インストール@プリキュア! (稚拙)
しおりを挟む

プロローグ

 はじめましての方ははじめまして!
 ごぶさたの方はごぶさたです!
 稚拙と申します!

 今回書かせてもらうのはプリキュア、それもオリキュアに挑戦です!

 『ライダー・戦隊・ウルトラマンはもうやったのに、プリキュアだけ公式のテレビシリーズでディケイド的展開をやってないなぁ~』と思ったのが全ての始まり、
 『だったら書いてみようかな~』と思って設定とか考えたら、あれよあれよという間にいい感じに設定が固まりました。

 お楽しみいただければ幸いです。それでは、送信!


 その日も、当たり前に来ると思ってた。

 

 朝起きて、ご飯を食べて、身支度をして、外に出て。

 友達と笑い合って、いっぱい遊んで、陽が暮れて―――

 

 そんな、当たり前が、ずっと続くと思っていたその日の朝―――

 

 あたしの世界は―――壊れた。

 

 

 ―――メモリア!……起きて、キュアメモリア!!

 

 

 誰かが、あたしを呼ぶ声がする―――

 

「―――――――――っ!?」

 

 あたしを起こしたのは、いつもの目覚ましじゃなくって、響く声と真っ赤な光だった。

 時計を見やると、朝の4時。それなのに、こんなに明るいなんて……?

 ベッドから跳ね起きて家を飛び出すと、そこは――

 

 ―――地獄だった。

 

 見知った風景が、炎に包まれ、燃え上がっていた。

 あいさつを交わして、気さくに声をかけてくれる人たちが、悲鳴を上げて逃げまどう。

 何があったのか―――それをたずねる余裕もないのは明白。

 あたしは駆け出す。

 逃げる人々の間をかき分けて、その流れに逆らうように。

 

「……!」

 

 息をのんで、足を止めたあたしの前に立ちふさがる、黒光りするずんぐりとしたその姿。

 

「“バグッチャー”……!?」

 

 確か、“せんせい”の授業の中で教わったことがある。

 あたしが生まれる前―――あたし達の国―――“サーバー王国”を襲った闇の軍勢“ジャークウェブ”―――そいつらが使っている、意思を持ったコンピューターウイルスだ。

 そんなヤツらが、どうして……!?

 

「……っ、どいて!!」

 

 考えてる時間はない。あたしは両の拳に力を込めた。電子の輝きがひらめいて、あたしの視界をピンク色に染める。

 そしてそのまま、あたしは2体のバグッチャーの土手っ腹に、立て続けにパンチを連続で打ち込んだ。

 

『『デリィィィトォォォォォ…………!!』』

 

 断末魔を上げて吹き飛ぶバグッチャーを尻目に、あたしはまた走りだす。こんなところで、足止めを食ってはいられない。

 

「みんなを、助けなきゃ……!」

 

 目を覆いたくなるような惨状の中、あたしは目を背けずに駆ける。

 “せんせい”は言ってた。『どんなに辛いことがあっても、絶対に目を背けちゃいけない』って。

 逃げずに、立ち向かって、苦しいことも全部乗り越える―――

 それが、あたしが、『この名前』をもらった意味―――

 

「あたしは……!プリキュア……“キュアメモリア”なんだ……!!」

 

 ―――――――――

 

 あたし達プリキュアが、何かあった時に集まる場所がある。

 王国の真ん中に立つお城―――“メインサーバーキャッスル”。

 あたし以外のプリキュアたちも、きっとあそこに―――

 

「……メモ、リア…………」

 

 か細くあたしを呼ぶ声に、思わず足を止めた。

 

「リカバー!サーチ!!」

 

 傷だらけで倒れていたのは、あたしの友達。

 一緒にプリキュアになった、キュアリカバーとキュアサーチ。

 思わず駆け寄って、リカバーの手をにぎると、力無くにぎり返してくる。

 

「……ごめんね……守れなかった……みんなを……」

「リカバー!しゃべっちゃダメだよ!」

「わたし達の、ことは、心配、しないで……お城に、いそいで……」

「サーチ……!」

 

 いつもおっとりしてて、ちょっと頼りなげなリカバー。

 人と目を合わせたくないから前髪を長くしてる、はずかしがり屋のサーチ。

 プリキュアになった今でも、戦いなんて似合わなそうなふたりが、こんなにボロボロになるまで戦って……

 

「ありがとう……ごめん……ふたりとも、無事でいて」

 

 あたしはふたりが無事に生き延びてくれることを信じて、走り出した。

 振り返りはしなかった。振り返ると、また後ろ髪を引かれるし、ふたりの想いをムダにする。

 

 ごめん―――ほんとうに、ごめんね―――

 

 涙が止まらなかった。

 

 ―――――――――

 

 あたしがお城に着いた、ちょうどその時だった。

 ふたつの光が、玉座の間のある最上階のテラスに突っ込むのを見た。

 体の芯まで震わすような音がひびいて、お城全体がきしんだ。

 一瞬怯んだあたしの心に、真っ先に『あの方』の心配が浮かぶ。

 

「クイーン……!!」

 

 あたしが、あたしたちプリキュアが守るべき、この国のすべてを司る存在―――“プログラムクイーン”。

 あの方に何かあれば、サーバー王国は無事じゃすまない。あの方がいるからこそ、あたしを含めて、『この国のみんながこの国にいられる』のだから。

 あたしは心の不安に急かされるようにお城の階段を駆け上がって、玉座の間の前までにたどり着いた。

 あと少し―――そう思ったと、ほとんど同時だった。

 

「ぅぁあああああああッッ!!」

 

 悲鳴とともに、あたしの目の前を水色のシルエットが吹っ飛んでいき、壁へと叩きつけられるのを見た。

 

「っ!データ!!キュアデータっ!!」

 

 あたしといっしょにプリキュアになってくれた最後のひとり―――キュアデータだった。

 水色と白の服はボロボロになり、ところどころが赤くにじんでいる。

 

「……メモリア……!遅ェよ……!」

「ごめん……!ねぇ、何があったの!?他のみんなは……!?」

「く……それは……!」

 

 データは、玉座の間の中をにらんだ。その視線たどっていったその先には―――

 

 「…………え」

 

 信じられない光景があった。

 昨日まで、一緒に笑い合っていた。

 昨日まで、やんちゃをした時に叱ってくれた。

 昨日まで、わからないコトは何でも教えてくれた―――

 あたしの大切な先輩たち―――

 

 11人のプリキュアたちが、玉座の間のあちこちに、力無く倒れ伏していたのだった。

 

 「……ブルーム……ハート……ハッピー……ミラクル……ラブリー……?」

 

 そんなことは、絶対にありえない。

 みんなが、負けるはずがない。

 ここにいる11人は、11あるプリキュアチームの中でも最強の、リーダープリキュアたちなんだから……!!

 それが、どうして……なんで―――

 それに、ひとり足りない。

 そう、51人のプリキュアの中で、最強のあのひとが―――

 あたしがいちばん尊敬する、“せんせい”がいない―――

 

「51人いる伝説の戦士が……あっけねェモンだなァ……」

 

 知らない声がした。あたしはその声のした方を見た。玉座の前だった。

 

「……なぁ?キュアメモリア……?」

 

 知らない声の主は、知らない女の子だった。暗い緑色の衣装(コスチューム)に身を包んだ、闇色の輝きをまとう存在―――

 誰―――と思うその前に、あたしの視界に『ある人』が入った。

 

「…………!!“せんせい”……!!」

 

 苦しげな表情を浮かべながら、その女の子の右手に首を掴まれていたのは、あたしの“せんせい”だった。

 瞬間、全てがつながって、あたしの中の怒りと哀しみが沸騰して、全身に力がみなぎっていく感覚―――

 

 ―――コイツだ。

 

 コイツがこの国を。

 

 コイツがみんなを。

 

 コイツがリカバーを、サーチを、データを。

 

 

 コイツが、“せんせい”を―――――――――ッッ!!

 

「…………うぅぅぅぅおおおおああああァァァァ!!!!!!!!!!!」

 

 無意識に叫んでた。そしてあたしは右脚に力を込めて、石畳が削れるほどの踏み込みで間合いを詰めて、右の拳に全力を集中した。

 

「“せんせい”をはなせぇぇぇぇぇえぇ!!!!!!!!!」

 

 渾身の右ストレート。あたしは怒りのままに解き放った。

 

「メモリア!上だぁっ!!」

 

 その時のあたしには、データの声が聞こえなかった。

 気がつくと目の前には、“せんせい”をつかんでるヤツではなく、別の暗い黄色の衣装の女の子がいた。

 

「暗愚」

 

 何をされたのかわからなかった。パンチを放とうとしたその時、背中に強烈な痛みが走った。それをきっかけに全身の力が抜き取られて、次いでおなかに重い一撃をくらった。さっき間合いを詰めた道をそのまま戻されるように吹っ飛ばされて、あたしは壁にたたきつけられた。

 

「メモリアッ!!」

 

 一瞬、意識が飛んでいた。データの声で無理矢理に意識をつなぎ止めて、あたしは“相手”をにらみ上げた。

 “相手”は、ふたりいた。長い髪の暗い緑色と、前髪ぱっつん、腰からプラグみたいな触手を生やした暗い黄色。まるでプリキュアのような姿なのに、底知れない“闇”しか感じられないこの子たちは誰なの……?

 

「単純だなァ。怒りに身を任せて突っ込むなんざ、なっちゃいないなァ。どー思いますか“せんせい”?出来の悪い弟子に講評を……ま、出来ないだろうがなァ!!ヒャッハハハ!!」

 

 暗緑色の挑発じみた言葉が刺さってくる。でも、あたしは聞いてなんかいない。なんとかして“せんせい”を助け出すのが先だ。

 “せんせい”さえ助け出せれば、反撃のチャンスが―――

 

「無駄。救出。不能。投降。勧告。」

 

 暗黄色が、機械じみた口調で言ってくる。要するに『あきらめろ』とでも言いたいの?

 冗談じゃない。

 

 ―――『絶対にあきらめない』

 

 それがプリキュア、あきらめたらそこで負けだ。相手にも、そしてあたしの心にも……!!

 

「最期に教えといてやるよ―――――(オレ)はキュアウイルス!」

「キュアハック」

「ジャークウェブ……“カイザランチュラ”様が手駒……“バグキュア”さ」

「……バグ……キュア……!?」

 

 聞いたことがない。バグキュアって、いったい……!?

 でも、このふたりがジャークウェブの一味で、こんなひどい事もこのふたりの仕業だということもすぐに想像がついた。

このふたりが、全部やったんだ……!!

 

「最高の気分だぜ……!こんなにも簡単に、この国に復讐を果たせたんだからなァ!!腹の皮が(よじ)れるぜ!!」

「高揚。悲願。成就。」

 

 どういうことなの……?サーバー王国に、復讐って……?

 前にこの国を侵略して、その時にやられた事への逆恨み?

 何もかも、わからないことだらけ……。

 

「そんなの…………ホントの力じゃ、ない……!!」

 

 その時、首元をつかまれていた“せんせい”の口から、小さく言葉が漏れた。

 

「ズルして、強さを……もらっても……それは、ニセモノの……強さ、だよ……!!」

「あ゛ぁ!?」

 

 キュアウイルスは凄惨な表情で“せんせい”をにらんだ。

 

「アンタが何を言ったってなァ!!薄っぺらいんだよ!!最初に……最初に己達を裏切ったのは……アンタの方だったんじゃないか!クイーンだったんじゃないか!!この国だったんじゃないかァッ!!!」

 

 それまで余裕のあったウイルスの表情が一変した。キュアハックも、口元をゆがめてる。

 “せんせい”やクイーンが、裏切ったって……そんなこと……?

 この子は……何を言ってるの?

 

「クソッ!!息の根止められねェのがホンットムカつく!!」

「ウイルス。鎮静。命令。絶対。遵守。」

「…………チッ」

 

 ハックの言葉に、視線を逸らしながらウイルスが舌打ちする。

 

「耳障りももう厭きた……命令通り、終わりにしてやるぜ。お前らプリキュアも、この国もな」

 

 そう言うと、ウイルスは“せんせい”をつかんでいる方とは逆の手の指を弾いた。その瞬間、まわりに倒れていた他のプリキュアたちが、闇色の光に包まれ始めた。

 

「なん、なの……!?」

 

 あたしの目の前で、目を疑うコトが起きた。

 それまで倒れていたラブリーやドリーム、ピーチたちの体が光とともに消え失せて、小さなメモリーカードのカタチへと変わっていった。それだけじゃなく、テラスの外から、たくさんのメモリーカードが飛んできた。

 そしてそれらはすべて、キュアウイルスの手元へと集まっていった。

 

「“ワルイネルギー”に侵されたプリキュアは……意思なき“キュアチップ”に姿を変える……これでこの国は終わりだな」

 

 色々なことが起きすぎて、ワケがわからなくなっているあたしのとなりに、キュアデータが立った。

 

「どうなってんだよ……コレ」

「…………………………」

 

 あたしは無言で首を横に振った。わからないのは、あたしも同じ。

 

「―――――――――まだ、終わりじゃないよ……!!」

「「「「!?」」」」

 

 あたしとデータ、ウイルスとハックは、同時にその声を聞いた。

 

「“せんせい”っっ!!」

 

 “せんせい”は、”闇色の光”に身体を侵されながらも、その両の拳に、力をスパークさせていた。

 

「メモリア……データ……よく聞いて!あなたたちなら……きっと王国を元に戻すことができる……!あたし達には無い、“無限の可能性”を持つあなた達なら……!!」

「ダメだよ“せんせい”っ!!今助けるから……」

「来ちゃダメッ!!」

「ッ……!!」

 

 その時のあたしは、“せんせい”の言ったことの意味を、よくわかってなかった。“せんせい”の言う、『無限の可能性』っていうモノも。

 早く“せんせい”を助けなきゃ。それだけで頭がいっぱいだった。

 

「いい……?“リアルワールド”の人間たちの中から、あなた達に力と心を貸してくれる、“ユーザー”を探して、契約して……!ユーザーとなら、あなた達は最高の力を出せる……!」

「にんげんさん……?ユーザー……?」

 

 これも、授業で教わったことがある。

 王国の外―――――ずっと遠いところに、“リアルワールド”っていう知らない世界があって、そこには『にんげんさん』っていう、あたしたち『アプリアン』とは違ういきものが暮らしているという。

 そのにんげんさんと、けーやくって……?

 

「何言ってるのかぜんぜんわかんないよ!!」

「そうだぜ!それにアタシたちは、リアルワールドにはどう足掻いても入れないって、クイーンが……!!」

 

 データの言う通り。アプリアンは、この『キュアネット』だけでしか生きられない。リアルワールドにアプリアンが行く方法は無いはずなのに……。

 

「入れなくても、言葉は伝わる!!あなた達がリアルワールドに伝えるの!!この国の……ううん、キュアネット全体の危機を!!」

「ぎゃぁぎゃぁ五月蝿(うるさ)いんだよロートルが!!」

 

 キュアウイルスが力を強めたのか、“せんせい”を覆う闇色の光が強烈になっていく。

 

「“せんせい”っっ!!」

「行ってッ!!……あなた達が、あたし達の希望だよ……大丈夫……あたしが信じたあなた達は……あなた達、ふたりは……!」

 

 “せんせい”の、何かを託すような瞳が、あたしの心に突き刺さるように―――

 

「“ふたりはプリキュア”、なんだから……!!」

 

「っ……!」

 

 その瞬間、“せんせい”の両拳から、『黒色』の光がほとばしって、あたしの視界のすべてを、轟音とともに覆っていった。

 あたしは―――最後の力を、命を振り絞る”せんせい”の名前を―――

 意識の外で、叫んでいた―――

 

 

「キュアブラックーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 これが―――――

 

 守るべきモノを、愛する人を失った―――――

 

 あたしの、消してしまいたい記憶だった―――――




 騙して悪いが(ry
 という展開で申し訳ありませんが……

 プロローグにしてプリキュアオールスターズ全滅……!!

 まさしく、最悪の状況からこの物語は始まります。

 果たして、キュアメモリアとキュアデータは、ここからどう逆転を果たすのか……?

 次回から本編開始です。また、次回からは前書き・後書きスペースを使って、キャラ紹介や用語解説なんかもやっていこうと思いますので、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キュアメモリア編 第1話 はじめまして!スマホの中の@プリキュア!
週に一度の大事な時間


 次のプリキュア、肉弾戦封印かぁ……(遠い目)

 ……そ、それはともかく、ここからが本編です!
 本小説の主人公が如何に『痛い』子なのかをわかっていただければ幸いです……
 


 前に見た掲示板に、こんなスレが立っていた。

 

〈もしもこの世界に、本当にプリキュアが現れたらどうする?〉

 

 私は迷わずこう書き込んだ。

 

〈愛でる〉

 

 数分後、レスが返ってきた。

 

〈お、おう……〉

 

 ―――これは、そんな私のおはなし。

 

 『インストール@プリキュア!』、キュアっとスタートアップ!

 

 ―――――――――

 

  PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    ??????

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 みなさん!こんにちは!

 それともおはようございます?こんばんは、なのかな?

 それはともかくはじめまして!

 私の名前は東堂りんく!今のところ、ごくごくフツーの中学2年生!

 ……なんだけど、今実は、ちょっと自己紹介してるヒマないかも。

 これから、週に一度の『特別な時間』が始まるんだから……!

 今日は天下の日曜日、時は朝、8時27分……

 

 ……テレビの電源、OK。

 ……チャンネルセット、OK。今ちょうど、日曜朝の報道番組が終わったところ。

 ……タブレットの電源はもう入ってる。掲示板サイトも開いて、準備OK……!

 ……スマホもOK。これで友達とリアルタイムでメッセのやりとりができる。

 

 さぁ、いつでもいいよ。

 私の前に姿を見せて―――。

 カッコよく、強く、誰よりカワイイその姿を!

 

 そして、8時30分―――

 

 キタ――――――(゚∀゚)――――――!!

 

 ―――――――――

 

 宣言します!

 

 私は―――この世でいちばん―――

 

 『プリキュア』が大好き!!!

 

 物心ついた時から、テレビの中の戦う女の子に憧れて、玩具もほとんど全部買ってもらってたし、遊園地のプリキュアショーにも毎週のように足を運んで、ステージで戦うプリキュアたちを、声がかれるまで応援してた。

 

 小学生の高学年になると、さすがに玩具を買ってもらえなくなったけど、私の中の『プリキュア愛』は尽きることなく、お小遣いをためてポスターやタペストリー、フィギュアをいっぱい買って飾ってる。いつしか私の部屋は、プリキュアたちが至る所にひしめくようになった。人、それを痛部屋と言う……と思う。

 

 でも、プリキュアが好きだったおかげで友達もできたし、今こうして、特別な時間を共有できる仲間もいる。だから、私の愛はまだまだ満タン!今までもこれからも、心の中はキュアっキュア!

 

 ……私の口グセ、ちょっとヘンだよね。よく言われるけど、子供のころから、感動したり、心が揺らされたりすると、こう言葉に出しちゃうから仕方ない。おかげで、私がプリキュアのことが好きだって、わかりやすく伝わるし、ね♪

 

 

 あらためまして……

 東堂りんく、中学2年生!

 プリキュアオタク、真っ盛りです!!

 

 ―――――――――

 

 月曜日―――

 

 今日は始業式。

 さっき中2って言ったけど、ホントは今日から中2、なんだよね。なんかゴメン。

 

「おっはよ~!」

「おう、おはよう」

「おはよ、りんく。……ミョーに元気ねぇ」

 

 新聞を読みながら、私に会釈をするパパ。電子機器メーカーのバリバリのサラリーマン。あ、別にブラックな会社に勤めてるわけじゃないよ?土日はそれなりに休んでるし。

 で、ママはケータイショップでパートさんをしてる。サービスがいいってお客さんにも評判みたい。

 働きながら家事をして、本当に大変だと思う。私も学校が休みの日は、できるだけ家事の手伝いをすることにしてる。

 

「えへへ、今日は……トクベツな日だから♪んふふ……」

「??」

 

 私が元気な理由にはワケがある。その理由は……またあとで。んふふ……♪

 朝ごはんを食べて、着替えて身支度をして、あとは出発するだけ。

 ……あ、天気予報見るの忘れた……今日、雨降るのかな?

 私は玄関にある傘立てに話しかける。

 

「今日のお天気は?」

 

 傘立てから、ピピッ、と電子音がして、合成音声がひびく。

 

《今日ノ大泉町ノオ天気ハ、『晴レ』。降水確率0%。傘ノ必要ハアリマセン。行ッテラッシャイ、リンクサン》

「ありがと♪」

 

 今日もいい仕事してる。思わずお礼を言っちゃう私。

 ……え?傘立てがどうしてお天気を教えてくれるかって?……そっか、そっちの世界はまだ、そこまで技術が進んでないんだっけ……説明不足でごめんね。

 

 私の生まれる前、『アイ・クライシス』っていう、世界的なインターネットの大規模障害が起きて、世界中で大混乱が起きたの。

 それがきっかけで、今までのインターネットは使えなくなってしまった。だから、新しくネットワークを作り直さなきゃいけなくなって、そうして新しく作られたのが―――『キュアネット』。

 『いつでも、どこでも、だれでも、簡単に使えるネットワーク』をキャッチコピーに、それまでとはまったく違うネットワークが構築されていった。

 ―――その結果が、コレ。今となっては、パソコンやスマホ、タブレットやテレビだけじゃなく、それこそ世の中にあるほとんどのモノがキュアネットに接続されて、わかりやすく、使いやすくなった。

 便利な世の中になったって、パパもママも言うけれど、私にとっては物心ついた時からこうだったから、あんまり実感ないけどね。

 靴を履いて、玄関を出ようとしたけれど、ここで私は思い出す。

 

「あ、そうだった……」

 

 玄関に取って返して、私は靴箱の上のデジタルフォトフレームに笑いかけた。

 

「行ってくるね―――――おばあちゃん」

 

 心の中の『キュアキュア』に急かされて、つい忘れそうになった、毎朝出かける前の、おばあちゃんへのあいさつ。

 ……あ、誤解される前に説明しとくけど、おばあちゃん死んでないからね!?生きてるよ!?

 というのも、こっちから連絡が取れないだけで、絵手紙が時々送られてくるから、たぶん元気にやってるんだろう、ということだけど。

 

 毎年の私の誕生日には、プレゼントも届く。ちなみに去年のプレゼントが、今も私が使ってるこのスマホ。

 おばあちゃんの特製アプリもダウンロードされてた特別品!凄いでしょ♪

 おばあちゃんがこんなことできるのも、大きな理由がある。

 さっき、キュアネットのお話をしたけど、なんと!そのキュアネットをつくったのは、私のおばあちゃんなんです!

 

 『電子工学の東堂博士』っていったら、日本で知らない人はいないほどの有名人!私の自慢のおばあちゃん! 

 こんな便利な世の中になったのも、おばあちゃんのおかげなんだよね。実感ないけど、感謝しなきゃ。

 

 今日から中学2年生!今日の天気みたいに、私はとっても元気で、気分はキュアっキュアです!

 

 ―――――――――

 

 通学路を、息をはずませて走る。

 中学2年生の初日。この日を、どんなに待ち望んだことか。

 ちょうど、中学校と家との中間にある曲がり角。私はここに、ずっと憧れを抱いていた。

 だって、『スマプリ』の第1話で、みゆきちゃんとキャンディが出会った曲がり角に、シチュがそっくりなんだもん!

 中2といえば、ほとんどのプリキュア主人公と同い年。ということは―――

 私の元にも、妖精さんがやってきて、私もついにプリキュアに―――

 んふ、んふふふ……

 期待とともに、私は曲がり角を曲がり、両腕を天へと伸ばした。

 

「さぁ!妖精さん!私の胸に飛び込んできて!!そして私を、プリキュアにしてっ!!」

 

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 

 ―――ひゅぅぅ〜。

 

「…………………………」

 

 私に答えてくれたのは、桜の花びらを運ぶ、暖かな春風だけ。

 まわりの、通学途中の学生たちの視線が、めっちゃイタい。当然だよね……私、あまりにも痛々しいことしたもん……

 

「あらら、ダメだったみたいねぇ」

「中学2年にして、サクラ散っちゃったねぇ~」

「…………むぎぽん……そらりん……(半泣)」

 

 哀れな私の背中に声をかけてくれたのは、私の親友ふたりだった。

 まず、こっちの小柄な女の子が、『キュア友』第1号、“むぎぽん”こと、稲上こむぎちゃん。

 

 私達3人の中では一番明るいムードメーカーで、運動神経バツグン。運動オンチな私からしたら羨ましいったらありゃしない。

 実家は大泉町で一番人気のパン屋さんで、部活には入らずに放課後は2人のお兄さんといっしょに、お店のお手伝いをしてる。これまたうらやましい……

 『スプラッシュスター』のキュアブルーム・咲ちゃんのおうちもパン屋さんだったから、余計に、だよ……

 

 で、もう片方のナイスバディな子が、『キュア友』第2号、“そらりん”こと、鷲尾そらちゃん。

 

 おっとりとしてて、やわらかボディの、方言みたいな喋り方がカワイイ癒し系。歌がとっても上手な、クラスの歌姫だ。

 なんというか、『お母さん』みたいな雰囲気の子。本人は『ぽっちゃりしてるからヤセたい』って言ってるけど、正直、このままでもいいんじゃないかなぁ……

 

 私たち3人は、同じこども園に入園して、『プリキュアが好き』という共通点で友達になった。好きなプリキュアのこと、今放送してるプリキュアのことで、今でも盛り上がる。クラスの中で浮かずにいられるのも、この2人のおかげだと思う。

 でも、さすがに『本当にプリキュアになりたい』と思っていたのは私だけだったみたい。そりゃそうだよね……

 プリキュアや妖精がいるのは画面の向こう。絶対に手の届かない、2次元の存在なんだから……

 

「ま、チャンスはまだ残ってるよ。最悪、高校生までならプリキュアOKなわけだし」

「わ、わぁは応援してんよ、りんくちゃん!」

 

 不器用な慰めが心に刺さる。ホント、痛い私でごめんね……

 

「……さて!」

 

 私は気を取り直して、立ち上がる。

 

「しょげてる場合じゃない!むぎぽん!そらりん!急ご!新学期早々、遅刻はダメだよ!」

「あ!ちょっと、待ってよりんく~!」

「うふふ……りんくちゃんらしいわぁ」

 

 3人そろって、今日から2年生。

 妖精さんとも出会えなかったし、プリキュアにもなれなかったけれど……

 それでも、私はプリキュアが好きだ。

 心の中のキュアキュアは、まだまだ消えてない!

 この1年が、私にとって特別な1年になるのは変わりないんだから!

 

 ―――『中学2年生』は、人生1度きりだもん!

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  ??????

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 ―――ここ、どこだろう?

 

 真っ暗で何も見えない。

 あれから、どのくらい経ったんだろう。

 どれだけ走ったんだろう。

 気が付けば、ひとりきりになってた。

 誰もいない。でも、なんだかとても居心地がいいなぁ……

 眠くなってきちゃった……ちょっとだけ、ここで休ませてもらおうっと……

 

 ねぇ……今どこにいるの…………?

 

 ―――……データ……

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    ??????

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 始業式が終わり、私はむぎぽんとそらりんと別れて、町立図書館に向かった。

 それにしても……天は私を見放してなかった!

 今年もむぎぽんとそらりんと一緒のクラスになれるなんて、ラッキー以外のナニモノでもない!

 やっぱり今年は、なんだかツイてる!

 ウキウキ気分で、私は図書館に入った。

 いろんな本が電子化された今でも、紙の本はまだまだ残っている。さすがに、この世の中にある全部の本を電子化するのには時間がかかるみたい。

 私は本棚の中から探して取り出したのは、『表現技法』と表紙に書いてある本。部活がない時は、こうして図書館にこもって『勉強』するようにしてる。

 私は将来、脚本家になりたいと思ってる。小説家とか、作家とかじゃなくって、『台本』を書くお仕事がしたい。

 アニメーターになるのもいいと思ったけれど、私には致命的なほど絵心がない。でも、昔から本を読んだり、文章を書いたりするのは好きだったから、『モノを書く』ことをお仕事にできればな、と思ってる。

 中学生になってから自己流で勉強を始めて、去年は文化祭の演劇の脚本を一本書かせてもらって、それなりに好評だったから、いい線行ってるんじゃないかなって思う。今度開かれるシナリオコンクールに応募しようかな、とも考えてるところ。

 ―――あ、そういえば……

 スマホを取り出そうとして、マナーモードに設定していないことを思い出した。

 今着信があったら、他の人の迷惑になる。こういうことはキチンとしとかなきゃ……

 私はスマホを取り出して、ホーム画面を呼び出した。

 

「……あれ?」

 

 小さな声が、口から出ていた。

 ホーム画面には、いつも使うアプリがたくさんずらりと並んでいる。その中に1か所だけ、違和感があった。

 画面の一番右下に、見慣れないアイコンがいつの間にか表示されていた。

 回路の基盤のような模様が、ハートマークを形作っている、ピンクのアイコンだった。

 『Memoria.pqm』と、名前には書いてある。

 

 ―――め、もり、あ?メモリア、って読むのかな?メモリー、ならともかく、『メモリア』ってなんだろ?

 でも、『pqm』なんて拡張子、見たことも聞いたこともないし、あからさまに怪しすぎる。

 こういうのは、ウィルスかスパムウェアに決まってる。さっさと削除しなきゃ、せっかくおばあちゃんからもらったスマホに、どんな悪さをされるか分かったもんじゃないし……。

 私はそのアプリ(?)を開かないように、慎重にドラッグして、画面の左下にある『ごみ箱』に運んでいった。

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  ??????

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

「ん……あれ……?」

 

 なんだか、ふわふわする。

 そっか……あたし、寝ちゃってたんだ。ここがすっごく、居ごこちが良かったから……

 あたしはそこで立ち上がろうとした。でも、なんだか様子がヘン。

 

「……え……!?なに、コレ……!?」

 

 あたしは足元を見て驚いた。体が宙に浮いて、勝手に動いてる!?まるで、何かに釣り上げられてるみたいに!

 次に上を見上げると、水面のような波紋が浮かんで、あたしの頭の上から離れない。

 

「え……!?」

 

 あたしは、あたしが動いている『その先』を見た。

 

「ご……ごみ箱っ……!!!?」

 

 ダメ……!『そこ』だけはダメ!!

 『そこ』に入れられたら、あたしは消されちゃう!死んじゃう!

 まだ、あたしにはやらなきゃいけないことがあるのに!

 伝えたいことがあるのに!

 探さなきゃいけない、『にんげんさん』が―――“ユーザー”がいるのに!!

 

 その時、あたしの中の恐怖が、あたしの口をついて、外へと出ていた―――

 

「ダメぇーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!」

 

 

 ……SAVE POINT




 キャラクター紹介

 東堂 りんく

 プリキュア大好き!な、自他ともに認めるプリキュアオタクの13歳、中学2年生の女の子。
 電子機器メーカーの営業マンの父・(つなぐ)と、ケータイショップのパートタイマーをしている母・(ゆい)との3人暮らし。

 リアルタイム視聴はもちろん、物心つく前に放送されたプリキュアシリーズもブルーレイを購入して全話視聴、愛用のタブレットで実況版を開きながら、日曜朝8時30分からの30分間、ネットのオタ仲間と盛り上がる筋金入りのオタ。
 無論、土曜夜7時30分からのBSの再放送や、CSの再放送もリピート込みで全話録画してまで見ている。

 そんな彼女の部屋は、プリキュアグッズでいたるところが埋め尽くされた『痛部屋』になっている。
 愛と勇気の物語である『プリキュア』を愛して育ったためか、前向きで優しく、困っている人を見過ごせない、いかにも『プリキュア主人公』らしい性格になった。
 しかしながら、『中2になったんだし、もうすぐ私もプリキュアになれるかも!』という非現実的な夢も、いまだに持ち合わせている夢見がちな性格でもある。
 また『プリキュア愛』をあらぬ方向に暴走させて周囲を煙に巻いたり、ひとり妄想の世界にトリップすることもしばしば。
 『みんなが好きになってくれるプリキュアを“つくる”仕事がしたい』という願いから、将来はアニメ脚本家になりたいらしく、関連本を読みながら勉強する毎日。

 キュアネットの構築や普及に多大な貢献をした、世界的なネットワーク工学博士を祖母に持ち、その血を受け継いでいるためか、IT関連の知識や電子機器に関しては天性の才能を持っている。
 『たいていの電子機器は分いじればだいたいわかる』と語り、クラスメートからもその方面では頼りにされ、学校ではパソコン部の部長もつとめている。

 弱点は致命的な運動オンチであること。体力テストや徒競走は学年ぶっちぎりの最下位。
 口ぐせは『キュアっキュア』『キュアっときた!』。心の琴線に触れたことを表現する言葉であるらしい。
 また、歴代プリキュアの決め台詞や名台詞、主題歌の歌詞の一部を引用することが多々ある。

 ―――――――――

 ……そんなわけで、今回の主人公・りんくが如何に『痛い子』なのかがわかっていただけたのではないかと……

 次回、りんくのスマホの中から何かが出てくる……!?

 あ、まだまだ物語は始まったばかりですが、ご感想とかいただければ幸いです。それと、ネタバレにならない程度ならご質問にも出来る限りお答えしますので、どしどしお寄せください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホンモノのプリキュア

 用語解説

 キュアネット

 16年前、世界的なインターネット障害『アイ・クライシス』によって機能不全となったインターネットに代わって、世界中に敷設された次世代型インターネット。
 『いつでも、どこでも、だれでも、カンタン』がキャッチフレーズ。
 ネットワーク空間が可視化されていて、ネットの混雑状態も一目で確認できるなど、わかりやすさを売りにしている。
 普及には、りんくの祖母であるネットワーク技術者・東堂博士の尽力があったという。

 ―――――――――

 かれんちゃんが!まいんちゃんが!ついでに初音ミクがプリキュアに!!
 キラプリの声優さん発表で割とテンションが上がっております……!!

 テンション上がったついでに文字数も1万字を越えちゃいました……!!

 読みにくかったらすみませんが、続きを送信!!


 ……NOW LOADING……

 

 ―――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    ??????

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

《ダメぇーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!》

 

 スマホから女の子の叫び声が、大音量で鳴りひびいた。

 

「ぅわぁっ!?」

 

 心臓が止まるかと思うくらい、ビックリした。

 も、もしかしてさっきのアプリ、開いちゃったの!?

 

《削除はイヤ!ごみ箱イヤ!死にたくないよぉ~~!!》

 

 女の子の騒ぎ立てるような声が図書館にひびき渡る。一斉に私に向けられる視線。

 

「な……なんとかしないと、なんとか……!!」

《イヤイヤイヤイヤ~~~!!!!》

 

 そ、そうだ!電源!電源を切っちゃえば、大丈夫なはず……!!

 何とかシャットダウンをしようとするけど、手元がおぼつかない。

 こうなったら……ちょっと乱暴だけど、直接電源を切る!

 ボタンを3秒ほど押しっぱなしにする。でも、電源が切れてくれない!?

 

《や~め~て~!!こ~ろ~さ~れ~る~ぅ~!!》

 

 このイタズラアプリ!なんてこと言っちゃうんですか!?

 これ以上ここにいたら迷惑になる。私は慌てて、図書館から飛び出した。

 

 ―――――――――

 

 近くの公園まで、全力疾走した。運動オンチの私には相当キツい。息切れがヤバい。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

《○×▽□※☆~~~!!!!!》

 

 アプリはまだ騒いでる。この声、声優さんの声をサンプリングしたのだろうか、前に見たことのあるアニメに出てた、若手の女性声優さんの声によく似てる。

 

「まったく……なんなのよ、コレ!?タチが悪いイタズラアプリ!」

 

 答えちゃくれないだろーけど、思わず私は騒ぐアプリに悪態をついた。

 

《だって!ごみ箱に入れられそうになったんだもん!死んじゃったらどーしてくれるの!?》

「どーしてって、あなたはイタズラ目的の偽アプリ…………って」

 

 ……あれ?

 

《しっつれいね!!イタズラしようとしたわけじゃないのに!いきなりごみ箱はやめてよね!ふん!》

 

 このアプリ、もしかして……

 

「ねぇ……私の言葉、わかるの……?」

 

 さっきからこのアプリ、私の言葉を聞いて、返事をしているように聞こえる。そんなまさか……?

 でもアプリは、当然のようにこう言ってきた。

 

《トーゼンでしょ?そうじゃないと、こうして話せないもん》

 

 アプリのアイコンが自慢げに返事をした。なるほど、そういうことか。

 

「やられたぁ~……遠隔操作ウイルスかぁ……ごめん、おばあちゃん……」

 

 そうに違いない。これは遠隔操作ウイルスだ。こうして話しているのも、通話機能を強制的に起動して、相手の声はボイスチェンジャーを使っているんじゃないか。それなら辻褄が合う。

 どうしよう……せっかくおばあちゃんからもらった、特別製のスマホだったのに、こんな形でお別れしないといけないなんて、超ショック……

 

《遠隔操作でも、ウイルスでもないよ!それこそ失礼だよ!いきなりごみ箱に放り込もうとしたこともそうだけど、『にんげんさん』って、なんかヤな感じ!》

 

 今度はアプリ……いや、ウイルスが悪態をついている。文句を言いたいのは私の方なのにっ!

 

《あたしは……あたしなんだから……!》

 

 声色が変わった。何かと思って、私はディスプレイを見た。

 すると―――

 

「……え……うそ……!?」

 

 アプリのアイコンが、まるで映画かアニメのCGのように形を変えて、女の子のアバターの形になった。それだけでなく、その女の子アバターは、スマホのディスプレイの上に、立体映像(ホログラム)のように立ったのだ。このスマホには、そんな機能は無いはずなのに。

 その女の子は、ピンク色の瞳と髪をしていた。長さは腰までぐらいのロング。魔法少女……ともちょっと違った、サイバーチックなコスチュームを身にまとっていた。見た感じ、プリキュアのフィギュア―――『キュアドール』がそのまま立体映像化したかのようだ。

 

《それでも……はじめて『にんげんさん』に会えたんだし、あいさつくらいはしとかなきゃね》

 

 女の子はその場でくるりと回って、私を見上げて、自分を解した。

 

《……はじめまして!あたし、キュアメモリア!》

 

 キュアメモリア―――

 それがこの子の名前……?

 キュア…………つまりこの子は……。

 

「……プ、リ、キュ、ア……?」

 

 ……ってことになるの?でも、キュアメモリアなんていうプリキュア、見たことも聞いたこともない。どこかのヒトが考えたオリキュア?

 考え出したらワケがわからなくなってくる。というかコレ、遠隔操作ウイルスのハズじゃ……

 

《!にんげんさん、プリキュアのこと、知ってるの!?》

 

 なんか、食いついてきた。さっきまでの態度はどこへやら、目をキラキラさせて私を見上げている。

 

「知ってるも何も、常識よ、常識!日曜朝8時30分!絶賛放送中!プリキュアモトにしてるにしちゃ、知識不足ねぇ。やっぱアナタ、モグリでしょ」

《むっかー!バカにしないでよ!!あたしだってプリキュアだもん!!“せんせい”の……キュアブラックの弟子だもん!!》

「ちょっと!?軽々しくキュアブラックの名前を出さないでよ!!栄光の初代プリキュア……キュアブラックこと美墨なぎさちゃんに、弟子なんているわけないじゃん!?」

《こ・こ・に・い・る・の!!サーバー王国の伝説の戦士プリキュア……51人のプリキュアで最強のキュアブラックに修業をつけてもらって、あたしはプリキュアになったんだから!!》

 

 この子、ヤケに詳細な設定を語るじゃん。サーバー王国ってなに?51人のプリキュア?

 それなら、ボロを出すまで勝負だ。誇りあるプリキュアオタクのこの私、東堂りんくに『プリキュア型ウイルス』を送り付けるとは何たる愚策……!ホンモノの違いを見せてやる!

 

「だったら話してごらんなさいよ!サーバー王国のこととか、51人のプリキュアうんぬんとか!」

《……わかった、いいよ》

 

 あれ?やけにしおらしくなっちゃった。私は、この『自称プリキュア』が何を語るのか、とりあえず聞いてみることにした。

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 とりあえず、話を聞いてもらうだけ聞いてもらおう。『にんげんさんにサーバー王国の事件を伝える』ことも、キュアブラックから言いつけられた使命だもの。

 

「あたしたち、『アプリアン』たちが暮らしてる、キュアネットのずっと奥にある国……それが、サーバー王国なの―――」

 

 みんなが平和に暮らしてた国に、16年前―――悪いアプリアンたちの集団“ジャークウェブ”が侵略してきたの。

 それまでずっと平和だったサーバー王国は、あっという間に滅ぼされる寸前にまで追い込まれちゃった……

 

 みんなが諦めかけたその時―――救世主が現れたの!

 

 どこからかやってきた、51人の女の子たち。

 彼女たちは、こう名乗ったの―――『伝説の戦士“プリキュア”』、と―――

 

 プリキュアたちは、王国に味方をしてくれた。そして、その圧倒的な力で、ジャークウェブをあっという間にサーバー王国から退けたの。

 みんなはプリキュアたちを英雄としてもてなして、これからも王国を守ってほしいってお願いしたの。王国がもう一度狙われないとも、限らないから。

 プリキュアたちは、そんなみんなの想いに応えてくれて、これからもサーバー王国を守り続けてくれることを約束してくれた。

 

 それからは、51人のプリキュアたちも王国の一員になって、国のみんなとなかよく平和に暮らしはじめたの。

 あたしは、そんなプリキュアたちにあこがれて、キュアブラックに弟子入りして、初めての『サーバー王国生まれのプリキュア』になったの!

 

 でも―――少し前のこと―――

 やつらは―――ジャークウェブは、もう一度王国を襲ってきたの。

 

 あたしが気付いた時には、もう遅かった。あっという間に攻め入ったジャークウェブは、瞬く間に国を焼いて行って……

 プリキュアたちも戦ったみたいだけれど、みんな負けてしまって……

 

 最後に、“せんせい”は……キュアブラックは言ってた。これは、キュアネット全体の危機なんだ、って……

 あたしは、にんげんさんにそれを伝えて、あたしに力を貸してくれる“ユーザー”っていうにんげんさんを探して、契約するために、ここまで来たの―――

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 なるほど、よく練られた話ねぇ……もっと練りこめばいいホンになるかも。

 でも、ところどころ穴があるんだよねぇ。私はそれを『自称プリキュア』に突き付ける。

 

「事情はわかったわ……と言いたいトコだけど、私を丸め込むにはまだまだねぇ」

《ふぇ!?》

「その、51人のプリキュアたち、いったいドコから来たの?」

《そ、それは誰にもわかんないの……王国の誰も、プリキュアたちがどこから来たのか知らなくって……》

「それに、あなたが“ユーザー”と契約したその先、どうする気なの?目的が見えないよ?」

《その先は……その……あたしも、『契約しろ』としか言われてなくて……》

 

 だんだんとボロが出てきた、ように見える。ふふん、もうちょっと設定練り直してきなさい?

 しょげ込む『自称プリキュア』。ホント、よくできたCG。この完成度、もっと別のことに活かしたらいいのに……。

 

「で?『契約』したらスマホの情報丸々抜き取っちゃうって寸法ね……まったく、私じゃなかったら引っかかっちゃってるわね」

 

 あ、でも、プリキュア型のウイルスやスパムなら、踏んじゃってもいいかも……❤

 なんて脳裏によぎった。い、いかんいかん。落ち着け、りんく。ここは『プリキュア愛』をセーブしないと……!!

 このコはウイルス、ウイルスなんだ……!!!

 ふぅ…………。さて問題は、この『自称プリキュア』をどうするかだ。やっぱ削除するか……

 私は、再度『ごみ箱』に『自称プリキュア』を放り込むために、スマホの画面に指を伸ばした。

 カワイイんだけど、もったいないなぁ……

 

 ――――――――

 

 ……ENEMY PHASE

 

 ―――――――――

 

 「……この近辺か」

 

 俺は、『大泉町』と呼ばれるエリアのキュアネット上にいた。

 サーバー王国の残党―――プリキュアを捕縛、もしくは撃滅するためにここまで追いかけてきたが、この近辺で反応が途絶えた。

 

「人間どもが使っている端末にでも隠れているのか……小賢しい」

 

 端末に隠れこんでしまえば反応も消えるが、いつまでも隠れていられるとも思わん。

 ならば、燻り出すまでだ。

 

「さて……どれほどのものか、見せてもらおうか……嘗て我々を苦しめた、『伝説の戦士』の力を」

 

 俺は『P-31』と書かれたチップを取り出し、右手に込めたワルイネルギーと一つとした。

 

「陽だまりの四葉よ……その楯を以って、電子の流れを堰き止めよ!!バグッチャー、ユナイテーション!!!」

 

 ワルイネルギーはチップを取り込み、黒光りする大柄な躯体となってネット上に現れる。

 

 『バァァグッチャァァァーーーーー!!!!!』

 

 これこそが、我々ジャークウェブの使役する電脳侵蝕尖兵―――――“バグッチャー Ver.2.0”だ。

 

「出てくるがいい……最後の希望はこの俺……ジャークウェブ四天将が一角、アラシーザーが摘み取る!!」

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 ―――ザザッ……

 

「あれ?」

 

 一瞬、スマホの画面が乱れた気がした。

 

「やば……まさか本体も?」

 

 この『自称プリキュア』、そんなにヤバいウイルスだったの?キレイなバラにはトゲがあるってよく言ったモノねぇ……

 

《……!!》

 

 その時、『自称プリキュア』が、ハッとしたような表情に変わった。それとほぼ同時か、公園内にいる人たちがざわつき始めた。

 

「あれ?ページが開かない……?ロード長すぎない?」

「マジ?……あれ?あたしのスマホもだ」

 

 みんな、スマホの画面とにらめっこしながら眉をしかめてる。

 なんだか、あたりの様子がおかしい。

 

「う、うぅ……」

 

 私のそばを通りかかったおばあさんが、急に胸を押さえだして、うずくまるのを私は見た。

 

「!!大丈夫ですか!?」

 

 反射的に私はスマホをベンチに置いて、おばあさんに駆け寄る。

 おばあさんは顔を青くして、苦しそうに言う。

 

「うぅ……ペースメーカーが、急に、動かなく、なって……!」

 

 まさか―――私は直感的に訊ねていた。

 

「そのペースメーカーって、まさかキュアネット接続型の!?」

 

 おばあさんはうなづいた。

 確か、聞いたことがある。今の心臓ペースメーカーには、キュアネットに接続して、リアルタイムで使っている人の健康状態をチェックしながら、心拍数を調節する機能があるって。

 それが動かなくなったってことは―――

 って、それを考えるのは次だ。まずは……!

 

「すみません!誰か、AEDを持ってきてくれませんか!?それから、救急車を呼んでください!!」

 

 私は周りにいた人に応援を頼むと、ベンチに置いたスマホを手に取った。

 

《……わ!?》

 

 『自称プリキュア』が驚いて、画面の中に引っ込む。私は『おばあちゃん特製アプリ』の中の、『ネットチェッカー』を起動した。

 

「スマホ、持ってます!?」

 

 おばあさんは苦しそうにしながらも、震える手でポケットからスマホを出してくれた。私は「すみません、失礼します!」とひとことおわびを言ってから、手持ちのケーブルで私のスマホとおばあさんのスマホをつなぐ。

 キュアネット接続型のペースメーカーは、使う人のスマホに状況確認用アプリをダウンロードして使う必要がある。そこからなら、状況が調べられるはず……!

 『ネットチェッカー』は、キュアネットに接続している電子機器のネット接続状況と、本体の機能チェックを同時にしてくれる、とびきり便利なアプリだ。瞬く間に、ペースメーカーとおばあさんのスマホを調べ上げてくれた。おばあちゃんのアプリ、役に立ったよ!

 

「メディカルチェックシステム……異常無し……!?ってことは、本体が誤作動してるわけじゃない……!」

 

 本体が故障してるわけじゃなかった。でも、ネットの接続速度が大幅に遅くなってる。もしかして、キュアネットに影響があるっていうの?

 

「くっそ~!何度も電話してんのに、どうして繋がんないんだ!?」

 

 さっき、電話をお願いした男の人が、頭を抱えていた。

 

「見せてくださいっ!」

 

 男の人が使っていた電話アプリは、キュアネットを経由する回線で通話をするアプリだった。このアプリもまた、キュアネットが絡んでるアプリだ。

 

「このフォルダの中に、プリインストールの通話機能があります!どこの会社のスマホもデフォルト設定だとこっちのアプリになってて、みんな今のアプリが便利だから、ほとんどの人が、使わないんですけど……でも、違う通話回線を使っていますから、キュアネットで繋がらなくても、通話できます!試してみてください!」

「あ……あぁ!わかった!ありがとう!」

 

 それなら、『非キュアネット』の回線経由ならつながるはずだ。いざという時の代替アプリは、こういう時覚えておくと、役に立つ。

 私はそれからも、おばあさんのそばについていた。その間も、引っ切り無しに私のスマホにはメッセが立て続けに着信し続けていた。

 むぎぽんやそらりん、クラスメートたちの不安の言葉。でも、着信は分刻みで少なくなっていっている。キュアネットの障害が、徐々に広がっているの……?

 

 やがて、公園内にあったAEDを持ってきた人によっておばあさんの応急処置がされ、救急隊へと引き継いだ。私は、救急車が視界から消えた瞬間、どっと力が抜けてへたり込んでいた。

 

「すごいよ、君!あんなソフトがあるなんて知らなかったよ!」

「その制服、大泉中学の子?すごいアプリ持ってるのねぇ」

 

 まわりの人たちがほめてくれてる、のかな……なんか、こういうのくすぐったくって、はずかしいというか、なんというか……

 

《にんげんさんって……すごいね》

「……?」

 

 ……そういえば、こんなヘンなのがいたんだっけ。この騒ぎで忘れてた。スマホの画面の中に、キュアドールもどきがまだいた。

 

《誰かのために、何かをすること……それって、『簡単なようで、とっても勇気がいること』だって、“せんせい”、言ってたよ》

「そ、そうかな……?えへへ……」

 

 この子が言う“せんせい”って、キュアブラックのことなんだよね。作り話かもしれないとはいえ、間接的にキュアブラックに褒められてるような気がして、私は自然と笑ってた。

 

《次は―――あたしががんばる番、だね》

「……え?」

 

 『自称プリキュア』は、うつむきながら、拳を握った。

 

《この騒ぎの原因……キュアネットの障害は、きっとあいつらの……ジャークウェブの仕業だよ》

「え……で、でも、そんなことどうしてわかるの……?」

《感じるの》

 

 こちらを向いた『自称プリキュア』―――その胸にある、ハート型のブローチのような部分が、紅く、眩しく、輝いていた。

 

「それって……?」

《……ジャークウェブの……正確には、ジャークウェブがばらまく“ワルイネルギー”……それを感知してる……たぶん、目当てはあたし。あたしのために、この街のにんげんさんたちに、これ以上迷惑はかけられないから……だから―――行くね》

 

 私に背を向けた『自称プリキュア』。なんだろう―――その背中から、決意というか、悲壮感のようなモノさえ感じされるのはどうして?

 

《短い間だけど……プリキュアのことを知ってるにんげんさんとお話ができて、うれしかったよ。それから―――ヤな感じって言って、ごめんなさい》

「……ちょっと!?」

 

 アプリのアイコンとともに、『自称プリキュア』は画面から姿を消した。

 瞬間―――

 

「この感じ……………………なに」

 

 心の中に、穴を空けられたようなこの感覚は何?

 罪悪感?後悔?―――いや、それらをも内包したイヤな気持ち―――

 

 『キュアキュア』が、消えていく―――

 

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 はじめてお話した『にんげんさん』が、プリキュアのことを知ってる子でよかった。

 誰かのために、迷わず行動できる、勇気のある子でよかった。

 ―――だからこそ、守りたい。

 そんな『にんげんさん』が暮らす、この街を。

 ジャークウェブがこの街のキュアネットを荒らしたのが、あたしを捜し出すためだったのなら、なおさらだ。

 この街は―――あたしが。

 

 『キュアメモリア』が、必ず守る!

 

「見つけたぞ!サーバー王国の残党!」

 

 男の声に、あたしは足を止めて、振り返った。

 

「誰なの!?」

「我が名はアラシーザー!!ジャークウェブ四天将が一角!!貴様さえ叩き潰せば、サーバー王国は真の終焉を迎える!!もう逃げ隠れせず、正々堂々と戦え!!」

「何が正々堂々よ!キュアネットを荒らして、この街の『にんげんさん』に迷惑をかけて!」

「フン……人間共がどうなろうと、俺の知った事ではない……バグッチャー!プリキュアに引導を渡せ!!」

 

 アラシーザーと名乗った相手の背後から、ずんぐりとした黒光りの巨体が飛び出してきた。

 

『バグッチャ~~~!!!』

 

 バグッチャーだ。やっぱり、こいつが……!!

 

『ポッカポカ~~!!』

 

 雄叫びを上げながら、左右の拳を繰り出すバグッチャー。単純な攻撃、こんなのカンタンに―――

 

「きゃぁっ!?」

 

 避けられなかった!?というか、体の動きが前より重くなって、思ったように動けない。一体どうなってるの……!?

 

「フン……やはり、サーバー王国の外に出たプリキュアは、十全に力を発揮できないようだな……」

 

 アラシーザーの言葉から、あたしは思わず自分の体を見ていた。

 

「……え!?」

 

 なに、これ!?すっごく『ちっちゃく』なってる!?

 手足が短くなって、これじゃまるで人形。サーバー王国にいたころと違う!

 どうして……!?サーバー王国の中と外じゃ、勝手が違うってこと!?

 

「力を出せぬプリキュアなど、赤子の手を捻るも同じこと……終わりだ、プリキュア!」

『バグッチャァァ!!!』

 

 そんな……!?

 ここで負けちゃったら……倒れちゃったら、命を賭けてあたしを送り出してくれたキュアブラックに、申しわけが立たないよ……!

 それに―――

 あの『にんげんさん』が暮らすこの街のキュアネットと守れずに負けるのが……何よりも悔しい……!!

 あたし……プリキュアとして、ホントダメダメだ……!

 

 ごめん…………あたしを信じてくれたみんな…………―――

 

 

 

《諦めちゃダメだよ!!》

 

 

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 私の声に気が付いてくれたのか、怪物の攻撃を、すんでのところで『自称プリキュア』は避けてくれた。

 スマホ画面の中の『自称プリキュア』が、カメラ目線で見上げてくる。

 

《にんげんさん!?どうして!?》

「だって……放っておけなかったんだもん……!あなたが行っちゃったあと……私の『キュアキュア』が消えていって……それで私、気づいたの……私、あなたのこと信じようともせずに、ひどいこと言って……情けないよ、私……プリキュア大好きなくせに、プリキュアの言ってることを信じないなんて……」

 

 答えは最初から出てた。

 私が、『プリキュアが好き』ということ。

 仮にも『プリキュア』を名乗ったこの子を、私は一度疑った。だから、なんだ。私は、自分自身を裏切ってしまったんだ。だからあの時、『キュアキュアの消失』を味わったんだ。

 

 このままじゃ、ダメだと思った。後悔は、やらないよりも、やってからしたほうがマシだ。そう思った時、自然と足が動いていた。

 私は、この子を追いかけることを決めた。スマホに残っていたキャッシュデータから『特製アプリ』で逆探知をかけて、とある会社のオフィスのサーバーにこの子を見つけた。あとは、キュアネットの可視化アプリを使えば、サーバー内を映像化して見ることができる。そうして見ている画面が、今のこの画面だった。

 

 画面の中には『この子』と、『スプラッシュスター』のキントレスキーと『まほプリ』のガメッツを合わせたようなフンイキの、それっぽいワルそうなヤツ、そして黒光りしてずんぐりした体のモンスターがいた。

 

「だから私、あなたのこと、応援する!世界中の誰が敵でも、私だけは、あなたを応援する!だから諦めないで!!逆転できる!奇跡起こせる!!プリキュアなんでしょ!?プリキュアだったら、奇跡のひとつやふたつ、起こして見せてよ!!」

《……にんげんさん……》

 

 こんな小さな手で、『この子』は必死で戦っていたんだ……

 画面の奥のその手は、画面の『上』にいるその時よりも、ずっと“ちいさく”見えた―――

 

「ちいさなこの手に……何を願うの?」

《…………え?》

 

 思わず私は呟いていた。

 

「あなたは今ここで、何を見て……何を感じてる?」

《…………あたしは…………!》

 

 この子が戦う理由が、この子が言って聞かせてくれた通りなら、私は全力で応援したい。私はその答えを、この子に無意識に問うていた。

 

《あたしの願いは……サーバー王国を元通りに戻すこと……!未来を見て……希望を感じてる……!!》

 

 胸のブローチのような部分に、この子はグッと手を当てた。

 

《でも…………今のあたしは全力を出せないの……たぶん、“ユーザー”と契約してないから、だと思う……》

 

 それなら―――私は即答した。

 

「だったら、私があなたのユーザーになる!契約する!!」

《え!?》

「ただ、プリキュアが好き……それだけの私が、プリキュアの助けになれるんなら、私は喜んで、あなたの力になる!!」

 

 ユーザーになるのが誰でもいいのなら、私がこの場で、この子に力を貸したい。

 私の存在が、プリキュアの力になれば、それでいい!

 

《にんげんさん……》

「『にんげんさん』なんて、そんな他人行儀な呼び方、しなくていいよ!」

 

 私は―――プリキュアを愛する、ひとりの人間として、画面の向こうのプリキュアに名乗りを上げた。

 

「私はりんく!東堂りんく!!今日から私が、あなたのユーザーだよ!“メモリア”!!」

 

 この子の―――キュアメモリアの表情が、ぱっと明るくなっていく。

 

《りんく……!ありがとう……!!》

「お礼は後!それで、私はどうすればいいの!?」

《それがあたしも―――――……ぁ》

 

 その時、メモリアの目の感じが変わった。なんというか、遠いところを見てるような目というか、焦点が定まってないというか。

 同時に、スマホの画面の片隅に、アイコンが表示された。さっきメモリアが姿を変えていた、『ハート型の集積回路』。

 

《……たっぷしながら、となえて。『ぷりきゅあ・おぺれーしょん』……》

 

 声色も、なんかヘン。なんだか、『別の誰か』が乗り移ってるみたい。

 でも、何をすればいいかわかったのなら、やらない理由は、ない!

 

《人間の子供が何を言おうが関係ない!やれ、バグッチャー!》

《ポカポカポカポカ~~!!!》

 

 ワルそうなヤツの指令で、モンスターがメモリアに突撃してくる。これってヤバくない!?

 

「よ、よぉし……!」

 

 私は意を決して、右手の人さし指をアイコンに乗せ、叫んだ。

 

プリキュア・オペレーション!!!

 

 瞬間、閃光が迸り、メモリアの体をピンクの光が包み込んだ。その光に怯んで、モンスターが仰け反って尻餅をついた。

 

《なにッ!?》

 

 光に目が眩んだのか、ワルそうなヤツが驚いたような声を上げる。

 

「どうなったの!?メモリア……!?」

 

 さっきまでメモリアがいた場所には、ピンクの光を放つ球体が浮かんでいた。やがて、その球体から光のリングが飛び出した。それも、1つじゃない。どんどん増えていって、最後には12個のリングが球体から一直線上に並んだ。

 

CURE-MEMORIA! ENGAGE!!

 

 電子音声がスマホから鳴り響いた次の瞬間、ピンクの球体がリングに向かって弾丸のように飛び出していった。真正面にいたモンスターが立ち上がろうとしたところに、それが直撃する。

 

《ギャプッ!?》

 

 再び怯んで倒れるモンスター。ピンクの球体は跳ね返って、空中に舞った。

 その球体が、モーフィングのように形を変えていく。手が生えて、足が生えて、ついには女の子の形に変わり、大地に降り立った。

 全体的な雰囲気は、さっきまでのキュアメモリアと同じ。でも、明らかに背丈というか、『造形』が違う!

 わかりやすく言うなら、『キュアドール』が、『S.H.Figuarts』に変わったぐらいの劇的進化!

 すらっと長い手足、5頭身のかわいくもカッコいい全体像。丸っこかった顔はしゅっと引き締まって、凛々しい表情が敵を見据える。

 

 

―――記憶の戦士、キュアメモリア!

 

バッチリキメるよ!!―――

 

 

 笑顔でポーズを決めるキュアメモリア。

 

 私―――東堂りんくはこの時―――はじめて、『プリキュアに出会った』。

 

 プリキュアは、テレビの中の―――架空(ツクリモノ)の存在じゃなかったんだ。

 

 

 ―――ホンモノのプリキュアは、私のスマホの中にいた―――

 

 

 私の手のひらの中で―――この街を守るための戦いが、始まった―――

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 『ひだまりポカポカ!』




 ―――りんくの『今回のプリキュア』!

 メモリア「ねぇりんく、このコーナーはなに?」

 りんく「次回からは、お話に登場したレジェンドプリキュアたちを紹介する新コーナーをはじめるよ!題して、『今回のプリキュア』!」

 メモリア「なんか、マンマだね」

 りんく「それ、言わないでよ……とにかく、これをチェックすれば、画面の前のアナタもプリキュア博士!あ、でも『後篇』だけにしかないコーナーだから、注意してね~」

 メモリア「ホントーは今回から始めるつもりだったんだけど、尺不足で次回に持ち越したの。コレ、ナイショだよ?」

 りんく「メ、メモリア!あんまり内情を暴露しちゃうのは……そ、それじゃ次回をお楽しみに~!」

 メモリア「ばいば~い♪」

 ――――――――

 次回予告

 メモリア「ありがとうりんく!あたし、全力でがんばる!!」

 りんく「で、私はどーすればいいの?」

 メモリア「戦うのはあたしだから、応援してて!」

 りんく「見てるだけってのも退屈~……」

 メモリア「あれ!?何これ!?攻撃が効かないよ!?」

 りんく「四つ葉のクローバーの形のバリア……まさか!?」

 インストール@プリキュア!『エンゲージ!記憶の戦士@キュアメモリア!』

 りんく「ピカっとキュアっとあつめてプリキュアオールスター!」

 ―――――――――

 といった感じで、Aパート⇒Bパート⇒ミニコーナー⇒次回予告と、基本的にフォーマットはアニメを踏襲していきます。
 ミニコーナーでも触れました通り、本来はこのバグッチャーを倒して1話を終える予定だったんですが、予想外に尺が伸び、急遽次回、1話を書き足すことに……

 構成力不足だけはなんとかせねばならぬと悩む今日この頃です……

 それでは、また次回で!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 エンゲージ!記憶の戦士@キュアメモリア!
夢物語じゃない瞬間


 用語解説
 
 サーバー王国

 キュアネットの奥深くに存在する、プログラム生命体『アプリアン』たちが暮らす国。
 女王『プログラムクイーン』のもと、伝説の戦士『プリキュア』が国を守っていた。
 様々な『エリア』に分かれていて、それぞれのエリアを、プリキュアたちがチームごとに分かれて守護していた。
 だが、数ヶ月前のジャークウェブの第二次侵略により滅亡。
 プリキュアたちをはじめ、国民のほとんどが行方知れずとなった。

 ―――――――――

 ついに1月に突入し、まほプリも最終決戦に突入!
 デウスマスト、ラスボス史上一番デカいんじゃ……!?
 しかも敵幹部全員復活とか絶望しかないんですが……

 しかしこっちのプリキュアはまだ序章!
 引き続き、キュアメモリアの初陣を送信!


 あたし、キュアメモリア!

 

 サーバー王国とキュアネットの危機をリアルワールドに伝えるためにやってきたの!

 そこで出会ったにんげんさんに、ごみ箱に入れられそうになって、もう大変!

 おまけにあたしのことをウイルスだとか言って……散々だよ〜……

 

 でも、そのにんげんさん―――りんくは、とても勇気のある女の子だったの!

 苦しそうにしてたおばあさんを、迷わずに助けてあげて……

 危ないのに、あたしのことも追いかけてくるなんて―――

 

「私はりんく!東堂りんく!!今日から私が、あなたのユーザーだよ!“メモリア”!!」

《りんく……!ありがとう……!!》

 

 ユーザーになってくれたりんくのためにも、この街のにんげんさんたちのためにも、あたし―――絶対負けない!

 見ててね、あたしの“せんせい”……キュアブラック!

 

 『インストール@プリキュア!』、コンティニュー!!

 

 ―――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 

《記憶の戦士、キュアメモリア!バッチリキメるよ!!》

 

 メモリアがポーズを決めた。

 電脳空間の中に、かっこよくも可愛らしい伝説の戦士が降り立った。

 

「か…………カッコカワイイ……!!カッコカワイすぎる……っ!!!」

 

 人生最大級の『キュアっキュア』が、私のハートを直撃したっ!!

 

「カワイイじゃん!サイコ~じゃん!!プリキュアじゃんっっ!!!!」

 

 ど、どこだっけ!?スクショのアプリ、どこだっけ!?この瞬間、絶対に永久保存しないと、死んでも死にきれないッ!!!誇りあるプリキュアオタクとして、一生の恥になるッッ!!!!

 この時の私は相当にコーフンしていたらしく、メモリアが画面の奥で苦笑いしていたことに気づかなかったんだよねぇ……(遠い目)

 メニュー画面を開こうとしたその時、あり得ないことが起きた。

 

「え!?ええっ!?」

 

 私のスマホ―――おばあちゃんからもらった私の宝物が、ピンク色の光を放ち始めた。ちょうどさっきまでのメモリアと同じような光を……。

 

「スマホが……変わった……!!」

 

 光が収まると、私のスマホの外見が完全に別物になっていた。ピンク色で、ところどころに彩られたアクセは、どこか高級感がある。スマホカバーをかぶせただけとか、そんな変わりようじゃなかった。

 見ると、ディスプレイのすぐ上に、

 

 Precure-Network-Communicate-Unit

 

 ……と、小さく文字が書いてある。

 

「プリキュア、ネットワーク、コミュニケート、ユニット……」

 

 たぶん、この『スマホ』の正式名称だろう。まさかこれって、プリキュア用の変身アイテムなアレ!?見た目もそんな感じだし!

 ……といっても、私が変身するわけじゃなく、戦うのはキュアネットの中のメモリアなわけだけど……どーゆーこと?

 ともかく、なんか『おカタい』名前。それっぽい呼び方、ないかな……

 ―――そうだ!ちょっとだけ縮めて……

 

「“ネットコミューン”!」

 

 をを!それっぽい名前になった!!歴代のコミューンの名前とも被ってない!いーじゃん、『ネットコミューン』!今からこの『スマホ』の名前は、ネットコミューンに、けって~い!

 で、でも……大丈夫なのかな、コレ……フツーのスマホ感覚で触っちゃっていいモノなの?

 

《人間の子供とリンクして、本来の力を取り戻したとでもいうのか!?》

 

 なんか、モンスターを指揮してる幹部っぽいのが驚いてる。今の現象は、相手にとっても想定外らしい。今がチャンス!

 さぁ、反撃開始だよ―――

 

「諦めない奇跡……私に見せて―――キュアメモリア!」

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 さっき、ちょっとだけ意識が飛んでた……

 それで気がついたら―――あたしは、元の姿に戻ってた。どうなってるの……?

 りんくがユーザーになってくれるって言ってくれてうれしかったけど、契約の仕方とか、聞いてなかったし……

 あれ?……なんだろう―――視界の片隅に、りんくが映る。

 

〈USER:LINK TOUDOH〉

〈SYMPARATE:56%〉

 

 ユーザー……に、なってくれたってこと?下の数字は、何の数字かわかんないけど。

 感覚的に、わかる。あたしの中に、りんくがいる。つながっている。見てくれてることが、わかる。

 わかった……これが―――にんげんさんと契約する、ということなのかな……―――

 体の中に、力がみなぎる。サーバー王国にいた時と同じか、ううん、それ以上の力が―――

 

「……行くよ!」

 

 身体に少し力を入れるだけで、体の中を流れる“イーネルギー”がスパークして漏れ出る。

 あたしは右脚から蹴り出して、走る。バグッチャーの懐に、驚くぐらい一瞬で入れた。

 右手を握ると、電子が迸る。そのまま、流れのままに、最初の一撃を―――

 

 ―――打つ!!

 

「てぃァッ!!」

 

 バグッチャーの胴体に、深々と食い込んだ。いい手ごたえッ!

 

「せりゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 勢いはあたしにある。この流れ、絶やさない!“せんせい”から教わった通りに、途切れさせず、相手に隙を与えることなく、反撃ごと封殺する!!

 

「だだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!」

 

 右と左の交互のパンチを、10発、20発、30発!!まだまだ、40発、50発―――!!

 

 最後は―――

 右脚を後ろに引き、腰を落とし、体の真芯(ましん)に力を込めて、拳を握る―――!!

 真ん中を打ち抜く!相手の体じゃない、その()()()を目掛けて打ち貫くんだ!!

 

 「ちぇィやあぁぁぁーーーッッ!!!!」

 

 体中のエネルギーを込めた渾身の正拳が、バグッチャーの巨体を横一直線に吹っ飛ばし、キュアネットの壁に激突した。

 残心―――そして全身から、張りつめた気が放散する。この感覚―――いつ以来だっけ―――

 そうだ―――“せんせい”と、本気で手合わせした時だ。もっとも、“せんせい”はちっとも本気じゃなかったけど。

 会心の一撃を、“せんせい”にはじめて打ち込むことができた時の、相手の『まんなか』をとらえた時の―――あの―――!!

 

「ッしャァあああああっっっ!!!!!」

 

 抑えることの出来ない高揚に―――あたしは、(さけ)んでいた。

 これが、『本当を超えた』―――あたしと、りんくの、力なんだ―――……!!

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

「す……すごい……!!」

 

 この動きは……キュアブラック!!

 

 パンチの連打―――圧倒的な打撃のラッシュ!

 相手の反撃を許さない清々しいまでのパワーファイト!!

 女の子向けアニメとは思えない大絶叫!!!

 メモリアの一挙手一投足、そのすべてが、私の脳裏、否、DNAの一本一本に刻み込まれ、いつでもリアルタイムで脳内再生余裕な映像アーカイブの中のキュアブラックと、寸分違わず重なっていく……!

 この子って……メモリアって……ほんとうに……

 

「キュアブラックの……弟子だったんだ……!」

 

 最初はウソだと思った。でも、私はこの目で確信した。私だからこそ、確信『できた』!

 今更だけど疑ってごめん!あなたが口で語らずとも、あなたの戦いが、私の疑心を―――

 パンチで砕いて、キックで打ち払っていくのがわかる……!

 

「よぉし!相手、怯んでる!このまま一気に行けるよ!」

《オッケーりんく!今のあたし、エンジン全開だもん!!》

 

 頼もしいこと、言ってくれちゃって、もう~❤

 カワイく、カッコよく、強い女の子―――プリキュアのすべてを体現したこの子に、私はもう―――

 ハート、ブチ抜かれちゃいました……❤❤❤

 

《カッチカチ~~~!!!》

《―――――なにコレ!?》

 

 悦に入っていた私を、メモリアの声が現実に引き戻した。見ると、モンスター―――バグッチャーって言ったっけ、そいつの前面に、巨大な板状のバリアが展開されて、メモリアのパンチを防いでいたのだ。

 そのバリアは、なぜか四つ葉のクローバーの形をしていた。その様も、私の“アーカイブ”の中に『なぜか』あった―――!?

 

「《キュアロゼッタの“ロゼッタウォール”!?》」

 

 思わず口に出していた既視感に、メモリアがシンクロする。

 

《りんく、知ってるの!?》

「知ってるも何も、キュアロゼッタの得意技!どうして敵が使ってくるの!?」

 

 イヤな予感が頭の中をよぎっていく。このバグッチャーっていうの、もしかして……!?

 

《キュアロゼッタ……『ドキドキ!プリキュア』のひとり、“護葉(まもりば)のロゼッタ”……!》

「何それ二つ名!?カッコいい!!」

 

 中学2年生の心に直撃するステキ設定を聞かせてもらってとってもありがたいんだけど、『敵がプリキュアの技を使ってくる』ことへのギモンの方が前に出る。

 

《ククク……気付いたようだな。このバグッチャー……“Ver.2.0”は、貴様がサーバー王国で戦った“Ver.1.0”とは違い、“キュアチップ”を組み込んでいる!プリキュアの“力”のみを抽出し、バグッチャーを強化するためにな!》

《!……あの時の……!?》

 

 メモリアは何か知ってるみたいだけど、私には何が何だかさっぱり。

 キュアチップって……なんなの?

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

「サーバー王国の戦いはいわば前哨……このプリキュアの力を持ったバグッチャーこそ、我等ジャークウェブに福音を齎すのだ!」

「そのためにプリキュアたちを……サーバー王国を襲ったっていうの……!?」

 

 あたしの心に怒りが満ちていった。

 『プリキュアの力を持ったバグッチャー』をつくるために、プリキュアたちを、キュアチップに変えてしまったというのなら。

 サーバー王国を襲ったというのなら―――

 

 リカバーを、サーチを、クイーンを、せんせいを、みんなを―――!!

 

「ゆるさない……!」

 

 理不尽に国を燃やして、大切な人を奪って、何がしたいの……!?

 目の前にいる『敵』に、あたしは心の中の怒りを向けた。自然と、拳に力が込められていく―――

 

《メモリア》

 

 その時、りんくの声が降りてきた。

 

《気持ちはわかるよ。でも、その怒りは、そっと静かに……でも、絶やさず燃やして》

 

 怒りを、静かに、絶やさず、燃やす。

 ……似たようなことを、“せんせい”から教わったことがある。

 

「怒りは力になるけれど、それに飲まれちゃいけない……頭に上らせてしまったら、もう自分に負けたことになる……かといって絶やしてしまうと、戦う意思すら、心の中から失せていく……だから、絶やさず静かに……ロウソクの火のように、静かに燃やし続ける……」

 

 ―――戦いの中で怒りに支配されることは、自分を、そして敵を見失うこと。怒りは、『頭』ではなく、『体』に溜めるんだよ。

 

 りんくの言葉に、“せんせい”の教えを思い出した。変に力が入っていた拳から、ふっと力が抜けて『くれた』。

 

《ねぇ、教えて……?キュアチップってなに?》

 

 そういえば、このこと、りんくには言ってなかったっけ。あたしがあの時、メインサーバーキャッスルの玉座の間で見たモノが真実なら―――

 

「この間、サーバー王国が襲われたとき、プリキュアたちが姿を変えられた、メモリーカードのこと……」

 

 これ以上のことは、あたしも知らない。ただあの時、キュアチップに変わっていくプリキュアたちの姿を見ただけ。

 でもそれが悪用されて、バグッチャーに組み込まれているのなら、同じプリキュアとして、見過ごすことはできない。

 

《つまり……ロゼッタがメモリーカードに変えられて、バグッチャーの中につかまってるってことね……だったら、助けてあげなきゃ!》

 

 りんくも同じこと考えてた。心が繋がると、あたしもうれしい!

 

「もちろんだよ!……バグッチャーをやっつけて、ロゼッタを助ける!!」

 

 やることは一つだけ。あたしはもう一度踏み込み、右の拳を振りかぶる。

 ―――待ってて、ロゼッタ!必ず助けてあげるから!

 

『カッチカチ~~ッ!!』

 

 またしても、ロゼッタウォールが攻撃を防いだ。何度パンチとキックを打ち込んでも、ヒビ一つ入ってくれない。さすがはプリキュアの中でも一・二を争う、鉄壁の防御技だ。

 はたから見てた時はスゴいって思ったけれど、こうやって実際に戦うと、やっかいこの上ない!

 

「放て、バグッチャー!!」

『デスワ~~!!!!』

 

 アラシーザーが指令を飛ばすと、バグッチャーの両手のロゼッタウォールが、回転しながら飛んできた。2発の四葉をあたしは避けきれずに、まともに喰らって吹っ飛んだ。

 こんな技、ロゼッタって使ったことあるっけ……!?

 どうにかして、ロゼッタウォールを攻略しないと……

 このままじゃ……勝てない……!?

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

「メモリアっ!」

 

 ただ見てるだけというのももどかしい。スマホの中で戦うメモリアに、私はただ、声援を送るだけしかできないの?

 あらためて、私はスマホの画面を見た。画面の様々な場所に、さながらゲームアプリのバトル画面のように数値やゲージが表示されている。

 

「なにか……できることは……?」

 

 画面の中に、気になるところがあった。『LIVE』と書かれたアイコンがある。ちょっとでも、メモリアの力になりたいと思った私は、そのアイコンに手を掛けた。

 すると、画面の右下に、メッセージが表示されていく。

 

< 何この映像?

< キュアネットの可視化モードだろ

< つかこの障害誰か何とかしろよ?もう2時間もロードしっぱなしなんだけど

< ロード止まってニコ動みれねー 超ウザイ

< この障害大泉町だけっぽい?

< 俺東京だけどフツーにニコ動もつべも見れる

< ピンポイント乙

 

 どうも、この近辺をメインにしたSNSの書き込みのようだ。次々と書き込みが更新されていく。

 

< あれウィルスっぽい

< マジそれっぽい見た目。プリキュアに出てきそうな感じ

< CG乙

 

 この映像、もしかしてみんなが見てるの!?ど、どうしよう!?

 まさかさっきの『LIVE』って、『ライブ配信』のアイコンだったの!?

 

< ウイルス駆除ソフト、なんか萌えキャラっぽいね

< 造形良くね? プログラマーGJ

< 負けそうじゃん

 

 この萌えキャラ、この街を救うために必死に戦ってるんです!

 ……なんてことを言っても書いてもスルーされそうだろうしなぁ……

 と思った、その時だった。

 

< プリキュア、がんばれ

 

 その書き込みがきっかけだった。

 

< 萌えキャラプリキュアで確定?

< それっぽいからいいんじゃね@大泉町

< だよな!ウイルス何とかしてくれプリキュア!@エレベーター閉じ込み中なう

< お母さんが手術中なのに、停電してます!助けてくれるなら助けてプリキュア!

< 車のキーが開かなくなっちゃった!ウイルス何とかして!!

< 勝ってくれプリキュア!

< 負けるなプリキュアーーー!!

< 諦めんなよォォォォォォ

 

 今、この瞬間、バグッチャーが起こしたキュアネットの障害で困っている人たちの書き込みが、一斉に増え始めた。

 

「みんなが……メモリアを応援してくれてる!」

 

 なんか、涙が出そうになっていた。メモリアのために、みんながネットの中で叫んでる。

 その時、私のネットコミューンの画面に、変わった文字が浮かんでいた。

 

―――――Emotional NEtwork DRIVE system―――――

 

START UP

 

 その大文字の部分だけを、私は自然と、つなげて呼んでいた。

 

「…………“イーネドライブ”……?」

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 聞こえる。

 見える。

 感じる。

 

 りんくだけじゃない。この街の、にんげんさんたちの『声』が、あたしの中に入ってくる。

 あたしを応援してくれる『声』が、あたしを再び立たせてくれる。

 

 力が、みなぎる。

 心が、ふるえる。

 体が、アツくなる。

 

 とても……

 

 とっても…………

 

 すごく……………………

 

 すっごく…………………………!

 

「すっごく!!!いーーーーーーーーーねーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!!!」

 

 心身の衝動を、あたしは声に出して吼えた。爆発するようにイーネルギーが燃え立って、衝撃波が散った。それほどまでに、あたしは―――昂った。

 

《な、なにが起きたの!?》

 

 驚くりんくの声に、あたしは答える。

 

「りんくの……みんなの『声』が聞こえたの!がんばれって、負けるなって、みんながあたしを応援してくれる『声』が……」

 

 あたしは、胸にある“それ”に手を当てる。クイーンがくれた、プリキュアになった証。

 りんくがユーザーになってくれて、はじめて輝いた“それ”を―――

 

「この“イーネドライブ”が、あたしを応援してくれる『声』を、あたしの力に変えてくれる!みんなが応援してくれる限り……あたしは何度だって立ち上がれるの!!」

《……まるでミラクルライトみたい……》

 

 りんくのいう『みらくるらいと』が何のことかはわからないけど、リアルワールドには似たようなモノがあるのかな?

 ……でも、分かった気がする。あの時、“せんせい”が言ってた、“無限の可能性”の意味が。

 あたしだけじゃ、たどり着けない場所。ひとりじゃなく、ふたりでなら―――!

 

「もう、あたしは、ぜったい負けない!!」

 

 ほとばしるイーネルギーと、みんなの『声』、あたしの力―――

 そのすべてを、この一撃に込める!!

 体中の、燃えるすべてを、右手に集中し、握り締める。イーネルギーがスパークし、電子の雷光を巻き起こす。

 

「受けなさい!電子の雷撃!!」

 

 あたしは踏み出し、渾身の中の渾身を―――

 想いを、力に変えて、解き放った―――

 

メモリア!ラァイジングゥゥゥゥ!!

 

サンダアアァァァァーーーー!!!!!!!!

 

 ピンク色の雷撃を右手に滾らせ、あたしはパンチとともにすべてをぶつけた。

 反射的にか、バグッチャーはロゼッタウォールを展開した。『力』同士がぶつかって、衝撃波と爆発が連鎖して広がる。

 

「こ……この力はなんだァッ!?」

 

 アラシーザーの驚きが耳に入る。あたしは燃える心をそのまま叫ぶ。

 

「これは―――“愛”だよ!!」

「なんだとッ!?」

「誰かを想う心……好きって気持ち、頑張れっていう応援……あたしひとりじゃ絶対出せない、あたしと、みんなの力!!この世界を、リアルワールドとキュアネットをつないでるモノ!!」

 

 そうだ―――この心は―――力になる。

 無敵の力に!!

 

「強い気持ちは世界を変える!!キラメく望みは、光だって越えるんだぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 瞬間、ロゼッタウォールが、砕けた。

 そして、あたしのパンチは、バグッチャーを貫いた。

 

『デリィィィィトォォォォォォォォォォ………………!!!!!』

 

 断末魔の声とともに、バグッチャーは粒子になって消えていった。

 

「キュアメモリア…………その名、覚えておくぞ!!」

 

 捨て台詞を残したアラシーザーは、闇色の光に自分を包むと、光線状になって何処かへと去っていった。

 それを見届けた後、全身からどっと力が抜けた。

 

「―――あたし―――勝ったよ……」

 

 誰にともなく、あたしは笑ってた。

 

《メモリア~!超カッコよかったよ!!やっぱりあなた、サイコーじゃん!!》

「えへへ……」

 

 みんなの応援もあったけど、勝てたのは……りんく、間違いなくあなたのおかげ。

 あなたがユーザーになってくれてなかったら、今頃どうなっていたんだろう……

 

「あっ……!」

 

 その時、光るものが空から落ちてきた。それを両手でキャッチしてみると、小さなメモリーカード。それには、『P-31』とナンバーが振られていて、太陽のようなマークの刻印、『CURE-ROSETTA』のネーム、そして、笑顔のキュアロゼッタの顔が描かれていた。

 

「これが……キュアチップ……!」

 

 勢いのままバグッチャーを倒しちゃって、ロゼッタをどうやって助けるか考えてなかったけど、結果オーライでよかった!

 

《キュアロゼッタ、キュアっとレスキュー!だね!》

「なにそれ?」

《え?……キメ台詞、なんかあった方がいいかな~って……》

「あはは、りんくってホントおもしろ~い!」

 

 あらためて、あたしを見守ってくれていたりんくを、あたしは見上げた。

 

「……本当にありがとう、りんく……りんくがユーザーになってくれて、本当によかった!」

《メモリア……ううん、私も、メモリアに会えてよかったよ!だって、本当にプリキュアがいるって、メモリアが教えてくれたもの!》

「りんく……」

 

 その時、ロゼッタのキュアチップが光を放ち始め、空間に黄金色に輝くイーネルギーの粒子が満ちていく。

 その中に、うっすらと浮かび上がるように―――

 

『助けていただいて、ありがとうございます、メモリア♪』

 

 サーバー王国にいた時と全く変わらない、キュアロゼッタの笑顔があらわれた。

 

「ロゼッタ!」

《ほ……ホンモノ……!?ホンモノの四葉ありすちゃん!?》

『ええ♪あなたがメモリアのユーザーになってくださった方ですね?サーバー王国のプリキュアを代表して、お礼を申し上げますわ♪』

《い、いえ、こちらこそ!!あの、その、えっと……》

『うふふ♪賑やかな方ですね♪』

 

 なんだかりんく、緊張してる。ロゼッタとお話できたことが、そんなにうれしいのかな。

 

『それにしても、よく戦いましたね。まさかあなたに助けていただけるなんて……一歩成長したようですね』

「いやぁ~、そんなぁ~……えへへへ……♪」

『これなら、()()()を卒業するのも、そう遠い未来ではないかもしれませんね♪』

 

 うんうん、そうそう!こうやってみんなに認めてもらえば、見習いからも卒ぎょ―――

 

《ええええええええええええええええ!?!?!!?!!?》

 

 りんくの大絶叫に、あたしとロゼッタは思わず怯んだ。なんなの、りんく?

 

《メモリアって…………見習いだったの~~!?!?!?》

「あれ?言ってなかったっけ?」

 

 そう、あたしはまだ、『本当のプリキュア』じゃない。

 まだ、『プリキュア見習い』に過ぎないんだけど……

 

 りんく、どうしてそこまで驚いてるの??

 

 ……SAVE POINT




 キャラクター紹介

 キュアメモリア

  “サーバー王国”の守護戦士『プリキュア』見習いのひとり。14歳。イメージカラーはピンク。
 元々はネコに似た姿をした『撮影』のアプリアン『メモリア』だったが、キュアブラックの下で修業し、プリキュアとなった。
 基本的には無邪気で人懐っこい『妹系』の性格。喜怒哀楽をはっきりと顔と言葉と態度に出し、感情の起伏が非常に激しい。
 いちおう14歳だけど、精神年齢は9~10歳ぐらいと思われる。

 サーバー王国を守る使命と、プリキュアの称号を与えられたことには強い誇りを持っている。
 プログラムクイーンや師匠であるキュアブラックを深く尊敬し、彼女達のために殉ずる覚悟を持つなど、普段の態度に反して相当な忠義者である。

 手数の多さを活かしたスピード戦術とパンチ技を得意としており、ラッシュを叩き込んで一気に勝負をキメに行く、師であるキュアブラックの正統派戦闘スタイルを受け継いでいる。
 この他にも、他のプリキュアにはない様々な能力があるらしい……?

 ―――――――――

 そんなわけで、見事初陣を飾ったメモリアですが、実は『見習い』!?
 次回はロゼッタが語る、サーバー王国滅亡の顛末です……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サーバー王国の悲劇

 用語解説

 プリキュア(本小説における設定)

 『伝説の戦士』と呼ばれる、51人の戦乙女たち。
 16年前、ジャークウェブがサーバー王国を侵略した際、プログラムクイーンの助けの声に応じて異世界からサーバー王国に現れ、侵略の魔手からサーバー王国を守り抜いた。以来、サーバー王国に駐留して王国を守護している。
 その性質上、サーバー王国建国以来、新しいプリキュアは生まれていなかったのだが、数ヶ月前、プリキュアの下で修業を積んだ4人のアプリアンがクイーンからプリキュアに任命され、サーバー王国始まって以来はじめての、『王国生まれのプリキュア』(ただし見習い)が誕生した。
 サーバー王国の第2次侵略の際、ジャークウェブの支配者『カイザランチュラ』によって力を封じられて、SDカード状の『キュアチップ』にされてしまった。そのほとんどがジャークウェブの手に落ち、バグッチャーとして利用されてしまっている。だが、ごく一部のプリキュアはキュアチップの姿にされながらもジャークウェブの手を逃れ、いずこかへと落ち延びているといわれる。

 ――――――――――

 遅ればせながら先日、映画『ポッピンQ』を見てまいりました。
 女の子、青春、友情、バトル、ダンス―――――まさしく『東映アニメーションの福袋』といっても過言ではない、素晴らしい映画でした。
 『黒星紅白先生キャラデザのプリキュア』として見ても差し支えない傑作ですので、プリキュアファンの方もそうでない方も、ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか?

 さて、本編はロゼッタ先生による、本小説の根幹を解説する説明回です。
 現時点でりんくとメモリア、そして読者の皆様に知っておいてもらいたい情報を書き込めるだけ書き込みましたので、幾分字数がかさんでしまいましたが……

 今後のお話を読んでいただく上でも、副読書としても活用できる回かと思います。
 メタフィクション色が強くなりますので、そのあたり苦手な方はご注意を……
 それでは、送信!


 ……NOW LOADING……

 

 ―――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 私達がどうにか家に帰り着いたのは、夜6時を回っていた。

 もうパパが帰ってきていた。大抵、平日は8時ぐらいにならないと帰ってこないのに。

 聞くと、今日のキュアネットの障害で会社の仕事も滞ってしまい、社員さんは早々に帰宅させられたらしい。

 

 『真相』を知る私はどうにかして知らんぷりを貫き通し、玩具っぽいカタチに変わり果てた愛用のスマホを見られないよう、慎重に立ち回った。

 メッセの着信があっても、決してパパとママの前ではネットコミューンを出さないように心がけ、夕飯とお風呂をすませて、部屋のベッドに寝転がった時、私は―――

 

「つかれたぁぁ~…………」

 

 と、脱力感たっぷりの声を上げていたのでした……

 

《ここがりんくのお部屋?すっご~い!みんなが……プリキュアがいっぱいいる!》

《素敵なお部屋ですわね♪……まぁ、ワタシのお人形まで!》

 

 ネットコミューンのディスプレイの表面から、メモリアとロゼッタは私の部屋を見ている。というか、これって―――

 

 ……公開処刑じゃないですか!?

 

 プリキュアグッズ満載のお部屋に、まさかの『ご本人降臨』なんて、誰が想像できますか!?誰が考えたのこんな展開!?

 特にロゼッタさん……あんまりまじまじと見つめないでください……アナタのグッズもいろいろあるんで……

 もしドン引きされたらどうしよう!?好きなキャラに嫌われる―――そんなこれ以上ない極悪なショッキングがありますか!?いや、ない!!

 

 ちなみにあの後ネットコミューンに戻ってきたメモリアは、ロゼッタともどもキュアドールっぽいサイズに戻っていた。どうやら、戦いが無い時はこの姿になってしまうらしい。

 メモリアは不満げだったけど、「コミューンの中で過ごす時はちょうどいいんじゃない?」と言ったら、なるほど、とあっさり納得してくれた。

 

《ところでりんくさん、コレは……?》

 

 ロゼッタが指さしていたのは―――『ドキドキ!プリキュア』のブルーレイBOX!!!

 こ、これって、展開的に一番見せちゃいけないものだぁ~!?

 

「ど、『ドキドキ!プリキュアのブルーレイBOX』だけど……全話収録の……」

 

 しかし私は本物のキュアロゼッタのプレッシャーに勝てず、あっさりと白状してしまったとさ。

 

《まぁ!ワタシたちの戦いが記録されたブルーレイ……そのようなものがあるのですね……もしかして、セバスチャンが記録した映像がモトになっているのかしら……?》

 

 この場で見たい、なんて言ってきたらどうしようと思ったけど、そこまで深く掘り下げないようでホッとした。ドン引きもしなかったし……

 でも、こんなことを言うってことは、やっぱり―――

 

「ねぇロゼッタ……聞いてもいい?その……トランプ王国をめぐる戦いって……やっぱり、ホントのことなの……?」

 

 訊かずにはいられなかった。この子が、ホンモノのキュアロゼッタなら、きっと―――

 ロゼッタは少し間をおいて、ほほ笑みながら答えた。

 

《もちろん、ワタシがこの身で体験した、本当の出来事ですわ♪あの1年間の出来事は、一生忘れることはございませんわ♪》

「………………!!!!」

 

 この瞬間―――私の心臓がひときわ強く脈を打ったのを、はっきりと感じた。

 そして反射的に、私の視線が向いていたのは―――

 壁際の棚にきっちりと収められている、プリキュアシリーズのブルーレイBOXの列―――

 

「じゃあ…………私達がアニメで見てきたプリキュアたちの活躍は―――全部、本当に起きた、事実…………!?」

《そうですわね♪……他の世界からやってきたプリキュアの皆さんのお話も、聞き及んでおりますわ。皆さんが辛い想いを乗り越えて、それぞれの世界を守り、戦い抜いてきたことも……》

 

 やっぱり、目の前に立つホログラムのロゼッタは―――

 『本物』の、キュアロゼッタ―――四葉ありすちゃんなんだ―――

 

 たぶん、誰も信じてくれないかも……こんな重大な事実。

 アニメの話だ、マンガの話だ、作り話だって、笑われて終わり。でも、私は知ってしまった。

 

 フィクションを超えた先にある、画面の向こうの世界が、現実として存在したことを。

 

 『アニメが、アニメじゃなかった』ことを―――

 

《ねぇロゼッタ、どういうこと?他の世界からやってきたプリキュアって?プリキュアのみんなは、16年前に知らないどこかから来たって聞いたけど……?》

 

 たしか、メモリアは初めて会った時も、51人のプリキュアたちは『どこかからかやってきた』としか言っていない。ロゼッタにこう訊ねるということは、メモリアは本当にロゼッタ達の『出自』を知らなかったのかも。

 

《あら?ブラックからお伺いしませんでしたの?ワタシたちは、サーバー王国とは違う別の世界……そうですね、リアルワールドに似た世界から、サーバー王国に来たのです》

《ええええ~!?!?じゃあ、みんなって……にんげんさんだったの!?……てっきり、あたし達と同じで、アプリアンだと思ってたのに……》

 

 私にとっては当然なんだけど、メモリアからすれば大いに驚くことだったのだろう。

 同時に、この言葉から『メモリアが人間じゃない』ことも確定したことになる。メモリアは自分のことを『アプリアン』って言った。『ネットの中の生命体』っていうと、わりとアニメとかにも多い設定だから、たぶんそんな感じ、なのかな。

 

《……ねぇロゼッタ……あの日、みんなに何があったの……?クイーンはいったい、どこに行ったの?……プリキュアのみんなのこともそうだけど、知らないことが多すぎて、あたし……》

 

 メモリアが不安げな表情でロゼッタにたずねた。最初にメモリアが説明したことのところどころに『穴』があったのは、この子が『そもそも知らなかったから』、なんだろう。知らない事への不安、私にもわかる。

 

「私も、知りたいことがたくさんある……!プリキュアのみんなが、サーバー王国に来た理由とか……いろいろ……!」

 

 知りたいのは、私も同じ。メモリアよりも『事態の中心』に近いところにいたかもしれないロゼッタからなら、詳しい話を聞けるかもしれないという期待があった。

 

《かしこまりましたわ……少し長くなりますが、まずはワタシたちがサーバー王国を訪れることになった理由から、お話致しましょうか……》

 

 そうして、スマホの中のロゼッタは、遠くを見るように語り始めた―――

 

 ―――――――――

 

 NPC CURE-ROSETTA

 

 ―――――――――

 

 16年前―――ワタシたちはそれぞれ、元の世界での戦いを終えて、平穏な日々を過ごしていました。

 そんなある日……ワタシたちは、遠い世界の向こう側―――サーバー王国から、ひとつのメッセージを受け取ったのです。

 

 ―――私達の国を救ってください……伝説の戦士、プリキュアの皆さん―――

 

 ワタシ達は皆、迷いはしませんでした。

 助けを求める声を無碍にすることは、プリキュアの恥でございますから。

 マナちゃんたちと一緒に、ワタシはサーバー王国に渡る決意をしました。

 幸いワタシたちの世界には、キングジコチューが空けた時空の穴が残っていたので、それを介してサーバー王国に渡ることができたのです。

 

 そして、サーバー王国に渡ったワタシたちは、そこで初めて、『他の世界のプリキュア』の皆さんと出会ったのです―――

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 あれ―――?

 

 ロゼッタが話したことに、一つだけ違和感があった。

 ロゼッタは、サーバー王国に渡った時、『はじめて』、『他の世界のプリキュア』と出会った、と言った。

 『他の世界』というのは、私の認識からすれば『他の作品』ということになるのだろう。でも、そうなると―――

 

 『プリキュアオールスターズ』は、どう説明するの?

 

 たくさんのプリキュアたちが協力して、強大な敵に立ち向かう夢の映画。

 これがきっかけで、作品の枠をまたいでプリキュアたちに友情が生まれるのを、私は何度も見てきた。

 

 プリキュアの友情に、『作品の枠』なんか関係ない。プリキュアは、みんな友達で、親友同士―――それが私の認識だった。

 なのに、16年前に、他の世界のプリキュアにはじめて会ったというロゼッタ。

 これは検証する必要がありそうだけど……

 

《ワタシたちは、プログラムクイーンにお会いして、お話をお伺いしました。サーバー王国が理不尽な侵略を受けていることを知ったワタシたちは、力を合わせて、この国をお守りすることを決意したのですわ》

 

 ロゼッタの話はまだ続いている。私はそちらに耳を傾けることにして、『オールスターズ』の件は頭の片すみに置いてしまった。

 ……それが、当のプリキュアたちにも隠されていた『とある真実』のカギであることを、その時の私は、知るはずもなかったのだから―――

 

《……激しい戦いの末、ワタシたちは一度は、ジャークウェブの侵略を退けることができました。しかし、その戦いの余波によって、この世界のインターネットに多大な被害が生じてしまい、世界中を大混乱に陥れてしまったのですわ……》

「まさか……16年前に起きた『アイ・クライシス』の原因って……プリキュアとジャークウェブの戦いだったってこと……?」

《はい……この世界の方々には、いくらお詫びをしても赦してもらえないかもしれませんが……》

 

 これまた、驚愕の事実だった。インターネットが死滅した原因が、サーバー王国の戦いだったなんて……

 

《贖罪も兼ねて、ワタシたちは傷ついたサーバー王国の復興をお手伝いすることに致しました。それに、ジャークウェブが再度この国を襲わないとも限りませんでした。国の皆様のお願いもあり、ワタシたちは国の復興後も、この国に留まることにしたのです》

「それから16年の間……みんなずっとサーバー王国にいたの?」

《ええ。……ただ、サーバー王国に来てから、ワタシたちの変身が解けなくなってしまって、ランスちゃんたちの声も聞こえなくなってしまったのです。ですから16年間、ずっとこのままなのですわ。体も成長しなくなってしまったみたいで……ですのでワタシ、こう見えても実は今年でさんj「わぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~!?!!?!?!?!??!!!」》

 

 え、え~と、画面の前の皆さん、突然ごめんなさい!!

 今、あやうく重大な放送事故になりかけたんですがッッ!?!?

 決して聞こえちゃいけないセリフを、四葉ありすちゃん(永遠の中学2年生っ!!)が言いかけた気がするんですがッッッッ!?!?!?

 

 お、落ち着け、落ち着くんだ東堂りんく、深呼吸をするんだ……

 すぅ~……、はぁ~…………。

 ごほん―――……この画面を見ていらっしゃる皆さん、何か聞きました?

 何か見えました?

 ログに何か残ってますか?

 

 ……ですよねー。

 何も聞こえてませんよねー。

 何も見えてませんよねー。

 あなたのログには何もないですよねー。 

 あなたは何も聞かなかった。私も何も聞かなかった。いいね?

 

《どしたのりんく?》

《一体どなたとお話していらっしゃるのですか?》

 

 無邪気な顔して、メモリアとロゼッタが言ってくる。

 

「う、ううん……なんでもない……なんでもないけど、トシのことはいいから……私を含めた全世界ウン億人のキュアロゼッタファンが立ち直れないダメージ受けるから……ッ」

《??……かしこまりましたわ》

 

 首をかしげたロゼッタは、話を続けた。

 

 ―――――――――

 

 NPC CURE-ROSETTA

 

 ―――――――――

 

 ……ワタシたちの姿が変わらなくなってしまったのは、ワタシたちもまた、『アプリアン』になってしまったからだと、プログラムクイーンはおっしゃいました。

 それと、戦いによって、ワタシたちをサーバー王国に召喚した『システマスゲート』も破壊されてしまい、元の世界に戻ることもできなくなってしまったのです……

 クイーンは、必ず元の世界に戻れるように尽力すると仰り、サーバー王国の皆様も、システマスゲートの復元に着手いたしましたけど、なにぶん、ゲートは王国の中でも特に古い史跡だったらしく、復元は困難を極めていましたの。

 ワタシたちも、ただ待つだけでなく、ワタシたちに出来ることをしようと、王国の復興後も、ワタシたちはお手伝いを続けましたわ。

 

 お店を開いたり、学校の先生をしたり、スポーツを教えたり、文化を広めたり……51人それぞれが、それぞれに出来ることで、王国をお助けしていましたの。

 

 そして時が経って―――2年ほど前の、ある日のことでした。『プリキュアになりたい』と、4人のアプリアンたちが、お城の門を敲いてきたのは―――

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

《もしかして、それがメモリア?》

「ええ♪プリキュアに憧れて、自分たちもその高みへと昇りたいと……守られる側でなく、守る側になりたいと……『検索』のアプリアン・サーチ、『音楽』のアプリアン・リカバー、『辞書』のアプリアン・データ、そして……」

 

 優しい視線を、ロゼッタはあたしに向けてきた。

 

「……『撮影』のアプリアン……メモリア」

 

 なんか、懐かしい。あれから、2年しか経ってないのに。

 4人で一緒に、メインサーバーキャッスルに行って、はじめてクイーンに謁見したあの日から。

 そう感じるのは―――もう、あの頃には戻れないから、なのかな―――……

 

「あたし、小さいころから、王国のみんなに慕われてるプリキュアのみんなが、すっごく好きだったの。強くて、カッコよくって、かわいくって……いつ頃からかは忘れちゃったけど、あたしも『プリキュアになりたい』って、思うようになったの。だから、データたち3人を誘って、お城にお願いに行ったの……!」

 

 お父さんとお母さんからは反対された。『プリキュアなんてなれるわけがない。そもそも、なろうと思ってなるものじゃない。あの子たちと自分たちは違うんだ』って。でも、あたしはあきらめきれなかった。3人の両親を説得して外堀を埋めて、最後は4人で、あたしの両親に必死で頼み込んだ。本当に、データたちには今でも感謝してる。

 

 結局、お父さんはなんとか折れてくれたけど、お母さんは最後まで反対したままだった。『女の子が、無理にでも強くなろうとしなくてもいい』って。

 でも、違うと思うんだ。あたしは、『強くなりたい』からとか、『誰かをやっつけたい』とか、『戦いたいから』プリキュアになりたかったわけじゃない。

 

 あたしがプリキュアになりたかったのは―――

 

 あれ?

 

 あたし……どうしてプリキュアになりたいって、思ったんだっけ……?

 ただ、単純に、好きだから、あこがれたから―――それだけじゃなかったはず、なんだけど――― 

 

「ちなみにこれがその頃のメモリアですわ♪」

「え( ゚Д゚)」

 

 ロゼッタがどこからか、画像ファイルを取り出してきて、考えゴトはそこで中断されてしまった。

 

《うそ!?これがメモリア~!?今と全然違う!?『スイプリ』のハミィみたい!完全にネコじゃん!?》 

「うぅ……ロゼッタぁ~、どうして見せちゃうの~!?」

「あら?せっかくのお写真ですのに。カワイイじゃありませんか♪」

 

 そう、今のあたしの『にんげんさん』にそっくりなこの姿は、プリキュアとしての―――キュアメモリアとしての姿。

 生まれてからの本当の姿は、リアルワールドで『ネコ』と呼ばれてる生き物にそっくりだった。

 りんくには見てほしくなかったんだけどなぁ……

 

「ともかく……こんなことは初めてでしたので、クイーンとワタシたちプリキュア全員で会議を重ねて、その結果、4人それぞれに1人ずつ、プリキュアが2年間、マンツーマンで修行を積ませて、メモリア達4人がその修行を途中で投げ出すことなく、諦めることなく見事完遂した暁には、『見習い』という立場ではありますけど、『プリキュア』の称号を与える……というコトになりましたの」

《2年間、プリキュアとマンツーマン……嬉しいようなキツそうなような……》

「そりゃぁ実際キツかったよ。“せんせい”って、頭の中までパンチとキックのことしかないもんだから、特訓、特訓、また特訓……寝る頃には筋肉痛で体中がバッキバキ!……なんてのがずっと続いてたんだから……思い出しただけで痛みがぶり返してくるみたいで……ぞくぞくっ」

《そう言えばメモリアの“せんせい”ってキュアブラックなんだっけ……あぁ~……なんとなくわかる……》

 

 りんくは遠い目をしながらうなづいた。りんくも、『ぶるーれい』を見て、キュアブラックのことを知ってるから、わかってくれてるんだろうな。

 ……そうだ!あとで『ぶるーれい』見せてもーらおっと。記録映像なら、“せんせい”にいつでも会えるから―――

 

「……データはキュアホワイトに、リカバーはキュアハニーに、サーチはキュアダイヤモンドに、それぞれ託されましたわ。それぞれが、それぞれの個性や長所を活かして、大切なモノを守れるプリキュアになれるように……」

 

 それぞれが、それぞれの“せんせい”に教わって、2年の月日はあっという間に過ぎていった。そして、3か月前―――

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

《4人とも、2年間の修行を見事やり遂げ、クイーンから『プリキュア』の称号を与えられ、まずは見習いからスタートすることになったのですわ》

《えっへん!》

 

 ドヤ顔のメモリア。でも、私は素直に褒めてあげたいって思う。

 

「すごいんだね、メモリア……」

《え……?》

「だって、夢、かなえたんだもん……『プリキュアになりたい』って、本気で頑張って……私、プリキュアになりたいって思ってたけど、結局なれなかったし、ね」

 

 そう、この子は憧れを自分のモノにして、こうして今、ここにいる。やっぱりメモリアは、私の理想だったんだ。

 指先でメモリアの頭をなでてあげようとしても、あっさりとすり抜けちゃう。理想ってのは、触れられないモノなんだなぁ……

 

《……そして、プリキュアになった証として、クイーンから4人に与えられたのが、その胸にかがやく、“イーネドライブ”です。これの力で、4人はプリキュアの姿に変身しているのですわ》

 

 なるほど、それが変身アイテムだったワケね。私はメモリアの胸の真ん中にくっついている、大きなハート型の物体を見つめた。

 『スイプリ』のキュアモジューレに形が似てるけど、アップで見ると何ともメカメカしいというか、プリキュアっぽくないというか。中の基板が透けて見えていて、いかにも機械、といった印象だ。

 

《イーネドライブは、キュアネットに存在するあらゆる感情を帯びたコメントを拾い上げて、集約する能力を持っています。特に、『正』のコメントを吸収して、“イーネルギー”に変換することができるのです》

 

 だからあの時メモリアは、みんなの応援コメントを受け取って、パワーアップしたんだ……『みんなの応援が力になる』って、なんかロマンがあってステキ!

 それとまた、聞いたことのない言葉が出てくる。「ねぇ、イーネルギーって?」と、私はロゼッタにたずねた。

 

《このキュアネットの中でやりとりされる、楽しみや喜び、感動といった『正』の感情を帯びたコメントが発する、ネットワークエネルギーの一種ですわ。メモリア達は、イーネルギーを力と成して戦うのです。逆にジャークウェブが司り、バグッチャーが力とするのが“ワルイネルギー”……荒らしや暴言、誹謗中傷、犯罪予告や詐欺行為……それらの『負』の感情を帯びたコメントがそれらを発するのですわ》

 

 なんと単純明快な定義!私は感動した。“『いいね!』ルギー”と“『わるいね!』ルギー”ですね。ありがとうございます、ロゼッタ先生!

 

《……イーネドライブを与えられた4人は、この後に正式なプリキュアになるための試練を行う予定だったのですが―――――》

 

 そこでロゼッタは、表情を曇らせた。メモリアも、同様に。

 

《……事件は、あの夜起きたのですわ》

 

 ―――――――――

 

   NPC CURE-ROSETTA

 

 ―――――――――

 

 あの夜、夜襲の報を受けた時には、既に国中に戦火が広がっていました……

 ワタシたちはチームごとに連絡を取りながら戦っていたのですが、ひとり、またひとりと連絡の取れなくなるプリキュアが出てきて……

 

 手勢から、ジャークウェブの再来だということはすぐにわかったのですが、前回の彼らとは異なる、巧みな攻め手を見せておりましたの……

 ついに、メインサーバーキャッスルに敵の手勢が迫ったと知ると、事態はより一層切迫しましたわ。

 

 ワタシたち『ドキドキ!プリキュア』は、キュアハートにお城に向かってもらい、残ったメンバーで戦線を維持しようとしましたが……

 クイーンの近衛を務めるキュアエコーからの『クイーンがロックゲートウォールに避難された』という報を最後に、他のプリキュアたちとの連絡が途絶え……

 

 そして、ワタシたちも……ついに力尽きてしまったのですわ……―――

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

「そんな……」

 

 プリキュアが負けた―――事実としては受け止めていたけれど、歯噛みしながら語るロゼッタの姿を見て、そのことがプリキュアたちの中で苦い経験として残っていることがわかる。

 無理もないよね……守るべきものを守れなかったのは、プリキュアにとって最大級の屈辱だろうから―――

 

《クイーンは、ロックゲートウォールの中にいるの!?》

《それは間違いないでしょう……もっとも、キュアエコーとの連絡は、それ以降とれなくなってしまいましたけど……》

「……ロックゲートウォールって?」

 

 次々と知らない単語が出てきて混乱する。なんか、プリキュアの第1話か2話を見ながら、世界観を勉強してる、そんな気分。

 

《メインサーバーキャッスルの地下奥深くにある、絶対守護聖域ですわ。何十、何百にも展開されたスーパーファイヤーウォールに守られた、緊急避難用シェルター……あそこなら、いかにジャークウェブといえど、簡単には侵入できないはずですわ》

《もっとも……一度入っちゃったら、簡単には出られないようにもなってるけど……まさか!?》

 

 ロゼッタは、心配げな表情でうなづいた。

 

《ええ……今もクイーンは、封印されたサーバー王国の、ロックゲートウォールの中で、助けを待ち続けているはずですわ……》

《そんなぁ……クイーン……》

 

 メモリアにとって、ブラックと同じくらいに、クイーンは尊敬に値する人なのだろう。クイーンのことを想うメモリアの目は、ブラックのことを“せんせい”って呼ぶ時の目と同じに見えるから。

 

《この度のジャークウェブの侵攻……これはワタシの個人的な推測なのですが、サーバー王国の中に、手引きをした者がいる可能性がありますわ……そうでなければ、あそこまでの電撃戦が可能であるはずがありませんもの……》

《それ、たぶん正解だよ……》

《まぁ……!?》

 

 その時、メモリアの表情が険しく、そして苛烈に変わった。

 

《あたし……お城で会ったの……まるでプリキュアみたいな姿をした、ふたりの女の子に……キュアウイルスとキュアハック……ふたりは……“バグキュア”って言ってた……サーバー王国に恨みがあるってことも……王国に、裏切られたって……!》

《……初耳、ですわね……でも、その2人がサーバー王国の住人で、ジャークウェブに与したという可能性は、高いかもしれませんわね……》

 

 思案するロゼッタと、悔しさをにじませるメモリア。私が思っていたよりも、サーバー王国にまつわる出来事は、根が深そうだ。

 

《でも、クイーンが無事なら、まだ王国を元通りに出来る可能性が残ってるよね!?》

《そうですわね……ですが、ワタシはジャークウェブが、クイーンをあえて無事でいさせた、と思うのです》

「……どういうこと?」

《サーバー王国のすべてを司るクイーンの身に何か起これば、ワタシたちプリキュアも、当然無事ではすみません。最悪、消滅してしまう可能性もあります……しかし、ジャークウェブはワタシたちをキュアチップに変え、バグッチャーの一部として悪用した……これには、“そうせざるをえない理由がある”と、ワタシは思うのです》

「プリキュアたちが完全に消えちゃったら困る理由が、ジャークウェブにあるってこと?」

《そのことでひとつ、聞いたことがあります……ワタシたちがキュアチップに変えられ、ジャークウェブに持ち去られた時に、彼らが話しているのを聞いたのです。『プリキュアには、“フォースウォール”を突破する力がある』、と……》

「……フォースウォール……?」

《リアルワールドとキュアネットを隔てる、次元の壁のことですわ。本来、如何なる方法でも突破は不可能と云われておりますが……》

 

 フォースって、確か『四つ目』とか、そういう意味があるって、英語の授業で習ったような。

 四の壁……四つ目の壁………………あれ、それって!?この間読んだ、脚本の表現技法で読んだことがある!

 

「それって……『第四の壁』のコト!?」

《なにソレ?》

「う~ん、簡単に言えば、『現実』と『アニメ』の間にあるカベのこと、かな。この世界とネットの間の壁っていうのも、なんかナットクかも」

 

 ホントは、もっと詳しく説明する必要があるだろうけど、そうなると話が大幅に横道にそれちゃうから、出来る限りわかりやすくして、私はメモリアに説明した。

 でも、プリキュアにそれを突破する力があって、ジャークウェブがそれを利用してバグッチャーを作ってるっていうことは―――

 

「まさか……ジャークウェブの狙いって!?」

 

 ロゼッタは私の推論を読んでくれたのか、頷いて言った。

 

《フォースウォールを破り……リアルワールドへ侵略の魔手を伸ばすこと……!!》

 

 背筋がぞっとした。

 今までどこか、『ネットの中の出来事』として、割り切って見てしまっていた自分がいたことに、私は初めて気が付いた。

 これは遊び半分じゃ済まされないんだ。メモリアと一緒に私も頑張らないと、この街が、この世界が―――

 私の大切な人たちにも、危険が及ぶことになるかもしれない―――

 

「メモリア……私、出来ることは何でもする……!そうしないと、この世界もどうなるかわからないもん……!」

《りんく……!》

《そうと決まれば、やることは一つ、ですわね》

 

 ロゼッタは笑顔を私に向けて、言った。

 

《これから現れるバグッチャーをすべて打ち倒して、キュアチップを……プリキュアたちを取り戻して、サーバー王国を……クイーンをお救いするのですわ♪》

 

 はは~ん、なるほど。 バグッチャーを全員倒して、プリキュアを全員取り戻すかぁ~……って、

 

「《ええええ~~~~~!?!?!?!!?》」

 

 私とメモリアは同時に驚いて絶叫した。それってつまり、アレだよね……

 

《バグッチャーって……プリキュアの力を持ってるんだよね……ってことは……》

「あと50人のプリキュア―――プリキュアオールスターズ全員と戦って、勝てって言ってるようなモンじゃん!!!」

 

 ……コレ、なんて無理ゲーですか?

 テレビシリーズとかにして見りゃ、『歴代プリキュア総登場!』とかで視聴者ウケ良さそうな企画だけど―――

 実際のコレ、事実上『毎週幹部戦』のようなモノなんじゃ……―――

 

「念のため訊くけど……その50人、12人のリーダープリキュアも入ってるんだよね……?」

《もちろん、そうなりますわね♪》

 

 ブルーム、ドリーム、ピーチ、ブロッサム、メロディ、ハッピー、ハート、ラブリー、フローラ、ミラクル、ホイップ―――

 それぞれのチームを束ねる、主人公―――リーダープリキュア。

 

 プリキュアの中でも、特に抜きんでた実力を持つ、ラスボス級の主人公が紛れ込んでるとか、それだけでも泣けてくる。うれしいけど、泣けてくる。

 テレビシリーズ50話の中で12話―――1クールがまるまるラスボス戦とかシャレにならない……。

 その12人の中の一人は―――当然―――

 

《“せんせい”……キュアブラックにも、勝たなきゃいけない……!》

 

 メモリアの師匠にして、偉大なる始まりの女の子―――キュアブラック。

 彼女をも、超えていかなきゃいけないんだ……!!

 

《もし……やり遂げることができた暁には、サーバー王国の復興のみならず、メモリアも一人前のプリキュアに……52人目のプリキュアとして、迎えることができますわね♪》

《どういうこと?》

《メモリア達には伝えていなかったのですが……メモリア達が一人前のプリキュアになる条件は、ワタシたち51人のプリキュア、全員に勝つこと……なのですわ♪》

 

 プリキュアの世界って、なんて過酷なんでしょうか……

 ロゼッタは笑って言うけれど、それって無理ゲーをメモリア達にやらせようとしたってことですよねぇ……?

 

《ま……マジで?》

《大マジ、ですわ♪プリキュアは、地球に暮らす何十億もの人々、何十兆もの生き物たちを守らねばならないのです。『たった51枚の壁』を打ち破れずに与えられるほど、『プリキュア』の称号は軽くはないのですわ》

 

 あの〜……、その『たった51枚の壁』、1枚1枚がオリハルコンか超合金で出来てそうなんですが……

 

「ね、ねぇ……ロゼッタは?ロゼッタも協力してくれるんでしょ?なんだったら、ユーザー契約して、いっしょに戦ってくれたり、なんかは……」

 

 そ、そうだよ!仲間になってくれたのなら、協力すればいいじゃん!ロゼッタがいっしょに戦ってくれるなら、どんなに心強いか……

 

《ご協力したいのはやまやまなのですが……おひとりの方がユーザー契約を結べるプリキュアは、ひとりまでと決まっていますので……それに、一度ワルイネルギーの影響を受けて、キュアチップに変えられてしまったプリキュアは、キュアネットで戦うことすら不可能なのです……》

 

 そうなると、頼れるのは自分とメモリアだけ、か……

 

《よ、よォ~し!!りんく!やってやろうじゃん!!バグッチャーを全部倒して、プリキュア全員取り戻して、国を救って、一人前のプリキュアになる!》

 

 やる気を出すのはいいんだけど、メモリア、顔が引きつってる。

 

「無理をしちゃダメだよ、メモリア。大丈夫!私だってついてるんだし、ひとりで挑戦するわけじゃないんだから、ね?」

《りんくぅ~……》

《確かに……今からあなた達が挑もうとするのは、全てのプリキュアに打ち克つという、ワタシたちプリキュアでも、誰も経験したことのない、いまだかつてなく過酷な戦い……このような戦いを、見習いであるメモリアに強いるのは心苦しいですが……おふたりで協力すれば、きっと大丈夫ですわ》

 

 ロゼッタの言う通りだ。あせらず、慎重に戦わないと。メモリアといっしょに、一歩ずつ、プリキュアたちを取り戻すんだ―――

 

《では少しでもメモリアには強くなってもらわなければなりませんね。というわけで―――えい♪》

 

 ロゼッタが指を弾くと、ネットコミューンの画面が変わり、一面の草原にメモリアが立っていた。

 

《わ!?なになに~!?》

 

 驚くメモリアの前に、物々しい音を響かせながら姿を現したのは―――

 

《せ……戦車っ!?》

 

 戦車は1台だけではなく、メモリアの左右、そして後ろからも現れ、計4台の戦車がメモリアを包囲する形になった。

 

「な……なにコレ……!?」

 

 ドン引きしている私が見ている中、戦車が四方からメモリアに十字砲火を開始した。

 

《うぎゃーっ!?容赦ない~!?こ、これってロゼッタの訓練プログラム!?》

《その通りですわ、メモリア♪》

 

 正面の戦車の天井ハッチがパカッと開いて、ロゼッタが姿を見せた。

 

《四方からの攻撃を、的確に回避、もしくはさばいてごらんなさいな♪それでは、パンツァーフォーですわ♪♪》

 

 ロゼッタの合図とともに、砲撃が再開される。容赦ないね、ありすちゃん……

 

《そうそう、メモリアだけじゃありませんよ?りんくさんもほら、タッチで回避方向をメモリアに指示してくださいな♪メモリアだけでは、いずれ限界が来てしまいますよ?》

「ふぇえぇぇぇ!?!?」

 

 こうして、私もまた、メモリアの特訓に付き合わされるハメになりましたとさ……

 

 これから私とメモリアが挑むのは、前代未聞の『プリキュア五十番勝負』―――

 それも、一回の負けも許されない、過酷なるサバイバルレース。

 すべてのプリキュアを超えて、そして、取り戻す戦いの日々が―――

 

 今ここに、幕を開けようとしていた―――

 

 

 ―――STAGE CLEAR!!

