XYサトシinアローラ物語 (トマト嫌い8マン)
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アローラ冒険編
初めての場所、初めてじゃないこのドキドキ


なんだかわからないですけど、創作意欲がわいたのでとりあえず書いてみました!
タイトルはサトシリセットに定評のあるあのシーズンの最初の曲の歌詞からとりました。

とりあえず続きが思いつく、もしくは思いのほか受けが良かったら続けます。
ちなみに言いますと、作者はいまだにサトセレ好きです笑


↑はpixivにも書いてあるものです
年末のこの時期になってなぜ急にこっちにも載せようと思ったのだろう・・・
わからない・・・


カロス地方での旅を終え、マサラタウンに帰ってきたサトシ。いつもであればすぐにでも新しい旅へ向かおうとした彼であったが、さすがにカロスリーグ、フレア団の襲撃、カロスの危機、ミアレシティの復興、そしてカントー地方へ帰宅と目まぐるしい数日間を過ごしてきたため、しばらくはマサラタウンにとどまることにしていた。研究所へは毎日のように通ったため、彼のポケモンたちも大喜び、遊びつくして満足そうにしていた。

 

そのまましばらくたっていたが、サトシは次に旅をする場所かまだ決められずにいた。旅には出たい、けど今まで旅してきた場所をめぐるのは何かが違う気がする。かと言って新しい地方の話も聞かなかったから、どこに行こうかさえ思いつかない。そんな気持ちのまま1週間過ぎ、2週間過ぎ、なんと気づけば1月ほども旅に出ずにいた。ママに心配されてしまうくらいだった。なんでもいい、きっかけさえあれば・・・

 

 

 

数日後・・・

 

 

 

 

「ひゃっほー!気持ちいいぜ!な、ピカチュウ?」

「ピッカチュウ!」

 

青い空、青い海、青い海パンに、青いサメハダー。サトシは海でポケモンに乗る、ポケモンジェットスキーを満喫していた。海とはいっても、ここは既にカントーではない。常夏の島のある、アローラ地方。サトシのママ、ハナコとバリヤードが、商店街での福引で、このアローラ地方・メレメレ島への旅行を引き当てたため、サトシ、ハナコ、ピカチュウとバリヤードの四人で、絶賛バカンス中なのだ。

 

「頼むぜ、サメハダー!」

「サメッ!」

 

サトシの言葉にこたえるかのように声を上げたサメハダーは、一気に水中へ潜った。そこには数多くの水ポケモンがいた。サニーゴやラブカス、さらにはミロカロスまで。ふと、サトシの目に見たことないポケモンが止まった。黒くてピンクの棘の生えたポケモン。気になって触ってみると、突然口から手のようなものが飛び出してきた。

 

このポケモンの名はナマコブシ。口からこぶしのような形の内臓を飛び出させ、それで相手を殴りつけることがある。が、このナマコブシ、サトシに対してはグーではなく、チョキを出してきた。いわゆるピースサインだ。本能的にサトシは大丈夫だと悟ったのだろうか。サトシも笑顔でピースを返した。

 

しかしいくらサトシといえども、水中にいられる時間には限界がある。相棒も苦しそうにしていたため、サメハダーに浮上するように促した。

 

 

水面へ出て大きく息を吸うサトシとピカチュウ。と、正面を見てみると、ラプラスに乗った女の子が釣りをしていた。となりにはこれまたサトシが見たことないポケモンが。突然現れたサトシたちにびっくりしたようで、呆然としながら彼らを見ていた。さっきまで何かが連れていたのだろうか、釣り糸は上がっていた、が針の先にいるはずのポケモンがいなくなっていた。

 

「あ~、ごめんごめん。脅かすつもりはなかったんだ。もしかして、俺たちのせいで逃がしちゃった?」

「うぅん。大丈夫」

「本当にごめん!ラプラスも、その子、わぁ!初めて見るポケモンだ!」

「この子はアシマリ。水タイプのポケモン」

「そうなんだ!かわいいなぁ!アシマリもごめんな。じゃあ俺もう行くから!」

「えっ?あの・・・」

「大物、釣れるといいな!じゃあな!」

 

大きく手を振ると、サメハダーは勢いよく泳ぎだした。もう一度声をかけようとして延ばされた手をとどまらせたまま、突然現れ、突然去った少年の姿を少女は眺めていた。

 

「面白い人だったね、アシマリ」

「アウッ」

 

隣にいるポケモン、アシマリと顔を見合わせてくすくすと笑う。歳は自分たちとそう変わらないだろうか。おそらくはアローラ地方の外から来た少年。肩に乗っているピカチュウも、ライドポケモンのサメハダーも彼のことを気に入っているのがわかる。自分だけでなく、自分のポケモンたちにもちゃんと声をかけてくれた。それだけで彼がどれだけポケモンが好きで、大切にしているのかがわかる。初めて見たらしいアシマリをほめてくれた少年。

 

「名前、聞いておけばよかったかな?」

「アウッ!」

 

 

 

 

 

 

「どうだった?アローラ地方の海は?」

「すごかったよ!サメハダーに乗って海に潜ったら、見たことないポケモンもいっぱいいたんだ!」

「そう、楽しそうで何よりだわ。それじゃ、着替えて出発しましょうか」

「出発?」

「オーキド博士のいとこさんのところ」

「あっ、そういえば!」

 

サトシたちのこの旅行、確かにバカンスのためにきていたが、そのついででオーキド博士から頼まれたものがあったのだ。ポケモンの卵をオーキド博士のいとこのもとへ届けてほしいというものだった。いつもお世話になっているオーキド博士の頼み事とあっては断るわけにはいかない!そう思ったハナコとサトシは二つ返事で引き受けることにしたのだ。

 

ケンタロスのタクシーに揺られながら、四人はオーキド博士のいとこのいる、ポケモンスクールへ向かっていた。途中、お土産として果物をもっていこうとハナコが考え、新鮮なフルーツを取り扱っているというお店に立ち寄った。

 

「ん?わぁ!」

 

そんなサトシの前に地面からポケモンが顔をのぞかせた。アゴジムシというそのポケモンはやはりサトシは初めて見たため、顔を近づけてみる。

 

「お前かっこいいな!なんていうポケモンなんだろう」

 

そういいながら頭を撫でてみようと手を伸ばしてみる、が。

 

「っいだだだだっ!痛い痛い!」

 

アゴジムシのもつ丈夫なあごに指を挟まれてしまうこととなった。何とか振り払ってみると穴に潜り、森のほうへ逃げていくのが見えた。新しいポケモンに心が高ぶり、久しぶりに感じるわくわくにサトシはもう我慢ができなかった。

 

「よ~し、ピカチュウ!ゲットしようぜ!」

「ピカ!」

 

ハナコのことも、お使いのことも、すっかりと頭から抜けてしまったサトシ。見知らぬ土地でもおかまいなしに、彼はアゴジムシを追いかけて行った。

 

その後ろから、彼を眺める視線には気づかずに・・・




XY&Zが終わってしまって寂しかったけど、サン&ムーンも悪くないですね~

サトシも結構生き生きとしてますし笑

定期的にこっちにも挙げていきますので


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学校での出会いは定番ですよね

今年最後の投稿ですな

物語のストックはあります。けど、思い出した時とかなんとなく今かな?と思った時にこっちに載せますね


「あ~、びっくりした。なんだったんだ、あいつ?」

 

 

息を切らしながらつぶやくサトシ。あの後、アゴジムシを見失ったサトシとピカチュウは、また別のポケモンに出会った。ピンクの体に黒い手足。まるで着ぐるみのようにかわいいそのポケモンとも触れ合おうと、サトシは近づいた。ところがこのポケモン、キテルグマ。かわいい見た目に反してかなりの怪力を持ち、アローラ地方では危険指定までされているほどである。それを知らないサトシたちが近づいたのだからさぁ大変。木をもへし折るその腕から逃げるために、サトシとピカチュウは全力で走ることとなったのだ。

 

 

「はぁはぁ、ん?あれは?」

 

 

ふと、サトシは空を飛ぶ影に気付いた。尾から真っ赤に燃える炎を放ち、優雅に空を飛ぶそのポケモンは、サトシにとってはなじみ深いものだった。

 

 

「リザードンだ!よーし、ピカチュウ。追いかけようぜ!」

「ピッカチュウ!」

 

 

リザードンを追いかけて森を進むことしばらく。森を抜けたサトシたちの目に入ったのは大きな建物に、たくさんの自分とそう変わらない歳の子供たち、そして彼らとともにいるポケモンたちの姿だった。

 

 

「なんだ、ここ?おっ?」

 

 

サトシの目に入ったのは運動場のような場所にいる青いポケモンだった。他にも2匹、見たことのないポケモンがいたが、その青いポケモンは先ほど見たばっかりである。

 

 

「アシマリだ!それに、他にも見たことないポケモンがいる!」

 

 

一気に元気が出たサトシは柵を乗り越え、ポケモンたちに会いに行こうとフィールドを横切ろうとした。と、それに気づいた一人の少女。

 

 

「気を付けて!」

「えっ?」

 

 

その子の声でふと立ち止まるサトシ。横から何かが来るような音がしたため、そちらへ顔を向けた。三頭のケンタロスが、競い合うかのように走ってきていたのだ。ケンタロスの持つ突進力をおそらくは誰よりも知っているであろうサトシ。このままではまずいと本能が告げていた。隣にいたピカチュウを抱き上げた彼は、トラックの外、グラウンド中央にある芝生に向かってダイブした。土埃が上がり、ケンタロスたちはその場を通り過ぎて、

 

 

「ストーップ!止まって、ケンタロス!」

 

 

そのうち一頭にまたがっていた少女の声で止まった。土煙が晴れるとそこには、

 

 

「ふーっ、危なかった~。大丈夫か、ピカチュウ?」

「ピカ!」

 

 

何とか無事にケンタロスたちを躱すことができたサトシたちがいた。多少砂が服にかかってしまったようだが、それ以外は特にダメージも見られない。先ほどサトシに声をかけた少女、白に近いブロンドの髪に、白い肌。真っ白な帽子に、これまた白い服を着た少女が駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか?」

「あぁ、平気平気。ケンタロスの突進には慣れてるんだ。一度ゲットしたこともあるし、走ってるのなんて日常茶飯事だったし」

「そうですか・・・はっ、きゃっ!」

 

 

一瞬安堵の表情を向ける少女。が、サトシの様子を確認しに来たケンタロスが近づくと、小さな悲鳴を上げサトシの後ろに隠れてしまった。肩に置かれた手には力が入っていて、サトシには彼女が何かしらの緊張状態にあることが分かった。ケンタロスが苦手なのだろうかと思いきや、サトシのピカチュウがのぞき込んでみると、また小さな悲鳴を上げ少し離れた。彼女の様子を見ながら、サトシはその行動が昔会ったことのある、とある少年に似ているように思った。

 

 

「もしかして、ポケモンが怖いのか?」

「こ、怖くはありません!ポケモンは大好きです!・・・学びの対象としては」

 

 

最後だけやや小さめの声で少女は言った。そこへほかのケンタロスたちに乗っていた少女たちもやってきた。

 

「ごめんね。突然森から飛び出してくるんだもん。止まれなくって」

「大丈夫。この通り、なんともなかったんだし!むしろ俺のほうこそごめんな。ケンタロスたちにも迷惑かけちゃったし、ケガとかはなかった?」

「あ、ううん。大丈夫だよ。私たちも、ケンタロスたちも」

「そっか、それならよかった。ごめんな、ケンタロス」

 

 

近くまで来たケンタロスたち一匹一匹をなでながら謝るサトシ。自分が30匹もゲットしていることもあって、ケンタロスたちがどこを撫でられるのが好きかを感覚でわかるようになっていた。目を細めてうれしそうな表情をするケンタロスたちを見て、少女たちは驚きの表情を浮かべた。さっきまで少し離れたところにいた白い少女もサトシの背中の後ろからのぞき込むように見ている。

 

 

「ブモォ~」

「わぁ、ケンタロスたちがこんなに気持ちよさそうにしてるの、初めて見るよ」

「ぼくも」

「わたくしもです・・・どうやってこんな」

「俺、ケンタロスゲットしたことがあるって言っただろ?あいつらを撫でてたから、なんとなくどこが気持ちいいのかがわかるんだ」

「すごいです!初対面のポケモンのはずなのに・・・」

「君も試してみたら?ほら」

 

 

そういって後ろにいた少女に手を差し伸べるサトシ。しかし彼女はその手を見て、サトシの顔を見て、ケンタロスを見て、また手を見てを繰り返すだけだった。その様子を見ていた一番背の低い少年がサトシに声をかけた。

 

 

「リーリエはね、ポケモンに触れないんだよ」

「触れます!論理的結論として、わたくしがその気になりさえすれば・・・」

 

 

少しむきになったような調子でリーリエと呼ばれた白い少女が反論する。

 

 

「大丈夫。焦らなくても、いつか触れるようになるよ」

「そうそう」

 

 

ツンとした表情になったリーリエに二人の少女が励ますように声をかける。一人はケンタロスに止まるように声をかけた少女、すらりと高い背に褐色色の肌、やや緑がかったか長い髪を二つに結んでいる。そしてもう一人、リーリエよりもやや低い背に青っぽいショートヘア、腕にはアシマリを抱えていて・・・

 

 

「あ~!君確か、海で釣りをしてた・・・」

 

 

サトシがサメハダーと一緒に海で遊んでいた時にであった少女だった。どうやらあちらも気づいたようで、

 

 

「あっ、サメハダーと一緒にいた」

 

 

と声をもらしていた。

 

 

「スイレンの知り合い?」

「ううん。今日釣りしてた時に偶然・・・」

「俺はサトシ。カントーのマサラタウンから来たんだ。相棒のピカチュウと一緒に、ポケモンマスター目指して修行中なんだ」

「ピカ、ピカチュウ!」

「あたし、マオ、よろしくね。この子は仲良しのアマカジ」

「カ~ジ~」

「スイレンです。この子、友達のアシマリ」

「シャマ!」

「僕はマーマネ。で、こっちはトゲデマル」

「マル!マル!」

「わたくしはリーリエです。よろしくお願いします」

「よろしくな!で、ここってどこなんだ?」

「どこって・・・ポケモンスクールよ」

 

 

偶然にしてはできすぎている。しかしサトシとピカチュウは気づかぬうちに当初の目的地、オーキド博士のいとこがいるというポケモンスクールにたどり着いていたのだった。

 

 

「ポケモンスクール!?ここがそうなのか」

 

 

大きな建物は校舎、このグラウンドや奥に見えるプール、上から下へ降りるための大きな滑り台、そしてあちこちにいるポケモンたち。サトシが旅に出る前に通っていた学校と比べると、人もポケモンもより楽しく過ごせるために作られているように見える。

 

 

「もしかして、迷ってた?」

「あはは、うん。そうなんだ」

「じゃあ、あたしが案内するね」

「案内?」

「うん!」

 

 

そういってマオはサトシの手を取って校舎へ歩き始めた。もともと姉御肌なのだろう、サトシとあってまだ数分なのに友好的に接してくれている。一方、同じくらいの年の女の子に手を握られた我らがサトシはというと、内心ドキドキしながら・・・なんてことはなく、「カロスでの旅では自分が腕を引いてもらうことはそんなになかったな」だとか、「たしかカロスリーグの登録するためにセレナがバトルを止めてくれた時に引っ張ってもらったっけ?」、なんてことを考えながらサトシはされるがまま、マオに引っ張られていった。

 

 

 

 

相も変わらず、恋愛ごとに関しては成長が見られないサトシであった。




皆様、今日はしっかりと体調に気をつけて、気持ちよく新年を迎えましょう!


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出会いと再会

明けました、おめでとうございました〜


「おおっ!プテラにアマルルガ、ガチゴラスの化石だ!すっげ~」

 

 

校舎に入り、階段を上ったサトシの目に入ってきたのは、大昔のポケモンの全身骨格の化石だった。今までにもポケモンの化石、どころかそれを復活させることに成功したポケモンや、何万年も変わらずに生きてきたポケモンにあってきたサトシではあったが、こうしてじっくりと化石を見るのは実に久しぶりのことである。

 

 

窓から外を見てみると、子供とポケモンが一緒になってバスケットボールをしているのが見える。

 

 

「ポケモンスクールって、すごい場所なんだな!」

「そうだよ!ポケモンたちと、生徒たちが、一緒に学ぶところだよ!」

「へぇ~。いいなぁ」

 

 

会話をしながらも目的地にはたどり着いたらしく、一つの扉の前で立ち止まりノックをするマオ。

 

 

「校長先生、新入生を連れてきました」

「へ?新入生?」

 

 

予想外の単語に驚いているサトシをよそにドアが開かれる。中から出てきたのは・・・

 

 

「バリ?」

「え?ポケモン?」

「バリヤード?ってことは」

「あら?よくここまで来られたわね?」

「ママ!?」

 

 

先ほどはぐれてしまっていたハナコとバリヤードだった。

 

 

「ちょっと見直したわ」

「先に来てたのか~。よかった~合流できて」

 

 

ポケモンスクールには来たものの、どうやってハナコと連絡を取るか悩んでいたサトシではあったが、どうやらその心配は必要なかったようだ。と、ハナコの後ろから聞き覚えのある声が響いた。

 

 

「アローラ、サトシ」

「え?・・・この声」

「ポケモンスクールへ、ようこソルロック!」

 

 

表情の物まね付きで、ポケモンの名前を使ったギャグを披露しながら挨拶をしたその人は

 

 

「オーキド博士!?って、あれ?何か違う・・・」

 

 

普段サトシが知っているオーキド博士よりも髪の量は多いし、その肌も色が違う。それもそのはずである。

 

 

「はっはっはっは!よく似てるって言われるんだ。私はその、オーキド博士のいとこ、ナリヤ・オーキドだよ」

「この学校の校長先生なの」

「へ~」

「よろしくナックラー」

「よろしく・・・ナックラー?」

「校長先生はいつも、ポケモンギャグばっかり言ってるの」

「人もポケモンも一緒に、明るく楽しく暮らすのが、一バンギラス!」

 

 

カントーのオーキド博士はポケモン川柳。アローラのオーキド校長はポケモンギャグ。あぁ、本当に親戚なんだなとサトシは実感した。思わず苦笑いを浮かべてしまったが、とりあえず話をするべくマオと一緒に校長室へ入っていった。

 

 

 

 

「・・・で、リザードンを追いかけたら、たまたまここにたどり着いてさ」

「な~んだ。新入生じゃなかったのね」

「ごめん。なんか説明する暇もなくて」

「こちらこそ。よく早とちりしちゃうんだ、あたしって。あはは」

「いや、むしろここまで案内してくれてありがとう。おかげでこうしてママたちとも合流できて、オーキド校長先生にも会えたんだし」

「そうかな・・・そういってくれると楽かも」

 

 

二人が軽い誤解を解消している間に、ナリヤ校長はカントーのオーキド博士に電話をつないでいた。

 

 

「おーい、ユキナリ!私だ。卵が無事届いたぞ!」

『おー、ナリヤ。そうか、無事に。ありがとう、ハナコさん』

「どういたしまして」

 

 

顔だちも声も本当にそっくりだ、そうサトシは思った。とりあえず無事にお使いは終わったな。と思った時

 

 

「そうじゃ、ナリヤよ。サトシにちゃんと渡してくれたか?」

「おぉそうじゃったそうじゃった。サトシ、君に渡すものがあったんじゃ」

「えっ?俺にですか?」

『君たちがそちらに向かってからわしのところに来たのでな。どうせ会うのじゃからと思って、ナリヤに預けとったんじゃよ』

「そういうこトサキント!」

 

 

ポケモンギャグを言いながら、ナリヤ校長が一つのモンスターボールを手にサトシの前に来た。

 

 

「この子を君に返す時が来た、ということづけもあったぞ」

「返す時・・・?っ、このボールは」

「ねぇねぇ、そのモンスターボールの中のポケモンって、サトシのポケモン?」

「あぁ。しばらく離れ離れになっちゃったんだけど。そっか、帰ってきたんだな」

「ふーん。ね、あとでどんなポケモンか会わせてよ!」

「そうだな、俺も久しぶりだし」

 

 

モンスターボールを見ただけで、サトシはそのポケモンがだれなのかを理解した。だってそれは自分にとっても、とても特別な存在だったから。自分たちのやるべきこと、やりたいことのために、彼とは一度分かれた。どんなに離れても、決して切れることのないものでつながっていると、彼に言った。そして、彼は帰ってきたのだ。使命を果たして。

 

 

「ナリヤ校長、ありがとうございます!」

「うむ。確かに、渡したゾロアーク!」

「ねぇ、校長先生!サトシに、キャンパスを案内してもいい?」

「もちろん、ポリゴ「サトシ、行こう!」ン、ヤブ「あぁ!」クロン!」

 

 

ボールを腰のベルトに付け直した後、期待に胸を膨らませたサトシは、マオと一緒に校長室を出た。

 

 

 

 

 

 

そのためか、ギャグをスルーされたナリヤ校長が、落ち込んでいるのには気づくことができなかった。

 

 

 

「ここが、あたしたちの教室よ」

「うわぁ~、すごくいい景色!それに・・・風も気持ちいいな~」

「ここだけじゃなくて、さっきケンタロスに乗ってたフィールドとか、プールとか。広いキャンパスのあちこちで、いろんなことを教わるんだ」

「へぇ~」

「お二人さん、アローラ」

 

 

テラスから身を乗り出したサトシたちの後ろから、また新しい声がかけられた。日焼けした肌に、サングラス。白い帽子に白衣を着た男性がそこに立っていた。

 

 

「ククイ博士!」

「えっ、博士?」

「うん。あたしたちの先生なんだ!博士、この子はサトシ」

「オーキド校長から聞いてるよ。サトシ、ポケモンスクールはいいところだ。今日だけでも楽しんでいったらいい」

「はい、ありがとうございます。ん?」

 

 

博士と挨拶をしていると、ポケモンの唸り声のようなものが聞こえた。テラスから覗いてみると、校門前でリザードンを連れた少年と、三人の怪しい人影が対峙しているのが見えた。

 

 

 

 

スカル団。マオは怪しげな服装をした、いかにも「俺たちワルだぜ!」とでも言っていそうな三人組のことをそう呼んだ。無理難癖をつけてはバトルを無理矢理申し込む連中だと。しかもどうやら少年のリザードンをよこせと言っているようだ。

 

 

対峙する少年には焦りも怯えもなかった。三対一、しかもポケモンの数で言えば9対1だ。しかし彼はひるまない。この程度の相手、彼にとっては倒すことなど造作もないと。けれども彼が一人で戦うことを良しとしない人がいた。

 

 

「お前たち、三人がかりだなんて卑怯だぞ!」

「サトシっ!?」

 

 

校門に集まっていたクラスメートと合流したマオと博士が、スカル団の出したポケモンに気を取られていると、サトシがいつの間にか、リザードンを連れた少年の隣に並び立っていた。




年始早々いいことと悪いことが来ました笑


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熱いバトル、君に決めた!

なんだかんだと言われても、覚えられないあの名乗り!

今回全く関係ないですけどね


「手伝うぜ!えーと、」

「カキだ。だが、手伝いなど無用だ」

「そうだよ!危ないよ、サトシ!」

「そういわずに、一緒に戦おうぜ!」

「はぁ。好きにしろ。ただし無理はするなよ。出てこい、バクガメス!」

 

カキと名乗った少年が投げたボールから赤い体のポケモンが現れた。気合いを入れるかのように、口から炎を吐く。

 

「バクガメス?ほのおタイプのポケモンなのか?」

「ほのおとドラゴン、二つのタイプを持つ。俺の相棒だ」

「よーし、俺はピカチュウ・・・は今回はお休みな」

「ピッカァ!?」

 

すっかりやる気満々になっていた彼の黄色い相棒は、お休み発言にかなり驚いた表情を向けた。

 

「せっかくあいつが帰ってきたんだ。久しぶりに一緒にバトルしたくてさ」

「ピーカ」

「ありがとな、ピカチュウ。それじゃあ、久しぶりに!君に決めた!」

 

サトシの投げたボールから一体のポケモンが現れた。深い青色の体、ピンク色のマフラーのような舌、細められた目、凛としたたたずまい。腕を組んで現れたそのポケモンは目をカッと開き、戦闘態勢をとった。

 

「コウガッ!」

 

 

「こいつは・・・」

「かっこいい~」

「水タイプの・・・ゲッコウガ」

「ゲッコウガ、確かみずとあくタイプの両方を持っているしのびポケモン。代表技はみずしゅりけんで、素早い戦いが得意なポケモンだったはずです」

「サトシがさっき受け取ったのは、ゲッコウガだったんだ」

 

ゲッコウガの登場にマオたちは驚きを隠せずにいた。まだ何もしていない、そこに現れただけだというのに、彼女たちにはなぜかわかった。このゲッコウガは、強いと。

 

「なんスカ、そのポケモン。このあたりじゃ珍しいじゃねぇか」

「兄貴、こいつもいただいちゃいましょう!」

「いいわね、それ」

「やれるもんなら、やってみろ!行くぜ、ゲッコウガ。久しぶりのバトルだ。気合入れていくぞ!」

「コウガ!」

 

 

「へっ、ヤトウモリ、ベノムショック!」

「ヤング―ス、かみつく!」

「ズバット、きゅうけつ!」

 

開始の合図もなしに、三人の指示にあわせて9匹のポケモンが攻撃を始めた。しかしそれに驚くことはせず、

 

「ゲッコウガ、いあいぎり!」

「コウッ」

 

即座に出されたサトシの指示に、ゲッコウガは対応した。自慢のスピードをいかしながら接近、ベノムショックを難なくかわし、ヤトウモリ三匹をあっさりと弾き飛ばした。そのスピードには敵も味方も驚かされる。

 

「なっ、速い」

「よしっ、いいぞゲッコウガ。また速くなったんじゃないか?」

「コウガ」

 

一方残りのヤング―スとズバットたちはバクガメスに攻撃を仕掛けていた。が、その背中の甲羅に攻撃が当たったと思った瞬間、大きな爆発で吹き飛ばされていた。

 

「えっ、カキ?今のはなんだ?」

「バクガメスの甲羅の棘は、刺激を受けると爆発するんだ」

「へぇ~。バクガメス、お前すごいな!」

「ガメ~ス」

 

裏表のないその称賛の言葉に、バクガメスも喜んでいるようだ。そのことにカキは驚く。自分の相棒が、自分以外のトレーナーに対してこうもうれしそうな表情をするとは。隣のトレーナー、サトシと呼ばれていたが、何か特別なのだろうか。

 

「くそぉ!はじけるほのおだ!」

「ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

 

素早く繰り出されたみずしゅりけんはヤトウモリのはじけるほのおをいとも簡単に打ち消し、そのまま決まった。

 

「後は俺たちに任せろ。いくぞ、バクガメス!」

 

カキの言葉に反応するようにバクガメスが気合を入れる。二人の心に呼応するように、カキの腕についていた鉱石が強い輝きを放つ。

 

 

「これって、メガシンカ?でも、姿は全然変わらないし」

「まさか・・・あいつ、あの技を!?」

「技?」

 

「俺の全身!全霊!全力!全てのZよ!アーカラの山のごとく、熱き炎となってもえよ!」

 

まるで舞を踊るかのように、カキがポーズを決めると、その腕の鉱石から光があふれ、バクガメスの体へと注ぎ込まれた。そしてそのカキと同じように、バクガメスもほぼ同時に同じような動きをしていた。

 

「喰らえ!ダイナミックフルフレイム!」

 

バクガメスの口から巨大な炎の塊が放たれる。大きな爆発が起こり、煙で視界が遮られる。少ししてから煙が晴れると、小さなクレーターの中で、スカル団のポケモンが戦闘不能になっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「覚えてろ!」

 

捨て台詞を残しながら、スカル団は逃げるように帰っていった。

 

「カキ、今のって、何?」

「あぁ、あれは、」

「Z技だよ」

 

バクガメスの放った技の威力にサトシが呆然としていると、いつの間にか近づいていたククイ博士が話しかけてきた。その後にマオやリーリエたちも続いて駆け寄ってくる。

 

「Z技?」

「あぁ」

「流石カキ!やっぱり強いな~」

「サトシもすごかったよ!」

「ゲッコウガ、かっこよかった」

「あんなに速いポケモン、わたくしも初めて見ました」

「へへっ、ありがとう。ゲッコウガも、よくやったな」

「コウガ!」

「ところでククイ博士、Z技って?」

「Z技は、アローラ地方に伝わる、特別な技なんだ。この地方には4つの島があり、それぞれの島に、守り神のポケモンがいる。島めぐりという儀式に参加し、ある試練を達成したもののみが、Z技を使えるようになるんだ」

「守り神のポケモンに島めぐり、そしてZ技か!」

 

初めての地方に初めてのポケモン。確かにサトシはそれに対してワクワクしていた。しかし一つだけ不満があるとすれば、この地方にはジムもポケモンリーグもまだないということだった。それはつまり、自分が大好きなポケモンバトル、チャレンジしていくあの感覚はこの地方では味わえない、そういうことだと思っていた。しかし今の話を聞いたサトシの心は燃えていた。

 

「二人とも、メガトンパンチ級にいいバトルだったぜ!」

「へへっ、ありがとうございます」

「サトシはバトルが好きみたいだな」

「はい!ポケモンマスターを目指してます!」

 

ポスン、とサトシの頭に何かが落ちた。見てみるときのみだった。そのきのみにサトシは覚えがあった。アゴジムシを見失った時に自分たちの頭の上に振ってきたものと、まったく同じものだったのだから。ふと顔を上げたサトシは、森のほうへ飛んでいくポケモンの姿を見つけた。

 

「なんだ、あのポケモン?」

 

「ん?」

 

「どこ?」

 

すぐに森に隠れてしまったためか、その姿はほかのみんなには見えなかったようだ。

 

「何も見えないけど?」

「さっき飛ぶポケモンがいたんだ。黄色くて、鳥みたいで、それから頭にオレンジ色の・・・そう、とさかみたいなのがあって、」

 

サトシの話を聞くうちにみんなの表情が変わっていった。もう何度目かわからない驚きの表情を浮かべる博士たちにサトシは首を傾げた。

 

「それって、まさか」

「カプ・コケコ・・・」

「メレメレ島の守り神、カプ・コケコを見たのですか?」

「守り神?・・・さっきの島めぐりの?・・・あのポケモンが・・・」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その晩、ハナコたちと一緒にホテルのレストランで食事をしながら、サトシは考えていた。ポケモンスクールのこと、Z技のこと、島めぐりのこと、そして守り神のこと。

 

「何か面白いことでもあったの?」

「えっ?」

 

突然かけられた言葉にサトシはハッと顔を上げる。そこには優しい笑顔を浮かべたハナコが、何かわかっているような表情でサトシを伺っていた。

 

「だって元気に疲れてるもの」

 

母にはすべてお見通しのようだった。へへっ、とサトシは目いっぱいの笑顔をハナコに見せる。これだけでもう、なんとなくサトシが言い出すことがわかってきているあたり、伊達に長い間サトシをいろんな地方へ見送り続けていないのだろう。

 

「ケーコー!」

 

 

 

突然響く鳴き声。

 

「今のは!?」

 

サトシが空を見上げると、空を何かが横切るのが見えた。もしかして。そう思ったサトシはピカチュウとともにその影を追いかけて走り出していた。

 

 

 

 

誰もいない公園、その中で海を見渡せる展望スペースとなっている場所に、そのポケモンはたたずんでいた。その青い瞳は、まっすぐにサトシとピカチュウを見据えていた。

 

「島の守り神・・・カプ・コケコ」

 

一歩ずつ、ゆっくりと、サトシはカプ・コケコに近づいて行った。

 

「なぁ、どうして俺だけに?なんか言いたいことでもあるのか?」

 

その問いにカプ・コケコは答えず、代わりに手に持っていたものをサトシの前に差し出した。黄色の鉱石がはめ込まれた白い腕輪。ちょうどカキが持っていたものに酷似していた。

 

「これって・・・俺に?」

 

サトシは問いかける。カプ・コケコはじっとサトシを見つめると、小さくうなずいた。それを見たサトシは白い腕輪、Zリングへ手を伸ばした。サトシの手が触れると、まばゆい光がZリングから放たれ、リングを装着するのを見届けたカプ・コケコはどこかへ去っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、サトシはテレビ電話をしていた。相手は、

 

「ありがとうママ、俺がこっちに残りたいって言った時に、すぐに許してくれて」

『母親ですもの。そう言いだすんじゃないかと思っていたのよ』

 

あの後、サトシはママと話し合って、このアローラ地方に残ることにした。島の守り神が、どうして自分にこのZリングを渡してくれたのかはわからない。けれども、それに意味があるのなら、自分の目で確かめてみたい。そう思ったサトシはククイ博士の了承を得て、彼の家に下宿させてもらうこととなった。そして、

 

「じゃあ、俺もう行くね!ポケモンスクール、今日からなんだ」

『いってらっしゃい』

「いってきます!」

 

そう。サトシはポケモンスクールに通うことになったのだ。新しい地方で、新しい仲間とともに。今までの旅とは少し違う、新しい冒険が始まろうとしている。

 

「ピカチュウ、ゲッコウガ。学校まで競争だ!」

「ピッカァ」

「コウガ!」

「よ~い、どん!」

 

その一歩を、サトシは踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、この光景を目撃した他の生徒たちが、ゲッコウガやピカチュウと同等のスピードで駆け抜けていくサトシを見て驚き騒いだのは、また別の話。

 




ゲームでも大活躍しましたよ、ゲッコウガさんは

私も大いに助けられました


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転校初日の朝

この作品において、以前アンケートをとってリーリエの家どこにしよう?ってなった時にゲームと一緒となったので、その設定で進みます。

なので、サトシwithククイ博士&リーリエという設定です


ポケモンスクールの教室。授業が始まる前のこの時間は、生徒たちがそれぞれ好きなことをしていた。ポケモンと遊ぶもの、一緒に何かに取り組むもの。カキに至ってはリザードンとともに運び屋の仕事をこなしてきたところだ。

 

 

「アローラ!」

 

 

博士の声が教室に響き、生徒たちは席に着いた、正面の黒板前に立った博士の後ろには、

 

 

「アローラ!」

「今日からサトシも、このポケモンスクールの仲間だ。わからないことがあったら、教えてあげてくれ」

「少しの間だけど、よろしく!こっちのこと、いろいろと教えてくれ」

 

 

クラスは少人数制、しかも全員が昨日であったメンバー。サトシと過ごした1日が楽しかった彼らにとっても嬉しいものだった。みんなが笑顔で彼を迎えた。中でも一際ニコニコしていたのは、サトシを案内したマオだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

朝のホームルーム後、転校生なら一度は経験するであろう、クラスメートによる質問歓迎の時間になった。サトシの両手を自身の手で包み、握手、というには少し大げさな形で腕を上下させているマオ、他の子達はサトシの正面に、半円形で並んでいた。

 

 

「サトシ、ようこそポケモンスクールへ!歓迎するよ」

「ありがとう、マオ」

「うんうん。でも、昨日のあたしの勘違い、ホントになったね」

「そうだな。これからよろしくな」

「うん、よろしくね!」

「サトシは今どこに住んでるの?」

「ククイ博士の家にいさせてもらってるんだ。トレーニングルームもあるし、すっごいいいとこなんだぜ!」

「ククイ博士の?ホントに?」

「えっ?そうだけど」

「じゃあ、リーリエと一緒だね」

「えっ?」

 

 

驚きの声を漏らすサトシ。それもそのはず、彼はリーリエを一度も学校外で見かけなかったからだ。

 

 

「はい。わたくし、博士の研究所のロフトに住ませていただいてます。昨夜はマオと一緒にポケモンフーズのためのメニューを試すために、そちらに泊まっていましたけど」

「そうなんだ。俺は地下のトレーニングルームの隣の部屋なんだ。じゃあ博士も入れて、三人での生活になるな」

「そうですね」

「リーリエも一緒かぁ。なんだか楽しそうだな!」

 

 

ここで照れも動揺もしないのは、さすがはサトシといえよう。しかし一概に彼が鈍感なせいとも言い切れない。旅の途中にポケモンセンターに寄った際、男女別で部屋を分けずに泊まったことだって何度かあった。そう考えるとサトシのこの鈍さは、旅に出たからこそ助長されているのではないだろうか。

 

 

一方リーリエはというと、少しばかり不安を感じていた。別にサトシが苦手だとかそういうことではない。ただ、出会って間もない相手といきなりルームシェアするようなものだ。緊張することのほうがむしろ正常な反応だ。ただ、同時に期待もしていた。あんなにも簡単にポケモンと触れ合う彼。ポケモンを愛し、愛されているのがわかる。彼といれば、いずれは・・・

 

 

リーリエの白い手が、キュッと握りしめられた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

と、少し冷静さを取り戻したマオが、自分が握っていたサトシの手、正確には左手首にあるものがついているのに気づいた。

 

 

「あれ?サトシ、これってまさか、Zクリスタル?」

「あぁ、これ?」

「それはデンキZだな。そのZリング、どこで手に入れたんだ?試練を突破したわけじゃないんだろ?」

 

 

この中で唯一Zリングを持つカキが、少し訝しげな表情で近づいた。当然だ。彼は試練に挑み、ポケモンとともに自身を高め、苦難の末にやっと手に入れられたものだ。それをアローラ地方に来たばかりのサトシが持っていることが、不可解だった。

 

 

「信じられないかもしれないけど、カプ・コケコに貰ったんだ」

「カプ・コケコに!?」

「あの後、また会ったの?」

「声が聞こえて追いかけたらさ、カプ・コケコがいて、このZリングを俺の前に。受け取れってことだと思って手に取ったら、カプ・コケコが頷いたんだ」

「カキのZリングは、確かアーカラ島のクイーンにもらったんだよね?」

「あぁ、大試練を突破してな。厳しい試練をこなし、ようやく手に入れられたものだ。しかし、なぜカプ・コケコが・・・」

「カプ・コケコは、サトシに何か見出したのでしょう。わたくし、本で読んだことがあります。カプ・コケコは守り神でありながらも気まぐれで、ただ人々を助けるだけでなく、いたずらをしたり、罰を与えたりもすると。そして、気に入った人間には、不思議な贈り物をするそうです」

「不思議な贈り物・・・サトシ、すごいです」

「じゃあ、サトシはカプ・コケコに気に入られたってこと?」

「俺が?」

 

 

改めてZリングを見る。守り神と呼ばれるカプ・コケコ。一体自分に、何を見出したのだろうか。自分を見出してくれた、自分に特別な贈り物をくれた。そんなポケモンに、彼は心当たりがあった。腰のボールをそっと撫でる。

 

 

「なんだか、ゲッコウガと初めて会った時のことを、少し思い出すな」

「ピーカチュ」

 

 

相棒が笑顔で応える。あの1年にも満たなかった旅の始まりが、今ではとても遠い昔にも思える。それだけ、あの旅は印象深いものだったのだろう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「けど、これで俺もカキみたいに、Z技が使えるようになったのかな?」

「Z技を軽々しく考えるな!」

 

 

純粋な疑問をサトシが口にすると、厳しい声が響いた。カキが、何か強い思いを持った表情で、サトシのことを見ていた。

 

 

「Zリングは、ポケモンとトレーナーの想いが一つになった時に初めて、その想いを力へ変えるんだ。そしてそれは、神聖でなければいけない」

「神聖?」

「島のため、ポケモンのため、誰かのため。この世にあるすべての命を思いやれる者だけが、Z技を使うことが許されるんだ。カプ・コケコがお前のどこを気に入ったのかは知らないが、Zリングを持つからには、それなりの覚悟が必要なんだぞ」

 

 

まっすぐサトシを見据える強い眼差し。そこからはカキがどれだけこの技に対して真剣なのかも、この技がどれだけ特別なのかもわかる。強い「覚悟」、それを見たサトシは一度視線を自身のZリングに落としてから、左手で帽子のつばを握った。

 

 

「俺、神聖だとか、その覚悟だとか、難しいことはよくわからない。けど、カキの言いたいことは、なんとなくわかった気がする。だから、このZリングも、Z技も大事にするよ。そして今の話を聞いたうえで言う。俺も、カキのように、Z技を使えるようになりたい」

 

 

帽子から手を放し、顔を上げたサトシは、曇りのない笑顔だった。しかしそこには、確かな「覚悟」があるようだった。それを感じ取ることができたカキは、表情を緩め、

 

 

「いいだろう」

 

 

と笑顔で返した。

 

 

「よぉし、みんな!そろそろポケモンサイエンスの時間だぜ。今日の講師は、オーキド校長だ」

 

 

こうして、サトシのスクールライフは始まった。




あの豪邸、すっごかったなーとかしみじみと思ってしまう

まぁ、一緒にしてるからそのあたり色々変わってしまいますが


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アローラサプライズ!

早くポケモンバンクアプデしないかな〜

あと、ポケモンリアルタイムで見れないな〜


リーリエと一緒に住んでるなら、こんなこともあります!


その日の夜、授業でアローラ地方にいるポケモン、リージョンフォルムについての勉強をしたり、朝のポケモンとの競争を目撃した年下の生徒たちにいろいろ聞かれたりと、忙しい初日を過ごしたサトシ。授業でアローラ地方のナッシーと触れ合ったが、そのしっぽに弾き飛ばされてしまうという事故もあった。もっとも、サトシ本人は特にダメージを負った様子もなく、それがクラスメートたちを驚かせることになったが。そして今はまさに夕飯時、

 

 

「どうぞ」

「おぉっ!うまそ~!いっただっきま~す」

「お、今日はリーリエの手作りアローラプレートか。この地方じゃ代表的な家庭料理だな。ほら、ピカチュウたちにはこれを」

「アンアン!」

「ピカッチュウ!」

 

 

サトシたちの座っているテーブルから少し離れた場所に、ピカチュウと博士のポケモン、イワンコのフーズが用意された。ピカチュウも満足そうな顔を浮かべている。

 

 

「うまい!これ、サイコーだよ!」

「そ、そうですか。よかったです」

「サトシはおいしそうに食べるなぁ。じゃあ俺も」

「ピカチュウ、そっちもうまいか?」

「ピカ、ピカチュウ!」

 

 

満面の笑みでピカチュウは答える。口元にフーズが少しついてしまっているのを気づいていない様子を見ると、夢中で食べているのだろう。

 

 

「そのポケモンフーズも、リーリエが考えて作ったんだぜ」

「そうなのか?」

「バランスのいいフーズや木の実の組み合わせを、いろいろと考えた結果です」

「本当にポケモンに詳しいんだな、リーリエって。ごちそう様!」

「いや、早いな!?」

「だって、すっごくおいしかったんですよ!な、ピカチュウ」

「ピカ」

「ピカチュウたちも、もう食べ終わったんですか?」

 

 

空っぽのお皿を前に、満足げに息を吐くサトシ。その横へ同じくフーズを間食したピカチュウとイワンコがやってきた。

 

 

「ピカチュウも、すっかりイワンコと仲良くなったみたいだな」

「イワンコ人懐っこいし、すっごくいい子ですから」

「それでも、こんなに早く警戒心を解くのは珍しいと思いますけど」

 

 

食べ終わったサトシはお皿を流しに持っていき、自分の分だけでもと思い洗った。そして手を拭いた後、ピカチュウたちのほうへ向かった。

 

 

「おいで、イワンコ」

「アン!」

「よ~しよしよし」

 

 

サトシが呼ぶと、イワンコはすぐに駆け寄り、その腕の中に飛び込んだ。確かにイワンコはポケモンの中でもなつきやすい部類ではあるが、それは基本的には自身のトレーナーにはそうでも、他の人に対してはすぐにはなつかない。しかしどうだろう。今のサトシとイワンコの姿は、まるでトレーナーとポケモンのようだ。と、急にサトシが笑顔のまま痛がり出した。

 

 

「いてててて」

「ん?」

「もしかして・・・」

 

 

次にイワンコはピカチュウに駆け寄り、首周りをこすりつけるようにじゃれた。サトシ同様、ピカチュウも笑顔だったが、どこか痛がっているようだった。

 

 

「確かイワンコが、首の周りの岩をこすりつけるのは仲間同士のあいさつです。一種の愛情表現ということですね。イワンコは、よっぽどサトシとピカチュウを気に入ったんですね」

「なんだか、羨ましくなっちゃうな~」

「そうなのか、イワンコ?」

「アンアン!」

 

 

サトシの言葉にこたえるようにイワンコは再びサトシにすり寄った。

 

 

「ごちそう様です。博士、先ほどのお話なのですが、」

「ん?あぁ、了解と伝えておいてくれたかい?」

「はい、問題ありません。準備はばっちりです」

「そうか、それは楽しみだ」

 

 

そんなサトシを眺めながら、リーリエと博士は何やら打ち合わせをしていた。二人とも、楽しそうな表情を浮かべて。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、アイナ食堂にて四人の人間が集まっていた。

 

 

「博士からもオッケーもらったし、頑張ろう!」

「プログラム・ラン!だね」

「おう」

「うん!」

「リーリエは明日早めに出るって言ってたし、ばれないといいんだけど」

「大丈夫。リーリエはしっかりしてるから」

「そうだな。そんなへまはしないだろう」

「えへへっ、楽しみだね。じゃあ計画通り、明日はよろしく!」

「「「おー!」」」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

翌朝、

 

 

「わぁ~!遅刻遅刻!なんでリーリエも博士も出る前に声かけてくれなかったんだろう」

 

 

転校二日目にして早速遅刻の危機に瀕しているサトシ。とはいえ、今もゲッコウガとピカチュウと一緒に全力疾走しているため、心配はあまりないが。そのままスピードを落とすことなくサトシが校門をくぐると、

 

 

パァン! パァン!

 

 

両側から突然クラッカーがなり、さらには目の前でアシマリの作り出した水のバルーンが破裂した。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

驚いているサトシの前に、校門の両側の陰からクラスメートたちが出てきた。

 

 

「「「アローラサプラーイズ!」」」

 

 

声をそろえてマオ、スイレン、リーリエの三人が笑顔でサトシに駆け寄った。少し遅れてカキとマーマネもサトシの前に来た。

 

 

「驚いてるようだな」

「え?当ったり前だろ。それよりサプライズって?」

 

 

サトシの疑問にこたえるべく、この企画の立案者であり、まとめ役も担ったマオが一歩前へ出た。

 

 

「今日はね、サトシのサプライズ歓迎会を開くことにしたんだ!今のは、最初のサプライズね」

「サプライズ歓迎会?もしかして、リーリエと博士が先にいなくなっていたのって」

「はい。この企画の準備のためにです。もちろん、サトシにばれないように気を付けなければなりませんでしたが」

「そうだったのか~。みんなありがとな」

「ふふ~ん。お礼を言うのはまだ早いよ。言ったでしょ、さっきのは最初のサプライズだって」

「そういえば・・・」

 

 

待ってましたと言わんばかりのどや顔で、次にマーマネがサトシの前に立った。

 

 

「2番目のサプライズはこの僕、マーマネとトゲデマルからの挑戦状だ!」

「挑戦って、もしかしてポケモンバトルか?受けて立つぜ、マーマネ!ってあれ?」

 

 

挑戦と聞いて熱くなったサトシだったが、すぐに疑問符を浮かべた表情になった。校庭に大量の風船が置いてあったからだ。

 

 

「・・・なんだこれ?」

「は~い!これは、『先に風船を全部割ったチームが勝ち』ゲーム!」

「・・・へ?」

「あっ、風船を割るのは、人間でもポケモンでも構わないからね」

「よくわかんないけど、とりあえず風船を割ればいいんだな?よーし、やろうぜ、ピカチュウ!」

「それじゃあ、始めるぞ。位置について、よーい、スタート!」

 

 

審判を務めるカキの声で両チームの風船割が始まった。ところがサトシとピカチュウは思っていたよりも固い風船に、苦戦していた。それに対するマーマネ・トゲデマルコンビは、トゲデマルの体質をうまく活用して順調に進んでいた。

 

 

「サトシもピカチュウも、頑張って!」

「ゴーゴー!」

「コウガ!」

「ポケモンの技、使ってもいいんですよ」

 

 

勝負を見守っているスイレンやマオ、ゲッコウガがサトシの応援をした。リーリエからのアドバイスを受けたサトシは、ピカチュウに10万ボルトで風船を割るように指示した。が、トゲデマルの特性はひらいしん。ピカチュウの電気を吸収したトゲデマルは、その電気を自身の技に変えて風船を割り始めた。

 

 

「すごいぜ、トゲデマル・・・っと、感心してる場合じゃなかった。こうなったら、ピカチュウ!連続でアイアンテール!」

「ピカ!チュー、ピッカァ!」

 

 

即座に戦法を変えて風船をいくつか割ることに成功したサトシとピカチュウ。しかし最初から順調に風船を割っていたマーマネたちには追い付けず、負けてしまった。

 

 

「このバトル、マーマネ&トゲデマルの勝ち!」

「はぁ~、負けちゃったか。でも、ポケモンの特徴をうまく使ってたな・・・」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

続いてサトシにサプライズバトルを挑むのは、

 

 

「サトシ。今度はわたしとアシマリとのバトルです」

「今度はスイレンか。よーし、次はどんなバトルだ?」

「スイミングとランニングを合わせた競技、ポケモンアクアスロンだよ」

「へぇ~。面白そうだな!どうするゲッコウガ?お前が行くか?」

 

 

そうサトシが問いかけると、ゲッコウガは自分を指さし、ピカチュウを指さし、アシマリを指さした。

 

 

「もしかして、三人でレースがしたいのか?」

「コウガ!」

「流石にゲッコウガが勝つんじゃないか?陸上でも水中でも、かなりの速さで動けるだろうし」

「じゃあ、ゲッコウガにはハンデをつけるってことでいいかな?」

「コウガ!」

「それでは、参ります。位置について、用意、スタートです!」

 

 

ゲッコウガはハンデのためにスタート地点に残り、ピカチュウとアシマリが飛び出した。序盤は陸上のためピカチュウがリードしていた。そしてピカチュウが先にプールに飛び込んだ時、ゲッコウガがスタートを切った。

 

 

「よしいいぞ、ピカチュウ!このままゴールだ!」

「そううまくいくかな?」

 

 

ゲッコウガよりも先にアシマリはプールに飛び込んだ。陸上ではピカチュウのほうが速かったが、水中では圧倒的にアシマリのほうが速い。あっという間にピカチュウを追い抜いた。

 

 

「アシマリ、すっごく速い」

「アシマリは水の中を時速40キロで泳ぐことができるんですよ」

「そうなのか?」

「アシマリ、もうひと息だよ!」

 

 

スイレンの応援を受け、アシマリが無事にゴール・・・となると誰もが思っていた。が、

 

 

「シャマ!?」

「うそ!?」

 

 

最初にゴールテープを切ったのは、後ろから追い上げてきたゲッコウガだった。それだけならまだいい。ゲッコウガは明らかに経験豊富だし、陸上でも水中でも速く動けるポケモンだ。だが、一番驚いている原因はというとゲッコウガが泳いでいなかったという点だろう。

 

 

ゲッコウガは、水面を走り抜けたのだ。

 

 

覚えているだろうか。ケロマツの頃、でんこうせっかを習得するために特訓したときに、彼はかげぶんしんを習得した。その特訓の一つに、素早く走ることで水の上を走るというものがあった。昔取ったなんとやら、さらに進化を重ねて彼のスピードはあのころとは比べ物にならないくらいに上がっている。水の上を走ることなど、造作もなかった。

 

 

結果として1位ゲッコウガ、2位アシマリ、そして最後にピカチュウとなった。また負けてしまったことに残念そうな表情をしていたピカチュウだったが、サトシに体をやさしく拭いてもらい、ねぎらいの言葉をかけられて、うれしそうな表情になった。

 

 

「それにしても、すごかったねゲッコウガ」

「ゲッコウガはスピードが自慢だからな。でも、アシマリも水のレースだったらゲッコウガでも負けてたかもな~。本当に泳ぐの速くてびっくりしたぜ」

 

 

きっとそれが本心からの言葉だからだろう。嫌味もかけらも感じさせないその言葉は、すとんとアシマリとスイレンの胸に届いた。惜しくも負けてしまい、悔しそうなアシマリだったが、サトシの言葉ですぐに元気になった。スイレンは腕の中にいるアシマリを見て、少しはにかみながらサトシに笑顔を向けた。

 

 

「ありがとう、サトシ」

「アシャマ!」

 




ところで、XY&Z編ではゲッコウガとほぼ同スピードで走れるようになったサトシ。ということはもしや・・・彼も・・・



おっとっと!

サンペイがショックを受けるかもしれないので、これ以上は想像にお任せします。笑

これからもよろしくお願いしま~す!


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行くぜ、ゼンリョク大冒険!!

カプ・コケコ、試練見にきてましたね〜

どんだけサトシ大好きフリスキー?


「四番目のサプライズは、俺とお前で一対一の勝負だ!内容はケンタロスレース。ケンタロスには乗れるか?」

「あぁ。俺、ゲットしたケンタロスもそうだけど、ポニータとか、サイホーンとか。旅の途中で他にもいろいろなポケモンに乗せてもらったことあるし、レースだって挑戦したこともあるんだ」

「ほぉ。だが俺も、運び屋の仕事で様々なポケモンに乗ってきた。これなら、いい勝負ができそうだな」

 

 

他の4人とポケモンたちが見守る中、サトシとカキのケンタロスレースが始まった。二人とも経験が多いだけあって、完璧に乗りこなせている。実力は拮抗し、結果として引き分けという形で終わった。

 

 

「なかなかいい走りだったぜ」

「カキこそ、流石だな。ありがとな、ケンタロス」

 

 

ケンタロスから降りたサトシは、自分を乗せてくれたケンタロスをねぎらいながら撫でた。ケンタロスは気持ちよさそうに目を細め、「ブモォー」と一言鳴いた。それから、カキの乗っていたケンタロスとともに、彼らの住んでいるケンタロスハウスへ戻っていった。

 

 

「アローラ、サトシ、いい勝負だったぜ!」

「ククイ博士、イワンコ!」

 

 

レースを終えた彼らのもとに、イワンコを抱えたククイ博士がやってきた。

 

 

「5番目のサプライズは俺だ。サトシ、ポケモンバトルで勝負だ」

「えっ、バトル!?しかもククイ博士と?やったぜ!最高のサプライズです!」

 

 

今までのバトルも楽しかったが、やっぱりサトシの一番はポケモンバトルだった。しかも先生でもある博士との闘いともなれば、サトシが興奮するのも無理はない。今すぐにでも始めようとしたサトシ。しかし、

 

 

「その前に、」

 

 

と、マオが待ったをかけた。

 

 

「アイナ食堂の看板娘、マオちゃんが腕を振るった料理で、ランチタイムだよ~」

「ランチ?」

 

 

ぐー

 

 

 

 

 

 

ちょうどサトシのおなかが空腹を訴えた瞬間だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おっ待たせ〜!」

 

 

サトシたちの前に並べられた料理。今まで見たことない品々に、サトシは興味津々だった。ピカチュウたちも、リーリエ考案・マオの手作りのポケモンフーズにご機嫌だった。

 

 

「うまいぜ!」

「マオの家のお店、アイナ食堂はね、美味しくて大人気なんだよ」

「そうなのか?すごいな、マオ」

「そうかな?でもあたしもまだまだだよ。リーリエのレシピ通りに作っただけだし」

「わたくしはほんの少し材料を加えるように言っただけで、マオが考えたレシピですよ」

「リーリエの言う通りだよ。自分からレシピを考えようとするなんてさ。こんなに美味しく作れるんだ。マオは本当にすごいよ。なっ、ピカチュウ?」

「ピカッチュウ」

「サトシ・・・うん、ありがとう!」

 

 

サトシが丁度お皿を空っぽにした時!

 

 

「ケーコー!」

 

 

声が響いた。その声に、サトシはハッと顔を上げた。

 

 

「この声・・・」

 

 

辺りを見渡しながら立ち上がったサトシ。その目の前に一つの影が現れた。至近距離でその影と見つめあったサトシは、驚いて後ずさった。

 

 

「うわっ!」

「メレメレ島の守り神、カプ・コケコです」

「あたし初めて見た」

「私も・・・」

 

 

驚き動きが止まる一同。突然の遭遇にはもう慣れっこだったサトシはいち早く衝撃から回復し、カプ・コケコの前に進んだ。

 

 

「また会えてよかったよ。Zリングのお礼、ちゃんと言えてなかったしな。ありがとう」

 

 

突然、カプ・コケコが姿を消し、サトシの帽子を奪って森へと飛んで行った。慌てて追いかける一同。ここで彼らはサトシの身体能力の高さに驚かされた。サトシはとにかく速い。それだけでなく、障害物を当たり前のように軽々とクリアして、空を飛ぶカプ・コケコについて行っていた。彼らの中では最も日頃から鍛えているカキでさえ、見失わないようにするので精一杯だ。

 

 

「サトシ、速すぎだよぉ。ぜぇ、ぜぇ」

「マーマネは俺が見ておくから、カキたちはサトシを見失わないように頼むよ」

「わたくしも手伝います」

「オッケー!とは言っても、全然追いつけない」

「なんなんだ?あいつのデタラメな速さは」

「ゲッコウガと同じくらいかな?」

「えー?まっさかぁ?スイレン、それは言い過ぎだよ」

「そうかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいえ、そのまさかです。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

森の少し開けた場所、そこでカプ・コケコはサトシを迎えた。帽子をあっさりと返したことにサトシは驚いだが、カプ・コケコが戦闘態勢に入ったのを見てさらに驚いた。

 

 

「バトルしよう、ってことか?」

 

 

ようやく追いついたカキたちの耳にも、そのサトシの問いは聞こえた。

 

 

「次のサプライズは、俺じゃなくてカプ・コケコか」

「わたくし、本で読んだことがあります。カプ・コケコは好奇心旺盛で、昔からトレーナーたちにバトルやアローラ相撲を挑んでいたそうです」

 

 

サトシの顔が笑顔になった。しかしそれはカキたちの初めて見る笑顔だった。今までの、ただ楽しいという明るい笑顔ではなく、どこか好戦的な笑顔。どこか子供っぽさのあった今までのサトシと違い、大人びた表情をしていた。

 

 

「よーし、行くぜ!ピカチュウ!」

「ピーカ!」

 

 

サトシとピカチュウ対カプ・コケコ。戦いの火蓋が切って落とされた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「コー!」

 

 

周囲に電撃が走り、サトシたちとカプ・コケコの対峙するフィールドが電気であふれた。

 

 

「これって、シトロンもよく使ってた・・・」

「エレキフィールドだね!」

「サトシ、エレキフィールドの中では、電気タイプの技の威力が上がるはずです!」

「あぁ。俺たちにとってはラッキーだ!行くぜ、カプ・コケコ!」

 

 

戦闘態勢に入ったピカチュウを見たカプ・コケコは猛スピードで突進してきた。

 

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

「ピカ!」

 

 

それに対してサトシはピカチュウにでんこうせっかを指示した。普通のピカチュウのスピードをはるかに上回る勢いで、ピカチュウとカプ・コケコと激突した。が、パワーで押し負けてしまい、吹き飛ばされた。

 

 

「っ、速いだけじゃない。ピカチュウ、大丈夫か?」

「ピカ。っ、ピィカァ!?」

 

 

ピカチュウが体勢を立て直すと、そこへカプ・コケコがワイルドボルトで追い打ちをかけてきた。

 

 

「躱して10万ボルト!」

「ピッカァ!」

 

 

何とかそれを躱すピカチュウ。カプ・コケコが技を解いたそのすきに、自分の代名詞ともいえる得意技、10万ボルトを浴びせる。カロスリーグでも猛威を振るったその技が直撃したのを見て、サトシはガッツポーズをとった。・・・が、

 

 

「なっ、全然効いてない!?」

「力の差がありすぎる。これが守り神、カプ・コケコ・・・」

 

 

相棒の攻撃が聞かなかったのを見て呆然とするサトシ。そんなサトシに向かってカプ・コケコが突っ込んでいった。思わず身構えるサトシ。しかしカプ・コケコはサトシの前で止まり、そっと彼の左腕のZリングに触れた。まばゆい光を放ち始めるZクリスタル。

 

 

「もしかして、これを使えってことなのか?」

 

 

サトシの疑問に答えるように、カプ・コケコはピカチュウの前で止まった。

 

 

「いきなりZ技を使うのか?」

「サトシ、大丈夫かな」

 

 

後ろに来ていたカキやマオの不安げな声が聞こえる。Zリングをしばらく見つめていたサトシはピカチュウを見た。後ろを向いていた相棒がうなずくのが見えた。

 

 

「よーし。どうすればいいのかさっぱりだけど、やろうぜ!ピカチュウ!」

「ピカ!」

 

 

目の前のカプ・コケコが腕を動かし始めた。無意識のうちに、サトシとピカチュウはその動きを真似するかのように、同時に動き出した。そして腕を交差するようにポーズを決めると、Zリングからあふれた光がピカチュウの体に注ぎ込まれた。

 

 

「行っけぇ、ピカチュウ!」

「ピーカ!」

「これが、俺たちの、全っ力だぁ!」

 

 

二人の動きがシンクロし、巨大な電撃のやりが放たれた。

 

 

「電気タイプのZ技!?」

「スパーキングギガボルトだ」

 

 

放たれた電撃はまっすぐにカプ・コケコへ向かい直撃した。その際に生じた爆発による爆風がサトシたちだけではなく、後ろにいたカキたちをも吹き飛ばしそうになった。煙が晴れて、サトシたちが目を開けると、

 

 

「なんて威力だ・・・」

「わたくし、こんな電気技、見たことありません」

「僕もだよ・・・」

 

エレキフィールドによって威力が上がっていたピカチュウのZ技、スパーキングギガボルトが引き起こした爆発は、森の一部をきれいに消し去っていた。残されたのは大きいクレーター、そして両腕をくっつけ、顔状になり身を守ったカプ・コケコだった。

 

 

「これが・・・Z技?でも、この感じって・・・」

 

 

驚いているみんなをよそに、サトシは戸惑っているようだった。Z技を放った感覚、それにどこか覚えがあるように思ったからだ。そんなサトシの様子を見たカプ・コケコは声を上げ、どこかへ飛び去って行った。それを見たマオたちはサトシたちのほうへ駆け寄った。

 

 

「サトシ!大丈夫?」

「あ、あぁ」

「びっくりしました。これが、サトシたちの全力なんですね」

「へへっ、ありがとな」

「あっ、Zリングが」

「ん?」

 

 

スイレンの声にサトシが左腕のZリングを見ると、そこにあったデンキZにひびが入り、砕け散った。

 

 

「Z技を使うには、まだ早かったということだな。試練も突破していないわけだし、仕方がないだろう」

 

 

唯一サトシと同じくZリングを持ったカキがその理由を解説した。その言葉で、サトシは決意した。

 

 

「俺、島めぐりに挑戦する!試練を受けて、今度こそ、Z技を使いこなせるようになりたい」

 

 

その言葉に、マオたちは笑顔を浮かべた。

 

 

「なるほどね。でんこうせっかのような決断だな」

「いいね。あたしたちも応援するよ!ね、みんな」

「うん!」

「もちろんです」

「電気タイプには詳しんだよね~、僕とトゲデマル」

「いいぜ。俺も、お前の完全なZ技が見てみたいしな」

 

 

彼らの言葉を受けたサトシは、新しい目標と旅に胸を躍らせながら、

 

 

「ありがとう、みんな」

 

 

と、笑顔で返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

学校まで戻る道、先に歩くみんなからは見えていなかったが、サトシはゲッコウガの入っているボールを取り出し、眺めていた。少しばかり、考え込んでいるような表情で。




ピカチュウのでんこうせっかすごかったなー

モクローもゲットしてまだまだなのにあの活躍はすごいと思う


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少しの勇気を

ヒロインその1、ゲームのメインヒロイン〜

オリジナルの設定プラスオリジナルのエピソードです


その晩、サトシはなかなか寝付けずにいた。今日の出来事がずっと頭の中をぐるぐるしていた。

 

 

「Z技・・・か」

 

 

カプ・コケコの指導によって、彼はピカチュウとともに、初めてZ技を使った。二人の全身全霊、全力フルパワーの技。それを使った感覚が、サトシの体に残っていた。が、

 

 

「やっぱり・・・なんか、身に覚えがあるというか」

 

 

彼が気になっていたのは、その感覚を以前も感じたことがあるような気がしたからだ。ただ、Z技はサトシがアローラに来て初めて知ったもの。そもそもZリングとZクリスタルだって、こちらに来てから初めて見たものだ。が、体の中に何か感じさせるものがあった。

 

 

「全然わからないや・・・少し外を歩こうかな」

 

 

寝てしまったピカチュウや、隣にある研究部屋にいるククイ博士に気付かれないように、サトシは念の為にゲッコウガのボールを手に取るとそっと階段を上り、玄関から外に出た。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「すごいな~」

 

 

空を見上げてみると、雲一つない空が広がっていた。さすがは周りを自然で囲まれたアローラ地方。マサラタウンにも負けないくらい、下手したらそれ以上の星が見えるくらいの空だった。それを眺めながらサトシはしばらく歩くと、海岸に人影があるのが見えた。

 

 

「あれって・・・」

 

 

風で帽子が飛んでしまわないように、片手で押さえつけながら、その人影は水平線を眺めていた。月明かりが照らすその姿は、世の男性ならば一瞬は見とれるのではないかというくらい綺麗だった。が、サトシにとってはどこかはかなげで、寂しげに見えた。白い肌は月明かりで淡く輝くようで、エメラルドのようなきれいな緑色の瞳は、どこか憂いがあるように見えた。その人影に、サトシは声をかけることにした。

 

 

「リーリエ!」

 

 

その声に反応した人影はサトシのほうを向いた。驚いた顔で、彼女はサトシを見てから、少し寂しそうな笑顔を浮かべた。

 

 

「サトシ。どうしたんですか?」

「なんだか眠れなくって、散歩しようかと。リーリエこそ、こんな時間に、何してたんだ?」

「少し・・・海を見たくなったんです」

「ふ~ん。何かあったのか?」

「えっ?」

「なんだか、さっきのリーリエ、少し寂しそうだったから」

 

 

リーリエの隣まで来てから、サトシは砂浜に腰かけた。それに倣うようにリーリエも隣に座り込む。ただ、顔はサトシのほうにむけず、まっすぐ海を見つめていた。しばらくして、リーリエはサトシに話しかけた。

 

 

「わたくしが博士のもとで暮らしている理由は聞かないんですか?」

「えっ?う~ん・・・別にいいかなって。俺だって泊めてもらってるわけだし、何か理由はあるんだろうな~ってくらいには思ったけどさ」

「・・・わたくしは、家に帰れないんです」

「えっ?」

「詳しいことはまだ話すことができません。ただ、そんなときに拾ってもらったんです」

「ふ~ん。よくわからないけど、もし家族とけんかしたんだったら、仲直りできるといいな」

 

 

サトシの言ったことは、とても単純なことだった。ただ、それはリーリエの心に強く響いた。曇りのないサトシの眼差しは、彼女にとって、暖かい光のようにも思えた。

 

 

「・・・できますでしょうか、仲直り」

「できるさ!もしリーリエが本気で家族と向き合えたらさ」

 

 

そうやって、迷うことなくすぐに答えてくれる。気休めのためではなく、本心からの言葉で。だからかもしれない。彼の言葉は、信じられるように思える。

 

 

「そうですね・・・わたくしも、頑張ってみます」

「あぁ。何でも言ってくれよ。俺もできることなら手伝うからさ」

「はい。ありがとうございます」

 

 

その時の彼女のほほえみには、寂しさはもう感じられなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「YOYOYOYO!こんなとこで何してんスカ?」

「子供は寝る時間っすから!」

 

 

と、夜の静寂とともにその場の雰囲気をぶち壊したのは二人の男の声だった。サトシとリーリエがその方向へ目を向けると、スカル団のメンバーがそこに立っていた。しかも、まさしくサトシとカキがあのとき戦った三人組だ。

 

 

「お前たちは!」

「スカル団、こんなところに来るなんて」

 

 

「あ~、お前この前邪魔してくれた奴じゃないスカ」

「あんときは良くもやってくれたわね」

「リベンジしちゃうっすから!」

「あのZ技を使うあいつもいないし、今がチャンスってことだな!」

 

 

そういって彼らは9体のポケモンを出してきた。圧倒的に不利な状況。しかも今度は9対1の勝負になる。いくらサトシでもこれは危ないのではないか。そうリーリエは思った。

 

 

「サトシ、ここは逃げるべきです。サトシ一人じゃ、とても勝てません!」

「逃がすと思ってんスカ?」

「アニキの言う通りっすから」

「あきらめておとなしくポケモンを差し出したら、考えなくもないよ」

 

 

逃げ道をふさぐように広がるポケモンたち。ポケモンに触れないリーリエは思わずサトシの後ろに隠れてしまう。ぎゅっと、彼の服をつかんだその手は、少し震えていて、彼女の目を強くつむられていた。と、彼女の手にそっと触れるものがあった。暖かくて、少し柔らかいその感触にびっくりしたリーリエは目を開けて確認してみる。彼女の手をそっと握っていたのは、サトシの手だった。まるで安心させるような、落ち着かせるような暖かさが、その手にはあった。目線を上げてサトシの顔を見てみる。そこにはカプ・コケコと戦った時に彼が見せたような、強い意思のある笑顔があった。

 

 

「大丈夫だ。俺たちを信じてくれ」

 

 

こんな状況でなぜそんなに冷静なのだろうか。どうして笑顔でいられるのだろうか。でも、そんな状況にあるはずなのに、不思議と彼の言葉は信じられた。気が付くと震えが止まっていた。彼の手が自分の手を放した。残ったのは不安ではなく、少しばかりの名残惜しさだったのに、リーリエは驚いた。

 

 

「行くぜ、ゲッコウガ!君に決めた!」

「コウガ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ボールから現れたゲッコウガは臆することもなく、腕を組んだ状態で立っていた。敵の数と位置を確認すると戦闘態勢に入った。

 

 

「ヤトウモリ、はじけるほのおだ!」

「ヤングース、かみつくっす!」

「ズバット、きゅうけつだよ!」

 

 

9体のポケモンが同時に攻撃を仕掛けてきた。それをちらりとサトシとゲッコウガは確認すると、

 

 

「ゲッコウガ、躱して連続のいあいぎり!」

 

 

先に来たはじけるほのおを躱すと、火の粉がヤング―スたちに降り注いでしまった。味方の攻撃にひるんだすきに、猛スピードで動いたゲッコウガのいあいぎりが9体すべてに決まっていた。

 

 

「くそっ、なんなんスカ!ベノムショック!」

「躱せ!」

 

 

再びスカル団の攻撃、しかしどうしてもゲッコウガには当たらない。そこへゲッコウガにとっては死角となっている場所から、ヤング―スの一体がとびかかった。が、見えていないはずの攻撃をゲッコウガは難なくかわしていた。それもトレーナーから具体的な指示もなかったのにも関わらずだ。

 

 

「なっ!?」

「今のをどうやって躱した!?」

 

 

「行くぜ、ゲッコウガ。久しぶりの、フルパワーだ!」

「コウガ!」

 

 

サトシがこぶしを握り締めると、ゲッコウガも全く同じタイミングでこぶしを握り締めていた。二人が同時にこぶしを自分の胸に当てると、変化が起き始めた。ゲッコウガの周りに激しい水流がまとわりついた。スカル団はもちろん、ポケモンについての知識は博士も一目置くほど持っているリーリエも驚いていた。

 

 

「サトシ?何が・・・」

「お前たちに見せてやるぜ。ポケモンとトレーナーの絆の力を!」

 

 

その言葉とともに、ゲッコウガを包んでいた激しい水流がはじけた。現れたゲッコウガは先ほどとは変わっていた。頭には赤色が現れ、胴体の模様も変化し、カロス地方を旅した時のサトシと似た姿になっていた。極めつけは背中に現れた大きなみずしゅりけん。サトシとゲッコウガだけが持っている力、強いきずなで結ばれた二人だけの力。

 

 

「なんスカ、なんなんスカ、お前ら!?」

 

 

「これは一体・・・進化?でもゲッコウガはもう進化しないはずです。見たことも読んだこともない姿・・・一体何が」

 

 

驚くリーリエやスカル団たち。しかしバトルではそれは大きなすきを生むことになる。

 

 

「いくぞ!ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

「コォウ!」

 

 

ゲッコウガが背中に現れた巨大なみずしゅりけんをスカル団のポケモンへ放った際、まったく同じ動きをサトシもしていた。二人はまるで一体のように、動きも、呼吸も、心も一つだった。そんな彼らにスカル団がかなうはずもなく、たった一つのみずしゅりけんで全員戦闘不能にされてしまった。

 

 

「お、覚えてろよ~!」

 

 

再び三人仲良く逃げて行ったスカル団。そのバイクの音が消えると、バトルの騒音が嘘だったかのような静寂が戻った。そして、ゲッコウガもまた元の姿に戻っていた。

 

 

「ありがとな、ゲッコウガ」

「コウガ」

 

 

サトシがねぎらうように声をかけると、ゲッコウガはうなずき、モンスターボールの中へ戻っていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ふぅ~。やっぱり久しぶりにこれやると疲れるな~」

 

 

少し疲労した様子のサトシ。疲れているところに聞くのも悪いかと思ったが、リーリエはどうしてもサトシに聞かなければいけないことがあった。

 

 

「あの、サトシ。今のは一体何だったのですか?」

「へ?あぁ、さっきのゲッコウガのことか?」

「はい。わたくし、いろんな本を読んで、たくさんポケモンについて勉強しました。もちろん、ゲッコウガのことも詳しく調べたつもりです。でも、わたくしが今まで読んできた本には、どこにも先ほどのゲッコウガのような力については載っていませんでした。あれは何なのですか?」

 

 

真剣に質問してくるリーリエに、どうやって説明しようかと思考を巡らせながらサトシは答え始めた。

 

 

「あれはキズナ現象っていって、俺とゲッコウガの絆の力なんだ」

「キズナ現象・・・ですか?」

「俺も、すごくよくは知らないんだけど、ごくまれに潜在的な力の高いポケモンが、本当に信頼できるトレーナーとの絆が高まることで、今みたいにさらに強い力を発揮できるようになるんだ」

「そんなにすごい力を、サトシたちは持っているんですね」

「う~ん、俺もよくはわからないんだ。ただ、俺はゲッコウガに選ばれたんだ。それで、一緒に強くなろうって決めたんだ。誰も知らない高みへ一緒に行くって。二人で同じ気持ちを持っているから、それに応えるようにこの力は俺たちをもっと強くしてくれる」

「すごいです・・・大きな夢を持っているんですね」

「はは、そうかな?」

「そうですよ。わたくしは、まだポケモンに触ることさえできませんのに」

 

 

自分とそう歳は変わらないはずなのに、サトシは自分が想像もできないほど大きな夢をもって、そのために努力しているのがわかる。きっと今までにもたくさんのバトルをして、たくさん旅をして、たくさんの経験をしてきたのだろう。それは、本を読んでいるだけじゃ得られないもの。実際にポケモンたちに触れて、旅をして、初めてわかるものばかり。自分には、それさえもできていないのに・・・

 

 

「大丈夫だよ。リーリエもきっとすぐにポケモンに触れるようになるって。俺も協力するから。そこからまた、リーリエも自分の夢を探してみたらいいんじゃないかな?」

 

 

彼はいつも笑顔でこういうことを言ってくれる。根拠なんてないはずなのに、言い切れる。それだけの覚悟を、勇気を、彼は持っている。だから安心できる、信じられる、少しだけかもしれないけど、強くなれる。

 

 

「はい。よろしくお願いします」

「それじゃあ、帰ろうか。明日二人そろって起きられなかったら大変だし」

 

 

差し出された彼の手。この手があれば、自分は強くなれる気がする。だから今は

 

 

「はい!」

 

 

サトシの手を握るリーリエ。二人はククイ博士の家へ戻っていった。

 

 

リーリエの心に、少しばかりの勇気と、まだ気づいていない小さな芽を残して。




しかしゲームとアニメで一番イメージ変わった気がしますね、リーリエ

まぁ彼女の問題をサトシが解決するんですよね、わかります笑


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新しい仲間、よロトしく!

なんだかんだ言いましても、こっちだと未だにモクロー仲間になってなかったですね


朝の少し早めの時間に、サトシとリーリエは博士の研究室へ呼ばれていた。サトシの手に、赤いものが乗せられる。

 

 

「博士、これって」

「ポケモン図鑑だ。これから起動するところだ。少し待ってな」

「待つ、と言いますと、何を待つのですか?」

「そろそろ来る頃だな」

 

 

その博士のつぶやきとともに、研究室内の電源が瞬き、コンセントのソケットからロトムが飛び出してきた。

 

 

「ロトム?」

「確か、様々な家電に入り込むことでフォルムチェンジするポケモンですよね」

「そう。このロトムが入るのが、その図鑑だ」

「えっ、この図鑑に?」

 

 

そう言っていると、ロトムが勢いよく図鑑に入っていった。ロトムの顔のようなものが図鑑に現れ、起動が始まった。

 

 

『アローラ、ユーザーサトシ、よロトしく!』

「おぉ、喋った!」

「図鑑には、ロトムのための言語機能まで付いているのですね」

「そういうことだ。ロトム、これからサトシをサポートしてやってくれ」

『了解ロト!』

 

 

その後、簡単な自己紹介と機能の確認、そしてロトムのサトシ的行動によるピカチュウからの電撃攻撃などを経て、サトシとリーリエは一緒にスクールへ向かった。ピカチュウはリーリエに気を使っているのか、サトシよりも少し前をロトム図鑑と一緒に歩いていた。

 

 

「そういえば、リーリエと一緒に登校するのは今日が初めてだな」

「そうでしたね。サトシがスクールに来てから、まだ三日目ですし」

「いろいろあったから、なんだかそんなに短い気がしないな〜」

「ふふっ、それだけサトシも学校を楽しんでるということですね」

「そうだな」

 

昨夜と違って楽しげなリーリエを見て、サトシな少し安心していた。何があったのかは自分にはわからない。けどすぐに話してくれと言えるほどお互いのことを知っているわけでもない。今の自分ではまだ何もできない。だけど少しでも元気づけられたらいいと思っていた。何が彼女を元気にしたのかはわからないけど、素直に良かったと思った。

 

 

 

 

 

少女は自分の隣を見る。前を歩く相棒たちを見つめるひとみは優しく、昨日の夜、スカル団と戦った時に見えた激しさは、今は鳴りを潜めているのか見えなかった。ただ変わらないのは、そこには一切の曇りがないということ。まっすぐなその瞳を見ていると、不思議と力が湧いてくる気がした。そして、不思議と温かい気持ちにもなれた。それが何かも、なぜかもわからないけれど、不快な気持ちにはならなかった。

 

「どうしたんだ?」

 

彼が問いかける。少し彼のことを見すぎていたのだろうか。疑問と少しばかりの心配が表情に見て取れた。くすり、と笑って首を振る。

 

「なんでもありません。行きましょう、サトシ」

 

そうして少女は一歩踏み出す。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「アローラ!」

「みなさん、アローラです」

 

 

二人が教室に到着すると、既に他のみんなは集まっていた。カキも今日は仕事がなかったようで、マーマネと話していた。二人に一番最初に反応したのは、やはりマオだった。

 

 

「二人とも、アローラ!今日は一緒だったんだね」

「はい」

「ククイ博士に呼ばれたんだ。みんなにも紹介するよ」

「何何?新しいポケモンをゲットしたの?」

「少し違いますよ、マオ」

 

 

みんなにも紹介、という言葉を聞いて、彼らの元へ他のメンバーも集まってきた。それを確認したサトシは、教室に入る前に後ろに隠した彼に前に出るように促した。

 

 

『アローラ!ボクロトム、よロトしく!』

「博士からもらった、ポケモン図鑑にロトムが入ってるんだ」

「へぇ〜、話せるんだ」

「驚いたな。ロトムが図鑑に入っているなんて」

「君、どういうプログラムでできてるの?少し調べさせてくれないかな?」

『え、遠慮するロト』

 

 

電気タイプに詳しく、自身も機械やプログラムに通じているマーマネが、少し悪い笑顔でロトムによっていた。このロトム図鑑、自己学習能力を持っているため、自動でデータをアップデートできる。が、余計なことまで覚えてしまうため、オーキド校長のポケモンギャグまで学習してしまい、サトシたちに呆れられてしまった。

 

 

「それじゃあ、今日の授業はフィールドワークにしよう」

「えっ本当?あたしフィールドワーク大好き!」

「いいな」

「うん」

「えー、僕歩き回るの苦手なのに〜」

「まぁまぁ、これも勉強ですから」

 

 

「フィールドワークかぁ。新しいポケモンに会えるかな、ピカチュウ」

「ピカピーカ!」

『僕にお任せロト。この辺りで野生のポケモンに出会う確率、83%ロト!』

「よーし!ピカチュウ、ロトム、行っくぞー!」

 

 

新しいポケモンに会えるかもしれない。それだけでサトシは盛り上がっていた。すごい勢いで走り出してしまうサトシに追いつくのに苦労したと、彼のクラスメートたちはのちに語る。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ポケモンスクールの裏の森、サトシたち一同はポケモンを探して歩いていた。まだ新しいポケモンをゲットしていないサトシは、どんなポケモンに会えるのかと、期待に胸を膨らませていた。

 

 

「早く会いたいなぁ、新しいポケモン!なんだかこの辺りは出るような気がするんだよなぁ」

「サトシは、どんなポケモンをゲットしたいとかあるの?」

「んー、まだわからないや」

「タイプ相性は考えておいたほうがいいと思いますよ。島巡りをするにしても、バランスのいいパーティのほうが臨機応変に対応できますし」

「俺やマーマネのように、一つのタイプにこだわるのもアリだと思うがな。対策を立てておけば、どんなタイプとも戦える」

「まぁまぁ、こういうのは本人が決めることだし」

「あっ、いた」

 

 

サトシたちがどんなポケモンをゲットするかの議論で盛り上がっていると、スイレンがポツリとつぶやいた。その方向を見るとピカチュウに似ているポケモンがいた。

 

 

「ピカチュウ、じゃないよね?」

「あれはミミッキュです。わたくし、本で読んだことがあります。確かあのポケモンは、」

 

 

『おっと、そこから先は僕にお任せロト!ミミッキュ、ばけのかわポケモン。ゴースト・フェアリータイプ。ピカチュウそっくりの布切れをかぶっていること以外は、正体不明の謎多きポケモン。中身を見ようとした学者は、ショック死したと言われている』

 

 

「よーし、ピカチュウ!ミミッキュをゲットしようぜ!」

「ピッカッチュウ!」

 

 

サトシの肩に乗っていたピカチュウが飛び出した。サトシの初ゲット成功に向けて気合いを入れる。

 

 

「ピカチュウ、アイアンテールだ!」

「ピカ!チュー、ピッカァ!」

 

 

サトシの指示を受けて、ピカチュウがアイアンテールをミミッキュに向けて放つ。フェアリータイプも持つミミッキュにはアイアンテールは効くはず。実際ミミッキュの頭付近に直撃したら、ミミッキュの頭がガクッと下がった。ケケッ、と不気味な笑いが響く。

 

 

「アイアンテールが効いてない!?」

「サトシ!ミミッキュは特性ばけのかわで、一度だけ攻撃を無効化できるんです!」

「そうなのか?」

 

 

サトシとピカチュウが驚き動きが止まる。その隙にミミッキュはじゃれつくでピカチュウを吹き飛ばした。さらに畳み掛けるようにシャドークローが決まる。

 

 

「強いっ、なら接近戦はやめだ!ピカチュウ、エレキボール!」

「ピカピカピカ、チュピィ!」

 

 

尾から放たれたエレキボールを、ミミッキュはピカチュウの尻尾そっくりなもので打ち返した。体制を整えてなんとか交わすピカチュウ。

 

 

「大丈夫か?」

「ピカピカ!」

「よぉし、お次は」

 

 

「ちょっと待ったー!」

 

 

突然バトルを中断させるかのように、声が響いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

突然響いた声に驚いているサトシたちの前に、4つの影が立ち塞がった。

 

 

「なんだお前たちは?」

 

 

「なんなんだお前たちは、と聞かれたら」

「聞かせてあげよう、我らの名を」

「花顔柳腰羞月閉花。儚きこの世に咲く一輪の悪の花!ムサシ」

「飛竜乗雲英姿颯爽。切なきこの世に一矢報いる悪の使徒!コジロウ」

「一蓮托生連帯責任。親しき仲にも小判輝く悪の星!ニャースで、ニャース」

「「ロケット団、参上!」」

「なのニャ!」

「ソーナンス!」

 

 

ビシッ、と新しくかなり長ったらしい口上とともにポーズを決めたのは、我らがお馴染みロケット団だった。

 

 

『ロケット団?宇宙にでも飛んでいくロト?』

「やな感じ〜!なーんて、飛ばないわよ!」

「ロケット団というのはだ、超有名な悪の組織の名だ!」

「そんなことも知らないなんて、困ったポケモン図鑑だニャ〜」

『!!!データなし。喋るニャースを発見。新種のポケモンの可能性あり!』

 

 

そんなやり取りを眺めながらも、サトシを除く一行はポカーンとしていた。

 

 

「悪の組織?」

「聞いたことないけど」

「俺も」

「わたくしもです」

「スカル団みたいなのかな?」

「あいつら、人のポケモンを奪う悪い奴らなんだ」

 

 

その言葉に皆自身のポケモンをかばうように動いた。

 

 

「お前たちのポケモンは、全員俺たちロケット団がもらう」

「ついでにミミッキュもね。あの子見つけたのは、あたしたちが先なんだから!」

 

 

ロケット団からはニャースが飛び出し、ピカチュウを狙った。サトシの指示で、ピカチュウは冷静に対応、宙にいるニャース目掛けてエレキボールを放った。空中での方向転換は、ニャースにはできない。直撃するはずだった。そこへ、シャドーボールが飛んできて、ピカチュウの攻撃を弾いた。ニャースを守るように立ったそのポケモンは、

 

 

「ミミッキュ!おかげで助かったのニャ!」

 

 

どうやらピカチュウを憎んでいるらしいミミッキュは、ロケット団に手を貸すことに決めたようだった。ここからが本当のバトル、とはならなかった。突然現れたキテルグマに、ロケット団の二人がさらわれてしまったのだ。それを追ってニャース、ソーナンス、ミミッキュも退散していった。

 

 

「行っちゃったね」

「なんだったんだろう?」

「結局、ゲットできなかったな」

「大丈夫ですよ、サトシ。アローラ地方には、まだまだたくさんポケモンがいますもの」

「へへっ、そうだよな。よーし、ピカチュウ。ロトム。次のポケモンを探そう!」

 

 

初ゲットとはならなかったものの、ミミッキュという新しいポケモンに出会えたサトシ。次のポケモンは誰なのか、ゲットできるのか。期待に胸を膨らませながら、仲間とともに、さらに森を探検し始めた。

 




サトシハーレムってタグつけた方がいいかな?


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変化への気づき

多分メインはリーリエですかね、ヒロイン

アニメだとまだ他の可能性もありそうですけど


しばらく森を歩くサトシたち。周りの様子を伺いながら、サトシは一人の様子に気づいた。集団の一番後ろで少し怯えるようについてきている彼女。確かに前からポケモンに会うのであれば、そこにいるのが彼女にとってはベストかもしれない。しかしこの森ではどこから来るか、それこそ後ろから来てもおかしくない。

 

 

「なぁ、リーリエ」

「はい?なんですか、サトシ?」

「俺のすぐ後ろに来ないか?」

 

 

「ん?」

「わ」

「えっ」

「へ?」

 

 

「えっ、えぇと」

「ど、どうしたのサトシ?いきなりそんなこと言うなんて?」

「いや、ここってどこからポケモンが出てきてもおかしくないだろ?だから俺がリーリエの前、マオたちで左右、カキが後ろから周りを注意して見ていたら、リーリエも急にポケモンが現れた時に安心かなって。ピカチュウ、悪いけどロトムと前歩いてくれるか?」

「ピカ」

「確かにな。いいんじゃないか?」

「うん」

「なるほどね〜」

「ほらほらリーリエ、こっちこっち」

「マオ、引っ張らないでください。きゃ」

 

 

マオに手を引かれて前のめりになったリーリエが、つまづき転びそうになる。地面にぶつかると思い衝撃に備えて目を瞑る。ポスン、と想像していたのとは違う柔らかい感触にリーリエは驚いた。目を開くと

 

 

「大丈夫か?」

 

 

サトシの声が少し上からした。サトシが受け止めてくれていた、というよりも自分がサトシに倒れ込んでいた。顔が熱くなるのを感じながらも慌てて姿勢を正す。

 

 

「だ、大丈夫です!」

「そっか。ならいいけど」

「ごめんね、リーリエ」

「い、いえ。あの、サトシ、ありがとうございます」

「気にすんなって。よーし、次のポケモンはどこかな?」

 

 

サトシは既にポケモン探しに意識が向いていた。白い肌ゆえにわかりやすい変化、リーリエの顔が少し赤いのにマオは気づいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

森を散策することさらに数分、サトシの前の地面から一体のポケモンが顔を出した。

 

 

「あー!あの時見失ったポケモン!」

『アゴジムシ、幼虫ポケモン。むしタイプ。大きな顎で樹木を削り、樹液をすする。普段は地面の中で暮らす』

「アゴジムシか、よーし。ピカチュウ、ゲットしようぜ!」

 

 

アゴジムシはなかなか手強い。ピカチュウのアイアンテールを顎で弾き、糸を吐いて動きを止めようとしてくる。

 

 

「ジャンプして、10万ボルト!」

「ピーカチュウゥ!」

 

 

渾身の一撃が決まった。体が痺れているようで動かないアゴジムシ。すかさずサトシがモンスターボールを投げる。ボールの中に入るアゴジムシ。あとはゲットできるかどうか。だが、

 

 

「あぁっ!?」

 

 

アゴジムシはゲットされず、ボールから飛び出して地面に潜ってしまった。しかし戦いから逃げたわけではないようで、付近を潜っている跡が見える。

 

 

「ここは、アイアンテールで地面を。いや、それだとみんなが危ない。なら、ピカチュウ。アゴジムシが出てきたところを狙って、でんこうせっかだ!」

 

 

周囲に気を貼るサトシとピカチュウ。アゴジムシが飛び出てきたのは。

 

 

「ひゃあっ!」

 

 

リーリエのすぐそばだった。思わずマオの後ろに隠れるリーリエ。

 

 

「もう、あい変わらず怖がりなんだから」

「ここ、怖くはありません。わたくし、学びの対象としてポケモンが大好きで、」

 

 

とここでマオとリーリエを壁にしたかのような状態でアゴジムシがピカチュウへ糸を吐いた。でんこうせっかを使って初撃をよけたピカチュウ。そのまま攻撃しようとしたが、攻撃に驚いたリーリエが後ずさり、ぶつかりそうになったピカチュウの動きが止まってしまった。そしてその隙に、アゴジムシの吐いた糸が足に巻きついた。

 

 

「ピカチュウ!」

『丈夫なアゴに注意ロト!』

 

 

しかしうまく身動きが取れないピカチュウはアゴジムシの攻撃を食らってしまった。さらに先のミミッキュとの戦闘での疲労もあり、倒れてしまった。逃げていくアゴジムシ。

 

 

『ピカチュウ、ダメージ確認、ダメージ確認』

 

 

すぐに駆け寄るサトシたち。本人は笑顔で大丈夫と一鳴きしたが、回復させたほうがいいのは見てわかる。

 

 

「あたし、ポケモンセンターに案内するよ」

「頼むぜ、マオ」

「サトシ、俺たちはスクールに戻って、ククイ博士に事情を伝える」

「サンキュー、カキ」

 

 

ピカチュウを抱えてポケモンセンターに向かおうとするサトシ。そこへリーリエが申し訳なさそうに声をかけた。

 

 

「あの、サトシ。ごめんなさい」

「え?」

「わたくしが邪魔をしてしまったせいで、ゲットも、ピカチュウも」

「気にすんなって。大丈夫だから」

「ですが、」

「大丈夫。チャンスはまたあるし、ピカチュウだってポケモンセンターですぐに元気になるよ。心配すんな」

「あの、わたくしも一緒に行かせてください。やっぱり、その、わたくしのせいで・・・」

「わかった。リーリエがそうしたいなら、一緒に行こう。いいよな、マオ」

「うん。それじゃあカキ、あたしたちが行くこと、伝えておいてね」

「案内なら一人でもいいだろ。まぁ、いいけどな」

 

 

というわけで、サトシ・マオ・リーリエはピカチュウを連れてポケモンセンターへ、カキ・スイレン・マーマネはポケモンスクールへ戻ることとなった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ポケモンセンター。ピカチュウをジョーイさんに預けたサトシは、そのお手伝いをしているハピナスとキュワワーと触れ合ったり、裏のバトルフィールドでゲッコウガとともにバトルに挑んでいた。これをチャンスとばかりに、マオは少し気になっていることを聞いてみることにした。バトルフィールドのサトシとゲッコウガのことをずっと眺めているクラスメートに。

 

 

「ねぇリーリエ?ちょっといいかな?」

「はい、なんですかマオ?」

 

 

振り向くリーリエ。ちらりとマオはサトシのほうへ目線を向ける。相手のハッサムのシザークロスを難なくかわすゲッコウガ。キズぐすりを使っているとはいえ既に3戦目、だというのに全く疲れを感じさせないゲッコウガはすかさずつばめ返しを決めていた。サトシはバトルに集中しているようで、まだしばらくは時間がありそうだ。そう判断したマオは本題に入ることにした。

 

 

「リーリエ、なんだか急にサトシと仲良くなったよね?朝だって一緒に登校してきていたし、何かあったの?」

「いえ、その。昨日少しお話をしたんです」

「お話?」

「はい。その時にスカル団がまた現れて」

「スカル団が!?大丈夫だったの?」

「はい。サトシがゲッコウガと一緒に助けてくれました。1対9のあの状況で、サトシは逃げようともしないで、大丈夫だって言って。それに、本当に勝ってしまったんです」

「そうなの?サトシやるじゃん!」

「はい。そのあと、わたくしがポケモンに触れずにいることについて少し。そしたら、サトシは協力してくれるって言ってくれました」

 

 

サトシのことを話すリーリエは、彼女が大好きだというポケモンについて話す時よりも、どこか嬉しそうだった。その様子にマオは一つの仮説を立てる。これはこれは、もしかすると・・・

 

 

「よかったね、リーリエ」

「はいっ!わたくし、頑張ります!・・・た、たぶん」

 

 

「お~い二人とも、ピカチュウたちも元気になったし、戻ろうぜ!」

 

 

いつの間に受け取りに行ったのだろうか、サトシが肩にピカチュウを乗せながら歩いてきた。

 

 

「おっけー」

「はい」

「ゲットはまた明日挑戦だな!明日はスクールもお休みの日だし、絶対ポケモンゲットするぞ!」

 

三人は急いでスクールに戻り、その後の授業を受けた。

 

 

 

 

放課後、並んで帰りながら何かを話している二人。それを見ながらマオは少し考え事をしていた。リーリエが変わり始めている。それも、この数日間だけで。理由はきっと、いま彼女と一緒に帰っているあの少年。何をしたのだろうか。考えてもわからない。確かにバトルは強いし、ポケモンに対する愛情も深い。でも、それはカキだってそうだし、ポケモンを好きなのはスイレンやマーマネ、自分だって変わらないと思う。それでも、リーリエは彼の影響を受けて、確実に変わっている。

 

「サトシって・・・本当はどんな人なんだろう」

 




ヒロインたちみんないいですよね

皆さんはどの子が一番好きですか?


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そこだ決めろ、ゲットだぜ!

モクロー、飼いたいな〜

そんでもふもふしたい

もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ

多分飽きないな、これ


翌日、朝も早くからアイナ食堂でご飯を食べているのは、

 

 

「今日こそ絶対ゲットだぜ!」

「張り切ってるね、サトシ」

 

 

サトシとマオだ。リーリエは自室で勉強を、博士は外で研究をするとのことで、サトシは腹ごしらえにアイナ食堂にお邪魔していたのだ。

 

 

「ロトム、この間の場所はどんな感じ?」

『ポケモンスクール裏の森、野生のポケモン出現確率、86%ロト』

「いいんじゃない?あたしがアマカジと出会ったのも、その森だったし」

「カジ〜」

 

 

ふわりと甘い香りが漂う。マオの連れているアマカジというポケモンは、その身から美味しそうな香りを放つ。その香りにピカチュウはとろ〜んとした表情を浮かべ、サトシたちも安らいだ気持ちになっていた。と、急にアマカジが険しい表情に変わり、空を見上げた。つられてサトシたちが見上げると、一羽のポケモンがアマカジめがけて急降下してきていた。先に来ていることを察知できたアマカジは、頭の葉を刃のように回転させ、そのポケモンを弾き飛ばした。

 

 

「なんだ、あのポケモンは?」

『僕にお任せロト!モクロー、草羽ポケモン。くさ、ひこうタイプ。昼に光合成で力をためる。一切音を立てず飛行し、敵に急接近、気づかぬ間に強烈なけりを浴びせる・・・はずロト。』

 

 

少し最後のほうに勢いがなかったのは、再びアマカジに向かって言ったモクローがあっさりと弾き飛ばされてしまったからだ。

 

 

『こっちは敵にしっかり気づかれているうえに、強烈なけりを浴びせるどころか、逆に強烈な攻撃を浴びてるロト・・・』

「あたしのアマカジ、こういうの慣れてるからな~。甘い匂いで本物のきのみと勘違いされちゃうこと多いみたいで」

「それですぐに対応できたのか・・・」

 

 

三度目の正直、とばかりに突っ込むモクロー。しかしながらこの言葉と対になっているともいえる、二度あることは三度あるなわけで、モクローはまたまた吹き飛ばされ、電線に目をまわしながらぶら下がっていた。これにはピカチュウも、思わず苦笑。

 

 

「もしかして、すっごいおなかが減ってるとか?あっ!」

 

 

足の力が緩んだようで、モクローは電線から離れ、まっすぐ地面に向かって頭から落ちていった。それを見たサトシはテラス席の柵をあっさり乗り越え、ダイビングでモクローを無事にキャッチした。けがはなかったようだが、モクローは疲れもあったのか、そのまま気を失ってしまった。

 

 

「サトシ!大丈夫だった?」

「あぁ、モクローなら無事だよ。けがもしていないみたいだし」

「そっか。それならよかっ、って、サトシが怪我してるじゃない!」

「えっ?」

 

 

よく見ると、両腕の肘あたりが擦ったような怪我をしていた。先ほど、モクローをキャッチする際に、下のコンクリートで少しばかり腕を擦ってしまったようだ。

 

 

「平気さ、このくらい」

「だめだよ。小さな傷でも、ばい菌とか入ったら大変なんだから。こっちに来て。あたし、手当てするから」

「ありがとう、マオ」

 

 

サトシはモクローを自分のリュックを下に敷き、その上に寝かせた。そしてテラスの席に座ってマオを待った。少しして、救急箱をもってマオが戻ってきた。

 

 

「ほら、ちょっと見せて。あ~、結構広く怪我してる。ちょっとしみると思うけど、我慢してよ」

「わかってるよ。っててて」

「もう、無茶しちゃって。モクローもサトシも大したことなかったからよかったけど、下手したらサトシがもっと怪我してたかもしれないんだよ」

「でも俺が行かなかったら、もしかしたらモクローが大怪我してたかもしれないだろ」

「あのねぇ、ポケモンは人間よりもずっと丈夫でしょ?人間だったら大怪我するような技を受けても平気な子とかもいるし。確かに怪我させたくないと思うのはわかるけど、それでもサトシのほうが大怪我する可能性のほうが高いんだよ?」

 

 

マオには少しわからないところがあった。確かに自分だってポケモンが好きだし、できれば怪我をするところを見たくないとも思う。しかしポケモンと人間では、体の丈夫さに圧倒的な差がある。確かにモクローがあの高さから落ちていたら怪我をしていたかもしれないが、すぐ近くにあるポケモンセンターに連れて行けばすぐに良くなっていただろう。実際、地球投げなどの空中からたたきつけられるような技だってあるのだ。戦闘不能にこそなれども、死ぬことはなかっただろう。

 

 

一方サトシは人間だ。どれほど体が丈夫でもポケモンと比べると、その強度には歴然とした差が生じるのだ。あの高さから落下するモクローをキャッチしようとする時点でむちゃくちゃだ。下手をすれば自分が大怪我を負っていたかもしれない。今回は本当に運がよかったのだ。そうサトシは理解していないみたいだ。

 

 

「確かに、マオの言う通りかもしれない。けどさ、どうしようもないことなんだよ」

「えっ?」

「俺、昔からポケモンが大好きなんだ。旅の途中でもいろんなポケモンに出会ったんだけど、結構危ない目にあっているポケモンもいてさ。そんな時には、もう考えるよりも先に体が動いてる。助けなきゃ!って思ったら、みんなが止める声も聞こえなくなってる」

「でも、本当に危ないんだよ」

「うん、知ってる。実際、俺も助けようとしたからすっげぇ危ない目に合うことだって少なくなかったし」

「だったら、どうして?」

「う~ん。理由なんて、特にないんだと思う。ただ、その時に助けたいと思ったら、体が勝手に動いているだけなんだ」

 

 

そう言って笑う彼には恐怖も迷いもなかった。彼は本当に、ただ助けたいと思っただけなのだろう。安全な方法を考えようだとか、危険だからやめておこうだとか、そんなことは考えたこともないのかもしれない。それらの考えをすべて飛ばして、彼を動かしているのは、なんなのだろう。これほどまでにポケモンのために行動する人を、マオは見たことがなかった。島キングや島クイーンの人を何度か見たことはあったけど、それと同等、いやそれ以上にポケモンのことをまず考えて行動しているように見える。

 

 

「そっか。でも、これからはちゃんと考えてね。あたしたちも心配するし」

「ごめんな。頑張って考えるようにはしてみるけど、止まらなかったらごめん」

 

 

そういった彼は確かに少し反省、というか気を付けようとして入るみたいだ。けれども、気を付けるように伝えていながらも、マオはきっとそれは無理なことなのだろうと思っていた。サトシにとっては、きっとそれが当たり前のことだったのだから。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

しばらくすると、気を失っていたモクローが少し動き始めた。様子を見るサトシ。ゆっくりとモクローの目が開かれた。

 

 

「大丈夫か?よかった、気が付いて」

 

 

しばらく状況がわからずにぼけーっとしていたモクローだったが、意識がはっきりとしたようでサトシのリュックの感触を少し確かめると、隣に置いてあった果物にかぶりついた。

 

 

「すっげぇ食欲だな」

『食べる量、スピードともに驚異的レベルロト・・・』

「これも食べるか?」

 

 

サトシが皮をむいたきのみを差し出すと、モクローはサトシの腕に飛び移りそのまま食べ始めた。体を固定し、バランスを維持するためにモクローは足でサトシの腕をつかむ。予想外に強いその締め付けに、一瞬だけサトシは顔をしかめると、その痛みを顔に出さずにモクローにきのみをあげ続けた。

 

 

おなかがいっぱいになったモクローは、幸せそうな表情をしていた。その様子を見たサトシは手をモクローの頭にのせてそっと撫でた。スクールのケンタロスのように、モクローも撫でてくれるその感触に、さらに幸せそうな表情になっていた。

 

 

「やわらかいな、お前。羽というより、まるで毛みたいだな。ふかふかしてて気持ちいいな」

「モクローも、サトシに撫でてもらえてうれしそうだね。あたしもいいかな?」

「いいか?モクロー?」

「クロー」

「いいってことかな?ほら、マオ」

「わぁっ、本当にふかふか。手触りがいいね」

 

 

しばらく撫でたあと、二人は手を放した。そしてサトシはモンスターボールを取り出して、モクローにゲットしてもいいかと聞こうとしたが、どこか慌てていたのか、きのみを一つとって、モクローは森のほうへ飛んで行ってしまった。

 

 

「行っちゃったね・・・どうする、サトシ?」

「もちろん、追いかけようぜ!俺、あいつをゲットしたい!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

モクローを追いかけて森の中を進むサトシたち。そこで彼らが見たのはモクローと一緒にいる、多くの鳥ポケモンたちの姿だった。

 

 

『僕の出番ロト!ツツケラ、きつつきポケモン。ノーマル・ひこうタイプ。秒間16連打で木をつついてあけた穴に、食料を貯蔵する。ケララッパ、ラッパぐちポケモン。ツツケラの進化形。口にため込んだきのみの種を、敵や獲物に、一気に発射する。ドデカバシ、おおづづポケモン。ケララッパの進化形。発熱させた嘴の温度は100度を超え、つつかれただけでも大やけどする』

 

 

ロトムが解説している間に、ドデカバシの前にいたモクローが飛んできて、サトシのリュックの中に納まった。

 

 

「お前、こんなにたくさん仲間がいたんだな」

 

 

そうして彼らが和んでいると、どこからか網が飛んできて、ツツケラやドデカバシたちを捕まえてしまった。

 

 

「なんだ!?」

 

 

 

 

「な、なんだ、と言われたら」

「聞かせてあげよう、我らの名を」

「花顔柳腰羞月閉花。儚きこの世に咲く一輪の悪の花!ムサシ」

「飛竜乗雲英姿颯爽。切なきこの世に一矢報いる悪の使徒!コジロウ」

「一蓮托生連帯責任。親しき仲にも小判輝く悪の星!ニャースで、ニャース」

「「ロケット団、参上!」」

「なのニャ!」

「ソーナンス!」

 

 

 

「あんたたち、この前の!」

「ロケット団!ツツケラたちを放せ!」

「そうはいかないわジャリボーイ。こいつらはキテルグマの食料をとったんだもの」

「一宿一飯の恩義故、取り返させてもらうぜ!」

「そしてピカチュウも一緒に、サカキ様にプレゼントするのよ。ミミッキュ、お願い!」

 

 

ムサシの投げたゴージャスボールから、この前のミミッキュが現れた。前回の戦いでもかなり強いことが分かったミミッキュがロケット団の仲間になったことに、気を引き締めるサトシとピカチュウ。

 

 

「ミミッキュ、なんでもいいからやっちゃって!」

「ピカチュウ、エレキボール!」

 

 

ムサシの声に反応し、ミミッキュはシャドーボールを放った。それに対抗するように、サトシはピカチュウにエレキボールを指示、二つの技がぶつかり合い、爆発が起きる。

 

 

「モクロー、今のうちに仲間を助けるんだ」

 

 

その爆風の中、これをチャンスと見たサトシは、ロケット団にまだ気づかれていないモクローにツツケラたちを助けるように指示した。モクローはその足のひと蹴りでツツケラたちを捉えていた網を切り裂いた。図鑑にあった通り、モクローの脚力は驚異的なものだ。

 

 

一方ピカチュウはミミッキュの攻撃によりピンチに陥っていた。このミミッキュ、今までのロケット団の手持ちの中でもトップクラスの実力を持っていると言っても過言ではなさそうだ。ミミッキュのシャドークローが、ピカチュウに決まろうとしていたその時、ピカチュウの周りを葉っぱがまるで守るかのように舞い上がった。

 

 

「モクロー!」

「この技って、このは?」

 

 

ピカチュウの窮地を救ったモクロー。ピカチュウを見失い、無防備になっていたミミッキュの隙をつき、10万ボルトが決まった。それでもなお挑もうとするミミッキュ。すると大きな手がミミッキュを含むロケット団をとらえた。

 

 

「あれ?」

「これってなんだかデジャビュ?」

「「って、やっぱりキテルグマ!?」」

 

 

前回同様、突然現れたキテルグマによって、ロケット団は全員連れ去られてしまった。

 

 

「「「なにこの感じ〜」」」

「ソーナンス!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「・・・行っちゃったね」

「・・・あぁ」

「ピーカチュ」

 

 

今までのロケット団とは全く違うその退場の仕方に、サトシは呆気にとられていた。ピカチュウに至っては、なんだか少し物足りなさを感じているあたり、彼らの長い付き合いぶりがわかる。

 

 

ちらりとサトシはモクローの方を見る。ツツケラたちに囲まれ、ケララッパに頭を撫でられ、それをドデカバシが見守る中、モクローはとても嬉しそうに、楽しそうに、そして幸せそうに笑っていた。その光景を見てサトシは理解した。モクローにとって、ツツケラたちがどういう存在なのかを。

 

 

「モクロー」

 

 

サトシが声をかけると、モクローは飛んできて肩に止まった。サトシの頬に体を摺り寄せるモクロー。

 

 

「お前のおかげで助かったよ。仲間たちも、ちゃんと助け出せたしな」

「うんうん。かっこよかったよ!」

『驚異的な蹴りだったロト!』

「ありがとな、モクロー」

 

 

サトシたちに褒められ、誇らしげに胸を張るモクロー。そんなモクローを少し撫でた後、サトシはそっとモクローを巣の近くの地面に降ろした。

 

 

「じゃあな。帰るぞ、ピカチュウ、ロトム」

 

 

その言葉にピカチュウたちは驚いた。あれほどモクローをゲットしたいと言っていたのにもかかわらず、サトシはモクローに別れを告げたのだから。

 

 

『帰る!?ゲットしないロト?』

「サトシ、どうしたの急に?あんなにモクローをゲットするって言ってたのに」

『理解不能、理解不能』

 

 

モクローに背を向けたまま、サトシは伏せ気味だった顔を上げた。そこには後悔はない。自分の決断に迷いがなかった。

 

 

「これでいいんだ。だってあいつには、こんなにたくさんの仲間がいる。あいつら、みんな家族なんだよ。姿は違うかもしれないけど、それでも確かに親子で、兄弟なんだ。だから、いいんだ」

 

 

そう言ってサトシは歩き出した。モクローたちに背を向けて。その後をロトムたちは追いかけた。

 

 

 

 

 

 

振り向かずに進むサトシの後ろ姿を見つめながら、マオはサトシについて考えていた。

 

 

ゲットしたいポケモンが目の前にいるのに、そのポケモンの幸せのために、彼は身を引いた。自分自身の願いを優先することなく、ポケモンの幸せを第一に考えたその行動。それが不思議でたまらなかった。

 

 

今まで、マオはスクールでゲットすることについて学んできたし、今腕の中にいるアマカジと出会い、バトルし、ゲットした。今では一番の仲良しのこの子も、あの時のバトルではまだ自分に対して警戒心を持っていた。それは当たり前のことで、ゲットしてから信頼関係を築くものだとずっと思っていた。

 

 

けれどもサトシはそんな考えからはずっと離れた存在だった。初めて会ったばかりの野生のポケモンのために身を犠牲にする覚悟があり、そのポケモンの心をすぐに開いた。ゲットされていなくとも、モクローのあのなつきぶりは、とても野生のポケモンとは思えないほどだった。サトシがモクローを大事に思っていて、モクローもサトシが大好きなのは明白だった。後はバトルしてゲットするだけ。だというのに、家族と幸せそうにするモクローを見て、サトシは自分の願いよりも、モクローの幸せを優先した。何よりも、自分自身よりも、ポケモンを優先する彼。今までに出会ってきたどんなトレーナーとも違う。

 

 

 

 

 

 

バサリ、と羽音がして一つの影がサトシのリュックに潜り込んだ。バッと顔を上げて後ろを向くサトシ。そのリュックから顔を出してサトシを見つめていたのは、

 

 

「クロ〜」

「モクロー!?」

 

 

先程別れを告げたばかりのモクローだった。

 

 

「お前、どうして?」

 

 

サトシの問いに答えるように、モクローは羽で巣の方をさした。そこにはツツケラたちとケララッパが翼を振り、ドデカバシがサトシを見据え、小さくうなづくのが見えた。行ってらっしゃい、元気でな、気をつけて。そんな声が聞こえてくるかのようだった。ドデカバシのうなづきの意味を理解したサトシは、もう一度モクローに確認することにした。

 

 

「お前、俺と一緒に来たいのか?」

「クロッ」

 

 

サトシに抱きつき身体をすり寄せるモクロー。自分で決めた答えをサトシに伝えるために。

 

 

「そっか。俺も、本当はお前と一緒に行きたいって思ってたんだ!」

 

 

リュックから飛び出したモクローがサトシの前へ飛び出す。そして何かを待っているかのようにとどまり続けた。

 

 

『何をしてるロト?』

「へへっ、モクロー。一緒に行こうぜ」

 

 

そう言って取り出したモンスターボールでそっとモクローに触れた。ボールの中にモクローが入り、ポンッという音を立てて、中央の光が消えた。

 

 

「モクロー、ゲットだぜ!」

「ピッピカチュウ!」

 

 

『ロトォォ!?』

「えぇぇっ!?」

 

 

二つの驚きの叫びが響いた。

 

 

『こんなゲット、ありロト!?』

「ありだよ!出てこい、モクロー!」

 

 

つい今しがた自ら入ることにしたサトシのボールから出されるモクロー。そのままサトシのリュックに一直線に潜り込んだ。

 

 

「そんなに俺のリュックが気に入ったのか?」

 

 

そう問いかけるサトシには答えず、満足そうな表情を浮かべるモクロー。それだけでサトシには十分だった。

 

 

『リュックが好きなモクローもいる、情報アップデート』

「これからよろしくな、モクロー!」

 

 

こうして彼らはツツケラたちに別れを告げて、森の出口へ歩いて行った。新しい仲間、よく食べておっちょこちょい、でも仲間のためならすごい力を発揮する、モクローとともに。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ねぇ、サトシ?」

「ん?なんだ、マオ?」

 

 

戻る途中、マオはどうしても聞きたくてサトシに話しかけた。

 

 

「どうしてそんなに自分よりもポケモンを優先できるの?」

「えっ?どうしてって、」

「モクローのこと、ゲットしたいって言ってたのに、モクローの幸せのために諦めようとしたり、一歩間違えれば大怪我するかもしれないのに身体を張ってポケモンを助けようとしたり。どうして?」

 

 

マオの問いかけにサトシはしばし考え込んだ。やっと口を開いた彼の答えは、とても簡単で、単純で、まっすぐで、真っ白なものだった。

 

 

「ポケモンが好きだから、かな?」

「それだけで?」

「そんな感じかなぁ?やっぱりさ、ポケモンたちには幸せでいてもらいたいからさ。俺が楽しいから、嬉しいからっていう理由でポケモンの幸せを壊すようなことはしたくないし、怪我とかもして欲しくないんだ。そりゃあ、別れるのが悲しいことだってあるし、自分が痛い思いをするかもしれないけどさ、それでも、ポケモンたちが傷つくのを見るよりも、その方がずっといいかな」

 

 

先程も感じた深い愛情、それをマオは再び強く感じていた。あぁ、なんでだとか、どうしてだとかはないのだろう。理屈も、理由も、思考も、主義も何もない。あるのはただ、純粋なポケモンへの思い。自分のゲットしたポケモンのみならず、友達のポケモン、バトル相手のポケモン、野生のポケモン問わず向けられている、まっすぐで曇りのないその愛情こそが、彼の強さと優しさに表れているのだろう。それこそが、カプ・コケコに彼が気に入られた理由なのかもしれない。

 

 

何も飾らないその言葉を放った笑顔もまた、気取った様子もなく、純粋な思いで溢れたものだった。ドキリ、と心臓が少し高鳴るのをマオは感じた。少し顔に熱がこもるのも。

 

 

「マオ?顔が赤いみたいだけど、大丈夫か?」

「えっ?」

 

 

自分の褐色の肌は、リーリエと違ってそんなに血色の良し悪しがすぐに表れることはない。だというのにサトシに指摘されたということは、それだけ自分の顔が赤くなっているということだろう。心臓の鼓動がさらに速くなる。

 

 

「うぅん、なんでもないなんでもない!なんか、サトシって本当にポケモンが大好きなんだなぁって」

「そっか?まぁ、そうだな!」

 

 

再び前を向いて歩き出したサトシ。その後ろをついていきながら、マオはその後ろ姿をずっと眺めていた。サトシのこういうところが、リーリエにも影響を与えたのだろうか?

 

 

なんか、少しかっこいいかも・・って、

 

 

「あたし、何考えてるの!?」

「えっ、マオ?急にどうしたんだ?」

「だ、大丈夫だから!ごめん、本当になんでもないから!」

 

 

結局、マオの顔の熱が引いたのは、サトシと別れてから数時間後、寝る直前のことだった。




今回はマオちゃんメインですな

こういう関係もあり?


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課外授業と夢

スイレンのターン

ヒロインズみんな可愛いから描きがいありますね


サトシがアローラ地方に来てから、しばらくたつ。今日も元気にククイ博士の家を飛び出したサトシは、イワンコにあいさつをして、スクールへ向かった。ちなみにリーリエはマオが話があるとか何とかで、一足先に向かっている。

 

 

「今日も一日、張り切っていこうぜ、ピカチュウ」

「ピィカチュウ!」

「ん?あれは・・・」

 

 

海岸付近を通っていたサトシの目に見慣れた影が二つ入った。他に誰もいない砂浜の上でしゃがみこんでいる女の子と、青い体をしたポケモン。

 

 

「お~い、スイレン、アシマリ!アローラ!」

 

 

サトシの声を聴き、スイレンたちは顔を上げる。と、目に留まったのはアシマリが膨らませているバルーンだった。練習でもしているのだろうかと考えるサトシ。

 

 

「サトシ、ピカチュウ。アローラ」

「アウ、アウ!」

 

 

と、アシマリの集中力がこちらに向いてしまったためバルーンが破裂してしまった。こてん、と転がって海に落ちてしまうアシマリ。しかし何事もなかったかのように飛び出してくるあたり、さすがはみずタイプのポケモンである。

 

 

「ごめん!大丈夫だったか?」

「うん、アシマリなら大丈夫」

「そっか。じゃあ俺先行くな。また後で!」

「うん!」

 

 

アシマリに怪我がなかったことを確認して、サトシは先に学校に向かうことにした。何をしているにしても、自分たちがいては邪魔になってしまうかもしれないと思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

学校につくと、すでにほかの四人は到着していたようだ。挨拶をしたサトシは自分の席でリュックを開けた。と、

 

 

「うぉっとっと!」

 

 

ころり、と落ちそうになったポケモンをキャッチするサトシ。言うまでもなく、つい先日仲間になったばかりのモクローである。本当にサトシのリュックの中が気に入っているらしく、隙あらばいつでも中に潜り込んで眠るようになった。サトシとしてはかわいいやつだな、と特に問題には感じていなかった。が、つい先日、そのことを知らなかったリーリエに、リュックから物を取ってほしいと頼んだ時にいろいろあったのはまた別の話。

 

 

「まったく。リュックの中で寝るときは気をつけろよ、モクロー」

 

 

そういっておきながらもモクローが起きないように、カバンの中身を取り出してからそっと入れてあげているサトシ。モクローの頭を優しく撫でている彼の父親のようなその表情に、約二名少し赤面していたがそれ以外は特に朝は何も起きず、いつも通りに授業が始まった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「明日の課外授業は、海のポケモンたちとの触れ合いがテーマだ。みんなで沖に出るぞ」

 

 

と、帰りのホームルームの時にククイ博士から連絡事項が伝えられる。周りを海に囲まれているこのアローラ地方、サトシも一度潜ってはいるが、それでも興奮せずにはいられなかった。

 

 

「さて、海といえばスイレンだ。明日はスイレンに、特別講師を頼んでいる。よろしくな、スイレン」

「はい、頑張ります」

「そういえばスイレン、俺と初めて会った時も釣りしてたよな」

「うん、そうだったね」

「この子はね、釣りの達人だからね~。海のポケモンにも詳しいんだ」

 

 

友達のことを自慢できるのがうれしいのか、マオが笑顔でスイレンのそばまでやってきた。マオに褒めてもらえてスイレンもうれしそうだ。本当に仲がいいな、と思わず笑みがこぼれるサトシ。少人数で授業を受けているからか、実際クラスメートたちは本当に仲がいい。自分もその輪の中に入れているかな?そんなことも少し思う。

 

 

「へぇ~。すごいんだな、スイレンって」

「そ、そうかな?わたし、海のポケモンが好きなだけだし・・・」

「何言ってんだよ。好きなことをちゃんと極められてるってかっこいいし、すごいことじゃんか」

「・・・ありがとう」

「うんうん、スイレンはすごいんだよ!」

 

 

その様子をリーリエたちは微笑ましく思い、しばらく見守っていた。そこでふと、マーマネが気になっていたことを問いかける。

 

 

「釣りだと、ポケモンに触ることになるよね?大丈夫、リーリエ?」

 

 

ポケモンに触ることができないリーリエ。釣ったポケモンもそうだが、今回はライドポケモンに乗って移動するのだ。なかなか厳しい状況にも思える。しかしリーリエは自信満々の表情だった。

 

 

「問題ありません!秘密兵器を用意していますから!」

 

 

その自信満々な顔と、今の発言。サトシは、なんだか少しシトロンを思い出すな、と思った。

 

 

「秘密兵器?それってどんなの?今日帰ったら見せてくれよ!」

「それは、明日お見せするということで」

「でも、それなら安心だね」

 

 

アシマリを抱えてリーリエのほうを向くスイレン。が、ここでアシマリがスイレンの腕の中から飛び出し、あろうことかリーリエの膝の上に着地した。本人には至って悪気はないのだろうし、他の人なら特に問題はなかっただろう。しかしリーリエ、それも突然のことだったために、リーリエは完全にフリーズしてしまった。

 

 

「わぁぁ!アシマリったら・・・」

「おっと。気を付けてくれよ、アシマリ」

「ごめん、リーリエ。アシマリもごめんなさいだよ」

「い、いいんですよ」

 

 

なんとか意識を取り戻すリーリエは、すまなそうにするスイレンとアシマリに気にするなというように微笑みかける。と、彼女は自分の手が何かをつかんでいたのに気づく。どうやらびっくりしたときに無意識に何かをつかんでしまったようだ。前にも感じたことのあるような温かさと心地よさがあるそれは、

 

 

「え~と、リーリエ。そろそろ席に戻りたいんだけど」

 

 

サトシの手だった。リーリエの視線が動く。手を見て、サトシを見て、手を見る。何度かこれを繰り返したあと、ようやく状況が正しく呑み込めたのか、

 

 

「わひゃあ!ごごごご、ごめんなさい!」

 

 

と割と大きな声を上げながら手を放した。

 

 

「いいって。びっくりしたもんな。しょうがないさ」

 

 

サトシは笑って答える。その笑顔を見て顔を少し伏せたリーリエは小さな声で

 

 

「ありがとうございます、サトシ」

 

 

と返した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ホームルーム後、サトシは一緒に帰っていた・・・スイレンと一緒に。

 

 

あの後、全員が落ち着いたのを見てククイ博士が最後の連絡と解散の合図をしたのだ。その時に釣竿を持ってくるようにと言っていたが、残念ながらサトシは持っていなかったのだ。そこで家にたくさん釣竿が置いてあるスイレンに一つ貸してもらうことになって、今一緒に向かっている最中だ。

 

 

「あの、ちょっと寄り道してもいいかな?」

「寄り道?いいぜ」

 

 

やってきたのは砂浜。アローラ地方のリゾートのそれとは違って、このあたりには店もなく、人もあまりいないため、なんだかプライベートビーチのように思えた。

 

 

「そういえばさ、朝のあれ、二人で何してたんだ?」

「あれはね、アシマリとバルーンをつくる練習をしていたんだ」

「バルーン?」

『アシマリは、水でできたバルーンを操ることができるロト』

「そうなのか。いつもここで練習しているの?」

「うん。ここ、私とアシマリの場所」

「場所?」

「そう。会ったの、ここで」

 

 

そしてスイレンはサトシに二人の出会いについて話してくれた。スカル団にいじめられていたアシマリを、スイレンが助け、そこから二人がパートナーになったこと。それはどこかサトシが今まで出会ってきたポケモンにも似ていて、サトシはそんな中でも二人が出会えたことが、自分のことのようにうれしくなった。

 

 

「よかったな、アシマリ。スイレンと出会えて」

「アウ!」

「バルーンの練習、頑張れよ!俺も応援してる」

「ありがとう、サトシ。うまくできるようになったら、サトシも入れてあげる。バルーンに」

「へ?入れるって?」

「夢があるの」

「夢?将来なりたいものとか?」

「うぅん。私の、私たちの夢はね、大きなバルーンの中に私が入って、海の中、どこまでも、どこまでも行くこと。そしたらきっと、誰も見たことない、深海のポケモンにも会えるかも」

 

 

スイレンが語った夢は将来像とは違ったが、彼女が心の底から望み、目指しているものなのだということが伝わってくる。毎日毎日、朝も夕方も、バルーンの練習をしているのが容易に想像できる。

 

 

「いいなそれ、俺もやってみたいな」

「大きくしようね、アシマリ」

「アウ!」

『でも、アシマリは通常、小さなバルーンしか作れないロト』

 

 

図鑑に記されているデータは、これまでに観察されてきた、それぞれのポケモンの総合的なデータ。そこにある情報の正確性は高く、ほとんどの場合はそこから外れることはない。アシマリというポケモンが人が入れるほど大きくて、強度のあるバルーンを作り出すのはほとんどケースがなかったのだろう。けど、

 

 

「そんなのやってみないとわからないだろ?スイレンとアシマリならできる!」

『きわめて非論理的な理屈ロト・・・』

 

 

ロトムが言うように論理としてはまるで何も成り立ってはいない。サトシが言っているのは結局のところは理屈はないのだ。ただ彼はスイレンたちならその夢を叶えられると、叶えられるだけの努力をしてきたんだと信じているのだ。クラスメートになってからまだ一週間かそこらしか経っていないのに、である。しかし純粋に信じている人の言葉とは不思議なもので、どれだけむちゃくちゃなことを言っていても、理屈や論理をすっ飛ばしていても、人の心に届き、信じられる。

 

 

「うん!アシマリ、練習してみよう。今度はゆっくりね」

「アウッ!」

 

 

サトシたちが見守る中、アシマリはバルーンを膨らませ始めた。徐々に大きくなるバルーンは、今までにないくらいの大きさにまで膨らんだ。ついに成功したか、と思いきや。バルーンはサトシたちの頭の真上で破裂してしまった。どうやらまだまだ強度が足りない模様。ついでに言うと、サトシたちは破裂したバルーンを形成するために使われた大量の水を直接かぶってしまい、水浸しになってしまった。

 

 

『やっぱり、非論理的ロト』

 




アシマリ、ポッチャマと同じで進化しないのかな?

でもしたらしたで綺麗だと思う


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ホウとスイ

妹たちの登場ですな

本編よりもっと絡みます笑


しばらく練習をした後、サトシたちはスイレンの家に向かった。海のすぐ近くにあるその家の外、普通の家で言えば庭っぽいあたりに、ラプラスがいた。サトシとスイレンが初めて会った時にもいたそのポケモンに、サトシは声をかけてみた。

 

 

「アローラ、ラプラス!明日よろしくな」

「フゥーン」

 

 

手を伸ばしそっとラプラスを撫でる。懐かしいその感触に少し昔を思い出しながらやさしくなでる。

 

 

「サトシ、ラプラスにも慣れてるの?」

「あぁ、昔一緒に旅をしたことがあったんだ。今は群れに帰っちゃったんだけど、一緒に旅したのは、本当にいい思い出だよ」

「そうなんだ・・・また今度、詳しく話聞かせてね」

「あぁ、そうだな」

 

 

一通りラプラスを撫でたサトシは、もう一度ラプラスに明日よろしくといい、スイレンの後を追って家の中に入った。

 

 

「ただいま」

「お邪魔します」

 

 

どたどたと響く足音。廊下から二人の人物が顔を出した。

 

 

「「おかえり~!ぎょぎょぎょ!?」」

「ぎょぎょぎょ?」

 

 

スイレンをそのまま幼くしたような姿をしている二人の少女。一目で家族とわかる。というか姉妹揃ってそっくりすぎるのではないだろうか。ちなみに見分け方は髪のはねの数だ。スイレンはサトシに二人のことを紹介することにした。

 

 

「紹介するね、ホウとスイ」

 

 

紹介されている本人たちはというと、驚いた表情でピカチュウをずっと見ていた・・・かと思ったらピカチュウを二人で抱っこして、そのまま奥の部屋へ入って行ってしまった。あまりにも予想外の出来事に、サトシもスイレンもポカーンとしてしまう。

 

 

「えぇと、双子の妹たち・・・」

「あ、あぁ。スイレンにもよく似てたな・・・」

「よく言われる」

「「あはは、あははは・・・はぁ」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

驚きから立ち直ったスイレンはサトシをリビングへ案内した。そこには先ほどの双子がピカチュウを挟んでほほを触ったり、引っ張ったりと、一緒に・・・一緒に?遊んでいた。

 

 

「やわらかい、やばかわ!」

「あったかい、すごかわ!」

「ホウ、スイ!ピカチュウ困ってる」

「やっぱこれ、ピカチュウ?」

「本で見たよ、本物すごかわ!」

 

 

スイレンの妹なのだから、二人がポケモンを大好きなのは驚くようなことではない。が、サトシはピカチュウに対してこんなにまで興味津々な子供も随分珍しいな、と思っていた。

 

 

『ピカチュウは、アローラ地方では人気ポケモンロト』

「へぇ~そうなのか。よかったな、ピカチュウ」

「ピ、ピ~カ~チュ~ウ」

 

 

あんまりよろしくはなさそうである。ここでピカチュウに夢中になっていた双子の注目は、今しがた声をかけたサトシのほうへ向いた。もっとも、両の手はピカチュウをなでたり引っ張ったりしたままではあったが。じーっとサトシを見つめる二人。

 

 

「え、え~と、どうしたのかな?」

「「お姉ちゃんのボーイフレンド?」」

「「えっ?」」

 

 

いきなり落とされる爆弾発言に一瞬空気が凍った。純粋に驚いているだけのサトシ。家族ではない男の子を、女の子が家に連れてくることが、この年頃ではそう思われるものだということさえよくわかっていない。が、一応ボーイフレンド、ガールフレンドがどういうものをさすかは理解している。その辺りはセレナと別れてから色々と考えたことでもあるし、ママにも説明してもらったのだ。残念ながら鈍感はどうにもならなかったが、進歩とは言えよう。とりあえず事情を説明しようとサトシが口を開く前に、

 

 

「ち、ち、違う!全然違うぅ!」

 

 

と顔を真っ赤にしたスイレンが、ぶんぶん首を横に振りながら否定の言葉を発した。その様子は一般人からしたら、実は少し意識しているんじゃないか、と思っていなくても勘違いするレベルの反応だった。が、残念ながらそこはサトシ君、そのまま額面通りに受け取ってしまっていた。というよりも本人はそっちを気にするよりも、「そういえばユリーカ元気にしてるかな?」と前の旅に同行していた自身の妹分のことを思い出していた。

 

 

「「ほんとのほんとのほんとにぃ?」」

「ほんとのほんとの、ほんとにぃ!」

 

 

と、大声を上げて少し疲れたのか息をつくスイレン。ちょうどいいと思ったサトシは双子のほうまで歩いて行った。再びサトシに注目する二人にサトシは二人に目線を合わせるようにしゃがみ込み、かつてユリーカにしていたように笑いかけた。

 

 

「アローラ。俺、サトシっていうんだ。スイレンはポケモンスクールのクラスメートで、友達なんだ。よろしくな」

「「よろしく!」」

「それから、そろそろピカチュウを放してあげてくれないか?俺の大事な相棒なんだ」

「相棒?」

「お姉ちゃんのアシマリみたいな?」

「そうだよ。一緒にポケモンマスターになるって夢があるんだ。そのためにも今は修行中だ」

「ポケモンマスター?」

「すっごい夢!」

「そうだな。二人も夢はあるのかな?」

 

 

もともと子供に好かれやすいのだろうか、まだ会って数分だがホウもスイもサトシと楽しく会話していた。サトシの許可を得て再びピカチュウと遊ぶ二人。今度はちゃんと一緒に遊んでいた。そんな双子の妹たちの様子を見ながら、スイレンはサトシに対して正直見直していた。ポケモンの心を開くのがうまいとは思っていたが、まさか自分の妹たちもこんなに早くなつくとは。今ではもうサトシに肩車をねだってまでいる。

 

 

「二人とも、サトシは用事があってきたんだから」

「え~、もっと遊びたい」

「サトシ、ピカチュウ。遊んで~」

 

 

サトシの両手を一つずつ掴みながら、二人はサトシにもっと遊んでほしいとねだる。マオやリーリエが家に来た時には、ちゃんということを聞いてくれる妹たちのそんな様子にスイレンはさらに驚く。そんな双子の手をそっと離し、サトシは二人に目線を合わせるようにしゃがみ込む。

 

 

「ごめんな。今日はスイレンに釣竿を借りに来たんだ。用事だけ済ませてもいいか?」

「そのあと遊んでくれる?」

「一緒に遊べる?」

「わかった。ちょっとだけ待っててくれよな。ピカチュウ、二人と遊んでてくれるか?」

「ピッカチュ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おぉ!こんなにたくさん釣竿が」

「どれでも好きなのを借りていいよ」

「ありがとな、スイレン。おっ、ピカチュウのルアーだ」

 

 

どれにしようかと悩むサトシ。そのサトシを後ろから見つめながらスイレンはふと話しかけてみた。

 

 

「サトシ、今日はありがとう」

「え?どうしたんだ、急に?むしろ俺のほうこそ、釣竿を貸してくれるの、すっげぇ助かる」

「あ、うん。その、妹たちと遊んでくれて、ありがとう。それから夢を応援してくれたことも」

「いやぁ、俺も一緒に遊べて楽しかったよ。それにさっきも言ったと思うけど、俺もバルーンで海に潜ってみたいとは思ったし。本当に、二人はいい出会いをしたんだな」

 

 

スイレンはサトシの二面性に少し戸惑っていた。さっきまで妹たちと遊んでいた子供のような純粋さ、そして今こうして自分と話しているときに現れる大人のような落ち着き。一体どちらが本当のサトシなのだろうとも考えた。でも、根本的なところはどちらも同じ。ポケモンや友達に向けられている深い愛情が彼を突き動かしているだけなのだ。ただ、スイレンはそれにはまだ気づいていない。

 

 

「俺、これにするよ。貸してくれてありがとうな、スイレン」

「うぅん。大丈夫」

「じゃあ、ピカチュウたちのとこへ戻るか」

 

 

暗くなりつつある空はきれいなグラデーションになっていて、赤い光がほのかにサトシの顔を照らす。子供のように楽しそうな笑顔がどこか大人びた雰囲気をまとい、スイレンは少し見とれた。

 

 

 

 

 

 

「ピカピ」

「戻ってきた!」

「ほら、もっと遊ぼう!」

 

 

ドアをくぐったサトシをピカチュウと双子が迎える。再び両手を取られ引っ張られるサトシだったが、そこへスイレンからストップがかけられる。

 

 

「ホウ、スイ。もう暗くなってきたし、サトシも帰らないと」

「「え~」」

「それにもうすぐ夕ご飯でしょ。サトシだって帰って夕ご飯を食べなくちゃいけないし、明日は課外授業があるんだから」

「ごめんな~。でも絶対にまた来るからさ、その時にまたいっぱい遊ぼうな」

「「ほんとのほんとのほんとに?」」

「ほんとのほんとのほんとだ。約束するよ」

「約束だね?」

「絶対だよ?」

「あぁ。約束だ」

 

 

そう言ってサトシは双子と指切りをかわし、それぞれの頭を少し撫でてから

 

 

「じゃあな、スイレン。本当にありがとう。明日もよろしくな!」

 

 

と言って帰っていった。




ボーイフレンドの意味、実際のサトシはわかってるのですかな?

ノーリアクションだったから気になる


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アシマリ、がんバルーン!

アシマリってオスかな?メスかな?


翌日、強すぎる風もなく、空には雲一つもない。まさに絶好の釣り日和となった。海岸付近に集まったサトシたちは、今まさに海へ出ようとしていた。

 

 

「これがリーリエの秘密兵器かぁ。かっこいい~」

 

 

リーリエの言っていた秘密兵器、それは全身を覆う宇宙服のようなものだった。機械好きのマーマネにはどうやら好評のようだ。

 

 

「これで釣りもライドポケモンも、問題なく参加できます!」

「それじゃあスイレン、ここからは君が先生だ」

「は、はい!」

 

 

ククイ博士の言葉に、少し緊張した様子で返事をするスイレン。前に出たものの恥ずかしいのか顔は赤く、伏せがちになってしまった。

 

 

「頑張って、スイレン先生!」

「しっかりな」

 

 

マオとカキからの応援を受けて、スイレンは顔を上げる。と、サトシと目が合った。ぐっ、と彼が手を握り締める。ファイト!そう言っているのだとスイレンには伝わった。ふぅ、と一度深呼吸すると、緊張も取れた。

 

 

「みんな、ライドポケモンに乗ってください。今日はラプラスと一緒に、ホエルコも釣りポイントに向かいます」

 

 

数匹のラプラスとホエルコが挨拶するように鳴き声を上げる。みんながそれぞれのライドポケモンに乗ったのを確認すると、スイレンが先頭でみんなを導くようにポイントまで連れて行った。

 

 

「海のポケモンには、浅いところで暮らすポケモン、深いところで暮らすポケモン、いろいろいるの。この場所なら、カイオーガだって釣れちゃう!」

「カイオーガ!?」

 

 

スイレンの発言に声を上げるサトシ。カイオーガといえばホウエン地方の伝説のポケモンだ。海のポケモンの中でもトップクラスの強さを誇っているだろう。そんなカイオーガとサトシ君は1度のみならず3度ほど出会っているわけなのだが・・・

 

 

「そう、伝説のポケモン!」

「ないないないない、スイレンってば。からかっちゃダメダメ」

「えへへっ」

「よぉし、とにかくすごいの釣るぞ」

 

 

気合を入れるサトシ。釣りも初体験というわけではないため、今のサトシは釣れるかどうかよりも、どんなポケモンと出会えるかということに思いをはせていた。

 

 

「じゃあみんな、釣竿を用意して。そして、ルアーを思いっきり、海に投げ込む!」

 

 

スイレンがルアーを投げ込むのをみて、それに倣えでサトシたちも早速釣りを始めた。ピカチュウもまた、しっぽを垂らして釣り感覚を楽しもうとしているようだ。

 

 

「釣りのコツは、うきに反応があったら、そのタイミングで一気に合わせて釣り上げる!」

「おぉっ、ママンボウだ!」

 

 

早速実践してくれたスイレンは始まって数分と経たずにママンボウを釣り上げていた。伊達に釣りの達人と呼ばれてはいないようだ。

 

 

「釣れたらポケモンフーズで、仲良くなってスキンシップ」

 

 

そういっている間にもラブカスにサニーゴ、ウデッポウと次々に釣り上げるスイレン。

 

 

「流石は海のスイレン」

「よっ、名人!」

 

 

一方そのころほかのメンバーはというと、速すぎたり遅すぎたりで逃げられてしまう、そもそもうきに反応がないとなかなかうまくいかない。唯一釣り上げたのはまさかのピカチュウで、しっぽでコイキングを釣り上げていた。その後もまた釣れない時間が経つと、

 

 

「き、来ました!」

 

 

次に反応があったのはリーリエだった。しかも彼女の様子からすると大分大物がかかった様子。サトシとスイレンはリーリエのほうへ向かった。水しぶきを上げながら一瞬飛び出したそのポケモンは

 

 

「ミロカロスだ!」

「やるね~、リーリエ」

「こ、これはレアケース!?」

 

 

慌てふためくリーリエ。ミロカロスの引く力が強いのか、ラプラスの背から落ちそうになっていた。

 

 

「リーリエ、落ち着いて」

「待ってろ、今そっち行く!」

 

 

言うが早いか、サトシは自身の乗っていたラプラスの背中から飛び出し、リーリエの乗っていたラプラスに飛び移った。ちなみにこの距離、ラプラスが急ぎ気味で泳いでもすぐには着けないくらい離れていたことはこの際問題にはしないでおこう。ちょうどサトシが飛び移ったタイミングでリーリエの釣り糸が切れた。引っ張っていた力が急になくなり、リーリエはバランスを崩してしまい、ラプラスに取り付けられたライド用の座席から落ちてしまった。しかし水に落ちる衝撃は襲ってこなかった。

 

 

「ぎ、ギリギリセーフ」

 

 

サトシが何とかキャッチすることに成功していたからである。

 

 

「ありがとうございます、サトシ」

「いいって。でも、ミロカロスは逃げちゃったか~。惜しかったな、リーリエ」

「そうですね。次こそは、成功させて見せます」

「俺も負けてられないな!」

 

 

仲良さそうに談笑する二人。その様子を眺めながら、スイレンは少し複雑な気持ちになっていた。理由はわからない。ただ、どこかもやもやしているのだった。

 

 

「よし、とりあえずいったん休憩をとるぞ~」

 

 

ククイ博士の声に全員が賛同する。近くにある小さな島に立ち寄り、そこで休憩することにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「みんなここで待っていてくれよ」

 

 

自分を乗せてくれたラプラスを撫でながらサトシはライドポケモンたちに話しかける。彼らもまた、サトシに応えるように声を上げた。

 

 

「休憩は15分、しっかり休んでおけよ」

「ふぅ~」

「リーリエ、大丈夫?それ来たまま動くのって大変じゃない?」

「だ、大丈夫です。す、少し休めば問題なく動けます」

「無理だけはしないでよね」

 

 

「マーマネ、まだいじってるのか?」

「もちろん。僕の開発したこの釣竿で、ポケモンが釣れないはずがないんだ。もっとちゃんとしたデータを入力すれば」

「休み時間でもそうだと、集中力が持たなくなるぞ」

 

 

それぞれが思い思いに休み時間を満喫しようとしていると、突然現れた気球が網でライドポケモンたちを捕まえてしまった。

 

 

「アッrrrローラッ!生徒諸君」

 

 

「ひどい!」

「なんなの、あんたたち!?」

 

 

「なんなのあんたたち、と言われたら」

「聞かせてあげよう、我らが名を」

「花顔柳腰羞月閉花。儚きこの世に咲く一輪の悪の花!ムサシ」

「飛竜乗雲英姿颯爽。切なきこの世に一矢報いる悪の使徒!コジロウ」

「一蓮托生連帯責任。親しき仲にも小判輝く悪の星!ニャースで、ニャース」

「「ロケット団、参上!」」

「なのニャ!」

「ソーナンス!」

 

 

「ジャリーズの諸君」

「ラプラスたちはロケット団ライドポケモン部隊に任命しちゃうのだ!」

「って、ストップ!なんか余計なおまけがついてきてない?」

「わ、ほんとだ。小さいのがいっぱい」

「ライド以外の雑魚はいらないのにゃ!」

 

 

この時、ロケット団は知らなかった。

 

 

「えっ・・・雑魚・・・?」

 

 

その不用意な一言が、一人の少女をとてつもなく怒らせていたということを。

 

 

 

 

「行くぞ、ピカチュウ!」

「おぉっとだめにゃ!」

「撃ってもいいの?ラプラスたちが苦しむだけよーん」

 

 

10万ボルトで気球を落とそうとしていたサトシたちだったが、ラプラスたちを人質に取られてしまってそれができなかった。離れている敵に攻撃を当てるには遠距離攻撃しかない、が、それだとラプラスたちを傷つけることになってしまうかもしれない。サトシたちに打つ手はもうないように思えた。

 

 

「ロトム、そこを動くなよ。スイレン、アシマリ。合図をしたらバルーンを作ってくれ。できるだけ大きなやつ」

「え?」

『何をする気ロト?』

 

 

空を飛べるロトムはみんなよりも少しばかり高い位置に浮いていた。サトシはそこから一つの作戦を考えた。

 

 

「ピカチュウ、みんなを助けるぞ。いっけぇ!」

「ピカ!」

 

 

勢いよく飛び出すピカチュウ。しかしピカチュウは確かに一般的なポケモンより優れた跳躍力を持っているが、それでは届かない。そこでサトシはロトムに動くなと指示をしたのだ。ピカチュウに新しい足場を用意するために。その勢いで気球に接近するピカチュウ。

 

 

「アイアンテールだ!」

「チュー、ピッカァ!」

 

 

ロケット団の作った網をいともたやすく切り裂くピカチュウ。網から解放されたラプラスたちはそのまま海へ・・・

 

 

「まずい!岩に当たるぞ!」

 

 

その下には多くの岩が水面に顔を出していた。このままではラプラスたちは大怪我をしてしまうことになる。

 

 

「今だ、スイレン!」

「うん!アシマリ、バルーン!」

 

 

ポケモンたちへ猛スピードで泳いで接近したアシマリは、大きなバルーンを作り出した。それは練習の時と比べても何倍もの大きさに膨れ上がり、ラプラスたちを受け止め、海に戻すことに成功した。

 

 

「やった!」

「いいぞ、アシマリ!」

 

 

「こらぁ!なんてことを!」

「ライドポケモン部隊だったのにぃ!」

 

 

作戦が邪魔されて怒るロケット団。しかし本当に怒っていたのは彼らではなかった。

 

 

「許さない、あんたたち」

 

 

どこからそんな声が出たのだろうか。スイレンが恐ろしいほどの無表情でどすの利いた声を出していた。それを見たサトシを除く男性陣は、「絶対にスイレンを怒らせないようにしよう」と心に決めたとか何とか。

 

 

ロケット団はミミッキュを繰り出して攻撃してきたが、それをアシマリのバルーンで防御、そのまま跳ね返して気球に直撃させた。追い打ちをかけるように、サトシのモクローによるこのはが決まり、気球は破壊された。海に落ちそうになったロケット団。そこへさっそうと現れて彼らを助けて行ったのは、なんとキテルグマだった。それも海の上を走って。

 

 

「「「何この感じ~!?」」」

 

 

まったくもってそのとおりである。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「アシマリ、かっこよかったぞ」

 

 

アシマリの頭をなでるサトシ。この作戦は、アシマリが巨大なバルーンを作り出すことに成功したからこそうまくいったのである。それがなければ間違いなくラプラスたちは大怪我を負っていたに違いない。何度も何度も練習を重ねて、ここまで大きくすることができたのだ。

 

 

「今日のMVPだな」

「ですね」

「MVPは言いすぎじゃないかな?」

「もう。文句あるっての?」

「い、いやぁ、別に」

「ふふっ。あたし、感動した!」

 

 

『ありえないロト。昨日のバルーンの1000%はあったロト』

「な、言っただろ。スイレンとアシマリなら絶対にできるって」

「スイレンのポケモンたちを助けたいという思いに、そしてサトシの絶対にできるって信じる心が、アシマリの殻を破ることになったんだ。最高じゃないか」

 

 

「ね、ね、スイレン。さっきのバルーン、もう一回やってみて!」

「僕も見たい!」

「あぁ、俺も見てみたいぜ!」

「よ~し、アシマリ。やってみよう」

「アウッ」

 

 

再びバルーンを作り出すアシマリ。そのバルーンは、サトシとピカチュウを包み込むように作られていった。少しずつ少しずつ、ついにはすっぽりとサトシたちはバルーンの中に入ってしまった。そのまま少し浮かぶバルーン。

 

 

「やった、完成ね。アシマリ!」

 

 

と思ったが、しばらくしてバルーンは破裂し、サトシたちは落ちてしまった。まだまだ強度は足りていない模様。完成まではもう少し練習が必要なようだ。サトシの無事を急ぎ確認するスイレン。

 

 

「サトシ、大丈夫?」

「あはは、平気平気。これくらいなんともないよ。それにしても、少しの間だけど俺、バルーンの中で宙に浮いていたよな?」

「う、うん」

「やっぱすごいよ、アシマリ。絶対すぐに完成させることができるって」

「うん!」

 

 

その後、休憩をしっかりとったサトシたちは、再び釣りに挑んだ。海のポケモンたちを助けている姿が評価されたのか、その後、彼らの釣りでは数多くのポケモンと出会うことができたのだった。

 

 




スイレンってばこっわーい

最近全然出番ないんですけどね


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サトシの夢

オリジナルエピソードその2
スイレンメインの後日談?的なのですかね

大人なサトシくん、全開です
自己解釈などありまくりです


その日の夕方、再びサトシはスイレンの実家へお邪魔することとなっていた。釣竿を返すついでに、せっかくだから一緒にご飯をとスイレンに誘われたのだ。ちょうどホウとスイとも一緒に遊ぶ約束をしていたサトシは二つ返事で了承した。今日、大活躍したアシマリはというとあの後褒められたのがよっぽどうれしかったのか、海で沢山遊び、疲れてしまったようで、今はスイレンの腕の中で寝ている。ピカチュウも、さすがに疲れたらしく、サトシの肩に乗りながら眠ってしまっている。

 

 

「今日のアシマリ、大活躍だったな」

「うん。サトシ、信じてくれてありがとう」

「え?」

「あんなに大きなバルーン、今まで練習でも一度だってできたことがなかったのに、サトシは私たちを信じてくれた。だから、あんな風にポケモンたちを助けようとしたんでしょ。だから、ありがとう」

「そんなことないさ。あんなに練習していたんだ。絶対にできると思ってただけだよ」

 

 

あの後の釣り、スイレンの次に沢山ポケモンを釣ることができていたのは、サトシだった。一体一体挨拶をして、名前を呼んで、優しくなでてくれる彼に、ポケモンたちも惹かれたのか、サトシの周りには気づけばたくさんのポケモンたちがいた。ライドポケモンのラプラスやホエルコも感謝の気持ちを表そうとスイレンとサトシにすり寄っていた。その様子を見たクラスメートは

 

 

「なんだかあの一角だけ、ポケモン密度高いね」

 

 

とうらやましいような微笑ましいような気持ちになったそうだ。

 

 

「けど今日は楽しかったな~」

「サトシ、釣りうまいね」

「何回か挑戦したことはあったからな~。でもこんなに釣れたのは初めてだったかな?」

「そうなんだ。サトシはポケモンに好かれるんだね」

「そうかな?スイレンだってすごかったじゃないか。あんなに一杯友達になっててさ」

 

 

二人並びながらの帰り道は、話題が尽きず、楽しいものになっていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「あ~、お前あのときの!」

 

 

突然声をかけられて驚く二人。視線の先にはスカル団の連中、5人が立っていた。そのうち一人が指をさしてるのはスイレンだった。

 

 

「な、なんなの?」

「あのとき、よくも氷漬けにしてくれたな?」

「まさか、覚えていないって言うんスカ?」

「っ、アシマリをいじめてた」

「あん?その腕の中のやつ、あのときのアシマリスカ?」

「ちょうどいい、ここで恨み晴らさせてもらうぞ。いけっ、アリアドス!」

 

 

5人がポケモンを繰り出す。アリアドス、ニューラ、ヤング―ス、オニスズメにアゴジムシがスイレンと腕の中のアシマリを狙うように囲む。対するスイレンは相手に対する怒りが頂点に達していた。しかし現在彼女の手持ちはアシマリだけ。ラプラスたちは博士が家に連れて帰っておいてくれると言っていたため別行動中。今の彼女に打つ手はない。彼女には、だが。

 

 

ポン、と肩に置かれた手に怒りが少し収まる。サトシがスイレンを自身の後ろに庇うようにその体を引いた。

 

 

「ここは、俺たちに任せろ」

 

 

彼はモンスターボールを手に彼女にそう言った。巻き込まれただけなのに、彼は自分の代わりに戦ってくれるのだと。

 

 

「でもサトシ。さすがに5対1は無理だよ」

『そうロト!いくらサトシがバトルが強くても、これはいくら何でも無茶苦茶ロト!』

「大丈夫だ。数が多くても、こんな風にポケモンを大切にしない奴らなんかに俺は、俺たちは、負けない!行くぜ、ゲッコウガ!」

 

 

サトシの投げたボールから飛び出した青色のポケモン。スイレンのパートナーと同じく水タイプ、それも初心者トレーナー向けの一体。その最終進化形であるゲッコウガが颯爽とサトシたちとポケモンの間に降り立った。

 

 

「たった一人で勝てると思ってんスカ?」

「なめてくれるじゃない」

「俺たちが勝ったら、そのポケモンももらってやるよ!悪の波動!」

 

 

スカル団のポケモンたちが一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「躱せ!」

 

 

それを圧倒的なスピードですべて躱すゲッコウガ。そのまま敵のポケモンに接近した。

 

 

「いあいぎりだ!」

 

 

手の中に形成された光の刃を勢い良く降りぬく。5人のリーダーらしき男のアリアドスはその一撃で吹き飛ばされた。

 

 

『なんてスピード。通常のゲッコウガと比べても、驚異的ロト!』

 

 

「くそっ、奴の動きを止めろ。糸を吐いて捕まえろ!」

「アゴジムシ、あんたも」

 

 

ゲッコウガの動きを抑えようと大量の糸が発射される。何とかよけようとしたゲッコウガだったが、他のポケモンの攻撃もさばきながらでは難しく、腕や足に少し糸が絡まってしまう。

 

 

「よ~し、これで動きは鈍くなった。さっきのようなスピードはもうだせねぇぜ」

 

 

「サトシ、ゲッコウガ!」

 

 

二人が危ないと思ったスイレン。自分にも何か手伝えることはないだろうかと考える。しかし何も思い浮かばない。どうすればいいのかわからなくて焦るスイレン。しかし彼女を落ち着かせる声が聞こえた。

 

 

「大丈夫だ。俺たちを、信じろ」

 

 

ちらりと後ろを見ているサトシ。自信満々なその顔は、どう見てもピンチなこの状況に対しても全く動揺していないのがわかる。

 

 

「彼女の前だからって強がってんスカ?」

「だったら終わらせてやんよ。ナイトヘッド!」

 

 

再び周囲を囲んでゲッコウガに攻撃を仕掛けるスカル団。ぐっとサトシとゲッコウガの手が握りしめられる。

 

 

「負けられない。ポケモンを思いやっていない、お前たちなんかに!」

「コォウガァ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

突如ゲッコウガの周囲を包み込むように、激しい激流が沸き上がる。それはスカル団のポケモンもその攻撃もを弾き飛ばした。バトルの音が騒がしかったのか、いつの間にか目を覚ましていたアシマリも、驚きながらその様子を見ていた。

 

 

「なに・・・これ?」

『理解不能理解不能。ありえない現象を確認ロト』

 

 

「な、なんだよ、おい」

「なんなの、あれ?」

 

 

水流がはじけ飛ぶ。中から現れたゲッコウガは姿を変えていた。さっきまで絡みついていた糸も水流で流されきれいさっぱりと取れ、先ほどよりも強者の風格が出ていた。その特徴的な背中の大きなみずしゅりけんが夕日を受けてきらめき、その赤い瞳は燃えるような熱さを宿していた。

 

 

「いくぜ、ゲッコウガ。かげぶんしん!」

「コウッ!」

 

 

飛び上がり、スカル団のポケモンを囲い込むようにかげぶんしんを作り出すゲッコウガ。その数に一瞬スカル団がひるんだすきにサトシたちは攻撃を放った。

 

 

「これで決める!ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

「ゲッ、コォウガ!」

 

 

背中のみずしゅりけんを構えるゲッコウガ。そのみずしゅりけんに影分身たちの力が集約する。さらに大きく、鋭く変化するみずしゅりけん。

 

 

「すごい・・・これがサトシとゲッコウガの力?」

「アウ?」

『通常のみずしゅりけんと比べて、600%もの大きさ。こんなみずしゅりけん、ありえないロト!』

 

 

「いっけぇ!」

「コウガァァア!」

 

 

勢いよく発射されるみずしゅりけん。あまりのスピードにスカル団のポケモンたちはよけることなどできるはずもなかった。巨大な爆発が起こり、スカル団のポケモンたちは吹き飛ばされた。戦闘続行することなどできるはずもなかった。ポケモンを倒されぼーっとしているスカル団の前に、ゲッコウガが降り立った。

 

 

「な、なな」

「お前、覚えてろよぉ~!」

 

 

急いで逃げていくスカル団。それを見送った後、ゲッコウガは元の姿に戻った。

 

 

「ありがとう、ゲッコウガ」

 

 

ねぎらいの言葉をかけてゲッコウガをボールに戻すサトシ。そのまま少しふらつきしりもちをついたのを見て、急いでスイレンたちはサトシのもとへ駆け寄った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「サトシ!大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから」

『心拍数、脈拍の上昇を確認。現在正常値に向けて下降中。身体に異常はなさそうロト』

「そっか。よかった~」

 

 

ほっと息を吐くスイレン。とりあえずサトシは疲れているというだけのようで安心した。サトシの手を取り、立ち上がらせる。

 

 

「サンキュー」

「うぅん。こっちこそ、巻き込んじゃってゴメン」

「何言ってるんだよ。あいつらがやってることは許せないし、友達が困ってたら助けるのが当たり前だろ?」

「うん。ありがとう」

「さて、少し足止めを喰らっちゃったし、急いだほうがいいかもな」

「あ、そうだね。急ごうか。サトシは走れる?」

「平気平気。行こうぜ!」

「うん」

 

 

二人はスイレンの家まで走っていった。ついたら先に帰っていたラプラスが挨拶してくれたのでそれを返し、裏へまわって釣竿を置いた。それらのことをしてからサトシたちは家の中へ入った。

 

 

「ただいま」

「おじゃましま~す」

「ピカーピカ!」

 

 

「「おかえり~おねえちゃん!サトシ!」」

 

 

「ホウ、スイ。サトシにはおかえりじゃないでしょ。ここに住んでるんじゃないんだから」

「住まないの?」

「え?」

「おねえちゃんと結婚してここに住まないの?」

「な、なななな、し、しないから!結婚なんてしないからぁ!」

 

 

来て早々、妹たちによる爆弾発言によってスイレンはさらに疲れてしまった。そんな様子を苦笑気味に見るサトシと、にやにやしている双子。しかし彼女はまだサトシには聞きたいことがあるため、ダウンするわけにはいかなかった。それに、

 

 

「もう。わたし準備するから、二人はサトシを案内して」

「「はーい!」」

「準備って?」

「おねえちゃん、今日はお料理するの」

「ママとパパ遅いときはいつもそう」

「そうなのか?」

「夕飯できるまで、一緒に遊ぼう!」

「遊ぼう!」

「わかったわかった。ピカチュウも一緒に遊ぶか。何して遊ぶ?」

「えーとね、」

 

 

その後しばらく一緒に遊んでいたらスイレンが夕飯の用意ができたと伝えに来た。いろんなことがあって疲れていたサトシは、やはりおなかもかなりすいていた。妹たちがびっくりするほどサトシとピカチュウはよく食べていた。その後、ピカチュウとアシマリは双子と遊び始め、サトシはスイレンがいれたお茶を飲んでいた。

 

 

「ふ~。ごちそう様。スイレンの料理もおいしかった~」

「ありがとう。ねぇサトシ、ちょっといいかな?」

「ん?」

「さっきのゲッコウガのことなんだけど・・・」

『データにもあんな情報は載っていなかったロト』

「あぁ、あれね」

 

 

たはは~と彼は片手で頭の後ろを書くようにする。

 

 

「あれはキズナ現象って言って、俺とゲッコウガの心が一つになったときに起きるんだ」

「心が、一つに?」

『理解不能理解不能』

「実は本当に詳しいことはわかっていないんだけど、俺たちの絆の力って感じかな」

「絆の・・・力」

『極めて非論理的ロト』

「そうだな。理屈じゃうまく説明できないんだ、この力は」

「サトシは、本当にゲッコウガを信頼してるんだね」

 

 

トレーナーとの絆の力で強くなるポケモンもいることは父親から聞いている。実際両親の仕事の関係もあるのか、サメハダーやヤドランがパワーアップするところも見たことがある。それと同じようなものなのだろうとスイレンは納得した。

 

 

「サトシたちの全力、すごかった」

「全力?・・・俺たちの、全力・・・」

「どうかした?」

「いや、なんでもないや」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「サトシって、実はすごいトレーナーなんだね」

「そんなことないさ。俺は、まだまだだ」

「そうかな?私には十分すごいと思うけど」

 

 

ピカチュウもゲッコウガもサトシと旅をしてあれほどの力を手に入れたのだ。きっとすごい努力をして、すごくつらい思いもして、それでも頑張ったのだ。そこまでポケモンと一緒に頑張れるトレーナーが一体どれほどいるだろうか。それに聞いた話では最近仲間になったモクローだって、自分からサトシと一緒に行くと決めたというではないか。野生のポケモンがバトルを通じたわけでもないのについていきたいと思える何かがあるのだろう。そんなすごいトレーナーなのに、まだまだというのは謙遜し過ぎではないだろうか。

 

 

「まだまだだよ。リーグだってまだまだし、俺より強いトレーナーもいっぱいいるんだ。チャンピオンや四天王、それに俺よりベテランのトレーナーたち。今はまだ違くても、すぐに追いついてくるトレーナーだっている。ポケモンを命がけで守る仕事をしている人だっているし、ポケモンについての知識は俺よりも持ってる人なんてもっといっぱいいるんだ。俺なんて、まだまだだよ」

「ポケモンマスターを目指してるんだよね」

「あぁ。もっともっと強くなって、もっともっと多くのポケモンに出会って、もっともっとポケモンのことを知って。最高のポケモントレーナーになりたいんだ」

「どうして?」

「ん~、昔はただ憧れてたんだと思う。ポケモンリーグの動画とかいっぱい見て、かっこいいと思ったんだ。でも、旅に出て、いろんなポケモンに会って、いろんなトレーナーに出会って、いろいろと考えるようになった。中には本当にポケモンを大切にする人もいれば、スカル団みたいにポケモンにひどいことをするやつもいた。人間の身勝手で傷ついたポケモンもたくさん見てきた。それで思ったんだ。やっぱり俺はポケモンが大好きなんだ。ポケモンたちが幸せに暮らしてほしいと思う。最高のポケモントレーナー、ポケモンマスターになって、ポケモンと人間が一緒に、幸せに生きていける。そんな風にできたら・・・」

 

 

幼い子供のあこがれは、月日が流れ、旅の中で確かな形を持ち始めていた。ポケモンレンジャーのようにポケモンを助けるような仕事をしたい。チャレンジャーのように心躍るバトルに身を投じていたい。チャンピオンのように誰かの挑戦を受けて、応えたい。ポケモンドクターのように傷ついたポケモンを癒したい。ポケモンブリーダーのようにポケモンの成長を見守りたい。ポケモンコーディネーターやポケモンパフォーマーのようにポケモンと一緒に人に感動を与えたい。

 

 

様々な人の話を聞いて、様々な思想、理想を抱いている人と戦った。世界を征服しようとしたもの、自然を変えようとしたもの、新世界を創造しようとしたもの、ポケモンを人間から解放すると言っていたもの、美しい世界をつくろうとしたもの。様々なものと戦い、乗り越えてきたサトシ。思い出されるのはもっとも最近経験した大きな事件。そのときに思ったこと。

 

 

「みんなの明日を、守れるようになりたいんだ」

 

 

それはまだ10代の少年が語る夢物語にも見える。穢れを知らない、ただのきれいごとだと笑うものもいるだろう。けれどもその夢を語る彼は、どこまでもまっすぐにその夢を追いかけようとしていた。人の美しさも、やさしさも、醜さも、残酷さもすべて見てきた彼は、それでもその美しい夢を追い求めている。そこにはそのまだ成長しきってはいない身体からはとても想像できないほどの、強さと優しさが、覚悟が、込められている。その一端に触れたスイレンは、サトシがどこか遠い人のように思えてしまった。自分たちとは、違うのだと。でも、

 

 

「へへっ、なんだかちょっと恥ずかしい感じだな。こんな風に、真面目に夢について考えるようになってから誰かに話したのは、多分スイレンが初めてだな」

 

 

そういって彼は笑う。いつもと変わらない、自分たちと一緒にいるときの子供の顔で。だから安心する。サトシが自分たちをちゃんと対等に見てくれている。彼もまた自分たち同じように夢を持っていて、それをかなえたいと頑張る、まだまだただの子供なのだと思える。まだ、一緒なんだと。

 

 

「そうなんだ。すっごく大きくて、優しい夢だね」

 

 

(うん。すっごく優しくて、かっこいいんだね、サトシって)

 

 

また顔が赤くなっているのだろう、頬が熱い。心臓もバクバクといつもとは比べ物にならないくらい、みんなの前で話す時よりも速くなってる。二人も、こんな感じだったのかな。クラスメートで仲良しの二人の顔を思い浮かべる。きっと二人も、サトシと一緒にいて、サトシに触れたのだろう。そしてそれが心を動かしたのだ。見ていてわかるくらいに、二人はサトシの影響を受けている。もしかしたら、自分だってそうかもしれない。

 

 

「サトシって、本当にすごいんだね」

「え?そうか?」

「そうだよ!」

 

 

(だって、こんなに早く、私たち三人の心をつかんでしまってるんだから。もしかして、他にいたりして。苦労しそうだな~)

 

 

その後、サトシとピカチュウが帰った後、双子がスイレンの表情を見たときに、今までに見たことないような、少し大人になったような印象を持ったとのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『サトシたちの全力、すごかった』

 

 

「俺とゲッコウガの、全力・・・フルパワー」

 

 

スイレンの自宅からの帰り道、サトシは先ほどのスイレンの発言が頭の中で渦を巻いていた。何かが引っ掛かってる、何かがわかりそうになっている。そんな感じがした。




XYのサトシくんが語る「明日」にホロリと泣いた私がいます

なんだろう、なんか、すごく、感動したんです


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全力全快バトル!

オリジナルエピソードその3

ほぼ完全にバトル回ですね

毎度のごとく、自己解釈などありまくりです
技構成とか


本日晴天、雲一つないほどの青空の下、本来であれば授業時間だというのにスクールのバトルフィールドには子供たちが集まっていた。フィールドに立っている二人の影。審判のククイ博士があたりを見渡す。

 

 

「よし、それじゃあそろそろ始めようか。二人とも、準備はいいか?」

「いつでもいいです」

「はい!」

 

 

「二人とも頑張れ〜」

「カキ、ファイト!」

「行け行け、サトシー!」

 

 

小さい子供たちからの声援が響く中、二人は真剣な、それでいて楽しそうな表情を浮かべながら対峙した。

 

 

スクール随一の実力者で有名なカキ、そして最近転入してきたサトシが、今、ようやく戦おうとしていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ことの発端は数日前、スクールの授業が終わり、クラスメートたちと一緒にアイナ食堂で食事をしようという話になり、サトシたちは一緒に帰ろうとしていた。と、

 

 

「あっ、サトシだ~」

「サトシ、遊んで~!」

 

 

スクールの下級生であるちびっ子たちにサトシたちが捕まってしまったのだ。アローラ地方で人気のピカチュウを連れていたこともあるが、サトシ自身も子供たちから好かれやすいため、転入後すぐに子供たちからは慕われる対象となっていたのだ。

 

 

「サトシは人気者ですね」

「子供たちもみんな、サトシが大好きみたいだね」

「私の妹たちもそうだった」

「サトシはいいお兄ちゃんになるね」

「そこはお父さん・・・って年でもないな」

 

 

少し離れて見守るサトシのクラスメートたち。微笑ましいその光景に自然と笑顔になる。

 

 

「サトシ、ピカチュウ撫でていい?」

「モクロー、ふわふわ。やわらか~い」

「ねぇねぇ、ゲッコウガ見せて!ゲッコウガ!」

 

 

子供たちはサトシのポケモンたちとも触れ合っている。これはしばらくかかるかな、とみんなが思い始めたとき、一人の子がふとたずねた。

 

 

「サトシってポケモンバトル強いんだよね?」

「ん?そうかな?でも、頑張ってポケモンたちと特訓もいっぱいしたからな。きっと強くはなってると思うぜ」

「ねぇねぇ、サトシとカキってどっちのほうが強いの?」

 

 

「えっ?」

 

 

突然会話に出た自分の名前にカキは驚きの声を上げるが、その反応は次に上がった子供たちや

クラスメートの声にかき消された。

 

 

「そりゃやっぱりカキだよ。Z技も使えるし、スクールで一番だし」

「でも、サトシのゲッコウガは強いよ。そう簡単にはいかない」

「ほのおタイプは確かにみずタイプとの相性は悪いですし」

「カキはほのおタイプの使い手だよ。相性の対策くらいしてるよ」

「確かにそうですけど」

 

 

「カキだよ。バクガメスはさいきょーだもん」

「え~サトシだよ。だってゲッコウガあんなに速いもん」

「速くてもZ技のほうが強いって」

「当たらなかったらどうということはないでしょ」

 

 

「ちょ、ちょっとみんな落ち着いて」

「わわっ、ほら。喧嘩するなって」

 

 

思いのほかヒートアップする子供たち。クラスメートの間でも知識が加わった議論が繰り広げられている。マオとサトシが仲裁しようとするがなかなか収まりそうにない。どうしようかと悩み始めたところで

 

 

「だったら、確かめてみるか?」

 

 

と、カキの一声であたりが静かになった。相棒の入っているボールを手に、カキはサトシを鋭い目で見つめていた。

 

 

「せっかくだ。サトシ、俺とバトルしようぜ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

というわけで話を途中から聞いていたらしいククイ博士が「下級生の勉強にもなるからな」とそのバトルを全員で見学することとなったのだ。授業の時間を使ったバトル、オーキド校長いわく、「これも立派な勉強じゃヨーテリー!」とのこと。結果、スクールを上げてのバトル見学となったのだ。

 

 

「なんだか大ごとになっちゃったね」

「何もここまでしなくてもよかったんじゃないの?」

「ですが、確かに上手な人のバトルは見ていて勉強になります」

「うん。サトシもカキも、頑張れ~!」

 

 

「そろそろ、始めようか。使用ポケモンはお互いに一体。相手のポケモンを先に戦闘不能にした方の勝ちだ。二人とも、熱いバトルを期待してるぜ!それじゃあ両者、ポケモンを!」

 

 

 

 

「行くぞ、バクガメス!」

「ガメース!」

「頼んだぞ、ゲッコウガ」

「コウガ!」

 

 

両人のエースが今対峙した。タイプ相性で言えばゲッコウガのほうが有利ではある。しかしバクガメスには奥の手、Z技があることを考えると、勝負はまだわからない。

 

 

「バトル、開始だ!」

 

 

「行くぞ、サトシ!バクガメス、かえんほうしゃ!」

「躱していあいぎり!」

 

 

開幕してすぐに、バクガメスが口からかえんほうしゃを放ちゲッコウガに攻撃をした。しかしサトシの指示を受け、ゲッコウガは引くどころかバクガメスに向かって走った。自身に当たらないギリギリのところで炎を躱すゲッコウガ。その動きに無駄はなく、勢いを殺すことをせずにバクガメスに接近した。手には光の刃が握られている。

 

 

「なんだとっ!?」

 

 

甲羅ではなく、バクガメスの腹にいあいぎりが決まる。いつもは接近技を甲羅で防いできたバクガメスだったが、予想外のゲッコウガの動きに隙が生まれてしまったのだ。

 

 

「よしっ」

「・・・やるな。ストーンエッジ!」

 

 

バクガメスが地面を腕で殴ると、鋭い岩が地面から突き出した。最初は躱していたゲッコウガだったが周囲を岩で囲まれ始め、逃げ場が減っていった。

 

 

「跳べ、ゲッコウガ!」

 

 

攻撃が当たる前に、ゲッコウガはジャンプして宙に逃れた。それによりストーンエッジの鋭い岩の攻撃をかわすことに成功した。

 

 

「空中ならよけられないぜ。かえんほうしゃ!」

「みずしゅりけんだ!」

 

 

空中で方向転換をするすべがないゲッコウガに向けて、バクガメスのかえんほうしゃが放たれた。すかさず出された指示に反応するゲッコウガ。掌に形成されたみずしゅりけんを投げつけ、かえんほうしゃを相殺した。大量の水の蒸発により、煙が発生し視界が遮られる。

 

 

「つばめがえし!」

「バクガメス、甲羅で防げ!」

 

 

煙の中から飛び出したゲッコウガだったが、待ち構えていたバクガメスは背中の甲羅で攻撃を受けた。激しい爆発が起こり、ゲッコウガが吹き飛ばされる。

 

 

「そうだ、あの甲羅。下手に攻撃したら爆発するんだ・・・大丈夫か、ゲッコウガ?」

「コウガ」

「まだまだいけるな。よーし、突っ込め!かげぶんしん」

「コウガ!」

 

 

かげぶんしんを作り出しながらゲッコウガはバクガメスめがけて走った。

 

 

「かえんほうしゃで薙ぎ払え!」

 

 

炎を吐きかげぶんしんたちを消していくバクガメス。分身が消えた影響で煙が生じる。それを煙幕代わりにさらにかけぶんしんが飛び出してきた。様々な角度からバクガメスを囲むゲッコウガ。

 

 

「くっ、本体はいったいどこに?」

 

 

「みずしゅりけんだ!」

「しまっ」

 

 

実体のある攻撃は一つしかない。しかしどれが本物かわからなかったために、バクガメスに攻撃が直撃した。半分はドラゴンタイプのため、ダメージは普通のほのおタイプとは違いそこまで大きくはない。しかしそれでもバクガメスが後ろに吹き飛ばされるほどの威力があった。

 

 

一進一退の攻防に、子供たちは大盛り上がりだった。

 

 

「すごいバトル。カキもすごいけど、サトシも負けてないね」

「えぇ。技のつなげ方が絶妙ですね。これは確かに勉強になるバトルです」

「うん」

 

 

ふらつきながらも倒れる気配のないバクガメス。気合いを入れるように炎を吐く。相手のスピードは厄介ではあるが、主に接近戦が得意であるなら、背中の甲羅でカウンターを狙えば勝機はある。重要なのは、どのタイミングでZ技を打つかだ。切り札はそう簡単には切れない。確実に相手を仕留められる時にこそ打たなければ。

 

 

ゲッコウガも油断のないよう、普段は細められている瞳が開かれ、鋭い目で相手の様子を伺っていた。タイプ相性は有利でも、相手がどんな技を覚えているかがわからないから油断はできない。それにあの甲羅が厄介だ。相手の隙をついて、正面に回ることが必要になる。それに、あの力も長時間は使わない方がいい。長引く恐れがあるならばそれはすぐに使うべきではないのだ。

 

 

「このバトル、生徒たちにとっていい刺激になりそうだな」

 

 

スクールの生徒の中でもずば抜けてバトルが強いこの二人の対決を見守りながら、ククイ博士は嬉しそうに笑った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「バクガメス!きあいだまだ!」

「ガーメース!」

 

 

エネルギーを収束した球をゲッコウガめがけて発射するバクガメス。かくとうタイプの技はゲッコウガには効果は抜群である。

 

 

「ゲッコウガ、いあいぎり!」

「コウガッ、ゲッコウ!」

 

 

両手に光の刃を握り、交差させるゲッコウガ。きあいだまをそのまま受け止める。技の威力に少し後ずさりをしたものの、そのままその技を切り裂いた。ゲッコウガの後方で爆発が起きる。その爆発の勢いを利用して、ゲッコウガは一瞬でバクガメスへ近づき切りつけた。

 

 

「防御だ!」

 

 

何とか背中の甲羅で防ぐバクガメス。その際に生じた爆発で両者後ずさった。攻撃を加えたゲッコウガもそうだったが、バクガメスのほうも今のほぼ予想外の爆発でダメージを負ったようだ。

 

 

「バクガメス!まだいけるか?」

「ガメース!」

「もう一度きあいだまだ!」

「つばめがえし!」

 

 

再び放たれたきあいだまをゲッコウガはエネルギーを脚に集め、地面に向かって蹴りつける。軌道をずらされたきあいだまには目もくれずにゲッコウガはバクガメスに近づこうとする。

 

 

「これならどうだ?りゅうせいぐん!」

 

 

バクガメスが空に打ち上げた光球が破裂し、フィールドに降り注ぐ。ドラゴンタイプの大技、りゅうせいぐん。迫りくるそれは並のポケモンであればひとたまりもない攻撃だ。フィールドのどこにも逃げ場などないように見える。

 

 

「ゲッコウガ、行けるな」

「コウッ!」

「躱せ!」

 

 

しかしサトシもゲッコウガも焦る様子は全く見せず、むしろ勢いよくりゅうせいぐんの中へ突撃していった。りゅうせいぐんは激しい勢いでゲッコウガめがけて降り注ぐ。しかしそのどれをもゲッコウガは体を必要最低限そらすように、紙一重ですべてを躱しながら接近する。とても自分だけの視力や感覚でさばいてるとは思えないその動きにカキは驚愕する。

 

 

その時、皆は気づいていなかったが、ゲッコウガが躱している際に、サトシ自身もまた、同じような動きをしていたのだ。まるでサトシの動き通りにゲッコウガが降り注ぐ攻撃を躱していたかのように。言葉もなく、サトシの見ているもの、考えていることが伝わっているかのように。心は一つ、景色は二つ。かつて一緒に旅をしたとある少女が受けた教えを、彼らは見事に体現していたのだ。しばらく離れていたにも関わらず、そのシンクロ率は衰えるどころか、さらに深くなっている。変化しなくともつながるほどに。

 

 

「バカな!?」

「つばめがえし!」

 

 

正面を向いていたバクガメスにゲッコウガが接近する。右手に力を集約しアッパーカットの要領で一撃、そのまま高速でバクガメスの真上に移動し、次はかかと落としの要領でバクガメスの頭を地面にたたきつける。その様はまさしく佐々木小次郎が編み出した秘剣のようだった。

 

 

反撃を喰らわぬように距離をとるゲッコウガ。ダメージを受けながらも、バクガメスはまだ立ち上がる。ダメージが多いようで少しふらつく。一方、何度もスピードのある攻撃をしてきたためか、ゲッコウガにわずかな疲れが見える。それはゲッコウガのみならず、その後ろで指示を出していたサトシも同様だった。

 

 

「こうなったら、もうあれしかないな。サトシ!受けてみろ、俺たちの全力!いくぞ、バクガメス!」

「ガメース!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

カキのZクリスタルがまばゆい光を放つ。その光がバクガメスに集まり始める。カキとバクガメスの動きが一つになる。

 

 

「俺の全身!全霊!全力!すべてのZよ!アーカラの山のごとく、熱き炎となってもえよ!」

 

 

「出た!カキのZ技」

「どうするのサトシ?」

 

 

「Z技はまもるなどの防御技を持っていても防げない。さて、サトシはどう対処するのかな」

 

 

「待ってたぜ、Z技。ゲッコウガ、俺たちもフルパワーだ!」

「コウガッ!」

「もっともっと強く!行くぞぉ!」

 

 

サトシとゲッコウガの気持ちが一つになる。ゲッコウガの周囲に激しい水流があふれ始める。突然の現象に生徒たちもポケモンたちも驚いていた。

 

 

「わぁっ、ゲッコウガすごい!」

「なになに?何の技?」

「アクアジェットじゃないの?」

 

 

「な、何何?なんなのあれ?」

「一体どーなってるの?」

「あ、あれは」

「来ました!」

 

 

「こいつは・・・一体・・・こんな技、聞いたことないぞ」

 

 

サトシが胸元で握りしめていた腕を大きく横に払う。それに合わせてゲッコウガの体を包み込んでいた水流が弾け飛ぶ。その姿は誰もが知っているゲッコウガのそれとは異なっていた。

 

 

「かっこいい~!」

「進化したのかな?」

「え~ゲッコウガは進化しないよ」

「じゃあどうして姿が違うの?」

 

 

「あれって一体?」

「おっどろき~って、二人はあんまり驚いてないね」

「わたくしは以前に一度、あの姿を見せていただいたことがあります」

「わたしも」

「えっ、そうなの?いつのまに?」

「いや、今反応するとこはそこじゃないでしょ・・・」

 

 

「これは・・・メガシンカ?いや、しかしキーストーンもメガストーンも使っていなかった。一体何が?」

 

 

「なっ・・・姿が変わろうと、俺たちの一撃は止まらない。喰らえ!ダイナミックフルフレイム!」

 

 

バクガメスが巨大な火球をゲッコウガめがけてはなった。カキたちの全身全霊、全力の必殺技、ダイナミックフルフレイムがゲッコウガを襲う。フィールドの幅ほどもある巨大な火球が近づいてくる。迎え撃つサトシたちには焦りもおびえもない。二人にあるのは強敵と戦っている楽しみ、そしてこの相手に勝ちたいという強い思いのみ。

 

 

「いくぞ、ゲッコウガ!みずしゅりけん」

 

 

サトシが背中に腕を回すしぐさをする。それと同時にゲッコウガも同じように背中のみずしゅりけんをつかみ、勢いよく投げた。通常のみずしゅりけんよりも一回りも二回りも大きいそのみずしゅりけんは正面からカキのZ技を迎え撃った。しばし技が拮抗したのち、炎の球が切り裂かれる。激しい爆発が生じる。子供たちのなかには爆風で飛ばされないように上級生やポケモンたちにしがみつく子もいたほどだ。

 

 

「な、俺のZ技と、互角だと・・・」

 

 

二つの技は互いに相殺した。カキのZ技をサトシのゲッコウガはその背中のみずしゅりけん一撃で封じてしまったのだ。

 

 

「今度はこっちの番だ。いくぞ、カキ!これが俺たちの全っ力だぁ!みずしゅりけん!」

 

 

サトシが右手を上空にかざす。ゲッコウガもまた同時にみずしゅりけんを頭上にかざした。二人の心がより高まる。それに呼応するかのようにみずしゅりけんが勢いよく回転し始める。もっともっと強く、二人の想いが技に大きな力を与える。徐々に大きくなるみずしゅりけん。ゲッコウガの頭上には今までの比ではない巨大なしゅりけんが浮かんでいた。

 

 

「なっ!」

「これは!?」

 

 

Z技を使うカキとポケモンの技を主に研究しているククイ博士は、そのみずしゅりけんに驚かされた。それはただのみずしゅりけんではない、どころかただのポケモンの技でもなかった。それはゲッコウガとサトシの二人のすべての力を集めた、全力の一撃。今までのゲッコウガの攻撃とは比べ物にならない最強の技。放たれたみずしゅりけんは、まっすぐにバクガメスめがけて飛び、そして大きな爆発を起こした。煙が晴れるとそこには目をまわしながら倒れているバクガメスがいた。

 

 

「バクガメス戦闘不能、ゲッコウガの勝ち。よって勝者、サトシ!」

 

 

体が一瞬ひかり、ゲッコウガは元の姿へ戻った。その勝利のコールを聞き、見ていた生徒たちはわっ、と声を上げた。

 

 

「すごいすごいすご~い」

「二人ともすっごく強かった!」

「ゲッコウガかっこいい~」

「バクガメスもすごかった~」

「俺もゲッコウガ欲しい!」

 

 

「すっごいバトルだったね」

「僕の計算をはるかに超えるレベルだったよ」

「うん。こんなバトル、なかなか見られないよ」

「二人の全力バトル。わたくし、なんだか感動しました」

 

 

「あのみずしゅりけん・・・一体何だったんだ?それにサトシとゲッコウガの動きが一つに・・・ポケモンの技は本当に奥が深いな~」

 

 

それぞれが試合の感想を述べあっている中、カキとサトシはフィールドの中央に立った。サトシは疲れたのか、ゲッコウガと肩を支えあいながらではあったが、その顔は充実した笑顔だった。

 

 

「いいバトルだった。悔しいが、俺の負けだ」

「楽しかったぜ、カキ。またバトルしような」

「あぁ、次こそは、俺たちが勝つ」

「ガメース」

「受けて立つぜ!」

「コウガ!」

 

 

「二人とも、ギガインパクト級に盛り上がるバトルだったぜ」

 

 

二人は固い握手をし、スクールを上げての二人のバトルは、こうして幕を閉じた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「博士、あの最後のみずしゅりけん。あれは、」

「Z技かもしれない、だろ?」

「はい。二人の心と体が一つになっていました。俺とバクガメスと同じ、いや、おそらくはそれ以上に」

「そうだな。だが、Zクリスタルを使わないZ技なんて聞いたことがない。それに、ゲッコウガのあの姿も気になる」

「あれが何か、知っているんですか?」

「おそらくはメガシンカというものだと思う。カロスを旅したサトシならその力を使えていてもおかしくはない。ただ、こっちでも通常必要なものが足りていないからなぁ」

「未知の力、というわけですか」

「そうなるな。本当に、ポケモンは奥が深いねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、ベッドに座り込みながら、サトシは一人物思いにふけっていた。

 

 

「さっきのみずしゅりけんの感覚・・・やっぱり、すごく似ている」

 

 

バトル後、サトシは一人で考えていたことがあった。最後の一撃、サトシとゲッコウガの想いのすべてを込めたその一撃。その感覚が体に残っていた。そして、最近似たようなことがあったことを思い出す。島の守り神とのバトルの最後、ピカチュウとともに放ったZ技。その時の感覚とそっくりなのだ。

 

 

「これってまさか・・・Z技、なのか?」

 

 

深い謎を残したまま、物語は続く

 

 

続くったら続く・・・




大試練、ピカチュウ大活躍でしたね

というか相変わらずタフすぎる


ちょっとだけ編集しました。
後々のために、ね


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自分に足りないもの

サトシくん成長してます、を前面に出してますね〜



ククイ博士の家、今日はそこには博士とイワンコの姿はなかった。学者同士での会合があるためそれに向かったのだった。というわけで家にいるのは、

 

 

「今日はどうしようかな~。バトルの特訓もいいし、ポケモンをゲットしに行くのもいいし・・・」

「ピカ~」

「とりあえず後でわたくしが博士の代わりにショッピングモールを案内しますね」

 

 

サトシとリーリエだけだった。

 

 

「う~ん。そうだ!いつもは博士にばっかり洗濯とかしてもらってばかりだし、今日はいろいろと手伝えることをしてみようかな。リーリエ、いろいろと教えてくれないか?」

「いいですよ。それじゃあまずは洗濯から始めてみましょうか」

 

 

自分の服や博士の来ていた白衣を洗濯機に詰めるサトシ。最初から満タンに突っ込むみ、そのまま洗剤を測りもせずに入れようとする。

 

 

「待ってください、サトシ。そんなにいっぱいに入れてしまったら、洗濯機が壊れてしまいますよ。それに、洗剤もちゃんと決まった量があるんです。ちょっと見ていてください」

 

 

そういって白衣をいくつか取り出し、洗剤をしっかりと測ってから入れるリーリエ。電源を入れて、洗濯機を起動する。

 

 

「こんな感じです」

「へぇ~。とりあえず入れればいいわけじゃないんだな。やっぱり、機械もちゃんとした方法を知らないとだめだな~」

 

 

続いて自分で料理を作ってみようとするサトシ。ロトムがレシピを出してくれたため、作り方の手順はわかった。しかしよくよく考えてみると、今までの旅の中でも自分から手料理をつくる機会がほとんど全くと言っていいほどなかったのだ。切り方も、味付けの方法もまるで何も知らないのだ。

 

 

「う~ん、難しいな」

「皮をむくときは包丁のほうは動かさなくてもいいんですよ。野菜のほうを回すようにしながら、慎重にやればいいんです」

 

 

「あれれっ、なんだかうまくきれないや」

「切るときにはちゃんと抑えなくては。それに、その抑え方では指を切ってしまいますよ。手はこんな形です」

「こ、こうか?」

 

 

「塩コショウを適量。適量って、適当に入れればいいってことか?」

「いえいえ、これも慎重にやるものですよ。入れすぎると辛すぎたり、しょっぱすぎたりとおいしく作れなくなってしまいますから。こんな風に、小さじで少しずつ足していくといいですよ」

 

 

途中何度も失敗をしそうになりながら、そして実際に失敗もしながらではあったが、リーリエの助けもあり、何とか形にはなった。

 

 

「それでは、いただきましょう」

「いっただっきま~す」

「うん、なかなかおいしく作れていますよ、サトシ・・・サトシ?」

 

 

普段ならうまいうまい言いながらバクバク食べるサトシ。しかし今回は静かに、一口一口かみしめるかのように、黙々と食べていた。その表情は何か考え込んでいるかのようで、リーリエの視線にも気づいていなかった。

 

 

「サトシ、どうかしましたか?」

「あ、あぁ、うん・・・なんか、すごく大変なんだな、って思ったんだ」

「え?」

「俺、家にいるとき、いつもママが俺の身の回りのことをしてくれたんだ。それに今までにいろんな場所を旅してきていたんだけど、その旅にはいつも仲間がいてくれた。それでさ、俺ってこういう料理とか洗濯とか、そういうことが苦手でさ。いっつも誰かが俺の分までやってくれていたんだ」

「旅のお仲間ですか。どんな方々だったのか気になりますね」

「いつかその話もするよ。とにかくさ、こうやって家事みたいなのをちゃんとやったことがなかったんだよ。今日やってみて、それがどれだけ大変なことだったのか、なんとなくわかった気がする」

 

 

今まで自分が無事に旅をすることができたのは、仲間たちが、いろんな方法で支えていてくれていたから。それをこうして、自分で自分の身の回りのことをしてみて、改めて実感する。この先、自分一人で旅をしなければならない時が来るかもしれない。その時に、自分はちゃんとやれるのだろうか。いつも自分のために料理を作って、服も作ってくれるママ。そのママは自分が一人で旅をするとしたら、安心できるだろうか。今のままではダメな気がする。旅をしている時とは違うこの生活は、サトシにいい影響を与えているようだ。また一つ、大人になったサトシだった。

 

 

「そうですか。じゃあまた今度、お母様の待っている家に帰ったときに、ちゃんとお手伝いをしてあげたら、喜んでもらえるんじゃないでしょうか」

「そうだな。そうしてみるよ。だからさ、リーリエ。これからも時間のある時でいいから、俺に料理とか教えてくれないか?」

「わたくしでよろしければいつでもいいですよ。さて、そろそろ洗濯物も洗い終わりますし、ちゃんと干してからショッピングモールへ出かけましょうか」

「ああ!」

 

 

リーリエの指導の下、洗濯物を干していくサトシ。それが終わった二人は、商店街へ向けて出かけて行った。余談だが、これ以降、サトシが頻繁にリーリエにマオ、スイレンたちに料理を教わるようになり、それから発展してお料理対決が定期的に行われるようになったのだった。なぜそうなったのかは・・・ご想像にお任せする。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「へ~、ここがショッピングモールかぁ。大きいなぁ」

「では、まずは何を買いに行きましょうか」

「ん~、そうだなぁ・・・あれ?」

 

 

あたりの店を見渡していたサトシの目に入ったのは、見知った一人の少年だった。そのわきには相棒のトゲデマルが抱えられている。

 

 

「マーマネ!」

「ドキッ!?えっ、サトシとリーリエ?」

「アローラ!」

「アローラです。マーマネはお買い物ですか?」

「ま、まぁね。そうゆう二人は何?あっ!ふふ~ん、もしかしてデートとか?」

「えっ、デート?」

「ちち、違います!わたくしはただ、サトシにこのショッピングモールを案内しようとしているだけで」

 

 

三人が会話しているのをよそに、トゲデマルはピカチュウに抱き着いていた。どうやらピカチュウのことをとても気に入っているようで、離れる気配はなかった。

 

 

『トゲデマル、まるまりポケモン。でんき・はがねタイプ。自分で電気を発生する力は弱いが、長い尻尾を立てて、それを避雷針にして電気を誘導、帯電することができる』

「あぁ、あの風船早割り対決の時の」

「ちなみにトゲデマルは、うれしいときには丸くなってあたりを転がる習性があります。ただ、一度転がりだすと、自分でもコントロールができなくなってしまうのです・・・っひゃあ!」

 

 

解説をしてくれていたリーリエのすぐ近くをボール状になったトゲデマルが転がる。それにびっくりしたリーリエはサトシの背中に隠れてしまった。が、

 

 

「クロ?」

「あっ、わっ、ひゃう!」

 

 

サトシの背負っているリュックの中には、相変わらずモクローが潜り込んでいたため、再び驚くリーリエ。後ろに下がり、転びそうになったところをなんとかサトシが手をつかんで止める。

 

 

「あ、ありがとうございます」

「気にするなよ。焦らず、少しずつ慣れていけばいいんだからさ。それで、マーマネは何を買いに来たんだ?」

「ぼ、ぼくはその・・・アイスとか」

「えっ、アイス?俺も食べたいな。リーリエは?」

「そうですね。わたくしもぜひ!」

「そ、そんな食べたいの?」

「あぁ!」

 

 

マーマネに連れられてサトシたちはアイスクリーム屋へやってきた。いろんな種類のアイスに、甘いものが好きなサトシは目を輝かせていた。家で見えた大人っぽさは完全になりを潜めてしまったようだ。

 

 

「うまいなこれ!今まで食べた中でも、サイコーにおいしいぜ!」

「わたくしもここのアイスクリームは機会があれば食べたいと思っていました。とてもおいしいです」

 

 

買ったアイスクリームをほおばりながら笑顔で感想を漏らすサトシとリーリエ。マーマネのおすすめのアイスクリーム屋さんで買ったそれは、一口食べるだけで濃厚な味が口の中に広がり、二人は満足げに食べていた。

 

 

「でっしょ~!このアイスがアローラ地方で一番だと思うんだ!濃厚なミルクと最高級のバニラビーンズを惜しげもなく使って、しかも手作り限定品なんだ!」

「手作りなのですか。すごいです」

「流石マーマネ。もしかして、アイスとか甘いもの好きなのか?」

「ち、違うよ!僕はいろんな情報を集めるのが好きなんだ。他にもいろんなプログラムを考えてみるとか」

「確か、トゲデマルのための育成プログラムを考えていましたよね?」

「へ~すっげぇな、マーマネ」

 

 

その後、三人とポケモンたちはショッピングモーの紹介をしながら、いろいろな店を見て回った。しかし平穏な時間は突然終わることとなった。

 




皆さんは料理しますか?

