?

 

「おい、今からお頭が孫家の将と模擬戦するらしいぞ。」

 

「へっ、いくら孫家の将って言ったって、お頭に勝てるもんかよ。」

 

「いや、わかんねぇぞ、相手はあの守護鬼だ。」

 

「何?……あれがそうか。 強そうには見えねぇが、本当に守護鬼か? 噂だけが先行してるんじゃねぇか?」

 

「見てわからねぇから恐ろしいんじゃねぇか。 あれで孫家の兵から恐れられているんだぞ?」

 

「な、成る程なぁ。」

 

……どこから聞き付けたのか、周りから人が集まってきた。

 

やめろ、俺に変な期待をするんじゃない。

あんたらのお頭に俺は勝てんよ。

 

俺がブルーになって居ると、冥琳が近寄って来て俺に耳打ちした。

 

「蒼夜、お前は今回孫家の代表として戦う。……言いたい事は解るな?」

 

……解りたくねぇ。

だったらそれこそ雪蓮を戦わせろよ。

 

「……負けるなと。」

 

俺がそう言うと、冥琳はニコッと笑って去って行った。

 

俺はその冥琳の様子に大きく溜め息を吐き、相手の甘寧の様子を見た。

 

ギンッ

 

……おっふ。

やる気満々でござる。

寧ろ殺る気と言って良い。

 

今回の目力は多分気合だろうな。

緊張している様子は無いし、何やら闘気とか見えそうだもの。

 

……まぁ仕方ないやるだけやってみよう。

今回は自然の戦いや戦場での戦いではない。

負け=死ではない分いくらかマシだ。

 

……それでも虎よりこの人の方が強そうだけどね、多分。

 

……い、いやネガティブになるな俺!

大丈夫、俺は虎に勝った男。

素手で虎に勝つなんて、そうそう……

 

ギンッ

 

……そうそう……

 

ギンッ

 

…………。

 

……多分この人なら一睨みだけで虎も逃げると思う。

だって俺が既に逃げ出したいもの。

 

 

_____

 

 

「それではこれより、廖 元倹と甘 興覇の模擬戦を始める。」

 

オオー!!!

 

……いつの間にか全員に知れ渡り、俺と甘寧は周りを男達に囲まれていた。

 

それにしても凄い盛り上がりだな。

 

「お互い、相手を殺す様な事はしないように。 また後遺症が残る様な事も極力無いように。」

 

「はっ。」

 

「おぅ。」

 

「……よし、それでは審判は私、周 公瑾が勤める。 では、……始め!」

 

……始まったは良いが、意外にも甘寧は自分から動こうとはしなかった。

無論俺も動く訳が無い。

 

それは俺が消極的になっているからではなく、俺と甘寧の武器の性質上の問題で、俺から動くのが得ではないからだ。

 

俺は双頭槍、甘寧は片手で扱える剣。

つまり、間合いの長さなら俺が有利なので、自分から間合いを詰める様な事をする訳が無い。

逆に間合いの中に入られたら一気に劣勢になるので、自分から攻撃を仕掛けてどのくらいの長さが自分の間合いなのかを教える必要も無い。

 

遠くから一方的に攻撃が出来ない訳ではないが、正直このレベルの相手になると不可能だ。

 

俺は雪蓮との立ち会いで嫌と言う程、その事を学んだので、自分から仕掛けるのではなく、カウンターを狙う待ちスタイルを今回は選んだ。

 

これでソニック○ームが出せたらどんなに良い事か。

 

待ち廖化は反則とか俺も言われてみたい。

 

そんな事を考える余裕がある程、お互いに動きが少なかった。

 

甘寧は腰を低く落とし、剣を右手で逆手に持ちかなり警戒している。

 

一方、俺の方も穂先を常に甘寧に向けたまま、一瞬の動きも見逃さない様に集中した。

 

双頭槍と言う武器の性質上、俺は背後を捕られるのは恐ろしくない。

そのまま背後に突きを入れる事が出来るからな。

けど凪払いの様に線での攻撃は弱いし、側面からの受けも弱い。

 

簡単に言えば、俺のやる事は常に甘寧を正面から捉え、俺の間合いに入り攻撃を仕掛けたらそれを弾き、迎撃する事。

相手の攻撃を強く弾き、いかに体勢を崩すかがポイントだな。

 

お互いにゆっくり時計回りに動いて元々自分達の居た地点を交換する様になってから、この模擬戦の行方が動き始めた。

 



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平均武力93は伊達では無い

連続投稿だぁ!

初めてと言っても過言では無い程、真面目な戦闘シーンです。
上手く書けてる自信はありません。


動き出したのは当然ながら甘寧からだった。

 

「ふっ!」

 

漏れ出した声と同時にギアをいきなりMAXに入れた様に、もの凄い速さで接近して来た。

 

その速さは尋常ではなく、瞬間的な速さで言えば恐らく虎なんかよりも余程速い。

 

っていうか、今まで見てきた中で一番速ぇ!

 

俺は深く腰を落として、甘寧の攻撃を見極めんとしたが、甘寧はもうとっくに俺の間合いの中に入っていて、すかさず俺の首元へと一撃を繰り出していた。

 

「ぐぉっ!」

 

俺はなんとかその一撃を防いだが、とてもじゃないが、その攻撃を弾く余裕等無く、寧ろ俺の方が若干体勢を崩した程だ。

 

それを見た甘寧はここぞとばかりに連撃を俺に繰り出し、俺に反撃の隙を与えない様に猛攻してきた。

 

俺は最初から覚悟していたとは言え、この猛攻を完璧に防ぐ事等出来ず、徐々に小さい切り傷が増えてきはじめた。

 

だがこの猛攻にも攻撃の繋ぎ目が見えたので、俺はその僅かな繋ぎ目を狙って、おもいっきり槍を降り払った。

 

だが、その攻撃は呆気なくバックステップでかわされた。

 

無論その攻撃が反撃の糸口になる等思ってなかったが、俺の狙いは間合いの外に甘寧を出す事にあったので、概ね良しと出来た。

 

しかしこいつ、とんでもなく速いな。

 

威力なら雪蓮の方が上だが、速さに関しては甘寧の方が上だ。

 

これは待ちスタイル等言ってられないと思い、俺は自分から攻撃を仕掛ける事にした。

 

「っら!」

 

だが、俺の威力より速さを優先した突きは甘寧に届く事は無く、普通にかわされた。

 

恐らく、さっきの凪払いや今回の突きで俺の間合いはもうバレてしまっているので、俺は開き直って甘寧に連突きを放った。

 

「しっ!」

 

一回、二回、三回と俺の全速力で放つ突きを甘寧は見極め、かわし続ける。

多分、中に入るタイミングを測っているのだろう。

 

そこで俺はフェイントを入れ、突くと見せかけ、足だけ、だんっ! と地面を踏み鳴らし、逆に待ちにしてみた。

 

そしたら俺のフェイントが功を奏し、甘寧はタイミングを外され、ぐっ、と一瞬硬直した。

 

行けるか!?

 

俺はその隙を見逃さず、再び最速の突きを甘寧に放った。

 

「ぐっ!」

 

だが、そんな甘い話は無く、俺の放った突きは甘寧の剣で防がれ、決定打にはならなかった。

 

それでも、今までかわされた突きが剣での防御に変わっただけでも充分チャンスだと思った俺は、今度こそ甘寧の剣を弾いて体勢を崩させ様と、速さよりも威力を優先して突きを放った。

 

しかしそれは俺のミスだったらしく、大振りに成った隙を見逃さず、甘寧は俺の突きを素早くかわし、俺の背後に回り、俺の首元に剣をあてがった。

 

でも、甘寧もまたミスを犯した。

 

俺の武器は双頭槍だ。

背後の攻撃には対処出来る。

 

甘寧の首元にも俺のもう一つの穂先が置いてあった。

 

 

_____

 

 

「そこまで! 今回の模擬戦は引き分けとする!」

 

冥琳がそう宣言すると同時に俺と甘寧は互いに武器を引き、ほっと一段落した。

 

ウォォォ!!!

 

その瞬間に周りから凄い歓声が上がり、周りが賑わい始めた。

 

「凄げぇ! 流石お頭だ! あの守護鬼に引けをとってねぇ!」

 

「あぁ! だがあの守護鬼だって凄げぇ! 今日のお頭は今まで見てきた中で一番強かった! それでも勝てなかったんだから!」

 

その後も、おっ頭! 守っ護鬼! と謎の喝采コールを俺と甘寧は受けた。

 

……しかし個人的感想を言わせて貰うと、引き分けの気なんてしない。

 

確かにお互いの急所に武器をあてがい、引き分けとなったが、その内容には大きな隔たりがある。

 

俺は沢山の切り傷を付け、若干体勢を崩して何とか甘寧の首元に穂先をあてがったのに対して、甘寧は傷一つ無く余裕の体勢で俺に剣を突き立てた。

 

言葉にするだけでも、どちらが真の勝者かは解ると思う。

 

だから俺からしてみれば、負けの状況をなんとかギリギリ頑張って引き分けに持ち込んだって所なのだ。

 

……多分、雪蓮とか祭さんだったら俺の負けって宣言してただろうなぁ。

 

俺がそんな風に敗北感を抱いていたら、甘寧がやって来た。

 

「お見事です。 私もまだまだと痛感させられました。」

 

……嫌味? それ嫌味?

 

まぁ違うか、この人真面目そうだし。

 

「いや正直状況的には、興覇さんが勝っていると思いますよ? 今回は若干身内贔屓な判定だと思います。」

 

「いえ、あの状況でしたら剣を引くより槍で突く方が速いので、元倹殿の勝利かと。」

 

その言葉に、でも、だが、しかし、と何故か知らぬが、俺と甘寧はお互いに勝利の譲り合いをしてしまった。

 

そして結局行き着く所は引き分けになってしまい、何か不正をした様な気分になった。

 

……解せぬ。

 

 

_____

 

 

-翌日-

 

冥琳に雪蓮達を邑に連れて来て欲しいと頼まれた俺は、朝早くに邑を出て雪蓮達の元へと向かった。

 

雪蓮達と合流を果たしたのは良いが、傷だらけの俺の状態を見て不思議に思った雪蓮は、昨日何があったかしつこく聞いてきた。

 

仕方無いので、口止めされている訳でもないし、俺は正直に甘寧と模擬戦した事を教えてやった。

 

「えぇ! 蒼夜ったら模擬戦なんかしてたのぉ!?……何で私を呼ばないかなぁ?」

 

知らんがな。

冥琳に聞け。

 

「全くじゃな。 そんな面白、……ケフン。 新たな武官の見極めに儂を呼ばんなんぞ、どうかしておるぞ。」

 

えぇ、私もそう思いますよ?

普通貴女にして貰う事ですからね。

 

……だが俺は悪くない。

全ての元凶はあの腹黒眼鏡だ。

どうせ眼鏡をクイクイしながらニヤリとしているに決まっている。

 

「いやぁ、それにしても、今から会いに行く興覇さんはめっちゃ強かったっすわ。 磨けば光る所か既に光を放ち始めてる感じでしたよ?」

 

一応そういう報告も雪蓮や祭さんに言わなきゃいけないからね。

 

「へぇ。」

 

「ほぅ。」

 

俺がそう報告したら、二人の目が虎とか猛禽類とか、捕食者の目に変わっていた。

 

……本当、怖いんで止めてくんない?

 

「……それで? 結果はどうなったの?」

 

「あぁー、……一応引き分け。 個人的には負けだけど。」

 

「ふむ。 詳しく聞かせい。」

 

祭さんがそう言うので、俺は自分の感想と共に昨日の模擬戦の内容を詳しく二人に教えた。

 

「……ってな感じだからさ、引き分けの気はしないんだよね。」

 

しつこいようだが、全く納得出来ないからな。

 

「んー、……私的には引き分けで良いと思うわよ?」

 

「同感じゃな。 お主も甘いが、最後に詰めを誤った興覇という人物もまた甘い。」

 

……そんなもんか?

まぁ良いや、俺の中で負けにしておこう。

 

「それにしても、お主の主観ではその興覇という者は、策殿とも充分やりあえるのじゃろ? まだ呉の在野にそれ程の人物が居るとは思わなんだ。 これは鍛えがいがありそうじゃの。」

 

在野っつうか、江賊でしたけどね?

 

「ふふっ。 私も帰ったら模擬戦してみよ。」

 

……うわぁ。

ごめん甘寧、ご愁傷さまです。

 

俺は心の中で甘寧に謝りながら、雪蓮達と邑へと向かった。

 

 

_____

 

 

邑へ到着し、冥琳と合流を果たした後は思春さんを正式に孫家の武官として任命し、今回の賊討伐の全てを終了した。

 

「じゃあ、これからよろしくね! 思春。」

 

「は、はっ! せ、誠心誠意、は、働かさせて、い、頂く所存です!」

 

またもや緊張タイムである。

気持ちは解るが、そいつは適当大魔王だから、もっとフランクで良いんだかなぁ。

 

ちなみに思春とは、甘寧の真名である。

孫家に仕えるにあたって、孫家の幹部連中と思春さんは真名を交換した。

 

……そして俺も。

 

いや、真名を交換した事に不服がある訳ではない。

でも俺ってば、別に孫家に仕えている訳じゃないのよ?

 

勿論その事は思春さんに話した。

俺が孫家の人間じゃ無いなから手伝う理由までを簡単に説明して、敬意を払うに値しない人物である事や、真名を預ける必要の無い人物だと説明したが、それでもと乞われ交換する事になった。

 

『貴方は地位や名誉の有る無しを問わずに尊敬に値する人物です。』

 

思春さんにそう言われた時は、実は自分は凄い人物ではないのだろうかと勘違いしそうになった。

 

お世辞を使うタイプには見えないが、流石に盛って誉め過ぎだと思う。

 

けど自分に自信が出るのは仕方無いよね?

 

そう言う訳で、俺も敬意を以て思春さんと呼ばせて貰う事になった。

 




後1話、2話で孫家編を終わらせて一回閑話を挟んで、次に行きたいです。


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労働基準局はどこだ?

久々の平日投稿。
少し駆け足で書きました。


さて、賊討伐も終了し俺達は本拠地の建業に帰って来た。

後は周本家の交渉次第なので、ただ待つだけなのだが……。

 

「蒼夜、穏の方を手伝ってくれ。 あそこも手が回っていない様だ。」

 

「……うす。」

 

…………。

 

「おぅ、蒼夜。 今から警邏に行くのじゃが、お主も来い。」

 

「……おす。」

 

……。

 

「申し訳無い、蒼夜殿。 報告書はどの様に書けば良いかお教え願えないだろうか?」

 

「……ぃぇす。」

 

何でこんなに働いているんだ!

 

おかしいだろ!

俺は孫家の客だろうが!

 

どいつも、こいつもよってたかって俺に仕事を頼みやがって!

 

いや、思春さんはまだ良い。

あの人は働き始めたばかりだからな。

 

でも何故俺に聞くのだろう?

お前の上司に聞けと言いたいが、まぁ良いだろう。

 

でも冥琳、てめぇーはダメだ。

書類系の仕事をアホみたいに振りやがって。

 

祭さんも祭さんだ。

俺を見つける度に引っ張りやがる。

 

ねぇ、君たち俺の事好き過ぎない?

僕の身体は一つしか無いんだよ?

 

雪蓮が県令に就任するのを見届けたら速攻で襄陽に帰る事を決意して、俺は仕事に励んだ。

 

 

_____

 

 

今日も今日とて書類天国、いい加減文字がゲシュタルト崩壊して来た。

 

あれ?

文字ってどうやって書くんだっけ?

 

……一度休憩しよう。

 

頭がおかしくなり始めた俺は、少し休憩しようと与えられた部屋を出て、大きく伸びをしながら庭に向かって歩いた。

 

……物書きの俺が文字のゲシュタルト崩壊を起こすなんて、書類仕事は恐ろしいな。

将来は文官にだけは成らないでおこう。

 

俺がそう考えながら中庭に到着したら、一人の先客が居た。

 

「あらぁ、蒼夜じゃない? しかめっ面なんてして、どうしたの?」

 

「あぁ、しぇれ……っ!」

 

雪蓮に名を呼ばれそこに目を合わせると、そこには信じられない光景、と言うか信じたくない光景があった。

 

「……お前、木の上で何を優雅に昼間っぱらから飲んでやがる。」

 

「あはぁ、楽しいわよ~。 蒼夜も一緒に飲みましょ?」

 

……本当にもう、この人は……。

 

「ど阿呆!」

 

人を怒らせるのが好きだな!

 

俺は雪蓮が登っている木を力強く蹴って、強く揺らした。

 

「ちょっ! 落ちる、落ちる!」

 

落ちてしまえ、……地獄あたりにでもな!

 

「誰かある! 親衛隊でも良い! 誰か来い!」

 

俺のその呼び掛けに、一番最初に現れたのは思春さんだった。

 

「どうかしましたか蒼夜殿?……って、雪蓮様!?」

 

「し、思春! 助けて!」

 

「あぁ、思春さん。 悪いけど急いで冥琳を連れて来てくれない?」

 

雪蓮が何か言っているが、俺はそれを無視し、思春さんと話ながらも木を蹴り揺らし続ける。

 

「い、いえ、その前に「急いで?」は、はっ!」

 

「ちょー! 思春! 助けて! 助けてー!」

 

雪蓮の願いは虚しく、結局奴は木から落ちた。

 

 

_____

 

 

思春さんが冥琳を連れてやって来たのは、雪蓮が木から落ち、俺に正座させられた直後だった。

 

「待たせた蒼夜。 雪蓮がまた何かやらかしたらしいな。」

 

「げぇ、冥琳。」

 

関羽じゃないんだからそれは止めて差し上げろ。

 

「おぅ、冥琳。 こいつが今、何をしてたか知ってるか?」

 

「? いや、部屋で書類の確認をする様に頼んだ筈だが?」

 

……知らなかったか。

ならば冥琳に罪は無いな。

 

「そうか、……だったら教えてやる。 こいつさっきまでな、木の上で優雅に酒を飲んでやがった。」

 

「何?」

 

俺の言葉に冥琳の目付きが鋭くなった。

 

それを見て焦った雪蓮は、苦し紛れに言い訳をし始めた。

 

「ち、違う! 違うのよ! ちょっと休憩してただけだから! 後でちゃんと仕事するつもりだったのよ!」

 

そんな言い訳捩じ伏せたらぁ。

 

「ほぅ? 酔った頭で大切な書類を判断するとは、孫家の当主は随分豪胆ですねぇ、雪蓮さん?」

 

「や、それは、そのぅ……。」

 

「それとも何か? 冥琳がやってる事だから、信頼して自分は適当に確認だけで良いと?」

 

「そう、それ! いやぁ、信頼出来る優秀な部下がいたら、私は確認するだけで良いじゃない? 大丈夫! 冥琳なら間違ったりしないわ!」

 

「「そんな訳あるか!」」

 

俺と冥琳の怒声は重なり、かなり大きな声となって、雪蓮に叩きつけられた。

 

その後も俺と冥琳によるステレオ大説教は続き、流石の雪蓮もかなり参っていた。

 

「……はぁ、なぁ冥琳、孫家の当主は本当に仲謀様にした方が良いんじゃないの? こいつがやってたら絶対いつか滅ぼすよ?」

 

「あぁ、仲謀様が成人していたら、その案も飲んでいたかもしれん。」

 

「そっかー。 そりゃ残念だ。」

 

俺は心底残念そうに大きくため息を吐いた。

 

そこでチラッと雪蓮を覗いて見ると、話の流れが不味いと解ったのか、かなり焦った表情をしていた。

 

……ここらが潮時かな。

 

「雪蓮、俺は今相当な量の仕事を抱えている。 孫家の客分である筈の俺が、文句を言わずにそれをこなしている理由が解るか?」

 

「……えっと、何で?」

 

「俺以上に冥琳が働いているからだ。」

 

俺の言葉に雪蓮は思う所があったのか、チラッと冥琳の方を伺って居たが、冥琳は何でもない様な澄まし顔をしていた。

 

「一度お前達を助けると言ったのだから、俺に仕事が回されるのは構わない。 だが、当主であるお前自身が仕事をしないのは流石に俺も怒るぞ。」

 

「えっと、……すいませんでした。」

 

ふむ。

 

「……本当に反省しているか?」

 

「うん。」

 

「仕事するか?」

 

「します。」

 

「じゃあ、俺の仕事もやってな?」

 

「はい。……って、え?」

 

かかった。

 

「そうか。 じゃあ、よろしく頼むぞ。 それでこの件は無しにしよう。」

 

「ちょっ、えっ!? 待って!」

 

「何だ、嫌なのか?」

 

「あの、その、嫌って言うか、その、……私にはちょっと蒼夜がやってる仕事は難しいかなぁーって。 いや、本当、嫌とかではないのよ?」

 

雪蓮は相当困ったのか、額に汗をかいて俺に待ったをかけてくる。

 

正直その姿だけでも相当面白いので、赦してやっても良いのだが、いかんせん、隣には冥琳が居る。

 

良いぞ、もっとやれ。

と、隣の彼女の目は言っていた。

 

……この期待の目は裏切れないな!

 

「仕方無いなぁ、……まぁ俺も手伝ってやるよ。」

 

「う、うーん。 蒼夜一人でやった方が速いと思うんだけど……。」

 

「そんなに仕事したくないのか?」

 

俺は出来るだけゴミを見る様な目で、雪蓮を見てみた。

 

実際そう思ってる訳ではないけどね。

 

「そ、そう言う訳ではないわ! 仕事はちゃんとやるわ!」

 

「なら明日から一緒に頑張ろうな? きちんと仕事したら、夜は酒にも付き合うよ。」

 

「え、えぇ。 わかったわ。」

 

「じゃあ、まずは今日の仕事を終わらせてこい。」

 

俺がそう言ったら雪蓮は首肯だけして、自分の部屋へと向かった。

 

恐らく納得はいっていないのだろう。

その後ろ姿は何度も首を傾げていた。

 

 

_____

 

 

「悪いな蒼夜。」

 

雪蓮が去った後、冥琳がそう俺に言ってきた。

 

「いや、良いよ。 イラつきはしたけど、本気で怒っていた訳じゃないし。 まぁ、客に働かせといて自分がサボるな、とは本気で思ったけど。」

 

一応ああいう奔放さが雪蓮の良い所ではあるし。

 

「しかし、罰が少々手緩いのではないか? お前に割り振った仕事はそこまで多くないだろう? それもお前が手伝うとなればあまり意味は無いと思うが?」

 

「はぁ?」

 

もしかしてあの量は冥琳にとって少しなのだろうか?

だとしたら、こいつどうかしてるぞ。

 

「うん? もしかして多いのか?」

 

「いや、冥琳の基準がわからないからなんとも言えないけど、……少なくとも俺の机には山程書類があるぞ?」

 

「何? 私はお前にそんなに書類を渡した覚えは無いぞ?」

 

どゆこと?

 

「え? だって、あれと、これと、それと……」

 

俺は今ある書類の内容を冥琳に話始めた。

書類の内容は多岐に渡り、主に賊討伐の時の軍関係の書類や、それに伴う軍費の書類が多かった。

 

最初のうちは冥琳もうんうん聞いていたが、後からどんどん顔が険しくなっていく。

 

「蒼夜、……あまりこう言う事は言いたくないが、自分で仕事を増やしていないか? 他所の仕事をお前が請け負っているぞ?」

 

「……マジ?」

 

その後詳しく冥琳から話を聞いたら、俺に割り振られた仕事は本当に少しで、俺が勘違いして他からも仕事を貰っているのが、今の状況らしい。

 

冥琳赦さんとか思っていてごめんなさい。

俺が自分のミスを人のせいにする只のアホでした。

 

けど雪蓮の罰には丁度良いと言う事で、仕事の量はそのままになった。

 

それはつまり、俺の仕事もそのままの量と言う事で……。

 

……深く考えるのは止めよう。

 




戦って、終わった後の方が忙しいらしいですよね。

と、言う事で原作雪蓮の仕事サボり回を少しアレンジした話です。


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周 公瑾は伊達じゃない!

よっしゃ、久々に連日投稿したる!
と、思ったら日を跨いでいました。

ゆ、赦されるよね?

孫家編の最後ですので、文字数は少し多めです。


雪蓮と共に働き始めて早一週間。俺達は毎日悪戦苦闘して働き、夜になれば酒を飲んだ。

 

時には冥琳と、時には祭さんと、またある時には思春さんと蓮華様とも飲んだ。

 

蓮華様に関しては、雪蓮からいい加減真名を交換しなさいよ、と言われ交換する事になった。

……それでもお互いに口調は堅いままだけどね。

 

だがそんな日々も今日でようやく終わりを告げた。

 

あの山の様に積まれていた書簡が綺麗さっぱり無くなったのだ。

 

……永かった。

ここにたどり着くのにどれだけの辛苦があった事か。

 

雪蓮なんてレイプ目になって、『仕事、楽しいよ』と、呟いていた。

 

……流石の俺もその時ばかりは医者に見せるべきかと悩んだ。

 

だがそんな生活はもう終わりだ。

俺達は真の自由を勝ち取ったのだ!

 

 

_____

 

 

「っつー訳で、これがその成果だ。 もう暫くは俺も字を見たくないぞ。」

 

ドサッ、と言う音と共に俺は冥琳の机の上に大量の書簡を置いた。

 

「あぁ、ご苦労だったな蒼夜。 お陰で私も暫くまた書類仕事だ。」

 

冥琳が怨みがましい目で書簡を睨んでいるが、知った事ではない。

俺を働かせたお前が悪い。

 

「人が一生懸命働いたんだ、嫌味言うんじゃねぇよ。」

 

「嫌味? 一ヶ月を目処に建てていた仕事がこんなに早く終わったんだ、感謝こそするが、間違っても批難なんてするつもりはないぞ。」

 

冥琳は、心外だ、と言わんばかりにそう言った。

 

……だが、そう言う冥琳の目は決して感謝してはいなかった。

 

「そ、そうか。 いや、まぁ良い。」

 

……気持ちは痛い程良く解る。

 

「それにしても、よくもまぁ、あの雪蓮が一週間も真面目に働いたものだ。」

 

「あぁ、まぁ、……今にも死にそうな目をしていたがな。」

 

仕事が終わって、俺がもう休めと言ったら、雪蓮は今にも消えそうな程儚い笑顔を見せて部屋に帰って行ったからな。

 

……流石に今回はやり過ぎたかもしれん。

 

「それでも雪蓮が真面目に働くとは、……どうだ蒼夜? このまま孫家で働かんか?」

 

「俺は文官には死んでもならんぞ!」

 

絶対に嫌なので、俺はつい大声で否定してしまった。

 

「そ、そうか。 武官でも別に構わないんだが、……悪い、冗談のつもりで言ったんだ。」

 

冥琳は申し訳無さそうにしているが、こっちからしてみたら冗談じゃない。

何が楽しくて地獄の書類整理をまたしなくてはならないんだ。

 

「今回はお前に感謝するつもりで書類仕事を振ったつもりが、大分苦労をかけた様だな、……すまん。」

 

感謝?

良い様に使ってただけじゃないの?

 

「どゆこと?」

 

「あぁ、今の孫家にはお前に明確に謝礼をする余裕は無い。 金銭に関してはお前から借りてるくらいだしな。」

 

……別に貸してるつもりじゃなくて、渡したつもりなんだけど。

 

「無論、金銭は必ず利子をつけて返すつもりではあるが、……それも早くても数年後の話だ。」

 

そんなもん別に良いのに。

 

「だから私は、ここでお前に文官や武官の仕事を軽く経験して貰って、お前の糧にして貰いたかったのだ。 お前が将来どうするかは知らないが、その経験は、物書きとしても、出仕するとしても必ず生きると思ったからな。」

 

……まぁ言わんとしている事は解る。

 

名君論を書く時もそうだったけど、実務経験が有ると無いとでは、大分違うからな。

 

……けど、……

 

「だからって今回はあんまりだと思う。 そりゃ確かに俺が悪い部分は多いけどさ、……文字が上手く認識出来なくなったり、上手く書けなくなったり、しまいには、宙に浮き上がったりしだしたからね? それで俺は、間違っても文官にならないと心に決めたから。」

 

もう本当、ノイローゼ寸前だと思うの。

 

「……そうか。……だが遅かったな。 ようこそ、文官の世界へ。 お前のその症状は一流文官の証だ。」

 

……なん、だと。

 

冥琳は笑顔で俺を歓迎してくれているが、……。

 

「い、いやだぁぁぁ!!!」

 

間違ってもそんな世界に馴染みたくない俺は、全速力でその場から逃げ出した。

 

 

_____

 

 

思い出したくもない記憶から更に一週間後、ようやく朝廷の使者が孫家に来た。

 

……ようやくこの時が来たか。

 

俺は大変だった分、中々感慨深い想いを持ってこの日を迎えた。

 

「孫 伯符、前へ。」

 

「はっ。」

 

使者に呼ばれ雪蓮が一つ前に出る。

 

「孫 伯符、皇帝の命にて貴女をこの呉郡の太守(・・)に任命する。……良く太守の任を果たす様に。」

 

「はっ。 孫 伯符、慎んで拝命致します。」

 

……今、何って言った?

 

太守!? 県令じゃねぇのかよ!?

県令と太守では意味合いが大分違うぞ!?

 

俺のその疑問は解ける事無く、任命式はつつがなく終わった。

 

 

______

 

 

「おい冥琳、太守ってどういう事だ?」

 

俺は任命式が終わった後、即座に冥琳に詰め寄った。

 

「ふっ、……お前が提示した案、修正が必要だと言っただろ? つまり、そう言う事だ。」

 

なんだと?

……こいつ、やりやがった。

 

「くっくっくっ、……マジか。 最高だぜ、冥琳!」

 

この野郎、県令所か太守の地位を買いやがった。

通りであんなに派手な賊討伐をしてたのか。

 

「あぁ、……だが実際の所は本当にギリギリだったな。 周家や陸家だけではなく、その他の所からも金を集めたし、賊討伐を派手に宣伝する必要もあったからな。」

 

だとしても、その価値は充分過ぎる程にある。

 

あの孫 文台も、その地位はあくまで県令だった。

 

孫 文台は、その実力だけで呉郡の県令や太守だけでなく、周りの郡太守をも支配下に置いていた。

 

だが今回のこれは、地位だけで言えばその孫 文台をも超えている。

 

これなら雪蓮が孫家の支配下を元通りにする日も遠くないかもしれない。

いや、それ所か更にそれを大きく広げる事もあり得る。

 

「ふふふ、流石は周 公瑾、その神算鬼謀は俺の遥か先を行く。」

 

「ふふっ、……それもこれも、貴方の助力があったからですよ、廖 元倹。」

 

俺と冥琳は固く握手をし、雪蓮の太守任命を喜んだ。

 

 

_____

 

 

「っかぁ~! めでたいのぉ!」

 

祭さんが酒を煽ってそう叫ぶ。

 

今は雪蓮が太守に任命された事を祝う宴会だ。

皆がそれぞれ楽しそうに酒を飲んでいる。

 

……それにしても、あぁ、本当にめでたい。

 

この日の為に頑張って来たかと思うと、俺の努力も報われるってもんだ。

 

雪蓮と冥琳が嬉しそうに、楽しそうに、酒を飲んでる姿を俺はわざと少し離れて見ていた。

 

……この笑顔を見る為に、……曇らせない為に頑張ったんだ。

 

俺はそう思いながら、その笑顔を肴に静かに酒を飲んでいた。

 

「蒼夜殿、隣よろしいですか?」

 

そう思っていたら、蓮華様が俺の所に来てそう言った。

 

「えぇ、どうぞ。 私の隣で宜しければ、構いませんよ?」

 

断る理由も無いので、俺はそう言って蓮華様を隣に座らせた。

 

蓮華様の後ろには、思春さんが警護する様に立っていたが、……その思春さんの手にも、一応酒杯があった。

 

こんな祝いの席だ、仕事を忘れて楽しんだら良いのに、とも思ったが、それもまた思春さんらしいな、とも俺は思った。

 

「蒼夜殿、此度の件、孫家の一員としてまことに感謝致します。」

 

蓮華様はそう言って、俺に頭を下げる。

 

……その態度は、俺に本当に感謝している事を現していた。

 

「……蓮華様、頭をお上げ下さい。 廖 元倹、確かに孫家の感謝をお受け致します。」

 

俺がそう言うと、蓮華様はゆっくりと頭を上げた。

 

だが、これはいただけない。

 

「蓮華様、感謝の気持ちは嬉しいのですが、貴女は簡単に相手に頭を下げてはなりませんよ?」

 

後ろで思春さんもびっくりしていたからね?

 

「貴女はこれより、太守の妹君です。 何の地位も無い相手に頭を下げてはなりません。 普通に、ありがとう、だけで良いのです。」

 

「……しかし、それでは貴方に何の感謝も示せないではありませんか。 私に、……今の孫家に出来る事と言えば、この様に頭を下げる事くらいです。」

 

姉様は何もやらないし、……と、蓮華様はそう言う。

 

……だが、それで良い。

雪蓮は俺の事を良く解っている。

 

感謝をされたくて、俺は孫家を助けたのではない。

 

俺と冥琳と雪蓮が只笑っている時間を持続させたくて、俺は手を貸したんだ。

 

勿論、孫家に借りを返すって意味合いもあったけどね?

 

だけど、これで雪蓮や冥琳が俺に対して態度を変えたら、それこそ何の意味も無い。

……だから、これで良い。

 

俺が孫家に手を貸している間、雪蓮は一度も俺に頭を下げたりしなかった。

 

仮に俺が心底困っていて、それを雪蓮と冥琳に助けられた所で、俺は孫家に仕官したりしない。

雪蓮と冥琳もその事は解っていると思う。

 

って言うか、実際助けられたけど仕官してないし。

 

だから何度だって言うが、こんなもん当然なんだ。

 

「ふっ、……蓮華様、話は変わりますが、蓮華様に親友はおりますか? 雪蓮と冥琳の様に、断金の交わりと言われる様な、……それこそ、かの藺相如と廉頗の様な、刎頚の交わりと言われる程の相手はおりますか?」

 

「え? い、いませんが?」

 

まぁ、だよね。

 

「もし、その様な相手が将来出来ましたら、私の気持ちを理解出来ますよ。」

 

蓮華様は、はぁ、と不思議そうな顔をしているが、……蓮華様と思春さんを見る限り、案外遠くない未来かもしれない。

 

……ただ、良い感じに話を纏めてしまったせいか、思春さんの俺を見る目が尊敬の眼差しなんだが、気のせいだろうか?

 

……気のせいって事にしておきたい。

 

 

_____

 

 

-翌日-

 

「では蒼夜、今回は世話になったな。 襄陽に戻っても達者でな? お前の新作を楽しみにしているぞ?」

 

建業の城の前で俺と冥琳と雪蓮は別れの挨拶をしていた。

 

「暫く文字は見たくないっつうの。 でもまぁ、程々に期待してくれ。」

 

今回の経験を生かして、久々に戦記物も良いかもしれん。

 

「どうせお店以外は暇なんだから、ずっとここに居れば良いのに。」

 

……なんでだよ。

暫く働きたくないぞ俺は。

 

それでも雪蓮は、ぶーぶー、と文句を言ってくる。

 

「わかった、わかった。 時折、顔見せに来るから文句言うんじゃねぇよ。」

 

「あはっ! じゃあ最低でも一ヶ月に一回は来てね?」

 

そんなに暇じゃねぇよ。

 

「アホか。……あぁ、解った。 お前また俺に仕事させる気だろ?」

 

「そ、そんな事無いわよ?」

 

……図星かな?

 

「……まぁ良いや。 お前がちゃんと仕事してたら、また来るよ。 報告は冥琳から手紙が来るからそれで判断するわ。」

 

俺のその言葉に、雪蓮はあの地獄の日々を思い出したのか遠い目をしていた。

 

「ほんじゃ、また。」

 

「あぁ、ではな。」

 

「直ぐに来なさいよー?」

 

俺はそう挨拶だけして、建業を去った。

 




長かった孫家編がようやく終了です。
まぁまだ閑話で孫家の話出しますが。

次は十三歳です。
なるべく短く纏めたいなぁ。


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閑話 蓮華の日常

今回は一話まるまる主人公ではなく、蓮華の視点です。
上手く蓮華を表現出来ていたら、嬉しいなぁ。

蓮華視点の主人公が、完璧超人に見えますが、……そんなもん気のせいです。


 

 -建業 蓮華 十三歳-

 

姉様が呉郡の太守に任命されてから早くも一年近い月日が経った。

 

この一年の間にも様々な困難があったが、それは孫家の皆で協力して乗り越えて来た。

 

私も孫家の一員として姉様を支えられる様に頑張って来たつもりだ。

 

人員不足と言う事もあるが、実際に私自身が実務に取り掛かり仕事をし始めたりもした。

 

最初は右も左も解らず足を引っ張ったりもしたが、今ではすっかり戦力として働けている筈だ。

 

まぁそれも、冥琳の足下にも及ばない仕事量だけど。

 

本当に彼女には頭が上がらない。

 

彼女は私達孫家の筆頭軍師として、他の誰より身を粉にして家に尽くしてくれている。

 

それにそれだけでなく、奔放な我が姉の手綱もしっかり握ってくれているのは、本当にありがたい。

 

もし彼女と“彼”が居なかったら、そもそも姉様は呉郡太守に任命されていなかっただろう。

 

その場合、孫家がどうなっていたかは私には想像も出来ない。

 

だから冥琳と彼には本当に感謝している。

 

……ただ、感謝しているのは事実なのだけど、彼に嫉妬している私も居る。

 

彼は私と同い年だと言うのに、その能力は私を遥かに凌駕する。

 

その知謀は冥琳に褒め称えられ、その武勇は私の護衛である思春と同等で、その人柄は孫家の皆に認められる程素晴らしい人物

 

私がどんなに焦がれても手に入らない物を彼は持っている。

 

無論、彼が嫌いな訳ではない。

寧ろ、私自身好ましい人物だと思っている。

 

理知的で、義理堅く、また情が深い。かと言って真面目過ぎる訳でなく、物腰穏やかで、良く笑顔を見せる、……そんな人物が嫌いな訳がない。

 

……たまに姉様に対して怖い時もあるけど、……あれは姉様が悪いので仕方無い。

それに、姉様や孫家の為を想って叱っているので、これは彼の欠点ではない。

 

ただ、私は私に出来ない事が出来る彼が羨ましいのだ。

 

私も彼の様に姉様や冥琳から信頼されたい。

 

……最近、その想いが強くなってきている。

 

 

_____

 

 

 

「雪蓮、蒼夜がそろそろ訪れる様だぞ?」

 

「あら、手紙届いたの? ふふん、だったら良いお酒を用意しなきゃね~。」

 

私が廊下を歩いている時、姉様と冥琳の声が中庭から聞こえて来た。

 

どうやら、また彼が建業を訪れる様だ。

 

彼は一・二ヶ月に一度こうして、ふらっと私達の所を訪れる。

そして二・三日滞在したら、またふらっと帰って行くのだ。

 

なんでも、姉様にそんな約束をさせられたらしい。

 

ご自身の事情もあるだろうに、我が姉が大変迷惑をかけて申し訳無い。

 

「おい雪蓮、酒も良いが、仕事の方はどうなのだ? 終わらせていなかったら、また蒼夜に怒鳴られるぞ?」

 

「あはぁ~、……あー、……冥琳、手伝って?」

 

はぁぁぁ。

 

……私と冥琳の溜め息が被ってしまった。

 

……ごめんなさい、冥琳。

苦労をかけるわ。

 

姉様は彼が来る時だけは、こうやって仕事をきちんとしてくれる。

 

でもその時以外は、いつも逃げ回ってばかりいる。

 

それだけでも彼が来てくれる事は嬉しい。

 

もし、彼が来なくなったりしたら……。

 

……胃が痛いわ。

深く考えるのは止めましょう。

 

「どうかなされましたか、蓮華様?」

 

私が少しげんなりしていたら、前の通路から思春が歩いて来た。

 

私が立ち止まり、げんなりした表情をしていたからか、思春は私を心配していた。

 

「いえ、何でもないわ。 今から食事をしに行くのだけど、思春も一緒にどうかしら?」

 

私は、そうだ、と思いつき今から食べに行こうと思っていた食事に思春を誘ってみた。

 

「はい。 喜んでお供させて頂きます。」

 

そろそろ良い付き合いだと言うのに、思春は相変わらず堅い返事をする。

 

私も散々人からは堅いと言われるけれど、思春程ではないと思うのよね。

 

「じゃあ、行きましょうか?」

 

「はっ。」

 

……やっぱり、堅い。

 

思春にも堅くならなくて良い、気の許せる相手は居るのかしら?

 

私がそう思った時、ふと彼と思春が仲良さそうに話している姿が思い描かれる。

 

……思春と彼の関係が、私の想像通りかは解らないけど、……少なくも私とよりは柔らかい関係だと思う。

 

それが少し悔しかったので、暫く私の目標を思春と仲良くする、にしようと思った。

 

 

_____

 

 

 

姉様と冥琳の会話を盗み聞いた数日後、予定通り彼は建業へとやって来た。

 

時刻は昼過ぎで、まだ仕事中の私は冥琳の執務室へと書類を渡しに来た所だった。

 

冥琳の執務室には姉様もいて、二人で仕事をしている最中に私が書類を渡しに来て、その後に彼が部屋へと入って来たのだ。

 

「おいっす~。」

 

「おいっす~♪」

 

……これが巷に噂される、孫家の当主と守護鬼の挨拶だとは、誰も信じないだろう。

 

と言うか、また素通りでここまで来たのだろうか?

 

普通ならば門で待たされたり、客室に通されたりして、兵士が私達の誰かに報告しに来るのが普通なのだが……。

 

……いやまぁ、別段問題等無いし、兵からも畏怖され尊敬されている彼を止めろとは言うつもりは無いが……。

 

……一応は、門番仕事しろ、とは言いたくなる。

 

「来たか蒼夜。 今日は後二刻程で、仕事が終わるだろう。 それまで適当に時間を潰しておいてくれ。」

 

「えぇ~? 蒼夜が来たんだから、今日はもう終わりましょうよー!」

 

……はぁ、全く姉様は……。

 

いや、でもまぁ、ここ最近はあまり忙しくもないし、一日くらいなら別に良いかもしれない。

 

私がそう考えると、底冷えする様な鬼の声で、簡潔な説教が聞こえた。

 

「働け、クソ当主。」

 

……私も働いた方が良いと思うわ、姉様。

……命は大事ですもの。

 

普通なら孫家当主への不敬な暴言として、責めなければいけないのだけど、……私にそんな勇気は無かった。

 

「ぶーぶー。」

 

それでも姉様はへこたれる事無く、目の前の彼に不満顔で文句を垂れる。

 

……この不屈の精神は凄いと思う。

決して参考にするつもりは無いけど。

 

「……お前、蓮華様の前で良くそんな態度取れるな?……姉として恥ずかしくねぇのかよ?」

 

姉様のそんな態度に、彼は呆れてそう言う。

 

「べっつに~? 今更蓮華に格好いい所だけ見せるつもりなんて無いわよ?」

 

……ここ最近、姉様の格好いい所を見ていない気がするのだけど……。

 

「……お前を見てるといつも思うが、……俺の姉が撈姉さんで良かったと、心底思うよ。」

 

「……否定するつもりは無いけど、それは流石に酷いわよ?」

 

……私も彼が羨ま……ケフンケフン!

姉様には姉様の良い所があるわ!

 

「それより蒼夜、お土産は?」

 

……姉様の良い所って何だったかしら?

 

お客様に対してお土産を要求するのは、流石にはしたないわ姉様。

 

「だから、客に土産を要求するんじゃねぇよ。……まぁ良い、ほらよ。」

 

彼は毎回似た様な事を言うくせに、毎回必ず別のお土産を用意してくる。

 

……姉様が図々しくなる一因も彼にあると思う。

 

「先日、山で仕留めた猪を燻製した乾燥肉だ。 酒のつまみにぴったりだから、後で食おうぜ?」

 

「燻製? あれって、堅いし、味しないし、そんなに美味しくなかったわよ?」

 

「所がどっこい、……この前羅馬から入って来た書物に美味しい作り方が載っていてな? 試してみたらこれが旨いのなんの。 まぁ後で食ってみりゃ解るよ。」

 

「ふーん? まっ、楽しみにしとくわね?」

 

羅馬からの文献にも目に通すとは、……相変わらず彼は凄い。

 

「ちなみに冥琳へのお土産は、その書物な? 基本的に燻製は長持ちするから、糧食にするにも向いてる。 作り方が書いてあるから、後で食って旨かったら試してみな?」

 

「それは有り難いが、……お前のお土産で私の仕事がまた増えるな。」

 

冥琳は溜め息混じりに、ありがとう、と感謝してその書物を受け取っているが、……羅馬の書物なんて貴重で高価な物をそんな当たり前の様に受け取って良いものなのだろうか?

 

「あっ、今回は蓮華様にもお土産ありますよ?」

 

えっ?

 

「わ、私もですか?」

 

私は邪魔にならない様に、三人の会話に入らず、会話の流れを見守っていたのだが、彼は私にもそう言った。

 

「えぇ、この前蓮華様は私が最初に書いた戦記物の作品が好きと仰ったじゃありませんか? だから、私の新しい戦記物の作品を持って来ました。」

 

……確かに、前にその様な事を言った覚えがある。

 

彼の作品は全部面白いが、中でも私は一番最初の素敵な恋の戦記物が好きだったりする。

 

ちなみに彼を困らせた、あの作品に関しては、好き以前に、参考になる、……いや、参考にしなくてはならないと思っている。

 

……姉様の為に書いた筈なのに、姉様は自分と関係無い様に振る舞っているし、少なくとも私が参考にしなくては、彼と冥琳が報われなさ過ぎる。

 

「ありがとうございます。 大切に読ませて頂きます。」

 

私がそう言うと、彼は苦笑いして私にその書物を渡してくれた。

 

……苦笑いする要素がどこにあったのか解らない。

 

「……蒼夜、私には無いのか?」

 

私が大切にその書物を持っていると、冥琳が羨ましそうに、書物を見ていた。

 

「毎度ありがとうございます、お客様。」

 

彼は笑顔で冥琳にそう言った。

 

「……買えと言う事か。……まぁ仕方あるまい、今回はこの書物で我慢しよう。」

 

その書物はその書物で貴重だと思うのだけど……。

 

冥琳は若干悔しそうだ。

 

「さて、お土産も渡したし、これ以上仕事の邪魔になる前に部屋を出るかな? しかし二刻か、……どうやって暇を潰そうかな?」

 

彼はそう言い、これからどうするかを思案し始めた。

 

ちょうど私も冥琳に書類を渡して今日の仕事は終わりなので、前から彼に頼みたかった事をお願いしてみようと思う。

 

「でしたら蒼夜殿、迷惑でなければ私に勉学をお教え願えませんか?」

 

「え?」

 

意を決して言った私に、彼は困った顔をしていた。

 

……やはり迷惑だっただろうか?

 

「いや、ですが、……んぁー、……その、蓮華様には専属の教師等がおられるのではありませんか?」

 

「いえ、今私には教師等おりません。」

 

母様が亡くなってからは悠長に学んでいる時間等無く、私も姉様同様に政務の仕事をしていて、たまに穏や冥琳に教えて貰うくらいだった。

 

「……そうですか、……いや、でもなぁ。」

 

そんな渋っている彼に後押ししてくれたのは冥琳だった。

 

「良いではないか蒼夜。 たった二刻だ。 蓮華様の勉学を見てやってくれ。」

 

「いやでもね、冥琳? 俺はとてもじゃないが人に教えられる様な人物じゃないぞ?」

 

……彼が教師に相応しくないとしたら、一体どんな人物が相応しいのだろうか?

 

「それでもだ。……頼む。」

 

「……はぁ、解った。 後で後悔するんじゃねぇぞ?……では蓮華様、至らない身ではありますが、少しの間、よろしくお願いいたします。」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

冥琳のおかげで、私はなんとか彼から勉学を教えて貰う事になった。

 

……良かった、これで一対一で彼から学べる。

 

…………。

 

……。

 

一対一で?

 

……それは、……つまり、……二人っきり?

 

……。

 

ボフン

 

「あれっ? 蓮華様、顔が赤いですよ? 大丈夫ですか?」

 

「ななな! な、何でもありません! へ、平気です!」

 

「いえ、ですが、……もしかして風邪ですか?」

 

ち、近いっ!

顔が近い!

 

「そ、そんにゃこぉ! ケホッ、ケホッ!」

 

い、いけない、焦り過ぎて気管に唾が入ってしまった!

 

「咳まで出るとは、……こりゃ風邪ですね。 悪くなる前に休んだ方が良いですよ? 今日の勉強は止めておきましょう。」

 

「え? で、ですが!」

 

こんな機会そう無いのに!

 

「後日、元気になってからやりましょう? 貴女のお身体の方が大切ですよ?」

 

うぐっ、……別に体調は悪くないのに、そう言われたら断れなくなる。

 

「……うぅ、わかりました。」

 

私はそう言って自室へと向かった。

 

……はぁ、折角冥琳が後押ししてくれたのに、……私の馬鹿。

 

だけど今の私には、彼と二人きりなんて、恐らく耐えきれない。

 

何故なら、残念な筈なのに、私はどこかほっとしているからだ。

 

……この気持ちは、一体何なのだろうか?

 

この疑問も、彼ならきっと答えてくれるだろう。

 

なんとなくだが、……私は、そんな気がした。

 




……書いてる内に、蓮華が主人公に恋しやがった。
こんなつもりじゃ無かったと、声を大にして言い訳させて頂きます。

ちなみに、お土産について。

雪蓮に渡した、燻製。
一人で食べきれ無かった肉を美味しくジャーキーの様な物にして渡しただけ。

冥琳に渡した本。
ジャーキーを作る時に参考にした本の写本。

蓮華に渡した本。
自分の作品。

実は適当な物しか渡していない主人公でした。


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セカンドインパクト

ようやっと、十三歳編だ。
今度こそ短く纏める、と、嬉しいなぁ。


-蒼夜 十三歳-

 

「御無礼、……ツモりました。 六千全(6000オール)です。……トビ終了ですね?」

 

「ば、ばかな!?」

 

「くそっ、流れを、……持っていかれた!」

 

「ひぃぃ! じゃ、雀鬼!」

 

……いや、認めたくはないが、どちらかと言えば守護鬼です。

 

 

_____

 

 

「毎度、ありあっしたぁ~。」

 

今日もお財布を厚くしてくれありがとう、カモ共。

 

……そろそろお金も良いくらいには貯金出来た頃だろう。

 

去年、孫家に手持ちの財産を全て渡した俺は、暫くの間お金が無く困っていた。

 

書店や書物喫茶があるとは言え、今まで大量にあった金が無くなると言うのは、凄く不安になるもので、急ぎ金策をしようと俺は考えた。

 

まさか孫家に、お金返して? なんて俺のプライドにかけて言える訳が無いので、俺は真剣に考えた訳だ。

 

今日の食事に困る程の貧困と言う訳では無いのだが、本を書いて何ヵ月も先にお金が入って来るのを待つ様な事はしたくなかったので、早くお金が集まるシステムを俺は考えた。

 

……人って、賭け事大好きだよね?

 

そこで俺は、前々から作りたかった麻雀を急遽作り、お店の遊戯室に置いてみた。

 

最初こそルールに馴染むまで時間がかかったが、一度慣れたらまぁ嵌まる事嵌まる事。

 

無論、直接的な金銭のやり取りはしてないよ?

 

いつぞやの姉さんの時と同じ様に、俺に勝てたら特典ありますよー、と煽って、賞金も出します、と言ったら、人がもの凄く集まった。

 

だが当然それは俺の罠で、俺は負ける気なんて全くしなかった。

 

前世の知識がある俺は、当然牌効率や和了しやすい形、手牌の読み方なんかを知っている訳で、その技術差は別の世界と言えど千八百年近くある訳だ。

 

更に嬉しい誤算だったのが、俺は相手の大まかな運量を測る事が出来るらしく、ポンやチーをして、相手の邪魔をし、運を淀ませる事が出来た。

 

……全く負ける気がしないぜ!