 

 RESULT:CURE CHIP No.31『CURE-ROSETTA』

 プリキュア全員救出まで:あと50人

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

『勇気リンリン!直球勝負!!』




 ―――りんくの『今回のプリキュア』!

りんく「今回のプリキュアはだ~れだ?」

『ひだまりポカポカ!キュアロゼッタ!♪』

メモリア「『ドキドキ!プリキュア』のサブリーダー、“護葉(まもりば)のロゼッタ”!属性はぽっかぽかの『太陽』!」

りんく「四葉財閥のお嬢様、四葉ありすちゃんが変身した、トランプの『クラブ』がモチーフのプリキュアだよ!」

メモリア「そんなロゼッタのキメ技は、コレ!」

『カッチカチの……ロゼッタウォール!』

メモリア「どんな攻撃も防いじゃうロゼッタウォールは、みんなを守ってくれるすっごいタテ!」

りんく「それだけじゃないよ?足場にしたり、攻撃を受け流したり、敵にぶつけて攻撃にも使えるの!」

メモリア「すっご~い!!バリアって、攻撃を防ぐだけじゃないんだ……」

りんく「道具は使い方で、どんな風にも使えるんだよ!それじゃ!」

りんく・メモリア「「ばいば~い!」」

 ―――――――――

 次回予告

りんく「今日は遠足!楽しみだなぁ~♪」

メモリア「おっきな風車がぐ~るぐる!」

りんく「風が気持ちいい~♪」

メモリア「お昼寝日和だねぇ~♪」

りんく「あ、あれ……?なんか風が強くなってない……?」

メモリア「見てりんく!あれって……!!」

りんく・メモリア「「バグッチャー!?」」

 インストール@プリキュア!『旋風の刺客!曲がった@直球勝負!?』

りんく「ピカっとキュアっとあつめてプリキュアオールスター!」

 ―――――――――

 さて、放送事故あり、中の人ネタありと、キュアロゼッタには大いに暴れて(?)いただきました。

 これを書いている最中にBS11のドキプリの再放送にてちょうどロゼッタ回をやっていたので、ロゼッタを書く上で大いに参考にさせてもらいました。

 次回からは『プリキュア五十番勝負』に突入!果たして、史上最も過酷な戦いを、見習いプリキュアとその『相棒』はどう戦い抜くのか……

 それではまた次回で!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話  旋風の刺客!曲がった@直球勝負!?
遠足とポケットの中の秘密


 用語解説

 ジャークウェブ

 キュアネットの奥深くに存在する、闇のアプリアンが住まう国。
 ネットに渦巻く『負の感情』―――ワルイネルギーが堆積し、誕生したと言われている。
 支配者『カイザランチュラ』が抱くキュアネット、ひいてはリアルワールド征服の野望の元、暗躍している。
 16年前に一度、サーバー王国を侵攻したが、その時はプリキュアたちの活躍で退けられている。また、この時の戦いの余波でインターネットの大規模障害『アイ・クライシス』が発生、キュアネット敷設の遠因となった。
 数ヶ月前に再度サーバー王国を侵攻、電撃作戦を以って滅亡させた。
 現在はリアルワールドにカイザランチュラを降臨させる安定したゲートを開くために、キュアネットとリアルワールドの秩序を混乱させることが必要であるらしく、バグッチャーをキュアネット各地に送り込んで、悪事を働いている。

 ―――――――――

 3話目となる今回は、ちょっとした幕間回、となります。
 りんくのクラスメートたちも登場します。そして、もうひとりの……!?
 ではでは、キュアっと送信!


 ひだまりポカポカ、キュアロゼッタ♪ですわ♪

 

 キュアチップに変えられ、ジャークウェブにとらわれたワタシを助けてくれたのは、プリキュア見習いのキュアメモリア。

 彼女と、彼女のユーザーであるりんくさんを信じて、ワタシは―――

 

《これから現れるバグッチャーをすべて打ち倒して、プリキュアたちを取り戻して、サーバー王国を……クイーンをお救いするのですわ♪》

《バグッチャーって……プリキュアの力を持ってるんだよね……ってことは……》

「プリキュアオールスターズ全員と戦って、勝てって言ってるようなモンじゃん!!!」

 

 こうなってしまった以上、すべてをおふたりに託すしかありません……

 残りのプリキュアは50人……おふたりが、悪の手に落ちた仲間たちに打ち勝ち、マナちゃんたちをきっと助け出してくださることを……信じていますわ。

 

 安心してくださいな♪直接あなたたちの手助けは出来ませんが、『間接的』になら……。

 

 え?どうやって……?ですか?

 それは……うふふ、ご覧いただいてからのお楽しみ、ですわ♪

 

 それでは、『インストール@プリキュア!』、続きをご堪能くださいませ♪♪

 

 ―――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 あの日―――私とメモリアが出会ってから、10日が経った。

 あの日の事件は、テレビやニュースで大々的に報道されたけど、世間的には原因は不明とされた。

 ただ、キュアネットの中では、メモリアやバグッチャーの目撃情報が多数飛び交い、『ネット上のプリキュア、ウイルスモンスターを撃破か?』と、まとめサイトに書かれていた。

 真面目な考察や、野次馬的にこの事件をいじる人、反応はそれぞれだった。

 

 私がいつも入り浸っている掲示板―――プリキュア版には、『大泉町のプリキュアスレ』が立てられ、もう40スレまで行っている。

 みんなが、メモリアのことで議論を交わしているけれど、私はこのスレに、書き込みをする勇気はなかった。

 

 キュアネット―――私たちの世界と隔てられた、プログラムが行き交う電脳の世界の奥に、プリキュアは、『本当に存在していた』。

 そして今は―――私のスマホの中にいる―――

 

 そんなことを書き込んだ日には、『祭り』確定だ。

 私は、この世界でたった一人、『真実』を知る人間となった。軽はずみな行動は、許されない。

 

 許されない、のだけれど―――

 

 ―――――――――

 

 この10日間で、ひとつ変化があった。

 

 ネットコミューンを、両親とクラスメートに見られたことだった。

 パパにもママにも、むぎぽんにもそらりんにも、そしてみんなにも、共通の言い訳でごまかした。

 

「いやぁ~、こないだ何の気なしに送ったスマホの新機種モニターになんと当選しちゃってね、しばらくタダで使わせてもらえることになったんだよ~♪ラッキ~♪え?おばあちゃんからもらったスマホ?もちろん部屋にしまってるよ?もっとも、アプリやデータとかはこっちの新しいのに全部コピーしてあるから、今までのとおんなじ感じで使えるんだよねぇ~♪いや、ホントスゴいよ最新機種は!めっちゃ便利!あははははは……」

 

 ……―――全部ウソですごめんなさい!!

 ホントはコレ、おばあちゃんからもらったスマホそのものなんですッ!!

 こんなオモチャっぽい見た目になっちゃったのには深ぁ~いワケがあるんです……!!

 

 あぁ、ヒミツを守るって、すっごく大変なんだねぇ……プリキュアのみんなが、正体隠しながら戦ってきた気持ちが、少しでもわかった気がするよ……

 でもまぁ、むぎぽんとそらりんはすんなりと納得してくれた。

 

「メーカーとプリキュアのコラボモデル?ラッキーじゃんりんく!」

「なんかうらやましいわぁ~。あ、あとでちょっと見せてなぁ」

 

 ……ふたりとも、メモリアを見ちゃった日にはどんなリアクションをするのやら……

 それから、ケータイショップに勤めてるママがいろいろと探りださないことを祈ろう……

 

 さて、今日はわが大泉中学校の全校生徒が参加しての遠足の日!

 心配されていた天気も回復し、通学路の水たまりもほとんど乾いていて、まさに遠足日和!

 大泉中の遠足は、学年によって行き先が違っていて、私達2年生は学校から10kmほど離れた、大泉風力発電所に隣接する『風の公園』が目的地。

 大泉中が入学式やクラス替えから、あまり時期が経たないうちに遠足をするのは、『新しくクラスメートになった子と親睦を深めるため』だって、担任の中谷先生が言っていた。

 でも、私がやってることと言ったら……

 

「でもさ、『まほプリ』って、戦ってる最中にフォーム変えられなくない?」

「そんな設定無かった気がするけど……」

「変えられたら便利やねぇ~」

「映画で分身した時は正直『そう来たか!』って思った!」

「あ、それわかる!!あそこのシーン『ktkr!!』って思ったもん!!!」

 

 ……むぎぽんとそらりんと、遠足中でもプリキュア談議に花を咲かせていたのでした。

 ところで、この小説を読んでくれてる人のほとんどが予想してることだと思うけど……

 

 ―――私はリアルの友達が少ない。

 

 たいていの場合、新学期最初のホームルームで私は宣言する―――『私!世界で一番、プリキュアが大好きです!!』と。

 そのひとことで9.8割のヒトはドン引きしちゃうんだよねぇ……

 私は確かにオタクだけど、オタクは怖くないよ!?ただ、『その道』のことに詳しいだけの、フツーの人なんだよ!?

 こんな時代になっても、オタクに対する風当たりは割と強くて、まだまだ偏見は根強い。私みたいなオープンオタの人もこの学校には少ないみたいだし……

「そうそうりんくちゃん、10日前の謎のメッセ、あれりんくちゃんにも届いとったん?」

 

 ぎくっ。私は思わずそらりんの視線を逸らしてしまった。

 10日前と言えば、そう―――『あの日』だ。

 あの日、初めて戦ったメモリアが放った力。具体的に言えば、『いーーーねーーーー!!!』の絶叫だ。

 あの時、大泉町周辺のキュアネット全体にメモリアのパワー解放が及んだらしく、とある副産物を大泉町の皆さんにもたらしていた。

 

 ……『いーね!メール』である。

 どうやら、メモリアの絶叫はそのまま、大泉町中のスマホに、SNSのメッセとして送信されてしまったらしい。その文面が『いーね!』だったのだ。

 ……この子、そんなコトまでできちゃうなんて……でもま、メモリアもやりたくてやったわけじゃないっぽいけど。

 

「……う、うん……」

「やっぱ、あの『大泉のプリキュア』と関係あるんかなぁ……?なにかわかりる?」

「いや、なにも……ど、ど~だろ~ねぇ~……あははは……」

 

 苦笑いをするしかない。そう、『他人に秘密をバラしちゃいけない系』のアニメの主人公がよくする、あの顔だ。まさか私がこの顔で苦笑いする日が来ようとは……

 ホント、私だけアニメの世界で暮らしているような感覚だ。

 

「中学生にもなってプリキュア談議……来年お受験とは思えない会話ですわねェ」

 

 と、ここで横からずいと会話に割り込んでくる女の子。

 

「う゛……急に現実に話を戻さないでよ、川村さん……」

「現実も何も、テレビやネットの奥の世界に誘惑されていては、お勉強も手につきませんもの」

 

 川村ゆめさんとは、2年生になってから同じクラスになった。

 お嬢様口調に、これまたお嬢様っぽいツインドリルヘアー。今はジャージ姿だけど、ふだんの制服もお嬢様仕様、いい感じに魔改造されてる。まさに、二次元から飛び出してきたような見事なお嬢様キャラ。

 

 なんと、聞いてびっくり、プリキュアをはじめ、様々な玩具やゲームを作っている会社『財団B』の会長のお孫さんだという。う、うらやましすぎる……!!

 去年は別のクラスだったからか、そんなに付き合いはなかったけれど、今年の始業式の翌日から、私達3人の会話によく絡んでくるようになった。

 しかもたいてい、プリキュアのことをディスってくるため、私は正直この子がニガテ。プリキュアも自社製品ですよ、お嬢様……

 でも……よく考えてみると、ほとんどの場合、プリキュアのことを話してると会話に割り込んでくるんだよねぇ。これって、まさか……―――

 

「川村さん、プリキュアのことに興味あるの?」

 

 カマをかけてみた。引っかかるかなぁ……?

 しかし川村さんは顔を赤くして、急にぷいとそっぽを向いて言った。

 

「な、な、何をおっしゃいますの東堂さん!?ワタクシはその、別にプリキュアが好きというワケではありませんのよ!?自社製品でございますが……その……そう!妹!妹がよく見てて、その付き添いで見ているだけですの!あくまで付き添いで!」

 

 はっはーん。ツンデレ乙。

 つまりは『プリキュア談議に参加したいんだけど、自分のキャラとの葛藤で素直になれない』ってコトですか、そーですか。

 

「さ、さぁ、先頭の皆さんから遅れてますわよ!キリキリ歩きませ!」

 

 そう言ってはぐらかすと、川村さんは先を急いで行ってしまった。

 

「なんなの、あの子……いつも割り込んできてさ。なんかヤな感じ」

「こむぎちゃん、人には誰にも、素直になれんコトがあるんよ。暖かく見守らんとなぁ」

 

 むぎぽんはむすっとしてるけど、そらりんは悟っているようだ。暖かい視線を、道端の石につまづいてよろめく川村さんの背中に向けている。

 こりゃ、引き込み甲斐のあるコですなぁ。“キュア友”第3号の誕生も近いと、私は見た。

 ふと足元を見ると、いつの間にかシューズの靴ひもがほどけていた。反射的に私はしゃがみ込んで靴ひもを直そうとした。

 ……後ろから来ていた『誰か』に気付かずに。

 

「おっと!」

 

 男の子の声が、背中からした。びっくりして、私はあわてて立ち上がる。

 

「あ!……ご、ごめんなさい、靴ひもがほどけちゃってて……」

 

 私はその男の子の顔を見た。あまり顔なじみのない子だった。つまり、去年も今年も、私とは別のクラスの男子だ。

 ……線が細くて、大人しめな印象の子。しかも、割とイケメン。背丈は、私よりもちょっと大きいくらい。男子の中では高くもなく低くもなく、って感じかな。

 

「あ……………………そ、その……こっちこそ……前、よく見てなくて…………ご、ごめん!」

 

 その子はしばし私の顔を見た後、ハッとしたように我に返り、声変わり前のちょっと高い声であやまると、慌てて私たちを追い越していった。

 

「……なんかカワイイ系男子、って感じやねぇ」

 

 ニコニコ笑いながら、そらりんが言ってくる。確かに、男の子にしてはちょっとナヨっとしてて、イケメンというか、『オトメン』だ、ありゃ。

 

「あいつ、昔っからあんな感じで、泣き虫なヤツだけど、試合の時とか、けっこうイイ感じに化けるんだよね」

「……むぎぽん、知り合い?それに、試合って?」

「うん―――――お向かいの八手(はって)ほくと。小1の時に転校してきたんだけどさ、家が拳法の道場やってるの。で、学校では空手部。だからああ見えて、腕っぷしは相当だよ?」

 

 そういえば、むぎぽんのお店のお向かいに、割と広い、古いお屋敷があったのを思い出した。あそこ、道場だったんだ。

 

「もうすぐ総体だし、今は練習漬けなんじゃないかなぁ」

「ふぅん……」

 

 人は見かけによらないっていうか、なんというか。あんな子が瓦割りやら跳び蹴りする姿なんて想像がつかない。まるでプリキュアの30分後にやってる仮面ライダーじゃん。

 

「おろ?『プリキュア大好き東堂さん、ついに3次元に恋!?』って感じかな~?」

「ま、増子さん!?」

 

 カメラを持ったメガネの女の子が、前からわざわざ私たちの列に並んできた。

 去年から同じクラスの、増子美祢(ますこみね)さん。この子を見た時は、『増子一族……実在していたの!?』と驚いたっけ。

 

 『プリキュア5』には増子美香ちゃん、『ハピプリ』には増子美代さんという、プリキュアの正体を探ろうとしてる、よく似たキャラがいる。で、クラスメートの増子美祢さんは、この2人とほとんどウリ二つ。新聞部所属で、マスコミ根性がすごいということも共通してて、『本当にアニメの中から出てきた増子一族のひとりなんじゃ……?』と、一時期熱視線を注いだこともあった。

 

 その実態は―――なんてことはない、ごくフツーのジャーナリスト志望の女の子でした。とかくカメラと写真が大好きで、今回の遠足も写真係を率先して買って出て、自慢の愛機(カメラ)でみんなの思い出を撮ってくれている。

 しかし―――今の私にとって、最も警戒するべき要注意人物であることには違いない。この手の子、興味を持ったら見境がないんだから……なんとしてもメモリアのことは隠し通さないと。

 

「違うって。……ココに先約してる子がいますからっ」

「うぇ!?ちょ、アタシは別にアイツとはそういう関係じゃ……」

「をっ!?熱愛発覚!?詳しく聞かせてよ、ねぇ!」

 

 あわてて私はむぎぽんを差し出した。ホントのトコ、どーなのむぎぽん?

 でもわりと、2次元ではともかく、リアルで幼馴染が恋人関係に発展することって、あんまりないと思うんだよねぇ。実際どうかわかんないけど。

 

「そーそー、プリキュア大好き東堂さんのお耳に是非入れておきたい情報があるんだけど……聞きたい?」

「……なにとぞ!」

 

 増子さんは要注意人物なんだけど、情報源としては頼りにできるから、私とはそんなに浅い関係じゃない。『そんなのどこから持ってくるの?』って情報も時々あって、彼女の情報源がヒジョーに気になる。

 

「昨日、隣町でキュアネットの障害があったでしょ?車が突然動かなくなったってアレ」

 

 この小さな事件は、私もけさのニュースで知っていた。ただ、ニュースで見ただけなので、くわしくはわからないけど。

 

「この件……この間と同じように“プリキュア”が絡んでるみたいよ」

「えっ……!?」

 

 増子さんの言葉に、私はどきりとした。反射的に、ポケットの中のネットコミューンに手が行っていた。

 しかし、最初に戦った時から昨日まで、私とメモリアは一度もバグッチャーと戦っていない。まさか、便乗というか、模倣犯というか、ニセモノ登場ですか?!

 ともかく全く心当たりがないというのに、どうしてプリキュア絡みって、増子さんはわかるの?

 

「実際見てもらった方がいいわね。……ほら、この画像。キュアネットの可視化モードの取り込み。解像度がちょっとアラいけど、このシルエット……似てると思わない?」

 

 増子さんはスマホを取り出し、画像フォルダの中の1枚を見せた。そこには、メモリアと同じようなコスチュームを着ているように見える、女の子が立っていた。

 でも、違う。メモリアじゃない。何よりその女の子は、ピンク色じゃない。全身を覆うイメージの色は―――水色だった。

 

「これ、どこから?」

「まとめサイト。東堂さんが思ってる以上に、この件追ってる人多いみたいだから、今回のはわりとたくさんの人がスクショに成功してるわ」

 

 スライドショーで、次々と画像が切り替わる。金色のチェーンを持った怪物は、バグッチャーに違いない。金色のチェーンとなると……連想できるプリキュアはただひとり。『プリキュア5』の、キュアレモネードだ。

 画像は連続で撮られていたらしく、女の子が放ったオーラを纏った跳び蹴りによって、バグッチャーが木っ端微塵に吹き飛ぶさまがきちんと撮られていた。

 

「わたし、この件追っかけてみようって思うの。どう?いっしょに組まない?プリキュアのことなら何でも知ってる東堂さんとなら、いいコンビになれそうな気がするんだけど!」

「え、えぇと……」

 

 目をキラキラさせて迫る増子さんに、私はたじろぎながら苦笑いを返す。

 

「ご、ごめんなさい……ってかコレ、コラかなんかじゃないの?今ネットじゃ、空前のプリキュアブームなわけだし、誰かが作ったフェイクのプログラムの可能性もあるから……」

「ホントかなぁ……」

「じゃ、じゃあ先急ぐから!むぎぽん、そらりん、行こ!……そーだ、後で画像ちょうだ~い!」

 

 むぎぽんとそらりんをなかば無理やり連れて、私は先を急ぐことにした。

 あぁ……気苦労が増えてく……

 プリキュアのみんなは、こんな中で笑顔で過ごしてたっていうんですか……メンタル鋼鉄すぎ……

 

 みんなこうして、何気ないいつもの日常を過ごしてる。

 でも、それを脅かすモノが、キュアネットの深淵から迫っているのを、世界中の誰も知らない。

 

 ―――私、以外は。

 

 ポケットの中に目をやる。ピンク色のネットコミューン。

 ほのかに熱を帯びるその中に、私の秘密が―――そして、世界を守るための存在がいる。

 

 ―――一緒にがんばろう、メモリア。

 

 いつか私も、隠し事をすることをせず、心のままに、みんなと笑い合える日が来るまで。

 

 ……SAVE POINT




 キャラクター紹介

 稲上 こむぎ

 中学2年生で、りんくの友達。ニックネームは『むぎぽん』。
 いつも明るい、ボーイッシュなムードメーカー。
 りんくたち3人の中ではリーダー格で、みんなをグイグイ引っ張るリーダーシップの持ち主。
 小柄な体格ながらスポーツ万能で、バック転やバック宙も軽々とこなし、運動部からは助っ人として引っ張りだこ。しかし実家のパン屋を手伝うために、部活に入ってはいない。
 好きなプリキュアは『実家が食べ物屋』のブルーム、ハート、ハニーなど。特にブルームは同じパン屋ということもあってか共感できる部分が多いらしい。
 『(つよし)』『(つとむ)』という2人の兄がおり、3人兄妹の末っ子でもある。
 

 鷲尾 そら

 見るからに癒し系、おっとりとした性格の中学2年生の女の子。ニックネームは『そらりん』。
 『わぁ』という一人称、お父さん譲りの方言風の話し方、跳ねっ毛気味のロングヘアー、常に目を細めた『糸目』が印象的。
 りんくの幼馴染で、“プリキュア友達”。毎週日曜の朝には、SNSでプリキュアの話題で盛り上がる仲。
 歌を唄うことが好きで、学校でも合唱部に所属している。
 プリキュアも“唄うプリキュア”が好きで、特にキュアソードとキュアハニーがお気に入り。
 一方、根っからの暴力反対主義者でもあり、パンチやキックなどが容赦なく繰り出されるバトルシーンが苦手。
 将来は歌手になりたいと考えているが、医療系の仕事にも興味があるようだ。
 成長が早いのかよく食べるせいなのか、他の子たちよりも『ぽっちゃり』しているのが悩み。
 口ぐせは『わかりる?』『さんきゅす♪』

 ―――――――――

 さて、キャラクター達も徐々に増え始めました。

 ちなみに『プリキュアが放送中の世界』という世界観ですので、プリキュアにまつわる様々な企業名が登場しますが、当然ながらボカします。なので、『財団B』なんです(苦笑)

 そして、ネットに現れた『もうひとりのプリキュア』の正体は……!?
 ご期待をあおりつつ、また次回、です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カゼヲキル

 用語解説

 アバタースタイル

 プリキュアがエネルギーをセーブしておくための姿。
 2頭身のアイコンのような姿になっていて、ネットコミューンの中にいる時はこの姿になっている。
 会話の際は3Dホログラムのようにネットコミューンのディスプレイの上に立つ。
 りんく曰く『キュアドール体型』。

 ファイトスタイル

 ユーザーの『プリキュア・オペレーション』の音声入力でプリキュアが変身した、キュアネット内でバグッチャーと戦う時の姿。
 5頭身の姿で、これが『プリキュア』本来の姿である。サーバー王国では何らかの力が働いているため、常にこの姿で過ごすことができていた。
 しかし、サーバー王国の外でこの姿となるには、ユーザーの存在が不可欠となる。
 りんく曰く『S.H.Figuarts体型』。

 ―――――――――

 遠足、後半戦です。
 戦闘となると、どうしても文字数がかさんでしまうのはどーして……?
 さぁ、今回のプリキュアはだ~れだ?送信!


 ……NOW LORDING

 

 ―――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 ほどなく、私たちは目的地の『風の公園』に到着した。

 30分ほど、授業の一環として、隣接する風力発電所の所長さんから風力発電施設についての説明をしてもらい、クリーンエネルギーについての見聞を深めた。私たちが便利な暮らしには、何はともあれ電気が不可欠。陰ながら頑張っているこの人たちのおかげで、スマホも充電できるし、ネットもできてるんだよね。

 お昼時になって、待ちに待ったお弁当の時間!むぎぽんのお弁当、さすがはおウチが食べ物屋さんだけあって、気合入ってておいしそう……

 そらりんのお弁当はというと……なんか、私とむぎぽんの1.5倍くらいはあるような気がする……そのことをツッコむと、そらりんは苦笑いを浮かべた。

 

「ホントはこんなにもいらないんやけどねぇ……フンパツしすぎやわぁ」

 

 そらりん、ダイエットに挑戦中なんだけど、家族のヒトから普段から『よく食べる』って思われてるみたいで……大変だねぇとしか言えないなぁ、今のトコ。

 ……私のお弁当?……期待をあおって申しわけないけれど、ごくごくフツーのお弁当でした、残念。

 それで、3人でプリキュア談義しながら楽しくランチタイム―――だったんだけど……

 

《でーーーーーーたーーーーーーーー!?!?!?》

 

 スマホからの大絶叫でブチ壊されちゃいました。

 

「??何今の声?」

「まるで声優さんの叫びみたいやねぇ。もしかしてりんくちゃんのスマホなん?」

 

 むぎぽんとそらりんの視線がイタイタしいほどに突き刺さってくる。な、なんとかゴマカさなければっ。

 

「あ、あ!で、出ぇーたーーー!!ほらそこ、バッタさんが出ぇーーたーーー!!!」

 

 あ!ちょーどいいところに野生のバッタがとびだしてきた!

 私は白々しくも迫真の演技でバッタを追いかけ、そらりんとむぎぽんから離れていった。

 

「2年になってから……りんく、奇行が増えた気がする……」

「いろいろとこじらす年なんよ、中学2年生って」

 

 そんなふたりの会話が背中からグサグサと。あぁ……私、ますますイタさが増してるよ……え?元々イタい子だった?……自覚してます、ハイ。

 ある程度みんなから離れたところで、ジャージのポケットからネットコミューンを取り出し、ロックを解除した。

 

「メモリア!……もう、みんながいるところでいきなり大きな声出しちゃダメって言ったじゃない!」

 

 この10日間、メモリアにはいきなり大声で叫んだりしないように再三言い聞かせた。どういうワケかわからないけど、たとえマナーモードにしていようとも、メモリアの声はスピーカーから響いてしまうようになっている。なので、ふだんは少しでも静かにしてもらわないと。メモリア自身の、ためにも。

 

《ご、ごめんなさい……でもねりんく!さっき『ますこみさん』からもらった画像、あれ、間違いないよ!》

 

 ランチタイムの途中、増子さんからメッセの着信があった。例の『プリキュア』らしき女の子が映った画像が添付されていた。私は後で見ようと、そのメッセにはお礼の返信だけして、画像はそのままだったんだけど……

 どうやらメモリアは、ネットコミューンの中にあるファイルなら、自由に見ることができるみたい。さすがは『プリキュア・ネットワーク(略)』という正式名称のネットコミューンだけはある。使い勝手は私よりも、プリキュアにイニシアチブがあるのか、ふむふむ。

 ……って、これって私のプライバシー、メモリアはのぞき放題ってこと……!?それもマズいような……

 ダメダメ、ヘコんでる場合じゃない。私は気を取り直し、メモリアにたずねた。

 

「それで?何が間違いがないの?」

《データだよ!!》

「……なんのデータ?」

《そっちのデータじゃなくって!……画像に映ってたプリキュアのこと!あれ、あたしの友達のキュアデータ!》

 

 そ、それって、この間メモリアやロゼッタが話してた、メモリアといっしょにプリキュアになったっていう、4人のプリキュア見習いのひとりじゃん!

 

「ほ、ほんと!?」

《うん……!データはね、あたしといっしょにサーバー王国から脱出してきたんだけど、途中ではぐれちゃって……でも、あの水色の光……あれはデータのイーネルギーの色……》

 

 メモリアの目に、光るものが見えた。よほど、無事な仲間がいたことがうれしいみたい。

 私は増子さんが送ってきた画像をあらためてチェックした。キュアデータと思しき女の子の姿は、今ここに見えるメモリアみたいな『キュアドール体型』じゃなくて、戦う時のメモリアと同じ、『S.H.Figuarts体型』。つまり……

 

「メモリア、たぶんなんだけど……データも、ユーザーと契約してるよ!こうやってバグッチャーと戦えてるってことは、少なくともユーザーと契約してないといけないんでしょ?」

《そっか……!よかったぁ……データもあたしみたいに、にんげんさんのスマホにいさせてもらってるんだね……》

 

 そこで浮かび上がる疑問が、キュアデータのユーザーになってくれたヒトのことだ。一体、どんなヒトなんだろう。私みたいに、プリキュアに興味があるのなら、男って線はないかも……でも、プリキュアって『20~30代前半の男の人』も対象年齢層に入ってるらしいから、ワリと可能性もゼロじゃない……のかな。

 それともうひとつ、データ『本人』のことだ。考えてみれば、メモリア以外の3人のプリキュア見習いのこと、くわしくは聞いたことなかったし。

 

「データって、どんな子なの?」

《ん~……おねえちゃんみたいな子、かな。面倒見もいいし、友達思いだし》

 

 おねえちゃん、か。とすれば、キュアマーメイドみたいな清楚系か、キュアアクアみたいなしっかり者系か……いずれにしても頼りになりそう!

 

《あ、でもね、ちょ~っとだけケンカっ早いかな~……『アタシのこと甘く見んじゃねーぞ!!正々堂々勝負しろォッ!!』とか言ってたよーな……》

「…………え?」

 

 あれ?

 さっきメモリア、おねえちゃんみたいな子、って言ってなかった?そのセリフ回し、それってどう聞いても『おねえちゃん』じゃなくって―――『姐御』ですよねぇ……

 そんな『オラオラ系』のプリキュア、前代未聞なんだけど……

 

「だいじょーぶかなぁ……」

《?ユーザーさんのところにいるんだから、大丈夫だと思うよ?》

「いや、そーじゃなくって……データのユーザーになったヒト、振り回されてるんじゃないかなぁって……」

 

 友達のこと、悪く言っちゃったかもしれない。言ってから、ちょっと反省しながらメモリアを見た。でもメモリアも、遠い目をして、こうつぶやいた。

 

《……そーかも……》

 

 どうやら、サーバー王国でもメモリアはデータに振り回されてたみたいで、苦笑いを浮かべていた。

 でも、これは希望だと思う。どうにかデータと、彼女が宿るスマホを持つユーザーを探し出して、協力することができれば、これからの『プリキュア五十番勝負』の、心強い味方になってくれるはず。それに―――

 やっぱプリキュアは最低限、『ふたり』でないと!プリキュアは、たった一人で戦い抜くことはできないんだから―――

 

《―――随分と平和に過ごしているのだな、サーバー王国の残党と、人間の子供よ》

 

 冷酷な男の人の声が、ネットコミューンから響いた。

 

「その声!!」

《アラシーザー!!》

 

 とっさにキュアネットの可視化モードを起動する。用途不明のプログラムが、すぐそばにそびえ立つ風力発電機の根元にあった。ズームインして確認した。10日前にキュアネットを大混乱に陥れた、幹部っぽいアイツだ!

 

《俺の名を覚えていたか。貴様をデリートする者の名だ。冥府まで大事に抱えていくのだな》

「メモリアをデリートなんて、させない!」

《あたしもそう簡単にはやられてあげないよーだ!!》

《……ふん。その強気……どこまで通用するか……!》

 

 アラシーザーは、その左手に何かを持っていた。ミニチュア化された、風力発電機に見えるけど……?

 

《この風力発電所の制御プログラム……暴走させれば、どうなるかな?》

「え……!?」

 

 キュアネットの可視化モードなら、難解なプログラムも『わかりやすく』表示される。その風力発電機のミニチュアは、まさか!?

 アラシーザーのもう片方の手には、小さな緑色のメモリーカード。あれってキュアチップ!ということは……!!

 

《勇気ある風よ……勇敢を蛮勇に変え、破壊の嵐を齎せ!!バグッチャー、ユナイテーション!!!》

 

 アラシーザーの手からはなれた“ミニチュア発電機”とキュアチップが空中で交差し、そこにアラシーザーが黒いエネルギーの塊のようなものを放った。それら3つが見る間に融合して、黒光りする怪物へと変貌した。

 

《バグッチャァァァァア!!!!》

 

 まるで巨大な扇風機のようなバグッチャーが、キュアネット上に降臨した。胴体のプロペラが回り出し、ネット上に強烈な風が巻き起こる。すると―――

 

「……!?」

 

 ぶわ、と、私の前髪が風でなびくのを感じて、とっさに私は風力発電機を見上げた。すると、さっきよりも恐ろしく速い勢いで、風力発電機の巨大なプロペラが回転していた。それだけじゃない、『風の公園』をぐるりと囲むように設置されている小型の風力発電機もまた、異常な速度で回っている。

 

「発電機が……暴走してるの!?」

 

 あっという間に、公園の中に嵐が吹き荒れる。周りを見ると、引率の先生が避難を促している。と、そこへ―――

 

「りんく~!!」

「発電機の調子がヘンなんやて~!早ぅ逃げよ~!!」

 

 むぎぽんとそらりんの声が、風切り音にまじって聞こえる。

 ここで逃げなきゃ、みんなに不審に思われる。でも、バグッチャーを放っておくわけにはいかないし、どうすれば―――

 思案しながらあたりを見回す私の目に、白い小屋みたいな建物が入った。あそこは―――確か―――

 よぉし……!

 

「ま、待ってふたりとも~(棒)あっ」

 

 私は走り始めて数メートルで、わざと転んだ。

 

「りんくちゃぁんっ!」

 

 気遣うそらりんを見上げて、私は叫ぶ。

 

「先に避難してて!!私はだいじょーぶだからっ!」

「で、でもぉ……」

「いーから行って!!……プリキュアになるまで、私は死んだりしないからッ!!」

 

 カッコよくサムズアップ。お願い、早く逃げて……!

 

「わ、わかったよ!そら!」

「うん……待っとおから!」

 

 後ろ髪を引かれるようなふたりの表情を見るのが辛かった。ふたりが私の視界から消えてから、私は嵐の中に立ち上がった。

 

「むぎぽん……そらりん……ごめん」

 

 心の底から謝ってから、私は白い小屋へと飛び込んだ。そこは―――トイレだった。

 ニオイがちょっとキツいけど、プライバシー保護の観点から背に腹は代えられませんっ……でもニオイが……(半泣)

 

「ここなら、気兼ねなくオペレートできる……!準備はいい、メモリア!?」

《もちろん!!》

 

 勝気な笑顔で見上げてくるメモリアに応えるように、私はネットコミューンの隅の、ハートの集積回路のアイコンをタップしながら、叫んだ。

 

行くよ!プリキュア・オペレーション!!

 

 瞬間、画面の中のメモリアが光に包まれ、ピンク色の光の球体へと姿を変えた。12の光のリングが直線状に現れ、キュアネットへの道筋を示す。

 

CURE-MEMORIA! ENGAGE!!

 

 女の子の合成音声とともに、光の球体が射出される。12の光のリングをくぐりぬけ、風力発電所のキュアネットに到達して、光の球体が姿を変える。

 右腕、左腕、右脚、左脚、全身、頭!すべてが『戦闘モード』になった『S.H.Figuarts体型』になったメモリアが着地して、敵を見据えて、ポーズをキメる。

  

―――記憶の戦士、キュアメモリア!

 

バッチリキメるよ!!―――

 

 ん~!!10日ぶりのこの姿、キュアっキュアでカッコカワイイ!!今日こそスクショで永久保存だ!

 さぁ、『プリキュア五十番勝負』の初戦……相手は、『プリキュアの力を持った』モンスター……

 慎重に、油断せずに行こう、メモリア……!

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 たくさんのおっきな風車が回る、風力発電所のキュアネット空間。

 ゆっくりと見ていきたいところだけど、今のあたしにそんな余裕はない。

 

《バグッチャーーーッッ!!》

 

 目の前に立つプロペラ型バグッチャーが、あたしを威嚇する。

 でも、怯んでなんからんない!

 

「先手必勝!行っくよぉ~~!!」

 

 蹴り出し、間合いを詰めて、最初の一撃を―――

 

《リンリンリ~~ン!!!!》

 

 バグッチャーのプロペラが高速回転して、猛烈な暴風を巻き起こす。パンチがもう3センチくらいで届く、そんな距離で、あたしは吹き飛ばされてしまった。

 

「ぅわぁっ!?」

《メモリア!》

「だいじょーぶ!すごい風だけど、ダメージはないよ!」

 

 受け身を取りながらりんくに返す。そう、単純に『吹き飛ばされただけ』。受け身さえ取っちゃえば、何の問題も―――

 

「それはどうかな……?」

 

 ニヤリと笑うアラシーザーを見て、いやな予感がよぎる。

 と、バグッチャーがプロペラを回転させながら、その両手で風の渦を無理やりにこねくって、緑色の光るボールを作ると―――

 

《チョッキューーーーーーシューーーーート!!!!!》

 

 あたしに向かってボールを蹴ってきた!渦を巻き、まわりの地形を削り砕きながら、まるで地を這うかのように驀進して、あっという間にあたしの眼前に……!!

 

「ぬ゛ゅん!!?」

 

 そのボールを思わず両手で受け止めてしまった。ガリガリガリガリ!!!という、何かが削れる音がうるさく響き、火花まで散る。これって、ヤバい!!?

 

「だあああああああ!!!!!!」

 

 このまま勢いが収まるまで待ってたらマズいと思ったあたしは、とっさにボールを受け流した。勢いであたしは仰け反って倒れ、ボールは空へと吹っ飛び、そして大爆発した。

 

「はぁ……はぁ……はぁ…………!」

 

 モノスゴい一発だった。それに、あの『風の力』―――

 

「風……シュート……あのバグッチャーにとらわれてるプリキュアは……」

 

 間違いない―――

 

「《キュアマーチ!!》」

 

 あたしとりんくの声がユニゾンする。りんくも気づいたようだった。

 

「気付いた、りんく……!?」

《うん……“チョッキュー”だとか、“リンリン”だとか……キュアマーチ以外あり得ないよ!》

 

 やっぱり、りんくは『プリキュア博士』だ。あたしといっしょに、マーチのことをわかってくれた!

 

「『スマイルプリキュア』のひとり……“旋風(せんぷう)のマーチ”……プリキュア最強クラスの、風の使い手……!!」

 

 いきなり、とんでもないプリキュアとぶつかっちゃった……力押しの真っ向勝負じゃ、まず勝ち目のない相手……

 

《弱気はダメだよ、メモリア……!大丈夫、相手は直球勝負で来る……!それなら……―――》

 

 りんくの声と同時に、あたしの視界に矢印が表示されていく。あたしの足元から、バグッチャーの右側に伸びている。

 

《このライン……ちょっと失礼だけど、横からなら!》

 

 さすがりんく。マーチのことをよくわかってる。マーチがどんな戦い方をするのかも。このナビゲーションに従えば、勝てるかも!

 

「オッケー!行ってみる!!」

 

 あたしは再度、地面を蹴り出した。それを見て取ったように、バグッチャーは『風のボール』を作り始める。

 ……予想通りだ。相手はあくまでも『まっすぐ』で、横や後ろからなら―――!

 

「……貴様たち、大きな誤解をしているな。貴様たちが相手にしているのは、『プリキュア』ではないというのに」

「……え?」

 

 ヨユーシャクシャクのアラシーザーの態度。それが視界の隅に入った、その瞬間―――

 

《ヘンカキューーーーー!!!》

 

 バグッチャーの両腕までもが、プロペラに変形して、合計3つの嵐の渦が巻き起こり、それらが『曲がって』、鎌首をもたげたヘビのように、あたしに襲いかかってきて―――

 

「うわああああああああーーーーーーー!!!!」

 

 激烈な気流が、あたしの全身を切り裂いた。腕に、足に、体に、顔に、背中に―――無数の傷を刻む暴風―――

 風に舞われながらも、あたしはバグッチャーを睨んでいた。

 

 ―――風が―――……曲がった……!?

 

 ―――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

「メモリアっ!!」

 

 四方八方から、風の渦がUターンしては、メモリアに襲い掛かる。

 成す術なく翻弄されるメモリアを見ながら、私は歯噛みしていた。

 

「キュアマーチの……『直球勝負の風』を……『曲げる』なんて……!!」

 

 今この瞬間、私は大きな誤解をしていたことに気づいた。

 私は、この『プリキュアの力を持ったバグッチャー』との戦いを、『プリキュアそのもの』との戦いと、勘違いしていたのかもしれない。

 アラシーザーの言う通りだ。メモリアが戦っているのは、『バグッチャー』なんだ。『プリキュア』じゃない。

 『プリキュアの力を利用してる』だけのモンスターなんだ。その『力』をどう使おうが、このバグッチャーの勝手なんだ。

 ……でも―――……それでも!

 

「マーチの……なおちゃんの想いを、そんな風に歪めるなんて、許せない……!!」

 

 プリキュアたちが、どんな想いで戦って、世界を守ってきたのか知りもしないくせに、その『力』だけを利用して……!!

 誇りあるプリキュアオタクとして、ジャークウェブの所業、赦すまじ……!!

 ジャークウェブ滅ぼすべし、慈悲は無い!!

 私の堪忍袋の緒は切れたけど、今の私に出来ることは、せいぜいさっきみたいに、メモリアのオペレートをすることくらい。他に何かできることって……?

 そうだ、前回みたいにライブ配信!それから―――

 

「……そういえば」

 

 私は、ポケットに入っていた『もう一つのモノ』をとっさに取り出した。黄色い、『P-31 CURE-ROSETTA』と書かれたメモリーカードだった。

 そう、これはあの日の夜に受け取った、大切なモノなんだ―――

 

 ―――――――――

 

 BACK LOG LINK TOUDOH

 

 ―――――――――

 

 10日前の夜、『地獄の戦車特訓』を終えたあとのこと。

 メモリアはくたくたになって、すぐさま寝入ってしまった。戦って帰ってきて、寝る前に特訓だもん、疲れて当然だよね……私も、目の使い過ぎだ。みんなもスマホ画面の見過ぎには注意しようね~……

 私も寝ようかなと思った、その時だった。

 

《りんくさん》

 

 ロゼッタの声が、ネットコミューンの中から響いた。

 

《今日は、ありがとうございました……メモリアのこと、これからもよろしくお願いしますね》

「ううん、とんでもないよ!プリキュアファンとして、当然のことをしたまでだから!」

 

 最初、ウイルスだと思って削除しようと思ったことはナイショにしとこう……

 と、見ると、ロゼッタの姿がうっすらと明滅している。

 

「ロゼッタ……?なんか、姿が……」

《そうですわね……キュアチップの状態だと、ホログラム化にも限度があるようですので……そろそろ、一度ワタシも眠りにつきます》

「えぇっ!?」

 

 眠りって……そんな!?もうロゼッタとは会えないの!?

 

《ご安心くださいな♪これから、リアルワールドにワタシのキュアチップをお送りしますわ。それを使えば、メモリアでも少しだけなら、ワタシの……ひだまりの力を使うことができるでしょう……それから―――》

 

 ここでロゼッタは、少し言いよどんだ。『言っていいものなのでしょうか……?』と、目が口ほどにモノを言っているけど……

 

《今はまだ……大丈夫ですわね……》

「??ロゼッタ……?」

《いえ、なんでもありませんわ♪それでは、お受け取りくださいな♪ワタシの力が、少しでもあなた達の一助になれることを、祈っておりますわ―――》

 

 そう言い残して、ロゼッタはディスプレイの上から姿を消した。瞬間、コミューンのメモリーカードスロットが光ったと思うと、カシャ!という音とともに、黄色いメモリーカードが排出されてきた。

 『P-31 CURE-ROSETTA』のナンバリングと、ロゼッタの笑顔がラベリングされた、手のひらに収まるサイズの、少し大きめのメモリーカード。これが―――

 

「キュアロゼッタの……キュアチップ……!」

 

 こうして、現実の世界に出てきたこれを手にした瞬間、私はロゼッタの心を受け取った。

 

 ―――使いこなして見せるよ、ロゼッタ。あなたの想いは、絶対に無駄にしないから―――

 

 ―――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 四方八方からの攻撃を受けるメモリアを見ながら、私は祈る思いでポケットから『それ』を取り出した。

 3つの竜巻が一つに重なり、メモリアに襲い掛かる様が見え、私はとっさに、メモリーカードスロットに、『受け取った心』を挿し込んだ。

 

キュアチップ、『キュアロゼッタ』!!

キュアットイィィィィン!!!

 

 《ひだまりポカポカ!キュアロゼッタ!♪》

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 ―――風があたしを食べに来た!?

 

 そう思って覚悟を決めたけど、あたしは食べられなかった。

 何が起きたの……?うっすらと、目を開けると……

 

「……ロゼッタ、ウォール……?」

 

 あたしの目の前に、4枚のロゼッタウォールが重なり合って展開されて、巨大な風の渦を押しとめていた。

 これって……!?

 

《間に合ってよかったぁ……!》

「りんく!?なにかしたの!?」

《ロゼッタからもらったキュアチップ!ちょっとの間だけだけど、これならメモリアでもロゼッタウォールが使えるよ!》

「え……?」

 

 視界の隅に文字が浮かんでいる。

 

 〈DRIVE:P-31 CURE-ROSETTA〉

 〈TIME LIMIT:04:33〉

 

《キュアチップを使えば、そのプリキュアの力を借りられるんだよ!》

 

 そんなコトができるんだ……!あたし自身も知らなかった。

 てっきりキュアチップは、ジャークウェブの都合だけでつくられたモノだとばかり思ってたのに。

 じゃぁ、そんなコトを『できるようにしてる』、ネットコミューンって、いったい何なの?

 それに、ロゼッタと同じ黄色に輝いている、このイーネドライブも……―――

 

 その時、風の渦がはじけるように消え失せた。

 

「バカな……キュアロゼッタの技だと……!?おのれ人間の子供め、味な真似をする!!」

 

 さすがのアラシーザーも泡を食ってる。これって、反撃のチャンス!?

 

《メモリア、今だよ!》

 

 りんくの声を合図に、あたしはすばやく間合いを詰めた。四方八方から風の刃が襲って来るけど、ロゼッタウォールがそれを防ぐ。

 

《ロゼッタウォールは私が動かすから、メモリアは一直線で突っ込んで!!》

「そーだね!キュアマーチに……小細工なんて通用しないもん!」

 

 さっき、アラシーザーは『相手はプリキュアじゃない』って言ってた。その通りだって、最初は思った。その『力』を使ってるのは、バグッチャーなんだから。

 でも違う。『その通りだけど、違う』。あたしはあえて、『相手をプリキュアだと思って』、戦うことに決めた!

 そうでないと、意味がないから。相対する、51人のプリキュアたちに、申し訳がないから。

 バグッチャー51体に勝った程度で、一人前のプリキュアになれるだなんて、そんなのあたし自身が認めない。

 あたしは―――あたしとりんくは、正々堂々、残り50人のプリキュアに―――

 

 ―――勝つ―――!!

 

 風が襲う。でもそれは、りんくが防いでくれる。

 ひとりきりじゃない。あたしには、りんくが、そして、応援してくれてる、みんながいるから!

 

「あたしは……!みんなといると強くなれる!夢見る明日を!信じる道を!あきらめないで戦っていける!!」

 

 3つの嵐の渦が集束して、真っ向からあたしを襲うけど、4重のロゼッタウォールが受け止める。その後ろから、あたしはロゼッタウォールごと嵐の渦と真っ向勝負をはじめる!

 

「立ち止まっても……!!」

 

 物凄い圧力が体全体にのしかかる。でも……!!

 

「立ち尽くしても……!!!」

 

 あたしには、ううん、あたし達には…………!!

 

「その先があるッ!!!!!」

 

 りんくの、みんなの声が、イーネドライブに集まって、あたしの中の力がみなぎる。

 

<プリキュア、がんばって!!

<ウィルスなんてやっつけろ!!

<おねがいプリキュア……りんくを助けて!

<わたしの友達がまだ逃げれてないの!お願いやから、頑張って!

 

「うぉぁあああぁぁぁッッ!!!」

 

 あたしは、ロゼッタウォールごと、嵐の渦を押し戻し、バグッチャーにぶつけた。怯んであお向けに倒れるバグッチャー。

 

「飛ぶよ、りんく!」

《飛ぶって!?》

「ジャンプ!!」

《お、おk!》

 

 あたしはりんくが操作するロゼッタウォールを足場にして、上空へとジャンプした。マーチの真っ向から、あたしの直球勝負を、叩き込むために!

 

「受けなさい!!電子の!!天誅ッッ!!!」

 

 イーネルギーが、前回以上にスパークして、キュアネットの空間をピンク色に染める。

 そしてあたしは、“上”にりんくが設置したロゼッタウォールを蹴って、あお向けに倒れているバグッチャーへと、一直線に―――!!

 

メモリア!!ライジング!!!

 

サンダーフォーーーーーーーーールッッッッ!!!!!!

 

 ―――みんなの全開を、墜とす!!

 

 反撃とばかりに、バグッチャーが竜巻のような風の渦を放つ。でもあたしは止まらない。止まるどころか―――!!

 

「あたしは負けない!!いつか、みんなで必ず笑える日が来るから!!」

 

 そう、この体に、この手にみなぎる力が、あたしと、みんなの力!

 嵐に怯えるみんなが、今この瞬間望むのは、みんなの笑顔―――!!

 

「手のひらに握りしめてる、このヒカリは―――!!永遠ッッッ!!!」

 

 目の前に4枚重ねになったロゼッタウォールごと、あたしは雷撃の拳をバグッチャーの直上から、自由落下の重力とともに叩き込んだ。

 手ごたえが―――あった―――

 

「…………―――そうだよね、キュアマーチ」

 

 マーチが教えてくれたこと―――『ひとりじゃない』コト。

 あたしの戦いは―――みんなといっしょの戦い。

 あの日、炎の向こうに消えていったみんなの『スマイル』を―――

 ダイスキな、みんなの笑顔を―――。

 

 「あたしは―――取り戻す」

 

 ―――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

《デェェリィィィィトォォォォォォ………………!!》

 

 大爆発とともに、バグッチャーが爆発四散した。メモリアの気迫の一撃だ。

 メモリアの想いは、私の心にも伝わった。―――そうだよね。

 ただ、バグッチャーを倒すだけでは、本当に『プリキュアに勝った』なんて言えないって、私も思う。

 相手はプリキュア。きちんと敬意を払って『倒させて』もらわないと、『伝説の戦士』であるプリキュアたちに失礼になるから。

 真っ向勝負には、真っ向勝負で。直球には直球で応える。それが、『後輩』としての礼儀なんだ!

 

《く……こうもワルイネルギーが蓄積しない……!》

 

 捨て台詞を残して、アラシーザーは何処かへと消えた。

 

「……そうだ、マーチのキュアチップは!?」

《それなら、ハイ!》

 

 緑色のキュアチップが、メモリアの右手の中にあった。ナンバリングは『P-27 CURE-MARCH』。渦巻きのような模様が刻印されている。

 そのキュアチップから、緑色のイーネルギーの粒子が舞った。光の中に浮かび上がってくるのは―――

 

《助かったよ、メモリア!それに、メモリアのユーザーさんも、ね!》

 

 あの姿……あのもふもふヘアーは、間違いない!

 

「キュアマーチ!緑川なおちゃん!」

《あたしのこと知ってるみたいね、アリガト!―――さっきの戦い、見てたよ。よく惑わされなかったね。いい直球勝負だったよ、メモリア》

《えへへ……》

 

 照れ笑いを浮かべるメモリア。やっぱり、先輩プリキュアから褒められると、素直にうれしいみたい。

 

《でも、油断しちゃダメだよ。これから先、何が起きるかわからないからね……あたしの風の力、うまく使いこなして頑張って!》

 

 幻影のマーチがふっと消えて、メモリアの手の中のキュアチップが光になって飛び立つのが見えた。そして、ネットコミューンのカードスロットから、緑色の光が閃く。

 飛び出してきたのは、キュアマーチのキュアチップ。受け取った私はうれしくなって、思わずキュアチップを高々と掲げて宣言した。

 

「キュアマーチ、キュアっとレスキュー!」

《やったぁ~!》

 

 2人目のプリキュア、救出!これで残りは……49人もいるんだよね……

 でも、これでいいんだ。焦っても仕方ない。ひとりずつ、確実に助け出す。ゆっくりとしてはいられない、けどネ。

 

《………………!?》

 

 その時、ハッとしたような表情に変わったメモリアが、そっぽを振り向いた。まるで何かに気づいたように。

 

「どうしたの?」

《……今、誰かがあたしのことを見てた……?》

「まさか、アラシーザーが戻ってきたの!?」

《ううん、違う……今のは…………データ……?》

 

 それって、隣町で戦っていた、もうひとりのプリキュア、だよね……?

 その子がここにいたってことは、まさか―――

 

 キュアデータのユーザーは―――……大泉中学校の2年生……その中の誰か―――なの……?

 

 ―――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

 ⇒  ??????

 

 ―――――――――

 

「……やれやれ、出遅れちまった。おかげでメモリアにいいトコ取られちまったなぁ」

 

 アタシが到着した時には、すでに戦いは終わり、キュアチップはメモリアが取り返していた。

 元気そうでよかったぜ。あの様子だと、無事にユーザーとも契約したみたいだし……

 

 …………………………

 

「『どんな子なのかな』、って?……お前も興味があるんだな。同じ学校の同い年みたいだし、会ってみたらどうだ?」

 

 …………………………

 

「『はずかしい』って……お前なぁ……あの時見せてくれた覚悟、こういう時に出せねェのかよ?」

 

 ホント、アタシのユーザーは両極端だ。イザって時にはカッコいいのに、ふだんは消極的というか、なんというか。

 でも、アタシは知ってる。コイツが誰よりも、アタシに相応しい『相棒』だってことを。

 コイツは、アタシが認めた、世界一の―――

 

《…………行くよ、キュアデータ》

「あぁ、そうだな……アタシ達の戦いは、これからなんだ……」

 

 直に会うのは、少し先になりそうだけど……

 遠くはないさ―――その日が楽しみで、仕方ない。

 

 プリキュア全員を超えて―――“最強のプリキュア”になる日がな……!

 

 ―――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 あの後、先生にはこっぴどく叱られて、むぎぽんとそらりんには泣かれちゃうしで、もう大変……

 帰り道の途中で、私はふと、ポケットの中からネットコミューンと、2枚のキュアチップを取り出した。

 ネットコミューンの中で、メモリアが寝息を立てている。この寝顔がカワイイんだ、コレが❤

 

「これからもふたりで……一緒にがんばろう」

 

 メモリアとふたりで、最後まで戦い抜くって、改めて決意した私だけど―――

 

 

 この時はまだ、知る由もなかった―――

 

 

 『私の世界』が―――『変わり始めて』いたことを。

 

 

 私の知らない場所で―――知らないモノが、『動き始めて』いたことを―――

 

 

 そしてそれは、『架空(ツクリモノ)現実(ホンモノ)になった時』、一気に加速していく―――

 

 

 ―――STAGE CLEAR!!

 

 RESULT:CURE CHIP No.27『CURE-MARCH』

 プリキュア全員救出まで:あと49人

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 『きらめく星のプリンセス!』




 ―――――りんくの『今回のプリキュア!』

りんく「今回のプリキュアはだ~れだ?』

『勇気リンリン!直球勝負!!キュアマーチ!!』

メモリア「『スマイルプリキュア』のひとり、“旋風(せんぷう)のマーチ”!属性はそよそよの『風』!」

りんく「サッカーが得意な大家族のお姉ちゃん、緑川なおちゃんが変身した、風を自由に操るプリキュアだよ!」

メモリア「そんなマーチのキメ技は、コレ!」

『プリキュア!マーチシューーート!!!』

メモリア「風の力をボールにして蹴り出すマーチシュート!どんな相手も一発ゴ~~~ル!!」

りんく「でもマーチの一番すごい所は……壁を地面みたいに走れちゃうところ!!オープニングでもおなじみだよね!」

メモリア「あれ、あたしもやったことあるんだけど、30メートル走るので精いっぱいなんだよねぇ……」

りんく「や……やったコトあるんだ……よい子のみんなはマネしちゃだめだよ!?それじゃ!」

りんく・メモリア「「ばいば~い!」」

 次回予告

りんく「で…………で~~~~たぁ~~!!!」

メモリア「それってあたしのモノマネ?」

りんく「違うよ!!バグッチャーがこっちの世界に出てきちゃったぁ~~!!」

メモリア「え~!?で、でもだいじょーぶ!!こんなこともあろうかと、クイーンに教えてもらった『とっておきの方法』があるから!!」

りんく「それってナニ!?早くして~!!??」

メモリア「…………やり方、わかんないや、てへっ❤」

りんく「/(^o^)\」

 インストール@プリキュア!『マトリクスインストール! 奇跡の新生@キュアメモリアル!!』

りんく「ピカっとキュアっとあつめてプリキュアオールスター!」

 ―――――――――

 そう、キュアチップは集めるだけでなく、『使える』んです。
 戦って勝つたびに、過去のプリキュアを『あつめて』、力と成す―――それこそがこの『インプリ』の根幹です。

 しかし、その真の力はまだまだ発揮しきれていません。そして、もうひとりのプリキュア、キュアデータも一筋縄ではいかないプリキュアで、そのユーザーの正体もまた謎……

 次回は、『真の第1話』とも言うべきエピソード。ここから、世界が動き出します……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話  マトリクスインストール!奇跡の新生@キュアメモリアル!!
Realization


 本日は用語解説はお休み、ということで……
 さぁ、真の第1話、その前篇を送信……!


 勇気リンリン!直球勝負!!キュアマーチだよ!

 

 さすがはキュアブラックに鍛えられただけのことはあるね……

 曲がった風に真っ向から向かっていく……無鉄砲だけど、あたしは好きだよ、そういうの!

 

「立ち止まっても、立ち尽くしても、その先がある!!」

「あたしは―――――取り戻す」

「キュアマーチ、キュアっとレスキュー!」

 

 残りは49人……みゆきちゃんやあたしのかけがえのない友達、そして、サーバー王国で出会ったみんな。

 みんなを助け出すまで、戦いは終わらない。あたしに出来ることは限られてるけど、応援するよ……!

 

 でも……アイツらは……ジャークウェブはまだ、本気を出してない……

 ここからが正念場だよ、メモリア……!

 

 『インストール@プリキュア』、キックオフ!

 

 ―――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

 遠足から3日ほどたった朝―――――

 

《りんく!り~ん~く!起きてっ。見て見て!》

 

 ん~…………目覚まし、ちょっと早くない?7時に起こしてって言ったよね、メモリア……

 うっすら目を開けて、部屋の時計を見ると、6時ちょっと前。1時間早い……

 

「…………。も~ちょっと寝させて~……」

 

 はい二度寝入りまーす。まだ朝寒いし、こんな時間から起きてられましぇ~ん……

 

《りーんーくーッ!起きてよーッ!!りーーんーーくーーー!!》

 

 どんなに大声出されても、人類は眠気には勝てないんですよねぇ……。

 メモリアはコミューンの中にいるわけだし、このまま―――

 

 ―――ごん!

 

()っ!?」

 

 カタいものが頭に打ちつけた。しかも1回だけでなく、2回、3回。

 見ると、ネットコミューンがひとりでに動いて、私の頭をガンガン叩いてる!?

 

《起~きろ~!声で起きないならガンガンしちゃうぞ~!!》

「もうガンガンしてるクセにっ……!!」

 

 いったいドコでそんな技を身に着けたんだか……というか……

 

「ネットコミューンを動かせるなんて聞いてないんですけど!?」

 

 驚きとともに跳ね起きると、コミューンが直立し、ディスプレイの中で、ちっちゃいメモリアが腕組みしてドヤ顔で立っていた。

 

《ふっふ~ん♪プリキュアは常に進化しているのです♪ふんす!》

 

 鼻息荒く自慢しちゃって。ますますおばあちゃんからもらったスマホがオカルトアイテム化していっちゃうんですけれど……

 私は眠い目をこすりながら、メモリアにたずねる。

 

「……まったく、こんなに早く起こして、何の用?」

《うふふっ♪じゃ~ん!見て見て!》

 

 コミューンがぴょ~んと跳びはねて、私の机の上に立った。そこには、私の愛用のタブレット端末が充電状態で置いてあるはずだけど……

 

「……え……!?えええええええええ!?!?!?」

 

 思わず、二度見した。そこに置いてあったはずの私のタブレット端末は―――既に存在していなかった。

 その代わりに置いてあったのは、全体がピンク色で、それっぽい装飾が施された、『財団B』が女の子向けに販売していそうな、それはそれはオモチャめいたタブレット端末でしたとさ―――

 

「こ……これって……」

《えへへっ♪キュアネットからいろいろ勉強してね、徹夜でがんばって、“つくりなおした”んだよ?名付けて、『キュアットタブ』!ねぇねぇ、どう?スゴいでしょ~!》

 

 つまりこれは―――メモリアがひと晩かけて、私のタブを改造しちゃったってこと……!?

 この子、どこまで賢くなっちゃうの……!?ってか、中身はともかく外側はどうやってイジッたんだろう……。

 

「さわってみて、いい?」

《もちろん!りんくのタブだもん♪》

 

 電源ボタンを押した瞬間―――一瞬でデスクトップが出てきた!?いくらなんでも起動速すぎ!!これがサーバー王国脅威のメカニズム……!?

 でも、デスクトップのメニューは、今までのタブとほとんど変わらない。……あ、でも、アプリが増えてる。

 

《ネットコミューンとキュアットタブを、ケーブルでつないでみて?》

 

 言われたとおりに、私はケーブルでコミューンとタブをつないだ。すると、コミューンのメモリアが消えて、タブの画面に瞬間移動してきた。転送速ッ!

 

《コミューンでできることのほとんどはタブでもできるようにしておいたし、それから、こんなのもつけたの!》

 

 メモリアが知らないアプリのアイコンを指し示すと、アプリが起動した。リストのようなものが表示されている。51の欄があるけれど、全部空欄だった。

 

【挿絵表示】

 

「これは?」

《今までに助けて、回収したキュアチップのリストだよ!スロットにチップを入れてみて!》

 

 私は机の上に置いていた、キュアロゼッタとキュアマーチ、2枚のキュアチップを、立て続けにタブのスロットに差し込んだ。

 

《ひだまりポカポカ!キュアロゼッタ♪!》

《勇気リンリン!直球勝負!!キュアマーチ!!》

 

 2人のプリキュアのキメ台詞がタブから流れた。画面の51の欄のうち、2つが色で染まって埋まった。すると……

 

【挿絵表示】

 

《あら?あらあらまぁまぁ……》

《う~ん……よく寝たぁ~……ここ、ドコ?》

 

 寝起きと思しきふたりのプリキュア―――ロゼッタとマーチが、キュアドール体型でタブの画面の中に現れた!

 ……にしてもマーチのキュアドール体型、コドモニナ~ルの回を思い出しちゃうなぁ……うふふ、かわいい❤

 

《ロゼッタ!マーチ!おはよう!》

《まぁ、メモリア♪おはようございます♪》

《スマホの中じゃないみたいだけど……ここは?》

《キュアットタブの、“プリキュアルーム”の中だよ!ちょっとセマいかもしれないけど、ここならみんな、サーバー王国にいた時と同じように暮らせるよ!》

 

 そっか、このタブは助けたプリキュアの『避難所』なんだ。でもフツー、カードのスロットって1枚しか入らないハズ。さっき、2枚入った。このタブのカードスロット、4次元か何かにつながってるとでも……??

 

「でも……どうしてこんな……?」

 

 こんな大掛かりな改造をタブにするには、それなりの理由があるハズって思って訊いてみた。メモリアは私が怒ってると思ったのか、ばつが悪そうに答えた。

 

《だって……みんな、プリキュアなんだもん。チップなんかじゃ、ないんだもん……チップになったままだったら、動けないし、しゃべれないし、笑ったりすることもできないんだよ?……だからせめて、『みんながみんなのまま』で、サーバー王国が元通りになるまで過ごせる場所があればいいなって、そう思って……》

「……メモリア……」

 

 私は思わず、タブの画面の中のメモリアの頭を、指でナデナデしてあげた。《ちょ、くすぐったいよりんく~♪》と、メモリアが笑う。あ、画面のタッチならOKなんだ。

 

「ぐっじょぶだよ♪……みんなのことを想って、みんなが暮らせる場所をこうしてつくってあげたんだから……私だって、動けなかったり、しゃべれなかったりするだけでも、イヤって思うもん」

《りんく……♪》

 

 この子はホント、プリキュアたちのことを尊敬して、自分なりに何ができるか、考えてるんだ……。プリキュアたちのためにタブを改造したのなら、怒るに怒れない。むしろ、ナイス!

 

《メモリアっ!》

《わぷ!?マーチぃ!?》

 

 マーチがメモリアにぎゅっと抱きついた!あら^~

 

《ほんと、よくデキた後輩だよ!ありがとう!これならみんなが戻ってきても、淋しくないよ!》

《うふふ♪みなさんをここにお招きするのが、楽しみですわ♪》

《えへへ……♪》

 

 あぁ^~~…………私のタブレット端末の中で、プリキュア同士がイチャイチャしている…………

 これって、夢ですか?夢なら一生、覚めなくてもいいや……❤❤

 キュアキュアのあまり………………プリキュアオタクの東堂りんく、昇天しちゃいそうです~~…………❤❤❤

 

 ―――――――――

 

 しかしここは天国ではない。いつまでも萌えシチュにウツツを抜かしてられない。

 時間が少し飛んで、この日の晩―――

 

 私とむぎぽん、そらりんは、川村さんから招待されて、この度リニューアルオープンするという、財団Bの博物館『Bミュージアム』へとやってきた。

 明日グランドオープンするその前に、私達3人だけを招待して……いったい何が目的なのやら。

 

「ワタクシの招待に応じていただき、感謝しますわ!“プリキュアトリオ”の皆さん!」

 

 これまた大仰な態度で、私達の前に姿を見せた川村さん。私服もいい感じにお嬢様してますねぇ……

 ってか、私達3人、“プリキュアトリオ”で確定?

 

「皆さんには、明日オープン予定のこのBミュージアム……その目玉である屋上プラネタリウムの試写会にお付き合いいただきますわ!」

「プラネタリウムって、天文台とかにあるあれやねぇ~」

「なんでまた、アタシたち3人だけを招待したワケ?」

「う゛ッ……それは……」

 

 考えてみれば、むぎぽんのツッコミは当然だ。どうせなら、クラスのみんなとか招待すればいいのに。

 

「あッ、貴女達のような“特定の趣味を持っている方”にも感動していただけるか、その検証でもありますのよ!おほほほほ……」

 

 下心が見え見えだ。それって口実なんでしょ?お嬢様。プリキュアトークに加わるための……

 

「さ、行きますわよ、ギャリソン!」

「かしこまりました、お嬢様。……皆様、こちらへ」

 

 川村さんのそばに、まるで影のように立つ男の子が、私達を奥へと案内してくれる。

 彼、ギャリソンくんは川村さん専属の執事さんらしい。私達と同じ14歳の中学2年生。黒髪のイケメンだ。

 もちろん本名ではない。川村さんが自らつけたコードネームだとか。川村さんのお家では、5歳になると執事やメイドがひとり、専属で配属されるという。それも、同年代の子が。このギャリソンくんも、川村さんが5歳のころから、身の回りの世話などを担当しているらしい。働き者だねぇ……

 

「おねーさま」

 

 少し歩くと、物陰から1人の女の子が姿を見せた。

 

「あら、貴女もいらしてたのね?来るなら来ると事前に連絡をお寄越しなさいな」

「“ぷいきゅあ”がすきなかたがたがくると、ぎゃりそんからききまして、とんできたですの。おはなしをしたくてきましたですの」

 

 その姿はまさに、川村さんのクローンそのもの。川村さんをそのまま幼稚園の年長さんくらいに縮小したくらいの、まるでお人形さんのような子だ。

 

「かわいい~!もしかして、川村さんの妹さんなん?」

 

 思わず笑顔になるそらりん。うんざりした顔を浮かべる川村さん。

 

「……さち。お客様にご挨拶なさい」

「はいですの、おねーさま。……おはつにおめにかかりますですの。かわむらさち、5さいですの。おねーさまが、いつもおせわになっておりますですの」

 

 くるりと回って、スカートの両端をつまんであいさつするさちちゃん。か、カワイすぎる……!!

 こりゃ、アニメにすれば相当人気出そうな感じがするなぁ……

 

「……つもるはなしは、どうちゅうでしますですの。……くいんしぃ」

「はい!」

「すまほをおもちなさいですの」

「かちこまりまちたので、おじょーたま!」

 

 と、物陰からはこれまたカワイイ、さちちゃんと同い年くらいの女の子が出てきた。とてとてと歩いて、さちちゃんにスマホを渡した。

 でも、その服装はギャリソンくんと同じ執事服。ちっちゃいながらも『男装の麗人』だ。

 

「……妹のクインシィです。この春から、さちお嬢様の専属執事に任じられました」

 

 ギャリソンくんが付け加えるように説明する。なるほど、妹さんか……にしては、あんまし似てないけど。

 疑問に思って、私は横で歩いているギャリソンくんに小声で訊ねた。

 

「ねえ、聞いてもいいかな?」

「どうぞ」

「普通、女の子ならメイドさんだよね?どーして執事さんに?」

「最初はメイドとしてさちお嬢様のお世話役となる予定でしたが……執事がしたいと駄々をこねましてね……仕方なく、このような結果に」

 

 なるほど……でも、執事とメイドって割と役割似てなくないかなぁ?クインシィちゃん、どうしてメイドじゃなくって執事がしたいって……?

 

「あなたがとーどーりんくさんですの?」

 

 私の足元から声がした。見ると、小さなお嬢様が私を見上げている。ジト目で。

 

「そ、そーだけど……なぁに?」

「おねーさまからおうかがいしましたですの。あなた、“ぷいきゅあ”におくわしいですの?」

 

 ぷいきゅあ……あぁ、プリキュアのことか。たぶん、間違って覚えちゃったんだろうなぁ……

 

「もっちろん!プリキュアのことなら何でもおまかせ、誇りあるプリキュアオタク、東堂りんくとは私でーす!」

 

 胸をたたいて、堂々と自己紹介。オタクであることを隠すなんてもう古い、オタクももっと前に出る時代なんですよ、お嬢様!

 しかしそれを聞いてか聞かずか、さちお嬢様はスマホを私に突き出していた。

 

「あの……これは?」

「めっせのあどれすをいれてほしいですの。あなたとは、“ぷいきゅあ”のことでもっとかたりあいたいですの」

 

 あぁ、この子、小さいながらにプリキュアファンなんだ。この間の川村さんは、プリキュアを『妹に付き合って見てる』って言った。つまりは妹さんは熱狂的ファンということか、なるほど……

 スマホの操作に慣れてないのか、この子は私にアドレス入力を要求した。あの、まだ5歳の子にスマホを持たせるのもどうかと思いますけど……

 川村家の教育方針にツッコんでも仕方ない。私はメッセのアドレスを入れて、返してあげた。

 

「かんしゃいたしますですの。……ふふふ、これでまた、“ぷいきゅあ”ますたーにちかづいたですの」

「おめでとーございますので、おじょーたま!」

 

 にっこりほほえむクインシィちゃん。この子もまた、オタク受けしそうだなぁ……

 

「……“ぷいきゅあ”のこんてんつをもっともっときょーかして、『ざいだんびー』をさらにおおきくするですの。ふっふっふ♪」

 

 ぞくり。な、なんか、5歳の女の子にしては凄まじく野心的な発言を聞いた気がするんですが……!?

 この子も幼いながら、財団B経営者一族のひとり……普通のファン以上の、何かを感じる……ニヤリと笑うその顔、5歳児とは思えない凶悪オーラを放ってるんですけど……!?

 

「積もる話はあとにしてくださいませ。着きましたわよ」

 

 物々しい扉をギャリソンくんが開くと、その中には―――

 高さ10mくらいの空間。その中心に、大きなプラネタリウムの映写機がそびえ立っていた。

 

「ふわぁ……」

 

 現実離れした空間。映画館に似てるけど、“匂い”からして、違う。

 そういえば小さいころ、家族でプラネタリウム見に行ったっけ。暗くなるのが怖かった記憶がある。今はそんなに怖くないけど、ね。

 私に小さい頃を思い出させてくれるこの空間に、私は懐かしさを感じていた。

 

 ―――――――――

 

 ……ENEMY PHASE

 

 ―――――――――

 

 飛んで火にいる夏の虫とはこういうことか。

 まさか、あの『人間の子供』がこの場に現れようとは……

 

「……俺はまだ、運に見放されていないようだな……丁度いい。このプラネタリウムの映写プログラム、利用させてもらう……!」

 

 俺はキュアチップを取り出し、映写プログラムとともにワルイネルギーを充填した。

 

「煌めく夜空の星々よ!この安穏なる世界を、脆く、無慈悲に、醜く変えろ!!バグッチャー、ユナイテーション!!!」

《バァァァグッチャ~~?》

 

 《P-40》のキュアチップ……このプログラムとの相性がいいようだ。

 これなら―――目的も達成できる。

 

 「人間の子供とプリキュアよ……絆が貴様たちの枷になるのだ。救いたければ、擲ち戦え……!!」

 

 ―――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

「……おかしいですわね」

 

 席に着いてから、もう5分くらい経つ。川村さんが席を立ったようだ。

 

「ギャリソン、どうなっておりますの?試写が始まらないじゃありませんの!?」

「そ、それがお嬢様……キュアネットに接続されている、映写機のプログラムに不具合が発生しておりまして……」

 

 あちゃー……ここでトラブル発生ですか……明日がオープンなのに大丈夫かなぁ……

 

「ちょっと見せて?」

 

 たまらず私は、映写機の制御パネルを見せてもらうことにした。ネットコミューンを取り出して、ケーブルでつないで、ネットチェッカーを起動すると……

 

「何コレ……!?」

 

 制御プログラムが―――まるまる無くなってる……!?これじゃ、動くものも動かない。

 

「ギャリソンくん、プログラムを最後にチェックしたのっていつ?」

「つい2時間ほど前です……その時には、何の異常も……」

 

 それじゃ、プログラムがなくなった原因って……

 いやな予感がした私は、コミューンのキュアネット可視化モードを起動した。

 このプラネタリウムのキュアネット空間、そこにいたのは―――!!

 

「!!アラシーザー!!」

 

 またあんたか!!とツッコみたかった。キントレスキーとガメッツのいいトコ取りみたいな鎧のオジサン!

 

《気付いたようだな、人間の子供よ!さぁ、プリキュアをこちらに寄越せ!そして戦え!!》

 

 コミューン越しに、私に向かって宣戦布告。でも―――

 

「何かあったんですの?」

 

 コミューンのディスプレイを、川村さんがのぞき込もうとしてきた。あわてて私はコミューンの画面を隠した。

 

「あ!そ、それがね!?ちょ~っとやっかいなコトになってるみたいで、直すのにも時間かかりそうで……」

 

 私のまわりには、むぎぽんにそらりん、川村さんにギャリソンくん、さちちゃんとクインシィちゃんもいる。

 こんなところで、みんなの前で、メモリアをキュアネットに送ることはできない……メモリアのこと、みんなにバレちゃう……!

 

《来ないというのなら―――――》

 

 アラシーザーの声がして、悪寒が背すじを這い登る。私は川村さんに見られないように、コミューンのディスプレイを見た。そこには―――

 

〈!!!CAUTION!!!:BUGUCCHER REALIZATION LIMIT:00:50〉

 

 見知らぬ警告表示があった。数字はどんどんカウントダウンしていく……!?

 

「…………!?」

《……このバグッチャーは覚醒からもうすぐ5分……この静かなる空間に潜めておいた甲斐があったというもの……!》

 

 ど、どうしよう……!?今からでもメモリアを送った方がいいの……!?でも…………!!

 切羽詰まった私の心は、決断力を鈍らせる。やがてそのカウントは―――

 

 ―――00:00―――

 

BE ON GUARD!!! BUGUCCHER REALIZE!!!

 

 警告音ののち、女の子の合成音声が、プラネタリウムの中に響いた。―――瞬間―――

 

 プラネタリウムの映写機の『下』から、黒光りする巨体が、椅子や映写機を吹っ飛ばしながら屹立した。

 その両の目が辺りを見渡し、私達に向けられ、そして―――

 

バァァァグチャァァァァァァ~~~!!!!!

 

 咆哮とともに、空気が震えて―――

 

 私達の『現実』が―――こわれた。

 

 ネットの中の怪物だったバグッチャーが…………私達の世界に―――

 『現実』に、姿を現した…………!!

 

「か、か、か!怪物~~~~~~~~~~~ッッッ!!!」

 

 むぎぽんの悲鳴がきっかけだった。せきを切ったように逃げ始めるみんな。

 一番近くにいた川村さんは一瞬で白目をむいて気絶してしまった。とっさにギャリソンくんが川村さんをかかえた。

 

「皆様、こちらへ!!」

 

 みんな、一目散に出入り口に飛び込んだ。最後は運動オンチの私……

 

『バグッチャァァァァァァ!?!?』

 

 振り返ると、バグッチャーの巨大な拳が私に向かって振りかぶられている!?

 ……この瞬間、私は一つの真理に辿り着いた気がした……

 

 アニメやマンガの実写化がコケる理由だ!!

 

 アニメやマンガのヴィジュアルは、アニメやマンガの中だからこそ許されてるのであって、こんな風に実写化しちゃったらいろいろと台無しになるッ!!所謂『コレジャナイ感』が倍増されるんだ〜〜〜!!

 

 ―――ドゴオオォオォォォォォォオォォン!!!!

 

 ―――なんてことを思いながら、私は右方向へと横っ飛びしていた。バグッチャーの鉄拳は、出入り口のドアをひしゃげさせてしまっていた。

 

「「りんく(ちゃん)!!!」」

 

 悲鳴めいたむぎぽんとそらりんの声が、ドアのすき間から洩れてくる。

 

『フン……やはり人間の子供、実体化したバグッチャーには無力だな』

 

 よろめきながら見上げると、アラシーザーがバグッチャーの肩に乗っている。アイツも実体化したの!?

 

『……まぁ、このような弱き者、後でどうとでも潰せる。まずは―――リアルワールドでのバグッチャーの稼働データを採取せねばな』

 

 稼働データ……!?何を言って……!?

 私が訊ねる間もなく、バグッチャーは反対側の壁を破壊して、外へと飛び出していった。外は―――市街地だ。

 

「…………!!」

 

 ほどなく、私の視界の外で、悲鳴と爆発音がこだまし、夜闇が赤く染まっていく光景が見えた。

 私は―――無力感と脱力感で、立ち上がれずにいた。

 私が……私が決断をしなかったから、みんなが……街が…………

 

「りんく!りんく!!」

「東堂さん!?ご無事ですの!?ご無事でしたらお返事をなさい!!」

 

 むぎぽんと川村さんの声が、ひしゃげたドアを隔てて聞こえる。

 

「私は…………大丈夫。でもごめん……ドアが開かなくって…………」

「わかっておりますわっ……!ギャリソン、すぐに救助隊の手配を―――そこでお待ちになっててください!助けを呼びますわ!」

 

 川村さん、手際がいいな。やっぱ、誰かの上に立つヒトって、判断力や決断力もすごいんだね……

 それにくらべて……私は……

 

「むぎぽんたちは、先に避難してて……ここに残ってても、あぶないから……」

「でも―――」

「―――行って!」

 

 強い口調で、私はみんなの避難を促した。

 

「絶対……絶対無事でいてぇな!助けは必ずくるからぁ!」

 

 遠ざかる足音と、そらりんの気遣いの言葉。みんなの気配が無くなって、私はネットコミューンを取り出した。

 

「…………………………メモリア…………私…………間違えちゃった…………そのせいで、みんなに迷惑かけて、街も…………どうしたらいいの!?」

 

 コミューンの中のメモリアも、無力感に歯噛みしていた。

 

《あたしも……何もできないあたしが情けないよ……!!ネットの中だったら戦えるのに……まさかバグッチャーがリアルワールドに出ていくなんて、思わなかったから……!!》

 

 そうだ。メモリアも、思いは同じなんだ。この、ネットと現実のカベを隔てていても、気持ちだけは通じ合ってる。

 リアルでは何もできない、私達の無力感―――このまま、街が壊されていくのを何もできないまま見ているだけなんて、出来ない……

 

《―――――――――ひとつだけ》

「……………………?」

《ひとつだけ、方法があるかもしれない》

 

 ぽつりとメモリアは呟いた。おそるおそる、私は訊ねた。

 

「……それって?」

《クイーンから聞いたことがある、あたし達、サーバー王国のプリキュアだけが使える最後の手段―――『マトリクスインストール』……それを使えば……》

 

 マトリクス……インストール?

 なんだかスゴそうな言葉の響き。だったら、それに賭けるしかない!

 

「それだよ!!ねぇ、どうすればいいの!?私は何すればいいの!?」

《それが…………あたしにもわかんないの》

 

 えぇ~~!?ここにきてそれはないよ!!やり方もきちんとクイーンから聞いといてよね……

 

《それに、クイーンは言ってた……これをすると、ユーザー……つまり、にんげんさんも危なくなるって……だから、よほどのことが無ければ使っちゃいけないって……一人前のプリキュアになったら、やり方を教えてあげるって……》

「今さらなによ!とっくに私、危険な目に遭ってるよ!それに、今が『よほどのこと』!今使わずにいつ使うの!?今でしょ!?……私、何もできないのはイヤ!メモリアだって、そうじゃないの!?」

《……!りんく…………!!》

 

 覚悟ならとうに決めてる。51人のプリキュア、全員を助け出すって決めた、あの日から。

 あなたと私、ふたりで戦い抜いて、プリキュアたちを助け出す―――そう、決めたよね―――

 その瞬間―――

 

〈USER:LINK TOUDOH〉

〈SYMPARATE:100%〉

 

《…………ぁ》

 

 メモリアの表情が、初めてユーザー契約したときの表情に変わった。焦点が定まってない、“あの目”が私を射抜く。

 そして、コミューンのディスプレイ、オペレーションアプリのアイコンの横に、握手をしている手のような、金色のアイコンが現れた。

 

《……たっぷしながら、となえて。『ぷりきゅあ・まとりくす・いんすとーる』……》

「メモリア……まさか……!?」

 

 これは、最後の手段。

 これを使って、何が起こるか、何が変わるかわからない。

 でも、この無力な現状を変えるために―――

 

 ―――私は、ためらわない!

 

 アイコンに指を乗せて、私は覚悟とともに叫んだ。

 

プリキュア!!マトリクスインストール!!!

 

 ―――一拍置いて、ネットコミューンの画面が光を噴いた。

 ピンク色の光を放出して、振動機能なんかでは説明がつかないほど、右に、左に、上に下にと、私を振り回す。

 

「え!?ええっ!?ちょっと!?きゃ~~?!」

 

 コミューンに引っ張られるように、私はプラネタリウムの中心に立った。すると、コミューンの動きが止まった。

 

「おさまった……?」

 

 と思ったのは一瞬だった。今度は私に向かって、コミューンが突っ込もうとしてる!!

 両手でコミューンを握りしめ、私は必死に抵抗する。いったい何をするつもりなの、メモリア~!?

 しかし筋力なんかゼロに等しい私の細腕で止められるはずもなく、コミューンは私の胸の真ん中に突っ込んできた。

 

「ぐふっ」

 

 痛い、と思ったのは一瞬だった。その時私が見たのは、とんでもない光景だった―――

 光を放つネットコミューンが、私の胸へとめり込んで入っていく……!?

 熱い、でも、痛くない。強烈な熱が私の意識を持って行って、ピンク色の光が私の視界を染めていった―――

 

CURE-MEMORIA! INSTALL TO LINK!!

 

 ―――――――――

 

 ……………………ん………………

 

 気がつくと私は、ふわふわと浮いていた。

 地面に足がつかない。

 見渡すと、巨大な光の球体が、私をすっぽりと包みこんでいた。煌めきを放つ気泡が、時折私の視界を下から上へとスライドしていく。

 水の中というか、お風呂の中というか……なんだろう、すっごくあったかくって、懐かしい感じがする。

 こんな表現、ヘンかもしれないけれど―――ママのおなかの中にいるみたい……

 

「なにがあったの…………私………………メモリア……!?」

 

 ふと前を見ると―――私と同じように、メモリアも空間に浮いている。…………って、

 

「メモリアが……こっちに出てきたの……!?」

 

 最後の手段、成功したみたい……!これなら、メモリアもこの世界で戦える!

 でも、私のこの状況……どうなってるの……?

 

『う……う~ん…………りんく?』

 

 メモリアも気が付いたようで、私を見てくる。

 

「やったよメモリア!これでメモリアも、こっちの世界で戦えるよ!」

『ほ、ホント!?……ってか何コレ?ふわふわしてうまくうごけないよ~……』

 

 ともかく、ここから出ないと何も始まらない。早くメモリアと外に出ないと……

 

『ぁ』

 

 その時、じたばたと焦っていたメモリアが、“あの表情”になった。一瞬脱力したと思うと、こちらを向いて、右の手のひらを私に向けてきた。

 

『……たっち』

「へ?」

『ぱーで、たっち』

 

 い、いきなり何を言うのこの子?タッチって……

 見ると、メモリアの右の手のひらに、『ハートの集積回路』が浮かび上がっている。そして、私に右手を伸ばしてくる。

 なんだかわからないけど……でも、『しなきゃいけない気がする』……

 私も、右手をメモリアへと伸ばした。そして、ふたりの右手が、そっと触れ合った。

 やわらかい、感触だった。想像通りの、あったかい手……

 

『……あれ?』

 

 メモリアの目がいつもの感じに戻った、その時―――

 メモリアの体が光を放ち、少しずつ光の粒子になって消えていき始めた……!?

 

「メモリア!?」

 

 ま、まさか、こんなコトってアリ!?私、また、何か間違えたの……!?

 メモリアが消えちゃう!恐怖が心をずきりと痛めてきた。でも―――

 

『……大丈夫みたい……あたし、全然痛くないし、なんだかとっても気持ちいいの……』

「え……?」

『見て』

 

 メモリアが目くばせしたのは、私の胸の真ん中だった。さっき、コミューンが突っ込んで、体の中へと入っていった場所に、コミューンの形に型抜きされた『光る穴』が空いていて、そこからメモリアが『分離した』光の粒子が、吸い込まれるように入っていくのが見える。

 

『あたし……りんくの中に入っていってる……』

「私の中って……ん……」

 

 とたん、私の体が強い熱を帯びてきた。

 痛くないし、熱さに不快感も感じない。

 あったかくて、優しくて、力強くて……

 そんな『メモリア』が、私の体に浸透していく―――

 

 信じられないけれど、わかる。私の体が、『別のナニカ』に、書き換わっていくのを―――

 

 人間でも、アプリアンでもない、新しい『ナニカ』へと―――

 

 細胞のひとかけら、DNAの一本一本―――『ふたりぶん』がやさしく解きほぐされて、ていねいに編み合わされて、『ひとりぶん』になっていく。

 

 やがて、メモリアの『すべて』が、私の中に吸い込まれると、残ったイーネドライブが反転して、私の『光る穴』にかちりとはめられた。

 瞬間、全身を覆っていたピンク色の光が消え、濃いピンク色のインナーに変わった。周りに漂っていたイーネルギーの粒子が体を包み込んで、膝上までのブーツに、肘まで覆うグローブに、全身を覆うスカートワンピースに変わる。

 すらりと伸びた髪の毛がまとめられて、整えられた。

 

 ―――――――――

 

 そして、『(あたし)』は―――プラネタリウムの中心に降り立った。

 

《INSTALL COMPLETE!!》

 

 『(あたし)』―――今、どうして、ここにいるの……?

 『(あたし)』は、東堂りんく?

 『(あたし)』は、キュアメモリア?

 

 たぶん、どちらも、ちがう。

 でも、ちがっていて、あってる。

 

 『(あたし)』は今、この世界にはじめて生まれた。りんくであって、メモリアであって、そのどちらでもない、別の、そして同一の、『ナニカ』―――

 『(あたし)』は、胸の中に漂うこの気持ちを確かめたくて、胸のイーネドライブをぎゅっと握った。

 

 『―――――――――!』

 

 メモリアが経験した辛い記憶。

 りんくが経験した苦い思い出。

 ふたりぶんの、りんくとメモリアの想いのシンクロ―――

 

 『(あたし)』は落涙していた。

 

 『そう―――『(あたし)』は―――』

 

 少しずつ、2人分の想いが、『(あたし)』の中に浸透していく。

 わかった―――『(あたし)』が生まれた意味。

 そして、『(あたし)』がやらなければならないこと―――

 『(あたし)』―――ううん、『私』と、『あたし』が―――!

 

 ―――この世界を、守ること―――!!

 

 この世界は、あらゆる『記憶』の積み重ねでできている。ヒトも、モノも、それらすべてが―――

 理由なくそれらが壊されることを、誰も望みはしない。

 『今』を生きる生命が失われることは、この世界は望んでいない。

 『心』のままに―――私は、世界を守るために戦う!

 

 私は―――この世界に、今生まれ変わった、私自身を解した。

 

 

記し、念じる、無限の未来!

 

キュアメモリアル!!

 

 

 この日―――私は、もう一度この世界に生を受けた。

 

 

 この世界に―――現実の世界にはじめてあらわれた、『プリキュア』として―――

 

 ……SAVE POINT




 ついに、この日が来ました。
 キュアメモリアル―――彼女こそ、この小説の『真の主人公プリキュア』です。

 この、『プリキュアがアニメでしかない』世界に、本当にプリキュアが現れ、物語は加速していきます―――

 ここから本当の、『メタフィクションプリキュア』が始まります……!
 それでは、また……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一心同体!ふたり“で”プリキュア!

 キャラクター紹介

 アラシーザー

 ジャークウェブ四天将のひとり。
 西洋風の甲冑を身にまとった、正々堂々の戦いを好む武人肌の男。
 『作戦』『小細工』を嫌い、常に己の力のみ信じて闘う。
 しかし、自身の信念を他人に押しつける面があり、相手の都合などお構いなし。相手が食事中だろうとなにをしていようと、勝負を挑んでくる傍迷惑なヒト。
 りんく曰く「『SS』のキントレスキーと『まほプリ』のガメッツを合わせたようなヤツ」。

 ―――――――――

 お待たせしました、激動の後半戦です!
 なんだか前回のラストで人間やめちゃったようなりんくですが……
 冒頭を読んで、まずは安心してください♪
 それでは、キュアキュアっと送信送信♪

 ……例によって文字数多いです。ダレたらスミマセン……


 ……NOW LORDING……

 

 ―――――――――

 

  EX PLAYER SELECT

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    ??????

    ??????

    ??????

 

 ―――――――――

 

『…………あれ?』

 

 意識がすっ飛んでいた。

 ……私、何してたの?

 たしか、“ママのおなかの中”みたいな光のタマゴの中で、メモリアとタッチしたあたりから記憶があいまいになっている。

 で、気がついたら廃屋同然になったプラネタリウムの中で突っ立っていた。立ったまま寝てたの?……そんなまさか。

 

『さっきの……夢、だったのかな……?』

 

 夢にしてはリアルすぎる。というか、いったいどこからが夢で、どこまでが現実で……

 そっと顔に手をやると、しずくがくっつく。泣いてたの?私……どうしてだろう……?

 

『あ~……なんか、スッキリしないなぁ……んっ、と……』

 

 頭がボーっとしてる。ちょっと気分転換でもしよう。私は右腕をゆっくりぐるぐる回して、右腕を振りかぶって―――

 

『ほっ!』

 

 パンチを打ってみた。長時間ネットをやったあとでよくやる私のクセだ。でも―――

 

―――ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!!!!

 

 私が放った右パンチから、衝撃波のようなモノが前方に発射され、壁に空いた穴から夜空に吸い込まれていった。それこそ、マンガ的というかアニメのような―――

 

『……(○ □ ○)』

 

 わ、私……今、何したの……?ただ気分転換にパンチ打っただけ、だよね……?

 なのに…………なんか出たぁーーー!?!?

 

『どう、なってるの……』

 

 何が起きたかわからず、私は、思わず自分の体を見下ろした。

 

『え……!?えっ!?えええ!?』

 

 私の服が変わってる!さっきまで着ていた普段着はどこへやら、私が着ていたのは、膝上まで覆うブーツ、肘まですっぽりと覆っているグローブ、そしてワンピースになったフリフリスカート!あと、ヤケにぴっちりしたインナースパッツ!!

 この服、さっきのパンチ、もしかして、私……!?!?

 

『私…………プリキュアになっちゃった~~!!!???』

 

 ウソ!?マジ!?ぶっちゃけありえない!?

 なんかスゴい!なんかヤバい!コスプレなんてレベルじゃない!!

 

 コスチュームをじっくり見て見ると、大まかな感じはメモリアとほとんど同じなんだけど、ディテールが細かく、ちょっとだけ豪華になってる。グローブやブーツ……というか全身に、LED電飾のようなラインが走っていて、そこがピンク色のほのかな光を放っている。おかげで私の周りだけ、暗闇の中でほんのりピンク色に光ってる。

 そして全身からは、同じくピンク色の、大小の光の粒子がふわふわと湧き上がっては、泡のように消えていく。これって、イーネルギー……なの、かな?

 グローブの両手の甲には、『電化製品の『電源』を示すマークがハート型になった意匠』のくぼみが空いていた。なんだか、意味深に。ここもLEDっぽく光っている。電源なんて、ドコにもないのに……。

 

 ネットコミューンを取り出して、自撮りをしてみた。その画像の中には―――私の知らない、私がいた。

 髪と瞳は、鮮やかなピンクに染まっていた。顔立ちも、いつもの私よりも、ちょっと違う。メモリアのイメージと重なって、ふだんの私よりもちょっとだけ幼く、でも、凛とした顔になっている。

 劇的な変化は何といってもヘアースタイル!ブロッサムっぽいんだけど、『テール』になっている部分が12本に枝分かれして、花火かヤシの葉みたいな『スゴイこと』になっていた。こんな髪形に出来るまで、私は髪を伸ばしたことはない。

 『テール』の根元は、巨大な真っ赤なリボンで結ばれていた。何かを象徴するような、巨大な『∞』のカタチに見える。

 

 全身、頭から足のつま先まで、私のすべてが『プリキュア』になっていた……!

 

 あぁ……もう最高……生まれてこの方14年、夢にまで見たこの瞬間をどんなに焦がれたことか……

 中学2年の始業式のあの日、はかなく散っていったハズの私の夢が―――Uターンして戻ってまいりました!!

 人生史上最大級のキュアっキュアが、私の心に120%チャージされちゃってます……!!!

 

《りんく!り~ん~く!!》

 

 メモリアの声がする。もしかして、これって―――

 

『メモリア!?メモリアだよね!?さっきのマトリクスインストールって、“コレ”のコトだったんだね!……っていうか……どこにいるの?』

 

 さっきのメモリアの声、ネットコミューンからの声じゃなかった―――

 頭の中というか、体の中というか―――

 

 “心の中”から、メモリアの声がする。

 

 そこで私は目を閉じて、私の『中』に意識を集中する。すると、ピンク色の光を放つボール状の空間の中に、メモリアの姿が見えた。

 でもこれはイメージ、概念みたいなモノだ。メモリアの『意識』が、メモリアの『カタチ』をして、わかりやすく私に見せてくれているに過ぎない。本当のメモリアは―――

 

《あたし……あたし、()()()()()()()()!》

 

 ようやくわかってきた―――今の私のこの体―――プリキュアとしての、この姿―――

 

『…………私も……()()()()()()()()()……』

 

 体中に、メモリアを感じる。あったかくて、やさしくて、力強い、『あの子』を―――

 

 そう、本当のメモリアは、『私自身』。この手、この足、この体が、“東堂りんくであって”、“キュアメモリアでもある”。

 

 人間の(りんく)と、アプリアンのメモリアが、ネットと現実の壁を越えて、融け合って、最初からひとりだったんじゃないかってくらいにひとつになったのが、今の『私』―――

 

  ―――『キュアメモリアル』なんだ―――

 

『メモリア―――』

 

 私は目を閉じたまま、胸のイーネドライブに両手をそっと当てて、私の中のメモリアに、私の想いを伝えた。

 

『私を、プリキュアにしてくれて、ありがとう―――』

 

 “そこ”にメモリアがいるわけじゃないけれど、こうすると、不思議とメモリアを感じられる。私とメモリアを『いっしょに』してくれた、メモリアと、クイーンがくれた奇跡に、ココロ一杯感謝した。

 

《りんく……あたしも……りんくの世界に連れてきてくれて、ありがとう!》

 

 『ありがとう』を伝えられるうれしさと、『ありがとう』を言ってもらえるうれしさ―――

 本当なら、『片方ずつ』しか感じられない感情が、ココロの中でふわりと触れあって、体中にあったかく広がる。こんな感覚、たぶん、この世界で今、初めて生まれた感覚だ。

 

 ―――これって、ココロもひとつになっているから、かな。

 

 フシギな感じ……。今の私って、“ふたり”、なんだよね。“ひとり”、なのに。

 ついさっきまで別のふたりだったのに、“ふたり分”が全部、私の中に入ってて、それを違和感なく受け容れている私がいる。

 

《……ねぇ、りんく》

『……うん』

 

 さて、哲学的な感慨に浸るのはここまで。私とメモリアが、『この姿』になった理由を忘れてはいない。

 街を見下ろすと、大きなガタイのバグッチャーが、そこかしこを壊して、暴れ回っている。だいぶ遠くまで行っているけれど、今の私には、まるでズーム機能のように細かく見える。

 

『今までと、逆だね』

《逆、って?》

『いつもはメモリアが戦って、私がアドバイス……でも、今日は私が戦って、メモリアがアドバイス、だよ』

《そっか―――……こわくない?》

 

 やさしいメモリアの声。メモリアも、最初に戦った時はこわかったのかな……?でも、私は首を横に振った。

 

『緊張はしてるけど……、なんでかな……こわくない』

 

 この時の私は、本当に恐怖を感じてなかった。

 私の中にいるメモリアと、メモリアが私にくれた『力』―――ほのかにピンク色の輝く電子の光が、私を照らしてくれていたから。

 

 私は、はるか遠くのバグッチャーを見据えて、前のめりに構えた。

 

『……行くよ、メモリア』

《OK、りんく》

 

 身も心も、私達は一つ。文字通り、一心同体!

 

『私達!』

《ふたり“で”!!》

 

『《プリキュアーーーーーーーーっっ!!!!!!》』

 

 景気づけのシャウトと同時に、私は蹴り出し、全力で跳んだ。ドン!!!という、まるで大砲のような音が“追ってきた”。

 眼下の街が、物凄い速さでスクロールしていく。

 

《りんく、跳び過ぎ~~!?!?!?》

『プリキュア第1話恒例の“跳びすぎジャンプ”!!プリキュアになったら、やろうって決めてたんだ!』

 

 ひとっとびで、もうすごい距離を跳んでる!っていうか、もう、“飛んでる”!!運動オンチだった私が、こんな超人ジャンプができるなんて!

 感動的過ぎる……!!あらためて、何度でもかみしめる……私、プリキュアになっちゃった……!!(2回目)

 

 見る間に、バグッチャーが眼下に見えた。と、そこに、逃げる人たちを背に、バグッチャーに向かってピストルを撃つおまわりさんの姿があった。それが効いている様子はなく、バグッチャーは平然としている。

 バグッチャーがおまわりさんに手を伸ばしていく。おまわりさんがピストルを取り落とした瞬間、私の心が固まった。

 

『……ダメっ……!』

 

 すると、『意志』がダイレクトに『行動』につながった。私はバグッチャーとおまわりさんの間に素早く着地すると、バグッチャーのパンチを真正面から受け止めた。

 

『大丈夫ですかっ!?』

「……き、君は……!?」

『コイツには普通の武器は通用しません!おまわりさんは避難してください!!』

「し、しかし……!」

『いいから早く!!……コイツは……私がッ!!』

 

 受け止めていたバグッチャーの腕をつかむと、人がいない方向に向かって、思い切り投げ飛ばした。5~6mはあろうかというバグッチャーの巨体が、大通りを20mほど吹っ飛んだ。

 ……こんなコトまで出来ちゃうんだ……私は内心、相当にビビっちゃってた。しかし、表情はきりっと引きしめたまま、おまわりさんに向き直って―――

 

『…………、なんとかしますから♪』

 

 ―――笑顔を見せた。腰を抜かしそうに後ずさりするおまわりさん。まぁ、こんなハリウッド映画とかでしか見たことない光景を、間近で見ちゃったらこうなるよね、普通……

 

「わ…………わかった…………気を付けるんだぞ!」

 

 こんな、『コスプレした女の子』を信用してくれてありがとうございます……心の中でおまわりさんに感謝して、私はバグッチャーに向き直った。その傍には、アラシーザーの姿もあった。

 

『その姿……キュアメモリアまでも実体化したというのか!?』

 

 私は勝気な顔を作って、アラシーザーを見据えた。

 

『メモリアだと思った?残念!』

 

 まぁ、定型句だよね。でも厳密にはメモリアでもあるんだけど、私。性格もちょっと、メモリアの影響が混ざってるみたい。

 あらためて自己紹介がてら、もう一度名乗りを上げた。

 

『記し、念じる、無限の未来!―――キュアメモリアル!!』

 

 今度は私の意志でポーズをキメる!いい感じにピシッ!とキマってくれた!見て見て、この指先、この表情!!私、最高にプリキュアしてる!!!

 ―――感激のあまり涙が出そうになっていたのは、ココだけのナイショってコトで……

 

「誰あれ!?」

「コスプレ?」

「さっきあのバケモン投げ飛ばしたよな、あの子!?」

「つーか、ネットのプリキュアに似てなくない?」

「そんなハズないだろ?プリキュアって、ネットかアニメじゃん」

「でもバケモン出てきたんだしなぁ―――」

 

 周りの人たちが私を見てざわつき始めるのが聞こえた。あぁ……みんな私を見てる……

 見て見て!とは思ったけれど、実際見られちゃうとテレますなぁ……あはは。

 

『キュアメモリアル、だと……その“闘氣”……!“あの人間の子供”か!?どんな手を使った!?』

『実際私も、よくわかんないけどね……でも、今日の私は強いよ?何しろ―――初登場補正入ってるから☆』

『訳のわからん御託を……バグッチャー!プリキュアの力を得たとはいえ、所詮はリアルワールドの非力な人間の子供!蹴散らすのだ!!』

『ヴァァァッ!!』

 

 大通りのど真ん中、バグッチャーが街灯をなぎ倒しながら突撃してきた。

 

『子供子供言うなぁっ!!』

 

 何よ、子供子供って!子供で何がイケないの!?プリキュアはみんな子供―――じゃないヒトも一部にゃいるか。フラワーとか。

 と、ともかく、バカにされて黙ってらんない!

 自然と、私は重心を低くして、すっと構えられた。メモリアの知識や経験も私の中にあるから、だと思う。

 私は真正面から右腕を振りかぶって―――

 

『はああぁぁぁぁッ!!!』

 

 パンチを放った。吸い込まれるように、右の拳がバグッチャーの胴体に突き刺さった。

 

―――ドン!!!!!!

 

 清々しいまでの重低音が鼓膜を震わす。バグッチャーの体、その向こうまで突き抜けるような―――

 

 ただ、ひたすらな―――“まっすぐ”、その体感―――……!!

 

 はじめてメモリアの戦いを見た時と重なって―――

 

 ―――私の中で、なにかが、はじける!

 

『グゥゥゥゥッ!?』

 

 うなり声を上げるバグッチャー。しかし私を睨み返したと思うと、すぐさま体勢を立て直した。コイツ、意外と柔軟……!?

 そして、頭頂部のプラネタリウム映写機を模った部分、その球体から無数の『☆』を上空へと撃ち出した。『星』じゃなく、『☆』、そのものだ。

 ほどなく私目掛けて、流星雨がピンポイントで降り注ぐ!

 

『!!』

 

 “避けなきゃ”―――そう思った瞬間、体が勝手に動いた。

 右に、左にと、見るより先にステップを踏んで、今度は連続でバック転!思わず私は悲鳴を上げていた。

 体勢を立て直したその背後に―――私は気配を感じた。反射的に振り向いたその時には、バグッチャーの拳が私を捉えた。

 

『っ!!』

 

 おなかに思いっきりいい一発をもらった。私の体が木っ端のように吹っ飛び、ビルの壁にたたきつけられた。

 

『……っは……ッ!!』

 

 息が詰まりそうになる。“痛っ苦しい”。でもそれは本当に一瞬。すぐに痛みが引いていく。というか、かすり傷ひとつ負ってない。

 

《りんく!》

『……、大丈夫ッ!』

 

 ふと、ビルの壁を振り返って見てみた。それこそ、マンガかアニメのようなクレーターがぽっかりと空いている。

 私、こんなの喰らってだいじょーぶだったんだ……フツーだったらフツーに死んでる、と思う。

 

《りんく、さっきの動きやあの技……》

『うん……もうわかってる』

 

 このバグッチャーにとらわれてるプリキュアは―――

 せーの、

 

『《キュアトゥインクル!》』

 

 ……だよね。星の力、それから一瞬でバックを取りに来る奇襲戦法。トゥインクル以外だったら誰なんだ、というレベル。

 

《『プリンセスプリキュア』のひとり……“星姫(ほしひめ)のトゥインクル”……》

 

 ずしん、ずしんと、ゆっくりと歩いてこちらに向かって来るバグッチャー。その姿には、トゥインクルの面影はまったくない。

 

『―――……きららちゃんが泣いてる』

《え……?》

 

 私には、見えた。あのバグッチャーの中で、トゥインクルが―――天ノ川きららちゃんが、泣いてる―――

 

 キュアトゥインクルは、プリキュアの中では誰よりもおしゃれにうるさくて、常に自分の夢のために、『おしゃれ』を極めるために頑張っていた子。

 なのに、こんなブッッッッサイクなバグッチャーにされて、きっと泣いてるにちがいない。

 

『絶対に助ける……!トゥインクルのためにも……!』

 

 その私の決意が、一つのアイデアを捻り出した。

 

『ねぇメモリア……キュアチップ、使えるよね』

《え?……うん、大丈夫だよ!それに、キュアットタブに入ってくれたプリキュアなら、コミューンに―――》

 

 私は、左手をすっと前に出した。

 

《りんく……?》

 

 なぜだかわからないけれど、この時、私の頭の中に“コトバ”が流れていく。そしてそれを、考える間もなく口に出していた。

 

『                    』

 

 無言じゃない。物凄い早口で、プログラム言語……なんだろうか、そんなコトバを私は“勝手に”喋っていた。

 そして―――左手の甲にある『くぼみ』のような部分が、光を放った。

 

『“キュアットサモナー”―――スタート、アップ』

 

 瞬間、『その部分』の上に浮き上がるように、オレンジ色のキュアチップが出現した。

 

《りんく……すごい!》

 

 私も正直、どうしてこんなことができたのかわからない。私はただ、頭の中に流れてきた言葉を、『その通り』に喋っただけ。ほとんど何もしてない。

 メモリアが驚いてるけれど……メモリアも知らなかったのかな、コレって……

 ともかく、これなら戦っている時でも、キュアットタブに入っているチップを手元に呼び出せる。たくさんのキュアチップをわざわざ持ち歩く必要もないというわけだ。

 

『ロゼッタウォールで……いなして戦う!』

 

 私はネットコミューンを取り出し、スロットにチップを差し込んだ。

 

キュアチップ、『キュアロゼッタ』!キュアット、イイィィィン!!

 

《ひだまりポカポカ!キュアロゼッタ♪!》

 

《START UP! “LEGEND INSTALL”!!》

 

 聞き慣れない合成音声がコミューンから響いた、次の瞬間―――

 

―――ぱちん!

 

『……え』

 

 ぱちんというか、ぽわんという感じの音が響いて―――

 コスチュームが、イーネドライブとインナーを残して、消えた!?

 

『ひ……ひやあぁぁぁぁぁ!?』

 

 ど、どうなってるのコレ!?めっちゃハズカシい!!

 私、ただロゼッタの技を使おうと思っただけなのに!?

 

『丸腰か……舐めるな!!』

 

 アラシーザーが頭に血をのぼらせて言ってくる。ナメてない!ってかナメたくないです!!私だって好きで丸腰になったわけじゃな~い!!

 チャンスと見たのか、バグッチャーがパンチを振り下ろしてくた―――その時―――

 

《CURE-ROSETTA! INSTALL TO MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!》

 

 私は相手の力を利用して、流れるようにパンチをいなし、後ろへと投げ飛ばした。土煙を上げてたたき落ちるバグッチャー。

 ……今の動きって……

 思ったと同時に、頭の中に言葉が走る―――そっか―――

 私はバグッチャーに振り返った。

 

―――キュアメモリアル、“ロゼッタスタイル”!!ですわ♪

 

 そう、私はロゼッタを思わせるコスチューム姿へと変身していた。

 ロゼッタとは違うけど、見ただけでロゼッタとわかる、絶妙なデザインのコスチュームだ。

 

『…………って、何コレ!?』

 

 さっきから私、『私自身』に振り回されまくってる。いきなり新能力覚醒させちゃうし、本当に初登場補正かかっちゃってるよ、コレ!?

 すぐそばの鏡張りのビルの窓に、私を映してみる。わ!髪形がロゼッタと同じ形になって、ピンクの中にオレンジのメッシュが入ってる!それに、右目だけがオレンジ色に染まってる。おお!これってマンガやアニメでよく見る、左右の目の色が違う『オッドアイ』だ!

 プリキュアのフォームチェンジはいろいろあるけど、ここまで変わるのはそうそうないと思う……!!

 

《……まさかこんなにも早く、『マトリクスインストール』を発現させるとは……おふたりはこの短い間で、そこまで愛を育んでいらしたのですね♪》

 

 ……あれ、この声って!?

 私は心の中に意識を集中する。すると、メモリアの『部屋』の横に、もうひとつ、黄金色に輝く『部屋』が増えていた。そこに―――

 

《ごきげんよう♪りんくさん、メモリア♪》

 

 やっぱり、キュアロゼッタがいる!どうして……!?

 

《これこそ、マトリクスインストールに到達することの出来た、ユーザーとプリキュアのみが使えるキュアチップの極意、『レジェンドインストール』ですわ。力や技のみならず、ワタシたちの“意志”もお貸しすることが出来るのですわ♪》

 

 そ、それって最強じゃん……!?キュアチップを使えば、そのプリキュアになりきって、しかもそのプリキュアのアドバイスまで受けられるって……!?

 まさに鬼に金棒、虎に翼!!感動的過ぎて泣きたくなってくるくらい……!!

 

《涙を流すのは、トゥインクルを助け出した後にしませんか、りんくさん?》

『そ、そだね……』

 

 でも、考えてるコトも全部ツツ抜けになっちゃうのはいただけないケド……

 んじゃ、あらためまして―――

 私は“トゥインクルバグッチャー”を見上げて、両手で『クラブ』の形を模った。

 

『世界を制するのは愛だけです。さぁ、アナタも“私たち”と愛を育んでくださいな♪』

 

 ……本物の悪役相手に、プリキュアの口上をキメられる。こんなにうれしいことはない…………

 あれ?でもちょっと口上が違った。そっか、今『私』は“3人”なんだ。だから私“たち”、になってるんだね……

 

《ッテユーーーカーーー!!!???》

 

 しかしながらバグッチャーは聞いてか聞かずか、大量の『☆』型弾丸をばら撒いた。それなら―――

 

カッチカチの、ロゼッタウォール!!

 

 私は両手にロゼッタウォールを作り出し、流星群を次々に防御して、受け流した。

 右!下!上!お次は左、斜め右上、頭の真上!!なんだか上からが多い。あの映写機型のアタマから、『上』に向かって撃ち出してるから?それとも『星は空から降ってくる』から?

 そして今度は頭を直接こちらに向けてきた。雨なんか生ぬるい、直接撃ち込んでやる、ってこと!?

 

『……出るかな……―――』

 

 基本的な技は出来た。それなら―――

 ちょっとだけ不安だったけど、私は天に右手を掲げ、叫んだ。

 

ラブハートアロー!!!

 

 すると、黄金色の光が中空に集中して、ピンク色のハート型のツールが私の手に渡った。

 ……大成功!!しかもこのラブハートアロー、ラビーズセット済み!

 中心のレールに指を走らせると、音色が響く。

 

プリキュア!ロゼッタリフレクションっ!!

 

 ラブハートアローで大きな円を描いて、巨大なクローバー型バリアを展開した。ここでバグッチャーが流星群を発射したけど、リフレクションがすべてを弾き返していく。

 

『さっすが……!!』

《防戦一方では後手に回りますわ。隙を見て、攻めましょう》

『もっちろん!いい手があるよ♪』

《……?》

 

 ロゼッタのアドバイスに従って、相手の流星雨が止んだ瞬間、私はリフレクションを天に掲げ―――

 

『てぃぃぃぃゃあっ!!』

 

 ―――バグッチャーへとブン投げる!

 高速回転したリフレクションが縦方向に命中して、まるで回転ノコギリのようにバグッチャーの体表を抉る。

 

『ギュウウゥゥゥゥゥゥゥ!?!?!?』

 

 上へと吹っ飛んでいくリフレクションを、私はジャンプしてキャッチする。そして―――

 

 ―――半分に、割る!!

 

《まぁ……!》

 

 驚くロゼッタだけど、この技の元祖って、ロゼッタだよ?私はあくまでマネしてるだけだもん。

 そして、大きく体を反って振りかぶり、両の手に持った半分ずつのリフレクションを、力いっぱい振り下ろした!

 

『キィィラァァァァ!?!?!?』

 

 大通りを、今まで進んできたのと逆方向にバグッチャーは吹っ飛んだ。

 

《今のは……りんくさん……!?》

『ドキプリの33話、だよ♪』

《さんじゅうさん……わ?》

『あ、そっか、わかんないよね……みんながありすちゃんのおうちでパジャマパーティーした時の戦いで、ヘリコプタージコチューにやった技。出来栄え、どうかな?』

 

 私にとって、いちばん『ロゼッタの強さを見せてくれた』のが、33話。その時にした技を再現して、私は戦ってみた。

 

《素晴らしいですわ♪》

 

 にっこりと笑うロゼッタが、心の中に見えた。コレで本人公認!感激です!ありがとうございます!!

 

『キラキラホシヨ~~~!!!』

 

 と、体勢を立て直したバグッチャーが、巨大な『☆』を2つ作り出し、高速回転させて発射してきた!まさか、さっきの技をパクられたってこと!?

 切断系の攻撃に、バリアは相性が悪い!ここは『防ぐ』んじゃなくって、『避ける』!!

 

『代わるよ、ロゼッタ!』

 

 ロゼッタにひとこと言ってから、私は手の甲のキュアットサモナーから、緑色のキュアチップを召喚して、コミューンに差し込んだ。

 

キュアチップ、『キュアマーチ』!キュアット、インッ!!

 

《勇気リンリン!直球勝負!!キュアマーチ!!》

 

 コスチュームが一度、インナーを残して黄色い粒子になって消えてから、緑色のイーネルギーが私を包み込む。そして―――

 

《CURE-MARCH! INSTALL TO MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!》

 

 新たなコスチュームの姿に変身し、髪形も変わって、“風”が吹き荒れる。

 

 

キュアメモリアル、“マーチスタイル”だよ!!

 

 

 今度はキュアマーチ!をを!もふもふヘアーだぁ~❤ボリュームたっぷり、触り心地もいい感じ……❤

 

《お待たせ!》

 

 ロゼッタさんがログアウトして、マーチさんがログインしました!

 

《攻撃の動きをよく見て躱して!あとは……わかるね?》

『もちろん!!』

 

 勝気に返事をして、私はうなりを上げる☆型カッターを、右に左にと回避する。最後はジャンプで避けたけど、その先にまたカッターが来た!

 

『……大丈夫!』

 

 私は自分に言い聞かせるように呟いて、体から力を抜いた。すると、横に、上に、下にと、空中で自然と『風』が私を運んでくれて、カッターは空を斬っていく。

 『風』のプリキュアであるマーチの力は、『風を読める』ということ。相手の攻撃の流れは、自然の空気と、風が教えてくれる―――

 

《りんく、今度は後ろ!》

 

 マーチの声が響いた瞬間、私はふり向いた。後ろから、縦回転しながら星型カッターが迫る。そして、目の前にはビルが!

 

『!……よぉぉし!!』

 

 今の私はキュアマーチ、そしてビルの壁―――やることは一つだけ!!

 

『だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 キュアマーチ名物、ビル壁走り!本当に私がやることになるとは思わなかったけど!!

 私はそのままビルの壁を最上階まで登って、カッターを振り切った。蹴り出して、空中に跳んだ私は―――

 

『気・合・い・だあぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

 思い切り、全身にパワーをチャージする。そして、風の力を一点に凝縮して放つのは―――!!

 

プリキュア!!マーチシュート!!!

 

オーバーヘッド、バージョンだあぁぁぁ!!!!

 

 地上にいるバグッチャー目掛けて、私は風のボールをオーバーヘッドキックで蹴り下ろした。

 風のボールは一直線に、バグッチャーへと命中、大爆発した。

 

『見たかぁぁぁ!!』

 

 ただマネするだけなんて芸が無い!!公式でやってない技の使い方だって、無限大に存在するんだ!!