作者はたまにしかしませんがやると案外楽しいですよね
その後の片付けの方がめんどくさい


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大きな一歩

マーマネ回かと思った?
残念、リーリエ回です!


サトシたちがショッピングモール内を歩いていると、突然災害時の非常用シャッターがあちこちで閉まり始めていた。そのために、サトシマーマネ、そしてリーリエとピカチュウたちがバラバラにされてしまったのだ。

 

 

「ピカチュウ、ロトム、リーリエ!」

「トゲデマル、大丈夫?」

 

 

『緊急事態発生ロト!』

「サトシ、聞こえますか?わたくしたちは大丈夫です」

 

 

「申し訳ありません。ただいま、非常装置が誤作動を起こしてしまったようです。現在原因の解明と復旧に向けて尽力しています。今しばらくお待ちください」

 

 

「とりあえず、待つしかなさそうだな」

「そうだね、ってわわっ!?」

 

 

突然電気が消えてしまう。周りからは驚きの声が上がった、が

 

 

「わぁ〜暗いよ怖いよ暗いよ怖いよ暗いよ〜!」

 

 

誰よりも大きな声を上げていたのはマーマネだった。パニックになり、走り回るマーマネ。そのままサトシに激突してしまう。

 

 

「ご、ごめんね、サトシ」

「いいって。誰にだって苦手なものの一つや二つあるもんな」

 

 

と、ここで非常用電源がつき、少し周りが明るくなる。落ち着きを取り戻したマーマネは、何やらシステムで悪戦苦闘している警備員の元へ走った。

 

 

「ちょっと見せてください!」

「こら君、子供の遊びじゃないんだ」

「お願いします。マーマネに任せてみてください」

「え、あ、あぁ」

 

 

真剣な表情で頼み込むサトシ。少年とは思えないその雰囲気に驚いたのか、あっさりと警備員は引いた。

 

 

「どうだ、マーマネ?」

「これくらいなら問題ないよ。ここをこうして、ここをこう。それでここはこうで・・・よしっ!行けたよ」

 

 

ものの数分でアクセスするマーマネ。なんだかシトロンに似ているなぁと懐かしむサトシだった。

 

 

「さっすがマーマネ!」

「この様子だと、一度主電源から再起動かけたほうがいいね」

「よしっ、なら行こうぜマーマネ」

「うん!」

 

 

「ロトム、どうだ?」

『ここの地図はしっかりと受け取ったロト』

「そこで待ち合わせですね」

「また後でな。行こう!」

 

 

閉じられた扉の両側から、サトシたちは主電源目指して走り出した。

 

 

 

 

「サトシ、さっきはどうして僕に任せようと思ったの?」

「えっ?」

「ほら、その。すっごく真剣に警備員の人に僕に任せてほしいって頼み込んでたから、なんでかな〜と思ってさ」

「うーん、とにかくマーマネならできる気がしたんだ。それだけ」

「そんな無責任な」

「けど、出来たじゃないか。俺が信じた通りにさ」

 

 

こそばゆい。こんなに正面から褒めてもらったことがあったっけ?自分だって、自分自身のプログラミング能力には自信があるし、実際いろんなものを作ることだってできた。でも、他人から腕を信頼してもらえるのって、こんなに嬉しいものなんだ。

 

 

ちょっとばかり、ニヤニヤしてしまうマーマネ。これ以来、彼はさらに自信を持ち、さらに色々なプログラムを作ることに成功するのだが、それの影の貢献人は自分がそのきっかけとなったことを知らない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

リーリエは少し苦労していた。サトシたちと合流するにはロトムたちと一緒にいる必要がある、が、残念ながら未だにポケモンには触れられずにいる。そのため、ピカチュウやトゲデマルからやや離れてついて行った。時折ピカチュウが自分が付いてきているのかを確認するように振り向いてくれる。ピカチュウにまで気を使わせてしまっていることが、申し訳なく思ってしまう。

 

 

『ここから出られるロト!』

 

 

ロトム図鑑の案内通りに進んだリーリエたちは、合流ポイントである主電源付近にたどり着いた。そこには既に先客がいた。それは、

 

 

「って、ピカチュウ!?」

「なんでこんなところにいるのにゃ!?」

 

 

なんとロケット団だった。

 

 

「あれ?ジャリボーイは一緒じゃないのか?」

「おっと、これはチャーンス」

 

 

「もしかして、この事態はあなた方が引き起こしたのですか?」

「そんなのどーでもいいじゃない!」

 

 

リーリエが詳しく話を聞こうとした時、ミミッキュがピカチュウ目掛けて攻撃を仕掛けてきた。不意打ちのそれをなんとか躱すピカチュウとトゲデマル。攻撃の手を緩めることなく、ミミッキュはシャドーボールを連発した。攻撃を避けるために少し離れたリーリエ。ピカチュウは次々に襲い来る攻撃を難なくかわしていた。

 

 

「あっ!」

 

 

リーリエの目に入って来たのは、流れ弾によって危険な目にあっていたトゲデマルの姿だった。このままでは危ない!助けに行こうと思ったリーリエだったが、ポケモンに触れることに対する恐怖が、その足を踏み出すのをためらわせてしまう。シャドーボールの一つがトゲデマルに直撃しそうになったその時、ピカチュウがトゲデマルを庇うように飛び込んだ。気づくと目の前にいたはずのピカチュウの姿が消え、隣のビルの窓にしがみついていた。

 

 

「ピカチュウ!」

 

 

自分があの時ためらわなかったら。ポケモンに触れることを恐れず、勇気を出せていたとしたら。だが今は責任を感じている場合ではない。ピカチュウは今にも落ちそうになっていた。助けなければ。でもどうやって?それに

 

 

「この小さいのもついでに頂いちゃいますか」

「あら、かわいい電撃でちゅね〜。痛くも痒くもないわよ」

 

 

ロケット団をどうにかしなければ。図鑑のロトムはバトルができない。トゲデマルの電撃じゃ攻撃には使えない。唯一戦えるピカチュウも、あれでは狙いのつけようがない。狙い・・・

 

 

「そうです!ピカチュウ、10万ボルト、お願いします!」

「ピーカチュウゥゥゥ!」

 

 

突然出された指示に疑問を持たず、ピカチュウは電撃を放った。しかし当然狙いは大きく外れていた。

 

 

「トゲデマル、今です!」

「マリュ!」

 

 

リーリエの指示でトゲデマルが動いた。体を丸め、尻尾を立てる。するとピカチュウの電撃が方向を変え、トゲデマルに当たった。その電気をまとったトゲデマルは、得意技のビリビリちくちくを発動、ロケット団の隙を作り出した。

 

 

「あっ、ピカチュウは」

 

 

ピカチュウの様子を確認するリーリエ。なんとか踏ん張っていたピカチュウだったが、どうやら限界のようだった。身体を支えていた片足が外れ、もう片方も滑って離してしまった。落ちる!そう思った時、彼女のそばを一つの影が通り過ぎた。

 

 

「クロー」

「ピカ!ピカァチュウ!」

 

 

「あれは、モクロー?」

「ピカチュウ、リーリエ!みんな大丈夫か?」

「サトシ!」

 

 

いつの間にか自分たちの後ろに、サトシたちが到着していた。走ってきたらしく、マーマネは激しく肩で息をしていた。

 

 

「ナイスだモクロー!ロケット団、覚悟しろ!」

「な、なんかこれやばいんじゃ・・・」

 

 

サトシもやってきて、やる気満々なピカチュウ。今度こそお空の星にしてやろうと意気込んでいたところだったが、またまたどこからともなく現れたキテルグマがロケット団をさらっていった・・・ビルの屋上から屋上を伝って・・・本当に何者なのだろうか。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その後、無事にショッピングモールの電源復旧、および非常機能の解除に成功。ショッピングモールを見て回った後、サトシたちはマーマネたちと別れて、ククイ博士の家に向かって歩いていた。

 

 

「ふぅ~、今日はありがとうな、リーリエ。ショッピングモールの案内とか、ピカチュウたちのこととか」

「いえ、その・・・わたくしは、何も・・・」

 

 

ロケット団が連れ去られてから、リーリエの様子が少しおかしくなっているのにサトシは気づいていた。前にも見た、考え込んでいるような、落ち込んでいるような様子だった。サトシたちが駆け付けた時、ピカチュウは既に危機的状況になっていた。そこまでに何があったのかはわからないが、その時にリーリエが落ち込むようなことが起きたのだと予想する。

 

 

「もしかして、俺たちが来る前にピカチュウがああなっちゃったのに責任感じてるのか?大事にはならなかったんだし、そんなに気にしなくても大丈夫だよ。な、ピカチュウ」

「ピカ、ピカチュウ」

 

 

サトシの問いかけに、ピカチュウは笑顔で返した。気にするなというように、リーリエのほうにも笑顔を向ける。しかしリーリエの表情は晴れなかった。

 

 

「あ~、ほら。何があったのか、話してみなよ。少しは楽になるかもしれないしさ」

「・・・あのとき、ピカチュウがあんなことになってしまったのは、わたくしのせいでもあるんです」

「へ?何が?」

「ピカチュウは、ミミッキュの攻撃からトゲデマルを守ろうとして・・・でもわたくしのほうが近くて、わたくしがトゲデマルを助けていれば、ピカチュウもあんなことにはならなかったはずです。でも、わたくしは動けませんでした。ポケモンに触るのが怖い。その思いが、わたくしの動きを止めてしまったんです。そのために、ピカチュウが」

 

 

サトシだったら、きっとためらいなどしなかっただろう。たとえどんなに恐ろしい状況でも、どんなに危険だとわかっていても、すぐに飛び出してトゲデマルを助けていたのだろう。それができない自分が、悔しいと思う。

 

 

「そんなことはないよ。リーリエが飛び出していたら、リーリエ自身が危なかったかもしれないだろ?それに、すごかったじゃないか」

「え?」

「ピカチュウとトゲデマルにバトルの指示を出していただろ?自分のポケモンじゃないのに、ちゃんと特徴を理解してて、それを生かした攻撃ができた。なかなかできることじゃないぜ。それだけリーリエがポケモンについての知識を持っていて、それをちゃんと生かせるってことだろ。すっげぇじゃん」

「でも、わたくしはまだ、ポケモンに触れません。このままでは」

 

 

ポンっ、と頭に軽い衝撃を感じる。視線を上げるとサトシがいつの間にか正面に回り込み、まっすぐに自分を見つめながら、その手を頭にのせていた。落ち着かせようと撫でてくるその手は、まるで小さな子にするそれだった。でも、不思議と不快感はなく、むしろ普段ポケモンたちに向けられているその優しさをその身に感じ、とても心地よかった。

 

 

「焦らなくていいんだって。それに、リーリエは頑張ろうとしてるんだろ?大丈夫だよ」

「あっ、その・・・はい・・・」

 

 

さっきまでの暗かった気持ちが嘘のように晴れていく。サトシは何か特別な力でも持っているのだろうか。こんなにもすぐに自分の中の暗い気持ち、寂しい気持ち、悲しい気持ち、不安な気持ちを、取り去ってしまえるのだから。代わりに自分の心を満たしてくれる。優しくて、暖かくて、体の奥から湧き上がってくるようなこの気持ち。もしかしたら、そういうことなのかもしれない。本で読んだことがあって、確かに興味もあった。でも、こんなにも幸せな気持ちになれるものなのだろうか。

 

 

彼と一緒なら、自分は変われるかもしれない。あぁ、本当にそう思える。自分を、彼を、あの人を変えてくれるのかもしれない。そうしたらまた・・・

 

 

 

 

 

 

頭を撫でてくれる手に、リーリエは自分の手をそっと重ねた。頭から離し、両手でその手をそっと握ってみる。サトシが不思議そうな表情をするのが見える。そっと目を閉じてその手のぬくもりを感じてみる。やっぱり彼はそういうことを意識したことはないのだろうか。少し残念な気もするが、同時に安心する。自分のこの感情が、まだ彼に知られることはなさそうだ。

 

 

「リーリエ?」

 

 

何も言わずに自分の手を握り続けるリーリエにサトシは声をかける。目を開き、サトシを見るリーリエ。その瞳からはさっきまでの自分に対するふがいなさや責めるような感情はもう見えなかった。つないで手はそのままに、リーリエはサトシを引っ張るように歩き出した。

 

 

「ちょっ、リーリエ?」

「行きましょう、サトシ。博士が帰ってきてしまいます」

 

 

振り返りながら笑うリーリエ。その笑顔は、今まで彼女が見せてくれたどんな笑顔よりも、明るく、楽しそうだった。自然と笑みが広がるサトシ。

 

 

「あぁ!」

 

 

 

 

 

 

余談だが、博士の家に帰る途中にその博士本人に会い、結局はアイナ食堂で食事をすることになった二人。にやにやする博士、赤面するリーリエ、そして何もわかっていないようなサトシ。この三人を見ながら、マオがうらやましいような微笑ましいような気持ちになったとか。




リーリエが若干優遇気味ですが、作者の一番はセレナです

ほ、ホントダヨー


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風来坊の猫

ストックがだいぶん減ってきたなぁ

そろそろあっちの方も載せ始めるかな・・・


朝、勢いよく飛び出したサトシとリーリエ。今日も元気にポケモンスクールへ向かった。リーリエのおかげで、朝に寝坊する心配もなくなり、最近のサトシは生活のリズムがしっかりとできつつあった。ふと歩みを止めるサトシたち。その視線の先には、黒と赤の体色のポケモンがこちらをじーっと見つめていた。ゴロゴロと喉を鳴らしサトシの足にすり寄るポケモン。

 

「この子はニャビーですね」

「ニャビー?そういえば何度か見かけたことがあるな」

『ニャビー、ひねこポケモン。ほのおタイプ。感情を出さずに、一人でいることを好む。信頼を得るまでには、時間がかかる』

「それにしては随分と人懐っこいみたいですが・・・」

「もしかして、腹減ってるのか?」

 

カバンから自分の弁当箱を取り出すサトシ。本日はククイ博士お手製、サトシの大好きなコロッケを挟んだ大きなコロッケサンド。少しちぎってニャビーに差し出すサトシ。ところがニャビーはより大きなほう、コロッケサンドのほとんどを奪ってしまう。止めようとしたロトムやピカチュウにダメージを与え、ニャビーは茂みの中へ逃走した。

 

 

 

 

「あぁ、そのニャビーね!会ったの?」

 

スクールにたどり着いたサトシたち。先ほどの出来事の話をすると、マオが何かに思い至ったようだ。

 

「マオ、知ってるの?」

「ごはん頂戴~ってすり寄ってくるんでしょ?あれされるとかわいいんだよね~」

「あげちゃう、ついつい」

 

マオとスイレンは以前そのニャビーにあったことがあるらしく、どうやらすっかりかわいいと愛着がわいてしまっているようだ。

 

「でも、サトシは思っていたよりも怒ってないね。僕ならすっごい怒るけど」

「まぁ、あいつがそれだけ腹減ってたってことだと思うし。けど、お昼どうしよ~」

「まぁまぁ、わたくしのおかずを少し分けてあげますから」

「あたしも」

「じゃあ私も」

「みんなサンキュー!」

 

とりあえず空腹の心配はなくなったサトシ。話題は今朝のことからニャビーの普段についてへと移っていった。

 

「いつも一人だよね?」

「うんうん」

「ニャビーは構われることが苦手だからね~」

『トレーナーにも懐きにくいポケモンロト』

「いわゆる、一匹狼のポケモンって感じかな~。うちの食堂にもよくあらわれるんだけどね」

「市場でも見るぞ。きのみとかも勝手に持って行ってるみたいだしな」

「でも、かわいいんだな~。なんか憎めないんだよね~」

「で?サトシはそのニャビーをどうしたいんだ?」

「へ?」

 

カキの質問にサトシは素っ頓狂な声を上げた。

 

「『へ?』じゃなくて、そのニャビーに昼飯とられたんだろ?なんか思うことはないのか?」

「思うことって言われてもなぁ・・・とりあえず、ゲットしてみたいかな!」

「「「「「えぇ?」」」」」

「ほ、本当に怒ってないの?」

「いや、別に。腹が減ってたんならしょうがないだろ。トレーナーがいるならともかく、一人でいるなら食べ物を確保するのだって大変だろうし。それに、あいつ確かにかわいいし。前に見た火の粉も、結構パワーあったしな」

「ゲット・・・ですか」

「う~ん、うまくいくかな~」

「とりあえず、また会えたらいいなってくらいかな」

 

 

 

 

放課後、ククイ博士、リーリエ、サトシの三人は食材や生活用品を買いに市場へ来ていた。ととあるきのみやでサトシが立ち止まった。

 

「サトシ?どうかしたのかい?」

「サトシ?・・・あっ」

 

そのきのみやの店主のおばあさんの前には、お皿に乗っているきのみをおいしそうに食べているニャビーの姿があった。

 

「あら、いらっしゃい」

「すみません、そのニャビーっておばあさんのですか?」

「違うわよ。この子は時々、こうしてやってくるの。あたしのこと心配してくれてるのかなって、だから来るたびきのみをあげているんだよ。アローラじゃ、自然の恵みはみんなで分かち合わないとね。もしかして、坊やもあの子に食べ物を取られちゃったのかい?」

「あはは~。まぁ、そうなんです」

「どこに住んでるのかは知らないけど、悪い子じゃないんだよ」

「はい・・・俺も、そう思います」

 

市場を駆け抜けていくニャビーの後姿を、サトシは見送った。きのみを一つ咥えたまま走っていくニャビー。どこかへ持っていくのだろうか。誰かに、あげるのだろうか。サトシには想像することしかできなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、ホームルームが終わったサトシは、マオと一緒に買い物をするというリーリエとは別に帰ろうとしていた。その途中でサトシの目に入ってきたのはニャビーが見たことないポケモンに追い詰められている様子だった。

 

「ニャビー!なんだあのポケモンは?」

『あれはペルシアンロト!』

「ペルシアン?俺の知ってるのと違う・・・ってことはペルシアンにもリージョンフォームがあったのか?」

『アローラのペルシアンはあくタイプだから、ずるがしこくて残忍ロト!』

「なんだって・・・まさかあいつ!おい、やめろ!」

 

急な崖になっていたというのに、サトシはためらわずに滑り降りて行った。制止の声を上げるサトシ。しかしそんなのお構いなしと、ペルシアンはその鋭い爪でニャビーの体をきりさいた。傷つくニャビー、その口からきのみが落ちる。ニャビーの前に立ちはだかるペルシアン。後ろは海が広がる崖。ニャビーは絶体絶命のピンチだった。

 

「でんこうせっか!」

「ピッカァ!」

 

ペルシアンの体が後退させられる。ペルシアンとニャビーの間に立つように、ピカチュウは身構えた。

 

「10万ボルト!」

「ピィ~カァ、チュゥー!」

 

ピカチュウの得意技、10万ボルトが炸裂する。その威力に戦意をそがれたのか、ペルシアンはあっさりと逃げて行った。急いでニャビーの様子を確認するサトシ。ダメージが大きいようで、きのみを咥えて歩こうとしているその姿は、フラフラだった。気遣うようにサトシがニャビーの体を持ち上げる。

 

がぶりっ。サトシの腕にニャビーの牙や爪が食い込む。それでもサトシはニャビーを放そうとはしなかった。

 

「大丈夫だって。きのみも盗らないし、お前にも危害を加えたりしない。ただ、そのけがをほっとくのは良くないからな。何が何でもポケモンセンターに連れて行くぞ~。ロトム、きのみもってくれ」

『了解ロト!』

 

 

 

治療を終えたニャビーは、エレザードカラーと呼ばれる体の傷をなめないようにする治療具を取り付けられていた。

 

「ニャビー、もう大丈夫みたいだな。よかった」

「次はサトシ君ね」

「え?」

「その腕、随分大変だったみたいね」

 

ジョーイさんが指をさしたサトシの腕は、噛み跡や引っかき傷だらけで、血が滲んでいた。見ていて痛々しいその腕を見たサトシは、

 

「わっほんとだ!」

 

と驚きの声を上げるだけ。痛みを訴えることも、ニャビーを責めることもしない。不思議に思いながらサトシの治療を始めようとするジョーイさんだったが、ニャビーがきのみを咥えて、どこかへ行こうとしていた。

 

「あっ、ニャビー!」

 

いち早くそれに気づいたサトシは腕の治療もまだのまま追いかけるように駆け出した。

 

「サトシくん!あの子に無茶させないで!」

 

看護師としての言葉を送りながらも、ジョーイさんはサトシにも無茶はして欲しくないと思った。何故そう思ったのかはわからないが、彼は危なっかしい気がした。これまでも、この先も。彼が危ない目にあってしまうのが避けられないことだと、なぜか思ってしまった。

 

 

 

その後、ニャビーを追いかけていたサトシは、ニャビーがエレザードカラーのせいで柵の隙間を抜けられずに困っているところを発見した。このままほって置くわけにもいかない、そう思ったサトシは・・・

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それで連れてきたのですか?」

「まぁね、あっいててててっ」

 

ニャビーを抱えたサトシは、そのままククイ博士の家まで連れてきたのだった。休息をとらせるのにも、ここなら博士もいるから安心だと考えたのだ。現在、ニャビーは博士による軽いチェックを受け、サトシはリーリエに手当てをしてもらっていた。手当てが終わった頃、ククイ博士がニャビーを連れて地下から上がってきた。

 

「サトシ、ニャビーのチェック終わったぞ。とりあえず傷口は開いていないようだし、心配はないだろう」

「ありがとうございます、博士」

 

フスーっと諦めたのかやたら大人しくなったニャビーをサトシは抱えて膝の上に乗せる。邪魔そうにしていたエレザードカラーを外してあげ、小さくて暖かいその体を優しく撫でながら、サトシはニャビーに語りかけ始めた。

 

 

 

その夜、サトシがニャビーを膝に乗せたまま寝てしまっているのを見かけたリーリエはちゃんとベッドで寝るように声をかけようとした。すると、ニャビーが起きて、きのみを持ってどこかへ行こうとしていた。慌ててサトシを起こすリーリエ。二人とピカチュウたちはそっとニャビーの後をついて行った。

 

ニャビーが向かった先は廃墟だった。そこにはかなり歳をとっているのがわかるムーランドがいた。ニャビーはどうやら、彼のために食べ物を探していたようだ。その様子を見たサトシはムーランドに話しかけた。

 

「遅くなっちゃってごめんな、ムーランド。こいつ喧嘩して怪我しちゃったんだ。けどもう大丈夫だから」

 

ムーランドの長い毛を撫でながら、サトシは警戒を解くように語りかける。ムーランドも顔をサトシに向けたが、そこに警戒の色はなかった。それを確認してからサトシは今度、ニャビーの方を向いた。

 

「ニャビー、俺お前のことゲットしたいって思ってた。でも、こういう事情があるならここを離れるわけにもいかないもんな」

 

語りかけながらも、サトシは笑顔だった。けれどもその笑顔はどこか寂しげだった。きっとサトシはニャビーのことを本当に思っているのだろう。そしてその上で、いやだからこそ。彼は自分と一緒に来て欲しいとは言わないのだ。

 

「サトシ・・・」

「また来てもいいかな?食べ物持って来るからさ」

 

ニャビーを撫でようと手を伸ばすサトシ。しかしその手が触れる前に、ポケモンたちがピクリと反応した。彼ら以外に何者かがいるようだった。暗闇からゆっくりと現れたのは、昼間のペルシアンだった。相当しつこいというか執念深い性格のようで、わざわざつけて来ていたのだ。急いで建物の外に出るサトシたち。ちょうど頭上をはかいこうせんが通り過ぎて行った。

 

「まったく、しつこいやつだな」

「しつこい相手は嫌われてしまいますよ!」

 

そんなサトシたちの言葉などお構いなしに、ペルシアンは攻撃を仕掛けてくる。年老いて思うように動けないムーランドにペルシアンの鋭い爪が襲い掛かろうとしていた。

 

ピッ、と飛び散る赤い血。しかしそれはムーランドのものではなかった。両腕を交差し、頭を守った状態のサトシが、ペルシアンとムーランドの間に入り、攻撃を受けたのだった。絆創膏が張られていた腕にさらに傷がつく。しかしサトシは痛がる様子も見せず、

 

「大丈夫か、ムーランド?」

 

と、後ろにいるムーランドの心配をしていた。ニャビーはあっけにとられた。どうしてそこまでしてくれるのだろう、と。自分は確かにこの人間とは何度か遭遇している。しかしそのたびにひのこを浴びせたり、ひっかいたり、嚙みついたりといろいろしてきた。相当痛いはずだ。それなのに怒るどころか、彼は自分やムーランドのことを案じてくれている。こんな人間・・・初めてだった。追撃しようとするペルシアンの前に立つニャビー。体に力を入れ、大きく息を吸い込み、思いを込めてひのこを放った。そのひのこは今までに放ったものとは比べ物にならないほど大きかった。直撃したペルシアンは泣きながら逃げて行った・・・いやそれどこのト〇とジェ〇ー?

 

 

 

「すごかったぜ、今のひのこ」

 

賞賛の言葉とともに自分の頭をなでる大きな手。相手の笑顔を見ながら、ニャビーはされるがままだった。でも、不思議とこの人間に構われるのは、嫌いじゃなかった。血のにじんでいるその腕を、ニャビーはそっと舐めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

翌日、いろんなきのみを抱えて、サトシたちはニャビーたちが暮らしていた廃墟に向かったが、そこにはもう誰もいなかった。あたりを探してみても、彼らがいる気配はなかった。いなくなってしまったことに寂しさを感じたサトシ。その様子を心配そうに眺めるリーリエとピカチュウ。結局どこへ行ったのかわからないまま市場を歩き回っていると、

 

「ニャッブ」

 

フンスっと足元から声をかけられた。そこにはきのみを咥えたニャビーがサトシをじーっと見つめていた。フンスっともう一度鼻を鳴らし、ニャビーは柵を超えて茂みの中に入っていった。どうやら彼らは引っ越したらしい。ただ、このあたりから離れたわけではなさそうだ。ここにいればまた会えるかもしれない。そう思ったサトシは明るい笑顔でニャビーに手を振ったのだった。

 

 

「サトシはすごいですね」

「え?」

「懐きにくいと言われるニャビーがあんなふうに心を開くなんて。それも、トレーナーじゃないのに」

 

彼がモクローをどんな経緯でゲットしたかの話を聞いたとき、リーリエは最初信じられなかった。野生のポケモンが自分からトレーナーについていくことを決めるなんて、自分が得た知識の中にはなかったのだ。でも、あのモクローの懐き具合、そして今回のニャビーの件を間近で見て、きっと本当にそうなのだろうと実感した。サトシのまっすぐな気持ち、ポケモンを大切に思うその優しさに触れて、ポケモンたちは彼を選ぶのだろう。彼についていきたいと、行ってもっと多くを見てみたいと、そう思うのだろう。それはきっと、彼にしかない魅力。誰よりもポケモンにやさしくて、誰よりもポケモンのことを考えている彼だから。その姿勢はポケモンだけではなく、人をも惹きつける。そう、自分たちのことだって。

 

「仲良くなれて、よかったですね」

「そうだな。今はまだ無理でも、またムーランドのところに連れて行ってくれるといいな」

「サトシなら、きっとすぐですよ」

「そうかな?」

「そうですよ」

 

ニャビーが消えたほうを見る二人。この先またニャビーには会うことがあるかもしれない。その時にどうなるだろうか。ニャビーはサトシの仲間になるのだろうか、それはわからない。彼らの話はまだまだ続く。




ニャビーはゲットされるのかな?

だとしたらいつくらいかな?


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新たな出会い

リーリエの家が登場した話ですね〜

作者はこのためにしばらくウンウン唸ることとなりました


その日のポケモンスクールの朝は慌ただしかった。ピカチュウが大好きで仕方がないようで、トゲデマルが大はしゃぎしていた。それによってアシマリやアマカジ、サトシたちもあちこち走り回ることとなった。はしゃぎだして転がるトゲデマル。壁や机、棚などにぶつかるも、なかなか止まる様子がない。そのトゲデマルが向かう先には、リーリエが立っていた。突然のことに驚き固まるリーリエ。彼女の手が引かれ、何とか無事に躱すことに成功する。ポスン、と何かに頬が当たるのを感じたリーリエは、思わず閉じていた眼を開いた。

 

「大丈夫か、リーリエ?」

 

至近距離からのぞき込むサトシ。やや前のめりになっていたため、リーリエはサトシの胸に顔を埋めるようになっていた。顔に熱が上がるのを感じて慌てて離れるリーリエ。

 

「す、すみません」

「いや、いいよ。突然だったもんな〜」

「ごめんね、リーリエ。トゲデマルには後でちゃんと注意しておくから」

「だ、大丈夫です!論理的結論として、わたくしがその気になれば触れるはずですから」

「でも、スクールに来てからはまだ一度も触れてないよね?」

「・・・ハイ、その通りです」

「大丈夫、きっとすぐに触れるようになるって。焦らなくても大丈夫だよ」

 

サトシの励ましにうなだれながらもうなずくリーリエ。彼女の視線の先、ピカチュウもろとも本棚にぶつかり、なんとか止まったトゲデマルは、再びピカチュウにじゃれついていた。それをやや呆れ気味に見つめるアシマリとアマカジ。クラスメートたちの相棒。自分もいつかはパートナーができて、みんなのポケモンと一緒に遊ばせてあげたい、遊びたい。そんな気持ちをリーリエは抱いていたのだ。

 

「アローラ、みんな」

 

丁度いいタイミングでククイ博士がやってきた。

 

「これからみんなで校長室へ行くぞ。オーキド校長からの特別授業だとさ」

「特別授業?」

 

なにやら面白いことが始まりそうな予感がした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

サトシたちが訪れた校長室の机の上に並べられていたのは、二つの卵だった。一つはサトシがカントーから連れてきたもの、もう一つはつい最近アローラ地方で見つかったものとのこと。ここでオーキド校長から提案があった。

 

「この二つの卵、どちらかをわしが、もう一方を君達で育ててみるのはいかがかな?」

 

ポケモンの卵のお世話。スクールでは今までやったことのない内容だったため、マオたちは大盛り上がりですぐに賛成した。ポケモンと触れ合うことは何度もあったが、卵から育てられるなんて、そうそう経験できることではない。何気にこの中で一番経験豊かなサトシは、リーリエにどちらの卵を選ぶか尋ねた。

 

「私が選んでいいのですか?」

「なんとなくだけど、リーリエが選ぶべきだと思ったんだ。これもポケモンに慣れるための第一歩だと思ってさ。ポケモントレーナーが初めて旅をするときだって、パートナーを選ぶんだ。それと同じ感じ」

「いいね、それ!ほらほらリーリエ、選んじゃいなよ」

 

マオからも急かされ、おずおずとリーリエは白色の卵を指差した。もう片方の茶色の卵が一色なのに対し、白色の卵にはいくつかの水色と淡い緑色の模様がついていた。

 

「わたくし的にはこちらがいいです」

「なんで?」

「ここの模様が、お花のようなので」

「わっ、ほんとだ!」

「うんうん、可愛い」

「えー、そんな理由で?」

「まぁいいじゃんか、どんな理由でもさ」

「そりゃそうだけど」

「それよりも、どんなポケモンが生まれてくるのかな?」

「さぁな。強いやつなら面白いんだが」

「あたし的にはかわいいポケモンがいいかな」

「うんうん、お世話し甲斐があると思う」

 

「では、わしの特別授業はおしまいじゃ。みんなで協力して、しっかりと卵の世話をするんじゃゾロアーク」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

校長室から戻ったサトシたちは、卵を囲んで様子を見ていた。そっとサトシが手を伸ばし、卵に触れる。

 

「暖かい。この子が生きてるって感じがする」

「どれどれ?あっ、ほんとだ」

「僕も触らせて」

「私も」

 

卵に触れながら盛り上がるクラスメートを見ながら、リーリエは少し戸惑っていた。ポケモンには触れないけど、もしかして卵なら。

 

「リーリエも触って見なよ!ポケモンは無理でも、卵なら動かないし」

「そ、そうですね・・・では、」

 

マオの言葉に後押しされ、そっと卵に手を伸ばすリーリエ。その手が卵に触れようとした時、ピクピク、と卵が動いた。それに驚き、リーリエは悲鳴を上げて後ろにとびさがってしまった。

 

「ごめんね、リーリエ」

「いえ、大丈夫です」

「まぁ、こうして動くってことは元気な証拠だから。案外すぐに生まれるかもな」

「サトシ、お前意外と詳しいな」

「俺の仲間の中には卵から孵った奴もいるからな。卵の世話をした経験はあるんだ」

「そうなの?」

 

ポケモンの卵なんて、そんなに何度も見られるものではない。それこそブリーダーやドクター、博士だとそういうことを経験することは多いだろう。けれども旅をしながら、それもその中で育てるなんて。改めてサトシのようにポケモンとともに旅をすることで得られるものの多さを実感する。

 

大丈夫。少しずつ、少しずつ。一歩ずつ変わっていけばいい。少し深呼吸をして落ち着く。ちらりと卵を見ると、また少し揺れた。外に出ることを楽しみにしているのだろうか。一体どんなポケモンが生まれてくるのだろうか。

 

話題は卵の世話に移った。学校で育てるのはいいが、夜や休みの時はどうすればいいのかという疑問が出たのだ。卵をそのまま放置するわけにはいかないため、当然、誰かが家に持って帰り、そこで世話をすることになる。では誰が?

 

「サトシがいいんじゃないの?こういうことに慣れてるわけだし」

「確かにそうだな。博士もいるし、どんな時にでも対応できる」

「えっ、うん・・・なぁ、リーリエ。卵の世話、してみないか?」

「えっ、わたくしが、ですか?」

「でも、リーリエはポケモンに触れないし」

「そうだけど、卵から慣れていくことができれば、リーリエもポケモンに触れるようになると思ってさ。もちろん、俺も手伝うし。ダメかな?」

 

クラスメートの顔を見渡すサトシ。真剣そうな表情からも、彼が冗談やからかいで言っていないことはわかる。そもそも彼がそんなことを言うような人じゃないこともわかっている。それだけ彼が、リーリエに協力しようと思っているのだ。ならば、否定する理由もない。

 

「ううん、全然。むしろあたしもそれがいいと思うな」

「リーリエはどう?やってみる?」

 

しばしのためらいを見せるリーリエ。しかし俯かせていた顔を上げた彼女は、覚悟を決めた表情をしていた。両手をぐっと握りしめ、クラスメートたちの顔を見据え、

 

「はい!わたくし、必ず卵の世話を立派に成し遂げてみせます!」

 

と言い切った。

 

 

 

 

 

放課後、サトシが卵を持ち、リーリエと一緒に帰ろうとしていた。頑張ると宣言したものの、いざ運ぼうと思い立ったら卵がまた動き、リーリエが驚いてしまったのだ。これから慣れていけばいい、一緒に頑張ろうぜとのサトシの言葉を受け、再び落ち込みかけていたリーリエも立ち直った。と、彼らが歩いていると、一台の大きな車が近くに来て止まった。中からきっちりとした服を着た初老の男性が降りてきた。やや色が薄くなっている髪やひげ、片目だけの眼鏡をかけ、いかにも執事としか言いようのない男性は、リーリエのもとへ走り寄り、その両手を取った。

 

「お嬢様!やっと、やっと見つけましたぞ」

「えっ、ジェイムズ!?」

「誰?」

 




ちょっとシリアス度が高くなるかもしれません

せっかくだからUBもちゃんとこの作品に活かしたいですしね


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大きな屋敷

オリジナル色がこのエピソードは強めですな

まぁリーリエの設定からして違うから仕方ないんですけど


帰宅途中にジェイムズと呼ばれた初老の男性に出会ったサトシ。リーリエとジェイムズに促されるままに車に乗り込み、彼らがたどり着いた先は

 

 

「ここは、わたくしが以前住んでいた家です」

「えっ、ここに?」

「はい」

 

 

広い敷地の中の豪邸。ここにリーリエは住んでいたと言う。喋り方が丁寧だったのも、家柄のためだったのだろうか。そんなことを考えながら、サトシはリーリエに案内され、彼女の自室だった場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

広いその部屋は清潔に保たれていた。大きな棚、本棚にソファ、いくつかのぬいぐるみに化粧台、テーブル、そして大きなベランダ。こんな広い部屋に住んでいたのか、と驚くサトシ。

 

 

テーブルに座り、出されたお茶を飲むサトシは、ソファ座っているリーリエとジェイムズさんの会話を離れていながらもしっかりと聞いていた。ジェイムズさんは、リーリエの家の執事だったのだ。

 

 

「よくぞご無事でいらっしゃいました。失踪したと聞いた時はこのジェイムズ、死ぬ程心配しましたぞ」

「ごめんなさい、ジェイムズ」

「何があったのですか?」

「それが、わたくしもよくは覚えていないのです。気づいたらあそこから逃げ出していて。それに、ポケモンにも・・・お母様には、わたくしのこと」

「伝えておりません。お嬢様がいなくなったのには何か深い理由があるのではないかと思いまして。それに、兄君のこともありますし」

 

 

何やら深刻そうな話をしている二人の様子を見ながら、サトシは今聞こえた情報を整理していた。リーリエは家出をしたということ、そしてその原因がリーリエのお母さんにあるかもしれないということ、兄がいること、そしてお母さんとのことが原因でポケモンに触れなくなってしまったということ。ちらりと部屋を見渡したサトシは、一つの写真を見つけていた。その写真には、幼いリーリエと兄、お母さんらしき人と一緒に写っていた。写真の中の幼いリーリエの腕の中には、ヨーテリーが抱きしめられていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ともかく、お嬢様。どうぞこの家へお戻りください。母君のことは気になさらずに。私どもでお嬢様をしっかりとお守りします」

「ジェイムズ・・・ですが、わたくしは」

 

 

 

 

「あっ、バタフリー!」

 

 

突然響いた声に驚く二人。サトシがベランダを見ていた。そこには野生のバタフリーがやって来ていた。笑顔を浮かべてその様子を見るサトシ、リーリエはソファから立ち上がり、サトシの方へ向かった。ジェイムズさんもそのあとに続いた。

 

 

「ここの庭は広いですから、こうして野生のポケモンがよく遊びに来るんですよ。ほら、下にも」

 

 

ベランダから庭を見下ろすと、そこにはたくさんの遊具が置いてあり、様々な野生のポケモンが遊んでいた。

 

 

「ジェイムズ、ポケモンフーズは残っていますか?」

「いつでもお使いできるように、私どもでご用意してあります」

 

 

それを聞いたリーリエは、大きな棚を開けた。服が入っているのかと思いきや、中にはそれぞれにラベルが貼られている様々なポケモンフーズが入っていた。そのうち一つ、バタフリーと書いてあるのを手に取り、リーリエは中身を皿に移した。

 

 

「もしかして、ポケモンごとに違うフーズを用意してあるのか?」

「ポケモンも種類やタイプごとに最適な栄養バランスや、味付けがありますから。もちろん個体差はあるかもしれませんけど」

 

 

そっと差し出されたそのフーズをバタフリーは美味しそうに食べだした。

 

 

「やっぱりすごいな、リーリエ」

「いえ、その。ありがとうございます」

 

 

再び庭に目を戻すサトシ、ふと遊具が置いてある場所の奥にも何かがあるのを見かけた。

 

 

「あれって、バトルフィールド?」

「はい。あちらの手入れも欠かさず行っておりますゆえ、いつでも使用可能です」

「サトシ、よろしければ使ってみますか?」

「いいのか?あっ、でも相手がな〜」

「その点に関しては心配無用ですぞ」

「えっ?」

「僭越ながらこのジェイムズ、サトシ様のお相手をさせていただきましょう」

「ジェイムズはここで働く人の中で一二を争うの実力者なのです」

「そうなんですか?よろしくお願いします!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

バトルフィールドに立ちながら、ジェイムズは相手の少年のことを観察していた。どこにでもいそうな少年、現在リーリエのクラスメートにして、一緒に下宿しているとのこと。ポケモンが大好きなのはその仕草や表情からも見て取れる。けれどもそれだけにしか見えない。バタフリーを見たときの反応や、ポケモンたちが遊ぶ様子を眺めるとき、お茶と共に出したお菓子を食べている様子から見ても、年相応、あるいは更に幼いそれだ。

 

 

リーリエに何があったのかはわからないが、奥様との間で何かあったのだろう。であれば自分はリーリエが安心できるように守るのみ。雇い主は奥様であれど、守ると決めたのは彼女なのだ。

 

 

しかしリーリエはこの屋敷に戻ることをためらわれている。奥様のこと、そして自分たち使用人のことを考えた上でのことだろう。もしも戻らないのであれば、今彼女と共にいるというこの少年がリーリエを守れるものでなければならない。それを確かめて見たいとも思ったのだ。

 

 

サトシと呼ばれた少年はモクローを出して来た。まだゲットして日が浅いのか、風格はあまり感じられない。しかし彼の隣のピカチュウは違う。何やら纏っている空気、雰囲気がモクローとは異なるのがわかる。彼はそれほどのポケモンを、実力を持っているのだろうか。

 

 

「頼みますぞ、オドリドリ!」

 

 

自分の自慢のパートナーを繰り出す。手加減するつもりはなかった。このバトルで、彼を見極めるためにも。

 

 

「手加減無しでお願いします、ジェイムズさん」

「こちらこそ、お手柔らかに頼みますぞ、サトシ様」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

モクローのこのはをかわして、めざめるダンスを放つオドリドリ。メレメレ島のオドリドリはでんきタイプ、電撃がモクローに命中する。今のを躱せなかったところから察するに、モクローはスピードがそこまでないようだ。たいあたりを繰り出して来た相手に対抗して、こちらはおうむ返しを指示する。全く同じ動きで衝突する二匹。両者弾かれて後退する。それを見ながらも再びたいあたりを指示するサトシ。同じようにおうむ返しを指示、再び激突する二匹。さっきの繰り返しでしかない。しかし、

 

 

「今だ、モクロー!おうむ返し返し!」

 

 

サトシの指示に答えるようにモクローが力を込める。体格で優っているオドリドリが勢いよく吹き飛ばされた。そのことにジェームズは驚きを隠せなかった。モクローの脚力は確かに強い。しかしまさかそれを利用してこちらの攻撃を正面から受け止め、あろうことか弾き飛ばすとは。モクローならばできると信じた彼もそうだが、その気持ちに応えようと、躊躇わずにそれを実行したモクローのトレーナーへの信頼。聞けばこのアローラ地方に来てからまだそんなに時間は経っていないとのこと。短い時間でこれほどまでに信頼関係を築き上げられるとは。

 

 

気づけばジェームズは純粋に彼とのバトルを楽しんでいた。攻撃を繰り出しては躱し、また激突する。オドリドリも久しぶりに高まるバトルを楽しんでいるようだ。

 

 

「キャアァァ!」

 

 

突然リーリエの悲鳴が聞こえた。一瞬戸惑いや驚きで動きが止まった。と、玄関へ向かって走る人影が見える。サトシだった。先ほどまでバトルフィールドで対戦していたはずの彼は、その声を聞いた瞬間に駆け出していた。




あぁ、ストックがほぼ尽きてきた

更新のペースを遅らせるか、あるいは・・・


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暖かい気持ち

リーリエ回のラストですね

サトシはヒーローです!


突然現れたヤトウモリにリーリエは驚き、怯えた。しかしその視線の先にあるものが何かはわかる。今自分の後ろ、クッションを重ねたソファの上に置かれているもの、あの卵だ。少しずつ間合いを詰めてくるヤトウモリ。もともとの悪人面が更に悪い笑みに歪められ、威嚇するように声をあげた。

 

 

「だ、ダメです!この子は絶対に渡せません!」

 

 

足は震え、涙が浮かぶ。今にも逃げ出したくなるくらいだった。それでも、リーリエはそこを退くつもりはなかった。自分が育てると決めたから。自分が一歩進むためにも。元気に生まれてくるであろうこの子のためにも。今逃げたら、きっと後で死にたくなるほど後悔するから。みんなの悲しむ顔も見たくないから。だから、

 

 

「ヤァモ!」

 

 

リーリエ目掛けて飛びかかるヤトウモリ。咄嗟に、リーリエは自分の後ろの卵をかばうように、覆い被さるように抱きしめた。ヤトウモリの鋭い牙が、爪がリーリエに伸びる。勢いよく部屋のドアが開かれる。

 

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

 

高速で飛び込んだ黄色い閃光が、ヤトウモリを大きく弾き飛ばした。リーリエがドアの方へ目を向けるとそこにはさっきまでフィールドにいたはずの彼がいた。険しい表情でヤトウモリを見るその姿はあの晩見たそれと似ていた。

 

 

「サトシ!」

「リーリエたちから離れろ!モクロー、体当たり!」

 

 

サトシの腕に抱えられたモクローが飛び出し、強烈な蹴りでヤトウモリを外へ弾き飛ばした。二匹の攻撃を受けたヤトウモリは逃げるように敷地から出て行った。少し遅れてジェイムズが走って来た。慌ててリーリエに駆け寄るジェイムズ。

 

 

「お嬢様、ご無事でしたか!?」

「えぇ、大丈夫です。サトシが助けてくれましたから」

「間に合って良かったよ」

 

 

いつも通りの笑顔で歩いてくるサトシ。その足元へピカチュウたちも戻る。お疲れ様と声をかけ二匹の頭を撫でるサトシ。その後ジェイムズが落ち着くために紅茶をいれてくると出て行くと、サトシは床に座り込んだままのリーリエの前にしゃがみ込んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「大丈夫か、リーリエ?立てるか?」

「あ!えっと。腰が抜けてしまったみたいで」

「そっか。でも凄かったな、リーリエ」

「えっ?」

「ちゃんと、卵を守り抜いた」

「それは、サトシが」

「俺は手助けしただけだよ。ほら」

 

 

サトシが自分の腕の中を指差す。細く、白いリーリエの両腕は、それでもしっかりと卵を抱きかかえていた。守るように、手放さないように、何も起こらないように、安心させるように。無意識の行動だったようでリーリエ本人が一番驚いていた。

 

 

「あのっ、わたくし、ただ必死で」

 

 

慌てるリーリエの腕の中で、卵が少し動いた。驚きはしたものの、リーリエの腕が離れることはなく、むしろ愛おしそうに卵をしっかりと持っていた。

 

 

「暖かい。この子は、この中で、生きているんですね」

「そうだよ。その命を、リーリエが守り抜いたんだ」

「わたくしが?」

 

 

胸の奥から暖かい気持ちが溢れてくる。腕の中のこの小さな命が、愛おしくて、愛おしくて。抱きしめながら、頬を卵に寄せる。じんわりと感じる暖かさと、小さく聞こえる鼓動。今腕の中にいるこの命を、自分が守ることができた。それが、とてつもなく、嬉しかった。この気持ちはなんだろうか。他のポケモンに対して感じるものとも、家族やジェイムズたちに感じるものとも、マオたち友人に感じるものとも、彼に向けるものとも違う、優しくて暖かいこの気持ちは。

 

 

「やったな、リーリエ」

「はい!」

「ピィカァ」

「ひゃあっ!?」

 

 

サトシの後ろから顔を出したピカチュウ。驚いたリーリエは、卵を離さなかったものの、驚きの声を上げてしまう。まだ完全にポケモンに対する恐怖がなくなったわけではなさそうだ。それでも腕の中の卵を離さないあたり、彼女がこの一件で前に進むことができたのだろう。そっとサトシの手が卵に触れる。優しさと愛情が感じられる表情を浮かべ、サトシは優しく卵を撫でた。

 

 

「頑張ろうな、リーリエ。しっかりとこの子の世話をして、卵が孵ったら、外の世界をいっぱい見せてあげような。こんなにいい世界に、生まれてこれて良かったって思えるようにさ」

「はい、一緒に頑張りましょう」

 

 

満面の笑みで応えるリーリエ。その様子を扉からこっそりと伺っていたジェイムズ。リーリエのその笑顔を見て、安心したのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

博士の家に帰るため、サトシとピカチュウが屋敷の外で車の用意を待っていた。そこへ見送りに、ジェイムズが出てきて、サトシと挨拶をした。

 

 

「ジェイムズさん。バトル、ありがとうございました。それに、紅茶とかお菓子も。ここまで送ってもらっちゃって」

「こちらこそ、お嬢様を助けていただき、ありがとうございます。わたくしも、あんなに楽しいバトルは久方ぶりでした」

 

 

まだ出会って間もないはずのモクローで、自分の長年の相棒とあそこまで戦えたこと、それは彼のバトル経験の多さを物語っていた。さらにはリーリエのピンチに、自分でさえ一瞬動きが止まってしまったというのに、真っ先に彼は駆け出していた。その小さな体から、とても想像できない程のスピードで。そしてその行動力とポケモンとの連携で、見事にリーリエと卵を守り抜いた。

 

 

「サトシ様、私は一つ謝らなければなりません」

「へっ?」

「あなたのバトル相手を務めたのは、私があなたを試し、確かめたいと思ったからなのです」

「試したかった?何をですか?」

「私も詳しくはわかりませんが、お嬢様には複雑な事情があるのです。そのことが原因で、この先に危険なことがあるかもしれません。その時に、あなたがお嬢様の力になれるかどうかを見極めたかったのです」

「危険なことが・・・」

「図々しいことなのは承知しております。本来なら私どもがこの屋敷でお嬢様をお守りすべきなのに。ですが、お嬢様があなたと共に残ることを望んでおります。なのでサトシ様」

 

 

ここでジェイムズは深く頭を下げた。なん十歳も年下の、まだ幼い少年に。大きな責任と重荷を背負わせるかもしれないと理解しながら、言葉を紡いだ。

 

 

「どうか、お嬢様のことをお願いします」

 

 

驚きでしばらく動きが止まるサトシ。けれどもすぐに笑顔を浮かべる。

 

 

「俺、難しいことはわからないですけど、それでも約束します。何があっても、リーリエの力になるって」

 

 

ジェイムズが顔を上げてみたのは、とても13歳の少年とは思えない雰囲気を持った笑顔だった。言葉は明るく、友達ならば誰でも言えることではあったが、そこにあった覚悟は、誰にも真似できないような気がした。

 

 

「サトシ、お待たせしました」

 

 

屋敷から少し荷物を増やしたリーリエが出てくる。博士の家にいくつか物を持っていくことにしたのだ。その腕の中にはしっかりと卵が抱えられている。ちょうどその時に車の用意もできたようだった。

 

 

「ジェイムズ、行ってきますね」

「いつでもお越しください。ここはしっかりとお守りしますので」

「ジェイムズさん、またバトルしましょう」

「ええ。私もまたサトシ様とバトルができることを楽しみにしておきます」

 

 

別れの挨拶を済ませ、彼らは車に乗り込んだ。遠ざかるその車を見つめながら、ジェイムズは寂しさと、リーリエの成長に対する喜びが溢れてきた。これから先、大変なこともあるかもしれない。それでも彼が一緒なら大丈夫だと、確信できた。一筋の涙が頬を伝う。それは悲しみからではなく、喜びによるもの。その証拠に彼は笑顔で車を見送っていたのだから。




リーリエが帰ると思いましたか?
いえいえ、このまま一緒にいてもらった方が面白そうなので、サトシと一緒にいてもらいました


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島キングからの謎

試練へ、レッツゴー


その朝、リーリエがいつものようになかなか起きてこないサトシを起こしに向かうと、驚くべきことに既に起きているサトシがいた。

 

『サトシが起きてるロトォ!?何かあったロト?』

「おはようございます、サトシ。今日は早起きですね」

「うん。なんだか、Z技のこと考えてたら起きちゃって」

 

そう言ってサトシは左腕のZリングを撫でた。 Zクリスタルは、カプ・コケコとの戦いで失われてしまったが、いずれまた手に入れ、カプ・コケコと再び戦いたい。それがサトシの望みだった。

 

 

 

「Zリングは、基本的には島キングや島クイーンの大試練、ポケモンバトルに勝利して認められたものが与えられるんだ。そしてその大試練を受けるためには、用意されている試練をこなさなければならない」

『データによると、試練も大試練もいずれも難度が高く、相応の実力者でなければ攻略は難しいロト』

「島キングや島クイーンはその島を守護する役割も持ってるからな。そう簡単にはいかないぞ」

 

ククイ博士とロトムの説明を受けながらも、サトシは燃えていた。難度が高いと聞けばやる気を出すのがこの少年だ。今までの旅で難度が低かったものなんて一つもなかった。どの地方でも強いトレーナーがいて、激しいバトルがあった。今度はどんな人たちとバトルできるのだろうか。内心ワクワクが止まらない様子のサトシにククイ博士もにっこりと笑った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一人で卵を運ぶと言い、リーリエは先にスクールに向かったため、サトシはククイ博士と一緒にスクールへ向かった。その道中、人だかりができている道を見かけた。そこにはジュンサーさんの姿もあった。

 

「何があったんですか?」

「あら、ククイ博士。それから君は?」

「俺の生徒なんですよ」

「サトシです。こっちは相棒のピカチュウとロトムです」

「ピィカチュウ」

『よロトしく』

「ジュンサーよ、よろしく。私もスクールの卒業生なの。どうやらラッタやコラッタが大量発生して作物を食い荒らしたらしいの。その後、道路に飛び出した結果、運ばれていた木材が散乱してしまったのよ」

 

ジュンサーの目線の先には多くの丸太が山のように積み重なった状態で道を塞いでしまっていた。人々がどうしようと話し合っていると、丸太が動き始めた。正確には、いつの間にか来ていたハリテヤマと一人の男が丸太を担ぎ、荷台に戻し始めたのだ。どっしりとした体に白みがかった髪。しかし歳を感じさせないパワーと威厳がその人にはあった。

 

「すっげぇ・・・あんなに軽々と」

「あの人が島キングのハラさんだよ」

「あの人が?」

 

サトシとククイ博士はハラさんを手伝うべく、丸太を担ぎ始めた。流石に重いと感じたサトシはゲッコウガを出し、ペアで取り掛かった。その時、彼の左腕のZリングにハラさんが目を止めたのには気づけなかったが。

 

 

 

その後、応援に駆けつけたカイリキーたちの助力もあり、丸太は全て荷台に戻された。ハラさんに近いうちに訪ねに来るように言われたサトシは、1日中ワクワクしながらスクールでの1日を終えた。幸い翌日はスクールがお休みだったため、その日に行くこととなった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

サトシとククイ博士はハラさんの家に訪れた。リーリエは卵の世話をすると言って留守番だ。大きなその家に着いたサトシは、空いていた部屋で見覚えのあるものを見つけた。自分の左腕に今も巻かれているZリング、それがいくつも置いてあったのだ。

 

「君が身につけているZリングは私が作ったものでしてなぁ」

「ハラさんが?俺、これをカプ・コケコにもらったんです」

「やはりそうでしたか。ある日、気づいたらリングが一つ無くなっていましてなぁ。カプ・コケコの仕業だとピンと来ました」

「それって、よくあることなんですか?」

「Zリングを持って行ったのは、今回が初めてですなぁ」

 

自分のZリングを見つめるサトシ。一体何故カプ・コケコはこれを自分に渡したのだろうか。まったく想像もつかなかった。

 

「カプ・コケコは君のことが相当気になるようですなぁ」

「えっ?」

「いやいや、こちらの話です」

 

意味深げなハラさんの呟きが気になったが、サトシは特に追求することはしなかった。改めてハラさんと向かい合うサトシ。

 

「ハラさん、俺、Zクリスタルをゲットしたいんです。もう一度、カプ・コケコとバトルしたいんです」

「もう一度・・・なるほど。ではサトシくん、一つ質問いいですかな?」

「?はい?」

「今島の人たちがラッタやコラッタに困っていることはご存知ですな?君ならどう解決しますか?」

「俺なら?それはやっぱりバトルして、」

「サトシくん。大昔からこの島に伝わる島巡り。それは何も強いだけのトレーナーを育てるためにあるわけではないのです。アローラの島、ポケモンに人間。全てを愛し、守れる人を育てることが目的だったと伝えられています」

「愛し、守れる・・・」

「バトル以外の方法も、考えてみてください。Zクリスタルの話は、その後で」

「・・・わかりました。俺なりに考えた答えを見つけて来ます」

 

その日のサトシたちは、そのまま帰ることとなった。

 




ゲームの試練って大変なのもあったなぁ


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最初の試練

カキってシスコン?なエピソード

やっぱりあのリザードンはベテランでしたなぁ


翌日、ポケモンスクールの朝。リーリエは丁寧にクッションを敷いた椅子の上に卵を置いた。陽が当たりやすく、なおかつみんなからもちゃんと見える位置に置きながら、リーリエは卵を優しく撫でた。

 

「すっかり慣れたね、リーリエ」

「そうでもありませんよ。サトシに色々と教えてもらってばかりです」

「どんなこと教えてもらったの?」

「知識というよりも、アドバイスという感じですね。例えば、朝起きた時と夜寝る前にちゃんと卵に声をかけてあげるとか、寝る時には卵にとっても寝心地がいい状態にしてあげるとか。それから、外の世界について語ってあげることもしてます」

「外の世界?」

「なんで?」

「卵の中にいても、ポケモンには外の様子が少しはわかるらしいんです。外の世界に生まれることに対して、中のポケモンも楽しみにして欲しい。安心させてあげたい。サトシはそう言ってました。サトシも旅のことを語ってあげてるみたいです」

「本当にサトシってポケモンの世話が上手だよね〜」

「でも・・・」

 

ここで女子3人は言葉を区切りサトシの机へ目を向ける。いつもならピカチュウと遊ぶか、モクローを撫でるか、卵の世話をしているサトシだったが、今朝は何やら真剣な表情で考え込んでいるようだった。

 

「どうしたの、サトシ?」

『昨日ハラさんと会った時からずっとこんな調子ロト』

「夕食の時もずっと上の空でした」

「そんなに長い間悩んでるの?」

 

考え込んでいるサトシの前の席に、カキが座り込んだ。Zリングを持ち、試練を突破したことのあるカキ。彼もまた似たような経験があったため、少し手助けしようかと考えた。

 

「ハラさんになんて言われたんだ?」

「わたくしたちも力になりますよ?」

「あ、カキ、リーリエ。実は、」

 

 

 

 

「なるほどな。バトル以外の方法で、か」

「それ以外だと、ラッタたちと話して見るくらいしか思いつかなくてさ」

「ラッタたちの生態が詳しくわかれば、そこにヒントがあるのでは?」

 

さらりとサトシが何やら一般のトレーナーからすればおかしなことを言った気がしたが、最近サトシに慣れすぎたのか、誰も気にもとめてなかった。

 

『僕にお任せロト!コラッタにラッタ、ねずみポケモン。あく・ノーマルタイプ。グループを作り、時に民家からも餌を盗む。大昔、貨物船に紛れ込んで来て、アローラの姿に変化した』

「ラッタたちもリージョンフォームがあるのか」

「そうだ!わたくし本で読んだことがあります。確か、別の地方からヤングースやデカグースを連れて来て、ラッタたちを追い払ったことがあったはずです」

「さっすがリーリエ、物知りだね」

『僕だってそれくらい知ってるロト!』

「二人とも、サンキューな。よーし、デカグースたちに頼んでラッタたちを追い払ってもらおう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「大正解ですよ、サトシくん。よく考えつきましたな。実はこの質問、君が試験を受ける資格があるかどうかを見極めるためのものでしたが、なかなかやりますなぁ」

「いえ、俺一人じゃだめでした。でも友達が一緒に考えてくれたんです」

「はは、君は正直者ですなぁ。真っ直ぐで澄んだ魂の持ち主のようだ。君は試練を受けるに値します」

 

ハラさんに案内され、サトシはとある洞窟の前まで来た。

 

「ここのヤングースとデカグースはかなり強いですよ。中でも1匹のデカグースはぬしポケモンと呼ばれています」

「ぬしポケモン、ですか?」

「アローラの守り神に仕えるポケモンたちです。その守り神の意を組み、島巡りに協力してくれているのです」

「そんなすごいポケモンが、ここに」

「今回の試練はポケモンバトルでぬしポケモンに勝利し、その力を借りてラッタたちを町から追い払うことです」

「力を借りる、でもどうやってですか?」

「ぬしポケモンはバトルした相手の力を認めた場合、自ら力を貸してくれます。あとは君が彼を納得させることができるかどうかです」

 

話しながらも、サトシたちは洞窟の奥へ進んで行った。木々が影を作り、光はわずかにしか入ってこない。やがて広い空間に彼らは到達した。

 

「試練の審判は私が務めますぞ。ぬしポケモンのデカグースよ!島巡りの挑戦者が来たぞ!試練の腕試しをしてやってくれ!」

「俺、マサラタウンのサトシ!ぬしポケモン、俺とバトルしてください!」

 

ピクリ、とピカチュウの耳が何かが近づいてくる音を聞いた。突然現れたのは2匹のポケモンだった。

 

「あれが、ぬしポケモン?」

「いいえ、あれはぬしポケモンの仲間です。ですがバトルする必要はあります」

「ロトム!」

『お任せロト!ヤングースにデカグース、共にノーマルタイプ。ヤングースは鋭い牙を持ち、デカグースに進化するとさらに我慢強さが高まる』

「ならこっちは、ピカチュウとモクロー、君達に決めた!」

「ピィカァ!」

 

勢いよく飛び出すピカチュウと、ボールから出ても眠っていたモクロー。慌てて起こすサトシたち。

 

「これより、試練のバトルを始める!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ピカチュウ、10万ボルト!モクロー、たいあたり!」

 

先生攻撃を仕掛けるピカチュウたち。しかしデカグースの巻き上げた砂によって両方とも防がれてしまった。砂埃で視界の悪い中、デカグースたちは何の問題もなくピカチュウたちに接近し、吹き飛ばした。流石にぬしポケモンの仲間、そんじょそこらのヤングースたちとは違う。

 

両者同時に飛びかかり、鋭い牙で噛み付こうとしだが、サトシの指示でピカチュウたちもそれを躱す。

 

「モクロー、このは」

「ホロ、ホロー!」

 

回転しながら木の葉をまくモクロー。その量にデカグースたちはピカチュウたちの姿を見失った。

 

「ほぅ」

「今だ!ピカチュウ、アイアンテール!モクロー、たいあたり!」

 

木の葉に紛れ近づいたピカチュウのアイアンテールがデカグースに決まった。一方、一切の羽音をたてずにモクローはヤングースの背後に回り、強烈な蹴りによるたいあたりを決めた。その強力な一撃を喰らい、ヤングースとデカグースは目を回してしまった。

 

サトシたちが勝利に喜んだ時、何か巨大な生き物の唸り声が聞こえた。洞窟の奥からその声のぬしは飛び出した。現れたのは、

 

「出ましたぞ!あれこそまさしくぬしポケモンのデカグース」

「なっ、でかい」

『信じられないロト!通常のデカグースの3倍はあるロト!』

 

ぬしポケモンのデカグースが再び吠えると、その身体を謎の光、オーラが包んだ。そのままデカグースは一瞬で距離を詰め、ピカチュウたちに襲いかかった。10万ボルトを浴びても意にも介さず、攻撃が止まる様子はなかった。不意をついたと思ったモクローのたいあたりもそのスピードで躱し、強力な一撃でモクローは戦闘不能にされてしまった。渾身のエレキボールも弾かれ、ついにはピカチュウも倒れてしまった。

 

「お疲れ様。二人とも、ゆっくり休んでくれ」

 

両者を労うサトシ。ピカチュウをハラさんにお願いし、最後のポケモンを繰り出す。

 

「ゲッコウガ、君に決めた!」

 

飛び出したゲッコウガは目の前の敵を見据え、戦闘態勢をとる。相手が強い、それだけわかれば十分だった。

 

「さて、サトシ君たちはこの試練、乗り越えられますかな?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ピカチュウやモクローを圧倒したスピードで攻撃を仕掛けてくるデカグースだったが、ゲッコウガはその攻撃をいとも簡単に躱す。確かにデカグースは驚くべきスピードを持っている。が、そんなことはゲッコウガには関係なかった。彼の方が、

 

「つばめがえし!」

「ゲッコォウ!」

 

速い!

 

両足の蹴りを受けたデカグースは大きく後退した。前足で砂を巻き上げるデカグース。目を眩ませて、見えないところから攻撃しようと考えたのだろう。

 

「飛び上がってかげぶんしん!」

「コゥガ!」

 

砂埃の届かないところまで一回のジャンプで飛び上がりながら、ゲッコウガの姿が増える。突然のことにデカグースは大きく戸惑った。そしてバトルにおいてそれは致命的な隙となる。

 

「いあいぎり!」

「コウ、ガッ!」

 

本体は一つしかない。しかしそのどれもが素早い動きで接近してくるゲッコウガのかげぶんしんの中から本体を探し出すのはデカグースには無理だった。光の刃が下から振り上げられ、アッパーカットのようにデカグースの顎を上向きに切り上げた。大きく仰け反ったデカグースは数歩下がり、大きく吠え、バタリと倒れた。

 

「それまで!このバトル、挑戦者サトシの勝利!」

「いよっしゃあ!」

 

今度こそ大きく声をあげて喜ぶサトシ。ゲッコウガとそれぞれ右の拳を合わせて勝利を噛み締めた。ふらつきながらもデカグースは立ち上がろうとする。

 

「大丈夫か!?」

 

その様子を見て、サトシはロトムの忠告も聞かずにデカグースへ駆け寄り助け起こした。先程まで襲いかかって来た相手にも関わらず、即座に助けに向かうその姿を見て、ハラは大いに胸を打たれた。今までにも試練を突破したものは何人もいたが、彼のようにすぐに敵だったポケモンのために行動できたものを見たことがなかったのだ。この少年は本当に深い他者への愛で満ちていると、ハラは確信した。

 

と、ハラは立ち上がったデカグースがサトシに何かを渡しているのを見た。サトシの手に握り締められたものに、ハラは驚愕した。

 

「なんと、あれは!?」

「Zクリスタル、ゲットだぜ!」

「ピッピカチュウ!」

 

キラリと輝くそれは紛れもなく、ノーマルZだった。ぬしポケモンがZクリスタルを渡すことなど、本来ないことだ。通常は島キングが試練後に渡すこととしている。しかしどうだろう。彼はぬしポケモンを倒しただけではなく、何かがあると思わせたようだ。ぬしポケモンに、認められたのだ。

 

「本当に、不思議な子ですなぁ」

 

その様子を一つの黄色い影が伺っているのには、誰も気づくことができなかった。

 

 

その後、サトシに力を貸したぬしポケモンと仲間のおかげでラッタたちは無事に追い払うことができ、サトシはハラとのバトルの約束をし、別れた。次に挑むは大試練。島キングの実力や果たして。




リザードンを見ていて、ケンジのストライク思い出したのは私だけでしょうか?


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大試練の朝

カキのエピソードが書き終わらない〜

もう追いついちゃうよ、どーしよー


いよいよ大試練当日、サトシたちは朝食をしっかりととっていた。

 

「おっ、この前のことが新聞に載ってるぞ」

「えっ?」

 

ククイ博士の読んでいた新聞にはラッタやコラッタを退治した時のことが記事になっていた。そこにはぬしポケモンのデカグースと握手をするサトシの写真も載っていた。

 

『島キングのハラさんとともに現れたサトシ少年はぬしポケモンの協力を得て大いに貢献したって書いてあるロト』

「大活躍ですね。サトシもこのメレメレ島ではもう有名人です」

『なお、サトシ少年には感謝状が贈られることとなっている』

 

ちょうどそのタイミングで家のチャイムがなった。ドアを開けると、そこに立っていたのはジュンサーさんと、新しくパートナーになったデカグースだった。

 

「アローラ、サトシくん」

「アローラ、ジュンサーさん。アローラ、デカグース」

「グース」

「いよいよ今日は大試練ね。準備はもうできてるかしら?」

「はい。もうばっちりですよ」

「昨日帰ってきてからずっと作戦を考えたり、Z技の練習をしていましたもの」

「良かったらリリィタウンまで送りましょうか?車で来てるし、皆さんも一緒に」

「いいんですか?」

「ありがとうございます」

「助かるよ。でもまさかそのためにわざわざ?」

「あぁっ!?忘れるところだった!」

 

いそいそと手に持っていたものを開くジュンサーさん。どうやらサトシの感謝状らしい。

 

「メレメレ島を代表し、この度島へ大いに貢献したサトシ殿に感謝を込め、進呈します」

「俺に、ですか?でも、実際に追い払ってくれたのは俺じゃなくてデカグースたちだったんですけど」

「ぬしポケモンのデカグースが力を貸してくれたのは、サトシのことを認めたからだ。それはサトシの功績さ」

「博士・・・ジュンサーさん、ありがとうございます」

 

感謝状を手に取るサトシ。その様子を見ながら博士やリーリエは自分たちのことのように嬉しく思った。既に共同生活を始めて幾ばくか経つが、彼らはもう家族のようだった。

 

「それじゃあ行きましょう。リリィタウンへ」

「はい!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「それでは私はこれで。サトシくんの大試練突破、応援していますね」

「しっかりと伝えとくよ。ジュンサーさんも、お気をつけて」

「乗せてくださり、ありがとうございました」

「いえいえ。ではまた」

 

仕事があるため、ジュンサーさんはサトシたちを送り届けた後、すぐに帰ることとなった。メレメレ島の人たちを助けたあの小さな英雄が、島キングの大試練を攻略できるかどうかはすごく気になっていたが、仕事を放棄するわけにもいかないため、後ろ髪を引かれながらもジュンサーさんは車を出した。

 

「リーリエもずいぶん卵になれたな」

 

博士とともにジュンサーさんを見送ったリーリエの腕の中にはしっかりと卵がケースに入れられ、抱かれていた。

 

「今日はどうして連れて来たんだい?」

「せっかくなのでバトルの雰囲気を感じさせてあげようかと思いまして。サトシと島キングのバトルは卵の中にいるこの子にとって、いい刺激になるかもしれないと思ったので」

「それもサトシのアイディアかい?」

「いえ、サトシは卵のうちからいろんなことに触れさせてあげると良いと。それでサトシのポケモンや、私たち人間、いろんな場所といろいろ見せてあげたくて」

「リーリエも、すっかり育てることを楽しめるようになったな〜」

 

最初はいつ動くのかビクビクしていた時もあったというのに。成長が早いのは子供ゆえか、それともサトシがいるからか。

 

『サトシはまだかかるロト?』

「もう少しで戻ってくるさ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

少し離れた場所、戦の祭壇と呼ばれる場所で、サトシは島キングのハラと共に守り神、カプ・コケコに祈りを捧げていた。

 

「これより大試練のバトルを行います。アローラの守り神、カプ・コケコよ。我らに力を与え給え」

「カプ・コケコ。俺とハラさんのバトル、ちゃんと見ててくれ。きっといいバトルにしてみせる」

 

風によって揺れる木々。そのざわめきの中に応える声が聞こえた気がした。姿は見えないし、気のせいかもしれない。それでもサトシはそれをカプ・コケコからの返事と捉えた。

 

正座したまま閉じた目を開くサトシ。その瞳は挑戦に対する期待とやる気で燃えていた。




しかし、ジュンサーさん、サトシ来るまでパートナーいなかったのか

どうやってポケモンに関する事件とかに当たっていたのだろうか


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メレメレ島の大試練

ストックはここまでです

今後の投稿は遅れまーす、これ絶対

バトルの内容、ちょこっといじりました


「そろそろ始めますかな」

「サトシ、頑張ってください!」

「あぁ。行ってくるな」

そう行って卵を撫でるサトシ。応えるように卵が反応する。その中のポケモンにも応援してもらっている気がしたサトシは、卵のためにもいいバトルを見せたいと思った。

 

バトルフィールドであるステージの上に立つサトシとハラ。審判はククイ博士が担当することとなった。

 

「それではこれより、島キングハラさんと島巡り挑戦者サトシの大試練バトルを開始する!」

「モクロー、君に決めた!」

 

サトシの1体目はモクロー。島キングのハラはかくとうタイプ使い、相性で言えば有利な選択だ。ロトムはいつもの様子や前回の試練の時からまた寝ているのではないかと予想していたが、

 

「クロー!」

 

大きな声とともにボールから飛び出したモクローはやる気に溢れていた。いつものおっとりしている雰囲気とも違い、獲物を狩るかのような目だった。

 

「頼みますぞ、マケンカニ!」

 

対するハラのポケモンはサトシの見たことのないポケモンだった。

 

『マケンカニ、拳闘ポケモン。かくとうタイプ、てっぺんを取ることに燃えている。戦う時は拳で弱点をガードしつつパンチを放つ』

 

「サンキュー、ロトム」

 

対峙する二体。戦いの火蓋は切って落とされた。

 

「マケンカニ、バブルこうせん!」

「モクロー、躱してつつくだ!」

 

先手を取ったマケンカニのバブルこうせんを難なく躱し、モクローはマケンカニに突っ込んだ。ひこうタイプの技が決まり、マケンカニが大きく吹き飛ばされる。

 

「攻撃の手を緩めるな、連続でつつく!」

 

体制を立て直したマケンカニめがけて再びモクローが攻撃を仕掛けた。が、マケンカニはハサミの一つでモクローの翼を捉えることに成功した。

 

「そのままぶんまわすのです!」

 

捕らえられたモクローは勢いよく振り回され、空へと投げ飛ばされた。目を回し、体制を立て直せていなかったモクローに追撃のグロウパンチが決まる。

 

「くっ、本当に強いなハラさんのマケンカニは。弱点を守ってるんだよな。弱点は多分あのお腹の部分だ。そこを狙えれば・・・モクロー、このは!」

「クロ、クロー!」

「バブルこうせん!」

 

羽ばたきによりこのはを飛ばすモクロー。それをマケンカニはバブルこうせんで相殺した。あたりに煙が立ち込める。煙が晴れると、上空にいたはずのモクローの姿がなかった。

 

「なんと!?」

「連続でつつく!」

 

いつの間にかマケンカニの後ろに回り込んでいたモクローが一撃、また一撃と突然の襲撃に驚き動けなかったマケンカニに攻撃を当てる。

 

「ハサミでガード!」

 

流石に驚きから回復したマケンカニはモクローのくちばしを片方のハサミで受け止める。

 

「グロウパンチ!」

「躱して体当たり!」

 

反対のハサミから繰り出されたパンチを紙一重で躱したモクロー。両のハサミがガードを崩したその瞬間に強烈な蹴りをマケンカニの腹部に叩き込んだ。大きく吹き飛ばされたマケンカニはステージの外へ落下し、そのまま目を回してしまった。

 

「マケンカニ、戦闘不能。モクローの勝ち」

「やりました!」

 

見事勝利したモクロー。しかし激しいバトルに疲れたのか、サトシの元へ戻ると同時に眠ってしまった。

 

「よく頑張ったな、モクロー。ゆっくり休んでくれ」

「サトシくん、先ほどのモクローの技、上手く繋げましたなぁ」

「モクローは音も立てずに相手に近づくことができるんです。だから目くらましを使えばチャンスが作れると思ったんです」

「うむ。自分のポケモンのことをよく見ていますなぁ。では次です、ハリテヤマ、お願いしますぞ」

「頼むぞ、ピカチュウ!君に決めた!」

「ピッカァ!」

 

ハリテヤマを出したハラに対し、サトシは相棒のピカチュウにかけることにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ピカチュウ、アイアンテール!」

「ピカ、チュー、ピッカァ!」

「ねこだまし!」

「ハリ!」

 

素早い動きで接近したピカチュウのアイアンテールをハリテヤマはねこだましで、白刃どりのように防いでしまった。驚き動きが固まったところを、そのまま勢いよく地面に叩きつけられるピカチュウ。小さい体が衝撃で宙に浮く。

 

「エレキボールだ!」

「つっぱり!」

 

繰り出された電気の塊はハリテヤマの手のひらにぶつかるとかき消されてしまった。そのまま手を大きく開いたハリテヤマが落下するピカチュウを狙う。

 

「くっ、アイアンテールで軌道を反らせ!」

 

落下しながら体をひねるピカチュウ。尻尾の一撃がハリテヤマの手とぶつかり、その反動を利用しピカチュウは距離を取ることに成功した。

 

「ほぉ」

「ハラさんの連続技も流石だが、サトシもやるな」

「あんな攻撃のかわし方もあるのですね」

 

「ハラさんのハリテヤマ、普通に攻撃するだけじゃパワーで負ける。何か意表をつくような攻撃じゃないと。よし、もう一度アイアンテール!」

「同じ技ですか。確かにねこだましはもう使えませんが。ハリテヤマ、防ぐのです!」

 

再び繰り出されたアイアンテールは最初と同じように両の手によって挟み込まれた。それを見てニヤリと笑うサトシ。

 

「ピカチュウ、そのままエレキボール!」

「なんと?」

 

挟み込まれた尻尾に電気のエネルギーが溜まる。敵の攻撃を封じたはずのハリテヤマがむしろ逃げられなくなった。ガラ空きの胴体にエレキボールが炸裂し、ハリテヤマが膝をつく。

 

「これは中々、油断の隙もありませんな。全力の私たちの技を見せませんと。ハリテヤマ、はらだいこ」

 

自らの腹を叩き、音を響かせるハリテヤマ。自らの体力を減らす代わりに自身の攻撃力を最大限に高める技だ。それはすなわち、ハラが一気に勝負をつけるつもりでいるということ。

 

「行きますぞ、ハリテヤマ」

 

腕を交差するハラ。その腕のZリングからまばゆい光が溢れ、ハリテヤマの身を包む。

 

「我、メレメレの島、そしてカプ・コケコと意志を共にする、島キングなり!今こそ、全ての力を一つに!」

 

「来るぞ、ハラさんのZ技!」

「サトシ、ピカチュウ!」

 

「Z技。やっぱり全力には全力で応えないとな。行くぜ、ピカチュウ!」

「ピッカァ!」

 

サトシもまたZクリスタルを使う。サトシから溢れた。エネルギーがピカチュウを包む。

 

「ぜんりょくむそうげきれつけん!」

「これが俺たちの全力、ウルトラダッシュアタック!」

 

ピカチュウが突っ込むと同時にハリテヤマが無数の張り手をエネルギー状に飛ばす。ジグザグに曲がり、体をひねり、ピカチュウはそれらの攻撃を紙一重でかわす。が、近づけば近づくほど躱しにくくなる。

 

「これで終わりですな」

「ピカチュウ!そこからさらに、10万ボルト!」

「なっ!?」

 

スピードを落とすことなく頰の電気袋から強力な電撃を溢れさせるピカチュウ。それはZ技のエネルギーと共にピカチュウを包む。まるで

 

「これはまるで、ボルテッカーの強化版みたいだ」

「なんという。サトシくん、君は」

 

「行っけぇ!」

 

電気の鎧を纏ったピカチュウはハリテヤマの放った張り手のエネルギーを物ともせずに突っ込んだ。激しい爆発と共に、ハリテヤマがフィールドから落とされ、そのまま戦闘不能となった。

 

「ハリテヤマ、戦闘不能。ピカチュウの勝ち。よって大試練のバトルの勝者は、挑戦者サトシ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

サトシくんには驚かされてばかりだ。あの最後の技、まさかZ技にさらに技を重ねるとは。今までそんなケースは見たことがなかった。その発想と思い切りが、今回の勝利をつかんだのだ。

 

彼の将来が本当に楽しみだ。そう思わずにはいられない。こういうところがカプ・コケコのお眼鏡にかなったのだろうか。

 

「サトシくん、おめでとう。素晴らしいバトルでした。あの最後の技、ポケモンを信じ、諦めないその心。素晴らしいものを見せていただきましたぞ」

「ありがとうございます」

「私に勝利した証、カクトウZです。これでかくとうタイプのZ技が使えるように、「ケーコー!」ぬ?」

 

突然どこからか声がした。その鳴き声に皆辺りを見渡す。するとすごいスピードで何かが彼らの間を通り抜けていった。

 

「今のは、カプ・コケコ?」

『一瞬すぎてよくわからなかったロト』

「皆さん、カクトウZが!」

 

気がつくとカクトウZがハラの手の上から消えていた。そしてそこには、

 

「デンキZ、初めてもらったやつと同じだ」

「カプ・コケコがここまで気にいった挑戦者は初めてですな。いずれその理由が私にもわかるのでしょうかな。サトシくん、カプ・コケコに代わってこれを渡しましょう」

「はい。デンキZ、ゲットだぜ!」

「ピッピカチュウ!」

 

「やりましたね、サトシ!」

「今夜はお祝いだな」

『二人とも、眩しいロト!』

 

「せっかくです。そのお祝い、私が開催してもよろしいですかな?サトシくんの初の大試練突破を祝して」

「あの、それにポケモンスクールのクラスメートも呼んでいいですか?みんなの協力があったから大試練をクリアできたと思うんです」

「いいアイディアですな。せっかくですから、ジュンサーさんも誘って見ましょう、君の試練挑戦を気にしていたようですからな」

「ありがとうございます!」

 

 

その夜、ハラの手配で用意されたご馳走にサトシたちは舌鼓を打った。クラスメートやジュンサーさんにお祝いの言葉をもらったサトシ。空を見上げると大きな月が見える。まるで初めてZリングをもらった時のようだ。

 

「カプ・コケコ、試練見ててくれてサンキューな。今度こそZ技、ちゃんと使いこなしてみせるから。だから、また俺とバトルしてくれよな」

 

聞こえていたかどうかはわからない。返事もなかった。ただ、近くの木々が風もないのに揺れたことには気づくことができた。

 

最初の大試練を突破したサトシ。島巡りはまだまだ続く。そして、カプ・コケコとの再戦はいつになるか、それもまたわからないままである。

 




ちなみにアイアンテールからのエレキボールはシトロンのホルビーに対して使った戦法まんまですね

一応予定としては今後は毎週日曜日に一話投稿を心がけるつもりですなぁ

まぁ、番外編は不定期ですけど


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アーカラの炎

カキさんのエピソードですね

このシスコンめ、気持ちはわかるが


珍しく早起きなサトシ、それも休日であるというのにだ。大試練を突破し、今はノーマルZとデンキZを手に入れ、朝からZ技の特訓をしていたのだ。博士たちが見守る中、ZリングにノーマルZをセットする。

 

「よーし、行くぞモクロー!」

「クロッ」

「いっけぇ!ウルトラダッシュアタック!」

 

勢いよく飛び出したモクローが海に飛び込むと、その衝撃で波が割れ、乾いた陸の道が一時的にできた。しかしZ技を使ったモクローは、特訓を始めたばかりであったのに疲れ果ててしまった。

 

「モクロー、大丈夫か?」

「Z技はポケモンの体力を大きく使うからな。特訓すればするだけ、負担も減っていくはずだ。今はまだ一発撃つので精一杯みたいだけどな」

「そうなんですか」

「しかし、サトシの方は元気だな?普通Z技を使った後はトレーナーもそれなりに激しい疲れを感じるものなんだが」

「うーん、ピカチュウたちと一緒にトレーニングしてきたから、体力は結構あると思います」

「なるほどね。今までの旅の経験があるからこそ、かもしれないな」

「へへっ。ん?あれは」

 

ふと空を見上げると、見覚えのあるポケモンと少年が空を飛んでいるのが見えた。少し羽がボロボロになってはいるが、そのリザードンは安定した飛行をしていて、かなり鍛えられていたことがわかる。

 

「おーい、カキ、アローラ!」

「ん?サトシ、アローラ」

 

サトシたちの前に降り立つカキとリザードン。配達の途中だったようで様々な容器を持っていた。中にはとれたてらしいモーモーミルク。空の容器があるのを見る限り、既にいくつかの家をめぐっていたのだろう。

 

「早いな、カキ。今日も配達か?」

「はい。俺の日課でもありますから」

「カキの家って牧場なんだっけ?」

「あぁ。ミルタンクやドロバンコ、ケンタロスが大勢いる。そこでいろんな製品も作ってる」

「へ〜。なぁ、俺もその牧場に行ってもいいか?」

「俺は構わないぜ。とりあえず配達が終わってからだな」

「なら、俺も手伝うぜ」

「いいけど、お前空ライドポケモン持ってたか?」

「ふぅ。俺がライドポケモンを手配してやるよ。行ってきな」

「せっかくの休日ですから、特訓以外のこともするといいですからね」

「ありがとうございます博士」

 

こうしてサトシは空ライドポケモンのペリッパーにまたがり、カキとともに配達の仕事へ向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

無事にメレメレ島での配達を済ませたカキたちは続いてはカキの家があるアーカラ島へ向かった。赤く燃えるヴェラ火山を見ながら向かった家で、サトシはハルと呼ばれる少年と出会った。明日が母親の誕生日だというハル。そのハルとカキのやり取りを見て、カキがかなり慕われているのだということを、サトシは改めて認識した。スクールでも自分よりも年下の生徒たちの面倒をよく見ているのを見かけるし、サトシとは別の意味でいいお兄さんだった。

 

ついにやってきたカキの家がやっている牧場は広く、サトシはその大きさに驚かされた。敷地の範囲はオーキド博士の研究所と同じくらい、もしかしたらそれ以上かもしれない。そのあちこちにポケモンがいるのが見える。ケンタロスやミルタンクはサトシも見おぼえがあり、ここにいるケンタロスたちもとてもよく育っているのがわかる。

 

「すっげぇ空気がおいしい。牧場の香りがするな」

『ドロバンコがいっぱいロト!』

 

馬のような姿をしたポケモン、ドロバンコ。初めて見る彼らに興味を持ったサトシ。草ではなく土を食べて自身の力とすることに驚くサトシだったが、その直後にドロバンコのくしゃみによって泥を浴びてしまうこととなった。

 

「そうだ、サトシ。あんまりドロバンコに近寄ると泥がかかる・・・って遅かったか」

「あぁ、うん。もう経験しちゃってま~す。ははは・・・」

 

パサリと頭にタオルが乗せられる。カキに似た朗らかな女性がいつの間にか近くまで来ていた。カキの母親である。このヴェラ火山の影響で育った牧草とその土。それを食べる牧場のポケモンたち。そしてそのポケモンたちのおかげでおいしいミルクが取れ、自分たちは自然やポケモンへの感謝を込めて祈りや供え物を守り神へささげる。一種のサイクルが出来上がっているのだ。

 

「あたしたちとここのポケモンたちは、この自然と強く結びついているのさ」

「自然と・・・強く」

「だから、いい顔してるだろ?うちポケモンたちは」

「はい!」

 

「なん・・・だと!?」

 

突然カキが切羽詰まったような表情で駆け出した。何かあったのかと思い急いでサトシもその後を追う。と、カキがミルク用のタンクを抱え、一人の女の子の無事を確認していた。が、その女の子はどうやらご立腹のようだ。

 

「大丈夫か!?」

「大丈夫だもん。ホシ、これくらいひとりでできるもん」

「ダメだ。こういう危ないことは、兄ちゃんに任せろ」

「もー本当に過保護なんだから!あなたもそう思うでしょ!?」

「えっ!?」

 

唐突に話を振られたサトシ。流石に状況が全く読めてないため曖昧に笑ってごまかすことしかできなかった。

 

「あはは・・・で、君は?」

「俺の可愛い妹、ホシだ。仲良くしてくれよな」

 

そう言い残してミルクタンクを担いだまま、カキはどこかへ行ってしまった。とりあえず自己紹介するサトシ。ピカチュウは褒められて上機嫌だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

数分後、何か手伝うことはないかとサトシが聞くと、カキの母親が早速仕事を与えてくれた。ドロバンコの体を洗う作業だ。まずはカキの手本を見る。リズムよくブラシで体を洗ってあげるのがコツとのこと。早速サトシも試してみたが、

 

「あれ?毛が思ったより硬い、な」

 

初めはなかなか上手くいかない様子だった。それでもドロバンコの様子を確認しながら試行錯誤をすること数分、ようやく力加減やリズムを掴んできたサトシだった。

 

「ふぅ、こんな感じかな。気持ちいいか、ドロバンコ?」

「ブルル」

『とっても気持ち良さそうロト』

「流石にコツをつかむのが早いな」

「へへっ、サンキュー。よーし、終わりだぞドロバンコ」

 

お礼のつもりなのか、かがみこんでいたサトシの顔に自身の顔を寄せ、少し頬ずりしてからドロバンコはかけて行った。

 

「まだまだ仕事はこれからだからな、ついてこいよ」

「OK!やるぞ〜!」

 

その後他のポケモンたちの体を洗ったり、干し草を運んだりと様々な仕事を手伝うことになったサトシ。力仕事も多く、日が暮れる頃には流石に疲れていた。

 

「はー、疲れたぁ」

「お疲れ。ご飯の時間だよ。博士には連絡してあるから、今夜は泊まってきな」

「ありがとうございます」

 

夕飯時、並べられた食事にお腹がペコペコなサトシはすぐに手を伸ばそうとしたが、カキが待ったをかけた。

 

「食事の前に、ヴェラ火山に祈りを捧げるんだ」

「祈りを?」

「今日も1日見守ってくれてありがとうってね。さぁ、みんなで」

 

目を閉じ山に意識を向けるカキの家族につられて、サトシも深呼吸して瞳を閉じた。風の音、草の音、生き物の動く音。そしてテーブルを明るく照らす火の音が聞こえる。自然と一つにある。なんだか少しわかった気がしたサトシだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その夜、サトシが眠ろうとしていると、外が騒がしいのに気づいた。外へ出ると、カキとバクガメスがまさに特訓の最中だった。

 

「こんな遅くに特訓してるのか?」

「朝は早くから配達。学校や家の牧場を手伝い、夜は技を磨く。これが俺の日課だからZリングを持つものとして、ポケモンやアローラの島々を愛し守るものとして。爺ちゃんに言われてずっとそうしてきた。このZリングも爺ちゃんの形見なんだ」

「もしかして、島キングだったのか?」

「あぁ、昔のな。このリザードンが相棒だったんだ」

「へぇー」

「爺ちゃんのZリングを受け継ぐために、俺とバクガメスは島クイーンのライチさんの大試練に挑んだ。そしてその試練を経てリングを手に入れた」

「そっか。すごい人だったんだろ?カキの爺ちゃん」

「まぁな。昔よく言っていた。命を破壊する炎ではなく、ヴェラの山の炎のように命を育む炎になれってな」

「そういえば、カキがZ技使った時も言ってたな。アーカラの山のようにって」

「あぁ。それこそが俺の目標だからな。さて、そろそろ寝るか。明日は朝一でハルのところへ配達だからな」

「俺起きれるかなぁ?」

「安心しろ。しっかり叩き起こしてやる」

「お手柔らかに頼むよ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝、しっかりとたたき起こされることになったサトシは再びペリッパーにまたがった。カキの家族に見送られながら、サトシとカキは出発した。余談だが、出発の際にホシが手伝おうとしたのをみたカキが原因でみんな揃ってピカチュウの電撃を浴びたり、カキがホシに対して普段からはとても想像できないほどデレ~っとした表情を見せたりとあったが、それはまた別の話。急いで空を飛ぶリザードンとペリッパー。順調にいけば間に合う、そう安心していた二人だった。が、突然地上からの攻撃でペリッパーが傷つき、サトシたちは地面へ落ちてしまった。サトシたちに攻撃を放ったのは、

 

「お前たち、スカル団!」

「そう、泣く子も泣かせるスカル団だ」

「お前たちにはしっかりと借りを返してやるっす」

「どけ!お前たちの相手をしているほど、俺たちは暇じゃない」

「どうしても通りたいなら、その荷物を置いていけば?」

「お前たち、いい加減に」

「カキ、ここは俺たちに任せろ。いくぞ、ピカチュウ!」

「ピカ!」

 

腕のZリングにデンキZをはめる。あの日以来、まだ一度も使っていなかったこの技。こんどこそ、成功させて見せる!そう意気込む二人は同時に動いた。

 

「これが俺たちの、全力だぁ!スパーキングギガボルト!」

 

巨大な電撃のやりが打ち出され、スカル団の出していたポケモンへ直撃した。大きな爆発とともに電撃の柱が地面から空へ伸びていく。目をまわしてしまった自分たちのポケモンを回収すると、スカル団は大慌てで逃げて行った。バトルという名の制裁を終えたサトシは急いでペリッパーのもとへ駆け戻ると、翼の手当てを始めた。

 

「物にしたみたいだな。Z技」

「あぁ。カキのおかげでもあるよ。試練の時は助かった。ありがとう」

「いや。最終的に成し遂げたのはお前だ。誇っていい」

「へへっ。とにかく急ごう!ハルが待ってる」

「そうだな。行くぞリザードン!」

「ペリッパー、もう少しだけ頑張ってくれ。すぐにポケモンセンターに連れて行くからな」

 

 

 

その後、無事にハルのもとへ配達を遂げたカキとサトシ。スカル団のせいで少しばかり遅刻してしまったが、ハルには何とか許してもらえた。その代わりに、ハルは二人のバトルが見たいと頼んできた。もともとサトシもカキもお互いにバトルしたいと思っていたこともあり、二つ返事で引き受けた。ハルとその家族が見守る中、バクガメスとピカチュウのバトルが始まった。その様子に近所の人たちも集まりだし、実力者で知られるカキと互角に戦うサトシが、アーカラ島でも注目を浴び始めることとなったのは、また別の話。




結局アニメではバトルシーンカットでしたね

実際のカキのバクガメスってどんな技使うのだろうか


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海には危険がいっぱい

コジロウもポケモンにモテますよね〜

サトシと同じくらいポケモン大好きみたいですし、出会いが違えばタケシポジになってたりして


アローラ地方は本日も快晴。サトシたちは課外学習で海へ来ていた。そして海と言えば、

 

「すっげえ気持ち良さそう!な、ピカチュウ?」

「ピッカピカ!」

『気温、水温。ともに最適な数値ロト』

 

いの一番に水着に着替えたサトシはピカチュウとともに軽いストレッチをしていた。後からマーマネとカキも着替えてやって来る。とは言っても、カキは普段となんら変わらない格好ではあったが。荷物番をしていた博士はパラソルの下で本を読んでいた。

 

「みんなはまだなのかな?」

「女子はこういう時時間かかるからな。仕方ないさ」

 

 

「お待たせ〜!」

 

少し待っているとマオたちが着替えを終えたようだった。マオは緑のセパレートタイプの水着。花の模様が入っているそれは、3人の中で一番長身のマオの健康的なスタイルを魅せた。スイレンは紺色のいわゆるスクール水着に近い。ある意味スイレンらしいと思わせる機能性の追求であるが、それで似合うのだから流石である。そしてリーリエは普段の服と同じ、白と水色のカラーリングの水着。フリルと小さめのパレオが上品な印象を与え、彼女の白い肌に良くあっていた。

 

「やっと来た」

「ごめんごめん、ちょっと手間取っちゃって」

「まぁいいじゃないか。そこまで待ってないしな」

「海のポケモンと遊ぶの、楽しみ!」

「この水着、変じゃないですよね?以前お母様からもらったものなのですが」

「全然。3人ともすごく似合ってるぜ」

 

正直で素直なのはいいことではあるが、時にはそれが思いもよらぬダメージを与えることをサトシは知らない。その言葉にガールズ3人は大きな打撃を受けたのだった。痛みはないが。

 

(な、なんかそうやってまっすぐ褒められると少し照れるなぁ。サトシってば本当にもう。こういう風に悩むのってあたし、ガラじゃないのになぁ)

(いつもの感覚でこの水着にしちゃったけど、もうちょっと可愛いのにすればよかったかな?でも似合ってるって言ってくれてるし、いいのかな?)

(顔が暑い。今きっとすごく顔が赤くなってます。ちゃんと熱が冷めるといいのですが。それに、サトシってあんなに鍛えてたのですね)

 

3人の頭の中がぐるぐるしている理由はサトシの発言もあるがサトシ自身の姿もそこに影響している。普段から運動神経はいい方だとは思っていたが、予想外にサトシの体には筋肉がついているのだ。カキのようにいかにも鍛えているというようなものではなく、しなやかなものだ。10代前半で成長の余地がまだまだありながらも、どこか完成された魅力があるようにも見える。

 

まぁ、当の本人はただポケモンたちと一緒に強くなりたい一心でこうなったわけなのだが。

 

「それじゃあ、ポケモンの観察タイムまでは自由にしてて良いぞ。ただ、野生のポケモンには十分注意するように。怪我したりさせたりなんてことがないようにな」

 

解散の合図とともに早速海へ飛び込むサトシ。すぐにスイレンとマーマネが続く。躊躇いがちなリーリエの手をマオが引き、カキはサトシに泳ぎの勝負を挑まれていた。

 

アマカジやアシマリ、トゲデマルにピカチュウたちも楽しそうだ。

 

「お前も早くみんなと遊べると良いな」

 

自分の隣に連れてこられた卵を見ながらククイ博士が呟く。聞こえたのか、少し跳ねた卵は、返事をしたように見えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

モクローが空から審判をする中、カキとサトシによる水泳勝負が始まった。浜辺からそれなりに離れた岩までのレース。両者ともに譲らない接戦だったがタッチの差でカキの方が優った。

 

「ふぅ〜、負けちゃったか〜」

「いい勝負だったぞ。またやろうぜ」

「次は負けないからな」

 

拳を突き合わせる二人。互いに互いの実力を認め合い、Z技を使えるもの同士、二人は以前よりも格段と仲良くなっていた。

 

「おっ、サニーゴだ」

「この辺りじゃよく見かけるポケモンだな」

「よーしゲットしようぜ、モクローってあれ?」

 

バトルを申し込もうとするサトシをそっちのけでサニーゴたちはまるで逃げるかのように水の中に飛び込んでいった。

 

「なんだ?」

「これはまさか、サトシ!急いでここから離れるぞ!」

「えっ、おう!」

 

カキの突然の焦りように驚きながらもサトシとモクローはその岩から離れた。その直後、何匹ものポケモンがその岩に上陸してきた。紫と水色の体を持ち、鋭いトゲのようなものが頭にたくさんついていた。

 

「な、なんだ?」

「気をつけろサトシ!そいつはヒドイデ、毒を持ってるぞ!」

「毒!?」

 

大慌てで二人は陸まで泳いで戻った。まさか休む間もほとんどないままに全力水泳で往復することになるとは思っていなかったサトシとカキは、海岸でバテバテになっていた。

 

「危なかったな、お前ら。ヒドイデの毒はなかなか強力だからな」

「はぁ、はぁ。そんなにすごいのか?」

『ヒドイデ、ヒトデナシポケモン。どく・みずタイプ。頭のトゲの毒で相手を弱らせる。ちなみに、サニーゴにとっては天敵とも言えるロト』

「そうなのか?だからさっきあんなに急いでたのか」

「まぁしばらく休みな。もう少ししたらポケモン観察の時間だからな」

「そうします」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さて、ここからはポケモン観察の時間だ。それぞれで好きなポケモンの様子を観察してくるんだ。ただし、怪我しないように気をつけるんだぞ」

 

解散の合図とともに6人はそれぞれ違う場所へ向かった。サトシはもちろん、ピカチュウ、モクロー、そしてロトムを連れて、海岸の奥の方にある岩場の方へ向かった。ポケモンの姿は見えなさそうだと思ったところで、下を見下ろすと

 

「ロケット団!?」

「ゲッ、ジャリボーイにピカチュウ」

 

そこにはロケット団がいた。しかし、何故かコジロウの顔色があまり良くなさそうに見える。その腕には1匹のヒドイデがしっかりとしがみついていた。

 

「なんでこんなところに?」

「お前らこそ、また悪いことでもする気なのか?」

 

問いかけの答えもなく、ピカチュウ目掛けてシャドーボールが発射される。ピカチュウを恨んでるらしいミミッキュが攻撃を始めた。

 

「アイアンテール!」

 

飛び上がったピカチュウは尾による攻撃でシャドーボールを打ち消した。そのまま放った10万ボルトでニャースとソーナンスにも攻撃する。と、ここでコジロウの腕にしがみついていたヒドイデが飛び出し、とげキャノンによる攻撃を仕掛けて来た。

 

「お前、」

「自分もバトルするって言ってるニャ」

「よーし、いっけぇヒドイデ!」

 

ピカチュウにミミッキュ、モクローにヒドイデがそれぞれ攻撃を仕掛ける。モクローはヒドイデの攻撃により毒状態にされてしまった。運の悪いことに、サトシはバッグを博士のところに置いて来てしまった。そこにはゲッコウガの入っているボールもある。

 

「モクロー!くっ、こうなったらZ技で、」

「なんだか知らないけど、させないわよ!シャドークロー!」

 

ピカチュウにミミッキュのシャドークローが炸裂する。ピカチュウもモクローも立ち上がれなくなってしまった。

 

「これはまさか、初勝利の予感!?」

「長かったなぁ〜、ここまで」

「これでピカチュウもゲットして、って危なっ!」

 

喜びを分かち合おうとするロケット団の足元に衝撃が走る。上空からの攻撃があったのだ。ロケット団が目を向けるとそこには見覚えのある影が。

 

「「「ゲェッ、ゲッコウガ!?」」」

 

ピカチュウとモクローを守るように、ゲッコウガが間に立った。サトシの危機を感じ取り、自らここまで来たのだ。

 

「ありがとう、ゲッコウガ」

「コウガ!」

 

「あれ?一転して」

「やな感じ?」

「ソーナンス?」

 

「ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

「コウッガ!」

 

放たれたみずしゅりけんがロケット団に炸裂しそうになったその時、何者かが海から飛び出し、みずしゅりけんをその拳の一撃で打ち消した。ピンクの身体に黒い手足。

 

「キーッ!」

「「「キテルグマ来ちゃった〜!?」」」

 

もはやお約束とも言える謎のキテルグマの登場にロケット団の叫びが響いた。そのまま回収されたロケット団は、巣まで連れ戻されたのだった。余談だが、この時のヒドイデが正式にコジロウのポケモンとなったのだ。

 

「あのキテルグマ、相当強いな」

「コウガ、ゲッコウ!」

「そうだ、モクロー!すぐに直してやるからな」

 

毒に苦しむモクローをサトシが、ピカチュウをゲッコウガがそれぞれ抱えて、サトシたちは急いで博士の元に戻った。

 

 

 

「どくけしを、これで治せるはずだ」

「ありがとうございます」

 

博士からどくけしを受け取ったサトシはモクローに吹きかけた。少しずつ毒がひいていき、たちまちモクローは元気になった。何事もなかったかのように飛び回るモクローを見て、心配そうにしていたクラスメートたちもほっとする。

 

「良かったな、モクロー。みんなもサンキューな」

「無事で何よりだな」

「はい。よーし、みんなもっと遊ぼうぜ!」

「はいはーい、ビーチバレーしようよ」

「それならアシマリ、バルーン」

 

アシマリが丈夫なバルーンを作り出し、サトシたちはみんなでビーチバレーを楽しんだ。一方ロケット団はキテルグマの巣を秘密基地として活動していくつもりのようだ。彼らの戦いはまだまだ続く。

 

 

 

多分、永遠に

 




バンクのおかげでポケモンを育てやすくなりました笑

ちなみにゲッコウガとピカチュウ大活躍です


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パンケーキレースとライチュウ

白いロコン、シロン可愛い
というよりカントーのロコンはなんかサトシに懐いてましたね

レギュラーのポケモンにニックネームがあるのは初?


ある朝、サトシがアイナ食堂でのご飯を済ませて外に出ると、不思議な光景があった。アマカジがタワー状のパンケーキを皿に乗せ、頭の上にそれを乗せながら走り回っているのだ。その様子をマオは片手にストップウォッチを持ちながら見守る。

 

「マオ、これって、」

「ごめん!今は話しかけないで」

「あ、はい」

 

真剣そうな表情で言われたサトシは口を噤んでしばし待った。アマカジは頭に乗せたパンケーキを落とすことなく、スピードを上げていた。

 

「ゴール!うんうん、いいタイムだね。これなら今回のレース、いいとこまで行けそうだよ!」

「マージー」

 

どうやら終わったらしいので、サトシは声かをかけてみる。

 

「なぁ、今のって何?それに、レースって言ってたけど」

「そっか、サトシは知らないよね。今度、ポケモンパンケーキレースっていう大会があるんだ」

「パンケーキレース?」

「簡単に誰でも参加できるから、サトシも出てみたらいいんじゃないかな?」

「それってどんな大会なんだ?」

「えっとね、」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

後日、サトシはククイ博士とリーリエと一緒に買い物に来ていた。サトシもピカチュウもモクローも、標準よりも食べるため、買い出しの時はいつも大荷物で手がいっぱいになる。卵を連れているリーリエ以外の二人は両手でやっとの量の食材を持っていた。

 

「少し休憩していくか。ここのパンケーキ、すっげえうまいぞ」

「はい」

「パンケーキ!?しますします!」

 

少しおしゃれなパンケーキの店に入った三人を出迎えたのは一人のウェイトレスだった。

 

「いらっしゃいませ、ククイ博士。そちらの二人は?」

「こんにちは、ノアさん。こっちの二人は俺の生徒だよ。ついでに居候でもある」

「サトシです!こっちは相棒のピカチュウ」

「リーリエです」

「よろしくね。それにしてもピカチュウね、ちょっと懐かしいな」

「へっ?」

「おーい、こっちに来て」

 

ノアが声をかけると宙をまるで滑るように飛び、一体のポケモンがやって来た。オレンジの体に黄色い頬袋、長い尻尾はサトシもよく知るそれだ。しかし、そのポケモンはサトシの知っているのとは少し違う姿だった。

 

「ライラーイ!」

「この子が私のパートナー、ライチュウよ」

「ライチュウもリージョンフォームがあるのか」

『アローラのライチュウは、エスパータイプも持ってるロト』

「エスパー能力を利用して、サーフィンするかのように空を飛べるんですよ」

「へー、すごいな。あれ?」

 

店の奥、壁に貼られていたポスターがサトシの目に入った。そこにはノアとライチュウがパンケーキを乗せた皿を手にしながら写っていた。

 

「あれってポケモンパンケーキレースのポスターですか?」

「サトシ、お前知ってたのか?」

「マオが練習してるとこに偶然、その時に教えてもらったんです」

「せっかくですから、サトシも出てみたらどうですか?自由参加のはずですし、ルールも簡単ですよ」

「いいんじゃないかしら。私も出てるし、とっても楽しいわよ」

「ノアさんは前回大会の優勝者、ぶっちぎりだったんだぜ」

「そうなんですか?良かったら、色々教えてください!」

「もちろん!でもその前に、」

 

いつの間にかライチュウがパンケーキを三人分持って来ていた。きのみのソースがかかっているそれはとても美味しそうな香りがした。高さもかなりある。

 

「当店自慢のパンケーキ、ご賞味あれ。ちなみに大会で使われるパンケーキもこの高さよ」

「こんなに!?よーし、まずは食べるぞ!いっただっきまーす!」

 

甘酸っぱいきのみのソースがたっぷりかかったパンケーキにサトシもピカチュウも目を輝かせながら頬張った。ふわふわのパンケーキにソースが染み込み、クリームと合わさってサトシ好みの甘さだった。苦笑するククイ博士とリーリエをよそに、サトシは山盛りのパンケーキをあっという間に食べ終わっていた。

 

「ご馳走様!とっても美味しかったです」

「それは良かった。それにしても、本当に美味しそうに食べるのね」

「ありがとうございます。それで、パンケーキレースのことなんですけど、」

「そうね。もうすぐ私のシフトが終わるから、それまで待っててくれる?その後からならちゃんと教えてあげるから」

「はい!」

 

先に戻ることにした博士とリーリエの二人とは別れ、サトシはノアと共にレースの練習を始めた。しかしこのレース、ピカチュウが出場することになったが、手を使えないぶん、皿とパンケーキのバランスを保つのがなかなか難しいようだ。一方ライチュウは空を飛べるため、安定した状態で皿を運んでいた。

 

「いいタイムよ、ライチュウ。今年もバッチリね」

「お疲れ、ピカチュウ。よくやったぞ」

「初めてとは思えないバランス感覚ね。パンケーキタワーも全然乱れてないし。よほど体のバランスの取り方がうまいのね」

 

感心したように呟くノア。事実その通り、バランス感覚がかなり高いのだ。空中で受け身を取ることができたり、そのまま反撃に繋げたり、自分より大きなポケモンの背中に乗った時も振り落とされないようにしたり、尻尾だけで立ち上がったりと、サトシのピカチュウはそんな経験をしている。それによってだいぶん無茶な体勢でも問題なく行動できるようにもなっているのだ。

 

「これだけできれば上出来ね。当日を楽しみにしてるわ」

「はい。俺もです」

 

サトシは改めてちゃんとお礼を言ってからノアと別れた。ちなみに避けられない運命なのか、ピカチュウとライチュウがお互いにライバル心むき出しで、頬から電気をバチバチと出していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そしてパンケーキレース当日、会場には多くの人が集まっていた。マオやスイレン、カキにマーマネ、さらにはオーキド校長まで参加しに来ていた。テレビ局もこの大会を放映するらしく、かなりの規模のものだ。

 

観客席にはククイ博士とリーリエの二人が座っていた。今回は応援に回るとのこと。サトシたち五人のやる気が入っている様子を見て、リーリエも次はこの子と参加してみたいと、腕の中の卵をそっと撫でた。

 

「サトシ君」

「あ、ノアさん!おはようございます」

「おはよう。準備はバッチリ?」

「もちろんです!優勝狙って頑張ります!」

「あら、なかなかいい気合いね。これは私たちも負けてられないわね。それじゃあまた後でね」

「はい!」

 

ひらひらと手を振りながら別れた、ノアは少し離れた場所をスタート位置にするようだ。俄然やる気が出て来たサトシの肩をポスンとマオの拳が軽く叩いた。

 

「マオ?どうかした?」

「べっつにー。私がレースのこと教えてあげたのに、サトシがいつの間にかノアさんと仲良くなって、しかもつきっきりで練習を見てもらったことなんて、気にしてないよーだ」

「えっ、いや、あれはたまたま会っただけで」

 

なんだか拗ねた感じのマオに、自分が去年の優勝者から練習を受けたことが原因かと思い焦るサトシ。実際にはそれは半分、残りはまた別の理由なのだが。

 

「えっと、ごめんな」

「ふふっ、冗談だよ。頑張ろうね」

「あぁ!」

 

 

 

トレーナーたちがスタートに並び、合図と共に飛び出した。ポケモンパンケーキレース、最初のゾーンはトレーナーのみでパンケーキを運ぶ。途中の障害を乗り切ってパートナーの待つ場所まで走らなければならない。普段なら走ることでは負けないだろうサトシだったが、パンケーキを崩さないようにするため、スピードが出せずにいた。それでも先頭集団にいるあたりはさすがとしか言いようがない。他にもカキとノアが先頭集団にいる。少し遅れてマオ、スイレン、オーキド校長が来ていたが、残念、マーマネは平均台でバランスを崩し、失格となってしまったのだ。

 

「なかなかやるわね、サトシ君」

「ノアさんこそ、流石です」

 

ノアは走るのが格段に速い訳ではない。しかし彼女は上手かったのだ。全く崩れる様子のないパンケーキからもわかるように、彼女は完全にバランスを保つコツを掴んでいる。それ故、他の参加者よりも楽に運べている。サトシはその後ろにはついてるものの、差は少しずつ開いていた。

 

そのまま彼らは第二のエリアに到着した。ここからは、トレーナーがパートナーを乗せたトロッコを引っ張るのだ。ここでパートナーが少し重たいトレーナーたちは苦労していた。カキもバクガメスをパートナーにしたため、一歩進むのにも苦戦していた。

 

一方サトシはノアとの距離を縮められはしなかったが、あまり離されずに追いかけていた。

 

「ピカチュウ、この後はお前一人でゴールまで走ることになる。俺は先に行って応援してるからな。頑張れよ!」

「ピカ!」

 

そして第三エリアに入ったライチュウとピカチュウはそれぞれパンケーキを持ち、ゴールへ走り出したのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

幾つものアクシデントが重なり、多くの出場者が失格になっていく中、ライチュウ、ピカチュウ、オーキド校長のパートナーであるネッコアラ、そして不思議な姿のキテルグマが優勝争いを繰り広げていた。

 

「ピカ!ピカピカピカッ!」

 

やや余裕な様子のライチュウに負けられないとピカチュウが加速する。それを見たライチュウもまた加速した。抜いては抜かされ、抜かされは抜いて。激しいデッドヒートレースになっていた。

 

「いっけぇ、ピカチュウ!」

「やるわね。ライチュウ、頑張って!」

 

観客もその激しいレースに盛り上がるなか、後ろの方から猛スピードで追い上げる影があった。出場していたキテルグマがピカチュウたちに追いつきそうな勢いで走って来たのだった。そのまま二体を追い抜き、ゴールへ向かうキテルグマ。優勝は決まった。

 

 

 

 

 

かと思いきや、突如現れたもう一体のキテルグマが強烈なラリアットをかましたのだった。突然崩れ始めるキテルグマ。正体は機械仕掛けの着ぐるみだったようだ。もう一体のキテルグマは中に乗っていたポケモンたちと、観客席にいたトレーナーを掴むとどこかへ走り去って行った。あっけにとられる観客、そしてピカチュウとライチュウ。暫くボケーっとしていると、二体のそばを一つの影が通り過ぎた。慌てて駆け出す二体だったがもう遅い。

 

『優勝はネッコアラです!ピカチュウとライチュウは同時に飛び込み二位、なんと予想外の展開!』

 

特性、ぜったいねむりを持つネッコアラは、周囲の動揺なぞなんのその。マイペースに走り続けた結果、優勝したのだった。まるでどこかの童話のような展開ではあったが、会場は大いに盛り上がり、レースは終わった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

表彰台に並ぶ三人、一位のオーキド校長が真ん中に、同着二位のサトシとノアがその両側に、パートナーと共に立った。サトシたちは知らなかったが、この件ですでにサトシはアローラ全体から大きく注目されることとなったのだ。以前ラッタ退治に貢献した少年が、今度はテレビで映ったのだから、それも無理はない。

 

「サトシ君、楽しかったわ」

「俺もです。ピカチュウも、楽しかったか?」

「ピカ!ピカピーカ」

「ライラーイ!」

 

お互いの健闘を讃えるかのように、ピカチュウとライチュウは握手を交わした。いいライバルができて、ライチュウも嬉しそうだった。

 

「またうちのお店にも来てね。サービスするから」

「はい!ありがとうございました!」

 

パートナーに習って握手をする二人。ノアはこの年下の少年に不思議な魅力を感じていた。あそこまで身体の使い方が上手いピカチュウ、そしてそのトレーナー。彼らがいたから、久しぶりにこんなにワクワクするレースができた。

 

「こちらこそ、ありがとう」

 

その感謝の意を込めて、ノアは精一杯の笑顔でサトシに返した。

 

 

 

その様子を見ていた人たちのうち、約3名が少し不機嫌になっていたのはまた別の話。




赤いロコン、サトシ大好き〜だったなぁ

でもそれ見てたらタケシ思い出したなぁ

次回、シロン誕生回!


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初めてのパートナー

シロン、ようやく登場です!
いやぁ、追いついた追いついた

今週休みでしたから、来週が待ち遠しいですなぁ


ポケモンパンケーキレースの翌日、ポケモンスクールの教室は大慌てだった。その原因は、今日もリーリエが大事に持って来たタマゴだった。教室に着いた瞬間に、タマゴが光り出したのだ。

 

「これって、もしかして」

「あぁ。産まれる!」

 

固唾を飲んでみんなが見守る中、タマゴの殻が少しずつひび割れ、中からポケモンが姿を現した。白い体毛に6つに分かれた尻尾。水色の瞳を開いたそのポケモンは、リーリエを見て一鳴きした。

 

「コォン」

 

「う、産まれました」

「ロコンだったのか。でも、俺の知ってるのとは違うな」

「アローラのロコンだ。ラナキラマウンテンでよく見かけるらしいぞ」

『アローラ地方のロコンはこおりタイプ。マイナス50度の冷たい息を吐くことができるロト』

「こおりタイプ!?」

 

「おーい、みんな大変じゃヨーテリー!」

 

ポケモンギャグを言いながら、オーキド校長がククイ博士と一緒に教室にやって来た。その手にはサトシがカントーから連れて来たもう一つのタマゴが。そのタマゴもまた、光っていた。

 

「うそ、もしかしてそっちも!?」

「これは予想外だよ」

 

光が強くなり、タマゴが割れる。中から現れたのは赤い体毛に6つの尾、そして赤い瞳を持つポケモン。サトシを見たそのポケモンは元気よく鳴いた。

 

「コォン!」

「ロコンだ!こっちのは俺、よく知ってる」

「タマゴが孵るとこ、初めて見たよ。それも2つ!」

「うん、感動した」

「それにしても赤いロコンか、初めて見るな」

「確か、カントーのロコンはほのおタイプだったはずです」

「あぁ。だからアローラ地方のロコンがこおりタイプなのに、俺びっくりしたよ」

『同時に別の姿を持ってるポケモンが揃うなんて珍しいロト。データアップデートロト!』

 

どこか落ち着いた雰囲気の白いロコンと違い、赤いロコンは活発な印象を受ける。

 

「よろしくな、ロコン」

「コォン」

 

カントーのロコンは一緒に来たことをわかっているのか、早速サトシに懐いていた。頭を撫でられ、嬉しそうにするロコン。サトシはアローラのロコンにも挨拶をしようと手を伸ばしたが、

 

「コォゥン!」

 

勢いよく吐き出された冷たい息を浴びて、凍らされてしまった。それはもう綺麗なまでに。

 

「おぉっと、なかなか強烈なこなゆきだな」

「さ、サトシ!大丈夫ですか?」

 

心配そうな声を上げるリーリエ。当のサトシはというと、カントーのロコンのひのこで氷を溶かしてもらい、割とピンピンしていた。ところどころ焦げてはいたが。

 

「大丈夫、大丈夫。サンキューな、ロコン」

「コォン」

「いきなりすごい経験だね〜、マイナス50度とついでにひのこも」

「急に触ろうとしたから、驚いたのかも」

「そっか。ごめんな、シロン」

「サトシ、シロンって?」

「リーリエがこの子のこと、ずっとそう呼んでたから」

「へー、シロンか。いい名前」

 

謝るサトシに対し、そっぽを向いてしまうロコン。一方カントーのロコンはサトシの腕に擦り寄っていた。

 

「同じロコンでも、随分と性格が違うな」

 

ピカチュウたちと遊び始めたロコンと、机の上に座ったままそれを見下ろすロコン。かたや快活に遊び、かたや落ち着いている。一人でいる白いロコンを赤いロコンが誘い、ポケモンたちの輪の中へ連れて行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それで、これからどうするのかじゃが」

「あ、そっか。タマゴの観察はもう終わっちゃったんだ」

「このロコンたちはどうなるんですか?」

 

ニヤリと顔を見合わせる校長と博士。

 

「このままこの子達を育ててみるのがいいと、わしは思ったんじゃ」

「いいんですか?」

「うむ。本来ならわしがこのカントーのロコンを育てるつもりじゃったが、どうやらサトシをえらく気に入ったようじゃの」

 

オーキド校長の視線の先には屈み込んだサトシの腕に擦り寄うロコンの姿があった。

 

「どうじゃ?この子達を君達で育ててみるのは?」

「どっちの子とも一緒に居られるってこと?」

「それは面白そうだな」

「ってことは誰かがゲットしないとね」

「それなら、シロンはもう決まってるだろ」

 

立ち上がりながら言われたサトシの言葉に、ほぼ全員が頷き一人を見た。その本人はびっくりした顔をしている。

 

「わ、わたくし、ですか?」

「誰よりもずっとシロンを世話して来たのはリーリエだっただろ?リーリエ以外に考えられないって」

「そうだよ。あんなに一生懸命だったんだもの」

「うん。すごく頑張ってた」

「あぁ、間違いないな」

「僕もそう思う」

「ほら、リーリエ」

 

サトシがカバンから空のボールを取り出し、リーリエに渡した。ボールを見つめることしばし、リーリエはシロンへ目を向けた。

 

「シロン、わたくしのパートナーになってくれますか?」

「コォン!」

 

元気よく返事をするシロン。リーリエもその返事を受け、シロンをゲットすることに決めた。モンスターボールを勢いよく投げた・・・のはいいものの、緊張で目をつぶっていたため予想外の方向へ飛んでいき、サトシの頭にヒットした。

 

「サトシ、ゲットされた?」

「いや、スイレン?俺ポケモンじゃないから」

 

そんなおふざけ込みのやり取りの中、シロンは自らボールへ近づき、その中へと入った。ボールの中央の光が消える。シロンが無事にゲットされたということだ。

 

「自分でリーリエを選んだみたいだな」

「うんうん。良かったね、リーリエ」

「はい!シロン、ゲットです!」

「サトシの真似?」

「一度言ってみたかったので、つい」

「これで、リーリエもポケモントレーナーだな」

 

一連の流れを静観していた博士が、ふと口を挟んだ。

 

「さて、シロンはパートナーを見つけたわけだけど、もう1匹は誰が世話する?」

「そうだなぁ、カキは?ほのおタイプだし、上手くやれるんじゃないか?」

「俺もそうしたいとは思ったが、その様子だとな」

「へ?」

 

遊んだり、わちゃわちゃしたりとポケモンたちも自由にしている中でも、サトシのそばから離れなかったポケモンがいた。言わずもがなのピカチュウと、そしてロコンだった。今もサトシに構って欲しそうに足元でアピールしている。

 

「ほんと、すっごく懐いてるね」

「サトシらしい」

「まぁ正直なことを言うと、サトシらしいで納得できるのもどうかと思うけどね」

「そう言うお前だって納得してるんだろ?」

「ま、まぁね」

 

サトシだけがわかっていないようだ。ロコンが既に自分のパートナーにしたい相手を選んでいることに。シロンがリーリエを選んだように、ロコンもまた、彼を選んだのだ。

 

「ほら、サトシ。ゲットしてあげなよ」

「ロコン、俺と一緒に来るか?」

「コォン!」

 

サトシのその言葉に、待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに返事をするロコン。そっと差し出されたボールのスイッチを鼻で押し、ロコンもゲットされた。

 

「これからよろしくな。ロコン、ゲットだぜ!」

「ピッピカチュウ!」

『ゲットロト!』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「二人とも、早く出して出して!」

「OK!出てこい、ロコン!」

「シロン!」

 

サトシとリーリエがボールを投げると、中から二体のロコンが現れる。ロコンは真っ先にサトシに駆け寄り、その腕の中に飛び込んだ。それをみたリーリエも覚悟を決めたようにその両手をシロンへと伸ばした。

 

 

 

 

 

 

しかし、やはり触れることができなかった。怖いわけではない。そのはずなのに、何故か体が強張り、無意識のうちに触れるのを拒絶してしまう。何故できないのか、理由もわからない自分の欠点に涙がにじむ。シロンもそんな様子のリーリエを見て、少し不安そうだ。

 

「わたくし、こんなことで、本当にポケモントレーナーになれるのでしょうか。こんなにも嬉しくて、こんなにも好きなのに、触れることすらできない。どうすれば皆さんのように、ポケモンと付き合えるのでしょうか」

 

リーリエの呟きに自分たちのパートナーと改めて見つめ合うカキたち。改めて言われてみると、どうしてるかは考えたことがなかった。いつもそばにいたから、考える機会がなかったのかもしれない。

 

なかなか上手くまとめられずにいたカキたち。そんな中、サトシがロコンをおろし、リーリエと同じ目線に合わせて屈み込んだ。

 

「俺はさ、たくさんのポケモンと出会って、たくさんのポケモンと仲良くなった。ケンカしたポケモンもいるけど、あとで仲良くなれたことも多かった。離れ離れになったポケモンだって、いっぱいいる。でもさ、それでも繋がってられるのは、俺たちが友達だからなんだよ」

「友達だから、ですか?」

「リーリエはシロンのことをすっごく大切に思ってるのはわかってる。だから、きっとその気持ちを忘れずにいれば、リーリエもすぐにシロンに触れるようになるさ」

「そう、なのでしょうか」

「そうさ。そうすれば、きっと大丈夫」

 

そう言いながら、サトシはシロンへと手を伸ばした。さっきのように氷漬けにされることはなく、シロンはサトシの手を受け入れた。ロコンとは少し違うその感触を感じながら、サトシはシロンを撫でた。シロンも最初の時のような冷たい態度は全く感じさせなかった。

 

「こうやって、友達になっていけばいいんだよ」

「わたくしも、できますでしょうか?」

「出来るさ。リーリエなら絶対」

 

 

 

その日の授業、珍しくリーリエはあまり集中できず、その様子をマオが心配げに見つめていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後、先に帰ったカキ、スイレン、マーマネとは別に、マオはオーキド校長と話をしているサトシとリーリエを待っていた。ロコンたちを正式に引き取ることについて話しておきたいと校長が呼んだのだ。二人が建物から出て来るのを見かけたマオは大きく手を振りながら駆け寄った。

 

「サトシ、リーリエ!」

「マオ、どうしたんだ?」

「忘れ物でもしたのですか?」

「ううん。二人のことを待ってたんだ」

「俺たちを?」

「うん。せっかくだからうちに来ないかって誘おうと思って」

「あの、わたくしは今日はちょっと」

「どうして?」

「今日はシロンと二人で散歩をして帰りたいと思いまして」

 

隣に並んでいるシロンが返事するように声をあげる。タマゴの時はほとんどいつも一緒にいたとはいえ、お互いのことをちゃんと知っているとはいえない。だから、少しでもお互いのことを知れるようにとのことだった。早速リーリエとシロンは町の方へ歩いて行った。

 

「じゃあ俺、これから特訓するから、」

「ほら行くよ、サトシ!」

「えっ?」

 

反対方向へ向かおうとしたサトシのカバンを掴み、マオも町の方へ向かった。

 

「ちょっ、マオ?どこ行くんだ?」

「決まってるでしょ。リーリエを追いかけるの」

「えっ、ちょっ、転ぶ!転ぶからカバン離して〜」

 

マオに連れて行かれるサトシ。ことリーリエの話になると世話焼きなマオの様子に、マオはリーリエのお姉ちゃんみたいだなぁと思っていたとか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あちこちを一緒に巡るリーリエとシロン。その間には確かに絆が生まれ始めているようで、サトシもマオもほっこりとした気分でそれを見守っていた。

 

「うまく言ってるみたいだね」

「あぁ。マオは本当にリーリエのことを大切に思ってるんだな」

「あたしってばついお節介になっちゃうってゆうか、なんかほっとけなくなるんだよね。時々余計なことしたかもって思うこともあるし」

「でも、リーリエもマオの優しさはわかってると思うぜ。リーリエも、マオのこと大好きだと思うから」

「そうかな」

「そうだよ」

 

顔を見合わせてふふっと笑う二人。しかしこのとき完全に気をそらしてしまったため、視線を戻すと、リーリエとシロンはどこかへ消えてしまっていた。

 

「わわっ、見失っちゃった!」

「よーし、モクロー!リーリエたちを探してくれ!」

 

サトシはボールからモクローを出して空から捜索を頼んだ。しばらく辺りを見渡していたモクローだったが、リーリエたちを見つけたのか移動し始めた。

 

「モクロー、見つかったのか?」

「追いかけよう!」

 

モクローの後を追う二人。ある地点でモクローはその上空を回るように飛んでいた。

 

「モクロー?」

 

サトシの下まで降りてくるモクロー。その足は立派に育って美味しそうなきのみがしっかりと掴まれていた。

 

「いや、あのなぁ。まぁ美味しそうなきのみだけど、目的、完全に忘れてないか?」

「クロ?」

「あー、まぁいいか。良かったな、モクロー」

 

優しく頭を撫でてあげてから、サトシはモクローがリュックの中に潜り込むのを笑顔で見ていた。

 

「サトシ、どうする?」

「よーし、ゲッコウガ、君に決めた!」

 

別のボールから出てきたのはゲッコウガ。しかしゲッコウガでどうするのだろうとマオは首をかしげる。

 

「ゲッコウガ、リーリエたちを上から探せるか?」

「コウガ!」

 

飛び上がり、少し高めの建物へと登るゲッコウガ。そこから辺りを見渡し始める。

 

「よし、あとは」

 

目を閉じるサトシ。疑問符を浮かべるマオをよそに、サトシはゲッコウガへと意識を向ける。ゲッコウガもまた、サトシへと意識を向けた。閉じられたはずのサトシの目に、少し高めの視点から町が見える。ゲッコウガの見ているものが今の彼には見えているのだ。視界の端に白いものが見える。見るとリーリエたちがロケット団に追われているようだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロケット団によって壁まで追い詰められたリーリエとシロン。逃げ場はなく、コジロウのヒドイデの攻撃があたり、シロンが吹き飛ばされてしまった。

 

「シロン!」

 

その姿にリーリエの息が詰まった。このままでは大好きなシロンが。そう思ったとき、もう体は動き出していた。壁を乗り越え、手を伸ばし、地面にぶつかろうとしていたその白い体をギュッと抱きしめた。地面にぶつかる衝撃に備え目を瞑る。

 

「モクロー、このは!」

 

突然あたりに木の葉が舞い上がり、リーリエたちを地面からすくい上げる。その体を誰かが抱きとめてくれた。

 

「大丈夫、リーリエ?」

 

近くからマオの声がする。心配そうに覗き込むマオを見て、リーリエは自分を受け止めてくれたのがマオだとわかった。

 

「ありがとう、マオ。そうだ、シロン!大丈夫ですか?」

「コォン」

 

元気そうに返事をするシロンに、リーリエは安堵の表情を浮かべた。その直後にハッとする。自分は今、シロンを抱き抱えているのだ。ポケモンに、触っているのだ。夢ではないことをこの腕の中の暖かさが告げている。ポンっとシロンとリーリエの頭に手が置かれる。サトシが笑顔で二人の頭を撫でた。

 

「よく頑張ったな、二人とも。後は任せろ」

 

サトシとゲッコウガが並んでロケット団を見据える。するとリーリエ腕の中からシロンは飛び出し、サトシたちの横に並び、戦う意思を示した。

 

「シロンも戦いたいのですか?」

「コォン!」

「リーリエ、一緒にやろうぜ」

「はい!お願いします、シロン!」

 

「げげっ」

「なんだか嫌な予感が」

「これはやばいニャ」

「ソーナンス」

 

「ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

「ゲッ、コウガ!」

 

二つのみずしゅりけんを投げるゲッコウガ。その二つはロケット団目掛けて左右から迫り、その目の前でぶつかり合い弾けた。

 

「やーい、どこ狙ってんのよ」

「腕が落ちたんじゃないか?」

「これはチャンスニャ!」

 

「リーリエ!」

「はい。シロン、こなゆきです!」

「コォォン!」

 

渾身の力でこなゆきを放つシロン。先ほどのゲッコウガのみずしゅりけんが弾けて降り注いだため、ロケット団は濡れていた。そのため一瞬で凍りついてしまった。先ほどのみずしゅりけんは外れたのではなく、あえて外したのだ。

 

「よーし、後はピカチュウで「キーッ!」っ、なんだぁ?」

 

甲高い咆哮とともにキテルグマが再び現れた。氷漬けにされたロケット団を抱えると、とんでもない跳躍で森へと帰って行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「シロン!やりましたね」

「おめでとうリーリエ!私もすっごく嬉しいよ」

 

感極まってリーリエに抱きつくマオ。リーリエの腕の中のシロンが少し苦しそうだ。しばらくしてマオが離れると、リーリエはサトシの方を見た。優しい笑顔で見ていてくれている彼に、リーリエは伝えなければと息を整えた。

 

「サトシ。わたくし、出来ました!」

「あぁ。すごいぜ、リーリエ!シロンも良かったな」

「コォン」

「ありがとうございます、サトシ」

「えっ?俺は何もしてないよ」

「いいえ。サトシの言葉が後押ししてくれました。確かに、ポケモンに触れるのは怖いです。でもそれ以上に、シロンともっと一緒にいたいと思いました。大切に想う気持ちがあったから、あのとき踏み出せたんです。だから、ありがとうございます!」

「本当に何もしてないんだけどなぁ。それよりリーリエ、シロンも触れるようになったんだ。きっとすぐに全部のポケモンにも触れるようになるさ。頑張ろうぜ!」

「はい!」

 

後日、アイナ食堂では2匹の色の違うロコンが仲良さげに遊んでいたとのこと。そして白い方のロコンが飛び込む先で、同じように白い少女の温かい腕が迎え入れていたとのことだった。




ようやくピカチュウとゲッコウガがレベル100になったよ、意外と大変だった。リーグ何回挑戦し続けたことか

でも、このままだとバトルツリーでは勝てない気がするんですよねー


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理想の関係

エピソード、オブ、イワンコです!

サトシは流石ですね〜、まさしく理想のトレーナーとポケモンの関係って感じがしましたね、個人的には


ある日の晩、サトシたちが遅めに家に帰ってくると、家には誰もいなかった。留守番を頼んでいたはずのイワンコが、どこにも見当たらなかったのだ。

 

「あれ?イワンコはどこに?」

「どこかへお出かけしているのでしょうか?」

 

一先ず荷物をそれぞれの部屋に置くサトシたち。リビングに戻ったところに、丁度イワンコが帰って来たところだった。ところが、

 

「イワンコ、その怪我どうしたんだ!?」

『切り傷、擦り傷、火傷まであるロト!』

「足を庇っていますね。痛めたのでしょうか」

「ちょっと見せてみろ」

 

急いで治療するククイ博士。傷の数は多かったものの、深刻なものはそこまでなかったため、割とすぐに終わった。

 

「これで良しと。ちゃんと留守番してなきゃダメだろ?」

「あの、博士のモンスターボールに入れてあげればいいのでは?」

「あぁ、イワンコは俺のポケモンじゃないんだ」

「えっ?」

「じゃあ、野生のポケモンってことか」

『イワンコはとても人に懐きやすいポケモンロト』

「あぁ。ポケモンフーズをあげたらついて来て、それ以来って感じだ」

「へー」

 

ピカチュウやシロンと戯れるイワンコを見る。博士といるのが当たり前だったけど、まさか野生だったとは。少々驚いたサトシとリーリエだった。

 

 

 

 

翌朝、いつものように教室に集まったサトシたちは、昨日のイワンコのことをクラスメートに話した。

 

「ということがありまして」

「博士の手持ちじゃなかったのか。ずいぶん良く懐いていたからてっきり手持ちかと思ってた」

「俺もだよ。それで、どこかに行ったことなんだけど、何か心当たりとかないか?」

「でも、あたしたちはサトシたちほど近くで見てたわけじゃないし」

「秘密の特訓だったりして」

「あ、進化の予兆かもよ」

「進化?」

『イワンコは進化の時期が近づくと、気性が荒くなり、単独で行動するようになるロト。進化前に姿をくらまして、進化したら帰ってくる、というケースも確認されているロト』

「進化、か」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

授業が終わったサトシとリーリエはクラスメートに挨拶して、急いでククイ博士の家へと帰った。イワンコのことがどうにも心配だったのだ。そんな二人がドアを開けた時に、出迎えてくれたのは彼らの心配していた相手、イワンコ本人だった。サトシめがけてジャンプしたイワンコは、思いっきりじゃれついた。

 

「痛てっ、はは。出迎えてくれてありがとうな」

「イワンコの愛情表現は見ていると可愛らしいのですが、とっても痛いらしいですから。痛ければ痛いほど、愛が深いとも言いますし」

「そういうのも含めて、ポケモンと向き合うってことだな」

 

先に帰っていたらしい博士が声をかける。イワンコの様子がやっぱり心配だったのだろう。他に目何か準備したいものがあったらしいが、博士とイワンコが本当に仲がいいのだとサトシは感じた。

 

 

 

 

その晩、サトシたちは再び出かけることにした。イワンコに留守番を頼み、家を出たサトシたち3人は、すぐ近くにあった茂みに身を隠した。博士の手の中の携帯には、家の様子が映し出されていた。カメラを使って、イワンコの様子を確認することにしたのだ。

 

「今のところ、特におかしな様子はありませんね」

「さっきまでもいつも通りだったから、進化前に気性が荒くなるのとは違うと思うけど」

「おっ、二人とも。見てみろ」

 

画面の中に映るイワンコが何かに気づいたようで、彼のために用意された扉からそっと抜け出した。同時に目の前の家からイワンコが飛び出し、森の方へ走っていった。

 

「追いかけるぞ」

「「はい」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

3人がたどり着いた先、そこには多くのポケモンが集まっていた。二つの大きな岩に立つ2匹のポケモン。片方は大型犬、片方は犬というよりも狼のような姿をしている。

 

『あれはイワンコの進化形、ルガルガンロト!それも真昼の姿と真夜中の姿の両方』

「何が始まるのでしょう」

 

「ここは爪痕の丘だな」

「爪痕の丘、ってなんですか博士?」

「そうだな。平たく言えばポケモンのための道場って感じだ」

「道場?」

「まぁ見てな」

 

博士が促す先を見ると、2体のルガルガンがバトルを始めていた。いわおとしを決めて、すかさずアクセルロックで追撃する真昼のルガルガン。真夜中のルガルガンはそこへカウンターで反撃する。2体のバトルに周りのポケモンたちも大いに盛り上がっていた。

 

「あの2体、半端ないな」

「野生のポケモン同士のバトルを見るのは初めてですが、トレーナーがいる時と同じくらい高度な駆け引きが行われているのですね」

 

2体が声を上げるのを合図に、他のポケモンたちもバトルを始めた。もちろん、イワンコもだ。イワンコが戦っている相手、ブーバーは多様なほのお技で他の挑戦者をも圧倒していた。

 

「ここで怪我をしていたんですね」

「ああ。けど、イワンコがここに来ているってことは、」

「強くなりたいんだ、きっと。もしかしたら、あのルガルガンたちのように強く。すごいな、あいつ」

 

何度目かもわからないブーバーの攻撃で吹き飛ばされるイワンコも。思わず飛び出そうとしたリーリエをサトシが止めた。その目は真剣にイワンコのことを見ていた。

 

 

 

 

家に戻って来たイワンコを、サトシたちは出迎えた。バトルで傷ついてはいたものの、元気な様子のイワンコは、彼らに気づくと、一直線に走って来た。

 

「おかえり、イワンコ」

「アン!」

「家に戻ったら、一度手当てをしましょう」

「そうだな」

 

「なぁイワンコ。もし良かったら、俺と一緒に特訓しないか?」

『特訓ロト?』

「さっきのバトルで、イワンコの首元の岩が光ってたんだけど、ルガルガンもそうだったから、もしかして技を使おうとしてたのかなって」

「そうですね、確かにあれは技の前兆だと思います」

「だからさ、俺と一緒にその技を完成させないか?絶対、あのブーバーに勝とうぜ!」

「アン!」

 

『どうしてサトシがそこまでするロト?』

 

イワンコはサトシのポケモンではない。トレーナーではない彼が、イワンコの特訓をする義務なんてどこにも無いし、責任もない。だというのに、サトシは自らイワンコと特訓がしたいと言った。

 

「なんか、こいつをほっとけないんだ。あんな真剣な目で強くなりたいって思ってるこいつを見たら、なんか、力になってやりたくて」

『力に?』

「わたくしも、精一杯お手伝いしますね」

「よーし、イワンコ。やろうぜ、特訓!」

「アン!」

 

サトシに飛びつき嬉しそうに首元の岩を擦り付けるイワンコ。それを眺めていた博士の目は、とても優しい目をしていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝から、サトシとイワンコの特訓が始まった。走り込みや、反復飛びなど、ピカチュウの素早い動きを活かした戦法を少しずつ教えていく。力を集約させ、技へと変えるためのコツを掴めるように、何度も繰り返して練習する。

 

『技を出すときさ、ピカチュウとこう、心がガーッって燃える感じがするんだ。だから、それが出来れば、きっとお前も技が出せるさ』

 

そうサトシは言った。その時の目がククイ博士にとっては印象的だった。ただ目線を合わせるだけじゃなく、もっと深く見ているような目。言葉からだけではなく、イワンコの奥底にある気持ちをちゃんと受け止めようとする姿勢。まっすぐにポケモンと向き合う彼の暖かさは、まるで日輪のようだった。

 

 

 

トレーニングは続く。筋トレや素早さの強化、足場の悪い中でどう立ち回るのが、地形をいかにして味方につけるのか。サトシの得意で特異な戦術をイワンコは着実にものにし始めていた。カキのバクガメスやリーリエのシロンにも協力してもらい、様々な状況や体勢での立ち回りを鍛える。

 

「よし、来い!」

 

サトシの声に反応し、イワンコの首が光り出す。尾の周りを岩が漂い、一斉に射出された。技の発動に成功したのだった。余談だが、この時自身を的にしていたサトシはその全てを受け切り、クラスメートたちに心配されるも、ケロリとしていて呆れと驚きの入り混じった表情を向けられていた。

 

 

 

その夜、今度は島に戻らなければいけなかったカキを除くメンバーで、イワンコを爪痕の丘まで見送った。離れた場所から様子を伺うサトシたち。イワンコが、またブーバーとバトルしようとしていた。

 

「頑張って、イワンコ」

「あんなに頑張ったんだもん、きっと勝てるよ」

「けどあのブーバー相当強いよ。大丈夫かな?」

 

各々が応援や心配の言葉をつぶやく中、サトシは食い入るようにイワンコを見ていた。

 

バトルが始まる。ブーバーはかえんほうしゃやほのおのパンチを駆使してイワンコに攻撃を仕掛ける。たしかに威力も高いが、カキのバクガメスほどではなく、早さもピカチュウとは比べるまでもない。周りの地形を生かし、攻撃を回避し、イワンコはブーバーに体当たりを繰り出した。その反動を利用して飛び上がったイワンコの首元が光り始める。

 

「あれは、」

「出るよ、いわおとし!」

「これで決めろ、イワンコ」

 

技の発射態勢に入るイワンコ。ところがそこへブーバーのかえんほうしゃが命中し、大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「頑張ってください、イワンコ」

「ピィカ」

「大丈夫さ。あいつは凄い。絶対負けないさ」

 

空中で態勢を立て直し、着地したイワンコはブーバーへと向かった。ブーバーもまた、ほのおのパンチを発動し突っ込んでくる。飛び上がった両者が交差する瞬間、イワンコは空中で体をひねり、その拳をかわし、ブーバーの背後に回った。首元はすでに輝き、岩が舞っている。振り向いたブーバーめがけていわおとしが降りかかった。地面に叩きつけられたブーバー。立ち上がろうとしたところへイワンコの落下の威力をプラスした体当たりが炸裂し、目を回して倒れてしまった。

 

「よし!」

「やった!」

「イワンコが勝ったよ」

「ええ。とても素晴らしいバトルでした」

 

そのバトルの終了を告げるべく、月が綺麗な夜空へと、3つの咆哮が響く。真昼と真夜中のルガルガンたち、そして今回の勝者である、イワンコの声だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

マオたちを家に送り届けたサトシたちは、家に帰る前に、共に特訓していた海岸に来ていた。

 

「やったな、イワンコ。かっこよかったぜ」

「アン!」

 

尾を振りながらサトシにじゃれつくイワンコ。痛みを感じながらも、サトシはそれを優しく受け入れる。そこにいるのは、まさしく理想的なトレーナーとポケモンの関係、リーリエはその様子に少し憧れた。

 

「なぁ、サトシ」

「博士?」

「これは俺の勝手な考えなんだが、イワンコのこと、ゲットしないか?」

「へ?俺?でも博士の方がずっと一緒にいたんですよね?なら、博士の方がいいんじゃ」

「いや。今最もイワンコと向き合い、信頼し合っているのは俺じゃなくてサトシだ。お前はイワンコのために自分の時間を割くことを惜しまなかったし、誰よりも真っ直ぐに気持ちを受け止めていた。俺よりも資格があるのはお前だよ」

 

博士の真剣な目を見てから、サトシは腕の中に入るイワンコへと目を向ける。まるで期待しているかのような目をサトシに向けていた。

 

「ゲット、して欲しそうにしてますよ」

「ほら、サトシ」

 

「イワンコ、俺と一緒に行くか?一緒にもっともっと強くなろうぜ」

「アン!」

 

サトシが放ったボールめがけてジャンプするイワンコ。鼻でスイッチを押して中に入る。サトシの手の中に落ちたボールは音を立てて、中央のスイッチの光が消える。

 

「よーし、イワンコ、ゲットだぜ!」

「ピッピカチュウ!」

 

新たにイワンコを加えたサトシ。お互いに相手を思っている理想のポケモンとトレーナー、それを体現できる彼らの先を、しっかりと見ていたいと、決意するククイ博士だった。




さて、現在のサトシの手持ち
アニメではピカチュウ、モクロー、イワンコ

こっちではピカチュウ、ゲッコウガ、モクロー、ロコン、イワンコ
ヤベェ、もう5体いるじゃん!
この先のゲットとか考えたらどうしたらいいだろうか。


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三匹の冒険

この作品が基本サトシの周辺のみのことなので、本編見てないとあんまし面白くないかもです

ちなみに本編はめっちゃ面白かったですよ


ポケモンスクールもお休みのある日、サトシ、リーリエ、マオ、そしてスイレンの4人は浜辺に集まっていた。ただの浜辺ではなく、スイレンとアシマリの思い出のあの浜辺である。どうやらアシマリの特訓の成果を見せてくれる模様。

 

「じゃあ行くよ。アシマリ、バルーン」

 

アシマリ鼻先から膨らんだバルーンは中にアシマリが入っても、割れずに宙に留まっていた。ロトム曰く、

 

『大きさ、強度、弾力性。どれを取っても絶妙な数値ロト!』

 

「すっげぇな、アシマリ」

「はい、わたくしもびっくりしました」

「でっしょ〜!あたしが遊びに行ったとき、ホウちゃんたちも入れたんだよ」

「アシマリ、すっごく頑張ったから」

 

褒められて嬉しそうなアシマリ。スイレンと叶えようとしている夢に、また近づいたのだ。

 

「次、俺も入ってみていいか?」

「あ、でも。この前私が入ったときは、すぐに割れちゃったから」

「まだあたしたちくらいの大きさの人は無理なんじゃないかな?」

「そっか。それなら、ポケモンはいけるかな?」

「それなら大丈夫。アシマリも、アマカジも楽しんでたから」

「ゲッコウガ、は、流石に無理だから。イワンコ、ロコン、出てこい!」

 

ボールから出てくるイワンコとロコン、飛び出してすぐに2体揃ってサトシの腕の中へとダイブしているあたり、仲良くなっているようだ。イワンコの首の岩を擦り付ける行為も、ロコンはその体毛のおかげか、特に痛がるそぶりもなかった。そしてその二体の隣、ピカチュウのいない方のサトシの肩に止まったのは、さっきまでリュックの中で寝ていたモクローだ。またすぐに眠りそうになっているその様子に苦笑するマオたち。

 

微笑ましい光景ではあるが、小柄なポケモンたちばかりとはいえ、こんなにもいると相当重いのに平気なサトシは相変わらず色々とおかしいようだ。

 

「みんな一緒には無理だから、順番。まずはピカチュウね」

 

楽しいバルーン乗り体験が始まろうとしていたそのとき、アマカジがくしゃみをしてしまった。くしゃみ自体は何の問題もないのだが、それがアマカジだったのがまずかった。そのはずみで甘い果実のような匂いが発せられたのだ。それに反応したのはモクローだった。匂いにつられるようにアマカジめがけて突っ込むモクロー。しかしそこはマオのアマカジ、すぐさま頭部の葉を回転させ、モクローを弾いた。

 

さて、ここまではいつも通りの流れだったのだが、運の悪いことにモクローがアシマリと激突してしまい、二体揃ってバルーンの中に入ってしまった。そこへ風が吹き、流されそうになるバルーンが、海から押し寄せた波の力を借りて、山の方まで飛ばされてしまったのだ。

 

 

・・・何を言っているかさっぱりわからないと思うが、事実ありのまま起こったことを整理した結果である。サトシたち4人もまた、この鮮やかとも言える一連の流れに完全に絶句し、しばらくあっけにとられて動けずにいた。バルーンが建物の向こうまで飛んで行った頃にようやく顔を見合わせ、

 

「「「「えぇぇぇぇぇえっ!?」」」」

 

驚きの叫び声がその海岸付近に響いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

急いで浜辺から道路へと出る4人。少し遠いところにバルーンが浮かんでいるのが見えた。しかしもう見えなくなりそうだった。

 

「くそっ、このままじゃ「行くよ」、へ?」

 

対策を立てようと考え始めたサトシの思考を中断させたのは、小さく発された言葉と腕に感じる圧迫感だった。顔を伏せ、表情が読めない状態のスイレンが、両手でサトシの腕を掴んでいたのだ。

 

「え、えっと、す、スイレンさん?」

「早く行くの!」

 

片手は話してくれたものの、もう片方の腕でサトシの腕をガッチリとホールドしたスイレンに引っ張られながらサトシはバルーンが飛んで行った方、街の方へと向かった。

 

「あ、ちょっと、スイレン?」

「サトシ、鞄を忘れていますよ!」

 

スイレンの様子にポカンとしていたマオとリーリエだったが、それぞれサトシとスイレンの鞄をを抱え、後を追いかけた。

 

「マオ、今のスイレン」

「うん、完全にスイッチ入っちゃってるね」

 

2人の視線の先では、サトシが躓きそうになりながら、スイレンに腕を引かれていた。スイレンのことが少し羨ましくありながらも、サトシに同情してしまう2人。もっとも、スイレンは割とすぐに冷静になり、腕を組んでいるその状況から、2人に対して若干の優越感を楽しむことになるのだが。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方、モクローとアシマリはというと、その後森の中へと落ち、そこでロケット団と遭遇してしまった。さらに運の悪いことに、輪っか状の新発明の装置が落下の衝撃でモクローの首回りにはまり、抜けなくなってしまったのだった。

 

アシマリの機転でなんとか逃げ出した二体だったが、ニャースとヒドイデによって追い詰められてしまうのだった。ヒドイデの毒の棘がアシマリに当たろうとしたそのとき、どこからか火球が飛んできて、ヒドイデを弾き飛ばしたのだった。

 

黒と赤の体毛に、鋭い目。二体の窮地を救ったのは、あのニャビーだった。ヒドイデとニャースを倒したニャビーに連れられ、アシマリたちは町の方へと向かった。

 

 

 

その頃、冷静さを取り戻したスイレンを先頭に、サトシたちは町へとたどり着いた。

 

「こっちの方に来てたのは確実なんだけど、」

「もうバルーンは割れてしまったようですね。アシマリたち、怪我をしていなければいいんですけど」

「アシマリ・・・うぅん、大丈夫。会える、絶対!」

「スイレンの言う通りだな。まずは手分けして探してみようぜ」

「でも、探すって言っても、大変だよ?何かいい方法はないかな?」

 

うーん、と4人は考える。そんな時、イワンコとロコンがサトシの足元で何か主張しているようだった。

 

「2人とも、どうしたんだ?」

『そうロト!イワンコもロコンも鼻がよくきくポケモンロト!』

「そういえば、本で読んだことがありました!人よりもずっと匂いに敏感で、匂いを頼りにものを探すのも得意だと」

「なるほど!イワンコ、ロコン。お前たちの力を借してくれ」

「シロンも、お願いします」

 

並ぶ三体。皆やる気満々のようだ。

 

『あとは、何かモクローとアシマリの匂いがするものを用意して、覚えてもらうロト』

「モクローの匂い・・・なら、俺のリュックだな。いつもここに入っているからなぁ」

 

リュックを地面に下ろすサトシ。三体はその周りに集まり、モクローの匂いを覚えようとする。さっきまでもその中で昼寝をしていたこともあり、とてもわかりやすかったようだ。

 

「アシマリの匂いは?」

「私の手、いつも抱っこしてたから。今朝もしていたし、残ってると思う」

 

モクローの匂いを覚えた三体はスイレンの手のひらからアシマリの匂いを見つけようとした。が、一様に首を傾げ、サトシの方を見た。

 

「えっ、何だ?」

『どうやら、スイレンの手のひらからは、サトシの匂いしかしないみたいロト』

「俺の?」

「あっ!」

 

ふと思い出すスイレン。先程までずっとサトシの手を握り、あまつさえ腕を組んでいたのだ。その時のサトシの匂いがアシマリのそれを上書きしているらしい。

 

「ど、どうしよう」

「落ち着けよ、スイレン。モクローとアシマリは一緒にいだんだ。きっと探せば一緒に見つかるよ」

「うん」

「みんな、モクローの匂いはわかるか?」

「アン!」「「コォン!」」

「じゃあ手分けしよう。俺はイワンコとロコン、リーリエはシロンに付くから、スイレンはリーリエたちと、マオは俺と来てくれ」

「うん」「わかりました」「オッケー」

 

サトシたちは匂いを頼りに、二手に分かれて捜索を始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夕暮れ時、サトシとマオ、スイレンとリーリエは合流した。残念ながらどちらも成果なしのようだ。というよりも、モクローたちも町のあちこちを巡っていたようで、匂いが色んなところからするのだ。時には匂いがぱたりと途絶え、また別の場所に突然現れることもあった。後にこれはアシマリがモクローをバルーンに入れて運んでいたからだと知る。特に驚きだったのは、何人かの女の子からも匂いがしたことだった。どうやらモクローと遊んでくれていたらしい。

 

この時最近注目のトレーナーとして密かに知られているサトシがその子たちに握手を求められていたことに、三人の心中穏やかじゃなかったのはここだけの話。その後も探していたか、一向にアシマリたちが見つかる気配がなかった。

 

「本当にどこ行っちゃったんだろう」

「もう大分日も暮れて来てしまいましたし」

「アシマリ、大丈夫かな」

 

やや落ち込んでいるようなスイレンにつられたのか、マオとリーリエもどこか不安げだった。が、

 

「大丈夫だって。モクローもアシマリも強いからな。きっと力を合わせて、俺たちのことを探してる。だから、俺たちも頑張って探そうぜ」

「サトシ・・・うん!」

 

サトシからの信頼に応えるべく、イワンコたちも気合いを入れ直した。と、ここでイワンコの鼻がモクローの匂いを捉えた。それも、まだ新しいものだ。一声上げ、走り出したイワンコ。その後を追ってサトシたちも駆け出した。たどり着いたのは高いビル。その屋上のあたりにモクローたちがいるらしい。サトシたちは急いで中に入り、屋上を目指した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

突如現れたロケット団によって、モクロー、アシマリ、ニャビーの三体は捉えられてしまった。突然のピンチに不安になるアシマリ。その反動で隣で呑気に寝ているモクローの頭をはたいてしまったのは、少しばかり仕方のない部分もあるだろう。そんなアシマリにニャビーは小声で耳打ちをする。

 

 

 

ニャビーの作戦でロケット団を油断させた瞬間、三体の反撃が始まった。ニャビーが彼らを捉えていた網を切り裂き、アシマリがバルーンでロケット団の動きを封じた。そこへモクローの全力の体当たりが決まり、宙に浮いた彼ら目掛けて、ニャビーのひのこ、アシマリのバブルこうせん、モクローのこのはが決まり、爆発する。

 

「この感じは、」

「ひょっとすると、」

「それではみなさん、ご一緒にニャ」

 

「「「やな感じぃ〜〜!!!」」」

「ソーナンス!」

 

 

ちなみにだが、はるか山の方へ飛ばされた彼らは、落下地点で待ち構えていたキテルグマにしっかりとキャッチされたのだった。

 

「「「何この感じぃ〜〜」」」

 

 

 

屋上にたどり着いたサトシたちには、謎の叫び声が遠ざかって行くのしか聞こえなかった。

 

「今のって何?」

「悲鳴でしょうか?」

「いや。多分、あいつらだな」

「ピーカチュ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

無事に再開できたことを喜ぶサトシたち。モクローの体についたままだった装置も無事にはずれ、これにて一件落着だった。

 

「ニャブ」

「ん?この声は、」

 

小さく、けれども確かに聞こえた声の方向へ顔を向けるサトシ。赤い夕日を背に受けながら、そのポケモンはサトシを見つめていた。

 

「あれって」

「ニャビー、だよね」

「あの時のニャビーでしょうか」

 

一歩前に出たサトシ。ニャビーの目をまっすぐ見てから

 

「ありがとな。2人を助けてくれて」

 

と、お礼を言った。フンス、と鼻を鳴らして応えるニャビー。

 

「ムーランドは元気か?」

「ニャブ」

「あ、ちょっと」

 

ヒラリと屋上の柵の向こうへと行ったニャビー。ビルの間を伝い、どんどんその姿は遠ざかって行った。その姿をサトシは笑顔で見送った。

 

「行っちゃったね」

「いいの?サトシ」

「いいんだ。きっとまた会えるさ」

「そうですね。サトシですもの」

「ふふっ、そうだね」

「うん」

「えっ、どういう意味?」

「いえいえ、お気になさらず。ふふっ」

 

にこにこ笑顔の三人に、サトシは首をかしげるだけだった。またいつか、サトシとニャビーは出会うのだろうか。それは、アローラの空のみぞ知る。お腹を空かせたみんなでアイナ食堂へ向かいながらも、サトシはその時に想いを馳せた。




もっとこう、バトルとかのシーンを書きたくなります

次回のエピソードは忙しかったらスキップしちゃうかもしれませんが、ご了承ください


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蜜を追って

リアルがガチ忙しくなって来たので、ところどころストーリー省いていきます

というわけで、ロトム探偵回はスキップです


ここはアイナ食堂。今日は珍しく、サトシたち一同が全員集合していた。

「みんな、今日はマオちゃん特製メニューの試食会に来てくれて、ありがとね」

「完成したのか?」

「ううん、もうちょっとだけ待っててね」

「お昼抜きで来たからもうおなかペコペコだよ~」

「マーマネもか?実は俺も」

どうやら今日の招集をかけたのはマオのようだ。自身の作る新しいメニューの試食をクラスメートたちに頼んだらしい。アイナ食堂の看板メニューをつくることが夢であるマオ、その夢のために様々な料理に挑戦しているらしいのだ。

 

「ピカチュウ、ちょっとお手伝いしてくれる?」

「ピィカ?」

「うん、ちょこっとだけでいいから、ね」

 

なぜかピカチュウを連れて厨房へ向かったマオ。果たしてどんな料理が出てくるのか。

 

 

 

 

「お待たせ~。幻のアローラシチュー、完成だよ!」

「幻の、」

「アローラシチュー?」

「えっ、みんなも知らないの?」

「初めて聞いたかも」

「私もです」

 

5人の前に差し出されたのはおいしそうなにおいが漂うシチューだった。見た目はそこまで特別変わったところはなそうだが、幻と銘打ってあるほどのシチュー、さぞ絶品なのだろう。声をそろえていただきますをした後、5人はシチューを口に運んだ。瞬間、固まってしまう5人。そして、

 

「「「あばばばばば!?」」」

 

激しいしびれを感じたのちに、ばたりと倒れるカキたち。

 

「ちょっ、大丈夫?」

「マオ、これは一体どういう料理なんだ?」

「えっ?あぁ、幻のアローラシチューね。後味に軽くしびれる感じがこの料理の特徴なんだけど」

「軽く・・・ですか?」

「なんだか、ピリッというか・・・ビリビリ」

「この感じってもしかして、ピカチュウの電撃か?」

「あ、サトシはやっぱりわかる?本当は『山吹の蜜』っていう材料でしびれを出すんだけど、今は手に入らないからピカチュウに協力してもらったんだ」

 

先ほど厨房から聞こえてきた電撃の音はどうやらピカチュウが料理を手伝っていたことによるらしい。ポケモンの力を借りるという発想はなかなか面白いものだとは思ったが、

 

「流石にピカチュウの電撃では刺激が強すぎたと思いますよ」

「あはは、そうだね。今回は失敗かなぁ」

「俺は好きだったぜ」

「僕も!」

「流石二人とも電気タイプが相棒なだけあるな」

 

その後、帰ってきたマオの父の料理をいただき、カキたちは帰っていった。サトシはというとマオのアマカジの甘い香りを追いかけ続けるモクローを苦笑しながら眺めていた。

 

「ごめんね、サトシ。ピカチュウも、せっかく協力してくれたのにね」

「いいって。それより、どうしてその幻のアローラシチューを作りたいんだ?」

「あたしね、自分の作った料理で、このアイナ食堂をもっとたくさんの人に好きになってもらいたいんだ。それでね、みんながあたしの作った特製メニューで笑顔になって欲しいんだ。だから、もっともっと頑張らないと」

「スッゲー夢だな」

「まぁなかなかうまくいかないんだけどね〜」

 

そう言って頬をかくマオの方にアマカジが飛び乗る。

 

「けどさっきの山吹の蜜ってそんなに手に入りにくいものなのか?」

「うーん、正確には季節はずれなんだよね。だから全然見つからなくて」

「でも、その蜜があれば完成するんだろ?」

「うん」

「ならさ、明日探しに行ってみようぜ!」

「えっ?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

雲もほとんど見えないくらいに広がる青空の下、サトシとマオは山吹の蜜を探すために森に来ていた。とはいえ季節外れの花から取るため、そう簡単には見つからなさそうだ。

 

「何か目印みたいなのないかなぁ、蜜の場所がわかりやすいものとか」

「うーん、私もそこまで詳しくないしなぁ」

『フッフッフッ。ここは、僕にお任せロト!』

 

胸を張るロトム図鑑。こういう時に彼の持っている大量の知識が大いに役に立つ。ポケモンの生態だけでなく、ポケモンたちに関わりのあるものについての情報も持っている。その中からロトムは山吹の蜜についての情報を検索した。

 

『山吹の蜜を探すなら、まずはオドリドリを探してみるといいロト』

「オドリドリを?」

『オドリドリにとって、山吹の蜜は好物でもあるロト。だからオドリドリのいるところなら、』

「そっか!もしかしたらその近くに山吹の蜜があるかも!」

「なるほど!ロトム、この辺りにオドリドリはいるのか?」

『うーん、見つかる確率は8%ロト』

「8%もあるってことだろ?よーし、マオ。頑張ってオドリドリを探そうぜ!」

「うん!」

 

それからサトシたちは草むらをかき分け、木に登り、モクローの仲間のドデカバシたちにも話を聞いてみたが、オドリドリは見つからなかった。流石に発見確率8%のことはある。

 

「全然ダメだな。何かいい方法はないのかなぁ」

「疲れた〜。あたしちょっと休みたい」

「マ〜ジィ〜」

 

疲労しているサトシとマオをねぎらうように、アマカジが甘い香りを出す。その匂いで少し元気が出た気分になる二人。

 

「ありがと、アマカジ」

「甘い匂いはこんなこともできるんだな。ん?」

 

ふとサトシが何か思いついたようにアマカジを見つめる。

 

「サトシ?」

「なぁ、アマカジの甘い匂いなら、オドリドリを呼ぶこともできるんじゃないか?」

「えっ?」

「ほら、モクローってよくこの匂いに引き寄せられるじゃん?もしかして他の鳥ポケモンもそうなのかなって」

『その可能性は大いにあり得るロト!』

「アマカジ、頑張れる?」

「マジジ〜!」

 

胸を張るアマカジ。やる気満々のその様子を見て、マオたちは早速試してみることにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

少し高めの岩の上から、甘い匂いを広範囲に渡って広げるアマカジ。普段と違い、その表情からもその必死さが伝わってくる。ぞろぞろとポケモンたちが集まってくる。

 

「ツツケラ、ケララッパにバタフリー」

「レディバもいるね!」

『うーん、肝心のオドリドリが見つからないロト…ってあーっ!二人とも、上ロト!』

「「へっ?」」

 

二人がアマカジの方を見ると、黄色い体にボンボンのような羽先。一体のオドリドリがいつの間にか現れていたのだ。

 

「「いたぁ〜!」」「ピィカァ〜!」

 

大きな声に驚いてしまったのか、オドリドリは飛び立ってしまった。慌てて追いかけるサトシたち。途中何度か見失いそうになりながらも、なんとかついて行った。すると森の中にある、小さな広場のような場所に出た。周りを見ると、黄色い花がいくつも咲いていた。その花こそ、山吹の蜜を採取することができる花なのだ。

 

「スッゲー、こんなところがあったんだ。ん?あれは?」

 

サトシたちが追いかけて来たオドリドリの前に、別のポケモンが現れた。赤い身体にドレスのように広がる羽を持つそのポケモンは、どこかオドリドリに似ているとサトシは思った。

 

『あれはオドリドリ、めらめらスタイルロト』

「えっ、あれもオドリドリなのか?」

『オドリドリは姿やタイプが変わるポケモンロト。その変わるために必要なのが、あっ!ほら、見るロト!』

「へ?」

 

ロトムの示す方向を見ると、めらめらスタイルのオドリドリが黄色い花から山吹の蜜を飲んだところだった。途端にその姿は光り始め、ぱちぱちスタイルのオドリドリに変わっていた。

 

「そっか、だからオドリドリが蜜の場所を知ってるんだ」

「ほらマオ。蜜を採るんだろ?」

「あっ、そうだった」

 

一歩前に踏み出すマオ。その足元から突然網が上がって来て、サトシ、マオ、ピカチュウにモクローを吊り上げた。

 

「な、なんだ?」

 

「な、なんだと聞かれたら、」

「聞かせてあげよう、我らの名を」

「花顔柳腰羞月閉花。儚きこの世に咲く一輪の悪の花!ムサシ」

「飛竜乗雲英姿颯爽。切なきこの世に一矢報いる悪の使徒!コジロウ」

「一蓮托生連帯責任。親しき仲にも小判輝く悪の星!ニャースで、ニャース」

「「ロケット団、参上!」」

「なのニャ!」

「ソーナンス!」

 

現れたのはやはりというか、ロケット団だった。どうやら山吹の蜜を独り占めしようとしているらしく、ニャースが発明を使い、あたりの花を吸引し始めた。唯一動くことができるアマカジがなんとかしようとするも、小さな体では網を破ることも、ニャースを止めることもできなかった。

 

マオの役に立ちたい、一緒に幻のアローラシチューを完成させたい、もっと力になりたい。そんなアマカジの思いが高まったその時、アマカジの体がまぶしく光り始めた。

 

「これって」

「アマカジが、」

『あれは間違いなく、進化の光ロト!』

 

小さかった体は少し成長し、やや人型に近いものへ。頭のヘタは長く伸び、まるで髪のようだ。妖精のような可愛らしさを持つ姿へと変わったアマカジ、改め名前は、

 

『アママイコロト!』

「アマカジが、進化したんだ!」

 

突然のことに驚いていたロケット団に、アママイコが向かって行った。大きなヘタから繰り出されたおうふくビンタによって、ニャースたちは弾き飛ばされ、その衝撃でサトシたちも解放された。

 

「サンキュー、アママイコ」

「サトシ、一気に決めちゃおう!」

「オッケー。モクロー、このは」

「アママイコ、マジカルリーフ!」

 

二体の同時攻撃によって、ニャースの持っていた機械は破壊された。

 

「ピカチュウ、10まんボルト!」

 

続けて放たれた電撃がロケット団に直撃・・・

 

するかと思いきや、突如現れたキテルグマがその身に攻撃を受け、まるで何事もなかったかのように、ロケット団を抱えて行ってしまったのだった。

 

「なんなんだ、あいつは?」

「さぁ?」

 

何はともあれ、危険は去り、マオはようやく念願の山吹の蜜を手に入れることができたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

後日、再び集められたクラスメイツ。材料を全て揃えることができたマオの作ろうとしている料理、幻のアローラシチューの完成を待ちわびていた。

 

 

 

「出来たー!お待たせみんな、今度こそ完成だよ。正真正銘、アローラシチュー!」

 

綺麗なミルク色をしたそのシチューからは、食欲をそそる香りがあふれていて、サトシたちは早速食べ始めた。濃厚なシチューの中にあるほのかな痺れが、スパイスのようにちょうどいい刺激を与えてくれる。そして同時に、わずかではあるが残っている蜜の甘味。幻のアローラシチュー、その名に違わぬ美味しさだった。

 

「やったねマオ」

「とても美味しかったです!」

「あぁ。大したものだ」

「これって看板メニューになるの?」

 

食し終わった仲間たちが口々に感想を並べる中、嬉しさや照れが出たマオは頬をかいた。

 

「そうしたかったんだけどねー。蜜がいつでも手に入るわけじゃないから、期間限定メニューとして売り出すことになったんだ。また新しいメニューを考えなくちゃ!」

「頑張れよ、マオ」

「うん!」

「アマ!」

 

マオの背中に抱きつくアママイコ。進化して肩に乗ることはできなくなってしまったが、二人の中の良さは変わらなさそうだ。

 

「サトシ、ありがとね。一緒に蜜を探してくれて。サトシたちと、アママイコのおかげだよ。だから、ありがとう」

「いや、マオとアママイコが頑張ったからさ。本当に美味しいシチューだぜ!」

「いっぱいあるから、みんなもたくさん食べてね」

 

「「「は〜い」」」「あぁ」

 

幻のアローラシチューを完成させたマオ。アイナ食堂を大きくするという夢に向けて、大きな一歩を踏み出した。進化した友達の、アママイコとともに。次にどんな料理が作られるのか、それはまだ誰も知らない。




いよいよカプ・コケコとの再戦ですね

どんなバトルになるのやら


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電撃全力バトル!

今回あんましマーマネの家族とか掘り下げません、はい

その理由は………


ポケモンスクールに設置されたバトルフィールド。今日もまた、そこではバトルが繰り広げられていた。

 

「イワンコ、いわおとし!」

「ドロバンコ、にどげり!」

 

勢いよく打ち出されたいわおとしが、ドロバンコに完全に防がれたにもかかわらず、イワンコとサトシは笑顔を浮かべていた。

 

「なんだかイワンコ、押されてない?」

「いわタイプのイワンコにとって、じめんタイプのドロバンコは、相性が悪いからな」

「でも、サトシはそうは思ってないみたいだよ」

「はい、とても楽しそうです」

「頑張れサトシ、イワンコ!」

 

クラスメートが見守る中、サトシとイワンコがアイコンタクトを交わす。

 

「行っくぞ、イワンコ!」

「アン!」

 

Zクリスタルからの輝きをその身に受け、イワンコのZ技が放たれる。

 

「ウルトラダッシュアタック!」

 

高速で相手目掛けて突っ込むその技を、ドロバンコは躱すことができなかった。大きく弾かれたその体は宙に浮き、地面に落ちた時には目を回してしまっていた。

 

「ドロバンコ戦闘不能、イワンコの勝ち!」

 

審判を務めたククイ博士のコールを持って、このバトルは終了した。握手を交わすサトシとトレーナー。再選の約束をし、相手は走って行った。

 

 

 

「サトシ、お疲れ様です」

「いいバトルだったね!」

「あぁ、スッゲェ楽しかった」

 

イワンコを抱き上げ、頭を撫でながらサトシは応じた。ここのところ、サトシにバトルを申し込みに来る人が増えているのだ。それもそのはず、サトシは今やスクールの中でも最も注目されているトレーナーなのだから。

 

予測不可能な戦法に、フィールドや相手の技をも味方にするバトルスタイル。スクールの授業だけでは学べないことを、サトシを通して学んでいる生徒もいるんだとか。

 

「それにしても、イワンコもどんどん強くなって来たね」

「さっきのZ技も、中々だったぞ」

「サンキュー。でも、まだまだ強くならないとな。どんな試練が待ってるのかもわからないし。それに、あいつともまた戦いたいしな」

 

そう言って空を見上げるサトシ。そのあいつに、なんとなくカキたちは心当たりがあった。彼らが初めて観たサトシの全力、その衝撃はあれからしばらく経った今も、鮮明に思い出せる。

 

「だったらさ、僕にトレーニングメニューを考えさせてよ!」

「へ?マーマネに?」

「そう!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

スクールからそう離れていないところに、マーマネの家はあった。おおらかな母親に、なんだか面白い父親。カキの家族とはまた違う印象を持たせる家庭だった。おやつを食べたりお話ししたりもしたが、今は最初の目的を忘れてはいけない。サトシはマーマネとともに、カプ・コケコの対策を考え始めた。

 

「まずあのエレキフィールドなんだけど、あれは特性エレキメイカーで発動してるみたいなんだよね」

「ってことは、勝手に発動してるってことか?」

「そ、んで、問題はそのエレキフィールドの特徴なんだけど、」

『でんきタイプの技の威力が上がるロト』

「つまり、ピカチュウには有利ってことか」

 

ちらりと相棒の方を見てみるが、どうやらトゲデマルと一緒に遊びに夢中になっているようだ。少しほっこりとしたサトシは意識をマーマネたちの方へ戻した。

 

「ピカチュウはいいけど、他のポケモン、特にゲッコウガは要注意だよ」

「確かにそうだな」

 

エレキフィールドの発動が最も痛いのは、間違いなくゲッコウガだ。しかしそれを未然に防ぐすべはない。せめてヌメルゴンがいたらなぁ、なんてサトシが思う中、マーマネとロトムは様々な対策を考えていた。

 

「うーん、みんなのもっと詳細なデータが欲しいんだけど……ん?」

 

マーマネの視線の先には、滑車の中に入り、走りながら遊んでいるピカチュウの様子だった。

 

「これだ!」

「えっ、どれ?」

 

 

 

 

 

サトシが待つことしばし、マーマネの家の庭に、巨大な滑車が設置されていた。その滑車の中で走ることによって、サトシたちのデータを集めることができるらしい。

 

「よーし、みんな出てこい!」

 

「クロ?」

「アン!」

「コォン」

「コウガ」

 

モンスターボールから出て来たサトシのポケモンたち。額に情報収集のためのマーカーをつけ、早速プログラムを始めた。走り始めたサトシたち。そのデータはマーマネの機械でグラフとして現れている。

 

「いいよ、いいよ。しっかりとデータが取れてる。サトシ、もっと早く行ける?」

「よっしゃ!行くぜ!」

 

だんだんと滑車の回るスピードが速くなる。そのスピードについていけず、モクロー、イワンコ、ロコンは滑車の外に飛び出した。残ったのはサトシ、ゲッコウガ、そしてピカチュウ。

 

徐々にスピードが上がる中、ゲッコウガには見えていた。サトシとピカチュウの間に、強いエネルギーが流れているのが。それはメガ進化のエネルギーにも近い何か。その繋がりが強くなればなるほど、サトシのZリングにはめられたデンキZがよりかがやきはじめていた。

 

「何この数値、どうなってるの?」

『驚きロト!』

 

とっさに危険を感じ取ったゲッコウガは、滑車から飛び出し、マーマネや他のポケモンたちを連れて離れた。直後、まばゆい黄色の柱が空に向かって登っていき、その後には壊れた滑車、そしてサトシとピカチュウが立っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、マーマネは興奮気味にサトシたちとともに行った実験についてカキたちに話していた。珍しくゲッコウガもボールから出ていて、柱にもたれかかりながらサトシたちを見ていた。

 

突然ピカチュウが何かに反応する。頬から電気が溢れていることから、何やらでんきタイプに関係することだろう。ほぼ同時に、ゲッコウガも何かが現れたことを感じ取っていた。

 

「ピカチュウ?あ、どこ行くんだよ?」

 

走り出したピカチュウを追って、サトシたちも外へと飛び出した。彼らがたどり着いたのはスクールのバトルフィールド。そこで待ち受けていたのは、

 

「カプ・コケコ!?」

「うそっ、また現れたの!?」

 

メレメレ島の守り神、カプ・コケコだった。その瞳は真っ直ぐにサトシに向けられている。

 

「また会えて嬉しいよ、カプ・コケコ。俺たち、あれから強くなったんだ。またバトルしてくれないかな?」

 

サトシに答えるようにカプ・コケコはサトシたちの前まで行き、その腕でピカチュウを指した。バトルしたい相手は、やはりピカチュウのようだ。

 

「ありがとう。よーし、ピカチュウ!見せてやろうぜ、俺たちの力!」

「ピィカ!」

 

 

 

バトルフィールドで相対するピカチュウとカプ・コケコ。神出鬼没でほとんど姿を見せない守り神が現れたことを聞いて、スクールの生徒たちも集まっていた。彼らはカプ・コケコを見て驚き、その前に立つサトシたちを見てさらに驚いている。

 

「これは、」

「ククイ博士、カプ・コケコが」

「あぁ。何とも面白いことになってきたな」

「カプ・コケコは、どうして何度もサトシの前に現れるのでしょう」

「その答えは、このバトルの中にあるかもしれないな」

「バトルの中に、ですか」

 

視線を戻すリーリエ。スクールの生徒たちが見守る中、カプ・コケコとピカチュウによるバトルが始まろうとしていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

周囲に電気が走る。特性エレキメイカーにより、エレキフィールドが発生した。それを合図に、サトシは行動した。

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

「ピカ!」

 

高速で走り、カプ・コケコ目掛けて突撃するピカチュウ。かなりの速度で繰り出されたにもかかわらず、カプ・コケコはそれをあっさり躱してみせた、

 

「アイアンテール!」

 

走ったスピードそのままに、木を蹴って跳躍したピカチュウのアイアンテールが、カプ・コケコを背後から狙った。咄嗟に腕を使い防ぐカプ・コケコ。パワーで押されたピカチュウが地面に向かって落ちるのを、追撃せんとカプ・コケコが追って急降下した。

 

「尻尾で飛ぶんだ!そのままアイアンテール!」

「チュー、ピッカァ!」

 

地面に激突する寸前、尻尾をバネのようにし飛び上がったピカチュウ。その咄嗟の切り替えにカプ・コケコの反応が間に合わず、顔面に強烈な一撃を食らってしまう。

 

「エレキボール!」

「ピカピカピカ、チュピィ!」

 

体勢を崩したカプ・コケコ目掛けて打ち出される電撃の球。腕でそれを防ぐものの、カプ・コケコは大きく後退した。

 

 

「ピカチュウ、すごい!」

「これならいけるかもしれません」

「このまま行けば、だがな」

 

 

カプ・コケコの周りを走り回り、隙を見つけようとするピカチュウ。その動きを、カプ・コケコは動かずとも正確に捉えていた。背後からピカチュウが攻撃をしようとした瞬間、カプ・コケコは地面を殴りつけた。エネルギーがほとばしり、ピカチュウは大きく弾かれた。

 

「ピカチュウ!」

 

 

「しぜんのいかりだ。これは強烈なダメージだぞ」

「流石は守り神、そう簡単にはいかないか」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「大丈夫か、ピカチュウ?」

「ピカ!」

 

大丈夫と返事するように声を上げるピカチュウ。それを見て一瞬笑みを浮かべたサトシは、気を引き締めてカプ・コケコを見据えた。

 

「さっきよりも速く動けば、もしかしたら。ピカチュウ、でんこうせっかで撹乱しろ!」

 

先ほどよりも速く走り、カプ・コケコに接近するピカチュウ。狙いさえ定まらなければ攻撃も躱せる。そう考えた故の作戦だった。しかし、

 

「コォー!」

「な、ほうでん!?」

 

広範囲に広がる電撃を躱すことが出来ず、ピカチュウは攻撃をくらってしまう。タイプ相性はいまひとつとはいえ、エレキフィールドで強化されたその一撃は重く、ピカチュウは膝をついてしまう。

 

 

放たれたほうでんの威力が大きすぎて、フィールドの外、側で観戦していた生徒たちの方へと電撃が向かってしまう。突然のことに誰もがひるむ中、咄嗟に動いたのはゲッコウガだった。みずしゅりけんをいくつも作り出し、乱回転させる。それによって渦巻く水の壁を作り出し、広範囲に広がっていたほうでんを防いだ。

 

「ありがとうゲッコウガ」

「コウガ」

「でもどうやって?水は電気をよく通すんじゃないの?」

「正確にはゲッコウガのみずしゅりけんは粘液だ。成分までは研究されたことはないが、電気を通さない性質を持っているのかもしれないな。それか、相当の純度の高い水で構成されていたとかな」

 

自分の技についての話が行われる中、ゲッコウガはじっとピカチュウを見つめていた。何かを期待しているかのように。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ピカチュウ、立てるか?」

「ピカピィカ!」

 

しっかりと地面を踏みしめ、少しふらつきながらも立ち上がるピカチュウ。勝ちたい!強くなりたい!そんな二人の気持ちに反応するように、Zクリスタルが光を放ち始めた。

 

それを見て頷くカプ・コケコ。待っていたのだ、二人の全力を。もう一度その力を確かめるために。

 

「待たせたな、カプ・コケコ。いっくぞ!」

「ピィカ!」

 

Zクリスタルが一層輝きを増し、二人の動きがシンクロする。溢れるエネルギーを身に受けたピカチュウが、巨大な雷撃の槍を作り出す。

 

「これが、俺たちの、全っ力だぁ!スパーキングギガボルト!」

 

放たれた一撃をカプ・コケコは両腕を合わせて守りの態勢に入る。以前はカプ・コケコによって完全に防ぎ切られてしまった。完全にZ技を使いこなせたわけではなく、クリスタルも砕けてしまった。けれども、今のサトシたちはあの時よりも成長している。

 

打ち出された雷撃のは、カプ・コケコに命中した瞬間に、巨大な光の柱となった。あまりの爆風に飛ばされそうになる生徒たち。目も開けていられないほどの眩しさだった。

 

大きく弾き飛ばされ、木に激突したカプ・コケコだったが、すぐに態勢を立て直し、攻撃に転ずる。しかし、それを見逃すサトシではなかった。

 

「アイアンテール!」

 

カプ・コケコを迎え撃つように、ピカチュウのアイアンテールが繰り出される。丁度フィールドの中央で激突する両者。その衝撃に空気が震える。しかしパワーはカプ・コケコの方が上だったようで、後ずさりはしたものの、ピカチュウの方が弾き飛ばされてしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ピカチュウの体はフィールドから飛び出し、スクールの柵を破壊し、そのまま崖のようになっていた場所から落ちてしまった。

 

「ピカチュウが!」

「っ!待て、サトシ!」

 

それを見たサトシは、躊躇いなく走り出し、自らも飛び降りた。生徒たちから悲鳴が上がる。それはまるでミアレシティの再現だった。落下しながらもピカチュウを抱き寄せたサトシ。ピカチュウを庇うように体を少し丸める。

 

慌てて崖まで駆け寄る博士たち。その頭上を一つの影が通り過ぎ、サトシを追うように落ちていく。崖から下を見下ろした彼らは、その光景に目を疑った。

 

崖から飛び上がったのはカプ・コケコ、そしてその腕にはサトシとピカチュウが掴まっていたのだった。空高く登るカプ・コケコと、笑顔のサトシたち。その様子をロトムがしっかりと写真に収めていた。

 

 

地上にサトシたちを下ろしたカプ・コケコ。見た所、サトシにもピカチュウにも怪我はなさそうだった。

 

「ありがとな、カプ・コケコ。また負けちゃったけど、次は絶対勝ってみせるぜ!」

 

拳を握り笑顔で語るサトシに、一度頷くカプ・コケコ。しかしその後、スクールの生徒たちの近くへと飛んでいった。近づく守り神に驚く生徒たちをよそに、カプ・コケコはある場所で止まった。その真正面には、

 

「コォー」

「コウガ」

 

互いに相手を見据えるカプ・コケコとゲッコウガ。相手のことを探っているようだった。

 

「もしかして、ゲッコウガともバトルしたいのか?」

 

返事はなかったが、両者ともに相手から視線を逸らそうとしていない。おそらくは肯定とみなしても問題ないだろう。

 

「ゲッコウガ、一緒にやろうぜ!」

「コウガ!」

 

ピカチュウ戦に続き、ゲッコウガとカプ・コケコのバトルが始まろうとしていた。




はい、というわけで、次回はオリジナルの展開入りまーす
頑張って書きますので、しばしお待ちを


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雷鳴と激流

ゲッコウガ対カプ・コケコのオリジナルバトルですね
今振り返ってみると、ここまで作中何度か登場したものの、あのゲッコウガの登場時間って短いものばかりでしたね


フィールドに立った両者は相手を見据えたまま動かなかった。誰もが息を呑み、見守る中、エレキフィールドが発動し、バトルが始まった。

 

「ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

「コウッガ!」

 

先に動いたのはゲッコウガだった。両手から放ったみずしゅりけんがカプ・コケコへと向かって行く。持ち前のスピードでそれを躱したカプ・コケコだったが、その回避地点にはゲッコウガが既に回り込んでいた。

 

「いあいぎりだ!」

 

手に握られた光の刃を振り上げるゲッコウガ。なんとか腕で防いだカプ・コケコだったが、ピカチュウの時と違い、咄嗟の行動ではパワー負けしてしまい、弾かれた。空中で態勢を整える。

 

 

「すごい、ゲッコウガ」

「あのカプ・コケコ相手に引けを取らないな」

 

「コォー、ケェー」

「かげぶんしんで躱せ!」

 

しぜんのいかりで反撃に出るカプ・コケコ。しかし狙いが定まらぬように、ゲッコウガはかげぶんしんをした。命中したのは影の方だったようで、ゲッコウガはそのままカプ・コケコ目掛けて走った。

 

「つばめがえしだ!」

 

力を凝縮させた右腕からの一撃が決まろうとした瞬間、カプ・コケコは再びほうでんを繰り出した。先ほど見せたものよりも広く走る電撃により、全ての影は消えてしまい、ゲッコウガ自身も大きなダメージを負ってしまう。

 

 

この時、観客の方へも電撃が向かったが、トゲデマルの機転により、誰も怪我せずに済んだ。特性ひらいしんにより電撃を彼女が全て吸収したのだ。

 

「助かったよトゲデマル〜」

「危なかった〜。本当にありがとう」

 

一安心した彼らはフィールドに視線を戻した。あれだけのでんき技を受けながらも、ゲッコウガが立ち上がったところだった。

 

 

「ゲッコウガ、いけるか?」

「コウッ!」

「見せてやろうぜ、俺とお前の全力を!」

 

二人の気持ちが一つになり、ゲッコウガの体を激流が包む。その中で姿を変えてゆくゲッコウガ。身体を包んでいた水が弾け、その姿が現れると、背中に巨大なみずしゅりけんが現れた。

 

「でた、謎のゲッコウガ!」

「やっぱりかっこいいなぁ〜」

 

生徒たちも大いに盛り上がっている。バトルの時もなかなか見ることのできない姿を見て、以前カキと行われた激しいバトルが思い出される。その時の勝者だったゲッコウガと、島の守り神カプ・コケコ。更に激しいバトルが期待される。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「先ずはエレキフィールドをどうにかしないとな。ゲッコウガ、みずしゅりけんを地面に突き刺せ!」

 

突然のその指示に誰もが耳を疑う中、ゲッコウガは迷いなく背中に背負った手裏剣を手に取り、地面に叩きつけた。その衝撃で地面にヒビが入り、みずしゅりけんが弾け、フィールドに水が降り注いだ。その水によりフィールドが放電し始め、エレキフィールドが打ち消された。

 

「うそぉ!?」

「あんな技の使い方があるのですね」

「まぁサトシらしいというかなんというか」

 

 

「ここからが本番だ。ゲッコウガ、かげぶんしん!」

 

走り出しながらかげぶんしんで相手を撹乱しようとする。対するカプ・コケコは放電で一掃しようとする。先ほどよりも威力は落ちたものの、それでも広範囲に広がった攻撃は、着実に分身を消していく。

 

「みずしゅりけん!」

 

分身の消える中、飛び出した本体がみずしゅりけんを投げつけた。その攻撃を腕を合わせて防いだカプ・コケコはワイルドボルトでゲッコウガに迫った。

 

「いあいぎり!」

 

両手に水のクナイを握り、交差させるようにし、正面から突進を受けて立つゲッコウガ。激しい衝撃に爆風が起こり、鍔迫り合いのように一歩も引かない二体の周りには、電気が火花のように弾けた。

 

「もっと、もっと強く!」

「ゲッ、コウガ!」

 

両腕を振り抜きカプ・コケコを弾き飛ばす。態勢の崩れた隙を見逃さず、飛び上がったゲッコウガの振り下ろした一撃で、カプ・コケコが地面に叩きつけられた。

 

「よっしゃ!」

 

 

「やっぱり、あのゲッコウガは強いですね」

「あぁ。サトシの手持ちじゃ最強だろうな」

 

この後、ゲッコウガと同等以上の実力を持つポケモンたちと出会うことになろうとは、彼らは思っていなかった。

 

「コォー!」

「みずしゅりけん!」

「コウッ、ガァ!」

 

カプ・コケコの放った特大のエレキボールと、ゲッコウガの背負っていた巨大みずしゅりけんが激突する。爆発が起こり、巻き上げられた土煙で視界が遮られる。

 

一瞬戸惑ったゲッコウガへと、真正面から突っ込んできたワイルドボルトが炸裂する。大きく宙に投げ出されたゲッコウガはそのまま地面に落ちる。

 

「ぐっ!?」

 

「サトシ?」

「どうかしたのでしょうか。なんだかとても苦しそうです」

 

突然腹部を抑え、苦しそうな声をもらしたサトシ。笑顔ではあるものの、やはりどこか辛そうだ。

 

再びワイルドボルトでゲッコウガに迫るカプ・コケコ。サトシの指示でなんとかつばめがえしで受けるが、指示が僅かに遅れてしまい、万全の態勢ではなく、また弾き飛ばされた。

 

「っづぅ、くっ」

 

今度は右腕を抑えるサトシ。その様子を見ている生徒たちはどうしたのか分からず、不思議そうだった。そんな中、ククイ博士とカキはサトシとゲッコウガを見ていて、何かに気づいた。

 

 

 

「まさか、そういうことなのか」

「カキも気づいたかい?」

「多分、ですけど」

「何何?何に気づいたの?」

「さっきからサトシが抑えている場所とその時何があったのかを思い出してごらん」

「確か、お腹と右腕」

「お腹の時は、カプ・コケコがワイルドボルトでゲッコウガを攻撃したときでしたよね。右腕は、ゲッコウガがつばめがえしで押し負けたとき……まさか」

「えっ、リーリエわかったの?」

「サトシが抑えた場所、おそらくそれは、ゲッコウガがダメージを受けた場所と同じなんです」

「どういうこと?」

「つまり、ゲッコウガがダメージを受ければ、サトシ本人もダメージを受けるんだ。バトルでゲッコウガが傷つけば傷つくほど、サトシ本人も傷ついていく」

「「えぇっ!?」」

 

今尚続いているバトルに目を向ける。みずしゅりけんを盾のようにし攻撃を防いだゲッコウガは、今度はそれを刀のように握り、振り抜く。ここで今まで気づかなかったことに彼らは気づいた。

 

ゲッコウガの動き、それと全く同じような動きをサトシもしていたのだ。バトルの時にトレーナーの体が動くこと自体は不思議ではない。バトルが盛り上がっている中、自然とそうなるものだからだ。しかしサトシのそれはゲッコウガとタイミングまで同じ。まるで、

 

「まるで、シンクロしてるみたいだな」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

タイプ相性的にかなり不利な相手とバトルしていながらも、ゲッコウガはほぼ互角の勝負をしていた。しかしやはり蓄積されたダメージは大きく、疲労が見える。それはゲッコウガだけではなく、サトシもだった。

 

「やっぱり強いな、カプ・コケコは」

「コウガ」

「これ以上長引くのは、キツイな。ん?」

 

左腕で汗を拭ったサトシ。その時に、ノーマルZが僅かに光っているのが見えた。見てみると、デンキZには反応がない。

 

「これは…試してみるか」

 

デンキZを外し、ノーマルZと付け替える。

 

 

「まさか、Z技を使うのか?」

「でも、さっきピカチュウと一緒に使ったばっかりなのに」

「大丈夫かな?」

 

Z技を使うにはトレーナー本人の体力も激しく消耗する。ましてや今のサトシはゲッコウガのダメージを共有し、疲労が尋常じゃないはずだ。そんな状態では、そもそも使えるのかどうかすら怪しい。

 

 

「ゲッコウガ、やってみようぜ。俺たちで出せる全力を!」

「コウガ!」

 

頷きあう二人。Zリングからの光が溢れ、ゲッコウガを包み込んでいく。それを見たカプ・コケコもまた体に膨大な量の電撃を纏い始める。

 

 

「来るか、サトシたちのZ技」

「ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

「は?」

 

ゲッコウガによるウルトラダッシュアタックが来るのかと予想していたカキはサトシの突然の指示に驚かされた。

 

ゲッコウガは背中に背負ったみずしゅりけんを手に持ち、そのまま走り出した。ほぼ同時にカプ・コケコも今までの比ではない電撃を込めたワイルドボルトを発動しゲッコウガを迎え撃つ。

 

「そのままみずしゅりけんにつばめがえしだ!」

「「えぇっ!?」」

 

またもや唐突な指示に声を上げるマオとマーマネ。スイレンも声こそあげなかったものの、開いた口が塞がらないでいる。みずしゅりけんを前で回転させ、それを握る右腕でつばめがえしを発動させた。誰もが驚くなか、ゲッコウガはみずしゅりけんの水をそのまま拳に纏わせることに成功した。螺旋状に回転しながら集約されるみずしゅりけん。Z技に加えて、さらに二つの技を重ねがけしたゲッコウガはスピードを上げた。

 

「名付けて、ウルトラアクアダッシュパンチ!」

 

ネーミングはともかく、ウルトラダッシュアタックの突進力に加え、最大の武器であるみずしゅりけん、そしてゲッコウガの身体能力から繰り出されるつばめがえし。それら三つを合わせたその技の威力は計り知れない。

 

ちょうどフィールドの中心にて、二体の技が衝突し、水と電気、二つが混ざり合い、まるでドームのように二体を包んだ。しばらく中の様子が周りから見えなかったが、突然ドームが弾け飛んだ。

 

疲れているのか肩で息をするカプ・コケコと片膝をついているゲッコウガ。立ち上がろうとしたところで、後ろのサトシも地面に膝をついた。張り詰めていた気が緩んでしまったのか、ゲッコウガの体がふらつく。ゲッコウガの変化が解け、元に戻る。ドサリと音がしたのはゲッコウガの方だけではなかった。倒れたゲッコウガの目は回っていて、その後方、フィールドのそばでサトシもまた気絶してしまっていた。

 

その様子を見届けたカプ・コケコ。しかし無事というわけではなく、体のあちこちに傷が見えた。激しいバトルを制したカプ・コケコは一鳴きしし、森の方へと飛んで行った。姿が消えて少しすると、森からきのみが飛んできて、ゲッコウガの隣に落ちた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ん、ここ、は?」

 

気がつくと、自分は仰向けで寝ていた。見上げた先に見えたのはバトルフィールドから見えるはずの空ではなく、自分の見慣れた天井。窓から僅かに差し込む光の色から、今は夕方頃だと予想できる。体を起こしてみると、思っていたよりも力が入らないことに驚く。

 

「あっ、目が覚めましたか?」

 

すぐ隣から声がする。自分が横になっていたソファの近くに屈み込むようにして、ピカチュウたちが顔を覗き込んでいた。その後ろにはリーリエたちが心配そうに見ている。

 

「みんな……ここって博士の家?どうしてここに?」

「サトシ、体大丈夫?」

「どこか痛んだりしてない?」

「あ、あぁ。そっか、あの時、カプ・コケコとのバトルで、俺……そうだ、ゲッコウガは!?」

「今、カキと博士とポケモンセンター。元気になったから帰るって言ってた。大丈夫」

「そっか、良かった」

 

ホッと息を吐くサトシ。自分のことよりもポケモンの心配をするあたり、サトシらしい。

 

「俺たち、負けちゃったんだなぁ」

「でもすごいバトルだったよ。あんなの見たことなかったし」

「僕ももっとサトシたちのデータを取りたくなっちゃったよ」

 

サトシを励まそうとしているのか、明るく応えるマオとマーマネ。スイレンもウンウンと頷いている。

 

「もうこんな時間だ、そろそろあたし帰らないと」

「わわっ、僕も」

「私も」

「もう大丈夫みたいですし、後はわたくしにお任せください」

「ありがとう、リーリエ。じゃあサトシ、また学校でね」

「バイバーイ」

「じゃあな!」

 

みんなが帰ってしばらくしてから、カキとククイ博士がゲッコウガとともに帰ってきた。再戦に燃えるサトシたちを見て、カキは気になっていたことを聞くことにした。

 

「なぁサトシ、ひとついいか?」

「ん、なんだ?」

「お前とゲッコウガのあの力、あれはなんだ?あのバトルの時、ゲッコウガのダメージがなぜかお前にも伝わっていた。どういうことだ?」

 

博士も真剣な表情でサトシを見ている。リーリエは心配そうにシロンを抱えた。サトシも特に隠す理由がないため、正直に話すことにした。

 

「あの現象、キズナ現象っていうらしいんだけど、その時俺とゲッコウガは一つになってるんだ」

「一つに?」

「俺とゲッコウガの心が一つになって、シンクロしてるんだ。心だけじゃなくて体の動きや、お互いの視界もだ。その反動か知らないけど、痛覚も共有してるみたいなんだ」

「メガ進化でもそんなケース聞いたことはないな。あれだけの力だ。何かリスクがあるかと思っていたが」

「そんな状態に加えてZ技を使うとは、無茶苦茶だな」

 

神妙な顔つきになったククイ博士に、呆れ顔のカキ。たははー、と笑っているものの、かなりの疲労がたまっているであろうことは容易に想像できた。

 

その後しばらくしてからカキは帰り、サトシたちも夕飯を食べ、次の日に備えて眠ることにした。しかしそれぞれ思うことがあり、目が冴えてしまい、なかなか寝付けずにいた。




その後の周りの反応とかについては、また別のエピソードで書きますね

ちゅーかちょっとやり過ぎたかな?
技に技の重ねがけ的なの


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たまにはこんなお休みも

こっちも復活だぜ!