最近は調子に乗って、あの格好いい台詞を言う様にもなった。

 

……そのせいか、おかしな異名までついて来たがな。

 

もし麻雀が、この世界の美少女女子高生達に大人気で、大規模なインターハイとかがある世界だったら、俺は勝ち組だった。

 

……男の時点で意味は無いか。

 

だが、そんな俺も大敗を喫した事がある。

いや、そんな表現じゃ生温い。

そのままの意味で、“勝負にすらならなかった”事がある。

 

……苦い思い出だ。

 

俺がそんな風に思い出に浸っていると、カランカランと扉を開けた時に鳴る竹束の音が聞こえたので、俺は意識を戻し接客へと移った。

 

「いらっしゃ……オヒサシブリデス。」

 

……こう言う時は思う。

仕事とは、時に思わぬ弊害があると……。

 

「久しいわね。」

 

来客したのは美しい三人組。

思い出すのは三年前の光景。

 

……確かに彼女はこう言った、『また来るわ。』っと。

 

「また来たわよ、元倹?」

 

ニンマリと笑う彼女と、その護衛の二人は三年前よりも成長していてるが、その面影を残したまま、美しく成長していた。

 

曹 孟徳の再来店である。

 

……苦い思い出だ。

 

 

_____

 

 

「どうぞ、粗茶です。」

 

俺はこの三人組をいつぞやのグループ席へと通して、茶を出した。

 

「貴様! 華琳様に対して粗末な茶を出すとは、どういう事だ!」

 

ほわっ!?

た、只の礼儀的な言葉ですが!?

 

「姉者、只の礼儀だ。 本当に粗末な物を出してる訳では無い。……すまんな、元倹殿。」

 

「あ、いえ、お気になさらず。」

 

まぁ、自分で言うのもなんだが、そこそこ良い茶葉を使っているぞ?

 

「む? そうなのか? なら、初めからそう言えば良いものを。」

 

いや、自分から良いお茶です、って言えないでしょ?

 

「それは失礼しました。 次からは更に言葉を選ばせて頂きます。」

 

何て言えば良いか知らんけどな。

 

だが、夏候惇は俺の言葉に満足したのか、うむ、と頷いて静かになった。

 

「ふふっ、物書きの元倹に更に言葉を選ばせるなんて、凄いわね春蘭?」

 

「! はいっ! ありがとうございます、華琳様! 私にかかれば大した事ありません!」

 

えぇ? その反応はどうだろう?

 

「……はぁ、誉められてないぞ、姉者。」

 

うん、まぁ、皮肉だよね?

 

だが夏候惇は良く解ってない様だった。

 

「ふふっ、春蘭の非礼は詫びるわ、元倹。」

 

いえ、本当お気になさらず。

ですので、そのまま帰ってどうぞ。

 

「……それで、今日来たのには理由があるの。」

 

いやぁぁぁ!!!

聞きたくなーい!

 

「……これを、見て欲しいの。」

 

俺は最低でも成人するまでは、何処にも仕え、……へ?

 

曹操が机の上に取り出したのは、一冊の書籍だった。

 

「……! こ、れ、は!」

 

『孟徳新書』

 

まさか、まさかぁ!

 

「孟徳様、これはまさか……。」

 

「えぇ、私が書いた兵法書よ。」

 

孟徳新書キター!

 

マジか、マジか!

 

何と言う幸運!

これを著者本人から渡されるとは!

うぉー、早速読んで、本人から何を考えて書いたのかとか解説を聞きながら読みたい!

 

……っは!

まさかこれを条件に俺に配下になれと言うんじゃないだろうな!?

汚い、流石曹操汚い。

 

「これを読んだ貴方の感想を聞きたいの。……いえ、推敲をお願いしたいわ。」

 

……マジっすか。

汚いとか思って本当にすみません。

 

「全力で、お受けさせて頂きます。」

 

「え、えぇ、よろしく頼むわ。」

 

俺の熱意に曹操は若干引いていたが、そんなもん関係無い。

 

ジョ○ョー!俺は孟徳新書を読むぞー!

 

 

_____

 

 

震えるぞハート! 燃え尽きる程ヒート!

 

いや、絶対に燃やす訳にはいかないけども。

 

俺は慎重に一ページずつ読み込む。

 

「いやぁ~、……面白いっすね。」

 

孟徳新書、その内容は孫子の兵法を纏め、新たに曹操自身が解釈を書いた兵法書。

 

……確か正史では存在しない、架空の書物であった筈だが……。

 

いやぁ、嬉しいなぁ。

 

「ありがとう。……それで? まだ途中の様だけど、どうかしら? 貴方の目から見ておかしな点はあるかしら?」

 

曹操が俺にそう聞いてくるが、俺は書物から目を離さず、読みながら質問に答える。

 

「無いっすね。 基本骨子が孫子だけあって、書かれている戦略も戦術も基本的な事が多いですし、応用の方もその基本の観点を残して居るので、何も問題無いかと。 解説の方も理解しやすいですし、重要な事等は他の解説書からも取ったりしてますよね? 今まで数多の孫子の注釈書を読んでいたのが馬鹿らしくなりますよ、これ。」

 

「そう。 そこまで絶賛されると嬉しいわね。」

 

ただ、気になる点が無い訳ではない。

 

「多分ですけど、これって、『兵は奇なり』と『兵は神速を尊ぶ』を主な観点として置いているんじゃないっすか?」

 

「……直ぐ様そこに気がつくとは、……流石ね。」

 

「ども。 それで思ったんすけど、この兵法書はとんでもなく凄いとは思いましたけど、……それを実現出来る軍が居なくないっすか?」

 

俺はそこが気になる。

 

「……それは。」

 

「ぶっちゃけ、この兵法書を実現するなら、精兵が大量に、……それこそウン万単位で必要だと思うんすよ。 そんで、戦術なんかを理解出来る有能な将軍が必要ですね。 ……でもそんな軍、……あまり大きな声で言えませんけど、官軍ですら無いじゃないっすか。」

 

マジ官軍無能集団。

いや、でもまぁ、こんなん孫家でも普通に無理だかんね?

 

「だから俺だったら最初の方に、生半可な軍では不可能だ、って注意書きしますね。 もしくは、前提条件を書いておくとか。……このままだと、義勇軍とか、烏合の軍とかが試したら失敗しますよ? そんで批判とかされたら目も当てられないっすね。」

 

俺が書物を読みながら、そんな発言をしたら、誰も何も喋らなくなって、店内がシーンとした。

 

そこで俺は、自分が言い過ぎた事に気付き、はっと顔を上げ、必死に言い訳をした。

 

「い、いや、でもまぁ! 孟徳様ならいずれそんな軍を持つでしょうし、有能な将なら妙才さんが居るんで問題無いっすよね!」

 

「おい、何故私の名前が出て来ないのだ?」

 

えっ? あんたには無理でしょ?

……とは言えないな。

 

「勿論、元譲さんもですよ。」

 

とにかく、この空気をフォローしないと。

 

「……ふっ、くくく、気を使われているぞ、姉者?」

 

ちょっ!

今そんな事言わないで!

 

「?」

 

あぁ、理解出来ないお馬鹿で良かった。

 

「ふっ、ふふふ、……想像以上に良い意見が聞けたわ、元倹。……確かに、私の観点による精兵が必要になる内容だったわね。 貴方の言う通り、前提条件を付け加えましょうか。」

 

ほっ、良かった。

機嫌は損ねないで済んだ様だ。

 

「後、口調。 そっちの方が素なのでしょう? そのまま崩して話して構わないわよ?」

 

へっ?

そう言えば、俺さっきからもの凄いタメ語!

 

「た、大変失礼しました。 お言葉に甘えさせて頂きます。」

 

「ふふっ、また丁寧になっているわよ?……ま、慣れなさい?」

 

う、うむ。

不敬で斬首とかにならなくて良かった。

 

……今日の俺はミスが多いなぁ。

 




皆さんお待ちかねの覇王様の再登場です。

今回の話で覇王様に更に買い被られる主人公でした。


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遥かなる天運

よっしゃー!
2話連続投稿出来ましたー!


孟徳新書への書き足しは、その場で行われ、およそ一刻もしない内に作業は完了した。

 

ちなみに俺は、その一刻の間に即行で写本をさせて貰った。

無論、許可は貰っている。

 

「……まさか本当に一刻で写本を済ませるとは、……この曹 孟徳、廖 元倹をみくびっていたわ。」

 

「……何と言う速さだ。 何故そこまで速いのだ……。」

 

いや、何故と言われも、……鬼の修行があったからなぁ。

 

「訓練の賜物です。」

 

「……人は訓練で、そこまで速く物が書ける様になるのか……。」

 

「何を驚いている秋蘭? そこまで凄い事なのか?」

 

「……そうだな、少なくとも私には不可能だ。」

 

「いえ、元倹以外誰にも出来ないでしょう。」

 

曹操と妙才さんが相当驚いているけど、そりゃ速くなるよ?

 

小さい頃から毎日、毎日、やらされていたらな。

今でも仕事の一貫でまだ写本はするしね?

 

しまいにゃ、孫家で地獄の書類整理もこなしたからね?

 

『神速の物書き』廖 元倹とは私の事です。

 

……まぁ誰もそんな事言わないけど。

 

「ま、まぁ何にせよ、これで孟徳新書の販売の目処が立ったわ。 元倹、貴方のお店にも置いてくれるかしら?」

 

へ?

 

「良いんすか?」

 

「えぇ、勿論よ。 だから貴方にも写本の許可を出したのよ?」

 

「これは個人的に所有するだけのつもりだったんですけど……。 一応、機密情報並に重要な物だと思うのですが?」

 

これって、つまり、自分の戦略を自信満々に宣伝しているのと変わらないんだけど?

 

普通こう言う物の販売は、最低でも自分のお膝元だけでするもんでしょ?

 

「だから、っよ。」

 

……ふむ、それでもなお、自信があるのか?

それとも、宣伝する事で何らかの効果を期待しているのか?

 

「了解っす。 喜んで、置かせて貰います。」

 

「えぇ、よろしく頼むわ。」

 

あ、だったら、

 

「冥琳にも、渡して良いですか?」

 

「ふむ、そうね、……貴方の判断に任せるわ。」

 

えぇー?

そう言うの一番困る。

 

……まぁ良いや、渡しちゃお。

 

「了解です。」

 

さて、これで用件は済んだな?

ここで帰って頂ければ、俺も曹操も気分良く、win-winで終了するのだが?

 

「さて、それでは先程から気になっていた、麻雀と言う物を教えて貰おうかしら?」

 

……うん、知ってた。

ここでこの人が帰る訳が無い。

 

 

_____

 

 

「っと、まぁ、決まり事は多少複雑ですが、……簡単に言えば、計算と心理と運の勝負です。」

 

俺は曹操達三人を雀卓に座らせ、麻雀のルールを説明した。

 

「ふむ、……四つの面子と、一つの対子ね。……やってみましょうか。」

 

「まぁ一応、役の一覧とか決まり事は、あっちの壁紙にも大きく書かれているので、解らなくなったら、俺に聞くなり、壁紙を確認するなりして下さい。」

 

「ふむ、これは難しそうだな。」

 

まぁ、曹操と妙才さんはやってる内に慣れるでしょ。

問題は……、

 

「三つずつ、三つずつ?」

 

……不安だ。

 

そうして、曹操との麻雀が始まった。

 

 

_____

 

 

「ツモ。 立直、一発、平和、断ヤオ、面前清自摸。……裏は……残念、無しね。 満貫、二千・四千よ。」

 

こいつ、本当に初めてか?

凄い綺麗な麻雀打つなぁ。

 

俺は点棒を渡しながら、そんな事を考えていた。

 

「流石です、華琳様。」

 

「秋蘭の言う通り! 流石です、華琳様!」

 

あんたら、どっこいし過ぎじゃね?

 

「……春蘭、点棒が多いわ。」

 

「す、すみません。」

 

……他の客か、店員を入れれば良かったかもしれん。

 

いや、だが、夏候惇の運量は半端じゃないしなぁ。

もしかしたら、どっかで爆発もあるかもしれん。

 

無論、妙才さんや曹操もかなり太い運をしているが、……事、運に関しては夏候惇が凄い。

 

まぁそれでも、俺が敗北した奴には敵わないが。

 

……この位なら勝てるな。

 

「御無礼、ツモりました。 メンタンピン、三色、赤一、六千全です。」

 

「くっ!」

 

「流石。」

 

「ぐぬぬ!」

 

まぁ、ざっとこんなもんだ。

俺は少し悦に入りながら、点棒を受け取った。

 

その瞬間、グンっと、夏候惇の運量が上昇するのを感じた。

 

あ、これ、あかん奴だ。

 

「ん、……ん? これは……。」

 

おい、誰かさっと流せ。

なんなら差し込みするから。

 

「一つずつ、一つずつ。」

 

おい、止めろ。

俺の流れが止まるだろうが。

 

「あっ! ツモりました、華琳様!」

 

……くそう。

止まらなかったか。

一つずつっつったらあの役しかねぇな。

 

「おめでとう、春蘭。 手を開いて見せてくれるかしら?」

 

「はいっ!」

 

そう言って夏候惇が開いたら役は、お察しの通り、『国士無双』だった。

 

「凄いじゃないか、姉者。 役満だぞ?」

 

「ふふっ、やるわね春蘭?」

 

「はいっ! ありがとうございます、華琳様! 秋蘭も、私を見習えよ!」

 

ちくしょう。

楽しそうだな、お前ら?

 

俺は親っ被りで、楽しくねぇよ。

 

くそぅ、絶対負けないからな!

 

 

_____

 

 

……俺は勝った。

まぁ、うん、勝ったんだけど……。

 

当然あの後、夏候惇よりも大きい和了等ある訳なく、地道に削って俺が勝った。

 

初心者相手に勝つのは当然であって、何も嬉しくない。

 

最大の魅せ場を創った夏候惇こそが、真の勝利者だろう。

 

……くそぅ、敗北感が凄い。

 

「……ふぅ、勝てなかったけど、中々面白い遊戯ね?」

 

「えぇ、元倹殿が言った様に、効率的に手牌を組む計算、相手の捨て牌から狙いを読み取る心理、そして自摸にかける運。 非常に奥が深い。」

 

あっ、これ嵌まったな。

 

「ふふっ、大分気に入った様ね秋蘭?」

 

「お恥ずかしながら……。」

 

「私も気に入ったぞ! 麻雀!」

 

うそん?

あの国士から一回も和了してないのに?

寧ろ国士以外和了してないでしょ?

 

って言うか、曹操に誉められたからか、あの後もずっと国士狙ってたよね?

 

「あら春蘭、貴女の場合、麻雀が気に入ったのではなくて、国士無双が気に入ったのでしょ?」

 

「はいっ! 国士無双、良い響きです。」

 

あぁ、成る程。

馬鹿は国士好きだからな。

 

「ちなみに、元倹殿。 貴殿は相当麻雀が強い様だが、貴殿より強い方は今までにおられたのだろうか?」

 

純粋な好奇心なんだろう。

妙才さんが俺にそう聞いて来た。

 

「居ませんね。……と、本当は言いたいのですが、一人居ましたね。」

 

「へぇ? 何処の誰かしら? まぁ、冥琳か雪蓮あたりでしょうけど。」

 

残念、まだあいつらとは麻雀してねぇんだよなぁ。

蓮華様あたりを加えて打ってみたいなぁ。

 

「たまたま、この店に来店された方ですので、名前は知りませんね。」

 

……くそぅ、あの金髪ドリルめ。

 

そういや、曹操も金髪ドリルだったな?

もしかして親族?

 

……いや、そりゃねぇな。

容姿が似てないもの。

特に胸の辺り。

 

「……今、何故か不愉快になったのだけど。」

 

おっと、いかんいかん。

 

「ふむ、たまたま来店して貴殿の上を行くのか。……興味があるな。」

 

「まぁ、言い訳がましく聞こえるかもしれませんけど、……上を行かれたと、言うより、何も出来なかったんですよ。」

 

あれはどうあがいても無理。

 

「? どう言う事だ?」

 

「その来店された方、どこぞのお嬢様の様な人でしてね? 妙才さん達みたいに三人組で来店したんですよ。 一人は紺色っぽい色のおかっぱの髪の少女で、一人は黄緑の髪の元気の良い女の子でしたね。」

 

俺がそう話始めると、曹操がまさかと言う顔をし始めた。

 

「……まさかとは、思うのだけど、……もう一人は金髪の長い髪をこれでもかと言う程巻いている馬鹿じゃなかったかしら?」

 

「あ、お知り合いですか?」

 

「……えぇ、まぁ。 知り合いたくなかったのだけどね。」

 

曹操は珍しく歯切れの悪い物言いでそう言う。

 

「まぁ、とにかく、その三人組と麻雀を打つ事になりまして、最初の最初、東一局にその金髪の人が親でして、最初の第一自摸で終了しました。」

 

俺がそう言うと、曹操を含めて三人が、うわぁ、という顔をした。

 

「大四喜、字一色、四暗刻、天和。……麻雀の理論上、最高の役です。 多分、生涯二度と見る事は無いでしょうね。」

 

最早、純正九蓮宝燈や国士無双十三面待ちを見ても驚かないぞ。

 

「しかもその後、『麻雀と言うのはつまらない物ですわね?』って言って、帰って行きましたから。」

 

「……そ、そう、……麗羽なら、やりかねないわね。」

 

ね?

ドン引きでしょ?

 




麗羽の運はチート。
はっきりわかんだね。


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三十六計逃げるに如かず

平日昼間に投稿出来るとは……。
覇王様が居ると筆が進むなぁ。

今回は連続投稿します。


麻雀のどんよりした空気から一転、話は孫家の話題となった。

 

……更に言うなら、俺が孫家で成し遂げた功績の話題となった。

 

……あんまり突っ込まないで欲しいんだけどなぁ、それ。

 

「貴方、文の方だけでなく、武の方もそれなりの様ね?」

 

「いやいや、大した事無いっすよ?」

 

「そうですよ、華琳様! こんな優男、私なら一発で倒して見せます!」

 

……いや、勝てるとは思わんが、流石に一発はどうだろう?

 

「あら? 野盗を百人切りしたって聞いたわよ? 守護鬼さん?」

 

……何で知ってるんだよ。

って言うか、

 

「百人切りなんてしてませんよ!?」

 

どうしてそうなった?

寧ろ百人切りしたのは、あのアホ当主なのだが?

 

「あら、そうなの? 他にも、江賊の頭目と一騎打ちして首を取ったとか、孫家の当主を蹴りあげたとか聞いたわよ?」

 

……何で毎度、雪蓮を蹴った話だけは正確に伝わっているんだよ。

 

「……江賊の頭目と一騎打ちして首を取ったと言うのも嘘です。」

 

一騎打ちはしたけど、あれは腕試しだし、何より引き分けだからね?

 

……まぁ個人的には未だに負けと思ってますけど。

 

「……ふむ。 孫家の当主を蹴ったと言うのは?」

 

……聞かないで欲しかったなぁ。

 

「……黙秘権ってありますか?」

 

「無いわよ? と言うより、殆ど答えじゃない。」

 

「……いや、まぁ、……はい。 色々、あったんすよ。」

 

雪蓮の馬鹿ヤロー!

お陰で言い訳が大変だぞ、このヤロー!

 

「う、うむ。 色々あるのは理解出来るが、……それで他家の当主を本当に蹴りあげたのか、良く冥琳が赦したな。」

 

「ははっ、寧ろ推奨派でしたよ?」

 

「そ、そうか。」

 

俺の遠い目をした空笑いに、妙才さんはこれ以上突っ込んではいけない空気を感じ取ったのか、納得は行ってない様だが、一旦引いてくれた。

 

「まぁ大方想像出来るわ。 どうせ無闇に突っ込んで、貴方達に怒られたのでしょ?」

 

大正解。

人の本質を良く理解してるなぁ、この人。

 

「……まぁ、雪蓮の名誉の為、一応は黙秘します。」

 

バレバレだけど。

 

妙才さんまで、あぁ成る程、って顔したからね。

 

「んん? 何故そこで怒るのだ? 雪蓮の奴なら賊程度何の問題も無いだろう?」

 

……本人と同じ事言ってらぁ。

 

「まぁそうっすねぇ。……例えばですけど、孟徳様が、自分の武力なら余裕だからって、賊百人に突っ込んで、囲まれたりしたら、どうします?」

 

「なっ! 華琳様が、わざわざ賊程度を相手にする必要は無い! 私が叩きのめす!」

 

「う、うん。……上手く伝わったかは、解りませんが、つまりそう言う事だと思って下さい。」

 

「? つまり、お前は雪蓮の為に自分が賊を叩きのめしたかったのか?」

 

なんか、若干ちげぇ。

いや、雪蓮の為ってのは、あってるか?

 

「ま、まぁ、似たようなもんです。」

 

「ほぅ、中々見上げた忠誠心ではないか。」

 

やっぱ、全然違うな。

……俺が雪蓮に対して欠片でも忠誠心がある訳無い。

 

「あら、そうなの? なら貴方は孫家に仕えるのかしら?」

 

んな訳無い。

 

「いえ、それは、……どうでしょうね?」

 

ここで無いって言ったら、じゃあ私の所に来なさいって、なりそう。

 

「ふふっ、曖昧な態度を取って、私の誘いをのらりくらりと躱すつもりかしら?」

 

バレテーラ。

 

「いやぁ、そう言うのは成人してから考えようかと。」

 

「あら、そんなの駄目よ。 有能な人物は成人の有無関係無く、国に尽くすものよ?」

 

正論言われちゃキツいなぁ。

 

「いえ俺が優秀等、……とてもとても。 いや、本当、俺より優秀な人って、数多に居るじゃ無いっすか?」

 

「いや貴殿が優秀でないなら、この世は一部を除いて凡人ばかりになるのだが? その数多に居る優秀な人材を是非教えて欲しいな。」

 

ちょっと、妙才さん、あんまり自分の主ばかり援護しないで?

 

「いや、ほら、……ちゅ、中央は凡才ばかりらしいじゃないっすか。 意外と優秀な人材は地方のそこらに隠れてるんじゃないっすか?」

 

……何か焦り過ぎて言ってはいけない事まで、言っちゃった気がする。

いや、しゃーない。

今更朝廷の批判なんて怖くないぞ!

名君論が世に出てしまった時から覚悟していた事だからな!

 

「ふふっ、確かに中央は一部を除いて凡才ばかり。 だからこそ、貴方の様な地方の人物が光って目に止まるのでしょ?」

 

墓穴掘ったぁー!

い、いや、まだ慌てる様な時間じゃない。

既に慌てているのは、無しの方向で。

 

「いやぁ、俺より優秀な人材がまだ出て来て居ないだけですって。 今のうちに沢山出て来ますよ、いや、本当に。」

 

司馬懿とか荀彧とか荀攸とか!

他には、……そう、郭嘉とか、えーと、他に、程昱とかか?

 

とにかく、あんたは待っていたら優秀な人材が仲間になるから、一旦落ち着け。

 

「それは、それ、これは、これよ。 第一、まだ出て来て居ないのが問題なんじゃない。 現在野に居る一番優秀な人材が欲しいのよ。」

 

確かにそうかもしれんけども!

 

いや、それでも俺必要無いじゃん?

頭の良さは曹操本人の方が上だし、武力は夏候惇が上、両方出来る奴なら妙才さんが居るじゃん。

 

何故俺にこだわるし。

 

「か、買い被りですって……。」

 

「ええぃ! まどろっこしい! お前は華琳様の何が一体不満なのだ!? 雪蓮に付くなら、そう言え! でないのなら華琳様に付けば良いではないか!」

 

いや、極論そうなんだろうけど。

 

最終的には魏か呉かのどっちかだよ?

でもそれまでは、好きにしたいじゃないか。

 

「いえ、不満があるとかではなくてですね?」

 

「ならば、華琳様に従うか?」

 

「いえ、そうではなく。」

 

「やはり雪蓮を取るのか?」

 

「いえ、ですから……。」

 

「はっきりしろ!」

 

……助けてあねえもん。

話を聞いてくれない相手への接し方ってどうするんですか?

 

「ど、どちらにも、今は付きません。」

 

「なんだとぅ! 華琳様の一体何が不満なんだ!」

 

……この無限ループもうヤダ。

はっきり答えたじゃないですかぁ。

 

「落ち着きなさい、春蘭。」

 

「ですが、華琳様ぁ。」

 

「ふっ、姉者、こう言うのは人に強要するものではないぞ?……すまんな、元倹殿。」

 

「い、いえ。」

 

出来ればもっと早く助けて欲しかった。

夏候惇はまだぐぬぬ言ってるし。

 

「ふっ、“今は”っね。……まぁ良いでしょう。 選ぶ時間はもう少ないわよ、元倹?」

 

……そんなプレッシャー与える言い方しなくても良いんじゃないですかね?

 

「ふ、深く考慮しておきます。」

 

「そうなさい。……それにしても、そこまで出仕を拒む理由でも何かあるのかしら?」

 

……まぁ、ない事もない。

今すぐにやりたい事ではないけど、言い訳にはなるかな?

 

「……一応、物書きとして、挑戦したい事があるんすよ。」

 

「へぇ? それは出仕をしたら不可能な事かしら?」

 

「まぁ、難しくなるのは確かっすね。」

 

って言うか、仕事しながらは無理。

 

「ほぅ、私も気になるな。 天下の物書き、廖 元倹が挑戦したい事は。」

 

天下の物書きは、恥ずかしいなぁ。

 

「……一字千金、って知ってますよね?」

 

「えぇ、呂氏春秋の著者、呂不韋がその書物を仕上げる時に行った事ね。……まさか!」

 

「その、まさかです。 自ら書物を著した孟徳様なら、気持ちが解ると思いますが、……一字千金、挑戦、してみたくないですか?」

 

呂氏春秋からおよそ四百年以上の時が経っているんだ。

今なら、もしかしたら、書き加える事や添削する事が出来るかもしれん。

 

「俺一人で成し遂げたいとか言うつもりはありませんけど、是非挑戦したい夢なんですよね。……まぁ、今すぐにとは言いませんが。」

 

本当に可能なら、この時代の傑物と呼ばれる様な奴等を集めて、皆で挑戦したいなぁ。

 

……今の所、冥琳しか呼べる相手居ないけど。

 

「……なんと。」

 

「くっ、あははははっ! ふふっ、……面白いわ、元倹。……貴方、やっぱり欲しいわね。」

 

どうやら俺の夢は曹操のツボを押さえていたらしい。

 

「一応これ、冥琳や雪蓮にも話してないんで、秘密でお願いしますよ?」

 

「ふっ、こんな話、誰にも思い付かん。 話した所で信じる奴は少ないだろうよ。」

 

そんな大袈裟な。

 

「貴方の夢、叶えるならやはり私に仕えるのが良いと思うのだけど、……いえ、これ以上は不粋ね。 今回は止めておきましょう。」

 

おぉ、なんとか今回も逃れられる事が出来たか、……良かった。

 




呂氏春秋に関しては本当は呂不韋の権力を怖れて誰も添削等が出来なかったそうです。

この作品では完璧だから何も出来なかった扱いにします。


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お前は食戟でもやってろ

連続投稿です。

さて恋姫の神の舌が爆発するぜ!


所変わって、自宅。

 

曹操達が来てから大分時間が経ち、夜の帳が落ちて来たので、俺は彼女達を自宅へと招待した。

 

いくら俺が曹操を警戒しているとは言え、孟徳新書なんて素晴らしい物を一早く読ませて貰った礼はきちんとしようと思ったからだ。

 

大した持て成しは出来ないが、先日孫家を訪れた時に祭さんから貰った、高価な白酎が結構残っているので、それを振る舞う事にした。

 

「取り合えず、先にこれで飲んでおいて下さい。 俺はつまみを作ってくるんで。」

 

俺はそう言って、三人に酒と一応のつまみとして、残っていたジャーキーもどきを出した。

 

……本当はベーコンとかにしたかったんだけどなぁ。

 

「へぇ、……中々良いお酒を持っているじゃない。」

 

曹操に認められるって事は相当良い酒なんだなぁ、ありがとう祭さん。

 

「これは、……燻製肉?」

 

「あっ、はい。 羅馬から伝わって来た文献を参考にして作ったんで、普通のよりは、美味しいと思いますよ?」

 

……そういや、史実じゃ曹操は相当の美食家だったな。

……不味いなぁ、温州みかんなんてこの家には無いぞ?

 

「ほぅ? 羅馬の作り方か。」

 

「ふんっ! 所詮燻製肉だろ、旨いものか!」

 

「春蘭、持て成しをされておきながら、その様な事を言っては駄目よ?……それに、批判するなら食べてからよ。」

 

「うぅ、すみません、華琳様。」

 

いや、謝るなら俺に謝れ。

って言うか批判するんすか?

 

……招待したの失敗だったかなぁ?

 

「では、先ずは食べて見ましょう。」

 

やだなぁ、つまみを出して緊張するなんて初めての経験だぞ?

 

まぁでも、雪蓮と祭さんには大絶賛されたから、ちょっとは自信あるけどね。

 

何でも酒のつまみには最高だとか。

 

ちなみに冥琳には、旨いとは言われたけど、これを糧食にするには、塩やら香辛料やらが大量に必要となるから、経費的に不可能だって言われた。

 

……それを聞いて絶賛していた二人は大ブーイングしてたけど。

 

特に祭さんなんか、兵士にとっての飯の旨さは士気にかかわるから、例え金がかかってもやるべきだ、って熱弁してたくらいだし。

 

……ありゃ完全に酔っ払いの悪絡みですわ。

 

最終的に冥琳が、仮にやるとしても完全に管理して、絶対にちょろまかす事は出来ない様にする、って言ったら、文句は言わなくなったけど。

 

……どんだけ食いたかったのかって話だよ。

冥琳に作り方の本は渡したんだから、自分で作りゃ良いのに、……特に祭さんなんて、料理上手いのに。

 

……っと、思考がずれた。

さて、この方々の舌に合いますかね?

 

「! これは中々旨いな!」

 

「あぁ、酒に最適だ、これは悪くない。」

 

おっ、夏候惇と妙才さんにはウケた様だな。

……問題は、残りのお方だが……、

 

「……。」

 

……無言っすか、せめて何か言って欲しい。

 

「えっと、……お口に合いませんでしたか?」

 

俺の台詞に、夏候惇と妙才さんも、緊張して曹操を見ている。

 

「……燻製肉にしては、悪くないわ。」

 

……燻製肉しては、っすか。

いや、及第点を貰えただけましだと思おう。

 

「これは塩と香辛料で味付けしてから燻したのね? 確かにこれなら今までの物と比べ、幾分かましと言えるけど、少々味付けする塩の量が多いわ。 香辛料の量も、もう少し減らしても良いでしょう。 これでは肉本来の旨味が消えるわ、そこはもう少し調整なさい。」

 

……おっふ。

これ及第点も貰えてなかったっぽいなぁ。

 

「失礼しました。 精進致します。」

 

「ふふっ、そう畏まらないで? それに、おそらく香草の煙で肉を燻したのでしょうけど、そこは素直に評価出来るわよ?」

 

本当はスモークチップを使いたかったんだけど、無かったからね。

 

何で塩とか胡椒とか、果ては味噌や醤油が普通に有るのに、スモークチップはねぇんだよ。

いやまぁ、普段は滅多に使わないから良いんだけどさ。

 

「ありがとうございます。……一応今からつまみを作って来ますが、……あまり期待しないで下さいね?」

 

……もうこの人に料理出したくないんですけど。

 

「あら、目の前に料理を出されて期待しない訳が無いでしょう? それに、私は不味いとは言ってないわよ?」

 

……それでも心に来るもんがあるんだよ。

 

「ははっ、……頑張らせて頂きます。」

 

「ええっ、期待しているわ。」

 

だから止めろって。

 

 

_____

 

 

「どぞ、薬膳風八宝菜っす。 二日酔い防止になります。」

 

これは味より効能重視。

流石に文句は言わないだろ。

 

「それは有り難いな。……姉者、良く食べておけ。」

 

「んみゅー?」

 

……もう既に酔ってんのかよ。

 

「薬膳の味が強すぎるわ。 様々な野菜が入っているのだから、香りには気を着けなさい。」

 

えぇー?

それでも駄目だしすんの?

効能重視なんですけど?

 

くそぅ、次だ、次。

 

「肉汁と食感が楽しめる小籠包です。 独自のタレをつけてどうぞ。」

 

「お、おいひぃ! もっとょこれぇよ出せ! にゃん個でも食べらゃれるじょ!」

 

……何を言ってるのか解んねぇ。

 

「おぉ、確かにこれは皮の食感が良いなぁ。……それにこのタレも爽やかで良い。」

 

でしょ?

めっちゃ生地を捏ねくり回したよ。

こだわってぽん酢もどきも作ったからね?

その皮に肉汁の旨味が染み込んでいるし、噛んだらこう、じわっ、っと肉汁が出てくるし、俺は好きなんだけど……。

 

「確かに皮は良いわね。 このタレも悪くないわ。……だけど中身の肉餡の味が弱いわ。 この味付けの場合、タレに負けてしまうわよ?」

 

ぐぬぬっ……。

味に厳しい奴め。

……こうなりゃ奥の手だ。

 

「孫家の宿将、黄 公覆直伝、青椒肉絲です。」

 

これが駄目ならもうお手上げだぞ。

 

「! 旨い、……味付け自体は濃ゆいと思うのに、何故か酒と良く合う。」

 

よし、妙才さんは文句なくクリア。

 

「はぐっ、むぐっ、ほぐっ!」

 

夏候惇も一心不乱に食っているな、まぁここも当然クリア。

 

……今度こそ頼むぜ……祭さん、俺に力を貸してくれっ!

一緒に曹操(ラスボス)をやっつけよう!

ここが食の赤壁だ!

 

「……。」

 

……くっ、またしても無言か。

 

「……いかがでしょうか?」

 

「……ふむ、……そうね、……言おうと思えば、いくらでも注文はつけられるわ……。」

 

くっ、祭さんの力を以てしても、辿り着けないと言うのか。

俺の苦肉の策は、ここで尽きると言うのか……。

 

「……でも、何故かしら、……有無を言わせない美味しさを感じるわ。」

 

 

「ふっ、お見事よ。」

 

や、やったぁー!

祭さん、やったよ俺!

 

曹操には、黄蓋。

そう言う事なんだね?

 

「……ふぅ、……一品だけとは言え、満足された様で良かったっす。」

 

持て成したかいがあるぜ。

 

「えぇ、久々に満足行く物を食べられたわ。 この持て成しに感謝するわ元倹。」

 

「ふっ、良かったな元倹殿。 華琳様が満足するのは珍しい事だぞ?」

 

あ、やっぱそうなんだ?

良かったぁ~。

 

今度祭さんに何かお礼の品持って行こ。

 

「ほんじゃ俺も、そろそろ参加させて貰いますね?……元譲さんは、もう寝てるみたいですけど。」

 

「……Zzz 。」

 

さっきまで食ってなかったっけこの人?

 

「あぁ、姉者の事は放っておいてくれ。 いつもの事だ。」

 

……いつもなんだ、大変だなぁ。

 

「では、改めて乾杯でもしましょうか?」

 

「あっ、はい。……いや、何に乾杯するんです?」

 

普通に返事してしまったけど、乾杯する理由は無いぞ?

 

「ふっ、そうね、……今日と言う日に、で良いでしょう。」

 

いやいや、その理論で言うなら毎日乾杯なんですが?

……まぁ何でも良いか。

 

「それでは、今日を祝って……。」

 

「えぇ。」

 

「あぁ。」

 

俺が酒杯を上げそう言ったら、曹操も妙才さんも二人して上げてくれた。

 

……何か俺が仕切っちゃったけど、……まぁ家主だし良いよね?

 

「「「乾杯。」」」

 

俺達三人は、そう言って酒杯の酒を飲み干した。

 




この人だけ世界観がソ○マだよね?
多分美味しい物食べたら、服が……ゴクリ。


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酒は飲んでも飲まれるな

本日三度目の投稿。
もう今日で最後まで投稿します。

華琳様が登場すると、やっぱ違うなぁ。


俺も飲み始めてから数時間、流石にかなり酔って来た。

 

……いやいや、まだまだ限界じゃないよ?

 

本当、まだ余裕だから。

 

「んぁ~、……白酎もうねぇな。 新しい酒出しますわ。」

 

俺はそう言って、台所の方に新しい酒を取りに立ち上がった。

 

まぁ多少ふらつくが、問題無い、問題無い。

 

「……えっと、何があったかなぁ~っと。」

 

やっべぇ~、安っぽい酒しかねぇな。

俺はこれでも良いんだけど、客が居るしなぁ。

 

……んお?

そういやワインがあったな。

この前羅馬から来た商人から買ったんだったわ。

 

でもこれ単体では、あんまり美味しくなかったから、桃とか柑橘類の果物とかを漬けて放っておいたんだよな。

 

……さて、どうなっているか。

 

「んくっ。 !」

 

おお! 中々飲みやすいじゃねぇか。

これ出そっと。

 

「お待たせしましたぁ~。 羅馬のお酒で~す。」

 

「あら、そんなものがあるなら先に出したら良かったのに。」

 

俺も忘れてたんだよ。

 

「これまた貴重な物を、……良いのか?」

 

「問題無いっすよぉ~。 これ葡萄酒って言うんすけど、単体ではあんまり美味しくなかったんで、果物を漬けていたんすよ? さっき味見したら、まぁまぁ良くなってたんで、持ってきましたぁ~。」

 

「……元倹殿、お主大分酔っているな? 華琳様相手にまぁまぁでは駄目だろう。」

 

……はっ!

そうだった!

 

「あら、羅馬の貴重なお酒を経験出来るなら、多少は目を瞑るわよ?」

 

……うへぇ、多少かよ。

 

「んじゃまぁ、取り合えず一献どうぞ。」

 

「ありがとう。」

 

俺はそう言って、曹操、妙才さん、俺の順で酒を注いだ。

 

「……ふむ、香りは悪くないわね。」

 

先に香りから楽しむとか、この人通だなぁ。

ちなみに俺は香りとか知らん。

 

今も普通に飲んでるけど、味さえ良けりゃそれで良いんだけどなぁ?

 

「……ほぅ、なんとも変わった味がする。 ふむ、甘い味もあって確かに悪くはないのだがなぁ。」

 

妙才さんは特に好きって事は無いみたいだなぁ。

 

……これじゃ曹操にも期待出来ないな。

 

「……成る程。」

 

何を理解したんだ?

 

「果物を漬ける発想は悪くないけど、やはり元の葡萄酒と言うのが、あまり美味しくない様ね。 まぁ、飲めなくはない様だし、暫くはこれで良しとしましょう。」

 

……及第点?

まぁ飲めりゃ何でも良いか。

このままガンガン飲も。

 

 

_____

 

 

「それにしても元倹殿、お主は何でも出来るな?」

 

んんー?

 

「なんすか急に? 誉めても酒かつまみか書物しか出ませんよ?」

 

「いや、それは充分出ている方なのだが、……そうではなく、お主は知も武も果ては料理まで出来る。 それを凄いと思ったのだよ。」

 

「えぇー?……遠回しな自分自慢っすか?」

 

俺以上に出来るのに、何言ってんだこの人?

 

「いや、そんなつもりは無い。……というより、何故そうなる?」

 

「? だって、それ言ったら妙才さんもそうじゃないっすか? って言うより、本物の何でも出来るが、そこに居るじゃないっすか? 俺なんて所詮器用貧乏、出来ない事だって普通にありますよ?」

 

って言うか、普通に出来ない事の方が多いと思うんだけど?

 

「あぁ成る程、確かに華琳様は何でも出来るな。 確かに私自身、出来る方だと自認しているが、華琳様とは比べ物にならん。」

 

「あら、二人してそんなに私の事を褒めるなんて、……ふふっ、私も何か出した方が良いかしら?」

 

「おぉ、褒美か何か貰えるんすか?……だったら俺は、さっき話した一字千金に孟徳様も参加する事を望みます。」

 

超貴重戦力だぜ。

 

「あら、最初からそのつもりよ?」

 

「マジっすか? 冥琳は俺の中で既に確定してるから、これで二人目ですね。……いやぁ、捗るなぁ。」

 

後は最低でも諸葛亮を加えたいなぁ。

知力百は外せないよね。

 

……良く考えたら、それって面子が完全に赤壁じゃねぇか。

 

「宝物や金銭ではなく、華琳様の知を所望するとは、……なんというか、……お主らしいな。」

 

「いやぁ、なんっつうかですね、……さっきの、俺の出来ない物の話に戻りますけど、俺って芸術品の価値が良く解らないんすよね。 そういう芸術分野は、まるで駄目みたいです。 だから宝物とか貰っても困るんすよ、……お金は持ってるし。」

 

俺が良いと思ったのは、全く評価されてなかったり、逆によく解らんのは評価されてたりするんだよなぁ。

 

多分前世の知識の弊害じゃねぇかなぁ?

 

「へぇ、貴方にそんな弱点があるなんてね。」

 

「その点、孟徳様はその分野も強いっすよね?……いや本当、何か苦手な分野とか無いんすか?」

 

「ふふっ、……そうね、軍事機密よ。」

 

……まぁ、もし知ってたら高値で取引されてもおかしくない情報だよなぁ。

 

「私も長年、華琳様の近くにお仕えしているが、苦手分野や弱点らしい弱点は知らないな。」

 

うわぁ、妙才さんも知らないのか。

この人本当にとんでもない超人だな。

 

「流石に王の器は違うなぁ。」

 

「「……。」」

 

……あれっ?

 

「……華琳様を“王の器”と、……かなり高く評価してくれている様だな?」

 

うわっちゃ~。

これまた失言。

 

……まぁ酒の席だから良いか。

 

「まぁそれほど素晴らしい才覚がありますよね、って事ですよ。」

 

「ふっ、当然よ……と、言いたい所だけど、並の凡夫ならともかく、貴方に言われるとなれば、誇らしいわね。」

 

いやいや、並の凡夫が言うのと変わりませんって。

 

「なら私はどうだろう?」

 

ん?

 

「先程、華琳様の書物を推敲している時に言っていたではないか。 戦略、戦術を理解出来る素晴らしい将だと。……私はどの程度の将の器だろうか?」

 

……言ったっけ?

……言ったな。

 

「そうっすねぇ~。……妙才さんなら十万の軍を率いる大将軍級じゃないっすか?」

 

まぁ、多分出来るでしょ。

 

「……自分から聞いといてなんだが、……こう、こそばゆいな。」

 

まぁ、あくまで俺の主観ね?

史実でも夏候淵は超有能だったらしいし。

 

「ふむ、……では、春蘭ならどうかしら?」

 

「あの人は五千って所ですかね?」

 

「! 何故だ!? 身内贔屓に聞こえるかもしれないが、姉者はあれでかなり優秀な筈だぞ!」

 

うおっ!

妙才さんが大きな声出すの初めて聞いたわ。

 

「あぁ~、いえいえ。 能力が無いとか、そう言う事言ってるんじゃないんすよ?」

 

「ならどういう事かしら?」

 

えぇー?

あんたなら理由知ってるでしょ?

 

「まぁ孟徳様なら当然熟知している事だと思いますけど、軍を率いるのは、個人の武勇よりも、統率力とか、戦術理解度とかが重要じゃないっすか? でも元譲さんの場合、そこに期待は出来ないんすよね。 かと言って、あの武勇を放置も出来ません。 使い所は真っ正面からの突撃とか、敗退した軍への追撃とかです。 それが一番高い効果を得られると思いますよ? 別に万の軍勢を率いる事が出来ないとは言いませんが、効果的ではありませんね。」

 

だから五千くらいが一番良いと思うんだよ俺は。

 

「ふふっ、納得したかしら秋蘭?……私も元倹と同意見よ。」

 

「はっ、納得しました。……大きな声を出してすまないな元倹殿。」

 

かまへん、かまへん。

 

「元倹、貴方ならどうかしら?」

 

俺?

 

「ははっ、二千で限界ですかね?」

 

俺がそう言うと、二人してポカーンとした。

だから買い被りし過ぎなんだって。

 

「……いくらなんでもそれは、……過小評価し過ぎではないか?」

 

「そうでもないっすよ?」

 

「……一応、理由を聞かせて貰おうかしら。」

 

まぁ良いけどさぁ。

自分で自分の評価って恥ずかしいな。

 

「まず一つ、俺に突出した武勇はありません。 二つ、統率力も戦術理解度もそこそこしかありません。 三つ、俺に兵を割くくらいなら、他に……孟徳様達の場合ですと、それこそ妙才さんや元譲さんに割いた方が良い。 以上の事から、俺は戦術が機能する最低人数の二千で、独立遊軍として動いた方が効果的です。」

 

Q.E.D 証明終了。

 

「……理解出来なくはないのだけど、……納得はいかないわね。」

 

「少なくとも、私は納得出来ません華琳様。 元倹殿で戦術理解度がそこそこなら、私は全く理解出来てない事になります。」

 

だからあんたら俺の事過大評価し過ぎだって。

 




理論滅茶苦茶の主人公のQ.E.Dでした。
まぁ酔ってるから仕方ないね。

ちなみに、華琳様が期待した返答は、
「俺なら百万の軍勢でも率いてみせますよ(キリッ」
です。
まぁ主人公が絶対言う訳ねぇな。


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自分の発言には責任を持ちましょう

これで十三歳編のラストです。

今日だけで、4回の投稿。
これが覇王の力か。


か、身体が痛い。

喉がイガイガする。

 

今日は体調最悪だな。

そう思って俺が目を覚ました場所は、家の廊下だった。

 

…………。

 

……?

 

……何でこんな所で寝てんだ俺?

そりゃ身体も痛くなるよ。

 

昨日何があった?

 

…………。

 

……!

 

そういや曹操達を招待したんだった。

そんで、料理を振る舞って、酒を飲んで、……。

 

……その後どうしたんだっけ?

やっべ、記憶が曖昧過ぎる。

 

何かの話題で妙才さんと曹操と盛り上がったのは覚えがあるんだけど、何だったっけ?

って言うかマジで何があったら廊下で寝るんだよ。

 

俺が廊下に座り込んで考え始めたら、妙才さんに挨拶された。

 

「おはよう、げんけ……どうしたのだ?」

 

……うん、まぁ、解ってる。

こんな所で座り込んでいたら変態だよな?

 

「おはようございます。……何か知らないけど、俺ここで目を覚ましたんすよ。 昨日何かありました?」

 

「あぁ、そう言えば、昨日お主が厠に行くと席を外してから戻って来なかったな。 私と華琳様もその後そのまま眠ってしまった様で、すっかり忘れていた。」

 

あぁ、成る程。

そんまま力尽きて寝ちゃったパターンか。

 

……いやいや、客を招待してそれはあかんでしょ。

雪蓮じゃないんだから、もうちょっとしっかりしないと俺。

 

「それは何と言うか、……その、客室にも案内せずにすみません。」

 

「いやいや、我等もそのまま眠ってしまったし、あまり気にする事も無い。」

 

まぁそう言ってくれるなら有り難いが。

 

「それより、すまないが水を貰えないか? お主の料理が効いたのか、あれだけの量の酒を飲んでいて、二日酔いは無いが、流石に喉が乾いた。 華琳様や姉者の分も頼みたいのだが?」

 

「あぁ、俺も喉が乾いているのでちょうど良いっすね。 皆さんの分も水を持って行きますよ。」

 

流石ウコン。

力が違うね。

 

「あぁ、よろしく頼む。」

 

 

_____

 

 

「おはようございまーす。 どうぞ、お水です。」

 

俺は昨日の飲み会をした部屋に、全員分の杯と水を持って来た。

 

「おはよう。 早速水を頂くわ。」

 

「……ん。」

 

「ありがとう元倹殿。 ほら姉者、水だ。」

 

部屋の中は昨日の今日なので、散乱としていて、綺麗ではなかった。

 

……この部屋に曹操達を眠らせちゃったのか、……こりゃまいったな。

 

だが曹操はあまり気にしていない様だった。

俺が水を持って来た時点で曹操は既に目をしっかり覚ましていた様子で、今は普通に水を飲んでいる。

 

妙才さんも言わずもがな。

はっきりと、目を覚ましている。

 

ただ、夏候惇は寝起きなのだろう。

目もトロンと半開きで、妙才さんに甲斐甲斐しく世話をされていた。

 

こいつが一番睡眠時間が長い筈だがなぁ?

 

「はっ! 誰だ貴様! 何故ここに居る!?」

 

いや、俺の家ですし、おすし。

 

「……はぁ、春蘭。 今すぐ元倹に謝りなさい。」

 

「えぇ? 何故ですか、華琳様ぁ。」

 

「春蘭。」

 

「うぅ、……すまん。」

 

力関係がはっきりし過ぎて笑えてくるなぁ。

 

「まぁお気になさらず。」

 

「私からも謝っておこう、姉者がすまないな元倹殿。」

 

どっちが姉か解んないな、あんたら姉妹。

 

「ん? あぁ! 思いだした!」

 

ん? 何を?

 

「何を思いだしたのだ姉者?」

 

「昨日の料理は旨かった!」

 

…………。

 

「……お土産に包みましょうか?」

 

「おぉ! 頼む!」

 

「「……はぁ。」」

 

ふふっ、この人オモロイなぁ。

まぁ、二人が揃って溜め息吐く気持ちも解るけどね?

 

 

_____

 

 

その後、俺は曹操達を見送りに襄陽の門まで来ていた。

 

「さて、昨日は招いてくれてありがとう元倹。 実に有意義な時間だったわ。」

 

「そう言って貰えて幸いっす。」

 

義理は果たしたな?

よし、もう来んなよ?

 

「お礼に、とは少し違うけれど、貴方に私達の真名を預けましょう。」

 

えぇ?

良いよ別に。

 

「ははっ、大袈裟ですよ。」

 

「そんな事は無いわよ? 真名を預けるに充分な信頼を、貴方は示してくれたわ。」

 

俺が昨日した事って、本を読ませて貰って、麻雀して、家に招いて飲み会して、客を放って寝たくらいなんですが?

 

「春蘭も秋蘭も、否定はあるかしら?」

 

「華琳様のなさる事に否はありません。」

 

「同じく。 個人的にも、元倹殿は信頼にたる人物だと思っております。」

 

元譲さんはともかく、妙才さんはどうしたんだ?

俺は本当に昨日、一体何をしたんだ?

 

「そう。……我が真名、華琳。 この真名、貴方に預けるわ。」

 

「春蘭だ。 お前は他の男よりは信用出来る。 だが、必要以上に華琳様には近寄るなよ。」

 

「ふっ、知っているだろうが、秋蘭だ。 よろしく頼む。」

 

う、うーむ。

まぁ預かってしまった物は仕方ないか。

 

「俺の真名は蒼夜です。 改めてよろしくお願いします、華琳さん、春蘭さん、秋蘭さん。」

 

「えぇ、貴方の真名、確かに預かったわ。……ではまた会いましょう、蒼夜。」

 

華琳さん達一行はその言葉を皮切りに襄陽を去って行った。

 

……また会いましょう、か。

もう来なくて良いよ?

 

じゃあ華琳さん達も居なくなったし、さーて、今日も一日……頑張らないで帰って二度寝しよ。

 

 

_____

 

 

「……機嫌がよろしい様ですね、華琳様。」

 

「ふふっ、えぇそうね。」

 

「何か良い事でもあったんですか、華琳様ぁ?」

 

「ふふっ、なんでもないわよ春蘭。」

 

私は陳留への帰路の道、馬上にて昨日の蒼夜とのやり取りを思い出していた。

 

昨日、夜も深く、酒も深くなった時間、それぞれの人物の“器”の話になった。

 

蒼夜は春蘭を五千の将、秋蘭を十万の将と称し、自分をまさかの二千の将と称した。

 

本人はかなり酔っていた様だけど、その評価は本人を除いて間違っていないと、私も感じていた。

 

その後もその話題は盛り上がって続き、孫家の人物達の評価へと移った。

 

それは私の気になる話題でもあり、私は彼の評価を注意して聞いた。

 

そしたら最初、彼は雪蓮の器が測れないと言う。

 

『雪蓮? 雪蓮、……うーん、あの馬鹿野郎はよく解らないっす。 百人率いて蹴り飛ばす事もあれば、百万率いて絶賛する事もあり得ると思うんすよねぇ。』

 

……成る程、確かに雪蓮には英雄然とした雰囲気がある。

その場合、小数を率いるより、大人数を率いた方がより良い。

そう言う事もあるか、と私は納得した。

 

だがその後の冥琳の評価は破格のもので、かなり驚いた。

 

『冥琳っすか? 冥琳が直接兵を率いるなら万は駄目っすね。……けど、操るってんなら、百万居ても有り余るっすよ。』

 

ここまで彼から軍師として評価を受ける人物は他に居るだろうか?