 ……マーチの影響か、私はかなりハイになってました。

 

《これはビックリ……》

 

 なんか、本人様は苦笑いしてました……調子に乗ってごめんなさい……

 着地して、元の姿に戻った私。バグッチャーは目を回していた。

 

『……トゥインクル……』

 

 私は、バグッチャーの中に閉じ込められている、トゥインクルに語りかける。

 

『まっすぐな心を曲げられて……どこにでもゆける自由を奪われて……つらいよね……両手の大事な夢のためにがんばってたあなたのこと、私、本当に大好きだよ』

 

 本心から、私は『プリキュアを愛する者』として、『美しさ』を追い求めていたトゥインクルをこんな姿に変えてしまったジャークウェブを、私は許さない。

 そして―――あるべき姿を奪われた彼女に、もう一度輝きを取り戻したい……!

 

『きららちゃんらしく、“魅せて、輝ける”ように―――――私はあなたを“超えて、取り戻す”!!』

 

 決意の瞬間、私の全身の―――両肘、両の腰、両膝にある金属的な部分がジャキッ!と開いて、物凄い勢いでピンク色のイーネルギーを放出し始めた。

 

CURE-MEMORIAL!! FULL DRIVE!!!

 

 女の子の合成音声が鳴り響き、イーネルギーが一点に凝縮されて、ステッキのような得物に変化した。

 これって、キメ技用の武器だ!私は思わず手に取って、宣言した。

 

タッピンスティック!!

 

 頭の中にアイテムの名前が浮かぶ。そして、スティックの中心にあった丸いコアユニットを、先端へとスライドさせて―――

 

メモリアルロッド!!

 

 ……の完成だ。私はロッドをくるくると振り回し、両手で握って、バグッチャーへと向けた。

 

『電子のヒカリよ、闇にとらわれし“煌き”を、取り戻して!!』

 

 呪文のように言葉を唱えると、イーネルギーがロッドの先端へと集中し、ピンク色の輝きがあたりを照らしていく。そして―――

 

プリキュア!!メモリアル……!!

 

フラァァァァァァァッシュ!!!!

 

 全力の叫びとともに、イーネルギーの奔流がロッドから放たれた。私はロッドを握りしめ、バグッチャーを見据える。

 無抵抗のバグッチャーは間もなくイーネルギーの輝きに呑み込まれ、そして―――

 

『デリィィィィトォォォォォ……………………―――――』

 

 いつもの爆発ではなく、まるで空へと吸い込まれていくように、蒸発して消えていった。

 

『ちッ……カイザランチュラ様に報告するべきか……!キュアメモリアル……人間とプリキュア、か……!!』

 

 アラシーザーは、闇色の光に自分を包んで、その場から消え去った。また、キュアネットの中に戻ったのかな……

 

 バグッチャーとその指揮官の消滅で、一瞬の静寂がその場を支配した。そして―――

 

 大歓声が大通りで沸いた。

 

「よっしゃああーーー!!」

「ママ!プリキュアが勝ったよ~!プリキュアが、あたしたちを守ってくれたよ~!」

「ホンモノだ……!プリキュアって、アニメじゃなかったんだ!!」

「プーリキュア!プーリキュア!!」

 

 プリキュアコールが始まって、なんだか照れくさくなる。ってか、いつまでもここにいると、なんかヤバい感じ……!

 私は辺りを見回して―――お、あった!黄色いキュアチップ!

 私はキュアチップを拾い上げると、ビルの屋上にひとっ跳びして、どうにか人気の少ない所へと、すたこらさっさととんずらした。

 

 私―――なんかとんでもないコトしちゃったのかな……?

 

 ―――――――――

 

 ようやく人気のない公園を見つけて、私は着地した。

 

 『はぁ……はぁ……はぁ……』

 

 これって、なんで息切れしてるんだろう……っていうか、体全体が熱い―――

 そう思った、その時。

 

―――じゃきっ!ぷしゅーーーーーーーーっっっ!!!!!!!

 

 さっき、イーネルギーを放出していた6か所の金属的なところが開いて、まっしろな蒸気が噴き出し、私は私自身が噴き出した蒸気にむせた。

 

『ごほ、ごほっ……なに、コレ……!?』

 

 なんかコレ、プリキュアというよりもロボットっぽい気がしない!?

 でも、さっきからなんだかラクになった。体の熱さもなくなって、普通の感じに戻ってる。

 

《キメ技を使ったから、オーバーヒートするのを防ぐために、全身の“アラ熱”を取ったんだね》

 

 え!?オーバーヒート!?私ってオーバーヒートしちゃうの!?……なんかそれヤバくない……!?

 というか、普通のプリキュアはオーバーヒートなんてしないと思うんですけど……

 

《見て!トゥインクルが……》

 

 と、さっき取り戻したトゥインクルのキュアチップが、黄色のイーネルギーを放って、その中に幻影のようにが浮かんだのは―――

 

《トゥインクルだ!》

『天ノ川きららちゃん!……よかったぁ……』

 

 キュアトゥインクルが、アニメそのままの姿で出てきてくれた。

 

『あ~……ようやく出られたぁ……ありがと、メモリア♪……あれ?なんかちょっといつものメモリアと違くない?』

『……はじめまして、かな。メモリアのユーザーになった、東堂りんく!プリキュアの大ファンです!プリキュアとしての名前はキュアメモリアル!よろしくね!』

 

 この場で握手できないのがヒジョーに惜しい。心の中で歯噛みした。……あ、メモリアに筒抜けだ。あとでからかわれるかも……

 

『その姿……もうマトリクスインストールが出来るようになったんだ……ふぅん……カワイイじゃん♪』

『え!?ホント!?カワイイ!?』

 

 プリキュア界のオシャレのプロ、キュアトゥインクルにカワイイって言ってもらえるなんて……

 私の、このプリキュア姿に、私は自信が持てた気がした。

 

『正直、助かったよ。あんな姿、もう二度とヤだもん。……ジャークウェブと戦うなら、キラキラの星の力も使ってね、“りんりん”!』

『!りんっ―――――』

 

 きららちゃんにニックネームで呼んでもらえた……!!これって、ホントーに夢じゃないよね!?

 

『あ……それと、伝えなきゃなんないことがあるの!』

 

 トゥインクルは、視線を正して言った。

 

『もし、早くプログラムクイーンを助けたいなら、アタシたち『プリンセスプリキュア』を全員助け出して!アイツら、サーバー王国の入り口の封印に、『鍵』を司ってるアタシたちのデータを使ったみたいなんだよね。だから、お願いね!』

 

 これは重要な情報だ。そうか、『姫プリ』のキーアイテムは、文字通り、形通りの『ドレスアップキー』だ。だからこそ、『封印』に姫プリの力を使ったのかな……

 キュアトゥインクルが消えて、キュアチップのみが残された。私はチップを掲げて、力強く勝利宣言をした。

 

『キュアトゥインクル、キュアっとレスキュー!!』

《いぇ~い♪》

 

 これで、3人目。残りは、48人。まだまだ道は遠いけど、今日はなんだか、自信が持てた気がする。

 こうして私も、プリキュアになれたんだから―――

 と、その時、私の体が光を放った。

 

『あ……』

 

 ぱちん!という音ともに、私は、『私』に―――東堂りんくの姿に戻った。

 

「戻っちゃった……」

 

 というか、戻れた、と言うべきなのかな。さすがにあのまま、メモリアルから戻れないとかだったらシャレになんないもん……

 そして今度は、コミューンから1枚のチップが排出されてきた。なんだろうと思って見てみると―――

 

《@01 CURE-MEMORIAL》

 

「これって……私のキュアチップ……?」

《みたいだね♪》

 

 笑顔のメモリアが、私を見上げてくる。

 

《次から変身する時は、これを使ってするみたいだよ?》

「ふぅん……―――――」

 

 私はここにいるのに、キュアチップだけがここにあるのって、不思議な感じがする。

 それにキュアチップって、元々はジャークウェブが作ったモノ、じゃなかったっけ……?

 

 キュアチップって―――いったいなんなんだろう―――

 

 ―――――――――

 

 今日は人生で忘れられない日になった。

 

 私が、プリキュアになった日。

 

 でも、私がプリキュアになったことで―――

 

 それまで『アニメ』の中だけの存在だったプリキュアが、現実にあらわれたことで――― 

 

 世界の、あらゆるモノが、少しずつ動き出していた。

 

 それを私は知る由もなく―――――

 

 そしてそれが、私の前に現れるなんてことも―――――

 

 これっぽっちも思ってなかった。

 

 

 この日、世界は知ってしまった。

 

 『フィクションなんてのは、この世には無い』ことを―――

 

 ―――STAGE CLEAR!!

 

 RESULT:CURE CHIP No.40『CURE-TWINKLE』

     CURE CHIP No.@01『CURE-MEMORIAL』

 プリキュア全員救出まで:あと48人

 

【挿絵表示】

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 !!!WARNING!!!

 NEXT INTERCEPT IS LEADER PRECURE!!!

 

 『キラキラ輝く、未来の光!』

 

 『5つの光が導く未来! 輝け! スマイルプリキュア!!』




―――りんくの『今回のプリキュア!』

りんく「今回のプリキュアはだ~れだ?』

『きらめく星のプリンセス!キュアトゥインクル!』

メモリア「『プリンセスプリキュア』のひとり、“星姫(ほしひめ)のトゥインクル”!属性はきらきらの『星』!」

りんく「世界を目指す大人気モデル、天ノ川きららちゃんが変身した、『星のプリンセス』!」

メモリア「そんなトゥインクルのキメ技は、コレ!」

『キラキラ、星よ!プリキュア!トゥインクルハミング!!』

メモリア「星の力で浄化する、トゥインクルハミング!キラキラしてて、とってもキレイ!」

りんく「ここだけの話、同じようにオシャレにうるさかったキュアマリンとトゥインクル、サーバー王国ではどんな感じだったの?」

メモリア「ケンカしてるように見えるけど、実は仲良し、ってカンジかなぁ?肝心なトコだと息が合うっていうか」

りんく「なんか、意外な感じ……それじゃ!」

りんく・メモリア「「ばいば~い!」」

次回予告

りんく「苦節14年……ついに私もプリキュアデビューしちゃいました!!」

メモリア「おめでと~」

りんく「世の中はまさにプリキュアフィーバー!ニュースもネットも大賑わい!」

メモリア「でもでも、何か忘れてない?」

りんく「そーいえばそんな感じするなぁ……でも今はこのキュアキュアに浸っていたいのですぅ……」

メモリア「ダメだこりゃ。大変なの、ココからだよ……?」

インストール@プリキュア!『もうひとりのプリキュア登場!その名は@キュアデータ!』

りんく「私と!」
メモリア「あたしは!」

メモリアル『《ふたり“で”プリキュア!!》』

 ―――――――――

 このキュアメモリアルこそ、『ふたりはプリキュア』という言葉を『別の意味で』体現した姿、です!
 1+1=∞とはいきませんが、0.5+0.5=1、といった感じでしょうか。

 そしてレジェンドインストール!もう元ネタはお分かりですよね。
 本小説を『プリキュア版ディケイド』たらしめる最大の要因だと思っております。

 さて、次回からはもうひとりのプリキュア、キュアデータに迫っていくストーリーなんですが、なにやら本文ラストに不穏な警告メッセージが……

 初めての『リーダープリキュア』との遭遇となります……!!

 それではまた!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キュアデータ編 第5話  もうひとりのプリキュア登場!その名は@キュアデータ!
ヒロインの現実


 キャラクター紹介

 川村 ゆめ

 中学2年生。りんくのクラスメート。
 プリキュアなどの玩具を手掛ける大手メーカー『財団B』を一代で築き上げ、『玩具王』とも呼ばれる財団B会長・万代何晏(ばんだいかあん)の孫娘。
 絵に描いたようなお嬢様で、髪形は当然のように縦ロール。常に優雅なふるまいを心掛けているが、突発的事態には取り乱すことも。
 アニメ嫌いを公言しているが、実は隠れプリキュアファン。本当はりんくたち3人組の会話に加わりたいのだが、自身の立場やキャライメージなどの体面を重視するあまり、素直になれないツンデレさん。
 それ故にプリキュアをバカにするような発言を繰り返しているが、殆どのヒトには魂胆モロバレ。しかし自身は『カンペキに隠し通せている』と思っている。
 金にモノを言わせた財力を使っての行動力は抜群で、クラスや学校全体を巻きこんだ一大イベントを催すこともあるが、そのほとんどはプリキュアトークに加わりたいが故の、お金と労力と時間をかけたチャンスメイクである。
 常に同年代の執事・ギャリソンを従えて行動する。
 
 ギャリソン

 中学2年生。ゆめの執事を務める少年。
 ゆめが5歳の時から彼女に仕え、ゆめの身の回りの世話はもちろん、スケジュール管理などの秘書的な仕事も完璧にこなしており、14歳にして執事として完成されている驚愕すべき少年である。
 また、料理の腕前はプロ級であり、財団B会長・万代何晏も絶賛したほど。週に何度かは、川村家で腕を揮っている。
 川村家の教育方針から、ふだんはゆめとは別の隣町の中学校に通っている。各種格闘技・スポーツにも精通し、部活動に助っ人として参加していることもある。
 なお、ギャリソンとはゆめが付けた執事としてのコードネームであり、本名は『時田 はじめ』。
 ゆめに付けられた『ギャリソン』の名を魂の名として刻んでおり、本名で呼ばれると反射的に『ギャリソンとお呼びください』と返すほど。
 まさにマンガから出てきたような執事的性格で、老若男女問わず、丁寧な物腰で接する。

 ―――――――――

 まほプリ、終わっちゃいましたね……
 しかしオールスターキャスト&キュアホイップ先行登場など、最近の平成ライダー最終回さながらの超豪華な最終回で、おなか一杯になりました!

 来週からはさらにあま~く、プリアラを楽しみたいと思います!

 さて今回からは、もうひとりのプリキュア、キュアデータに迫るストーリーとなります。
 プリキュアとなったりんくを、アニメではない『現実』が容赦なく苛みます……

 鬱的描写がありますので、耐性の無い方はご注意ください……


 きらめく星のプリンセス!

 っていうワケで、今回の当番はアタシ、キュアトゥインクルだよ!

 

 りんりんとメモリア、マトリクスインストールまでモノにしちゃうなんて、ホントスゴいよ!

 

 《あたし、りんくになってる!》

 『私も……メモリアになってる……』

 『メモリア―――――』

 《りんく―――――》

 『私をプリキュアにしてくれて―――――』

 《あたしをこの世界に連れてきてくれて―――――》

 

 『《ありがとう―――――》』

 

 でもね、まだアタシを含めて3人しか取り戻せてないこと、忘れないでよね?

 はるはるやみんなを早く助けてくれないと、アタシだって困るし……

 

 それに、サーバー王国の封印だって―――――

 

 『早くプログラムクイーンを助けたいなら、アタシたち『プリンセスプリキュア』を全員助け出して!アイツら、サーバー王国の入り口の封印に、『鍵』を司ってるアタシたちのデータを使ったみたい……』 

 

 力を悪用されちゃったアタシにも責任がある……だからアタシ、全力でふたりに力を貸してあげる……!

 だから、がんばってよね?こんな最初の方でつまづいちゃうなんて、ナシだからね?

 

 それじゃ……『インストール@プリキュア!』、オンステージ!

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 家に帰った私のコミューンには、それはもうすごい数のメッセが着信していた。

 特にむぎぽんとそらりん、川村さん姉妹からのメッセは100を超えていた。そういえばあの時、助けを待つって言っといて、結局はキュアメモリアルに変身してプラネタリウムから自力で脱出しちゃったわけだし、助けに来てくれたレスキュー隊員さんとかにも迷惑かかっちゃったかな……

 そう思った私は、4人にこんな趣旨のメッセを返した。

 

 <スゴいよ!まさかホントーにプリキュアがいるなんて!ってか私、そのプリキュアに助けてもらっちゃったの!ホンットマジヤバい!サインとかもらっとけばよかったぁ~!あ、そういうワケで私は無事だから、みんな安心して!それじゃみんな、おやすみ~!

 

 ……―――――全部ウソですごめんなさい!!(2回目)

 私なんですッ!!私がそのプリキュアなんですホントごめんなさい!!!

 

 ほどなく、むぎぽんから電話がかかってきた。

 

 《りんく!マジで心配したんだからね!?この間の時もそうだけど、アタシ、気が気じゃなかったんだからぁ……!》

 

 そのあとはそらりんが―――――

 

 《ホントに心配したんよ~!戻ってみたらおらんかったって川村さん言うたからぁ~……プリキュアが助けてくれたってホントなん!?》

 

 でもって川村さんまで……

 

 《東堂さんッ!!いったいどこに行っておられましたの!?レスキュー隊から『いない』と聞いた時は心臓が止まりそうになりましたわよ!?……あ、さち!》

 《……りんくさん!ほんとうにりんくさんですの……!?ごぶじで……ごぶじでよかったですの……うぅ……ぐすん……》

 

 みんな、本気で私のことを心配してくれてた。電話の向こうの声を聞くたび、心がずきりと痛む。私は、こう返すことしかできなかった―――――

 

 「―――――ごめん……」

 

 無事を確認してくれたのか、むぎぽんとそらりんも安心してくれたようだった。川村さん姉妹も何とか納得してくれたようだった。

 今日はもう遅いからお休み、と、最後に電話を切ったところで、私はコミューンを持ったまま、ベッドに寝転がって、天井を見上げて―――――

 ニヤついていた。

 

 「夢じゃない……夢じゃないんだよね……私、本当にプリキュアになったんだ……!!」

 

 右手で天井にかかげたキュアチップ。《@01 CURE-MEMORIAL》と書かれていて、ラベルには私が変身した、キュアメモリアルの笑顔。

 あー!!!言いたい!!せめてむぎぽんとそらりんだけにはバラしちゃいたい!!

 

 ―――――昨日のプリキュア、ホントは私なんだ!私、夢が叶っちゃったよ~!

 

 なんて言っちゃいたい!でも、お約束なんだろうけど、言っちゃダメなんだろうなぁ……

 今の時代、壁に耳あり障子に目ありどころか、建物に監視カメラあり、街のいたるところに盗聴器まで仕掛けてある……かも。いつどこで、私の変身がバレるかわかったモノじゃない。

 それに、もしバレたらどうなるか……これもなんとなくわかる。あっという間にネットで拡散されて、家族や友達、学校のみんなに迷惑がかかる―――――

 

 そう―――――アニメのプリキュアではほとんど……というか、一度たりとも触れられなかった『ネットの闇』というモノが、現実には存在しているのだから。

 バラしたら、その時点で人生オワタと考えても差し支えはないだろう―――――

 

 うれしさ半分、不安半分。あぁ、プリキュアはつらいよ……

 明日、みんなと会うのが、ちょっとユウウツだ……―――――

 

 ――――――――――

 

 ……ENEMY PHASE

 

 ――――――――――

 

 「おや……アラシーザー、お咎め無しだったのかい?」

 

 カイザランチュラ様と謁見し、報告を済ませた俺に声をかけてきたのは、俺と同じ四天将であるネンチャックだった。

 

 「……彼の御方の御心には感謝せねばなるまい。三度も敗北を喫した俺に、再起の機会を下さった。次こそは必ず、プリキュアを―――――」

 「あぁ、そのコトなんだけど、今度はボクが行くことになってるからサ」

 

 この男―――――ネンチャックと俺は反りが合わない。

 戦とは常に正々堂々、己のみを信じて投じるもの。しかしこの男は、策を弄して罠に嵌め、甚振るように獲物を狩る、戦士として風上にも置けぬ卑劣漢だ。

 何故カイザランチュラ様は、このような男を懐に置いているのだ。これだけは、彼の御方の御心が知れぬ。

 

 「貴様とて……別のプリキュアに二度も敗北を喫しているではないか。つまらぬ策を弄するから辛酸を嘗める羽目になるのだ」

 「……言ってくれるねェ……猪突猛進するだけが戦いじゃないんだよ。これまで僕が負けたのは、アイツが計算外の力を発揮したからサ……解析した今なら負けはしないよ……!」

 「……フン、見物だな。一度目を付けた獲物を執念深く追う貴様は……さながら手負いの毒蛇よ」

 「褒め言葉と受け取っておくよ、アラシーザー」

 

 ……褒めた訳ではない。その執着心が身を滅ぼすのだ。

 

 「今日こそ必ず仕留めてやるよ―――――」

 

 まぁ精々頭を捻り戦うがいい。彼の御方がリアルワールドに降臨するには、プリキュアの力が必要なのだから。

 誇りあるジャークウェブの尖兵として、役立って見せろ、ネンチャック―――――

 

 「―――――キュア……データ……ククク……!」

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 翌日―――――

 

 寝惚け眼で朝ごはんを食べていると、パパの読んでいる新聞、その一面が目に入った。

 

 〈不明生物 市街地を襲撃 死傷者多数 大泉〉

 

 眠気が一瞬で吹っ飛んだ。

 昨日のあのバグッチャーが暴れて、街が壊れて、燃えて、人が傷ついて―――――

 

 誰かが、死んだ――――――――――

 

 「――――――――――……」

 

 アニメのプリキュアだと、ほとんどの作品で、モンスターを倒したら、壊れたモノはほとんど元通りになってくれる。戻らない作品もあるけれど―――――

 誰かが死ぬなんて―――――当然、そんなの、無かった。

 これは、現実なんだ。

 私が昨日、プリキュアに変身したことも。

 バグッチャーが街で暴れたことも。

 そして―――――

 

 《……お伝えしておりますように、昨夜7時30分ごろ、大泉町の中心市街地に大型不明生物が出現し、商店や車などを襲撃しました。これまで、3人の方の死亡が確認され、147人が重軽傷を負い、うち2人は重体で、心肺停止の状態だということです。また―――――》

 

 ニュースキャスターの男の人が、あくまで感情を抑えて、淡々と伝えている。

 食べているご飯が、鉛のように感じられて、私は7割方の朝ご飯を残して席を立った。

 

 「?りんく、もういいの?」

 「―――――なんか、食欲ないかも」

 「カゼでもひいたか?」

 「……大丈夫。学校、行けるから」

 

 私はあくまでパパとママの前で平静を装った。

 洗面所で、顔を何度も洗った。

 

 ―――――涙が止まらなかった。

 

 《―――――りんく》

 

 メモリアの声に気づいたら―――――20分近くたっていた。

 ネットコミューンを取り出すと、メモリアが不安げな顔をして私を見上げていた。

 

 《学校、行こ?》

 

 その顔を見て、私ははっとした。

 私―――――メモリアにまで、心配をかけてた。

 

 「―――――……うん」

 

 笑顔を作ろうとしたけど、力が入らないや―――――

 でも―――――それでも、この街の一日は、また始まっていく。

 中心市街地から離れている大泉中学校も、通常通りの授業の予定。

 

 出ぎわに、またテレビが目に入った。

 

 《……また、現場では大型不明生物に単身で立ち向かい、かつ撃退したという、10代前半と思しきコスプレをした少女の目撃情報が30件以上、警察に寄せられています。『CURE-TUBE』に投稿された映像によりますと―――――》

 

 どきりとした。その画面に映っていたのは―――――『キュアメモリアル』だった。

 

 《『本当に助かりました!……あれって、最近ネットに出てきた『プリキュア』ですよ、きっと!信じられませんけど、……ネットから飛び出して、私達を助けに来てくれたんですよ!』》

 《『あの子のおかげで、家が壊されずに済みました……まるで天女様ですじゃ……ありがたやありがたや……』》

 《『ぷりきゅあ、ありがとう~~!』》

 

 テレビから流れる、街の人たちの感謝の言葉―――――

 さっきまでズキズキと痛んでいた私の心を、そっとなでてくれるような―――――

 

 ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、だけど―――――

 

 ココロが、楽に、なった―――――

 

 「……メモリア」

 《なあに?》

 

 玄関から出る間際、私はメモリアに言った。

 

 「私が―――――プリキュアで、いいのかな」

 

 当たり前のように、メモリアは答える。

 

 《あたし、りんくじゃなきゃ、イヤ》

 

 ―――――本当に、この子は、私の理想。

 私がプリキュアになっても、この子にはまだかなわない。

 プリキュアとしての―――――誰かを守るための気構えは、この子の方がずっと上だ。

 私も―――――まだまだ、見習いプリキュアだ。

 

 玄関のドアを開けて―――――

 

 私は両手の頬をぱちんとたたいた。

 

 ――――――――――

 

 通学路でむぎぽんとそらりんに会うと、それはもう心配された上で、質問攻めにされた。

 

 「マジで大丈夫なの!?はぁ……実際会うまで不安だったんだよ……ケガとかしてないのかなって……」

 「ホンによかったわぁ……無事だって信じとったよ、わぁは☆」

 「それでさ、ホンモノのプリキュアに助けてもらったってマジ!?どんな系!?お姉さん系!?妹系?!リーダー系!?」

 「やっぱアレなん?わぁらと同じ中学生なんかなぁ?それか高校生?」

 

 どの質問にも、苦笑いで言葉を濁すリアクションしか、私は返すことができなかった。

 というか……この間の遠足の時よりも、ふたりへの隠し事が増えてしまった。それも、とてつもなく重大な。

 

 『私自身が、プリキュアになってしまった』コト―――――

 

 ゆうべは、うれしさ半分、不安半分だった。でも今は、『不安』の比率が明らかに増えている。

 アニメでは決して触れられなかった『実害』を、新聞やテレビの画面越しでとはいえ、私は知ってしまったから。

 明るく振る舞って、はしゃぐという行動を、今の私は取れなかった。

 

 私の大好きなプリキュアが―――――私を縛る枷になる。

 そんな日が来るなんて、思ってもみなかった―――――

 

 「東堂さん!」

 

 沈んだ気持ちの中で歩いていると、いつの間にか黒いリムジンが私達の横につけていた。

 後部座席のウィンドーが開いていて、そこにはこちらを見る川村さんの姿があった。

 

 「あ、川村さん、おはよう……」

 「おはよう……ではございませんわよ東堂さん!ワタクシがどれだけ心配したとお思いですか!?」

 「…………ごめん……」

 

 私の顔を見て何かを感じ取ってくれたのか、川村さんはふぅ、とため息をついて言った。

 

 「……そのご様子……アナタもいろいろと、お辛い目に遭ったようですわね……深くは訊かない事に致しますわ」

 「川村さん……ありがとう」

 「!!」

 

 気遣いがうれしくて、素直に感謝を口にした。すると川村さんは顔を真っ赤にした。

 

 「か、勘違いなさらないでくださいませ!……Bミュージアムのリニューアルオープンも延期、再建までに半年……その他諸々の対応で、財団Bもかなりの被害をこうむりましたから、ワタクシも頭が痛いだけ、ですわ!……それでは、ごきげんよう」

 

 リムジンが発車していった。それを見送って、私達はもう一度学校に向けて歩き出す。

 通学路の途中でも街中を走るパトカーの台数が増え、マスコミ関係のヒトらしき大きなカメラを持った人が目立つようになり、上空にはヘリコプターが引っ切り無しに飛び、プロペラが発する爆音が絶えない。

 

 私が想像していた以上に、この街は一晩で変わってしまった。

 それまで、『画面の中』の、あくまでも『二次元』の中だけの存在だった『プリキュア』の、現実への出現。

 

 プリキュアが、世界で初めて現れた町―――――

 私が生まれ育って、いつも見慣れていた大泉町は、その形相を変えていた。

 

 ――――――――――

 

 「だいたいよ!!どうしてあんな風になってからプリキュアは出てきたんだよ!!?もっと早く、それこそバケモンが出てくる前に来てくれりゃ、あんなコトにはならなかったんだ!!」

 

 私達が教室に入った時、大声でわめいているクラスの男の子がいた。

 空手部に所属している、香川桃太郎くんだった。

 

 「……なにがあったの?」

 

 むぎぽんが、教室の入り口近くに立っていた、クラスメートの宮本きせきさんに小声でたずねる。

 

 「みんなで昨日のプリキュアのことを話してたら、香川くんが急に怒りだして……」

 「昨日香川くん、街でバケモノに襲われて、それで香川くんの妹さんが大ケガしたって……それで、そうなったのはプリキュアのせいだって……」

 

 同じクラスメートの高橋おとさんの言葉に、私は心をずきりと痛めた。

 今まで、テレビや新聞越しに、被害のことを知っていた。それだけでも、私はどこかで責任を感じていた。

 でも、こうして、実際に怒りをあらわにする人を見て、私の心は更に締めつけられるようで―――――

 

 「………………っ」

 

 私は無意識に、両手で胸をぎゅっとつかんでいた。

 

 「東堂さん、あまり気にしない方がいいよ?」

 「そうそう、東堂ちゃんの好きなプリキュアはアニメの話で、『昨日のプリキュア』とは別だって……」

 

 高橋さんと宮本さんは、プリキュアファンの私を気遣ってくれてるんだろうけど、逆にそれが私にはつらい。

 気にするなと言われて気にしないのは無理だ。だって、昨日のプリキュアは、誰あろう、私、なんだから―――――

 

 「もっと上手に戦ってりゃ、おれの妹はケガせずに済んだんだ……なぁ東堂!」

 「……っ!」

 

 香川くんが私を見てきた。私の心臓が強く打った。

 

 「お前はプリキュア好きって言うけどな……おれは正直昨日で嫌いになった……!ヒーローだとかヒロインだとかいうなら、なんでおれの妹助けてくれなかったんだよ!?お前、プリキュア詳しいんだろ!?あのプリキュアはなんなんだよ!?どこのどいつか知ってんのか!?」

 「ちょっと香川!八つ当たりはやめなよ!」

 「そうやえ!りんくちゃんかて、昨日怖い目に遭って、まだ立ち直ってないんやから……!」

 

 私と香川くんの間に、むぎぽんとそらりんが割って入る。教室の中の空気が、殺伐としてきた。

 私の―――――私がうまく戦えなかったから―――――

 バグッチャーと戦うのに夢中になっていたから―――――

 プリキュアになったことに、有頂天になっていたから―――――

 香川くんの妹さんがケガをして―――――誰かが死んで―――――

 

 「…………、」

 

 もう、私の心は限界だった。

 この場で言ってしまえば、楽になれる。

 護れなかったのは―――――私なんだ―――――

 

 「………………私は……―――――」

 

 口に出してしまいかけた、その時だった。

 

 「"モモ"」

 

 ひとりの男の子が、教室に入ってきた。

 

 「…………なんだよ、ほくと」

 

 彼は確か―――――遠足の時に見かけた子。

 むぎぽんのお向かいさんで、香川くんと同じ空手部の、八手ほくとくんだ。

 

 「モモの声が聞こえてね……うちの組まで響いてきたから、何があったのかと思って」

 「……お前には関係ねぇよ。ただ昨日のゴタゴタ、プリキュアってのがもっと上手く戦ってりゃ、あそこまでの騒ぎにならなかったって言ってただけだ」

 「…………それは…………違うと思うよ」

 

 八手くんの語気が変わった。拳をぎゅっと握っていた。

 

 「何が違うってんだ!?アイツがやり方マズったからおれの妹もケガしたんだ!!それとも何か!?実際出てきたのがプリキュアじゃなくって、お前の好きな仮面ライダーだったら上手く戦えたとか言いたいのか!?」

 「そうは言ってない……でも、プリキュアでもライダーでも、結果は同じだったって、僕は思う」

 

 むぎぽんが小声で、「ほくとは特撮ヒーローファンなんだ」と、注釈を加えてくれた。

 

 「じゃあおれの妹は大ケガする運命だったってのか!?」

 「運命とか、そういうんじゃない……でも、だからって、プリキュアを責めるのはおかしいって思うんだ」

 

 八手くんは、まっすぐに香川くんを見据えて言った。

 

 「戦いに、上手も下手も無いんじゃないかな。ことさら、"守るため"に戦ってるのなら、誰であろうとも、全力なんじゃないかな」

 「……どういう意味だよ」

 「僕もキミも、格闘技をやってる。当然、誰かとの"戦い"になる。でもそれは、命のやり取りなんかじゃない、単なる『仕合』に過ぎないんだ。相手が格上なら、力量差が出て、当然負ける。それに、事前に誰と戦うか、ある程度予想がつく。だから、自分の『()』を知って、仕合に臨める。負けるとわかる『捨て仕合』だってあるし、負けても『次』がある。でも、ヒーローやヒロインは違うんだ。どんな敵が来るのか、相手の格さえもわからないまま、しかも絶対に負けることの出来ない、『殺し合い』を強いられるんだ……!そして、負けたら自分の『死』だけじゃない、自分以外の、たくさんの人の命まで、危険にさらしてしまう……尺度が、全然違うんだ……!そんな『殺し合い』に、『仕合』でしか『戦い』を知らない僕たちが、上手下手を言ったりする権利なんて、無いって思うんだ……昨日のプリキュアだって、きっとそうだよ……街を、命を守るために、全力だったんだ……」

 

 傷ついた私の心に、八手くんの『ヒーローファン』としての見地からの言葉が、まるで救いのように染み込んでくるのを感じる。

 

 「でも……ヒーローやヒロインだって、心を持つ人間なんだ……神様なんかじゃない。どんなに全力でがんばっても、助けられない命があるし、救いの手が届かないことだってある……だから僕は、昨日のプリキュアを責める気にはなれないよ」

 

 こんな風に、考えていてくれる子がいたんだ―――――

 ただ、ヒーローやヒロインに救いを求めるわけじゃなくって、そのヒーローたちも、あくまで人間なんだという考え方は、ただ単純にプリキュアに憧れていた私なんかとは―――――違う。

 私よりも、もっと、考えて、『好きなモノ』を見て、いざ本当に『そういった』存在が現れた時でさえ、こうして自分の考えを、堂々と言える―――――

 すごいな……この子は……―――――

 

 「……言いたいことはわかったぜ……まぁ、昨日の騒ぎだって、そもそもはバケモンが暴れたからだしな……お門違いだよな―――――」

 

 ふっと、香川くんは私に向かって頭を下げた。

 

 「東堂、悪かった!……おれ、勘違いしてた……!なのにさ、プリキュアのこと変にディスっちまって……ホント、ごめんな!」

 「え……う、ううん、いいよ……気にしてないから……」

 

 その様子を微笑みながら見ていた八手くんを、むぎぽんが小突く。

 

 「たまにはいいコト言うじゃん」

 「……そういうんじゃないよ。ただちょっと、僕にも思うところがあっただけだから」

 

 そういえばこのふたり、幼馴染なんだっけ。なんか、ちょっとイイ感じ。

 でも、八手くんの言葉が今の私にとって、『赦し』をもらえたような気がしたのは、確かだった。

 だから―――――

 

 「八手くん……その、ありがとう」

 

 お礼を言った。私の顔を見た八手くんは、一瞬目を合わせて、そっと視線を逸らしながら言う。

 

 「…………、い、いや……その……昨日のプリキュア、ヒーローっぽかったから……本当に出てきたのが仮面ライダーじゃなくって、ちょっと残念だけど……でも、プリキュアが戦ってくれなかったら、もっと被害が広がっていたかもしれないし……」

 

 仮面ライダーのことはよく知らないけれど、私の―――――キュアメモリアルの姿が、ヒーローのように見えたのなら、それはそれで、なんかうれしいなって思った。

 

 「じゃ、じゃぁ、もうすぐ授業始まるから……」

 

 そそくさと、八手くんは私達の教室から出ていった。

 その背中を見ながら―――――私は氷のように凍てついた心が、あたたかく溶けていくのを感じていた。

 

 私とバグッチャーの戦いで、傷を負ったり、命を落としたりした人がいるのも事実。

 でも―――――今朝のテレビのインタビューのように、救われた人がいるのも、また事実なんだ―――――

 

 私が戦わなきゃ、この街が、この街の人々が、この世界の人々が傷つき、命を落としてしまう―――――

 

 私はポケットの中のネットコミューンに手を触れて、小さくつぶやいた。

 

 「……メモリア……私、がんばってみるよ」

 

 声の返事はなかった。でも、振動機能みたいに、コミューンはかたかた、と震えた。

 ……そうだった、ごめん。私だけじゃないんだ。

 メモリアも、いっしょに戦ってくれる。そして、取り戻したプリキュアたちも、私達に力を貸してくれる。

 

 プリキュアたちを取り戻して、サーバー王国を元に戻して―――――

 

 そして―――――この世界を守るために。

 

 

 私は―――――戦うって決めた―――――

 

 ……SAVE POINT




 用語解説

 マトリクスインストール

 イーネドライブを持つプリキュア見習いが、ユーザーをプリキュアに変身させる、イーネドライブの最終秘匿プログラム。ユーザーとプリキュアの精神同調率が100%に達して、初めて機能制限が解除される。
 マトリクスインストール発動用のキュアチップをネットコミューンにセットすることでロックが解除、ユーザーの『プリキュア・マトリクスインストール』の音声入力によってプログラムが起動、ユーザーの体内に融合したネットコミューンによって、電脳遮蔽空間『サイバーマトリクス』が展開、一時的ながら、現実世界にキュアネットと同様の電脳空間を形成する。その中で、プリキュアが自分自身をユーザーに"インストール"、一心同体となり、人間とアプリアンが融合した、人間でもアプリアンでもない高度情報化生命体"プリキュア"へと、その肉体を変容させる。
 インストール後はユーザーは自由自在にプリキュアの力を行使することができる。この際もプリキュアの人格はユーザーと別個に存在し、ユーザーと心の中で会話ができる。
 ユーザーを直接危険にさらす行為でもあるため、プログラムクイーンからは、『ユーザーに力を貸す行為』としか、プリキュア見習いたちには知らされておらず、実際は『人間と一心同体となること』であることを知らなかったが、そもそも『マトリクスインストールは、心から信頼できるユーザーと行うこと』と厳命されていた。
 最初のマトリクスインストールの際、肉体のみならず精神も融合し、その整合を行うため、数分間、一種のトランス状態に入る(ドライバインストイール、もしくはディスクデフラグ作業のようなモノ)。この際、2人分の感情がオーバーフローし、涙を流す。また、2人分の記憶から、融合後の名前も無意識に自己命名する。

 ――――――――――

 現実を前に、りんくは悩みます。
 それでも、少しずつ、前に進んでいこうと心に決めます。

 書いてた稚拙の心もちょっとだけ痛んだ今回です……

 次回、傷心のりんくに新幹部・ネンチャックの魔の手が迫る……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

蒼い閃光

 キャラクター紹介

 川村 さち

 5歳の幼稚園年長組。
 ゆめの妹。自社コンテンツでもあるプリキュアシリーズの大ファンであり、毎週日曜8時30分からはテレビにかじりつくようにプリキュアを見ている。
 将来は財団Bの中でのし上がり、大好きなプリキュアのコンテンツをさらに拡大させ、ゆくゆくはプリキュアの巨大テーマパークを建設、一日貸し切りで遊びまくるという、5歳にして壮大な野望を胸に抱く。
 姉譲りのプライドの高さと、歳にそぐわぬ計算高さを併せ持つ将来の大器であるが、感性は年相応で、普通に泣いたり怖がったりする。
 スマホを持たされてはいるが、ほとんど使い方がわからず、執事のクインシィにほとんど投げっぱなしでいる。

 クインシィ

 5歳の幼稚園年長組。
 この春からさちの執事となった、ギャリソンの妹。本名は『時田 いいこ』。
 本来はメイドとしてさちに仕える予定だったが、クインシィは兄であるギャリソンに憧れ、彼と同じ執事がやりたいと駄々をこねたため、男装して執事となった。
 5歳にして『男装の麗人』となったわけだが、流石にこの年齢だと誰がどう見ても女の子とわかる。
 普段はさちと同じ幼稚園に通い、公私ともにさちに仕えている。
 実はさちをプリキュアファンの道に引き込んだ張本人で、さち以上のプリキュアファンである。
 この歳でスマホを使いこなし、スケジュール管理までこなしていて、執事の素質はギャリソン以上。

 ――――――――――

 な……長い。なぜこんなに長くなるんでしょーか……
 キュアデータ本格登場ということで、気合を入れたらすさまじい字数に……

 というワケで今回は、『後篇の前半』を『後篇A』ということでキュアっと送信します!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 授業が終わったりんくは、誰もいない学校の図書室で、キュアットタブを開いてた。

 

 「ご相談……ですの?」

 

 タブの中には、あたしと、ロゼッタ、マーチ、トゥインクルが勢ぞろいしていた。

 あれから、あまり元気のないりんく。ほくとっていう男の子の言葉が励みになったみたいだけれど、出会った頃の元気なりんくには程遠かった。

 りんくは、伏し目がちにロゼッタに言った。

 

 《うん……あのね……自分がプリキュアだって……本当のことが言えない事って……みんなは、つらくなかったの……?》

 

 ……??あたしには、りんくの言ってることがよくわからなかった。ロゼッタもマーチも、トゥインクルだって、『プリキュア』なのに。

 あたしはトゥインクルに訊いてみた。

 

 「ねぇ、本当のことって、なぁに?」

 「あ、そっか……メモリアは『サーバー王国で生まれたプリキュア』だもんね……よくわかんないのかナ……?」

 「りんくが時々呼んでくれてるけど……あたし達には、プリキュアとしての名前と、人間としての名前……ふたつの名前があるの」

 「ワタシの場合、『キュアロゼッタ』はプリキュアとしての名前……ワタシの本当の名前は、『四葉ありす』、なのですわ。周りの方々に危害が及ぶことを防ぐために、ワタシたちがプリキュアであることは、隠し通さねばならなかったのですわ」

 

 同じように、マーチは『緑川なお』、トゥインクルは『天ノ川きらら』っていう、にんげんさんみたいな名前を持ってることを教えてくれた。

 そして、自分がプリキュアだって、他のにんげんさんに教えちゃいけないことも。

 う〜ん……名前がふたつあるって、なんだか不便じゃないかなぁ?

 

 「―――――……本当のことを打ち明けられないことが苦痛でなかった、と言えば、それはウソになりますわ……学校のお友達や、先生方はもちろん、お父様にもお母様にも、打ち明けられませんでしたもの……肩の荷が下りたのはあの戦いの最後の局面、でしたから……」

 「あたしも……家族に黙ってるのってキツかったな……一度、どうしようもなくって、弟や妹たちの前で変身した時があったけど……『この後どうしよう』って本気で思ったからね……みんなが『夢』だって思ってくれて、正直よかったって思ってる……」

 「アタシの場合は……やっぱ割と、不自由が多かった、かな……変身しなきゃ!って思っても、カンジンなところで視線があったり、人前だったりってことがあったしね……最後の最後で、ノーブル学園のみんなの前で変身したんだけど……あの時はディスピアが学園に迫ってて、例外って言ったら例外、だったし……」

 

 ロゼッタ、マーチ、トゥインクルが、思い出話のように昔のことを語ってくれてる。

 でもみんな、つらそうな表情をしていた。

 

 《そうだよね……私だけじゃ、ないんだよね……ホントのことを言えない悩みって……わかってたつもりだったのに、いざ自分がこうなると……なんか……私だけが、みんなとは別の世界に連れていかれちゃったような……それこそ、アニメの世界に入っちゃったような……そんな感じがする……》

 

 なんだかりんくが、プリキュアになったことがうれしくなくなってるみたいに、あたしには見えた。

 ガマンできなくなって、あたしはりんくに問いかけていた。

 

 「ねぇ……りんく……りんくは、プリキュアのこと、キライになっちゃったの……?」

 《え……?》

 「プリキュアのみんなのこと……りんくは『あにめ』で見てたんだよね?でもりんく、『あにめ』のこと、キライになったんじゃないかなって思って……でも、プリキュアのことはキライじゃないよね……?あたしのこと……みんなのこと……キライじゃ、ないよね!?」

 「メモリア……」

 

 あたしはトゥインクルに向き直って言った。

 

 「トゥインクル……みんなも……どうして、りんくはつらそうにしてるの?みんなもどうしてつらそうなの……!?」

 

 あたしだけが、わからない。

 あたしだけが、みんなの気持ちがわからない。わからなくって、涙が出てくる。

 

 「あたし……りんくの……みんなの力になれないの?それって、あたしが見習いだから?一人前の、プリキュアじゃないから?ねぇ……!?」

 

 その時―――――あたたかい感触。

 

 「トゥイン、クル……?」

 

 あたしはトゥインクルに、"ぎゅっ"とされてた。

 

 「ほんっと……メモリアはいい子だね♪そこまで、りんりんやアタシたちのことを考えてくれてるんだもん♪」

 「その気持ちが……りんくさんやワタシたちの力になりたいというその言葉だけで……ワタシたちにとっては万の味方を得たようなモノですわ♪」

 

 トゥインクルとロゼッタは、やさしくそう言ってくれるけど……でも―――――

 

 《大丈夫だよ、メモリア―――――ありがと》

 「りんく……」

 

 コミューンの画面越しに、りんくの指がそっと、あたしの頬に触れる。

 

 《生まれてこの方14年、誇りあるプリキュアオタクのこの私が、アニメのこと……ましてプリキュアのことを、キライになったりするわけないじゃん。うれしいんだよ?私。アニメの中にしかいなかったって思ったプリキュアたちが、こうして私の目の前にいるんだし。これもみんな、メモリアのおかげ、なんだよ?》

 「でも……りんく、つらそうだよ……あたしといっしょにプリキュアになったこと―――――イヤなの?」

 《ち、ちがうよ!……私をプリキュアにしてくれたことには、本当に感謝してるよ?だから、大丈夫……!》

 

 りんくが無理して笑ってるのが、なんとなくわかる。

 あの時―――――りんくの中に入った時、りんくの想いも、あたしといっしょになった。

 心からプリキュアのことが大好きで、困っているにんげんさんを放っておけない、前向きで、優しい女の子。

 それが、戦って何が起きたのかを知って、りんくの心が揺れている。

 あたし―――――また、何もできないの、かな―――――

 

 「――――――――――!」

 

 あたしのイーネドライブが、どくん、と脈を打った。この気配は……まさか―――――!?

 

 「……ジャークウェブ!?」

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 メモリアの言葉に、身構えた私。

 まさか、学校にまでやつらが来たってこと……!?

 誰もいない、しんとした図書室。その天井の四隅や柱には、今月のおすすめ図書や行事予定などの案内を表示するディスプレイが備え付けられている。

 私はネットコミューンを持って、席を立った。

 

 「メモリア……!」

 《うん!》

 

 メモリアは素早くキュアットタブからコミューンに移った。いつでも、メモリアをキュアネットに送り込めるよう、準備はできた。

 

 ―――――ガコンガコンガコンガコン!!!!

 

 「っ!?」

 

 突然、窓の防火シャッターが立て続けに降りてきて、図書室が真っ暗になった。視界がふさがれた……!!

 コミューンの光をたよりに、私は図書室の出入り口のドアを開けようとしたけれど、電子ロックがかけられていた。さっきまでは普通に開いてたのに!

 私達は真っ暗な図書室に―――――閉じ込められた。

 

 《りんく……!》

 

 私を気遣うメモリアに、「……大丈夫だから……」と返しながら、どうにか脱出できないかと策を練る。

 おばあちゃん特製アプリの中に、何か使えるアプリが無いかと思った、その時―――――

 

 《プリキュアがもっと上手に戦ってりゃ、おれの妹はケガせずに済んだんだ!!》

 

 香川くんの声だった。心臓が、強い脈を打ったのを、私は感じた……―――――

 

 「……え」

 

 《返してよ!お母さんを返してよ~~!!》

 《地獄だ……この世の終わりだぁ……!!》

 《この先……私、どうやって暮らしていったらいいの……?》

 

 図書室の中のディスプレイから、様々な人の声が流れてくる。まさか、この声って……

 そうだ……!

 これは、昨日の戦いで、『ナニカ』を失った人たちの声だ。大切な人、見知った光景、慎ましいいつもの暮らし……昨日のひと晩で、そんな『当たり前』を傷つけられ、失ってしまった人の嘆きの声―――――

 

 《そう……すべてはプリキュアのせいサ。プリキュアのせいで、人間たちは住処を奪われ、生き甲斐を奪われ、そして……命さえも奪われた……あぁ……なんて悲劇、何たる惨劇!ホンット、どこの誰なんだろうねぇ?そのプリキュアさんはサぁ……?》

 「…………やめて……!!」

 

 私は思わず両膝をつき、コミューンを取り落として耳を塞いだ。でも、『声』は耳を塞いでも、図書室中にこだまする。

 ごめんなさい……本当にごめんなさい……!私が、浮かれてたから……(プリキュア)がもっとうまく戦えなかったから―――――

 『現実』を生々しく語る『声』に、私の『決意』が大きく揺らいだ。

 私―――――私、は―――――

 

 《違うと思うよ》

 

 「……!?」

 

 塞いだはずの耳の隙間から、ひとりの男の子の声が入ってきた。

 

 《"守るため"に戦ってるのなら、誰であろうとも、全力なんじゃないかな》

 

 この声……八手くんだ。

 地面に取り落としたコミューンからだった。画面が、音声の録音・再生アプリに切り替わっていて、そこから八手くんの音声だけが流れていた。

 

 もしかして―――――……メモリア……?

 

 《どんなに全力でがんばっても、助けられない命があるし、救いの手が届かないことだってある……》

 《本当に助かりました!ありがとう!》

 《天女様ですじゃ……ありがたやありがたや……》

 《ぷりきゅあ、ありがとう~!!》

 《……だから僕は、昨日のプリキュアを責める気にはなれないよ》

 

 八手くんだけじゃない。今朝見たテレビで、プリキュアに助けられたという人たちの声や、クラスのみんなが話していたプリキュアの話題を、メモリアは再生アプリで流してくれていた。

 

 「…………そう、だよね」

 

 ―――――私が、プリキュアになった理由。

 つい昨日だったのに、心を突き動かされて、もう忘れかけてしまっていたコトを、今、はっきりと思いだす。

 

 ―――――メモリア……私、出来ることは何でもやる……!そうしないと、この世界もどうなるかわからないもん……!

 

 ―――――私、何もできないのはイヤ!

 無力な現状を変えるために―――――私は、ためらわない!

 

 ……私は何もできなかった。だから、『何かがしたい』と思った。

 だから、『何が起きるかわからない』、マトリクスインストールだって、ためらわずに実行できた。

 ただ見てるだけの無力な自分を、捨て去りたいと思ったから、だ。

 

 だから―――――

 

 《プリキュアが戦ってくれなかったら、もっと被害が広がっていたかもしれないし……》

 

 こう思ってくれる人も、出てきてくれた―――――

 

 そうだ、ためらわない―――――

 私が戦うことで、少しでも誰かの希望になれるのなら―――――

 

 

 《昨日のプリキュア、ヒーローっぽかったから》

 

 

 私にとっての『プリキュア』がそうであったように―――――

 

 私が、誰かにとっての『プリキュア』になれるなら―――――!

 

 

 

 もう、迷ったりなんか、しない―――――!!

 

 

 

 「すぅ―――――」

 

 私は思い切り息を吸った。そして―――――

 

 「うううあああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 腹の底から、心の底から、魂の底から―――――

 吼えて、やった。

 

 《!?》

 「はぁ……はぁ……はぁ……ふぅ……。」

 

 両手に、力が戻ってきた。そして私は、心臓(ハート)に手を当て、宣言した。

 

 「"ココロデフラグ"、完!了ーーーっっ!!」

 《りん、く……?》

 

 見ると、落っこちたままのコミューンから、メモリアがきょとんとして私を見上げていた。

 

 「ごめん!私、どーかしてた!ちょっと立ち直るまで、時間かかった!」

 

 私が落ち込んでから立ち直るまでには、いろいろと『要素』が必要になる。

 落ち込む理由を覆せるだけの言葉、モノ―――――それらがそろった時、魂の底から叫んで、心の中に詰められた様々なモノによって『断片化』して、うまく働かなくなってしまった私の心を、一気に整理―――――『デフラグ』する。

 

 それを私は―――――『ココロデフラグ』と呼んでいる。

 

 これが出来るまでには、時と場合によって差がある。1~2時間で出来る時もあれば、長くて2~3週間かかることもある。

 今回の場合は、詰められたものが多かったけれど、覆せるだけの要素もまた、同じくらい多かったことが要因、だと思う。落ち込んでから9時間で、デフラグができた。

 だから、もう大丈夫!!二度とこんな鬱展開はしません!!だってコレ、プリキュアだよ!?日曜朝8時30分だよ!?小さな女の子たちが見てるのに、鬱展開なんかして喜ばれると思う!?……まぁ、何回かはやらかしてたケドね……

 

 「いつもどおりにキュアっキュアでトバして行くから、応援よろしくね!!」

 《りんく、誰とお話してるの?》

 《うふふ……♪あの時のマナちゃんを思い出しますわ♪》

 

 タブの中のロゼッタが、くすくすと笑うのが見えた。っていうかこのココロデフラグ、そのマナちゃんが教えてくれたこと、なんだ。

 ドキプリの31話で、無力な自分に、すごく悲しくて、くやしいと号泣したキュアハート。でも、その後で泣いてスッキリしたって、立ち直った。

 それを見た私が、落ち込んだ時には思いっきり泣いたり、叫んだりすることでうっぷん晴らしをするようになったのが始まり。かといってマナちゃんと同じ方法じゃだめだって思って、自分なりに模索して出来上がったのが、ココロデフラグ、というわけ。

 

 《ば……バカな……!!ここまでして何故『堕ち』ないんだい!?人間の精神構造は解析済みだというのに……!!》

 

 図書室のディスプレイの中から、うろたえる男のヒトの声が聞こえる。私はそのディスプレイをびしっ!と指さして言ってやった。

 

 「私達子供ってね……落ち込みやすいけど、立ち直りも早いんだから!ましてや、アンタみたいな陰湿なやり方なら、なおさらね!女子中学生甘く見ないでよね!!」

 《お・おのれ……!!》

 「メモリア、準備おk!?」

 

 拾い上げたコミューンのメモリアに呼びかけると、まるで憧れのヒーローかヒロインを見る小さな子供のような、キラキラとした視線を向けてくるメモリアがいた。

 

 「……メモリア?」

 

 えぇと……見習いとはいえ、ホンモノのヒロインであるプリキュアから『ヒロインを見るような視線』を向けられるって……これってなんか、逆じゃないですか? 

 

 《りんくって……りんくって、やっぱスゴイ!》

 

 前から思ってたけど、メモリアって、まるで『妹』みたい。時々甘えん坊で、時々私をぐいぐい引っ張って―――――

 プリキュアに憧れて、プリキュア見習いになって、今ではプリキュアのみんなから、『妹』のようにかわいがられてる。

 思えばさっきの相談の時だって、この子は私のために泣いてくれた。私のために何かしたいって、本気で心配してくれた。そして、私が追い詰められた時、プリキュアを応援してくれたみんなの言葉を再生して、私を励ましてくれた―――――

 

 私を本気で想ってくれてるメモリアに―――――私も、応えたい!

 

 「……ありがとね、メモリア」

 《……行ってくるね、りんく!》

 

よぉし!プリキュア・オペレーション!!

 

 《CURE-MEMORIA! ENGAGE!!》

 

 私はメモリアを、図書室のキュアネットへと送り出した。

 この暗闇でさえ、もう私にとっては怖くない。

 

 この電子の輝きが、私の心を繋ぎ止めてくれるから―――――!

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 本棚がたくさん並んでいる空間に降り立ったあたしの前に立っていたのは、髪の長い、ちょっとインキなフンイキの男のヒト。

 

 「……アラシーザーじゃない……?」

 

 その男のヒトは、ニヤリと笑って挨拶をした。

 

 「お初にお目にかかるねぇ、キュアメモリア。アラシーザーから話はかねがね聞いてるよ。ボクはネンチャック……ジャークウェブ四天将のひとりサ」

 《『ハトプリ』のコブラージャっぽいね》

 

 りんくがそうつぶやいた。りんくは似てるヒトを見たことあるのかな?

 

 「君をつぶすのに、アラシーザーは出し惜しみをしたからねェ……早速で悪いケド、とっておきのキュアチップを使わせてもらおう……」

 

 ネンチャックが取り出したのは、ピンク色のキュアチップ。そして、本のようなオブジェ。それらを放り投げて―――――

 

 「聖なる幸運の光よ!!その輝きを闇に染め、白紙の未来を黒く塗り潰せ!!バグッチャー、ユナイテェェーーーションッッ!!!」

 

 ワルイネルギーと一緒くたにする。あっという間に大柄な、丸っこい姿となって、あたしの前に地響きを発てて着地した。

 

 「バグッチャァァア~~~プップ~~!!」

 

 ……なんだか語尾がヘンだと思った。次の瞬間、そのバグッチャーは全身に突き刺さった『本』を一斉に放った。

 

 「なに……!?」

 

 その本がバサッと開いて、ピンク色のレーザーが、数十冊の本から一斉に放たれた。

 

 「わぁぁ~~!?!?!」

 

 あたしの視界を、無数に切り裂く光の線が細切れにしていく。避けきれない!!

 最初に左脚をカスられ、今度は右手、左肩……!一発目を避けても二発目、二発目を避けても三発目には必ず当たっちゃう……!

 

 《……防御ならロゼッタ……避けるならマーチ……ど、どうしよう!?》

 

 あたふたするりんくの顔が視界の隅に入る。どうしたのりんく!?まさか使うキュアチップを迷ってるの……?

 

 「ッハハァ!!この無数のレーザーを避けられる道理はないサ。キュアネットを埋め尽くす死の光……君はいつまで『踊りきれる』かなァ……見物だね、アッハッハッハッハ!!!」

 《うっさいわねコブラージャモドキ!!ってかコブラージャよりもインシツでヤなヤツ!!絶対好きになれないタイプ!!》

 

 り、りんく……早くなんとかしないと、こっちももたないんですけど……!?

 ―――――イタッ!?右の太腿にまともに喰らった……!

 

 「呆気ないけど終わらせようか。……アイツはともかく、こっちのプリキュアは虫ケラ以下だったか。つまらないねェ」

 「ウルトラ!キアイ!!シャワワワワワーーーーー!!!」

 

 たくさんの本がバグッチャーの前に集まり、エネルギーをチャージし始めた。さっき喰らった右脚が思ったより痛くて、うまく動けない……!!

 このまま、やられちゃう、の……!?

 ピンク色の光が、あたしの視界を眩しく染める―――――

 

 「うぉぉぉぉりゃああああああーーーー!!!!」

 

 その時―――――女の子のシャウトがした。

 瞬間―――――斜め上から、誰かからのキックを加えられたバグッチャーが真横に吹っ飛ぶのが見えた。

 何が起きたの……?訳もわからず、痛い足をこらえて立ち上がるあたし。そこには―――――

 

 「…………ったく……こんな簡単にピンチになってどーすんだ?キュアブラックが泣くぜ?」

 

 青白い、イーネルギーの輝き。勝気な口調。飾らないショートヘアー。

 間違いない―――――そこに、いたのは―――――

 

 「元気してたかよ?……メモリア」

 

 うそじゃない。

 ホンモノだ。

 画像じゃない、本物の―――――

 

 「…………キュア……データ」

 

 ……だった。

 

 《この子が……もうひとりの、プリキュア見習い……》

 

 つぶやくりんくの声。あたしのハートが、バクバク鳴ってる。

 うれしく、うれしくて、たまらなくって……―――――

 

 「データ~~♪!(*´Д`)」

 

 思わず駆け寄っていた。駆け寄って、ぎゅっとして、再会を―――――

 

 

 「……ブヮァッキャロォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!(怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒)」

 

 

 ―――――ドゴォォォン!!(1カメ、データ側から)

 

 ―――――ドゴォォォン!!(2カメ、真横から)

 

 

 ―――――ドッゴォォォォォォォォン!!!!!!!(3カメ、メモリアの背後側から)

 

 

 

 

 

 

 =◯)♯○3).・;'∴

 

 

 

 

 

 

 ……ふぇ?

 

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

  

 メモリアの顔面にデータの渾身の右グーパンチが叩き込まれ、メモリアは(なぜか)キリモミ回転して天高く吹っ飛び、どこぞのバトル系少年漫画のように、頭から地面にドシャア!!と落っこちた。確かこういうの……『車田落ち』っていうんだっけ……

 

 「えーーーーーーーーーーーーー!?!!?!?!(;゚Д゚)」

 

 ……じゃなくって!!が、顔面攻撃!顔面攻撃ですよ奥さん!?本家プリキュアでは絶対タブーの顔面に、それも全力グーパンチですよ!?感動の再会早々何してんですかぁっ!?!?

 

 《…………で、データ……前が見えねエ》

 

 上体だけを起こして、メモリアが言う。っていうか、アニメっぽい顔面陥没顔だ。本家プリキュアなら絶対許されない顔だ。コレが小説でホントよかった……。

 

 《ユルッてんじゃねェ、メモリア!!ここは戦場!敵がいる戦場だ!!『プリキュアたる者、決して油断をする事勿れ』……!!アタシのお師さん―――――キュアホワイトの訓えだ!!》

 《……データ……》(ぽこん!)

 

 あ、顔が元に戻った。さすがはキュアネットの中、こんなアニメ表現もアリか。

 それにしてもキュアホワイト、トンでもないお弟子さんを育てたモンですなぁ……

 データはメモリアにゆっくり歩み寄ると、手を差しのべた。

 

 《行くぜ。感動の再会はコイツをぶっ倒して、中のプリキュア助け出してからだ》

 

 メモリアは勝気に笑って、その手を取った。

 

 《うん……!》

 《再会を祝して景気づけだ……アレ、一発行っとくか!》

 《OK、忘れちゃいないよ!》

 

 メモリアとデータは、ふたり揃って名乗りを上げる。

 

記憶の戦士!キュアメモリア!

 

記録の戦士ッ!!キュアデータッ!!

 

 背中合わせに、笑顔でポーズ!これって、プリキュア恒例の"アレ"だ!!

 

インストール@プリキュア!!

 

この世界への不正アクセスッ!!

 

あたしたちが……BANしてあげる!!

 

 

 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

 (りんく、無心でスクショ連打中。)

 

 ……はッ!!?ご、ごめんネ!?つい夢中で……

 それにしてもカッコカワイイ!!カッコカワイすぎる!!フィギュアがそのまま動いてポーズを決めてるような質感!!

 初代プリキュアや2代目プリキュアを思わせる古き良き名乗り文句、キュアっキュアです!!!

 ていうか、この2人のチーム名、初めて聞いた。『インストール@プリキュア』かぁ……ありそうでなかったサイバー系のプリキュアチーム、イイ感じかも!

 

 《出てきたねぇキュアデータ!!キミが来るのを待ち焦がれてたよ……!》

 《そのエサにメモリア使ったってのか!?ケッ、趣味悪ィ》

 

 ホントこの子、プリキュアらしからぬ口の悪さだ。さっきのアレもそうだけど、ボーイッシュというか、姐御肌というか、オラオラ系というか……

 イメージカラーが青のプリキュア……『青キュア』に、こんなタイプのプリキュアはほどんどいない。似たようなタイプだった『プリアラ』のキュアジェラートも、ここまで口は悪くなかったし……

 

 《でもよネンチャック……今日はメモリアもいるんでな。あいにくアタシは負ける気しねェんだ。速攻で決めさせてもらうぜ!》

 

 データはバグッチャーに向かって全力でダッシュした。ちょ、真正面から真っ向勝負!?迎え撃つバグッチャーが身構える。

 

 《カガヤク!キアイ!スマイルバグッチャ~~!!》

 

 なんだかポジティブな言葉ばっかり言ってくる、なんとも元気で前向きなバグッチャーだこと。

 あれ?ウルトラとか、キアイとか、聞き覚えがある。それにこのレーザー攻撃、ピンク色の『光』。メモリアと似て非なる、『光』……

 

 「まさか……!!」

 

 その時私は、このバグッチャーにとらわれているプリキュアの確信を得た。

 まさかこんなにも早く、『51分の12』のひとつが―――――

 私達の前に姿を見せるなんて!?

 

 「メモリア、このバグッチャーにとらわれてるプリキュア、わかったよ―――――十中八九間違いない……キュアハッピーだよ」

 《えぇぇっ!?》

 

 メモリアも驚いていた。当然だよね……

 

 《『スマイルプリキュア』のリーダー、"閃光(せんこう)のハッピー"……12人の、リーダープリキュアのひとり……!》

 

 メモリアは、胸のイーネドライブをぎゅっと握っていた。

 

 《今度こそ……今度こそ、助ける……!待ってて、ハッピー……!》

 《そうと決まりゃぁ必勝必殺だ!!行くぜ、相棒!!》

 

 その時にはもう、データがバグッチャーに肉迫していた。

 データが誰かに呼びかける。すると、データの周りに複雑な矢印がナビゲートされた。

 空飛ぶ本から撃ち掛けられるレーザーを、データはその矢印のルートに沿いながら避けていく。

 この矢印、もしかしてデータのユーザーがナビしてる?……そうなら、凄い。あのレーザーの光を、全部見切ってデータに指示を飛ばしてるんだから……

 

 《ほらほらどうした!?一発もカスりゃぁしないぜ!?よっと!》

 

 視界の外から発射されるレーザーも、くるりと回って避けている。右に左に、くるくる回るその戦闘スタイルは、まさしくキュアホワイトのそれだ。

 

 《威勢はいいけどサ、ボクたちだけにかまけてていいのかなァ?》

 

 ネンチャックが見下した視線を送ったその時、何冊かの本がデータの横をすばやくすり抜けていった。

 

 《ッ!メモリア行ったぞ!!》

 

 しまった!メモリアはさっきのダメージがまだ残ってる!今の足でまともに動けるの!?

 見ると、案の定!メモリア、立ててはいるけど動きが悪い……!

 そこへ容赦なく撃ち掛けられる本からのレーザー照射……!!

 

 「メモリアぁっ!!」

 

 思わずコミューンに、私は叫んでいた。こんなにあっけなくやられるなんてナシだよね……っ!?

 唖然とした私の目の前で、メモリアの体を数発のレーザーが貫通した―――――

 

 「………………!!」

 

 思わず私はぎゅっと目をつむった。……おそるおそる、目を開くと……

 あれ!?メモリアは無事!!というか、傷ひとつ負ってない!?

 さっきの無傷って、どういう―――――

 そう思った次の瞬間、文字通りに目を疑う光景があった。

 

 ……メモリアが、かき消えた。

 ―――――どーなってるの!?

 

 《……引っかかってくれたね》

 

 別の場所に、ドヤ顔のメモリアが立ってる!?

 それに―――――

 こっちにも、あれ!?こっちにも!?

 

 「メモリアが7人に増えてる~~~!?」 

 《知らなかった?あたし、もともと『撮影』のアプリアンだよ?映像の編集・再生はお手の物!こんなふうに、ね!》

 

 7人の中のメモリアのひとりがそう言うと、そのメモリアのとなりに、まったく同じ姿かたちのメモリアが現れた。

 まさに分身の術!こんな裏技隠し持ってたなんて、やるじゃん!

 

 《くうぅ……!バグッチャー、まとめて薙ぎ払え!!》

 《ハップップ~~!!!》

 

 バグッチャー本体からも含めて、浮遊する本からもレーザーが撃ち掛けられる。でもそれらはすべて、『虚像』のメモリアに命中して、本物には一切命中していない。

 バグッチャーを取り囲んで、かく乱する8人のメモリアについていけない様子のバグッチャー。そこに―――――!

 

 《おぉりゃぁッ!!》

 

 データのローリングソバット!バグッチャーの胴体を、真一文字に切り裂く豪快な蹴り技だ。吹っ飛ぶバグッチャーに、さらにたたみかけるのは―――――

 

 《はじけるレモンの香り!キュアレモネード!》

 

 突然、キュアレモネードの声がひびいたと思うと、金色の光の鎖がデータの両手から放たれた。

 

 「!!キュアレモネードのプリズムチェーン!?」

 

 遠足の時、増子さんから見せてもらった画像の意味が、ここでようやく"つながった"。やはりあの画像に映っていたのは、データその人だったんだ。

 両手持ちのプリズムチェーンでバグッチャーを縛ったデータは、力任せにバグッチャーを持ち上げはじめた。

 

 《んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ…………!!》

 

 すごいパワーだ。キュアホワイトの弟子だっていうデータだけど、パワフルな戦い方はブラックの影響も入ってるのかも。

 そして―――――!

 

 《どっせえぇぇえぇい!!!》

 

 ―――――ずどぉぉぉぉん!!!!

 

 地面にたたきつける!映像がぐらぐらと揺れ、ちょっと酔いそうになる。たたきつけた反動で、データは上空へと舞った。

 

 《決めるぜ!!》

 

 データの右脚に、青白いイーネルギーが迸り、スパークする。全力の吶喊が、キュアネットにひびき渡る―――――!

 

データ!!ボルトスクリュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!

 

 回転しながらのミサイルキックだ!回転に乗ったイーネルギーがデータの全身を包み込み、さながら青い流星と化したデータが、バグッチャーにナナメ一直線に突き刺さった。

 

 《…………どーよ!》

 

 着地したデータがドヤ顔でキメる。これで決まった―――――

 そう思ったのは、一瞬だった。

 

 《……デ、デリ、デリィザザザザザザザ―――――――――――――――》

 

 バグッチャーは爆発するわけでもなく、まるで立体映像がかき消えるかのように、霧のように消え失せた。そしてその場には―――――

 

 ―――――ぱさり。

 

 1冊の本が、さっきまでバグッチャーがいた場所に落ちていた―――――これって……!?

 

 《………………見事に引っかかってくれたねェ》

 《何ッ!?》

 

 ネンチャックの爬虫類めいた笑み。振り返るデータと見上げるメモリアに、勝ち誇ったように言う。

 

 《幻像相手に全力とは恐れ入るよ……でも、まだ終わってはいないさ――――――――――"表"に出なよ》

 

 闇色の光に包まれ、ネンチャックが消えた、その時―――――

 

 《BE ON GUARD!!! BUGUCCHER REALIZE!!!》

 

 合成音声とともに、図書室の防火シャッターが上がり、外から夕陽が差し込んだ。急に明るくなって目が眩んだ。

 その眩しさの先に見えたのは―――――!

 

 『バグッチャ~~~~ップップ~~~!!!』

 

 グラウンドのど真ん中に、ずんぐりむっくり、全身に本が突き刺さったバグッチャーが実体化していた……!

 

 「出てきた……!!」

 

 また、実体化……でも、どうして……!?

 得意げな顔で、バグッチャーの肩に実体化したネンチャックが言う。

 

 『言ったじゃないか?さっきのは"幻像"だって……幻像には、こうして本物が実体化できるまでの時間稼ぎをしてもらったってワケサ』

 

 いやらしい手だ。でも、最初からバグッチャーを現実の世界で暴れさせるのが目的なら、合理的ともいえる手だ。まんまと乗せられて、"素直にくやしい"……!!

 でも―――――!!

 

 「それなら……ここからは私が相手になるよ……!!」

 

 ネットコミューンを握る手に、力が入る。

 文字通り命がけで戦ってくれたメモリアに、今度は私が、命をかけて報いる番なんだ―――――!!

 私はポケットからキュアチップを取り出した。私の―――――キュアメモリアルのチップ。

 バグッチャーと、肩に乗っているネンチャックを見据えながら、私はそのチップを、コミューンのスロットにセットした。

 

 《START UP! MATRIX INSTALL!!!》

 

 ピンク色の輝きを放つコミューンを右手に握りながら、両腕で中空に『∞』を描く。昨夜考えた、私だけの『変身ポーズ』だ。

 

プリキュア!マトリクスインストール!!!

 

 私の叫びにコミューンが同調して、ひときわ強く輝く。そのコミューンを胸の中に受け入れた瞬間、私の周りに、電子の光で彩られたピンク色の空間が展開された。

 

 《CURE-MEMORIA! INSTALL TO LINK!!》

 

 ――――――――――

 

 ―――――初めて変身した時と同じ―――――"光のタマゴ"だ。

 

 今日は、ハッキリと意識がある。"タマゴ"の中で、私はメモリアと向かい合う。

 こうして、この中にいる時だけ、私とメモリアは、同じ世界の、同じ場所にいられる。

 だからこそ―――――本気で、本心から、伝えられることもある―――――

 

 「……私、決めたよ」

 『……?りんく?』

 「私も―――――メモリアといっしょに、プリキュアになる」

 『??今からなるんだよ?』

 「……そうなんだけど……その、ね?プリキュアのみんなを助け出せて、サーバー王国を復興できたら、メモリアも一人前のプリキュアって認めてもらえるんだよね?……だったらさ」

 

 私は、メモリアに右手を差し出しながら言った。

 

 「私も……メモリアと、52人目のプリキュアになりたい……!」

 

 これが、今の私の、心からの願いだ。

 私にとっての『プリキュア』が、憧れの存在で、落ち込んだ時、悲しいことがあった時の希望だったように―――――

 

 私も、誰かにとっての『プリキュア』に、なりたい!

 

 メモリアはきょとんとして聞いていた。そして、にっこり笑って、右手を差し出してきた。

 あの時と同じ、右手のタッチ。これをきっかけに、私とメモリアはひとつになる。

 でも―――――

 

 「ちょ、……メモリアっ……!?////」

 

 タッチするかと思ったメモリアは、なんと私をぎゅっと抱きしめてきた!?

 メモリアのあったかくてやわらかい感触が、私の全身に伝わって、広がって―――――

 

 『さっきトゥインクルに"ぎゅー"ってしてもらった時ね、すっごくあったかかったんだ♪これって、"だいすき"って気持ちを、いっぱい伝えられるんだね―――――』

 「メモリア……」

 

 メモリアの体が光に包まれて、私の中に吸い込まれていく。これでもOKなの!?

 

 『あたしのユーザーになってくれたのが、りんくでよかった……!プリキュアのみんなや、街のにんげんさんたちが大好きなりんくにユーザーになってもらって……あたし、すっごくうれしい……!だから―――――』

 

 それ以上は、言葉にしなくても、心の中から、体の中から、『私』そのものに伝わってくる―――――

 

 

 ―――――いっしょに、『ほんとうのプリキュア』に、なろっ!―――――

 

 

 メモリアを受けいれて、私は理解した。

 『キュアメモリアル』の姿は―――――私の理想だったんだって。

 子供のころから抱いてた、『プリキュア』への憧れ。そんな中現れたメモリアは、私の理想、そのものだった。

 だからこそ―――――私が変身したキュアメモリアルは、メモリアそっくりなんだ。

 

 イーネドライブは、私を、『理想の女の子』にしてくれたんだね―――――

 

 カラダ全体に『ありがとう』を感じながら―――――私とメモリアは少しの間だけ、ヒトであること、アプリアンであることを超える―――――!

 

記し、念じる、無限の未来!!キュアメモリアル!!!

 

 ……SAVE POINT




 すべてが掟破り!
 キュアデータはあらゆる常識を破壊する、脅威のプリキュア見習いなんです!!
 しかしてそのユーザーもまた掟破りで……!?

 後篇Bは近日中にアップ予定です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

涙祓の流星

 近日中にと言ったな……あれは嘘だ。

 というわけで1日で書けちゃいました!!
 キュアデータのユーザーも登場する後篇B、送信です!!!


 NOW LOADING……

 

 《CURE-MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!!》

 

 『記し、念じる、無限の未来!!キュアメモリアル!!!』

 

 私は3階の図書室の窓から一気にジャンプして、グラウンドに着地した。

 

 「プリキュアだ!昨日のプリキュアだ!」

 「かっこいい~!」

 「写メ撮ろうぜ、写メ!でもってネットに上げようぜ!!」

 

 避難していた学校のみんなが、私を見て声を上げる。

 

 『危ないから、早く逃げて!!ここは私に任せて!』

 

 みんなに逃げるよう呼びかけた、その時―――――

 私の5メートルくらい右側に、すっと人影が立った。

 

 『あなたも、はや―――――』

 

 ……息を呑んで、言葉が出なくなっちゃった。

 そこに立っていたのは―――――

 

 "もうひとりのプリキュア"だった。

 つまり―――――キュアデータのユーザーになったヒト―――――

 

 全身を走るLEDファイバーのようなラインと、湧き立つイーネルギーの光は、データと同じ水色。

 コスチュームは私―――――キュアメモリアルと同じデザインラインだけど、グローブは手首から先だけを覆っていて、ブーツも足首までのショートブーツで、スポーティな印象だ。

 何よりの違いは、キュアデータの時には無かった、首に巻かれた純白のマフラー。風にはためいて、カッコイイ!

 サイドテールにまとめられた髪と瞳は、透き通った青空のような水色。顔立ちは、私よりも幼げに見えた。同い年か、もしかしたら年下……中1か、もしかしたら小学生かも知れない。

 なんか、清楚なフンイキを感じる。『美人さん』と『幼い』感じが、絶妙に同居している、『大和撫子』なフンイキの子だ。

 

 結論―――――すっごく『カッコカワイイ』!!超絶的にキュアっキュア!!あとで写メ撮らせてもらわないと!!

 

 ……よ、よかったぁ……あのキュアデータのユーザーになった子だから、どんなオラオラ系の子かと思ったけれど、フンイキからしておとなしそうだ。

 それに、男の子や男のヒトでもなかったみたい。プリキュアのコスプレしたような『男の娘』とかオジサンが現れたらどうしようかと……

 

 『あなたが……キュアデータのユーザーさん?……私、とう……じゃなくって、キュアメモリアル!……あなたのお名前は……?』

 

 あぶないあぶない、思わず本名を言いかけた。変身したら、きちんと『プリキュア』として名乗らないと。

 ちら、と、その子はこちらを見て、言った。

 

 『……キュア……デーティア』

 

 鈴をころがすような、見た目とのギャップが全然ない、かわいらしい声だった。

 キュアデーティア、かぁ……そっか、私と同じように、この子はデータとマトリクスインストールでいっしょになってるんだ。だから名前も、データに似てる。見た目はあまり似てないけど……って言ったら失礼かな……

 

 『実体化した以上……早く倒そう。ここは……学校なんだし』

 『う……うん……!』

 

 とても冷静だ。私よりも年下に見えるのに、なんだか『戦い慣れ』しているようにも感じされる。

 でも、この子の言う通りだとも思った。この子も、私と同じ大泉中学校の生徒……だろうし、学校が壊されたりするのは嫌なんだ……と思う。

 

 『キュアデーティアも出てきたか……まとめて始末しろ、バグッチャー!!』

 『ハップップ~~~~!!!!』

 

 構えるバグッチャーを前に、デーティアは冷静にバグッチャーを見据えながら―――――

 

 『渾然一体(コンゼンイッタイ)涙祓一心(ルイバツイッシン)―――――正義、推参』

 

 そうつぶやいて、覆面のように、マフラーで顎から鼻までを覆った。まるで、忍者だ。

 

 『()ェ!!!』

 

 ネンチャックの号令で、全身の本を射出するバグッチャー。一斉に本が開いて、たくさんのレーザーが私達を襲う!

 

 『っ!』

 

 私とデーティアは二手に分かれて、レーザーの雨をかいくぐりながらバグッチャーに近づいていく。

 と、デーティアが青い弧を描いて、高々とジャンプした。何かする気だ!

 

 

―――――貫槍術(カンソウジュツ)―――――

 

 

 何かをつぶやいた次の瞬間、デーティアの足首の部分のメタルパーツが開いて、水色のイーネルギーを放出しだした。

 そして――――― 

 

 

(イチ) (シキ) (テッ) (コウ) () (ドウ)

 

 

流 星(ナガセ)

 

 

 ―――――ヅドンッッッッッ!!!!!!!!!!

 

 デーティアが青白い流星と化し、バグッチャーへ、ナナメ上から急降下キックを突き刺した!

 ていうか、さっきの何!?か、カンソー、テッコー……!?

 

 『……立て続けて!キミの番!!』

 

 反動で跳ぶデーティアから、私に檄が飛んでくる。そうだよね、負けてらんない!!

 

 『でぇぇぇぃゃぁあ!!!!』

 

 私は真っ向からパンチを放ち、そのまま連続でパンチのラッシュを叩き込む。コンビネーション攻撃に、バグッチャーはガードしながらも怯んでる。

 

 『何をしてるんだい!?さっさと墜とすんだ、バグッチャー!!』

 『シャワワワワ~~~!!!!』

 

 20冊ほどの本がわらわらと、私とデーティアを追ってくる。レーザーで逃げ場を塞がれ、私とデーティアは背中合わせに立った。さっきはちょっと離れてたけど、この子と私の身長差はほとんどないことがわかる。ちょっとだけ、デーティアの方が小さいかな、というくらい。

 

 『攻めきれないね……』

 

 飛び交う本を見上げながら、デーティアが言う。見たところ、この子は真正面からの真っ向勝負が得意な様子。戦いに対する考え方は、データの影響を受けてるのかも。

 

 『それなら……私に考えがあるよ』

 『……何をするの?』

 『まぁ見てて』

 

 私はそう勝気に返すと、手の甲のキュアットサモナーに、黄色のキュアチップを呼び出して、ネットコミューンに差し込んだ。

 

キュアチップ、『キュアトゥインクル』!キュアット、イィィン!!

 

 《きらめく星のプリンセス!キュアトゥインクル!》

 

 《CURE-TWINKLE! INSTALL TO MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!》

 

 インナーに纏うは黄金色の星のドレス。髪の毛がふわりとまとめられて、変身完了!

 

 

キュアメモリアル、"トゥインクルスタイル"!!

 

 

 私はバグッチャー相手に、すっと右手を差しのべながら―――――

 

 『冷たい檻に閉ざされた"未来の光"、返していただきますわ―――――お覚悟は、よろしくて?』

 

 『姫プリ』のキメ台詞!私、個人的にもかなりお気に入り!こんなのされたら、私だったら一瞬で覚悟完了、昇天1秒前ってくらい……!!

 でもって、やっぱりちょっとだけ口上が違った。バグッチャーに閉じ込められているのがキュアハッピーだから、かな。

 

 『……………………』

 

 私のこの様子を、デーティアはきょとんとした表情で見ていた。

 

 『……どうしたの?』

 『え?……あ、ううん……』

 

 デーティアは、覆面越しにふっとほほ笑んだ。

 

 『なんか、カッコいいなって……』

 

 なんだかこの子、このキメ台詞を初めて聞いたようなリアクションをしてる。

 まさかとは思うけど、この子って、プリキュアをテレビで見たことないの……?ふつう、女の子なら小さい頃は一度はプリキュアを見てくれてるハズだけど……。

 

 《りんりん、行ける?》

 『もっちろん!パフュームもドレスアップキーも一式そろってるし、やれることは全部できる!』

 

 心の中からのトゥインクルの声に、自信満々で答える私。誇りあるプリキュアオタクの私なら、『プリキュア』の完コピ、余裕です!!

 

ドレスアップキー!"シューティングスター"!!

 

 クリスタルプリンセスロッドを取り出して、キーをセットする。星の輝きが、ロッドに宿る―――――

 

キラキラ!流れ星よ!

プリキュアっ!ミーティア・ハミング!!

 

 ロッドの『星』を、私は上空に撃ち出した。

 

 『何ッ……!?』

 

 ネンチャックが驚いてその星を目線で追う。でも、もう遅いよ!

 一足早い一番星がまたたいた、次の瞬間―――――流れ星の雨が、学校のグラウンドに降り注いだ。

 

 ―――――ドガガガガガガガガガガガガ!!!!!

 

 流星雨に巻き込まれたたくさんの『本』が、煙とともに爆発していく。

 

 『……あれだけの本を一掃!?そんな―――――』

 『隙だらけ、だよ』

 

 気づいたら、デーティアは隣にいなかった。バグッチャーの向こう側―――――背中にまわっていた。

 

 

―――――閃剣術(センケンジュツ)―――――

 

() (シキ) (バッ) (トウ)―――――影 狩(カガリ)

 

 

 通り抜けざまの、手刀一閃。青色の斬跡が煌いた。デーティアは振り向きもせず、まるで血糊を払うかのように右手を振った。

 一瞬の間をおいて振り返ろうとするバグッチャーが―――――崩れるように倒れた。

 速い!まるで時代劇の居合斬りだ。私もプリキュアになって動体視力とかも上がってるんだろうけど、それでも見えなかったんだから、どれだけ速いの、今の……!?

 

 《大暴れだな、相棒!》

 『……今日は、ちょっと抑えてる。初めて……いっしょに戦うし、ね』

 

 デーティアのイーネドライブが点滅して、データの声があたりにひびく。覆面を下ろしたデーティアが、口元を緩めて応えている。そうそう、素顔のほうがずっとカワイイよ!

 

 『……大丈夫?無理、してない?』

 『え?……ううん、全然大丈夫!』

 

 こんな気遣いからも、この子の温和な性格が伝わってくる。ホント、『あの』キュアデータとは正反対の子だ。

 私は元の姿に戻って、"ハッピーバグッチャー"を見ながら言った。

 

 『いっしょにハッピーを……みゆきちゃんを助けよう……!あの子の笑顔を……スマイルを、取り戻したいから……!』

 

 なんとなく、だけど、キュアハッピー―――――星空みゆきちゃんには、シンパシーを感じてる。

 『物語』が好きなこと。ハッピーエンドが好きなこと。ヒトの気持ちに敏感だからこそ―――――

 ヒトを信じて、きちんとわかり合うことを、諦めなかったこと―――――

 

 『こんな形であなたと出会ってしまったのはつらいコトだけど……でも……』

 

 私は、あなたの『物語』の続きが知りたい―――――

 みゆきちゃんが描いた、『白紙の未来』のその先が―――――

 

 『笑顔の物語』を、私は知りたい―――――

 

 『笑顔のパワーで……私とあなたの、世界はつながる……!バグッチャーにとらわれたその瞳は曇ってしまったかもしれないけれど……でも!今からでも……!!』

 

 私は駆け出す。

 私の想いを、みゆきちゃんに届けるんだ!!

 

 『私の負けない勇気!!ここに束ねて、あなたを、未来に導く!!!もう一度輝いて、みゆきちゃんっっ!!』

 

 両腕に力を込める。両腕のメタル部分が開いて、ピンク色のイーネルギーを噴き出す。

 

メモリアル!ココロシェイカァァァーーー!!

 

 同時に突き出した両のてのひら。ピンクの粒子がはじけて、バグッチャーを吹き飛ばした。

 

 『ギュゥアアア……ッ!!』

 

 吹き飛んだバグッチャーが上体を起こす。そこへ―――――デーティアが追撃をかける。

 

 

―――――戦槌術(センツイジュツ)―――――

 

 

 素早くジャンプして、右脚を大きく振り上げる。きらめく青色のイーネルギー―――――!

 

 

(サン) (シキ) (ラク) (レツ) () (ジョウ) (ツイ)

 

 

(コン)

 

(ゴウ)

 

(サイ)

 

 

 ―――――ヅドゴォォォォォォオオオオオオオンンン!!!

 

 脳天への、強烈なカカト落としだ。衝撃で、グラウンドにまるで卵の殻のようなヒビが走り、バグッチャーの巨体がめり込んだ。

 その反動で、デーティアははるか上へと跳んだ。そして、右手をバグッチャーに向けて広げて、左手で右の二の腕を押さえる。開かれた右の手のひらに、イーネルギーが凝縮されていく。

 

 

―――――砲撃術(ホウゲキジュツ)―――――

 

 

 感じる―――――今まででいちばんの、デーティアの『本気』が飛んでくる!!私は反射的に、飛びのいて退避した。

 

 

() (セイ) (レイ) (シキ) (デン) (ノウ) (ホウ)

 

(ソウ)   (ゲツ)

()   ()

 

 

 一発のイーネルギーの砲弾が発射され、バグッチャーにまっすぐ命中し、青色の大爆発を巻き起こした。

 な……なんかスゴいド派手なんだけど、こんなの撃っちゃって……大丈夫なの……!?いろんな意味で。

 それにこの子の技って……今気づいたけど、明らかにプリキュアの技のそれじゃない!っていうか、カタカナ一文字も入ってなくない!?

 

 この子……キュアデーティアって―――――いったい……?

 そう思ったその時、空から降りてくるデーティアの全身から蒸気が噴き出た。

 

 『ここまでか……メモリアル、後は頼むよ!』

 

 おk、頼まれました!!身体に力を込めて、パワー全開!!

 

 《CURE-MEMORIAL!! FULL DRIVE!!!》

 

 全身から放たれたイーネルギーが、一振りのロッドへと形作られる。

 

タッピンスティック!メモリアルロッド!!

 

 体中の高揚感と、電子の輝きを、ロッドへと集めて―――――

 

電子のヒカリよ!

闇にとらわれし"未来の光"を、取り戻して!!

 

 祈りと願いとともに―――――解き放つ!

 

プリキュア!!

メモリアル!

 

フラァァァァーーーッシュ!!!

 

 ピンク色のイーネルギーが渦を巻きながら、バグッチャーの全身を呑み込み、さらっていく―――――

 

 『デ……リィィィトォォォォ………………!!』

 

 輝きの中で、バグッチャーは消散し、夕暮れの空へと還っていった。

 

 『デーティアだけじゃぁないってことか……!チ、キュアメモリアルもマークだ、マーク……!!』

 

 親指の爪を噛みながら、ネンチャックは闇色の光とともに消えていった。

 

 『!……また逃がした……』

 

 歯噛みするデーティア。引き際が良いのって、ワリとプリキュア悪役の皆さんの常道、だと思う。居残って仕掛けてくるなんてこと、ほとんどなかった気もするし……

 

 『…………ふぅ……勝てたぁ…………』

 

 私は一気に脱力して、その場にぺたんとへたり込んだ。心労と肉体疲労で、今日はなんだかクタクタ……バグッチャーも、さすがはリーダープリキュアの力を取り込んでただけあって、普段の3割増しくらい強かったし……

 

 『大丈夫?』

 

 私の顔を、微笑みを浮かべたデーティアがのぞき込んでくる。ほんとこの子、時々カワイイ顔をする。無邪気というか、なんというか。

 

 『ありがと。助か―――――』

 

 ―――――じゃき!ぷしゅーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!

 

 笑顔で返そうと思ったその時、突然私の体が蒸気を噴いた。キメ技を撃った後のオーバーヒート防止のための放熱。

 ものすごく至近距離でデーティアを巻きこんじゃったけど、大丈夫!?

 

 『ご、ごめん!!』

 『ごっほ……ごほ……ふふふ…………あはは、あはははははは……!!』

 

 何がツボにはまったのか、デーティアはおなかを押さえて笑いだした。

 

 『もう……笑わないでよぉ!どうしてこうなっちゃうのか、私にもよくわかんないし……』

 『はは、それは……こっちも同じ……そうだよね、まだ、慣れてないもんね、この体……』

 

 この子も、プリキュアになってから日が浅いみたい。けれど、あんなに慣れた戦い方ができるって、どういうことだろう……?

 ともあれ―――――私にとって、心強い味方ができたのは、事実なんだよね。

 

 『……なんか……"あの子"に似てるなぁ……』

 

 そんなデーティアのつぶやきが耳に入った。この子の知り合いに、私と似てる子がいるのかな?

 私は立ち上がって、デーティアを見つめた。

 

 『ありがとう……いっしょに戦ってくれて。……それで、よかったらこれからも、いっしょに戦って、くれるかな?』

 

 するとデーティアは、一瞬驚いたような表情を浮かべた。少し顔を赤くして、ちょっと視線を泳がせる。でも、最後には―――――

 

 『……もちろん。……よろしくね、メモリアル』

 

 デーティアの方から、右手を差し出してきてくれた。ためらいなく、私はその手を握った。やわらかくって、それでいて『熱さ』を感じる手だった。

 あぁ……なんか私、すっごく感動してる……私と同じで、プリキュアのユーザーになった子と、こうして握手してるんだもん……

 これからは、メモリアと、データと、この子……そして、助け出したプリキュアのみんなと、ジャークウェブに立ち向かっていける。

 

 『それで、なんだけど……あなたの本当の名前、教えてくれないかな……?』

 

 そうなれば、当然普段から顔を合わせて、相談とか、作戦会議とか、いろいろお話をしなきゃいけない。

 連絡先とか、知っておきたいと思って、私は訊ねたんだけど―――――

 デーティアは、握っていた手を放して、表情を曇らせてしまった。

 

 『……それは、できない』

 『え……?』

 

 そ、そんなぁ……ホントの名前も知らないままとか、それって、いっしょに戦う仲間としてどうなの?

 

 『どうして……なの?』

 『………………それは……』

 

 うつむいたまま、デーティアは言った。

 

 『……本当のことを知ったら……きっと、キライになるから―――――』

 『……え』

 『……ごめん。さよなら!』

 

 デーティアは私に背を向け、校舎の向こうへとジャンプして行ってしまった。

 あまりに突然だったから、私は呆然としていた。どういうこと―――――?

 

 本当のことを知ったら、キライになるって……?

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    CURE-MEMORIAL

    CURE-MEMORIA

    CURE-DATEAR

 ⇒  CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 《おい!どういうことだよ!?なんで逃げんだよ!?》

 

 アタシは相棒を問い詰めていた。

 

 《せっかくメモリアといっしょに戦えるって思ったのにさ……!何考えてんだ!?》

 『………………ごめん、データ』

 

 さっきからこれだけだ。何を言っても、コイツはこれだけしか返さない。

 

 『やっぱり、ダメだよ……まだ、言えない……』

 

 やれやれ……コイツ、カンジンなところでチキンになりやがる。

 覚悟を決めて自分を貫くって言い放ったくせに、素直に自分を出せねぇんだから……

 

 《ま、いいさ。心の整理がついたら、いつでも言いな》

 『……一生秘密にしてる方が、いい……』

 《……バカヤロウ……》

 

 当分、コイツのことをメモリアと、アイツのユーザーに話せるのは先になりそうだな……

 お前は、このアタシが世界一って認めたヤツなんだ―――――

 貫くなら最後まで、自分ってヤツを貫いて見せろよ―――――相棒……。

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    CURE-MEMORIA

    CURE-DATEAR

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 

 デーティアのことを考えて、ぼう然としていた私。

 ……なんか、忘れてるような気がする……なんだっけ?

 

 『…………ぉ~~……ぃ…………』

 

 誰かが呼んでる声がする。

 

 『おぉ~~~い!』

 

 今度ははっきりと聞こえた。その方向を見ると、この校庭で一番高い、桜の木があった。

 その中ほど、幹と幹の間に、ピンク色のキュアチップがはさまっていた。でもって、幹の間にはさまったまま、動けないでいるホログラムのキュアハッピー……

 

 『はやくおろしてぇ~~……(T T)』

 

 ご、ごめんね!?デーティアのことを考えてたら、カンジンなことを忘れちゃってた!!

 というか……忘れてて、やっぱりごめんね、みゆきちゃん……

 

 ――――――――――

 

 『助かったよぉ……ありがとう、メモリア……それから、ユーザーさんも』

 

 気を取り直して、私達は校舎の屋上で、助け出したキュアハッピーと話をすることができた。

 

 《ハッピー……本当によかった……あの時助けられなくって、本当にごめんなさい……》

 『ううん、あやまらなくてもいいよ、メモリア……あなたの頑張りがあって、こうしてまたお話できるわけだし―――――』

 

 キュアチップから浮かび上がる幻影のようなハッピーは、私に視線を向けた。

 

 『りんくちゃん……聞こえたよ、あなたの声。負けない勇気、いっぱい受け取ったよ……ありがとう!』

 

 にっこりと笑うキュアハッピーは、間違いなく、私があこがれた、『理想の女の子』のひとり―――――

 たくさんの笑顔で、私の希望になってくれた、星空みゆきちゃんだった。

 

 『……みゆきちゃん……私の方こそ、ありがとう……』

 

 スマイルプリキュア―――――言葉通りに、笑顔の似合うプリキュアチーム、そのリーダー。

 取り戻せて、本当によかった―――――

 

 笑顔のまま消えていったハッピーの幻影。残されたチップを、私は夕闇の空にかかげた。

 

 『キュアハッピー、キュアっとレスキュー!!』

 《やったぁ~!》

 

 12人のリーダープリキュアのひとりを、早くも助け出すことができた!

 すると、その時。

 

 ―――――ぴかん!

 

 なにやら、髪の毛にヘンな違和感を感じた。花火みたいに12本に枝分かれしてる髪の、7番目のテール、その根元を手繰ってみると―――――

 

 『これって……キュアデコル?』

 

 『スマプリ』のキーアイテムだったキュアデコル。そのうちの、キュアハッピーに変身するときに、みゆきちゃんがスマイルパクトにセットするリボン型のデコル、それと全く同じモノが、私―――――キュアメモリアルの髪の毛に、ヘアリングにあしらわれてセットされていた。

 一体、何の意味があるんだろう……

 

 《終わったし、帰ろ?りんく?》

 

 心の中のメモリアが言って、もう下校時刻を過ぎてることに、私は気が付いた。

 あたりは夕闇が支配して、私のコスチュームのLEDファイバーみたいな光が目立つようになってきた。

 おなかもペコペコ、ココロもクタクタ。今すぐ帰ってママのご飯をおなか一杯食べたいところ―――――なんだけど。

 

 『ちょっと……寄り道しても、いいかな?』

 

 今の私には、行くべき場所が―――――

 決して目を背けてはいけない場所があった。

 

 ――――――――――

 

 昨日、実体化したバグッチャーが暴れた大通りの現場。

 すでにたくさんの重機が現場に入り、がれきの撤去作業を進めている。

 規制線のすぐそばには、献花台が設けられていた。それを見つけた私は、途中のお花屋さんで作ってもらった花束を手向けて、両手を合わせた。

 白い花を中心に、ガーベラと、ほんの少しだけの、ピンクのゼラニウム。私は、この花束に私の心を込めた。

 

 ―――――ガーベラの花言葉は、『希望』。

 ―――――ピンクのゼラニウムの花言葉は、『決意』。

 

 『ハトプリ』を見ていた時に、夢中で勉強した花言葉。それを思いだしながら、私は一つ一つの花を選んだ。

 手向けて祈りを捧げる時、バッグからそっと、キュアットタブをのぞかせた。メモリアをはじめ、レジェンドプリキュアのみんなもまた、両手を合わせて、バグッチャーの犠牲になった人たちを悼んでくれていた。

 

 「……行こう」

 

 献花台、そして大通りに背を向けて、私は歩き出した。

 もうすでに黄昏時を過ぎ、私の視界には夜闇が広がる。

 行き交う人、そして自動車と建物の光。それは、そのひとつひとつが、ヒトが『生きてるコト』の証―――――命の光。

 

 私の心は、もう揺るがない。

 私の戦いは、私だけの戦いじゃない。

 

 ―――――私の戦いは、メモリアの戦い。

 ―――――私の戦いは、プリキュアたちみんなの、サーバー王国のみんなの戦い。

 

 ―――――私の戦いは―――――この世界を―――――

 

 ―――――この、あたりまえの『毎日』を―――――

 

 ―――――この世界に息づく『命』を、守るための戦い。 

 

 現実は、アニメじゃない。失われた命は、二度と戻ることはない。

 ジャークウェブが、この世界に絶望を―――――『死』を齎そうというのなら、私は戦う。

 

 この世界に、ヒーローもヒロインもいないというのなら、私がなる。

 

 絶望しかないというのなら、私が希望を齎す光になる。

 

 

 私にとっての『プリキュア』がそうであったように―――――

 

 私は―――――

 

 ううん、私"達"は決意した―――――

 

 

 「私達が―――――この世界の"希望(プリキュア)"になる―――――」

 

 ―――――STAGE CLEAR!!

 

 RESULT:CURE CHIP No.24『CURE-HAPPY』

 プリキュア全員救出まで:あと47人

 

【挿絵表示】

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 『爪弾くはたおやかな調べ!』




 ―――――りんくの『今回のプリキュア!』

 りんく「今回のプリキュアはだ~れだ?』

 『キラキラ輝く、未来の光!キュアハッピー!』

 メモリア「『スマイルプリキュア』のリーダー、"閃光(せんこう)のハッピー"!属性はぴかぴかの『光』!」

 りんく「絵本とお話が大好きな、星空みゆきちゃんが変身した、聖なる光のプリキュアだよ!」

 メモリア「そんなハッピーのキメ技は、コレ!」

 『プリキュアっ!ハッピー……!シャワーーーっっ!!!』

 メモリア「聖なる光のビーム、ハッピーシャワー!」

 りんく「気合いだ!キアイだ!き・あ・い・だ~~!!」

 メモリア「気合でぐんぐんパワーアップ!その分体力も使うけど……」

 りんく「最初のころは1発撃ったらヘロヘロに……今となっては懐かしいよねぇ……それじゃ!」

 りんく・メモリア「「ばいば~い!!」」

 次回予告

 りんく「データのユーザー、キュアデーティア……どうして自分のこと話してくれないの?」

 メモリア「変身するのがイヤなのかなぁ?」

 りんく「ううん、そんなコトないと思う!プリキュアは女の子の憧れだよ!?女の子は誰だってプリキュアになれるんだよ!?プリキュアになれてうれしくない子なんていないと思うよ!……こうなったら、私があの子の正体を突き止めちゃうんだから!」

 メモリア「だ……大丈夫……?」

 インストール@プリキュア!『あなたはだあれ?キュアデーティアの@正体!』

 りんく「ピカッとキュアっとあつめてプリキュアオールスター!」

 ――――――――――

 はい、というわけで、キュアデータが掟破りなら、そのユーザーもまた掟破りでしたとさ……

 大和撫子っぽくて童顔美人のキュアデーティアですが、自分のことを話したがらないシャイなコです……

 そして、りんくも腹をくくりました。
 自分が、この世界のプリキュアになる―――――
 決意を新たに挑むりんくとメモリアの戦いの行方や如何に……?

 そして早くもデーティアの正体が次回明らかに!
 『インストール@プリキュア』、もう一つの山場がここに……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 あなたはだあれ?キュアデーティアの@正体!
夢の対決!


 キャラクター紹介

 キュアメモリアル

 『プリキュア・マトリクスインストール!』の音声コード入力によって、『ネットコミューン』のマトリクスインストールプログラムが解放、キュアメモリア"そのもの"がインストールされることによって、りんくが変身した姿。
 『∞』型に結ばれた長大なリボンと、頭のてっぺんから、何かを象徴するように後方に12本に枝分かれしている、ヤシの葉か花火を思わせる髪型が印象深い。
 このリボンは、キメ技を放つ際にイーネルギーの粒子加速器として機能し、イーネルギーの安定集束に一役買っている。

 まさしく『正統派主人公プリキュア』といった出で立ちであり、これは変身後の姿が『ユーザーが持つ"理想の女の子"のイメージ』を具現化しているからで、りんくの『理想の女の子』とは、まさしく『プリキュア』に他ならないためである。

 プリキュアらしく、身体能力は常識のタガが外れたかのように高いのだが、運動オンチのりんくが変身しているため、常識外れの超パワーをあらぬ方向に全力で向けてしまうこともしばしば。
 しかして、メモリアルの最大の武器は、りんくが持つ『プリキュアの知識』そのものである。
 レジェンドインストールの際、インストールしたプリキュアの能力のすべてを把握し、100%の実力を発揮させることが出来る。
 また、相対するバグッチャーが『プリキュアの能力を使用する』以上、その攻略法までをもりんくは知っている。
 即ち『敵を知り己を知れば百戦殆うからず』を、究極の形で体現した、対ジャークウェブ最大のカウンターパワー的存在なのである。
 もっとも、りんくとメモリアがバグッチャーに対して『プリキュアだと思って、敬意を以って挑む』というスタンスをとるため、プリキュアの弱点を突いた戦法は最小限にとどめ、正々堂々と正面から戦う。

 その名は、『記憶』の累積である『今』を守るために、『心』のままに戦うという覚悟から、融合後のりんくが無意識に名乗ったもの。

 ――――――――――

 キラプリも始まり、まさにプリキュア新時代到来!
 手作りスイーツが流行るんでしょーかねぇ……

 今回は、キュアデーティアの正体を探るため、りんくが一計を案じます。
 はてさてこの先どうなることやら……では、送信です!


 キラキラ輝く、未来の光!キュアハッピーだよ!

 

 りんくちゃんの前にあらわれた、もうひとりのプリキュア、キュアデーティア―――――

 

 『貫槍術(カンソウジュツ)壱式徹甲機動(イチシキテッコウキドウ)―――――"流星(ナガセ)"ッ!!!』

 『なんか、カッコいいなって……』

 『……大丈夫?無理、してない?』

 『よろしくね、メモリアル』

 

 落ち着いた感じの、いい子みたい!なんだけど……

 

 『あなたの本当の名前、教えてくれないかな……?』

 『……それは、できない……本当のことを知ったら……きっと、キライになるから―――――』

 

 何か、事情があるのかな……?デーティアが隠してる本当のことって?

 

 ……りんくちゃん……きっとこの子は、自分のことを話すことを怖がってる……

 でも、きっと大丈夫だよ?きちんとお話して、わかり合うことができるハズ―――――

 ふたりが、"ふたりのまま"で出会える日は、きっと遠くはないから……!

 わたしも、めいっぱい応援するよ!

 

 まだ行方がわからない、あかねちゃん、やよいちゃん、れいかちゃん―――――

 それから、他の世界から来た、プリキュアの友達―――――

 みんながもう一度そろって、サーバー王国に帰れるように―――――

 信じてるよ、りんくちゃん!

 

 『インストール@プリキュア!』―――――

 がんばる"ふたり"と"ふたり"に、きっと来るよ!最高の、ウルトラハッピー!!

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 献花台の後の、帰り道―――――ちょっとだけ、うれしい出来事があった。

 キュアットタブから、すすり泣くような声が聞こえて、そっとのぞいてみると―――――

 

 《……よかった……マーチが無事で、本当によかった……!》

 《ハッピー……あたしも…………うぅ……》

 

 理不尽に離れ離れにされて、悪いヤツに力を利用されて―――――

 みんな、辛い目に遭った。そんな中で、同じチームの仲間と再会することができたキュアハッピーとキュアマーチ―――――

 涙をぽろぽろと流しながら、ふたりはぎゅっと抱き合っていた。見守るキュアロゼッタとキュアトゥインクルも、どこかうれしそう。

 それから……ふたりも友達と再会する光景を想像してたのかな……ふたりの目にも光るものが見えた。

 

 ―――――おめでとう……みゆきちゃん……なおちゃん……

 

 私はそっと、タブをバッグの中にしまった。

 

 ――――――――――

 

 寝る前に、私は机の上でキュアットタブを開いた。

 現在までの、『プリキュア救出状況』がわかるリストを、アプリで開く。

 

【挿絵表示】

 

 まだほとんどが真っ白―――――『現在消息不明』だ。色がついている―――――救出したのは、わずか4つ。

 でも、今日分かったことがある。キュアデータと、そのユーザーのキュアデーティアが、キュアレモネードのチップを持ってること、だ。

 つまり、事実上救出したプリキュアは、これで5人ということになる。

 

 「ようやく5人、かぁ……」

 

 なんだか、気が遠くなりそう。51人中の、5人。約10分の1……まだまだ道は遠い。

 それに―――――

 私はリストの一番左側に記されている名前をずらずらと見ていく。

 

 12人の主人公―――――その中で、色がついているのは24番目、キュアハッピーだけ。

 まだ、11人のリーダープリキュアが、消息不明のままになっている。

 せめて、リーダープリキュアたちを早く助け出すことができれば、これからの戦いも楽になるんだろうけど……

 

 そんな考えが頭をよぎる。いかんいかん、何考えてるの東堂りんく!?

 私は誇りあるプリキュアオタク……!すべてのプリキュアを分け隔てなく愛でると誓った身、特定のプリキュアだけヒイキ目で見るなんて絶対にあっちゃならない!バグッチャーが出てきたら、そこにどんなプリキュアが囚われていようとも、必ず助ける!

 これは、誇りあるプリキュアオタクである私に、天から与えられた、『私にしかできない使命』なんだ!

 

 「よぉし!やるぞぉーーっ!!プリキュアオールスターズ、このタブに全員キュアっと、勢揃いさせちゃうんだから!!」

 

 夜であるにもかかわらず、大声で叫んでしまった。「おい、うるさいぞー!」と、階段の下からパパの声がした。ごめんなさい……

 

 《うふふ……やる気まんまんですわね、りんくさん♪》

 「ひゃっ!?」

 

 突然タブの画面が"プリキュアルーム"に切り替わり、ニッコリ笑顔のキュアロゼッタさんが現れた。ぎょっとして私はイスから転げ落ちそうになった。

 

 《あらあら、大丈夫ですか?》

 「もう……急にびっくりさせないでよっ」

 《……ごめんなさいね♪……でも、お元気になって何よりですわ♪》

 

 元気になった、というのとはちょっと違うかな。なんというか、折り合いをつけたというか、自己解決したというか。

 こうしていつも通りに話してるけど、昨日とは明らかに心境が違うんだよね。

 私の中でモヤってた何かが消えて、すっきりと、ありのままの私自身を前面に押し出せる、そんな感じ。

 プリキュアになったこと、そんな私に何ができるか―――――という考えが、しっかりと私の心の中にある。

 

 「……いろいろ心配かけちゃったみたい……頼りない見習いで、ごめんね」

 《いえ……ワタシたちの方こそ、メモリアがいつもお世話になっていて、ワタシたち自身も、こうして"おうち"をご提供していただいているんです。いずれは、ご恩を返させていただきたいですわ♪》

 「そ、そんなのいいよ!……"おうち"作ったの、メモリアだし……ありすちゃんやみんなが本当にこの世界にいて……こうやって、『アニメの中のキャラクター』じゃない、『ホンモノ』のありすちゃんたちとお話できてるんだから……プリキュア好きで、本当によかったって思ってる……今この瞬間が、私にとっては最高のごほうびだよ♪」

 《りんくさん……♪》

 

 ホント、世の中のプリキュアファンのみんなには申し訳ないくらいの毎日だ。なにしろ、『ホンモノ』のプリキュアとお話して、毎日を過ごせるんだもん……

 

 「このよろこび……あの子にも伝えたいな……」

 

 あの子―――――キュアデーティアも、プリキュアのことが好きだから、データのことを信じてあげたからこそ、データとマトリクスインストールができたんだと思う。 あの子にレモネード以外のレジェンドプリキュアのみんなを紹介したいし、それに―――――

 

 「あの子のこと……もっと知りたい……」

 

 あの子は、『本当のことを知ったらキライになる』って言うけど、私は絶対、キライになんてならない。

 だって、あの子も私と同じ『プリキュアユーザー』で、この現実世界でたったふたりの『プリキュア』なんだから―――――

 きっと仲間に―――――友達になれるはず!

 

 《その、キュアデーティアのことなのですが……ひとつ、気づいたことがありますわ》

 

 ロゼッタは、小さなウィンドゥを呼び出した。夕方の、"ハッピーバグッチャー"との戦いの映像が流れはじめた。

 

 《メモリアが記録していた映像を見せていただいたのですが……彼女の構えや体捌き……一挙手一投足……それらすべてに、特徴的な点が見受けられました》

 「特徴……?」

 《はい……これらの動きはすべて、古式武術の動きによく似ているのです。以前一度、このような武術をお使いになる方と、お手合わせしたことがあるので、よく覚えているのですわ。……もう、かれこれ20n「だからトシのことはダメ~!!」》

 

 よ、四葉ありすちゃんは永遠の14歳なんです!!なので20年前なんてないんです!!ないんですよ、皆さんっ!?

 

 「……はぁ……と、ともかく、デーティアは武術使いってことね……となると……柔道部か空手部……でも技が柔道っぽくなかったし、空手部の子かなぁ……」

 

 武術部なんてウチの学校には無い。格闘技を扱ってるのは、相撲部と柔道部と空手部だけだ。

 とりわけ大泉中の空手部は地域でも名門で、わりと強豪校。個人戦や団体戦でも、大会ではよく上位に食い込む常連だ。

 

 まてよ―――――

 

 私はネットコミューンを取り出して、スケジュール管理アプリを起動した。

 1週間後のスケジュールに、あった。"それ"を確認して、私は決めた。

 

 「ロゼッタ……私、デーティアが誰か、探ってみるよ」

 《まぁ……でも、よろしいのですの?あの方は『本当のことを言えない』とおっしゃられていますのに……》

 「それなら……正体を知っても、デーティアに伝えずに、あの子が自分から言ってくるのを待つよ。あくまでも、あの子が決心して、自分のことを話してくれるまで、私からネタバレはしないつもり。ちょっと、ズルい気もするけどね……」

 《それならよろしいのですが……何か、良い方法が?》

 「ふっふ~ん……♪」

 

 今日の私は頭が冴えてる。寝る前なのに冴えちゃってる。私はドヤ顔をロゼッタに向けた。

 

 「私にいい考えがある」

 

 ……こ、こら、画面の前のヒト!!失敗フラグって言わない!!

 崖から転がり落ちたりもしないんだからねっ!?

 『スマプリ』のピエーロの声で脳内再生しちゃだめ~!?

 

 ……タブの中で先に寝ていたハッピーとマーチが、ガバッと起き上がってた―――――

 

 ――――――――――

 

 それはともかく、1週間後―――――

 

 私が来ていたのは、大泉武道館。

 中学総体の地区大会―――――空手の部の会場。

 今日は私のクラスの有志何名かで、空手部の子の応援、というわけ。

 で、なんで私がこの、『空手部』の応援に参加したのかというと……

 

 ―――――キュアデータのユーザー=キュアデーティアの正体を、ダイレクトに突き止めるため!!!

 

 あれだけの実力があるんだったら、空手部のエースの子に違いない!

 でもって、プリキュアユーザーの証―――――私と同じネットコミューンを持ってるに、絶対違いない!!

 

 そこで私が立てた作戦はこう!

 

 休憩時間に、空手部の女子に片っ端から声をかけて、スマホを見せてもらえば万事解決!見るだけ見たら即撤収!!

 なんてカンペキなケ・イ・カ・ク!!スマホを見せてもらうだけなら、怪しまれないし、何の問題もないよね☆同じ女の子同士なんだし!

 

 「どしたのりんく?何ニヤついてんの?」

 

 観客席の隣の席に座っていたむぎぽんが、私の顔をのぞき込む。

 

 「ふぇ?あ、いや、なんでもないよ」

 「ならいいけど……でも、ちょっと意外って思ったよ。りんくが空手部の応援に来るなんてね」

 「そうかな?空手、カッコいいじゃん?ほら、プリキュアってパンチとかキックとかで戦ってるわけだしさ」

 

 これは建前に聞こえるだろうけど、実は事実だったりする。

 私自身がプリキュアとして戦うことになった以上、心だけじゃなく、肉体的にも強くならなきゃいけないと思ってる。参考にテレビやネットで格闘技の中継を見たり、プリキュアシリーズの中でも、バトルシーンに定評のあった回のブルーレイを見直してみたり、色々と勉強中。

 トレーニングもやってる。寝る前に筋トレとかしてみたり。もっとも、元々運動オンチの私だけに、ちょっと運動しただけでヘタっちゃうんだけどね……

 

 「そらりんも、つき合わせちゃってごめんね?」

 「ううん、ええよ♪わぁもちょっと興味あったしぃ。それにぃ~……」

 

 そらりんは、いつも細めている目をかすかに開いて、むぎぽんに向けた。

 

 「……"どうなるんか"、見届けんともいかんしぃ~❤」

 「あのね……カン違いしてるよ……アタシとほくとはそーゆーカンケイじゃないの。単なる付き合いの長いご近所さんだよ」

 「ホントかなぁ?ならどーして、野球部の応援に行かなかったの?あっちの方が人気あったじゃん」

 「ま……まぁ、そりゃ、ほくとは赤の他人ってわけでもないし、義理もあるからね。応援のひとつでも飛ばしてやれば、ハッスルするでしょ」

 「で、むぎぽんの応援で"ヤル時ぁマジ"になっちゃうわけね♪」

 「そんでもって、"妙に強い"んやねぇ♪♪」

 「そーそー、そういう"ギャップが魅力"……って、何言わせんのよ♪♪♪」

 

 なんだかんだで最後はプリキュアネタへと走ってしまうのが、私達3人だ。

 笑いあいながら、私は2人に心の中で感謝した。私のことを心配してくれて、本当にありがとう―――――

 私が、"いつもどおりの私"として帰ってこれるのが、この2人のいる場所だ。

 私、絶対守るね―――――むぎぽんと、そらりんと、みんなが暮らすこの街、この世界を―――――

 

 「あ、八手くん出てきたえ」

 

 そらりんが視線を促す先に、空手着姿の八手くんや香川くんたち、空手部の団体戦メンバーが姿を見せた。

 

 「ほくと~!がんばんなさいよ~!」

 

 声を上げるむぎぽんに気づいたのか、八手くんが2階の観客席の私達を見上げてきた。

 私と目があったように見えたその時、八手くんは何故か私から視線を逸らした。

 まただ。遠足の時も、この間の教室の時も、私と視線が合うと、八手くんはなぜか視線を逸らしてしまう。

 ……私、もしかして嫌われてる?それとも、特撮ファンの八手くん、プリキュアファンの私を目のカタキにしてるとか……?そんなまさか。

 でも、なんかヘコむなぁ……私、個人的に嫌われるようなこと、した覚えはないんだけど……

 

 「ギャ~~リ~~~ソ~~~ン!!!!!」

 

 あれ?この声って……?

 声をした方向を見ると、相手校の生徒たちがいる、向かい側の観客席があって、その最前列に―――――

 

 「川村さん!?」

 「どーしてあっちの学校にいんのよ!?」

 「うふふ……♪その理由は、アレやなぁ」

 

 目くばせするそらりん。相手校のチームの中に、見覚えのある男の子がいた。あれってギャリソンくん? 

 団体戦の1試合目・先鋒戦。大泉中の先鋒は八手くん。相手校の先鋒はギャリソンくんだ。

 

 「先鋒戦、勝負、始め!」

 

 ――――――――――

 

 すごい試合だった。

 事前にネットで予習してたけど、空手の試合は、基本的に『攻撃を対戦相手に当ててはいけない』コトになっている。

 つまり、攻撃は全部『寸止め』しなきゃいけない。

 それでも、見てるこっちにも、戦ってる2人の気迫が伝わってくる"いい試合"だった。

 

 プリキュアのみんなにも見せてあげたくて、私はむぎぽんとそらりんに「ちょっとごめん」とひとこと告げて、みんなからちょっと離れたところでキュアットタブをバッグから出した。

 

 《わぁ……》

 

 こんなにもたくさんの人がいる中で、タブを出したのは初めてかもしれない。メモリアが、目をかがやかせていた。

 最初は、このにぎわいに戸惑っていたようだけど、すぐに他の4人のプリキュアたちといっしょに、声を上げて楽しんでくれるようになった。

 そんな中、メモリアが言ったひとこと。

 

 《なんか、"プリキュアーツ"みたい!》

 

 ん?ソレって確か、『S.H.Figuarts』のプリキュアフィギュアの通称じゃなかったっけ?どうしてメモリアが知ってるの?