まぁ、といってもまだ短い内容しか書き上がってないわけですが

待ってた人もそうでない人も、載せてきますよん!


カプ・コケコとの一戦から数日後、学校も休みで晴れたある日のこと。サトシたち六人は、メレメレ島のショッピングモールへ来ていた。初めて見る商品などに目を輝かせるサトシ。楽しそうなその姿を見て、カキたちは少し安心した。

 

カプ・コケコとのバトル以来、サトシは考え事をする時間が増えていた。ポケモンたちとのトレーニングでも、前よりも気合が入っており、イワンコたちアローラでの仲間たちはついていくのも大変そうな時もあった。

 

でも、

 

「このいろんな色のあるやつ、何だ?」

「それはポケマメですね。アローラ地方ではポケモンたちのお菓子の定番なのですよ」

「色毎に違う味があるから、ポケモンたちの好みに合わせたものをあげるといいんだ。あたしはこの花柄。アママイコが好きなんだよね〜」

「トゲデマルはこの黄色のだね。でんきタイプのポケモンが好む味付けだから、ピカチュウも気にいると思うよ」

「そうなのか?」

 

こうして楽しんでいる姿はいつものサトシらしく見える。自分たちが気にしすぎなのかもしれないが、やっぱり心配だったのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

暫く買い物をした後、サトシ、カキ、マーマネの三人は店の外で女子を待っていた。

 

「まだ買い物終わらないのかな?」

「まぁ、女子の買い物は長いってよく言うしな」

『統計によると、87%以上の女性はショッピングが好き、或いは嫌いじゃないらしいロト』

「そ、そんなに?」

 

呆れ顔のカキに疲れた顔のマーマネ。ロトムのデータを聞いて、なんだか更に疲れてしまったみたいだ。一方サトシはと言うと、

 

「まぁたまにはいいじゃないか。三人とも楽しそうだし」

 

女子のショッピングに付き合うことは、カロス地方では何度か経験したことでもあるため、特に気にしていなかった。それにいつもは自分が色々と連れ回している気がしなくもない。なら、偶には連れ回される側もいいか、なんてことも思っていた。

 

 

 

「お待たせ〜!」

 

更に待つこと数分、マオたちが店から出てきた。両手いっぱいに買い物袋を提げた三人は、とても満足そうな表情をしていた。

 

「やっと終わったか」

「それじゃあ、帰ろう」

 

帰り支度を始めるカキとマーマネ。そんな二人をマオの一言が止めた。

 

「え?まだ終わりじゃないけど?」

 

「「え?」」

 

「この後、みんなでアローラサンライズへ、ゴー!」

「アローラサンライズ、ってなんだ?」

「アローラサンライズは、ここメレメレ島で一番人気のアクセサリーショップなんです」

「自然の素材とか、いっぱい使ってるの」

「ハートのうろことか、浜辺に流れ着いたサニーゴの枝とか」

「大人の女性に向けた真珠を使ったものもありましたね」

 

何やら盛り上がる女子組。完全に置いてけぼりになっている男性陣だったが、サトシは本当に人気のある店なんだな~と感心していた。一方カキとマーマネはまだ買い物が続くのかと、やや疲れた顔をしていた。これもまた、今までの旅の経験の差なのだろうか……

 

「それじゃあ、行こっか」

 

「わ、悪いけど俺は帰るぞ。早くこのフーズを牧場に届けないといけないしな」

「あっ、ぼ、僕も庭の花に水をあげないといけないの忘れてたよ~。それじゃあね!」

 

話が終わったマオが三人に声をかけると、慌てた様子でカキとマーマネの二人はそれぞれ用事を口実に帰っていった。

 

「マーマネが、水やり?」

『サトシ、どうしたロト?』

「いや、なんだかマーマネが花に水を上げているところが、あんまし想像できなくて」

『確かに……って、ああ~!?』

「どうした、ロトム?」

『もうすぐアローラ探偵ラキの一挙放送が始まるロト!』

「お前確か録画予約してなかったか?」

『リアルタイムで見て、後から見直すのが真の通ロト!そういうわけで、先に帰ってるロト~!』

 

そう言い残し、ロトム図鑑も大急ぎで家に向かって飛んでいく。カキたちだけではなく、どうやらロトムも買い物に付き合うことに疲れてしまったようだ。まぁ、実際にアローラ探偵ラキが大好きなロトムのことからすると、口実でもないのかもしれないが。

 

「サトシはどうする?」

「えっ、俺?うーん、特訓でもしようかと思ってたけど、」

「サトシも一緒に行きましょう。たまにはこうした息抜きもいいと思いますよ」

「ピカチュウも一緒、ね?」

「ピィカ?」

「んー、まぁいっか。行ってみるか、ピカチュウ?」

「ピッカァ!」

 

スイレンとマオに腕を引かれながら、サトシは三人と一緒に買い物に行くことにした。トレーニングもしたいけど、確かに、息抜きも必要だと感じたのだ。そしてそのおかげで、彼はまた奇妙な出会いをすることになるとは、この時誰も思っていなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

大人気のアクセサリーショップだけあって、アローラサンライズには多くの女性客が来ていた。中には彼氏連れもいたわけなのだが、そんな客の中で、ある組が注目を浴びていた。

 

「じゃーん!前髪をあげて見たんだけど、サトシ、どう思う?」

「いいんじゃないか?普段のマオと雰囲気変わって、なんか新鮮だな」

「そ、そうかな?」

 

「アシマリはどんなのが好き?」

「アウ?」

「俺はこっちの星型もいいと思うな。アシマリの色とも合うし」

「ホントだ。どう、アシマリ?」

「アウッ!」

 

「これ、シロンに似合うと思うのですが、どうでしょう?」

「コォン?」

「確かにシロンの色に合いそうだなぁ。あっ、だったらリーリエにも合うんじゃないか?二人とも白っぽくて似てるし」

「そうでしょうか?せっかくですし、お揃いにしてみるのもいいですね」

 

 

ここだけ抜き取れば、三組のカップルがいるだけにも思える。実際は女子三人に男子一人という、両手に花どころかもう一つあるのだが。しかし、それだけではない。店内の視線が集中している理由は。

 

 

 

「ねぇ、二人とも」

「はい?」

「何?」

「なんか、さっきからいろんな人に見られているような」

「確かにそうですね。一体何が、」

「あ、」

 

視線を感じ取っていた三人はふと気づく。先程からの視線、ほぼ全てが女性客だけだということに。そして、正確には自分たちを見ているのではないということに。

 

 

「へぇ。これってハートのウロコを塗ってるのか?綺麗な模様だな。な、ピカチュウ?」

「ピッカァ!」

 

光を反射し、虹色にキラキラするハートのウロコを使った髪留めを手に取るサトシ。ピカチュウに向ける表情は、楽しげで、だけどどこか落ち着いてもいて。そんなサトシだったが、自分が見られていることは気づいていなかった。

 

 

「ねぇ、あれってサトシじゃない?」

「あぁ、この前島のラッタ問題を解決した子だよね?確か、感謝状も貰ってた」

「パンケーキレースでも活躍してたよね。初めてなのにピカチュウもすごかったよね〜」

 

「あれ、見て。Zリング着けてる!」

「じゃあ、ハラさんの試練もクリアしたってこと?凄いじゃない」

「そう言えば、この前弟が言ってたんだけど、カプ・コケコにバトルを挑まれてたんだって!」

「カプ・コケコって、守り神の?本当に?」

「うん。ククイ博士も見てたみたい」

 

「確か13歳って聞いたけど、そうは見えないね」

「うん。なんだか落ち着いてる」

「パンケーキレースの時は明るい子供って感じだったけど、今は大人っぽいね」

 

「ねぇ、声かけてみる?」

「え?」

「よく見たらイケメンだし、ポケモンにも優しそうだし」

「でも、女の子達と一緒だったでしょ?」

「三人ってことは付き合ってるわけじゃなさそうだし、いいんじゃない?」

 

 

ちらほらとサトシについての話し声が聞こえる。幸か不幸か、サトシの耳には入っていないみたいだが。

 

なんだか危機感を感じた三人が、サトシのそばでがっちりガードを固めたのは言うまでもない。

 




島に行ってもらう前に一区切り入れます、すんません。

ようやく撮り溜めしてた分を消費でき始めました。

こっから頑張ってこー


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宝島探検

思ったよりも話を進められない……

まぁ、リアルが忙しいのは未だ変わらず、ですからねぇ


店内を見て回り、三人が会計をすませるのを待つために、サトシはベランダへと出た。そこから海を見ると、緑いっぱいの島が見える。波の音、吹き抜ける風、大きく伸びをするサトシ。なんだか、久しぶりに張っていた気を緩めることができた気がした。

 

「ここ、いいところだなぁ」

「気に入った?」

「えっ?」

 

ポツリと漏れたサトシの呟きに対し、背後から声がかけられる。アローラサンライズの店長らしき女性がサトシの隣に並んだ。

 

「私もね、時々こうして海を眺めるのが好きなのよ。今日みたいに晴れた日は特にね」

「そうですね。俺も好きです」

「そう。君は付き添いできたのかしら?ガールフレンドが三人もいるなんて、モテモテね」

「あはは。そんなんじゃないですよ。ポケモンスクールのクラスメイトです」

「あら、そう?私はてっきり……っと、こういうのは本人同士のことだし、憶測で話すのもよくないか」

「えぇと……?」

「ううん、なんでもないわ。それより、あそこにある小さな島、見える?」

「はい」

 

先ほどの島を指差す女性。なんでもそこは宝島というらしく、自然の素材や野生のポケモンがたくさん見られるとか。

 

「へぇー、凄いですね。行ってみたいなぁ、宝島」

「だったら、うちのシーカヤック、貸してあげてもいいわよ」

「シーカヤック?」

「手漕ぎの小さな船よ。折角だから、使ってみたらどう?」

「ありがとうございます!」

 

話がついたところで、丁度会計が終わった三人がお店から出てきた。

 

「お待たせしました」

「ショッピング終了だよ」

「そうなのか?丁度いいタイミングだな」

「えっ、何何?どういうこと?」

「俺たち、これから宝島探検なんだ!」

 

「「「宝島探検?」」ですか?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

数分後、

 

先に帰るマオ達と別れたサトシは、早速シーカヤックを借り、宝島目指して漕ぎ出した。あたり一面を海に囲まれ、見上げると海と同じくらいに青い空。キャモメが飛び、サニーゴが泳ぎ、心地よい風が吹いていた。

 

「なんだか、久しぶりな気がするなぁ。こうしてゆっくりとするのも」

「ピィカチュ」

「うん。そうだよな。よし、今日は特訓はお休みだ。目一杯探検しようぜ、ピカチュウ」

「ピカピカチュウ!」

 

 

 

漕ぎ続けることしばし、サトシとピカチュウは無事に宝島の浜辺に着くことができた。そこでは野生のマケンカニがボクシングをしていたり、見たことのないポケモン、後にアブリーとロトムが説明、がピカチュウを花だと勘違いしくしゃみさせてしまったりと、着いて早々、ワクワクするサトシ。

 

アブリーに導かれるように島の奥へと進む。森を抜けると、そこは一面の花園だった。

 

アブリーやバタフリーなど、様々なポケモン達が花に集まっている。突然現れたサトシに驚くこともせず、ポケモン達が集まってきた。

 

「こんにちは、俺サトシ。こっちは相棒のピカチュウ。ちょっと島を探検しにきたんだ。短い時間だけど、よろしくな!」

「ピカチュ」

 

サトシがポケモン達に挨拶すると、その中の一体、キュワワーが花の飾りをサトシの首に巻く。それとともに、歓迎するかのように、ポケモン達がサトシに近づき、声を上げる。

 

「みんなありがとな。なんだか、パラダイスみたいだな」

「ピッカチュ」

 

穏やかな気持ちになるサトシとピカチュウ。と、森の中から大きな影がいくつも出てきた。長い首に6つの顔、アローラのナッシーの群れだ。何処へ向かっているのだろうか。気になったサトシは後をつけて見ることにした。森の中をさらに進んでいくと、少しひらけた場所が現れた。

 

「ここって、川?」

 

サトシ達は、海に繋がっているであろう川が流れている場所へとたどり着いたのだ。ナッシー達が水を飲んでいるのを見て、サトシも少し手に掬って、水を飲んでみる。しょっぱくない。ここの水は塩水ではなく、天然の湧き水のようだ。ピカチュウと一緒に喉を潤すサトシ。透き通るほど綺麗なその水は、いつも飲んでいるものと比べて、美味しいような気がした。

 

「へへっ、ピカチュウ。泳ごうぜ!」

「ピッカァ!」

 

勢いよく川に飛び込むサトシとピカチュウ。水を飲みにきたナッシー達ともいつの間にか仲良くなり、一緒に水合戦や首を使った滑り台、飛び込みなど、楽しく遊ぶことができた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ナッシー達に別れを告げ、浜辺に戻って来たサトシとピカチュウ。小腹がすいたため、おやつの時間にした。

 

「ピカチュウ、なんだかこうして二人だけっていうのも、久しぶりだな」

「ピカ」

「なんだかさ、この島に来て良かったって思うよ。自然の中で、ポケモン達と触れ合って、遊びまくってたらさ、すっごく気持ちよかった。俺、カプ・コケコとのバトルで焦ってたのかもな」

「ピカ?」

「俺、アローラ地方に来てよかったよ。自然とポケモンと、人間。その全てが支え合って、影響しあって。一緒に生きてるって感じがする。それに、ぬしポケモンや島キング、まだまだ強いトレーナーもいるんだろうなぁ。なぁ、ピカチュウ。俺、お前ともっともっと強くなりたい」

「ピッカァ!」

「だよな!でも、焦ってちゃダメだよな。一歩ずつ、少しずつでいい。お前やゲッコウガ、モクロー、イワンコ、ロコン。それに、カキ、マーマネ、マオ、スイレン、リーリエ。みんなと一緒に、成長していけばいいんだよな。だから、これからもよろしくな、ピカチュウ」

「ピッカチュ!」

 

 

拳を合わせるサトシとピカチュウ。もう随分前になるあの旅立ちの日、あれからどれだけ変わったかは、よくわからないけれど、それでも、自分たちは前に進んでいる。それを再確認することができた気がした。

 

 

 

「さてと、おやつの残りをって、ん?」

 

リュックの方へ再度目を向けたサトシ。その目に入ったのは、リュックの中を漁る初めて見るポケモンたちの姿だった。サトシが見ているのに気づくと、一目散に逃げ出してしまう。そのうちの一匹がサトシが持って来ていたマラサダの袋を加えていたが、途中で落としてしまう。逃げることを優先したのか、そのポケモンは拾おうとせず、そのまま逃げて行ってしまった。

 

「今のポケモン、一体なんて名前なんだろう。ひょっとして、お腹空いてたのか?」

「ピィカ?」

 

首をかしげる二人。群れで海を泳いでいくそのポケモンを見送り、サトシたちは再び島の探索を始めた。

 




ちょっと短めですみません

まぁ、続けますよ〜って意思表示も兼ねて


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新たな出会い、守り神

再投稿

場所間違えた、やっちゃった


「結構集まったし、そろそろ帰るか」

「ピカ」

「三人とも、喜んでくれるといいけど」

 

夕暮れ時、だんだん暗くなって来た頃になって、サトシたちは帰り支度を始めた。折角なので何かお土産を持って帰ろうと思ったサトシ。博士やカキ、マーマネが喜びそうなものは残念ながら見つからなかったが、ハートのウロコや、貝殻など、周りにはたくさんの綺麗なものが見つかった。マオたちが楽しそうにしているのを見て、持って帰ってあげようと考えたサトシは、ピカチュウとともに、素材を集めていたのだ。

 

「ん?何だ、この音?」

「ピィカ?」

 

浜辺を歩いていると、どこからか甲高い音が聞こえて来た。同時に、小さいながらも何かかが動いているような音もする。

 

「鳴き声?何処から?」

「ピィカ。ピカ!?ピカチュウ!」

 

サトシの方から飛び降りたピカチュウ。その後を追いかけると、岩の崖に小さな穴があるのが見えた。その中を覗くと、先ほどサトシのおやつを狙っていたのと同じポケモンが一体、中で動き回っていた。見たところ出入り口は上からしかないようだ。

 

「ひょっとして、出られないのか?待ってろ、すぐ助けるから」

 

言うが早いか崖に掴み掛かり登り始めるサトシ。本来ならばモクローの力を借りるところだが、今日は留守番しているため不在だ。自力で登るしかない。とはいえ、出っ張りも少なく、足場に出来る場所も少ないため、サトシも苦戦している。

 

「のわっ!?っ、く!」

 

足を滑らせたサトシ。落ちるのを止めようと手に力を入れて踏ん張る。少し滑り落ちたところで静止するサトシ。その手は擦りむけ、血が滲んでいる。

 

「痛ってて。よし、まだまだ」

 

手の怪我を気にせず登り続けるサトシ。しかし運悪く、右手と右足を掛けた出っ張りが崩れてしまった。

 

「へ、へ、うわぁぁっ!?」

 

崖から完全に体が離れ、落ちてしまうサトシ。襲撃を覚悟し、背中を丸める。と、ぽすん、という感じの衝撃で、サトシの落下が止まった。驚きながらも目を開くサトシ。その前に広がったのは緑色。そして耳に入った鳴き声。

 

「ナッシー」

「ナッシー?どうしてここに?」

「ピカピ!」

「ピカチュウ。そうか、お前が呼んでくれたんだな。ありがとう。ナッシーも、サンキューな」

 

長い首を持ち上げるようにするナッシー。その協力のおかげで、あっという間にサトシたちは崖の上に登ることができた。

 

「もう少しだけ待っててくれ。今からそっちに降りるから、少し隠れててくれ」

 

亀裂の壁に手と足を添え、ゆっくりと降りていくサトシ。何とか下まで辿り着く。怯えたように震えるポケモン。大きな岩のある穴に向かって進もうとするも、通れずにいる。

 

「ここから入って来たのか?この岩がその後に落ちて来たってことか。潰されなくてよかったよ」

 

岩をどかそうとするサトシ。しかしその大きさだけあって重い。全く動きそうになかった。不安げに鳴くポケモンを見て、サトシは安心させるように笑顔を向ける。

 

「心配するな。絶対にここから出してやるから。ちょっと離れてろ。ピカチュウ、アイアンテール!」

 

跳び上がり尻尾で岩を叩くピカチュウ。鋼のように硬度を高められた尻尾の一撃は、容易く巨大な岩を粉砕した。その先には穴が開き、夕焼け色に染まる海が見える。

 

「ナイスだ、ピカチュウ!さっ、出られるぞ」

 

サトシの足にひっつくようにして隠れていたポケモンは、サトシの声に正面を向き、すぐに外へと飛び出した。後ろに続くようにサトシたちも海へと出た。

 

「これでちゃんと帰れるぞ。次からは気をつけるんだぞ。ん、あれは……」

 

水面に現れたいくつかの影。どうやら仲間が迎えに来てくれたようだ。

 

「ほら、仲間も待っててくれてる。良かったな」

 

一目散に仲間の元へと駆け寄る(途中から泳いでいたが)ポケモン。チラリとサトシの方を振り返り、仲間たちと水中へと潜っていった。

 

「良かった、ちゃんと仲間たちと合流できて。ん?」

 

首をかしげるサトシ。先ほど潜って行ったはずのポケモンが浜辺まで戻って来たのだ。急いでサトシの足元まで来るポケモン。屈みこんで、サトシはできるだけ目線を合わせた。

 

「どうした?」

 

ポケモンが口に何かを咥えていた。サトシの掌の上に乗せられるそれは、夕日を受けて、淡いピンク色の輝きを放っていた。

 

「大きな真珠だ!これを、俺に?」

「キュイ、キュー」

「ありがとな。元気でいろよ」

「キュー」

 

別れの挨拶を済ませ、サトシとポケモンは別れた。海へと戻っていくその姿を眺めながら、穏やかな気持ちになるサトシ。そのまま水平線に陽が沈むのを、ずっと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、空を何かが飛んでいるのが見えた。

 

 

輝く軌跡を残しながら、華麗に舞うポケモン。ピンク色の身体をしているが、どこかカプ・コケコに似ていると感じた。

 

「ポケモン?うわっ!?」

 

飛ぶ姿を眺めていると、ポケモンはサトシの目の前まで降りて来た。首をかしげ、サトシを見つめる。その後、サトシの周囲を回りながら、サトシのことを観察しているようだった。

 

「な、なんだ?」

「テテ?」

 

ポケモンの目がサトシの手に止まる。ポケモンを助けるためにボロボロになった手。数度瞬きをすると、そのポケモンはサトシの両手を取った。

 

「へ?あっ、傷が……」

「ピィカァ?」

 

真意がわからず不思議そうな顔をしたサトシだったが、その顔が驚きに変わる。みるみるうちに、サトシの両手の傷が癒えていく。そして完全に治ったところで、ポケモンは手を離し、そのまま何処かへ飛んで行ってしまった。

 

「あっ、サンキューな!」

 

驚きから立ち直り、大きな声でお礼を叫ぶサトシ。ポケモンはサトシをもう一度一瞥すると、そのまま止まらずに飛んで行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そいつはきっと、カプ・テテフだな」

「カプ・テテフ?」

 

その後、無事に家に帰ったサトシたち。博士の家で夕飯を待っている間に、サトシは宝島でのことを話した。最後のポケモンについて話し終わったところで、ククイ博士がそのポケモンの名前を言った。

 

「カプってことは、カプ・コケコの仲間?」

『そうロト。アーカラ島の守り神ポケモンで、なかなか見られるポケモンじゃないロト』

「私も本で読んだことがあります。確か、鱗粉を振りまき、傷を癒す力を持っているとか」

「それと、助けてやったのはコソクムシだな。自然の掃除屋とも言われ、臆病な性格だな」

「そうなのか。あいつも元気でやってるかな?それに、また会いたいよな、カプ・テテフ。な、ピカチュウ?」

「ピッカァ!」

 

 

新しい出会いに胸を膨らませるサトシ。そして新しい守り神ポケモンのカプ・テテフ。また出会えるだろうか。まだまだたくさんの不思議やポケモンが待ってるアローラ地方。サトシたちの冒険はまだまだ続く。




次回ニャビー回、お楽しみに

グラジオでるのが楽しみだわぁ


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ニャビー、旅立ちの日

サブタイは割とまんまですね

というか、ポケモン全シリーズ通して稀に見るシリアス回でしたね

これは逆にアローラサトシの作画で良かったとか思ってしまった私がいますね
XYサトシだと、なんかシリアス過ぎてマジ泣きしそうなんで……


ポケモンスクールから帰る途中のサトシとリーリエ。ククイ博士から買い出しを頼まれていたため、市場によって帰るところだった。

 

『サトシ、荷物がいっぱいロト』

「あの、わたくしもお手伝いしますよ」

「ありがとうロトム、リーリエ。でも、これ結構重いし」

「ですが、」

「大丈夫、っておっと」

 

手に持っていた紙袋からドーナッツが一つ転がり落ちる。少し転がったドーナッツは、誰かの足に当たり止まった。屈んでそれを拾い上げてくれたのは、ニャビーによくきのみを分け与えていたおばあさんだった。

 

「あらあら、久しぶりね」

「こんにちは」

「二人はおつかい?」

「ええ。博士は今日、スクールで少し忙しいらしいので」

「そうかい。あ、これ」

「ありがとうございます、ひゃっ!?」

 

差し出されたドーナッツをリーリエが受け取ろうとすると、その前を一つの影が横切り、ドーナッツを取って行った。黒と赤の体に、黄色の瞳。

 

「ニャビー!」

「ピィカチュ!」

 

フンス、と鼻を鳴らしサトシを見ていたのは、ニャビーだった。初めて会った時は尻尾をサトシが踏んでしまい、ひのこを浴びせられたこのニャビー。ムーランドと一緒に生活し、前回会った時にはモクローとアシマリを助けてくれたこともある。

 

「久しぶりだな、ニャビー。元気にしてたか?って、ちょっと!」

 

サトシの質問に答える様子もなく、ドーナッツを咥えたニャビーは一目散に走っていく。慌てて追いかけるサトシたち。市場を抜け、住宅を通り過ぎ、大きな川と橋のある場所で、サトシたちはニャビーを見失った。

 

「あれ?どこ行ったんだ?」

「サトシ、あちらの橋に!」

「えっ?」

 

自分たちがいたのとは隣の橋、その下にニャビーはいた。駆け込んで来たニャビーを向かえるように、大きなポケモンが顔を覗かせる。

 

『ムーランドもいるロト!』

「ここに引っ越していたのか……」

 

ドーナッツを食べ終えたムーランドの前で、ニャビーが体に力を込めている。それを見ていたムーランドが一声鳴き、自身もまた力をためた。ムーランドの体が赤く光りだす。

 

「あの技は……」

『ほのおのキバロト!』

 

丸太めがけて繰り出された技が決まり、大きな爆発で丸太が割れる。やってみろ、と言わんばかりにニャビーの方を見るムーランド。同じ様にニャビーが力を溜める。固いきのみに向けて技を繰り出すが、まだ不完全なのか、逆にニャビーが痛そうにしている。

 

折角だからと思ったサトシ。ムーランドに挨拶すべく、階段を駆け下り、近づいた。

 

「こんにちは、ムーランド。久しぶりだな」

「ワウッ」

 

ムーランドの方もサトシのことをよく覚えていてくれた様で、特に警戒する様子もない。ニャビーによってひのこをまた浴びることとなったサトシだったが、久しぶりの再会を楽しんだ。ただ、気がかりなことが一つ。ムーランドが以前会った時と比べ、咳を多くするようになっていたことだ。少しばかりの不安が、サトシの頭をよぎった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、ポケモンスクールからの帰り道。サトシとリーリエはニャビーとムーランドのためにきのみを買って帰ろうとしていた。

 

突然飛んできた攻撃をなんとかかわすピカチュウ。前口上も省略し、高らかに笑い声を上げているのは、毎度お馴染みの悪者チーム。

 

「「「ロケット団、参上!」」だニャ!」

 

ビシッとポーズを決めるロケット団。その真上から、炎の塊が降ってきて、全員まとめて黒焦げにされてしまう。あんまりな出オチ感にサトシたちがあっけにとられていると、サトシの足元に何かがしがみついた。

 

「ニャビー?」

「ニャ!ニャニャ!ニャブ!」

 

いつもの飄々とした感じはどこにもなく、とても焦っているようなニャビー。あのニャビーがこんなに取り乱すなんて……

 

「まさか、ムーランドに何かあったのか!?」

「サトシ、早く行きましょう!」

「あぁ!行こう、ニャビー!」

 

大急ぎで駆け出したニャビーを追って、サトシたちは昨日知ったニャビー達の住処へ向かった。辿り着いた先でサトシ達が見たのは、倒れてしまっているムーランドだった。

 

「ムーランド!大丈夫か?しっかりしろ」

 

駆け寄り様子を確かめるサトシ。意識はなく、呼吸もなんだか苦しそうだ。

 

『具合が悪そうロト!』

「サトシ、確か近くにポケモンセンターがあるはずです。そこへムーランドを連れて行きましょう!」

「わかった。ニャビーも来るか?」

「ニャブ!」

「よしっ。リーリエは俺のカバンを、って、まずはモクローをボールに戻してっと。リーリエ、カバンを頼む」

「はい!」

 

屈み込み、ムーランドを背に乗せるサトシ。立ち上がった時に彼は驚いた。軽かったのだ。その立派な体格にしてはあまりにも、あまりにも。なんとかムーランドを背負うことが出来たサトシは、リーリエに案内され、ポケモンセンターへと向かった。

 

 

その後ろで、近くにあった木の葉の一つが、ひらり、ひらりと落ちていき、川の流れに乗って、彼らと反対の方向へと流れて行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

規則的な音で、ムーランドの心音が表示される。ポケモンセンターの治療室では、ジョーイさん達がムーランドの様子を診ている。その様子をじっと見つめるサトシ。腕の中ではニャビーが、ムーランドの元へ行こうとしながら、声をあげる。

 

「サトシ……ムーランドは、大丈夫でしょうか?」

「……」

 

リーリエの疑問に、サトシははっきりと答えることが出来なかった。病気とか、怪我とかなら問題ない。ジョーイさん達にかかれば、まず間違いなく治ると信じている。ただ……

 

 

 

治療中のランプが消え、中からジョーイさんが出て来る。ニャビーはドアが開いたその瞬間に、ムーランドの元へと駆け寄った。意識を取り戻したムーランドが前足を伸ばす。ニャビーはその足を舐め、安心させようとしている。

 

 

「あの、ジョーイさん。ムーランドは……」

「……」

「サトシ君は、もう気づいているみたいね。ムーランドは、怪我をしているとか、重い病気を患っているとかじゃないの。ムーランドはね……」

 

 

続く言葉にピカチュウとロトムは驚き、リーリエは口元に手を添え、サトシは静かに俯くだけだった。しかしその手は、強く握りしめられている。

 

 

声こそ聞こえなかったものの、その様子を見て、ニャビーもまた、何かに気づいたようだった。

 

 

「ニャビーは、このことを知っているのでしょうか?」

「感じ取ってはいると思うわ」

「大丈夫でしょうか……」

 

「俺、博士に連絡して来る。今は、ニャビー達の側にいてやりたい」

「わたくしも残ります」

「そうね。野生であるはずのニャビーが頼ってきたということは、信頼されている証拠だもの。私からも、お願いするわ」

「「はい!」」

 

博士への連絡を終えた二人は、きのみを買って来ることにした。ムーランドとニャビーが少しでも元気になることを願いながら。ところが、彼らが戻って来ると、二体の姿は、既にどこにもなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

病院から姿を消したニャビーとムーランドを探すために、サトシとリーリエは飛び出した。

 

「今のムーランドでは、そう遠くまではいけないはずです。でも、どこに?」

「きっと、あの場所に帰ったんだ。急ごう!」

 

走り出した彼らの前に、一つの影が現れた。月の光を受けて、額の小判がキラリと光る。

 

「お前、ニャース!?」

「こんな時にまで邪魔を?」

 

身構えるピカチュウ。あたりを警戒するサトシとリーリエ。しかし攻撃が来る様子はない。

 

「おミャーらに話しておきたい事があるニャ」

 

真剣そうな表情で話しかけて来るニャース。ロケット団は基本的には敵だが、こういう真剣な時には必ず何か意味がある。伊達に旅の始まりから顔をつき合わせていない。敵対もし、協力もした。不思議なことに、サトシとロケット団の間には、彼らなりの信頼関係もできているのだ。

 

今までの付き合いからそう判断したサトシとピカチュウは警戒を解き、ニャースと向かい合った。

 

「ニャビーは、とっても頑張ってる奴ニャ。前にも、強くなって大切な奴を守りたいと言ってたニャ。ニャーはそんなニャビーの姿に、感動したニャ。だから、おミャーらには、あいつのことを見守ってて欲しいのニャ!」

「ニャース……」

「それだけ言いたかったニャ!」

 

そう言って走っていくニャース。同じネコ型ポケモン同士、思うところがあったのかもしれない。ニャースの言葉を受け止め、サトシはポツリと呟いた。

 

「ありがとう、ニャース」

 

「サトシ?今何か言いました?」

「いや、なんでもないよ。行こう!」

 

 

橋を目指して走り続けたサトシ達。案の定、そこにはニャビーとムーランドがいた。どうやら、ニャビーのほのおのキバを完成させるために、特訓を続けるつもりらしい。

 

「サトシ、どうします?」

「……病気や怪我はしていないなら、ポケモンセンターにいなくちゃいけない理由はないのかもな。きっと、ここの方がニャビー達は落ち着くんだろう」

「そうですね……ムーランドにとっては家みたいなものですものね」

「今は、そっとしておいてあげた方が、いいのかもしれないな……」

 

二体の様子を見ながら、サトシは悩んでいた。きっと時間はあまり残っていない。明日にでもその時が来るかもしれない。自分が側にいてやるべきなのだろうか。それとも、こうして一緒の時間を過ごせるように、そっとしておくのが正解なのだろうか。

 

パチリと、ムーランドとサトシの目があった。ムーランドはただじっとサトシを見つめ、小さく頷いた。その意図をなんとなく理解したサトシも頷き返した。

 

「行こう、リーリエ」

「サトシ?」

「今は、ムーランドの番だから」

「ムーランドの、番ですか?」

「ああ。だから、今日は帰ろう」

 

疑問符を頭に浮かべたものの、サトシの落ち着いた雰囲気やしゃべり方から、深い理由があることだけはわかる。ロトムもリーリエも特に反対することなく、サトシの後に続いた。

 

残る木の葉は後二つ。うち一つがその日の真夜中に散り、翌朝ニャビーが目を覚ますと、ムーランドの姿はどこにもなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その日、天気は雨だった。傘を差し、サトシ達6人とククイ博士はスクールが終わった後すぐに、ニャビー達のいる場所へと向かった。サトシ達の話を聞き、マオ達も何かしてあげたい、そう思ったからだった。

 

「……っ!」

「サトシ?」

「どうしたの?」

「聞こえたんだ……ニャビーの声が」

「えっ?」

 

慌てて耳を澄ますリーリエ達。降りしきる雨の音以外に、確かにニャビーの鳴き声が聞こえる。いや、違う。これは泣き声だ。甘えてるわけでも、特訓しているわけでも、焦っているわけでもない。この声は間違いなく、泣いていた。

 

川の近くにたどり着き、階段を降りたサトシ達。その目に入ったのは、崩れてしまったソファに、葉が全て落ちた木。ムーランドの姿はなく、ニャビーは雨に打たれるがままに、天に向けて声をあげていた。

 

『ムーランドはどこロト?』

「……聞くな」

「そんな……」

 

泣きそうな顔のマオとマーマネ。腕の中にいるアシマリをぎゅっと抱きしめるスイレン。口元を両手で抑えるリーリエ。黙って目を伏せるカキと博士。ニャビーの悲しそうな姿に、彼らも胸が締め付けられる。

 

一人だけ視線をそらさずに、ニャビーを見つめ続けているサトシ。帽子でその表情は読みにくいが、傘を握るその手は、痛々しいほどにまで強く握りしめられていた。

 

 

 

その日、一晩中、ニャビーの慟哭は続いた。あまりにも遅くなりだし、サトシ達が帰ってなお、泣き続けた。その心を写すかのように、それから降る雨も、止む気配がなかった。

 

次の日も、その次の日も、雨が降り続いた。泣き疲れたのか、ニャビーは唯一飛ばされなかった葉のそばで丸くなり、ずっとそこから動かずにいた。サトシが声をかけようと、ニャースが声をかけようと決して動こうとしなかった。

 

 

 

あれからもう数日、雨は一度も止むことなく降り続き、ニャビーもまた、動こうとしなかった。サトシが持って来たきのみも、全然食べようとしない。最低限の栄養はとっているようだが、目に見えて調子が悪そうだ。

 

それを見たサトシは、大量のきのみを持って、ニャビーのもとを訪れこう言った。

 

「お前がしっかり食べるまで、ここから動かないぜ」

 

ポケモンのこととなると有言実行なサトシ。自分だってお腹が空いているだろうに、ニャビーが食べるまで食べないと言い切り、ニャビーのそばに腰掛け、語りかけた。

 

「俺さ、前にも一度だけ、あるポケモンとの別れを経験したんだ……そいつは兄妹のお兄さんだった。最後まで、自分の役目を果たして、妹に後を託した。ほんの短い間の付き合いだったけど、あいつは凄くカッコよかった……」

 

静かに聞いているニャビー。目を閉じ、眠っているようにも見えるが、その耳はしっかりとサトシの言葉を聞いている。既に眠っているモクローとロコン以外の彼の手持ちも、しっかりと聞き耳を立てている。

 

サトシが語るのはとある水の都での物語。彼にとって、忘れることのできないだろう、たった一度の永遠の別れ。

 

「今、妹の方はそのお兄さんが守った場所にいる。そこで、生きている。ある日突然お兄さんとずっと離れ離れにならないといけなくなって……それでも、あいつは生きてるよ。お兄さんが残してくれた、あの水の都で。いつかまた、会いに行きたいと思ってるんだ。あの二体に……」

 

懐かしむように目を細めるサトシ。視線は雲で覆われた空に向けられているものの、その瞳が見つめているのはその先、ずっとずっと遠くにある、あの美しい街。

 

自分も見てみたい……

 

なんて気持ちが、ニャビーの中に芽生えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

朝、久しぶりに光が差し込んだ。爽やかな風が吹き、ニャビーの側にあった葉が空へと舞い上がった。急いで追いかけたニャビーは、空を見上げ、立ち止まる。

 

暖かいは光が差し込む中、空には綺麗な虹がかかっている。そのすぐ側には大きな雲。その雲の形は、まるでムーランドのようだった。

 

また風が吹き、葉がより高く舞い上がる。ムーランドの雲と重なったように見えた瞬間、雲が形を変えた。小さく頷き、顔を背けるムーランドが、まるで虹の向こうへ駆けていくかのように見えるその光景は、ロトムが思わず写真を撮り忘れるほどに、起きて来たサトシが思わず涙を流しかけるほどに、神秘的なものに見えた。

 

「じゃあな……ムーランド」

「ニャー」

 

雲の形が変わり、ムーランドは消えた。それを見届けたニャビーは、何日振りかの笑顔を見せていた。

 

 

 

「なぁニャビー、俺たちとこないか?」

「ニャ?」

「俺の仲間になって、一緒にほのおのキバ、完成させようぜ!」

「ピッカァ!」

「クロ」

「アンアン!」

「コォン!」

「コウッ」

 

サトシの仲間たちも歓迎するように声を上げる。それに対しニャビーは……

 

「あっち!」

 

サトシの顔めがけてひのこをぶつけることで答えた。同情で誘っているのであれば、迷惑千万。バトルして、自分が認められる相手であることを示してみろ。その意思が感じ取れた。

 

「よーし、行こうぜ、ピカチュウ!」

「ピィカ!」

「ニャー、ッブ!」

「10まんボルト!」

 

放たれたひのこを10まんボルトで相殺するピカチュウ。爆発が生じる中、でんこうせっかで距離を詰める。もう少しで当たる、そう思ったところで、ニャビーは身体を捻り、攻撃をかわした。

 

「何っ!?」

 

追撃のひのこをなんとかかわしたピカチュウ。空中へと跳び上がり、逃げ場をなくしたピカチュウに迫る鋭い爪。ニャビーはひっかく攻撃で攻めようとした。

 

「ピカチュウ、こっちもかわせ!」

 

サトシの指示に、空中という不安定な体制から、身体を回るようにし、ピカチュウは攻撃をかわした。さっき自分がしたことをそっくりそのまま、いやそれ以上の精度で返されたことに、ニャビーは驚いた。

 

「アイアンテール!」

「ピカ!チュー、ピッカァ!」

「フー!ニャッブ!」

 

尻尾の一撃に対し、ニャビーは身体に力を溜め込み、ほのおのキバで対抗した。かつてないほど力強く繰り出されたその技はピカチュウのアイアンテールとぶつかり合い、両者を大きく後退させた。

 

「今のほのおのキバ、成功だったな、ニャビー。お前、いきなり本番で出すなんて、すごい奴だな」

「ピカチュ」

「ニャブ」

 

対峙したまま笑顔を浮かべる両者。サトシがからのボールを一つ取り出す。

 

「行こうぜ、俺たちと!」

「ニャブ!」

「行っけぇ、モンスターボール!」

 

高く投げあげられたそのボールへと、ニャビーは自ら跳び上がり、スイッチを押して中に入った。三度揺れて、音がなる。ボールを手に取り、嬉しそうな笑顔になるサトシ。

 

「ニャビー、ゲットだぜ!」

「ピッピカチュ!」

 

 

 

その様子をずっと見ていた影が一つ。ニャースだ。涙をぬぐい笑顔になるニャース。

 

「これで良かったニャ。やっぱり、ジャリボーイに任せて正解だったニャ。でも、これからは敵同士、ニャーとおミャーはライバルニャ!負けないのニャ!」

 

そう言って、さっさと帰って行くニャース。しかしその足取りは軽く、スキップでもしそうなほどだった。

 

 

こうして、ニャビーをゲットしたサトシ。ムーランドとの別れを乗り越え、ニャビーはサトシ達と生きていくと決めた。新しい仲間、家族とともに。

 

その後技の完成に向けて特訓している時に、後にシロデスナ事件と呼ばれる出来事に巻き込まれたサトシとニャビー。二人が絆で結ばれ、ほのおのキバが完全なものになるのだが、それはまた別の話。

 




次回は取り敢えず、授業参観エピソードにしようかと思います

いや、なんだか、話数たまり過ぎたので全部は無理だな〜ってなってるので


あと、グラジオ早く書きたい!
↑これが本音(●´ω`●)


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授業参観は大変だ

二話くらい飛ばしましたけど、一応それはここに書いていないけどなんか似たことを経験したんだな、とでも思っておいてください

というわけで、授業参観、始めるよー


さてさて、ニャビーを加え、フルメンバーになったサトシ。しかし今は特訓はお休み中。様々な本やノートを前に、何やら考え込んでいるご様子。

 

「どうだ、サトシ?進んでるか?」

「丁度いい時間なので、おやつにしませんか?」

「博士、リーリエ。うん」

 

鉛筆を置き、リビングに移動するサトシ。お菓子を食べながらため息をつく。

 

「はぁ〜、これは大変だなぁ」

「だいぶん苦戦しているみたいですね」

「まぁ、こういうのは昔から苦手だったからなぁ。それこそ、リーリエとかマーマネの方が詳しいと思うんだけど……」

『アローラ地方のポケモンの姿については、かなり多くの研究がされているロト。その情報も持っておいた方がいいロト』

「あぁ〜また読むものが増えるのかぁ」

 

実はサトシ、次のオープンスクール、早い話が授業参観でクラスを代表して発表を行うことになっている。が、もともと知識よりも経験で学ぶタイプな彼は、データを集め、分析し、まとめるという作業に苦戦しているようだ。

 

「大役だが、こういうこともポケモンについて学ぶのには重要だからな。なんとかやってみるといいさ」

「はい。何事もチャレンジですよ、サトシ!」

「まぁ、そうなんだよなぁ。それに、あいつのしてること、少しは理解できるかもしれないしな……」

「あいつ……ですか?」

「俺の幼馴染。同じ日に旅に出た、最初のライバルなんだけど、今は研究者の道を進んでるんだ。実際、助手っぽいこともしてたし」

「へぇ、つまり俺の後輩分ってことか」

『サトシと同い年だとしたら、かなり優秀な頭脳の持ち主ということになるロト』

「あぁ。あいつはすごい奴なんだ」

 

バトルの実力とポケモンの知識。その両方を兼ね備えた、幼馴染。親友で、理解者で、幼馴染で、最高のライバル。お互いに今は違う道を進んでいるけど、彼が普段どんなことをしているのか、詳しく考えたことはなかった。きっと今自分がしていることよりも、何倍も難しいことを調べているのだろう。そう考えると、もっと頑張らなければ、そう思える。

 

「よしっ、続き続き、っと。あっ、そういえば、オープンスクールってどんな人が来るんですか?」

「生徒の保護者とか、町の人とか。誰でも自由参加だ。アローラとカントーの違いからポケモンを見る。サトシにしかできないテーマだから、多くの人が来るかもしれないな」

「そんなにかぁ〜。こりゃ本当に大変だ。でも、俺なりのやり方でやって見るか」

「そのいきだぜ、サトシ……っと、お客さんだな」

「俺、出ますよ」

 

家のチャイムが鳴らされ、来訪者を告げた。ドアを開け、相手の姿を確認したサトシ。次の瞬間、驚きの声が上がった。

 

「ハーイ、サトシ。元気にしてた?」

「バリ!」

「ま、ママ!?それにバリヤードまで」

 

カントーにいるはずのサトシのママ、ハナコが、バリヤードを連れて、そこに立っていたのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「初めまして、サトシの母です。いつもサトシがお世話になっています」

「いや、こちらこそ。サトシがいてくれて、毎日が楽しいですよ」

「初めまして。わたくし、リーリエと言います。サトシには色々と教えてもらうこと、見習うべきところも多く、とても充実しています」

「あら、ありがとう。リーリエちゃんね?きっとサトシも、リーリエちゃんから学んでいることもあると思うわ。これからも仲良くしてあげてね」

「はい!」

 

突然の訪問者に驚きこそしたものの、ハナコ自身のフレンドリーなオーラのおかげか、ククイ博士はもちろん、リーリエも特に緊張する様子もなく打ち解けていた。

 

「それで、ママはどうしてこっちに?」

「それがね、オーキド校長から、サトシの晴れ舞台を見に来ませんかって誘われてね」

「へ?」

「ということは、今度のオープンスクールに?」

「そうよ」

 

いきなりの発言に驚くサトシ。これは一気にプレッシャーが重くなってしまった……

 

 

「そういえば、サトシ。こっちに来てから仲間は増えたの?ゲッコウガも一緒なんでしょ?」

「あぁ、紹介するよ。イワンコ、モクロー、ロコン、そしてニャビーだ。ロコンは一緒にカントーから来たタマゴから孵ったんだ。それから、ゲッコウガは浜辺で修行中」

「そうなの。みんな、よろしくね」

 

サトシと近いものを感じたのか、足元にすり寄ってくるイワンコとロコン。モクローは相変わらず寝ており、ニャビーはソファの上から視線だけを向ける。そのまま昼寝に戻ろうとするニャビーだったが、ハナコがその身体を抱き上げた。

 

「あら、ニャビちゃん、いい毛並みしてるのね。暖かくてふわふわしてて……いいわね」

「ニャ、ニャ〜」

『こんなだらしのない表情のニャビーは、初めてロト』

 

ハナコの腕の中にいるニャビーは、いつものクールな印象はどこへ行ってしまったのやら、とろ〜んとした表情で、されるがままになっている。

 

「凄いですね」

「あー、まぁ、ママはいつもあんな感じだから」

 

サトシがやたらとポケモンの扱いが上手い理由の一端を、垣間見た気がしたリーリエだった。

 

「あら?こっちの子もロコン?白い体なんて、珍しいわね」

「コォン?」

「シロンと言います。わたくしのパートナーなんです」

「アローラ地方のロコンはこおりタイプ。環境の違いに対応して、こうなったんだって。因みに、俺のロコンとほとんど一緒に生まれたから、姉弟みたいな感じかな?」

「そうなの?よろしくね、シロンちゃん」

「コォン!」

「あっ、そうだ!リーリエ、シロンのことなんだけど、」

「はい?……はい……なるほど。いいと思います!」

 

ニャビーに続いてシロンまでも。初対面でサトシに技を浴びせた二体をこうもあっさり骨抜きにするあたり、流石はサトシの母である。

 

その夜、ハナコの手料理に舌鼓を打つ博士とリーリエ。マサラタウンでも評判のハナコの腕に、リーリエが、そして後にマオとスイレンが刺激されることとなるのだが、それはまたいずれ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、オープンスクール当日。

サトシ、リーリエ、ハナコ、バリヤードに博士はポケモンスクールへとやって来た。ニャビーはまたしてもハナコの腕の中に抱えられている。

 

ポケモンスクールは鮮やかに飾られていた。生徒たちの手作りアーチをくぐると、中には様々なポケモンの模型が並んでいる。中でも注目を集めているのが、等身大のアローラナッシーだ。

 

「あら、立派」

「小さい子達と一緒に作ったんだ」

「一つ一つの顔が、違う表情をしているのがポイントです!もちろん、尻尾にもちゃんと顔があります」

「凄いわね〜」

 

既に大勢の人たちが見学に来ている。中にはいくつか知っている顔も。

 

「アローラ!サトシくん、ピカチュウ」

「ノアさん、アローラ!」

「パンケーキレース以来ね。聞いたわよ。今日発表するんだって?楽しみにしてるわね」

「はい!ノアさん、俺のママです。この人はノアさん。ポケモンパンケーキレースっていう大会に出場した時に特訓してくれた、去年の優勝者なんだ」

「初めまして、ノアです」

「初めまして、サトシの母です」

 

 

「あら、サトシくん?」

「あっ、アローラサンライズの店長さん。どうしてここに?」

「前に君がスクールの生徒だって言ってたのを思い出してね、せっかくだから見に来てみようかと思って」

「そうなんですか」

 

 

「サトシくん、お久しぶり。元気にしてた?」

「グース!」

「ジュンサーさん!デカグースも、アローラ。二人はどうしてここに?」

「巡回の途中よ。残念ながらすぐに行かないといけないんだけど、挨拶だけでもって思ってたから、会えてよかったわ」

 

 

「アローラ。あら、ニャビーちゃん!」

「アローラ!」

「まぁまぁ、そう。ニャビーちゃんのトレーナーになったのね?」

「はい!」

「この子、本当にいい子ですね〜」

「そうなんですよ。良かったわね、ニャビーちゃん」

 

 

「お嬢様、サトシ様。アローラ、でございます」

「ジェイムズ、来ていたのですか?」

「はい。屋敷のものを代表し、私がお嬢様の学校での様子を見に来ました」

「お久しぶりです、ジェイムズさん」

「お久しぶりでございます。いつもお嬢様がお世話になっております」

「いえ。俺もリーリエにはたくさん助けてもらってます。ジェイムズさん、紹介します。俺のママです」

「初めまして」

 

 

いろんな人から声をかけられるサトシ。まるでもう長いことここに住んでいるかのようにも見えるその光景に、ハナコは安心した。昔のようにポケモンばかりと仲良くなって、周りの人とうまく付き合えないなんてことはないかと、少し心配していたのだ。

 

「そろそろ教室に行きましょう」

「そうだな。行こう、ママ」

「ええ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

教室に着くサトシとリーリエ。既に他のメンバーは集まっているようだ。教室の後方には見学に来た人たちが並んでいる。

 

「あれってサトシのママ、だよね?ひょっとしてカントーから?」

「アローラサンライズの店長さんもいる」

「あれってパンケーキレースのノアさんだよね?どうしてここに?」

 

「こんなにたくさんの人の前で発表することになるわけだが……サトシ、大丈夫なのか?」

「あはは。まぁ、緊張はするけど、なんとかなるさ。そういえば、みんなの家族は?」

「あたしのところは、お店があるから来てないよ」

「俺の所もだ。牧場を離れるわけにはいかないんだと」

「僕のパパもママは来てるよ」

「うちはお母さんと……妹たちが」

 

なぜか少しどんより顔のスイレン。スイレンが言い終わるか終わらないかの時に、サトシの両側面から衝撃が与えられる。

 

「サトシだ!」

「サトシだ!」

「「遊ぼ、遊ぼっ!」」

 

ご存知、スイレンの妹たち、ホウとスイだ。なんだかとてもテンションが高い。ポケモンスクールに来れたのが嬉しいのだろうか。

 

「ポケモンスクール、スクール、スクール!」

「ポケモンいっぱい、いっぱい、いっぱい!」

「「私たちもポケモンスクール入る!」」

「はいはい、もう少し大きくなってからね」

 

はしゃぎ回る二人を小脇に抱え、優しそうに宥める女性。間違いなくスイレンの母親だろう。

 

「なんだか、思ってたよりも人が多いな」

「サトシ、頑張ってください」

「ファイト!」

「あぁ。頑張ってみるよ」

 

授業開始のチャイムが鳴り、ククイ博士が教室に入ってくる。いよいよ発表の時間になった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それじゃあサトシ、頼んだぞ」

「はい!」

 

教卓に立つサトシ。手の中には二つのモンスターボール。ピカチュウやロトムも離れた場所からサトシを見ている。

 

「サトシです。えーと、今回俺、じゃなくて、僕が発表するのは、アローラ地方とカントー地方のポケモンの違いについてです」

 

少し表情が固いが、なんとか笑顔で話し出すことができたサトシ。深呼吸を一つして、続ける。

 

「まず、僕はカントー地方のマサラタウンから来ました。アローラ地方に来てまず気づいたのが、気候の違いでした。カントーでは暑い時はごく稀で、どちらかと言えば涼しい環境でした」

 

アローラとカントーの気候の違いから説明し始めるサトシ。知識ではなく、自分の経験を交える。それはカントーとアローラだけではなく、様々な地方を旅して来たサトシだからできること。

 

「環境が違うと生活が変わる。それは人間もポケモンも同じなんだと感じました。では、ここで実際に、違う環境の同じ種族のポケモンを紹介します。ロコン、シロン、出てこい!」

 

手に持った二つのボールから、二匹のロコンが現れる。赤い体を持つカントーのロコン。白い体を持つアローラのロコン。サトシの両肩に乗る二体。緊張がほぐれて来たのか、サトシの表情にも余裕が見え始め、一人称も戻り出した。

 

「みなさんがよく知るロコンは俺の左にいるこの白いロコン。でも、カントーから来た俺にとって、初めて見た時はとっても驚きました。色だけじゃなく、タイプまで全然違っていたからです」

 

サトシの説明に合わせるように同時に肩から飛び降り、弱めのこなゆきとひのこを出すロコンとシロン。白と赤、炎と氷、二つは絶妙な加減で混じり、グラデーションのようにも見える。パフォーマンスっぽいその演出に、保護者もマオたちも驚く。

 

「他に見たのだけでも、コラッタにラッタ、ペルシアンにナッシー、ライチュウにディグダ、ダグトリオ。こんなにも多くのポケモンたちが自分の知っているのと違う姿をしている。ポケモンって、やっぱり不思議だって、もっともっと知りたいって思いました」

 

ここで一度、彼は今の自分の手持ちが並んでいる壁際を見た。

 

「始めは旅行で来て、ポケモンたちのことをもっと知りたいと思って。そうして俺はポケモンスクールに通い始めました。そのあと、モクロー、ロコン、イワンコにニャビー。いろんな仲間ができました。クラスメートにも、いっぱい教えてもらっています」

 

語りながら、クラスメートや見学に来てくれた人たちを一人一人、見るサトシ。真っ直ぐな瞳に真っ直ぐな言葉、そして真っ直ぐな心。誰もがサトシの発表を真剣に聞いていた。

 

「俺、将来の夢として、ポケモンマスターになりたいって思っています。だから、これからももっとポケモンと触れて、不思議について知って、たくさん学びたいって思ってます」

 

 

 

 

途中からは発表というよりも感想っぽくなってしまったものの、サトシの発表は見学に来た人たちからも高評価で終わることができた。

 

息子が成長しているのだと、なんとなく感じたハナコ。寂しいような、嬉しいような。なんだかわからないけれど、自然とその口元には笑みが浮かんでいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

発表を終え、一息つくサトシ。今は保護者の方々も構内の展示を見て回っているため、サトシたちは教室で休んでいた。

 

「サトシ、お疲れ」

「なかなか良かったんじゃないか」

「うんうん。僕のパパとママもすごかったって言ってたよ」

「そっか、ありがとな」

「でも、いきなりサトシがシロンを出したからびっくりしちゃったよ。そういえばリーリエ抱っこしてなかったなぁ、って思ってたけど」

「昨日、サトシがシロンに力を貸して欲しいと頼んだのです。いい発表にしたいから、と」

「ありがとな〜、シロン」

「コォン」

 

頭を撫でられて嬉しそうなシロン。それを見て、サトシのロコンも、自分も自分もとサトシにじゃれつく。労いの言葉とともに、サトシがロコンを撫でていると、何やらケンタロスのレース場から騒がしい音が聞こえて来た。

 

「なんだろう?」

「何か事故でもあったのか?」

「行ってみようぜ!」

 

走り出したサトシたち。フィールドに着くと、そこにはお馴染みのスカル団トリオ、その正面にいたのは、

 

「ニャビーにママ!?」

「あら、サトシ」

「えっ、な、何してんの?」

「この人たちがなんだか他の人に迷惑をかけてたから、ちょっとお説教を、ね」

 

「またあんたたちなの?」

「懲りない奴らだな」

「よりによってオープンスクールの日に来るなんて、ほんとにもう」

 

「ちっ、また厄介な奴が来やがった」

「兄貴、どうするっスカ?」

「へっ、今日こそぶっ倒してやるだけだ!」

 

「サトシのお母様、危ないので下がっててください」

「いいえ。ここは引き下がれないわ」

『サトシのママは、バトルできるロト?』

「あはは。それじゃあ、ニャビー。ママを頼むぞ」

「ニャブ」

「ピカチュウ、ロコン、君に決めた!」

「ピッカァ」

「コォン」

 

スカル団のヤトウモリ、ズバット、ダストダスと対峙するピカチュウ、ロコンにニャビー。サトシとハナコ、親子のタッグがスカル団に挑む。

 

「行くぜ、「「どくどく!」」」

 

地面を蹴り、飛び上がったスカル団の三体が強力な毒液をピカチュウたち目掛けて打ち出す。

 

「かわせ!」「かわして!」

 

二人の指示に合わせて難なく避けるピカチュウたち。あっさりと避けられ、驚く三体は、絶好のターゲットとなる。

 

「ピカチュウ、エレキボール!ロコン、はじけるほのお!」

 

尾に電気エネルギーを集め、塊として打ち出すピカチュウ。直後にロコンがはじけるほのおを打ち出す。エレキボールにはじけるほのおが直撃し、電撃と炎が合わさった小さめの塊がいくつも降りかかる。大きなダメージはないものの、目くらましと足止めにもなる。

 

「ニャビちゃん、ひっかく!」

 

怯んでいる三体に接近し、鋭い爪で攻撃するニャビー。三体が一箇所に集まるように後退させられる。

 

「よし!行くぞ、ピカチュウ!」

「ピィカ!」

 

腕を交差するサトシとピカチュウ。Zリングから溢れた光がピカチュウを包み、巨大な電撃の槍を形成する。

 

「スパーキングギガボルト!」

 

打ち出された槍はスカル団のポケモンに直撃し、電撃の柱が空へと登る。バトルを見ていた者も、室内にいた者も、その柱に一瞬目を奪われた。

 

激しい爆風が止み、土煙が晴れると、目を回しているヤトウモリたちがそこにはいた。慌ててポケモンを回収するスカル団。何故かバイクがなかったようで、走り去って行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「サトシ、今のは?」

「Z技っていうんだ。俺とピカチュウ、二人の全力の技さ」

「そう。それもこっちで学んだこと?」

「うん」

 

へへっ、とZリングを見せ笑みを見せるサトシ。どうやらここでの生活は、色々とサトシに刺激を与えているようだ。

 

「ニャビちゃんもありがとう。あ、そうだ。この花壇、荒らされちゃったけど、一緒に直さない?」

「そうだな。やるか!」

 

せっせと花壇の修復を始めるハナコとサトシ。それを見て、クラスメートたちは顔を見合わせ、笑う。

 

「やっぱり、親子だな」

「すごく似てる」

「無鉄砲なところとか」

「ポケモンが大好きなところとか」

「それに、みんなを守ろうとする優しさもです」

 

「みんな、手伝ってくれる?」

「一緒にやろうぜ!」

 

「「「はーい!」」」「ええ」「ああ!」

 

その後、他の保護者の人の協力もあり、花壇は前と同じ、いや、それ以上に綺麗になった。そしてハナコは、サトシのことをよろしくと博士に頼み、帰って行った。

 

 

ニャビーを連れて行くことを割と本気で検討していたのは内緒だよ。




次回、マーマネの引越し!?

ちゅーかトゲデマル、マジピカチュウ大好きフリスキー
あそこまで泣くとは……


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引っ越し大騒動

マーマネ、引越し回です

ちょこっとだけ、オリジナルパート?あります


その日、サトシとリーリエが登校途中に見かけたマーマネの様子は、明らかにおかしかった。背中を丸めトボトボ歩くマーマネ。(そこ、もともと丸いじゃんとか言わない!)口を開くとため息ひとつ。何やら落ち込んでいるような、悩んでいるような、そんな印象を受ける。

 

「アローラ、マーマネ」

「わわっ!?さ、サトシにリーリエ……あ、アローラ」

「?先程から落ち込んでいるみたいでしたけど、どうかしたのですか?」

「へっ!?い、いやっ、べ、別に」

 

明らかにおかしい。何よりもおかしいのが、ピカチュウに挨拶されたトゲデマルの反応だ。いつもなら笑顔で返すか、問答無用で飛びつくかのどちらかだというのに、今日のトゲデマルはピカチュウに挨拶されたにも関わらず、そっぽを向いたのだ。疑問符を浮かべるピカチュウ。

 

「トゲデマル、どうかしたのか?」

「いやっ、なんでもないと思うよ!じゃあ僕先に教室向かうからっ!」

 

言うが早いか駆け足でスクールへと向かうマーマネ。何が何だかわからないサトシたちは顔を見合わせ、首をかしげた。

 

 

その日はマーマネが好きなはずの授業でボーッとしていたり、トゲデマルが急に泣き出したかと思うとピカチュウにいつになくべったりだったりと、何かと様子が変だったため、サトシたちの疑問がさらに深まった。

 

 

 

 

 

「やっぱり変」

「だよねー。なーんか、隠してるというかなんというか」

 

突然おすすめのスイーツ店の情報をみんなと共有したマーマネ。いつもであれば秘密にしているだろう情報を突然教えてくれたことに対し、サトシたちは違和感を感じていた。

 

「何か悩んでることでもあるんじゃないのかな?」

「あのトゲデマルの様子から見ても、マーマネ個人の問題ではないのかもしれないな。家庭の事情とか?」

「そういえば朝も、元気がなかったように見えました。トゲデマルもです」

 

あれやこれやとクラスメートたちが話し合う中、サトシはふと何かを思いついたのか、深く考え込んでいた。

 

「サトシ、どうかしたの?」

「なんだか難しい顔してるが、何かわかったのか?」

「いや、分かったというか……なんか、マーマネのは普段通りに振る舞おうとしていたっぽいなぁ、って」

「?それが、どうしたの?」

「普段通りにしたいって思うのは、何か大きな変化があるってことだと思うんだ。それこそ今まで通りにはいかない何かが……それを隠そうとしているんじゃないかなって」

「何かって、なんだ?」

「流石にそれは……わかんないや」

 

うーん

 

5人揃って首を傾げて唸る。と、ここでマオが立ち上がる。

 

「よしっ、マーマネにちゃんと話しを聞いてみよう!変に考え込むよりも、本人にちゃんと話してもらえた方が、あたしは嬉しいし」

「うん。私も」

「だな」

「そうですね」

「オッケー、じゃあマーマネを追いかけるぞ!」

 

一足先に帰っていったマーマネを追って、5人は教室を飛び出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「み、みんな……あれっ、いつの間に」

 

トボトボと下を向いて歩いていたマーマネは、目をあげるとクラスメートたちが立っているのを見て、驚きを隠せなかった。

 

「マーマネ、何か悩みがあるの?」

「へっ!?べ、別に……」

「話して見てください。わたくしたちも、できれば力になりたいんです」

「同感。マーマネ、水臭い」

「仲間だろ?俺たちにも、お前を助けさせてくれよ」

「み、みんな……でも、あの、その……」

 

真剣な表情のクラスメートたちに、マーマネも戸惑ってしまう。言わずにいようと思っていたのに、みんなは力になりたいと、話してほしいと言ってくれる。でも話したらみんながよそよそしくなってしまうのではないか、そう思うと切り出せない。悩み、頭を抱えそうなマーマネに、サトシが質問した。

 

「マーマネ……もしかして、いなくなるのか?」

「えっ?」

「サトシ?」

「なななななんでそのこと、じゃなくてそんなこと?」

「いや、なんとなくなんだけどさ。何故か、一緒に旅をした仲間とお別れした時のこと、思い出して……それでもしかしてと思ってさ」

「そう、なんだ……うん。そういうことになるのかな。みんな、あのね……」

 

 

 

 

「「「「引っ越し!?」」」」

「……うん」

「いつ?」

「……来週」

「どこに行くんだ?」

「えっと、パパに聞いたとき、すっごく遠いとこって言ってた……」

 

思わず言葉を失うクラスメートを見て、マーマネは寂しげな笑みを浮かべた。

 

「ほらね。こんな感じになっちゃうと思ったから、言わないでおこうと思ったんだ。こういうしんみりしたの、僕あんまり好きじゃないし」

「そっか……なら、いつも通りだな」

「えっ?」

 

一人だけ、笑顔でいるサトシの言葉に、マーマネも疑問符を浮かべた。

 

「こういうお別れが悲しい、ってなるのが嫌なんだよな?」

「う、うん」

 

頷くマーマネを見て、サトシはいつもと変わらない笑顔で続ける。

 

「なら、俺は今まで通りにするよ。最後まで、いつもと同じ。たくさん笑って、たくさん遊んで。な?」

「サトシ……」

「それに、離れることになっても、俺たちは友達だ。今までも、これからも。変わらずにな」

 

サトシがみんなにそう話す横では、ピカチュウがトゲデマルたちを宥めている。悲しげだったポケモンたちも、少し明るさが戻っている。そして、そのトレーナーたちも。

 

「そうだね。サトシの言う通りだよね!よーし、じゃあ土曜日はみんなでうちに来てよ。盛大にマーマネの旅立ちをお祝いしよ!」

「いいですね」

「うん」

「悪くないな」

「よーし、決まりだな!」

 

ハイタッチするサトシとマオ。そしてサトシはマーマネにも手を差し出した。

 

「一緒に楽しもうぜ、マーマネ」

 

差し出された手を見て、サトシの顔を見て。泣き出しそうになるのをこらえ、マーマネはサトシの掌に、自身のを合わせた。

 

「うんっ!」

 

その後、マーマネに見せたいものがあると言ったカキに連れられ、マーマネはアーカラ島へと向かい、サトシたちはそれぞれの家に帰って行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝、再び何やら悩んでいるようなマーマネ。やはり、いつも通りにすると言っても、引っ越しのことはショックなのだろう。元気付けようと話しかけるサトシたちに対し、マーマネは苦笑いで対応していた。明るくいこうと決めたものの、やはり寂しいのだろう。

 

今日はスイレンの番、ということで二人は先に帰り、残ったメンバーで土曜日に向けての準備を考えることにした。

 

「カキ、昨日はどうだった?」

「あぁ、俺のとっておきの場所に連れて行ったんだ。あいつにも喜んでもらえたよ」

「そっか、良かったね。うーん、それじゃあ土曜日のことなんだけど、私は料理を準備するけど、他に何用意する?」

「やはり、パーティといえば飾りですよね。わたくし、色々と準備しておきますね」

「じゃあ俺もそれ手伝うよ」

「二人共、よろしくね。カキはどうする?」

「会場のセッティングとかならできるが、正直他には思いつかないな」

「あ、デザート!カキの牧場のアイス、マーマネも好きだって言ってたし、どうかな?」

「なるほどな。それならなんとかなりそうだ」

 

 

 

ポケモンたちにも手伝ってもらうことにし、マーマネの送別パーティに向けての準備も始まった。飾りを作りながらも、サトシは一人、考え事をしている。

 

「サトシ、どうかしましたか?」

「ん?あぁ、いや。折角だから、マーマネに何かプレゼントしたいと思ったんだけど、何がいいかなって」

「実は、わたくしも同じことを考えてました」

「リーリエも?何贈るか決めてるの?」

「ええ。わたくしの好きな花を使って、首飾りを作っています。アローラ特有の花らしいので、きっといい思い出になるかと」

「なるほどな〜。あー、何にしようかなぁ」

『フッフッフッ。お困りロトね、サトシ』

「ロトム?」

『マーマネに送るのにピッタリなものがあるロト』

「ほんとか?教えてくれ!」

『それは……』

 

 

 

「それじゃあ、5時にあたしの家に集合ね!」

「任せろ」

「うん!」

「はい」

「俺、ちょっと行くところがあるからさ、遅れたらごめんな」

「えっ、ちょっとサトシ?」

「マオ、後でわたくしが説明しますから」

「ほんとごめん!」

 

いよいよやって来た土曜日。マーマネの送別パーティ当日だ。仲間の旅立ちを祝うために、各人それぞれが動き出した。みんなが会場の飾り付けに取り掛かる中、サトシはピカチュウたちを連れて、森へとやって来た。

 

「ここなら、きっといるはずだ。みんな、絶対にタイムリミットまでに見つけようぜ!」

「ピッカァ!」

「クロ!」

「アン!」

「ニャブ」

「コォン」

「コウガ」

『地面の下に隠れていることが多いから、イワンコやロコンの鼻が頼りロト!』

「よーし、捜索開始だ!」

 

二手に分かれて行動するサトシたち。サトシ、ロトム、ピカチュウ、ロコンチームと、ゲッコウガ、ニャビー、イワンコ、モクローチーム。鼻のきくイワンコとロコンをそれぞれ先頭に、森の中を進み始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

数時間後、既に空は紅くなり始め、タイムリミットはだんだん近づいていた。

 

「ロトム、近くに反応は?」

『ヒットなしロト。この辺りにはいないかもしれないロト』

「ロコン、何か見つかったか?」

「コォン」

「そっか。なかなか見つからないなぁ」

「!ピカッ!」

 

森の中を進んでいたサトシたち。ふとピカチュウが何かに気づき、注意するように鳴いた。とっさにその場を飛び退くサトシたち。さっきまでいた場所に、攻撃が飛んで来た。

 

「な、なんだ?」

 

「な、なんだと聞かれたら」

「聞かせてあげよう、我らの名を」

「花顔柳腰羞月閉花。儚きこの世に咲く一輪の悪の花!ムサシ」

「飛竜乗雲英姿颯爽。切なきこの世に一矢報いる悪の使徒!コジロウ」

「一蓮托生連帯責任。親しき仲にも小判輝く悪の星!ニャースで、ニャース」

「「ロケット団、参上!」」

「なのニャ!」

「ソーナンス!」

 

「こんな時にか、ロケット団!」

 

高笑いをしながら現れたのは、いつものトラブルメーカー組、ロケット団だった。

 

「今日こそは、そのピカチュウをゲットしちゃうわよ、って、あれ?」

 

「あーもう。時間がないっていうのに〜」

 

「ん?なんだ?なんか焦ってるみたいだけど」

「何かあったのかニャ?」

 

ビシッとサトシを指差し宣言したムサシ。しかし当の本人は何やら頭をガジガジかきながら、何やらブツブツ言っている。いつもと様子が違うことに、ロケット団も戸惑ってしまう。

 

「おーい、ジャリボーイ。なんかあったのか?」

「今お前たちに構ってる場合じゃないんだよ!早く見つけないと、間に合わなくなっちゃうんだ」

「見つけるって……何を?」

「マーマネへのプレゼントだよ!」

 

 

実は、かくかくメブキジカ、というわけなのだ

 

 

「は〜、その丸ジャリボーイが引っ越すから送別会を」

「それでプレゼントを探しに来たのか」

 

とりあえず事情を説明してもらったロケット団。いつもならピカチュウゲットでさいならーしたいところだが、

 

「ねぇ、どうする?」

「流石に今日は邪魔しちゃまずいんじゃないか?お別れとか、結構大事なことだし」

「ニャーもそう思うのニャ。それにこういうことは後に引きずると面倒なことになるのニャ」

「ソーナンス」

「そうね〜。じゃ、今日のところは帰りますか。でもジャリボーイ、次は容赦しないからね」

「しっかり別れ言って、スッキリさせてこい」

「今日はこのまま、バイニャラー」

「ソーナンス!」

 

現れた時と同じくらいの唐突さで帰って行くロケット団。しばらく首を傾げていたサトシたち。すると、森の別の場所から、空に向けて水の塊か打ち上げられたのが見えた。

 

「ゲッコウガだ!きっと見つかったんだな。よし、行くぞ!」

「ピカ!」

 

サトシたちが向かった先では、イワンコとニャビーが必死に土を掘っていた。その穴の中を覗き込んだサトシは、満面の笑みを浮かべた。

 

「いた!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

アイナ食堂にサトシが着いた時には、既にパーティが始まっていた。アローラガールズによる様々な料理と、綺麗な飾りがあちこちにある。

 

「もぉ、サトシ。遅いよ」

「ごめんごめん!なかなか見つからなくってさ、ってホシちゃん?」

「サトシ、アローラ!」

「こいつも参加したいって言ってたからな、せっかくだし連れて来たんだ」

「そっか……マーマネ」

「えっ、何?」

「俺からのプレゼント、ちょっと外に出てくれ」

 

疑問符を浮かべるマーマネ。訳知り顔のクラスメートたちに背中を押され、外へ出ると、サトシがカゴを1つ地面に置いていた。

 

「これが、俺からのプレゼントだ」

 

カゴの入り口を開けると、中から一体のポケモンが出て来た。緑の体色に鋭い顎。目の部分はゴーグルの様になっている。

 

「わぁっ、デンヂムシだ!僕ずっと欲しかったんだよ!」

『デンヂムシ、バッテリーポケモン。むし・でんきタイプ。アゴジムシの進化形。地中でほとんどの時間を過ごし、体に電力を蓄え、仲間に力を与えることができる。まさに、マーマネにぴったりなポケモンロト!』

「マーマネ、ゲットしたらどうだ?」

「うん!行くよ、トゲデマル!」

 

クラスメートが見守る中、マーマネとトゲデマル、デンヂムシのバトルが始まった。デンヂムシの放電をうまく吸収したトゲデマル。威力をあげたびりびりちくちくを受けて、デンヂムシが大きく後ろに飛ばされる。

 

「よーし、モンスターボールだ!」

 

デンヂムシの頭にぶつかったボールへと、体が入る。しばらく揺れるボール。と、ポーン、という音とともに、スイッチのランプが消えた。

 

「や、やった!デンヂムシ、ゲットだよ!」

「やったな、マーマネ」

「良かったね」

「サトシ……ありがとう」

 

喜びの表情から、マーマネはなんだか複雑そうな表情に変わる。いよいよ別れが近い。リーリエがマーマネの首に手作りの飾りをかける。

 

「これは、わたくしから。どこに行っても、明るいマーマネのままでいてくださいね」

「リーリエ……」

「青空を見たら、アローラ地方のこと、スクールのこと、思い出してね」

「私も、忘れない」

「マオ……スイレン」

「しっかりな」

「元気でね〜!」

「カキ……ホシちゃん」

 

一人一人の言葉を受けながら、マーマネの目に涙がたまっていく。最後に、サトシの番になる。

 

「マーマネ、きっとまた会えるからさ、だから頑張れよ。お前がポケモンと一緒にいて、一緒に夢を追いかけていけば、またどこかで道がつながるさ。だから、さよならじゃない。またな、マーマネ」

「サトシ……ぅぅ……うわぁぁぁん!」

 

堪え切れなくなったのか、マーマネは声を上げて泣き出してしまう。マオとリーリエも涙が浮かんでいる。それでも、明るく見送ると決めたから。みんなは笑顔でマーマネを見ていた。

 

「泣くなって。笑顔で行くんだろ?」

 

 

「ち、違うんだ〜!」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

「ぼ、僕のっ、勘違いだったんだよ!引っ越すっていっても、ほんとはすぐ近くでっ!そ、それもっ、一週間だけだったんだ!ごめん、ごめんなさ〜い!!」

 

大声で泣きながらマーマネは謝る。みんな自分がいなくなると思って、色々と考えて、準備してくれて。

 

でも、それはただの誤解だったのだ。引越しといっても屋根の修復をする一週間だけ。遠いといっても、隣が良かったのに三軒隣になってしまっただけ。まさか自分の勘違いがこんなに大きなことになるとは思ってもいなかった。

 

嫌われる。そう思いながらも、マーマネは謝る。

 

 

 

「良かった」

 

 

「……えっ?」

 

涙を拭ったマーマネが見たのは、怒りの表情ではなく、とても優しい笑顔をしたクラスメートたちだった。

 

「良かったよ、マーマネがいなくならなくてよくて」

「えっ?」

「遠くに行かなくていいんでしょ?」

「転校もしなくていいんだよな?」

「うん」

「また今まで通り、一緒にいられますよね?」

「もっと一緒に勉強できる」

「うん」

 

嬉しそうな笑顔になるクラスメートたち。マーマネも、今度は違う意味で涙が溢れそうになる。

 

「マリュ?」

 

状況が読み込めていないトゲデマルに、マーマネが機械を使って説明する。

 

「僕たち、遠くに行かなくていいんだ!もっと、みんなと一緒にいられる、ピカチュウともお別れじゃないんだ!」

 

大喜びするトゲデマル。喜びのあまり、思いっきりピカチュウにダイブする。マーマネも、心の底からの笑顔でみんなとともにはしゃぐのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

突然、どこからか網が飛んできて、ピカチュウが連れ去られる。高笑いをしながら姿を現したのは、やはりというべき悪党組。

 

「「「ロケット団、再び参上!」」なのニャ!」

 

「あいつら、こんな時に」

「空気読めてない」

「ピカチュウを返しなさい!」

 

「ちょっと、心外ね〜。ちゃんと送別会みたいなのが終わるまで待ってあげてたんだから、むしろ空気読んでるじゃない」

「まぁ、結局は勘違いみたいだったけど、一応無事に終えたみたいだからな」

「これでニャーたちも心置き無くピカチュウゲットに専念できるニャ」

 

「ピカチュウを返せ!」

「サトシ、僕たちに任せて!」

「マーマネ?」

 

ロケット団の前に立ったのは、マーマネ、トゲデマル、そしてさっきゲットしたばかりのデンヂムシだ。

 

「あんたのちっこいポケモンたちに、何ができるっていうのよ」

「ふふん、見てなよー。デンヂムシ、ほうでん!」

 

マーマネの指示通りに、デンヂムシが電気を放出する。その電気をトゲデマルがひらいしんで吸収し、得意技、びりびりちくちくでピカチュウを捉えていたネットを破壊した。

 

「なにぃ!?」

「あ、ちょっと、何逃げられてるのよ!」

 

「サトシ、ピカチュウにデンヂムシの力を」

「あぁ。ピカチュウ、行くぜ!」

「ピカ!」

 

デンヂムシから電気エネルギーが溢れ、ピカチュウへと注ぎ込まれていく。特性、バッテリーによって、ピカチュウの技の力が強化されたのだ。

 

「ピカチュウ、10まんボルト!」

「ピーカ、チュウ〜!」

 

いつもよりも出力の上がった10まんボルトを受け、ロケット団は森の方へと飛ばされていく。この後、地面に落ちるところをまたキテルグマに助けてもらうのだが、彼らの縁もまだまだ続くようだ。

 

 

「やったね、サトシ」

「サンキュー、マーマネにトゲデマル、デンヂムシも」

「うん!」

 

「じゃあ、みんなでごちそう食べよう!マーマネがどこにも行かなくてもいいことを祝って、ね」

「いいな」

「さんせー!」

「うん」

「はい!」

 

「行こうぜ、マーマネ!」

 

自分を囲む仲間たちの笑顔に、マーマネは安心するとともに、高揚した。もっともっと一緒にいて、いっぱい学んで、遊んで。それができることが!とても嬉しかった。

 

「うん!」

 

その日は、そこそこ遅くまで、アイナ食堂から笑い声が聞こえてきたそうな。




次回、謎のルガルガン使い現る!

読まないと、滅びゆく世界と一緒に封印だぞ☆


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謎のルガルガン使い

ようやくグラジオ登場だぜ!

今回もちょこちょこいじくり回しています笑


朝の海岸、スクールに向かう前に、サトシたちがバトルの特訓を行なっているところだった。対峙するのはゲッコウガとイワンコ、モクローの二体。ニャビー、ロコン、ピカチュウは見学中だ。

 

「モクロー、このは!イワンコ、いわおとし!」

 

サトシの指示に合わせ、二体が同時に技を発動させる。このはによって推進力が上がったいわおとしがゲッコウガ目掛けて飛ぶ。じっと技を見つめるゲッコウガは、その場で目を瞑る。驚くことに、ゲッコウガはその場から動くことはせず、体をそらす要領で全てかわしていく。

 

「たいあたりだ!」

「アン!」

 

技が完全に終わる前に駆け出したイワンコ。最後の一つを避けたゲッコウガは、動じることなく、横に跳び、その攻撃をかわす。ふと背後に気配を感じたゲッコウガ。横に飛んだままの体勢から地面に手をつき、体を跳ね上げる。さっきまでゲッコウガのいた場所を、モクローの蹴りが通過する。

 

「やるな、ゲッコウガ。目を閉じて攻撃をかわすなんて、まるでルカリオみたいだな。波動を感じてるわけじゃなくて、気配を察知してるのか?」

「コウガ」

『気配だけでここまで……ゲッコウガ、おそるべしロト』

「イワンコ、モクロー、お疲れ。そろそろポケモンスクールに行くか」

 

ボールから出たまま、サトシとポケモンたちはスクールへと駆けて行く。その途中で、彼らとすれ違う一人の少年。薄い色の金髪が顔を隠し、黒い服はあちこちファスナーだらけ。なんだか不思議な少年だと感じながらも、遅刻をしないために、サトシたちは必死に走った。

 

立ち止まり、振り返る少年。その眼はサトシ……ではなく、その隣を走る青い身体のポケモンに向けられていた。

 

「あれは……ゲッコウガ?珍しいポケモンを連れてる奴がいるもんだな」

「ブラッキ」

 

 

 

 

 

時間が経ってお昼頃。サトシたちはポケモンたちが遊ぶ様子を眺めていた。ついこの前、マーマネの手持ちに加わったデンヂムシを先頭に、何やら電車ごっこのようなことをしている。このデンヂムシ、走り出す合図が出発進行であり、しかも何故か電車のような音がするため、割と本格的に見えてくるのは気のせいだろうか。

 

「かわいい」

「シロンもとっても楽しそうですね」

「デンヂムシも、結構早く馴染んだな」

 

机を丸く合わせ、みんなで向かい合って食べる。自然と会話が弾む中で、噂好きのマーマネが新しい話題を振る。

 

「ねぇ、知ってる?最近この島にすっごく強いトレーナーが現れたって話」

「すっごく強いトレーナー?」

 

当然のように反応するサトシ。知らないのか、首をかしげるスイレンとリーリエ。カキも興味深そうに聞いている。

 

「あたしきいた事ある!この前お店に来てた人が話してた。謎のルガルガン使いって言われてるんだって。真夜中の姿の」

「そうそう。一緒にブラッキーを見たって話も聞いたよ」

「真夜中の姿のルガルガンに、ブラッキーか……バトルして見たいな。な、ピカチュウ?」

「ピッカァ!」

「アンアン!」

「おっ、イワンコもか?」

「アンッ!」

 

どうやらその強いルガルガンに興味を持ったらしいイワンコ。どんな相手かを想像しているのか、目がキラキラしている。

 

「そのトレーナーも、島巡りに挑戦しているのかもね」

「ってことは、他の島での試練をクリアしたのかもしれないな。そいつはZリングを持っているのか?」

「うーん、でもZ技を使ったって話は聞いたことないな〜」

「まだ使えないのか、それとも使わないだけなのか。何れにしても、Z技無しでここまでの評判になると考えると、相当強いぞ、そいつ」

 

結局、その日の昼休みは、謎のルガルガン使いの話で盛り上がってしまい、気づいたら午後の授業の開始時間になってしまったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後、少し用事があるとリーリエが言ってたために、サトシは一人で帰っていた。足元にはピカチュウとイワンコ、ロコンが一緒に歩いている。モクローはリュック、ゲッコウガとニャビーはボールの中だ。広場の近くに来たところで、何やら大きな鳴き声と歓声が聞こえてくる。

 

「なんだ?」

『誰かバトルでもしてるロト?』

「バトル!?行ってみようぜ!」

 

バトルと聞いては黙っていられないサトシ。急いで階段を駆け下り、人だかりのできている広場の中央に向かう。そこで彼が見たのは、

 

「カメックス、ロケットずつき!」

「ガッメェー!」

 

巨体からは想像できないスピードで飛び出したカメックス。しかし、それを見ても対峙しているトレーナーは動揺することなく、指示を出す。

 

「カウンター」

「ルッガ!」

 

ロケットずつきが決まるその直前にわずかに体をそらし、攻撃をかわす。そしてガラ空きの胴体に、前足による強烈なアッパーが決まり、カメックスを大きく跳ね飛ばした。地面に落下したカメックスは完全に目を回している。勝利したポケモン、真夜中の姿のルガルガンが吠えた。

 

『あのカメックスの重量、およそ100キロと推定。それをあそこまで飛ばすなんて、凄いパワーロト!』

「カウンターのタイミングも、完璧だったな」

 

観客から拍手が上がる中、イワンコはルガルガンをキラキラした目で見ている。すっかりと憧れてしまっているようだ。

 

ルガルガンをボールに戻す少年。年はサトシよりも一つ、二つ上だろうか。その姿を見たサトシは、朝すれ違った相手だということに気づいた。その足元に寄り添うように、ブラッキーが立っている。

 

『ルガルガンにブラッキー。サトシ、謎のルガルガン使いの特徴と一致してるロト!』

「じゃあやっぱり、あいつが?」

 

対戦相手から視線を外した少年の瞳がサトシを捉える。その視線が一瞬自分の左腕、Zリングに向かったのをサトシは感じた。

 

「あのさ、「お兄様!?」……へ?」

 

サトシが声をかけようとした瞬間、大きな声が遮った。声の主は腕に白いロコンを抱え、大急ぎで走ってくる。サトシと少年の元までかけて来て、息を整える。

 

「やっぱり、グラジオお兄様ですよね!?まさか、噂のトレーナーがお兄様だったなんて」

「えっ?」

「お前、リーリエか……」

「えっ?」

 

「『えええええっ!?』」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

グラジオと呼ばれたトレーナー。よく見ると、前にリーリエの家で見た写真に写っていた男の子と髪型や髪や目の色が同じなのに気づく。なるほど、確かにリーリエの兄妹のようだ。

 

「お前……ポケモンにまた触れるようになったのか?」

「いえ、まだこの子だけです。この子、シロンは、私のパートナーです。シロン、グラジオお兄様よ」

「パートナーか……そうか」

「お兄様、よかったら一度わたくしと一緒に邸に行きませんか?ジェイムズたちも喜ぶと思います!」

「……遠慮しておく。じゃあな」

 

挨拶だけしてそのまま何処かへ行こうとするグラジオ。それを呼び止めたのはリーリエではなく、

 

「ちょっと待ってくれ」

 

ちらりとグラジオが視線を向けると、リーリエの側にサトシが来ていた。

 

「お前は?」

「俺はサトシ。カントーのマサラタウンから来たんだ。リーリエとはポケモンスクールのクラスメートで、一緒にククイ博士の家で暮らしてる」

 

サトシの最後の発言に、グラジオが驚いた表情をしてリーリエを見る。

 

「何?……邸に住んでいないのか?」

「わたくしが自分で決めたことです。ジェイムズたちからも了承は得ています」

「そうか……まぁいい。何か用か?」

「俺さ、ポケモンマスターを目指して修行しているんだ。だからアローラ地方の強いトレーナーとも戦いたいんだ。さっきのルガルガン、スッゲェ強かった。俺とバトルしてくれないか?」

 

左手で拳を作り熱弁するサトシ。その左腕のZリングをグラジオがまた見ているのを感じたサトシはそれをしっかりと見せる。

 

「俺、島巡りにも挑戦してるんだ。このZリングは、カプ・コケコから貰ったもの」

「カプ・コケコに?……会ったのか?」

「サトシは、カプ・コケコと何度かバトルしたことがあるのです」

「バトルだと?」

 

サトシを正面から見据えるグラジオ。まるで値踏みしているかのように、じっくりとサトシのことを見ている。ふっ、と息を吐き、グラジオの視線が普通なものになる。

 

「考えておく」

「わかった。その気になったら、いつでも教えてくれ」

「あの、お兄様!」

「パートナーを、大切にな……じゃあな」

 

サトシが握手するために手を差し出そうとしたが、その前にグラジオはブラッキーを連れて、さっさと行ってしまった。

 

「お兄様……」

 

何処か落ち込んだ様子のリーリエ。何やら訳ありのようだ。グラジオのことを伝えるべく、サトシとリーリエはジェイムズたちのいる邸に向かうことにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なんと、グラジオ坊っちゃまが!?」

「ええ。この島に来ているみたいなの」

「最近噂になっている謎のルガルガン使い、それがグラジオらしいです」

「そうですか……あの坊っちゃまが」

 

所変わってリーリエ邸。リーリエの部屋にてサトシとリーリエは、ジェイムズにお茶を入れてもらいながら、グラジオとの遭遇について話している。

 

「ジェイムズさん、グラジオは……」

「はい、家を出ております。丁度お嬢様がポケモンに触れなくなってしまってから、少しした頃のことでした」

「グラジオお兄様、わたくしの知っている頃と、雰囲気が全然違いました。前はとても優しかったのに……」

 

久しぶりに会った兄の変わりように、リーリエは戸惑い、悲しそうにしている。

 

「いい奴だよ、あいつは」

「えっ?」

 

断言するように告げられた言葉に、リーリエが顔を上げる。サトシが笑顔で頷く。出会ってほんの少し言葉を交わしただけだというのに、何故そんなに自信満々なのだろうか。

 

「あいつ、シロンを見て言ってただろ?パートナーを大切に、って。リーリエのことも、ポケモンのことも大切に思ってるってことだよ」

「サトシ……」

「ブラッキーもすっごく懐いてるみたいだったし、ポケモンから好かれる奴に本当に悪い奴なんていないさ。だから、グラジオもいい奴だよ」

「ありがとうございます」

 

シロンをぎゅっと抱きしめ、笑顔を見せるリーリエ。ブラッキーを連れていたことを聞いたジェイムズは、昔のことを思い出した。

 

「ブラッキーを……まるで昨日のことのようですなぁ、グラジオ坊っちゃまがイーブイを連れて来たことが」

「お兄様が?」

「どんな話ですか?」

 

まだリーリエも幼かった頃、ジェイムズが邸の掃除をしていた時、グラジオに呼ばれる声がした。駆けつけてみると、グラジオが弱ったイーブイを抱えていた。助けてほしい、強く訴えかけるグラジオのために、ジェイムズは応急手当てをし、すぐさまポケモンセンターに連れて行った。その後、無事に元気になったイーブイは、助けてくれたグラジオに懐き、グラジオのパートナーになったのだ。

 

「おそらく、あのブラッキーはその時のイーブイが進化したのでしょう」

「そんなことが?」

「お嬢様はまだ本当に幼かったので、覚えていないかと」

「やっぱり、いい奴だな」

「はい!」

 

久しぶりに邸に来たということで、リーリエはこっちに泊まることにし、サトシはククイ博士の家へと帰って行った。

 

 

 

その晩、みんなが寝静まった頃、サトシは一人、グラジオのことを考えていた。リーリエがポケモンに触れなくなった頃に家を出たというグラジオ。何か理由を知っているのだろうか。

 

と、上の階で何か物音が聞こえる。誰かが玄関に訪ねて来たようだ。こんな時間に誰が?疑問を持ちながら、サトシは他の人を起こしてしまわないようにそっと部屋を出て、階段を登り、扉を開けた。

 

暗闇の中で光るリングのような模様、ブラッキーはサトシに一つの手紙を渡し、そのまま何処かへ行ってしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

明朝、まだ日が昇る前の時間に、サトシは海岸に向かっていた。いつもの特訓……ではなく、今日は呼び出しに応えているのだ。海岸が近づくに連れて、お目当の人物が既に来ているのが見える。朝日が昇り始めるのを見ているのか、瞳は水平線を捉えている。

 

「グラジオ!」

 

名前を呼ばれたグラジオが振り返る。

 

「待たせたな。バトル、してくれるんだって?」

「あぁ。カプ・コケコとバトルしたという実力、見せてみろ」

「望むところだ!」

 

 

両者距離を取り、相手を見据える。サトシは誰で行くのかは既に決めていた。互いにボールを手に取り、ポケモンを出す。

 

「イワンコ、君に決めた!」

「出でよ、紅き眼差し。ルガルガン!」

 

現れたイワンコはルガルガンを見て、目を輝かせる。しかしそれも一瞬、気を引き締め、やる気満々の表情になる。

 

「憧れのルガルガンとのバトルだ。イワンコ、気合い入れて行こうぜ!」

「アン!」

「来い」

「ルッガ」

 

ポケモンたちが火花を散らし、バトルが始まった。

 

「イワンコ、かみつく!」

 

飛び出したイワンコは、ピカチュウに教わった素早い動きでルガルガンの動揺を誘う。まっすぐと見せかけて回り込み、上下左右に駆ける。

 

タイミングを計り、イワンコはルガルガンに飛びかかる。ガブリとイワンコのかみつくがルガルガンの左前足に当たる。しかしルガルガンは動じることなく、イワンコを振り払う。

 

「いわおとし!」

 

空中で体勢を立て直し、イワンコの得意技、いわおとしが打ち出される。

 

「ストーンエッジ」

「ルッガァ」

 

ルガルガンが前足で地面を殴りつける。岩の柱が飛び出し、いわおとしが防がれてしまう。そのまま次から次へと岩柱が飛び出し、着地前のイワンコを狙う。

 

「イワンコ!」

「かみくだく」

 

岩柱によって再び宙に上がるイワンコ。素早く飛び上がるルガルガン。身動きが取れないイワンコに、ルガルガンの牙による攻撃が襲いかかる。

 

「イワンコ、いわおとしだ!そのまま回れ!」

 

尾の周りに岩を漂わせたまま、イワンコは身体を捻り、回転する。それはまるで岩で身体の周りをコーティングしたかのようになり、ルガルガンなかみくだくを弾く。そしてそのまま怯んだルガルガンに、いわおとしを打ち出すイワンコ。爆発が起こり、両者地面に降り立った。

 

「やるな」

「そっちこそ、流石だな」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

再び両者のポケモンがぶつかり合おうとしたその時、突然網が飛んで来て、ルガルガンとサトシのピカチュウが捉えられてしまう。

 

「ピカチュウ、ルガルガン!」

「何者だ?」

 

「何者だ、と聞かれたら」

「聞かせてあげよう、我らの名を」

「花顔柳腰羞月閉花。儚きこの世に咲く一輪の悪の花!ムサシ」

「飛竜乗雲英姿颯爽。切なきこの世に一矢報いる悪の使徒!コジロウ」

「一蓮托生連帯責任。親しき仲にも小判輝く悪の星!ニャースで、ニャース」

「「ロケット団、参上!」」

「なのニャ!」

 

 

トラックの荷台に取り付けられたクレーンのような装置。そこからぶら下げられた網の中に、ピカチュウとルガルガンが捕らえられている。

 

「ピカチュウとこのルガンガンは、あたしたちロケット団がもらったわよー」

「ルガルガンな。ともかく、目的は達成できたわけだし、とっととずらかろう」

「バイニャらー!」

 

発進するトラック。その後を追ってイワンコがまず飛び出す。その後をサトシ、グラジオ、ブラッキーが追いかける。

 

「速いっ」

「だったら!ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

 

走りながらボールを手に取り投げる。飛び出したゲッコウガを見て驚くグラジオ。ゲッコウガはみずしゅりけんをトラックの進行方向目掛けて打ち出す。

 

「のわっ、危なっ!」

 

なんとかかわすロケット団、その際にスピードが落ちたところに、イワンコが追いつき、ネットに食いつく。

 

「ニャ!?邪魔者が来ちゃったニャ!」

「コジロウ、振り払うの!」

「ラジャー」

 

「逃がさん!ブラッキー、あくのはどう!」

「ブラッ、キキキキ!」

 

動き出そうとするトラックのタイヤ目掛けて、あくのはどうが命中する。パンクしてしまうタイヤ。その隙にイワンコは網をかみきり、ルガルガンとピカチュウの救出に成功した。

 

「いいぞ、イワンコ、ゲッコウガ」

「アン!」

「コウ」

 

「あらら?なんだか一気にヤバイ感じ?」

「ソーナンス」

 

「よーし、あとは俺たちが「待て」グラジオ?」

 

サトシたちの前に進みでるグラジオとルガルガン。

 

「あとは俺たちでやる。行くぞ、ルガルガン」

「ルガゥ!」

 

グラジオが両腕を交差させる。ルガルガンも同様に。その瞬間、グラジオの左腕から眩い光が放たれる。袖の下、露わになったのは赤いZリングだった。

 

「グラジオも、Z技を」

 

「蒼き月のZを浴びし、岩塊が今……」

 

拳を握るグラジオとルガルガン。その手を開き、天高く掲げる。

 

「滅びゆく世界を、封印する!」

 

飛び上がるルガルガンの頭上に、岩が集まり始める。それは巨大な岩塊となり、ロケット団の上に、巨大な影を落とす。

 

「何あれ?」

「なんかヤバそうな予感が……」

 

「くらえ!ワールズエンドフォール!」

 

ルガルガンがその岩塊をロケット団に向けて、力一杯投げつける。大きな衝撃とともに地面に激突した岩塊は、爆発を起こし、ロケット団は空の彼方へと飛ばされていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

朝日が昇りきってから少し経つ頃になり、あたりは大分明るくなっていた。ロケット団を追い払ったあと、サトシとグラジオはバトルを一時中断している。

 

「さっきの、Z技だよな?」

「あぁ。いわタイプのZ技だ」

「カッコよかったなぁ。俺も使って見たいぜ」

「持ってるのか?イワZを」

「それはまだ。これから手に入れるさ」

「……そうか。なら、アーカラ島の島クイーンの大試練に挑め。クリアできれば手に入れられるはずだ」

「サンキュー。絶対クリアして見せるさ。な、みんな?」

「ピッカァ!」

「アンアン!」

「コウ!」

 

やる気に満ちた顔で応えるピカチュウ、イワンコ、ゲッコウガ。強い信頼関係で結ばれているその姿を、グラジオはしばし眺めていた。

 

「さぁ、そろそろバトルの続きを「お兄様!」」

 

中断していたバトルを仕切り直そうとしたところで、遠くの方から声が響いた。白い帽子に白い服、白い肌に白いロコン。遠くから見ただけでわかる。

 

「「リーリエ」」

 

こっちに向かって走ってくるリーリエ。その姿を見たとき、ロトムが声を上げる。

 

『た、大変ロト!そろそろポケモンスクールに向かう時間ロト!』

「えっ、もうそんな時間?」

「残念だが、バトルはお預けのようだな。俺も妹の前では戦い難い」

 

流石にスクールをサボるのはマズイ。サトシにとっても残念だが、その提案を飲むしかなかった。

 

「今日の午後7時、初めて会った場所でお前を待つ」

「へ?」

「次は、そのピカチュウとゲッコウガの力も見せてくれ」

「!あぁ」

 

直ぐに元気になり、手を差し出すサトシ。今度はちゃんとグラジオも握手に応じてくれた。

 

「お前のイワンコ、いい眼をしている」

「え?」

「昔のこいつにそっくりだ」

 

そう言ってグラジオはルガルガンを撫でた。憧れの相手に似ている。そう言ってもらえて、イワンコも嬉しそうにしている。ルガルガンに駆け寄るイワンコ。ルガルガンも嫌がるそぶりはなく、応援するかのように、イワンコの頭を撫でた。

 

「じゃあな」

「リーリエには合わないのか?」

「あぁ。少しな……」

「そっか……リーリエ、話したがってたからさ、また今度、一緒に話そうぜ」

「……考えておく」

 

そう言って、グラジオは行ってしまった。次にバトルすることを考え、サトシはワクワクしていた。丁度グラジオの姿が見えなくなったところで、リーリエがやってきた。

 

「サトシ、グラジオお兄様は?」

「用事があるっぽくて、もう行ったよ」

「そんなぁ。今日こそはちゃんとお話ししようと思っていましたのに」

「またそのうちに、チャンスはあるさ」

 

新しいライバル、グラジオ。次のバトルに向けて、お互いに士気を高めている。再戦は、果たしてどんなバトルになるのか、そして勝者はどちらになるのか。

 

それはそれは、次のお話で……

 




というわけで、次回はオリジナルエピソードです

サトシとグラジオ、激しいバトルを描けるように頑張ります


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月夜の決闘

久々の完全オリジナル展開ですね

ちゅーわけで、サトシvsグラジオです

技とか手持ちとか勝手に考えてるところ多々あります、はい


朝、サトシのクラスメートたちがサトシを見て何やら話している。

 

「今日のサトシ、なんか機嫌良くない?」

「鼻歌も歌ってるしな」

「リーリエ何か知ってる?」

「えーと、実は……」

 

カクカク シキジカ メブキジカ

 

 

「「「「ええっ!?」」」」

「謎のルガルガン使いが!?」

「リーリエのお兄ちゃん!?」

「しかも朝バトルしてたって……」

「何何、どういう状況なの!?」

 

「わたくしも詳しいことは実は知らなくて……」

 

 

みんなの視線を受けているサトシはというと

 

「ふーんふんふーん♩ふふふふふふーん♪」

 

誰がみても明らかすぎるくらいにご機嫌だった。

 

無理もない。中断し、またいつかに持ち越しになるかと思ったバトル、それを今日のうちにちゃんとできるように約束してもらえて、本当に嬉しいのだろう。

 

無駄に鼻歌がうまいのはもはやご愛嬌。

 

サトシの上機嫌は授業中も、昼休みも衰えることがなく、放課後まで続いたのだった。

 

 

 

 

 

放課後、ククイ博士の家に帰ったサトシは、驚くことにさっさと宿題に取り掛かり、終わらせていた。いつもなら夕飯後や、寝る少し前までやらないはずのサトシの行動に、ククイ博士も驚いている。

 

午後6時半、特訓に行くと言って、サトシは家を飛び出していった。サトシの様子が気になっていたリーリエは、クラスメートに連絡を入れ、そっとその後をつけてみることにした。サトシが向かう先はいつもの海岸線。本当に特訓するだけなのだろうか。疑問に思いながら後をつけると、海岸線を通り過ぎ、その少し先、スクールの方向へと伸びる道へとサトシが向かって行く。

 

「こんな時間に、スクールに行くのでしょうか?」

 

謎が深まるばかりのリーリエ。気づかれないように気をつけながら、尾行を再開する。道を少し登ったところで、サトシが誰かに手をあげるのが見えた。その先の人物の姿までははっきりとは見えない。ただ一瞬だけ、自分と同じ、白に近い金髪が見えたような気がした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「グラジオ!」

 

自分の考えが当たっていたことに喜びながら、サトシはグラジオの元へ駆け寄った。

 

「ちゃんと分かってたみたいだな」

「あぁ。あの時、すれ違ったのが、最初だもんな」

 

彼らが来たのはカメックスとバトルした広場、ではなかった。殆ど何も目印となるものはない、ただの道。ここで彼らはすれ違ったのだ。お互いの名前も素性も何も知らない、ほんの偶然の邂逅、そのことをお互いに覚えていたのだ。

 

「では、場所を変えよう。バトルするにも、ここではな」

「オッケー」

 

 

 

 

二人がやって来たのは、近くの公園だった。公園の端の方に、町を見下ろし、海が見渡せるポイントがある。月が辺りを照らすその光景を見て、サトシは思い出す。

 

「そういえばここ、俺がカプ・コケコからZリングをもらった場所だ」

「ここがか?」

「あぁ」

 

アローラ地方に来て最初の夜、サトシが初めてスクールのみんなと出会い、Z技を知ったあの日。それほど時は経っていないはずなのに、すでに懐かしい。

 

「カプ・コケコも見ていてくれるかもな」

「そうだな。では、行くぞ」

「ああ!」

 

距離を取り対峙する二人。その様子を陰に隠れながら、クラスメートたちが覗いている。カキは来られなかったものの、マオ、スイレン、マーマネが合流していた。

 

「あれがリーリエのお兄ちゃん?」

「確かに、強そう」

「なんだかすごいバトルになりそうだね」

「はい……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「使用ポケモンは三体、交代制でいいか?」

「オッケー。それじゃ、ピカチュウ、君に決めた!」

「ピッカァ!」

「駆けろ!月光の使者、ブラッキー」

「ブラッキ!」

 

最初のポケモンは、長年のパートナー対決。気合十分のピカチュウに対し、ブラッキーは冷静に状況を見ている。

 

「行くぜ、ピカチュウ!でんこうせっか」

「迎え撃て、でんこうせっか!」

 

高速の体当たりで激突する両ポケモン。素早さも威力もほぼ互角で、その衝撃に互いのパートナーの近くまで後退させられる。

 

「アイアンテール!」

「ピカ!チュー、ピッカァ!」

「かわせ」

 

飛び上がり、振り下ろされた一撃をバックステップでかわすブラッキー。地面に攻撃が当たった衝撃で、土煙が舞い上がる。

 

「そのまま正面にエレキボール!」

「シャドーボール!」

 

土煙を突き抜け、電撃の球がブラッキー目掛けて襲いかかる。咄嗟に同等の威力の技を打ち出すブラッキー。二つの攻撃は互いに相殺し合うが、既に攻撃が近くまで迫っていたこともあって、ブラッキーは大きく体勢を崩される。

 

「行っけぇ、でんこうせっか!」

「ピッカァ!」

 

間髪入れずに突撃するピカチュウ。体勢を立て直す前の攻撃には流石に対処できず、ブラッキーの胴体に、ピカチュウの体当たりが決まる。

 

弾き飛ばされ、一度地面で跳ねるブラッキー。しかしそれを体勢を立て直すことに利用し、綺麗な着地を決める。

 

「あくのはどう」

「10まんボルト!」

 

同時に放たれた攻撃は、二体の中央で衝突し、爆発する。

 

「でんこうせっか!」

 

先ほどのサトシとピカチュウ同様、目くらましからの連続攻撃を支持するグラジオ、駆け出したブラッキーはピカチュウ目掛けて突っ込む。

 

「飛び上がれ!」

 

ブラッキーと接触する直前に、ピカチュウはジャンプで攻撃をかわした。驚き動きを止めるブラッキー。

 

「アイアンテール!」

 

無防備になったブラッキー目掛けて、ピカチュウが硬度を高めた尾を振り下ろす。決まった!そうサトシは思った。

 

「とっておきだ」

「何!?」

 

ブラッキーの体に力が溢れる。一瞬でピカチュウの尾の軌道をかわしたブラッキーの攻撃がピカチュウに決まった。落下の勢いで自身の攻撃力を高めようとしたピカチュウだったが、その力を逆に利用されることとなってしまった。

 

弾かれたピカチュウは地面に叩きつけられる。土煙が晴れると、そこには目を回してしまったピカチュウがいた。

 

 

 

「よくやったな、ブラッキー」

「ブラッキ」

「お疲れ様、ピカチュウ」

「ピーカ」

 

それぞれのパートナーを労うサトシとグラジオ。その様子を見ている四人は、信じられないという顔を浮かべている。

 

「あのピカチュウが負けるなんて」

「僕も信じられないよ。確かにZ技を使っていなかったけど、」

「ブラッキー、強い」

「お兄様、本当に以前とはまるで別人のようです」

 

ポケモンバトルの修行に出ると言っていなくなったグラジオ。ブラッキーがまだイーブイだった頃から今までずっと修行していたとしたら、果たしてどれほどの努力を重ねてきたのだろうか。

 

「じゃあ次だな。行くぞ、白き鉤爪、ニューラ!」

「ロコン、君に決めた!」

 

互いに二体目のポケモンを繰り出す。まだまだ白熱しそうなバトルに、手に汗を握るマオたち。二回戦目の火蓋が切って落とされる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「れいとうパンチ!」

「でんこうせっかで迎え撃て!」

 

互いに接近し攻撃を繰り出すニューラとロコン。しかし体全体を叩きつけるロコンの方に分があったようで、ニューラは後退させられる。ほのおタイプのロコンには、こおりタイプの技による大きなダメージは見られない。

 

「ひのこだ!」

「コォン!」

「きりさく!」

「ニュ!ニュー、ラ!」

 

ロコンの吐き出した炎の塊を、ニューラは鋭い爪を使い切り裂いた。しかし相性の悪さは如何ともし難いのか、少しばかり顔をしかめている。

 

「素早い動きで撹乱しろ」

「ニュラ!」

 

ロコンの周りを走り出すニューラ。その素早さに、ロコンは戸惑い、右へ左へと顔を行き来させる。

 

「ロコン、落ち着け。チャンスは必ずある」

「そのままあくのはどう」

 

 

ロコンの正面で止まったニューラは、両手に集中させていたエネルギーをロコンにぶつける。大きく仰け反り、倒れるロコン。しかしなんとか立ち上がる。

 

「大丈夫か、ロコン?」

「コォン」

「ニューラ、もう一度撹乱しろ」

 

再び走り出すニューラ。今のロコンでは、そのスピードに追いつくのは難しそうだ。

 

「そうだ!ロコン、自分の周りにほのおのうず!」

「何だと?」

 

全くわけのわからない指示にグラジオが驚く。一方ロコンはサトシの言うように、自身の周囲を炎で覆い隠す。ニューラも驚いているものの、グラジオの指示通りに、ロコンとほのおのうずの周りを走り様子を伺う。手を出そうにも、下手なことをしては自分がダメージを負うことになる。そう考え、様子見を決め込んでいたのがまずかった。

 

「ロコン、はじけるほのおを真上に!」

「何!?ニューラ!」

 

ほのおのうずの内側で、小さな火の塊が弾ける。それによってほのおのうずも弾け、周りに火の粉が降り注ぐ。攻撃の機会を伺うため、あまり離れずにいたニューラにも炎が降り、動きが止まってしまう。

 

「ロコン、ほのおのうず!」

「くっ」

 

続けさまに放たれたほのおのうずが、今度はニューラを内側に閉じ込める。これでもう素早さに惑わされることもない。

 

「行っけぇ、ロコン!ひのこだ!」

「コォン!」

 

打ち出された炎は、ほのおのうずを突き破り、今度こそ命中した。その衝撃で後ろに弾かれたにニューラはほのおのうずにもあたり、さらなるダメージを受けた。

 

グラジオの足元で止まったニューラは目を回し、戦闘不能になっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ロコン強くなったね〜」

「あんな風に技を繋げるなんて」

「サトシらしい」

 

これで互いに一勝ずつ。次の三体目のバトルで勝敗が決まる。

 

「行くぜ、ゲッコウガ!」

「コウッ!」

 

「来ました、ゲッコウガ」

「ならやっぱりお兄さんはルガルガンかな?」

 

サトシ(と隠れて見ているクラスメートたち)の期待するような目を向けられながら、グラジオは一つのボールを手に取る。それを見た時に、サトシは首を傾げる。確かルガルガンが入っていたのはハイパーボールのはず、だがあれは違う。別のポケモンが出るのだろうか。

 

「行くぞ、ヌル!」

 

 

 

投げられたボールから飛び出したのは、サトシが見たことがないポケモンだった。

 

 

四足歩行していながらも、前脚は昆虫の、後脚はトカゲのそれにも見える。尻尾はまるで魚の尾びれで、頭にはトサカのようなものが見える。しかし何よりも異様なのは、その頭部だ。完全に隠すほどの兜のような仮面を被ったそのポケモンは、今までに見たどんなポケモンとも異なって見える。

 

『???データなし、あのポケモンについてのデータが、僕の中にないロト!』

「えっ、じゃあ、あのポケモンは一体?」

 

少し離れて見ていたクラスメートたちも、声を抑えながらではあるが、驚愕していた。ルガルガンが来ると思いきや、全く見たことのないポケモンが登場したのだから。

 

「何何、あのポケモン?」

「あんなポケモン見たことないよ」

「リーリエ、知ってる?」

「いえ、わたくしが読んだどの本にも、あのポケモンらしい記述はありませんでした……」

 

答えるリーリエの表情は硬い。彼女は戸惑っていた。知らない、聞いたことも見たこともない。そのはずだというのに、何故知っている気がするのだろうか。

 

「来い」

「まぁ、どんなポケモンかは、バトルすればわかるな。ゲッコウガ、いあいぎり!」

「コウッ、ガ!」

 

飛び上がり、手に握った光の刃を振り下ろすゲッコウガ。しかしグラジオも、ヌルと呼ばれたポケモンも動く気配がない。ヌルの頭に、刃が激突する。

 

 

 

「なっ!?」

 

声をあげたのは誰だったか。サトシとゲッコウガの瞳が驚愕で見開かれる。振り下ろされた刃を受けたというのに、ヌルは動じることなく、ゲッコウガを見据えているのだ。

 

「その程度では、ヌルの拘束は解けないな。ブレイククロー!」

 

驚きで動きが止まったゲッコウガの腹部に、前脚による攻撃が炸裂する。怯んだゲッコウガにヌルの追撃、シザークロスが炸裂する。

 

「ドラゴンクロー」

「つばめがえし!」

 

更に攻撃を加えようとするヌルだったが、ゲッコウガのつばめがえしで前脚を弾かれ、逆に強烈な蹴りを二発食らってしまう。頭の仮面が重いのか、素早さでは圧倒的にゲッコウガが勝るようだ。

 

「みずしゅりけん!」

「トライアタック」

 

両手を使い投げられた二つのみずしゅりけんと三種類のタイプの複合技がぶつかり合う。

 

威力は互角のようで、ゲッコウガとヌルは互いのことを見据えている。

 

ここからが本番、サトシがゲッコウガとともに全力モードに突入しようとしたその時、

 

『!!!サトシ、もう門限の時間ロト!早く帰らないとまずいロト!』

「ええっ!?もうそんな時間!?」

 

なんとも空気の読めていないタイミングで、ロトム時報が発動してしまう。時間を確認すると確かに、既にだいぶん遅い時間になってしまっている。

 

 

隠れている彼女たちも、

 

「やっば、あたしも帰らなきゃ!」

「私も」

「わぁっ、やばいやばいやばい!」

 

「みなさん、静かに!サトシたちに気づかれますよ、って……あ」

 

わちゃわちゃしていた彼らのことを、グラジオとサトシがしっかりと見ていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「みんな!?」

「リーリエ!?」

 

「あ、サトシ、お兄様……こ、これはその」

 

「もしかして、ずっと見てたのか?」

「あの……はい」

「ごめんね〜、なんだか気になっちゃって」

「ごめん」

「いや、別に怒ってないけどさ」

 

怒った様子も、呆れた様子もないサトシ。サトシとしては別にみんながいるのは構わないのだ。ただ、グラジオがリーリエがいると戦いにくいと言っていたから言わなかっただけで。

 

ため息をつき、ヌルをボールに戻すグラジオ。

 

「サトシ。残念だが、今日はここまでだな」

「そうみたいだな」

「次こそは、全力でお前と戦いたい。俺も、ヌルもな」

「わかった。じゃあまた今度だな」

「じゃあな、リーリエ」

「えっ、あのっ!お兄様!?」

 

リーリエの引き止める声をスルーして、グラジオはブラッキーとともに何処かへと行ってしまう。結局、またバトルは中断となってしまったが、サトシはなかなか満足していた。

 

「じゃあみんな、帰ろうぜ」

 

 

 

帰り道、グラジオについて話していたサトシとリーリエの話題は、いつの間にかヌルと呼ばれたポケモンのことについてに変わっていた。

 

「ヌル……あのポケモンは、一体?」

「わからない。でも、あれは全力じゃないことだけはわかった」

「全力ではない……ですか?」

「ああ」

 

サトシはグラジオの言葉を思い出す。

 

『次こそは、全力でお前と戦いたい。俺も、ヌルもな』

 

それはつまり、ヌルにはまだ上があるということだろう。秘密はあの拘束具になっている仮面にありそうだ。今回のバトルでは、自分たちの全力を見せることはできなかったが、またいずれ戦う時には、お互いの全力を見せ合いたい。そう強く願うサトシだった。

 




今回は決着をつけません、すみません

それなりにグラジオを強いライバルとして描きたいと思ったら……

アランやショータと違って、完全に同格スタートのライバルって感じで描くつもりなので

サトシゲッコウガvsヌルは、またいずれ


ちなみに鼻歌はOKのサビ部分ですね笑


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熱闘!ポケベース

無理だ……あの作画を言葉で表すのは無理だったよ……

所々雑になってしまったのですが、堪忍ですよ〜( ;∀;)

あと、微妙に手を加えたところとかあるので、ご容赦


ポケベースというスポーツを知っているだろうか。ポケモンと人間とが一緒になって野球をするという、なんとも迫力とスリルのあるスポーツだ。ポケモンの特徴をうまく生かした戦法、トレーナーとパートナーだけでなく、チーム全体で見せる協力プレーなど、ポケモンバトルとは全く異なるものの、サトシたちの世界では人気が高いものだ。

 

昨晩、コイキングスとエレブーズの試合を見たサトシは、白熱の試合を見れて大いに盛り上がっていた。バトルは異なる戦略に作戦。何より人間とポケモンが共に参加するという時点で、サトシはやって見たいと感じていた。もっとも、サトシだけでなく、それはクラスメート全員がそうだったようで、その日の教室は試合の話で持ちきりだった。

 

 

「昨日の試合、すごい盛り上がったな」

「ええ。あんな風に、ポケモンと人間とが協力し合いながら競い合う。ポケモンバトルとはまた別の魅力がありますね」

「あの逆転ホームランを決めたオルオル選手って、アローラ地方出身なんだって!」

「地元の人が活躍してると、なんだか僕まで嬉しくなっちゃうよ」

「あのカビゴンも、なかなか面白い奴だったな。あぁ、なんだか俺もポケベース、やって見たくなるなぁ」

 

丁度その時チャイムが鳴り、ククイ博士が教室に入って来る。すぐさま席に着くサトシたちはしっかりと挨拶をする。何やらククイ博士が面白そうな表情をしているのが気になるが、授業の時間となり、サトシたちもなんとなく姿勢を正した。

 

「アローラ。みんな、昨日のポケベースは見たか?」

「「「「「「はい」」」」」」

「その様子じゃ、みんなも大盛り上がりだったみたいだな。そんなみんなのために、今日は特別な課外授業を用意した」

「課外授業ですか?」

「どんなことするんですか?」

「それじゃあ、特別講師を紹介しよう。入って来ていいぞ」

 

博士が入り口へ声をかける。呼ばれて現れたその人を見て、サトシたちは驚きの声をあげた。赤いキャップに、ユニホームを着たその人と、その後ろにいる体の大きいポケモン。彼らはまさしく、今さっきまでサトシたちが噂をしていた人たちだったのだから。

 

「アローラ、みんな。ポケベースチーム、コイキングス所属のオルオルだ。こっちは相棒のカビゴン。よろしく」

「「「「「「うっそぉー!?」」」」」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

パートナーを伴って現れたオルオル選手。なんとこのポケモンスクールの卒業生だというのだから驚きだ。ククイ博士とオーキド校長が、せっかくだからと呼んでくれたようだ。しかしながら、なぜ校長のポケモンギャグまで覚えてしまったのやら……

 

 

数分後、しっかりと着替えたサトシたちは、スクールの校庭へと集合していた。オルオル選手による、ポケベース特別講座の始まりである。

 

「いいかい。ポケベースで必要な動きは四つだけ。投げる、取る、打つ、そして走る。走ることはもうみんなは日頃から機会はあるかもしれないけど、残りの三つはどうかな?」

「俺、ポケモンをゲットするときとかに、モンスターボールを投げてますけど」

「そうだね。そういう機会が多い子は既に投げやすいフォームが出来上がってるかもしれない。じゃあ他の子はそのフォームを覚えるところからだね。その後は打つ時のフォーム、取る時のコツ。練習することはたくさんあるけど、みんな、頑張っていこう」

「「「「「「はい!」」」」」」

 

オルオル選手の指導の下、サトシたちのポケベース体験が始まった。投げることに関しては、さすがのサトシ。オルオル選手も認める程の精度、速さ、フォームだったため、リーリエとマーマネのやや運動苦手組の指導を任されることになる。

 

何やらリーリエにフォームを教えるときに視線を感じたサトシだったが……本人は特に気にすることもなく、約2名若干不満そうではあった。

 

ポケモン達もトレーナーと一緒に出来るスポーツに、大いに盛り上がり、それぞれの特徴を活かしたトレーニングをしている。

 

 

そして……

 

「それでは、これから二チームに別れて、模擬試合をやってみよう。ルールはスリーベース式、サトシ君とカキ君とでチーム分けをして、試合をしてみよう」

 

ついに念願のポケベースの試合を始めることになるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

プレイボール、実況をロトム、解説にククイ博士とオルオル選手の二人を迎え、サトシチームとカキチームの試合が始まろうとしている。

 

ちなみにチームの別れかたは、

 

サトシ

ピカチュウ

スイレン

アシマリ

マーマネ

トゲデマル

 

カキ

バクガメス

マオ

アママイコ

リーリエ

シロン

 

というふうになっている。ちなみに他のポケモン達は副審を務めたり、応援に徹するようだ。

 

一番バッターのサトシがボックスに立ち、ピッチャーのカキを見据える。初っ端から両チームのエース対決である。

 

「行くぞ、サトシ。勝負だ!」

「望むところだぜ、カキ!」

 

火花を散らす両者。カキが大きく振りかぶり、第1球を投げる体勢に入る。

 

「ダイナミック、フルフレイム、ボール!」

 

自身の得意とするZ技をアレンジした掛け声とともに、投げられるボールは、キャッチャーのバクガメスに向って行く。

 

ボール目掛けてバットを全力で振るサトシ。しかしそのバットは空を切り、ボールはミットに吸い込まれた。

 

「ストラーイク!」

 

審判役のストライクの声が響く。改めてバットを構え直すサトシ。続く第二球はサトシの顔と同じ高さを通過する。完全なボールにサトシは前を見つめ直す……と

 

「ス、スス、ス、ストラーイク!」

 

後ろからストライクの声。

 

『どう見てもボールロト!』

「まぁ、ストライクだからな」

「ストライクですしね」

 

ずっコケるサトシ達。どこか申し訳なさそうに頭をかくストライクを見ていると、流石に責める気にもなれず、サトシは笑いながら試合続行を促した。その目が自信ありげなものに変わったことに、相棒を除き、誰一人として気づくこともなかったが。

 

「さぁ来い、カキ!」

「よし、行くぞ!」

 

再び投げられるボール。少しカーブ気味なその打球はしかし、ミットに収まることはなかった。

 

キィン

 

やや高めの衝撃音とともに宙に上がるボール、走り出すサトシ。やや高いループを描きながらボールは落ち始める。その落下地点でリーリエが待ち構える。

 

「この打球の弧の描き方からみて、この位置で確実に取れるはずです!で、ですが……やっぱりちょっと怖いです!」

 

最初は自信満々なドヤ顔だったのに、最後は頭を抱え、丸くなってしまうリーリエ。ボールはグローブにあたり跳ね上がる。未だうずくまったままのリーリエでは取れない、そう思いサトシは一塁のベースを踏んだ。が、

 

「コォン」

「ナイスだ、シロン!」

「ありがとう、シロン」

 

パートナーを助けるべく、シロンがすぐ近くまで接近していたのだ。グローブで跳ね上がったボールが地面につくより先に、シロンがボールをキャッチした。チームメートを見事にカバーした上でのアウト。シロンはポケベースのセンスもあるようだ。

 

「やるなぁ、シロン。よぉし、次こそは決めてやる!次はピカチュウだよな?行って来い!」

「ピッカァ!」

 

 

そこからは白熱した試合模様となりだした。尻尾や頭の葉をを器用に操りボールを飛ばすピカチュウにアママイコ、バルーンを活用するアシマリ、転がるスピードが脅威なトゲデマル、ホームベースを鉄壁の守備で守るバクガメス。シロン以外のポケモン達も大活躍である。

 

もちろんトレーナー達も負けていられないと張り切っている。いつもは走るのが嫌いなマーマネも、全力で走っている……速度はお察しください。

 

意外や意外、スイレンにはポケベースのセンスがあるようで、サトシチームのエースとして大活躍している。打ってよし、守ってよし。思わずオルオル選手もびっくりである。

 

「やるなぁスイレン、スッゲェ楽しそう」

「うん。ポケベース、楽しい!」

「何かコツとかあるないかな?もっとちゃんと打ちたいんだけど、」

「うーん、私は釣りの時をイメージしてるけど……サトシも何か得意なこと、イメージしたらいいと思う」

「得意なこと?」

「そう。その動きとか、仕草とか。イメージしたら、きっと出来る」

「そうなのか?」

 

コツを教えてもらおうとスイレンに話しかけるサトシ。自然と距離が近くなる二人を見て、苦笑しているマーマネに、何やらさらに張り切っているのが二人いるようだ。

 

「サトシ君……モテモテですね」

「本人は自覚がないのが、またなんともね」

「将来有望なトレーナーみたいですね。どんな大人になるのか、楽しみです」

「あぁ、俺もだ」

 

そして9回の表、スイレンの教えを活かしたサトシが3塁に辿り着くものの、その後のピカチュウとアシマリがアウトになってしまう。点差は一点。ここで逆転しなければならないというプレッシャーの中、スイレンが見事にやってのけたのだった。

 

「必殺、一本釣り打法!」

 

大きく振り抜かれたバットは、正確にカキの投げたボールを捉え、気持ちのいい音とともにボールが飛ばされる。スクールの外にまで届いてしまったほどの場外ホームラン。落ち込むカキをよそに、サトシとスイレンがホームベースを踏む。

 

「すごいぜスイレン!」

「イェーイ」

 

飛び上がってハイタッチを交わす二人。そこへマーマネ達も混じり、気合いを入れ直す。一方カキチームの人間組は皆悔しがっている…理由は微妙に異なるが。

 

渾身の一球をあっさりと打たれたことに落ち込むカキに、同じチームに入れなかったことを残念がる女子二人。カキの肩に手をおき、ドンマイとでも言いたそうなバクガメスに、首をかしげるシロンとアママイコ。もう色々とバラバラである。

 

結局その後すぐにチェンジすることになったものの、サトシチームは相手のチームを完全に抑え、結果として勝つことができたのだった。最後に一礼をし、特別課外授業のポケベースは終わった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あ〜っ!?オルオル様!?」

 

試合を終えたサトシ達が片付けようかと思っていたところ、突然どこかで聞いたことのある声が響く。ダッシュで近づいてくる赤髪の女性、その後ろに男とニャースとソーナンス……って

 

「ロケット団!?」

「ジャリボーイ!?」

「またポケモン達を狙いに来たのか?」

「へん、お子様は引っ込んでなさい。今日はあんたに用はないのよ!」

 

流石にこの発言には驚くサトシ達。あれだけピカチュウをしつこく狙って来ていたというのに、今日はまるで関心がなさそうだ。むしろ、ムサシは目をハートにしてオルオル選手のことしか考えていなさそうだ。

 

「オルオル様、よ、良かったら、サインを」

「待ってよ、だったら僕も欲しい!」

「あたしも!」

「何よあんた達、ガキは引っ込んでなさい!」

 

火花を散らすムサシとマオ、マーマネ。苦笑してしまうサトシは、コジロウと目が合った。

 

『大変なことになって来たな』

『そう思うなら止めたらどうだ?』

『無理無理。こうなったムサシはテコでも動かないからなぁ』

 

アイコンタクトだけで成立する会話。長年の付き合いの賜物とも言える。必要のない争いはしない、それが基本的なサトシとロケット団の今の関係だ。世界の危機を救うために何度も協力し合ったこともあり、ポケモンを盗む行動に出ない時には特に敵対しなくなって来ている。が、今回は、

 

「それなら、ポケベースで決めたらどうだい?勝ったチームに僕のサインをあげよう」

 

と、オルオル選手の提案を受け、チームポケモンスクールvs Team Rocketの試合が行われることになったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

オルオル選手も加わり、ポケモンスクールチーム圧倒的有利かと思われていたこの試合、意外な事に接戦だった。

 

ロケット団も、そのポケモン達も、なかなかのファインプレーを連発する。特に驚いたのはニャースのピッチングだ。オルオル選手曰く、

 

『あれなら十分、試合で通用するなぁ』

 

驚異的なスピードと、正確性。サトシ達も今日、かなり練習したが、ニャースのそれはそれ以上のものだった。

 

 

 

特にズルや妨害もなく、正々堂々とした試合展開に、サトシ達も、ロケット団達も熱くなっている。もうポケモンを盗み取り返す関係にあることも忘れ、全力で目の前の相手に勝ちたいという気持ちが表れている。

 

 

 

ついに9回の裏、ポケモンスクールチームの攻撃。既にアウトが二つで点差は1点。このタイミングでバッターボックスに入るのはサトシだ。

 

「おミャーを打ち取って、ゲームセットニャ!」

「そうはいかないぜ、ニャース!」

 

バットを構えようとするサトシ、その目がゲッコウガのそれと合う。サトシの脳裏に、自分が全力で腕を振るった時のイメージが思い浮かぶ。

 

「得意なことをイメージ……よしっ」

 

構えるサトシ。その構えは今までに使っていたものと明らかに違うものになっている。立つ位置を左右変えたものの、握りはそのままだ。

 

「何してるんだ、あいつ?」

「急に構えを変えるなんて……」

「大丈夫」

「スイレン?何で大丈夫ってわかるの?」

「サトシ、ちゃんとイメージできてる。だから打てる」

 

皆が固唾を呑んで見守る中、ニャースの全力投球が投げられる。

 

ボールが近づく中、サトシがイメージしたのは両手で背中の獲物を振るうゲッコウガの姿。そのイメージが重なり、サトシが動いた。

 

「行くぜ!みずしゅりけん斬り!」

 

刀を振り抜くような動作でバットを振るうサトシ。カロスリーグでリザードン相手にゲッコウガがしたように、チャンスを逃さずに振るわれた一撃。それは正確にボールを捉え、ニャースのすぐ横を通り抜けた。

 

「ニャ、ニャンですとぉ〜!?」

 

必死にボールにダイブするコジロウ。しかしその指先ギリギリの所をボールは通り過ぎる。何とかミミッキュがボールを取って三塁に投げるものの、サトシは既に到着していた。

 

「サトシ、やるぅ」

「イメージ作戦、大成功!」

 

「今のはまぐれニャ。それに次は確実にアウトにできるニャ!」

 

ニヤリと笑みを浮かべるニャースの前、カビゴンがのっそりとバッターボックスに立った。ここまで活躍らしい活躍を見せていないカビゴン。少しばかり不安そうなポケモンスクールチーム。

 

「大丈夫かな?」

「頼むぞ、カビゴン」

「大丈夫だよ。カビゴンはやる時はやる子だからね」

「えぇ〜、そうは見えないけど……」

 

欠伸をするカビゴンからは、とてもではないがやる気が感じられない。しかしそれを見ながらも、自信満々にカビゴンを見るオルオル選手、とサトシ。絶対にいける!そう信じている目だ。

 

「カビゴンの本気、見せてくれよ」

 

 

ニャースの投げたボールがカビゴンのバットに当たる。ゴロではあるものの、カウントとしては有効だ。駆け出したサトシがホームベースに迫る中、カビゴンは動く気配がない。

 

「走って」「カビゴン」「頼む!」

「走ってください!」「お願い!」

 

「カビゴン!走れぇ!」

 

サトシ達の声援を受けたカビゴンがバットを手放す。それを見たオルオル選手が左の袖をまくる。そこにはZリングが巻かれている。

 

「本気を出すぞ、カビゴン!」

 

ノーマルタイプのZ技のポーズをとるオルオル選手とカビゴン。ロケット団が何やらモタモタしている間に、サトシがホームベースに戻り、カビゴンが姿勢を低くした。

 

「ほんきをだすこうげき!」

 

オルオル選手の指示が出る。それを受けたカビゴンは、超速で走った。

 

 

「……速っ!?」

 

 

それはまるで風のようだった。砂埃をあげながら、カビゴンはあっという間に塁を回って、ホームベースに向かっていた。ニャースがそれを阻止しようと、ソーナンスにボールを投げる。そこへカビゴンが飛び上がり、ダイブをする。大きな砂煙が立ち上がり、視界を覆う。

 

誰もが見守る中、煙が晴れると、ボールが地面に落ちているのが見えた。カビゴンの体はホームベースの上。それはつまり、

 

「セーフ!」

 

審判のククイ博士が判定を下す。カビゴンのランニングホームランの得点が入る。それはつまり、ポケモンスクールチームに2点入ったわけで……

 

「「「「「勝った!」」」」」

 

白熱した試合は、ポケモンスクールチームの勝利という形で、幕を閉じた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

泣き崩れるTeam Rocket。甲子園に来た学生の如く、砂を集めるニャース達。一人、座り込んでいるムサシの前に、そっとサインが差し出される。

 

「こ、これは?」

「約束のサインだよ」

「で、でも、あたし達負けちゃったのに」

「ナイスゲームだったよ。そのお礼さ」

 

流石プロは懐が大きい。ロケット団のことを詳しく知らないこともあるかもしれないが、ファンをちゃんと大切にしている。それに、今回は自分たちも楽しかったから、ロケット団にいいことがあってもいいかな?なんて、そんな気持ちでサトシ達はムサシの喜ぶ様子を見ていた……

 

と、突然ロケット団の姿が消える。一陣の風とともに颯爽と彼らをさらっていく後ろ姿。またあのキテルグマのようだ。哀れムサシ、サインを受け取る事叶わずに、さっさと運ばれて行ってしまった。

 

「……なんだったんだろう、今の」

「オルオル選手、そのサイン、ムサシへって書いてもらってもいいですか?」

「へっ?いいけど、どうするの?」

「今度会ったときにでも、渡しておきますよ。長い付き合いなので」

「そうかい?なら、お願いしようかな」

 

ムサシ宛のサインを受け取るサトシ。なんだかんだ言って、完全に嫌いになることができないのだろう。サトシとロケット団の関係について、詳しく知りたくなったクラスメート達。またいずれ、その話を聞くことになるかもしれない。とりあえず、今は、

 

「みんなで片付けるか」

「「「「「おー」」」」」

 

 

ポケモンスクール特別授業でポケベースを体験したサトシ達。スポーツを通じ、ロケット団とも友情が芽生え始めたか、それはまだわからない。

 

ただ、その日の彼らは皆清々しい気持ちで終えることができた。

 

 

 

ムサシを除き……ね

 

 

「そういえば、サトシはカビゴンの走りにそんなに驚いてなかったけど、どうして?」

「あぁ、俺もカビゴンをゲットしたことがあるんだ。あいつ、バトルも強いし、バタフライとかするし。だから、カビゴンなら、やる時はやってくれるって思ってたんだ」

「……バタフライ?」

「あの泳ぎの?」

「?あぁ、そうだけど」

「サトシくん、その話を詳しく!」

 

……続く




次はキャンプ回だな!

サトシ大活躍の時……

ライチさんとの絡みを描くのが今から楽しみ


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ネマシュの森

一話書くのにこんなにかかったっけ?

妹にポケモングッズプレゼントされて舞い上がってます笑

今回の変更点は僅かなので、飛ばすのも自由です、すみません
というか、スイレンが文字で表現しにくすぎる!


森の中に響く鼻歌に、いくつかの笑い声。今回、サトシ達は森へとキャンプにやってきていた。久しぶりのこの感じに、サトシはウキウキ気分、朝からずっとご機嫌だ。

 

手慣れた様子でテントを組み立てるサトシと、完成図を見ながら指示を出すマーマネ。ガールズが料理の準備をし、カキは火の用意をする。

 

カキ達にとっても、保護者がいない中でのキャンプは初めてのこと、ワクワクが止まらないようで、みんなテンションが高めだ。

 

「よしっ、完成!」

『お見事ロト!』

「さっすがサトシ。手慣れてる〜」

「へへっ、まぁな。テントもいろんなのを使ったことあるし、最初の頃はテントもなくて、そのまま寝袋でってのもあったなぁ」

「えぇ!?よくそれで寝れたね」

「でも、星を眺めながら寝るっていうのも、結構好きだったかな。カキ、そっちはどうだ?」

 

「ああ、こっちもオッケーだ」

「あと少しでカレーもできるから、ちょっと待っててね」

 

盛り上がるサトシ達。ポケモン達も自然の中ではしゃぐ中、一人だけなぜか俯いている。この森に来てから、やけに静かなスイレン。いや、いつも他と比べると喋らない方ではあるが、今は特にそうだ。

 

「スイレン、どうかしたの?」

「ねぇみんな、知ってる?」

「何を?」

 

そっと顔を上げるスイレン。下から懐中電灯で顔を照らし、見えた表情に、サトシ達は思わず後ずさる。

 

「この森の、怖〜いお話」

 

いや、怖いのはお前だろ……的なツッコミをすんでのところで飲み込むサトシ達。ゴクリと喉を鳴らし、スイレンに続きを促す。

 

「この森に来た人はみんな、何故か気づけば寝てしまうの。そして目覚めると……」

「「「「「め、目覚めると?」」」」」

 

「〜〜〜〜〜〜〜!?」

 

突然声にならない悲鳴をあげるスイレンに、サトシ達は声をあげて驚き、飛び上がる。迫真の演技をするスイレンの表情も合わさって、もう完全にホラー映画のワンシーンだ。

 

「って、痩せちゃうの。ガリガリのガッリガリに」

 

「も、もー、スイレンってば」

「た、ただの噂だろ?」

 

どうやらスイレンには語り手としての才能があるようだ。その証拠にマオとリーリエ、マーマネは怯えた表情をしている。カキとサトシも、笑顔ではあるが、引き攣っていることからみて、驚かされたのは間違いない。

 

その時、彼らの後ろの茂みから、何かが動く音が聞こえた。まさか、噂の?慌てて飛び退くサトシ達。カキにしがみつくマーマネ。サトシにしがみつくガールズ……

 

明らかにバランスが悪いが、そんなことは気にしていられず、身構えるサトシ達。茂みから姿を現したのは……

 

「アン!」

「な、なんだイワンコかぁ」

「びっくりしちゃいました」

 

胸をなでおろすサトシ達。丁度カレーが完成したところだったため、彼らは昼食をとることにした。

 

少し離れた場所から、彼らを見ている影には気づかずに……

 

 

 

「それにしても、結構な量作ったな」

「あの、ちゃんと考えて人数分のお米を炊こうと思ったのですが……多くやり過ぎてしまって」

「サトシを基準に炊いちゃったみたい。だから、夜もカレーだね」

「ああ、成る程」

「でも、ちゃんとキャンプの本は読んで来ましたので!」

「?もしかしてリーリエ、キャンプ初めてなのか?」

「あの荷物見ればわからなかったの?初心者感すごく出てるでしょ」

「多かったでしょうか?」

「何が入ってるんだ?」

「着替えと、タオルと、パジャマと、ゴールドスプレーと、きずぐすり。あと、予備の着替えと、予備のタオルと、予備のパジャマと、予備のゴールドスプレーと、予備のきずぐすり。それから予備の予備の……」

 

用意周到なのはいいが、流石に多すぎである。何をそこまで持っていくのか、出発前から疑問に思っていたサトシだったが、これで謎は解けた。

 

「まぁ、とりあえず!昼食取ったら、目一杯遊ぼう!」

「「「「「おー!」」」」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼食を食べ、元気一杯のサトシ一行。各々が森の中、川辺などで、思い思いの時間を過ごしている。サトシはというと、

 

「今日こそ負けないからな」

「コウッ!」

 

「よーい、スタート!」

 

走り出すサトシとゲッコウガ。カロス地方でも度々特訓として行っていたこのレース。天然の障害物をかわしながら、競争する二人。流石と言わざるを得ないスピードで走るゲッコウガ。しかしそれとほぼ同速で走っているサトシはもう人間的にどうなのだろうか。なんてことを思いながら審判を務めるカキ。

 

二人が徐々に近づいてくる。かなりのデットヒートレースを繰り広げながら、サトシとゲッコウガはラストスパートをかける。最終的に、カキの前を先に通過したのは……

 

「勝者、ゲッコウガ!」

「コウッガ」

「はぁはぁはぁ、まぁた負けたぁ〜」

 

大きく肩で息をしながら座り込むサトシ。疲労困ぱいといった表情を見せているが、呼吸を整えると、すぐさま笑顔になる。

 

「やっぱり、まだまだお前には勝てないかぁ。けど、次は負けないからな」

「コウ」

「ゲッコウガにあれだけ追い縋れるんだから、もう十分とんでも無いと思うけどな」

 

カキの手を借りて立ち上がるサトシ。そろそろ集合時間になる。一旦キャンプに戻ることにした二人だったが、着いてみると、まだ誰もいない。

 

「あれ?みんな、まだ戻ってないのか?」

「みたいだな」

「俺ちょっとその辺見てくる。カキはここで誰か来るかもしれないから、待っててくれ」

「わかった」

 

ゲッコウガを連れ、サトシはみんなを探しに森へと向かった。

 

 

 

それを見送るカキの背後で何かの気配がした。慌てて振り返るカキは………………

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「コウッ?コウガ!」

「誰かいたのか!?って、ピカチュウ、モクロー!」

 

森の中へとクラスメートたちを探しに来たサトシとゲッコウガ。最初に見つかったのは、地面に倒れているピカチュウとモクローだった。慌てて駆け寄るサトシ。体を軽く揺すりながら声をかけるサトシ。

 

「ピカチュウ!モクロー!大丈夫か!?……って、ん?」

 

耳を近づけるサトシ。よくよく聞いてみると、二体からは規則正しい呼吸音が聞こえる。つまり、これは……

 

「……寝てるだけ?」

 

その通りだったようで、すぐに二体は目を覚ました。その時に二体揃ってお腹がなる。余程遊んで疲れたのだろうか。取り敢えず一安心するサトシ。と、またゲッコウガの声がする。また別の誰かを見つけたらしい。

 

「マーマネ!?」

「あれ……サトシ?僕は……?」

 

駆けつけてみると、今度はマーマネが持参した椅子からずり落ちた状態で眠っていた。目を覚ましたマーマネもまた腹を鳴らす。本を読んでいただけで、こんなにすぐお腹が空くものだろうか?疑問符を浮かべるサトシ。何かがおかしい……そう気付き始めていた。

 

ガサリ、と茂みが動く。サトシたちがそちらへ視線を向ける。何かが動いているのが見えた、そう思ったら…………

 

 

 

 

 

目を覚ますと、既に夕方みたいだ。ピカチュウとモクローが心配そうに顔を覗き込んでいる。でも、自分の知ってる二体とは明らかに姿が違った。いや、ピカチュウはともかく、あのモクローが、こんなにガリガリなはずがない。

 

「ピカチュウ……モクロー……あれ?」

 

なんだか声がおかしい。よく見ると自分の体もかなり痩せている。かなりのカロリーを何者かに持っていかれたようだ。立ち上がろうとしても、体に力が入らない。

 

「なんだ、これ?」

 

辺りを見渡すと、マーマネらしき人を助けているゲッコウガが見える。らしき、というのも仕方がない。あのマーマネが、サトシと同じ、いやそれ以上にガリガリになっているのだから。ゲッコウガはもともと痩せていたからか、あまり大きな変化がないが、動きの鈍いところからして、恐らく彼もエネルギーを奪われたのだろう。

 

「サ、サトシ」

「大丈夫か、マーマネ?」

「お、お腹、空いたぁ」

 

お腹を鳴らすマーマネ。いや、マーマネだけではなく、サトシ自身のお腹もなった。取り敢えずキャンプへ戻るべく、サトシとゲッコウガはマーマネを支え、キャンプへと向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

キャンプに戻ると、みんな揃っているようだ。そう、みんな、揃って……

 

「サトシ、マーマネ!二人もですか!?」

 

何故か無事なリーリエを除いて、他のみんな、ポケモンたちもガリガリだった。ロトムは見た目こそ変わっていないが、エネルギー量がかなり減っているらしい。一体何が起きたのか……

 

「取り敢えず……リーリエ、ごめん。カレー準備してくれる?」

「あ、はい!」

 

エネルギー不足で動くことすら困難なため、唯一無事なリーリエに完全に任せきりになってしまうが、状況が状況だけに、リーリエも特に文句はなく、手早く準備をしてくれている。

 

 

暫くして準備ができたカレーやポケモンフーズを出されたサトシたちは、ものすごい勢いで食べ始めた。いつもは行儀のいいアママイコやシロン、ゲッコウガまでもが、顔にフーズを付ける勢いで食べている。

 

「あの、お代わりありますけど……」

「「「「「おかわり!」」」」」

「は、はい!」

 

驚いているリーリエだったが、完全に配膳係になっている。漸く満腹になるサトシたち。しかし、まだカレーがあることから考えると、果たしてリーリエはどういう基準でサトシを見ていたのかが気になってくる。

 

 

「取り敢えず、状況を整理しない?」

「そうだな。何かしら対策を考えとかないと、色々と面倒かもしれないな」

 

火を囲み、話し合うサトシたち。どうやらみんな、気づいたら眠っていて、気づいたらお腹が空いていたらしい。唯一の例外はリーリエだが、彼女は眠らされるところまでは同じのようだ。

 

『ボクの予想では、犯人はリーリエロト!』

「ええっ!?わたくしですか!?」

『そもそも、一人だけお腹が空かないことからして怪しいロト』

「リーリエが犯人なわけないでしょ」

『確かめないとわからないロト!』

「まぁまぁ、マオもロトムも落ち着けって。ロトム、俺もマオに賛成。リーリエに俺たちを眠らせることも、お腹を空かせることも、できないと思う」

『で、でも、それじゃあ一体誰が犯人ロト!?』

 

「本当だったんだ……」

 

ああでもない、こうでもないとサトシたちが話し合う中、一人黙り込んでいたスイレンがポツリと呟く。何やら嫌な予感がするサトシたちだったが、取り敢えず続きを促して見る。

 

「な、何が?」

「あの噂……」

「噂って、まさか……」

「そう。この森に伝わる、怖〜い噂」

 

スイレンのホラー顔パートスリーである。身構えてはいたものの、既に暗くなっていることもあり、昼間よりも断然迫力がある。嫌な汗が背中を流れる。

 

「た、ただの噂だろ?」

「でも、みんな寝てたし、お腹だって」

「いっぱい遊んだから疲れたんだよ。今日はもう遅いし、そろそろ「ネマシュ?」そうそう、寝ま、シュ?」

 

文の途中で止まるカキ。突然聞こえた声に、思わずサトシたちの動きも止まる。何やら可愛らしい声がカキの隣から出たような……

 

みんなの視線がそちらに向いたと思ったら、だんだんと意識が遠のいていく。なんだか小さなきのこと、光る何かが見えたような気が……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

突然顔に水をかけられ、サトシは目を覚ます。目の前にはゲッコウガ。どうやらみずしゅりけんを弾けさせたようだ。

 

「サンキュー、ゲッコウガ……みんなは?」

 

辺りを見渡すサトシ。みんな眠ってしまっているようだ。目をこすりながら起き上がるクラスメートたち。と、リーリエ以外のお腹がなる。

 

「また寝てた……」

「それに、また腹が」

「どうなってるの?」

「コウッ、コウガ!」

 

みんなが首をかしげる中、ゲッコウガが一箇所を指差す。そこにいたのは、小さな体に大きな目を持つ、きのこにも見えるポケモンだった。

 

「ネマシュ?」

「このポケモンは?」

『ボクにお任せロト!ネマシュ、はっこうポケモン。くさ・フェアリータイプ。頭から胞子を出し相手を眠らせ、根っこからエネルギーを吸い取る』

「エネルギーを?ってことは、このポケモンが?」

『ネマシュの光る胞子、そしてボクたちのエネルギー消耗。間違いないロト!』

「それなら、わたくしだけお腹が空いていないのも納得できます。わたくし、野生のポケモン避けに、ゴールドスプレーを使ってますから」

 

状況から見ても、犯人はネマシュで間違いはなさそうだ。だが、何故こんなにエネルギーを集めているのだろうか。

 

「どうする?」

「いや、どうするったってなぁ」

「俺に任せて。考えがあるから」

「えっ、ちょっと、サトシ!?」

 

ネマシュに近づくサトシ。怯えているのか、体を震わせるネマシュだったが、威嚇するようにサトシを見る。そんなネマシュに、サトシは優しく笑いかけ、手を差し出した。

 

「怖がらなくてもいいよ。おいで」

 

一瞬躊躇った後、ネマシュはサトシの腕を伝い、頭の上に登った。そのまま立ち上がるサトシ。その手にはいつの間に用意したのか、カレーが握られている。

 

「サ、サトシ?」

「何する気だ?」

 

「よしっ、いつでもいいぞ」

 

頭の上からエネルギーを吸収するネマシュ。少しずつサトシがやつれていく。が、すぐ様手に持ったカレーをかき込むサトシ。目の前の光景の意図がわからず、目が点になるマオたち。

 

「えーと……」

「何してるんだろう」

 

「あっ、わかった!サトシはネマシュにエネルギーを吸収された時に、カレーを食べることで、そのエネルギーを補充してるんだ!」

 

普通はそんなすぐにエネルギー変換はされないはずなのだが、サトシを見る限り、無事にその方法は成功しているように見える。目一杯吸収しようとするネマシュに、負けじとカレーを何杯もおかわりするサトシ。激しい攻防は続き、ついにはカレーが全て無くなっていた。

 

「やるなぁ、ネマシュ」

「ネ、マシュ」

 

並んで寝転ぶサトシとネマシュ。どちらも満腹になったようで、結果、勝負は引き分け……なのだろうか。しかしその両者とも、とても満足そうな顔をしている。サトシがそっと手を伸ばすと、ネマシュはその根を伸ばし、サトシの指に触れる。顔を見合わせて笑い合う両者は、もうすっかり仲良くなっていた。

 

「こんな触れ合い方があるのですね」

「いや、まぁ確かに仲良くなってるけど」

「こんな方法、あいつしか思いつかないだろ」

 

立ち上がるサトシ。その腕に乗り、楽しそうにはしゃいでいるネマシュ。サトシの腕を登り、肩までくると、サトシの頬に頬ずりする。くすぐったそうにサトシは笑った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

彼らがサトシに懐くネマシュを見ていると、森の方が明るく輝き始めた。まさか人魂!?一瞬身構えるサトシたちだが、よく見て見ると、違ったのだ。

 

そこにいたのはたくさんのネマシュたちだった。みんなで列になり、どこかへ向かっているようだ。サトシの腕に乗っていたネマシュもそれに気づき、慌てて後を追いかけた。

 

「どこに向かってるんだろう?」

「さぁ?でも、なんだかワクワクするぜ!」

 

サトシを先頭に、彼らはネマシュの群れを追って、森の奥へと進む。するとそこには、大きな木、その枝や幹に乗るたくさんのネマシュたちの姿があった。体を発酵させるネマシュたちは、まるで自然のデコレーション、大きな木を明るく照らし、彩っていた。

 

「綺麗……」

「こんなにたくさんのネマシュが……」

「見てください!」

 

一体、また一体と、ネマシュの体に変化が起こり始めた。体が大きくなり、手のようなものが形成されていく。

 

『マシェード、ネマシュの進化形。ネマシュと同じように、根からエネルギーを吸い取る。気に入った相手には、エネルギーを分け与えることもできる』

 

マシェードへと進化したネマシュたち。その輝きはさらに強くなり、それに呼応するかのように、木にも変化が起こり始める。枝にはどんどん葉が生い茂り、綺麗な花が咲いていく。

 

『これも、マシェードの力ロト?』

「そっか。この木は、きっとネマシュたちのお気に入りの場所なんだ」

「だからエネルギーが必要だったんだね」

 

その美しい光景に心奪われるサトシたち。キャンプファイヤーや、焼きマシュマロ、キャンプの醍醐味と呼ばれるイベントこそできなかったけど、今この光景を、みんなで見ることができた。それはきっと、一生の思い出として残る、そんな気がした。

 

「あら?」

「もしかして、さっきのネマシュ?」

 

彼らの前に、一体のマシェードが歩み寄ってきた。サトシがかがみこんで手を差し出すと、そっとその指先に触れてきた。間違いなく、さっきのネマシュが進化した姿だ。

 

「良かったな、木が元気になって。それから、ありがとな、こんな綺麗な光景を見せてくれて。絶対忘れないから」

「マシュ、マシェ〜ド」

 

指先を触れ合わせたまま、笑顔を交わす二人。と、マシェードの頭のかさが輝き、胞子を発した。突然のことに驚いたものの、すぐさま彼等は夢の世界に誘われた。サトシは、眠りにつく直前に、マシェードがお辞儀をしているのが見えた……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

気がつけば、既に日が昇っていた。昨日のことが嘘だったのかと思うくらいに、辺りは静かだった。周りを見ると、みんなも目を覚まし始めているところのようだった。マシェードの姿はどこにもなく、本当にみんなで夢でも見ていたんじゃないか、そう思った時、マーマネが異変に気付いた。

 

「あれ?僕お腹空いてない!」

「私も」

「いや、むしろこれは、」

「うん。お腹いっぱい!」

『あれ!?エネルギーが満タンに回復してるロト!』

 

お腹に手を置いたサトシは、最後に自分が見たマシェードの姿を思い出す。ひょっとしてあれは、感謝を示していたのだろうか。だとすれば、この満腹感は……

 

「マシェードだ。きっとあいつのおかげだよ」

「マシェードの恩返し……かな?」

 

顔を見合わせ、笑うサトシたち。なんとも不思議で、なんとも暖かいこの経験は、彼等にとって、大切な思い出となった。

 

 

 

グ〜

 

と、誰かのお腹が鳴った。みんながキョトンとする中で、慌ててお腹を抑えたのはリーリエだった。どうやらゴールドスプレーの影響で、マシェードも彼女にはエネルギーを分け与えられなかったみたいだ。顔を赤くするリーリエ、それを見て笑顔を浮かべるサトシたち。

 

「じゃあ、今度はリーリエのご飯を用意するか。昨日はお世話になったし」

「賛成!リーリエ、ちょっと待っててね」

「それじゃあ、キャンプに戻るぞ」

 

その後、残りのキャンプの時間も充実していたサトシたち。みんなには旅をしている時の感覚が、少しは伝わったみたいだ。旅をして、初めて野宿したときを思い出すサトシ。やはり旅は未知で溢れているのだ。

 

アローラ地方の他の島たち、それらを巡る時を楽しみにしながら、サトシは仲間たちとともに、今を楽しむのだった。




次回、リーリエ超ヒロイン回ですね

最近のリーリエ、マジでヒロインプッシュされまくりですなぁ
流石ゲーム公式ヒロイン


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パートナー交換……って、えぇぇぇぇっ!?

はい、公式リーリエ超ヒロイン回ですね

ガチで書き出したら文量が他と比べてとんでも無いことに……

まぁ、それだけこの回は大切にしたいと思ったわけです、はい
色々と追加しちゃったところもありますが、ご容赦




その朝、ポケモンスクールに大きな声が響き渡った。その声の源は、やはりというべきか、サトシたちの教室だった。

 

「は、博士。今、なんて?」

「だから、君たちのパートナーを交換してもらうんだ」

 

その爆弾発言に、時が止まった……ように彼ら、サトシとクラスメートたちは感じたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ひとまず席に着くサトシたち。しかしその表情は優れない。先ほどの博士の『交換』という言葉が、大きく引っかかっているようだ。

 

「博士、交換ってどういうことですか?」

「アシマリ、どっか行っちゃうの?」

 

シロンとアシマリをそれぞれ抱きしめるリーリエとスイレン。マーマネとマオは不安そうに、カキとサトシは真剣な表情で博士を見ていた。

 

「あぁ、悪い。言葉が足りなかったな。この週末の間、君たち同士で交換してもらうってことだよ」

「俺たち同士で?」

「どうゆうこと?」

 

「これまでで、みんな自分のパートナーと一緒の時間を過ごし、仲良くなってきたと思う。でも、せっかくだから、自分のパートナー以外のポケモンとも、しっかりと触れ合って欲しいと思ってな」

 

ククイ博士の言葉にサトシも納得していた。確かに自分は、ピカチュウたちのことはよく知ったかもしれない。でも、みんなのポケモンについてはどうだろう。一緒に暮らしているはずのシロンのことも、あまりよく知らない気がする。

 

「パートナー以外、か」

「面白そうじゃん!」

「でんきタイプ以外のデータも欲しかったし、いいかも」

「そうですね。わたくしも、シロン以外のポケモンに触れるようにならないと」

 

どうやらみんなもそれなりに乗り気のようだ。早速ククイ博士の用意したクジを引くサトシたち。その結果として……

 

 

「ピカチュウ、よろしくお願いします」

「ピッカァ!」

「シロン、短い間だけど、よろしくな」

「コォン……」

「じゃあわたくし、ジェイムズに言って迎えにきてもらいます。折角なので、ピカチュウと二人だけで色々と経験したさてみたいので」

「わかった。シロンのことは任せてくれ」

 

元気よく挨拶するピカチュウ、不安げなシロン。割とフレンドリーなピカチュウと組めたことは、リーリエにとっても良かったかもしれない。一方、リーリエ以外にはなかなか懐こうとしないシロン。サトシの母の例があるため、他の人にも慣れるためにはサトシが適任だろう。くじの結果としては、悪くなさそうだ。

 

 

「アイナ食堂の看板ポケモン、可愛がってあげてね、マーマネ」

「アーマイ」

「マオも、トゲデマルのこと、よろしくね」

「オッケー、任せて」

「マリュ!」

 

ポケモンたちの中ではお姉さんポジションのアママイコと、シロン以上に末っ子っぽいトゲデマル。ある意味反対の二体を交換することで、どんな風に生活が変わるだろうか。案外、トレーナーの腕の見せ所かもしれないが、果たしてうまくやれるだろうか。

 

 

「スイレンのとこ、小さい妹いるだろ?バクガメスを怖がらないか?」

「ガメス?」

「大丈夫。大きいポケモンも、大好きだから」

「そっか。ならいいんだが」

「アシマリ、カキのお仕事、邪魔しちゃダメだよ」

「まぁ、アシマリはしっかりしてるしな。そういう心配はなさそうだ」

「アウッ!」

 

みずタイプは苦手と言っていたカキ。果たしてアシマリとうまくやれるのだろうか。スイレンの場合、バクガメスのような大型ポケモンがいて、ホウとスイが無茶しないかどうかが一番気がかりだった。

 

 

それぞれの期間限定パートナーが決まり、サトシたちは放課後から、そのパートナーと共に過ごすこととなった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「じゃあな、スイレン。バクガメスのこと、頼んだぞ!」

「うん。アシマリ、気をつけてね」

「しっかり掴まってろよ、アシマリ」

 

空を飛ぶリザードンの背に乗るアシマリ。初めての経験におっかなびっくりしながらも、どこかワクワクしているみたいだ。アシマリが怖がっていないことにほっとしながら、カキはアシマリが落ちないように、しっかりと身体を支えてあげるのだった。

 

一方スイレンは、普段なら浜辺へバルーンの練習をしに行くのだが、アシマリがいないので、直帰することにした。アシマリと違い、少し歩みの遅いバクガメスに歩幅を合わせるところから取り組んでみる。

 

「じゃ、トゲデマル。アイナ食堂まで、レッツダッシュ!」

「マリュリュ!」

 

走り出したマオの後を転がりながら追いかけるトゲデマル。さながら、姉を追いかける妹といったところだろうか。元々お姉さんっぽいところのあるマオは、案外トゲデマルとも相性が良さそうだ。

 

「トゲデマル、大丈夫かな?」

「アマイ?アーマイ!」

 

トゲデマルを心配しているのか、自分が心細くなってしまったのか。おそらくそのどちらでもあるマーマネは不安そうだ。そんなマーマネの肩を叩き、優しく笑いかけるアママイコ。マオに似たお姉さんタイプとトゲデマルに似たマーマネ……これはこれでうまくいきそうな予感がする。

 

さて、今回のポケモン交換において、ある意味一番の注目ポイントはというと、

 

「ではサトシ、しばらくシロンをお願いしますね」

「オッケー。リーリエも、ピカチュウともっと仲良くなれるといいな」

「はい。わたくし、頑張って見ます!」

 

気合いいっぱいのリーリエ。しかし車に乗る際に、すぐ隣にはまだ座れないようだ。ほんの少しだけでも、シロン以外のポケモンに近づけるようになれるといいのだけど。首を振って気合いを入れ直すリーリエは、ピカチュウに少しだけ近めに座った。

 

一方シロンはというと、大好きなリーリエと離れることにかなり戸惑っているようだ。サトシの方をちらりと見ると、すぐに顔を伏せてしまう。一緒に住んでいるとはいえ、やはり他のトレーナーに対しては不安があるのだろう。

 

「シロン、サトシの言うことをちゃんと聞くんですよ。ではサトシ、また」

「ああ。ピカチュウ、しっかりな」

「ピカチュウ!」

 

車が動き出し、リーリエが見えなくなる。不安げに一度鳴くシロン。そのまま車が見えなくなるまで、ずっとその方向を見ていた。

 

その様子を見ていたサトシ。やっぱり、シロンはリーリエが大好きなんだと実感する。そう言えば、ポケモンはタマゴから孵った時、最初に見た相手を親と認識することを思い出す。

 

今のシロンは、親であるリーリエから引き離されている状態に近いだろう。卵の時からずっと一緒にいて、たくさんの愛情をもらって。まだ生まれて少ししか経っていないことを考えると、きっとすごく不安なのだろう。

 

「シロン。取り敢えず、一度帰ろうか」

「……コォン」

 

歩き出したサトシの後ろをついて来るシロン。取り敢えず来てくれてはいるが、その足取りは重そうだ。シロンとはぐれてしまわないよう、サトシはいつもよりも大分ゆっくりと、家までの道を歩いて帰った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

車があの大きな屋敷に着くと、一人の男性が出迎えていた。皆さんご存知、執事のジェイムズだ。リーリエが客を連れて行くと言っていたため、出迎えの用意をしていたのだが……

 

「おかえりなさいませ、リーリエお嬢様」

「2日間、お世話になるわ、ジェイムズ。それから、一緒に過ごすお客様は、」

「ピーカ!」

「おや?」

 

この声は間違いなく、あの少年のパートナー。サトシが来たのだろうかと思い、車の中を覗くと、そこにはちょこんと座っているピカチュウしかいない。はて、と首をかしげるジェイムズを見てクスクス笑った後、リーリエは今回の授業について説明した。

 

 

 

「なるほど。では、シロンはサトシ様のところに?」

「ええ。シロンも、わたくし以外の人に慣れる、いい機会です。サトシなら、きっとうまくいきます」

 

リーリエの部屋に案内されたピカチュウ。今はおやつにと出されたマカロンを一心不乱に食べている。デントの作るものも流石の一言だったが、ここのマカロンもなかなかである。

 

そんなピカチュウを微笑ましく眺めるリーリエにジェイムズ。お茶を持って来たメイドも、本当に美味しそうに食べている様子に、思わず笑みが溢れる。

 

「サトシは、大丈夫です。でも、わたくしは……」

 

じっと見られていたことを疑問に思ったのか、食べるのを一旦止めるピカチュウ。それを見たリーリエは、そっと手を伸ばし、ピカチュウに触れようとした、が、何故か空気を読めなかったピカチュウ、続きとばかりにマカロンを口に放り込んだ。

 

突然動かれて驚くリーリエ。カチンコチンと、凍ったのかと思うくらいに体が硬くなる。しかしそれも一瞬、またまた気合いを入れ直す。

 

「わたくしは、シロンに触れました。なら、他のポケモンにだって、触れます。論理的結論として、ピカチュウにも触れるはずです!」

 

改めてピカチュウをよく知りたいと思ったリーリエ。家の庭にあるポケモン用の遊び場に連れて行き、ピカチュウに自由に遊んで欲しいと言って送り出した。

 

まずは観察。相手のことを知ることこそ、仲良くなるための第一歩と考えたのだ。ピカチュウの動きや仕草、他のポケモンとの触れ合いを見ながら、ピカチュウをもっと知ろう、そう決めたリーリエは、ノートとペンを手に、ピカチュウを眺めていた。

 

「やっぱり、ピカチュウは素早いですね。それに、バランス感覚もかなりのものです。性格は、好奇心旺盛で、それから人望もありそうですね」

 

あっという間に、他の野生ポケモンたちから慕われている様子から、ピカチュウも主人と同様、他人を惹きつける魅力があるのかもしれない。サトシと似ているところも多そうだ、そう思い、リーリエは楽しげに笑った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、他の人たちはどうしているだろうか。少し見てみるとしよう。

 

 

ここ、アイナ食堂では、期間限定マスコットポケモンとして、トゲデマルがお客様に人気だった。小さい体で、マオの後ろをトコトコついて回る姿が、可愛いと評判のようだ。

 

ただ……

 

「あ、こらトゲデマル!お店で騒いじゃダメ!」

 

時々こうして、テンションの上がったトゲデマルが、転がり始めてしまうとさぁ大変。自分でもコントロールが効かないようで、こうなると店の中がところどころ大慌てになってしまう。とはいえ、本人は悪気はないわけで、

 

「もぉ、トゲデマルったら」

 

結局マオが抱き抱えることで、一先ず落ち着いたのだった。直接お店の手伝いはできなくなってしまったが、トゲデマルを連れてお客様に挨拶すると喜ばれるので、それはそれで良かったのかもしれない。

 

 

 

さて、次に訪れるのはマーマネラボ。サトシたちも使った大きな滑車の中に、アママイコが立っていた。

 

「オッケー、アママイコ。ちょっと走ってみて」

「アマイ?」

「あれ、わかんないかな?うーん、トゲデマルならすぐに協力してくれるんだけどなぁ。あれ?」

 

考え込むマーマネをよそに、アママイコはマーマネ宅の庭で育てられている、色とりどりの花に夢中になっていた。いつでも元気一杯のトゲデマルと違って、女の子らしさが前面に出ているアママイコ。さて、どう交流していくべきなのか。

 

「でも、お花を見てる時は楽しそうだなぁ。何かいい方法はないかな?」

 

頭を悩ませるマーマネだった。

 

 

 

海のそばにあるスイレンの家。二組のキラキラとした目が、バクガメスを見上げていた。スイレンの双子の妹たち、ホウとスイが、楽しそうにバクガメスを見ていた。

 

「おっきいおっきい!」

「おっきいおっきい!」

「ガ、ガメス?」

「ホウ、スイ。バクガメスにイタズラしちゃダメだからね」

「「はいはーい!」」

 

妹たちに軽く注意をしてから、スイレンは食事の準備を始めた。アシマリと違って大きな体を持ったバクガメス。いつもより多めにポケモンフーズを用意しなければ。あと、体を洗う時も大変そうだ。いい方法を考えておかなければ。

 

スイレンがお世話のことを考えている中、その注意をちゃんと聞いていたのだろうか、ホウとスイがバクガメスの体を触り始めた。背中の棘のことを考えて、不安になるバクガメス。スイレンが止めに入るまで、割とハラハラとした時間を過ごすことになったのだった。

 

 

 

続いて覗いてみるのはカキの牧場。いつも通りポケモンたちの世話をするカキだったが、

 

「さてどうしたものか……俺はみずポケモンは苦手分野だからなぁ」

 

ほのおタイプを専門とするカキ。バトルのための対策ならともかく、いざ共に生活をするにあたっての知識は皆無であった。頭を悩ませるカキを不思議そうに見つめるアシマリ。とそこへ、

 

「アシマリ、ホシと遊ぼう!」

 

カキの妹、ホシがやってきた。丁度いいところに、そう思ったカキはホシにアシマリと取れたてのモーモーミルクを飲んでくるように提案する。その通りに、ホシとアシマリは家の方へと向かって行った。

 

「しかし、いつまでもこのままってわけにもいかないしな……早めに何かうまくやっていけるきっかけを見つけないとなぁ」

 

色々と考えるカキ。きっかけさえできれば……そのきっかけは、果たしてどんなものになるのやら。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「シロン、こっちにおいで」

 

サトシが手を差し出す。しかし、シロンはそっぽを向いてしまう。授業参観の時はリーリエの頼みということもあってサトシに協力してくれたが、どうやらまだ完全には心を開いてくれたわけではないみたいだ。さっきも、いつものようにポケモンフーズをあげたのに、全く食べる気配がない。

 

「まぁ、そんなすぐにはいかないか……」

 

自分の姉ともいえる相手の様子に、サトシのロコンが顔を覗き込むようにして近づく。遊びに誘っているみたいだが、シロンは目線を合わせたあと、またそっぽを向いてしまう。

 

「やっぱり、リーリエがいないと不安だよな」

 

違うとはいえ、親がいない状況は、まるで捨てられたかのような、そんな気持ちにってもおかしくはない。実際に捨てられ、トレーナーを待ち続けていたあのポケモンのことを思い出す。弱りながらも、ただひたすらに主人を待っていた。シロンも同じように、サトシに心を開かなければ、弱ってしまうのではないか、そんな不安がサトシの頭をよぎる。

 

「シロン……」

 

そっぽを向いたまま、丸くなるシロン。その隣にロコンが同じように丸くなる。ちらりとロコンを見たあと、再び目を閉じるシロン。なんとかしてあげたい、そうサトシは強く思っていた。

 

 

その夜、シロンは眠りにつかず、扉の方を見つめていた。主人の帰りを待っているのだろう。寂しげに一鳴きするシロン。

 

突然隣に誰かが座った。いつもならもう寝ているはずのサトシだった。シロンが首を傾げサトシを見つめると、サトシは毛布を自分の肩に掛け、シロンを抱きかかえた。そのまま優しく包み込むようにする。

 

「コォン?」

「リーリエみたいには抱っこできないかもしれないけど、少しは落ち着くだろ?それに、ちゃんと寝ないと、明日も元気に過ごせないぞ」

 

優しく撫でてくれるその手の感触に、シロンは戸惑いながらも、確かな心地よさを感じていた。と、サトシの口から優しい音色が聞こえてくる。どこか優しくて、初めて聞くはずなのに懐かしいような、温かい気持ちにしてくれる。

 

歌に呼応するように、外から優しい風と波の音が聞こえてくる。優しく揺らされ、リズムに合わせて撫でられる。だんだんと意識が微睡んで行く中、シロンはサトシを見上げた。

 

わずかな月明かりが彼の顔を照らしている。自分を見つめるその瞳は、主人と同じような瞳だ。優しくて、安心できる。自分を愛してくれている、そう伝わってくる。その手つきも主人とは違うけれども、大切にしてくれているのが実感できる。腕の中は暖かく、

 

自分の弟、彼もこうしてもらっているのだろうか。彼だけじゃない、この人間のポケモンたちはみんなこんなに愛してもらっているのだろうか……少し、ほんの少しだけ、羨ましくもあり、今こうしてもらっていることが、どうしようもなく嬉しい……主人、母親とは違う。きっとこれが……

 

 

「……眠ったかな?」

 

腕の中でスヤスヤを眠るシロンを見て、サトシは安心した。こうして自分の腕の中で眠れるということは、それなりに安心できている、信頼してくれているという証だ。

 

「シロン……リーリエだけじゃなくて、俺もお前のことが大好きだぞ。俺も。マオも。スイレンも。マーマネも。カキも。他のポケモンたちだって。みんなみんな、お前のことが大好きだからな。どんな時も、お前は一人じゃない」

 

そのまま撫で続け、話しかけるサトシ。シロンの様子に自分も安心したのか、だんだんと眠くなってきた。いつの間にか、彼も眠りについていた。

 

 

翌朝、ククイ博士が見たのは、ドアにもたれて眠るサトシ、そしてその腕の中で、安心したように、笑顔で眠るシロンだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、みんなそれぞれ期間限定パートナーとの絆を深めていた。例えばマオはというと、

 

「よーし、そのまま転がっちゃえ!掃除が終わったら、朝ごはんだよ」

「マリュリュ!」

 

トゲデマルが転がるのを活用することに成功していた。雑巾を持ち、そのまま店の床を転がるトゲデマル。ほんの僅かな時間で、床はピカピカに磨かれていた。

 

「よしっ、それじゃあご飯食べよっか!」

「マリュ!」

 

 

マーマネはどうだろうか?