彼が冥琳の才覚を非常に高くかっている事が良く解る。

 

そこで私は、私なら何人率いられるか、何人操る事が出来るか、彼に聞いてみた。

 

『ん~、……そうっすねぇ、……まぁ百万人率いる事も、百万人操る事もしなくて良いんじゃないっすか? 貴女の場合は百人で良いんすよ。』

 

これを聞いた瞬間、私はまさかと言う思いに捕らわれた。

 

秋蘭はそんな馬鹿なと彼に反論し、私の才覚を誉め称え、彼に評価を訂正する様に求めた。

 

だがそんな事をする必要なく、これは彼の最大級の評価であった。

 

『高祖と韓信っすよ、妙才さん。』

 

彼は詰め寄る秋蘭にそう答えた。

 

高祖と韓信。

もし千人率いて戦った場合、どちらが勝つか高祖は韓信に問うた。

その時韓信は自分が勝つと高祖に答え、高祖はその答えに怒ったと言う。

だがその後、韓信は高祖に対し、私は千人率いて戦に勝つ事が出来るが、貴方は私を率いる事が出来ると続けた。

 

つまり彼が私に百人で良いと言った理由は、百人の将と軍師を率いろと言う事。

 

それはまさしく、彼が最初に言った“王の器”

ここまで言われたなら私は必ずそれを成し遂げて見せましょう。

 

そして蒼夜を私の韓信として必ず召し抱えてみせるわ。

 




最早、ロックオンから絶対に逃がさないに変化しました。

寧ろここまで主人公の事をかってくれるのって逆にすげえな。


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閑話 孫家でのお見合い

かなりぶっ飛んだ設定になります。
覚悟を決めてどうぞ。


-蒼夜 十三歳-

 

俺は今、相手の目の前に正座し、ある子に頼まれた事を果たす為、相手を必死に説得していた。

 

「……実はな、……お前に、会わせたい娘が居るんだ」

 

「……」

 

「まぁそんな嫌そうな顔をするな。 相手の娘は中々おしとやかで、静かな良い娘だったぞ?」

 

「……」

 

「まぁ無理にとは言わんが、……どうだ? 俺の顔を立てる為にも、一度呉に行かないか?」

 

「……フンス」

 

「おぉ! そうか、行ってくれるか!……じゃあよろしく頼むな、辛々(しんしん)

 

「ぐるぅ」

 

よーし、じゃあ孫家でお見合いだ!

 

 

_____

 

 

そして俺と一頭の虎は建業へと降り立った。

 

そう、辛々とは以前山でばったり出くわし、俺と死闘を繰り広げ、俺が片目を奪ってしまったシベリアトラだ。

 

その後、こいつは俺に多少なつき、俺が山に入った際には、一緒に行動する仲になったのだ。

 

個人的には飼ってるつもりは更々無いが、一応は名前が無いと不便なので、辛々と俺は名付けた。

 

何故この辛々を連れて孫家を訪れるかと言うと、それは孫家の末娘であるシャオちゃんこと、孫尚香にお願いされたからだ。

 

いやぁ、最初にシャオちゃんを見た時は思ったね。

 

(あっ、そこは男じゃないんだ)

 

って。

 

てっきり性転換の世界かと思ったら関係無いから驚いたよ。

……まぁ、もしそうだったら、俺も女だったんだろうけど。

 

そんな事はともかく、何故シャオちゃんに辛々を連れて来る様に頼まれたかと言うと、実は孫家でシベリアトラを飼っていて、その番を探しているからだ。

 

名前は周々、真っ白なシベリアトラだ。

 

ちなみに、善々と言うパンダもいる。

 

この周々と善々はシャオちゃんのペット兼護衛で、大体いつも一緒に居る。

 

俺がシャオちゃんに初めて会った時にもこの二頭は一緒に居て、俺も少々驚いたもんだ。

 

無論、虎とパンダにビビった訳じゃない。

 

どう考えても圧倒的捕食者が隣に居るのに、平然としている幼女に驚いたのだ。

 

あの光景を並の人間が見たら、逃げてと叫んでもおかしくないと思う。

 

……俺はそんな事を考えながら、いつもの如く城へと入った。

 

最早建業で、俺を遮る物は無い。

一昔前までは俺も門番に止められたもんだが、いつからか素通り出来る様になった。

 

はっはっはっ、孫家での俺の影響力が解るってもんだ。

 

……どうしてこうなったんだろうな?

 

 

_____

 

 

俺は建業に来た時、必ず最初に冥琳の執務室に来る。

 

大体ここにいつも雪蓮と冥琳が居るからだ。

 

今日も案の定、雪蓮と冥琳はここに居て仕事をしていた。

 

「おいっす~」

 

「おいっ……虎?」

 

「……周々じゃないよな」

 

俺が扉を開けて挨拶すると、雪蓮がいつもの様に返そうとして、辛々の存在に気付き、冥琳もつられて辛々を見た。

 

「あぁこいつね、この前話した虎の辛々 シャオちゃんとの約束通り、周々の番候補として連れて来た。」

 

「……お前が素手で虎を倒したと言う話は本当だったのか」

 

俺が辛々の説明をすると、冥琳がゴクリと唾を飲んで、額に汗をかいた。

 

って言うか俺の話信じてなかったのかよ。

 

「あっははははは! 本当に連れて来たんだぁ! これはシャオも喜ぶわね~」

 

なんか凄いご機嫌だけど、もしかして連れて来なくても良かったの?

 

「この子辛々って言うのよね? あらっ、本当に右目が潰れているわね。 全く、動物相手に酷い事するわ、ねぇ~、辛々?」

 

「ぐらぁ」

 

うっさいな、当時はそれどころじゃなかったんだよ。

 

って言うか仲良くなるのはえぇな。

 

流石江東の虎の娘、虎の扱いはお手のものですか。

 

雪蓮は辛々の頭やら身体をこねくり回してモフモフしていて、辛々も気持ち良さそうにしている。

 

「……それにしても、本当に連れて来るとはな。 いや、小蓮様の為に有り難い事ではあるが」

 

「まぁシャオちゃんと約束しちゃったしね? それに連れて来たは良いけど、本当に番になるかは解んないし」

 

これで駄目だったら、また山に連れて帰らないといけないし。

 

「そうだな。 わかった、早速小蓮様に報告するとしよう。 お前は客室で待っていてくれ」

 

うぃー、了解。

 

 

_____

 

 

俺と辛々と、何故か知らぬがついて来た雪蓮は、客室でシャオちゃんと周々を待っていた。

 

「お前仕事は?」

 

「今日はもう終わりよ? いやぁ~、冥琳が居ると楽で良いわね~」

 

お前もう本当にいつか冥琳に刺されても知らねぇぞ?

 

と、雪蓮と雑談をする事数十分。

待ち人は来た。

 

「おっ、待たせぇ~♪ ふふん♪ シャオの為にご苦労様、蒼夜!」

 

「おぅおぅ、久しぶりだねシャオちゃん、元気だったかい?」

 

「やっだぁ~、蒼夜ったら親戚の叔父さんみたい! 当然、シャオはいつも元気だよ!」

 

おっふ。

叔父さんはちょっとキツい。

 

「ぷぷ、叔父さんだって」

 

うっせー、笑うな。

俺が叔父さんだったら、お前は叔母さんだかんな?

 

「その子が前に言ってた辛々? ふ~ん、……まっ、周々の旦那さんにするには及第点かな?」

 

一体どの様な点数基準なんだろうか?

……子供の、……特にこの子の考えてる事はよく解らん。

 

「ほれ、辛々。 あれがお前に紹介する周々だぞ?」

 

俺がそう言うと、今まで興味なさげに寝そべっていた辛々は、起き上がり周々をまじまじと見始めた。

 

周々の方もそれと呼応する様に辛々をしっかり見定め、二頭は距離を詰めて行く。

 

……なんかこれ、俺の方が緊張するな。

 

「ぐるぅ」

 

「がるぅ」

 

二頭は唸りあう、と言うよりも、なんか喋ってる様な感じで、喉を鳴らし、ぐるぐるとその場を回り始める。

 

……これ喧嘩になったら大変だぞ?

 

「へぇ。 周々が認めるなんて、やるわね辛々」

 

? 何言ってんだこの子?

 

「……おい、何言ってるか解るか雪蓮?」

 

「いや、私もさっぱり」

 

だよな?

 

俺と雪蓮はシャオちゃんが何を理解したのか意味が解らず、二人してこそこそ話した。

 

「ふ~ん。 じゃあこのままちょっと遠駆けしようか!」

 

へっ?

 

「じゃあ雪蓮姉様、蒼夜、周々と辛々と一緒にちょっと出掛けてくるね!」

 

シャオちゃんはそう言うと、ひょいっと周々に飛び乗って、扉からピューっと二頭と一緒に駆けて行った。

 

「夕飯までには、帰るのよ~」

 

ちょっ!

それで良いのか!?

 

「し、辛々! くれぐれもよろしく頼むぞ!」

 

いや、もう、本当、孫家の娘に何かあったら困るぞ?

 

俺の心配はよそに、雪蓮はあっけらかんとしていて、楽しそうにシャオちゃんを見送った。

 

「……行っちゃったわね~。 よし、じゃあ、飲もっか?」

 

「いや、まぁ、うん。 お前が良いんだったら良いんだけどさ」

 

俺は納得がいかぬまま、雪蓮と飲み食いし始めた。

 

 

_____

 

 

その後、結局辛々は周々に気に入られ、そのまま孫家に残る事になった。

 

どうやら辛々も満更でもないらしく、今では二頭揃って、善々と一緒にシャオちゃんの護衛をしているらしい。

 

……楽しそうで何よりだよ。

 

そして一ヶ月後、毎週の如く届く冥琳からの手紙に俺は頭を抱える事になった。

 

『お前が連れて来た辛々の事だが、驚く事に今では街の人気者だぞ? 奴は何処の誰に似たのか、時折ふらっと消えては山へ行ったらしく、獲物の猪等をくわえて、ふらっと城へ帰って来る。 当然街の中を獲物をくわえて虎が歩くのだから、大層目立っているな。 それが早くも建業の名物となり、今では遠くからも一目見ようと人が集まる程だ。 それにまだ数度だが、林で迷子になった子供を背中に乗せ、街に案内する事もあった。 そんな虎を連れて来たのがこれまた有名な“守護鬼”なので、今では建業の“守護虎”なんて呼ばれている。 次回お前が建業に来る事があれば、色々と覚悟する事だな。 周 公瑾』

 

……おいおいおい。

ど う し て こ う な っ た !

 




次回から少年期最後の十四歳編に入ります。


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水鏡先生の呼び出し

さて、十四歳編の始まりです。

そしてー!
二人目のオリキャラ登場です!


-蒼夜 十四歳-

 

ある日の事、水鏡塾の司馬徽から俺宛に手紙が届いた。

 

『お久しぶりです、元倹君。 今回手紙を送らせて貰った理由は、私の塾で使う教科書を一新したいからなの。 出来れば前回買った量と同じだけの書物をお願い出来ないかしら? 珍しい書物もあれば、それもお願いしたいわ。 無論、お金は払います。 司馬 徳操』

 

……ふむ、考えてみれば、もうあれから八年の月日が経つのか。

そりゃあ教科書も一新しなきゃならんよなぁ。

って言うか、寧ろ今まで良く保っていたな?

 

俺はそう思い、了解の旨を書いた手紙を返信し、様々な書物を選別し始めてから、一週間後に水鏡塾へと向かって旅立った。

 

 

_____

 

 

んぁー!

……流石に疲れた。

 

何だってこんな山奥に塾を作ったんだよ。

不便以外の何物でもねぇよ。

 

俺は大量の書物を押し車に乗せ、山道を登ったり降りたりを繰り返し、水鏡塾こと水鏡女学院に到着した。

 

……これ勝手に入ったら不味いよなぁ。

こんなん女子校に男が入るみたいなもんだかんなぁ。

 

「おーい、すみませーん!」

 

…………。

 

誰も来やしねぇ。

 

……どうしようか、変態の謗りを受ける覚悟を持って突入しようか?

……いや流石にそんな勇気は出ないな。

そう、そんなの只の蛮勇だ。

男子が女子トイレに入るのと対して変わらん。

 

身体は死ななくても、社会的な死が訪れるのは避けたい。

下手したら心まで死ぬからな。

 

うーむ、どうしようか。

 

俺がそう思って悩んでいたら、門の向こうからトテトテと聞こえそうな程可愛い足取りで幼女がやって来た。

 

「は、はわわ~! お、お待たせしましたぁ!」

 

「う、うん、いや大丈夫、そんなに待ってないよ?」

 

なんかシャオちゃんとそんなに変わらない幼女がやって来たなぁ。

この子も塾生だよな?

……なんかすっごいはわはわしてるけど、この子も将来有望なのだろうか?

まぁ、司馬徽に認められたなら少なくとも俺よりは才能が有るんだろうなぁ。

 

「私は襄陽から来た、廖 元倹。 水鏡先生に呼ばれて、本を売りに来たんだけど、……先生はいらっしゃるかい?」

 

俺がそう言うと、はわはわ幼女は更にはわはわし始めた。

 

「は、はわぁー! りょ、りょ、廖 元倹しゃん!?」

 

かみかーみ。

何か呂布が現れたみたいになってんじゃねぇか。

 

「はわぁ! はわぁ! ひ、雛里ちゃーん! 元倹さんが、廖 元倹さんが来ちゃったよぉー!」

 

何をそんなに驚いたのか、はわはわ幼女は走って何処かに行ってしまった。

 

……いや、誰だよ雛里ちゃん。

司馬徽を出せって。

 

 

_____

 

 

「大変、失礼致しました」

 

「う、うん。 まぁあんまり気にしないで?」

 

結局俺はあの後半刻程待たされ、たまたま通りかかった別の幼女に事情を話したのだった。

 

「いえ、朱里ちゃんは普段はとても優秀な方なんですが、たまにポカをやらかす所が玉に瑕なんです。 これを機に治した方が良いと思います」

 

すっごいしっかりした子だなぁ。

……もしや、この子が諸葛亮か?

 

……いや、それはないか。

流石にこの子は見た目だけで、名前が解る。

 

真っ白な髪、真っ白な肌、瞳は軽く赤みがかっていて、恐らくアルビノ症だと言うのが予想される。

……実際常に日傘差してるしね。

 

だが、そんな事より遥かに予想が立つ理由がある。

……眉毛まで、真っ白なのだ。

三國志で白い眉毛と言えば、……

 

「あっ、自己紹介がまだでしたね。 私の姓は()、名を(りょう)と申します。 字が季常(きじょう)です。 どうぞ気軽に、季常とお呼び下さい」

 

やっぱりな。

 

「あぁ、よろしく季常ちゃん。 俺は……って、さっき自己紹介したから大丈夫か」

 

「はい。 よろしくお願い致します、元倹様」

 

元倹様!?

 

「いや、様付けはちょっと……。 普通に元倹で良いんだけど?」

 

「そうですか? 先生には目上の方には敬意を払う様にお教えを受けているのですが。……でしたら、元倹さんとお呼びさせて頂きます。……もしくは、……」

 

もしくは?

 

「元倹お兄ちゃんで」

 

な、なんと!?

 

「おにい、……ケフンケフン! げ、元倹さんで! 元倹さんでお願い!」

 

いかん、いかん。

何かに目覚めてしまう所だった。

 

……何て、危険な子なんだ。

 

「解りました、元倹さんですね? これからはそう呼ばせて頂きます」

 

……何か凄く勿体無い事をした気が……。

いや、気のせいだ。

 

「所で季常ちゃん、水鏡先生はいらっしゃるかい? 出来れば取り次いで欲しいんだけど?」

 

「はい。 でしたら、もう暫くここでお待ち下さい。 先生に伺って参ります」

 

「よろしく頼むよ」

 

季常ちゃんはそう言って、司馬徽に伺いをたてに建物の中へと入って行った。

 

 

_____

 

 

「あらあら、大分待たせてしまった様で申し訳ないわ。 遠い所からわざわざありがとう、元倹君」

 

「いえ、先生の頼みなら断る理由はありませんよ」

 

待つ事数分、司馬徽は直ぐに俺の元へとやって来た。

隣には、司馬徽を呼びに行った季常ちゃんも居た。

 

「では先生、私はこれで。 ちょっと朱里ちゃんを説教してきます」

 

「ふふふっ、あまり怒らないであげてね霊里(れいり)

 

季常ちゃんは、その言葉を聞くと頭を下げて去って行った。

 

……どんまい、朱里ちゃんとやら。

 

「……普段あんまり感情を表さないあの子があそこまでウキウキしてるのは珍しいわね。……やっぱり憧れの元倹君が来たからかしら?」

 

はっ?

あれで感情を表していたの!?

すっごい冷静そのものだったけど!?

 

いや、それよりも……

 

「あの、憧れって何ですか?」

 

「あら、言わなかったかしら? ここの子達は皆貴方の事を尊敬しているのよ? 最初に会ったと言う朱里もその一人ね。 多分不意に貴方と出会ってしまったので、慌ててしまったのでしょう」

 

……マジかよ。

俺って実は凄い奴なのか?

 

“皆”って事は、諸葛亮やら鳳統もだよな?

やっべぇ、知力百に尊敬されるとか、俺ヤバすぎだろ。

こりゃあ華琳さんの勧誘も待った無しですわ。

……うん、まぁ実際勧誘されてるからね。

 

「は、ははっ、……光栄です」

 

乾いた笑いしか出ねえよ。

 

 

_____

 

 

その後俺は客室に通され、今は司馬徽と一緒に書物のチェックをしながら雑談をしていた。

 

「あら、孟徳新書。 こんな貴重な物まで持って来てくれるなんて」

 

まぁこの本は売り切れしまくっているからな。

この内容なら売れるのも良く解るってもんだ。

 

「私の写本ですけどね? 何冊か用意したので、お好きな数だけどうぞ」

 

「ありがとう。……うーん、そうね、三冊くらい頂こうかしら」

 

毎度ー。

 

と、こんなやり取りをしながら、俺は少し気になっていた季常ちゃんの事を聞いてみた。

 

「先生、季常ちゃんの事ですけど、……あの子、珍しい体質をしていますよね?」

 

「えぇ、そうね。 別に白髪や赤い目が珍しい訳ではないけれど、どうやらあの子は先天的に日の光に弱いみたいなの」

 

……やっぱりアルビノだったか。

確か寿命は長くないんだよな。

 

……あんな可愛い子が短命なんて、……ちょっと切ないな。

 

「……体調とかは、大丈夫なんですか?」

 

「えぇ、今は凄い元気よ」

 

今は、っか。

後どのくらい保つのだろうか。

 

「それも、これも、撈と華佗さんのおかげなの」

 

……は?

 

「……どういう事ですか?」

 

「三年前だったかしら? ある時急に撈が華佗さんを連れて私の所に訪れてね? これから旅に出るって、報告しに来た事があったのよ」

 

……流れが読めて来たぞ。

 

「その時に華佗さんが霊里を見つけてね? 後は解ると思うけど、鍼で一刺ししてあっと言う間に治療して下さったわ」

 

流石華佗の兄貴!

俺に出来ない事を平然とやってのける!

そこに痺れる憧れるぅー!

 

「後は長時間日の光を浴びなければ、健常な人と同じ様に過ごせる様になったんですって」

 

「姉さんの時も思いましたけど、本当に華佗さんは凄いなぁ」

 

「あら、貴方だって凄いわよ? 『神農本草経』この本は学術書としては最高と言える出来よ? 私はこの本が貴方の最高傑作だと思うんですもの」

 

「ありがとうございます」

 

流石は司馬徽。

全く以て、同意見だ。

 





さーて、言い訳タイムです。

馬良の真名、霊里について
最初水鏡塾の弟子ですので、○里にしようと考えました。
そして、応竜、鳳凰と来たので、麒麟か霊亀を使いたいなぁ、と思い、麒麟はなんとなく徐庶っぽいので、霊亀から使う事にしたんです。
けど、亀の字は可愛くないので、霊の字を使い霊里になりました。

しかし読み方が、リンリになる。
既にリンリンが存在するのにそれは不味い。
と言う事でれいりになりました。

納得行かない方も居るでしょうが、ご了承下さい。


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壮絶、ダンガンロンパ!

もっかい投稿。
出来れば休みの間にまた投稿したいです。


「元倹君、良かったら授業をしてみないかしら?」

 

えっ? 嫌です。

 

……と、言えたら、どんなに良かっただろうか。

 

書物の受け渡しが終わった後、俺は司馬徽にそう言われたのだった。

 

「……私程度が授業等、とてもじゃありませんが、受け持てませんよ」

 

「そんな事無いわ。 貴方なら素晴らしい教師になれるわよ」

 

……一体何の確信があってそんな事を言うのだろうか。

 

「それに、さっきも言ったけれど、ここの子達は皆貴方の事を尊敬しているでしょ? もし貴方が授業をしてくれるなら、とても喜ぶと思うのよ」

 

……おいおいおい。

だとしても、俺が諸葛亮や鳳統、またはさっきの季常ちゃんなんかを教えるの?

 

……いやいや、寧ろ俺が教えを学びたいくらいなんですが?

 

……蓮華様もそうだったけど、あんたら俺の事を何か勘違いしてないか?

 

俺はあくまで物書き。

そりゃ姉さんから色々仕込まれたから多少は知識が有るけど、歴史に残る程の本物の天才や英雄に俺が一体何を教えるってんだ。

 

「私をかってくれるのは有り難いですが、私程度が先生のお弟子にお教え出来る事が何もありません」

 

「私はそうでもないと思うのだけど、……うーん。 じゃあ今日一日、好きにしてみてちょうだい? 私はちょっと山へ山菜を取りに出掛けて来るわ」

 

へ?

 

「ちょっ!? 先生!?」

 

「じゃあ悪いけど、少しの間よろしくね?」

 

「む、無理ですって!? 先生? 先生!?」

 

……い、行ってしまわれた。

 

…………。

 

……。

 

え? マジで?

 

ど、どうしよう。

 

 

_____

 

 

どのくらい時間が経っただろうか?

俺が一人、客室に取り残されて唖然としていると、季常ちゃんがやって来た。

 

「失礼します。……あの、元倹さん? 呆然としていますが、大丈夫ですか?」

 

「あー、……うん。 いや、大丈夫じゃないかも。」

 

ちょっと理解出来ない。

司馬徽さん自由過ぎない?

雪蓮でもここまでじゃないぞ。

 

「は、はぁ。……あの、失礼ですが、先生はどちらに行かれたのでしょうか?」

 

「ははっ、……それは俺が聞きたい。」

 

山って言ってたけど、……ここら辺山しか無いし。

 

「それは困りました。 そろそろ授業の時間なのですが……。 元倹さん、何か聞いていませんか?」

 

「へ!? き、聞いてない、聞いてない!」

 

俺は何も聞いてないぞぉ!

詳細とかな!

 

「ふむ、……そうですか。……では元倹さん、先生の変わりに授業をお願い出来ないでしょうか?」

 

な ん で そ う な る !

 

「いや、先生を待った方が良いんじゃないかな? 先生が来る迄の間は自習時間って事で各自好きに学べば良いよ」

 

「成る程、確かにそれは良いですね」

 

そうでしょう、そうでしょう?

俺は関係無いよ、襄陽に帰るからね。

 

「では元倹さん、私に勉学をお教え下さい」

 

…………。

 

……?

 

「あの、……話聞いてたかな? 自習って言ったよね?」

 

「はい。 ですので私は、元倹さんから学ぶ自習をする事にしました」

 

お前は一休さんか?

俺の意思は無視か?

 

「いや、あのね、季常ちゃ……「駄目、……ですか?」……良いよ!」

 

……幼女の涙目は反則だと思うの。

 

 

_____

 

 

「あー、……初めまして。 知ってる方も居ると思いますが、私は廖 元倹と申します。 えー、今日は特別に皆さんの教師をする事になりました。 少しの間ですが、どうぞよろしくお願いします」

 

……結局、俺は教壇に立って鞭を振るう事になった。

いや、鞭持ってないけど。

 

とりあえず、自己紹介して回りを見渡して見たけど、まぁ幼女ばっかりだ事。

俺と同い年の徐庶が居ると思ったのだけど、とっくに卒業したらしい。

 

……ちっ、居たら俺のアシスタントとかさせたのに。

 

流石に幼女ばっかりの中に、そこそこ成長して大きくなった男の俺が混ざっていたら、絵面がヤバいぞ?

 

何? 幼女を愛でつつ敵をくっ……ケホンケホン!

 

いかん、変な電波を受信した。

俺もこの異常な状況に頭がやられた様だ。

 

「とりあえず、名前だけでも良いから、簡単な自己紹介をお願いしようかな? 扉側のそっちから順にお願い」

 

俺は季常ちゃんの名前しか知らないし、定番の自己紹介くらいはやって時間を稼がないとね?

 

っと、そしたらまぁ、有名な名前が出る事、出る事。

 

向朗、韓嵩、尹黙、李仁、潘濬、宋忠、崔州平。

 

流石に詳しくは知らないが、三國志を読んだり、プレイしたりしたら、どっかで出てきた名前ばっかだ。

 

……そして、ついに来た。

 

「は、はわ! しょ、諸葛 孔明でしゅ。……です」

 

お、おう。

まさかのはわわ幼女が諸葛亮だったでこざる。

 

え?

これが知力百?

 

……いやいや、人は見た目によらない。

化け物の様に強い美人達を俺は知ってるじゃないか。

きっとこの子も後数年したらど汚い“孔明の罠”を使う様になるんだろう。……きっと。

 

「あわわ~。 ほ、鳳 士元でひゅ。……で、でしゅ。……うぅ、朱里ちゃ~ん」

 

「が、頑張って、雛里ちゃん」

 

う、うん。

君が鳳統か。

 

……俺の中のイメージが……。

 

 

_____

 

 

「とりあえず、全員自己紹介したよね? じゃあ授業を始めようと思うけど、……あっ、今日は書物を使わないよ? 今日は討論会をしようと思う」

 

そう、俺は考えた。

いかにして今日の時間を潰すかを。

それが討論会。 つまりディベートだ。

 

これなら組分けして一つのテーマの肯定派と否定派を討論させるだけで、かなりの時間が潰せる。

しかも幼女とは言え、歴史に残る傑物達の討論だ。

これなら俺も聞いてて楽しい。

それに、俺が直接何かを解説したりして教えなくて良いしね。

 

「あ、あの、討論会とは何をするのでしょうか?」

 

まぁ普通は知らんわな。

 

「討論会って言うのはね、一つの題目を肯定派と否定派に組分けして、お互いの意見を戦わせるんだ。 どっちが勝ったかはあまり重要じゃないけど、一応審判は私が務めるよ」

 

「それにどんな意味があるのですか?」

 

「うん。 これはね、将来君達が何処かに士官する事があれば大いに役立つと思うよ? 自分の意見を相手に納得させる為に理論的に説明をしないといけないからね。 例えば策を考えた時や、君主を諫める時、または仮想敵地に論説しに行く時とかね。 それに、自分の意思ではない組分けになった時は、新たな視点からの新たな考えをする訳だから、凝り固まった頑固な考え方も無くなるよ?」

 

と、俺がディベートの説明をしたら、しきりに幼女達がキラキラした目で俺を見る様になった。

 

……いや、そんな反応は求めてなかったんだが。

 

「ま、まぁとにかく、一度私と君達で簡単に試してみて、それから本格的にやってみようか?」

 

「「「はい、よろしくお願いします、先生」」」

 

……先生は止めて欲しい。

 

「それじゃあ、題目は『始皇帝は英雄であるか、否か』……これで行こうか。 私が肯定派で、君達が否定派だ。 それでは、始めよう」

 

とは言ったものの、こんなもん俺の勝利以外はあり得ん。

 

高祖が絶対のこの時代、始皇帝は暴虐の皇帝と皆教えられている。

だから彼女等は嬉々として否定的な事を言ってくるが、……俺はその全てに反論出来る。

 

まぁ確かに非道な行いはあるが、それら全ては『大陸を統一した』の一言だけでも覆る程だ。

 

ましてやこの時代の知識だけでなく、前世の知識やキン○ダムの知識が有る俺からしたら、出来レース以外の何物でもない。

 

彼女達の有利かと思わせといて、俺が絶対に負けない仕組みだったのだ。

……すまんな、幼女達よ。

 

 

_____

 

 

「うぅ~、……始皇帝は英雄? でも反乱は起こっているし……」

 

「駄目、高祖様が悪人に思えてくる……」

 

「始皇帝は英雄。 私は解ってた」

 

や り す ぎ た

 

「はい、ここまで! 言ったでしょ? どちらが正しいかは関係無いよ? こんな風に自分の意見を相手に納得させる練習なの!」

 

俺がそう言うと、ぐったりした幼女達は俺に尊敬の眼差しを送って来る。

 

……いや、本当、すまん。

今回は俺が悪い。

 

「じゃあ、少し休んで本番と行こうか。 四半刻後に再開するから、それまで休憩」

 

俺がそう言うと、席を立つ者、さっきの討論を反芻する者、友人と意見を出し会う者とそれぞれ自由に動き始めた。

 

俺はそれを見てようやく一息つき、改めて自分が教師に向いてない事が良く解った。

 




幼女がグッタリするまでロンパする主人公。
最低だな、こいつ。


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これからのこと

思ったより、始皇帝うんぬんの感想が沢山きて驚きました。
皆、政の事大好きだな。

よーし、明日中迄にまた投稿出来る様に頑張ります。


その後の討論会は中々熱くなった。

 

題目は無難な物を選んだつもりだ

『十万の敵が攻めて来た、こちらの兵力は六万、抗戦すべきか降伏するべきか(なお、将軍や軍師の能力、兵の力量は考慮しない物とする)』

 

この題目の肝は、攻められる立場の専守防衛だと言う事、つまり地形等はこちらに有利である事、それでもなお四万の兵力差が有る事。

 

まぁ簡単に言って赤壁前の状況を、擬似的に簡易に言葉にした状況だ。

 

この討論は中々盛り上がったが、最終的に勝ったのは抗戦派だった。

 

……なんたって諸葛亮が居たからな。

そりゃ勝つよ。

奴は史実でも呉に一人で行って、降伏派を捩じ伏せたからな。

 

そして今回も中々凄かった。

仮の有利の地形を取ってからの戦術論をペラペラ語りだして、確かにこれなら勝てるかもと皆に思わせたからな。

俺も思わず唸って、拍手をしてしまったし。

 

この時ばかりは組分けをミスったと思ったね。

諸葛亮は降伏派に入れとけば良かった。

 

……だが問題が次の題目で起こった。

 

と言うのも、俺は二つ目の題目を用意していなかった。

何故なら、最初の題目でもう少し時間がかかって、それだけで今日を終えるつもりだったからだ。

 

そこで困った俺は、つい適当に

『酢豚は旨いか不味いか』

と、言ってしまった。

 

……いや、本当すみません。

 

だが予想以上にこの討論には熱がこもってしまって、最初の題目よりも大いに盛り上がってしまった。

 

優秀な人材達と言っても、そこは皆お子ちゃまの幼女達。

理論うんぬんよりも感情的になってしまって、一人の幼女が『酢豚なんて、美味しくないよぅ!』と、涙目で言った時にこの討論会は終了した。

 

……暫くの間、彼女達の食卓に酢豚が出る事は無いだろう。

この罪悪感、どうしてくれようか。

 

……ちなみに個人的に言わせて貰えば、パイナップルが入ってなかったら食べれない事もない。

……まぁこの時代にパイナップルが入ってる酢豚とか無いけど。

 

 

_____

 

 

「本日はありがとうございました、元倹さん。……多少問題もありましたが、実に面白い授業でした」

 

授業、……だったのだろうか?

 

客室に戻ってきて、季常ちゃんは俺に感謝の言葉を述べてるが、感謝される様な、授業らしい授業等俺はしていない。

 

「うん、……まぁあれで良かったなら、良いんだけどね?」

 

俺最初以外は討論聞いていただけだし。

 

「斬新で皆の刺激になる良い授業だったかと……」

 

う、うーん。

詐欺紛いの授業で幼女を涙目にしただけの気もするけど、……いや、忘れよう。

 

「それにしても、さっきの討論会での孔明ちゃんは凄かったね? 最初に会った時の様にはわはわしてなくて驚いたよ。……彼女は凄い大物になるんだろうねぇ」

 

まぁ、大物になるのが確定しているのを知っている訳だが。

 

……でも個人的に、ロードでエルメロイな感じの二世を期待していた、とは言えないな。

まぁそれは無いと解っていたけども。

 

「はい。 朱里ちゃん、……孔明はあの様に落ち着いている時は凄い優秀なんです。 先生からも雛里ちゃ、……士元と並んで伏竜、鳳雛と称される程ですので」

 

慣れてないのか、ちょこちょこ真名が出てくるのは仕方ないか。

 

「けど、季常ちゃんだって凄い才能あるだろう?」

 

「いえ、私は特に……」

 

「そうか?……ふむ、伏竜、鳳雛、と来たら、差し詰君は霊亀の子供、……幼亀って所かな?……なんてね? まぁ、君もあの二人に劣らず良い才能があるよ」

 

なんたって、白眉だし。

亡くなった時は孔明が泣いて惜しんだ程の人物だから。

 

「そう、……でしょうか?」

 

「うん、……まぁ俺に保証されてもあんま大した意味無いけどね?」

 

「いえ、そんな事ありません。……ありがとうございます、自信が付きました」

 

そう言って季常ちゃんは柔らかく微笑んだ。

今まで全く笑わないクールな子だったけど、笑顔は可愛いもんだ。

 

 

_____

 

 

「げ、元倹しゃん!……さん。 お、お話を聞いてもよろしいでしょうか!」

 

「お、お願いしましゅ。……す」

 

季常ちゃんが客室から退室して、司馬徽を寛ぎながら待っていた俺の元に、諸葛亮と鳳統がやって来てそう言った。

 

「まぁ、……良いけど、とりあえず、落ち着いて?」

 

俺ははわあわしている二人を深呼吸させて、話を聞く事にした。

 

「……それで? 何の話が聞きたいの?」

 

「はい。……元倹さんは、この大陸の未来をどう思っているのか、聞いてみたく……」

 

話題重っ!

えっ?

わざわざそれを俺に聞くの?

 

って言うか、まだ子供なんだからそんな事気にすんなと言ってやりたい。

 

「た、大陸の未来ね?……う、うーん、そうだねぇ。 まぁ近い内に荒れる事もあり得るかな?」

 

多分そろそろ黄巾の乱近いだろうし。

 

「……やっぱり元倹さんもそう思いますか」

 

やっぱりって事は君達も予想していたのか?

おいおい、幼女のくせに未来に絶望を抱き過ぎじゃね?

 

「元倹さんはその時どうなさるのでしょうか?」

 

「……うーん、実際にその時を迎えてみないと解らないね」

 

「……何処かに士官したりしないのですか?」

 

……まぁそれが一番濃い線だよなぁ。

 

「まぁそれも考えているよ? 個人的な友好なら呉郡の孫家に頼るのも良いし、陳留の曹 孟徳さんにも誘われているからね」

 

俺がそう言うと、二人は無言になって思案し始め、そして少し間を置いて、また質問を始めた。

 

「……あの、元倹さん自身が旗揚げ等はしないのですか?」

 

はぁ?

 

「いやいや、今の所そんな予定は全く無いよ?」

 

俺が旗頭とか何かの冗談だろ?

 

「そんな!? 元倹さんは大陸の未来を憂いて行動をしないのですか!?」

 

あ、熱くならないで?

 

「俺が行動をした所で、どれ程の力があるだろうか? それなら力ある主の元でその腕を振るうべきじゃないかな?」

 

華琳さんと雪蓮、どっちもあながち悪くないぞ?

 

……まぁ華琳さんの場合は死ぬ程忙しくなるだうし、雪蓮の場合は当主が仕事しないから腹立つけど。

 

「……元倹さんは、充分力ある方だと思うのですが……」

 

買いかぶりだ馬鹿野郎。

 

「……まぁ、そう言ってくれるのは有り難いんだけどね? 実際に本人達に会ってみたら解ると思うけど、本当に大陸に安寧をもたらすと思われる程の英雄は、引き込まれる様な不思議な魅力があるよ?」

 

そして、そんな物は俺には無い。

 

「……まぁとにかく、君達が大陸を憂うと言うのなら、色んな人達に会って見るのを勧めるよ」

 

……そしたら俺に旗揚げとかを勧めなくなるだろうよ。

そんな事しなくても、充分力ある英雄達が存在するもの。

 

「……その様なものでしょうか?」

 

「そうだね。 そこは自信を持って言えるよ。 俺に力が有ると言うのが勘違いだと解ると思うよ?」

 

俺がそう言うと、二人は納得いかない表情をして、頭を下げて退室していった。

 

……旗揚げか。

実は全く考えなかった訳ではない。

 

俺はこの暮らしを守る為に、襄陽を中心に義勇軍、もしくは自警団でも作って襄陽近辺だけでも自分で守ろうかと考えた事もあった。

 

黄巾の乱だけなら、それでも良かったかもしれない。

……けど、反董卓連合が組まれた後は本格的に戦乱の世が訪れる。

 

そして襄陽、いや荊州は大陸の中央として激しい戦地になる。

それを独自で守る事なんて出来るのか?

……出来る訳が無い。

 

仮に俺が荊州を乗っ取って、劉表から荊州牧の地位を奪った所で、北は魏、東は呉、下手したら西は蜀が出来る。

 

三国に囲まれて荊州に生きる道は無い。

仮に益州、蜀を奪うなら俺は劉備の変わりに三国志の英雄の一人として、戦い続けねばならない。

 

そして個人的な友好で呉と同盟を結ぶ?

 

……あほか。

なら最初から雪蓮に頭を下げて呉に士官するわ。

わざわざハードモードで三国志を生きるメリットが無い。

 

……でも前に華琳さんが言った様に、もう時間は少なくなって来ている。

 

……どうしたものか。

 




まぁ主人公独自ルートはこの様な理由で難しいですね。
期待された方も居ると思いますが、独自ルートはこの作品では書きません。


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押し掛け妹 霊☆里

連続投稿出来たぞぉー!
何か最近の連続投稿具合に作者が暇人に思えてくるでしょうが、……そんな事ないからね?
と、言い訳しておきます。

そして、この話で十四歳編終了です。


さて、水鏡塾から帰って来て一週間。

俺は比較的穏やかな日常を送っていた。

 

店の状況をチェックし、麻雀をし、本を読み書きし、山へ行く。

……ずっとこんな日が続けば良いのに、……と、思ったのがフラグだったのだろうか?

 

「と言う事で、どうぞ私を住み込みで雇って下さい」

 

……どっかで聞いた事ある台詞だなぁ、おい。

 

季常ちゃんが、お店の中で俺に土下座をしたのだった。

 

これ俺が昔姉さんにやった事じゃねぇか!

 

あぁ、そういや季常ちゃんに姉さんとの馴れ初めを話したんだっけ?

……いやいや、だからって普通模倣なんてしないよ!?

 

子供に土下座されるなんて、……姉さんは昔こんな気分だったんだろうか?

……今更ながら今度会った時は土下座で謝ろう。

 

「き、季常ちゃん? とりあえず、話を聞かせてくれないかな?……本当、その状態は色々不味い。 君を雇う前に俺が死ぬ」

 

社会的にな。

幼女を土下座させるなんて、鬼が付く畜生じゃないか。

……そういや俺、異名に鬼が付くんだったや。

 

とにかく、俺は急ぎ季常ちゃんを立たせて、席へと案内してから座らせた。

 

「えーと……それで? 話が見えないんだけど?」

 

「はい。 私を元倹さんのお店で雇って欲しいのです」

 

「……いや、何で?」

 

「私は元倹さんにお仕えして、元倹さんから沢山の事を学びたいのです。 そして貴方の役に立ちたいのです」

 

……なんだよお仕えするって。

そんなもん募集してねぇよ。

 

「いや、あのね季常ちゃん……学ぶなら、それこそ水鏡先生からいくらでも学べるじゃないか。 俺の所に居たって大した事学べないし、将来有望な季常ちゃんの為にもよろしくないよ」

 

「……選ぶ言葉を間違えました。 私が、私の為に、元倹さんへとお仕えしたいのです」

 

……何故だ。

何がそこまでこの子を駆り立てる?

 

「……元倹さんは、私を幼亀と仰りました。 実際に私にそれほどの才が有るかは解りませんが、もし有るなら、私はこの自分の才を、私を認めて下さる元倹さんの為に使いたいのです」

 

……あの時の誉め言葉が理由か。

 

「……君の才を認める人なら、いくらでも居ると思うんだけどねぇ」

 

「……かも、しれません。 だけど、貴方が最初でした。」

 

俺が最初って、……おいおい、もっと誉めてやれよ司馬徽。

人は言葉にしないと伝わらない事が多いんだぞ?

 

「それに、それだけじゃありません。 孔明と士元から聞きました。 元倹さんは、いずれ英雄と呼ばれる誰かに仕えるつもりがあると」

 

「うん、まぁ……そうだね」

 

「貴方はきっと、その英雄と呼ばれる方の右腕となられるお方です。 その時は、どうぞ私をお使い下さい。 その時こそ私は貴方に認められた才を存分に発揮しましょう」

 

……マジかぁ?

……表情を見る限りマジだな。

 

俺が右腕とか何かの冗談だと思うんだけどなぁ。

雪蓮の右腕は冥琳だし、華琳さんの右腕は、……誰だ?

荀彧? 荀攸? 司馬懿……は、どちらかと言えば曹丕か。

……とにかく、俺じゃない事だけは確かだと思うけど。

 

でもまぁ、確かに季常ちゃんが……馬良が仲間になるならとてつもないアドバンテージだよな。

現在のスペックがどの程度かは解らないけど、もし将来、史実並みのスペックになるなら、超有能待った無しだし。

 

……けどなぁ、俺を慕って来てくれた子を利用して出世するみたいで、そう言うのは嫌だなぁ。

 

「水鏡先生は、この事知っているの?」

 

「はい。 先生にはご報告し、卒業の証として扇子を貰いました。 また、『元倹君はこれからの先の世の重要な人物の一人になるだろうから、良く尽くすように』……と」

 

……なんて事言っちゃってくれてるの司馬徽さん。

 

「そ、そっか。 えっと、……家の人は? 馬家は有名な名家だろう? 反対とかされなかったかい?」

 

「いえ、特には。 私は四女ですから、あまり家は関係ありませんので」

 

……う、うーん。

名家の事情は良く解らんな?

 

「……はぁ、……よしわかった。 君が納得するまで、好きなだけ居たら良いよ」

 

……とりあえず今は、可愛い妹分が出来たと思おう。

 

「はい。 好きなだけ、居させて貰います」

 

そう言って笑う季常ちゃんは、やっぱり可愛かった。

 

 

_____

 

 

「さて、これから一緒に暮らして行く訳だけど? 俺と君の関係をはっきりさせておこうか」

 

……懐かしいやり取りだなぁ。

まさか今度は俺が言う羽目になるとは。

 

「はい。 店主と店員、主と臣下の関係です」

 

俺の時とは若干違うけど、やっぱ似たような事を言うよな。

 

「ふふっ、……違うよ。 それも間違ってないんだけどね? 今日から俺達は、同じ家に住み、同じご飯を食べ、同じ職場で働き、同じ書を読む」

 

……あぁ、本当に懐かしい。

今でもあの時の姉さんの温もりをまだ覚えている。

……俺とこの子では事情が違うけど、……出来る事なら、この子にもあの時の喜びを少しでも感じて欲しいもんだ。

 

「俺達は、家族になるんだ。」

 

「……家族、ですか?」

 

「あぁ、そうさ。 俺は今日から君の兄貴だ」

 

……流石に姉さんの時の様に、親代わりとは言えないけどね?

 

「兄貴……兄さん?」

 

「好きに呼んで良いよ?……それから、家族になるのだから真名を交換しようか。……俺の真名は蒼夜、よろしくな?」

 

「……改めまして、霊里と申します。……よろしくお願いします、蒼夜兄さん」

 

兄さん、か。

良い響きだ。

 

俺の妹がこんなに……ケホンケホン!

俺の妹は可愛いに決まってんだろ!

 

「あぁ、よろしく霊里。 それと口調は、崩しても良いんだけど……」

 

「私はこれが素ですので」

 

「そっか。 まぁこれから家族になるんだ、自分の楽な様に喋れば良いよ」

 

……どんな家庭事情なら敬語が素になるか解らんが、まぁ本人が楽なら良いか。

 

「それじゃあ、霊里。 まずは俺達の家に行こうか?」

 

 

_____

 

 

「ここが俺達の家だ。 これからここが霊里の帰ってくる場所だ」

 

「……ここがお家。……凄く、大きいです」

 

ちょっ!?

その台詞駄目!

 

 

_____

 

 

「ここが広間、あそこは客室、そこが俺の部屋で、とりあえずこの空き部屋が、今日から霊里の部屋だな。 んで、こっちが台所だけど……霊里は料理出来るかい?」

 

「はい。 水鏡女学院は交代制での料理当番でしたので、私も一通りの料理は出来ます」

 

「おー、じゃあ今日は後で俺と料理しようか」

 

「はい。 お願いします、兄さん」

 

その後、霊里と料理したが、姉さんの時の様な事は起こらず、美味しい料理が出来上がった。

 

……子供に負ける姉さんの料理の腕って……。

 

 

_____

 

 

-一ヶ月後-

 

……順調だ。

恐ろしく順調だ。

 

……俺が霊里に教える事は何も無かった。

最初に仕事の説明をするだけで、後は何する訳でもなく全てを上手くこなしている。

 

何だ、このスーパースペック幼女は?

霊里は今七歳だぞ?

俺が七歳の時って言ったら、……ごめん、やっぱ何でもない。

 

いや、それでも俺の時以上にスーパースペックなのは間違い無いけど。

 

「兄さん、仕事が一段落しました。 何かする事はありますか?」

 

「だったら好きに休憩しても良いけど?」

 

……しかも仕事熱心。

霊里の爪の垢でも雪蓮に飲ませてやろうか?

 

「でしたら、“あれ”がしたいです」

 

「了解。……残念ながら、もう俺よりも霊里の方が強いからなぁ。 お手柔らかに頼むよ」

 

「ふふっ、……手加減は無しです」

 

……霊里が嵌まったのは将棋だ。

最初の頃は俺が勝っていたが、好きな物こそ上手なれ、って事でいつの間にか俺よりも強くなっていた。

 

流石に姉さんの域には達していないが、既に出会った当時の冥琳くらいには強いかもしれない。

 

……そして最近は俺をボコボコにするのを楽しんでいらっしゃる。

 

「……参りました」

 

「兄さん、本気を出して下さい」

 

本気だけど!?

 

姉さん、早く帰って来てこの子をやっつけて?

 




十四歳編は相当短く纏まりましたけど、寧ろ本当はこのくらいが普通なんです。
十二歳の孫家編が長すぎただけです。


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閑話 カン! リンシャンカイホー!

今回も麻雀の話です。
作者が麻雀好きな理由のせいですが、麻雀マンガのネタがありますので、解らない方も居ると思いますが、ご了承下さい。

能力麻雀は麻雀じゃない?
あれは女の子がキャッキャウフフしてるのを楽しむマンガです。


-蒼夜 十四歳-

 

……さて、霊里を妹として迎える事になった訳だが、……挨拶とか、行った方が良いのかな?

 

姉さんの時は、姉さんが家出していて楊家との関係が悪かったからそんな事しなかったけど、霊里の場合は違うからなぁ。

 

……うわぁ、嫌だなぁ。

名家に挨拶とか超めんどくさそう。

 

特に俺ってば庶民だから、色々言われたりしねぇかなぁ?

 

「……なぁ霊里、……親御さんに挨拶とか行った方が良いかな?」

 

「特に必要無いと思います」

 

え、本当?

 

「良いのか?」

 

「はい。 前にも話した通り、私は四女ですので家を継ぐ必要もなく、わりかし自由な立場です。 私が元倹さんと言う方に仕えようと思う、と言う旨を伝えた時も、じゃあ頑張ってね、の一言で終わりましたので」

 

……ちょっと薄情過ぎねぇか?

 

「勘違いされない様に言っておきますが、私の意思を尊重してくれる、良い家族ですよ?」

 

……そんなもんか?

まぁ、名家の在り方ってのはよう解らん。

 

「なら良いんだけどさ」

 

「……でも、水鏡女学院にはもう一度挨拶しに行きたいです。……先生にもそうですが、朱里ちゃんや雛里ちゃんにも会いたいです」

 

「あー、……それもそっか。 よし、ならもう一回水鏡女学院に行くか。 俺も水鏡先生に霊里をしっかり預かる事を伝えたいし」

 

……まっ、友達に急に会えなくなるのは寂しいしな。

……そういや俺も、そろそろ二ヶ月近く雪蓮と冥琳に会ってねぇなぁ。

今度霊里を連れて孫家に行くか。

 

「でしたら兄さんに頼みがあるのですが……」

 

霊里が頼みとは珍しいな。

滅多に自分の意見を主張しないし、わがままなんて言った事ないのに。

 

「おー、俺に出来る事なら何でも言いな?」

 

「はい。 出来れば、友人にお土産として、将棋と麻雀を贈りたいのです。 どちらも珍しい遊戯ですし、きっと皆好きだと思いますので」

 

あー、成る程。

うん、確かに好きそうだなぁ。

頭の良い人達はこの手の遊び好きだよねぇ。

 

……冥琳とか冥琳とか冥琳とか。

後、秋蘭さん。

 

「了解。 じゃあお土産を用意してから、そうだな……十日後くらいに出発しようか」

 

「はい。 ありがとうございます兄さん」

 

いやいや、可愛い妹のたまのお願いくらいは兄として聞いてやらねばね?

 

 

_____

 

 

と、格好つけたのは良いが……

 

「お、重い」

 

山道に雀卓は死ぬ程キツかった。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「お、おぅ、任せろ」

 

霊里の前だから何とか耐えているが、霊里がいなかったらキレて壊している所だぞ。

 

……くっそ、下手な本の束より重い。

分厚過ぎてライトじゃないライトノベルの全巻セットより重いんじゃない、これ?

 

将棋盤は軽いから良いのだが、流石に雀卓はキツい。

最初、本当はマットと牌と点棒とサイコロだけ渡そうかと考えた。

……だけど妹の初めてのお願いだぞ?

そりゃ完璧な状態で渡すべきだろ。

 

と言う事で、俺は雀卓を二台作って押し車に乗せたのだが、そのせいで瀕死になっている。

 

……妹に格好いい所を見せるのも楽じゃないぜ。

今なら多少は雪蓮の気持ちが解る。

 

こんなん下手な修行よりも良い鍛練になるわ。

 

「……私のわがままで、……すみません兄さん」

 

「ばっか、お前! こんなん余裕だっつうの! 妹はお兄ちゃんにわがままを言うもんだぞ、気にすんな!」

 

そうだ、頑張れ俺!

負けるな俺!

 

 

_____

 

 

「つ、着いた、な」

 

ぶはぁ、ぶはぁ。

こりゃ明日筋肉痛確定だわ。

 

「はい。 ありがとうございます兄さん。 格好良かったです」

 

おぅ、その為に頑張ったんだ。

 

そして、一呼吸ついてから俺と霊里は水鏡女学院の門を潜った。

 

「まずは先生に挨拶しなきゃな。……この時間は、授業でもしてるかな?」

 

「そうですね。……そろそろ終わる時間かと」

 

「だったら教室の近くで待ってようか」

 

そう言って、俺と霊里は教室の近くで水鏡先生を待った。

 

 

______

 

 

「あら? 霊里に元倹君。 まぁ、急にどうしたの?」

 

「この間振りです先生。 今日は霊里を預かる事にした挨拶を先生にしようと思いまして」

 

「先生、私は正式に蒼夜兄さんに仕える事になりました。 先生から学んだ事を良く生かせる様に努力して仕えます」

 

授業が終わり、教室から出てきた司馬徽は俺と霊里に気付いて、嬉しそうに近づいて来た。

 

「あらまぁ、それでわざわざ挨拶に来てくれたの? 手紙を一つ寄越すだけでも良かったのに。……相変わらず律儀ね、元倹君」

 

いやー、こう言うのは大事でしょ。

……とか言っときながら結局家族には挨拶に行かなかったっていうね。

 

「それにしても、“兄さん”ねぇ。……元倹君、まさかとは思うのだけど……」

 

「誓ってやましい事はありません!」

 

いや、本当! マジで!

俺はどちらかと言うと、清楚なお姉さんタイプが好きなんだよ!

 

「うふふ、冗談よ?」

 

いや、本当止めろよ。

こんな幼女ばっかの所でロリコン疑惑とか、洒落になってねぇよ。

 

「私は別に兄さんだったら構わないのですが……」

 

ちょっ!?

俺が構うよ!?

 

「あら~……」

 

「……いや、あのね霊里、気持ちは嬉しいけど、人前で言ってはいけない事もあるからね?」

 

俺は断じてロリコンじゃない!