 

 《確かにフンイキは似てますわね》

 《思い出すなぁ……》

 

 ロゼッタとハッピーが懐かしそうに語るところを見て、たぶん、私が知ってる『プリキュアーツ』とは違うみたい。気になって、私は訊いてみた。

 

 「ねぇメモリア、プリキュアーツって?」

 《51人のプリキュアオールスターズ全員参加の、トーナメント形式の武闘大会だよ!年に一度の、サーバー王国のお祭りなんだ!》

 

 !?……な、なんですとッッ!?!?

 い、今、『プリキュアオールスターズ全員参加の、トーナメント形式の武闘大会』って言いました!?

 そんな、プリキュアファンにとっての夢の祭典が、歴史の裏、ネットの奥深くで催されていたってことですか!?

 

 《元々、いつまたサーバー王国を襲ってくるかわからないジャークウェブに備えて、腕を鈍らせないようにってみんなで始めたことなんだけど、いつの間にかサーバー王国のみんなが盛り上がっちゃって、お祭りみたいになっちゃったんだよね……》

 

 笑いながらマーチが言う。

 なるほど、プリキュアたちの自己鍛錬の一環、というわけですか。女の子たちの憧れとして、いつまでも強く可愛くカッコよくあるべきというその精神、勉強になります……!

 しかし気になるのはその内容!これって、映画『雪空のともだち』でキュアブラックとキュアホワイトがガチバトルするのを見た子供たちが映画館で大泣きしたことで、公式ではタブー視されるようになった『プリキュア同士の本気の戦い』じゃなくって、きちんとルールを決めたうえでの試合、プリキュア版天下一武道会、プリキュア版最大トーナメントってことだよね!?それなら見たい!超見たい!!

 

 「ねぇ!ねぇ!!どんな感じ!?どんな感じだったの、そのプリキュアーツ!?教えて教えて!!」

 

 コーフンして、とてもアバウトな質問しか出来なかった。まず初めに答えてくれたのはトゥインクル。

 

 《前の大会の時は初戦は突破したんだけど、2回戦でキュアホイップにね……クリームでぐにゅ~んって動けなくされちゃって、最後はケーキにされちゃった☆》

 

 トゥインクルは笑って言うけど、割とエゲつないなぁ……ソレ。

 キュアホイップがリーダーをつとめる『プリアラ』の5人は、パンチやキックを使わずに、クリームエネルギーとアニマルアクションで戦う、12あるプリキュアチームの中でも、最も異色と言ってもいいチームだ。

 遠くから一方的に攻撃される上に、近づいても予測不可能な動きでかわされる……テレビで見てたぶんにはカワイイって思ったけれど、実際戦うとなると戦いにくそう……

 

 《あたしは初戦でキュアビートに完敗……バリアで攻撃効かないし、最後は音符でドカーンと……》

 

 苦笑いするマーチの表情が暗い。悔しかったのか、それともフルボッコにされちゃったのか……

 

 《ゴメンナサイ……わたしも初戦負け組でーす……》

 

 えええ!?リーダープリキュアのキュアハッピーが初戦で負けてるの!?一体誰、ハッピーに勝ったプリキュアって!?

 

 《おしりパンチは反則だよ、はっぷっぷ~↓……ヘッd……もとい、ブロッサムはああいう時だけは本気なんだもん……》

 

 キュアブロッサムが相手だったんですか……リーダープリキュア同士の戦い、さぞ盛り上がったんだろうなぁ……

 

 《ブロッサムとハッピーはいつも仲良し、なのですわ♪》

 《でもハッピー、割とあの時のブロッサム、目が本気だったよ?いつもの無茶ブリ、根に持ってたんじゃないの?》

 《トーナメント表が発表されてから、ブロッサム、サンシャインの道場で特訓してたし、フォーチュンの道場に出稽古に来たって話も聞いたよ?……あれって相当本気だったんじゃないかな……》

 《そんなぁ~……》

 《それと、こないだみんなでカラオケ行った時のプロテイn―――――》

 《そ、それも言わないでぇ~!!》(半泣)

 

 な、なんか、ブロッサムとハッピーの間には友情と同じくらいの『別のナニカ』がありそうな気がするんですけど……

 ってか、サーバー王国にもカラオケあったのね……プロテ……なに?

 

 《そ、それはそうと、ね、ロゼッタが一番すごかったんじゃないの?》

 

 話題をそらすためか、ハッピーがロゼッタに話を振った。ごまかしたな、みゆきちゃん……

 

 《いえいえ……準決勝まで行けたのは、運があったからですわ♪》

 

 スゴい!!51人のプリキュアたちの激闘を勝ち残って、ベスト4まで行ったんだ!さすがは『武神』とまで崇められるロゼッタ様……!!

 

 《3回戦のフォーチュンとの試合、スゴかったよね》

 《うん!大会の最優秀試合に選ばれるのも納得だったよ》

 

 キュアトゥインクルVSキュアホイップ、キュアマーチVSキュアビート、キュアハッピーVSキュアブロッサムと、夢の対決がズラリと語られる中、ついに来ましたよ大本命!!

 キュアロゼッタVSキュアフォーチュン!!プリキュア屈指の実力者同士のバトル、しかも大会最優秀試合!!映像があったらゼヒとも見たいです!!

 

 《あのお手合わせでワタシが勝てたのは、それこそ運ですわ。どちらも、あと一撃で勝負が決するまでに、実力が拮抗しておりましたもの……紙一重の、良い"仕合"でした……ぜひもう一度、お手合わせをお願いしたいですわ♪》

 

 そ……そんなに壮絶な試合だったの!?ますます見たくなりました……

 でも、3回戦の試合で勝ったってことは、次の準決勝で負けちゃったってコトだよね……

 

 「ロゼッタが準決勝で戦ったのって、誰だったの……?」

 

 つまりはそんなロゼッタに土をつけた別のプリキュアがいることになる。思わず私は訊ねていた。

 

 《それは―――――》

 

 ロゼッタはメモリアを見やりながら言った。

 

 《メモリアの"せんせい"―――――キュアブラックですわ》

 

 今まで、話が出てこなかったのが不思議だったけど……そういうことだったのね……

 はじまりのプリキュア―――――キュアブラック―――――

 

 《圧倒的な実力差でしたわ……私の攻撃は一撃も届かず、ロゼッタウォールもロゼッタリフレクションも紙のように叩き割られて、1分足らずで勝負を決められてしまいましたもの……》

 「…………(;゚Д゚)」

 

 思わず、私は戦慄していた。

 鉄壁のロゼッタの防御技が、紙……!?しかもノーダメージで1分KO…………!?!?

 とんでもない強さだ……―――――

 

 《結局、キュアブラックの優勝……また誰も、ブラックに勝てなかったんだよねぇ》

 《驚異の15連覇……絶対女王って言うにふさわしい勝ちっぷりだったな……》

 

 ハッピーとマーチが半ばあきらめたような笑みを浮かべている……

 15連覇の絶対女王……はじまりのプリキュアは、とんでもなく強かったんですね…………

 で、その最強のプリキュアのお弟子さんって言うのが―――――

 

 《んふふ~……やっぱ"せんせい"ってすごい!ふんす!》

 

 この、キュアメモリアっていうワケか……そういえば最初に会った時、『51人のプリキュアで最強のキュアブラック』って言ってたっけ……このコトだったのか。

 そりゃメモリアも強くなるワケだ。そんなヒトに2年間、みっちり修行をつけてもらったんだから……

 でも、ちょっと待って……これから先、プリキュアを取り戻す戦いを続けていけば、いやおう無しにキュアブラックを取り込んだバグッチャーも出てくる可能性があるワケで……

 

 「メモリア……私たち、ブラックと戦って生きて帰れるのかな……」(死んだ魚のような目)

 《………………!!》(びくっ)

 

 メモリアにとっての"せんせい"なら、メモリアといっしょに『真のプリキュア』を目指す私にとっても、"せんせい"だ。

 その"せんせい"を超えていかなければ、『真のプリキュア』には、絶対になれない……!!

 

 見えない大きな壁を、私達は見たような気がしたのでした……

 

 ……SAVE POINT

 




 用語解説

 プリキュアーツ

 サーバー王国で年に1度開かれる武闘大会。
 プリキュアたちが、日頃鍛えた腕前をプログラムクイーンの御前で競い合う。
 試合は1対1のトーナメント制。プリキュアたちは原則全員参加して行われ、国民たちにとっては年に1度のお祭りのような認識となっている。
 16年前のジャークウェブの侵略をきっかけに、プリキュアたちがその戦闘技術を鈍らせないように始めたとされる。
 これまでの大会はキュアブラックが15連覇を達成しており、絶対女王として君臨している。
 2週間後に第16回大会が開催される予定だったが、ジャークウェブの第2次侵攻により、大会が開かれることは無かった。

 ――――――――――

 ちなみに、現実の中学総体には空手の部はなく、高校総体からとなりますので、勘違いをなさらぬよう……

 プリキュアファンなら一度は見たい、『プリキュア版天下一武道会』!!小説内の『プリキュアーツ』は、そんな稚拙の願望を設定として取り入れたものです。公式様、映像特典とかでもいいから一度はやってくれないかなぁ……

 次回は遂に……キュアデーティアの正体が……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

予想外の真相

 キャラクター紹介

 ネンチャック

 ジャークウェブ四天将のひとり。
 見た目は優男だが、人間心理のスキを突いた卑劣な作戦を得意とする。
 綿密な策を弄して相手を罠に嵌め、その相手を眺めて悦に入ることを至上の喜びと語る根っからのドS。
 しかも嫉妬深い上に執念深く、一度敗北した相手を徹底的にマークし、勝つまで『粘着』し続ける。
 アラシーザーとはまったく正反対の性格のため、常に反目しあっている。
 りんく曰く「『ハトプリ』のコブラージャっぽい見た目だけど、心底好きになれないタイプ」。

 ――――――――――

 ついにこの時がやってまいりました……心の準備はOKですか?
 『設定は邪道、物語は王道』のコンセプトで送るこの『インプリ』……

 その、最大の『邪道』―――――キュアデーティアの正体、ここに公開です……!!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    ??????

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 お昼休みの時間になり、観客席でみんながお弁当を広げ始めた。

 

 ―――――この時を待ってました!

 

 私はむぎぽんとそらりんといっしょにお弁当を食べ始めて、何回かノドに詰まらせそうになりながらも3分で食べ終え、すばやく席を立った。

 ……よい子のみんなはごはんはちゃ~んとよく噛んで、味わって食べてね!キュアメモリアルとの約束よ!(ウインク)

 

 「ごめん!私、空手部の子にちょっと用があるの!すぐ戻るから!」

 

 と断りを入れて、観客席をそそくさとあとにする。

 早足で階段を下りて、控え室へと一直線!この会場に入った時、下見をしといてよかった!

 しかし―――――

 控え室のある、だだ長い武道館1階の廊下に立った時、違和感に立ち止まった。

 

 ―――――誰もいない。

 そのうえ、誰かが控え室から出てくるなんてこともなく、しんとしずまりかえっていた。

 ……静かすぎる。ただ、ひたすらに、無音の空間―――――

 

 《りんく……なんか、コミューンがヘンな音波を拾ってる……なんだろ、コレ……》

 「解析とかできないの?」

 《う~ん……そういうの、あんまり詳しくないんだよね……キュアリカバーだったら、こういうの得意なんだけど……》

 

 メモリアの声と、私の靴音だけがいやに響く。でも、ヘンな音波ってなに……?

 私は、大泉中の女子空手部の控室のドアをノックした。返事はなかった。カギも開いてる。

 おそるおそる、ドアを開けた。そこには―――――

 

 「……!!」

 

 割と広い控え室。その中にいた8人の女子空手部員のみんなが、全員倒れていた。

 みんな、その手にスマホを握りしめたままだった。

 

 「だいじょうぶ!?しっかりして!?」

 

 一気に血の気が引くのを感じながらも、私は一番近くにいた子を揺り動かした。手首に指を当ててみると、脈がある。そして、かすかに肩が上下しているのも見えた。

 

 「寝て、る……?」

 

 すやすやと寝息を立ててる。全員が、スマホを持ったまま、だ。

 自然と、控室の中の全員のスマホを見ることができたけど―――――ネットコミューンを持ってる子はいない。

 ま……まさかのアテ外れ!?空手部の子の中にはキュアデーティアはいない!!

 

 「……となると、まさか柔道部!?」

 《そんな場合じゃないよ、りんく~!》

 

 と、ここでメモリアからのツッコミが。割とこっちも重要だと思うけどっ。

 

 「なに、メモリア?」

 《さっきからのヘンな音波、みんなのスマホからジンジン出てる!》

 「スマホから怪音波……それでみんなが眠っちゃってる……これってヤバくない!?」

 

 私は思わず控え室から飛び出した、それとほぼ同時だった。

 控室の目の前にある、武道館の中庭に、地響きを立てて巨体が舞い降りた―――――!!

 

 『バグッチャ~~~~ッッッ!!!!』

 「―――――ッッ!!?」

 

 風圧で周囲のガラスが喧噪な音を立てて砕け散った。一拍遅れて、火災報知機が誤作動でも起こしたのか、けたたましいベルが鳴る。

 

 「バグッチャー!……もう実体化してる……!?」

 

 普段のこいつらのやり方なら、まずはキュアネットで悪さをして、そこから実体化して現実世界で暴れまわるのが恒例のハズ。なのにこいつは、私の目の前に実体化して現れた……!?

 

 『やれやれ……もう少しで燻り出しができるところだったのに……君のおかげで台無しじゃないか。どうしてくれるんだい?』

 

 電波塔のようなモノと融合したバグッチャーの肩に乗るネンチャックが、見下した視線を向けてくる。

 燻り出し―――――ということは、またデータとデーティアを狙ってたってコト……?

 

 「どうもこうもないわ……!空手部の子たちを眠らせて、アンタこそナニするつもりだったのよ!!」

 『ナニも?……ただ、このバグッチャーが上手く機能するか、テストしてたのサ。特定範囲内の端末に睡眠促進音波を送信して、狙った人間のみを睡眠状態に陥らせられるかどうか……のね。それで"アイツ"が釣れれば一石二鳥だったけど、そう上手くは事が運ばないようだねぇ』

 《そんなコトのために、関係ないにんげんさんたちを眠らせるなんて……りんく!》

 「おk!今は大会中なんだから、邪魔にならないように……ね!!」

 

 私はネットコミューンを構えて、キュアメモリアルのチップをスロットに差し込んだ。

 

 《START UP! MATRIX INSTALL!!!》

 

プリキュア!マトリクスインストール!!

 

 《CURE-MEMORIA! INSTALL TO LINK!!》

 

 光のタマゴの中で、メモリアとハイタッチ。メモリアと融合して、私のカラダは『プリキュア』へと進化する―――――!

 光のタマゴの中から飛び出して、ポーズを決める!

 

 《CURE-MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!!》

 

記し、念じる、無限の未来!!

キュアメモリアル!!!

 

 今日ははじめから、私の全力見せたげる!

 大抵のバグッチャーは動き自体はニブいから、一瞬で懐に入れる。あとは―――――

 

 『せいっ!!』

 

 真下から、突き上げるような右のアッパー!そのまま―――――!!

 

 『っけえええぇぇええ!!!』

 

 大ジャンプのイメージを、カラダ全体に走らせる。瞬間、ブーツの土踏まずの部分から、イーネルギーの光が噴き出す―――――

 

メモリアル―――――!

ジェット!!アッパァァァァァ!!!!

 

 中庭から、空へと運ぶ!なんとか、この武道場からコイツを叩き出さなきゃ!

 上空へと、バグッチャーとともに私は舞った。街の景色が小さく見えるくらいの高さ―――――

 

 『ひゅぅっ……!』

 

 小さく息を吐いて、私は空中で体勢を立て直す。どこか、被害を気にせず戦える場所は―――――

 あった!少し離れたところに、大泉中の野球部が試合をしてる大泉町民野球場がある!でも、今もまだ試合中、試合をしてる野球部の子や、応援をしてる子、先生たちに何とか知らせなきゃ―――――

 

 《それなら……念じて、りんく!》

 『!?メモリア、いい手があるの!?』

 《前に、あたしが街のにんげんさんたちのスマホにメッセ送っちゃった時の、アレの応用!》

 

 それって、『いーね!メール』のコト!?つまり、私のコトバを直接、スマホに送信とかできちゃうワケ!?

 

 『よっし……!やり方とかよくわかんないけど、とにかくやってみる!!』

 

 何言ってんの私、って思いながら、私は両手を大泉町民野球場に向けて、精神集中、念力集中―――――!!

 

 『みんなーーーーーーっっ!!!逃げてーーーーーーーーーっっっ!!!!!!』

 

 すると、私の『声』が波紋のように拡がって、それが一気に集束して、野球場に向かっていくのが『わかった』。見えるでも聞こえるでもなく、『情報が伝達する』ことが、感覚で理解できる―――――

 目を凝らすと、グラウンドにいる野球のユニフォーム姿の男子たちが、一斉にグラウンドからベンチへと避難して、応援しているみんなもぞろぞろと避難していくのが見えた。

 

 ま、マジ……!?成功しちゃったの、さっきの!?ってゆーか、スマホのメッセに着信して、それをみた客席のみんなならわかるんだけど、どうしてグラウンドにいるみんなのすぐに避難しちゃってるの!?

 ヘンな感じはするけれど、とにかくこれで『人払い』は出来たわけだ。次は―――――!!

 

 上空にふわりと舞っていたバグッチャーをキャッチした私は、野球場を見据えて、『回転』のイメージを身体に走らせた。

 すると、腰の金属パーツが開いて、ピンク色のイーネルギーが噴き出した。その勢いに乗って、私はバグッチャーを掴んだまま空中で高速回転して―――――!!

 

 

メモリアル!!シュライクバスターーーー!!!!

 

 

 そのままバグッチャーと野球場に墜落した―――――というより、バグッチャーのアタマをグラウンドに突き刺した形だ。

 

 『はぁ……はぁ……けっこー無茶しちゃったなぁ……!』

 

 体中の金属パーツから排気する私。体から熱さが抜けてく。技使って、この野球場に一斉メッセ送信して、また技使って―――――カラダの負担が大きいコンボだ。

 熱が抜けて、楽になってくる。リラックスタイムは終了、蒸気の中で、私はもう一度バグッチャーに構えた。

 

 『なかなかやるじゃないか……!この短い間でここまでの技を……!』

 『ありがと♪私だって、伊達に特訓積んじゃないんだから!』

 

 ……主にイメトレだけどね。それでもバグッチャーに通用しちゃうんだからスゴい。

 すぽん!とグラウンドに空いた大穴から抜け出たバグッチャーが、私に向き直ってくる。

 

 『だが、ここからが本番サ……バグッチャー、君の雑音を奏でろ!!』

 『タオヤカ!!レシピ~~!!』

 

 電波塔のような頭のてっぺんから、白と黄色、ツートンカラーのハート型の炎の輪が発射された。

 

 『ふぁッ!?』

 

 連続で発射されるこの炎の輪、避けるしかない!一発喰らっただけでもヤバそう……!!

 

 『サンビョ~~シ~~~!!!』

 

 炎に次いで発射されてきたのは、黄色い光の輪っか。それが3つ連なって、不規則な軌道を描いて私に迫る!

 側転、バック転、バック宙で立て続けにかわすけど、跳んだところで無防備になった―――――!

 

 ……さっきの、もしかして使える……!?

 

 そう思って足の裏に意識を飛ばすと、足裏からイーネルギーが噴射した。その勢いで、私は空中で物理法則を無視した『エアバック宙』をして、無理やり避ける!!

 

 『ひゃぁっ!?』

 

 自分の噴射したイーネルギーのピンクの光条が目に入り、世界が反転して、地面にたたき落ちた。そしてそこに襲い来る3連リング!!

 

 ―――――カシカシカシィン!!!

 

 結局リングに追いつかれて、胴体を腕ごとリングで拘束されてしまった。

 ……プリキュアに変身したら何が出来るか―――――それがわかっていくのはいいけれど、使いどころがカンジンってことね……

 

 《りんくぅ……!》

 『この技って……!』

 

 今さらながらこの技の『正体』がわかったけれど、このままじゃ動けない……!!

 

 『バァァ……グゥゥゥ…………』

 

 ずしん、ずしんと、地響きを立てて一歩一歩迫るバグッチャー。睨み上げるとネンチャック。あのニヤケ面、ホント生理的に受け付けないんですけど……!

 

 『自爆とはマヌケてるねェ』

 

 言い返せずに歯噛みする。確かに私は、マヌケてる……!まだ、『(キュアメモリアル)が何をすることができるのか』ということさえ、全部わからないんだから……!

 

 『さて……君を倒すついでに、今までに君が持って行ったキュアチップも、全部返してもらおうか』

 『返す……!?どの口が言うのよ……!一方的にプリキュアたちをキュアチップにして持って行ったの、あんた達じゃないの……!!』

 『困るんだよねー。君たち人間とサーバー王国にとって希望であるように、ボクたちジャークウェブにとっても、『プリキュアは希望』なんだから』

 

 言葉のベクトルが違う。そりゃ、希望だろうけど、それはプリキュアたちの心身の自由を奪った上で、いいように力だけ使おうとしているあんた達の傲慢……!!

 

 『ボクたちの希望を奪った君たちサーバー王国の残党は……憎むべき"敵"なんだよ……!!』

 

 ネンチャックの吐き捨てるような言葉とともに、振り下ろされるバグッチャーの大きな拳……!!

 こんな奴に……私は……ううん、私達は、負けるわけにはいかないのに……!!

 

 『そんな……そんな勝手な考え……ッ!!』

 

 

 ――――――――――そう、認めるわけにはいかない!!

 

 

 『!?』

 

 突然、大きな声が野球場全体に響いた。バグッチャーは拳を止めて、その声に振り返った。

 見上げると、野球場のスコアボードの上に、青白い輝きがあった。

 

 『……キュアデーティア!』

 

 思わず声を上げていた。純白のマフラーをはためかせ、腕組みをして直立不動のヒーロー立ち、これ以上ないくらいにカッコいい!!

 今の自分がどうなっているのかも忘れて、ハートだけはキュアっキュアでした、私!!

 

 『君も来たのか……!結局結果オーライってことだね』

 『騒がしくなったからね……!……、わたしはともかく、他の人たちまで巻き込むなんて……狙うなら……、わたしだけにしたらどう!?』

 

 ……なんだろう、この子、ちょっと話し方に違和感がある。『わたし』って言う前に、ちょっとだけ言い淀むような()があるのはなんでだろう……?

 

 『関係ないサ!プリキュアを倒すことさえできれば、他の人間共などどうなってもねェ!!』

 

 清々しいまでの悪役セリフだ。なんともわかりやすい……でもこの言葉が、デーティアの心に火をつけたようで―――――

 

 『よくわかったよ―――――"無為無辜(ムイムコ)に拳揮う事(なか)れ、然れども、暴虐外道(ボウギャクゲドウ)に情けるべからず"―――――お前を倒すのに、もう躊躇いはない―――――!』

 

 マフラーで口元を覆い、すっと構えるデーティア―――――

 

 『渾然一体(コンゼンイッタイ)涙祓一心(ルイバツイッシン)―――――正義、推参ッ!!』

 

 スコアボードから、デーティアは蹴り出し、一直線にネンチャックへと跳んだ。

 

 『止めろ、バグッチャー!』

 『ツマビィィィィィク!!!!!』

 

 ネンチャックは飛びのきながらバグッチャーをけしかける。でも、この勢いからなら、デーティアは"アレ"を撃つ!!

 

―――――貫槍術(カンソウジュツ)―――――

 

 来た!先制技の、え~っと……

 

(イチ) (シキ) (テッ) (コウ) () (ドウ)

 

 

流 星(ナガセ)

 

 

 そ、そう、それそれ、イチシキなんとか!!とりあえず、超スゴいミサイルキックってのはわかる!

 

 ―――――ズガアァァァァァンン!!!!!

 

 デーティアのキックが突き刺さって、勢いのままグラウンドへと土煙を上げて崩れ落ちるバグッチャー。飛びのいたデーティアは私の隣に立つと、手刀で素早く、私を拘束していた光のリングを切断した。

 

 『メモリアル、大丈夫?』

 『う、うん!ありがと、デーティア!』

 

 近くで見るとますますカワイイなぁ……マフラーで覆面しちゃってるのが、ホントもったいない。

 でもこの子、空手部の女子じゃなかった。ここにきて、デーティアの正体の手がかりは途切れてしまったことになる。

 直接聞くわけにもいかない……っていうか、この子が話したがらないから私は空手部を探そうとしたワケで―――――……

 

 『……こないだは、ごめん』

 『え……?』

 

 そんなことを考えていたら、デーティアの方から謝ってきた。

 

 『でもね……いっしょに戦えないってわけじゃないから……むしろ……いっしょに戦える方が、うれしいから……』

 『あ……わ、私も!……無神経でごめんね……言いたくないこと、誰でもあるもんね……』

 

 割り切った関係で、いたいのかもしれない。それがこの子のスタンスなら、私も合わせないといけない、のかな。

 考えてみれば、あまりズケズケと他人の事情に踏み入ることは、そもそもよくない事なんだ。

 私、ちょっとはしゃいでたの、かも―――――

 

 『キ・ア・イイィィィ…………レ・シ・ピイィィィ…………!』

 

 うなりながら立ち上がるバグッチャー。体勢を立て直して、こちらに構える。

 

 《りんく、あのバグッチャーが捕まえてるのって……》

 『うん、もう気づいてる―――――キュアリズム……南野奏ちゃん』

 

 ハートの炎と光の輪。それは、ファンタスティックベルティエの力。

 そしてバグッチャーが叫ぶ、レシピ、キアイ、タオヤカ―――――それらのキーワードをつなぎ合わせた場合、出てくるのは、ただひとり―――――

 

 《『スイートプリキュア』のサブリーダー……"音奏(おんそう)のリズム"か……》

 

 デーティアのイーネドライブから、データの声がする。

 

 『……強いの?』

 《弱いわけねェだろ。チームの()()だぜ?》

 『……そうだね。違いない』

 

 デーティアがデータにたずねる様を横目で見て、確信する。

 やっぱりこの子、プリキュアのことを知らないんだ。キュアリズムが弱いなんて、実際にアニメを見ていれば思うはずがないもの。

 それならどうして、この子はデータのユーザーになったのかな……?

 

 『待っててリズム……今助けるから!!』

 

 私とデーティアは、ほぼ同時に駆け出した。バグッチャーの頭の上の電波塔から、ハート型の炎の輪が発射される。それを合図に、私達は左右両方に別れて跳んだ。

 

―――――鎌刀術(レントウジュツ)―――――

 

() (シキ) (セン) (プウ)

 

(エン) () (セイ) (レイ) (ザン)

 

 デーティアが側面から、イーネルギーを纏った回転廻し蹴りを見舞う。それをバグッチャーは、大きな左腕で受け止めた。

 悪いけど、今がチャンス!素人戦法だけど、私だって!!

 右腕に力を込めて意識を集中すると、右肘の金属パーツが開いて、ジェット噴射のようにイーネルギーを放出する。

 

メモリアル―――――!!

 

 踏み込みとともに、私は右拳を突き出し、そのまま突撃した―――――!

 

マグナムナッコォォォーーーーッッ!!!!

 

 バグッチャーが右腕で受け止めるも、私の勢いは止まらないし、止めない!

 デーティアが飛びのくとともに、私は拳にさらに力を込める。勢いのまま、私とバグッチャーは外野のフェンスに激突した。

 

 『……く……無茶苦茶だ……なぜそこまで必死になるんだい!?君達には恐怖心というものはないのかい!?』

 

 ネンチャックは苦虫を噛み潰したような表情で言う。私は、素直に私の心をさらけ出す。

 

 『最初はこわくなかったけどね……でも、今はこわいよ』

 

 私たちの戦いの結果如何で、何もかもが決まってしまう、"現実"―――――それを知った今、『こわくない』なんて強がりは吐けなくなった。

 でも、強がらないかわりに、今の私には―――――

 

 『こわいけど……それでも、"怖さ"以上のモノが……私の心の中の"勇気"が、今の私を動かしてる……!!』

 『メモリアル……』

 

 私を見るデーティアの表情が、少し明るく変わった気がした。

 

 『勇気と強気は違うけど……弱気じゃ、らしくない!!』

 

 私はデーティアを見た。あの子もたぶん、私と同じ思いで、ここに立っている。こわくない、はずがない。

 

 『私と、メモリア……!そして私とデーティア、私とデータ……!みんなのチカラを、ひとつに合わせて……!!今、想いを放つッ!!』

 

 《CURE-MEMORIAL!! FULL-DRIVE!!!》

 

 全身から湧き立つピンク色のイーネルギーの輝きが、一層その光を増す。そして―――――

 

 《CURE-DATEAR!! FULL-DRIVE!!!》

 

 私の隣に立つデーティアもまた、全力全開とばかりに、全身のメタルスリットから青白いイーネルギーの奔流を噴き出した。

 

 『デーティア……!』

 『同じだよ……キミと。こわいけど……"勇気"を出して戦ってるのは……!』

 『……!!』

 

 やっぱり、そうなんだ―――――

 私も、この子も―――――

 恐怖を乗り越えて、心の中の勇気に支えられて、プリキュアとして戦ってる―――――!

 

 『伝えたいことが、あるんだよね?……あのバグッチャーの中の、プリキュアに』

 『うん!……あきらめない未来へ……毎日、すこしずつ夢に向かってた奏ちゃんに―――――!』

 

 ―――――私達2人の、"メッセージ"を、届ける!!

 

タッピンスティック!メモリアルロッド!!

 

 私の電子の光が、ロッドの先に収束する。さらに―――――

 

タッピンスティック―――――

 

 私と同じ形で、ところどころが色違いのタッピンスティックが、デーティアの手に握られる。

 

デーティアソード!!

 

 私のとは反対側の手元側へと、デーティアはコアユニットを動かす。スティックはその名の通りの"剣"へと形を変えた。

 私のと形が違う。『フレプリ』のキュアスティックみたいな感じ、かな……

 

 『電子のヒカリよ!闇にとらわれし"たおやかな調べ"を、取り戻して!』

 

 無意識につづられる私のコトバに続いて、デーティアも言葉をつづる―――――

 

 『電子の剣よ!闇にとらわれし"たおやかな調べ"を、解き放て―――――!』

 

 デーティアの顔の前に構えられたデーティアソードが、青白い光を纏って、長大な光の剣と化した。すごい……!

 見とれてる場合じゃない。私は"リズムバグッチャー"を視線でとらえ、ロッドを向けた。

 

プリキュア!メモリアル!!

フラァァァァァァァッシュ!!!!

 

 放たれる電子の浄化の輝きに、無抵抗の"リズムバグッチャー"が呑まれる。奔流が去った、そこへ―――――

 

プリキュア!デーティアインパルスッッ!!!

 

 神速の踏み込みからの、光の剣の一戟(いちげき)―――――

 水色にかがやく斬跡が、バグッチャーの胴体に刻まれていた。

 

 『デ…………デリィィィトオォォォォオオ………………!!!』

 

 私たちふたりのキメ技を受けたバグッチャーは光の粒子と化し、天へと還っていった。

 てっきりデーティア、プリキュアっぽくない技ばっかり使うって思ってたけど、カンジンのキメ技は、ワリとプリキュアしてるかも。

 

 『チ……3度ならず4度目も……!!』

 『!逃げるなぁっ!!』

 『ちょっ……!?』

 

 捨て台詞を残して去ろうとするネンチャックに、デーティアは右手から光弾を放った。しかし、ネンチャックは光弾が命中する寸前に消え失せてしまった。

 もう帰ろうとする幹部相手に追撃!?流石の私もこれには驚いた。

 

 『また、だ……くっ……!』

 

 歯噛みするデーティアの姿には、ネンチャックとのただならぬ因縁を感じるのだけど……

 全身からの蒸気排出に隠れる前、最後に見たデーティアの顔は―――――

 

 少し、コワかったかも―――――

 

 ――――――――――

 

 白いキュアチップから輝く、白色のイーネルギーの粒子の中、キュアリズムの幻影が浮かび上がる。

 

 『助かったわ……本当にありがとう、メモリアとデータのユーザーさん……それから、ごめんなさい……私の力が悪用されたせいで、大勢の人が眠らされてしまって……』

 

 チップを取り戻して早々、リズムは私とデーティアに、ぺこりと頭を下げた。

 

 『か、奏ちゃんが謝らなくってもいいって!バグッチャーがやった事なんだし!』

 『うん……悪いのはあいつら……キュアチップを悪用するジャークウェブだよ』

 

 月並みなんだけど、デーティアの言う通りだと思う。あいつらがこうして、プリキュアの力を悪用するなら、それを阻止して、プリキュアたちを取り戻すのが、私達の役目なんだから―――――

 

 『そう言ってもらえたら……ちょっと気が楽になったかも……ありがとう、ふたりとも……』

 『だいじょーぶ!響ちゃんや他のみんなも、きっと助け出すから!だから、私達にまかせて!……ちょっと頼りない見習いかもしれないけど、ネ☆』

 

 私がウィンクしてそう言うと、リズムはクスッと笑った。……よかった……いつものキュアリズム―――――南野奏ちゃんの笑顔だ。

 

 『うふふ、お願いね♪私の、たおやかな調べの力……あなた達に預けるわね。がんばって!』

 

 イーネルギーの幻像が消えて、キュアチップだけが私の手元に残される。

 毎回恒例勝利宣言!今回も行ってみよう!

 

 『キュアリズム、キュアっとレスキュー!!』

 《キュアっキュア~!♪♪》

 

 その様子を、デーティアが微笑みながら見守っていたので、終わってからちょっと恥ずかしくなった。それを見たのか、データの声がひびく。

 

 《それ、毎回やってんのか?》

 『いーじゃん別にぃ。……カワイイでしょ♪』

 《ま、それでヤル気が出るなら文句はねぇけどさ。……そーだ、今度からアタシたちもやるか?》

 『えっ!?……は、はずかしいよぉ……』

 

 そんなに恥ずかしいかなぁ?女の子なんだし、なによりプリキュアなんだし、カッコいいのと同じくらい、カワイくないと、ね♪

 

 『……そのチップは、キミが持ってて。使い方とか……よくわからないから』

 『え?……うん、いいけど……データはいいの?』

 《アタシは、相棒を信じてっからな♪何しろ、アタシの見込んだ世界一のニンゲン、それがコイツ、だからな!》

 『……データ……///』

 

 持ち上げてくれるじゃないの。データにとっても、この子が『最高のパートナー』になってくれてるようで、何より。

 はにかむデーティアもカワイイ❤実はこの時右手にネットコミューンを持ってて、いつでも写メれるようにしてたんだけど……空気を読んで、やめときました。あはは。

 

 『それじゃ、また』

 『……やっぱり、ダメ?』

 

 やんわりと訊いたけど、デーティアは申し訳なさそうに力なく笑うと、ジャンプして去っていった。

 

 ……あれ?デーティアが去っていったのって、大泉武道館の方向だ。どうしてデーティアが武道館に―――――

 

 『まさか……!?』

 

 やっぱりデーティアは、今朝からあの武道館にいたってこと!?

 つまり、大泉中の女子空手部以外で、あの武道館に来ていた大泉中の2年生の女子の中に、デーティアがいることになる……!

 

 『……メモリア、私やっぱり、追っかける』

 《りんく……!?》

 

 デーティアが視界から消えそうになった時、私もまた駆け出していた。

 ―――――この時の私の心は、好奇心が勝ってしまっていた。

 『他人の事情に無断で踏み入るのはよくないコト』だって、さっき思ったはずなのに。

 でも、知ったとしてもきっと大丈夫だって思った。私から話さない限り、大丈夫だって―――――

 

 そして、私は知ってしまうことになる―――――

 

 決して『あの子』が誰にも知られたくなかったヒミツを―――――

 

 ―――――それは、過去どんなプリキュアも抱えたことが無いと断言できるぐらいの、重大な『ヒミツ』だった……

 

 ――――――――――

 

 ぎりぎり、デーティアに悟られない距離を保ちながら、私はデーティアを追った。

 そして、デーティアがたどりついた場所は―――――

 大泉武道館の、裏口だった。

 私は物陰に隠れて、デーティアの様子をうかがった。

 

 《イイ暴れっぷりだったぜ、相棒!》

 『……まだまだだよ』

 

 謙遜するデーティア。またまた遠慮しちゃって、もう♪今日も絶好調だったじゃん♪

 

 『また、ネンチャックを追いきれなかった…………僕の力不足だよ』

 

 ぼ、ボク!?デーティアさん、まさかの『ボクっ娘』だったんですか!?

 『ハトプリ』のいつき()()だって、変身したら『私』になってたのに、この子は変身してても『ボク』って言ってる!!これは新鮮!!!

 ……でもさっきは、『ワタシ』って言ってたような。これってどういうコト……?

 

 《なぁに、あの手のヤツはしつこいのが相場だぜ。イヤでも顔を合わすさ》

 『……憂鬱だよ。それに……このカラダってどうしてもどうにもならないの?』

 《アタシだってどうしてこうなったのかわかんねェんだからしょーがねーだろ……戦えてるだけいいじゃんか》

 『……僕自身、慣れていくのがこわいな……"自分のまま"戦うのも、気力がいる。頭の中まで、カラダに引っ張られるみたいで……』

 《そこは……まぁ、そういうもんだ。でも、お前がお前のままでいるって決めてるなら、心配はないさ》

 

 ……さっきから、ワケのわからないことを話してる。変身した体のこと、ヘンに思ってるみたい。それに、"引っ張られる"って……?

 

 『早く戻ろう。みんなも心配してるだろうし……』

 《そうだな。……今日もナイスファイトだったぜ―――――》

 

 

 ―――――ほくと―――――

 

 

 『……………………え?』

 

 一瞬、耳を疑った。

 

 そして次に―――――目を疑った。

 

 キュアデーティアの体を青白いイーネルギーが包み込み、はじけた、次の瞬間そこに立っていたのは―――――

 

 水色のネットコミューンを持った、空手着姿の―――――

 

 

 

 

 『ま・さ……か……』

 

 あまりの出来事に、一歩私は後ずさっていた。

 

 ―――――ぱきっ

 

 『!?』

 「誰!?」

 

 足元に、小枝が落ちていたのに気づかず、私はそれを踏んでしまっていた。

 その音で、その子は振り向いた―――――

 

 線の細い顔。争い事とは無縁に見えるくらいの、大人しめの印象の子。

 最初に見たときは、ちょっとナヨっとした、頼りなさげなイメージが強かった。

 試合の時はイイ感じに化けるって、むぎぽんも言ってた。実際、その通りだった。カッコよかった。

 プリキュアの戦いのことを、わかってくれていた。それが『仕合』じゃないことを、言えない私の代わりに、この子は堂々と言ってくれた。

 

 特撮ヒーローが大好きで、その姿をプリキュアと重ねて―――――

 私の心をわかってくれた子―――――

 

 ―――――ヒーローやヒロインだって、心を持つ人間なんだ……神様なんかじゃない―――――

 

 

 そう―――――こういうことも、ありえるんだ―――――

 

 

 私と同じ、プリキュアユーザー。

 私と同じ、"現実世界のヒロイン"―――――

 

 

 それは何も、女の子である必要なんてなくって―――――

 

 

 

 

 ―――――八手ほくとくん。

 

 

 

 

 私と同じ運命を背負ってしまった、"もうひとりのプリキュア"は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 男の子だった―――――

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――STAGE CLEAR!!

 

 RESULT:CURE CHIP No.21『CURE-RHYTHM』

 プリキュア全員救出まで:あと46人

 

【挿絵表示】

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 『はじけるレモンの香り!』

 『爪弾くは魂の調べ!』




 ―――――りんくの『今回のプリキュア!』

 りんく「今回のプリキュアはだ~れだ?』

 『爪弾くはたおやかな調べ!キュアリズム!』

 メモリア「『スイートプリキュア』のサブリーダー、"音奏(おんそう)のリズム"!属性はララララ~♪の『音』!」

 りんく「立派なお菓子職人さんを目指して頑張る、南野奏ちゃんが変身した、音の力で戦うメイジャーランドの伝説の戦士!」

 メモリア「そんなリズムのキメ技は、コレ!」

 『翔けめぐれ、トーンのリング!プリキュア・ミュージックロンド!!三拍子!1、2、3っ!……フィナーレっ♪』

 メモリア「音の力を込めて浄化する、ミュージックロンド!このリングに囲まれちゃったら、もう逃げられないんだから!」

 りんく「スイプリの皆さんに『絶対許さない』って言われちゃったら、もう絶対許されないよーな気がする……」

 メモリア「そうかなぁ?リズムはサーバー王国ではすっごくやさしかったし、めったな事では怒らなかったよ?」

 りんく「でも知ってる?4人の中で怒ると一番コワいのって、リズムなんだよねぇ……くれぐれもリズムの前ではいろいろ自重しなきゃ……((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」

 メモリア「りんくがぶるぶるしてる……これ、多分マジネタだよぉ……((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」

 りんく「……そ、それじゃぁ、みんな……」

 りんく・メモリア「「ばいば~い…………((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」」

 次回予告

 ほくと「子供のころ、僕はヒーローに救われた。その時から僕は、涙を流すことをためらわなくなった。泣き虫って言われても、からかわれても、僕は強くあろうと思った。大人になって、涙を流さなくなったその時に、誰かの涙を祓うことの出来る、ヒーローになれるように―――――渾然一体、涙祓一心―――――これは―――――涙を以って涙を祓うことを決めたあの日からの、僕のオリジン―――――」

 インストール@プリキュア!『僕がプリキュアになった日 涙を祓う@ほくとの決意!』

 ほくと「つらぬけ!キミだけのプリキュア道!」

 ――――――――――

 ようやくネタバレすることができます。
 本小説における、最大の邪道設定―――――

 キュアデータのユーザーにして、キュアデーティアの正体―――――

 中学2年生、八手ほくと。正真正銘の、男の子。
 彼が、この物語の、『もうひとりの主人公』です。

 あらすじの一部に、『人間の子供と、二次元世界の戦乙女『プリキュア』』と書いてますが、ここに『人間の少女』と書いていなかったのは、2人目が男の子だったからなんです。

 画面の前で目ン玉飛び出して驚いている方、予想通りだったと納得される方、いろいろいらっしゃるでしょう……

 ともあれ、デーティアの行動など、様々なことで辻褄が合ったかと思います。

 次回はそのほくとくんが、どうして男の身でプリキュアになるハメになったのか……ある意味、『もうひとつの第1話』です。

 それでは、また。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 僕がプリキュアになった日 涙を祓う@ほくとの決意!
僕とキュアデータ


 用語解説

 リアライズスタイル

 リアルワールドに実体化したバグッチャーをデリートするために、プリキュアがネットコミューンを介してユーザーの心身に自分のプログラムを送り込み(マトリクスインストール)、それを受けてユーザーがプリキュアに『変身』した姿。つまりこの姿はプリキュアとユーザー=人間とアプリアンが融合した姿である。
 作中におけるキュアメモリアルとキュアデーティアが、このスタイルに該当する。

 大まかな外見はキュアネットのプリキュアのコスチュームをそのままユーザーに着せたような姿になるが、プロポーションなどの細部は、リアルワールドのユーザーが抱く『理想の女の子の姿』が反映されるという。
 また、ユーザーがたとえ『男性』であろうとも、問答無用で女体化させた上でプリキュアに変身させる。この場合、『理想の女の子』は『理想の自分』ではなく、『理想の異性』をトレースすることとなる。名前も変わり、名実ともに『別人』となる。

 コスチュームは部分部分に近未来的なイメージが採り入れられた、『プリキュアらしさ』をあまり感じさせないディテールとなっている。
 うなじの部分にある『コアドライバ』からコスチューム表面に沿って、イーネルギーを伝達するためのサプライラインが張り巡らされていて、常にほのかな光を放っており、暗所ではLEDファイバーのように輝く。

 腰の3か所・両肘・両脚にあるスリットをオープンしてイーネルギーを放出することで、攻撃力を強化することが可能。キメ技を発動する『フルドライブ』の際、『コアドライバ』が高速回転、全身のスリットが全開放、イーネルギーが光輝く粒子状に放出され、出力をアップさせる。なお、キメ技発動後は全身のスリットから急速放熱を行うため、キメ技発動後のプリキュアにはウカツに近寄ってはいけない。
 他、様々な電子機器にアクセスしたり、干渉したりする能力も持つが、その全容は今もって不明である。
 人格はユーザーから変わらないが、プリキュア『本人』の意識も残っていて、心の中で会話することができ、ユーザーはプリキュアのアドバイスを受けながら戦う。また、お互いの記憶も混合され、両者の経験を基にした行動もとれる。

 ――――――――――

 きみはプリキュアにへんしんできるフレンズなんだね!すごーい!

 ……す、すみません……けものフレンズに語彙力を吸収されそうになってた稚拙です(焦燥
 課金してけもフレ見てたらこっちの手が止まってました……いやはやなんとも。

 さて前回の衝撃のラスト……正真正銘の男の子である八手ほくとくんがキュアデーティアの正体と発覚しました……
 彼が如何にしてキュアデータと出会い、彼女のユーザーになったのか……そして、彼がどうして、男の子の身でありながらプリキュアとなったのか―――――

 そもそも、彼、『八手ほくと』がどんな子なのか―――――

 『インストール@プリキュア!』の、『もうひとつのはじまり』です。

 前後編だけでは書き足りないと判断し、今回は3部作にしました!
 まずはほくとの生い立ちとデータとの出会いを描く『邂逅篇』を送信!!

 追記:公式様が推しているので、『キラキラ☆プリキュアアラモード』の略称を『キラプリ』から『プリアラ』に変更します。今までの投稿分もそちらに改訂しますので、ご了承を……(といっても、一か所しかありませんでしたが(^^;))


 爪弾くはたおやかな調べ!キュアリズムよ♪

 

 りんくちゃん―――――キュアメモリアルといっしょに、私を助けてくれた、もうひとりのプリキュア、キュアデーティア―――――

 でも、この子は―――――

 

 『……僕自身、慣れていくのがこわいな……』

 《今日もナイスファイトだったぜ―――――ほくと》

 

 りんくちゃんと同い年の、男の子―――――八手ほくとくん。

 彼が、キュアデーティアに変身していたの―――――

 

 でもこれには、ちゃんとした理由があるみたい。

 彼の心を……伝えたい想いを、聞いてあげて。

 誤解したまま、お互いのことを嫌いに思ったままで過ごす日々がどんなに苦しいか、私はよく知ってるから……

 

 そうよね、響――――

 

 『インストール@プリキュア!』―――――

 想いのままに、奏でて―――――あなたの、『決意(キアイ)鼓動(レシピ)』を―――――

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG HOKUTO HATTE

 

 ――――――――――

 

 『怖かったか……?でも、もう大丈夫だ』

 

 銀のグローブが、僕の頭を撫でる。

 ……たしかにその時の僕は、恐怖を感じていたかもしれない。

 もう、父さんや母さんと会えないかもしれない、という、純粋な恐怖を―――――

 でも、僕は―――――

 

 『こんな目にも遭って、泣かなかったんだな……偉いな、ボク』

 

 泣かなかったくらいで偉いなんて、僕は思わなかった。

 それが、男として当然だって、教えられていたからだ。

 

 「……おとこは……かんたんにないちゃいけないって……とうさんにいわれてるから」

 『そうか……でもな、ボク。まだ、無理をしなくてもいいんだよ。キミはまだ、声を上げて泣くことを許されている年頃なんだ』

 

 "彼"は、その大きな背中越しに、僕に訓えた。

 

 『今は、泣いてもいい。流した涙のひとしずくの分、確実にキミは強くなれる。涙の分だけ、誰かに、優しくなれるんだ』

 「……ないても、いいの……?」

 『ああ、泣いていいとも。そして、キミがいつか大人になった時、涙が簡単に流せなくなったその時―――――強くなったキミのその力、その心で、誰かの涙を祓い、守れる存在に……きっと、なることができるはずだ』

 「それって…………?」

 『そう…………強いヒーローに、必ずなれるさ』

 「………………!!!」

 

 その時が、初めてだったかもしれない。

 彼の言葉が、僕の心を、体全体を、強く、やさしく揺らした――――― 

 

 「あ…………ぁあぁ……う、うぅぅ…………!」

 

 僕はその時、はじめて―――――

 自分の意志で、涙を流し、叫ぶように泣いた―――――

 

 

 「ら……ぁ……らぁいだあぁぁぁぁぁぁーーーー…………!!」

 

 

 大きなその手は、その時の僕には、もっと大きく感じた―――――

 

 

 ―――――仮面ライダー1号―――――

 

 

 その時から、僕にとってのヒーローは、テレビの中だけの存在じゃなくなった―――――

 そして、彼のように強くあろうと決めた瞬間だったんだ―――――

 

 

 ――――――――――

 

 僕の名前は八手ほくと。

 6歳の時にこの大泉町に引っ越してきて、今年で8年目の、14歳、中学2年生。

 父さんと母さん、それからお祖父(じい)さん、妹との、5人暮らし。

 ごく普通の生活を送っていた僕の前に、その子はあらわれた。

 

 あの日―――――中学2年生の、始業式の日―――――

 

 街でキュアネットの大規模障害が発生したあの日―――――

 

 僕の世界は―――――ひとりの女の子に塗り替えられた。

 

 機械オンチで使い慣れないスマホの中にあらわれた、水色のかがやきをまとった、女の子に―――――

 

 

 《―――――お前は、アタシが認めた世界一の男だ!アタシといっしょに、最強のプリキュアになろうぜ、ほくと!!》

 

 

 そして―――――

 

 

 僕は、プリキュアになった―――――

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    ??????

    ??????

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 大会は延期になった。

 顧問の先生が言うには、日程は未定だという。

 でも―――――

 あのまま仕合をしたところで、僕が平常心で闘えるとは、思わなかった。

 部のみんなには悪いけど―――――

 僕は、"それでよかった"と、思ってしまった―――――

 

 ――――――――――

 

 「あ、にぃおかえり~!プリキュアごっこやろ~!」

 

 家に帰り着くと、5歳の妹・ののかが、いつも通りに僕を誘う。

 この子は物心ついた時からプリキュアが大好きで、母さんにせがんではいつもオモチャを買ってもらって、僕を相手にプリキュアごっこで暴れ回る毎日を送ってる。

 

 「プ、リ……キュア……」

 

 その言葉を聞いたとたんに、フラッシュバックする。

 ―――――あの時、あの子に、あの姿を―――――

 

 キュアデーティアの姿を、見られてしまったこと―――――

 

 「……ごめん、のん……また今度」

 「え~~~っっ!!??けちぃ~!」

 

 ロコツに残念がるのんに申しわけなく思いながら、僕は階段を駆け上がり、カバンを自室の机に放って、倒れ込むように畳にうつ伏せになった。

 

 

 ―――――見られた―――――

 

 

 それだけが僕の心を占めていた。

 ずっと秘密にしていれば、秘密を守り切ることさえできれば、ある程度の距離を置きながら、いっしょに戦えると思った。

 そのうちに、『僕が誰か』なんてことを、気にしなくなると―――――

 

 《だから言ったじゃんか……こうなることは予想できてたぜ》

 

 スマホから、データの声がひびく。確かに―――――僕は甘かった。

 当然だ。プリキュアに変身して戦うという、同じ宿命を背負ってしまった者同士、興味を持たない方がおかしいことだったんだ。

 情けない―――――まったくもって、情けない―――――

 

 《どーするつもりよ?……メモリアのユーザー、これから確実にお前に―――――ほくと?》

 

 ―――――泣いてしまっていた。

 

 これからどうする、あの子とどう会えばいい、あの子に嫌われたかもしれない、ならどうすればいい―――――

 ネガティブな考えばかりが頭の中をぐるぐる回り、そういった悪感情は否応無しに、僕の涙腺を刺激する。

 昔から、だ。イヤなことがあったら泣き、痛みに泣き、感動して泣いて―――――

 だから、周りからずっと『泣き虫』と言われ続けて、バカにもされた。

 

 《やれやれ、またメソ泣きかよ……お前ってさ、ホンット涙腺ユルいよな》

 「……うるさい」

 

 大きなお世話だ。これだって、ちゃんとした理由があるんだから―――――

 

 「あの時、僕はライダーと約束したんだ……―――――」

 

 忘れもしない、5歳の誕生日―――――母さんといっしょにデパートに来ていた僕は、誘拐されかけた。

 もう、父さんや母さんに会えないかもしれない―――――そんな絶望の中にいた僕を助けてくれたのは、ちょうどデパートの屋上で催されていた『仮面ライダーショー』に出演していた、仮面ライダー1号だった。

 父さんから「男が簡単に泣くもんじゃない」と教えられていた僕だったけど、この時のライダーの言葉を、今も僕ははっきりと覚えている。

 

 《『泣いてもいいけど、その分強くなって、誰かを守れるヒーローになれ』……だったか?》

 「…………かいつまみすぎ」

 《間違っちゃないだろ?》

 「……でも……それだけが泣き虫の原因じゃ、ない……」

 

 父さんが言うには、この事件の後から僕はよく泣くようになったという。自分でも思う。彼―――――ライダーの言葉が、それほどまでに僕の心に刻み込まれた結果、だろうか。

 そのころから、それまでいやいやながらやっていた『拳法の修行』に、熱心に打ち込むようになった。将来の夢が出来たからだ。

 『ヒーローになること』―――――それが夢だった。

 けれど、小学校の高学年になるころには、ヒーローがテレビの中の架空の存在だということに気づき、それらが『人が演じている存在』ということを知った。

 逆に僕は、それが『すごい!』と思った。CG合成があることも知っていたけど、それでも、大元は『人が演じていた』ということに、僕は感動していた。『人は、本当にヒーローになれる』ことを、その時の僕は知った。それによって、将来の目標は具体的になった。

 

 ―――――"スーツアクター"―――――

 

 画面の中のヒーローを、文字通り命がけで演じ、戦う、みんなのヒーローになれる仕事。それが、僕の将来の夢。

 誰かの涙を祓って、子供たちの笑顔をつくり、守ることができる存在。この世界に存在する『本当のヒーロー』になるために、今も僕は鍛錬を続けている。

 

 《ま、そんなところも含めて、アタシはお前に惚れ込んだんだ―――――》

 

 まるで、小さな女の子、それこそのんぐらいの年頃の子向けのオモチャのような外見に変わってしまったスマホが、ちょこんと直立するのが見えた。

 画面の中のキュアデータは、笑ってた。

 

 《あの日もさ……お前、アタシを見てビビッて泣いてたじゃんか♪》

 「そ、それはっ……!」

 《……ニンゲンって、疑り深い連中ばかりだって聞いてたからさ……あん時ゃアタシも、ひとりっきりになって、ピリついてた……そんなアタシをひとかけらも疑わずに信じてくれたこと……アタシ、うれしかったよ》

 

 思い出す―――――

 2年生の始業式の夜のこと―――――

 

 僕のスマホが、その形相(カタチ)を変えた夜のことを―――――

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG HOKUTO HATTE

 

 ――――――――――

 

 街中での喧騒は、その時の僕にとっては無縁だった。

 キュアネットの障害で、大泉町全体がパニックになったその時も、僕の家が停電したくらいで、大した被害はなかった。

 その夜僕は、スマホをどうにかモノにしようと奮闘していた。

 僕は生まれながらの機械オンチで、パソコンを触ろうものなら数分で画面が動かなくなり、ケータイのメール機能も使いこなせず、この間までは通話機能しかないガラケーを使っていたほどだ。

 でも、母さんから半ば強引に機種変更されたのが、この青いスマホ。案の定、どう使っていいかわからない。

 もう2週間ほど、分厚い説明書とにらめっこしながら、友達にも話を聞いて、まるで腫れ物でも触れるように、慎重にいじっていた。

 

 「……通話だけできれば十分なのにな……」

 

 正直、キュアネットの接続だとか、メッセとかよくわからない。

 よく言われる。『お前、昔の人間かよ』って。『この家』の雰囲気も手伝って、僕は相当『昔の人』に見えるらしい。

 それに、僕の家の『特殊性』も、これに拍車をかけている。

 僕のお祖父さんは、『空現流拳法』というマイナー拳法の師範で、父さんは師範代。母さんは道場の経営を任されている。つまり、家族経営の道場一家だ。

 門下生は僕とのんを含めてたったの4人。誰かが総合格闘技の試合に出たりとかしてるわけでもなく、最近の健康ブームに乗っかりたい近所のおじさんたちが習いに来てるだけ。

 その実、かなりの実戦的な拳法であるから、新しく入ってくる門下生のヒトも長続きせずに辞めていく。最近習い始めたのんはともかく、1年以上継続して習っているのは、僕だけだ。

 なにしろ、『人即武具也』―――――つまり、『人体のすべては武器になる。故に"丸腰"という概念は存在しない』なんて、6歳のころからやってる僕から見ても無茶苦茶すぎると思う。

 こんなのを健康法として売り出そうとする母さんは無謀としか言えないよ……

 

 「次は……キュアネットの設定か…………」

 

 説明書と画面を交互に見ながら、僕は慎重にスマホを操作した。

 えぇと……自動設定……?でもこういうのってキチンと自分でしないとなぁ……機械任せはどうにも……

 

 「……あっ……!?」

 

 画面にある、ヘンな絵に触れてしまった。アイコン、だっけ……?未だにどれがどの機能なんだかわからない……そのうちの一つ、水色の、ハートの形のアイコン。『Data.pqd』と名前が振ってあった。

 ど、どうしよう?もし何かヘンな機能だったらどうしよう……!?乗り気じゃなかったとはいえ、せっかく買ってもらったものだし……

 

 《ん~…………よく寝たァ…………》

 「え……!?」

 

 スマホから、アニメに出てきそうな女の子の声がした。やっぱりヘンな機能だったの……!?

 すると、水色のアイコンが、うねうねと形を変えていった。や、やっぱりコレって……

 

 「うぅぅわぁぁッッ!?」

 

 僕は思わずスマホを取り落とし、部屋の隅まで後ずさった。恐怖で涙が出てきた。

 

 《ん……ぁ……?……ぉうゎッ!?な、なんだお前!?どーしてアタシの部屋にいんだ!?》

 「そ、それはこっちのセリフだよ!!っていうか、ここは僕の部屋だぁっ!よく見てよ!!」

 

 見ると、アイコンは完全に女の子の形に変わって、3D映像のように画面の上に立った。

 見た目は……3頭身の、最近のアニメとか地域おこしとかによく使われてる『萌えキャラ』みたいだ。

 

 《あ゛!?…………あ~……そっ、か……わ、悪ィ!アタシ、ちぃ~っと寝ボケてたみたいで……この端末、なんか寝心地よかったからさァ……》

 

 女の子は僕の部屋を見渡して、ココが自分の部屋でないことを理解したのか、笑って謝った。

 

 「なんなんだよ……キミ……」

 

 その女の子は、半泣きの僕の顔を見上げて、自分の胸をたたいて言った。

 

 《アタシは、キュアデータ!サーバー王国のプリキュアだ!》

 

 それを聞いて、僕は思わず口に出していた。

 

 「プリ……キュア……?」

 

 それって確か、日曜日の朝、仮面ライダーの前にやってる女の子向けアニメだったはず。ただ、僕はプリキュアを見たことが無く、せいぜいのんが釘付けになって見ているのを横目で見ているくらいだ。

 元々僕はアニメに興味がなく、興味があるのは仮面ライダーやスーパー戦隊などの『特撮ヒーロー』ものだ。子供のころ、ライダーに助けられてからは、夢中で見るようになっている。

 

 「悪いけど、アニメに興味ないんだ……」

 《はぁ!?アニメ!?おめ何言ってんだ!?アタシはホンモノのプリキュア!サーバー王国最強のプリキュアなんだぜ!?》

 「最強、ねぇ……」

 《まぁ……今は国も無くなっちまって、帰るトコもない一匹狼ってヤツだけどさ……やるコトあって、キュアネットを旅してんだ》

 「それがどうして僕のスマホにいるんだよ」

 《……なんかココ、居心地よくってさ……ちょっと寝入っちまってた……ずっと一人旅してっとさ、たまには羽休めってのもしたくなんのよ》

 

 そう言って語るこの子―――――キュアデータの顔は、どこか疲れているようにも見えた。僕は思わず訊ねていた。

 

 「一体、何があったの?よかったら、話だけでも聞くよ」

 《にっ……!!ニンゲンがアタシに同情なんざ……ッ!……》

 

 僕と目が合って、キュアデータは顔を真っ赤にした後、力なく笑って肩を落とした。

 

 《まぁ……これも何かの縁か……いいぜ……お前、アタシが初めて会ったニンゲンだし……ちょっとだけ、アタシの話に付き合っておくれ……》

 

 ――――――――――

 

 それからキュアデータは、ことのあらましを話してくれた。

 キュアネットの奥、平和だったサーバー王国に突如として、ジャークウェブという侵略者が押し寄せたこと。

 51人のプリキュアが立ち向かったが、奮戦及ばず敗れたこと。

 落ち延びたキュアデータは、このサーバー王国の危機を現実世界に伝えて、力を貸してくれるという人間―――――"ユーザー"と契約するために旅をしている―――――と。

 

 《そういうワケでな……一か所にとどまってたら、ジャークウェブの追手が必ず来る……奴等はアタシたちを捕えるためなら、まわりのモノやニンゲンたちなんざ、なんとも思わないクズ野郎どもの集まりだ……一刻も早く、ユーザーを探さないといけねぇんだ……》

 

 ここで僕は疑問に思った。

 

 「ねぇ、その"ユーザー"って、誰でもなれるものなの?」

 《あ?……あ~……そーゆーの、聞いてるヒマなかったからな……ま、たぶん誰でもいーんじゃねーの?》

 

 それなら―――――僕は素直に口にした。

 

 「だったら、僕、なろうか?」

 《バッ!?》

 

 意外に思ったのだろうか、キュアデータは狼狽していた。

 

 《あ、あのな!?フツーこーゆー話、疑ってかからねぇか!?ダマされてるとか思わねえのかよ!?》

 「普通ならそうかもしれないけど……でも、キミは言葉づかいほど、ひねくれてるとは思えないんだよね」

 《ァ゛!?》

 「だってさっきキミ、ここを自分の部屋と間違えた時……素直に謝ってくれたでしょ?根っからのひねくれ者なら、こんなに素直に謝れないなって、思って」

 《う……///》

 「それに……キミは、『最強』って言ったよね」

 《ああそうさ!それがどーかしたかよ?》

 「……キミが『最強』って言った時……キミの目が本気だったのを見た」

 《……!》

 

 『強くなりたい』と言って、僕の家の道場の門を敲いてくる人はワリと多かった。でも、そんな人に限って長続きしなかった。『強くなる動機』が、不純だからだ。そんな人たちを見てきた僕は、いつしか『強さ』を語る人の目を見るだけで、その『動機』の『傾向』がわかるようになっていた。

 この子がさっき、自分を『サーバー王国最強のプリキュア』だと言った時、その目には、確かな『光』が宿っているように、僕は見えた。少なくとも、『自分のためだけ』に強くなろうとしている目じゃなかった。

 

 「詳しくは……キミが話してくれるまで訊かないけれど……でも、キミが強さを求める覚悟は、あの時受け止めさせてもらったつもりだよ」

 《……………………》

 

 彼女は、信頼に値する。『強さ』を求める彼女の目は―――――本物だ。

 

 《……お前、名前は?》

 「え……?」

 《名前聞いてんだよ……!いつまでも『ニンゲン』じゃ、どの『ニンゲン』かわからねぇだろ!?》

 「……僕の名前は……ほくと。八手ほくと」

 《ほくとか……いい名前じゃんか♪》

 「それで、どうやったらユーザーになれるの?」

 《いやぁ、それがさ……アタシも詳しいことは―――――ぉ》

 

 その時、この子の『目』が変わった。焦点の定まっていない、別人が乗り移ったような、うつろな目になった。

 

 「……どうしたの?」

 《ゆーざーけいやく。たっぷしながら、となえて。『ぷりきゅあ・おぺれーしょん』》

 

 まさしくさっきまでとは別人のような、感情の一切こもっていないような声だ。同時にスマホ画面の端に、新しいアイコンが出てきた。"たっぷ"って、確かアイコンを"押す"んだったっけ……

 

 「えっと……『プリキュア・オペレーション』……だっけ?」

 

 こう言いながら、僕はアイコンに触れた。

 ―――――あ、データが指示したのと手順が逆だった。触りながら言葉を言う、だったよね……

 

 《CURE-DATA! ENGAGE!!》

 

 と、画面の中のキュアデータが、青白い光に包まれ、光の球体と化した。ほどなくその球体がはじけて、さっきまでの3頭身の姿から、5頭身のすらりとした姿に変わったキュアデータが現れた。

 

 《おろ……!?アタシ、どうなって…………おわ!?カラダが!?》

 

 閉じていた目をゆっくりと開くと、自分の変化にたいそう驚いていた。まさかさっきのこと、覚えてないんだろうか……?

 

 「成功したみたいだね、契約」

 《お前……契約のやり方、知ってたのか!?》

 「知ってたのかって……キミが教えてくれたんだよ……」

 《アタシが!?…………ま、いっか。結果オーライみたいだし……》

 

 彼女もよくわかっていないみたいだ……なんだったんだ、さっきのは―――――

 

 「……うわ!?」

 

 考えをめぐらす暇を与えず、今度は僕のスマホに異変が起きた。青色のスマホが水色の光に包まれたと思うと、その水色をまとったデザインへと変わった。

 目の前で、それこそライダーや戦隊のドラマの中で、CGや合成で表現されるような現象が起きて、驚いた僕は思わずスマホを取り落としてしまった。

 

 《おい!あぶねーだろ!?》

 「ご、ごめん!……でも……スマホが……」

 

 スマホを拾い上げた僕は、その見た目に愕然とした。

 

 「なんだよ、コレ……」

 

 色だけではなく、ところどころがリボンやレースのような意匠が組み込まれた、それこそ『プリキュアのオモチャ』のようなデザインに、僕のスマホは変貌を遂げていたのだった。

 のんだったら喜びそうだけど……こんなスマホ、中学2年の男子が持ち歩くようなモノじゃない……

 

 《ほぇ~……なんか、スゴいな》

 「スゴいなって……どうしてくれるんだよ!?多分コレ、キミと契約したせいだよ!?」

 《あ、アタシにあたんなって!?アタシだってどーしてこーなったのかわかんねぇんだよ!?……まぁ、関係ないとは言い切れねーけど、さ》

 「……勘弁してよ……」

 

 僕はぐったりと脱力して、自室の畳に寝ころんだ。

 すると、スマホの中のキュアデータが言ってきた。

 

 《……ありがとよ》

 「え……?」

 《……ありがとよって言ったんだ!……その……さ。見ず知らずのアタシと、こんなにあっさり契約してくれて、さ》

 

 見ず知らずだけれど、彼女の目は口ほどにモノを言っていた。

 

 ―――――『最強』にならなきゃならない、理由がある―――――

 

 そんな彼女の目を、裏切れないとも思った。

 『戦士』である彼女の戦いを少しでも手助けできればと、この時の僕は思っていた。

 そして、『本物の戦士』たる彼女の戦いから、僕が『本当のヒーロー』になるために、少しでも何かをつかんで学びたいとも。

 

 でも、この時の僕はまだ、何も知らなかった。

 心のどこかで、『画面の向こう側』の出来事だと、そう思っていた。

 

 あの日―――――あの時までは―――――

 

 ……SAVE POINT




 キャラクター紹介

 八手 ほくと

 自分の夢のため、拳法修行と自己鍛錬に情熱を燃やす、14歳、中学2年生の男の子。
 プリキュアに関しては全く興味ナシ。彼が熱中しているのは特撮ヒーローもの、特に仮面ライダーが大好き。
 かつて、誘拐されそうになったところを仮面ライダーショーのスーツアクターに助けてもらったことがあり、それをきっかけに仮面ライダー、ひいては特撮にハマり、彼らのように強くありたいと決意した。
 将来の夢はスーツアクターで、平成ライダーシリーズで主役ライダーのアクターを務める、『ミスター仮面ライダー』T氏は彼の憧れ。
 マイナー拳法である『空現流拳法』の使い手であり、そのあたりの不良も一ひねりにできる実力を持つ。
 学校にはさすがに『拳法部』なんてモノは無いので、空手部に所属。大会でも上位に食い込む実力者である。
 祖父・三郎は空現流拳法の師範で、父・拳四郎は師範代、母・優里亜は道場経営を一手に引き受けている道場一家である。

 線が細く、大人しげな印象だが、キレると怖い。
 やると決めたら、最後までやり通す芯の強い性格。決断力が強く、中途半端や優柔不断が大嫌い。
 だが恋愛となると話は別らしく、中1の入学式で、隣のクラスの女の子に一目惚れして以来、気持ちを伝えることもできない悶々とした日々を送っている。
 涙もろい面も持ち、感動のあまり泣き、悔しさのあまり泣くなど涙腺がとことんユルい。
 ルックスがいいため割とモテるが、片想い中であるため、今までの告白はすべて断っている。

 体力はあるのだが勉強は苦手。特に重度の機械オンチで、最近のIT機器の扱いにはとことん疎く、ようやくスマホが最低限使えるようになった。
 家族内で当番制で家事を回しているため、炊事・洗濯はお手の物。料理も上手いが、昔のトラウマが原因で、『お菓子』だけは上手に作ることができずにいる。
 妹・ののかとは大の仲良しで、家では良きお兄ちゃん。よく『プリキュアごっこ』で悪役をやっている。
 お向かいのこむぎとは小学校入学以来の幼馴染で、『むぎ』と呼んでいる。

 ――――――――――

 こうしてほくととデータは出会い、『最強』への道を歩み始めました。
 そして―――――運命の初陣は、また次回で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アタシとほくと

 用語解説

 ネットコミューン

 プリキュア見習いのユーザーになった人間のスマホが変化したツール。
 正式名称は『Precure Network Communicate Unit』。その中の一節を縮めて、りんくが『ネットコミューン』と呼び始めた。
 通常のスマホとしても使えるほか、プリキュア見習いをファイトスタイルに変身させたり、プリキュア見習いとユーザーが融合変身する『マトリクスインストール』にも使用する。また、キュアチップをスロットにセット(キュアットイン)することで、プリキュア見習いにそのキュアチップのレジェンドプリキュアの技や能力を使えるようにしたり、リアライズスタイルのプリキュアの二段変身『レジェンドインストール』にも用いる。また、平時でもキュアットインをすれば、そのキュアチップのレジェンドプリキュアとコミュニケーションを取ることができる。

 りんく用のモノはピンク、ほくと用のモノは水色のカラーリング。
 デザインは共通となっており、リボンやフリル、ハートマークといった、『小さな女の子が好みそうな』意匠がふんだんに盛り込まれた『プリキュアのオモチャ』的なデザインであり、りんくはともかく、男の子であるほくとが持つにはかなり抵抗があるため、ほくとは相当恥ずかしがっている。
 なお、周囲には『新機種のテスターに当選した』ことにしている。

 ――――――――――

 前の投稿から少し間が空いちゃいました……これが稚拙の本来の投稿ペースです……

 さて今回はデータとほくとの初陣となります。気合を入れたら1万5千字近くの分量に……

 ふたりの想いが炸裂する初めての戦い、いざ、送信!

 2017.4.22 今回と次回の展開上でトンでもない矛盾点を見つけてしまったのでラストにちょっとだけ加筆修正。


 ……NOW LOADING

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG HOKUTO HATTE

 

 ――――――――――

 

 あれから、9日が経った。

 その間、僕とデータが何をしていたかというと―――――

 

 《バカ!ちげーだろ!?ブックマークに登録すんのはこっち!そっちはウィンドウをだな―――――あ゛ーッ!!》

 「ご、ごめん……」

 《ッたく……オキニのサイトをブックマークすんのに1時間もかけッかフツー……?》

 

 ……こんな感じで、データから鬼のスマホ特訓を科せられていた。

 さすがはキュアネットの奥からやってきたネットの世界の住人だけあって、スマホのことには詳しく、口調は乱暴だけれども丁寧に、イチから教えてくれた。

 それでも、僕にとってスマホが扱いづらいことに変わりはなく、ドジを踏んでは怒られ、指をすべらせては怒られ……

 僕って、指先も割と不器用……なんだろーか……データにとっては出来の悪い生徒だったに違いない……

 授業や部活、道場での鍛錬の合間に、どうにかしてスマホをモノにしようと奮闘した。もちろん、この『オモチャっぽくなった』スマホは、誰にも見せられなかったけれど……

 

 この日の夕方、スマホに悪戦苦闘している僕を、母さんが呼んだ。お得意の隣町のスポーツ用品店に頼んでおいた新しい胴着やサポーターが出来上がったらしく、こども園にのんを迎えに行くついでに、それらの受け取りを手伝ってほしい、とのことだった。

 発注伝票の控えを見て、ちょっとヒイた。

 

 「母さん!?なんで胴着50着も発注してんの!?」

 「だってあんた達、大技ブッ放すたびに胴着ダメにしちゃってるじゃないの!いっそ大量発注しといた方が経済的なの!」

 

 ぐうの音も出ない。親子孫、三世代まとめて、手合わせの時は割と派手に戦ってる。道場が壊れるのはもちろん、胴着をいったい何百着ダメにしたか憶えていない。

 こんな感じなので、割とウチの家計はあまり芳しくないのが現状だ。もっとも、家族みんなは金遣いの荒い方じゃないから、生活が苦しいわけじゃないけど。

 車を回しに行く母さんを、僕は玄関に座って待つ。

 

 《もう9日も世話になってて今更だけどさ、お前んちって変わってるよな》

 「……よく言われるよ。まるでマンガかアニメだって」

 《違いねぇなァ、アハハ》

 「僕から見れば、キミも紙一重だよ……」

 

 ホント、3Dの立体映像が動いて喋って、しかも意思疎通ができるなんて、空想の世界の出来事だ。見た感じ、『ゴーオンジャー』の炎神のようだ。

 でも、僕の目の前で形が変わったスマホが、そんなできごとに現実味を与えている。

 

 《アニメで思い出したんだけどさ、こっちの世界じゃ、プリキュアってアニメになってんのな》

 「うん……僕は見てないんだけど、のんが好きなんだよね。見たでしょ?あのオモチャの山」

 

 のんの大切な、プリキュアごっこの小道具(プロップ)だ。母さんにせがんで買ってもらったプリキュアグッズは、居間の隅のおもちゃ箱に箱狭しと詰められている。

 割と時間のある休日なんかは、なりきり衣装も身に着けての一大スペクタクルが始まる。毎回、僕がやられる悪役なんだよね……

 しかも最近ののんは、空現流拳法を習い始めたせいか、意外と蹴りが『重い』。巧く受け身を取らないと危ないレベルだ。

 

 《ワリといいツクリだったぜ?本物と比べてもあんまり変わらねーし……あ、でもラブギターロッドやスカーレットバイオリン、ありゃねーわ。弦の一本一本がスイッチとかツクリが雑すぎだろ》

 「オモチャだからね……さすがにそこまで本物のギターやバイオリンとそっくりに作っちゃったら、さ……遊ぶに遊べないだろうし……」

 

 笑いながら、何故かデータとオモチャ談義をしている僕。でも、彼女のコトバから、彼女が『本物』を見ているということが、少なくともわかる。

 やっぱり、彼女は『偽物』なんかじゃない。僕の彼女を見る目は、曇ってなかったと、僕は確信する。

 玄関先に母さんの車が止まったのを見て、僕は立ち上がった。

 

 「行こう」

 《おう!》

 

 ……でも、実感がなかったのは―――――

 まだ、この時の僕が、『本当のホンモノ』を、この身で味わってなかったからだと―――――

 あとになって、心と体で、イヤというほど、理解する―――――

 

 ――――――――――

 

 のんをこども園に迎えに行って、そのまま隣町のスポーツ用品店にへと、母さんは車を走らせた。

 その間、母さんとのんに見られないようにスマホを取り出して、しきりにデータとやり取りをしていた。

 彼女から、タッチでひらがな入力をすれば、声に出さなくても筆談のようにやり取りできると教えてもらって、慣れない手つきで『会話』する。

 

 DATA〈こないだ、アタシと初めて会った日に、キュアネットの障害があったろ?

 HOKUTO〈うん。うちがていでんしたくらいで、とくにひがいはなかったけど

 DATA〈コイツを見てみな。ネットで拾ってきた画像だ

 

 僕はおぼつかない手でひらがな入力をして、1分くらいかけて文章を書くのに、データは完全に漢字変換された文章を、しかも一瞬で返してくる。ネットの住人はやっぱりすごいな……

 それはともかく、データが表示した画像を見た。ずんぐりとした黒光りする怪物が、女の子と戦っている画像だった。

 

 DATA〈コイツは"バグッチャー"……ジャークウェブが使いッ走りにしてる、意志を持ったコンピューターウィルスだ。コイツが例の障害の『犯人』ってワケだ

 

 怪物の形をしたコンピューターウィルスって、まるで『仮面ライダーエグゼイド』のバグスターウィルスじゃないか……!いやな予感が頭をよぎって、思わず僕は訊いた。

 

 HOKUTO〈まさかにんげんにかんせんするの?

 DATA〈今んとこは心配ねえよ

 

 ……よ、よかった……思わず安堵のため息。

 

 DATA〈まぁ、キュアネットで暴れて、そのせいでニンゲンたちが使ってるモノに悪い影響が出るから、どちらにしろ厄介だけどな。しかもコイツ、キュアロゼッタの技使ってやがる

 

 写真の中の1枚には、バグッチャーがクローバー型のバリアのようなモノを展開して、女の子の攻撃を防いでいるように見えるものもあった。

 

 HOKUTO〈きゅあろぜったって?

 DATA〈"護葉(まもりば)のロゼッタ"……伝説の戦士……51人のプリキュアのひとりだ……敵の攻撃を防ぐバリアが使えて、でもって立ち回りも完璧……攻守ともに隙が見当たらねぇ、プリキュアの中でも十傑には確実に入るヤツだ……

 HOKUTO〈そのきゅあろぜったのわざを、どうしててきがつかってるの?

 

 本来ならプリキュアが持っているはずの力を、敵が使っている……仮面ライダーとは逆だな、と、反射的に思っていた。

 ライダーの場合、『敵が作った技術で戦う』場合が多い。特に、昭和ライダーはその傾向が顕著だ。どちらにせよ、『敵も味方も大元の力の源は同じ』というのは、仮面ライダーシリーズのみならず、原作者である"萬画家"・石ノ森章太郎先生が好んで作品に用いた設定構成(ロジック)なんだけれど。

 ごめん、話がそれた。―――――僕の疑問に、データはこう返してきた。

 

 DATA〈これはアタシの推測なんだが……あいつら、奪ったプリキュアのキュアチップで、バグッチャーを強化してるかもな……だとすれば、1体1体がプリキュア並みのヤバい奴等ってことになるか……

 

 キュアチップのことも聞いていた。51人のプリキュアたちは、全員がキュアチップという、メモリーカード状のモノに姿を変えられてしまった、と。

 それらの力を『悪用』しているとなると、この上ない強敵と言える。厳密には違う存在だけれど、ショッカーライダーが頭に浮かんだ。

 それと――――― 考え込むデータの顔を見て、意外に思って僕は思わず訊いていた。

 

 HOKUTO〈もしかして、でーたってあたまいい?

 DATA〈やっぱお前、アタシを脳筋扱いしてたろ!?元々アタシは『辞書』のアプリアンだから、こう見えてもいろいろ考えてんだ!失礼なヤツだな、ったく!

 

 この子が『辞書』とは……やっぱり意外だ。てっきり『トレーニング』か『格闘ゲーム』かと思ってた。

 

 DATA〈……それはともかく、アタシが見てほしいのは、ココだ

 

 データが表示した画像が、ズームされる。そこには、ピンク色の髪の女の子が映っていた。データと、服装がよく似ている。

 

 HOKUTO〈おんなのこ?

 DATA〈コイツはアタシといっしょにプリキュアになった幼馴染……キュアメモリアだ。この姿でいるってことは、多分コイツも、誰かと契約してるってことだ

 HOKUTO〈おなじぷりきゅあってことは、みかた?

 DATA〈ああ。アタシといっしょにサーバー王国から脱出したんだがよ、途中ではぐれちまって……この広いキュアネットの中で、まさか同じ町に来てるなんて、偶然通り越して奇跡だな、こりゃ

 

 確かに、こんな偶然はほぼ無いと思う。キュアネットだって、この世界と同じくらいか、それ以上に広い……と思う。それなのに、この日本の、同じ町に2人とも辿り着くなんて。

 普通に考えて、何か作為的なモノを感じるのだけれど……―――――

 

 DATA〈いずれ、アイツのユーザーになったニンゲンとも会わなきゃな。この先、ふたり……いや、4人か……協力した方が何かと気分もいいしな

 

 気分って……『早く会いたい』って素直に言えないのかなぁ……まぁ、そんなキャラじゃないか、この子は。

 とにかく、僕と同様に、プリキュアと契約した"誰か"が、この街のどこかにいる。その"誰か"を探し出して、接触を図った方がいいか。

 そして、データがキュアネットの中でしか活動できないことを考えれば、それは当然、僕の役目だ。

 でも―――――

 

 HOKUTO〈このすまほ、みせるのはずかしいよ

 DATA〈細かいコトは気にすんな!同じ仲間だ、どーにかなるさ!案外、メモリアのユーザーも、ほくとと同じ男かもしんないし、さ!

 

 やっぱり、相手もこのスマホ、持ってるんだろうか。だとしたら、やっぱり女の子なんじゃないかなぁ……

 もし、キュアメモリアのユーザーが男の子だったら……―――――

 

 心の底から、同情しよう……

 

 ――――――――――

 

 スポーツ用品店に到着して、お店の店主のオバサンに挨拶する。会うたびに『大きくなったねぇ』と感心される。最近会ったのってつい2週間前なんだけどな……

 胴着を車に積み込んで、母さんとのんと3人でオバサンに挨拶して、車に戻ろうとした時、一番うしろを歩いていた僕を、オバサンが呼び止めた。

 

 「そーだった、ほっちゃん、ちょっと待ってて!親戚からもらったお漬物がたくさんあってねぇ―――――」

 

 時々このオバサンは、こうしてご近所さんや親せきのヒトからもらったモノを、おすそ分けしてくれる。収入が雀の涙の我が家にとっては、非常にありがたい。

 漬物満載タッパーを受け取ってお礼を言って、駐車場に停まっている、母さんとのんが待っている車へと戻って、助手席のドアを開けようとすると。

 

 「……あれ?」

 

 カギがかかってる。のんのイタズラ?そう思って後ろの席のチャイルドシートに座るのんを見た。すると、なにやら必死な顔で窓をドンドンと叩いてきた。

 

 「のん!?……母さん!?」

 

 あわてて運転席の横に回り込むと、母さんも困った顔をしていた。窓が閉まっているのでよく聞こえなかったけど、『ドアも開かないし、車のエンジンもかからない』と言っているように聞こえた。

 ドアロックが壊れでもしたの……?いや、ちがう。それだとエンジンがかからない理由にならない。

 どうしようかと思ったその時、まわりもざわつき始めた。まわり……というか、道路を見ると、さっきまで引っ切り無しに行き交っていた車が、例外なく停車していた。この道は幹線道路のハズなのに……

 運転している誰もが、ドアを必死で開けようとしていたけれど、脱出できた人はいない。中には脱出用ハンマーで窓を叩き割って無理やり脱出する人もいた。

 

 「どうなってる……なにが……?」

 

 起こっているんだと思って、もう一度母さんとのんが乗る車に振り返ったその時、エンジンがかかった。

 動けるの?、と思ったのは一瞬だった。中の様子がおかしい。母さんに向かって、僕は叫ぶように訊いていた。

 

 「どうしたの!?」

 

 声がくぐもって、よく聞こえない。でも、母さんはエアコンのスイッチを指さしていた。

 ―――――設定温度、35度!?それも最大風量になっている……!!母さんが温度調節や風量調節のスイッチやつまみを押したり動かしたりしても、何も変化が起きない。

 このまま母さんとのんを放っておいたら、間違いなく熱中症だ。でも、どうしてこんな……!?

 

 「なんだよ……なんだよ、コレは!?」

 《ほくと……!》

 

 ポケットの中のスマホの画面、その中のキュアデータの胸にあるハート型のブローチが、紅い光を帯びて点滅しているのが見えた。

 

 《イーネドライブがビリビリしてやがる……コイツはジャークウェブの奴等の仕業だ……!》

 「……!!わかるの……!?」

 《ああ……!間違いなく狙いはアタシだ……!ほくとのお袋さんや妹……他のニンゲンたちをダシに、アタシを誘ってやがんのか……!!》

 

 ダシ―――――そういうことか。

 この事件は、ジャークウェブの刺客が垂らした『釣り糸』―――――そして母さんとのんは―――――『餌』―――――

 それも、命を落とそうがどうでもいい、使い捨ての餌だ―――――

 

 「…………さん……」

 《……ほくと?》

 

 僕の心の中に―――――怒りの火が灯った。

 

 己の欲望に負け、理不尽な理由で他人の尊厳を侵し、心を傷付け、大切なモノを奪う―――――

 その悪行悪辣を、僕は知っている。だからこそ、僕は許せない―――――

 何の罪のない人たちを巻きこみ、あまつさえ母さんを……のんを危険に遭わせるその所業―――――

 僕は―――――!!

 

 「(ゆる)さんッッ!!」

 

 無意識にこの言葉が出た。怒りに燃える仮面ライダーBLACKが発する裁きの宣言を、僕は放っていた。

 

 《ほくと!アタシをキュアネットに送れ!お前の怒りの分も、アタシが奴等にブチこんでやるぜ!!》

 「わかった……!頼んだよ、データ!!」

 《おうよ!!》

 

 僕はスマホの画面の、ハート形のアイコンを押しながら、データに教わった通りに叫んだ。

 

 「プリキュアッ!オペレーション!!」

 

 瞬間、画面の中のデータが輝き、青白い光球へと変わった。12本のリングが展開される様は、仮面ライダーディケイドのディメンションキックを思い起こさせる。

 

 《CURE-DATA! ENGAGE!!》

 

 女の子の合成音声を合図に、光球が射出されて、キュアネットへと向かう。

 この9日間でデータに教わった、このスマホの使い方。不器用な僕がどこまでデータの手助けができるかはわからないけど―――――

 僕の燃える心を、キミに……データに託す……!

 キミといっしょに、悪を討つ―――――!

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 お前の想いは受け取った……!

 家族を想うお前の心……痛いほどに、アタシの心に突き刺さる。

 だから、負けられねぇ―――――

 お前と、その家族……そして、アタシのために巻き込まれちまったニンゲンたちのためにもな……!!

 力漲る全身で、アタシはキュアネットに降り立った。

 

 「記録の戦士、キュアデータ!!アタシの辞書に、敗北の文字は無ェ!!」

 

 そうさ―――――ビリビリと感じるほくとの想いがある限り……負ける気しねぇ!

 

 《データ、武器とかあるの?剣とか、銃とか》

 

 ほくとの言葉を聞いて、アタシは笑って、両の拳を握って答える。

 

 「そんなモン必要無ェぜ!アタシの最大の武器は……"アタシ自身"だ!」

 

 "お師さん"―――――キュアホワイトから教わったのは、アタシの両手両足、五体をフルに使った徒手空拳。アタシたち『プリキュア』の基本戦術だ。殴る、蹴る、投げ飛ばす―――――自分自身を最強の武器へと鍛え上げること―――――それこそがプリキュアの真髄なんだ……!!

 ……でもまぁ、何人かは違った戦い方してるプリキュアもいるけど、な……

 

 《それなら……僕もキミの助けになれそうだ……!一緒に戦おう、データ!》

 「おう!」

 

 考えてみたら、こうして『誰か』の助けを借りて戦うのは、初めてかもしれねぇ。でも、不思議と違和感はなかった。

 まるで、こうやって戦うことが、アタシの『本当の戦い方』みたいなように―――――

 

 「あはは、釣れた釣れたwwサーバー王国の残党!……おやぁ?こないだアラシーザーが見つけたのとは違うねぇ」

 

 待っていたのは、全身から金色の鎖を張り巡らせているバグッチャーと、ロン毛のチャラけたヤツ。見慣れねぇ顔だった。

 

 「釣られてやったんだよ、スカシ野郎が……!ンだテメェ?さっきアタシが名乗ってやったんだ、テメェも名前くらい教えろや」

 「とんでもなく口が悪い女の子だねェ。……まぁいいサ……ボクはネンチャック。ジャークウェブ四天将の末席を務めさせてもらってる。短い付き合いだろうけど、ヨロシク♪」

 

 イヤらしいニヤケ面、思いっきり顔面をブン殴りたくなる。

 

 「接着剤みてぇな名前の割には、くっつき悪いんだな、ア○ンアルフア」

 「ネンチャックだ……ヒトの名前をまともに覚えられないとは……育ちの悪さがうかがい知れるねぇ」

 「ケッ、これは育ちじゃなくってアタシの性分なんでな……で?こんな大仰なヤツを用意して、何してんだセメダ○ン?」

 「…………釣りさ」

 

 さすがにもう挑発には乗らねぇか。ネンチャックはさらに言葉を続ける。

 

 「プリキュア釣りをするために、"撒き餌"を仕込まなきゃならなくてねぇ。このバグッチャーはその職人というワケサ」

 《コイツ……!》

 

 ほくとが眉をひそめるのが見える。その気持ちはアタシも同じだ。

 

 「撒き餌も"手仕込み"たぁ本格的じゃねぇか……ならさ―――――」

 

 アタシは右の拳を握りしめ、一跳びに間合いを詰める。

 

 「大物だぜ!!祝いに鉄拳(ぎょたく)くれてやらぁーーー!!!」

 

 しかしストレートに殴られてはくれねぇようで、バグッチャーがずいと躍り出た。

 

 「バグッチャァァーー!!!」

 

 右腕に握られた金のチェーンが振り下ろされ、思いっきりアタシに命中した。地面に叩きつけられて、一瞬息が詰まった。

 

 《データ!!》

 「なんてコトねぇ、こんくらい!」

 

 耳元から響くほくとの声に、反射的にアタシは答えた。

 そして今ので、『推測』が『確信』に変わった。

 

 「コイツ……やっぱりそうか。テメェ、バグッチャーにキュアチップ組み込みやがったな!?……なんてエゲツねぇことをしやがる……!!」

 

 ネットで拾った画像のバグッチャーが、キュアロゼッタの『ロゼッタウォール』を使っていたこと、そしてこの、目の前にいるバグッチャーの技の『既視感(デジャヴュ)』―――――

 偶然とは思えなかった。

 

 「よくわかったねェ……口ぶりと違ってインテリのようだねェ、キミ。その通りさ!このバグッチャーはいわば"Ver.2.0"……サーバー王国でキミが戦った"Ver.1.0"の改良型……キュアチップを搭載することを前提に設計(プログラミング)された、ボクたちにとっての『希望の鍵』なのサ」

 《希望の鍵……!?》

 「プリキュアから……いや、キュアチップから"力"のみを抽出し、バグッチャーの力にする……そうすることで、"フォースウォール"を突破することのできるバグッチャーが実現したのサ!素晴らしいと思わないかい!?」

 

 そういうことか……!アタシの中で全てが繋がった。

 

 「おいほくと……!思ったよりもヤバいことを企んでるぜ、コイツら……キュアネットだけじゃねぇ……リアルワールドも……ほくとたちの世界も、侵略するつもりだ……!!」

 《……!!》

 

 ほくとが息を呑むのが聞こえた。

 

 「そういうワケだから、キミたちサーバー王国の残党は目障りなのサ。どんな小さな可能性も、ツブしとかないとねぇ……ククク」

 「笑ってられんのも今の内だぜ接着剤野郎!!プリキュアとして、テメェらのようなヤツはスルーできねぇんでな!!」

 《データ……!》

 「心配すんな、ほくと!お前の家族もリアルワールドも!アタシがまとめて守ってやんぜッ!!」

 「それは……無理サ」

 「ハジケ~~~ロ!!!」

 

 こちらに両腕を向けるバグッチャー。その手から、無数の『金色の蝶』が広い範囲に放たれた。この技は……!!

 

 「レモネードフラッシュか!」

 《知ってるの!?》

 「見たことあんだよ!!」

 

 ほくとの問いに返事を入れながら、黄金色の光をまき散らしながら羽ばたく蝶の群れを―――――

 

 「くぅぅぅぅぅ……!!」

 

 躱しきれねぇ!!何度も見てるハズなのに、いざ実際受けるとなると話が違う!!掻い潜れるスキマくらいあると思ったけど、甘かった!!

 

 《大丈夫!?データ!?》

 「く……やっぱヤバいな……さすがは『プリキュア5』のキュアレモネードだ……」

 《プリキュア5……?キュア……レモネード……?》

 

 あぁ、そういやほくとはプリキュアのこと知らないんだっけか。

 

 「51人のプリキュアってのは、バラバラに戦ってるワケじゃねぇ……何人かでチーム組んでんだ……そのうち、一番大所帯の6人編成なのが、『プリキュア5』だ……」

 《『5』なのに『6人』?》

 「こまけぇこたぁ気にすんな」

 《なるほど……スーパー戦隊みたいだね。6人目はさしずめ追加戦士か……》

 

 時々ほくとはよくわからないことを言う。すーぱーせんたいってなんだ?よくわからねぇけど、たぶん、プリキュアと似たようなモンだろう。

 

 「ま、そんな感じだ……で、コイツが取り込んでるのが、その『プリキュア5』のひとり、キュアレモネード……またの名を"麗弾(らいだん)のレモネード"……5人の中では撹乱・足止め担当だな」

 《強いの?》

 「弱いワケねぇだろ……51人全員が、『伝説の戦士』の看板背負ってんだかんな」

 《それなら、負ける道理はないね》

 「何の根拠があんだよ……!?」

 

 迷いもなく、ほくとは『負けない』と言った。相手は格上、キュアレモネードだ。アタシは負ける気しねぇけど、フツーに考えりゃ負けるとか思わねぇのか?

 でも、ほくとは確信を持った口調で言う。

 

 《キミも、相手も、『プリキュア』かもしれないけど……相手は、確かにプリキュアの力を持ってるかもしれないけど……でも、キミと相手は違う。相手はただ、『力』を利用しているだけだ。プリキュア『本人』が相手じゃない……心無き単なる『力』に、心ある『プリキュア』であるキミが、負ける道理は無いってことさ》

 

 そういうことか―――――そういや、"お師さん"にも耳にタコができるほど言われたっけ。『力におぼれちゃダメ、常に力を心のうちでコントロールしなさい』って。

 このバグッチャーは、レモネードの力だけ振り回して、キュアネットをブッ壊して、リアルワールドに迷惑をかけることしか考えちゃいねぇ、『力におぼれた』哀れなヤツだ。

 そんなヤツに、仮にも『プリキュア』の名前を与えられたこのアタシが、負けるハズねぇんだ!!

 

 「……フ……アハハハハ!そーだ、そーだな!違いねぇ!アタシはプリキュア……キュアデータ!!こんなザコにツブされるようなタマじゃねぇ!!」

 

 ありがとよ、ほくと……お前はいい相棒だ……!

 ()()()()のアタシに、こんな檄を飛ばしてくれるなんてよ……

 『もっと最強』になれそうで、嬉しくなっちまうじゃんか……!

 

 その時、アタシの胸の『イーネドライブ』が、強烈な光を放つ。次の瞬間―――――

 アタシの中に、"声"が流れ込んでくる―――――

 

 〈これって、プリキュアが戦ってんのか?

 〈でもこないだのと見た目違くね?

 〈どっちにしても、もう俺ヤバい……@閉じ込め車中暖房暴走中

 〈お願いプリキュア!私達を助けて!

 〈がんばれ、プリキュア!

 〈プリキュア、負けるなーー!!

 

 これって、ニンゲンたちの端末から送られた、メッセとかいうのか……?

 その、『プリキュア』を応援する言葉だけが拾われて、アタシの中に流れこんで、力に変わっていく―――――

 

 《これって……!?》

 「そうか……そういうことかよ……ッハハハ……クイーンも面白ェモンを仕込んでくれるぜ……!!」

 

 これが―――――キュアブラックの言った、レジェンドプリキュアたちには無い、"無限の可能性"ってヤツなら……!

 

 「ジンジン来るぜ……!お前の想いとニンゲンたちの想いが……!!元々負ける気しねぇが……これならもっと、負ける気全然しねぇ!!」

 

 アタシは一気呵成に駆け出した。体中に漲るイーネルギーがスパークして、一歩一歩を踏み込む度に、ビリビリと迸る。

 

 「何が起きてる……でもね―――――バグッチャー!!」

 「カガヤーーーク!!!」

 

 バグッチャーがもう一度、レモネードフラッシュを放った。おびただしい数の光の蝶が、流星群のようにアタシに迫る。

 

 《……!見切った!!》

 

 ほくとの声が響いて、アタシの足元から青い矢印が伸びた。その矢印は光の蝶をかいくぐるように、複雑な軌道を描いてバグッチャーに向かっていく。

 

 《データ!これをたどって!》

 「ほくと!……よっしゃぁ!!」

 

 その矢印をなぞるように、アタシはジャンプして、回転ステップで横っ跳び、スライディングで地面すれすれを潜る。

 すげぇ、全弾避けられた!ほくと……お前って……!!

 

 《がら空きになってる!今だ!》

 「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 ステップで踏み出し、横っ飛びしながら、相手のドテッ腹に突き刺すようなキックを放つ!

 

 「グギャッ!!??」

 

 まだだ!今度は回転しながらの―――――

 

 「そりゃそりゃそりゃそりゃそりゃそりゃぁぁぁあーーーー!!!」

 

 連続手刀!"お師さん"が教えてくれた、最初の技だ!!

 あお向けにブッ倒れるバグッチャーを見て、思わずアタシは笑っていた。

 

 「いい切れ味、してんだろ♪」

 

 もっとも、アタシだけでここまでのパワーは出せねぇだろうな……ほくとと、街のニンゲンたちの応援が無けりゃ、こうまで逆転できねぇ……

 これが、イーネドライブの力ってヤツか……!

 

 「まだだ!!」

 

 接着剤野郎ががなると同時にバグッチャーが素早く立ち上がり、今度は金色の光の鎖を無数に放った。

 

 ―――――それは、もう見た!!

 ヘビのようにうねりながら襲い来る光鎖を、アタシは右に左に、回転しながらひらりと躱す。

 

 《凄い……凄いよ、データ!》

 

 うれしそうなほくとの声に、思わずアタシもにやけちまう。

 

 「言ったろ?アタシは『辞書』のアプリアンだぜ?一度見た攻撃は、アタシが意識しなくても勝手に『ココ』が憶えちまうんだ」

 

 自分で言うのもなんだけど、『辞書』のアプリアンのアタシは、都合がいいコトも悪いコトも、『勝手に記憶』しちまう因果な知能(アタマ)の持ち主だ。

 アタシ自身は物事を単純に考えたいけど、『辞書』のアプリアンとして生まれちまった以上、余計なコトも頭に入ってきて、しかも忘れようにも忘れられないときた。アタシはそれが死ぬほどイヤだった。アタシが他の辞書アプリアンと比べてヒネくれた性格になったのも、多分このせいだ。

 でも、メモリアにプリキュア修行に誘われて、"お師さん"―――――キュアホワイトと出会って、アタシは変わった。"お師さん"はアタシのこの『忘れたくても忘れられない』、アタシのコンプレックスを褒めてくれた。

 

 ―――――すごいじゃない!それって、貴女の立派な才能よ?伸ばしていけば、きっと貴女にとって誇れるものになるはずよ!

 

 アタシの『この力』は、これ以上ない武器になるって、"お師さん"は言ってくれた。そしてアタシは、『この力』を活かした戦い方を教わって、プリキュアになって、ここにいる―――――!

 

 「そーゆーわけだから……一度見た技は、アタシにゃ二度と通用しねぇんだよ!アタシをブッ倒したいんなら、アタシの知らない大道芸を持ってきな!!」

 

 アタシは再度、バグッチャーに向き直った。

 

 「……目指すは未知数、その向こう……そうだろ、レモネード!」

 

 レモネード"自身"が答えられるとは思えねぇ。でも、それでもアタシは、このバケモンに囚われているレモネードに向かって、叫びとともに拳を放つ。

 

 「アタシは……アンタに憧れてた……!アタシから見たアンタは、眩しくって、キラキラしてて……それから、それから………………あ゛ーーーーー!!!」

 

 アタシはジャンプして、バグッチャーの脳天にカカト落としをブチ込みながら叫んだ。

 

 「とにかく!!アタシはアンタが好きなんだ!!!」

 

 "好き"の理由なんて、誰かに言われて簡単に答えられるモンじゃない。アタシの場合、全部覚えてるから、いくらでも出てくるけど、今ここで並べ立てても仕方ない。

 

 「心が折れそうになった時……途中で息切れした時……アンタの姿がアタシを……アタシの"何か"を動かした!だからこそ、アタシは変わった!!覚悟をキメた!!!」

 

 修行の途中、アタシが励みにしていたのは、レモネードの歌。修行でイヤなコトがあった時、逃げ出したくなった時、彼女の歌がアタシを励ましてくれた。

 最初は本当にプリキュアになれるのか、半信半疑だったけれど―――――彼女の歌で吹っ切れたんだ。

 レモネードがいなけりゃ、アタシはプリキュアになれなかったかもしれない―――――

 

 「今ここで……アンタに返すよ……ありったけの"礼"ってヤツをさ……見てくれよレモネード……プリキュアとして生まれ変わった、新しいアタシってやつをさ!」

 

 全身に迸る青白いイーネルギーのスパークを連れて、アタシは翔んだ―――――

 アタシの想いを、この一撃に乗せて、ブチかます!!

 

 「データ!!ボルトォォォ!!!スクリューーーーーーッッッ!!!!!!!!!!!!!」

 

 イーネルギーを左足に集中して、全力で蹴り抜く―――――

 苦し紛れに相手が放った光の鎖ごと、脳天を射抜いた―――――!!

 

 「デリイィィィィトォォォォ………………!!」

 

 閃光を全身から放って、たちまちにバグッチャーが爆裂した。

 

 「っしゃぁ!!お次はテメェだ粘着剤(トリモチ)野郎!!」

 

 歯噛みしているヤツの顔に、アタシは視線を突き刺す。

 

 「く……クク、負けたよ……―――――」

 

 しかしコイツは、顔に手を当て、猫背ぎみに肩を震わせて―――――笑ってた。

 

 「なに笑ってんだ……!?」

 「いやぁ……ハハ……悔しいねェ……でも――――――――――」

 

 ネンチャックは蜥蜴めいてアタシを睨んだ。

 

 「もう君は……負けるまで逃げられない……!!クク……アハハハハ…………!!」

 「つまりはコンティニューってか!?…………させっかよ!!」

 

 コイツのようなヤツを野放しにしたら、いつまたキュアネットやリアルワールドに迷惑をかけるか、知れたもんじゃない。アタシはヤツ目掛けて駆け出した。

 

 「テメェはココでゲームオーバーだド外道ーーーーッ!!」

 

 全力を込めた右ストレートをヤツの顔面にアタシは放った。しかし寸でのところで、ヤツはかき消えるようにその場から去った。ワープ、とかいうやつか……

 

 「ちッ……悪ィ、ほくと……逃がしちまった」

 

 仕留め損ねた。せっかく、ほくとがアタシの背中を押して、助けてくれたのに、その想いに応えられずに、悔しかった。でも―――――

 

 《いいよ……アイツはまた、僕達の前に現れるはずだ……決着はその時につければいいじゃないか。……それよりも、かっこよかったよ、データ!》

 「え……?」

 

 目をかがやかせるほくとの笑顔。なんか、恥ずかしいというかテレるというか……

 

 《キミは……本当に、"プリキュア"だったんだね……!》

 「い……今さら何言ってんだ!言っただろ!?サーバー王国最強のプリキュアだって!」

 《そこは本当に最強かどうか、まだちょっと信じられないけどね♪》

 「あのなぁ……!うふふ……あははは……!」

 

 でも、こうして勝てたのは、ほくとのおかげだ。ほくとがアタシに想いを託して、アタシの勝利への道を指示してくれたのは、まちがいなくお前だ―――――!

 アタシは不思議と、笑ってた。

 

 「ありがとよ、ほくと……アタシ、ほくとがユーザーに……相棒になってくれてよかった……!お前は、世界一の男だぜ!この、最強のアタシが認めるんだ!自信を持ちな!」

 《データ…………》

 

 ほくとは、『うれしそうな苦笑い』を顔に浮かべた。

 

 《世界一って……持ち上げすぎだよ》

 「うんにゃ、お前が相棒じゃなきゃ、アタシは負けてた!お前は最強のアタシに相応しい、世界一の相棒だ!」

 《……そうあれるように、努力するよ》

 

 確かほくと、『ヒーロー』目指してるんだっけ。だったら、このアタシが保証する。お前は、最高のヒーローになれる。

 今日こうして、アタシといっしょに戦ってくれて、街のニンゲンたちの危機を救ったんだからさ……!

 

 ―――――カラッカラァ…………ン

 

 と、何かが地面に落ちる音が聞こえた。見ると、黄色い長方形の板ッ切れが落ちていた。拾い上げて見ると、《P-08 CURE-LEMONADE》と書かれていて、その上にキュアレモネードの顔がラベリングされた、メモリーカードだった。忘れるもんか、これは―――――

 

 「レモネードのキュアチップ……」

 

 アタシはそれを握りしめ、悔しさに歯を食いしばった。

 

 「すまねぇ……アタシがもっと強かったら……アンタ達がこんな姿にされることもなかったのに……!アタシの家族だって……!」

 

 涙が止まらない。アタシの目標だった51人のプリキュアたちは、全員がこんな『変わり果てた』姿に変えられてしまったんだ。

 "お師さん"だってそうに違いない。既に物言わぬキュアチップにされてしまっているに決まってる……

 もう、あの笑顔も、あの声も、二度と見ることも、聞くコトもできないんだ……

 全部……全部アタシが弱かったからなんだ……だからあの時―――――

 

 『…………生まれ変わったデータって、泣き虫さんですか?』

 

 ―――――え?

 

 てのひらの中のチップ。それが黄金色に輝いて、イーネルギーの粒子を霧のように噴き出した。

 それをスクリーンにして、幻のように浮かび上がってきたのは―――――

 

 「レモネード……なのか……?」

 

 ホンモノ……?いや、ショックを受けたアタシが見てる幻覚の可能性も……?!

 

 『わたしが、他のだれかに見えます?』

 「い……いや……」

 

 金色の、形容しがたいウズマキツインテール。小柄な背丈。確かにそこにいたのは、アタシのよく知るキュアレモネードだ。

 てか……さっきのアタシの声、聞こえてたのか……

 

 『見ない間に、すごく強くなりましたね』

 「……と、トーゼンだぜ!アタシを誰だと思ってんだ!?いずれは最強のプリキュアになる、キュアデータ様だぜ!?」

 『うふふ♪……データが無事で、安心しました♪』

 「それはアタシもいっしょさ……てっきり、バグッチャーといっしょにブチ抜いちまったかと思ったぜ」

 

 実は内心ヒヤヒヤしてた。チップごとぶっ壊しちまったらどうしよう、って。

 でもまぁ、こうしてチップを取り戻せたし、キュアレモネードもチップの中で無事だったようだし、万々歳、か。

 

 『あの……キュアネットでデータがその姿になってるってことは、もうユーザー契約を?』

 「ああ!紹介するぜ、アタシの世界一の相棒―――――ほくとだ!」

 《……はじめまして》

 

 アタシの横の空間にモニターがあらわれて、微笑むほくとが映った。その瞬間、ほんの一瞬、レモネードの表情が変わった、気がした。

 

 『!……男の子……!?』

 

 そうつぶやいたのが聞こえた。

 

 「なんだよ?ほくとが男で悪いかよ?」

 『え?……ううん、なんでもないですよ?……ほくとさん……データのユーザーになってくれて、本当にありがとうございます……見ての通り、ヤンチャな子ですけど……どうか仲良くしてあげてくださいね♪』

 「……ちょ、やめろって!?親父やお袋じゃあるまいし……」

 

 ―――――親父や、お袋……!

 

 思わずそう口に出して、アタシは思い出してしまった。

 

 『この調子で、キュアチップに変えられたわたしの仲間たちを助け出していくことができれば、いずれはサーバー王国も復興できますよ!そうすれば、国の皆さんも戻ってくることができます!』

 《データのお父さんとお母さんも、キュアネットのどこかに避難してるの?》

 

 ほくとの言葉もまた、アタシの心をきしませた。

 誰が悪いわけじゃないけれど、それでも―――――

 言わなきゃいけなかった。

 

 『!ほくとさん、それは―――――』

 「――――――――――死んだよ」

 《…………え……!?》

 

 そう、親父も、お袋も、妹のレコも―――――

 あの日、あの炎の中に―――――

 

 《……!ごめん、データ……僕……》

 

 ほくとにも、黙ってたわけじゃねぇけど―――――でも―――――

 アタシの戦う理由は―――――あの日、あの瞬間から、変わっちまったんだ―――――……

 

 ……SAVE POINT




 キャラクター紹介

 キュアデータ

 "サーバー王国"の守護戦士『プリキュア』見習いのひとり。イメージカラーは水色。
 元々はイヌの姿をした辞書アプリアン『データ』だったが、キュアホワイトの下で修業を積み、プリキュアとなった。
 強気で生意気、ヤンチャでボーイッシュな姐御肌。友達思いで面倒見もよく、同年代のアプリアンからはとても頼りにされていた。
 サーバー王国最強を自称しているが、彼女が『最強』にこだわる理由には深い事情がある模様。

 元々、辞書アプリアンは温厚で物静かな性格の者が多く、データも本質的には知的なのだが、それを感じさせないほどの、辞書アプリアンの中では特異的な気性の荒さから、周囲からは『脳筋』と思われがち。
 辞書アプリアン特有の絶対記憶能力を持っているが、かつてのデータはそれをコンプレックスにしていて、気性が荒くなったのもそのせい。しかし、師匠のキュアホワイトからその能力を褒められたことで自信がつき、この能力を活かす戦い方を学んでいった。
 師匠譲りの回転殺法や投げ技を得意とし、カウンター技も使う。
 さらにはそれらをキック技に応用していて、パンチよりもキックの割合が多い。
 決め台詞は『アタシの辞書に、○○の文字は無ェ!!』。

 ――――――――――

 守るべきものを失ったデータが、それでも戦おうとする理由とは―――――
 そして―――――近づくは運命の時。
 次回、『現実』を目の前にしたほくととデータのたどる道は―――――?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あの日、あの時

 今回の用語解説とキャラクター紹介はお休みです……
 というのも、キュアデータの回想を書いてたら、思った以上にデータに感情移入して書いたばかりに文字数が大増量しちゃいまして、3部作の予定でしたが、間に1本はさむことにしました。

 というワケで今回は、データがどうしてプリキュアになろうと思ったのか……そして『第二次ジャークウェブ侵攻』の際、データは何を見たのか……―――――
 『もう一つのプロローグ』を、緊急送信します―――――

 2017.4.22 前回と今回の展開上でトンでもない矛盾点を見つけてしまったのでちょっとだけ修正。


 NOW LOADING……

 

 はじけるレモンの香り!キュアレモネードです!

 

 バグッチャーに囚われていたわたしを助け出してくれたキュアデータ。

 おどろきました……まさかデータのユーザーになってくれたヒトが、男の子だったなんて……

 

 「(ゆる)さんッッ!!」

 《なるほど……スーパー戦隊みたいだね》

 《心無き単なる『力』に、心ある『プリキュア』であるキミが、負ける道理は無いってことさ》

 

 絶対記憶の力を持つデータと、相手の技の見切りに長けるほくとさん―――――

 おふたりの相性はバツグンですね!

 でもこの先どうなるか……それに、おふたりが"あのこと"を知った時も考えると……なんだかフクザツです……

 

 気をつけてください……!ネンチャックは卑怯な手で、おふたりを狙ってきます!

 わたしは……少ししか力を貸すことができませんけど……それでもわたしは信じます……!

 運命のその先が、奇跡に向かっていることを―――――

 

 もう一度"その日"が来るまで―――――わたしもがんばります……

 のぞみさん、りんさん、こまちさん、かれんさん、くるみさん―――――

 おふたりとわたしに、ほんの少しでもいいですから……"想い"を、貸してください―――――!

 『インストール@プリキュア!』―――――

 勇気のドアが、今、開きます―――――!

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG HOKUTO HATTE

 

 ――――――――――

 

 帰りの車の中で、助け出したキュアレモネードさんが僕に筆談(メッセ)で伝えてくれた。

 データはスマホの画面の隅で、体育座りをしてうつむいていた。

 

 LEMONADE〈……データがプリキュアになった理由……ほくとさんは聞いていなかったんですね……

 HOKUTO〈うん。きゅあれもねーどさんはしってるの?

 LEMONADE〈ええ……あ、それと、わたしのことは『レモネード』か、『うらら』でいいですよ♪

 

 うらら……あぁ、そうか。ライダーや戦隊のメンバーといっしょで、彼女は普通の女の子がプリキュアに変身しているんだ。だから、彼女にも本当の名前があって、それが『うらら』、というわけか。

 

 HOKUTO〈それで、れもねーど、でーたがぷりきゅあになったりゆうって?……それと、いいの?でーたじゃなくて、れもねーどがはなしてしまって……

 

 本来、これはデータ本人から聞くべきことだ。僕だって、『彼女から話してくれるまでは詳しく訊かない』と、データに話していたから。

 LEMONADE〈いいんですか?データ……

 

 データは画面の中でちら、と僕の方を見て、ひとことだけこう書いてきた。

 

 DATA〈……今は、ちょっとひとりにしてくれ……あのコト話すなら、話していいぜ

 

 神妙な面持ちでレモネードはうなづくと、僕を見上げた。

 

 LEMONADE〈データがプリキュアになった理由は……妹さんのため、なんです……―――――

 

 ――――――――――

 

 それからレモネードは、データがどうしてプリキュアになろうとしたのか、その理由を教えてくれた。

 

 データの妹・レコは、生まれつき体が弱く、それが原因でいじめられていて、データがそれをかばっていた。

 でも、その時はデータも腕っぷしが強い方ではなく、力の強い年上のアプリアンに叩きのめされていたらしい。

 

 ―――――アタシが強くなれば、レコもいじめられなくなる―――――

 

 そう考えたデータは、プリキュアになりたいから、一緒に頼み込みに行こうと誘ってきたメモリアに乗る形で、メインサーバーキャッスルへと赴いたという。

 データがプリキュアになるべく修行を始めたという報せが国中に広まると、レコに対するいじめも無くなった。

 この時点で、データがプリキュアになる上での目標が達せられたことになるのだけれど―――――

 

 データを指導したキュアホワイトからレモネードが伝聞したことだけれど、その当時のデータはこう言っていたらしい。

 

 ―――――今さら途中辞め……なんざ出来ねぇよ。"お師さん"もそうだけど、アタシを信じて送り出してくれた親父やお袋……それから、レコ……みんなの想いを、ないがしろにゃできねぇんだよ―――――

 

 最初は、妹のために強くなろうと思ったデータ。でもそれは、修行の中で別の目標に変わっていったんだ。

 

 ―――――エコーが言ってたんだ。『女の子は誰でもプリキュアになれる』んだってさ。こんなヒネたアタシでも、プリキュアになれるって……だったらさ……アタシみたいにヒネてるこの国のガキ連中に、ちょっとでもイイとこ見せてもいいかなって……そう思ってる―――――

 

 ちなみにこの言葉を言った後、データはたいそう顔を真っ赤にしていたとか。

 新しい目標ができたデータは一人前のプリキュアになるための修行をやめることはなく、キュアホワイトが課した2年間の修行を、見事完遂したのだった―――――

 

 ――――――――――

 

 帰宅した後、部屋に戻って、その後の話をあらためてレモネードに聞こうとしたときだった。

 

 《こうしてプリキュア見習いになったデータですけど……でも……あの日……》

 《そこからは……アタシが話すよ》

 

 いつの間にか、データがレモネードの隣に立っていた。

 

 「……その……ごめん、データ……」

 

 思い出してショックを受けていたようだったから、"それ"をデータに思い出させてしまったうえ、本人の口から言わせてしまうことに、僕は抵抗があった。でも、データはまっすぐ僕を見上げてきた。

 

 《いいさ……いずれ……話すつもりだったからな……いい機会だって思っただけさ……ココロの整理もついたしよ》

 《データ……》

 

 申し訳なさそうに視線を下げるレモネードに、力なくもデータは笑いかけた。

 

 《……そんなカオすんなよ、レモネード……アンタ達のせいじゃない……》

 

 データはレモネードに気遣う言葉をかけた後、遠くを見つめて話し始めた。

 

 《……アタシは―――――》

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 前の日、アタシは"お師さん"の家に泊まって、早朝にランニングがてら、走って村へと戻ろうとしてた。

 もうすぐ村が見えると思ったその時、急に村の方向が明るくなった。日の出かと思ったけれど、時間が早すぎるし、何より方角も全く逆だった。

 早鐘を打つ胸の鼓動に急かされるように、急いで村の入り口にたどり着いた時には―――――

 

 ―――――アタシの村が、燃えていた。

 

 「…………みんな……!!」

 

 アタシは逃げ惑うアプリアンのひとりを呼び止め、何が起きてるかと訊ねた。

 

 「ジャークウェブが、また攻めてきたんだ!!」

 「プリキュアのみんなが戦ってくれてるけど……押されてるみたいで……!」

 

 ジャークウェブ…………!!

 その言葉を聞いて、アタシは(ふる)えた。

 親父やお袋からの話や、学校の授業でしか聞いたことが無かった、アタシが生まれる前に、この国を侵略しようとした闇の軍勢。

 そいつらが今頃になって、どうして……!?

 また、向こうの家で火の手が上がる。アタシは「早く逃げろ!!」と急かすと、その家へと駆けだした。

 そこにいたのは―――――

 

 「…………バグッチャー……!!」

 

 写真や映像でしか見たことのなかった、ジャークウェブの使いッ走りウィルス。それが3体、火の手が上がる家をメチャクチャに破壊しているのを見た。

 

 「コイツ……ら……!!」

 

 アタシは拳を握り、目の前の炎にも負けないくらいの怒りを込めて、間近にいたバグッチャーに踏み込みながらのパンチを叩き込んで、立て続けにイーネルギーを込めた廻し蹴りで蹴り飛ばした。光とともに消滅するバグッチャーだったけど、今度は残った2体がアタシになだれ込んできた。

 

 「ッ……!!」

 

 こういう時、"お師さん"なら……プリキュアなら、どうするんだ……!?逃げるわけにはいかない、でも……!!