 

「ふんふん……じゃあこのきのみを使ってみてっと……アママイコ、もう一度お願い」

「アマイ!アーマイ!」

「なるほどなるほど」

 

アママイコの出す甘い匂いを研究するマーマネ。普段トゲデマルがいないと、夜が怖くて眠れないマーマネ。しかしアママイコの甘い香りの癒し効果のおかげか、昨日はいつもよりぐっすりと眠れたのだった。

 

「よーし、これでどう、アママイコ?」

「アマイ、アマーイ!」

「うんうん、いい感じみたいだね。じゃあこれをいかしてっと……」

 

 

スイレンの家では、

 

「どう、バクガメス。気持ちいい?」

「ガメース」

「ゴシゴシゴシゴシ♪」

「ゴシゴシゴシゴシ♪」

 

スイレン、ホウ、スイの三人にブラッシングしてもらって、とても気持ち良さそうだ。背中の棘に気をつける必要はあるが、妹たちもなかなか丁寧に磨いてくれている。

 

「ピカピカ!」

「キラキラ!」

「二人ともありがとう」

「ガメ」

 

 

そしてカキの家では、

 

「アシマリ、優しくバブルこうせんだ」

「アウッ!ア〜ウ」

 

牧場のポケモンたちの世話をするのに、アシマリが大活躍だった。喧嘩の仲裁、体の手入れ、ものを運ぶなどなど。バルーンやバブルこうせんを状況に応じてうまく適応してくれている。

 

バクガメスとは違う活躍の仕方に、みずポケモンも悪くないとカキは思い始めていた。

 

みんな普段とは違う生活を、それなりに楽しむことができているみたいだ。ククイ博士の思い描いていたように、パートナー以外との触れ合いは、彼らにとってもいい経験になっているようだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そしてサトシはというと、

 

「シロン、おいで」

「コォン!」

 

サトシが手を広げると、嬉しそうにシロンはその腕の中へと飛び込んでいった。サトシが頭を撫でると、嬉しそうに笑顔を見せている。羨ましいのか、ロコンも飛び込む。サトシの両肩に乗る二体のロコン。両側から頬擦りされ、サトシも擽ったそうだ。

 

「一気に仲良くなったな」

『急にどうしたロト?』

「何にもないよ。なっ、シロン」

「コォン!」

 

朝ごはんをしっかりと食べ、サトシを先頭に、ポケモンたちは外へと飛び出して行った。散歩が大好きなシロンも、嬉しそうにかけて行く。

 

 

市場の方に来たサトシたち。既にこの辺りではサトシを知っている人ばかりのようで、いろんな人に声をかけられる。

 

「あら、サトシくん」

「おばさん、こんにちは」

 

ニャビーを気に入っていた、きのみ屋のおばあさんに声をかけられるサトシ。いつものように、彼女は彼のポケモンたちにきのみを分けてくれるのだった。

 

「あら?その子は?」

「シロンです。ちょっと今スクールでパートナー交換をしていて」

「あら、じゃあピカチュウが他の子のところに?」

「はい」

「そう?じゃあこの子が今はパートナーなのね。シロンちゃん、よろしくね」

「コォン」

「あなたもお食べ。アローラの恵みは、みんなで分け与えないとね」

 

差し出されたきのみを一つ口に取るシロン。そのままサトシの足元に行き、前足でサトシの足を叩く。

 

「ん?どうした、シロン?」

 

屈み込んだサトシの手に、シロンはきのみを乗せ、一鳴きした。そしてもう一つきのみを咥え、サトシの前で食べ始めた。

 

「こっちのは、俺に?」

「コォン!」

「あらあら、すっかり仲良しなのね」

「へへっ、ありがとうございます。シロンも、ありがとな」

「コォン!」

 

 

きのみを食べ終え、海岸にたどり着いたサトシたち。シロンを誘って特訓を開始するサトシたち。元々バトルの素質があったみたいで、シロンも特訓を楽しんでいるようだ。

 

「よぉし、シロン。強くなって、リーリエをびっくりさせてやろうぜ!」

「コォン!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて最後の一人、リーリエはというと………

 

「ど、どうぞ」

「ピカチュウ!「ひゃあっ!?」ピィカ?」

「ご、ごめんなさい」

 

中々距離が縮まっていないようだ。触れる、触れる。そう思いながら触ろうと試みているのだが、後一歩のところで体が固まってしまう。サトシとピカチュウの様子を見ていると、すごく楽しそうにしているのがわかる。あんな関係に、リーリエは憧れていた。

 

「サトシはどうやってピカチュウと仲良くなったのでしょう……」

 

サトシとピカチュウが普段どうしているのかを思い返してみる。一緒に走ったり、食べたり、遊んだり。でもやっぱり一番二人が輝いて見えるのは、バトルをしている時だった。息がぴったり合ったバトルの時の二人。大試練の時や、カプ・コケコとの戦い、強い相手との戦いを、心から楽しんでいた。

 

「あっ!」

 

 

 

「本当によろしいのですか?」

「手加減は無しでお願いします、ジェイムズ」

 

庭のバトルフィールド。そこでジェイムズとオドリドリ、リーリエとピカチュウが対峙していた。サトシのように、バトルを通じて、ピカチュウと仲良くなれるのではないか、そう思ったリーリエは、ジェイムズにバトルを申し込んだのだった。

 

「ピカチュウ、お願いしますね」

「ピッカァ!」

「では、行きますぞ、オドリドリ!」

「ドォリィ!」

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

「ピッカァ!」

「かわすのです」

 

駆け出したピカチュウのでんこうせっかをかわすオドリドリ。反撃にめざめるダンスを繰り出し、ピカチュウに命中させる。続けてフラフラダンスでピカチュウを混乱状態にすると、おうふくビンタで着実にダメージを与える。

 

「ピカチュウ、大丈夫ですか?」

「ピ、ピィカ」

 

流石は屋敷でも断トツの実力者であるジェイムズ。あの時、ゲットしたばかりのモクローで互角以上のバトルを繰り広げたサトシが、いかに優れたトレーナーなのか実感する。自分がピカチュウの力を引き出せていないのだと、そう感じる。

 

「どうすれば……サトシのようにできるのでしょう」

「ピカピィカ!ピカチュウ!」

 

俯くリーリエをピカチュウが呼ぶ。はっと顔を上げると、強い眼差しが此方を見ている。その姿は、諦めている者のそれではなかった。むしろ、やる気に満ちている。でもそれだけじゃない。リーリエのことを信じている目だ。

 

そして思い出す。いつだってそうだったではないか。二人がバトルしている時、サトシはピカチュウを、ピカチュウはサトシを、全力で信じていた。ピカチュウだけではない。彼のポケモンたちはみんなそうだ。どんな状況でも、どんな無茶苦茶な指示でも、彼はポケモンを信じ、ポケモンたちは彼を信じた。それこそが、彼の力。彼らの絆。

 

「そうでした……わたくしがこんな調子ではいけませんね。だって、ピカチュウはわたくしを信じてくれているんですもの。わたくしがピカチュウを信じなくては……いつまで経っても、変われない!」

 

伏せていた顔を上げるリーリエ。その眼差しは強い決意で満ちていた。その表情を見たときに、ジェイムズはいつだったか見た、サトシのそれに似ていると、そんな気がした。

 

「ピカチュウ、わたくしを信じて!」

「ピッカァ!」

「でんこうせっか!」

 

走り出したピカチュウ。再び避けようとするオドリドリ。しかし、

 

「今です、右へ!」

「ピッカァ!」

 

突然の方向転換の指示。にも関わらず、ピカチュウはその声を信じ、曲がった。それは丁度オドリドリが避けた先、でんこうせっかが見事にオドリドリに決まった。

 

弾き飛ばされるオドリドリ。全くの不意打ちに、オドリドリは怯んでいる。

 

「今です、10まんボルト!」

「ピィ〜カ、チュ〜!」

 

ピカチュウの決め技、10まんボルトがオドリドリに炸裂した。倒れこむオドリドリ。その目は回っていた。ピカチュウとリーリエ、二人が勝ったのだった。

 

「勝っ、た……のですか?」

「ピカ、ピカチュウ!」

「〜〜〜〜っ、や、やりました!」

 

お互いに駆け寄るリーリエとピカチュウ。ピカチュウはいつもサトシにするように、リーリエに飛びついた。そのピカチュウを、リーリエは両手を広げ、しっかりと受け止めたのだった。

 

しばらく喜びを分かち合うように抱き合う二人。と、ここでリーリエは自分が今、ピカチュウを抱きしめていることに気づく。

 

腕の中の確かな暖かさが、これが夢ではないことを教えてくれる。ピカチュウの顔を覗き込むと、笑顔を返してくれる。少し高く抱き上げ、頬を擦り合わせる。

 

「ピカチュウ……あったかいです」

「ピィカチュウ!」

 

優しく撫でられる感触に、ピカチュウも満足そうだ。ジェイムズが涙を流しながら、見守る中、リーリエはさらなる喜びを噛みしめるように、目を閉じ、腕の中の感触を強く感じ取るのだった。

 

 

その晩、リーリエと一緒に寝たのは、ピッピ人形ではなかった。それは黄色い体で、安らかな寝息を立てていたとか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして、パートナー交換終了の日。元のパートナー以外と触れ合った成果を報告し合っていた。

 

「トゲデマル、掃除の時に大活躍だったよ。それに、お客さんにも人気だったし。ね〜」

「マリュ!」

「ふふん。これが僕とアママイコの研究の成果!アママイコの甘い香りを再現した、特製マラサダドーナッツ!後でレシピあげるね」

「わぁ、ありがとう!」

 

 

「おおっ、ピカピカだな、バクガメス」

「妹たちが手伝ってくれたの。一緒に遊んでくれたから、すっごく喜んでた」

「こっちは色々と助かったぜ。アシマリ、偶には牧場に手伝いに来て欲しいくらいだ」

「そう?じゃあ、偶にならいいよ」

 

「どうやらみんな、いい成果が出せてるみたいだな。サトシたちはどうだ?」

 

嬉しそうに頷いていたククイ博士がサトシに話を振る。とはいえ、

 

「俺とシロンも結構仲良くなったぜ!バトルの特訓も一緒にしたし。な、シロン?」

「コォン!」

 

サトシの腕の中で嬉しそうに鳴くシロン。今までリーリエ以外が抱っこすることが出来なかったことを考えると、かなりの進歩である。腕の中で後ろ足でたち、サトシに顔を寄せるシロン。その頬を親愛の情を込めて舐めた。

 

「のわっ、擽ったいって、シロン」

 

「すっごく仲良くなってる……」

「流石はサトシ」

 

「うんうん。それじゃあ最後はリーリエだな」

「少しはピカチュウと仲良くなれたの?」

 

みんなの視線がリーリエに集まる。にこりと微笑むリーリエは、ピカチュウに視線を向ける。

 

「ピカチュウ」

「ピッカァ!」

 

リーリエが呼ぶと、嬉しそうにピカチュウは飛び上がり、差し出された腕を伝い、その肩への登った。そしていつもサトシにしているように、頬を擦り合わせたのだった。

 

「「「「えぇぇぇぇっ!?」」」」「おおっ」

 

声をあげて驚くクラスメートたち。嬉しそうなククイ博士。そして優しく微笑んでいるサトシ。シロンに続いて、また新しく、リーリエがポケモンに触れるようになったのだった。

 

「すごいじゃんリーリエ!」

「大進歩だよ!」

「はい!これからもっと頑張って、他のポケモンにも触れるように、頑張ります!」

 

たった一体、されど一体。シロンに加えて、ピカチュウにも触れるようになったことは、リーリエの中で、大きな自信に繋がっていた。

 

「やったな、リーリエ。ピカチュウも良かったな」

「ピカチュウ!」

「はい!サトシのおかげです」

「俺の?」

「サトシとピカチュウの絆、それを思い出せたから、ピカチュウに触れるようになったんです。だから、ありがとうございます!」

「俺は何もしてないよ。リーリエが頑張った結果さ。凄いぜ!」

 

謙遜しているわけではなく、本心から褒めるから、サトシの言葉はよく届く。その嬉しさを、リーリエはピカチュウと分かち合うように、顔を見合わせ、笑い合った。

 

「リーリエ、折角だから、バトルしないか?」

「バトル、ですか?」

「そう。そっちはピカチュウと、俺はシロンと。特訓の成果、見てもらいたいしな。な、シロン」

「コォン!」

 

やる気満々なシロンの様子に、リーリエもやる気になった。その日、スクールの生徒たちは、楽しげにバトルするピカチュウとシロン、そして普段とは違うトレーナーの姿を見かけたとか。

 

その勝負の決着は、果たしてどうなったのか。それは彼らのみ知る。お互いのポケモンのことを知ることが出来た、この交換会。博士の期待以上の成功で終わったのだった……

 

 

 

余談だが、シロンのサトシに対する懐き具合のおかげで、サトシ=シロンのパパという方式がスクール内に出回ったとか……

 




ちなみにサトシの歌っていた曲は、作者のイメージとしては「風と一緒に」です

あの曲大好きなんですよ


次回はライチさん登場です
お楽しみに〜


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アーカラ島の島クイーン

さて今回から、アーカラ島編ですね

以前から、本編にもゲストポケモンで過去の呼んでほしいみたいな意見があったので、今回試しに呼んでみちゃいました

気になるそのポケモンは、本編にて
ではでは、どうぞ〜


その日の朝、サトシとリーリエは、いつもより少し重いカバンを持って、スクールへと向かっていた。

 

「いよいよだな、アーカラ島」

「はい!わたくしも、新しいポケモンとの出会いが、とても楽しみです」

「俺も燃えてきた!大試練にも、早く挑戦したいぜ」

 

そう。この日から、サトシたち6人は、アーカラ島での課外授業のため、しばらくメレメレ島を離れることとなっているのだ。一応集合してから向かうことになっているため、アーカラ島に住んでいるカキも、一度こちらに来ることになっている。

 

ワクワクしているトレーナーたちの側では、ポケモンたちも楽しみにしているようだ。残念ながら、今日はリュックに入れないモクローと、気まぐれなニャビー以外は、ボールから出ている。

 

はしゃぐイワンコを落ち着かせるゲッコウガ。シロンとロコン姉弟も、仲良くやっているのを見ると、何だかほっこりする。パートナー交換以来、時々トレーニングに参加するようになったシロンは、今ではすっかりサトシのポケモンたちとも、サトシ本人とも大の仲良しになっている。

 

「サトシの大試練挑戦、うまくいくといいですね!」

「サンキュー。リーリエも、いろんなポケモンと仲良くなれるといいな」

 

 

余談だが、現在ピカチュウはというと、リーリエの腕の中に納まっている。余程他のポケモンに触れたことが嬉しかったのか、最近はシロンとピカチュウで、抱き抱える割合が半々程になっていた。それではシロンが寂しいのでは、とも思えるが、そういう時は大抵サトシに構ってアピールをしに行くので、案外問題はなかった。

 

 

まぁ、最近はこういうこともあり、サトシの隠れファンクラブからは、リーリエが一歩リードしている!と分析されているらしい。しかし、そんなことは全然知らずにいる二人は、今日も仲良く、校門をくぐったのだった……

 

 

 

 

が、やはり何事もなく1日が始まる、なんてことは許されないようだ。

 

「コウッ?コウガッ!」

 

最初に反応したのはゲッコウガだった。何かが凄い勢いで向かってきているような音が聞こえるような気がした。次に気づいたのはサトシとピカチュウ。はっとして横を見ると、何やら興奮したケンタロスが、かなりのスピードでこちらに向かって来ていた。

 

一度興奮したケンタロスに、前に障害物があるかないか、人がいるかいないかは関係ない。そのことをよく知ってるサトシは、ゲッコウガに目配せをする。片方の腕でリーリエの肩を抱き、そのまま思いっきり前に跳んだ。隣では、イワンコ、シロン、ロコンを抱えたゲッコウガも同様に跳んでいる。

 

その咄嗟の行動によって、無事にケンタロスの突進をかわすことに成功するサトシたち。しかし興奮したケンタロスは、そのまま校舎めがけて突っ込もうとしていた。

 

「ケンタロス、危ない!」

 

サトシが叫ぶものの、声は聞こえていない。校舎にぶつかる!そう思ったところへ、空からリザードンが降り立ち、ケンタロスを止めた。その後からカキたちが走って来る。

 

「よし、そのまま押さえ込んでくれ、リザードン」

「サトシ、リーリエ、大丈夫?」

「わたくしは平気です」

「俺も無事だ。サンキュー、ゲッコウガ」

「なぁ、ケンタロスはどうしたんだ?」

「カキのリザードンが着地したのに驚いて興奮しちゃったみたい」

 

鼻息荒く、リザードンを押すケンタロス。リザードンも歯を食いしばり、全力をかけて止めようとしている。

 

「そうだマオ!アママイコの香りで「コウッ、ゲッコウ!」、どうした、ゲッコウガ?」

 

今度は上空を見るゲッコウガ。ケンタロスとリザードンの間に入るように、一体のポケモンが飛び込んで来た。四足歩行でスマートな体躯、キリッとした顔立ちに力強い眼差し。サトシのイワンコが目をキラキラさせながら見つめるその相手は、

 

「あれって、真昼の姿のルガルガン、だよな?」

「このルガルガン……もしかして」

 

カキが何かに気づいたその時、

 

「アローラ〜」

 

どこか明るく、呑気な感じの女性の声が聞こえて来る。スクールでは見たことのない女性。褐色の肌に、短めの髪。いくつかのアクセサリーを身につけ、その中には一つ、キラリと輝くZクリスタルのはめられたZリングが。

 

「そんなに怒らないの、ね?」

 

優しくケンタロスを撫でる女性は、突然その鼻先に、そっとキスをした。驚く周囲だったが、ケンタロスはすっかり機嫌が良くなったようで、女性に撫でられ、気持ちよさそうに目を細めていた。

 

「あの人、凄いな」

「うん、かっこいい!」

「ケンタロスがあんな表情しているの、サトシ以外では初めて見ました……」

「誰なのかな?」

「スクールの人じゃ、ないみたい」

 

「ライチさん!」

 

他のみんなが首をかしげる中、カキが嬉しそうな声を上げる。

 

「あら、カキ!」

 

カキの知り合いらしき女性は、両手を広げ、カキを抱きしめる。タケシなら感激して涙流してそうだなぁ、なんてサトシは思うが、当のカキは照れくさいのか、呆れているのか。苦笑気味に、なんとか会話を続ける。

 

「お、お久しぶりです」

「ホント、久しぶりね。大試練以来だったかしら?なんだか少したくましくなったわね〜」

 

うんうん、とカキの成長を喜ぶ女性。彼女もZリングを持っていることから、彼女も強いトレーナーであることは間違いない。

 

「なぁ、カキ。この人は知り合いなのか?」

「あぁ、紹介する。ライチさん、こちら俺のポケモンスクールのクラスメートたちです。みんな、この人はライチさん。アーカラ島の島クイーンだ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ネッコアラがチャイムを鳴らす。一先ず教室に移動したサトシたちは、ククイ博士の話に耳を傾けていた。博士の隣にはライチが立っている。

 

「さて、今日からアーカラ島での課外授業が始まる。それにあたって、特別講師として、ライチさんに来てもらったんだ。じゃあ、出発前に少し話を聞いておこうか。ライチさん、お願いします」

「オッケー。みんな、改めてよろしくね。私はライチ、アーカラ島の島クイーンで、今日からみんなの先生よ。これからみんなでアーカラ島に移るわけだけど、みんなはどんなことを楽しみにしてるのかしら?カキから順番に軽い自己紹介と一緒に、教えてくれる?」

 

ハラさんの時も感じたが、サトシは、島キングや島クイーンに選ばれる人は、何か特別なオーラを持っているような気がした。他のトレーナーとは違う何か。それもまた、島巡りの中で、わかることなのだろうか。

 

「俺はアーカラ島の魅力を、みんなに知ってもらいたいと思ってる。それに、みんなを通じて、また新しい気づきがあればいいな」

「マオです。この子はアママイコ。あたしが楽しみなのはお料理とか食材かな?アーカラ島って自然の恵みが豊富だって聞いてるから、どんなものがあるのか楽しみです!」

「スイレンです。仲良しのアシマリ。私はみずポケモンとの出会い。すっごいみずポケモンがいるって、聞いたことある。会ってみたい、すごく!」

「僕はマーマネ。で、こっちはトゲデマル。僕はやっぱり、でんきタイプのポケモンかな。あと、美味しいスイーツとかもあれば食べてみたいかも」

「わたくしはリーリエと申します。この子はパートナーのシロン。わたくしは、やはり新しいポケモンたちとの出会いでしょうか。もっと多くのポケモンと仲良くなりたいです」

 

一人一人が思いを語る中、ライチは楽しそうにそのことを聞いている。カキ以外は初めて会う相手だけど、特に緊張するでもなく、みんないつも通り、博士にするみたいに接している。それだけライチが、親しみやすい人ということなのだろうか。

 

「うんうん。みんな楽しそうでよろしい。じゃあ最後は君ね」

「はい。俺はカントーのマサラタウンから来た、サトシです。こっちは相棒のピカチュウ。今、島巡りに挑戦しているので、試練や大試練に挑みたいです」

「あら?それってZリングね。とすると、ハラさんの試練はクリアしたのかしら?」

「はい」

「やるわね、サトシ君。君の大試練への挑戦、楽しみにしてるわ」

「もちろんです!」

 

心底楽しみにしているように笑うライチとサトシ。その時に、サトシ以外はライチを身近に感じる理由が、なんとなくだけどわかったような気がした。似てるのだ、この二人。見た目ではなく、雰囲気とも言えるものが。

 

「じゃあ、折角だからお近づきの印に、っとと、わわっ!?」

「ライチさん!?」

 

懐に手を入れ、一歩踏み出したかと思うと、ガクッとライチの身体が揺れる。そのまま前に倒れこみ、派手な音とともに転んでしまった。

 

 

……………(−_−;)

 

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

一番席が近いサトシが慌てて駆け寄る。差し出されたサトシの手を掴み、立ち上がるライチ。とりあえず怪我はないようだ。まぁ、ぶつけたらしい鼻のあたりは少し赤くなっているが。

 

「大丈夫、大丈夫。ありがとう、サトシ君」

「いえ」

「さてと、気を取り直してっと。お近づきの印に、みんなにお土産を持って来たの」

 

先ほど手にとっていた袋を取り出すライチ。教卓にみんなを招き、袋を広げる。中に入っていたのは、様々な鉱石や、小さいながらも宝石を使用しているアクセサリー。

 

「みんな好きなのを一つ選んでいいわよ」

「流石、ライチさん」

「素敵です!」

「綺麗」

「うん。海の中みたい!」

「これ、どんな石を使ってるんだろう?」

 

みんなが色鮮やかなブレスレットやネックレス、ピアスなどのアクセサリーを手に取る中、サトシが手を伸ばしたのは、キーチェーンだった。付いているのは無色透明な鉱石玉。ダイヤモンドカットされているそれは、しかしながら他と比べるとどうしても地味に見える。

 

「サトシはそれにするの?」

「あぁ」

「でも、他にもいろんな色のとか、綺麗な石を使ってるのもあるのに」

「俺は、これがいいんだ。だってさ、こうして、日の光にかざしてみると……」

 

サトシが教室の端、ベランダの方へ向かう。そこで日の光に向けて、貰った鉱石をかざしてみる。白い光を浴びたそれが発したのは、同じ白い光ではなかった。

 

「わぁっ」

「……綺麗」

 

キラキラと光を浴びた鉱石は、7色の光、虹色に煌めいていた。角度を変えると、見える光が変わり、一つの鉱石で様々な色が楽しめる。無色透明で地味どころか、それは、彼らが貰ったものの中でも、最も色鮮やかなものに見えた。

 

「気に入った?」

「はいっ、とても」

「実はこれ、全部私の手作りなの。島ではアクセサリーショップをやってるのよ」

「そうなんですか?」

「それを気に入ってくれる人がいてくれて嬉しいわ。どうしてもパッと見、地味だから。その特徴、知ってたの?」

「はい。昔ママが、ガラス玉とかで似たようなことをしていて」

「そうなの?」

「はい。俺、これにして良かったと思ってます。俺にとって、虹は、すごく特別なものなので」

「へ〜。今度詳しく聞かせて貰ってもいい?」

「はい!」

 

やはりどこか似ているのだろう。早速二人は波長が合っているようだ。あっという間に仲良くなっている。

 

 

「じゃあ、みんなとお近づきになれたし、早速アーカラ島へ、レッツ、」———ドンッ

「ゴ〜……」(> <)

 

教室から出ようとしたライチが、誰かにぶつかる。それは丁度入って来たオーキド校長だった。

 

「あら、校長先生、お久しぶりです」

「いやいや、今回は我々のお願いを聞いてくださり、ありがとうございます。ところでこれは提案なのですが、アーカラ島に向かう前に、彼らのポケモンのことを知るのはいかがかナットレイ?」

「いかがかナットレイ……何それ……ふふっ、最高。あははは、はははは」

 

……………(−_−;)

 

ウケてる。校長先生のポケモンギャグに、お腹を抱えて大笑いしている。オルオル選手といい、ライチといい、ポケモンスクールに関係している大人は、みんなこれの虜になるのだろうか……自分に視線が集まるのを感じ、苦笑するしかないククイ博士だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

存分に笑ったライチに連れられ、サトシたちはスクールの中庭に来ていた。みんなのボールからポケモンを出し、ライチに紹介する。

 

「わあっ!いい、凄くいい。どの子もとてもいい表情してるわね」

 

一体一体と目線を合わせて話しかけるライチに、ポケモンたちも心を開いているようだ。気まぐれなニャビーや、人見知りのシロンまでもが、すぐに笑顔を向けている。

 

「すごい……まるでみんなライチさんのポケモンみたい」

「うん。かっこいい!」

「島キングや島クイーンの中でも、ライチさんは特別だからな。ポケモンに対する愛情はわからないが、ポケモンからの愛情は、間違いなくライチさんが一番だ。俺のバクガメスも、初対面で心を許しきっていたからな」

「でも、やっぱり似てるよね」

「ええ、似ています」

 

彼らの脳裏に浮かんだのはいいけどサトシ……ではなく、一度だけ会った彼の母だった。彼女も同じように、ポケモンたちに慕われる女性だった。もちろん、サトシも似ているといえば似ているのだ。実際今も、

 

「よろしくな、ルガルガン」

「ガウッ!」

 

ライチのパートナー、ルガルガンの頭を撫でている。ルガルガンもキリッとしていた表情を崩し、気持ち良さそうだ。お返しとばかりにサトシの頬を舐めるルガルガン。その様子に、流石のライチも驚いていた。

 

「珍しいわね〜、ルガルガン。あなたがこんなすぐに誰かに心を許すなんて」

「ガウッ」

「サトシ君は、何か特別な魅力でもあるのかしら?」

「そんな、ライチさんこそ。ニャビーとか普段はもっとツンツンしてるのに」

 

なんだか盛り上がる二人。さっきから度々二人だけで盛り上がるので、他のみんなはやや置いてけぼり気味である。まぁ、でもそれが嫌とかそういうのではなく、

 

『本当に色々と、この二人は似てるなぁ』

 

なんてことを考えていた。

 

「ねぇ、みんなのポケモンたちのこと、もっと教えてくれない?出会いのこととか、進化してる子はその時のこととか」

 

眠っているモクローを抱き上げながら、ライチはみんなの方を向いた。モクローからはお日様の匂いがすると言っていたライチ。気に入ったのか、また顔を擦り付けている。

 

「俺のポケモンについては、ライチさんはもう知ってるからな」

「じゃあはいはい!あたしから行くね!」

 

マオとアママイコとの話から、順番にみんなが話し始めた。一体一体との思い出を聴きながら、ライチはそのポケモンを抱き上げ、顔を見て話しかけた。最後はサトシでモクロー、イワンコ、ロコンと来て、今ニャビーの説明が終わったところだった。

 

ムーランドとのエピソードを聞いたライチは、涙を流しながらニャビーを抱きしめた。

 

「良かったね、ニャビー。サトシ君のような、優しいトレーナーの元に来れて」

「ニャブ」

 

 

差し出されたハンカチで涙を拭うライチ。それを見たスイレンはポツリと、

 

「忙しい人……転んで、笑って、泣いて……」

「でも、あたしは好きだなぁ。なんか、そういう人、憧れちゃうかも」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さて、折角みんながポケモンのことを教えてくれたし、私からもアーカラ島のこと、話しちゃお!」

 

出発前の軽い予習、と言ったところだろうか。ロトムが録画を開始し、ライチが話し始めた。

 

「アーカラ島の特徴は、何といっても豊かな自然の恵み。ヴェラ火山の神聖な炎に見守られ、人もポケモンも、きのみなどの植物も強く育つと言われているわ。大自然の恵みへの感謝と、その力強さへの恐れ。それらを持って、私たちは生きている。じゃあここで問題。アーカラ島の

守り神のポケモンのこと、知ってるかな?」

 

真っ先に手をあげたのはサトシだった。それもそのはず、彼にとっては忘れられない出会いでも会ったのだから。

 

「カプ・テテフ、ですよね」

「正解!命の守り神とも言われるカプ・テテフ。その振りまく輝く鱗粉に触れると、たちまち元気になるとも言われてるわ」

「そっか!だからあの時、傷が癒えたのか」

「?サトシ君はもしかして、カプ・テテフに会ったことがあるの?」

「はい、一度だけですけど」

「一度だけでも凄いわよ。私だって、まだそんなに会ったことはないのに」

「ライチさん、サトシはメレメレ島の守り神、カプ・コケコとも何度か出会い、バトルしたことがあるのです」

「カプ・コケコとバトル?ほんとに?」

 

驚いて目を見開くライチ。カプ・コケコは確かに好奇心旺盛な守り神だと聞かされていたが、そう何度も同じトレーナーの前に現れることや、バトルを挑むことなんて、少なくとも古い書物でしか読んだことがない。

 

「本当ですよ、ライチさん。俺たちもそのおかげで、何度もカプ・コケコを見ています」

「サトシのZリングとデンキZも、カプ・コケコに貰ったものだしね」

「Zリングを、守り神が?」

 

目の前に座り込む少年を改めて見てみる。13歳にしては、時折見せる雰囲気は子供のそれだった。ポケモンが大好きでたまらない、そんな感情が伝わってくる。しかし、また別の側面があるのもわかった。年相応どころか、どこか大人びた雰囲気を、彼は虹について話してた時に見せた。

 

不思議な少年だ、そう思った。メレメレ島のカプ・コケコ、そしてアーカラ島のカプ・テテフ。二つの島の守り神と出会い、片方からはバトルを挑まれるほどに注目されている。

 

「……楽しみね」

「?ライチさん?」

 

「ううん。何でもないの。また会えるといいわね」

「はい」

「みんなにはこの課外授業で、カプ・テテフの息吹に触れて欲しい。命とは何なのか。私たち人間とポケモンが出会うことで、何が生まれるのか。パートナー同士だけに生まれる何かを、感じ取って欲しい」

 

ライチの言葉は、深い問いかけにも聞こえた。みんながそのことについて考える中、サトシはいつだったか、金髪の美しいチャンピオンが自分に言ったことを、思い出していた。

 

『全ての命は別の命と出会い何かを生み出す』

 

自分と、そしてあの激戦を繰り広げたライバルと。自分たちの出会いがきっかけとなり、今の自分の手持ちにいる、あの猛火の子が本当の強さを手に入れた。自分がいて、あいつがいて、初めて成し遂げられたこと、そう自分は思っている。

 

自分がここでモクローと、

 

イワンコと、

 

ロコンと、

 

ニャビーと、

 

ロトムと、

 

カキと、

 

マーマネと、

 

マオと、

 

スイレンと、

 

リーリエと。

 

出会ったことは一体何を生むのだろうか。

 

 

「さぁみんな!アーカラ島へ、行くわよ!」

 

ライチに連れられ、スクールを後にしたサトシたち。いよいよ、新しい島での冒険が、始まろうとしている。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

みんなを出迎えたのは、一隻のクルーザー。これに乗ってアーカラ島まで向かうようだ。

 

「さぁ、みんな乗って乗って!って、うわわぁっ!?」

 

派手な音を立ててこけるライチ。乗り込もうとした時に、躓いてしまったらしい。どうやらライチ、かなりのドジっ子属性もちのようだ。

 

「だ、大丈夫、大丈夫。あははは」

 

「忙しい人……真面目に話して、こけて笑って」

「うん。かっこいいよ」

「……どこが?」

 

そんなやりとりを挟みながら、博士を含む全員が、無事に乗り込んだ。見送りに来てくれたオーキド校長に手を振りながら、サトシたちを乗せたクルーザーは、出発した。

 

 

空ライドポケモンに乗って、アーカラ島まで飛んだことのあるカキ、サトシ、そしてマーマネ。海から行くのはそれよりも速度は落ちるものの、心地の良い旅になるように感じた。

 

途中、キャモメの群れに餌をあげてみたり、アーカラ島の観光ガイドにカキの牧場が紹介されているのをマーマネが見つけたり(因みに載っているカキの表情を見て、マオとマーマネが吹き出してしまったのはここだけの話)、なかなか有意義な時間を過ごせていた。

 

と、スイレンが海面から飛び出した何かを見つけたようだ。すぐ様向かってみるサトシたち。海面から飛び出し、大きく宙に舞ったのは、美しい色を持つ、ハクリューだった。それも一体だけではなく、複数体で。

 

ハクリューたちは、まるで出迎えてくれているかのように、飛び出しては潜りを繰り返す。その中の一体が、今までで一番高く飛び、声をあげた。それに反応するように、雲が広まり、雨が降り始める。

 

「わぁお」

「あまごいだ」

「これ、ハクリューがやったの?」

「ふふっ、課外授業はもう始まってるわよ。海のポケモンに、触れ合って触れ合って!」

 

ハクリューを初めに、サメハダー、ドククラゲなどの群れが、クルーザーの近くを泳ぐ。向こうの岩場では、ヤドンにシェルダーが噛みつき、ヤドランに進化していた。

 

それぞれのポケモンを指差しながら紹介するスイレン。流石みずタイプのことは詳しい。

 

「ケイコウオ、メノクラゲ、ネオラント、ラブカス、サニーゴ、シェルダー。あっ、ルギア!」

「えっ」「ルギア!?」「ほんとか!?」

 

慌ててスイレンの指差す方を見る男子たち。しかしそこには何もいない。

 

「もぉ〜男子信じてるし……んなわきゃないでしょ」

「でした」

「「「えぇ〜」」」

 

がっくりと肩を落とす男子。クスクス笑うスイレンとリーリエ、呆れ顔のマオ。こんなところに伝説のポケモンがそんなあっさり見つかったら、それこそ問題だ。サトシたちも結局は笑って流せる程度のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、スイレンの指差した方向。実はこのあたりは一気に深さが増しているのだ。そのずっと下の方、深層海流の流れる場所で、焦っているポケモンが一体。

 

(……気づかれたか?)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

更にみずポケモンがいないか、探すことしばし、事件が起きた。

 

身を乗り出したライチが船の手すりを越えて、海に落ちてしまった。確かにある意味事件ではあるが、これはもうサトシたちも慣れて来たので、事件扱いはされなかった。本人も割とピンピンしていたし。

 

正確には、サトシがライチの誘いに乗って、一緒に泳ぎ始めた時に起きたのだ。船からは見えていない場所、岩場の陰に、挟まって動けなくなっていたホエルコを見つけたのだ。

 

助けようとするサトシとライチ。しかしどういうわけか、押しても引いてもビクともしない。引っ張った勢いで水に顔が潜るライチ。よく見ると、少し離れた場所から、こちらを見ているポケモンがいた。慌てて浮上するライチ。

 

「サトシ君、一旦離れて!」

「ライチさん?」

「ここはハギギシリのナワバリみたい。サイコパワーを受けたら、厄介だわ」

「サイコパワー?わかりました」

 

急いで近くに来ていたクルーザーの元へ泳ぐ二人。一先ず作戦を考えるために、みんなを集めた。このままでは、ホエルコが溺れてしまう。なんとかして、あの岩から引き離さなければ。

 

「でも、押しても引いても、動きそうになかった。どうすれば……」

「私に考えがあるわ。ルガルガン、お願い」

 

ルガルガンはいわタイプ、つまり水に弱い。一体何ができるのだろうか、そうみんなが思ったが、次の瞬間には驚かされるだけだった。飛び出したルガルガンは、高速でホエルコが囚われている岩場へ突撃し、それを粉砕してみせたのだった。全く水にひるむことなく、危なげもなくクルーザーに着地して見せるルガルガン。

 

「すごいスピード」

「やっぱりかっこいいよ。ライチさんも、ルガルガンも」

「ホエルコは?」

 

岩場が崩れた際の煙が晴れる。ホエルコは岩に当たることもなく、無事のようだ。

 

 

 

 

と思った瞬間、その体が沈んだ。

 

「しまった!ハギギシリのサイコパワーで泳げなくなってたのね!」

「ホエルコ!」

 

一瞬動揺したライチの横を二つの影が飛び出したを一つはサトシ、もう一つはゲッコウガだ。二人はすぐさまホエルコの救出に向かったようだ。すぐに追いかけようとしたライチたちだったが、怒ったハギギシリに足止めされてしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ホエルコを追って潜るサトシとゲッコウガ。なんとか追いつき、体を押し上げようとするものの、二人だけでは力が足りない。

 

(くそっ、今シンクロしたとしても、流石にホエルコをこのまま押し上げていけるかどうか……ん?)

 

ふと、サトシの耳に、何かが聞こえて来た。どこか懐かしいメロディのような……

 

と、サトシたちの下から、渦を巻く海流が登って来た。それはホエルコの体の真下、まるで押し上げるかのように登っていく。チャンスだと思ったサトシは、その海流の力を借りながら、なんとか海面を目指した。

 

まただ。また聞こえた。どこで聞いたのだったろう、この音色を……

 

 

「プハッ!ライチさん!」

「サトシ君!大丈夫!?」

「はい!でも、このままじゃ、ホエルコが!」

「わかったわ。みんな、ホエルコを支えて!」

「はい!」

「うん!」

「わかりました!」

「ええっ、ぼ、僕も!?」

「わたくし、お薬を持って来ます!」

 

次々と飛び込むクラスメートたち。ホエルコを浮かばせるために、周りを取り囲んで、体を支える。その様子を見ていたかのように、渦を巻く海流も、彼らが支え出した時には、止まっていた。

 

「ホエー!ホエー!」

「ホエルコ、大丈夫よ」

「心配するな。絶対に助けてやるから。な!」

 

興奮気味だったホエルコを優しく撫でながら話しかけるサトシとライチ。幸か不幸か、ホエルコの視界に入ったのは、この二人だった。少しずつ、おとなしくなるホエルコ。どうやら信頼してくれたようだ。

 

「ライチさん、お薬です!」

「ありがとう!ホエルコ、真似してね?」

 

薬を飲み込むふりをするライチ。それを真似てホエルコが大きく口を開く。その中に薬を放り込むと、サイコパワーによって動けなくなっていたホエルコの体が自由になった。

 

「もう大丈夫だからね。よく頑張ったわ、ホエルコ」

 

心から安堵したような声を出すライチ。ホエルコの方も、元気になったようで、お礼をするように一鳴きした。

 

 

ホエルコを見送ったサトシたちは、クルーザーに戻り、改めてアーカラ島を目指して進んだ。

 

 

「サトシ君、今日は大活躍だったわね」

「そんな。ライチさんこそ、ホエルコをすぐに大人しくさせて。すごいかっこよかったですよ」

「ありがとう。あ、そういえば、サトシ君。あなた、どうやってホエルコを海面まで連れて来たの?ゲッコウガと一緒だったとはいえ、あのホエルコを二人だけで運ぶなんて」

「実は、海流に助けられたんです」

「カイリュー?」

「いや、渦を巻く海流が、ホエルコを押し上げてくれたんです。まるで、俺たちを助けてくれた見たでした」

「そんなことが?ポケモンの仕業かしらね?」

 

「やっぱりさっきのハクリューかな?」

「そうかもね。でも、そんなすごいパワーを持ってるなら、特別なハクリューなのかも」

『この辺りにはミロカロスやギャラドスもいることがあるロト』

「でも、きっといいポケモンなんだね。会って見たいなぁ、その海流を作り出したポケモンに」

 

みんながその話で盛り上がる中、サトシは一人、先ほど聞こえたメロディを思い出していた。

 

「♪〜♩〜」

 

気がつけば、そのメロディを口笛で吹いていた。それはとても小さくて、話し込んでいるみんなには聞こえなかったみたいだ。でも、ポケモンたちは、その音色に反応した。まるで、その曲が何か特別な意味を持っているかのように。

 

海、メロディ、海流、そしてポケモン……

 

「もしかして……いや、そんなまさか」

 

2度も旅の先で、自分を助けてくれたあの白い姿が思い浮かぶ。1度目は世界の命運をかけて。2度目は小さな友を守るために。

 

幻であることを、この星のために願った、心正しく、力強いあのポケモン。あれから、見守ってくれていたのだろうか。

 

「また、助けてくれたんだな」

 

夕日が沈む中、あたりが暗くなり始める。見えにくくなった海から、一体のポケモンが顔を覗かせる。暗くなった海では、その姿を見ることはできなかった。しかしそのポケモンはクルーザー、いや、正確にはサトシを見ていた。

 

「♪〜♩〜」

 

サトシの口ずさんでいたのと、同じメロディが聞こえてくる。ハッとしてその方向を向いたサトシは、一つの長い尾が、海に潜るのを見つけた。今度はみんなにも聞こえたようで、みんな辺りを見渡していたが、サトシは今見たことは秘密にしておこう、そう決めたのだった。

 

「♪〜♩〜」

 

再びその音色を口ずさむサトシ。アーカラ島冒険の前に、またすごい出来事に巻き込まれてしまった。おそらく、冒険していれば、更にいろんな出来事もあるだろう。でも、やっぱりワクワクしている。

 

「よろしく、アーカラ島。よろしく、カプ・テテフ……ありがとな……」

「えっ?サトシ。最後なんて誰かにお礼言ってたみたいだけど?」

「……なんでもない。ちょっと海流を起こしてくれたあいつにな」

「あいつ?」

 

 

(また会おう……我が操り人よ……)

 

 

 

こうして、サトシたちはぶじにアーカラ島に辿り着いた。宿泊先のポケモンセンターについた彼らは、少し遅い夕飯を取り、次の日からの授業に備えるのだった。

 

 

余談だが、やはりアローラ地方でも、ジョーイさんはほとんど同じ顔の人たちばかりのようだ。

 

もうわけがわからないよ




というわけで、今回ガチでゲスト風に登場(?)してもらいました〜
他にも懐かしい所にいくつか触れてますけどねぇ

まぁ、なんとなく変えすぎた感ありますけど、許してね〜
特にアシマリ

もしかしたらこんな感じでなら、度々登場するかもです笑

ではでは、シーユー、ネックストターイム


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ムーランドサーチ対決


*注意
今回から、完全オリジナル要素が含まれていきます

ストーリーの流れには影響はないかもですが、大きな改変であることは間違いないですので

では、どうぞ


朝、早めに目を覚ましたライチは、いつも習慣的に行なっている、ヴェラ火山への祈りをしに、外へと出た。

 

まだ日が昇る少し前の時間のため、外を出歩く人も少ない。と、前から人影がこちらに向かってくるのが見えた。ライチの側まで来たその人物は、朝から元気のいい笑顔を見せ、挨拶をした。

 

「アローラ、ライチさん」

「ピカチュウ!」

「コウガ」

「アローラ、サトシくん」

 

額にうっすらと汗を浮かべながら笑うのは、昨日のホエルコ救出の際に活躍した少年、サトシだ。一緒に走っていたらしいピカチュウとゲッコウガもいる……あれ?一緒に走ってた?

 

「こんな朝早くからどうしたの?」

「いえ、なんだか新しい島での授業が楽しみで、目が覚めちゃったからトレーニングでもしようかと思って」

「そう。熱心なのね」

「ライチさんは、どうしたんですか?」

「私はヴェラ火山に朝の祈りを捧げようと思ってね。いつも習慣的にやってるのよ」

「じゃあ、俺も一緒に行ってもいいですか?」

「ええ、いいわよ」

 

ライチに連れられ、サトシはオハナタウンのはずれにある、小さなお祈りの台座に来た。その台座の正面に立つと、丁度ヴェラ火山が目の前に見える。

 

「じゃあ、お祈りするわ」

「はい」

 

目を閉じ顔を伏せるライチを見て、サトシたちも真似をする。

 

「アーカラの大地の恵みをもたらす、ヴェラ火山。その炎は命の炎。アーカラの守り神、カプ・テテフ。どうか今日もこの大地に祝福を」

 

しばらく沈黙したのち、ライチは顔を上げた。

 

「さぁ、サトシくん。戻りましょうか」

「はい。あの、ライチさん?」

「なぁに?」

「カプ・テテフにも神殿があるんですか?」

「ええ。あるわよ」

「今度連れて行ってください!」

「いいわよ。でも、今は戻って朝ごはん食べないと。今日の課外授業は、エネルギー使うからね〜、っとわわっ!?」

 

走り出すライチ、だったが、すぐさま足元の石に躓き、転んでしまう。

 

……………(−_−;)

 

いち早く手を差し出すゲッコウガ。その手を取り立ち上がるライチ。大きな怪我はなかったようなので、とりあえずほっとする。

 

「大丈夫、大丈夫。じゃあ、今度こそ行こっか」

「はい」

 

今度は転ばずにかけ出すライチ。その後をサトシたちも着いて行く。

 

 

その様子をピンクの体を持ったポケモンが眺めていたことには、気づくことができなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、今日の課外授業、メインとなるポケモンは、

 

「おおっ、ムーランドがいっぱいいる!」

「ヨーテリーやハーデリアもいるな」

 

朝食を食べ、ライチさんに連れられた一行が着いたのは、大勢のムーランドたちがいる場所だった。

 

「ここはね、ムーランドたちがライドポケモンになる訓練を受ける場所でもあるの」

「ライドポケモンに?」

「そう。今日はムーランドに乗って、みんなには宝探しをしてもらうわ」

『ムーランドは鼻がとてもよく、地面に埋まっているものを見つけることができるロト』

「さぁみんな。好きな子を選んでみて」

 

ライチに言われ、並んでいる様々なムーランドを見るサトシたち。

 

「おっ、こいつバトルとかでも強そうだな。あっ、こっちはレースでも活躍しそう」

 

一体一体を見ながら長所を述べるサトシ。ムーランドたちも褒められて嬉しそうだ。次々にクラスメートがペアのムーランドを決める中、サトシとスイレンのみ、まだ決まっていなかった。

 

「ん?こいつ……」

「ああ、その子はライドポケモンになったばかりなの。この中じゃ、一番の暴れん坊よ」

 

二人の視線が一体のムーランドに止まる。他と比べて、やや棘のある視線を向けて来ている、そんな印象を持たせる相手だったが、二人はその目を見ていた。

 

「凄い、いい目をしてるな」

「うん。澄んでる、とても」

「スイレン、こいつにするか?」

「えっ、でもサトシは?」

「俺は他の奴にするよ。スイレンが一緒にやってみたいんだろ?」

「……うん!」

 

こうして、サトシ以外のメンバーが選び終わった。さて、サトシはというと、

 

「わわっ。擽ったいって。わかったから、な」

 

何故かやたらとサトシを気に入ったムーランドがいたため、彼と組むことにした。のしかかられながら、サトシはその重さにハッとする。思い出したのは、あの時のムーランド。大きさの割に、あまりにも軽かったその体……

 

(ムーランド……安心してくれ。ニャビーは今日も元気にしてるぜ。きっと、俺がお前のぶんまで、ニャビーを……)

 

優しく目の前ムーランドを撫でる。気持ち良さそうに目を細めるその姿に、サトシも笑みがこぼれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「みんな、用意はいい?鐘が鳴ったら戻ってくること。それじゃあ、ムーランドサーチ、スタート!」

 

ライチの合図で各々目的地を決めて走り出す……二人以外は。

 

片方はスイレン、さすが暴れん坊とライチに言われただけあって、そう簡単には言うことを聞いてくれそうにない。何とかスイレンが振り落とされないように乗ると、鼻をフンス、と鳴らしどこかへ向かって歩き出した。

 

一方もう一人、ウェアに着替え、髪をまとめたリーリエはというと、シロンやピカチュウに触れたとはいえ、まだまだ他のポケモンに対する恐怖心が消えたわけではない。それでも、ムーランドに乗れるようになろうと挑む姿を、ククイ博士とライチが優しく見守っている。

 

 

 

 

ムーランドに連れられサトシは森の方へとやって来た。と、何かを見つけたのか、鼻をヒクヒクさせ、地面を掘り始めるムーランド。ここ掘れワンワン、というか、ここ堀田ワンワンである。穴の中を見ると、何か小さな赤いものが見える。

 

「なんだこれ?」

『それは一部のマニアに人気の、あかいかけらロト』

「へ〜。よく見つけたな、ムーランド」

 

労うように撫でると、嬉しかったのかサトシに飛びつき顔を舐めてくる。本当にサトシが気に入っているようだ。

 

と、またムーランドが何かを見つける。

 

『おっと、一部のマニアに人気の、あおいかけらロト』

「違う色のものもあるのか。というか、これって何のかけらなんだろう?」

「ワウッ!」

「へ?また見つけたのか?どれどれ〜……って、これはまさか!?」

『御察しの通り、一部のマニアに人気の、きいろいかけらロト!』

「やっぱり……かけら多いな、この辺り」

 

褒めて褒めてとサトシに顔を寄せるムーランド。しっかりと労うように撫でるサトシ。小さなものでも、これだけ短時間で見つけられるのは大したものだ。素直に感心するサトシは、その後もムーランドとサーチを続けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、他のみんなはそれなりに順調に進んでいるが、一組、なかなか苦戦しているようだった。

 

スイレンのペアだ。

 

このムーランド、暴れん坊なだけでなく、主人を自分で選ぶタイプなのか、スイレンの指示やお願いをスルーし、ひたすらにきのみを食べ続けている。

 

「ねぇ、宝探ししよう?」

「…………」

「駄目かぁ。どうしたら仲良くなれるのかな……?」

 

こんな時、ライチだったら?サトシだったら?どうしていただろう。ポケモンたちを惹きつける、不思議な魅力を持つ二人。きっとあの二人なら、このムーランドともすぐに仲良くなれただろう。

 

「どうしたらいいんだろう……あ」

 

いい案が思いつかず、ただムーランドの頭を撫でながら考えごとをしていると、カランカラン、と鐘の音がする。どうやら午前の制限時間はもう終わりのようだ。顔を上げたムーランド。流石に鐘の音が戻る合図だということは理解しているらしく、やや駆け足で集合場所へと向かった。

 

 

 

さて午前の部の鑑定、ライチがみんなの見つけたものに得点をつけるというものだが、みんなの成績はどうだったのか。

 

「サトシはあか、あお、きいろ、みどりのかけらね。合計20点」

「マオはちいさなキノコとおおきなキノコね。これも20点」

「スイレンとマーマネはまだみたいね、リーリエは今も頑張り中」

 

みんな中々大物はヒットしないようだ。一人、マーマネだけは一発逆転を狙っているからと自信満々だ。

 

「さて、カキはどうかな?ん、これは」

「何ですかそれ?石、じゃないですよね?」

「そう。これは化石よ。ズガイドスの頭の一部ね。よく見つけたわ、カキ。100点よ」

 

流石はアーカラ島に住んでいるカキ。古代の地層がある場所を探し、見事に大物を見つけさせることに成功したようだ。初めて見るズガイドスの化石に、みんなも興味津々だ。

 

「どうだ、サトシ?」

「よぉし、後半で、俺たちもスッゲェもの、見つけてやるからな!」

「望むところだぜ!」

 

火花を散らし始めるサトシとカキ。こういうことに熱くなれるところは、まだまだ子供のように思える。くすりと笑うライチ。鑑定が終わったため、リーリエを呼び、一度昼食をとることにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「リーリエ、調子はどう?」

「うう、それがまだ……大丈夫大丈夫と、自分に言い聞かせているのですが……」

 

しょんぼり気味のリーリエ。とはいえ、初対面、それもムーランドのような大きなポケモンが相手では、緊張するなという方が無理かもしれない。さてどうしたものかとみんなが考え込む。

 

「まずは、ムーランドと目線を合わせて、話しかけてみたらどうだ?」

 

と、早速意見を出すのは我らがサトシ。既に食べ終わってるあたり二重に流石の早さだ。

 

「話しかける、ですか?」

「リーリエのこととか、色々と話してみたら、ムーランドとの距離も縮まるかもしれないだろ?」

「わたくしのこと……はい。やってみます!」

 

意気込みを見せるリーリエに、ウンウンと頷くサトシ。中々的確な助言を与えるサトシに、ライチは感心したような視線を送る。

 

いわゆる触るための手順や、効率的な手段などを教えたわけではない。ただ、彼はリーリエなら乗ることができると信じ、疑っていないのだ。そのために、ポケモンと心を通わせるための第一歩を教えただけ。でも、それこそが、彼女の突破口になるかもしれない。

 

ますますサトシの大試練が楽しみになって来る。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

午後の部の開始とともに、サトシとムーランドはダッシュで岩場の方へと向かった。自分たちも化石を見つけるんだと、大張り切りのようだ。

 

「よーし、ムーランド!しっかりと見つけていこうぜ!」

「ワウッ!」

 

—————クンクン

 

「……ワウ?」

「ん?どうした、ムーランド?」

 

辺りの匂いを嗅いでいたムーランド。何かを見つけたのか、首を傾げた後、小さな洞窟に入っていった。暗い洞窟を奥に進むことしばし、明かりが見えた。その方向へ進むと、天井に穴が空き、光が漏れている空間に辿り着いた。

 

「なんだろ、ここ?」

 

天井部分の崩れた真下、瓦礫の中に何か埋まっているのだろうか。ムーランドの力を借りながら、サトシは瓦礫をどかした。

 

一見そこには何もなさそうに見えた。が、砂の下で、何かが光を受けて光っているのが見えた。そっとそれを手に取るサトシ。

 

「これって、もしかして……」

 

手に取ったのは透明な鉱石。宝石のような価値あるものではなく、アクセサリーに使うものでもなさそうだ。だがその中央に、サトシは不思議な模様を見つけた。一粒の水滴のような、模様。それにサトシは見覚えがあった。

 

「確か前に、博士が見せてくれた……ミズZの」

『ビビッ、確かにおんなじ模様ロト!』

 

だが、あの時のミズZは綺麗な青色をしていた。だというのに、この鉱石は透明だ。また、形が違う。通常のZクリスタルが横長のひし形なのに対し、この鉱石はまだ磨かれていないためデコボコしている。

 

それに、勘ではあるが、今は力を感じないのだ。デンキZやノーマルZと違って、触れた時に感じる不思議な感覚、それがこの鉱石からは感じられなかった。まるで、空っぽの容器のようにも思える。

 

『サトシ、それをどうするロト?』

「取り敢えず持って帰って見るよ。せっかくムーランドが見つけてくれたんだしな。サンキューな」

 

またまたサトシに飛びつき顔を舐めるムーランド。よしよしと撫でながら、サトシは改めて手に持つその鉱石を見る。

 

(なんだかわからないけど、何故か、これが俺に取って、とても大切なものになる。そんな気がするな)

 

洞窟の外に出たサトシたち。さて、別の場所を探そうと思った時、何処か近くで爆発音、そして声が聞こえた。

 

「今の……スイレン!」

 

ムーランドに跨ったサトシは、大急ぎで音の方へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ダストダスのヘドロばくだんが、アシマリに決まる。大きく後ろに飛ばされたパートナーを抱え、スイレンは周囲を見渡す。ムーランドが後ろで目を閉じていて、正面には三体のダストダス。運悪く、彼らのナワバリに踏み込んでしまったのだろう。明確な敵意を持ってこちらを見る相手に、スイレンは逃げなきゃ、そう思った。でも、

 

「このままじゃ、ムーランドが……私が守る。アシマリも、ムーランドも!」

 

強い意志を持った瞳でダストダスたちを見るスイレン。ダストダスの一体が前に進んで腕を振り下ろそうとする、と、

 

「ワウッ!」

 

スイレンの後ろから、寝ていたはずのムーランドがギガインパクトで突っ込んできた。ダストダスを突き飛ばすムーランド。そのまま怒る他の二体と対峙する。まるでスイレンを守るように。

 

「ムーランド。助けてくれるの?」

「ワウ」

 

視線ををかわすムーランドとスイレン。そんな二人めがけて、残り二体のダストダスが襲いかかる。

 

「ピカチュウ、アイアンテール!ムーランド、ほのおのきば!」

「チュー、ピッカァ!」

「ワォウッ!」

 

横から飛び出した二体の攻撃が、ダストダスたちを弾き飛ばした。走ってきたムーランドの背中に乗っているのは、

 

「大丈夫か、スイレン?」

「サトシ!」

「なんだかよくわからないけど、取り敢えず、ここは行こう!」

「うん!ムーランド!」

「ワウッ!」

 

スイレンの言葉に、膝を折り身を屈めるムーランド。その事に、一瞬目を見開くスイレンだったが、すぐさま跨り、サトシたちの後を追って駆け出した。去り際にちゃんと一言残して。

 

「騒がせちゃって、ごめんね!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、無事に逃げ切ったサトシとスイレン。すっかりスイレンに心を許したムーランドを見て、サトシが嬉しそうに笑う。

 

「ちゃんと仲良くなれたんだな、そのムーランドと」

「うん!ありがとね、ムーランド」

「ワウッ!」

「あれ、どこ行くの?」

 

突然、スイレンを乗せたまま、ムーランドがどこかへ走り出す。なんとなく気になったため、サトシもスイレンたちの後を追いかけて見る事にした。

 

 

 

彼らが辿り着いたのは、サトシがいたのとは別の小さな洞窟。その中へとスイレンたちが入って行く。と、ここで鐘がなる音が聞こえた。

 

「やっば、戻らないと……でも、さっきのこともあったし、スイレンたちのこと、待つとするか。な、ピカチュウ」

「ピカチュウ!」

 

待つことしばし。スイレンが何かを持って洞窟から出てきた。そのままサトシたちと合流し、集合場所を目指す。既にみんな集まっており、どうやら自分たちを待っていたようだ。

 

「それじゃあ、後半戦の鑑定を始めるわね。今回は、マオから。大きなサンの実ね〜。通常のサイズでも珍しいのに、こんなに大きいのは初めて見るわ。75点」

「ああ〜、カキには届かなかったか〜」

「次、マーマネ。これは大昔にアーカラ島に落ちた隕石のかけらね。150点」

「えっ、マーマネがトップ!?」

「ま、まぁね」

 

到着順に並び直し、鑑定が進む。午前の部と比べると、マオとマーマネの二人は中々高得点のものを見つけてきたようだ。

 

「そして、リーリエの宝は、あれだ!」

 

ククイ博士が指差す先、ムーランドの背に跨り、辺りをかけるリーリエの姿があった。もっとポケモンと仲良くなりたいという気持ちを持って、ムーランドに話しかけていたリーリエ。その気持ちに応えたのか、ムーランドも膝を曲げ、じっと動くことなくリーリエを待ったのだ。

 

何度も怯えながらもゆっくりと近づいたリーリエは、見事に乗ることができたのだった。リーリエはもちろん、ムーランドも嬉しそうにしている。

 

みんなの賞賛の声を受け、照れるリーリエ。また一歩、大きく進歩することができたみたいだ。

 

「じゃあ次ね。カキは、またまた化石ね。今度はアーケンの尾羽ね。これも100点、合計して200点」

「ええっ!?また抜かれた……」

「やっぱり、カキが優勝かな?」

 

ニヤリとサトシを見るカキ。しかしサトシは自分の見つけたもの、その鉱石のことが気になっていたため、勝負のことが頭から抜け落ちていた。そしてサトシの番。

 

「サトシは……、何もなし?」

 

サトシの前の台には、何も乗っていなかった。何か言おうとしたロトムに、しーっと合図を送るサトシ。なぜかわからないけど、もうしばらくこの鉱石については秘密にしておきたいと思ったのだ。

 

(なんでだろう……でも、なんだか、自分で答えを見つけないといけない。そんな気がする)

 

「じゃあ最後はスイレンね。どれどれ?」

 

台座の布をライチが取る。そこには中央にZの模様が見える石が置いてあった。どことなく、カキやサトシの身につけているものに似ているそれは、

 

「Zリングの原石ね!凄いわ、スイレン。500点!よって、ムーランドサーチ対決は、スイレンの優勝よ!」

 

その見事なまでの逆転勝ちに、スイレンの周りにみんなが集まる。台座の上のZリングの原石は、夕日の光を受けて、キラリと輝いた。

 

「これでZリングを作るわよ」

「もしかして、私の?」

「もちろん!」

「やったな、スイレン」

「凄いじゃん!」

「いいなぁ」

「良かったですね、スイレン」

「うん。リーリエも」

 

こうして、みんなムーランドと仲良くなることができた一日、誰もが楽しい思いをすることができたのだった。

 

 

ただ、宿舎のポケモンセンターに戻るときに、サトシだけが、何か考え込みながら歩いていることに、ククイ博士とライチは気づいた。

 




というわけで、サトシのムーランドが見つけた鉱石。
これは今後のこの物語の中では大きな役割を果たすことになると思います

どう関わっていくのかは、お楽しみに


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スイレンとアシマリ、二人の試練

今度は公式によるスイレンプッシュですなぁ

というかサトシとデートと聞かれて顔真っ赤にするスイレン……まさか公式でフラグ立ってるのか?

今回も変えてますけど、まぁ気にせずにね笑


あと、どうでもいいことですけど、アニポケの英語版の初代opって結構かっこよくないですか?


今日も快晴、アーカラ島。本日の課外授業はお休みのため、サトシたちは自由行動をどう過ごすか、各々好きに決めてもいいとのことだった。ポケモンセンターのロビーで一人釣竿の調子を確かめるスイレン。そこに、サトシとピカチュウが合流した。

 

「スイレン、何してるんだ?」

「釣竿の確認。今日の自由時間、釣りに行くの。大物釣るの、メガギャラドスの天然物」

「メガギャラドス!?」

 

真っ先に頭の中に赤い体のメガギャラドスが浮かび上がったのは、完全にあの時のフレア団との決戦が原因だろう。あの男の語った理想とはわかり合うことができなかったものの、そのポケモンとの間には、確かな絆があったのだろう。でなければ、あれほどまでの力を出すことなんて、出来るはずもない。

 

「って、あれ?天然物……いるのか?」

「嘘です」

「って、なんだ、嘘かぁ」

 

くすくす笑うスイレン。初めて会った時は、どちらかというと大人しそうな印象だったが、実在はかなりアクティブで、時々こうしたお茶目な行動をしてみんなを楽しませる。

 

こういった嘘を言われても、スイレンを嫌いになる人が誰もいないのは、彼女の邪気の無さや、優しさなどが、みんなにもちゃんと伝わっているからなのかもしれない。

 

「でも、釣りに行くのは本当。せっかくアーカラ島に来たから、こっちの大物も釣りたい」

「釣りかぁ。みんなでやったよな?スイレンが特別講師でさ」

「うん。楽しかった。サトシも、いっぱい好かれてた」

「スイレンほどじゃなかったさ。けど、楽しかったなぁ」

「だったら、その……一緒に来る?」

 

少し頬を赤らめ、モジモジするスイレン。サトシよりも背が低いため、見上げる形になるのだが、完全に天然物の上目遣いである。こんな風に聞かれたら、どんな男でも、

 

「え、いいのか?あ、でも俺釣竿持って来てなかったしなぁ」

 

……断ってはいないから、誘うこと自体には成功している、が。対してドギマギする様子がないのはもう流石サトシとしか言いようがない。フラグに気づくことができないのだから、女の子の方が大変である。

 

が、まぁ概ね乗り気なサトシを見て、内心「やった」とガッツポーズのスイレン。鞄の中から予備の釣竿を取り出して、サトシに手渡した。

 

「はいこれ。我が家の家訓。転ばぬ先の釣竿、貸してあげる」

「サンキュー。流石スイレン、用意がいいな」

「一人より二人。一緒にできるかなって、思ってたから」

 

と、二人が大物を釣ることに士気を高めていると、カキを先頭に、他のみんなもやって来た。

 

「おっ、サトシ、スイレン」

「カキ、って、みんなでどこか行くのか?」

「俺ん家に行きたいんだとさ」

「だって牧場だよ!新鮮なモーモーミルクを使ったチーズやバター、ヨーグルト」

「ソフトクリームも忘れちゃいけないね!」

「わたくしはモーモーミルクをベースとした、新しいポケモンフーズを作って見たいと思ったので」

「てなわけだ。二人も来るか?」

「それも楽しそうだな。でも、今回は遠慮するよ。俺、これからスイレンと二人で釣りに行くからさ」

「「……二人で?」」

「そ、そうか。頑張れよ!」

「大物釣ってね!」

 

何か一瞬聞こえたような気がしたが、カキとマーマネが慌てたように挨拶をして、マオとリーリエの背中を押して行く。

 

「何だったんだ?」

「さ、さぁ?」

 

内心カキとマーマネに感謝し、マオとリーリエにはごめんねと謝っておくスイレン。折角サトシと二人きりで何かをするチャンスなのだから、目一杯楽しみたいのだ。

 

「行こう、サトシ」

「オッケー。大物釣ろうぜ、スイレン!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ポケモンセンターから出る二人。と、丁度ここでライチが、ケンタロスに乗って通りかかった。

 

「あら、お二人さんんっ!?」

 

降りるのに失敗するライチ。見事に地面に顔が付いている。本当にドジっ子ここに極まれりである。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫大丈夫。それより、二人は釣りデートかな?」

 

ポンッ、と効果音が聞こえて来るんじゃないかと思うくらいに、顔が一瞬で真っ赤になるスイレン。

 

「そそそそ、そんなのじゃないです」

「えっ、そうなの?私てっきりスイレンは、」

「えっ、あっ、そのっ」

 

顔を真っ赤にしたままアタフタとするスイレン。その様子を見て、サトシを見て、何やら納得するライチ。スイレンの肩に手を置いて、何やらウンウンと頷いている。

 

「そっかそっか。頑張ってね」

「へ?」

「ライチさん、俺たち大物を釣りたいんですけど、どこかいい場所知ってます?」

 

今の会話の流れを完全にスルーしたサトシ。といっても、デートの意味くらいはわかる。わかるのだが、スイレンの「そんなのじゃない」という発言を聞いて、デートじゃないとサトシの中では結論づけられてしまっているだけなのだ。

 

「そうね〜。そういえばせせらぎの丘の近くにある池に、主と呼ばれるポケモンがいるわ。行ってみたら?」

「「主?」」

 

二人の頭の中では別々の思考が展開される。スイレンは完全に超大物との釣りバトルが出来ると気合が入っている。一方サトシは、かつてバトルした主と呼ばれるデカグースのことが思い出されていた。

 

(もしかして、デカグースと同じぬしポケモン?)

 

「行ってみようぜ、スイレン!」

「うん。ライチさん、また後で!」

「行ってらっしゃい!帰る頃には、スイレンのZリング、仕上げておくから、楽しみにしててね」

「は、はい!」

 

手を振って見送ってくれるライチ。サトシとスイレンもしっかりと手を振ってから、改めてせせらぎの丘を目指す。

 

「楽しみだな、スイレンのZリング」

「う、うん」

「?どうかした?」

「ううん。ただ、なんだかあんまり実感なくて……」

 

カキやサトシも持っているZリング。それは、試練に打ち勝ち、ポケモンと一緒の強さを示したものが与えられるもの。自分は、そのリングに相応しいのだろうか。そんな疑問が頭をよぎる。

 

なんだか落ち込んでいるようにも見えるスイレンを励ますため、サトシはアローラ地方に来る前の釣り経験についても色々と話してみた。すぐに笑顔が戻るスイレン。中でもスイレンが一番興味を持ったのは、黄金のコイキングの話だった。

 

「本当にいたの、黄金のコイキング?」

「ああ。釣れたわけじゃなかったんだけど、最後に姿を現してくれたんだ」

「すごい!やっぱり大きかった?」

「普通のよりも一回りもふた回りもな」

「じゃあ私たちは池の主、絶対釣るよ!」

「ああ。そのいきだぜ、スイレン!」

 

二人は意気揚々と、ライチの言っていた池を目指した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

辿り着いた池は、それなりの広さではあるが、決して広大というわけではない。本当に主がいるのだろうか。いるとしたら、どんなポケモンなのだろうか。

 

「まぁ、釣ればわかるか」

「うん。釣ればわかる!」

 

早速釣りを開始しようとする二人。しかし、彼らを呼び止める声がした。自称、釣り名人歴40年にして池の主の宿命のライバル。そのおじさんは、主と戦ってみたいなら、まずヒンバスを釣って、実力を示すように話し始める。一般的に、ヒンバスとは釣り上げることが非常に難しいポケモンである。事実ロトムの説明でもわかり、名人も何やら自分の過去や、難しさについて語っていた。が、

 

「おっ、釣れた」

「私も」

「うっそぉぉぉぉお!?」

 

それをあっさりやってのけるサトシとスイレン。海のスイレンとポケモンホイホイは伊達ではない。それも、ぴったり異なる性別を釣り上げるあたり、示し合わせたのではないかと思うくらいだ。何やらおじさんが泣いているがら、気にしない。

 

「あ、あれ!」

「ん?」

 

池の淵にある小さな水たまりで、一体のポケモンが跳ねている。白い身体に、泣いているように見える瞳。

 

「ヨワシ?」

「こいつ、怪我してる!手当てしないと」

「うん」

 

サトシの持ち歩いていたキズ薬を、額にかけたあと、そこにスイレンの持っていた大きめの絆創膏を貼ってあげる二人。スイレンが池に戻してあげると、ヨワシはお礼を言うように鳴いて、潜っていった。

 

 

何はともあれ、最初の試験をクリアした二人は、自称釣り名人歴50年(何故か増えているが二人はツッコまない)からボートを借りて、中央部分に向けて漕ぎ出した。

 

しかしサトシとスイレンが向かい合うように座り、サトシが一人で漕いでいる姿は……はたから見たらどうみても釣りデートにしか見えない。ピカチュウとアシマリも、船の先端部分で何やらタイ◯ニックごっこをしている……なんて不吉なフラグを立てるのだろうか、この子たちは……

 

「この辺りでいいかな?」

「うん。ここなら、きっと色々釣れる」

「よーし、じゃあ早速、いっけぇ!」

 

ルアーを下ろすサトシ。僅か数秒後、早速何かがヒットした。今回サトシが引き上げたのは、コイキング。サトシの腕の中に落ちたかと思うと、ヒレで強めの一撃を与え、そのまま池の中に戻っていった。

 

「てて、またコイキングかぁ」

「ふふっ。サトシ、コイキングに好かれてる。はっ!?」

 

温和な表情から一転、スイレンが本気の顔に変わる。とある一点に真剣な視線を向けたスイレンは、釣竿を手に、ルアーを飛ばした。

 

水面に、何かの影が浮かび上がる。ただのポケモンではなさそうだ。

 

「まさか、もう来たのか?」

 

息をのむサトシとスイレン。緊張の表情をするピカチュウとアシマリ。

 

唐突に、スイレンの釣竿が引っ張られた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、一方カキたちはと言うと……

 

「ありがとな、マーマネ。助かった」

「まぁ、一応手伝うって約束だったしね。それに……」

「ああ……」

 

作業の手を止め、ちらりと視線を送る二人。その先には、女子組がいる。それはまだいいのだが、問題は彼女たちの前にある。

 

「あ〜あ、あたしも付いて行けばよかった。サトシとスイレン、二人だけなんて……よく考えたらサトシはアクティブなことが好きだから、釣りに惹かれるよね……」

「まぁ、サトシのことですから、特に意識しているわけではないと思いますが……それにしても、もっとこちらの気持ちを察してくれても。ねぇ、シロン?」

 

モーモーミルクにチーズ、ヨーグルト。ソフトクリームなど、名産品が色々と並べられ、次々にガールズのお腹に消えていく。二人のパートナーもやや呆れ顔だ。

 

「ありゃ手伝えって言えるわけないよな」

「そだね……」

 

今頃二人は楽しく釣りをしているのだろうか。取り敢えず、せめて二人が目一杯楽しんで来てくれるといい、そんな風にボーイズ二人は思い始めていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「スイレン!」

 

咄嗟にスイレンのお腹に腕を回し、力一杯抱き寄せるサトシ。そのタイミングはまさに完璧というべきだろう。ほんの一瞬でも遅れていたら、スイレンが釣竿ごと、池に引きずり込まれていたかもしれなかったのだから。サトシの腕の中にいながらも、スイレンは釣竿を手放していない。

 

「かかった。大きい!」

「スイレン、大丈夫か?」

「うん!でも……強い、力が」

 

水面目掛けて何かが浮上してくるのが見える。その何かは水面を割り、大きな水しぶきをあげながら、サトシたちの前に姿を表した。

 

深い青色の体に、白い瞳。身体にあの時のデカグースと同じ、不思議なオーラを纏っている。

 

「これは、ぬしポケモン!なら、こいつが、」

「池の、主」

 

何やら陸地で喜んでいる、自称釣り名人歴70年だか80年だかのおじさんはほっておいて、主にバトル相手として認められたらしいスイレンは、さらに気合を入れる。

 

サトシが身体を支えているため、引きずり込まれることこそないが、主によって船はあちこち引き回される。そしてとうとう、池の中央にある小さな陸地に彼らは乗せられた。

 

なんとか無事に着地したサトシ。しかも、アシマリ、ピカチュウを片腕で抱き、もう片方の腕でスイレンを支えた状態で。まぁ、無事といっても、着地した時の衝撃で、若干足がしびれてはいるのだが、流石の運動神経である。

 

「っ〜〜。スイレン、大丈夫か?」

「平気」

 

若干涙目のサトシに対し、集中しているのか、言葉数の減るスイレン。なんとか主の気を引こうとアシマリに頼むが、すぐに陸地に戻って来てしまう。その目は涙ぐんでいる。どうやら、相当恐怖心を与える相手のようだ。

 

「アシマリ……そうだよね。怖いよね。大丈夫、あとは私がやるから」

「アウ〜」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

主に負けるもんかと、足腰に力を入れ、釣竿を引き続けるスイレン。しかし、主の突然の動きにバランスを崩し、地面に倒れてしまう。

 

「スイレン!」

「ダメ!来ないで。これは、私の、バトルだから」

『一人で釣るなんて無茶ロト!』

「ピカピカチュ!」

 

立ち上がったその足は、先程ぶつけたのか、血が滲んでいる。痛みに表情が歪む。それでも一人で戦おうとするスイレン。近くの岩で身体を固定し、力の限り引き続ける。

 

先程、主によって恐怖させられたアシマリが、スイレンのその様子を見つめる。あんなに転んだら、絶対に痛いのに……弱音を吐かずに、スイレンは挑み続けている。自分は、そんなスイレンの、パートナーなのだ!

 

スイレンの諦めない姿に勇気をもらい、アシマリは、再び池の主に挑む。得意の泳ぎと、バブルこうせんを使い、主を翻弄するアシマリだったが、突然、水の中からハイドロポンプで弾き出され、岩場に叩きつけられる。

 

「アシマリ!」

「今のは?」

 

サトシが顔を水につけて確認すると、主の周囲に、何体もの水ポケモンが現れている。中でも厄介なのはママンボウだ。癒しの波動で主が元気を取り戻してしまう。何とかして、スイレンを助けなければ。

 

「どうしたの?」

「スイレンはそっちに集中しててくれ。他のポケモンが主の加勢に来てる。俺があいつらを引き受けるから、スイレンは主を」

「うん!」

「よーし!ゲッコウガ、君に決めた!」

 

水中にいるポケモンたちを相手にするため、現在手持ちで唯一みずタイプを持つゲッコウガを出す。とはいえ、通常水の中の敵を相手にするのはトレーナーから見えないため困難である。

 

もちろん、それはあくまで、一般的なトレーナーの話だが。

 

「行くぞ、ゲッコウガ!」

「コォウッガ!」

 

二人の気持ちが高まり、繋がる。激しい水流がゲッコウガを包む。

 

 

その時、島のどこか。一体のポケモンが何かに気づいたような声を上げる。その視線の先にはサトシたちのいる池。

 

「テテ?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

自称釣り名人(もう年単位じゃなくなってる)が驚愕の声を上げる中、変化したゲッコウガが水中へと飛び込んで行く。そのゲッコウガの見るものが、直接サトシに伝わる。

 

「かげぶんしん、そこから一斉につばめがえしだ」

「コウッ!」

 

主を援護しようと現れたポケモンたちの周囲を、ゲッコウガの分身が取り囲む。彼らが混乱する中、高速で接近したゲッコウガのつばめがえしが、次々に決まる。ゲッコウガが相手では分が悪いと見たのか、一体、また一体と撤退して行くポケモンたち。最後の一体が逃げて行くのを見届けたゲッコウガが、サトシの隣に降り立った。

 

「サンキュー、ゲッコウガ。スイレン、こっちは終わったぞ!頑張れ!」

「うん!」

「アウッ!」

 

アシマリも復活し、再び主に挑む。小さな攻撃でも、必ず効いてくる。主が一瞬ひるんだ隙を、スイレンは見逃さなかった。力の限り引っ張るスイレン。

 

水面を割り、主とアシマリが飛び出してくる。

 

ここで決めれば勝てる!自分が、スイレンを勝たせるんだ!

 

アシマリのその強い思いが、新たな力として発現する。ゲッコウガのように、水流が身を包む。しかし変化するのではなく、それは高速移動の推進力。その技を、サトシはよく知っていた。

 

「これって……」

「アクアジェットだ!」

 

主目掛けてまっすぐに突っ込んだアシマリのアクアジェットが、相手の身体を貫いた。バラバラになって池に落ちて行く主。いや、違う。この一つ一つが、別々のポケモンだ。それも、

 

「これ、ヨワシの群れ?」

「みんなで集まって、あの大きな主になっていたのか……」

『あの主は、ヨワシの群れた姿だったロト。データ、アップデート』

 

小さい力も、たくさん集まれば大きな力になる。まるでそれを体現しているかのようなポケモンだ。水面に、一体のヨワシが現れる。頭についている絆創膏から、さっきの子だとわかる。

 

「お前も、主の中の一体だったんだな」

「すごく楽しかったよ」

 

スイレンの方に近づくヨワシ。その口の中に、何かキラリと光るものが見える。綺麗にカットされたひし形、深い水のような青色、そして一粒の雫のような模様。

 

「これ、ミズZだ」

「私に、くれるの?」

 

頷くヨワシ。ミズZを手に取り、しばし見つめるスイレン。

 

「ありがとう。ナイスファイト!」

 

スイレンとサトシに一礼ずつしてから、ヨワシはまた潜っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ヨワシを見送ると、疲れたのか、その場に座り込むスイレン。

 

「お疲れ。大丈夫か?」

「うん。平気っ!」

 

怪我した足が痛むのか、顔をしかめるスイレン。取り敢えずは名人(自称)のいる陸地に戻らなければ。サトシがスイレンの前に屈み込み、背中を向ける。

 

「サトシ?」

「足痛むんだろ?背中に乗れよ」

「えっ、でも」

「無理しないほうがいいしな」

「……わかった」

 

サトシの背に体重を預けるスイレン。なんでもないかのように立ち上がったサトシは、ボートの中にスイレンを下ろした。

 

「あの、サトシ……重くなかった?」

「いや、全然。むしろ軽かったかな?」

「そ、そう?」

 

嬉しそうなスイレン。まぁサトシは本心から言っているのだが、ちょっとニュアンスが違うのだ。サトシの場合、他の比較対象に、ヨーギラスとかコータスなど、思わず「ん?」となるポケモンも含まれているのだ。まぁ、言わなければ問題にはならないので、今回はサトシグッジョブといえよう。

 

無事に陸地に戻ったサトシとスイレン。おじさんに礼を言ってから、ポケモンセンターを目指すことにする。もちろん、サトシがスイレンをおぶって。

 

「サトシ……ありがとう」

「ん?」

「サトシが一緒に来てくれて、すごく助かった。最初に支えてくれた時も、他のポケモンと戦ってくれたことも、運んでくれてることも。それに、すごく楽しかった」

「俺も楽しかったよ。流石スイレン、って感じだったぜ」

 

サトシの歩みに合わせ、軽く揺れる身体。不快なわけではない、むしろ心地いい。いつだっただろう、自分が最後におぶってもらったのは。妹たちが生まれてから、自分もしっかりしないとと思って、親の負担にならないように頑張った。こうして、誰かに甘えたのは、いつが最後だっただろう。

 

「ねぇ、サトシ……」

「ん?」

「私ね……」

 

「テテ?」

「「えっ」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

何か声が聞こえた。二人で上を見ると、彼らの少し上の空、一体のポケモンが彼らを見下ろしていた。ピンクの帽子のような頭に、黒とピンクの身体のそのポケモンは、首をかしげると、彼らの前まで下りてくる。

 

「カプ・テテフ!」

「これが、アーカラ島の守り神?」

 

サトシとスイレンの周りを飛ぶカプ・テテフ。その動きは、宝島でのことを思い出させる。

 

と、サトシが背負っているスイレンの足の怪我に気付いたカプ・テテフ。傷の前まで下り、目をパチクリさせる。と、キラキラした鱗粉がスイレンの傷にかけられる。たちまち癒え始める傷の様子に、スイレンは驚かされる。話は聞いていたけど、まさかこんなにすぐ効くなんて。

 

「治っちゃった……」

「良かったな、スイレン」

「うん。あの、サトシ、もう下ろしていいよ」

「あ、そっか」

 

少し名残惜しさはあるが、怪我が治ったのに、いつまでも背負ってもらうわけにもいかない。地面に降りて、改めて傷が完治していることに驚くスイレン。

 

一方サトシの方は、久々に出会えたカプ・テテフに興味津々の様子。驚くべきことに、カプ・テテフの方も、サトシに興味津々のようだ。

 

「ありがとな、カプ・テテフ」

「テテ?」

「今回のことと、この前のことも、改めて」

「……」

「なぁ、良かったら今度、バトルしないか?って、カプ・テテフ!」

 

サトシの誘いを受ける前に、カプ・テテフは上昇していた。もう興味を失ったのかと思ったが、空からこちらをチラリと見たことから、そういうわけではなさそうだ。手のようなものを振るカプ・テテフ。それを見たサトシも、また今度の意を込めて手を振った。

 

何故、カプ・テテフが再びサトシの前に現れたのか、それはまだわからない。けれども、またすぐに会えるのではないか。そんな気が、スイレンはしていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その夜、ご飯を食べ終わった頃、ライチがスイレンにあるものを手渡した。完成した、Zリングだった。

 

流石ライチの手作り品。カキのとは異なる色の石をいくつか使い、海の色にも見える。まさに、スイレンにぴったりのものだ。

 

「はい。気に入ってもらえるといいんだけど、」

「ありがとうございます!すごく、嬉しいです」

「そう?なら良かった」

 

早速腕につけるスイレン。そしてポケットの中から取り出した、ヨワシからの贈り物をそこにはめ込んだ。部屋の明かりで、キラリと水色の輝きが見えた。

 

「スイレン、お前」

「それってもしかして、」

「うん、ミズZ。カプ・テテフにもらったの」

「「「「「「ええぇぇぇぇっ!?」」」」」」

 

この発言には流石のライチとククイ博士も驚きの声を上げる。まさか、守り神がZクリスタルをあげるなんて、そんなこと……

 

「……いや、あるかもしれないな」

「確かに……あるかもしれませんね」

「確かに」

 

冷静になってみて、ありえなくはなさそうだと思ってしまうライチを除くみんなだった。ソースはこの中で唯一驚いていない少年だ。彼もまた、カプ・コケコからZリングを、そして大試練の後にはデンキZを貰っているのを見たことがあるのだから。まぁ、実際は、

 

「嘘です」

 

……………(−_−;)

 

チラリと舌をのぞかせ、頭をコツンとするスイレン。あざとい、が、やたら似合っている。スイレン本人に、何ら邪気がないからだろうか。

 

「でも、カプ・テテフに会ったのは本当。私の怪我、治してくれた。ね、サトシ」

「ああ。俺もまた会えて嬉しかったぜ。今度はバトルしてくれないかなぁ」

 

釣りバトル、及び試練に打ち勝ったスイレンとアシマリ。二人は一体どんなZ技を見せてくれるのか。そしてサトシはカプ・テテフとバトルできるのか。それはまだ先の話。

 

何だかサトシとスイレンの距離が、物理的に、縮まったように約2名感じるわけだが、それもまた別の話。

 

 




夜、寝る前にあの鉱石を取り出して眺めるサトシ。が、

「あれ?色がついてる?」

鉱石の僅かな部分が、元々透明だったはずなのに、深い青色に染まっていた。


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ヴェラ火山のように

カキが主人公してた回です、はい
うっかり投稿場所間違えちゃったテヘペロ


本日のアーカラ島は大賑わい。数多くのトレーナーたちが集まっている。サトシたち一行も、ククイ博士に連れられ、賑わいの中心地にやって来ている。よく見ると、今日集まっているトレーナーたちには奇妙な共通点がある。

 

 

「なんだか、今日はほのおタイプのポケモンを連れてる人が多いな」

「ガーディにアチャモ、マグマラシ。チャオブーにヒトカゲ。いろんな地方のポケモンたちがいますね」

「そういえば、今日なんかお祭りがあるって」

「どんなお祭り?」

「見てればわかるさ」

 

と、広場から伸びる階段の入り口に、ライチが現れる。ガヤガヤしていた周囲も静まり、ライチに注目が集まる。

 

「みなさん、今日はヴェラの火祭りの日。アーカラ島に恵みをもたらす、ヴェラの火山に感謝し、熱く盛り上がりましょう」

 

「ライチさん、いないと思ったら、島クイーンの仕事してたんだ」

「やっぱりかっこいいなぁ」

「この火祭りは、100年以上続いている伝統行事だ。今日の授業は祭りを楽しみながら、その伝統に触れることだから、しっかりな」

「「「「「「はい!」」」」」」

 

ライチの挨拶を聞き、また賑やかになり出す広場。と、階段に1人また1人とトレーナーが並び始める。共にいるのはほのおタイプのポケモンたちばかり。

 

「カキ、この行列はなんのために並んでるんだ?」

「あそこにいるライチさんが見えるか?」

 

カキが指差す先、階段を登りきったところで、ライチが何かをポケモンの頭に乗せているのが見える。

 

「あれはヴェラの冠って言ってな、ヴェラ火山の溶岩でできているんだ。それをポケモン、特にほのおタイプのポケモンにかぶせると、ヴェラ火山のように雄々しく、強くなれると言われている」

「へぇ〜。なら、俺も並ぼうかな」

 

二つのボールを取り出し、ポケモンを出すサトシ。ニャビーとロコンの二体がボールから出て一鳴きする。二体を抱き上げるサトシ

 

「せっかくだから、ニャビーとロコンもかぶせてもらおうぜ」

「ニャブ」

「コォン」

 

みんなでその様子を見ることにし、サトシたちは全員で行列に並んだ。島クイーンとして働いているライチさんを見て、ふとサトシが思い出す。

 

「そういえば、カキのお祖父さんって、島キングだったんだよな。じゃあ、冠をかぶせる役目も?」

「ああ。小さい頃は、俺の相棒の頭に、じいちゃんから冠をかぶせてもらうことを夢見てた。まぁ、バクガメスは一応去年かぶせてもらったことがあるけどな」

 

祖父のように島キングになりたいと言うカキ。当時の祖父のことを思い出しているのか、ライチの方を見ているようで、見ていない。

 

「お祖父さんも、今のカキの成長っぷりを見て、喜んでくれてるさ」

「はい」

 

ククイ博士の言葉に笑顔で返すカキ。その後も列は進んでいき、ようやくサトシの番になった。

 

「来たね、サトシ」

「よろしくお願いします、ライチさん」

 

前に出るニャビーとロコン。ヴェラ火山の恵みがあるようにと、ライチが冠をかぶせようとする、が、突如現れた謎の影が冠をその手から奪い取ってしまう。

 

着地し、サトシたちの方を睨むポケモン。白い頭に黒い体。手には骨を持ち、額には黒い模様が描かれている。骨の先に、奪われた冠が引っ掛けられている。

 

「なんだ、あのポケモン?」

『任せるロト。ガラガラ、アローラの姿。ほのお・ゴーストタイプ。手にした骨は大事なもので、最大の武器にもなる』

「ほのお・ゴーストタイプ?俺の知ってるのと全然違う」

 

「おい、その冠を返せ!」

 

飛びかかるカキの腕をするりとかわし、ガラガラは冠を持ったまま逃げ出した。階段の下の方から慌てたような声が聞こえてくる。人もポケモンも驚かされ、ややパニックになり掛けているようだ。

 

「冠が!でも、島の人たちの安全を考えると、」

「俺が取り返します!」

「ちょっと、カキ!」

 

ライチの制止の声も聞かずに、カキはガラガラを追って走り出した。慌てて追いかけるサトシ。博士たちはライチさんと他の人たちの安全を確保するために動き出す。

 

「サトシ、無茶はしないように!」

「わかってます!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ガラガラもカキも、どこに行ったんだ?」

 

辺りを見渡すサトシとピカチュウ。出遅れた上に、初めての場所ではどっちに向かうかなんてわかるわけがない。ぐるりと周囲を見ると、何やら3人のそっくりな人たちが岩場からこちらに向かって来ているのが見えた。

 

もしかしたらガラガラかカキを見ていたかもしれない。そう思ったサトシは、声をかけることにした。

 

「すいませーん!あの、この辺りで、」

「やぁ!君もガラガラを追って来たのかい?」

「!見たんですか?ならどっちに、」

「やぁ!君もガラガラを追って来たのかい?」

「えっ、いやだから、」

「やぁ!君もガラガラを追って、」

「だぁぁぁぁあ!」

 

3人の山男による謎の連携プレーに、サトシが声を張り上げる。何だが頭が痛くなるのを感じながら、何とか情報を聞きだす。

 

どうやら3人とも、ガラガラとカキの両方を見たらしい。彼らの指し示した方向へと走っていくサトシたち。そこで彼らが見たのは、

 

「ダイナミックフルフレイム!」

 

カキとバクガメスが、丁度Z技を発動した瞬間だった。巨大な炎の塊が迫る中、野生のガラガラは全く恐れる気配がない。それどころか、その機動力を活かし、ダイナミックフルフレイムをかわしてみせた。

 

「何だと!?」

 

頭に力を込めるガラガラ。強烈な頭突きがバクガメスの脳天に直撃する。あれ程の体格差のある相手、にも関わらず、ガラガラの頭突きにより、バクガメスの巨体が崩れ落ちた。

 

「バクガメス!」

 

慌ててパートナーに駆け寄るカキ。勝利を収めたガラガラは、ヴェラの冠を持ったまま何処かへ行こうとする。

 

「待て!」

 

ピカチュウが追いかけようとするが、岩場を自在に飛び回り遠ざかるガラガラには追いつくことができなかった。

 

「逃げられちゃったか……そうだ、カキ!」

 

ガラガラの消えた方向を見つめてたサトシ。ハッとしてカキとバクガメスの元へ駆け寄る。

 

「カキ、早くポケモンセンターへ」

「サトシ……奴は?」

 

首を横に振るサトシ。歯を食いしばり、拳を握るカキ。モンスターボールにバクガメスを戻し、カキとサトシは町のポケモンセンターを目指した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まさか、バクガメスが負けちゃうなんて……」

 

慌ててポケモンセンターに駆け込んで来たカキを見て、マオたちの誰もが驚いた。カキとバクガメスの実力は高い。それは博士やライチも認めるところだった。けれども、そのカキとバクガメスが負けてしまい、ヴェラの冠を取り戻すことができなかったのだ。

 

バクガメスの回復を待つカキ。その拳は固く握られている。

 

 

 

 

夜、みんなが眠りにつき始める頃、カキとバクガメスはポケモンセンターに備え付けのバトルフィールドに出ていた。静かに俯くカキを見つめるバクガメス。二人に、サトシとピカチュウが近づく。

 

「カキ」

「サトシか……」

「バクガメス、しっかり回復したみたいだな」

「ああ」

 

「ピカピィーカ!」

「バッス」

 

笑顔で挨拶するポケモンたちを、眺めるカキの表情は浮かない。深く考え事をしているように見える。

 

「今日のバトル、負けたのは俺の責任だ」

「えっ?」

「冠を取り返さなければならないって焦って……Z技さえ使えば勝てるって、そう考えていた。けど、甘かった。トレーナーの俺が、もっとしっかりしていれば、勝てたはずなのに!」

 

心情を吐露するカキの姿。それにサトシは既視感を覚える。それはこのアローラ地方の前の旅で、同じように何かに焦り、何かに頼り、結果敗北し、自分を責めた。自分がとてもよく知っている、とあるトレーナーに。

 

「カキの気持ち……俺にはよくわかる」

「やめてくれ……同情のつもりなのか知らないが、お前にわかるわけがない。ポケモンとまるで一つになっているようにバトルするお前に、今の俺の何がわかる!」

 

立ち上がり声を荒げるカキ。こんなところまでそっくりだ。今ならわかる。きっと彼女も、ちゃんとわかっていてくれたんだと。また会うことがあれば、しっかりとあの時のことを謝らないと、なんて思う。

 

「俺とゲッコウガ、絆の力で強くなるの、カキも知ってるよな」

「……それがどうした?」

「実はあの力、ちゃんと使いこなせるようになるまでに、色々とあったんだ。俺が焦ってたせいで、ゲッコウガが全力で戦うことができなくて、負けちゃったことがあってさ。俺、自分がもっとしっかりしてなかったからだって、凄く自分を責めた」

 

ハッとするカキ。そのサトシの話が、何処か自分と強く重なるような気がしたのだ。そんなカキを見ながら、サトシは話を続ける。

 

「でも、そうじゃなかったんだ。俺とゲッコウガ、二人で一緒に強くならないといけなかったんだ。そうわかった時、二人でもう一度ゼロからスタートしようって。また一緒に強くなろうって。そうしたら、俺たちは本当の意味で、あの力を使いこなせるようになったんだ」

「ゼロから……二人で一緒に」

「カキだって言ってただろ?Z技は、神聖なものだって。初めてZ技を使えるようになった時の気持ちを、思い出して見たらどうだ?」

「初めての、気持ち……」

 

何か思い出したように呟くカキ。もうあと一息で、ちゃんと立ち直ることができそうだ。そう思ったサトシは、

 

「カキ、特訓しようぜ!」

「はぁ?」

「その時の気持ちを胸に、バクガメスと一緒にバトルするんだ。そうしたらきっと、何か見つけられるかもしれないだろ?」

 

笑顔で手招きするサトシ。最初の気持ちを胸に。バクガメスの方を見ると、こちらを見ている。その瞳の奥に、炎が燃え上がっているように、カキには思えた。

 

「……よし。やってみるか!」

「そうこなくちゃ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

フィールドで対峙するカキとサトシ、バクガメスとピカチュウ。ガラガラと同じくらいの体格で、素早さの高いピカチュウと特訓することで、対策を練ろうというわけだ。

 

「行くぞ、カキ!」

「おう!」

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

走り出し、素早くバクガメス目掛けて進むピカチュウ。近くまで来ると、バクガメスの腹めがけて飛び上がる。

 

「甲羅で防げ!」

 

正面から来るピカチュウに向けて背を向けるバクガメス。これで甲羅の棘に触れさせ、カウンター攻撃をしようという考えだ。勢いよく飛び込んで来るピカチュウに、それをかわす方法はない。そう思っていた。

 

「棘を避けて、アイアンテール!」

 

両前足を正確に棘と棘の間につけ、そのまま体を捻るピカチュウ。尾に力を込め、バクガメスの頭に叩きつける。

 

「なっ!?」

「続けて10まんボルト!」

「ピィ〜カ、チュウ〜!」

 

ピカチュウの強力な電撃が、バクガメスを襲う。片膝をつくバクガメス。余程ダメージがあったのか、既に肩で息をしている。

 

「かえんほうしゃ!」

「エレキボール!」

 

口を開き、炎を吐き出すバクガメスに対し、ピカチュウはエレキボールで応戦する。二つの技がぶつかり合い、爆発が起きる。カキが次の指示を出そうとした時、既にバクガメスの前にはピカチュウが迫っていた。

 

「アイアンテール!」

 

再び叩きつけられる尻尾。今度はバクガメスの胴体に直撃する。膝を折るバクガメス。ガラガラとのバトルと同じだ。素早く、トリッキーな動きをするピカチュウに、バクガメスが追いつけていない。

 

(速さでは勝てない……これじゃ、あの時のバトルと何も変わらない。だが、どうすれば)

 

「カキ、考え込むだけじゃ勝てないぜ!バトルしてるのは、お前だけじゃない」

 

カキを叱咤するサトシの声。見ると、サトシもピカチュウも、バクガメスの方を見ている。カキも改めて自分のパートナーを見る。

 

ピカチュウを見据えるその眼は、先程と変わらず、いやむしろさらに強く、まるで熱く燃える炎のように見える。バクガメスの中で、炎が火山のように燃え上がっているのだ。

 

(火山のように……?俺が、バクガメスと強くないたいと思ったのは……)

 

試練に臨むバクガメス。冠を被るバクガメス。様々なことを思い出し、記憶を辿るカキ。そして最後に思い浮かべたのは、あの日、祖父とともに見上げたヴェラ火山の景色。

 

「そうだ。俺はじいちゃんみたいな、ポケモンと心を通わせ、共に戦い、島を守れる人になりたかった。あのヴェラ火山のように、熱く燃える存在に!」

 

瞳に力がこもるカキ。その奥には、バクガメスのように燃え上がる炎が写っているかのようだ。

 

「行くぞ、バクガメス。俺たちの中のヴェラ火山を、見せてやろうぜ!」

「ガメース!」

 

「気合い入ってきたな。やるぞ、ピカチュウ」

「ピッカァ!」

 

特訓を再開するカキたち。熱くなる彼らは時間を忘れて特訓を続けた。そして……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝。ポケモンセンターにまた新たなポケモンが連れて来られる。山男三兄弟のブーバーだ。これで昨日と合わせ、既に7体目。マオたちが見つめる中、ジョーイさんが奥へと連れて行く。真剣な表情のライチ。

 

「またガラガラに返り討ちにされたみたい」

「どうして冠を持って行ったんだろう」

「何か事情があるとは思うけど、ヴェラの冠はこの島の宝。ほって置くわけにもいかないわね」

「じゃあ、ライチさんが?」

「私は、アーカラ島の島クイーン。これが私の仕事」

 

博士たちを置いて、ライチがポケモンセンターを出ようとする。それを一人の声が止める。

 

「待ってください、ライチさん。冠を取り戻す役目、俺に任せて下さい」

 

バクガメスを連れたカキが、ライチの前に立つ。昨日のどこか焦りを含んだものとは違い、どこか落ち着きのある表情をしている。ライチもそんなカキの様子に、何かを感じ取ったらしい。

 

「できる?」

「必ず」

「……よしっ。お願いね」

 

「なんだかカキの雰囲気が変わったね」

「うん。いい顔」

「昨日、特訓したからな」

「特訓、ですか?」

「ああ」

 

何やら訳知り顔のサトシ。カキの変化に、サトシがなんらかの形で関わっているのだろう。しかし何があったのか聞いても、見てればわかるって、としか答えないので、マオたちはカキとガラガラのバトルをしっかりと見届けることにした。

 

 

 

この前と同じ場所で、ガラガラは手に持つヴェラの冠を眺めていた。カキたちが近づくのに気づき、こちらを見る。

 

「ガラガラ、もう一度バトルだ」

「バッスゥ!」

「……ガラッ」

 

冠を被り直し、骨を構えるガラガラ。どうやらやる気満々のようだ。ゴクリと息を呑んだのは誰だったのだろうか。カキとバクガメスの視線が鋭くなる。

 

「やるぞ、バクガメス」

「ガメース!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

走り出したガラガラ。ホネブーメランで、先制攻撃を仕掛けてくる。

 

「ドラゴンテール!」

 

尾でその攻撃を跳ね返すバクガメス。しかしそれに動じることなく、ガラガラは飛んでくる骨をキャッチする。頭の硬度を高め、バクガメスの胴体に、強力な頭突きが決まる。一瞬痛みに顔を歪めるバクガメス。腕をガラガラめがけて振り下ろすが、あっさりとかわされる。

 

頭に骨を擦り付け、炎を発生させるガラガラ。その炎を身に纏い、ガラガラがバクガメスめがけて突っ込む。

 

「かえんほうしゃ!」

 

炎に炎をぶつけるバクガメス。爆発が起こり、熱風がサトシたちにも吹き付ける。

 

「これは、文字通り熱い戦いだね」

「でもあのガラガラ、やっぱり強いです」

 

爆発の反動で後ろに飛ばされるガラガラ。岩場をうまく使い、素早い動きでバクガメスの背後を取り、飛びかかる。

 

「後ろだ、バクガメス!」

「うまい!トラップシェルで受け止める気だ!」

 

バクガメスの背中めがけて落ちてくるガラガラ。もうあと少しのところで、ガラガラが骨を甲羅に突き立てる。棘と棘の間、絶妙な場所に骨が当たる。それによって、棘にぶつかることを、ガラガラは回避した。

 

「すごい。トラップシェルが防がれた」

「いや、まだだぜ」

「えっ?」

 

「バクガメス、そのまま動かせ!」

 

骨で甲羅へ着地することを避けたガラガラ。その動きは、昨夜のピカチュウもやってみせたものだった。棘に当たらなければ意味がない。なら、当てればいい。そう結論づけた。

 

バクガメスが体の向きを変えるように動く。骨で支えていたバランスが崩れ、ガラガラが落ちる。そのガラガラに、バクガメスの背中の棘が触れる。

 

大きな爆発が起こり、ガラガラが弾き飛ばされる。しかしまだまだ勝負が決まりそうにない。

 

「行くぞ、バクガメス。お前の新しい技の出番だ。からをやぶる!」

 

バクガメスの体が白く輝き、周囲に光が弾ける。防御力を下げる代わりに、素早さと攻撃力を高める捨て身の技。昨夜のサトシとの特訓の中で、バクガメスが会得したものだ。

 

走り出すバクガメス。その素早さは先程までの比ではなく、ガラガラが気がつくと、既に背後に回られていた。背中に衝撃を感じるガラガラ。バクガメスのドラゴンテールが炸裂している。

 

「速いっ!」

「これなら、ガラガラにも追いつけます!」

 

「行くぞ、バクガメス!」

「ガメース!」

 

腕を正面で交差させるカキ。まばゆい光がバクガメスを包み込む。

 

「俺の全身!全霊!全力!」

 

「全てのZよ!アーカラの山のごとく、暑き炎となって燃えよ!」

 

昨日再確認した二人の想い。もっと熱く、もっと強く。島を見守るあの火山のように。

 

「喰らえ!ダイナミックフルフレイム!」

 

放たれた火球は、昨日のものよりも大きく、また、強力なものだった。なんとか立ち上がったガラガラだったが、既に避けられない位置にまで炎が迫っていた。炎がガラガラを包み込み、爆発を起こす。

 

煙が晴れると、目を回し、倒れているガラガラの姿が、そこにはあった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ヴェラの冠を差し出すガラガラ。負けたあと、潔くこの冠を差し出しているあたり、ガラガラ自身が悪いポケモンではないのだろう。冠を受け取るカキ。

 

「お前、この冠を被って、もっと強くなりたかったんだろ?」

 

前回は焦っていたため気づくことができなかったが、バトルを通じ、ガラガラから自分たちと同じような、熱い気持ちを、カキは感じ取っていた。

 

「ガラッ」

 

ガラガラが骨で自分を指し、次にカキを指す。

 

「お前、もしかして……」

 

カキを見つめ、頷くガラガラ。モンスターボールを取り出すカキ。

 

「よぉし。俺と一緒に強くなろうぜ!ガラガラ!」

 

カキの投げたボールがガラガラに当たる。ボールの中に吸い込まれるガラガラ。しばらく揺れてから、ポンッという音とともにランプが消える。カキが再びボールを投げると、踊りながらガラガラが現れる。

 

「これからよろしくな、ガラガラ」

 

カキと握手を交わすガラガラだったが、バクガメスが挨拶のために近づくと、その体に頭突きをかました。どうやら負けたことが相当悔しかったらしく、次は勝つと宣言しているようだ。

 

ヴェラの冠が戻ってきたことで、火祭りが再開することになった。改めて列に並ぶサトシたち。ロコンとニャビーも冠を被せてもらう。そして次はガラガラの番。

 

「ヴェラ火山の力が、貴方にも与えられるように……いいトレーナーを見つけたわね、ガラガラ」

「ガラッ!」

 

ライチの言葉に頷くガラガラ。その頭の上に冠が載せられる。自分で被っていた時よりも、力が湧いてくるような気がして、踊り出すガラガラ。その様子を、サトシたちが笑顔で見守っている。

 

 

自分を見つめ直すことができ、また一段と強くなったカキとバクガメス。新たに頼れる仲間、ガラガラも加わり、課外授業ももっと賑やかになりそうだ。

 

最後に祭りで記念写真を撮るサトシたち。また一つ、いい思い出ができた……しかし、なぜ全ての写真に山男三兄弟が写っているのかは、永遠の謎である。

 

…………… To be continued




今日はマオメイン回でしたっけね
どんなことになるのやら


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探し出せ。材料集めは大仕事?

はい、前回のアニメ、ポケモンでイワンコまさかの進化でしたね〜

まぁそこまでたどり着くのにもまだ時間がかかりそうだなぁ


その日の朝、目覚めたサトシはベッドの上に横になったまま、自分が見た夢について考え込んでいた。

 

ライチさんとの大試練バトル。それがまさに始まろうとしていたその時に、サトシの目が覚めたのだった。

 

「大試練かぁ……あ、そういえば、まだ試練受けてない!」

 

ガバッと起き上がるサトシ。あまりの勢いに、二段ベッドの上に頭が激突する。

 

「どぉうわぁっ!?」

「な、何だ!?」

 

突然の衝撃にマーマネが驚きの声を上げる。その声に驚き、カキも目を覚ます。何かあったのかと辺りを見渡すが、目に入るのは下を覗き込んでいるマーマネと、頭を抑えているサトシだけ。

 

「何だ?というか、サトシどうした?」

「いや、ごめん。勢いつけて飛び起きたら、頭ぶつけた」

 

やや呆れ顔のカキ。本当、バトルの時とかは実年齢以上の落ち着きや風格を漂わせるというのに、こういうところはむしろより幼い年齢の人の行動では無いだろうか。時々本当のサトシがどんななのかが分からなくなる。

 

「それで、何で急に飛び起きたんだ?」

「いやぁ、大試練受ける夢を見て思い出したんだけどさ、アーカラ島の試練を受けてなかったなぁって」

「ああ。そういえばそうだったね」

「カキはどんな試練だったんだ?」

「俺か?……そうだな。詳しいことはルール違反ぽいから話せないが、ポケモンと力を合わせて課題を攻略する、って感じのものだったぞ」

「ポケモンと力を合わせて……課題を攻略……」

 

ポケモンと挑む競技か何かだろうか。サトシも色々と考えてみたが、いかんせん、彼は旅の中で色々な競技やスポーツに参加しすぎていた。バトルはもちろん、レースやコンテストなどと、考え始めたらきりがない。もうどれなのか絞り込むどころか、あれかもしれない、これかもしれないと、余計に混乱するばかり。

 

「……考えるのやめるか」

「ピカチュ?」

「今日試練受けさせて欲しいって言ってみようかなぁ」

 

そろそろいい時間なので、サトシたちは着替え、朝食を摂るためにポケモンセンターの食堂へと向かうのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

朝食を済ませ、サトシたち6人はポケモンセンターのロビーに集合していた。今日もライチは祈りを捧げに行っているようで、彼らは彼女が戻るのを待っている。と、ドアが開き、明るい笑顔でライチが入ってきた。

 

「アローラ!今日もいい天気ね」

「「「「「「アローラ」」」」」」

「うん。今日も元気があってよろしい!」

「あの、ライチさん」

「ん?サトシ、どうかした?」

「俺、島巡りの大試練に挑戦したいんです。だから、アーカラ島の試練を、受けさせてください!」

 

みんなの前に一歩出たサトシ。真剣な表情でライチを見上げている。ライチはその真剣な表情を真正面から受け、

 

「ごめんね、今日はダメ。でも、その時が来たら、ちゃんと伝えるわ」

「……分かりました。じゃあ、また今度ですね」

 

と、少し大人の余裕がある笑顔で制する。サトシとしてはすぐにでも挑戦したい思いなのだろうが、流石に自分の勝手で他のみんなに迷惑をかけたくは無い。今回は仕方がない、そう考え引き下がった。その様子を見たライチが、パンパンと手を叩く。

 

「さぁ、今日の課外授業の内容を伝えるわ。みんな、ちょっと付いて来て」

 

そう言って隣の部屋へ移動しようとするライチ……だったが、何と元の位置に戻ろうとするドアに弾かれ、尻餅をついてしまった。

 

……………(−_−;)

 

相変わらずドジっ子ここに極まれり、なライチの様子に、サトシたちは苦笑を浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

「アーカラカレー?」

「そう。アーカラ島の伝統的な料理よ。それを作ることが、今回の課外授業」

「料理かぁ。特訓の成果を見せてやるぜ!」

「ここにいる全員、料理は経験済み」

「と言っても、アーカラカレーはさすがに作ったことないなぁ。カキはどう?」

「残念ながら、俺は家庭料理しか作ったことがない」

 

ライチが思っていたよりも、サトシたちは優秀らしい。とはいえ、この伝統料理のアーカラカレーは、簡単に作ることができるわけではない。そもそも、材料が通常のものとは違う上に、とても手に入れるのが難しいと言われるものまであるのだ。

 

「今回は材料を探すところから、みんなにやってもらうわ。材料を集めるのに、二人一組で行動ね。ペアと集めてもらう材料は、こっちで決めてあるから」

 

そう言いながら、ライチはいくつかのカードを取り出す。今回の班分けはカキとリーリエペア、マーマネとスイレンペア、そしてサトシとマオペア。サトシたちが集めるのは、

 

「えーっと、マゴの実、ふっかつ草に、キセキの種?」

「あ、それだよそれ。そのキセキの種が、とても珍しくて手に入りにくいんだって」

「そうなのか?」

 

「材料がどれか一つでも揃わないと、アーカラカレーは完成しない。しっかりと見つけて来てね」

 

ウインクするライチ。早速出かけようとするサトシたちだったが、マオだけがライチに呼び止められる。出だしが遅れたサトシチームだったが、サトシは珍しいというキセキの種を見つけ出すために燃えているみたいだった。

 

ニヤリ、とライチが笑う。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

出発したサトシとマオがまず探すことにしたのは、一番自分たちから近いところにあるマゴの実。少し高い丘を登りきったところに、マゴの実の木が生えているのが見える。これで最初の材料ゲットだぜ!……なんてことにはならなかった。

 

マゴの実までの道のりに、何やら見慣れない花のようなものがたくさん並んでいる。

 

「何だこれ……何かの花か?」

「綺麗な色……でも、なんか大きいね」

『これは、花じゃなくてポケモンロト』

「「えっ!?」」

『カリキリ、かまくさポケモン。くさタイプ。昼間は葉を広げ、日光浴をしながら、光合成でエネルギーを蓄える』

「ってことは、今寝てるのか……」

 

ざっと辺りを見渡しても、どこもかしこもカリキリだらけ。気持ちよさそうに寝ている彼らを起こすのは、流石に避けたい。が、彼らを邪魔せずにマゴの実を取る方法は……

 

「あ、そうだモクロー。あいつなら静かに空を飛んでいけるはず……って、」

 

いそいそとリュックを開け、中を覗き込むサトシだったが、やはりというか何というか、モクローはぐっすりと眠っている。ご丁寧に鼻ちょうちん付きで。サトシのポケモンでも、カビゴン以来の居眠りっぷりには、流石のサトシも苦笑するしかなかった。

 

「モクロー、起きてくれ〜」

 

大きな声を出さず、囁くように声をかけながらサトシがモクローの体を揺する。モクローの目が開き、サトシを捉える……が、まだ半開き。完全に寝ぼけているようだ。

 

「モクロー、起きろ〜。ちょっと頼みたいことがあるんだ」

「……クロ?」

 

目をパチパチと瞬かせ、首を振るモクロー。何とか意識は覚醒したらしい。

 

「モクロー、あそこの木にこっそり近づいて、マゴの実を取って来てくれるか?これなんだけど」

 

サトシの差し出した写真を見て頷くモクロー。まだ眠り足りないのか欠伸をしながらではあるが、モクローは丘の上を目指して飛んだ。

 

音を立てずに飛ぶことができるモクロー、見事に一体のカリキリも起こすことなく、マゴの実までたどり着くことができた。あとはそれを持って来てくれるだけ……と、ここで何故かモクローの動きが止まる。

 

「……ねぇ、サトシ。もしかして……」

「あー、多分そうかな……」

 

よく見ると、モクローの肩が一定のペースで上下しているのが見える。間違いない。

 

『「「また寝てる」」ロト!?』

 

思わず大きな声を出してしまうサトシたち。キッと、カリキリたちの鋭い視線が突き刺さる。昼寝の邪魔をされたことに相当怒ってるみたいだ。

 

「さ、サトシどうする?」

「マオたちはピカチュウと一緒に先の森に向かって走ってくれ。俺はモクローとマゴの実を」

「でも、危ないよサトシ!」

 

あの数の多さから考えると、いくらサトシの運動神経が高いといっても、カリキリたちの攻撃を全て避けきるのは難しいだろう。心配そうなマオに、サトシはニッと笑みを向ける。

 

「大丈夫。作戦は考えてあるから」

 

自信満々なサトシの様子に、マオは頷くしかなかった。

 

「よしっ、走れ!ゲッコウガ、かげぶんしん!」

 

駆け出すと同時に、モンスターボールを高く放り投げるサトシ。飛び出したゲッコウガはすぐさま分身し、カリキリたちの方へと走って行く。突然現れた大量のゲッコウガに、カリキリたちが気を取られているうちに、マオたちは先の森へ、サトシはダッシュでモクローの元へと向かう。

 

「モクロー、ほら行くぞ!ととっ、それからこれも!」

 

モクローを抱き抱えたサトシ。忘れないようにマゴの実を一つもぎ取っておく。走るサトシの後ろに、ゲッコウガが追いつく。その後ろでは、カリキリたちがソーラービームの体勢に入っている。

 

「ゲッコウガ、みずしゅりけんを空に向けて投げろ!」

 

すぐさま二つのみずしゅりけんを作り出し投げるゲッコウガ。二つのみずしゅりけんがカリキリたちの頭上でぶつかり合い、弾け飛ぶ。そのあたりだけ小さな雨のようになり、何とかソーラービーム発生を遅らせることに成功する。

 

「今の内だ!」

 

サトシとゲッコウガがマオたちを追って森へと走る。流石にそこまではカリキリたちも追ってくるつもりがないのか、追撃はもうなかった。

 

「サトシっ、大丈夫だった?」

「ああ、平気平気。モクローも無事だし、マゴの実もゲットしたし。サンキューな、ゲッコウガ」

「コウッ」

 

拳を合わせるサトシとゲッコウガ。二人だけの通じ合い方らしいが、お互いの考えていることを言葉も使わずに話しているのだろうか……ゲッコウガをボールに戻し、次の食材、ふっかつ草を探すため、サトシたちはまた歩き出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

第二の食材、ふっかつ草は割と簡単に手に入った。サトシたちは、岩の切れ間に沢山生えているのを見つけることができたのだ。その際、人が通るにはとても狭すぎるその切れ間の道を、ピカチュウとロコンが潜り込んでくれたため、予定よりも多めにふっかつ草が手に入ったのだ。

 

「ふっかつ草はね、食べたポケモンを一瞬で元気にすることもできるんだよ。まぁ、と〜っても苦いから、あんまり人気はないんだけどね」

「そうなのか……まぁ、なんとかは口に苦し、だっけ?」

「良薬ね。そうだね。効き目はジョーイさんのお墨付きだから、確かだし」

 

しかしできればあまり使いたくない、なんて思ってしまうサトシ。自分が昔苦い薬が嫌いだったこともあって、なるべく自分のポケモンたちにはそんな思いはさせたくない。

 

「それじゃあいよいよ、最後の一個だな」

「うん。滅多に見つからない、キセキの種。この先にある洞窟を抜けたところで見つけられるみたい」

 

マオが指差す先を見ると、高さはさほどない洞窟が見える。上から蔦が垂れ下がり、中は薄暗い。

 

「よし、行こう」

「うん!」

 

暗い道を進むサトシたち。サトシの後ろをついていきながら、マオが不安そうに辺りをキョロキョロ見渡す。何かがいるような音はなく、自分たちの足音だけが、洞窟内に響いている。

 

「あの……マオ?」

「へっ、な、何、サトシ?」

「いや、少し、痛いんだけど……」

 

視線の先、マオの両手が、サトシの右腕の肘辺りをしっかりと握っている。知らず知らずのうちに力を込めすぎていたようで、サトシが苦笑している。

 

「あ、えっと、ごめんね」

「いや、いいよ。不安ならつかまっててくれ。何かあったら、ちゃんと守るから」

 

差し出されたサトシの手。さらに今のセリフのおかげで、マオの頬に熱が登って来た。洞窟が暗いことをまさかありがたく思う時が来るとは、思ってもいなかったマオ。

 

「えっと……うん。ありがと」

 

さっきまでと違い、サトシの手をそっと握るマオ。サトシは安心させようとしているのか、しっかりと離れないように握っている。

 

(さらりとこういうことするんだから……もう)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

洞窟を奥に進むと、道が二つに分かれている。

 

「えっと……どっちに行けばいいんだろう」

「止まっていてもしょうがないさ。とりあえず進んでみようぜ。これは……こっちだ」

 

サトシの勘だけを頼りに進むことしばし、突然サトシの姿がふっと消え、繋いでいた手がするりと離れる。

 

「えっ、サトシ!?」

 

慌てて周囲を見るマオ、と足元から声がする。

 

「いてててて」

「って、なぁんだ。脅かさないでよ」

 

洞窟の地面に大きく開いた穴、そこにサトシは落ちていた。怪我は特にしていないようで、穴がそこまで深くはないこともあり、戻るのに特に問題はなさそうだ。

 

「でも、なんでこんなところに穴が「ディグ」ん?」

 

サトシの足元から声がする。下を見ると、地面からアローラのディグダが顔を出している。心なしか、不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか……

 

『ビビッ、まずいロト!データによると、この辺りはディグダたちの縄張りロト!』

「「ええっ!?」」

 

慌てて穴から駆け上がるサトシ。その後ろからディグダが追ってくる。一体、また一体とディグダが顔を出してはサトシたちの後を追いかける。

 

「ごめんな、ディグダ〜!」

 

走りながら大きな声で謝罪するサトシ。ひたすらに元来た道を走ったサトシたちは、また分かれ道の近くで足を止めた。

 

「もう追って来てないみたい」

「ふぅ〜。でも、なんとかディグダたちを脅かさないで進む方法を考えないとな……」

『でもそれには、ディグダがいるかどうかを確認する必要があるロト。どうやるロト?』

「うーん……ん?」

 

腕を組み、首をかしげるサトシ。ふと視線を下に落とすと、足元に何かが落ちている。拾い上げて見ると、それは細い毛のようなものだった。

 

「ロトム、これ何かわかるか?」

『何ロト?こ、これは、ディグダの髭ロト!』

「えっ、髭?」

 

あの頭に生えているものは髪じゃなかったのか……流石に驚いてしまうサトシ。

 

「髭……そうだ!出てこいイワンコ!」

 

何か閃いたのか、ボールからイワンコを出すサトシ。イワンコの前でその髭を持つ。

 

「イワンコ、この匂いのする方向を教えてくれ」

「サトシ、それでどうするの?」

「まぁ見てなって」

 

分かれ道の匂いを確認するイワンコ。と、片方めがけて吠え出した。

 

「よし、こっちからディグダの匂いがするなら、反対側に進もう」

「あ、なるほど!」

『こんな手があったロト!?』

 

イワンコを先頭に、サトシたちはどんどん洞窟の奥へと進んでいく。サトシの考えの通り、イワンコのおかげでサトシたちは、ディグダに出くわすことはなかった。と、先の道に、天井から光が差し込んでいる場所が見える。

 

「出口だ!」

「本当にたどり着いちゃった」

 

駆け出すサトシたち。洞窟の天井の穴からサトシが先に出て、手を差し出しマオを引っ張り上げる。しかし、無事に目的の場所にたどり着くことができた彼らを、岩陰から誰かがじっと見ているのには、気づかなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

洞窟を抜けると、そこは一面の森だった。

 

「ここって確か、シェードジャングルだよ。美味しいきのみがいっぱい取れるって聞いたことがある」

「ここに、キセキの種があるのか……けど、どうやって森の中から見つければいいのか……」

「ピカチュ!」

「?ピカチュウ?」

 

大きな切りかぶの側にいるピカチュウが声を上げる。サトシたちが駆け寄ると、その切りかぶの中には大量のきのみが詰め込まれているのが見える。どうやらこれは、何か大きな皿のようなものらしい。その中から、ピカチュウが何かを取り出した。

 

「って、それってもしかして、」

「キセキの種!?」

『こんなあっさりロト!?』

 

ライチに渡された写真と見比べて見る。間違いなく、キセキの種だ。まさかこんなにあっさり最後の材料が見つかるとは。

 

「これで全部だよな」

「うん」

「ならあとはポケモンセンターに戻って、「ララーン!」っ!何だ?」

 

突然大きな鳴き声が辺りに響き渡る。警戒するように辺りを見渡すサトシ。すると、少し高めの場所から、大きな影が彼らの前に降り立った。

 

ピンクの体に大きなカマ。体はサトシたちよりも一回りは大きいだろうか。オーラを纏ったそのポケモンは、サトシたちを見下ろしながら、構える。

 

「あれは、ぬしポケモン!?」

『ラランテス、はなかまポケモン。カリキリの進化形。でも、このサイズは、通常の倍以上はあるロト!』

「バトルしようって言ってるのかな?」

「相手はくさタイプだな。だったらニャビー、君に決めた!」

 

ボールから飛び出たニャビーが戦闘態勢に入る。カマを振り上げ、声を上げるラランテス。ただでさえ大きな体が、さらに迫力を増す。

 

「行くぞ!ニャビー、ひのこ!」

「ニャッブ!」

 

先制攻撃を仕掛けるサトシたち。ひのこが命中し、ラランテスがよろける。と、ここでラランテスが片方のカマを頭上に掲げる。そのカマに、光のエネルギーが収束していく。

 

『あれはソーラーブレードの予備動作ロト!強力な技だから要注意ロト!』

「ソーラーブレード……ソーラービームと似た技なのか?なら、ニャビー、溜まり切る前に、ほのおのきば!」

 

予備動作で動くことができないラランテスの体に、ニャビーの技が炸裂する。大きな爆発が起こり、ラランテスがさらによろける。しかしエネルギーが溜まりきったようで、すぐさま光り輝く刃を振り下ろしてくる。

 

『来たロト!』

「かわせ!」

 

宙返りをするように移動するニャビー。見事にソーラーブレードを回避してみせる。

 

「このくらいのスピードなら、当たらないぜ!」

「ニャッブ!」

 

「ラァァァァ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

突然大きな声を張り上げるラランテス。突然のことにサトシたちは驚き、動きが止まる。

 

「何だ、今の?」

『まずいロト!今のは仲間を呼んでいたロト!』

「ええっ!?」

 

森がざわめき始める。辺りを見渡すと、既に大量のカリキリたちがサトシたちを取り囲むように集まっている。さらには何かが空を飛んで来て、ラランテスのそばにやって来た。

 

「あれは……ポワルン?」

 

てんきポケモンのポワルンが、ラランテスを助けに来たらしい。種族が違えど、仲良くできるというのがよくわかる光景だが、何もこんな時にそうならなくても……

 

「ポワァン」

 

ポワルンが鳴くと、急に日差しが強くなり始める。にほんばれによって、天候を操作したポワルンの体に変化が起こる。

 

「何何?進化?」

『違うロト。ポワルンは天候に応じて、姿やタイプが変わるロト!』

 

太陽のような姿に変わるポワルン。その背後ではラランテスがソーラーブレードのチャージに入っている。

 

「まずいっ!ニャビー、ひっかく!」

 

ジャンプするニャビー。鋭い爪でラランテスを狙うが、逆にポワルンみずでっぽうをくらい、後ろへ飛ばされる。と、そこへソーラーブレードが叩き込まれる。

 

「何で?さっきよりも早い!」

「天候が晴れだと、ほのおタイプの技の威力が上がる。でも、」

『相手にとっては、ソーラービームやソーラーブレードの溜め時間が短くなるロト!』

 

よく見ると周りを取り囲むカリキリたちも、戦闘態勢に入っている。

 

「今はラランテスを倒すことに集中しないとな。よーし、みんな出てこい!」

 

ボールからポケモンたちを出すサトシ。

 

「ゲッコウガ、ピカチュウ、ロコン、イワンコ。しばらくカリキリたちを引きつけておいてくれ!モクロー、お前はニャビーとタッグで行くぞ!」

 

ピカチュウを先頭に他のポケモンたちがカリキリたちの注意を引きつけに行く中、モクローはニャビーの横に並んだ。

 

「モクロー、つつく!ニャビーはひのこ!」

 

素早い連続攻撃がラランテスに決まる。2体めがけて発射されたポワルンのみずでっぽうをかわし、相手を見据える。しかし僅かなこの時間で、ラランテスが光合成を始めていた。

 

『強い日差しを浴びての光合成は、体力を通常よりも大幅に回復させることができるロト!』

「やっぱり厄介だな……っ、ニャビー!」

 

ラランテスに注意を向けていたニャビーめがけて、ポワルンがみずでっぽうを放つ。咄嗟のことで動けないニャビー。と、その目の前にモクローが立ち、攻撃を受け止めた。ニャビーにとって効果抜群のみずタイプの技、しかしくさタイプのモクローには、大きなダメージにならない。ダウン寸前だったニャビーを、モクローが見事にカバーしてみせた。

 

「よくやったぞ、モクロー!反撃だ、たいあたり!」

 

飛び上がるモクローが全身全霊を込めた蹴りをポワルンに繰り出す。見事に命中したそれは、ポワルンを大きく弾き飛ばし、木に激突させる。その衝撃の強さに、ポワルンは目を回してしまった。ちょうど強かった日差しもおさまってくる。

 

「やった!」

『これであとは、ラランテスだけロト!』

 

周りでは、カリキリたちの攻撃を、ピカチュウを中心にポケモンたちが防ぎ、跳ね返し、相殺している。これで邪魔が入ることもなさそうだ。

 

「ラァァァァ!」

 

最後の一撃とばかりに力を溜めるラランテス。それを見たサトシはニャビーとアイコンタクトをかわす。

 

「全力には全力!行くぞ、ニャビー!」

「ニャブ!」

 

ノーマルZを付け、腕を交差させるサトシ。Z技のオーラがニャビーの体を包み込んでいく。ラランテスがソーラーブレードを振り下ろすのとほぼ同時に、ニャビーが駆け出した。

 

「行っけぇ!ウルトラダッシュアタック!」

 

渾身の体当たりを繰り出すニャビーと、ラランテスのソーラーブレードが激突する。大気が震え、他のポケモンたちも動きを止め、その様子を伺っている。

 

「ニャッ、ニャッブ!」

 

カエンジシがするように、ニャビーが気合を入れて吼える。ニャビーの攻撃がソーラーブレードを打ち破り、ラランテスの体に直撃する。大きく弾き飛ばされたラランテスが、岩の壁に激突する。大きな土煙が上がり、姿を隠す。

 

煙の方をじっと見つめるサトシとニャビー。煙が晴れると、そこにはラランテスが目を回し、倒れていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふっかつ草、多めに持って来ておいて良かったね」

「ああ。ラランテスも、苦いけど我慢してくれよ」

 

バトルが終われば敵も味方もなし。サトシたちはバトルで傷ついたポケモンたちにふっかつ草を分け与えていた。

 

にがさに顔をしかめていたラランテスが、サトシにカマを差し出した。その上には、小さく光る緑色の鉱石。

 

「それ、クサZ?」

「これを、俺に?」

 

頷くラランテス。笑みを浮かべ、サトシがクサZを受け取る。

 

「クサZ、ゲットだぜ!」

「ピッピカチュウ!」

 

 

「感動した!」

 

「へ?」「ピィカ?」

 

突然響いた声に、サトシとピカチュウが戸惑う。すると岩の陰からライチが現れ、サトシたちの元へと駆け寄ってくる。

 

「よくやったね、サトシ〜!期待以上だよ!」

「ちょっ、ライチさん。っ、苦しいです」

 

ガバッと全身全霊を込めたのではないかと思うほど、ライチがサトシを強く抱きしめる。照れくさいとか嬉しいとかより先に、苦しいが出てくるあたり、割と強い力が込められているようだ。

 

「みんなも、すごく頑張ってたね」

 

サトシのポケモンたち、そしてラランテスたちのことも抱きしめ、ライチがキスをしていく。ポカーンとしているサトシを見て、マオがくすりと笑う。

 

「あの、ライチさん、どうしてここに?」

「もちろん、君の試練突破を見届けるためだよ」

「へっ?試練?」

 

ポケモンを一通り抱きしめ終えたライチが立ち上がり、サトシの前に立つ。

 

「サトシとポケモンたちが力を合わせて様々な困難を解決していくの、ずっと見てたよ。この材料集めはね、それを確かめるためのものでもあったの」

「材料集めが?って、あ、マオ。もしかして知ってた?」

「あはは。実は、ライチさんに教えてもらってたんだ」

「試練の間、マオにはできる限り見守るだけでいて欲しいって、頼んでおいたの。君がどうするのかを、ちゃんと見定めたかったからね」

 

思い返してみると、確かにマオはサトシの意見を聞くか、材料の話をするかだけで、直接的に材料集めに関与していなかった。

 

「そうだったのか……」

「黙っててごめんね」

「でも、これではっきりした。サトシ、君の試練突破を、アーカラ島島クイーンとして、承認するわ」

「へ?ってことは……」

「次は大試練よ。心してかかって来なさい」

「……はい!」

 

その後、ロトムに促され記念写真を撮ったサトシたちは、ポケモンセンターに戻った。アーカラカレーも無事に完成し、サトシは大試練に向けて気合を入れる。

 

 

その大試練が、更に大きな出来事へと繋がっていくとは、この時誰も予想していなかった……

 

 

…………… To be continued




次回はいよいよ、アーカラ島の大試練。

ライチとのバトルに燃えるサトシたちだが、イワンコの様子がおかしい。

果たしてサトシはライチに勝ち、大試練を突破することが出来るだろうか。

『サトシ対ライチ!一番ハードなポケモンバトル』

みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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サトシ対ライチ!一番ハードなポケモンバトル!

少し間空けちゃいましたね

でも仕方ないもの!時間が見つからなくて……

はい、今回は大試練バトルですよー、どうぞー


その日は、朝からサトシたちの誰もが興奮気味だった。いよいよサトシとライチの大試練バトルが行われようとしているのだ。

 

「大試練、ドキドキする」

「あたしはライチさんとサトシのバトルがどんなものになるのか楽しみだなぁ」

「僕、大試練バトルなんて観るの初めてだよ。リーリエは?」

「わたくしはサトシがハラさんとバトルした時のが最初です。でも、やっぱりこの緊張感は凄いですね」

 

座りながら話す彼らの前では、サトシとカキが何やら話をしている。

 

「ブルームシャインエクストラのポーズ、しっかりと覚えたのか?」

「ああ。昨日マオにしっかりと教えてもらったからな。バッチリだ!」

「そうか。言っておくが、ライチさんのポケモンは強いぞ。並みの攻撃じゃ、ビクともしない。Z技は必ず切り札になる。うまく使えよ」

「ああ」

 

二人が頷きあったその時、ライチと先に試練の場に向かっていたククイ博士が戻って来た。

 

「おっ、サトシ。気合入ってるな」

「ククイ博士!ってことは、」

「ああ。これからみんなを、大試練のためのバトルフィールド、命の神殿に案内する」

 

ククイ博士に連れられ、サトシたちは森の奥へと進んでいく。楽しみや緊張が高まっていく中、誰も不思議に思うことがなかった。いつもはサトシのそばを歩くはずなのに、イワンコがその前を一人で歩いていることに……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

足元に古い模様が描かれている大きな石のバトルフィールド。ここが大試練の行われる場所。既にスタンバイOKなサトシたち。と、神殿へと続く道の奥から、ライチとルガルガンが現れる。サトシの足元のイワンコが低く唸る。

 

「お願いします、ライチさん!」

「ええ。これより、島巡りの儀式、大試練を行う!アーカラの島、命の源ヴェラ火山よ!そして命の守り神、カプ・テテフよ!我とこの挑戦者の上に、恵みと力を!」

 

祈るように目を閉じ、両の手を合わせて握るライチ。いつものドジっ子的な雰囲気は一切感じられない。これこそが、島クイーンとしての、彼女の本当の姿……なのかもしれない。

 

「まるで別人みたい……」

「うん。ライチさん、かっこいい」

 

ライチが目を開き、組んでいた手を解く。

 

「それじゃあサトシ、始めよう」

「はい!って、イワンコ!?」

 

突然、イワンコが駆け出し、ライチのルガルガンの前に立ち、大きな声で吠え始める。戸惑うルガルガン。サトシがイワンコを止めに抱え上げる。

 

「落ち着け、イワンコ。いっ!?」

 

なんとイワンコがサトシの腕に噛みついたのだ。いつもと明らかに様子が違うイワンコの様子に、マオたちも驚きを隠せない。

 

「どうしたのかな、イワンコ?」

「なんだか気が立っている、というのでしょうか。いつもより気性が荒くなっています」

「何かあったのかな?」

 

なおもルガルガンに吠えるイワンコ。その様子を見たサトシは、イワンコの側に屈み込む。

 

「気合入ってるな!でもちょっと待とうぜ。まだバトルは始まってないんだから、な」

 

吠えるのをやめるイワンコ。視線は相変わらずルガルガンを捉えているが、どうやらひとまずサトシの言うことを聞くことにしたらしい。フィールドの反対側に戻るサトシとイワンコ。

 

「ライチさん、改めてお願いします!」

「オッケー。」

 

「これより大試練のバトルを始める!」

 

審判を務めるククイ博士の号令に、ライチがモンスターボールを手に取る。

 

「私のポケモンたちは、ハードでタフな、いわタイプ!行くわよ、ダイノーズ!」

 

投げられたポールから現れたのは、いわ・はがねタイプのダイノーズ。そして、

 

「更にルガルガン!この大試練、ダブルバトルで行う!」

 

「ダブルバトル!?俺の時は一対一のシングルバトルだったぞ」

「ライチさん、どうして急に?」

 

「よぉし、受けて立ちます!イワンコ、まずはお前だ。続いてモクロー、君に決めた!」

 

闘志をみなぎらせるサトシ。先程から興奮しっぱなしのイワンコ。そして珍しく起きていてやる気十分のモクロー。それぞれ2体ずつポケモンが出揃った。

 

「それでは、試練開始!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「先手必勝!モクロー、ルガルガンにこのは!イワンコ、岩落とし!」

 

同時に動くイワンコとモクロー。2体の技がルガルガンめがけて放たれる。

 

「2体同時に指示を出すのですか?」

「それがダブルバトルのルール。トレーナーの資質が問われるんだ」

「それに、ポケモン同士の相性や特徴、技構成も考えた上でコンビを組まなければ、力を十分に発揮できないしな」

 

技が迫る中、ライチたちには焦る様子が一切ない。むしろ余裕の笑みを浮かべている。

 

「ルガルガン、いわなだれ!」

 

空高く飛び上がったルガルガンが、イワンコのよりも一回りもふた回りも大きな岩を放つ。イワンコとモクロー、両方の攻撃をあっさりと打ち破り、いわなだれが決まる。

 

「えっ、2体同時にダメージを?」

「いわなだれの恐ろしいところは、その攻撃範囲の広さだ。これはかなり面倒だぞ」

 

「大丈夫か、イワンコ、モクロー!」

「クロ!」

「アン!」

 

しっかりと立ち上がり、闘志を見せる2体。ダメージはあっても、まだまだ余裕がありそうに見える。

 

「ステルスロック!」

 

ライチの指示で、イワンコたちの周囲に、ダイノーズが何かを仕掛ける。興奮状態のイワンコがルガルガンに飛びかかろうとするも、突如現れた巨大な岩に阻まれる。イワンコとモクローは、すっかり囲まれてしまい、身動きが取れない。

 

「流石ライチさんだな。アタッカーとサポーターをうまく使い分けている。それに、技の繋ぎが絶妙だ」

「ポケモン同士の連携でさらに戦術が広がるダブルバトル。普通のものよりも、ずっと難しそうです」

「どうするのかな、サトシ……」

 

島クイーンとして、ポケモンとの抜群の相性を見せるライチ。ゴクリと誰かの喉がなる。

 

「さて、どう出るかしら、サトシは……」

 

 

「足場がダメなら、使わなきゃ良い!モクロー、イワンコと空へ!イワンコ、いわおとし!」

 

両足でしっかりとイワンコを抱えたモクローが上昇し、ステルスロックによる檻から抜け出す。その状態からイワンコがルガルガン目掛けていわおとしを飛ばす。命中し後ずさるルガルガン。

 

「やるわね。なら、ダイノーズ!マグネットボム!」

 

ダイノーズ最大の特徴、遠隔操作のできるチビノーズ三体が、モクローたちを追って宙に飛び上がる。

 

「モクロー、かわせ!」

 

縦横無尽に飛んで、迫り来る三体のチビノーズをかわすモクロー。しかしイワンコを抱えていることもあって、思うように動けていなさそうだ。

 

「イワンコ、チビノーズを弾け!いわおとし!」

 

狙いを定めて、イワンコがチビノーズたちを撃ち墜とそうとするが、素早く動き回るチビノーズにはなかなか当たらない。

 

と、一体のチビノーズがモクローたちの背後を捉えた。瞳が輝くと、大きな爆発が起こり、イワンコとモクローが地面に叩きつけられる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ルガルガンにダイノーズ。そしてチビノーズが三体。これでは、実質5対2です」

「それに、またステルスロックに囲まれちゃった」

「まさに大試練って感じだな」

「サトシ、大丈夫かな」

 

不安げなクラスメートたちの視線を集めるサトシ。しかし当の本人は、ニッと笑みを浮かべている。

 

「流石ライチさんだぜ。でも、これを打ち破るのがバトルの面白いところだ!」

 

やる気に満ちた眼差しで、バトルフィールド、その先に立つライチを見据えている。

 

「やっぱりすごいわね、サトシは。ヴェラの火山みたいに、とても熱い心。その炎、しっかりと見せてもらうわよ。ルガルガン、アクセルロック!ダイノーズ、でんじは!」

「モクロー飛べ!イワンコ、岩を使ってジャンプだ!」

 

迫り来るルガルガンに対し動じることなく、イワンコは素早い動きで自身を取り囲むステルスロックへと跳ぶ。三角蹴りの要領で見事に別の岩の上に着地する。

 

一方モクロー、イワンコを持ち上げる必要がないため、先ほどよりも素早い動きででんじはをかわしてみせる。

 

「チビノーズで追い込んで!」

 

再び飛び回るチビノーズたち。しかし今度はモクローもその動きをうまくかわしている。

 

「モクロー、このはで撹乱しろ!」

 

このはを使いモクローがその身を隠す。チビノーズたちの接近を防ぎ、ダイノーズたちの気をしっかりと引きつけることに成功した。

 

「今だ!イワンコ、ルガルガンにかみつく!」

 

チビノーズをモクローが引きつけている間に、イワンコが素早くルガルガンに飛びかかり噛み付く。振り払おうとするルガルガンだが、イワンコも意地でも離れまいとしがみつく。

 

「ダイノーズ、先にイワンコを!マグネットボム!」

 

モクローを追いかけていたチビノーズたちが、今度はイワンコめがけて三方向から飛んでくる。今の状態では、触れただけで大きな爆発を起こすことになる。

 

「イワンコ、飛び上がって回れ!いわおとし!」

 

ルガルガンから牙を放し、ジャンプする。迫り来るチビノーズに対し、イワンコが体を回転させながらいわおとしを発動する。周囲に展開された岩は、まるで盾のようにイワンコを守り、チビノーズを弾き飛ばした。

 

「やるね!でも、そこから動くことは無理ね」

 

フィールドの中央、ステルスロックの中心地の上空に、イワンコは飛び上がっている。空を飛ぶことができないイワンコに、そこから動くことはできない。

 

「決めるよ、ルガルガン!」

「ガウッ!」

 

ライチが腕を交差する。彼女の左腕に巻かれたZリングから、眩い光が発せられる。

 

「轟け、命の鼓動!天地を貫く、岩の響きよ!」

 

以前グラジオが見せたのと同じ動き。ルガルガンが大きく吠える。勢いよく飛び上がるルガルガンは、イワンコのさらに上まで上昇する。岩がどんどん集まり、巨大な岩石を形成していく。

 

「行け!ワールズエンドフォール!」

 

イワンコが地面に向かうスピードよりも速く、岩石がイワンコを狙って来ている。巻き込まれないように、ダイノーズもライチの側まで避難し終えている。

 

「イワンコ!」

「だめだ!イワンコには避けられない!」

 

自分を押しつぶさんとZ技が迫り来るものの、イワンコは怯えるどころか巨岩を睨み、唸っている。誰もがイワンコの脱落を想像する中、サトシ一人は口元に笑みを浮かべている。視線の先では、岩がイワンコに命中する直前、一つの小さな影が、音もなくその隣に現れていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

大きな爆発音とともに、フィールドが全く見えなくなるほどの土煙が立ち込める。顔を覆うライチ、ククイ博士にサトシ。カキたちの座っている席まで爆風が届き、みんな目を瞑っている。

 

爆風が止み、恐る恐る目を開けるカキたち。土煙が徐々に晴れていく。フィールドの様子がどんどん露わになっていく。しかしフィールドは一切壊れた様子がないのに、さすがに驚かされる。

 

「あれだけの威力のZ技を受けながらも、フィールドは全然壊れていませんね」

「うん。最初と同じ、真っ平ら」

「まぁ、どんな激しいバトルにも耐えられるように……って、ちょっと待てスイレン。真っ平ら?」

「えっ?」

「あぁ〜っ!?」

 

大きな声をあげ驚くマーマネ。

 

「ど、どうしたのマーマネ?」

「ない!」

「何が?」

「ライチさんのダイノーズが作り出してた、ステルスロックの岩が無くなってる!」

 

それだけではなく、フィールドの上に、イワンコの影はどこにもなかった。

 

「一体、どこに?」

 

ライチとポケモンたちもフィールドの上見渡すが、イワンコのいる気配が全くない。

 

「へへっ、イワンコ、モクロー、たいあたりだ!」

「っ、まさか!」

 

慌ててライチが上を見る。頭上高い場所から、一つの影が急降下して来ている。イワンコを両足で抱えたモクローが、落下の速度を利用し加速して来ている。

 

「今だ!行っけぇ!」

 

狙いを定め、モクローがイワンコを放す。イワンコとモクローがそれぞれルガルガンとダイノーズに強烈なたいあたりを叩き込む。

 

「ルガルガン、ダイノーズ!大丈夫?」

「ルガゥ」

「ノーズ」

「ほっ。さっきの、モクローの仕業ね」

 

「えっ、何?どういうこと?」

「そうか!あの時のZ技、イワンコが無事だったのはモクローが助けに入って、かわしたからか!」

「その結果としてい、ステルスロックまで壊したのですね」

「偶然?」

「いや、おそらくサトシのことだ。全て考えた上でのことだろう」

 

カキの言葉を裏付けるかのように、サトシがモクローによくやったと声をかける。あの絶体絶命の危機的状況を、こうもあっさりと回避し、更には自分の有利な展開にまで持ち込むとは。

 

「あいつ。ダブルバトルも相当慣れているな」

 

 

「クロッ、クロー」

 

モクローがやったぜと、ハイタッチを求めるかのようにイワンコに話しかける。が、

 

「アン!アンアン!ガウッ!」

 

イワンコの様子がおかしい。今もルガルガンをじっと見つめて気が立っている。今までにないほど攻撃的で好戦的、仲間に対しての冷たくも見える態度。モクローもだが、マオたちも戸惑いを隠せない。

 

「どうしちゃったのかな、イワンコ」

「いつもと違う」

「なんだか、ずっと怒っているようにも見えます」

「何も起こらないといいんだけど……」

 

 

 

 

「やるわね、サトシ。でも、かなりリスキーなことをしたわね」

「モクローなら絶対やってくれるって、信じてましたから」

「ふふっ。そうこなくっちゃ!まだまだ行くわよ!ダイノーズ、マグネットボム!!」

「イワンコ、いわおとし!モクローはこのは!チビノーズを撃ち落とせ!」

 

素早く弾幕を張るイワンコとモクロー。チビノーズたちも接近を試みるが、弾き飛ばされてしまう。

 

「よぉし、イワンコ!ダイノーズにって、イワンコ!?」

 

突然イワンコが、サトシの指示を待たずに飛び出した。目指す先はダイノーズ、ではなくルガルガン。突然の行動にカキたちも驚きを隠せない。

 

「ダイノーズ、ギガインパクト!」

 

内心驚きながらも流石は島クイーン。あくまで冷静にポケモンへの指示を出す。飛び上がったダイノーズが、ルガルガン目掛けて走るイワンコの背後から迫る。

 

「モクロー!」

 

咄嗟のサトシの呼び掛けにモクローが反応する。素早く飛び、イワンコを掴みダイノーズの攻撃をかわす。地面に激突するダイノーズの動きが止まる。

 

「今だ!行くぞモクロー!」

 

モクローが地面にイワンコを下ろした直後、サトシの身につけたZリングが眩い光を放ち始める。リングに付いているのは緑色のクリスタル。

 

「させないわよ!ダイノーズ、ギガインパクト!」

 

その場で力を溜めるモクローに向かって、ダイノーズが猛スピードで突っ込んで行く。ダイノーズが着くのが先か、モクローの技が先か。ギリギリの勝負を制したのは……

 

 

 

 

 

「これが俺たちの全力だ!ブルームシャインエクストラ!」

 

モクローを中心に、花畑が広がり、樹木が生えるかのように、巨大なエネルギーがダイノーズに襲いかかる。

 

大きな爆発が起き、イワンコとルガルガンはなんとかその場で踏ん張っている。爆風がカキたちにも届き、フィールドを覆う。その中心ではダイノーズが目を回し、倒れている。

 

「ダイノーズ、戦闘不能!」

 

「やったね、モクロー!」

「これでダイノーズがいなくなり、二対一だ」

「先程までいたチビノーズももういません。サトシたちの圧倒的有利です!」

 

 

「よくやったぞ、モクロー。あとはルガルガンだけだ!」

 

ライチがダイノーズをボールに戻している。この圧倒的不利な状況でなお、動揺も焦りも見せないルガルガンは、流石島クイーンのパートナーの貫禄を見せつける。そのルガルガンを見、イワンコが激しく興奮している。

 

「よしっ、モクロー!イワンコをつかんで飛べ!」

 

ルガルガンは高いジャンプ力があるとはいえ、モクローほど空中を自在には動けない。そう思ったサトシは、そのアドバンテージを活用しようとした。そう、したのだ。

 

「!?」

 

誰もが驚愕の声をあげていた。イワンコが仲間であるはずのモクローに、攻撃したのだった。それも、本気の一撃で。

 

倒れるモクロー。ここまでのバトルでのダメージ、Z技を使ったことによる疲労。そして不意打ちの攻撃だったこともあり、モクローは目を回してしまう。その場を、似つかわしくない程の静寂が覆った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……っ!モクロー!」

 

ハッと目を見開くイワンコ。その瞳は揺れている。自分のしてしまったことを、信じられずにいるような表情で、サトシに抱き上げられるモクローを見ている。

 

審判のククイ博士も、サトシの声にハッとする。

 

「モクロー、戦闘不能!」

 

「イワンコが、モクローに攻撃……」

「これは予想外のハプニングだよ」

「これは、不味いな……」

 

互いのポケモンは一体。これで条件はおあいこ……という風にはならない。今は、サトシの方が追い詰められている。相手に味方を倒されるのと、自分で仲間を倒してしまうのでは、わけが違う。今のイワンコは尻尾も垂れ下がり、シュンとしている。心が、完全に戦闘から離れてしまっているのだ。

 

今のサトシたちでは勝ち目はほとんどない。しかしライチは、じっとイワンコの前にかがみ込んだサトシのことを見ている。

 

 

 

「なぁ、イワンコ」

「クゥーン」

 

サトシの顔を見ることができず、イワンコは俯いてしまっている。仲間に攻撃してしまったのだ。どれ程怒られるのだろうか。嫌われてしまうのだろうか。イワンコの頭の中は不安でぐちゃぐちゃだった。

 

そんなイワンコの頭に、温かいものが優しく触れる。思わず顔を上げるイワンコ。

 

イワンコが見たのは優しい表情の主人だった。怒っている様子は一切なく、優しく頭を撫でてくれている。

 

「イワンコ。一緒に特訓した時のこと、覚えてるか?」

「クゥン?」

「技を出す時もだけど、バトルするときも、心がガーッと燃える感じ。お前にもわかるだろ?」

「アン」

「なら、一緒にもっと燃やそうぜ。俺たち二人で、ルガルガンに勝とう!信じてる」

 

そう言ってサトシはニカッと笑う。信じてる、その言葉がイワンコの心を燃え上がらせる。自分がしてしまったことは、取り返しのつかないことだ。でも今は、自分を信じてくれるトレーナーのためにも、勝ちたい!

 

「ワォン!」

「行くぜ、イワンコ!」

「ワン!」

 

 

「期待通り……ううん。期待以上ね」

 

イワンコとサトシを見つめながら、ライチがポツリと呟く。あんなことがあったのだ、イワンコがもうバトルできなくなっても、サトシがイワンコのことを叱ってもおかしくはない。でも、サトシは叱るどころが、一度は完全にバトルする意欲をなくしたイワンコを、すぐに立ち直らせた。

 

「最後まで、見極めさせてもらうわよ、サトシ!ルガルガン、GO!」

「望むところです!イワンコ、走れ!」

 

トレーナーたちの声を聞き、ルガルガンとイワンコも、最後の勝負に臨むべく、駆け出す。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ルガルガン、いわなだれ!」

 

ジャンプするルガルガン。その高さはとてもイワンコには届かない。打ち出された大きな岩はイワンコのいわおとしでは迎撃不可能。かなりのピンチに対しサトシは、

 

「イワンコ、あれを足場にするぞ!飛べ!」

 

唐突なその指示、しかしイワンコは躊躇うことなく飛び上がる。信じてる、そうサトシは言った。イワンコならできる、そう思ったからこその指示。応えないわけにはいかない。次々に降り注ぐ岩を蹴り、イワンコはどんどん高く登る。そしてついにルガルガンより高くまで飛び上がった。

 

「今だイワンコ!全力全開、いわおとし!」

 

勢いよく腕を振り下ろすサトシ。それに合わせて、イワンコも今までのよりもわずかに大きいいわおとしを発動させる。宙にいたルガルガンにはそれをかわすことができず、技が見事に命中する。いわおとしに押されるように、ルガルガンがフィールドに叩きつけられる。

 

着地し、肩で息をするイワンコ。背後を振り返ると、ルガルガンが倒れたまま、動かなかった。

 

「ルガルガン、戦闘不能!イワンコの勝ち!よってこの大試練バトルの勝者は、挑戦者のサトシ!」

 

ククイ博士の声がフィールドに響く。勝利を勝ち取ったイワンコが、ふらつく。その体をサトシが優しく抱きかかえる。

 

「勝ったぜ、イワンコ。ありがとな」

「アン」

 

「やった!大試練突破だ!」

「すごかった、大試練!」

「なんだかすっごくハラハラしちゃったよ」

「ああ。だが、流石はサトシだな」

「トレーナーとポケモン。本当に強い信頼関係で結ばれているのが、大きな力になる。とても勉強になりました」

 

「サトシ、大試練突破おめでとう」

「ライチさん、ありがとうございます」

 

フィールドの中央で握手を交わす二人。

 

「これが私とアーカラ島からの贈り物。イワZよ。これからイワンコと一緒に、ガンガン使ってぇぇえ!?」

 

Zクリスタルを取り出すだけの間に、何もないところで転ぶライチ。バトルの時とのギャップに、サトシたちも苦笑してしまう。

 

「忙しい人……踊って、こけて、バトルして……」

 

「き、気を取り直して。改めてイワZよ、サトシ」

「ありがとうございます。ほら、イワンコ。イワZゲットだぜ」

「クゥーン」

 

バトルが終わって気が緩んだのか、イワンコがまたシュンとしている。疲れもあるだろうが、やっぱり先程のことを気にしているのだろうか。

 

「ねぇサトシ。さっきのバトルで思ったことなんだけど、もしかしたらイワンコ、進化が近いのかもしれないわ」

「えっ、進化?」

『データによると、イワンコは進化が近くなると、攻撃的になったり、単独行動が増えたりするらしいロト』

「そうなのか……」

 

イワンコを見るサトシ。当のイワンコ本人はよくわかっていないのか首をかしげるだけだった。

 

「真昼の姿と真夜中の姿、一体どっちになるのか、楽しみね。サトシはどっちがいいの?」

「俺はどっちでも。決めるのはやっぱりイワンコだと思うので。だからイワンコ、なりたい方にな〜れ」

 

そう言ってサトシは優しくイワンコの頭を撫でる。イワンコの進化を楽しみにしながら。

 

その様子を近くの木に隠れ、ピンクの体を持つポケモンが、ずっと見ていたのを、誰も知らなかった。

 

 

 

その晩、サトシたちの眠る部屋から、イワンコが消えた。

 

 

…………… To Be Continued




突然いなくなったイワンコ。

必死に探し回るサトシたちが見たのは2体のルガルガンと、カプ・テテフ!?

勝負を挑んでくるカプ・テテフに対し、サトシたちは……

次回、
黄昏のバトル!命と恵みの守り神!

みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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黄昏のバトル!命と恵みの守り神!

今回ちょこっと展開変えてます

いやぁしかしアニポケ面白い展開になって来てますね〜

カントー編、楽しみだなぁ
あれ、どこかで見覚えがあるようなないような笑


真っ暗なアーカラ島の森を、サトシとピカチュウ、ゲッコウガの三人が必死に走っている。

 

「イワンコー!どこだー!」

「ピカチュー!」

 

大試練の後、サトシたちはお祝いのご飯を食べ、眠りについた。が、その夜、物音に反応したピカチュウとゲッコウガは、いつの間にかイワンコが彼らの部屋からいなくなっていることに気づいた。

 

急いでサトシを起こした彼らは、イワンコを探すために、ポケモンセンターを飛び出した。

 

 

「イワンコ……どこに行っちゃったんだろう」

 

進化の前兆。以前マーマネが言っていたことだが、イワンコは進化が近づくと、ふらりとどこかに行ってしまうらしい。その後、進化してからトレーナーの元に戻るとも。しかし、

 

 

「あいつ、落ち込んでたよな……」

 

大試練が終わっても、お祝いのご飯の時も、そして寝る直前までも、イワンコは普段から想像できないほど、落ち込んでいた。仲間であるはずのモクローを攻撃し、戦闘不能に追い込んでしまったことに、強く負い目を感じていたのだろう。モクロー本人は気にしていなかったものの、仲間意識が人一倍強いイワンコにとって、自分のしたことはショックが大きい。

 

「イワンコ……」

 

と、突然大きな爆発が聞こえてくる。ちょうどサトシたちの向かっている方向からだ。

 

「もしかして、イワンコもそこに!?」

 

走り出すサトシたち。その間も先程とほどではないものの、小さな爆発音が聞こえてくる。特訓か、あるいは誰かがバトルしているのか。と、周辺の空気が変わって来ている。あたりが紫色の光で淡く照らされている。その光景にサトシは見覚えがある。いや、全く同じものではなく、よく似たものを使う相手とついこの前バトルしたところだ。

 

「これって、カプ・コケコのエレキフィールドみたいだ……まさか……」

 

なんだか嫌な予感がするサトシは、走る速度を上げる。木々を掻き分けて進むと、少しひらけた場所にたどり着く。近くの岩が崩れ落ち、あたりにはキラキラ光るものが舞っている。そしてその中心には、一体のポケモンが倒れている。

 

「イワンコ!」

 

慌てて駆け寄るサトシたち。どうやら気を失っているらしい。体のあちこちにも傷がある。特訓……というわけではなさそうだ。

 

「バトルしてたのか?でも、誰と……」

 

あたりを見渡す。地面にも落ちているキラキラ光るもの。サトシがそっと触れて見る。この感じ、確か以前に感じたことがあるものだ。

 

「これって……っとと!?」

 

意識を取り戻したのか、腕の中のイワンコが暴れだす。サトシのことがわからないのか、気が立っていて、吠え始める。

 

「落ち着けって、イワンコ!痛っ!」

 

カブリ、とイワンコの鋭い牙がサトシの腕に食い込む。普段イワンコが戯れた時にしてくるものとは違う、本気も本気の噛みつきに、思わずサトシも顔をしかめる。

 

犬歯の食い込んだ部分から血が滲み出る。鉄の味を感じたのか、ハッとしたように腕を放すイワンコ。モクローの時と同じように、自分のした事に信じられないような表情をしている。

 

「ててっ。どうしたんだ、イワンコ?あ、おい!イワンコ!」

 

サトシの声も聞かず、イワンコは森の奥へと消えていってしまう。慌てて立ち上がるサトシだったが、腕の痛みに気を取られてしまう。その間に、イワンコの姿は見えなくなっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝、気持ちのいい日差しを浴びている中、ククイ博士をはじめとするスクール組は、何やら慌てている様子。

 

「いたか?」

「いえ、見当たりません」

「近くの人にも聞いて見たのですが、誰もそれらしい人を見ていないようです」

「どこに行ったのかしら、サトシ……」

 

夜中のうちに、突然サトシとピカチュウ、イワンコにゲッコウガが行方不明になっていたことに、みんな不安げな表情を浮かべている。

 

「!ガウッ!」

「ルガルガン?」

 

辺りの匂いを嗅いでいたルガルガンが森に顔を向ける。視線を追うと、森の中から、サトシたちが出て来た。森の中をずっと歩いていたのか、サトシの服の所々が破けている。

 

「サトシ!」

 

「あ、博士、ライチさん。みんなも」

「こらっ!夜中に何も言わずに出て行く奴があるか!」

「心配してたのよ」

 

サトシの腕の中に、モクローたち残っていたポケモンが飛び込んでくる。それを受け止めながら、サトシはみんなを見る。珍しく怒っているククイ博士に、ホッとした表情のライチ。クラスメートたちも安心した表情を浮かべていることから、相当心配をかけてしまったのだろうと、サトシは理解した。

 

「ごめんなさい」

「……まぁ、わかったならいい」

「怪我はしてない?」

「俺たちは大丈夫です」

「で?どうして夜中に抜け出したんだ?」

「……イワンコが急にいなくなったので、探しに。一度は見つけたんですけど、逃げられちゃって。これも、進化と関係があるんですか?」

 

心配そうなサトシの前に立ち、ライチがルガルガンの頭を撫でながら語りかける。

 

「この子もね、進化の前にフラッとどこかに行っちゃったの。戻って来た時には、ルガルガンに進化していたわ。イワンコにとっては、普通のことだと思うわよ」

「そうですか……でも、イワンコ、傷ついてボロボロでした!きっと、誰かとバトルしていたんじゃないかと思うんです!」

「!怪我をしていたの!?」

 

みんなの表情が変わる。進化のために姿を消すのはともかく、傷ついていたとしたらただ事ではない。

 

「ククイ博士」

「ええ。すぐに探しましょう!みんなも手伝ってくれるか?」

「もちろんです!」

「俺は空から探してみる」

「私とアシマリは水辺とか」

「あたしたちは森の方に行くね」

「わたくしもご一緒します!」

「僕はイワンコの行きそうな場所をシミュレーションしてみるよ」

 

すぐさま行動を起こしてくれる仲間たちに様子に、サトシは嬉しくなった。本当に自分のことも、イワンコのことも心配してくれている。改めて、仲間っていいな、なんてことを考えてしまう。

 

座り込んでいたサトシも立ち上がる。

 

「サトシは休んでいた方がいいわ。ずっと探していたんでしょ?」

「いや、俺も行きます。俺はイワンコのトレーナーです。俺が探さないなんて、そんなこと、俺自身が許せない」

「サトシ……じゃあ私たちと一緒に探しましょう。無茶だけはしないでね」

「はい!」

 

イワンコを探すために、サトシはあちこちに向かって行った。

 

 

いつの間にか、ルガルガンがどこかへ消えていたことに、その時は誰も気づいていなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

日が沈みかけ、空は赤く染まってきている。それでも、イワンコはまだ見つからずにいた。既にほぼ一日探し回っていたサトシは、流石に疲れてきている。

 

「まずいな。夜になったらますます見つけにくくなってしまう」

「それに、サトシもそろそろ休ませないと」

 

博士とライチが心配する中、サトシは必死に声をあげ、イワンコの名前を呼び続けている。と、サトシの前を小さな影が横切る。ヤングースだ。しかしその体は何やらキラキラ光っている。

 

いや、正確には体が光っているのではない。その体に、キラキラ光る粉のようなものが付いているのだ。

 

「これって確か、あの時も」

 

イワンコを最後に見たあの時、側にこれと同じものが舞っていたのを思い出す。ヤングースからこぼれ落ちたものを少し手にとってみると、手の擦りむいていた部分が治っていく。

 

「これ……ライチさん!」

「サトシ?どうかしたの?」

「この粉、これってもしかして、カプ・テテフのですか?」

「あら?そうよ。これはカプ・テテフの傷を癒す鱗粉ね。これがどうしたの?」

「実は最後にイワンコを見た時、周りにこれと同じものが沢山あって。もしかしたらイワンコ、カプ・テテフとバトルしていたのかもしれません」

「カプ・テテフと!」

 

心配げな表情で顔を見合わせるライチと博士。その様子にサトシが首をかしげると、ライチが深刻そうに話し出す。

 

「カプ・テテフはね、不思議な鱗粉で傷を治してくれることもあるけど、同時にとても無邪気で残酷な面も持っているの」

「無邪気で、残酷……」

「例えば、カプ・テテフもカプ・コケコみたいにバトルをすることを楽しむの。でも、強さの制御がうまくできないことが多いの。相手のポケモンが実力不足だと、瀕死状態まで追い込んでしまうこともあるの」

「っ、そんな!」

 

もし、もしもである。イワンコがカプ・テテフとバトルしていたのだとしたら。あの後追いかけて行ってまたバトルしに行っていたとしたら。

 

「ヤングースはあっちからきました。もしかしたら、カプ・テテフとイワンコがそこにいるかも」

「急ごう」

「ええ」

 

(頼む。無事でいてくれよ、イワンコ!)

 

走り続けるサトシたち。ふと見覚えのある道が見えてくる。大試練バトルを行なった命の神殿、そのバトルフィールドに続く道だ。奥から何か激突音が聞こえてくる。誰かがバトルしているのだろうか。

 

「イワンコ!」

 

必死に走るサトシ。道を抜け、目的の場所に辿り着いたサトシの目に入ったのは、真昼の姿と真夜中の姿、二体のルガルガンが弾き飛ばされるところだった。夕日を背に彼らと対峙するのはカプ・テテフ。そしてフィールドの反対側に横たわっているのは、イワンコだった。

 

 

 

 

立ち上がろうとする二体のルガルガンをよそに、カプ・テテフがギガインパクトで倒れているイワンコに迫る。動けないイワンコはそれを避けることができない。ルガルガンたちが吠えるもカプ・テテフは目もくれない。

 

と、突然カプ・テテフとイワンコの間に、激しい水流の渦が降り立ち、ギガインパクトを受け止める。カプ・テテフが首をかしげると、水流を突き破るようにし、水のクナイが振り抜かれ、カプ・テテフを宙に弾き飛ばす。

 

水流を突き破り現れたのは、変化したゲッコウガ。その後ろからサトシたちがやってくる。

 

「イワンコ!ライチさん、お願いします」

「ええ。イワンコ、ルガルガン!大丈夫?」

「カプ・テテフ……それにこっちのルガルガンは一体?」

 

ライチたちがイワンコとルガルガンたちのことを見る中、サトシとゲッコウガはカプ・テテフと対峙している。まだイワンコの方に向かおうとするカプ・テテフの目の前を、ゲッコウガのみずしゅりけんが横切る。サトシたちを見てクスクスと笑うカプ・テテフ。

 

「バトルしたいのか?」

 

サトシの問いかけに答えるように、辺りが紫のオーラで包まれる。サイコメイカーによるフィールドの変化。カプ・テテフもやる気のようだ。

 

「よし、行くぞ、ゲッコウガ!」

「コウッ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「テテ、テッテ!」

「みずしゅりけん!」

 

初っ端からフェアリータイプの大技、ムーンフォースを繰り出すカプ・テテフ。対するゲッコウガはみずしゅりけんを投げつける。しかし、流石は守り神ポケモン。一瞬拮抗したものの、みずしゅりけんが破られてしまう。

 

「躱してかげぶんしん!」

 

飛び上がり攻撃を避けるゲッコウガ。すぐさま分身し相手の動揺を誘う。しかしカプ・テテフは動揺するどころか、楽しそうに声を上げて笑っている。

 

カプ・テテフがギガインパクトでゲッコウガへと突っ込んでいく。分身、また分身とことごとく空振りながらも、笑い声は止まらない。

 

「そこだ!いあいぎり!」

 

分身を倒し終えたカプ・テテフの背後から、ゲッコウガのクナイが振り下ろされる。避ける間も無く攻撃をくらったカプ・テテフはフィールドに叩きつけられる。

 

着地し様子を伺うゲッコウガ。土煙の中からカプ・テテフが勢いよく飛び上がる。空高くから見下ろすカプ・テテフが再びムーンフォースでゲッコウガを狙い撃つ。

 

「走れ!」

 

フィールドを縦横無尽にかけるゲッコウガ。連続で放たれる攻撃を躱し続ける相手に痺れを切らしたのか、カプ・テテフが高度を下げ、地面を叩く。突然、ゲッコウガが弾き飛ばされる。

 

「ガッ!?」

「っつ、今のは、カプ・コケコと同じ、しぜんのいかり?」

 

効果抜群の技を受けたゲッコウガ。ダメージはあるものの、まだ倒れないと言わんばかりに、視線が鋭くなる。それはサトシも同じ気持ちだった。

 

「まだまだ上げていくぞ!ゲッコウガ、もっと早くだ、つばめがえし!」

 

再びしぜんのいかりで攻撃しようとするカプ・テテフ。しかし先ほどよりも速度を上げたゲッコウガは、左右に大きく動きながら接近するため、狙いが定まらない。ゲッコウガの突きがカプ・テテフを捉えた。

 

「行っけぇ!」

 

全体重を乗せて腕を振り抜くゲッコウガ。カプ・テテフも堪らず吹き飛ばされ、木に激突する。それでも倒れる気配を見せないカプ・テテフは、流石守り神のポケモンと言わざるを得ない。と、サトシたちの意識をバトルから逸らす声が響いた。

 

「サトシ、イワンコが!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

慌てて2人が声の主、ライチの方を向くと、腕の中でイワンコがぐったりしている。フィールドを降り、サトシとゲッコウガはイワンコに駆け寄る。

 

「イワンコ、しっかりしろ!」

 

ライチからイワンコを受け取るサトシ。抱き抱えながら呼びかけるものの、イワンコは反応しない。浅い呼吸をしていることから、まだ死んではいない。しかし危険な状態にあるようだ。

 

「このままじゃ……」

 

焦るサトシ。ポケモンセンターまでは、ここからはかなりの距離がある。回復用の道具も、カバンを持ってきていないため今は見つからない。

 

と、二体のルガルガンがサトシの背中を守るかのように並ぶ。いつの間にか、カプ・テテフがサトシのすぐ後ろまで来ていた。

 

「くっ!」

 

イワンコを庇うようにサトシがそっと抱きしめる。首を傾げながらその様子を見ているカプ・テテフ。と、突然笑顔になり、真夜中の姿のルガルガンにキスをした。

 

途端に倒れるルガルガン。サトシたちが戸惑う中、真昼の姿のルガルガンもキスをされ倒れる。

 

「な、何をっ!?」

 

サトシが言葉を詰まらせる。ルガルガンたちが倒れると、カプ・テテフはサトシの頬にもキスをしたのだ。驚いたのも一瞬。サトシは急激に体力が奪われていく感覚に襲われる。

 

「こ、これは……」

 

「コウッ!」

「待って!」

 

今にもカプ・テテフを攻撃しそうなゲッコウガを止めたのはライチだった。

 

「カプ・テテフは、イワンコを助けようとしているわ」

 

イワンコの真上で止まるカプ・テテフ。その体から光る鱗粉とともに、三色の光がイワンコに注がれる。みるみるうちに、イワンコの傷が癒えていく。

 

「そうか、さっきのはドレインキッスだ!サトシたちから吸収したエネルギーで、イワンコの傷を治しているのか」

 

パチリと、イワンコの目が開く。その瞳に最初に映ったのは、自分を抱き締めたまま倒れているサトシだった。

 

驚いたイワンコがサトシの体を揺らす。ゆっくりとサトシの目が開く。

 

「イワンコ?」

「クゥーン」

「良かった。治ったんだな」

 

起き上がり、サトシがイワンコの頭を撫でる。両隣では、ルガルガンたちも頭を振り立ち上がっている。上を見上げると、カプ・テテフがクスクス笑いながらサトシたちを見下ろしている。

 

「……ありがとう。イワンコのこと、治してくれて。それから、バトルありがとな!」

「……テッテッテ〜!テテ!フフフフ」

 

楽しそうに笑いながら、カプ・テテフが海に向かって飛んでいく。夕日がどんどん沈んでいく中、イワンコがカプ・テテフを追いかけるように、フィールドの端、海に一番近い位置に立つ。見開かれた瞳には、美しい夕日の赤色が映っている。

 

 

と、突然あたりが眩いエメラルド色の光に包まれる。沈む夕日が、赤色ではなく、美しい緑色になっている。イワンコが何かを感じ取ったのか、夕日に向かって吠える。

 

すると、イワンコの体に変化が起こり始める。体が光に包まれ、徐々に変化していく。

 

「これは」

「進化の光よ!」

「イワンコが、進化……」

 

両隣に二つの姿のルガルガンが並び見守る中、イワンコの新しい姿があらわになる。四足歩行で体色はオレンジ、顔の周りがタテガミのような毛に覆われている。真昼でもなく、真夜中でもない。新たな姿のルガルガンが、夕日に向かって声をあげる。

 

『ビビッ!?データなし!真昼の姿でも、真夜中の姿でもないロト!』

 

ロトムが驚愕の声をあげると、ルガルガンがサトシのことを見る。その瞳の色は、先ほどの光のように、美しいエメラルドのような緑色に染まっている。

 

「新しい、ルガルガン……」

「これはもしかしたら、グリーンフラッシュの影響かもな」

「?博士、グリーンフラッシュって?」

「日没や日の出の時に、ホンの一瞬程しか起こらない、とても珍しい現象だ」

「め、めっだに見られない現象だがら、この島ではグリーンフラッシュを見た者には、幸ぜが来ると言われでるの」

 

ライチガチ泣きである。あまりの出来事に感動し過ぎてしまったようで、所々聞き取りにくくなっている。

 

「名前は、そうだな。黄昏時に進化したから、ルガルガン、黄昏の姿だな」

「黄昏の姿、か。やったな、ルガルガン!」

「ガウッ!」

 

サトシに頭を撫でられ、嬉しそうに目を細めるルガルガン。そのサトシとルガルガンに、感極まったライチが抱きつく。そんな微笑ましい様子をずっと見ていたカプ・テテフが、スッとサトシたちの前まで飛んで来る。

 

「?カプ・テテフ?」

 

不思議そうな顔をするサトシたち。ニッコリと笑うカプ・テテフはまずルガルガンの額にキスをして、そしてサトシの額にもキスをする。今度はエネルギーを吸われてはいないため、特に技というわけではなさそうだ。

 

「テテ!」

 

最後に一声かけてから、今度こそカプ・テテフはどこかへと行ってしまった。真夜中の姿のルガルガンも、いつの間にか姿を消してしまった。

 

「なんだったんだろう、今の」

「命の守り神からの祝福、ってことでいいんじゃないか?」

『ビビッ!そろそろ暗くなるロト。早く戻るロト!』

「おっと、そうだな。ライチさん、戻りますよ」

 

 

森の中を駆け抜けるサトシたち。戻って来たのを見たカキたちが、その先頭を走るルガルガンを見て驚いたのは言うまでもない。

 

 

翌日、ついにアーカラ島との別れの時となり、サトシたちは船でメレメレ島を目指している。

 

「また来ような、ルガルガン。お前の進化したアーカラ島に」

「ガウッ!」

 

 

アーカラ島の旅を終えたサトシたち。メレメレ島に戻ったら、また新しい学びと出会いが、きっと待っている……

 

 

 

サトシのカバンの中で、深い青色に染まったあの透明な鉱石が、キラリと煌めいた。

 

…………… To Be Continued

 




黄昏の姿に進化したルガルガン。

早速ゲットしたイワZを使ってみようとしたけど、失敗してしまった!?

一体何が原因なんだろう?

よーし、こうなったら使いこなせるように特訓だ!って、あれ?あのルガルガンは、もしかして……

次回、
真夜中の特訓。燃えろルガルガン、Z技!

みんなもポケモン、ゲットだぜ!


なお、内容は本編から大幅に変更されるのをご了承下さい


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真夜中の特訓。燃えろルガルガン、Z技!

今回はロケット団回……ではない!

というわけで、ムサシとミミッキュの仲良し買い物を見たい人は、アニメへGO!

今回は若干オリジナル展開です


朝、登校中のサトシたち。今日はルガルガンがボールから出て並走中。道中、見たことない姿のルガルガンは、道行く人々に注目されていたが、当の本人たちはそんなのどこ吹く風。いつものように登校して、

 

「ピカッ!?」

「なっ。ピカチュウ!」

 

突然どこからか伸びて来たアームに、ピカチュウが捕まってしまう。最近影が薄くて忘れがちだったが、そういえば彼らもまだピカチュウをつけねらっていたのだ。

 

「出たなロケット団!」

「出たなロケット団と聞かれたら……って、ちょっと!」

「久々の登場なのに、口上も言わせてもらえないのかよ!」

「なんだか扱いが悪いのニャ!」

「ソーナンス!」

「ヒドイデ〜」

 

いつもの長ったらしい口上を遮られ、ロケット団も流石に怒っている。もっとも、サトシの方が怒っているわけなのだが。

 

「ピカチュウを返せ!」

「そう言われて、はいそうですかって返す泥棒がどこに居るのよ!ミミッキュ、やっちゃって!」

 

ムサシの投げたゴージャスボールからミミッキュが出てくる。そのままシャドーボールをサトシたちに向けて、かと思いきや、囚われのピカチュウに攻撃しようとしている。

 

「ちょっと、ミミッキュ!あっち!」

 

「よしっ、ルガルガン!試してみようぜ、Z技!」

「ルゥガウッ!」

 

Zリングに付けるクリスタルを変えるサトシ。ルガルガンが一歩前に進み出る。全く新しい姿のルガルガンを見たロケット団が、その珍しさに興奮しているが、そんなことはサトシたちには関係ない。

 

「行くぞ!」

 

腕を交差させるサトシ。眩い光が溢れ、ルガルガンの体に集まる。ルガルガンが吠え、大地を蹴り、飛び上がる。大量の岩がどんどん集まり、巨大な岩石を構築していく。

 

「な、なんだか」

「やばい予感が……」

「してるのニャ!」

 

「これが俺たちの全力だ!ワールズエンドフォール!」

 

ルガルガンが巨岩をロケット団目掛けて投げつける。決まった!そう思い、ロケット団が身をすくめる、が、途中で岩石が崩壊し、技が不発に終わってしまう。

 

「えっ」

「ガウッ!?」

『ビビッ!Z技が失敗したロト!?』

 

「な、なんかよく知らないけど、ラッキー!」

「よぉし、ヒドイデ、反撃を「サトシ、ルガルガンかわせ!」えっ!?」

 

声に反応し、サトシとルガルガンが左右に分かれ道を開く。飛び込んで来たガラガラが骨でピカチュウを捕らえていた檻を壊す。

 

「なんと!?」

 

そのまま急いでその場を二体が離れると、サトシたちの後ろから眩い光が溢れる。

 

「ダイナミックフルフレイム!」

 

バクガメスが打ち出した巨大な火球が、ロケット団たちに決まる。空の彼方へ飛ばされていくロケット団。

 

 

「サトシ、大丈夫だったか?」

「サンキュー、カキ。バクガメスとガラガラも、ありがとな」

「で、どうしたんだ?」

「それが……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なるほどな……」

 

所変わって教室。今朝の出来事のことを、サトシが博士やクラスメートに説明した所だ。

 

「ポーズが間違ってたとか?」

「いや、それなら発動さえしないはずだな。ブルームシャインエクストラの練習の時のようにな」

「パワーが足りなかったのかな?」

「イワンコの時からZ技を使うことはできていた。まして、今は進化してパワーも上がっているはずだ。パワー不足ってことはないと思うが」

 

みんながあれこれ話し合う中、サトシはルガルガンを見る。技をうまく発動できなかったことに、何やら悩んでいるらしい。サトシが立ち上がると、ルガルガンの近くへ行き、その頭を撫でる。

 

「気にするなよ、ルガルガン。これからいっぱい練習していけばいいんだしさ」

「ガウ」

 

 

 

 

その後、休み時間にもサトシたちは特訓を続けていた。他の技はバッチリ成功し、威力も前より上がっているのが見て取れる。しかし、どうしてもZ技を成功させることができなかった。特訓は放課後にも続き、いつも使っている海岸も、だんだんと暗くなって来ていた。

 

「はぁっ、はぁっ……今日はもうここまでかな」

「ガウッ」

「ルガルガン……よしっ、もう一回だな!」

 

既に何度目かわからないが、サトシが両腕を交差させる。ルガルガンが大地を蹴り、空へと飛び上がる。岩が集まり、巨大な岩石を形成する。が、

 

「ッ、ルガッ!?」

「ルガルガン!」

 

間に休憩を取っているとはいえ、全力の技を何度も使用し疲れてきたからか、ルガルガンが空中で態勢を崩してしまう。と、持ち上げていた岩石が支えを失い、落ちていく。

 

 

サトシ目掛けて。

 

「っ、やばっ!」

『サトシ、危ないロト!』

 

岩がどんどん崩れ小さくなる。しかしそれは同時に、サトシの逃げ道を塞ぐように、広がっていっている。

 

そしてサトシ目掛けて岩が降り注いで……

 

 

「ストーンエッジ!」

「ルゥガッ!」

 

突如としてサトシの周囲に、彼の身長を超える岩柱が地面から盛り上がる。彼に向かって来る岩を砕き、まるでサトシを守っているかのようだ。

 

降り注ぐ岩がやむと、岩の柱も消えていく。サトシの背後から、砂を踏みしめる音が聞こえてくる。振り返ると、そこに立っていたのは、

 

「久しぶりだな、サトシ」

「グラジオ!?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

突然現れた人物にサトシは目を見開く。隣に真夜中の姿のルガルガンを連れながら、リーリエの兄、グラジオが近づいてくる。

 

「さっきの、ルガルガンが?」

「ああ」

「そっか。サンキューな」

「ガウッ」

 

とここでグラジオがサトシの隣に駆け寄るルガルガンに気づく。驚いた表情になるグラジオ。それもそのはず。そのルガルガンは、今まで確認されたどちらの姿とも異なっていたのだから。

 

「サトシ……そいつは?」

「ああ。俺のイワンコが進化したんだ。ルガルガン、黄昏の姿。あ、そう言えば、あの時一緒にいてくれたルガルガンって」

 

サトシがグラジオのルガルガンを見ると、フッと笑い顔を背けられる。

 

「あぁ、この前急にどこかへ行ったかと思ったら……そういうことか」

「ガウ」

「あの時もサンキューな」

「それで?さっきのはなんだ?何故岩の塊がお前に向かって降って来たんだ?」

「実は……」

 

 

 

 

「なるほどな……Z技の失敗か」

「他の技は使えるし、Z技も発動はできてるんだけどなぁ」

「……」

 

二人の視線の先、サトシのルガルガンが技を発動し練習するのを、グラジオのルガルガンが見ている。

 

「試してみるか?」

「えっ?」

「俺とお前のルガルガンで、真剣勝負だ。何かわかるかもしれない。やるか?」

 

問いかけておきながらも、じっとサトシを見るグラジオの目には、燃える闘志が見て取れる。戦いたくてうずうずしている、そんな感じが溢れてくる。それはサトシにとっても願っても無いことなので、

 

「もちろんだ!」

 

ほぼノータイムで即答しているのだった。

 

 

 

 

少し距離を開けて対峙するサトシとグラジオ。側にはそれぞれのルガルガンが立ち、相手を見据えている。

 

「行くぞ、ルガルガン」

「ルガッ!」

「進化したお前の力、あいつらに見せてやろうぜ、ルガルガン!」

「ガウッ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ルガルガン、いわおとし!」

 

飛び上がり、先制攻撃を仕掛けるサトシのルガルガン。降り注ぐ岩を一瞥し、相手のルガルガンはそれをかわす。

 

「かみくだく」

「いわおとしで防げ!」

 

いわおとしをかわしながら接近したルガルガンが、鋭い牙でサトシのルガルガンが着地する瞬間を狙う。しかしそこはサトシのポケモン、地面に向かっていわおとしを放ち、相手の接近を許さない。

 

「今だ、アクセルロック!」

 

高速で相手めがけて駆けるサトシのルガルガン。強烈な体当たりが炸裂し、相手が大きく後退させられる。

 

「やるな。ストーンエッジ!」

 

グラジオのルガルガンが地面を殴りつける。大きな岩の柱が地面から飛び出し、サトシのルガルガンに迫る。

 

「飛び乗れ!そこからかみつく!」

 

岩を足場に、サトシのルガルガンが相手に飛びかかる。真夜中のルガルガンが防御の姿勢をとる。そのあげられた左腕に、サトシのルガルガンの牙がくい込む。

 

「よっしゃ!そのまま放すなよ!」

「ふん。カウンター」

 

真夜中のルガルガンが鋭い目を見開き、右腕による渾身の一撃を叩き込む。その攻撃でサトシのルガルガンの口から腕が離れ、その体は大きく吹き飛ばされる。

 

「やるなぁ、グラジオ」

「お前達もな……かみくだく!」

「アクセルロック!」

 

両者のルガルガンが同時に駆け出す。より素早いサトシのルガルガンの攻撃が先に相手の胴体に決まるが、グラジオのルガルガンはその一撃を受けてなお、サトシのルガルガンに噛みつき、投げ飛ばす。

 

「ストーンエッジ!」

 

再びサトシのルガルガンめがけて迫る岩の柱。

 

「いわおとし!」

 

地面からせり上がって来る岩柱を、サトシのルガルガンの攻撃が削る。その破片が宙を舞い、不安定ながらも足場のようなものになる。

 

「よしっ、ここだ!跳べ、ルガルガン!」

 

大きく跳躍し、ストーンエッジの岩を踏み台にするルガルガン。そのまま大きく宙に飛び上がる。と、その体に光が纏わり付いていく。見ると、サトシは既にZ技の発動ポーズをとっている。

 

「行っけぇ!ワールズエンドフォール!」

「ワォォーン!」

 

サトシのルガルガンが吠え、巨岩を投げつけようとする。しかしここでもまた、Z技が途中でほころび出してしまう。その様子を観察して来たグラジオが小さく頷く。

 

「見せてやる。この技は、こう使うんだ」

 

今度はグラジオがZ技の構えを取る。溢れる光をその身に受け、真夜中のルガルガンが、空に浮かぶ月を背に飛び上がる。

 

「滅びゆく大地の声を聞け!ワールズエンドフォール!」

 

真夜中のルガルガンが投げつける岩塊は、まだ地面に辿り着く前のサトシのルガルガンを捉える。そのまま地面に激突した岩塊が爆発し、海岸の砂を巻き上げる。砂が晴れると、目を回してしまったルガルガンがそこには倒れていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ルガルガンの方に、問題がある」

「えっ?」

 

それが、バトル後の労いの言葉をかけているサトシの元に、グラジオが歩み寄って放った第一声。

 

「ルガルガンに問題って、どういうことだよ。こんなに頑張ってるのに!」

 

思わず喧嘩腰になってしまうサトシに、グラジオは小さく溜息をつき、落ち着くように仕草で伝える。

 

「言い方が悪かったな。確かにお前のルガルガンは頑張っている。けど、頑張りすぎだ」

「?頑張りすぎ?」

「Z技は他の技と比べて多くのエネルギーを集めて攻撃する。それ故に、力のコントロールが他よりも繊細になるものもある。イワタイプのZ技もそうだ。だが、今のルガルガンは最初から全力を使いすぎている。進化したことで得た大きな力、その加減を見極められていない。そのため、最後まで技を保たせることができていない」

「つまり、頑張りすぎちゃって、疲れてるってことか?」

「まぁ、そんなところだ。必要なのは、岩や大地の呼吸を感じ取ること。爆発的な力の解放は、あくまで相手に向けて技を放つその時にするだけでいい。それさえできれば、問題はないだろう」

 

ふっと笑みを浮かべるグラジオ。彼のルガルガンも、サトシのルガルガンを激励するように、頭を前足で撫でている。

 

「ありがとな、グラジオ」

「気にするな。俺のルガルガンも、そいつを気にしてるみたいだったからな。俺はもういく。次に会う時までに、Z技、ものにしとくんだな」

「ああ!」

 

背を向け、片手を上げながら歩き去るグラジオ。彼のルガルガンもサトシたちに向けて一度吠え、主人の後を追っていく。その後ろ姿を見送るサトシたち。月が一瞬雲に隠れ、また顔を出した時には、すでに二人の姿は見えなくなっていた。

 

「よしっ、ルガルガン!今度こそ、成功させてみせようぜ!」

「ガウッ!」

 

その後、夕飯時になっても戻らないサトシたちを心配した博士が探しに来るまで、二人は練習を続けたとか……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日。スクールに登校するサトシたちを出迎えたのは、何やら自信たっぷりのロケット団だった。

 

「今度こそ、あんたを倒して、ピカチュウをゲットしちゃうわよ!」

「そうはさせるか!行くぞ、ルガルガン。特訓の成果、見せてやろうぜ!」

 

対峙するのはムサシとミミッキュ、サトシとルガルガン。が、毎度のことだが、やはりミミッキュはピカチュウばかりに狙いをつけてしまっている。一応ムサシの指示通りの技を使っていることから見て、仲は進展したらしいが。

 

「なんかよく知らないけど、行くぞ、ルガルガン!」

「ガウッ!」

 

いざ、特訓の成果を見せる時。

 

しっかりと地面を踏みしめるルガルガン。

 

「岩と大地の呼吸を感じて……行くぞ!これが俺たちの、全っ力だぁ!ワールズエンドフォール!」

 

地面を強く蹴り、ルガルガンが宙に飛び上がる。後を追うように、地面から大量の岩が空に集まりだす。それは巨岩を形成し、ルガルガンの頭上で出来上がる。

 

「また今度も失敗……ってあら?」

「なんだか、」

「ヤバイ感じなのニャ!」

 

「ガゥッ、ウォォォン」

 

ルガルガンが吠えると、瞳の色が赤く変わる。まるで真夜中の姿と同じように光るその目に、ロケット団の体がすくむ。

 

ルガルガンが前足を振り下ろし、巨岩をロケット団に向けて投げつける。今度は形を保ったままの巨岩がロケット団に命中し、爆発する。

 

今度は大成功したZ技によって、哀れロケット団は、またもや空の彼方へ飛ばされて行くのであった。

 

「やったな、サトシ」

『お見事ロト!』

「いつの間に?」

「昨日特訓して貰ったんだ」

「特訓?」

「誰に?」

「グラジオだよ」

「お兄様に会ったのですか?!」

「あ、ああ。またすぐに何処かへ行っちゃったけど」

「わたくしもお話ししたかったのに……」

「まぁまぁ。今はほら、サトシとルガルガンのZ技成功を喜ぼうよ」

 

 

 

サトシと仲間たちがZ技の成功を喜ぶのを、近くの岩陰からグラジオが眺めていた。

 

「ものにしたようだな。俺も、こいつともっと強くならないとな」

 

手にしたプレミアボールを見つめながらそっと呟くグラジオ。

 

そのままサトシたちに一言も告げず、グラジオはその場から立ち去っていった。

 




グラジオの口上ですが、今回は簡略版的なのを作って見ました。

いや、なんか彼ならそんなのも用意してそうだなぁって思ったので

あ、あと、すみません、ヤレユータンの話……
ぶっちゃけ悩み中です、はい

いや、この物語ってサトシの周辺だけで基本展開するから……サトシ、あるいはそのポケモンがほとんど映らない時とか、どうしようかとかなり悩んでます……

なので、次回予告はなしです!


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マオと父と森の先生

ヤレユータン回です

まぁ、書いて見たけど、何だかマオのあの可愛さは表現できなさそうだったので、ちょっと違う視点から書いてみました、はい


その日は目に見えてマオがそわそわしていることに、クラスのみんなが気づいていた。何かいいことがあったのだろうか、なんて気にしているものの、何やら自身の料理ノートとにらめっこしているマオの邪魔をしようとも思えず、結果、その話は流れてしまった……

 

が、

 

 

「先生、もうそろそろ時間なので、早退しますね」

「ああ。しっかりやれよ」

 

と、授業中にマオが突然立ち上がり、荷物をまとめて帰ってしまった。博士も何か事情を知っているのか、特に咎めることもなく、声をかけるだけだ。

 

「博士!マオ、何かあるんですか?」

 

こういう時に真っ先に疑問を口にするのは、やはりサトシ。クラスメイトたちも同じく気になっていたようで、うんうんと頷いている。

 

「今日はマオの家、アイナ食堂がテレビで特集されるんだ。お父さんと一緒に、しっかりと宣伝したいって、今日はお店の手伝いをするんだそうだ」

「へぇ、テレビに」

 

すげ〜と驚いているサトシではあるが、よくよく考えるとアローラに来てからだけでも、ラッタ退治にポケモンパンケーキレースと、既に何度かテレビに映っている。おかげでかなりの有名人ではあるが、本人にその自覚が全くない。

 

「いいなぁ、テレビかぁ」

「学校が終わったら、みんなで行ってみたらどうだ?もしかしたら映れるかもしれないぞ」

「「「「行きます!」」」」

 

元気のいい声で返事が飛ぶ。サトシ以外のみんなも、やっぱりそういうことに興味があるらしい。

 

余談だが、その後の授業におけるみんなの集中力は、いつも以上のものだったとか。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後、スクールの授業を終えたサトシたちは、アイナ食堂へと向かっていた。

 

「それにしても凄いな。メレメレ島でも有名なテレビ番組だろ?」

「そういうカキのとこの牧場だって、アーカラ島名所って紹介されてたよね」

「でも、これでもっとたくさんの人が、マオ達の料理を知ることができますね」

「お客さん、いっぱい来るかな?」

 

みんなで歓談しながらアイナ食堂の近くにたどり着くと、店の中からスタッフらしき人たちが出て来ている。

 

「ありがとうございました」

「こちらこそ。今度は、客として来てください」

 

マオの父親が挨拶をしているところから見て、どうやら既に取材は終わってしまったらしい。せっかく来たのに、ちょっぴり残念な気持ちになる。

 

 

笑顔でスタッフを見送っていたマオの父親だったが、急に心配そうな顔になり、辺りを見渡している。何かを探しているみたいだ。

 

「どうしたのでしょう?」

「そういえば、マオは一緒じゃないのかな?」

 

顔を見合わせるサトシ達。

 

「あの、どうかしたんですか?」

「ん?ああ、君達か」

「何か探しているみたいでしたが」

「それが、マオが家を飛び出しちゃったんだ」

 

「「「「「えええええっ!?」」」」」

「それって」

「まさか」

『家出ロト!?』

「何があったんですか?」

「うん……それが、僕が怒らせちゃったみたいでね……」

 

話を聞いてみると、どうやら店長がお店の宣伝をしている間、自分一人でキッチンをやりくりさせられていたことに不満があったらしい。とはいえ、マオ本人は日頃から料理や家事は割と好きと言っていたことから、恐らくそれだけではない気もするが。

 

「取り敢えず探さないと!ルガルガン、君に決めた!」

 

現れた見たことない姿のルガルガンにマオの父が驚いていたが、マオの捜索に力を貸してくれることを知ると、すぐにマオの着ていたエプロンを持って来てくれた。

 

「これでいいのかい?」

「はい。ルガルガンはイワンコと同じように、嗅覚が優れています。きっと探し出せるはずです」

「ルガルガン、マオの匂いを追ってくれ!」

 

エプロンに鼻を近づけ、匂いを覚えるルガルガン。辺りの空気を嗅ぎ、匂いの道を探る。ある一点を見て、ルガルガンが一度吠える。そのままその方向に向けて走り出すルガルガンを、サトシ達は追いかける。

 

「森の方に行ったみたい」

「早くしないと、暗くなっちまうぞ」

「ルガルガン、頼んだぜ!」

「ガウッ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目を覚ますと、知らない天井だった。

 

何やら物語の主人公とかが経験するような体験を今まさにしたマオ。体を起こしてあたりを見ると、天然の資源ばかりが使われているのがわかる。なんて観察してる場合ではなく、

 

「あたし確か、森で転んで……」

 

その時のショックで気を失ってしまったのだろうことは、容易に想像できた。しかしその後、誰かが自分をここに連れて来てくれたことになる。

 

「ここって……何だろう?あれっ、足まで」

 

葉っぱを使った簡易的な包帯のようなものが、自分の足に巻いてある。葉っぱ自体に治療効果があるのか、少し染みる程度で傷の痛みはほとんどない。

 

「誰がこれを?」

 

首をかしげると、大きめの木でできた暖簾を誰かが潜ってくる。

 

「……ポケモン?」

 

入って来たのは葉っぱでできたうちわのようなものを持った、大きなポケモン。自分と同じくらいの体格に、どっしりとした落ち着きある雰囲気。

 

「もしかして、あなたが助けてくれたの?」

 

小さく頷くポケモン。こっちにくるように手招きする。後を追って暖簾をくぐると、そこはまるでどこかのバーのような造りになっていた。明かり役にはマシェードとネマシュがいて、優しく部屋を照らしている。

 

「ユーヤレ」

 

腰掛けろ、と言っているのだろうか、カウンターの後ろに回ったポケモンが席を指す。断る理由もなく、マオが席に着く。

 

「あの、あなたは?」

「ヤレユータン」

「ヤレユータン?それが名前なの?」

 

ポケモンがコクリと頷く。マオが店内をキョロキョロ見渡していると、ヤレユータンがパイルの実を絞り、何やら飲み物を作っている。

 

「ユーヤレ」

 

差し出された硬いきのみで作られたグラス。中の飲み物を一口試したマオは、ハッと目を開いた。

 

「これ、お父さんのパイルジュースにすごく似てる……」

 

「ヤレ、ユーヤレ」

 

ヤレユータンがじっとマオを見ている。何だかその視線が、

 

『話してみなさい』

 

と言っているような気がして、気がつけばマオは、自分の不満や悩みを話し出していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

森の中をかけながら、あちこちを見渡すサトシ達。中でも特に心配そうにしていたマオの父は、何やら首を傾げている。近くにいたサトシが声をかける。

 

「何か心配事があるんですか?」

「いや、今までこんな風にマオが飛び出していくことなんてなかったから……一体どうしたのかと思って」

「マオ、どんな様子でした?」

「なんだかとても怒ってたような……でも、今日だっていつもより少し忙しいだけだったし、それくらいなら何度か経験したこともあったし。でも、もう嫌って言ってたし……」

「マオ、今日1日、すっごく楽しそうにしてました。きっと、アイナ食堂をもっとたくさんの人に知って欲しいって思ってたと思います。看板メニュー作るんだってずっと頑張ってるマオだから、急に投げ出すようなことなんて、俺には考えられないです」

 

だっていつでもマオは一生懸命、いや、一所懸命だった。自慢の店、アイナ食堂のために家事も、手伝いも、そして料理を考えることも、やって来てた。

 

『あたし、アイナ食堂が大好きなんだ。だから、お父さんが沢山の人達に料理を作ってあげられるように、あたしのできることはなんでもして、支えたいの』

 

父親のために、あんなに楽しそうに、嬉しそうにアイナ食堂の仕事のことを話すマオが、投げ出すことなんて……

 

「あっ」

「?サトシくん?」

 

何かに気づいたようなサトシのつぶやきを、マオの父が拾う。立ち止まった二人を見て、他のみんなも足を止める。

 

「あの、いつもマオがお店の手伝いをしてることって、どう思ってますか?」

「えっ、何だい急に?」

「いや、変な意味じゃなくて……」

「そりゃ勿論感謝してるよ。情けない話、僕は料理以外がからっきしでね。いつもマオに助けてもらってばかりで。本当に、あの子はいい子だよ」

「あの……その気持ち、マオに伝えたことって、ありますか?」

「へ?」

 

キョトンとした表情になるマオの父。

 

「俺、今まで全然身の回りのこととかできなくて。でも、こっちに来てから、少しずつ手伝うようになったんです。大変なこともあったし、難しいこともあったけど、いつも博士が言ってくれる言葉があるんです。それが、『ありがとう』と『よくやった』です。なんか、それがすごく嬉しくて、何度でもやろうって思えて……そういうことをしっかりと伝えることって、やっぱり大切なんだなって」

 

『ありがとう』と『よくやった』。どんな時でも、サトシがそう自分のポケモンに伝えないことはなかった。バトルに勝った時は勿論、負けた時でも、必ず彼はその気持ちを伝えてきた。

 

だからなのかもしれない。彼のポケモン達が、彼のために頑張り続けるのは。

 

「そういえば……ちゃんと伝えてはいなかったかも、しれないなぁ」

「なら、早くマオを探して伝えましょう。きっとマオも、喜びますから」

「うん、そうだね!」

 

気合いを入れ直すマオの父。いざ再び探しに行こう、と思ったその時。

 

「「「何この感じ〜」」」

 

という声が聞こえたかと思うと、一体のキテルグマが小脇に何かを抱えながら森の奥から歩いてくる。そのままサトシ達には目もくれず去っていくキテルグマ。

 

「あ、そうだ!あっちには確か、先生がいた!」

「「「「「先生?」」」」ですか?」

「この森のことならなんでも知ってる人、森の賢者のことだよ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

森の中で気絶した自分を助けてくれたヤレユータン。彼の作るパイルジュースは、自分の父が作るものと、とてもよく似ていた。

 

自分を探しにきてくれたアママイコをロケット団が奪おうとした時に、力を貸してくれたその背中は、まるでこの森の主と言わんばかりの貫禄に満ちている。

 

「すごい……」

「ヤレヤレ。ユー?」

「あれ?」

 

何かの声が聞こえたような気がする。それも複数。なんだかどんどん近づいてきているような……

 

「「「「「どわぁぁぁあっ!?」」」」」

 

大きな音とともに、何かが自分の降りてきた坂を同じように転がり落ちてきたようだ。煙が晴れるとそこには、

 

「いてててっ!マーマネ、降りてくれ」

「わぁっ!カキ、ごめんね」

「サトシ、大丈夫ですか?」

「平気平気、リーリエは?」

「あ、はい。問題ありません。ありがとうございます」

「みんな、ドンマイ」

「あたたた……相変わらずスイレンちゃんは運動神経いいね」

 

「お父さん!みんなまで!」

 

マオに気づくサトシたち。すぐさま立ち上がりマオの元へと駆け寄る。

 

「マオちゃん、大丈夫だった?」

「心配していたんですよ」

「ごめんね」

 

と、マオの父親がヤレユータンへと歩み寄る。

 

「あなたが、私の娘を?」

「ヤレヤレ」

「ありがとうございます、先生」

 

「へっ、先生?」

「それってさっき話してた?」

「あぁ。昔、アイナ食堂を始めたばかりの頃に、このヤレユータンと出会ったんだ。その時にいろんな話を聞いてもらって……その時飲んだパイルジュースがすごく美味しくて、以来うちのメニューに加えさせてもらったんだ」

「そうだったんだ……」

 

だから二人の出してくれるジュースは、あんなにも似ていたのだろう。まさかアイナ食堂の人気メニューのきっかけが、このヤレユータンだったなんて。その偶然に何故だか心が温かくなる。でも、肝心の問題は解決していない。

 

「ヤレ、ユータン」

「……ええ。わかっています」

 

なにやら真剣そうな表情で自分を見る父親から、思わずマオは顔を背けてしまう。本当はもうそんなに怒ってなんていない。お父さんがどれだけアイナ食堂のために頑張っているかを、自分だって知っているから。でも、自分の中の小さな意地が、体を動かしてしまう。

 

「ごめんな、マオ」

「……何が?」

「いつも手伝ってもらってたのに、大事なこと、ちゃんと伝えられてなかったよ……ごめん。いつもいつも、掃除に洗濯、食堂のお手伝い。マオは、本当によくやってくれてるよ。だから、改めて、本当にありがとう」

 

頬を温かいものが伝う。涙が、なんだか止まらなかった。

 

ずっと言って欲しかった。

 

ただそれだけだった。

 

それだけで、こんなに幸せな気持ちになれるなんて。

 

涙で顔がぐしゃぐしゃになってしまったけれども、マオは父親の方を向いた。

 

「あたし、も!ごめんなさい!」

 

父親の腕の中に飛び込み、大きな声でなくマオ。頭を優しい手が撫でてくれて、それがとても落ち着く。

 

親子の仲直りの様子を見て、クラスメイトたちも笑みを交わし合う。カキに至っては泣き出しそうだ。

 

「よかったね、マオちゃん」

「無事に仲直りできましたね」

「家族の愛。素晴らしい!」

「いや、カキが泣くことじゃないでしょ」

 

「お父さん、か。なんか、いいな」

「ヤレヤレ」

 

テレビには映ることができなかったけど、なんだかもっといいものを見ることができた、そんな気がするサトシたち。

 

アローラの冒険は、まだまだ続く。

 

 

…………… To be continued




アシマリのZ技の特訓を見学しようと思って海に向かった俺たち。

そしたら近くに人がいっぱい集まってる。

あれってバルーン?それにみずタイプのZ技まで!?

海の民のトレジャーハンター?どんな宝が待ってるんだろうなぁ。ってスイレンが弟子入りしたいって……よぉし、なら俺も手伝うぜ!

行くぜ、ピカチュウ。
久々に魅せてやろうぜ!