 

 

_____

 

 

俺のロリコン疑惑は置いておき、……いやまぁ、置いておきたくないけども、ともかく置いておき、司馬徽に一通り挨拶した俺と霊里はお土産を塾生達に渡すべく、大きめな広間へとやって来た。

 

「おー、ここなら雀卓も二台設置出来るな」

 

「はい。 ここは皆で雑談等をする為の部屋ですので、かなり広めに出来ています。 それに、盤戯等も基本的にはここにありますので」

 

成る程。

 

「じゃあ俺は早速ここに雀卓を設置しておくから、霊里は友人達を呼びに行ったらどうだ? 時間をかけて話したい友人も居るだろ?」

 

「そう、ですね。……では兄さんのお言葉に甘えさせて頂きます。」

 

うぃうぃ。

 

俺は霊里に片手を振って応え、雀卓の設置に取りかかった。

だがまぁそれ程時間はかからなかっただろう。

俺は半刻も経たずに設置を終えて、暇だったので、一人ツモの練習をしていた。

 

……なんか、こう、サイクロンなツモとか出来ないだろうか?

徐々に点数アップとか絶望的過ぎて格好いいんだけどなぁ。

 

「あっ、元倹せんせ……何を、なされているのですか?」

 

俺が雀卓をガシッと掴み、今からサイクロンなツモを練習しようとした所で、後ろから塾生に声をかけられた。

 

……死にたい。

 

 

_____

 

 

「……これが麻雀で、これが将棋です。 決まり事は私が教えますので、皆さんでやってみませんか?」

 

あの後すぐに霊里が諸葛亮等と戻って来たので事なきを得たが、俺のメンタルはズタボロだったりする。

 

……あの時の幼女の困惑気味な不審者を見る目はトラウマになりそうだ。

君はいつもあんな恥辱に耐えてたんだね、俺には真似出来そうにないよテルー。

 

そう思いながら、俺は部屋の隅っこで幼女達が楽しそうに遊んでいるのを眺めていた。

 

……なんか心が洗われる光景だな。

……これもこれで変態臭いな。

 

さて、ここは部屋を出るべきかと悩んだ所で、霊里から声をかけられた。

 

「兄さん、そんな隅に居ないで一緒に遊んで下さい。 一通り皆さんには決まり事を教えたので、兄さんは麻雀を皆さんと一緒に遊んであげて下さい」

 

ふっ、おいおい、俺が麻雀しちゃったら幼女達の心が折れちゃうよ?

全く仕方無いなぁ。

 

「よっしゃ、誰でもかかって来い」

 

サイクロンツモは出来ないけど、疑似的な御無礼を見せてやんよ!

 

 

_____

 

 

それから一刻程経っただろうか?

俺は御無礼の嵐で幼女達を倒しまくった。

無論、心が折れない程度にね?

 

「げ、元倹しゃん、次は私とお願いしましゅ」

 

お、来たな鳳統。

 

「わ、私も参加させて下さい」

 

諸葛亮まで参加か。

 

「なら最後の席は私が座ります」

 

霊里ね。

……ふむ、この中だったら最強の面子だな。

 

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、三人纏めてかかって来なさい」

 

それでもなお負けんわ。

俺に勝ちたきゃ、あの金髪ドリルおっぱいでも連れて来るんだな。

 

「いえ、そうしたいのは山々なのですが、私は雛里ちゃんに将棋で負けてしまいましたので、ここは雛里ちゃんに勝つのを目標にやらせて頂きます」

 

お、おぅ。

珍しく霊里がムキになってるな。

 

「あわわ~、ぐ、偶然だよぉ」

 

「いえ、麻雀ならともかく、将棋に偶然はありません。……私の生涯の宿敵と判断しました」

 

「あわ!? しゅ、朱里ちゃ~ん」

 

「あはは、が、頑張って雛里ちゃん。……霊里ちゃんもあんまりムキにならないで?」

 

う、うーむ。

霊里に将棋で勝ったのか、凄いな。

……少なくとも俺よりも強いって事だよな?

……まぁ解りきっていた事か。

 

ちょっとギスギスした中、麻雀は始まった。

 

 

_____

 

 

「ツモりましたぁ。 三千・六千です」

 

お、やるな諸葛亮。

 

「あ、あわ、それロンです。 三千九百です」

 

ふむ、鳳統も中々。

 

「ツモ。 四千全」

 

うむ、俺と打つ事が多いから霊里が少し抜けているかな?

 

……さて、そろそろ、

 

「御無礼、ツモりました。 三千・六千です」

 

「御無礼、六千全です」

 

「御無礼、八千全です」

 

あっ、マジで仕上がちゃった。

 

「御無礼、ツモりました。 一万六千全です。 全員トビ終了ですね?」

 

……あー、ミスった。

ここまでするつもり無かったのに。

 

「あわわ~、朱里ちゃ~ん、グスン」

 

「ひ、雛里ちゃ~ん、グスン」

 

「……鬼」

 

お、鬼じゃありません、お兄ちゃんです。

 

「いや、本当ごめん」

 

……これが諸葛亮と鳳統のトラウマにならなきゃ良いけど……。

麻雀は楽しいゲームなんだけどなぁ。

 

……俺はその日、幼女達にちょっとしたトラウマを与えて、襄陽に帰った。

 

後日霊里から聞いた話だと、諸葛亮も鳳統もいずれ俺を倒すのを目標に麻雀を再び始めたらしい。

 

……良かった。

 




後一回程閑話を挟んで、十五歳編の予定です。

-追記-
サイクロンなツモ
宮永 照の通称コークスクリューツモ。

画像をアップしましたが、規約違反っぽいので消しました。


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閑話 兄貴と姉貴

うーん、山なし落ちなしの久々な日常モードな感じの話です。


-蒼夜 十四歳-

 

さてそろそろ建業に行こうか、と考えた時に冥琳から一通の手紙が届いた。

 

『お前に返す金銭の準備が整った。 暫くしたら、久方振りにこちらから襄陽に雪蓮と出向こう。 周 公瑾』

 

あー、そういやそんな約束してたっけ?

別に返さなくても良かったのに、律儀なやっちゃな。

 

「おーい、霊里」

 

「何でしょう、兄さん?」

 

俺が霊里を呼ぶと、霊里はトコトコとやって来た。

 

「暫くしたら、俺の大切な友人が訪れるから、歓迎の準備を手伝ってくれる?」

 

「友人……ですか?」

 

「ん、友人。 または悪友とも言う」

 

雪蓮に限っては、だけど。

 

「はぁ、解りました。 それで、何をしたらよろしいのでしょうか?」

 

「そうだな、まずは……家の掃除からだな」

 

最近大掃除とかしてなかったし。

 

こうして俺と霊里は雪蓮達が到着するまで、色々と準備をする事にした。

 

 

_____

 

 

「おいっす~♪」

 

「おいっす~……じゃねぇよ。 来るの早すぎるんだけど?」

 

手紙が届いてから翌日、雪蓮と冥琳は即座に襄陽に現れた。

 

これ絶対手紙を出したと同時に出発してるよね?

次の日に到着するのは暫くって言わねぇよ。

 

「ふむ、何時もは私達が色々とお前に驚かされているからな、たまには私達がお前を驚かせてみようと言う試みだ」

 

……お前の発案かよ。

そんなドッキリいらねぇんだよ。

 

「……まぁ良い、とりあえず中に入れ」

 

「あっ、だったらこの荷物どうしよっか?」

 

雪蓮がそう言うので、俺は彼女達の後ろにある大量の金銭を見た。

 

「別に持って帰って良いぞ? って言うかどうやって持って来たんだよこれ」

 

まさか雪蓮が頑張って運んで来たのか?

……それはそれで笑えるな。

 

「いや、お前に返金する為に持って来たんだから、持って帰る訳無いだろう。……それは建業から襄陽に移動する商人に持ってこさせたものだ」

 

あぁ、成る程。

そんなやり方もあるのか。

 

「んじゃまぁ、庭にでも置いておいてくれ、後で適当に確認するよ」

 

「適当ではなく、ちゃんと確認してくれ。 言っておくが、後で返済を終えた書類も書いて貰うからな? これは孫家の信用にも関わる問題だ。 借りた金はきちんと返すと言うのを示さないと、孫家の信用が落ちる」

 

「めんどくせぇなぁ。 貸したんじゃなくて、お前達に渡した事にすりゃ良いだけなのに」

 

「……はぁ。 もしお前が孫家の一員ならそれも良かったのだろうが、あくまで個人的な友好でそうする訳にもいかん」

 

「そんなもんか?……まぁ良い、解ったよ、後できちんと確認する」

 

あーあ、金が増えすぎても困るんだけどなぁ。

 

 

_____

 

 

「ようこそ、いらっしゃいました。 伯符様、公瑾様、どうぞごゆるりとおくつろぎ下さい」

 

「「「……」」」

 

俺達が家の中に入り、広間へと足を運んだら、霊里が正座して三つ指ついて雪蓮と冥琳を出迎えた。

 

……違うんだ霊里、歓迎ってのはそう言う事じゃない。

 

「……蒼夜、これは……」

 

「待て、まずは話を聞け」

 

「いやぁ~、これは弁明の余地は無いでしょ」

 

あるよ! きっとある!

 

「いや、話を聞けって! この子は季常つって、俺の店の店員さん!」

 

「はい。 そして兄さんの妹です」

 

そうだけど、タイミング!

言うタイミング考えて!

 

「使用人ならまだしも、……妹って。 言い訳はあるかしら元倹さん?」

 

元倹さん!?

 

「おい、待て雪蓮。……おいっ、あからさまに距離を取るんじゃねぇ!」

 

「そうか、良かったな蒼夜」

 

め、冥琳!

まさかまたの超理解でこの状況を理解してくれたのか!?

 

「ここが建業なら詰め所に招待している所だ。……一応弁明は聞いてやろう。 最後の言葉くらい、友として聞いてやる」

 

冥琳さん!?

 

……この後めちゃくちゃ説明した。

 

 

_____

 

 

「ふ~ん、蒼夜に仕官ねぇ」

 

「あぁ、俺は別に官位とか無いのにな」

 

公的にはただの庶民、廖 元倹です、どうぞよろしく。

 

「たが、人を見る目は間違っていないだろう。 確か水鏡女学院の出身なのだろう?」

 

「はい。 二年間、水鏡先生の元で学ばせて頂きました」

 

「水鏡女学院の出身ならどこへだって仕官出来るでしょうに」

 

「そうだな。 実際、孫家に来ても間違いなく雇うだろう。 しかも馬家の白眉と言ったら中々有名だ」

 

あ、やっぱこの世界でも有名なんだ?

 

「もったいないお言葉ですが、私は兄さんに尽くそうと思っております」

 

……嬉しいぞ、霊里。

嬉しいんだけど、雪蓮と冥琳の視線が痛い。

 

「……ほんとに幼女趣味じゃないのよね?」

 

「違う! 俺は清楚なお姉さんな感じの人が好きなの!」

 

「……威方殿のようにか?」

 

ち、違うわい!

確かに初恋ちっくなのは姉さんだったけど、今では家族だと思ってますぅ!

 

「姉さんは家族だっつうの。 俺は真剣に華佗と上手く行くのを願ってるからね」

 

「え~? じゃあ冥琳は? 中々清楚なお姉さんでしょ?」

 

「はんっ、そんながっつり胸元から臍まで空いてる服を着る様な痴女は清楚って言いませんー」

 

清楚を辞書で調べて来い。

 

「ほぅ? 私の服に文句をつけるか。……これは孫家に喧嘩を売ってると見なしても良いか?」

 

……あぁ、そういや孫家はそんな服来ている人ばっかだったな。

 

「逆に聞くが、昔から思ってたけどその服は恥ずかしくないのか?」

 

「ないな」

 

ないのか。

 

「ま、まぁお前が良いんだったら良いんじゃねぇの?」

 

何時の時代も女のファッションはきっと男には理解出来ないのかもしれないな。

 

「……羨ましいです」

 

れ、霊里!?

君はあんな痴女になったらいけないよ!?

 

「私は生まれつき日の光に弱いので、いつも服を着こんでいるのです。 特に暑い日は危険です。 暴力的な日差しに、例え影にいても暑いので服を着こんでいる私にはツラいのです」

 

あ、あぁ、そういう。

 

「私も一度で良いので、公瑾様の様な格好や水着なんかを来てみたいです」

 

う、うーん。

水着はともかく、冥琳の服はどうだろう?

 

「ふむ、生まれつき日の光に弱いのか。 ならば呉郡辺りはキツいだろうな」

 

「そうね~、あそこら辺は日差しがキツいからねぇ」

 

まぁ、君達の肌を見れば解るよ。

綺麗に焼けてるからね。

 

「まぁ、霊里のその雪の様な真っ白な肌も綺麗で良いと思うよ?」

 

「……はい。 ありがとうございます兄さん」

 

俺が霊里をフォローすると、霊里は頬を少し赤く染めて微笑んだ。

 

……おい、良い感じに纏めようとしてんのに、コソコソしてんじゃねぇよ、雪蓮、冥琳!

やましい事は無いって何度も言ってんだろ!

 

 

_____

 

 

「それにしても、蒼夜も妹持ちかぁ~。……上の気持ちも少しは解った? 特に下が優秀だと色々とあるわよねぇ」

 

「ほんと、それな。 格好つけるのも楽じゃねぇよ。 霊里なんて俺が教える事何にも無い程優秀だし、才能に関しては俺以上にあるだろうしな」

 

俺と雪蓮の二人は、霊里と冥琳が将棋を始めて集中してるのを少し離れて見、酒を嗜みながら妹談義を始めた。

 

「蓮華もそうなのよねぇ。 どうも私や母様の影ばかり追いかけてるけど、実際の器なら蓮華の方が大きく優秀だと思うのよねぇ」

 

「……確かにな。 お前の器が小さい訳じゃねぇけど、蓮華様は成長すりゃあ良い君主に成るだろうよ。……が、未だ時代がそれを許さねぇな。 最近、あちこちで賊の噂を聞くし、中央の腐敗が地方にまで聞こえて来る。……とても蓮華様の成長を待つ余裕はねぇ。 お前が自らの覇で纏めあげるしか道はねぇよ」

 

……これは言わないでおくが、治世なら確かに蓮華様……孫権の方が良い君主だが、乱世なら目の前の馬鹿野郎の方が向いているだろう。

 

「おっ、蓮華の事ベタ褒めねぇ。 蒼夜だったら蓮華を託しても良いわよ?」

 

「茶化すな」

 

「……解っているわよ。 これは母様のやり残し。 代わりに私が蓮華が成長するまで守ってあげるわ」

 

「ふっ、格好いいぞ、お姉ちゃん」

 

いつもこうなら本当、格好いいのに。

 

「ふふん、蒼夜だって格好いいわよ、お兄ちゃん?」

 

と、雪蓮が霊里達の方を指差しながらそう言うので、なんだろうかと見てみたら、霊里が冥琳に将棋で負けて俺の方へとやって来た。

 

「兄さん、敵を討って下さい」

 

こ、これの事か。

流石に冥琳に将棋で勝てねぇよ。

 

「ま、麻雀じゃ駄目?」

 

……その後冥琳に将棋でボコボコにされ、仕返しに麻雀で御無礼を見舞ってやった。

 




次回から成人期です。

前もって宣言しておきます。
原作スタートは十七歳からです。


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成年期 原作前 姉 帰還

成年期の始まりです。
なるべくさくっと纏めて原作スタートしたいです。


-蒼夜 十五歳-

 

「や、ただいま、蒼夜」

 

うだる様な暑い夏の日。

我が姉、楊 威方が襄陽に帰って来た。

 

 

_____

 

 

「ったく、帰って来るなら前もって連絡くらい寄越せよ。 何も準備してねぇよ。 あー、悪い霊里、ある程度食料と酒を買って来てくれ。……ほら、姉さんも久し振りに自分の部屋を片付けてくれ。 たまに掃除はしてたけど埃とか被ってるかもしれないから、窓も扉も全開にして空気を入れ換えて?」

 

「は、はい。 解りました」

 

ほんともう、急に帰って来るんだから。

この人、旅の途中でさえ滅多に手紙を寄越したりしなかったから俺も手紙すら出せずに悶々としてたのに。

 

……ほんともう、全くもう。

 

「……はは、元気そうで、何よりだよ」

 

あんたもな!

 

「所で、何で霊里ちゃんが居るのかな? 僕何も聞いてないけど?」

 

「連絡寄越さなかったのは、姉さんだろうが! 俺に何処に連絡しろって言うんだよ!」

 

言うに事かいてこの野郎!

 

「いや、まぁそうなんだけどね? 出来れば先にその説明からして欲しいなぁー……なんて」

 

「まずは部屋の掃除! それから風呂に入って来い! 説明はその後だ」

 

「……ほんと君は昔っから、……一体どこのお母さんだい?」

 

「ぶつぶつ言ってないで行動して?」

 

ほんともう、全くもう。

 

 

_____

 

 

「さて、……じゃあそろそろ説明してくれるかい?」

 

「住み込みで霊里を雇った。 妹になった。 以上」

 

「何の説明にもなってないよ!?」

 

うっせーな。

俺はどちらかと言えば姉さんの話を聞きたいんだよ。

 

「では私から説明させて頂きます」

 

「うん、頼むよ霊里ちゃん」

 

って言うか、さっきもそうだったけど、

 

「その前に、何で姉さんが霊里の真名知ってんの?」

 

「あれ? 霊里ちゃんから聞かなかったのかい? 僕と華佗は前に水鏡女学院で霊里ちゃんに会った事があるんだよ」

 

それは知ってる。

華佗が霊里を治療した話なら司馬徽から聞いた。

 

「それでその時に華佗が霊里ちゃんの病気を治療してね? それでその後、元気になった霊里ちゃんと僕達は真名を交換したんだ。 ね? 霊里ちゃん」

 

「はい。 撈さんと華佗さんには大変感謝しております」

 

成る程な。

まぁ、考えてみりゃそりゃそうだ。

俺と姉さんも華佗に姉さんが治療された後に真名を交換したしな。

 

「って言うか、その華佗さんは?」

 

「いや、だからその前に霊里ちゃんの説明をだね……」

 

ちっ、気になるのに。

 

「簡潔に言えば、兄さんの説明で間違っていません。 私が水鏡女学院を訪れた兄さんに惚れ込んで、ここを訪れ兄さんに雇って頂き、妹にして頂きました」

 

「ほ、惚れ込んで?」

 

……あー、なんとなく解って来たぞ。

霊里は説明がド下手なんだな?

そうじゃなきゃ、俺が幼女をタブらかしたロリコンの変態になっちまう。

 

「勘違いすんなよ、姉さん? 俺の将来性や人間性に惚れ込んだって意味だ。 後、妹にしたって言うのは、……まぁあれだ、俺と姉さんみたいなもんだ」

 

「あ、そう言う事。 良かったよ、身内からまさか幼女趣味が現れるなんて流石に許容出来ない事態が起こらなくて。」

 

ほんとにね?

俺自身許容出来ないからね?

 

「そっか、なら霊里ちゃんは僕の妹でもあるね。 改めてよろしくね、妹の霊里ちゃん?」

 

「はい。 兄さんの姉さんなら私の姉同様です。 改めてよろしくお願いいたします、撈姉さん」

 

うむ、姉と妹が仲良くするのは俺としても嬉しい事だ。

でもこれで三人の義兄弟か。

桃園で何か誓いでもしようか?

……近くに桃園とか無いけど。

 

「これで霊里の説明は終わったな? 解らない事があるならまた聞いて?……さて本題だ。 華佗さんはどうした?」

 

もしかして失敗した?

ざけんなよ?

俺の姉さんの何が不満なんだこの野郎!

 

「華佗なら未だ治療の旅を続けてるよ?」

 

「……それで?」

 

「うーん、そうだなぁ、……簡単に説明するなら、僕が諦める事にした」

 

なん……だと?

 

「ど、どういう事だってばよ?」

 

「うん、華佗はね、医療に生涯を費やしている人なんだ。 だから女性に見向きする前に、患者さんを見るんだよ。……多分、僕がどうとか関係無い。 あの人は誰が相手でもきっと見向きもしないよ。」

 

ぐぬっ、……いや、構わん、続けろ。

 

「まぁそう言う所に惚れたではあるんだけどね? 流石に惚れた相手に見向きもされずに隣に居続けるのは、僕には出来そうにないや。……確かにまだそう言った感情は残っているけど、僕はこの感情を華佗に伝える事なく終わらそうと思うんだ。 伝えちゃったら、華佗が困っちゃうからね」

 

そう言って笑う姉さんの顔は、辛そうには見えず、どちらかと言うと、晴れやかだった。

 

くっそ、華佗め。

人間的には素晴らしいのを理解出来ているけど、一発殴ってやりてぇ。

 

「……それで、良いんだな?」

 

「うん、僕は後悔してない」

 

……はぁ。

 

「……俺のあの時の行動は、只のお節介の無駄な行動になっちまったな」

 

四年も姉さんとの時間を無駄にしちまったわ。

半ば脅して姉さんを追い出したのに。

 

「そうでもないよ? あの旅のお陰で僕もそこそこ体力ついたし、鍼は無理だけど医術は覚えた。 何より霊里ちゃんが救われたからね」

 

あぁ、そっか。

……そうだな、霊里と出会う切っ掛けにはなったのか。

霊里が救われてなきゃ、下手したら今一緒に暮らしてない可能性もあったのか。

 

「まぁなんにせよ、お帰り姉さん。 長旅、お疲れ様」

 

 

_____

 

 

霊里も寝て、街の音も消えて、静寂が訪れた深夜、俺と姉さんはサシで酒を飲んでいた。

 

「まさか君とこんな風にお酒を飲む日が来るなんてね。……あの日は想像も出来なかったや」

 

「……もう、十年だかんな」

 

……あの日、俺が姉さんの家族になってから十年。

長い様で短かったな。

……色々ありすぎて、全部は思い出せないや。

 

「ちっちゃくて、見下ろしていた君を今では見上げている。 ふふっ、不思議な気分だ」

 

「……だな。 見上げていた姉さんを、いつの間にか見下ろす様になるなんてな」

 

でも何も変わらない。

あの日あの時から感じている感謝の気持ち、尊敬の想い、大切な絆、……何も、変わらない。

 

「それに新しい妹まで出来た。 それも血の繋がった妹よりも可愛い妹が」

 

「流石にそれは酷いんじゃないの?……まぁ霊里が可愛いのは否定しないけど」

 

どんだけ可愛くない奴なんだよ、楊儀。

逆に気になるわ。

 

「良いんだよ別に。 解りやすく言うになら、高慢ちきで、癇癪持ち、そして自分が正しいと思い込んでいる、いかにも名家らしい名家の奴だから」

 

お、おぅ。

姉さんが他人の悪口をこんなに言うのは始めて聞いたな。

……もしかして酔ってる?

 

「その点霊里ちゃんは本当に可愛い! 人の話を良く聞くし、おしとやかだし、謙虚だし!」

 

うむ、何も間違ってないな。

 

「あ、勿論君の事も可愛い弟だと思っているよ? ちょっと生意気だけどね?」

 

「……あほか。 年齢考えろよ、俺はもう可愛いより格好いいって言われたい年頃なんだよ」

 

可愛いとか、……ほんと、馬鹿じゃねぇの?

 

「ぷぷぅ~、て~れ~て~るぅ~! そう言う所が可愛いんだって!」

 

……はぁ。

成る程、酔ってるなこいつ。

そういや絡み酒だったなこの人。

……しかも次の日は覚えてないと言う。

 

「わかったから、もう寝ろ。 疲れてるだろ?」

 

「大丈夫ですぅ~! まだ蒼夜と飲みますぅ~!」

 

何が、ますぅ~っだ。

歳考えろ、キツいぞ?

 

……いやまぁ、見た目は昔と変わらず十七歳くらいに見えるけどさ。

 

「いや俺明日も仕事なんだけど……」

 

「の☆め!」

 

……その日、なんだかんだ姉さんが帰って来たのが嬉しかった俺は、結局明け方まで一緒に酒を飲んだのだった。

 

……すまん霊里、俺を置いて先に行け。

俺は後から追いかける。

……仕事を、よろしく頼むぞ。

 




姉さんが華佗とくっつくって言ったな、あれは嘘だ。
華佗の性格上、特定の誰かとくっつかなさそうなので、こう言う結末になりました。


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霊里のわがまま

麻雀の次は将棋回。
恋姫とは一体なんだったっけ?


……ここ最近、肩身が狭い。

 

姉さんが帰って来てからと言うもの、霊里が俺よりも姉さんになつき始めた。

 

一緒に書を読んで勉強し、一緒に将棋して遊んで、一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入る。

 

……霊里にとって、俺の存在意義はまだ残っているだろうか?

この前なんか、俺が将棋を誘ったら、

 

『撈姉さんとの方が為になります』

 

って言われた。

そしてその後ボコボコに負けた。

 

やはり優秀な奴は優秀な奴に惹かれるのか?

 

くそぅ、兄の威厳が……。

 

しかも将棋が圧倒的に強い姉さんに、霊里は師匠とか言い始めたからね?

……あんな瞳をキラキラさせた霊里を見たのは初めてだよ。

 

「ちっ、なんたって四年間も旅してた奴が未だあんなに将棋が強いんだよ」

 

チートやチート!

普通劣化するもんだぞ!

 

「ん? そりゃ旅先でも将棋をしてたからだけど?」

 

うぉい!

後ろから声かけんじゃねぇ!

 

「いたのかよ、……って、ん? どうやって旅先で将棋してたの?」

 

流石に大陸全土に将棋は浸透してないでしょ?

 

「ふふん、実はある邑で凄い物を作って貰ったんだ!」

 

そう言って姉さんが取り出したのは、折り畳み式の将棋盤だった。

……御丁寧に駒容れの箱までありやがる。

 

「おいおい、金具を使った将棋盤とか……技術の無駄使いだなぁ、おい」

 

ってか誰が作ったんだよ、この時代にこんな金具よく作れたな。

 

「これのお陰で持ち運びも楽に出来たし、各地の名士達と対戦して、将棋の宣伝も出来たよ?」

 

……おい、あんた何しに旅に出たんだよ。

華佗を落とす為じゃなかったっけ?

数歩譲って医療の旅ならまだしも、全国旅打ちとかアホか?

 

「いやぁ、恥ずかしい事に“名人”とか言われちゃってさぁ、一部では“棋王”なんて呼ばれたよ」

 

…………。

 

……朗報? 家の姉が三冠達成

 

いや何してんのこの人?

そりゃ強いよ。

なんたって名人だもの。

 

「そ、そうか、……あ、お茶持ってきましょうか? 楊 三冠。 肩揉みましょうか? お菓子でも買ってきます?」

 

「三冠って何!? ってか何で敬語!?」

 

いやだって、三冠だもの……。

 

 

_____

 

 

「私も何か、称号が欲しいです兄さん」

 

姉さんが旅先で称号を得た話を聞きつけ、俺が姉さんに称号を付けた昔話を霊里にしてやったら、霊里がそう言い始めた。

 

「撈姉さんだけ、“棋聖” “名人” “棋王”と三つもあります。 私も何か欲しいです」

 

う、う~ん。

 

「称号ねぇ。……霊里にはまだ早いかな?」

 

決して弱くはないけど、称号を与える程じゃない。

……それでも俺より強いけど。

 

それに棋聖はともかく、名人と棋王に関しては何の偶然かたまたまつけられた称号らしいからね。

 

俺以外に記憶持ちやら転生者やら居るのかと思ったぜ。

 

このまま他の七大タイトルを称号として付けるとしたら、残っているのは、竜王、王位、王座、王将、か。

 

……どれもこれも幼女に付ける様な称号じゃねぇな。

 

何? 霊里竜王?

竜王のおしご……ケホンケホン!

霊里の仕事は書物喫茶の店員です。

 

「むぅ、ならどうしたら称号が頂けますか?」

 

うーむ、霊里が珍しくむくれてらっしゃる。

そんなに称号欲しいか?

 

「……そうだなぁ、……ん~、冥琳あたりに勝つ様になったら称号あげれるかな?」

 

自分で言っといて何だけど、大分無茶な注文だなぁ。

 

「……解りました。 ちょっと呉郡に行って来ます」

 

「ちょっ! 待て! 流石にそれは駄目!」

 

おい、マジかこの子、称号の為に呉に行くつもりかよ。

 

「わかった! なら一勝、姉さんに一勝でもしたら称号を考える!」

 

「……公瑾様に勝つより無茶な注文です」

 

そういや、そうか。

 

「う~ん、……ならどうすっかな~」

 

まさか霊里がここまで称号にこだわるとは。

 

「……しゃあない。 称号を賭けた将棋大会でも開催するか」

 

「将棋大会、ですか?」

 

「そ、将棋大会。 今から大々的に大会を開く宣伝をして、競技者を募る。 そして勝ち抜け戦をし、最後に優勝した人に称号を贈る。 ってのはどうだ?」

 

トーナメント形式でやりゃそんな時間もかからないでしょ。

 

「つまり、私がその将棋大会で勝てば称号を得られると。……ちなみに、どのような称号でしょうか?」

 

「まぁ、そうだな。 将棋にちなんで、“王将”はどうだ?」

 

まぁ他のタイトルよかまだましだ。

 

「……馬 王将。……悪くありません」

 

おい、もう勝ったつもりかよ。

 

「でも人数が多すぎたら時間がかかると思うのですが?」

 

「そこは大丈夫、俺に勝つのを参加条件にする」

 

「成る程、兄さんはそこそこ強いので、それなら人数を絞れますね」

 

そ、そこそこ……。

 

「……一応聞いておきますが、撈姉さんは……」

 

「あぁ、参加させない」

 

姉さんが参加したら出来レースだもんな。

 

「では、その将棋大会、楽しみにしておきます」

 

霊里はそう言って、やる気に満ちていた。

……まぁ何も起こらなきゃ霊里が勝つ可能性が一番高いだろうな。

 

「でもこれで負けたら、暫く称号は諦めるんだぞ?」

 

 

_____

 

 

一ヶ月間、俺は貯まりに貯まった金を使い、派手に将棋大会の宣伝をした。

そしたら、意外と将棋の競技者は存在したのか、結構な人数の参加者が集まった。

 

これを一人ずつ俺が審査する訳にもいかず、急遽、俺は難問の詰め将棋、十七手詰めを姉さんと作り、四半刻で解けた奴を参加者として認めた。

 

これを解けた奴は十五人。

その中でも俺が知ってる奴は数人存在した。

 

霊里を筆頭に、諸葛亮、鳳統、後水鏡塾の数人。

 

ってか、水鏡率たけぇ!

 

その中でも一際凄かったのは、鳳統だ。

五分とかからず、詰め将棋を解きやがった。

 

……だが鳳統よりも、この参加者の中に、俺が一際注目している名前がある。

 

戯志才

 

……曹操の軍略の相談役じゃねぇか。

こんな所で油売ってないでさっさと陳留行けよ。

華琳さんなら喜んで迎えてくれるぞ?

 

「あ~あ、僕も参加したかったなぁ」

 

「わがまま言うんじゃねぇよ。 それにこれ以上他の称号なんていらないだろ?」

 

何? 七冠とか達成したいの?

グランドマスターって呼ぶぞ?

 

「別に称号はいらないけどさぁ~、僕だけ運営なんてつまらないからさ」

 

「……じゃあ優勝者には特別対局で姉さんと打つか聞いてみるよ」

 

「それは良いね」

 

……そう、姉さんだけが今回運営なのだ。

 

何故なら参加者は十五人。

トーナメントにするなら後一人足りないのだ。

 

……つまり、当て馬的に俺が出場しなきゃならん。

 

「……最終的には負ける俺の気持ちにもなれよ」

 

「何か言ったかい?」

 

なんでもねぇよ。

 

俺が溜め息を吐いて落ち込んでいると、やる気満々の霊里がやって来た。

 

「ついにこの日がやってきました。 相手には宿敵の雛里ちゃんがいます。 それだけでなく、朱里ちゃん等の水鏡女学院の強敵もいます。 まさしく“王将”の称号に相応しい決戦です」

 

お、おぅ。

 

「まぁ、頑張れよ霊里」

 

「例え兄さんに当たっても全力で勝たせて貰います」

 

……そこまで頑張らなくて良いよ?

 

この世界の将棋の発案者として、出来れば一回戦くらいは勝ち上がりたいものだ。

 

 

_____

 

 

「稟ちゃん、出場おめでとうごさいます」

 

「ありがとう、風。……でも、風は出場しなくても良かったのですか? あの問題も解けていたのでしょう?」

 

「稟ちゃんが出るなら、風が出ても勝てないのです。……ここは稟ちゃんの応援に努めるのです」

 

「ふむ、別に風も弱くはなかろう? 風と稟では大した力量差はあるまい?」

 

「おぅおぅ、ここは友を想って引いてるんだ、そう言う事は言いっこなしだぜ、姉ちゃん?」

 

「これ宝譿、そういう事は黙っておくものなのです」

 

「……なんにせよ、風がそれで良いのなら構わないのですが」

 

「……Zzz 」

 

「寝るな!」

 

「おぉう。……今回は風は見学するので稟ちゃんは楽しんで来て下さい」

 

「ふむ、なら風は私と色々見て回ろうか」

 




凜と風と星を出しましたが、残念ながら、主人公と絡ませる予定は今のところありません。


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蝶に代わっておしおきよ!

なるべく早めに話を進めます。
次回からは少しシリアスにする予定です。


将棋大会は順調に進み、何の問題もなく終わりを迎え、イベントとしては大成功と言える成果を見せた。

 

……正確には、対外的に問題は無かったが、俺には問題ありだ。

……一回戦で敗退しました。

 

いや、仕方なかったんだ。

だって初っぱなから諸葛亮だったもの。

めっちゃ強かったわ。

 

穴熊に囲って必死に防御に全振りの将棋したけど、普通に負けたからね。

麻雀の恨みです、と言わんばかりにボコボコにされて、俺の心には拭いきれないトラウマが出来たよ。

 

それはさておき、結局誰が優勝したかと言うと、最初の詰め将棋の結果通り、鳳統が優勝を飾った。

 

決勝はその鳳統対戯志才で、中々の熱戦を繰り広げたが、鳳統のミスとも言えぬ様な緩手に戯志才が無理攻めをし、攻めが途切れて鳳統の勝ちとなった。

 

……もしかしたらあれは、誘いの一手だったのかもしれない。

 

まぁなんにせよ、どちらが勝利してもおかしくない程の名試合だった。

仮に華琳さんや冥琳が参加してたとしても、簡単には勝ち抜け出来ないレベルだったと思う。

 

ちなみに霊里はその戯志才に敗れ、少々落ち込んだものの、大陸の広さを感じとったのか、再び目を輝かせ、将棋道に励む様だ。

 

……将棋道が何なのかは俺はよく知らんがな。

 

とにかく、俺は優勝者の鳳統に、裏に小さく日付と将棋大会優勝と書いた王将の駒を手渡し、観客の前で、“王将”の称号を授与した。

 

戯志才には準優勝と書いて渡し、他の参加者にはそれぞれの成績を書いて渡した。

 

……ちなみに俺が密かに注目していた戯志才はツンとした雰囲気の眼鏡美人だった。

 

うーむ、眼鏡は頭が良いのだろうか?

 

更にちなみに、戯志才は俺の書物ファンらしく、熱く俺に書物の感想を言ってくれた。

 

……有り難いのだが、人前では恥ずかしい。

ってか、もしかしたらあの血痕だらけのファンレターはもしや……。

 

……深く考えるのは止めよう。

 

 

_____

 

 

「結局、僕には何の出番も無かったね」

 

「まぁ仕方無いさ。 本人が疲れてたもの」

 

大会前に姉さんに言った様に、俺は大会が終了した後に鳳統に姉さんと特別対局しないか聞いてみたが、本人は慣れない人前での派手な授賞に疲れたらしく、あわあわする余裕もなく断られてしまった。

 

……それに連続であんなに対局してたのだから流石にな。

 

「なんだったら、俺が相手してやろうか? 飛車落ちなら良いぜ?」

 

「躊躇いもなく手加減を要求するとは流石だね。 よし、ここは姉として飛車落ちでも勝てる所を見せてやろう」

 

いや、普通にやっても絶対勝てないし。

 

……だがその後、俺はかなりの苦戦を強いられてなんとか勝利をもぎ取った。

 

……飛車落ちでギリギリとか頭おかしいだろこいつ。

 

 

_____

 

 

「ところで、蒼夜。 君は最近本を書いているかい?」

 

……書いてない。

 

「……まぁ、なんだ、……あれだ、ネタが無いんだ。」

 

やべぇ、そういや最近本業そっちのけで遊びまくってたわ。

最後に書いてたのは何時だ?

蓮華様に渡した頃だから、二年近く前か?

 

「……そっか、それは深刻な問題だね」

 

違います。

 

「解った、僕と霊里も何か手伝うよ。 何か良いネタが思い浮かぶ様に三人で少し話し合おう」

 

「お、おぅ」

 

別にそんな事しなくても大丈夫なんだが……。

 

姉さんは霊里を呼んで来て、三人で家族会議の様な事に発展してしまった。

 

……どないしよう。

 

「さて蒼夜、君は今、何か書きたい種類の本でもあるかい?」

 

「あー、……特には」

 

「成る程、重症ですね」

 

何に納得したんだ霊里、全くそんな事無いぞ?

 

「うーん、なら僕と霊里ちゃんで読んでみたい話を言ってみるから、その中で君の琴線に触れる物がないか考えてみて?」

 

……まぁ、考え様によってはネタを出してくれるから楽で良いか。

 

「私は兄さんの経済論を読んでみたいです。 ここまで大きく発展させたお店を持ち、襄陽の経済に貢献している兄さんの経済論ならきっと皆さんも興味あると思うのです」

 

いきなりハードル高いなおい!

俺にそんな話書ける訳無いだろうが。

マルクスでも連れて来い。

 

「あー、悪い霊里、経済論はちょっと……」

 

「……残念です」

 

いや、本当すまん。

だからそんな悲しそうな顔をしないでくれ。

 

「じゃあ、歴史物なんてどうだい? 君そういうの得意だろ?」

 

「歴史ねぇ、……ありきたりだなぁ。 うーん、却下」

 

「……意外にわがままだね」

 

だってありふれているもの。

 

「では、政治闘争の話はいかがでしょうか? 昔の宮中のどろどろした争いは好きな人は好きだと思いますが」

 

「い、今の時代にそれは色々と不味いな」

 

ってか、それが読みたいの?

霊里は何か心の闇でも抱えているのか?

 

「じゃあ初心に戻って戦記物は?」

 

「それは前に書いた」

 

「……本当にネタが無いんだね」

 

いや、適当にやろうと思えば出来ると思うんだけどね?

 

「き、気晴らしに街をぶらぶらしてくるよ。 何か思い浮かんだらその時にはちゃんと書くから安心してくれ」

 

俺はそう言って、逃げる様に街に繰り出した。

 

 

_____

 

 

……さてどうしようか?

適当に一冊書いて安心でもさせるか?

……いやでも、俺の物書きとしてのプライドが。

 

俺がうーんと唸りながら街を歩いていたら、ある店で騒ぎが起こった。

 

「どけ、どけ!」

 

何が起こったのだろうかと、俺が騒ぎの方に目を向けると、一人の男が片手に剣を持ち、店の娘を脅して金を奪っている所だった。

 

……野郎、俺の街で何しやがる。

 

俺が男をしばこうと一歩前に出たら、何処かからか、大きく響く声が聞こえて来た。

 

「天下の往来で悪事を働く不届き者が! 例え天が赦しても、この華蝶仮面が赦さん! とぉ!」

 

……は?

 

「だ、誰だてめぇ!」

 

「愛と正義の使者! 華蝶仮面、推参! そこのお前、今謝って罪を悔いるなら憲兵に突き出すだけで済ましてやるが、……どうする?」

 

「ふ、ふん! 誰がそんな事するか! ふざけた奴め、ぶっ殺してやる!」

 

「ふっ、致し方無い」

 

そんなやり取りの後、強盗の男が華蝶仮面を名乗る阿呆相手に襲いかかったが、その阿呆はとんでもなく強く、男は一瞬で吹き飛ばされ気絶した。

 

……こいつ、阿呆だがつえぇ。

 

少なくとも、俺よりは強いだろう。

 

「無事だったか、娘さん? ふっ、では私は去ろう、さらばだ!」

 

何、逃がすか!

 

俺はこの阿呆を全速で追った。

こんな、こんな、……こんな良いネタ放っておけるか!

 

「待て!」

 

「む、何奴だ?」

 

「俺は廖 元倹。 あんたに用がある」

 

俺は路地裏で華蝶仮面に追い付き、肩で息を吐きながらこの阿呆に詰め寄った。

 

「ほぅ? 廖 元倹、……有名な作家が私に何の用だ?」

 

「あんたを、書かせてくれ」

 

「は?」

 

 

_____

 

 

俺はあの後、華蝶仮面を名乗る阿呆を取材して、華蝶仮面を題材とした小説を書いて良いか、許可を求めた。

 

そしたらあの阿呆は快く許可をくれ、俺の書物を楽しみにしてると言って去って行った。

 

……まさかこんな時代から美少女戦士の物語が書けるなんて夢にも思わなかったぜ。

 

そう俺が書いたのは、月に代わってお仕置きする、美少女が変身して悪と戦う勧善懲悪の物語だ。

 

まぁ変身って言っても、正体が解らなくなる月の宝貝の仮面を着けるだけだが。

 

……そう、俺はこの時、純粋に面白い話を書けた事を喜んでいた。

 

『主人公が女なのは、まぁ良いけど、馬鹿じゃないの? 匿名希望』

 

……おっふ。

毎度キツめのファンレターをくれる匿名希望さんが、今回は辛辣過ぎる。

 

『どうしてこれを書こうと思ったのですか? 戯志才』

 

……何か、ごめんなさい。

 

『私は、良いと思いますよ? 諸葛 孔明』

 

……めっちゃフォローされてる。

多分水鏡塾でも賛否両論なんだろう。

 

『次回会った時には問いたださせて頂くわ 曹 孟徳』

 

……会わない方向はありませんか?

 

『何か辛い事があったのなら、私でよければ何時でも相談に乗るぞ? 周 公瑾』

 

……ごめん、お前の手紙が既に辛いよ冥琳。

 

『素晴らしい読み物だ。 これこそ美少女仮面としてあるべき姿だ。 華蝶仮面』

 

うん、俺は好きなんだけどね?

でも誰も称賛してないんだよなぁ。

 

「あー、これこの前の華蝶仮面を題材にした話かい? 流石にこれはどうだろう?」

 

うん、ごめん。

きっと早過ぎたんだ。

 

「私は好きですよ? この頭空っぽにして読む感じが」

 

ひ、皮肉?

や、でもマジで好きっぽそうだなぁ。

 

……その後、各地から幼女によるファンレターが届き、俺はなんとかメンタルを保った。

 




美少女戦士は時代が追い付いて無かった。
ただ、一部の幼女には大人気の設定です。


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でもその甘さ、嫌いじゃないぜ?(球○川風)

さて、十六歳編への突入です。

前話と比べると、落差が凄いと思います。


-蒼夜 十六歳-

 

……最近、ここ襄陽でも賊の噂をよく聞く様になった。

 

と言うのも、どうも南陽方面の豫州から難民が流れて来ていて、それらが賊と化しているらしい。

 

南陽は袁術が治める土地の一つ。

確か御年十歳だった筈だ。

 

……何たってそんな子供が太守所か州牧の地位をやってるんだよ。

名族だからってそんなん駄目だろうが。

って言うか、側近は何してやがる?

まともな治世ならそんな事にはならんだろ。

 

この世界は間違いなく食事情が良い。

飢えた民が続出して、賊になる可能性はそこまで高くないと見積もっていたんだがな。

 

……当てが外れたな。

個人的にはこのまま三国志に突入しない未来を少し期待していたのだが。

 

……まぁ中央の腐敗が地方にまで聞こえるレベルだから、時間の問題だったのだろうけども。

 

このまま行けば、近い内に黄巾が出てくるだろうな。

 

……もう、時間が無い。

 

最近、華琳さんのあの言葉が頭を過る。

 

「わりぃ、姉さん、霊里。 ちょっと故郷の邑に行って来る。……最近、賊の噂を良く聞くから様子を見に行こうと思う。 まぁ、往復で三刻くらいだから夜には戻るよ」

 

「……そっか、うん。 気を付けてね?」

 

「あまり危険な事はなさらないで下さいね、兄さん」

 

まぁ流石に大丈夫だろう。

もし邑に賊が現れたりするなら、襄陽にも情報が入る筈だ。

何たって目と鼻の先にあるからな。

 

「まぁ問題無いだろ。 ちょっと邑長の爺に注意する様に言って来るだけだから」

 

俺はそう言って邑へと向かった。

 

 

_____

 

 

……そして俺が邑に向かったのは、運が良かった、としか言い様が無い。

 

俺が邑へと帰郷して、爺に賊に注意をする様に話しを終えて、襄陽城に帰ろうとした時に賊が現れたのだ。

 

いや、賊が現れたのは良くない事だが、タイミングが良かった。

俺が後少しでも早く来ていたりしたら、邑を去っていただろうし、遅かったりしたら、手遅れだった。

 

……相手の賊は痩せ細った奴ばかりの百人に届かない程度。

成る程、こんな数なら見落とされてもおかしくないし、この邑を襲う理由も解る。

百人以下なら充分に食えるだけの食料がこの邑にはある。

 

……邑の全員を殺して、全て奪えばな。

 

……させるかよ。

“守護鬼”の前で、そんな事させるか馬鹿野郎!

 

「……てめぇら、誰に断りを入れて、この邑を襲おうとしてやがる?」

 

「けっ! 知るかよ糞ガキが! 俺らは食わなきゃ死んじまう、奪うしかねぇんだよ!」

 

……の、割りにはこの頭らしき奴は特別痩せてねぇんだがな。

まぁ、確かに後ろに立ってる奴等は今にも倒れそうな奴ばかりだけど。

 

 

「今ひきゃあ、見逃してやる。……だが俺の目の前に立ってみろ? その首が飛ぶと思え。……まぁそんときゃ慈悲として、苦しまない様にあの世に送ってやるよ」

 

「い、言ってろ! やるぞてめぇら! このガキ殺して後ろの邑を襲えば飯が食えるぞ!」

 

「だ、駄目です、お頭ぁ!」

 

「うるせぇ! 根性無しは黙ってろ! ガキ一人にビビってんじゃねぇ!」

 

賊の頭が下手な檄を飛ばして、五人引き連れ俺に襲いかかった。

 

……真面目によ、また働きでもすりゃ、こんな事にならなかったのに。

 

「馬鹿野郎共が!」

 

……俺は宣言通り、苦しまない様に六人纏めて首を飛ばした。

 

「ひ、ひぃ~! な、何だあいつは!?」

 

「ば、化け物だ! お頭達が一瞬でっ……!」

 

俺が賊を纏めて殺した事にビビって、残った連中は戸惑い、慌てふためいている。

 

……俺程度が化け物の訳ねぇだろうが。

 

「だ、だから言ったんだ! 皆何で気づかなかったんだよぉ!」

 

先程、突撃を止めようとした奴が全員に聞こえる様に大声で説明を始めた。

 

「星空が描かれた蒼色の着物! 二頭の龍があしらわれた柄の双頭槍!」

 

「!? ま、まさか……」

 

「しゅ、守護鬼か!」

 

「な、何で守護鬼がこんな所に!? 奴は孫家の人間じゃなかったのか!?」

 

……ちげぇよ。

 

「俺が護る邑に来たのが運の尽きだな。……死にたい奴から前に出ろ、てめぇらのお頭って奴に会わせてやるよ」

 

だが誰も前に出る事は無く、かといって逃げる訳でもなく、その場でペタンと座り込んだ。

 

……しかし関係無い。

守護鬼の事を知ってるって事は、こいつらの中には呉郡での賊討伐の時の生き残りがいるのだろう。

俺の異名は、呉郡以外ではそこまで有名じゃないからな。

 

……そして未だ賊をしてるくらいだ、恐らく誰かから奪う事に慣れているんだろう。

 

……悪いが、ここで殺した方が世の為だ。

 

「なんでだよぉ~。 おれぁ、ただ飯が食いたいだけなのに。……なんだってこんな目に」

 

……ちっ。

 

「……もう良いよ、……おらぁもう疲れた」

 

んぐっ!

 

「……ははっ、これが奪おうとした罰なんだ」

 

あ~っ、ちくしょう!

 

「だったら! 最初に助けてって言葉くらい言えよ!」

 

俺には、この馬鹿共が哀れな難民にしか見えん。

 

「……助けてだぁ? 誰が助けてくれるんだよ! 何度も! 何度だって叫んださ!」

 

「俺が助けてやる! こちとら“守護鬼”の異名を持ってる男だぞ! てめぇらの守護くらいしてやらぁ!」

 

……ただの勢いだった。

何の考えも無く、何の当ても無く、何の権力も持たない俺が、ただ、勢いだけで、こいつらを救うと言ってしまった。

 

だが、この時はあまり後悔しなかった。

 

賊共の、……難民者達のポカンとしたまぬけ面に、俺は満足していた。

 

「た、助けるたって、どうするって言うんだ?」

 

知らん。

 

「……とりあえず、飯くらいは食わしてやる」

 

「……どうして、そんな……」

 

知らん!

 

「なんとなくだ」

 

「な、なんとなくって」

 

「黙れ、食べるか死ぬか選べ」

 

俺だって何でこんな事してるのか解らねぇんだよ!

……こんなの、ただの偽善じゃねぇか。

結局、何の解決にもなってねぇ。

 

……馬鹿なのは俺だ。

感情移入なんてせずにさっさと殺しておけば良かったんだ。

 

……くそ、最低でも呉郡の生き残りだけは殺しておこう。

 

 

_____

 

 

……俺はあの後、全員を脅して呉郡の生き残りを炙り出し、……やりたくはなかったが、見せしめに首を飛ばした。

 

……そして残った人数は六十八名。

聞けばこの六十八名は、南陽からの難民で、食うに困っている所を、あのお頭と言う男に取り込まれたらしい。

 

……一応は一度も強盗まがいの事はしてなかったらしい。

 

俺はその言葉を全部信じる訳ではなかったが、こいつらを俺の中で難民という事にしておいた。

 

……はぁ。

どうしようか。

もうすっかり遅くなっちまった。

姉さんと霊里は、まだ俺の帰りを待っているんだろうか?

 

「あ、あの、守護鬼様。 わ、私達はどうすればよろしいのでしょうか?」

 

……俺が聞きたい。

 

「まずは、守護鬼って呼ぶんじゃねぇ。 俺の名前は廖 元倹。 普通に元倹とでも呼べ。……後様付けも止めろ」

 

……自分で言っといて何だが、守護鬼って呼ばれるのは好きじゃない。

 

「は、はい、元倹さん。 あの、それで……」

 

解ってる。

まずは約束通り飯を食わせなきゃな。

 

「……とりあえず襄陽城に向かう。 お前らを城下に入れる訳にはいかんが、とりあえずそこで飯は出す」

 

俺がそう言うと、こいつは揃って喜び、俺の後について来た。

 

……姉さんと霊里に何て言おう。

まさか、帰省して六十八人もの人を拾って来たなんて言えないぞ。

 

……はぁ。

仕方無い。

もう開き直ろう。

 

これから自警団でも作って、そしてこの襄陽近辺の守護部隊として名を上げて、襄陽の警備隊にでも雇って貰うしかねぇな。

 

……はぁ。

今日の事で解った。

俺は戦乱の世に向いてない。

 

 

_____

 

 

あー、帰りたくない、帰りたくないよぉ。

こんなに家に入るのが嫌な日が来るなんて……。

 

でも外では難民共が待ってるし、覚悟を決めなきゃ。

 

「た、ただいま~」

 

俺がそう言って家のドアを開けたら、玄関に姉さんと霊里が待機していた。

 

……やべぇ、めっちゃ怒った時の笑顔をしている。

 

「……遅かったね?……それはまだ良いとしても、血塗れってどういう事だい?」

 

……そういや、返り血を少し浴びたんだった。

 

「詳しく説明を要求します」

 

お、おぅ。

霊里が無表情過ぎて怖い。

 

「あ~、……その、……賊と会ってな? そんで難民として拾っちゃった」

 

「「……はぁ」」

 

そんな同時に溜め息なんて勘弁してくれ。

 

……その後、俺の説明に姉さんは呆れていたが、霊里は称賛してくれて、難民の為に食料を配る手伝いをしてくれた。

 

……ただ、しっかりと説教は受けました。

 




一応、この作品では独自ルートはやりません。

この話は、史実の廖化が元々は黄巾党の仲間だった事を考えて作りました。
任侠臭い廖化は、こんな感じで仲間を見捨てる事が出来ずに賊の一員になったんじゃないかなぁ?
なんて考えて作りました。

まぁ、この作品では黄巾党にはなりませんが。


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ハローワークって凄いよね

今回は少し時間がかかりました。
出来れば一日一回は更新したかったのですが。

土日の内にもう一回は投稿したいです。


「……正直な事言えば、僕はいつかこうなるんじゃないかと思っていたよ」

 

難民者を連れて来た翌日、急に姉さんがそんな事を言いだした。

 

「……なんでさ?」

 

言っちゃなんだが、俺自身こんな事考えも予想もしなかったんだぞ?