 判断が遅れたアタシに、2体のバグッチャーの同時パンチ。片腕ずつでどうにか止めるけど―――――押される……!!

 背中に迫る、燃え盛る家。激しい熱が、アタシの背中を撫でてくる―――――

 

 「ちくしょォ……!!何が起きてんのかわからねえまま…………!!」

 

 やられて、死ぬのは、ごめん、だ…………ッ……

 

 「プリキュアッ!ファイヤーストラァァァァイク!!!」

 

 「プリキュア!サファイアアローーーッ!!!」

 

 凛々しい吶喊が降ってきた刹那、紅蓮の火球と高水圧の矢が、2体のバグッチャーの脳天を射抜いて、蒸滅せしめた。

 唖然とするアタシの前に降り立ったのは、真紅と紺碧の戦士だった―――――

 

 「……キュアルージュ……キュアアクア…………!」

 

 思わずその名を呼んでいた。レジェンドプリキュア―――――プリキュア5のメンバーのふたり―――――

 

 「データ、無事!?」

 

 ルージュの問いに、アタシは気を取り直しながら、「お、おう……!」と、何とか返事をした。

 

 「ここは私達が食い止めるわ。貴女は村の人たちの避難をお願い……!」

 

 アクアが言葉を飛ばしてくる。見ると、そのアクアも、ルージュも、全身に大小の傷を負っている。アタシは無事だけど、2人は無事には……とても見えない。

 

 「アンタ達は……!」

 

 駆け出そうとするふたりに、アタシは思わず叫んでいた。

 

 「アンタ達は大丈夫、なのかよ……!?その傷……どうして……!」

 

 振り返ったルージュは、ニカッと笑うと、アタシのアタマをくしゃくしゃっと、乱暴に撫でて、こう言った。

 

 「アタシ達の心配よりも、まずあんたは、村の人たちの心配をしてあげなよ!……こんなの、かすり傷よ!」

 「気を遣ってくれるのは嬉しいわ。でもまずは、プリキュアとして……守るべきモノのために、貴女の力を使いなさい……いいわね?」

 

 優しい視線を向けながら、プリキュアとして何をするべきかを説くアクアに、心打たれるとともに、アタシは少し気圧された。

 

 「……ルージュ……アクア……」

 

 その時、また爆発音がした。そしてその方角は―――――

 

 「ウチの方だ……!」

 

 反射的に、アタシは駆け出していた。

 

 「データ!」

 「待ちなさい!データっ!!」

 

 ルージュとアクアが止めるのも、アタシには聞こえなかった。

 

 ――――――――――

 

 アタシが"そこ"に辿り着いた時には、もう、アタシの家は原形をとどめていなかった。振り返るバグッチャーが、アタシを捉える―――――

 

 「―――――――――――――――」

 

 怒りが、アタシの中に浸透する。

 家々が燃える熱が、アタシの怒りを増幅する―――――

 見慣れた光景、住み慣れた家、聞き慣れた声―――――

 それらがすべて、"暴力"で奪われる理不尽に―――――

 

 「おおおううあああああああああああアアアアアアア!!!!!!!!」

 

 五体全てが怒りで爆発しそうだった。アタシはバグッチャーに容赦のない拳と蹴りの乱打を浴びせ、最後に仰向けに倒れた相手の心臓部に、まっすぐに貫手を突き刺した。プログラムの残滓が、噴水のようにバグッチャーから噴き出た。

 

 「……親父……お袋……レコ…………!!」

 

 アタシは燃え盛る家の跡に取って返して、初めて"それ"を―――――

 

 「…………ッッ―――――」

 

 目にしてしまった―――――

 

 親父とお袋は燃える瓦礫の間に挟まって、ピクリとも動いていなかった。レコは―――――その親父とお袋の間で守られるように、大好きだったぬいぐるみを抱いて、まるで眠るように―――――

 

 「……………………ただいま」

 

 一歩、そして一歩。アタシは『家』へと帰っていく。

 

 「親父…………お袋…………帰ってきたよ…………レコ…………お土産あるんだぜ……?イーグレットが、マスコット作ってくれたんだ…………ほら…………」

 

 レコがこういうのが好きなのを知ったキュアイーグレットが、わざわざ手作りしてくれたマスコット。懐から取り出して、『見せて』やる。

 ―――――そんなところで寝てるなよ。"あの"イーグレットの手作りだぜ?絶対喜ぶに決まってる…………

 

 「データっ!ダメぇっ!!」

 

 その叫び声とともに、後ろから羽交い絞めにされて、アタシは―――――"戻った"。

 アタシは、その羽交い絞めにしたヤツに、殺気を投げつけながら振り返った。力が抜けた。

 ぽとりと落ちたマスコットに火の粉が落ちて、炎に燃えた。

 

 「…………キュア、レモネード…………?」

 

 両目に涙を溜めたレモネードが、"行きかけた"アタシを、止めてくれていた。そして、それとほぼ同時に―――――

 アタシの生まれ育った家が―――――炎とともに崩れおちた。その瞬間、アタシは確かに見た――――――――――

 

 親父とお袋―――――そして、レコが、炎と瓦礫に呑まれるのを―――――

 

 「…………あ…………あ…………あぁ…………ァ…………あぁ……ぅ………………あ、あぁ………………」

 

 無力と怒りと悔恨に―――――

 

 「                                        」

 

 アタシは、声にならない叫びをあげていた。叫び終わると同時に、地面に崩れ落ちた。

 

 「ごめんなさい…………本当にごめんなさい……わたし……守れませんでした……データの家族も、この村も…………」

 「……………………ッッ!!」

 

 ナニかもわからない衝動に駆られ、アタシは右手でレモネードの襟元を掴んでいた。

 

 「……それは……違うんじゃないかしら―――――」

 

 その声に向かって、振り向きざまにアタシは左ストレートを放っていた。でもそれは、"指一本"で止められた。そこでアタシは、ハッとした。全身に傷を負い、土と煤にまみれ、コスチュームのところどころを血に染め、炎に焦がした、緑色のシルエットを見た―――――

 

 「キュア…………ミント」

 

 この時のミントの顔は、未だに頭から離れない。ミントは、凛とした表情のまま―――――両の目から涙を流していたのだから。

 

 「無力に悔しさを感じているのは、貴女だけじゃないの……ワタシも、レモネードも、みんなも同じ……」

 「けど……けどアタシは……何もできなかった…………あげくの果てに親父もお袋も……レコも守れずに……!!」

 

 八つ当たりをしてるわけじゃない。誰のせいでもなく、これはジャークウェブのせいだというのはよくわかってた。でも、アタシは訊かずにはいられなかった。

 

 「ドリームは……―――――?」

 「え……?」

 「ドリームはどこ行ったんだよ……?アンタ達の……プリキュア5のリーダーの、キュアドリームはどこ行ったんだよ!!」

 

 村の中に、キュアドリームの姿が無い。今まで出会った4人のプリキュアたちを指揮するべきリーダープリキュアがいないことに、アタシは合点がいかなかった。

 

 「ドリームは、クイーンをお守りするために、メインサーバーキャッスルに行ったわ」

 

 炎に染まる空から降り立ち、そう言ったのは、紫色の髪の戦士―――――

 

 「ミルキィローズ……!そりゃどういうことだ……!?」

 「メインサーバーキャッスルに、敵の軍勢が押し寄せてるの……!他のリーダープリキュアたちも、お城に集まってるわ」

 

 プログラムクイーンの身に何かある時―――――それは、この国の終わりだ。

 プリキュアは、クイーンを守ることも重要な使命なんだって、"お師さん"から教わっていた。

 

 「ローズ……ミント……レモネード…………アタシ、行くぜ」

 「行くって……まさかあなた……!!」

 

 このまま終わらせて、たまるか―――――

 大切なモノ、大切な人、大切な家族―――――

 そして、大切な、絆――――――――――

 

 全部を奪ったヤツに―――――このアタシが、落とし前をつけさせてやる…………!!

 そうしなきゃ…………親父も、お袋も、レコも、死んだみんなも、浮かばれやしない…………!!!

 怒りと哀しみだけじゃない。いろんな感情(おもい)が雑多に混じって、ワケがわからず嵐を巻いてるアタシの心が、駆り立てる―――――

 

 

 

 行   け

 

 

 

 「村を守ってくれたこと、感謝するぜ……プリキュア5に守ってもらえて、みんな、うれしかったろうよ…………あとは、頼むぜ」

 「データっっ!!!」

 

 レモネードの声が、切なく胸にひびいてきた。それを振り切るように、アタシは駆け出した。

 故郷に後ろ髪を引かれないよう、全力で―――――

 炎と熱を、振り切るように―――――

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG HOKUTO HATTE

 

 ――――――――――

 

 《あとは前に言った通りさ……城でアタシはバグキュアってふたり組にボコにされて、プリキュアたちも全員キュアチップにされちまって……アタシはメモリアといっしょに、命からがら国を出て……―――――》

 

 ―――――ぽた、ぽた……

 

 《って、ほくとお前、また泣いてんのかよ……》

 

 今まで知らなかったデータの過去。それもこの出来事は、わずか数ヶ月前の出来事―――――

 また―――――僕は泣いていた。涙のしずくが、スマホの液晶に落ちる。

 

 「ごめん……僕は……何も知らなくって……それなのに、軽い気持ちで、ユーザーになる、なんて言って……僕は……」

 《それぐらいでいいのさ……ヘンに同情されんのも願い下げだし。……でも、悪いって思ってる……お前にも、いろいろ背負わせちまうみたいでさ……》

 

 僕は涙をぬぐって、首を横に振った。

 

 「悪いなんて、そんなことないよ……!その気持ちは……今だから、痛いほどわかる……!キミは……家族のために……!」

 《それもある……親父とお袋……レコの仇を討ちたいことに変わりはない……けど、でも、そんな個人的なコトよりも、大事なコトがあんだよ。"お師さん"とキュアブラックに、託されちまったからな……サーバー王国と、この世界のコト……アタシは……プリキュアなんだからさ》

 「データ……」

 《よかったぜ♪お前のお袋さんと妹が無事でさ……もう、アタシのような思いを誰かにさせるのは、ゴメンだかんな……》

 

 ジャークウェブに、この子はすべてを奪われた。

 愛する人も、帰るべき場所も―――――今まで彼女のアイデンティティをつくった、"すべて"を―――――

 そして僕も今日、家族を奪われるかもしれない恐怖を知った。だからこそ、彼女の想いに共感ができる。

 でも彼女は―――――そんな怒りや悲しみや恐怖すら乗り越えて、プリキュアとしての使命を果たそうとしているんだ……

 

 「キミは―――――本当のヒーローだよ」

 《……ん?》

 

 自然と、口から出ていた。

 

 「怒りも、悲しみも、怖さも……すべてを力に変えて、世界を守ろうとしているキミは……本当のヒーローだ……」

 《……ほくと……》

 

 驚いたような表情を浮かべたデータは、すぐにニッと笑った。

 

 《お前だって、そうじゃんか》

 「……え……?」

 《お前も、家族や街のニンゲンたちがひどい目に遭った時……怒りの炎を心で燃やした……迷わず、アタシに力を貸してくれた……お前だって、最高のヒーローだぜ?》

 「……でも僕は、こんな泣き虫で、見てるだけしか出来なくて……」

 《うんにゃ……お前には、お前にしか出来ないことがあるんだ……お前の見切りとアドバイスが無きゃ、アタシは勝てなかった……もっと、自信をもっていいんだぜ》

 

 そう言ってもらえると、なんだかテレる。僕はただ、無我夢中だっただけで―――――

 

 《おふたりを信じてもいいかも……ですね♪》

 

 見ると、レモネードの姿が少しずつ薄くなっていっていた。

 

 「!レモネード、姿が……!」

 《時間が来てしまったようです……キュアチップの中で、ちょっとお休みさせてもらいますね》

 《……もう話せないのか……?》

 《いえ……キュアチップを使えば、いつでもお話できますから……―――――ほくとさん》

 

 レモネードは、僕を見上げて言った。

 

 《……この先どんなことが起きても……データを信じてあげてくださいね》

 

 もちろん、そのつもりだ。でもこの時のレモネードは、どこか心配げな表情を浮かべていて―――――

 やがてレモネードの姿が画面から消えて、スマホの側面、メモリーカードを入れる場所から、黄色い板のようなメモリーカードがカシャッ!と排出されてきた。これがキュアチップ……なのか。

 

 「……データ。これから先、僕に何が、どこまで出来るかはわからない……でも―――――」

 

 僕は、液晶画面の上に立つデータに、人さし指を差し出しながら誓った。

 

 「キミにとっての世界一の相棒であれるように……僕は僕なりに……戦うよ」

 

 データは勝気な笑みを僕に向けて、僕の人さし指に拳を当てながら―――――

 

 《ああ!これからもよろしくな、アタシの、"世界一の相棒"!!》

 

 この日、身近に迫った恐怖と脅威―――――

 身をもって体験した"それ"は、僕の心を決めた。

 もう誰も、悲しい思いをしないように。

 もう、データが体験した悲劇を、二度と繰り返させないために―――――

 

 ―――――守ってみせる。僕の大切な人々と、みんなが暮らす、この世界を―――――

 

 ……SAVE POINT




 誰かにとっての、自分にとっての、『真のヒーロー』になるために―――――

 ほくととデータの戦いは、始まったばかりです。

 次回、少年は"ヒーロー"として覚醒します……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

渾然一体、涙祓一心

 用語解説

 空現流拳法

 ほくととののかが習得している拳法。
 中国拳法をベースに、古流空手など様々な武術を取り入れ、発展させた流派である。
 『人即武具也』=『人体のすべては武器となる。故に"丸腰"という概念は存在しない』という考え方の下で技が構築されている。そのためか技の名前に『拳』『蹴』『脚』といった人体の部位は用いられておらず、古今東西の武器の名前が技名に付けられている。

 しかし固有の『型』はほぼ存在せず、使い手によって実力や傾向のバラツキが激しいのも特徴。極端な話、空現流の使い手が即興で技を思いついて使用し、命名すれば、その場で空現流の新たなる技として成立する。それほどまでに流派内における自由度は高いのである。故に、似たような技に複数の名称が付けられていることも、空現流では珍しいことではない。
 なお、後継者と認められるには、師範が知らない新たなる技を編み出し、それを防がれることなく、『完璧な形』で師範に叩き込まねばならない。故に、本気で空現流を極める決意を固めた使い手には、新たなる技を常に編み出し続けることを求められ、それ故に常に闘いの場に身を置かねばならない宿命も帯びる。

 『停滞は衰退であり、怠惰は敵のみならず己からの敗北である』という訓えも空現流には伝えられる。
 また、『無為無辜に拳振るう事勿れ』という訓えが伝えられており、みだりに私闘に空現流を用いることを戒めている。反面、人としての正道、正義を貫くことを是としており、上記の訓えの続きとして『然れども、暴虐外道に情けるべからず』という、『正義のために戦え』という意味合いの訓えもある。

 ――――――――――

 キュアショコラがカッコよすぎる……!!

 プリキュアシリーズを通してみてきて、『カッコカワイイ』ではなく、純粋に『カッコいい!!』と感じたプリキュアは初めてです……!!

 ……それはともかく、どーも、9日ぶりですね……

 今回はキュアデーティア、ついに誕生!!……なんですが、またしても感情移入しまくって書きまくったあまりに文字数がかさんでしまって……
 ですので今回『変身篇』は2回に分けて……つまりこれで5部作ということです、ハイ……

 まだ途中にもかかわらず、めちゃめちゃ長いです!!刮目して送信ッ!!

 『残酷な描写』とまで行かずとも、『痛い』描写があります。苦手な方はご注意を……


 NOW LOADING……

 

 その翌日は、風の公園への遠足だった。

 友達との談笑もそこそこに、僕はデータと話をしていた。

 

 「……つまり、バグッチャーを倒していけば、プリキュアたちを取り戻せて、サーバー王国を復興させることができるんだね」

 《ああ……間違いなくな。だからこそ、キュアブラックはアタシ達を逃がしたんだ……最後の希望として、な》

 「重責だね」

 《だからこそ、やりがいってのがあるってんだ。でもまずは、メモリアとどうにかして合流しねぇと……メモリアのユーザーもいっしょに、4人で顔合わせしとくべきだな》

 「やっぱり、会わなきゃダメかな……恥ずかしいよ……」

 《煮え切らねぇなぁ……昨日の覚悟はどうしたよ?》

 「それとこれとは…………おっと」

 

 気がつくと、目の前で靴ひもを結びなおそうと身をかがめていた、他のクラスの女の子にぶつかりそうになっていた。データと話すのに夢中になって、前をよく見ていなかった。テレビの広告でも『歩きスマホは危険です』って言ってるのに、何をやってるんだ、僕は……

 女の子はあわてて立ち上がって、僕を見てきた。僕もあわててスマホをポケットに隠した。

 

 「あ!……ご、ごめんなさい、靴ひもがほどけちゃってて……」

 

 ―――――…………!!

 

 こ、この子は…………

 

 僕はこの子の表情、その一つ一つに鼓動を急かされる。心臓の音が、体中に伝播しているのがわかる―――――

 視線が、合ってしまった。

 

 「あ……………………そ、その……こっちこそ……前、よく見てなくて…………ご、ごめん!」

 

 頭を下げてあやまって、僕はそそくさとその子と、その子の友達の2人の女の子を追い越した。

 

 …………び、びっくりした……

 久しぶりに、あの子と、あんなに近くに……―――――

 

 《どーしたほくと?急にソワソワして……》

 「そ、それは…………」

 

 この時の僕は、顔を真っ赤にしていたにちがいない。体中がヘンな熱を帯びていたから……データはそれもわかった上でか、おちょくってくる。

 

 《もしかして……お前、あの子にホれてんのか?》

 「…………っっ!!」

 《そのカオ、ズボシかよ☆ふぅ~ん……♪》

 「……わ、悪いの!?…………そ、そうだよ……僕は……あの子のことが―――――」

 

 僕には、好きな人がいる。もっとも、片想いだけど―――――

 

 最初に会ったのは、去年―――――入学式の日だった。

 初めての中学校で、両親とはぐれてしまい、右も左もわからなかった僕の前に、長い髪をサイドテールにまとめた彼女はあらわれた―――――

 

 

 ―――――迷っちゃったの?この学校、広いもんね。体育館、こっちだよ♪

 

 

 彼女はためらうことなく僕の手を握ると、僕を入学式の会場である体育館へと連れて行ってくれた。

 はじめてだった―――――『女の子』に、手を握ってもらえたのは―――――

 その感触と、僕に向けてきた笑顔が―――――

 

 わすれられなくて―――――

 

 やがて、僕の幼馴染で、その子とも仲のいい女の子から、名前を聞くことができた。

 

 

 ―――――東堂りんくさん―――――

 

 

 プリキュアが大好きで、いつもプリキュアのことを話してる女の子。

 好きなことに夢中になって、一所懸命になれることに、自然とシンパシーを感じた。

 僕の方から話しかけたい。でも、シュミとか僕とは合わなさそうだし、拳法や空手ばかりやってる僕なんかに、見向きもしてくれないだろうし……

 気持ちを伝えたいけど、伝えた時にあの子がどう返してくるかが、怖くて―――――

 いつしか、目を合わせることさえ、恥ずかしく思えてきて―――――

 

 そのまま、あの子を遠目から見るだけの日々のまま、1年が過ぎてしまって、今にいたっている。

 今のあの子の髪形はセミロング。およそ1ヶ月ごとに髪形を変える東堂さんの喜怒哀楽が、過ぎゆく月日とともに、僕の記憶にたまっていた―――――

 

 《へぇ、プリキュア好きなのか……だったらアタシが―――――》

 「だ、ダメだよ!データのことはナイショにしとかないと……データのことや僕のスマホのことは、人に話すとマズいんだよ……」

 《ジャークウェブがリアルワールドをどうこうしようってんだぜ!?なるべくたくさんのニンゲンが知っといた方が―――――》

 「はぁ……、いいかい、データ……まだこの世界は、キミたちのような存在をカンタンに受け入れられないんだよ……悲しいことだけどね……」

 《…………まぁ、そっちにもそっちの事情があるんなら、しゃーないか……でもよほくとぉ……♪》

 

 イジワルな笑みを、データは僕に向けてきた。

 

 《ふだんビシッとキメてるワリに、ソッチ方面はウブなのな❤》

 「う、うるさいっ///」

 

 自覚はあるんだ、自覚はっ。"そういうコト"に限った話、僕が臆病者だってことは……

 こういったことはウカツに家族に相談することもできないし……

 

 僕の青春は―――――どこに向かってるんだろーか……

 

 ――――――――――

 

 異変はその日の昼下がりに起きた。

 公園に隣接している風力発電所の発電機が、突然暴走を起こした。

 公園に嵐が吹き荒れる中避難したその時―――――

 

 「りんくちゃんが取り残されて、戻ってこられんです~!」

 「助けに戻れないの、先生っ!?」

 

 隣のクラスの、僕の幼馴染の"むぎ"―――――稲上こむぎと、その友達の鷲尾そらさんが、必死な表情で先生に訴えかけている。

 ―――――まさか……東堂さんが、まだ公園内に……!?

 

 「……データ……!」

 《あぁ……行かない手はないぜ……!お前のカノジョ、助けるためにさ!》

 「かっ、カノジョじゃないよっ///」

 

 データにツッコみ返しながら、僕はこっそりとみんなから離れて、近くの林に入った。

 

 「プリキュア!オペレーション!!」

 

 データが風力発電所のキュアネット空間に降り立つさまが画面に映った。ここから戦い―――――

 というところだったのだろうけど、データは物陰で足を止めた。

 

 「……どうしたの?」

 《……やれやれ、出遅れちまった。おかげでメモリアにいいトコ取られちまったなぁ》

 

 アングルを動かすと、そこにはデータと似た格好をした、ピンク色の髪の女の子がいた。

 前にデータが見せてくれた、キュアネットの画像に映っていた子だ。

 画面から目を離してあたりを見ると、風力発電機の暴走は止まり、風も凪いでいた。とすれば、さっきの原因になっていたバグッチャーは、この子に倒されたのだろう。

 

 「あれが……キュアメモリア……もうひとりの、プリキュア……」

 

 誰かと話しながら、笑っている。相手はやっぱり、メモリアのユーザー、なんだろうか……

 

 「ねぇ、データ……メモリアのユーザーって、どんな子なのかな……」

 

 男の子だろうか、それとも女の子だろうか。それに、ここにメモリアがいたということは―――――

 

 《お前も興味があるんだな。同じ学校の同い年みたいだし、会ってみたらどうだ?》

 

 やっぱり、そういうこと、になるのだろうか。でなければ、メモリアがこの場にいる理由にならないけれど―――――

 でも、直接ユーザーの子に会うとなると、やっぱり―――――

 

 「それは……このスマホを見せるのはずかしいし……」

 《お前なぁ……あの時見せてくれた覚悟、こういう時に出せねェのかよ?》

 「そ、それとこれとは話が……」

 《……ま、後の楽しみにとっておくとすっか―――――》

 

 さて、そろそろ戻らないとみんなに怪しまれる。僕は立ち上がり、スマホの画面でこちらを見上げてくるデータを見た。

 

 「…………行くよ、キュアデータ」

 《あぁ、そうだな……アタシ達の戦いは、これからなんだ……》

 

 なんだか、打ち切りマンガのオチのようなセリフに、思わずクスッと笑う僕。

 

 《な、なんだよっ》

 「ううん、なんでも♪」

 

 僕はデータがスマホに戻ってきたのを確認して、さりげなくみんなの列に戻ってくると、ぺこぺこと先生に頭を下げる女の子が。

 

 「…………東堂さん……よかった、無事だったんだ……」

 《メモリアに感謝、だな♪》

 

 小さく、データがそうつぶやくのが聞こえた。本当にその通りだと思う。

 もうひとりのプリキュアが、東堂さんを助けてくれた―――――

 ありがとう―――――キュアメモリアと、そのユーザーのヒト―――――

 

 しかし、この3日後の夜―――――

 事態は急転した―――――

 

 ――――――――――

 

 その日の夜、僕達は家族で外食に出かけた―――――その帰り道だった―――――

 

 ―――――……ズウゥゥゥン…………

 

 遠くの方で地響きがした。まもなくして、その方角からたくさんの人が悲鳴を上げながら走ってきた。

 何があったのかと父さんがその中のひとりに訊いた。

 

 「中央通りにバケモノが出たんだ!店とか車とか壊して……アンタ達も早く逃げろ!!」

 

 僕だけじゃない。家族全員が耳を疑ったと思う。今時、そんな映画のような出来事が―――――

 

 ―――――まさか―――――……!?

 

 僕は思わずスマホを取り出した。データの胸のハート型のブローチが、赤々と輝いていて―――――

 

 《……こうなるのは、ずっと先だと思ってたけどよ……こんなに早いなんて……!!》

 

 その時、ビルとビルの隙間、逃げ惑う人々の間から、僕には見えた。

 巨大な―――――"影"を。

 あの日、画面越しに見ていたシルエットが、現出して―――――

 

 「……バグッチャーが……実体になって見える……」

 

 無意識に口から出ていた。

 でも、どうすればいいんだ……!?キュアデータはあくまで、キュアネットの住人だ。彼女が現実に干渉する術は無い。今の僕に出来ることは―――――

 

 「こっちにも出たぞぉぉぉ!!!」

 

 その声に、僕は思わず振り返った。2体目のバグッチャーが実体化したというの!?

 さっき通りかかった楽器店、そこから"そいつ"が現れたように見えた。一挙して人の流れが変わって、一瞬のうちに人混みに呑まれ、家族と僕が引き離される。

 父さんは!?母さんは!?お祖父さんと…………のん!のんはどこにいるの!?

 

 「にぃぃぃ~~~!!!」

 

 喧騒に混じって、のんの悲鳴が確かに聞こえた。

 

 「のん!!ののかぁッ!!?」

 

 楽器店の方角を見て、僕は愕然とした。

 巨大なバグッチャーの右手の中に握られていたのは―――――

 

 「…………!!ののかぁッ!!」

 

 ののか、だった―――――

 そして、バグッチャーの肩には、見覚えのある男が乗っていた。

 長い髪のその男は、爬虫類めいた冷笑を浮かべていた―――――

 瞬間―――――

 

 

 ――――― ―――――

 

 

 

 「ッッきッさまアアアァァァァァーーーーッッッ!!!!!!!」

 

 

 

 僕の人生の中で、最大級の怒りが―――――

 一瞬で全身の血が沸騰するかのような怒りが、僕の全身を支配する。

 同時に、そんな僕の姿を見てか、バグッチャーはののかをその手に握ったまま、人の流れとは逆方向―――――大泉埠頭の方角へと、跳びはねながら移動していった。

 ―――――こっちで勝負、ということか。

 一歩を踏み出したとき、データがスマホの中から言ってくる。

 

 《ほくと……!お前、まさか……!!》

 「……行くに、決まってる、だろッ……!!!」

 《死ぬ気かよッ!?》

 「死ぬ気なんかない!でも、死んでも取り戻すんだよ!!ののかに何かあったら……僕は……僕はッ……!!」

 《…………覚悟はわかった……でもなほくと……忘れんじゃねぇ……》

 

 語気を変えたデータが、僕を見上げてきた。

 

 《お前が死んだら、悲しむヤツが大勢いるんだ……特に妹さんだ……お前が目の前で死ぬ姿なんて……絶対に見せたら赦さねぇからな…………これだけは言っとく!死んだらブッ殺す!!いいな!?》

 

 ―――――その言葉で、ヘンに力が入っていた全身が、すっとほぐれたような、そんな気がした。

 

 「ふ……ふふふ……あははは……!!」

 《ほ、ほくと……!?》

 「ダメだよ、データ……」

 

 僕は思わず笑顔になって、データに言った。

 

 「プリキュアが"ブッ殺す"なんて言っちゃ、さ……前に東堂さんが言ってたのを聞いたんだけど……アニメのプリキュアは、敵も味方も、絶対に『殺す』って言葉を使わないんだってさ……仮にも、キミもプリキュア……女の子の憧れなんでしょ?せめて、"張っ倒す"くらいにしてよ」

 《そ、……それだと……脅しにゃならねぇし、さぁ……それに…………お前には、絶対死んでほしくない、し……》

 

 そうだ―――――

 データは目の前で、家族を―――――妹を亡くしているんだ。だからもし、僕が死んでしまったら―――――

 また、データは悲しい想いを繰り返すことに―――――

 そして、ののかにも同じ悲しみを味わわせてしまうことになる―――――

 

 「……、伝わったよ……キミの想い……わかった、無理はしない……でも、ののかは絶対に助ける……空現流拳法の、名に懸けて」

 

 僕は右の拳を胸に当て、空現流拳法の"訓え"を唱えた。

 

 「"無為無辜(ムイムコ)に拳揮う事(ナカ)れ、(シカ)れども、暴虐外道(ボウギャクゲドウ)に情けるべからず"―――――」

 《なんだ、そりゃ?》

 「……心得、さ。みだりに拳を揮ってはいけない……でも、悪や理不尽を決して見逃すのもまたいけない……って感じのね。僕が最初に教わった、"ヒーローの心得"だよ。……さぁ、行くよ!」

 

 僕がやらなきゃ、誰がやる。

 待ってろ、ののか。

 僕が―――――いや、僕達が、必ず助ける―――――!

 

 ――――――――――

 

 街の中のパニックの裏、静寂の中―――――

 暗闇の大泉埠頭で、僕が見上げたのは―――――

 

 「ののかーーーッ!!!」

 

 巨大なコンテナ運搬用クレーンのアームの先端に、ロープで括りつけられたののかがいた。

 

 「……!にぃぃぃぃーーーーーーーー!!!!!」

 

 僕の姿に気づいたのか、まるで悲鳴のように、ののかは僕を呼んだ。

 そして、僕の前には阻み立つように―――――

 

 『バァグッチャァァ…………!!』

 

 巨大なギターを携えたバグッチャーがそびえ立っていた。

 

 『逃げずに来るとは見上げた度胸だよ、人間』

 

 バグッチャーの肩には、ネンチャックが不敵に笑って立っていた。

 正直、どういう理屈でコイツらが現実の世界に出てきたのかはわからないけれど、今はそんなこと、どうでもいい―――――

 

 「ののかを返せ」

 『簡単に返すと思っているのかぁい?……キミの持ってるその端末に入ってる、サーバー王国の残党……それと交換サ』

 

 やはり、そう来るか。"悪の常道"だ。

 そして、仮に僕がここでスマホとデータを差し出したところで、ののかを返す気が無いということも。

 こいつらに、もはや言葉は通じまい。

 

 「わかってるさ、そう来ることくらい……なら、この五体で罷り通るまでだ……!」

 

 僕は、重心を落として、巨大な影を見上げながら構えた。

 

 「空現流、八手ほくと―――――」

 

 半端者の僕がどこまで敵うかわからない―――――

 でも、やるしかない。やるんだ。でなければ、ののかが―――――

 

 「正義、推参―――――ッ!」

 

 僕は全身に気迫を漲らせて駆け出し、右の拳でバグッチャーの胴体に一撃を加えた。

 瞬間、何かが砕ける音が聞こえた。でも僕は構わず、両の拳を連続でバグッチャーに叩き込んだ。

 

 「づぁあああああぁぁぁああ!!!!」

 

 でも、バグッチャーは怯むどころか、微動だにせず、ただ僕を見下ろしている、それだけだ。

 ネンチャックが前髪を手で振り上げながら言い下してくる。

 

 『まさか!まさか人間の!それも子供の分際でバグッチャーに!?それも素手で立ち向かって来るなんて!!アッハハハハハハ!!!無謀を通り越してコメディだねぇ!!』

 「うるさい!!僕はののかを……ののかをッ!!」

 《おいほくと!!それ以上打ったら、お前……!!》

 

 データの言葉で、僕は我に返った。

 その時には、もう僕の手には力が入らなくなっていた。

 手の甲は血まみれだった。

 この瞬間―――――

 さっきの『何かが砕ける音』が、何だったのかを理解して―――――

 

 「う……がああああああアアアアアアーーーーーーーーーー!!!!」

 

 両膝をついて―――――痛みに泣き叫んだ。

 一撃目を打ち込んだ時点で―――――

 

 僕の手は、"砕けて"いた―――――

 

 《ほ、ほくと!おいほくと!!気をしっかり持ちやがれ!!今からだって妹さん助け出す方法はいくらでも―――――》

 『も・う・な・い・サ』

 「…………!!」

 

 いつの間にかすぐ前に立っていたネンチャックを、思わず僕は見上げた。

 

 『君達人間がいくら足掻いたところで……高度情報生命体であるボク達"アプリアン"に、敵う術はないのサ』

 

 それでも、僕はあきらめたくない―――――

 負けたくない―――――

 ののかを助けないと―――――

 でないと―――――

 

 『気に入らない目をしているねェ……もういいか。……バグッチャー――――――――――』

 

 ネンチャックは僕に背を向け、立ち去りながら言った。

 

 『(デリート)だ』

 

 バグッチャーの巨大な拳が、薙ぎ払うように―――――

 横殴りに僕を襲った。

 全身に壮絶な痛みが走って―――――粉微塵になる音が聞こえた。

 まるで木の葉が舞うように―――――僕は夜空に吹っ飛んだ。

 

 

 ののかが泣き叫ぶ一瞬の姿が、時間が止まったかのように目に留まって―――――

 

 

 手を伸ばしても、届かなくて―――――

 

 

 重力が僕を捉えて―――――

 

 僕は暗闇の海へと、頭から叩き落ちた―――――

 

 冷たい水と、流れの音、揺れる海面、その光―――――

 

 五感全てが、深淵へと沈められて―――――

 

 

 虚無が―――――僕を捉えていった―――――

 

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 「ほくと!!ほくと!!!おい冗談じゃねぇぞ!!目ェ覚ませ!!ほくとォォッ!!!!」

 

 沈んでいくほくとのポケットの中から、アタシはスマホを動かして脱出しながら、ほくとに呼びかけた。

 

 「妹さん助けんだろ!?ホレてる子にコクるんだろ!?ヒーローになるんだろッ!?なのにこんなトコで死んでどーすんだよ!?お前にゃやるコト、まだたくさんあんだろーが!!」

 

 いくら呼び掛けても、ほくとは答えてくれない。ただ、両手と全身に負った傷からあふれる血だけが、上へと流れて海に溶けてく。

 

 「こんなトコで終わっていいヤツじゃねェんだ!!おい言ったよな!?死んだらブッ殺すぞッ!!目ェ開けろよ!!ナニか言えよ!!……プリキュアって『殺す』って言っちゃいけねぇんだろ!?だったら張ッ倒してやる!!これならいいだろ!?だから目ェ開けてくれぇぇ……!!ほくとォォ!!」

 

 水の中では、ニンゲンは息することも喋ることもできないことは、その時のアタシの頭の中からは素っ飛んでいた。

 当然のように―――――ほくとは、答えては、くれなかった。涙がにじんできた―――――

 

 アタシの……アタシのユーザーになったばかりに、妹さんにも迷惑かけて、あげくの果てにほくと自身がこんな目に遭って…………

 こんな……こんなの、もうイヤだ……!!もう、あんな思いを繰り返すのはごめんだったんだ!!なのに、またアタシの前で、誰かの命が消えてくなんて……!!

 そんなの、イヤだ…………!!

 

 「頼む……誰でもいい……何でもいい……!ほくとを……ほくとを……ほくとと妹さんを、助けてやってくれぇ……!!もう誰にも、あんな思いをさせるのはイヤなんだぁ……!!……奇跡ってのがあんなら、今すぐにでも起きてくれぇ……!!ほくとの……こいつのやりたいことを、やるべきことを、中途半端なままで終わらせちまうなんて残酷すぎんだろぉがぁ……!!頼む…………頼むから……―――――お願いだぁ……ッ……!!、」

 

 涙声で―――――アタシは叫んだ―――――

 

 

 

 

 

 「ほくとを、ヒーローにしてくれぇぇぇぇ………………!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――― ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――いやだ

 

 

 

 

 

 

 

 「え…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――こんなところで、おわりだなんて、いやだ

 

 

 

 「ほくと…………?」

 

 

 

 ―――――僕は―――――たすけたい―――――

 

 

 ―――――ののかを、たすけたい―――――

 

 

 ―――――僕のチカラ、僕のココロで、だれかのナミダをはらって、マモルことのできる―――――

 

 

 

 

 

 ―――――ヒーローに、なりたい―――――

 

 

 

 

 〈USER:HOKUTO HATTE〉

 〈SYMPARATE:100%〉

 

 

 

 

 アタシのアタマの中に、ほくとの"想い"が、言葉にせずとも流れていく。

 まだ、ほくとは命を、心を、自分を失っていない―――――

 その時―――――アタシのアタマが、『何か』に切り替わったかのように意識が追いやられて―――――

 勝手に言葉を、口走っていた―――――

 

 

 「プリキュア、マトリクス、インストール」

 

 

 聞いたことが、ある―――――

 マトリクスインストール。ユーザーと契約したプリキュアだけができる、最後の手段―――――

 ユーザーに、プリキュアの力を分け与えるっていう……やり方すら教えてもらえなかった―――――

 それが、どうして―――――

 

 スマホが光を噴いた。アタシと同じ、水色のイーネルギーが―――――

 スマホはまっすぐ、ほくとの胸へと飛び込んで―――――

 

 

 《CURE-DATA! INSTALL TO HOKUTO!!》

 

 

 巨大な光の球体が、ほくとを包み込んで、アタシは―――――

 その球体の中にいた―――――

 

 

 『ほくと……こりゃ、どーなってんだ……!?』

 

 ほくとは目を閉じたまま、微動だにしていない。

 でも、液晶越しじゃない、アタシの目の前に、ほくとがいる―――――

 ってことは―――――

 

 『ほくと……なにが起きてんのか、さっぱりわかんねぇ、けど……!!』

 

 こうして、『同じ空間』にいられるのなら、ほくとに活を入れることだってできるハズだ……!

 だったら……!!

 

 『何寝てんだよ、ほくと……妹さん助けんだろ……!?ヒーローになるんだろ……!?寝坊すんじゃねェ……!!』

 

 アタシは右の拳を握って、ほくとの胸のど真ん中に空いた『穴』に向かって、思い切り正拳を叩き込みながら―――――

 

 『目ェ覚ましやがれぇぇぇーーーーーーーーー!!!!!!!』

 

 絶叫とともに、アタシの渾身の気合をブチ込んだ。瞬間、アタシの全身を光が包んで、叩き込んだ拳のその先から―――――

 光に変わって―――――ほくとの胸の『穴』へと、吸い込まれていく―――――

 

 その瞬間、理解した。『マトリクスインストール』というのが、『何』なのかを―――――

 アタシの全身に浸透していく、『快感』に似た感触―――――アタシが―――――

 

 ほくとの中へと、入っていく―――――

 

 そういう―――――ことか―――――

 

 それなら、それで、できるじゃねぇか……!!

 アタシの―――――プリキュアの力を、今こそお前に託す……!!

 そうさ―――――……お前は……!!

 

 

 『―――――お前は、アタシが認めた世界一の男だ!アタシといっしょに、最強のプリキュアになろうぜ、ほくと!!』

 

 

 ――――――――――

 

 漆黒の海から飛び出して―――――

 

 『(アタシ)』は―――――降り立った。

 

 《INSTALL COMPLETE!!》

 

 今しがた隣り合わせた、『死』―――――

 すべてを失うかもしれない恐怖―――――

 それは、"ふたりの"『(アタシ)』が、経験したことで―――――

 

 そうだ―――――

 もう二度と、誰にも、こんな思いは―――――

 

 胸のイーネドライブが、とくん、と脈打って―――――

 

 『……………………!!!』

 

 『(アタシ)』の双眸から―――――涙がこぼれる。

 

 『『(アタシ)』の…………『(アタシ)』の、やるべきこと、は―――――なりたい、モノ―――――は―――――』

 

 少しずつ―――――『(アタシ)』を形づくっている、"ふたり"の想いがココロを満たしていく―――――

 "ふたり"が入りまじり、ココロも、カラダも、ひとつになった『(アタシ)』―――――

 それでも、想いはそれ以前からもう、"ひとつ"だった―――――

 無念と、それを繰り返させないという、確かな想いが―――――

 

 やりたいこと。やるべきこと。それらが束ねられて、『(アタシ)』の―――――

 否―――――『僕』と、『アタシ』の、力に変わる……!!

 

 『二つの存在』が一体となった僕―――――それでも、想いはひとつ―――――

 『ひとつの心』の望むがままに―――――

 頬をつたった『涙』―――――まだ、涙を流さない境地には至れていないけれど―――――でも―――――

 僕は―――――『涙を以って、涙を祓う』、ヒーローになる!!

 

 あえて僕は―――――この名に、『涙』を冠して―――――!!

 

 

 『渾然一体、涙祓一心―――――キュアデーティア!!』

 

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG CURE-DATEAR

 

 ――――――――――

 

 夜空の下―――――僕は埠頭に立っていた。

 

 ―――――生きてる―――――

 

 でも、どうしてだろう……?バグッチャーの致死の一撃を受けて、僕は大泉湾に沈んでいったはず。

 そうか、アレだ!『水落は生存フラグ』なんだ!

 特撮で水に落ちた場合、大抵の場合は生きてる、アレだ!

 まさか現実でも有効だったなんて……でも―――――

 

 『どうやって……海から出たんだろう……?』

 

 ……………………え?

 

 無意識につぶやいた僕の声が―――――

 妙にカン高く……というか、アニメの女性声優さんが喋っているような声に聞こえる。

 確かに僕はまだ声変わりを迎えておらず、他の男の子よりも声が高い。でも、ここまで高くは無いハズ……

 まるで、女の子の声みたい―――――

 そう思って、僕はふと下を向いた―――――

 

 『え……ええっ!?!?えええええええええああああああーーーーーーー!?!?!?』

 

 動転して、さらに裏返った声が出てしまった。それも女の子の声だから、頭の中にキンキン響く。

 って、それどころじゃない!僕は今、電飾満載のフリフリワンピーススカートを着させられていた……!!女装?!コスプレ!?

 恰好や色はともかく、まるで仮面ライダーファイズのフォトンストリームのようだ。

 よくよく見ると、キュアデータのコスチューム、そのものだ。ところどころが細かくなってるとはいえ―――――

 それに、二の腕と、スパッツからのぞく太腿の見てくれが明らかに『僕じゃない』。触ってみると、なんというか、『ふにっ』としてて、脂肪が増えて丸みを帯びてるようにも感じる。腕も細くて、筋肉量も明らかに減ってる。

 でも、何よりも、だ―――――

 

 この、胸から突き出ていて、足元への視界を塞いでいる2つの『丘』って………………なんなの………………!?

 

 『なんで!?どうして……!?僕……いったい……!?』

 

 僕はとっさにスマホを取り出した。よかった、水に落ちても使えるみたいだ。このスマホ、市販のモノよりも頑丈になってる。

 データから教えてもらったカメラ機能の『自撮り』を使って、僕は僕の顔を写してみた、けれど―――――

 

 『これって……………………誰……………………?』

 

 そこに写っていたのは―――――『"僕"じゃなかった』。

 長い髪をサイドテールにまとめた、水色の髪と瞳の女の子だった。前から見ると、『♪』の形にそっくりだ。この髪型、初めて出会った東堂さんと、同じだ。

 普段の僕よりも幼くて―――――まるきり別人に見える。

 僕の面影はまったくと言っていいほど―――――強いて言えば、10%くらいしか、『八手ほくと』の面影は残っていなかった。

 

 『ど……どうなってるの…………僕…………女の、子に、なって、る……!?』

 

 本当に女の子になってるかどうかを、もっと『深く』確かめる術はある。でも僕は『それ』をするまでの度胸も発想も、その時には無かった。ただ、この事態に動転していただけだから―――――

 

 《ほくと!聞こえっか、ほくと!?》

 

 どこかからか、データの声が聞こえてくる。

 そうだ、データ……!もしかして、これって……!?

 さっきスマホを使った時、データはそこにはいなかった。まさか―――――

 僕は胸の真ん中にくっついているハート形のブローチに―――――その両側にある"ふくらみ"に触れないように、慎重に―――――手を当てて、精神を集中する―――――

 

 暗闇の中、水色の輝きを放つ球体状の空間の中に、データの姿が見えた。

 

 『データ……!?どうして"僕の中"にいるの……!?僕、どうなっちゃったの……!?』

 《落ち着いて聞け、ほくと……死にかかってたお前に、アタシの力をインストールした……イーネドライブの最終プログラム……『マトリクスインストール』を使ってな……それで、ほくととアタシが一緒くたになった姿が……今のお前―――――その名も……『キュアデーティア』だ!》

 『キュア……デーティア…………』

 

 その名前だけは、何故か自分の名前として受け入れることができた。

 それに、思い出した。全身の骨がバラバラに砕かれたはずなのに、今の僕は五体満足で、手に負った傷もふさがって……というよりも、別人のような手になっている。

 

 《感じねぇか?お前の中に流れる力……アタシとほくとが、一心同体になった"チカラ"―――――》

 

 言われてみてから、僕は体の中の『力の流れ』に意識を重ねる。すると―――――

 血液の流れとは違う『エネルギー』のようなものを、体の中に感じる。そして、僕の体から、まるで泡のように湧き出ては消えていく、これは―――――

 

 『イーネルギー……』

 

 データが教えてくれた、『キュアネットの『善』のエネルギー』―――――それが、僕の中に流れているということは―――――

 

 『僕…………プリキュアに、なったの…………』

 《そういうことみたいだな♪》

 

 そ、そんな…………僕は愕然とした。

 仮面ライダーやスーパー戦隊のようなヒーロー―――――そのスーツアクターになるのが、僕の夢だった。

 でも、僕が14歳にして初めての『変身』を遂げたのが―――――まさかの『プリキュア』だなんて……―――――

 それも、女の子しか変身できないハズのプリキュアに、男の僕が変身するって―――――

 こんな人生設計、予定外だし、予想外だ……

 

 『どうして、こんなコトに……』

 《ア、アタシだって無我夢中だったし、まさかこうなるなんてアタシも知らなかったんだよ……》

 

 なんだろう、この罪悪感に似た気持ちは―――――

 データの感情がシンクロして、僕のココロの中に重なっていく―――――

 これって、ただ僕が『変身』したわけじゃない。

 さっき、データが言ったとおり、僕とデータ……ふたり分が、この体の中にあるのがわかる。

 一緒くたとは、こういうことなんだ―――――

 

 『仮面ライダーWか、ウルトラマンエックスみたいだね……』

 《なんだそりゃ?》

 

 どちらも、『ふたりでひとりのヒーロー』だ。特に仮面ライダーWの最強フォーム『サイクロンジョーカーエクストリーム』が、今の僕の状態に最も近いんじゃないだろうか。もっとも現実にこんな状態になった人間は、多分僕が、人類初だろうけど―――――

 ともあれ―――――こんな姿になってしまったとはいえ、データに悪気はなかったんだ。

 データがマトリクスインストールをしてくれなかったら、間違いなく今頃、僕は大泉湾の藻屑になっていた。

 

 『ごめん……それと、ありがとう……』

 

 僕の中にいるデータに、僕は謝ってから、お礼を言った。彼女が、こんな形であれ、僕の命を必死につなぎとめてくれたんだから……。

 すると、僕の中で、不思議な感覚が生まれた。感謝と、それを受ける暖かな気持ちが―――――ふわりと触れて―――――

 体中に、広がっていく―――――

 これは―――――データのココロ……なの?

 

 《て、テレんじゃねぇか……そ、それよりもよ!妹さん、助けんだろ!?》

 

 思い出した。僕がどうして、ここにいるのか―――――

 僕が、やらなければいけないコト―――――

 

 『……そうだ……僕はののかを……助けないと……!』

 

 巨大なクレーンが遠目に見える。そこから吊られているシルエット。視力も上がって、夜目も効いているのか、今の僕にはその姿がはっきりと見える。

 

 ―――――ののか―――――

 

 『データ……僕がどうしてこうなったのか……今は訊かないことにする』

 

 思い出したことがある―――――僕はその"決意"を再び自分に言い聞かせるように―――――

 

 『どんな姿だろうと……誰かのために強くなれるなら……歯を食いしばって、思いっきり守り抜けるなら……転んでも、また立ち上がれるなら……正しいことを言って、成し遂げられる勇気があるなら―――――ただ、それだけできれば―――――』

 

 

 ―――――英雄(ヒーロー)さ―――――

 

 

 《やっぱお前、最高のヒーローじゃんか♪》

 『データ……』

 

 心の中のデータが、ニカッと笑う。

 

 《だからかな―――――マフラー、似合ってるぜ》

 

 言われてはじめて、気がついた。首元に、純白のマフラーが巻かれているのを。潮風に、ひらひらとなびくそれは―――――

 

 『マフラーは、ヒーローの証、か―――――』

 

 データは、マフラーなんて身に着けていなかった。つまりこれは、『キュアデーティア』だけのオリジナル。

 僕のヒーロー―――――"仮面ライダー"への憧れが、これを具現化させたのだろうか。

 どんな姿になろうとも、僕は僕のまま―――――『自分を貫く』、決意の顕現―――――

 

 だとすれば―――――僕は、このマフラーに誓う。

 

 涙の名のもとに涙を祓う―――――ヒーローになってみせると―――――

 

 ――――――――――

 

 ―――――ダンッッッ!!!

 

 僕はネンチャックとバグッチャーを見据えると、その正面に着地した。

 右膝と右の拳を地面につけて、左腕を後ろに引いた―――――

 

 『へぇ……"スーパーヒーロー着地"かぁ……それ、ヒザに悪くない?』

 

 わかっているのか、ネンチャックがそう返してくる。僕は黙って立ち上がり、ネンチャックを見据えた。

 

 『バイタルパターン解析っと……へぇ!もしかして君、さっきデリートしたはずの人間クンかい?……これは驚いた!まさか生きていて、しかも女装してリベンジマッチとは恐れ入るよ!……それとも君、もともと女の子だったのかなぁ?この短い時間で何があったんだい?』

 

 喋らないでおこうかと思ったけど……限界だった。

 

 『………………るか……』

 『ん~?』

 

 半ばやけくそに僕は叫んだ。

 

 

 『そんなこと僕が知るかぁっ!!!』

 

 

 仮面ライダーストロンガーが第7話で放ったこの言葉―――――今の僕にとって、言葉の内容に嘘偽りは一切なかった。僕がこの姿になったのは、僕の意志の外で起こった事だから。

 それにしても……なんて迫力のない声なんだ……いくら凄んだところで、威圧することはたぶんできないと思う……

 想像してみてほしい。自分の声が、萌えキャラのような声に変わってしまう感覚を―――――

 

 『さっきまでの僕と、今の僕を同じと思うな…………ののかを、返してもらうぞ!!』

 『できるものならね……!!』

 

 10mほど前方にいるバグッチャー目掛けて、僕は踏み込み、駆けだそうとした。少しずつ加速して、バグッチャーとの間合いを詰めようと思っていた。でも―――――

 

 『―――――!?』

 

 たった一歩、僕は蹴り出した、そのつもりだった。なのに……

 

 ―――――どうしてバグッチャーが目の前に迫ってるんだ!?

 

 あまりの爆発的ダッシュに僕自身がとまどい、とっさに僕は膝蹴りを叩き込む、それしかできなかった。

 

 ―――――ヅドォン!!!

 

 でも、バグッチャーの胴体部分に膝蹴りは食い込むように命中した。バグッチャーは吹っ飛んで、その先に積まれていた運搬用コンテナにぶつかって、そのコンテナを凹ませながら止まった。

 

 『……すごい』

 

 唖然とした。これが、プリキュアのチカラ……なのか。

 遊園地のゴーカートで例えるなら……ほんの少しだけアクセルを踏んだつもりだけど、実際のカートはフルアクセルで加速していた―――――そんな感覚、だろうか。

 それと、やはりというかなんというか、カラダに強烈な違和感を覚えていた。

 

 『―――――重心が明らかに"上"寄りになってる……!』

 

 原因はわかってる。胸にある"2個の球体"だ。これがあるから、体捌きにほんのわずかな違いが生じてしまっている。

 そう考えると、女の人って、凄いんだなって思う。こんな、"錘"のようなモノを24時間365日、ずっとくっつけたまま生活してるんだから……

 で、でも、これがないと赤ちゃんに栄養を与えることだってできないわけだし、それに、その、いろいろ……。

 

 《余計なコト考えんじゃねぇ!そーゆー妄想は家に帰ってから、人目のねぇトコで隠れてしやがれ!!》

 

 データの言葉で、僕は"余計な思考"を中断した。データには、僕が考えていることが筒抜けのようだ。

 

 《重心が変わってるのはじき慣れる!意識を研ぎ澄まして、妹さん助けることだけに集中すんだ!》

 『……わかった!』

 『ヤ~~~カマシ~~~~!!!』

 

 バグッチャーがその手に持ったギターの弦を弾いて、そこからたくさんの音符が出現した。そしてそれが矢の形に変わったと思うと、一斉に僕目掛けて殺到してくる。

 

 『飛び道具か……ならッ!!』

 

 今の僕は―――――プリキュアなんだ。

 さっきのように、僕の中に常識外れの力が備わっているのだとすれば―――――

 こういうことだって、出来るはず―――――

 

 『空現流、防楯術(ボウジュンジュツ)!……壱式地殻防壁(イチシキチカクボウヘキ)、"辻畳(ツジダタミ)"ッ!!!』

 

 握り拳で、僕は足元の地面を叩いた。瞬間、アスファルトが反り返るように屹立して、僕の前にそびえ立つと、『音符の矢』の弾幕を防いでくれた。

 

 『できた……!』

 

 本来この技は、もっと修行を積まなければ使うことの出来ない、僕―――――『八手ほくと』にとっては『机上の空論』でしかなかった技。それがこうして『できた』ということは―――――

 空現流拳法―――――その中で、今まで僕が身につけた技、そして、見たことがあるだけでまだ真似できない技、また―――――

 僕の中の構想にあるだけで、まだ実現できていない技―――――

 それすらも、『キュアデーティアなら、できる』んじゃないか―――――

 

 『次は僕の番だ……!』

 

 間合いの取り方、そして自分の体への"手綱の引き絞り方"―――――それを細かく、感覚だけで微調整しながら―――――

 摺り足をうまく使って―――――加減しながら蹴り出せば―――――

 

 ―――――上手く間合いを詰めつつ、そのまま懐に入れる―――――!!

 

 『空現流貫槍術(カンソウジュツ)―――――伍式空撃刺突(ゴシキクウゲキシトツ)、"逆鋲刺(サカビョウシ)"ッ!!!』

 

 相手の"下"に潜り込んで、両足で蹴り出すことで、相手を空中へと蹴り上げる技―――――

 でもこれは布石に過ぎない―――――

 全身に"氣"を漲らせて、僕は蹴り上げたバグッチャーを追って跳び上がる。

 

 『この連撃……見切れるか―――――!』

 

 拳、蹴り、手刀―――――叩き込めるだけの攻撃を叩き込んで―――――!!

 

 『空現流連撃闘術!!参式戦弾闘舞(サンシキセンダントウブ)―――――』

 

 最後の一撃を、蹴り込む―――――!!!

 

 

 『"百雷(ヒャクライ)"ッッ!!!!』

 

 

 ―――――ズドオオオオオンンンンン!!!!!!!

 

 アスファルトに叩き落ちるバグッチャーに続いて、僕は着地し、倒れた相手を見据えた。

 

 『はぁ……はぁ……はぁ……』

 

 ここまでのことができるなんて―――――思った以上だ。

 これなら、勝てる。ののかを助けられる……!

 それに、なんだろう―――――この高揚感は―――――

 僕の中で膨らんでいく―――――この感覚は、何―――――

 

 『なかなかやるみたいじゃぁないか……甘く見てたよ、君を』

 

 バグッチャーの横に、ふわりと着地するネンチャック。

 

 『でもこっちには"人質"がいることを忘れちゃいけないよ……?』

 『……!』

 

 僕はクレーンに吊るされたののかを見上げた。

 そうだ―――――僕はコイツを倒すためにプリキュアになったわけじゃない。

 

 『それ以上大暴れすると、君の大切なあの子がどうにかなっちゃうかもねぇ……?』

 

 僕は、あの子を助けて、無事に父さんと母さんと、お祖父さんの元へと帰してあげなきゃならない義務がある。

 大切な人を―――――守らなければ―――――助けなければ―――――

 

 

 僕は―――――

 

 

 

 自分は―――――

 

 

 

 《……ほくと……?》

 

 

 

 ――――― ―――――

   

 

 

 ―――――()()()は―――――!!

 

 

 

 『必ず……わたしが助けるから』

 

 起き上がり、睨みを利かせてくるバグッチャーを、わたしは睨み返した。

 

 『タマシィィィ!!!』

 

 バグッチャーのギターから、連続で弦が鞭のように繰り出された。真っ直ぐ放たれたそれは、わたしの両手両足に、枷のように巻きついた。

 

 『邪魔を―――――しないで!!』

 

 イーネルギーを全身から発散して振り破ると、前傾姿勢からわたしは駆け出す。

 そして跳躍して、バグッチャーを踏み台にして、さらに跳ぶ―――――

 手を伸ばす―――――大切なひとに―――――

 

 『簡単に届くと思ってるのかい?』

 

 空中のハズ。なのに、ネンチャックがわたしの前をさえぎり、廻し蹴りを放ってきた。

 

 『く!』

 

 両腕でとっさに防いだけど、それでも衝撃を殺しきれずに、わたしはコンテナに叩き落ちた。

 

 『かッ―――――』

 《ほくと!!》

 『まだ!』

 

 わたしはすぐさま立ち上がると、今度は脚に力を込めながら跳躍した。ブーツの土踏まずの部分からイーネルギーが噴き出し、ジェット噴射のようにわたしを上空へと押し上げる。

 

 『と・ど・けぇぇぇぇえーーーーーーーー!!!!』

 『ち―――――ッ!』

 

 この急加速にはさすがのネンチャックも対応できなかったようで、急上昇するわたしには届かない。

 ののかを縛るロープを手刀で切って、抱きかかえるようにののかを助け出した―――――

 

 『!―――――、』

 

 思わず、ののか、と、声が出そうになった。でもここですんなりと名前を呼んでしまったら、わたしのことがバレちゃうかも…… 

 ここはグッとガマンして、コンテナとコンテナの間、相手から死角になっている場所に身を潜めた。

 

 ――――――――――

 

 『―――――大丈夫?』

 

 ののかはふるえていた。でも、わたしが笑いかけてあげると、はっとしたように涙をぬぐって、強気な笑顔を作って見せてくれた。

 

 「……うん!」

 

 無理してる、それがわかる。とてもこわい思いをしたのに、この子は気丈に振る舞っている―――――

 

 「おねえちゃん……もしかして、"プリキュア"!?おなまえは?」

 

 やっぱりののかには、そう見えてるのね……"にぃ"じゃなくって、"おねえちゃん"。こんなに間近で見ても、わたしが『ほくと』だって気づかないんだから……

 

 『うん♪……キュアデーティア。お兄さんに頼まれて、ののかちゃんを助けに来たわ』

 

 ―――――ということにしよう。それなら、自然でしょうし……

 

 「キュアデーティア!……プリキュアって、アニメのなかだけじゃなかったの!?」

 

 キラキラした視線を向けられて、やっぱり恥ずかしいけれど―――――喜んでくれたみたい。でも、その表情はすぐに暗くなって、また涙をぽろぽろこぼして……

 

 「でも……にぃが……かいぶつに……」

 

 ……目の前でわたしが死んでしまったと思ってる……辛い思いをさせてしまった。その気持ちは、痛いほどわかる。

 わたしはののかの頭にそっと手をやると、安心させてあげるように、笑いかけながら告げた。

 

 『大丈夫よ♪ののかちゃんのお兄さんは、わたしが助け出したから……お兄さん、言ってたよ……『助けられなくって、ごめん』……って』

 「ほんと……?にぃ、ぶじなの?」

 『うん、ほんと♪……お兄さんも、ののかちゃんを助けるために、いっぱい頑張ったんだから……あまり責めちゃダメよ?』

 「うん!」

 

 "自分"に対するフォローも忘れずに念を押して、わたしは『隠れてて』とののかを促して、コンテナの間から飛び出した。

 

 ―――――仕切り直しよ。

 

 ……SAVE POINT




 ……あれ……?
 キュアデーティアのようすが……!?

 コレはどういうことなのか……

 さらなるデーティアの本気が見られる変身篇Bは鋭意執筆中です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

正義ノ系譜

 プリキュアドリームスターズの趣旨が『プリキュア版"平成ジェネレーションズ"』だとようやく気付いた稚拙です……

 毎度お待たせしてしまってホントーに申しわけございません……
 特撮、特にライダーファンの方に自信を持ってお勧めできる変身篇B、ついに送信です!!

 ……『けもフレ』で『野性解放』という単語が出てきた時、ついニヤリとした特撮ファンは稚拙だけではないハズ……


 NOW LOADING……

 

 『……人質を助け出したくらいで勝ったつもりかい?』

 

 バグッチャーの肩に乗るネンチャックが見下した笑いを浮かべる。

 

 『……確かに、ののかを助けるだけなら、これでわたしの勝ちだと思うわ……でも、わたしはまだ、勝ってもないし負けてもない。それに、わたしは"勝つ"つもりも、"負ける"つもりもない―――――』

 

 わたしは、バグッチャーを指さし、宣言した。

 

 『そのバグッチャーに囚われたプリキュアを、"取り戻す"……"勝つ"んじゃない……"打ち克つ"の!』

 『屁理屈を言う!!』

 『ラァァァブギタアァァァァァーーーー!!』

 

 バグッチャーが奏でるギターから、たくさんの音符が弾き出される。見た目はファンシーだけれど、触れたら最期は自明の理。色とりどりの音符を、避けながら掻い潜って、正拳突きを―――――

 

 ―――――ダンッッッッ!!!!!!!!!!!!

 

 打ち込みの手応えに違和感があった。バグッチャーが何かした……!?

 

 『バリア……!?』

 

 泡のような、表面を波打たせた球体が、バグッチャーとわたしの間をさえぎっているのを見た。

 

 『でも、こんなのぉぉぉぉぉ!!!』

 《ほくとッ!》

 

 データの声も耳に入らず、わたしは左右の拳を連続で打ち込んだ。そう、最初にバグッチャーに打ち込んだ時と、同様に―――――!!

 

 《おい、ほくとッ!!》

 『大丈夫!!さっきとは違うから!わたしは……わたしはッ!!』

 《だから、ほくと―――――!!》

 

 

 ―――――お前、()()()って―――――……

 

 

 『!!!!!!!!!!!!!!』

 

 その手は、止まった。

 

 

 『―――――……え…………?』

 

 

 

 ―――――さっきの、なんだったんだ……!?

 

 ―――――()、は……なに、を……?

 

 さっきまで、ののかを助け出そうと必死になって―――――

 ののかを助け出して、やさしくののかに笑いかけて―――――

 ネンチャックに啖呵を切って、バグッチャーのバリアを砕こうと拳を打ち込んでいたのは―――――

 

 ―――――()なんだ……!?

 

 《おい、ほくと!さっきまでお前……まるで……》

 『うん…………』

 

 間違いない。さっきまでの僕は、ののかのことで頭がいっぱいになっていた。

 つまりは、『ひとつのコト』に集中して、まわりが見えなくなってしまって―――――

 

 『(ココロ)が……(カラダ)に、引っ張られてる……―――――』

 

 これって、大問題なんじゃないか……!?

 戦いに集中するあまり、気づいたら"完全な"女の子になっちゃってた、なんてシャレにならない……!!

 だったら―――――

 

 『データ……もしまた、僕の様子がおかしくなったら……もう一度正気に戻してほしい……どこまで自分のまま、"氣"を張ったまま戦えるか……こんな戦い方をしたことはないから、正直自信が―――――』

 

 そうつぶやき終わるか終わらないか、イーネドライブがカタカタふるえた。

 

 《お前だけが気張る必要ねぇよ。アタシとお前は一心同体だ!一度だろうと何度だろうと、正気に戻してやんよ!お前は……お前のまま戦えばいいぜ!》

 『……ありがとう―――――データ』

 

 そうだ―――――この体、この心は、僕だけのモノじゃない。彼女も―――――データもいっしょに、戦ってくれているんだ。

 それなら―――――

 

 『ねぇデータ……あのバグッチャーが、どのプリキュアを取り込んでるか……わかる?』

 《もちろん、もう目星はついてるぜ―――――キュアビートだ》

 

 即答。さすがはデータだ。

 

 《『スイートプリキュア』のひとり、"音魂(おんこん)のビート"……音を使って戦うスイートプリキュアの中でも、攻撃も防御も完璧に近い、要塞みたいなプリキュアだ……とにかく、自分のペースにノって相手にイニシアチブを握らせねぇタイプだな》

 

 とすれば、相当な手練れということになる。もっとも、51人のプリキュアは全員『伝説の戦士』。手練れじゃないプリキュアなんていないだろうけど―――――

 

 《まずはあのバリアだな……ブチ破らねぇと、話にもなんねぇ》

 

 さっき、連続で突きを打ち込んだけれど、崩せたなんて到底思えない。事実、バグッチャーはバリアを展開したまま、確かに立っているのだから。

 連続での攻撃ではなく、一撃だ。全力を一点に集中した、渾身の一撃に賭けるしかない。それこそ、稲光の如き一瞬の閃撃に―――――

 

 ―――――!それなら―――――

 

 この体……そして、データの能力と、僕の『目にしてきたモノ』それを組み合わせることができるなら―――――

 ……やれるかもしれない!

 

 『データ、確かキミは、一度見たモノは忘れることなく覚えていられるんだよね?』

 《あ?そうだけど、それがどーした?》

 『その"記憶"……"僕の記憶"も参照して―――――引き出して、再現することとか……できる?』

 《う~ん……やったこたねぇけど、やってやれねぇことはねぇかもな。何しろ、今のアタシはお前で、お前はアタシ、だしな!》

 『……それなら、応用できそうだね……"心の記録"を、現実の技として、この身で再現できるなら』

 

 僕は精神を集中して、心の中のデータに頼む。

 

 『お願いしたいことがある……僕の"心の記録"……そのすべてをキミに見せる……そこからはキミが判断してほしい―――――僕の見てきたこと、感じてきたことが、"力"に出来るか、否かを』

 

 これは賭けだ。僕の見聞きしてきたこと、僕の『夢への資料』が、今ここで活かせるかどうか―――――

 心の中のデータは、勝気な顔でうなづいた。

 

 《わかった、やってみるぜ!》

 

 ……頼んだよ、データ。

 ―――――そして―――――『僕の夢たち』―――――……

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 アタシは、ほくとのココロ―――――『記憶』の領域へとダイヴした。

 ひたすらに真っ暗な―――――床だけが白い空間。ほくとのイメージの中―――――

 

 「ここか―――――」

 

 そうつぶやいた、その時。

 

 『おぉ……待っていたぞ、君を』

 「!?」

 

 精悍な男の声に、アタシは振り返った。

 そこに立っていたのは―――――

 頭には青銀色のヘルメット。紅く輝く大きな複眼、口元を覆う牙のような装飾、額から延びる触覚。

 首元に巻かれたのは、真紅のマフラー。銀色のグローブとブーツ。胴体の緑色の部分は、さながら鎧を思わせる姿だ。

 

 「アンタは……!?」

 

 どう見ても只者じゃない。まるで着ぐるみだ。

 ―――――まさか……!?

 

 『私は……この少年の、"記憶"にして、"憧憬"……"夢"と呼ばれる存在だ。そして、……"彼ら"も』

 

 そう、着ぐるみが言った瞬間、カッ!と空間が明るくなり、アタシは思わず目がくらんだ。

 おそるおそる目を開くと―――――その男の背後に―――――

 空間を埋め尽くさんとするほどの数の、異形の人型が並び立ち、アタシを見ていた―――――

 

 《データに見てほしかったのは……彼らだよ》

 

 ほくとの声が降ってくる。

 

 《彼らこそ……45年以上の長きにわたって、人間の自由と、世界の平和を守るために、悪と戦い続けてきた―――――正義の戦士たち》

 

 ザッ!!と、100人以上のシルエットが、雄々しく構えた―――――

 

 《彼らを……人は、こう呼ぶ―――――》

 

 

 

 

 ―――――『仮面ライダー』―――――

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG CURE-DATEAR

 

 ――――――――――

 

 

 《お前はやっぱ、最高だ……こんなに頼りになる"先輩"たちを、アタシに紹介してくれたんだからさ……!》

 

 その言葉を聞けただけでうれしかった。そして、こうも言ってくれた。

 

 《行けるぜ!お前の"心の記録"……再現できるぜ!!》

 『……よし……!!』

 

 僕は意を決した。マフラーを掴んで、顔の鼻先までをマフラーで覆う。

 これは僕の―――――仮面だ。悪に対する怒りと、平和を守る誓いを宿した、戦士の仮面―――――

 彼らに少しでも、近づけるように―――――

 そして僕は、バグッチャーをまっすぐ見据えて、左の拳を握って腰だめに構えて引き、右腕を斜め左上方に、指先を揃えて真っ直ぐに伸ばした。

 

 『なんだいそれは……?』

 

 ネンチャックの問いには答えず、ただ静かに、僕は伸ばした右腕で弧を描くように、右へとゆっくりと動かし、斜め右上方に達した瞬間、右腕を握って腰だめに引き、同時に左腕を斜め右上方に指先を揃えて真っ直ぐ突き出した。

 刹那―――――

 

 《GENEALOGY OF JUSTICE(正義ノ系譜)!! START UP!!!》

 

 僕の全身から、青白いイーネルギーの粒子が噴き出した。

 理解できる―――――これは僕の、『決意』であると。

 

 『真のヒーロー』に近づくために―――――偉大なる先人たちの力を借りるための―――――

 

 『行くぞッ!!』

 

 僕は駆け出し、"心の記録"にアクセスする。

 

 

 ⇒ 〈MASKED RIDER 1〉

   〈MASKED RIDER 2〉

   〈MASKED RIDER V3〉

 

 《LET'S GO! RIDER KICK!!》

 

 女の子のような電子音声を、スマホが叫んだ。

 すると胸のイーネドライブに、『R』と『正面から見たバイク』を組み合わせた、『立花レーシングクラブ』のエンブレムが浮かんだ。

 マフラーが真紅に染まり、フォトンストリームのようなラインの色が、ブルーグレイにあざやかに変わった。

 瞬間、体中のイーネルギーが、両脚へと集束していくのがわかる。

 駆け出して、踏み込む度に、光がスパークする。そして僕は、高々と跳躍した。

 

 『とォッ!!』

 

 ネンチャックとバグッチャーが、僕を視線で追う。そして、両脚をバグッチャーに向け、一直線に蹴り込む―――――

 これこそ、仮面ライダー1号が、立花藤兵衛さんとの特訓で編み出した、『稲光の如き一瞬の閃撃』―――――

 その名は!!

 

 

 

電光ライダァァァァキィィィィィックッッ!!!!!

 

 

 ―――――バギィィィィイインン!!!!!!!

  

 バグッチャーの張り巡らせたバリアがガラスのように砕け散り、キックの直撃を受けたバグッチャーは20mほど吹っ飛んだ。

 

 『何ィィ!?』

 

 驚愕するネンチャック、その横を僕は素早く駆け抜け、バグッチャーを正面から両腕で掴まえた。そのまま思い切り跳躍し、高速で回転させ、投げ飛ばす……!

 その高速回転によって一時的な真空状態を生み出し、運動エネルギーと環境変化によって敵の三半規管を破壊、受け身を封じた上で地面へと叩き落す仮面ライダー1号の決め技、これこそ―――――!!

 

 

 

ライダァァきりもみッシュゥゥゥゥットッッッ!!!

 

 

 バグッチャーは頭から、コンテナの山へと叩き落ちた。鋼鉄がひしゃげるような壮絶な音が響いた。

 

 『……できた……!!』

 

 僕の心の中で、はじける感覚―――――技の再現に成功し、それが相手に通用した、会心の心境―――――!

 

 『なんだ、その技は…………なんなんだぁその技はァーーーッ!?』

 

 ネンチャックは、瞠目して叫んできていた。

 

 『51人のプリキュア……その技の数々はすべて解析したハズだ……!なのになんだその技はッ!!?ボク達ジャークウェブが蒐集したプリキュアのアーカイブに無いその技はなんなんだよぉぉぉ!?!!?』

 『……知らなくて、当たり前さ』

 

 僕は、ネンチャックを睨み返して言い放った。

 

 『この技は、プリキュアの技じゃないから』

 『……!?』

 『……この世界には、プリキュアとは異なる道で、"正義ノ系譜"を紡いできた、『人間の自由を守る戦士』たちもいるんだ……さっきの技は、その彼らの技を借りたんだ』

 『な・に……!?』

 『その名も、"仮面ライダー"……僕の"夢"だよ』

 

 仮面ライダーが、現実にはいないことは知っている。でも僕にとっては、現実と同じだ。

 あの日僕を救ってくれた、大きな背中は、確かに僕の力になってくれる―――――

 そして―――――僕の夢は、僕を"僕"のまま、つなぎとめてくれる。

 つまり、"(カラダ)"に引っ張られることなく、僕は"(ボク)"のままでいられる―――――!

 

 『……聞こえる?……キュアビート』

 

 僕はコンテナの山を掻き分け、体を震わせながら上体を起こそうとするバグッチャーを見据えた。

 

 『僕は……キミのことをほとんど知らない……でも僕は……キミを偉大な先達として、越えさせてもらう……僕は……夢と勇気を束ねて、キミに立ち向かう……!後悔をしたくないから……』

 

 僕には、ヒーローになるという夢がある。

 僕には、その夢を阻むモノに立ち向かえる勇気がある。

 だから―――――僕は―――――

 

 『守りたい"明日"のために……この高鳴る鼓動は……止まらない!』

 

 ―――――みんなの涙を祓う、ヒーローになる!!

 

 《CURE-DATEAR! FULL-DRIVE!!》

 

 その瞬間―――――手首と足首、腰の部分の金属パーツから、水色のイーネルギーが噴き出した。同時に、僕の体の全身が熱を帯びてくる。

 イーネルギーが一点に集まり、1本の棒状の得物に変わる。頭の中に、その得物の"銘"が走る―――――

 

 ―――――タッピンスティック・デーティアソード―――――

 

 でもあえて……今はその名を唱えまい。

 光の中から出現したそれを引き抜きながら、僕は叫んだ。

 

 『"リボルケイン"ッ!!』

 《おい名前違ェぞ!?Σ(;゚Д゚)》

 

 データのツッコミが聞こえた気がしたけれど、今は些末な事だ。コアユニットを手前側に動かすと、光の剣と化した。

 

   〈MASKED RIDER BLACK〉

 ⇒ 〈MASKED RIDER BLACK RX〉

   〈MASKED RIDER SHIN〉

 

 《WAKE UP! SON OF SUN!!》

 

 電子音声が響いて、今度は『RX』の二文字を意匠化したエンブレムがイーネドライブに浮かび上がり、マフラーと全身の光のラインが深い緑色に染まった。

 

 『……ぶっちぎるぜ!』

 《はァ!?》

 

 一言つぶやいて、僕は駆け出す。驚くデータの裏返る声が聞こえた気がした。

 

 『ちッ!!』

 

 体制の整いきれていないバグッチャーを援護するためか、ネンチャックが光弾を放つ。数発は牽制、最後の一発はまっすぐこちらに―――――

 

 『ふんッ!!』

 

 躊躇いなく、僕はソードを振り抜いた。光の弾が両断され、僕の背後で立て続けに爆発を起こした。橙色に照らされる視界の中、僕はバグッチャーに肉薄し、光輝くソードを真っ直ぐに突き刺した。

 

 『ガガガガガガガガガガガガガガガガ!?!!?!?!?!!?!?!?!?』

 『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッ!!!!』

 

 全身のイーネルギーを、ソード一本に集中し、相手が倒れるまで、極限まで流し込む!!

 そして、僕はソードを抜きはらいながら振り向き、ゆっくりと両腕で『R』の文字を大きく描き、見得を切る―――――

 これこそ、全ライダーの中で最強の必殺技とも謳われた、『太陽の子』仮面ライダーBLACK RXの奥義―――――

 

 

 

 

リ ボ ル ク ラ ッ シ ュ

 

一欠

 

 

 

 ―――――ドッゴオオォオォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンン!!!!!!!!!

 

 僕の背後で、重々しい爆発音がひびいた。あたりがまるで昼間のように、一瞬明るくなるほどの爆炎が上がった。

 

 『ば……バカな……プリキュアのくせに……プリキュアのくせにプリキュアの技を使わないプリキュア…………君は……なんなんだッ!?プリキュアなのか!?それとも……!?プリキュアではない別の"何か"だとでもいうのかいッッ!?』

 『―――――……あえて二度言う』

 

 僕はネンチャックに振り返りながら、静かに語気を抑えながら言った。

 

 『そんなこと僕が知るか』

 

 僕はネンチャックを睨んだまま、一歩、また一歩と、ゆっくりと近づいた。

 この時の僕は大いに、そして……静かに、昂っていた。さっき、"女の子になりかけた時"とは、別の方向で―――――

 

 

 

つ ぎ は お ま え だ

 

 

 『ひ……ひィッ!?』

 『……ただで、帰れると、思うな』

 

 光り輝くこの太刀、奴の身に斬り下ろさなければ、僕の気が収まらない―――――

 

 『ゆ゛る゛さ゛…………ッ!?』

 

 その時―――――体全体の熱が、僕の意識を侵した。

 ふらりと、上体がゆれて、風景がぐらっとスライドしていく―――――

 僕の全身から、まっしろな蒸気が噴き出した。

 

 ―――――なんだよ、これ……!?

 

 文字通り、視界が靄に蔽われていって―――――

 全身から力が抜けて―――――

 

 意識、まで―――――

 

 

 ――――――――――

 

 《…………気ィついたか?》

 

 データの声だった。

 次に気付いた僕の視界には、一面の星空。耳に入るのは、波音にまじって、遠くに聞こえる消防車や救急車のサイレン。

 上体を起こして、辺りを見回すと、さっきまでの戦いが嘘であるかのように静かだった。

 

 「……データ……?」

 

 ……!

 声が元に戻ってる。見ると、体も元通りだった。データの声は、すぐそばに置かれたスマホから出ていた。

 よ、よかった……さすがに女の子のままだったらどうしようかと……

 

 「そ、そうだ、ネンチャックは!?」

 《一目散に逃げちまったよ……逃げ足だけは早い奴だぜ、アイツ》

 

 当然、そうなるだろう。手駒をやられて、長居する悪人はそうはいないから。

 僕は立ち上がって、土ぼこりを払った。

 

 『無事で何よりね……よかったわ』

 《ああ、まったくだ……待たせちまって悪ィな、ビート》

 

 女の子の声にふり向くと、薄紫色の髪の女の子の姿が、地面に置かれたキュアチップから浮かび上がっていた。

 彼女が、さっきまでのバグッチャーに囚われていたプリキュア―――――キュアビートなのか。

 

 《ビートったらよ、お前が気ィ失ってる途中で出てきちまったもんだから、さっきまでオロオロしててよォ》

 『ちょ、ちょっと、データっ!』

 

 あわてて顔を赤くするビートに、僕は思わず笑ってしまった。最初に見せたクールさとは裏腹に、いい人そうだ。

 

 『……ごほん!……それよりも、驚いたわ……まさか、男の子がプリキュアになっちゃうなんてね』

 「一番驚いてるのは僕だよ……」

 

 今でも、夢だったんじゃないかと思う。でも僕は確かに、プリキュアに変身してしまった。

 ふつう、女の子しか変身できないはずのプリキュアに、どうして……

 

 『驚いてるっていうより……落ち込んでるようにも見えるけど?』

 

 図星を突かれて、なんだか顔が熱くなった。たぶん、顔が真っ赤になってる、と思う。

 たぶん、『プリキュアになってしまった』コトよりも、『女の子になってしまった』コトに落ち込んでるんだ、これは。そうに違いない、うん……

 

 『その気持ちはわかるわ。わたしも、最初そうだったから……』

 

 ビートの表情に、少し憂いが雑じるのを見た。

 

 『……わたしは元々―――――プリキュアの敵だったの』

 「……!」

 《マジかよ!?》

 

 データのリアクションを見るに、この事は彼女も知らなかったようだ。データもまた、プリキュアたちの事情をすべて知っているわけじゃない、ということか。

 

 『……"不幸のメロディ"を歌って、世界を悲しみに染める……マイナーランドの歌姫、"セイレーン"……それが、かつてのわたし』

 

 スーパー戦隊シリーズで、何人かこんな戦士がいた。最初は悪の戦士だったけど、戦いの中で正義に目覚めて悪の組織から離反した戦士たち―――――

 プリキュアにも、そんな子がいたんだ……

 

 『最初にプリキュアに変身した時……わたしは戸惑ったわ……もう元の場所には戻れない……これからどうしていいか、どうすればいいのか……先の未来もわからない状況に、一時は絶望もした……でも、メロディやリズム……それから、ハミィ……みんなが、わたしを受けいれてくれて―――――みんなが、"わたしの居場所"になってくれたの』

 《……そんなことがあったのか……》

 『それからは……わたしの世界は一変した……今まで見えなかったコト、感じられなかったコト……いっぱい知ることができたわ。それに、サーバー王国に来てからは、わたしと同じような立場のプリキュアが、他の世界にいたこともわかって……だから、ほくと』

 

 ビートは、僕に笑いかけた。

 

 『わたしは思うの……プリキュアはみんな、『なるべくしてなった』んじゃないかな、って。運命みたいな、そんな感じ……意味もなくプリキュアになった子なんていないんだから……ほくとがデータと出会って、キュアデーティアになったことには、絶対に意味がある……それだけは、心にとめておいて』

 

 僕がプリキュアになったことの意味って、なんなんだろうか……

 それは今わからないけれど、でも、これからの戦いで、それもわかってくるのかな……―――――

 ビートはプリキュアになったことで、『変わる』ことができたけれど、僕は―――――

 

 『変わること、変わっていくことを、怖がっちゃダメよ。大丈夫!がんばれ、男のコ!』

 

 最後にウィンクを残して、ビートはふわりと消えていった。僕は身をかがめて、残された青いキュアチップを拾い上げた。《P-22 CURE-BEAT》と、ナンバーが書かれている。

 

 「男のコ、か……」

 

 まだ、僕がプリキュアになって、数時間ともたっていない。そこから、『僕がプリキュアになった意味』、その答えを見つけることは出来ないだろう―――――

 僕はキュアビートのチップの横の、もう1枚の水色のチップを見た。

 

 《@02 CURE-DATEAR》

 

 "僕"のキュアチップだ。ラベルに描かれているのは、まるでアイドルのように満面の笑みをこちらに向けている、"女の子になった僕(キュアデーティア)"――――― 

 

 「はぁ……―――――」

 

 今の僕には、目の毒だった……

 

 ――――――――――

 

 それから、隠れていたのんを迎えに行くと、それはもう盛大に泣かれてしまった。

 プリキュアに助けてもらったことを伝えると、一転して目をキラキラさせて、『ホンモノのプリキュアが助けてくれた』ことを熱く語って聞かせてくれた。

 

 ……妹よ、ごめん。それ、僕だ。

 

 夢を見せてしまって申しわけないけれど……それは紛れもなく、ハイになって完全に女の子になりかけていた、僕だ。

 のんの喜ぶ顔を見るのはうれしいけれど、なんだか申しわけないような、複雑な気分……

 夜遅くに帰り着いた僕とのんは、家族から大いにカミナリを落とされ、縮こまったとさ……

 

 翌朝、テレビを見ていた僕は飛び上がりそうになるほど驚いた。

 ゆうべ、実体化したバグッチャー。最初に現れた方のバグッチャーと戦う、桃色の髪の女の子が、テレビ画面に映し出されたからだ。

 間違いない。あの子は、キュアメモリアのユーザーだ。僕と同じで、メモリアと一体化して変身して、この世界で戦えるようになったんだ。

 とすれば、彼女とも戦いの中で対面する可能性がある―――――

 そこで僕は―――――実に男らしくない決心をすることにした。

 

 ―――――隠す。

 

 ただひたすら、『キュアデーティア=八手ほくと』という事柄を、隠し通すことに決めた。

 家族や世間にはもちろんのこと、もうひとりのプリキュアユーザーにも。

 

 相手の素性が知れない、ということもある。でもそれ以上に、男である僕が、女の子に―――――プリキュアに変身することを、どう思われてしまうかが怖いと思った。

 僕がキュアデーティアであることは、この世界の誰にも知られちゃいけない―――――特に―――――東堂さん、には―――――

 あの子がプリキュアが好きだということは知っている。でも、変身しているのはみんな女の子。男が変身するプリキュアなんて、気持ち悪がるに決まってる。

 『性別が変わる』ということは、よほどの事情が無い限り、異常なことだって思うから―――――

 

 その時の僕は、妙な方向に決意が固まってしまっていた。体にも心にも、ヘンに力が入ってしまっていた。

 登校してから、隣のクラスから聞き覚えのある声が響いてきたのも、そんな時だった。

 

 「だいたいよ!!どうしてあんな風になってからプリキュアは出てきたんだよ!!?もっと早く、それこそバケモンが出てくる前に来てくれりゃ、あんなコトにはならなかったんだ!!」

 

 同じ部活の、香川桃太郎―――――僕は"モモ"と呼んでいる―――――だ。

 隣の教室をのぞき込むと、モモは東堂さんに詰め寄り、八つ当たり気味にまくし立てていた。

 

 「お前はプリキュア好きって言うけどな……おれは正直昨日で嫌いになった……!ヒーローだとかヒロインだとかいうなら、なんでおれの妹助けてくれなかったんだよ!?お前、プリキュア詳しいんだろ!?あのプリキュアはなんなんだよ!?どこのどいつか知ってんのか!?」

 

 昨日のことはニュースで見た。僕ではないもうひとりのプリキュアと戦ったバグッチャーが街で暴れて、怪我をした人も、命を落とした人がいたことも―――――

 でも―――――それでも、僕は見ているだけではいられなかった。

 

 「…………それは…………違うと思うよ」

 

 それから僕は、僕の見てきたヒーローの戦いが、『仕合』とは違うことを、過去見てきたヒーローたちの言葉を引用しながら、モモに伝えた。

 

 「でも……ヒーローやヒロインだって、心を持つ人間なんだ……神様なんかじゃない。どんなに全力でがんばっても、助けられない命があるし、救いの手が届かないことだってある……だから僕は、昨日のプリキュアを責める気にはなれないよ」

 

 この言葉は、かつて見た映画『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』で、ウルトラマン―――――ハヤタさんが言った言葉を借りた。

 昨日の僕だって、たまたま運が良かっただけかもしれない。『運命』が『噛み合って』くれただけかもしれない。一歩間違えば僕も確実に死んでいたし、のんも無事に取り戻すことができたかどうか―――――

 それだけに、この言葉は僕自身にも、刻み込むべき言葉だった。

 やがてモモは僕の言葉に納得してくれて、東堂さんにも謝ってくれた。その東堂さんは、

 

 「八手くん……その、ありがとう」

 

 と、力無くも笑顔を向けてくれた。その笑顔に、また僕の鼓動が早まる。顔全体が熱くなる。真っ赤な顔を見られたくなくって、僕は一瞬合った視線を逸らしてしまった。

 

 「…………、い、いや……その……昨日のプリキュア、ヒーローっぽかったから……本当に出てきたのが仮面ライダーじゃなくって、ちょっと残念だけど……でも、プリキュアが戦ってくれなかったら、もっと被害が広がっていたかもしれないし……」

 

 やっぱり、東堂さんは"昨日のプリキュア"のことも、好きになったんだろうな……

 でも、僕は"昨日のプリキュア"とは違う―――――男なんだから……

 

 本当の僕のことは―――――やっぱり、彼女には伝えられない。

 

 大好きなヒトの、"ダイスキ"の感情を、裏切ることなんてできないから―――――

 

 ――――――――――

 

 その日の放課後―――――帰ろうとした僕は、スマホからのデータの声を聞いた。

 

 《ほくと!ヤツだ!ネンチャックが近くにいるぞ!!》

 

 警戒しながら、僕は校舎の死角へと素早く隠れて、キュアネットへとデータを送り込んだ。

 

 ―――――今度こそ逃がさない!

 

 街の人を、家族を、ののかを傷つけた罪、今日こそ清算してもらう!

 やがてデータは図書室のキュアネット空間に辿り着くと、今にもトドメの一撃を受けそうなキュアメモリアを救うべく、バグッチャーに跳び蹴りで奇襲をかけた。

 

 《元気してたかよ?……メモリア》

 

 データにとっては、待望の瞬間だったに違いない。ようやく、面と向かってメモリアに再会できたのだから。

 でも、再会早々顔面に拳を打ち込むのは流石にやり過ぎだったんじゃないかなぁ……

 その戦いの中で、僕はキュアチップを実戦投入してみようと思った。これが仮面ライダーディケイドやディエンドの使うライダーカードのように、別のプリキュアの能力を引き出して、データが使えるようにするものであるなら……

 手にしたキュアレモネードのチップを、スマホのカード差込口に挿入した。

 

 《はじけるレモンの香り!キュアレモネード!》

 

 すると、レモネードを取り込んでいたバグッチャーが使っていた光の鎖が、データの両手に装備された。やっぱり……!

 限定的だけれども、キュアチップはライダーカードのように使うことができるんだ……

 データも『辞書』のアプリアンだけあって応用力はなかなかで、僕が送ったレモネードの鎖をすぐさま使いこなして見せている。

 データの会心の一撃によってバグッチャーは粉砕されるも、それは虚像だった。

 

 《BE ON GUARD!!! BUGUCCHER REALIZE!!!》

 

 合成音声ののち、さっきデータが倒した虚像と、全く相似形の巨体がグラウンドに立った。

 それを見上げて、僕は息を呑んだ。

 

 ―――――また……来るのか。

 

 《ほくと……行こうぜ!次はお前がぶっちぎる番だ!!》

 「……わかった!」

 

 意を決して、僕はキュアデーティアのチップを、差込口にセットする。

 

 《START UP! MATRIX INSTALL!!!》

 

 初めて、僕は僕の意志で『変身』する。

 左手にスマホを握って、仮面ライダーXの『セタップ』を意識して構えながら―――――

 

 「プリキュア!マトリクス!インストールッ!!」

 《CURE-DATA! INSTALL TO HOKUTO!!》

 

 水色の光を放つスマホを胸に押し込むと、水色の光を放つ空間が広がる。

 目の前に、キュアネットからデータが実体化する。

 

 『行くぜ、ほくと!』

 「……うん!」

 

 互いに右の拳を握って、2人の拳をぶつけ合わせる。瞬間、データが光に包まれて、光の粒子になって僕の胸へと入っていく。

 

 「う……ゎ!?」

 

 体が女の子に変わっていくこの感覚、事実上初めてだけど、これは馴染めそうにない……

 一瞬で髪の毛が水色に染まって膝まで伸びて、髪飾りでまとめられ、周りのイーネルギーが、グローブとショートブーツ、コスチュームに変わって、僕を包んでいく。

 

 《CURE-DATEAR!! INSTALL COMPLETE!!!》

 『渾然一体、涙祓一心!キュア、デーティアッ!!』

 

 まるで、体そのものに刻み込まれたかのように、勝手にポーズを決めて、誰もいないのに名乗りを上げる僕。スーパー戦隊と違って、プリキュアは体が勝手に動くのか……

 ジャンプ一跳びで校舎を飛び越え、グラウンドに立つと、すぐ隣にピンク色のイーネルギーをまとった女の子が降り立った。

 

 『あなたが……キュアデータのユーザーさん?……私、とう……じゃなくって、キュアメモリアル!……あなたのお名前は……?』

 

 初めて対面する、『もうひとりのプリキュアユーザー』。それがこの子―――――キュアメモリアル。

 僕と同じように、プリキュアと一体化して変身した人間―――――

 直視するのが、ちょっと恥ずかしかった。僕はその子をちらと見て、ひとことだけ名乗った。

 

 『……キュア……デーティア』

 

 僕を見るキュアメモリアルの視線と立ち居振舞いを見て、僕は確信した。

 間違いなく、この子が正真正銘の『女の子』だということを。

 言動すべてに、違和感というか、不自然感が一切ない、僕とは違う、混じりけ一つの無い、女の子だ。

 戦いの中で、彼女はキュアチップを使って、別の姿にも変身して見せた。

 

 《CURE-TWINKLE! INSTALL TO MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!》

 『キュアメモリアル、"トゥインクルスタイル"!!……冷たい檻に閉ざされた"未来の光"、返していただきますわ―――――お覚悟は、よろしくて?』

 

 その様はまるで、仮面ライダージオウやゲイツの『アーマータイム』によく似ていた。

 僕はプリキュアのことをまったく知らなくて、キュアチップを自分でどう使っていいか、ほとんどわからない。でも、この子は―――――

 

 『キラキラ!流れ星よ!プリキュアっ!ミーティア・ハミング!!』

 

 別のプリキュアの力と技を、まるで自分の手足のように使いこなしていた。やはり、この子は僕と違う、『ホンモノ』だ。

 僕が特撮ヒーローに憧れて、その技を記憶に刻んだように、この子もまたプリキュアに憧れて、なりきって、再現することができているんだ―――――

 

 《大暴れだな、相棒!》

 『……今日は、ちょっと抑えてる。初めて……いっしょに戦うし、ね』

 

 キュアメモリアルの存在に僕は安心して、心を平静に保つことができていた。だからこそ『普段』のまま戦えた。でも、ライダーの技を使うことはなるべく抑えた。そこから、僕の正体が露見することを恐れていたからだった。

 

 『こんな形であなたと出会ってしまったのはつらいコトだけど……でも……笑顔のパワーで……私とあなたの、世界はつながる……!バグッチャーにとらわれたその瞳は曇ってしまったかもしれないけれど……でも!今からでも……!!私の負けない勇気!!ここに束ねて、あなたを、未来に導く!!!もう一度輝いて、みゆきちゃんっっ!!』

 

 彼女は、憧れているだけじゃない。そのプリキュアを知って、愛しているから―――――

 相手が『誰』かを知っているから―――――

 心から、プリキュアのことを想って、戦えている―――――

 そんな、プリキュアのことを愛してやまないその姿は、否応なしに、『あの子』と重なって見えて―――――

 

 『……なんか……"あの子"に似てるなぁ……』

 

 思わず、そうつぶやいていた。

 

 『ありがとう……いっしょに戦ってくれて。……それで、よかったらこれからも、いっしょに戦って、くれるかな?』

 

 バグッチャーを倒した後、彼女は少し上目遣い気味に僕を見つめて、こう訊いてきた。

 考えるまでもなかった。彼女は僕と同じ、プリキュアユーザー。ヒーローもヒロインもいないこの世界で、同じ運命を背負った存在―――――仲間なんだ。

 

 『……もちろん。……よろしくね、メモリアル』

 

 右手を差し出すと、メモリアルはためらうことなく握ってきた。暖かくて、やわらかい―――――

 入学式のあの日、はじめての『あの子』の手の感触が重なって感じられた。でも―――――

 

 『それで、なんだけど……あなたの本当の名前、教えてくれないかな……?』

 

 ―――――!

 

 心の中が、ずきん、と疼いた。

 本当の僕のことを彼女が知れば、失望するに違いない。

 プリキュアのコトも全く知らず、むしろ特撮ヒーローに傾倒していて……

 そしてなにより―――――男なのだから。

 

 『……それは、できない』

 『え……?どうして……なの?』

 『………………それは……本当のことを知ったら……きっと、キライになるから―――――』

 『……え』

 『……ごめん。さよなら!』

 

 キミの手を取ることはできても―――――

 本当の姿だけは、キミに見せられない―――――

 最初は、僕が男だから、という単純な理由だった。

 でも、彼女の人となりを知って、もう一つ、理由ができてしまった。

 

 どうしても、東堂さんとメモリアルが―――――重なって見えてしまったから。

 

 メモリアルとあの子は、別人かも知れない。でも、メモリアルの想いを裏切ってしまったら、あの子の想いも裏切ってしまうんじゃないかって、そう思う。

 メモリアルにとっても、あの子にとっても、『プリキュア』は"綺麗なモノ"であってほしいと、僕は願う。だからこそ―――――

 僕はキミたちの『ダイスキ』の―――――汚点にはなりたくないんだ――――― 

 

 その後、データから散々どやされた。

 メモリアといっしょに戦うことができるかもしれないというデータの喜びを失望に変えてしまって、本当に悪いと思う。

 でも……でもね、データ……

 キミがリアルワールドと呼ぶこの世界は、キミが思っている以上に複雑なんだ。

 この先、僕が誰であるのか、彼女が気にしなくなるまで―――――

 

 隠さなくちゃ、ならないんだ……

 

 ――――――――――

 

 それから1週間がたち、その日は中学総体の空手の部の地区予選が、大泉武道館で開かれていた。

 空手部所属の僕もチームの先鋒として、試合に出場するためにここを訪れていた。

 前の日、むぎが応援に来るって聞いていたけど、彼女の声を聞いて見上げた観客席には―――――

 

 ―――――何故か東堂さんがいた……!?

 

 目が合ってしまって、思わず目をそらしてしまった。顔が熱い……たぶん、真っ赤だ。

 まさか東堂さんが見てる前で仕合をすることになるなんて―――――

 人生で、一番緊張する仕合だった―――――

 

 ――――――――――

 

 結果は―――――『辛勝』だった。

 相手方もかなりの腕前で、僕も何度か窮地に追い込まれたけれど、最後は何とか優勢勝ちに持ち込むことができた。

 次の試合は午後からの予定。僕は弁当を取りに武道場から控え室に戻ろうとした、その時―――――

 ものすごい地響きと、けたたましい火災報知機の音がこだました。

 僕は反射的に、武道場の外へと出た。見上げると、ピンク色の輝きが、バグッチャーの巨体を天へを押し上げている最中だった。

 

 《ほくと!アレって……!!》

 「うん……!」

 

 言われるまでもなく、あれがこの場からバグッチャーを引き離そうとするキュアメモリアルだということは、すぐにわかった。

 武道館の裏口から出た僕はすぐさま変身し、彼女たちの後を追った。

 

 『そんな……そんな勝手な考え……ッ!!』

 

 野球場のグラウンドに、光のリングで拘束されたメモリアルと、今にもトドメの一撃を加えようとしていたバグッチャーを見たときには、反射的に叫んでいた。

 

 『そう、認めるわけにはいかない!!』

 『……キュアデーティア!』

 『君も来たのか……!結局結果オーライってことだね』

 『騒がしくなったからね……!……、わたしはともかく、他の人たちまで巻き込むなんて……狙うなら……、わたしだけにしたらどう!?』

  

 ここで僕は、意識して『わたし』と自称していた。メモリアルには正体を隠すことを徹底していた僕は、『女の子』を演じることにした。

 ……言うまでもないけど、この上なく恥ずかしかった。しかし興が乗ると、これが自然になってしまうから恐ろしい……

 

 『……こないだは、ごめん』

 『え……?』

 『でもね……いっしょに戦えないってわけじゃないから……むしろ……いっしょに戦える方が、うれしいから……』

 『あ……わ、私も!……無神経でごめんね……言いたくないこと、誰でもあるもんね……』

 

 この間のことで、彼女が気を悪くしていたのならいけないと思って、逢えたら謝ろうと、そう決めていた。

 彼女も理解してくれたようで、何よりだと思った―――――

 

 『……く……無茶苦茶だ……なぜそこまで必死になるんだい!?君達には恐怖心というものはないのかい!?』

 『最初はこわくなかったけどね……でも、今はこわいよ―――――こわいけど……それでも、"怖さ"以上のモノが……私の心の中の"勇気"が、今の私を動かしてる……!!』

 『メモリアル……』

 『勇気と強気は違うけど……弱気じゃ、らしくない!!』

 

 それに彼女には、戦う覚悟と、恐怖を勇気に変える、『ココロの強さ』を感じた。

 キュアメモリアも、こんな『強い』子と巡り会えて、本当によかったって、そう思う。

 

 『それじゃ、また』

 『……やっぱり、ダメ?』

 

 ―――――ごめん。

 僕は笑顔にそう乗せた。それでも―――――

 彼女の中の『好奇心』までは、ごまかすことは、できなくて―――――

 

 ―――――ぱきっ

 

 『!?』

 「誰!?」

 

 

 本当の僕を―――――

 

 彼女に見られてしまった―――――

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    ??????

    ??????

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 本当に……本当に、これからどうすればいいんだろう……

 次にキュアメモリアルと会った時、彼女は必ず、僕のことを深く詮索するに違いない。

 それどころか、白い目で見られることも覚悟しなければならない―――――

 

 《いっそのことさぁ……全部言っちまえばいいじゃねェか?……相手方、もうお前のこと知ってるわけだしさぁ……》

 「でも…………」

 《っツぁぁ、もう!なんでそう煮え切らねェんだよ!いつもの覚悟はどうしたよッ!?》

 

 まったくだ―――――

 どうしてこんなに、僕は『人間関係』のこととなると、不器用で、逃げ腰になるんだか……

 でも―――――彼女は去る時も、変身を解かずに去っていった。

 彼女って、いったい―――――

 

 「ねぇ、データ……」

 《んァ?》

 「――――――――――メモリアのユーザーって…………」

 

 

 

 

 ―――――キュアメモリアルって…………『誰』なんだろう…………?

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――STAGE CLEAR!!

 

 RESULT:CURE CHIP No.08『CURE-LEMONADE』

     CURE CHIP No.22『CURE-BEAT』

     CURE CHIP No.@02『CURE-DATEAR』

 

 プリキュア全員救出まで:あと44人

 

【挿絵表示】

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 『しんしんと降り積もる、清き心……!』




 ―――――りんくの『今回のプリキュア!』

 りんく「今回はご~か2本立て!まずひとりめはだ~れだ?」

 『はじけるレモンの香り!キュアレモネード!』

 メモリア「『プリキュア5』のひとり、"麗弾(らいだん)のレモネード"!属性はぴかぴかの『光』!」

 りんく「お母さんと同じ女優さんを目指す、春日野うららちゃんが変身した、『はじける力』のプリキュアだよ!」

 メモリア「そんなレモネードのキメ技は、コレ!」

 『プリキュア!プリズムチェーーーンっっ!!』

 メモリア「両手から撃ち出す光の鎖、プリズムチェーン!どんな相手も、これでがっちり動けなくしちゃう!」

 りんく「ひとつしつもーん。プリキュア5とスマイルプリキュアって、サーバー王国で間違えられたりしなかったの?ほら、両方5人だし、色も同じだし……」

 メモリア「あー……あたし、最初ルージュとサニーを間違えて覚えてた……」

 りんく「それマジ!?……まぁ、アニメだとキャラデザの人も一緒なんだよねぇ。でも、プリキュアファンなら見分けられてトーゼン!……でもって、今日はもうひとり!ふたりめはだ~れだ??」

 『爪弾くは魂の調べ!キュアビート!』

 メモリア「『スイートプリキュア』のひとり、"音魂(おんこん)のビート"!属性はララララ~♪の『音』!」

 りんく「マイナーランドのセイレーン改め、黒川エレンちゃんが変身した、魂の音の使い手!」

 メモリア「そんなビートのキメ技は、コレ!」

 『駈けめぐれ、トーンのリング!プリキュア・ハートフルビート!ロック!!三拍子!1、2、3っ!……フィナーレっ!』

 メモリア「ラブギターロッドをソウルロッドに変えて使う、ハートフルビートロック!とってもカッコいい~~!!」

 りんく「そうそう!ギターをかき鳴らすビート、いつ見てもカッコいいんだよねぇ~」

 メモリア「ビートのライブって、いつもチケットが取れないんだよ~……せめて一回はライブに行きたかったのにぃ~……」

 りんく「ホンモノがすぐ近くにいるのに……やっぱソレとコレとは別?なのかなぁ……??それじゃぁみんな、ばい―――――」

 「ちょーーーっと待ったぁぁぁぁ!!」

 ―――――ほくとの『レッツゴーライダーキック!!』

 ほくと「今回からは僕とデータの新コーナー、『レッツゴーライダーキック!!』もスタート!このコーナーは、本編の中で僕が使わせてもらった、仮面ライダーたちの必殺技を紹介するよ!タイトルは『ライダーキック』だけど、キック技以外の必殺技も、もちろん紹介させてもらうね!」

 データ「ってもほくとぉ、アタシはプリキュアで、仮面ライダーなんてわかんねぇぜ?」

 ほくと「だからこのコーナーをするんだよ?仮面ライダーを知らない画面の前のみんなにも、知ってもらいたいしね。それじゃ、まずはこの技!」

 1号『電光ライダァァァァキィィィィック!!』

 ほくと「仮面ライダー1号が、立花藤兵衛さんとの特訓で編み出し、対トカゲロン戦で放った『電光ライダーキック』!この技で、トカゲロンが蹴り込んだ『バーリア破壊ボール』を蹴り返して、勝利を収めたんだ!」

 データ「ちょっと待て。『バーリア』ってなんだ、『バーリア』って!?フツーそこは『バリア』か『バリヤー』だろーが!?」

 ほくと「昔は発音が違ったらしいね。『ウィルス』を『ビールス』って言ったり」

 データ「時代が違えばあのキュアウィルスも『キュアビールス』だったのか……なんか呑んだくれに聞こえるな」

 ほくと「それはともかく次はコレ!!」

 1号『ライダーきりもみシュゥゥゥゥト!!』

 ほくと「同じく、仮面ライダー1号の投げ技、『ライダーきりもみシュート』!相手を高速回転させて、空高く投げ飛ばすんだ!投げ飛ばされた相手は受け身が取れずに地面に叩きつけられて、大爆発!!」

 データ「エゲツねぇ技だな……」

 ほくと「サイギャングを皮切りに、カミキリキッド、ギリザメス、ウニドグマ、クラゲウルフ、そして大幹部のイカデビル……6体もの怪人を葬り去った、1号ライダーの最多怪人撃破記録を持つ技なんだ」

 データ「プリキュアにこんな技のマネはできそうにねーな……」

 ほくと「最後はこの技、ぶっちぎるぜ!!」

 RX『リボルケインッッ!!』

 ほくと「仮面ライダーBLACK RXの必殺技、『リボルクラッシュ』!!リボルケインを相手に突き刺し、そこから無限のエネルギー(!!)を送り込んで相手を倒す大技だ!!」

 データ「でもアタシがネットで調べたんだがよ、この技、そんなに強いのか?だってほら、「戦場のライダーRX」って歌の中に、『悪の妖族、迫る魔術、リボルケインも歯が立たぬ』って歌詞があるぜ?歯が立たねぇんじゃ喰らわせようがねーじゃんか」

 ほくと「データ……それ、大嘘」

 データ「ぬゎにィッ!?」

 ほくと「実際、リボルケインが歯が立たなかったのは、第44話に登場した最強怪人グランザイラスだけなんだ……ほとんどのクライシスの怪魔獣人、怪魔妖族、怪魔ロボット、怪魔異生獣を葬り、全知全能のクライシス皇帝すら、リボルケインのサビになった……『全ライダーで最強の必殺技は?』という論争で、間違いなく候補に挙がる技!決めポーズの次郎サンのキレッキレぶりといったらもう……!!!」

 データ「じ、次郎サンってダレだ……??ダメだ、アタシゃもぅついてけねぇ……」

 ほくと「それじゃ最後に僕達との約束!よい子のみんなは、仮面ライダーの必殺技を絶対にマネしちゃいけないよ!」

 データ「できてたまるかぁッ!!」
 
 ほくと「それじゃ次回も、お楽しみにっ!!」

 データ「……ほくとのヤツ、本編とキャラ違くねーか……?」

 次回予告

 りんく「はぁ~………………」

 メモリア「元気出してよ、りんくぅ……やっぱり、データのユーザーさんが男の子だったのが、そんなにショックだったの……?」

 ほくと「はぁ………………」

 データ「いーかげん腹くくれってほくと!どっちにしても、バレる運命だったんだよ……」

 りんく・ほくと「「はぁぁぁぁ…………………………」」

 メモリア「こんな感じで……」

 データ「だいじょーぶなのか……?」

 インストール@プリキュア!『つながる私と僕の道!ふたりはインストール@プリキュア!』

 りんく「はぁ………………」

 メモリア「しっかりしてよ、りんくぅ~~~…………」

 ――――――――――

 キュアデーティアが繰り出した『正義ノ系譜』、いかがでしたでしょうか……?

 『全力全開のキュアデーティア』の正体……それは、『仮面ライダーの技を繰り出すプリキュア』という、本家様ではまず不可能な『ライダープリキュア』だったのです!!

 メモリアルが『直球』ならば、デーティアは『変化球』。『こんなプリキュア見たコト無ェ!!』と稚拙自身思っております……やりすぎちゃいましたかね……

 さて次回は、久々にりんくに視点が戻るわけですが、やはり落ち込んじゃってます。でも、りんくは『別のコト』で落ち込んでいるようで……?

 それでは、次も時間がかかるかもしれませんが、また!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 つながる私と僕の道!ふたりはインストール@プリキュア!
ドキドキ!下駄箱!?


 キャラクター紹介

 キュアデーティア

 『プリキュア・マトリクスインストール!』の音声コード入力によって、『ネットコミューン』のインストールプログラムが解放、キュアデータそのものがインストールされることによって、ほくとが変身した姿。史上初の『男の子が変身するプリキュア』。

 変身によって超ロングとなった水色の髪が、サイドテールにまとめられている。また、ファイトスタイルの時には無かった純白のマフラーを首に巻いている。
 変身とともにほくとの体は完全に女体化、声も女の子そのものに変わってしまうため、ほくとは死ぬほど恥ずかしがっている。曰く『誰にも正体は知られたくない、たとえ死んでも!!』。
 だが、ヒートアップしたり気分がノッたりすると一人称が『わたし』になったり、喋り方が女の子っぽくなったりすることもある。(これもほくとは死ぬほどイヤ。『男でいること』を意識することにも神経を割かねばならない)。もっとも、正体を隠す必要がある場合は意識して女口調で話すこともある。

 見た目は『幼げな顔立ちの清楚系美少女』といった趣。ほくとの面影は『10%くらいしか残っていない』らしい。これはほくとの深層心理の底にあった、『好意を抱いている異性』―――――すなわち、『東堂りんくの中学1年生当時の姿』が、『理想の異性』としてスタイルに反映されたためであると思われる。実際、ほくとが一目惚れしたりんくのその時の髪形は、キュアベリーをイメージしたサイドテールだった。
 マフラーはほくとの『仮面ライダーへの憧れ』が反映されている。

 ほくとの空現流拳法の技術が120%発揮され、格闘戦ではキュアメモリアル以上の実力を見せる。
 他、仮面ライダーの必殺技を完コピして放つなど、技のバリエーションは数多い。
 その名は、『涙を以って涙を祓う』ほくとの覚悟から、あえて『涙=Tear』という語が冠せられている。

 ――――――――――

 父:ルージュ
 母:ブロッサム
 兄:ドリーム
 妹:フェリーチェ

 ……木ノ葉隠れの里の火影さんちはプリキュア一家だった……!!
 なんて一人で悦に入ってる今日この頃……(笑

 ……さて今日の『インストール@プリキュア!』は、キュアデーティアの正体が八手ほくとと知ってしまった、東堂りんくの自室から物語を始めよう。(トランスフォーマー風)

 りんくさんの衝撃発言もお見逃しなきよう……では送信!


 爪弾くは魂の調べ!キュアビートよ!

 

 わたしを取り込んだバグッチャーに倒されて、絶体絶命のほくと―――――

 でも、ほくとの諦めない心と、キュアデータの願いが、奇跡を起こした―――――

 

 「ほくとを、ヒーローにしてくれぇぇぇぇ………………!!!!!」

 「僕は―――――ヒーローになりたい―――――」

 『渾然一体、涙祓一心―――――キュアデーティア!!』

 

 はじめての、男の子が変身したプリキュア―――――キュアデーティアの誕生よ!

 ほくと、あなたがプリキュアになったことには、絶対に意味がある……

 それを、忘れないで。

 

 そしてそれは、もうひとりのユーザーの子も、同じはずだから……

 いつか必ず、あなた達ふたりの『ココロの音』が、重なる時が来る……

 わたしも、信じるって決めた―――――響、奏、アコ、そして、ハミィ……あなた達が、わたしを信じてくれたように……

 

 『インストール@プリキュア!』―――――

 爪弾いて!あなたたちの、魂のセッションを!!

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 《はっくしゅんっっっ!!!…………………………はぁ……》

 

 りんくは盛大なくしゃみをして、また机にヘコんじゃった。

 そう、すべては今日の昼間のできごと―――――

 キュアデーティアの正体を知りたくて、戦いが終わった後にデーティアを追いかけて行ったんだけど……

 そこであたしたちは、とんでもない事実を知ってしまったんだ……

 

 「……まさか、データとユーザー契約を結んでいたのが、男の子だったなんて……」

 「ちょっと、予想外かもね」

 

 タブの中では、レジェンドプリキュアのみんなが口々に、データのユーザーさんのことを話してる。データのユーザーさんは、りんくと同い年の、隣のクラスの―――――『男の子』だった。

 つまり、キュアデーティアは……『男の子が変身したプリキュア』だったってこと。

 でも、変身した姿はどう見ても女の子だったし、声も女の子だったし……どうなってるのかな……?

 データに会って、くわしくきいてみないといけないけど……

 りんくは学校から帰ると、ず~っと机にヘタって、ヘコんじゃってる。

 

 「契約できるにんげんさんって、女の子じゃなきゃ、ダメだったの?……というか、男の子でもマトリクスインストールってできたの?」

 

 ふとギモンに思って、あたしは隣にいたハッピーに訊いてみた。

 

 「え?……う~ん……その辺、特にクイーンから聞いてなかったような……」

 「そうだよね。……でも、ユーザーになったのが男の子だった、ってのは……なんというか……」

 

 トゥインクルはちょっとフクザツな顔をしてた。

 

 「……冷静に考えれば……ワタシたちに先入観があったせい、かもしれないですわね」

 「先入観?」

 

 それまで考え込んでいたロゼッタが、あごに手を当てながら言った。

 マーチを見て、ロゼッタはうなづく。

 

 「ええ……サーバー王国に集った、ワタシたち51人のプリキュア……その中にはひとりとして、男の方はいらっしゃいませんでしたもの……ですからワタシたち全員、『プリキュアは女の子だけしかいない』という先入観を持ってしまっていたのでしょうね……」

 

 そう言われてみればそうかもしれない。キュアエコーが言った有名な言葉だって、『"女の子"は誰でもプリキュアになれる』だもの。

 

 ―――――じゃぁ、『男の子』は?

 

 ―――――プリキュアには、なれないのかな?

 

 ―――――なりたい子はいるのかな?

 

 ―――――男の子だって、誰かを守りたいって思わないのかな?

 

 

 ―――――男の子も―――――"ヘンシン"、したいのかな??

 

 

 ……今までそんなこと、サーバー王国の誰も、プリキュアのみんなも、もちろん、あたしも―――――

 考えたことがなかったんだ。

 

 だから、みんな、こうしてとまどってる。

 この思いが―――――りんくの心に影を落としてるのだとしたら―――――

 りんくの『ダイスキ』が、動かされてしまったのなら―――――

 

 「ねぇ、りんく……」

 

 あたしはりんくに問いかけた。むく、と、りんくは顔だけをタブに向けてきた。

 

 「りんく、やっぱりショックだったの……?」

 《……ショックって……?》

 「その、ね……データのユーザーさんのこと、だけど……やっぱり……その…………」

 

 あたしも、どう言ったらいいかわからない。りんくだけじゃなくって、あたしも、レジェンドプリキュアのみんなも、この気持ちをどう言い表していいか、わからないんだから……

 

 《もしかして、みんな……八手くんがデータのユーザーで……キュアデーティアだったこと、ショック、受けてたりする?》

 「受けてたり、って……一番ショックなのって、りんくなんじゃ……」

 

 なんだか、りんくがきょとんとして言ってきた。変に思った。

 でもりんくは、あたしも、みんなも―――――

 プリキュア全員が驚くことを言ったんだ―――――

 

 

 《八手くんがプリキュアだったこと……私、気にしてないよ?》

 

 

 一瞬―――――タブの中の空気がザワついた気がした。

 

 《むしろ安心したなぁ……ヘンなヒトがプリキュアになってなくってよかったよ。あの子、とっても強いんだよね。あの子がいっしょに戦ってくれるんなら、百人力だよ》

 「……………………」

 

 唖然としていたあたしは、気を取り直して言った。

 

 「ちょ、い、いいの!?だって、その……プリキュア……、プリキュアなんだけど……えっと……お、男の子だよ!?男の子のプリキュアなんだよ!?いいの!?ホンモノの女の子じゃないんだよ!?……そりゃ、変身したらカンペキに女の子だったけど、でも……」

 《……メモリアは、キュアデーティアが八手くんだったこと……イヤなの?》

 

 そう言われて、あたしは口ごもった。

 スゴく強かったし、データとも仲良しみたいだったし、りんくとあたしのことも、何度も助けてくれたし、やさしいし、デーティア、とってもカワイイし……

 

 ……あれ?