次回、
『スイレンの弟子入り、海の民と沈没船』

みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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スイレンの弟子入り、海の民と沈没船

思ってたよりも長くなっちゃった……

はい、ちゅーわけで、今回スイレンとサトシが頑張っちゃうぜ〜

ああ、あと一つでカントーに繋げられる……


追記
方言って、難しいね


今日も今日とて晴れ模様。メレメレ島には気持ちの良い日差しが降り注いでいる。海岸には四人の影。サトシとガールズが集まっている。

 

「いよいよだな、スイレン」

「頑張ってくださいね」

「ファイト!」

 

海に向かって立つスイレンとアシマリ。キラリと、スイレンのZリングに付いているミズZが輝く。

 

「行くよ、アシマリ!」

「アウッ!」

 

スイレンが腕を交差させ、ポーズをとる。Z技の光を浴び、アシマリが技の発動態勢に入る。

 

「スーパーアクアトルネード!」

「アウゥッ!」

 

Z技のエネルギーを浴びたアシマリが海へと飛び込んで行く。高速で円を描くように泳ぐと、その力によって大きな渦潮が生じ始める。どんどん大きくなる渦潮が、海面からわずかに盛り上がる。

 

「おおっ!」

「これが水のZ技!」

「?ちょっと待ってください。様子が変です!」

 

リーリエの言葉に目を凝らしてみると、渦潮に沿って泳いでいたはずのアシマリが顔を水面に出そうとしている。

 

「アシマリ!」

「まさか、溺れてるの!?」

「ゲッコウガ、アシマリを頼む!」

 

急いでボールを投げるサトシ。飛び出したゲッコウガはすぐさま渦潮の中に飛び込むと、アシマリを両手で抱きながら飛び出してくる。

 

「アシマリ、大丈夫!?」

「ア、アウゥ」

「目が回ってるだけみたいですね」

「良かったぁ」

 

大きな怪我をせずに済んだことに、安堵の表情を浮かべるスイレンたち。一先ずアシマリの気分が落ち着くまで浜辺で休憩することにした。浜辺を歩こうとしているアシマリだが、なんだか足元がおぼつかない。

 

「アシマリ、ずっとフラフラしてる」

「Z技による疲労に加え、目を回して、酔ってしまったようですね」

「初めてだもん。そういうこともあるよ」

「うん……」

 

練習しようにも、使いこなせるようになるまで毎回アシマリが目を回してしまうのでは難しい。今回はゲッコウガが助けてくれたけど、本番でもそうとは限らないのだ。なんとか練習方法を見つけないといけないが……

 

「ひょっとしたら、バトル慣れしてないから、技のイメージとかが掴みにくいのかもな」

「バトル慣れ?」

「でも、アシマリならコツさえ掴めばすぐに出来るようになるさ。特大バルーンのときだって、そうだっただろ?」

「サトシ……うん!」

 

早速バトルのイメージを掴むため、特訓を始めようとするサトシたち。と、浜辺の奥の方にたくさん人が集まっているのが見える。

 

「何だろう?」

「行ってみましょう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

人集りに近づくサトシたち。円のように並んでいる人の間から顔を覗かせると、中央に青いドレスを着て、楽器を手に持つ女性と、アシマリとよく似たポケモンが立っている。

 

「わぁ、オシャマリだ!」

「オシャマリ?」

『オシャマリ、アイドルポケモン。アシマリの進化形。色とりどりのバルーンを作り出すことができ、月夜には踊っている姿も確認されているロト』

 

人々が見つめる中、オシャマリが次々にバルーンを作り出していく。赤、青、黄色にピンク。多種多様な色のバルーンに、観客も大喜びだ。女性の奏でる音楽に合わせて、オシャマリがバルーンを作り出しながら踊る。スイレンとアシマリも、目をキラキラさせながら見ている。

 

 

「それでは皆さま、最後の演目と参りましょう。ダーリン、準備はよかとね?」

 

女性が海に向かって手を振ると、サーフボードに捕まっている男が海の方から手を振り返している。

 

「バッチリばい、イア!」

「あちらにいるのはダーリン、カノア!これより、アローラの神々の力ば借りて、二人の愛を証明しちゃりますけん!」

 

イアと呼ばれた女性が楽器を放し、腕を交差させる。腕についているのは白いリング。その中央には水色のクリスタルが。

 

「これってまさか、」

「Z技!?」

 

「行くばい、オシャマリ!愛と勇気の、スーパーアクアトルネード!」

 

Z技のエネルギーを纏ったオシャマリが、海の中へと飛び込んでいく。少しすると、カノアの周りに大きな渦潮が生じる。人々が見守る中、渦潮がカノアを飲み込み、

 

勢いよく巨大な水の柱となって、ボードごと高く持ち上げる。そのてっぺんにボードで乗るカノア。見事なバランスで渦潮の上にとどまっている。

 

「スッゲェ!」

「こんなZ技の使い方があったんだ……」

「あんな風に人を乗せることができるなんて、」

『Z技のコントロールが、とても上手ロト!』

 

クラスメイトが驚きの声を上げる中、スイレンは開いた口が塞がらない様子で、食い入るように水の柱を見ている。

 

ボードの上にオシャマリが乗り、最後に大量のバルーンをばらまく。観客の拍手であたりは包まれた。

 

あちこちから感激の声が上がる。サトシたちも拍手で今のパフォーマンスへの感想を込める。ただ一人、スイレンはずっとオシャマリを見ている。と、

 

「あれ、スイレン?」

 

スイレンが一直線に、人集りの中央で挨拶しているイアの元へと向かい、その手を取った。深呼吸してイアの目を見つめるスイレン。

 

「えっ?何?」

「あの……弟子入り、頼もー!」

 

 

 

「「「弟子入り!?」」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ひとまず場所を移したサトシたち。スイレンがキラキラした目でイアを見つめている。

 

「あの、私たち、二人のように息ぴったりのZ技、うちたいんです!教えてください!」

「えっと、そげなこと言われても……」

「ええやんか。教えちゃり。しばらくはここに滞在するからに」

「カノア……そうね。なら、教えちゃるよ」

「ありがとうございます!私、スイレンです。こっちはパートナーのアシマリ!よろしくお願いします!」

「俺、サトシです。こっちは相棒のピカチュウ」

「マオです。こっちの子はアママイコ」

「リーリエです。この子はシロンと言います」

 

自己紹介するサトシたち。中でも勢いよく頭を下げるスイレンに、イアが優しそうな笑顔を向ける。足元では、オシャマリとアシマリがお互いの鼻を擦り付け合い、挨拶をしている。

 

「私たちはね、世界中の海を旅する、海の民なんよ」

「海の民?」

 

思わず反応するサトシ。その名前に、なんだか聞き覚えがあるような気がしたのだ。

 

「君、海の民のことば知っとるん?」

「あ、いえ。その、もしかして水の民と何か関係があるのかなぁって」

「水の民のこと、知っとるん!?」

「私たち海の民は、水の民から離れた、言うなれば親戚みたいなもんなんよ」

「そうだったんですか」

「サトシ、水の民って?」

 

疑問符を浮かべるスイレンたち。どこまで説明したものか悩むサトシだったが、かつての旅仲間とその子については

 

「昔、旅の途中に出会ったことがあるんだよ。水のポケモンたちと深くつながっている人たちで、海底神殿にある海の王冠っていう宝とともに、水のポケモンたちと触れ合っていたんだ」

「ほんとによく知っとるんね。私ら海の民は、基本はあちこちの土地でものを仕入れる行商をしとるんよ」

「ばってん俺たちは違う。俺はトレジャーハンターたい」

「トレジャーハンター?」

「まだ見ぬ海のお宝探して、あっちこっち巡っとるんよ」

「まぁ、まだ夢の途中やけん。こうしてうちとオシャマリが生活を支えとるんよ」

 

微妙な表情のマオとリーリエ。トレジャーハンターという夢を追いかけているのは別にいい。夢に向かって一生懸命なのは、決して悪いことではないし、誰かに通じるところもある。が、恋人に生活のほとんどを支えてもらうのは、世間的にどうなのだろうか。なんだか恋愛や結婚に対して、微妙な不安が出来てくる。

 

「今回は何を探しに来たんですか?」

「よくぞ聞いてくれた!実は手に入れた文献によると、昔メレメレ島で嵐におうた船がおったらしいんよ。で、その船の積荷も、一緒に沈んでしまったばい。俺はその船にあった宝物を探しに来よっとね」

 

懐から取り出した古い文献を手に、自信満々なカノア。それを呆れているような、でもとても優しい表情でイアが見つめる。

 

「まぁ、そんなわけで。カノアが宝探す間、うちとオシャマリとで稼がんとね。でも、少しくらいなら特訓、手伝ってもよかよ」

「あ、ありがとうございます!」

 

再び勢いよく頭を下げるスイレン。と、ここでサトシが手をあげる。

 

「あの、だったら俺、手伝います。稼ぐの」

 

「えっ?」

「「「ええぇぇぇぇっ!?」」」

 

「手伝うって……気持ちは嬉しいけど、なかなか大変なんよ。バトルとは勝手が違うとよ」

「そうだよサトシ。さっきのパフォーマンスとか凄かったじゃん。簡単にできることじゃないよ」

 

女性陣の反応を受け、サトシとピカチュウが顔を見合わせる。

 

「大丈夫ですよ。明日、見ててください」

 

ニッと笑うサトシとピカチュウに、カノアとイアが不思議そうに首をかしげる。取り敢えず明日の午後のパフォーマンスの時にゲスト出演することだけ決めて置くことにしたのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そんじゃ、トレーニング始めるとよ」

「はい!よろしくお願いします!」

「アウッ!」

 

場所を変え、スイレンお気に入りのトレーニングスポット。シャキッと姿勢を正したスイレンとアシマリがイアに返事をする。カノアは船の情報を探しに出ており、少し離れた場所からサトシたちが見守っている。

 

「状況を聞いた限りやと、アシマリんパワー不足ね。Z技を使いこなすには、強い絆もやけど、ポケモンの方にもそれなりの力が必要になるんよ」

「そうなんですか?」

 

今までカキやサトシのポケモンたちが、あまりにも当たり前のように使っていたから知らなかった。よく考えたら、カキもサトシもポケモンたちとよく特訓している。そういった小さなことの積み重ねが、Z技の使用に繋がっているのだろう。

 

「取り敢えずパワーを上げること、そこからやね。オシャマリ」

「シャマ!」

 

オシャマリがバルーンを一つ作り出すと、イアがそれを手に取る。

 

「このオシャマリの丈夫なバルーン、アシマリのバルーンで割ってみ」

「はい!アシマリ、バルーン!」

 

いつもの様にできるだけ丈夫にバルーンを作るアシマリ。出来上がったバルーンをオシャマリのバルーンに向けて発射する。二つのバルーンが接触すると、アシマリのバルーンだけがあっさり割れてしまう。オシャマリのバルーンは、形を保ったまま浮かんでいる。

 

離れた場所から見ていたサトシたちも驚かされる。

 

「割れない!?」

「アシマリのバルーンも、ポケモンを入れても壊れないくらい丈夫なもの。でも、そのバルーンよりもずっと硬いみたいです」

「すごいな、オシャマリのバルーン」

 

「このバルーンが割れるようになれば、Z技に必要なパワーも十分身につくんよ」

「ほんとですか?」

「もちろん。ほら、休まんともう一回」

「はい!」

 

 

 

既に空が赤く染まりつつある中、スイレンとアシマリの特訓はまだ続いていた。しかし流石にアシマリの体力が限界のようで、疲れ果てている。

 

「今日はここまで。ゆっくり休まんと、明日の特訓について来れんよ」

「はい、わかりました」

「焦らんくてええんよ。うちとオシャマリも、最初はZ技使えんかったんよ。でも、カノアが近くで応援してくれて、何とか頑張ってこれた。Z技はよかよ。優しい海、激しい海。どんな海でも力になってくれる。スイレンも、いつか旅に出た時にわかる」

「どんな海でも……」

 

丁度その時、カノアが帰ってくる。残念ながら大きな収穫はなかったらしい。明日また会うのを楽しみにしながら、スイレンたちは帰るのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、スクールが終わってすぐ、スイレンたちはイアがパフォーマンスしている場所に向かった。丁度パフォーマンスの準備をしているところらしい。昨日よりもさらに広い場所を選んだのは、サトシのリクエストだ。

 

「イアさん!」

「お、来たねスイレン。それにサトシも」

「今日はよろしくお願いします」

「サトシがどんなパフォーマンスするのか、楽しみにしとったんよ。それじゃ、始めるとよ!」

 

楽器を鳴らし人々の注目を集めるイア。すかさずオシャマリがバルーンを幾つか作り出し、アピールをする。子供達は既に虜になっている。

 

「今日は特別ゲストを呼んどりますばい。早速来てもらいますけん。遠くマサラタウンから、サトシとピカチュウ!」

 

 

「ピカチュウ、君に決めた!」

 

決め台詞とともに前に飛び出るサトシ。その方から飛び出す小さな影。ピカチュウが高くジャンプし、観客の真ん中に降り立つ。

 

「わぁっ、ピカチュウだ!」

「本物かわいい!」

「あれっサトシくんじゃない?」

「あぁ、何度かテレビに出てた」

 

アローラで人気ポケモンのピカチュウの登場に、子供達はさらに興奮気味だ。大人たちもサトシに気づき、興味深そうに近寄ってくる。

 

「ピカチュウ、エレキボールを打ち上げろ!」

「ピカッ!」

 

大きく体を捻るようにし、勢いをつけたエレキボールを上空高くに打ち上げるピカチュウ。

 

「バルーンを使って飛びあがれ!」

 

先程オシャマリが作り出した色とりどりのバルーンを足場がわりに、ピカチュウがどんどん高く登って行く。その素早い動きと、縦横無尽に空中を駆け上る姿は、子供だけではなく、大人までもを惹き込む。ピカチュウが先ほどのエレキボールの上を取る。

 

「アイアンテール!」

「チュー、ピッカァ!」

 

ピカチュウが、力一杯尻尾を振り下ろす。エレキボールを切り裂くと、凝縮されていた電気エネルギーが拡散し、黄色い火花が空で弾ける。

 

観客はもちろんのこと、スイレンやイアまでもが驚いている。

 

「わぁ、綺麗!」

「ポケモンの技に、こんな使い方があるなんて」

「は〜、これは予想外やね」

 

「ピカチュウ、大技行くぞ!」

「ピカッ!」

「連続でエレキボール!」

「ピカピカピカ、チュピィ!チュピィ!」

 

一つ、また一つと空にエレキボールが打ち上げられる。互いに反応しあい、バチバチと電気が空に走る。

 

「一箇所に集めるぞ。ピカチュウ!久々の、カウンターシールド!」

 

「カウンターシールド?」

「そんな技あったっけ?」

「私の知る限りでは、そんな名前の技は存在しないと思うのですが……」

 

まるでブレイクダンスを踊るかのように、地面に背をつけ、ピカチュウが回り出す。そのまま弱めの電撃を放出すると、ピカチュウをドーム状に囲むように、電気が広がっていく。それは落下して来ていたエレキボールに当たり、弾け……ない!

 

「浮いてる!?」

 

弱めの電撃に触れたエレキボールは、弾けることなく、まるでアシマリたちが作るバルーンのように浮いている。電撃に導かれるようにエレキボールが一箇所に集められていく。

 

「ピカチュウ、アイアンテールで打ち上げろ!」

 

電撃を止め、大地を蹴るピカチュウ。今度は尻尾の平面部分を使い、テニスのように集まって来ていたエレキボールを次々に打ち上げていく。一直線、それも等間隔に並ぶエレキボールは、さながら惑星が一直線に並んだ状態のようにも見える。

 

「行くぜ、全力!」

 

サトシが腕を交差させる。Z技のエネルギーが溢れ、ピカチュウを包んでいく。

 

「スパーキングギガボルト!」

 

発射された電撃の槍は、一番下のエレキボールを貫く。そのままの勢いで次々に他のエレキボールを貫きながら、上空高く飛んでいく。そしてかなりの高さに届いた時、エレキボールが一斉に弾け飛んだ。

 

Z技の威力までもが加わり、まるで真昼の空に大きな花火が打ち上げられたかのようにも見える。まるで光の粒子のようにエレキボールの破裂した余剰エネルギーが空を舞っている。やがてそれらも消え、まるで何事もなかったかのような青空が、広がっている。

 

「ありがとうございました」

「ピカピカーチュ」

 

お辞儀をするサトシとピカチュウ。呆気にとられていた観客を気にせず、サトシはイアたちの元へと向かう。一番最初に始めたのは誰だったのか。直後、割れるような歓声が辺りに響き渡った。

 

 

「サトシ、凄かったよ!」

「ピカチュウ、かっこよかった!」

「バトル以外にも、こんな風に技を使うことができるなんて。わたくし、勉強になりました。特にカウンターシールド。あれはどういったものなのですか?」

 

「サトシ、ほんまにおったまげたね。こういうことしたことあった?」

「旅仲間がポケモンコンテストとか、ポケモンパフォーマンスとかをやってて!俺もやってみたことがあったんです」

「そやったんか。サトシ、改めてうちのお手伝いの話、うちからお願いしたいんよ。引き受けてくれる?」

「もちろんです」

 

こうして、イアがスイレンとトレーニングしている間、サトシはピカチュウやゲッコウガたちとパフォーマンスを披露することになったのだった。

 

 

なお、この一件のおかげで、サトシがさらにメレメレ島にて注目を浴びるようになるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

そして、数日が経ち……

 

 

パァン

 

気持ちのいい破裂音とともに、二つのバルーンが割れた。イアとオシャマリが満足そうに頷いている側で、スイレンとアシマリがハイタッチをする。

 

「やったね、アシマリ!」

「アウアウッ」

「これでもう、パワー不足の心配はないとよ。あとはZ技を実際に使ってみること。よかね?」

「はいっ!ありがとうございました!」

 

成功を喜ぶスイレンたちを、少し離れた場所からサトシたちが見ている。顔を見合わせ喜ぶサトシたち。サトシはパフォーマンスで、マオとリーリエはお弁当や健康管理など、それぞれにできるやり方でスイレンとアシマリを支えてきたため、自分たちのことのように嬉しかったのだ。

 

 

 

「おーい、イア!有力情報!沖んほうで、それらしき沈没船ば見たっちゅー人がおったぞ!」

 

手を振りながら近づく人影。宝の船を探していたカノアが帰ってきたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

海の上を泳ぐハガネール……の姿をしたボート。カノアが運転するそれには、イア、サトシ、マオ、リーリエ、そしてポケモンたちが乗っている。

 

「こん辺りに、船ば沈んどる。まずは俺が軽く下見に行くけん、しばし待っとっとくれ」

「え?でも、どうやって海の中に行くんですか?」

「そこはオシャマリん力ば借りるんよ。ほんじゃ、オシャマリ」

「シャマ!」

 

オシャマリが特大のバルーンを作り出す。すっぽりとかノアを包んだバルーンは、水に落ちても割れる様子はない。

 

「じゃ、行ってくるばい」

 

オシャマリが鼻でバルーンを押すようにしながら潜って行く。その様子を見て、スイレンがまた目をキラキラさせている。

 

「スイレン?どないしたん?」

「一緒に潜れるの、すごくいいです!」

「スイレンの夢だもんな。アシマリのバルーンで海のポケモンと触れ合うの」

「へぇ〜。それならZ技、使いこなせるパワーあれば大丈夫じゃけん。今度一緒に潜ってみる?」

「是非!」

 

 

 

暫くしてカノアが戻ってくる。しかし表情は真剣そうだ。

 

カノアによると、船自体は見つかったものの、そこには既に先客が居たのだ。もくずポケモン、ダダリン。怒らせると、ホエルコをも即座にKOすることができる、海のポケモンの中でもかなり危険な相手。なるべく刺激しないようにしなければならないのだが……

 

突然の衝撃が船を揺らす。驚くサトシたちの目の前に、ダダリンの巨体が現れる。なにやら怒り心頭のダダリンは、船に容赦無く攻撃を仕掛けようとする。

 

「オシャマリ、アクアジェット!」

 

すぐさま行動開始するイアとオシャマリ。ダダリンの注意を船から逸らそうと、オシャマリが泳ぎまわりながら攻撃を仕掛ける。が、圧倒的な体格差に、タイプの相性もあり、オシャマリは船に叩きつけられてしまう。

 

更なるピンチがサトシたちを襲う。

 

「これ、うずしお?」

「強力な技ばい!船ん力じゃ、抜け出せん!」

 

今にも船を沈めんとする巨大な渦に、マオとリーリエは不安そうな表情をしている。何か対策はないかと考えているサトシやイア。と、スイレンが声をあげる。

 

「あっ!」

「どうした、スイレン?」

「師匠!Z技!逆方向に同じくらいの渦を作れば、」

「そっか!それなら打ち消せる!」

「……やけど、今オシャマリは」

 

目を回してしまっているオシャマリ。先ほどのダダリンからのダメージは、かなりのものだったようだ。

 

「やります!私たちで!」

「アウッ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

船のデッキに立つスイレンとアシマリ。二人の意気込みを見て、イアも頷くしかなかった。まっすぐ渦を見つめ、二人が深呼吸をする。

 

後ろで見守るイアとサトシ。いざという時にゲッコウガも動けるように待機している。呼吸を整え、息を合わせるスイレンとアシマリ。

 

「行くよ、アシマリ!」

「アウッ!」

 

スイレンが腕を交差させると、Z技のエネルギーが溢れ出す。アシマリが包み込まれ、体に力を込める。

 

「届け、水平線の彼方まで!スーパーアクアトルネード!」

 

アシマリが勢いよく海に飛び込み、円を描くように、高速で泳ぐ。徐々に形成されて行く大きな渦は、ダダリンがあの巨体で作り出したそれと、ほぼ同じ大きさにも達している。二つの水流が激突する。

 

大きな衝撃に大きな波が発生し、船を揺らす。それでも彼らが渦に飲み込まれていないのは、アシマリの作り出した渦が、同等の力で相殺しているから。アシマリが更に気合いを込めるようにスピードを上げる。ついにアシマリの渦がダダリンのそれを打ち破り、ダダリン本人をも弾き飛ばした。渦が収まり、波も落ち着いてきている。海面が静かになった時に、アシマリが海から飛び出し、スイレンの腕の中に飛び込んだ。

 

「やったね、アシマリ!」

「アウアウッ!」

 

成功の喜びを分かち合う二人を、みんなは優しく見守っていた。手を取り合うマオとリーリエ。ガッツポーズをするサトシ。一度微笑み合うカノアとイア。みんなの視線を受け、スイレンが振り向き、とびっきりの笑顔で答えた。

 

 

 

その後、改めて沈没船に向かったカノア。ダダリンの渦潮で流されていないか心配だったが、無事に発見された。そして暫くすると、カノアが小さな宝箱を手にして船に戻って来た。既に日が沈み始めていて、空は赤く染まりつつある。みんなが緊張の面差しで宝箱を見つめる。

 

「さぁ、ご対面ばい」

 

宝箱を開くと、そこには雫の形をした透明な鉱石。中にはZクリスタルのそれとよく似た、水色の液体が入っている。みずタイプの技の威力をあげることもできるお宝、神秘の雫が、そこに入っていた。それを手に取るカノア。取り付けられているチェーンを持ち、イアの首に優しく巻いてあげる。

 

「えっ、カノア?」

「これ、元々イアに上げるためん探しとったんよ。いつもいつも、俺んこと支えててくれるイアに、感謝の気持ちばい。愛しとうよ、イア」

「……もう、カノアったら」

 

口では文句のようにも聞こえる言葉が出ているが、イアの顔は、とても幸せそうだった。夕日の光を受け、神秘の雫が煌めいている。映画のワンシーンのような光景に、ガールズの目もキラキラしている。

 

「なんかいいなぁ、こういうの」

「うん。素敵」

「こういうの、憧れちゃいますね」

 

「感謝の贈り物、か……」

 

一方サトシは海の方を見てポツリと何か呟いた。

 

感謝の気持ちに、青い贈り物。そして幸せそうに笑うイア。彼が思い出しているのは、とある町での感謝祭のこと。青いリボンを身につけてくれた少女のこと。

 

「……今、どうしてるかな」

 

 

その後、まさかその女の子と再会することになるとは、この時のサトシは想像もしていなかったのだが……それはまた別の話である。

 

 

海の民であるカノアとイアは、これからも旅を続ける。翌日、改めてお礼を言いに来たスイレンたちは、別れの挨拶もすることになったのだった。

 

「ばってん、海はどこかで必ず繋がってるばい。旅を続けとったら、また合うこともある」

「そん時は、またよろしく頼むね」

「はい!」

 

ハガネールの形をした船が動き出す。手を振ってくれているイアとオシャマリ向かって、スイレンは精一杯のありがとうを込めて、手を振り返した。

 

「またいつか、師匠!」

 

Z技を使いこなせるようになったスイレン。海に馳せる大きな夢も、きっと叶うことだろう。海の向こうの世界に興味を持った彼女は、将来どうするのか。それはまだ誰もわからない。

 

それでも、メレメレ島での刺激溢れる生活は、まだまだ続く。

 

 

…………… To be continued

 




マーマネの誘いで参加することになったデンヂムシレース。

本番に向けて、三人で特訓だ!

参加するライバル達に、赤い姿のデンヂムシ。

誰がこのレースを制するのか。

次回、
『爆走!独走!激走!暴走?デンヂムシレース!』
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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爆走!独走!激走!暴走?デンヂムシレース!

早くカントーに繋げたくて、頑張っちゃった
そしたら前回の約半分の量になってしまった……
いや、前回が長すぎたんだ

というわけで、レース回ですが……無理です。あれの描写無理!

なので肝心のレース部分が短くて、他に色々と付け足してます


ポケモンスクールの昼休み。校庭では、何やら不思議な光景が。

 

「ほら、マーマネ。走れ走れ!」

「も、もう無理……はぁっはぁっ」

「手を引いてやるから、もう少し頑張れ」

「ヂヂ」

『みんなファイトロトー!』

 

サトシ達ボーイズが校庭を走っている。その側には車のようなものに乗り込んだデンヂムシが並走している。明らかに疲れ果てているマーマネを除き、みんな何やらやる気満々モードで、心なしか背景に炎が見えるような気がしてくる。

 

 

何故こんな状況になったのかというと、ことは数日前にさかのぼる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「「デンヂムシレース?」」

 

朝の教室でサトシとカキの声がハモる。二人はマーマネの発明品のプロジェクションを覗き込んでいる。そこには専用の車に乗ったデンヂムシ達が激しいレースを繰り広げている。

 

「そう。毎年公式の大会が開かれるんだ。僕もデンヂムシをゲットしたら、絶対参加したいと思ってたんだ。でも、出場するには三人一組のチームを組まないといけないんだ。カキ、サトシ。僕と一緒にデンヂムシレースに出てくれない?」

 

やけにやる気満々なマーマネの様子に、サトシとカキが視線を交わす。言葉はなくても、二人とも同じことを考えていた。

 

「もちろんだぜ、マーマネ」

「ただし!やるからには優勝を狙っていくぞ」

「うん!」

 

盛り上がる、もとい気持ちが燃え上がる男子三人を少し離れた場所からガールズが見ている。

 

「なんかいいよね、男子のああいうノリ」

「三人とも、とても楽しそうです」

「でも、ちょっと暑苦しい、かも」

「「確かに……」」

 

三人のやる気が外に漏れ出ているのか、やたらと教室が暑く感じる。我慢の限界を迎えたシロンによって氷漬けにされるまで、三人のやる気は燃え上がり続けるのだった。

 

 

そうして、サトシ達の特訓が始まった。

 

まず役割分担。司令塔のディレクターにマーマネ、メカニック担当を日頃から牧場でも細かい作業を行うカキが引き受け、サトシはレースの時にデンヂムシと一緒に走るサポートランナーをサトシが引き受けることとなった。それぞれの得意な分野で支え合う、まさにピッタリのチームが出来上がった。

 

さて、いざ試運転を始めたのはいいものの、マーマネのデンヂムシはおっとりな性格のため、最初の頃はスピードが出なかった。それを見たサトシ、みんなで走ろうと提案し、以来ここ数日はトレーニングの一環として続けるようになったのだった。

 

 

「ふぅ〜。いよいよ明日だな、本番」

「これだけ準備したんだ。優勝できるに決まってるさ」

「うん。二人とも、ありがとね」

「おいおい。まだ早いんじゃないか?」

「そうだよ。明日、絶対に優勝しようぜ」

「うん!」

 

ガッチリと手を重ね合う三人。おっとりなデンヂムシもやる気に燃えている。本番に向けてしっかりと休憩を取るため、サトシ達は早めに特訓を切り上げ、帰ることにした。

 

 

 

夜、ククイ博士の家。サトシとリーリエがソファに座りながら話をしている。

 

「いよいよ明日ですね、デンヂムシレース」

「あぁ!絶対に優勝してやるぜ!」

「明日、わたくしもマオとスイレンと一緒に応援に行きますね」

「サンキュー。ん〜、燃えてきた!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝、メレメレ島でも最大のアリーナには、大勢の人が集まっていた。まるでポケモンリーグのような賑わいだ、なんてサトシは思う。しかし今日の目玉はリーグ戦ではない。

 

『まもなく、デンヂムシレースが始まります!エントリー登録を済ませていない方は、速やかに受付までお越しください』

 

そう。これだけの人がデンヂムシレースのために集まっているのだ。参加者としてはもちろん、観客としてきた人も大勢いる。既に受付を済ませ、サトシ達三人は辺りの様子を見ている。

 

「あれが出場者達か……」

 

カキの視線の先にはいくつものチームが既に並んでいる。何度も出場経験があるのだろう、ベテランの雰囲気を感じさせるチームも数チームいる。なかなか強そうなライバル達に、根っからの挑戦好きなサトシの胸が知らず識らずのうちに踊る。

 

 

 

「おーい、サトシ、カキ、マーマネ!」

 

アリーナの入り口から聞こえる声に、サトシ達が振り向くと、マオ、スイレン、リーリエの三人がちょうど来たところらしい。手を振りながら近づいてくるマオたちに、サトシ達も手を振り返す。

 

「応援に来たよ。三人とも、頑張ってね」

「当然、狙うは優勝だ!」

「うんうん。ファイト、ファイト」

「このために特訓して来たんだ。きっと優勝できるさ」

 

「残念だけど、それは無理だね」

 

急に声をかけられ、マーマネ達が振り向くと、いかにもおぼっちゃまという出で立ち、具体的にいうと某国民的アニメのマザコン坊やが成長した感じの少年と、その取り巻きらしき三人組が近づいてくる。

 

「そんな平凡なデンヂムシで優勝だなんて、ちゃんちゃらおかしいね」

「兄貴のデンヂムシの前じゃ、歯が立たないっすから」

「そうなんだな」

 

 

「優勝最有力候補の登場か……」

「チーム赤い流星。今年も出場するのか……」

 

あちこちからひそひそ声が聞こえてくる。他のチームの視線は、現れたお坊ちゃんのチームに釘付けになっている。

 

「なるほどな、お前達が最有力候補ってわけか」

「ふっ、候補?違うね。僕が優勝するのは、決められたことなんだよ!」

 

仰々しい動きとともに、取り巻きの持っていた布を取り払う。その布の下から現れたのは、真っ赤なボディのデンヂムシカー、そして乗っているのも赤い身体のデンヂムシ。

 

「僕のパパが手を尽くして探し出した、最高のデンヂムシさ。臆病逃げ足、最速の僕のデンヂムシに、平凡なデンヂムシが勝てるはずないじゃないか」

 

勝ち誇るように笑うお坊ちゃん。しかし、他のチームはその言葉を裏付けるだけの実績もあるため、反論できずにいる。実際彼らは、前回のレースでは圧倒的だったのだから。

 

「やって見ないとわからないじゃないか!」

 

お坊ちゃんの笑いが止まる。彼のことをしっかりと見ているのは、マーマネだった。

 

「君のデンヂムシがどんなにすごいかなんて、僕は知らない。確かに特別かもしれない。でもだからと言って、僕のデンヂムシが勝てない理由にはならないよ!」

「……チッ。口だけは達者だな。いいだろう、レースで決着つけてやるよ」

「後で吠え面かいても知らないっすから」

 

遠ざかるチーム赤い流星。改めて気合いを入れ直すマーマネとデンヂムシ。ポンとマーマネの肩に何かが乗せられる。サトシの手だ。

 

「かっこよかったぜ、マーマネ」

「ああ。お前のいう通りだ。このレースで、あいつらに見せてやろうぜ。お前のデンヂムシの力を」

「うん。あんなのには、絶対負けられないもんね」

 

「じゃあ、あたし達は客席から見てるね」

「頑張って」

「応援してますから」

 

「おう」「うん」「ああ」

 

手を振って別れるサトシたち。改めて気を引き締めるマーマネ。

 

今、アリーナへの選手入場口の扉が開いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『さぁいよいよ始まります!全国のデンヂムシファンの皆様にお届け、第25回コケコカップの開催です!』

 

デンヂムシレースのルールはいたってシンプル。途中にある障害物や特殊なコースを切り抜けながら、一周するだけ。ポケモンの技による妨害は厳禁。タイヤ交換はピットでのみ可能。

 

今回の障害物は、ガントルの岩のフィールド、スナバァの砂漠のフィールド、そしてポワルンの街のフィールド。どんな障害があるのかわからないが、サトシはむしろワクワクしていた。

 

「僕は司令塔に行くよ」

「俺はピットで待ってるぞ、サトシ」

「任せとけ!頑張ろうな、デンヂムシ」

「ヂヂ!」

 

やる気まんまんなデンヂムシとともにスタートラインに並ぶサトシ。間も無くレース開始の時間だ。

 

『それでは、位置について!』

 

スタートランプが点滅する。赤、赤、赤……青!

 

『さぁ、各チーム一斉にスタートだ!』

 

頭一つ飛び出したのはやはりチーム赤い流星。その後を追うように、他のチームが追いかける。その中にはサトシたちの姿も。

 

『おっと!なんとここでアクシデント発生!デンヂムシカーが次々と衝突していく!』

 

20近くあった参戦チームも、なんと序盤の方で一気にリタイアが出てくる。運良く切り抜けられたのはトップの赤い流星とサトシたちを含め、半分も残っていない。

 

観客席の方では、マオたちがほっと胸をなでおろす。

 

「よかったぁ〜。いきなりリタイアにならなくて」

「おっとりな性格だったのが幸いでしたね。他の皆様は気の毒ですが……」

「真剣勝負。仕方ないよ」

「そうだね。サトシたち、優勝できるといいね」

「うん」

「はい」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

マーマネの作戦にカキによるサポート。それらを存分に活かしながら、サトシとデンヂムシは次々と障害物を乗り越えていく。そして最終フィールドでは、遂に2位まで登りつめたのだった。

 

トップを走るのは赤い流星。先ほどの砂漠のフィールドで大幅に体力を消耗しているが、それでも気力でなんとか持ちこたえている。

 

サトシたちとほぼ横並びに競うのはチームエレキプリンセス。今大会唯一の全員女子のチームだが、他のチームに全く譲らずにここまで残っている。

 

 

最後の障害となるのは天候を操るポワルン。と、その姿が変わっていく。あられを降らせ、コースを凍らせていくポワルン。タイヤの交換はピットでなければできないため、選手たちもデンヂムシカーも細心の注意を払って走り抜けようとしている。

 

ところが……

 

「っ、危ない!」

『これは!?エレキプリンセスのデンヂムシカー、コントロールを失ってしまったようだ!』

 

突然のスリップに対応できず、エレキプリンセスのデンヂムシカーがコースをずれてしまう。コースを仕切る壁に向かってそのまま突っ込もうとしてしまうデンヂムシカー。エレキプリンセスのサポートランナーは追いつけず、どうすることもできずにいる。スタート付近とは比べ物にならないスピードでのクラッシュ。誰もがデンヂムシの大怪我を予想した。

 

「がっ!」

「「サトシ!?」」

 

『な、なんと!?エレキプリンセスのデンヂムシカーを救ったのは、マーマネラボのサポートランナー、サトシ選手だ!』

 

間一髪、素早く体を壁とデンヂムシカーの間に滑り込ませ、体全体でその衝撃を受け止めたサトシ。そのおかげで、車体の方はダメージを負ったが、デンヂムシには大きな怪我はなさそうだ。しかしサトシがその場にかがみ込んだまま動かない。

 

慌てて駆け寄るマーマネラボとエレキプリンセスのメンバーたち。観客席の方では、マオたちも心配そうにしている。

 

「サトシっ、大丈夫か?」

「ってて。ああ、大丈夫大丈夫。デンヂムシ、お前はどうだ?」

「ヂヂ!」

 

一瞬顔をしかめながらもなんでもないと首を振るサトシ。痛がるどころか、腕の中にいるデンヂムシの方を気にかけている。

 

「ごめんなさい、私たちのデンヂムシのために……」

「いいって。怪我したら大変だもんな」

「それ、かなりブーメランだぞ」

「えっ?」

 

「サトシ!カキ!」

 

コースの方から声がする。いつの間に司令塔から降りてきたのか、マーマネがお腹で氷を滑りながら近づいてくる……いや、ペン◯ンかよというツッコミはともかく、サトシはカキに肩を貸してもらいながら立ち上がる。

 

「マーマネ、っ!」

「サトシは無理しないで!ここからは、僕が行くから。二人はゴールで待ってて!」

「わかった。頼むぞ、マーマネ」

「ってて。待ってるぜ」

 

笑顔でマーマネに親指を立てるサトシ。二人を見送ってからマーマネは思考を巡らす。今現在トップの赤い流星チームは、最後の坂道を登れずにいる。氷で滑って動けないのだ。仮に追いついたとしても、自分たちも同じことになるだろう。何か考えなければ。

 

(考えろ、考えるんだマーマネ!)

 

(こういう時、サトシならどうする?)

 

(バトルの時、ポケモンの特徴を活かした行動をとることが多い。それはきっとこのレースにだって活かせる!)

 

(考えろ。滑らなくなる方法……タイヤに滑り止めのような機能があれば……あっ)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

赤い流星チームのリーダーはイラついていた。

 

トップにいるとはいえ、全く進むことができないのだ。今のタイヤでは、この凍った坂を登れない。かといってタイヤ交換もルール上できない。

 

「くそっ。さっさと登れって!」

 

デンヂムシも頑張ろうとしているが、完全に体力を使い果してしまっていて、登るだけの力が出せずにいる。

 

と、地団駄を踏んでいる彼らの横を何かが通り過ぎて坂を登っていく。信じられないものを見るように、赤い流星のメンバーの目が見開かれる。

 

 

坂を駆け上って行くのは、なんとマーマネとそのデンヂムシだった。タイヤ交換ができないこの状況で一体何をしたのか。

 

「な、どうなってやがる!?なんでこの坂を!?」

 

「ふっふっふ。これもチームメイトのおかげさ!」

 

そういうマーマネの靴と、デンヂムシカーのタイヤには、白い絹のようなものが巻き付けられている。

 

『これは驚き!チームマーマネラボ、デンヂムシの糸をうまく使い、氷のフィールドを駆け抜けている!』

 

マーマネが考え付いたのは、デンヂムシの吐く糸のことだった。粘着性抜群のそれを、滑り止めの代わりとして、タイヤや靴に付けることで、氷のフィールドでも滑らないようにしたのだ。

 

慌てて同様の指示をデンヂムシに出すお坊ちゃん。しかし既に疲れ果てているデンヂムシにはそんな気力も残されていない。

 

ゴールに向かって一直線に走るマーマネとデンヂムシ。今、ゴールラインを、二人がこえた。

 

『決まったぁぁぁ!優勝は、チームマーマネラボ!』

 

「いやったぁ〜!」

「ヂヂ!」

 

デンヂムシを抱き上げ、飛び跳ねるように喜ぶマーマネ。サトシとカキが拳を合わせ、客席ではマオたちが喜び合っている。

 

「やったな、マーマネ」

「うん。カキとサトシのおかげだよ」

「いや。今日のMVPは間違いなくお前だろ」

「かっこよかったぜ、マーマネ」

 

胸になんだか熱いものがこみ上げてくるのを、マーマネは感じた。密かに、マーマネは二人に憧れていたのだ。バトルの時やスポーツの時に、この二人はいつも驚きの活躍をしていた。そんな二人のことが、どこか羨ましかった。でも、そんな二人と一緒に何かを達成できたこと、それは自分に大きな自信をくれた、かもしれない。

 

 

見事に一位を勝ち取ったマーマネたち。表彰台の上で、彼らが三人揃ってデンヂムシを抱き上げている姿は、まさに理想のチームのようだった。

 

こうしてまた、新たな絆を結んだサトシたち。次なる挑戦は、一体どんなものなのか?

 

 

 

余談だが、後で改めてお礼とお詫びを言いにきたエレキプリンセスの三人から何やら不穏な感じをガールズが感じ取ったりしなかったりだったとか……

 

…………… To be continued

 




気になるニュースを見つけて、俺たちは島の調査を始めることに

あちこち巡っていた時に、俺がたどり着いたのは戦の遺跡

そこにいたのはグラジオと……

次回
『強さの誓い。唸れ新たなZ技!』
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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強さの誓い。唸れ新たなZ技!

いやぁ……オリジナル回です、はい
なっげー、自分で言うのもあれだけど

今回は色々とフラグやらなんやらを立ててみます

ルザミーネのキャラ強烈だったなぁ
あとザオボー許すまじ笑




その日、朝食を摂りながら朝のニュースを見ていたサトシたち。メレメレ島でのいろんな出来事やイベント、グルメなど、あらゆる情報を得られるため、サトシよりも、情報収集を趣味とするロトムやリーリエが好んで見ていた。

 

『今朝のニュースです。昨日、メレメレ島の空にヒビが入っているように見えたとの報告が新たに上がっています。今月に入って既に5件目のことです。未だ詳しい理由はわかっておらず、現在研究科による分析がされています』

 

「空にヒビ?」

「ええ。サトシが来る前にも、ここまで頻度は高くなかったですけど、何度かそういうお話はありました」

『非科学的ロト』

「いや、とも言えないさ。なんて世の中には空間を司る、神のようなポケモンもいると言われてるからな」

「神様……ポケモンがですか?」

「ああ」

 

空間を司る神のようなポケモン。この話題が出た時サトシは口がいっぱいだったため話せなかったが、ある意味幸いだったのかもしれない。なんせ彼は、件のポケモンと一度ならず4度ほど実際に会ったことがあるのだから。

 

「さて、そろそろ出る時間だな。サトシは遅刻しないようにな」

「わたくしにお任せください!ちゃんと時間はチェックしてますので」

「そりゃ頼もしいな。じゃ、俺は準備があるから、先に行ってるな」

 

ククイ博士が手を振りながら家を出る。慌ててご飯を詰め込み、サトシが先に支度を済ませていたリーリエとともに家を出たのは、その少し後のこととなった。

 

 

 

二人が登校してみると、スクールでも今朝のニュースで話題は持ちきりだった。

 

「空にヒビなんて、あり得ないと僕は思うけどなぁ」

「でも、ポケモンならありえる!もしかしたら、パルキアに会えるかも」

「パルキアかぁ……また何か大変なことに巻き込まれたり……ないよな」

「無い無い。そんな簡単に伝説のポケモンには会えないってば。まったく、スイレンはすぐそういうこと言う」

「てへ♪」

「だが、確かに強いポケモンの仕業かもしれないな。もしそうなら、俺もバトルしてみたいぜ」

「あの、皆さん……今何かとても重要なことを聞き流してしまった気がするのですが……?」

「えっ、そうだっけ?」

「いえ……気の所為だったのでしょうか?」

 

兎も角、新しい出会いがあるかもしれないと、みんなは胸を躍らせていた。放課後、みんなであちこちの目撃情報を当たって見ようと決めたサトシたち。早く放課後にならないかなぁ、なんてサトシは想いを馳せながら、今日も元気にスクールの授業に参加するのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さてさて、待ちわびていた放課後。サトシたちが校門前に集合している。

 

「目撃情報が多かったからな。二人ずつに分かれて行動するのはどうだ?」

「おっけー!それじゃあどうやって班分けしようか?」

「僕はカキと行こうと思うんだ。データとして目撃情報の場所は特定してあるし、遠い場所から攻めようかなって」

「じゃあ、何かあった時のために、俺、カキ、スイレンはばらけてた方がいいな」

「えっ?」

「カキはわかるけど、どうしてスイレンまで?」

「スイレンとアシマリも、スッゲェ強いからな。Z技も使えるから、いざって時は頼もしいし」

「頼もしい……うん、わかった」

 

サトシと組みたいなぁ、と思っていたスイレンだったが、頼もしいと言ってもらえただけでも嬉しいと思える。サトシのおかげで手に入ったZクリスタルに、Z技。それを頼りにしてくれるなら、その期待に応えられるように、もっと頑張ろうと、スイレンが心に新たな決意をしているのに、みんなは気づかずにいた。

 

「では、あとはわたくしとマオですね」

「じゃああたしはスイレンとチームになるよ。リーリエはサトシとね」

「えっ、でも」

「ほら、リーリエってまだシロンとピカチュウにしか触れてないでしょ?」

「ううっ」

 

ライドポケモンのムーランドに乗ることに成功して以来、リーリエはライドポケモンに挑戦してみている。スクールのケンタロスやスイレン宅のラプラスなど、数は着実に増えてきているものの、未だに一般のポケモンではシロンとピカチュウ以外の時は身構えてしまうのだった。

 

「わたくしも頑張ってはいるのですが……」

「そんなこと知ってるよ。大丈夫だよ。すぐに他のポケモンにも触れるようになるから。でも、今はまだっぽいから、いざという時に触れるポケモンと一緒の方がいいでしょ?」

「マオ……」

「だからあたしとスイレン、カキとマーマネ、サトシとリーリエのチームに分かれよっか」

「……はい」

 

気をつけるようにと声をかけながら、三チームがそれぞれ別の方向へと向かう。リザードンに乗ったカキとマーマネは空から、マオたちは海岸の方から、そしてサトシたちは町の方から探すために、歩き出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

町の人にも話を聞きながら歩き続けるサトシたち。しかし目撃した話はいくつかあれど、自分たちは空のヒビを見つけられずにいた。

 

「うーん、全然いないなぁ」

「やはり、そう簡単にみられるものではないのかもしれませんね」

「ピカッ!」

「どうした、ピカチュウ?あ、この道って」

 

気がつくとサトシたちは森へと続く道の前にたどり着いていた。しかしそれはただ森に続くだけではない。この道の先、奥まで進んだところに、以前ハラさんと訪れた神殿がある。

 

「カプ・コケコの神殿がある場所……」

「戦の遺跡ですね。わたくし、本で読んだことがあります。まだ行ったことはないのですが……」

「行ってみようぜ!」

「ピカピィカ!」

「えっ!?あの、サトシ!?」

 

すぐ様駆け出してしまうサトシとピカチュウを慌てて追いかけるリーリエとシロン。サトシもはぐれないように速度を調整しているものの、いきなり走り出されたリーリエとしては気持ち大変さが増し増しだった。

 

「サトシ、ちょっと待ってください〜」

 

流石に普段あまり走ることをしないリーリエに、サトシについて走り続けろという方が酷である。流石のサトシも、リーリエの様子に足を止める。

 

「ごめん、リーリエ」

「いえっ……論理的結論としてっ……少し、休めば……問題ありません……ふぅ」

 

完全にバテバテなリーリエを見て、いきなり走り出すのは良くなかったよな、と反省するサトシ。カキやスイレンなら割とついてこれるかもしれないが、リーリエは元々が正真正銘のお嬢様だ。それを期待するのは難しいかもしれない。

 

「大丈夫か?」

「……っはい……もう大丈夫です。走れます!」

 

グッと気合いを入れるリーリエ。わかっていたことではあるけれども、根気強さはなかなかのものだ。

 

「もうすぐ神殿には着くから、ここからはゆっくり行こう。もしそこにヒビかそれを作ってたポケモンが現れた時に、疲れ切ってちゃどうしようもないしな」

「あ、はい。あの、ありがとうございます」

「いや、俺もチームで行動するなら、そのくらいの配慮すべきだったしな」

 

呼吸もしっかりと整えることができたリーリエとサトシ。今度は焦ることなく、周りの様子を見ながら進む。

 

「思っていたよりも、野生のポケモンは少ないですね」

「カプ・コケコを祀る神聖な場所ってハラさんも言ってたし、ポケモンたちもそれをわかっているのかも」

 

さらに奥へと進むサトシたち。と、何かが聞こえて来る。ポケモンの鳴き声に衝撃音、誰かの叫ぶような声。これは、

 

「誰かが、バトルしてる?」

「もしかして、大試練の挑戦者でしょうか?」

 

気持ち更に静かにサトシたちは音のする方へと近づいていく。そこにいたのは、

 

 

「くっ!ストーンエッジ!」

「ルゥガァ!」

 

拳を地面に叩きつける真夜中のルガルガン。巨大な岩柱が地面から次々に突き上げられる。それを見ながら、退治しているポケモンは同様に地面を殴る。そのポケモンめがけて進んでいたストーンエッジの岩柱が砕かれる。間髪入れずに飛び上がったポケモンが、体に電気を纏い、突進する。強烈なワイルドボルトを受け、ルガルガンが弾き飛ばされる。

 

「ルガルガン!」

 

倒れているルガルガンに駆け寄るトレーナー。それを見下ろしながら、対峙しているポケモンがゆっくりと高度を落としている。

 

 

「カプ・コケコ!?それに、」

「お兄様!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「サトシ、リーリエ!?」

 

突然現れた二人に、グラジオは驚きを隠せない。カプ・コケコの方はというと、サトシのことを興味深げに見ている。駆け寄って来るサトシたち。

 

「お兄様、どうしてここに?」

「……お前には関係ないことだ」

「ルガルガン、大丈夫か?」

「ああ。気を失ってはいるが、ポケモンセンターに連れて行けば問題はない。俺もこいつも、まだまだということか」

 

ルガルガンをボールに戻しながら、グラジオが立ち上がる。サトシと向き合うように振り返ると、サトシの背後にカプ・コケコが近寄っているのが見える。

 

「本当にお前は気に入られているようだな」

「えっ?」

 

グラジオの視線を追うサトシ。カプ・コケコの顔が目の前にあったことに驚きながらも笑顔を浮かべる。

 

「久しぶりだな、カプ・コケコ」

 

コクリと頷く。カプ・コケコがサトシのリュックを指差す。

 

「開けろってことか?」

 

再び頷く。疑問符を浮かべるも、サトシがリュックを下ろして開いてみる。特に変わったものは入っていない。モクロー、モンスターボール、弁当箱、水筒、ノートに鉛筆、そして以前見つけた透明の……

 

「あれ?」

 

取り出した鉱石を見て、サトシが首をかしげる。透明だったはずの鉱石は、深い青色に染まっていた。

 

「サトシ、それはなんですか?」

「あぁ、えっと。前にムーランドと宝探ししたことあっただろ?その時に見つけたんだけど……」

「綺麗な青色ですね」

「!その模様……水のZクリスタルと同じ?」

「ほんとです!もしかして、Zクリスタルの原石とか?」

「うーん。でも前までほとんど透明だったんだよなぁ。なんで色がついたんだろう?」

 

うんうん唸るサトシ。そんな彼の様子をさておいて、カプ・コケコがサトシの腰のボールを一つ叩く。ボールが開き、中からポケモンが飛び出す。飛び出したのはゲッコウガ。カプ・コケコを視線に捉え、視線を鋭くする。

 

「カプ・コケコ?」

 

サトシたちの元から離れ、バトルフィールドにもなっている広場、その片方へとカプ・コケコが飛びこちらを見ている。

 

「バトルしようってことか。ゲッコウガと」

 

頷く。

 

視線を交わすサトシとゲッコウガ。どちらからともなく拳を合わせる。

 

「なら、最初から全力で行くぜ!」

 

そのセリフとともに、ゲッコウガを激しい水流が覆う。初めてみるその現象に、グラジオの目が驚愕に見開かれる。

 

「な、なんだ!?」

「お兄様……これがサトシとゲッコウガの全力です」

 

水流が弾け飛び、変幻したゲッコウガが現れる。背中のみずしゅりけんが煌めき、視線は鋭く相手を見据えている。

 

「いあいぎりだ!」

「コウッ、ガ!」

 

走り出すゲッコウガ。両手に水のくないを手にしている。周りに電撃が走り、フィールドが電気を帯びる。カプ・コケコがワイルドボルトを発動し、突っ込んで来る。

 

両ポケモンの激突が激しい衝撃を周囲に引き起こす。

 

ゲッコウガ対カプ・コケコ。サトシたちにとってのリベンジマッチの火蓋が、切って落とされる。

 

 

 

サトシの手に持つ鉱石が淡い光を放ち出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「これが……サトシたちの本気……」

 

目の前で繰り広げられる光景に、グラジオは開いた口が塞がらないような気持ちだった。

 

並みのポケモンでは捉えられない素早さで動き回るカプ・コケコに対し、変幻したゲッコウガはそれと同等、あるいはそれ以上のスピードを見せる。タイプ相性なんて関係ないと言わんばかりに、繰り出される技の一撃一撃が重い。更には、

 

「ケーコー!」

「みずしゅりけんで防げ!」

「コウッ!」

 

カプ・コケコの放った特大のエレキボールを、ゲッコウガはみずしゅりけんを目の前で回転させることで防ききる。型にとらわれない柔軟な発想に技の応用力。どれもこれまで戦ってきたどのトレーナーよりも優れている。

 

そっと腰に付けているプレミアボールに触れるグラジオ。この中にいるポケモンの力を真に引き出すのは、今の自分ではまだ不可能だ。本来であれば守り神にも負けないはずのこいつを、自分はまだバトルに出すことさえもそう簡単にはできない。

 

もっともっと強くならなければ。

 

あの人を止めるためにも。

 

彼女を守るためにも。

 

拳を握るグラジオの表情に、リーリエはどこか強い信念が見て取れた。自分の兄が修行の旅に出たのは知っていても、なんのための修行かは詳しく知らない。それでも、それが彼にとって本当に大切なものなのだと、今ようやく実感できた気がした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

サトシの近くまで後退するゲッコウガ。サトシ共々、息が上がっていて、呼吸をするたびに肩が大きく上下している。それは相手も同じようで、連戦しているとはいえ、カプ・コケコ相手にここまでくらいつけるゲッコウガの実力の高さが伺える。

 

「やっぱり強いな……それに、前みたいにはエレキフィールドを消させてくれないか」

 

以前バトルした時は、みずしゅりけんを使ってエレキフィールドを解除させてみせたゲッコウガ。しかし今回は、そんな隙を与えないと言わんばかりに、カプ・コケコが攻撃を仕掛けて来る。攻撃を防いでも完全には威力を殺せず、着実にダメージが溜まってきている。

 

「はぁっ、はぁっ……何か、逆転の一手を……ん?」

 

顔を伝う汗を手で拭うサトシ。と、サトシの手に持っていた鉱石に変化が起きているのに気づく。深い青色で一杯だった鉱石は、中央の紋章部分だけに赤色が浮かび上がって来る。それに伴い、鉱石にヒビが入る。徐々に大きくなったそれは、やがて鉱石全体に広がり、鉱石が砕けた。

 

「なっ、えっ?これって……」

 

カプ・コケコがサトシのことを見つめている。サトシの手のひらには、完全に砕けたかと思った鉱石の一部が乗っている。通常のZクリスタルとほぼ同じ大きさのクリスタル。深い青と赤色で、中央に水の紋章。

 

ただ、それはZクリスタルとは形が異なっている。

 

まるでゲッコウガのみずしゅりけんの形を模したかのような十字の形。まるで見たことのないZクリスタルが、ここに生まれた瞬間だった。

 

「……感じる……すごい力だ」

 

理屈ではなく、本能が告げている。これは自分たちの力だと。間違いなく、サトシとゲッコウガのための力なのだと。であるならば、使えないはずはない。

 

「行くぜ、ゲッコウガ!俺たちの全力全開!」

 

サトシがZクリスタルをZリングにはめる。ゲッコウガがサトシの方を見て頷く。臨戦態勢に入るカプ・コケコに、思わず息を呑んでしまうグラジオとリーリエ。

 

二人の全力が今、明かされる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

サトシがクリスタルをはめた状態から、ダイヤルを回すように捻る。まるでXの形にも見えるようにはまっているZクリスタルから、眩い光が溢れ出す。

 

両腕を交差してから一度開くサトシとゲッコウガ。両腕を前に出して、再び交差させる。ここまでは共通の動き。しかし、Z技は固有のポーズを正しく行わなければ発動できないはず。初めて使うクリスタルを、サトシたちが使いこなせるのだろうか。

 

(わかる……これは俺たちのための技……だから、必要な動きは、俺たちが)

 

左腕を上に、右腕を下に、大きく円を描くように広げる二人。丁度左右に開いた状態で一度動きを止め、まるで印を結ぶかのように両手を合わせる。

 

「これが……俺たちの……全っ力だぁっ!」

 

左手を胸の前に構えたまま、勢いよく右腕を天に向かって伸ばす。Z技のエネルギーが溢れ出し、ゲッコウガの体を包み込んだ。

 

途端に、ゲッコウガを中心に水が湧き出てくる。電気を帯びていたはずのフィールドが放電し、電撃が弾ける。しかしそこはゲッコウガの作り出す水。みずしゅりけん同様、電気を通すことなく、寧ろ洗い流していくかのようだ。

 

エレキフィールドが打ち消され、カプ・コケコに僅かながらも動揺の気配が見て取れる。有利な地形を打ち消されただけでなく、相手の有利なフィールドによって上書きされてしまったのだ。戸惑いも無理はない。

 

サトシとゲッコウガがクラウチングスタートでもするかのように屈む。視線は鋭く、カプ・コケコを見ている。

 

「行くぜ!」

 

水が舞い上がりゲッコウガを包み込む。と、次の瞬間、ゲッコウガの姿が消えていた。

 

「なっ!?」

「今、一体何が?」

 

カプ・コケコが警戒するように辺りを見渡す。しかし突然その体が大きく仰け反る。態勢を戻したかと思うと、今度は逆側から衝撃が。間違いなくゲッコウガの仕業、しかしどうやっているのかがわからない。

 

周囲を取り囲むように、連続攻撃を喰らわせるゲッコウガ。その速度はもはや別次元のものになっている。やがて地面を覆っていた水が、スーパーアクアトルネードのように、大きな渦となり、カプ・コケコの動きを封じる。

 

天高く飛び上がる一つの影。ゲッコウガがカプ・コケコを見下ろすようにしながら、背中のみずしゅりけんを手に取る。

 

「全力全開、限界を超える!」

「コォウッ!」

 

周囲の水がどんどんゲッコウガのみずしゅりけんに集まって行く。より大きく、より強く、より鋭く、みずしゅりけんが変化して行く。その大きさはかつて見たことがないほど、あの時、カロスリーグで見せたものと同等くらいにまで広がって行く。

 

「行っけぇぇえ!」

「コォウッガァ!」

 

青く輝くみずしゅりけんを、ゲッコウガが勢いよく投げつける。水流で逃げられない中、咄嗟に両腕を合わせ防御態勢に入るカプ・コケコ。そのまま電撃を身に纏い迎撃するかのように身体に力を込める。特大のほうでんがカプ・コケコより放たれる。みずしゅりけんが渦巻く水を断ち切り、カプ・コケコに命中すると同時に、カプ・コケコの放った電撃がゲッコウガを襲う。眩い閃光が走ったかと思うと、辺りを切り裂くような爆風がグラジオたちに届いた。

 

 

恐る恐る目を開くグラジオとリーリエ。煙でよく見えないし、何も聞こえない。爆発音や激突音が聞こえないことからすると、決着はついたようだ。徐々に視界が晴れていく。

 

「サトシ……?」

「どうなった?」

 

見えてくるのはフィールド。そしてそこに横たわる三つの影。サトシ、ゲッコウガ、そしてカプ・コケコが全員倒れ、動かなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「っ……ここは?」

 

クラクラする頭を晴らそうと、サトシが頭を振りながら体を起こす。辺りはまだ森で、寝かされていたのはアーカラ島の大試練の時にみんなが使っていたのと同じ石の席。もう一つの席にはゲッコウガが寝かせられている。

 

「目覚めたか……」

 

声の方向を見るとグラジオが腕を組んで木にもたれるように立っている。

 

「グラジオ?」

「只者ではないとは前から思っていたが……お前は稀有な存在らしいな」

「?……そういえば、カプ・コケコは?」

「先に目覚めて何処かへ飛んで行ったぞ。しかしまさか相討ちにまで持っていくとはな」

「相討ちか……いけたと思ったんだけどなぁ」

 

悔しがるように呟いているものの、バトル自体が満足いくものだったのだろう。サトシは笑みを浮かべている。

 

「あっ、サトシ!目を覚ましたのですね!」

 

どこからか水を汲んできたのか、リーリエが水筒とタオルを手に道を戻ってきた。

 

「リーリエ。心配かけたみたいだな、ごめん」

「全くだ。ポケモンセンターに連れて行こうと思っても、お前がどうして倒れたのかの説明ができなかったからな。結局ここで回復を待つことにした」

 

呆れているかのような溜息をつくグラジオ。しかしすぐに真剣そうな表情になる。

 

「で?あれはなんだ?」

「あれって?」

「惚けなくていい。あのゲッコウガのこと、そしてそのZクリスタルのことだ」

 

グラジオの視線を追ってサトシがZリングを見ると、先程のZクリスタルがまた無色透明になってしまっている。

 

「あれ?」

「どうやら、先程のZ技を使ったことで、色を失ったようですね」

「そうなのか?うーん……」

「サトシのゲッコウガがあの姿になってから、このZクリスタルが力を放ちました。もしかしたら、あのゲッコウガになっている時間の分だけ、エネルギーが溜まるのかもしれません」

「それで、あのゲッコウガなんだ?」

「ああ、あれはキズナ現象って言って、ごく稀に起きるらしいトレーナーとポケモンのシンクロ、それによるパワーアップなんだ。詳しいことはわかんないけど」

「シンクロ……それでお前も倒れたわけか」

 

納得がいったように頷くグラジオ。

 

「あのZ技も、ただのZ技とは違うみたいだな」

「本に載ってたどのZ技のポーズとも違いました」

「俺は身体が勝手に動いてたって感じがしてたけど」

 

どうやら、まだまだ謎がたくさん残っているようだ。詳しく調べる必要があるかもしれない。そう思ったサトシは、後日ククイ博士に相談することに決めた。

 

「Z技を超えるZ技……(スーパー)Z……いや、(ちょう)Z……超絶水手裏剣と言ったところだな」

「超絶水手裏剣かぁ……なんかいいな、それ!」

「良いのでしょうか……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

森を一緒に抜けたサトシ、リーリエ、グラジオ。ゲッコウガとルガルガンを回復させるために立ち寄ったポケモンセンターの前で、グラジオが立ち止まる。

 

「俺はここまでにしておく。まだ、すべきことがあるからな」

「え、ですが」

「一つ言っておく。何故お前がそれほどまでに守り神に気に入られているのかはわからない。だが、それは必ずしもいいことではない。いずれアローラを揺るがす出来事に巻き込まれる、かもしれないな」

「お兄様?」

「何か知ってるのか?」

「ふっ、さぁな」

 

片手を上げて立ち去るグラジオ。彼の言葉は、一体なんのことを指し示しているのだろうか。疑問や疑念は尽きないものの、今はただ、新たな力を喜ぼう、そう思うサトシだった。

 

結局マオたちも見つけることができなかった空のヒビ。果たしてそれは何かの前触れなのだろうか。

 

新たな謎が生まれるものの、ワクワクしているサトシ。彼のアローラでの冒険はまだまだ続く。

 

 

余談だが、この時の出来事を聞いたマオや博士までも興味津々になり、サトシにもう一回見せてとせがむこととなるのだが、それはまた別の話……

 

 

 

そして、サトシのZリングに小さく傷が付いているのに、誰も気付けずにいたことも……




いつも通りのポケモンスクールの朝、と思いきや突然の行事!?

えっ、修学旅行?どこに行くんですか?

俺もよく知ってるとこって……まさか!?

次回
突然の行事。アローラ、カントー修学旅行!
みんなもポケモン、ゲットだぜ!

なお、修学旅行編の冒頭に続く


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学校行事編
突然の行事


オリジナルストーリー、というかアローラでのイベントです

学校ならではのイベントを活用させていただいています


「アローラ!みんな揃ってるな?突然だが来週から、お前たちには修学旅行に行ってもらうぞ~」

 

 

ある日のホームルーム、ククイ博士がオーキド校長と一緒に教室に入ってきたかと思うと、いきなりトンデモ発言がされたのだ。

 

 

「「「「「「修学旅行?」」」」」ですか?」

 

 

一般的な学校行事としては有名なもの、そう、修学旅行である。学校の仲間たちと一緒に数日間の間、普段はいかないような場所で、学びながら一緒に過ごす、そんな楽しいイベントである。しかしながら、一週間後とは本当に突然である。

 

 

「そうだ。ここから先はオーキド校長に説明してもらうとしよう」

「オッホン。実はの、君たちがかなり優秀な生徒ということもあり、もっとポケモンたちと触れ合える機会をつくれないものかと悩んでのぉ。それをちっとばかり相談したら、ならばこっちに来るのはどうかと言っておったのでな。せっかくの機会、ここはぜひ君たちに言ってもらおうと思ったんじゃヨーギラス」

 

 

なんだか、全然説明になっていない説明だった。わかったことは誰かに招待してもらったということくらいだろうか。とりあえずどこへ行くのか、そして誰が招待したのかを聞くべく、マオが手を上げた。

 

 

「校長先生、その招待してくれた方って、どなたですか」

「ふっふっふ、聞いて驚くでないぞ~。わしのいとこ、ユキナリじゃ」

「えっ、オーキド博士が!?」

 

 

突然出た名前に驚くサトシ。招待しているのが自分の地元、昔からお世話になっている世界的にも有名なポケモン博士、オーキド博士ときたものだから仕方もないだろう。

 

 

「って、ことはもしかして」

「そうじゃ!今回の修学旅行、君たちにはカントー地方へ向かってもらうのダグトリオ!」

 

 

サトシにとっての一時的な里帰りが決まった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「そういうわけで、一週間だけそっちに戻ることになったんだ」

『まぁそうなの?それじゃあ新しいお友達も一緒ってことね?うちには寄れるの?』

「うん。ククイ博士に聞いたら、せっかくだからってさ」

『そう。博士に感謝しないとね。私もちゃんと準備しておかなきゃ』

 

 

放課後、サトシは修学旅行のことをカントーにいる母親に報告していた。久しぶりに見る息子がこの短時間で少し成長しているのを、画面越しでも母は感じた。体が大きくなったわけではない。ただ、どこか大人びた雰囲気が見えたのだ。

 

 

「それじゃあ、また来週!」

『ええ。気を付けてね』

 

 

電話を切ったサトシは修学旅行のことを考え、少しばかり心が躍った。せっかくだから研究所にいるみんなにも会いに行こう。そしてみんなにも紹介して、一緒に遊べたら。そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

結果的にそれが、彼らに大きな衝撃を与えるとはつゆほど思っていなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

それから一週間後、アローラ地方からほぼ真反対、昼夜が完全に逆転しているこの地方。カントー地方に、サトシたちは無事に到着していた。

 

 

「へぇ~ここがカントー地方?なんだか気持ちい~!」

「海も綺麗だった」

「自然が多いな。ポケモンたちには住みやすそうだ」

 

 

修学旅行中、彼らは基本オーキド博士の所有している研究員がたびたび使用している宿舎に止まることになっている。ホテルほど設備がいいわけではないが、研究所とも近く、自然に囲まれたその建物は、ポケモンたちと触れ合うという目的にはもってこいの施設なのだ。今回の修学旅行に来たのはサトシ、カキ、マーマネ、リーリエ、マオ、スイレン、そして引率としてククイ博士の合計7人。先生が一人部屋で、サトシたちは三人ずつ部屋を使うことになった。

 

 

「よしっ、じゃあ荷物を置いたら1時間ほど休憩だ。そのあと、オーキド博士の研究所に行くぞ」

「「「「「は~い!」」」」」「はい」

 

 

 

 

こちら男子部屋。荷物を降ろしてすぐ、マーマネは用意されていたベッドの上に沈み込んだ。

 

 

「ふへぇ~疲れた。まさか途中からずっと歩くことになるなんて・・・」

「あはは、まぁマサラタウンの近くは本当に自然豊かだけど、そのおかげで交通手段は全然ないからな~」

「こっちだと、ライドポケモンっていう習慣もないみたいだな。それに、ポケモンもボールに入れない人も多いな」

「アローラ地方とは違うけど、ポケモンと人間が共存できるようにって、みんなで頑張ってるんだ」

「そうか・・・いい町だな」

「まぁ、ポケモンには優しい場所ではあるよね」

「へへっ、ありがとう。今度研究所にいる俺の仲間たちにも紹介するな」

「あぁ。お前がどんな旅をしてきたのか、気になるしな」

「僕も」

 

 

 

 

 

 

一方女子部屋。こちらはそれぞれ荷物を整理し終わり、既におしゃべりタイムに突入していた。

 

 

「でもほんとにいいところだね。空気がおいし~」

「うん。アシマリも、アママイコもすっごく元気そう」

「アローラ地方も自然が多いことで有名ですが、向こうのあったかい気候と違って、生命の息吹を感じられるような、落ち着いた空気ですね」

「うんうん。でも、リーリエ大丈夫?野生のポケモンもいっぱいいるらしいし、無理とかしてない?」

「大丈夫です。確かにまだポケモンに触れる自信はありませんが、少しずつでもいいので慣れていきたいんです。だから、この修学旅行でも、レベルアップです!」

 

 

気合を入れるように両手をぐっと握りしめるリーリエ。気合の入っているその様子にマオとスイレンは顔を見合わせて笑う。前まではここで少しむきになって反論していたリーリエ。それが今ではどうだろう。頑張ろうという気持ちが伝わってくる。本気で変わりたいのだと、進みたいのだと思っているのがわかる。誰の影響を受けたのかは、言うまでもない。自分たちだって変わったのだから。

 

 

「そっか。あたしたちも応援してるからね」

「うん。頑張ろう」

「はい。よろしくお願いしますね」

 

 

仲が悪いわけではなかった。でも、彼とかかわるようになってから、もっと仲良くなれた気がする。たがいに微笑みながら、そんなことを思う彼女たちだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「よ~し、着いたぞ。ここがオーキド博士の研究所だ」

 

 

日が少し傾き始めたとき、サトシたちはオーキド研究所についた。それはマサラタウンのはずれ、少し高い丘の上にあった。他の建物と離れて自然のど真ん中に研究所があるのは、預けられているポケモンたちがのびのびと過ごせるように、そしてできる限り元の生活と同じような環境にいられるようにと考えられた結果である。つまり、この一帯の土地はすべてがこの研究所、ひいてはオーキド博士の所有物ということになる。

 

 

「先生のとは大違いだね」

 

 

とぼそっとつぶやいたマーマネに、ククイ博士は苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、ポケモンスクールの諸君。わたしがここの研究所の持ち主で、ポケモン研究家のオーキド・ユキナリだ」

「初めまして、オーキド博士。アローラ地方で主にポケモンの技について研究しています。ククイです」

「ナリヤから話は聞いていますぞ。サトシを泊めてくださっているとも。いろいろとありがとうございます」

「いえ、そんな。サトシもいろいろと手伝ってくれますし、俺のイワンコも彼のことをすごく気に入っているので」

「そうですか。サトシ、久しぶりじゃの」

「はいっ、オーキド博士。俺、向こうでもいろんなポケモンと会ったんですよ!」

「そうかそうか、後でいろいろと話を聞かせてくれ。それから、後ろの彼らが君のクラスメートかね?」

「はい。紹介しますね、左からカキ、マオ、マーマネ、スイレン、それからリーリエ。ポケモンスクールでの俺のクラスメートなんです」

 

 

サトシに紹介されたカキたちは、一人ひとり、オーキド博士にあいさつをする

 

 

「カキです。主にほのおタイプを専門にしています」

「あたしはマオです。この子は仲良しのアママイコ」

「アママ!」

「僕はマーマネ。それからこっちはトゲデマル」

「マリュマリュ!」

「私、スイレンです。海のポケモンが大好きです。この子はパートナーのアシマリ」

「アウッ」

「リーリエと申します。ポケモン研究の第一人者、オーキド・ユキナリ博士に出会えるなんて、光栄です!」

「ほぉっ、早速アローラ地方のポケモンたちにも会えるとはのぉ。君たちも、なかなかいい表情をしておる。みな、ポケモンが大好きみたいじゃな。よいことじゃ」

 

 

満足げに頷くオーキド博士。

 

 

「それじゃあオーキド博士、修学旅行中にどういうことをするのか、説明していただいても?」

「おぉ、そうじゃったそうじゃった。それでは、これから一週間の君たちの予定を説明するぞ。君たちにはこの研究所の敷地にいるポケモンたちの観察やお世話をしてもらう。研究所で預かっているポケモンもいれば、野生のポケモンも多くいるので念のために気を付けてほしい。なぁに、基本的には人に慣れているポケモンたちばかりじゃ。大丈夫だとは思うが、念には念を入れておくのじゃぞ。様々なイベントも用意しておるから、楽しみにしておくんじゃな。明日の朝、またここに集合じゃよ。詳しい時間は前もって渡されているしおりで確認しておくんじゃぞ」

 

 

ポケモンたちの世話と聞いて、生徒たちはワクワクしていた。自分たちの見たこともないようなポケモンたちを実際に見て、触れることができる。それだけではなく、もしかしたら仲良くなれるかもしれないと思い、楽しみで仕方がなかったのだ。

 

 

「では、そろそろ夕食の時間にちょうどいいかの。みんなの料理はとあるお方が用意してくれておる。宿舎のほうへ戻って食べてきなさい。今日はこの後は自由時間じゃから、皆思うように過ごすといい。宿舎の近くの森にも野生のポケモンは多くおるから、観察するもよし、ゲットするもよし。ただしちゃんと気を付けるんじゃぞ。それでは、また明日」

 

 

オーキド博士にあいさつをし、サトシたち一行は宿舎のほうへ戻っていった。ドアを開けると何やらいい匂いがしてくる。誰かが夕食を用意してくれているようだ。食堂へ足を運ぶサトシたち。ドアを開けるとそこにはたくさんの料理が並んでいた。中にはサトシの好物であるコロッケまで。手を拭きながらキッチンから出てきた人物は、

 

 

「あらサトシ、おかえりなさい」

「ママ!?」

 

 

サトシのママ、ハナコだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おいしい、これすっごくおいしいです!」

「はい。とても暖かい気持ちになります」

「そう?よかった。しっかり食べて、明日から楽しんでね」

 

 

ハナコが作った料理に舌鼓を打つアローラ一行。当のサトシも好物のコロッケをこれでもかという風に食べている。

 

 

 

 

 

 

「「ごちそう様~!」」

「「「「ごちそうさまでした」」」」

「お粗末様でした。それじゃあサトシ、また明日ね」

「え?明日?」

「ええ。この修学旅行中は、みんなの食事は私が作ることになっているの」

「そうなの?そっか。なら一週間だけど、本当に帰ってきたみたいだな」

「そうね。みんなとしっかりと楽しんで、しっかりと学ぶのよ」

「うん」

「それじゃあね」

 

 

ひらひらと手を振りながら、ハナコは自宅へ帰っていった。

 

 

「それじゃあ明日は7時には朝食だ。そのあと、8時半にはオーキド博士の研究所についてなくてはいけないから、あんまし夜更かしするなよ?風呂は男女別にあるから、各自で適当に入ってくれ。それじゃあ解散!」

 

 

自由時間になり、風呂を終えたサトシたちは、特に示し合わせたわけでもなかったが、共通の休憩スペースのソファに集まった。

 

 

「いよいよ明日から本番だね?楽しみだな~」

「あんまりきつくないといいんだけど・・・僕、動き回るの苦手だし」

「いい機会だ。こんな時でもなければ、お前ずっとプログラムしかいじらないしな」

「でも、どんなポケモンに会えるのか楽しみ」

「そういえば、サトシもマサラタウンから来たんですよね?サトシのポケモンも、研究所にいるのですか?」

「ああ。今までの旅の中で出会ってきた、俺の大切な仲間たちだ」

「ねね、今までどんな地方を旅してきたの?」

「まずはカントー地方、そこからオレンジ諸島っていう島がいっぱい集まったところを旅したんだ。その次に行ったのがジョウト地方。それからホウエン地方をめぐって、シンオウ、イッシュ。アローラ地方に行く前に旅したのがカロス地方って感じかな」

「そんなに?僕には無理そうだな~」

「ポケモン、一杯ゲットしたの?」

「そうだな~、旅行中に時間があったら、みんなにも紹介するよ」

「はい!楽しみです」

 

 

楽し気な会話はしばらく続き、マーマネが本格的に眠りそうになったころ、解散となった。




というわけでこっちも転載決定です

ストーリーは基本オリジナルなので更新のペースはこっちのほうがかなり遅くなるのですが、許してください、その辺は。


追記
マオのアマカジが進化したので、こっちでも進化させますね


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懐かしい面々

こっちも続くよ

リーリエのロコン既にいる設定ですので


朝、起床予定時刻より早く目が覚めてしまったリーリエは、まだ眠っているマオやスイレンをおこさないように着替えてそっと部屋を抜け出した。まだ日が昇る前、少し暗い空が広がっていた。ぶるるっと体が震える。常夏のアローラ地方と違い、カントーの朝は空気が冷たい。上着を持ってくればよかったと少し思いながら、リーリエは宿舎の周囲を散歩することにした。ほぅ、と息を吐くと、それが白いことに驚く。昨日はあんなに暖かかったのに。

 

 

ザッ ザッ ザッ ザッ

 

 

草を踏みしめる音が後ろから聞こえる。規則的なそれはだんだんと近づいてきているようだ。

 

 

まさか、野生のポケモン!?

 

 

バッと振り返るリーリエ。しかしそこにいたのは野生のポケモンではなかった。

 

 

「あれ、リーリエ?おはよう」

「さ、サトシ・・・どうしたんですかこんなに早くに?」

「あぁ。昨日から楽しみにしてたら目が覚めたから、早朝ジョギングでもしようかなって。リーリエは?」

「わたくしも、目が覚めてしまったので、少し散歩をと思って」

「そっか」

 

 

リーリエに合わせるようにペースを落とすサトシ。横に並んで歩くサトシを見て、リーリエは疑問に思った。

 

 

「あの、ジョギングをするのでは?」

「ああ、もう十分走ったかなって・・・あ~運動したらあっつい」

 

 

寝巻代わりにしていたジャージの上着を脱ぐサトシ。サトシにしては珍しく、中のシャツは長袖だった。アローラ地方出身のカキたちはもちろん、サトシも向こうの気候にすっかり慣れてしまったため、カントーは少し肌寒いのだ。すっとジャージの上着をサトシはリーリエに差し出した。

 

 

「えっ?」

「寒そうだし、これ羽織っておけば?俺、使っちゃったけど、そんなに汗はかいてないはずだし」

「で、ですが、それではサトシが寒いのでは?」

「さっきまでのジョギングで十分。それにもうそろそろ日も昇るし」

 

 

ん、と手に持たされるそのジャージをしばし見つめたあと、リーリエはサトシの言葉に甘えることにし、そのジャージの袖に腕を通した。さっきまで運動していたサトシが使っていたからだろう、そのジャージはぽかぽかとして、暖かかった。

 

 

「おっ、ほら。朝日だ!」

 

 

サトシが指をさす方を向いたリーリエの目に入ったのは、明るくて暖かい日差しだった。その朝日の方向へ、ポケモンが飛んでいくのが見えた。それも一、二羽ではなく、群れで飛んでいるようだった。その先頭にいるポケモンの長く伸びる毛が、日の光を受けて黄金に輝いているように見えた。

 

 

「あれは、ポッポの群れですね!ということは先頭のポケモンは群れのリーダーでしょうか?」

「・・・あぁ。そうだな」

 

 

隣を見ると、サトシがどこか懐かしそうな目でその群れを眺めていた。前にも見たことがあるのだろうか。今度、サトシの旅の話をもっと聞いてみたい。そう思ったリーリエだった。

 

 

「そろそろ戻ろうぜ。おなか減ってきた~」

「そうですね。しっかり食べて、今日も一日、頑張りましょう!」

「ははっ、がんばリーリエ!って感じだな」

「な、なんですかそれは!?変な名前付けないでください!」

「あはは、ごめんごめん!」

 

 

追いかけっこをするように、二人は宿舎へ戻っていった。二人の表情は、楽しげなものだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おはよう諸君!昨日はよく眠れたかな?今日から本格的に修学旅行の始まりじゃのう。今日の予定を説明するぞ。この後、少しばかりカントーとアローラ地方で異なる姿を持つポケモン、リージョンフォルムを持つポケモンを紹介、その後二グループに分かれて、ポケモンたちの観察に移ってもらうぞ」

 

 

朝食を食べ、着替えなどを済ませたサトシたちは、オーキド研究所に着いていた。研究所内では狭いとのことで既に敷地内の庭に出ていた。博士より、今日の予定が説明される。

 

 

「では、早速あってもらおうかの」

 

 

博士が行くつかのボールを投げると、中から数匹のポケモンたちが出てきた。

 

 

「ここにいるのはディグダ、ガラガラ、サンド、ナッシー、ライチュウ、ベトベトン、そしてロコンじゃ」

 

 

一体一体指を指し紹介するオーキド博士。と、ここでベトベトンがサトシに対して、強烈なのしかかりを食らわせていた。

 

 

「サ、サトシ!?」

「こ、これはやばいんじゃないの?」

「ここは俺が!」

 

 

慌てるアローラ組。サトシを助けようとカキはボールを手に取る。

 

 

「いやいや、安心しなさい。あのベトベトンはサトシのポケモンじゃよ。あれはベトベトンなりのスキンシップじゃ」

「あれが!?」

 

 

衝撃を受けるアローラ組。あれはどう見てもポケモンに襲われているようにしか見えないのだ。がしかし、

 

 

「ははっ、久しぶりだなベトベトン!元気そうでよかったよ」

 

 

当の本人がとてもいい笑顔で戯れているようなので、本当なのだろう。サトシへの挨拶を終えたベトベトンは他のポケモンたちと同様に、みんなの前に並んだ。

 

 

「カキもガラガラ持ってたよね?」

「あぁ。だがこっちとはタイプも違うみたいだな」

「ナッシーって本当にこのくらいの大きさなんだ?」

「ベトベトンの色も一色だけなんだね」

 

 

積極的に関わりに行く他と違い、リーリエは少し離れた場所から観察していた。そんな彼女の足元にカントーのロコンが歩み寄った。突然ではなかったために驚きはしなかったが、少し身構えてしまうリーリエだった。

 

 

「コォン?」

「ロコン、でしたね。アローラと違って赤い体でタイプはほのおタイプ。全然印象が違いますね」

「俺はどっちのロコンも好きだけどな」

 

 

いつの間に戻ってきていたのかサトシが隣に立っていた。

 

 

「シロンと合わせて見たらどうだ?仲良くなれるかもしれないぜ」

「そ、そうですね。では、」

 

 

そう言ってリーリエはボールの中から自身のパートナーであるシロンを出してあげた。白い体毛を持ったロコンを見て、カントーのロコンも驚いたようだった。二匹のロコンはゆっくりと近づき、お互いの匂いを確認しているかのように鼻を近づけ合う。

 

 

同族だと認識したのだろうか、二匹は今楽しげに走り回っていた。

 

 

「仲良くなれたみたいだな」

「そうですね。とても楽しそうです」

 

 

その後、他のポケモンたちとも触れ合いをした後、彼らはそれぞれ研究所の庭へと戻って行った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

フィールドに出かける前に、サトシたちはオーキド博士による最終確認を行っていた。

 

 

「それでは、諸君らにはこれから二つのグループで別々に行動してもらう。とはいえ、ポケモンたちがたくさんおる中、百パーセント安心でもない。それになにぶん敷地が大きくて、迷子になるおそれもある。なので、わしの方で皆のサポーターを用意した」

「サポーター?」

「研究所のどなたかでしょうか」

 

 

オーキド博士に呼ばれ、研究所から出てきたのは一人の人間と一匹のポケモンだった。人間の方は緑の服にオレンジのバンダナ、スケッチブックを片手に持っていた。

 

 

「ケンジ!」

「サトシ、久しぶりだね」

 

 

オレンジ諸島を共に旅した仲間、ケンジだった。再会を喜び合う彼ら。自分と旅をした時よりも成長している友人とその今の仲間たちを見て、ケンジは感心していた。こんなにも大人数でいるのにも関わらず、みんながサトシを中心に思っているのだと。後から来た彼は輪からはじくどころか、いまや彼がその中心にいることに。一通り自己紹介を済ませた彼らの注目は彼の足元、一緒に出てきたポケモンに向かった。緑の模様のある体、背中には大きな緑色の蕾を持つそのポケモンは、ピカチュウと再会を喜んでいた。

 

 

「久しぶりだな、フシギダネ」

「ダネダネ!」

 

 

屈み込みフシギダネの頭を撫でるサトシ。フシギダネはつるのムチを伸ばし、サトシの腕に絡めた。

 

 

「サトシ。この子、知り合いなの?」

「あぁ。フシギダネは俺のポケモンなんだ。カントーを旅した時からの」

「ダネフシッ!」

「このフシギダネは、ここの研究所に預けられておるポケモンたちのまとめ役もしてくれておるんじゃ。案内役にはピッタリなんじゃよ。ケンジはここで助手をしてくれておる。また、ポケモンウォッチャーという、ポケモンの生態を観察する立場でもあるからみんなにとって助けとなってくれるじゃろう。それでは班分けだが、もう決まっておるかの?」

 

 

「はい!俺はリーリエとスイレンと一緒です」

「あたしはカキとマーマネとの班です」

「ふむふむなるほど。ではサトシの班はフシギダネと、マオくんの班はケンジと一緒に行動してもらおうかの。それで構わないかな?」

「僕は構いませんよ。フシギダネは?」

「ダネッ!」

「では決まりじゃの。お昼の時間は13時からじゃから、それまでには研究所に戻ってくるんじゃぞ。時間はたっぷり4時間もある。実りある時間になることを祈っとるよ」

「じゃあみんな。早速行ってくるといい。ただし、時間を守ることと、野生のポケモンには注意するんだぞ。解散!」

 

 

ククイ博士のその一声で、サトシ班とマオ班はそれぞれ別々の方向へ歩き始めた。




ちなみにこれの班わけはpixivで行われたアンケートによります

決して作者が三ヒロインの中で1人を推してるわけじゃありません
ホントダヨー


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触れ合いの初日

懐かしのポケモンたちの一部に出演いただきましょうかな


サトシのフシギダネを先頭に、サトシ、リーリエ、スイレンたちは開けた草原を歩いていた。雲の少ない晴れた空、時折吹き抜ける風が心地よく、木々のざわめきも心を落ち着かせてくれるようだった。

 

 

「スイレン、リーリエ。二人はどんなポケモンを見てみたい?」

「わたくしはサトシの今までに一緒に旅をしてきた仲間を見てみたいです」

「私はみずタイプのポケモンを見てみたいかな。他の地方のはあんまり知らないし」

「そっか。フシギダネ、案内頼めるか?」

「ダネダ!」

 

 

ついてこい、とつるの鞭で合図するフシギダネ。この研究所のポケモンたちをまとめているだけあって、さすがに詳しいようだ。しばらく歩いていると、きれいな湖の近くにたどり着いた。そこにはナゾノクサやヒトデマン、ヤドンなどの水辺でよくみられるポケモンたちもいた。フシギダネの姿を見かけると、ポケモンたちは友好的な鳴き声を上げ、挨拶をしていた。それに応えたフシギダネ、サトシたちを連れて近づいていく。フシギダネがいるからか、ポケモンたちはサトシたちに対してもあまり警戒心はなかった。

 

 

「こんにちは!俺サトシ。こっちは相棒のピカチュウ。俺たち、これからしばらくこの研究所でみんなのこと観察したり、お世話したりすることになったんだ。よろしくな」

「ナゾ」

「ヘァッ」

「ヤードン」

「私スイレン。この子はパートナーのアシマリ」

「アウアウッ!」

「初めまして。わたくし、リーリエと申します。この子はシロンです」

「コォン」

 

 

すぐに声をかけに言ったサトシに倣って、スイレンたちも挨拶をした。リーリエも、距離こそ二人ほど近づくことはできなかったが、それでもちゃんとポケモンたちにあいさつができているあたり、進歩しているのだろう。ポケモンたちも笑顔でサトシたちにあいさつを返した。

 

 

「フシギダネ、ここには誰がいるんだ?」

「ダネダネッ!ダネダネダ~!」

 

 

地面をしっかりと踏みしめたフシギダネの背中のつぼみから小さな光の玉が数メートル上がり、花火のように弾けた。

 

 

「今のって?」

「フシギダネのソーラービームだよ。俺のフシギダネはソーラービームの威力や色を変えることで、いろいろな合図を出すことができるんだ」

「ソーラービームで合図を?こんな風にソーラービームを使用するポケモン、わたくし見たことも聞いたこともありません。すごいポケモンなんですね」

「褒められてるな、フシギダネ」

「ダネ~」

 

 

しばらくすると、湖の中から何匹かのポケモンが飛び出してきた。

 

 

「ワニャワニャ!」

「ミィジュ?」

「ヘイヘ~イ!」

「ゲロッ」

「ブイ!」

 

 

踊るように飛び跳ねる水色のわにのようなポケモン、おなかにホタチがついているラッコのようなポケモン、陽気にはしゃぐ赤色のカニのようなポケモン、ゲッコウガとはまた違ったカエルのポケモン、そして不敵に腕を組んだオレンジ色のポケモン。何か用か?と言うようにフシギダネの方を向き、その隣にいるサトシに気づくと、一斉に飛びかかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ひゃあ!?」

「わわっ、サトシ!?」

 

 

近くにいたリーリエはおどろきのあまりに後ろに飛び下がり、スイレンは目の前の光景にあっけにとられていた。サトシはというと

 

 

「あはは、わかった。わかったから。みんな落ち着けって」

 

 

と、噛みつかれたりハサミで叩かれたりと散々な目にあっていながらも笑顔でそれぞれのポケモンを撫でていた。

 

 

「これって、ベトベトンと同じスキンシップ?」

「ということは、もしかして」

 

 

一通り挨拶が終わったようで、ポケモン達が落ち着くと、サトシは紹介をし始めた。

 

 

「みんな俺の旅の仲間達なんだ。踊ってるのはワニノコ、ホタチを持ってるのがミジュマル、陽気なのがヘイガニ、表情豊かなのがガマガル、腕を組んでるのがブイゼルだ。他にもいるんだけど、みんな俺がゲットしたポケモンだ。みんな、こっちはスイレンにリーリエ、アローラ地方での俺の仲間なんだ」

 

 

サトシのポケモン達が挨拶するように声を上げる。全員が幾戦もの経験者であることはリーリエ達にすぐにわかった。ナゾノクサやヒトデマン達とは纏う雰囲気が違ったからだ。どこかサトシのピカチュウやゲッコウガも纏っているのに近いものだ。

 

 

同じみずタイプのアシマリがスイレンの腕の中から飛び出し、彼らの前に進んだ。サトシもボールからゲッコウガを出してやると、みずポケモン達による交流会のようなものが始まった。と、フシギダネがキョロキョロとまるで誰かを探しているように辺りを見渡していた。

 

 

「どうした、フシギダネ?」

 

 

サトシがフシギダネの様子を確認したその時、水面から一つの影が飛び出して来た。くるくると回転していたその影はスタッと着地をした。背中の甲羅に水色の体、キラリと光を反射するサングラス。

 

 

「ゼニガッ!」

 

 

ビシッとポーズを決めたのは、カントーが誇るみずポケモン、ゼニガメだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「わたくし、本で読んだことがあります。この子はゼニガメですね!確か、カントー地方でトレーナーが旅をするときに渡される初心者用ポケモンの一体。ヒトカゲとここにいるフシギダネと同じ、通称御三家ポケモン」

「みずタイプのポケモン、アシマリと同じだね」

 

 

ゼニガメの登場に驚きながらも、早速初めて見るポケモンに二人は興味津々だった。と、ゼニガメはサングラスを外しながら、サトシの方へかけていくと、その腕の中に飛び込んだ。

 

 

 

 

「ゼニガメ!お前こっち来てたのか?」

「ゼニゼニ」

「ピィカァチュ!」

「ゼニガ!」

 

 

再会を喜びあうピカチュウとゼニガメ。そこへフシギダネや他のサトシのポケモン達も混ざり、仲睦まじい光景が広がった。

 

 

 

 

「サトシ、あのゼニガメもサトシのポケモン?」

「あぁ。今はゼニガメ消防団のリーダーをやっていて、普段はこっちにはいないんだけど。戻って来てたのかぁ」

「それにしても、なぜゼニガメも?初心者用のポケモンは確か一人につき一匹しか渡されないはずでは?」

「あぁ、旅の途中で会ったんだ。フシギダネも、ゼニガメも。また今度みんながいるときに話すよ」

 

 

視線を再びポケモン達に戻すと、初代サトシのみずタイプであるゼニガメと、サトシのみずタイプポケモンの中でも最強クラスの実力を誇るゲッコウガが握手をしていた。ゼニガメなりに、ゲッコウガを歓迎しようというのか、気づけばみずポケモンによる歓迎レースが始まろうとしていた。

 

 

「おぉっ、みんなやる気満々だな!」

「アシマリも参加する?」

「アウッ!」

「アシマリも頑張ってくださいね」

 

 

みずのレースは凄まじいものだった。驚異的なスピードで水面をかけるゲッコウガ、水中をものすごいスピードで進むアシマリ、アクアジェットで推進力をあげたミジュマルにブイゼル、さらには水上レース出場経験のあるワニノコに、元祖みずタイプの意地を見せるゼニガメ。白熱したレースに、サトシもスイレンもリーリエも応援し、笑い、楽しむことができた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

サトシ達がみずタイプのポケモン達と遊んでいる頃、マオ達は身の前の光景にただただ度肝を抜かれていた。

 

 

目の前にあるのは森の中にある大きな広場。それを半分ずつ、ふた組みのポケモン達が使用していた。しかしそれはどう見ても穏やかな目的ではなかった。炎が燃え、木の葉が舞い、地面には穴が空き、鳴き声が轟き、激しい衝突音が何度も響いた。

 

 

片側では空を舞う大きなポケモンが炎を吐きながら地上にいる方を追い詰めようとする。それに対して、もう一匹は高速で移動しながら躱し、高い脚力で木々を蹴りながら、空にいる相手に接近した。振り下ろされた緑色の刃と長く伸びた鋭利な爪が激突し、両者が地上に降りると戦いの激しさも増し、巨大な炎と光の光線が中央で爆発を起こした。

 

 

もう一方では地上と地中の両方を駆使しながら激突する二匹。彼らの周囲は穴だらけで、まるで小さな隕石がいくつも降り注いだ後のようだ。吐き出される炎は岩の壁に阻まれ、エネルギーをまとった爪による一撃は音速の拳に阻まれる。一方が素早く地面に潜り、巨大な牙による一撃を躱したかと思えば、もう一方は地面からの攻撃をその爪で受け止める。

 

 

どちらを見ても、一歩も譲らない激しい激闘が繰り広げられている。一体ここは、なんだというのだろうか。

 

 

みんながそう思ったとき、後ろにいたケンジが

 

 

「ここはポケモン達のバトルフィールド。研究所のポケモン達が腕試しをするために使われるんだ。こうして修行するポケモンもいるってことだよ。まぁ、ここまでのは珍しいんだけどね」

 

 

と解説してくれた。その様子を見ていたのは自分たちだけではなかった。フィールドの外には何匹ものポケモン達の姿が見える。応援するように声をあげるもの、静かに鑑賞するもの、バトルしたさそうにうずうずしてるものと本当に様々だ。

 

 

「なんか、すっごいとこに来ちゃったね〜」

「僕もう何が何だか」

 

 

他二人が呆然とする中で、カキはそのポケモン達の様子を食い入るように眺めていた。




最後に出たポケモン、誰だかわかりましたか?

XY&Zでも出てましたよね


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成長の片鱗

こんなサトシくん見たらみんな驚くかもしれませんね


お昼の時間、それぞれがポケモン達との触れ合いを経て、研究所まで戻って来た。楽しそうに生き生きしているサトシ達と、あまりの驚愕に疲れが見えるマオ達。まるで逆の表情をしていた。カキは涼しげだったが、他の二人は本当にげっそりしていたのだ。

 

 

「お二人とも、大丈夫ですか?」

「な、なんとかね」

「僕、もう疲れちゃったよ」

 

 

よほど衝撃を受けたようだった。その様子に無理もないか、とケンジは苦笑していた。強さの探求に余念がないのは前からだったが、カロスリーグでの後輩達の活躍を見て、彼らもジッとしていられなかったのだ。

 

 

その地方で出会い、その旅の間だけで、彼らはあれだけの力をつけ、リーグでその猛威を振るった。メガアブソルを一騎打ちで倒した実力者ルチャブル。炎を纏い加速し続け、ジム戦でも活躍してきたファイアロー。何度技を受けても倒れることなく、それを力にすることができるヌメルゴン。卵から孵ってから僅かな時間しか経っていないとは思えない力をつけていたオンバーン。そしてサトシとの絆が深まれば深まるほどその力が増していき、誰も知らない高みへ行けるとまで予言されたゲッコウガ。

 

 

シンオウリーグの時とも違い、本当に彼らだけの力で勝ち上がり、あと少しのところまで辿り着いたのだ。結果は準優勝ではあったが、それでも今までで一番の成績だった。その結果が、それを成し遂げた彼らの存在が、彼の他のポケモン達に火をつけたのだ。

 

 

 

 

 

 

ケンジが博士達と一緒に見ていたあのリーグ戦を思い出していると、彼らの前にオーキド博士が食材を並べていた。ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎなどなど。もうこの時点でなんとなく想像できるとは思うが、博士は笑顔で彼らに告げた。

 

 

「今日のお昼は君たち自身で用意して見なさい。シチューのための材料や器具は用意してある」

「えっ、俺たちでですか?」

「サトシ、お前さんはいろんなところを旅して来たから知っておると思うが、必ずいつも料理が用意されるわけではないじゃろ?これもまた経験じゃよ」

 

 

頷くサトシたち。特にサトシは最近少しずつ教えてもらっていることもあり、練習にもなると意気込んでいた。それなりに料理をする女性陣も一緒に料理をするのが楽しみみたいで、すでに材料や器具の確認、手順をああでもないこうでもないと相談していた。

 

 

 

 

えっ?男性陣はどうしたかって?彼らの表情を見れば一目瞭然ですよ。全く乗り気ではありません。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「こうして包丁を固定して、っと」

「サトシやるじゃん!」

「うん。うまいうまい」

「これも特訓の成果かな。リーリエの教え方上手だし」

「サトシが頑張ってるからですよ」

「じゃあじゃあ、今度はあたしが教えてあげよっか?アイナ食堂の看板娘、マオちゃんが直々に」

「私も教えられるよ。よく妹のために作ることもあるし」

「いいな。またこうやってみんなで作るのも、楽しそうだ!」

 

 

今までのサトシからはとても想像できない光景である。ポケモンと直接関係のない、料理の話題で盛り上がっているのだ。これには少し離れて様子を見ていたオーキド博士もケンジもびっくりしていた。

 

 

「サトシも成長しとるんじゃのう」

「僕と旅してた頃からも、それなりに経ちますからね。いろんな旅の中で、思うとこがあったんでしょう」

「うむ。良いことじゃな。しかしあのサトシが自分から料理を教わろうとするとはのぉ」

「みんなびっくりしますね」

 

 

一方カキとマーマネは火起こし担当だった。と言ってもカキのバクガメスのおかげでそれはすぐに済み、先程サトシたちの切った野菜を炒めていたところだ。

 

 

「あー、お腹すいたよ〜」

「我慢しろ。全員そうなんだからな」

 

 

火の加減を見ながら、カキは先程見たポケモンたちのことを考えていた。全員が歴戦の猛者ともいえる風格と、それに見合うだけの実力を持っていることははたから見ていてはっきりとわかった。あれ程にまで鍛えられているポケモンたち。世界にはまだまだ自分の到底届かない場所があるのを痛感する。

 

 

考え込みすぎてご飯の方が少し焦げてしまったのだが、みんなが笑って美味しく食べられたので、結果オーライとしよう。




皆さんは料理しますか?
あっ、答えなくてもおけです。アンケートではないので。

ちなみに作者はたまにしかしませんね。1人で食べるのに力入れて作るのはめんどくさい。


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最初のイベント

サトシのポケモンたち、まだまだ出てきますよー
今回はサトシの手持ちといえば、の彼らに登場してもらいます


みんなが食べ終わったところで、オーキド博士から修学旅行最初のイベントの紹介があった。それは、

 

「地方対抗、鳥ポケモンレースじゃ」

 

これから各地方を代表する鳥ポケモンたちによるレースを行うとのこと。サトシたちは誰が優勝するのかを予想し、そのポケモンとペアを組み、レースに挑むこととなる。なお妨害行為にならなければ、技の使用も可とするとのこと。

 

「では、ポケモンたちを紹介しようかの」

 

カロス代表はご存知ファイアロー。ほのおタイプも持ち、ニトロチャージでスピードをどんどん上げられるため、最高速度は未知数だ。バトルの経験も豊富で、リーグで見せた空中戦は記憶に新しい。

 

イッシュからはケンホロウ、今回参加するのはメスであり、バトルの得意なオスと違い、飛行することが得意であり、レース向きである。進化する前の時でも、ひこうタイプのジムのポケモン以上の飛行を見せつけた。

 

シンオウを代表するのはムクホーク。大きな体とやや怖めの顔立ち。インファイトやブレイブバードなどの強力な技も使いこなし、戦闘能力は彼らの中でも高い。

 

ホウエンから参加するのはオオスバメ、その身体は加速しやすく、最高速度に到達するのも早い。直線勝負においてはその力を遺憾なく発揮する。でんきに対しても強いという、唯一無二の特徴を持っている。

 

そして最後に並んでいたのはジョウトを代表するヨルノズク。このヨルノズクは色違いで、かつやや小柄ではあるが、侮ることなかれ、知能は随一である。

 

 

目の前に現れた見慣れないポケモンたちにマオたちは興味津々だった。

 

「こいつは、ほのおタイプだな。なかなか素早そうだ」

「こちらのヨルノズク、色違いですね!ヨルノズクの知性は高く、技の応用も効きそうですね」

「おっきいなぁ。トゲデマルも普通に乗せられたりして」

「この子、女の子なんだ。なんか可愛いかも」

「この子、すっごく速そう。それにかっこいい」

「みんなバトルも強いんだぜ!一緒に旅をしてた時も、いっぱい助けられたなぁ」

 

ポケモン達と触れ合いながら盛り上がるサトシ達。と、ここでサトシがあることに気づく。

 

「博士、カントー代表は?」

「それがのぉ、今はちょうどピジョットがこの研究所にはおらんのじゃよ。ポッポやピジョンを代わりに呼ぼうかとも思ったが、せっかくなら最終進化したもの同士でと思っての」

「あぁ、なるほど」

「というわけですまんがサトシ、お前さんは今回はみんなのサポートに回ってくれ」

「へ?」

「ポケモンと人間のペアが5つしかできないのでな。それに皆サトシのポケモン。お前さんが誰より特徴を知っておる。じゃから彼らと仲良くなれるように手助けしてやるといい」

「それもそうですね。わかりました。俺、やります!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

こうして鳥ポケモンレースのためにサトシのクラスメートはそれぞれサトシの鳥ポケモンとペアを組んだ。その組み合わせはというと、

 

「カキだ。俺はほのおタイプを専門にしている。お前の熱い炎で、一緒にレースで勝とうぜ」

「ファロー!」

 

「ポケモンの特徴や技をしっかりといかして、見事な作戦を作ってみせます!よろしくお願いしますね」

「ホー」

 

「ふふん。大きな体に大きな翼。間違いなく羽ばたきの回数が少なくても速く飛べる!後は空気の流れを僕がうまく指示すれば負けるはずがない!」

「ムクホー」

 

「女の子もやるときはやるんだから。あたしと一緒に女子の底力、見せてあげようよ」

「ホロー」

 

「スタートが肝心だね。その後は直線で一気に勝負をつけよう」

「スッバァ!」

 

各々がしっかりと考えた上でパートナーを組んだ。なかなか面白い組み合わせが出来、サトシもワクワクしてきていた。

 

「みんなやる気入ってるな。しっかりと応援しようぜ、ピカチュウ」

「ピカチュ」

 

その後、それぞれとの最初の触れ合いや特徴、性格などをサトシから教わった彼らは各自で調整に入った。一通り手伝いを終えたサトシは少し一人で休憩していた。

 

「誰が優勝するのかなぁ。な、ピカチュウ?」

「ピィ〜カ」

 

彼らは誰も彼もがそれぞれの地方で活躍してきた仲間達だ。レースも時々やっていたらしいし、みんな飛ぶことに関しては自信を持っているだろう。後はパートナーとの相性と作戦。ボーッと空を見ながら考え事をするサトシ。ふと、大きな影が彼の上を通った。それも3つ。はっとするサトシ。その前に3つの影は降り立った。長い髪のようなトサカが、陽の光を浴びてキラキラ輝くようだった。

 

「お前・・・」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、それぞれで調整に入ったサトシのクラスメート達。その様子を少し覗いてみよう。

 

「なかなかの飛びっぷりだな。パワーもスピードも申し分ない。流石、サトシのゲッコウガとともに戦ってきただけのことはあるな」

「ファロ?」

「あぁ。ゲッコウガとはバトルしたことがある。あれほど強いポケモンも珍しい。実力的にも、トレーナーとの絆もな。」

「ファロ」

「まぁ今回はバトルではなく、あくまでレース。ニトロチャージを使ってもいいなら、スピードに関しては間違いなくお前が最速になれる。使えば使うほど速度を上げられるなら、いかに連続して使えるかが鍵だな。重要なのはタイミングだな」

「ファロー!」

 

 

「ヨルノズクは今回の他の鳥ポケモンと違ってエスパー技も使える。これをうまく活かせればいいんですけど」

「ホー」

「空中での方向転換、それを補助することができれば無駄なく動けるのでは?確かヨルノズクの今覚えている技は・・・」

「ホー?」

「ひゃあっ!あ、いえ、だ、大丈夫です。大丈夫です」

「ホー」

「うう、わたくし、もっと頑張らなくては。サトシだってわたくしならできると言ってくれましたし」

 

「ふふん、僕のこの発明を使えばバッチリとサポートできるさ。現在の風速、風向、気圧や温度からその先の空気の流れを予測できる!」

「ムクホー?」

「むふふふ〜、後は僕がしっかりと指示出しできれば問題ないんだけど・・・声が届くようにできる装置もいるかな?ムクホーク、ちょっと首回り測らせてくれない?」

「ムクホ?」

「ちょっとごめんね〜。ふむふむ、これくらいの長さのものになるかな?後はここにこうしてっと」

 

「どう?気持ちいい、ケンホロウ?」

「ホロ〜」

「でもレースかぁ、実際に乗って指示するのとは全然違うんだろうな〜。なんかちょっと楽しみだな〜」

「ホロッ!」

「そういえばケンホロウはレースが得意なんだよね?じゃあやっぱり優勝狙って頑張らなきゃね」

「ホロ」

 

「ズバァ!」

「いい調子だよ。どんどん行くよ。アシマリ、バルーン」

「アゥ!」

「ズバッ、スッバァ!」

「全部割れたね。凄いよ、オオスバメ。アシマリもお疲れ様」

「アゥ」

「速いのにしっかり曲がれるし、体制も崩れないし。頑張ろうね、オオスバメ」

「ズバァ!」

 

各々が自分たちなりのやり方でポケモンを知り、協力し合っていた。ポケモンたちはサトシのクラスメートたちとも打ち解け、博士の期待以上の触れ合いになっていたとか。

 

 

 

 

 

「こうしてまたお前の背中で飛べる日が来たの、すっげえ嬉しいよ」

「ピィカチュ」

「お前が育てたあいつらなら安心だな。きっと立派に群れを守るリーダーをやってくれるさ・・・ありがとな、待っててくれて。長いこと、待たせてごめん」

「ピカピ」

「だから、今日はお前の全力、しっかりと見せてくれよな」

 

そう言われ、サトシを乗せていた大きな影は急上昇した。最愛の主人に、今の自分を知ってもらうため。この喜びを、言葉ではない方法で、伝えるために。

 




さて、サトシの前に現れたのは一体?

答えは次回の投稿で!お楽しみに!


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空の大勝負

とりあえず、それぞれに何かしら特徴が現れるように頑張ったやつですね

上手く表現できたかは知りませんけど


時間となり、みんなレースの会場となる広場に集合した。どのペアもやる気十分、気合いっぱいだった。しかしサトシだけまだ現れていなかった。

 

「サトシ、どうしたのかな?」

「さぁな。すぐに来るだろ」

「トイレとかじゃないの?」

 

会話をしていたところへ、サトシが森の方から走って来た。

 

「ごめんごめん。お待たせ」

「何かあったのですか?」

「いやぁちょっと時間を忘れちゃってて。博士、お願いがあります」

「ん?何かね?」

 

サトシは1つのボールを取り出した。

 

「こいつと一緒に参加させてください!」

「こいつ?はて、他に鳥ポケモンを持っておったかの?」

 

上空に投げられるモンスターボール。その中から一羽のポケモンが飛び出した。大きな体と翼、鋭い目つきに、長くたなびく金色のトサカ。サトシたちの周りを一周した後、そのポケモンはサトシの隣に降り立ち、一声鳴いた。

 

「ピジョーッ」

「帰って来た、こいつと!」

 

カキたちは現れたそのポケモンに見惚れた。力強さと優雅さを併せ持つそのポケモンは、一目で只者ではないことがわかる。唯一リーリエだけは、見覚えがあった。

 

「サトシ、このポケモンはもしかしてあの群れの?」

「あぁ。紹介するよ。こいつはピジョット、俺が初めてバトルしてゲットしたポケモンでもあるんだ。群れのリーダーとして今まで手持ちから離れてたけど、今日帰って来たんだ」

「やっぱりあの時、先頭を飛んでいたポケモンなのですね」

「えっ、なになに?リーリエはこのポケモンを知ってるの?」

「いえ、今朝見かけたというだけのことです」

 

サトシたちがピジョットの話題で盛り上がる一方、他の鳥ポケモンたちと挨拶をするピジョット。自分たちの先輩の登場に、彼らはまた気合いを入れ直した。

 

「まさかピジョットが帰って来ておったとは。じゃがこれで全員がペアを組むことができたし、カントー代表も参戦できる」

「この勝負、断然面白くなって来ましたね、博士。でも、もう群れの方は良かったのかな?」

「あぁ、新しくピジョットに進化したやつがいてさ、そいつが新しいリーダーになるみたいだ」

「もしかして、会って来たのかい?」

「というよりも、会いに来たって感じだな。ピジョットを見送りに来てくれた。オニドリルと一緒に」

「そっか。ってオニドリルも!?」

「今は仲良くやってるみたいだぜ。いいライバルって感じだった」

「そうなんだ、でも、これでサトシの鳥ポケモン大集合だね!」

「これは、だいばくはつ級に激しいレースになりそうだな」

 

改めて整列するサトシの鳥ポケモンたち。空を飛ぶこと、その点において誰にも負けたくはない。レースもそうだがバトルでも。自分のトレーナーに勝利をもたらすためにも。自分たちの意地にかけても、負けられない。

 

「それでは皆用意はいいな?フシギダネ、頼んだぞ」

「ダネ!ダネダネ〜ダー!」

 

打ち上げられたソーラービームがしばらくしてから空で弾けた。それを合図に、ポケモンたちは一斉に飛び立った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

最初に先頭に飛び出したのはオオスバメだった。空気の抵抗を受けにくい身体を持っていたがためか、加速が早かった。そのすぐ後ろにケンホロウが並ぶ。飛ぶことに特化していることもあり、オオスバメから大きく離されることはなかった。

 

「いいよ、オオスバメ。その調子!」

「頑張って、ケンホロウ」

 

接戦を繰り広げる両者を1つの影が抜かす。でんこうせっかを発動し、その大きな翼で力強く羽ばたいたムクホークが先頭に躍り出た。その首にはマーマネの発明品が取り付けられている。まるで風の流れを予測しているかのように、ムクホークは流れを自分のものにしていた。

 

「ふふん。僕がここで風の流れを分析し、この通信機でムクホークに伝える。これによって風を僕たちに有利なように使えるんだ。負けるわけないね」

 

負けるまいとオオスバメとケンホロウもでんこうせっかで追いつく。三羽が先頭でコースの森へ入った。

 

 

余談だが、サトシたちにはレースの状況がしっかりと伝わっている。新リーダーに就任したピジョットの協力で、ロトムがカメラマンとして映像を送ってくれているのだ。

 

「あれ?変だな?僕の声がうまく届いてないみたい」

 

ここで電波状態の異常か範囲外に抜けてしまったのか、マーマネからの通信が途絶え、風の有利をキープできなくなってしまうムクホーク。

 

森の中はやや暗く、ぶつからないようにするのも一苦労だった。スピードが落ちるムクホークたち。そんな中、難なく障害物を躱しながら彼らを抜かしたのはヨルノズクだった。視界の悪い中でもヨルノズクのスピードは落ちず、まるでどこに何があるのかをあらかじめ理解しているようだった。

 

「ヨルノズクはみやぶるであらかじめ先を見ることができます。これならスピードを落とすこともなく、障害物を躱すことも簡単です」

 

森を抜けるヨルノズク。その後からケンホロウ、オオスバメ、ムクホークと続く。折り返しの木の周りを回るとあとは直線のみ。みなラストスパートをかける。

 

「ファロー!」

 

と、その後ろから炎をまといながら凄まじいスピードで迫るファイアロー。ここに来てニトロチャージを連続で発動し、ますます加速する。

 

「森だとスピードを上げ過ぎると危ないからな。だが直線ならなんの心配もない。ここで連続で加速し、最高速度を上げ続ける。元々のこいつのスピードを考えれば追いつけないはずがない!」

 

ファイアローはここまでニトロチャージを温存し、直線勝負に全てをかけることにしていたのだ。でんこうせっかが使えなくとも、自慢のスピードはどこまでも上がる。それを利用した作戦だった。追いついてくるファイアローに負けまいと、他のポケモンも全力で飛ぶ。

 

ほぼ横並びで飛ぶ彼ら。その上を大きな影が通った。激しく羽ばたくこともせず、技を使うこともせずに、そのポケモンは優雅に飛んでいた。大きな身体からは力強さや威厳が溢れ、長く伸びる金色のトサカは美しさを醸し出し、余裕のある雰囲気はそのたくましさを際立たせる。

 

他の彼らは追いつけずにいた。最高速度が上がり続けているはずのファイアローでさえ寧ろ引き離されてきた。その姿に、カキたちは見とれた。

 

「かっこいいなぁ」

「すっごく綺麗」

「まさしくゴッドバードという言葉が似合いそうだな」

 

そのまま圧倒的な力を見せ、ピジョットが一位でゴールインした。地面に着地するその動作までもが美しく、言葉を奪われるかのようだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「優勝はサトシ、ピジョットのペアじゃな。おめでとう」

「ありがとうございます。ピジョット、ありがとな」

「ピジョー」

「二人にはこれをやろう。オーキド研究所の記念リボンじゃ」

「記念リボン?」

「うむ。最近新しい取り組みでの、研究家が優秀と認めたトレーナー、あるいはポケモンにその研究所公認のリボンを渡すようになったのじゃよ。ポケモンたちが別の地方に行った際でも、研究所間での情報交換が楽になるしのぉ」

「へぇ。ピジョット、つけてやるよ」

 

そっと首にリボンを結ぶサトシ。白と赤のそのリボンはピジョットの首元でも映えた。自分のカバンにもリボンを結ぶサトシ。青いリュックのため、そのリボンはひときわ目を惹く。

 

「お揃いだな」

「ピジョー」

「改めて、おかえり。ピジョット」

「ピジョート!」

 

強い絆で結ばれているのがよく分かるこのやり取り、カキたちは改めて思う。強いからサトシが仲間にしたんじゃない。サトシの仲間だからこそ、彼らは強いのだと。サトシだからこそ、ここまで強くなれたのだと。

 

「サトシってやっぱりすごいね」

「うん、なんか」

「僕たちとは全然違う感じするなぁ」

「あいつ、本当に難なく島巡りも終えそうだな」

「でも、困っていたら力になりましょう。わたくしたちは、サトシの仲間なのですから」

「そうだね」

「うん」

「まぁね」

「あぁ」

 

彼らの絆が、また一つ深まったのだった。




やっぱりピジョットはかっこいいですからね〜

サトシが初めてバトルしてゲットしたポケモンですし
本当に、手持ちに戻ってきませんかね〜


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旅の始まり

今年の映画が楽しみだな〜

でも忙しくて映画館まで行ける気がしない


夜、夕食や風呂を済ませたサトシたちは皆集まっていた。サトシの思い出話を聞くために。

 

「というわけで、早速サトシが旅に出た時の思い出、聞かせてよ」

「ん?あぁ。もうだいぶん前のことなんだよなぁ。10歳になった年に旅に出たんだ」

「最初のポケモンは?」

「確かこの地方ではフシギダネ、ゼニガメ、ヒトカゲから選ばれるのですよね?ですが、フシギダネもゼニガメもいましたね」

「どっちが先だったの?」

「実は、俺の最初のポケモンってピカチュウなんだ」

「えっ、ピカチュウが?でもピカチュウは気難しいところもあるから、初心者には向かないんだけどなぁ」

 

流石にマーマネ、でんきタイプに詳しく疑問を感じた。そもそも

 

「実はポケモンをもらう日、俺寝坊しちゃったんだ」

「「「「えぇっ!?」」」」

「おいおい」

「それで、俺以外に3人旅に出るトレーナーがいたんだけどさ、みんな先に出ちゃったから3匹ともがいなかったんだよね」

「もぅ、サトシらしいというかなんというか」

「今でも時々寝坊しますしね」

「あははは。でさ、その時にオーキド博士が残ってるって言ってくれたボールに入ってたのがピカチュウなんだ」

 

今でも思い出す。パジャマのままの自分、ボールから溢れた眩しい光、そしてそこで出会い、今尚相棒として共にいるその黄色い姿。

 

「最初はピカチュウも俺のいうこと聞いてくれなくてさ、何度も電撃を浴びせられたよ。な?」

「ピーカチュ」

 

たははーとでも言わんばかりに前足で後頭部をかくピカチュウ。今こうして彼の方にずっと乗っているその様子からは、仲が悪かった時があったなんてとても想像できなかった。

 

「そんなに仲悪かったの?」

「握手もしてくれなかったし、初めてのポケモンゲットに挑戦しようとした時も全然協力しようとしてくれなかったんだよなぁ」

「ピカチュウ、反抗期みたいだね」

「しょうがないと思うよ。さっきも言ったけど、ピカチュウは気難しいからね〜」

「それでは、どうやって今のような関係になったのですか?」

 

リーリエの疑問にサトシは方に乗っているピカチュウを見る。二人とも懐かしい思い出に想いを馳せ、少し嬉しそうだった。

 

「俺さ、初日にポケモンをゲットしてみせる!って感じに意気込んでてさ、ピカチュウが協力してくれないなら一人でもって。そしたら、オニスズメを怒らせちゃって」

 

ポッポと同じく、カントー地方を代表する鳥ポケモンのオニスズメ。しかしポッポと違い、気性が荒いことで知られている。そのオニスズメを怒らせてしまったのだ。

 

「二人でオニスズメの群れから逃げることになったんだ。けど、ピカチュウはだいぶ傷ついてしまったんだ。俺の行動のせいで。二人揃って、ボロボロになって。それでもピカチュウだけは守ってやりたいって、そう思ったんだ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

全くボールに入ろうとしないピカチュウの前に、サトシはボールを置いた。その中ならピカチュウは無事でいられるからと。そしてオニスズメの群れの前に、ピカチュウをかばうように立った。

 

『俺をなんだと思っているんだ!!俺はマサラタウンのサトシ!!世界一のポケモンマスターになるんだぞ!! こんなところで負けてたまるか!!かかってこい!!みんなまとめてゲットしてやる!!』

 

その頃のサトシは、無知で無謀な少年だったかもしれない。でもその頃から変わらないもの、それはポケモンへの愛情。その愛情が、その覚悟が、勇気が、ピカチュウを動かした。サトシの体を駆け上がり、サトシの前、オニスズメの群れへ突っ込むピカチュウ。その身体に雷が落ちると、強力な電気技が発動し、群れを吹き飛ばした。

 

朝、そのあと気絶してしまった彼らはほぼ同時に目を覚ました。ボロボロの体のまま見つめ合うサトシとピカチュウ。自然と笑みが浮かぶ。

 

何かの気配を感じ空を見上げた二人。大きなポケモン、虹色の輝きを纏いながら優雅に飛ぶその姿に二人は見とれた。そのポケモンが通った後には二人の出だしを祝福するかのような美しい虹が空にかかっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「こうして、俺たちの旅が始まったんだ」

 

サトシの話に皆引き込まれていた。ポケモントレーナーとして、一人で旅に出ることをまだ経験していない彼らにとって、サトシの始まりは驚くことが多かった。

 

「そういえば、最後に現れた大きな鳥のポケモンって?」

「カントーでしたらオニドリルやピジョットあたりではないでしょうか。もちろん他のポケモンの可能性も否めませんけど」

「虹色の輝きっていうのがよくわからないんだけど」

『そんな技や現象、ピジョットやオニドリルのデータには載ってないロト』

 

あぁでもないこうでもないと考えるクラスメートを眺めながら、サトシは答えた。

 

「あれはさ、ホウオウってポケモンだったんだ」

「ホウオウ?」

『ホウオウ、にじいろポケモン。ほのお・ひこうタイプ。人を常に見守り、七色に光り輝く姿を持つ。ホウオウの通った後には虹が掛かると言われている』

「わたくし、本で読んだことがあります!確かジョウト地方で主に知られている伝説のポケモンでエンテイ、ライコウ、スイクンの三体を蘇らせ、使者として人間を監視させたと言われています。それに、本当に心優しい人間の前にしか現れないとも」

「その伝説のポケモンを、旅の初日から見たというのか?」

「すっごいね、サトシ」

「そうかな?でもあの時、まるで応援してもらっているみたいな気がしてさ。いつかちゃんと出会えるといいなって思ってるんだ」

 

こうして、修学旅行1日目は過ぎていった。サトシの知らなかったすごい部分を見て、大いに刺激を受けた彼ら。しかしそれはまだ序の口。本当のびっくりはまだまだここからだった。




あの時のホウオウ、本当に謎のポケモンでしたからね〜

今年の映画ではどこまで活躍してくれるのかな
楽しみだなぁ


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初めのポケモンたち

お詫びというわけではありませんが、何とか書き上げたやつを載せます

本当にすみませんでした


翌朝、天気は良く気持ちのいい風が吹く中、サトシたちは研究所に集まった。午前の特別体験教室、『初心者用ポケモンを知ろう!』が始まろうとしていた。

 

「さて、みんなはポケモントレーナーになったら地方によっては旅に出ることがあるのはご存知じゃな?サトシもトレーナーになったその日に旅に出て、いろんな街を回ることになった。今日はその旅の最初の仲間、新人トレーナーのパートナーとして選ばれるポケモンたちを紹介しようと思う」

「サトシは最初のポケモンはピカチュウだったけど、他の人はみんなこの初心者用ポケモンと一緒に旅に出るんだよね?」

「最初に出会うポケモン。やっぱり特別だよね」

「その気持ち、わたくしも良くわかります。このこと初めて出会った時のことは忘れられません」

「では外に出よう。皆、待ってもらっておるしの」

 

庭に出てみると、数多くのポケモンたちがそこにはずらりと並んでいた。小さい体のポケモンから、大きな体を持つポケモンまで、様々なポケモンがいた。共通することは、彼らが全員ほのお、みず、くさタイプのいずれかであることだ。

 

「ではまずカントーのポケモンたちから。フシギダネ、ゼニガメ、そしてヒトカゲの3匹から選ぶこととなる。今おるのはリザードンで、ヒトカゲの最終進化系じゃ」

 

研究所のリーダーフシギダネ、元祖みずポケモンゼニガメ、そして森のバトルフィールドで激闘を繰り広げていた最強を目指すリザードン。最も古いサトシのポケモンたちだけあって、貫禄が随一であった。これ程にまで育てられたポケモンはククイ博士からしても珍しかった。

 

「続いてジョウト地方の3匹はワニノコ、ヒノアラシ、チコリータじゃ。この子たちはヒノアラシの進化系であるマグマラシと、チコリータの進化系のベイリーフじゃよ」

 

踊り好きなワニノコ、真面目なマグマラシ、そしてサトシ大好きー!なベイリーフ。ベイリーフが紹介の間ずっとサトシにのしかかりによる愛情表現をしていたことを既に当たり前のように受け入れてしまったアローラ組。どうやら修学旅行は思わぬ方向に影響を与えているようだ。

 

「ホウエンにはアチャモ、ミズゴロウ、キモリの3匹が選ばれておる。ここにいるのはキモリの最終進化系のジュカインじゃ」

 

木の枝をくわえ佇むジュカインはクールだった。あの激しいバトルを知っているカキはその落ち着きぶりからもその強者の風格を感じ取った。鋭い眼もまた、その強さを語るようだった。

 

「続くシンオウ地方ではヒコザル、ナエトル、ポッチャマからパートナーを選ぶこととなる。ポッチャマはおらんが、このドダイトスとゴウカザルはそれぞれナエトルとヒコザルの最終進化系じゃよ」

 

どっしりとした体のドダイトスに、頭の炎が特徴的なゴウカザル。紹介されると陽気に挨拶をしてくれる。ゴウカザルはバトルの時との雰囲気の違いに少し驚かされる。

 

「遠く離れたイッシュ地方のパートナーポケモンはポカブ、ミジュマル、ツタージャの3匹から選ばれる。この子はポカブの進化系のチャオブーじゃな」

 

お調子者で惚れっぽいミジュマル、イッシュの姐御的存在のツタージャ、そして優しいながらもパワフルなチャオブー。ツタージャはそっぽを向いているが、怒っていないのはなんとなく察せた。

 

「そしてカロス地方にはケロマツ、ハリマロン、フォッコがおる。みんなも知っとるこのゲッコウガはケロマツの最終進化系じゃよ」

 

腕を組み、目を細めたままのゲッコウガ。既に面識もあったため、やっ、と手をあげる。リラックスしている時とバトルの時の違いに未だに戸惑うこともあるが、面倒見もいい頼れるポケモンなのは皆知っている。

 

「ちなみにここにいるのはみんなサトシのポケモンじゃよ」

 

あぁ、やっぱりそっか〜。というのが彼らの感想だった。同じなのだ。今まで彼らが出会ってきたサトシのポケモンたちと。雰囲気やオーラとも言えるものが。この数にも驚かされるが、何よりも大きいのは、これほどまでの地方をサトシが旅してきたということだ。

 

「サトシ、一ついいか?」

「なんだよカキ?」

「このポケモンたちとバトルして見たいんだがいいか?」

「バトル?もちろんだぜ!博士、いいですか?」

「うむ。バトルもまた一つのふれあいじゃ。せっかくだからするといい」

「やったぜ!それでカキ?誰とバトルしたいんだ?」

「俺がバトルしたいのは・・・」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それではこれより、サトシとカキくんのポケモンバトルを始めるぞ。使用ポケモンはお互いに3体ずつ。毎回交代制じゃ」

 

森のフィールドで向かい合うサトシとカキ。普段野生のポケモンも来るこの場所で二人のバトルが行われることとなった。サトシのポケモンはもちろん、野生のポケモンたちも見学しに来ていた。

 

「それでは両者、ポケモンを」

「頼むぞ、ガラガラ!」

 

カキのボールから現れたのは大きな骨に炎をまとわせ、舞うように振るうポケモン。カントーでもお馴染みのガラガラ、そのアローラの姿だった。早速ケンジがスケッチを始めていた。

 

「ゴウカザル、君に決めた!」

 

対するサトシはシンオウ地方でのエース、ゴウカザルだった。闘志のみなぎる表情をしていて、比例しているかのように頭の炎も燃え上がる。

 

「久しぶりのバトルだからな、お前の力見せてやろうぜ!」

「ウィキャ!」

 

「ガラガラ、ボーンラッシュ!」

「ガラ!」

 

手にしている骨に力を込め、飛び上がったガラガラはゴウカザル目掛けて振り下ろした。

 

「マッハパンチで受け止めろ!」

「ウキャ!」

 

かくとうタイプの技はガラガラには通用しない。しかしじめんタイプの技を防ぐことは可能だった。拳と骨が激突する。パワーもゴウカザルの方が上だったようで、衝撃の反動でガラガラは少し後ろの飛ばされたが、問題なく体制を立て直し着地した。

 

「だいもんじ!」

 

まるでダンスのように骨を回転させて、その先端から炎が発射される。ゴウカザルに迫る大の字の炎。それを前にして、サトシもゴウカザルも動く気配はなかった。土煙を巻き上げて、炎がゴウカザルのいた場所に命中する。煙が晴れると、そこにはゴウカザルはもういなかった。

 

「何!?」

「今だ、ゴウカザル!」

 

ガラガラの真下の地面が割れ、中から飛び出したゴウカザルの拳が炸裂する。効果抜群のじめんタイプの技、あなをほるが決まった。効果抜群の技が決まり、ガラガラの体が宙に浮いたその瞬間を、サトシは見逃さなかった。

 

「フレアドライブ!」

「ウキャ!ウィーキャァ!」

 

頭の炎を燃え上がらせ、鞭を振るようにし、ゴウカザルはその身を炎で包んだ。炎の塊と化したゴウカザルはガラガラ目掛けて特攻し、咄嗟に構えられた骨による防御を貫いた。

 

地面に降り立つゴウカザルの背後で爆発が起きる。爆発の中から落下したガラガラは目を回してしまっていた。




もうか期待した人、すみませんがまだしばらくでないです
一応続きに理由っぽいのも含めますんで


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努力してきた結果

最近ニコニコでサトシのエース紹介動画を見つけて、あっ、この人俺と同じこと考えてる!ってなった作者です。

ドラゴンクローでインファイト防ぎきるワルビアルパネェ。
欲を言えばジュカインのダークライ崩しのシーンもほしかったなぁ


「よく頑張ったな、ガラガラ」

「やったな、ゴウカザル!」

 

それぞれ労いの言葉をかけてポケモンをボールに戻す。トレーニングの様子を見ていたマオたちはともかく、リーリエとスイレン、ククイ博士はゴウカザルの圧倒的な実力に驚かされた。カキのポケモンの力は知っている。だからこそこんなにもあっさりと倒されてしまったことに衝撃を受けた。

 

「嘘!?」

「カキのポケモンがこんなに簡単に・・・」

 

 

 

「次だ。頼むぞ、リザードン!」

 

オレンジの身体に尻尾の炎。祖父のパートナーでもあり、かつての島キングの相棒として数々の戦いを経験したリザードン。歳をとり、戦線から引いていた彼ではあったが、今回はカキにバトルしたいという意思を示したという。その相手は、

 

「リザードン、君に決めた!」

 

現れたポケモンは天に向かって大きく吠えた。それだけで空気だけでなく大地までも震えるかのようだった。カキのリザードンの表情がさらに険しくなる。経験からもわかるのだ。目の前にいるこの同族は、若くはあれど数多くの修羅場をくぐり抜けてきた猛者であると。見て見たくなった。この若き同族の実力を。

 

「かえんほうしゃ!」

「こっちもかえんほうしゃだ!」

 

大きく口を開き放たれたカキのリザードンのかえんほうしゃを、サトシのリザードンは同等の炎を吐くことで防いだ。ぶつかり合った炎は、フィールドの中央で巨大な火柱となった。驚愕するカキとリザードンを見据えるサトシのリザードンにはまだまだ余力が感じられた。その証拠にあれだけの威力の炎を放った後だというのに、涼しい顔をしている。

 

「飛べ、リザードン!」

「こっちもだ!」

 

大きな羽を広げ、両者は戦いの舞台を空へ移した。歳をとってなお、毎日のようにカキとともに配達をしてきたリザードン。その彼が空中で遅れをとることはないと、カキは考えた。

 

「かみなりパンチ!」

「受けて立つぜ、ドラゴンテール!」

 

電撃をまとった拳を握り、カキのリザードンは素早くサトシのリザードンへ接近し、背後からその拳を叩きつけようとした。しかしその攻撃は身体を捻り繰り出された尾による攻撃に阻まれ、両者一旦距離をとった。

 

「あの状態から防ぎきるとはな」

「空中戦でも、俺のリザードンは負けないぜ」

「ふっ、面白い。ドラゴンクロー!」

 

鋭い爪にエネルギーを纏わせ、カキのリザードンが接近する。連続で振るわれる攻撃をサトシのリザードンは身体を捻るように飛ぶことで躱す。リザードンの飛ぶスピードに自信を持っていたカキはその様子に驚かされる。

 

「きりさく!」

 

大ぶりの一撃を躱したリザードンにサトシが指示を出す。ガラ空きになっていた胴体が、鋭く伸びた爪により切り裂かれる。強力な一撃を叩き込まれたリザードンは姿勢を崩したがなんとか墜落せずに済んだ。歳の影響か、カキのリザードンは疲れた様子だった。それに比べてサトシのリザードンは息一つ乱れていなかった。体力の差もあるが、攻撃を躱す際に必要最低限の力で動いていたこともあり、ほとんど疲れていなかったのだ。

 

「くっ、これ以上長引くのは厳しいか。なら、一か八かだ!リザードン、フレアドライブ!」

 

最後に全力の力で炎を見に纏い、一旦上昇したリザードンは突撃した。躱されたら終わりかもしれないが、賭けるしかなかった。サトシのリザードンは避ける気配もなく、その場で飛び続けていた。フレアドライブがリザードンに当たり、そのまま地面に向かって降下していく。

 

「そのまま地面に叩きつけろ!」

 

しかしサトシに焦りはなかった。他のみんなが気づいていない中、彼だけは気づいていた。彼のリザードンの両腕が敵の翼を捉えることに成功していることに。避けなかったのは情けをかけたわけでも、油断していたわけでもない。この技を決めるためにあえて受け止めたのだ。

 

「リザードン、ちきゅうなげ!」

「なにっ!?」

 

後ろに押されていた勢いのまま、サトシのリザードンはその身を逸らし、体制を変え、そのまま勢いよく回転を始めた。土壇場での切り返しに戸惑い、カキも彼のリザードンも反応できなかった。フレアドライブの炎もそのままに、螺旋状の炎の塊が地面めがけて落ちていく。落下の勢いそのままに、地面に叩きつけられる。

 

大きな土煙が上がった後、そこには目を回すカキのリザードンと、雄叫びをあげるサトシのリザードンがいた。現役ではないとはいえ、決して弱くはなかった。元島キングの相棒の実力は伊達ではない。しかし歳というハンデを差し引いて見ても、サトシのリザードンの強さは並外れだった。

 

あの激しい戦闘で全くの無傷。パワー、スピードともに今までに見たポケモンたちの中でもトップクラスなのは間違いなかった。ゲッコウガやゴウカザルにも驚かされたが、それを凌駕する何かがリザードンにはあった。

 

「これが、サトシのポケモンの力、なのか」

 

言葉を失うマオたち。サトシのバトルは何度か見る機会はあったものの、今回のそれはただただ圧巻の一言だった。顔を見合わせるサトシとリザードンの間には、強い絆、想像もつかない信頼が見られる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「最後はこいつだ。バクガメス、行くぞ!」

「ガメース!」

 

出て早々、口から炎を吐き、気合いを入れるバクガメス。自分と同じほのおタイプのポケモンたちの激しい戦闘に燃えていたようだ。

 

「バクガメス、気合入ってるね」

「そりゃもうウズウズしてたんじゃないの?」

「あれ?そういえばサトシの最後のポケモンって」

「確か、くさタイプの」

 

「ジュカイン、君に決めた!」

 

サトシの投げたボールから現れたジュカインは、リザードンやゴウカザルのように声を上げず、口に枝を咥え、クールに佇んでいた。しかしその目はしっかりと相手を見据えていた。

 

「バクガメス、相性がいいとはいえ、油断はするなよ!かえんほうしゃ!」

 

カキのリザードンをも超える大きさのかえんほうしゃがジュカインめがけて打ち出された。効果抜群のその技を喰らえば流石のジュカインも厳しいだろうとマオたちがどうするのか見るが、ジュカインは動じる様子が一切なかった。

 

「リーフブレード!」

「ジュラ!ジュッカァ!」

 

両腕の刃に力を込めたジュカインはそのまま真正面から炎へと振り下ろした。アローラ組が驚愕する中炎は裂かれ、無傷のジュカインがそこに立っていた。

 

「うそ、炎を切っちゃった!?」

「こんなことができるなんて、私初めて知りました」

「いやいや、誰でもできるわけではないと思うぞ」

 

こういうバトルを見るのは確かに勉強にもなるが、いかんせんこれを当たり前だと思うようになったら困るな、と内心博士が思ってしまうほど、サトシのポケモンたちは規格外が多かった。

 

「りゅうせいぐん!」

「ガーメース!」

 

空に打ち上げられたエネルギーの塊は弾け、フィールドを包むその技は並みのポケモンには回避不可能。ゲッコウガと戦った時と比べても一つ一つの大きさもやや上がっている。

 

「こうそくいどうだ!」

「ジュカ」

 

スピードを上げて躱し続けるジュカイン。その背中に徐々に光が集まっていることに、誰も気づいていなかった。

 

「くそっ、当たらない」

「今だジュカイン、ソーラービーム!」

「何!?」

 

躱しながらも溜めていた光のエネルギーを集中させ、口から大きな光線としてジュカインは放った。その威力をリザードンとの訓練で知っていたカキは、相性が悪くとも、その攻撃は危険だと感じた。

 

「ストーンエッジで防ぐんだ!」

 

拳を地面に叩きつけ、岩の壁を作り出して行くバクガメス。いくつもの岩を重ねることで防御を固める。しかしその岩の壁は光の光線により次々と打ち砕かれていく。防ぎきれず、バクガメスに技が届くが流石に威力を削いだだけあって、少し仰け反る程度で済んだ。

 

「よし、「ドラゴンクロー!」なっ!?」

 

ソーラービームによる爆発の中、ジュカインは既にバクガメスのすぐ近くまで接近していた。バクガメスがストーンエッジで防御し始めた時にはもう次の行動を取っていた。一切の油断なく、勝つための最善を尽くしていたのだ。

 

エネルギーで形成された爪がバクガメスのがら空きになっていた腹側から切り裂いた。大きく空中に投げ出されるバクガメス。その体が地面に落ちる前に、ジュカインは背を向けサトシの方へ戻っていた。大きな音とともにバクガメスが地面に激突する。既にその目は回っていた。

 

「カキのバクガメスが」

「Z技を出す余裕もなかったですね」

「ジュカイン速〜い」

 

「本来相性はいまひとつのくさタイプの技でもあれだけダメージが入るとは。そして決め手にドラゴンタイプの技。それもまた驚異的な威力だったな」

 

「バクガメス、すまない。ありがとな」

「サンキュー、ジュカイン。お前も本当に強くなったな」

「ジュラ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「参った。俺の完敗だ。お前のポケモンたち、本当にすごいな」

「ありがとう。みんなが頑張ってくれるから。俺と同じ気持ちで戦ってくれるから、だからもっともっと強くなれる」

「・・・お前ほどZ技が似合うトレーナーも、そうそういないだろうな」

「えっ?」

「いや、なんでもない。独り言だ」

 

「すっごかったねー」

「タイプ相性とかもうめちゃくちゃだったけどね」

「そういうのもまた勉強ですよ。ポケモンたちには無限の可能性があるみたいでいいじゃないですか」

「うんうん」

 

「いかがでしたかな?」

「正直、予想をはるかに超えてびっくりしてます。こんなバトル、そうそう見られませんしね」

「これも全部、サトシの今までの旅の成果ですから」

 

数多くの人とポケモンと出会い、バトルし、ジムやリーグに出た。けれどもそこでより強い相手がいることを知った。彼らもまた強くなりたいと思った。だからサトシと共にいないときでも、強くなるための努力を怠らなかった。だから彼らは強い。

 

リザードンは今もリザフィックバレーで最強を目指している。今ではその中でも最強クラスには入る力を持っているだろう。ジュカインは己のスピードを磨いた。どんな敵にでも追いつき、必ず仕留められるように。どんな一瞬の隙も見逃さないように。ゴウカザルは力をつけるのに励んだ。特別なもうかを持つものの、それを使わずとも強敵に勝てるようになるために。

 

彼らだけではない。サトシのポケモンはみんなそうだ。ただひたすらにサトシの、自分のトレーナーのために彼らは鍛える。もう負けたくない。負けていられない。そんな思いを持って。

 

「サトシは、不思議な子ですね」

「そうですなぁ。昔から、不思議な子じゃった」

 




ちなみにサトシのジュカインとショータのジュカイン比べてて何か足りないなぁと思っていたんですよ。

確かに口にくわえていたが枝ないというのもありまいたが、ジュカインのリーフブレードが違ったんですよ。ショータのジュカインはメガ進化前もメガ進化後も両腕に刃が一つずつなんですけど、サトシのジュカインってブレードが両腕に二つずつついているんですよね。個体差なのか、サトシのジュカインが強いんだか。


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カロスの仲間

今回はついに・・・

あっ、本編の方は時間が取れなくて書けてませんorz

なのでこっちで我慢してください、すみません


その後のポケモン観察の時間、サトシたちは再び2班に別れ、それぞれ研究所の敷地内を探索していた。

 

「ケンジさん、くさタイプのポケモンが多いのってどんなところですか?」

「そうだね、この研究所には大きな湖があってね、みずタイプとくさタイプのポケモンがよく遊んでいるよ」

「へぇ〜、面白そうじゃん」

「とりあえず行ってみようぜ」

 

カキたちは前回サトシたちの行った湖を目指すことにした。そこでみずタイプのポケモンたちによる歓迎を受けるのだが、それはまたいずれ話そう。一方サトシたちは、

 

「サトシのポケモンってすごいね」

「はい、私も新しいことをたくさん学べてます!」

「あぁ、みんなすっげぇ頑張ってるからな。俺も、あいつらが恥ずかしくないトレーナーにならないとな」

 

((多分もうなってるから)と思いますよ)

 

思っても口には出さない二人だった。

 

「フシギダネ、今日はカロス地方での仲間たちに会いたいんだけど、頼めるか?」

「カロスって、サトシがアローラ地方に来る前にいたところだよね?」

「あぁ。久しぶりにどうしてるか見たくてさ」

「ピカッ、ピカピーカ」

「ダネッ、ダネフッシャ!」

 

前とは違う色のソーラービームで合図を送るフシギダネ。すぐに3体のポケモンが空から飛んでくるのが見えた。うち一体は一番大きいポケモンの背に乗っている。

 

「チャブ!」

「ファロ」

「バーン!」

「ルチャブル、ファイアローとオンバーンだ。みんな、こっちは俺のアローラ地方でできた友達だ。ファイアローはもう会ってるけど、改めて」

「わー、ルチャブルかっこいいね。ポーズも決まってるよ」

「チャブチャブ」

「ファイアロー、とても速かったですね。それからオンバーンは確かドラゴン・ひこうタイプでしたね。近くで見ると、大きいです」

「ここにピカチュウとゲッコウガ、それから今は湿地帯を守っているヌメルゴンを加えたメンバーでカロス地方を旅して、リーグに挑戦したんだ。そうだ、出てこい!ゲッコウガ」

 

ボールから飛び出したゲッコウガの登場に、ルチャブルたちは驚き、久しぶりに会えたことに喜んだ。ピカチュウも加わり、プチ同窓会のようだった。

 

「なんだかみんな速そうなポケモンだね」

「サトシの戦い方はスピードをいかしたものが多いですから、相性が良さそうですね」

「このメンバーで挑んだカロスリーグ、初めて準優勝できたんだ。後少しだったんだけど、相手がすっごい強くてさ」

「そんなにですか?」

「あぁ。すっごいバトルだったし、楽しかった。でも、次は絶対に俺たちが勝つけどな」

 

その言葉にピカチュウたちも声をあげた。特に最後に一騎打ちで惜しくも敗れてしまったゲッコウガは燃えているようだ。

 

「みんなとはどうやって出会ったの?」

「そうですね、聞きたいです」

「あぁ。カロス地方に行って最初に出会ったのはゲッコウガ、あの頃はケロマツだったな。その時ロケット団と戦ってたんだけど、」

 

それからサトシの物語が語られた。協力してロケット団と戦った後、プリズムタワーで暴走したガブリアスを助けようとした時のこと。すばしっこい動きをするヤヤコマとのバトルとゲットのこと。森のチャンピオンだったルチャブルのフライングプレスを一緒に完成させた時のこと。空から降ってきて出会ったヌメラとその別れのこと。卵から生まれたオンバットのこと。

 

彼らとの出会いや成長、進化の物語は聴けば聴くほど引き込まれた。一番最近まで旅していたということもあり、サトシも鮮明に覚えているようだ。

 

「ゲッコウガとの絆の深め方、すごいね。誰も知らない高みかぁ」

「オンバットもロコンと同じく、卵から孵ったのですね。こんなに大きく成長するなんて」

「カロスリーグ、見ておけば良かったかな〜」

「そうですね、わたくしもその時は見ていなくて。マオたちもその時の動画は持っていなかったようで」

「ん〜、カロスリーグの映像、博士が確か録画していてくれたと思うけど、今度みんなで見る?」

「うん!」「是非!」

 

その夜、カロスリーグの映像を見ながら、サトシたちの思い出の語りを聞いた彼らは改めてサトシの島巡りを見届けたいと思ったとか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

お昼を食べ終わり、サトシたちはキッチンに集まった。既に食事を済ませたのになぜキッチンに来たのかというと、次の授業が、「ポケモンのおやつを作ろう」という企画だったからだ。

 

「ポケモンのおやつってどんなのだろうね」

「やっぱり、僕たちとは違うのかな?」

「いや、ポケモンのおやつはトレーナーが一緒に食べられるものも多いぜ。俺もカロスじゃ貰ってたしな」

「カロス地方というと、ポフレですね。わたくし、本で見たことがあります。一度作って見たいとは思うのですが、なかなか時間が」

「アシマリたち、喜んで食べてくれるといいな」

「まぁ、バクガメスたちに感謝の気持ちを込めるのも大事だしな」

 

全員が乗り気のようだ。女性陣はもちろん、男性陣もポケモンたちが喜んでくれるようにと意気込んでいる。そこへエプロンをつけたハナコがやって来た。彼女が教えてくれるのかと思ったサトシが駆け寄る。

 

「ポケモンのお菓子ってどんなのを作るの?ポフィン?ポロック?」

「ポフレよ、ポフレ」

「あれっ?ママってポフレの作り方知ってたっけ?」

「あら、今日教えるのは私じゃないわよ。私はお手伝いをしに来ただけ」

「えっ?」

 

ハナコが教えるのではないことにサトシは疑問符を浮かべた。自分の知る限り博士はこういうのは得意ではないし、ケンジもポフレは知らないはずだ。では一体誰が教えるのだろうか。

 

「ふふっ、サトシも驚くわよ。今日はみなさんのために、スペシャルコーチを呼んじゃいました〜」

「スペシャルコーチ、ですか?」

「どんな人だろう」

「やっぱりあたしたちよりも年上の人かな」

「俺も驚く?誰だろう」

 

サトシが首をかしげると、突然視界が何かに塞がれた。温かい手の感触だ。そして甘い、どこか懐かしいような香りがした。

 

「だ〜れだ?」

 

手で覆われた目をサトシは見開く。それは聞き覚えのある声だった。何度も何度も自分を助けてくれた声。自分の名前を呼んでくれた声。ずっと聞き続けてきた声だ。驚きで声がうまく出ないサトシ。それでも何とか答えようとする。

 

「もしかして、・・・か?」

 

その呟きは一人を除いて聞こえないくらいに、普段のサトシからは想像できないくらいにか細いものだった。その言葉を聞いたその子は、サトシの目から手を離す。サトシが後ろを振り返ると、先ず目に入ったのは赤と白の服、そして胸元の青いリボンだった。最後に会った時よりも少し伸びてきている髪、旅の時と変わらないあの帽子、そして綺麗な青色の瞳。

 

「うん。久しぶり、サトシ」

 

そう言って彼女は笑った。あの頃見ていたのと、変わらない、いやその時よりも魅力的な笑顔で。

 

「セレ、ナ」




はい、このタイミングで登場してもらいました
作者的サトシの嫁ですね笑

あー、続きをどうしよう


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彼の異変

少しだけ進みます

こっちの方が書くの大変ですわ、まじで



セレナと呼ばれた少女を前にして固まるサトシに戸惑うアローラ組。ぽけーっとしてるところや考え込んでるところはあったが、まるで思考自体が停止しているようだ。

 

「サトシ?」

 

セレナが心配そうに顔を覗き込むと、ハッとしたサトシは思いの外近くにセレナの顔があったのに驚いたのか、慌てた様子で少し下がった。

 

「どうしたの?」

「い、いや。ビックリしただけだよ。久しぶり、セレナ」

「うん。元気だった?」

「元気に決まってるだろ。セレナは?ホウエンの旅はどうだった?」

「うん。すっごく楽しかった。サトシたちと合流する前の時は心細いことの方が大きかったけど、今はどんなポケモンやトレーナーに出会えるか、楽しみにしながら旅してるの。ピカチュウも久しぶり。あっ、ゲッコウガも帰って来てたの?」

 

親しげにサトシに話しかけるセレナ。その様子を見たアローラ組は、ケンジと同じように一緒に旅をしたことがあるのだと、なんとなく予想できた。ポフレについて詳しいようだから、おそらくカロス地方での仲間だということも。が、どこかサトシの様子がいつもとは違った。どこか戸惑っているような、よそよそしいような違う、ネガティブなものではない。そう、まるで、照れているような。

 

「はいはい。サトシもセレナちゃんも、再会を喜ぶのはいいけど、ポフレ作りもするんだし、ちゃんとみんなに自己紹介しないと」

「あ、そうですね。初めまして。私、セレナです。サトシとはカロス地方を一緒に旅してて、ポケモンパフォーマーを目指してるの。よろしくね」

「あ、あたしはマオ、よろしくね!この子は仲良しのアママイコ」

「わたしスイレン、パートナーのアシマリ」

「僕はマーマネ。それからこっちはトゲデマル」

「カキだ。ほのおタイプを専門にしている」

「わたくしはリーリエと申します。こちらはわたくしのパートナーのシロンです」

「わぁ、この子ってロコンでしょ?白いロコンって初めて見た!」

「アローラ地方のロコンはこおりタイプなんです」

「そうなんだ。じゃあ私のポケモンたちも紹介しなくちゃ」

 

セレナの投げたボールから現れたのは三体のポケモン。二本足でたち、木の枝を持ったキツネのようなポケモン。小さい身体にサングラスをかけ、ポーズを決めているポケモン。そして、白とピンクの身体に長いリボンを持つポケモン。その様子からもセレナがポケモンたちのことをとても大切に思っていることがわかる。

 

「テールナー、ヤンチャム、ニンフィア、みんなに挨拶しよう」

 

「テナ!」

「ヤンチャ!」

「フィア!」

 

声を揃えて挨拶する三体。そこへピカチュウたちが声をかけ、ポケモンたちによる交流が始まった。特にピカチュウとゲッコウガは懐かしい出会いに喜んでいた。

 

「ねぇピカチュウ。ポフレを作る間、みんなを外に連れて行ってもらえるかな?」

「ピィカ?」

「せっかくだから、どんなのができるか楽しみにしてて欲しいの。お願いできる?」

「ピッカァ。ピカピカ、ピカチュウ」

 

セレナのお願いを聞き入れ、ピカチュウはポケモンたちを連れて、建物の外へと向かった。それを見届けたセレナは改めてサトシたちの方を向いた。

 

「それじゃあ、みんなで美味しいポフレ、頑張って作ろう!」

 

「「「はーい」」」「あぁ」

 

他のみんなが声を上げる中、サトシが少し静かなことにリーリエは気づいた。しかしそれも一瞬、ポフレ作りが始まるといつもと変わらないサトシだったため、違和感はすぐに消えてしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「マオもスイレンもリーリエも、みんな上手ね。もしかして、普段から料理とかするの?」

「あたしの家は、アイナ食堂っていうお店なんだ。そこの看板娘としてお手伝いもしてるしね」

「私はたまに妹たちと食べるから」

「わたくしも機会は多いですね」

 

和気藹々と料理について話す女子組。流石に料理に慣れていることもあり、割とすぐにコツを掴み始めていた。一方男子組はというと、

 

「うーん、うまく形が整えられないや」

「案外難しいものだな」

 

カキとマーマネはところどころで苦労していた。不器用というわけではないはずだが、どうにもうまくいかない。ハナコの手伝いもあり、なんとか完成させていく。

 

ここで一人、苦戦しているわけではないが、何やら苦労している。サトシだ。手際自体はアローラでの生活により悪くないのだが、どこか完全に集中できずにいるようだった。

 

「サトシ?」

「うわっ、あっ、セレナ。何?」

「どうかしたの?なんだか集中できてないみたいだけど」

「い、いや。あー、ちょっとトイレ行ってくる」

「?」

 

今のサトシの慌ててかけていく姿を見ると、まるでセレナから逃げているようにも見えてしまう。首をかしげるセレナの様子から、傷ついているわけではないようだ。サトシから苦手意識や嫌悪感も感じられなかった。

 

「わたくし、ちょっと様子を見てきます」

「えっ、ちょっと、リーリエ?」

 

作業をひと段落させていたリーリエは、サトシの後を追ってみることにした。




さてさて、サトシのこの様子、みなさんはどう思いますかね〜

あっ、答えは心に秘めたままでオケです
アンケートではないので笑


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サトシは……

短めですけど、せっかくなのでこっちも

この次が鬼門だ!


「サトシ、どうしたんだろう」

「セレナ、大丈夫?」

 

いきなりあんな逃げるようにして去られたら、いくらなんでも傷つくんじゃないか、そう思ってセレナに声をかける女子二人。

 

「うん、大丈夫。ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」

「何?」

「そっちでのサトシって、どんな生活をしてたの?」

 

ポフレを作りながら、マオとスイレンはサトシが来てからのことをセレナに話した。一つの場所に長く止まるという、今までにない生活だが、そこには多くの出会いと冒険があった。サトシを中心に、様々な出来事を経験して来た彼女たち。その話をセレナは興味深そうに聞いていた。

 

「ほんと、サトシってすごいよね。スクール内に隠れファンクラブがあるって噂だし」

「ポケモンにも、年下にも優しいから」

 

いつの間にかサトシの人柄や人間関係についてばかり話す二人の様子に、セレナが笑顔で爆弾を落とした。

 

「そんなサトシのことが、好きなんでしょ?」

 

「「えっ?」」

 

「「えぇ〜!?」」

 

少し離れたところから驚きながらも声を出さなかったマーマネと、おいおいって顔をするカキが見ている。幸いハナコは今はキッチンにはいなかったが。

 

「そそそ、それはその、サトシは確かに優しいしふとした時に大人っぽいところもあるし、いつも美味しいってあたしの手料理とか食べてくれて嬉しいけど、だからって、その、好きとか」

 

「ち、違うよ。その、アシマリとの夢、笑わないで応援してくれたこととか、ホウとスイとも仲良くしてくれてるとことか、感謝してることいっぱい、だけど」

 

顔を赤くして否定の言葉を並べる二人。その様子を優しそうな笑顔を浮かべながら、セレナが暴走しそうな二人を止める。

 

「落ち着いて、二人とも。私もその気持ち、よくわかるから」

「え?」

「もしかして、セレナも?」

「うん。私もサトシのことが好きなの」

「ええっ〜!?」

「セ、セレナは、サトシのどんな所が好きなの?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

少しあたりを探したリーリエは、木陰に腰掛け、少しぼーっとしているサトシを見つけた。

 

「サトシ、大丈夫ですか?」

「あ、リーリエか。うん、大丈夫だよ」

「体調が悪い、わけではなさそうですね。どこかセレナに対して、いつものサトシと違う気がしましたけど」

「あぁ、まぁ。その、なんていうか。ちょっとどう接したらいいのか、わからないんだ」

 

そんな事をサトシが言ったことに、リーリエは驚きを隠せない。誰に対しても明るく、真っ直ぐに向かい合うサトシ。そのサトシが誰かとの接し方で悩むというのは、想像できなかった。

 

「何かあったのですか?」

「あー、えーっと」

「良かったら、話して見ていただけませんか?わたくしも、サトシの力になりたいんです」

 

その提案に驚くサトシ。相談するにしても、母親あたりにでもしようかと思っていたからだ。けれど、真剣なリーリエのその様子に、サトシは正直に話してみることにした。

 

「セレナとはカロス地方を一緒に旅してたって話だよな?」

「はい。アローラに来る前のことですよね?」

「あぁ。それでカロス地方を旅し終わった後、お別れした時に、えーっと、」

 

少し言葉を詰まらせるサトシ。当時のことを思い出して照れくさいのか、無意識のうちに頬を指でかいている。

 

「その、キス、されたんだ」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………はっ!え、ええっ!?その、あのキスですか!?」

「他にどのキスがあるのか知らないけど、うんまぁね」

「では、セレナはサトシの事が好きだったのですか?」

「俺もそれまで全然わかってなかったんだけど、多分そうだったんじゃないかと思う。された時も、なんだかよくわかってなかったし、後でママに教えてもらってやっと気づいたし」

 

サトシは鈍感なのではないかと前々から思っていたが、本格的にそうらしい。キスされることの意味や、そこに込められた気持ちもよくわかっていなかったとなると、これはかなりの難題なのではないだろうか。

 

「それで、サトシは、その、どう思ってるのですか?その、セレナのこと」

 




次回多分長くなるのでしばらくお待ちください、はい


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二人の……

状況としては、サトシとセレナがそれぞれ別々に語っているということで

さぁ、大勝負の前に最後の一投稿と行こうか


ちなみに、本当はもっと書きたかったんですけど、このままいくと3年分全部詰め込もうとして容量とか、文量とかアレなことになるのでここまでにしておきました。

もっと振り返りたいというあなた、ニコ動でトマト嫌い8マンと検索!
二人の動画があるよん→宣伝乙


ではでは皆様、また5月にお会いしましょう


「セレナは、サトシのどんな所が好きなの?」

 

「サトシは、どう思ってるのですか?セレナのこと」

 

 

「サトシはね、ずっと私の憧れだったんだ」

「憧れ?」

 

 

「セレナは、俺の支え、かな」

「支え、ですか?」

 

 

「ずっと昔にね、一緒にオーキド博士のサマースクールに参加したことがあったんだ。その時にサトシと出会ったの」

 

 

「俺はその時のこと覚えてなかったんだけど、セレナは覚えててくれたみたいでさ」

 

 

「怪我をした私の手を取ってくれて、『最後まで諦めちゃダメだ』って、すごく励まされた」

 

 

「その時のハンカチを、ずっと持っててくれたんだ。それでカロス地方に初めて来た日に、研究所のガブリアスがロケット団に、」

 

 

「その時に身体を張ってガブリアスを助けたのがサトシだって気づいたの。それで、ハンカチを返したくて、フォッコと一緒に旅に出ることにしたの」

 

 

「それで初めてのジム戦、実は見に来てくれてたんだってさ。その時は負けちゃって、セレナに気付けなかったんだけど、」

 

 

「サトシのポケモンと一緒に頑張る姿、とってもかっこよかった。体を張って、ポケモンたちと一生懸命特訓してて、」

 

 

「全然突破口が見つからなくて、すごく悩んでた。頭の中ごちゃごちゃしちゃってさ、そんな時」

 

 

「あの時みたいに、最後まで諦めない姿に、あぁ、サトシは変わってないんだなって思ったの」

 

 

「昔俺が言ったことをずっと覚えててくれたらしくてさ。その言葉に思い出したんだ。俺のバトルを」

 

 

「そしてジムで再戦した時、サトシとポケモンたちがお互いにすごく信頼し合ってて、リベンジを果たせたの」

 

 

「ピンチになった時、セレナの声が聞こえたんだ。そのおかげで、俺は最初のバッジをゲットできたんだ。だからかな、一緒に旅して欲しいって誘ったんだ」

 

 

「それから一緒に旅をするようになったんだけど、サトシには旅の途中でたくさんのことを教えてもらったの」

 

 

「セレナのおかげで楽しめたこともいっぱいあったなぁ。サイホーンレースとか、ポケビジョン作りとか。そういえば、水族館に行ったり、釣りをしたりもしたっけな」

 

 

「サトシはポケモンマスターっていう大きな夢があった。でも私、最初旅してた時、夢なんか何もなかったの。なんだか焦っちゃった。そんな時にポケモンパフォーマーについて知ったの」

 

 

「夢を見つけた後、カロスクイーンになりたいって、セレナ、すっげぇ頑張ってたんだ。セレナのママはサイホーンレーサーで、セレナにもそうなって欲しいと思ってたんだけど、セレナは夢への想いをしっかりと伝えて、応援してもらえた」

 

 

「私、初めて参加したトライポカロンで、失敗しちゃったんだ。フォッコのこと、ちゃんと考えてなくて、その時は一回戦で負けちゃったの。すごく悔しくて、一人で泣いちゃったんだよね」

 

 

「自分の夢への第一歩だったから、きっとセレナも落ち込んでたとは思う。俺も最初の旅でのジム戦で、負けた時、すっごい悔しかったから。でも、なんでか、セレナなら大丈夫って信じられた」

 

 

「私は、その時に夢に向かって全力で頑張る覚悟を決めたの。それで、今までずっと長かった髪を切ったの。自分の覚悟を形にしたくって。その時に、旅の服装も今のものに変えたの。それから、この青いリボンなんだけど、」

 

 

「セレナはちゃんと前を向いて走り出せた。丁度その時のトライポカロンの前に、ポケモンたちへの感謝祭があってさ、プレゼントを決めるのを手伝ってくれたお礼に、リボンをあげてたんだ。それを着けててくれて、なんか、嬉しかった」

 

 

「その後も、何回かトライポカロンに挑戦して来たんだけど、いつもサトシが助けてくれた。どうすればいいのかわからなくなった時は、サトシが私を導いてくれた。いいライバルにも出会うことができた。一緒に笑い合って、競い合って、励ましあって。そんな出会いも、サトシと旅してたおかげ」

 

 

「一回、俺風邪ひいちゃってさ、セレナが看病しててくれたんだ。そんな時に最強のピカチュウ使いを目指してたやつがやってきて、バトルしたいって言ったんだ。動けない俺の代わりに、セレナが俺のフリをしてバトルしてくれたんだ。ピカチュウとのコンビネーションもバッチリでさ、俺もびっくりしたな」

 

 

「みんなもゲッコウガのことは知ってるのよね?サトシとゲッコウガは、未来を予知できるジムリーダーのゴジカさんから、誰も知らない高みへ登るって言われたの。そのために、俺はゲッコウガになる!って言ったのよ。ゲッコウガと同じメニューでトレーニングもしてて。でも、その力のことでも、すごく悩んでた」

 

 

「俺、ゲッコウガのトレーナーとして、もっと強くならないといけないって、焦ってた。ライバルに追い抜かれて、ゲッコウガの力も引き出せなくて。それで、励まそうとしてくれたセレナにまで八つ当たりしちゃったんだ。俺の何がわかるんだ!ってさ。今思うと、セレナは本当にわかっててくれたのかもしれないな」

 

 

「その時、初めてサトシと喧嘩しちゃった。今のサトシは全然サトシじゃないって、酷いこと言っちゃった。でも、サトシとゲッコウガは二人でちゃんと乗り越えて帰って来た。その時に、私のおかげだって言ってくれたの」

 

 

「セレナに言われて思い出したんだ、いつも諦めないのが俺らしさだって。だから悩むのをやめて、ゲッコウガと一緒に、またゼロから出発することにしたんだ。そのおかげで、俺たちは本当の意味で強くなれた。セレナにも負けてられないって思ったしな」

 

 

「カロスリーグでのサトシは、ポケモンたちと一体だった。みんながサトシを信じて、サトシがみんなを信じて。本当にすごいバトルばかりだった。結果は準優勝だったけど、サトシ、すごく楽しそうだった。全てを出し切ることができて、お互いに納得のいくバトルをして、そんなサトシを見てたら、私も嬉しくなった」

 

 

「カロスクイーンになれるかどうかの、マスターズクラスの大会で、セレナはライバルたちと戦って、最後に憧れのカロスクイーン、エルさんとの勝負になったんだ。その時のセレナとポケモンたちのパフォーマンス、本当に凄かったぜ。後一歩届かなかったけど、セレナはその大会で、自分のやりたいことをちゃんと見つけられたみたいだった」

 

 

「サトシの頑張ってる姿とか、諦めない姿勢とか。そういうところを近くで見てて、何度も勇気づけられたの。ポケモンたちを信じて、自分自身を信じて、みんなに笑顔を届けられるようなパフォーマーになりたい。そう思って、サトシたちと別れた後、一人で旅をし始めたの」

 

 

「特訓してる時も、バトルしてる時も、いつだって側で見ていてくれた。壁に当たって、落ちこんで、すっげぇ悩んだこともあった。でも、不思議とセレナの言葉がいつも俺を助けてくれた。セレナは与えられる人になりたいって言ってたけど、俺はずっと、たくさんのことをもらってたんだ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なんだか、すごいんだね、セレナって」

「うん。サトシのこと、よくわかってる」

「でも、二人もサトシのこと、わかってきてるでしょ?一緒にいれば、もっともっとサトシのいろんなところが見えてくるはずよ」

 

自分たちよりも長くサトシを見ていたこともあるだろう。けれども、それだけではない。サトシを見て、サトシに影響された彼女は、とても強く、そして二人から見ても魅力的な女性だった。何よりも、自分たちの知らないサトシの部分を、深く理解しているのがわかる。

 

「きっとサトシの行動や言葉に、あなたたちも驚かされたり、何か気付かされたり、励まされたりしてるんでしょ?」

「そうだね。ポケモンに対する愛情の深さとか、バトルしないでゲットするところとか」

「バトルの時の発想、全然思いつかないことばっかり」

「でしょ?そんなサトシといるとね、きっとみんなも諦めなければなんだってできるって、そう思えるようになるから。私もそう。だから夢に向かって、走り続けられるの。だから二人も、夢があるなら、絶対に諦めないでね」

「「うん!」」

 

 

「なんだかセレナは、サトシに似ているのですね」

「えっ、そうかな?」

「ええ。夢への熱い気持ち、ポケモンたちへの深い愛情、そして確かな実力。ほら、似ていませんか?」

「そっか。そう言われたら、そうかもな」

 

少し照れくさそうに、それでいて嬉しそうに頬をかくサトシ。今まで見たことがないような表情に、セレナの存在の大きさが伺える。

 

「やはりサトシはセレナのことが、好きなのですか?」

「どうだろうな。まだそのあたりはよくわからないや。でも、あの時のセレナの気持ちは、まっすぐなものだったと思う。だから、答える時には俺もはっきりとさせたい、とは思ってるかな」

「そうですか」

「そろそろ戻ろうぜ。長すぎると変に思われるし」

「そうですね」

 

先に行こうとしたサトシの手を握るリーリエ。驚いた表情のサトシは、握られた手を見つめる。

 

「えっと、リーリエ?」

「わたくしも、もっとはっきりとして行こうと思いました!」

「へ?それって、どういう、っておわっ!?待ったリーリエ、引っ張るなって」

「ほら、早く行きましょう!」

 

キッチンに戻ってきたサトシとリーリエを見て、スイレンとマオがリーリエと話し込んだり、その間にサトシとセレナが会話しだしたのを見るとそこに加わろうとしたりと、サトシの周りは賑やかだった。

 




「大変そうだな、あいつも」
「うん。でも、サトシだからしょうがない気もするけどね」
「お前も大分影響されてるもんな」
「カキだって」
「…そうだな」


「なんだかサトシったら、モテモテなのね」
「良いことではないですか、ハナコさん。みんな、あるがままのサトシを受け入れてくれているのじゃから」
「サトシはポケモンにも人間にも優しいですから。モテるのも必然かと僕は思ってましたけどね」
「サトシは、本当にいい子ですから。この自然や、あなたたちのように、みんな包み込んでくれるような人達と一緒にいたことが、サトシの優しさの源なんですね」
「そうかしら。なんだか、大きくなっちゃって」


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夢、仲間、ライバル

短めですけど、こっちの続き載せますね〜

あと、オリジナル解釈的なのも入ってますので、できるだけノーツッコミでおなしゃす!


ポフレづくりを終え、ポケモンたちに振る舞ったサトシたち。流石、セレナが先生を務めただけあって、みんな中々の出来だった。喜んで食べるポケモンたちを見ながら、サトシたちも満足そうだった。

 

「そういえば、セレナはどうしてここに?」

「うん。カントーで出張ポケモンコンテストがあるって聞いて、参加したの。それで、せっかくだからサトシの育った町を見たくなって。それで、オーキド博士とサトシのママにも挨拶をしに来たら、サトシが修学旅行で戻って来るからそれまでここにいたら、って誘ってもらったの」

「じゃあ、セレナは今、」

「うん。サトシのママに誘ってもらったから、サトシの家に泊めてもらってるの」

 

羨ましい。なんて約三名思っているとは知らないサトシ。折角だからということで、今晩はセレナもマオたちとともに泊まることに決まり、なんだか賑やかになりそうだな、なんてくらいにしか捉えていない。そんなサトシだからこそ、険悪な雰囲気にはならないのかもしれないが。

 

 

「さて、午後の授業じゃが、みんなには将来の夢はあるかの?」

 

セレナとハナコは一先ず家に戻ることにし、サトシたちは研究所の一室に集まった。黒板を背にオーキド博士がサトシたちに質問する。

 

「俺はうちの牧場を継ぐつもりです。アーカラの島の恵み溢れるあの土地、そこでポケモンたちを育て、多くの人にもその恵みを分け与えたい。それから、強さを磨き、祖父と同じように、島キングとなって、島の人々を守ることです」

「あたしはアイナ食堂を継ぐことかな。新しい看板メニューを完成させて、パパにも負けない美味しい料理をいっぱい作って、たくさんの人に食べてもらいたいな。美味しいもの食べたら、きっとみんな幸せな気持ちになれると思うし」

「うーん、僕は研究を続けたいかな。でんきポケモンの力の応用もそうだけど、ポケモンと人の力を合わせて、もっと暮らしやすいプログラムとか作ってみたいし、新しい発明品とか作りたいし」

「私はみずポケモンともっと楽しく過ごせる方法、見つけたい。海の中、長い時間一緒にいられたら、すごく楽しい。アシマリのバルーンとか使って、ポケモンと一緒に叶えたい」

 

それぞれが自分の夢に想いを馳せる中、一人だけ困ったような顔をしていた。

 

「リーリエは?将来の夢とかってある?」

「わたくしは、その、まだ明確な夢はありません。ポケモンに触れるようになることは、夢ではなく目標ですし。でも、その先のことまでは、まだ考えていませんでした」

 

みんなは既にポケモンと一緒に叶えたい夢がある。しかし自分はどうだろう。あまり考えたこともなかったかもしれない。

 

「大丈夫だよ、リーリエ。今すぐになくても、シロンと一緒に過ごすうちに、きっと何か見つかるさ。セレナだって、旅の途中で見つけてたし」

「そうでしょうか」

「それに、みんないろいろ経験する中で、リーリエだけの夢を見つければいいんだ。焦らなくても大丈夫さ」

「……はい」

 

「うむ、ではいくつもあるポケモンと関係する職業等について、話すとするかの。まずは皆もよく知っとるように、最初のポケモンを貰った者をポケモントレーナーと呼ぶ。ポケモンと共に旅をし、ジムを巡り、リーグに挑戦するのが一般的なトレーナーじゃな」

「サトシがそうだよね?僕たち、ポケモンはいても、旅とかしたことまだないからなぁ」

「いつかわたくしもシロンと一緒に旅をしてみたいです」

 

「そのトレーナーの中で、ポケモンリーグから公式に認定されるのが、チャンピオンと四天王じゃ。チャンピオンは基本的にはポケモンリーグに優勝し、チャンピオンズリーグを勝ち上がったトレーナーに与えられる称号で、各地方リーグ毎に一人おる。有名どころはホウエンのチャンピオンであるダイゴくんや、カロスのチャンピオンのカルネさんじゃの」

「カルネさんってあの大女優の!?チャンピオンだったの!?」

「あぁ。カルネさんのサーナイト、スッゲェ強かったんだ。またバトルしたいなぁ」

「サトシ、バトルしたことあるの?」

「あぁ。カロス地方を旅してた時にな。また後で詳しく話すよ」

 

「続いて四天王じゃが、こちらは各地方の優秀な成績を持つトレーナーがスカウトされるケースもある。また、チャンピオンもそうじゃが、あくまで肩書きであるため、他に仕事をしている人も多いのぉ。次に皆が馴染みがあるとしたら、ジョーイさんとジュンサーさんに代表される、ポケモンセンターや警察じゃな」

「俺たちも、かなりお世話になってるしな」

「そう言えば、サトシの大試練突破のお祝いに、ジュンサーさんも来てたね」

「この前のオープンスクールにも来てたよ」

 

「特別な訓練や研修を受け、ポケモンたちの安全や健康を守ってくれておるのじゃ。またジュンサーさんは追跡や長時間待機ができるポケモン、ジョーイさんは治癒効果のある技を覚えるポケモンをパートナーとして連れていることが多いのぉ」

 

 

その後も、自分たち研究者やポケモンドクター、ブリーダーにケンジと同じポケモンウォッチャー。地方のジムリーダーやポケモンレンジャーなど、様々な職種の話を聞くサトシたち。スクールから卒業した後、どんな進路があるのか、新しく知ることができた気がしたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夜、女子の部屋。カロスリーグの鑑賞会の前に、セレナを加えた四人は、ガールズトークで盛り上がっているところだ。ファッションやスイーツにおいては、他の地方を軽く凌駕するとまで言われるカロス地方。女の子の憧れの地方の話を聞けて、マオたちも満足そうだ。

 

「へぇ〜、流石カロス地方。いろんなおしゃれな場所があるんだね〜」

「今度私がいる時に来てみてよ。色々と案内してあげるから」

「ほんと?わぁー、楽しみにしてるね!」

 

セレナの作ってくれていたポフレを食べながら、四人の話は続いた。最近の音楽や映画、俳優や女優などの有名人の話が続く。

 

「あの、セレナ。少し聞いてもいいですか?」

「えっ?何?」

「セレナの将来の夢って、何ですか?」

「将来の夢?」

 

遠慮しがちに質問するリーリエ。少し考えてから、セレナは答える。

 

「今の私は、カロスクイーンになることかな。私と、テールナー、ヤンチャム、ニンフィア。四人で見せるパフォーマンスで、たくさんの人を笑顔にしたい、幸せにしたいって思ってるの。少しでも勉強するために、今は他の地方も回ってる、って感じかな」

「セレナも、ちゃんとした夢を持っているのですね。どういうきっかけでそう思うようになったのですか?」

 

少し必死にも見えるリーリエの様子に、なんだか昔の自分に似ていると感じるセレナ。真剣な問いには真剣な答えを。

 

「私もね、最初は特に夢なんてなかったの。ただサトシに会いたいって思いで旅を始めたから。サトシも、その時一緒に旅をしていた他の二人も、ちゃんと夢を持っていたの。自分だけか取り残されているような気もして、凄く焦ってた」

 

まるで今の自分のようだ、そうリーリエは感じた。セレナも自分と同じように悩んで、旅の中で夢を見つけた。何がきっかけになったのか、それがわかれば、もしかしたら自分も……

 

「でも、ある時、ポケモンサマーキャンプっていうイベントに参加した時に、パフォーマーを目指す女の子に出会ったの。その子に影響されて、私はポケモンパフォーマーを目指すようになったの。あの時、あそこで出会ってなかったら、もしかしたら今も夢を見つけられずにいたかもしれない」

「運命的な出会いだったんだね」

「その子、今はライバル?」

「うん。ライバルで、親友で。時々連絡を取ってるけど、やっぱりパフォーマー頑張ってるって」

「出会いがきっかけに……」

「ねぇ、リーリエ」

 

何やらまた難しそうな顔をするリーリエの前に座り、セレナは優しく問いかける。

 

「ポケモンは好き?」

「えっ、はい」

「シロンのことは好き?」

「もちろんです!」

「じゃあ、シロンと一緒に何かしてみたいこととかある?」

「一緒に……ですか?」

「そう。一緒にしてみたいこと、見てみたいもの。そういう好きなことから考えてみたら、それが夢になることだって、あるかもしれないでしょ?」

「好きなことが……夢に……」

「焦らなくていいの。自分なりに考えて、ポケモンたちと向き合って、そうして見つけていけばいいんだから」

 

自分と同じ目線で、それでいて何処か大人びていて。そんなセレナの話は、サトシが自分たちに向けるものにそっくりだ。旅の中で、セレナもまた多くを見聞きし、学んで来たということだ。スクールとは違う、経験という方法で。自分も、ちゃんと頑張らないと。ポケモンたちに触れられないままで終わりたくはない。改めて一人、気合いを入れるリーリエ。

 

「はい。わたくしなりに、考えてみます。シロンと一緒に」

「うん、それがいいよ。あっ、そろそろ集まる時間だ!」

「行こう」

「はい!」

 

女の子四人は、仲良く駆け出す。一緒に笑いながら、セレナは思う。やっぱり、一緒にいてくれる誰かがいるのって楽しい、と。一人では心細いこともあった。でも、サトシのように、新しい仲間ができるかもしれない。

 

コンテストでできた新しいライバルたちのこと、カロスのライバルたちのこと、そして一緒に旅をして来た仲間たちのこと。思い返しながら、セレナもまた、一歩を踏み出した。




次回のアローラ修学旅行はカロスリーグ振り返り篇へ

アローラに来る直前のサトシの活躍をドドンと振り返っちゃおう!
カロス地方を旅したサトシは、遂に8つのバッジを揃え、カロスリーグに挑戦することに!
集まる旅でできた仲間、まだ見ぬ強敵、ライバルたち
激闘の結果はいかに?

解説のマサラタウンのサトシさん、アサメタウンのセレナさんを交え、あんなこんなそんな裏話も一挙公開!

気になる投稿日は……続報を待つべし!

次回、激闘!カロスリーグ 第1章 開幕、カロスリーグ!
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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激闘!カロスリーグ 第1章 開幕、カロスリーグ!

ここから何回かはカロスリーグをアローラ組と振り返る、所謂総集編的なアレですね

所々に作者が勝手に手を加えるところもありますけど、その辺りはノーツッコミでお願いします笑


宿泊施設にあるラウンジ、そこに枕や掛け布団、おやつなどを持ってきて、サトシたちはスタンバイオーケーだった。目の前には大型モニター、サトシの手にはディスクが一枚。

 

「それじゃ、全員揃ったし、早速始めるとするか。あ、けど、確か初日からのものが全部入ってるって言ってたからなぁ」

「だったら、サトシとサトシの知り合いの出てるバトルに絞って見たらいいんじゃないかな?元々は、サトシのリーグでの活躍を知りたいって話だったんでしょ?」

「それもそうだな。じゃあそうするか。みんなもそれでいいか?」

「意義なーし」

「俺もそれで構わない」

「僕も」

「うん」

「それでお願いします」

「じゃ、始めるか」

 

確認をとった後に、ディスクをプレーヤーに入れるサトシ。待つこと少し、大画面に大きなスタジアムが映し出された。満員の客席に溢れる歓声。まるでその熱気が画面越しに伝わってくるかのようだった。

 

「これがカロスリーグの舞台、ミアレスタジアム」

「おっきい〜。ポケモンリーグってこんなに大きな会場でやるものなの?」

「あっ、カルネさん!」

「本当にチャンピオンなんだ」

 

開会の言葉がチャンピオンであり、世界的な女優であるカルネさんから述べられる。大きな歓声とともに、リーグ最初のバトルが始まろうとしている。

 

バトルフィールドに現れたのは黒を基調とした服装に身を包んだ青年。自分たちよりも三つくらいは年上だろうか。対するトレーナーは自分たちの近い年頃、あるいは少し若いくらいに見える。

 

「どっちかがサトシの知り合いなのか?」

「二人ともだ。黒い服の方がアラン。カロス地方での俺のライバルだ。スッゲェ強いんだぜ」

「オレンジの髪の子はトロバ。ポケモンサマーキャンプで出会った、私たちの友達。いつもカメラを持っていて、いろんな珍しいポケモンを撮ってたわ」

「始まる」

 

ランダムに選択されたフィールドが、地面から上がってくる。岩と水のステージが現れ、バトルの準備は全て整った。開始の合図とともに、両者最初のポケモンを繰り出す。オレンジ色の体に尻尾の炎、大きな翼を持つポケモン。

 

「どっちもリザードン!?」

「リザードン対決ですね」

「でも、何かつけてるよ」

 

アランのリザードンは首回りに、トロバのリザードンは尻尾に、何かの石が埋め込まれた飾りをつけている。不思議がるマオたちをよそに、同じリザードンを持つカキは、食い入るように画面を見ている。

 

『来ないのならこっちから仕掛けます!リザードン、ほのおのうず!』

 

先に動いたのはトロバの方。アランのリザードンは、空に飛び上がり、その渦をかわす。お返しとばかりにかえんほうしゃで反撃するも、トロバのリザードンはドラゴンクローで攻撃を防いだ。と、ここでトロバが首から下げているカメラを手に取る。

 

『さぁ、最初からとっておきを出します!行きますよ、リザードン!』

 

カメラを掲げ、そのシャッターボタンを押す。いや、それはボタンではなく石だった。その石から眩しい光が溢れ、リザードンの尾にある石と結び合う。

 

「何これ?」

「Z技……じゃない」

「これは、もしかして……」

 

驚くマオたちが見る中、リザードンが徐々に姿を変える。腕にはヒレのようなものが現れ、頭のツノは三本に増える。顔つきも変わり、姿を現したリザードンは、彼らの見たことのない、全く新しい姿になっていた。

 

「これってもしかして進化?」

「いや、リザードンはこれ以上は進化しないはずだ……まさか」

「これは、メガ進化って言うんだ」

「「「メガ進化?」」」

「わたくし、本で読んだことがあります!最終進化したポケモンの中には、さらなる力を持つ新しい姿に進化するものがいると。それがメガ進化」

「さらなる力……」

 

画面の中のメガリザードンが吼える。ひでりによって強化されたねっぷうがアランのリザードンに襲いかかる。しかしそこはアランのポケモン。とっさに水を巻き上げ、ねっぷうを防ぎ、続いて繰り出されるドラゴンテールも上空に飛び避ける。

 

「アラン、だっけ?凄いね」

「あのリザードン、サトシのリザードンにも負けないくらい強そう」

 

息を呑み、試合を見守るマオたち。アランが左腕を胸の前に持ってくると、その腕に、先ほどのトロバが持っていたのと同じ石がはめ込まれた腕輪がついていた。

 

『我が心に答えよ、キーストーン!進化を超えろ、メガ進化!』

 

左腕を高く掲げると、眩しい光がリザードンを包み込む。現れた姿に、マオたちは困惑した。同じメガ進化をしたというのに、現れたアランのリザードンの姿は、全く別のものだった。身体の色は黒くなり、口元から青い炎が溢れている。翼の形も変わり、力強さが増している。

 

「な、何で同じポケモンなのに違う格好なの?」

「メガ進化の中には、一つ以上の姿を持つポケモンもいるらしいの。まだ詳しくは知られてないんだけどね」

 

二体のリザードンの吐き出す炎が、フィールドの中央で激突する。真下にあった水が、急速に熱され、激しい蒸気が彼らの視界を覆う。視界の悪さに耐えかねたのか、トロバの指示でリザードンが空へと飛び上がる。その様子を見たアランは小さく笑みを浮かべた。

 

『正面、角度53度!かえんほうしゃ!』

 

煙を突き抜け、青い炎がトロバのリザードンに命中する。その強烈な一撃に、堪らずリザードンは地面へと落下した。その姿は元のリザードンに戻り、目を回していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「凄すぎるよ……」

 

クラスメートの気持ちを代弁するマオの一言。アランの強さは、それだけ圧倒的だったのだ。リザードンに続いて、トロバのプテラ、フラージェスを続けざまに打ち破ったアランのリザードンは、一切疲れた様子がないのだ。

 

「流石アランだな……ここまで圧倒的だったなんて」

「サトシ、観てなかったの?」

「この時次が俺の試合だったから、その準備でいなかったんだ」

「そういえばサトシ、この時ギリギリに現れたのよね」

「ギリギリ?」

「そう。もう少しで失格になるところだったんだから」

「「「「失格!?」」」」「おいおい」

 

なるほど、画面に映っているのは草原のフィールドと相手のトレーナーだけ。サトシの失格までのカウントダウンが始まっている。

 

「もぉー、サトシ。何やってたの?」

「いや、実はさ……」

 

 

 

「「「「「「バトルしてたぁ!?」」」」」」

 

お恥ずかしながら、みたいな感じに頭をかくサトシとピカチュウ。でも、とそこから一変、少し真面目な表情になるサトシ。

 

「俺はあの時、バトルして良かったと思ってる。リーグに出たかったのに、出られなかった人もいる。リーグも、憧れの舞台なんだ。その人たちの思いを、しっかりと受け止めることができた。だから、」

 

『俺はマサラタウンのサトシ。夢はポケモンマスター。そして、カロスリーグ優勝だ!』

 

丁度その時、画面からサトシの優勝宣言が聞こえた。今の話を聞いた後に、その宣言を聞いてみると、どれだけの覚悟を持って言ったのかがわかる。

 

「やっぱり凄いね、サトシは」

「そうですね」

「うんうん」

「もう、驚きの連続だよ」

「だな」

 

サトシの話題で盛り上がるアローラ組。それを見ながら、セレナがサトシに耳打ちする。

 

「いい仲間だね、サトシ」

「あぁ。みんなスッゲェいい奴ばかりでさ、毎日が楽しいよ」

「良かった」

 

「はーいそこー、二人だけの空間作らない!」

 

ビシッと指を指すマオ。笑いながら、サトシたちは再び画面へと意識を向ける。丁度相手がチルタリスを出したところのようだ。対するサトシが選んだのは、

 

『ゲッコウガ、君に決めた!』

 

カロスリーグのフィールドに現れたのは、彼らも良く知るゲッコウガ。いつもは細められている目を開き、すぐさま構える。

 

「ゲッコウガだ」

「かっこいい〜」

「画面越しでも、貫禄ありますね」

 

バトルが始まり、チルタリスのりゅうのはどうを受け止めるゲッコウガ。追撃のりゅうせいぐんが襲いかかる。

 

『もっともっと強く!行くぞ!』

 

サトシとゲッコウガの動きがシンクロし、激しい激流を身に纏う。そのまま走り出したゲッコウガは、迫り来るりゅうせいぐんを一つまた一つと、かわしながら、フィールドの中央で大きく飛び上がる。

 

水が弾け、姿が現れる。その水流は形を変え、背中に巨大なみずしゅりけんが現れる。閉じられていた瞳を開き、ゲッコウガはチルタリスを見下ろした。

 

『なんだこれは!?ゲッコウガの姿が変わった!?』

 

メガ進化ではない変化、それも今までに他で確認されたことのない現象に、会場はどよめき、歓声が一層大きくなる。

 

『ゲッコウガ、みずしゅりけん!』

 

ゲッコウガの放ったみずしゅりけんがチルタリスに直撃する。羽を使い、身を守ろうとしたチルタリスだったが、煙が晴れると、目を回し、地面に倒れていた。

 

「ドラゴンタイプのチルタリスには、みずタイプのみずしゅりけんは効果がいまひとつのはずです。なのに一撃で倒すなんて……」

「ゲッコウガ、やっぱり強すぎだよ」

 

その後、アランと同じように、残る二体も単独で撃破し、サトシは無事に二回戦進出を決めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

初日のバトルを見終え、サトシたちは少し休憩を兼ねてお話タイムに入った。

 

「凄かったね〜。ポケモンリーグってアローラ地方にはないから、なんだか新鮮だったなぁ」

「あんなにいっぱいのトレーナーが集まるのもだけど、みんなすっごくレベル高かったね。メガアブソルだっけ?凄かったよ」

「私はカメックス。踊りながら戦うの、面白い」

「あたしはあのケッキングって面白そうなポケモンだと思ったな〜。横になってるのに、攻撃の時は強かったし」

 

思い思いに感想を語るクラスメートたち。普段は見られないような高レベルの駆け引き、ポケモンにバトルスタイル。更には例年になかったほどの、メガ進化ポケモンたちの参加。男子だけでなく、女子組も大いに盛り上がっているようだ。

 

「でもサトシも凄かったよね〜。最初からゲッコウガの三体抜きしちゃうんだもん」

「二回戦でも、オンバーンとピカチュウだけで勝ってたよね。オンバーンてまだ卵から生まれてそんなに経ってなかったんでしょ?それで相手のポケモン二体も倒しちゃうんだから」

「三回戦はファイアロー、大活躍。ブレイブバード、かっこ良かった」

「実況の方からもとんでもない選手って言われてましたね」

「まぁ、実際そうだよな」

 

ポケモンたちがよく育てられていることもあるが、サトシたちの強さはもちろんそれだけではない。サトシの閃きやとっさの作戦はとてもではないが真似できることじゃない。

 

そして一見無茶苦茶にも見えるその作戦を、ポケモンたちはなんの疑いもなく、やってのける。よほどの信頼関係で結ばれていなければ、ありえないことだ。

 

「いやぁ、なんか照れるな……はは」

 

目の前で自分の話題で盛り上がられると、さすがのサトシも照れ臭い。そんなサトシを眺めながら、セレナは楽しそうに笑っている。

 




準々決勝への進出を決めたサトシ。
ライバルたちとの決戦の時も近く気合が入るサトシ
その前に立ち塞がるトレーナー、アヤカ
そして最後の一枠を賭け、二人の友が対決する
この戦いに勝利し、準決勝に進めるのは誰か?

次回、激闘!カロスリーグ 第2章
白熱の準々決勝、ルチャブル対メガアブソル
最後は誰だ?ショータ対ティエルノ
豪華二本立てでお送りします!

みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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激闘!カロスリーグ 第2章1 白熱の準々決勝、ルチャブル対メガアブソル

二本立ての言いましたけど、あくまで予告ですから!