ってか最初は殺そうとしたくらいだし……。

 

「君は優しいからね。 ああいう人達放って置けないだろう? 実際、連れて来たくらいだし」

 

……。

 

「……こんなのは“優しい”って言わねぇ。 ただ“甘い”だけだよ」

 

「……かもしれないね。 じゃあさ、君にとって“優しい”って何だい?」

 

……姉さんみたいな人だろうか。

でもそれも、乱世においては“甘い”なんだろうな。

 

「……知らん。……けど、多分、もっとこう根本的に救う人の事じゃねぇかな? 俺がしてるのはただの施しだけどさ、本当ならあの人達に職や住居を与えて難民であるという前提を変える様な人を“優しい”って、俺は思う」

 

俺はそんな事が出来ないのに、ただ手を差し伸べただけの偽善者でしかない。

彼等の困難を何も解決出来ない。

 

「私としては、当然の結果だと思っております。 人を見捨てられない、そんな兄さんだからこそ、私はここに来たのです」

 

……霊里。

 

「……だね。 そんな蒼夜だからこそ、僕も姉として誇らしいよ」

 

……はぁ。

 

「……とりあえずこの“甘さ”を“優しさ”に変える様にはしてみるよ」

 

一度差し出した手だ。

彼等を根本から救ってやる様に努力しよう。

 

「無論、手伝わさせて頂きます兄さん。 私はこういう時の為に来たのですから」

 

……助かる。

 

「僕は言うまでもないよね? 弟のしでかした事は姉が責任を負わなくちゃね?」

 

……すまん。……いや、ありがとう、だな。

 

「よろしく頼む」

 

 

_____

 

 

とは言った物の、どうしようか?

姉さんと霊里の力を借りるって言っても、大元の案は責任者として俺が考えないといけない訳だし。

 

六十八って微妙な数字なんだよなぁ。

最初は自警団でも立ち上げようかとも思ったけど、こんな人数じゃ精々百人程度の賊を相手にするのが精一杯だ。

そんなんじゃ襄陽郡で名を上げる所か、邑の護衛で手一杯なんじゃねぇか?

 

……人を集めるか?

 

いやいや、それこそ本末転倒だ。

この人数でも困ってんのに、増やしてどうする。

 

……そういやあいつらの前職は何だ?

もしかしたら襄陽の街で職を紹介出来るかもしれんな。

……うん、俺が口利きしたらそこそこ紹介出来るんじゃねぇか?

襄陽じゃ俺はかなり顔が広い訳だし。

 

……いや、駄目だな。

職を紹介出来ても住む場所が提供出来ない。

六十八人も急に住む場所なんてある訳ねぇ。

そんなんじゃ宿無し職有りの訳解らん状態になる。

 

……爺に頼んで邑に……、

 

……アホか俺は。

そもそも邑を襲おうとした連中だぞ。

邑の奴等がどんなに良い奴等でも流石にそれはない。

 

ってか農業は出来るのか、あいつら?

仮に畑を用意した所で出来ませんじゃ洒落にならんぞ。

 

いやいや、そもそも畑の用意なんて出来ねぇよ。

 

……あーくそっ、中々纏まらん。

 

……一旦本人達に話を聞くか。

 

 

_____

 

 

「あ、元倹さん!」

 

俺が襄陽城からほんの少し離れた場所に居る難民達を訪れたら、彼等の中の一人が俺に気づき声をかけて来た。

 

「よぉ、全員居るか?……少し話が聞きたいんだけど」

 

「はい、全員揃ってます。……おーい、皆! 元倹さんが話を聞きたいそうだ! 集まってくれ!」

 

俺に近寄って来た年若い青年がそう言うと、皆が集まりだし、俺の目の前に集合した。

 

……へぇ、もう新しいリーダーみたいなのが出来たのか。

正直有り難いな。

俺は常に側に居てやれる訳ではないから、こんな風に纏め役が居てくれると色々助かる。

 

「君、名前は?」

 

「自分ですか? 張曼成(ちょうまんせい)と言いますが?」

 

「張曼成ね……へ?」

 

ちょ、張曼成だとぉ~!?

南陽黄巾党の大物じゃねぇか!?

 

……あぁ、そういやこいつら南陽から来たんだっけ?

 

いや、だからって何でここに居るんだよ!?

 

「あの、……自分の名前が何か?」

 

「あぁ、いや、何でもない」

 

急な事なんでビビったわ。

……一応有名人が全員女って事はないんだね。

 

「えっと、曼成? って呼んで良いのかな?」

 

「はい、好きに呼んで下さい」

 

「うん、じゃあ曼成、これから君が皆の纏め役として、意見だなんだと、皆の総意を纏めてくれるか?」

 

張曼成なら余裕だよな?

 

「じ、自分がですか?……わ、解りました、やってみます」

 

うん、君なら余裕だ。

なんたって南陽黄巾党の三十万人の指導者にだって成れるであろう人物だもの。

 

「頼むな?……それで、本題なんだけど、皆ここに来る前は何の職をして働いていたんだ?」

 

……俺がそう言って解ったのは、思った以上に農民が少ない事だ。

 

どうやら殆どの奴等が街の中で働いていた人達の様で、ちょっとした職人とか工事夫みたいな人達が多かった。

 

……そりゃそうか。

食事情が良いなら、税金が重くて飯が買えなくなった奴等が難民になるんだよな。

自分の畑持ってるなら、多少は賄えるだろうし。

 

……畑案は却下か?

いや、最終手段だな。

 

もしどうしようもなくなったら、適当な場所を開墾させて、そこに小規模な邑を作るしかねぇ。

その当面の資金や飯は俺が提供して自立するのを待つ。

畑なら教えられるしな。

 

……けど、正直あんまりしたくねぇな。

金と時間がかかり過ぎる。

 

……何か良い方法は無いかな。

 

…………。

 

……。

 

……! 閃いた! これで七英雄にも勝つる!

……いや、いねぇよ七英雄。

 

……あれ? この時代なら逆に居るのか?

えっと、曹操、劉備、孫権、諸葛亮、司馬懿、周瑜に、……呂布?

いやまぁよく解らんけど、この時代に英雄は沢山居るな。

 

……やべぇ、閃いた所で全く勝てる気しねぇ。

って言うか、何気に半分以上知り合いじゃねぇか。

……俺のコネも中々捨てたもんじゃねぇな。

 

っと、思考がずれた。

 

俺が思いついたのは、護衛業だった。

 

最初、こいつらの前職を活かしてどうにか出来ないかと考えたが、それはどうも難しそうだったのだ。

 

工事夫は襄陽に満ち足りているし、職人の様な仕事は結局の所、何かを作っても物が売れなきゃ意味が無い。

 

そこで俺は、じゃあどうにかして売る方法は無いか考えたが、そんな物は思いつかなかった。

 

……けど、売らなくて良い。

って言うか、何も作らなくて良い。

 

売る奴を、商人を守って金を取れば良いのだ。

 

それなら資本は身体一つ。

……まぁ、食事を与えて鍛えはするが、おおよそ一ヶ月も俺が調練をしたら充分だろう。

 

祭さんから習ったんだ、簡単に出来る。

 

そして、襄陽から他の街に往き来する商人の護衛をして金を貰う。

 

最初こそ難しいだろうが、慣れたらいずれは俺の手を離れるだろう。

それに纏め役にも張曼成がいる。

 

最初の拠点は工事夫が居るから、適当に小屋でも作れば良い。

 

金が入ったら襄陽に家でも買えば良い。

 

経理なんかの金の管理は、姉さんや霊里、俺だって教えられる。

 

……よし、纏めてみよう。

 

……まずは一ヶ月間、飯を食わして身体を鍛える。

 

その後、俺のつてで襄陽の商人に護衛として雇って貰い、金を貰う。

 

その金を給金として払い、自立を促す。

 

そして護衛業を俺の手から離し、独立させる。

 

……もしかしたら、襄陽の警備隊に雇って貰える事もあり得る。

 

……まだ草案だが、いけるかもしれん。

この案は、思春さんが知り合いだったからこそ思い付いたのかもしれんな。

あの時の江賊のやり方とほぼ同じだ。

違うのは、商人達の許可を得るか得ないかだ。

……そして今の世情なら間違いなく雇う。

 

……よし、一旦持ち帰って姉さんと霊里に相談してみよう。

いけそうならよし。

駄目なら仕方ない、畑案をするしかねぇ。

 

 

_____

 

 

「う~ん、……それってさ、良い言い方をしてるだけで、要は傭兵だよね?」

 

「ち、違いますぅー! 護衛業ですぅ!」

 

そんな物騒な事させる訳無いだろ!

……いや、護衛も物騒なんだけどさ。

 

「言い方はどちらでも構いませんが、どのくらいのお金で護衛する予定なのでしょうか?」

 

「あー、うん。 護衛する距離によって変えようと思うんだ。 近くなら安く、遠くなら高く」

 

「……成る程。 私はあながち悪くないと思います。 最初に必要となる資金は多いでしょうが、今の荒れた世に適した職かと」

 

まぁな。

こんな世だからこそ、必要なんだよな。

 

「とりあえずやってみるから、協力お願いします」

 

「はいはい」

 

「了解です」

 

……こうして俺は、彼等を鍛え始めた。

 




張曼成について
一応新キャラではありません。
ちょくちょく出すとは思いますが、モブの一人としての扱いになります。
真名も決めてませんし。
とりあえず、トップと下っぱの橋渡し役の中間管理職の為に出しました。

七英雄について
こちらはとりあえず三国志で有名な名前を羅列しただけです。
まぁ、ただのネタとして出しただけですが。
異論、反論は多いに認めますので、感想欄にでもどうぞ。


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発進、守護鬼の護衛隊

50話を達成してしまった。
本来ならとっくにルート確定して原作本編突入している予定だったのに。

作者の力量不足です。
大変申し訳ありません。


一ヶ月間、俺の調練は熾烈を極めた、……らしい。

 

と言うのも、俺にとっては普通なのだが、彼等には中々ハードだったらしく、何度も泣きが入ったりしたのだ。

 

それでも脱落者は誰一人として現れなかった。

それは勿論、俺に人徳があるから、……な訳無く、俺が三食たっぷり食わしてやってるからだ。

 

それに、訓練で優秀だった者には酒を出してやってるから、皆必死に頑張る。

 

だから流石に職業軍人には劣るが、そこいらの警備兵よりかは練度が高くなってきた。

 

……そろそろ頃合いだろう。

 

「よし、これより三日後に初仕事をする。 俺達の護衛相手は漢中から来た複数の商人達だ。 故に送り先は漢中。 今回は陸路での移動だから、おおよそ片道十日くらいの護衛任務だと思ってくれ」

 

俺がそう宣言すると、皆ついに初仕事が来たかと緊張していた。

 

だがぶっちゃけ、そこまで難しくない仕事を選んだつもりだ。

漢中と襄陽を結ぶ陸路は、商業路として広く通りやすく作られている。

険しく見通しの悪い場所なら賊の心配は必要だが、この道は比較的安全と言えるだろう。

たまに警備部隊とかが通るらしいし。

 

……まぁそれでも完全に安全じゃないから、こんな風に護衛をお願いされる訳だけど。

 

「明日は完全休日とするので、身体を休めろ。 明後日は軽く身体を動かし準備を整える。 そして当日早朝に襄陽の門に集合。 それから仕事へと入る。 もし当日に遅れる様なヤツがいたら、俺直々に懲罰があると思え、……良いな?」

 

「「「はい! 元倹さん!」」」

 

「よし、じゃあ初仕事、成功させて給料で飲み食いするぞ!」

 

「「「おぉー!!!」」」

 

うん、良い士気だ。

 

まずはこの初仕事で護衛に慣れて貰って、数回簡単な仕事を受ける。

その間に、俺達が護衛業を始めた事を街中に派手に宣伝する。

この時、俺の“守護鬼”の異名が非常に役に立つ。

 

……なんたって、“守護鬼”が護衛業を始めるのだ、信用度が段違いだろう。

 

その為には俺の異名とその由来がもっと有名になる様に、密かに噂を流さないといけない訳だが、……もの凄く恥ずかしい。

 

……こんなん完全にステマやないですか。

 

……でも霊里が必要な事だから絶対にやるって言うし、……ってかもうやってるし。

最近、周りの視線がキツいんだよなぁ。

 

まぁそれは置いとくとして、その間に張曼成に襄陽の商人連中を紹介して、営業させたりして顔を覚えて貰う。

それから各街でも襄陽に行く商人に護衛が必要ではないかと営業する。

それらが張曼成一人で出来る様になったら、俺は手を引き彼等を独立させる。

……まぁたまには調練が必要だろうから、一月に一度は様子を見るつもりだ。

 

……よし、その為にも必ず初仕事を成功させるぜ。

 

 

_____

 

 

「おぉ守護鬼殿、此度は我等の護衛、よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。 こちらに居るのが、この護衛部隊の責任者である張曼成です」

 

「ちょ、張曼成です! 必ずや皆様を漢中まで無事にお届けするので、ど、どうぞご安心下さい!」

 

緊張し過ぎ。

気持ちは解るが、落ち着け。

 

「申し訳ありません。 初仕事で少し緊張しておるようです。 後できちんと言い含めておきますのでご勘弁下さい。 しかし、護衛の方は問題ありませんのでご安心を」

 

「いやいや、頼もしい限りです。 この様に気合いの入った護衛なら私共も安心と言うものです」

 

「そう言って頂ければ有り難い限りです。……では、そろそろ出発いたしましょう」

 

そう言って、俺達の初仕事は始まった。

 

……だが、早くも問題が出てきた。

 

「……曼成、ちょっと」

 

移動を始めて数刻、皆落ち着きが無く、やたら辺りをキョロキョロしている。

……それは張曼成も一緒だ。

 

「は、はい、何でしょう?」

 

「皆キョロキョロし過ぎ。……何だ? そんなにこの辺りの景色が珍しいのか?」

 

「い、いえ、その様な事は……」

 

「だったらピシッと行軍の様にしてくれ。 何時もなら出来てるだろ?……何も特別な事はしなくて良い。 何時もの訓練を思い出してやる様に、皆にも伝えてくれ」

 

「も、申し訳ありません。 直ぐに皆に伝えて来ます」

 

……俺の調練が甘かったのだろうか?

いや別に兵士でもないし、最初はこんなもんだよな?

 

……結局その日、俺は何度も同じ注意をした。

 

 

_____

 

 

これから大丈夫だろうか、と俺は心配したものの、翌日、翌翌日、と日に日に彼等は慣れて来て、どんどん良くなっていった。

 

特に漢中に入る最終日なんかは結構堂々としていて、一端の兵士と然程変わらない程に成長をしていた。

これなら数百程度の賊に急襲されたとしても、対象を護衛し撃退出来るだろう。

 

うーむ、結局は何度も口で言ったり訓練を繰り返すよりも一度経験した方が成長率は良いなぁ。

 

……これなら予定通り、俺の付き添いは数回程度で後を任せられそうだな。

 

「無事到着した様で何よりです守護鬼殿。 護衛の件ありがとうございます」

 

「長旅お疲れ様です。 今回は我等の初の護衛と言う事で、色々とご迷惑や不安を与えたと思われますが、旅の最中に文句一つ言わずに居てくれて感謝いたします」

 

「いえいえ、守護鬼殿が居てくれるからこそ、我等も安心出来ると言う物です」

 

……認めたくないが、守護鬼効果すげぇな。

 

「そう言って頂けて幸いです。……では、料金の方ですが、今回は賊等が現れずに安全な旅でしたので、通常料金に、我等の初仕事と言う事で多少値引きさせて頂きます」

 

俺と霊里と姉さんで考えた料金規格は、距離、人数、そして突発的な事故を基準に設定された。

 

距離はいわゆるタクシーなんかと同じで、遠くになれば高い。

人数と言うのは護衛の人数の事。

最低五人から頼め、最多で全員。

こちらも多ければ高い。

 

そして突発的な事故と言うのが、所謂賊の出現等の護衛が働く状況の事だ。

これは予想が不可能なので、追加料金システム扱いだ。

 

つまり安い時、隣の郡に五人が護衛して何も起こらない場合。

およそ五人の一日の飯代くらいの料金しか発生しない。

 

けど高い場合、涼州とかに向かいに全員で護衛して賊が現れるとかの場合。

俺と姉さんの店の三ヶ月分の売り上げ以上の料金がかかる。

 

今回は割と普通な方。

漢中は特別に遠くはないし、護衛の人数は俺達が頼んで全員で来たし、賊も現れてない。

そこに値引きをしたら、大した金にはならん。

けどまぁ最初はこんなもんだ。

寧ろリピーターをこうして増やす訳だ。

 

そして俺は商人から頂いた護衛料を全部彼等の給料として全部渡した。

これらを繰り返し、彼等はこの仕事に慣れて自立していく。

……後は張曼成がこれらを綺麗に纏めて出来る様になるのを待つだけだ。

 

「よっしゃ! 今日は俺の奢りだ! 初仕事達成記念として、漢中の飯と酒を飲み食いするぞ!」

 

俺がそう宣言すると全員喜び俺を称賛する。

 

「流石元倹さん!」

 

「よっ、男前!」

 

そうだろう、そうだろう?

 

「何処までもついて行きます!」

 

「地獄だろうとついて行きます!」

 

ははは、止めろ。

 

「きゃー! 格好いい!」

 

「惚れる! 抱いて!」

 

……おい、誰だ今の?

 

そして俺達は大勢で店に入り、飯と酒を楽しむのだった。

……結局さっきのは誰だったのだうか。

これからは尻に気をつけよう。

 

 

_____

 

 

わいわいがやがやと俺達が飲み食いし楽しんでいる時に、一人の女の子が店に入って来た。

 

「……貴殿方が、守護鬼の率いる護衛隊ですか?」

 

……別に率いてないけど?

いつかは手を引くし。

 

「そうですが、貴女は?」

 

「失礼、私は王平(おうへい)、字を子均(しきん)と言う。 是非守護鬼殿と話をさせてくれないか?」

 

ん?

王平?

 

……街亭の王平か!?

そういや、漢中近辺の出身だっけ?

こりゃまた中々の人物じゃねぇか。

 

「俺がその守護鬼の廖 元倹ですが、何の用で?」

 

「貴殿がそうですか、……是非、私を雇って頂きたい」

 

……霊里かな?

全く、こんな所まで来たら駄目だろう?

 

……いかん、酔ってる。

急に王平が来て雇えとか聞こえた気がするから変な事考えてしまった。

 

「あー、悪い子均さん、少し酔っていて上手く聞き取れなかった。 もう一度言ってくれないか?」

 

「了解しました。 私を雇って頂きたい、と言いました」

 

……意味不。

何が起こった?

 

俺は酔いがどんどん覚めていった。

 




やっと出せたオリヒロ王平。
もはやヒロインは冥琳と雪蓮な気がしますが、どうなる事やら。
下手したら、変わる可能性がありますが、ご了承お願いします。


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真面目系おバカは可愛いと思う

二話連続で更新だぁー!

今回は王平についての回です。


整った顔、キツめの目付き、パッツンのボブヘアーに、中々ボインな美しさのとれた肢体。

 

俺は美女と言っても差し支えのない王平に、

 

「……雇え、……とはどういう事かな?」

 

そう問うた。

 

いや、王平を雇うのが嫌な訳じゃない。

寧ろ王平程の有能な人物を雇うのは大歓迎だ。

 

末期の蜀において、王平はかなり有能な将軍と言えるだろう。

特にその名を轟かせたのは、かの有名な街亭の戦いだ。

 

その戦い、簡潔に説明するなら、北伐をしようとする諸葛亮が馬謖という、馬良のまあまあ優秀な弟に街亭という場所を守護する様に命令する事から始まる。

 

しかし馬謖は諸葛亮の命令通りに街亭の通路を守護せず、その近くの山の上に陣取り敵を迎え討とうとする。

 

それを諌めるのが王平だ。

 

王平は何度も馬謖を諌め、通路を守る様に進言するが、それを馬謖は聞き入れず二人は反発する。

 

結局王平は僅か千の兵を率いて街亭の通路を守護し、馬謖は山の上に陣取る。

 

そして馬謖は敵の魏軍に水を絶たれ窮地に立ち、王平は敵の読み違えも有り、通路を守り通す。

 

だが、結局は馬謖の失態のせいで蜀軍は撤退するはめになり、諸葛亮は馬謖を失態の罪で切らなければならなくなる。

 

所謂、泣いて馬謖を切る、だ。

 

だが王平は僅か千の手勢で敵軍を押し留めていた事から諸葛亮に褒められ、名を高める結果になった。

 

……その王平が、何故護衛隊に雇えなんて言うのか?

有り難いが、何を考えているんだ?

 

「私は幼少の頃より最近まで、大陸の様々な場所を巡って来ました」

 

へぇ、そうなんだ。

 

「そして各地の地図を私は書き記しました」

 

……は?

 

「その地図、……私の記録は大いに役立つと思われます」

 

…………。

 

……。

 

……何を、言ってるんだこいつ?

 

「お、おい!? 大犯罪じゃねぇか!?」

 

この時代、いや、この世界でも勝手に地図を書いたり所有したりするのは死罪並の罪だぞ!?

こいつ頭大丈夫か!?

 

「ですが、必要な事です。 この時代、これから先はこの様な情報は武器になります」

 

そうだけども!?

 

「この地図、貴方の元で役立てる気はありませんか? これからの護衛業において非常に役立つと思われますし、何より私は腕が立ちます」

 

……こいつ、馬鹿だ。

 

真面目に考える頭もあるのに、とんでもない事しでかす阿呆だ。

 

……こんな奴、俺の他にもいたのか。

 

罪だろうが何だろうが、必要な事なら何でもするという馬鹿が居るのか。

 

「……だが、何故、俺の護衛隊なんだ? そんな情報があるなら、どこにだって仕官出来るだろう?」

 

大陸の詳しい地図なんて、何処の陣営でも欲しい情報だぞ。

 

「貴方が、……“守護鬼”が民を守る者だからです」

 

……ごめん、どゆこと?

 

「私は、この幼き時より記した地図を平和の為に、大陸の安寧の為に使いたいと思ってました」

 

うん、まぁ、解らんでもない。

 

「そこで耳にしたのが“守護鬼”の噂です。 何でも“守護鬼”はその名の通り、民を守護する者だと聞きました。……事実、漢中に帰って来た商人に話を聞くと、非常に穏やかで安心感を与える人物だと言います」

 

おい!?

そんな事言ったのあの人達!?

 

「私はその様な人物にこそ、地図を託せますし、仕えようと思っております」

 

……おいおいおいおい!

買い被りだよ!?

華琳さん並みに俺の事買い被っているよ!?

 

「お願い致します、貴方はこれより大陸に必要となる方でしょう。 どうぞ私を役立てて頂けませんか?」

 

……どないしよ。

 

王平を雇うのは構わんのだが、かなり誤解を受けてるんだけど?

 

ってか、大陸の地図かぁ。

 

……欲しいな。

 

いや、でもなぁ、犯罪だしなぁ。

 

……でも、地図。

 

いや、だがしかし……。

 

「……よ、喜んで迎えます」

 

……地図の価値には勝てなかった。

 

俺がどう評価されようが、これは重要な物だ。

……大陸の地図なんて、下手な孫子の兵法よりも重要だからな。

 

「真に感謝致します。 我が真名地理(ちり)、これより我が真名を貴方へと預けさせて頂きます」

 

うぉい!

急に預けんじゃねぇ!

 

「……そんな、真名まで預けて良いのか?」

 

「構いません。 自身の願いを託す者には預ける物です」

 

……ヤバい。

いつの間にか願いを託されちゃった。

 

軽はずみに言うんじゃなかった。

 

「お、おぅ。……俺は、蒼夜。 これからは真名で呼んでくれ」

 

「はい、蒼夜殿。 これからよろしくお願いします」

 

……よろしくされてしまった。

 

……マジかぁ。

 

……いや、まぁ仕方ない。

開き直ろう。

 

「聞け、お前ら! これより俺達の新たな仲間に王 子均が加わった! 彼女は俺達に非常に大きな利益をもたらした! 彼女の参入を歓迎する者は杯をかかげよ!」

 

俺がそう言うと、皆杯をかかげ、王平の参入を歓迎した。

 

「ならば! 王 子均の参入を祝い、……乾杯!」

 

「「「乾杯!」」」

 

……乗りの良い連中で良かったぜ。

 

「感謝致します、蒼夜殿」

 

うん、まぁ、こうなったらやけだ。

どんと来いって奴だ。

 

「それで、地理。 君にはこれから俺の近くで働いて貰うが大丈夫かな?」

 

いくら地理が、……王平が優秀だからと言って、急に護衛隊の長に置く訳にはいかない。

 

彼等は一ヶ月もの間、俺の厳しい調練に耐えて一致団結した連中だ。

今更急に張曼成から地理に長を変える訳にはいかない。

 

そんなん、いきなり地方の会社に本社から幹部が来て、今日から君達と一緒に働くからよろしく!

って言うのと、なんら変わらんからな。

ブーイング必至だ。

 

かと言って、この馬鹿だが優秀な奴を一隊員にする訳にもいかん。

 

「……副官、の様な物ですか?」

 

「まぁ似た様なもんだな。……俺の本業を手伝ったり、護衛隊を面倒みたりって感じか? まぁ書類仕事がほんの少しあるくらいだな」

 

まぁ霊里とか姉さんが居るから何も難しくないけど。

 

「なっ!? しょ、書類仕事、ですか?」

 

あ、れ?

 

「ど、どうかしたのか?」

 

「いや、あの、その、……わ、私は、その、文字が……」

 

……マジか。

地図を書くくらいだからそんなん余裕だと思っていたぞ。

 

確か、史実でも王平は文字があまり書けなかったんだっけ?

 

いや、だからってそれは酷い。

 

「……おい、何で大陸の未来を憂いてる奴が文字を書けないんだよ」

 

「そ、その、自分の名前さえ書ければ、後は武力を活かしその道に集中すべきかと思いまして……」

 

……お前は何処の項羽だ?

 

「……はぁ、良いか地理。 文字だけに限らず、学門ってのは『人が人である所以を学ぶもの』なんだ。……故に学べ」

 

吉田松陰がそう言っていた。

……そしてそれは真実だ。

 

「人が人である所以を学ぶもの……」

 

「そう、理性ある人として、大陸の未来を憂う者として、君はまず勉強しなさい」

 

……何で地頭は良いのに、そんな所は阿呆なんだよ。

 

「……了解しました。 王 子均、勉学に励ませて頂きます」

 

「ん、頼む。 君に仕事を頼むのは、その後からだ」

 

……実際、史実の王平は文字を読み書き出来ないのに文官から褒められる程、地頭は良かった筈だ。

これから学べば、かなり優秀になる……と思う。

 

「……それで、早速だけど、大陸の地図を見せてくれるか?」

 

……この為に雇ったと言っても過言ではない。

 

「はっ、どうぞ」

 

地理がポケットから巻物を取り出し、それを俺に渡してくれた。

 

俺はそれを丁寧に開き、地図を見る。

 

「……こりゃすげぇな。 随分丁寧に記してあるじゃないか」

 

そこに記されてあるのは、まず全体図。

それから各州。

そして各郡をこと細かに記してあった。

 

……これ、華琳さんや冥琳が見たら、千金積んでも買う、……いや、万金積んでも地理ごと買うな。

 

……やっべぇ。

これ良い拾い物した所じゃないぞ?

見る人が見たら、天下の足掛かりになるレベルだぞ。

 

「ってか、絵上手っ!」

 

地理の絵は、かなり綺麗と言って良い。

……何で字は駄目で絵は上手いんだよ。

 

「ありがとうございます。 私は昔から絵が得意で、最初は風景画を書いていた事から地図を書こうと思い至ったのです」

 

「そ、そうか」

 

……非常に、……非常に、不謹慎だが、……この絵で俺の小説のイラストレーターをしてくれないだろうか?

……絶対売り上げが上がると思うんだよね。

 

俺はこの時、そんな馬鹿な事を考えていた。

 




真名について
この作品では王平は地理に詳しい事から、解りやすく“ちり”に致しました。
適当な理由で申し訳無い。

地理に詳しい理由
王平は漢中に詳しい事から曹操に郷導使に任命されたとされていましたので、そこから取り大陸の地理に詳しい設定に致しました。

おバカな理由
作中でもあります様に、王平は文字を読み書き出来なかったそうです。
ですので、この作品では地頭の良いおバカとして扱います。


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全く感じられない予兆

原作突入も迫って来ました。
恐らく原作前最後のほのぼの?回です。


さて、地理が仲間に加わってから三ヶ月。

 

護衛業の面々は着実に仕事をこなして行き、俺もそろそろ手を引いても良さそうな雰囲気に達して来た。

 

実際に少数の賊に襲われた事もあったが、誰一人欠ける事なく、護衛を果たしたりもした。

 

……まぁ俺にビビって直ぐに賊が逃げ出したというのもあるが。

 

その護衛の合間に地理はようやく文字を読み書き出来る様になった。

まぁ三ヶ月なら充分早い方だろう。

 

やはり地頭は悪くない、と思っていたら、

 

『月に代わって、お仕置き致します』

 

……恥ずかしげもなく鏡の前でポーズをとっているのをこの前見てしまった。

 

学べとは言ったが、一体そこから何を学ぶのか。

……って言うか、美少女戦士読める様になったんだ、おめでとう。

 

まぁそれはさておき、護衛業だ。

この三ヶ月で黒字運営が出来る様になったし、張曼成もリーダーとして申し分無い働きをする様になった。

そこに地理の地図を組合せ、最適なルートを選択出来る様になった訳だから、俺達の護衛業はまぁまぁ名が知られる様になって来た。

 

給料もきちんと払えているし、自立して襄陽に住居を構える奴も出始めた。

 

……そろそろ休みでも与えるか?

ずっと護衛で長旅の連続だった。

みんなのストレスを解放する為にもここらで長めに休みを出すか。

 

ってか俺が休みたい。

ここ最近店を霊里と姉さんに任せっきりだったし、たまにはゆっくり書でも読んだり麻雀したりしたい。

 

俺はそう思い、少し長めの休暇を入れる事にした。

 

 

_____

 

 

「数え役満☆姉妹?」

 

「はい! 最近この襄陽にも来ていた人気がある旅芸人です」

 

俺が休みを入れてから一週間、休みだからと身体が鈍らない様に軽い調練を入れた後に、皆が上手く休めているかを張曼成に聞いてみたら、帰って来た答えがそう言う名の旅芸人だった。

 

「え? 何、皆その旅芸人に嵌まったの?」

 

「そうですね。 皆彼女達の歌や踊りを聞き、かなり気分良く楽しめたと思います」

 

ほーん、旅芸人ねぇ。

来ていたのは知ってたけど、俺は流石に興味出なかったな。

もっぱら、店番と称してダラダラと本を読んでたわ。

 

「まぁ皆が気分転換出来たなら良いんだけどさ」

 

「かなり出来たと思います。 彼女達には熱心な追っかけも居る様ですし、自分達も今の職が無ければ、もしかしたらと……。 まぁ流石に今はしませんが」

 

へぇ、そこまで有名で凄いんだ。

それは知らなかったな、俺も一度見れば良かった。

 

ってか、こんな時代でも追っかけとかいんのかよ。

アイドルはいつの時代も大変だな。

 

「でもよくもまぁ、こんなご時世に大陸を回れるもんだな」

 

「ですね。……ですがまぁ、彼女達は歌と踊りで大陸を制覇するのが夢の様ですし、それに心血を注いでいるのでしょう」

 

ふーん。

若干危険な発言だけど、……まぁ、歌と踊りでと言ってるのなら問題無いか。

 

「もう襄陽は去ったのか? そんなに有名ならこちらから護衛の営業に行っても良かっただろうに」

 

「あっ」

 

……全く抜けてるなぁ。

 

「まぁ今は長期休暇中だから良いけど、これからはよろしくな隊長」

 

「す、すいません。 つい楽しむだけで終わってしまいました。……これからはそういった機会を逃さない様にします」

 

「おう、がんばれー。 上手く行けばその旅芸人達を護衛して、近くで話せたかもしれなかったのにな」

 

俺がそう言うと、張曼成はかなり残念がっていた。

 

……そこまで好きか、その旅芸人。

俺も気になって来るわ。

 

 

_____

 

 

「姉さん達は、数え役満☆姉妹って知ってる?」

 

張曼成から旅芸人の話を聞いた夜、俺は気になって姉さん達にそう聞いた。

 

「ん?……あぁ、最近まで襄陽に来ていた旅芸人だろう? 僕は見てないし詳しくは知らないなぁ」

 

「私はそもそも旅芸人に興味が無いので良く知らないのです。 その名前も初めて聞きました」

 

まぁそうだよな?

張曼成の話ぶりに俺がおかしいのかと思ってしまったぜ。

 

「その旅芸人がどうかしたのかい?」

 

「いや、護衛隊の面々がその旅芸人に大分入れ込んだ様でな? どんなもんかと思ってさ」

 

下手したら追っかけになってたかもしれんと言うくらいだ、余程なのだろう。

 

「私は見に行きましたよ。 確かに面白いと思いましたね。……ですが周りが熱狂的過ぎて少々あれですが」

 

おぉ、地理は見に行ったのか。

 

「熱狂的って? どんな?」

 

「そうですね、……こう、彼女達の歌に合わせて、……ほわ! ほわぁ!……と、こんな感じでした」

 

お、おぅ。

……こいつ絶対楽しんで来てるわ。

めっちゃノリノリですやん。

 

ってか、それ何てオタ芸?

……そいつら時代を先取りし過ぎだろ。

 

「ふーん、僕も一度見に行けば良かったかな? そんなに盛り上がる旅芸人なんて中々見る機会無いだろうし。 少し勿体無い事したかな?」

 

「私はやはり遠慮して良かったです。 その様な場所は苦手です」

 

あー、まぁ霊里は仕方無いな。

 

「俺も折角だから一目みてくりゃ良かったな」

 

「……ふむ、でしたら私が人相書きでもしましょうか? 彼女達の容姿は良く覚えているので詳しく書けますよ?」

 

おぉ、その手があったか。

 

「頼んで良い? 後出来れば護衛隊の連中にも見せてやりたいから何枚か頼みたいな」

 

「了解しました。 少々お待ちを」

 

地理はそう言って、紙と筆を取りだし、さらさらと書き出して行く。

 

……うむ、やはり上手い。

是非我が小説にも頼みたいな。

 

「……出来ました。 細部に違いがあるかもしれませんが、おおよそこれで間違っていない筈です」

 

地理が書いた絵には三人の少女が書かれていて、まさしくアイドルに相応しい可愛さの少女達であった。

 

「へぇ、可愛いなぁ。 やっぱ見に行けば良かったな」

 

個人的には眼鏡の子が好きだな。

 

「そうですね。 ちなみに私はこの三姉妹の一番上のお姉さん、天和さんが好きです」

 

天和?

変わった名前だなぁ。

 

「三姉妹なんだ?……姉が天和なら妹は地和に人和かな?……なんてな」

 

「流石の洞察ぶりです。 その通り、真ん中の子が地和さんで、一番下の眼鏡の子が人和さんです」

 

……おい、マジかよ。

それで数え役満☆姉妹なのか?

数え役満じゃなくて、普通に役満じゃねぇか。

いやまぁ人和は地域によって取り決め違うらしいけど。

 

「おい、それ本当に名前か? 芸名とかじゃねぇの?」

 

「彼女達の真名です。 彼女達は客に親近感を与える為に敢えて真名で活動しています」

 

……おいおい。

いや、まぁ本人達が自分の真名をどう扱うかは自由だけど、流石にそれはどうだろう?

 

「ふーん、俺にはよう解らんな。 普通に名前で活動すりゃ良いのに」

 

「ですが、そのお陰で彼女達と客は一体感が出ているのは事実です。 特に彼女達の追っかけと、彼女達との舞台前のやり取りは中々面白いものでした」

 

前座のトークか何かかな?

そりゃ追っかけとかやるくらいだし、乗りが良いんだろうけど。

 

「彼女達が最初に舞台に出てきて、名前を言う、……言わせるのですが、『みんな大好きー?』

『天和ーちゃーん!』と、言うやり取りをします」

 

コールアンドレスポンス!?

時代を先取りし過ぎでしょ!?

 

「あー、……やっぱり僕はそういったノリにはついて行けそうにないや」

 

「おぅ、俺もちょっと厳しいな」

 

大ファンならともかく、素でそのテンションはキツいだろうな。

 

「そうですか?……私は楽しかったのですが……」

 

う、うーん、まぁ好みは人それぞれだからね?

俺や姉さんや霊里には合わないってだけで。

 

「私は機会があればもう一度、彼女達の舞台を観たいですね。 護衛業は他の街に行く機会が多いので少々期待しています」

 

「まぁ、会えると良いね?」

 

正直俺は興味が失せたわ。

 

朝な娘達だったり、地元中心に活動する四十八人な女の子達でもそろそろ出てくる可能性あるな。

 

……本当に乱世近づいてる?

 




今週中に、出来れば直ぐに、ルート確定致します。


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蒼き夜の日、三顧を尽くされる

ルート確定です。


物語、三国志の始まりは何時か?

 

諸説あるのかもしれないが、そう問われたら真っ先に出てくるのは黄巾党の反乱ではないだろうか?

 

実際の所、もし黄巾党の大規模な反乱が無ければ宮中のいざこざもそんなに激化しなかった可能性は無いだろうか?

 

大将軍の何進と十常侍の政争だけで済み、董卓が都入り等せず、時代が進み、曹操や袁昭と言った有名所の人物がいずれは宮中の高位官僚として政治を立て直す事はあり得なかったのか?

 

……実際の所は解らない。

 

俺はいくらか三国志に詳しいと言っても、それはあくまで物語として、登場する人物や戦いの内容を知っているだけで、その時代の詳しい背景なんかを知っている訳ではない。

 

故に、三国志の始まりは?

と、問われたら、黄巾党が現れてから、としか答えられない。

 

つまり、黄巾党が現れたら三国志が、……三国を築く英雄達がこの戦乱を切っ掛けに大いに飛躍し、戦乱が激化していくと思っている。

 

……そしてこの世界。

三国志に良く似ているこの世界で、ついに、……小規模ながら黄巾を纏った賊の噂が流れ始めた。

 

まだ全然見向きもされない小さな話だが、南陽で小さな邑が襲われたらしい。

 

結局そいつらは直ぐに討伐されたらしいが、黄巾を身につけていた、という話を聞いた瞬間に俺は背筋が凍った。

 

……いつかこうなるだろうと思っていたとは言え、実際来ると中々にキツい。

 

もう時間が無い所ではない。

……タイムリミットはもう越えてしまった。

 

 

_____

 

 

黄巾の噂を聞いたその日の夜、俺は一人山に来ていた。

俺が普段から修行をしている山の中腹に、昔建てた小屋があるので、そこの広場で一人、夜空を眺めながら酒を飲んでいた。

 

……今日の夜空は雲一つ無く美しく、星や月が明るく輝いており、天の川がくっきり見えて、まるで、……蒼い夜の様だった。

 

「……こんな所で、何を考えているのかしら?」

 

「……これからの事を」

 

……どこからともなく、声が聞こえて来た。

……知っている声だ。

 

「そう、……それで?」

 

「大した事は何も。……世が乱れるな、と」

 

一人で居たい気分だったから、山に来たんだけどな。

 

「その乱れる世、貴方はどうするの?」

 

「……解らない。 結局俺は、自分自身どうしたいのかも決まってない」

 

……俺が一人なら、もしかしたら何処ぞに隠れていたりしたかもな。

 

……けど、今更姉さんや霊里、地理や護衛隊の連中を捨て置いて逃げれはしないし、したくない。

 

「乱世は嫌いかしら?」

 

「嫌いだね。 誰かが嘆いているのを見るのも嫌だし、人が人を殺すのを見るのも嫌、勿論自分が人を殺すのも嫌だ。……晴耕雨読なんて贅沢は言わない。 ただ今が続けばそれで良かった」

 

春夏秋冬、花鳥風月。

春は花を愛で、

夏は鳥を眺め、

秋は風を楽しみ、

冬は月を見る。

 

それら美しい自然を感じながら酒を飲み、そこに愛する家族と愛すべき友がたまに居てくれるなら、俺に文句なんて無い。

 

「けど乱世は来るわ。……必ず」

 

「……でしょうね。 だからこうして物思いに耽ってる訳だし」

 

俺に出来る事は何も無い。

乱世を始めさせない事なんて出来ないし、家族や友人達を巻き込ませない事も不可能だろう。

 

……寧ろ自ら巻き込まれたがる奴だって居るくらいだ。

 

「ならばこそ、いち早く乱れる世を終わらせる必要があるわ」

 

「……」

 

……そんなもん理想だ。

誰だってそうしたいさ。

 

「私ならそれが出来る。……必ず成し遂げる」

 

「……どうやって?」

 

人の力でどう世を変えると言うのだろうか?

並大抵の行動では不可能だぞ?

 

「力で、よ」

 

「……力とは?」

 

力と言っても色々あるぞ?

 

「武力、知力、権力、財力、……およそ力と付くもの全てを使うわ」

 

「……それで乱れる世が終わると?」

 

その選択は、さらなる混乱を与える可能性だってあるだろう。

 

「それだけではないわ。……乱れる世の原因、根本たるこの国を完全に破壊し、新たに築きあげる。 そして乱れの種を完全に消し去るわ」

 

「……自分が何を言ってるのか解ってるのか?」

 

こんなの反乱宣言じゃないか。

 

「えぇ、反乱ね。 でもこの国、……いえ、この大陸の未来の為に必要な事よ」

 

「違う、そうじゃない。 貴女は今、大陸を血で染める覇業を成すと言ったんだ。 貴女のそれは聞こえは良いが、おおよそ人の成す事じゃない。……まるで始皇帝と同じ、英雄であると同時に歴史に類を見ない大罪人になるという宣言だ」

 

そんな覚悟があるのか?

 

「……英雄で大罪人、ね。 喜んで受け入れましょう。 この時代、誰にもなし得ないであろう功と罪、その全てを私が引き受けましょう」

 

「……何故、そこまで……」

 

「私が、曹 孟徳であるが故に」

 

……一体この人は何処まで真っ直ぐなんだろう?

もっと楽に生きる道はあるだろうに。

 

……責任なんて、誰かに押し付けてしまえば良い。

 

俺には関係無い。

周りが苦しむのは俺のせいじゃない。

時代が悪い。

俺だって苦しい。

 

……力や知恵があるかもしれないが、それを使う義務なんて無い。

 

……そう思った。

……そう思っていた。

 

「私の覇業、是非貴方の力を貸してくれないかしら?」

 

「……廖 元倹、これより命を賭して曹 孟徳様に仕えさせて頂きます」

 

 

_____

 

 

「……それで? 何でここに居るんですか、華琳さん?」

 

いや、さっきまで普通に話していたけど、どったのさ?

いつ襄陽に来たの?

 

「貴方の立ち上げた護衛隊というのが、私の治める陳留の街を訪れてね、……良い機会なのでその護衛隊に依頼して今日の夕方に襄陽に着いたのよ」

 

あー、そういや陳留行きの護衛の任務とかあったな。

最近俺は手を引いて張曼成に丸投げしてたからな。

 

「夜の山は慣れてないと危険ですよ? 春蘭さん達はどうしたんです?」

 

流石に護衛無しで山に来るのはいかんでしょ。

特にこの人は命を狙われてもおかしくないだろうに。

 

「今日は貴方を正式に迎えるつもりで来たの。……そこに護衛を連れるのは無粋だわ。 だから春蘭達は街に待機させて居るわ」

 

「……そこまで評価して頂いて恐縮ですよ。……まさか俺が華琳さん直々に三顧もされるとは思いもしませんでした」

 

どこの諸葛亮だっつうの。

いくら俺でも決心つくわ。

 

「あら、昔から賢人を迎えるにはそれ相応の態度が必要な筈よ? 太公望を迎えた文王の様にね」

 

「……比べる相手が偉人過ぎませんかね?」

 

おい、俺にそんな働きは不可能だぞ?

 

「そうかしら?……ならそうね、貴方を大将軍にでも任じましょうか?」

 

「一兵卒で構いませんよ?」

 

ねぇ、それ何処の韓信?

俺に大陸を平定しろとか命令すんの?

 

……それが出来たら苦労しねぇよ。

 

「私がわざわざ三顧してまで兵卒を勧誘する訳無いでしょう、全く。……でも私が貴方に期待するのは、百万の軍勢を討ち滅ぼす策を考える事でも、大陸の至る所を平定する事でもないわ。 それらは私自身が行いましょう」

 

「……では、このしがない凡夫に何をお求めで?」

 

「私を導きなさい」

 

……おいおい。

それまた充分重い命令だな。

 

「私を、この曹 孟徳を、大陸に覇を唱えんとするこの覇王を、……貴方が導きなさい」

 

……出来る訳ねぇだろ。

何言ってんだこいつ?

 

……って言えたら楽なんだけどなぁ。

 

「廖 元倹、可能な限りその命令を果たします」

 

「えぇ、よろしく蒼夜」

 

華琳さんは、それはもう清々しい程素敵な笑顔を俺に見せてくれた。

 

……ただ、俺は思っていた。

 

アットホームな雰囲気過ぎる、これ完全にブラックな職場だろ。

俺をどんだけ働かせるつもりだろうか?

せめて週休一日はありませんか?

 

「あー、華琳さん、早速二つ程頼みたい事があるんですが良いですか?」

 

「聞きましょう」

 

「まず一つ、他にも連れて行きたい奴等がいます。……本人達に聞いてからになりますが、人を連れても良いですか?」

 

「願っても無い事ね。 貴方の周りに居る人材は皆優秀。 それが纏めて我が陣営に加わると言うなら歓迎するわ」

 

そりゃ良かった。

まぁこれはあんまり心配してなかった。

 

……けど後一つどうかな?

 

「後一つ、……陳留に行く前に、呉郡に行って来ても良いですか?」

 

……雪蓮と冥琳には話をしないとな。

正直、ちょっとしんどいかも。

 

「……えぇ、行ってらっしゃい。 友と言葉を交わすのも、もうあまり出来なくなるでしょうしね」

 

……違います、ただ報告に行くだけです。

 

「おや、約束が違いますよ華琳さん? 乱世を速やかに平定するのでしょう?……なら、ほんの一時的な別れですよ」

 

「ふふっ、そうね。 その為にも貴方には働いて貰うわよ?」

 

あぁ、やるさ。

ここで生まれた一つの目標。

 

赤壁なんて起こさせない。

 

その為に。

 




と、言う事で作者が想定していたのは魏ルートでした。
華琳さんに主人公が三顧の礼をする事から考えていた話でした。
予想されてた方も居るのでしょうか?

呉を予想していた方には申し訳ありません。
作者としても、予想以上に主人公と雪蓮達が仲良くなり過ぎて、色々と葛藤がありました。

ですが、一応は最初の予定通り魏ルートで進めたいと思います。

ifルートとして、いずれは半独自の呉ルートもどきをいつか致しますのでご勘弁下さい。


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if 蒼き夜の日、友遠方より来る

少々短いですが、呉ルートverです。
ちなみ作者は恐らく主人公よりもルート選択に葛藤がありました。

半分は本編と同じ流用物です


物語、三国志の始まりは何時か?

 

諸説あるのかもしれないが、そう問われたら真っ先に出てくるのは黄巾党の反乱ではないだろうか?

 

実際の所、もし黄巾党の大規模な反乱が無ければ宮中のいざこざもそんなに激化しなかった可能性は無いだろうか?

 

大将軍の何進と十常侍の政戦だけで済み、董卓が都入り等せず、時代が進み、曹操や袁昭と言った有名所の人物がいずれは宮中の高位官僚として政治を立て直す事はあり得なかったのか?

 

……実際の所は解らない。

 

俺はいくらか三国志に詳しいと言っても、それはあくまで物語として、登場する人物や戦いの内容を知っているだけで、その時代の詳しい背景なんかを知っている訳ではない。

 

故に、三国志の始まりは?

と、問われたら、黄巾党が現れてから、としか答えられない。

 

つまり、黄巾党が現れたら三国志が、……三国を築く英雄達がこの戦乱を切っ掛けに大いに飛躍し、戦乱が激化していくと思っている。

 

……そしてこの世界。

三国志に良く似ているこの世界で、ついに、……小規模ながら黄巾を纏った賊の噂が流れ始めた。

 

まだ全然見向きもされない小さな話だが、南陽で小さな邑が襲われたらしい。

 

結局そいつらは直ぐに討伐されたらしいが、黄巾を身につけていた、という話を聞いた瞬間に俺は背筋が凍った。

 

……いつかこうなるだろうと思っていたとは言え、実際来ると中々にキツい。

 

もう時間が無い所ではない。

……タイムリミットはもう越えてしまった。

 

 

_____

 

 

その日の夜、俺は一人山に来ていた。

俺が普段から修行をしている山の中腹に、昔建てた小屋があるので、そこの広場で一人、夜空を眺めながら酒を飲んでいた。

 

……今日の夜空は雲一つ無く美しく、星や月が明るく輝いており、天の川がくっきり見えて、まるで、……蒼い夜の様だった。

 

「なーに、一人で黄昏てるの?」

 

「……別に、これからの事を考えてただけ」

 

……どこからともなく声が聞こえて来た。

……よーく知ってる声だ。

 

「ふーん?……それで?」

 

「いやぁ、世が乱れるなぁ、って」

 

全く、何処から嗅ぎ付けたのか、一人になりたかったんだけどねぇ。

 

「……そうね。 で? どうするつもり?」

 

「……どうも。 何すりゃ良いか解らねぇや」

 

……俺が一人ならどうしてたかね。

あるいは隠れてたかもな。

 

でも今更他の連中放ってそんな事する訳にもいかないし。

 

「乱世は嫌いなの?」

 

「あぁ、嫌だな。 嘆き、悲しみ、殺し、殺され、……あほくせぇ、好きな奴の理由が解らねぇよ。 俺はただ、今と変わらない生活が出来ればそれで良かったんだけどな」

 

……こんな風に、自然を肴に友人と一杯出来るだけで俺は充分だ。

 

「……けど、そうも言ってられない。 遠からずこの先は必ず乱れるわ」

 

「……だな。 だからこうして物思いに耽ってる訳だし」

 

俺には何も出来ん。

乱世は始まるし、家族を関わらせないのも無理。

友人は寧ろこれを好機と捉えているのかな?

 

「……私はね、そんな世から呉の家族を守りたいの」

 

「……」

 

……大切なものを守るのは難しい。

きっと誰だってそうしたい。

 

「……母様だったらきっと守りきる。 ううん、これを機会に更に孫家の領地を増やして大陸を制覇し、争いを無くす。……だったら私だってやってみせる」

 

「……アホか、どうやるってんだよ」

 

そんなん出来たら誰も苦労しねぇよ。

 

「それは解らないわ」

 

「はぁ?」

 

こんのど阿呆。

 

「冥琳が居るんだもの、どうにかなるわ」

 

「……冥琳が不憫で仕方ねぇよ」

 

ほんとに、……このど阿呆。

 

「蒼夜も手伝って?」

 

「……あぁ、良いよ」

 

俺がそう言うと、雪蓮は柔らかく微笑んだ。

 

……いつかこうなるんじゃないかと予想した時があった。

 

俺は雪蓮に正式に孫家に仕える様にお願いされたら断る事が出来るか?

 

……最初から答えは決まっていた。

出来る訳が無い。

 

今まで、俺達の関係が近すぎて、改まってそういう事を言ったりする事が出来なかっただけだ。

寧ろ敢えてその話題を遠ざけていた節すらある。

 

だから改まって言われると、断る選択肢なんて無い。

 

 

_____

 

 

「そんで? お前何でここに居んの?」

 

さっきまで普通に話してたけど、おかしいからね?

いつ襄陽に来たんだよ。

 

「あは♪ 蒼夜が作ったっていう護衛隊が建業に来たのよ。 それで冥琳に内緒で抜けて来ちゃった」

 

……はぁ。

護衛隊の面々と来たのか。

 

「……お前、呉の太守が何してんだよ」

 

「大丈夫、大丈夫。 ちゃんと書き置きはして来たし、それに蒼夜も悪いのよ? 最近全然来なかったじゃない?」

 

おい、俺のせいにすんじゃねぇよ。

 

「……お前、俺が臣下になったらそんな事絶対にもうさせねぇかんな?……マジで蓮華様に家督譲っちまえよ」

 

「えー?……前から思ってたけど蒼夜ってさぁ、やれ蓮華に家督を譲れだの、当主交代しろだの言うけどさぁ、……そうした所で私の仕事なくならないでしょ?」

 

……。

 

「……まぁ確かに」

 

「じゃあ意味無いじゃないのよぉー!」

 

う、うーむ、そうなんだけど、なんだろう?