 

 「……イヤ、じゃない、かも……」

 

 答えが自然と口から出てた。

 全部―――――カンペキ、だった。

 りんくやあたし達といっしょに戦ってくれる子なら、こんな子がいいな―――――そんな理想が、全部カタチになったような……

 それなのに、『男の子』って理由だけで、あの子をヘンな目で見たり、イヤがったりすることって……

 

 それって―――――ヘンだ。間違ってる。

 

 「ってか―――――あの子が、イイ」

 

 あたしの言葉を聞いたりんくは、ニンマリとしてた。

 

 《……でしょ?カッコいいし、カワイイし、優しいし……文句の付けどころ全然ナシ!……ねぇ、みんな》

 

 りんくは、あたしの周りにいる、レジェンドプリキュアたちに言った。

 

 《『女の子は誰でもプリキュアになれる』ってコトバってさ―――――ちょっと、()()()って思うんだよね》

 「……ズルい……?」

 

 首をかしげるハッピーに、りんくはうなづく。

 

 《うん……だって、逆に考えてみて?そうなると、『女の子しかプリキュアになれない』ってコトにならない?『女の子』だけが、"プリキュア"を"ひとりじめ"しちゃうのって……なんか、もったいなくない?》

 

 なんかりんく、モノスゴいことを言ってる……ような気がする。みんなの価値観を塗り替えるようなコトバだ。

 

 

 《私は別に構わないよ?―――――男の子だって、プリキュアになってもいいじゃん》

 

 

 みんな、絶句していた。

 ……っていうか、そんな考え方があったことに、驚いている……そんな顔だった。

 

 《誇りあるプリキュアオタクの私としては、どんなプリキュアだって受け入れ……って、みんな、どしたの?》

 「りんくちゃんって……すごいって、思って……」

 

 リズムが、何とか言葉をしぼり出した。

 

 「……反省しなきゃいけないの、あたしたちみたいだね……」

 「うん……男の子ってだけで、ヘンな目で見るなんて……おかしいよね!」

 「りんりんの言うとおりだね……それに、アタシたちプリキュアにも、男手が欲しかったところだし☆」

 

 誰にともなく、みんなは反省を口にしている。トゥインクルは……まぁいつも通り、かな。

 

 「りんくさんがメモリアと巡り会って、ユーザー契約を結んだこと……これは……メモリアやデータだけでなく、ワタシたち51人のプリキュアにも、光明をもたらすコトかもしれませんわね……」

 

 そう、ロゼッタがひとりごちるのが聞こえた。

 どんな『プリキュア』でも、そのありのまま、すべてを受け入れて、全部を『スキ』って言えるりんく。そんなりんくだから、あたしのコトも、みんなのコトも、大切にしてくれる。

 だから、あたしはりんくが『スキ』になって、みんなもりんくのことを『スキ』になってくれて―――――

 りんくがユーザーさんになってくれて……あたし、ほんとうによかった―――――

 

 「それでは……りんくさんは何をお悩みになっていらっしゃるのですか?」

 《うん……―――――》

 

 りんくはまた、落ち込んだカオになって、机に目線を落とした。

 

 《私……ちょっと無神経だったかなって、ちょっと後悔してるの……あの子が知ってほしくないって……言いたくないコトや見られたくないコト……私、強引に見ちゃって……やっぱ、フェアじゃなかった……それで明日から八手くんに会ったらどうしたらいいのかなって……そう思うと―――――》

 

 りんくが悩んでいることは、『キュアデーティアが男の子だった』コトじゃなかった。

 りんくは、デーティアが『隠してた』ことを強引に見てしまったことに、責任を感じてるんだ……。

 

 《あ゛~、自己嫌悪だぁぁ~……》

 「……そのままでいいの?」

 

 頭を抱えるりんくに、少し強い口調で言ったのは―――――

 

 《……リズム……》

 「そのまま……"あの子"を悩ませたまま、りんくちゃんも悩んだままで……それでいいの?」

 《それは…………》

 

 りんくをまっすぐ見上げる翠色の瞳に、ちょっとだけりんくがたじろぐのが見えた。

 リズムは部屋の中の"ぶるーれい"の棚の、『スイートプリキュア♪』と書いてある箱を見ながら言った。

 

 「りんくちゃんは、私達のことも、知ってるのよね……当然、私と響が、1年間、ずっと誤解したままいがみ合っていたことも……」

 

 このことは、サーバー王国でも割と有名なエピソードだ。いつも仲良しのキュアメロディとキュアリズムが、昔、1年の間、仲違いをしていた時期があったこと―――――

 

 「本当のこともわからずに、ただ相手のことを誤解して、嫌いになって……あの頃は気づかなかったけど、後になってわかったの……"それ"が、すごく辛いことだった、って……」

 《……奏ちゃん……》

 

 たしか、ふたりが入学式のときに待ち合わせていた場所に、たまたま似たような場所が2か所あって、ふたりはそれぞれ『別の待ち合わせ場所』に行っちゃったことが原因だった。

 ほんの小さなすれ違いから、ふたりは顔を合わせるたびに口ゲンカをするほどに、仲が悪くなってしまった―――――

 でも、きちんとふたりでお話しすることで、お互いの事情を理解して、仲直りすることができた―――――

 このことは、サーバー王国の学校の道徳の教科書にも載っていて、『きちんと互いを分かり合うこと』『相手の気持ちを考えること』の大切さを教えてくれている。

 

 「今のこの状況を『フェアじゃない』って思うなら……『フェアにすれば』いいんじゃない?」

 《フェアにする―――――……》

 「そう。あなたのコトを正直に、心から伝えて、誤解を解くの。あなたが"あの子"のことを想っているなら……"あの子"を傷つけてしまったことを悔やんでいるなら……なおさら、早い方がいいわね」

 《正直に……心から、伝える……―――――》

 

 りんくはほっぺたを、両手で挟むようにぱちん!とたたいた。それから、シャープペンシルと便せんを取り出すと、一心不乱に何かを書き始めた。

 そんなりんくに、なんだかあたしは不安を感じた。

 

 「りんく……大丈夫かな……?」

 

 ぽつりと不安をつぶやくと、リズムがやさしく、あたしの肩に手を乗せた。

 

 「きっと大丈夫よ。……見て」

 

 うながされて見上げた先には、りんくの目。

 真っ直ぐに便せんに向いているその目は―――――

 プリキュアのこと、いろんなことに、一生懸命なりんくの―――――

 

 "がんばってる"目―――――!

 

 「ここから先は……"新参者"の私よりも、メモリアやみんなの方が、よくわかってるんじゃないかしら?」

 

 あたしとみんなに、リズムはウィンクを飛ばした。緊張が解けたように、みんなは笑う。

 

 「そうだね……"ああ"なったりんくを見れば、なんか安心する♪」

 「ほんと、プリキュアのコトになると一生懸命だよね、りんくちゃんって。当のわたしが、ちょっとテレちゃうくらいに……」

 「そーそー。アタシたちを大切に想ってくれてるりんりんだから、アタシたちも安心して、ココにいられるワケ☆」

 「そして……ワタシたちも、りんくさんのご期待と憧れに、プリキュアとして応えなければならないと……そう思いますわ」

 

 みんな、プリキュアのことが大好きなりんくのことを、よくわかってくれてる。レジェンドプリキュアのみんなも、そんなりんくの想いを裏切らないようにがんばろうと決めている。

 あたしも―――――あたしにできることで、りんくのことを応援したい―――――!

 

 あたし―――――『がんばるりんく』が、だいすきだよ―――――

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    ????????

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 ここまで、沈んだ気持ちで歩く通学路は初めてかもしれない……

 体全体が重く感じる。足に履いているのが、スニーカーじゃなく、鉄下駄だと錯覚するほどだ……

 友達と連れ立って歩く子、自転車で急ぐ子。様々な表情で通学するみんなだけれど、その中でも、"女の子"の視線が、僕にとっては恐怖にも感じられる。

 そう―――――僕……八手ほくとが、キュアデーティアだと知っている女の子が、この大泉中学校のどこかに、ひとりだけ、確実にいるんだから―――――

 

 《おい、早くしねぇとチコクするぜ?》

 

 データがスマホの中から急かしてくるけれど、正直、ズル休みでもしてしまいたい気分だ……

 でも、そこまでしてしまうと、今度は僕の性分が僕自身を許せなくなる。絶対に『逃げない』ということ―――――

 ヒーローは、決して『逃げ』てはいけないんだから―――――

 大泉中学校の白い校舎を見上げた時、思わずため息が漏れた。まずは、今日一日だ。

 今日一日、何事もなく、誰にも不審がられることなく乗り切ることができたなら、明日以降にも希望が持てる。

 

 がんばらなきゃ。―――――……がんばら、なきゃ……

 

 僕は玄関ロッカーのボックスの取っ手に手を掛けた。扉が重々しく感じる。

 意を決して開いた。すると―――――

 

 ―――――ぱさり。

 

 「……?」

 

 僕の上履きだけしか入っていないはずの僕のロッカーから、白い紙きれが落ちてきた。

 まさか、また……?

 そう思って、僕は紙切れを拾い上げた。

 ……実はこういうことは、よくある。これで4回目だ。

 ―――――今まで、僕は3人の女の子から、告白を受けたことがある。僕みたいな特にいいところもない、特撮マニアのどこがいいのかわからないけれど……

 すべて、やんわりとお断りをさせてもらった。理由はもちろん―――――東堂さん。

 きちんと、僕の口から、いつかは伝えなきゃいけないことなんだろうけど、でも……まだ、決心がつかない。

 試合や戦いに臆したことはないくせに、僕はなんで、"こういうこと"だけには逃げ腰なんだろうか……。

 僕は拾い上げた紙切れを開いてみた。便せんに、丁寧な文字で、こう書かれていた。

 

 

 ―――――今日のお昼休み、お話したい、大切なことがあります。

 

 お昼ご飯を食べたら、体育館の裏まで、ひとりで来てください。待ってます。

 

 

 文面は、今までに僕に告白してきた子が、僕を呼び出すための手紙と、あまり変わらなかった。

 でも、最後に書かれた名前だけが―――――僕の心を突き動かした。

 

 

 

 東堂りんく

 

 

 

 「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 体に電流が走り、顔全体が沸騰したように熱くなった。こ、こ、こ、これ、これって…………!?!?

 動転したまま、僕は近場にあったトイレの『個室』に駆け込んで、スマホを取り出した。

 

 「で、で、ででで、デー、データ、タ、デデ、デー……ッ」

 《お・ち・つ・け!ブッ壊れた声出すな!聞こえてるッ》

 

 完全に気が動転していた。得体の知れない熱が全身を支配して放さない。

 胸に手を当てると、心臓がバクバクいってる。

 

 「ど、どどどど、どーしようぅ……!?と、とーどーさんが、とーどーさんが僕をッ……」

 《ほら、悪いコトばっかじゃねェじゃんか!逃げずに学校来た甲斐があったってモンじゃね?》

 「う、うん……そう、そーなんだけっ、ど……」

 

 いろいろなことがありすぎて、アタマがパンクしそうだ……

 不安も消えない、ドキドキも消えない……地獄と天国、今、僕、どっち!?

 と、と、とにかく、昼休み、だよね……忘れないように行かなきゃ……

 

 《いやぁ~、まさか片思い先から逆に告白とは、人生ナニが起きるかわからんなァ、ほくと!》

 「かッ、からかわないでよッ」

 

 茶々を入れるデータの声が、なんだか心地よい。

 でも……東堂さんと会うときには、スマホの電源を切っとかなきゃ……

 いくら東堂さんがプリキュア好きでも、データの存在だけは、知られるわけにはいかないから……

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 「……よっし!」

 

 給食を食べ終わって、私は教室を後にした。

 この心境……なんというか、今から戦に出陣する戦国武将だ……!!……たぶん。

 いまだに、私の心の中で、どう伝えようかとプランを練ってる最中……。

 うまく……八手くんに、事情を伝えられるのか、正直自信がない―――――

 

 「……でも……!」

 

 それでも……きちんと謝って、本当のことを伝えなきゃ。

 まっすぐに―――――私のココロを―――――

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    ????????

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 こうまで授業に集中できない日は初めてだった。

 先生に指名されても上の空、先生のお叱りが降ってきて、チョークが僕の眉間に何発も命中した。

 給食もなんとか喉を通した。

 動揺をクラスのみんなに悟られないよう、そそくさと教室を出る。

 あ゛ぁ……緊張する……試合や手合わせの前以上の、人生史上最大級のド緊張だ。

 まさか……東堂さんの方から、僕を呼び出すなんて……

 これって、ホントーなんだろうか……?ホントーに、東堂さん『本人』が呼び出したのだろーか……?

 誰かが仕掛けたイタズラとかドッキリとかじゃないのか……?

 はたまた、僕が東堂さんに片思いしていることを実は誰かが知ってて、それを東堂さんに伝えたから……?

 あぁ、余計な考えが頭の中を猛スピードでぐるぐる回る。仮面ライダードライブの愛車"トライドロン"が、ドライブの必殺技・スピードロップの時にする高速ローリングのようだ……。

 そうこう考えているうちに、体育館へとたどり着いてしまった。

 

 「すぅ…………はぁ~~~………………」

 

 落ち着け、落ち着くんだ……深呼吸して落ち着くんだ……―――――

 そ、そうだ、素数を数えるんだ…………あ、あれ?素数ってなんだっけ……?

 数学ニガテなんだよなぁ、僕…………。

 ちょっとだけ、体育館裏をのぞいてみた。

 

 ―――――いた……。

 向こうを向いていて、後ろ姿だったけど、確かに―――――…………!

 

 のぞいて、見て、一瞬で取って返し、胸に手を当てる。

 

 "心拍数急上昇ッ"……!!

 

 で、でも、逃げちゃいけない!逃げることだけはやっちゃいけないッ……!!

 僕はヒーローになるんだ……!ヒーローたる者、敵から逃げちゃ……い、いや、東堂さんは敵ってワケじゃないけど……と、ともかく!

 ヒーローらしく……正々堂々、真正面から……!!

 

 「あ、あの……!」

 

 向こう側を向いている東堂さんの背中に、思い切って僕は声をかけた。

 ぴく、と肩がかすかに動いて、東堂さんは僕に振り返った。

 少し上目遣い気味に、東堂さんは僕を見てきた。視線が合って、どきりとする。

 一瞬、いつものように目をそらしそうになった。だけど、今日は目をそらすわけには、いかない……!

 大事な話があるからこそ、彼女は僕をこの場に呼んだ。

 そう、これは僕だけの問題じゃない。彼女にとってもまた、重要なコトなんだ。

 だから僕も……逃げずに、彼女の覚悟を、真正面から受け止めなきゃいけないんだ……!!

 

 「いきなり呼び出して、ごめんなさい……」

 「い、いや……別に、僕は……」

 「それで、なんだけど……私……八手くんに、どうしても伝えなきゃいけないこと……それから……謝らなきゃいけないことが、あって……」

 「え……?」

 

 謝る、という東堂さんの言葉を聞いて、僕は違和感を覚えた。

 僕、東堂さんに何か悪いコトをされたんだろうか?

 もちろんそんな覚えはない。なのに東堂さんはどうして―――――

 申し訳なさそうな表情を、僕に向けているの……?

 

 「昨日の、武道館の試合の時、なんだけど……」

 

 昨日の試合?そういえば、東堂さんも応援に来ていた。

 相当緊張したけれど、今の方がもっと緊張してる。

 でも、これって、告白とか、そんなんじゃないような……雰囲気が変わってきている気がする……

 

 「私―――――その……、えっと…………"見ちゃった"……んだよ、ね……」

 

 ―――――!!!!!?????

 

 『見ちゃった』という言葉が、僕の心に突き刺さる。

 心の中に氷水が注ぎ込まれた……そんな錯覚を僕は味わった。

 胸が疼いて、神経がぞくりとした。思わず一歩、僕は後ずさった。

 全く想定していなかった事態が、僕の前に現出しようとしている、のか……!?

 

 今の僕にまつわる事象で、『見た』といえば―――――

 

 "ひとつ"しか存在しない―――――

 

 ―――――僕がキュアデーティアであることを知られるという、『最悪』。

 

 ―――――それも、『東堂さんに知られる』という…………

 

 『最悪の中の最悪』が……!?

 

 胸の疼きを抑えようと、僕は思わず胸に手を当て、うつむき加減に訊き返す。

 

 「その……何を、見たの……?」

 

 すると東堂さんも、視線を泳がせて、困った顔になった。

 『何を言おうか、どう言えばいいのか』、そんな顔だ。

 どうして、東堂さんがそんな顔をするの……?

 

 「えっと……その…………………………」

 

 ぎり、と、東堂さんの口元が意を決した、ように見えた―――――

 

 

 「"ごめんなさい"っっ!!!」

 

 

 急に大きな声でそう叫ぶと、東堂さんは腰をキレイな90度に曲げて頭を下げ、同時に両手で何かを差し出してきた。

 びっくりして、僕は反射的にもう一歩後ろに下がった。

 おそるおそる……僕は差し出された"何か"を見た。それは―――――

 

 「………………!?」

 

 それには見覚えが……いや、違う。

 毎日目にしていて……そして、僕も持っているモノだった。

 まさか、どうして……!?

 どうして東堂さんが……僕のスマホの……色違いの同じモノを持ってるんだ……!?

 

 僕のモノと色違いの、ピンク色のスマホの画面の上に―――――同じようなピンク色の髪の女の子の立体映像が浮かび上がった。

 立体映像は僕を見上げて、にっこりと笑ってこう言った。

 

 《こうしてお話しするのは初めてだね、データのユーザーさん!あたし、キュアメモリア!よろしくね!》

 

 唖然とする僕を、東堂さんはそのままの態勢のまま、首だけを上げて上目遣いに―――――

 

 「昨日ぶり…………私がメモリアのユーザー…………キュアメモリアルです―――――」

 

 

 え……え……

 

 

 え……?

 

 

 「ええええええええええええええええええええええ!??!??!!?!?!?!?!?!」

 

 ……SAVE POINT




 用語解説

 レジェンドインストール

 リアライズスタイルのインストールプリキュアが、ネットコミューンにキュアチップをセットすることで、過去のプリキュアの姿と力を借り受けた形態に2段変身すること。
 この際の姿は『ロゼッタスタイル』『マーチスタイル』など、そのプリキュアの名前を冠したスタイル名となる。

 変身の際はインナー以外のコスチュームがいったん消滅、その上で2段変身後のコスチュームが再構成される。また、変身時は髪の色・髪型も変わり、右目の色がそのプリキュアを象徴する色へと変化する。このことからほくとは『仮面ライダージオウのアーマータイムのようだ』と表現する。
 コスチュームは『オリジナル』と微妙に異なった意匠となっているが、一目でどのプリキュアかわかる『絶妙』なデザインとなっている。
 レジェンドインストールの最中は、セットしたチップのプリキュアとも意思疎通ができるようになり、2人のプリキュアのアドバイスが受けられるようになる。

 ――――――――――

 りんくがどうしてこんな風に『どんなプリキュアでも受け容れる』、ホトケのような『プリキュア愛』を持つに至ったのか……それに関しては次回で詳しく……
 『プリキュア』という作品の成り立ちにも、少しだけメタ視線で触れようかとも思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未来へつながる電子の輝き

 用語解説

 イーネドライブ(E-NE Drive)

 正式名称は『Emotional NEtwork Drive』。
 4人のプリキュア見習い(メモリア・データ・リカバー・サーチ)の胸にある、ハート形のブローチ状の部分。
 キュアネットやSNS、さらには個人的なメールのやり取りなどに書き込まれた『プリキュアを応援するコメント』を抽出して、イーネルギーに変換、自身の力にすることができる。『プリキュアを応援する人間が多ければ多いほどパワーアップする』という特性から、りんくは『まるで劇場版のミラクルライトみたい』と表現する。
 ファイトスタイルの状態はもとより、リアライズスタイルの状態でも、無線LANに接続可能な場所ならコメントを抽出可能。さらに、リアルワールドの人間の『声援』までも力に変えることができるようになる。

 しかし、プリキュアに対してネガティブなコメントまでも取り込んでしまい、その場合は大幅なパワーダウンにつながり、最悪、戦闘不能に陥ることすらある。
 レジェンドプリキュアではなく、プリキュア見習い4人にのみプログラムクイーンから与えられたが、この、単純なパワーアップアイテムともいえないモノを4人に与えたプログラムクイーンの意図は今もって不明である。

 ――――――――――

 ない……ない……!?

 EPGのBS11、土曜日夜7時30分に、『プリキュア』の文字がない~!?!?
 まさかBS11のプリキュア再放送、ドキプリで終了なんですかぁ……!??(絶望

 BS11……オンドゥルルラギッタンディスカー!!!ウソダ……ウソダドンドコドーン!!!!

 あ、今回、力の限りに書いてたら総計2万字を越えてしまったので、『後篇の前半部』を先に送信!どうぞお楽しみを……

 それと、先日おさらいがてらに過去分を流し読んでたら、『初陣篇』と『追憶篇』にトンでもない矛盾点を見つけてしまい、そのあたりを加筆修正しておりますので、そちらもチェックを……


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 《データ……やっと、ゆっくりお話しできるね♪》

 《あぁ……待たせちまって、悪ィな》

 《今度はぐーぱんち、無しだよ》

 《……わかってる》

 

 ケーブルでつながれた私と八手くんのネットコミューン。

 私のコミューンのディスプレイの上のメモリアの目から、涙がこぼれた。

 メモリアは思い切り、データの胸に飛び込んで―――――めいっぱい、泣いていた。

 データの目にも、光るものが見えた。

 コミューンの中では感動の再会シーンが繰り広げられているんだけれど―――――

 

 「…………………………」

 「…………………………」

 

 横並びに座った私と八手くんの間には―――――気まずい空気が立ち込めていた……

 私から自分がキュアメモリアルだってきちんと話して、事情を説明しようと思ったのに、この重々しいフンイキはいったい……?

 

 「―――――……やっぱり、ヘンって思うよね……」

 

 ぽつりと、八手くんがつぶやいた。

 

 「え……?」

 「だって……僕、プリキュアのことなんて全然知らないし、女の子が何考えてるか、何が好きかとか、ほとんどわからないし……それに何より……男だし……なのに……なのに、こんな僕が、プリキュアって…………幻滅したよね……男のくせに女の子に……プリキュアに変身して、戦って……絶対ヘンだよね……」

 

 自虐的に、力なく笑う八手くんに、私はあわてて答える。

 

 「そ、そんなことない!だって、初めてキュアデーティアを見たとき……私、キュアっキュアになったもん!」

 「きゅ……キュア……??」

 

 八手くんの目が点になってる。私はあわてて付け足した。

 

 「その……とってもカッコよくって……カワいかった!」

 「!!!!!!!!」

 

 すると八手くんは目を見開いて、のけぞって、胸にドカッと手を当てて、でもってうなだれてしまった。

 

 「は……八手くん……?」

 「カッコいいって言ってくれたのはうれしいけど……カワイイのは……なんか、その……割とショックっていうか……(_ _|||)」

 

 い、いけない……デーティアに変身してるのは、目の前にいる八手くんだということを一瞬忘れてた……それから、『男の子』だということさえ……

 そう、私は、『男心』をまったくわかってなかったんだ……

 

 「ご、ごめんなさい……」

 「い、いや、その……僕こそ……」

 

 また、お互いの視線が離れてく。心の距離感がちっとも近づかない……

 と、八手くんはポケットから何かを取り出した。

 

 「……それって……!」

 「うん……僕が助けた……ふたりのプリキュア……そのキュアチップだよ」

 

 黄色と青のキュアチップ。それぞれのラベルにはキュアレモネードとキュアビートのイラスト。

 レモネードを助けたのは知ってたけど、ビートまで助けてたなんて……やっぱりスゴい!

 

 「キュアビートが言ったんだ……『僕がプリキュアになったことには、必ず意味がある』って……でも、まだ僕にはわからないんだ……僕がプリキュアになった意味って……」

 

 八手くんは、この前も言っていた。『まだこの体に慣れてない』って。私だって、そう。

 私は、プリキュアのことが好きで、今までのプリキュアのことをわかっているから、すんなりと私がプリキュアになったことを受け入れることができたけど―――――

 でも、この子はまだ、自分の『変身』に、戸惑っている。……無理もないことかもしれない。私だって、変身したら男の子になってた、なんてコト、想像もつかないもの。

 私よりも八手くんの方が―――――『変身』の意味が、『重い』んだ―――――

 

 「私も……まだまだ、かな……どうしてプリキュアになった意味なんて、まだわかんない……」

 

 受け入れることはできても、その答えはまだ見つかってもいない。なにしろ、まだ5人しかプリキュアを助け出してないのだから。

 

 「でもね―――――」

 

 それでも、私が『プリキュア』として戦おうって、そう思った理由―――――

 

 「"やりがい"なら、見つけた―――――かな」

 

 それだけは、はっきりと私の心の中にある。

 それを伝えたその時、八手くんの目が変わったような―――――

 そんな風に、見えた。

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 

 ―――――こんな展開、いったい誰が考えたんだッ!?!?!?

 

 この10分ほどで、僕は天国と地獄と、その他ワケのわからない『何か』を一度に味わう羽目になった。

 まず天国。東堂さんと体育館裏でふたりきり。もしかしたらと思ったけれど―――――

 地獄に変わった。僕がキュアデーティアだということが、東堂さんにバレていた。

 もはや人生が終了した、この世の終わりのハルマゲドンが来たと感じた心境に、彼女が打ち明けた真実―――――

 

 東堂さんこそが、もうひとりのプリキュア―――――キュアメモリアルだった―――――

 僕と同じ、プリキュアになった『誰か』がいることはわかっていたけれど、その『誰か』が、よりにもよって東堂さんだなんて……

 正直、この事実をどう受け止めたらいいのか、全然わからない……

 僕の好きな人が―――――僕と同じ『プリキュアユーザー』だったことが……

 うれしいのか、それとも不安なのか―――――

 

 彼女が、プリキュアが好きだということは知っていた。でも、まさか『ここまで』とは思ってもみなかった。

 でも、これで合点がいくこともある。キュアメモリアルが、プリキュアとその力を熟知していたのは、『東堂さんだった』からなんだ。

 やっぱり、彼女のような子が、プリキュアには相応しいんじゃないかと思う。バグッチャーのことも、助けたプリキュアたちのことも、よく知ってるんだから。

 それに引き換え、僕はプリキュアのことを何も知らない。キュアチップの使い道もわからない。僕が戦ううえで頼れるのは、拳法とライダーの技だけ。プリキュアらしく、ないと思う。

 僕がなりたかったのは『ヒーロー』であって、プリキュアじゃない。そして何より―――――

 

 僕は、男なんだから―――――

 そんな僕を、東堂さんはまっすぐに見つめてきた。

 

 「私―――――"ホンモノ"になるって、決めたから」

 「……ホン、モノ……?」

 

 東堂さんは頷いて、メモリアとデータがいるスマホを見ながら言う。

 

 「ジャークウェブは、この世界を狙ってる……この世界に生きてる人たちの暮らしや、命を狙ってる……でもこの現実の世界には……マンガやアニメとか、特撮モノに出てくるみたいな、ピンチの時に都合よく助けてくれるようなヒーローも、ヒロインもいない……この街やこの世界を守ってくれる"都合のいい存在"は、"画面の向こう"や"本の中"にしかいない……『四角く縁取られた、ニセモノ』ばかり―――――だから、ね。私、『ホンモノ』になろうって決めたの。私にその力があって、他の誰にもできないのなら……みんなにとっての―――――『ホンモノのヒロイン』に、ね」

 「……!!」

 

 東堂さんの、深い紅色の瞳には、確かな決意が宿っていた。そしてその瞳に、僕は既視感を覚えた。

 そう―――――初めてキュアデータと出会ったあの日、データが『サーバー王国最強のプリキュア』と言った時の、あの目―――――

 『本物の目』だ―――――

 

 「八手くんってさ」

 「え」

 

 僕の顔をのぞき込むように、東堂さんがずいと顔を近づけてきた。思わず僕はどきりとする。

 

 「特撮モノが好き……だったよね?」

 「う、うん……」

 「じゃあ、知ってる?……アニメの『プリキュア』が出来たのも、仮面ライダーやウルトラマンがモトだって」

 「そうなの!?」

 

 それは知らなかった。『変身モノ』という共通点はあれど、片や特撮、此方アニメ。つながりが見えないけれど、この話には興味がわいた。

 

 「『プリキュアの生みの親』って呼ばれてるプロデューサーさんがね、『小さい子は、男の子でも女の子でも、公園や幼稚園では飛び跳ねて遊びたいはず』って考えて……それで、プロデューサーさんが子供のころに見てた仮面ライダーや、ウルトラマンに発想を得て、『プリキュア』を作ったの。『女の子だって暴れたい』ってね」

 

 確かにそうだと僕も思う。子供のころ、幼稚園でライダーごっこや戦隊ごっこをして遊んだのはいい思い出だ。でも、女の子がライダーごっこや戦隊ごっこに参加しているのを、あまり見た記憶がない。

 『女の子だって暴れたい』、か……最近になって女性ライダーが増えてきたのも、同じ理由なのかもしれないとも思った。

 

 「それに、それだけじゃないよ?プリキュアたちは、『ヒトとして大切なコト』を教えてくれるの」

 「大切なコト?」

 「うん……何が良い事で、何が悪い事か……小さな子たちにも、わかりやすいようにね。私がプリキュアたちに教えてもらったこと、数えきれないくらいだよ」

 

 『子供向け番組』としてあるべき姿―――――なんだろう。それは、仮面ライダーシリーズやスーパー戦隊シリーズとまったく同じに思えた。

 そして、同時に脳裏をよぎった言葉があった。

 

 「『ヒーロー番組は教育番組である』……」

 「……それって?」

 「うん……『仮面ライダーV3』や『快傑ズバット』で活躍した俳優さんの言葉だよ。愛と、勇気と、正義と、希望……そういったモノを与えるのがヒーローだって、その俳優さんも言ってた……プリキュアも、同じなんだね。東堂さんの言葉を聞いてると、そう思えてくるよ」

 「そう!そうなの!それにね、その時々の女の子の憧れに、スタッフの人たちも応えて、作品を作っていってるの。ダンス、お花、音楽、おとぎ話、着せ替え、お姫様、魔法つかいに……それから、パティシエ!」

 

 ひときわ目を輝かせる東堂さん。その目は、プリキュアに熱中するのんと、同じ目だった。

 ―――――ここまで東堂さんの話を聞いて、わかったことがある。

 プリキュアも、特撮ヒーローも、根底にあるモノは『同じ』なんだ、と。

 子供たちの『憧れる姿』で、格好良く、美しく戦って平和を守り、小さな子供たちの笑顔をつくって、熱狂させて、大人になるために、大切なことをわかりやすく教えてくれる―――――

 

 ―――――プリキュアだって、立派な"ヒーロー"じゃないか―――――

 

 「……もっとも、まさか"別の世界"に、『本当に』プリキュアがいて、戦ってたなんて、夢にも思わなかったけどね……スタッフの人たちもビックリするだろーなぁ……」

 

 東堂さんは、笑いながらスマホ―――――東堂さんは『ネットコミューン』と呼んでる―――――に視線を落とした。

 詳しい事情はレモネードとビートから訊いた。彼女たちはアニメのキャラクターと瓜二つの見た目だけれど、『実在の人格』として、キュアチップの中に確かに存在している、と。

 でも、彼女たちが体験した戦いの物語は、何故かアニメ化されて、毎週日曜日の朝8時30分に放送されている―――――

 だったら―――――『アニメのプリキュア』って、なんだろう……?

 その、『スタッフの人たち』は、『どこ』から彼女たちの話を知ったのだろうか……?

 そんな僕の思案を知ってか知らずか、東堂さんは真剣に語る。

 

 「もう私達にとって、『プリキュア』は『アニメじゃない』……確かな『ホンモノ』……でも、その力をこの現実の世界で使えて、ジャークウェブと戦うことができるのは、私と、八手くん……あなただけ」

 

 東堂さんは、僕の顔を今一度真っ直ぐ見据えて、こう言った。

 

 「だから―――――私と一緒に……『ホンモノのプリキュア』に、なろっ!」

 「ホン、モノ……」

 

 確かに、僕は『ホンモノ』を夢見た。

 それが、四角い画面の中だけの『ニセモノ』だと知っても、それでもひた向きに僕は『ホンモノ』を求め続けた。

 結果、『ホンモノ』に類する力を僕は手にした。でも―――――

 

 「いいのかな……男の僕が……プリキュアでも……」

 

 こう思う。"キュアデーティア"は、『ホンモノの力を手にしてしまったニセモノ』なんじゃないか、と。

 プリキュアのことを何も知らない僕が、女の子ですらない僕が―――――

 プリキュアのことを熟知している東堂さんのパートナー足り得るのだろうか……。

 まだ、僕の心には葛藤が残ってた。

 

 「……さっきの、『プリキュアの生みの親』って呼ばれてるプロデューサーさんは、こんな言葉も残してるの―――――」

 

 東堂さんは、確信を持っているかのように、笑って言った。

 

 

 「『子供たちが熱狂してくれるなら、男の子プリキュアもアリ』って♪―――――」

 

 

 僕の固定観念と葛藤を破壊するのに、その一言は十二分だった。

 

 「で、でも、それって、あくまでも子供たちが熱狂してくれるなら、でしょ……!?男の僕がプリキュアだなんて、熱狂どころか―――――」

 「少なくとも―――――私は熱狂したよ」

 「……!」

 「初めてキュアデーティアを見たときね―――――すっごく"イイ"って思った……!心の底から……!!この私を……"誇りあるプリキュアオタク"の私が"キュアっキュア"にされたんだから、プリキュアが好きな子供たちだって、みんな『スキ』になってくれる!絶対に!だから、大丈夫!」

 

 子供たちの憧れの存在になること―――――それは僕の夢に相違ない。

 そして、ヒーローとは違う存在と思っていた『プリキュア』が、本当は仮面ライダーやスーパー戦隊と何ら変わらない、『子供たちにとってのヒーロー』だったことも教えてもらった。

 僕の……僕たちの力で、この世界に迫る脅威を打ち払い、子供たちにとっての―――――否、世界にとっての『ホンモノの希望(ヒーロー)』になれる―――――

 

 それが、僕が手にした"ヒーローの権利(チカラ)"―――――

 

 東堂さんは決意を以って、この戦いに臨んでいる。

 『プリキュア』という『存在』にも、『作品』にも、敬意を持って接しながら。

 スーパーヒーローの存在しないこの現実で、『ホンモノ』を、体現するために。

 そんな彼女は、僕のことを信じて、表も裏も、受け入れてくれようとしている。

 『プリキュア』と、それを取り巻くすべての事物に対する、『誇りある愛着』を持っているが故に―――――

 

 「僕で……釣り合いが取れるのか、わからないけど―――――それでも……いいのかな……?」

 「もちろん!!」

 

 東堂さんは目を輝かせながら、僕の両手をぎゅっと握った。思わずどきりとする……!

 

 「っていうか、八手くんじゃないとダメ!あのカッコカワイさは、八手くんがデーティアじゃないとダメだもん!」

 「……僕じゃ、ないと……?」

 

 僕でなきゃ、東堂さんは納得しないってコト……!? 

 こ……これは……―――――

 

 ここで応えなきゃ―――――漢じゃないッ……!!!

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 「僕はッ……―――――」

 

 八手くんが何かを言いかけた、その時。

 

 《りんく!バグッチャーの気配がする!》

 

 コミューンの上に立つメモリアが、私を見上げていた。

 

 《近いぜ!今の今まで……どうして気づかなかったんだ……!?》

 

 データの様子を見て、八手くんはコミューンを手に取りながら言ってきた。

 

 「東堂さん……!」

 「うん!」

 

 ふたりで体育館裏から校舎に戻ろうとすると、信じられない光景がそこに広がっていた。

 

 「なに……コレ……!?」

 

 私が見上げる大泉中学校の校舎が―――――一切合切、凍りついていた。

 まるで、校舎全体が巨大な氷柱で覆われたような、そんな姿に変わり果てていた……!

 

 「凍ってる……!?」

 「むぎぽん……そらりん……!!」

 

 思わず私はコミューンのメッセを開いた。すると、すごい数のメッセが、リアルタイムで増えていた。

 そのすべてが、『教室や校舎から出られない』、『寒いけど、暖房が使えるから何とかしのいでる』、そんな内容だった。

 

 「よかった……みんなは無事みたい……」

 

 ほっと胸をなでおろす私だけれど、八手くんはその表情を緩めてはいなかった。

 

 「これだけのコトをするヤツは……アイツしかいない……!」

 

 そして、振り返りながら叫んだ。

 

 「いるのはわかってる―――――ネンチャァァック!!」

 『……流石にもうパターンだねェ……やることなすことモロバレかァ』

 

 その名の通りの粘着質な声と、爬虫類じみたイヤらしい笑み。

 また、学校を巻き込んで、こいつ……!

 

 『御覧の通りサ。"美しい"だろぉ?』

 「こんなことをして何が楽しい……!!」

 「同感……!」

 

 八手くんの言葉に同意です。

 そのとき、ネンチャックの隣に何かが降り立った。

 

 『―――――バグッチャー……。』

 

 そう呟くのが聞こえた。でも、それはいつものバグッチャーとは違った。

 ずんぐりむっくりで、それなりにデカいバグッチャーとは違って、とても細身で、すらりとしている。

 体のところどころに氷で彩られた装甲をまとって、右手には氷の剣を持っている、まるで中世の騎士のようなバグッチャーだ。

 

 『……これは"彼女"の作品サ。すべてを静謐(せいひつ)に閉じ込める、絶対零度の氷の棺……次は君達、プリキュアの氷像を作りたいそうだよ?』

 「……冗談じゃないぜ……!」

 

 心外とばかりに、八手くんはコミューンを取り出した。あれ?"ぜ"って?

 

 「ありがとう……東堂さん」

 「ふぇ?」

 

 八手くんは、やさしい声で呟くように言った。

 

 「キミのおかげで……"ホンモノ"を目指すことに……踏ん切りをつけられたのかもしれない……」

 

 その表情に、強い決意がにじんでいたのは気のせいじゃない。きっとこの子も、私とは別の形で、『アニメとは違う現実』を見たんだ―――――

 でなければ、『戦うこと』にこんなに強い決意で臨めないから―――――

 そして彼は、ネンチャックに険しい視線を突き刺す。

 

 「戦うよ、僕も……こんなヤツらの為に、これ以上誰かの……大切な人たちの涙は見たくない……みんなに笑顔でいてほしい―――――」

 

 まるで決意表明のように言葉をつづると、最後は私に笑いかけながら―――――

 

 「だから見てて―――――僕の、変身……!!」

 

 なんだろう―――――キュアっときた……!

 それも、いつもと違う、『ガツンとくるキュアキュア』……!?

 まさかコレって―――――『カッコカワイイ』じゃなくって、純粋な―――――

 『カッコいい』っていうモノ―――――……?

 

 「行くよ、データ!」

 《よっしゃぁ!!》

 

 ためらうことなく、八手くんは水色のキュアチップをスロットに挿し入れた。

 

 《START UP! MATRIX INSTALL!!!》

 「プリキュア!マトリクスインストール!!」

 《CURE-DATA! INSTALL TO HOKUTO!!》

 

 青白い光のタマゴに包まれて、その中で八手くんとデータが、拳をぶつけ合わせるのを見た。

 瞬間、データの体が青白い光の粒子になって、八手くんの胸から入っていく。

 

 ―――――私の変身と、ほとんど同じ。

 でも、ここからが違った。

 

 拳法をやってて、細いながらに筋肉のついた八手くんの身体の輪郭が、丸みを帯びた感じに変わっていく。ふわりと髪の毛が伸びたその姿は―――――女の子。

 本当に……"女の子になってる"んだ……。

 

 体を覆っていた光がインナースーツに変わって、イーネルギーの粒子がコスチュームに変わって、彼の体を次々に包んでいって、長い髪が髪飾りでサイドテールに結われて、純白のマフラーがしゅるっとはためいた。

 そして、光のタマゴがはじけて、彼―――――ううん、"彼女"は、左腕を引いて右ひざを曲げ、右腕を地面に叩きつけながら、まるで"スーパーヒーロー"のように降り立った。

 

 《CURE-DATEAR!! INSTALL COMPLETE!!!》

 

 すっくと立ちあがる、キュアデーティア―――――

 ここまでの流れを見ていた私は―――――

 

 「…………………………(☆ ☆)」

 

 感動のあまり言葉を失っていた……

 なんか、一生モノの記念すべき光景を見た気がしました!

 プリキュアの変身シーンをこの目で見られるなんて、夢にも思いませんでした!!

 この感動を忘れないうちに、私の脳内フォルダに永久保存……っ

 ……あ、自分の変身は自分で見られないから……ネ?

 

 『……この姿……まだ、僕は自信が持てないけど……でも……キミとなら……僕は―――――』

 「カワイかった!サイコーだった!!プリキュアだった!!!」

 『(ぐさっ!)……カ、カワイイ………………』

 

 あっ!デーティア、ちょっとしょげちゃった……

 そっか……八手くんにとっては『カワイイ』って言われるのはショックだっけ……気をつけなきゃ……

 

 「気を取り直して……メモリア、行くよ!」

 

 キュアチップをコミューンにキュアットイン!コミューンが、ピンク色の光を放つ。

 

 《START UP! MATRIX INSTALL!!!》

 「プリキュア!マトリクスインストーーール!!」

 《CURE-MEMORIA! INSTALL TO LINK!! CURE-MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!!》

 

 カッコカワイく、変身完了!

 こうしてふたりそろって変身して、いっしょに戦える……なんか、感無量だぁ……!

 

 《《INSTALL@PRECURE―――――INTERACTIVE LINK!! Ver.2.0!!!》》

 

 その時、私とデーティアのネットコミューンから、聞き覚えのない電子音声が同時に響いた。

 頭の中に、言葉が流れていくのがわかる。

 

 『東堂さん…こ、…これって……』

 『うん……!やるよ!』

 

 私達は、示された言葉の通りにふたりで名乗りを上げながら、体にあふれる衝動のまま、ポーズをキメる!

 

 

 『記し、念じる、無限の未来!キュアメモリアル!!』

 

 『渾然一体……涙祓一心!キュアデーティア!!』

 

 

 

未来へつながる電子の輝き!

 

キラメくふたりは!

 

インストール@プリキュア!!

 

 

 ピンクと水色のイーネルギーが、きらめいて、瞬いて、私達を彩り飾る―――――

 

 『………………………………』

 

 感動のあまり……何も言えねぇ……

 これは―――――決めポーズ!しかも『ふたりバージョン』の!

 メモリアとデータの決めポーズと、言葉もポーズも違う、私と八手くん―――――メモリアルとデーティアだけの決めポーズ!

 プリキュアの決めポーズを、今度はもうひとりのプリキュアと、ふたり揃ってキメられる……

 真の意味で『ふたりはプリキュア』になれたこの日、この瞬間を……

 私、一生忘れません……!!

 

 『…………/////』

 

 一方のデーティアは―――――顔を真っ赤にしていた。

 元々『ヒーロー志望』の八手くんだから、やっぱりはずかしい、のかな……?

 

 『はずかしいけど……なんだろう……この高揚感……』

 

 息を落ち着かせて、デーティアは胸のイーネドライブに視線を落とした。

 

 『スーパー戦隊の名乗りみたいで……なんかカッコいいかも……』

 

 そういえば、戦隊モノもプリキュアみたいな名乗りポーズをしてるんだっけ。彼の琴線にキュアっときた!のかな、今の……

 

 『それにしても……』

 

 デーティアは、なぜか後ろを肩越しに見た。

 

 『爆発、しないんだね』

 『!?プリキュアはポーズ決めても爆発しないよっ!?』

 

 いくらなんでも、それはナイ……

 ちょっと残念がってるデーティアの困り顔が―――――なんかカワイかった、なんて言ったらまたショゲちゃうかも……

 

 『準備は終わったようだね……さ、美しく散らせてあげなよ』

 『―――――シンシン……。』

 

 ネンチャックの号令に応じたバグッチャーは一瞬前傾姿勢をとったと思うと、一度の踏み込みで一気に間合いを詰めてきた。

 

 『速ッ―――――』

 『―――――ミチ……。』

 

 右手の剣を、容赦なく私たちに向かって横薙ぎに振るった。反射的に、私とデーティアは体を仰け反らせてかわした。

 でも、紙一重なのがわかる……最初の一撃で、確実に私たちを倒しに来たこのバグッチャー、見た目だけじゃない、実力も今までのバグッチャーと段違い……!?

 

 『一度間合いを離そう!コイツ、危険だ!』

 『で、でもっ―――――』

 『フリツモル……。』

 

 息もつかせないほどの剣戟が私を狙ってくる!氷色の斬跡が視界を横切り、縦に切るたび、まさしく背筋が凍ってくようだ。

 

 『東堂さんッ!!』

 

 そこへデーティアが割って入った。でも、バグッチャーは左側から不意に放たれた右のストレートを、左腕一本で受け止めていた。

 

 『お前の相手は……僕だぁっ!!』

 

 連続でパンチやキックを繰り出すデーティアだけど、そのすべてが左腕だけでいなされてる……

 その様は、前にネット動画で見たことのある、武道の演武のようだ。

 一瞬、デーティアの攻撃が途切れたその時―――――

 バグッチャーが氷の剣を逆手持ちにして、横殴りにデーティアを捉えた。

 

 『ぐぅあっ!?』

 『デーティアっ!!』

 

 慌てて、私はふっ飛ばされて倒れたデーティアに駆け寄った。

 

 『大丈夫……このくらい……!』

 

 くやしさが表情ににじんでる。拳法の使い手のデーティアでさえ、いいようにあしらわれるなんて……

 ここまでの使い手……そして、氷の剣。このバグッチャーの力の源にされているプリキュアは、あの子しか考えられない―――――

 

 『れいかちゃん……このバグッチャー、キュアビューティを取り込んでる……こんなに強い理由はこれしか……!』

 『キュア……ビューティ……?』

 

 プリキュアのことを知らないデーティアのギモンには、メモリアが答えてくれた。

 

 《『スマイルプリキュア』のサブリーダー、"冷綺(れいき)のビューティ"……この前のプリキュアーツで"せんせい"と決勝で戦った、チョー強いプリキュアだよぉ……!!》

 

 プリキュアーツ決勝進出者!?それって事実上、"強さ"に限った話、上から2番目ってコトだよね……!?

 確かに、アニメのビューティはスマプリ最強ってくらい強かったけど、ホンモノのビューティも強かったんだ……!!

 

 『強いのか……そうか……』

 

 そこでなぜかデーティアは、口元をニヤリと緩めた。

 

 『なら余計に燃えるね……!』

 『も、もえ……!?』

 『全力でぶつからなければ勝てないというのなら望むところ……!格闘やってるからかな……ココロが熱いよ』

 

 やっぱり八手くんって、スゴい。相手が『強い』ことを聞いても、『こわがる』どころか、『やる気が出る』なんて。

 

 『そうね……怖がったり、しり込みしても始まんない……!全力全開で、ぶつかるだけっ!』

 

 ―――――私も、負けてらんない!

 

 『東堂さん……』

 

 私の様子を見て安心してくれたのか、デーティアはふっと笑った。でも―――――

 

 『ダメだよっ』

 『え……?』

 

 私はデーティアの口元に右の人差し指を突き付けた。

 

 『変身してる間は、"東堂さん"呼び禁止っ!ちゃんと変身したあとの名前で呼んでね?』

 

 さっきから気になってたんだよね、それ。プリキュアに変身したら、めったなコトでは本名出しちゃいけないんだから。

 デーティアはちょっと驚いた表情になったけど、すぐにふっと笑ってくれた。

 

 『昭和ライダーや昔のスーパー戦隊みたいだね……了解、"メモリアル"♪』

 

 さぁ、仕切り直しよ。ここからは私たちのターン!

 

 『んじゃ―――――目には目を……スマプリにはスマプリで!!』

 

 私はキュアットサモナーに、ピンク色のチップを呼び出した。素早く手にとって、ネットコミューンにセットする。

 

 『キュアチップ、『キュアハッピー』!キュアット、イーーン!!』

 《キラキラ輝く、未来の光!キュアハッピー!》

 

 《CURE-HAPPY! INSTALL TO MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!》

 

 髪型が三つ編みツインテールに変わって、羽根のような意匠がちりばめられた、ピンク色のコスチュームが私を包む。

 

キュアメモリアル、"ハッピースタイル"っ!!

 

 初めての、リーダープリキュアのレジェンドインストール!

 なりきる私も、一層気が引き締まる……!

 

 《いい?わたしの力の源は、とにかく"気合"だよ!》

 『おk!エンジン全開で行くから!!』

 

 心の中のハッピーに答えたこの言葉をバグッチャーが受け取ったのか、相手は氷の剣を杖のように、地面に突き立てた。すると―――――

 

 『……アナタノ―――――カガミ……。』

 

 まるでささやきかけるようにバグッチャーが呟いた瞬間、突き立てられた氷の剣を中心に、地面が円状に凍りついていった。その凍りついた地面から、人型のような氷柱がそそり立って、一様にバグッチャーと同じような形になった。

 それも、『氷人形』は一体だけでなく、視界に入るだけでも20体以上が生み出されている。さながら、姫騎士を守る近衛兵―――――

 

 『第43話のジョーカー戦の応用ってこと……!?でも……!!』

 

 『スマプリ』の43話―――――キュアビューティがその実力を最大限に発揮した回。その時に見せた技に、これは似ている。

 でも、アニメではたくさんの氷の剣を作り出していたけれど、私たちの目の前で繰り出されたこの技は、氷の兵士を作り出してる。そのすべてが、"ビューティバグッチャー"と同じ氷の剣を携えている―――――

 

 『コッチ、デスヨ……。』

 

 その言葉とともに、"ビューティバグッチャー"は氷の剣をこちらに向けた。それを合図にしてか、氷の兵士は一斉に、一糸乱れぬ隊列で猛進してきた。

 

 《来るよ、りんくちゃん!!》

 『数で負けても気合じゃ負けるかぁぁ!!』

 

 そう自分に活を入れて、私は最初に突きを繰り出してきた氷の兵士を、回避しながらの裏拳で粉砕した。立て続けに回し蹴り、右ストレート!後ろから同時に2体―――――それなら両肘エルボー!

 倒しても倒しても―――――凍った地面から次々と涌いて出てくる氷の兵士。それなら、これだぁ!!

 

 『気・合!!全・開だぁぁぁぁ!!!』

 

 全身から沸き立つピンク色の輝き。その輝きを両手にあつめて―――――

 

プリキュアッ!ハッピィィィィ……シャワァァァァァ!!!!

 

 一気に解き放つ、キュアハッピーの十八番!!一直線上の氷の兵士を砕いて、光の奔流が突き進む。

 

 『メモリアルッ!!』

 

 デーティアの声が聞こえた。同時に、左右から剣を振りかぶる氷の兵士たちが迫る。

 しまった―――――当然なんだけど、ハッピーシャワーは『前』にしか撃てない。左右と後ろは無防備―――――

 

 『だと思ってるなら!!』

 

 それはバンクを使いまわしてるアニメの話だよ……!!

 ここは現実―――――アニメじゃない!!

 今しがた放出しているハッピーシャワー。ハートを形作っている両手を、あえて離して―――――!!

 

プリキュア!ハッピーシャワァァァ……!!

ローリングーーーーー!!!!

 

 大きく腕を開いて、水平に広げて―――――回転しながらハッピーシャワーを照射する!

 ハッピーシャワー自体は片手ずつからの発射になるから攻撃力は落ちるけど、その分全方位をカバーできる!

 

 《すごい……!こんな使い道があったの!?》

 

 ハッピーもさすがに思いつかなかったみたい。『スマプリ』だと、あまり大人数を相手にする機会がなかったから、かな?

 これで氷の兵士は一掃できた!残りは本体だけのハズ……

 

 『タダシキ―――――ミチ……。』

 

 "ビューティバグッチャー"がまた、氷の剣を地面に突き立てた。すると、今しがた片付けたはずの氷の兵士が、再度凍った地面から生成された。

 つまりは―――――やり直し……

 

 『ええぇ~!?』

 《せっかく全部やっつけたのに~!!》

 

 心の中のメモリアが悔しがる。それは私も同じだよ……

 

 『あ……あれ……!?』

 

 っていうか……なんか、力が入らない……!?

 これって、スマプリのキメ技の欠点―――――一発撃ったら体力が持っていかれるアレ……!?

 

 《りんくちゃん、無理しないで!》

 『わかってる……交代するよ、ハッピー……!』

 

 こうなったら、連続でレジェンドインストールを使って、どうにか切り抜けるしかない……!

 私はキュアットサモナーに、トゥインクルとマーチのキュアチップを呼び出した。まずトゥインクルのミーティアハミングで―――――

 

 『ブリザード……。』

 

 "ビューティバグッチャー"の左手から、強烈な冷気が放たれた。ビューティブリザード……!!

 

 『きゃ!?』

 

 思わず避けようとしたその時―――――キュアチップがブリザードに引っさらわれた……!!

 

 『しまった!?』

 

 2枚のチップが凍った地面に落ちて、回転しながらすべって行った、その先には―――――

 

 ……SAVE POINT




 劇中でりんくが引用した『子供たちが熱狂してくれるなら、男の子プリキュアもアリ』という言葉、ホントは『こんな趣旨の言葉を言ってた』的なニュアンスなんで、このまんまのお言葉を『プリキュアの生みの親』の御方が仰られていたワケではないのであしからず……

 転がった2枚のキュアチップの行き先、戦いの行く末を描く後篇Bは近日投稿予定です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

僕だけのプリキュア道

 さて1日ほどお待たせしました!
 キュアチップの行く先に待ち受けていたのは果たして……!?
 キュアデータ編、堂々完結です!!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

    CURE-MEMORIAL

 ⇒  CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 機をうかがっていた僕の足元に、2枚のキュアチップが転がってきた。

 

 『これって……!?』

 《トゥインクルとマーチのキュアチップだ……!!》

 

 東堂さん―――――キュアメモリアルが、今まで助けたプリキュアのキュアチップ。

 思わず僕はそれを拾い上げる。そこへ―――――

 

 『デーティア!それ、使って!!』

 

 メモリアルが僕に叫ぶ。ハッとして、僕はメモリアルを見た。

 

 『きっとデーティアなら使いこなせる!詳しい使い方は、データに聞いて!』

 

 プリキュアのことを、僕―――――ほくとは全く知らないけれど―――――

 僕の心の中にいる、データなら知っている……

 未知なる、他の世界の伝説の戦士の力―――――使いこなせるかはわからない―――――

 

 ―――――……でも!

 

 『躊躇している場合じゃない……!!』

 

 メモリアルが―――――東堂さんが危ない……!!

 僕は黄色いチップのラベルに描かれている、『P40』の、黄色いプリキュアに賭けた。

 

 ―――――僕に、彼女を助ける力を……!!

 

 『データ……この子の……このプリキュアの力は、どんな力……?』

 《キュアトゥインクルの力は、"星の力"を自由に使える力だな。素早さもなかなかだぜ?》

 『"星"…………か―――――』

 

 プリキュアの、『オリジナルの技』は、僕にはわからないけれど―――――

 でも、『僕ができる技』を駆使して―――――

 

 僕は―――――戦う!!

 

 意を決して、キュアチップを、スマホのスロットに挿し込んだ。

 

 『キュアチップ、『キュアトゥインクル』!!』

 《きらめく星のプリンセス!キュアトゥインクル♪!》

 《START UP! "LEGEND INSTALL"!!》

 

 右手を握って腰だめに構え、スマホを持った左手をガッツポーズに似せて構える―――――

 『星の力』から連想したこれこそが、僕の初めてのレジェンドインストール―――――!!

 

 

 ―――――(THREE)―――――

 

 ―――――(TWO)―――――

 

 ―――――(ONE)―――――

 

 

 『―――――キュアっと、変身ッ!!』

 

 

 スマホから、電子音声のカウントダウンが鳴り響き、次いで―――――

 

 《CURE-TWINKLE! INSTALL TO DATEAR!!》

 

 右腕を天に掲げた僕のインナーを残して、コスチュームが粒子状に分解して、黄金色のイーネルギーが僕の全身を包み込み、新たなコスチュームを形成した。それに、髪型も2本に枝分かれした大ボリュームに変わった。

 

 《INSTALL COMPLETE!!》

 

 体に流れる星のチカラ―――――

 そう、それは、紛れもない宇宙のチカラ―――――

 Space on my hand―――――

 

 この手で―――――宇宙を掴む―――――!!

 

   〈KAMEN RIDER BIRTH〉

 ⇒ 〈KAMEN RIDER FOURZE〉

   〈KAMEN RIDER METEOR〉

 

 《SPACE YOUTH! SWITCH ON!!》

 

 『宇宙…………キタアアアァァァァァ――――――――――――――――――…………………………(゚∀゚)…………………………――――――――――――――――――――ァァァアアアア!!!!』

 

 

 体中を駆け巡る銀河の輝きを解き放つように、僕は体を大の字に広げて叫ぶ。

 そして、氷のリングの真ん中にいるバグッチャーに、真正面から宣言した。

 

 『キュアデーティア、"トゥインクルスタイル"!!冷たい檻に閉ざされた"清き心"、返していただきますわ……!タイマン張らせてもらうから―――――』

 

 胸元を2度右の拳でたたいて、すっとその右手を差し伸べて―――――

 

 『お覚悟は……よろしくて?』

 

 ―――――………………

 

 な、なんだ、今の……!?

 女の子みたいな口調になってたし、なにかいろいろごちゃ混ぜになった口上を勝手に口走っていた……!!??

 

 『……………………(゚Д゚)』

 

 メ、メモリアルがこっちをみてこんな顔↑をしてるし……

 

 『ん?ボクが知ってるキュアトゥインクルの口上と違うねぇ。うろ覚えかい?』

 

 ネンチャックがおちょくってくるし……

 僕、なんかすごく―――――……

 

 『は……はずかしい……///』

 

 思わずマフラーで口元を覆ってしまった。どうなってるの、コレ……

 それにしても……あの口上の一部に組み込まれていたのは、仮面ライダーフォーゼの前口上だ。でも、ほとんどはこの間の戦いでメモリアルがこのチップでレジェンドインストールをした時の口上にそっくりだった。

 これって―――――僕の中の『ライダーの情報』と、キュアチップの『プリキュアの記憶』が、僕の中で入り混じっている影響なのだろうか……。

 

 《キュアデーティアと、ユナイトします!……な~んてネ☆》

 

 イーネドライブが黄金色に輝いたかと思うと、心の中のデータの部屋、その隣に新しい『部屋』があらわれて、チップに描かれていた女の子が出現した。

 

 《ほくと、だっけ?りんりんから話は聞いてるよ!……アタシたちのことをほとんど知らないらしいけど……大丈夫?》

 『ありがとう……キミの『本来の』技は知らないから、無茶な力の使い方をするかもしれないけど……』

 《……それならOK!いつも『同じ』って、つまんないじゃん》

 

 キュアトゥインクル―――――なんか、ノリのいい子だ。

 これなら、僕の考えている『戦法』にも、ついてきてくれるハズ!

 

 『……まずはメモリアルを助ける……突っ込むよ!』

 《どうするの?》

 『"ロケット"だ!』

 《ロケット!?》

 

 僕は右手の先に力を込めた。すると、星形の回転するエネルギーの円盤が輝きとともに現れた。そして―――――

 

 《ROCKET ON》

 

 スマホが、仮面ライダーフォーゼの変身ベルト『フォーゼドライバー』の電子音声を発した。

 同時に、星型エネルギーがまるでコーンのように変形して、僕の右腕全体に"装着"される。

 

 《これがロケット!?》

 『さすがに星の海までは行けないけれどね』

 《でもすごいじゃん!こんなの思いつかないよ!》

 

 これぞ、トゥインクルの星の力を応用して、仮面ライダーフォーゼのモジュールを再現した、名付けて『トゥインクルモジュール』!!

 その第一作目、『星型ロケットモジュール』を構えると、後部からきらきらと瞬く無数の煌めく粒子が、ジェット噴射のように放出されて―――――

 

 《ROCKET LIMIT BREAK!!》

 

 

ライダァァァロケットパアアァァァァンチ!!!!!!

 

 一直線に、敵陣へと突っ込む!並び立つ氷の兵士をあっという間に貫通し、粉砕して―――――

 

 『メモリアルーーー!!』

 『!』

 

 メモリアルは、僕の右腕に装着しているモジュールにつかまった。

 

 《やったぜィ!!》

 

 データの快哉の声が心地よく響く。

 

 『良かった……!』

 『デーティア、前!前~!!』

 『ぇ!?』

 

 あわてて前をうながすメモリアル。見ると、巨大な氷柱と化した校舎の壁が目の前に迫る!

 

 『うわぁぁ!?』

 

 寸前で直角に曲がると、校舎よりも高く飛び、校舎どころか大泉町を見渡せるほどの高度まで到達した。

 ここまで飛ぶなんて、予想外だ……

 と、そこでモジュールが星屑になって消えた。ということは―――――

 

 『きゃ!?』

 『危ない?!』

 

 落ちそうになるところでメモリアルの右手をつかんだ。でも今度はふたりで落ちてく!?

 

 『お、落ちちゃう~~!?』

 『大丈夫ッ……!!』

 

 そう、『モジュール』には、こんなのもある―――――

 

 《PARACHUTE ON》

 

 左手から3つの星型円盤を繰り出して、左腕と光のワイヤーでつないで、パラシュートを構成した。 

 アストロスイッチ7番、『パラシュートモジュール』。高高度からの降下用のモジュールだ。

 

 『助かったぁ……ありがと、デーティア』

 『ううん……キミが無事で、よかった』

 

 キュアトゥインクルの力と、仮面ライダーフォーゼの記憶―――――

 この2つの組み合わせの相性が良かったからこそ、彼女を助けることができた。

 ありがとう、トゥインクル、そして、フォーゼ―――――

 

 『……くしゅん!』

 

 なんだか冷えると思ったら、このトゥインクルスタイル、両肩の肌が完全に出てる。背中もワリと開いてるから、なんかやっぱりはずかしい……

 改めて、僕が『プリキュア』になっていることを思い知らされる。

 

 『私のトゥインクルスタイルと、ちょっと違う……』

 

 そういえばこの姿、デザインはこの間メモリアルが変身したトゥインクルスタイルと同じだけど、細部が微妙に違う。

 同じキュアチップで変身しているのに、この違いっていったい……?

 

 『でもすっごく似合ってる!とってもカワイイよ♪』

 『カワッ―――――……///』

 

 やっぱり、そういう反応だよね……プリキュアの第一印象って、『カッコいい』よりも『カワイイ』が圧倒的優勢だろうし……

 

 『で、でもでも!さっきの技、ちょーカッコよかった!あれって、仮面ライダーの技!?それをプリキュアの力で再現できるって、すごいよ!』

 『……そう、かな』

 

 メモリアルが―――――東堂さんが―――――

 カッコいいって―――――

 言ってくれた……?

 

 『デーティア、なれるよ!ホンモノに!子供たちを熱狂させられる、世界を守るプリキュアに!』

 

 僕が―――――『ホンモノ』になれる―――――?

 子供たちを熱狂させられて、世界を守れる―――――??

 カッコよく、子供たちを熱狂させられる、世界を守れる―――――

 プリキュアに―――――

 

 僕が……

 

 自分が―――――

 

 

 『()()()が……。なれるの……?』

 『…………?デーティア?』

 

 なんだか―――――うれしい……!

 パラシュートで大泉中学のグラウンドに降り立った時、わたしの心はもう一度宙に浮きそうだった……

 

 『メモリアル―――――わたし、わかった気がするの……わたしがプリキュアになった意味……わたしが……どんな『存在』になりたいのかが―――――』

 

 イーネドライブにそっと手を当てる。この中に内包されて、わたしのこの姿を形作っている『チカラ』を感じる。

 その『チカラ』で、わたしができること、するべきこと―――――その末にわたしがたどり着くヴィジョンが―――――

 

 "なりたいわたし"が―――――見えた気がして―――――

 

 『わたしだけにしかなれない―――――プリキュアに、なりたい!女の子だけじゃない……男の子も夢中にさせられるような―――――そんな、『ヒーローみたいなプリキュア』に、わたし、なりたい!』

 

 "仮面ライダーの技を使うプリキュア"―――――女の子も、男の子も、子供たちみんなのヒーローとして、この世界に流れる涙を祓う―――――

 ―――――そんな『ヒーロープリキュア』に、わたしはなりたい!!

 

 思わずわたしは、メモリアルの両手を取った。

 

 『メモリアル!わたし、がんばる!この世界に暮らすみんなのために!子供たちのために!』

 『デーティア……』

 

 ひとりだったらできないことでも、ふたりなら必ずできるよ―――――

 だって、わたしとアナタ―――――"ふたりはプリキュア"なんだから!

 

 《おいほくと!!また"引っ張られ"てんぞ!?お前は男だ!しっかりしろ~!!》

 

 ――――――――――!!!

 

 『………………あ……』

 

 データの声が、僕を『僕』に引き戻した。

 はっとして手元を見ると、メモリアルの両手をぎゅっと握っている僕の手が―――――

 

 『ごっ、ごめんっ!!///』

 

 あわてて手を放して、視線をそらす。

 顔が熱い……たぶん、真っ赤だ……

 なにやってんだ、僕……!?メモリアルの―――――東堂さんの言葉に舞い上がって、テンションが上がって……

 心までも『女の子』になってしまった僕を、メモリアルに見られてしまった……!!

 

 『ちが、ちがうんだ、その……さっきまでの僕は、僕だけど、あの、僕じゃなくって……ど、どう説明すればいいかわからなくって……』

 《どう、って、『変身してる時にハイになったら女っぽくなっちまう』だろ?簡単な話じゃねーか》

 『で、データぁっ!?』

 

 その通りなんだけど、こんなバカげたコト、一回聞いただけで受け入れてもらえるはずがないよ……

 ところが、僕がおそるおそる視線を向けたメモリアルは、なぜかニコニコしてて―――――

 

 『め……メモリアル……?』

 『うふふ……なんか、ちょっと面白いかな、って♪』

 『お、面白いって……大問題だよ、コレ!?無我夢中で戦ってたら身も心も女の子になっちゃうって―――――』

 『……でも、わかるんでしょ?自分が『男の子』だってコト』

 『!……それ、は……』

 

 確かに、覚えてる。

 記憶が飛んだりはしていない。口調や思考が『女の子』になっていても、自分が『八手ほくと』だという自覚はあるし、僕が男だということも忘れちゃいない。

 単純に、話し方や思考が変わってしまうだけに過ぎない。

 

 『だったら、こうしてプリキュアやってる時くらいは―――――"なりきっちゃっても"、いいんじゃないの?せっかく、プリキュアやってるんだし、さ』

 『……なりきる……』

 

 男のまま、女になりきる―――――

 それを聞いて、ふと思い出したことがある。スーツアクターの中には、女性が変身したヒーローや、着ぐるみ造形の悪の女幹部を演じる男性アクター―――――『女形』もいることを。

 "スーツアクターは『素顔』を出さない"ということを最大限に活かして、アクションに不慣れな女性をフォローすることができる利点がある。

 しかし、単純なアクターよりも演技の繊細さが求められる、より難易度の高い仕事だということも知っている。

 特に、数多くのヒロインや悪の女幹部を演じ、変身前のとある女優さんから『私よりも女らしい』とも言わしめた『双子の女形スーツアクター兄弟』は、今でも特撮ファンの語り草になっている。

 そんな高みに達するためには、僕もまたたくさんの経験を積み、男性的な動作、女性的な動作、その両方を研究して、会得する必要があるとも思う。

 

 ……これって、実はチャンスなのかもしれない……?

 男でありながら、女の子のヒロイン―――――『プリキュア』に変身する機会を得た僕は、考え方によっては『女の子らしさ』をより深く会得できると、云えなくもないはず……

 それなら―――――

 

 『『女の子の僕』を頭ごなしに否定するのも……よくないかもしれないな……』

 

 変に気張らなくてもいいのなら、戦う上では楽になる。

 この力で、世界を守り、人々の涙を祓って、子供たちの『夢』になる―――――

 そしてそれは、僕自身の『夢』にもつながっていくんだ―――――

 自然と僕は、マフラーで作った覆面を下ろした。『自分を偽る』ことも、しなくてもいい―――――

 

 『……やれやれ、まだ戦いは終わっちゃいないよ?ボクを差し置いて二人っきりで何話してんのサ』

 

 粘着質な声に振り返ると、氷の兵士を3~40体ほど引き連れたバグッチャー、そしてその横に立つネンチャックがいた。

 

 『ボクを無視すんなよ』

 『……そういえばそうだった……まず、お前たちをどうにかしなければいけないね……それなら―――――』

 

 僕は、もう1枚の緑色のキュアチップを手に取った。

 

 『正義の"風"が、悪を砕く』

 《わかんのか、ほくと……それって……》

 『公園で、メモリアが助けたプリキュア……でしょ?……風の力を持つプリキュアだってことは、わかるよ』

 

 風―――――それなら、"彼"の技を―――――否、"秘密の一つ"を、解き放つこともできるはず。

 そうすれば、この『氷のフィールド』を、根こそぎ破壊することだって可能だ。

 

 『キミの風の力……貸してくれ!』

 

 僕はスマホに、緑色のキュアチップをセットした。

 

 『キュアチップ、『キュアマーチ』!!』

 《勇気リンリン!直球勝負!!キュアマーチ!!》

 

 ネンチャックとバグッチャーを真正面に見据えて、僕はびしりとポーズを決めた。

 

 『キュアっと……変身!!V3(ブイッスリャアァァァァーーー)!!!!』

 

 《CURE-MARCH! INSTALL TO DATEAR!! INSTALL COMPLETE!!》

 

   〈MASKED RIDER 2〉

 ⇒ 〈MASKED RIDER V3〉

   〈RIDERMAN〉

 

 《POWER AND TECHNIC! DOUBLE TYPHOON!!》

 

 緑色の、所々に鳥の羽根のような意匠が施されたコスチュームに、僕は身を包んでいた。

 そして、両手にVサインを作り、右腕を縦に、左手の指を右腕の肘に突き立てた『逆L字』ポーズを取り、堂々と宣言した。

 

 

 『キュアデーティア!"マーチスタイル"ッ!!』

 

 

 "第3の男"―――――仮面ライダーV3を象徴するポーズ。

 ちょうどこの間、DVDで見たライダーだ。

 

 《お!こないだ見たV3か!!》

 

 ちなみに『仮面ライダーV3』のDVDは、データと一緒に見ていたので、データもV3のことを知っている。食い入るように見ていたのが、僕の脳裏にやけに残っている。

 ちょうどその時、データの『隣の部屋』のプリキュアが、トゥインクルからキュアマーチに入れ替わった。

 

 《データ、知ってるの?》

 《ああ!ほくとに仮面ライダーのことを教えてもらってな、DVDとかいっしょに見てんだぜ!》

 《ヒーローかぁ……ピースが見たら気に入るかもね》

 

 まだ助け出していない、仲間のプリキュアのことを思い出していたのかもしれない。マーチは少し、遠い目をした。

 ヒーロー好きなプリキュアもいるのか……早く会ってみたいな……

 でもそれはその時になってから考えないといけない。今は、まず―――――

 

 『マーチ……これからやる技は、僕とデータだけじゃない……キミにもかなりの負担を強いることになる……それでも、いいかな?』

 

 まさしく、最初からエンジン全開のフルスロットルで、エネルギーを絞り出すことになる"あの秘密"。まずは確認する必要があると思って訊ねたけれど。

 

 《もちろん!ほくとがやりたいようにやってみなよ!あたしはただ、手伝うだけだよ!》

 『……ありがとう』

 

 そう言ってくれるとありがたい。心置きなく、全力が出せる!

 

 『メモリアル、下がって』

 

 巻き込まれたら大変なことになる。僕はメモリアルを後ろに促した。そして。

 

 『この後のことは、頼むよ』

 

 後事を託した。

 そう、これは諸刃の剣―――――

 僕自身をも切り裂きかねない、荒ぶる暴風―――――

 

 『デーティア……?』

 『大丈夫。僕を……僕たちを、信じて』

 《ま……まさかアレをやるってのか……!?》

 『ああ……あれほどの大軍を一掃するには、これしかない!』

 《……わかった……!アタシも腹ァくくるぜ!!》

 

 僕は全身に流れる力を、両の掌に集中した。すると、両掌の上に緑色に輝く光球があらわれ、そこを中心に『風』が集まっていく。

 

 『風のうなりに血が叫びッ!!』

 《力の限りぶち当たるッ!!》

 『力と!!』

 《技の!!》

 

 『《風車が回るッッ!!!》』

 

 僕とデータの言葉とともに"風の輝き"が増し、二つの"暴風球"が気流の嵐を巻き起こし始める。

 

 『力と、技を……レッツ・ラ・まぜまぜ……!?』

 

 そんなメモリアルのセリフが聞こえた。今のって……?まぜまぜ……??

 と、ともかくだ!僕は僕の中のすべての"(エネルギー)"を、両の掌を繰り出すとともに、暴れ狂う嵐として吹き荒れさせる!!

 

 ―――――受けてみろ!!

 これぞ、仮面ライダーV3・26の秘密、其ノ十三―――――

 すべてを巻き込み粉砕する、力と技の大嵐!!

 

 『消し飛べ……!!』

 

 

逆ダブルタイフゥゥゥゥゥゥゥーーーンッッッ!!!!

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 デーティアが前にかざした両掌から、目にも見えるほどの激烈な嵐が解き放たれた。

 私はデーティアの後ろにいたけれど、それでもそのすさまじさが見て取れる。

 渦を巻く二条の緑色の暴風が、居並ぶ氷の兵士たちを薙ぎ払い、粉微塵に砕き、空へと還していく―――――

 それだけじゃない、氷の兵士が生み出されている『凍った地面』ごと、はぎ取るように破壊してる……!!

 プリキュアの力を使って、仮面ライダーの技を再現する―――――

 それが、ここまでの力を発揮するなんて……!!

 

 『ぐぅぅぅうぅ…………ッッ……!!』

 

 ぐら、と、デーティアがよろめいたように見えた。思わず私はその体を支えた。

 

 『大丈夫!?』

 『まだ……まだだ……!!全部……終わらせる、までは……!!』

 《マーチシュートを一度に何十発も撃つようなキツさ……だけど……!!》

 《ああ……相手はあのビューティだ……全力以上の全力……最後の一滴までパワーを絞り出さねぇと勝てねぇぜ……!!》

 

 マーチとデータのこらえるような声が、デーティアのイーネドライブから輝きとともに響いてくる。

 

 《(おやじ)よ……(おふくろ)よ……(レコ)よ……!!ほくとに……アタシたちに……力を貸してくれぇぇぇぇぇ!!!!》

 

 データの絶叫とともに、『暴風』は『爆風』へと転じた。

 ボォン!!という重々しい轟音とともに、2発の『衝撃波の砲弾』が螺旋状に回転しながら、グラウンド全体を抉った。

 土煙と、砕けた氷の粒が雑ざって舞った。暴れる風と土埃に、私は思わず怯んで、目を腕でかばった。

 

 風が凪ぎ、30秒ほどの沈黙―――――

 折からの吹き返しが土煙を払ったそこに広がっていたのは―――――

 

 まるで爆撃にでも遭ったかのように、砂利がひっくり返されて荒れ果てた、大泉中学のグラウンドがあった―――――……!!

 もちろん、氷の兵士も、それを生み出す凍った大地も、跡形もなく消滅していて、残っていたのはネンチャックと"ビューティバグッチャー"だけだった。

 

 『はぁ……はぁ……はぁ……ッ』

 

 デーティアは片膝をついて、息を弾ませながら肩を揺らしていた。額や顔に、ものすごい量の汗がにじんでる。

 

 『バ・バカな……ボクの美しい氷の兵士たちが…………!!』

 

 ネンチャックは頭を抱えて戦慄していた。

 それを見たデーティアは、息を切らせながらも見据えて―――――

 

 『だが、その美しさ…………日本じゃぁ、二番目、だ……―――――』

 

 こう切れ切れに言うと、デーティアは前のめりに倒れた。瞬間、レジェンドインストールが解けて、元の姿に戻った途端、全身から蒸気が放出される。

 ど、どうして日本じゃ二番目なの!?一番は!?

 って、そんなことツッコんでる場合じゃない!

 

 『で、デーティアぁっ!!??』

 

 血の気が失せていくのを感じて、私はデーティアの顔をのぞき込んだ。苦しげながら、この子は笑っていた。

 

 『ごめん、ちょっと無理、しちゃったかな……あとはお願い、できるかな……?』

 『お、おk!お願いされちゃいますっ!』

 

 デーティアの命がけの頑張りに、私の心も熱くなっていた。

 "ビューティバグッチャー"も、傷つきながらもどうにか立っている、そんな状態だった。見ていて、痛々しく思えるくらいに―――――

 

 『……優しくって、まじめで……何事にも一生懸命で……こんな『お姉さん』になれたらな、って……昔から思ってた……』

 

 ―――――一人っ子の私にとって、『青木れいかちゃん』は、憧れのお姉さんだった。

 もっとも、実際に同い年になった今でも、彼女には追い付けないな、って思うくらいの、届かない高嶺の花。

 でも、追い付けなくても、近づくことならできた。『一つの夢』に、まっすぐに―――――

 

 『私、迷わないよ。だって、私には夢があるから―――――『ホンモノのプリキュア』になるって夢が……!』

 

 辛いこともあるかもしれない。現に、こうして戦うことだって、正直キツいって思う。

 でも、夢は降って湧いて手に入る、そんなモノじゃない。プリキュアのみんなの物語を知っていればこそ、尚の事わかる。

 悪いやつらが、どんなに暗い闇や絶望を突き付けてきても―――――

 

 『私は……歩くことをやめない……!迷ってもつま先は前を向いてる……!千里の旅路も、一歩から始まる……!それに―――――』

 

 私は、デーティアをちらと見て、そっと笑った。

 

 『仲間が、そばにいるから』

 『……メモリアル……』

 

 そう、この心と体の痛みは無駄じゃない―――――

 

 『痛みは強さへと結晶する……!だから私は……ううん、私たちは、この『道』を進んでく!明日へ……未来へつづくこの『道』を!!』

 

 その瞬間、全身からイーネルギーが沸き立って―――――

 

 《CURE-MEMORIAL!! FULL DRIVE!!!》

 『タッピンスティック!メモリアル、ロッド!!』

 

 私の武器が、顕現する。

 でも、ここからが違った―――――

 

 《RELEASE FUNCTION RESTRICTION! "Ver.2.0"!!》

 『ふぇっ!?』

 

 髪飾りにあしらわれていた、キュアデコル。それが光を放って飛んできて、タッピンスティック・メモリアルロッドのコアにセットされた。

 そして今度は、キュアットサモナーから、呼んでもないのにキュアハッピーのキュアチップが呼び出されて―――――

 

 《PRECURE! SMILE CHARGE!!》

 

 ロッドのコアの下側のスロットから、吸い込まれるように入っていった。

 とたん、強烈なピンク色の輝きがあたりを照らす。

 

 『なに……なんなの~!?』

 

 光の粒子が、私のすぐとなりに集まっていって、人型のシルエットを形作ったと思うと、それが弾けた。

 その中から現れたのは―――――

 

 『キラキラ輝く、未来の光!キュアハッピー!』

 

 え……ええええええぇぇえーーーー!?!?!?!?

 なんか、素でオドロきました!!

 私のすぐそばに、今までチップの中やスマホやタブの画面の向こうにしかいなかったキュアハッピーが、アニメそのまんまの姿で出てきちゃったんだから!!

 

 『……あ、あれ!?どーなってるの!?』

 『ハッピー!ど、どーやって出てきたの!?!?』

 『そ、それがわたしも何が何だかさっぱり……』

 

 と、ともかく、何の意味もなくハッピーが実体化したとは思えないし、ふたりで協力して―――――

 と思ったら、私の頭の中に『情報』が走っていく。それはハッピーも同じだったみたいで。

 

 『りんくちゃん……ううん、メモリアル!』

 『おっけー!やろう!!』

 

 目を合わせてうなづくと、私の持つロッドにハッピーが手を添えて、ふたりでロッドを持つ形になった。

 それを天高く掲げて、私達は叫ぶ。

 

 『"電子のヒカリ"と!』

 『"未来の光"!』

 

 ピンク色の、二条の輝きが螺旋状に絡まって、ロッドの先端に集まっていき、それは巨大な光の剣と化した。それはどこまでも伸びていって、空の雲さえも突き破る―――――

 

 『『つなげて、導く、"無限の輝き"!!』』

 

 ふたりで同時に踏み込みながら、私達は長大な"光の剣"を、"ビューティバグッチャー"目掛けて振り下ろす―――――!!

 

 

プリキュア!!ハッピーメモリアル!!!

 

 天を貫く光の柱が、"ビューティバグッチャー"の脳天へと直撃した。

 立ち尽くしたまま、ピンク色の輝きの奔流に呑まれていくバグッチャー―――――

 

 ―――――その時、私は見た。

 イメージだったのかもしれない。でも、輝きの中に、確かにその光景はあった。

 

 ―――――バグッチャーの中に囚われているキュアビューティに、笑顔のキュアハッピーが手を伸ばすのを。

 

 

 『―――――助けに来たよ!……待たせちゃって、ごめんね……行こう、れいかちゃん!』

 『…………みゆきさん――――――――――』

 

 

 沈んだ表情のビューティの手をハッピーが握ると、ビューティの顔に笑顔が戻った。そして、ハッピーがビューティを連れ出すように、ふたりの姿は蒸発するかのようにかき消えた。

 その瞬間―――――

 

 『…………デリート……―――――。』

 

 根元から、バグッチャーの全身が消散していった。

 

 『く……くそぉ……出会う度に強くなって……このままじゃボクの立場も危ういな……!!』

 

 悔しげな表情を浮かべて、ネンチャックは自身を闇色の光に包んで消えていった。とたん、校舎を覆っていた分厚い氷が、粉々に砕け散るのが見えた。

 

 『スゴい!スゴいよさっきの!!まさかハッピーといっしょに技が出せるなんて……もうサイッコーにキュアっキュアだよ~!……って、ハッピー……!?』

 

 私の隣にいたハッピーの姿が、輝くイーネルギーの粒子に包まれていた。

 

 『あはは……わたしがこうしていっしょに戦えるの、この時だけみたい……でも……ありがとう』

 

 ハッピーは、その手に握っていたモノを私の手の中に、大切に渡してくれた。

 青色のキュアチップ―――――《P-28 CURE-BEAUTY》と書いてある、ビューティのチップだった。

 

 『わたしに、ビューティを……れいかちゃんを助ける、お手伝いをさせてくれて……うれしかったよ』

 『え?う、ううん……私も、どーしてこんなコトができたのか、ぜんぜんわかんなくって……』

 

 たしか、ハッピーを助けた時、私の髪飾りにくっついたキュアデコルが、メモリアルロッドにセットされて、ハッピーのキュアチップもロッドに……

 こんなこと、今までなかったのに。それに、他のプリキュアを助けた時には、こんなのくっついてこなかった。

 何か、秘密があるのかな……?

 

 『それじゃ、わたしはチップに戻るね……―――――』

 

 ハッピーの姿が消えて、残されたのはピンク色のキュアチップ。私は、それを拾い上げた。

 

 『私も……大感激だよぉ……』

 

 お礼を言いたいのは私の方。こんな夢のような時間が過ごせるのも、メモリアと、レジェンドプリキュアのみんなのおかげ。本当にありがとう―――――

 

 『やっぱり、すごいよ』

 『……デーティア……』

 

 にっこりと笑いかけるデーティアからは、さっきまでのキツそうな感じは見えない。

 

 『"プリキュア"って、こんな感じなんだなって……見ててわかった気がするよ』

 『いやいや~そんなぁ~♪』

 

 そんなふうに言われちゃうと、私、テレちゃいますよぉ~♪

 

 『デーティアこそ、カッコよかったよ!きっと、男の子も大好きになってくれる、カッコいい『ヒーロープリキュア』になれるよ!』

 『そう、かな……"この男、ヒーローで、プリキュア!"って、なんかヘンな感じだけど……』

 《いーんじゃねーの?そーゆー仮面ライダーもいるんだろ?ドライブだっけ?》

 《そーなの!?その"どらいぶ"って"かめんらいだー"、プリキュアなの!?》

 

 なんか、データやメモリアも会話にまじって収拾がつかなくなってきているような……

 

 『……おふたりの"道"……ひとつにつながったようですね♪』

 

 と、私が手にしていたキュアチップから、青色のイーネルギーがきらめいて、幻影のようなビューティの姿が浮かび上がっていた。

 

 『れいかちゃん!』

 『この子が……キュアビューティ……』

 『はじめまして、りんくさん、ほくとさん……見せてもらいました……おふたりの戦いぶり、お見事でしたよ♪』

 

 スマプリでも最強クラスのビューティに褒められて、ますます私、キュアっキュアになっちゃいます……♪

 

 『これから、どんな困難が待ち受けているか、わかりません……困難極まるこの"道"の途中、躓くことがあるかもしれませんが……決して諦めないでください。私の氷の力も、困難を打ち破る一助になると思います……どうか、プリキュアの皆さんのこと、サーバー王国のこと……よろしくお願いします』

 

 真剣な表情で懇願するビューティに、心身ともに引き締まる思いがした。デーティアも思いは同じだったのか、神妙な面持ちで聞いていた。

 幻影のビューティが消えて、手元に残ったキュアチップ。今までで一番大変だったかもしれない分、感慨もひとしお。思いっきり、私はキュアチップを天に掲げた。

 

 『キュアビューティ、キュアっと!レスキュー!!』

 

 これで、8人目。

 そして―――――

 ようやく私達が、"ふたり"で通じ合って戦って、初めて手に入れることができた、記念すべきキュアチップ。

 千里の"道"の―――――第一歩目なんだ―――――

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 授業は途中で打ち切りになって、みんながぞろぞろと学校を後にする中、僕はドサクサ紛れに東堂さんに校舎裏に呼び出された。

 こうして、改まって対面すると―――――なんだかテレる。

 でも、今日、僕は彼女から大切なことを教えてもらったんだ―――――

 

 「今日は……本当にありがとう……私、とってもうれしかった!だって、八手くんといっしょに戦えて……本当の意味で、"ふたりはプリキュア"になれたんだもん……!」

 「僕こそ……その……『僕がプリキュアでいい』って言ってくれて……」

 

 彼女となら、僕はいっしょに戦える。

 互いの背を預けて、互いを信頼して、互いを認め合って―――――

 『好きなコト』に一生懸命になれる彼女は、まるで僕の写し身。

 

 僕は―――――この子を好きになって―――――本当によかった―――――

 

 「これから、どんなコトが起きるか……どんな敵が現れるかわからない……でも、あなたとなら、私、キュアっキュアでいられる!これからもよろしくね―――――」

 

 彼女は、僕に手を差し伸べながら言った。

 

 「"ほくとくん"!」

 

 ―――――!!!!

 

 一瞬、幻聴でも聞いたんじゃないかと錯覚してしまった。

 い、今、僕―――――

 

 ()()()()()って、呼ばれた―――――!?

 

 「……どしたの?」

 「い……いや……ちょっと、びっくりして……いきなり名前で呼ぶって……その……」

 「だ、ダメ……?これからふたりでがんばるんだから、ちょっとでも距離感近い方がいいかなーって……ほくとくんも、私のこと"りんく"って呼んでよ?」

 「そ、それはダメ!まだ、ダメ!!……そ、それよりも早く下校しないと……先生に怪しまれるよ!!行こう、東堂さん!!」

 「ちょ!?ちょっと待ってよぉ!?ほくとく~ん!!??」

 

 あぁ―――――この日は間違いなく、僕の記憶に一生残る日だ―――――

 僕の好きな人のいろんな一面―――――僕の脳裏に焼き付けられる、鮮烈な思い出。

 まだ―――――僕はキミのことを名前で呼ぶほど、近づけたとは思えないけれど―――――

 でも―――――

 

 僕のことを、受け入れてくれたキミに、少しでも応えられるよう―――――

 みんなにとっての『ヒーロー』に、少しでも近づけられるように―――――

 僕は戦う―――――

 

 この世界を守る―――――プリキュアとして―――――

 

 

 ―――――STAGE CLEAR!!

 

 RESULT:CURE CHIP No.28『CURE-BEAUTY』

 プリキュア全員救出まで:あと43人

 

【挿絵表示】

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 !!!WARNING!!!

 NEXT INTERCEPT IS LEADER PRECURE!!!

 

 『ふたりの奇跡!』

 

 『魔法つかい!プリキュア!!』

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 「さ~てと……寝る前にプリキュア板、チェックしなきゃ♪」

 

 今日は私にとっての新たなる記念日になった……♪

 ワケだけど、それでも寝る前にこれだけは欠かせない掲示板チェック。

 タブからキュアネットのブラウザを開いて、ブックマークからリンクを開いた。

 

 「………………え」

 

 いつものプリキュア板を開いた私は、目が点になった。

 ディスプレイにはこう表示されていた―――――

 

 〈404 Not Found〉

 

 つまり、『このページは存在しません』ということ。

 でも、どうして!?昨日までは確かにアクセスできたのに……

 

 《ページ、なくなっちゃってるね……》

 

 メモリアが首をかしげながら、ディスプレイの隅で言った。

 

 「う~ん……どーしてだろう?」

 

 管理人さん、何かあったのかなぁ?

 それとも、HDDか何かが壊れちゃったとか……?

 

 《ふぁぁ~あ……ねぇりんくぅ……あたし、もうネムネム~……(~_~)》

 

 大きなあくびをするメモリアを見て、私も眠くなってきた。戦いがあった日の夜はいつもこう、疲れが身に染みるんだよね……

 

 「そうだねぇ……寝よっか。おやすみ、メモリア、みんな……」

 《おやすみなさぁ~い……》

 

 メモリアが手を振って、タブの電源を切ってくれた。

 そして私もベッドに潜ったわけだけど―――――

 

 このとき、私は予想だにしていなかった。

 この『プリキュア板の消失』こそが、私達の戦いに変化をもたらす兆しだったことを―――――

 

 そして、気づいてもいなかった―――――

 

 『この戦い』が、『プリキュアVSジャークウェブ』という単純な構図なんかじゃ、なかったことさえも―――――




 ―――――りんくの『今回のプリキュア!』

 りんく「今回のプリキュアはだ~れだ?」

 『しんしんと降り積もる……清き心……!キュアビューティ……!』

 データ「『スマイルプリキュア』のサブリーダー、"冷綺(れいき)のビューティ"!属性はひえっひえの『氷』!」

 りんく「まじめでおしとやかな七色ヶ丘中学校の生徒会長、青木れいかちゃんが変身した、氷の力を操るプリキュアだよ!」

 データ「そんなビューティのキメ技はコレだぁ!!」

 『プリキュア……ビューティブリザーーーード!!』

 データ「氷の力を吹雪にして撃ち出すビューティブリザード!マグマさえも凍らせる絶対零度の技だ!!」

 りんく「今日は『最強のプリキュア』を目指してるデータが来てくれてるんだけど……当然、これからビューティと戦うかもしれないんだよね?何か攻略法あるの?」

 データ「トーゼン!!ビューティだって女の子なんだから、甘いモノには目がねぇと思うんだ。そこでだ、まずは甘いモノでおびき出す!!例えば……プリンとか……」

 ビューティ「プリン!!!(☆ ☆)」

 りんく「このコーナー始まって以来初!!まさかのご本人登場っ!?!?」

 データ「ビ、ビューティ!?どーしてここに!?」

 ビューティ「プリンと聞いて、いてもたってもいられず……嗚呼、プリン……なんと甘美な響きなんでしょう……」

 りんく「れいかちゃん、なんかキャラが違うような……」

 ビューティ「ところでデータ……前にお城の冷蔵庫に置いておいた、キラキラパティスリーの『りすプリン』……いつの間にかなくなっていたのですが……あれはいったいどちらに……?」

 データ「あ!……あ~……そうだ!アタシ、ほくとと仮面ライダーのDVD見る約束してんだよ、じゃ、じゃぁ……」

 ビューティ「お・待・ち・な・さ・い」

 データ「に、逃げられねぇ……!!背筋も凍るこの感覚、これが氷の力かッ……!?」

 りんく「あ……ダメだこりゃ。データがビューティに勝てるのはいつになることやら……それじゃ、ほくとくん、ヨロシク!」

 データ「出来心だったんだよぉぉぉぉぉぉ~~!!」


 ―――――ほくとの『レッツゴーライダーキック!!』

 ほくと「つまみ食いはダメ、ゼッタイ!そんなわけで、今回はこの技からだ!!」

 フォーゼ『ライダーロケットパアアァァァァンチ!!!』

 ほくと「仮面ライダーフォーゼが、ロケットモジュールを装備して繰り出す『ライダーロケットパンチ』!攻撃だけでなく、移動手段に使える便利な技だ!」

 メモリア「"ふぉーぜ"って、変わった名前だね」

 ほくと「『仮面ライダーフォーゼ』は、仮面ライダーシリーズ生誕40周年記念作品なんだ。だから、『変身』を意味する『メタモル"フォーゼ"』と、『40("フォー・ゼ"ロ)』から名前が採られているんだ。彼が使うツール"アストロスイッチ"の数も40個……とことん『40』にこだわったライダーなんだ」

 メモリア「トゥインクルも『40人目』のプリキュアなんだよね。偶然ってすごい!」

 ほくと「その40人目のプリキュアが『星の力』の使い手だったことにも、運命を感じるよ……次はこれだ!」

 V3『逆ダブルタイフーン!!!!』

 ほくと「仮面ライダーV3、『26の秘密』、その13……それがこの『逆ダブルタイフーン』だ!変身ベルト『ダブルタイフーン』を逆回転させることで、全エネルギーを放出して敵を粉砕するV3の切り札なんだ!」

 メモリア「デーティアが使ったのもすごかったよね!それなら、あればっかり使ってればラクショーなんじゃないの?」

 ほくと「ところがそうもいかない……V3がこの機能を使うと、向こう3時間、変身できなくなってしまうという弱点もある……初めてこれを使った風見志郎さんは、次に怪人と遭遇した時に変身できず、ピンチに陥ったこともある……まさしく諸刃の剣だ」

 メモリア「データって、"ぶいすりー"のことが好きなのかな?とっても熱心に見てるみたいだったけど……」

 ほくと「それは……データが、風見さんと自分を重ねて見てるからだと思う……風見さんも、デストロンの怪人・ハサミジャガーに両親と妹さんを殺されてしまった……僕も、データの話を聞いたとき、真っ先に思い出したのはV3……風見さんだった。データにとっては、画面の中のV3は、他人とは思えないんだろうね……」

 メモリア「マーチも、お父さんとお母さんや、弟や妹のことを話してくれたことがあるんだ」

 ほくと「そっか……あの時のマーチも、両親や兄弟たちから、力を貸してもらっていたのかもしれないね……」

 メモリア「みんなが早く、サーバー王国や元の世界に戻れるように、あたしもがんばらなきゃ……!」

 ほくと「それじゃ最後に僕達との約束!よい子のみんなは、仮面ライダーの必殺技を絶対にマネしちゃいけないよ!」

 メモリア「は~い!……あれ?なんかマネできそうな気もするけど……」

 ほくと「それじゃ次回も、お楽しみにっ!!」

 ――――――――――

 『レジェンドインストール+仮面ライダー』という組み合わせによって、キュアデーティアは無限に強くなれる!!……たぶん。

 さて、今回は次回予告がございません。というのも、次回から新章突入ということで、近日中に『新章予告編』を投稿し、そこで次回予告を載せようとも思っておりますので、しばらくお待ちを……

 『本家様』ではまず出てこないようなヒトたちが、ついに表舞台に姿を見せます……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章予告編

 こんにちは!東堂りんくです!

 ここまで、私達の物語を読んでくれて、本当にありがとう!
 ここでは、これからの私達の戦いを、ちょっとだけ、みんなに見せちゃいます!

 それでは、どーぞ!!


「……どう思います、先輩?」

 

「垂直登坂で100m換算5秒弱……"ジャマイカの黒い稲妻"が泣くな」

 

 

「間違いない……"Dr.G"の言うところの―――――"P"だ」

 

 

 

インストール@プリキュア!
 

新章予告
 

 

 

 

『小官が相手になろう!!"インスタント♨マニキュア"!!』

『ちゃんと覚えなさいよ~!!』

 

『バグッチャーが分身した!?』

『今までのバグッチャーと……違う!!』

 

「英語というのは風情が無くていけませんねぇ……母国語ながらに恥じますよ」

 

「キュアデーティアって、なんだかにぃみたい!」

 

「そんなバカな―――――……でも、これって―――――」

 

 

「"ゲーム病"だ……―――――」

 

 

「許さない……!お前だけは……ののかに手を出そうとしたお前だけは絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛ッ!!!」

 

「実に興味深い……ワタシの知的好奇心を、ここまでくすぐる存在……」

 

「やられました……!EMPとは味な真似を……!!」

 

「マスコミごっこは学生で卒業しとけ……でないと……怪我じゃ済まなくなるぜ」

 

 

「ワタシにとって"未知"は"敵"!!貴女達の存在はまさに世界にとっての未知!!」

 

「大人しく世界に真実を曝け出してください!!プリキュア!!」

 

「そして証明するのです!……"あのひと"の理論を!"先生"が正しかったことを!!」

 

『音撃斬!雷電激震ッッ!!』

 

 

「君ならば……彼女たちと、あの"不可能テロ"を引き起こす不明生物の正体を暴き出せよう……異端児と呼ばれているとは言え、"あの一族"の出である君ならばな」

「お言葉ですが……自分は確かに"あの一族"の出ですが、彼らと……"呪われた一族"と一緒に扱わないでいただきたい」

 

「ふ……ふふ……アハハハハハ!!!そうですか、そういうことでしたか!!!」

「もう"あのひと"は……そこまでたどり着いていたということですか……!ワタシがここまでかかったのに、もう……!!!」

 

P.R.E.C.U.R.E

 

「さぁ……いっしょに真実を明らかにしましょう―――――"ローズ"、"フェリーチェ"」

 

「我慢ならねぇんだよ!"求めたがり"が!!その結果、お前らがどうなってもいいってのか!?」

「そんなに大人が……信用できないっていうのか!?」

 

「プロトセーブ―――――起動」

 

 

「内閣電脳調査室・主任調査員―――――増子美津秋」

 

 

国家権力―――――ナメんなよ

 

 

インストール@プリキュア!
 

―――電調編―――
 

 

―――――鋭意執筆中―――――
 




 次回予告

 りんく「聞いた?スマホがいきなり発火する、"スマホ突然発火事件"!」

 メモリア「まんまな名前だね」

 ほくと「こんなことを起こすのは間違いない……ジャークウェブの仕業だ!!」

 データ「やつらを野放しにゃしておけねえぜ!!」

 りんく「出た!……あれ、でもこのバグッチャー、なんか様子がおかしくない……?」

 バグッチャー『ワガナハバグッチャー!!バクレツバクレツ〜!!!』

インストール@プリキュア!『爆裂!爆裂!!大爆裂!!!ミラクル@エクスプロージョン!?』

 りんく「私達と!」
 ほくと「僕達は!!」

 メモリアル・デーティア『『インストール@プリキュア!』』

 ――――――――――

 今回書かせていただいた『予告編』のセリフですが、本編で完全に同じセリフが使われるとは限りません……
 その時のストーリー展開等でセリフ回しが変わるかも、です。あくまでも『こんなノリのストーリーになる』という参考にしていただく、といった感じで、もしかしたら使われないかもしれないセリフもある……かも。いわゆる『嘘予告』になる可能性も……
 
 次回からの新章『電調編』に乞うご期待!
 ……でも初回はたぶん、ネタ回です……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

電調編 第9話 爆裂!爆裂!!大爆裂!!!ミラクル@エクスプロージョン!?
連続スマホ突然発火事件


 キャラクター紹介

 増子 美祢

 りんくのクラスメートの中学2年生の女の子。
 代々、新聞社やテレビ局など、報道の部門において華々しい活躍を上げている『マスコミ界の名家』と呼ばれる一族・増子家のひとり。
 探求心と好奇心が旺盛で、プリキュア関連の事件にもいち早く飛びつき、独自に取材を行っている。特に現実にプリキュアやジャークウェブの勢力が出現しだすと、彼女たちの正体や目的などもリサーチを始めたが、それをよく思っていないとある親類に釘を刺されている。
 将来は当然マスコミ関係の仕事に就きたいと思っているが、『写真』そのものにも興味を持っており、写真家になるのも悪くないかも、とも考えている。
 りんくとは何かとウマが合い、いろいろと情報を提供してくれるが、当のりんくがプリキュアであることは知る由もない。

 ――――――――――

 今回から新章突入!
 いきなりネタ回からスタートすることをお許しくださいッ。


 しんしんと降り積もる、清き心―――――キュアビューティです。

 

 『本物』しか世界を守れないがために、『本物』を目指そうとする、りんくさん―――――

 

 「私―――――"ホンモノ"になるって、決めたから」

 「私と一緒に……『ホンモノのプリキュア』に、なろっ!」

 

 『本物』を目指していいのか、葛藤するほくとさん―――――

 

 「いいのかな……男の僕が……プリキュアでも……」

 「僕で……釣り合いが取れるのか、わからないけど―――――それでも……いいのかな……?」

 

 でも、おふたりの"道"は、ひとつの目標に向かって重なりました……!

 目指す処、そこへつながる一筋の"道"―――――あなた達なら、決してそこから外れることがないと信じます……

 かの詩人……高村光太郎はこう詠いました……『僕の前に道はない、僕の後ろに道は出来る』、と……

 未来を拓くこの"道"を作り、歩んでいくのは、他でもないあなた達―――――

 

 『インストール@プリキュア!』―――――

 信じてお進みください―――――この遠い、道程のため―――――

 

 

 ……あ、美味しいプリンのお店をご存知でしたら、ぜひともご紹介を……♪

 

 

 ――――――――――

 

 ……ENEMY PHASE

 

 ――――――――――

 

 ツイてない……

 まったくもってツイてない!

 それもこれも、キュアデータに目をつけてからだ……!

 アイツと鉢合わせるまで、何もかもが上手く行っていたんだ……!

 この間のサーバー王国侵攻作戦の時だって……!

 

 「イライラしているようだなッ、()チャックッ!」

 

 この声……そしてヒトやモノの名前を間違える言い回し―――――

 

 「……ネンチャックだ。帰ってきてたのかい―――――スパムソン」

 

 確かコイツ、『別任務』で遠征に行っていたはずだ……どうして戻ってきたんだ?

 

 「御大将からの召還命令であるッ。サー()ー王国残党の討伐、および()ュアチップ奪還任務を新たに拝命したのでなッ。それと小官の事は『将軍』と呼ばぬかッ!?」

 

 相変わらずのカッコツケ。軍人ゴッコなんて古い考えだ。

 まぁ、この間のサーバー王国侵攻作戦を考え付いたのはコイツだし、キュアチップを確保できたのもコイツの功績だから、強くは言えないんだけど。

 

 「君まで駆り出されることになるってコトは……いよいよカイザランチュラ様も本気みたいだね……」

 「うムッ。因縁深き()リキュアを完膚なきまでに打倒しッ、御大将()イザ()ンチュラの威光を遍く()アルワール()に示すためになッ!!」

 「……その言語機能の不全、どうにかならないのかい?聞いてるこっちがなんかイラつく」

 「その事については小官も詫びようッ。それもこれもッ、黄色い小熊の如き()()()キュアッ……彼奴の一撃さえ喰らわねばッ……小官唯一の汚点であるッ……!!」

 

 苦々しい表情を、スパムソンは浮かべた。

 サーバー王国侵攻作戦の時に、コイツはキュアモフルンから不意打ちを食らった。ボクもその様子を見ていたけれど、後頭部へのミサイルキックがイイ角度で入っていた。

 以来スパムソンは、固有名詞を最低一文字は間違えて発音するようになってしまった。どうやら発声機能に支障をきたしたらしい。

 もっとも、その相手であるキュアモフルンもキュアチップになったことは確認しているけれど―――――

 

 「()ップの一部を輸送中に紛失したことがつくづく悔やまれるッ……!!」

 

 そう―――――あの時、51枚のキュアチップすべてを、ボク達ジャークウェブが手にしたわけではない。

 ボク達の本拠地へと帰還する最中、チップを輸送していたバグッチャーが断崖に架けられた橋を渡っていたところ、石に躓いて転んで、相当数―――――わかっているだけでも10枚以上―――――のキュアチップを断崖の底へと落としてしまったのだ。

 そのうちの1枚に―――――キュアモフルンのチップもあった。それらのチップは"別働隊"の手によって捜索と回収が進められ、数枚は回収したけど、未だに回収されていないチップもある。

 

 「それにフィッ()ンもだッ……!ヤツにあそこまでの傷を負わせたプリ()()アッ……いったい何処のどいつなのだッ!?」

 

 正確には―――――"フィッシン"。ジャークウェブ四天将の紅一点。

 彼女も哀れだ。ひとり先行したはいいが、発見されたときには瀕死の重傷を負っていた。

 カイザランチュラ様によって蘇生処置を受けて一命を取り留め、スパムソンに帯同してリハビリをしていた―――――と、ボクは聞いていた。

 

 「そのフィッシン……君のところでリハビリしてたんだろ?調子は戻っているのかい?」

 「……わからぬッ。なにしろ一言も口を利かぬ上ッ、あのような兜と鎧を纏っていては表情も何もわからぬッ。御大将が施した処置だと聞くがッ、声も顔もわからぬのではなッ。しかし、見たところ異常はないッ」

 「ならいいけど。それで?プリキュア対策、何かあんの?」

 「小官を誰だと思っているッ!?……ちょうど先頃回収されたッ、このチッ()を使うッ」

 

 そう言ってスパムソンが取り出したのは、《P-42》のチップだった。

 

 「それって確か、"情報子汚染"がヒドくて、調整する予定だったんじゃなかったのかい?」

 「フフッ……だからこそだッ!情報子汚染"コードV・A"……タイプ"R・T"……あえてプ()キュアにぶつけることでッ、その性能を確かめッ、あわよくば()()ュアを倒せればそれで良しッ!」

 

 確かにそのチップは、1枚で複数の能力を発揮することのできる、『あのプリキュア』のチップだ。ある意味、"相応"のモノか……。

 ま、止めはしないからやってみるといいサ。

 たまには―――――『規格外』や『掟破り』をぶつけてみるのも悪くないだろうし。

 さて……修行とか言ってこもってるアラシーザーをおちょくりにでも行ってやるか……。

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 「……というわけで、このたびいっしょに戦ってくれることになりました!キュアデーティアこと、八手ほくとくんで~す!みんな、拍手~!」

 

 東堂さんがこう僕を紹介すると、タブレット端末の中から、8人のプリキュアたちがにこやかに笑って拍手を送る。なんか、テレる……

 

 「……頼りないかもしれないけど……よろしく」

 

 ―――――ここは大泉中学校のパソコンルーム。いるのは僕と東堂さん、ふたりきり。

 東堂さんはパソコン部の部長もしていて、放課後はこのパソコンルームを自由に使わせてもらえるらしい。もっとも、部員は東堂さんただひとり、今年度中に部員を5人以上集めないと来年3月で廃部、という、顧問の高梨先生からの念押しも込みだ。

 で、どうして僕が東堂さんとこうしてパソコンルームにいるのかというと……

 

 「それじゃ、ケーブルでコミューンとタブをつないで」

 

 言われたとおりに、僕はおぼつかない手つきで、僕のスマホ―――――"ネットコミューン"と、東堂さんの"キュアットタブ"を、ケーブルでつないだ。

 

 「メモリア、お願い!」

 《おっけー!》

 

 タブの画面の中のメモリアが親指を立てると、画面に何やらよくわからない表示がされた。やがて、『OK』と表示が変わった。

 

 「これは……?」

 「ほくとくんのコミューンに、キュアットタブをリンクさせたの。これで、ほくとくんのコミューンや、キュアデーティアのキュアットサモナーから、キュアチップを呼び出せるようになるよ!」

 

 つまり……今までキュアメモリアルがしていたように、戦っているときにチップをどこでも呼び出せるようになるのか……確かに、それは便利だ。

 ……もっとも、まだプリキュアの全容を知らない僕にとっては、まだ持て余す機能だと思うけれど……

 それから、僕の持っていたキュアレモネードとキュアビートのチップも、東堂さんに預けることにした。

 キュアットタブの中には、プリキュアたちの仮住まい……のようなモノがあって、バグッチャーを倒して取り戻したキュアチップをキュアットタブに入れることで、プリキュアたちは普通の人間と同様に生活ができるらしい。

 ホント、今更ながらに現実感がない。でも、今こうして画面から僕に笑いかけている8人の女の子たちは、見た目はアニメのキャラクターだけれど、確かな人格を持つ、現実の女の子たちなんだ―――――

 

 《試してみなよ、ほくと!》

 「うん」

 

 呼び出したいキュアチップを思い浮かべながら、データが指定したアイコンをタップする。すると、液晶の上に、思い浮かべた通りの、キュアレモネードのチップが瞬時に現れた。

 8枚分ものキュアチップが入っていて、ゆくゆくは51枚も入れられるだろうタブ、そしてそこから瞬間移動でチップを呼び出せるネットコミューン……

 現代科学ではどうあがいても説明できない……かもしれないオーバーテクノロジーの産物。それらを手にしている僕たちは、まさに『選ばれし者』―――――

 否応無しに、使命感が僕の心を燃やしている。

 

 「さて、今日ほくとくんに来てもらったのは、コミューンとタブのリンクをつなぐことだけじゃないの。これから『プリキュア見習い』として戦って、51人のプリキュア全員を取り戻すためにいちばん重要なコト―――――それは……」

 「(ごくり。)そ、それは……ッ!?」

 

 得意げな顔で東堂さんが差し出したのは、英単語の暗記に使う、『単語カード』。でも、そこに書かれていたのは、英単語じゃなくって―――――

 アニメの女の子のイラストだった。裏返すと、プリキュアの名前が書かれている。それと、変身前の本名付きで。

 

 「え……えっと、これわ……」

 「まずプリキュアビギナーのほくとくんがやるべきことは、プリキュアオールスターズ51人のみんなの顔と名前を、きちんと覚えること!この『プリキュア暗記カード』で、きっちりばっちり勉強してね!」

 「は、はぁ……」

 「でもって、ほくとくんがヒマな日は、放課後ココで私のプリキュア講座を受けてもらいますっ!みんなの力を使うには、トーゼンみんなのことも知ってもらわないとねぇ~♪」

 

 つまり……これから僕は一人前のプリキュアになるために、『プリキュア漬け』ってこと……?それはちょっと―――――

 

 「……………………う、うん……」

 

 しかし僕は何も言い挟むことはできず、ただうなづくだけしか出来なかった。

 なんか東堂さん、目がメラメラ燃えてるし、何かヘンなコトを言って水を差すのも良くないし……

 それに―――――

 

 「この機会にひとりでも"キュア友"を増やしておかないと……布教布教っと……うふふ♪♪」

 

 ……楽しそうな東堂さんの顔を見るのは、悪い気分じゃないし……

 ……こ、これはその、東堂さんとふたりきりになれる機会が増えてうれしいとか、放課後デートみたいだとか、そんな下心に由来するモノじゃなくて、その……

 

 ―――――ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!!!

 

 そんな僕の煩悩は、火災報知機のけたたましい音に吹っ飛ばされた。

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 火事かと思ってパソコンルームをほくとくんといっしょに飛び出して、避難訓練を思い出してグラウンドに出ようかと急いだ時、私の教室―――――2年1組のある本校舎2階の廊下に、人だかりが出来ているのを見た。

 部活動中の子が多いから、人だかりにいたウチの生徒たち、そのほとんどはジャージやユニフォーム姿だった。

 みんなが避難せずに、こうして人だかりを作っているということは、さっきの火災報知機は火事じゃないということ?

 ……その人だかりの中に、見知った顔があった。バレー部の助っ人をするために練習に参加しているむぎぽんだ。

 

 「むぎ!何があったの!?」

 

 ほくとくんがむぎぽんに訊ねた。そういえばこのふたり、幼馴染なんだっけ。

 

 「あ、ほくと!りんくも……」

 「むぎぽん、これって……?」

 

 私が見たのは、水浸しになった廊下だった。その一角に、真っ黒に焼け焦げた四角いモノが、水溜りのようになった廊下のすみにぽつりと存在していた。

 

 「スマ、ホ……?」

 

 ……に、私は見えた。四角いボディに液晶ディスプレイ。どこからどう見てもスマホだ。でも、どうして―――――

 

 「東堂ちゃん……稲上ちゃん……」

 

 すぐそばの教室―――――2年1組の教室の窓から、私とむぎぽんに向けられたか細い声。両の目からぽろぽろと涙を落としている子は……

 

 「宮本さん……?」

 「きせき!」

 

 クラスメートで、奇術部の宮本きせきさんだった。

 

 「あたし……あたしのせいじゃない……あたし……!」

 「きせき、落ち着いて……大丈夫だから……何があったの?どうしたの?」

 

 宮本さんは、涙をぬぐいながら、何が起きたかを説明してくれた。

 

 ―――――部活を終えて帰ろうとしたとき、スマホを教室の机に忘れていたのを思い出した宮本さんは、スマホを確保して教室を出ようとした。

 すると、急にスマホが熱くなって、思わず取り落としたところ、スマホが火を吹いた。

 天井の煙センサーが反応したのか、火災報知機が鳴ってスプリンクラーが起動して―――――

 

 ―――――……今に至っている、らしい。

 

 人だかりの中の何人かが、こんな話をしていた。

 

 「ねぇ、これってアレだよね、スマホが急に発火するっていう……」

 「もうこれで町内だけで5件目……マジ怖ぇよ……」

 「ってか、どーなってんだよ……4月からやばくね?この町……化け物も出るようになったし……」

 「呪われてるレベルだよねぇ……特にここ最近、うちの学校散々すぎない?グラウンドめちゃめちゃになるし、こないだは校舎が氷漬けになるし……」

 「うちのクラスの河野さん、親が引っ越し考えてるって言ってた……」

 

 学校のみんなの間には、不安が広がっていた。

 わけのわからない超常現象に巻き込まれて、しかもその理由や原因がわからないというのは、恐怖以外の何物にも感じないと思う。

 そう―――――これは、アニメでは描かれない部分だ。

 アニメで描かれているのは、あくまで『主観』。『アニメ』とは、プリキュア側、悪者側から見た、『主観的物事』にすぎない。事件に巻き込まれた『関係ない人たち』の事情が描かれることは、ほとんどない。もっとも、それが『脚本上の都合』だということはわかる。そういったことに『尺』を割けないことは、同じく脚本家を目指している私にはわかる。書きたいけれど、"ホン"に書けない、書くべきではない『裏設定』なんだ。

 でも、現実は違う。私は『プリキュア』で、敵は『ジャークウェブ』だけれど、その戦いに巻き込まれる人たちがいることも事実。

 『現実』には、『表』も、『裏』も、『設定』なんて『区切り』もないんだ―――――

 

 「あの……」

 

 私は思い切って、宮本さんに訊ねた。

 

 「スマホのことだけど……最近何か変わったことはあった……?」

 

 ――――――――――

 

 宮本さんから話を聞いた私とほくとくんは、パソコンルームに戻っていた。

 宮本さんのスマホ発火の件で、30分後に強制下校、ということになったけど、これだけは相談しておきたかった―――――

 というか、最初にほくとくんがすごい形相で力強くこう言ってきた。

 

 「ゴルゴムジャークウェブの仕業だッ!!!(`・ω・´)q」

 「…………う……うん、そだね……(・∀・;;)」

 

 うん、知ってる。たぶん、そうだと思った。ゴルゴムって何?

 ……というか何日か前に、この事件に関してちょっとだけネットで調べたことがある。

 まとめサイトや掲示板によると、この事件―――――『スマホ突然発火事件』は、この大泉町に集中して起こっている。

 2週間ほど前―――――スーパーのパートさんのスマホが突然発火したことがはじまり。それから数日おきに、同様の事件が3件、立て続けに起こった。

 原因はまったくの不明―――――

 宮本さん以外で事件に遭った4人とも、スマホは別々の機種を使っていて、警察の人もお手上げ状態だった。

 ―――――というのがこの事件のあらましだけど、私とほくとくんは、早々にこの事件の『犯人』の目星がついていた。

 もっとも、私がピンと来たのは、宮本さんから聞いた情報からだけど―――――

 

 「ゆうべ宮本さんがダウンロードしたっていう"電源管理アプリ"……あからさまに怪しいよね……」

 

 スマホの発火と聞いて、まっさきに思い浮かぶのが『バッテリーの異常加熱』。ところが今回の事件では、今しがた発火した宮本さんのものはともかくとして、他の4人のスマホのバッテリーは、すべて別々のメーカーのモノだったらしい。

 となると、そのバッテリーに負荷をかける要素と言えば―――――外部からダウンロードしたアプリしかない、というワケ。

 宮本さんからそのアプリのことを聞いて、パソコンルームからキュアネットで検索してみた。でも―――――

 

 〈一致する情報は見つかりませんでした。〉

 

 やっぱりだ。宮本さんがダウンロードしたアプリは、非公式の偽アプリだ!

 スマホのバッテリー消費がガラケーよりも激しい、という問題は未だに解決されていなくて、みんなの共通の悩みのタネ。かくいう私も、ネットコミューンに"強制機種変"されるまで、どげんかせんといかん!!と思っていたところ。

 ……え?ネットコミューンのバッテリー?……それがなんと、今まで一度も充電したことないんですよ、これが!もうひと月半くらい使ってるのに!ガラケーでもここまで長持ちしないのに……

 というか、電池残量のマークすら画面のどこにも見当たらないんですが……ますますナゾだ、ネットコミューン……スゴすぎます、サーバー王国脅威のメカニズム……

 

 「……やっぱりそのアプリ、ジャークウェブが作ったってこと……?」

 

 さすがの超速理解。私が言わんとすることを、ほくとくんは一瞬で分かってくれた。

 

 「だと思うけど……問題はそのアプリを、事件に遭った人たちがダウンロードしてたかどうか、なんだよね……」

 

 さすがにそこまでは、私達の情報収集では限界がある。フツーの女子中学生の限界……。

 

 「そうだ……!」

 

 今更ながらだけど、思い出した―――――!

 私には、『情報収集』がすっごく得意な友達がいたことを……!

 

 ――――――――――

 

 次の日、朝礼が始まる前に体育館裏でほくとくんと落ち合った私は、ゆうべの『成果』を報告した。

 

 「さっすが増子さん!バッチリリサーチしてくれてたよ!4人とも、同じ電源管理アプリをダウンロードしてたって!」

 「決まりだね……そのアプリを介して、ジャークウェブはスマホのバッテリーを発火させていたんだ……!」

 

 昨日家に帰ってから、私は情報通の増子美祢さんに連絡を取って、宮本さんと同じく事件に遭った4人が、同じ電源管理アプリをダウンロードしてたかどうか、調べてほしいとお願いした。

 すると、『もう調べてあるわよ♪』と、すぐさま返事が来た。増子さんもこの事件に興味を持って、いろいろと調べていたという。電源管理アプリの件も、その一環で調べていたらしい。

 『もしかして、この件の事何か知ってるの!?』と、興味津々な声がスピーカーの向こうから響いたけど、「ちょっとね……」と言葉を濁して、その場は切り抜けた。

 増子さんにはあとで何かフォローしとかないと……この件とプリキュアを結びつけたりしちゃったらマズい。

 

 「でも、どうするの?わかったところで、僕達には何ができるか……」

 「ふっふっふっ……それなら、いい手があるよ?」

 

 本来、プリキュアというのは『専守防衛』。『手を出してくるから、反撃する』―――――それが原則だ。

 しかしこの事件、放置しておいたら関係のない人がどんどん巻き込まれてしまう。取り返しがつかない事態が起こる前に手を打って、事件を解決するしかない!