いえ、一つにまとめようかとも思ったのですが、思ったよりも長くなっちゃって

というわけで二部構成前編
オリジナルバトルシーン満載!
カロスリーグ準々決勝第2試合、スタート


しばしの休憩を挟んだサトシたち。その間にメガ進化についてもサトシとセレナの知ってる範囲で説明するトレーナーとポケモンの絆の力、メガストーンとキーストーンという二つの石、バトル中のみに変化し元に戻る特徴。今まで見たことのないその力に、カキはもちろん、他のみんなも興味津々のようだ。

 

話もひと段落したところで、カロスリーグの続きを見ることにする。いよいよ後半戦、準々決勝からのスタートだ。残った選手は総勢8人、この中から準決勝に進めるトレーナーが決まる。

 

最初に進出決定したのは、やはりアランだった。勝利の声をあげるリザードンの正面には、カイリューが目を回し倒れている。相手の三体目だったカイリューに手も足も出させず、完封してしまったのだ。驚くことにアラン、この大会ではまだリザードン一体しか出していないのだ。残りの手持ちは全くの不明。故に、彼と相対するトレーナーたちは、既にプレッシャーに呑まれているようにも見える。

 

「自分の他の手持ちを一切明かすことなくここまできたか……どんなポケモンが控えているのかわからないから、厄介だな」

「リザードン、本当に強いよね。タイプ相性悪い相手でも関係なく倒しちゃうんだもん」

「アランは、リザードンと一緒に最強のメガ進化使いを目指してたからな。あの二人は、強いよ」

 

画面の中では、リザードンに労いの言葉をかけるアランが映る。ふとその視線が会場のとある一点を見ていることにマーマネが気づく。

 

「ねぇ、この時のアラン、どこ見てるんだろう?なんだか誰かを見上げてるみたいだけど」

「あぁ、それは多分マノンだよ。アランと一緒に旅をしてた女の子で、今回応援に来てたんだ」

「へ〜」

 

次の戦いに登場したのは、サトシだった。対する相手は、メガアブソル使いのアヤカ。

 

「出た、メガアブソルのトレーナー!」

「この人も、すごく強い」

「実はね、サトシは前にアヤカさんとバトルしたことがあるの」

「そうだったのですか?」

「あぁ。その時も三体ずつのバトルだったんだけど、負けちゃったんだ。だからこの時はリベンジできるって燃えてたな」

 

街中のフィールドが現れ、両者最初のポケモンを出すように指示される。

 

『行きなさい、カエンジシ!』

『ピカチュウ、君に決めた!』

 

サトシの肩から飛び上がり、フィールドに着地するピカチュウ。その小さな体は可愛らしいものの、まとう雰囲気は歴戦の猛者のそれだ。ピカチュウと相対するのは立派な鬣を持つポケモン、カエンジシ(♂)。フィールドに出た瞬間に、咆哮が会場に届く。

 

「かっこいい、ポケモンだね。カエンジシっていうのかぁ」

「ピカチュウ、ファイトー!」

 

審判による開戦の合図が入り、準々決勝二回戦が始まった。

 

『カエンジシ、かえんほうしゃ!』

『ピカチュウ、でんこうせっか!』

 

カエンジシのかえんほうしゃをそのスピードでかわし、すぐさま接近するピカチュウ。先手必勝とばかりに、カエンジシの胴体に攻撃が決まる。

 

『アイアンテール!』

『ほのおのきばで掴むのよ!』

 

続け様に放たれる尾による一撃を、噛みつくことによって防ぐカエンジシ。そのままピカチュウを振り回し始める。体格差には逆らえず、されるがままになるピカチュウ。

 

『叩きつけなさい!』

『ピカチュウ、そのままエレキボール!』

 

カエンジシが地面に叩きつけるより速く、ピカチュウは尾の先に電気を集約する。口内から直接電撃を浴びせられるカエンジシ。思わず尻尾から口を離してしまう。

 

バトルとはいえ、なかなかエグいことを……なんて自分でも思ってしまうサトシ。その時は考えている余裕はなかったが、カエンジシには悪いことをしてしまった。隣でピカチュウも罪悪感を感じているのか、若干バツが悪そうだ。

 

『ピカチュウ、10まんボルト!』

『ピィーカ、チュ〜!』

 

そうしている間にも画面の中では、拘束から逃れたピカチュウが、渾身の電撃をカエンジシにお見舞いしていた。爆発が起こり、煙が晴れると、そこにはカエンジシが目を回して倒れていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「流石ピカチュウ。すごい連続攻撃だね」

「体格差、全然関係なさそう」

「あっ、二体目来たよ」

 

アヤカの繰り出した二体目はニャオニクス(♀)。これもまた、以前サトシが戦った相手だ。その時のケロマツを倒した実力を持つ相手の登場に、ピカチュウは頬袋から電気を出し、気合を見せる。

 

『ニャオニクス、ひっかく!』

『アイアンテールで迎え撃て!』

 

飛び上がる両ポケモン。空中で鋭い爪による攻撃と、尾による攻撃が激突し、互いに弾かれる。ニャオニクスは地面に、ピカチュウは空中へと距離が開く。

 

『シャドーボール!』

『エレキボール!』

 

下から空中で身動きが取れそうにないピカチュウ目掛けて放たれるシャドーボール。それに対しピカチュウは体を捻り、回転することでエレキボールを撃ち出す。今まで何度も見て来たことだが、サトシのピカチュウの身体能力には、アローラ組も、セレナも改めて驚かされる。

 

二つの技はぶつかり合い、弾けた。その間にピカチュウも地面に着き、改めてニャオニクスを見据える。

 

『ニャオニクス、みらいよち!』

『ニャアーオ』

 

突如空間に空いた穴に、複数のエネルギーの球体が吸い込まれていく。攻撃が届くのは先のこと。いつ来るかもわからない攻撃に備えることが必要になる。相手を心理的に揺さぶることもできる、強力な技だ。

 

しかしサトシは動じている様子がまるでない。よく見ると、ピカチュウの尻尾が振り子のように揺れている。規則的に、時を刻む時計のように。

 

「ピカチュウ、何してるんだろ?」

「何か数えてる?」

 

『ニャオニクス、サイケこうせん!』

『かわせ!』

 

ジャンプして後退するピカチュウ。依然として尻尾は振られたままである。着地したその時、ピカチュウがサトシに声を上げる。

 

『今だ、でんこうせっか!』

 

走り出すピカチュウ。丁度その時、上空から降って来る複数の球体。それは先ほど放たれた、ニャオニクスのみらいよち。しかし高速で駆け出したピカチュウを追尾することまではできず、その後ろで地面にぶつかり、爆発を起こした。

 

『そんなっ!?』

『ニャ!?』

 

驚き動きが止まるアヤカとニャオニクス。そこへピカチュウのでんこうせっかが炸裂する。ダメ押しとばかりに放たれたエレキボールがニャオニクスを捉えた。倒れ込んだニャオニクスは戦闘続行不可能だった。

 

「ピカチュウ、すっごい!どうして技が来るタイミングがわかったの?」

「あれは、前にカロス地方のジムで、みらいよちを使うニャオニクスと戦ったことがあったんだ。その時にみらいよちを攻略するための対策を考えてたからできたんだ」

「みらいよちのデータを持ってたんだね〜」

「あの時は、逆にニャオニクスにみらいよちをぶつけることもしてたわね」

「相手の技を利用したのか……やるな」

「へへっ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

後が無くなったアヤカ。となれば、彼女が出して来るのは当然、一番信頼できるパートナー。

 

『頼んだわよ、アブソル!』

『ソォル!』

 

ボールから現れたのは白い体毛が美しいポケモン。立派な角と、凛々しい顔立ち、そして胸元にはメガストーンが埋め込まれたペンダント。あやかが右耳のイヤリングについている石に触れる。二つの石が眩しく輝き、アブソルの身が光に包まれる。

 

美しい毛並みが変化し、さらに神々しくなる。背中には羽が現れた、顔の半分が体毛で覆われ神秘性が増して見える。そして長く力強い角が、更に大きくなり、アブソルのたくましさを見せつける。

 

「来た、メガアブソルだ!」

「ほんっと綺麗。かっこいいなぁ」

「はい。とても神々しいです」

 

『アブソル、メガホーン!』

『ピカチュウ、アイアンテール!』

 

素早く跳躍し、力を集約した角を振り上げるアブソル。ピカチュウはアイアンテールで迎え撃つが、パワー勝負では勝ち目がなく、攻撃を受けてしまう。再び宙に上がったピカチュウに、アブソルが接近し、シャドークローによって地面に叩きつけた。目を回してしまっているピカチュウ。二体連続で倒し、実力を見せるものの、ここで敗れてしまった。

 

『よくやったな、ピカチュウ。ゆっくり休んでてくれ』

 

「ピカチュウも負けちゃったかぁ。でもでも、まだ後二体出せるし」

「それに、ゲッコウガもいるしな。あいつなら、メガ進化に対抗するのも訳ないだろ」

 

またまたゲッコウガの活躍が見られるのか、そんな期待をしているアローラ組の様子を見て、サトシは苦笑してしまう。何故なら、この時サトシが選んだのは、

 

『ルチャブル、君に決めた!』

『チャブ!』

 

「えっ、ゲッコウガじゃないの?」

「ちょっとビックリ」

「前にアヤカさんに負けたことがあるって話したろ?その時、メガアブソルと戦ったのが、ルチャブルだったんだ。あの時は負けちゃったけど、あいつもリベンジしたがってたしな」

「サトシって時々そういうことするのよ。相性とか、進化してるしてないとか、そういうの全部無視してポケモンを選んでる。でも、何の考えもなくしてる訳じゃないもの。そのポケモンのやる気をかう時とか、そのポケモンだからこその戦法を考えている時とかね」

「信頼してるのですね、ポケモンたちを」

 

画面の中では、ルチャブルとメガアブソルがお互いをじっと観察している。先に動いたのはアヤカ、

 

『アブソル、あくのはどう!』

『ルッ、ソォル!』

『かわしてからてチョップ!』

『チャブ、ルッチャ!』

 

飛び上がり、上から放たれるあくのはどう。ルチャブルは壁を蹴り、三角飛びの要領でそれをかわしアブソルの元へ飛ぶ。両腕で連続して打ち込まれるからてチョップ。効果抜群の技を受け、アブソルは後ろ向きに弾かれる。

 

しかし地面に着く直前に回転し、着地するアブソル。伊達にこのリーグ内でも猛威を振るっているわけではないのだ。

 

『シャドークロー!』

『とびひざげりだ!』

 

着地する前の無防備なところを狙おうと攻撃してくるメガアブソル。すかさず反撃に出るルチャブル。かたやかくとうタイプの技、かたやゴーストタイプの技。二つの技が正面衝突するかと思いきや、ルチャブルの足は空を切り、リーチの長いメガアブソルの爪だけが命中する。

 

『ルチャブル、大丈夫か?』

『チャブチャブ!』

『よぉし、いいぞ。お前のバトルで、リベンジしてやろうぜ!』

『チャブ!』

 

「ねぇ、ルチャブルのバトルって?」

「ルチャブルはね、相手の攻撃を受けることで、自分を高めるのよ」

「攻撃を受けて高める?」

「それがあいつなりの、バトルの流儀なんだ」

「流儀……ですか」

「ポケモンにもいろんなバトルスタイルを持っている奴がいるんだ。同じポケモンでも得意な戦法、不得意な戦法が違うこともあるし」

「へぇ〜」

 

『畳み掛けて、サイコカッター!』

 

街中フィールドの通路とほとんど同じ幅のサイコカッターが、ルチャブル目掛けて放たれる。上に逃げたら、先ほどのように次の攻撃が襲ってくる。かといって目の前の技を受けるのはあまりにもリスキーだ。効果は抜群で、しかもメガ進化したアブソルの技だ。一撃で沈められてしまうかもしれない。みんなが画面を食い入るように見つめる中、サトシが指示を出した。

 

『突っ込め、ルチャブル!』

『チャブ!』

 

「「「「えぇぇぇぇっ!?」」」」

 

サトシの指示も、ルチャブルの行動も、もはや意味不明である。いくら攻撃を受けて自分を高めるのがスタイルといっても、これはさすがに無謀ではないだろうか。しかしその考えは即座に覆される。

 

『シザークロス!』

 

両腕を交差させるように振り下ろすルチャブル。繰り出したのはむしタイプの技、シザークロス。エスパータイプには効果抜群のその技の威力は高く、容易くサイコカッターを両断し、そのまま接近した。

 

『っ!もう一度、サイコカッター!』

 

接近するルチャブルに驚いてしまったのか、後ろに飛びながら再びのサイコカッターを放つメガアブソル。その攻撃を読んでいたルチャブルは、アブソルの上に飛び上がった。

 

『フライングプレス!』

 

空中で両腕を広げてから回転するルチャブル。彼の代名詞とも言える決め技が、アブソルの腹部に決まり、一緒に地面に向かって落ちていく。地面にぶつかると煙が上がり、両ポケモンが見えなくなる。

 

煙が晴れ、二体の姿が現れた丁度その時、メガアブソルが崩れ落ち、元の姿に戻った。

 

『アブソル、戦闘不能。ルチャブルの勝ち!よって勝者、マサラタウンのサトシ選手!』

 

審判からのコールが入り、会場のスクリーンにサトシの顔が大きく写る。アランに続いてサトシが準決勝進出を決めた瞬間だった。

 

「ほんとに勝っちゃった……メガアブソルに」

「ルチャブル、すごい」

「タイプ相性は確かに良い相手でした。ですが、まさか通常のポケモンで、あれだけ強かったメガ進化ポケモンを倒すなんて」

 

モクローやニャビーもサトシの側で画面を凝視している。これが自分たちより前にサトシと旅をして来たポケモンたち。その強さを見せられ、どうやら闘志に火がついているようだ。

 

「次はショータとティエルノのバトルだな」

「二人ともすっごく強いトレーナーだったよね」

「あのティエルノってトレーナー、なんだかマーマネに雰囲気似てない?」

「えー、そうかなぁ?」

 

準決勝進出をかけた最後の試合。共にサトシたちの知り合い同士のバトルに、マオたちは興味津々のようだ。立場的に自分たちにも近いところがあるからだろうか。

 

そんなみんなの様子を見ながら、サトシはプレーヤーを操作し、ショータとティエルノのバトルを見るための準備をし始めた。




ポケモンクイズ!

次回、繰り出されるショータの相棒兼エースのジュカイン
そのジュカインがopの「XY&Z」で使っているのに、リーグでは忘れてしまった技は、なんでしょう?

答えは次回!

でも、答えは胸の内に秘めておくだけで
アンケートじゃないよ〜

追記
アニメの影響で微妙な変更を加えました


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激闘!カロスリーグ 第2章2 最後は誰だ?ショータ対ティエルノ

雑!

自分で書いといて、かなり雑!
いやほんとすんません、無理です

カロスリーグのバトルっていちいちレベル高すぎて無理!
文章じゃ全く伝わってこないよ!

というわけで、さっさと準決勝行きたいので、これで許してください


準々決勝最後の試合、登場したティエルノとショータに、会場は大いに盛り上がっていた。

 

「ねぇねぇ、あの二人ってどんなトレーナーなの?」

「ティエルノはポケモンダンスチームを作ることが夢でさ、ポケモン達と息ぴったりのリズムで戦うんだ。そのリズムがなかなか厄介でさ、動きが読みにくかったり、こっちの攻撃を楽々かわしたり。俺も真似してみようかと思ったんだけど、結局やめたんだよなぁ」

「ショータは、そうね。相手のこととか、バトルのこととかを凄い分析するの。それを自分の経験値として活かして戦ってたわ。特にサトシを目標にしてて、サトシの戦法とかも凄く研究して、自分なりに取り入れてたわ」

「全然違うタイプだな」

 

画面の中で最初のポケモンが出される。ティエルノはルンパッパ、ショータはギルガルドだ。登場してすぐにティエルノと息の合ったダンスを見せるルンパッパに、会場もマオ達も盛り上がる。

 

『ルンパッパ、あまごい!』

『ギルガルド、つるぎのまいです!』

 

フィールドを味方につけるルンパッパと、一撃の威力を高めるギルガルド。もう一度つるぎのまいを発動させようとするところで、特性、『すいすい』によって素早さを上げたルンパッパのハイドロポンプがギルガルドに決まった。追撃とばかりにもう一度ハイドロポンプを放つルンパッパ。今度はきりさくで対抗しようとしたギルガルドだったが、あまごいで威力を上げられていたこともあって、弾き飛ばされてしまう。

 

「ルンパッパの連続攻撃、リズムミカルだね」

「流石、自分たちのリズムに合わせた戦法を持ってるみたいですね」

「ショータはどうするのかな?」

 

『ハイドロポンプ!』

『ルンパッパ!』

『ギルガルド、キングシールド!』

『ギド!』

 

盾の中に刀身をしまい、フォルムチェンジするギルガルド。キングシールドはあらゆる攻撃を防ぐことのできる、強力な盾。ハイドロポンプも簡単に防がれてしまった。続きざまに繰り出されるせいなるつるぎ。それはいともたやすくハイドロポンプを切り裂き、ルンパッパを弾き飛ばした。

 

「技を切った!」

「なんかサトシみたいな戦法……」

 

生じた隙を逃すまいと、さらにつるぎのまいを重ねるギルガルド。トドメとばかりに繰り出されたせいなるつるぎは、雨で威力の弱ったルンパッパのソーラービームを物ともせず、見事にルンパッパを倒したのだった。

 

「ショータは、ティエルノのリズムに呑まれるどころか、逆にうまくリズムを崩してみせたんだ」

「最後のソーラービーム、完全に焦ってたみたいだったしな」

「これでショータが一歩リードだね」

 

画面の中でティエルノの二体目が飛び出す。ライチュウだ。アローラ地方のライチュウとは違う姿に、またまた興味津々のマオたち。見ている間に、ギルガルドをライチュウがあなをほるで倒してみせた。勝負は五分五分に戻る。

 

「あなをほるは、どこから来るかを予測するのが面倒だからな。うまい不意打ちだったぜ」

「確か、対策としては地面全体へ衝撃を与えるような攻撃が有効とは聞きますけど、使えるポケモンがいないと難しいですね」

「ピカチュウはできるぜ」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

「な、ピカチュウ?」

「ピカチュ!」

「えっ、どうやって!?」

「どうって、アイアンテールでだけど……」

「アイアンテールで?」

 

サトシの説明不足で頭に疑問符が浮かぶカキやマーマネ。唯一実際に見たことがあるセレナはウンウンと頷いている。そうこうしていると、ショータのペロリームによってメロメロにされたライチュウに代わり、カメックスがフィールドに出て来た。

 

『ペロリーム、メロメロです』

『カメックス、イッツ、ダンシングターイム!』

 

高速回るカメックスに、メロメロの光が命中する。しかし、カメックスはメロメロどころか、やる気MAXのようだ。

 

『成る程、効きませんか』

『驚くことはないよ。何故なら僕たちは既に、ダンスにメロメロだからね!』

 

「そんなことがあるのですか!?本でそんな例、聞いたことがないですけど、凄いです!」

「ああ。ティエルノたちのダンスにかける情熱は、本物だからな」

 

感動しているリーリエに、共感しているのか頷くサトシ……は、ほっておいて、マオたちはセレナに話しかける。

 

「で、実際にそんなことってあるの?」

「う〜ん、一緒に観戦してた子は、精神面の問題もなくはないとは思うとも言ってたけど……多分、同じ性別だからじゃないかなって」

「だよね〜」

 

さすがはゼニガメの最終進化形。みずタイプでも最強クラスの技、ハイドロカノンですぐ様ペロリームを戦闘不能にしてみせた。ティエルノの手持ちは残り二体。一方ショータは追い詰められた。次に出すのはもちろん、自分のベストパートナー。投げられたボールから飛び出したのは、緑の体に緑のスカーフ、両腕に付いた鋭い刃。

 

「ジュカインだ!」

「こいつのパートナーは、ジュカインだったのか……」

「強そう」

 

クールなサトシのジュカインとは違う、どこかエネルギッシュな印象を与えるショータのジュカイン。相性で不利ながらも、動じることなく相手を見返すカメックス。流石に準決勝進出をかけた最後のバトル、なかなかに盛り上がって来ている。

 

『カメックス、れいとうビーム!』

『ジュカイン、リーフストーム!』

 

相性抜群の技で攻めるカメックスに対し、ジュカインはくさタイプの大技、リーフストームで迎え撃つ。両方の技の威力は互角、フィールドの中央で爆発が起きる。

 

『ハイドロカノン!』

『リーフブレード!』

 

続けて撃ち出されたハイドロカノンを素早い動きでかわしたジュカイン。一気に接近し、両腕のブレードで切り裂いた。効果は抜群。立ち上がりはしたものの、カメックスの受けたダメージはなかなか大きい。

 

『パワーならカメックスの方が上だ!ロケットずつき!』

 

バネのように飛び出すカメックス。頭部による強力な一撃で形成を変えようとしているようだ。しかし、彼らはジュカインのパワー、力を完全に見誤っていた。

 

『ハードプラント!』

 

地面に両腕を叩きつけるジュカイン。大地を割り、巨大な植物の幹のような触手が現れる。ハイドロカノンと同じく、くさタイプ最強クラスの技、ハードプラントがカメックスに襲いかかった。それはいともたやすくカメックスを弾き、宙に打ち上げた。

 

『カメックス!っく、あまごいだ!』

 

ティエルノの指示に、最後の力を振り絞るカメックス。空が再び雲に覆われ、雨がフィールドに降り注ぐ。地面に落ちたカメックスは目を回していた。

 

「何故最後にあまごいをさせたんだ?」

「雨の時、みずタイプの技が上がる、けど」

「次はライチュウだったよね?じゃあみずタイプの技は関係ないんじゃないの?」

「天候は雨……確か以前読んだ本では、」

「成る程ね〜」

 

疑問符を浮かべるカキ、スイレン、マオ。一方、リーリエとマーマネは何かに思い至ったみたいだ。流石は知識がピカイチのリーリエに、でんきタイプの専門家マーマネ。あの時もシトロンが最初に気づいていたなぁ、なんて、少し懐かしく感じる。

 

「何何?二人はわかったの?」

「ま、まぁね」

「どういうこと?」

「雨の時はね、でんきタイプの技は必中なんだよ。だから絶対に外れなくなるんだ」

「この連携から考えると、恐らくティエルノの出す指示は、」

 

『かみなりだ!』「かみなりです」

 

リーリエとほぼ同時に、画面の中のティエルノが指示を出す。迸る電流が雲へと吸い込まれていく中、ショータは自身の手帳から、一つの飾りを手に取った。キラリと輝く小さな石。それを見たマオたちは、「あっ」と、思わず声を漏らした。

 

『ジュカイン、メガ進化!』

 

ショータの手の中の石と、ジュカインのスカーフを止めていた石が共鳴し始める。光の帯が伸び、二つの石を繋ぐ。そしてジュカインの姿がどんどん変わっていった。

 

現れたのはさらに雄々しく、よりスマートになった、ジュカインの姿。尻尾も大きく、鋭く変化している。

 

しかし進化が完了した直後、激しいかみなりがジュカインに降り注いだ。

 

「これは効いてるよ!」

「それはどうかな」

「へ?あれっ!?」

 

迫力あるでんきタイプの技にマーマネが興奮する。が、よく見ると、ジュカインは全くダメージを受けていないようだった。これはまるで、

 

「トゲデマルと同じ、ひらいしん?」

「そう。ジュカインはメガ進化すると、特性がひらいしんに変わるの」

 

渾身の一撃も意味を成さなかったことに、ティエルノもライチュウも動揺している。その隙をついて接近するジュカイン。両腕の爪が更に鋭く変化する。

 

『ライチュウ、きあいだま!』

『ジュカイン、ドラゴンクロー!』

 

接近させないようにと放たれたきあいだま。しかしジュカインはそれをいとも簡単に切り裂いてみせた。小さな爆発を背後に起こし、更に加速したジュカイン。その両腕がライチュウを宙に打ち上げた。倒れるライチュウは戦闘不能、つまりティエルノは使用できるポケモンがいなくなったのだった。

 

『ライチュウ戦闘不能、ジュカインの勝ち!よって勝者、ショータ選手!』

 

審判のコールとともに、会場が拍手に包まれる。素晴らしいバトルを見せてくれた両選手に、惜しみない拍手が送られていた。

 

 

「凄かったね、メガジュカイン。サトシのジュカインとどっちが強いのかな?」

「うーん、まさかあそこでひらいしんが来るなんて……決まったと思ってたのになぁ」

「とても高度な駆け引きでした。ショータのバトルスタイル、なんだか勉強になります」

 

観戦後、さっきのバトルの感想を言い合うクラスメートを見ながら、サトシはティエルノやトロバ、ショータにサナ、アランとマノン、そしてシトロンとユリーカ。彼らが今どうしているのか、なんとなく気になった。

 

「今度、シトロンに電話してみようかな」

「私も、そう思ってた。なんだか、懐かしい気持ちになっちゃって」

「みんなと一緒にするか?久しぶりにセレナと話せたら、ユリーカも嬉しいと思うし、みんなにも会わせたいし」

「そうね。それも楽しそう」

 

誰もが目を離している画面の中。実況者が準決勝のカードを発表しているところだった。画面に映し出された四人の顔。それらが並び替えられる。第一試合はアランとルイ、そして第二試合はサトシとショータ。

 

カロスリーグ内でも、一、二を争う盛り上がりを見せた、あのバトルを振り返ろうとしていた。

 




準決勝さっさと行きたいと言いましたけど、次回は一旦大人たちの様子を見てもらいます!

オーキド博士の語るサトシの過去、アニメではなく、小説版を参考にした上での、オリジナル展開なので、ご了承下さい


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時を超えて


今回は博士〜ズの様子を見て見ましょう

サトシたちが盛り上がる一方で、彼らはというと……


 

若者組がカロスリーグ鑑賞会を行なっている中、ククイ博士はオーキド博士とともに、サトシ宅にて、サトシの母ハナコの作ってくれたおつまみを食べながら、少しばかり語り合っていた。

 

「そうですか。サトシが」

「はい。家のことも色々手伝ってくれて、

授業でも一生懸命。下級生の面倒見もいいから、スクールでも大人気ですよ」

「それは良かった。サトシがいると、授業もおもしろくなりませんか?」

「確かにそうですね。いつでも全力体当たりで挑むので、とても見守りがいがあります」

 

ポケモンスクールやアローラ地方でのサトシの様子を話すククイ博士。オーキド博士は嬉しそうに耳を傾けている。

 

「しかし、あの子が学校に行くと聞いた時は、実は少しばかり不安もあったんじゃ」

「不安、ですか?」

「その通り。実のところをいうと、今はククイ博士に聞く限り、学校でも慕われているようですが、昔はそうではなかったのです。むしろ、ほとんど友達はいなかった」

「えっ、サトシが、ですか?」

 

にわかには信じられない、それがククイ博士の素直な感想だった。そんなのは、とてもサトシからは想像できないことだったのだから。

 

ククイ博士の知るサトシは、人やポケモン問わず惹きつける、不思議な魅力を持つ少年だ。初めての土地、初めての人間関係。それは少年が戸惑い、不安になるには十分なものだ。しかし旅をしていたおかげか、サトシは臆することなく、誰もに対してフレンドリーに接していた。その結果、今ではメレメレ島では、彼のことを知らない人の方が少ないほどだ。

 

「信じられないとは思いますがな」

「ええ、まぁ。一体どうして?」

「うむ。ククイ博士も今はサトシの保護者ですからな。その時のことを少しお話しするとしよう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

実はこのマサラタウン、以前はポケモンの学校があったのです。いや、残念ながら、そちらのポケモンスクールほど楽しいものではなかった。基本的には知識を与えるためだけの場でしてなぁ。直接ポケモンと触れ合う機会は、ほとんど与えられていなかった。

 

わしもそのことが気がかりだったので、時折特別講座として、研究所にいるポケモンたちに会えるようにしていたのです。他にもサマーキャンプを行い、子供たちに自然を知ってもらおうともした。野生のポケモンと仲良くなれるようにしたくてのぉ。じゃが、やはり野生や他人のポケモン。子供達は少し離れてみることくらいしかしなかった。

 

そんな時じゃったよ。

あのサトシと出会ったのは。

 

 

最初に彼としっかりと話したのは、彼がわしのサマーキャンプに参加した時のことじゃった。その頃から明るく、他人思いな良い子でした。

 

しかし何よりもわしが驚いたのは、どんなポケモンに対しても、恐れることなく向き合おうとするその姿勢じゃった。

 

小さいポケモン、大きなポケモン、トレーナーのポケモン、野生のポケモン。そんな違いなど、彼は全く気にしておらんかった。どんなポケモンとも仲良くしようと、積極的に動いておったのです。そして、ポケモンたちもそんな彼を気に入ったのか、いつも彼を出迎えてくれた。

 

その後、孫と歳が同じこともあって、わしはサトシとの交流が増えました。まるでもう一人の孫のように思えるほどに。彼はいつもポケモンの話を聞きに来てくれたのです。

 

まだ学校にも通っていないうちから、熱心な子だ。そう思ってわしは、孫とサトシの二人に、ポケモンのこと、昔旅した時のこと、色々と聞かせたのじゃ。その時のサトシの目が、またキラキラしていてのぉ。わしも、彼に話をするのが楽しみになりましたなぁ。

 

 

そしてサトシは成長し、学校に通うようになった。ポケモンたちのことが大好きな彼は、人一倍トレーナーになりたいと思っておった。じゃが先にも言ったように、そこは理論やトレーナーとしてのルールばかりに重きを置いていたものでな。サトシにとっては、あまり面白くなかったようじゃ。

 

周りの子たちが立派なトレーナーになるために休み時間も勉強する中、サトシはいつも校庭にある、野生のポケモンのために解放されているスペースに行っておった。そうして彼はポケモンの友達を多く作っていったのじゃ。一体一体の知識は持っていなくとも、彼はポケモンたちに向かい合うように接し、ポケモンたちもそんな彼を受け入れた。研究者のわしも、彼のそのあり方に感銘を受け、最近はいろんなポケモンと体当たり気味に触れ合うようになりましたなぁ。

 

じゃが、そんな彼のあり方は、周りの子にはあまり理解されなかった。野生のポケモンはゲットするまでは危険なもの、ポケモンが手持ちにいないときは近づくべきではないもの、そう教えられていたからじゃ。もちろん、それが別に間違っているわけではありません。中には確かに気をつけるべきポケモンもいて、関わる時に注意が必要なポケモンもおる。じゃがその子たちには、野生のポケモンになんら恐れることなく接するサトシが、ポケモンたちに受け入れられているサトシが、変わり者に見えたのかもしれませんなぁ。

 

結果として、残念なことに、サトシは人間の友達は、ほとんど作ることができなかった。学校でもわしの孫以外の子とはあまり話さず、一人でいることの方が多かった。代わりと言うわけではないが、彼の周りには、ポケモンたちがいつもいた。

 

 

 

そして10歳のあの日、わしは旅立つ彼に最初のポケモンを渡した。彼といつもいる、あのピカチュウじゃよ。今でこそ、彼や周りの人間にもフレンドリーなポケモンになったが、サトシと出会ったばかりの頃はそれはもうやんちゃでな。事あるごとに電撃をサトシにも浴びせておった。

 

じゃが、サトシはわしの思ってた通り、ピカチュウと深い絆を結ぶことができた。旅の中でたくさんの出会いをして、ポケモンと、そして人間とも、絆を育むことができた。旅でできた仲間のことを嬉しそうに語るサトシを見ると、いろんな人の影響を受け、成長しているのが伝わった。その成長が嬉しくもあり、また、楽しみにもなった。

 

こう言っては身内びいきに聞こえてしまうかもしれんが、彼ほどポケモンを愛し、認めるトレーナーも、ポケモンに愛され、認められるトレーナーもおらんと思っておる。じゃが、そのために人間から浮いてしまったのも、事実。

 

彼が今、仲間たちとともに学校生活を楽しめているのは、彼が旅で色々経験したことも関係しているでしょうが、ポケモンスクールの授業が、彼にとっても、クラスメートたちにとっても刺激的なものだからだと、わしは思う。

 

ナリヤにも、そしてククイ博士、君にも感謝しておる。サトシのことを見守ってくれて、ありがとう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「オーキド博士は、サトシのことを、本当に大切に思っているんですね」

「それはもちろん。彼はわしの孫みたいなものであり、優秀な生徒でもあり、そして何より、永遠の友達ですからな」

「永遠の、友達……ですか?」

「はい」

 

チラリと、一瞬オーキド博士の視線が食器棚の上の写真に向かう。赤と白に緑のマークの帽子をかぶり、黒いシャツに青と白の上着。最初の旅の衣装を身につけ、仲間たちとともに笑い合うサトシの写真が、そこにはあった。

 

 

何度も思い出す、あの不思議な経験。

 

時を渡り、混乱した自分とその同伴者。そんな自分たちを、助けようと彼は動いてくれたのだ。

 

あの木の上、ともに眺めたあの美しい景色は、自分にとっての一生の思い出だ。

 

そして元の時間に戻り、研究者となった自分。その自分の前に、彼が子供の姿で現れたときは、なんという運命だったのだろうかと、驚き、そして喜んだ。もう2度と会うことはない。そう思っていた友人が、目の前にいるのだから。

 

だから、自分は見守ろうと思った。自分の友である彼を。彼に言われて関心を持った研究者としての仕事を続け、彼にとっての道標になりたいと。

 

彼とともに過ごした日々は、やはり楽しく、かけがえのないものとなった。姿や年こそ、自分も彼も違っていたけれども、それでも幼い彼は自分のことを友達のように思ってくれ、また、祖父のように慕ってくれた。

 

「サトシは、どんなに離れていても、友達なのです」

 

その言葉に、どれほどの意味を込めていたのかは、ククイ博士には分からなかった。ただ、その時のオーキド博士の表情は、研究者としてのものでも、サトシの保護者的立場としてのものでもなく、一人の少年のような表情に見えた。




なんか、全て伝えきれた感ないですけど、要するに今回は、

オーキド博士のサトシに対する想いについて、取り上げてみました

今回はオリ要素多目ですけど、その辺りはスルーで ^_−☆


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激闘!カロスリーグ 第3章 サトシとショータ、ライバル決戦!

やっと来ましたね、準決勝
個人的にはシンジ戦と並んで好きなバトルです

流石に作者の乏しい文章力では全部のバトルを表現し尽くすことができないので、ところどころダイジェスト風です

どうぞー


カロスリーグ観賞会、準決勝第一試合を見たサトシのクラスメートたちは、開いた口が塞がらないようだった。準決勝からは6対6のフルバトルになったというのに、目の前の青年は2体しか使わずに、相手の6体を打ち破ってみせたのだ。

 

『最初に決勝進出を決めたのは、アラン選手!』

 

「アラン、強すぎるよ」

「信じられません。相性の悪い相手もいたはずなのに……」

「サトシ以上に無茶苦茶にも見えるが、それを裏付けるだけの確かな実力があるからな。生半可なポケモンじゃ、相性が良かったところで勝ち目がない」

「結局、メタグロスとリザードンしか使ってないから、他がどんなポケモンなのか、想像できないよ」

 

強いトレーナーなら、島キングや島クイーン、グラジオなど、知り合いの中にもいる。特にカキとサトシは、同年代の中でもバトルの実力は垢抜けている。だが、こんなにも単純な強さを見せつけられたのは、初めての経験かもしれない。

 

「流石、最強メガ進化」

「うん。アランは、本当に強かったわ。実力やポケモンとの絆もそうだけど、何よりその信念が」

「ああ。誰にも負けられないって、そう言ってた。強いよ、アランは」

 

画面の中のアランをみるサトシの目は、今までどんなバトルの前にしていたものよりも、ギラギラしているように見える。それだけアランが彼の中でも大きな存在なのだろう。

 

まぁ、そんな風に熱くなる相手が他にも2名ほどいるのだが、今の彼らはそれを知らない。

 

「いよいよだね」

「うん」

「わたくし、お二人の話を聞いてから、このバトルを見るのがとても楽しみでした!」

 

みんなが再び画面に注目する。写っているのは二人の少年。サトシとショータ。お互いのことをよく知るもの同士、そして、サトシにとっては初めての挑んでくる相手。

 

「俺さ、実はリーグの少し前まで、ショータのことが怖かったんだ」

「怖かった?サトシが?」

「俺さ、カロス地方に来るまでは、ずっと挑戦する側だった。ライバルだと決めた相手はいつだって俺より先を歩いていた。それでも、絶対に負けるもんかって、その気持ちで努力してきて、勝つことができたんだ」

 

例えばそれは自分の幼馴染で最初のライバルだったり、考え方の違いから幾度となく激突した最高のライバルだったり。そしてカロス地方で出会った、最強のライバルだったり。いつだって、自分は挑む立場にいた。

 

「でも、ショータは違った。最初は、駆け出し中の新人トレーナーだった。その頃に俺、ショータに色々とアドバイスを送ったり、バトルしたりしたんだ。ショータはその度に自身の経験にしていったんだ。すごい速さで成長したショータは、気がつけば俺のことを追い抜いていた」

「嘘!そんな短期間で、サトシを追い抜いたの!?」

「信じられない……」

「ほんとよ。ショータは、サトシを目標に、サトシを研究し尽くしたわ。所々にサトシのバトルスタイルを取り入れて、自分自身の強い武器にしたの。その実力は、みんなも見たよね」

「確かに、あいつのバトルスタイルは時折サトシっぽいところがあったな」

「そんなショータが、俺は怖かった。そして、焦ってた。一度は自分自身を見失いそうになって、自分がしっかりしてないからだって自分を責めて、周りに当たって……そういえば、あの時セレナにも悪いことしたな、ごめん」

「ううん。でも、サトシはちゃんとそれを乗り越えて帰ってきたもの」

「はいはーい、そこの二人。勝手に回想始めないの。始まるよ〜!」

 

マオに呼ばれた二人が画面を見ると、丁度サトシの一体目が出てきたところだ。フィールドではなく、巨大スクリーンの前に現れたのは、マスクで顔を覆い、マントを翻すルチャブルだった。観客やマオたちの驚く中、ルチャブルは颯爽と飛び降り、滑空するようにフィールドに降り立った。

 

「何何あの衣装?」

「あれは、セレナが作ってくれたんだよ」

「セレナが?」

「ルチャブルが、この大勝負のためにって頼んできたの。私もみんなに頑張って欲しかったから、張り切っちゃった」

 

対するショータが繰り出したのはケッキングだった。タイプの相性で言えば、サトシのルチャブルの方が有利だ。しかしそれはあくまでタイプの話。実際には、ルチャブルにとってはこれ以上なく相性が悪かった。

 

ルチャブルの怒涛の連続攻撃が炸裂する中、ケッキングは微動だにしない。それどころか、効果抜群の技を連続で受けながらも、なまけるで回復してしまう。

 

「ルチャブルは相手の攻撃を受けることで自分を高める。でも、ケッキングは自分から攻めることをしないから、ルチャブルにとってはすごくやりにくい相手だった」

「ルチャブルのことを研究してたってこと?」

「それを元にした作戦を立てたってことか。しかもタイプ的に見たら相性が悪いはずだが」

「うん。全然動じてない。あっ!」

 

勝負を決めようとルチャブルの得意技、フライングプレスが発動する。しかしそれを狙っていたショータ、すかさずカウンターを指示する。ガラ空きになっていた胴体に、ケッキングの全体重を乗せたパンチが炸裂する。大きく弾き飛ばされたルチャブルは、その一撃で目を回してしまった。

 

「あのルチャブルが、一撃で……」

「完全にルチャブルの対策を整えていましたね。流石サトシを目標にし、研究をしていただけのことはありますね」

「サトシの二体目が来るよ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

サトシの二体目、ファイアローがケッキングを下すと、ショータは次にブロスターを出した。ファイアローの得意のスピードと空中戦を見事に抑えこみ、ニトロチャージとアクアジェットの激突を制した。

 

「れいとうビームで羽を凍らせるなんて、本当に凄い作戦を立ててきてる」

「でも、サトシも咄嗟にニトロチャージで氷を溶かすのはさすがだね」

「サトシ、ピンチ?」

「次は誰が出るのかな?」

 

『ピカチュウ、君に決めた!』

『ピッカァ!』

 

「いよいよ登場だね、ピカチュウ!」

「ブロスターに対しても相性抜群!」

 

森のステージの利点を活かすピカチュウ。木々の間を縫って、素早く動き、奇襲をかける。しかし水のジェットで高速移動ができるブロスターはその攻撃をかわす。

 

エレキボールとりゅうのはどうが激突し、爆発が起きる。れいとうビームをかわし、木々をかけるピカチュウ。一進一退の攻防の末、ピカチュウのアイアンテールを、ブロスターがハサミで掴み取った。そのままみずのはどうを打ち出す体勢になる。

 

「まずいぞ、あれじゃ避けられない!」

「ピカチュウ!」

「いいえ、ピカチュウなら大丈夫です」

「え?」

「リーリエも見たことがあるの?」

「ええ。大試練の時に」

 

『ピカチュウ、エレキボール!』

 

挟まれたままの尾に電撃が集約される。電撃と冷気、二つのエネルギーが爆発を起こし、ピカチュウが離れることに成功する。そのまま飛び上がり、10まんボルトでブロスターを狙うピカチュウ。相手は先の爆発で身動きが取れなかったようで、直撃を受けて目を回していた。

 

「流石ピカチュウだな」

「でもまだ振り出しに戻っただけだよ」

 

続くショータの三体目、準々決勝でも活躍した、ギルガルドが登場した。再び木々を使い撹乱しようとするピカチュウ。しかしギルガルドはその刀身を伸ばし、次々に周りの木々を切っていく。ついには、周りの木々が切り裂かれ、ややひらけたフィールドに変えられていく。

 

「なんでこんなに木を切ってるんだろう?」

「恐らく、何か作戦があるんだろうな」

 

反撃に出ようとするピカチュウ。しかし目に見えて速度が落ちている。どこか動きにくそうだ。

 

「そうか!周りの木を切ることで、ピカチュウの行動を制限しているんだ」

「えっ、どういうこと?」

「まず、ピカチュウが撹乱に使っていた木をなくす。その切られた木が落ちた足場は、動いてしまって不安定だ。だが、ギルガルドは浮いているから、関係ない」

「じゃあ、ピカチュウのスピードを封じるために?」

「本当にサトシをよく研究してる」

 

反撃しようとするピカチュウだが、キングシールドによって攻撃が通らない。と、ここでサトシの指示で、ピカチュウが地面にアイアンテールを叩きつけた。周りの木が浮かび上がり、空中に足場ができる。

 

その足場を利用しながら、ギルガルドを困惑させるピカチュウ。接近するピカチュウに対し、ギルガルドはキングシールドを発動しようとした。

 

『今だ、ピカチュウ!板を投げつけろ!』

 

サトシの指示通り、近くにあった木材をギルガルドめがけて飛ばすピカチュウ。それは丁度刀身をはめ込もうとしていた、盾の取っ手部分に突き刺さり、ギルガルドは剣を抜くことも、差し込むこともできなくなった。

 

「嘘ぉ!?」

「こんな技の封じ方があるの?」

「思いついたとしても、やらないよ普通」

 

流石は元祖奇想天外戦略家。フィールドのあらゆるものを味方につけたバトルスタイル。ショータの上をいく常識を超えた戦法を繰り出すサトシに、マオたちはもう何度目かわからない驚愕をあらわにする。動けないギルガルドに、ピカチュウの十八番、10まんボルトが炸裂する。ギルガルドは目を回して、地面に落ちたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その後フィールドが変更された後、後半戦のバトルにも、彼らは惹きつけられた。オンバーンとボーマンダのドラゴン対決。オンバーンの特徴を利用した奇襲や、ボーマンダのやきつくすによる誘導、最後のドラゴンダイブとアクロバットの激突の末、両者ノックアウトとなったものの、激しいバトルだった。

 

続いてショータの出したペロリームに対し、サトシは相性の悪いヌメルゴンで対決。連続で繰り出される攻撃に耐えるヌメルゴン。相性の悪いはずのフェアリータイプの技も耐え抜き、強力ながまんで反撃。最終的にはペロリームのようせいのかぜとの激突し、ダブルノックアウト。

 

互角の対決が繰り広げられる中、遂にショータの最後の一体、ジュカインが登場。ピカチュウと互角のスピードに、それを上回るパワーを見せつける。ピカチュウも食らいつこうとするものの、先の二戦連続によるダメージもあり、ジュカインのハードプラントによって倒されてしまった。

 

 

「これでサトシも残り一体」

「ということは、」

 

『ゲッコウガ、君に決めた!』

 

サトシの6体目、ゲッコウガ、満を持しての登場である。会場も、マオたちも、この戦いに大きな期待をする。間違いなく、このバトルは今までの比ではないくらいの大勝負になる。そう確信していた。

 

『行くぜ、ゲッコウガ!みずしゅりけん!』

『ドラゴンクロー!』

 

ゲッコウガの放ったみずしゅりけんをドラゴンクローで切り裂くジュカイン。続いてかげぶんしんで接近するゲッコウガに対し、ジュカインはハードプラントを発動。分身が消えて行く中、一体だけがジュカイン目掛けて飛び出してくる。

 

リーフブレードを構え、ゲッコウガを狙うジュカイン。対するゲッコウガはいあいぎりを使い、光の刃で迎え撃つ。息もつかせぬ攻防に、カキたちも呼吸を忘れるんじゃないかと思うほど、食い入るようにバトルの様子を見ている。

 

暫し視線をかわすサトシとショータ。そして、

 

『行くぞ、ゲッコウガ!フルパワーだ!』

 

ゲッコウガの周りを水流が覆う。身体が変化し、水が弾ける。現れたのは、カロスリーグ初日に誰もの注目を集めた、あの新しい姿のゲッコウガ。

 

『ジュカイン、行きますよ。僕たちの全てを!』『ジュカイン、メガ進化!』

 

対するショータもジュカインとの絆の力、メガ進化を発動する。強化進化したゲッコウガと、メガ進化したジュカイン。この二体の登場に、会場の盛り上がりは最高潮だった。

 

『ハードプラント!』

 

更に威力の上がったハードプラントがゲッコウガを狙う。飛び上がってかわそうとするが、ジュカインの意思のままに、ゲッコウガを追尾する。このままでは食らってしまう、そうみんなが思う中、

 

『いあいぎりだ!』

 

両の手に水で出来たクナイを握り、高速で回転するゲッコウガ。そのままたやすく自身に迫るハードプラントを切り裂いてしまった。

 

「ええええっ!?」

「ハードプラントを切っちゃった!」

「なんつーデタラメな……」

 

お返しに背中の巨大みずしゅりけんを投げるゲッコウガ。それをドラゴンクローで打ち破るジュカインだったが、その隙にゲッコウガはジュカインに接近していた。

 

『つばめがえし!』

 

強力なアッパーカットから流れるように踵落としへと繋げるゲッコウガ。一瞬ひるんだものの、ジュカインはリーフストームで反撃に出る。かろうじて防御に成功するゲッコウガだが、大きく後ろに弾かれる。

 

『リーフブレード!』

『いあいぎり!』

 

両者、二刀を持ち、互いに接近する。縦横無尽にフィールドをかけながら、幾度となく激突する両者。あのサトシとゲッコウガ相手に、ここまで互角に渡り合えるとは。カキたちはジュカインとショータの実力に改めて驚かされる。

 

一旦距離を取る両者。ジュカインのリーフストームが、今度はゲッコウガを捉えた。宙に打ち上げられるゲッコウガ。畳み掛けるようにハードプラントが襲いかかる。

 

空中で体制を整えるゲッコウガ。襲いくる触手をかわし、その上を走りながらジュカインに接近しようとする。飛び上がるゲッコウガ目掛けて襲いくる触手を、一瞬のうちに切り裂くゲッコウガ。しかし中々距離が縮められない。

 

「あのゲッコウガが押されてるなんて」

「ああ。あのジュカイン、相当強いな」

「うん。凄すぎ」

「でも、サトシは諦めてないですよ。ほら、サトシを見てください!」

「「「「「ん?」」」」」

「えっ、俺?」

「あ、いえ、そうではなく!画面のサトシです」

「「「「「「ああ〜」」」」」」

 

画面に映るサトシを見る。サトシは、これだけ追い込まれているというのに、ただ楽しそうに笑っていた。

 

「笑ってる」

「なんか、とても楽しそう」

「この時、俺本当に楽しかったからなぁ。ショータと全力をかけて戦えることが、すっげえ嬉しかったし、負けられないって思ってた」

「そういえば、シトロンが言ってたわ。サトシの強さは二つで一つ。サトシにポケモンがいる限り、ポケモンたちにサトシがいる限り、みんなの力は、もっともっと強力になる、って」

「なるほど……確かにそうだな」

「うん」

「だね」

「うんうん」

「ですね」

 

画面では迫り来るハードプラントを、ゲッコウガが切り刻んだ瞬間が映されている。背中のみずしゅりけんが一回り大きくなり、ゲッコウガは地面を蹴って飛び出した。

 

触手をかわしながら進み、かげぶんしんを発動させるゲッコウガ。その数は今までとは比べ物にならないほど多く、フィールドの空を埋め尽くす。

 

『ショータ受け止めろ!これが俺とゲッコウガの全てだ!みずしゅりけん!』

 

背中のみずしゅりけんを手に取り、空に掲げるゲッコウガ。そのみずしゅりけんに、力を集約させるように分身たちが集まっていく。

 

ゲッコウガの何倍もの大きなになったみずしゅりけんが、ジュカイン目掛けて投げられる。咄嗟にリーフストームを指示するショータ。ジュカインも雄叫びをあげ、リーフストームをみずしゅりけん目掛けて打ち出す。

 

激突した両者の技、しかしゲッコウガのみずしゅりけんの威力に、リーフストームが押し返される。大きな爆発を起こしながら、二つの技がジュカインに命中した。煙が晴れると、そこにはジュカインが倒れている。体が光に包まれ、元の姿に戻るジュカインは、目を回していた。

 

『ジュカイン戦闘不能、ゲッコウガの勝ち!よって勝者、マサラタウンのサトシ選手!』

 

勝敗は決した。サトシのそばに降り立つゲッコウガ。会場は激しいバトルを見せてくれた両者に、惜しみない拍手を送っていた。もちろん、カキたちも。

 

「すごいバトルだったな」

「なんかあたし感動しちゃった」

「私も」

「サトシのゲッコウガ、改めて凄いんだね」

「ええ。バトルを見ていて、こんなに熱くなったの、わたくし初めてです」

 

「本当に、改めて外野として見ると凄いバトルだったんだな。無我夢中だったから、よくわからなかったぜ」

「ふふっ。それだけ楽しかったんでしょ?あの時のサトシ、すっごくキラキラしてたもの。かっこよかったよ」

「あ、うん。サンキュー、セレナ」

 

照れくさそうに頬をかくサトシ。完全にサトシとセレナはイチャイチャしてるようにしか見えないが、やはりそこは初見組と振り返り組。お互いに思うことは異なるため、自然と別れて話すのも仕方がない。暫くはさっきのバトルの余韻に、誰もが浸っていた。

 

しかし、余韻に浸ってばかりではいられない。カロスリーグはこれで終わりではないのだ。話が盛り上がりながらも、彼らは次の映像を見る準備を始めた。

 

いよいよ次は決勝戦。サトシと、あの圧倒的なまでの強さを見せつけたアラン。カロスリーグ最後の大勝負、その振り返りが始まる。




ついに、激闘!カロスリーグも最終回

いよいよカロスリーグの決勝戦。
サトシとアラン、最後の戦い!

カロス地方の誰もを虜にした、あの激闘を振り返るぞ!

次回、激闘!カロスリーグ 最終章
サトシとアラン、頂上決戦!

みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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激闘!カロスリーグ 最終章 サトシとアラン、頂上決戦!

放送がお休みなんで、時間合わせて見ました

ついに、カロスリーグ編終了〜

先に言っておきますが、結末は変わりません!
また、なぜカロスリーグだけ見るのか、そのことについても理由がありますが、それについてはまたいずれ

あと、活動報告でアイディア募集中です
詳しくはそちらを
では、どうぞ


カロスリーグ、決勝戦。観客の緊張が、彼らにも伝わってくる。これまで圧倒的な力で他者をまるで寄せ付けなかったアラン。そして謎のゲッコウガとともに観客を魅了するバトルを見せるサトシ。この二人のうち、どちらかが優勝となるのだ。

 

結果を知っているはずの二人でさえ、この緊張感に気持ちが高ぶるのを感じた。

 

「いよいよだね、サトシとアランのバトル」

「実はね、アランとは旅の途中で何回かバトルしたことがあるのよ。でも、サトシは一度も勝てなかった」

「えっ、一度も!?」

「おいおい……」

 

あのサトシが一度も勝てなかった相手。それだけでもどれほど驚異的なのかがわかる。今のサトシも強いがカロスリーグに挑んでいるときのサトシは、ポケモンたちの成長も関係しているかもしれないが、それ以上の実力を出している。

 

そのサトシでも勝てなかった相手。その相手に挑むサトシの表情は、強者に挑む時の、あの好戦的な笑顔になっている。ゴクリと、誰かが喉を鳴らした。

 

『ピカチュウ、君に決めた!』

『行け、バンギラス!』

 

お互いの一体目が登場する。サトシは初っ端からピカチュウを、アランはここで初登場のバンギラスだ。特性により、砂嵐が巻き起こる。これによって、フィールドは一気にアラン側に有利となる。視界の悪い中、最初のバトルが始まった。

 

『バンギラス、あくのはどう!』

『かわせ、ピカチュウ!』

 

バンギラスの先制攻撃をかわすピカチュウ。その際、フィールドの一部が崩れ、水に落ちる。その水しぶきを見たサトシはすかさず指示を出す。

 

『あれだ!ピカチュウ、水に向かってアイアンテール!』

 

飛び上がり、尻尾を水辺に叩きつけるピカチュウ。その衝撃で、フィールドの水が雨のように降り注いだ。その影響でバンギラスはずぶ濡れになり、砂嵐も晴れてしまった。

 

「早っ!?」

「あの一瞬でこの判断をするか、普通?」

 

『10まんボルト!』

 

水を浴びたバンギラスの背後から、全力の10まんボルトを決めるピカチュウ。かつてのニビジムのイワークのように、水に濡れた故に、バンギラスは大ダメージを受けた。

 

「流石の連続攻撃だね」

「うんうん、そのまま行っちゃえ!」

 

『まだまだ行くぜ!エレキボール!』

『ストーンエッジ!』

 

畳み掛けるピカチュウの攻撃に対し、バンギラスはストーンエッジを盾に攻撃を防ぐ。すぐさま攻撃に転ずるバンギラス。尻尾でストーンエッジの岩をピカチュウ目掛けて打ち出す。それに対しピカチュウはアイアンテールで、自身に迫るものを全て弾き返してみせた。

 

『着地を狙え、かみくだく!』

『アイアンテール!』

 

ぶつかり合う二つの技。ピカチュウの尻尾を咥えたバンギラスは、ピカチュウを振り回し、宙に投げる。

 

『今だ!エレキボール!』

 

投げられ、回転しながらもエレキボールを作り出すピカチュウ。見事な体幹で態勢を整え、バンギラス目掛けて撃ち出した。バンギラスは反応できず、エレキボールが直撃し、爆発が起きる。バンギラスは目を回してしまっていた。

 

「流石ピカチュウです。あのバランスの良さは、圧倒的ですね」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

続く2体目には、サトシがピカチュウと交代にオンバーン、アランはマニューラを出してきた。素早い動きでオンバーンを翻弄するマニューラ。オンバーンも相手のかげぶんしんを超音波を使って見破るなど、相性の悪い相手に対し善戦するものの、れいとうビームからのつじぎりをくらい、戦闘不能となってしまった。

 

サトシが次のポケモンを決める前に、一体のポケモンがボールから飛び出した。ルチャブルだ。倒れたオンバーンに後は任せろ、と言っているようだ。その意気込みをかったのか、サトシはルチャブルでマニューラに挑む。

 

『行くぞ、ルチャブル!からてチョップ!』

『かわせ!』

 

連続でチョップを繰り出すルチャブル。マニューラ相手には、効果抜群。だが、マニューラはルチャブルに勝るとも劣らぬ素早さで、攻撃を的確にかわしている。後退しながら、マニューラはルチャブルを水辺に誘い込む。

 

『今だ!ルチャブルの足元にれいとうビーム!』

 

距離を取り、れいとうビームで攻撃するマニューラ。ルチャブルは攻撃をかわすものの、その足元の川が凍りつく。滑るフィールドの上、連続でれいとうビームとつじぎりがルチャブルに炸裂する。

 

「このままじゃ、ルチャブルもやられちゃうよ」

「いや待て、ルチャブルをよく見ろ」

 

ダメージを受けたものの、倒れる様子のないルチャブル。それどころか、軽快なステップを踏み、身体からは蒸気のようなものが出ている。

 

つじぎりを繰り出そうと飛び上がるマニューラ。それに対し、遅れて飛び上がるルチャブル。しかしそのはスピードは、先程よりも圧倒的に速くなっている。驚き、動きの止まるマニューラを空中で拘束し投げると、すかさずフライングプレスを決めた。

 

「なんか、ショータと戦った時よりもルチャブルの動き、良くなってない?メガアブソルの時よりも良さそうだし」

「あれが本来のルチャブルのバトルスタイルなの」

「相手の攻撃を受けて、自分を高める。相手が強ければ強いほど、ルチャブルの闘志も燃え上がるんだ!」

 

目を回したマニューラを戻すアラン。その顔は、今までのバトルで見せたものとは、明らかに異なる表情をしている。

 

「なんだか今のアラン、すごく楽しそう」

「今まではずっと真剣そうな顔ばかりでしたが、今は、心からバトルを楽しんでいる、そう、普段のサトシになんだか似ています」

 

なおも二人のバトルは続く。続いてアランの出したキリキザンは、ルチャブルをでんじはで麻痺させ、とびひざげりをかわされ、動けなくなっていたところに、ハサミギロチンを決め、勝利を収めた。これで二対ニ。

 

続いてアランはケンホロウ、サトシはファイアローを選んだ。同じ鳥ポケモン同士、フィールドの上空を縦横無尽、客席のすぐ近くまでにも及ぶ、激しい空中戦が展開される。はがねのつばさ同士の激突から、ニトロチャージとゴッドバードでのぶつかり合い。ケンホロウがエアスラッシュでダメージを与えたかと思うと、ファイアローがニトロチャージで反撃する。最後はゴッドバードとブレイブバード、共にひこうタイプ最高レベルの技同士のぶつかり合いの末、両者ダブルノックアウトで終わった。

 

「凄いバトルだね」

「だが、流石はサトシだな。今までの全てのバトルを合わせて、一体しか倒されたことのないアランのポケモンを三体は戦闘不能にしている」

「でも、サトシも三体倒されてる」

「後半戦、少しのミスが、命取りですね」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

共に三体倒されたことで、岩と水のステージから、変わり始める。次に選ばれたのは、障害物が何もない、草原のフィールド。特徴がほとんどないため、真っ向勝負となりそうだ。

 

『頼んだぜ、ピカチュウ!』

『行け、メタグロス!』

 

再びピカチュウを選んだサトシ。対するアランが選ぶのはメタグロス。かなりの体格差のある相手に、ピカチュウはどう挑むのか。

 

 

バトル開始と同時に、得意のスピードで撹乱しようとするピカチュウ。しかしこのメタグロス、こうそくいどうを覚えているため、見た目に似合わない超スピードで、ピカチュウを追い詰める。

 

『メタルクロー!』

『メッタァ!』

 

弾き飛ばされるピカチュウ。更に追い討ちをかけるようにいわなだれ、コメットパンチと、強力な技が次々に決まる。ピカチュウはもうボロボロだ。

 

トドメとばかりにコメットパンチを繰り出そうとするメタグロス。しかし、サトシの声援を受け、諦めないピカチュウは、渾身のエレキボールをメタグロスに叩き込んだ。一瞬動きが止まるメタグロス。

 

『メタグロスに飛び乗れ!』

 

意表を突き、メタグロスの頭に乗るピカチュウ。これでメタグロスは攻撃ができない。慌てて振りほどこうとするも、しっかりとつかまっているピカチュウは、落ちることなく、10まんボルトでメタグロスを攻撃する。

 

ピカチュウが先に落ちるか、メタグロスが先に倒れるか。根比べとなったこのバトル。

 

「すごい、ピカチュウ。全然落ちない」

 

スイレンのつぶやきに、みんなが頷く。最も、セレナも知らないことではあるが、ピカチュウは全速力で飛びまわるラティオスの背中にしがみついて、長時間攻撃を続けたこともあり、メガラティアスの背中に乗って戦ったこともあるのだ。それに比べれば、メタグロスの動きは、耐えられないものではない。

 

しかしそこは流石にアランのポケモン。高速回転することでピカチュウのバランスを崩し、宙に放り投げた。それでも、ピカチュウから受けたダメージは決して軽いものではなく、メタグロスが膝をつく。

 

『アイアンテール!』

 

落下しながらも、狙いを定めるピカチュウ。膝をつき、動けずにいたメタグロスの頭に、落下の勢いをそのまま上乗せした、渾身のアイアンテールを叩き込んだ。その衝撃で巻き上げられた土煙が晴れると、メタグロスは目を回していた。

 

「すごいじゃん、ピカチュウ!」

「バンギラスに続いて、メタグロスまで倒しちゃったよ!」

「まさにジャイアントキラーって感じだな……」

 

これでまたサトシが一歩リードする。ここでアランが選んだのは、

 

『行け、リザードン!』

 

なんと今大会負けなし、彼の絶対的エースのリザードンだった。既にボロボロとはいえ、サトシのパートナーのピカチュウに確実に勝つための選択をしたようだ。

 

『まだまだ上げていくぜ!でんこうせっか!』

 

しかしそこは流石のピカチュウ、リザードンに臆するどころか、真正面から迎え撃つ。リザードンの胴体にピカチュウが激突する。その反動で飛び上がると、今度はすかさず10まんボルトを浴びせる。

 

効果抜群のその技に、流石のリザードンも膝をつく。しかし倒れることはしない。

 

逆に着地したピカチュウは、先のバトルのダメージもあって、疲れが見える。そこへリザードンのかえんほうしゃが炸裂、ピカチュウは地面を跳ねて後退させられる。それでも立ち上がるその姿に、カキたちは驚きを隠せない。

 

今まで何度もピカチュウのバトルは見てきた。だが、このカロスリーグの映像で彼らが見たピカチュウの姿は、自分たちの知っているピカチュウとは違った。バトル時に感じる迫力と覚悟、そして追い詰められてなお見せるバトルへの熱意。それが段違いなのだ。

 

「これが、本気のピカチュウ……」

「あれだけバトルして、ダメージも少なくないはずなのに」

 

『かえんほうしゃ!』

『アイアンテールだ、砂を巻き上げろ!』

 

再び襲い来る炎を、ピカチュウは地面に尻尾を叩きつけ、砂を巻き上げることで防ぐ。続くドラゴンクローに対し、ピカチュウは地面を蹴り、アイアンテールで迎え撃った。

 

空中で交わる二体のポケモン。片方が弾かれ、地面に叩きつけられた。

 

『ピカチュウ戦闘不能、リザードンの勝ち!』

 

遂にここで、リザードンによってピカチュウが倒された。再び残りポケモンは同数になる。

 

「いよいよだね、このバトルの終わりも」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

決勝戦も終盤、サトシはヌメルゴン、アランはリザードンを戻し、キリキザンを出した。

 

でんじは対策も兼ね、ヌメルゴンの好きなフィールドに変えるため、あまごいを指示するサトシ。フィールド上空を、黒い雲が覆う。

 

『ヌメルゴン、れいとうビーム!』

『かわしてアイアンヘッド!』

 

先制攻撃をとるヌメルゴンだが、キリキザンは持ち前のスピードでそれをかわし、接近する。アイアンヘッドが決まるかと思いきや、ヌメルゴンは頭の触角部分を使ってキリキザンを受け止めた。

 

そのまま投げられるキリキザンめがけ、りゅうのはどうが襲いかかるも、咄嗟にきあいだまで相殺してみせる。

 

連続で攻撃して来るキリキザンに対し、ヌメルゴンはがまんで対抗。攻撃を耐えきり、強力な一撃を決める。キリキザンが膝をつくが、まだ倒れない。反撃とばかりにアイアンヘッドがヌメルゴンの喉に決まった。

 

『ハサミギロチン!』

『りゅうのはどう!』

 

駆け出したキリキザンに対し、りゅうのはどうを放つヌメルゴン。しかし先程の喉への攻撃のために、力を十全に発揮することができなかった。攻撃はあっさりと切り裂かれ、ヌメルゴンの側をキリキザンが通り抜けた。キリキザンが技をしまうと、ヌメルゴンの巨体が倒れこむ。一撃必殺、戦闘不能だった。

 

「ヌメルゴン、負けちゃった!」

「これでサトシはあと一体、逆転されました」

 

これまでなんとかリードを保っていたサトシだったが、最終局面に来て、アランがリードをもぎ取った。サトシは残り一体。その一体は当然、

 

『ゲッコウガ、君に決めた!』

 

雨が降る中、登場するゲッコウガ。最後の一体、それも決勝戦。大きなプレッシャーを感じていてもおかしくないというのに、腕を組み冷静に相手を見据えている。レポーターの女性が、もしゲッコウガが倒されれば、サトシの敗北が決まると言っている。

 

「まだ負けたわけじゃないのに、もう負ける空気になってるのかな?」

「まぁ、実際アランの実力を嫌という程見て来たんだ。そう思っても仕方ないだろうな」

「でも、まだわからない」

「そうだよ!ゲッコウガの力だって、間近で見て来たじゃん!」

「そうですね。最後まで諦めないのが、サトシたちですもの」

 

「サトシのこと、みんなよく分かってるわね」

「まぁ、セレナ達ほどじゃないけど、結構一緒にいろんなことをしたからなぁ」

 

『キリキザン、全精力をかたむけろ!』

『やるぞ、ゲッコウガ!』

 

キリキザンがアイアンヘッドでゲッコウガ目掛けて走る。対するゲッコウガはかげぶんしんで撹乱する。そしてキリキザンが見せた僅かな隙に、みずしゅりけんを命中させる。大きく吹き飛ばされたキリキザンは、アランの目の前で止まるが、目を回している。

 

「?なんか、みずしゅりけんの威力が、いつもより上がってないか?」

「あ、そうだ!これ、雨のおかげ!」

「確か、雨の時、みずタイプの技の威力は上がります。先程のヌメルゴンのあまごいが、ゲッコウガに力を貸してるんです!」

 

狙っていたのかはわからない、いや、実際狙ってはいなかったのだろう。だが、ヌメルゴンからゲッコウガへと、タスキがしっかりと繋がれていた。未だ雨の続く中、遂にアランも最後の一体、リザードンを繰り出した。

 

ここまで圧倒的かつ、絶対的な強さで、他のポケモンをまるで寄せ付けなかったリザードン。対するは、今大会で最も注目を集めたと言っても過言ではない、ゲッコウガ。この二体の対決が始まろうとしている。

 

走り出したゲッコウガと、飛び上がるリザードン。かえんほうしゃでゲッコウガを狙ったリザードンだったが、ゲッコウガはその炎をかわしながらも、勢いを止めることなく接近する。光の刃を手に持つゲッコウガが、その刃を力の限り迫り来るリザードンの胴体に叩きつける。

 

大きく後退させられるリザードンは、膝をつく。とここであまごいの持続時間が切れる。雲が晴れ、フィールドが一気に明るくなる。これによって先程までゲッコウガの持っていた優位性がなくなった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『ゲッコウガ、フルパワーだ!』

『我が心に応えよ、キーストーン。進化を超えろ、メガ進化!』

 

ゲッコウガを激しい激流が包み込み、リザードンが眩い光に包まれる。両者の姿が変わる。共により強大な力を解放し、サトシとアランの頂上決戦が、今始まった。

 

『走れ、ゲッコウガ!かげぶんしん!』

『かえんほうしゃで薙ぎ払え!』

 

リザードンに向かって走りながら、分身を作り出すゲッコウガ。それを見ても焦ることなく、アランの指示により、リザードンはかえんほうしゃで次々に分身を消して行く。

 

『みずしゅりけん!』

 

爆煙の中、炎をかわし、ゲッコウガの本体が飛び出し、背中のみずしゅりけんをリザードンに投げつける。

 

『ドラゴンクロー!』

 

すかさずエネルギーを集約させた爪でそれを切り裂くリザードン。続けて高く飛び上がったゲッコウガのつばめがえしと、リザードンのドラゴンクローが激突する。連続でぶつかり合う中、ドラゴンクローがゲッコウガの胴体を捉え、弾き飛ばす。

 

背中から倒れたゲッコウガ目掛けて、空からリザードンがかえんほうしゃで狙い撃つ。立ち上がったゲッコウガは、水で作られたクナイを両手に、真正面からその炎を切り裂いて見せた。

 

『ブラストバーン!』

 

アランのリザードン最強の技、ブラストバーンがゲッコウガを襲う。大地を割り、灼熱の炎が溢れる。今まであらゆる敵を仕留めて見せたその技に対し、サトシは、

 

『みずしゅりけんを地面に突き刺せ!』

 

ゲッコウガが地面にみずしゅりけんを叩きつける。その衝撃で地面が割れ、水が噴き出した。ブラストバーンと衝突すると、爆発が起きる。急速に熱せられ、水は消えたが、ブラストバーンを防ぐことには成功した。

 

「嘘!」

「あんな防ぎかたがあるなんて……」

「なんつー力技だよ……」

 

『つばめがえし!』

 

蒸発した水蒸気が視界を覆う中、ゲッコウガは素早くリザードンに接近し、胴体に一撃入れ、かかと落としでリザードンを地面に叩きつける。

 

「やったぁ!」

「やっぱりゲッコウガ、強い」

「だが、あのリザードンも相当なものだ。このまま行けるといいんだが」

 

『サトシ、君とバトルすることができて、俺は今とても楽しいよ。ありがとう。だが、俺は最強でなければいけない。もう誰にも負けられない!リザードン、ドラゴンクロー!』

 

アランが吼える。それに応えるように、リザードンが今まで以上の迫力でゲッコウガに迫る。繰り出されたドラゴンクローは、ゲッコウガをフィールドの半分以上後ずさらせた。

 

『俺も、アランみたいな強いトレーナーと戦えて、とっても嬉しいぜ。でも、これで最後だ。どっちに転んでも恨みっこなしだ、アラン!受け止めろ、俺たち全員分のフルパワーだ!ゲッコウガ、いあいぎり!』

 

アランに負けじとサトシとゲッコウガが更に気合いを入れる。フィールドの中央で、ゲッコウガとリザードンがぶつかり合う。クナイと爪が激しくぶつかり合う。

 

『かみなりパンチ!』

『みずしゅりけん!』

 

電撃を纏った拳を繰り出すリザードン。対するゲッコウガは、みずしゅりけんを刀のように持ち、その攻撃を見事にさばいている。力を込めて振るわれたみずしゅりけんに、リザードンがかみなりパンチを解いてしまう。その一瞬に、大きくみずしゅりけんを振るうゲッコウガ。リザードンは胴体に攻撃を受け、後退した。

 

『行くぞ、アラン!みずしゅりけん!』

 

みずしゅりけんを掲げるゲッコウガ。再び、ゲッコウガ。激しい激流が包み込み、みずしゅりけんに吸収される。激流が弾け飛ぶと、ゲッコウガの頭上には、今までにないほど巨大になり、赤く燃えるように輝く手裏剣が浮かんでいた。

 

『ブラストバーン!』

 

みずしゅりけんが放たれるとほぼ同時に、リザードンも渾身の力を込めて地面を殴りつける。先程よりも更に力強い炎が、大地から溢れ出てくる。互いに迫る炎と水は、同時に命中した。激しい爆発がフィールド全体を包み込む。

 

黒煙と白煙が上がり、ゆっくりと晴れていく。フィールドには、立ったまま睨み合う二体がいる。ふらりと、一瞬よろめくリザードン。そして、ゆっくりと倒れこみながら、元の姿に戻ったのは、ゲッコウガだった。後ろには肩で大きく呼吸をするサトシ。

 

『ゲッコウガ、戦闘不能!リザードンの勝ち!よって勝者、アラン選手!』

 

決着はついた。会場も激闘に次ぐ激闘を繰り広げた彼らに惜しみない拍手を送っている。そしてマオたちも、映像だということやもう真夜中近いことを忘れ、目一杯拍手をしている。

 

「ああ〜、すっごく惜しかったのに」

「まさかゲッコウガが負けちゃうなんて」

「でも、凄いバトルだった」

「はい。わたくし、たくさんのことを学んだような気がします!」

「今まで俺が見た中で、間違いなく一番熱いバトルだったぜ」

 

「どうだった?自分のバトルを見てみて?」

「そうだな……あの時ああしてれば結果は変わったかな?みたいなことは思うよ。でも、一番はあの時の楽しさを思い出すかな。またアランと、バトルしたいぜ」

「ふふっ、流石サトシね。前向きで諦めない。また挑戦できるといいわね」

「ああ」

 

 

激闘続きのカロスリーグ、その振り返りもついに終わりを迎えた。画面の中では、握手を交わすサトシとアラン。敗れはしたものの、サトシは満足そうだ。全身全霊をかけたバトル、その事自体が嬉しいのだろう。

 

あんなサトシのバトルが、自分たちも見られるのだろうか。その地方でゲットしたポケモンたちだけであそこまでになったサトシ。では、モクローやルガルガンたちも、あれほどの力を持つようになるのだろうか。

 

島巡りの先に、サトシたちがどうなるのかが、楽しみになってきたアローラ組。しかし、修学旅行はまだまだ続く。

 




夏の映画ももうすぐですなぁ
作者はudcastに適応したやつが出るまでは行かないので、暫くネタバレや映画の話題は無しでお願いします笑
見たらきっとまた投稿しますので、その時にね

さてさて修学旅行、次からは更に特別編に入ります
修学旅行中のサトシ宛にかかって来た招待の電話。せっかく近くに来たのだからと、修学旅行の延長で、それにみんなで同行することに。迎えのヘリに乗った彼らが辿り着いた先は……

また、何名かゲストが登場する予定ですが、必ずしも期待通りのキャラとは限らないので、その辺りはご了承ください。
全部作者の気分次第ですので

詳細は続報を待て!ということで
あと、活動報告でアイディア募集中です
詳しくはそちらを
では、どうぞ

では最後にヒントを一つ









『波導ハ我ニアリ』

みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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お城にご招待?

UDcast対応、28とかそこらなんですって
あぁ、まだ見に行けないよ〜

まぁ、それはさておき

今回から修学旅行の場所を暫し変えます
え、ここで!?と言う感じのゲストもいますね

あと、せっかく答えてくれた衣装なんですが、舞踏会向けではなかったので、今回ではなく、また別の機会に着せてあげられたらいいと思います、すみません

では、どうぞ〜


翌日、サトシたちが研究所に集まると、オーキド博士がサトシに電話がかかって来たことを伝えた。

 

「俺に?」

「そうじゃよ。繋いであるから、行って来なさい」

「はい」

 

誰からの電話だろうか。首を傾げながら、サトシは電話に出てみる。画面が切り替わり、一人の女性が映し出される。長く美しい髪に、上品な衣装。腕の中にはマネネを抱いていて、そばには眼鏡をかけたメイドが控えている。

 

『サトシ、ピカチュウ、久しぶりですね』

「アイリーン様!?」

 

電話の相手は、カントーにある湖に囲まれた町、ロータ。そこにある城、オルドラン城の城主にして女王、アイリーンだった。

 

かつてバトルフロンティアを巡る途中、その年の波導の勇者を決めるバトル大会に、サトシは参加した。見事優勝したサトシは、波導の勇者として勇者の杖を手渡されたのだった。しかし、それは更なる冒険の始まりで、サトシにとっても衝撃の連続だった。

 

「お久しぶりです」

「ピカチュウ!」

『元気そうですね。今も旅を続けているのですか?』

「はい!アイリーン様、急に電話なんて、何かあったんですか?」

『実は、今日の午後から、波導の勇者たちを讃えるためのお祭りを行う予定なのです。昨年は色々あり開催できなかったので、今年の開催にあたって、前回の波導の勇者でもある、サトシを招待したいと考えています』

「俺を、招待ですか?」

『ええ。それに、ポケモンバトルも開催されます。波導の勇者、サトシ。あなたの勇姿、今一度私に見せて頂けますか?』

 

まさか女王直々に招待がかかるとは、思ってもいなかった。それに、丁度カントーに戻って来ているこの時。まるで行くしかないと誰かが言っているようにも思える。が、今は修学旅行という学校行事の最中。単独行動は控えるのがマナーだろう。

 

「アイリーン様、ちょっと待っててもらってもいいですか?ちょっと博士たちにこのことについて相談しないといけないので」

『ええ。わかりました』

 

急いで博士たちの元へ向かったサトシ。軽い説明をし、今度はオーキド博士にククイ博士、そしてクラスメートたち(+1)を連れて、電話機の前に戻る。

 

「改めてご挨拶を。ポケモン研究家のオーキド・ユキナリです。サトシが一度そちらでお世話になったようで、ありがとうございます」

『こちらこそ。サトシがいなければ、救えなかったものがたくさんありました。お礼を言うべきは、私たちの方です』

「初めまして、女王アイリーン様。私はククイと言います。私たちはサトシと一緒に、アローラ地方からこのカントーに来ました」

『まぁ、そうでしたか。では、皆さんもご一緒にどうですか?バトルの後には、舞踏会もありますので、是非ご参加ください』

「我々まで、いいんですか?」

『ええ。サトシの友人であるなら、断る理由がありません。すぐに迎えを向かわせますね。サトシ、楽しみにしていますよ』

「はい!ありがとうございます!」

 

と、いうわけで……

 

しばらくしてやって来たヘリに乗って、サトシ、ククイ博士、クラスメートたちにセレナは、サトシにとって懐かしい街、ロータへと向かうのだった。

 

手を振りながら見送るオーキド博士に、何か既視感あるのは気のせいだろうか……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ほわぁ〜」

「何か、すごい」

「とても歴史を感じます」

 

ヘリから降りた彼らの前には、大きな湖に囲まれた城が立っている。石造りの橋は多くの人で賑わっている。

 

「ありがとうございます、キッドさん」

「気にしないで。私も久しぶりに君に会えて良かったわ。あの時の借り、返したいとも思ってたしね」

 

ヘリの運転手をしてくれた女性と話すサトシ。キッド・サマーズ、かつてサトシがこのロータに訪れた時、一緒に行動することになった有名な冒険家でもある。波導の勇者を決めるバトル大会では、サトシに次いで準優勝しており、バトルの実力も確かだ。彼女もアイリーン様に招待されたらしく、サトシの迎えを買って出たらしい。

 

「それじゃあ、城に行きましょう。中に昔の衣装がたくさんあるから、好きなのを借りられるわよ」

「ドレスとかもあるんですか?」

「もちろん」

 

ガールズが色めき立つ。ドレスを着て舞踏会で踊る。女の子ならば誰もが一度は憧れるものだ。一方、カキはバトル、マーマネはどんな豪華な料理が出るのかと、楽しみにしているようだ。

 

城に近づくサトシたち。彼ら以外にも、様々な衣装を着た人たちが、色鮮やかに飾り付けられた橋を渡っている。豪華な衣装を着ている女性を見て、ガールズ陣は更に盛り上がっている様だ。

 

ふと、サトシがどこからか視線を感じる。ちらりと城の上の方を見ると、一体のスバメが彼のことをじっと見ている。サトシと目が合うと、スバメは彼の下まで降りて来て、肩に止まった。

 

「?」

「ピカ?」

「ズバッ」

 

不思議そうにするサトシとピカチュウをよそに、スバメは何だか嬉しそうだ。取り敢えず離れる気はなさそうだが、サトシとしてもポケモンに好かれるのは嬉しいのでそのまま連れて行くことにした。

 

キッドに連れられ、城門を潜るサトシたち。城の扉の前に、二つの人影が見える。先程の電話でも映っていた二人だ。

 

「サトシ、皆さんも。ようこそ、オルドラン城へサトシ、少し大きくなりましたね」

「あ、アイリーン様、えーと、ご招待、ありがとうございます」

 

出迎え早々、サトシを抱きしめるアイリーンに驚きつつ、やや緊張した風にサトシも応える。正式な招待状をもらっているのは、たまたま訪れるのとはわけが違うと意識しているのか、やや動きも硬い。そんなサトシの緊張を察したのか、アイリーンはくすりと笑う。

 

「本物の女王様、綺麗〜」

「こんな城に住んでるなんて、すごいなぁ」

 

「さぁ、皆さん。お部屋に案内します。城には多くの衣装を用意してありますから、好きなものを着てくださいね」

 

メイドに案内され、サトシたちはそれぞれの荷物を部屋に置き、衣装部屋に向かった。色とりどりのドレスやアクセサリーに、女子は目をキラキラさせながら、選び始めた。

 

「女の子は流石、でんこうせっかだな。俺たちも、着替えるとしよう」

「「「はい」」」

「サトシ様。サトシ様には是非とも着てもらいたい衣装が用意してありますので、こちらへ」

「えっ。それって、もしかして……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

数分後……

 

みんなそれぞれ、気に入った衣装を見つけたらしく、着替え終わっている。マオ、リーリエ、スイレンは、以前ライチさんからもらったアクセサリーを身につけている。どういう時につけるべきか考えもしたが、まさかこんなところで丁度いい機会を得るとは思ってもいなかった。

 

カキは鎧姿。なんだかカロス地方の四天王の一人に似ている気がする。アローラでは基本上裸のカキがきっちりとした服を着ているのは、違和感ある。本人も普段と違う衣装に戸惑っているのか、しきりに袖や襟元を気にしている。

 

マーマネ が着ているのは、前にマサトが来ていたやつ……のサイズ違いだ。子供っぽい服装ではあるが、マーマネ自身が他と比べて背がやや低いためか、驚くほどよく似合っている。まぁ、やや動きにくそうではあるが。

 

ククイ博士が選んだのは、偶然か必然か、以前タケシがきていた衣装そのままだ。髪型とヒゲの有無を除けば、だいたい同じである。というよりも、サングラスをかけていないククイ博士は、なんというか、新鮮である。

 

さて、ここからは女性陣だが、そこは流石である。舞踏会という、そうそう参加する機会のないイベントに向けて、沢山用意されていたドレスやアクセサリーの中から、自分たちに似合うものを見つけ、着飾る。力の入れようが男性陣とは比べられるはずもない。

 

魅力の全てを語ろうにも語れないだろうが、ここまで来たら語るしかあるまい。

 

マオはロゼリアをモチーフカラーにしたデザインのドレス。ふわりと広がるスカートには二色の緑、明るいものとやや濃いめのもの。そのグラデーションが特に気に入ったそうだ。普段は二つに纏めている髪も、今日はキレイハナの頭についているものを参考にした髪飾りで片側に垂らされ、いつもの活発な姉御肌的な雰囲気と変わり、少しおとなし目の印象を与える。両耳にはライチに貰ったピアスがキラリと輝いた。

 

スイレンが選んだのはマリンカラーのドレス。いつもはどこかボーイッシュにも見える服装を着ているスイレンだが、印象が大きく変わる。ヒールを履いて見たため、いつもよりも目線が少し高くなっている。胸元に光るのは以前ライチがプレゼントしてくれた青い鉱石、それにチェーンをつけたネックレスだ。同じくライチさん作のZリング、そこについているZクリスタルも、案外アクセサリーとしても今の服装で違和感があまりない。

 

リーリエはサーナイトがモチーフになっているドレス。他の子達と違って、スカートは広がらず、サーナイト同じ様に、スラリとしたシルエットになる。袖の部分もややふんわりし、髪も下に垂れない様に纏められ、リーリエの上品さをさらに際立たせる。ライチの作った、白と薄い水色の石を使ったネックレスが、涼しげな印象を持たせる。白が本当によく似合う彼女は、まさしく清純さと気品のあるお嬢様、といったところだろうか。

 

セレナは初めてのポケビジョン作りの時に着ていたものと良く似たピンクのドレス。少し長くなった髪を少し大きめのリボンで纏めているが、なんだかカロス地方の旅の最初の頃を思い出させそうだ。白い手袋に、左胸の辺りについているのは、いつも肌身離さず持ち歩く青いリボン。旅の経験から、他の3人よりも精神的に大人びていたが、今の彼女は見た目も大人っぽく見える。

 

 

「あたし、こういうのあんまり着たことないからわからないけど、どうかな?」

「素敵ですよ、マオ」

「そうかな?でも、リーリエは流石だね。すっごく似合ってるよ」

「ありがとうございます」

 

「セレナ、その青いリボンって、さっきも付けてたやつ?」

「うん。いつも付けてるの。だってこれは、大切な贈り物だもの。スイレンは、そのネックレスついてる青い石、どうしたの?」

「前にもらったの。海の中みたいで、すごく好き」

「確かに綺麗な色してるわね。スイレンのイメージカラーにピッタリ」

 

「マーマネ、それ動きにくくないか?」

「ま、まぁね。でも、僕踊り方とか知らないし、バトルを見て、ご馳走を食べられればいいかな」

「お前らしいな」

「カキもマーマネも、決まってるな」

「博士こそ。でも、サングラスがないのはなんか珍しいね」

「ははは、そりゃどうも。カキはバトル大会に参加するのか?」

「はい。一応エントリーは済ませてあります」

「そっか。あとは、サトシだけか」

 

 

少し遅れて、サトシが戻って来た。その姿にマオたちのみならず、他の女性客までもが色めき立つ。

 

「なんか……今だとこの衣装、すごく重みを感じるな。それにこの手袋も……」

 

全体的に青を基調とした服装。青いブーツに黄色い紋章が描かれている青い帽子。背中にはマント。そして両の手には以前のとは違い、手の甲部分に水晶のような鉱石が嵌め込まれている青い手袋。あの日、あの場所で、サトシたちが見つけたものと、全く同じ。

 

以前よりもサトシもやや大きくなっていたが、衣装はサトシにぴったりのサイズだった。更に言うと、サトシが衣装を着た状態で見せたやや大人な雰囲気が、どうしようもない色気(本人に自覚なし)を周りに振りまく。

 

「サトシかっこいい!」

「それは、何の衣装ですか?」

「波導の勇者、アーロンのだよ」

「波導の勇者?」

 

首をかしげるスイレンの前に、セレナが旅でいつも使っていた二つ折りのナビを開く。そこに映されていたのは、城の壁にあった絵。杖を頭上に掲げ、その先端の鉱石に手をかざすアーロンが写っている。

 

「この街に伝わる伝説みたい。この杖を持っている人がアーロン、波導の勇者と呼ばれた人よ。伝説では、戦争を止め、城を守ったと言われてるわ」

「波導の、勇者……」

 

「波導の、勇者たちだよ」

 

そう小さく呟いたサトシは、手の甲、鉱石部分をそっと撫でながら、懐かしむような表情をしている。

 

「そろそろ会場に向かおう。女王様がせっかく特等席を用意してくださったんだ。サトシ、カキ、頑張れよ」

「「はい」」

 

サトシとカキは選手用の部屋へ、博士たちはメイドに案内され、特別観覧席へと向かった。

 

ちなみに、サトシの両肩には、ピカチュウとスバメが止まったままである。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

サトシとカキが選手たちの控え室に行くと、そこには既に何人ものトレーナーたちが揃っていた。鎧を着た騎士、大臣風の格好の男性、ドレスを着た女性もいる。

 

「来たわね、サトシくん」

「キッドさん!あれ、今回はドレスなんですか?」

「まぁ、今回は冒険家としてじゃなく、ゲストとして来たから。せっかくだからこういうのも楽しまないとね」

 

そう言ってウィンクするキッド。前は騎士の格好で参加していたから、サトシは少し驚いている。と、

 

「サトシ?」

「え?」

 

名前を呼ばれて振り返る。そこに居たのは長い髪を後ろに止め、女性用の甲冑を着た少女。左手の小手はなく、中央にキーストーンをはめ込んだ手袋のようなものをしていて、隣にはメガストーンを持ったルカリオ……って

 

「コルニ!?」

「やっぱりサトシだ!久し振りだね!」

 

カロス地方で出会い、暫く一緒に旅をして、激しいジム戦を繰り広げた相手。メガルカリオ使いのジムリーダー、コルニだった。

 

「久し振りだな、コルニ!ルカリオも」

「ピッカァ!」

「ルガゥ」

「サトシ、知り合いか?」

「ああ。こっちはコルニ。カロス地方のジムリーダーなんだ。こっちはカキ、アローラ地方でできた友達だ。それから前にここに来た時にあった冒険家のキッドさん」

「よろしくね」

「はい。よろしくお願いします、キッドさん。カキもよろしく」

「ああ」

 

サトシと同じで割と誰とでも打ち解けられるコルニ。ルカリオも相変わらず元気そうで、サトシもピカチュウも嬉しくなる。

 

「なんでここに?」

「ルカリオ特訓してた時に、もっと波動をコントロールできるようにしたいと思って。そしたら、お爺ちゃんが波導伝説について教えてくれたから、何か分かるかもって来てみたんだ」

「そうなのか」

「うん。あ、そうだ!実は調査も兼ねて来ているんだけど、二人ほど、同行者がいるんだ」

「二人?」

「うん。サトシも驚くと思うよ。一人は大会に参加してるし。確か一番手だったと思うよ」

「大会に?」

 

 

 

「これより、波導の勇者たちに捧げる、ポケモンバトルを開始します!」

 

と、丁度女王アイリーンによる開始の合図、第1のバトルが始まったようだ。控え室の窓からもフィールドが見えるため、サトシたちは覗いてみることにした。このバトルはポケモン一体だけで挑むもの。最初に出したポケモンを変えることができずに、最後まで戦い抜かなければならない。故に、自身のエースや、信頼できる相棒たちが選ばれる。

 

一人目は大臣風の男と、以前キッドが使っていたのと良く似ている黒い鎧にマント、目元を隠すマスクをした青年のバトルのようだ。男が繰り出したのはラグラージ、青年は、

 

「行け、リザードン!」

 

みずタイプ相手にほのおタイプのポケモンで挑むというのに、青年の口元には落ち着いた笑みが浮かんでいる。リザードンも気合いを入れるように吠える。その首元には、サトシたちに見覚えのある飾りと石が。

 

「あれって、カロスリーグの映像で見たメガストーン、だよね?」

「それにあのリザードン……」

「ねぇセレナ。もしかして、あれって……」

「うん。間違いない」

 

観覧席でマオたちが驚いてるのと同じくらい、カキも驚いていた。何故なら、あれは間違いなく、

 

「サトシ、あれは」

「ああ」

 

コルニとカキがサトシの表情を伺う。ギラギラとした瞳に、嬉しそうな笑み。この表情は、本当に強い相手、ライバルとの戦いで見せたものだ。

 

「来てたんだな……アラン!」




と、いうわけで、やって来ましたよオルドラン城!

女性陣の服装……自分で書いといてなんですけど、可愛くなってるのかなぁ。絵がないからわからない笑

そして登場ゲストはキッド、アラン、コルニ、マノンの四人でした〜
アランのメガストーンとかはちゃんと自分で見つけたものです、はい

あ、あとスバメ……うん、スバメだよ……

次回からバトル編ですね
今年の波導の勇者は、誰だ!


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大会スタート!

ちょっと短めですけど載せますね

あと、後書きで詳しく書いてますけど、次回はif物語が入ります

それはそれでお楽しみに。ではどうぞー


フィールドには倒れているラグラージ、その前には無傷のリザードン。相性の悪さなんて関係ないと言わんばかりのバトルに、観客も沸き起こった。

 

「ラグラージ、戦闘不能!リザードンの勝ち!よって勝者、アラン選手!」

 

リザードンを戻した仮面の青年は次の選手と入れ替わるように、入場口から控え室に戻った。正確には、戻ろうとした。通路まで来た時、とても聞き覚えのある声が聞こえたからだ。

 

「久し振りだな、アラン」

 

今目の前に立っているのは、自分にとっては忘れられない相手だった。彼とのバトルでしか感じることのできなかった高揚感。彼にだけは負けられないという思い。そして、自分を更なる高みへ連れて行ってくれる。

 

この街の伝説の勇者、アーロンそっくりの衣装を見に纏っている。両肩にはピカチュウと、何故かスバメがいるが、間違いない。彼は、

 

「来ていたのか……サトシ」

 

これは、何がどうあっても負けられない。アランの闘志が燃え上がり始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

久しぶりに会ったアランは、以前会った時よりも雰囲気が柔らかくなっているようだ。あの事件まで、ずっとマノンとハリさんを助けるために、一人で旅をしていたアラン。そして、カロス最大の危機を回避し、マノンと一からスタートとして、共に旅に出たのだ。

 

マノンとの二人旅は、アランにとっては、とても楽しいものなのだろう。彼の雰囲気からそう感じ取れる。

 

「マノンは来てるのか?」

「ああ、客席にいる。コルニとは会ったのか?」

「ああ。でも、なんでアランたちとコルニが?」

「俺もメガ進化のことを調べてたんだが、カロスで最初に確認されたメガ進化。その時のルカリオとトレーナーが、この土地に関係していると聞いたんだ」

「そうなのか。そのキーストーンと、メガストーン。見つけられたんだな」

「ああ。今度は、俺たちの力でな」

 

最初に確認されたメガ進化と、ルカリオにトレーナー。この土地に関係があるのだとすれば、まさか彼らのことなのだろうか。あり得なくはない。彼らの絆は、時を超えてなお繋がっていたものなのだから。

 

「サトシは?」

「俺、昔ここに来たことがあったんだ。その時に色々あって、招待してもらったんだ」

「色々、か。まさかとは思うが、何か大きな事件に巻き込まれていたんじゃないか?」

「えっ!?いや、別にそんなことはなかったけど……」

「ならいいけど。お前の順番は?」

「最後だ。だから、当たるなら決勝だな」

「なら、勝ち上がるだけさ」

「俺もだ」

 

拳を突き合わせるサトシとアラン。この時点で、当初ピカチュウで行こうと思っていたサトシが予定変更したのは、言うまでもない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一回戦は順調に進んでいく。アランの他に、カキ、キッド、コルニも無事に二回戦へコマを進める。特にコルニは伝説に残るルカリオに刺激を受けたのか、ルカリオ共々張り切っていた。そしていよいよ、一回戦、最終試合。

 

フィールドに立ったサトシの姿に、見に来ている子供達も盛り上がっている。

 

「あれ、勇者様だ!」

「本物かなぁ?」

「違うよ〜、だって勇者様は昔の人だもん」

「でも、かっこいい〜」

 

なんて声が聞こえる。サトシはその子供たちの方を向くと、優しい笑顔で手を振ってあげた。それを見た子供たちが(特に女の子)はしゃぎだした。

 

と、その近くにこちらを見ている見知った顔の女の子が一人いるのにサトシは気付いた。マノンだ。驚きの表情でこちらを見ているのに思わず笑ってしまうサトシ。マノンにも手を振ってから、改めて対戦相手と向かい合う。

 

「それでは、両者ポケモンを」

 

「行け、ガブリアス!」

「ガァブ」

 

対戦相手が繰り出したのはガブリアス、レベルもかなり高いようで、強敵だ。対するサトシは、アランがいると知った時から決めていたボールを手に取った。

 

「ゲッコウガ、君に決めた!」

 

サトシのボールから現れたゲッコウガは、両腕を組み、閉じていた瞳を開き、静かに相手を見据えた。審判のコールが入り、バトルが開始される。

 

「ガブリアス、ダブルチョップ!」

「ガァブ!」

 

両腕に力を込め突っ込んでくるガブリアス。それに対しゲッコウガは避けるのではなく、逆に正面から突っ込んでいく。

 

「かげぶんしん!」

 

走りながら分身を作り出すゲッコウガ。突然のことに、ガブリアスが戸惑い、動きを止めてしまう。

 

「つばめがえし!」

 

素早くガブリアスの懐に潜り込んだゲッコウガ本体。ガブリアスが気付いた時には、既に顎に真下から強烈なアッパーカットを喰らわされていた。更に返す刀でかかと落としが炸裂し、今度は大地に頭から叩きつけられるガブリアス。

 

カロスリーグでも何度か見せた技ではあるが、この流れるような連続攻撃は、生半可なスピードではできない。サトシのゲッコウガに、アイリーンも驚きの表情で試合を眺めている。

 

「コウッ?」

「大丈夫か、ゲッコウガ?」

「コウガ」

 

ガブリアスの特性、さめはだ。直接攻撃を受けると、相手にもダメージがある厄介なものだ。ゲッコウガも、手足にわずかな痛みはあるが、問題ないとサトシに答える。

 

「ガブリアス、りゅうのはどう!」

「ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

 

ガブリアスが口を大きく広げ、強力なエネルギーを放射する。すぐさまゲッコウガも、両手にみずしゅりけんを構え、投げつける。二つの技が中央で爆発を起こす。

 

「ガブリアス、りゅうせいぐん!」

「ガァブゥア!」

 

空高く打ち上げられるエネルギーの球体。空中で弾けたそれは、フィールドとゲッコウガ目掛けて降り注ぐ。ドラゴンタイプの大技を発動させ、勝利を確信したのか、トレーナーは笑みを浮かべている。無論、一部例外を除いて、りゅうせいぐんでダメージを与えられない相手はいないだろう。

 

まぁ、運の悪いことに、その一部例外にこそ、このサトシのゲッコウガが含まれるのだが。

 

「かわして、りゅうせいぐん封じ!!」

 

次々に飛来してくる隕石の様な攻撃に怖気付くことなく、ゲッコウガは飛び込んだ。素早い動きで、りゅうせいぐん一つ一つを足場として、どんどん上昇していく。全く当たる気配がない。どこに攻撃が来るのか、五感を研ぎ澄ませ、予想し動く。更にケロマツ時代に特訓したがんせきふうじふうじの経験。

 

昔取った何とやら。できない芸当ではなかった。

 

あまりのことに、相手トレーナーもガブリアスも惚けている様だ。

 

「叩き込め、いあいぎり!」

「コウッガ!」

 

全ての攻撃をかわしたゲッコウガが、最大高度から降りて来る。その勢いをそのまま乗せ、右手に光の刃を握る。ほんの一瞬の交差の後、ゲッコウガが刃をしまう。ガブリアスがその場に崩れ落ちた。

 

「ガブリアス、戦闘不能!ゲッコウガの勝ち。よって勝者、サトシ選手」

 

冷静なバトルを見せ、敵を圧倒したゲッコウガとサトシに、観客が拍手を送る。あれだけ動いたにもかかわらず、息一つ切れていないゲッコウガ。その様子をアランが入場口から眺めている。

 

(更に力をつけているみたいだな……面白い)

 

俄然彼とのバトルが楽しみになってきた。こちらに戻ってきたサトシとハイタッチを交わしてから、アランは二回戦へと臨むべく、フィールドに出た。

 

 

 

その後、激しいバトルを制していくサトシたち。今の所、サトシ、アラン、カキ、キッド、そしてコルニは、誰一人脱落することなく順調に勝ち進んできた。が、いよいよお互いに対戦し合う時が来たのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

最初の激突は準々決勝一回戦。一人目はアラン、そして対するはキッドだ。

 

相対して見て改めてキッドは感じた。

 

この少年の強さは、単なる力だけではないと。今までも圧倒的なまでの力を見せていた彼のリザードンだが、まだ全力は見せていないはずだ。このワクワクする感じ、何か大きな冒険をする前の時のそれに似ている。彼の実力を知りたい。

 

そう思って、キッドはボールを手に取った。

 

「頼むわよ、マニューラ!」

「出てこい、リザードン!」

 

冒険家としての活動でも、パートナーとして活躍してくれるマニューラ。確かにリザードンに対して相性は悪いが、スピードには自信がある。素早さで、リザードンに勝ってみせる。そう意気込むキッドだった。

 

「マニューラ、シャドーボール」

「マニュ、マーニュ!」

 

「ドラゴンクロー!」

 

先制攻撃を取ったキッドたち。リザードン目掛けてシャドーボールが発射されるが、エネルギーを纏わせた爪で、リザードンはたやすく切り裂いて見せる。そのまま飛び上がり、マニューラに迫る。

 

「れいとうビーム!」

 

接近するリザードンにれいとうビームを撃つマニューラ。しかしリザードンは体を捻るように飛び、攻撃をかわす。すぐさま反撃のドラゴンクローをマニューラめがけて振り下ろす。

 

「下がって、マニューラ!上を取るのよ!」

 

キッドの指示にマニューラが後ろへと跳ぶ。リザードンの攻撃が地面に与えた衝撃を利用し、フィールドを囲む客席の柱を蹴り、高く飛び上がると、リザードンの真上をとった。

 

「つじぎり!」

「6時の方向。かえんほうしゃ!」

 

リザードンの背中に攻撃を決めようと降りてくるマニューラ。しかしリザードンは、アランの指示を元に直ぐに振り返り、そのまま直ぐにかえんほうしゃを放った。そのタイミングは完璧で、その射線上に、丁度マニューラが降りて着たところだった。

 

突然目の前に迫る炎を、マニューラにはどうすることもできなかった。炎がマニューラを包みこむ。フィールドに落下したマニューラは既に目を回していた。

 

「マニューラ、戦闘不能!リザードンの勝ち!よって勝者、アラン選手!」

 

またもや圧倒的とも言える力で、アランが勝利した。この大会、バトルの合間に回復することは許可されているが、そもそもリザードンは未だに一撃もダメージを受けていないのだ。

 

「負けたわ。今年はサトシくんにリベンジしようと思ってたのに」

「あなたも、サトシの知り合いなんですか?」

「ええ。以前この街で色々とね」

「そうですか。でも、俺はあいつと戦うまでは、負けられないので」

「彼とのバトル、本当に楽しみにしてるのね」

「はい。あいつは、俺のライバルですから」

 

バトルの時の真剣な表情と違い、穏やかなアラン。しかしサトシとのバトルの話をしているときは、どこかギラギラしている。アランを見ていたサトシにそっくりだ。

 

「なら、頑張ってね。決勝までいかないと戦えないわよ」

「俺は必ず勝ち上がります。あいつも、必ず」

 

自信満々に言い切るアラン。肩をすくめたキッドは、アランと握手を交わし、控え室へと戻っていった。

 

その後、準々決勝は進んでいく、残ったのはアラン、カキ、コルニ。残すバトルは後一つ。

 

フィールドに上がるサトシと対戦相手。準々決勝最終試合、間も無くスタートだ。

 

いよいよバトルも大詰め。果たして、今年の波導の勇者に選ばれるのは、一体誰か?

 

……To be Continued

 




*注意
次回の投稿はとある読者様から登場させてほしいとお願いのあった、オリキャラが登場します。

ifこんなキャラがいたら、というゲストキャラクターとなりますので、物語には直接影響しない、パラレル扱いです。

取り敢えずは一話限りの登場ですので、ご了承ください。



『波導の勇者たちに捧げるバトル大会、準々決勝最終試合。

サトシの前に立ちはだかるのは、彼を知っているらしい甲冑姿の少年。

仮面の下に喜びの表情を浮かべる彼が繰り出したのはキリキザン。

ゲッコウガと知り合いらしい彼らは、サトシたちと戦う中で、ある力を見せる!

次回、オルドラン城編
キズナの力!侍のキリキザン

みんなもポケモン、ゲットだぜ!』

もちろん、ストーリーはまた別に描きますので


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オルドラン番外 キズナの力!侍のキリキザン(オリキャラリクエスト)

オリキャラを出してほしいという依頼があったので、まずは試しに書いてみました

頂いたオリキャラの設定です
ところどころいじってあります

キャラクター
トレーナー:ジン
出身:マサラタウン
手持ちポケモン:ストライク
        キリキザン
             ほか
備考:マサラタウンから出たサトシの後輩
ポケモンと触れ合うサトシを見て、羨ましいと感じていて、目指したくなった。
ストライクが最初のポケモンで、子供の頃に怪我をしていたところを助けたら懐かれた
旅立ちの日に、オーキド博士からポケモンを貰う筈だったのだが「ストライクがいるから要らない」と断った
将来の夢は「ポケモンとトレーナーが手を取り合える未来を作る」というもので、サトシ達がカロスを旅してるときはイッシュ地方の意識改革に尽力していた
意識改革に一息ついたのちにカロスへ旅立ち、そこでイッシュ地方でゲッドしたコマタナから進化したキリキザンとキズナ現象を起こし、それを見たプニちゃんとゲッコウガに頼まれて役目の手伝いをしていた(つまり早く役目を終えることが出来たのはジンが手伝ったから)
手伝いを終えた後にプラターヌ博士にゲッコウガを預けた後、暫く旅をしていたが無性にサトシとバトルがしたくなりサトシの元に向かった
戦闘スタイルはポケモンの得意としていることを伸ばして苦手なことには対処法を教えていく謂わば
“特技を伸ばして、苦手を無くす”というもの

登場ポケモン
キリキザン:♂
特性:せいしんりょく
覚えている技:メタルクロー、鉄壁、辻斬り、ステルスロック
備考:元は弱いという理由でトレーナーから捨てられたコマタナをジンが拾って仲間にした
戦闘スタイルは鉄壁で相手の攻撃を受け止める、又は受け流した後にメタルクローや辻斬りを叩き込むというサトシのルチャブルに似た戦闘スタイル
ステルスロックで相手の視界を遮ったり行動の制限なんかも行う
攻撃を受け止めたり、ギリギリで躱して相手を与えるところから仲間から“紙一重の侍”と呼ばれている
キズナ現象を起こすことが出来、その状態の瞬発力はサトシゲッコウガとタメをはれるほどの切れと速度を持つ
又、キズナ現象時のメタルクローと辻斬りはそれぞれ小太刀と日本刀のような形になる

キズナ現象時
ジンキリキザン
姿は日本鎧をつけた様な姿になる

この設定を踏まえた上で読んでください
長くてすみませんが、本編どうぞー



side???

 

幼い頃、自分の周りには友達がたくさんいた。同じくらいの年頃の、人間の友達。一緒に遊んで、学校で学んでいた。

 

でも、ポケモンと仲良くなるのは、すごく難しく見えた。自分より年上の子達も、どこか怖がってるみたいで、その影響か、自分も野生のポケモンが怖かった。

 

そんな時、彼を見かけた。

 

自分よりも一つ二つほど上の彼は、人間の友達はほとんどいなかった。話すのは決まって、オーキド博士の孫とだけ。

 

でも、彼には友達はたくさんいた。ポケモンの友達が。

 

野生だとか、他のトレーナーのだとか関係なく、彼はポケモンたちに囲まれる存在だった。その時の彼も、ポケモンたちも、楽しそうで、嬉しそうで……それが羨ましかった。

 

だからかもしれない。ある時、森で弱ってたストライクを見つけたときに、ほっておけなかったのは。

 

 

数年後、彼は旅を始めた。見送りに行った自分が見たのは、なぜかボロボロの彼と、不機嫌そうなピカチュウ。トレーナーとして大丈夫だろうかと、本気で心配になった。

 

でも彼は大丈夫どころか、とても優れたトレーナーだった。あらゆる地方のジムを巡り、必ずリーグに参加していた。まだ若いのに、どのリーグでも好成績を出し続けた。特に自分が興奮したのは、シンオウリーグ。彼のようになりたいと、本気で願うようになった。

 

彼が出てから2年後、自分が最初の旅に出るとき、相棒となったストライクとともにまず目指したのはイッシュだった。彼が今そこにいると聞いたからだ。そこで出会った弱いから捨てられたコマタナを仲間に加え、強くなるために特訓し続けた。残念ながらリーグには間に合わなかったため、彼と出会うことはなかった。

 

ただ、残念だったのはそれだけではなく、イッシュの一部トレーナーたちの姿勢だった。彼とは全く違う考え方。それだけならいい。それでもちゃんと自分のこと、ポケモンのことをちゃんとわかっているなら、それでもいい。けど、弱いからと勝手にポケモンを捨てる人、マナーをしっかりと守れていない人、失礼にも相手の名前を覚えない人。憧れの彼とは、あまりにも違いすぎる。

 

そのことに、自分は大きな怒りを感じずにはいられなかった。彼もこの中で旅をしたのだろうか。みんながそうではないのはわかっている。何人か、仲良くなったトレーナーもいたからだ。でも、自分には耐えられないこともあった。人とポケモンがもっと仲良く……彼と同じような関係を築くことはできないのだろうか……

 

 

その後、彼も向かったというカロス地方で、自分は運命的な出会いをした。謎の触手に襲われたとき、一体のポケモンが助けてくれたのだ。そのポケモンが自分とキリキザンを見て、何かに気づいたようだった。彼に案内され、出会ったのは秩序を守るというポケモン。

 

自分とキリキザンが特別なパートナー同士だと聞かされ、しばらく行動をともにすることになった。旅の途中、全く知らない新しい力を、二人は発現した。その力の使い方について、教わりながらも、鍛え続けた。

 

その後、彼らと別れたあと、新しく手にした力、他の誰も持ってない力を極めた自分は、サトシが現れる可能性が高いと聞いて、この大会に参加を決意した。

 

かつて憧れた彼と、バトルをしたくて……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それでは両者、ポケモンを!」

「ゲッコウガ、君に決めた!」

 

サトシがゲッコウガを出すと、観客が盛り上がる。圧倒的な力を見せつけたアランのリザードンとは違い、冷静でありながら時には大胆な行動に出るゲッコウガは、次に何をするのかがわからないと、注目のポケモンだった。

 

「キリキザン、いざ、出陣!!」

 

ジンと呼ばれていたトレーナーが選んでいたのはキリキザン。まだ声変わりがしていないのか、少年にしてはやや高めの声だ。現れたキリキザンは、ゲッコウガを見て、気合いを入れるように声を上げる。

 

と、そのキリキザンを見たゲッコウガ、何かに気づいたようで、目を見開いていた。

 

「どうした?ゲッコウガ」

 

「コウッ、コウガ!」

「キッザァ!」

 

以前会ったことがあるのだろうか、驚きながらも、ゲッコウガは嬉しそうだ。でもサトシにはそのキリキザンに見覚えがない。

 

「ゲッコウガ、久し振りだね。ようやく全力の君と、戦えるよ」

 

トレーナーの方もゲッコウガに親しげに話しかけている。もしかしたら、自分がカロス地方を離れた後、何処かで出会っていたのだろうか。

 

「それにしても、まさか君のトレーナーが、サトシだったなんて……」

「?俺のことを知ってるのか?」

「うん。でも今は昔話の時じゃない。全力の君と、バトルしたいと、ずっと思ってた。だから、行くよ!」

「誰だか知らないけど、受けて立つぜ!走れ、ゲッコウガ!」

「行っけぇ、キリキザン!」

 

同時に走り出したゲッコウガとキリキザン。

 

「かげぶんしん!」

「ステルスロックだ!」

 

走りながら分身を作りだすゲッコウガに対し、キリキザンはステルスロックを飛ばす。細かな石の粒が、分身たちを消して行く。

 

「いあいぎりだ!」

 

分身が消えていく中、本体のゲッコウガがキリキザンに接近し、光の刃を手に斬りかかる。

 

「かわして、メタルクロー!」

 

攻撃が当たるほんの一瞬前、キリキザンは僅かに体をそらすことで、その刃をかわしてみせた。そしてゲッコウガの無防備な体めがけて、極限まで硬度を高めた一撃を繰り出した。

 

「受け止めろ!」

 

ガシッと、その攻撃が掴まれる。空いていたもう片方の腕で、ゲッコウガが攻撃を防いだのだ。そのまま相手の動きを封じ、もう一度刃を振るう。

 

「てっぺき!」

 

体を硬化させ、ゲッコウガの攻撃を受け止めるキリキザン。それを見て、カウンターを喰らう前に、ゲッコウガはキリキザンを蹴り飛ばし距離をとった。

 

「やるなぁ」

「ありがとう。でも、まだまだ君たちの全力はこんなものじゃないよね?つじぎり!」

「いあいぎりだ!」

 

両手に刃を構え駆け出したキリキザン。それを迎え撃つゲッコウガも刃を片手で握り、突っ込んでいく。幾度となくぶつかり合う二体のポケモン。

 

キリキザンは二刀を操り連続で攻撃するが、ゲッコウガは確実に攻撃を見切っているようだ。手数がどうしても少なくなってしまうはずなのに、全く攻撃が当たる気配がない。どちらも素早いポケモンだが、ゲッコウガの方がスピードが優っている。

 

焦ったのか僅かながら大降りになるキリキザン。ほんの一瞬生じた隙、それをサトシとゲッコウガは見逃さなかった。

 

「そこだっ、いあいぎり!」

「コウッガ!」

 

ふり抜かれた光の刃は、キリキザンの二刀の間を潜り、綺麗に胴体に決まり、大きく弾き飛ばした。

 

後退し、膝をつくキリキザン。立ち上がりながらゲッコウガを見る目は、ギラギラしている。

 

「やっぱり……強い。流石サトシとそのポケモン」

 

頭のほとんどを甲冑が覆っているため、表情はほとんど見えないが、ジンの口元には大きな笑みが浮かんでいる。

 

「みずしゅりけん!」

「てっぺきで防いで!」

 

飛び上がり両手に持ったみずしゅりけんを投げつけるゲッコウガ。キリキザンは両手で顔を覆い、てっぺきで体を硬化させる。二つ連続で命中したものの、少し後ずさる程度でダメージはほとんどなかった。

 

「よしっ「つばめがえし!」しまっ!」

 

みずしゅりけんが命中した際に生じた煙を利用し、いつの間にかゲッコウガはキリキザンの懐に潜り込んでいた。腕に力を集約させた一撃目は、キリキザンの両腕を弾き、胴体がガラ空きになる。そこへ間髪入れず、エネルギーを集めた両足の連続蹴りが決まった。

 

ジンのすぐ近くまで蹴り飛ばされたキリキザン。かなりのダメージを負っているようだが、まだ立ち上がってくる。

 

「キリキザン、まだ行ける?」

「キッザァ!」

「やっぱり。今のままじゃ、サトシには勝てないみたいだね……でも、ここからが本当の勝負だ!」

 

追い詰められてなお諦めない。その姿勢はどこかサトシに似ているように見えた。いや、寧ろこの感じは、サトシに憧れ追いかけたあの少年、ショータに近い。

 

「自分たちの、全てを、憧れた彼にぶつけるんだ!行くよ!」

「キザッ!」

「自分たちは、いつも一つ!」

「キィィザァァッ!」

 

「!あれは」

「コウガ」

 

サトシとゲッコウガには見えていた。ジンとキリキザンの間にエネルギーのパスが流れていくのを。メガシンカエネルギーと同じ。だが、どちらもキーストーンもメガストーンも持っていない。

 

「これは、まさか……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

二人が雄叫びをあげると、変化が起こった。突如キリキザンの周囲を剣に見えるものが取り囲む。それは勢いよく回転し、キリキザンの体が見えなくなる。眩しい光とともに剣が消えると、キリキザンの姿が変わっていた。

 

体の一部がより鎧のように変化し、頭の部分はまるで戦国武将がつけていた飾りのように、変形している。突然姿が変わったことに、観客もどよめいている。

 

「ねぇセレナ、今のって」

「ええ。まるで、まるでサトシと同じ」

 

「メガ進化……いや、今のは」

「驚いたな。あれができるやつが、サトシたちの他にもいるなんて」

 

 

「キリキザン、つじぎり!」

「キザッ!」

 

まるで日本刀を抜くかのような構えを取るキリキザン。警戒するサトシとゲッコウガ。次の瞬間、キリキザンはゲッコウガの真後ろにいた。

 

「!ゲッコウガ、屈め!」

 

咄嗟にサトシの指示通り、屈み込むゲッコウガ。と、ゲッコウガの胴体があった場所を、日本刀のような形をした刃が通った。ほんの僅かに指示が遅れていたら。ほんの僅かに反応が遅れていたら。今の一撃は、大きなダメージをゲッコウガに与えていただろう。

 

「二人の全て……やっぱり……」

 

ジンの方を見ると、彼もまた刀を振り抜いた後のような格好をしている。間違いない。彼らが使っているのは、自分たちも使うあの力だ。

 

「ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

「メタルクロー!」

 

みずしゅりけんを投げつけるゲッコウガ。キリキザンは自身の籠手部分から爪を伸ばし、容易くそれを切り裂いた。そのままゲッコウガ以上の素早さで接近したキリキザンは、驚くゲッコウガに強烈な一撃を叩き込んだ。

 

宙に打ち上げられ、地面に叩きつけられるゲッコウガ。

 

「大丈夫か、ゲッコウガ!?」

「ゲッコウ!」

 

頭を振り、意識をハッキリさせるゲッコウガ。サトシの方を向き、力強く頷いた。

 

「畳み掛けるよ!つじぎり!」

 

刀を構え走るキリキザン。振り返るところのゲッコウガのすぐ近くまで迫り、刀を横薙ぎに振り抜いた。

 

「ゲッコウガ、右から横向きだ!いあいぎり!」

 

否、振り抜こうとした。サトシの指示の通りに刃を構えたゲッコウガが攻撃を防いだのだった。まさかこの姿になったキリキザンの攻撃が止められるとは思っていなく、自分もパートナーも動揺しているのがわかるジン。

 

「やるな。ゲッコウガ、出し惜しみは無しだ!もっともっと強く!行くぞ!」

 

鍔迫り合う両者の足元から激しい水流が溢れ出る。ゲッコウガの周囲を包み込みながら、キリキザンを宙に跳ね飛ばした。

 

「キリキザン、っ!?サトシ……君も……」

 

その時、ジンにはようやくわかった。このゲッコウガが何故あの時、彼らと共に行動していたのか。彼もそうだったのだ。最高の主人に出会い、その力を極めたのだ。それもきっと、自分たちの知らないステージへ。

 

 

水流を纏ったまま、ゲッコウガが動く。先程までとは比べ物にならないスピードで、宙で動けないキリキザンの前に現れた。

 

「キザッ!?」

「つばめがえし!」

「ゲッ、コウ!」

 

右腕の一撃が腹に決まる。その時の勢いに体を任せ、続けざまに左手が裏拳気味に顔に炸裂する。体に走る痛みに、ジンの顔が歪む。

 

「っ、キリキザン!てっぺき!」

 

咄嗟に硬度を高めるキリキザン。丁度その時に、腹部に踵落としが振り落とされた。中から地面に向かって叩き落されるキリキザン。宙にいるゲッコウガは一旦体を丸めたかと思うと、勢いよく開く。

 

体を覆っていた水が弾け、新たな姿のゲッコウガが現れた。背中に背負う巨大なみずしゅりけんに、変化した体の模様。より鋭い眼差しでキリキザンを見下ろしている。

 

「それが、君の、君たちの全力……」

 

歓喜に体が震えるのを、人は感じた。あぁ、自分が憧れた彼は、自分も知らない高みを既に知っているのだ。自分の目指す背中は、まだまだ大きい。けれども、

 

「その全力に、自分たちの全てをぶつける!キリキザン、つじぎりだ!」

「ゲッコウガ、いあいぎり!」

 

先とは違い、一刀を構えるキリキザンと二刀のクナイを振るうゲッコウガ。ハイスピードで行われる斬り合いに観客ももはや静まり返っている。

 

知らず知らずのうちに両の手を握るアイリーン。バトルに高揚するとは、こういうことなのだろうか。初めての気持ちに驚きつつ、よりバトルに見入っていく。

 

 

 

右手で刀を振るったキリキザン。その一撃を両方のクナイで受け止めるゲッコウガ。

 

「今だ、メタルクロー!」

 

左腕の籠手から伸ばした鋼の爪で、ガラ空きのゲッコウガを狙う。両手は既に塞がれているため、防ぐことはできない。

 

ゲッコウガが押されているのか、シンクロしているサトシが体を僅かに左に傾ける。

 

メタルクローが決まった。そうジンは思った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「えっ!?」

 

キリキザンの攻撃は、水の塊によって防がれ、ゲッコウガに届いていなかった。背中のみずしゅりけんが、攻撃に対する盾となっている。先程サトシが体を傾けたのは、ゲッコウガが傾いたからではない。サトシが傾けることによって、みずしゅりけんの位置を調整したのだ。

 

「みずしゅりけん!」

「コウッ、コウッガ!」

 

体を捻るようにしキリキザンの二つの攻撃を弾き飛ばすゲッコウガ。その勢いのまま、背中のみずしゅりけんを手に取り、横薙ぎに振るう。突然のことに驚いたキリキザンは、防御する間も無く弾き飛ばされる。

 

すぐさまゲッコウガがみずしゅりけんを投げつける。受け身を取ることができずにいたキリキザンに、みずしゅりけんが直撃する。爆発が起こり、白い煙が舞う。膝をつくジン、肩で息をしている。

 

煙の中からキリキザンが飛び出してくる。地面に何度か跳ね、ジンのすぐ近くで止まった。目を回していて、変化も解けている。

 

「キリキザン戦闘不能!ゲッコウガの勝ち!よって勝者、サトシ選手!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

バトルが終わった……そして自分が負けた。悔いはない。自分が全力を出し、彼にも全力を出してもらうことができた。

 

「ジンって言ったっけ?いいバトルだったぜ。まさか俺たち以外にあの力を使う奴が出てくるとは、思ってもいなかった」

 

差し出された手を、ジンはしっかりと握り返す。

 

「自分も、とても楽しかった。全力で戦ってくれて、ありがとう」

 

とてもではないけど、届かなかった。

 

あの頃遠くから眺めているだけだった自分。

 

彼に会うために、追いかけるように旅をして、修行した自分。

 

旅の中で、多くのことを見て、力もつけたつもりだった。

 

 

けれども、やはり憧れた彼は、自分よりも先を行っているのだと、実感した。

 

もっともっと旅をしよう。そしていつか、

 

「サトシ……また、バトルしてくれる?」

「ああ。また会ったときに、全力でな」

 

自分たちはまだまだだ。次に会った時、もっと強くなれるように頑張ろう。

 

 

バトルを終えたジンは、その後は残らず、すぐに出発した。まずは自分の生まれ育った地方、カントーをしっかりと冒険するために。




というわけで、オリキャラをメインにして書いて見ました〜
いかがだったでしょうか?

その他にも依頼があれば、参考にし、書いてみることはしてみますので、あったらご連絡ください

さて、本当の次回予告と行きましょう!

*なお、本編でのサトシの準決勝では、サトシゲッコウガになっていません!

『次回の、オルドラン城編では、

準決勝まで勝ち上がったアラン、カキ、コルニ、サトシの四人。いよいよバトル大会も大詰め。

準決勝第一試合はアラン対カキ。

炎タイプ同士の対決に、会場も熱く燃え上がる中、勝利のためにカキは切り札を切るタイミングを見極める。

次回、アランとカキ。炎の大激突

みんなもポケモン、ゲットだぜ!』


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アランとカキ。炎の大激突


*一応、準決勝からスタートですが、準々決勝はこの前の話とは直接は繋がってません。
パラレルで、サトシとゲッコウガ通常状態で勝ち上がってます。オリキャラとは全く関係ないモブが相手でした。

作者が昨日の放送を見る前に書いたものなので、技とか違っても気にしないでください笑


 

 

波導の勇者を決めるためのバトル大会、準決勝に勝ち上がったのは四人。アラン、カキ、コルニ、そしてサトシだ。

 

リザードンとともに圧倒的な力を見せつけるアラン。こちらではまだ珍しいバクガメスが注目を集めているカキ。波導伝説にも登場するルカリオをパートナーに持つコルニ。勇者の衣を見に纏い、誰もが驚く様な戦法を取るゲッコウガとサトシ。四人とも他の参加者を寄せ付けない実力で勝ち進んで来たため、準決勝からのバトルには大いに期待が集まっている。

 

最初の対決が始まる。フィールドに現れたのは、黒騎士姿のアランと鎧姿のカキ。奇しくも同じほのおタイプのポケモンを相棒に持つもの同士のバトルとなった。

 

「カキが出て来たよ!」

「頑張って!」

「でもすっごく強いから、カキ、勝てるかな?」

「やって見なければわかりませんよ」

「うん。バトルはまだ始まってないんだから」

 

 

「それでは、両者ポケモンを!」

「出てこい、バクガメス!」

「行け、リザードン!」

「ガメース!」

「グォォッ!」

 

現れるとともに雄叫びをあげる両ポケモン。アランの実力を知っているカキ、初めて見るバクガメスのことを探ろうとするアラン。お互いに慎重に進めなければ、負けるかもしれない。そう感じ取っていた。

 

「バクガメス、かえんほうしゃ!」

「かわせ!」

 

口から大量の炎を吐き出すバクガメス。空に飛び上がり、それをかわすリザードン。機動性で言えば、圧倒的にリザードンの方が上の様だ。

 

「ドラゴンクロー!」

「甲羅で受け止めろ!」

 

ほのお・ドラゴンタイプのバクガメスに対し、効果抜群のドラゴン技で突っ込むリザードン。その攻撃を甲羅の棘で防いだバクガメス。爆発が起こり、リザードンが思わず怯む。

 

「何っ!?」

「ぶっ飛ばせ、ドラゴンテール!」

 

怯んだリザードンの胴体に、バクガメスの繰り出したドラゴンテールが炸裂する。大きく弾かれたリザードンは、空中でなんとか体勢を立て直し、アランの側まで戻った。

 

「なるほどな。迂闊に近接攻撃を仕掛けるのは危険、というわけか」

「グルォウ」

「だが、甲羅にさえ当たらなければ、爆発することはないだろうな。そこを狙うしかないか」

 

「流石はサトシに勝ち続けた相手だな。バクガメスの甲羅のことも、初見だからこそうまくいったが、次からはどうだろうな」

「ガメース」

「ああ。まだ俺たちにはもう一つ切り札がある。問題は、いつ使うか、だな」

 

 

「リザードン、かえんほうしゃ!」

「迎え撃て、かえんほうしゃ!」

 

ほぼ同時に炎を吐き出す二体。両者の技はフィールドの中央で激突し、爆煙を巻き上げる。

 

視界が覆われる中、カキはバクガメスに警戒する様にと伝え、自身も周囲に気を張る。もしも近距離からの攻撃を仕掛けてくるのであれば、間違いなくバクガメスの腹側を狙ってくるはず。それに対し、カウンターの要領で甲羅を使って防がなければ。

 

「どこから、来る?」

「正面に向けろ、ブラストバーン!」

「なん、だと!?」

 

煙を払いのけるように、大地から溢れる炎がバクガメスを襲った。ほのお・ドラゴンタイプに対し効果はいまひとつではあるものの、ほのおタイプ最強クラス、それもアランのリザードンの攻撃。バクガメスを大きくよろめかすことに成功した。体勢を崩したバクガメスの胴体に隙が生まれる。

 

「今だ、ドラゴンクロー!」

「くっ、バクガメス!ドラゴンテール!」

 

急速に接近したリザードンの爪を、かろうじて尻尾で弾くバクガメス。しかし軌道をそらすことはできたものの、攻撃はバクガメスの右肩に命中した。効果は抜群。バクガメスが痛みに顔をしかめる。

 

「大丈夫か、バクガメス?」

「ガメ、ガメース!」

 

頷き、改めてアランの方を見るカキ。ここまでで彼はまだ一度もメガ進化を使って来ていない。つまり、これよりもさらに上があるということだ。

 

「やっぱり、強いな。サトシのライバルは」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

選手控え室。サトシとコルニだけになったこの部屋から、二人は今行われているバトルを眺めている。

 

「やっぱり強いね、彼。カキも凄く強いんだけど、アランは別格だね」

「まだわからないぜ。カキもアランも、まだ全力を出していないからな」

「全力って、メガ進化のこと?リザードンがするのは知ってるけど、あのバクガメスってポケモンもするの?あれ、でもメガストーンは持ってないみたいだし」

「ああ、メガ進化とは違うんだ」

「もしかして、カキのバクガメスも、サトシのゲッコウガみたいなことができるとか?」

「いや、それも違うよ。まぁ、見てたらわかるって」

 

楽しそうにフィールドを眺めるサトシ。今のサトシとの会話に首をかしげるコルニ。しかし説明はして貰えなさそうだと感じ、彼女もフィールドに視線を向けた。

 

 

「一か八か、かけてみるしかないな。バクガメス、りゅうせいぐん!」

 

空高く打ち上げられたエネルギーの球体は、弾け、より小さい隕石の様に降り注ぐ。サトシの初戦の相手だったガブリアスよりもさらに大きいそれは、リザードン目掛けて落ちて来る。

 

「っ、かわせ!」

 

上下左右に飛び、りゅうせいぐんをかわそうとするリザードン。しかし、その大きさと数の多さはとても避けきれるものではなかった。空中で攻撃を受けたリザードンが、地面に向かって落ちていく。

 

「ここだ!」

 

腕を交差するカキ。その左腕から、まばゆい光が溢れ出す。その光はバクガメスを包み込み、大きな力を与える。

 

「何だ、これは……」

 

「サトシ、あれ何?」

「あれが、カキの全力だよ」

「全力?」

 

「来た!」

「マオ、あれは何?メガ進化、じゃないわよね?」

「あれはね、Z技って言うんだ」

「Z技?」

 

初めてみる謎の力に、観客もどよめいている。地面に倒れていたリザードンが立ち上がり、アランとともに警戒する様にバクガメスを見ている。

 

「俺の全身、全霊、全力!全てのZよ!アーカラの火のごとく、熱き炎となって燃えよ!」

「喰らえ!ダイナミックフルフレイム!」

 

放たれるのは超特大の火球。フィールドの幅と変わらないのではないかと思える大きさの技に、会場も熱気に包まれる。アローラ地方にのみ伝わるZ技は、観客のほとんど誰もが知らなかったため、全く未知の力。驚愕するアランとリザードン。火球はすぐ目の前まで迫っている。

 

「くっ!」

 

左手の手袋を少しまくるアラン。その下、腕に巻かれているリングに取り付けられている石に、彼の指が触れた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

巨大な炎の塊がリザードンを飲み込み、爆発を起こした。ほのおタイプに炎技は効果いまひとつではあるものの、これだけの規模ならあるいは。煙が晴れるのを待つ間、カキがゴクリと喉を鳴らした。

 

と、煙を突き破る様に、眩しい光が溢れ出て来る。その中に、徐々に何かの模様の様なものが見えて来る。遺伝子の配列の一部分の様なその模様がくっきりと現れた時、雄叫びとともに、煙が弾き飛ばされる。

 

煙がはじけた中央にいたのはリザードン。しかし先程とは姿が変わっている。オレンジの体はアランの鎧と同じ黒色に。羽の形は変化し、口から青い炎が溢れ出ている。

 

「グルォォオ!」

 

メガ進化したリザードンが天に向かって吼える。先ほどよりもさらに迫力の増したそれは、観客の肌にビリビリ伝わり、鳥肌が立つ。

 

「まさか、俺たちの全力の技を受け切られるとはな……」

「さっきの技、確かにあのままならまずかった。だが、メガ進化した俺のリザードンは、ほのお・ドラゴンタイプ。ほのお技の威力は4分の1になる」

「なるほどな……これは、厄介だな」

 

新たな姿に変わったリザードンに観客は驚いている。まだメガ進化があまり伝わっていない場所だからだろう、何が起きたのかわからないと言う風に混乱する人もいる。子供達は黒いリザードンと並ぶ黒い騎士、その姿に大興奮の様だ。

 

タラリと、カキの頬を冷や汗が伝う。既に自分たちの最強技は使ってしまったのだ。一度のバトルで使えるのは一度きり。つまりもうあの技は使えない。それに加えて、このタイミングでのメガ進化。状況はあまり、どころか割とよろしくない。

 

「だが、最後まで諦めなければ、結果はわからない……だよな、サトシ」

 

いつだって、どんな敵が相手だとしても、諦めない自分の友の姿を思い出す。あいつのライバルとして、全力のバトルをしたい。いつからだったか、そう思う様になった。どんな時でも、バトルをあきらめる様な奴は、あいつのライバルを名乗る資格もない。

 

「ここからが本当の勝負だ、行くぞバクガメス!」

 

主人のやる気に応えるように、炎を吐き、気合いを入れるバクガメス。まだ諦めないその姿に、アランはサトシを重ねた。

 

(こいつも、サトシのことをライバルと思っているんだな……)

 

口元に楽しげな笑みを浮かべ、アランはカキを見据えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さっきの技、Z技だっけ?凄かったけど、アランの方が一枚上手だったね」

「Z技は、ポケモンとトレーナーが一緒に放つ全力の技。一回のバトルで一回しか普通は使えないんだ」

「えっ、じゃあもうカキ、かなりピンチじゃん!」

「かもな。でも、あいつは諦めてない」

 

サトシに言われカキを見るコルニ。あの楽しげだけど闘志がみなぎっている表情。あの時のジム戦で、サトシが見せたものにそっくりだ。対するアランも笑顔だ。

 

「そうだね。なんだか、サトシに似てる」

「そうか?」

「うん」

 

 

 

「バクガメス、もう一度りゅうせいぐん!」

 

再びドラゴンタイプの大技で攻撃に出るカキ。フィールドに向かい降り注ぐ攻撃は、バクガメスの気合いがこもっているのか、先ほどよりも迫力がある。

 

「ドラゴンクローで切り裂け!」

 

両腕にエネルギーを集め、飛び出したリザードン。りゅうせいぐんを時にはかわし、かわしきれないものは爪で切り裂いて進む。間近まで迫るリザードンが、その爪をバクガメスの腹に目掛けて振り下ろす。

 

「かえんほうしゃで方向転換だ!」

「っ!」

 

片足を軸とし、炎を横向きに噴射することで、体を回転させるバクガメス。本来バクガメスのスピードでは間に合わなかっただろう。しかし炎の噴射を利用し、体の向きを強引に変えたのだ。

 

リザードンの爪が激突したのは、バクガメスの背中の甲羅。大きな爆発が起き、リザードンとバクガメスが後退する。うまく防ぐことができたが、バクガメスは体勢を大きく崩してしまう。

 

「ブラストバーン!」

 

拳を握り、地面を殴りつけるリザードン。大地を割り、炎が溢れ、バクガメス目掛けて進んで行く。地面が持ち上がり、バクガメスが宙に投げ出される。

 

「バクガメス!」

「ドラゴンクロー!」

 

バクガメスを追い、飛び上がるリザードン。身動きの取れないバクガメスの胴体に、効果抜群のドラゴンタイプの技が叩き込まれる。バクガメスが落下し、大きな衝撃がフィールドの中央から響く。土煙が上がり、視界が悪くなる。砂埃が晴れるのを皆じっと待っている。

 

煙が晴れ、フィールドがはっきりと見えると、そこには目を回し倒れているバクガメスがいた。

 

「バクガメス、戦闘不能!リザードンの勝ち!よって勝者、アラン選手!」

 

ワッ、と歓声が湧く。激しいバトルを見せた二人に、観客は盛大な拍手を送った。

 

パートナーを戻し、フィールドの中央で対面するアランとカキ。

 

「俺の負けだ。流石、サトシに勝ったことだけはあるな」

「やはり、君もサトシに影響されたんだな。最後まで、楽しいバトルだった。あの大技にも驚かされた」

「まさかメガ進化して受け切られるとは思わなかったんだがな。また今度、リベンジさせてもらう」

「ああ。望むところだ」

 

握手を交わす二人。お互い悔いのないバトルができたようで、その表情は晴れやかだった。

 

「次はサトシの番だな」

「必ず勝ち上がってくるさ。俺と当たるまでは、あいつは負けない」

「すごい自信だな。けど、そうだな。あいつは負けない」

 

控え室の方を見ると、サトシがこちらを見ているのが見える。待っている。そんな気持ちを込め、アランはサトシを見つめ返す。

 

 

準決勝第一試合、ほのお・ドラゴンタイプ同士のバトルは、アランが制した。二回戦、サトシもコルニのバトルが間もなく始まる。果たして、勝ち上がるのは、どっちだ?

 

…… To be continued




今度のオルドラン城編は、

『久しぶりに激突するサトシとコルニ。

波動を極めるべく特訓して来たルカリオは、サトシやゲッコウガも驚くようなバトルを展開する。

激しいバトルが展開される中、サトシの秘めた力が発揮される。

次回、波導の力!サトシゲッコウガ対メガルカリオ

みんなもポケモン、ゲットだぜ!』


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波導の力!サトシゲッコウガ対メガルカリオ

この対決がXYで見たかった!

まぁ、実現しなかったので、ここに書いているわけではあるんですけどね〜笑

前以て言っておきますと、ちょっとサトシとゲッコウガ凄いことになってます、はい

ではでは、どうぞ〜


アランとカキのバトルは、Z技をメガ進化で受け切ったリザードンの勝利で終わった。続く準決勝第二試合、コルニとサトシがフィールドに現れる。無意識のうちか、アイリーンの表情に期待と喜びが現れ、サトシを拍手で迎える。

 

「サトシ。いよいよだね!」

「ああ」

「リーグのバトルを見た時から、この時を楽しみにしてたんだよ。あたしも、ルカリオもね」

「俺も、またコルニたちとバトルできるの、すっごく嬉しいぜ。だから、俺たちも全力でいかせてもらうぜ!」

 

「両者、ポケモンを!」

「頼んだよ、ルカリオ!」

「ゲッコウガ、君に決めた!」

 

ほぼ同時に投げられるボールから、二体のポケモンが姿を現わす。ルカリオはゲッコウガを見て大きく吼え、ゲッコウガはすぐさま戦闘態勢に入る。どちらも人型のため、なかなかスマートな印象を与えるものの、その実力を知るものはその緊張感を強く感じ取っている。

 

「ゲッコウガの力、しっかりと見せてもらうよ!グロウパンチ!」

「望むところだ!ゲッコウガ、つばめがえし!」

 

一気に駆け出す両ポケモン。中央で二つの拳が激突する。視線を交わすルカリオとゲッコウガ。そのままもう片方の腕で同様の攻撃を繰り出す。

 

ガシッと互いの拳が受け止められる。ゲッコウガの右手はルカリオの左の拳を、ルカリオの右手はゲッコウガの左の拳をそれぞれ掴んでいる。互いに押し合うものの、パワーはほとんど変わらないようだ。同時に相手を押し、反動で距離を取る。

 

「はどうだん!」

「みずしゅりけん!」

 

両手を合わせるようにし、波動を球体に収束させるルカリオ。対するゲッコウガは両手を合わせ、水を手裏剣の形にしていく。同時に放たれた二つの技は、フィールドの中央で激突し、互いに相殺し合う。

 

楽しそうな笑みを浮かべるサトシとコルニ。とても良く似ているこの二人は、目の前の相手と戦えることに、本当に強い喜びを感じているようだ。

 

「そういえば、あの時はケロマツとバトルできなかったっけ」

「そうだったな」

 

かつてのジム戦の時、サトシは当時ケロマツだった彼をバトルに出さなかった。結果としてあのバトルはサトシの勝利で終わったけれども、ケロマツも本当はバトルしたくてたまらなかったはずだ。あれからそれなりの時間も経って、ケロマツはゲッコウガとなった。今こうして、あの時戦えなかった相手とバトルできること、それが彼にとっても嬉しいことだった。

 

「あの時よりもあたしたちも強くなってる。だから、サトシたちの成長も、しっかり見させてもらうよ!行くよ、ルカリオ!」

「ルガゥ!」

 

手の甲に輝く石をサトシに見せるように、コルニは左の拳を突き出す。

 

「命、爆っ発!メガ進化!」

 

演武をするようにコルニが動き、左手の甲に右手で触れる。眩い光がコルニの石とルカリオの腕輪を繋ぐ。光がルカリオの体を包み、変化を起こす。体は一回り大きく、体に赤い模様が現れ、より禍々しくも見え、より雄々しくも見える。

 

「ブルゥアウッ!」

 

腕を振るうルカリオ。暖かい波動が周囲に広がり、観客の肌にも伝わる。勇者の相棒たるルカリオのメガ進化に、子供達も目がキラキラしている。サトシはというと、

 

(前よりも、ずっと鋭い)

 

以前と違い、まるで洗練された刃のように、自分たちに鋭く向けられるルカリオの波動。波動の修行をし、練度をだいぶ高めてきているのがわかる。いや、なぜか分かったのだ、サトシには。

 

「なら、俺たちも!ゲッコウガ、フルパワーだ!」

「コォウッ、ガァッ!」

 

強く拳を握るサトシとゲッコウガ。その拳を天に掲げると、ゲッコウガを激しい水流が包み込む。ゲッコウガの体の模様が変わり、水が弾ける。背中に背負った巨大なみずしゅりけんは、日の光を受けきらめいている。

 

メガ進化とキズナ現象の違いはよくわからない人の方が多いが、まだ見ぬ力を使う2人のトレーナーと二体のポケモンに、観客は釘付けになっている。

 

戦闘態勢をとるルカリオ。腕を組み相手を見据えるゲッコウガ。観客の見守る中、2人のトレーナーが指示を出す。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ルカリオ、グロウパンチ!」

「走れ、ゲッコウガ!」

 

握った拳を輝かせ、ルカリオがゲッコウガめがけて走る。対するゲッコウガも走り出す。先ほどよりも素早く動く二体は、ものの数秒で互いの距離を詰める。拳をゲッコウガ目掛けて振るうルカリオ。トレーナーたちの真正面にいるため、互いにポケモンたちの様子がわかりにくい、が。

 

「今だ、かわしてつばめがえし!!」

 

すんでのところでかわすゲッコウガ。視界を共有しているため、サトシには、ゲッコウガとルカリオの距離感がより正確に見えていた。隙のできたルカリオの胴に、強烈なカウンターパンチが炸裂する。大きく後ずさるルカリオ。痛みに顔をしかめるも、すぐにゲッコウガを睨み返す。

 

「ぐっ!?」

「ガッ!?」

 

しかし痛みの声を漏らしたのはルカリオだけではなかった。脇腹を抑えるサトシとゲッコウガ。攻撃は確実にかわしたはずだった。しかし2人を謎の痛みが襲ったのだ。ニヤリと笑みを浮かべるコルニ。まるで目に見えないものによる攻撃……瞬時にサトシは理解する。

 

「そうか……波動で」

 

以前メガルカリオ同士のバトルを見せてもらったことがある。その時、熟練のルカリオははどうだんの時だけではなく、自身や周囲の波動を武器のように使用していた。同じように、コルニのルカリオも、つばめがえしが決まる瞬間に、波動をまるで塊のようにし、ゲッコウガにぶつけていたのだ。

 

「やるなぁ……いあいぎり!」

「迎え撃つよ!ボーンラッシュ!」

 

ゲッコウガは水でできたクナイを、ルカリオはエネルギーで形成された骨状の武器を両手に握り、相手に向かって走り出す。激しくぶつかり合う両者。相手の上に飛び、左右に避け、フェイントをかける。互角の力でぶつかり合う二体のバトルは、観客も手に汗を握るほど白熱している。

 

何度目かの斬り合いを経て、ラチがあかないと判断したのか、同時に距離を取る二体。視線はしっかりと相手のことを捉えている。

 

「かげぶんしん!そのまま走れ!」

 

駆け出しながら分身を生み出すゲッコウガ。相手を撹乱し、隙を誘う。その一瞬の隙を逃さずにつくのがサトシたちの得意スタイルだ。しかし、

 

「ルカリオ、本体めがけてはどうだん!」

 

はどうだんを形成したルカリオは、迷うことなく大量にいるゲッコウガのうちの一体を狙った。

 

「っ、防御だ!」

 

両腕を交差し、衝撃に備えるゲッコウガ。確かな衝撃がゲッコウガを襲い、大きく弾き飛ばした。背中から地面に叩きつけられるゲッコウガ。それによって分身も消える。

 

今の攻撃、ルカリオは完全にゲッコウガの位置を捉えていた。特別席ではマオたちも驚いている。

 

「あんなに簡単に見つけちゃうなんて……」

「どうやったのかな」

「あれはおそらく、波動を感知したんだ」

 

 

 

「波動?」

 

アランとともに観戦していたカキが疑問符を浮かべる。

 

「この世のあらゆるものには、波動というものが流れている。気やオーラとも呼ばれるものだ。ルカリオたちは、その波動を感じ取ることできる」

 

 

 

「では、先ほどのゲッコウガのかげぶんしんの中から、本物を見つけたのも」

「波動は本体にしか流れていない。どれだけ分身を増やそうともな。ルカリオは、その波動を探ってゲッコウガの本体を見つけたんだろう」

 

 

 

「流石だぜ、コルニもルカリオも」

「サトシのバトルスタイルは、リーグの映像でも何度も見てたからね。あたしたちには通用しないよ」

「へへっ、ますます燃えてきたぜ」

 

ニッと笑顔を見せるサトシ。本当にこのバトルを楽しんでいるのだろう。しかし、得意の戦法を封じられた上に、波動による見えない攻撃。サトシたちにとって、形勢はかなり不利になっている。

 

「ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

「ルカリオ、はどうだん!」

 

同時に打ち出される二つの技は、正面から激突し、土煙を巻き上げる。視界を覆われる両者。しかしこれは圧倒的にゲッコウガには部が悪い。

 

「気をつけろ、ゲッコウガ!」

「今だよ、グロウパンチ!」

 

迷うことなくゲッコウガの背後に回り込んでいたルカリオ。ゲッコウガが気配に気付き振り返ろうとした時には、その背中にルカリオの拳が炸裂する。前のめりに吹き飛ばされ、地面で跳ねるゲッコウガ。サトシも前向きに大きくふらつく。

 

 

 

試合を見守るマオやカキたちも、ゲッコウガが追い込まれているのに驚きを隠せない。

 

「流石コルニね……きっとルカリオとたくさん特訓してきたのよ。コルニは、サトシにすごく似てるもの」

「あのゲッコウガがここまで押されるなんて……」

「あのルカリオ、とても強いですね」

「見えない力を使ったり、見えないものを見たり……」

 

 

「ルカリオ本人もだが、トレーナーの方もルカリオの力量を正確に理解している。自分の目に見えないものを操る正確な指示が出せるのは、あの2人が相当強い絆で結ばれているからだろう」

「絆の強さ……メガ進化も絆が重要だというし、かなりのものなんだな……」

 

 

「でも、サトシは負けないわ。だって、どんなに不利な状況にいたって、諦めない。それがサトシだもの」

 

「だが、それはサトシだって負けていない。あいつはきっと勝ち上がってくる。そういうやつだからな」

 

 

「サトシ……」

 

思わずアイリーンの口からサトシの名前が溢れる。自分の立場故に贔屓をするわけにはいかない。それでも、あの時の波導の勇者となったサトシは、彼女にとっても特別な存在になっている。ついつい応援してしまう自分の気持ちに驚きつつも、アイリーンはしっかりと試合を見つめている。

 

その手はギュッと祈るように握り締められている。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「大丈夫か、ゲッコウガ?」

「コ、コウッ!」

 

立ち上がるゲッコウガ。既に息は上がっている。無理もない。あんなに強烈なかくとうタイプの攻撃を、防御どころか、身構える間も無く受けたのだ。サトシも片腕で痛む部分を抑える。

 

ボロボロではあるものの、二人の闘志はむしろ燃え上がっている。

 

「なんとかして反撃の方法を考えないとな……ゲッコウガ、かげぶんしん!」

 

飛び上がり、今度は先ほどよりも多い数の分身を作り出すゲッコウガ。

 

「そのままいあいぎり!」

 

分身たちがクナイを手に取り、一斉にルカリオ目掛けて突っ込んでいく。普通なら驚くであろうそれに対し、コルニもルカリオも余裕そうだ。

 

「何度やっても同じだよ!ルカリオ、はどうだん!」

 

はどうだんがゲッコウガ本体めがけて放たれる。宙にいるゲッコウガには、それをかわすことができない。

 

「それを期待してたぜ!切り裂け、ゲッコウガ!」

 

ゲッコウガはクナイを交差させ、その攻撃を受け止める。切り裂かれたはどうだんは、ゲッコウガの背後で小さな爆発を起こす。それを推進力に変え、ゲッコウガは更に速くルカリオに接近する。

 

「ルカリオ、地面を殴りつけて!グロウパンチ!」

 

咄嗟に地面を殴り、目くらましにするルカリオ。ゲッコウガがルカリオのいた場所を切り裂くと、既にルカリオの姿は消えている。

 

「どこだ……どこから?」

 

感覚を研ぎ澄ませるサトシとゲッコウガ。煙の中から、ボーンラッシュの骨が飛んでくる。かわしたと思うと、二つ目が反対側から投げつけられる。素早い動きでゲッコウガの周りを動くルカリオの位置を、ゲッコウガは捉えることができない。

 

気配を感じ取ろうとしても、読み取れないのだ。それもそのはず。波動というアドバンテージを、最大限に活かすため、ルカリオは自身の気配を限りなく小さくする修行もしている。

 

今かろうじてゲッコウガが直撃を受けていないのは、ゲッコウガの類いまれなる気配察知能力が、攻撃の際の僅かなものを捉えているからこそ。しかし、その集中力も、永遠には続かない。

 

(このままじゃダメだ。もっと、もっと研ぎ澄ませ!)

 

自身の目を閉じ、意識を集中するサトシ。その間、ゲッコウガはなんとかルカリオの攻撃をかわし、防ぎ、凌いでいる。

 

(感じ取るんだ……気配や音だけじゃない、もっと強い何かを……ルカリオのことを……)

 

更に意識を集中させるサトシ。と、サトシの思いに応じるように、両手に付けた手袋、その手の甲部分に埋め込まれている石が淡く光始める。波導の勇者、アーロンがつけていたのと同じ手袋が反応している。そして……

 

(な、これって……)

 

目を閉じているサトシの前に広がるのは、暗闇でも、ゲッコウガの視界でもない。ぼんやりとした青い輝き、それが様々なものを形作っている。

 

バトルフィールド、観客席にその人たち。ゲッコウガにコルニ、そしてトドメを刺そうと拳を握り、ゲッコウガの右側から走り込んでいるルカリオが。

 

「ゲッコウガ、つばめがえし!」

 

ゲッコウガへと、サトシの見ているものが流れる。その方向に目を向けるゲッコウガ。まさにその瞬間に飛び出してきた光る拳を、すんでのところで交わすことに成功し、逆に横っ腹に強烈な蹴りをお見舞いし、吹き飛ばした。

 

「嘘っ!」

 

驚愕の声を上げるコルニ。サトシが一体どうやってルカリオの位置を発見したのか、全く理解できなかった。

 

「突っ込め、ゲッコウガ!いあいぎりだ!」

「コウッ!」

 

畳みかけようと、ゲッコウガがクナイを手にし駆け出す。

 

「ルカリオ、波動で防御!」

 

コルニの指示に従い、ルカリオが腕を横薙ぎに振るう。目に見えない波動による攻撃。攻撃の間合いや速度が分からなければ、飛んでかわすしかない。しかし、

 

「よし、ここだ!」

「ゲッコウ!」

 

クナイを構え、Vの字を描くように振り抜くゲッコウガ。それにより、ルカリオの作り出した波動の斬撃は、容易く打ち破られ、雲散霧消する。

 

「バウッ!?」

「どうして、わかるの……」

 

驚きに動きが止まってしまうコルニとルカリオ。ありえない。はどうポケモンのルカリオや、はもんポケモンのリオルなら、まだわかる。しかしゲッコウガには波動を感知する力はないはずだ。

 

なのに、だというのに、

 

今の動きは完全に先ほどの波動による攻撃を見切っていた。そう、まるで見えているかのように。だが、そんなことは……

 

「コウッガァ!」

「ルガゥッ!?」

 

二人が戸惑っている隙に接近していたゲッコウガ。振り下ろしたクナイが、ルカリオの胴体に炸裂し、先ほどのお返しとばかりに弾き飛ばした。背中から倒れるルカリオに、コルニがハッとする。

 

「ルカリオっ!はどうだん!」

「ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

 

立ち上がり波動を集め、放つルカリオ。対してゲッコウガは、みずしゅりけんを手に持ち、投げるのではなく、ルカリオに接近する。はどうだんが迫ると、目の前でみずしゅりけんを回転させ、盾のようにし、はどうだんを打ち破る。

 

「ボーンラッシュ!」

 

互いに獲物を持ち、相手に向かって走るゲッコウガとルカリオ。二体が互いに肉薄し、獲物が同時に振るわれる。一瞬の交差の後、両者が静止する。

 

先程までの激しい激闘に盛り上がっていた観客も、息を殺し、フィールドに立つ二体を見つめる。あれほどの歓声が聞こえていたというのに、今は静まり返っている。

 

 

手に持ったみずしゅりけんを一振りしてから、背中に戻すゲッコウガ。苦悶の表情を見せ、ゆっくりとルカリオの体が倒れていく。地面に顔をつけるように倒れるルカリオの目は、既に回っていた。

 

「ルカリオ戦闘不能!ゲッコウガの勝ち!よって勝者、サトシ選手!」

 

観客席が爆発した……と言っても過言ではないのではないか。そう思うほどの歓声と拍手が、審判のコール直後に溢れた。

 

「すごい、すごいよサトシ!」

「はい!見事な逆転勝ちですね!」

「でも、なんで急にルカリオの動きや攻撃がわかったんだろう?」

「悪いが、俺もわからないな」

「博士もわからないの?勘とか?」

「ううん。そんな感じじゃない。サトシがずっと目を瞑っていたのに、きっと何か理由があるはずよ」

 

 

「どうやら、何か新しい力を身につけたみたいだな。ますます楽しみになってきたよ、サトシ」

「今の、サトシが何したのかわかったのか?」

「いや。だが、あいつがなんの理由もなしに目を瞑ってバトルをするはずがない。最後の方のゲッコウガの動きが良かったのに、必ず関係しているはずだ」

 

観客の盛り上がりをよそに、サトシとコルニはフィールドの中央に立っている。その隣にはそれぞれの相棒。コルニがキーストーンをつけている左手を差し出す。

 

 

「あたしたちの負けだね。楽しかったよ、サトシ!」

「俺もだ!またバトルしようぜ、コルニ!」

 

両者が握手する横で、ルカリオとゲッコウガが拳を合わせる。互いの健闘を讃えるように、ニッと笑い合っている。

 

「ねぇ、どうして最後の方で、ルカリオの位置や攻撃が読めたの?」

「え〜と、俺にもよくわかってないんだ。ただわかったというか……」

「わかんないっ……て、もう」

「なんかごめんな」

「まぁ、でも負けは負け。あたしたちももっと頑張らないとね。次はいよいよアランだよ。サトシ、リベンジ、あたしたちの分も頑張って!」

「ああ!」

 

気合いを入れるサトシを離れた場所から眺めるアラン。その表情は嬉しさと期待で満ちているようだ。

 

「いよいよだな、サトシ」

 

 

 

「アイリーン様、今のは、」

「ええ。間違いありません」

 

女王の席にいる二人。その視線はサトシ、具体的にいうとその両手の手袋に向けられている。

 

「勇者の手袋が、サトシ様に応えていました」

「サトシは、アーロンと同じ波導を持つもの……彼には、波導使いの資質があります。おそらく、サトシの思いに反応したのでしょう……」

「では、サトシ様は、やはり」

「そう。無意識ではあると思いますけど、彼は今、波導を使ったのです。あのアーロンや、ルカリオがしていたように」

 

…………… To be continued

 




サブタイトルで地味にフラグ立ててるのに気づいた人〜?
さてさて、いよいよオルドラン城でのバトル大会、決勝戦!
次回予告どうぞ〜


波導の勇者を決めるためのバトル大会。いよいよ待ちに待った決勝戦!

サトシとアラン、カロスリーグで激闘を繰り広げた二人が、今再び激突!

限界を超えたリザードンとゲッコウガの戦いが白熱を増す時、新たな旅の力が今、炸裂する!

次回、修学旅行オルドラン城編
『決戦、サトシとアラン!ゲッコウガ、究極の一撃!』

みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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決戦、サトシとアラン!ゲッコウガ、究極の一撃!

やっとだ……やっとだよ……

今日、映画を観てきましたよ〜!!!

何度泣きそうになったことか……

気持ちが燃え上がってきたので、投稿しちゃいます〜

アランとサトシの決戦。ゲッコウガの究極の技……まぁ、無い知恵絞って考えてみたので、変でも許してください


選手控え室から通じる、入場口の通路。手袋をしっかりとはめたサトシが帽子を被り直す。回復したゲッコウガのボールを手に取り、ベルトに取り付ける。左の手袋の内側、キラリと輝く鉱石のはめ込まれているリングにそっと触れる。

 

「よしっ」

 

小さく気合いを入れ立ち上がる。相棒のピカチュウは特別席に向かうカキに預け、サトシはゲッコウガだけを連れ、バトルフィールドに向かう。通路を歩いて行くと、どんどん観客の声が大きくなってくる。

 

フィールドに出ると、正面にアランがいる。黒い仮面を被ったままの彼は、表情がこちらからは読めない。しかしきっと彼も、自分と同じように、このバトルを楽しみにしているのだろう。

 

「これより、波導の勇者を決めるポケモンバトル、その最終戦を行います!両者、ポケモンを!」

 

「頼むぞ、リザードン!」

「ゲッコウガ、君に決めた!」

 

同時に現れ、戦闘態勢に入る二体のポケモン。リザードンは大きく吼え、ゲッコウガは静かに佇む。対照的な登場をした二体だが、その胸中は同じ。ただ目の前の相手と全力で戦い、勝ちたい。その気持ちだけ。

 

「それでは、バトル開始!」

 

審判が腕を振り下ろし、開始の合図を出す。観客も身を乗り出さんばかりにフィールドに注目する。二人のトレーナーが同時に動く。

 

「我が心に応えよ、キーストーン!進化を超えろ、メガ進化!」

「もっともっと強く!行くぞ!」

 

眩い光がリザードンを包み込み、ゲッコウガの体が激流に覆われる。光と水がさらに激しさを増す。姿を変えている途中ながらも、二体は同時に相手へと向かって行く。

 

「ドラゴンクロー!」

「いあいぎり!」

 

フィールドの中央で二つの影が激突する。光と水が弾け、姿の変わった二体が現れる。クナイと爪で激しく鍔迫り合う二体。両トレーナーも、ポケモンも、このバトルを心から楽しんでいるように笑っている。

 

 

 

「うわっ、どっちもいきなり全開だね」

「サトシとアランは、お互いの力を十分に理解しているから。ライバルだもの」

「お互い、実力を確認し合うまでもないということか。まさに頂上決戦だな」

 

 

「かえんほうしゃ!」

「みずしゅりけん!」

 

互いに弾かれるように距離を取るリザードンとゲッコウガ。すかさずリザードンから放たれた炎を、ゲッコウガはみずしゅりけんを回転させ、壁のようにし防ぐ。

 

「かみなりパンチ!」

「かわせ!」

 

接近し、振り下ろされる電撃を纏った拳を、ゲッコウガがバク転し回避する。足が地面に着くときの衝撃を利用し、勢いよく接近する。

 

「つばめがえし!」

 

強烈な蹴りがリザードンの腹部に炸裂する。顔が痛みに歪むリザードン。しかし、

 

「掴んで投げろ!」

 

ゲッコウガの足を掴み、空中目掛けて放り投げる。突然のことにゲッコウガが体勢を立て直す前に、ドラゴンクローにより、地面に向かって叩きつけられる。衝撃で土煙が上がる。

 

「かげぶんしん!」

 

痛む肩を抑えるサトシの指示が飛び、煙の中から分身したゲッコウガが飛び出して来る。

 

「かえんほうしゃで薙ぎ払え!」

 

リザードンが口を大きく開き、高熱の青い炎がゲッコウガたち目掛けて放たれる。分身が次々に消えていき、その際に生じた煙が煙幕のようになり、リザードンの体を見えなくする。両トレーナーの視界も遮られ、通常ならばこれで攻撃はお互いに攻撃しにくくなるはずだが、彼らにはそれは意味をなさない。

 

「いあいぎりだ!」

 

いつの間に飛び上がっていたのか、宙にいるリザードンの背後からゲッコウガの握るクナイが叩き込まれる。先ほどのお返しとばかりに、リザードンの体が地面に叩きつけられる。追い討ちをかけるべく、ゲッコウガがリザードン目掛けて降下しながら蹴りを叩き込む。しかしそれはドラゴンクローを交差するようにし、リザードンが受け止め、跳ね飛ばす。ゲッコウガは空中で回転し、サトシの側に着地する。

 

一進一退の攻防から、目が離せない観客。誰もが興奮し、バトルに引き込まれる中、対峙する二人のトレーナーは、その誰よりも高揚していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(この感覚だ……他の誰かでは感じることができないこの高揚感!……サトシ、やっぱりお前は、俺にとって唯一無二の相手だ)

 

強いトレーナーは数多くいる。自分と同じように、メガ進化を使いこなす敵と、幾度となくバトルをしてきた。あの頃も、そして今も。ただひたすらに、リザードンと共に最強を目指して。

 

その時にはこんな気持ちにはならなかった。戦いの後には楽しかったと思える。けれども、戦いの時まで気分が高揚するのは、彼を相手にする時だけ。この気持ちが、このバトルが、自分たちを新たなステージへと連れて行ってくれる。何故かそれだけは確信できる。

 

(あれからまた他の地方を巡っているのか?なら、見せてくれ。その全てを!)

 

「ブラストバーン!」

 

 

 

(やっぱり強いな……アラン。カロスリーグの時よりも、迫力がある……でも、その時よりも楽しそうだ)

 

カロス地方で出会った彼は、圧倒的としか言いようがなかった。それまでに出会ったどのトレーナーよりも、純粋に強いと感じた。結局、一度も勝つことはできなかったけれども、それでも、彼との戦いはいつも自分の中から、熱く燃えるような気持ちが湧いて来るのを感じる。

 

それはゲッコウガも同じようで、彼の高揚が自分にも伝わって来る。シンクロしている二人、その気持ちも一つ。故に、お互いにどれほどこのバトルを楽しんでいるのか、どれほど勝ちたいと感じているか、それが伝わり合う。

 

(それに……ここで、この場所で、この衣装で……負ける訳にはいかないもんな!さっきの感じ……間違いなく使えるはずだ)

 

「みずしゅりけん!」

 

 

大地を割り、迫り来る炎をゲッコウガはみずしゅりけんを地面に突き刺し、水の衝撃を作り出すことで相殺する。

 

「かみなりパンチ!」

「つばめがえし!」

 

水が急速に熱され、蒸発する。視界が悪くなる中、両ポケモンが正面目掛けて走り出す。敵が真正面から来ることを予想した上での行動。両者が出会うのは、ほぼ同時……となるのが普通だった。

 

「波導は、我にあり」

 

小さく呟かれた言葉は、かつての英雄とその相棒が使っていたもの。時を超えたあの出会いの中で、サトシがしっかりと受け継いだ言葉(ちから)。サトシの瞳が閉じられ、拳が握り締められる。手の甲の鉱石が淡く輝く。

 

(見えた!)

「屈め!」

 

煙の中から飛び出して来る電撃の拳。それは目で追っていればかわすことはできなかったはず。しかしゲッコウガはぴったりのタイミングで体を逸らし、リザードンのがら空きの胴体目掛けて、拳を繰り出した。コルニ戦でも見せた、波導の流れを読んでのカウンター。まだ2回目だというのに、もうコツを掴んできているようだ。

 

動きが止まったリザードンに対し、ゲッコウガはすぐさま背中のみずしゅりけんを手に、刀のように大きく振るう。下から斜め上へと振り上げられたみずしゅりけんは、リザードンの顎を捉え、大きく後ろへと跳ね飛ばす。

 

「ブラストバーン!」

 

空中で体勢を立て直したリザードンが、そのまま地面を強く殴りつける。再び溢れ出た炎が、今度はゲッコウガを捉え、その足場を崩す。炎に焼かれ、中に放り出されるゲッコウガの目の前に、リザードンが現れる。

 

「かみなりパンチ!」

「いあいぎりだ!」

 

片手から繰り出される攻撃を、ゲッコウガは二本のクナイを交差させなんとか防ぐ。しかし、その時に生じた隙に、リザードンの反対の手が、ゲッコウガに叩き込まれる。効果抜群のでんきタイプの技が、ゲッコウガとサトシを襲う。

 

そのままリザードンが急降下し、ゲッコウガに拳をぶつけたまま、地面と激突する。大きな土煙が上がり、リザードンが飛び出し、アランの前に戻る。視線はじっと煙の中を探るように見ている。

 

煙が晴れると、そこにはゆらりと立ち上がるゲッコウガ。今の攻撃は流石に効いたのか、顔をしかめている。その後ろに立つサトシも、肩を抑えている。しかし二人ともまだまだ戦う気持ちは折れていない。

 

「それでこそ、だな。見せてくれ、お前たちの限界以上の力を!リザードン、ドラゴンクロー!」

 

大きく吼え、両手から鋭いエネルギーの爪を出し、リザードンがゲッコウガ目掛けて飛び立つ。

 

「っ!ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

 

背中のみずしゅりけんを手に取り、投げつけるゲッコウガ。しかしそれはリザードンによって切り裂かれる。低空飛行で接近してきたリザードンのドラゴンクローが、ゲッコウガを弾き飛ばす。

 

背中を地面につけ、倒れるゲッコウガ。その後ろではサトシが片膝をついている。苦しげなその表情に、観客の中には心配そうにしている人もいる。

 

 

「ちょっと、サトシ押されてるよ〜!」

「やはり強いな、アランは」

「大丈夫よ。サトシは、まだ諦めていないもの」

「さて、ここからきしかいせいの一手が出せるかどうか……だな」

 

 

チラリと、サトシが左腕を見る。正確には、グローブの内側、そこに巻かれたリングと、はめ込まれた鉱石を見ていた。

 

(もう少し……もう少しだ……)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「かえんほうしゃ!」

 

青い炎がゲッコウガを襲う。立ち上がりはしたものの、避ける気配もないゲッコウガ、その体がよろける。炎がゲッコウガを包み込む。

 

 

 

思わず立ち上がりかけるアイリーンを、メイドの女性が止める。危うく自分の立場を忘れてしまうところだったことに、驚きながらアイリーンが座る。その目はサトシを心配げに見つめる。

 

しゃがみこみ、うつむいたままのサトシ。その両手は後ろ向きに広げられている。

 

煙が晴れると、クナイを手に、同じように振り切っているゲッコウガが現れる。先ほどのかえんほうしゃは、水でできたクナイを使い、見事に切り裂き、防ぎきっていたようだ。

 

「あの状況から炎を切り裂くか……まだまだ気を抜くなよ、リザードン」

「グルォ」

 

身構えるアランとリザードン。ボロボロとはいえ、サトシとゲッコウガを相手にし、気を抜いていい瞬間なんて、少しもないのだ。ゆっくりと、顔を俯かせたまま、サトシとゲッコウガが立ち上がる。

 

「ようやく……溜まりきった」

「何っ?」

 

顔を上げたサトシは、不敵な笑みを浮かべている。左の手袋を少しずらすと、中にあった腕輪が露わになる。その中央には、深い青色に光る鉱石。菱形ではなく十字形をしたその石。青の中、中央の紋章部分だけが、真っ赤な色をしている。

 

 

「そうか!だから最初からあの姿に……」

「力を溜めてたんですね」

「えっ、なんの話?」

「セレナは見たことなかったよね。驚くよ〜」

 

 

「それは、カキと同じっ」

「行くぞ、アラン!俺たちの全力を、見せてやるぜ!」

「コウッガ!」

 

サトシが鉱石を掴み、ダイヤルを回すようにし少しずらす。十字ではなく、X状にはまった鉱石。そこから光があふれ始める。同時に腕を交差させるサトシとゲッコウガ。すると石だけではなく、眩い光がサトシの体からも溢れ、ゲッコウガへと繋がる。

 

「来るぞ、ゲッコウガのZ技!」

「どんな技なんだろう……楽しみだよ」

 

両手を前に出し、再び交差させる。左手を上に、右手を下に、大きく回す。両腕が水平になると、印を結ぶように、二人が手を合わせる。光がどんどんゲッコウガへと集約していく。

 

「これはっ!リザードン、ブラストバーン!」

 

直感で危険を感じ取ったアラン。アレを発動させれば、自分たちが負ける。なぜかそう思ってしまったのだ。リザードンが全力を込めて地面を叩く。今までの比じゃない炎が溢れ、ゲッコウガへと向かっていく。

 

「これが、俺たちの、全てだ!」

 

左手を印の形にしたまま顔の前に構え、右手を同じ形で空に掲げる。その瞬間、ゲッコウガの周囲から大量の水が溢れ出てくる。水は迫り来る炎を物ともせず、フィールドを包み込む。もはや足場全てが水に覆われている。アランやリザードンはもちろん、バトル中は何があっても動揺しないように訓練している審判までもが戸惑っている。

 

「フィールドの全てを、水に?っ!」

 

地面を驚きの表情で見ていたアラン。顔を上げると、ゲッコウガとサトシが体を屈め、こちらを見据えている。

 

「ここからが本番だ。ゲッコウガ、決めるぜ!」

「コォウッ!」

 

フィールドの水が舞い上がり、ゲッコウガを包み込む。体が完全に包み込まれると、ゲッコウガが消えた。

 

「なっ!?」

 

驚くアラン。直後に、リザードンの側面に衝撃が走り、リザードンがふらついた。かと思ったら、今度は反対側からの衝撃によって二歩ほど後退してしまう。

 

「速いっ!目で、追えない!」

 

リザードンの周囲を猛スピードでかけ、連続攻撃を当てていくゲッコウガ。体を纏う水が、アクアジェットの時のように、推進力となっている。しかしこれはその比ではない。とてもではないが、動きを捉えられないのだ。

 

当然、このスピードではトレーナーのサトシも追いきれないはずだ。しかし、サトシとゲッコウガは視界が繋がっている。更に今では波導を読むことで、ゲッコウガを見失わずにいるのだ。

 

まさしく、サトシとゲッコウガだからこそできる、彼らだけの攻撃。しかしこれは、究極の一撃を確実に決めるための前段階に過ぎない。

 

 

 

連続攻撃は止まらない。一撃一撃は仕留められるだけの力はないが、明らかにリザードンの体力はどんどん削られていっている。

 

「このままでは……かみなりパンチで、っ!?」

 

アランが反撃の指示を出そうとした時、彼の周囲に異変が起こった。猛スピードでかけるゲッコウガによって、リザードンの周囲の水流が巻き上げられ、ついにはリザードンを飲み込んだ。その水流の中央に現れたゲッコウガ。強烈なアッパーカットがリザードンに決まる。水流の推進力も合わさった一撃は、リザードンをきりもみ状に空へと打ち上げる。

 

「これで決める!」

 

背中のみずしゅりけんを手に取り、空に掲げる。フィールドを覆っていた水が、みずしゅりけんへと集約されていく。激しく回転しながら、みずしゅりけんが巨大化していく。カロスリーグで見せたあの赤く燃える巨大なみずしゅりけんと同じ、いやそれ以上の大きさに。そして色は赤ではない。一切の不純物のない、純度の高い青。あの燃えるような迫力はないものの、むしろ研ぎ澄まされた刃のような、そんな力強さが感じられる。

 

「行っけぇ!超絶、水手裏剣!」

「っ、リザードン、ドラゴンクローだ!」

 

空中でなんとか体勢を立て直したリザードンが、ドラゴンクローを発動し、身を守るべく交差させる。その直後、ゲッコウガが大きく腕を振り抜き、みずしゅりけんを放った。

 

空中で大きな爆発が起こり、観客が皆顔を覆う。爆風の音の中、何かが地面に落ちる音が聞こえる。必死に目を凝らすアラン。しかし目を開けることすら難しい。誰もが皆、暫くは何も見えなかった。

 

爆風が収まり、煙が晴れていく。まるでフィールドの上だけ雨が降ったかのように濡れている中、一体のポケモンが倒れている。その相手を、もう一体が膝をつきながら見る。

 

水を打ったように、会場が静まり返っている。審判が倒れている方に駆け寄り、様子を確認する。そして立ち上がると、声を大にしてコールをする。

 

「リザードン、戦闘不能!ゲッコウガの勝ち!よって今年の波導の勇者は、マサラタウンのサトシ選手!」

 

審判の声が響く。少しの間の後、会場が割れるような歓声に包み込まれた。特別席ではマオたちが抱き合って喜んでいる。

 

「勝った勝った!」

「やったね、サトシ〜!」

「最後まで諦めないサトシとゲッコウガ。見ていて引き込まれました!」

「あー、まだ心臓がばくばくしてる」

「ああ、最高に燃えるバトルだったぜ」

「サトシとゲッコウガのブラストバーンをも上回る熱い思いが、伝わってきたな」

 

みんなが声をあげ喜ぶ中、セレナは静かにサトシのことを見つめていた。その瞳から、涙が溢れる。

 

(サトシ……ゲッコウガ……とっても格好良かったよ……)

 

フィールド上では肩を押さえながら立ち上がるサトシの元へ、ゲッコウガが駆け寄り肩を貸している。

 

「勝ったな……」

「……コウガ」

 

空いている方の拳を付き合わせるサトシとゲッコウガ。変身が解け、ゲッコウガの姿が元に戻る。一方アランも自分の相棒の元へ行き屈み込む。申し訳なさそうに鳴くリザードン。

 

「良くやったな、リザードン。お前は楽しかったか?」

「グォウ」

「俺もだ。今回はあいつらの方が旅で多くを学んでいたということだ。俺たちも旅を続けて、次は必ず勝とう」

 

労いの言葉をかけ、アランはリザードンをボールに戻した。立ち上がり、フィールドの中央まで歩くアラン。サトシもゲッコウガに支えられながら歩いてくる。

 

「今回は、俺の負けだな」

「へへっ。でも、まだ負けた数の方が多いからなぁ。ここから挽回していくぜ」

「どうかな。次は俺たちが勝ってみせるさ」

 

そう言ってアランが手を差し出す。ニッと笑みを浮かべながら、サトシがその手を握った。

 

ピキリッ、と小さな音がする。あまりに小さくて誰も気づかなかったその音は、サトシの左腕のZリングからしていた……

 

 

 

 

この後、舞踏会の前にサトシは仲間たちにお祝いしてもらうのだが、そこに何故かピチューが混じっていたことに対し、誰も突っ込むことができなかった。




ゲッコウガの技は、通常のミズZ技も含めた合体技みたいな感じにしました。まぁでも、かなりデタラメになってますけど、そこはこの二人ならなんでもありかなって

では次回予告
ーーーーーーーーーーーーーーーー

波導の勇者を決めるバトル大会に優勝したサトシ。
勇者の杖を授けられた彼は、参加していた女性客から注目されることに……

大会の後の舞踏会がいよいよ始まる。しかしサトシを待っていたのは、ある意味もっと難易度の戦いだった!?

次回、「勇者の宿命?炸裂、ガールズの本気」
みんなもポケモン、ゲットだぜ!



「ところでサトシ、あの最後の技の名前。サトシが考えたの?」
「いや、あれはグラジオっていう、リーリエのお兄さんが」


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勇者の宿命?炸裂、ガールズの本気!

アニポケにタケシとカスミ復活と聞いて……

番外編の方を進めちゃいましたー笑

いやぁ、舞踏会って、表現するの難しいね


さてさて、波導の勇者を決める大会を無事に終えたサトシたち。アランとコルニ、マノンを加え、城下町で行われているお祭りを巡り、出店を回り、かなり充実した時間を過ごすことができた。セレナと再会できたことに、マノンが大喜びしているのを、アランが微笑みながら見ていたが、その辺りは割愛しよう。

 

道中、サトシが子供達はもちろん、バトルを見ていた大人たちからも大人気だったのはいうまでもない。子供達一人一人と丁寧に向き合う彼の姿勢は、まさに町の勇者のようで、サトシはロータでは有名人としてのちに語られることになるのだった。

 

そして楽しい時間はあっという間に流れ、空は既に暗くなっている。サトシの仲間たちは舞踏会の会場に、既に集まっている。玉座のすぐ前、アーロンとルカリオの壁画のすぐそばに、サトシが立っている。サトシにアイリーンが近づき、杖を差し出す。アーロンの使っていた、勇者の杖。

 

「波導の勇者、アーロンの杖です。サトシ」

「はい」

 

説明はいらなかった。前に手にした時、それ以上にサトシはその杖を手にすることの重みを理解していた。杖の先についている鉱石が、部屋の照明を受け、鈍い光を放っている。

 

 

 

(やっと……約束の時が……サトシ……)

 

 

 

「ではこれより、波導の勇者に捧げるパーティを。皆様、存分に楽しんでください」

 

アイリーンの一声を受け、待機していた音楽家たちが曲を奏でる。人とポケモンがともに奏でる音色を合図に、人々は踊り始める。煌びやかな衣装に身を包んだ男女が踊るその光景は、さながら御伽噺の一ページのようにも見える。

 

「ほら、アランも踊ろ!」

「わかったから、転ばないように気をつけろよ、マノン」

 

黄色のドレスを着たマノンに腕を引かれ、黒騎士姿のアランが踊り場に出る。2人とも踊り方をよく知っているわけではない、けれどもとても楽しそうに音楽に合わせて回っている。

 

楽しそうなマノンと、穏やかな表情のアランを見て、ふわっとセレナが微笑む。それを見てコルニが首をかしげる。

 

「どうしたのセレナ?」

「ううん。あの2人、楽しそうでよかったなって」

「2人でマスタータワーに来たときも元気そうだったよ。アランも、前よりバトルを楽しんでるぽかった」

「そっか。それにしても、コルニのドレス姿もなかなか決まってるわね」

「そ、そうかな?なんだか慣れなくて……」

 

頬をかくコルニ。今の彼女はパーティに合わせて、衣装を変えている。普段のボーイッシュな印象のある服装から一転、白いドレスと長い髪は、とても女の子らしさを前面に出している。

 

「そういえば、サトシは踊らないのでしょうか?」

「というより、ご馳走食べに行きそう」

「うん……もしかしたら、あそこから動いちゃいけないのかな?」

「サトシと踊れるかと思ったんだけど、やっぱり上手く行かないなぁ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ガールズが少し離れた場所から見つめる先、勇者の席に座るサトシ。その隣には、今回大活躍したゲッコウガが立っている。

 

「波導の勇者の役割だってのはわかってるんだけど……やっぱり動いちゃいけないのは辛いなぁ」

 

そうはぼやくものの、ちゃんと背筋を伸ばし、不機嫌そうな顔をしていないあたり、サトシの精神的成長が見える。

 

と、彼の膝の上に、ピチューが飛び乗ってくる。何故かこのピチュー、えらくサトシを気に入ったのか、バトル大会後からずっとサトシのそばにいる。

 

「ピィチュ!」

「えっ、俺に?」

「ピチュ!」

 

ピチューが両手できのみをサトシに差し出す。小さな体でわざわざ取ってきてくれたのだろうか。

 

「ありがとな、ピチュー」

「ピィチュ!」

 

頭を撫でられて嬉しそうに目を細めるピチュー。と、モクローやルガルガンたちもやってくる。動けないサトシのために、みんなで食べ物を持ってきてくれたようだ。

 

「みんなも、ありがとな」

「クロッ」

「ニャブ」

「ガウッ」

「コォン!」

「ピィカァ!」

 

 

「流石サトシのポケモンたちだね」

「あぁ」

 

ダンスから離れたテーブルのそばに、カキたち男性組が固まっている。2人とも踊りに関してはからっきしなため、ご馳走をいただく方に集中することにしていた。ククイ博士はそんな2人とともにサトシを見ている。

 

「まさに勇者って感じだな。それよりお前らは踊りに行かないのか?」

「俺はこういう場所での踊り方を知らないので」

「僕も……博士は?」

「いやぁ、ははは……いい感じに空いている人が、ね」

 

 

と、ここで踊る人たちを眺めていたアイリーンが、立ち上がり、サトシの元へと歩いていく。ピカチュウとピチューを両肩に乗せ、ロコンを撫でていたサトシ。アイリーンが近づくと、不思議そうに見上げている。

 

「女王様?」

 

会場の注目が集まる。人々は踊るのを止めてまで、女王の一挙手一投足を追うかのように、2人を見ている。キョトンとするサトシに対し、アイリーンがドレスのスカートをつまみ、お辞儀をする。

 

「波導の勇者、サトシ。私と一曲、踊っていただけますか?」

 

会場から、その瞬間に音が消えたかのように錯覚してしまうほどに、シーンと静まり返った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

女王の言葉をようやくのみこめたのか、サトシがあたふたしながら立ち上がる。

 

「えっ、あっ、でも俺、ダンスとか下手で、あのっ!」

 

クスリと笑い、アイリーンが片手をサトシに差し出す。その仕草と笑みを見て、サトシはゆっくりと自分の手を伸ばし、その手を取る。わずかに体を折り、軽くお辞儀をする。

 

「その……女王様の指名なら、その、光栄です」

「ありがとうございます、サトシ」

 

誰もが見守る中、サトシとアイリーンがダンスフロアの中央へと歩いてくる。サトシの方はかなり緊張しているようで、表情も動きも固い。

 

アイリーンがサトシの手を取り、もう片手を腰に添えさせる。身長はまだアイリーンの方が大きいため、どうしてもサトシは見上げる形になってしまう。そんな少し不思議な構図のまま、ゆっくりと音楽に合わせ、2人が踊り始める。

 

最初は少し不安そうに下を向きがちだったサトシだが、アイリーンのリードに合わせて動くのに慣れていく。最初のガチガチとした固い雰囲気もなくなり、楽しそうにも見える。

 

もともと習うより慣れろタイプのサトシ。ダンスのコツも掴めてきたようで、もうリードされるがままではなく、自分から動くことまでしている。

 

ほぅ、と息を漏らしたのは誰だったか。会場の全てが見守る中、アイリーンとサトシ、2人だけの踊りが終わる。

 

「ありがとうございます、サトシ」

「俺のほうこそ。上手くできたかはわからないけど、とても楽しかったです!」

「ふふ」

 

笑顔で答えるサトシに、アイリーンも楽しい気持ちになる。と、ここでサトシ、そして会場に向けてアイリーンが声をかける。

 

「波導の勇者、サトシと踊ってみたい方は他にもいると思います。サトシ、誘いを受けてあげてくれますか?」

「えっ、あ、はい!」

「では、皆様。この後も存分にお楽しみください」

 

アイリーンが玉座へと戻っていく。と、早速サトシの周りに若い女性陣が集まりだした。サトシたちより少し年上の子、同い年くらいの子、子供まで。サトシも戸惑いつつ、一人一人に対応していく。

 

「すごい人気……」

「仕方がないだろ。何せ波導の勇者になったんだからな」

 

セレナの呟きに答えたのは、いつの間にかダンスフロアから離れてきたアランだった。隣にはマノンが飲み物を片手についてきている。

 

「楽しかったー!セレナたちは踊らないの?」

「うーん。踊りたいは踊りたいんだけど、」

「えぇと、その……」

 

チラリとマオたちの視線がサトシの方へ行くのを見て、アランとマノンは察した。

 

ああ、みんなサトシと踊りたがってるんだなぁ

 

「声をかければいいんじゃないかなぁ。サトシなら断らないと思うけど?」

「それはそうなんだけど……」

「流石にあの中に入って行くには……」

 

一曲の間に、サトシは次々に違う女の子と踊っている。あまりにも数が多いため、交代形式になったらしい。流石にもう慣れたのか、ミルフィと踊っていた時のぎこちなさは全然感じられない。

 

「いいなぁ」

 

思わず呟くマオ。口にこそ出さないが、スイレンとリーリエ、それにセレナも同じ気持ちだ。

 

2曲目、3曲目と音楽が変わる。サトシと踊りたがっていた子達の列も、もう終わりに近づいている。そして最後のこと踊り終わるちょうどその時、音楽が終わった。

 

お辞儀をするサトシと女の子。少し顔を赤らめながら、女の子は一緒に来たらしい友達たちの元へとかけて行く。サトシを見ながら、女の子たちが踊りの感想をお互いに話し合うのを見て、マオたちは少し悔しいような、羨ましいような気持ちになる。

 

と、アイリーンが玉座から立ち上がる。

 

「次が今晩最後の曲です。皆様も是非、最後まで楽しんでください」

 

食事をしたり、休憩したりと、ダンスフロアから離れていた人たちも、最後の曲だからと言わんばかりにフロアに進みでる。アランの手を引きながら、マノンもフロアへと向かう。それを見ながら、マオたちも最後くらい誰かと踊ってみようかと考えていると、彼女たちの前に青い手袋をつけた手が差し出される。

 

手の持ち主は、やはり彼女たちの予想していた、けれどもまさかとも思った相手だった。既に何人とも踊っていて疲れているはずなのに、そんな様子は全く感じられない。

 

 

 

へへっと楽しげな笑みを浮かべ、サトシが彼女たちに話しかける。

 

「マオ、スイレン、リーリエ、コルニ、それにセレナ。俺と踊ってくれないか?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ダンスフロアにサトシが立つと、すぐに注目の的になる。先ほどサトシと踊っていた女の子たちも見つめているが、中にはサトシに誘ってもらったセレナたちを羨望の眼差しで見つめる子までいる。

 

 

一番最初にサトシと踊ることになったのは、マオだった。最初のサトシみたいに、かなりガチガチになっている。

 

(どどどど、どうしよう。そりゃサトシと踊ってみたいとは思ってたけど、まさかサトシから誘ってもらえるなんて)

 

「マオ?」

「あっ、ごめん!その、初めてだから緊張しちゃって」

「あーその気持ちはわかるなぁ。俺もどう動けばいいのか全然分からなかったしなぁ。けど、やってみると楽しいからさ、俺の動きに合わせてみて」

「う、うん」

 

(これ、近っ)

 

ヒールのおかげでサトシの顔を真正面から見ることはないが、思っていたよりも互いの距離が近いことに、マオは戸惑いっぱなしだ。そんなことはつゆほども気にせず、サトシが一歩また一歩とマオをリードする。

 

(なんかこれ、楽しいかも!)

 

音楽に合わせてステップを踏み、時に回り、時に大きく動くように。少ししたら、マオは既に踊りを楽しんでいた。

 

 

続いて踊るのはスイレン。元の運動神経がいいのか、マオよりも早く踊りに慣れている。

 

「上手いな、スイレン」

「うん。すごく楽しい!っ、わわっ!」

「おっと」

 

慣れないヒールのせいか、スイレンが態勢を崩してしまい転びそうになる。しっかりと手を引かれ、ポスンと小さな衝撃をスイレンが感じる。

 

「大丈夫か?」

 

マオとは違い、サトシよりも背の低いスイレン。しかし今回はヒールを履いているわけで、必然、いつもよりも互いの顔が近くなる。

 

「ひょわぁ!?」

「あ、ちょっ、スイレン?」

 

ポシュー、と効果音がつきそうな勢いでスイレンの顔が真っ赤に染まる。あわあわとするスイレンの顔をサトシが覗き込む。さらに顔を熱くするスイレン。もう煙が出てくるんじゃないかと思うほどだ。そのままリーリエたちの元へ戻るまでも、頬の熱が引くことはなかった。

 

(サトシの鼓動、聞こえた……優しい音……)

 

 

 

3番手はリーリエ。黒と青を基調としたサトシの衣装と対照的な白いドレスを着たリーリエ。2人が踊ってる姿は、まるで映画や漫画の世界から飛び出したかのようにも見える。

 

「リーリエもうまいな。もしかして、昔やってたとか?」

「いえ、そこまでのことは。母が昔教えてくれたことがあったので」

「お母さんに?」

「はい。お母様は、わたくしにいろんなことを教えてくれました」

「そっか」

 

曲が少し盛り上がりを見せる。と、サトシがリーリエの腰に両手を置き、持ち上げながらくるりと回る。突然のことに驚きながらも、着地してすぐに踊りに戻れるのは、リーリエが慣れている故か。

 

「あの、サトシ……今のは?」

「さっき向こうで男の人がやってるのみてさ。リーリエはダンスに慣れてるみたいだったから、いけるかと思って。ダメだったか?」

「いえ、ダメというわけでは……」

 

(突然すぎます!うぅ……重くはなかったでしょうか)

 

「それにしても……」

「?なんですか?」

「リーリエって結構軽いんだな」

「あっ、ありがとう、ございます……」

「?」

 

(心を読む力でもあるのでしょうか……)

 

 

4人目のコルニは、流石女版サトシと言いたくなるほど、サトシと呼吸もうまくあっている。

 

「なんか、ダンスって意外と面白いね」

「ああ。慣れるまでが難しいけどな」

「でもなんか、不思議な感じ。サトシとこんな風に踊るなんて、思ってもいなかったから」

「俺もだ。でも、悪くないよな」

「うん!」

 

なんだか会話だけ聞くと付き合いたてのカップルみたいに聞こえてくる、不思議。しかし実際は2人の間にあるのはあくまで友情と信頼、そんな甘酸っぱい関係ではないのだ。

 

それでも笑顔で踊る2人は楽しそうで、嬉しそうで。なんだか微笑ましくなる。この2人はこうだからこそ、あれほどまでに心が湧くバトルを繰り広げられたのだろう。

 

「でもやっぱり変な感じ。こういう女の子っぽい格好って、ずっとしてこなかったから」

「そうなのか。似合ってるのに、もったいないな」

「……えっ!?」

 

……どうやら、変化が訪れる可能性も……なくはなさそうである。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

コルニとの踊りを終えるサトシ。もう曲がいつ終わってもおかしくない。なんだか前のダンスパーティーのことを思い出してしまうセレナ。あの時は、本当に直前で曲が止まってしまうという、タイミングの悪さに見舞われてしまったため、今回もまさかそんな、なんて思ってしまう。

 

けれども、流石に神様もそこまで意地悪ではないらしい。

 

「セレナ」

 

そう言って差し出されるサトシの手。ずっとこの手を取り、またこの手に自分の手を取ってもらいたかった。幼い頃から、ずっと想い続けてきた。旅の中で、もっと彼のことを知って、もっとそばにいたいと思った。でも、叶えたい夢があるから。彼に負けたくないと思えたから、自分は別の道へ進んだ。

 

寂しいときもあったけど、それでも、今こうして隣に居られるのは、それぞれが夢を追い続けたからだと、そう思える。

 

そっと手を伸ばし、サトシの指先に触れる。サトシが優しく手を握り、セレナをダンスフロアにエスコートする。始まる前に、軽くお辞儀をするサトシ。セレナもアイリーンがしたように、スカートをつまみ、膝を曲げる。

 

サトシがセレナの手を取り、その腰に手を回す。セレナは腰に回された腕に、自分の手を添える。

 

音楽に合わせて踊り出す2人。他と違い、言葉を一切交わさずに踊り続ける2人。けれども、彼らの間では、確かに会話があった。通じあわずとも理解し合える、そんな不思議な会話が。

 

踊る間、視線をそらさずに、互いに見つめ合うサトシとセレナ。

 

男の子の成長期のおかげだろうか、少しとはいえヒールを履いているセレナの視線と、ほぼ同じ高さにサトシの目線がある。いつの間にこんなに大きくなって居たのだろう、なんてセレナが思う。自分の方が背が高かったはずなのに、あの頃から彼の背中はずっと大きく思えた。今は、きっともっと大きく感じるんだろうか、と想いを馳せる。

 

髪が伸びているのには気づいて居たけれども、改めてこういう服装になると、長くなった髪は本当に綺麗だ、なんてサトシは思う。ピンクで統一された衣装の中、胸元の青いリボンが一際目立っている。こんなに大事に持っていてくれている、そのことがたまらなく嬉しかった。

 

ここまで2人の距離が近づいたのは、あの時が最後だった。カロスからの旅立ちの日、セレナが別れ際に、サトシへと贈った、とても大切で、とても優しいもの。その時のことは、2人もしっかり覚えているため、なんだか思い出さずにはいられない。それだけあの旅は、あの日は、彼らにとって大きなものとなったのだから。

 

 

「あの2人、凄いね」

 

離れて見つめるコルニが呟く。彼女もマオも、スイレンもリーリエも、そしてカキたちも。サトシとセレナの纏っている、独特の空気に、なぜか魅了されたかのように目が離せない。

 

「なんだか、セレナって凄いなぁ」

「うん」

 

セレナのサトシへの想いを教えてもらったマオとスイレン。恋ではなく、もはや愛と呼べるそれと比べると、今の自分たちの想いは幼稚なもののように思えてしまう。

 

「でも、わたくしは諦めません」

「「「えっ?」」」

 

目はサトシたちを見たままではあるが、リーリエは強い意志を持ってその言葉を言った。セレナに対するサトシの想い、2人の絆。それを知ってなお、いや、知っているからこそ、リーリエは決意を持って言う。

 

「わたくしたちは、まだまだこれから、いろんなサトシを知っていくのです。そしてサトシもいろんなわたくしたちを知っていきます。わたくしは、もっといろんなことをサトシに知ってほしいですし、知りたいと思います。だから、諦めません」

 

笑顔で締めるリーリエに、なんだかマオたちも元気をもらったような気になる。このどこまでも前向きで、積極的な姿勢は、サトシに影響されたのだろうか。

 

「そうだね。あたしも!」

「私も」

 

友であり、そしてライバルでもある。そんな関係は今までの自分たちの間にはなかった。新しい関係を生むきっかけになったのは、やはりサトシだ。これからどんなことがあるのか、まだわからないけれども、きっとみんなでいれば、なんでもいい思い出にできる、そんな気がする。

 

 

 

最後の音が響き渡る。周りの人が演奏に対し拍手を送る中、サトシとセレナは互いに見つめあったまま動かなかった。

 

「ありがとう、サトシ。サトシに誘ってもらえて、すっごく嬉しかった」

「あの時はセレナと踊れなかったから……それに、俺も楽しかったぜ」

「良かった。今度ユリーカにお話しないと」

「ははっ。なんか凄く楽しく聞いてくれそうだな」

「うん」

 

繋がっていた手を放し、少しだけ互いに距離を取る。なんだかまだまだ色々と言いたいことがあるような気もしたけど、うまく言葉にできないからやめておくことにする。

 

「俺、勇者の席に戻らなきゃ。最後の仕事が残ってるから」

「うん。頑張ってね、波導の勇者様」

「ああ」

 

ウィンクしながら様付けするセレナに、サトシは衣装の帽子を直しながら頷く。そしてサトシは、玉座へと向かい、セレナはマオたちの元へ戻っていく。

 

 

この直後、またもや驚愕するような出来事が起こるとは、本当に誰1人、想像すらできなかった。

 

 

 

(……やっと、来たな……サトシ……)

 




次回、オルドラン編最終回!