この釈然としない感じは。

 

「と。とにかく、俺の前でサボりなんて絶対に許さないからな!」

 

「ふっふっふっ、解ってない様ね蒼夜。 貴方はもう客将ではなく正式な部下。……ふふん、主命よ、見逃しなさい」

 

「絶対に嫌ですクソ当主」

 

却下に決まってんだろ、アホかこいつ?

……アホだったな。

 

「なんでよー? 主命よ? しゅ・め・い」

 

「おぅ、反乱起こしたり、離反したりして良いならそれも認めてやらぁ」

 

「いや、間違ってもそんな事認めないわよ。 ってかそんな君主の脅しかたってあり? 絶対に臣下の態度じゃないわよねそれ?」

 

「ばっかお前、めっちゃお前の為を思って行動してる半端無い忠臣だろ俺」

 

っべぇわ~、俺マジ忠臣過ぎっしょ!

これもう冥琳から誉められるレベルっしょ!

 

「……蒼夜を臣下にするのは間違えたかしら?」

 

「おぅ、俺も色々後悔しそうだわ」

 

早くも既に頭痛いからね?

 




未だにどちらが良かったのか解らないのです。

一応は魏ルートで進めるつもりですが、中々納得のいかない方も多い様ですしね。
慰み程度ですが、これで暫く勘弁して下さい。


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再び飲む日の為に

感想欄で葛藤シーンが無い事を沢山言われてしまったので、今回は主人公の描写が多目です。

納得しない方は多いでしょうが、本当に申し訳なく思っております。


俺が華琳さんに仕えるのを決めた後、姉さん達にその話をしたら全員俺に着いて来ると言った。

 

霊里と地理はまぁ解る。

二人はこの日の為に俺に着いて来た所があるからな。

 

護衛隊の面々も俺に着いて来ると言う。

俺に救われたと言う彼等は、いつぞや冗談だと思っていた言葉通り、何処までも着いて行くそうだ。

……色々思う所はあるが、襄陽に家を買った奴等まで来るのは少し申し訳なく思う。

 

意外だったのは姉さんだ。

出仕するのが嫌で家出までした姉さんがまさか着いて来るとは思わなかった。

 

なんでも、

 

『君と霊里ちゃんまで行くのに僕が行かない理由が無い』

 

だそうだ。

 

らしいと言えばらしいのだが。

無理矢理連れて行く様でなんか申し訳ない。

 

まぁとにかく、俺の周りの人達は全員が華琳さんに仕える事が決まり、店を畳み、全ての荷物、資産を持って、陳留へと移動した。

 

……俺を除き。

 

無論、俺がハブられてる訳じゃない。

ってかハブられたら即効で辞めるからね?

 

俺は華琳さんに頼んであった様に、呉郡に一人来ていたのだった。

 

 

_____

 

 

「おいっす~」

 

「おいっす~♪」

 

「久しいな。……どうした? 手紙も寄越さず急に来るなんて。 それに今回は形式ばった事までして」

 

俺は建業に来て、今回は城門の前で門番に雪蓮と冥琳を呼んで来る様に頼んだのだった。

 

そして客間に通され、二人が現れたのでいつもの挨拶をした。

 

「あー、うん、まぁな。……今回はちょっと真面目な話があるから」

 

……どんな反応するかね?

 

「……俺、仕官先決まったわ」

 

俺がそう言うと、二人はほんの少し停止して驚いた。

 

「……あー、……おめでとう?」

 

「……成る程、それでか」

 

「うん、まぁこれから他陣営になる訳だし、流石に今までの様に素通りは駄目かなって」

 

……まぁ本当ならタメ語も駄目なんだろうけど。

 

「ふむ、……まぁお前が仕官するくらいだ、……華琳殿か?」

 

「正確。……この前まさかの三回目の直接勧誘を受けたよ」

 

実は内心めちゃくちゃビビったからね?

俺は一体いつから知力百になったのかと思ったよ。

 

「あ~、三回も華琳に勧誘されたらいくら蒼夜でも仕官するか」

 

「……うん、まぁな。 流石に三回断るのは無いわ。 しかも今回は断る言い訳が殆ど無いって言うね」

 

ニート志望の諸葛亮でさえ礼を尽くしたからね?

華琳さんの勧誘を三回も断ってみろ?

家燃やされて炙り出されるわ。

 

……それはそれで、やっぱり知力高い奴だけど。

 

「それに乱世が近いからな。 ぶっちゃけこれ以上何処にも属さないで通すのは限界に近かった。 まさか俺が旗揚げとかする訳にもいかないし」

 

それだけは本当にあり得ん。

自ら好んで棘の道を進む理由は無い。

 

かと言って一庶民としてずっと引きこもりも出来ない。

襄陽は激戦地になるだろうからな。

 

「そんな時に華琳殿が来た訳か。……確かに私でもお前の立場なら断らないかもしれんな」

 

……。

 

「……うん、まぁ、今だから言うけどさ、……正直もし雪蓮から正式に仕官要請が来てたら俺はここに来てたかもよ?」

 

その場合だけは断っていただろう。

 

「あー、やっぱり?」

 

ま、気付いてるよな。

お互い良い加減付き合いが長い。

相手の心情くらいはなんとなく解るよな。

 

「なんとなく解っていたけれど、……今更面と向かってそういう事言えないわよね……」

 

「……だな。 実際俺も自分からは絶対に言わないし、言わなかった。……なんか恥ずかしいよな」

 

どの面下げて雪蓮に頭を下げるんだよ。

……想像がつかん。

 

「……そうだな。……恐らく孫家の者全員がお前が仕官するのを望んでいただろう。……だがもし、お前を勧誘するなら、それは雪蓮が直接言わなければ意味は無いからな」

 

……うん、なんとなくそうなんだろうなとは俺も思っていた。

 

「……多分雪蓮から直接言われないと、俺はのらりくらりと交わして明言は避けていただろうよ」

 

……多分、冥琳から言われてもそうだっただろう。

 

「えー? 何か私が悪いみたいじゃない?」

 

「「いや、お前は悪くない」」

 

これは誰かが悪い話じゃない。

 

あっさりと華琳さんに着いて行くのを決めた俺だが、葛藤とかがまるで無かった訳じゃない。

 

どうしたって雪蓮と冥琳の顔が脳裏を過ったさ。

 

けどやっぱり何か違う。

雪蓮に頼まれたならともかく、俺が自分から雪蓮に頭を下げるのが想像出来ない。

 

……誰かが悪い話じゃない。

近過ぎただけの話なんだろう。

 

俺が雪蓮を友としてではなく、もう少し尊敬出来る英雄として見れたなら、雪蓮が俺を友としてではなく、もう少しだけ有能な人材として見てたなら、……多分変わっていたかもしれない。

 

……俺がずっと何処にも属さなかったのは、もしかしたらずっと雪蓮から誘われるのを待ってたのかもしれないな。

 

…………。

 

……。

 

……無いか、……うん、無いな。

 

きっと俺がダラダラと何もしたくなく、乱世を否定したかっただけなんだろう、……きっと。

 

「でも何故華琳殿に仕えるのを決めたんだ?……言ってはなんだが、お前は三顧くらいでその人に仕える様な人物ではないだろう?」

 

アホか。

そこまで非礼じゃねぇぞ。

俺みたいな奴に三顧した時点で充分過ぎる理由になるっつうの。

 

……まぁ理由が無い訳じゃないけど。

 

「ま、秘密にしとくわ。……いつか聞かせるよ」

 

「何よそれー? 聞かせなさいよー」

 

「いつかな、……いつか」

 

俺が華琳さんに仕える理由。

まぁそこそこ色々ある。

 

まず人となりを知った事。

あの夜会話した時の華琳さんから、俺は眩しい程に強烈な英雄の姿を感じた。

 

そしてその理想。

あの人は未来の平和を築く為なら、自らが大罪人になる事を厭わなかった。

 

……だが一番の理由は違う。

あの人は乱れる世を速やかに終わらせると言った。……ありとあらゆる力で。

 

乱世が終わる、それは即ち、今、この時の平和と言える状態に戻すという事。

 

……もし仮に、俺の知る三国志の歴史の様にこの世界が進むとしたらどうなる?

 

簡単に言えば、俺が死ぬまで、……百年近く経っても乱世は終わらん。

 

……冗談じゃない。

それこそ俺が一番望んでいない事だ。

 

乱世を速やかに終わらす。

あの人以外に誰が出来る?

 

雪蓮か? 劉備か? はたまた袁紹?

……他の誰でもない。

華琳さんだからこそ可能性があるんだ。

 

俺の知る前世の知識と、実際に知る華琳さんを見たからこそ、可能性を感じたんだ。

 

……そしたらまた、こんな風にこの二人とゆっくり飲める日が来る。

 

その為には間違っても赤壁なんて起こさせない。

いや、そもそも呉とは戦わせない。

同盟でも何でも良い。

そんな未来を否定してやる。

 

仮に敵対したとしても、その時までに圧倒的な国力を身につけ、戦をする前に勝つ。

 

劉備と何か同盟させない。

俺が意地でも分断してやる。

 

……例え雪蓮達から恨まれようと、平和的に呉を吸収して大陸に安寧をもたらす。

 

それが唯一可能だからこそ、あっさりと俺は決めた。

 

……今はこれを言わない。

将来、いつか飲みながら話す日を俺は信じて行動する。

 

 

_____

 

 

翌日、俺は建業を出て陳留に向かう事にした。

……その道程を雪蓮と冥琳が途中まで着いて来る。

 

……まるでこれが、最後の別れの様に。

 

でも違う。

これは離別じゃない。

 

華琳さんにも言った様にただの一時的な別れだ。

俺は必ずまた二人と会う。

 

その為に……。

 

 

_____

 

 

「……行っちゃったわね」

 

地平線の向こう、蒼夜の背中が見えなくなってから雪蓮がそう呟いた。

 

「冥琳、私は何か間違ったかしら?」

 

昨日も言った様に、雪蓮は何も間違ってはいない。

 

ただ、お互いが近過ぎた。

……本当に、ただそれだけ。

 

「……冥琳、少しこうしてて良い?」

 

雪蓮は私にそう言って抱きついて来た。

 

私の胸元に顔を埋め、肩を少し震わせている。

……そして私の胸元が湿る。

 

……好きなだけこうしてたら良い。

痛い程、その気持ちは解る。

 

私も雪蓮を抱き締め、少しだけ雪蓮の肩を濡らしてしまった。

 




次回から原作突入予定です。
少し日を空けると思いますが、ご了承下さい。


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登場人物設定 原作突入前 登場人物設定

原作突入前に作者が設定していたものを投稿します。

少し内容が変化していたりします。

本編の投稿は日曜までには投稿する予定です。


オリジナル登場人物

 

廖化 元倹 (蒼夜) 十七歳

過去に死にかけた経験により前世の知識を思い出す。

本来仕えるであろう蜀を拒み、好きに生きようとする。

結果、何故か知らぬが魏へと仕官。

武力、知力、共にそこそこでしかないのだが、何故か多方面から買い被られている。

 

楊慮 威方 (撈) 二十九歳

幼き頃の主人公を拾い、家族として、また師として主人公の成長を導く。

一度病で倒れ死にかけるが、名医華佗にその命を救われる。

その華佗に惚れるも上手くいかずに失恋。

名家の出だが仕官を嫌がり家出をする典型的な隠者。

主人公が魏に所属するのを切っ掛けに自分も仕官する。

 

馬良 季常 (霊里) 十一歳

水鏡女学院出身で、アルビノ体質のスーパースペック幼女。

自身の体質により身体が弱っている所を名医華佗に救われる。

その後に主人公と出会い、主人公の人間性や将来性に惹かれ主人公の元を訪れる。

以降主人公の妹として過ごし、主人公が魏に所属するのを切っ掛けに自分も仕官する。

 

王平 子均 (地理) 十八歳

幼少の頃より大陸の各地を巡り独自に大陸の地図を作りあげる。

乱れる世を憂い、自身の武力と地図を民の為に使ってくれる主を求めている所に主人公と出会う。

根は真面目で地頭は悪く無いのに、凄くおバカ。

主人公が魏に所属するのを切っ掛けに自分も仕官する。

 

張曼成 十九歳

モブ。

 

登場済み原作キャラ

 

主人公との相性度

○=良い ◎=非常に良い ☆=最高

△=悪い ×=非常に悪い ★=最悪

 

 

孫策 伯符 (雪蓮) 二十歳 ☆

幼き頃より主人公の親友として冥琳と共に一緒に成長していく。

成人後まもなく尊敬すべき母が亡くなり、急遽孫家当主になるが、始めは上手くいかずに苦戦する。

主人公と冥琳の助けによって母である孫 文台の官位をも超える呉郡太守となる。

だが当の主人公は別陣営に所属する事が決まり、悲しい思いをする。

 

周瑜 公瑾 (冥琳) 二十歳 ☆

雪蓮同様、幼き頃より主人公の親友として共に成長していく。

自由過ぎる雪蓮と、突拍子も無い事をしでかす主人公の尻拭いをいつもしてきた苦労人。

成人後まもなく尊敬すべき主である孫 文台が亡くなり急遽ガタガタになった孫家を支える事になる。

だが主人公の協力により孫家の土台を建て直し、雪蓮を呉郡太守へと導く。

だが当の主人公は別陣営に所属する事が決まり、悲しい思いをする。

 

孫権 仲謀 (蓮華) 十七歳 ◎

幼き頃に読んだ書物の作者が自分と同い年の男の子だと聞かされ主人公に興味を持つ。

主人公の協力で孫家が再び盛り返す事になり更に主人公を意識し、軽い嫉妬と淡い恋心を持つに至る。

主人公が別陣営に所属する事が決まったのを知った時は非常に悲しんだ。

 

孫尚香 (小蓮) 十一歳 ○

幼き孫家の末娘。

自身の姉と仲の良い主人公の事を気の良いお兄ちゃんとして接する。

自身のペットである周々の番を主人公に紹介させたりと結構なワガママっぷり。

主人公が別陣営に所属する事が決まったのを知った時は憤った。

 

甘寧 興覇 (思春) 十七歳 ○

幼き頃より長江を根城とする江賊として過ごし、若くして頭目となる。

孫家が呉郡の賊討伐を敢行してる際に主人公の噂を聞き注目する。

また孫家との面会を果たし際に主人公と模擬戦をする事となり引き分ける。

主人公が文の道にも強く、また情が厚い事から尊敬に価する人物だと認める。

主人公が別陣営に所属するのを知った時は目を瞑り一言も発しなかった。

 

黄蓋 公覆 (祭) 二十九才 ○

若き頃より孫 文台に仕え、幼き頃の雪蓮と冥琳の育ての親。

孫 文台が亡くなった際に孫家へと足を運んだ主人公に興味を持ち、一目見て主人公を気に入る。

時間がある時は警邏や調練に主人公を誘い色々な事を教える。

主人公が別陣営に所属するのを知った時は苦笑いをし酒を飲んだ。

 

陸遜 伯言 (穏) 十八歳 ★

幼き頃に主人公が雪蓮の為に書いた書物を勝手に拝読し、量産し、売りに出す。

その行動に様々な所から怒られ非常に反省し、思慮深い性格へと変化して行く。

しかし冥琳からの罰として、主人公に書物の質問の禁止、二人きりで会うのを禁止、真名の交換の禁止を言い渡される。

主人公が別陣営に所属するのを知った時は何も言えなかった。

事実、主人公が深く華琳に注目される切っ掛けを作ったのはだいたいこいつのせい。

 

周泰 幼平 (明命) 十五歳 ○

幼き頃より孫家へと仕える恋姫の忍者。

主人公と顔を会わした回数は少ないが、主である雪蓮の為に尽力した主人公への好感度は高い。

主人公が別陣営に所属するのを知った時は理解が出来なかった。

 

 

曹操 孟徳 (華琳) 十六歳 ◎

幼き頃より大陸の未来を憂い、いずれ大陸を覇で統一する野望を持つ恋姫屈指の英雄。

年少の頃より主人公の書物が好きで、元々注目していたが、名君論の存在を知り、自分に仕官させる事を決意。

その後、主人公を得る為に三顧を尽くしてようやく主人公を仕官させる事に成功させる。

 

夏候惇 元譲 (春蘭) 二十歳 ○

幼き頃より華琳に仕える脳筋。

華琳が白と言えば仮に黒でも白と言う華琳絶対マン。

主人公に対して特別何かを思う事はなく、男にしては優秀と思ってる程度。

 

夏候淵 妙才 (秋蘭) 二十歳 ☆

幼き頃より華琳に仕える文武両道の何でも出来る人。

華琳が白と言えば仮に黒でも白と言う華琳絶対マン。

主人公に対してかなり好感度が高く、魏に仕えてくれる事をかなり喜んでいる。

 

郭嘉 奉考 別名 戯志才 (稟) 十七歳 ◎

若き頃より風、星、と共に大陸を旅し、自身の主君となる人物を探している。

主人公の書物を好んで読み、意外とラブロマンス物が好きで色々と妄想をたぎらせている。

現在は未だ将来再び会う事を知らない。

 

程昱 仲徳 (風) 十四歳 ○

若き頃より稟、星、と共に大陸を旅し、自身の主君となる人物を探している。

主人公の書物を好んで読み、特に推理物が好み。

襄陽では会う事がなく、ニアミスしていた。

 

 

諸葛亮 孔明 (朱里) 十二歳 ○

水鏡女学院出身の若き天才。

雛里と共に、師である司馬徽から伏龍、鳳雛と称えられる知力百。

主人公の書物を好んで読み、雛里と共に腐った趣味を捗らせている。

主人公に会った際に旗揚げしないかと問う。

現在は主人公の助言通りに様々な人に会う旅に出てる。

 

鳳統 士元 (雛里) 十二歳 ○

水鏡女学院出身の若き天才。

朱里と共に、師である司馬徽から伏龍、鳳雛と称えられる天才戦術家。

主人公の書物を好んで読み、朱里と共に腐った趣味を捗らせている。

襄陽で将棋大会に参加した際には圧倒的な実力で優勝をかっさらい、王将の称号を得る。

現在は主人公の助言通り様々な人に会う旅に出てる。

 

趙雲 子龍 (星) 十七歳 ☆

若き頃より武術を嗜み、凄腕の実力を持つ。

稟、風、と共に大陸を旅し、自身にふさわしい主君を探す。

主人公の書いた仮面を着ける美少女戦士の書物を好み、密かに続編を待っている。

主人公の書いた書物の影響か、最近は華蝶仮面の人気がそこそこ上がり満足している。

だが決して華蝶仮面では無い。

 

その他勢力

 

袁紹 本初 (麗羽) 十八歳 ★

名門袁一族の次期当主として育てられた超お嬢様。

襄陽を訪れた際に主人公の得意な麻雀で勝負するも、圧倒的な天運により第一ツモで勝利し、主人公にトラウマを与える。

 

文醜 (猪々子) 十六歳 △

幼き頃より麗羽に仕える脳筋。

ギャンブル等の勝負事が大好きで、麻雀をする切っ掛けになったのもこいつのせい。

 

顔良 (斗詩) 十六歳 ○

幼き頃より麗羽に仕える苦労人。

いつも麗羽と猪々子の尻拭いをさせらており、麻雀の際も度々主人公に申し訳なさそうに頭を下げていた。

 

張角 張宝 張梁 (天和 地和 人和) △ × ◎ 十八歳 十七歳 十五歳

若き頃に自身等の歌と躍りで天下を獲る事を目標に旅芸人になる。

襄陽に来る事もあったが、主人公が旅芸人に興味がなく、ニアミスした。

 

未登場原作キャラ

 

名前、真名、年齢、相性のみ

 

 

呂蒙 子明 (亞莎) 十五歳 ◎

 

 

荀彧 文若 (桂花) 十六歳 △

 

許緒 仲康 (季衣) 十二歳 ◎

 

典韋 (流琉) 十二歳 ◎

 

楽進 文謙 (凪) 十六歳 ◎

 

李典 曼成 (真桜) 十六歳 ○

 

于禁 文則 (沙和) 十六歳 △

 

 

劉備 玄徳 (桃香) 十六歳 ○

 

関羽 雲長 (愛紗) 二十一歳 ★

 

張飛 翼徳 (鈴々) 十三歳 ○

 

黄忠 漢升 (紫苑) 二十五歳 ◎

 

璃々 五歳 ◎

 

馬超 孟起 (翠) 十九歳 ○

 

馬岱 伯瞻 (蒲公英) 十四歳 ◎

 

魏延 文長 (焔耶) 十五歳 ×

 

厳顔 (桔梗) 二十七歳 ◎

 

その他勢力

 

袁術 公路 (美羽) 十一歳 ×

 

張勲 (七乃) 十六歳 ★

 

董卓 仲穎 (月) 十四歳 ◎

 

賈詡(駆) 文和 (詠) 十五歳 ◎

 

張遼 文遠 (霞) 二十一歳 ◎

 

呂布 奉先 (恋) 十九歳 △

 

陳宮 公台 (音々音) 十一歳 △

 

かゆうま 二十二歳 ×

 




公孫賛 伯桂 (白蓮) 十六歳 ☆

南蛮勢力や華佗はこの先登場するかは未定ですので今回は乗せません。


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成年期 原作突入 黄巾編 忙がしさは病み付きになる、らしい

原作突入です。
主人公と一刀との違いをお楽しみ下さい。
まぁ、若干しか変わりませんが。

出来ればまた早めに投稿したいです。


陳留に来て正式に華琳さんの臣下として召された俺は、中々充実した……そう、他の事を考える余裕が無い程充実した日々を過ごしていた。

 

……ちょっと俺の事好き過ぎませんかね?

 

陳留の一日は、朝早くから幹部は集まり朝議での報告会をし、華琳さんの指示を仰ぐ。

その後、午前中は華琳さんの指示通りの仕事をしあっと言う間に時間が過ぎる。

昼を越せば兵の調練や警邏があり、効率良く動かなければ夜になる。

それらが終われば今日一日の報告書が上がって来て、それらを確認し纏める。

 

……それを毎日繰り返す。

 

……おい、俺だけハード過ぎねぇか?

 

姉さんと霊里は戦術、戦略はともかく武には詳しくないのでその殆どが政務系の書類仕事で終わり、夕方頃には仕事を終える。

 

地理は逆に文にそれほど強くないので、書類仕事は少なく兵を纏める仕事が多い。

 

そして古参の春蘭さんは書類仕事はしないって言うね。

 

……なのに俺は全部やらされるって言う。

 

華琳さんと秋蘭さんくらいだよ?

俺並み、もしくは俺以上に働いているのは。

 

いやまぁ孫家での書類地獄に比べれば幾らかましだよ?

……けどこれ、今は平時でこれだからな、戦争が起こったり、軍を動かす時になったらどうなるんだよ全く。

 

しかも俺達が参入してこの状態だからね?

俺、姉さん、霊里が居なかった時は秋蘭さんが一人で取り仕切っていたんだろ?

……あの人の能力値おかしいだろ。

 

とにかく今は、姉さん、霊里、秋蘭さんと上級文官は揃ってんだ。

それなのにこんだけ忙しいのは、雑用に近い簡単で面倒な仕事が多いせいだ。

中級以下の文官が圧倒的にこの陣営には足りていない。

……この問題をどうにかしないと、流石に俺もストレスが溜まる。

 

ってか休みを寄越せ。

 

 

_____

 

 

「他所から文官の集団がこの街に流れて来た?」

 

ある日の事、朝議にてそんな報告が秋蘭さんから出された。

 

「そりゃ良い。 さくっと雇いましょう」

 

本当、マジで。

渡りに船ってのはこの事だろ。

 

「とは言っても、私は無能者を雇うつもりは無いわよ? 最低限の能力が無ければ雇っても意味は無いもの」

 

……まぁ確かに。

だがしかし、

 

「そんなの育てりゃ良いじゃないですか。 幸い、ここには経営経験が有り、人材を育てるのに慣れてる姉さんが居るんですから」

 

前世の知識的に言わせて貰えば、最初から仕事が出来る奴なんてのはそうそう居ない。

簡単なバイトだろうと使い物になるのは、どんなに早くても一ヶ月、戦力となるのは三ヶ月くらいの時間が掛かるものだろう。

 

それが他所で文官をしていた連中なら、姉さんの指導があれば直ぐに使い物になる可能性がある。

 

「成る程。……ふむ、撈、人材を育成するとしてどのくらいの時間が掛かるかしら?」

 

「うーん、個人によって差異はあるけど、簡単な仕事の下級文官程度なら半月、中級なら一ヶ月から二ヶ月って所かな? 誰をどう指導するかにもよるから更に早くなる可能性もあると思うよ?」

 

流石姉さん、頼りになるぜ。

俺の休日の為にも頑張ってくれ。

 

「ならば秋蘭、大々的に文官の募集を告知しなさい。 経験、未経験を問わないわ。 最低条件は文字の読み書きが出来る事。……撈、これから雇う文官候補の育成は貴女に一任するわね?」

 

「はっ」

 

「了解」

 

おーぅ、これまた随分思いきったな。

華琳さんも文官不足に思う所があったのかな?

これなら三ヶ月もしない内に書類系の仕事は大分楽になるかもな。

 

 

_____

 

 

とは言え、直ぐに仕事が楽になる訳ではないので、今日も今日とて忙しい。

 

……あら?

地理から報告書が上がって来て無い。

……また忘れやがったな?

 

俺は地理を探すべく部屋から出て城内をうろついた。

 

「ん? どうしたのだ蒼夜? 何かを探しているのか?」

 

俺が地理を探していると、別の方から秋蘭さんがやって来た。

……両脇に書類の束を抱えて。

 

「……相変わらず凄い量の書類ですね。……お疲れ様です。 俺は今地理を探しているんですけど、何処かで見ませんでした?」

 

「あぁ、これは姉者が書類仕事をしないのでな。 これでもお主達が来てからは楽になった方だぞ? 特にお主と霊里と撈殿には感謝している。 地理なら恐らく姉者と一緒だろう。 中庭にでも行ってみると良い」

 

「……ははっ、……やっ、本当にお疲れ様です。 とりあえず俺は中庭の方に行ってみますね」

 

……秋蘭さんが不憫過ぎる。

いつぞやの冥琳を思い出しちゃうわ。

 

俺がそう思いながら中庭の方へと行くと、鉄と鉄が打ち合う、ガキンやらゴキンやらの音が聞こえて来た。

 

「でぇぇぇい!」

 

「はぁぁぁあ!」

 

案の定、中庭では春蘭さんと地理が模擬戦をしていた。

 

……楽しそうだなぁおい。

俺もそんな風に身体をおもっいきり動かしたいよ。

 

俺がそう思いながら模擬戦の決着を待つ事数分。

徐々に春蘭さんが地理を押して行き、最後は地理の武器を弾き飛ばして決着が着いた。

 

「はぁ、はぁ。……お見事です。 流石春蘭様、私ではまだまだ相手にはなりませんか」

 

「ふぅ、……ふふん。 お主も中々見事だったぞ、地理? だが私に勝つにはまだまだ甘いな」

 

模擬戦をしてお互いを認め合い、友情を深める。

……素晴らしい事だ。……ただ、中庭の状態が悲惨でなければなお良かったが。

 

「地理、ちょっと良いか?」

 

「! 蒼夜殿、何時からそこに?」

 

「ん、ついさっき。……お前から報告書が上がってないから探しに来た」

 

俺がそう言うと、地理はしまったという顔をした。

 

「ん? なんだ、地理? 仕事はきちんとしないと駄目ではないか」

 

おまいう。

 

「……春蘭さん、さっき秋蘭さんが両脇に大量の書類をかかえてましたよ?……春蘭さんの分の書類を」

 

「さーて、私はまだ鍛練を続けんとな! ではな地理、仕事を頑張るのだぞ?」

 

俺の言葉に春蘭さんは走って逃げて行った。

……これが曹操陣営の筆頭将軍か。

 

魏の未来は明るいな!

 

……いやまぁ、なんだ、あれだ、頭空っぽの方が夢を詰め込めるらしいじゃない?

きっと魏の大望はあの頭に込められているんだよ。

だからチャラヘッチャラだ。

春蘭さんの笑顔はウルトラZだから問題ない。

 

……本当、俺の怒りがスパーキングしそう。

 

「……あぁ、それと地理……」

 

「? 何でしょうか?」

 

「中庭のこの悲惨な状況の報告書もよろしく」

 

俺の言葉に中庭を見渡した地理は絶望した表情を見せた。

 

悪いが文句は受け付けんぞ?

文句があるなら春蘭さんに言え。

……言えるならな。

 

 

_____

 

 

「華琳さん、今日の報告書を持って来ました」

 

「ありがとう」

 

「お疲れ様です兄さん」

 

俺が今日の分の報告書を持って華琳さんの執務室に入ると、華琳さんと霊里がそこで書類の束に囲まれながら政務を行っていた。

 

う、うーむ、霊里の様な幼女が書類に囲まれているのを見ると違和感しかないな。

 

「あっ、そうだ、華琳さん、……今日もまた他所から流民が流れて来たみたいですよ?」

 

……正直ちょっと不味い。

 

「結構な事ね。 私の治世が良いお陰で人口が増えるのは良い事だわ。 最近は撈と霊里のお陰で政務にも滞りが無いし、良い兆候ではないかしら?」

 

「お褒めに頂き光栄です」

 

……うん、まぁ完全に悪い事ではないんだけどね?

 

「残念ながらそうも言ってられないですよ? 他所から人が流れて来るのは国力を上げる基盤となりますけど、そろそろ陳留の容量限界を迎えます。 これ以上流民が増えると職を紹介するのも、住居を与えるのも難しくなります。 このままでは近い内に浮浪者が増えて治安が悪くなりますよ?」

 

……実際、西地区なんかはスラムみたいになってるからね?

 

「……はぁ。 国力を上げるには人口を増やしたい。 しかし人口を増やせる限界がある。……頭の痛い問題ね」

 

そうなんだよね。

正直まだまだこの陣営は国力が高いと言える状態じゃないからね。

……出来れば人は受け入れたいけど。

 

「これ以上の流民の受け入れを行うなら、早い段階で街の再開発をした方が良いんじゃありませんか?……とは言っても、そんな金も、計画を建てる人材も余裕はありませんけどね」

 

「……そうね」

 

そう呟いて華琳さんは目を瞑り思案する。

 

「では段階を踏まえて少しずつ開発するのはどうでしょうか? 例えば今一番問題になっている西地区の一部から順に開発していくのです」

 

……それは悪くないな。

 

「でも予算と開発責任者はどうする?」

 

「予算なら兄さんの資産があります。 街全体の開発ならともかく、一部となればそれで賄える筈です」

 

……確かに。

俺も街の開発の為に金を使うならやぶさかではないな。

 

「開発責任者は、……華琳様が命じるなら私が責任を持って行いますが、……いかがなさいますか?」

 

「……そうね。……霊里の能力を疑う訳ではないのだけど、……大きな話なだけに、後一人は優秀な人材が必要ね。 霊里、今は計画だけ作っておいて貰えるかしら? 開発段階になれば貴女を責任者として任命するわ。……悪いわね蒼夜、今回は暫くの間貴方の資産をあてにさせて貰うわ」

 

「了解致しました」

 

「構いませんよ? これは必ず成功する先行投資みたいなもんですからね」

 

俺もちょこちょこ街の開発に口を挟ませて貰ってリアルなシ○シティしよっと。

 




次回、皆さん大好きなネコミミが登場する予定です。


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勘弁してよネコミミ軍師様

本日二度目の投稿です。
原作の流れを使っているので割りと早く投稿出来ましたら。
大きな動きは無いですが、また早い内に投稿出来ると思います。


華琳さんの治めるこの陳留に賊が出現した。

どうやら発生源は隣郡らしく、そこそこの規模の賊らしいという事しか解っていない。

 

しかし、いくら隣の郡とは言え、俺達にも被害を出す賊を放っておく訳にもいかず、俺達は賊の討伐へと出陣する事が決まった。

 

 

_____

 

 

……あぁ、忙しい。

やっぱ軍を動かすとなればアホの様に仕事が出てくる。

武器の準備に、糧食の準備、薬も必要だし、防具を配る必要もある。

とにかく孫家での時もそうだったが、戦をする時は戦っている時よりも、その前とその後の方が大変なんだ。

 

「春蘭、装備品と兵の確認は?」

 

「はっ! 全て滞りなく済んでおります!」

 

……ほんと、この人軍務だけはちゃんとやるのよね。

 

「華琳様、糧食の最終点検の帳簿にございます」

 

秋蘭さんがそう言って、華琳さんに書類の束を渡す。

……これが済んだらそろそろ出陣かな?

 

「ありがとう秋蘭」

 

…………。

 

「……」

 

……。

 

……不味い、華琳さんが凄い不機嫌になっている。

もしかして監督官が何かやらかしたか?

全く、この空気をどうしてくれるんだ。

 

「……秋蘭、この監督官というのは何者かしら?」

 

「はい、先日文官の募集をかけた時に志願してきた新人です。 仕事の手際が良いのと、撈殿からの許可を経て、今回の食料調達を任せてみたのですが、……問題がありましたか?」

 

「ここに呼びなさい。 大至急よ。……蒼夜は撈を呼んで来なさい」

 

……マジで何があった。

 

 

_____

 

 

「急に呼び出して何かあったのかい?」

 

「……今、秋蘭に呼び出させている者が現れたら説明するわ」

 

俺が姉さんを呼びに行き、戻って来ても、まだ秋蘭さんは現れていなかった。

そのせいか、華琳さんの機嫌はすこぶる悪い。

 

……これ以上遅れたら有無を言わさず処刑されるんじゃねぇの?

 

俺はここに霊里が居なくて良かったな、等と思いながら重い空気に耐えていた。

 

「華琳様、連れて参りました」

 

戻って来た秋蘭さんが連れて来た人物は、あまり背の大きくない、か細い女の子だった。

……そして、何故かネコミミフード。

 

……ほんと、この世界のファッションどうなってんの?

 

「お前が食料の調達を?」

 

「はい。 必要十分な量は用意したつもりですが、……何か問題でもありましたでしょうか?」

 

「必要十分ねぇ、……貴女は指定した数字も読めないのかしら?……半分しか準備出来ていないじゃない!」

 

おい、マジかよ。

……半分ってあんた、……ギリギリ行けるか?

……いやだとしても余裕を持って行動するのが当然だしな。

……これは擁護出来ない。

 

「撈、貴女が育てたコイツは多大な失敗を犯したわ。……しかも今回は貴女がコイツの監督官への許可を出したのでしょう?……この責任、貴女にも波及するわよ?」

 

ちょっ!?

ま、不味い!

姉さんにまで責任が行くのはどうにかしなきゃ!

 

「うーん、……この子は一番優秀で僕が教える事なんて殆ど無かったくらいなんだけどね。……良かったら一度話を聞いてみては貰えないかい? それで納得いかなかったら僕の見る目が無かったって事だ。 大人しく罰を受け入れるよ」

 

「……ふむ、よろしい。……そこのお前、このまま出撃したら、糧食不足で行き倒れるであろうこの状況の申し分はあるか?」

 

……マジで頼むぞ?

少しでも理があれば、俺も全力で援護してやる。

 

「はっ。……糧食がこの量でも行き倒れない理由は三つあります」

 

「……説明なさい。 納得のいく理由なら許してあげても良いでしょう」

 

……正直こいつがどうなろうと知った事じゃねぇが、姉さんにまで迷惑がかかるなら何としても擁護してやる。

 

「……ご納得頂けなければ、それは私の不能が致す所。 この場で我が首、刎ねて頂いても結構にございます」

 

「……二言は無いぞ?」

 

……なんだ、こいつの態度?

もうコイツの首刎ねて終わりにしません?

今から食料集めりゃ一刻くらいで十分集まりますよ?

……だから姉さんの責任を無しにですね……。

 

「はっ。……では説明させて頂きます。 まず一つ目、曹 孟徳様は慎重なお方故に必ずご自分の目で糧食の最終確認をなさいます。 そこで問題があれば、こうして責任者を呼ぶ筈。……行き倒れにはなりません」

 

ばっ!?

アホかコイツ!?

 

「馬鹿にしているのか!? 春蘭!」

 

「はっ!」

 

「ちょっ、華琳さん、残りの理由を聞いてからでも良いと思いますが?」

 

「蒼夜の言う通りかと。……それに華琳様、先程の約束もございます」

 

俺と秋蘭さんは何とか華琳さんを宥め、春蘭さんに剣を引かせる。

 

「……そうね。 で、次は何?」

 

……ほんと、もう擁護出来る内容でお願いします。

あんたが無能の烙印を押されたら姉さんにまで罪が波及するんだ、……マジで勘弁して。

 

「次に二つ目、糧食が少なければ身軽になり、輸送部隊の行軍速度も上がります。 よって、討伐行全体にかかる時間は、大幅に短縮出来るでしょう」

 

……んなアホな。

 

「? なぁ秋蘭……」

 

「どうした姉者、珍しくそんな難しい顔をして」

 

「行軍速度が早くなっても、移動する時間が短くなるだけではないのか? 討伐にかかる時間までは半分にならない……よな?」

 

「ならないぞ」

 

全く持ってその通り。

春蘭さんでも気付く間抜け理論も良い所じゃねぇか。

 

「良かった、私の頭が悪くなったのかと思ったぞ」

 

いや、それは元から良くない。

 

……だがそんな事も言ってられん。

何とか擁護しないと。

 

「理論的にはあながち間違っていませんよ、華琳さん? 強行軍で移動して、発見と同時に即討伐すりゃ糧食もギリギリ足りますよ?」

 

問題はそのサーチ&デストロイをいかに素早くどの様にするかだけどな。

 

「っ!……ふんっ!」

 

……何かこいつ、今凄い嫌そうな顔しなかった?

おい、誰の為に擁護してると思ってるんだよ。

……うん、姉さんの為だった。

 

「……そうね。……撈はどう思う?」

 

「ふふっ、確かに理論的には可能だね。……何なら今回は僕が軍師として出陣しようか? 賊の討伐くらいならどうにでもなると思うよ?」

 

「んなっ!?」

 

……?

 

……おい、こいつ、もしかして……。

 

「そうね、それも考えておきましょう。……では三つ目の理由を聞かせなさい」

 

「……はっ。 三つ目、ですが……くっ! わ、私の提案する作戦を採れば、戦闘時間は更に短くなります! よって、この量で十分だと判断致しました。……曹 孟徳様! どうかこの荀 文若めを軍師としてお使い下さい! 必ずや勝利に導く軍師として働いてみせます!」

 

……そーゆー事かよ、全く。

 

…………。

 

……。

 

荀 文若?

 

! 荀彧か!

こりゃ間違っても殺させる訳にはいかん!

超有能人材じゃねぇか!

 

「……荀 文若、貴女の真名は?」

 

「桂花にございます」

 

「桂花、貴女、……この私を試したわね?」

 

……あー、こりゃ不味いか?

どないしよ、荀彧を助ける方法なんかないか?

 

「はい」

 

「な! 貴様、何をいけしゃあしゃあと!……華琳様、この様な無礼な輩、即刻首を刎ねてしまいましょう!」

 

や、止めろ馬鹿!

 

「貴女は黙っていなさい! 私の運命を決めていいのは、孟徳様だけよ!」

 

「ぐっ! 貴様ぁ!」

 

あんたも煽るの止めなさいよ!

 

「春蘭さん、ここは華琳さんの決断を待ちましょう。……一旦落ち着いて下さい」

 

「ぐぬぬっ!」

 

「桂花、軍師としての経験は?」

 

「ここに来るまでは、南皮で軍師をしておりました」

 

南皮っつったら袁紹の本拠地か。

袁家で重宝されなかったのか?

 

「ふんっ、どうせあれの事だから、軍師の言葉等は聞き入れはしなかったのでしょう? それに嫌気が差して、この辺りまで流れて来たのかしら?」

 

……前から思っていたけど、華琳さんと袁紹の関係ってなんなんだろ?

良く知ってるっぽいけど。

 

「……まさか。 聞かぬ相手に説く事は、軍師の腕の見せ所。 ましてや仕える主が天を取る器であるならば、その為に己が力を振るうことに、何を惜しみ、何を躊躇いましょう?」

 

「……ならばその力、私の為に振るう事は惜しまないと?」

 

「一目見た瞬間、私の全てを捧げるお方だと確信致しました。 もしご不要とあらば、この荀 文若、生きてこの場を去る気はありませぬ。 遠慮なくこの場で斬り捨てて下さい!」

 

……大分頭がぶっ飛んでやがる。

やる事が大胆過ぎるだろ。

 

「……華琳さん、今、俺の意見を言っても?」

 

「……聞きましょう」

 

「……覇王たるもの自身に仕官して来る人材に対して、寛容で慈悲深くなくてはなりません。……冷酷で厳しい面は、敵や無能者に対してだけで充分です」

 

例え荀彧でなくてもそうだ。

まだ弱い陣営の俺達が仕官する相手に対してちょっとの事で処罰してはいけない。

 

「……ふっ、くくく……よろしい。 桂花、私を試す度胸とその知謀、気に入ったわ。 貴女の才、私が天下を取る為に存分に使わせて貰う事にする。 良いわね?」

 

「はっ!」

 

「ならば、先ずはこの討伐行を成功させてみせなさい。 糧食は半分で良いと言ったのだから、……もし不足したならその失態、身をもって償って貰うわよ?」

 

「御意!」

 

……あ~、良かった。

これで一件落着かな?

 

……しかしこれまたキャラの濃ゆい人物が陣営に入ったな。

 




ネコミミ様との絡みは次回となります。


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そうです私が廖 元倹です

季衣を出したかったのに、思ったよりもネコミミさんとの会話が盛り上ってしまった。


さて、俺達は新たな仲間を加えて賊討伐へと出陣した訳だけど……。

 

……行軍が遅せぇ。

 

これじゃあ、普段の速度より少し速い程度でしかない。

……本気で糧食を半分で済ませるつもりならもっと行軍速度を上げる必要があるんだがな。

 

もしかして糧食をピッタリ使いきる計算をしてないか?

……おいおい、不測の事態が起こったらどうすんだよ。

 

「蒼夜」

 

「あぁ、秋蘭さん。 どうしました?」

 

俺が行軍速度に不満を持っていると、秋蘭さんが話しかけて来た。

 

「いやなに、不満そうな顔をしているなと思ってな?……何か思う所でもあるのか?」

 

「……えぇ、まぁ……」

 

と、俺が秋蘭さんに行軍速度の不満を話そうとしたら、俺達の近くに当の本人がやって来た。

 

「ふんっ、何よ? 私の指揮に何か不満でもあるの?」

 

……耳が良いですね。

 

「……いえ、大分行軍に余裕を持たせているな、と思いまして」

 

「ふんっ、そんな事の理由も解らないの?……ここしばらくの訓練や討伐の報告書と、今回の兵数を把握した上での計算よ。 全く問題無いわ。……これだから男は」

 

男関係無いと思うんですがね?

 

「でも糧食が半分ですよ? ならもう少し急いだ方が良いですね」

 

「それも計算の上で問題無いのよ!……全く、男なんてそんな事も解らない馬鹿ばかり!」

 

……いや、うーん。

 

……まぁ良いか。

今回はこの人のお手並みを見る為の賊討伐と言っても良いし。

好きにさせよう。

 

「……ふむ。……まぁその辺のお手並みはおいおい見せて貰うとして、……桂花、今回は大分無茶をしたな?」

 

「ですね。……何もそこまで急いで華琳さんに軍師として志願する必要は無かったでしょうに。……お陰様で家の姉さんにまで罪が波及する所でしたよ」

 

マジでそれに関しては赦さないからな?

大体、能力を示せばいずれ直臣になれるだろうに。

 

「……それは悪かったと思っているわ。 でもあそこまで素晴らしいお方よ? 一刻でも早くお仕えしたい私の気持ちを少しは理解出来ないかしら?」

 

う、うーん。

すまん、よく解らん。

乱世じゃなかったら確実に仕えてないしね、俺。

いや、そもそも何処にも仕えないな。

 

「……ま、まぁ良いんじゃないですかね?」

 

「ふんっ、貴方の様な木偶の坊には解らないのでしょうね、可哀想に。……大体何でこんな男が孟徳様の真名を呼んでいるのよ、信じらんない」

 

……こいつ口悪すぎねぇか?

俺が下手に出てるからって、……一応俺はてめぇより上官だぞ?

 

「ふっ、確かに蒼夜には理解出来ないかもな。 何せ華琳様直々に三顧して、ようやく仕官して貰えたのだからな」

 

ちょっ、秋蘭さん!?

こんな華琳さんフリークの前でそんな話止めて!

 

「んなっ!? な、な、な、何ですってぇ!!!」

 

……おっふ。

物凄い視線だ。

憎しみで人を殺せるなら、俺は死んでるな。

 

「どういう事よ!? 説明しなさい!」

 

……何か自分でそんな説明すんの嫌だな。

 

俺はチラッと秋蘭さんの方を見て、説明してくれる様に頼んだ。

……貴女が言いだした事だしね。

 

「……ふむ。 桂花、そこの人物が何処の誰か知っているか? 一応先程、主要人物は全員自己紹介した筈だが?」

 

ついでに真名も交換したね。

……俺この人に嫌われているみたいだから真名で呼ぶつもりないけど。

 

「ふんっ! 何で男の名前なんて覚えないといけないのよ、知らないわ!」

 

俺が嫌われてるってより、男が嫌いなのか。

 

「ならば、覚えておくと良い。 そこに居るのは文豪、廖 元倹だ」

 

やだもう秋蘭さんったら、文豪だなんて恥ずかしい。

 

「ッッッ!!! な、そ、そんなっ、う、嘘よ」

 

良いリアクションすんなぁ。

そんなに俺が男だったのはショックか?

 

「どうも、廖 元倹です」

 

「あぅ、あっ、くっ! み、認めないわ!」

 

いや、認めないってあんた。

本人なんですが?

 

「そ、そうよ! 廖 元倹があんたみたいな男の筈が無いわ! きっと綺麗で美しい、大人の美人な筈だもの!」

 

……あぁ、これあれか?

格好いい漫画の作者が不細工だった時の心情かな?

……でも残念、だが男だ。

 

「まぁ華琳さんに仕えてからは、とんでもなく忙しいから今は何も書けてないけどね」

 

「ふ、ふんっ! それ見なさい! 証拠が無いのよ! 証拠が!」

 

……何処の犯人かな?

 

「大方名前が一緒なだけなのでしょう!? 訂正するなら今の内よ! さっさと過ちを認めて、孟徳様の勘違いを晴らして去りなさいよ!」

 

……まぁもし華琳さんに去れと言われたら去るけどさ、……良いの?

 

「残念だったな桂花、蒼夜は本物だ。……もし今の段階でお主と蒼夜のどちらかが、この陣営を去らなければならなくなったら、……恐らくお主が去るはめになるぞ?」

 

……まぁ本来の能力値なら、こっちの文若さんの方が高いんだけど、信頼度がね?

何気に俺は十歳の頃からの知り合いだし。

 

「くぅ! くぅ~!!!……美少女戦士なんて訳の解らない物を書いた癖にっ……!」

 

それ言っちゃう!?

止めろ!

あれは俺の黒歴史だ!

 

「大体! あんな主人公の男なんて存在しないのよ!……何処を探したって間抜けで穢らわしい男しか居なかったわ! もっと可愛いらしい女の子を主人公にしなさいよ!」

 

…………。

 

……。

 

……おい、まさか、……

 

「……匿名希望さん?」

 

「ち、ちちち、違うわよ!? 何それ!? 私は全然知らないわ! 毎回手紙なんて送ってないわよ!」

 

……うん、お前か。

 

この百合っ子が!

良いだろう!

本人に免じて今度は女主人公を書こうじゃないか!

 

「次回作は期待しといて下さいね? 華琳さんみたいな完璧超人の女性を主人公にするんで」

 

「ほんと!?……じゃなかった、ふ、ふんっ! よ、読んであげない事もないわ」

 

……成る程。

扱い方が解って来たぞ。

 

「ほぅ? それは私も興味があるな。……どんな話にするつもりなんだ?」

 

「……そう、ですねぇ、……立身出世物なんてどうです? 中央の下級文官の子が一つずつ功を積んで、最終的に歴史に類を見ない程優れた三公、……ん~、司徒になるとか?」

 

「成る程、叩き上げの文官か。……ふむ、下の地位から上がって来る訳だから、下の者の気持ちも理解し、上の役職につく程の優れた能力を持つのか。……理想の上司像だな。」

 

だよね?

俺もそう思って書こうと思った訳だし。

 

「……悪くはないけど、あり得ないのではないかしら? 三公なんて地位に就くには、……嫌なことだけど、能力よりも家柄とかの方が重要よ?」

 

「そこは物語ですからね? 多少都合が良いですが、主人公の能力を見込まれて、名家の後ろ楯が付いたりする訳ですよ」

 

「……意外と無くは無いかもしれないわね。 自身の影響力を広げる為に、優秀な人材を囲うのは名家では良くあることよ」

 

あー、そういやこの人も名家出身か。

 

「……と、なると主な内容は政争物か?……いや、最終的に司徒となるのなら、経済関連もいけるのか。……ふむ、どちらにしろ面白そうだ」

 

そゆこと、前に霊里に頼まれた内容をぶっこもうと思います。

 

「……それで、何時書くのよ?」

 

「まぁ、仕事が一段落して自分の時間が作れる様になったらですかね?……正直、全然目処は建ってませんが」

 

休みを、休みを寄越せぇ!

 

「……貴方、そんなに仕事の量が多いの?」

 

ふっ、馬鹿な事を仰る。

多いってレベルじゃねぇぞ。

 

そこで、俺は普段の仕事量を文若さんに説明してやった。

 

「んなっ! ちょっと、妙才! なんでこいつだけこんなに仕事の量が多いのよ!」

 

「俺だけじゃないですよ? 秋蘭さんも俺と同じくらいしてますもんね?」

 

ちなみに華琳さんは俺達以上。

だから文句が言えねぇ。

 

「最近は人材不足も解消されて来てはいるのだがな、……蒼夜は何でも出来る分、華琳様から良く仕事が振られる」

 

「褒めても何も出ませんよ?……それに前も言いましたけど、秋蘭さんが言ったら嫌味ですからね、それ?」

 

この人の弱点は春蘭さんだからな。

本人に弱点ないから。

 

「……ふんっ、まぁ良いわ。 私が認められた暁には貴方の時間くらい確保してやるわよ。……その際にはさっさと書物を書き上げなさい」

 

マジっすか!

文若さんパネェっす!

一生ついて行きます!

 

……ほんと、マジで期待します。

 




次回はいつになるかな?
早めに投稿出来る様に頑張ります。


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You can fly!

戦闘はカットじゃい。
無駄な戦闘描写はしないで進めたいです。
苦手なんで赦して下さい。


「おぉ! お主等、こんな所に居たのか!」

 

行軍中、俺達三人が書物の話等で雑談をしていたら、春蘭さんがなにやら慌ててやって来た。

 

「どうした姉者?」

 

「うむ、前方に何やらそこそこの人数の集団が居るらしい。 華琳様がお呼びだ、直ぐに来てくれ」

 

……ふむ、賊か?

これまた随分と微妙な場所に居るな。

 

俺はそう思いながら春蘭さんに肯定の返事だけして華琳さんの元へと向かった。

 

 

_____

 

 

「……遅くなりました華琳様」

 

「ちょうど偵察が帰って来た所よ。……報告を」

 

俺達が到着すると同時に張曼成がやって来て、報告を始めた。

 

「はっ! 行軍中の前方集団は、五・六十人程。 旗が無い為に所属は不明ですが、格好がまちまちな所から、賊の可能性が高いと思われます」

 

「……ふむ、様子を見るべきかしら」

 

「……旗が無い事や、格好のまちまちさだと義勇軍とか傭兵部隊の可能性もありますね。……曼成、将らしき人物、もしくは頭目らしき人物は確認出来たか? 後、武装の類いはどうだった?」

 

「いえ、統率者は確認出来ませんでした。 武装は質の悪い刀剣類を装備している事が見受けられました」

 

……ふむ。

 

「じゃあ行軍の方法は?……規律があるのか、それとも一点目指してバラバラなのか」

 

「そう、ですね。……とても規律がある様には見えませんでした」

 

「……そうか。 華琳さん、これはほぼ賊で確定ですね。 俺達が討伐しに来た賊の分隊、もしくは少人数がここらに来ているだけでしょう」

 

ま、確実じゃないけどね?