 こっちから打って出るという、プリキュアからしてみれば"掟破り"だけれど―――――

 この街を、この世界を守るために―――――!

 

 ――――――――――

 

 ……ENEMY PHASE

 

 ――――――――――

 

 

 「次の目標はここかッ……」

 

 小官スパムソンはッ、次の目標とされる人間の端末へと潜入成功したッ。

 我々ジャークウェブの技術部が開発したこの偽装アプリケーションはッ、如何なるファイヤーウォールも紙の如く突破しッ、人間どもの使用する端末への潜入を容易たらしめるッ。我々ジャークウェブのネットワーク技術力は人間どもの数十年先を行くのだッ!

 プリキュアどもを誘き出すためッ、本分ではない潜入・破壊工作を行わねばならぬがッ……

 これもまたッ、御大将カイザランチュラが為ッ!小官はたとえ火の中水の中ッ、銃撃砲撃飛び交う戦場を駆け抜けるのであるッ!!

 ……ムッ?地の文担当になった途端に『固有名詞をキチンと言えている』だとッ?心中で語る分には支障なしッ、口で語るに支障が出るのだッ。

 

 「未だ最終目標ッ……プリキュ()どものアジトたる端末にはたどり着けぬがッ……いずれは奴等の端末を直接爆破しッ、()ーバー王国の残党を完膚なきまでに殲滅して見せようぞッ!!奴等が戦慄する姿が目に浮かぶッ……フフフッフフハハハハハハッ!!!」

 

 ―――――とん、とん

 

 何者かが小官の肩をたたいたッ。

 

 「何者だッ……?小官は任務遂行中であるッ。不明瞭な接触は止めよッ」

 

 ―――――とん、とん

 

 「クドいッ!!何者だと言っているッ!!用件があるのなら明瞭簡潔に50文字以内でッッ―――――」

 

 振り返った途端ッ―――――小官の頬に何者かの人差し指がぐにッと突き刺さったッ。

 

 「ぬ゛ッ!?」

 

 横目で小官が目にしたのはッ―――――2人の少女だったッ。

 そのうちの一人ッ―――――水色の髪の少女がッ、小官の頬を指で刺していたッ。にぃ、と笑った少女はひとことッ―――――

 

 「よォ」

 

 と、言ったッ。

 

 「な……なんだ貴官らはッ!?少女兵かッ……!?どこの所属だッ!?所属と官姓名を名乗れッ!!」

 

 身分を明かさずに、しかもアポイントメントも無しに接触するとは何たる無礼なッ。早急に身元を質しッ、責任者に再教育の徹底を下命せねばッ。

 ……しかしこの少女兵、どこかで見たことがあるような……ッ。アラシーザーとネンチャックが提供した映像資料に……ッ。

 水色の髪の少女兵が言ってきたッ。

 

 「"インストール@プリキュア"だ。歓迎するぜ。……盛大によォ―――――」

 

 即座に小官は事態を理解したッ。この他でもない小官を待ち伏せッ、策にはめるとはッ―――――!?

 しかしッ、小官がかつて戦ったプリキュアはいずれも可憐な少女兵であったッ。我々ジャークウェブの屈強たる兵でなければッ、攻撃を躊躇するであろう外見であったが……ッ。

 このッ、目の前の水色のプリキュアを見て、小官は即座にこう思考した―――――ッ。

 

 ―――――こんな兇悪な面構えのプリキュアがいてたまるかッ―――――!!

 

 ……SAVE POINT




 キャラクター紹介

 八手 ののか

 ほくとの妹。好奇心旺盛、やんちゃ盛りの幼稚園年長組。5歳。家族や友達からは『のん』『のんちゃん』と呼ばれている。
 『プリキュア』のメインターゲット層だけあって、プリキュアに夢中。家にはママにねだって買ってもらったプリキュアのおもちゃが多数ある。
 お兄ちゃん子であり、兄のほくととはお互いすごく仲がよく、『にぃ』と呼んで慕っている。
 『プリキュアごっこ』で兄を悪役に見立てて、パンチやキックを炸裂させるのは八手家の風物詩である。
 習い始めであるが、実は空現流拳法の使い手でもある。ほくと曰く『意外と蹴りが重い』。それ故、ほくと以外の友達とプリキュアごっこをする時は、みだりにパンチやキックをしないように両親から釘を刺されている。

 『インストール@プリキュア』が現れ、プリキュアが本当にいることを知り、幼稚園のお友達と熱狂的に語り合う毎日。キュアデーティアを初めて目撃し、彼女に助けられた一般人でもあり、すぐさまファンになると、ママがネットからプリントアウトしてくれたキュアデーティアの報道写真を宝物にしている。

 ……もっとも、その正体が男の子で、それも実の兄であるということを知らないのは言うまでもない。

 ――――――――――

 ついにジャークウェブ四天将の全員の名前が判明しました……!!
 しかし今回登場した『将軍』スパムソン、まさかの初戦でプリキュアに待ち伏せフルボッコか!?
 次回……爆裂、しちゃいます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この素晴らしい中古スマホに爆焔を!

 用語解説

 イーネルギー

 キュアネット上に存在する、楽しみや喜びといった『正の感情』が元となるエネルギー。
 インストール@プリキュアの4人は、イーネドライブによってそれらを取り込み、力に変えることができる。
 また、キメ技の際に放出されるのもこのイーネルギーであり、バグッチャーをデリートするためには、大量のイーネルギーをバグッチャーに撃ち込む以外に方法はない。

 ――――――――――

 仮面ライダークロノスに年甲斐もなく戦慄した稚拙です……
 えっと……11年前、仮面ライダーカブトはどーやってカッシスワームを攻略したんだっけ……?
 時間停止能力って反則級ですよねー(棒

 さて、今回は予告通り、"アレ"なバグッチャーが大暴れします!!
 最初に謝っておきます……『このすば』ファンの皆様、誠に申し訳ございませんッ!!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 《ぬぅぅッ……!!おのれッ!!なぜ小官の狙いがわかったのだッ!?》

 

 コミューンのディスプレイの中で拳を握って体を震わせているのは、『ハピプリ』のオレスキーのコスプレをした、『フレプリ』のウェスターっぽい男のヒトだった。ジャークウェブ、3人目の幹部ね!

 でも私たちが仕掛けた『トラップ』に見事に引っかかっちゃうなんて、見た目に反してわかりやすいヒトみたい♪

 それではご要望にお応えして、私達がどうやってこのヒトを『ココ』に追い込んだのかを分かりやすくご説明してしんぜよう。

 

 「その答えは……これよっ!」

 《ひだまりポカポカ!キュアロゼッタ!♪》

 

 私がロゼッタのチップをセットすると、得意げな顔のメモリアの隣に、ロゼッタウォールがふわりと浮かぶ。

 

 《障壁だとッ……!?そういえば斯様な形のファイ()()ールに何度も道を阻まれた……ッ》

 「このロゼッタウォールを、町中のキュアネット回線に仕掛けさせてもらったの。ジャークウェブの疑いのあるプログラム"だけ"を検知して、何事もなく通すよう、細工をしてね」

 

 キュアデータが、戦ったバグッチャーの"ログ"を『覚えて』くれていたのが功を奏した。彼女によると、『独特のチリチリした感じのログ』が残るらしい。

 で、その"ログ"に似たプログラムを感知するように、ロゼッタウォールを細工して仕掛けておいた、というワケ。

 でも、みんなが使っている回線までふさいじゃったらいけないから、最初は"ジャークウェブの疑いのあるプログラム"も含めて、全部透過するようにしておいた。ここまでの応用ができるロゼッタウォールも恐れ入るモノですよ。

 

 「あとは定期的に"ジャークウェブの疑いのあるプログラム"が通った場所を絞り込んでいって、そのエリアを取り囲むようにロゼッタウォールの"質"を変えるの。今度は"疑わしいプログラム"を通れなくするようにね。それを繰り返してどんどんエリアを狭めていって、最終的にあなたをこのスマホに囲い込んだ、ってワケ!」

 「ちなみにそのスマホ……本来お前が忍び込もうとしていたスマホと……()()()()()()()()()()!」

 

 ほくとくん、ノリノリでこのセリフを言った。左手を腰に当てて、右手を突き出してスマホを指差しながら。また何かの特撮ヒーローのネタなのかな……? 

 ただ、ほくとくんの言ったことは本当で、このヒトが潜り込んできたのは、もう必要ない中古のスマホ。私がおばあちゃんからプレゼントされたスマホ(現・ネットコミューン)に機種変する前に使っていた、少し前の古いモノで、いつか中古品として処分しようかと思っていたけれど、思わぬ使い道があった。

 これなら、万が一発火させられても問題ないし、なによりここは―――――

 

 大 泉 海 水 浴 場 ! !(開業前)

 

 ゴールデンウィーク明けの今の時期、近づいてくる人と言えば犬の散歩をするおじーさんやおばーさんくらい!何かあっても一切合切絶対安全!!!―――――たぶん。

 

 「名付けて……"ジャークウェブホイホイ"大作戦よっ!!!」

 

 こうやって誘い出されたこの幹部っぽいヒトは、まさに足を取られたゴ〇ブリ!!……なんかその、ごめんなさい……表現がプリキュアっぽくなくて……

 ちなみにこの作戦、実は私のオリジナルじゃなかったりする。

 キュアネット中にロゼッタウォールをばらまいて街の情報網を寸断したあの作戦―――――ジャークウェブが最初に大泉町に仕掛けてきたとき、アラシーザーがやった悪事の応用だったりするんだよね……

 

 《まんまだね(- -)》

 《すこぶるまんまだね(- -)》

 「ショッカーやデストロンの作戦名みたいだね(・_・)」

 「なぜか冷たい視線~っ!」

 

 『スマプリ』6話のあかねちゃんとなおちゃんのような視線が、メモリアとデータから突き刺さってくる……そうなればこう返さざるを得ない!!

 ……となりにいたほくとくんが目を点にしてたけど……

 

 《くッ……クッククククッ……なるほどッ……小官は貴官等の策に乗せられッ、まんまとホイホイされてしまったというわけかッ……!しかしッ!!》

 

 と、幹部っぽいヒトは懐から何かを取り出し、地面に叩きつけた。瞬間、閃光が放たれ、ボワンと煙が噴き出し、私達の視界をふさいだ。

 

 《わぁっ!?なになに~!?》

 《く!ケムリ玉か!!》

 「まずい……これじゃ何も見えない……」

 「逃げられちゃう……!?」

 《―――――フフフッ……安心しろッ。小官としてもこの状況は都合が良いッ。逃げ出す算段など考えておらぬッ》

 

 煙の奥から、幹部っぽいヒトが堂々と姿を現した。

 

 「ネンチャックと違って、堂々としてるね……まるでゾル大佐だ」

 

 ほくとくんはそう言ったけど、本当にそうか、まだ知れない。どんな隠し玉を持っているんだか……―――――

 それと……えっと、"ぞるたいさ"ってどちら様?仮面ライダーにも似たようなヒトがいたのかな……?

 

 ―――――ダンッッ!!

 

 幹部っぽいヒトは叩きつけるように両足をそろえ、敬礼した。同時に、立ち込めていた煙がぶわっと発散した。

 

 《小官はッ!!ジャークウェブ第壱大隊長・スパムソンッ!!よくぞこの小官を罠に嵌めたッ!!貴官等とその指揮官ッ、敵ながら見事な辣腕ぶりッ!!小官も部隊を預かる軍人としてッ、敬服に値するッ!!!》

 

 仰々しくまくしたてる姿は、オレスキーと似てるようで違う。なんというか―――――()()()

 液晶越しに感じるこの威圧感―――――ハンパない……!アラシーザーとは別のプレッシャーを感じる。

 そして、手にした指揮棒をメモリアとデータに向けて宣言した。

 

 《貴官等の奮闘に応えッ、小官が相手になろうッ!!"インス()()()()()()キュア"ッッ!!》

 

 ……………………(;゚Д゚)

 

 さっきまでカッコよかったのに、最後の最後で力が抜けた……ような気がした。

 噛んだの?それとも……ワザと間違えたの……?

 

 《ちがうよ~!あたし達は"インストール@プリキュア"!ちゃんと覚えなさいよ~!!》

 《ご丁寧に間のマークも間違えてやがんな……"@"だ、"@"!!》

 

 メモリアとデータは間髪入れずに抗議。データ、聞いただけでそこまでわかるんだ……

 

 《小官の言語機能不全に関しての抗弁は許可せんッ!!貴官等は此処でッ―――――"爆滅"せしめるッ!!》

 

 スパムソンは懐からキュアチップを取り出し、高々と掲げて叫ぶ。

 

 《理を超越せし奇跡よッ!!四つの輝きを以ってッ、好奇を穿ち爆裂させよッ!!()グッチャー、ユナイテーションッッッ!!!》

 

 ワルイネルギーが渦を巻いてキュアチップを包み込むと、その中から大柄なボディのバグッチャーが出現した。

 胴体に真っ赤な宝石のようなモノがくっついていて、ローブを羽織って、とんがり帽子をかぶってた。顔の部分の左目に、『+』マークが入った眼帯を付けて、大きな杖を持っている。今までに見たことのない趣味的な見た目のバグッチャーだ。

 もしかして―――――私はこのバグッチャーの見た目だけで、取り込まれているプリキュアが『誰』なのか、『3人』にまで絞り込めた。私の予想が正しければ、『あのチーム』の誰か、それ以外に考えられないんだけど……

 

 《………………………………》

 「あれ……?」

 

 しかしこのバグッチャー、現れたはいいけどダンマリ。『バグッチャ~~!!』って叫ぶのがフツーのハズ。なのにコイツ、微動だにしていない。ただ……

 ―――――右手で左目を覆い隠した、キメッキメのポーズをとったまま立ち尽くしている……??

 

 《ンだこいつ……?スカしてんのか?》

 「油断できないよ、データ……これがコイツの"構え"、なのかも……」

 

 ほくとくんがそう言って警戒した次の瞬間、ずん!!とバグッチャーは一歩前に出て、ポーズをとりながらこう叫んだ。

 

 《ワガナハバグッチャー!!ジャークウェブノヘーシヲナリワイトシ、サイキョーノコウゲキマホウ!バクレツマホウヲアヤツリシモノ!!!!》

 

 ……はっきりと、意味のある言葉をバグッチャーがしゃべるのを聞いたのは、これが初めてだった。

 まさか名乗りを上げてくるとは。予想外の行動に私はもとより、メモリアとデータも一歩ヒイた。

 しかしこの『名乗り』で、このバグッチャーに取り込まれているプリキュアの予想が、まったくわからなくなっちゃった……!!

 こんな風に名乗りを上げていて、かつ、イメージカラーが『赤』のプリキュアが、『別のチーム』にひとりだけいるから……

 これってどういうコトなの……!?

 

 《元々は爆破工作用に"調整"したがッ、十二分に戦闘に転用可能ッ!思い知れプリキュ()ッ、科学を超越せしモノの威力をッ!!》

 

 スパムソンがそう叫ぶと、バグッチャーは手にした杖を両手で持って、集中するように目を閉じた。そして―――――

 

 《ヒカリニオオワレシシッコクヨ、ヨルヲマトイシバクエンヨ、コウマノナノモトニゲンショノホウカイヲケンゲンス―――――》

 

 瞬間、けたたましい警告音がコミューンから鳴り響く。メモリアとデータのいる中古スマホのキュアネット空間内に、とてつもない高エネルギーが集中している……!?

 予想攻撃範囲は―――――広い!?安全地帯なんてほとんどないじゃん!!

 この一発で、全部終わらせるつもり!?出オチなんてサイテー!!

 

 《な、なんかヤバい感じのが来るよ~~!!》

 《どーするほくと!?ここで攻撃して一気に終わらせるか!?》

 

 データの言葉に、ほくとくんはあわてて首を振る。

 

 「ダメだ、近づくにしてもリスクが大きすぎる!どうにかしてしのぐしかない……!東堂さん、何か使える手はない!?」

 

 防御するにしても、"アレ"で防御しきれるか―――――

 でも、諦めるよりやってみなくちゃ、やらずに後悔するより、やって後悔する方が、いい!!

 

 「だったらぁ―――――っ!!」

 

 私とほくとくんが、キュアチップをセットした、刹那―――――

 

 《シュウエンノオウコクノチニ、チカラノコンゲンヲイントクセシモノ、ワガマエニスベヨ―――――》

 

 

 

キュアップ・ラパパ!!
 

 

エクスプロォォォォォジョンッッッッ!!!!

 ―――――ドゴゴオオオオオオオンンンンンンンンン!!!!!!!!!

 

 

 バグッチャーが杖を掲げると、轟音と閃光が、コミューンのディスプレイから噴き出した。

 実際にメモリアとデータがいるのは中古スマホの中のはずなのに、コミューンにも振動が伝わってくる。比喩じゃなく、本当に……!!

 

 「メモリア!メモリアっ!!大丈夫!?無事!?生きてる!?!?ねぇ!?メモリアぁっっ!!」

 

 コミューンの液晶には、黒々とした煙が立ち込めるばかり。何も見えないし、誰の声も聞こえない……

 

 「データ!……まさか……」

 《―――――……"死んでんじゃない?"って思ったか?……ご期待通り生きてんよ》

 

 データの姿が見えた。片膝をついていたけど、ほとんど傷もない。データの周りには、光り輝くドーム状のバリアが張り巡らされている。

 

 《ビートのバリアが役に立ったみたいだな……ナイス判断だぜ、ほくと》

 《ロゼッタウォール……4枚重ねでどーにか……》

 

 メモリアも無事でいた。ロゼッタウォールが、4枚重ねで浮遊していた。私がセットしたロゼッタのチップ、役に立ってよかった……

 でも、そのロゼッタウォールも、ひびが入っている。一発でこれだけロゼッタウォールが傷つくなんて、すごい威力……メモリアやデータが直撃を受けていたらと思うとぞっとする。

 

 「どうにか凌げたけれど……これって―――――……"運"だ」

 

 無意識に、私はこうつぶやいていた。

 

 仮の話―――――

 

 もし、最初に倒したバグッチャーにキュアロゼッタ"以外"のプリキュアがとらわれていたとしたら。

 

 もし、今までにキュアロゼッタを助け出せていなかったとしたら。

 

 もし、ほくとくんとデータがキュアビートを助け出していなかったとしたら―――――

 

 もし、このバグッチャーの攻撃を防ぐ手段を持っていなかったとしたら――――― 

 

 

 考えるまでもない。今ので、『終わってた』。

 

 

 今までの私とメモリア、ほくとくんとデータ、それぞれが戦ってきた『軌跡』が少しでも『ずれ』ていたら、この時点で私達は負けていたんだ―――――

 たったの一撃、それを防ぐだけでも、薄氷の上に成り立っている―――――それがこの戦いなんだ……

 

 「……それでも、それは僕とキミ、データとメモリアが得てきた力だよ。言うでしょ?"運も実力の内"ってね」

 「ほくとくん……」

 「今まで戦ってきたこと……得てきたモノ……全部を力に戦い抜く……それが……僕達にできることだよ」

 

 ほくとくんの言葉が、不思議と心の中に響く。

 そう、今までのことを振り返ってもしょうがない。大事なのは『今』、そして、これから先の『未来』なんだから―――――

 

 《バックレツバックレツランララン♪バックレツバックレツランララン♪♪》

 

 キュアネット空間の中の煙が晴れると、バグッチャーは楽しそうにスキップしながらぐるぐるとその場を回っていた。

 それにしても―――――このバグッチャーの中のプリキュア―――――

 

 ―――――誰!?

 

 こんなキャラのプリキュア、少なくとも私の脳内フォルダの中のプリキュアデータベースに載ってないんですけど!?

 今までのバグッチャーは、捕えているプリキュアの決め台詞や名台詞を、断片的に口に出していた。私には、その声は囚われているプリキュアが、助けを求める声にも聞こえた。少しでも、自分が『何者』なのかを、私達に伝えるための―――――

 でも、このバグッチャーは、『誰か』を特定するヒントどころか、全く無関係のセリフを口走っている。まるで、『アニメのプリキュアを演じた声優さんが演じている、別のアニメのキャラクター』のよう―――――

 それでも―――――やっぱりコイツは、"バグッチャー"だった。

 少なくともさっきので手掛かりはゲット……!空間を爆発させる前の"呪文"を、私は聞き逃さなかった。

 

 「……あのバグッチャー……"キュアップ・ラパパ"って唱えた……」

 

 『まほプリ』に登場する異世界・『魔法界』の魔法使いたちが唱える、魔法の呪文。

 となると、やっぱりこのバグッチャーに囚われてるのは、『魔法つかいプリキュア』の誰かということになる。

 でも、いったい誰……?ミラクル、マジカル、それともフェリーチェ……??

 

 「あの爆発を使って、スマホのバッテリーを発火させていたのか……!」

 

 ほくとくんがコミューンのディスプレイを見ながら歯噛みする。

 確かに、あれでバッテリーの制御プログラムを爆破すれば、一発でスマホが発火してもおかしくない。

 

 ―――――あれ?

 

 私は砂の上に置かれた中古スマホを見た。でも、スマホは無事だった。どうして―――――?

 

 《第一射を凌ぐかッ!上等であるッ!!しかしここからは容赦はせんッ!!第二射、装填開始ッッ!!》

 《ナントユーゼッコーノシチュエーション!!ウッテイーンデスカ!!??ウチマスカラネッ!!》

 

 バグッチャーはなんだかウキウキした様子で、再度エネルギーのチャージを始める。

 

 《アカキコクイン、バンカイノオウ、テンチノホウヲフエンスレド―――――》

 「ま、また来る!」

 《なぁに、心配はいらねぇよ……!》

 

 データが何かを確信したように言う。

 

 《あれだけハデにドカンとブッ放してんだ……残りエネルギーに頓着してるハズがねぇ。じきにガス欠、そん時が逆転のチャンスだぜ》

 

 ……―――――でも……―――――

 

 

エクスプローーーージョン!!!!

 ―――――バッゴォオォオォオオオオオーーーーーーーンンン!!!!!!!

 

 

プローージョンッッ!!!!

 ―――――ヴァッガアアァァァァァァァァァッァアン!!!!!!!

 

 

ローーージョンッッ!!!!

 ―――――どっか~~~~~~~~~~~~~~~~んんんん!!!!!!!

 

 

ジョンッッッッ!!!!!!

 ―――――ドッギャァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!

 

 

ン゛ッッ!!!!!!!!!

 ―――――ちゅどーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!

 

 

 《どーなんっての、データぁ……ガス欠なんて全然起こさないじゃ~ん…………(T T)》

 

 今までの爆発をどうにか避け切ったメモリアが、ヘロヘロになりながらも起き上がってきた。

 ……しかし、ものの見事なアフロ頭だ。なんか、昔ながらのコントにしか見えない。

 

 《ちっくしょ~……なんなんだ、コイツ……!》

 

 口元の煤をぬぐうデータが、バグッチャーを睨む。

 

 「ここまでやって、どうして息一つ切らさないんだ……!?」

 

 相手は攻撃一辺倒、全力の爆発攻撃を今まで5~6回は撃ってきた。

 でも、バグッチャーはぴんぴんしている。体力100%、元気ハツラツ状態……どうなってるの……!?

 

 「これっておかしい……絶対おかしい!」

 

 思わず疑惑と不満を口にしてしまった。これってまさかチートか何か!?

 と、その時―――――

 

 《!…………イマ……》

 

 バグッチャーがぼそりと呟いた。

 

 《イマ、"アタマガオカシイ"ッテイイマシタ~~~!?!?!?》

 「いや、『頭が』なんて言ってないし!?」

 

 私は反射的にツッコみ返した。余計な接頭語がくっついているのはどーして!?

 ……あれ??

 

 「今―――――」

 

 このバグッチャー、こう言った……

 

 「今、"言いました"、って、言いました……!?」

 

 バグッチャーと同じ言葉を繰り返してしまっていた。

 同時に、私の中で急速に"情報"が組み上げられていく。"魔法"、"キュアップ・ラパパ"、"言いました"―――――

 ほんのわずかな手がかりから、私の『脳内検索エンジン』は、ひとりのプリキュアを導き出す―――――

 

 「わかった―――――キュアミラクル……朝日奈みらいちゃんだ……!!」

 《マジかよ!?》

 《って、全然キャラ違うじゃん!?》

 

 メモリアがバグッチャーを指差しながらツッコミを入れてくる。確かに"キャラが違う"理由はわかんないけど……

 

 「爆発……炎の力は、ルビースタイルだから、じゃないかな……カラフルスタイルのひとつの……」

 「スタイル……つまりフォームチェンジするプリキュアってこと?」

 

 なぜか『フォームチェンジ』という言葉に、ほくとくんが食いついてきた。

 

 《『魔法つかいプリキュア』のリーダー……"輝石(きせき)のミラクル"……》

 「……奇跡のミラクルって、まんまだね」

 《漢字の書き方がちげーんだよ。輝く石、って書いてキセキって読むんだ》

 「輝く石……つまり宝石か。宝石をモチーフにした魔法使い、それにフォームチェンジ……!……仮面ライダーウィザードそのものじゃないか……!」

 

 たしか"ウィザード"って、『魔法使い』って意味だっけ……そのまんまな仮面ライダーがいるんだ……

 

 《何をゴチャゴチャと雑談に興じているッ!?バグッ()ャー、次の一撃で終わりにしろッ!!》

 《ダイジョービ、ワタシハツヲイ!!》

 

 どこをどうすれば、こんなキャラに変わっちゃうのか全然わかんない……でも、この中に囚われてるキュアミラクルは、きっと苦しんでる……!

 こんなに『自分』を歪められて、『力』だけを無理やり搾り取られてるんだから……!

 

 《アタシに考えがあるぜ……それに……アイツがフルパワーを出してもガス欠しないカラクリもなんとなくは感づいた……アタシの予想が当たってりゃ……"一発"でカタがつくぜ》

 「ほ、ホント……?」

 《フラグじゃねぇから安心しな。実はさっきな―――――》

 

 データは小声で私達に作戦を伝える。ふむふむ、確かにそれなら、エネルギー切れを起こさない理由にもナットクが……

 

 《フフフッ、策を練るかッ。しかしその策ごと捻じ伏せてくれるッ!!エネルギーチャージは完了しているッ!!今すぐに消し飛ばせッ!!》

 《そいつは無理だな!!》

 

 データはそう叫ぶと―――――バグッチャーに向かって一直線に突撃した!

 

 《"お師さん"が言ってたぜ……!"自分だけが喰らわない無差別攻撃"ってのは存在しないってさ!!巻き込まれりゃタダじゃすまないあの爆発、テメェの近くでできっかよ!?》

 《ぬぐッ……!!》

 

 つまり、バグッチャーは自分を巻き込まないように範囲を設定して、爆裂させていたというコト。さっき、データから教えてもらった通り!

 

 《でもって!》

 

 相手側からの死角、データの真後ろから飛び出したメモリアが、バグッチャーの股下をスライディングでくぐった。

 

 《これが!エネルギー切れを起こさない仕掛けだよ~~~~っっ!!》

 

 メモリアががっちりと抱え込むようにつかんだのは―――――バグッチャーの"シッポ"。

 その"シッポ"が伸びる先には―――――巨大な『電池残量マーク』が描かれたビルのような、スマホのバッテリー管理プログラムにつながっていた!

 そう―――――これがこのバグッチャーがエネルギー切れを起こさない仕掛け。カンタンな話、"コンセント"からエネルギーを受け取っていただけ―――――

 爆裂魔法を撃つそばから充電してるわけだから、エネルギー切れを起こすわけがない。

 

 《ぬぅッ、バレていたかッ!!》

 《気づいてないとでも思ってたのかよ!!》

 「さっきからこのバグッチャーはこの場をほとんど動いていなかった……ケーブルでつながれてる分、行動範囲が限られるのは当然だからね……!何かあるとは思っていたさ!」

 

 データだけじゃなく、ほくとくんも気づいていたみたい。さすが!

 

 「やっちゃって!メモリア!!」

 《よっしゃ~~!メモリア、ちょ~~~っぷ!!》

 

 ―――――ぶちっ!!

 

 メモリアはイーネルギーを纏わせたチョップを振り下ろして、バグッチャーのシッポをスパッと切断した。

 

 《!!!!!!!!!!!》

 

 バグッチャーの動きがぴたりと―――――止まった。

 一拍おいて、両ひざをついて、そのままバグッチャーは地面にへたり込んで―――――ダウンした。

 

 《…………ヤバイデス。クワレマス。スイマセン、チョットタスケテ………………》

 

 そんな弱々しい言葉が、バグッチャーの口から洩れた。

 ……なんというか……攻撃力だけパワーアップさせた結果、それ以外はむしろパワーダウンさせたような……なんてバランスの悪い……

 やっぱりこのバグッチャー、キュアミラクルと声がそっくりな別の誰かなんじゃ……少なくとも、みらいちゃんはこんなキャラじゃないし……

 

 《ぬぅぅッ……こうも呆気なく攻略されるとは情けないッ!!貴官はそれでもジャークウェブの兵士かッ!?》

 《何言ってんだお前。そもそもはテメーが招いた結果だぜ?》

 

 データは勝気にスパムソンを見た。

 

 《最初……テメーはスマホごとアタシ達を吹っ飛ばそうとした。そのバグッチャーを使ってな。そもそもは"それだけ"を使い道にしてんだ、大方一発ドカンとやって、ガス欠したら引っ込めてたんだろ。だから今まではそれで事が足りていた……だがアタシ達に見つかって、テメーはこのバグッチャーが倒されるのを恐れた……そこでテメーは、アタシ達をこのスマホの中で倒すか撃退するかして、どうにか切り抜けようとした……そこでバグッチャーとバッテリー管理プログラムを接続して、そいつを臨時の『拠点防衛用バグッチャー』に仕立て上げたんだ……バッテリー管理プログラムを吹っ飛ばさなかったのは、ソイツ自身のエネルギー源に使うため、壊すに壊せなくなったから……逃げ場のない今ソイツを壊せばスマホはドカン、テメー自身もゴーゴーヘヴン……つまり……―――――》

 

 データはこう長々と語って、びしりとスパムソンを指差し、ドヤ顔で言った。

 

 《テメーがこのスマホにノコノコ入ってきた時点で……勝負は決まってたんだよ!!》

 《データ、カッコイイ!!》

 《ぬ゛ううぅぅぅぅぅ………………ッッッッッッッッ!!!!》

 

 をを、なんかスゴいよ、データちゃん!推理モノの主人公みたい!!

 確かデータは『辞書』のアプリアンで、元々はとっても賢い子だって、メモリアも言っていた。

 ……最初に会った時脳筋だと思ってごめん……

 

 「どうする?これ以上は戦っても無駄よ!大人しくそのバグッチャーから、キュアミラクルを解放して!」

 

 でろ~んとダウンしたバグッチャーの姿は、見ていて不憫になってくる。無駄な戦いはしたくないし、このまま―――――

 

 《……見事ッ!!!》

 

 しかしスパムソンは大ゲサに胸を反った。

 

 《小官を戦略的にもッ、そして戦術的にも出し抜いた貴官等と指揮官には感服の極みッ!!なれどもッ、降伏勧告には応じられぬッ!!―――――戦場を変えるぞッ!!》

 

 スパムソンはそう言うと、バグッチャーとともに瞬時に姿を消した。そして―――――

 

 《BE ON GUARD!!! BUGUCCHER REALIZE!!!》

 

 今度は現実の、私とほくとくんの目の前に、スパムソンとバグッチャーが実体化してきた。

 

 『直々に相手をしてもらおうかッ、指揮官殿ッ!!』

 

 切り替えが早い。精神的にヘコむタイプじゃないみたい。その点は似たような恰好をしているオレスキーとそっくりかも。

 

 「……ほくとくん、変身よっ!!」

 

 一度言ってみたかったんだよね、このセリフ♪ほくとくんもノッてくれたようで、「うん!」とうなづいた。

 

 《《START UP! MATRIX INSTALL!!!》》

 「「プリキュア!マトリクスインストーーール!!」」

 《CURE-MEMORIA! INSTALL TO LINK!!》

 《CURE-DATA! INSTALL TO HOKUTO!!》

 《INSTALL COMPLETE!!!》

 

 『記し、念じる、無限の未来!キュアメモリアル!!』

 

 『渾然一体……涙祓一心!キュアデーティア!!』

 

 

未来へつながる電子の輝き!

 

 

キラメくふたりは!

 

 

インストール@プリキュア!!

 

 

 メモリアとデータが頑張ってくれた分、今度は私とデーティアが頑張る!

 しかも相手のパターンはわかってるし、今回は充電できるような場所もないし、楽勝―――――

 

 『クククッ、このバ()ッチャーの真の力を見せてやるッ!!攻撃方陣ッ、"四輝砕(シキサイ)"ッッ!!!』

 

 スパムソンが指揮棒をふるったその時、バグッチャーはむくりと立ち上がり、そして―――――

 一瞬光ったと思うと、背後から新たに3体のバグッチャーが姿を見せてきた……!!

 

 『バグバグモンダァ~~~!!!』

 『ワガナハバグッチャ~~~!!!』

 『アナァ~タノオミミニプラグイ~ン♪』

 『バ~グリモノ~!!』

 

 それぞれが、白・赤・青・黄色の宝石を胸に抱く4体のバグッチャー―――――

 その威容を前に―――――私は思わず呟いていた。

 

 『バグッチャーが………………分身した…………!?』

 

 ……SAVE POINT




 中 の 人 が 増 え た ぞ ! 
 (変な奴がいるぞ!!のノリで)
 これぞ情報子汚染"コードV・A"タイプ"R・T"の恐怖!!
 4体の"ミラクルバグッチャー"相手に勝機はあるのか!!??
 今回以上にカオスになるかもしれない次回、もうちょっと待っててください……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プリキュア、爆現!

 お久しぶりになりまして申し訳ありません……
 さて今回は後篇Bをお送りします!!
 メモリアルとデーティア、さらに一歩前に進みます!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

    CURE-MEMORIAL

 ⇒  CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 僕とメモリアルの前に姿を現した、4体のバグッチャー―――――

 

 『バグッチャーが………………分身した…………!?』

 

 メモリアルがそう言って驚いていた。でも僕は不思議と―――――

 "想定の範囲内"だった。

 

 『ドラゴタイマーを使った分身……のようなものか……』

 

 相手が"魔法使い(ウィザード)"だというのなら、それもあり得ると考えていたから。

 プリキュアと仮面ライダーを同一視して判断するのは本来危険だけど、今回は勘が当たったようだ。

 

 『絶対的戦力数において優位に立つッ!これぞ戦略の基本であるッ!!圧し潰せッ!!』

 『『『『バァグッチャ~~~!!!』』』』

 

 スパムソンが指揮棒を振るうと、4体のバグッチャーが一挙して押し寄せる。このままじゃ不利だ……!

 それなら!

 

 『せぃッ!!』

 

 僕は砂浜の地面を思い切り殴りつけた。砂煙がそそり立ち、その場の全員の視界を一瞬ながら封じてくれた。

 次は砂煙に紛れて、青のバグッチャーに正拳突きを叩き込んで強引に吹っ飛ばした。一瞬で、視界からバグッチャーの1体が消える。

 

 『次は!』

 

 全身の"氣"を、右脚に集中―――――見据える先には黄色のバグッチャー―――――

 駆け出し―――――突っ込む!!

 

 『―――――空現流貫槍術(カンソウジュツ)……!弐式徹甲機動(ニシキテッコウキドウ)―――――!!』

 

 右のブーツの金属パーツが開いて、水色のイーネルギーが噴き出し―――――

 

 

 『"綺羅掃(キラハバキ)"!!!』

 

 

 地面と水平に―――――蹴り出しながら跳ぶ!!

 大柄なバグッチャーの胴体を捉えて、そのまま引き離す!!

 

 『デーティアっ!?』

 『こっちの2体は僕が!キミはそっちをっ!!』

 

 一瞬で、後ろへと流れていくメモリアルの姿。彼女にこの言葉が伝わっているのか、正直わからなかった。 

 ネットコミューンで通信ができれば別だけれど―――――

 でも、この時、一瞬だったけど―――――僕は確かにこの目で見た。

 

 『……!』

 

 ―――――メモリアルが、僕に向かってうなづくのを。

 今のが聞こえた……それとも―――――"届いた"……?

 

 『フ~~タフタ~~♪』

 『!』

 

 黄色のバグッチャーを蹴り飛ばしたのも束の間、最初に吹っ飛ばした青のバグッチャーが、体勢を立て直してターンしてきた。

 

 『マイシュ~コマクニソヨカゼヲ~♪♪』

 

 大きく両腕を広げた青のバグッチャーが、なぜか歌いながら、その身を高速回転させて突撃してくる。さながら巨大なコマだ。

 勢いの乗った手刀が僕を狙う―――――けど!

 

 ―――――その攻撃は、懐がガラ空く!!

 

 相手の手刀の"下"に潜り込むように動けば、攻撃を避けつつ間合いを詰められる!

 さらに―――――!

 

 『空現流戦刀術(セントウジュツ)―――――弐式奇迎閃(ニシキキゲイセン)―――――』

 

 そこから、相手の顎を狙う宙返り蹴り―――――!!

 

 

 『"都牟刈(ツムハ)"!!!』

 

 

 所謂、サマーソルトキック―――――空現流拳法の中では、割と古い技。変身しなくてもこなせる技だけど、当然キュアデーティアの姿で放てば段違いの威力になる。ブーツの根元からのイーネルギーの噴射が、蹴り出しからの初速を早めて、その分威力は『鋭く』なる。それこそ―――――

 ……一撃で巨大な相手もダウンできるくらいに!

 一瞬、青のバグッチャーの巨体が舞って、仰向けに砂浜に叩き落ちる。

 それを乗り越えるように、黄色のバグッチャーが躍りかかってきた。手には金色に輝く棒状の武器を持っている。形は―――――野球のバット……?

 剣や槍よりも身近で、武器として使えるモノ―――――こちらの方が、現実的な脅威(こわさ)を感じる。

 

 『マ~ヨネ~~~ズ!!』

 

 振り下ろされるバットの一撃。たたきつけられた砂浜の砂が轟音とともにそそり立つ。

 今の一連の流れで、この2体の"傾向"はわかった―――――

 

 『黄色は力押し……青はスピードとテクニックで攻めてくるタイプ、か……』

 

 ―――――さながら、技の1号・力の2号、といったところか。

 今までの戦いとは違って、相手は2体。遠くで閃光が奔る。メモリアルもまた、残り2体のバグッチャーと戦闘を開始したようだ。

 前回の戦いと似ている、"多勢に無勢"。でも前回は、あくまで『戦闘員』が多数いたに過ぎない。

 今回の場合、"怪人級"が2体いる。油断ならない相手だ。

 どうする?1体を集中攻撃して倒すか……いや、長時間かかずらって、もう1体が何もしてこないわけがない。だからといって2体同時に相手にして器用に立ち回れるか?ダメだ、リスクが大きすぎる。それに戦っている間に戦場が『流れて』いって、メモリアルともう2体の戦場に雪崩れ込む可能性も……それだけは絶対に避けたい―――――

 どう立ち回る……?どう戦う……?

 くそッ!やっぱり、『見る』と『実際に行動する』とでは違う!画面越しに見るヒーローたちは、1対2の戦いだって簡単にこなしていたのに、こうして実際に僕がこの身で戦うとなると、こうも―――――……!

 

 《なにひとりでドツボにハマってやがんだ》

 『……!』

 

 心の中から―――――声が響く。

 

 《お前だけで戦ってるって勘違いされちゃ心外だぜ。今のお前のその体、"誰"と"誰"で出来てっと思ってる?》

 

 ―――――そうだった。

 僕はひとりじゃない―――――それに―――――"ふたりだけ"でもないんだ。

 

 『ごめん……』

 《いいってコトよ。でもよ、そういう時は"ごめん"じゃなくって、"ありがとう"の方がイイぜ?言った方も言われる方も、心にシミるぜ》

 『うん……ありがとう』

 

 データの言葉で、心に余裕ができた。改めて、僕は2体のバグッチャーを見渡した。

 

 『……どう戦おう……2体同時にどう捌こうか……』

 《いつも通りにガン攻め……って行きたいトコだけど、相手が相手だしマズい手だ……ってことで、ここは攻めよりも守り重視でどーよ?》

 『……!そうか、それなら……』

 《そーゆーコト!昨日りんくから習ったろ?》

 

 この数日、東堂さんから受けたプリキュア講義―――――その中で習った、"彼女"の力なら―――――

 

 『よぉし……"キュアットサモナー"、スタートアーーップ!!』

  

 これも東堂さんから教わった。両手の甲にある装置は、念じるだけでタブの中のキュアチップを呼び出せるテレポート装置らしい。

 呼び出したチップを手に取って、ネットコミューンにセットする―――――!

 

 『キュアチップ、『キュアロゼッタ』!!』

 《ひだまりポカポカ!キュアロゼッタ♪!》

 

 心の中のデータの部屋の、その隣に、黄金色の部屋が現れた。

 

 《お呼びいただけると思っていましたわ、ほくとさん♪》

 

 まるで僕たちの戦いぶりを見ていたようなキュアロゼッタの口ぶりだ。僕がこう心の中に走らせたのを読んだのか、彼女はこう付け加える。

 

 《データや皆さんの戦いの様子は、キュアットタブにリアルタイムで伝わるのです。ですから、戦いの場がどのような様子なのか、ある程度分かるのですわ》

 『そうなんだ……』 

 《それと……後学のために、キュアネットを通していろいろとお勉強させていただきましたの。ほくとさんがお好きだという"仮面ライダー"さんのことも、少々……♪》

 

 少し、僕は驚いていた。キュアットタブから、プリキュアたちがネットを通して情報を得られるなんて、東堂さんからは聞いていなかったから。

 でも、それなら僕としても非常にありがたい。僕の勝手で仮面ライダーの技を再現してプリキュアたちを振り回してしまうよりも、彼女たちが少しでも仮面ライダーを理解してくれて、その上で協力して技を使うことができるなら―――――

 

 《そこで、ご提案なのですが―――――》

 

 ロゼッタが僕に示した『提案』―――――正直、意外だった。

 

 《―――――……どうでしょう?》

 『ストレートにレンゲルじゃないんだね』

 《あの方は"氷"の仮面ライダーさんですし。そこはそれ、ワタシは"ひだまり"―――――"太陽"のプリキュアですから♪》

 

 ロゼッタが僕に提案した、『とあるライダーの戦術再現』。かなり思い切ったチョイスだと思った。

 でも、『攻撃』を『ライダーの技』で、『防御』を『プリキュアの技』で分担して使うのなら―――――行ける!

 

 『やるよ―――――!』

 《かしこまりましたわ♪》

 

 僕はネットコミューンを右手に持ち、左手を握り拳に変え、胸の前で左手をコミューンにぶつけた。コミューンから、電子音声が響く。

 

 《READY(レ・ヂ・ィ)

 

 それを聞いた僕とロゼッタは、バグッチャーを見据えて、静かに、そして力強く唱えた――――― 

 

 

 

ロゼッタ、爆現。

 

 

   〈MASKED RIDER KIVA〉

 ⇒ 〈MASKED RIDER IXA〉

   〈MASKED RIDER SAGA〉

 

 《FIGHT FOR JUSTICE!! 7・5・3・8・3・1・5!!》

 

 《FIST-ON(フィ・ス・ト・オ・ン)

 

 《CURE-ROSETTA! INSTALL TO DATEAR!!》

 

 それまで纏っていた基本コスチュームから、白と黄色の2色で彩られた、トランプの『クラブ』をモチーフとしたコスチュームへと、僕の姿が変わった。

 

 《INSTALL COMPLETE!!》

 

 太陽の輝き―――――でもこれは、強烈に照りつけるような、真夏の輝きとは違う。

 すべての生命を包み込み、目覚めを促し春を告げる、優しくも暖かな―――――

 しかし、高潔で、まじりけのない、堂々たる―――――

 

 

 "ひだまり"

 

 

 『キュアデーティア……"ロゼッタスタイル"―――――ですわ♪』

 

 

 なぜか―――――所作が『それらしく』なっている。ここまで『女の子』に自然と『なりきれる』のは、初めてかもしれない。

 僕は両の手で、トランプの『クラブ』のマークを模って、2体のバグッチャーに向けながら―――――

 

 『世界を制するのは愛と正義です♪さぁ、アナタも"ワタシたち"と愛を育んで、そのお命、神様にお返しになってくださいな♪♪』

 

 仮面ライダーイクサ(というより名護さん)とキュアロゼッタ、2人分のそれが混合された決め台詞を言い放っていたのだった。

 

 《……ロゼッタの決めゼリフがいよいよもって物騒に聞こえるぜ……》

 《100点満点ですわ♪》

 

 データがあきれて言うけど、ロゼッタはとても満足そうだ。

 

 『ア~~~キバ~~~~!!』

 

 背後から殺気を感じた。光かがやく野球のバットを両手持ちして、こちらに一直線に突撃してくる黄色のバグッチャーだ。

 とっさに―――――振り向きざま、僕の右脚が出た。

 

 

 ―――――ダン!!!

 

 

 吹っ飛ぶでもなく、倒れるでもなく、バグッチャーはその場でピタリと―――――止まった。

 これって、『仮面ライダーキバ』の第13話で、イクサに変身する名護啓介さんが、変身していない生身の状態で、走ってきた車を右脚だけで止めたシーンの再現……だよね……?

 

 『わ……っ///』

 

 ガニマタ状態なので、『女の子的』にはヒジョーにはしたない……のではないだろーか。

 僕はあわてて、そのまま左足を添えてバグッチャーを両脚で蹴り飛ばしつつ、宙返りで間合いを取った。

 

 『イ~ヤホ~ンズ!♪』

 

 黄色の背後から、青のバグッチャーが僕に向かって飛び出した。こいつはスピードとテクニックに秀でたバグッチャー、正面からでも―――――止められる!

 僕は手刀の振り下ろしを飛びのいてかわすと、続けざまの貫手を捌こうと―――――

 

 

 『―――――"護葉反鏡陣(ロゼッタリフレクション)"!!!』

 

 

 ラブハートアローから、大きなクローバー型のバリアが飛び出し、バグッチャーの貫手を受け止めた。昨日、東堂さんから習った通り!

 プリキュアが使っていたオリジナルの技―――――初めて使ったけど、なかなか使い勝手がいい。この防御力、『仮面ライダー剣』の『(オリハルコンエレメント)』みたいだ。

 

 『返すよ!』

 

 すぐさま僕は右腕を振りかぶり、掌底でリフレクションを叩いた。四葉のバリアが、青のバグッチャーを押し出すように吹っ飛ばす。

 

 《今です!》

 『うん!』

 

 ロゼッタの合図で、僕は思い切りジャンプする。両手持ちしたラブハートアローにありったけの"氣"を集中して―――――

 

 『でぃぃぃぃぃぃやッ!!』

 

 リフレクションをもう1枚、そして2枚、3枚!連続で作り出して、青のバグッチャーに投げ落とした。バグッチャーの右、左、後ろの砂地へと、リフレクションが突き刺さる。バグッチャーの四方を、リフレクションでふさいだ形だ。

 

 『最後は……!』

 

 着地して、おまけにもう1枚、リフレクションを作り出して―――――

 

 『上にかぶせて落しブタっ!!』

 

 だっ。これで完成っ!バグッチャーには悪いけど、ここでしばらく大人しくしててもらうよ。

 実は似たような技が、空現流拳法にある。地面を隆起させて相手の攻撃を防ぐ『辻畳』を連続で放って、相手を閉じ込める『参式封遁陣(サンシキフウトンジン)"岩戸封爾(イワトフウジ)"』という技がある。でも今回僕が使ったのはいわば応用技で、この場合別の技になるから……

 ―――――名付けて―――――

 

 

 『空現流防楯術(クウゲンリュウボウジュンジュツ)参式封遁陣(サンシキフウトンジン)(アラタメ)―――――"護葉天照肆方封爾(ゴヨウテンショウヨモフウジ)"―――――』

 

 

 っといったところか。でも、いいのかな?プリキュアの力を借りた技なのに、『空現流』の技として名付けてしまって……

 そんなことを思ったら、僕の心の声にロゼッタが答える。

 

 《何も問題ございませんわ♪確かに、ロゼッタリフレクションはワタシ……キュアロゼッタの力に由来する技ですが、それを応用して、別の技へと昇華させたのは紛れもなくほくとさん……胸を張って、『空現流』を名乗ってくださいな♪》

 『ロゼッタ……』

 

 彼女は正真正銘、脅威から人々と世界を守り抜き、戦い抜いた『本物の英雄』のひとり。そんな彼女から労いを言ってもらえると、なんだか誇らしく思える。

 

 《もっとも……このような方法で『封じ込め』をするなんて、予想外でしたけど……》

 

 実はさっき、ロゼッタから『提案』を受けた時、『2体のバグッチャーを捌く方法』も伝授されていた。

 

 

 ―――――無理に2体同時にお相手する必要はございませんわ。2体のうちの1体の動きを『封じ込め』て、1体ずつお相手すればよいのです♪

 

 

 それを実践したのがさっきの技だ。リフレクションがどこまでもつかわからないけど、それでも時間稼ぎにはなる。この間に―――――

 

 『……1対1で、じっくり相手をしてあげるよ……!』

 『バキュゥ~~~ム!!!』

 

 重々しい足音を響かせながら走り来る黄色のバグッチャーの巨体が、重量感のままに迫る。光のバットをあおって、力任せの上段からの振り下ろし。

 

 ―――――それは、もう見た!!

 

 既視の攻撃動作―――――もはや見ただけで、その対処ができる。僕は相手のバットを受け止めながら右側に体を流しつつ、相手の勢いを利用して、そのまま砂地へとたたきつけた。

 僕の中にいるデータの『絶対記憶能力』は、変わらず力になってくれている。僕の見切りの目が、さらに冴えわたるようだ。『一瞬の判断力』が、普段とは段違いに高められる―――――

 

 『悪いけど、時間はかけられない……一撃で決めるよ!』

 

 体勢を立て直そうとする黄色のバグッチャーに肉迫した僕は、ふぅっと息を吐きだす。全身の『回路』が切り替わり、『氣』が右の拳に集中していく―――――

 

 《IXA-KNUCKLE(イ・ク・サ・ナッ・ク・ル)

       RISE-UP!!(ラ・イ・ズ・アッ・プ)

 

 たどたどしくも力強い電子音声が、コミューンから響き渡る。同時に、右の拳から力が迸り、強烈なエネルギーがスパークする。

 無論―――――『ほくと()』だけの『氣』では、こうして『力』を現出させられるほどには至らない。これは『僕』だけの力じゃない―――――

 僕の『氣』、データの『イーネルギー』、ロゼッタの『ひだまりの力』―――――

 3つの力と戦う意志を、この一撃に込める!!

 

 

参 位 壱 躰(サンミイッタイ)

 

 本来は、拳の一撃とともに5億ボルトの超高圧電流を叩き込む技。僕が放とうとしている技とは似て非なる。

 でも、僕たちの力を一つに重ね、初めて放てるこの技もまた―――――"牙折ノ戒撃"。

 正義の名の下、叩き込んだモノの命を神に返すこの技は―――――!

 

 

ブロウクン・ファング

 

 力を込めた渾身の右の正拳が、吸い込まれるようにバグッチャーの胴体に『入った』。

 芯の中の芯―――――"真芯(マシン)"を捉えた"感覚"が、ダイレクトに伝わる。

 拳法や空手の試合の時と同じ―――――一撃を加えた瞬間に脳幹へと伝達し、全身へ浸透する爽快感―――――

 

 ―――――"勝った!"

 

 それが、今まで以上に、本能的に感じ取れる―――――!!

 

 『…………タ…………モ………………ツ……―――――』

 

 ―――――ドォォォォォォオオオオン!!!!!!

 

 切れ切れに何かを言い残し、黄色のバグッチャーは閃光を放って爆散した。

 後は残り1体……リフレクションで封印して置いたアイツは―――――

 

 ―――――バキィィィィィィン!!!!

 

 ガラスが砕け散る音にも似た鋭い音が鼓膜を刺激する。見ると、リフレクションが粉砕され、青のバグッチャーが大ジャンプして脱出するのが見えた。

 そして一目散に向かった先は―――――海!?

 大きな飛沫を上げて海に飛び込む巨体を見て、データが絞り出すように言う。

 

 《マズい……!『魔法つかいプリキュア』の"青の姿"―――――"サファイアスタイル"は水の力を持つ姿……水の中では不利になるぜ》

 『だからって、ここで退くわけにはいかない……追うよ!』

 

 意を決して、僕は砂浜からジャンプして、海へと飛び込む。

 真っ白な無数の泡が、一瞬僕の視界を覆う。そして目の前に広がるのは―――――

 

 ―――――え……!?

 

 初めての、感覚だった。

 海の中に潜ったはずなのに、視界がぼやけることなく、水中眼鏡を掛けているかのように鮮明に映っている。

 息を止めて口を押さえた隙間から海水が口の中に入った。溺れる、と焦ったけれど―――――

 

 『…………!……息が出来る……!?』

 

 水中なのに、まるで普段と変わらない感覚。視界も、呼吸も、まるで違和感がない。

 これって、どうして……?

 

 《イーネルギーのおかげだな。この姿だと全身がイーネルギーのフィールドで守られるから、それで水ン中でも自由が利くみたいだぜ》

 

 僕もキュアメモリアルも変身すると、全身から少しずつ、泡のようにイーネルギーが湧き立つようになる。それがバリアの役割を果たして、敵の攻撃をある程度緩和してくれていることは知っていたけど、思わぬ副次効果があったということか。水中も大丈夫なら、もしかしたら―――――

 

 《!来るぞほくと!!》

 

 データの切羽詰まった声が体全体に響いた瞬間、強烈な衝撃を下から受けた。

 

 『ぐッ!?』

 

 何かが僕のすぐそばを一瞬で通過していった。間髪入れず、右、上、後と、四方八方から衝撃を食らう。

 

 『キメマシタ!』

 

 まさしく『水を得た魚』だ。陸以上の機動力で、相手は僕を翻弄する。目線で追うのがやっとだ……!

 

 『スモモモモモモモモノウチ!スモモモモモモモモノウチ!!』

 

 四方八方から体当たりを繰り返すバグッチャー。防御を固めながら、僕は反撃の機を窺う。

 とはいえ、地に足がつかない水中では、足で踏ん張れない分、打撃の威力は大幅に低下する。投げを打とうにも、叩きつける地面がないから無意味になる。

 水中では、僕の戦い方がこうも制限されるなんて……!

 

 《それなら、ワタシにいい考えがありますわ♪》

 

 データの隣のロゼッタの表情に、この事態を打開できる確信を見た。

 

 『く……!どうするの!?』

 《道具は使いよう―――――持てる技も、然りです》

 

 と、僕の足裏、その下に、小さな四葉型のバリア―――――ロゼッタウォールが現れた。そしてそれは回転を始めて、水の流れを掻きまわし始める。

 

 『それってスクリュー……?』 

 《大正解、ですわ♪》

 

 船やヨット、潜水艦を進めるために装備されているプロペラ―――――このふたつのロゼッタウォールは、それを疑似的に再現したモノということ。

 即席だけど、これなら水中でも機動力が確保できる。スピードで五分に持ち込めれば、そこからの戦いようはある……!

 

 《さぁ、反撃を始めましょう……!……それではみなさん、ご一緒に♪―――――》

 

 

きゅーそくせんこー(急速潜航)、ですわ♪

 

 瞬間、ドン!!という音とともに、さながら魚雷のように僕の身体が水を裂いた。水圧が顔に押し寄せるこの感覚、ちょっとキツいかも……

 たぶん、顔がモノスゴいコトになってると思う。東堂さんが見たらショック受けるだろぉなぁ……

 

 《ヤツが追い付いてきたぜ!》

 

 後ろから、水を切って迫りくる青のバグッチャーが見えた。最高速は向こうの方が上か……!

 

 『それなら好都合だ……!ロゼッタ!』

 《了解ですわ!》

 

 回転しているロゼッタウォールの角度が調節されて、僕は右方向に旋回する。相手も追いすがろうと向きを変えてくる―――――けど!

 

 『小回りなら!』

 

 ここで僕は相手をやり過ごし、『下』に潜り込むように『舵』を切った。文字通りの『急速潜航』、相手はこちらを見失ったのか水中で急停止した―――――

 

 ―――――今だ!!

 

 『最・大・戦・速ッ!!』

 《しゃぁ行けぇぇぇぇぇ!!》

 

 ロゼッタウォールが大型化して、回転速度がさらに増す。そして僕はそのまま、動きを止めたバグッチャーの『下』から突っ込んだ。

 海の中では決め手に欠ける、だったら―――――このまま海から押し出すっっ!!

 

 『うぉぉぉおおあああああああ!!!!!』

 

 全身に力をみなぎらせて、僕は衝動のままに吠えていた。バグッチャーが手足をじたばたと動かして抵抗するけど、もはや加速と水圧にそれらも封じられたのか、僕には届かない。

 やがて海面を突っ切り、暖かい"陽だまりの世界"に飛び出した。その勢いを乗せて、僕はバグッチャーを浜辺へと投げ落とした。砂の柱が大きくそそり立ち、砂粒がぱらぱらと舞い落ちる。

 

 『キメるよ、データ、ロゼッタ!』

 《よぉ~っし!!》

 《天魔覆滅!ですわね!》

 

 僕はラブハートアローを取り出し、ロゼッタリフレクションを連続で投げ放った。回転する光の四葉が2発、3発とバグッチャーに命中し、上空へと吹っ飛ばした。ここでもう一度―――――

 

 『……はぁッ!!』

 

 ラブハートアローの下の部分を叩く。放った内の3枚のリフレクションを引き寄せて、僕の眼前に並べた。

 そして、文字通りハート形をしているラブハートアローの弓部分を展開して構えて、引き絞り、力を集中する―――――!

 

 ―――――昨日の『講義』で、ラブハートアローについても教えてもらった。『ドキドキ!プリキュア』の4人が使うこのツールは、一種の『可変武器』。使うプリキュアとその技によって、カタチを変えて使うことができる。

 僕がそれを聞いて連想したのが、仮面ライダー電王の専用武器『デンガッシャー』や、仮面ライダーゴーストの『ガンガンセイバー』だった。一つの武器が様々な形態に変わる便利なモノ。

 でも、僕は不思議に考えていた。こうした可変武器の最大の長所を、彼らは活かしてないような気がする。何故なら―――――

 

 ―――――どうして、1つのフォームで1つの形態(カタチ)しか使わないんだろう―――――?

 

 ソードフォームでも、デンガッシャーのガンモードを使えれば、フォームチェンジしなくても対応できるんじゃないかと、前から考えていた。

 ドラマの中では、ヒーローたちはそのようなことをしなかった。してしまえば―――――キャラごとの『個性』が薄れて、『ドラマ』として成立しなくなるからだ。

 でも、僕が今見て、戦っているのは『現実』―――――そんな都合よく、敵がフォームチェンジや武器の組み換えの隙を待ってくれるような甘い世界じゃない。

 

 ―――――使える武器は最大限に使う!

 

 だからこそ僕は、『アニメ』の中の『禁』をあえて破る。本来、『このカタチ』のラブハートアローを、アニメの中のキュアロゼッタが使うことはない―――――らしい。

 しかし、今から放つ技を使うに相応しいのは、『このカタチ』しか考えられないから―――――

 

 《RISING(ラ・イ・ジ・ン・グ)

 

 『氣』を込めたラブハートアローから、稲妻のようにエネルギーが迸る。回転するリフレクション越しに、僕はバグッチャーを見据えた。

 最大限に込められた『ひだまりの力』の輝きを、今ここに解き放つ―――――

 仮面ライダーイクサ―――――最強の必殺技を、この言葉とともに―――――!!

 

 

『《《その命、神に返しなさい!!》》』

 

――――― ファイナルライジングブラスト ―――――

 

 放たれた太陽の波動が、リフレクションを通り抜けると同時に増幅されて、渦を巻く破壊光線となってバグッチャーを呑み込んだ。

 

 『ッ……!』

 

 物凄い反動に、思わず僕は後ろへと吹っ飛ばされる―――――でも!

 ここからがこの技の本番!!

 あらかじめ、1枚のリフレクションを後ろ側に設置していた。吹っ飛んだ僕はそのリフレクションを蹴り飛ばし、そして―――――

 

 『とぉぉぉぉおあああ!!!』

 

 反動を加えた、渾身のライダーキック―――――!!!

 胴体を捉えたキックが、バグッチャーを波打ち際へと吹っ飛ばした。

 

 『……コ、コロリ…………』

 

 バグッチャーはそう切れ切れに呟くと、ワルイネルギーと思しき闇色の光を放った瞬間、橙色の爆炎を放って四散した。

 

 『はぁ……はぁ……はぁ……―――――』

 

 それまで張り詰めていた緊張の糸がふっと切れて―――――体の力が抜けて、砂地に『ぺたん』とへたりこんでしまった。

 ―――――勝った……………………

 でも、勝利の実感よりも、戦いに区切りがついたことへの安堵感が強い。今までの戦いよりも―――――熾烈なパワープレイだ……。

 

 《お疲れさん―――――いつも以上にヒーローしてたんじゃねーか?》

 『……からかわないでよ……』

 《最後の"遊び心"も、見事に決まっておりましたわ♪……最初からあれを狙って?》

 『…………それは……ちょっと違う、かな』

 

 僕は、ファイナルライジングブラストを撃ち放った先の海を見た。100mほど沖合に、50mぐらいの幅の消波ブロックがあったけど―――――

 その一部が刳り貫かれたように溶解していた。ファイナルライジングブラストの高エネルギーの奔流が、ブロックの一部分を引っさらっていっていた。

 

 『最初は考えてなかったけど……あの威力の攻撃に踏みとどまるのを見て、もう一撃必要だって判断して……それで、さ。決して『本心からの遊び心』でやったわけじゃないよ』

 

 ファイナルライジングブラスト―――――そのエネルギーの奔流に押し流されないバグッチャーを見た瞬間、僕は判断した―――――『もう一撃』、その必要を。

 だからこそ僕は―――――本編で名護さんが『遊び心』と称した、発射の反動を利用したライダーキック―――――通称『遊び心キック』を。

 最後の一撃を加えて、ようやく倒れて爆散したところを見て、僕の判断が間違っていなかった証左だろう。

 僕が臨むのは、負けることの許されない現実の戦い。確実に勝たなければ、僕にもこの世界にも未来はない。

 名護さんには悪いけど―――――『遊び心』を差し挟む余裕は、今の僕のどこにも無い。

 妥協も手加減も、許されないんだ―――――

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 『えぇいっ!!』

 『ワクワクモンダァ~~~!!!』

 

 白いバグッチャーが繰り出すパンチに、私は真正面から右の全力ストレートをぶつけた。バキィン!!という何かが破裂するのに似た音が響いた。

 同時に、私の体にモノスゴい反動が返ってくる。全身の骨がぐらつき揺れる、そんなキケンな感覚が電流のように伝わって―――――

 胸が早鐘を打つ―――――

 

 『コ~~~リンッッッ!!!』

 

 背中側から殺気が飛んできた。反射的に、私は振り返りざまに左腕で赤のバグッチャーの杖の一撃を受け止める。

 スマホの中でメモリアとデータが戦ってたのはコイツ。別のバグッチャーを巻き込まないようにか、爆裂魔法はやめて杖を使った直接攻撃に切り替えたみたい……だけど。

 ……なによコイツ!!フツーに戦ってもじゅーぶん強いじゃん!!

 

 『グゥゥゥゥゥアアア!!』

 

 白いバグッチャーの左フックが横殴りに私を襲い、ガードもできずに吹っ飛ばされた。

 

 《!!りんく!》

 

 メモリアの声が響く。その声といっしょに、体中にじんわりと痛みが走る。

 砂地に顔から落ちたから、口の中に砂が……じゃりじゃりして気持ち悪い~……

 

 『クククッ……!戦いは数であるッ!!戦力を分散させたとはいえッ、数的有利に変わりなしッ!大人しく即・刻・投・降するがよいッ!!』

 

 スパムソンの演説めいた大声がキンキンと響く。でも―――――

 ―――――……冗談じゃない……!

 私が諦めちゃったら、誰がジャークウェブからこの世界を守れるの?誰がプリキュアたちを取り戻せるの?

 

 『そんなのできるわけ、ないじゃない……!』

 

 私の勝手な思い込みかもしれないけれど、あえてもう一度心に叫ぶ……!

 ―――――この戦いは、この私―――――『誇りあるプリキュアオタク』の、東堂りんくに天から与えられた、『私にしかできない使命』!!

 

 『私は……諦めない……!!まだまだこれから、なんだから!!』

 『フンッ……貴官は何も理解しておらんようだなッ……』

 『……??何を……?』

 

 得意気な顔で、2体のバグッチャーの間に立つスパムソンが言う。

 

 『貴官等が我等ジャー()ウェ()から強奪したキュ()()()ッ……その力とその価値だッ!フォー()()ールを越えッ、リア()ワールドへと我等が御大将カイザ()ンチュラを降臨させるためにッ、キュ()チップは必要不可欠ッ!!』

 『カイザ……え……??』

 《カイザランチュラ……そう言えば、バグキュアも言ってた……たぶん、あいつらの親玉だよ!》

 

 カイザランチュラ―――――それがジャークウェブのボスの名前か。

 コイツの言葉から察するに、そのカイザランチュラを現実の世界に呼び込むことが目的で……それにはキュアチップが必要ってコト……?

 

 『遍く世界に()ャークウェブの威光を示すためッ!!貴官等が奪い取った()ップを奪還するッ!!』

 『奪還って……やっぱり自分勝手な連中ね!『ドキプリ』のジコチューといい勝負じゃない!もともと平和だったサーバー王国に一方的に攻め込んで、プリキュアたちをキュアチップに変えて奪っていったのはあなた達じゃない!プリキュアたちを"こんな"にしちゃったあなた達こそ、プリキュアたちのことを何もわかってないじゃないの!!』

 

 自信を持って言える。やっぱり、これは、間違ってる!

 

 『あなた達には―――――プリキュアへの"愛"が無いのよっ!!』

 『何故そこで愛ッ!?』

 『"ここ"だからよ!!"『好き』を『好き』でいること"が、私の力……プリキュアのことを『好き』どころか、これっぽっちもわかっちゃいないあなた達に、『誇りあるプリキュアオタク』である、私が負ける道理無し!!』

 

 私は、胸をドン!と叩いて宣言した。

 

 『私は!"プリキュア愛"で!!出来ているッッ!!!』

 

 プリキュアが好きだから。

 プリキュアに憧れたから。

 それだけが理由じゃないと思うけど―――――

 私は、メモリアと巡り会って―――――

 私は、プリキュアになれた。

 この手、この足、この体―――――メモリアと一心同体となった『キュアメモリアル』は、私が14年の人生で、心と体、細胞の一片一片、そのすべてに刻み込んで染み込ませた、『プリキュア愛』の結晶なんだ!!!

 

 『何を言うッ!!小官の御大将に対する揺ぎ無い忠誠から生じる力ッ、貴官の『愛』をも凌駕するッッ!!』

 

 叫ぶスパムソンに合わせてか、2体のバグッチャーが立て続けに私に向かって躍りかかる。

 

 『確かに―――――人はね……みんな違うよ―――――』

 

 最初に突っ込んできた赤のバグッチャーを、私はハイキックで蹴り上げた。

 

 『"愛し方"や―――――"痛み"も違う―――――』

 

 次に、白のバグッチャーの勢いを利用して、いなすように後ろへと投げ飛ばす。

 

 『"好き"が、人によって違うことは当然―――――でもね、"人に迷惑をかける"『好き』だけは、"素敵"だって思えない!』

 

 私は起き上がろうとする2体のバグッチャーを見据えた。

 

 『カイザランチュラにとって……私達のこの世界は、秘密が茂る宝島(ワンダーランド)かもしれない―――――眩しく見えるかもしれない―――――でも……でも!"何か"を……"誰か"を犠牲にしてまで、土足で入ってきていい場所じゃない!!』

 

 そうだ―――――

 私の暮らすこの街、この世界―――――

 どんな理由があろうとも、それを勝手に荒らして、傷つけることは―――――

 

 『この私が―――――無敵の最終関門!!今日の私はヤル時ゃマジ!妙に強いんだから!!!』

 

 《CURE-MEMORIAL!! FULL-DRIVE!!!》

 

 私の昂りに、"私自身"が光を放つ。そう、この光が、『私のプリキュア愛』、そのものなんだ!

 

 『見せたげる……私の……『好きの力』を!!』

 

 私はキュアチップを取り出して、ネットコミューンに差し込んだ。

 

 《爪弾くはたおやかな調べ!キュアリズム!!》

 《CURE-RHYTHM! INSTALL TO MEMORIAL!!》

 

 白い輝きが私の体を包み込み、白いコスチュームに変じる。

 音の力を身にまとうこの姿は―――――

 

 『キュアメモリアル!"リズムスタイル"よ!』

 

 真っ白なハートのリングをあしらった"ファンタスティックベルティエ"を取り出して―――――

 

 『ファンタスティックベルティエ・セパレーション!!』

 

 中央から分離して、大きなハートを両手で描く―――――!

 

 『弾けるリズムのファンタスティックセッション!プリキュア!ファンタスティック……ピアチェーレッッ!!』

 

 気合の叫びとともに、ハート型の、白と黄色の2色に燃える炎の輪が放たれた。

 まっすぐにバグッチャーに向かうそれを見たスパムソンは―――――

 

 『フンッ、何をするかと思えば直線的な攻撃だッ!かわせッ!!』

 

 ―――――ごめんね、それは最初の一手。

 まだまだ序の口、なんだから!

 

 《勇気リンリン!直球勝負!!キュアマーチ!!》

 《CURE-MARCH! INSTALL TO MEMORIAL!!》

 『キュアメモリアル、"マーチスタイル"だよ!!』

 

 立て続けに今度はキュアマーチをレジェンドインストールして、さっき放ったピアチェーレを追いかけるように駆け出して―――――

 

 『プリキュア!!マーチシューーーーート!!!』

 

 風の力を込めて、思いっきり蹴り出した。弾速の速いマーチシュートがピアチェーレにあっという間に追いついて、ハートの輪の間を風のボールがくぐっていった。

 ―――――狙い通り!

 風のボールが炎の輪を巻き込んで、黄色と白の炎をまとった、大きな火球と化した。

 

 『何とも奇想的だがッ、それでもかわせば済むことッ!!』

 

 2体のバグッチャーはそれぞれ左右にかわして、その間を火球が突っ切っていった。

 

 『……驚くのはまだこれからっ……!』

 

 私は、3枚目のキュアチップをキュアットインする。お待たせしました、次はこの子!!

 

 《はじけるレモンの香り!キュアレモネード!》

 《CURE-LEMONADE! INSTALL TO MEMORIAL!!》

 『キュアメモリアル、"レモネードスタイル"です♪』

 

 をを!ちょっと昔、行きつけの美容院で『これだけはムリ』と言われた、キュアレモネードのウズマキツインテールが見事に完成してる!

 っと、感動してる場合じゃない、搦め手だぁっ!!

 

 『プリキュア!プリズムチェーーーーーーーーーーーーンッッ!!!』

 

 両手から光の鎖が繰り出され、2体のバグッチャーの『間』をくぐっていった。

 

 『大外れだなッ!!』

 『ううん―――――手応え、大あり!!』

 

 ―――――ガキィーーーン!!

 

 両手に伝わる振動で、『それ』を捉えたことがわかる!あとは―――――"引き戻す"!

 

 『おおーーりゃあーーーーーーっっ!!!』

 

 ここから、私はテレビで見たハンマー投げ選手を思い出しながら、力いっぱいに体を回転させた。両腕と腰からイーネルギーが噴き出して、私の体をコマのように回す。

 そして、勢いよく戻ってきた『それ』は―――――さっき放った『マーチシュート+ピアチェーレ』の火球!

 チェーンでつながれた大回転する火球が、立て続けに2体のバグッチャーの胴体を連続で打ち付ける!

 

 『『バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!』』

 『!!貴官ッ、最初からそれが狙いで―――――ッ』

 『それもっ、あるけどぉぉぉぉーーーーーー!!!!』

 

 私は回転の勢いのまま、はるか上空へと火球を投げ放った。そしてすぐさま、次のキュアチップをセット!

 

 《しんしんと降り積もる、清き心……キュアビューティ!》

 《CURE-BEAUTY! INSTALL TO MEMORIAL!!》

 『キュアメモリアル……"ビューティスタイル"です』

 

 キンキンに冷えてます―――――キュアビューティの氷の力を―――――

 

 『プリキュア…………ビューティブリザーーーーーード!!!』

 

 ―――――"上空"へと発射!!

 

 『フンッ、今度はどこを狙っているッ!?』

 『……どこって、決まってるよ―――――』

 

 その時、ふっと、2体のバグッチャーに影が差した。その影はどんどん大きくなっていって―――――

 

 ―――――どっごおおおおおおおんんんん!!!!

 

 2体のバグッチャーを、超巨大な氷のカタマリが直撃した。

 

 『―――――頭の上♪』

 

 さっき上空に投げた火球を、ブリザードで超急速冷凍、ついでに周りの空気も巻き込んで凍らせて、元々よりもはるかに大きくなった氷のカタマリにして、バグッチャーの頭の上に落とす―――――

 これが今のプロセス。でもまだ終わらない!私は思い切りジャンプして、空中で5枚目のチップを使う!

 

 《きらめく星のプリンセス!キュアトゥインクル!》

 《CURE-TWINKLE! INSTALL TO MEMORIAL!!》

 『キュアメモリアル、"トゥインクルスタイル"!!エクスチェンジ、モードエレガント!!』

 

 プリンセスパフュームにドレスアップキーをセットして、モードエレガントに!

 

 『キラキラ、星よ!プリキュア!トゥインクル・ハミング!!』

 

 星型の輝きを、私はまっすぐに撃ち放った。放たれた綺羅星はバグッチャーを押しつぶしている氷のカタマリに吸い込まれるように命中して、無数の氷の粒を辺りの空間に撒き散らした。

 ―――――さぁ、最後よ。私が選んだ6人目は、あなた!

 

 《キラキラ輝く、未来の光!キュアハッピー!》

 《CURE-HAPPY! INSTALL TO MEMORIAL!!》

 『キュアメモリアル、"ハッピースタイル"!!』

 

 最高に気合をみなぎらせて―――――この技で、キメだ!!

 

 『プリキュア!ハッピーーーィィィ、シャワアアァァァァァァァ!!!!!』

 

 合わせた両手から放たれた光線が、氷の粒に命中して、四方八方に乱反射した。はね返ったハッピーシャワーが無数の細いレーザー状の光の雨になり、2体のバグッチャーに降り注いで、そして―――――

 

 『『デリィ、トオオオオ………………』』

 

 立て続けに、2体のバグッチャーが橙色の光を放って爆散した。同時に元の姿に戻った私の全身から、今までで一番の量の蒸気が放出される。

 6枚のキュアチップ―――――6人のプリキュアの力を借りた連続攻撃―――――名付けて―――――

 

 

プリキュア・マルチプル・リンク Ver.α

 

 『全滅ッ……全滅だとッ……!?4体のバグッチャーが全滅ッ……!!5分も経たずにかッ……!?』

 『30分番組だもん、ちょうど5分くらいで倒さなきゃ♪』

 『くぅぅぅッ……だが見事ッ!見事だッ!!それでこそ我らに抵抗するプ()キュアに相応しいッ!!手駒を無くしたならばッ、取るべき手段は唯一つッ!!戦略的撤退であぁるッ!!』

 

 スパムソンはきちりと踵を返すと、闇色の光に包まれて立ち消えた。そこへ、デーティアが息を弾ませて駆けつけた。

 

 『メモリアル!』

 

 無事でいてくれた―――――つまり、向こうも2体のバグッチャーに勝ったってこと。

 ちょっぴりキツかったけど、でも―――――勝ったよ、デーティア!

 思わず私は笑って、デーティアにピースサインを向けていた。すると―――――

 デーティアも、親指を立ててニカッと笑顔を返してくれた。

 見た目はプリキュア、女の子だけど、笑顔はやっぱり男の子。

 それを見た瞬間、私は―――――

 なんだか、ほっとしてた―――――

 

 ――――――――――

 

 『……出てこない……』

 

 白いバグッチャーが爆発した場所に落ちていた、キュアミラクルのキュアチップを拾い上げてみたけれど、ウンともスンとも反応がない。

 いつもなら、イーネルギーが放出されて、その中からプリキュアが出てきてくれるハズなのに……

 

 《おーい、ミラクル~……?》

 『まさか……4体に分裂させられたせいで……!?』

 

 デーティアの言うとおり、悪影響がないわけがない。現に、キャラがブレまくってたし……

 と、その時―――――

 

 『我が名は"みらくる"!!!!伝説の魔法つかい、プリキュア!!』

 『きゃ!?』

 

 手にしたキュアチップから、右手で左目を覆い隠したキメキメポーズで登場したのは、すっごくノリノリのキュアミラクルだった……

 

 『さぁどこからでもかかってらっしゃい!ジャイアントトードも破繰者(バグリモノ)も!ゾンビも怪人二十面相もまとめて相手しちゃうんだから!!それから美少女のぱ―――――』

 《…………おい。正気に戻ってねーみてーだから、一発殴っといた方がいーんじゃねーか?》

 

 デーティアのイーネドライブから、データがそんなコトを言ったものだから、デーティアは『だ、ダメだよ……』と苦笑いした。

 

 『しっかりして!!あなたは朝日奈みらいちゃん、キュアミラクルだよ~!』

 『……………………!!!!!』

 

 私の声に、ぎょっとしたような表情でミラクルが硬直するのを見た。

 

 『……あなたは……それに…………ここは……??』

 

 ……話を聞くと、今の今まで、ミラクルはほとんど眠っていた状態で、今こうして話すまで、私達のことはわからなかったらしい。

 今までのバグッチャーに囚われたプリキュアと違うみたい……

 私とデーティアが今までのこと、スマホ突然発火事件のことを話すと、『ごめんなさい!』と、ミラクルはぺこりと頭を下げた。

 

 『ミラクルのせいじゃない……ジャークウェブのやつらがやったことだよ』

 『そうだよ!……だから、気にしなくていいからね?』

 『……りんくちゃん……』

 

 自分たちの都合でプリキュアたちをこんなチップに変えて、力を悪用するジャークウェブ……

 『誇りあるプリキュアオタク』として、まったくもって許しておけない!

 

 『よぉ~し!りんくちゃん!ほくとくん!メモリア!データ!わたしもみんなの力になるよ!……マジカルがいないから、ひとりでどこまで協力できるかわからないけど……よろしくね!』

 

 ミラクルの笑顔がきらめきに舞って、青空へと溶けるように消えていった。ピンク色のキュアチップを、私は思い切り、その青空へと掲げた。

 

 『キュアミラクル、キュアっとレスキュ~!!』

 《いっえ~い!!♪》

 

 これで9人目、リーダープリキュアは2人目を救出できた!

 『まほプリ』で最初に助け出せたのがミラクルっていうのも、幸先良くてイイ感じ!

 と、その時―――――

 

 ―――――きらん!

 

 前に、ハッピーをレスキューした時と同じ感覚。今度は12本の髪のテールのうち、左端から2つ目、11番目のテールを手繰ってみると……

 

 『リンクルストーンだ……すっごくちっちゃいけど……』

 

 『まほプリ』のキーアイテムのリンクルストーン。そのうちのひとつ、『ダイヤ』のストーン。髪飾りサイズに縮小されたそれが、髪の根元にセットされてる……

 まさかこれって……リーダープリキュアを助けると、そのプリキュアのキーアイテムがもらえる……ってこと?

 それと、これの使い道も―――――

 この間、ビューティを助け出した時の技も、キュアデコルがキーになった。つまり、このリンクルストーンも、また―――――

 

 『…………?』

 

 デーティアが、何かに気づいたのか、空に視線を向けた。

 

 『どしたの?』

 『…………ううん、なんでもない……』

 

 デーティアが見ている先には、青空の中に一点だけ、黒く切り取られたようなシルエットが羽ばたいていた―――――

 

 『……カラス……??』

 

 ――――――――――

 

 NPC ??????

 

 ――――――――――

 

 ウチは夢中でシャッターを切っていた。

 一挙手、一投足、その全部が常識を超えていて―――――

 惚れてまった―――――

 

 「確かに……プリキュアゆーてもえぇかもなぁ。ニッポンの女の子は誰もがプリキュアを見て育つ、ゆーらしぃからなぁ」

 

 かく言うウチも、小さい頃は見てたからわかる。ノリがよう似とる。戦うかわえぇ女の子、誰がどう見ても、あれを"プリキュア"ゆーんは間違っとらんと思うけど―――――

 

 「でも……ホンマにあれが、"P"ゆーんやったら……ヘタこくと"みっつー"も動くなぁ。またグチ聞くんはわややわぁ……」

 

 ……おっと、その"みっつー"に用があるんやった、ウチ。こないなトコで油売っとらんと、わざわざニッポンに"戻ってきた"意味あらへんやんか。

 正規の入国ルートじゃ、こないなモン、まず税関で没収やもんなぁ……"あの子"も無茶ブリキッツいわぁ……

 

 『カァ!』

 

 そこへ、ウチの頼れる"相棒"が戻ってきた。

 

 「お~、イヴ、ごくろさん。ほれ、きびなごの煮干しちゃん、好っきやったろ?お食べや~♪」

 

 カラスのイヴは、ウチとは切っても切れない縁がある相棒。ドローン使(つこ)て空撮するよりもよっぽど安心できるわ。

 イヴの首元にくくりつけた小型カメラを回収して、ウチは砂浜を後にする。

 

 「さ、これからは忙しゅうなるでぇ。こん国だけやのぅて、いろんな国のおエラいさん、表に出てこれへんよーなモン……もう動き出しとぉトコもある。……"あのコたち"を中心にして、世界が回り始めたんや―――――」

 

 そう―――――テレビん中から飛び出した、『プリキュア』っちゅう『コンテンツ』は、もぉ止められへん―――――

 このウチも、そのひとりやけど―――――

 ホンマ、えぇわぁ……手元にある写真(キリトリ)一枚でさえ、ここまでそそるんやもん……

 あのコたちからは―――――

 

 「……ピューリッツァーの、ニオイがする」

 

 ―――――STAGE CLEAR!!

 

 RESULT:CURE CHIP No.42『CURE-MIRACLE』

 プリキュア全員救出まで:あと42人

 

【挿絵表示】

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 『ピカピカぴかりん!じゃんけんポン♪』

 

 ……SAVE POINT




 最後まで大暴走させていただきました今回ですが、ラストになにやらアヤシイヤツが……
 実はまだ続きます!……あまりに長いので、今回はここまで、ということで……
 今回のプリキュアと753大特集の『ライダーキック』、次回予告はまた次で!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

追いかける者たち

 キュウレンジャーにデカレンジャー&ギャバンが登場!!懐かしい!!
 エグゼイドではレーザー(貴利矢さん)復活!!やったぜ!!!(でも敵だけど)
 プリアラに水瀬いのりさん登場……ってええええええええ!?!?!!?
 ……ほくとくんの脳内再生ボイスを変えねばならんと思った稚拙です。
 さて、今回は、『次回の序章』とも言うべき、『とある組織』……
 そこに属する『大人達』のお話です……


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

 NPC ??????

 

 ――――――――――

 

 俺が"事務所"に戻った時には、午後4時を回っていた。

 急な夕立に降られて、傘を持ち合わせていなかった俺はずぶ濡れになってしまった。

 ……やれやれ。クリーニング代だって安くないってのに……

 

 「あ、主任、お疲れッス」

 「……おう。佐藤、そっちはどうなってる?」

 

 上着を脱ぎ、タオルで髪を拭きながら、佐藤が向き合うパソコンの画面をのぞき込んだ。

 

 「いやぁ、もうイタチごっこッスよ。消しても消してもどんどん出てくる……『消すと増えます』ってよく言ったモンッスよ」

 「一度ネットに上がっちまったモンは完全に消せやしねぇのにな……"Dr.G"も無茶言うぜ」

 「……それで、主任は今日はどこに?」

 「広告代理店の"UDK"にな。案の定、"知らぬ存ぜぬ何者だ"、だった。ま、薄々はこうだと思ってはいたがな」

 「やっぱ、"公式"は面食らってるみたいッスねぇ。……あ、コーヒー飲みます?」

 「頼む」

 

 佐藤は席を離れて、給湯室に入っていった。インスタントコーヒーの香ばしい匂いが部屋の中に立ち込める。

 

 「"夕陽放送"に"UBCアニメーション"、アニメの制作元の"東アニ"……その元締めの"東都映像"も全部同じだ……この件は知らない、むしろ教えてほしいってよ」

 「マッチポンプだとしても金かかりすぎですもんねぇ」

 

 そう言いながら、佐藤はコーヒーの入ったカップを置いた。

 

 「反対にノリノリなのは"財団B"……キャラクターグッズ展開する気マンマンッスよ。商標登録持ってるからって……」

 「何にせよ……金持ちのやることは俺達庶民には理解できんモンさ」

 

 佐藤が開いているブラウザに、もう一つのタブがあった。『大泉のプリキュア』と、ページのタイトルにあった。

 

 「で……アップされた映像のひとつがコレ、か」

 

 一人の少女が、ビルの壁を体一つで走って登っていく映像。とても現実の映像とは思えない、特撮めいた映像だが―――――

 

 「……どう思います、主任?」

 

 確か、この映像を解析した結果が出ていた筈だ。"解析班"の提示した資料をデスクの引き出しから取り出してみると、非現実的な数値がずらずらと書かれている。

 

 「垂直登坂で100m換算5秒弱……"ジャマイカの黒い稲妻"が泣くな」

 

 現実にこんな存在が現れたとなると、間違いなく日本の陸上界からお呼びがかかる。ビルの壁を走ってこの記録なら、平地でなら確実に日本どころか、世界の陸上界が―――――

 否、『人類の常識』そのものが、上書きされることになる―――――

 そんな存在は―――――はたして『人類』と呼べるのか―――――……。

 該当するとすれば、ただ一つ―――――

 

 「間違いない……"Dr.G"の言うところの―――――"P"だ」

 

 "俺達"のオブザーバーを務めている人物―――――Dr.Gが以前から提唱してきた、『人類を超越した存在』という、"P"。

 あくまでもコードネームであり、正式名称はDr.Gしか知らない。何かの頭文字らしいが……。

 

 「まぁでも、不可能テロを引き起こす不明生物と、それを指揮するテロリスト……それと戦ってくれるんなら、いいんじゃないッスか?"正義の味方"ってコトで。自分たちの手間も省けるってことで。それに、ウチの娘もプリキュア好きですし―――――」

 「馬鹿言え―――――確かに、ああして不明生物と戦って、テロを起こす連中を鎮圧することは"いいこと"だ。……だがそれは―――――"子供の仕事"じゃない」

 

 俺はどっかと椅子に腰を下ろした。

 

 「まして、それが自分本位の『勝手な正義』に基づいた行動だっていうんなら……今すぐ止めさせなきゃなんねぇ。ああした連中を相手すんのは大人の……俺達『公務員』の仕事だ」

 「主任……?」

 「……どいつもこいつも……自分の考えが『正義』だって勘違いする……そんなもん、ホントにあんのかわかんねぇくせによ……」

 

 そうした連中を、俺はガキの頃から見てきた―――――いや、『見させられてきた』。今でも、『あんな連中』と同じ空気を吸って、同じ釜の飯を食ってたと思うと―――――吐き気がする。

 

 「あ、そういえば主任、『室長』から伝言ッス。4時半に、室長室に顔を出してほしいそうッス。なんか、重要な話があるみたいッスよ」

 「室長?」

 

 俺は部屋のアナログ時計に目をやった。―――――4時28分!?

 

 「それ早く言いやがれッ!!」

 

 俺は慌てて事務所を飛び出した。

 

 ――――――――――

 

 「失礼します」

 

 俺が室長室に飛び込んだ時には、4時31分だった。

 

 「1分遅刻だ」

 「……すみません」

 「……公務員たるもの、時間には正確であるべきだと思うが?」

 

 見ると、室長だけでなく、その"上"の―――――

 

 「!!……副大臣!?」

 

 思わず背筋が伸びた。この部署にめったに姿を現さず、本当にこの部署の存在を把握しているのかどうかすら疑われている副大臣が、俺に何の用があるっていうんだ……?

 

 「まぁいい。早速だが、新たな仕事だ。……もう薄々、気付いているだろうがね」

 「……"P"絡みですか」

 「うむ」

 

 室長は頷き、手元のスイッチを押した。スクリーンが降りてきて、映像が映し出される。巨大な不明生物に戦いを挑む、2人の少女の映像だった。

 

 「正確には、突如として大泉町近辺に出現し、常識では考えられない『不可能現象』を引き起こし、国民生命・財産に被害を及ぼす『不明生物』についてだ。5月に最初に出現した個体は、市街地で破壊活動を行い、死傷者も出している。そして不明生物が出現する際は、必ずこの少女たちが姿を現している」

 「君とその部下には今まで情報統制と関係各所への折衝を行ってもらっていたが……明日からは、これらの『不明存在群』への本格的な調査活動を命じる。これは正式な辞令だ」

 

 副大臣から差し出された『辞令』と書かれた書類を受け取ると、副大臣はニヤリと笑んだ。

 

 「君ならば……彼女たちと、あの"不可能テロ"を引き起こす不明生物の正体を暴き出せよう……『異端児』と呼ばれているとは言え、"あの一族"の出である君ならばな」

 

 "あの一族"―――――

 その言葉に、静かな怒りを覚えた俺は―――――

 

 「お言葉ですが……」

 

 俺は思わず言い返していた。

 

 「自分は確かに"あの一族"の出ですが、彼らと……"呪われた一族"と一緒に扱わないで頂きたい」

 「……気を悪くしたのなら謝ろう」

 「…………いえ、自分こそ、口が過ぎました」

 「兎も角……まず第一に、不明生物の正体を探り、もし背後に『首謀者』が存在するのであれば、それを特定、逮捕すること……そして、不明生物と戦闘行為を行っている2人の少女たちの身元の洗い出し、および『保護』……この2点を最優先で行ってもらいたい。まずはDr.Gのエージェントと接触するのだ。既に日本に入国していることは確認している。"彼女"の写真と連絡先だ」

 

 室長は写真とアドレスの書かれた紙を渡しながら、こうも付け加えた。

 

 「……彼女なら、君も良く知ってよう」

 「…………!!」

 

 エージェントって……よりにもよってコイツか!?

 世界中を飛び回ってる風来坊のアイツが、どうしてDr.Gのエージェントなんかを……!?

 

 「なんでも、彼女はDr.Gとは個人的な親交があるらしくてな。Dr.G自らエージェントに指名したらしい」

 「し、しかし……彼女はアメリカ人です。我々に協力する理由は―――――」

 「確かに彼女はアメリカ人だが、日本生まれの日本育ちだ。それに彼女の"立場上"、"公明正大"であらねばなるまい。"この件"の独占取材の権利を条件に、快く協力を承諾してくれたそうだ」

 

 ったく……アイツはいつでも、節操が無く、抜け目も無い。

 またあいつと顔を合わせるとなるとうんざりもするが……

 

 「Dr.Gは"彼女"に、今回の仕事に必要な物資を預けているそうだ。早急に接触してくれ」

 「了解しました……」

 「必要な人員の選抜は君に任せる―――――既に、数ヶ国の工作員が極秘裡に日本に入国していることが確認されている。無論、全て『処理済み』だがね」

 「……やはり、動きは早いようですね」

 「こうした"裏側"のことは、我々の方で出来る限り『対処』する。君達に累が及ばぬように、()()()、ね」

 「……お得意ですね」

 

 これだから出世はしたくねえ。"上"に行けば行くほど、見たくもねえ『闇』ってヤツを見せつけられる。

 まぁ……俺自身が選んだ道だから、仕方がねえっちゃ仕方がねえんだが。

 

 「この件は我々のオブザーバーであるDr.Gの肝煎りだ。この国……否、Dr.Gが言うには全世界の常識を揺るがせる存在が相手になる……くれぐれも頼むぞ―――――」

 

 室長の言葉に、俺は今一度、室長と副大臣に向き直った。

 

 「内閣電脳調査室・主任調査員……増子美津秋(ますこみつあき)君」

 

 ――――――――――

 

 「やれやれ……家柄ってやつは、どうにもついて回るもんだな……縁を切っても切りきれん」

 

 帰り道の中、俺はうんざりしながら缶コーヒーをあおった。

 もう俺は、増子の本家とは縁を切ったというのに。……もっとも、戸籍変更とかが面倒だから『増子』姓を名乗り続けてるのも問題があるのかもしれんが。

 これもまた―――――"呪い"のひとつか―――――

 

 「でもこれって大チャンスッスよ?あの"プリキュア"の正体を突き止めろなんて、自分、ワクワクするッスよ!」

 「ん?俺、お前をこの仕事に加えるって言ったか?」

 「え?ええ!?ま、マジッスか!?しゅ、主任~~!?」

 「……ッハハハハ、冗談さ。お前にゃ、今まで以上に働いてもらうぜ」

 「……主任……」

 

 佐藤はビシッ!!と背筋を伸ばして敬礼した。

 

 「この佐藤慈愛(さとうじあい)、一生主任についていくッス!!」

 「バカ言え。いつかは自立しやがれ。だからお前所帯持ちに見られねぇんだよ」

 「面目ないッス……」

 「……さて、明日から忙しくなるぞ。まずは"アイツ"に接触しなきゃならん。明日の朝連絡を―――――」

 「その必要はあらへんでぇ♪」

 

 突然、背後から浮ついた声色がした。聞き覚えがある声に、思わず振り返ると―――――

 見覚えのある―――――金髪碧眼の女が立っていた。

 

 「Hello♪」

 「しゅ、主任!金髪美女!金髪美女ッス!!……道に迷ったんスかねぇ……は、はろー、えくすきゅーずみー……」

 

 コイツ、公務員のくせにロクに英語もできんのか。金髪美女はいたずらめいた笑みを浮かべると、佐藤にとっては予想外であろう言語で返してきた。

 

 「あかんあかん。そないなカタッコトの英語じゃ、国際社会でやってけへんでぇ?中学からやりなおしてきぃやぁ?」

 「…………………………え………………??( ゚д゚)」

 

 呆気にとられる佐藤のそばを通り抜け、関西弁を解した金髪碧眼の美女は俺の目の前に立った。

 

 「めっさ久し振りやな―――――"みっつー"」

 「…………お前も相変わらず、初対面のヤツをからかう癖が抜けてなくて()()()()()

 「しゅ……主任、このヒトは……??お知り合いで……??」

 「お前、ニュースとか見てねぇのか?この顔、ニュースで見てるだろ」

 「んんん……………………!!……あああーーーーーーーーーーー!!!!きょ、去年のピューリッツァー賞の……!!」

 「ご明察。……3年振りぐらいか、テテ?お前の事をよく知らん俺の後輩に、自己紹介のひとつでもしてやってくれ」

 「しゃーないなぁ」

 

 この、抜け目無く、節操も無い女とは、もう関わりあう事は無いと思っていた。

 しかしコイツは、3年ぶりに日本に戻ってきた。

 ―――――Dr.Gの、エージェントとして。

 

 「特ダネあるとこひとっとび!『空飛ぶジャーナリスト』、ティモシー・フランシスや!"テテ"って呼んでや、どうぞよろしゅう!」




 ―――――りんくの『今回のプリキュア!』

 りんく「今回のプリキュアはだ〜れだ?」

 『ふたりの奇跡!キュアミラクル!!』

 ????「朝日奈みらいさんが変身した伝説の『魔法つかいプリキュア』のリーダー、"みらくる"です!!二つ名は"輝石(きせき)のみらくる"!!」

 りんく「ふぇ?ど、どちらさま!?」

 めぐみん「よくぞ聞いてくれました!我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法・爆裂魔法を操りし者!」

 りんく「あー!!なんか聞いたことがあると思ったら、あのバグッチャーの!?どーして!?」

 めぐみん「今回は特別に、"なんだか他人のような気がしない"偉大なる魔法つかい、みらくるのご紹介をさせてもらいたく、遊びに来ちゃいました♪」

 りんく「他人のような気がって……確かになんとな〜くミラクルと声がそっくりな気がするけど……」

 めぐみん「では早速……みらくるの最大の特徴は、カラフルチェンジによって戦術や属性を変えることで、どんな相手とも柔軟に戦うことができることです!ぴかぴかの『光』属性のダイヤスタイル、ざぶざぶの『水』属性のサファイアスタイル、びりびりの『雷』属性のトパーズスタイルも魅力ですが……」

 りんく「ですが……?」

 めぐみん「何と言っても一番なのが、めらめらの『炎』属性を持つルビースタイルです!!見てください、名乗りを上げただけでこの爆発、閃光、轟音!!さすがは伝説の魔法つかい……とてつもない火力です……!!!」

 りんく「プリキュアらしからぬバクハツ……ほくとくんが見たら喜びそうだねぇ」

 めぐみん「その最大の爆発力を発揮するのが、"まじかる"とともに発動する金魔法!!」

 『『紅の情熱よ、わたし達の手に!!フル、フル、リンクル!!プリキュア!ルビー!!パッショナーレ!!!』』

 めぐみん「紅蓮の炎を纏って突撃し、真紅のリボンで浄化するルビー・パッショナーレ!ここ!ここです!!この爆発による超加速!!絶対に避けられません!!いずれは私も爆裂魔法を使ってこの身で再現を……」

 ウィズ「あ、めぐみんさん!こんなところに!カズマさんが呼んでますよ?ジャイアントトードの討伐クエストに行くって……」

 めぐみん「ウィズ!?……もうこんな時間ですか!?それでは名残惜しいですがココで……みらくるによろしく伝えてくださいね〜♪」

 ウィズ「それでは〜♪」

 りんく「……行っちゃった……何だったの、さっきの……ってか後に出てきた人はキュアマジカルに声がそっくりだったような……そ、それじゃ、ばいば〜い……」

 ――――――――――

 ―――――ほくとの『レッツゴーライダーキック!!』

 ほくと「……………………↑」

 データ「ん?どーしたほくと?」

 ほくと「さっきのヒト、ワゴンさんに声が似てた……トッキュウジャーの……」

 データ「ンなことどーでもいいから始めるぜ!!今回はこのライダー、ワンマン特集だぜ!!」

 『ファンガイア……その命、神に返しなさい!!』

 ほくと「『仮面ライダーキバ』に登場した、素晴らしき青空の会が開発した、対ファンガイアパワードスーツ『仮面ライダーイクサ』!実に22年もの間、改良を繰り返しながらファンガイアと戦い続けてきたんだ」

 データ「22年!?……これまた、変身するヤツもよっぽどのベテランってヤツか?」

 ほくと「いや、最初に開発された時に変身していたのは、仮面ライダーキバに変身する紅渡さんのお父さん、音也さんだったんだ。そして時を経た22年後の現代では、バウンティハンターの名護啓介さんが変身するようになった……時を経て、イクサは改良とともに受け継がれていったんだよ」

 データ「で、今回ほくとが再現した技は2つ……まずはこの技、行ってみるか!!」

 《IXA-KNUCKLE(イ・ク・サ・ナッ・ク・ル)
       RISE-UP!!(ラ・イ・ズ・アッ・プ)

 ほくと「専用ツール"イクサナックル"に全エネルギーを一点集中して打ち込む必殺のライダーパンチ『ブロウクン・ファング』!敵を殴りつけると同時に、5億ボルトの超高圧電流を叩き込んで標的を粉砕するんだ!!」

 データ「5億ボルトだぁ!?そんなモンブチ込まれた日にゃぁどんなヤツでも一発でバラバラになるな……」

 ほくと「直接叩き込むだけじゃなく、10mほど離れた相手にも、弾丸のようにエネルギーを発射することもできる、遠近両用の万能技なんだ!」

 データ「それって、『遠当て』ってヤツか?」

 ほくと「う〜ん……合気道とは違うんじゃないかな……次はこの技だ!!」

 《RISING(ラ・イ・ジ・ン・グ)

 ほくと「携帯電話型パワーアップツール"イクサライザー"を使ってパワーアップした強化フォーム『ライジングイクサ』に変身して放つ、最強の必殺技『ファイナルライジングブラスト』!!イクサライザーにエネルギーを集中して、強力なエネルギー波動を放射するんだ!!」

 データ「反動がスゲかったよな……こんなの片手で撃つもんじゃないぜ……」

 ほくと「その反動を名護さんは利用して、ライダーキックを放って相手を倒したこともあるんだ。名護さんは『遊び心』って呼んでるけどね」

 データ「なんかヨユーだな……その名護ってヤツ、な〜んか好きになれそうにねーな……」

 ほくと「何言ってるんだデータ!!753は315です!!」

 データ「はァ!?」

 ほくと「確かに最初の頃の753はちょ〜っと慇懃無礼でイヤミったらしい妖怪ボタンむしりだったけど、次狼サンに過去に連れていかれてからは本当の意味で『最高』の人になったんだ!!」

 データ「そ、そーなのか……」

 ほくと「そういえばデータ……まだ『仮面ライダーキバ』のDVDを見てなかったよね……よし!今から徹夜で全話視聴だ!!全話通してみれば、如何に753が315なのかがわかるから!!」

 データ「ちょ!?ちょっと待て!?」(ネットコミューンごと持っていかれる)

 ほくと「その後はイクササイズだ!イクササーイズ!!」

 データ「や、やめろ!!放せ!!アタシはデータだぞ!!放せ〜〜!!」


 ロゼッタ「…………ちなみにイクササイズ、繰り返すといい運動になりますわ♪画面の前のそこのあなた、おなか周りが気になってましたら、ぜひ……♪♪」

 ――――――――――

 次回予告

 美津秋「『独善的な正義』ってのがいかに危険か……俺はガキの頃思い知った……だからこそ、『あの連中』を止めなきゃならない……そう、『両方』だ。アニメの時間はもう終わりだ。さっさと現実に戻れ」

 インストール@プリキュア!『内閣電脳調査室主任調査員@増子美津秋』

 美津秋「ここから先は大人の出番だ。子供の出る幕じゃねぇんだよ」

 ――――――――――

 新キャラ続々登場で、ますます盛り上がってまいりました……!!
 次回は今までとは正反対の作風になるかもしれません……
 『プリキュアを追う者たち』が、表舞台に姿を現します……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 内閣電脳調査室主任調査員@増子美津秋
居酒屋にて


 用語解説

 キュアチップ

 ジャークウェブに敗れたプリキュアが、ワルイネルギーによって力と人格を封印されたメモリーチップに変えられた姿。
 プリキュアと同じ数―――――51枚存在するとされる。
 バグッチャーの『材料』にされてしまっており、バグッチャーを撃破することでチップを取り出すことができる。
 ネットコミューンのスロットにセットすることで、ファイトスタイルのインストールプリキュアが、そのプリキュアの技を一時的に使用できるようになるほか、リアライズスタイルの際は、そのプリキュアの姿を模したスタイルに2段変身する、『レジェンドインストール』を行える。
 普段の状態でも、ネットコミューンにセットすれば、そのプリキュアの人格を一時的に目覚めさせ、会話することができる。
 元のプリキュアに戻すには、サーバー王国で封印されているプログラムクイーンの力が必要不可欠とされ、そのクイーンの封印を解くにも、すべてのキュアチップが必要であるため、りんくとキュアメモリアたちは、51枚のキュアチップを全て回収するための戦いを繰り広げることとなる。

 なお、サーバー王国のトビラは、『鍵』を司る『プリンセスプリキュア』の4人の力で封印されており、4人のキュアチップが鍵の役割を果たしている。
 また、すべてのチップがジャークウェブの手中に落ちているわけではなく、何枚かのキュアチップは現在所在不明となっている。

 ――――――――――

 今回から、『電調編』のキモとも云えるストーリーに突入します。
 本家様ではまずありえない場所でやりとりされる情報の数々を皆様にも送信……。
 長くなりそうなので、最低3部作になります。
 長い地の文や長台詞が多いので若干読みにくいかもしれません……ご容赦を。
 また、稚拙のネットワーク工学やコンピューターに関する知識は皆無なので、本文中で間違った使い方をされてるプログラミング用語があるかもしれませんが重ねてご容赦を。
 そして肝心なことを書かねばなりませんが……

 ……お読みの小説は『インストール@プリキュア!』です……


 二人の奇跡!キュアミラクル!!

 こんにちは!朝日奈みらいです!

 

 りんくちゃんとほくとくん……

 ひとりで出来ないことだって、ふたりでなら―――――

 それに、ふたりは―――――"ふたりだけ"じゃないよ―――――

 

 《なにひとりでドツボにハマってやがんだ。お前だけで戦ってるって勘違いされちゃ心外だぜ。今のお前のその体、"誰"と"誰"で出来てっと思ってる?》

 《お呼びいただけると思っていましたわ、ほくとさん♪》

 『私は!"プリキュア愛"で!!出来ているッッ!!!』

 『確かに―――――人はね……みんな違うよ―――――"愛し方"や―――――"痛み"も違う―――――"好き"が、人によって違うことは当然―――――でもね、"人に迷惑をかける"『好き』だけは、"素敵"だって思えない!カイザランチュラにとって……私達のこの世界は、秘密が茂る宝島(ワンダーランド)かもしれない―――――眩しく見えるかもしれない―――――でも……でも!"何か"を……"誰か"を犠牲にしてまで、土足で入ってきていい場所じゃない!!』

 

 ふたりと"みんな"の想いが集まって、運命を切り開く力になる……!

 そう―――――まるで、『できない』を『できるようにする』、『魔法』のように―――――

 

 わたし、信じるよ―――――

 ふたりの想いとその力が、きっとみんなをつないでくれるコト。

 

 モフルン……はーちゃん……そして……リコ……

 また、離れ離れになっちゃったけれど……でも……あの時と同じで、きっと、必ず―――――

 

 『インストール@プリキュア!』―――――

 これからどうなるか……ワクワクもんだぁ!

 

 ――――――――――

 

 世界的なネットワーク災害『アイ・クライシス』によるインターネットの死滅を経て、世界中に普及した新たなるコンピュータ・ネットワーク網―――――『キュアネット』。

 ネットワーク上を行き交う情報が可視化され、ネット上の安全対策も従来以上に講じられるようになった現在においても、サイバー犯罪は減少することなく、むしろ巧妙化・悪質化しつつあった。

 また時には、国家の安全を脅かすほどの大規模犯罪になりかねないケースもあった。だがそれらは全て、公にならぬ裡に、密かに解決・処理されてきた。

 それには、政府が新時代のサイバー犯罪に対応するために設立した、とある組織の功績があった―――――

 

 ―――――『内閣電脳調査室』―――――通称:『電調』。

 現実とキュアネット、その双方におけるプロフェッショナルを擁する彼らの手によって、キュアネットの安全は人知れず守られてきた―――――

 そして今また、この国―――――否、全世界すら巻き込まんとする新たなる脅威が、キュアネットから迫りつつあった……。

 

 ――――――――――

 

 NPC MITSUAKI MASUKO

 

 ――――――――――

 

 「かんッぱァ~~~い!!」

 

 居酒屋の個室に響き渡る声。

 

 「んぐ、んぐ、んぐッ…………ぶッはぁぁ~~~!!!んまァ~い!!仕事終わりのこの一杯!!やっぱニッポンのビールはサイッコーやなぁ~!!にいちゃん、生一丁~!!」

 

 コイツ……この一瞬でジョッキ一杯空けやがった。相変わらずの飲みっぷりだ。

 

 「ん?どないしたんサトーくん?遠慮せんと飲みぃ飲みぃ!今日はウチのオゴりやさかい、ツブれるまで飲みぃや~!」

 「は、はぁ……」

 「……明日から仕事だぞ。二日酔いで使いモンにならなくなったら困る。程々にしてやれよ」

 

 ……あの後、俺と佐藤はテテに半ば強引に、行きつけの居酒屋へと連れ込まれ、酒宴に突入してしまった。

 大学の頃からそうだったが、テテの飲みっぷりは半端ではない。コイツのせいで何度酔い潰されたか……

 

 「わぁ~っとるわぁ~っとる。"おしごと"には差し障りないようにすっからぁ。……あ、おっちゃん枝豆追加~!」

 

 コイツ、黙っていれば美人なんだが、一度口を開けば最後、その場でドン引かれる。

 

 「それにしても、日本語……というか、関西弁上手ッスねぇ」

 「あぁ、ソレなぁ?ウチ、こう見えても大阪生まれの大阪育ちやねん。おとんがアメリカん会社の大阪支社長で、おかんは秘書。ニッポンで不自由せんように、英語だけやのぉて日本語も教わってん。でな?おとんが教材代わりに見せてくれたんが新喜劇のビデオでな、これがホンッマオモロくて!100回か200回は見たわぁ、知らんけど!その内喋り方、こんな感じになってもーてなぁ、アッハハハハハ!!!」

 「……大阪の人間はノリがいいからな。誰も標準語に矯正しなかったらしい。『面白い』という理由でな」

 「しっつれいやなぁ、大阪んヒト全員がノリで生きとぉワケやないでぇ?それは偏見やで~?」

 「あ゛~!わかった!わかったからくっつくな!酒臭ェ!!」

 

 コイツと初めて会ったのは大学のゼミだった。俺が院生で、コイツは学生だった。

 元々報道に興味があったらしく、俺に近づいたのも俺が『増子』の人間だったから、らしい。

 しかし俺は―――――過去の個人的な経緯から報道への熱に冷めていた。本家とも縁は切った、ということも告げた。

 最初は落胆したようだが、それでもコイツは俺に付きまとってきた。

 

 ―――――何時まで付きまとってくるんだよ。俺はもう、『本家』とは何の関係もない一般人……ジャーナリストにもルポライターにもなる気は無ぇんだよ。

 

 一度、ハッキリと言ってやったことがある。しかしコイツはというと―――――

 

 ―――――ウチな、あんさんの密着取材がしたいんや。あえて『正道』から外れて、『別の道』進みたいっちゅう、あんさんの生きざまが見たいねん―――――

 

 ……つまりは、『マスコミ一家』の出でありながら、その道を蹴った『異端児』の行く末が見たいっていう好奇心―――――

 ―――――俺の一番嫌いな類の人間だった。『好奇』に人心を蝕まれて、他の事が何も考えられなくなる、『本家』のような連中と同じだと。

 それでも俺がコイツを邪険にせず、あえて泳がせていたのは、コイツは『本家』の人間ではないことへの安心感のようなものを抱いていたからかもしれない。

 もしくは―――――

 テテには気の毒だが―――――コイツが『破滅』する様を見たかったという、サディストじみた思惑もあった。軽はずみに『真実』を求めたがる者の末路と、好奇心の果てに得るモノは『光』とは限らない……それをコイツが思い知るまで付き合ってやるつもりだった。ところが、コイツは俺の予想の遥か『上』を行った―――――

 大学卒業後、ジャーナリストとして本格的に働き始めたテテは、意外なほど評判の良い記事を書いた。

 既に電調に属していた俺は、とある出張先(でさき)の駅の売店(キヲスク)で偶然買って読んだ週刊誌に載っていたその記事に、思わず目を留めた。普段のコイツからは想像もつかないほどの筆致だった。

 それはまさしく、『嬉々として報道を堪能している』ヤツが書いたと云える、『本家』のヤツの書いた記事とは似て非なる、そんな記事だった。物事をきちんと客観的に捉え、当事者達の視線に立って読む者に訴えかけ、問題を提起し、思考を促す―――――ルポルタージュの見本のような内容だった。

 この点、『本家』のヤツが書く記事とは決定的に違うと云える。本家のヤツの書く記事は、客観性はあれど、読者への訴えかけから『先』が無い。あからさまに『自分はこんなすごいことを見つけたんだぞ、すごいだろ!』という、子供じみた自慢にしか感じられないのだ。読んだヤツは誰しもこう思うだろう―――――"だから何だ?""それがどうした?"……と。

 当たり前だ。『人間性』ってのが欠落した、『人の皮を被ったバケモノ』なんかに、文才があってたまるか。

 ……ともかく、テテの記事は多くの人間から評価され、昨年、史上最年少の28歳で、報道の最高峰であるピューリッツァー賞を受賞したのだった。

 

 「……最近の記事、読んだぜ。また危ない橋渡ったろ」

 「ん~……まぁ、戦闘機ィスクランブルしてきとったなぁ。追いかけっこはもぉ慣れっコやけどな♪ちょいちょいにぃちゃん、ハイボールとタコワサ~!」

 「戦闘機って、なんのコトッスか?」

 「コイツ、自前のグライダー持っててな。犯罪的に過激な改造してやがるのさ。それこそ戦闘機を振り切れるくらいのな」

 「マジッスか!?」

 

 テテは『自家用機』とも言うべき改造モーターグライダーを保有している。それを駆って世界狭しと飛び回る姿から、『空飛ぶジャーナリスト』という二つ名もつけられた。

 もっとも、緊張状態にある国の領空に不用意に近づいたり、フライトプランの提出を忘れたりして領空侵犯を繰り返し、戦闘機と鬼ゴッコを繰り広げたこと数知れず。

 『領空侵犯の常習犯』だとか、『空軍の常連客』と陰で呼ばれていることは―――――コイツに言うべきではないだろう。

 

 「それで?3年ぶりに帰ってきたのは久々に俺を酔い潰すためか?それともピューリッツァーの自慢か?」

 「あぁ、せやった……酒が旨ぁて忘れるトコやった……せやせやコレコレ……♪」

 

 テテは座敷の隅に置いていたバッグを取り出すと、その中からノートパソコンほどの大きさの箱を出した。箱にはテンキーが備えつけられ、厳重に施錠(ロック)されていることが窺える。

 

 「バァスにカケフ、オ~カダっ♪バックスクリィンさんれんぱ~つ♪♪」

 

 テテはご機嫌な様子で呪文のようにそう唱え、テンキーを6回ほど叩くと、小さな電子音が鳴り、蝶番式に箱が開いた。

 中身を覗くと、そこには―――――

 

 「!?」

 

 長さ2、3cmの、まさしく―――――"実弾"だった。

 金と赤で縁取られた、日本の公の場ではまずやり取りされない代物。

 

 「お前、コレ……!?」

 「…………………………」

 

 当然俺は驚いた。佐藤も引き攣った顔で絶句している。こんな物、居酒屋で出すような物である筈が無い。

 

 「聞ぃとらんかったんかいな?"コレ"が『Gやん』の"お土産"や」

 「土産って、お前……」

 「いやぁ~、これ持ち込むん苦労したんやでぇ?お偉いさんから口添えあらへんかったら、間違いなく空港でワッパかけられとおわ」

 「……お前なぁ……」

 

 呆れるしかなかった。コイツは一体何度、自分の命を担保にしてやがる……。かく言う俺も人の事は言えんが。

 

 「この弾……普通の弾じゃないですね」

 「わかるん?」

 「ええ」

 

 最初は引き攣った顔をしていた佐藤だったが、すぐさま表情を戻し、弾を手に取り隅々まで凝視していた。

 

 「二層構造……中には……う~ん……」

 「へぇ~……サトーくんってこの手のマニアなん?」

 「元々こいつはSATでスナイパーやってたんだよ。だからか目が無くてな」

 「フッ……『G・I・サトー』と呼んでもらってもOKッスよ」(キリッ)

 「なんやゴルゴやないんかい」

 「アハハ……ハァ……」

 

 ため息をついて落胆した佐藤。と、弾が入っていた箱の隅に、スピーカーのようなモノがあることに気付いた。これは……?