波導の勇者としての仕事、来客の見送りを行うサトシ
しかしその時、眩い光とともに現れたのは……

って、お前まさかっ!?

次回
勇者の再来!重なり合う、二つの波導!

みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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勇者の再来!重なり合う、二つの波導!

最終回と言ったな……あれは嘘だ

いや、うんまぁ、一応次回の途中からロータを去る予定なんで、
完全に嘘ではないですが……

あと、特にバトルはないですが、本編にも繋げることにしたので、色々とオリジナル展開考えてます


舞踏会も終わり、後はみんなを見送ること、それが波導の勇者としての、サトシの役割だ。玉座の隣、壁画の下に立つサトシ。

 

「では、波導の勇者より、皆様を見送って頂きましょう。サトシ、お願いします」

「はい」

 

既に一度経験したことがあるため、特に指示がなくとも、サトシにはすべきことがわかっている。片手で杖を握り、頭上に掲げる。もう片方の手はてっぺんにある鉱石にかざすようにし、サトシが壁画のアーロンと同じポーズをとる。

 

それを合図に、オルドラン城の夜空に、大量の花火が打ち出され、この催しの終わりを彩る。綺麗なその光景に誰もが見とれるのを見て、サトシも夜空を見上げる。

 

思い出すのはあの時のこと。

 

あの時もこうして勇者のポーズをとり、みんなを見送った。でも、それはここで起きた出来事の、本の幕開けに過ぎなかった。

 

その直後に脳内に声が響いたかと思うと、杖が振動し始めて、付けられた鉱石が強く光って……そう、丁度今のように……って

 

「!?」

 

ハッとサトシが勇者の杖を見る。見覚えのある光景に、以前と同じ感覚。前の時もその様子を見ていたアイリーンと付き人の女性も目を見開いてサトシと杖を見つめる。

 

人々がざわつきだし、サトシに注目している。しかしそんなことをサトシは気にする余裕もなかった。まさか、そんなことが?疑問を抱えながらも、サトシは片手を杖の鉱石にかざす。手袋にはめ込まれている鉱石も、共鳴するかのように光りだしている。

 

「……ルカリオ……お前なのか?」

 

サトシがそう杖に話しかける。すると、鉱石の輝きがより一層眩しくなり、そこから一筋の光が飛び出し、サトシの前に降り立つ。

 

光が徐々に何かの形へと変化していく。尖った耳、頭部のふさ。青と黒の体に、トゲのように見える白い毛。

 

跪いているそのポケモンがゆっくりと瞳を開き、サトシを捉える。赤い瞳が見せるのは、喜びの感情。そのポケモンがサトシを見据えたまま立ち上がる。

 

『久しぶりだな、サトシ』

 

口は動いていない。それでもサトシには、はっきりとその声が聞こえた。それは彼だけではなく、彼らのことを見ている全ての人にも。

 

波導を使い、彼は人と同じ言葉で気持ちを伝達することができる。そんな個体は、あの頃から一度も出会ったことがなかった。それは壁画に描かれた、もう1人の波導の勇者。

 

「ルカリオ……本当に、お前なのか?」

『ああ。お前が再びこの地に来るのを、ずっと待っていた』

 

そう言ってルカリオの口元が笑みに変わる。

 

かつて何百年という間も閉じ込められ、現代にてサトシたちとともに世界の始まりの樹へと向かい、そこで別れたはずの彼が、今こうして、再びサトシの前に現れたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

突然のことに驚く人々に、アイリーンはこれを演出の一つとして伝え、騒ぎを起こすことなく、帰した。城に残っているのはサトシたち修学旅行組にキッド、そしてサトシの知り合いということで誘われたアラン、マノン、コルニだけ。

 

「みなさん混乱していると思いますが、まずは、ルカリオ。久しぶりですね」

『はい、アイリーン様』

「あの後、あなたは一体どこへ?」

『ミュウと始まりの樹の力によって、私とアーロン様は、元いた時代に飛ばされました。肉体も、完全な復活を遂げていて……それ以降、私たちはリーン様の元で、この町を守り続けておりました』

 

 

「ねぇコルニ……ルカリオって、テレパシーが使えるの?」

「少なくともあたしのルカリオはできないけど……」

「杖の中から出て来るなんて、一体どうなってるんだ?」

「それにさっきから時代とかはじまりのきとか、何のことだろう?」

「今、ミュウって名前が出たよな……ミュウってまさか、あのミュウのことか?」

「ピチュ?」

 

 

「なら、どうしてまた杖の中に?」

『約束したからだ。アーロン様と』

「アーロンと?」

『そうだ。アーロン様は確かにまた共に生きた。しかし、ある時、見たこともない謎のポケモン……いや、ポケモンと呼んでいいかもわからない。謎の生物が、空を割り現れた。その強大な力を抑え、元来た場所に帰すために、アーロン様は持てる全ての力を使ってしまった。私も共にあろうと思った。けれども、』

 

 

 

『アーロン様、しっかり!』

『……ルカリオ、お前はこの杖の中で眠れ』

『何故です!?私は、あなたと共に!』

『恐らく、これが最後ではあるまい。きっとまたいつか、同じようなことが起こる。悪い予感がする。君の話してくれた少年が、いつか出会うことになるのかもしれない』

『サトシが!?』

『ルカリオ……彼は私と同じ波導を持っているのだろう?きっと波導使いとしては未熟な彼を、君が導いてあげてくれ。私が君に教えたように……頼めるか?』

『っ……この身に変えても!』

『頼んだぞ……ルカリオ』

 

 

 

『そして私は、またお前と出会うその時を、ずっと待ち続けていたのだ』

「そんな大昔から、ずっと……」

 

静かに頷くルカリオ。何百年もの間、杖の中で過ごすのは、どれ程窮屈で苦しいことだっただろうか。サトシたちには、とてもではないが想像できなかった。

 

「……また会えて嬉しいよ」

『私もだ。サトシ……私をお前と共に連れて行ってくれないか?』

「ルカリオ……」

 

まっすぐ自分に向けられる視線を、サトシは正面から受け止める。小さく頷くルカリオ。サトシの口元に笑みが浮かぶ。

 

「もちろん、歓迎するぜ」

 

ボールを手に、ルカリオに差し出すサトシ。ルカリオは拳を合わせるかのようにし、ボールのスイッチに触れる。赤い光に包まれ、ルカリオがボールの中に吸い込まれる。ポォン、と小さく音がなり、ボールのボタンのランプが消える。

 

「ルカリオ、ゲットだぜ。出てこい、ルカリオ!」

 

ボールを軽く投げると、中からルカリオが飛び出してくる。

 

「改めてよろしくな、ルカリオ」

『ああ。お前の友として、お前の側にいよう』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「取り敢えずサトシ、説明!」

 

用意された男子部屋に集まったサトシたち。ちゃっかりアランたち三人も加わり、興味深そうにサトシとルカリオを見ている。

 

「えーと、このルカリオなんだけど、波導の勇者アーロンの壁画があっただろ?そこに一緒に描かれているルカリオなんだ」

「ってことは、アーロンのポケモン?」

『その時代にはモンスターボールは存在していなかったが、そうだな。サトシとピカチュウの関係に近いものだった』

「じゃあ相棒って感じかな?」

「ですが、お二人とも、前に会ったことあるような話をしていましたよね?」

「会ったことあるからなぁ」

「詳しく聞かせて!」

「えっ?えーとな、」

 

サトシは語り始めた。ホウエンの旅の後に、バトルフロンティアに挑戦していたこと。その途中にロータに立ち寄ったこと。

 

二年前、サトシと当時の旅仲間は、この祭りに参加したのだった。波導の勇者を決めるためのバトル大会にも参加したサトシは、ピカチュウとともに、見事にその座を勝ち取ったのだった。

 

そして舞踏会が終わった後、サトシが杖を掲げると、ついさっきと同じように、中からルカリオが現れたのだ。波導の勇者、アーロンに仕えたポケモンのルカリオは、長い間、アーロンが城を捨てたと言っていたこと、突然封印されたことに戸惑い、人間を信用しようとしなかった。特にサトシに関しては、アーロンと同じ波導を持っていることからか、強めの態度になってしまった。

 

しかし、一つの事件が起こった。ピカチュウが世界の始まりの樹に住むと言われているミュウに連れ去られてしまったのだ。ピカチュウを探すために、サトシたちはキッドとルカリオの協力を得て、始まりの樹を目指した。その中で、サトシとルカリオは反発し、理解し、そして絆を深めた。

 

途中、始まりの樹を守護するレジロックたちに妨害されながらも、サトシはピカチュウと再会することができた。喜べたのもホンの一瞬。始まりの樹の防衛システムらしいものによって、人間、つまりサトシたちが排除されてしまった。悲しみにくれるポケモンたち。それを見たミュウが、始まりの樹に働きかけ、サトシたちを救ってくれた。

 

しかし、そのために大きく樹に無理をさせてしまったのか、始まりの樹が崩れ始めてしまう。力を使いすぎたのか、ミュウもグッタリしてしまう。そんなミュウに連れられ、サトシたちは世界の始まりの樹の心臓部にたどり着く。そこにはなんと、結晶化してしまったアーロンがいたのだ。

 

かつて大きな戦争が起ころうとした時、アーロンは持てる全ての波導を使い、始まりの樹の力を使って、その戦争を止め、ロータを守ったのだった。そして今、この樹とそこに住む全てのポケモンを助けるために、ミュウは波導の力を使って欲しいと頼んだのだ。

 

波導を使い切れば、アーロンと同じ運命を辿る。それを理解しながらも、ルカリオは迷わず自分の波導を渡そうとした。けれども、彼一人の波導では足りない。それを見たサトシもまた、ポケモンたちを救うために、自らの波導を渡す決意をする。

 

二人の波導がミュウに注ぎ込まれていく中、体に変化が起こり始めてしまう。ルカリオはサトシを突き飛ばし、最後は一人でミュウへ波導を届け切った。その力でミュウと始まりの樹は回復したものの、ルカリオの体が徐々に結晶化していく。

 

最後の最後で、ルカリオはアーロンの真実を、その想いを知った。サトシたちの見守る中、ルカリオは笑いながら消えていく。結晶状のアーロンも消えて、残ったのは彼の手袋だけだった。

 

 

『その後、私とアーロン様は気づいたら元の時代に戻っていたのだ。恐らく、ミュウのおかげで』

 

話を聞き終えたみんなの様子は様々だった。涙するもの、開いた口の塞がらないもの、笑顔でサトシたちを見るもの。それでもみんな、その話に引き込まれていた。

 

「時を超えた絆だね」

「わたくし、とても感動しました」

「ミュウって確かカントーで有名な幻のポケモンでしょ?よく会えたね」

『?ミュウなら「ピチュ!」いや、なんでもない』

「どうしたの?」

「ピチュ?」

 

 

みんなが口々に感想を言い合う中、コルニだけはじっとサトシの隣に立つルカリオを見ている。

 

『何か用か?』

 

視線に気づいたルカリオがコルニに顔を向ける。つられるようにサトシもコルニを向くと、コルニが何やらワクワクした顔をしている。

 

「ねぇサトシ。せっかくルカリオが仲間になったんだからさ、バトルして見ない?」

『バトルだと?』

「そう!あたしのルカリオとサトシのルカリオで」

 

「おおっ、面白そうだな!よぉし、じゃ早速」

「待ってサトシ!」

「?どうしたんだ、セレナ?」

「今何時かわかってるの?」

「へっ?」

 

みんなが時計を見ると、既に長針と短針がてっぺんを超えている。真夜中も真夜中だ。さすがにこの時間にバトルなんてすれば、流石にアイリーンに迷惑をかけることになるかもしれない。

 

「だから、バトルは明日までお預け。ね?」

「そうだな。コルニ、それでいいか?」

「おっけー。今から楽しみだね」

 

「アランはバトルしないの?」

「本音を言うと戦って見たいとは思うが、流石に二戦連続は厳しいだろうからな。今回は見物させてもらうさ」

「そっかぁ」

 

結局その後すぐ、明日のバトルに備えるということで、サトシたちは解散し、眠りにつくのだった。

 

ちゃっかり眠るサトシの腕の中に、白い体のポケモンが潜り込んでいたことには、ルカリオとゲッコウガ以外は気づいていなかった。

 




ルカリオ同士によるバトルが始まる。

波動と波導がぶつかり合う。

進化を超えたメガ進化、その力の前に、勇者のルカリオは……

そして一方オーキド研究所の方にも誰かが来たようで……

次回
『さらばロータ!懐かしき仲間たち!』

みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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さらばロータ!懐かしき仲間たち!

よしっ!ようやくカントー地方のアニメの話に繋げられそうだ!

ちょっと短いのは許してつかぁさい
これでも必死にない頭絞ってるんで
ちゅーか今日はちょっと頑張りすぎたかな?笑

あっ、ルカリオ強すぎかもしれませんが、あくまで同じルカリオ同士ならこんくらい強いって感じでお願いします笑


朝、全員で大きなダイニングで食事をとった後、サトシたちは波導の勇者を決める大会でも使われたバトルフィールドに来ていた。

 

「全力で行くよ、サトシ!」

「もちろんだ!」

 

コルニとサトシが気合いを入れる。観客席から二人を見守るセレナたち。勇者に仕えたというルカリオの実力が見られることに、マノンは特にワクワクしている。

 

「両者、ポケモンを!」

 

「行くよ、ルカリオ!」

「ルカリオ、君に決めた!」

 

「ブルァオ!」

『……』

 

大きく吠えるコルニのルカリオに対し、サトシのルカリオは静かに閉じていた目を開く。鋭い眼光は歴戦の勇者のそれを思わせ、コルニと相棒は思わず武者震いする。

 

「行くよ、ルカリオ!はどうだん!」

「ブルァオ!」

 

先手必勝とばかりに、コルニのルカリオが仕掛ける。波動のエネルギーを集めた一撃は、サトシのルカリオめがけて真っ直ぐ放たれる。ところがサトシのルカリオは一切避ける様子がない。

 

「受け止めろ!」

 

サトシの指示にルカリオがスッと片手を上げて、はどうだんに向けて突き出す。

 

『ブルォ!』

 

軽く息を吐き、腕に僅かに力を込める。たったそれだけのことだというのに、ルカリオの元にたどり着いたはどうだんが雲散霧消した。効果抜群のはずの攻撃が効かないどころか打ち消されたことに、コルニたちだけでなく、誰もが目を見張る。

 

「えっ、なんで!?」

『攻撃に込められている波導を散らした。波導を使う者同士の戦いでは、より波導を極めたものに軍配があがる。修行を続けることで、自分のだけではなく、あらゆる物の波導に干渉できるようになる』

 

冷静に説明するルカリオ。相手のその言葉に、コルニは改めて目の前の相手の圧倒的な力を感じ取った。祖父コンコンブルのパートナーのルカリオも、相当波動を使いこなしていたものの、こんな使い方をしたことはなかった。

 

「やっぱり強いね……ボーンラッシュ!」

「かわせ!」

 

長いホネをエネルギーで形成し、コルニのルカリオが飛びかかる。連続に振るわれる攻撃を、しかしサトシのルカリオは必要最低限の動きのみでかわす。大振りの一撃をかわしたその隙に、サトシのルカリオの手が、コルニのルカリオの腹部に添えられる。

 

「そこだ!」

『ブルァ!』

 

先ほどと同じように軽く力を込めるルカリオ。ほんの僅かにしか力を込めていないように見えるのに、コルニのルカリオが大きく弾き飛ばされ、壁に激突する。

 

「これって、ポケモンの技……じゃない!?」

『はどうだんの要領で、波導を指先に集中させた。波導を圧縮させることで、開放した時に爆発的な攻撃力になる』

 

息一つ乱さず、コルニのルカリオの攻撃をさばき、カウンターを決めるルカリオ。同じルカリオでも、ここまで圧倒的な差があるとは……

 

 

「こうなったら、やっぱり全開で行かないとね!」

「ブルァウ!」

 

コルニが手袋のキーストーンに触れる。あふれ出した光がルカリオの体を包み込み、変化させる。

 

「メガ進化!」

「ブルァオォ!」

 

『その姿はっ』

 

さらに雄々しく、どこか禍々しくもある姿に変わった同族の姿に、流石のサトシのルカリオも驚いている。

 

「ここからが本番だよ!グロウパンチ!」

 

拳を光らせ、メガルカリオが駆け出して行く。先ほどよりも素早く接近し、拳を振るう。先ほどよりも大きく威力も上昇した素早い攻撃をも、しかしルカリオは冷静に受け止める。

 

強力な波導のぶつかり合いで、周囲に波紋状に波導が伝わる。

 

『なるほど。波導の力も増しているようだ。だがあくまでそれは量の話。大きな力を持ったとしても、』

 

もう片方の手で繰り出されるメガルカリオの拳に対し、ルカリオは体を逸らすようにしてかわしてしまう。ただ拳を振るっただけではなく、波動による攻撃も織り交ぜていたのに、それさえもあっさりと。距離を取るルカリオが両の掌を合わせるように構える。

 

『制御出来なければ、意味がない』

「ルカリオ、ボーンラッシュ!」

 

すぐさま放たれるはどうだんを、メガルカリオは両手に持ったエネルギーで形成した骨で防ごうとする。しばしその場で踏ん張りながらも、防御が弾かれ、メガルカリオが大きく吹き飛ばされ、地面に背をつけて倒れる。

 

「ここまで違うなんて……」

 

コルニが思わず拳を強く握る。メガ進化ができるようになってから、自分と相棒はかなり鍛えきた。相棒は波動を極めんと、祖父のルカリオからも学んでいた。けれども、このルカリオの波動への理解は、彼らとは比べ物にならないほど深い。

 

「でも、最後まで諦めるつもりはないよ!あたしも、ルカリオも!」

「ブルァオ!」

 

衝撃による痛みを振り払うように、頭を振りながらもメガルカリオが立ち上がる。その姿に、ルカリオの口元に笑みが浮かぶ。

 

『そうか。断言できる。そのルカリオは間違いなく強くなる』

「ありがとう。でも、バトルはまだ終わってないよ!はどうだん!」

 

メガルカリオの放ったはどうだんが、ルカリオめがけて一直線に進む。ルカリオが左腕を上げ、再び受け止める態勢に入る。

 

「ルカリオ、払いのけろ!」

『!』

 

と、突然の指示に、ルカリオが上げていた腕を横薙ぎに払う。周囲の波導を巻き込むことにより、はどうだんがかき消される。が、その後ろから、拳を輝かせたメガルカリオがもう目の前にまで迫っていた。

 

はどうだんを目くらましがわりに使用した追撃。ルカリオがはどうだんに意識を向けたその隙を、コルニたちは逃さなかった。

 

「行っけぇ、ルカリオ!」

「ブルァウォオ!」

 

勢いよくふり抜かれた拳がルカリオを捉えたように見えた。が、

 

「カウンター!」

『ブルァ!』

 

気がつくと、メガルカリオの胴体に、ルカリオの拳が炸裂していた。先ほどの一撃を、ルカリオは防ぐことに成功していたのだ。その場で膝から崩れ落ちるメガルカリオ。地面に倒れると同時に、メガ進化が解ける。

 

「コルニのルカリオ、戦闘不能!サトシのルカリオの勝ち!」

 

コールでバトルの終了が告げられる。

 

圧倒的なまでの力を見せた波導の勇者の姿に、誰もが驚き、改めてその名を背負うルカリオとアーロンの大きさを実感するのだった。

 

 

「あ〜、負けちゃった。悔しいけど、全然歯が立たなかったよ」

『そんなことはない。最後の奇襲、私一人ならまともに攻撃を食らっていた。サトシの指示がなければ、やられていたのは私かもしれない』

「はどうだんはルカリオ自身の波導を込める技だからなぁ。波導の形までちゃんと意識しないと、見極めるのは難しいのか?」

『そうだな。単純に位置や数だけを見るのとは、違う。波導を読む相手に対して、なかなかの対処法だった』

「まぁ、これでも特訓してるから。次は絶対勝って見せるからね!」

『楽しみにしてる』

 

悔しがりながらも満足気なコルニ。彼女と相棒の成長をどこか期待しながら、ルカリオは笑みをこぼした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さてみんな、準備はいいか?」

 

集合したサトシたちに確認を取るククイ博士。そろそろロータともお別れの時が来た。

 

「気をつけてくださいね」

「ありがとうございました、アイリーン様。とても貴重な経験をさせていただき、私も学ぶことが多かったです」

「それは良かったです。是非皆様も、またいらしてくださいね」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

「ルカリオ。サトシを、あなたの主人を、しっかりと守り導いて上げてくださいね」

『もちろんです』

 

「サトシ、俺たちはこれからカロスに帰る。思っていたよりも大きな経験をしたしな」

「そっか。プラターヌ博士やシトロンによろしく伝えてくれないか?」

「任せろ」

 

「セレナ、またね!」

「うん。コルニとマノンも、元気でね」

「もっちろん!」

「今度はセレナともバトルしてみたいかな」

「そうね。今度会った時は、お願いしようかな」

 

挨拶を交わすサトシたち。ここでアラン、マノン、コルニとはお別れとなる。キッドさんも自分たちを送った後は、また何処かに冒険しに行くらしい。

 

「サトシ。これを」

「えっ、でもこれって……」

 

アイリーンがサトシに手渡したのは、アーロンの身につけた波導のグローブ。レプリカや衣装などではなく、正真正銘の本物だ。

 

「波導の導きが、あなたの上にありますよう、祈っています。きっとそれはあなたの役にたつでしょう」

「……ありがとうございます、アイリーン様。きっとまた来ますね!」

「ええ。待っています」

 

ヘリコプターに乗り込んで行くサトシたち。と、サトシの肩にスバメがとまる。こっちに来た時に最初に見たのと同じスバメだろうか。スバメがサトシに軽く頬ずりをして、頭を差し出す。

 

一瞬キョトンとしたサトシだったが、意味を察して優しくその頭を撫でる。満足そうな笑顔になったスバメが飛び立って行く。その行く先は遠くに見える世界の始まりの樹。あれ?っと、首をかしげるピカチュウに、訳知り顔のルカリオ。ただ、サトシたちの中に、そのことに気づいたものは、いなかった。

 

 

 

ヘリコプターが飛び立ち、城がどんどん小さくなって行く。最後まで見送ってくれているアイリーンたち。手を振りながらサトシは新しい仲間の入ったボールをそっと撫でる。

 

「行こうぜ、新しい冒険へ」

 

 

 

さて、サトシたちがロータを出る数時間前。カントー地方のとある町。二人の男女がオーキド研究所に来ていた。

 

「どうやらサトシたちは直接そちらに向かうようじゃ。準備の方、よろしく頼むぞ」

「わかりました」

「しっかりと準備して待ってますね」

 

 

「いよいよね」

「ああ。俺も久しぶりだからな。楽しみだ」

「にしても、あのサトシが学校ねぇ。ちょっと想像つかないかな」

「まっ、あいつがどれだけ成長しているのか、しっかりと見てやらないとな」

「そうね。なんてったって、最初のサトシを知ってるんだもの」

 

オレンジの髪に片側で結ばれた髪の少女が、なんだか呆れたような、それでいて嬉しそうな表情を浮かべる。側に立つ糸目で濃い肌の色の男性が優し気に笑い頷く。

 

ポケモンスクール修学旅行もいよいよ大詰め。最後に待っているのは、果たしてどんなイベントなのか。

 

 

…………… To be continued




ヘリコプターで連れていかれた先。

そこはオーキド研究所でも、マサラタウンでもなくて……

へ、ジム戦の体験?ってことは誰かとバトルするのか?

あれ、あの二人ってもしかして!?

次回
『最初の仲間!激突本気のジムバトル!』
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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最初の仲間!激突本気のジムバトル!

今回でカントー編終了です

本当はもっと色々やろうかとも思ったんですが、

死ぬ!

と思ったので断念しました。

取り敢えずどうぞ!


ロータからの帰り道、ヘリの窓から下を見下ろしていたサトシは、ふと気になることが。

 

「あの、これってオーキド研究所の方向じゃないですよね?」

「えっ、そうなの?」

「流石にサトシは鋭いな。今俺たちが向かっているのは、オーキド研究所ではなく、ポケモンジムと呼ばれる施設だ」

「「「「「ポケモンジム?」」」」」

「サトシとセレナはもちろん知ってるよな」

「はい」

「勿論です!」

「なら、軽く説明を頼めるか?それから、サプライズも兼ねて、サトシは窓の外見るの禁止な」

「えっ、あ、はい。わかりました」

 

サトシによるポケモンリーグ、そしてジムについての解説が始まる。

 

まずジムとは各地方のポケモンリーグ公認の施設である。ポケモンリーグに挑むためには、必ずジムでジムバトルをする必要がある。リーグ参加条件、リーグ公認バッジを8つ集めるために、トレーナーたちはそのジムの代表、ジムトレーナーとバトルするのだ。

 

ジムリーダーの役割は、どことなく島キングら島クイーンのそれに近い。リーグに挑戦したいと思うトレーナーの実力を確かめ、認めた相手にバッジを渡す。あくまでチャレンジャーにとっての壁となるため、バッジの数に応じて強さを調整したり、勝てなくても認めるに足る相手ならバッジを進呈することもある。また、基本的には得意とするタイプのポケモンで手持ちを固めており、チャレンジャーにとっても有利にバトルを進めやすくなっている。

 

各地方に存在するいくつものジムのうち8つを巡り、バッジを集め切ったものだけが、ポケモンリーグ、そしてその先に挑戦するスタートラインに立つことができるのだ。

 

 

「ジムリーダーか。前に将来の職業の時に軽く聞いただけだったが、その人たちも相当な実力者ということだよな」

「ジムリーダーってどんな人がいるの?やっぱり、島キングのハラさんみたいな年上の人ばかり?」

「いや、そうでもないさ。俺と同じくらいの歳のジムリーダーもいたぜ。そいつとのバトルも、スッゲェ楽しかったな。ただジムリーダーとチャレンジャーではなく、ライバルの一人としてぶつかりあってさ」

 

キラリと眼鏡を輝かせる発明家の少年を思い出す。カロス地方での最初のバトルも、最後のバトルも、彼とだった。きっと今もポケモンと人間とが幸せになる発明を行いながら、チャレンジャーにとっての大きな壁として頑張っているのだろう。また会える時が楽しみだ。

 

「でも、これからジムに向かってるってことは、もしかして……」

「マーマネの予想通りだ。これからみんなにはジム戦の体験をしてもらう」

 

 

ヘリが移動を続ける。見えてきたのは大きな建物。

 

そこは水色、神秘の色。

 

彼らの着いた町の名は……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ここって……ハナダシティ!?」

 

ヘリから降り、辺りを見渡したサトシの驚きの声に、思わず通行人がチラリと彼らに目を向ける。

 

「サトシ、知ってるの?」

「ああ。俺の知り合いがここのジムリーダーで……ってククイ博士、もしかして」

 

「そのもしかしてよ」

 

急に聞こえた声に、サトシたちがジムの入り口に目を向ける。そこに立っているのは一人の少女。明るいオレンジ色の髪を片側で結っていて、活発な印象のある服装。その視線はしっかりとサトシを捉えている。

 

「サトシ、元気にしてた?」

 

片手を上げて挨拶する少女。サトシの知り合いなのだろうかと、みんなの視線がサトシに集まる。当の本人にはというと、満面の笑みで少女の元へと駆け寄っている。

 

「カスミ!」

「ピカチュウ!」

 

サトシよりも先にカスミの腕の中に飛び込んでいくピカチュウ。人懐っこくはあるものの、ここまでサトシ以外の人にピカチュウが懐いているところを見たことがないセレナたちは、驚きを隠せない。

 

「サトシ、背伸びたわね。今じゃあたしより高いんじゃないの?」

「そうか?へへっ」

 

カスミがサトシの背の高さに自分の手を置き、自分と比較する。昔は高かったはずの自分の背は、いつの間にか追いつかれ、追い越されてしまっていたらしい。

 

二人のやり取りは側から見ると、まるで姉弟のようにも見えてくる。

 

「随分親しそうにしてるな」

「そりゃあ、俺も含めて、二人は長い付き合いだからな」

 

いつの間にか隣に立っていた男に、カキがびっくりする。少し濃い肌の色に、細められている目。背の高い男性、だというのに、何故かどことなくサトシとカスミの様子を見る雰囲気が、そう、お母さんのそれに近いような。

 

「二人とも。そろそろちゃんと紹介した方がいいんじゃないか?」

「タケシ!」

「そうね」

 

サトシとピカチュウを抱っこしているカスミがタケシの隣に並び立つ。身長差や服装こそ変わっているが、まるでかつての旅の頃が蘇ったかのようだ。

 

「紹介するよ。タケシとカスミ。俺の一番最初の旅仲間なんだ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「「「「「「おお〜」」」」」」

 

ハナダジムの中、バトルフィールドまで案内されたサトシたちは、その大きさに思わず声が出る。成長していても変わらないその子供っぽいところに、カスミとタケシが少しだけ懐かしい気持ちになる。

 

「それじゃあ、改めて二人に自己紹介してもらおうか」

「初めまして!世界の美少女、名はカスミ!ここハナダジムのジムリーダーよ」

「俺はポケモンブリーダーにして、新米ポケモンドクター。そして元ニビジムのジムリーダー、タケシだ。よろしく」

 

サトシの最も古く、最も長い付き合いの旅仲間。それだけでもなかなかのインパクトだというのに、どちらもジムリーダーを務めるほどの実力者だという。自分たちよりそんなに年上というわけでもないのに、それほどまで。彼らを見る目には、尊敬の感情が見て取れる。

 

「こっちが今回の修学旅行で一緒に行動してる、俺のクラスメートだ」

「初めまして!あたし、マオです」

「スイレンです」

「リーリエと申します」

「僕、マーマネです」

「カキです。よろしくお願いします」

「初めまして、セレナです。私はアローラ地方じゃなくて、サトシとはカロス地方を一緒に旅してました」

「ん?セレナ?」

「へぇ〜」

 

セレナの名前を聞いた途端、タケシが驚いたような表情を浮かべ、カスミはサトシの方を見てニヤニヤしている。

 

「な、なんだよ?」

「べっつに〜?この子が噂のセレナなのね〜、って思っただけ」

「噂の?」

 

サトシとセレナが首をかしげるも、タケシもカスミも教えてくれる気はなさそうだ。

 

(あのサトシがね〜。これも成長したってことなのかしら。話を聞く限りだと、サトシにはもったいなくらいないい子みたいだし……)

(まだ付き合っているわけじゃなさそうだな。でも、サトシが女の子を意識するようになるなんてなぁ。それに、)

 

明らかに噂を気にしているのがもう三人ほどいるのに二人は気づく。こちらの方には、まだ彼は気づいていなさそうだ。

 

(これはまた、サトシも大変だな)

(ほんとね〜)

 

その後、サトシとの旅について、タケシたちに少し話してもらった。自転車の破壊から始まったサトシとカスミの旅。初めてのジム戦でタケシに出会った話。そしてそれからの旅の話。旅のエピソードとして、今のサトシからは想像できないような行動もあれば、変わらない優しいところもあった。自分たちの知らないサトシの話を聞けて、セレナたちにとっても新鮮だった。

 

ただ一人、サトシはというと、離れた場所に立っていた。時折頭を抱えるようにしながら髪を掻きむしったりしていた所から、相当恥ずかしい思い出もあったのだろう。数年前のことで、まだ幼かったとはいえ、やはり年上に対してまであの態度はまずいことを、今になって思い返してみると更に実感するようだ。

 

 

ポケモンたちの紹介の時に、サトシのルガルガンをタケシが気に入ったり、カスミがアシマリとゲッコウガを見て大はしゃぎをしたり、タケシがルカリオとの再会を喜んだり、卵から孵った二匹のロコンにタケシもカスミも何か懐かしい気持ちになったりとあったが……

 

メタい話、作者が死ぬので割愛しよう……

 

いや、マジで

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さて、そろそろ本題と行こうか。今日はこの二人が、ジム戦の体験をさせてくれることになっている。アローラではまだできない貴重な経験だ。みんな、ブラストバーン並みに熱くなってくれ」

 

「じゃあ、あたしとタケシ、どっちとバトルしてみたいか選んでね。私はみずタイプのポケモンを専門にしてるわ」

「俺は基本はいわタイプだ」

「みんな、しっかりと考えて決めるんだぞ」

 

タイプ相性や雰囲気など、様々なことを考慮した上で、サトシたちのバトル相手と形式が決まった。

 

まずはマオ、スイレン vs カスミ。2対1という特殊な形式となっている。まだバトル慣れしていない二人に、ジムバトルの雰囲気を感じ取ってほしいと思ってのルールだ。その次のバトルはマーマネ、リーリエ vs タケシ。こちらも同様の理由で特別ルールを取っている。

 

そしてお楽しみの後半3つのバトル。セレナとカスミ、カキとタケシ、そして最後のサトシとカスミのバトル。普段からバトルを経験し、実力も高いサトシとカキ、一人で旅をする中でバトルも経験しているセレナ。この三人がどうやってジムリーダー組と戦うのかは、みんなが楽しみにしている。

 

最初の三人がフィールドに残り、残りはみんな観客席へと向かう。

 

「それでは、授業を始めよう。ジム戦、スタートだ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

いざジム戦(体験)に挑んでみると、流石はジムリーダーである。個性豊かなポケモンの長所をうまく活かし、突拍子も無い技の使い方を見せる。まるでサトシのような戦い方は、何度も見ているはずなのに、予想がつかない。

 

結果としてカスミとマオ・スイレン、タケシとマーマネ・リーリエのバトルはジムリーダー組に軍配が上がった。

 

「さて、次はセレナね。バトルの経験はあるのよね?」

「はい。サトシと一緒に旅してた時に何度か。それから、ホウエンでも」

「オッケー。なら、少し本気で相手してあげる」

「はい。お願いします」

 

「なぁサトシ。お前はこのバトル、どうなると思う?」

「ん?そうだなぁ……カスミはかなり強いけど、セレナだって、パフォーマンスだけじゃなく、バトルでもポケモンと息ぴったりだからなぁ」

 

 

「それじゃあ行くわよ、マイステディ!」

「ニンフィア、お願い!」

 

セレナが出したのはフェアリータイプのニンフィア。対するカスミはピンクの体に多くの角。アローラでもよく見ることができる、サニーゴだ。

 

「わぁっ、どっちもピンク色で可愛い!」

「うん!」

「カスミもですけど、セレナがどんなバトルをするのか、すごく楽しみです」

 

「それでは、バトル開始!」

 

 

「ニンフィア、スピードスター!」

「フィーア!」

「サニーゴ、バブルこうせん!」

「サーニッ!」

 

飛び上がり、長いリボンを華麗に振るい、ニンフィアが攻撃を仕掛けるも、カスミのサニーゴもすぐさま対応する。2つの技がぶつかり合い、相殺する。

 

「とげキャノン!」

「サニニッ!」

 

すかさず次の指示を出すカスミ。サニーゴのとげキャノンがニンフィア目掛けて降り注ぐ。

 

「ニンフィア、ステップでかわして!」

「フィア!」

 

セレナの指示に、ニンフィアがフィールドをかける。リズミカルなその動きをサニーゴは捉えられず、とげキャノンは全てかわされる。

 

「ニンフィア、すごい!」

「まるで踊っているようで、とても楽しそうです」

「あれはパフォーマンスの技術をバトルに取り入れてるんだ。セレナのニンフィアは、イーブイの頃から踊るのがうまくてさ、すっげえいい動きするんだよなぁ」

 

「あら〜、やるわね!」

「ニンフィア、ようせいのかぜ!」

「フィーア!」

 

攻撃がやんだ瞬間に、ニンフィアが得意技のようせいのかぜでサニーゴを狙う。ニンフィアほど素早く動くことができないサニーゴ。攻撃が決まる、セレナがそう思った瞬間、

 

「ミラーコート!」

「サッニ!」

 

サニーゴの体が淡い光に包まれる。サニーゴに直撃したはずのようせいのかぜが反射し、逆にニンフィアに襲いかかる。

 

「フィ!?」

「ニンフィア!」

 

全く予想もしていなかった攻撃に、ニンフィアが弾き飛ばされる。ニンフィアの体が地面で跳ね、セレナの側まで後退させられる。立ち上がるニンフィア。ダメージはあったものの、まだまだ行けるという風にセレナに鳴く。

 

「ふふん。どう?あたしのサニーゴ、中々やるでしょ。ニンフィアほど素早くなくても、身を守ることだって、ちゃーんとできるんだから」

 

(流石はジムリーダー……強いわね。ニンフィアも守るで攻撃を防ぐことはできるけど、それだと連続攻撃には対応できない……攻撃と防御を同時に出来れば……サトシなら、サトシなら……)

 

「ニンフィア、スピードスター!」

 

「えっ、でもこのままじゃさっきみたいに」

「大丈夫さ。セレナのことだから、きっと作戦があるんだと思う」

 

真正面からスピードスターを打ち出すニンフィア。今度はサニーゴもわざわざ撃ち落そうとしていない。

 

「何を企んでるのか知らないけど、そんなんじゃダメージは入らないわよ!ミラーコート!」

 

再び体が淡く光り、サニーゴがミラーコートを発動させる。サニーゴに命中したスピードスターが反射され、ニンフィアに向かう。

 

「更にバブルこうせん!」

「サーニッ!」

 

防御の直後に反撃。素早い対応は流石ジムリーダー。スピードスターに加えてバブルこうせんまでもが、ニンフィア目掛けて飛んで行く。避けようにもあまりにも攻撃の数が多い。

 

「ニンフィア、お返しよ。ようせいのかぜ!」

「フィーアー!」

 

先ほどよりも力を込められたようせいのかぜが、ニンフィアに迫る2つの技と激突する。勢いのついている風に押され、また方向転換し、今度は3つの技がサニーゴに向けられていた。

 

「嘘っ!」

「サトシ風にいうなら、ミラーミラーコートって感じね」

 

ウインクしながらセレナが戦法に名前をつける。3つの技が合わさった威力は絶大で、サニーゴに直撃し、大きな爆発を起こす。煙が晴れると、目を回したサニーゴがそこに倒れていた。

 

「サニーゴ戦闘不能。ニンフィアの勝ち。よって勝者、チャレンジャーセレナ」

 

審判を務めていたタケシのコールが響く。レベルを合わせてくれていたとはいえ、かなりの実力者であるジムリーダー相手に勝利したセレナ。サトシの一番最近の旅仲間の実力に、スクール組は驚かされ、また、憧れた。

 

「やるわね、セレナ」

「ありがとうございます」

「バトルの実力も中々、と。本当、こりゃサトシには勿体無いわね」

「?」

「あ、ううん。こっちの話。それじゃあ、セレナは観客席に戻っててね」

「あ、はい」

 

セレナと入れ違いにフィールドに降りてくるカキ。対峙するようにジムリーダーのスタンドに立っているタケシ。先ほどと同じ、使用ポケモン一体の一騎打ち。元祖サトシの旅仲間と、現在の旅仲間が、今激突する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「バトルには自信がありますよ。全力でいかせてもらいます!」

「そりゃ楽しみだね。でもジムリーダーが見るのは実力だけじゃなく、ポケモンとの絆もだ。君はどれほどのものかな?」

「それなら尚更、負ける気がしません!行くぞ、バクガメス!」

「行けっ、ハガネール!」

 

両者がモンスターボールを投げる。カキは自身の相棒であるバクガメスを繰り出す。タケシが繰り出したのは、彼らを見下ろす巨体、蛇に似た体つき、そして鋼の体。世界のあらゆる金属よりも固いと言われているポケモン、ハガネールだった。

 

「えーと、ハガネールははがねタイプだから、バクガメスが有利だ!」

「いや、ハガネールはじめんタイプでもあるんだ」

「じめんタイプはほのおタイプに強い、ということは条件は互角ですね」

 

「それじゃあ、バトル開始!」

 

審判のカスミが合図を出す。すぐさまカキが動き出した。

 

「バクガメス、かえんほうしゃ!」

「バスーン!」

 

「ハガネール、ジャイロボール!」

「ガネール!」

 

迫り狂う炎に対し、ハガネールは体を高速回転させる。効果抜群のはずの攻撃が直撃したにもかかわらず、ハガネールはピンピンしている。

 

「今のはっ、さっきと同じ」

 

マーマネとリーリエとのバトルの時、シロンのこなゆきに対し、タケシのイシツブテはジャイロボールで高速回転することで、それを防いでみせた。攻撃手段も使いようによっては防御となり得ると、見事に示したのだった。

 

「ハガネール、しめつける!」

 

長い体をバクガメスに巻きつけるハガネール。強力な締め上げに、バクガメスが呻き声をあげる。

 

「すごいパワーだね」

「俺とのバトルでも、あの技には苦しめられたからなぁ」

 

体を締め上げられ続けるバクガメス。強力な攻撃でなければ、逃れる事さえも難しい。しかし、この状況、バクガメスにとってはさして問題ではない。

 

「トラップシェル!」

「ガメース!」

 

背中の棘が発光し、ハガネールの体を強烈な爆発が襲う。締め付けることで優位にいたハガネール。しかしそれは同時にバクガメスにとっては絶好のカウンターチャンスでもあった。見事にハガネールの拘束から逃れるバクガメス。一方、効果抜群の大技を受けたハガネールだが、ふらつきこそしたものの、倒れる様子がない。

 

「ドラゴンテール!」

「あなをほる!」

 

回転しながらドラゴンテールを放つバクガメスに対し、ハガネールを地面に身をひそめる。

 

「下から来るぞ!」

 

バクガメスがあたりを警戒する。

 

(何処から出る?真下か?いや、不意をついて別の場所か?いずれにせよ、出てきたところを狙うには……)

 

「バクガメス、からをやぶる!」

「バスーン!」

 

バクガメスの体が強く輝く。防御力を犠牲に、攻撃力と素早さをあげる技、からをやぶるを発動させる。

 

ピシリとバクガメスの下の地面にヒビが入る。

 

「かわせ!」

「ガメッ!」

 

タイミングよく出されたカキの指示にすぐさま反応するバクガメス。間一髪、バクガメスのいた地面を突き破り、ハガネールが飛び出して来る。

 

「ドラゴンテール!」

 

すぐさま繰り出されたドラゴンテールが、今度は正確にハガネールの顔面を捉える。大きく仰け反りながら、ハガネールの巨体が地面に倒れる。

 

「やるなぁ」

「咄嗟の判断力は、どこかのトレーナーに学んだんですよ」

「なるほどなるほど。俺も何処ぞのトレーナーには、色々と教えられることもあったからなぁ」

 

ニヤリと笑みをこぼし合う二人。直接言わずともわかる。今の自分たちのバトルスタイル、その原点にいるのが誰なのかは。

 

「でも、流石はジムリーダーですね」

「そういう君も中々。ここまで本気で誰かとバトルするのは久しぶりだ」

「なら、見てください!俺たちの全力を!」

 

キラリとカキの左腕のZリングが煌めく。拳を握り、カキがそのクリスタルをタケシに見せる。

 

「なるほど。だったら俺も、その全力に答えなくちゃな!」

 

タケシがバサリと上着とシャツを脱ぎ捨てる。カキに勝るとも劣らない鍛え上げられた肉体。その首からぶら下がるのは一つの鉱石。

 

「あれって、キーストーン!?」

「タケシのやつ、いつの間に?」

 

「強くて硬い(固い)(意思)の力!」

「ハガネール、メガ進化!」

 

タケシのキーストーンと、ハガネールの持っているメガストーンを光の帯が繋ぐ。眩い光に包み込まれ、ハガネールの体が変化していく。

 

更に硬く、更に大きく、更に雄々しく。

 

メガ進化を遂げたハガネールがバクガメスを見下ろす。

 

「さぁ、これで決着をつけようか」

「望むところです!行くぞ、バクガメス!」

 

腕を交差するカキ。Z技のエネルギーがバクガメスへと注ぎ込まれる。

 

「俺の全身!全霊!全力!全てのZよ!」

「アーカラの山の如く、熱き炎となって燃えよ!」

「ダイナミック、フルフレイム!」

 

「迎え撃て!ストーンエッジ!」

 

バクガメスの最大の技、ダイナミックフルフレイムと、メガ進化し、パワーアップしたいわタイプの大技、ストーンエッジが同時に放たれる。二つの技がフィールドの中央で激突する。

 

全力で放たれたZ技が、次々と岩柱を砕きながら進む。巨大な炎の塊が、ハガネールを包み込んだ。

 

「カキのZ技が決まった!」

「効果は抜群、今のは流石のハガネールにも大きなダメージのはずです」

 

煙が晴れると、そこにはハガネールが倒れて、

 

 

 

 

 

いなかった。フィールドに、いなかった。

 

 

「っ!バクガメス、地面に背を向けろ!トラップシェル!」

 

咄嗟に叫ぶカキ。バクガメスが訳も分からないままに背を地面に向ける。直後、ハガネールが地面から飛び出し、その甲羅に激突した。

 

大きな爆発が起こり、再び煙でトレーナーたちの視界が覆われる。何かが地面に激突する音だけが響く。

 

目を凝らす両者。ようやく全貌が見えて来ると、バクガメスとハガネールの両方共が、そこには倒れていた。

 

「ハガネール、バクガメス、ともに戦闘不能!よって勝者はなし、引き分けとする!」

 

 

 

「中々楽しいバトルだったぞ。Z技、恐るべしだな。ハガネールもかなりギリギリだったからなぁ」

「俺も楽しかったです。まさか耐えられるとは思いませんでした。今度はしっかり勝たせてもらいます!」

「またバトルするのが楽しみだな」

 

ガッチリと握手を交わすタケシとカキ。新たなライバルとの出会いに、二人の心が踊る。もっと強く、どちらもがそうなりたいと思った。この相手に勝ちたいと。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いよいよだね、サトシとカスミのバトル」

「二人のバトル、楽しみ!」

「カスミはどんなポケモンを使うのでしょうか」

 

「準備はいい、サトシ?」

「もちろんだぜ!」

「それじゃあ、っと」

 

カスミが手に持っていたスイッチを押す。すると、先ほどまでカキたちがバトルしていたフィールドが沈みこんでいく。岩のフィールドが完全に沈み込むと、その壁から水が噴き出して来る。あっという間に水のフィールドの出来上がりである。岩のフィールド時にあったリング状の岩を除き、完全にフィールドが水に覆われている。

 

「おおっ、プールに変わった!科学の力ってすっげー!」

 

「あいつ、自分が不利になったのわかってるのか?」

「まぁ、わかっててもあんな反応しそうだけどね」

「そうそう。そういう奴の方がバトルは燃える!みたいな感じで」

「足場も少ないし、どうするんだろ?」

 

「それで?サトシはどの子で来るつもり?」

「えっ?そうだなぁ……ピカチュウ、どうする?」

「ピカ!ピカチュウ!」

「やる気満々だな、よーし!行くぜ、ピカチュウ!」

「ピッカァ!」

 

フィールドに飛び出すピカチュウ。以前はカスミが好きでバトルしたがらなかったピカチュウだったが、今はバトルを通じて更に相手と分かりあいたい、そう思ったため、自らカスミとのバトルに参加することに決めていた。

 

「ピカチュウが相手ね。これは私も負けてられない!行くわよ、マイステディ!」

 

カスミの投げたボールから出てきたのは、大きな体、額には冠のような模様、そして鋭い牙。水色の体を持つそのポケモンは、ピカチュウに対し大きく吠える。

 

「ギャラドスか!」

 

「みず・ひこうタイプのギャラドスはピカチュウに対して不利な筈だが、」

「ええ。ジムリーダーなら、きっと苦手なタイプの対策もしていると思います」

「でも、地の利はギャラドスにある」

「どんなバトルになるんだろう」

 

「それでは、バトル開始!」

 

 

「ピカチュウ、10まんボルト!」

「ギャラドス、ハイドロポンプ!」

 

ピカチュウの放った強力な電撃を、しかしギャラドスは吐き出した激しい水流で弾き飛ばす。水は電気を通すやすい、しかしポケモンたちの中には純度の高い水を使用するものもいる。それはむしろ絶縁体のように、電気に対する守りとしても使うことができる。

 

「ふふん。あたしのポケモンに、でんきタイプの技はそう簡単に当たらないわよ」

「流石カスミだな。よぉし、まだまだ上げて行くぜ!」

 

「もう一度、ハイドロポンプ!」

「でんこうせっか!」

 

勢いよく放たれる水流をピカチュウは高速で移動しかわす。足場にしていた岩場が崩れるが、素早くギャラドスに接近したピカチュウは、ギャラドスの顔面に強烈な体当たりをお見舞いする。大きくのけぞるギャラドス。

 

「あまごい!」

 

突如フィールド上空に雨雲が形成される。室内だというのに突然降り出した雨に、カキたちは戸惑う。

 

「これって、ギャラドスがしたの?」

「こんなに大きな雲まで作れるなんて」

「雨、なんか気持ちいいかも」

「流石海のスイレンだな……」

 

「畳み掛けるぞ、ピカチュウ。エレキボール!」

 

ジャンプして尻尾から電撃の球を撃ち出すピカチュウ。雨の時のでんき技は必中。その特性を利用しようとしたサトシだが、

 

「ぼうふう!」

 

ギャラドスによって激しい風が巻き起こる。雨の時に必中になるのは必ずしもでんきタイプの技だけではない。激しい風がエレキボールを打ち消し、更には宙にいるピカチュウを叩き落とす。なんとか足場に着地するピカチュウ。しかし、得意のでんきタイプの技がギャラドスに届かない。

 

「厄介なコンボだな。カスミも、前よりずっと強くなってる」

「当然でしょ。あんたが旅して強くなってるように、あたしだっていくつものバトルをくぐり抜けてきたんだから。それに、ジャーン!」

 

カスミが自分の髪を結んでいたゴムを取り替え、サトシに見せる。キラリと光る石は、タケシのつけていたものと同じ。

 

「って、まさかカスミも!?」

 

「強く、雄々しく、美しく!」

「あたしの青いスイートハート!」

「ギャラドス、メガ進化!」

 

カスミのキーストーンに呼応するように、ギャラドスのメガストーンも激しく光り出す。ハガネールの時のように、ギャラドスの体も一回り以上大きくなり、その顔は更に凶悪な印象が増す。かつてカロスでサトシの苦戦したのと色こそ違えど、同じメガギャラドスが姿を現した。

 

「さぁ、ここからが本番よ。ハイドロポンプ!」

「かわせ!」

 

先ほどよりも強力になったハイドロポンプがピカチュウを襲う。なんとかかわしたものの、足場が崩され、プールの中に落ちてしまう。

 

「逃さないわよ、かみくだく!」

 

ギャラドスがピカチュウを追うようにプールに潜る。

 

「これなら!ピカチュウ、10まんボルト!」

 

水の中にいる相棒に届くように、サトシが叫ぶ。直後、水面を突き破り、激しい電流が天井目掛けて登っていく。雨雲にそれが当たると、ただの雨雲から、雷雲へと変わる。雲から激しい雨が降り、雲の間を電撃が走る。

 

苦しげにもがきながら、ギャラドスがプールから顔を出す。反対側にはピカチュウが足場へと登ってきている。

 

「やるわね」

「プールの水なら、電気を通すと思ったからな」

 

カスミに有利かと思われたこの水のフィールド、どうやらサトシたちにとっても悪くない条件のようだ。

 

「次はそう簡単にはいかないわよ。もう一度噛み砕く!」

 

ギャラドスが凄いスピードでピカチュウ目掛けて飛びかかる。あの巨体、あの凶悪な顔で迫られれば、並みのポケモンなら恐怖してもおかしくはない、しかしそこはサトシとピカチュウ。

 

「かわせ!」

 

すぐさま飛びのき、ギャラドスの強力な噛み付きをかわす。岩の足場が更に砕け、宙に舞う。

 

「あれだ!ピカチュウ、岩を使って接近しろ!アイアンテール!」

 

宙を舞う岩の破片を使い、ピカチュウが空中からギャラドスへと接近する。カロスリーグでも見せたその戦法に、思わずカキたちも「おおっ」と立ち上がりかける。

 

落下の勢いを加えたアイアンテールが、ギャラドスに炸裂する。圧倒的体格差のある相手にもかかわらず、その一撃はギャラドスを後退させる。

 

「やってくれるわね」

「へへっ」

 

楽しそうに笑い合うサトシとカスミ。こうして本気でバトルできるのはいつ以来だっただろうか。間にあった時間のことを思いながら、二人のバトルは更に燃え上がる。

 

「ピカチュウ、エレキボール!」

「ギャラドス、ぼうふう!」

 

自身に迫り来るエレキボールをギャラドスは潜ることで避ける。何をするのかと身構えるサトシとピカチュウ。と、ピカチュウの足場にしている岩の周囲を、激しい水の竜巻が包み込み、その中心にピカチュウを閉じ込める。

 

「これはっ」

「どぉ?あまごいとぼうふうのコンボ。うちに来たチャレンジャーで、このコンボを破った者は、一人もいないんだから」

 

ピカチュウの10まんボルトさえも寄せ付けないその竜巻は、確かに強烈だ。Z技のスーパーアクアトルネードにも勝るとも劣らない威力があるかもしれない。しかし、カスミの言葉を聞いたサトシは恐れるどころか、更に楽しそうな笑みが深まる。

 

「そりゃいいこと聞いたぜ。誰も破ったことないなら、俺たちがぶち破ってみせる!」

「なら、見せてもらおうじゃない。どうするのかしら?」

「ピカチュウ!この竜巻を登れ!」

 

「「「「「「「「え?」」」」」」」」

 

思わず目が点になるサトシ以外。一体この少年は何を言いだしているのだろうか。竜巻を登る?

 

「10まんボルト!その電気を足場に登れ!」

 

更に目が点になる。みんなほぼメタモン顔だ。あろうことかこの少年はなんて言いましたか?電気を足場に?

 

しかし周りの誰もが戸惑おうが、笑おうが、バカにしようが関係なし。彼がやれると言うのなら、やれるのだ。その即断即決力こそサトシのポケモンの強み。

 

ましてや、一番最初の相棒ともなれば、そんなこと聞くまでもないのだ。

 

暴流の内側を激しい電撃が走る。中から聞こえるのは絶え間なく動くピカチュウの声。それもただ動いているのではなく、徐々に、しかし確実に上昇している。そしてついに、暴風の作り出した水流の上に、ピカチュウが飛び出して来たのだった。

 

「嘘っ!?」

「流石サトシだな」

 

「回転しながらアイアンテール!」

「チュー、ピッカァ!」

 

落下の勢いを乗せたアイアンテール。更にそこに回転による勢いを加える。軽い体のピカチュウが、極限まで高めた重い一撃は、真下の暴流を一刀両断、雲散させてしまう。

 

「これで、本当にぶち破ったぜ!」

「ほんと、相変わらず驚かせてくれるわね!」

「これで決めるぞ、ピカチュウ!」

 

両腕を交差するサトシ。ついに発動するサトシのZ技に、カスミとギャラドスが身構える。

 

「これが俺たちの、全力だ!」

「スパーキングギガボルト!」

 

「ギャラドス、ハイドロポンプ!」

 

ピカチュウの放った電撃の槍を、ギャラドスは渾身のハイドロポンプで押し戻そうとする。一瞬、押し戻せたかのように見えたものの、すぐさまハイドロポンプを突き破るようにギャラドスへと迫る。避ける間も無く、防ぐ間も無く、ギャラドスにZ技が直撃し、激しい電撃の柱が、プールから天井へと登る。

 

眩しい閃光が消えると、元の姿に戻ったギャラドスが、目を回しながら倒れていた。

 

「ギャラドス戦闘不能、ピカチュウの勝ち!よって勝者は、サトシ!」

 

「よっしゃあ!よくやったな、ピカチュウ!」

「ピッピカチュウ!」

 

「ギャラドス、お疲れ様。最高のバトルだったわよ……それにしても、こりゃもう、お情けバッジとは言えないわね」

「サトシとピカチュウ、更に絆が強まってるみたいだな。これはそろそろ、ポケモンマスターの夢も現実味を帯びて来たな」

 

勝利を喜ぶサトシとピカチュウを見守る二人。一番最初の彼を知っているからこそ、今の彼を見ていると、どれほどの時が経ったのかを実感する。危なっかしいところや子供っぽいところはまだまだ残っているけれども、彼がだんだん大人になっているのは、よくわかる。

 

惜しみないポケモンへの愛情と、トレーナーとしての冷静さ。彼の将来はどんなものになっているのだろうか、それをずっと見ていたくなる。

 

顔を見合わせて笑うタケシとカスミ。サトシの兄のような存在として、姉のような存在として、(サトシ)の成長に思いをはせる二人だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

みんなでオーキド博士の研究所に戻り、盛大にパーティ(料理は全てハナコの手作り)をした翌朝、いよいよカントー修学旅行も終わりが近づいていた。

 

ハナコやポケモンたちに別れを告げ、サトシたちは飛行機に乗るべく、空港に来ていた。別の便ではあるものの、時間が近いということで、セレナも来ている。サトシたちを見送りにタケシとカスミ、オーキド博士も来ている。

 

「これ、レプリカだけど、記念にね」

 

カスミがマオたちガールズに差し出したのは、ブルーバッジを模して作られたアクセサリー。タケシはグレーバッジを模したものをマーマネとカキに渡している。

 

「セレナはちゃんと私に勝ったからね、ブルーバッジをあげようかと思うんだけど、」

「いえ、そんな。私じゃ本気のカスミさんにはまで勝てませんから。それに、みんなとお揃いなのが、嬉しいです」

 

笑顔を見せ合うガールズ。少し年下の彼女たちの様子を、カスミが優しく見守っている。

 

「あいつと一緒だと色々大変だと思うけど、その経験は必ずあなたたちの糧になるわ。だから、頑張ってね」

「「「「はい」」」」

 

「次は本物のバッジを貰いに行きます!」

「そうか。ジムリーダーは俺の弟だからな。思いっきりぶつかってやってくれ」

「はい!その時は、タケシさんにもリベンジさせて貰います!」

「僕も、もっと強くなって、挑戦します!」

 

新しい目標を見つけたらしく、二人の瞳は燃えているようにも見える。こんな目を向けられるのも久しぶりだ、なんて思いながら、タケシが二人の肩に手を置く。

 

「楽しみにしてるよ。サトシといれば、きっと多くの発見がある。あいつよりも長くトレーナーをやっていた俺でも、いつもいつも驚かされてばかりだった。君達も、その経験を通じて、きっともっと強くなれる。頑張れよ」

「「はい!」」

 

 

「素晴らしい経験ができました」

「うむ、それは招待した甲斐がありましたな」

「彼らのこの経験は、アローラの未来を変える一歩だと、俺は感じています。きっとアローラにも、ポケモンリーグという文化を、根付かせてみせます」

「それは楽しみですな。頑張ってくれたまえ」

「はい!」

 

 

「それじゃあサトシ、私も行くわ」

 

サトシたちよりも飛行機が早いため、セレナは一足先にゲートに向かうことになる。

 

「そっか。カロス地方に戻るんだっけ?」

「そう。ヤシオさんが旅の成果を聞きたいって言ってくれたの。そこからまたカロスクイーンに挑戦してみるつもり」

「セレナならやれるさ。応援してるぜ」

「うん。私も、サトシを応援してるから」

「ああ!」

「……ねぇサトシ?」

「ん?」

「私、もっと魅力的な女性になったかな?」

「えっ……」

 

ウインクしながら問いかけるセレナに、一瞬サトシの瞳が大きくなる。けれどもそれは一瞬のことで、

 

「ああ。なってるよ」

 

と、笑顔で返すのだった。いつまでも鈍感なだけではいられない、こういうところでもやはりサトシは少し成長しているようだ。

 

「ふふっ、そっか。なら、前進できてるのかな」

「頑張れよ、セレナ」

「うん。……ねぇサトシ、最後に一ついい?」

 

それはあの時、セレナが別れ際に言ったことと同じもの。何が起きるのか、サトシが理解するよりもわずかに早く、セレナの顔がサトシに近づいた。

 

ふわりと鼻をくすぐったのは彼女の香り。あの時と変わらない、優しい香り。そして唇に触れた柔らかいものは、すぐさま離れていく。忘れられないあの感覚を、再び残しながら。

 

突然のセレナの大胆な行為に、アローラ組はおろか、カスミ、タケシ、そしてオーキド博士までもが動けずにいた。

 

「えーと、セレナ……流石にそれはびっくりするというか……」

「ふふふっ。これは宣戦布告……かしらね」

「えっ?」

「ううん、なんでもないわ。じゃあサトシ、またね!」

 

チラリとガールズの方を見てから、セレナは最後にサトシに手を振り、駆け出した。疑問符を浮かべながらではあるが、サトシも大きく手を振ってセレナを見送る。

 

「ひゃー、セレナ大胆だったね」

「ちょっとびっくり」

「流石です……やっぱりわたくしもあれくらい」

「ちょっ、それは流石にどうなのかな?」

「でも、負けてられない」

 

「なんだかすごいものを見た気分だよ」

「サトシのやつ、こりゃ大変だな」

「天使のキスか、悪魔のキスか……全く、最後にとんでもないことになったな」

 

「あの子、思ってたよりもぐいぐい行く子なのね……」

「いいなぁ……俺も美人なお姉さんにてててっ!?」

「はいはい、寝言は寝てから言いなさいよね」

「うむ、ここで一句」

『青春の 印は口と クチートと』

 

 

何やら熱くなっているガールズに、遠くから見ているボーイズ。

 

オーキド博士の川柳を持って、これにて修学旅行は終わり。

 

帰りの飛行機の中で、改めてアローラでこれから過ごす時間を楽しみにするサトシだった。

 

 

 

おや?飛行機の羽根に何か……

 

「プリュ?」

 

…………… To be continued

 




ようやくカントーから帰って来たぁ!

はい、次回から新章入ります


夢の中で呼ばれた俺は、なんだか古い神殿みたいなところに来た。

そこで出会ったのは二体の見たことないポケモン、そして謎の、雲みたいな影。

……わかった、約束するよ。

俺に任せて……

次回
不思議な出会い。サトシとほしぐも
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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ほしぐも編
不思議な出会い。サトシとほしぐも


新章突入です!

いやぁ、思ったよりも長くなってしまった〜


白い靄のかかった景色……

 

ここは、どこだ?

 

どうしてここにいるんだ?

 

……声が聞こえる……

 

俺を呼んでるのか?……奥に?

 

太陽と、月……ここは、神殿?

 

 

来たことがない筈なのに、どうしてだろう。

 

ここがとても大切な場所だってことが、すぐにわかった。

 

神殿の高い塔を見上げると、空にヒビが走る。

 

大きな穴が空いたかと思うと、二体の大きな生き物が飛び出して来た。

 

白い体に鬣のように流れる毛。世界を照らすように雄々しく吠える、太陽の化身。

 

群青の体に巨大な翼。夜空を包み込むように神秘的に鳴く、月の化身。

 

太陽の化身はソルガレオ。

 

月の化身はルナアーラ。

 

……あれ?……どうして俺、名前を知ってるんだろう。

 

 

頼み?……俺に?

 

うん……わかったよ。

 

必ず見つける……だから、安心して、俺に任せてよ

 

◼️◼️◼️◼️◼️のことは……

 

 

 

 

誰もが寝静まった真夜中。

 

四つの島の守り神が、同時に感じ取った異変。

 

 

その異変に気づいたものは、ごく僅かしかいなかった。

 

その中心にいることとなる本人でさえ、まだ気づかずにいる……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……シ、起き……下さい」

『サト……るロト!』

 

何度か体を揺さぶられる感覚に、サトシの意識が覚醒する。ぼんやりする頭で周りを見ると、リーリエとロトム、ルガルガンたちが彼のベッドの周りに集まっている。

 

「あれ……?みんな?」

「おはようございます、サトシ」

『早く準備するロト!』

「えっ?」

「もうそろそろ、スクールに向かう時間ですよ」

「ええっ!?」

 

慌ててベッドから飛び起きるサトシ。リーリエが苦笑しながら部屋を出ると、すぐさま服を着替える。

 

幸いなことに、ルカリオがすでに服を出していてくれたため、手間が省けた。

 

「サンキュー、ルカリオ」

『もう少しシャキッとしろ。だらしがないぞ』

「ごめん。ちょっと不思議な夢を見ててさ。ってあれ?ククイ博士は?」

『ハラという人から連絡があり、スクール前に寄るそうだ。既に出かけている』

『早くしないと、サトシが遅刻するロト!』

 

ロトムに急かされるままに、サトシが着替えと朝食を済ます。なんだかとても大切な約束を誰かとしたような、そんな気がしていたが、どうにも頭に靄がかかって思い出せない。

 

「なんだっけな、今朝の夢……」

 

 

「カプ・コケコが?」

「ええ。突然私の前に現れたかと思えば、どこかへ飛んで行きました。何か大きな異変を感じ取ったのでしょう。他の島の島キングや島クイーンからも、同様の連絡がありましたぞ」

「四つの島の守り神たちが、みんな感じ取っていた……何か、このアローラ地方に起こっている、ということですね」

「ええ」

 

神妙な表情のハラに、ククイ博士も思わず表情が硬くなる。ここ最近、かつて無いほど立て続けに奇跡とも思えるような出来事に、彼は遭遇している。そしてそれはいつもある少年を中心にしている。

 

(まさか、またサトシに何か?……いや、俺の考えすぎなのか?)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

アローラに浮かぶ島の一つ、ポニ島。

 

そこにある巨大な祭壇に、訪れる人々。

 

うち3人は共通して白い服装をしている。

 

「いつ来ても圧倒されるわね……日輪の祭壇」

 

「遥か昔、アローラの守り神が異世界からの者たちと、激しい戦いを繰り広げたと言われる場所だもの。この祭壇に来ると、その伝説を現実のものとして、認識することができるわ。一度でいい、会ってみたいという想いは変わっていないわ」

 

「ロマンを感じますね〜。太陽と月の紋章も、具体的には何を表しているかは、まだ解明されていませんし〜」

 

「代表、この辺りから僅かではありますが、ウルトラオーラを感知しました。ただ、とても異常と呼べるものでは無いですなぁ。これは、ウルトラビーストの仕業ではなく、計測器の測定ミスでは?」

 

「非常に非論理的ね。その考察は科学者としてあらゆる可能性を考慮した上でのものではなく、博士に対する嫉妬からくるものだわ。調査を続けましょう。いよいよ、会えるかもしれないのだから」

 

 

「『ウルトラビースト』に」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

先に家を出たリーリエの後を追いかけるように、サトシたちはスクールへの道を走っていた。

 

「うわぁぁ、遅刻する!」

『だからパンをお代わりしてる場合じゃ無いと言ったロト!』

「ピィカ」

「コウガ」

『やれやれだな』

 

飛びながら怒るロトム。並走するピカチュウ、ゲッコウガ、ルカリオは、少し呆れ顔である。

 

「いや、なんか、変な夢見てた気がしてさ。そのせいか、なんか腹減っちゃって、っ!?」

 

思わず足を止めるサトシ。今一瞬サトシたちの前を、黄色い影が横切った。影の向かった森の方に目を向けると、オレンジのトサカに黄色の体。その水色の瞳がサトシをじっと見つめている。

 

「カプ・コケコ!?」

 

メレメレ島の守り神、カプ・コケコが、まるで付いて来いと言うように森の奥へと進んでいく。

 

「何だ?」

 

スクールに遅刻しそうだということを忘れ、サトシはカプ・コケコに導かれるままに、森の奥へと進んでいく。やがて森の中でも、木々が開け、陽が差し込んでいる小さな陽だまりの場所に、サトシたちがたどり着く。

 

「ここは……って、えっ?」

「ピカッ!?」

「コウッ?」

『これは、』

『どどどと、どういうことロトォ!?』

 

ロトムが素っ頓狂な叫び声を上げてしまう。けれども、それを責めることはできないだろう。陽射しが差し込んでいる場所を囲むように、四体のポケモンがそこにいた。サトシを待っていたのだろうか、サトシの方を見ている。

 

「カプ・コケコにカプ・テテフ、それに……」

『カプ・ブルルにカプ・レヒレ、何でこの島に来てるロト!?』

 

四つの島の守り神が、集結している。サトシが来たのを見届けると、鳴き声をあげ、四体ともが空に飛び上がり、別々の方向に飛んで行く。見上げるようにそれを見送ったサトシが足元の小さな茂みに視線を落とすと、そこにその子はいた。

 

深い夜空のような群青色に、まるで雲のように見える体。瞳が閉じられ、規則的な呼吸音が聞こえてくる。

 

サトシがそっとその子を抱き上げる。

 

『この気配……もしや……』

「……軽い。本当に雲みたいだ……ロトム、このポケモンは?」

『ビビッ!データなし。このポケモンも、全く情報がないロト!』

 

「えっ、じゃあ一体……」

 

すぅすぅと眠るその謎のポケモンを見つめるサトシ。ふと今日の朝のことを思い出す。確か自分は夢の中で……

 

「そうだ……約束したんだった。俺、この子を……」

 

 

 

 

ポケモンスクール。

 

少し遅れて博士が教室に入ると、一つの席が空いている。

 

「アローラ。サトシはどうした?」

「起こした時に起きてはくれたのですが、わたくしの方が先に家を出たので……」

「また何処かで寄り道してるんじゃないか?」

「あ〜、ありえるかも。ポケモンゲットしてたりして」

「そうかも。道端から突然グラードンが!」

「ないない。そんなこと絶対……とも言い切れないけど、流石にグラードンはないって」

 

そこは普通言い切れるところなのだが、守り神の件や波導の勇者のこともあって、ことサトシに限ってはあり得てしまうんじゃないだろうか、なんて思ってしまう。と、

 

「博士!」

 

噂をすれば何とやら。サトシが慌てて教室に駆け込んでくる。しかしその慌てようは、遅刻に対するものとは少し違うように見える。

 

「サトシ、どうしたんだ?」

「博士!実は、夢で約束して、それでカプ・コケコたちに、それから、」

「待て待て、取り敢えずは落ち着け」

 

ゼーハー言いながら説明しようとするサトシ。一先ず呼吸を整えるよう博士が促す。膝に手を置きながら、サトシが肩で呼吸をする。と、背中に背負われているリュック、わずかに開いているその隙間から、博士は何やら雲のように見えるものが覗いているのに気づく。

 

「サトシ。リュックに何か入っているのか?」

「はぁっ、はぁっ。っあ、そうだ!博士、この子を見て欲しいんです!」

 

そう言ってサトシは背負っていたリュックを手に取り、中を博士に見せる。興味津々なクラスメートたちも一緒に覗き込むと、いつもリュックにいるモクローの隣に、スヤスヤと寝息を立てる、見たことないポケモンが眠っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

スヤスヤと眠り続ける謎のポケモン。異様なまでの軽さや、眠ったまま浮かぶ様子からしても、更に謎が深まる。

 

「ダメだ。特徴が一致するポケモンの事例がどこにもない」

「ユキナリにも聞いて見たが、やはり知らないそうだ」

 

教室の外に資料を見に行っていたククイ博士とオーキド校長が教室に入ってくる。博士はもちろんのこと、校長も初めて見るポケモンに興味津々シンボラー、らしい。

 

「もしかして、新種のポケモンだったりして?」

「それが本当なら、サトシが発見者、ってことになるな」

「どこで見つけたの?」

 

クラスメートの視線を受け、サトシがうーんと首をかしげる。

 

「いや、見つけたのは森の中だったんだけど、」

「だけど?」

「それが変な感じでさ、夢の中でこの子のことを見つけて世話するって約束したんだ。で、実際見つけた時には、カプ・コケコとカプ・テテフ、それに他にも守り神が二体来てて」

「それって……」

「ウラウラ島のカプ・ブルル、それにポニ島のカプ・レヒレ。四つの島の守り神、全員が来ていたのですか!?」

 

通常、それぞれの守り神は、自分の領地であるそれぞれの島を離れることはない。そんなことがあったと言われるのは、伝説の中の伝説に語り継がれる、とある大きな戦いの時だけだ。それほど大きなことなのだろうか。サトシがこの謎のポケモンと出会うことが。

 

(まさか、ハラさんが言ってたのはこの子のことか?)

 

「取り敢えず、この子に名前をつけてあげないとね」

「そうだな、サトシが見つけたんだ。名付け親もサトシがなるべきだな」

「名前?うーん、どうしよっかなぁ」

 

うんうん唸りながら、サトシが何かいい名前を考える。他のみんながサトシを見ている中、一人だけ謎のポケモンを見ていたリーリエが、ポツリと呟く。

 

「ほし……ぐも?」

「えっ?」

「あ、いえっ!なんだかこの子を見てたら、急に。キラキラしてて、フワフワしてて……それで」

 

両手の人差し指をつきあわせながら、リーリエが説明する。少し安直な考えだっただろうかと、少し不安になる。

 

「ほしぐもか……いいなそれ!」

「ああ。ぴったりな感じだな」

「うんうん。可愛いし、この子のことよく表してる」

 

クラスメートたちからも賛同の声が上がる。眠っているポケモンをサトシが両手でそっと自分の前まで持ってくる。

 

「これからお前の名前は、ほしぐもだ。よろしくな、ほしぐも」

 

サトシが改めてほしぐもの名前を呼ぶと、反応したのか、寝息が止まる。くぁ〜とあくびをしてから、その目がパチリと開く。

 

「おっ、起きた」

 

サトシたちが覗き込むようにほしぐもを見る。パチパチと何度か瞬きをすると、ほしぐもは口を開いて、

 

「ビャァァァアアア!」

 

耳をつんざくような泣き声を上げた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『こ、これは超音波並みの泣き声ロト!』

 

サトシたちはもちろん、ゲッコウガやルカリオまでもが思わず耳を塞いでしまう。それほどまでに強烈な泣き声をほしぐもはその小さな体から上げているのだ。

 

「ど、どうしたのかな、急に?」

「もしかして、腹でも減ってるんじゃ」

「でも、ほしぐもは何を食べるの?」

「そりゃあ……なんだ?」

 

よくよく考えてみると、新種のポケモン(仮)であるほしぐものことは、何一つとしてわからない。タイプは?特性は?性格は?好物は?どうしてあそこにいたのか?何故守り神が集まっていたのか?

 

考え出したらきりがないが、取り敢えずの問題としては、

 

「なんとか泣き止むようにしないと!」

「えーと、何か子守唄とか?」

「それなら俺が!ホシの子守をしてた時のがある」

 

カキやスイレン、マオと順番にあやしてみるが、どうにも泣き止む様子がない。サトシがやってみようと今あやしているマーマネに手を伸ばす。

 

「ダメだ、パス!」

「あっ、ちょ、マーマネ!」

 

パニクっていたのか、マーマネはサトシではなく、なんとリーリエにほしぐもを手渡してしまう。まだほとんどのポケモンに触れないリーリエ、その腕の中にポスンと、ほしぐもが収まる……が、みんなが予想していたリアクションは来なかった。

 

「……あれ?」

「リーリエ?」

「は、はい!」

「大丈夫なの?」

「え、ええ。どうしてかはわかりませんが、平気みたいです」

「ねぇ、ほしぐも、泣き止んでない?」

 

そういえばあたりに響き渡っていた泣き声が聞こえなくなっている。みんながほしぐもの顔を覗き込むと、

 

「ク〜?ガック〜!」

 

何やら安心したような、表情を見せ、どこか嬉しそうに笑っている。

 

「あれ?なんで?」

「すごいなリーリエ。どうやったんだ?」

「それが、わたくしにもよく分からなくて……」

「でも、ほしぐもも嬉しそうだな」

 

サトシの言う通り、ほしぐもはリーリエの腕の中から、可愛らしい笑顔をサトシたちに向けている。何故リーリエが全く恐れることなく触れるのかは疑問ではあるが、どうやらほしぐも的にはリーリエのことを気に入ったようだ。

 

「ともかく、折角ほしぐもの機嫌が直ったんだ。何を食べるのか、検証してみようか」

 

博士に連れられ、サトシたちはスクールの外、一場へと向かって、いろんな食材を買ってみる。何が好物なのか分からない以上、とりあえず試してみるしかない。

 

 

「さぁ、ほしぐも。何が食べたい?」

 

教室に戻り、サトシたちが一つ一つの食べ物をほしぐもに出してみる。きのみ、サンドウィッチ、マラサダ、ケーキ、更にはどんな人もポケモンも虜になるとまで言われるカキの家からのモーモーミルクまでが試されたが、それでもほしぐもが食べようとしたものはなかった。

 

「うーん、難しいなぁ」

「せめてタイプがわかれば絞り込めるかもしれませんが……」

「うーん、ほしぐもかぁ……あ、そうだ!これとかどうかな?」

 

何か閃いたマーマネ。ポケットの中から彼が取り出したのは、色とりどりの小さなお星様、ではなく、

 

「金平糖?」

「いやぁ、なんかほしぐもを見てたら思い出しちゃって」

「試してみようぜ。ほしぐも〜、食べるか?」

 

サトシが一粒金平糖を手のひらに乗せ、ほしぐもに差し出す。すると、さっきまで他の食べ物には見向きもしなかったほしぐもが、笑顔でサトシの手のひらから金平糖を食べた。

 

「おっ、食べてる食べてる」

「ほしぐもちゃんには、金平糖がなんだかとっても似合っていますね。お星様みたいですもの」

「マーマネに、甘い物好き仲間がまた増えたな」

「後で金平糖の美味しいお店の場所、教えるね」

「サンキュー、マーマネ」

 

笑顔を浮かべて金平糖を頬張るほしぐもは、なんだか生まれたての赤ん坊のようで、クラスみんながなんだかほっこりとした気分になった。

 

 

 

 

その頃、

 

アローラの海に浮かぶ人口の島。

 

そこでまた新たな異変が観測されていた。

 

「ウルトラオーラの反応が出たわ」

「場所は特定できたの?」

「ええ。それが、メレメレ島からです」

「先ほど観測されたという数値とほぼ同じ。微弱すぎるのではないですかね」

「なら、行って確かめてみるしかないわね。久々のメレメレ島に」

 

四人を乗せたヘリが人工島を飛び立つ。

 

目指す場所はメレメレ島、そこにいるのは……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「じゃあね、二人とも」

「ああ。またな、マーマネ」

「また明日」

 

マーマネの家の前に停まっていた車が走り出す。中に乗っているのはサトシとリーリエ。少し遠いという金平糖のお店に行くために、車を出してもらい、マーマネとともに買いに行った帰り道。

 

「あれ?」

「どうしました、サトシ?」

「いや、なんかあそこにヘリが」

 

サトシが指差す先、目的地であるククイ博士の家の前に、ヘリが一台停まっている。その側面には何かのマーク。

 

「あのマークは……まさか」

 

 

「ただいまー」

「おお、二人とも。丁度いいところに。二人に会いたいって人が来てるぜ」

「二人?」

 

 

家の中に二人が帰ると、そこには四人の客人が。白衣にゴーグルのようにも見える眼鏡をかけている男性、どこかおっとりとした雰囲気を持つ眼鏡をかけた女性、一人だけ白い服を着ておらず活発な印象を持たせる女性。そして、最後の一人、綺麗な金色の長い髪を持つ、目を惹く美しさを持つ女性。

 

「お母様!?」

「リーリエ!」

「『えええええっ!?』」

 

リーリエが来訪者に驚いていると、金髪の女性が嬉しそうにリーリエに駆け寄る。突然登場したまさかの親に、サトシとロトムが思わず声をあげる。

 

「久しぶりね、元気にしてた?どうして今まで連絡して来なかったの?」

「それは、その……」

 

抱きつこうとする母親をかわしながら、リーリエが曖昧な表情で返す。自分の空白の時間、ポケモンへの恐怖。その原因に関係があるかもしれない母親と会うことを、無意識のうちに回避していたのかもしれない。

 

「どうして避けるのよ」

「お母様、ちょっとそれは恥ずかしいといいますか」

「もう、照れちゃって。ちょっと前まで赤ちゃんだったくせに〜」

「ちょっとじゃありません」

「コォン」

「あら、可愛いロコンね……あら?リーリエあなた、ポケモンに触れるようになったのね!」

 

久しぶりの再会に戸惑う本人をよそに、何やらテンションが高いリーリエの母親。はたから見るとどう見てもただの親バカである。それもリーリエがまるで幼い子供かのように接しているのには、流石のサトシも戸惑っている。

 

「えーと、リーリエのお母さん、ですよね」

「あ、ごめんなさいね。君がサトシくんでいいのかしら?」

「はい。カントーのマサラタウンから来ました」

「初めまして。私はルザミーネ、リーリエの母親よ。エーテル財団の代表を務めているわ」

「エーテル財団?」

「ポケモンの保護や研究を主な活動にしているわ。それから、こちらは私の部下」

「ビッケです。保護活動の担当をしています〜」

「研究部門チーフのザオボーです」

「それから、彼女は協力者のバーネット博士」

「バーネットよ。サトシくん、よろしくね」

 

「あの、俺に用事って?」

「あ、そうそう。君が見つけたというほしぐもちゃんに会わせてもらえないかしら?」

「えっ?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

リュックの中から出したほしぐもを、ルザミーネが興味深そうに見つめる。その横ではザオボーとバーネット博士が何かの装置でほしぐものデータを取っている。

 

「やっぱりそうね。あの反応はこの子、ほしぐもから出ているわ」

「どうやら、この子はウルトラビーストに間違いなさそうです」

「ウルトラビースト?」

 

聞きなれない単語にサトシが聞き返すと、ビッケがパソコンを操作し、モニターにとある壁画を映し出す。描かれているのは四つの島の守り神と、見たことのない不思議な姿をした生き物。

 

「遥か昔、異世界から来た不思議な生き物が、アローラの守り神たちと激しい戦いを繰り広げたことがある、という伝説があるの。その生き物を、私たちはウルトラビーストと呼称しているわ」

 

と、突然サトシのボールの一つからポケモンが飛び出す。跪いたような姿勢で現れたのは、ルカリオだった。突然飛び出して来たルカリオに、ルザミーネたちも驚いている。

 

「ルカリオ、どうしたんだ?」

『……見たことがある』

「ルカリオが喋った!?」

「驚きです〜」

 

まさか喋る、というかテレパシーのようなものを使えるルカリオが存在するなんて。今まで確認されたことのない事例に、バーネット博士とビッケの目がキラキラしている。が、そんなことよりサトシはルカリオの発言が気になっている。

 

「ルカリオ、見たことがあるって?」

『この壁画に描かれている、ウルトラビーストと呼ばれるものたちのことを、私は以前見たことがある』

「!それは本当なの!?いつ?どこで?詳しく教えてもらえるかしら?」

「お母様?」

 

ルカリオの話に食いつくルザミーネ。今までにない程に関心を見せる母親の姿に、リーリエが不思議そうな表情になる。

 

『遥か昔のことだ。私がロータにいた頃のことだった。空を割り、奴らは現れた。人々が恐怖する中、奴らはロータの地に住む人やポケモンたちを襲った。我が主人、アーロン様が命と引き換えに奴らを空に開いた穴の向こうへと送り返した』

「じゃあ、あの時アーロンが言ってたのって」

『こいつらが、またこの世界に現れる、そういうことなのだろう』

 

話の半分以上を理解していたのは、恐らくサトシ、リーリエ、ククイ博士の3人だけだろう。しかしまさかアローラ地方だけではなく、他の地方にまで現れていたとは。

 

「そんな事件があったなんて……」

「そういえば、ルザミーネさんたちはどうしてほしぐものことを知ってたんですか?」

「ああ、それはね、バーネット博士の開発した観測機のおかげよ」

「ウルトラビーストに関係のあるものは、ウルトラオーラという特殊な波動のようなものを発しているのです。我々は常にその研究を行っているのですが……」

「昨夜、ポニ島にある日輪の祭壇で、異常に高い数値が観測されました」

「日輪の祭壇?」

「はい〜。これがその祭壇の写真です」

 

スクリーンに映し出されたのは、大きな岩山に囲まれている遺跡。高い塔のようにも見える中央の岩には複雑な模様。そして太陽と月の紋章。それを見たサトシは、既視感を覚える。聞いたことないはずの場所なのに、何故……

 

「っあ!思い出した!この場所だ!」

「サトシ?」

「どうかしたの?」

「昨日の夜、俺、不思議な夢を見たんです」

「夢?」

「その時俺、この祭壇にいました。そしたら空から初めてみるポケモン……確か、ソルガレオとルナアーラが現れて……その二人と約束したんです。この子を見つけて、世話するって」

「伝説に残される、ウルトラビーストたちが……」

「所詮は夢。ただの戯言ですよ」

 

サトシの話にビッケを除く3人の表情が変わる。信じられないものを見たようなバーネット博士。全く取り合っていない様子のザオボー。しかし中でもリーリエが違和感を覚えたのはルザミーネ。

 

それはどこか、物欲しそうな顔に、彼女には見えていた。

 

「サトシ君、ほしぐもちゃんを、エーテル財団で預からせてくれないかしら?」

「えっ?」

「エーテル財団は昔からウルトラビーストの研究をしているの。もしほしぐもちゃんがそうなら、いつか元の場所に返せる方法を見つけてあげられるかもしれないわ」

「それに保護活動のために、いろんな設備が整ってるの〜。安心して任せられる場所よ」

 

笑顔で提案するルザミーネとビッケ。優しげな笑みを向けてくる二人。本来預けることに大きな不都合はないはずだ。全く新種のポケモンなら、その道の専門家に任せた方が安心できるかもしれない……でも、

 

「あの、その提案ありがとうございます。でも、俺自分でこの子を育てたいんです。そう約束したから。だから、ごめんなさい」

 

真っ直ぐな瞳で自分たちを見つめ返すサトシに、二人はそれ以上の勧誘は無意味だと察した。

 

「ウルトラビーストは君のような子供の手に余る存在ですよ、サトシ君」

 

それでも諦めが悪いのはいるわけで、ザオボーが口を挟んでくる。その目を見ればわかる。彼はサトシをただの子供として見下している。そんな態度に対してサトシは怒るでもなく、

 

「それでもやってみます。きっと、それは俺がしなきゃいけないことだから」

「ポケモンについての知識も経験も、我々の方が上なのです。君のようなただの子供よりも、適任だと思いますがね」

「サトシはただの子供なんかじゃありません!」

 

ザオボーに対し怒りにも近い声をあげたのは、リーリエだった。リーリエがここまで感情的になっていることに、ルザミーネまで驚いている。

 

「サトシは立派なトレーナーです。その実力はカプ・コケコにも認められています!」

「カプ・コケコに?」

「メレメレ島の守り神にあったことがあるんですか〜?」

「本当なの?ククイ博士?」

「ああ。サトシの持っているZリングは、カプ・コケコが直接手渡したものだ。それに、カプ・コケコだけじゃなく、カプ・テテフともバトルしている。メレメレ島とアーカラ島、二つの大試練をクリアした、将来有望なトレーナーだ」

「サトシ君が……そう……」

 

「ふん、とても信じられませんなぁ」

「そんな、わたくしたち、嘘はついてません!」

「なら、試して見ればいいんじゃない?彼の実力を」

 

ルザミーネがザオボーに提案する。彼女もここまでリーリエが肩入れするこの少年の実力を見てみたくなった。

 

「いいでしょう。では、私が勝ったら、ほしぐもはエーテル財団で預からせていただきますぞ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ククイ博士の家の前で、サトシとザオボーが対峙している。審判を務めるのはバーネット博士。リーリエやルザミーネたちは、少し離れた場所から見守っている。

 

「使用ポケモンは一体のみ。どちらかが戦闘不能になったら勝負あり。このルールでいいわね?」

「はい」

「勿論です」

「では、両者ポケモンを」

 

「行くのです、フーディン!」

「フーディ!」

 

「よーし、ルカリオ!君に決めた!」

『ブルァ!』

 

ザオボーが繰り出したフーディンを見据えるルカリオ。先程のザオボーの態度に不快感を覚えたらしく、視線はいつもより鋭い。

 

「ふん。エスパータイプに対しかくとうタイプを持つルカリオとは。これだから子供は」

「俺のルカリオを甘くみない方がいいですよ」

「ならば見せてもらいましょうか。フーディン、サイコショック!」

 

両手に持ったスプーンを合わせ、フーディンがサイコパワーを込めた攻撃を放つ。真っ直ぐルカリオめがけて進む攻撃に対し、

 

「ルカリオ、しんそく!」

 

一瞬でフーディンとの距離を詰めるルカリオ。あまりの速さに、はたから見ていたバーネット博士たちも驚いている。サイコショックを難なくかわし、ルカリオの拳がフーディンの胴体に決まる。

 

『その程度の速度では、私は捉えられない』

「いいぞ、ルカリオ」

「ぐぬぬっ、サイコキネシス!」

 

フーディンがサイコパワーを集め、ルカリオを拘束する。宙に浮かび上げられるルカリオ。

 

「くくくっ、動けなければどうにもならないだろう!もう一度サイコショック!」

 

動けないルカリオに対し、フーディンが攻撃を仕掛ける。同時に二つのことにサイコパワーを使えることから、あのフーディンも相当鍛えられているようだ。しかし、

 

「ルカリオ、波導放出!その後はどうだん!」

 

体から爆発的な波導を放ち、拘束を解いたルカリオ。そのまま素早く波導を収束させ、はどうだんを放つ。

 

サイコショックを迎え撃つように進むはどうだんは、衝突すると、あっさりとサイコショックを貫いていく。

 

「なんだと!?」

『始まりの樹を守っていたものの方が、余程強いな』

 

ついにはどうだんがフーディンに命中する。大きく弾き飛ばされたフーディンは地面を跳ね、しばらく転がる。ようやく止まった彼の目は完全に回っていた。

 

「フーディン、戦闘不能!ルカリオの勝ち!よって勝者、サトシ君」

 

バーネット博士の声が響く。サトシの勝利にリーリエが思わず立ち上がる。

 

 

「サトシ君、君の実力、しっかりと見せてもらったわ。ソルガレオとルナアーラがどうして君にその子を託したのか、私も知りたくなった。ほしぐもちゃんのこと、あなたに任せるわ」

「ふん。私はまだ認めていませんがね。あれはたまたま偶然負けただけで、」

「全く非論理的ね。研究者なら、結果をしっかりと受け止めなさい。サトシ君、困ったことがあったら、いつでも連絡してね」

「わかりました。ありがとうございます」

 

最後にほしぐもの頭を撫で、ルザミーネたちはヘリに乗り込み、去って行った。

 

サトシとほしぐもの不思議な出会い。

そしてウルトラビーストを追うエーテル財団。

 

果たして、物語はどう進むのか。

 

 

余談だが、ほしぐもの能力、テレポートによってスクールでひと騒動起こるのだが、それは別の話。

 

 

…………… To be continued

 




テレポートパニックのお話は、タイトル通りにどっかへテレポートしちゃいました

というわけで、次回予告!


エーテル財団の作ったポケモン保護用の島、エーテルパラダイス。

そこに招待された俺たちは、メタモンの予防接種を手伝うことに。

ってこら〜!逃げるな!

メタモンはすぐに他のポケモンに化けるから、探すのが大変だ!

どうやって見つければいいんだ?

次回、

パニックメタモン、探すんだモン

みんなもポケモンゲットだぜ!


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パニックメタモン、探すんだモン

いやぁ、アニメもなかなか面白くなって来た、
というかなんかここんとこ連続でかなり濃ゆいな笑

まぁ、こっちも進むわけなのですが、今回色々変わってます、はい


聞こえてくるのは波の音。

 

潮風を頬に受けながら、リーリエは帽子が飛ばされないように片手で抑えている。

 

久しぶり、というほどでもない船の上。

 

サトシたちは今回、とある場所へと向かっていた。

 

「みなさん、見えてきましたよ!」

 

船頭に立っていたリーリエが声をかけると、みんなが集まってくる。船が進む方向に浮かぶのは、ほぼ白一色の大きな島。正確には人工的に作られた巨大建造物。

 

「あれが、お母様たちの仕事場、エーテルパラダイスです」

 

ポケモン保護活動を行うという団体、エーテル財団。その本拠地にして研究所、保護施設を兼ね、かつてリーリエとグラジオの暮らしていた家のある場所。エーテルパラダイスの水上用の門が開き、サトシたちを乗せた船が中に入る。

 

「アローラ!エーテルパラダイスにようこそ〜」

 

サトシたちを出迎えたのはビッケとザオボー。ビッケは笑顔でみんなを出迎えるのに対し、サトシに対して苦い思いのあるザオボーはやや不機嫌そうだ。

 

「ようこそ。それで、ほしぐもは一緒ですか?」

「ええ。今はサトシのリュックに」

「……そうですか」

「まずは代表のところに案内しますね〜」

 

常ににこにこしているビッケに、他のみんながなんだかほっこりした気持ちになる中、サトシはザオボーに対する警戒心を強める。心なしか、自分のリュックを見ているその目が、どこか危険なもののように思ってしまう。

 

「……考えすぎかな?」

「?サトシ、どうかしたのか?」

「いや、なんでもないよ」

 

エレベーターに乗り込み、移動するサトシたち。連れていかれた先は、大きく開けた場所。中央に大きな道、その両側は綺麗に並んでいる木々。そしてその奥にそびえ立つ、豪邸。

 

「これ、もしかして、」

「はい。お母様の住んでいる、わたくしたちの家です」

「おっきい……」

 

お城や宮殿と比べだすとキリがなくなるが、それでもその家はそんじょそこらのものとは明らかに格が違う。基本カラーは財団と同じ白、いくつもの部屋があり、財団のトップであるルザミーネの持つ影響力が感じられる。

 

「どうぞ〜。代表が中でお待ちです」

 

ビッケが扉を開け、みんなを招き入れる。玄関の正面にある大きな階段。赤い絨毯が敷かれるそれは、高級感漂うものだったが、それを歩いてくる女性には、やたらと似合っている。

 

美しい髪も、白い肌も、スラリとした歩き姿も、モデル顔負け。とても二児の母とは思えない雰囲気を出している。

 

「ようこそ、我がエーテル『ピリリリ』……」

 

話し始めたぴったりのタイミングで、携帯電話がなる。思わずひきつるルザミーネの笑顔。

 

「今日は、ゆっくりし『ピリリリ』……」

 

仕切り直そうにも、着信音でまた遮られる。思わずサトシたちも苦笑を浮かべてしまう。

 

「ごめんなさいね。はい、ルザミーネです」

 

電話に出ながら階段を登っていくルザミーネ。仕事のできる人って感じではあるが、それでもこれだけの規模の財団のトップともなれば、忙しさは段違いなのだろう。

 

「すごい大変なんだな、ルザミーネさんも」

「そうですね……昔から、仕事に追われていました」

 

「じゃあ、お部屋にご案内しますね〜」

 

ビッケに連れられ、サトシたちもルザミーネの後から階段を登っていく。移動中でも、ザオボーの瞳は、サトシのリュックから離れることはなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

案内された豪華な部屋、ルザミーネが仕事にも利用しているらしいそこで、サトシたちに大量のお菓子と飲み物がふるまわれる。

 

「このケーキ、美味しい!」

「ああ。クリームときのみがいい感じに合ってる」

「このケーキ、どこで売ってるのかな?」

 

ケーキにマカロン、更には金平糖まで。ほしぐもも満足そうに金平糖を口いっぱいに頬張っている。

 

「一気に食べ過ぎると、お腹壊しちゃうぞ」

「本当にほしぐもちゃんは、金平糖が大好きですね」

 

「ほほぅ。金平糖が好物ですか……」

 

ニヤリと、ザオボーが悪そうな笑みを浮かべているのに、サトシたちはお菓子に夢中で気付けなかった。

 

 

「それじゃあ、早速みんなに色々とお話を聞かせてもらえるかしら?リーリエのスクールでの様子とか」

 

電話がひと段落したらしいルザミーネが机の上に肘を乗せ、手を組む。組んだ手の上に顎を乗せ、やや身を乗り出し気味にサトシたちに話しかける。

 

「えっ、お母様?それはどういう?」

「ここなら、仕事しながらでもお話を聞くことができるでしょ?」

「まさか、そのためだけに皆さんを招待したのですか?もっと施設を案内するとか、」

「それももちろんするわ。でも、折角だから、色々と話を聞きたいの。ポケモンに触れるようになったきっかけとか、それからサトシ君についてもね」

「えっ?俺?」

 

予想外のタイミングで自分の名前が出たことに、マカロンを今まさに口に入れようとしていたサトシが、動きを止め、首をかしげる。

 

「ええ。ほしぐもちゃんや喋るルカリオのこともだけど、バーネットがククイ博士から色々と聞いたみたいなの。守り神のポケモンたちもあなたに関心があるみたいだし、どうしてなのか、気になったのよ」

「どうしてって言われても……」

「ね。あなたに興味があるの。お話聞かせてくれないかしら?」

 

ルザミーネ程の美人に笑顔でそんなことを言われれば、大抵の人間なら断る理由は特にないだろう。むしろどこかのポケモンブリーダー兼ドクター研修生なら、「感激です!喜んで!」とか言いそうだ。が、

 

「お、お母様!」

「あら、どうしたのリーリエ?急に立ち上がって?」

「え、いえ、あの……」

 

キョトンとしているルザミーネ。リーリエも思わず立ち上がってしまい、その後のことは特に考えていなかったのか、口ごもってしまう。と、

 

『ピリリリ』

 

「えっ、また?『ピリリリ』こっちも?」

 

ルザミーネの携帯が鳴り出す。それも二つ同時に。慌てるルザミーネをよそに、リーリエがシロンを抱き上げる。

 

「みなさん、行きましょう。わたくしが施設を案内します」

「えっ?でももっとお菓子食べたいんだけど」

「マ・ー・マ・ネ?」

「あ、はい……なんでもないです……行きます」

 

謎の気迫を見せたリーリエに連れられ、サトシたちはエーテルパラダイスを見て回ることになった。その後からビッケが案内役として付いてくる。

 

なお、この時のことを後にマーマネはこう語る。

 

『背後に氷山が見えたような気がしたよ……リーリエは本気で怒らせたら絶対ダメだって、思っちゃった……』

 

 

 

「ええ。ええ、はい。ありがとうございます。では『ピッ』ふぅ」

「代表」

「あらザオボー。どうかしたのかしら?」

「あのような子供に興味を示すとは、どういうことですか?私の見た限りでは、ただの子供にしか思えませんが」

「非論理的ね、ザオボー。その見解は彼に負けたことに対する僻みから来てるわ」

「ぬぐっ。では、代表は彼をどう見ているので?」

「守り神のポケモンに、伝説で語られるウルトラビーストたち……彼は特別な存在なのかもしれないわ。うちに欲しいわね」

 

にこやかな笑みでルザミーネは答えるルザミーネ。ザオボーがズレているサングラスをかけ直しながら表情を伺う。けれども、その真意は彼には見えなかった。

 

「全く……お戯れを」

「あら、どうかしらね?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「着きましたよ〜。ここがポケモンの居住区です」

 

エレベーターで移動したサトシたちの目に入って来たのは、建物の内部とはとても思えない光景だった。高く育っている木に、流れる川。まるで大自然のど真ん中に、突然現れたような気持ちになる。

 

「すっごーい」

「びっくり……!」

「おっ、ポケモンもいっぱいいる!」

 

空にはヤヤコマやツツケラの群れ。陸にはガントル、ウソハチ、メグロコなど、様々なポケモンがそれぞれ過ごしている。

 

「ここは、傷ついたポケモンを保護して、野生に帰るための手伝いをしているのよ」

 

突然声をかけられるサトシたち。声の方向を向くと、ドライスーツを腰あたりで結び、何やら海藻をモグモグしているゴンベを連れながら、快活そうな女性がこちらに向かって来ている。

 

「アローラ。ようこそ、ポケモン居住区へ」

『ビビッ、バーネット博士ロト!』

「サトシ、リーリエ。この前ぶりね。みんなは、初めましてよね。バーネットよ。君たちの先生、ククイ博士と同じポケモン博士で、ここでルザミーネを手伝ってるの」

「「「「アローラ!」」」」

 

「博士、潜ってたみたいですけど、今日はなんの研究してたんですか?」

「それはね、この居住区の環境のチェックよ。いろんなタイプ、地方のポケモンを保護してるから、みんなが過ごしやすくなってるか、時々確かめているの。他にもポケモンの健康状態を診察もするのよ」

「それから、ここではモンスターボールが使えないんですよ〜」

「えっ?」

「どうしてですか?」

「ポケモンを保護するための施設なので、勝手にゲットしようとする人が来た時のために、ここにはジャミング機能が付いているんです」

「だから、あらかじめボールから出ているポケモン以外は、この居住区では活動できないのよ」

 

そんなことができるのだろうか、とも思ったが、よく考えるとデオキシスが似たようなことをやっていたことを思い出す。

 

「そうだ。今日予防接種を受けるポケモンがいるの。見てみる?」

 

バーネット博士に連れられ、サトシたちは居住区の一角に着く。ガラス越しに部屋の中をのぞいてみると、

 

「おっ、メタモンだ!」

 

5体のメタモンが、部屋の中で遊んでいるのが見えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いた?」

「いない!」

「また変身しちゃったのかな」

「次から次へと、素早いです!」

 

居住区を駆け回るサトシたち。誰もそれを咎めないのは、今が一種の緊急事態のためだ。

 

「どこ行ったんだ、メタモン!」

 

 

 

話は数分前にさかのぼる。

 

「じゃあ順番に打ってくから、みんなはしっかり抱えていてね」

 

バーネット博士に頼まれ、サトシたちはメタモンの予防接種の手伝いをすることになった。メタモンを抱き上げて並ぶサトシたち。リーリエはビッケとともに、その様子を眺めていた。

 

サトシ、カキ、スイレン、マオ。四人のメタモンが無事に注射を終え、いよいよ最後の一体となったその時、事件が起きた。

 

余程注射が嫌いだったのだろうか、なんとメタモンがマーマネの腕の中から抜け出し、開いた扉から外の保護区へと飛び出して行ってしまったのだ。

 

変身能力を持つメタモン。他のポケモンに紛れ込むと見分けがつかない場合もあるため、隔離されていたのだが……

 

「どこにいるんだ?」

 

様々なポケモンが住んでいる居住区。メタモンは次々に姿を変えながら逃げ回っている。ロトム図鑑に始まり、タマタマ、プリンと、姿が変わる。更にまずいことに、最初は顔で区別がついていたのだが、何度も変身するうちに上達したのか、徐々に顔までもが変化するようになって来ている。

 

「長引いたら、絶対に見つからなくなっちゃうよ」

「どうしたらいいのかしら……」

 

「あっ!」

 

何か思いついたらしいサトシ。腰につけていたボールを一つ手に取る。

 

「ダメよサトシ君。ここではボールは使えないわ」

「ちょっと思いついたことがあるんです」

「?思いついたこと?」

 

頷いてから、サトシがボールをじっと見る。

 

「ルカリオ、聞こえるか?」

『聞こえている』

 

ボールの中から声が聞こえてくる。あのルカリオが応えているのだと気付き、みんなの注目が集まる。

 

「なぁ、確かお前、波導で姿を変えた相手でもわかるんだよな?」

『そうだ。姿が変わろうと、そのポケモンの有する波導の形は変わらない。波導の質、色、形は、万物において不変だからな』

「なら、俺にもできるかな?」

『可能だ。アーロン様と同じ波動を持ち、既にコントロールし始めているお前なら、やってできないことじゃない』

 

アローラに戻って来てから、サトシはポケモンの特訓はもちろんだが、ルカリオによる波導の特訓も欠かさず行って来た。まだまだ広範囲を探ったり、波導で念話を飛ばすようなことは出来ないが、それでも少しずつコツを掴んで来ている。

 

「よしっ」

 

サトシがボールを戻し、リュックから波導グローブを取り出す。興味深そうにしているビッケとバーネット博士、カキたちが集まる中、サトシは芝生の上に座り込み、ふっと息を吐く。

 

「波導は我に有り」

 

小さく呟き、意識を集中させる。暗闇の中に、青い炎のように、周りの波導が見えてくる。まず感じられるのは近くに来ている仲間たち。ぼやけているものの、一応人の形を取っている。ピカチュウ、ロトム、シロン。仲間のポケモンたちの形が確認できる。

 

(ゆっくり、範囲を広げて……)

 

徐々に視界に入る影が増えてくる。紛れ込むなら群れの中。単独に行動しているポケモンではなく、群れで行動しているポケモンを探してみる。メグロコ、ポッポ、サニーゴ、ウソッキー。まるで手探り状態で進むように、徐々に周りのポケモンたちの様子を確認する。と、川の側。ヌオーの群れ。その中に一体だけ、形の違う影が。

 

「見つけた!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「もう逃げちゃダメですよ〜」

 

予防接種を終えたメタモンを、ビッケが元の部屋に戻してから優しく叱る。

 

あの後、サトシによって変身を何度も見破られたメタモンは、逃げても無駄だということを察したのか、おとなしく捕まったのだった。

 

「みんなありがとう。助かったわ」

「いえいえ。あたしたちも楽しかったですし」

「うん。ちょっと鬼ごっこしてるみたいで」

「でも、こんなにポケモンがいると、やっぱり大変なのかな」

「そりゃそうよ。タイプも種族も性格も、みんな違うポケモンたちが集まっているから」

「でも、いろいろ大変なことがあっても、きちんとケアして野生に返すこと。それが、私たちエーテル財団の役目よ。そのトップとして働いているのが、ルザミーネ代表、リーリエちゃんのお母さんなの」

「ルザミーネは、とても愛が深いから。ポケモンに対してもそう」

「へ〜。やっぱりすごい人なんだな、リーリエのお母さんって」

「そう……ですね」

 

なんだかんだ言っても母親のことを褒められて嬉しいのか、リーリエが微笑む。と、ドアが開き、部屋にルザミーネとザオボーが入ってくる。

 

「大丈夫?メタモンが逃げ出したって聞いたのだけど」

「もう遅いです。みんなと一緒に、もう捕まえちゃいました」

 

一転ツンツンした態度に変わるリーリエ。反抗期だろうか、その様子にザオボーとルザミーネを除く大人組が笑ってしまう。そんな娘の態度は御構い無しと、ルザミーネがリーリエを抱き寄せる。

 

「そうなの?偉いわリーリエ。ありがとう」

「いや、だから、恥ずかしいって言ってるのに」

 

必死に逃れようとするリーリエに、放す様子が全くないルザミーネ。なんだかほっこりとした気持ちに、一同がなる。

 

「ところで、どうやって捕まえたの?メタモンが変身してたら、こんなに早く見つかるとは思えないのだけれど」

「ふぅ。サトシのおかげです」

 

なんとか抜け出したリーリエが、ルザミーネに背を向けながら答える。と、ルザミーネの視線がすぐさまサトシに向けられる。

 

「サトシ君の?どういうことなの?」

「えっ、いやぁ、それは……」

「サトシは、波導が見えるんです」

 

どう説明したものかとサトシが口ごもると、何やら誇らしげにマオが答える。

 

「波導?それってルカリオが感知できる、あの波動のこと?サトシ君、詳しく聞かせてもらっても、いいかしら?」

「は、はい」

 

急に距離を詰めてくるルザミーネに少し驚きながらも、サトシは説明を始めた。

 

自分がかつて波導使いと呼ばれる英雄、アーロンと同じ波導を持っているらしいこと。

 

その弟子だったルカリオが時を超え、自分と共に来てくれたこと。

 

そして今、その波導を使いこなす訓練をしていること。

 

ややこしくなりそうだったので、ミュウや世界の始まりの樹については、結局説明しないことにした。

 

 

「波導使い……凄いのね、サトシ君って」

「そんなことないですよ。今だって、まだまだ使いこなせてないし」

「いいえ、それはとても素晴らしい力よ。その力なら、見つけにくいポケモンを探すこともできるわ。保護活動では、凄く力になるわね。ますます欲しくなっちゃう」

「え?」

 

思わず声を漏らすサトシ。なんだかルザミーネの雰囲気が違うような……

 

「お母様?」

「……あ、ごめんなさいね、変なこと言って」

「あ、いえ」

「じゃあ私はまだ仕事が溜まってるから、戻るわ。みんな、ゆっくりと楽しんでいってね」

 

手をヒラヒラ振りながら部屋を出るルザミーネとザオボー。サトシを睨みつけながら出て行くザオボーはともかく、ルザミーネの視線も最後までサトシに向けられていたのは、気のせいだろうか……

 

その後、ポケモンたちとの触れ合い、バーネット博士やビッケとのお話、そしてポケモンのお世話の手伝いなど、様々なことを楽しんだサトシたちは、エーテルパラダイスから帰ったのだった。

 

しかし誰も思ってもいなかった。

 

何か大きな変化が、起ころうとしているなんて……

 

 

 

「ねぇ、ザオボー」

 

「代表?」

 

「やっぱり、ほしぐもを彼に預けて良かったわ」

 

「な、何故です?」

 

「彼がいれば、きっと現れるはずよ。私の愛しい愛しい、あの子たちも……」

 

「はぁ……それにしても、良かったのですか?」

 

「何がかしら?」

 

「リーリエ様のことです。このままポケモンと触れ合っていては、いずれあの時の記憶も」

 

「ええ、そうね。でも、問題はないわ。あの子には、止めることなんてできないもの」

 

「して、グラジオ様のことは?」

 

「そうね……ほっておいてもいいわ。少なくとも今は、心配する必要はないわ。それにしても、果たしてあの子に従えられるかしら。あのシルヴァデイを、ね」

 

 

…………… To be continued




アニメもシリアスになって来たけど、多分こっちはさらにシリアスに……

そんなこんなで次回予告!



いきなりほしぐもテレポート!?

たどり着いた先で待ち受けていたのは、グラジオ

えっ、ほしぐもがどうかしたのか?

待て待て、UBキラー?シルヴァデイ?

どういうことなのかわからないけど、バトルなら受けて立つぜ!

って、待てよおい!ルガルガン!

次回
赤き眼差しとビーストキラー
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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赤き眼差しとビーストキラー

ここから先はアニメに近いけど完全なパラレル展開になりそうです

まぁもう手持ちとか色々と考えるとパラレルも何もって感じですけどね笑

どうぞ


「気持ちいいか、ピカチュウ?」

「チャ〜♪」

 

満面の笑みを浮かべるピカチュウに、サトシの頬も緩む。綺麗な晴れ空の下、朝の特訓を終え、サトシがピカチュウの体を洗っている。既に洗い終わったモクローは毛並み、というか羽毛がふかふかになり、お昼寝中。ふかふかなのが気持ちいいのかロコンが顔をモクローの羽にうずめている。

 

少し離れた場所では、ゲッコウガとルカリオが自主トレをしている。ゲッコウガにとってはかげぶんしんで撹乱するという戦法が使えない相手に対する対策ができ、ルカリオにとっては自身を上回るスピードを持つ相手との対戦の経験ができる。実力の近い両者は、よくバトルをする様になった。

 

「さて……これでピカチュウは終わりっと。次は、っとと!」

 

ピカチュウを水を張ったタライから出し、体を拭き終えたサトシ。次は誰の番かと思ったところで、ルガルガンがサトシの顔に身体を寄せる。イワンコの時から何度も経験した岩を擦り付けられる僅かな痛みを感じながら、サトシがルガルガンを撫でる。

 

「お前もやってほしいのか?」

「ルガゥ!」

「わかった。なら、次はルガルガンな」

『いわタイプなのに水浴びが好き、そんなルガルガンもいると。データアップデートロト!』

 

真夜中とも、真昼とも違う独特の毛並み。未だ世界に一体しかいない黄昏の姿。タテガミの様な首回りの毛も、夕焼け空の様な身体の色も、エメラルドの様に輝く緑の瞳も。どれをとっても、ルガルガンの見た目は立派だ。

 

「ほんと、かっこいいぜ、ルガルガン!」

「ガウッ!」

 

誇らしげに返事するルガルガン。その姿を見ていると、ふとサトシは進化した時のことを思い出す。助けてくれた二体のルガルガン。ライチさんの真昼のルガルガン、そしてグラジオの真夜中のルガルガン。

 

特にグラジオの方はZ技の特訓までしてくれた。そのおかげで、ルガルガンと一緒に、ワールズエンドフォールを完成させることができた。あの時は負けちゃったけど、あれからもしっかり特訓している。

 

「お前の成長、グラジオに見せてやりたいぜ」

「クゥ?」

 

空を見ながらグラジオのことを考えるサトシ。

 

瞬間、謎の浮遊感に襲われる。

 

「へ?」

「ピィカ?」

「ガゥ?」

「ガックゥ〜♪」

 

いつの間にか足場はなく、宙にいる。

 

またまたほしぐもテレポートである。

 

しかし地球には重力という力があるわけで、

 

「どわぁぁっ!?」

 

ほしぐも以外、仲良く地面に落ちていく。

 

 

 

「いてて……ん?」

 

思っていたほど強い衝撃ではなかった。クッションでもあったのだろうかと下を見る。見なきゃよかった……なんで現実逃避を始めてしまいそうだ。

 

「カイッ!」

 

大きな体に大きな顎。ギロリと見上げてくるたくさんの目。

 

カイロスの群れの上に、サトシたちは着地していた。

 

「どわぁぁっ!?」

 

慌てて飛び降りるサトシたち。怒りの形相のカイロスたちがゆらりとこちらに歩み寄ってくる。本格的にピンチではなかろうか……サトシたちが冷や汗を流しながら全速前進で駆け出そうとしたその時、

 

「エアスラッシュ!」

 

刃のような真空波が飛んできて、カイロスたちを蹴散らす。大きなダメージを受けたのか、カイロスたちが一目散に逃げていく。技の飛んできた方向にサトシが視線を向けると、いつか夜に見た仮面のポケモン、そしてクラスメートと同じ綺麗な金髪。

 

「まさかまたお前に合うとはな……お前とは何か、不思議な運命で結ばれているのかもしれないな」

「グラジオ!?」

 

つい先ほどまで考えていた相手、その張本人が立っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ど、どうしてグラジオがここに!?」

「いや、そもそもお前が突然ここに来たんだが?」

「えっ、あっ!そっか、ほしぐものテレポート……」

 

ちらりと隣を見ると、ほしぐもが無邪気に笑っている。しょうがないなぁ、なんて思いながらほしぐもを抱き寄せるサトシ。と、グラジオが険しい表情をしている。

 

「グラジオ?」

「サトシ……そいつは、」

「グルォァ!」

 

突然、サトシの目の前までグラジオの隣にいた仮面のポケモンが迫る。その視線の先にはほしぐも。怯えた様子のほしぐもを、まるで獲物を狙う獣のような鋭い目で射抜いている。咄嗟にほしぐもを庇うように抱き寄せる。

 

「な、なんだ?」

「落ち着け」

 

グラジオが制止の声をかける。少し距離を開けたものの、そのポケモンはまだ唸り声をあげ、ほしぐもを見つめている。グラジオも、サトシを見る。その視線からは驚き、戸惑い、そして怒りに似たものが見て取れる。

 

「サトシ、そいつは何だ?」

「ほしぐもって言うんだ。この前森の中で見つけて、俺が世話してる」

「ほしぐも?」

「リーリエが付けてくれた名前なんだ。可愛いだろ?」

「リーリエが?会わせたのか!?」

「えっ、いや、まぁうん」

 

拳を握るグラジオ。強い怒りを抑えるように、目を閉じ何度か深呼吸をしてからサトシを見る。

 

「サトシ、そいつはウルトラビーストだ」

「あぁ、バーネット博士も「そして!」……?」

「ウルトラビーストは、この世に災厄をもたらす存在だ!」

「……えっ」

 

 

 

 

丘の上に腰掛けるサトシとグラジオ。人の住む場所から割と離れた場所にあるこの丘は、絶好の場所だとグラジオは話す。

 

「本当なら、人前にあまりこいつを出したくないからな」

 

隣に腰を下ろすポケモンの頭、もとい仮面を撫でながら、グラジオが語る。

 

「どうして?」

「こいつは、人に造られたポケモンだからだ」

 

人に造られたポケモン。例えばそれは今では宇宙で活躍していると言われるバーチャルポケモンだったり、或いはこの世で最も珍しいポケモンの遺伝子を用いて造られた最強のポケモンだったり、果ては古代に生きたポケモンを現代に蘇らせ兵器として改造したものだったり。旅の中で、サトシは何体か似たような経緯を辿ったポケモンと会ったことがある。

 

「人に造られたって、どうして?」

「こいつの本来の名前はシルヴァディ。俺がこいつをタイプ:ヌルと呼んでいるのは、研究の名残だ」

「研究?」

「こいつは、ウルトラビーストと戦うために作られた。伝説に語られるある神を参考に、あらゆる状況、あらゆる敵に対応できるようにと考えられていたのが、タイプ:フルプロジェクト」

「あらゆる状況に対応する神……もしかして……」

「どうした?」

「あ、いや、何でもないよ。それで?」

「しかしある時、タイプ:フルプロジェクトは凍結することになり、封印された状態のこいつは、タイプ:ヌルというコードネームが与えられた」

 

ウルトラビーストと戦うため。そのためだけに造られたポケモン。そんな技術をグラジオ一人が持っている筈がない。おそらく大きな組織が造ったのだろう。そしてその組織に、サトシは心当たりがあった。

 

「……エーテル財団」

「!知ってたのか?」

「いや、何となく。この前、ルザミーネさんに会ったから」

「母さんに!?ほしぐもは?見られたのか!?」

「えっ、う、うん」

「っ!そうか……まだ手を出す気は無いということか。だが……」

 

何やら緊迫した雰囲気のグラジオに、サトシが首を傾げる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「グラジオ?」

「お前には教えた方が良さそうだな。リーリエがどうしてポケモンに触れなくなったのか、聞いてるか?」

「いや……本人も覚えてないって」

「それほどショックだったのかもしれないな……リーリエがポケモンに触れなくなったのは、ウルトラビーストが原因だ」

「えっ?」

「リーリエは、ウルトラビーストに襲われたんだ」

「なっ!?」

 

エーテルパラダイスにある家に住んでいた頃の話、突然現れたそのウルトラビーストがリーリエを捕らえてしまうのを、グラジオは目撃した。目撃した、だけだった。

 

「怖くて足がすくんでしまったんだ。助けられなかった!」

「……グラジオ」

 

拳を強く握るグラジオ。それだけで、どれほど悔しい思いをしているのかがわかる。

 

「だから俺は旅に出た。こいつを連れて。強くなって、今度こそ、リーリエを守り抜いてみせる。もうあんな怖い思いは、絶対にさせない!」

 

やっぱり、優しい人なのだとサトシは実感する。冷たい態度や言葉も、本当は全部リーリエのことを想ってのことなのかもしれない。

 

「やっぱり、いいお兄さんなんだな、グラジオって」

「……俺は全てのウルトラビーストを倒す。奴らはこの世界にとって、危険な存在だからな。ほしぐもだって、例外じゃない」

「そんなことない!」

「何故そう言い切れる?」

「ほしぐもは、俺がきちんと育てるって約束したから。カプ・コケコたち、そしてソルガレオとルナアーラと」

「なっ、伝説のポケモンにだと!?」

「う、うん。夢の中で、だけど」

 

突然至近距離から自分の顔を覗き込んでくるグラジオに、流石のサトシも戸惑う。何かを見極めようとしているのか、グラジオの視線がサトシから外れる気配はない。

 

「お前は何者なんだ?」

「へ?」

「何故カプ・コケコはお前にZリングを与えたんだ?何故カプ・テテフはお前とお前のルガルガンを気に入ったんだ?あのゲッコウガは一体どうしてあんな力を持っているんだ?何故ソルガレオとルナアーラ、伝説のポケモンがほしぐもを託したんだ?」

「ちょ、ちょっと待って!そんなに一遍に聞かれても、答えられないって」

 

鼻同士が触れそうなほどに近くまで詰め寄ってきたグラジオの体を少し押し返しながら、サトシが待ったをかける。流石に冷静さを取り戻したのか、グラジオも「すまない」と言って体を離す。

 

「グラジオ、バトルしてみないか?」

「バトルだと?」

「俺のことを知りたいなら、バトルを通すのが一番だ。やろうぜ!」

「ふっ……本当に不思議なやつだな。いいだろう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「行くぜ、ルガルガン。お前の成長、見せてやろうぜ!」

「ルガゥ!」

 

「戒めの仮面纏いし聖獣、ここに!シルヴァディ!」

「シヴァ!」

 

ルガルガンを見下ろすシルヴァディ。同じ四足歩行をするポケモンとはいえ、シルヴァディの方が一回り以上体が大きい。しかし臆することなく、ルガルガンは強い視線でシルヴァディを見ている。

 

「いい目をしてるな、お前のルガルガン」

「へへっ、サンキュー。お前のルガルガンも見てるんだ。特訓して強くなった成果、見せてやるぜ!」

 

トレーナー同士が火花を散らす。審判のいないバトルゆえ、コールはない。バトルを見守る観客もいない。互いに相手を観察し、呼吸を整える。バトルのスタートを切るのは—————

 

「ルガルガン、いわおとし!」

「シルヴァディ、エアスラッシュ!」

 

同時に動く二体のポケモン。飛び上がり、尾を振り岩を飛ばすルガルガン。頭のトサカの部分から真空波を斬撃のように飛ばすシルヴァディ。二つの技が空中でぶつかり合い、弾ける。

 

「攻撃力を上げるぞ。つるぎのまい!」

 

シルヴァディの周りに剣が現れ、囲むように回り出す。攻撃力を高めるシルヴァディ。地面に降り立ったルガルガンは、すぐ様駆け出す。

 

「アクセルロック!」

 

シルヴァディが反応するよりも早く、ルガルガンの攻撃が体の側面に炸裂する。大きく弾き飛ばされるシルヴァディ。あれだけの体格差でここまでダメージを与えたことに、僅かにグラジオが目を見開く。

 

「成る程。更に力をつけたらしいな」

「もちろん。トレーニングは欠かさずやってるからな」

「面白い。ブレイククロー!」

 

前足に力を込め、ルガルガン目掛けて接近するシルヴァディ。振り下ろそうとしたその瞬間、

 

「今だ!かわしてかみつく!」

 

素早く移動し、シルヴァディの背後を取る。無防備な背中に噛みつこうと、ルガルガンが仕掛ける。

 

「甘い!ダブルアタック!」

 

シルヴァディがトサカと尾に力を込める。そのまま振り向かずに、尾の一撃でルガルガンを弾く。

 

「畳み掛けるぞ!エアスラッシュ!」

「ルガルガン、アクセルロック!」

 

ルガルガンに追い討ちをかけようと、シルヴァディが真空波を飛ばす。しかし着地してすぐさまアクセルロックを繰り出すルガルガンは、その攻撃をかわし、逆にシルヴァディに攻撃を決める。

 

「攻撃は最大の防御!ルガルガン、いわおとし!」

「ダブルアタック!」

 

攻めの手を休めず、飛び上がりながら岩を打ち出すルガルガン。しかしシルヴァディは怯むことなく突っ込んでくる。相当な硬さなのか、技を受けながらも、仮面が割れることなく、むしろシルヴァディを攻撃から守っている。

 

ルガルガンの元に辿り着いたシルヴァディの二段攻撃が炸裂する。大きく飛ばされたルガルガンは近くの池に叩き落とされてしまう。

 

「ルガルガン!」

 

水面から顔を出すルガルガン。ずぶ濡れになり、座り込んでいる。どこか怪我でもしたのだろうか、サトシが心配していると、

 

「ルガゥル!」

 

突然ルガルガンが大きく吠える。ギンッと更に鋭い視線でシルヴァディを見つめている。視線には本気の怒りが込められ、その瞳は美しい緑色から、真夜中の姿と同じ、深い赤色に変化している。

 

「ルガルガン?」

 

サトシが駆け寄ろうとすると、一瞬でルガルガンの姿が消える。

 

「ガゥル!」

「シヴァ!?」

「「なっ!?」」

 

直後、ルガルガンのアクセルロックがシルヴァディを弾き飛ばした。先ほどと比べても威力が上がっていて、今度はシルヴァディの巨体が地面に倒れるほどだった。

 

「急に力が……ブレイククロー!」

 

振り下ろされたシルヴァディの一撃をかわすルガルガン。そのままその腕に強くかみつく。

 

「振りほどけ!ダブルアタック!」

 

シルヴァディの渾身の力を込めた攻撃が決まり、ルガルガンも思わず噛みついていたシルヴァディの腕を離す。

 

地面に倒れてもすぐ立ち上がり吠えるルガルガン。いつもの子供のような無邪気さや、仲間想いの優しさは見えず、まるで闘争本能の塊のようだ。

 

「まさか、暴走してるのか?」

 

「この感じ……まるで……」

 

その様子を見たサトシの脳裏に、一体のポケモンが浮かぶ。かつてライバルのポケモンで、のちに自分の仲間になったあの猛火の子。心優しいあのポケモンは、時に湧き上がる力を抑えられずに暴走してしまった。その時の姿と、今のルガルガンの姿は、とてもよく似ている。

 

離れた場所にいるピカチュウが、泣き出しそうなほしぐもを必死にあやしている。シルヴァディとグラジオはルガルガンを止めようとしてくれている。

 

「俺がルガルガンのトレーナーだ。俺が止めなきゃ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

飛びかかってくるルガルガンをどう止めようか、思考を巡らすグラジオの目に入ってきたのは、その突撃を身一つで受け止めるサトシの姿だった。

 

「サトシ!」

 

すぐにシルヴァディで助けようと指示を出そうとするが、

 

「大丈夫だ!」

 

サトシから制止の声が飛ぶ。見ると、サトシはルガルガンを抱きしめている。

 

「落ち着け、ルガルガン」

 

宥めるように優しく語りかけるサトシ。それでも暴走したルガルガンには聞こえないのか、まだシルヴァディを狙おうとしている。

 

「大丈夫だから、落ち着け。っ!?」

 

サトシを邪魔だと感じたのか、ルガルガンがサトシの腕にかみつく。痛みに顔を歪めながらも、サトシはルガルガンを離さない。

 

「ルガルガン!」

 

 

 

 

 

はっきりしているのは敵の姿だけ。仮面を纏ったあのポケモン、その姿しか目に入ってこなかった。

 

けれども、それ以外関係ない。

 

戦わなくてはいけない。

 

倒さなければならない。

 

何があっても—————

 

「ルガルガン!」

 

飛び込んできたのは自分を呼ぶ声と、口に広がる鉄の味。

 

前にもどこかで感じたことのある味、何度も聞いてきた声。それだけで、今自分のことを抑えているのが誰なのか、わかった。

 

すっ、と頭が冴えていく。

 

まるで認識できなかったはずの周囲の様子がわかってくる。一度目を閉じ、もう一度開くと、大好きな主人が心配そうに覗き込んでくれている。

 

 

「大丈夫か、ルガルガン?」

「ルゥガ」

「うん。なら、良かった」

 

一度目を閉じ、開かれたエメラルド色の瞳は、申し訳なさそうにサトシを見る。口をサトシの腕から離し、傷を優しく舐める。元のルガルガンに戻ったらしい。

 

「サトシ、大丈夫なのか?」

「平気だよ、ってて」

「まったく、無茶をする。見せてみろ」

 

しゃがみこみ、サトシの腕の傷を診るグラジオ。持っていた水で傷を洗い、ポケットからハンカチを取り出し、簡易的な包帯がわりにし、サトシの傷の手当てをする。

 

「これでとりあえずはいいだろう」

「サンキュー。グラジオ、手際いいな」

「シルヴァディはポケモンセンターに連れていけないからな。傷の手当てにはもう慣れた。……それで、どうする?」

「?」

 

グラジオの質問の意図がわからず、首をかしげるサトシ。先ほどまでやっていたことを忘れているのだろうか。グラジオが小さく息を吐いてから答える。

 

「バトルの続きのことだ。その怪我で続けるのか?」

「やる!こんなの全然へっちゃらだし、またいつバトルできるかわからないし」

 

途端に飛び上がるように元気になるサトシ。単純というか純粋というか。この僅かな時間で、確かにサトシのことを色々とわかってきた気がする。

 

「では、続きを」

「ああ。始めようぜ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「一撃で決めさせてもらう!シルヴァディ、つるぎのまい!」

「ルガルガン、気合い入れてくぞ!」

 

更に攻撃力を高めるため、再びつるぎのまいを使うシルヴァディ。身を屈め、今にも飛びかからんとしているルガルガン。勝負が決まるのは、一瞬。その一瞬を逃すまいと、

 

「行くぞ、ブレイククロー!」

「アクセルロック!」

 

シルヴァディよりも早く攻撃を決めようと動いたルガルガン。しかしその動きを読んでいたのか、シルヴァディは片足でその攻撃を受け止める。止まってしまったルガルガンに向けて、シルヴァディの渾身の一撃が炸裂する。

 

地面に叩きつけられ、サトシの側まで地面を跳ねたルガルガンは、目を回してしまっていた。

 

「勝負あったな。戻れ、シルヴァディ」

 

グラジオがシルヴァディをプレミアボールに戻す。サトシもルガルガンに駆け寄る。

 

「ルガルガン?」

「ガゥ」

「お疲れ。よく頑張ったな」

 

途中の暴走のこともあり、浮かない表情のルガルガンだったが、サトシに撫でられるのが気持ちいいのか、目を細め、笑顔を浮かべている。

 

ご機嫌な様子のルガルガンに、ほしぐもやピカチュウも嬉しそうにしている。

 

「お前がどんな奴か、なんとなくわかってきた気がする」

「俺も、なんかグラジオのこと、少しずつわかってきたかも」

「お前のルガルガン、なかなか癖がありそうだな」

「うん……でも、きっとなんとかなるって。その時は、またバトルしてくれよ」

「いいだろう」

 

バトルを終え、握手を交わす二人。立ち去る直前、グラジオが振り返る。

 

「お前に頼みがある」

「頼み?」

「一つ、今日俺と会ったことは誰にも言わないこと。一つ、シルヴァディのことは黙っていること。一つ、リーリエの過去についても誰にも話さないこと。特にリーリエには話すな、いいな?」

「グラジオ……」

「約束しろ。俺は、お前を信じてるから言ってるんだ」

「……わかった」

 

背を向け、歩き出したグラジオが足を止める。

 

「……そうだ。もう一つだけ、約束してくれるか?」

「?なんだ?」

「リーリエを……俺の妹を頼む。今はまだ俺が側にいることはできない。だから、お前が守ってやってくれ」

 

真剣なグラジオの声。きっと本当はそばで見守ってやりたいのだろう。グラジオの(リーリエ)への、強い想いを感じ取ったサトシ。

 

「約束するよ。きっと守る」

「……ふっ。またな」

 

遠ざかるグラジオの後ろ姿を見送ったサトシ。グラジオとの約束を胸に、サトシもまた帰ろうと足を進め——

 

「ってあれ!?どうやってここから帰るんだ!?」

 

頼みのほしぐもは眠ってしまい、テレポートも使えない。慌てふためくサトシたちをよそに、気持ちよさそうに、無邪気な寝顔を見せるほしぐもだった。

 

 

 

ちなみに、サトシたちは強い帰巣本能を持っているルガルガンのおかげで、なんとか無事に帰ることができた……その日の夜に

 




これから2週間ほど音信不通になります

というのもちょっと日本を離れるのです

なので更新はお休みします


あ、一応次回予告


今日はみんなでお泊まり会!

バーネット博士も一緒に、ゲームに料理に盛りだくさん!

そんな中、夜中に一人外に出るリーリエ。

ルザミーネさんがどうかしたのか?


次回、
お泊まり、訳あり、リーリエに
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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お泊まり、訳あり、リーリエに

生きて帰ってきました

やっとウルトラサンを始めたところです笑

そう言えばプレゼントのイワンコ女の子だったけど、アニメだと絶対男の子だよね、あれ?

まぁ、そんなあれはあれとして、お話どうぞ〜


その日はほしぐもの定期検査の日だった。

 

スクールを終え、ククイ博士の家に戻ったサトシたちを出迎えたのはバーネット博士。念のためにと、健康状態やウルトラオーラについてのデータを収集している。

 

「もう少しだから、ちょっと待っててねほしぐも」

「ガックゥ」

 

特に悪意がないことを理解しているのか、ほしぐもも大人しく協力している。というよりも、終わった後のご褒美の金平糖が待ち遠しいだけなのかもしれないが。

 

「これでよしっ。終わったわよ」

「どうでした?」

「特に異常は無さそうね。健康状態も良さそうだし、何も心配はないわ」

「そうですか。お疲れ、ほしぐも」

「金平糖、用意してありますよ」

「ク〜♪」

 

リーリエが差し出す皿に乗っている金平糖をすぐ様食べ始めるほしぐも。満面の笑みを浮かべながら食べる様子は、中々微笑ましく思える。

 

「ところで、リーリエちゃん」

「はい?」

「こっちに来る直前にルザミーネと会ったんだけど、何か溜息ついてたわ。原因に心当たりある?」

「うっ……それは、その……」

「リーリエ?」

 

ギクリと体を震わせ視線を逸らすリーリエに、バーネット博士が首をかしげる。一方サトシとククイ博士はというと苦笑している。

 

「何かあったの?」

「ええと、あったといえばあったのですが……」

 

 

 

 

スクールにいる間、リーリエは何やら視線のようなものを感じていた。誰かにずっと見られているかのような、そんな奇妙な感覚に。

 

まさかストーカー?それとも別の何か?

 

誰かに相談するべきか悩んだ結果、ルカリオを連れているサトシに相談してみることにしたのだった。快く話を聞いたサトシは、ルカリオに頼んで周囲の波導を探ってもらったところ……

 

『この男が犯人だ』

『えっ?』

 

ルカリオが指差している相手を見て、サトシ達の表情がひきつる。唯一面識がなかったルカリオは不思議そうに首を傾げている。

 

『な、にをしているの、ジェイムズ?』

『お、お嬢様……こ、これはですね……』

 

茂みに隠れていたジェイムズの手にはビデオカメラ。ご丁寧に軽い変装までしているジェイムズを見るリーリエの表情は笑顔ではあったものの、どこか表現できない冷たさが見え隠れしていた。

 

 

「それでジェイムズにお話を聞いてみたら、何でもお母様の指示だったそうで」

「ルザミーネの?」

「はい」

「それで、リーリエがどういうつもりなのかってルザミーネさんに電話して……」

 

 

 

『もう!ジェイムズに変なことをさせないで!』

『だって、あなたとお話しする機会も全然ないし、学校とかククイ博士の家でどう過ごしてるのか、気になるじゃない』

『だからといって、隠し撮りさせる理由にはならないでしょ』

『そんなに怒ると可愛いお顔が台無しよ。ねぇ、サトシくん?』

『えっ、俺?』

『折角だし、サトシくんのお話も聞かせて欲しいわ。リーリエのこと、それからほしぐもちゃんのことも』

『え、えーと』

『もういいです!』

 

 

「で、リーリエがそのまま電話を切っちゃったんです」

「だってお母様、反省するそぶりもないんですもの。それにサトシにまで」

「そうだったの」

 

ふんっとそっぽを向きながらご機嫌ななめ気味に話すリーリエ。何やら納得がいったようで頷くバーネット博士。リーリエに何か伝えようと口を開き———

 

———トントン

 

と、ここで扉をノックする音が。

 

「おっ、来たな」

 

ククイ博士が玄関へと向かう。ドアを開けると、

 

「「「「お邪魔しま〜す!」」」」

 

と元気な声。外にはマオたち四人が少し大きめの荷物を持って集まっている。

 

「あら?みんなお揃いね」

「バーネット博士!アローラ!」

「アローラ。それで?この賑やかな感じは何かしら?」

「今日は博士の家でお泊まり会なんです!」

「お泊まり会?」

 

ニッと笑って手荷物カバンを見せるマオとスイレン。なるほど、お泊まりセットならば、普段より荷物が多いのも頷ける。

 

「みんな来たことだし、私は帰ろうかしら」

「えー!折角だから、バーネット博士も一緒にどうですか?」

「「えっ」」

 

思わず反応してしまったのはバーネット博士とククイ博士。一方生徒組は既にそれが決定事項かのように盛り上がっている。

 

「えーと、いいのかしら?」

「君が迷惑でなければ俺からも頼むよ。みんな、楽しそうだしな」

「そう?なら、お邪魔するわ」

 

「んん?」

 

ふと二人の博士が話しているのを横目で見るマーマネ。心なしかククイ博士の表情がいつもより優しい気が……

 

「ふーん」

 

思わずニヤニヤしてしまうマーマネ。他の誰も気づかなかったのは幸いだったのだろうか。

 

こうして、二人の博士を含む、大お泊まり会が始まるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「リーリエがいつも寝てるのってどこ?」

「私はあちらのロフトを使わせていただいてます」

「サトシは?」

「地下なんだ。元々物置だったんだけどね」

「へ〜」

 

改めてじっくりと家の様子を見るマオたち。いかにも生活感溢れるリビングに、トレーニングマシンがいくつも置かれている研究室。物置の名残で広くはないサトシの部屋、そしてリーリエのロフト(流石に男子は止められたが)。ポケモン達もトレーニングマシンを試したり、イワンコが使っていたおもちゃで遊んだりと、楽しそうだ。

 

「それにしても、やっぱりオーキド博士のとこと比べると小さいね」

「ほっとけ」

「オーキド博士?あのカントーにある?行ってきたの?」

「はい!修学旅行で。舞踏会にジムバトルも!」

「凄いわね、その修学旅行。あとで詳しく聞かせて」

 

さてさてみんなで集まって何ができるだろうか、と考えた結果———

 

『それじゃあいくロト!全力ポーズ、ワンツースリー!』

 

全力ポーズワンツースリーとは、草、炎、水のZ技のポーズを出題に合わせて三連続でとるゲームである。ポケモンスクールでは、Z技を効率よく覚えるための遊びとしても有名である。徐々に早くなるお題、それに合わせ瞬間的な判断や反射神経までもが重要になってくる。

 

「それじゃあ、男子チーム対女子チームで、勝った方が負けた方に何か一つ言うことを聞かせられるってことでどうだ?」

「いいよ!絶対負けないからね!」

 

やる気満々の両チーム。二人の博士を加え、いざ、ゲームスタート!

 

『いくロト!まずは、草、水、炎!』

「「「「「「「「草、水、炎」」」」」」」」

 

出だしは順調、ロトムがペースを上げながらお題を出し続ける。

 

最初にペースに追いつけなくなって間違えたマーマネに続き、スイレンが脱落。ついついポケモンの動きにつられてしまったようで、がっくりとうなだれている。

 

『草、草、草!』

「「「「「ブルームシャインエクストラ!」」」」」

「草、草、草!って、あっ!」

「サトシ、アウト!」

「そうだ。三つ揃ったら、技名だったよな。あっちゃー」

 

ぽりぽりと頬を書きながらサトシが座る。今まで何度もZ技を繰り出したことのあるサトシだったが、それでもやはりゲームとなると難しいようだ。

 

『どんどんいくロト!』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

数分後……

 

リビングにはタオルを持つカキとバクガメス。そしてその側ではサトシ達が体を拭いていた。人型のルカリオとゲッコウガは、ポケモン達の体を拭いて上げている。

 

『暑くなるのはわかるが、燃えすぎだな』

「コウガ」

「本当にすまない……」

 

 

サトシが脱落して少しあと、炎が三つ揃ったその時のこと。あまりにも熱中してしまったカキが、まさかの本物のダイナミックフルフレイムを室内で放ってしまったのだった。

 

咄嗟にゲッコウガとルカリオがそれぞれの技で威力を削いだため大惨事にはならなかったものの、サトシ達は真っ黒になってしまったのだ。

 

『しかし、面白い遊びがあるのだな』

「あれ?ルカリオは知らないんだっけ?この前のお昼休みにやってたと思うけど」

『ああ。その時は精神統一をしようと思って、スクールの屋根の上で瞑想していた』

「えっ?屋根の上?」

『ああ。あのてっぺんにある尖った柱の先端でバランスを取る。気を落ち着かせ、体をしっかりとコントロールできていないと、落ちるがな』

 

なんてことはないように語るルカリオに、流石の博士コンビも目が点になっている。それはどこの仙人ですか、とでも言いたくなってしまうような授業内容である。

 

「そういえば、普段ゲッコウガはどんな修行してるの?」

「コウ?」

「ん?俺が知ってるのは確かスクール付近の森の中をどれだけ早く駆け抜けられるかとか、プールの水の上を走り続けるとかかな。でも、ルカリオとバトルしてることも多いよな」

「コウガ」

「へぇ、そんな修行を……って、水の上?」

 

こちらは既に見たことあるククイ博士はともかく、バーネット博士は色々とキャパオーバーらしく、首を傾げたままである。

 

「それじゃあ、さっきのゲーム、女子の方が多かったから、男子はあたし達の言うことを聞くってことで!」

 

ビシッとサトシ達を指差すマオ。ウンウンと頷くスイレンに、楽しそうに微笑むリーリエにバーネット博士。

 

「まぁ、仕方がないな」

「結局残ったのって博士だけだもんね。カキは失格負けだけど」

「うっ、それは本当にすまない」

「まぁまぁ。それで、俺たちは何をすればいいんだ?」

 

悔しがるマーマネにしょんぼりしているカキ。苦笑するククイ博士をよそに、サトシがマオ達に問いかける。

 

「じゃあ、今度買い物に付き合ってね」

「荷物持ち、よろしく!」

 

いい笑顔で答えるマオとスイレン。リーリエも言葉こそ発していないが、かなり乗り気らしい。

 

「あらあら。しっかりね、男の子」

 

楽しげにウィンクするバーネット博士。自分たちよりも年上の大人なのに、どこか親近感が湧くほどにまで、彼女は親しみやすい。大人と子供、というよりもどこか家族と接しているような錯覚すら覚える。

 

「……家族……」

 

小さく呟いたリーリエの声は、誰の耳にも届かなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さてと、そろそろ夕飯の用意をしないとね」

 

ソファに座り、談笑していたサトシ達。と、時計を確認したバーネット博士が立ち上がる。慌てて家主のククイ博士が立ち上がる。

 

「いや、それなら俺が」

「いいの。今日1日お世話になるんだし、やらせて頂戴」

「まぁ、君がそういうなら」

 

「あっ、あたし手伝います!」

「なら俺も!」

「わたくしもお手伝いします」

 

すぐさま立ち上がったのはアイナ食堂が看板娘のマオ、居候中のサトシとリーリエだった。比較的料理する機会が多い3人にバーネット博士の手伝いを任せ、残りのメンバーは散らかってしまった部屋の片付けをすることにした。

 

『みんな、頑張るロト!』

『お前は手伝わないのか?』

『僕はタイマー係。料理番の方を手伝うロト!』

 

キッチンの方へと飛んでいくロトムを見送るルカリオ。床に散らばった本を拾いながら、ゲッコウガが声をかける。

 

「コウガ」

『ああ、手早くすませよう。そうすればサトシの方も手伝えるしな』

「ゲッコウ」

 

「クロ!」

「コォン」

「ニャブ」

「ルガゥ」

「ピカ!ピカピカチュウ!」

 

他のサトシのポケモン達も手伝いに乗り気なようだ。ピカチュウの指示のもと、サトシのポケモン達が片付けに取り掛かる。触発されるように、他のポケモン達も動き出す。

 

「みんな、偉いね」

「こりゃ、俺たちも頑張らないとな」

 

ポケモンとククイ博士達の活躍により、みるみる部屋が綺麗になっていく。ものの数分で、部屋は元どおり、どころかそれ以上にピカピカになっていた。

 

 

一方料理組はというと、

 

「マオもリーリエも、すごく手馴れてるわね」

「えへへ、ありがとうございます」

「二人は流石だなぁ」

「あら、サトシも中々よ。十分経験者と言えるわよ」

「ほんとですか?ありがとうございます!」

 

バーネット博士がメインを、3人がそれぞれ違うサイドメニューを作っている。思っていたよりも頼もしい子供達に、バーネット博士がさらに楽しい気持ちになる。

 

「リーリエ、どんな調子?」

「はい。もうあと少しで野菜を切り終えます」

「そう。なら私も手伝うわ。一緒の方が早いものね」

 

言うが早いかリーリエの隣にまな板を並べ、包丁を手に取るバーネット博士。二人で並びながら野菜を切る中、リーリエがちらりとバーネット博士の方を向く。

 

「……こんな感じなのでしょうか?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ようやく料理が完成、さぁ楽しい夕食の始まり始まり〜、とは残念ながらならなかった。

 

ぐ〜、と誰かのお腹がなく。はぁ〜と溜息が口から漏れる。

 

「全く、ゴンベのやつ……」

 

リビングに輪になるように座るサトシ達。カキがちらりとゴンベの方を見る。幸せそうな表情で寝ているゴンベに、とてもではないが怒る気にはなれない。

 

「まぁ、もう少し待とうぜ。博士達、わざわざ買い物に行ってくれてるんだし」

「でも、驚きました。ゴンベにあんなスピードが出せるなんて」

 

感心したように呟くリーリエに、思わずサトシ以外のメンバーも頷く。

 

なんとゴンベは、完成したばかりの料理を、目にも留まらぬ速さで食べつくしてしまったのだった。おかげで材料がなくなってしまい、ククイ博士とバーネット博士が買い出しに出かけている。

 

「流石カビゴンの進化前」

「Z技の時のカビゴンのスピードも、驚異的だからなぁ」

 

ゴンベともカビゴンとも幾度と出会っているサトシ。あの未来都市で進化した子や、赤いバンダナの女の子の手持ちの子。自分の仲間になった子も、ポケベースで活躍する子も、本気を見せると凄いことをよく知っている。

 

と、ルカリオとゲッコウガがサトシに近寄る。入口の方ではルガルガンとニャビーが外に出て行くのが見える。

 

『サトシ、少し外に出る』

「あ、じゃあ俺も行くよ」

「?サトシ、どこか行くの?」

「すぐ外に行くだけだよ。みんなも来るか?」

 

何があるのだろうか。疑問に思ったカキ達。唯一事情を知ってるリーリエは、ロコンを抱き上げ、サトシのすぐ後をついていく。気になったカキ達がみんなで外に出てみると———

 

 

「ルガッ!ルガゥル!」

「ニャ!ニャッブ!」

 

アクセルロックで接近するルガルガン。その攻撃を後ろに跳ぶようにしながら避けるニャビー。すぐさまひのこを打ち出すが、ルガルガンがいわおとしで炎を打ち消す。飛びかかるルガルガンを、ニャビーがひっかくで迎え撃つ。

 

 

『はぁっ!』

「コウッガ!」

 

目にも留まらぬ速さで動き、拳を繰り出すルカリオ。しかしその動きを先読みしたゲッコウガが光刃を交差させるようにしながら攻撃を防ぐ。力一杯振り抜き、ルカリオの拳をゲッコウガが弾く。すかさず懐めがけて振るわれる刃を、肘と膝で挟み込むように防ぐ。

 

「これって、特訓?」

「ああ」

「みんなとても頑張り屋さんばかりで、毎晩特訓しているのです」

 

少し離れた場所ではシロンとロコンがピカチュウに素早く動くコツを教えてもらっている。シロンもロコンもピカチュウの動きを少しでも吸収しようと、集中している。

 

「本当にサトシのポケモンは凄いね」

「うん、努力家いっぱい」

「あ、あれ?モクローは?」

「あ〜、モクローは……」

 

外に持ち出していたリュックを見せるサトシ。中には気持ちよさそうに眠っているモクローが。

 

「あらら」

「朝とかもうちょっと早い時間なら起きてるんだけどな」

「ぐっすり寝ちゃってる」

「よぉし、俺も特訓だ!」

 

サトシと同じくバトル好きのカキ。バクガメスとガラガラもサトシのポケモン達を見てやる気が出ているようだ。

 

目の前で繰り広げられる特訓を眺めながら、マーマネがぽつりと一言。

 

「これ、余計にお腹空かないかな?」

 

 

さて、買い出しに行った博士組はというと、買い物袋を両手に下げ、二人並んでククイ博士の家を目指している。

 

「ごめんね、迷惑かけちゃって」

「迷惑なんてないさ。あいつらも楽しんでる」

「ならいいんだけど。今日はありがとう。子供の頃を思い出して、楽しかったわ」

 

満面の笑みの同僚に、思わずドキリ、としてしまうククイ博士。咳払いをしてさりげなく視線を逸らす。

 

「それにしても、みんないい子ばかりね。特に彼、頼もしいわね」

「えっ?」

「サトシくん。ほしぐものこともだけど、リーリエのことも。ルザミーネも気に入ってるみたいだし」

「あぁ。将来が楽しみなやつだよ」

「そうね。不思議な感じの子ね」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、無事に博士達が帰ってみると、特訓していたサトシ達は空腹で床に倒れていた。すぐに料理に取り掛かったバーネット博士。手際よく作られた特製スピード料理には、みんなが満足げな表情を浮かべていた。

 

片付けをみんなで行い、交代で風呂を使い、いよいよ寝る準備に入った。

 

ロフトで寝るガールズと、その下のリビングで寝るボーイズ。布団を敷き、みんなで雑魚寝する事にしたのだった。

 

「やっぱりお泊まりって楽しいね!」

「俺もだ。俺だけ島も違うしな」

「ねぇ、これからどうする?寝る?」

「もっとおしゃべり!」

 

修学旅行の時は部屋が完全に別だったからみんなで集まって寝る事はなかったため、なんだか新鮮な気分である。

 

「それにしても、バーネット博士の料理も美味しかったなぁ」

「うん。なんかお母さんの味って感じかな?」

「お母さんの、味……」

 

マーマネの何気ない一言で始まる家庭料理談。いわゆる、お袋の味についてみんなが語る中、リーリエはただ一人、ピッピ人形を抱きしめるだけだった。

 

 

 

夜みんなが寝静まった頃、こっそりと家を抜け出す一つの影。

 

いつかの夜のように、リーリエが海を眺める。あたりに人もポケモンもおらず、ただ寄せては返す波の音だけがあたりに響いている。

 

思い出すのはもう遠い昔にも思えるほど、懐かしい記憶。自分がいて、兄がいて、そして母がいて。父親も確か、研究者だった事は覚えている。けれども、やはりいつも一緒にいてくれた母のことの方が、鮮明に思い出せる。

 

先ほどまでの会話、自分はなんて答えたのか、それさえよく覚えていない。ただ……

 

「リーリエ」

 

ふとかけられた声に振り向く。あの日の再現ではなかろうか。そう思ってしまう。ただ違うのは、そこにいるのが彼だけではないこと。サトシとバーネット博士が、リーリエの元に歩いてきている。

 

「こんな遅くに一人で抜け出して。波の音でも聞きにきたの?」

「えっ?」

「私は好きよ、波の音。自然と穏やかな気持ちになるもの」

「俺もです。それに、なんだかとても懐かしいことも思い出します」

 

波の音に耳を傾けるように、サトシとバーネット博士が目を瞑る。それに習うように、リーリエも目を瞑ってみる。

 

静かに打ち付ける波の音は、まるで自分を包み込んでいるかのようにも思えるほど優しい音だった。隣からサトシの鼻歌が聞こえてくる。波の音と合わせると、なぜか神秘的にも聞こえ、心の奥から安らかな気持ちになってくる。でも、この曲、確か何処かで聞いたことがあるような……

 

「綺麗な曲ね。何の曲かしら?」

「オレンジ諸島を巡っていた時に知ったんです。海の神に捧げる祈りの曲だって」

「海の神?それはまた、こういう場所にはぴったりな感じね」

 

曲が終わると、サトシとバーネット博士が話しているのが聞こえてくる。そっと目を開くリーリエ。と、こちらを見ている二人と目があった。

 

「何かあったの?」

「えっ、何か、ですか?」

「リーリエ、この前みたいに難しい顔してたからさ。何か悩みでもあるのかなって思ってさ」

 

どんな小さな変化もお見通しなのだろうか。微笑みかけるバーネット博士とサトシの姿が、自分の記憶の二人と少しだけ重なって見えた。

 

「……その、家族のことで、少し」

「家族の?」

「ええ」

 

そこから、リーリエは二人に話した。

 

かつての家族のこと。

 

研究の中で行方不明となった父のこと。

 

その父の研究の後をルザミーネが継いだこと。

 

それ以来、何処かルザミーネとの関係に亀裂ができてしまったこと。

 

どうしても思い出せない、ポケモンへの恐怖のきっかけのこと。

 

グラジオのこと。

 

それはまだ13歳の少女には混乱することも多く、どうしたらいいのか、どうすべきなのか、わからなくなってしまっている。

 

「お母様のことが、時々わからなくなってしまいます」

「そう、なのか……」

 

そんなリーリエに、サトシはかけるべき言葉が見つからない。前は仲直りできる、そう言ったこともあったけれども。

 

物心ついた時から、父親のことを知らなかった。兄弟もいなくて、母だけが家族だった。でも、その母とは、とても仲のいい関係でずっと来れたと思っている。

 

母親とどううまく付き合うのか、なんてアドバイスは思いつかないし、それは何か違う気がする。

 

悩むサトシの隣でバーネット博士がくすりと笑う。

 

「リーリエはルザミーネのこと、嫌い?」

「そんなことはないです」

「彼女、忙しい身だし、結構我慢させちゃってるのかもしれないわね。時々集中し過ぎて周りが見えなくなるくらいだし。でも、あなたの事、大切に思ってるはずよ」

「そう、なのでしょうか?」

「私、この前見たのよ。リーリエの子供の頃の写真を、愛おしそうに眺めているの」

「お母様が?」

「ええ。だから、いつかちゃんと話し合ってみたら、何かわかるかもしれないわね」

 

バーネット博士の優しい笑みを見て、リーリエも温かい気持ちになる。もし、ちゃんと話し合えたのなら、こんな風に二人で笑いあえるのだろうか。

 

「きっとうまくいくさ」

「そうですね。いつか、話を」

「さ、そろそろ寝ましょ。風邪引いちゃうかもしれないから」

「「はい」」

 

並んで小屋に戻る3人。サトシとリーリエの間から、肩に手を添えるバーネット博士。その姿は血縁は無くとも、まるで一つの家族のようで……

 

(いつか……家族で……)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日。

 

お泊まりを終えマオたちは帰宅する。サトシとリーリエも、途中まで散歩も兼ねてついて行くことにした。

 

道中、ぼんやりしているリーリエ。ルザミーネと話したいと決めたが、その前にもう一人、どうしても話を聞かないといけない相手がいた。

 

(お兄様が以前連れていたあのポケモン……記憶にないはずなのに、知っているかのよう……わたくしの失った記憶と、何か関係が?)

「クゥ〜?ガックゥ〜!」

「えっ」

 

それはあまりにも一瞬のことで、誰一人とて反応できなかった。ほしぐもによってリーリエがテレポートさせられてしまった。

 

 

 

 

飛ばされた場所は洞窟の中。何故こんな場所に?辺りを見渡すリーリエ。すると、見覚えのある後ろ姿が目に入る。

 

「お兄様!」

「なっ、リーリエ!?何故ここに!?」

 

駆け寄ろうとするリーリエ。と、その前に大きな影が飛び込んでくる。仮面に覆われた顔から、リーリエを見つめる眼差し。その姿には見覚えがある。あの時、サトシのゲッコウガとバトルをしていたポケモン。

 

けれども、それだけじゃない。

 

もっと昔、ずっと前に、自分はこのポケモンを知っている。

 

脳裏に浮かぶのは巨大な影。鋭い爪に大きく開かれた口。その影は自分の方に向かってきて——

 

「あ、あぁっ、あっ」

「!リーリエ!」

 

様子がおかしい妹を心配し、グラジオが駆け寄ろうとする。しかしそれよりも早く、ほしぐもが再びテレポートを発動させる。リーリエの姿が、消えた。

 

 

 

パッ、と消えた時と同じように、リーリエとほしぐもが現れる。他のみんながほっとする中、サトシはリーリエの異変に気付いた。ガクッと膝から崩れ落ちそうになるリーリエを咄嗟に支えるサトシ。

 

「どうした?何があったんだ?」

「わ、わたくし……お兄様に会いました」

「グラジオに?」

「そこに、あの仮面のポケモンがいて……あの子、あの時もいました……忘れて、いたんです。あんな恐ろしいことを、どうして……」

 

怯えるように体が震えているリーリエ。心配そうなシロンが近づこうとするも、

 

「嫌っ!」

 

鋭い拒絶の声。自分が発した言葉、とった行動を信じられないという表情のリーリエ。シロンに向けられた手までもが震えている。

 

「リーリエ、もしかして、」

「また、なの?」

 

「そんな……わたくし……また、ポケモンに……」

 

楽しかったお泊まり会。

 

けれども、その空気は既に霧散してしまった。

 

またポケモンを恐れ、拒絶してしまったリーリエ。

 

果たして、無くした記憶で何があったのか。

 

そして再び、ポケモンに触れるようになるのか。

 

…………… To be Continued




忘れてしまった記憶。

思い出してしまった恐怖。

一体あの時、本当は何があったのか……

リーリエ、元気出せって。きっとなんとかなるって

って、あなたはっ!何をするつもりですか!

次回
リーリエの危機。聖獣、激流、覚醒す!
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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リーリエの危機。うなる激流、聖獣の覚醒!

内容的にタイトルを当初の予定から変更しました

いやぁ、流石1000回記念
内容が濃ゆいのなんの


お泊まり会の翌日。

 

あのあと、サトシに支えられるようにしながら、リーリエは家に帰った。途中で別れたみんなの心配げな表情に、なんとか笑顔を返したものの、それは誰が見ても無理をしているのは明白だった。

 

そんなリーリエの様子に、ククイ博士もバーネット博士も、無理に事情を聞き出そうとせず、ゆっくり休むように言われた。

 

一人、ロフトのソファベッドの上に座り込むリーリエ。心配そうにこちらをチラチラ見てくるシロン。その顔も優れない。サトシのロコンが元気付けようと声をかけるが、シロンはしょんぼりしたままだ。

 

「シロン……ごめんなさい」

 

乗り越えたはずだった。

 

なのに、あのポケモンを見てから、体が思い出してしまった。

 

とてつもない程の恐怖を。

 

そのために、シロンにも、ピカチュウにも触ることができなくなってしまった……

 

「一体、どうして……」

 

ポタリ———ポタリ———

 

頬を伝い落ちた涙が膝を濡らす。どうしたらいいのだろうか、わからなくなってしまう。

 

「……助けて……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

———バキッ!

 

サトシが砂の上に倒れこむ。口の中を切ったのか、口の端に血が滲む。今までにないほどに激しい怒りの表情を見せるグラジオが、サトシの胸倉を掴み立ち上がらせる。

 

「何故リーリエを俺の所に連れてきた!」

 

至近距離から睨みつけるグラジオに対し、サトシは言葉を返すことができない。ほんの少し気を緩めていたその一瞬で、ほしぐもがテレポートしてしまったのだ。

 

ほしぐものことを叱ることはできない。きっとリーリエの会いたいという願いを叶えようとしただけだったのだろう。そこに悪意はなかったはずだ。ほしぐもは悪くない。誰の責任かと言われると、それは自分の監督不行き届きが原因だ。

 

「……グラジオ、俺、」

「あいつがポケモンに触れなくなったのは、シルヴァディを見て何かを思い出したからだ!会わせるべきじゃなかった!」

「っ、それは……」

「約束したよな!妹を守ってくれって、頼んだよな!」

「……ごめん」

「っ!」

 

グラジオが力一杯掴んでいたサトシの服を離す。数歩距離を置き、サトシを見る。強く握りしめられた拳から、グラジオの怒りが見て取れる。

 

けれども、サトシの様子を見ると、相当責任を感じているのもわかる。きっと本人は約束を守ろうとしてくれたのだろう。今回のことは完全に予想外のことで、彼にもどうしようもなかったことなのだろう。

 

怒りをぶつける矛先を無くし、グラジオが何度も深呼吸を繰り返す。

 

「——っ。すまない……熱くなりすぎた」

「いや……俺の方こそ……本当にごめん」

「……あいつを頼む」

「グラジオ?」

「俺は、もうあいつとは会わない方がいいのかもしれない。守るために修行したはずなのが、あいつを傷つけてしまった……なら、いっそ……」

 

サトシに背を向け歩き去るグラジオ。思いつめたような背中に、サトシは声をかけようかと思った。けれども、

 

「……グラジオ」

 

伸ばそうとした手が、力なく落ちた。

 

 

 

住処としたモーテルに帰ったグラジオ。鍵を受け取るときに、家族が訪ねに来たと話を聞かされ、警戒心が高まる。

 

ドアを開け、部屋の中に入ると

 

「お帰りなさい、グラジオ坊ちゃん」

「貴様っ、ザオボー!」

 

ニヤリと笑うザオボーがボールを手に取り、ポケモンを出す。

 

グラジオの意識は、そこで途絶えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝。

 

スクールに着いても、リーリエの表情は浮かないまま。シロンも、少し離れた場所から寂しげにリーリエを見つめている。

 

「リーリエ、元気出して」

「きっとまたポケモンに触れるようになるって」

「僕たちもちゃーんと協力するから」

「ね、だから元気出して。あたし達も、いつもの元気なリーリエが見たいから」

「マオ……みんな……」

 

「ピカピカーチュ」

「アウッ」

「マデュデュ」

「アーマイ」

「バスン」

「コォン!」

 

 

マオ達やポケモン達からの励ましの言葉を受け、リーリエが小さく微笑む。

 

みんなの優しさが、すごく嬉しい。

 

ポケモンへの恐怖が、消えたわけじゃないけれども。それでも、こうして背中を押してもらえるのが、とても心強くて、元気が出てくる。

 

ふと、修学旅行の時にサトシが言っていた言葉を思い出す。

 

「がんばリーリエ……」

「えっ?」

「……落ち込んでばかりでは、駄目ですよね」

 

ぐっ、と両手で拳を握るリーリエ。少し元気が出たらしいその姿に、周りも思わず笑みをこぼす。

 

「わたくし、もっと、頑張ってみます!」

 

みんなで顔を見合わせて笑い合う。教室の外でも二人の大人が顔を見合わせて笑い合う。心配して様子を見に来ていたバーネット博士とククイ博士。励ましてあげるべきだろうかと悩みどころでもあったが、仲間の力で元気を取り戻したらしい。

 

「安心したわ。ひどく落ち込んじゃうものかと思ってたのだけど」

「仲間のてだすけで、リーリエも自分で立ち直ったみたいだな。ただ、」

「ええ。彼も、そううまくいけば良いのだけど」

 

二人がこっそり教室を覗き込む。リーリエの机の周りに集まる仲間達。その中にいながらも一人だけ、リーリエに声をかけられずにいる。

 

サトシの様子がおかしいことに、みんな気づいていながらも、何処かただ事ではなさそうな雰囲気に、何も聞けずにいた。

 

結局その日、「リーリエのポケモンまたまた触れるようになろう」作戦という名のもと、様々な方法を試し(リーリエも相当な回数体を張った)、みんなも協力したものの、リーリエがシロンに触れるようにはならなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後、みんなで揃って校門をくぐり外に出る。

 

「あれ?リーリエ、こっちなの?」

「はい。初めてシロンに触ることができた時のように、一緒に散歩に行こうと思いまして」

「そういえばそうだったね。あの時のリーリエ、シロンを助けようと頑張ってたもんね」

「ええ。その時のことを思い出しながら、もう一度シロンと向き合いたいと思います」

「そっか。頑張ってね」

 

リザードンにまたがり空へと飛び上がるカキ。家の用事があるからと一足先に出発するマーマネ。二人を見送ってから、リーリエはマオ達の方を見る。

 

「では、行ってきますね」

「あっ、ちょっと待った!」

 

マオに呼び止められリーリエが振り向く。キョトンとした表情を浮かべていると、スイレンがサトシの背中を押して、リーリエの前に進ませる。

 

「のわっ!?スイレン?」

「はい、お供」

「えっ?」

「うんうん。またロケット団とかに狙われるかもしれないでしょ。だからサトシが守ってあげてね」

「いや、でも」

「サトシ、命令」

「は?」

「この前の買い物に付き合うって命令は撤回します!だからサトシ、リーリエをしっかり今日1日守ること!いいわね?」

 

ビシッと指をサトシに突きつけるマオ。スイレンもウンウンと頷いている。

 

困ったような表情のサトシ。戸惑っているリーリエ。チラリと同時に隣を見ると視線が交差する。

 

スクールでの一日、結局サトシがリーリエに声をかけることは一度もなかった。リーリエも、そんなサトシの様子に、自分から話しかけられず、どこか気まずい空気が二人の間にはあった。が、

 

「では……お願いしてもいいですか、サトシ?」

「あ、うん」

 

どこかギクシャクしながら歩き出す二人。その後ろ姿を眺めながら、マオが溜息をつく。

 

「はぁ〜。これでうまく元どおりに戻ればいいんだけど」

「サトシ、なんだかぼーっとしてた」

「何か悩んでるっぽかったし、多分リーリエに関係あることなんだと思ったんだけど」

「大丈夫かな、二人とも」

「大丈夫だよ、きっと」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

以前シロンと共に歩いた道を、リーリエがまたシロンを連れて歩く、が。今回は隣にサトシが並んでいる。二人の足元にはシロンとピカチュウ。後ろからルカリオとゲッコウガがロコンと共に静かについて来ている。

 

因みにルガルガンとニャビーは朝から特訓のためにお留守番。モクローは家で寝ている。

 

眠っているほしぐもを抱きかかえながら、黙り込んでしまっているサトシをちらりと見てから、リーリエが口を開く。

 

「あの……グラジオお兄様は、わたくしのことをなんて?」

「えっ……」

 

唐突に振られた話題にサトシが驚く。

 

「どうして俺がグラジオと会ってたって……」

「なんとなく、です。何故かは分かりませんが、お兄様ならサトシを訪ねるような気がしたんです」

「そっか……」

 

女の勘という奴だろうか。本当にそうならそれってかなりすごいものなのではないか、なんてサトシが思っていると、リーリエが自分の口の端を指差す。

 

「ここ、今朝怪我してましたよね。昨日はなかったはずなのに。もしかして、それもお兄様が?」

「いやっ、これは……ち、ちょっと転んだ時に」

「……そうですか」

 

ああ、嘘やごまかしが下手なんだなぁ、なんてことを思ってしまう。きっと自分に余計な心配をかけまいとしているのだろう。でも、いつもと比べて明らかに様子がおかしいことから、なんとなく事情を察してしまう。

 

「それで、お兄様は?」

「う、うん。なんでリーリエを連れて来たって、すっげぇ怒られちゃった。約束してたのに、それもちゃんと守れなくて……」

「約束ですか?」

「うん……その、ごめんな、リーリエ。俺がちゃんとほしぐもを見ていれば、」

「いえ、サトシが謝ることではありませんから」

 

いつもの様に楽しい話、というわけにはどうもいかない。サトシはリーリエがまたポケモンを触れなくなってしまったことに対する責任を感じ、リーリエはそんなサトシの落ち込んだ姿に責任を感じている。

 

「……あの時、思い出したんです。飛びかかってくるシルヴァディの姿と、とても怖かったという感情が……忘れたくても忘れられない様な経験だというのに、どうして今まで忘れてしまっていたのでしょうか……」

 

俯いてしまうリーリエ。

 

「リーリエ……思い出すのは、やっぱり怖いか?」

「そう、ですね。怖くないと言えば嘘になります。でも……」

 

応援してくれるクラスメートたち。

協力してくれたポケモンたち。

見守ってくれた博士たち。

それに……

 

『がんばリーリエ!って感じだな』

 

「がんばリーリエ!ですから」

「それって……」

「はい。前にサトシが言ってくれた言葉です」

 

ぐっと両手で拳を握るリーリエ。その表情に不安や悲しみ、恐怖はなく、むしろやる気と勇気、そして元気が溢れてくる。まっすぐな視線を受け、サトシも自然と笑みをこぼす。

 

「そっか。強いな、リーリエは」

「みんなのおかげです。わたくし、ちゃんと全てを知って、向き合いたいと思います」

「そっか。なら、俺も協力するよ!絶対またシロンやピカチュウと一緒に遊ぼうぜ」

「はい!」

 

「クゥ?ガックゥ〜!」

 

サトシの腕の中で、ほしぐもが目を覚ます。リーリエのやる気を感じ取ったのか、寝起き早々、ほしぐもも元気いっぱいに、テレポートした。

 

「コウッ!?」

『またテレポートか……これは、ミュウを探すよりも厄介だな』

 

後ろからついて来ていた三体のポケモンを置き去りにしながら。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目の前の景色が一変する。目の前に広がるのは青い空に青い海。足が踏みしめるのは白い砂。あたりに建物はなく、大自然のど真ん中にポツンと残された砂浜に、サトシたちは立っていた。

 

「ここは?」

「わたくし、この場所をよく覚えてます!昔、家族で来たことがありますから」

「家族で?」

「はい。まだその時はお父様がいて、お母様は今ほど忙しくはありませんでした」

「……リーリエのお父さんって、研究中に行方不明になったって、前言ってたよね」

「ええ。詳しい内容は知らないのですが、確かお父様もウルトラビーストについて研究をしていたはずです」

「そうなんだ」

「ずっと前のことなのに、今でもあの時のことが鮮明に思い出せます」

 

リーリエの脳裏に浮かぶのは幼い日々。優しい母と、優しい兄。大好きなポケモンたちと共に遊んだ記憶。

 

 

するとまた景色が変わる。今度は小さな畑の側。きのみや野菜がいくつも実っている。

 

「わぁっ、懐かしいです!」

「ここも知ってるの?」

「お母様がまだ忙しくなる前のことです。ここで一緒にきのみやお野菜を育てていたんです」

「へぇ」

「服が汚れるのを気にせずに芋を掘ったり、野生のポケモンときのみを分かち合ったり」

「楽しそうだな、それ」

「ええ。それに、時間はかかりますが、自分で育てた野菜は、とても美味しく感じました」

 

 

またテレポートするほしぐも。今度はサトシも見覚えのある場所に。

 

「ここ、俺がアローラに最初来た時のホテルのレストランだ」

「そうなのですか?実はわたくしも、お母様によくここに連れて来てもらいました」

「あっ、そっか」

「?サトシ?」

「多分ほしぐもは叶えようとしてるんだよ。リーリエが言ってた、思い出して向き合いたいって願いを」

「クゥ?」

「……ありがとうございます、ほしぐもちゃん」

 

次の光景は少し小さめの部屋。あたりにはおもちゃや勉強机、それにたくさんのポケモングッズがある。

 

「ここって、子供部屋?」

「はい。わたくしとお兄様が昔使っていた場所です。あの頃のままですね」

 

ここで二人が幼い日々を過ごしたということだろうか。リーリエはともかく、あのグラジオとこの部屋の雰囲気がどうにも一致しない。思わず笑ってしまうサトシだった。

 

 

今度の場所も室内へ。しかしやや大きめで、そう、大人の女性が使っているのであろうことが予想できる。おしゃれな帽子にハイヒールが並べられ、棚にはたくさんの本やファイルが詰まっている。

 

「ここは、お母様の部屋ですね」

「あっ、リーリエ。これ」

 

ふと部屋の壁を見たサトシがリーリエを呼び、壁を指差す。

 

飾られているのはたくさんの写真。

 

生まれた時のリーリエ。

 

イーブイと遊ぶ幼いグラジオ。

 

絵本を読むルザミーネとリーリエ。

 

先ほどの砂浜での3人。

 

そしてメレメレ島のリーリエの家にもあった家族の写真。

 

「お母様……」

「本当に、リーリエたちが大好きなんだな、ルザミーネさん」

「……はい!」

 

ほしぐもの力でまたテレポートするサトシたち。

 

ついぞ彼らは気づくことができなかった。

 

飾ってある写真が、どれもこれも、まだ四人家族だった頃のものばかりだということに。

 

 

「コウガ?」

『ダメだ。この島からは、サトシたちの波導は感じられない。お前はどうだ?』

「コウガ」フルフル

『そうか……』

「コォン……」

『心配するな。きっと見つかる……む?』

 

「くっ……ザオボーめ。だが、無策のまま向かったとしても……」

 

「コウッ!」

「なっ!?お前らは、サトシの」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

新たな場所にテレポートしたサトシとリーリエは首を傾げた。

 

そこは今まで見て来た場所とは、明らかに別種の場所だった。建物の中なのは間違いない。けれども間違っても家族で旅行に来るような場所ではないのは明白だ。

 

「ここは、どこだ?」

「何かの研究施設のようですけど……」

 

薄暗く照らされるその空間はどこか不気味で、同時にリーリエには既視感のある場所でもあった。自分はここに来たことがある。そのことは確信が持てる。けれどもその時の記憶がない。であるとすれば、

 

「ここで、わたくしは記憶をなくしているのかもしれません」

 

 

「ルザミーネ様、これを」

「ウルトラオーラの反応……これはどこから?」

「どうやら地下施設のようですな」

「もしかして、来たのかしら?あの子達が」

「施設の監視カメラを確認したところ、サトシとリーリエ嬢ちゃんの二人と一緒のようですが……いかがいたしましょうか?」

「リーリエ……ここに来たということは、思い出そうとしているのかしら……研究の邪魔をされるわけにはいかないわ。ザオボー、どうにかして家に帰してあげなさい」

「かしこまりました」

 

 

「立ち入り禁止区域のはずなのに、わたくしはここを知っている……一体どうしてここに?」

「ここで何があったのか分かれば、またポケモンに触れるようになるかもしれないな」

「そうですね……もう少し調べて見ましょう」

 

「サイコキネシス!」

「フーディ!」

「スリーパ!」

 

突如として、リーリエ以外のみんなの体が宙に浮く。そのまま勢いよく壁に叩きつけられるサトシたち。

 

「ぐっ!?」

「サトシ!っ、誰!?」

 

肩に置かれた手に振り向くリーリエ。その腕を掴み睨みつけるかのように見下ろして来たのは、ザオボーだった。その傍らにはフーディンとスリーパーが控えている。

 

「ザオボー!どうしてあなたが?」

「どこまで思い出したのですか?」

「えっ?」

「ふむ……まだ完全には思い出したわけではなさそうですね。しかし少しでもリスクを減らした方が我々のため。忘れてもらいますよ、もう一度ね」

「っ!貴方は、何を知っているのですか?もう一度って、まさか」

「フッフッフッ……さぁて、なんのことでしょうね」

 

(っ!……ゲッコウガ、ルカリオ……何とかしてこの場所を)

 

 

腕を引かれ、連れ去られていくリーリエ。後からスリーパーとフーディンがついて来る。壁に叩きつけられた後、落下の衝撃を受けて気絶したのか、サトシたちは動く様子がない。

 

「サトシ!ピカチュウ!シロン!」

 

すぐにでも駆け寄りたい気持ちでいっぱいだったリーリエだが、ザオボーの力に抗えず、施設の奥へと連れていかれる。その先にあったのはやや広めの空間。その場所を見た瞬間、体が震える。この場所は、この場所こそが……

 

「さて、リーリエ嬢ちゃん。ちょっと忘れてもらうだけですよ。今度は思い出さないよう、より強力にね」

「ザオボー、貴方はわたくしの身に何があったのか、知っているのですか!?」

「ええ、知っていますとも。ですがあなたに教える必要はありません。スリーパー、やりなさい」

 

リーリエの目の前に立つスリーパー。手に持ったコインが振り子のように揺れ始める。

 

過去に催眠術で子供を誘拐したことがあるという記録のあるスリーパー。このポケモンの催眠術の力は、他のエスパータイプと比べても強い。記憶を封じ込めることなど、造作もない。

 

「さぁ……忘れるのです」

「あっ……わ、わたくしは……」

 

(嫌……忘れたくなんてない……向き合うって決めたばかりなのに)

 

 

 

「アイアンテール!」

「チュー、ピッカァ!」

 

飛び込んで来る黄色い影。小さな体から繰り出された一撃が、スリーパーを弾き飛ばす。

 

「ちっ」

「ザオボー!リーリエから離れろ!」

 

肩で息をしながら現れるサトシ。肩を抑えていることから、先ほどの攻撃で受けた衝撃が相当なものだったことが伺える。そんな本気の攻撃をザオボーは人間に向けさせたということだ。

 

「また君ですか……まさかこの地下研究施設にまでやって来るとは。こうなったら君たちにも眠ってもらうとしましょう。スリーパー!フーディン!」

「そうはいくか!頼むぞ、ピカチュウ!」

「ピッカァ!」

 

(約束したんだ。守るって、だから、)

 

「絶対、リーリエは助ける!」

 

 

ピクリと、体が反応する。

 

驚きながらも意識を集中させてみる。

 

目の前の少年と共に、この人工島に辿り着いた時に、主人の声が聞こえた気がした。

 

思いは一つ、主人を、そして一緒にいた少女を助けたい。

 

その思いが、偶然にも重なり合う。

 

視界に映るのは薄暗い場所。どこか機械的な周囲に、少女と眼鏡の男。

 

「コウ、コウガ!」

『見つかったのか?研究施設、それにあの男も?』

「やはりエーテルパラダイスに来ていたのか……恐らく、この地下にある研究施設だ。そこに奴らはいる!それに、恐らくシルヴァディも」

『では行こう。私が安全な道を探す。二人はついてきてくれ』

「コウガ」

「わかった」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

「フーディン、テレポートです」

 

高速で移動し接近するピカチュウに対し、フーディンはテレポートであっさりかわす。すぐさま放たれるスリーパーからの攻撃をかわすピカチュウ。さすがの彼も、二対一のこの状況に、大いに苦戦している。

 

「サイコキネシス!」

 

フーディンの攻撃でピカチュウの動きが拘束される。そのまま持ち上げられるピカチュウ。

 

「ピカチュウ!」

「おっと、君たちも止まってもらいますよ!」

 

すぐさまスリーパーのサイコキネシスがサトシたちを拘束する。まるで締め付けるかのようにサイコパワーが込められ、サトシたちから苦しげな声が漏れる。

 

「君には一度負けましたが、所詮はまぐれ。君よりもはるかに知識のある私の方が、やはり強いのだよ」

「サトシ!」

 

思わず泣き出しそうなリーリエ。ザオボーの手を振りほどこうとしても、力が強すぎてできない。ふとサトシを見ると、口が動いているのが見える。ザオボーも気づいたようで、ニタリとしながらサトシを見る。

 

「おや、どうしました?許しをこうおつもりですか?」

「……今だ!」

 

サトシが声を上げると、通路から水の手裏剣と青く光る光弾が飛び出して来る。フーディンとスリーパーに命中し、大きく後退させると、サトシたちを縛っていたサイコパワーが解ける。地面に落ちそうだった彼らをキャッチする二つの影。

 

「待ってたぜ、二人とも」

「コウッ」

『遅れてすまなかった。だが、もう大丈夫だ』

 

サトシの両隣に並び立つゲッコウガとルカリオ。鋭い視線がザオボーを射抜く。歴戦の風格漂う二体の登場に、ザオボーは焦りを覚える。

 

「くっ!フーディン、サイコキネシスでリーリエ嬢ちゃんを捉えるのです」

 

サイコパワーで宙に浮かび上がるフーディン。そのすぐ側に浮かぶリーリエ。わかりやすい人質として、ザオボーはリーリエを使っている。

 

「さぁ、余計なことをするようでしたら、リーリエ嬢ちゃんの安全は保証できませんよ」

「っ、お前!」

 

「スリーパー、やってしまいなさい」

 

スリーパーの攻撃がサトシたちに迫る。下手に動くことができないサトシたち。

 

と、彼らの前に巨大な影が現れる。前足に力を込めた一撃が、スリーパーの攻撃を切り裂く。

 

「何っ!?」

 

「シヴァ!」

 

統一感のない体の特徴に、顔を覆う仮面。

 

シルヴァディが、ザオボーを見据えて吠えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「バカな。何故ここにタイプ:ヌルが!」

 

「そこまでだ、ザオボー」

 

ゆっくりと歩いて来るグラジオ。その瞳には激しい怒りが見えている。

 

「グラジオ坊ちゃん!どうやってここに!?」

「そいつらの力を借りた。サトシ、下がっていろ。こいつとは、俺がケリをつける!」

 

サトシの隣に立つグラジオ。シルヴァディが体勢を低くし、戦闘態勢に入る。対するザオボーは余裕の表情を浮かべている。

 

「ふっ。その仮面をつけた状態で、私のポケモンに勝てるとでも?」

「勝つ!俺は誓ったんだ!妹を、必ず守ってみせると!」

 

「お兄様……」

 

隣に誰かが並び立つのをグラジオが感じ取る。ニッと口元に笑みを浮かべるサトシ。前ではシルヴァディの隣にゲッコウガが立っている。

 

「サトシ……」

「約束したからな、俺も。リーリエを守るって!」

「……ふっ。行くぞ」

「あぁ!」

 

リーリエを助けたい。ただその想いだけを持って、サトシとグラジオ、ゲッコウガとシルヴァディが敵を見据える。

 

「もっともっと強く!行くぞ!」

「戒めの仮面よ、我ここに示す!我が心、聖獣とともにあり!今解き放て、シルヴァディ!」

 

激しい激流がゲッコウガを包み込む。それと同時に、シルヴァディを拘束する仮面に亀裂が走る。

 

「バカな!あの制御装置が壊れるだと!?それに、なんですか、そのゲッコウガの力は!?」

 

「ザオボー!ポケモンさえ出世の道具としか見ていないお前に、見せてやる!」

「これが、人間とポケモンの、絆の力だ!」

 

水流が弾けるのとほぼ同時に、シルヴァディの仮面が砕け散った。

 

姿を現したのは、まるでグリフォンのような雄々しき姿。拘束具であった仮面から解き放たれたシルヴァディが大きく吠える。その隣では背中に巨大なみずしゅりけんを背負い、腕を組みながら敵を見据えるゲッコウガ。さらなる進化を遂げた二体が、並び立った。

 

「な、なんですか、それは!?なんなんですか、それは!?」

 

予想だにしていなかった事態に、ザオボーが焦ったような声を上げる。

 

「シルヴァディ、リーリエを助けるぞ!」

「ゲッコウガ、援護するぞ!みずしゅりけん!」

 

飛び出したシルヴァディを止めようとするスリーパー目掛けて、ゲッコウガのみずしゅりけんが炸裂する。強い想いで繋がっている二人、その心に強さは比例する。たったの一撃で、スリーパーが戦闘不能に追い込まれてしまった。

 

一方シルヴァディはリーリエとフーディンの元へ飛びかかる。かつての記憶、それを思い出し、思わず目を瞑ってしまうリーリエ。しかし、

 

「シヴァ!」

「フーディ!?」

 

シルヴァディが飛びかかったのは、自分の真後ろにいたフーディン。その様子は、既視感のあるものだった。

 

「あっ……」

 

思わず口から小さく声が漏れる。

 

あの時も、そうだった。

 

自分を捕らえていたウルトラビースト。

 

その時、誰も助けようとしてくれなかった。

 

ただ一体を除いて……

 

 

フーディンのサイコパワーが途切れ、リーリエが地面に向かって落ちて行く。素早く駆け寄ったルカリオが、難なくキャッチする。

 

「ルカリオ!リーリエは?」

『心配ない。気を失っているだけだ』

 

「ぐっ、このまま終わるわけには、」

「いや、終わらせる」

 

逃げようとするザオボーの前に立つグラジオとシルヴァディ。主人の危機にフーディンがやってくる。

 

「戒めより解き放たれた聖獣の力、味合わせてやる!シルヴァディ、ダークメモリを受け入れ、悪の魔獣となりて、その力を示せ!」

 

グラジオの取り出したディスクがシルヴァディに取り込まれる。すると、シルヴァディの姿が変化する。あくタイプを象徴するかのように、体が部分的に黒く染まる。

 

「それは、タイプ:フルプロジェクトの!」

「闇の力に溺れて消えろ!マルチアタック!」

 

シルヴァディの専用技、マルチアタック。取り込まれたメモリのタイプにより、その技自体のタイプも変化する。あくタイプはエスパータイプに対し優位。その一撃を持って、フーディンはあっさりと沈められた。

 

「観念しろ、ザオボー!」

 

逃げ道を塞ぐように、ゲッコウガとシルヴァディ、ルカリオがザオボーを包囲する。追い詰めた、そうサトシたちは思った。が、

 

「今捕まるわけにはいかないのです!ネンドール、テレポート!」

 

別のボールから出したネンドールの力で、ザオボーは脱出してしまったのだつた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ん……んん」

「あっ、気がついた?」

「リーリエ!」

「……サトシ……お兄様」

 

目が覚めると、二人が心配そうに覗き込んで来ている。自分が今いるのは、さっきまでと同じ、研究施設。ザオボーの姿は、どこにもない。

 

「大丈夫?」

「はい……ありがとうございます」

「……今日はもう帰ったほうがいい。疲れてるだろ?」

「いえ、それよりも。わたくしにはしないといけないことが」

 

少しふらつきながらも立ち上がるリーリエ。ゆっくりと歩み寄る先には、シルヴァディが。その前で止まると、シルヴァディがじっとリーリエを見下ろす。

 

「ごめんなさい、シルヴァディ。わたくしは、あなたのことを誤解してしまった。あの時も、今回も、あなたはわたくしを助けてくれました……」

 

サトシとグラジオが見守る中、リーリエがもう一歩シルヴァディに近づく。そっと手を伸ばし、シルヴァディの首元に触れる。そのまま顔を寄せて、シルヴァディに擦り寄るリーリエ。そこには恐怖も拒絶もなかった。

 

「ありがとう」

 

「リーリエ、お前……」

「やったな、リーリエ!」

 

驚くグラジオ、喜ぶサトシ。二人の方へ振り返ったリーリエは、満面の笑みを浮かべている。

 

「はい!おいで、シロン!」

 

主人の呼ぶ声に、喜んで飛びつくシロン。けれども、スクールでの時のように、リーリエが固まることはなかった。両手でしっかりとシロンを抱きとめたリーリエが、喜びのあまりに涙を流す。

 

「触れます!わたくし、触れています!ピカチュウ、ロコン!おいで!」

 

シロンだけではなく、サトシのピカチュウやロコンに触れても固まらない。ルカリオにゲッコウガ、ほしぐも。みんなみんな、触ることができる。

 

「わたくし、ポケモンに触れます!」

 

 

シロンたちをまとめて抱きしめるリーリエ。その笑顔は今までのどんな笑顔よりも、幸せそうなものだった。

 

顔を見合わせるサトシとグラジオ。ニッと笑ったサトシが拳を突き出す。一瞬驚いたグラジオだったが、小さな笑みを浮かべ、拳を合わせたのだった。

 

 

こうして、リーリエの記憶は取り戻され、そしてポケモンに対する恐怖心は消えた。

 

けれども、逃げたザオボーはどこへ行ったのか。

 

そして、エーテル財団に隠された秘密とは。

 

…………… To be continued




なんかバトル描写雑ですみません

いや、実際のアニメの方もかなりあっさりとしてた感あったので……
それに今回はどちらかといえば内面とかそういうところに焦点を当ててみようと思ったので

ザオボーとの決着の時には、全力出しますので


それでは次回予告レッツゴー


良かったな、リーリエ。またポケモンに触れるようになって。

でも、ザオボーはどこに行ったんだろう。

それに、グラジオの言ってた、エーテル財団の秘密もきになるし……

あれ?ほしぐもがいない!?

って、まさかあれって……

次回
ビースト襲来。エーテルの謎
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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ビースト襲来。エーテルの謎

お久しぶりです

訳あって、これまでほぼ書く時間を取ることができませんでした
なので、間だいぶん開けちゃって、すみません

では、新年最初の投稿、ゴー!