でもリーダーの存在しない集団、それも規律が無いのに、武装までしていたらほぼ賊だろう。

 

「ならば威力偵察を出しましょう、孟徳様。 本当に賊ならばそのまま討伐し、違ったなら話を聞くのが良いと思います。 元譲、元倹、貴方達が指揮を執って」

 

「おぅ」

 

……俺もかよ。

まぁ良いか、春蘭さん一人だと心許ないし。

 

「了解」

 

「? だが何故蒼夜まで来る必要があるのだ? 賊程度なら私一人でも充分なのだが?」

 

…………。

 

「……貴女の抑え役よ」

 

……うん、だよね。

 

「んなっ! おいっ! それではまるで私が敵と見ればすぐ突撃する様ではないか!」

 

……違うのかよ?

 

「違うの?」

 

「違わないだろう?」

 

「違わないでしょう?」

 

「し、秋蘭!……うぅ、華琳様までぇ~」

 

……色々自分を省みましょうよ。

 

「……ふむ、私まで出るとこちらが手薄になり過ぎる。 それに戦闘を前提にするなら姉者の方が適任、現場判断は蒼夜にさせる。……そういう判断だろう、桂花」

 

「そうよ」

 

成る程、手堅いねぇ。

ま、妥当だけど。

……まぁ強いて言うなら、俺と秋蘭さんを逆にした方がなお良い気もするが……それはつまり俺が華琳さんの護衛って事だ。

男嫌いな文若さんには、それは嫌なのかな?

 

「では行って貰えるかしら、春蘭、蒼夜」

 

「はっ! 承知致しました!」

 

「了解です。……曼成、悪いがもう一度お前も来い」

 

……賊の場合だったら、また追跡とかさせる斥候を放つ必要があるし。

その場合、今の所この陣営には張曼成くらいしか諜報を上手くこなせる奴がいない。

他の奴は軒並み普通。

明命くらいとは言わないが、いずれはそういう専門の諜報部隊が必要だろうな。

 

「はっ、了解しました」

 

「うん。……あぁ、そうだ秋蘭さん。 悪いんですが、後ろの輸送部隊にいる地理、霊里、姉さんに賊の警戒を伝えて下さい。 もしかしたら前方の集団だけが近くに居るとは限りませんから」

 

「それならもう私がやっておいたわ」

 

へぇ、流石文若さん。

判断が早いね。

 

「助かります。……じゃあ行きましょうか、春蘭さん」

 

「おぅ!」

 

 

_____

 

 

「春蘭さん、解ってるとは思いますけど、前方の集団が見えただけで突っ込んだら駄目ですよ?」

 

「当然だ! 言われずとも解っておるわ!」

 

……大丈夫だろうか?

いつぞやの雪蓮を思い出すなぁ。

 

あの時も何度も突っ込むな、って釘を刺したのに、まるで前降りを貰ったかの如く、突っ込んだからなぁ。

 

「なんだ? 何やら前方の集団が騒がしいぞ?……あれは、……なんと、少女が一人で戦っている!?  こうしては居られん! うぉぉぉおおお!!!」

 

……うん、こんな感じで突っ込んだなぁ。

 

……。

 

……いや、まぁ今回は良しとしよう。

流石に女の子を助けない訳にはいかないし、賊で確定だからな。

 

「曼成、前方の賊が逃げ出したら、密かに部隊を使って後を追え。 敵の拠点と人数を確かめ、可能なら、賊に紛れて中に入っておけ、俺達との戦闘が始まった瞬間に頭目の首を取り、混乱させる。……ただし、命が優先だ。 無理なら速やかに帰還してくれ」

 

「了解しました。 拠点を確認した時、人数を把握出来た時、潜入の有無を確認出来た時、それぞれ報告を出します」

 

「頼む」

 

いやぁ、武力のあって融通の効く部下がいると楽出来るなぁ。

 

そこで俺は、張曼成と会話を切り上げ、前方の集団を見たら、苦笑いが浮かび上がった。

 

……人が飛んでやがる。

 

比喩表現ではなく、マジで人が空を飛んでいるのだ。

百メートル先くらいで戦闘がおこっているのに、人体が俺達のすぐ側まで飛んで来たからな。

 

……ちょっと春蘭さん、張り切り過ぎでしょう。

俺はそう思ったが、犯人は違った。

 

賊に襲われていた少女が、やけに馬鹿デカイ鉄球を振り回しているのだ。

 

……破壊の鉄球?

おいおい、竜の冒険で終盤に手に入る超強力武器じゃねぇか。

誰だよ幼い少女にあんなの与えた奴は。

 

……現実逃避もしてらんないな。

うわぁ、しかしマジか。

あの少女、腕力だけなら俺よりも……。

 

俺はそんな事を思いながら春蘭さんに近づき、賊殲滅にストップをかけた。

 

「春蘭さん、今はそんなもんで良いです。 一旦華琳さん達と合流しましょう」

 

「ばっ……! 蒼夜、何故止める!」

 

「俺達は、賊全体の討伐に来たんですよ? その子を助けるのは良いとして、ここで少数の敵を全滅させてはいけません。……逃げる敵の後を追わせているので、後でその源を断ちましょう」

 

「おぉ! 成る程なぁ」

 

ん、割りと聞き分け良いよね、この人。

 

「あ、あの……」

 

「うむ、怪我は無いか? 勇敢な少女よ」

 

「はいっ! ありがとうございます、お陰で助かりました!」

 

……う、うーむ。

怪我が無い事は良い事だけど、五・六十人に囲まれて怪我一つ無いとは末恐ろしいな。

さぞかし有名な将と見た。

 

そこで俺は馬から降り、少女と目線を合わせて自己紹介をした。

 

「凄いな君。 俺達は山向こうの陳留からさっきの賊の大元を討伐しに来た。 曹 孟徳様って知っているかな? その人に仕えているんだ。 俺は廖 元倹、そこの君を助けた人が夏候 元譲」

 

「あ! 山向こうの街の噂なら聞いてます! 向こうの太守様は凄く立派な人で、悪い事はしないし、税金も安くなったし、賊も凄く少なくなったって!」

 

へぇ、流石華琳さん。

こんな少女にまで噂が入る程有名なんだ。

 

「そっか、それで……」

 

と、俺が今から名前と戦っていた理由を聞こうとした時に、華琳さんの率いる本隊がやって来た。

 

「あら、私の噂話?……それで、そこの少女は誰かしら? っと、その前に、蒼夜、例の集団はどうしたの? 戦闘があったという報告は受けたのだけど……」

 

「例の集団は読み通り賊でした。 そこの少女が一人奮闘している所を春蘭さんが助けに入り、逃げ出しましたので、今は曼成に尾行させてます。 本拠地は直ぐに見つかりますよ」

 

「良い判断だわ。……さて、話を途切れさせて悪かったわね?……まずは貴女の名前を教えてくれるかしら?」

 

華琳さんが近づき、そう少女に問うので、少女は緊張したのか、背をピンっと伸ばして自己紹介をした。

 

「は、はいっ! きょ、許褚(きょちょ)仲康(ちゅうこう)と言います!」

 

ははん?

やっぱりね。

……めっちゃ大物じゃねぇか。

そりゃ俺より腕力あるよ。

……下手したら武力すら……。

 

でもおかしいな?

許褚が仲間になる時は、典韋と一騎討ちとかした筈だが?

……でもこの陣営にはまだ典韋いねぇしな。

ってか、それ言ったら文若さんの時も色々おかしいけどさ。

 

うーむ、また前世の知識と誤差があるなぁ。

 




中途半端な所で終わってしまった。
明日投稿するんで赦して下さい。


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料理と戦は仕込みが大事

ギリギリ約束通り今日更新出来ました。
なんか徐々に主人公が右腕っぽくなってる気が……。


許褚の自己紹介を聞いた後、何故ここで戦っていたのかを聞くと、正直、憤りを感じる程に中々酷い話だった。

 

許褚の話では、この郡の太守は税金を高くして、私腹を肥やしているにも関わらず、賊が出ても知らんぷり。

軍を派遣したり等せず、賊共に好き勝手させてるそうだ。

それでも税の徴収を止めようとはしないらしい。

 

……典型的な腐った役人だな。

 

許褚はそんな郡の貧相な邑で生まれ育ち、今では邑で一番強い事から、賊を追い払ったり、役人を追い払ったりしてるらしい。

さっきの賊との戦闘はその一環との事だ。

 

……まぁいくら強いとはいえ、こんな小さな女の子一人に何させてんだよ、とはその邑の連中には言いたくなるけどな。

 

「……その、すいません。 孟徳様も国の役人なのにこんな話して……」

 

「……いえ、今の国が腐敗しているのは、太守たる私が一番良く知っているわ。……貴女が憤るのも、良く解る」

 

……だな。

役人だからこそ、より深く理解出来る。

俺が華琳さんの陣営を訪れて、中央の役人から賄賂の要求が何度あっただろうか……。

陳留は比較的、中央との距離が近いせいかそういう事が多くあった。

 

今は国がギリギリ機能している為、そういう事をしないと陣営が維持出来ないから、たまに払ったりはするが、正直肥え太ったデブ役人が現れる度に怒りが沸く。

 

……まぁその事を春蘭さんや地理に知られない様にするのが大変だから、それ所じゃないけど。

 

「だから、私はこんな国を変えたいと思っているの。……その為に許 仲康、貴女のその勇気と力をこの曹 孟徳に貸してはくれないかしら?」

 

「え? ぼ、ぼくの力、を?」

 

まぁ急に言われたら戸惑うだろうな。

俺でも戸惑う……ってか実際戸惑った。

 

「私はいずれこの大陸の王となる。……けれど、今の私はあまりに力が少なすぎるわ。 だから邑の皆を守る為に振るった貴女の力、この私に貸して欲しい」

 

「孟徳様が、……王に。 そ、それならぼく達の邑も守ってくれますか? 賊が発生しない様に、平和になりますか?」

 

「約束しましょう。 陳留だけでなく、貴女達の邑だけでもなく、……この大陸に住む全ての者がそうして暮らせる様になる為、私はこの大陸の王になるの」

 

……うん。

それを一刻も早く成就させる為に俺もここに来た訳だしな。

 

「……この大陸の、……皆が……」

 

許褚も華琳さんから何かを感じ取ったかな?

……まだ幼いとはいえ、出来れば陣営に入ってくれるのが望ましいけど……。

……いや、こんな娘を戦場に立たせようなんて、浅まし過ぎるな、俺。

これではこの子の邑の連中と何も変わらん。

 

せめてこの子自身が、義務でも義理でもなく、自らの意思で来る事を望もう。

 

……俺が、少し自分の考えに自己嫌悪をしていると、文若さんが偵察の兵を従えてやって来た。

 

「孟徳様、偵察の兵が戻りました! 賊の本拠地は直ぐそこです!」

 

偵察の戻りが早い。

本当にかなり近いな。

 

「解ったわ、……仲康、今はさっきの返事を聞かないわ。 まずは貴女達の邑を脅かす賊の討伐をする。 今はそれだけ、貴女の力を貸してくれないかしら?」

 

「は、はいっ! それなら、いくらでも!」

 

「ありがとう。……春蘭、秋蘭、仲康はひとまず貴女達の下に付ける。 解らない事を教えてあげなさい」

 

秋蘭さんは解るけど、春蘭さんも?

……寧ろ教わる側だと思うんですがね。

 

「はっ」

 

「了解です!」

 

「よろしくお願いします! 元譲様! 妙才様!」

 

春蘭さんに助けられたからかな?

妙に春蘭さんになついている気が……。

 

「総員、騎乗! これより行軍を再開する!」

 

……さてと、張曼成は上手く潜り込めたかね?

それが出来てたら、楽になるけどなぁ。

 

 

_____

 

 

賊の砦は山の影に隠れる様に、ひっそりと建てられていた。

 

許褚と出会った所から、そんなに離れてはいなかったけど、こんな場所じゃ上手く探さないと見つからんだろうな。

地理の地図にそんな記述は有るが、こんなん誰も注目しないだろ。

 

「仲康、この辺りに他の賊は居るかしら?」

 

「いえ、この辺りにはあいつらしか居ません。 孟徳様が探している賊もあいつらだと思います」

 

まぁあんだけ立派な砦があるんだ。

恐らくここいら一帯の賊を全部併合したんじゃねぇかな?

……凄い数になっていそうだな。

 

「敵の数は把握できている?」

 

「先程、再び偵察からの連絡がありました。 敵の数はおよそ三千だそうです」

 

うわぁ、やっぱりね。

 

「うーむ、我々の隊が千程度だから、三倍程か。……思ったより大人数だな」

 

「もっとも連中は、集まっただけの烏合の集。 統率もなく、訓練もされておりませんゆえ、我々の敵ではありません」

 

確かに、そのレベルなら五倍までの人数ならなんとかなるでしょ。

 

「でも策はあるのでしょう? 糧食の件、忘れていないわよ?」

 

「無論です。 兵を損なわず、より戦闘時間を短縮させる為の策、既に私の胸の内に」

 

……兵を損なわずに、時間短縮、ね。

だったら砦を攻める攻城戦は無いな。

敵を誘い出して策に嵌める野戦つったら、……釣りかな?

 

「まず、孟徳様は少数の兵を率い、砦の正面に展開して下さい。 その間に元譲、妙才の両名は残りの兵を率いて後方の崖に待機。 本隊が銅鑼を鳴らし、盛大に攻撃の準備を匂わせれば、その誘いに乗った敵は必ずや外に出てくる事でしょう。……その後は孟徳様の兵は退き、十分に砦から引き離した所で……」

 

「私と姉者で背後から攻める、と」

 

ビンゴ、俺の読みも中々だな。

ま、これが一番効率良いしね。

 

「じゃあ俺は少数率いて真っ正面ですね? 華琳さんの下へは、誰も通すなって事ですか」

 

護衛隊の面々を使えばなんとかなるかな?

 

「そうなるわね」

 

「蒼夜、くれぐれも華琳様の事を頼んだぞ!」

 

うぃうぃ、了解。

これ下手したら敵じゃなくて春蘭さんに殺されるかもな。

 

「あ、あの、ぼくは……」

 

「春蘭さんと思いっきり暴れてきな? 今までの恨みを全部ぶつけて来たら良いよ」

 

「! はいっ! 思いっきりですね!」

 

うむ、あの破壊の鉄球を存分に振り回して来てくれ。

 

「それで桂花、誘いに乗らない場合の次善の策はあるのかしら?」

 

「この近辺の城の見取り図は、既に揃えてあります。 あの城の見取り図も確認済みですので、万が一こちらの誘いに乗らなかった場合は内から攻め落とします」

 

ほぅ。

命を賭けでアピールした分、準備が良いね。

 

「元倹様、曼成殿より報告です! 成功した、との事です!」

 

流石。

俺の仕込みも成功したし、文若さんの策を更に後押しするな。

 

「あら、私に内緒で悪巧み?……何の報告かしら?」

 

「いえね、曼成を偵察に出すついでに、賊に紛れて潜入出来ないか試させたんですよ。……どうやらそれが、上手く行ったみたいですね。 これは文若さんの策の後押しになるでしょう。 野戦になったら、即頭目の首を落とせますし、攻城戦になっても内から内応させれます」

 

この戦闘の難易度がベリーイージーで確定です。

 

「なっ!……いつの間に」

 

……何で睨むの?

寧ろ褒められるべきだよね?

 

「ふふっ、流石蒼夜。 抜かり無いわね?」

 

「報奨なら休みで良いですよ?……たまにはゆっくり昼過ぎまで寝たいですし」

 

無理かなぁ?

……無理だろうなぁ。

 

「それは追々決めましょう」

 

あっ、これ無理な奴だ。

 

……文若さん、さっき俺が華琳さんに褒められてから、やけに睨んでくるね、何なの?

 

「ふっ、ならば、この策で行きましょう。 これだけ勝てる要素のある戦なんて私も初めてだわ。 実に覇王に相応しい戦ね」

 

「ですね。 覇王足るのであれば、常に戦は理想的なのが望ましいですからね。 味方は一人も損失せず、敵は全て殲滅する。 常にこうありたい物です」

 

ま、あくまで理想だから、普通は無理だけどね。

 




正直適当な戦術なんで、詳しく突っ込まれると困ります。
あくまてま物語だと、ご了承下さい。


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ぐだぐだの帰還

前もって、謝っておきます。
かなりやっつけ感で、纏めてしまいました。
大変申し訳ありません。




戦前、これより城を攻めると見せかける為に派手に銅鑼の音を鳴らす。

 

「「「……」」」

 

……鳴らしたのは良い。

 

「「「うぉぉぉぉぉお!!!」」」

 

……士気が高いのも、まぁ良い。

 

ただこの士気の高さ、俺達の軍の物ではない。

賊の馬鹿共が、俺達の銅鑼の音を出撃の合図か何かと勘違いしたのか、凄い咆哮を上げながら、城門を開けて飛び出して来たのだ。

 

「……桂花、……これも作戦の内かしら?」

 

「いえ……これは流石に……」

 

うん、想定外だよな。

これを想定出来たら化け物だよ。

 

「まぁ、手間が省けたと思いましょう」

 

「……そうね」

 

? もしかして挑発の言葉とか考えていたかな?

……あー、そういうの好きそうだなぁ、この人。

 

「っと、そろそろ一旦退きましょうか。……前面は俺が指揮するんで、華琳さんと文若さんは後退して下さい」

 

「予定通りね。 貴方の仕込みは何時発動するのかしら?」

 

……一応は直ぐに頭目の首を獲れ、とは言ったが、タイミングは本人次第だからな。

出来れば、隊がぶつかる前にやってくれたら良いけど……。

 

「恐らくですが、伏兵の前には殺ってくれると思うんですがねぇ」

 

「まぁ良いわ。……それでは私達は退く、貴方もゆっくり下がりなさい?」

 

了解。

 

俺達は作戦通り敵を釣り出し、予定のポイント付近まで来た。

 

 

_____

 

 

「お、おい秋蘭、華琳様の本隊が予定よりも早く後退していないか? 大丈夫なんだろうな?」

 

「あぁ、問題無い。……良く観てみろ姉者。 蒼夜がきちんと前面を統率している。 あれなら華琳様の下へは一兵たりとも届かんよ」

 

「おぉ、うむ! 流石だな!……それで秋蘭、そろそろ突撃しても良いか?」

 

「まだだ。 相手の殿が見えてからだ。……それに可能なら、敵の頭目が討たれた瞬間が望ましいな」

 

「うぅ~、まだですかぁ? 全部通り過ぎて行っちゃいますよぉ?」

 

「悪いがもう少しだ」

 

「殿が見えたぞ! もう良いだろ!」

 

「あぁもう良いぞ姉者、季衣。 突撃準備をしてくれ。 私の隊が矢を放ったら突撃だ」

 

「よし!」

 

「了解しましたぁ!」

 

 

 

_____

 

 

……さて、そろそろだな。

 

「護衛隊! 大盾用意!」

 

予定ポイントに近づいた俺は、陳留に来て百人になった護衛隊を率いて敵の突撃に備えた。

 

俺が直接面倒を見るこの護衛隊は、普通の部隊と違い、大盾を装備している。

……ちなみに俺個人の資産で装備させた。

 

この大盾装備の護衛隊は、防御特化……という訳ではない。

防御力は高いが、それがメインではなく、敵の突撃を受け止める瞬間に、シールドバッシュして吹き飛ばし追撃する、カウンター型の部隊だったりする。

だから槍は持っていないけど、帯剣はしている。

 

育成目的はパラディンですが何か?

メイン盾って居ると嬉しいよね。

 

そして今回もそれを狙おうと、賊の突撃を受け止めようとした時に、待っていた声が、大きく聞こえた。

 

「賊将! 張曼成が討ち取った!」

 

来たか!

 

ここからは怒涛の展開だった。

 

賊の集団が曼成の声に反応して、ポカーンとした瞬間に、秋蘭さんが弓矢を放ち賊を更に混乱させる。

 

賊が混乱した瞬間に、間を置かずして春蘭さんの部隊が後ろから突っ込んで、賊を吹き飛ばして行く。

 

「よし! 俺達も大盾で押し込むぞ!」

 

そして俺達が盾を前面に出し、逃げ道を限定してやると、出口に殺到しようと更に混乱して阿鼻叫喚となる。

 

……そしてようやく逃げ出した出口の一つに、俺が待ち構える。

 

結局、半刻とかからず戦闘は終了し、賊は少数逃げ出したやからも居たが、ほぼ殲滅出来た。

 

……ただ心配な事はあった。

……賊の中心部に居たみたいだけど、張曼成無事かな?

 

 

_____

 

 

「報告致します。 夏候淵隊、敵と接触せず、被害ありません」

 

「夏候惇隊、軽傷者二百三十七名、重傷者二十六名、死者四名です!」

 

「護衛隊、軽傷者五十二名、他無しです」

 

俺達は戦闘が終わった後、それぞれの隊の被害報告を華琳さんに告げていた。

 

ちなみに張曼成は無事だった。

春蘭さんが突っ込むのを確認したら、直ぐにその場を離れ上手く隊に合流したらしい。

 

「素晴らしい戦果ね。 敵を尽く討ち滅ぼし、味方の被害は軽微、このまま戦闘が続行出来そうなくらいだわ」

 

出来過ぎなくらいだよ。

かの有名な武田信玄は、五分の勝利を良しとして、勝ち過ぎはいけない、って言ってたらしい。

 

……でもこれ完全勝利だよね?

 

出来れば慢心や気の緩みなんかは無い様にしたいけど……。

まぁこんな勝利をしてしまったら、無理かもしれんな。

 

かの有名な金ぴか王は、慢心せずして何が王か、と言ってたくらいだ。

華琳さんも覇王を名乗るなら多少の慢心は仕方無い。

その分部下が気を引き締めなきゃな。

 

「それで華琳さん、砦の方はどうします? 多分少人数の賊はまだ残っていますよ?」

 

「勿論落とすわ」

 

俺はその言葉を聞いて、張曼成と文若さんを呼び、城の見取り図を広げながら、張曼成の実際に見た情報と照らし合わせ、華琳さんと文若さんの三人で攻め方を考えた。

 

……そして二刻後、問題無く砦の方も陥落した。

 

 

_____

 

 

実際、終わってしまえば呆気ないもので、今回の賊討伐は、ほぼ二日でその行程の全てが終わってしまった。

後は陳留に帰るのみ。

 

とはいえ、流石に今から陳留にとんぼ帰りをする訳にもいかない俺達は、落とした城で今日は休み、明日陳留に帰る予定だ。

 

既に輸送隊も合流して、俺達は一段落した。

 

「皆の者、今日は実に見事な戦振りであった! 今宵は良く呑み、良く食べ、良く休むと良い!」

 

華琳さんのその言葉を境に、俺達は出されたご飯と少量の酒を飲み、今日の疲れを癒した。

 

無論俺達がこうして休んでいる間も、見張りの兵は仕事をしている。

そういう奴等は後日、通常よりも褒美が多かったりするから、問題無い。

 

だからこうして、俺は飯を楽しんでいる訳だが……。

 

「ふがっ、むぐっ、ほがっ」

 

……もの凄い勢いで、飯をかっこんでいる子が居る。

 

「? どうしたんですか? ご飯食べないんですか?」

 

「あ、うん。……食べるよ。……その、凄い食欲だね?」

 

そう、食欲の権化が俺の目の前に存在するのだ。

 

……ってかこれ春蘭さんより食ってる。

この身体の何処にそんなに入るんだよ。

 

「はいっ!……あっ! もしかしてこんなに食べたら駄目でしたか?」

 

「そんな事はない。 好きなだけ食べると良いよ」

 

寧ろ何処まで食えるのか見てみたい。

 

「……えっと、でもこれ皆のご飯ですよね?……ぼくが沢山食べちゃって良いんですか?」

 

「当然だ。 季衣の力は一騎当千。 仮に百人分のご飯を食べても、誰にも文句は言わせないよ」

 

そうですよね、ガ○アさん。

強い奴はその分飯を食って良いんだ。

 

「! ありがとうございます、蒼夜様!」

 

そう言って季衣は、またがむしゃらに飯を食い始めた。

 

ちなみに真名の交換はもう済ませた。

この戦闘が終わった後に、華琳さんが、文若さんと季衣に真名で呼ぶ事を許したのを切っ掛けに、俺も真名を許して、お互いに真名で呼ぶ様になったのだ。

 

……文若さんは別として。

 

それに季衣は、戦闘前には既に春蘭さん達と真名の交換を済ませてあったらしく、俺もスムーズに交換出来た。

 

……ただ様付けは止めてくんないかな?

 

 

_____

 

 

翌日、陳留へと帰る道中、華琳さんが文若さんを呼び出し、今回の糧食の件の話を始めた。

 

「……桂花、後数刻で陳留に着くだろうし、賊討伐も完璧に出来たのだから、あまりこういう事は言いたくないのだけど、……私、凄くお腹が空いたわ」

 

「も、申し訳ありません。……その、あまりに予想外な事がありまして……」

 

……おいおい、それを軍師が言っちゃ駄目でしょ。

 

「兵が予想以上に多く残ったのもありますし、……何より……」

 

「へ?」

 

そこで文若さんは季衣を見た。

……うん、まぁ気持ちは解る。

季衣はマジで十人分以上飯を食ったからな。

 

「言い訳は結構。 予想出来ない事を言い訳にするのは、自身が軍師として無能であるというのを言っているのと何も変わらないわ」

 

「も、申し訳ありません」

 

辛辣だねぇ。

本当は処罰なんてするつもり無いだろうに。

 

「まぁまぁ、華琳さん。 今回は俺が突発的に仕込みをした事もありますし、季衣に好きなだけ食べる様に言ったのも俺です。……今回はこの乾燥肉と乾燥桃で勘弁して下さい」

 

俺はそう言って、懐からジャーキーと新作のドライフルーツを出した。

 

「……色々言いたい事があるのは置いといて、……何故そんな物があるのかしら?」

 

「今回、糧食が半分になる事が解る前から実は持って来てたんですよ。 これなら一人分の食料が懐に入れられるので」

 

実は密かに一人で楽しむ為に持って来たのが、役に立つとは思わなかった。

 

「……準備が良いのね」

 

「これなら、もし部隊から離れる事があったとしても、食料の問題は無くなると思いまして」

 

勿論言い訳だ。

もし見つかった時用に、最初から考えていた。

 

「ぐぬぬ!」

 

……何故悔しそうな顔を?

擁護している筈なんだが?

 

「あっ!……美味しそう」

 

季衣が、俺の手の中にあるジャーキーとドライフルーツを見つけ、そう呟いた。

 

「一つ食べてみるか?」

 

「良いの!? うんっ!」

 

そこで俺は、季衣にそれぞれ一切れずつ渡し、味の感想を聞いてみた。

 

「どうだ?」

 

「これすっごく美味しいよ! 蒼夜様、これ何処に売ってるんですか?」

 

「残念ながら売り物じゃないな。 俺が作ってるんだ」

 

うむ、実に美味しそうに食べる。

これなら作ったかいがあるってもんだ。

……言っちゃ悪いが、華琳さんはそんな風に食べないからな。

 

「じゃあ、もし良かったら、また作って下さい!」

 

「良いよ。 城に行ったらまだ沢山あるから、帰ったら渡すな?」

 

「やったー!」

 

と、ここで俺は華琳さん達をおいてけぼりにしてるのに気づき、話を戻した。

 

「すいません、華琳さん。 季衣に少し渡しましたが、一応はこれ渡しておきますね?」

 

「……まぁ、有り難く貰っておくわ。……一応、桂花の罰が無くなる訳ではないけれど」

 

もう流せば良いのに。

 

……後日、華琳さんから文若さんに罰があったらしい。

……ただ、何故か幸せそうだった。

 




少しだけ、時間を空けてからまた更新します。


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やったね蒼夜、仕事が増えるよ!

やっぱ日常シーンが書きやすいです。
戦闘シーンが得意な人が羨ましいです。



陳留に帰還してから数日、俺達の下へ良い知らせと悪い知らせが届いた。

 

良い知らせと言うのは、華琳さんが兗州の州牧の任を得て、季衣が正式に俺達の陣営に加わった事だ。

 

何でも、兗州に蔓延る大量の賊に恐れをなした前州牧はこの地をとっくに去っていたらしく、その後任として華琳さんが州牧の地位を引き継ぐ事になったのだ。

勿論賊討伐の成功が評価されたから、というのもあるが、文若さんの中央とのコネが決め手だった様だ。

 

それで季衣の居た邑も華琳さんの支配下に入り、前に季衣に約束した通り、賊から守り、税を安くして、今までより遥かに安全で住みやすくしたのだった。

 

郡太守?

奴は犠牲になったのだ。

犠牲の犠牲にな……。

 

それはともかく、そんな風に兗州の各地が良い統治になったから、季衣も華琳さんへ仕える事を決めたのだ。

なんでも、

 

『華琳様が邑の皆を守ってくれるから、ぼくは華琳様を守るよ!』

 

だ、そうだ。

……ほんと、良い子過ぎて涙が出そうだ。

 

……だが良い事ばかりではない。

そう、悪い知らせだってあるのだ。

 

いや、悪い知らせと言うには語弊があるが、あまりよろしい事態ではない。

 

……華琳さんは、州牧になったのだ。

 

今までは、郡太守だ。

……これからは州牧だ。

 

解るよね?

今までですら大変だった仕事量が、どうなるかはお察しだと思う。

兗州は陳留含めて五つの郡がある。

つまり仕事量は単純に計算して五倍。

 

勿論、本当に五倍になる訳じゃあない。

人員だって増えたし、それぞれ太守だって居る。

腐れ役人を罰したからと言って、人材が足りなくなる訳じゃあない。

 

……でもね、文若さんが加入したと言うのに、仕事は減る所か増えてるんだよ。

 

……ねぇ文若さん、誰か人材を紹介してよ。

 

 

_____

 

 

俺が書簡を抱えて仕事をしていたある日、中庭から春蘭さんと秋蘭さんの声が聞こえて来た。

 

「ふむ、茶の支度はこんな物か……」

 

「何?……おいおい秋蘭、この程度で本当に華琳様に喜んで頂けると思っているのか?」

 

「どういう意味だ姉者?」

 

「茶と茶菓子の準備をしただけで、華琳様に喜んで頂けると思っているのか? と聞いたのだ」

 

……喜ぶでしょ。

俺だったら喜ぶね。

 

俺が中庭に目を通して庵のある方を見ると、春蘭さん達が華琳さんとの日課の茶会の準備をしていた。

 

……良いなぁ。

俺も参加したい。

ゆっくり茶を飲みながら、会話したり書を読んだりしたいぜ。

……忙しいからそんな時間無いけど。

 

まぁ華琳さんと秋蘭さんは忙しくてもやってるけどね。

 

「お疲れ様です。 今日も日課の茶会ですか?」

 

俺は一応春蘭さん達に声をかけ、自身の気分転換をしようと考えた。

……誰かと会話をするだけでも、ストレス解放にはなるからな。

……まぁ文若さんの場合は、ストレスが溜まる事もあるけど。

 

「! おぉ、蒼夜! ちょうど良い、今日はお主も茶会に参加しろ!」

 

……は?

 

「……一応理由を聞いておこう、何故蒼夜を誘うのだ姉者? 蒼夜が参加する事に否は無いが、蒼夜はかなり忙しいのだ。……迷惑になるぞ?」

 

うん、まぁ参加したいとは思ったよ?

……けどねぇ?

 

「うむ、日々の穏やかな生活の中に、いつもとは違うちょっとした驚きや楽しみを仕込んでこそ、潤いは生まれるのだ!」

 

……そこで俺?

そもそも仕事漬けで穏やかな生活なんて送れてないんですが?

 

「それに、例え仕事が忙しかろうと、華琳様を喜ばす事以上に重要な事はなかろう?」

 

「……理解出来なくは無い」

 

理解出来るんだ!?

……この人も大概、華琳さんの事好きだよね。

 

「……俺の意思は?」

 

「何? 華琳様との茶が嫌なのか?」

 

別に嫌じゃ無いけどさぁ、俺はなるべく早めに仕事を終わらせて、酒を飲んでリフレッシュしたいタイプなのよ。

 

「いえ、俺じゃなくても文若さんとか……」

 

「嫌だ。 桂花は私が嫌だ」

 

えー?

筆頭将軍と筆頭軍師が仲悪いとか、……この陣営大丈夫か?

 

そう、文若さんはその能力が華琳さんに認められ、筆頭軍師とした認められたのだ。

ちなみに、霊里は政務の長官、姉さんは文官の教育者だから、上級文官の長。

ま、誰が偉いとかは無い。

皆分野が違うだけで、同等の発言力がある。

 

そして俺は、……監査、って事になった。

 

何でも出来るせいか、全ての部署を見回って、足りない所を手伝ったり、失敗が無いか、不正が無いかを取り仕切らなければならなくなった。

 

……だから本当に忙しいのだが……。

 

「諦めろ蒼夜。 姉者が一度こう言いだしたら、止められん。 お主も今日くらいは、ゆっくりして行くと良い」

 

……ですよね。

 

俺は大人しく、茶会に参加する事にした。

 

 

_____

 

 

「あら、今日は蒼夜も参加するのね?」

 

茶会に参加する事を決めて、待つ事数分。

華琳さんが、庵へとやって来た。

 

「はいっ! 華琳様、蒼夜の奴がどうしても参加したいと言いまして、……ささっ早くどうぞ」

 

……言ってねぇよ。

ほんとこの人の頭どうなってんの?

いや、まぁ面白いから良いんだけどさ。

 

この前なんか、別の郡の太守の名前をふわふわした感じで言ってたからね。

 

『えーと、……あー、あいつだ、あいつ、……張だったか、劉だったか……』

 

そんな奴いくらでも居るわ。

思わず吹いてしまったわ。

 

実際、春蘭さんが覚えている人の名前なんて、よく関わる幹部連中くらいじゃねぇかな?

 

……せめて重要な役職に就いている人の名前とか、中央の偉い人の名前くらいは覚えていて欲しいもんだ。

 

 

_____

 

 

華琳さんが到着して、和やかに茶会を楽しんでいると、秋蘭さんが春蘭さんに仕事の話題を振ったのだった。

 

「そういえば姉者、この後街へ新しい装備の品定めに行く予定ではなかったか?」

 

「おぉ、忘れる所だった」

 

……おいおい、仕事を忘れちゃいかんでしょ。

 

「……はぁ。 秋蘭が言わなければ確実に忘れていたわね。……春蘭の物忘れをどうにか出来ないかしら?」

 

「そ、その様な事は……」

 

確かに、軍務以外の仕事はすぐ忘れるからね。

しかも軍務の内、書類系の仕事もたまにしかしないし、重要でない事はすぐ忘れる。

 

「ふむ、確かに姉者は物忘れが激しいですね。……今は私や季衣が近くにいて、教えてやれるから良いものの、これからはそれもままならんかもしれん。 蒼夜、何か良い案は無いだろうか?」

 

えー?

……何かあるかな?

 

「んー、……そうですねぇ、……! ではその日の予定表を書くのはどうでしょう?」

 

「予定表?」

 

そ、スケジュール表だ。

 

「俺もたまにやっているんですけど、忙しくて何から手を付けたら良いか解らない時に、どの仕事を順番に済ませていくのかを決めるのです。 春蘭さんの場合、朝儀の最中や終わった後に、今日の予定を紙か何かに書いておくのです。 そしたらほら、今日の予定を確認出来て、忘れる事もありませんし、新しく予定が出来たら、それに書き込んでやる事を忘れたりしません」

 

「成る程、それは確かに有用かもしれん」

 

「そうね。 私や桂花、……いえ、全ての人員に仕事の予定を知らせる事が出来るわね。……ふむ……」

 

あ、考え込んだ。

まぁスケジュール表は会社とかにはあるからね。

あったら使い勝手は良いと思う。

 

「ま、まぁ春蘭さんで試してみましょう。……それで、今日の春蘭さんの予定を教えて下さい」

 

俺はそう言って、懐から紙と筆と小さい硯を取り出し、春蘭さんの予定を聞いた。

 

「……何故懐からそれが……。 準備が良いな?」

 

いや物書きとしては常備しときたいし。

ネタを思いついた時とか直ぐに書き込めるからね。

……ただ最近は本書いて無いからネタばっか溜まるけど。

 

そして俺は、今日の春蘭さんの予定を紙に書いて渡し、スケジュール表の効果を確かめてみた。

 

……しかし何故春蘭さんの予定を秋蘭さんが教えてくれるのだろうか?

 

 

_____

 

 

後日、俺の提案したスケジュール表は華琳さんの陣営で使われる事が決まり、今日のノルマを確認したり、仕事の予定を確認したりと、有用でかなり評価が高かった。

 

……しかし一部の馬鹿には効果が無く、スケジュール表を持っているのに、それを見るのを忘れて意味が無かった。

 

……春蘭さんはもう諦めたから良いけど、地理、お前……。

 




土日で多く投稿出きるように、頑張ります。


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歪みを作る者

遅くなって、大変申し訳ありません。
インフルって怖いね。
暫く寝込んでました。


「あれが陳留か……」

 

「やっと着いたー。 凪ちゃーん、もう疲れたの」

 

「いや、沙和……これからが本番なんだが」

 

「もう竹籠売るのめんどくさいの、真桜ちゃんもめんどうだよね?」

 

「そう言うてもなぁ、……全部売れへんかったら、邑の皆に合わせる顔がないやろ?」

 

「そうだぞ。 折角こんな遠くの街まで来たのだから、皆で協力してだな……」

 

「うぅ、……わかったのぉ」

 

「なんや最近は立派な州牧様が来たとかで治安も良うなっとるみたいやし、いろんな所から人も来とるからな。 気張って売り切らんと」

 

「……そうだ! 人が多い街なら、皆で手分けして売った方が良くないかな?」

 

「……うん、一理あるな」

 

「よっしゃ、じゃあ三人別れて一番売った奴が勝ちって事でええか? 負けた奴は晩飯奢りやで!」

 

「……はぁ、真桜、貴重な路銀を……」

 

「乗ったのぉー!」

 

「沙和まで……」

 

「二対一で可決やな。 凪もそれでええやろ?」

 

「……はぁ、仕方ない……なら夕方に門の所に集合だ」

 

「おーなのっ!」

 

「よっしゃ、晩飯はもろたでぇ!」

 

 

_____

 

 

良く晴れたある日、俺、姉さん、霊里、華琳さん、春蘭さん、秋蘭さんのこのメンバーで街の視察をする事になった。

 

何故このメンバーかと言うと、文若さんは城を空にする訳にもいかないので留守番、季衣と地理は今朝に山賊のアジトが判明したのでその討伐に行ったからだ。

 

「街も発展して来て、良い賑わい方ね」

 

「はっ、商人だけでなく、旅芸人も訪れる様になっている所を見ると、順調かと」

 

……順調、ねぇ。

大魔王ゾ○マじゃないけどさ、光ある所にはまた闇があるもんだ。

良い発展をした分だけ、どっかに皺寄せが行ってなきゃ良いけど。

まっ、その確認をする為に視察するんだけどね?

 

「さて、視察する場所は中央と右と左、それぞれの大きな道沿いを中心に、その近辺よ? さて、誰が何処を見て回りましょうか?」

 

「はいっ! はいはい! 華琳様! 私とそこの道を行きましょう!」

 

……言うと思った。

 

「じゃあ姉さん、俺とこっちの道行こうか?」

 

「ん、良いよ」

 

「ふむ、なら霊里、私とこちらの道に行かないか?」

 

「了解しました、秋蘭様」

 

俺達は直ぐ様二人一組を作り、残りの道に行くのを決めた。

 

「では見て回った後に、再び門の所に集合よ」

 

華琳さんの言葉に、俺達は解散して、それぞれ見て回る場所に向かって歩き始めた。

 

 

_____

 

 

俺と姉さんが見て回る事になった場所は、街の中央通りの方で、市場がメインだ。

と、言っても、市場の方は良く行くので、今更視察する事は無い。

だから、その裏手にある商店街と言える場所を先に視察する事にした。

 

「食事処ばっかだなぁ。 季衣ならここら辺に詳しいんだろうけど、……あ、あれ新店舗だ」

 

城での業務が多く、街に出るのは警邏の時くらいの俺はここらの店に入る機会は少なく、殆どの店を知ってるのに知らない状態だったりする。

 

……食べ歩きとかしてぇな。

 

「あっ、あっちの点心は美味しかったよ? そこの食事処も中々良かったなぁ」

 

「……なんで詳しいんだよ」

 

「いや、僕って自分で料理しないでしょ? それに君と違ってそこまで忙しい訳でもないからさ、ここら辺には良く来るんだよね。 地理ちゃんや霊里ちゃんとも来る機会は多いなぁ」

 

……くそぅ、くそぅ!

俺だけハブりやがって!

 

俺の嫉妬の視線に、姉さんは苦笑いしていた。

 

そんな風に二人で街を歩いていたら、ある露店の前で人だかりが出来ていた。

 

「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」

 

そこに居たのは、露店商らしき女の子だった。 売っているのは、……竹籠?

 

……何も珍しくねぇ。

何を寄って見れと言うのだろうか?

 

よっぽどこの女の子の素晴らしい大きさの胸の方が見所あるわ。

ま、孫家で鍛えられた俺には意味無いけどな!

ここにいる他の男と違って、俺は胸に釘付けなんかにならんぞ!

 

「あれ? 曼成ちゃん?」

 

「んぁ?……おぉ! 威方さんやないですか! なんでここに居るんですか? 後、華佗の兄さんは?」

 

……知り合い?

曼成とか言うから、一瞬張曼成かと思ったぜ。

 

「今、僕はこの陳留で働いて居るんだよ。 曹 孟徳様って知ってるかな? その人の下で働いているんだ」

 

「知っとるも知っとる! 最近州牧になられた偉い人やないですか! へぇ~、威方さん凄い人に仕えとるんやなぁ。……で? そこの兄さんは?」

 

「この人の弟。 元倹だ」

 

何も間違っていないぞ?

説明してない事が多いだけでな。

 

「よろしゅう、元倹さん。 うちは() 曼成(まんせい)、好きに呼んでやぁ」

 

……おろ?

 

「ちなみに名は?」

 

「ん? (てん)やけど?」

 

ほぅほぅ、李典か。

うん、魏の名副将だな。

 

うーん、出来れば勧誘したいなぁ。

 

「それで? 家の姉さんとは何で知り合いに?」

 

「ほら、前に僕が折り畳み式の将棋盤を見せたろう? あれの制作者が曼成ちゃんなんだよ」

 

なんと!

あの技術の無駄遣いはこやつの仕業か!

マジで仲間にしたいなぁ。

 

「それで? 今日は竹籠売りかい?」

 

「せやねん。 邑の皆が一生懸命作ったのを売りに来てん。 どう? 威方さんも一つ買って行かへん?」

 

……断り辛い言い方しやがって。

 

「ははっ、良いよ。 知らない仲じゃないしね、一つ貰おうかな」

 

「毎度! いやぁ、助かりますわぁ」

 

「曼成さん、君は商人なのか? てっきりあんな将棋盤を作るくらいだから、技術屋かと思ったんだが?」

 

この手慣れた感じ、流石関西弁だと言いたい。

ってか関西弁とか今更突っ込まんぞ、昔から何度か聞いた事あるしな。

 

「あー、……ちゃうねん。 邑で暮らすなら何でもせなならんのよ。 個人的には技術屋とは思ってるで? けどこういう事もするっちゅうだけの話や」

 

……ふむ、成る程なぁ。

 

「あの将棋盤見て思ったけど、君良い腕してるよ。 興味があったら、孟徳様の下で技術屋として働かないか?」

 

「やぁ、そう言うてくれるのは嬉しいんですけどねぇ。……まぁ邑の事もあるし、連れも居るんで、ちょっと今は答えられへんなぁ」

 

だな。

ちょっと性急過ぎたか。

 

「ま、興味が沸いたら何時でも訪ねてくれ」

 

「うん、僕も曼成ちゃん達が来てくれたら嬉しいな」

 

「ははっ、凪達にも相談してみますわ」

 

そう言って、俺と姉さんは李典と別れた。

 

 

_____

 

 

そして門の前で華琳さん達と集合した。

 

……集合したのは良い。

 

「……何で皆して竹籠持ってるんですかね?」

 

何? 流行ってんの?

……竹籠ブームって何だよ。

 

「今朝、部屋の籠の底が抜けているのに気付いてな……」

 

「ふふっ、秋蘭の事だから気になって仕方なかったのでしょう?」

 

あぁ、成る程。

秋蘭さんらしいな。

 

「春蘭さんは? 何か中に色々入っているみたいですけど?」

 

「うむ、季衣や地理にお土産を買ってやろうと思ってな? そこで竹籠を買って中に入れたのだ」

 

へぇ、律儀だなぁ。

 

……俺は一瞬そう思ったが、そこに文若さんの名前が無い事に気付き、少し悲しくなった。

 

……今度、ドライフルーツでも差し入れしてやろう。

 

「そう言う貴方達も竹籠を持っているじゃない? 何か理由でもあったのかしら?」

 

「この竹籠を売っていたのが、姉さんの知り合いでしてね? それで知り合いのよしみで買っただけですよ」

 

こうして理由を話すと、一番しょうもない理由なのは俺達だな。

 

俺達がそんな風に、少し雑談をしていると、急に横から声がかけられた。

 

「……そこのお主……」

 

「……誰?」

 

声をかけられた方を見ると、そこにはあからさまに怪しい占い師がいた。

 

その占い師は華琳さんに向かって強い口調で言う。

 

「そこのお主、……強い相が見えるの。 希にすら見た事の無い、強い強い相じゃ」

 

「何が見えるか言ってご覧なさい」

 

華琳さんがそう言うと、春蘭さんや秋蘭さんが諌めようとする。

だが華琳さんはそれを一喝して、占い師に続きを促す。

 

「力の有る相じゃ。 兵を従え、知を尊び、……お主が持つは、この国を満たし、繁らせ栄えさせる事の出来る強い相。 この国にとって、稀代の名臣となる相じゃ……」

 

…………。

 

「ほほぅ、良く解っているじゃないか」

 

「……国に、それだけの器があれば……じゃがの」

 

……。

 

「……どういう事だ?」

 

「お主の力、今の弱った国の器には収まりきらぬ。 その野心、留まるを知らず。……あふれた野心は、国を犯し、野を侵し、……いずれこの国の歴史に名を残す程の類い希なる奸雄となるであろう」

 

……治世の能臣、乱世の奸雄、か。

曹操に対する有名な評価だな。

って事はこの占い師は許劭か?

……まぁそこはどうでも良いか。

 

「貴様! 華琳様を愚弄するか!」

 

「秋蘭、お止めなさい」

 

「しかし、華琳様……」

 

秋蘭さんも、華琳さんが関わると冷静じゃなくなるねぇ。

 

「ふっ、乱世の奸雄大いに結構。 その程度の覚悟も無い様では、この乱れた世に覇を唱える等出来はしない、そういう事でしょう?」

 

そういう事だね。

覇王を名乗るんだ。

そんなん今更過ぎる。

 

「……それからそこのお主」

 

ん、俺か?

 

「お主自身が大局を変える事はあり得ぬであろう。 しかし、お主に関わる者は、良くも悪くも少しずつ変化が生じておる。 それら小さな歪みは全て合わせて大きな歪みとなり、結末を大きく変える事となる。……だが、それが主の望む結末になるとは限らぬ、くれぐれも人との接触は用心なされよ」

 

……もう遅い。

この時代の重要人物には結構会ってしまっている。

 

「俺自身に大局を変える力が無いなら、そこの力ある人物に変えて貰うさ。……ほらよ、礼だ」

 

廖化にそんな力が無い事なんて今更だろう。

そんな鍵を握る人物じゃないのは、俺が嫌と言う程、良く知っている。

 

だから華琳さんなんだ。

この時代屈指の英雄にして、時代の鍵を握る人物の一人。

 

この人には、これから先を託すに足る。

俺に平穏と安寧をもたらす為に、働いて貰わねばならない。

その為に、俺はここに来たのだから。

 




主人公は周りに影響を与える者です。
ですが、主人公一人でどうこうは出来ません。

それが、この作品の主人公の本質です。


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if あったかもしれない一幕

待たせたなぁ(蛇声)

いや、ほんと、長い間放置してすみません
リハビリ回です

本編よりのifです


それは、ある日の午後の出来事

 

「……どうしたんです?」

 

仕事の報告の書簡を華琳さんに渡しに来た時の事だった

 

「む、蒼夜か」

 

何やら不機嫌そうで難しい顔をしながら、華琳さんと秋蘭さんが話込んでいた

 

……本当は正直、関わりたくないのだが

 

「何か問題でもあったんですか?」

 

聞きたくないなぁ、仕事増やしたくないし

ってか、この二人が難しい顔してる時点で大事確定じゃん

 

「う、む……問題があった、と言うか、慢性的な問題があると言うか、……解決するのが困難な問題があるのだ」

 

「……そうね、解決しなくてはならない問題ではあるのだけど……」

 

うわぁ、二人が言い澱んでる

絶対面倒臭い奴だ

 

「そうですか、頑張って下さい」

 

俺は華琳さんの机に報告用の書簡を置いて、直ぐ様ターンを決め部屋から逃げようとした

ってか逃げる、逃がせ、逃がしてくれぇ!

 

だが俺の奮闘虚しく、秋蘭さんに肩を強く捕まれ、逃げるに逃げ切れなかった

やはり大魔王からは逃げられないのか……

 

「まぁ待て、お前も仕事の休憩がてら話だけでも聞いて行け、な?」

 

久方降りに見る、秋蘭さんの眩しい笑顔

……なんでだろ、全然嬉しくない

 

「そうね、えぇ、秋蘭の言う通り、話だけでも聞きなさい」

 

久方降りに見る、華琳さんの眩しい笑顔

……なんでだろ、精神がやられそう

 

「いや、もう、本当、忙しいんで勘弁して下さい」

 

「「聞け」」

 

……椅子に座りました

 

 

 

−−−−−

 

 

 

「あんの腐れ豪族! よりにもよって私に婚姻を要請して来るとは、どういう了見なのかしら!」

 

「全くです、私や姉者にまで婚約者の紹介をしようとは……こちらにすり寄る気が見え見えですね」

 

……二人が問題と言った事は……つまり、まぁ、そういう事だ

 

「婚姻うんぬんはまだしも、時期が最低ですね」

 

今から世が乱れると言うのに、よりにもよって今結婚とは、頭が悪いとしか思えん

もし、今この陣営の女性陣が妊娠でもしたら、戦力低下じゃ済まず、一気に崩壊一歩手前の大問題になりかねんぞ

 

「しかしまぁ、普通に考えれば華琳さんは立場上、そういう相手がいても不思議じゃない、ってか居るのが普通ですもんね」

 

州牧様だからなぁ、世継ぎの事もあるし、結婚の一つや二つはしていても不思議じゃない

 

「……はぁ、それなのよね……全く同じ事を言われたわ」

 

華琳さんはどうやら自分でも自覚があるらしく、右手で額を押さえながら、面倒臭そうに溜め息を吐いていた

 

「……結婚自体が嫌な訳ではないのよ、勿論今すぐするつもりは無いけど」

 

そらそうだ、そこは前提だよね

 

「将来的に考えれば、それが必要な事は理解出来るわ……けど!」

 

またもや怒りが湧いて来たのか、華琳さんがプルプル震えながら、語気が荒くなって来た

 

「あんな醜いブ男が、私と結婚ですって! ふざけるのも大概にして欲しいわね!」

 

「に、人間見た目じゃないですよ?」

 

正直、この人の美醜基準は高過ぎるから、大概の男は駄目な気がする

 

「それでも限度があるわよ! 私に豚と結婚させるつもりかしらね!」

 

「……そんなに酷かったんですか?」

 

「うむ、控えめに言っても、アレは豚以外の何者でもない」

 

秋蘭さんがそこまで言うとは……その人は鏡を見ないのかな?

華琳さんレベルの容姿をしてる人相手に、豚が来るのは不味いでしょ

 

「……はぁ、当然今回の話は断ったけど……実はこの手の話は既に数十回は出てるのよ」

 

「あぁー、うん、そりゃ華琳さんの容姿的にも、権力的にも、能力的にも、独身だったらその手の話は来るでしょうねぇ」

 

寧ろ来ない方がおかしいんだよなぁ

 

「そうなのよね、これからも来る事を考えれば、その度にわざわざ時間を取られるのが面倒でしょうがないのよ」

 

「そこで、どうにか出来ないかと私と相談してた訳だ」

 

やぁー、これは流石に解決するのは無理じゃないかなー?

 

「なんか、こう……適当に形だけでも婚約者作って虫避けするしかないんじゃないですか?」

 

左手の薬指に指輪を着けるとか

……あぁ、これ前世の知識だわ、この時代じゃ意味ねぇや

 

「それは私も華琳様と考えたが、……それも難しいのだ」

 

秋蘭さんと華琳さんが、苦虫を潰したような顔をしてそう告げた

 

「……残念ながら、形だけの相手すらいないのよ」

 

え、何故?

 

「先程、お前自身が言った様に、華琳様は容姿も権力も能力も高い、それが却って足枷になっているのだ」

 

「形だけとは言え、私の婚約者にするのなら、それなりに相手にも権力や家格が必要になってくるのよ」

 

あー、そっか

 

「権力や家格があるのに、形だけの名前を貸す様な婚約を相手側がする訳ないですね」

 

そもそも華琳さんと婚約出来るレベルなら、形だけじゃなく本当に婚約したいだろなぁ

 

「……くっ! いっその事蒼夜と婚約でもしようかしら」

 

おい、どうしてそうなる

 

「勘弁して下さいよ、俺までその面倒な家やら権力やらの問題に巻き込まないで下さいよ」

 

大体、俺には権力や家格がないから婚約すら出来ないぞ

 

「ほぅ、冗談とは言え、華琳様との婚約話をそこまで簡単に無下にするとは、流石だな」

 

は?

 

「いや、ただの軽口に普通に返しただけじゃないですか?」

 

「どうかな? 世の一般男性が、華琳様との婚約の話を普通に否定するとは、私は思えないが?」

 

「ふっ、そうね、これでも容姿には自信があるのだし簡単に断られると傷付くわね」

 

……なんか二人がニヤニヤし出したぞ、これはあれだな、俺をからかってストレス発散しようってパターンだ

 

「いやはや、華琳様からの誘いを断り、華琳様のお心を傷付けるとは、斬首ものだぞ、蒼夜?」

 

「えぇ、そうね、私凄く傷付いたわ」

 

……酷い話だ

真面目に働いてた俺が、何をしたと言うのだ

 

「……はぁ、俺にどうしろってんですか?」

 

俺が観念したかの様にそう言うと、二人は満足そうな笑顔をした

 

「そうね、ふむ、私との婚約を断るくらいなのだし、貴方はさぞ結婚相手には拘るのでしょうね?」

 

いや、全然そんな事ないんですが

普通で良いんだよ、普通で

 

「……ありきたりな、臭い言い方をするなら、愛ある家庭を築ける人と結婚したいですかね」

 

「ほぅ、華琳様とは愛ある家庭が築けないと?」

 

誰もそんな事言ってねぇよ

 

「いや、そうではなくてですね? 華琳さんが俺を妥協で選ぶ時点で、幸せな家庭は無理でしょう?」

 

夢見がちと言われかねんが、生涯の相手を妥協で選ぶのはどうかと思うよ?

 

「ふむ、まぁ私の事はもう良いでしょう……けど、そうね、もし私達の陣営の中から選ぶなら、誰を伴侶としたいかしら?」

 

えぇー?

 

「……言わなきゃ駄目ですか?」

 

「ふふっ、駄目よ」

 

「私も是非聞かせて貰いたいものだな」

 

ぐっ、ニヤニヤとまぁ、楽しそうだなぁおい!

 

「……はぁ、じゃ、まぁ、消去法ですけど、とりあえず姉さんと霊里と季衣は無いです」

 

姉さんは姉さんだし、霊里は妹、季衣も似た様なもんだし、そもそも倫理的にアウト

これっぽっちも欲情しないし、まぁこの三人は無い

 

「ふむ」

 

「まぁここは普通ね」

 

そして相性の悪さから……

 

「まぁ文若さんも無いですね、そもそもあの人男が嫌いですし」

 

「あぁ、まぁ、桂花はな……」

 

「そうね、桂花は仕方ないわね」

 

あぁ、やっぱ他の人から見ても文若さんはそう言う扱いか

 

「それから、……そうですね、春蘭さんは仕事の同僚的な側面が強過ぎて、あまりそういう目線では見れないので、無しですかね」

 

正直言い方に苦労するな、ぶっちゃけ春蘭さんに女を感じないのだが、それをそのままこの二人に伝えれば、怖い事になりそうなので本音は言えん

 

この二人春蘭さんの事好きだからなぁ

……特に秋蘭さん

 

「ふむ、まぁそんなものか、姉者はあれで女らしい所があるので、悪くはないのだがな? 蒼夜が娶ってくれるなら、私も安心したのだがなぁ」

 

「そうね、蒼夜なら春蘭を任せるのも悪くないわ」

 

それは俺が困るんですが

 

「となると残りは……」

 

「秋蘭と地理ね」

 

……うーん、ここは少しからかい返すか

 

「地理は部下ですので、やはりそういう目ではあまり見ませんね」

 

……まぁ、あまり、なのだがな

 

「ですので、まぁ、秋蘭さんが相手には望ましいですよ」

 

俺はニッコリと笑って、本人に言ってやった

 

……あれ?

よく考えたら、これ俺が恥ずかしくないか?

 

……深く考えるのは止めよう

 

「ほぅ、私か……ん? わ、私か?」

 

「成る程ね、確かに貴方達は相性良いものね」

 

まぁ、俺と秋蘭さんの仲は結構良いな

 

「それで? 消去法と言っても、理由くらいはあるでしょう? 決め手は何かしら?」

 

「決め手……そうですね、距離感、ですかね?」

 

「距離感?」

 

「なんと言うか、程良いのですよ、近過ぎず遠過ぎず、同じ職場の同僚でありながら、つい女性を意識してしまうような……って、本人を目の前に恥ずかしいので、そろそろ勘弁して貰って良いですか?」

 

やべぇ、顔が赤くなる

 

「う、うむ、その、なんだ、……あ、ありがとう? コホン! わ、私も吝かではないぞ?」

 

「え、あ、あー、……はい」

 

秋蘭さんが頬を染めながら、そう言うもんだから、俺も意識して恥ずかしかった

 

……そして、華琳さんのニヤニヤがウザかった




出来るだけ、また投稿して行きたいと思います
週に一度だけでも投稿出来るように努力します


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危険な三人、廖元倹は眠れない

某有名マンガ龍玉のアニメ劇場版のサブタイトルからもじりました

久々の守護鬼降臨


ふわぁ~、ねみぃ~!

昨日二時間しか寝てないからねみぃ~わぁ~

マジヤバいわぁ、ねみぃ~わぁ~

 

……や、マジで眠い

絶対黄巾党ぶっ殺す、張角ぶっ殺す、絶対ニダ!

 

働けど働けど我が暮らし楽にならず、とは誰が言ったか、真面目に働いているのに一向に俺の暮らしは楽にならない 

それどころか、最近は黄巾党のせいで余計大変なんだよな

 

東に賊あれば、これを討ちに行き

西に賊あれば、これを討ちに行き

南に賊あれば、これを討ちに行き

北に賊あれば、これを討ちに行く

 

雨にも風にも負けない気概はあるが、そろそろ労働に負けそうです

 

朝は余裕を持って起き、夜は好きな時間に気ままに寝る

そんな人間に、私はなりたかったなぁ

 

……それがどうしてこうなった

 

俺が虚な目をして、フラフラする頭のまま朝礼をする会議場に入ると、俺以外の皆も似たような見た目をしていた

 

……まぁ俺だけが大変じゃないのが、せめてもの救いか

ブラック企業の考え方だが、俺だけが大変な訳じゃないから、頑張ろうと言う気にはなれる

 

普段は凛としている華琳さんですら、目に凄い隈を作ってるしな

 

「……全員集まったわね、それでは__」

 

と、華琳さんが朝礼を始めようとした所に、兵士が慌てて飛び込んで来た

 

「し、失礼します! またしても賊の存在が確認されました! そ、その数なんと五千をゆうに越えると思われます!」

 

……プチっ

 

「……くくく、そうかそうか、そんなに殺されたいのか、その馬鹿共は」

 

赦さん、赦せん、赦してなるものか!

てめぇらのせいで俺の睡眠時間がぁ!

ここ数週間まともに眠れてないんだよこっちはぁ!

 

「俺が行って来ます、構いませんね?」

 

俺が華琳さんにそう告げると、誰もが緊張した顔持ちでこちらを伺っていた

 

「え、えぇ、行くのは構わないのだけど……」

 

「護衛隊を先遣部隊として使います、華琳さんは準備を万全にして本隊として後から来て下さい、補佐として地理も連れて行きます」

 

殲滅してやる

その意気込みを持って華琳さんを見ていると、華琳さんは額に汗をかいて了承してくれた

 

「わ、わかったわ。 一応、念のため秋蘭も連れて行きなさい」

 

俺がその言葉にこくりと頷くと、俺と同じ気持ちなのか、季衣も気合いの入った言葉で俺に進言して来た

 

「蒼夜様、僕も連れて行って下さい!」

 

季衣のその目には、敵を倒すという激情が見て取れた

 

……そうか季衣、お前も俺と同じ気持ちか

 

「……半刻後に出る。 季衣、やるからには着いて来い」

 

俺はそう言うと、会議場から出て張曼成を呼ぶ

 

「曼成!」

 

「はっ!」

 

「賊討伐だ、護衛隊出るぞ! 四十秒で支度させろ、半刻後までに城門前で整列して待ってろ」

 

それにしても……あぁ、眠い

 

 

 

−−−−−

 

 

 

半刻後、城門前には思いの外結構な人数が揃っていた

 

張曼成を筆頭とする五百人の護衛隊に、地理、季衣、秋蘭さん、そして姉さん

 

「? 何で姉さんまで?」

 

「軍師みたいなものだけど……蒼夜、今の君の状態が心配だからかな、華琳さんも心配してたよ?」

 

何故だ

こんなに()る気に満ちていると言うのに

 

「……まぁ良いけどさ」

 

やる事は変わらん、デストロイだ

 

「秋蘭さん、よろしくお願いします」

 

「あぁ、お主もあまり気を張り過ぎないようにな。 それと今回はお主が主将となる、私は部下に徹するので、上手く使ってくれ」

 

ありがたい

華琳さんも粋な事をしてくれる、これで心おきなく殲滅出来るってもんだ

 

「季衣もよろしくな、全力で暴れるぞ」

 

「任せて下さい!」

 

良い返事だ

俺と同じ気持ちの季衣なら、一緒に気持ち良く暴れられそうだ

 

「よし地理、地図は持って来てるな? 賊が発見された場所から進行方向を予測して、一番近い邑に向かうぞ、お前が先導しろ」

 

「了解しました」

 

「曼成、今回の行軍速度は最速で行く、装備が重いだの、距離が長いだの、新兵の調練が足りないだの、泣き言は許さん、全力で着いて来い」

 

「はっ!」

 

これで準備は……おっと

 

「それでは一人ずつ携帯食を持て、今回は糧食は置いてく代わりに、俺が作った乾燥肉と乾燥果実を三日分渡す、それを巾着袋に入れてあるので腰に吊るして行動しろ」

 

俺が城門に最後に着いた理由がこれだ

これらを城の兵士に用意させて持ってこさせたから少し遅くなったのだ

 

ちなみに、季衣には多めに十食分入れてある

 

「準備出来たな? では護衛隊、出陣するぞ!」

 

 

 

−−−−−

 

 

 

気合いを入れて出陣したのは良いが、今までの疲労と眠気が酷く、行軍の疲れもあって俺は今にも頭がどうにかなりそうだった

 

だがまぁ何とか急いだかいがあり俺達はその日の深夜のうちには目的の邑へと到着する事が出来た

 

寝たい寝たい寝たい寝たい寝たい寝たい

 

……が、今からが将としての仕事の時間だ

 

ゴールしたいよぉ

 

「曼成、賊はいつこの邑に到着しそうだ?」

 

今は部隊を休ませ、主だった面子を集めて話合いをしている

 

話す内容や確認する内容は、賊への対応の仕方や物資の確認に、邑への対応や強行軍から来る部隊の疲労具合、その他細かい事が諸々

……やる事多すぎんよぉ

 

「現在動きはありませんが、明日の明け方から動くとして、この邑との距離から考えれば明日の正午前にはこちらに来るかと」

 

今が深夜の12時だとして、丁度半日くらいか

……普通なら充分眠れるんだが

 

「わかった、とりあえず見張りは厳重に頼む、賊に少しでも動きがあれば、すぐに知らせてくれ」

 

「はっ」

 

「秋蘭さんには邑への対応をお願いして良いですか? 邑長との交渉や、民衆への不安解消を優先してお願いします。 もし食料に余裕があるようでしたら、買い付けの方もお願いします」

 

「任された」

 

この手の交渉事や対応は、今まで秋蘭さんがして来たから門題無いだろう

まぁ最近は文若さんがやってるみたいだけど

 

「地理は護衛隊の現状把握を頼む。 疲労困憊して仕事にならん奴らから優先して休ませろ、二刻交代で警戒任務に当たらせてくれ、警戒任務の際には重装備する必要もないから、そこまで疲れん筈だ。 理想は明日の戦闘前までに全員が回復している事だ」

 

「警戒に出る人数はいかがしますか?」

 

「そこは任せる、が、百人以下にはするな。 それと新人だけで警戒もさせないようにな」

 

「了解しました」

 

後は戦術の確認に、敵の人数把握、華琳さんへの報告も出した方が良いか

……あー、やる事他にもあるだろうけど、上手く頭が回らん

 

「あぁそうだ、季衣は今のうちに眠っておきな」

 

「え?……でも、皆忙しいし僕も働きます」

 

「いや、明日から季衣には相当働いて貰うからな、休める時に休んでおいてくれ、……休む事も仕事のうちだ」

 

俺がそう言うと、季衣は不満げな顔で寝床へと行った

 

……俺も休む仕事したいんだよなぁ

 

「……はぁ、さて姉さん、賊の人数は五千を越えるみたいだけど、野戦と防衛戦、どっちの方が良いと思う?」

 

「防衛戦一択、人数が違い過ぎるね」

 

ですよねー

 

「問題は簡単にこの邑を囲まれる事だな、柵はあるが脆いし、護衛隊を割って全方向に割り当てるには人数差がキツイって所か」

 

「けど野戦を選んだら、山や林、地形を使って優位に進められてもこの邑の人達が危ない、って言うより、殺されるよね……それは流石に許容出来ないし、目的と矛盾してるしね」

 

個人的にはぶっ殺しに行きたいんだがなぁ、……いや確定でぶっ殺すけど

 

……どうしたもんか

と、俺が悩んでいると張曼成が報告に来た

 

「元倹様、この邑へと向かって来る集団があります」

 

「賊か?」

 

「いえ、それとは様子が違うようです。 六百人程度の武装集団なのですが、旗が一本だけ立っており、『勇』とありました」

 

義勇軍か

こちらに取り込めるか?

仮に取り込んだとして、練度の方はどうだろうか?

使えない奴らが六百人増えたら、逆に軍としては危険なのだがな

強い敵より無能の味方の方が怖い、とは当たり前の話だしな

糧食の方もどうだろうか?

六百人の腹ペコ集団が来ても、簡単には飯を用意する事は出来んぞ

 

……あぁーくそっ、仕事が増える

 

「……とりあえず会って見よう、曼成、その義勇軍をこちらの邑へと案内して、隊長格を俺の所に連れて来てくれ」

 

「了解しました」

 

……今日も眠れそうにないな

 

この恨み、忘れないぞ張角

 




主人公の配役はブロリーです


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三羽召喚、これで我々の勝利だ!

凪、真桜、沙和の登場です


張曼成に案内されて、義勇軍を率いる者達が俺の前へとやって来た

 

「おっ、威方さんに元倹さんやないの、まさかこないな所で会うとは思いませんでしたわぁ」

 

快活な関西弁で俺達に挨拶に来た一人は、いつぞや陳留で出会った、李典だった

他にも二人程居るが、この二人とは俺は会った事がない

 

「やぁ曼成ちゃん、文謙ちゃんに文則ちゃんも、久しぶりだね。 まさか三人が義勇軍をしてるなんて思わなかったよ」

 

文謙に文則か

……まさかな、李典だけでもありがたいのに、こんな所で将軍級が後二人もいないよな?

 

李典だけでも充分戦力になる、まぁ地理程ではないだろうが

 

「お久しぶりです威方殿、いえ失礼しました、今は威方様と呼ぶのが正しいですね。 我ら三人義勇軍六百を率いて、ここに参陣致しました」

 

「様だなんて、相変わらず文謙ちゃんは堅苦しいなぁ」

 

堅苦しい挨拶をする傷痕のある少女を俺は見た

 

……この子は強い

恐らく地理クラスの強さはある

 

「久しぶりなのー! 私達三人が来たからには、威方さんも安心して欲しいのー!」

 

「ふふっ、そうだね、心強いよ文則ちゃん」

 

今度は、頭の緩そうな挨拶をする子を見た

……なんと言うか、……ギャルだ

今まで見て来た中で、一番女の子してる子だ

 

……弱くはない、が、そこまで強くもないな

 

「さて、久方ぶりの再会中に申し訳ないが、少しだけ真面目な仕事の話をしよう」

 

俺がそう言うと、全員が真面目な顔で俺を見た

 

「まずは自己紹介させて貰おう。 そこの李 曼成にはこの前少しだけ話をしたが、俺はそこにいる楊 威方の弟であり、曹兗州牧が配下、廖 元倹と言う。 此度はこの賊討伐の先遣隊主将の命を任されて来た」

 

俺がそう言うと、三人は相当驚いた顔をしていた

 

「なっ! 守護鬼の廖 元倹様!? おい、真桜そんな話聞いてないぞ!」

 

守護鬼って呼ばれるの、そんな好きじゃないんだよなぁ

 

「えぇ!? うちかてそんな話聞いてへんよ! 弟の元倹だーとしか言われてへんもん! こんなん詐欺やで!」

 

誰が詐欺師だ

 

「私も知ってるのー! この前阿蘇阿蘇に載ってた、今最も仕事が出来る良い男一位の人なのー!」

 

……は?

え、何それ知らない

 

「えーと、まぁ言いたい事は色々あるだろうが、まずは名前から教えて貰えるか?」

 

……本当は阿蘇阿蘇が気になるんだけど

 

「はっ! し、失礼しました! 私の名は、楽進 文謙と申します! お会い出来て光栄です!」

 

「あぁー、前も言うたけど、李典 曼成です。 本性隠すんはズルいでっせ元倹さん?」

 

「于禁 文則なの! よろしくなのー!」

 

おっふぉー!

まさかとは思ったが、マジで楽進、李典、于禁かよ!

 

こんな所で有能将と会えるとは!

 

三国志的には、楽進は曹操の窮地を助ける事が有名だし、李典は名副将としてよくよく聞く名前、于禁は七軍の将として有名だ

 

……まぁ于禁の七軍に関しては、龐徳の有能さの方が有名だけど、曹操から七軍与えられるだけでも、その有能さは理解出来る

 

この三人が協力してくれるなら行けるぞ

 

護衛隊五百

義勇軍六百、合わせて千百

 

将が、俺、秋蘭さん、地理、季衣、楽進、李典、于禁

軍師として姉さん

 

……勝ったな、寝るわ

 

……いや、寝れないんだけどね?

 

「あぁ、三人ともよろしく頼む。……それで、義勇軍は俺達の指揮下に入るという事で良いのか?」

 

これで実は違いますとかならキツイんだが

 

「はい、我ら三人は力無き民を守る為に立ち上がりました。 民を守るべくこの邑へと来た元倹様達の下へ付くのに、我らは何の不満もありません」

 

「やー、それにですね、恥ずかしい話ですけど、うちら自体はそこそこ戦えますけど、隊を率いて戦うんはこれが初めてなんですわ」

 

「調練とかはしてたけど、正直ちょっと不安だったから、元倹様達が居てくれて私達も安心したのー」

 

ふむ、成る程な

 

「わかった。 当然俺達は君達を心良く迎えようと思う、が、……調練したとは言うが、義勇軍は実際どの程度動けそうだ?」

 

「その、何分今回が初めてですので、……流石に正規軍程は……」

 

「いや、そこまでは期待してない。 そうだな、掛け声と同時に槍を乱さず突けるか?」

 

「その程度であれば問題ありません」

 

よし、それなら充分戦力として期待出来る

 

「うん、なら糧食の方はどうだ? 義勇軍ならば、そこまで多くはないんじゃないか?」

 

「はい、ですので、この邑で多少分けて貰おうかと思っています」

 

だよなぁ

……これは糧食置いて来たのはミスったな

 

「……仕方ないか。 姉さん、秋蘭さんに報告して、糧食を限界まで買い付けて欲しいと連絡してくれ。 後、義勇軍が加わった事も説明しておいて欲しい」

 

「ん、了解」

 

……しかし、この邑で千百人分の食料を何日にも渡って準備するのは厳しいな

 

……恐らく、華琳さんなら最速で準備を整えて来る

華琳さん達本隊が到着したら、その時点で賊共は詰みだが、到着するのは早くても明後日だろう

 

……明後日まで糧食が保つか?

いや、保たせるしかないな

最悪、護衛隊は俺が持たせた乾燥肉と乾燥果物だけで我慢させるしかないか

 

「さて、早速で悪いが義勇軍には一つ重要な仕事を頼みたい」

 

「「「っ!」」」

 

俺がそう言うと、三人は緊張した面持ちで俺の命令を待った

 

「柵を作って欲しい」

 

 

 

−−−−−

 

 

 

トーンカーンと、現在は李典指揮の下、急ピッチで邑に頑丈な柵が作られている

 

「やー、真剣な顔で何言うかと思えば、柵を作ってくれだなんて、元倹さんもおかしな人やなぁ」

 

「おかしなもんか、邑を守る上では重要な事だぞ」

 

「重要なのは解るんですがねぇ、……まぁうちの得意分野ですし文句は無いんですが……」

 

そう言いながら、李典は眉根を寄せて厳しい顔付きで俺に疑問を投げ掛けて来た

 

「……何で東門の方は改修しないんですか? いやまぁ正直、明日の正午までに全方向に柵を作るんは厳しいですけど、東は賊が居る方向やないですか。 普通逆の西門やないですか?」

 

ふむ……

 

「なぁ、守護鬼って結構有名だと思わないか?」

 

別に有名にはなりたくなかったんだがな

 

「え?……そらまぁ、うちらみたいな田舎者が知ってるくらいですし、かなり有名ですね。 特にここ最近はここらの賊を一掃してますし、別名“賊殺し”なんて呼ばれてますからね」

 

え、“賊殺し”?

え、俺今そんな風に呼ばれてんの?

 

……うん、いやまぁ、もういいや

とにかく、その有名な名前を使わない手はないってだけの話だし

 

「とにかく、まぁ、その守護鬼が今から攻めようとしている邑の前に陣どっていたら、賊はどう思うだろうね?」

 

「……あかんわ、死にとぅない。 うちなら速攻逃げますわ」

 

李典は心底嫌そうな顔して、げんなりした口調でそう言った

 

……一体俺の何をそんなに怖がる

 

「まぁそこまでは期待出来ないけど、攻め手の士気は下がるだろうな。 それに護衛隊が隊列組めば、即席で鉄の壁が出来上がるからな、柵が無くても問題ないんだよ」

 

それも、棘付きの鉄壁がな

 

ふっ、度重なる賊討伐の際、改良に改良を重ねて、ついにスパイクシールドの完成に漕ぎ着けたぞ

しかもタワーシールドのデカさでな

 

扱いは相当厄介な代物だが、厳しい調練の末に、隊列を乱さない動きを手に入れた護衛隊は、今の所死亡者0を誇る最硬部隊なのだ

 

想像して欲しい、高さ二メートル近いトゲトゲの鉄壁が、人間のダッシュの速度で急速に近付いて来る様を

 

……俺が考案したのは良いが、正面からその有り様を見たら、普通に怖かったぞ

 

賊共にこの恐怖を教えてやろう!




スパイクシールドに関しては、かなり無茶な理論だと思いますが、そこはまぁ恋姫ですので、矛盾を気にしないでいただけるとありがたいです


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雑魚相手に策なんて要らねぇよ!多分な!

エタ化はしないから、きっとしないから(震え声)
久しぶり過ぎる更新です
本当にすいません


戦場では様々な事に気を付けないといけないが、その内の一つに病気、特に伝染病には気を付けないといけない。

 

勝ち戦の筈だった戦いが、伝染病のせいで撤退して敗戦となる事になった等の話は古来よりある。

その為、戦場には傷薬の他にも病に効く薬も用意するのが基本だ。

 

だが戦場には病に効く薬すら効能を発揮しない伝染病がある。

 

それは恐怖だ。

 

“死”という生物としての根元的な恐怖は戦場では意図も容易く伝播する。

 

調練を繰り返し鍛えた兵士ですら、基本的には“死”の恐怖は付きまとう。

その恐怖を乗り越え、“死”を怖れなくなった兵士を死兵と呼び、精兵と呼ぶ。

 

では、今から戦う黄巾党の賊共は“死”を怖れるか否か?

 

答えは簡単、他者から奪う事に慣れ、自らの利益の為に苦心する奴らは絶対的に“死”を怖れる。

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

「敵本陣に突撃をかける!?」

 

まさか、と言わんばかりに秋蘭さんが俺を問い質すが、まぁそのまさかだ。

 

邑の柵を李典中心に強固に作り直した後の、夜明け前の軍議で、俺が作戦を発表した時の事だった。

いや、作戦なんて高尚なものじゃなくただの力押しだけども。

 

「敵の軍勢は五千を越えるとの情報だぞ?義勇軍を合わせても千百程度の我らが突撃した所でこちらの被害が多く出るだけではないか?それに邑の防備はどうする?」

 

と、秋蘭さんがまくし立てて来るが、何も俺だって、ただ無為に突撃をすると言った訳ではない。

 

「まぁ、聞いて下さい。俺の戦場における基本方針を教えますから。」

 

俺がそう言うと秋蘭さんだけじゃなく、姉さんを含めた皆が興味深げに俺の話を集中して聞こうとしてきた。

そんな大層なもんじゃないんだけどなぁ。

 

「敵の心を折る事。それが俺の戦場での基本方針です。」

 

それも標的は指揮官ではなく、ただの一兵卒と定めている。

無論、指揮官の心が折れるならその限りではないので、今回はただの一般市民が賊となって何故か指揮をしてる敵の指揮官が対象だ。

 

「何故、敵の心を折る事と敵軍本陣に突撃する事が符号するんだい?」

 

姉さんが微笑みながらも、まるで笑ってない目をしながら俺にそう問うてきた。

ちょ、それ本当に怖いから辞めて。

 

「手っ取り早く心を折る方法は、死ぬかもしれない、という恐怖を与える事だよ姉さん。その為には敵の指揮官に盛大な威嚇をしないといけないからな。」

 

別に突撃して敵の指揮官を殺す必要はない。

突撃をする事で、死ぬかもしれない、という恐怖を刷り込む事が出来れば成功なのだ。

 

恐怖は伝播する、ただの雑兵からですらその恐怖は伝染病の様に伝播するのに、トップが恐慌すればどれ程の影響力があるだろうか?

 

「俺は、初戦にて敵の心を折りに行きたいと思う。」

 

通常の場合は邑の防備を固めて、華琳さんが本隊を連れて来るまで耐えるのが常道だろう。

 

しかしながら、

 

「今回の戦、既に勝利は決まっている。」

 

時間は俺達の味方で、速ければ明日の昼には華琳さんは到着すると思われる。

華琳さんが到着すれば後は蹂躙するのみだろう。

 

「だから後は、いかに兵を消耗しないかが重要だ。」

 

邑の防備を固めるだけでは、敵は何度でも攻めて来るだろう。その場合はこちらが消耗する。

しかし、恐怖したならどうだろう?

攻めても崩れず、それどころか相手が攻めて来て死ぬかもしれないと思えば、賊共は士気の低下に収まらず撤退すら視野に入れて、迷い、怖れ、混乱し、邑への攻撃すら躊躇する。確実に。

 

「初戦だ。敵とぶつかる初戦で敵の心を折れば、それだけで充分時間稼ぎとなり、こちらは消耗を抑えて明日を迎え、華琳さんが到着して蹂躙劇が始まる。」

 

突撃するリスクは当然ある。けども成功報酬はでかい。

しかも成功確率が悪くないならやるべきだと思うのだ。

 

「突撃をかます瞬間は、敵が邑を攻めて来た後、一度休憩を入れる邑から離れる時が攻め時だ。」

 

賊という害虫のようなゴミ共だが、奴らも一応は人間なので、体力が無限にある訳ではない。

必ず食事だ何だと休憩を入れるタイミングがある。

その時こそがチャンスなのだ。

 

こちらを攻めて、攻めきれない場合は必ず一度引いて休む時がある。

その時に突撃をかませば、勝機、というか大ダメージを与える事は可能だ。

 

「それに、突撃の際には俺、季衣、地理、文謙の四人を固めて盛大に暴れる。俺らが最前線で道を切り開いた所に後ろから蜂矢の陣で元気のある奴らをぶっ込めば良い所まで行けると思う。」

 

武力が高くて破壊力と突破力があるメンバーを固めて突撃したら、並の軍隊でもそうは止められんだろう。相手が賊なら更に倍プッシュだ。

赤木しげるの様にプッシュして(圧力かけて)行こうと思います。

 

まぁ通常の軍隊の場合はこんな片寄った編成したら、他の疎かになる部分を攻められるから絶対にやらないけどね。

 

仮に失敗したとしても、邑には半数以上の兵が残るだろうし、指揮官に姉さんと秋蘭さん、李典と于禁が残ればなんとか防衛しきれる。というのが俺の目算だ。

 

「……悪くない。いや、寧ろ危険はあるが良い手と言えるとも思える。……しかし敵の指揮官が優秀で崩れない場合はほぼ自殺とも言える博打のような危ない手だ。」

 

秋蘭さんが眉間に皺を寄せながらそう危惧する。

 

「全く持ってその通り。だから敵が崩れ易くなるように仕込みもします。」

 

賊の指揮官が優秀なパターンは充分あり得るだろう。特に黄巾党なら尚更ある事だ。

うちの張曼成がその例に当てはまる。あいつは本来なら黄巾党の指導者ポジだっただろうからな。

 

黄巾党であいつクラスの指揮官は、有名所なら何儀や波才辺りが妥当だろうか?

まぁいずれにしろ、その場合は指揮官以外の心を折れば大丈夫だろう。

ってかそうじゃない可能性も普通にあるし。

 

いくら頭が優秀でも、手足たる兵が軟弱ならば心を折るのは容易い。

 

「突撃の際に曼成を使って賊共の恐怖心を煽ります。」

 

張曼成以下、諜報の仕事もしてもらってる奴らにはサクラをしてもらって、俺達が突撃した時に、逃げ叫んで貰おうと思ってる。

 

この時に一番心を折る存在は季衣だ。

季衣の怪力は誇張なく大陸の中でもトップクラスだろう。

季衣が自身の武器である鉄球を振り回すだけで、人体は軽く空をも飛ぶのだ。

流石『岩打無反魔(ガンダムハンマー)』高火力待った無しですわ。

 

そんな現場を見せつけられて、しかも逃げ叫ぶ奴までいたら、ただの雑兵なら絶対に一緒に逃げ出す。

寧ろそこで逃げ出さないような根性据わった奴がいるならうちにスカウトしたいわ。精兵たる素質があるぞ。

 

まぁとにかく、そんな風に恐怖に心折られ、敗走を始めた軍を建て直すのはいかな名将とて無理だ。

 

低下した士気を上げる。

折れそうな心を建て直す。

それらを行えるのが名将だとしても、既に折れた心を戦場のど真ん中で持ち直すのは不可能だ。

はっきり言って華琳さんでも無理だと思う。

 

……ただし、一つだけ潰走させずに士気を上げる方法もある。

 

恐怖の原因を取り除く事、要は季衣を始めとする最前線で暴れる四将を殺す事だ。

まぁこれが一番無理だろうけど。

 

俺達四人が固まって動いてるのに、俺達を殺せる訳がない。

しかも時間を費やしたら軍は壊滅する。

つまり、時間を掛けずに俺達四人を殺さないといけない訳だ。

 

俺達を四人同時、もしくは四連戦して勝つ。それも瞬殺とくれば春蘭さんクラスでも無理だ。

 

それに自慢じゃないが、俺と地理のコンビネーション力は高いんだぞ?

春蘭さんと秋蘭さんとのタッグ戦でも互角だったんだからな。

 

もし俺達四人を瞬殺したければ呂布でも連れて来い。

 

最近聞いた噂では洛陽近辺で黄巾党三万相手に単騎で無双して勝ったらしいじゃないですか。

……一人だけ世界観違うんじゃありませんかね?

無双シリーズから出張したのかと思ったけど、普通に女の子らしい。

いや、呂布が女の子なのは普通じゃないけども。

 

仮に誇張報告だとして、賊が十分の一の人数だったとしても三千人だぞ。

……春蘭さんクラスでも単騎は無理だわ。

 

怖いわ。ほんと恐い。後こわい。

俺の戦場における基本方針である恐怖の伝播が、噂だけで完了する呂布まじやべぇ。

 

とにかく、相手が呂布クラスじゃないのならどうにでもなる。

ってか、呂布クラスの場合は突撃するまでもなく、最初の防衛戦で負けるわ。

 

だからまぁ、この力押しは上手く行く。多分、きっと、メイビー。

 




ちょっとした小話

「やぁ、うちにそんな恐怖を煽る任務とか出来るとは思えないねんけど……。」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」


李典曼成
張曼成
字被りは三国志あるある。

これを切っ掛けに、李典(真桜)楽進(凪)于禁(沙和)とは真名交換しました。


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ごっつぁんゴールはチームプレーの結果だからセーフ


感想にてお帰りと暖かい言葉を下さった皆様、ありがとうございます
本当にちょっとずつでも頑張って更新目指します
最低月1、最高毎日
とりあえず週1ペースを目標とします。



 

「どっ、せぇぇぇい!!!」

 

「どぉりゃぁぁぁあ!!!」

 

と、季衣が掛け声ならぬ怒声、あるいは脅声を上げながら鉄球を振り回す度に黄巾をつけた賊共が数十人単位でお空に舞い上がる。

 

全力で暴れろ。

 

俺がそう伝えた結果なのだが、味方である俺すらも命の危機を感じずにはいられない程の恐ろしい暴れっぷりを披露してくれた。

 

「ここからっ、出て行けぇぇぇえ!!!」

 

ユニコーンガンダムかな?

賊共の返り血のせいで所々赤く染まっていてNTD システムが発動してるみたいなんですけど?

ちゃんと制御して緑色に光ろうぜ?

 

戦場のど真ん中とは言え、俺が多少遠い目になるのも仕方ないだろう。

……この娘、まだ子供なんだぜ?

 

いやまぁ、この光景は想像していたというか、期待していたというか、まぁ予想以上な訳だ。

昨日からバッチリ睡眠させて、好きなだけご飯を食べさせて、季衣の体力をギリギリまで温存させた結果が許褚無双の開演だった。

 

許褚、お主こそ真の三国無双よ。

1000人撃破!……は、多分してないかな。知らんけど。

 

無論、俺や地理や凪だって働いてない訳じゃない。

俺や地理が槍を振るえば五、六人がふっ飛ぶし、凪が世にも珍しい気弾を放てば着弾点が轟音を発てて爆発四散する。

カッコイイから俺にも教えて欲しい。

 

俺達だって通常以上には働いている。

通常の給料プラス特別ボーナスが支給されてもおかしくない働きはしてるのだ。

華琳さん、僕の来月の給料はいくらですかね?

 

しかしまぁそれでもなお……

 

「そぉりゃぁぁぁあ!!!賊将出てこーい!!!許 仲康がぶっ飛ばしてやるぅぅぅう!!!」

 

季衣の働きが鬼気迫るというか、危機迫るというか……。

獅子奮迅の働きとはこの事なんだろう。

 

対一のタイマンなら俺や地理の方が季衣よりも戦闘力は高いのだが、個人殲滅力となればうちの陣営では春蘭さん並に季衣は強い。

末おそろ──ケホンケホン!末頼もしいな!

 

季衣のおかげで俺の提案したこの力押しは、想定以上に敵を恐怖に陥れる事が出来た。

寧ろ張曼成をサクラとして使う必要すらなかったかもしれん。

 

けどあいつ中々良い演技してたんだよなぁ。

 

突撃して賊が混乱し始めた頃に機を見て、俺があいつに襲いかかるふりをして、あいつの近くにいた賊を殺しまくったら、あいつすげぇビビったふりして猛ダッシュして逃げたからな。

 

『うぉらぁ!全員纏めて死ねぇぇぇえ!!!』

 

『えっ!?ち、ちちちょっ!?待って、待って下さい!私です!張ま───』

 

『逃げんなぁ!首置いてけぇぇぇえ!!!』

 

『いぃやぁぁぁあ!!!死ぬ!?死ぬぅぅぅう!!!』

 

……あいつ泣いてた気がするけど、気のせいかな?

演技力すげぇなぁ。今度演劇でもさせてみようかな?

 

と、俺が少し気が緩んでるいた時に、地理の声が全軍に響いた。

 

「賊将発見!総員賊将目掛けて突撃せよ!」

 

その声を聞いて、俺も季衣も凪も、突撃してた部隊全員が地理の方を向いて、既に逃げ始めてる賊将目掛けて突進した。

 

「逃·げ·る·なぁぁぁあ!!!」

 

「ひぃぃぃい!!!」

 

季衣が賊将目掛けて鉄球を投げるが惜しくも側近をぶっ飛ばすだけで本人には当たらなかった。

 

「はぁぁぁあ!!!」

 

「止めろぉぉぉお!!!そこを通すなぁぁぁあ!!!」

 

地理が部隊を率いて突撃するも、肉盾が邪魔で後一歩届かない。

 

「喰らえぇぇぇえ!!!」

 

「うわぁぁぁあ!!!」

 

凪が気弾を放つも、爆発の余波でダメージは入るが、致命傷にはならない。

 

ここまで追い詰めれば最早何もする必要は無いのだが、一応俺も何かしたい。

心はとっくに折れてるだろうけど、止めとして最後の脅しをしときたいが、如何せん突撃しようにも届かないだろうし、俺には遠距離攻撃の方法はない。

弓は下手じゃないけど、持って来てないしなぁ。

秋蘭さん連れて来れば良かった。

 

まぁ居ないものは仕方ない。

俺は足元に落ちてた槍を拾って、脅し代わりに投げる事にした。

 

「その首っ、置いてけぇぇぇえ!!!」

 

力いっぱい、気持ちいっぱい、全力を込めたジャイロボールならぬジャイロ槍。

 

おっ、俺のコントロールも捨てたもんじゃない。

これなら甲子園も目指せるぜ。甲子園ないけど。

結構近くに───

 

「あっ」

 

「ごふっ!」

 

ズドン!と賊将の身体を槍が貫通して、運良く仕留めてしまった。

 

……やっべ。

 

「……テ、テキショー、リョウゲンケンガウチトッター」

 

「「「うぉぉぉおおお!!!」」」

 

……いや、うん。悪い事じゃないんだよ。

賊の指揮官を殺らなくても良いだけであって、殺っても問題ない筈だ。うん。

 

こうして、俺の漁夫の利討伐というか、ごっつぁんゴールならぬごっつぁん討伐で、作戦は終了した。

 

いや、ほんと頑張ってくれた皆すまぬ。

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

戦闘が無事終了し邑へと帰還した俺は、昨日全く眠っておらず、疲れている事を言い訳にして、ごっつぁん討伐の気まずさから逃げるように、事後処理を姉さんと秋蘭さんに任せて、すぐに眠った。

 

実際疲れてたのは嘘じゃないので、泥のように寝て起きた時には既に華琳さんが本隊と共に邑へと到着していた。

どうやら俺はまる一日寝てたらしい。

 

「おざます。」

 

「おはよう。大分長く眠ったみたいね?疲れは取れたかしら?」

 

どうだろう?

気が付いたら今日になってたから何とも言えん。

でもまぁ───

 

「久しぶりに沢山寝た気がします。」

 

戦場の方が睡眠時間が長いというブラック過ぎる職場をどうにかして欲しいっす。

 

「それにしても、今回はかなり無理をしでかしたみたいね?お陰様で急いで来たというのに敵が何処にもいないわ。」

 

……やっべ、上手く行き過ぎてしまったか。

 

華琳さんが微笑みながら嫌味じみたものを言い始めてしまった。

このままほっとけば俺を弄り始めて面倒になる。

なんか言い訳、言い訳しないと。

 

「無理が通ればそれは反転してそこに理が生まれ有利になります。今回は多少やり過ぎたきらいはありますが、部隊の消耗も大分抑えられたし、悪くない戦果じゃないですかね?」

 

だから俺を責めるのはよそうぜ?

 

「ふふっ、そうね。お陰様ですぐにでもまた部隊が動かせそうだわ。」

 

えっ、何でまた動かすの?

 

「先程の何処にも敵が居ないと言うのはちょっとした嘘よ。張曼成から報告が来たわ。近くに黄巾党の根城があり、ここを襲った部隊の本隊が潜んでる砦があるそうよ。貴方が追い払った賊もそこに逃げ戻って集結してるそうよ。」

 

流石、張曼成!あいつ本当に良い仕事するわ。

俺の事もこうやってフォローしてくれるとか、今度あいつにボーナス出して、酒でも奢ってやろう。

 

「成る程、飯食ったらすぐに出撃準備をします。それでは。」

 

あー、怒られなくて良かった。

さっさと飯食いに行こう。

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

「桂花、聞いたかしら?」

 

「はい。」

 

蒼夜が去って誰も居なくなった後に、建物の裏でこそこそしてた桂花が目に入ったので、声をかけた。

 

「『無理が通ればそれは反転してそこに理が生まれ有利になる。』……至言ね。」

 

「っ!……認めたく、ありません。軍師としては。」

 

苦虫を噛んだような顔をして桂花がそう言うけど、この娘の気持ちも理解は出来る。

 

「戦術というのは、本来無理をしない為のものです!それを、あんな……。」

 

「そうね。秋蘭が言うには、本人も策でも何でもないただの力押しと言ったそうよ。」

 

概要だけ聞けば本当にただの力押しにしか聞こえないだろう。

やってる事は春蘭と同じなのだから。

けど内容が違う。違い過ぎる。

ただの突撃ではない。これは趣向を凝らせた突撃だ。

 

「蒼夜がやったのは、正面突擊という奇襲よ。」

 

武と知を備えた者にしか出来ない正面からの奇襲。

 

「寡兵で突撃するのは元来下策。それをするのは余程の馬鹿か自身の武に自信がある者だけ。それは誰でも、それこそ庶民ですらわかってる。」

 

だから普通ならそんな事しないと誰もが思う。

それは無理だと誰もが思っている。

 

「だから敢えてその無理を通した。無理が通り易い様に普段ならしないであろう編成や仕込みまでして。……そうしたらどう?無理を通した結果、寡兵の突撃は無いと踏んでいた敵には最高の奇襲となって、正しく反転して理に叶っている。そして部隊の損傷は微々たるものとなり、本隊は戦闘をしてないので消耗はなく、私達は賊に対して有利になってる。」

 

至言だ。

蒼夜は本当に面白い事を私に教えてくれる。

 

「でも!……軍師の、戦術家の考え方じゃありません!私は間違ってもそんな献策は出来ません!」

 

「そうね。無理を通すのだから、その危険は大き過ぎる。私もそんな策を使いたいとは思わないわ。だから貴女は今まで通り、王道を示し続けなさい。」

 

桂花の言う通り、君主たる私は簡単には命の危機を迎える事は出来ない。

 

「けどね桂花、覚えておきなさい。いずれ私達は無理を通さなければならない時が来る。」

 

例えば、麗羽と決着を着けなければ行けない時とかに……。

 





「……本当に死ぬかと思った。私、元倹様に何か恨みでもかったのだろうか。」

黄巾党の中で独り、潜入任務中に泣きそうになってる張曼成でした。


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たまにははっちゃけないとね?

無駄な戦闘描写はカット、カット、カァットー!!!
苦手なんです、赦して下さい。



今回の邑防衛戦の事後処理も無事終え、凪、真桜、沙和の3人も華琳さんに正式に仕える事が決まった。

曹操陣営にようこそ!アットホームな職場が貴方達を歓迎します!

 

本当に大歓迎だ。

アットホームな雰囲気なのは嘘じゃないし、ブラックじゃないとは言ってないから大丈夫だよね!

 

しかしまぁ将官がこれだけ揃ってきていると言うのに、文官、あるいは軍師が若干少ない気がする。

普通逆なんだけどなぁ。

組織を強固に作り上げるには、戦線の後方支援がきちんと出来て、本拠地の経済なんかを盛り上げる役割の文官タイプの人材の方が沢山欲しいんだけど。

高祖に仕えた蕭何みたいなタイプね。

 

袁紹陣営とかそうなんだよなぁ。有能文官が大量に居過ぎて突出して個人が有名にならないという。

強いて言うなら田豊と沮授の名前をたまに聞く位か。

史実での有名所とかも考えたら、あちらさんの陣営は本当に羨ましいわ。

 

あっ、だけど、史実では袁紹の軍師の一人だった許攸さんは何故かうちの本屋で筆頭店員(バイトリーダー)してたわ。

確か姉さんの教え子の一人で、一番弟子を自称するちとプライドが高い感じの人だった。

けどまぁ普通に良い人だったし、その能力はまぁまぁ高かったから、ここに来る時スカウトしとけば良かったかもしれん。

 

如何せん、今となってはうちは前線で戦うタイプの将官の方が圧倒的に多くなってるからな。

 

俺も秋蘭さんも、文官の仕事も出来るってだけで、本質は将官だし、純粋な文官タイプは文若さんと姉さんと霊里だけ。

 

……ちょっと不味いな。

陣営が大きくなれば大きくなる程、政務関連の仕事の手が足りなくなる未来しか見えない。

 

姉さんのお陰で下級中級の文官は足りて来たけど、今度は華琳さん直々の命令を遂行するような上級文官が足りなくなって来た。

今はまだ良いが、これより先を目指すなら後二、三人は文若さんクラスの上級文官が欲しい所だ。

 

……以前襄陽で会った、戯志才さんとかうちに来ねぇかなぁ。

あるいは水鏡女学院の幼女達をごっそりうちに……。

 

……ないわ。成人男性が幼女を多量にスカウトするとか完全に事案ですわ。

でもまぁこの世界ではどうなるかわからないから、諸葛亮と龐統には声を掛けるくらいならしても良かったかもしれぬ。

 

はわわ!あわわ!ってそこら中から聞こえて来て、職場が更にアットホームになってたかもな。

まぁ諸葛亮が曹操陣営に居たら違和感しかねぇけど。

 

俺がそんな風に先の未来を危惧していたら、賊の本隊の居城である砦に到着した。

 

「さて、張曼成の報告では万に近い数が集まっているとの話だけど、どうも官軍が賊討伐に乗り出しているらしいから、奴等は既に撤退模様のようね。」

 

華琳さんが言う通り、黄巾党の奴等は砦の放棄を決めているらしく、物資の運び出しをしている最中だった。

多分俺達にもまだ気付いていない。

明日到着してたら取り逃がしてたかもしれんな。

 

「わざわざ策を労して時間を掛ける必要もないでしょう。全軍突撃して一気に砦を落とすわよ。」

 

まぁ確かに。砦を落とす攻城戦みたいな感じだけど、実際は敗走する軍への追撃戦にみたいなもんだから、春蘭さん突っ込ますだけで充分か。

 

「華琳様、砦を落とした後について、一つ提案がございます。」

 

「何かしら?」

 

「戦闘終了の際に、全部隊に軍旗を立てさせて欲しいと思います。」

 

ふむ。成る程。

 

「この砦を落としたのが我々だと示す為ね?」

 

「はい。官軍の狙いもおそらくはここでしょう。ならば敵を一掃した砦に曹旗が翻っていれば……。」

 

「ふふっ、良いわね。その案───「ちょいお待ちを。」」

 

と、俺が華琳さんのゴーサインを途中で止めたので、文若さんから凄く睨まれた。

いや、ごめんって。

 

「……私の策に何か文句でもあるのかしら?」

 

「いや、策に文句はありませんよ?寧ろ流石と思う程良い考えだと思います。」

 

よっ、流石荀彧、名軍師!

だから睨むのは止めよう!

 

「文若さんの策は、曹 孟徳の名を喧伝するにはとても良い策だと思います。……けど、軍旗って凄い金がかかるから勿体無いと思うんですよね。」

 

いや、マジで。

あれ一本作るのに結構な金がかかるのだ。

戦乱においても簡単には破れないような質の良い頑丈な糸を使ったり、目立つ様に金糸や銀糸を使ったりするからね。

 

「はぁ!?勿体無い!?宣伝をするのに金をかけるなんて常識じゃない!ここは名を喧伝するのに金をかける場面よ!」

 

「いやいや、そうではなくてですね。……金をかけずに喧伝する方法があると言ってるのですよ。」

 

やるななんて一言も言ってないぞ。

 

「要は、華琳さんがこの砦を落としたと派手に示せれば良い訳じゃないですか?……そういう事なら俺にお任せを。元来、俺は戦場なんぞよりこういった分野の方が得意なんですから。」

 

「っ!」

 

俺がニヤリと笑ってそう言ったら、文若さんが驚いた表情で俺を見る。

いやね、俺ってば本当はただの物書きだぞ?

まぁ廖化だから武将だろ、って言われたら言い返せないが。

 

「それに帰り道で軍旗がないとか、街に凱旋する時に淡白になるから、あんまやらない方が良いと思うんですよね。」

 

市民にショボイって思われるぞ。

 

「クククッ、面白い、蒼夜貴方に一任しましょう。派手に私の名前を喧伝してちょうだい。……桂花も、良いわね?」

 

「了解。」

 

「……はっ。」

 

いや、なんか俺が功績横取りしたみたいで悪いね?

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

「走れ、走れー。」

 

戦闘終了後、俺は護衛隊を縦に並べて一直線に走らせている。

 

黄巾党?

あぁ、あいつらは春蘭さんが突撃したら、簡単に部隊が崩壊して叫んで逃げて行ったよ。

一刻もかからずに殲滅完了したわ。

 

だから今は約束通り、華琳さんの名前を喧伝する為の準備中だ。

 

何故護衛隊を走らせているかと言うと、地面に字を書く為だ。

 

護衛隊が大盾を地面に擦らせて走ると、少しずつ地面が削れて、五百人が通り過ぎる頃には膝した位まで地面が窪むのだ。

 

元々は騎馬部隊を相手にする時の為に考えた方法だ。

大盾の部隊はどうしても騎馬には弱いからな。

だったら馬が走れない様にしてやろうと思って考えた訳だ。

通常ならジグザグに走らせて、地面を荒らす為のものだが、俺が槍で地面に下書きした所を走らせると文字の道が誕生する。

 

後は窪みの部分に油を軽く引いて、燃料と一緒に燃やせば、あら不思議、地面が焦げて黒々としたデカイ“曹”の文字の出来上がり、って訳だ。

 

幅百メートルくらいはあるだろう曹の文字を見た皆の反応は、それはそれは俺にとって痛快なものだった。

 

「あははははっ!これは私にも予想出来なかったわ!流石ね蒼夜!」

 

「っ、す、凄いっ!」

 

「おぉ、驚いた。これには官軍もさぞかし驚くだろうよ。」

 

「うむ!華琳様の文字を大地にでかでかと書くとは、やるな蒼夜!」

 

「うわぁ!蒼夜様凄いです!」

 

「こんなもの、初めて見たっ!」

 

「なはははっ!アホや!どない発想なっとんねん!」

 

「とんでもないのー!」

 

「これはっ!……ふふっ、この地の地図に曹の文字も付け加えましょうか。」

 

「はぁ。……一体僕はどこで育て方を間違えてしまったんだろうか。」

 

ふはははは!

どうだ、凄いだろう?面白いだろう?

久しぶりにはっちゃけた気がするぜ!

 

姉さんは何も育て方失敗してないから気にすんな!

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

後日談

 

曹 孟徳、大地に名を刻む。

という噂があちこちから聞こえて来て、実際に文字を刻んだあの砦は一種の観光地として大分栄えた。

 

華琳さんは大満足の笑顔で俺に休みという名の報酬をくれたのだった。

 





史実では許攸ではなく、許汜が楊慮の生徒だったそうです。
ですが、この世界では後々の為に許攸が筆頭店員になりました。


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閑話 護衛隊古参員の報告書

前話での地面に字を書く事や、油を使う事に対しての説明不足がコメントで色々ありますので、ちょっとだけ補足

地面の文字に関しては、書いた場所が盆地だったって事で、ちょっとした山や簡単に登れる丘に上がれば直ぐ確認出来ると脳内変換よろしくお願いします
油に関しては、恋姫世界は料理が発展している世界ですので、油はかなり普及していてあまり値が張らないと言い訳させて下さい
料理油と戦場で使う油は別物だろってツッコミはなしで

そして今回の話ですが、簡単な日記形式で話を進めますが、全員字で登場するので少しわかりにくいかもしれません。



○月△日

 

文謙様、文則様、曼成様がここ陳留に来て警備部隊の長として孟徳様に召された。

我等護衛隊員は元倹様と子均様が行う調練以外の通常時は、警備部隊同様に街中の警戒任務を共にする事がある