朝のポケモンスクール。

 

いつも賑やかなサトシたちのクラスは、今日は一段と賑やかだった。

 

その原因は、

 

「ニャビー!」

「ニャ!?」

「はぁぁっ、暖かくて柔らかいです!」

 

突然飛びつかれ、抱き上げられて戸惑っているニャビー。そんなことは御構い無しに、頬ずりするのはリーリエだった。

 

「リーリエ、すごく嬉しそう」

「うん。元気一杯!」

「よかったな、克服できたみたいで」

 

先日のシルヴァディとの和解の後、完全にポケモンに対する恐怖心を克服できたらしく、昨日の夜からポケモンに触りに触りまくっていた。そのため、現在サトシのポケモンたちは、元気一杯なロコンとほしぐもを除き、少しお疲れ気味である。

 

「みんな大丈夫?」

『問題ない。それに、今までのことを聞いたが、ようやく心置き無く触れられるようになったんだ。仕方がないだろう』

「そうだよな。リーリエはポケモンのこと、本当に大好きだからな」

 

答えながらも少し考え事をしている風のサトシ。リーリエが触れるようになったその瞬間に、すぐ側に彼はいたのだから、その感動を真っ先に分かち合った相手でもあった。が、

 

(それにしても……グラジオの言葉は、一体)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ザオボーには逃げられたものの、無事にリーリエを救出するのに成功したサトシとグラジオ。

 

リーリエがポケモンたちと触れ合うのを、二人は少し離れて見ていた。

 

「良かったな、リーリエがまたポケモンに触れるようになって」

「ああ。だが、ザオボーを逃してしまった」

「ルザミーネさんに、今回のことを話して、」

「いや。それはダメだ」

「?グラジオ?」

「母さんには話さないでいてくれ。できれば、誰にも話さないでくれると助かる」

「でも、」

「頼む」

 

リーリエに気づかれないように、ほんの僅かに頭を下げるグラジオ。何故そんなにまでしてルザミーネにこの件を伝えたくないのかはわからない。ただ、

 

「……わかった」

「すまない。だが、エーテル財団には、まだお前もリーリエも知らない秘密がある。そして出来れば、知らないままでいてほしい」

「グラジオ……」

「俺はもう行く。リーリエを頼む。帰りは、ほしぐもの力を使った方がいい。じゃあな」

 

既にグラジオの近くに戻っていたシルヴァディをボールに戻し、グラジオはリーリエに声をかけぬまま、立ち去る。

 

ポケモンたちに囲まれていたリーリエは、立ち去るグラジオが彼女を見て浮かべた微笑みには、気づいていなかった。

 

「エーテル財団の秘密、か」

『サトシ』

 

いつの間にか、サトシの隣に立つルカリオ。その表情は深刻そうに、グラジオの去った方向を見つめている。

 

「ルカリオ?」

『今の彼の雰囲気……かつて城を捨てたと私に言った時のアーロン様と、よく似ている。おそらく、一人で何かに決着をつけるつもり、なのかもしれない』

「……でも、それは……」

『ああ。私たち、特にリーリエを巻き込ませないためだろう。だが、』

「うん。俺も、力になりたい」

 

 

 

 

 

「とは言ったものの、どうやったらいいのか」

「?サトシ、どうかした?」

「へ?いや、なんでも」

「アローラ!みんな今日の授業、始めるぞ」

 

教室にやってきたククイに、みんな元気に挨拶をする。考えてても仕方がないと、サトシは取り敢えず授業に集中することにした。

 

 

『申し訳ありません、代表』

「リーリエが記憶を取り戻した上に、シルヴァディの覚醒。おまけにあの子にまで怪我をさせそうになるだなんて。大きな失態よ」

『必ず名誉挽回致します!どうか私チャンスを』

「そうね……あの子と共にいるほしぐもちゃん、連れて来なさい。あの装置もそろそろ完全な修復を終えるわ」

『では、』

「ええ。ようやくまた会えるのよ、ウルトラビースト。UB01、PARASITEに」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、校庭に集まったサトシたち。今日の授業は、

 

「ザ・ポケモンで大縄跳びだ!」

 

大縄を飛びながら、ククイ博士が説明する。ポケモンとトレーナーが息を合わせて飛ぶことが求められるミニスポーツである。

 

「それじゃあ、まずはサトシからだ」

「よっしゃ!行くぜ、ピカチュウ!」

「ピカピカ!」

 

気合十分、颯爽と縄の中に飛び込んで行くサトシとピカチュウ。タイミングも見極めようとせずに、いきなり飛び込んで大丈夫かと思いきや、

 

「へへっ。いいぞ、ピカチュウ!」

「ピッカチュウ」

 

なんのその。かなり無茶苦茶な態勢になることもありながらも、中々アクロバティックな動きを見せるサトシとピカチュウ。飛んで回って少し踊ってと、余裕を見せる。

 

「これくらいは余裕みたいだな。じゃあ、ポケモンを増やしてみようか」

「はい!ロコン、おいで!」

「コォン!」

 

サトシに呼ばれ、ロコンが嬉しそうに飛び込んで行く。一人増えるだけで大縄はかなり難しくなる。息を合わせるべき相手が増え、より集中力を必要とするためである。が、

 

「いいぞ、その調子だ!」

「ピィカ」

「コォン」

 

掛け声も何もなく、アイコンタクトだけでタイミングを合わせるサトシとポケモンたち。バトルの時にも見せる強い信頼と息の合い方。見事としか言いようがない。

 

「次!」

 

次々と増えて行くポケモンたち。縄を見てウズウズしていたニャビー、立派なたてがみが引っかからないように注意しながら飛ぶルガルガン、サトシと全く同じ動きにタイミングで飛ぶゲッコウガ、そして目を瞑ったままのルカリオ。

 

「よぉし、ほしぐも!って、あれ?」

 

呼ばれても飛んでこないほしぐもに気を取られ、サトシの足が縄に引っかかる。団子状態に転ぶサトシたち。流石のルカリオとゲッコウガは無事に回避しているが。

 

「だ、大丈夫?」

「平気平気!それより、ほしぐもは……」

 

「サトシ、こちらです」

 

やや小声気味にリーリエが手を振りながら呼びかける。サトシが駆け寄ると、リーリエが柵に立てかけてあるサトシのリュックの中を指差す。中を覗いてみると、モクローとほしぐもがギュウギュウになりながらも仲良く眠っている。

 

「気持ちよさそうに寝てますね」

「今は、そっとしておくか」

「ですね」

 

 

 

「よし、次はリーリエの番だ」

「は、はい!」

 

やや緊張しているようで表情が硬いリーリエ。シロンと顔を見合わせ、タイミングを計り、縄に飛び込む。

 

1、2、3……

 

「できました!」

 

サトシのように大きな動きではなく、どこか舞うようにも見える跳び方のリーリエ。シロンと笑い合いながら跳ぶ様子に、なんだか嬉しくなるサトシたち。

 

「よぉし、リーリエもポケモンを増やしてみるか!」

「はい!」

「ピカチュウ、ゴー!」

 

ピカチュウ、アシマリ、トゲデマル、アママイコ。さらに4体増えたにもかかわらず、地面を打つ縄の音は止まらない。リーリエを中心に、仲良く跳ぶポケモンたち。

 

心の底から楽しそうな笑みで跳ぶリーリエ。

 

良かった……

 

ほっとするサトシ。ウルトラビーストのこととか、ザオボーのこととか、まだまだ不安要素はあるけれども、少なくともグラジオが守りたかったもの、守ると約束したものは、守れたのかもしれない。

 

 

 

「クロ〜〜!?!?」

「な、なんだ!?」

 

リーリエの順番を終え、次々に縄を跳んでいると、突然モクローの叫び声が響く。寝ぼけて騒ぐことはあるが、今のは何かに驚いた時の声。何かあったのかとサトシが駆け寄る。

 

「モクロー、どうした?」

「クロックロッ!」

 

羽でリュックを指差すモクロー。サトシが中を覗くと、そこは空っぽで……

 

「いない!」

「サトシ?」

「どうしたの?」

「ほしぐもがいない!」

「「「「「「ええっ!?」」」」」」

 

近くをすぐに見渡すサトシたち。しかしほしぐもの姿は近くにはいない。と、

 

「あっ!」

 

スイレンが声を上げ、校庭の一角を指さす。そこには浮かんでいるほしぐもと、網を持った男の姿が。

 

白衣に見える服に、緑色のグラサン、そしてにやりと歪んでいる口元。

 

「ザオボー!?」

 

次の瞬間、二人の姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

ポケモンスクールから移動した先、そこはエーテルパラダイスの奥の奥、白い壁に囲まれた、少し大きめの部屋。あたりを見ると、ちらほらと見える透明な柱。そして部屋の中央にたたずんでいる、一人の美しい女性。

 

「あら、来たのね。どうやら無事に連れてこれたようね」

「で、では代表!」

「ええ。装置は既に用意してあるわ。あとはその子の力を借りるだけ……」

「いよいよですな」

「あぁ……そうね……この時を待っていたのよ……いよいよね」

 

自身の体を抱きながら、艶っぽい声を漏らす女性。

 

その姿は妖艶で、美しいものなのに……どこか恐ろしくて、狂気じみている。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「テレポート!?それにさっきの、」

「ええ。間違いなくザオボーでした」

「ザオボーさんって、確かリーリエのお母さんのところの……」

「そんな人がどうして……?」

 

不安げな表情のサトシとリーリエを見て、不思議がるクラスメートたち。以前エーテルパラダイスを訪れたときは、少し嫌な感じはしていたものの、リーリエの母の部下ということもあって、危険人物だとは思えなかったが……

 

「もしかして、またあの地下研究所に?」

「でしたら、すぐにザオボーを止めなければ!」

 

二人の様子から、どこか尋常ではない何かがあることがわかる。

 

「ふた「ザオボーがどうかしたのか?」って、あれ!?」

 

マオの言葉を遮るように、サトシたちに向けて発せられた声。声の主がルガルガンとブラッキーを連れて歩いてきている。以前に一度だけ、サトシとバトルしていたところを見たことがあったが、その時の強さは今も記憶に焼き付いている。

 

「リーリエのお兄さん!」

「グラジオ!」「お兄様!」

「何があった?」

 

 

 

 

「くっ。ザオボーめ……すまない、俺が追っていながら」

「いえ、お兄様の責任ではありません」

「俺がまたほしぐもから目を離しちゃったから……グラジオ、ザオボーがどこに行ったのか、わからないか?」

「やはりこの前の研究所でしょうか?」

「いや……ザオボーがほしぐもを連れて行ったのなら、おそらくは別の場所だ。エーテルパラダイスの奥の奥、そこにある特別研究所だ」

「そこには、何があるのです?」

「俺もまだ入ったことが無いからわからない。だが、恐らくそこでほしぐもを使って何かするつもりなのだろう」

「そんな……止めなきゃ!」

「エーテルパラダイスでしたら、すぐに行く方法があります!」

「頼む、リーリエ!」

 

「あの~サトシ、リーリエ……それからお兄さん。何がどうなっているの?」

 

何やら三人だけで盛り上がっている、というより何かに焦っている様子に、思わずマオが声をかける。カキ、マーマネ、スイレン、ククイ博士も何が起きているのかわからない、といった表情をしている。

 

「エーテル財団で、何かあったのか?」

「……すまないが、話せることはない」

 

みんなの視線を受けながらも、あくまで何も語れないと顔を背けるグラジオ。と、大きな音が近づいてくる。空を見ると、小型のジェット機が、校庭に着陸しようとしていた。

 

地面に着くジェット機。扉が開くと、

 

「リーリエ様、グラジオ様。お迎えにあがりました」

 

中から現れたジェイムズが、パイロットモードにモードチェンジしている。どうやらリーリエの別荘には、こんなトンデモ移動手段まで常備されていたらしい。

 

「はぇ~」

「お金持ちなのはわかってたけど、」

「でも、びっくり……」

 

乗り込もうとするグラジオ、サトシ、リーリエ。と、グラジオが振り返り、二人を見る。

 

「俺一人で行く。これは、俺が解決すべきことだ。それに、お前たちは知らない方がいいこともある」

「わたくしも行きます!」

「リーリエ!」

「わたくしだって、ほしぐもちゃんが心配なんです!それに、お兄様の問題は、妹であるわたくしにとって、関係なくはありません!」

「頼む、グラジオ。俺も連れて行ってくれ!」

「サトシ……」

「任されたんだ、ほしぐものこと。だから、俺も行かなきゃいけないんだ!」

「っ……勝手にしろ」

 

さっさと乗り込んでいくグラジオ。顔を見合わせ、うなずき合うサトシとリーリエ。

 

「博士、俺行ってきます!ほしぐもを、助けてきます」

「わたくしも行ってきます」

「……本来なら俺もついていきたいところだが、どうやらそうもいかないっぽいな」

 

真剣な表情の二人に対し、軽くため息をついてからククイが向き合う。

 

「わかった。ただし、無茶はするなよ」

「「はい」」

「リーリエ、気を付けてね」

「何かあったらすぐに呼べよ!」

「私たちも、力になるから」

「はい。皆さん、行ってきますね」

 

駆けだすサトシとリーリエ。階段を上り、ジェット機に乗り込む。エンジンをふかし、ジェット機が浮かび上がる。どんどん遠ざかるその後姿を眺めながら、みんな無事に戻ってくることを、心の中で祈った。

 

 

 

 

 

「ザオボー、準備はいいかしら?」

「もちろんです。すでにほしぐもちゃんは、装置に接続済み。テレポートも封じてあるので、問題ありません」

「そう。では、初めて頂戴」

 

ザオボーが装置のスイッチを入れる。ほしぐもからウルトラオーラが放たれ、装置に吸収されていく。

 

「ウルトラオーラの数値上昇中。特定座標に照射準備完了。いよいよですぞ、代表」

「開くのね、ウルトラホールが」

 

装置につながれた特殊なかごの中。捕らわれたほしぐもが苦悶の声を上げる。装置の真上、天井付近の空間が揺らめく。

 

「ウルトラホールへの接続開始。もう間もなく、ウルトラホールが開きます」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あら?サトシ君にリーリエちゃん……それに、グラジオ君まで?」

 

エーテルパラダイスに到着したサトシたちを出迎えたのは、ビッケだった。おっとりとした笑顔をいつも浮かべている彼女だったが、グラジオがいることや、サトシたちの緊迫した表情に戸惑っている。

 

「ビッケさん!」

「母さんの家に、俺たちを連れて行ってくれ!」

「えっ、家ですか?」

「お兄様?」

「シルヴァディの資料とともに、その研究所について書いてあった。入口は、母さんの家にある」

「あ、あの~……何が何だか?」

 

疑問符を浮かべ、首をかしげるビッケ。

 

「とにかく早く!取り返しのつかないことになるかもしれない!」

「お願いします、ビッケさん!」

「わたくしからもお願いします!」

「わ、わかりました」

 

ただ事ではない。少なくともそれだけは確からしい。それだけ分かればいい。気を引き締めたビッケに連れられ、エレベーターに乗り込むサトシたち。その間に簡単に事情を説明する。

 

「ザオボーが、ですか?」

「はい。ほしぐもちゃんを連れて行ってしまったんです」

「でも、どうしてほしぐもちゃんを?」

「……おそらく、ウルトラホールを開くため」

 

ビクンと体を震わせるリーリエ。思わずギュッと両の手を強く握ってしまう。全て思い出した今、はっきりとわかる。あの時、自分が恐ろしいと思ったのは、あのウルトラビースト。そのビーストが現れるというウルトラホール。それが開かれる、そのことを考えただけで、あの時の気持ちが思い出されるかのようで、思わず体がこわばる。

 

突然右手が温かいものに包まれる。包んでくれているのは手。その手の主、サトシが笑顔をリーリエに向ける。

 

「大丈夫だ。きっと止めて見せる」

「サトシ……はい」

 

エレベーターを降り、依然訪れたルザミーネの家へと走るサトシたち。グラジオを先頭に、サトシとリーリエ、ビッケが後ろを追う。一つの部屋の扉を開けるグラジオ。その部屋の中に、サトシは心当たりがあった。

 

「ここって、ルザミーネさんの、部屋?」

「でも、どうしてお母様の部屋に?」

 

不思議がる二人をよそに、グラジオが写真の飾られている壁へと向かう。家族の写真が並んでいる壁。写真のうち一つだけ、グラジオやリーリエが写っていないものがある。エーテルパラダイスにいるルザミーネと、顔がぼんやりとしかわからない男性……

 

「これだな」

 

グラジオが写真をずらすと、その背後にスイッチらしきものが現れる。スイッチを押すグラジオ。すると、壁が開き、奥へと進む通路が現れる。

 

「こんな道があったなんて……」

「私も驚きです〜」

「グラジオ、この先に?」

「あぁ。行くぞ」

 

新しく現れた通路をかけるサトシたち。蛇のようにうねりながら降下する通路。明かりは少なく、薄暗い廊下は何か不安を煽る。

 

「この先には、何があるのでしょうか?」

「わからん。だが、覚悟しといたほうがいい」

 

深刻そうな表情のグラジオに、思わずリーリエもぎゅっと拳を握る。廊下の先に明かりが見える。気を引き締めるサトシ。四人が廊下を抜け、部屋に入ると……

 

「あら?どこかで迎えに行こうと思っていたのだけれど、あなたから来てくれたのね、サトシ君」

 

部屋の中央、動いている大きめの装置のすぐ側に、一人の女性が立っている。

 

美しい金髪をなびかせ、妖艶に微笑みかけるその女性は綺麗だった。しかし、その周囲が、彼女の異質さを表している。

 

立ち並ぶのはいくつもの透明な柱。否、これは氷だ。氷の柱がいくつも並んでいる。ただそれだけなら飾りと思うこともできる。けれども、その氷の中には、

 

「な、んですか、これ?」

「これ、みんなポケモンです!」

 

一つ一つの氷の柱の中に、ポケモンたちが閉じ込められている。氷漬けにされ、時間を止められ、ただただそこに並べられている。

 

「ようこそ、サトシ君……あなたを待っていたわ」

 

異様で、異質で、異端。そんな光景の真ん中にいながら、ルザミーネはただ笑っている。

 

嬉しそうに、楽しそうに。

 

サトシだけを見つめている。

 

「さぁ、あなたも一緒に迎えてあげて。ようやく会える、あの子を」

 

その言葉とともに、彼女の真上の空間が歪む。何時ぞやのサトシの夢の時のように、空に穴が開く。

 

「ウルトラホール!?」

「遅かったか!」

 

『ロ〜イド』

 

低く、唸るような声。それでいてどこか神秘的にも聞こえる、聞いたことのない鳴き声が響く。

 

発信源は穴の向こう。その穴から、何かが出て来る。

 

ガラスのように透き通った体。何本もの足にも見える触手。目や口らしいものが見当たらない頭。それはとても、生き物として異質に見える。けれども、その姿を見た瞬間、サトシは思わずリーリエを見てしまった。

 

あまりにも、あまりにも。

 

その姿は、似ていると思ってしまった。

 

「あ……あぁ……」

 

リーリエの目が見開かれる。思わず数歩後ずさる。体が震えて止まらない。動悸が激しくなり、呼吸も浅くなる。

 

知っている、自分はその生き物を。

 

会っている、ずっと昔に。

 

知っている、その体の感触を。

 

だって、あれこそが……

 

「いやぁぁあああっ!」

 

「やっと、やっとよ!やっとまた会えたのね!UB01、PARASITE!」

 

あの時の、ウルトラビーストなのだから。

 




というわけで、アニメからだいぶん違う感じで進めていきますね

最初に言っておくと、多分ゲーム並みにルザミーネさん、ぶっ壊れてますので、ご注意ください

次回予告、行ってみよー

ついに現れたウルトラビースト

なんとかして、止めないと!

そんな時、リーリエのお母さんが!

待ってろよ、ほしぐも!

絶対に助けるから!

次回、XYサトシinアローラ物語
リーリエの試練!ウルトラホールの先の世界
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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リーリエの試練!ウルトラホールの先の世界

完全にアニメとは別ストーリー展開で進めていくと決めたわけで、

これがなかなか難しい!

色々と設定おかしくね?となるところがこれから先でても、
あぁ、ここではそうなんだな、ってな感じでなるべく流してください


ウルトラホールから現れたウルトラビーストに、サトシたちは思わず身構える。

 

ふわふわとしたその姿で、クラゲのような動きをしながら、パラサイトと呼ばれたウルトラビーストが降りてくる。

 

「あぁ、待っていたわ!やっとまた会えたんですもの!忘れたことなんて、一度だってなかったわ!」

 

両手を広げ、パラサイトを出迎えるルザミーネ。ザオボーも嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

一方サトシの隣、リーリエの身体がふらつき、崩れ落ちる。咄嗟にサトシが支えるものの、体に全く力が入らないようで、恐怖からか、身体が震えている。

 

「リーリエ、しっかりしろ!」

「あ、あぁ、ぁあっ」

「くっ、シルヴァディ!エアスラッシュ!」

「シッヴァ!」

 

プレミアボールから飛び出したシルヴァディがパラサイトに攻撃を仕掛ける。真空の刃が直撃し爆発を起こす。

 

「やったか?っ!?」

 

爆炎の中から伸びる触手が、シルヴァディの体を持ち上げる。そのまま振り回され、投げ飛ばされるシルヴァディ。壁に激しく激突し、倒れる。

 

「シルヴァディ!」

「ピカチュウ、10まんボルト!」

「ピィーカ、チュー!」

 

ピカチュウの得意技、10まんボルトが炸裂する。しかしパラサイトには効果が薄いらしく、平然としている。

 

「何でっ!?もしかして、みずタイプじゃない!?」

 

一瞬悩んだサトシ。その隙をつき、ピカチュウをも弾き飛ばすパラサイト。シルヴァディの隣に吹き飛ばされるピカチュウ。サトシとグラジオが駆け寄る。

 

「っ、強い!」

 

パラサイトが動き出す。ゆらゆらと浮遊しながら進む先には、動けずに座り込んでしまっているリーリエ。

 

「リーリエ!」

 

ハッと顔を上げるリーリエ。パラサイトの触手がリーリエに向けて伸ばされる。と、サトシのボールの一つから、誰かが飛び出し、リーリエとパラサイトの間に飛び込む。

 

『ブルゥアウ!』

 

球状に練り込まれた波導をぶつけられ、パラサイトが大きく弾き飛ばされる。リーリエを守るように現れた青い影。ルカリオが鋭い目つきで、パラサイトを見つめている。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ルカリオ!」

『サトシ、私に力を貸してくれ。波導を使い、奴を穴の向こうへと押しもどす!』

「でも、それってアーロンみたいに!」

『大丈夫だ。あの時ほど強大な相手ではない。それに、私一人ではない!』

「わかった」

 

リュックからグローブを取り出し身につけるサトシ。サトシとルカリオが並び立つ。

 

「何をするつもりなのかしら。ザオボー、パラサイトを守りなさい」

「御意に!フーディン、サイコショック!」

 

ザオボーのボールから飛び出したフーディンがサトシたち目掛けて攻撃を仕掛ける、が、横から飛んできたあくのはどうに相殺される。

 

「ザオボー、貴様の相手は、俺たちだ!」

「ぐっ、邪魔をしないでくださいよ、グラジオ坊ちゃん!」

 

グラジオとザオボーが激突する中、サトシとルカリオがパラサイトへと両手を向ける。

 

「『波導は我にあり!』」

 

二人から放たれた波導がパラサイトを拘束する。動きを封じられたパラサイトが抵抗を試みるも、ゆっくりとウルトラホールの方向へと動かされていく。

 

(よぉし、このまま……えっ?)

 

パラサイトへと意識を向けていたサトシ。と、何かが聞こえたような気がした。気のせいかとも思ったが、その声は徐々にはっきりして来る。

 

(……ココ違ウ……仲間チガウ……仲間、ドコ……家、ドコ……?)

 

(これって、あいつの?)

 

「ピクシー、ムーンフォース」

『何っ、があっ!?』

 

もうあと一息というところで、ルカリオの体が大きく弾き飛ばされる。不意をついた攻撃を放ったピクシーが、そのトレーナー、ルザミーネの隣に降り立つ。

 

「ルザミーネさん!?」

「ダメよサトシくん。せっかく来てくれたビーストちゃんを追い返そうとするなんて。私も、ずっと会いたかったんですもの」

 

ふわふわ漂うパラサイトを見上げてから、ルザミーネがサトシを見る。

 

「ねぇ、サトシくん。貴方も私と一緒に来ない?」

「えっ?」

「私はこれから、あの子の住む世界に行くのよ。私と、私の愛するビーストだけのいる世界。そこで生き続けるのよ、素敵でしょ?」

 

嬉々として語るルザミーネの姿は、好きなものについて語る少女のようにも見え、けれどもとてつもなく歪である。

 

「でも、サトシくんだけは特別よ。貴方自身もとても特別な存在ですもの。ポケモンと心を通わせ、強い絆で結びつく。ほしぐもちゃんのように、きっとビーストちゃんも、貴方のことを好きになってくれるはずよ。だから、貴方は一緒に連れて行って上げるわ」

 

ルザミーネの手がサトシの頬に触れる。

 

「さぁ、行きましょう?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

パァン

 

乾いた音が響く。

 

叩かれた手を、信じられないものを見るかのように、ルザミーネが見つめる。突然のことにサトシも驚く。

 

ルザミーネの手を払った手はまだ震えている。けれども、サトシとルザミーネの間に立ったリーリエは、しっかりとルザミーネを見据えている。

 

「勝手なことばかり、言わないでください!」

 

驚愕の表情を浮かべていたルザミーネ。その顔が怒りの形相へと変わる。ワナワナと体を震わせ、あれほど愛情を注いでいたリーリエを睨みつける。

 

「邪魔をするの?私の赤ちゃんが、私に逆らうの!?」

「赤ちゃんなんかじゃありません!わたくしはもう、自分で物事を決められます!」

 

自信を睨みつける母親の視線を真正面から受け止めるリーリエ。驚いていたサトシも、なんだか頼もしいその姿に思わず笑みが浮かぶ。

 

「ルザミーネさん」

「あぁ、サトシくん。貴方ならわかるでしょう?ウルトラホールの先には、きっとほしぐもちゃんの世界もあるわ。だから、」

「ごめんなさい。でも、俺は行けません。俺は、みんながいるこの世界が、好きだから。それに、俺はほしぐもを託されました。だから、助けます!」

 

その言葉を合図に、誰かが反応するよりも早く、ピカチュウが装置めがけて走る。でんこうせっかで、ほしぐもが捕らえられたケージを弾くピカチュウ。

 

「なっ、」

「アイアンテール!」

「チュー、ピッカァ!」

 

鋼鉄の一撃が、ケージを容易く打ち砕く。宙に放り出されるほしぐもを、ルカリオがキャッチする。

 

「どうして……どうして邪魔をするの!ピクシー、マジカルシャイン!」

「頼むぞ、ゲッコウガ!みずしゅりけん!」

 

ボールから飛び出したゲッコウガが、ピクシーとルカリオ達との間に立つ。みずしゅりけんを回転させ、盾のようにし、ピクシーの攻撃を防ぐ。

 

「つばめがえし!」

「ゲッ、コウガ!」

 

素早く接近したゲッコウガの拳がピクシーを弾き飛ばす。サトシを見て、ゲッコウガが頷く。その隣にピカチュウが並び、ルザミーネとピクシーを見張る。

 

「頼んだぜ、二人とも!ルカリオ!」

『あぁ』

「あいつを、元の世界に帰してやろうぜ」

 

装置からほしぐもが外れたため、ウルトラホールが不安定になってきている。2人が気を落ち着かせ、集中する。

 

(もう少しの辛抱だ。すぐに帰してやるからな)

 

2人の波導が再度パラサイトを包み込む。パラサイトの体がまたウルトラホールへと誘導される。今度こそ上手くいく!

 

「……らい」

 

「…………嫌い……」

 

「嫌い、嫌い、大っ嫌い!」

 

突然、パラサイトに向かって見たことないボールが投げられる。パラサイトがその中に収まり、ボールが持ち主の元へと戻る。キャッチしたルザミーネが、ボールを愛おしそうに撫でる。

 

「これでいいわ。誰にも邪魔させない、渡さない!だって私のなんですもの」

 

「お母様!?」

「ゲットしただと!ウルトラビーストを!?」

「ふっ、あれこそ私が極秘に開発していたウルトラビースト捕獲専用のボール。名付けて、ウルトラボールです。この部屋にはモンスターボールなどを妨害する電波も遮断されていますしね。備えておいて正解でした」

 

ボールを撫でていたルザミーネがサトシ達を睨む。

 

「もういいわ。折角私と一緒に連れて行ってあげようと思っていたのに……邪魔をする子は嫌いよ。リーリエも、グラジオも、サトシくんも。私の言うことを聞いてくれればいいのに!」

 

ボールの中から出てくるパラサイト。そのパラサイトの触手を握るルザミーネ。そのままパラサイトが上昇し、ウルトラホールに向かう。

 

「母さん!」「お母様!」

 

「さよなら……」

 

最後に冷たい笑顔で見下ろしながら、ルザミーネはパラサイトとともに、ウルトラホールの中へと消えていき、ホールが閉じてしまった。

 

「そんな……」

「かあ、さん……」

 

「では、私もこの辺りで。失礼」

 

テレポートで逃げるザオボーを、誰も止められる状況になかった。ただ、目の前で起きたことがあまりにも受け入れられ難くて、あまりにも突然すぎて、あまりにも非情で……

 

「ピカッ!?」

『これは……サトシ!』

 

慌てた様子のピカチュウにルカリオ。サトシ達が駆け寄ると、ほしぐもの体が光り輝いている。

 

「これは、進化の光?」

「ほしぐもちゃんが、進化するのですか?」

 

光の中から現れたほしぐもは、姿が完全に変わっていた。雲のような体は硬くなり、その瞳は閉じたまま。泣くことも、笑うことも、動くこともしない。まるで眠っているかのようにも見える。

 

『データなしロト。ただ、似たようなケースにトランセルとコクーンがあるロト。もしかしたら、さらなる進化をするかもしれないロト』

「では、無事ということなのですか?」

「わからない。ほしぐもはウルトラビーストだ。俺たちの常識では語れない」

「ほしぐも……」

 

ルザミーネがいなくなり、ザオボーも逃げた。助けようとしたほしぐもは動かなくなってしまった。失敗してしまった……サトシが拳を強く握りしめる。

 

「えーと、皆さん。取り敢えず、一旦戻りましょう。落ち着けるように、紅茶でも飲みませんか?」

 

唯一の大人、ビッケがリーリエの肩に手を置きながら場をまとめる。ここにいてもしょうがない、そう判断したグラジオとサトシも、特に反対しなかった。

 

部屋から戻る間ずっと、リーリエはサトシの服の袖を掴んでいた。まるで何かに縋り付かなければ、崩れてしまいそうで、壊れてしまいそうで、誰も声をかけられなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

エーテルパラダイスからメレメレ島に戻ったサトシ達。ビッケと共にバーネットに事の顛末を説明したところ、

 

『状況はわかったわ。マシンを直して、ホールをもう一度開けるようにしてみる。今、あなた達がすぐにできることはないから、一度帰って休みなさい』

 

と言われてしまった。しかし、実際自分たちでは、どうしたらウルトラホールを開くことができるのか、全くわからない。頼みのほしぐもも、動くことができない今、彼らは頷くことしかできなかった。

 

 

「ルザミーネさんを、助けなきゃな」

 

ポツリとサトシが呟く。しかしそれに対し、グラジオが首を横に振る。

 

「サトシ、ここまで巻き込んでしまったことはすまなかった。だが、ここから先は、俺たち家族の問題だ」

「けど、」

「このことは俺がなんとかする。だから、お前は手を引け。じゃあな」

 

さっさと歩いて行ってしまうグラジオ。その場に残されたサトシは、リーリエの様子を伺う。俯いたまま、シロンを抱き締めている。励まそうにも、なんて言えばいいのかわからない。結局彼の口から出たのは、

 

「帰ろう、リーリエ。博士に相談してみたら、何かわかるかもしれないだろ?」

 

なんて、当たり障りのない言葉だけだった。博士ならわかるかもしれない、そんな可能性はゼロに近いと、自分でもわかっているのに。

 

「はい……」

 

それでも、小さく頷いたリーリエを休ませるべきだという考えから、サトシはその手を取ってククイ博士の家まで歩いて帰った。

 

 

 

「サトシ……ごめんなさい」

 

その夜、動きやすい服装に普段と違うポニーテールに近い髪、そしてサトシが愛用しているものに近い大きさのリュックを背負ったリーリエが、博士の家から抜け出した。

 

(少しの着替えと寝袋。携帯食料に、キズぐすり。もうスプレーは、使わないから置いて行く……こんなに少ない荷物なんですね、サトシの旅って)

 

こんな時に不謹慎と思いながらも、その荷物でサトシとともに旅をする自分を想像してしまう。きっと沢山のドキドキやワクワクが待っているのだろう。

 

けれども、自分が行くのはそういう旅ではない。向かう先はウルトラホールの先、ウルトラビーストの世界。母を助けるために、自分が行かなければいけない。

 

(ちゃんと伝えなきゃ、わたくしの思いを)

 

少し歩いた先に、木にもたれかかっている人影が見える。雲が動き、月明かりがその顔を照らす。

 

「……お兄様」

「行くのか?」

 

短い問いかけ。でも、それだけで十分伝わる。目を閉じ、小さく息を吐く。緊張が少し解れた気がする。目を開き、兄を見つめる。

 

「はい!」

 

 

翌朝、胸騒ぎがしたサトシが早くに目覚めると、リーリエの姿はなく、書置きが一つしてあった。

 

『ククイ博士、そしてサトシへ、

 

お母様を助けに行ってまいります。少し時間はかかるかもしれませんが、必ず一緒に戻ります。がんばリーリエです

 

待っていてください

リーリエ』

 




いなくなったリーリエ。

動かないほしぐも。

家族の問題だと言ったグラジオ。

そしてルザミーネさん。

大人しく手を引く、なんて、出来るわけがない!

俺だけじゃない、みんなだって!

なぁグラジオ、俺たちは……

次回、XYサトシinアローラ物語
『見せるぜ、絆!日輪の祭壇へ!』
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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見せるぜ、絆!日輪の祭壇へ!

長らく放置してまじすんませんでした!

いや、他にも色々とあれやこれやしてたら、ね


ポケモンスクールで一番元気なクラス、それはサトシ達6人のクラスだったことは間違いない。が、今日はそんな風にはとても感じられないほど、しんみりとした空気が漂っている。

 

原因は今まさにサトシが手に持っている紙。

 

リーリエが残した書置きである。

 

 

「あの後、そんなことになっていたなんて……」

「リーリエ、大丈夫かな?」

「母親を助けるって言っても、どうするつもりなんだ?」

「ウルトラホールの先の世界って、どうやって行くのかな?」

 

心配そうに話しをするクラスメートたち。サトシも知らないことばかりで答えられない。ウルトラビーストらしいほしぐもなら或いは、ウルトラホールを開けることもできたかもしれない。けれども、

 

『この姿に変わってから、全く動かなくなってしまったロト』

『命の波導は感じ取れる。ただ、休止状態になっているからなのか、それとも弱ってしまったのか、以前と比べると格段に弱い』

 

何度呼びかけても、金平糖を差し出しても、全く反応しないほしぐも。完全に手詰まり状態だった。

 

 

「ハラさんに話しをしに行こう」

 

と、教室の入り口からかかる声。見ると、真剣な表情のククイとバーネットが来ている。

 

「こういう時こそ、守り神から認められているトレーナー、島キングの家に頼る時だな」

「彼なら、何か知ってるかもしれないわ」

「ハラさん……俺も行きます!」

「あたしも」「俺も!」「僕だって!」「私も」

「校長から許可はもらってる。みんなで行ってみよう」

 

こうして、サトシたちはスクールを離れ、ハラの家へと向かうのであった。

 

(リーリエ……グラジオ……待っててくれ!)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なんと、そのようなことが……」

「俺たち、リーリエを、ルザミーネさんを助けたいんです!ウルトラホールの先の世界、それについて、何か知ってることはありませんか?」

 

真剣な表情で尋ねるサトシに、ハラはむぅと考え込む。島キングとはいえ、ウルトラホールについての知識が研究者よりもあるわけではない。加えて、その先の世界ともなると……

 

「そういえば昔、聞いたことがありましたな。とある伝説のことを」

「伝説?」

「どんなですか?」

「アローラに伝わる伝説のポケモン、ソルガレオとルナアーラ。彼らは空間に穴を開け、その先の世界からやって来たものだと」

「空間に、穴?」

「それってもしかして……」

「うむ。ウルトラホールかもしれませんな」

「ソルガレオとルナアーラなら、ウルトラホールの先に行ける!ですよね、ハラさん!」

「あくまでその可能性もあるということです。しかし、私もそう思いますな」

 

みんなの表情に希望が見える。僅かではあるものの、手がかりをつかむことができたのだから。ただ、

 

「ソルガレオとルナアーラって、どこにいるんですか?」

「申し訳ありませんが、私もそこまでは……しかしポニ島にはソルガレオを祀る、祭壇がありますな。かつて守り神のポケモンたちとウルトラビーストが戦ったと言われる場所。そこに行けば、何かわかるやもしれませんな」

「日輪の祭壇……」

 

以前サトシが夢の中で訪れた場所。そこでサトシが目撃したのが2体の伝説のポケモンたち。もしかしたら、そこに行けば彼らに会うことができるのかもしれない。

 

「行こう、日輪の祭壇に。もしかしたら、リーリエたちもそこに向かってるかもしれない」

「うん!」

「なら、早速準備しないとな」

「僕も、色々と持ってくるよ」

「俺は船を手配する。この前の港に集合だな」

「はい!」

「サトシくん、これを持って行きなさい」

「これって?」

 

ハラがサトシに渡したのは一つの笛。太陽を模した飾りがつけられている。

 

「かつてソルガレオに音色を捧げたと言われる笛です。きっと何かの役にたつでしょう」

「ありがとうございます、ハラさん。俺たち、行ってきます!」

 

ハラにお礼を言った後、サトシたちはそれぞれが慌ただしく飛び出していく。その様子を見送るハラ。

 

「我々島キングや島クイーンでもなく、守り神でもない。サトシ君たちに与えられたこれは、アローラそのものからの試練かもしれませんな。サトシ君、そしてみんな。ご武運を祈っていますぞ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ポニ島。

 

渓谷を見つめる2人と1体。シルヴァディにまたがりながら、グラジオとリーリエが人1人通らないその道の先を見ている。

 

「お兄様、ここが?」

「あぁ。この先に、日輪の祭壇がある」

「では、そこにソルガレオが?」

「……そう願うしかない」

 

誰もいないその道は、ひどく不気味に見える。少しばかりの恐怖を感じながらも、リーリエは自分自身を鼓舞するように、拳を握る。

 

「行きましょう、お兄様」

「ああ……そんなに気張るな」

「えっ?」

「変に気合を入れすぎるな。今ここはお前だけじゃないだろ。俺もいる」

「あ……」

 

自分の悩みのことなんて、どうやら兄にはお見通しだったらしい。前を向いたままで自分の方は見ていないのに、それでも気にかけてくれている。どこか不器用で、それでいてわかりにくいところもある優しさ。それに思わず笑みがこぼれ、緊張がほぐれる。

 

「はい。ありがとうございます、お兄様」

「……行くぞ」

 

歩を進めるシルヴァディ。その背中の2人には、迷いはなかった。

 

 

「ルカリオ、2人は見つかったか?」

『ああ。この先の方向に進んでいる』

『この道の先に、日輪の祭壇があるロト!』

「やっぱり、ソルガレオを探しに来てたんだな」

「よしっ、急ごう!」

 

 

 

途中、いくつかのトラップを潜り抜け、というよりもグラジオがエーテル財団にあった資料を見ていたために攻略が楽だったということもあるが、グラジオとリーリエは祭壇のすぐ近くの洞窟にたどり着いた。

 

奥には長く続く階段が見える。

 

「あの先に、日輪の祭壇があるのですね!」

「っ、待て、リーリエ!」

 

駆け出そうとするリーリエの腕を引くグラジオ。と、洞窟のあちこちからポケモンが飛び出してくる。

 

「ジャラコにジャランゴ!」

「いや、それだけじゃない。まだ何かいる!」

 

洞窟の奥から聞こえる唸り声。雄々しく、猛々しく、荒々しい。その声はどんどん近づいてくる、と、洞窟の奥に積まれていた瓦礫の山が弾け飛ぶ。

 

圧倒的な体躯に、体にまとうオーラ。その瞳はグラジオたちを捉えている。

 

「ジャラランガです!でも、本で読んだのよりもずっと大きい」

「さしずめ、ここの主というわけか。シルヴァディ!」

「シヴァ!」

「シロン、お願いします!」

「コォン」

 

ジャラコたちの後ろにそびえ立つジャラランガ。ここを通るためには、倒して行くしかなさそうである。

 

「行くぞ、リーリエ!」

「はい!」

 

 

 

『近いぞ!だが、他にもポケモンが多い』

「よしっ、急ごう!」

「マーマネ、急いで」

「はぁ、はぁ、これ以上は無理だよぉ〜」

「ほら、押してやるから、もうちょっと頑張れ!」

「待っててね、リーリエ」

 

必死に走り続ける少年たち。目指す場所は、もうすぐそこに。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「くっ!」

「お兄様!」

「大丈夫だ。まだいけるな、シルヴァディ?」

「シヴァ!」

 

声を張り上げるシルヴァディ。しかし状況はあまりよろしくはない。オーラを纏ったジャラランガは、かなりの強敵だ。更に周りにいるジャラコたちの数も多く、シロンだけでは足止めしきれない。

 

どうすれば……そういえばジャラランガのタイプは……

 

「お兄様!シルヴァディをフェアリータイプに!」

「そうか!その手があったか。シルヴァディ!」

 

タイプを変えることができるシルヴァディ。ドラゴンタイプを持っているジャラランガに対して有利なフェアリータイプにチェンジしようと、フェアリーメモリを取り出す。と、

 

「シルヴァディ!フェアリーメモリを受け取り、っ!?」

 

シルヴァディにパスをしようとしたところ、突如飛び掛かってきたジャラコによって、ディスクがはじかれてしまう。地面を転がったディスクが止まった先、それは丁度ジャラランガの真下。取るためにはジャラコたちの妨害を潜り抜け、その上でジャラランガの攻撃をかわす必要がある。

 

「くそっ!」

「あの場所……どうすれば……」

 

圧倒的不利な状況に、思わず焦りそうになる。けれども、

 

『最大のピンチは最大のチャンス!それをひっくり返すのが、バトルの面白いところなんだ!』

 

頭をよぎったのはサトシの声。不思議とその声は自分の思考をクリアにしてくれる。

 

「お兄様、わたくしたちが道を作ります!その好きにフェアリーメモリを」

「リーリエ……?わかった」

「シロン、地面に向けてこなゆき!」

「コォォォン!」

 

大きく息を吸い込み、最大限の力でこなゆきを放つシロン。苦手なタイプの技に、ジャラコたちが避けるために道を開ける。こなゆきが地面を凍らせていき、ジャラランガの足元まで続く氷の道が出来上がる。

 

「今です!」

「行くぞ、シルヴァディ!」

 

駆け出すグラジオとシルヴァディ。シロンの作り出した氷の道に飛び乗り、スケートするかのように移動する。

 

ジャラコたちの攻撃をかわし、目指すのはただ一点のみ。

 

大きく振りかぶられるジャラランガの手。シルヴァディがとっさに飛び上がり、ブレイククローでその手を弾く。その一瞬の隙に、グラジオがフェアリーメモリに手を伸ばす。

 

「お兄様!」

 

リーリエの叫び声が響く。見上げると、ジャラランガの口が大きく開き、エネルギーが集約されているのが見える。

 

「受け取れ!シルヴァディ!」

 

自分めがけて飛び込んでくるシルヴァディへと、グラジオはメモリを投げる。

 

直後、ジャラランガから放たれたりゅうのはどうが、大きな爆発を引き起こす。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

立ち込める煙、転がる瓦礫。思わず口元に手をやるリーリエ。不安げな瞳で煙の奥を見ようとする。

 

「ふっ、お前の攻撃はもう、俺たちには通じない」

 

煙の奥から聞こえる声。現れたグラジオとシルヴァディは、一切のダメージを受けた様子がない。

 

「やりました!」

「光を纏った妖精の鎧は、竜の爪を通すことはない。そして、煌めく妖精の剣は、竜の鱗をも打ち破る!シルヴァディ、マルチアタック!」

 

フェアリータイプへと変わったシルヴァディが、ジャラランガに向かって飛び上がる。効果抜群の攻撃が、ジャラランガを大きく仰け反らせる。その巨体が地面に叩きつけられ、大きな衝撃が洞窟に伝わる。

 

「今だ!乗れ、リーリエ!」

「はい!」

 

慌ててシロンを抱き上げ、シルヴァディに跨ったグラジオの手を取る。先ほどの衝撃で、洞窟が崩れ始めている。天井から降る瓦礫を避けるようにしながら、シルヴァディが階段へと向かう。

 

「あと少し……もう少しで!」

「お兄様!」

 

ハッと顔を上げるグラジオ。真上から巨大な瓦礫が落ちてきている。グラジオと違い、後ろを見ているリーリエ。立ち上がったジャラランガが腕を振り上げ、シルヴァディを狙っている。

 

前門の虎、後門の狼。彼らに逃げ場はどこにもない。万事休すか、と、

 

降ってくる瓦礫が、球体の電撃に破壊される。ほぼ同時に、ジャラランガの体に水の手裏剣とエネルギーの球体が直撃し、弾き飛ばす。障害がなくなったシルヴァディは、全力で洞窟から飛び出す。

 

「っ、今のは」

「まさか……」

 

「リーリエ!グラジオ!」

 

洞窟が崩れ、立ち込める土煙。それを掻き分けるようにして、サトシ達が姿を現わす。全員息が切れていることから、洞窟を全力で駆け抜けたのだろう。マーマネはカキに支えてもらっている。

 

「はぁっ、はぁっ……よかった、間に合って」

 

先ほどの窮地を救ってくれたのは、間違いなく彼のそばにいるピカチュウたちだろう。でも、

 

「どうしてここに……」

「ハラさんから聞いたんだ、ソルガレオの伝説。グラジオなら、ここに向かうと思ってさ」

 

笑顔で答えるサトシ。でも、自分が聞いているのはそういうことではない。リーリエは信じられないという気持ちと、それでもやっぱり嬉しいという気持ちの両方を感じながら、サトシ達を見る。

 

「何故来た?これは俺たち家族の問題だと言ったはずだ」

 

険しい表情のグラジオ。巻き込みたくない、そう思って突き放すために動いた。なのに、どうして彼らはここに来てしまったのか、それがわからない。だと言うのに、

 

「仲間を助けるのは、当たり前だろ?」

 

何を言ってるんだ、とでも言いたいような表情のサトシ。熟考することもなく、即答だった。グラジオの目が驚きで僅かに開く。

 

「なぁ、グラジオ。アローラではなんでも分かち合う、そういうものなんだろ?ならさ、楽しいことばかりじゃなくていい。大変なことも、みんなで分かち合っても、いいんじゃないか?」

 

「あたしもそう思う!」

「ぼ、僕も」

「同感だな」

「私も」

「ははっ。まるでりんしょうだな。みんなの思いが合わさって、より強い力になる」

 

ここに来ている全員が、同じ気持ちで動いている。ただ、ルザミーネを助け出すため。それだけのために……

 

「お兄様……論理的な根拠ですとか、理論ですとか、そんなものはありません。でもわたくしは、みんなと一緒なら、きっと、いいえ、必ずお母様を助け出せるはずだと信じてます」

「リーリエ……」

 

真剣な表情の妹。その決意も固いらしい。その覚悟を宿した瞳は、どこか自分を見上げる少年に似ている、そんな気がする。

 

「……すまないサトシ。それから、他のみんなも。俺たちに力を貸してくれ」

「待ってたぜ、その言葉!」

 

シルヴァディから降り、グラジオがサトシに手を差し出す。しっかりとその手を握るサトシ。やる気を見せるカキ達。少し涙ぐんでいるリーリエ。

 

改めて共にルザミーネを救出すると決めたサトシ達が階段を上る。既視感ある風景に、サトシは何かが起こりそうな、そんな予感を感じていた。

 

『っ、何かいる』

「どうした、ルカリオ?」

『来る!』

 

あたりを波導で探っていたルカリオが空を見上げる。と、一瞬でサトシの帽子が掠め取られる。赤色の帽子が、階段の一番上まで行くのが見えた。慌てて追いかけるサトシ達が階段を登りきると……

 

「えっ!」

「これは」

「なななななんで!?」

 

空を舞うのは4体のポケモン。しかしただのポケモンではない。

 

「カプ・コケコ!」

「あれは、カプ・テテフか」

「あちらはカプ・ブルルです!」

「それにカプ・レヒレだと!?」

 

アローラの4つの島にいる守り神達。その全員が彼らの前に現れたのだった。まるで彼らを出迎えるかのように、まるで彼らを導くように、守り神は空から彼らを見下ろしていた。

 




集結した守り神。

祭壇に置かれたもう一つの笛。

そして動かなくなってしまったほしぐも。

全てが揃った時、誰もが驚愕することが起こって……


次回、XYサトシinアローラ物語
ソルガレオ降誕!ウルトラホールの先へ!
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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ソルガレオ降誕!ウルトラホールの先へ!

いやぁ、もうね、なかなか進まないねこれが。

ようやく来ましたよ、このシーンが!

まだまだほしぐも編も、続きそうですが、よろしくどうぞです!


誰も動くことができなかった。それだけあっけにとられていたのかもしれないし、あるいはこの事態に恐怖を感じていたのかもしれない。

 

まさかアローラの守り神全員と遭遇するなんて、誰が想像しただろうか……一名を除いて。

 

「また会えたな、カプ・コケコ!それにカプ・テテフも!」

「ケーコ」

「テテ」

「カプ・ブルルとカプ・レヒレ、だよな?あの時はちゃんと挨拶とかできなかったから。よろしくな!」

「レヒ」

「ブルルル」

 

動じていない、どころかごくごく当たり前のように会話してるし。前からカプ・コケコとよく遭遇していたことを知っていたから衝撃はまだ少ない方ではあるが、

 

「やっぱりサトシってすごいなぁ」

「いつもと変わらないというか、誰に対してもフレンドリーというか」

「才能、かも」

 

「なぁ、カプ・コケコ。リーリエのお母さんが、ウルトラビーストと一緒にウルトラホールの向こうに行っちゃったんだ。俺たち、そこに行きたい」

「ソルガレオならば、ウルトラホールの先に行けると聞きました」

「ここにいれば、ソルガレオに会えるのか!?」

 

問いかけるサトシ、リーリエ、グラジオ。一人ずつの顔を見て、カプ達が何やら相談でもするかのように集まる。と、

 

「わっ、何何?」

『エレキフィールドにサイコフィールド、四つの別々のフィールドが混ざり合ってるロト!』

 

眩しい光を放つカプ達。その光がまるでスクリーンのように上空に映像を映し出した。

 

場所は日輪の祭壇。その空が裂け、二体のポケモンが飛び出してくる。

 

「ソルガレオに、ルナアーラ……これ、俺の夢と、同じ」

 

二体が共鳴するように吠えると、祭壇の中央に、何かが現れようとしている。徐々に大きくなるそれは、ふわふわの雲のような姿に、夜空のような色をしている。

 

「あれって、ほしぐも、だよね」

「じゃあ、ほしぐもはソルガレオとルナアーラの子?」

 

ほしぐもをカプ達に託し、消える二体。と、今度は画面にサトシが映る。カプ・コケコに導かれるように森へと進んだサトシが見たのは、四体のカプ守り神と、彼らに守られるように眠るほしぐもだった。

 

「これ、あの時の……」

 

映像はそこで終わる。あまりに突然見せられた映像に、暫く誰もがボケーっとしてしまう。

 

ポスン、と頭への軽い衝撃。サトシが振り返ると、博士がサトシの頭に手を置き、微笑んでいる。

 

「やっぱり凄いな、サトシは。お前はソルガレオとルナアーラ、そして守り神達から、ほしぐもを託されたんだ。島キングや研究家ではない、お前が」

「俺が……でも……」

 

表情を曇らせるサトシ。背負っているリュックの中から、ほしぐも、の変化してしまった姿を出し、カプ達に差し出す。

 

「ごめん。俺がしっかり守れなかったから、ほしぐもが……」

 

サトシの前まで降りてきて、ほしぐもを見つめるカプ・コケコ。サトシの掌の上に浮かぶほしぐもを、カプ・コケコが受け取り、他のカプのもとに飛ぶ。

 

ほしぐもを囲うように覗き込む、カプ達。また顔を見合わせ頷く。

 

宙に浮かんだほしぐもを中心に、四体の守り神が円を描くように飛ぶ。

 

「コー」

「テッテー」

「ブルルル」

「レレー」

 

カプ・コケコ達から光が溢れ、ほしぐもへと注がれる。ほしぐもに大きな変化は見られないが、その体はしっかりと、注がれる光を吸収している。

 

「なんだ?何をしているんだ?」

「わからない、でも、」

「綺麗……」

 

光を浴びたほしぐもは、四体の守り神に連れられるように祭壇の中央に移動する。中心を取り囲む四つの柱、そして太陽と月の紋章が描かれた台座。四体のカプ神が、それぞれ一つの柱へと向かう。

 

「おい!ソルガレオはどこにいる!一刻も早く、ウルトラホールの先に向かう必要があるんだ!」

 

グラジオが声を張り上げる。感じとられるのは焦り。ソルガレオを求めてここまで来たが、待っていたのは守り神のポケモンたちだけ。ソルガレオは来るのか?呼ぶ必要があるのか?だとしたら方法は?

 

そもそも、ソルガレオはいないのか?

 

「俺は、っ!」

「まぁ待てよ、グラジオ」

 

今にも飛びかかりそうな迫力のグラジオ。その肩にサトシが手を置く。

 

「カプ・コケコ達には、きっと何か考えがあるんだよ。信じようぜ」

「サトシの言う通りです、お兄様。信じましょう」

「……くっ」

 

サトシとリーリエの言葉に、グラジオが顔を背ける。けれども、一応冷静さは取り戻したらしく、小さく息を吐き出し、じっと見守る姿勢に入る。

 

「ん?はい、もしもし……えっ!わかった、すぐ向かう」

「博士?」

「バーネットが来ているらしい。俺が迎えに行ってくるよ」

 

ボールを取り出し、階段を降りて行くククイ。先ほどのジャラコ達がまた妨害しているらしい。強敵との戦いに、思わず肩に力が入る。

 

(頼むぞ、相棒……)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

他の守り神が、それぞれを描いた柱の上に乗る中、カプ・コケコがサトシに棒状のものを差し出す。

 

「これって……」

 

サトシがリュックから何かを取り出す。ハラに貰った太陽の飾りのついた笛。

 

反対側の手にはそっくりな笛。こちらには月を模した飾りが付いている。

 

「この模様、あそこの台座の絵と似てる」

「ねぇ、この音」

 

守り神達が、それぞれの柱の上に乗り、共鳴するように鳴いている。柱の根元から光が溢れ、その下に描かれた紋様を遡るように、壁を登って行く。光が、壁に描かれた太陽に届く、が、何も起こらない。

 

よく見ると、太陽から伸びる道はあと二つある。その一方は太陽の、もう一方は月の台座へと伸びている。

 

「もしかして、この笛を吹くんじゃないか?」

「カキの言う通りだと、僕も思う。きっとあの台座に乗るんだよ」

「じゃあ、二人で吹かないといけないね」

「じゃあ俺やるよ!」

 

すぐに手を挙げるサトシ。もちろん、誰も反対する理由がない。そもそもハラに笛をもらったのも、カプ・コケコに笛をもらったのも、サトシだからだ。ではもう一人はというと……

 

「俺がやる」

 

そう言って手を差し出したのは、グラジオ。真剣な眼差しでサトシを見るグラジオ。

 

「やらせてくれ」

「ああ。頼むぜ、グラジオ」

 

月の笛をグラジオに手渡すサトシ。二人はそれぞれ笛と同じ模様が描かれた台座の上に乗る。

 

「おそらく音色は、カプ・コケコ達のと同じものを奏でればいい。いくぞ」

「オッケー」

 

二人が笛に口を付け構える。タイミングを合わせるように、頷き合い、同時に音色を奏で始める。

 

サトシとグラジオ、そして守り神達による演奏。決して大きな音とは言えないが、あたりの静けさも相まって、神秘的で、そして不思議と力強さが感じられる。

 

サトシとグラジオの足元、台座からも、カプ・コケコ達の柱と同じように、光が溢れ出す。その光も道を登っていき、祭壇の壁に描かれた日輪へと向かう。少しずつ、少しずつ、日輪へと光が近寄る。この光が届いた時、果たして何が起こるだろうか。

 

ゴクリ、と誰かの喉がなる。

 

10センチ……5センチ……

……4……3……2……1……

 

 

6つの道の光が、交わった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

突然、祭壇の壁から地響きのような音が聞こえてくる。サトシ達が見上げると、光を帯びた壁の日輪が、まるで扉のように開き始めている。

 

「わわっ、何何何!?」

「祭壇が!」

「どうなってるの、これ!?」

 

開かれた日輪の先には、まるで太陽のように熱く、燃えるような色の光が満ちている。その光が、まっすぐと祭壇の中央、ほしぐもの元へと放たれる。

 

「ほしぐもちゃん!」

「待って!」

「何が起きてるんだ?」

 

周囲に溢れ出るほどの光を浴び、ほしぐもがゆっくりと浮上する。その体の周囲を、まるで炎のような光が包み込む。

 

熱く、激しく、眩いその光は、まるで小さな日輪のごとく、ほしぐもを完全に包み込む。

 

「グルルル……ガルルル……」

 

何かの唸り声のような音が響き渡る。発生源は、あの火の玉の中。ほしぐもが?でも、とても同じとは思えないほど力強く、逞しい声。誰もが息を飲む中、火の玉が弾け飛び、中にいたものが雄叫びを上げる。

 

「グォォォオオッ!」

 

美しい白い体毛に、金が混じる鬣。

 

顔はまるで夜空か、あるいは宇宙か。深い、神秘的な群青色に、星のような煌めきが見える。

 

雄々しく、猛々しく、それでいて暖かいそれは、まさに太陽の現し身、日輪の化身。

 

大地に降り立ち、サトシ達を見下ろすその姿に、誰もが驚愕を隠し得ない。一歩前に踏み出たサトシが、呟くようにその名を呼ぶ。

 

「……ソルガレオ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その呟きを皮切りに、各々が反応を示す。

 

『なななな、なんとっ!?ほしぐもが二回進化した姿が、ソルガレオだったロト!?大発見ロト!』

 

一心不乱に記録として写真を撮りまくるロトム。

 

『先ほどまでとは桁違いの生命力だな。これが伝説のポケモン、ソルガレオなのか』

 

冷静に分析しているルカリオ。

 

「俺は今、もぉぉれつに感動しているぅぅ!」

 

涙を流すカキに、それを落ち着かせようとするゲッコウガ。

 

「ほぇ〜」

「びっくり……」

「まさかほしぐもがソルガレオになるなんて」

 

純粋に驚いているマオ達。

 

「ソルガレオ……これで、行けるのか?ウルトラホールの向こうに」

 

希望が見えたのか、少し嬉しそうなグラジオ。

 

 

そして、一言も発さぬまま、ソルガレオにゆっくりと歩み寄るリーリエ。

 

「ほしぐもちゃん……いえ、ソルガレオ……貴方に、触れてもいいですか?」

 

リーリエの問いかけに答えるように、ソルガレオが身をかがめる。

 

「ありがとうございます……」

 

そっと手を伸ばし、ソルガレオの額に触れるリーリエ。固そうに見えても、やはりその毛は柔らかく、陽だまりのような暖かさを感じる。その暖かさに導かれるように、リーリエが自分の額をソルガレオの額に合わせる。

 

まるで祈るように目を閉じているリーリエ。その気持ちを察しているのか、それとも祈っているのか、ソルガレオも同じように目を閉じている。

 

暫くそのまま、動かずにいたリーリエとソルガレオ。やがて、リーリエがソルガレオから体を離し、笑顔を見せる。

 

「とても、暖かかったです。ありがとうございます、ソルガレオ」

 

そう告げてから、リーリエが道を譲るようにみんなの元へ戻る。リーリエと入れ替わるようにソルガレオに近づいたのは、

 

「ほしぐも……」

 

呟くように、サトシがソルガレオを呼ぶ。差し出された掌の上には、小さな金平糖がいくつも乗っている。

 

「なぁ、ほし……ソルガレオ、食べるか?」

 

ジッとサトシを見つめるソルガレオ。と、その口を開き、ベロを使って、サトシの手の上から金平糖をすくい取った。

 

「!ほしぐも、ってわぷ!?」

 

姿が変わってから、一度も食べなかった金平糖を、ソルガレオが食べたことに、喜ぶサトシ。笑顔をソルガレオに向けた瞬間、今度はそのベロが、サトシの顔を濡らす。

 

まるでイワンコや、ルガルガンがするように、体をサトシに擦り付けるソルガレオ。楽しそうな表情から、甘えているのがわかる。

 

姿形は変わっても、サトシに対する想いは、全く変わっていなかった。そのことが、サトシにとっては堪らなく嬉しい。

 

「立派になったな、ソルガレオ」

「グルルル」

「ああ。スッゲェかっこいいぜ」

 

サトシとほしぐも……否、ソルガレオとが触れ合う様子を、みんな離れて見守っている。

 

「まさか伝説のポケモンを育てちゃうなんてね〜」

「流石サトシ、規格外」

「ほんとびっくり……」

「タケシさんたちの言ってた通り、驚かされてばかりだよなぁ」

 

「お兄様?どうかしましたか?」

「いや……あいつをもっと知ってみたい、あいつともっと戦ってみたい、そう思っただけだ」

「サトシとですか?」

「ああ。俺の知らない何かが見えてくる、そんな気がする」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なぁ、ソルガレオ。頼みがあるんだ」

 

しっかりとソルガレオと触れ合った後、サトシが真剣な表情でソルガレオを見つめる。

 

「俺たちを、ウルトラホールの向こうへ、連れて行って欲しいんだ」

「お母様を、助けたいのです」

「頼む。力を貸してくれ」

 

サトシ、リーリエ、グラジオからの頼みを聞くソルガレオ。すると、ソルガレオが口から、掌に収まるほどの大きさのものをサトシに渡した。

 

キラリと光るその鉱石は、サトシの持つどれとも形は違う。けれども、その輝きは、彼らのよく知るものだった。

 

「これ……Zクリスタル、だよな」

「また違う形……」

「サトシに、Z技を使って欲しい、ということでしょうか?」

「なんだかわからないけど、やってみるぜ!」

 

やる気満々にZクリスタルをセットするサトシ。キラリとZクリスタルが強い光を放ちならがら輝く。激しい力の奔流をサトシは感じた。と、

 

「っ!うわっ!」

 

バキリ、という嫌な音がしたかと思うと、Zクリスタルが外れ、地面に落ちる。

 

「なんだ今の?」

「わかんない……って、サトシのリングが!」

 

驚きの声を出したマオが指差すZリングを見ると、Zクリスタルをはめる為の場所に、大きなヒビが入ってしまっていた。

 

「Zリングが壊れた!」

「なんでこんなことに?」

「わかんない……でもさっき、とてつもない力が流れた感じがした……俺とクリスタルを繋ぐみたいに」

「とてつもない力?まさか、その負荷に耐えきれなかったのか?」

 

詳しいことは全く分からない。しかしこのままではZ技が使えない。グラジオかスイレンがやろうにも、もしまたリングが壊れるようなことがあったら……サトシたちが途方にくれていると、

 

「ケーコー」

「へ?ってあっ、Zリングが!」

 

ふわりと、Zリングがサトシの手首から抜け、浮かび上がる。与えられた時とは逆に、カプ・コケコの方へと飛んでいくZリング。目の前まで来たそれをカプ・コケコは、

 

両腕で挟むようにZリングを挟み込んだ。

 

「「「「「「「えっ?」」」」」」」

 

呆気にとられるサトシたち。と、カプ・コケコからカプ・テテフ、カプ・ブルル、カプ・レヒレへと、まるでバトンをつなぐかのごとく、Zリングが回される。ほしぐもがソルガレオに進化したときと同じように、サトシのZリングが光り輝く。最後にカプ・レヒレからリングがサトシに向かって放たれる。ゆっくりとサトシの目の前まで下りてきたZリングは、しかし、その姿かたちが変わっていた。

 

「黒くなっちゃった……」

「それに、さっきのヒビが治ってる……」

「そうか!これならもしかして……」

 

先ほどは使えなかったソルガレオにもらったクリスタルを、新しく生まれ変わったZリングにはめ込むサトシ。先ほどと同じく、強い力の流れが感じ取れる。しかし今度は弾け飛ぶことなく、Zクリスタルの光が収まっていく。

 

「今度は大丈夫みたいだな!」

「これで、ウルトラホールの向こうへ行けるのですね!」

 

リーリエの言葉に応じたかのように、ソルガレオが身をかがめる。

 

「乗れってことか?」

 

ソルガレオが頷く。サトシを先頭に、みんながソルガレオの背中にまたがる。

 

「頼むぜ、ソルガレオ」

「ガルル」

 

「コー!」

 

カプ・コケコが声を上げ、サトシの正面まで下りてくる。右腕で左の手首を指さしながら、ひねるような動作をするカプ・コケコ。真似るように、サトシがZクリスタルをつまみ、ひねる。Zクリスタルが光を放ち、オーラが溢れ出てソルガレオを包み始める。

 

カプ・コケコが腕を動かす。まるで初めてサトシがZ技を試した時のことのように。その動きに合わせるように、サトシが腕を動かす。

 

「行くぜ!これが!俺たちの!」

「「「「「「ゼンッリョクだ!」」」」」」

 

ソルガレオの咆哮が周囲に轟く。その身を光に包まれながら、ソルガレオが大地を蹴る。飛び上がったその背後に、日輪のごとき熱く、眩い輝きが現れる。その輝きから伸びる光の道を、ソルガレオがかけていく。と、その先、空高い場所の空間が揺らめき始める。

 

「ガルルォォオッ!」

 

ソルガレオが再び吠える。その勢いによってか、空間の揺らめきが広がり、穴が開く。

 

ウルトラホールだ。

 

「行っけぇ!」

「ガルルルォォオ!」

 

ソルガレオが迷わずその中に飛び込んでいく。あたりに広がるのは、光の筋だけ。その中をただまっすぐに、ソルガレオがかけていく。

 

「よぉし、このまま一気に行こう!」

「待っててください、お母様!」

 

 

 

日輪の祭壇にて、サトシたちを見送った守り神たち。彼らが見つめる先、ウルトラホールが揺らめき、ゆっくりと閉じていった。

 




姿が変わったルザミーネさん。

謎の力をまとうポケモンたち。

激しい激闘が繰り広げられる中、リーリエの思いと言葉が繋ぐ!

次回、XYサトシinアローラ物語
「激闘開始!ウルトラビーストの世界」
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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激闘開始!ウルトラビーストの世界

長らく間あけて申し訳ない……

いやぁ、やっぱり新年度が始まると忙しくてかなわんなぁ笑


まるで流星群の中を進んでいるかのようだ、なんて思えるほど、ウルトラホールを進むサトシたちが見る景色は美しく、そして激しい。

 

どこまでも続きそうな流星の道は、所々に自分たちが入ったのと同じような、ウルトラホールが見える。その一つ一つがどこかにつながっているのだろうか?

 

と、ソルガレオがウルトラホールの一つめがけてかけて行く。ウルトラホールに飛び込むと、風景の流れがさらに加速する。眩い光にサトシたちが思わず目を閉じる……

 

……目を開くと、そこはアローラとは似ても似つかぬ世界だった。

 

空は薄暗く、見渡す限り変化がない。大地と呼べるものもなく、あるのは浮遊している岩場のみ。他の人間やポケモンの姿はなく、ウルトラビースト、パラサイトが何体も飛んでいるだけ。水も緑も太陽も……今まで当たり前に見ていたものが、この世界には一切見当たらない。

 

どこか不気味なその様子に、マオたちは思わず身を寄せ合う。

 

「ここが、ウルトラビーストの世界?」

「暗くて、なんか不思議な感じ」

「うう……僕こういうとこ苦手なんだよぉ」

「それはわかったから、俺にしがみつくなって。動きにくいぞ、マーマネ」

 

あたりを探るように視線を動かすグラジオ。同じようにキョロキョロしているリーリエ。一方サトシはというと、

 

(なんだか……ちょっとあいつの世界に似ている……気もするかな)

 

かつて訪れたことのあった、世界の裏側に存在するもう一つの世界、そしてそこに住む彼の大きな友人のことを、一瞬思い出していた。が、

 

「っ、グラジオ!あそこだ!」

 

突然声を張り上げるサトシに周りが驚き、そして彼の指差す方向を見てさらに驚く。

 

サトシの視線の先には、他のウルトラビーストとは異なる姿をした影。透明だった体は黒く染まり、体格も一回り大きくなっている。

 

しかし何より異質なのはその中心に、見慣れた人物が取り込まれていることだった。

 

「母さん!」「お母様!」

 

閉じられていた瞳がゆっくり開き、ルザミーネは静かにグラジオたちを見下ろす。

 

『免れざる客ね……私とビーストちゃんの美しい世界に入ってきた汚点……』

「お母様!目を覚ましてください!ここは、お母様のいるべき場所ではありません!」

『黙りなさい。この世界への侵入者は、私が排除する……何者かは知らないけど、ビーストちゃんの世界は私が守る』

「お母、様?何を言って……」

 

ルザミーネの瞳に映るのは敵意や外敵に対する警戒のみ。あの時サトシたちに向けられた怒りや狂気は、微塵も感じられない。だが、それもまた異常だ。加えて先ほどの話……

 

「どうなってるんだ?」

「恐らく、あのビーストに取り込まれた影響だ。パラサイトは寄生虫のことだ。あのビーストは、他の生き物に寄生できるんだろう」

「寄生って……でも、それならお母様は」

「正直どうなるかわからない。まだまだ未知の存在だからな。だが、今の母さんが俺たちのことを覚えていないこと、そしてビーストたちを守るために行動すること、これだけは確かだ」

 

『この世界から、出て行きなさい!』

 

ルザミーネの怒りに反応するかのように周囲の様子が変わり始める。鉱石のように見える柱が、次から次へと地面から生える。その様子がまるで少女の願いが暴走した、緑豊かなあの景色のようで、思わずサトシは駆け出した。

 

あの子と同じように、ルザミーネの願いが暴走しているというならば、

 

「必ず止めて、助けて見せる!ピカチュウ、10万ボルト!」

「ピィ〜カ、チュウ〜!」

 

ピカチュウの放った強烈な電撃はしかし、柱を破壊するには至らなかった。カキのバクガメスやグラジオのルガルガンの攻撃さえも寄せ付けないその硬度は、計り知れない。

 

「っく、どうすれば……ソルガレオ?」

「ガルルルォォア!」

 

サトシたちの前に立ったソルガレオが雄叫びをあげる。大気が震え、地面が揺れる。後ろにいてこの迫力。真正面にあった鉱石の柱は、その雄叫びによって砕かれる。

 

「よっしゃ!先に進もう!」

「ああ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

急いで駆け出すサトシたち。ルザミーネは浮かぶようにしながら、奥の方へと進んでいく。慌てて追いかけるサトシたち。その姿を見たルザミーネは、

 

『出て行ってって、行ってるでしょ!』

 

触手のような腕が横薙ぎに払われ、モンスターボールが投げられる。中から現れたのは、ヤトウモリによく似ているが、ずっと大きいポケモン。その身体は、ぬしポケモンと同じように、強いオーラが包んでいる。

 

『エンニュートロト!でも、この反応……普通じゃないロト!』

「トレーナーである母さんが受けたウルトラビーストからの影響が、ポケモンにまで伝わっているのか……?」

 

エンニュートが飛び上がり、大きく口を開く。勢いよく放たれた炎がサトシたちに襲いかかる。

 

「バクガメス、かえんほうしゃ!」

「バスーン!」

 

咄嗟に指示を出すカキ。バクガメスの全霊を込めたかえんほうしゃが迎え撃つ。同等の威力を誇る二つの技がぶつかり合い、爆発が起こる。

 

「こいつは俺が引き受ける!みんなは早く、リーリエのお母さんを!」

 

先を促すカキ。サトシと視線があった時、カキが頷くのが見えた。

 

「……わかった。頼むぜ、カキ!行こう、みんな!」

 

更に奥へと進んだルザミーネを追うようにサトシたちが走る。行かせまいと、エンニュートが毒液を撒き散らそうとするが、バクガメスの炎が全て焼き払う。

 

「お前の相手は……この俺だ!」

 

鼻から炎を吐き、気合いを入れるバクガメス。エンニュートも先にカキを倒すべきと判断したのか、その鋭い視線をバクガメスに固定する。

 

炎と炎。

 

熱いバトルの火花が、切って落とされた。

 

 

 

ソルガレオにまたがり、ルザミーネの後を追うサトシたち。エンニュートでの足止めが失敗したと見るや、ルザミーネが再び向きを反転させる。

 

『しつこいわね……これでどう!?』

 

続けざまに投げられる3つのボール。中から現れるポケモンたちは、やはりエンニュートと同様、オーラを纏っている。

 

『ドレディア、ムウマージ、それにミロカロス。何れも強力なポケモンロト!』

「どうあっても、母さんは俺たちを邪魔する気なのか……」

 

ミロカロスのハイドロポンプと、ドレディアのはっぱカッター、そしてムウマージの10万ボルトがサトシたちに襲いかかる。

 

「アママイコ、マジカルリーフ!」

「アシマリ、アクアジェット!」

「トゲデマル、ゴー!」

 

ハイドロポンプの中を突き進み、強烈な一撃をミロカロスに当てるアシマリ。はっぱカッターを相殺するアママイコ。特性、ひらいしんで電撃を吸収するトゲデマル。ソルガレオから降り、それぞれのトレーナーがルザミーネのポケモンを見据える。

 

「マオ!スイレン!マーマネ!」

「ここは僕たちが!」

「大丈夫。絶対勝つ!」

「サトシ!リーリエをお願い!」

『僕もみんなをサポートするロト!』

「わかった……頼んだぞ、みんな!」

 

カキの時と同様、仲間を置いて先に行くサトシ。心配していないかと言われれば嘘になる。ただそれよりも、

 

(みんな、頼んだぜ……俺も、絶対助け出す!)

 

信じていたから、みんなを。

 

わかっていたから、為すべきことを。

 

ソルガレオは岩場から岩場へと飛び移りながら進む。後ろを振り返ることなく。

 

同じようにサトシも前だけを見つめる。

 

自分にできることを、為すために。

 

 

前に進むサトシと逆方向に、彼のボールからポケモンが飛び出したのを、振り返っていたリーリエだけが見ていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ミィィロォォ!」

「アママイコ、おうふくビンタ!」

「アーマッ!」

 

ミロカロスのアクアテールを、アママイコが受け止める。

 

「デンヂムシ、ほうでん!」

「ヂヂ!」

「ドレッディ!」

「ムゥマッ!」

「アシマリ、バブルこうせん!」

「アーウッ!」

 

ミロカロスを狙った電撃は、ドレディアの放つ葉の嵐に遮られる。反撃するムウマージのシャドーボールに対し、アシマリがバブルこうせんを使い、迎え撃つ。

 

「ドレ〜ディ〜」

「あ、これって……」

『フラフラダンスロト!みんなみちゃだめロト!』

 

見た者を混乱させることができるフラフラダンス。ロトムが警告を発するが、真正面からその技を見てしまったみんなのポケモンは混乱してしまい、釣られて踊り出す。

 

「アママイコ!」

「アシマリ、しっかりして」

「わぁっ!来るよ!」

 

混乱して行動できないポケモン達目掛けて、ミロカロスとムウマージの攻撃が迫る。

 

「コォン!」

「クロッ!」

「ニャッブ!」

 

炎の渦がムウマージを、葉っぱの渦がミロカロスをそれぞれ足止めする。驚きに動きが一瞬止まったドレディアにほのおのキバが炸裂し、吹き飛ばす。

 

「ニャビー!」

「ありがとう、モクロー」

「ロコンも!力を貸してくれるの?」

 

頷く三体。敵のポケモンは一体一体が異常に強い。それでも今ここで自分たちが倒してみせる。強い意志を瞳に宿す三体の登場に、他のポケモン達も混乱が解ける。

 

「よぉーし!あたし達も頑張るよ」

「僕だって、やってみせる!」

「うん!行こう!」

 

 

 

「ガメッ!?」

「大丈夫か、バクガメス?」

「ガ、ガメース!」

「……強いな」

 

ヤトウモリよりも一回りも大きい体をかがめているエンニュート。パワーはヤトウモリ時代とは比べ物にならない。

 

それに加えて異常なまでのスピード。あの纏っているオーラで能力が底上げされているようで、こちらの攻撃がなかなか当たらない。

 

「だが、俺はもっと強くなる!そのためにも、ここで負けるわけにはいかない!」

「ガッメース!」

 

闘志を燃やすカキとバクガメス。エンニュートが目を細め、素早い動きで接近してくる。

 

「今だ!からをやぶる!」

 

バクガメスの防御が著しく下がる。が、同時にその攻撃力と素早さが飛躍的に上昇する。飛びかかってくるエンニュートの攻撃を難なくかわすバクガメス。

 

「素早い相手との戦いは、何度も経験してるからな!」

 

確かにエンニュートは速い。だが、自分のガラガラだって負けていない。それに、さらに速いやつを、自分たちは知っている。

 

「あいつと全力のバトルをするため、高みを目指す!バクガメス、ドラゴンテール!」

 

エンニュートの背後に回り込んだバクガメスが、尾にエネルギーを纏わせ、勢いよく叩きつける。弾き飛ばされるエンニュートはしかし、倒れる気配はない。

 

「まだまだ、上げて行くぞ、バクガメス!」

「バスーン!」

 

 

サトシに頼るだけではなく、自分たちだって共に戦える。

 

強い意志を胸に込め、カキは、マオは、スイレンは、マーマネは、

 

かつてない試練に挑み掛かる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

サトシ、グラジオ、リーリエが追ってくるのを見たルザミーネ。ますます怒りの感情が強く現れ、振り向いたその視線からは、殺気に近いものまで感じ取れる気がした。

 

『いい加減に……出て行きなさい!』

 

また投げられるボール。現れるのは白い体毛に刃のように見える角。四肢に力を込め、雄叫びをあげる。

 

「スォォル!」

「あれは、アブソル?」

「サトシ……リーリエと共に先に行け」

「グラジオ?」

「あのアブソルは、昔の俺のトレーニング相手だった。俺が倒す。だから、母さんを……頼むぞ」

 

ソルガレオからひらりと飛び降りながら、ボールを投げるグラジオ。敵を見据え、シルヴァディが吠える。

 

「頼むぞ!」

「ああ……約束だ!」

 

ソルガレオが岩場を飛び移りながら登って行く。足止めしようとアブソルが駆け出す。

 

「ソォル!」

「シルヴァディ、ブレイククロー!」

「シッヴァ!」

 

メガホーンとブレイククローが激突する。互いに弾かれ、後退するアブソルとシルヴァディ。

 

「ずっとお前には世話になってたな……アブソル。感謝している。だからこそ、お前を倒して、元に戻してやるのも、俺の役目……聖獣と一つとなった俺の力、お前に見せてやる!」

 

サイコカッターとエアスラッシュが激突し、爆発を起こす。同時に飛び上がる二体が空中でまたぶつかり合う。

 

「俺たちは、負けない!シルヴァディ!ファイトメモリを受け取り、雄々しき勇士の力を宿せ!」

 

メモリを取り込み、タイプを変えるシルヴァディ。タイプ相性としては有利になった。が、それでも油断できない相手であることには変わりない。

 

気を引き締めるグラジオとシルヴァディ。

 

再び、両ポケモンが激突する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

いよいよ追い詰められてきたのか、ルザミーネが逃げるのを止める。

 

『どうして出て行ってくれないの?』

「わたくしは、お母様を助けにきました。だから、出て行くわけにはいかないのです!」

『知らない……知らない知らない!出て行ってよ!』

 

最初の頃と様子が違うルザミーネ。首を必死に横に振りながら叫ぶ姿は、まるで駄々をこねる子供のようで……

 

「それでも……助けます!」

『あっちへ行って!』

 

6つ目のボールが投げられる。現れるのはオーラを纏い、目つきまでもが普段より鋭くなったピクシー。

 

「あの子って、もしかして……」

「サトシ……わたくしが、あの子と戦います」

「リーリエ?」

「あの子とは、1番の仲良しだったのです……ですから、わたくしがやります……やらせてください」

 

覚悟を決めた表情のリーリエ。そんな顔を見せられては、何も言えなくなってしまう。それにこうしている間にも、ルザミーネの体に何か影響が出ているのかもしれない。

 

「わかった」

 

サトシが答え、一つボールをリーリエに渡す。ボールを見て話しかけるサトシ。

 

「ルガルガン……リーリエを頼むぜ。リーリエ、ここは任せた」

「はい!サトシ……お母様を、お願いします」

「わかってる。約束するから」

「……はい!」

 

きっと一番ルザミーネを助けたいと思っているであろう2人、グラジオとリーリエ。その2人から託された、大切な役目。必ずやり遂げてみせる。その意気込みを伝えたくて、示したくて、サトシは約束した。

 

今度こそ、絶対に守ってみせる。

 

拳を握るサトシ。

 

ソルガレオが大地を蹴り、ルザミーネの元へと向かう。

 

残されたリーリエとピクシー。

 

「ピクシー……わたくしが、あなたを助けます!」

「ピ!ピークーシー!」

「ルガルガン!アクセルロックです!」

 

ボールから飛び出してすぐ技を発動させるルガルガン。勢いよく突っ込んでくるピクシーを迎え撃つ。

 

「シロン、こなゆき!」

「コォォン!」

 

後ずさるピクシーの足元が凍りつく。動きが止まるピクシー。すかさず遠距離技のムーンフォースが放たれる。

 

「いわおとしです!」

「ルゥガ!」

 

弾ける二つの技。その衝撃でピクシーの足元の氷が砕ける。こちらを睨みつけてくるピクシーを見て、リーリエは、

 

「……思い出して、ピクシー」

 

静かに、でも優しい笑みを浮かべた。

 

カバンの中からとあるものを取り出す。何年も使い込まれ、少しくたびれて、色あせてしまっているそれは、しかし彼女と、そしてピクシーにとって、何よりも大切な宝物。

 

「わたくしと、あなたと、この子……3人で遊んでいたでしょ?」

 

そっとピクシーに見えるように掲げたそれは、いつもリーリエが寝るとき抱いている、ピッピにんぎょうだった。

 

「いつも、家族のように……」

 

幼いリーリエとピィが交代で新品のピッピにんぎょうを抱っこする記憶。ピィの方がまだ人形より小さく、持ち上げるのに苦戦している。

 

少し大きくなったリーリエと、人形より大きくなったことで、お姉さん気分になったピッピ。人形とお揃いのリボンをしている。

 

ピクシーになっても、ピッピにんぎょうを愛おしそうに抱っこする様子を、微笑みながら眺めるリーリエ。

 

沢山の思い出、沢山の笑顔、そして沢山の愛情。

 

「思い出して、ピクシー」

 

ゆっくりと近づいていくリーリエ。ピクシーからの攻撃を、ルガルガンとシロンが相殺し、リーリエをフォローする。

 

最後の数メートルをリーリエが走る。攻撃するために身をかがめるピクシー。予備段階に入り、体をオーラが強く覆う。

 

目の前に迫る脅威に対し、リーリエは、

 

 

 

 

そっとその体を抱きしめる。

 

「ピク!?」

「ピクシー……覚えてるでしょ?わたくしの声も、手も……あんなに楽しかった日々は、貴方の中にちゃんとあるはずよ。大丈夫。わたくしがそばにいるから。もう……放さないから……貴方も……お母様も……」

 

ピクシーを包む光とオーラが力強さを増していく。しかし先ほどまでの刺すような威圧ではなく、もっと暖かくて、優しい光。

 

ギュッと閉じられていた瞳をピクシーが開くと、

 

その目は元の優しい目つきに戻っていた。

 




恐ろしい力を持ったルザミーネさんのポケモン達

あまりにも多いウルトラビーストの数

こうしている間にも、ルザミーネさんの様子がどんどん……って、リーリエ!?いきなり何を!?

ルザミーネさんを取り戻させまいとしているのか?なら、突破するしかない!行くぜ、ピカチュウ、ゲッコウガ、ルカリオ!

俺たちの気持ちが高まったとき、新たな力が目覚める?

次回、XYサトシinアローラ物語
『キズナの果てに!唸れ、ピカチュウのZ技』
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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キズナの果てに!唸れ、ピカチュウのZ技

はい、色々とね、もういじくりまわしましたね

何故こうなったのかというなら、
私の趣味だ。だが私は謝らない! (ナニイッテンダ

いよいよほしぐも編も残すとこあと2話
最終回一個前、どうぞ〜


何者かが次元を超える移動を行うとき、否が応でも彼らはそれを感知する。

 

彼らが影響を与えるのは、何もよく知るポケモンたちの世界だけとは限らないのだから。

 

故に彼らは常にいる。

 

あらゆる世界との狭間の場所に。

 

或いは世界の裏側に。

 

或いは時空の奥も奥底に。

 

通過者がいるだけならどうもしない。

 

自分が動く事、そのことの大きさを十分に理解しているから。

 

ただ、そこからはひどく懐かしい気配がして———

 

ひどく危険な予感がしていたから———

 

赤い瞳が見開かれ、懐かしい気配を追って行く。

 

大きな身体が、空間を駆け抜ける。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ルザミーネさん!」

『やだやだ、来ないでよ!』

 

手持ちのポケモンを全て出したルザミーネ。サトシがすかさず近づこうとするも、触手の先から攻撃を放つ。慌てて避けるサトシたち。攻撃が地面に当たると、煙を上げながら、その場所が溶ける。

 

「わっ、なんだ!?」

『サトシ、気をつけろ。それは、猛毒だ』

「毒っ!?」

 

思わず溶けた場所を二度見するサトシ。視線をルザミーネに戻すと、再び毒による攻撃を開始したところだった。

 

「ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

 

サトシの投げたボールから飛び出し、ゲッコウガが水で練り上げた手裏剣を連続で投げつける。百発百中で、ゲッコウガの攻撃がルザミーネの攻撃を全て撃ち落とす。

 

『サトシ、私ははがねタイプもある。私が先行して、毒を防ごう』

「頼むぜ。ピカチュウ、ゲッコウガ、ソルガレオ。援護してくれ」

「ガルル」

「コウッ」

「ピィカ!」

 

頷くポケモンたちに笑みを返し、サトシが帽子のツバを後ろに回す。

 

「行くぜ!」

 

 

 

サトシがルザミーネを追う中、他のみんなのバトルも激しさを増していた。

 

「ガラッ!」

 

バクガメスに飛びかかって来たエンニュートををガラガラがフレアドライブを使用し、弾き飛ばす。

 

「アッマ!」

「ヂッヂ!」

「クロッ!」

「コォン!」

「ニャァァッブ!」

 

モクローたちのコンビネーション技で、雷電を纏う巨大な炎の渦がミロカロスたちの周囲を覆い、動きを封じる。

 

 

「ブラッ、キー!」

 

あくのはどうで、アブソルの逃げ道を塞ぐように攻撃するブラッキー。

 

トレーナーとポケモンとが協力し合い、徐々にルザミーネのポケモンを追い詰める。

 

 

 

「俺の全身!全霊!全力!全てのZよ!」

「アーカラの山の如く、熱き炎となって燃えよ!」

「ダイナミック、フルフレイム!」

 

 

「届け、水平線の彼方まで!」

「スーパーアクアトルネードッ!」

 

 

「蒼き月のZを浴びし、岩塊が今!」

「滅びゆく世界を、封印する!」

「ワールドエンドフォール!」

 

3つの戦地で、3人のZクリスタルが光を放つ。火球が、渦潮が、岩塊が、それぞれの相手へと迫る。

 

宙に浮く足場を揺るがすほどの衝撃が、彼らの戦場を揺らす。衝撃や煙がおさまると、彼らの前には、倒れ伏した相手のポケモンが見える。

 

「勝てたのかな?」

「やったね!」

 

喜びを分かち合うマオとスイレン。が、

 

「っ、立ち上がった、だと!」

 

目の前の光景に、カキが、グラジオが、マオたちが、思わず息を呑む。確実にZ技が決まり、目を回していたはずのポケモンたちが、まるで何もなかったかのように立ち上がる。

 

『ビビッ、理解不能理解不能!あのダメージで立ち上がれるはずがないロト!』

 

「っ、まさか、母さんを止めない限りは、こいつらも倒せないってことか?」

 

握りしめた拳に力がこもる。既に切り札であるZ技を使ってしまった今、自分たちの方が圧倒的に不利であることは間違いない。

 

「くっ、バクガメス!ガラガラ!リザードン!まだいけるか?」

「バッスーン!」

「ガァラ!」

「グルォォォッ!」

 

「みんな、もう少し頑張って!」

「お願い!」

「ううっ、やるしかないよね」

『来るロト!』

「ニャブ!」

「クロッ!」

「コォン!」

「アマイ!」

「アウッ!」

「マリュ!」

「ヂヂ!」

 

「ブラッキー、ルガルガン!ここは頼む!」

「ブラッキ」

「ガウッ」

「行くぞ、シルヴァディ」

「シヴァ!」

 

(頼む……急いでくれ、サトシ……)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

走る。

 

ただひたすら走る。

 

後退しながら毒を放ち続けるルザミーネめがけて、サトシはまっすぐ走る。

 

飛んでくる毒をルカリオとソルガレオが弾き、飛沫が飛んでもゲッコウガが洗い流す。

 

仲間たちのサポートを受けながら、サトシとピカチュウは、助けるべき人のために、守るべき約束のために、ただ前を向いて走る。

 

『来ないで!来ないで!あっちへ行ってぇぇ!』

 

ルザミーネの叫びに、周りの岩が変化する。サトシの道を阻む壁のごとく形を変える。それでも、

 

「ソルガレオ!」

「ガルルルォォォアァ!」

 

ソルガレオが跳躍し、力を込める。額に星空のような煌きが宿り、太陽のような紋様が浮かび上がる。太陽の熱、焔の一撃。ソルガレオが炎の弾丸となり、壁をたやすく突き崩す。

 

と、目に入るのは毒の地面。サトシとルザミーネを分断するかのように、毒が地面を覆い、普通では渡ることができない川を作り上げている。

 

あくまで普通のやり方では。

 

ソルガレオがサトシを乗せるために身をかがめる。すぐさま飛び乗るサトシ、ピカチュウ、ゲッコウガ。はがねタイプを持っているソルガレオとルカリオは、毒に臆すことなく、その上を駆け抜ける。

 

「急がないと……みんなも頑張ってるんだ」

「サトシ!」

 

突然聞こえた声に、サトシが振り向く。見ると、ピクシーに抱えられたリーリエと、シルヴァディに跨るグラジオが、彼らを追いかけるようにかけてきている。

 

ピクシーの特性はマジックガード、そして今のシルヴァディははがねタイプ。どちらも毒なんてなんのその。渡り終えていたサトシの隣に、2人も並び立つ。

 

「リーリエ、グラジオ!ピクシーはもう大丈夫なのか?」

「ええ。わたくしの事、思い出してくれました」

「よかった」

「サトシ、下はかなりまずい!母さんを倒さない限り、ポケモンたちは何度倒されても復活してくる!このままだと、他の奴らが!」

「ルガルガンはもう下に向かってくれています!」

 

思っていたよりも深刻な状況に、サトシの表情に若干の焦りが浮かぶ。早くなんとかしないと、みんなが危ない。

 

更には、

 

『っ、サトシ!』

「他のウルトラビーストまで!」

 

傍観していただけだった他のパラサイトたちが、徐々にサトシたちの方へと近づいてきている。複数のパラサイトからベノムショックが放たれる。咄嗟にソルガレオが守りに入り、事なきを得たが、ピンチに変わりはない。

 

「くそっ、どうすれば……?リーリエ?」

 

悔しげに声をあげたグラジオが、周囲を見渡し異変に気付く。いつのまにか、リーリエがいなくなっている。慌ててもう一度周囲を見ると、崖の上まで逃げたルザミーネを追うかのように、リーリエが崖を登ろうとしている。

 

「リーリエ!危険だ!戻れ!」

「お兄様!サトシ!お願いします、わたくしに任せてください!」

「でも、」

「わたくし、ちゃんとお話ししたいんです!お母様と!」

 

振り返りながらそういうリーリエ。その真っ直ぐな瞳に宿る、強い覚悟。その覚悟を秘めた眼差しを見つめ、グラジオがフッと息を吐く。

 

「わかった……サトシ、リーリエを頼む!俺はこいつらを引きつけとく」

「わかった。ソルガレオはグラジオに力を貸してくれ」

「ガルゥ」

 

ソルガレオが頷くのを見て、サトシたちもリーリエを追うように登り始める。

 

 

「リザードンは空のやつらを引きつけてくれ!ガラガラ、フレアドライブ!」

 

「モクロー、飛び回って撹乱お願い!」

「スイレン、マーマネ、あたしたちはモクローを援護するね」

 

「ルゥガ!」

「ルガゥ!」

 

他の場所でも、ウルトラビーストたちの参戦によって、窮地に立たされる仲間たち。

 

早くなんとかしないと———

 

———みんなが、危ない!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

最初に崖を登りきったリーリエが、呼吸を整えるべく息を吐く。

 

既に服は汚れ、丁寧に手入れされていた髪も所々がほつれている。

 

いつもからは想像もできない姿のリーリエだったが、彼女自身もそんなことを気にしていられる状況ではなかった。

 

目の前には自分を睨みつける女性。

 

とてもよく知っていて、でもよくわからない。

 

ルザミーネの視線を受け、リーリエが真正面からその視線を迎え撃つ。

 

「わたくし、お母様に言いたいこと、沢山あります……」

 

ああ、本当に……ありすぎてどこから始めればいいのか困るほどだ。ちゃんと言えるだろうか。ちゃんと伝わるだろうか。

 

でも、

 

『できるさ!もしリーリエが本気で家族と向き合えたらさ』

 

あの時、彼にそう言ってもらえたのだから、

 

「わたくしは、お母様のことが、大っ嫌いです!」

 

ありったけの声を張り上げ、リーリエがルザミーネに伝える思い。

 

その言葉を聞いて、ルザミーネの動きが止まる。

 

「いつもいつもわたくしのことを赤ちゃん扱いして、一方的に思いを押し付けて……そして今も、子供みたいなわがままばっかり!」

 

「あの日、ウルトラビーストに初めて会った時から、お母様はビーストのことばかり……まるで操り人形のように、ビーストに取り込まれて……」

 

「思い出して、お母様!」

 

「貴方がどうしてウルトラホールの研究を始めようと思ったのか!」

 

『わた……しは……』

 

明らかな動揺が、ルザミーネに現れる。

 

わなわなと震え、目が見開かれている。

 

どうして研究を始めたのか?

 

そんなの……

 

『モーン……』

 

漏れたのはとある人の名前。

 

自分にとって、リーリエにとって、グラジオにとって……

 

家族にとって大切な、最後の1人の名前……

 

大切な……家族……?

 

そうだ……

 

グラジオは、大切な息子だ……

 

リーリエは、大切な娘だ……

 

可愛くて可愛くて仕方がない、自慢の……

 

『リー、リエ……』

 

 

———突然、視界が闇に飲み込まれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お母様!」

 

突如起こった変化に、驚きの声を上げるリーリエ。後から登ってきたサトシとリーリエの前で、ルザミーネの姿が、パラサイトに飲み込まれる。

 

まるで絶対に逃がさないと言わんばかりに、ルザミーネの体が見えなくなる。

 

「どうすれば……」

「そうだ、Z技で……いやっ、でもルザミーネさんに当たったら……」

 

悩んでいる間にも、まるで身を守るかのようにどんどん地形が変化する。岩場が盛り上がり、壁のごとく、パラサイトの周りを覆う。

 

「なんとか引っ張り出すしかない!行くぜ、ピカチュウ、ゲッコウガ、ルカリオ!」

 

一斉に駆け出すサトシたち。パラサイトが放つ毒に加え、周囲の岩までまるで意思があるかのように降り注ぐ。

 

「ピカチュウ、10まんボルト!ルカリオ、はどうだん!行くぜ、ゲッコウガ!」

 

ピカチュウの電撃が、ルカリオの波導が岩や毒を貫き、砕く。サトシに並走するゲッコウガが姿を変え、クナイを手に取り切り裂く。

 

徐々に岩場へは近づいている。それでも、ルザミーネを包むパラサイトには届く気配がない。

 

「ゲッコウガ、みずしゅりけん!」

「コウッガ!」

 

ゲッコウガの強烈な一撃が、岩を切り裂きパラサイトに迫る。命中し大きく体が揺れるが、それでも、ルザミーネを手放す気配は全くない。

 

「やっぱり、Z技で行くしかないのか……でももしルザミーネさんにまで当たったら……」

 

一瞬の戸惑い、その瞬間、サトシめがけて触手が振るわれる。薙ぎ払われるように弾かれた体が宙を浮く。

 

「ぐっ!」

「ガッ!?」

『サトシ!』

「ピカピ!」

 

慌てて駆け寄り、二撃目を防ぐルカリオ。ダメージが共有され膝をつくゲッコウガ。ピカチュウは衝撃で飛ばされたサトシの帽子を拾う。

 

「っ、大丈夫だ……やるしかないな。ルカリオ、ルザミーネさんの正確な位置を探ってくれ。ゲッコウガはルカリオの援護。Z技を使った後、すぐにルザミーネさんを助けてくれ。ピカチュウ、いけるか?」

「ピカピーカ!」

「コウ」

『わかった』

 

瞳を閉じ、波導を探るルカリオ。邪魔しようと襲いくる攻撃を、ゲッコウガが全てさばく。ピカチュウとサトシはZ技に向けて気持ちを高める。

 

『見つけた。あの球体の中央だ』

「オッケー。ルカリオ、時間稼ぎ頼む!行くぜ、ピカチュウ!」

『任せろ』

「ピッカァ!」

 

あの強固な守りを突破するには、全身全霊の一撃を当てる必要がある。それも、一箇所ではなく全体に。スパーキングギガボルトで通用するかはわからない、けれども、

 

(絶対に、助け出す!)

 

サトシとピカチュウの気持ちが、合わさる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「コウッ?」

 

突然、元の姿に戻った自分に驚くゲッコウガ。しかし直後、よく似た力の流れを感じ取り振り向く。

 

サトシとピカチュウ。

 

2人の間につながる思い。

 

それはピカチュウに注がれるのではなく、サトシの腕につけられたZクリスタルに注がれている。

 

ひし形の鉱石の形が変わる。

 

現れるのは電撃の形。

 

身体中を駆け巡る激しい力の奔流は、ソルガレオのZクリスタルを嵌めた時と似ている。

 

サトシの帽子をかぶり、飛び上がったピカチュウ。拳を合わせ、ハイタッチする2人。

 

「行くぜ!これが、俺たちの、全身全霊!」

 

轟くは激しい雷鳴。彼らの代名詞と呼べる技、その究極形。

 

「10まん、100まん……いや、1000まんボルト!これが俺たちの、全っっ力っだぁぁっ!」

「ピィカ!ピカピカピカピカッ、ピィ〜カ〜ッ、チュゥゥゥゥウ!」

 

並みのピカチュウには到底なし得ない高さのジャンプで、ピカチュウが空中高くまで跳び上がる。光の届かないようなくらい空に、激しい火花が散り、瞬く。

 

その雷撃はまるであの日の再来。

 

2人を繋いだ、あの雨の日のよう。

 

しかし今は天候の助けは要らず、必要なのは2人の思いだけ。

 

本来の許容量をゆうに超えているはずの電力が、電圧が、電流が、あの小柄な体に集約されている。

 

ほぼ袋から電気が溢れる。

 

赤、青、黄、緑、橙、紫、藍。

 

その眩い攻撃は、この暗い世界において、まるで闇を照らし、逆境を跳ね除ける希望の光。

 

7色の雷撃が、パラサイトに降り注ぐ。7つの電撃それぞれが電光の柱を上げるほどの威力がこもっている。圧倒的な電力はしかし、正確に敵の中央に届かぬよう、岩を砕き、表面を焦がす。助けたいと願うその気持ちに答えるかのように、ルザミーネ以外にのみダメージが通る。

 

と、パラサイトの動きが止まる。その一瞬の隙を逃すサトシではなかった。

 

「ゲッコウガ!」

「ゲッコウ!」

 

雷鳴がやんだ直後、素早く動いたゲッコウガが飛び込む。片手に握った光の刃。それを持って力なくルザミーネを拘束している触手を断ち切る。

 

膨れ上がり、姿が変わっていたパラサイト。その体が崩れたかと思うと、本体らしきパラサイトが塊から飛び出す。無理やり固められていたのか、ボロボロと大きな影が崩れ落ちる。

 

完全に崩れた後には何も残らず、少し離れた場所で、ゲッコウガがルザミーネを抱えている。

 

「やった……やりました!」

「終わった……のか?」

 

笑顔でゲッコウガの元へ駆け寄るリーリエとピクシー。ほっと溜息を吐き、安堵の表情を浮かべるグラジオ。

 

「ニュート?」

「ん?様子が……」

 

「ドレディ?」

「ミィィロ?」

「もしかして、元に戻った?」

「ってことは、やったんだ!サトシたちが」

 

「ソォル?」

「ブラッキ!」

「ソォル……」

 

下で戦っていたポケモン達の様子が変わる。戸惑いの表情を浮かべ、辺りを見渡している。先程までの強いオーラも消え、疲れたのか、座り込むものも。そんなポケモン達を見つめ、マオ達は笑顔を浮かべる。

 

 

「やったな、ピカチュウ……」

「ピィカ」

「ははっ……あ〜、疲れたぁぁ」

「チャァァ」

 

2人並んで仲良く座り込むサトシとピカチュウ。疲労困憊な様子でありながらも、朗らかな笑みがこぼれる。

 

「ピカピ」

「ん?あ、サンキューな、ピカチュウ」

 

ピカチュウがサトシに帽子を差し出す。笑みを深くし、サトシがピカチュウから帽子を受け取る。

 

あとは元の世界に戻るだけ。それでこの事件は解決する。

 

 

そう、誰もが思っていた……

 

 

 

 

『避けろ!』

 

緊迫した声をあげたのは、ルカリオだった。突然の声に驚きながらも、サトシとピカチュウは咄嗟にその場から転がるように逃げる。

 

ほんの一瞬前まで彼らがいた場所が、毒の液に溶かされる。

 

『こいつら、まだ!』

 

ルザミーネと同化していたパラサイトが離れ、事件が解決したかのように思っていた。けれども、

 

(……違ウ……仲間、違ウ。敵……排除……敵……排除!)

 

感じられるのは明確な敵意。パラサイト達にとって、自分たちの世界で暴れまわった(ように見える)サトシ達は、危険な存在、敵と認識されてしまったらしい。

 

「くそっ……シルヴァディたちも、もう限界に近い!」

「そんな……お母様を助けられたのに……」

 

 

「リザードン、しっかりしろ!」

 

「モクロー、大丈夫?」

『ビビビッ!大ピンチロト〜!』

 

「ルゥガァァッ!?」

 

既に気力も体力も使い果たし、限界状態のサトシ達。反撃しようにも、力が入らない。ソルガレオも必死に戦うが、数が多すぎて守りきれない。

 

「なんとか、しないと……っ!」

 

立ち上がろうとするサトシ。その彼目掛けて放たれる攻撃。気付いた時にはもう遅く、彼らの目の前まで、攻撃が迫っていた。

 

(……やられる!)

 

『サトシよ……心配しなくても良い』

 

「グァァァァッ!」

「パルルルォォォア!」

「キュゥゥウン!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

響いたのは落ち着いた声と、何者かの雄叫び。次の瞬間、彼らに襲いかからんとしていた攻撃が、まるで見えない盾のような何かに防がれる。

 

「今の声……まさかっ!」

 

サトシが顔を上げると、そこには……

 

 

恐る恐る目を開いたカキ。目の前に広がるのはウルトラビーストの世界ではなく、深く、そしてどこか神々しい群青。まるで自分たちを守るかのように覆いかぶさるその影が、彼に顔を向ける。

 

その胸の中央にはダイヤのごとき宝玉。尾の部分はまるで巨大な扇のよう。

 

その姿はまるでサトシが来る前、ククイ博士が教えてくれた伝説そのもの。

 

「まさか……ディアルガ!?」

 

時を司る神の如きポケモン、ディアルガが、ウルトラビーストを見上げる。

 

 

その巨体を見上げるマオ達は、思わず腰を抜かしそうになる。両肩の宝玉が煌き、桁違いの風格を持って彼女たちを庇うそのものの体は、真珠の如く美しく、神々しい。

 

口を開き大きく吠える。その迫力にポケモンたちの体から力が抜ける。

 

あまりにも、あまりにも、その存在は桁違いだった。

 

「嘘……」

「こここここれって!?」

「パルキア……」

 

空間を司る神の如きポケモン、パルキアが、彼女たちを守るように手を広げる。

 

 

突然現れたその姿に、一瞬恐れにも近い感情を抱いたものの、ルガルガンたちが感じたのは畏敬の念だった。

 

本能が告げている。これは、いや、この方がいるから、自分たちは生きているのだと。今助けてもらったことだけではなく、その存在自体が、自分たちの世界を支えているのだと。

 

本来決して会えるはずのない、世界の裏にあるもう1つの世界の主。

 

ギラティナが、彼らの方を向き、小さく頷いた。

 

 

 

それはどんな文献よりも古く、存在さえも疑われる。全てのポケモンの遺伝子を持つミュウでさえ、そのものの子と考えられるほど。

 

世界にはいろんなポケモンがいるが、その全ての始まり、創世の伝説。時間、空間、反転。神と呼ばれるものたちを生み出し、人々とポケモンを生み出した、大いなる慈愛を持って常に世界を見守り続けるもの。

 

本で読んだことはある。

 

研究の元として話は聞いている。

 

だが、こんなことがあるなんて、果たして誰が思うだろう。

 

そのものはゆっくりと彼らの前に降り立つ。音もなく、優雅に降り立つその姿は、まさに神と呼ばれるにふさわしい。ソルガレオが膝を曲げ、まるで跪くかのように、頭を下げる。伝説のポケモンであるソルガレオでさえも、敬意を払わずにはいられない存在。

 

その瞳が1人の少年を捉える。そこに込められているのが、ただの慈愛だけでなさそうなのは気のせいではないだろう。

 

何故なら少年が嬉しそうに立ち上がり、その名を呼んだ時、

 

「ありがとう……アルセウス。また会えて嬉しいよ」

『サトシ……こうして言葉を交わすのは、随分久しぶりのように思えるな』

 

その瞳が細められる。嬉しい、その気持ちが伝わる。

 

そうぞうポケモン、アルセウスが、サトシを見下ろしながら、笑っている。

 

 

 

「でも、どうして?」

『お前達が時空を超えるのを感じ、異変があったのかと見に来たのだ。どうやら、来て正解だったらしい』

 

フワリと、アルセウスの巨体が浮かび上がる。空に浮かんでいるウルトラビースト達も、何やら戸惑っている。

 

(強イエネルギー……光……違ウ、デモ)

 

『もう怖がらなくても良い、この世界の子供達よ。彼らはお前達に危害を加えに来たのではない』

 

威厳ある声で、落ち着いた風格で、アルセウスが語りかける。姿は見えずとも、その声はこの世界の全てに響く。

 

『彼らは愛する者を返して欲しいだけなのだ。そしてもう、彼らは帰るだろう。この世界のことは心配しなくてもいい。私が元に戻そう』

 

(……ホント?……敵ジャナイ?)

 

『本当だとも』

 

アルセウスの言葉に、パラサイト達の動きが止まる。敵意もなく、ただサトシ達をじっと見つめているだけ。

 

『さぁ、サトシ。仲間達とともに帰るのだ。お前達の世界へ。心配することは何もない』

「アルセウス……ホントはもっと沢山のこと、話してみたいよ」

『私もだ……きっとまた会えるだろう。お前が旅を続ける限りは』

「うん」

 

最後にサトシに1つ頷き、アルセウスがさらに高く浮かんで行く。その周りに集まるように、3つの巨大な影が集まって来る。アルセウスよりわずかに低い位置にとどまり、彼らはサトシを見てから鳴き声を上げる。

 

「ディアルガ、パルキア、ギラティナ!みんなも来てくれたのか?」

 

答えるようにまた鳴き声が上がる。左手を高く上げ、サトシが大きく手を振る。

 

「ありがとな!」

「ピカピィーカ!」

 

サトシのその様子を眺め、アルセウスの体が輝く。盛り上がっていた岩場は元の高さに戻り、砕けた足場は修復される。戦いによって生じた破損が、まるで最初からなかったかのように復元されていく。そして最後の大地が元に戻った直後に、アルセウス達の姿はなくなっていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うっ……ここ、は?」

 

空を見上げていたサトシ達がその声にハッとする。ゲッコウガに支えられていたルザミーネの瞳が、ゆっくりと開く。

 

「お母、様?」

「……リーリエ?……あ……そう、だったわね」

 

意識が戻ったばかりではっきりしなかったのか、何度か瞬きを繰り返すと、泣きそうな表情になるルザミーネ。

 

「お母様?っ、わわっ!?」

 

母親のその様子に心配気に顔を覗き込むリーリエ。と、その体が抱きしめられる。でも今までのような子供をあやすようなものではなく、それはまるで縋り付くかのように強く、痛く、そして優しかった。

 

「あなたの言葉……胸に届いたわ。いつのまにか忘れてたわ……こんなに大切な、宝物達……」

「お母様……」

 

そっと腕を伸ばし、母親の震える肩に腕を回し、抱きしめる。ジワリと視界が滲む。顔がクシャっと歪んでしまう。ああ、きっととてもみっともない顔をしているのだろう。でも、仕方がなかった。だって、

 

「ごめんね、リーリエ。ごめん、なさい……」

「っ!」

 

自分が望んでいた、幸せな結末が、ここにあるのだから。

 

 

「サトシ……」

「あっ、グラジオ」

「色々聞きたいこと、言いたいこと、あるがまずはこれだけ言わせてくれ……ありがとな、約束守ってくれて」

「っ、へへっ。ああ!」

 

サトシが鼻の下を左手でこする。キラリと黄色のZクリスタルが煌めく。稲妻ではなく、元の菱形に戻って。

 

 

みんなの元へ戻ると、誰もが興奮状態にあった。

 

「そっちもか?」

「うん!パルキアが来て、もう凄かったよ!」

「俺のところはディアルガだったぞ」

「ガウガウッ!」

『ええええっ!?ギラティナに会ったロト!?って!データアップデートし忘れたロト!』

 

「あっ、リーリエ!」

 

最初にリーリエ達に気づいたマオに続くように、みんなが駆け寄って来る。

 

「助け出せたんだね!よかった〜」

「はい!皆さん、ありがとうございます!」

「いや〜、よかったよかった」

「ああ」

「これでみんなハッピー、だね!」

 

「グラジオ……この子達は……」

「ああ……関係ないって言っても、みんなで分かち合おうって……」

「そう……いい友達を、リーリエは持ったのね」

「そうだな……あいつも……俺も」

「!……ふふっ」

 

話したいことはたくさんある。でも、先に帰ろう、ということになり、サトシ達はポケモン達をボールに戻す。屈み込んだソルガレオの背中にサトシ達が乗る。

 

ふとサトシが後ろを見ると、パラサイト達が自分達を見つめている。最後に手を大きく振り、サトシが正面を見つめ直す。

 

「帰ろう、俺たちの世界へ」

 

 

ウルトラホールを抜け、元の世界に戻ったサトシ達。ククイとバーネットに出迎えられた彼らの大冒険は一先ず終わりを告げた。

 

 

———一先ずは

 

 

(光……光……足リナイ……光……光……モット、モットモット……)

 

………………To be continued

 




平和な日常

穏やかな日々

いつの間にかいなくなっていたソルガレオ……

そんな中、ククイ博士が一大勝負?

次回、XYサトシinアローラ物語
『別れと始まり。博士の想い』
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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別れと始まり。博士の想い

記念すべき100回目の投稿です!
そしてほしぐも編はこれにて終了!

最後の最後にいい感じの区切りがついて驚きです笑


日輪の祭壇。

 

空にある小さな穴を、ククイとバーネットは真剣な眼差しで見つめている。

 

あの穴、ウルトラホールの先へ行ってしまったサトシたち、そしてルザミーネ。今の自分たちではできることはないけれども、せめてここで待つことくらいは、そう思い、彼らはその場を動かずにいた。

 

と、観測用の機械に反応が。

 

「ククイ君、これ!」

「この反応……もしかして」

 

二人が慌てて空を見上げる。小さかった空の穴が徐々に広がっていく。そして人が容易く通ることができるほどの大きさまで広がった穴から、何かが飛び出そうとしている。

 

「あれは?」

 

白い体に雄々しい鬣。

 

走るように空をかけながら、巨大な影がウルトラホールから飛び出して来る。そしてその背中には、見覚えのある彼らの姿も。

 

「みんな!」

「帰ってこれたのね!」

 

「ククイ博士!バーネット博士!」

 

祭壇の中央に降り立った彼らの元へ駆け寄るククイとバーネット。満面の笑みを浮かべながら、サトシたちが手を振っている。彼らのすぐ側でグラジオに支えられているのは、

 

「ルザミーネ!」

「バーネット……あなたにも、心配かけたわね」

「いいのいいの。無事なら良かった」

「ありがとう……」

 

バーネットに肩を貸してもらいながら、ルザミーネがソルガレオから降りる。顔を上げた彼女の目に飛び込んで来たのは、

 

「良かったね、リーリエ!」

「うん」

「はい!マオもスイレンも、ありがとうございました!」

「いいのいいの!あたし達は仲間なんだから」

「助け合い、当然!」

「そうですね。いつか、わたくしもお二人の力になりますから」

「ありがとう、リーリエ」

「頼りにする、絶対ね」

「はい!」

 

「すまなかったな……巻き込んでしまって」

「いや、俺たちがしたくてやったことだ。気にするな」

「僕も貴重な経験ができた、と思うし」

「……すまない」

「違うって、グラジオ」

「?」

「こういう時は、ありがとうでいいんだよ」

「……そうだな……ありがとう」

 

仲間達に囲まれ、楽しげに会話する二人の子供達。いつの間にこんなに大きく、頼もしくなっていたのだろうか。

 

「……気づいていなかったのは、私だけだった、ということね。母親が聞いて呆れるわね」

「大丈夫よ。これからきちんと向き合っていけばいいんだから」

 

俯きかけた顔を隣に向けると笑顔のバーネット。茶目っ気たっぷりのウインクをしてくれる彼女を見て、子供達を見て、

 

「そう、ね……これから先、向き合って行くのよね」

 

久し振りに思えるほど素直な笑みが、ルザミーネの口元に浮かんだ。

 

 

 

「ガルルォォア!」

 

突然聞こえた鳴き声に、サトシ達が驚き、声の下方向を向く。

 

沈みゆく夕日を背に、空に浮かんでいるソルガレオが、サトシ達を見下ろしている。

 

「ソルガレオ、ありがとな!お前が助けてくれたから、リーリエのお母さんを助けられた」

「わたくしからもお礼を言わせてください。本当に、ありがとうございました」

「協力、感謝する……ありがとな」

 

感謝の言葉を伝えながら手を振るサトシ達。その様子をジッと見つめていたソルガレオが小さく頷く。

 

サトシ達から顔を背けるように、ソルガレオが空に吠える。空間に穴が空き、ウルトラホールが広がる。

 

「ソルガレオ?」

 

最後にサトシを見てから、ソルガレオはウルトラホールへと飛び込む。その姿が見えなくなるとともに、ウルトラホールが塞がる。ソルガレオは、完全に何処かへと姿をくらませてしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それからの数日間は、色々と慌ただしいの一言だった。

 

ザオボーについての対応を考えなければいけなかったり、ルザミーネさんの精密な検査が行われたり、サトシとシンオウの神々との関係について説明したり……

 

 

「ザオボーさんは既に姿をくらましてしまっています。今では何処で何をしているのかも」

「少なくとも、エーテルパラダイスに戻ることは不可能ね」

「あいつは俺が探す。このまま大人しくしているとも思えないからな」

「グラジオ……でも、これは私たちエーテル財団の問題で、」

「ああ……だから俺が動くんだ……次期代表となる者としてな」

「えっ」

「それにどうせ俺は島巡りの途中でもある。自由に動ける俺が動くのが合理的だろう」

 

そうルザミーネを説得したグラジオは、直ぐに旅立つことを決めた。

 

「じゃあな、リーリエ」

「……また会えますよね?」

「……必ず。サトシ」

「ん?」

「次会う時、またお前と全力でバトルがしたい」

「!っへへ、俺もだぜ!」

 

しっかりと握手を交わすサトシとグラジオ。フッと笑みをこぼし、グラジオが背を向け、振り返ることなくてを上げる。簡潔すぎる別れの挨拶に苦笑しながらも、サトシは、そしてリーリエは手を振った。

 

「いってらっしゃい!お兄様!」

 

 

ルザミーネはパラサイトの毒を受けたことから、何かしらの後遺症や副作用が残るのではないかと思われ、しばらく自宅療養して精密な検査を受けることになった。バーネットやジョーイさんの協力を得た検査と療養、その間、リーリエはずっと彼女のそばにいた。

 

ポケモンスクールも休み、博士の家にも戻らず、エーテルパラダイスにある家に滞在し、甲斐甲斐しくルザミーネの看病をした。

 

「出来ました。少し熱いかもしれないですけど」

「ありがとう……いつの間に料理なんて覚えたの?」

「お友達に教わったのです。料理だけじゃなく、ポケモンの世話も、ポケモンとの遊びも、機械の使い方も……それに、自分から一歩を踏み出す勇気も……たくさんのことを教えてもらいました」

「そうなの?……ねぇ、聞かせてくれないかしら、あなたの話を」

「もちろんです!」

 

スクールでみんなと出会ったこと。

 

ポケモンについての授業が楽しかったこと。

 

そして、ある日現れた少年と出会ったこと。

 

そこから始まった驚きの経験の数々を、リーリエは思い出せる限り語って聞かせる。

 

優しそうな微笑みを浮かべながら、その物語を聞くルザミーネの表情は、まさしく母親としてのものだった。

 

 

「で、サトシ説明!」

 

事件が解決した翌日。リーリエ以外の全員が登校しているポケモンスクールでは、サトシがクラスメートに取り囲まれていた。

 

「えっと、説明って?」

「勿論、パルキア達のことだよ!」

 

あの日はリーリエ、グラジオ、ルザミーネさん、それにソルガレオ(ほしぐも)のことで色々あり、聞ける雰囲気ではなかったものの、流石に気になりすぎたマオ達は、翌日の朝に早速サトシに詰め寄った。

 

「ああ。友達だよ」

「とも、だち?」

「まぁある程度予想していたとはいえ……」

「やっぱり驚きだよね……」

「どうやって知り合ったの?」

「え?あー、俺前にシンオウ地方を旅してた時があったんだけどさ、」

 

語られるのは神話の物語。否、現代の人が経験したことを話しているだけのことから神話と言っていいのかは定かではないが、それでもその内容は到底普通とは呼べないものばかりである。

 

まるまる1つの町を巻き込んで繰り広げられた時間と空間の衝突と、誰よりも優しくあった黒い影。

 

世界を支えるもう1つの世界、そこに住まう主と感謝のポケモンとの冒険。

 

神の力を利用しようと企み、新世界の創造を目的に動いた組織との対決。

 

時空を超え、人とポケモンとの絆を証明することができた創造神との絆を結ぶ物語。

 

そして最後に、カロス地方の旅の中で起きた伝説の激闘。

 

あまりにも、あまりにも大きなことすぎて、それらの出来事を全て乗り越えてきた目の前の少年が、もっとずっと大きな存在のように思えてしまう。

 

けど、

 

「旅の中でできた絆が、ずっと残っててくれてるってわかると、やっぱり嬉しくなるよな」

 

なんて、どうってことなかったかのように彼が笑うものだから。それで良いのかもしれない、なんて思えてしまう。

 

 

結局ククイ博士までもが聞き入ってしまっていたために、その日は授業らしい授業は1つも行われることはなかった。

 

 

 

(カプ・コケコ達にソルガレオ。更にはシンオウの神と呼ばれる伝説のポケモン達まで……ハラさんが前にサトシには何かあると言っていたが……本当にすごい子だな、あいつは)

 

彼の語る話は、どれも一度経験するだけでも一生にあるかないかのことばかりだ。研究者からしたら羨ましくて、もっと詳しく聞きたくなってしまう。

 

トレーナーならきっと一生の自慢として知り合いに語り、羨望の眼差しを向けられる。それだけでも一種のステータスとして評価されるだろう。

 

だと言うのに彼は決して自慢しない。いや、そもそも彼にとっては自慢するようなことではないのかもしれない。彼らとの出会いを語る彼の様子からわかる。

 

サトシにとって、シンオウの神たちも、島の守り神も、肩に乗っている相棒も、等しく同じ、ポケモンなのだ。

 

伝説だとか、希少だとか、そんなことは彼にとっては些細なこと。同じ世界に生きる命として、対等に見ているだけなのだ。

 

(でも、それが好かれる要因なのかもしれないな)

 

特別扱いなんかされなくても良い。

 

ただひたすらにひたむきに、自分たちと向き合ってくれる。

 

悪いと思ったら叱ってくれて、困ってると感じたら助けてくれる。

 

共に泣いて、怒って、笑ってくれる。

 

そんな彼だからこそ、ポケモンたちは彼に惹かれるのかもしれない。

 

サトシのことをもっとずっと、見守りたいという思いが、自分の中で大きくなっていくのをククイは感じていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

事件から1週間、

 

「皆さん、お久しぶりです!」

「おかえりリーリエ!」

「お母さん、大丈夫?」

「はい!もうすっかり元気です」

 

ルザミーネの検査が終え、異常なしとのことで自宅療養が昨日終わったため、今日からリーリエがポケモンスクールに復帰したのだ。

 

奇妙なことに、ルザミーネの体内からはパラサイトに受けたはずの毒素が全く見つからなかった。まるで体内から毒が丸ごと取り除かれたかのように。

 

そんなこと、人間やポケモンにはできるはずがない。

 

……普通のポケモンには。

 

「論理的結論として、きっと助けて下されたんです。アルセウスたちが」

 

あの時ウルトラビーストの世界を修復した光は、同時にサトシたちの傷や疲れまでもを癒してくれた。そしてその光が原因で、ルザミーネは毒が綺麗になくなっているのだろう。

 

「いつか、ちゃんとお礼を言いたいです」

「サトシなら呼べば来るんじゃないの?」

「いや……流石にそれはないだろ」

「あの……サトシ?どうかしましたか?」

 

どこか考え事をしている様子のサトシに疑問を覚えるリーリエ。不安げな彼女の様子に慌ててサトシが笑顔を浮かべ首を振る。

 

「いや……お礼でなんとなく思い出しちゃってさ。ソルガレオ、あれからどうしてるのかなってさ」

 

あの日、ウルトラホールの奥へと消えてから、ソルガレオがサトシたちの前に現れることは一度もなかった。

 

今はどこで何をしているのか……ずっと世話をしていたサトシは、ソルガレオの行方が気になって仕方がない。

 

「大丈夫だってば、サトシ」

「また会える、絶対!」

「アルセウスたちともそうだったんだろ?」

「だったら、ソルガレオもまた顔を出しに来るかもしれないよ」

「……そうかな?」

「絶対そうですよ、サトシ」

「……だな!」

 

ニカッといつもの笑顔になるサトシ。そんなサトシを見て、クラスメートを見て……

 

「皆さん……改めて、ありがとうございます。お兄様と二人だけでは、きっと助けられませんでした。皆さんがいてくれたから……それに、」

 

一人一人の顔を見ながら語り、最後にサトシを見つめる。

 

「サトシがいてくれたから……ありがとうございます」

 

「気にすんなって。仲間を助けるのは当たり前だろ?」

「うんうん。あたしたち、いつでも力になるから」

「当然」

「ああ」

「僕だって、やるときはやるんだからね!」

「皆さん……」

「だから、いつでも頼ってくれ」

 

笑顔でサトシの言葉に頷くクラスメイトたち。こんな素敵な仲間たちに出会えたことは、きっとポケモンスクールに来れたから。自分の家族を巻き込んだ事件は、怖いことも辛いこともあったけど、その事件があったから今ここに自分はいる。なんとなくだけど、そんな気がした。

 

「はい!わたくしも、皆さんが困ってたら力になりますね」

「頼りにしてるぜ」

 

 

みんなで集まって絆を確かめ合うサトシたち。その様子を影からククイがそっと見守っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そっか。本当に仲がいいのね、あの子達」

「あれだけのことを経験したんだからな。絆も深まるよな」

「そういえばリーリエはどうするの?住むところ」

「ああ。家族とのいざこざも無くなったから、こっちにある別邸に住むってさ。執事の人が挨拶にしにきたし、今日荷物を移動させているところだと思う」

「そう。寂しくなる?」

「まぁ、ならないと言えば嘘になるな」

「そうね」

 

ポケモンスクールの教室に久しぶりに全員が揃ったその日。授業を全て終え、サトシたちに先に帰らせたククイは、待ち合わせの相手と浜辺を歩いている。

 

「それにしても、サトシは凄いわね。向こうでも大活躍だったみたいだし。それに、いつでも頼ってくれ、だなんて」

「ああ。時々本当にまだ子供なのか、わからなくなるよ。時折歳不相応というか、大人びてる時があるからな」

「そうね。私もそのセリフ言った時のサトシの顔、見てみたかったかも」

 

その時の様子を想像しているのか、ククイの隣の女性、バーネットがくすりと笑う。その表情を横目に見ながら、

 

「俺も……君に見せたいと思ったよ」

「えっ?」

 

ククイの表情を見て、バーネットが一瞬戸惑う。優しげな笑みの中に、優しさ以外の何かが見え隠れしているように見える。決して悪い感情ではないそれは……

 

「……そういえば、まだお礼をちゃんと言っていなかったわね」

「お礼?」

「そう。日輪の祭壇で助けてくれた時のこと」

 

 

サトシたちがソルガレオと出会っていた頃、ククイはバーネットの元へと向かっていた。元々バトルはあまり積極的にして来なかったバーネットは、ジャラコやジャランゴ達に道を塞がれ、先に進むことができずにいた。

 

そんな時、彼女とゴンベを庇うように飛び込んできたのがククイだった。

 

相棒のウォーグルとともに、大勢のジャラコたちとバトルしたククイ。この時、バーネットは守ってもらいながら、ようやく祭壇へとたどり着いた。

 

 

「あ、いや。気にしないでくれ」

「そう言うとは思ってた。でも、助けてもらったのは事実だから。だから、ありがとう」

「あ、ああ」

 

今度はククイが面食らう。バーネットとはそこそこ長い付き合いだが、彼女のそんな表情は初めて見た気がする。沈みゆく夕陽が彼女の表情を照らし、海に反射する光が背後できらめく。まるで1つの芸術のようで、吸い込まれるようで……

 

「ククイくん?」

「あ、いや……それにしても、俺の考えることをよく分かってるな」

「似てるのかもね、私たちの考え」

「そうだなぁ」

 

どちらからともなく足を踏み出し、並んで浜辺を歩き出す。なんだか、まるでその空間だけ切り取られたかのように、誰もいない。人も、ポケモンも。聞こえるのは波の音と風に揺れる木々、そして並んで歩く相手の足音。

 

「ねぇ、今私が何考えているのか、当ててみる?」

「今?」

「そう。わかるかな?」

 

どこかイタズラを思いついたような表情で、バーネットがククイの前に回り込む。

 

「答え合わせ、しよっか」

「えっ、ちょっ」

「せーのっ」

 

バーネットが片手を上げる。同時にククイも手をあげる。バーネットの手がククイへ伸ばされ、その指がククイを指す。

 

「「君に決めた!」……えっ」

 

同時に響いた声に、バーネットが驚きの声を漏らす。今度はククイがイタズラに成功したような笑みを浮かべながら、バーネットに向けられた手を裏返す。

 

その手に握られているのは、モンスターボール……かと思いきや、ボタンを押すとその蓋が開く。

 

きらり、と夕日の光を受けて中に収められていたものが光る。それは決して煌びやかなものではなく、派手な装飾のあるものではない。しかしそれは貰った人にとって、何よりも綺麗で、何よりも貴重、そんなプライスレスな煌き。

 

「ゲット……かな?」

 

ボール型の箱をククイが差し出す。驚いた表情のまま、バーネットが手に取る。箱の中から彼女を見上げるのは、シンプルなシルバーリング。

 

「……されちゃった」

 

なんてことを言いながら、彼女は心から幸せそうな笑顔を見せた。

 

 

 

 

ククイとバーネットがククイの家に着いた時、既に陽は落ち、夜になっていた。前もって遅くなるかもしれないと連絡はしてある。大事な話があるということも。

 

ククイが玄関の扉を開き、バーネットを招き入れる。サトシはリビングでポケモンたちの世話をしていた。リーリエの荷物は既に運び出されたようで、ロフトがやたらと綺麗に見える。

 

「あ、博士……と、バーネット博士も!おかえりなさい」

「ああ、ただいま。悪いなサトシ、遅くなって」

「いや、大丈夫。それで、大事な話って?バーネット博士にも関係あること?」

「ええ」

「驚かせることになると思うけど、聞いてくれ」

「わかった」

 

真剣そうな二人につられ、サトシも表情を引き締める。余程重要なことらしいことはわかった。まさか、またウルトラホール絡みなのかとも思い身構える。

 

「実は……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「「「結婚!?」」」

「そうなんだ」

 

翌日、ククイとバーネットから聞いた話をサトシがみんなに伝えると、女子組から黄色い歓声が上がる。無理もない。この年頃の女子にとって、結婚とはある種の憧れなのだ。

 

「けけけけ結婚!?」

「そりゃめでたいな」

 

何やら慌てふためくマーマネと、嬉しそうだが他と比べて冷静なカキ。形は違えど、二人も親しい二人のめでたい出来事を喜んでいるのは確かだ。一方女子組はというと、

 

「やっぱり、結婚式とかやるのかな?」

「バーネット博士のウェディングドレス!」

「きっととても綺麗ですね」

「指輪の交換とか?」

「ブーケトスとか!」

「とても幸せそうにしているお二人が想像できます!」

 

未だ見ぬ結婚式を想像しながら、大いに盛り上がっている。

 

「でもやっぱりあれだよね」

「うん。結婚式の一番は……」

「夫婦になるお二人の」

「「「誓いのキス」」」

 

キス、という単語に思わずサトシがピクリと反応してしまう。反射的に口元に上がっている手に、マーマネが思わず、

 

「そういえばサトシはキスは経験済みだったね」

 

なんて言ってしまうのだった。

 

「あ、うんまぁ……びっくりしてあんましよく覚えてないけどな」

 

照れくさそうに頬をかくサトシ。そんな彼の様子を見て、何やら複雑そうな女子たち。大変だこりゃ、なんて思いながらカキが軌道修正を図る。

 

「で、実際式はいつなんだ?」

「あー、それが……博士たちが式はしないって」

「「「えぇ〜!?」」」

 

明らかに落胆している女子たち。彼女たちを横目に、カキが理由を聞いてみる。

 

「それがさ、ウルトラホールやウルトラビーストのことで大変だったというのと、ここからもっと調査とかでみんな忙しくなると思ってるらしくてさ。だから式はしなくてもいいかなってさ」

「バーネット博士はエーテル財団での仕事もあるしな」

「準備する暇がないのかも……」

 

「あ!なら、あたしたちでプレゼントしようよ!」

「へ?プレゼントって、結婚式を?」

「賛成!」

「とても素敵だと思います!」

 

マオの提案に再び盛り上がり始める女子組。しかしそのアイディアにはサトシたちも乗り気だった。

 

「俺もずっと世話になりっぱなしだしなぁ。お礼ってわけじゃないけど、やりたい!」

「だな。俺も協力するぜ」

「もちろん、僕も手伝うよ」

「それじゃあ、アローラサプライズ第二弾ってことで、やっちゃおう!」

「「「「「おー!」」」」」

 

マオの掛け声に声を揃えるサトシたち。既にワクワクが止まらないらしく、秘密を隠すのに苦労する。その日の授業では、やたらと機嫌が良さそうなサトシたちに、首をかしげるククイだった。

 

 

 

 

放課後、所変わってアイナ食堂。サトシたち6人はサプライズの準備のために集まっていた。

 

「必要なのは参加者のリストにプログラム、料理とケーキにブーケでしょ」

「せっかくなので、アクセサリーとかも新しく用意するのはいかがでしょう?」

「バーネット博士の?いいね」

 

テーブルにつき、相談し合うサトシたち。既に博士たちの様々な知り合いには声をかけてある。

 

「カキ、ライチさんどうだった?」

「絶対来るって言ってたぞ。アクセサリーならライチさんに頼むのもありだな」

「会場の飾り付けなら、アローラサンライズの店長さんが協力してくれるって。ジュンサーさんとジョーイさんも来てくれるみたいだし」

「僕はハラさんのところに行って来たよ。他にもいろんな人に声をかけてくれるって」

「うんうん、順調順調。料理はあたしとお父さんがするし、ケーキはパンケーキ屋さんのノアさんが特別に用意してくれるって」

「お母様たちも参列すると言っていました」

 

当初自分たちが想定していたよりもはるかに大規模なサプライズになりそうではあるが、誰もが博士たちの幸せを一緒に祝福したいと言ってくれることに、サトシたちは喜びを感じている。

 

「ほしぐもにもお祝いに来てもらえたらいいんだけどな」

「サトシが教えてあげたら、きっと来てくれるよ」

「そうかもな……あいつにも来てもらえたら、凄くいい思い出になるかもな……」

 

窓の外に視線をやるサトシ。今もウルトラホールの向こうの世界をかけているのだろうか。そんなあいつにも伝えたくて心の中で語りかける。

 

(ソルガレオ……博士たちが結婚するんだぜ。一緒にいたお前にも……祝ってもらえたらな)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

とある日曜日の朝、気持ちよく寝ていたククイを襲ったのは何やら硬いものに突かれる感触だった。

 

「ん……なんだ?」

 

目を開き、ぼんやりとする頭で視界に入る情報を認識する。朝も早くから元気そうなモクローが覗き込んで来ている……

 

「って、モクローが起きてる!?」

 

「おはよう、博士」

 

普段の様子からはとても想像もつかないモクローの様子に、思わずククイが飛び起きる。そんな博士の様子を笑顔でサトシとピカチュウが見ている。

 

「サトシ?どうしたんだ?今日は日曜だから学校はないはずだろ?」

「へへっ。博士にちょっと見てもらいたいものがあるんだ。ついて来てよ!」

 

サトシたちが手招きをしながら先導するように部屋の扉を開ける。首を傾げながら、ククイがその後を追うように部屋を出て、地下から登る階段へと向かう。

 

「なぁ、サトシ。見てもらいたいものって?」

「いいからいいから。見てからのお楽しみ」

 

なんだかウキウキしているサトシの様子に、今日は何か特別なことでもあっただろうか、ともう一度首をかしげる。それでも何も思いつかないまま、ククイが階段を登りきりリビングに入る。

 

「それで、見せたいものってな……えっ?」

 

その時、ククイは思わず言葉を失ってしまった。待っていたのはサトシだけでなく、自分の生徒たち。みんなが笑顔をで出迎えてくれている。

 

しかし何よりククイの視線を引いたのは、その中央に立っている彼女の姿だった。

 

いつもの運動性重視の服装とは一転、長く伸びるスカートは裾の方へと向かうほどにレースが綺麗な模様を描く。健康的な肌色は、そのドレスの純白さをより一層際立たせる。首元にはおそらくライチ作のネックレスに、耳には同じくライチ作のピアス。顔を覆うヴェールには桃色の花が飾られている。

 

思わず惚けてしまっているククイを見て、彼女、バーネットは優しく微笑んだ。

 

 

 

数分後、ビーチに履かず多くの人が集まっていた。サトシたちに渡されたスーツに着替えたククイと、ドレス姿のバーネットが用意された壇上にあがる。

 

「ククイ博士、めでたいですなぁ」

「バーネット博士、とても綺麗よ」

 

「お二人とも、おめでとうございます。使用人一同、この日は精一杯もてなさせていただきますぞ」

 

「おめでとうございます」

「デーカ」

「二人とも、幸せに!」

「キュワワ〜」

 

「バーネット……幸せそうね」

「見ているこっちも嬉しくなりますね〜。ね、代表?」

「そうね」

 

多くの人が口々に祝福の言葉を述べる中、博士たち二人が並ぶ壇上に、立会人のオーキド校長が立つ。

 

「オホン。お二人の門出を祝して、私ナリヤ・オーキドから一言申しアゲハント。二人が出会ったのは、このアローラの青空のもトサキント。ククイくんは……」

 

出だしからいきなりのポケモンギャグも、その日のみんなの幸せな感情をなぜか後押しするかのように聞こえる。

 

どこまでも広がる青空と、陽の光を反射し煌く海。澄み渡る景色は二人の想いを、煌きは二人の未来の幸せを表しているかのようで……

 

「それでは、指輪の交換を」

 

壇上の二人に近づくのはサトシ。手に持ったジュエリートレイの上には、そっくりな2つの指輪。サイズの異なるそれを、二人は1つずつ手に取る。

 

バーネットとククイの2人の左手に、キラリと銀のリングが光る。

 

「私立会いのもと、2人を正式に夫婦としマッスグマ!では、誓いの口づけを」

 

ククイがバーネットのヴェールをあげる。2人の顔が近づく様を、女性陣は目をキラキラさせながら見ている。

 

肩を抱き合う者、指の隙間から覗くように見る者。

 

そんな周りからの視線を集めながら———

 

 

 

 

———2人の距離が、ゼロになった……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

式の後は、誰もが大いに盛り上がっていた。

 

ケーキ入刀、キャンドルライティング、そしてブーケトス。特に女性陣が楽しみにしていたブーケトスで張り切るライチさんに思わずみんな苦笑してしまったのも、パーティとしては盛り上がりに一役を買った。

 

そんな幸せたっぷりの空間で、サトシはふと空を見上げた。

 

「ソルガレオ……」

 

ボソリと今日来ていないあのポケモンの名前を呟く。もしかしたら、なんて少し思っていただけだったため、来ないことに驚きは特にない。ただそれでも、

 

「来てくれたら、良かったのにな……」

 

少しだけ俯き加減にそんなことを願う。届くこと、それこそ難しいのだというのに……

 

 

 

 

「ガルルォォア!」

 

突然聞こえた咆哮に、誰もが驚く。ハッと顔を上げるサトシ。もしや?いやまさかそんな。ぐるぐる回る思考を放置し、空を見渡すと、視界を白い影が駆け抜ける。

 

雲の間を縫うようにかける影は、サトシの真上を通過する。その時に、その瞳と目があった……のは、気のせいではないだろう。

 

そんなサトシへと何かが落とされる。手を差し出して意外と重いそれを受け止める。

 

手の中にあるのは4つの光る玉が添えられた台のようなもの。1つを囲むように、残り3つが飾られている。

 

群青と白と銀色。小さいながらも上品な輝きを見せるそれらは、彼らにちなんだものなのは明白である。

 

そして中央のエメラルドグリーンの光を内包する、他より少し大きめの石。それはかつてサトシが見たことのある、あのポケモンの宝玉によく似ている。

 

どれもこれも特別な力は特に込められてはいない。しかし込められている想いは、なんとなく伝わってくる。何故この日、この時に彼が姿を現して、わざわざこれを届けたのか。

 

「みんな……ありがとな。またな、ソルガレオ。また会える時を、楽しみにしてる」

 

離れていながらも繋がっている、その想いを胸に、サトシは友達からのお祝いの贈り物を、博士たちに差し出すのだった。

 

「ククイ博士、バーネット博士。これ、みんなから。おめでとうってさ」

 

肯定するように、キラリと、4つの石が陽の光を写して煌めいた。

 

幸せな2人に、笑顔が溢れる周囲。

 

その瞬間、誰もが心からの幸せを分かち合っていた。

 

 

「キュイ?キュキュ〜!」

 

流星のような通り道を抜け、小さな影がクスクス笑う。まだ見ぬ土地、まだ見ぬ出会い。期待に胸を膨らませるその紫の子も、また、幸せを感じていたのかもしれない……

 




アローラの森の奥。

迷子の味方のおじいちゃん?

大きなポケモンかぁ……俺も会ってみたいな!

って、マオとスイレンの出会いの話?
聞きたい聞きたい!

次回、XYサトシinアローラ物語
森のおじいちゃん?マオとスイレンと森の出会い
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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ウルトラビースト編
森のおじいちゃん?マオとスイレンと森の出会い


今回からウルトラビースト編、入りまーす……

けど、このエピソードだけは触れておかないとね
なんてったって、二人の出会いですもの

では、どうぞ〜


アローラ地方の空は青く、日差しが差し込むポケモンスクールの校舎は、今日も生徒とポケモンで賑わっている。

 

ネッコアラの鳴らす鐘の音が響き渡り、時間を知らせる。ぜったいねむりという特性を活かして、あのプリンにまで打ち勝ってみせるという何気なくすごい光景も、既に良き思い出……何があったのか気になる人は、アニメ版56話をチェケラ!

 

『今何か妙な気配が……気のせいか?』

 

さらりと鋭いルカリオはスルーして、今日も今日とて、サトシたちは元気に日常を謳歌している。ほしぐもとの出会いから、彼らの生活には様々な変化が訪れた。

 

リーリエと母親との確執がなくなり、彼女がジェイムズたちのいる屋敷に引っ越したり、ククイとバーネットが結婚してから、サトシを含めた3人での生活が始まったりと、今までと違うことも多くある。

 

それでもその変化を良いものとして受け入れ、彼らは今日も目一杯今を楽しんでいる。

 

おや、何やら話をしているようだが……

 

 

「ええっ!?迷子!?」

「ホウちゃんとスイちゃんが!?」

「怪我はしていなかったのですか?」

 

食事の手を止め、思わず立ち上がるサトシたち。みんなの視線を一身に受けているスイレンは、

 

「うん。2人ともすっごく元気。でも、」

 

 

『ポケモン?』

『うん!こーんなおっきいの!』

『たすけてくれた〜!』

『『これもらったの!』』

 

 

「ポケモンが2人を?」

「素敵です!」

 

「でかいポケモン……森にそんなのいるか?」

「うーん……もっと何か特徴がわかれば……」

 

事の顛末を聞いたサトシとリーリエは目をキラキラさせている。カキとマーマネはどんなポケモンか想像しようとしている。

 

「そういえば、何か貰ってたって言ってたけど」

「うん、きのみ。赤くて、小さめで、いい匂いがするやつ」

『それはきっとハバンの実ロト』

『そのきのみなら私も知っている。苦味の中に感じるわずかな甘味が特徴的だな』

 

ロトムが図鑑の画面にきのみを写す。最初に見たルカリオから順に、図鑑が回されていく。最後のマオがそのきのみを見ると、

 

「あぁぁぁぁっ!?」

 

と、突然大声を上げて立ち上がった。

 

「何何?」

「どうかしたのですか、マオ?」

 

「スイレン、このきのみって、」

「マオちゃんも思い出した?」

「もちろんだよ!じゃあ、ホウちゃんとスイちゃんが出会ったのは、」

「きっとそう!」

「「森のおじいちゃん!」」

 

「「「「森のおじいちゃん?」」」」

 

「ずっと前の話なんだけどね、あたしとスイレンも森で迷子になったことがあって、」

「その時助けて貰った、大きなポケモンに」

 

当時のことを思い出したのか、少し懐かしそうな顔で語る2人。

 

「あたしたちにとっては、とても大切な思い出でもあるんだ」

「大切な思い出、ですか?」

「うん。2人が初めて会った日」

「それ本当に結構前だろ?スイレンが今のホウちゃんたちくらいの歳くらいだったんじゃないのか?」

「だったかも」

「その話、俺も聞きたい!」

「わたくしも」

 

転校してきたサトシとリーリエ以外のみんなは、スクールに長い間通い、幼い頃からの付き合いがある。特にマオとスイレンの仲の良さは、時折リーリエも羨ましいと思うほどである。

 

そんな2人がどうやって出会ったのか。

 

気にならないはずもなかった。

 

「あれはね、スイレンの家族が今の家に来たばかりの頃だったんだけど……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

親の挨拶回りほど退屈なものはそうない。せめて近くに川や池があれば話は別なのだが、あいにくこの食堂のそばにはそれらしきものは見当たらない。

 

そんなわけで、幼いスイレンは小石を手に、近くの土に落書きをして暇を潰そうとしていた。ホウやスイと違い、元気いっぱいとは言えない、どこか落ち着いている雰囲気。

 

「なにしてるの?」

 

ぼんやり気味に絵を描いていたスイレンを現実に引き戻したのは、突然かけられた声だった。見上げると、少し高くなっている段の上から、自分を見下ろしている女の子。

 

快活な笑顔に、健康的な肌色、長く伸ばした髪。幼い頃のマオである。マオがスイレンの前まで降りてくる。

 

「あたしマオ!アイナしょくどうのかんばんむすめ!あなたは?」

「……スイレン」

 

驚きからか、その時差し出された手を、スイレンは握ることができずに、ポツリと名乗っただけだった。

 

『へ〜。スイレンって子供の時、人見知りだったの?』

『うん……緊張してた、かも』

『今じゃ想像もつかないな、それ』

『お二人は幼い頃に出会っていたのですね』

『幼馴染ってやつか?俺とシゲルみたいなのかな?』

『で?その後どうしたの?』

 

「スイレンね、よろしく!」

「へ?」

 

言うが早いか、マオはさっとスイレンの腕を取り立ち上がる。

 

「おとうさーん!スイレンと、あそんでくる!」

「おー、気をつけてな」

「はーい」

「……ほぇ?」

 

何が何やら分からぬまま、気がつけばマオに連れられ森の中。木々を抜け、穴をくぐる。突然すぎてマオに引っ張られるがままのスイレンは、なんだか目が回りそうだった。

 

『昔はあたしの方が運動する感じだったのにね』

『運動苦手なスイレンって、全然イメージできないですね』

『というかマオのやってるのって、無理矢理連れ出したようなものなんじゃ?』

『まぁまぁマーマネ。結果的に2人が仲良くなれたんならいいんじゃないか』

『そうそう。で、森の中で何してたの?』

 

「ついた!」

「……ここは?」

「えへへ。あたしのおきにいりのばしょなんだ!」

 

マオがスイレンを連れて行ったのは、森の中の開けた空間。色とりどりの花が咲き、甘い香りが辺りに漂う。思わずスイレンも見とれるほど、その光景は綺麗だった。

 

「こっちこっち」

 

マオがスイレンの手を引き、花園へと入って行く。お気に入りの花を見つけたのか、その場に座り込むマオ。当然手を繋がれているスイレンも座ることになるわけで、

 

「ふわっ……あおいはな……」

 

その目の前に咲いていたのは、まるで海の色のような、深い青色の花。思わずぼーっとその花を見つめていると、手に何か巻かれる感触がした。

 

「できた!」

「……これ」

 

笑顔のマオがスイレンの手に巻いたのは、先ほど見ていた青い花を使って作った花飾りの腕輪。幼いながらもなかなか器用に花を結んで見せたマオ。さながらキュワワーの作る花の輪にも見える。その作品をスイレンは驚きの表情で見つめる。

 

「なかよしのしるし、ね?」

「……ありがとう、アイナしょくどうさん」

「ちがうよ」

「えっ?」

「ともだちでしょ?だったら、マオちゃんって呼んで」

「……マオちゃん?」

「うん!」

 

『じゃあ、スイレンがマオだけちゃんづけなのって、』

『うん。この時からずっと、マオちゃんはマオちゃんだったから』

『いやぁ、なんか嬉しくなること行ってくれるね、スイレンも』

『素敵なお友達のなり方ですね』

『で、で?森のおじいちゃんとはどう出会ったの?』

 

花飾りを通じ仲良くなった2人。花園の外へと出て、あたりを探検し始める。ツツケラやアブリボンと触れ合っていると、ふと茂みの中に見慣れない影が。

 

緑と白の体に、どこか老人を連想させる顔。しかしそんなポケモン、今まで見たことがなかった。

 

「マオちゃん……」

「おとうさんいってた。しらないポケモンをみたら、そ〜っとにげなさいって。すぐにはしらないで、ゆっくり、ゆっくり……」

 

なるべく視線を外さないようにしながら、後ずさりする2人。と、そのポケモンが顔を隠したかと思うと……

 

「バァァー!」

 

突然、目を見開き、耳を立て、大声をあげた。

 

「「いやぁぁぁ〜っ!」」

 

あまりにも突然のことに、2人は一目散に逃げ出した。行先もまったく考えずにただひたすら走り続けた2人が止まったのは、疲れてもう走れなくなってから。辺りを見渡しても、自分たちがどこにいるのかなんて、わからなかった。

 

「ここ、どこ?」

「わかんないよ……ぅっ」

 

辺りを見渡していたスイレンの耳に入ったのは、ずっと明るかったマオの沈んだ声。目に涙を浮かべ、しゃくりをあげるマオ。

 

「もどれなかったら、どうしよう……あたしがスイレンをさそっちゃったから……」

「マオちゃん……あっ」

 

何かないか、何かできないかと、辺りを見るスイレン。と、目に入ったのは赤く、小さなきのみ。ハバンのみだ。

 

そっと拾い上げて見るスイレン。食べられるのだろうか?好奇心と子供故の怖いもの知らずさから、初めて見るそのきのみを口に含むスイレン。

 

……言わなくてもわかると思うが、見ず知らずのものを口に含むのはやめましょう。毒があると大変なので。

 

まぁ、スイレンの場合、一応そのきのみは食べられないことはない。毒もないし、特に人体に悪影響があるわけでもない。ただ敢えていうなら、

 

「〜〜〜〜っ!?」

 

とても苦いのだ、子供には。と、同じきのみが落ちているのを見つけたスイレン。何か思いついたのか、そのきのみを拾い上げる。

 

「マオちゃん、このきのみ、おいしいよ」

「……ほんと?」

「うん」

 

穢れのない天使の如き笑顔に促され、マオはきのみを口に入れる。ただ、先ほども言った通り、

 

「はわぁぁっ!?にがい〜!」

 

そう、苦いのである、とても。

 

「スイレンのうそつき!」

「ごめんなさい。でも、よかった」

「なにが?」

「マオちゃん、なきやんだ」

 

そう言って、てへっ、と舌を出すスイレン。自分のことを気遣ってくれたのだと、マオが気づくと、

 

「ぷっ」

 

思わず笑顔が溢れる。

 

「ありがと、スイレン」

「どういたしまして……あれ?」

「あれ?……なんかさっきほど」

「にがくない……あまい」

「にがいけどあまい……にがあまだね」

 

ふふっ、と顔を見合わせて笑う2人。既に不安などなく、なんだか楽しい気持ちになっている。

 

『思えばあの頃からスイレンはちょこちょこ嘘つくんだもん』

『えへへ』

『けどまぁ、それで2人がさらに仲良くなったんだな』

『ハバンのみは、2人の思い出の味ってことだな』

『思い出の味……いいですね』

 

 

よく見ると赤いきのみがまるで道を作るように連なりながら地面に落ちており、好奇心の方が優った2人は、その後をたどって見ることに。

 

「あっ、このへんしってる!かえれるよ!」

「にがあまのおかげ」

 

道を辿りながら拾ってきたきのみを一粒ポケットから取り出す。と、

 

「あっ」

 

ポロリときのみを落としてしまうスイレン。少し坂道になっているからか、きのみはどんどん転がっていってしまう。

 

「まって、にがあま!」

「あ、スイレン!きゅうにはしりだしたら、あぶないよ!」

 

そんな言葉が投げかけられても、スイレンはついついきのみを深追いしてしまった。そしてその先には、

 

 

———道がなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「崖から落ちた!?」

「うん。すっごくびっくりした」

「あたしなんて心臓止まるかと思っちゃったよ。助けようとしたら、あたしまで落ちちゃって」

「どうやって助かったのですか?」

「助けてくれた、森のおじいちゃんが」

「うん。空飛んできて、背中に乗せてくれたの」

『空を飛ぶおじいさん……ビビッ!わかったロト!』

 

ロトムがわざわざアローラ探偵ラキのカツラを取り出して、ドヤ顔を決める。

 

『2人を助けた森のおじいちゃん……その正体……この名探偵ロトムには、マルっとお見通しロト!』

「おっ、さすがロトム!」

「で、で?なんてポケモンなの?」

『ズバリ、ジジーロンロト!ドラゴン・ノーマルタイプのジジーロンは人間の子供と遊ぶのが大好きロト!』

「あっ、そうそうこれだ!」

「うん!あの後、いっぱい遊んだ!」

「俺も会いたいな〜……なぁ、今日探しに行ってみようぜ!」

「いいね!あたしもまた会いたいし」

「私も」

「ごめん、僕今日パパと用事が……」

「すみませんが、わたくしも。今日は珍しくお母様とご飯が食べられるので」

「俺も牧場の手伝いがあるしなぁ」

 

と、そんなこんなで放課後。結局ジジーロン探しにきたのは、マオ、スイレン、サトシの3人だけだった。

 

「この辺り……にがあまの木が一杯」

「ジジーロンが好きだったよね。近くにいるかも」

「ルカリオ、探れるか?」

『わかった』

 

地面に手を置き、周囲の様子を探るルカリオ。少し離れた茂みに、何やら大きな体を持つ気配が……

 

『あそこだ』

「えっ、ほんとに!?」

 

慌てて茂みに駆け寄るマオとスイレン。茂みの枝を軽く押しのけ、奥をのぞいて見ると、なんだか懐かしい目がこちらを見つめ返している。

 

白と緑の体に、おじいさんのような顔。そして長い首。間違いなく、あの時出会ったのと同じ、ジジーロンだった。

 

「森のおじいちゃん!」

「ほんとにいた!」

 

ジッとこちらを見つめるジジーロンに駆け寄ろうとするマオとスイレン。と、

 

「わっ、何!?」

「網?」

 

突然落ちてきた網に、ジジーロンとともに捕まってしまう。

 

「ジジーロン、マオ、スイレン!」

 

「『わっ、何!?網?』と聞かれたら、」

「聞かせてあげよう、我らの名を!」

 

「花顔柳腰羞月閉花。儚きこの世に咲く一輪の悪の花!ムサシ」

「飛竜乗雲英姿颯爽。切なきこの世に一矢報いる悪の使徒!コジロウ」

「一蓮托生連帯責任。親しき仲にも小判輝く悪の星!ニャースで、ニャース」

「「ロケット団、参上!」」

「なのニャ!」

「ソーナンス!」

 

「ロケット団!」

「そうよ。なんだかとっても久しぶりな気がするけど」

「まぁ、実際には裏で色々やってたんだけどなぁ」

「そんニャ話は置いておくのニャ」

 

本当にいつ以来だったかが思い出せないが、それくらい久しぶりの登場ゆえか、いつもより張り切りながら口上を述べるロケット団。どうやらジジーロンを狙ってきたらしい。

 

「ジジーロンたちを離せ!」

「ん?たち?」

「あ、ほんとだ。よく見たら緑と青のジャリガールが混じってるわ」

「ニャーたちの目的はジジーロンだけニャ!おミャーらはお呼びじゃないのニャ!」

 

「捕まえたのそっちでしょ!」

「森のおじいちゃん、守る!」

 

「へん!あんたたちならどうとでもなるのよ!ミミッキュ!ソーナンス!ジャリボーイを抑えるわよ!」

「ケケッ!」

「ソーナンス!」

「行くぜ、ピカチュウ、ルカリオ!」

「ピッカァ!」

『ああ』

 

ウッドハンマーとアイアンテールが宙で激突する。因縁の戦いを始めるピカチュウとミミッキュ。一方ソーナンスと、ポケベースの特訓の時使ったのと似たギプスらしきものを着けたニャースがルカリオの前に立つ。

 

『二体がかりか』

「ふふふ。この戦闘用パワーアップギプスで、今のニャーはいつもよりずっと強いのニャ!おミャーも倒してやるのニャ!」

『借り物の力か……来い』

 

「さてと、俺たちはジャリガールたちをどうにかしますか」

 

他の2人にサトシの足止めを任せ、コジロウはジジーロンたちを捉えた網に近づく。ジジーロンを守るように、マオとスイレンが前に出る。

 

「森のおじいちゃんは、絶対渡さないから!」

「守る、絶対!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ロローン!」

 

突然聞こえた大きな咆哮に、ピカチュウたちのバトルが止まる。声の主、ジジーロンが、首をもたげ、網を力任せに引きちぎった。

 

「うっそん!?」

「こ、これは、」

「なんだかヤな予感……」

 

ジジーロンが、力を込めて風を巻き起こす。渦を巻き、徐々に大きくなっていく風。遂にはその風がロケット団全員を巻き込む。

 

「えっ、まさか」

「とんでもなく久しぶりに……」

「あれ言う時ニャ?」

「ソーナンス」

「「「ヤなかん……」」」ガシッ

 

バラバラに飛ばされていたはずのロケット団が、渦巻きの中で纏まる。いや、正確には纏められる。二本のがっしりとした腕によって。

 

頭上を見上げると、もう見慣れたピンク色。

 

やはり来ました、キテルグマ。

 

「あ、やっぱり?」

「ほんとどこにでも来るなぁ」

「じゃあやっぱりあっちニャ」

「ソーナンス」

 

「「「何この感じ〜」」」

 

そのまま風に連れ去られるように、ロケット団は、退場した……

 

「なぁ、ピカチュウ」

「ピィカ?」

「なんか俺も、すごく久しぶりにあいつら見た気がする」

「ピーカ」

「……うん。なんか安心した……ってのも変かな?」

「ピーカチュウ」

「だよな」

 

 

「また助けられちゃったね、おじいちゃんに」

「うん……ねぇ、覚えてる?私たち?」

 

マオとスイレンがゆっくりジジーロンに歩み寄る。ジジーロンの顔が2人に向く。

 

ぶぉぉぉ、と激しく息が吹きかけられる。それはかつて幼い日に、ジジーロンが自分たちにしてくれたのと同じ。

 

「覚えててくれてるの?」

 

ゆっくりと、けれども確実に、ジジーロンが頷く。その瞳はロケット団に向けていたような強いものではなく、孫を見守る祖父母のような、優しさのこもったものだった。

 

「ジジーロン、あのね……ありがとう」

「さっき助けてくれたこと。ホウとスイを助けてくれたこと……それに、ずっと昔に助けてくれたことも」

「ローン」

 

ジジーロンの大きな体に抱きつく二人。そんな二人の様子を、サトシは少し離れて見守っている。

 

「森の中でみんなを見守る存在、か……」

 

何故だろう。ふと思い出したのは、ある森で眠りについた青の伝説。森やポケモンたち、そして人々を救い、長い長い眠りについたあのポケモンは、今尚眠っているのだろうか。

 

「また、訪ねに行かないとな」

「ピカ?」

「お前も助けてもらったもんな、ゼルネアスに」

「ピカピーカ!」

「だな。よーし、俺も乗せてもらおっと!ジジーロン!」

 

立ち上がりジジーロンへと駆け寄るサトシ。そんな彼も、ジジーロンは羽を広げ、迎え入れる。

 

その日の森は、笑い声が溢れ、いつもよりずっと賑やかだったとか……

 

 

 

 

流星の中にいるかのような空間を、小さい紫の影が飛ぶ。好奇心に突き動かされるように、彼はあちこちの世界に飛び込む。探しているのはただ一つ。どこからともなく届いて来た、眩く暖かい光。

 

「べべ?」

 

しかしその空間をさまよっているのは彼だけではなく……

 

赤い体躯のもの、美しい女性らしいもの……

 

様々な生き物が、その空間を通る……

 

そして彼らは着実に近づいていた……

 

サトシたちの住む、あの世界へ……

 

 

 

………… To Be continued

 




ポケモンスクールで授業を受けていた俺たち。

と、突然の訪問者……って、ルザミーネさん!?

俺たちをウルトラガーディアンズに?

ウルトラホールを抜けて現れた赤色のウルトラビースト。

そいつを元の世界に返すために、いざ出動だ!

次回、XYサトシinアローラ物語
出動!ウルトラガーディアンズ!
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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出動!ウルトラガーディアンズ!

皆さま、アローラ!
風祭りしてますか?

長らく間を空けてしまい申し訳ない
色々と大変だったことがようやく落ち着いたので
新エピソード、載せまーす

少し駆け足気味なのはご容赦ください。
これ以上書くと文字数がががが


目の前に広がる新しい景色に、思わずあたりをキョロキョロ見渡す。

 

視界に広がる色とりどりの世界は、今まで知っていたものとはまるで違っていた。

 

ずっとずっとその昔、御伽噺で聞いたのと同じ。

 

空は青く、白い雲が浮かぶ。

 

木々は青々と生い茂り、花は優しくそよ風に揺れる。

 

水の中から水しぶきをあげながら、或いは木々の間を縫うようにしながら、或いは大地を踏みしめるようにしながら。空に、海に、陸に。様々な命が多数生息している。

 

そして何より、自分たちの遥か上、空には光り輝く日の玉が浮かぶ。

 

光。そうだ、ここには光があるのだ。

 

人が作った人工的なものではない、本物の光。

 

 

 

暗い。

 

どこまでも暗い場所で、ずっと生きてきた。

 

でもある日、差し込んできたのだった。

 

一条の眩しい光が。

 

それはとても小さな光だったかもしれない。

 

でもあの時に見た七色の光は、暖かく、そして力強く思えた。

 

気づいたら自分は、その光の差し込んできた穴へと飛び込んでいた。

 

物凄いスピードで、何かに引っ張られるかのようにその空間を抜けて、今ここにいる。

 

ここからあの光が来たということなのだろうか。

 

探してみよう。

 

見つけ出そう。

 

その光はもしかしたら———

 

———希望になるかもしれないのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ポケモンスクールの朝、今日も生徒が教室に向かい、ポケモンについて色々学ぶために登校している。もちろん、この物語の主役であるサトシも、それは例外ではない。

 

「アローラ!」

 

元気よく挨拶しながら、教室に入ってくるサトシ。既に他のみんなは登校済みで、彼を笑顔で出迎える。

 

「アローラ、サトシ」

「今日も元気だね」

「へへっ、まぁね」

「それがサトシのいいところ」

「ですね」

 

いつものようにみんなと話をし、いつものように始業の時間になり、いつものようにネッコアラが鐘を……

 

「ってあれ?」

「なんだ?」

 

聞こえてくるのはいつもの鐘の音ではない。まるで何か急かすような音。何かあったのか?思わずサトシたちが顔を見合わせる。

 

「全員揃ってるな」

 

と、教室の入り口から声が響く。見ると、いつのまにかククイが教室に来ている。

 

「博士!」

「何かあったんですか?」

「ああ。詳しい説明は後だ。一先ずここから移動しないとな」

 

そう言いながら教室に入ってくるククイに、サトシたちは首を傾げる。どこかにいくのであれば何故教室に入って来るのだろうかと。

 

と、

 

「さぁみんな、行ってこい!」

 

と、ククイが黒板の下を何やらいじる。突然、黒板に青い円状の模様が浮かび上がる。そこへククイが手を置くと、

 

———ゴゴゴゴ

 

いつも使っている教室のロフト、その側面が周り、中が露わになる。

 

木製の造りがあるかと思いきや、現れたのは空洞。それも金属で周囲を補強してあるものだ。まるで人が入るためのもののよう……って、

 

「「「「「「えええええええっ!?」」」」」」

 

「そらみんな、出動だ」

 

「「「「「「いやいやいやいやいやいや」」」」」」

 

キリッとキメ顔をしながらサトシたちに出動を告げるククイだったが、流石に全員からツッコミをくらう。

 

「何これ何これ!?」

「こんな仕組み前からあったっけ!?」

「ない、と思う」

「ハイテク過ぎるだろ」

「博士、出動って?」

「どこかに行くのですか?」

 

質問疑問、色々尽きないサトシたちではあったが、

 

「行けばわかるって」

 

と、ククイが笑顔で黙秘する。何が待ってるのかはわからないけれども、

 

「よし、行ってみようぜ!」

 

サトシの一声で、みんな順番に中に入って行く。最後にバクガメスが入ると、ロフトの壁がまた動き出し、出入り口を塞ぐ。

 

と、足元がガクンと小さく揺れ、サトシたちを乗せたまま、下り始めた。

 

「これ、エレベーター?」

「何だか秘密基地っぽいね」

「楽しい、すごく!」

 

深く、深く、サトシたちは降りて行く。もうスクールの下に来たのではないだろうか。

 

「わっ、何!?」

「何だこれ?」

 

リフトの下から、サトシたちを色とりどりの布が包む。カキは赤、マーマネは黄色、マオは緑、スイレンは水色、リーリエはピンク、そしてサトシは青。グローブにブーツ、プロテクター。まるでどこぞのヒーローのスーツみたいだ。

 

「おおっ!かっこいいじゃん、これ!」

「ああ。動きやすいし、丈夫な感じだ」

「あ、わたくしなんだかわかったかもしれません」

 

スーツの装着を終えると、丁度リフトが目的地に到着したところだった。目の前に広がる光景に、サトシたちは皆驚きを隠せない。

 

広い部屋には、様々な機械が設置されている。よく見ると通信端末や、ポケモンセンターにあるのと同じ回復用のボックス、いくつものパソコンと、かなり充実している。

 

「すっごい……」

「こんなところがポケモンスクールにあるとはな」

「あ、いえ。多分元からあったのではなく「ピクシー!」……あら?」

 

何かを言おうとしていたリーリエの声に被さるように、誰かの声が聞こえる。見ると、通信端末の前にいつのまにか、ピクシーが立っている。

 

「ピクシー!」

「この子、リーリエの友達の?」

「ええ。ということはやはり」

 

リーリエの確信を裏付けるように、モニターに映像がつく。映ったのは3人の女性。そのうち1人が机に座り、鋭い視線で彼らを見つめる。

 

『ようこそ、ウルトラガーディアンズ』

「お母様!」

「「「「「ルザミーネさん!?」」」」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『驚いてくれたかしら?基地の建設を極秘でやっててよかったわ』

「建設ってもしかして」

「この基地、ルザミーネさんが?」

『ええ。君たちに、ウルトラガーディアンズとして力を貸して欲しくてね』

 

お茶目なウィンクをするルザミーネ。その両脇に立っているビッケとバーネットは、どこか微笑ましげに見ている。思わず額に手を当て、小さくため息をつくリーリエ。

 

「もう。変な所子供みたいなんですから」

「ルザミーネさん。ウルトラガーディアンズって?」

 

サトシがみんなを代弁し聞いてみる。

 

『ウルトラガーディアンズ。それは、私たちエーテル財団が結成を決意した、全く新しい組織よ。その活動は主に、ウルトラビーストに関連するわ』

「ウルトラビーストに?」

『ええ。サトシくん言ってたでしょ?ウツロイドの声が聞こえたって』

「ウツロイド?」

『レジストコードはUB01PARASITE。君たちもよく知っている、あのクラゲのように見えるウルトラビーストよ』

『ウルトラガーディアンズ結成に伴い、私たちはウルトラビーストに名前をつけることにしたのです』

 

バーネットとビッケが補足すると、サトシたちの前に、ホログラムでウツロイドが映し出される。

 

『それで、さっきの話なんだけど。サトシくんはウルトラビーストの声を聞いたのよね?』

「はい。帰りたいとか、仲間じゃないとか……とにかく怯えていたような感じがして」

『その話を元に、私たちはウルトラビーストについて大きく考え直すことになったの』

『記述にあるウルトラビーストの情報は、どれも彼らを異世界からの侵略者として描いていました。実際、ウルトラビーストが暴れ、被害が起きたのは事実のようです』

『でも、それは侵略しに来たからじゃない、そう私たちは考えたわ。きっとそれは、見知らぬ場所に突然来てしまったことによる、恐怖や戸惑いから来た防衛本能なのよ』

 

バーネットたちの話に、サトシは思わず頷く。実際アルセウスの言葉を聞き、サトシたちが害をなすものじゃないと聞いた時、ウツロイドたちは攻撃をすぐに止めてくれた。きっと彼らは不安だっただけなのだろう。

 

不安故にその力を使い、その結果、ルザミーネが取り込まれることとなってしまった。

 

『私たちは、今後のウルトラビーストに関わる姿勢を考え、そして結論を出したわ。この世界に現れた彼らを保護し、元の場所に帰る手伝いをしてあげる。そのための組織が、ウルトラガーディアンズよ』

 

ガーディアンとは守る者。戦うのではなく、追い出すのではなく、守り、愛し、慈しむ。ポケモンに対してポケモンレンジャーがするように、ウルトラビーストに寄り添う者。

 

『そしてそのウルトラガーディアンズには、あなたたちがふさわしいと考えたの』

「わたくしたち、ですか?」

『あなたたちは、実際にウツロイドと関わり、ウルトラビーストのことを誰より間近で見ているわ。それにポケモンたちに対する姿勢、トレーナーとしても理想的なものよ。だから、あなたたちにお願いしたいのよ。ウルトラガーディアンズにとして、ウルトラビーストを助ける手伝いをしてくれないかしら?』

 

真剣な表情のルザミーネ。冗談や遊びで聞いているのではないのがわかる。彼らも、ウルトラビーストのことは確かに一般のトレーナーよりはわかっているつもりだ。その恐ろしさも。

 

かつて守り神のポケモンたちと激闘を繰り広げたと言われるだけあって、生半可な存在ではない。

 

けれども、

 

「俺、やります!」

 

彼らを放っておくなんてこと、サトシにできるはずがなかった。ウツロイドの声を聞いただけあってなおさらだ。彼の深い愛情は、どんな時でも助けを求める者を見捨てない。

 

「わたくしも、頑張ります!」

「うん、やろう!」

「賛成」

「僕だって!」

「当然俺もだ」

 

1人、また1人と、彼らは賛成の意を示す。瞳に宿るのは強き決意。危険かもしれない。大変なことかもしれない。それでも、

 

彼らには行動しない理由がなかった。

 

『ありがとう。やっぱり、あなたたちに頼んでよかったわ』

 

安心したような笑顔を見せるルザミーネ。すぐさまキリッとした表情に変わる。

 

『早速だけど、ウルトラビーストの目撃情報が出たわ。ウルトラガーディアンズ、ファーストミッション開始!』

「「「「「「了解」」」」」」

『あぁ違う違う』

「「「「「?」」」」」

 

何か間違えただろうか、思わず顔を見合わせるサトシたち。

 

『ウルトラガーディアンズのための特別な掛け声を考えておいたの。了解、じゃなくて、ウルトラジャー!、でお願いね』

 

最後にウィンクしながら、ビシッとポーズを決めるルザミーネ。両隣でバーネットたちが苦笑しているのが見える。

 

「お母様……恥ずかしいです」

「カッコイイ!」

「へ?」

 

思わず額に手を当てていたリーリエだったが、サトシの反応に目が点になる。

 

「特別な掛け声かぁ、うん、カッコイイ!」

「なんか本物のヒーローみたいだな」

「こういうの、前から憧れてたんだよね〜僕」

 

サトシだけではなく、何やらみんな盛り上がっている。どうやらみんなは気に入っているらしい。

 

『じゃあ、もう一度。ウルトラガーディアンズ、ファーストミッション、開始!』

「「「「「ウルトラジャー!」」」」」

「ウ、ウルトラジャー」

 

戸惑いを隠せないリーリエだったが、一先ず掛け声を決まり、本格的にウルトラガーディアンズのミッションが始まる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『今回現れたのは、このウルトラビーストよ』

 

スクリーンに映し出されたのは、一体のウルトラビーストが様々なポケモンと戦っている様子。

 

真っ赤な体に、尖った嘴のような口元。樹木の根のようにも見える4本の足。そして筋骨隆々上半身。

 

『私たちはこのウルトラビーストを、マッシブーンと名付けたわ』

 

画面の中のマッシブーンが次々にバトルしている。ゴロンダの群れ、ドサイドン、カイリキー4体、ケッキング。パワーの強いポケモンたちを圧倒するその様は、まさに「massive」を体現する。

 

「すごいパワーだな」

「圧倒的だよ」

 

画面の中でマッシブーンがハガネールを投げ飛ばしているのを見ながら、カキとマオが呟く。と、

 

「カッコイイ!」

 

と、スイレンが目をキラキラさせている。どうやらスイレンのツボにはまったらしい。スイレンの意外なフェチズム(こらこら)はさて置き、あの怪力で暴れまわるマッシブーンをまずなんとかしなければならない。

 

『ルザミーネ代表、今まで集められたウルトラビーストのデータ、僕にダウンロードさせて欲しいロト』

『もちろんよロトム。あなたもウルトラガーディアンズの一員ですもの。しっかりとみんなをサポートしてあげて』

『ウルトラジャー!データ、ダウンロードロト!』

 

ピクシーの用意した端末に接続するロトム。新しい情報が図鑑のメモリにインストールされて行く。

 

『ビビッ!マッシブーン、ぼうちょうポケモン』

「ポケモン?」

『ええ。研究の結果や、みんなからの証言をもとに、ウルトラビーストは分類上ポケモンであると認定されたの』

「ウルトラビーストもポケモン、か」

『マッシブーンはむし・かくとうタイプ。その剛腕から繰り出されるパンチは、大型トラックさえも弾き飛ばす。かなりの強敵ロト!』

『現在、マッシブーンはメレメレ島のあちこちを移動しているみたい。みんなにはマッシブーンを保護し、ウルトラホールから元の世界に帰れるように、助けてあげて欲しいの。お願いできるかしら?』

「捕獲ってどうやってですか?」

『方法は既に用意されているわ。ピクシー、アレを持ってきて』

 

ルザミーネに頼まれ、ピクシーが少し大きめの箱を持ってくる。箱を手渡されたサトシが蓋をあけると、中には以前見た特殊な形のボール、ウツロイドを捕獲する際に、ルザミーネが使用していたものだ。

 

『ウルトラボールよ。前に見たことがあるとは思うけど、それの性能を少し変えてあるの。そのウルトラボールでウルトラビーストを捕獲してちょうだい。それから、』

 

ルザミーネの言葉を引き継ぐように、ピクシーが今度は別の箱をリーリエに手渡す。こちらの中にはきのみや薬がたくさん詰め込まれている。

 

『何があるかは分からないから、こちらで色々と用意しておいたわ。自由に使ってもらって構わないわ』

「こんなにたくさん……ありがとうございます」

 

『みんな、用意はいい?』

「「「「「「はい」」」」」」

『よし。もう一つのリフトから、出動できるわ。とある協力者から、みんなの力にって贈りものも待ってるわ』

「とあるお方?」

「贈りものって、なんですか?」

『それは見てのお楽しみよ。それじゃ、ウルトラガーディアンズ、出動!』

「「「「「「ウルトラジャー!」」」」」」

 

 

基地から続くもう一つのリフトに乗ったサトシたち。出動のためのドックへと彼らが運ばれていく。

 

『空ライドポケモンが待機しているわ。みんな、頑張って』

 

ビッケの声を聞きながら、サトシたちが一人一人別のドックへ運ばれる。リフトが運んだ先で、それぞれのライドポケモンが彼らをへ出迎える。

 

「メタングだ!よろしくね」

「メタッ」

「ハクリュー、行くよ」

「リュー」

「あたしマオ。よろしくね、フライゴン」

「フラァイ」

「チルタリス、お願いします」

「チル」

「俺の相棒はやっぱお前か!頼むぜ、リザードン」

「グルォ」

 

それぞれのパートナーにカキたちが跨る中、サトシだけ、自分のライドポケモンの前で立ち止まっていた。

 

「サトシ?」

「どうかしたの?って、その子……」

「もしかして……」

「ああ、ちょっとビックリしてただけだよ。へへっ」

 

そう言ってサトシが嬉しそうに笑う。ピカチュウもサトシの肩から飛び出し、そのポケモンの背に乗る。

 

「贈りものって、お前だったのか」

 

サトシを見ながら、そのポケモンは頷く。その様子に、サトシは帽子を被りなおし、顔を上げる。

 

「よぉし。頼むぜ」

 

キラリと、そのポケモンの首元にある、サトシとお揃いの赤と白のリボンについた装飾が煌いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ポケモンスクールにいるナッシーたちが一斉に構内にに設置された川のそばに集まる。まるで何かを見送るかのように整列する様子に、思わずスクールの生徒たちは注目してしまう。

 

と、突然川の水が割れ、途中からまるで滝のように地面へと吸い込まれて行く。いつの間にできたのか、川の底がどんどん沈んで行き、大きな空間が現れる。

 

一体何が始まるのだろうか。戸惑う生徒たち。

 

すると、滝の裏側から何かが飛び出す。水の壁を突き破り、水しぶきをあげながら悠然と空へと飛び出した巨体。黄金のトサカに付着している水滴が、陽の光を受け煌めく。

 

雄々しく、たくましく、美しい。

 

「ピジョーット!」

 

「ピジョットだ!」

「おっきい!」

「でもどうしてここから?」

「あ、誰か乗ってる!」

 

ピジョットの背に跨る人影。見たことのない青いヒーロースーツのような服を着ていても、そのトレードマークでもある帽子は変わらない。

 

「あれサトシだよ!」

「また誰か来る!」

 

ピジョットに続くように次から次へと滝からポケモンが飛び出す。それぞれが背中にサトシと同じクラスのメンバーを乗せている。

 

「どこに行くんだろう?」

「あれはウルトラガーディアンズじゃヨノワール」

 

飛び去るサトシたちを見送る子供達に、オーキド校長が話しかける。

 

「ウルトラガーディアンズ?」

「うむ。サトシ君たちは、ウルトラガーディアンズとして、ポケモンたちを助けに行くことになっタマザラシ、トドグラー、トドゼルガ。みんなも、応援して上げるといイベルタル」

 

 

 

 

そんな会話が行われていることなど露知らず、サトシたちは空からマッシブーンの捜索を行っていた。と、ルザミーネからの通信が入る。

 

『マッシブーンの目撃情報があったわ。そのあと進んだ方向をロトムに送信するわ。みんなはそこへ向かってちょうだい』

「ウルトラジャー。ロトム、頼んだぜ」

『お任せロト!みんな、しっかり着いてくるロト!』

 

ロトムの後を追うように、サトシたちが進むと、何やら大きな爆発音のようなものが、聞こえてくる。

 

「もしかして、誰かバトルしてるんじゃないか?」

「片方がマッシブーンだったりして」

「行ってみよう!」

 

爆発が起こった現場へとサトシたちが近づくと、カビゴンに覆いかぶさるようにし、拘束している赤い体のポケモンが見つかった。鍛え上げられた上半身に、4足の脚。その特徴はマッシブーンに一致する。

 

口の針から栄養を吸い取っているようで、カビゴンが萎んでいってしまっている。

 

「リーリエたちはカビゴンを頼む。マッシブーンは、俺が引きつける」

「わかりました」

「サトシ、気をつけてね」

「ああ。行くぜ、ピジョット!」

 

サトシの声に応えるように、ピジョットが加速する。空を飛ぶポケモンたちの中でも、ピジョットのそれは別格である。全力のピジョットでは、他のメンバーを置いてけぼりにしてしまうためセーブしていたが、カビゴンを、そしてマッシブーンを助けるために、サトシは先行した。

 

「マッシブーン!」

「マッシ?」

 

突然現れたサトシに驚いたのか、マッシブーンがカビゴンを離し、その場を離れる。カビゴンのケアをリーリエたちに頼んであるため、サトシはマッシブーンを追った。

 

少し開けた場所でサトシに向き合うように体を反転させるマッシブーン。ジッと見つめてくるその視線は、サトシの様子を伺っている。

 

「マッシブーン。お前が元の世界に帰れるように手伝いに来たぜ」

「マッシ……」

 

どうやらうまく言葉では伝わっていないらしい。アルセウスの言葉は通じたんだけどなぁ、とサトシが頭の後ろをかく。

 

「えーと……一回俺たちが保護するから……それで、元の世界に……あーうまく説明できないや」

 

対話でうまくいけばベストではあるが、いかんせんこれ以上わかりやすく伝える方法が思いつかなかった。

 

が、サトシたちにはまだ最後の対話の手段が残されている。

 

「とにかく!俺たちとバトルしようぜ!」

「ピッカピィカ!」

「マッシ?」

 

首をかしげるマッシブーンに対し、サトシは握った拳を向ける。何か伝わったのか、マッシブーンが構える。

 

「行くぞ、でんこうせっか!」

「ピィカ!」

 

得意の速攻を仕掛けるピカチュウ。相手のパワーは重々承知。ならばパワーではなく、スピードで挑もうと考えたが故の行動。しかし、

 

「ピカッ!?」

「速い!」

 

特に技を使った様子もなく、マッシブーンはピカチュウの初撃をかわす。巨体からはとても想像つかないその素早さに、サトシもピカチュウも驚き、動きが止まる。

 

「マッシ!」

「っ!アイアンテール!」

 

掌底気味に繰り出される攻撃に、サトシが咄嗟の指示を出す。身体を捻るように繰り出した尻尾の一撃とマッシブーンの掌がぶつかり合う。

 

「大丈夫か、ピカチュウ?」

「ピカ!」

「流石に強いな……けど、まだまだ上げて行くぜ!エレキボール!」

 

ニヤリと笑みを向け合い、サトシとピカチュウがまたマッシブーンに挑む。飛ばされてくる電撃の塊をマッシブーンが拳で迎え撃つ。電気が弾け、電撃の球がかき消されるも、

 

「隙あり、アイアンテール!」

 

いつの間にか懐まで接近していたピカチュウからの強烈な一撃を受け、マッシブーンがわずかに後退し、ピカチュウも衝撃の反動で空に跳び上がる。

 

「10まんボルト!」

「ピーカー、チューウ!」

 

上空から狙いを定めたピカチュウの得意技が、マッシブーンに命中する。強烈な電撃を身に浴び、流石のマッシブーンもダメージを受けたのかよろける。

 

 

同じ時、天にも登るほどのピカチュウの電撃を見て、喜んでいるポケモンがいた。紫色の小さな身体、光り輝く攻撃を出すピカチュウを嬉しそうに見つめる瞳。

 

その存在にサトシたちは気づいていなかった。この時の出来事がまさか彼らを、とりわけサトシを、大きな事件に巻き込むことになるなんて、誰も想像できなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

カビゴンの回復を終え、カキたちが先行したサトシとマッシブーンを追ってくる。サトシのことだからもうバトルしてるのではないかと思ったら、

 

「やっぱり始めてる」

「マッシブーン、かっこいい!」

「スイレンがああいうの好きなのは少し意外だな」

「でも、流石ピカチュウですね。あの体格差でも渡り合えています」

 

激突する拳と鋼の尾。パワーで劣るものの、ピカチュウは縦横無尽に駆け回り、様々な体勢から攻撃を繰り出し、マッシブーンを翻弄する。一方マッシブーンは小柄なピカチュウを捉えられずにいるものの、その素早さにしっかりと対応している。

 

(よぉし、これなら……)

 

サトシがマッシブーンに向けて掌をかざす。小さく息を吐き、身体の力を抜く。意識をマッシブーンの方へ向けながら、呟く。

 

「波導は我に有り」

 

ボンヤリと、マッシブーンの波導がサトシに伝わる。言葉が通じなくとも、その感情を知ることはできる。心に語りかけることはできる。サトシはマッシブーンの心に耳を傾ける。

 

(見タコトナイヤツ……強イ……力……競ウ……燃エル!)

 

伝わってくるのは戸惑い。でもそれ以上の楽しさ、嬉しさ。力と力、そのぶつかり合い、競い合いにマッシブーンは喜びを感じているらしい。

 

どうやら彼は、戦闘好きなウルトラビーストらしく、恐怖故に攻撃してきたウツロイドと違い、このバトルに喜びを見出している。

 

「熱いやつだな、マッシブーンは!なら、まだまだ行くぜ!でんこうせっか!」

 

全速力で駆け出したサトシのピカチュウが渾身の体当たりを繰り出す。マッシブーンもそれを正面から拳で受けて立つ。大きな衝撃音とともに、空気が波紋状に震える。

 

互いに後退するピカチュウとマッシブーン。ニヤリとピカチュウが笑うと、マッシブーンが頷く。

 

「いいぜ、マッシブーン!お前に見せてやる!ポケモンとトレーナーの絆、俺たちの全力!」

 

正面勝負には正面勝負。サトシは腕のZパワーリングのクリスタルを取り替える。デンキからノーマル、遠距離から近距離へ。

 

「全力のぶつかり合いだ!行くぜ、ピカチュウ!」

「ピィカ!」

 

「おっ、あの技は久々だね」

「ポケモン同士のぶつかり合い!」

「こんな興奮してるスイレン珍しいね……サトシ、ピカチュウ、ファイト!」

 

サトシからピカチュウへ、エネルギーが流れる。溢れるような光に、マッシブーンも動きを止め、驚いたかのように凝視する。

 

「行くぜ、マッシブーン!これが俺たちの!全力だ!」

 

「ウルトラダッシュアタック!」

 

地面を蹴り、猛スピードでかけるピカチュウ。真正面から突っ込んでくるピカチュウに対し、マッシブーンは4本の足で大地を踏みしめ、力を込めた拳を繰り出す。

 

激しい激突音が響き、衝撃が先ほどとは比べ物にならないほどに周囲を震わす。衝撃によって生じた土煙から、サトシたちは身を守るように身構える。

 

 

 

土煙の流れも落ち着き、どうなったのかを確認するサトシたち。ピカチュウとマッシブーンは、共に全力を出し切ったのか、地面に倒れそうになりながら、肩で息をしている。

 

「サトシ!2人の怪我を治します。一先ず捕獲を!」

「ああ。頼むぞ、ウルトラボール!」

 

ボールの中に吸い込まれたマッシブーン。少し揺れ、ボールのランプが消える。どうやら無事に捕獲に成功したらしい。

 

「マッシブーン、ゲットだぜ!って、ゲットじゃ変かな?」

「ま、いいんじゃないか?マッシブーンもポケモンだし、ゲットと同じようにバトルしてるし」

「じゃあ、ウルトラジャー!みたいにすればいいんじゃないかな?」

「なるほど……じゃあ改めて、マッシブーン、ウルトラゲットだぜ!」

「サトシ、こっちの準備はいいよ」

「オッケー。それじゃあマッシブーン、出てこい」

 

ボールから出てくるなりマッスルポーズを決めるマッシブーン。が、やはりダメージが大きいのか痛がるそぶりを見せる。

 

「ごめんな。少しやり過ぎちゃったかもな」

「傷を治します。少ししみますけど、我慢してくださいね」

 

「ピカチュウ、お疲れ様」

「うんうん。かっこよかったよ。手当しよっか」

 

サトシたちがマッシブーンとピカチュウの手当をしている間に、カキはルザミーネたちに連絡していた。

 

「マッシブーンの捕獲、無事に終わりました」

『ありがとう。こっちも丁度マッシブーンが来たらしいウルトラホールの場所が特定できたの。メレメレの花園で合流するよう、みんなに伝えてくれるかしら?』

「ウルトラジャー」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

後日談、というか今回のオチ。

 

……いや、何もオチないけどさ。

 

メレメレの花園についたサトシたちを出迎えたのは、ルザミーネ、バーネット、ビッケ、そしてククイの4人だった。

 

以前ザオボーが使ったウルトラホールを開く装置を応用し、マッシブーンの世界への入り口を開くことに成功した。

 

サトシのウルトラボールから出たマッシブーンは、空に開くウルトラホールを見て、喜んでいるように目を輝かせる。

 

飛び上がったマッシブーンは、最後にサトシたちを振り返り、

 

「マブシッ!」

 

とポーズを決め、ウルトラホールの向こうへ消えて行った。

 

「さっきの、マッシブーンなりのありがとうってことだったのかな?」

「かもな」

「かっこよかった……マッシブーン!」

 

「みんな、初めての任務ご苦労様。これからも度々ウルトラビーストが現れるかもしれない。その時には、今回のように、ウルトラビーストを助けてあげてくれる?」

「はい」

「もちろんです」

「ありがとう。改めてお願いね、ウルトラガーディアンズ」

「「「「「「ウルトラジャー!」」」」」」

 

 

こうして、サトシたちウルトラガーディアンズのファーストミッションは、無事に達成された。果たしてこれから、どんなウルトラビーストとの出会いがあるのか。それはまだ誰もわからない。

 

 

 

(光……強イ光……同ジ……)

 

元の世界に帰りながら、彼は考える。

 

あの最後の一撃について、考える。

 

(光ノ、神……)

 

 

 

遠い———遠い———果てしなく遠い。

 

流星の如き道の果ても果て。

 

そのものは蠢く。

 

苦しみ悶える。

 

無くしたものを求め、その禍々しく歪んだ手を伸ばす。

 

(光———足リナイ———光)

 

 

 

——— To be continued……

 




ロイヤルドーム

そこはポケモンたちによる激闘が繰り広げられる、熱い場所!

そのチャンピオンがロイヤルマスク。
一体どんな人なんだろうな。
相棒のガオガエンもスッゲェ強いし!

って、ニャビー!?

ロイヤルマスクと戦いたいのか?

よぉし、行くぜ!
お前の燃え上がる炎、見せてやろうぜ!

次回、XYサトシinアローラ物語
燃えろニャビー!炎の闘志、爆現!
みんなもポケモン、ゲットだぜ!


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※今後の物語に向けて

この先の物語を読むにあたって、注意というかお知らせ?みたいな感じですね。
活動報告よりこっちの方が見てもらえるので、こちらに載せます。


※今回は物語ではありません!今後の展開をああでもないこうでもないとやって、取り敢えず纏まったので、それに繋がるための事前情報をいくつか公開します。

内容としては以下の通りです。

 

1. アニメとの乖離

2. 特殊なZクリスタルとZリング

3. キズナ現象

4. 「かがやき様」

5. 最終的に……

 

じゃあ、説明といきましょう!

 

『1について』

今更何言ってるんだろう、って感じもかなりするとは思いますが、こればかりはちゃんと宣言しておかないと。

 

この作品は、ウルトラガーディアンズ編からは今まで以上にオリジナル要素が含まれてきます。予めご了承ください。

 

作者のやる気が続く限り(続くよう祈ってて下さい笑)物語を進めていきます。過去のアニメ、小説版、劇場版、ゲーム等、色々な要素が混ざり合う可能性大です。

 

というわけで、今後はアニメとだいぶ違うことも増えるので、純粋にアニメの内容が知りたい方は、視聴してくださいね笑笑

 

 

『2について』

サンムーンからの醍醐味であるZ技。タイプだけではなく、固有のZ技を持つポケモンもいます。

 

その力を引き出す為に必要になるのがZクリスタルとZリング。アニメの中でも、様々なZクリスタルが登場しています。

 

さて、リマインダーも兼ねて、この分野において、現時点でのアニメとこの小説の違いをあげますと、

 

・サトシゲッコウガだけの特殊な形のクリスタル

・一度破損したサトシのZリング

・ソルガレオのクリスタルの時のような力の奔流

 

これは今後の展開のために取り入れました。

 

そして今度はみなさんに前もって知っておいてほしい、この作品だけの設定を2つあげます。

 

・Zクリスタルはタイプ別、個別問わず、基本全て同じ形状である。

ジャラランガZやミミッキュZ等、原作アニメ共に特殊な形のクリスタルが登場しますが、この作品では、全てのZクリスタルは同じ形をしています。

 

えっ?じゃあサトゲコやサトピカ、ソルガレオのはなんだったのかって?これにももちろん意味はあります。

 

これら特殊な形のZクリスタルも、今後の物語に大きな意味を持ってきます。

 

 

・Zパワーリングを持つのはサトシだけである

 

アニメではロケット団とグラジオも手に入れていたZパワーリングですが、本作ではサトシ以外は通常のZリングのままです。

 

今作においてはサトシのZリングがZパワーリングになったのは、ソルガレオのクリスタルをはめた時の力に耐えきれなくなったためです。また、ゲッコウガとのZ技を使用した際にも、大きな負荷がかかっていた描写も入れています。

 

この大きな力を使いこなす為に、サトシのZリングは守り神たちによってZパワーリングへと生まれ変わりました。

 

何故それほどまでに強い力が流れたのか、それもまたこの先の展開の重要な要素となります。

 

 

『3について』

この作品の大きな目玉とも言えるキズナ現象。オリキャラ登場回でサトシ以外にも使える?みたいになりましたけど、あれはあくまでパラレルです。この物語自体には影響しないと思ってください。

 

簡潔に言いますと、この力を使えるのは世界中でサトシとゲッコウガだけです。作中で波長があうとか、相性がいい的な表現をしていましたが、より深い理由がちゃんとあります。

 

このあたりはアニメでは全く出てこないオリジナルの設定ですので、ご理解下さい。

 

また、キズナ現象とZ技に関係があるのでは?みたいな感想もありましたが、それについても今後触れていく予定です。まぁ、サトピカZ使用時に関係がある感じの描写もありましたしね笑

 

 

『4について』

USUMのキーキャラクターでもあった伝説の存在、かがやき様(あえてこっちで呼びますね)。本作においても、彼は重要な存在です。

 

そもそもZパワーの源的な存在であるかがやき様は、物語開始以前から強い影響を与えています。それも、想像以上に。

 

アニメではベベノムたちの世界でも守り神のように崇められていましたが、本作では……そしてその影響はアローラに光をもたらすだけではなく……

 

まだまだ謎の多いその存在の活躍も、楽しみにしてください笑

 

 

『5について』

 

この作品、XYサトシinアローラ物語は、XYロスになった作者が突発的に始めたものです。が、気づいたらすごく長く続いた気もするし、すごく読んでもらえて嬉しい限りです。

 

そんな中ではありますが、作者の気持ちとしては、『今のサトシも、やっぱりサトシだよな』です。

 

子供のようで、時々年齢以上に幼く見えて……でもその魂は確かにサトシだな、って。松本梨香さんの言ってた通りですね笑

 

だから、本作のウルトラガーディアンズ編が終わった時、この物語も終わりにします。

 

ただ、アニメとは違うのでウルトラガーディアンズ編が割と大長編になる予定ではいますので、今日明日で終わるわけではないです。が、例えばですが、ハウやカヒリと言ったキャラクターはおそらく登場しません。流石にクチナシさんやアセロラちゃんは出る予定ですけどね。

 

また、様々なゲスト登場のリクエストもたまに聞きますが、それもどうなるかはわかりません。出したいとは思いますけどね〜。

 

そんなわけで、もう暫くはお付き合いいただきたい、そんな作品。

 

XYサトシinアローラ物語を、宜しくです!

 




報告内容は以上です。

取り敢えず次の話を早く載せられるように頑張りますね笑
でもなぁ、今ゲームのイベント重なってて時間ががが……


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