 

 《ようやく中身を確認してくれたようですね》

 

 そのスピーカーから、明らかに普通ではない声が響いてきた。ボイスチェンジャーで加工したこの声、何度も聞いた。

 

 「お、なんやGやん、見てたん?相ッ変わらずヤボなんやからぁ」

 《居酒屋なんかで渡すものじゃないですよ、ソレ》

 「し、主任……!この声の主って……まさか……!?」

 「あぁ、そういや佐藤は初めてだったな。俺達のオブザーバー……『Dr.G』だ」

 

 俺達『電調』のオブザーバーを務める謎多き人物―――――それがDr.G。

 俺もそうだが、室長ですら直に対面したことはないらしく、しかもこうして声だけ、それも加工された声で俺達と会話するため、男なのか女なのか、年寄なのか若いやつなのか、そのすべてが謎に包まれた存在だ。

 しかもどうやってかはわからないが、常に俺たち電調メンバーの動向を見ているらしく、隠し事のひとつも出来やしない。プライバシーもないわけだ。

 

 「お、お会い出来て光栄ッス!自分、さt―――――」

 《良く存じ上げてますよ、"イノセント・スナイパー"》

 「い、イノ……??」

 《お気になさらず。ワタシ、あまり深く関わっていない方のお名前をそのまま呼ぶのは失礼だと思ってまして。ワタシの流儀ですので悪しからず》

 「は、はぁ……」

 《アナタも息災で何よりですよ、"アウトロー・サン"》

 「別になりたくてアウトローな息子になったわけじゃねぇが……ご無沙汰だな、ドクター。……で?この弾、タダの弾じゃないんだろ?」

 《ええ―――――今回の『お仕事』を行うにあたって、まずは『お相手』に対抗できるだけの力は必要と思いまして、ご用意させていただいたものです。外殻を貫通するための硬質合金のフェアリングの内側に、ある種のコンピュータウィルスに対するバスティングプログラムを組み込んだ素子を鋳込んだ特殊合金を仕込んだモノです。あの場に居合わせた警察官の方の拳銃が通用しなかったという情報を鑑みて、制式採用の弾丸とは異なる設計をさせていただきましたが、規格自体は従来の制式拳銃に合わせてありますから、問題なく使用可能です。技研にもサンプルを回してありますから、直に量産体制も整うかと》

 「ちょっと待てよドクター……コンピューターウィルスだぁ?……おいおい、今回相手にするのは『不明生物』だぜ?それがどうして、対コンピューターウィルス用のプログラムを仕込んだ弾で相手しろってんだ?……それにそもそも、不明生物が相手ってんなら、電調(ウチ)じゃなく特生自衛隊(トクジ)にお鉢が回る筈―――――」

 《……いるかどうかもわからないゴジラやキングギドラ相手に、机上演習や、ハリボテ同然の有人操縦型機械怪獣(機龍やMOGERA)の整備で予算を無駄食いしている道楽連中の初陣にくれてやれる相手じゃないんですよ、"アレ"は。皆さんが『不明生物』と称している敵性大型生命体というのは―――――》

 

 俺だけではなく、佐藤をも耳を疑うことを、Dr.Gは告げた。

 

 《キュアネット空間から現実空間へと実体化した―――――コンピューターウィルスです》

 

 「!?…………お…………おいおい、冗談だろ……!?」

 《ワタシは冗談は好きではありません。実に真面目に話しています》

 「で、でも、そんなコトがありえるンスか……!?ネットの中のモノが、現実に出てくるなんて……」

 《簡単な話です。パソコンから書類をプリントアウトすること……もっとわかりやすい例なら3Dプリンターですね。その延長と考えていただければ》

 「それとアレとは次元が違い過ぎッス!」

 

 スピーカーの奥で、ため息が漏れるのが聞こえた。

 

 《…………詳しくない方にもお分かりいただけるように、実に簡素化してご説明させていただいたつもりですが……まぁこの際です。実に長くなる上、ワタシの推論も織り交ぜますので確定情報と言えませんが、現時点でワタシが分析した"連中"の仔細をご説明させていただきましょう。……テテ、タブを》

 「は~いな♪」

 

 テテは個室の隅のバッグから自分のタブレット端末を取り出し、電源を入れた。画面に映し出されたのは、キュアネット空間で暴れる、例の『不明生物』―――――おっと失礼、Dr.G曰くの『コンピューターウィルス』だった。

 

 《この映像は4月の上旬……大泉町内のキュアネット上で確認された、『例のコンピューターウィルス』……そして次がその9日後、その翌日……細かい部分は異なりますが、これらは全て、同一種のコンピューターウィルスです。プログラムログからも間違いはないでしょう。そして―――――》

 

 タブの画像が切り替わり、今度は現実の市街地で暴れるコンピューターウィルスが映った。

 

 《これが初めて、大泉町の中心市街地に出現した『実体化ウィルス』……それから、大泉町営野球場、大泉中学校で2度……もうサルでもわかりますよね。すべてが同一のウィルスをベースにした、マイナーチェンジ……文字通り……『見ればわかります』》

 「まぁ……確かに見た目は似てるが……『どちらか』が『もう一方』の外見を模倣した別物……という線はないのか?」

 《"素人目"ではそう見えましょうが……このキュアネット、見た目だけでなく『ナカミ』も参照できるので。ログを回していただいて、解析を行ったところ……興味深い点があったんですよ》

 

 タブレットの画面が切り替わった。素人には全く理解のできない―――――プログラム言語の羅列だった。

 

 「……なんだこりゃ」

 「……あ……アタマ痛くなってきたッス……」

 《サイバー犯罪対策のプロフェッショナルなのに、この位理解できないのですか……実に解せません》

 

 ごもっとも。生憎俺も佐藤も現場主義なんだよ。

 

 《……画面左側が『例のウィルス』のログ……右側は比較対象として用意した一般的なコンピューターウィルスのログです。この、アンダーラインで示した部分……この記述が、一般のウィルスとは根本的に違う点……まるで、後から組み込まれたような『作為的』な部分……実に巧妙にカモフラージュされていますが、これがこの『実体化ウィルス』のキモであると……ワタシは考えています》

 「その根拠は?」

 《皆さんはまず御存じでないと思いますが……ワタシの尊敬する方が、このプログラムを予見した論文を過去に発表していたのです。同じく、この『実体化ウィルス』のことも―――――そして―――――"P"のことも、ね》

 「なんですって……!?!?」

 

 つまりは―――――この非現実的なコンピューターウィルスや、"P"の出現を予見したヤツがいたということか。当然のように、俺は訊いていた。

 

 「何者なんだよ……その"予言者"は―――――」

 《皆さん……いや、全世界で、キュアネットに携わる人間の殆どがその名を知っている……日本のネットワーク工学の権威……『キュアネットの母』と呼ばれる偉人―――――東堂博士です。この論文が発表されたのは、アイ・クライシスの起こる4年ほど前……つまりは今から20年ほど前になりますが》

 「そんな前から……じゃぁどうして東堂博士は今回の件に関して何も動こうとしてないんスか!?」

 「……知らねぇのかよ?東堂博士は4ヶ月ほど前から―――――"引きこもってる"」

 「引きこもってるって……それってどういう……??」

 「言葉の通りや。博士、自分が所長を務めとる日本電脳工学研究所(日電研)のメインサーバールームに閉じこもって鍵掛けたっきり、出て来ぃへんくなってもうたんやて。中で何しとんのかも全くわからんらしいて」

 「行ったのか?」

 「技研に弾のサンプル回すついでになぁ。博士の助手ってヒトにも話聞けたんやけど……あのヒト、何て名前やったけかなぁ~……?確か、さか……―――――」

 《ともかく……東堂博士が対策を講じることの出来ない今、ワタシ達の方で何とかするしかないということで……実に大幅に話が脱線しましたが、元に戻しますよ》

 

 今この場にいない人間のことを話しても仕方がないのは同意する。問題は、このウィルスの詳細情報だ。

 

 《……『実体化ウィルス』が持つ特異なプログラム……ワタシは『Cプログラム』と呼んでいます。このプログラム部分……これには『人間の意志』に似た、非常に高度なプロトコルが用いられています。これ以上の詳細は『現物のウィルス』のサンプルが無いのでわかりかねますが、これこそが『実体化』を実現せしめる『鍵』であると考えてます》

 「人間の意志……か……」

 「じゃぁ、あのウィルスは……人間並みの知能がある……?」

 《意志があるかどうかはわかりませんが……『それほどの高度なプログラム』が無ければ、実体化が出来ないと見るべきでしょう。動作プログラムとは別の可能性も考えられますし。―――――もっともこちらは、『弾』さえあれば駆逐は可能でしょう。さしたる問題ではありません》

 「ぶっちゃけたな……そこまで説明した不可能存在を問題外って言い切るってことは……ドクター、あんたの本命はウィルスじゃないな」

 

 俺がそう言うと、少し間を置いた後、Dr.Gは浮ついた調子でこう返してきた。

 

 《わかります?わかりますよねぇ……♪その通りですよ、アウトロー・サン。"諸外国の皆さん"の目当ては『実体化ウィルス』でしょうが、ワタシの一番の本命は―――――"P"ですよ♪♪》

 

 やはりか。ボイスチェンジャー越しにも伝わる興奮。今までの淡々とした説明が嘘のようだ。

 

 「"P"って……やっぱり、ウィルスと同じで、"ネットのプリキュア"が実体化してるんスか……?」

 「そこ、ウチもギモンだったトコや。見た目もよぉ似とぉし、例のウィルスと、出処は一緒ちゃうんか?」

 《違います……実に違います!!月とスッポンほど違います!!!……ゴホン、少し興奮しました……ではどのように違うのかを懇切丁寧にご説明しましょう》

 

 またタブレット端末の画像が切り替わった。今度はウィルスではなく、ネットの中で戦う少女にフォーカスされる。

 

 《……ウィルスと"この存在"は、根本的に異なります。まず、ウィルスと異なり、ログに『Cプログラム』が含まれていません。ですので、"この存在"が単独で実体化することは、まずありえないんですよ。……もっともこの存在からして、"例のウィルス"同様に常識を覆す存在であるのですけれども》

 「どういうことだ?」

 《"この存在"は―――――生きてるんですよ》

 

 またも、俺と佐藤は呆気にとられた。

 

 「「……………………は?( ゚Д゚)( ゚Д゚)」」

 《キュアネット空間内に生息している電脳生命体……コンピューターウィルスならぬ、コンピューターオーガニズム……略して"C-ORG(シーオーグ)"といったところですね》

 「シーオーグねぇ……人工知能じゃないのか?」

 《人工知能とはプロトコルの構造が根本から異なるので、違いますね―――――この存在も、東堂博士の論文に記されていました。……もっとも、20年前、この学説は失笑を以って迎えられたそうですがね》

 

 心なしか、Dr.Gの声の調子が落ち込んだようにも聞こえた。

 

 《すみません、話を戻します。……このC-ORGもまた、現実空間に実体化するには『Cプログラム』が必要であると考えられますが、こういう考え方もできます―――――『Cプログラム』に似た因子……即ち、人間の……『人間そのものの意志』と『同期』させることが出来れば、実体化とは異なる形で、C-ORGと同等か、それ以上の能力を持った存在を現実空間に顕現させることが可能となる……。》

 「C-ORGと同等かそれ以上の能力を持った……」

 「現実空間に顕現した存在―――――まさかそれが……!?」

 

 テテの口元が上がるのが見えた。

 

 「せや」

 《……"P"ですよ。『C-ORGの能力をその身に宿した人間』こそが……あの人が……東堂博士が存在を予見した、人類を超越した"高度情報化生命体"……!》

 

 ますますもって非現実的だ。その身に宿すって―――――

 

 「どうやって、だ?生命体とはいえそれ以前にプログラムの類だぞ。スマホとかパソコンにならともかく、『人間』にそういったモノをダウンロードしたりとか、インストールすることなんて可能なのか?」

 《その点が実に解せないんですよ。人間はもとより生物に『電子情報』を『インストール』するなんて、常識的にあり得ません……!しかし東堂博士は"P"の存在を確信していた……C-ORGを人間に『インストール』することが可能な何らかのインターフェースを、"彼女"たちが所持していることは確実でしょうね》

 

 人体にプログラムをインストールする―――――今回の件に関わっている連中は、もはや一般常識の通用しない連中らしい。

 それを特殊弾だけで捌けって、ちと無理がないか?オブザーバー様よ……。

 

 《ご存知の通り、彼女達の身体能力は人間の限界を遥かに突破しています。読んで字のごとく、『新人類』と呼ぶに相応しいでしょう……今のワタシにとっての最大の"謎"……謎に包まれた彼女達の仔細、何としても解明したいものですよ……!》

 

 どうやらDr.Gにとって、ウィルスよりも"P"の方がそそる存在らしい。まぁ、奇妙な風体のバケモノよりも、見た目可愛い女の子の方が、印象もいいだろうが……

 

 《いいですか皆さん……彼女達"P"……そして『実体化ウィルス』の情報を、出来るだけ多く収集してくださいね。……テテ、頼みましたよ》

 「はいはい♪」

 《これらの"謎"はワタシへの"挑戦"……!東堂博士が待ち望んだ存在を必ず白日の下に曝し、博士の正当性を証明するのです!!》

 

 スピーカーからプツッという音がして、それきりスピーカーは黙った。言いたいことだけ言って去りやがった。

 

 「まったくこれだからマッドサイエンティストの気は知れねぇ」

 「まぁまぁみっつー、大目に見たってや。Gやんのコーフンぶりは今まで以上やし、やる気やってことやから」

 「……自分達、そんなジョーシキ外れの連中を相手にするンスよねぇ……」

 

 どこか遠くを見つめる佐藤の目。酒が回ってきてるのか、顔を真っ赤にしている。

 

 「主任……なんか、めっちゃ不安なンスけど……」

 「心配すんな……誰に何と言われようが、俺達の仕事は変わらんさ」

 

 そう―――――ブレちゃいけねぇ。

 国民の平和を守り、脅威を取り除く事こそが、俺達の『仕事』だ―――――

 そして、その『仕事』を『自分たちの仕事』と勘違いしてる、あの『2人の民間人の少女』を、危険から遠ざけなきゃいけない。

 "危ないことは、やめさせる"―――――

 お節介かも知れんが、それが『大人の仕事』でもある―――――

 

 Dr.Gが欲しいのは『真実』らしいが―――――俺はそんなモノ、これっぽっちもいらねえんだよ。

 『真実を求める』ことに囚われちまったら―――――

 

 『ヒト』であることを辞めちまうことになるんだからな―――――

 

 ――――――――――

 

 NPC "Dr.G"

 

 ――――――――――

 

 伝えるべきことは伝え終えました。皆さんには期待していますよ―――――

 それにしても―――――

 ワタシは手元のノートパソコンを開いて、アプリを起動しました。

 その中には、とある3つのプログラムが保存されているのですが―――――

 

 「なかなか『心』を開いてくれないのですね……強情なのか、それとも……何かが足りないのか……」

 

 かつて、"P"についてなんらかの手がかりが得られるかもしれないと思って、日電研のサーバーにハッキングを掛けた時、手に入れた3つのプログラム―――――

 間違いありません。これらは―――――

 

 『Cプログラム』―――――

 

 おそらく、そのオリジナル。『実体化ウィルス』が保有しているモノと同タイプのモノ。

 もっとも、3つのプログラムのうち、解析が可能なのは2つだけ……それも、極々『表層』に過ぎません……

 この膨大かつ複雑無比な情報―――――『人間的』というよりも、むしろ『人間そのもの』ですね……

 

 「果たして……アナタたちはいったいどこから来たのでしょうかね……?実に興味深いですよ……ワタシの知的好奇心を、ここまでくすぐる存在、その手掛かり"だけ"だというのに……」

 

 話しかけても何も答えないのはわかってますけどね。ちょっとした独り言です。

 しかしながら―――――アナタたちには少しでも協力してもらわなければなりません。

 でないと、あのひとの……東堂博士が予見した"彼女達"の真相に、近づくことはできませんからね……

 ワタシは思わず、少しだけワタシに『断片的な情報』を提供してくれた、2つのプログラムに呼び掛けました。

 

 「さぁ……いっしょに真実を明らかにしましょう―――――"ローズ"、"フェリーチェ"」

 

 これらのプログラムはそれぞれ、名前を名乗っていました。

 

 〈No.11 "ROSE"〉〈No.44 "FELICE"〉

 

 『薔薇』と『幸福』―――――しかもイタリア語で『幸福』とは、粋な名前を名乗るものです。

 この2つのプログラム……出所をはっきりさせるには、やはりもう1つか2つ、同様のプログラムが必要なのでしょうか……

 

 そして―――――

 最後に残された3つ目のプログラムに至っては、名前以外の解析を許してくれない『頑固者』です。

 名前を知って納得しましたよ。まさしくあなたは名前の通りの『完璧主義者』―――――

 でも、いずれは―――――

 

 「あなたの事ももっと知りたいです……ワタシに、少しでもお顔を見せてください……。」

 

 

 ―――――"No.50"―――――

 

 

 「―――――……"PARFAIT(パルフェ)"―――――」

 

 

 

 ……SAVE POINT




 用語解説

 バグッチャー

 ジャークウェブが使役する、意志を持つコンピューターウィルス、またはそれにより生まれたキメラモンスター。
 プリキュアのキュアチップと、何らかのキュアネット上のプログラムやアプリを合体させて怪物化、ワルイネルギーをまき散らしながら、キュアネットで破壊活動を行う。
 キュアネット上の破壊活動によって、リアルワールドにも悪影響が生じる。
 発生からある程度の時間が経過すると実体化現象によってリアルワールドに出現、リアルワールドを直接攻撃し始める。
 ネット上においては通常のセキュリティプログラム等で太刀打ちできる存在でなく、実体化後も通常兵器では傷ひとつつけられず、いずれの『世界』でも、プリキュアが放つイーネルギーでしかデリートさせることができない。
 なお、キュアチップを抜き取られた後も実はある程度行動可能で、最後の悪あがきを見せることも。

 ――――――――――

 りんく達のあずかり知らぬところで、こんな大ごとになっていたんです……
 そして……衝撃のラストとなりました……
 本編にすら出てこない『彼女』の名前、出しちゃったんですけど大丈夫でしょうかねぇ……??

 そしてDr.Gの最終目的とは?そしてそもそもその正体とは……??
 次回は『電調・増子班』、大泉町にやってきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大泉ふたたび

 キャラクター紹介

 スパムソン

 ジャークウェブ四天将のひとり。
 何ごとも形から入るカッコツケだが、清濁併せ呑む気概を持つ軍人肌の男。
 一人称は『小官』、二人称は『貴官』、さらには他人に『将軍』と呼ばせるなど、とことん軍人っぽい。
 第二次サーバー王国侵攻の際、キュアモフルンの不意打ちによって後頭部にキョーレツな一撃を食らい、以来、言語機能に支障をきたしたのか固有名詞を言う際に言い間違えるようになってしまった。そのためキュアモフルンには並々ならぬ因縁を持つ。
 第二次サーバー王国侵攻作戦を立案、指揮した司令官でもある。
 アラシーザーのことは一方的に気に入っている模様。
 りんく曰く「『ハピプリ』のオレスキーのモノマネをしている『フレプリ』のウェスター」。

 ――――――――――

 あ、危うく前回投稿から1ヶ月経つところでした……生きております、稚拙です。

 この間、プリアラではシエル=サン登場からその正体発覚、エグゼイドでは『お前はもう死んでいる』的エフェクトが稚拙的に大ウケしているライダー史上最強スペックを誇る『もう全部あいつひとりでいいんじゃないかな』『ぼくのかんがえたさいきょうのらいだー』エグゼイド・ムテキゲーマー登場、キュウレンジャーでは毒メロン兄さん退場&ホウオウソルジャー見参、さらには10月からニチアサ時間帯移動の報道など、激動の3週間でした……あ、『光と闇が備わり最強に見える』ウルトラマンジードもはじまりましたな。

 さて今回のインプリですが、3人目の『電調』メンバーが合流しての大泉町の調査です。
 そのメンバーによって2人ほど、稚拙が『誰の声でそのキャラのセリフを脳内再生しているか』が判明しますが……読者様方が抱いていらっしゃるイメージと違ったらごめんなさい……

 美津秋がどうしてマスコミの道を蹴って公務員を志したか、増子家の人間を蛇蝎の如く嫌うようになったか、その経緯も彼の回想として語られます。
 『増子一族』の闇の一端……送信です。


 NOW LORDING……

 

 ――――――――――

 

 NPC MITSUAKI MASUKO

 

 ――――――――――

 

 翌日―――――

 

 俺達は佐藤の運転するサイドカーと、テテが手配したレンタカーで大泉町入りすることにした。

 このサイドカーは電調に配備された最新型で、機動力が必要とされる局面ではバイク側のスイッチ一つで側車の切り離しも可能、その上側車だけでも自走可能といういささかオーバースペック気味の代物だ。

 その名も"黒檀號(コクタンゴウ)"。その黒々とした車体からインスピレーションを得たらしい。佐藤にしてはなかなかいいネーミングセンスをしてやがる。

 ともあれ―――――

 俺は久方振りに、『本家』のある大泉町に『戻ってきてしまった』―――――

 高校を卒業して家を出たあの日―――――もうこんなクソ溜めみてぇなトコに二度と帰るかと誓って、全ての縁を断ち切った―――――つもりだった。

 

 《もうそろそろ、大泉ッスよ》

 

 耳元の通信機から佐藤の声が響く。風に揺られてうつらとしていた俺は、その声で目を覚ました。海も山も、都会も田舎も、日本のありとあらゆる風景をないまぜにした―――――

 ―――――闇鍋のような街が見えてきた。

 東栄市大泉町―――――

 俺が生まれ育ち―――――そして―――――

 

 捨てた街―――――

 

 ――――――――――

 

 今朝打ち合わせた通りの段取りどおり、まずは先んじて大泉町入りして調査をしている、もうひとりの『調査員』と落ち合う算段だった。

 大泉町中央公民館で9時に待ち合わせ―――――だったが、『彼女』は10分も前に姿を現した。

 

 「お待たせしました、増子主に゛ッ!?」

 

 俺達の目の前で、メガネをかけた童顔の女はすっ転んだ。べちゃ!!という変な音がした。

 

 「だ、だいじょーぶっ!?」

 

 テテが慌ててその女に駆け寄ると、女は無邪気に笑いながら起き上がった。

 

 「いしし……お構いなく……カシコはすぐ転んじゃうんです♪メガネも無事でよかったぁ♪」

 「まったく危なっかしい……」

 「おお!!その声!『ワンピース』のサンジそっくりのダンディなお声!!紛れもなく主任です!!」

 「……誰だそりゃ?」

 「アニメやなぁ。ワンピ知らんなんて流石に無いわぁ。ウチもアニメはよぉ知らんけど、ワンピぐらいはなぁ」

 「アナタがテテさんですね!ドクターと主任からお話は聞いてます!そのお声、『ダンまち』のロキそっくりですねぇ!関西弁も完璧マッチしてますっ♪」

 「……??なんやよぉわからんけど、よろしゅうなぁ♪」

 

 コイツは井野菓子々(いのかしこ)。見た目は学生に見えるが、23歳。

 もっとも、普段の振る舞いは『見た目通り』で、テンションが高くて落ち着きがなく、常に見張っとかないと何をしでかすかわからん。

 でもって重度のオタクだ。暇なときはアニメやマンガやゲームやら、その手の話題を振ってきては俺や佐藤を困らせる。

 

 「……お前を一人で行かせろってDr.Gに言われた時は肝を冷やしたぜ」

 「何を言いますか主任!カシコはこれでも…………こ……こ、心細かったです、主任~……(T T)」

 

 こんなヤツを―――――それも、本来は『調査員ではない』コイツをひとりで調査に送り出すなんて、Dr.Gは何を考えてるんだか……

 

 「でもでも、久々に学生時代に戻れた気がしました!なんてたって高校での情報収集!カシコ、キモチだけでも若返りました!」

 「この中で一番年下のくせに何言ってんスかっ」

 「痛ッ!!デコピン禁止って言ったじゃないですか佐藤先輩~!」

 「なるほど、高校か……確かに"P"の見た目は年頃だしな。学生って線は濃厚か……」

 

 これを見越してDr.Gはコイツをこの街に送り込んだということか。まぁ、こんな『ちんちくりん』が学生服を着て高校の中を歩いていても、何ら違和感がないか……。

 

 「詳しいお話は後ほどするということで……段取りはOKです、さ、行きましょう皆さぁ゛っ!!?」

 

 また転びやがった……しかもさっきと同じ場所で。

 1ヶ月も高校にいたと言うが……その高校に迷惑とか掛けなかったのかが少し不安だ……

 

 ――――――――――

 

 井野はテテのレンタカーに乗り込んだ。まず俺達が最初に向かったのは、最初に『ウィルス』が実体化した場所―――――市街地の一角だった。

 町に来るまでに、打ち合わせた通りに―――――

 

 「テテの取材って名目だ。俺と佐藤は、その警護って体裁でついていく。井野はクルマで監視とネットの異常をチェックしてくれ。情報収集はさり気無く、な―――――」

 

 何処に『同業者』が紛れ込んでいるか分かったもんじゃない。その為に『体面上は』一般人であるテテの立場を利用せざるを得なかった。

 テテもテテで、真面目に取材をして、それを記事にするつもりらしい。もっとも、『肝心な事』は巧妙に避けたルポ形式ということだ。

 『ウィルス』の現実空間への初出現から、ひと月半は経っている。破壊されたビルの復旧も大分進んでいるようだった。

 献花台には多くの花が手向けられ、未だに人は途切れない。俺達も花屋で買った花を手向け、祈りを捧げる。

 

 ―――――この件を早急に片付けることが、俺達ができる、この花以上の最大限の『手向け』だ―――――

 

 仕事である以上、全力を尽くす。感情的にならず、あくまでも『そういう立場』だからこそ。

 ―――――丁度、この献花台に花を手向けに来た老婦人に、テテはそっと声をかけた。

 最初は流暢な日本語で話しかけてくる外国人女性に戸惑っていたようだが、徐々に心を開いてくれたようで、自身の心境を話してくれた。

 彼女は当日この場にいなかったそうだが、息子夫婦が大怪我をしたらしい。犠牲者も出た今回の件に思うところあって、週に1度、こうして献花に訪れているという。

 平和な日本に暮らしていて、まさかこんな事が、それも自分の住む街で起こるなんてと嘆いていた。

 

 「……なんって言うか……来るモノがあるッスね、こういうのは―――――」

 

 そう、佐藤が小声で呟く。コイツはまだ、電調に来て1年ほどで、まだ『こうした事』に慣れてない節もある。

 俺はもう―――――慣れた。慣れて、しまっていた。表沙汰にならない『仕事』を5年近くもしていれば、間近で別の『誰か』が傷ついたり、下手を打てば命を落とすことも稀にあった。

 俺にこの仕事のイロハを教えてくれた先輩は2年目に死んだ。

 初めての俺の後輩は3年目に死んだ。2人目はその次の年に。

 そして、『そうしたモノ』を失った悲しみを背負って、押し殺し、大義の名の下、権力の命ずままに、犯罪者を法の裁きにかけ、金を貰って飯喰って―――――

 そうした『他人の命』や、『他人の運命』を『食い物』にすることに―――――

 俺は慣れてしまった。

 まだ俺は『人間的』でいられるが、じきに俺も、誰が傷つこうが死のうが、涙ひとつ流さない『マシーン』のような存在になっていくのだろう。

 ―――――まぁ、『バケモノ』よりかは……マシな存在なんだろう……。俺にとっては。

 

 「……じき慣れる」

 

 まだその『どちら』にも染まり切っていない佐藤には、俺はこう答えるほか出来なかった。

 

 ――――――――――

 

 その後も俺達はテテとともに大泉町各地を回って、『取材』と称した情報収集を続けた。 

 しかしどれもこれも、都市伝説じみたことばかりだ。

 そして、そのほとんどで出てくる単語があった―――――

 

 ―――――プリキュア―――――

 

 佐藤やテテもそうだが、何故に誰も彼も、"P"やC-ORGのことを『プリキュア』って呼ぶんだ?

 それに―――――

 

 「どうして『プリキュア』なんだろうな……」

 

 疑問だった。こうした都市伝説の類なら、もっと曖昧なネーミングがされる筈。それなのに、何故だ?

 

 《確か……最初に"例のウィルス"がこの町で暴れた時に戦ったC-ORGの映像が配信されて……その時に誰かが『プリキュアだ』って書き込みをしたらしくって、それからは定着したみたいッスよ》

 

 サイドカーを運転している佐藤がそう答える。

 

 《ウチ、その書き込みしたって子に電話で取材したことあるんやけど、ホンマに何の気無しやったんやて。なんとなく『プリキュアっぽかった』から思わず応援の書き込みしたらしいて。本人も驚いとったわ。まさかこんな大ごとになるなんて思わんかったて……》

 

 テテの調べたことが真実なら、この大泉の『プリキュアフィーバー』は偶然の産物なのか?

 しかしその裏付けのために、放送局や製作サイドに調査に奔らされた俺や佐藤はたまったもんじゃない。

 

 《でもでも、あのコたち―――――"P"が『プリキュア』なのは、あながち間違ってないかもですよ?》

 「……どういうこった?」

 《今まで"P"が戦いの最中に更に姿を変える……いわゆる"2段変身"とか"フォームチェンジ"をしたことが確認されてます。カシコ、アニメのプリキュアをず~っと見てきて、今のシリーズも見てるんですけど、"P"のフォームチェンジした姿、アレ、過去に放送されたプリキュアシリーズに登場したプリキュアそっくりなんですよ!見た目も、その能力も!》

 「"P"がアニメを真似てるってのか……?」

 《まさかとは思いますけどね……。でも初めて現実世界に出現した"P"が最初にフォームチェンジした姿は、2013年度に放送された『ドキドキ!プリキュア』に登場した『キュアロゼッタ』にそっくりでした……バリアを発生させる能力も全く同じです。次に変身したのはその前年度……2012年度に放送された『スマイルプリキュア!』の『キュアマーチ』……ビルの壁を走るシーンは、毎回オープニング映像で描かれてましたからね!"P"って、まるで"プリキュア版ジオウ"ですよ!……あ、『ジオウ』っていうのは2018年から2019年にかけてに放送された『平成ライダーシリーズ』の20作目にして最終作で―――――》

 「あー、わかったわかった……お前、やけに詳しいな」

 

 コイツがオタクなのは知っていたが、よもやここまでとは……プリキュアと"P"の容姿の類似性を、妙な切り口ではあるが指摘出来ているのは流石……と認めるべきか。

 何故、"P"がアニメのプリキュアを真似ているのか―――――そもそもの理由は一切わかっちゃいねぇが―――――

 こりゃ……今回の件を追う上での、思わぬ鍵を手に入れたかもしれねえな……

 

 《あ、主任!そーいえば、次にお話を聞く、"P"の事を調べてるっていう学生さんなんですけど―――――》

 

 ――――――――――

 

 《―――――主任と名字が同じですけど、ご親戚の方ですか?》

 「……………………」

 

 もう遅い―――――俺は心の中で井野にツッコんだ。

 午後―――――これまで幾度も"P"と"実体化ウィルス"の戦場となった俺の母校―――――

 大泉中学校の校門の前にいたのは―――――

 

 「あ~!!ミツ叔父さん!!」

 

 俺を指差すメガネの少女。やっぱりコイツだったか……

 

 「最近メッセの返事が無いって思ったけど、帰ってきてたなら連絡ぐらいよこしてよ!お母さんも心配してたよ!?」

 「……人違いだ」

 

 俺と佐藤はサングラスをかけ、鉄面皮でテテの後ろに控えていたが、コイツは一発で俺に気付きやがった。

 

 「何言ってるのよ?そのジャック・スパロウみたいな声、他に誰がいるってのよ?」

 

 予想外だった。

 まさかコイツと鉢合わせるハメになるとは―――――

 つかコイツも声だけで俺を判別できるのか。俺の声、そんなに特徴あんのか?

 

 「??みっつー、この子は?」

 「……姪だよ。姉貴の娘の美祢。はぁ……ったく―――――」

 「あ~~~~~~~!!!!!!」

 

 今度は俺を見つけた以上のリアクションだ。美祢が驚いていたのはテテの姿を見て、だ。

 

 「も、もしかして、去年ピューリッツァー賞を取ったティモシー・フランシスさん!?!?ミツ叔父さん知り合いだったの!?え、え~っと……は、はろ~……」

 「あらら、サトーくんとリアクション一緒やなぁ。『ワ~タシ、ニホンゴ、ワ~カリマセ~ン♪』って返したらええんかいな?……って、ヘ〇ン姐さんかいな」

 「ふおおおをををを!?!?!?関西弁!?どーして関西弁!!??と、ともかくサインください!!あ、色紙が無い!?」

 「増子さんテンション高いねぇ……( ̄▽ ̄;)」

 

 美祢の横にいる濃い赤色の髪の少女がこうツッコんだ。

 

 「そ、それはそうと叔父さん!メッセの返事も寄越さないで何やってたのよ?」

 「仕事が忙しかったんだ。ついでに言うなら今も仕事中だ。……こいつの護衛(ガード)でな」

 「内閣府の警備部、だっけ……?そりゃ仕方ない、か」

 

 『電調』は公にされていない、所謂『非公開組織』だ。

 それ故、所属する人間には箝口令が布かれ、組織の事を民間人に明かすことは厳重に禁じられている。

 当然『本家』の連中も知らず、連中の認識では、俺は未だに前の職場である内閣府警備部に所属していることになっている。

 それ以前に、そんな箝口令があろうがなかろうが、俺がどこで何をしてようが、『本家』の連中に話す気など無いが。

 

 ――――――――――

 

 世界的なジャーナリストであるテテと話せることが余程嬉しかったのか、テテの聞き込みにも美祢は嬉々として応じていた。

 それにしても美祢のヤツ、立場上は普通の中学2年生のハズなのに、どうやってここまで情報を仕入れた?

 ―――――俺達電調は、今回の任務に携わる以前にも、民間人を『この件』から遠ざける工作を細々ながら行っていた。

 昨日佐藤がやっていた、関連サイトや考察サイトの閲覧禁止・削除措置もその一環だ。サイトの管理人に連絡を取り、警告と口止めの後、サイトを削除する。

 動画サイトにアップロードされた動画や画像も、サイトの管理人に連絡して削除要請を行い、出来るだけ削除した。

 情報も映像も、出来る限り民間に流れないようにしろというDr.Gの指示だったが―――――

 "人の口に戸は立てられぬ"―――――それがキュアネットならば、尚更だ。

 一度アップロードされてしまった画像や映像、情報は、コピーされて拡散される。完全にネット上から無に帰すことは不可能と云っていい。

 そうした結果、美祢のように『首を突っ込みたがる』人間も出始める。どのような話題であれ、最低一人は『それ』にそそられる。

 物事は起こってしまえば、もはやそれを取り消すことは『何者であろうと』不可能だ。たとえ、神であろうとも―――――

 

 「そうそうテテさん!プリキュアの事だったら、この子に聞いて!プリキュアの事、すっごく詳しいんだから!」

 

 美祢はそう言うと、一緒にいた濃い赤色の髪の少女を前に出した。

 

 「ふぇ!?……あ、えっと、はじめまして、東堂りんくです」

 

 ―――――!?東堂!?

 これは偶然なのか……!?

 確か、東堂博士もこの大泉町の出身だったと聞いた。事前に調べていたが、東堂姓の家はこの街に一件だけだった。

 もしやこの娘は……東堂博士の家族か縁者ということか……!?

 テテも俺と同じことを思ったのか、こちらに視線を横目で向けてきた。俺はサングラスをずらし、小さく頷く。

 

 「……よろしゅうなぁ、リンクちゃん。プリキュアのこと詳しいっちゅーことは、もしかして、この街のプリキュアの事も、何か知っとぉの?」

 「え!?……えっと、私、アニメのプリキュアのことなら自信があるんですけど、この街のプリキュアの事はちょっと……」

 「そぉなんか……せや、ところでなリンクちゃん、親戚のヒトで―――――」

 

 その時、耳元の通信機から、井野の声が響いてきた。

 

 《お話し中ごめんなさい!皆さん、大泉町のキュアネット空間……座標B-4、大泉変電所サーバー内に使途・目的不明の動態プログラムを検知しました……現在解析中ですが、恐らく……》

 

 ―――――遂に来たか。それにしてもタイミングの悪い……

 

 「……引き続きマークしろ。逃すなよ」

 《カシコかしこまりました!》

 

 その時、電子音が東堂りんくのポケットから鳴り、小さな振動音も聞こえた。

 

 「あ!……ご、ごめんなさい!ちょっと急用を思い出しちゃいまして……増子さん、また何かあったらよろしくっ!それじゃっ!」

 「ちょ、東堂さんっ!?」

 

 美祢が止める間もなく、東堂りんくは慌てて駆け去っていってしまった。

 

 「なんや慌ただしいコやなぁ」

 「少し前からなんですよ……スマホにつきっきりになったり……」

 「あ、せやせや、ウチもちょっとヤボ用でな、行かなあかんねん。ミネちゃんのメッセのアドレス、交換してくれへん?」

 「い、いーんですかっ!??」

 

 美祢は目を輝かせながらスマホを操作する。その間も俺は変電所のサーバーに出たという『不明プログラム』が気がかりだった。

 Dr.Gが言うには、コイツも『C-ORG』らしい。だが、性質はネットでウィルスと戦っている連中とは正反対で、『ウィルスを使役する存在』とドクターは分析している。

 つまりは―――――"黒幕"。そいつもまた、"ネットの中の生命体"らしい。

 つくづく非常識な連中だ。そんな奴等を、どうやって『身柄確保』して、『逮捕』しろっていうんだ?

 

 「叔父さんっ!」

 

 去り際、美祢が俺を呼び止めた。

 

 「その……ウチに寄ってかない?お母さんやみんなも、叔父さんの事心配してたし、それに―――――」

 「言ってるだろ。俺はもう、本家に一歩たりとも戻るつもりはない。大泉に戻ってきたのも仕事だから、だ。仕事が終わればとっとと出ていく」

 「で、でも……」

 「それと、これは忠告だ。もう、この件には首を突っ込むな。……ここから先、お前のような子供の出る幕じゃない」

 「!?……何よソレ……?みんな、このことを知りたがってる!この街で何が起きてるのかを……!だからわたし……」

 「……知りたがってるのは、この街の連中じゃない―――――"お前"じゃないのか」

 「……っ!……」

 

 そうだ。それが増子家の"呪い"なんだよ。

 『好奇心』という名のエゴを肥大化させて、その為には他人の事情など目に入らぬ、"危険な呪い"―――――

 そんな呪いにかかった"バケモノ"に―――――コイツもなってしまうというのなら―――――

 俺は、コイツを、『救わなければ』ならない―――――

 

 「お前個人の好奇心の言い訳に、他人様を使ってんじゃねえ……!マスコミごっこは学生で卒業しとけ……でないと……怪我じゃ済まなくなるぜ」

 

 それだけ言うと、俺は振り返る事無く佐藤のサイドカーに乗り込んだ。

 

 「出せ」

 

 クルマが発車してしばらくして、通信越しにテテが話しかけてきた。

 

 《みっつー……お節介かもしれへんけど、なんや正直印象悪かったで》

 《そうッスよ……あの子、泣いてませんでした?……姪っ子さんッスよね……?》

 「だからだよ。……俺はあいつ等とは違う…………違うんだ……」

 《カシコ……ちょっと怖いです、主任……―――――》

 そう、俺はあいつ等とは―――――呪われた、人の皮を被ったバケモノとは違うんだ。

 だが、俺も一つ運命を違えていたら、今頃美祢と同じような目をして、どこかのマスコミでこの事件を追っていたかもしれない。

 そう―――――

 『あの事件』をきっかけに、俺は『目を覚ます』ことが―――――

 自分自身にかかった『呪い』を、解くことが出来たのだから―――――

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG MITSUAKI MASUKO

 

 ――――――――――

 

 16年ほど前―――――

 当時高校2年生だった俺は、『この一族特有』の熱に浮かされていた。

 

 ―――――『真実を追求して詳らかにする』という、飽くなき好奇心―――――

 

 世界の誰も知らない謎、隠された真実を追い求め、夏休み、一人でとある街へと出かけた。

 昨今、『怪物が出る』と噂され、謎の秘密組織が暗躍しているとネット上で騒がれていた街だった。

 ネット上で流れる怪情報は、当時の俺の心を掻き立て、遂にはデジカメを相棒とした一人旅の決心までさせたのだった。

 途中で立ち寄った、さながらヨーロッパの街並みを思わせる、聊か日本離れした雰囲気の街の一角で、俺はついにその手掛かりを見つけた。

 黒づくめの服を着た見るからに怪しい雰囲気の男が、周囲の人目を窺いながら裏路地に入っていくのを、俺は見逃さなかった。

 

 ―――――あの怪しい奴を追いかければ、真実に辿り着けるに違いない!

 

 今思えば、これは己の若さから来る、根拠もない自信だったのだろう。

 俺はその男に気付かれないように細心の注意を払いながら追いかけた。

 その男が、港の埠頭の倉庫に入った時には、もう日はとっぷりと沈んでいた。

 その男は、別の男からアタッシェケースを受け取り、その中身を確かめた。USBメモリのようなモノに、俺には見えた。

 

 「これが例のブツか……危ない橋を渡った甲斐があったぜ……!これを使えば、人生バラ色だ……!」

 「ありがとうございます。ですが流通前の試作型の特別頒布品ですので、安全性は保障しかねます。くれぐれも扱いは慎重に。では、代金を」

 

 男は別の銀色のケースを取り出し、開けた。その中には、大量の札束が詰められていた―――――

 

 ―――――裏取引の現場……これは……特ダネだ!

 

 俺は物陰に隠れながらも興奮を抑えられなかった。半ば反射的にデジカメを構えて、ボイスレコーダーを起動した。

 この情報をどこかのテレビ局や新聞社に売り込めば、有能さを認められて、ジャーナリストへの近道になる―――――

 この一枚は―――――俺の栄光の報道人生の第一歩だ!―――――

 

 そう思って切ったシャッターが、俺の運命を変えた。

 

 静音モードに切り替えていなかったデジカメから、シャッター音が工場に鳴り響いた。

 

 「!?誰だッ!?」

 「このガキ!何撮ってやがった!!」

 

 慌てて逃げようとしたところを、男の仲間だろうか、別の黒服の男に行く手を塞がれてしまった。それでもカメラとボイスレコーダーだけは死守しようと、必死に抵抗した。

 

 「運が無かったな。でも、冥途の土産にいいこと教えてやるよ。自分の行動は、その『結果』に自分で責任が取れる範囲で止めとくべきだったな……―――――」

 

 そう言いながら、男は黒光りする拳銃を取り出し、その銃口を俺の眉間に突き付けた。

 悔しいが―――――こいつの言う通りだと思った。

 俺は、『好奇心』なんていうちっぽけな自己満足のために、後先も考えずに突っ走っていた。

 俺が、俺のために起こした行動によって、俺自身、そして俺を取り巻く他人に、何が起こるかも知らないで、知ろうともしないで―――――

 その結果が、俺の人生の幕切れ―――――

 厭だ―――――

 

 こんな()()()()()()()のために、俺は死にたくない!

 

 その時だった。一瞬の静寂の中に、かつん―――――と、靴音が響くのが、その時はっきりと聞こえた。

 

 「―――――"マスター"の情報通りだったな……。ここで"取引"をしてるってのは本当だったようだ―――――」

 

 俺は思わずその声の主を見た。暗闇の中に、その男は真っ白に浮かび上がって見えた。

 白いスーツとハットを着こなした男―――――

 

 「ついに尻尾を掴んだぜ。観念しな。それ以上その"毒"を―――――街にばら撒かせる訳には行かないんでな」

 「アナタですか……!コソコソと我々の周りを嗅ぎ回っていたのは……!」

 「おいどういう事だ!?なんだコイツは!?」

 「最近になって、我々の仕事の邪魔をし始めた、目障りな"探偵"ですよ。とりあえず例のモノはもうアナタのモノ……これからも付き合いを続けてほしいのであるならば……」

 「チッ……あ゛ぁ!わぁったよ!!全員始末すりゃいいんだろ!?」

 

 半ばヤケクソ気味に男は吠えた。思わず俺は、白い服の男に助けを求めていた。

 

 「た、助け―――――」

 「おっと動くなよ!」

 

 俺は背中から羽交い絞めにされ、側頭部に再度銃口が突き付けられた。

 

 「そこから少しでも動いてみな!このガキの頭に風穴が空くぜ!」

 「……ひッ……!!!」

 

 男の慄えが重心を伝って、俺の頭に伝播する。そのカタカタという小さな音が頭の中に響くたび、戦慄が背筋を撫でる。

 お願いだ……!頼むから命だけは……!!俺は怯え切った視線を、白服に向けていた。

 何処の誰だかわかんないけど、あんたしか、希望はいないんだ……!!早く助けてくれ―――――

 ―――――だが白服は、キッパリとこう言った。

 

 「撃ちたきゃ撃ちな。でもって、ソイツを撃ったら―――――」

 

 白服は自身を親指で示した。

 

 「俺も撃て」

 「!?」

 「…………え――――――――――」

 

 な、なんてことを言うんだ!?あんた、人の命をなんだと思ってやがる!?

 こちとら、あんたにしか頼れないんだ!それなのに―――――

 

 「だが……―――――」

 

 白服の眼光が、突き刺さるように、俺に銃を突き付けている男に向けられた。

 

 「撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ。テメェが誰かに殺られてもいいなら―――――殺ればいい」

 「ぐ…………………………!」

 

 その言葉、そのナイフのような視線―――――それに気圧されたのか、男の銃を握る手から、力が抜けた―――――

 

 「今だ坊主!!」

 「……!!」

 

 白服の叫びを合図に、俺は男の手を振り払い、無我夢中で駆け出した。

 白服の横を通り抜け、倉庫の出入り口へとまっすぐに―――――

 

 「……悪かったな、坊主」

 

 彼の口から、小さく、そう聞こえた―――――そんな気がした。

 そして、逃げ出す俺の背後から、黒服の集団に向けた、白服の静かなる啖呵が、未だに俺の脳裏に灼き付き、離れない――――――――――

 

 「さぁ―――――お前の罪を、数えろ」

 

 ――――――――――

 

 それから―――――どうやって家に帰りついたか、俺は覚えていない。

 気が付いたら、全身から冷や汗を流し、息を切らしながら、実家の玄関先に立っていた。

 

 ―――――俺は、助かったのか。

 

 目の前の見慣れた玄関にここまでの安堵を感じたのは、生まれてこの方初めてだった。

 ともあれ、無事に家へと帰りつくことができた。きっと、家族の皆も心配しているに違いない。安心させてやらないと―――――

 

 「……ただいま」

 

 だが―――――

 俺を出迎えた家族が、いの一番に心配したのは―――――

 

 「おお……凄い特ダネじゃないか!裏組織の闇取引……マスコミに高く売れるぞ!」

 「カメラもボイスレコーダーも無事よ!」

 「よくやったなぁ、美津秋!流石は俺の息子だ!」

 

 俺に対して―――――

 俺の『命』に対して、心配をしてくれた家族は―――――誰一人としていなかった。

 心配していたのは、俺が手に入れてきた『モノ』―――――カメラとボイスレコーダーだった―――――

 その時、俺を褒めた父親と母親、家族の『目』もまた、俺にとっては忘れられない。

 

 あの―――――『バケモノ』のような目を―――――

 

 俺はこの時、初めて悟った。

 こいつらが価値を見出すのは、好奇心を剥き出しにして得た情報―――――『真実』だけなんだ、と。

 こいつらは、血の繋がった『家族』にすら、何の感情も抱いていない―――――

 俺は、こいつらと同じような『目』をして、カメラとボイスレコーダーを手に、『その先』に『どう使うのか』、何の意味も考えずに、あるかどうかすらわからない『真実』という『幻想』を、追い求めていたというのか―――――

 何もかもを犠牲にして―――――

 俺は俺の『血縁』を、この上なく汚らわしく思った。

 『真実(くだらないこと)』を追い求めるために、他人の……家族の命すら何とも思わない存在―――――『バケモノ』なんかに、俺は堕ちたくない!

 

 こんな奴らと一緒に暮らすなんて―――――死んでも御免だ―――――……!

 

 ――――――――――

 

 NPC MITSUAKI MASUKO

 

 ――――――――――

 

 そうして俺は家を出て、『増子家』と同じ道に進まぬよう、公務員を志した。

 『個人的』『主観的』ではなく、『組織的』『客観的』に物事に携わる仕事がしたかった、それが理由だった。

 内閣府の警備部に所属されて少しして、電調へとスカウトされ、今に至っているわけだが―――――

 この経緯は誰にも話していない。話す必要が無いからだ。

 ―――――『増子家の真実』を知っている俺からすれば、美祢の行動や思考は、『危険』なものだ。いずれは、あの時俺が見た『バケモノ』同様に成り果てよう―――――

 ああやって声をかけてやっているのも、俺なりの気遣いのつもりだ。分かってくれとは言わん。

 だが―――――若いお前なら、『呪い』を振り切るチャンスはいくらでもあるはずだ。

 『今回の件』―――――既に電調が関わってしまった以上、これからの安全を保障することはできない。

 掛けた言葉の通り―――――下手に首を突っ込めば、怪我じゃすまなくなる―――――

 

 《"XV"、変電所サーバー内に非顕在化(アンリアライズ)!……あ!大泉町全域への送電が停止……停電しました!》

 

 井野の声が緊迫感を持って響いた。

 ―――――動き出したらしい。

 

 ……SAVE POINT




 用語解説

 内閣電脳調査室

 キュアネット移行後、多発・複雑化するサイバー犯罪に対応するべく、
 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部=IT戦略本部の下部組織として発足した調査組織。略称は『電調』。『日本版サイバーCIA』とも呼ばれ、一般にはその存在は公表されていない。
 警察のサイバー犯罪対策室と異なり、公にはできないようなサイバー犯罪を主に担当している。バグッチャーとプリキュアの出現後は、バグッチャーによるキュアネット内外における破壊活動の防止、およびバグッチャーに唯一対抗できる存在であるプリキュアの正体を探り、接触を図るために活動している。

 ――――――――――

 今回の新キャラカシコさん、実は『稚拙の生き写し』的なキャラなんです。
 そそっかしくてよく転ぶ……アニメも特撮もこよなく愛する、インプリで最もディープなオタクキャラです。
 そして学生時代の美津秋が訪ねたこの街、そして彼を助けた白服……
 ……誰なんでしょーね~(棒)

 次回も間が開いちゃいますが、気長にお待ちを……たぶん、キュアパルフェ登場には間に合いません……(悔)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大人の理屈と子供の理屈

 キャラクター紹介

 増子 美津秋

 内閣電脳調査室実行部隊・増子班の主任調査員。32歳。
 代々、新聞社やテレビ局など、報道の部門において華々しい活躍を上げている『マスコミ界の名家』と呼ばれる一族・増子家の中で、自らマスコミへの道を断って公務員となった『増子家の異端児』。

 増子家の人間が持っている探求心の強さを『真実を求めたがる"呪い"』と称しており、心底嫌っている。これは高校時代、興味本位から首を突っ込んだ事件で命の危険を経験したことに起因している。以来、『手に入れた真実に対して、自分で責任が取れなければ何の意味もない』と、諦観的な性格になった。
 かつては内閣府の警備部に所属していたが、電調にスカウトされ異動した。

 不明生物と"P"の事件の担当となり、図らずも『真実を求める』立場となったことに辟易しつつも、『公務員として、民間人の少女を危険に晒すわけにはいかない』という立場から、不可能テロを起こす不明生物(バグッチャー)と、人類を超越した存在と言われる"P"の正体を追う。
 りんくのクラスメートである増子美祢の叔父でもある。

 ティモシー・フランシス(Timothy Francis)

 アメリカ人の女性フリージャーナリスト。28歳。通称『テテ』。
 相棒の人懐っこいメスのカラス『イヴ』とともに、改造モーターグライダー"ロッコーブレス"を駆って世界中を飛び回り、様々な取材を行うため、『空飛ぶジャーナリスト』とも呼ばれている。
 だが、フライトプランの提出を忘れて(もしくは故意に)国境に侵入、各国で領空侵犯を繰り返しており、戦闘機とのチェイスを幾度も演じたことから、『領空侵犯の常習犯』『空軍の常連客』というありがたくない二つ名も持っている。

 しかしながら昨年度、史上最年少でピューリッツァー賞を受賞しているなど、その取材姿勢と記事には定評がある。
 両親ともに純粋なコーカソイド系アメリカ人であるが、日本生まれの日本育ち。父親がアメリカのIT企業の大阪支社長であるため、英語とともに日本語も両親から教わった。しかし、両親が幼いテテに教材代わりに見せていたのが新喜劇のビデオで、大阪という土地柄もあって誰も標準語に矯正することは無く、結局習得した日本語はコテコテの関西弁になった。

 学生時代は陸上部に所属し、高校総体の女子100m走で準優勝したこともある健脚の持ち主。
 増子美津秋の大学時代の後輩で、個人的なコネがある。
 Dr.Gとは個人的なつながりがあり、"P"関連の独占取材権と引き換えに彼女のエージェントとなり、来日。"P"関連の事件を追うことになった美津秋と行動を共にするようになる。
 写真を『キリトリ』と称する独特のセンスを持つ。熱狂的阪神ファン。

 ――――――――――

 菓子々「主任!主任!!けもフレの再放送が決まりました~!嬉しさで涙が出そうです~!!でもでも、某局の『プリキュア5GoGo!』の再放送と時間帯丸かぶりなんですよ~!!カシコ、どっちを見ればいいかわかりません~!!!」

 美津秋「……裏番組は録画しろっつってんだろ」

 ……はい、今の稚拙の心境をカシコさんに代弁していただきました(汗
 さて今回はついに、美津秋がプリキュアと対面です。
 ぶつかりあうそれぞれの信念と言い分を、力の限り送信!!


 NOW LORDING……

 

 ――――――――――

 

 NPC MITSUAKI MASUKO

 

 ――――――――――

 

 すぐ近くのコンビニの駐車場にクルマを止め、俺と佐藤はテテと井野の乗るレンタカーに駆け込んだ。

 

 「状況は!?」

 

 レンタカーの後部座席では、既に井野がインカムを身に着け、タブレット端末のディスプレイを真剣な表情で睨んでいた。

 

 「"XV"の非顕在化(アンリアライズ)から3分経過しましたが、今のところ動きはありません」

 

 "XV"というのは、Dr.Gが"実体化ウィルス"に付けたコードネームだ。"EXTRA VIRUS"―――――つまりは"規格外のウィルス"。

 言い得て妙だ。ネットの中のコンピューターウィルスが、現実世界で破壊活動を行うなんて規格外もいい所だからな―――――

 

 「何かを……待ってる……?―――――あ!」

 

 井野が小さく声を上げた。何かと思ってタブレット端末を覗き込むと、2人の少女が空間内に姿を現し、"XV"と戦闘を開始した。

 2人の少女のうち、ピンク色の方には"C1"、水色の方には"C2"とコードが振られた。

 

 「2体の"C-ORG"、"XV"と交戦開始!」

 「音声拾えないンスか?」

 「音声音声っと……ん!ここです!」

 

 井野はタブレットに触れる指先を細かく調整して、キュアネット内の音声を拾えるように調整したようだ。

 

 《貴官たちが現れるのを待っていたぞッ、イン()()()()()()()キュアッ!!》

 《相変わらず名前覚える気あんのかよオッサン……》

 《街を停電させるなんて大メーワクよ!キュアチップも返してもらうんだから!!》

 

 啖呵を切る"C1"。キュアチップって何のことなんだ……??

 

 「ふむふむ……"C1"は『ウィクロス』のタマか『ズヴィズダー』のヴィニエイラ様、"C2"は……『競女』ののぞみか『はいふり』のシロちゃんって感じかなぁ」

 「……お前の脳内には人の声をアニメ声に変換する機能でもついてんのか……(-_-;)」

 

 いったい井野の耳にはこの世界はどう聞こえてるんだ?吹き替え映画みたく声優がアテレコでもしてるように聞こえるのか……??

 ……それにしても、この"XV"、なんて外見してやがる。

 

 《痺れさせてやれ、()グッチャー!!》

 《イ~カピ~~~ス!!!!》

 

 三角形のとんがり頭、8本もの腕。

 その腕は、普通の人間の両腕に相当する2本は『ピースサイン』、3本は『平手』、残りの3本は『握り拳』で固定されている。

 ピースサインの手からは電撃が放たれ、残りの手が阿修羅像か千手観音菩薩の如く蠢いている。

 

 「まるでイカだな」

 

 思わず感想が口から洩れていた。両脚を加えればちょうど10本。これで口から墨でも吐こうものならまさしくその通りなわけだが。

 

 「見てるだけしか出来ないってのももどかしいッス……」

 

 悔しげな表情を浮かべる佐藤。そこへ―――――

 

 《ですが、じきそれも終わることでしょう》

 「ドクターか?今の今までダンマリだったのが今更なんだ?」

 《モニタリングくらいは出来ますからね。……さて、キュアネット内のこうした存在に干渉できない問題ですが、それもすでに考えています。目下調整中ですが、近日中にお披露目できるかと》

 

 まさに『こんなこともあろうかと』というヤツか。Dr.Gの先見の明には誠に恐れ入る。

 

 「……って、井野、お前何書き込んでんだ!?」

 

 井野がキーボードで、『プリキュアがんばって!応援してるよ~!!』と書き込んでいるのを見た。今は仕事中だ、そんな事をやってる場合か!?

 

 「何って、応援コメですよ!こうして応援コメを書き込むと、"C-ORG"がパワーアップすることが確認されてますから、ちょっとでも力になれれば、と!」

 「そんな事して大丈夫なのかよ……」

 《問題はないでしょう。……さて、現時点では彼女達へのアプローチは不可能ですから、実体化までに変電所周辺を押さえておいた方が良いでしょうね》

 

 ――――――――――

 

 改めて変電所へ移動を開始し、その途中でも井野から刻々と変化する状況が伝えられてくる。

 ……もっとも―――――

 

 《そこだ!行け!ああ!?そこは右に避けないと!おぉ!!プリキュア名物『持ち上げ』!!まさかホンモノが見れるなんて……って、これって大ピンチ!!負けないで、プリキュア~~!!》

 

 ……お前はどこのプロレスファンだ。完全に自分の世界に入ってやがる。

 仕事そっちのけで"C-ORG"に声援を送る井野の甲高い声が、移動中にも耳につく。

 変電所には10分ほどで到着したのだが、俺がテテのレンタカーの後部座席のドアを開けた時には、すでに単なる熱狂的オタクと化していた。この時運転席のテテが俺に向けてきた、『何、この……何?』的な苦笑いが、全てを物語っていた。

 

 「おい」

 

 一言声をかけても無反応だ。コイツのこの目は……アレだ、前に仕事で休日の遊園地に行った時偶然見かけた、プリキュアの着ぐるみショーに熱中する小さな子供のソレだ。

 仕方なく俺は車内に乗り込み、このディープなオタクの額へとデコピンを放った。

 

 「ぃ゛た゛ッ!?―――――ほへ?カシコはなにを……??」

 「……気分はどーだ二次元からの使者」

 「しゅ、主任!!はッ、そ、そーでした、お仕事中でしたっ!!……だいじょーぶだ……カシコはしょうきにもどった!!」

 「そりゃ操られた時のセリフッスよ」

 

 と、戸口から佐藤が車内を覗き込みながら言ってきた。何の事かはさっぱりわからんが、カシコといいコイツといい、どこからそんな知恵仕入れてくるんだか……

 

 「佐藤、お前は"ポジション"を確保しとけ。幸いこの周辺、適当な高さのマンションも多いしな」

 「了解ッス!」

 

 敬礼した佐藤はサイドカーに取って返し、コンソールの青いボタンを押した。途端、バイクと側車を繋いでいたジョイントが分離し、側車の座席内にハンドルが現れ、後部からナンバープレートが迫り出した。

 

 「行くぜ、相棒ッ!!」

 

 そう叫んで佐藤はヘルメットをかぶり、意気揚々とバイクを駆っていった。

 

 「ほえ~……スイッチ一つで分離できるなんて便利やなぁ」

 「アイツの任務上、小回りが必要なんでな。残った側車にもエンジンとバッテリーが積んであるから、公道でも走れるぜ」

 「さっすが、お金持ちの政府機関はやることが(ちゃ)うなぁ」

 「自家用機持ってるお前が人の事を言うな……さて―――――」

 

 俺が井野に視線を送ると、井野はニンマリと笑んだ。

 

 「ついに"アレ"の出番ですねっ!!カシコかしこまりました!」

 

 そう言って井野は車を降り、荷台のトランクを開けた。中身を覗き込んだテテが言う。

 

 「そーいや、最初に何や積み込んどったみたいやけど……何なん?」

 

 中身はソフトボールほどの大きさの、3個の黒い金属製の球体。

 

 「Dr.Gご謹製、試作型の夜間迷彩ドローンです!……こんな真っ昼間だと真っ黒でモロバレなんですけどね♪」

 「な~るほろ、これでコッチに出てくる"XV"と"P"を追っかけよってハラやな。3つあるっちゅーことはみっつーやウチもラジコンするんかいな?……でもウチこーゆーの苦手やし……」

 「んっふっふ~、ラジコン?もはや手で動かすなんて時代遅れですよぉ。このドローンちゃんたちはですねぇ……」

 

 井野はドヤ顔をしながら、メガネの右側フレームの根元にある小さなスイッチを押した。

 

 「……しかも脳波コントロールできる!」

 

 3機のドローンがプロペラを展開して、ふわりと浮き上がった。そして、井野の周りを旋回し始める。

 

 「ほぇ~……Gやん、こんなん作っとったんかいな……あの子な~んも言うてくれへんかったから知らんかったわぁ……なぁ、それってそのメガネあったらウチでも出来るん?」

 「……フツーの人間(ヤツ)には無理らしい。というか、俺も一度やったが、1機だけ何とか動かせて、しかもそれだけでひどい頭痛に襲われた……それをコイツは一度に3機、同時に動かせるんだとよ」

 「ふっふ~ん♪電調最高額の装備を任されたのは伊達ではないのです♪……それではお約束っ!……"行け、ファンネル"!!」

 

 井野は芝居がかった口調で、空へと右手を高々と掲げた。それに従うように、3機のドローンは空へと舞い上がった。

 ちょうどその時、井野が車内に残していたタブレットから警告音が鳴った。

 

 「来たか……!」

 「"XV"、実体化(リアライズ)!ここから直線距離300mの地点です!……あれ……??」

 「……どないしたん!?」

 「"C1"・"C2"、ともにロスト……サーバー内にいません!」

 

 "敵"が実体化した途端、サーバーから消えたとなると―――――

 

 「ん!んんん!!!ドローンちゃんが見つけちゃいましたよ~~!」

 「!!見せろ!!」

 

 背の低い井野の肩越しにタブレット端末を覗き込むと、そこには神社の境内のような場所で対峙する、"XV"と2人の"P"の姿―――――

 

 「ここは……東都電力が最近設置した、電気の神様を祀ってるっていう神社……電神社ですね」

 「『いなづま』神社?……『でん』神社じゃなくってか?」

 「この場合は『いなづま』って読むんです♪『艦これ』やってれば常識です♪♪」

 「……知らん人間にとっちゃムダ知識だがな」

 

 ……何だそりゃ?あいにくカンコレとかいうのは知らん。

 

 《ついに出てきましたか……!待ってました……!この瞬間を待っていたんです!!》

 

 通信機越しに、Dr.Gが興奮の声を上げる。

 

 《ライヴ映像で見ることが出来るとは僥倖です……!彼女たちに接触するためにも、"XV"には早々に退場してもらわなくてはなりません……!》

 

 最終的な目的はどうあれ、それには同意する。こちとら、あそこにいる民間人少女2人を"保護"しなきゃならん。それには―――――ヤツが邪魔だ。

 

 「……テテは車で待ってろ―――――ここからは、荒事だ」

 

 俺は懐から拳銃を取り出し、"対XV弾"を詰め込みながら、"その先"を睨む。

 今までにも散々常識外れな連中を相手にしてきたが―――――

 今回は―――――別格だ。

 

 ――――――――――

 

 ―――――戦場は移動する、とはよく云ったものだ。

 "XV"とそれを指揮する実体化した敵性"C-ORG"、そして2人の"P"は、神社から住宅街へと入り、戦闘しながらそのまま北上を始めた。

 事前に避難勧告を出していたのが功を奏したのか、この近隣に人気はない。井野のナビゲーションからも、生体反応は無しと聞いた。

 その井野から状況報告が入る。戦況は一進一退、住宅街の屋根伝いに移動しているようだ。

 俺は"黒檀號"の側車で連中の進路をトレースしながら追う。

 時折、"XV"が放射する電撃と思しき光が、空間と俺の視界を、轟音を響かせ裂いていく。その音が俺の心を揺さぶる―――――

 

 「ち……屋根から屋根に飛び移りやがって……X-MENかアベンジャーズかよッ……非常識な連中が……ッ!」

 

 電光がアスファルトや家の外壁を穿ち、映画のヒーローのように住宅街を駆け回るこいつらを見て思い知る。こいつらの存在は―――――『兵器』のそれだと。外国の連中が目に付けているのも、この一点に尽きよう。

 この戦闘能力を制御して、操作下に置き、意のままに行使することが出来るのならば―――――

 この世界のミリタリーバランスが崩壊することは想像に難くない。

 しかし―――――Dr.Gが着目しているのはそこではない。

 キュアネットという、端末で隔てられた仮想空間に、人類とは異なる"進化"を遂げた知性体が存在していたことだ。

 そしてそれが人類とアプローチを果たし、"P"という存在にさらなる進化を遂げた―――――

 ―――――とんだSFだ。

 人類以外の知的生命体が、まさか地球の中にいるとはな―――――

 こうなると、キュアネットというのは単なるネットワークの類ではなく―――――

 

 《主任!この先のマンションの屋上です!戦闘は現在膠着状態!》

 

 井野の報告に思案を中断し、俺は側車から飛び出してマンションに突入した。

 停電中でエレベーターは動かない、か……!仕方ない……!

 エレベーターホールのすぐそばに階段を見つけ、俺は10階建てのマンションをひたすらに駆け上がる。

 階段の屋上につながる扉が、半開きになっているのを見上げた。その扉に密着し、いつでも発砲できるよう拳銃を抜き、息を殺し、扉の先を窺った。

 

 『中々にしぶといな()リキュアッ!!逃げ回らずに堂々と戦ったらどうだッ!?』

 『……機を窺ってる……と言ってほしいな……!』

 『あんな街中でバグッチャーを暴れさせるわけには行かないもんね……!』

 『フッ、殊勝だなッ!!ならばバ()ッチャーッ!!その力を見せつけろッ!!』

 『ゲ~ソゲソゲソゲソ!!!』

 

 なんともイカめしい……もといワザとらしい笑い声を"XV"が上げたと思うと、再びピースサインになった手から電撃を放射した。四方八方に稲妻状の光条が散り、屋上のコンクリートに穴を穿つ。

 

 『ブシューーーーーーー!!!』

 

 今度は"XV"の口の部分から、真っ黒な液体が噴き出された。その形状を裏切らずに墨まで吐きやがった。

 2人の"P"は両側に回避した。ぶちまけられた墨に間髪入れず電撃が放たれたと思うと、墨が一気に炎上した。あの墨、ただの墨じゃないのか……!!

 

 『引火したぁっ!?』

 『あの墨……重油か!?』

 『明察ッ!!変電所のモーター用燃料を拝借させてもらったッ!!観念して黒焦げになるがいいッ!!』

 『じょーだんっ!!』

 

 "P1"は"XV"の巨体を睨み上げながら、さながら決意表明のように宣言する。

 

 『私は……ううん、私達は諦めない……!私達は引き下がれないの……!!あなた達の勝手には、絶対にさせないんだからぁっ!!』

 

 実に英雄めいたセリフであり―――――そして、陳腐だ。

 もし彼女の言葉が『軽はずみな信念』に基づいているのであれば―――――

 あまりにも危険だ……!

 やはり、連中は―――――その両方を―――――

 止めねばならん……!

 

 俺は意を決して扉から出ると、銃口を空に向け、銃爪を引いた。

 

 銃声が住宅街に響き渡り、鳥が飛び立つ羽音がした。

 戦闘を展開していた両者が、その表情を変えてピタリと制止し、こちらを見てきた。

 ふたりの少女、ひとりの男、1体のバケモノ。戦場と化していたマンションは、一瞬で静寂の空間と化した。

 

 「―――――……そこまでだ。全員……動くな」

 

 2人の"P"の視線は、俺―――――ではなく、俺が手にしていた拳銃に向けられていた。

 その様子からして、年相応に俺の持つ"これ"が何なのかは、理解しているようだ。

 

 『何者だ貴官はッ!?我々の崇高なる戦闘に割って入るなどッ、脆弱なる人間の分際でッ―――――』

 

 憤慨する軍服調の衣装を着た男が、得物をこちらに向けながら歩いてくる。

 

 「動くなと言った……!」

 『フンッ、たかが人間如きの武器ッ、我等アプリアンには虚仮脅しにすらッ―――――』

 「抵抗の意志があると見做す―――――」

 

 俺は躊躇なく銃爪を引いた―――――

 

 『ぐッッ!?』

 

 相手の肩口に手応えを感じた。俺の腕も捨てたもんじゃないようだ。

 そして、この弾丸が効いたということは―――――やはりこの男―――――

 

 『バ……バカなッ……!?人間の武器で傷を負うッ……この小官がッ……だとッ……!?貴官はッ……一体ッ……!?』

 「自己紹介は礼儀だな……俺は内閣電脳調査室・主任調査員―――――増子美津秋」

 

 俺はサングラスを取り去り、自分の立場にプライドを持って言った。

 

 

 「国家権力―――――ナメんなよ」

 

 

 目の前にいる連中が常識の範囲外の連中だということは、この時の俺の頭の中から飛んでいた。

 弾丸が効いたことに、らしくなく調子づいていたのだろう。 

 

 「次は眉間(アタマ)か心臓だ……もっとも、"そういった"のがお前らにあるかどうかは知らんが」

 『くぅぅッ……!プリキュ()ッ!!此奴は貴官等が呼び寄せた増援かッ!?!?』

 『ふぇ!?ち、違う!違うって!?!?』

 『これって、一体……!?』

 

 当然ながら"P"も戸惑っている様子だ。何をされるかわからないから、こいつらにも警告しとく―――――

 

 「おっと、お前らも動くんじゃねぇぞ……。妙な真似したら、公務執行妨害でお前らも取ッ捕まえなきゃならん。それとも……"お前らのような存在"でも、"コレ"を撃たれりゃ死んじまうか?」

 

 無論、発砲したところで本気で命中させる気はない。未成年の民間人少女相手に発砲したとあっちゃ、俺の"首"も刎ねられかねんからな―――――

 

 「……さて、傍迷惑なヒーローごっこはここまでだ……全員武装を解除して、俺の指示に従ってもらうぜ」

 『!……ヒーローごっこなんかじゃ―――――』

 

 言葉が癪に障ったのか、"P1"が俺に詰め寄ろうとした、その時―――――

 

 『……ッ!バグッ()ーッ!!』

 『ピカリンサンダーーーーーッッッ!!!!』

 

 イカ型の"XV"が吼えたと思うと、四方八方に電撃を放射した。その閃光に思わず目がくらんだ。

 

 『体勢を立て直すッ!!』

 

 "XV"と敵性"C-ORG"が屋上から飛び降りるのを、俺は見逃さなかった。

 

 「野郎ッ……!!……佐藤!!撃て!!」

 

 佐藤に指示を飛ばしながら、俺は屋上の隅まで走り、フェンスの隙間から逃げる相手に銃撃した。

 俺の発砲に雑じって、どこか遠くから、別の銃声が聞こえる。

 佐藤は元ライフル射撃の選手で、電調にスカウトされる前は警察のSAT狙撃支援班の実力者だった。

 正直、俺以上に銃の扱い―――――ことに狙撃に関しては文句無しの腕前なのだが―――――

 

 「どうした佐藤!?援護が足りんぞ!!」

 《やられたッス……!EMPとは味な真似を……!!》

 「どういうこった!?」

 《さっきの放電現象ッスよ……!あれは周辺への直接攻撃に見えたかも知れないッスけど、実のトコ、限定空間EMPに間違いないッス……!自分のライフルの電子照準器、さっきので潰されちまったッス……!通信機と違ってコーティングが……》

 「だったら目視照準でも何でもいいからとにかく撃ちまくりやがれ!!抵抗してきた以上容赦はするな!!お前の腕なら中てられんだろうがッ!!》

 《りょ、了解ッス!!》

 

 またしても、家屋の屋根から屋根に身軽に飛び移りながら移動する"奴等"に火線を集中させるも、手応えはなく、どんどんと遠ざかっていく。

 

 『……追いかけよう!行くよ、メモリアル!』

 『うん!』

 

 ―――――こいつ等、まだやるつもりか。俺は思わず声を張り上げた。

 

 「おい待てッ」

 

 びくりと肩を震わせて、2人の少女は足を止めた。

 

 「……ドサクサ紛れに逃げようとしてんじゃねぇ」

 『で、でも私達、アイツを追いかけなきゃ……』

 「それはお前らがやるべきコトじゃねぇ。……だいたい、お前らは何だ?まだ仕事にも就いてない、学校に通ってる『子供』だろ?ああいう巷を騒がして人殺しをしたり街をぶっ壊したりするテロリストを追っかけて取ッ捕まえるのは―――――それって子供のやるべきコトか?……違うだろ。こういうことはな、自分たちだけで解決しようとせずに、まずは警察に言いな。それであとは大人に任せてくれりゃいい―――――大人ってのはな、"プロ"なんだよ。"プロ"を信用して、大人しくしててはくれんか?」

 

 言いたいことは言った。

 こいつらがどういう存在だろうと、どんな力を持っていようと、所詮は子供だ。

 子供は守られるべきだ。わざわざ危険に飛び込むような無駄な事なんてしなくていい。

 これだけ言えば、大抵の子供は押し黙り、ごめんなさいと頭を下げるはずだ。現に今までの不良や半グレ集団なんかは、こうして論破してきたもんだが―――――

 

 『それは―――――できません……!』

 

 ……予想外の言葉を、"P1"は返した。

 

 「なんだと……?」

 『私……私達、きちんと決めたんです。私達が責任を持って、あいつらの相手をして、この街も、この世界も守ろうって……!助けてくれる気持ちは嬉しいですけど……でも……!』

 「―――――……責任、か。でもそれは"誰"に……"何"に対しての"責任"だ?それは本当に―――――お前らが負うに足る"責任"なのか?」

 『それはまだわかりません―――――』

 

 "P2"は俺を真っ直ぐ見据えて言ってきた。

 

 『でも!ぼ……わたし達が負けてしまったらこの世界がどうなってしまうのか……それはよく理解しています……!誰にも、泣いたり、傷ついてほしくないから……!』

 「その全部……お前らの手が届く範囲でできることか?自分の遣る事為す事に、責任が取れるのか?……最悪の結果になるかもしれないんだぞ……!」

 『……出来ることがあるのなら躊躇わない……"無為無辜に拳振るう事勿れ、然れども暴虐外道に情けるべからず"……出来ることがあるのに何もせずに見て見ぬふりをすることは―――――それは、"逃げ"です』

 「!……」

 

 真剣だった表情を、少しばかりかフッと崩して、"P2"は微笑みながら言う。

 

 『つまり……"ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!"です!』

 「はぁ……!?」

 『私達が戦うことで、誰かの命が助かって、笑顔になってくれるなら……私達を必要としてくれる人がいる限り、私達、100%無敵のヒーロー、なんです!!』

 

 "P1"が注釈めいて付け加えるが……まったくもって―――――言っていることがマンガじみている。

 俺だって、民間人の安全を確保して、国民の生命や財産を脅かすモノを排除するのが仕事の公務員だ。そういうことは―――――

 

 「……子供がヒーロー夢見んのは勝手だが、それは自分の妄想の中だけにしとくんだな。ここからは大人の仕事だって言ってんだ」

 

 立場上民間人のこいつらにしゃしゃり出られて困るのは俺だけじゃない。こいつらの親類や兄弟も―――――

 

 

 『大人も子供も、関係ない!!!』

 

 

 "P1"が強い口調で吼えた。反射的に、俺も怒鳴り返す。

 

 「関係あるだろ!?どうしてそこまで意固地になるんだ!?そんなに大人が……信用できないっていうのか!?」

 『信用できないわけじゃない!『出来るからやる』って、それだけ!……そりゃ、私はプリキュア好きだから……プリキュアの事が大事だから、大切だから、今こうしてプリキュアやってるトコもある……でも!『出来るコト』があって、それを『やりたい』って想い―――――『スキをやりたい』って気持ちがあるなら!……『護れる力』があるなら……!!それは大人だって子供だって、同じだよ!!!たまたま、私達が子供だっただけのことじゃん!!』

 「……………………」

 

 俺は押し黙ってしまった。

 悔しいが―――――反論できなかった。

 俺達が"奴ら"に抗する力を得たのはつい昨日、Dr.Gが開発した弾丸があってのことだ。

 だが―――――こいつらがこうやって戦うようになったのは―――――何時だ?

 ―――――そう、4月の初頭、"XV"がキュアネットに現れ出してからだ。

 奴らの出現は突然で、こうして俺達"公務員"が駆り出され、対処に回っているのも明らかな後手だ。

 この、目の前にいる2人の少女がいなければ、最初にこの街に"XV"が出現した時も、更に被害は拡まっていたかもしれない。

 

 「確かに、だな―――――お前たちの"善意の協力"には、俺達としても感謝はしなきゃならんな」

 

 人命救助という見地で見ればお前たちは表彰モノだ。警察か消防から感謝状が贈られてもいいもんだ―――――

 

 「しかしだな……『守る事』と『戦う事』は違うぜ。『戦う事』は―――――お前達が『しなくてもいい事』なんだよ」

 

 だが、命を張るのが民間人の、しかも子供であっちゃいけない。

 ここから先は―――――俺達の仕事だ。

 

 『……それでも、行きます』

 「!いい加減―――――」

 『心配してくださることは感謝します。……護って見せます!……もちろん、オジサンも!』

 「オジ……ッ!?俺ゃまだ32―――――」

 

 ツッコミを返す間に、2人の少女は俺の目の前を走り抜けた。

 

 「待て!止まれ!!止まらんと撃つぞ!!!」

 

 2人の背中に、俺は銃口を向けた。だが、2人は止まらずマンション屋上の淵へと走っていく。

 仕方ない―――――1発、威嚇で撃つしか止められんか……!後で上司から叱られるのが憂鬱でならんが……!!

 

 「警告はしたからな……!」

 

 俺は2人に命中しないよう、"P1"の顔の左側の空間を狙い、銃爪を引いた。

 頼む、止まってくれ。気持ちだけ先走っても、力だけあっても―――――お前たちの無茶は、俺の立場じゃ了承できないんだよ……!!

 

 次の瞬間―――――

 

 俺は"彼女"の力の一端を見た。

 

 "P1"はこちらに背を向けたまま、"それ"を直接見ることもせず―――――

 右手で銃弾を掴んだ。

 当然俺は目を疑った。少なくとも、銃弾を素手で止められるヤツなんざ、マンガかアニメといった、空想上の存在だ。

 "強さ"という概念に憧れを抱く人類の偉大なる妄想の先鋒と云える現象と言える、『近代兵器に人間の肉体のみで克つ』ことの象徴―――――

 『素手で銃弾を掴む』という行為を―――――

 この、アニメの中から飛び出してきたような出で立ちの少女は、まさしく画面の中そのままに、俺の目の前で再現して見せたのだ。

 

 『……オジサンの想い―――――』

 

 "P1"が握った右手を開くとともに、銃弾はピンク色の光に包まれて、泡のように蒸発していった。

 そして、肩越しに振り向きながら、微笑んで―――――

 

 『キュアっと、受け取ったよ―――――』

 

 どうしてだ―――――

 中てるつもりのない弾を、この娘はわざわざ"受け取って"―――――

 それで、どうして俺に笑いかけるんだ―――――?

 そして―――――俺の想い、だと―――――?

 

 ……茫然としていた俺の視界から消えるように、2人の"P"は跳躍して、住宅街へと消えていった。

 

 「なんだよ、ソレは―――――……」

 

 心の中に、ワケのわからない無力感と憤慨が湧いてくるのがわかる。

 

 

 「……ッ、ワケがわかんねぇぞォォォォォォォ!!!!!!」

 

 

 ああそうか?

 "自分たちは銃弾も掴めるくらい強いから任せとけ"って、そういうことか?

 

 ……冗談じゃねぇんだよ!!

 こちとらお前ら守るのが仕事だってのに、それが守られるとか、想いを受け取るとか、本末転倒じゃねぇか!!

 

 《ワケがわからないのはこちらもですよ、アウトロー・サン。"P"相手に発砲するとか正気の沙汰じゃありませんね》

 

 押し黙っていたDr.Gの、ボイスチェンジャー越しの声が耳につく。

 やはり一部始終を観察してやがったか。

 

 「…………どうにも感情的になり過ぎたみたいだ……なんでかな……『大人の理屈』……少なくとも俺が知ってる『大人の理屈』ってのを、全部突っ撥ねられたからか、な……」

 

 俺が説こうとしたのは、この社会のルールだ。だがあの2人は、それを振り切ってまで"XV"と戦おうとしている。全くもって―――――『子供』だ。

 

 《ふたりとも、いい子達ですね……本当に、アニメの中から飛び出してきたプリキュアみたいです♪》

 

 それまで黙っていた井野が、通信越しに言ってきた。

 

 「だからこそタチが悪い……いい子過ぎるのも考え物だ」

 《それにしても……あの『ごちうさ』のココアちゃんに声の似てた子、相当なプリキュアオタクですねぇ》

 「それってどっちだ」

 《ピンクの方の子ですね。"100%無敵のヒーロー"……『スマプリ』のキュアピースが歌うキャラソンの一節です。それがスラスラ出てくるなんて、ただ流し見してるだけじゃ無理ですねぇ》

 「つまりはお前と同類ってことか……」

 《もうひとりの水色の……『ろこどる』のなにゃこちゃんっぽい声の子も相当ですよ♪"ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!"……『ウルトラマンジード』のキメ台詞……あちらは特オタと来ましたか……カシコとは話が合いそうで何よりです♪》

 

 ……なんてこった。俺はため息をつきながら俯いた。

 オタクの子供が人知を超えたパワーを手にしちまって、ああやって戦ってるってことかよ……まさに鬼に何とか、馬鹿に何とか、か……

 

 「……井野、お前はドローンで連中を逃さず追いかけて逐一俺と佐藤に伝えろ。……聞いてるか、ドクター。どうせ見てたんだろ。あの通り、保護とか捕獲とか、そういうのは無理そうだぜ。ありゃ相当な頑固者だ」

 

 話してわかる相手じゃないが、だからと言って本格的な暴力的行為に訴えるなど以ての外だ。第一、あの2人がどこの誰なのか、身元すらわかっていない。どう取っ付けばいいのか―――――

 

 《それなら、ワタシにいい考えがあります……。まずは彼女達が"XV"を撃滅するまで『待ち』の手を取りましょう……果報は寝て待て、と言うではありませんか……。ふふふ……》

 

 マイクから洩れてくるその笑い声に、どこか嫌な予感が過ぎった。

 だが、見てるだけで手出しができないコイツに、一体何ができるっていうんだ……?

 

 ――――――――――

 

 30分ほどの追跡の末、市街地の外れにある廃ビル、その屋上に戦場が定まったようだ。

 こちらもやはりエレベーターは動いておらず、例によって屋上まで駆け上がるハメになった。

 

 《主任!"P1"がなんか啖呵切ってます!!このパターンからして、もうすぐトドメかと!!》

 

 井野が慌てた口調で現状を伝えてくるが―――――

 そうなのか……?啖呵切ったらトドメって、パターンなのか?

 屋上につながるドアノブに手が届きかけた、その時―――――

 

 『プリキュア!!メモリアルフラァァァァッシュ!!!!』

 

 ドアの隙間から、ピンク色の閃光が迸るのが見えた。

 一瞬にして静まり返った空気―――――俺は慎重に、ドアを数センチだけ開け、屋上を覗き見た。

 そこには―――――

 

 『本当によかった……ピースが無事で…………、そんなことないって!やよいちゃんのせいじゃないよ!』

 『ジャークウェブの奴らがこの街の電気を狙って、ピースをバグッチャーにしたんだ……キミは悪くないよ』

 

 "XV"や敵性"C-ORG"の姿は消え失せていた。

 そして、"P1"が両手で持った"何か"から、黄色い光の粒子が湧いて出てきている。しかし―――――

 

 ―――――二人とも、いったい誰と話してるんだ?

 

 2人で話し合っているようには見えず、湧き上がる光の粒子に向かって話しかけているように見えるんだが……

 アレか?いよいよもって、この2人は"ヤバい連中"ってことか……?

 こりゃ本格的にこの2人をどうにかしないといけないかも知れんなと思ったその時、黄色い粒子が吹き止んだ。

 

 『よぉ~し!キュアピース、キュアっと―――――』

 

 "P1"が、手に持っていた"何か"を右手で天に掲げた―――――その時だった―――――

 

 『カァ~~~!!』

 

 黒いシルエットが、独特の鳴き声とともに、"P1"の手の先にあった光る"何か"を、瞬時に引っさらった。

 

 「何ッ!?」

 

 思わず俺は屋上へと飛び出した。

 

 『カラスが!?』

 『ちょ、ちょっとぉ!?返してよぉ~!!』

 

 とまどう"P"を尻目に、カラスは大きく旋回して、屋上の隅へと降下していった。

 そして、そこには―――――

 

 「おぉ~♪さっすがイヴ、光りモンにはビンカンやなぁ。ごくろさん、ご褒美の煮干しちゃんやで~♪」

 

 ―――――テテ……だと……!?

 

 『あなたは……!!』

 

 テテの顔を見て、"P1"はひと際驚きの声を上げていた。テテの事を知っているのか……?

 それに反してテテはカラスのイヴから"何か"を受け取り、まじまじとそれを見た。

 

 「ほぇ~、これまた懐かしいなぁ。ウチがジャリガキの頃見とった、『スマイルプリキュア!』のキュアピースやないの。……でも何故にアニメのキャラなん??」

 『あ、あの!それ、とっても大事なモノなんです!!お願いです!返してください!!』

 「ん~?」

 

 "P1"は今にも泣きそうな表情になっていた。しかしそんな子供たちに、テテは困ったような、それでいて意地悪にも見えるドヤ顔を返した。

 

 「返してあげたいんはやまやまなんやけど、ウチのトモダチがど~してもコレ見て調べたいっちゅうんや。いつかは返してあげれるかも知れへんけど、今すぐ、っちゅうんは無理な話やなぁ」

 『そんな……!』

 「おいテテ!!どういうつもりだ!?」

 『お、オジサン!?』

 

 俺は間髪入れずにテテに詰め寄った。しかし、俺の問いに答えたのはテテではなく―――――

 

 《どういうつもりもこういうつもり、ですよ》

 『誰……!?』

 

 Dr.Gのボイスチェンジャー越しの声が、テテの持つスマホから流れ出した。その不気味な声に、にわかに"P"は警戒した。確かにこの声、初めて聴く奴には胡散臭さ大爆発だ。

 

 《はじめまして……アナタ方のお噂はかねがね聞いています。そうですね……アナタ方の大ファン、とも申し上げておきましょうか》

 『だったらどうしてこんなことをさせるんだ!?ぼ……ワタシたちにとって、それはどうしても必要なもので―――――』

 《いやぁ……それがですね、ワタシにとっても実に必要なんですよ。というのも、ワタシはあなた方が本当は『何者』なのかを知りたいのですが、どうにもアナタ方は秘密主義なようで……そこで実に強引ですが、こうした手段を取らせていただきました》

 『目的は何なの……!?』

 《目的?……いやですねぇ、今しがた申し上げたじゃありませんか……。ただ、『知りたい』だけですよ。アナタ達がどこから来て、どういう存在なのか……アナタ達が本当に、"あのひと"が存在を予見した―――――"先駆者(Pioneer)"であるかどうか―――――》

 

 なるほど、"P"とは『"P"ioneer』―――――先駆者という意味か。

 だがそれは、"何"に対しての先駆者、なんだ……?

 

 《テテ》

 「は~いなっ♪」

 

 テテはスマホを"P1"の、胸にあるハート形のブローチへと向けた。テテがディスプレイをタップすると、"P1"の表情が俄かに変わった。

 

 『これ……って……!?』

 《アナタが"高度情報化生命体"であるならば―――――簡単にご理解いただけると思いますが?》

 『―――――……"CPアドレス"……』

 《流石……大正解です♪やはり、無線での情報通信もその身で受け止めて、解析と演算処理が可能なのですね……やはり、"あのひと"の予測した通り……》

 『どういうこと……?』

 《この後、今しがた送りましたアドレスの場所に、テテが持つ"ソレ"を保存して、解析を行います。もし取り戻したいのであれば、キュアネット経由でお越しになってください……手厚く、歓迎させていただきますよ♪》

 

 正直、このやり取りが何を意味しているのか、この時の俺はさっぱりわからなかった。

 当の本人同士では理解できていたようだが―――――

 

 《それでは、テテ―――――》

 「ガッテンや!……ほな!」

 

 テテは2人の"P"に右手を挙げて笑顔で会釈すると、そのまま背にしていた屋上の縁から飛び降りた。

 

 『え!?』

 

 "P"は慌てて屋上の縁に駆け寄ったが、その次の瞬間、背中のリュックからハンググライダーを展開したテテが、上空に飛び上がるのが見えた。

 確か、都市部を効率よく移動するためとかで、テテが使っている簡易型ハンググライダーだ。

 

 ―――――……まったく……どいつもこいつも、手前勝手に欲望剥き出しで動きやがって……!!

 お前らのような人種が変な方向に発奮されたら、困るヤツが最低一人はいるんだよ……!

 はっきりした―――――……"P"も、Dr.Gも、もはや同類だ―――――

 自分のやりたいことや奇妙な使命感に縛られて、周りが全然見えていない―――――

 俺の最も忌むべき―――――

 俺は、ビル街を縫うように飛ぶテテの背中に、2人の"P"を押しのけて叫んでいた―――――

 

 

 「"求めたがり"がああぁぁぁぁぁぁぁああああああーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 

 

 

 

 ―――――STAGE CLEAR!!

 

 RESULT:NONE

 

 プリキュア全員救出まで:あと42人

 

 

【挿絵表示】

 

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 『愛の切り札!』




 ―――――りんくの『今回のプリキュア!』

 りんく「今回のプリキュアはだ〜れだ?」

 『ピカピカぴかりん!じゃんけんポン♪キュアピースっ♪!』

 メモリア「『スマイルプリキュア』のひとり、"雷巴(らいは)のピース"!属性はびりびりの『雷』!」

 りんく「マンガやアニメが大好き!将来の夢は漫画家さん!黄瀬やよいちゃんが変身した、雷の力を操るプリキュアだよ!」

 メモリア「そんなピースのキメ技は、コレ!」

 『ひぇっ!!……プリキュア!ピース、サンダぁぁぁぁっっ!!!』

 メモリア「電撃びりびり、ピースサンダー!!どんな敵でもしびれさせちゃう必殺パワーだよ!」

 りんく「動画サイトでも変身シーンの再生回数がダントツトップ!一番人気のプリキュアといってもいいピースなんだけど……サーバー王国ではどうだったの?」

 メモリア「ピースの書いたマンガが大人気になって、アニメになったんだよ!他のプリキュアのみんなが声も入れたんだって!」

 りんく「をを!これまたオタクにとっては耳寄りな!!」

 メモリア「ドリームやルージュとか、男の子の声を出すのがすっごく上手なんだよねぇ♪スカーレットが小さな女の子の声とか、知るまでわからなかったよ。テーマソングはブロッサムやラブリーが歌ってたし……」

 りんく「こ、これってわかる人しかわからないネタなんじゃ……で、でも!ピースのチップ、テテさんに取られちゃったぁ!早く取り返さないと……!」

 メモリア「待ってて、ピース……絶対に助けてあげるから!」

 りんく「それじゃ次はほくとくん!……って、私も出るの??」

 ―――――ほくとの『レッツゴーライダーキック!!』

 ほくと「今日は特別編、今度の秋から始まる新しいライダーを紹介するよ!」

 データ「仮面ライダービルド、か……名前からして重機が元ネタか?子供ウケは良さそうだけど、な~んかなぁ……」

 ほくと「違うってデータ……今度の仮面ライダービルドは、『物理学』がモチーフなんだ。2つの成分を組み合わせて、それを力に戦うんだってさ。基本フォームは『うさぎ』と『戦車』を組み合わせた『ラビットタンク』!」

 データ「2つを組み合わせる……な~んか聞いたことがあるよ~な……」

 りんく「つまりはこういうことね!」

 ほくと「東堂さんっ!?どーしてここに!?」

 りんく「えへへ、遊びに来ちゃった♪そんなわけで、今度の仮面ライダーはこういう感じかな~って、コレを使って実演を……」

 データ「そ、それはスイーツパクト!?」

 りんく「『うさぎ』と、『戦車』を、レッツ・ラ・まぜまぜ~~♪」

 データ「ば、バカ!!そんなコトしたら……!!」

 ロゼッタ「戦車と聞いて」
 パルフェ「うさぎと聞いて」

 データ「出ると思ったぜロゼッタ!!アンタは本編で散々ネタぶちまけたんだからそろそろ自重しやがれッ!!……つーか隣のしいたけ目!!誰だッ!?」

 ロゼッタ「プリキュアで戦車と言えばワタシでは?」

 パルフェ「しいたけとはシツレイねっ」

 りんく「ちょッ!?パルフェはまだこっちに出ちゃダメ~!!出番はまだ先だよ~~!!」

 メモリア「??だぁれ??」

 パルフェ「うふふ♪こころがぴょんぴょんして、ちょっと叫びたがっちゃったのよ♪今度はいつになるかはわからないけど、みんなに会えるのを楽しみにしているわ♪それじゃ、Au revoir(オ・ルヴォワール)♪♪」
 
 ほくと「な、なんかグダグダになったけど、秋からも仮面ライダービルドをみんなで応援しよう!」

 データ「エグゼイドのテレビシリーズも最後まで見逃すんじゃねーぜ!もちろん、劇場版もな!それじゃ、またな!!」

 メモリア「……あの子、プリキュアなのかなぁ?サーバー王国に、あんなプリキュアいたっけ……??」

 ――――――――――

 次回予告

 りんく「ピースがさらわれちゃった~!!」

 ほくと「Dr.G……いったい何が目的なんだ……?」

 データ「ンなことどーでもいいぜ!!とっととピースを助けに行くぞ!!」

 メモリア「ねぇどくたーさん、どうしてこんなヒドいことをするの……!?」

 インストール@プリキュア!『電脳回廊のワナ!Dr.Gの@挑戦状!』

 りんく「ピカッとキュアっとあつめてプリキュアオールスター!」

 ――――――――――

 プリキュアと美津秋の口論のくだり……じっくりと考えながら書いたため、ちょっと遅くなっちゃいました……

 今回はライダーネタが一切なかったので、新ライダー『ビルド』に関するちょっとしたネタを書いてみたんですが……同じことを考えた方は少なくないかと……

 さて、今作初の『チップ横取り』が、ジャークウェブではなく同じ『人間』の手によって敢行されてしまいました……

 次回はプリキュアたちが、ピースを取り戻すべく奮闘します!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 電脳回廊のワナ!Dr.Gの@挑戦状!
潜入作戦


 キャラクター紹介

 佐藤 慈愛

 内閣電脳調査室実行部隊・増子班の調査員。26歳。
 増子美津秋の直属の部下。5歳の娘がプリキュアに熱中しているためか、TVアニメのプリキュアもそれなりに知っている。
 自分の名前に引っ掛けて『G.I.サトー』と自称したりする、軽いノリのお調子者であるが、職務に対しては比較的忠実。

 高校時代はライフル射撃の選手として名を馳せ、以前は警察のSATの狙撃支援班に所属しており、そこから電調にスカウトされた。
 故に銃火器の扱いに長け、特に長距離狙撃の腕前は美津秋をして『和製シモ・ヘイヘ』と言わしめるほど。
 高性能サイドカー『黒檀號』を駆って目標を的確に追い詰める実力者である。
 "P"に対しては悪感情を持っておらず、むしろバグッチャーを倒してくれるありがたい存在として見ている。


 井野 菓子々

 内閣電脳調査室実行部隊・増子班のオペレーター。24歳。名前は『かしこ』と読む。
 この春、陸上自衛隊から電調に引き抜かれた新米オペレーター。
 常にそわそわしていてハイテンション気味で、何もない場所で転んだりするなど、なにかとそそっかしく危なっかしい。
 自分を『カシコ』と呼ぶなど、一見電調に似つかわしくない、まだ幼さすら残る顔立ちのメガネっ娘であるが、オペレーティングの腕は抜群。タブレット端末と通信機があればいつでもどこでもオペレートができる実力を持つ。

 身に着けているメガネは、Dr.Gが試作した脳波制御型ドローンの制御を行うためのブレイン・マシン・インタフェース。菓子々は電調の中で唯一この装備を使いこなすことが出来る類稀な空間認識能力を持っており、Dr.Gに本装備を託されている。
 これらの装備はドローン込みで一式1000万円に迫る『黒檀號』以上の『電調』最高額装備であり、3機のドローンを手足のように操り、対象の監視や追跡・分析などを行い、主に後方から美津秋や佐藤をサポートする。
 美津秋たちに先んじて大泉町入りし、情報収集を行っていたが、慣れない調査任務に苦労していた模様。
 重度のオタクであり、プリキュアはもちろん、アニメ・ゲーム・特撮といった様々なサブカルチャーに対し、広く深い知識を持つ。
 決め台詞は『カシコかしこまりました!』

 ――――――――――

 まさかのパラド味方化に驚愕してる稚拙です。

 さて今回は、さらわれたピースを助け出すために、メモリアとデータが電調のメインサーバーへとアタックします!
 しかしDr.Gもただ待っているわけではないようで……?
 それぞれの思惑が交錯し、キュアチップの意外な『材料』が判明します!
 ではでは、送信!


 ピカピカぴかりん!じゃんけんポン♪

 キュアピースだよ!

 ちなみに今回出したのはチョキでした~♪画面の前のみんなは勝てたかな?

 勝ったら今日もスーパーラッキーディだよ~♪!

 

 ……って、こんなコトしてる場合じゃないよね!?

 りんくちゃんとほくとくんに助けてもらったんだけど、でも……

 

 「返してあげたいんはやまやまなんやけど、ウチのトモダチがど~してもコレ見て調べたいっちゅうんや。いつかは返してあげれるかも知れへんけど、今すぐ、っちゅうんは無理な話やなぁ」

 《目的?……いやですねぇ、今しがた申し上げたじゃありませんか……。ただ、『知りたい』だけですよ》

 《もし取り戻したいのであれば、キュアネット経由でお越しになってください……手厚く、歓迎させていただきますよ♪》

 

 ワタシ、さらわれちゃった~!!

 Dr.Gってヒト、どうしてこんなことをするのぉ……?

 なんかココ、研究室みたいなところ……ワタシこれからどーなっちゃうのぉ~?!

 

 プリキュアのワタシが、こんなコトを言うのは情けないかもしれないけど……

 『インストール@プリキュア!』、たすけて~~~!!

 

 

 ……あ、でも考えてみれば今のワタシ、ちょっと『オイシイ』役かも♪ 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 放課後―――――

 私達の"作戦会議室"―――――パソコンルームには、張り詰めた空気が立ち込めていた―――――

 

 「………………………………」

 「………………………………」

 《………………………………》

 《………………………………》

 

 私もそうだけど……誰一人言葉が出なかった。

 みんな、昨日のことが、悔しくてならなかったから―――――

 

 それは、昨日のこと―――――

 変電所のサーバーに現れたスパムソンとバグッチャーと、私達は戦った。

 実体化したバグッチャーに、キュアピース―――――黄瀬やよいちゃんが取り込まれていたのはすぐ気づいたんだけど―――――

 とあるマンションの屋上に戦いの場が移ったその時―――――

 

 一発の銃声が、その場の空気を裂いた。

 

 

 ―――――国家権力、ナメんなよ―――――

 

 

 黒いスーツを着こなして現れたのは、昼間、クラスメイトの増子さんに話を聞きに来た外国人の女の人、その護衛のように後ろに控えてた男の人だった。

 増子美津秋さん―――――増子美祢さんの叔父さんで、内閣…………えっと、なんだっけ?

 と、とにかく、そんな感じのところに所属してる、みたいなことを言ってた……

 プリキュアがまとうイーネルギーでなければ攻撃が通用しないはずの、実体化したスパムソンに、あの人はピストルで傷を負わせた。

 

 ―――――……さて、傍迷惑なヒーローごっこはここまでだ……全員武装を解除して、俺の指示に従ってもらうぜ。

 ―――――……子供がヒーロー夢見んのは勝手だが、それは自分の妄想の中だけにしとくんだな。ここからは大人の仕事だって言ってんだ。

 ―――――『戦う事』は―――――お前達が『しなくてもいい事』なんだよ。

 

 正直、私達を心配して、こう言ってくれてるってことはわかってる。

 でも……でも、私とほくとくんは、メモリアとデータと一緒に、ジャークウェブからこの世界を守って、プリキュアたちを取り戻して、プログラムクイーンを助け出して、サーバー王国を復興させるって―――――

 そう、決めた。

 あの人も、街や人々を守るために戦おうとしていることはわかるけれど―――――

 私達を必要としてくれている人がいて、"それ"が、私達にしかできないことなら―――――

 "それ"を、今更―――――やめるなんてできない……!

 

 あのひとの『想い』も背負って戦って、ようやく"ピースバグッチャー"をやっつけて、キュアピースを助け出すことが出来た―――――

 ―――――……と思ったその時―――――

 

 ―――――おぉ~♪さっすがイヴ、光りモンにはビンカンやなぁ。ごくろさん、ご褒美の煮干しちゃんやで~♪

 

 増子さんを取材していた、ジャーナリストのティモシー・フランシスさん―――――テテさんが、キュアチップを横取りしていった。

 どうして?何のために?わけがわからない―――――

 そして、テテさんのスマホからは、アヤしい声が―――――

 

 ―――――はじめまして……アナタ方のお噂はかねがね聞いています。そうですね……アナタ方の大ファン、とも申し上げておきましょうか。

 ―――――『知りたい』だけですよ。アナタ達がどこから来て、どういう存在なのか……アナタ達が本当に、"あのひと"が存在を予見した―――――"先駆者(Pioneer)"であるかどうか―――――

 

 たぶん、このヒトがテテさんに、ピースのチップを横取りするように依頼した『黒幕』だと思う。

 ただ知りたい、というだけでこんなコトをするなんて……

 それにパイオニアって?

 ともあれ―――――わからないコトだらけの人たちの手に、ピースは落ちてしまった―――――

 

 昨日の夜、いち早くハッピーが言ってきた。

 

 《ピースを……やよいちゃんを放っておけない!りんくちゃん!早く助けに行こうよ!!》

 

 もちろん、私だってそうしたい。でも、テテさんがどこにいるのかはわからないし、テテさんに依頼した『黒幕』にいたっては、まったくの正体不明なのだから―――――

 どうにかしようと思って、翌日―――――つまり今日、ほくとくんも交えてみんなで対策会議を開いたのだけど―――――

 

 ……手がかりはほとんどなかった。

 唯一、テテさんのことだけは、キュアネットを検索したら簡単にヒットした。

 世界的にも有名なジャーナリストで、去年、報道の最高峰ともいえるピューリッツァー賞も受賞している有名人だった。増子さんも憧れるわけだ。

 でも、そんな人がどうして、あんなドロボーみたいなマネを……?

 

 「……ねぇ、東堂さん……昨日、あの人からスマホを向けられたとき……"CPアドレス"って言ってたけれど……それって……?」

 

 ……!

 頭の中で考え事をぐるぐると回していたから、すっかり忘れかけていた。

 あの時、イーネドライブに送られてきたのは、4つに区切られた、9つの数字。

 

 「うん……簡単に言えば、"キュアネット上の住所"、かな……。コンピューターを見分けるための"指紋"……みたいな感じ、とも言えるかも……」

 

 昔のインターネットで言うと、"IPアドレス"って呼ばれてたモノ。それを昨日、私はテテさんから受け取った。

 スマホをイーネドライブに向けられた途端―――――頭の中に数字が浮かんだ。

 ……でも私、どうして"それ"が、"CPアドレス"だって、わかったんだろう?

 私は、コンピューターの『操作』や『使い方』なら、1分くらい触れば大体わかる。でも、こういった『ハード』ならともかく、それを動かしている"ナカミ"―――――『ソフト』のことに関してはからっきしだ。おばあちゃんなら、そういうこともわかると思うけど―――――

 昨日、『黒幕』はこうも言ってたっけ―――――

 

 ―――――やはり、無線での情報通信もその身で受け止めて、解析と演算処理が可能なのですね―――――

 ―――――アナタが"高度情報化生命体"であるならば―――――簡単にご理解いただけると思いますが?

 

 ……コードジョーホーカセーメータイ……全然心当たりのない言葉。

 それを聞くと、なぜか疑問が頭をもたげる。

 私やほくとくんが変身してる『プリキュア』って―――――何なんだろう―――――って。

 アニメで見てきたプリキュアたちの変身と、まったく違う気がする。

 

 「住所がわかれば、行くことが出来るんじゃないかな……?たぶん、あっちもそのつもりで送ってきたんじゃ……」

 

 それは私も思っていた。何しろ―――――

 

 ―――――もし取り戻したいのであれば、キュアネット経由でお越しになってください……手厚く、歓迎させていただきますよ♪

 

 ……とまで言っていたんだから。

 

 「メモリアとデータなら―――――キュアネットの中からなら、現実の世界のコンピューターの場所がどこにあるかわからなくても、アドレスがわかっていれば行くことはできると思う……」

 《それならまかせてよ!》

 《ああ!とっとと行って、ピースを取り戻してきてやるぜ!!》

 

 メモリアとデータがやる気満々の表情を向けてくる、けど―――――

 

 「でも……それって、やっちゃいけないコトかもしれない……」

 《なんでだよ!?キュアネットから、ホームページに行くようなモンだろ!?》

 「ううん、全然違うの……!"CPアドレス"をたどって、そのアドレスのコンピューターに無断で無理やり、『直接』入る事って、それって……ハッキングだよ」

 「……はっきんぐ?」

 

 首をかしげるほくとくん。あぁそうか、ほくとくんって、コンピューターのことほとんどわからないんだっけ……

 

 「簡単に言うと、ネットの空き巣……かな……悪いヒトが、そうやって相手のコンピューターに悪さをするんだけど……」

 《悪さなんてしないよ!》

 

 タブの中のメモリアが、私を見上げて言う。

 

 《あたし達、プリキュアだよ!?……悪いコトなんて絶対しないよ!ピースを取り戻したいだけだよ!》

 《だな。それに、先にドロボー……っていうか、ピースを誘拐したのはアッチだぜ?アタシたちは、さらわれたピースを助け出しに行くだけさ。取られたら、取り返す!トーゼンじゃねーか!》

 「メモリア……データ……」

 

 確かに、実際に行ってもらうふたりは、見習いだけどれっきとしたプリキュア。絶対悪い事なんてしない。

 それにデータの言うとおり、さらわれたピースを助け出しに行くのなら、ハッキングじゃないんじゃ……

 

 「まぁ、先方も―――――」

 

 ほくとくんが、私に笑いかける。それも、自信に満ちた顔で。

 

 「"手厚く歓迎してくれる"みたいだしね。……確実に"待ってる"よ」

 

 そっか―――――『黒幕』も言ってたっけ。

 つまりは―――――メモリアとデータを、『黒幕』は招待してるんだ。

 でなければ、CPアドレスなんて送ってくるはずがないもの。

 これは確実にワナだ。ピースを『エサ』にして、メモリアとデータ、ひいては私とほくとくんを釣り上げる為の―――――

 でも、行かなきゃピースは助けられない―――――

 

 《りんく!あたし、行くよ!"ここでキメなきゃ、女がすたる"!!…………って、キュアメロディならそう言うトコ、だよ!》

 「メモリア……」

 

 普段から私が意識・無意識問わずに口にしてる、プリキュアたちのキメ台詞。心の隅にあったけど、今日はなかなか浮かばなかった、キュアメロディ―――――北条響ちゃんが、自分を奮い立たせるときに言う言葉。

 なんか、今日はお株を奪われちゃった、かな。

 

 「……そうだね……!」

 

 キメなきゃ。

 

 取り戻す―――――

 そう、それは、私達が戦う意味。それがたとえ、相手が同じ『人間』であっても。

 

 「お願いね―――――!」

 《うん!》

 

 悩んだり迷ったりするのは、もうやめだ。

 私達が戦う相手は、ジャークウェブも、人間も、同様に持っているモノ―――――

 

 心の中に巣くってる――――――――――『闇』なんだ。

 

 ――――――――――

 

 NPC  Dr.G

 

 ――――――――――

 

 《なぁGやん―――――》

 「……何です?」

 

 ……いつの間にか、ディスプレイの隅のテテが、ワタシに不機嫌そうな顔を向けていました。

 

 《みっつー、ものごっつぅブチキレとったで……。自分ダシにした挙句、取るモンとって結局スタコラサッサ、やもんな。無理あらへんわ》

 「……まぁ確かに、アウトロー・サンとイノセント・スナイパーに何も言わず、我々だけで事を進めてしまったことは、反省するべき点ですが……」

 

 彼にはあとで、幾分かのフォローをしておく必要があるようですね。彼なりの正義感に反することをしたことは、事実なんですから……。

 もっとも、ワタシは彼ばかり見ているわけにはいかないのです。ディスプレイ越しとはいえ―――――

 

 「お手柄でしたよ、テテ。"P"が回収しているモノを、こうして解析できるんですから♪」

 

 ディスプレイに映るのは、今現在は電調のメインサーバーのスロットに収められている、"P"が回収していたSDカード。

 昨日、テテによって運ばれてきたコレを、ワタシは早速夜通しで、パソコンの遠隔操作で解析しました。

 ―――――予想通りでした。

 内包されているプログラムは、ワタシが持っている3つの"Cプログラム"と、ほぼ同質のモノでした。

 つまりこのSDカードは、"Cプログラム"がこの現実世界に実体化したモノと断定してよいでしょう。

 ……問題は、どのようなリクツで物質化しているか―――――

 その手掛かりを少しでも得るために、カード本体の構造解析を試みたのですが―――――

 

 このカード、構造解析をほとんど受け付けないと来ましたよ。

 つまりはほとんどが、未知の物質で出来ている―――――

 いやはや、"外側"からそもそも取っ付けないとは、どこまでも挑戦的なんですねぇ。

 ただ―――――

 

 《それで、何かわかったん?昨日から、いろいろつっついとるみたいやけど?》

 「……一か所だけ、解析できた箇所があります。……端子部分だけですけど、それでも驚きましたよ」

 

 これは本心からの驚きでした。

 この『物質』を、どのようにして調達したというのか―――――

 

 《確かに……フツーのカードと(ちご)て、何や、いろんな色に光っとったなぁ。キラキラしとってぇ》

 「数年前にとある論文で紹介され、世間一般に認知されずに忘れ去られた、日本の西之島新島の火口からしか産出されない、それまでの常識を覆すほどの性質を持つレアマテリアル……こんなトコロでお目にかかれるとは思いませんでしたよ」

 《西之島……そぉいや5年くらい前から、周辺100kmの海域を封鎖しとるんやったなぁ……飛行も禁止しとる徹底ぶりやけど……もしかしてGやん、何か知っとぉの?》

 

 本来、こういった種類の方に余計な情報を与えるのはどうかと思いますが……まぁ、いいでしょう―――――

 

 「……西之島とその周辺海域は現在、このマテリアルの影響で、ダーウィンが泡を吹いて卒倒しかねないほどに『有り得ない進化』を遂げた、『友人』たちの楽園になってるんですよ」

 《ゆーじん?》

 「言葉のあやですよ。この件、あまり深く詮索や取材をすることはお勧めしませんよ。……『世界を壊したく』、なければ」

 《……なんやワケありみたいやなぁ……触らぬ神サンに祟りないっちゅうし……ここは大人しゅう従っといた方がええかもな……忠告おおきに》

 

 ワタシは、パソコンの横に置いた書類に目をやりました。

 

 ―――――FRIENDS humanly Reappearance and Innovative theory of EvolutioN Deviation mutant Species―――――

 

 『新たに人間的に再現され、進化論から逸脱した友好的な突然変異種』―――――

 

 まったく、ガラパゴスすら比較にならないブッ飛んだ突然変異っぷりですよ、『彼女達』は。……ワタシは実際に会ったことはありませんが。

 『彼女達』の存在が公になれば、生物学界は勿論のこと、宗教学界にまでセンセーショナルな論争を巻き起こし、全世界的なパラダイムシフトが起きる―――――

 そんな中で日本政府が決定した、『西之島、およびその周辺海域の封鎖措置』―――――要らぬ混乱を招かぬ采配、賢明であると判断します。

 もっとも―――――

 

 先ほどの書類の2ページ目には、『厳重秘』と朱印が押され、

 

 ―――――JAPARI PARK PROJECT(仮)―――――

 

 ……と書かれた項目がありました。

 

 『遊園地(パーク)』―――――つまりは『彼女達』を観光資源として活用しようとも企んでるんですよ、お偉方は。まぁ、動植物はおろか、戦艦や銃器、城郭や刀ですら『擬人化』してしまう『クールジャパン』というコンテンツのアピールにはうってつけなんでしょうねぇ、『彼女達』は。

 もっとも、ワタシはこの計画、いずれは頓挫すると見ています。

 考えてもみてください。『このマテリアル』、未だに詳しい性質が解析されておらず、不明のままなんです。

 この先、このマテリアルによって、我々人類も知らない突然変異生物―――――それも、人類や『彼女達』に害を成す存在が発生しないとは限らないのですから。

 未知の生物による生物災害(バイオハザード)によってパークが閉鎖―――――なんていう結末も無きにしも非ず……―――――

 どちらにしても、『彼女達』の存在が公になるのは、ずっと先の―――――ミライの話になりそうですけどね。

 

 「……さて、四方山(よもやま)話はここまでにしましょう。今肝心要なのは―――――」

 

 ワタシは電調メインサーバー内の可視画像へと、ディスプレイを切り替えました。

 

 「……大事な大事なお客様を、お出迎えする準備ですよ♪」

 

 ワタシが"Cプログラム"の解析と並行して、電調メインサーバー内に構築した、"お客様"を()()()()()するための電脳空間―――――

 

 「名付けて"電脳回廊"……ふふふ、イイ感じに仕上がりましたぁ……♪」

 《どれどれ?》

 

 テテはディスプレイを覗き込みましたが、一瞬でしかめっ面に。そして、カメラを向いてこう言いました。

 

 《SASUKEやん》

 「サスケ?それってニッポンの有名な忍者の名前ですよね。それがどーして電脳回廊と関係が?」

 《テレビであんねや。こんな感じのアスレチックを、体力自慢が攻略してくって番組なんやけど、まんまやん》

 「ワタシが参考にしたのは"American Ninja Warrior"なんですが……まぁいいでしょう」

 

 全3エリアから成る、難解かつ高度なトラップをこれでもかと配置した、セキュリティプログラムのショールームとも云うべき趣に劇的改造させていただいたこのサーバー……

 "C-ORG"のおふたりがどう攻略されるのか……楽しみでなりません……♪

 普段ワタシはこういうことはしないのですが、今日はあえて―――――

 

 「手薬煉(てぐすね)引かせてもらいましょぉ…………ふふふふふふふ……♪」

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 「りんくからもらった"しーぴーあどれす"……って、ここ、だよね?」

 

 さらわれたピースを取り戻すために、りんくが受け取った"あどれす"の場所に、あたしとデータはたどりついた。

 

 「なるほど、りんくが渋ったのもわかる気がするぜ。こりゃ確かに、"裏口"だ」

 「裏口……?」

 「見てみろよ。フツーのキュアネットのホームページなら、カンタンにアクセスできるようになってるけど……コイツは違うだろ?」

 「……ホントだ」

 

 データが指差す先には、たくさんの南京錠と鎖で固められたゲートがあって、『立入禁止』『入っちゃダメ!』とか、とにかく『入られたら困る』と伝える文字がごちゃごちゃと書いてあった。

 しかもこの鎖、ときおりびりびりっていう音がして、光が走る。ウカツに触ったらコゲコゲにされるかも……

 

 《データ、入れそうかい?》

 

 ほくとの言葉に、データは腕組みをしてうなった。

 

 「ん~……、わからんなぁ……ってかよ、あちとらは招待してくれてたくせに、いざ来てみりゃ入れないって、矛盾してねぇか?」

 《まぁ、ホントはこんなトコロにアクセスしてるのも、犯罪スレスレなんだけどね……》

 

 苦笑いするりんくが見える。

 

 「留守なんじゃない?」

 「ンなワケあるか。あんだけ大口叩いてたんだ。それなりの歓迎は期待してたんだがな……こりゃ、出直すか?」

 「そだねぇ……帰ろっか?」

 

 あたしがそう言って、ゲートに背を向けた、その時―――――

 

 《SECURITY SYSTEM UNLOCK》

 

 電子音声が響いた。驚いてあたしとデータが振り返ると、がしゃがしゃと音を立てて、ゲートを固めていた南京錠と鎖が開いて、引っ込んでいくのが見えた。

 

 《お待ちしてましたよ、お客さん。きっと来てくれると信じていました》

 

 このミョ~な声……この声、昨日ピースのチップを持って行った『てて』ってにんげんさんが持ってたスマホから流れてきた声だ。

 

 《自己紹介が遅れまして申し訳ございません……そうですね、『Dr.G』とでも呼んでください》

 「どくたーじー……??」

 「あからさまに怪しいぜ。『仮面ライダーV3』の悪の組織デストロンに似たような名前のヤツがいたけどよ……親戚か何かか?」

 《へぇ!仮面ライダーのことをご存じなんですか。……まぁワタシは全く知りませんし、興味ありませんがね―――――そうです、いい機会ですから、アナタ達の本当のお名前も知りたいものですが》

 「ケッ、悪党に名乗る名前は持っちゃいないんでね」

 「(σ・∀・)σさっすがぁ~♪」

 

 データ、やっぱりカッコイイ!こんな時でも頼りになるなぁ……

 

 《悪党……ですか。まぁ、『あんなコト』をして、現在進行形で『後ろ指差されるコト』をやらかしてる身ですから、甘んじてその言葉を受け容れましょう……》

 

 どくたーさんの言葉と同時に、ゲートの奥の道に光が灯った。

 

 《さて……このゲートの奥のサーバー……その最深部に、アナタたちが欲しがっているモノを安置しています。どうぞ、お持ちになってください。……もっとも―――――》

 

 あたしとデータは、道の先をのぞき込んだ。光が灯っているけれど、ずっと先の方は、闇に隠れて全然見えない……

 

 《すんなりとは―――――行きませんけどね》

 

 背筋がぞくっと震えてきた―――――

 でも―――――行かなきゃ。

 ピースが―――――この奥で待ってるんだから……!

 

 ――――――――――

 

 NPC  Dr.G

 

 ――――――――――

 

 そう―――――

 思いっきりもがいて、足掻いて、抗ってくださいね。

 でなければ、意味がないのですから。

 ワタシの『切り札』である『彼女達』に、少しでも有益なデータを、糧として供するために―――――

 

 「……よく見ていてくださいね。いずれ、彼女達とは直接お会いするのですから……♪」

 

 3枚並んだ内の、右側のディスプレイ―――――紫色の光と翠色の光が、ワタシに答えて輝きます。

 

 《Yes,ma'am》

 《OK,her》

 

 楽しみですねぇ、彼女達と彼女達が対峙するその時が―――――

 

 「良い返事です―――――"ローズ"……そして、"フェリーチェ"―――――」

 

 ……SAVE POINT




 ご存知の方も多いと思われる『SASUKE』、海外でも放送されていて、そのタイトルが『American Ninja Warrior』……
 どっちにしてもDr.Gは『SASUKE』を元ネタに電脳回廊を作っちゃってたんです♪

 次回はメモリアとデータが電脳回廊に突入!!完全制覇なるか!?(違


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プリキュアVS鋼鉄の魔城

 前回投稿から1ヶ月以上……
 ようやく、ようやくお待たせしました……!申し訳ございませんでした!!
 稚拙がいろいろやってる間にエグゼイドが完結してビルドがはじまり、ナーガがヘビツカイメタルに闇堕ちしたり、プリアラで6人合体攻撃の予感がしたりと、ニチアサでも動きが……
 あぁ、書き始めたころのペースを取り戻したいです……

 お久しぶりの今回は電脳回廊攻略に挑むメモリアとデータ、そしてそれを見守るふたりのユーザーと、これらを掌の上に乗せてる"つもり"のDr.Gのお話を送信です。


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 ネットコミューンの画面には、メモリアの見ている光景が、そのまま映し出されている。

 

 《それでは、"ルール"をご説明しましょう》

 

 Dr.Gの声とともに、メモリアとデータの目の前に、ホログラムのディスプレイが浮かび上がった。

 それにしても……明らかに変声機(ボイスチェンジャー)で声を変えてるよね、コレ。『Dr.G』っていうのも明らかに本名じゃなさそうだし……

 ……いったい―――――どんな人なんだろう。

 何のために、ピースのチップを横取りしたのかな……

 アプリアンのこと、キュアチップのこと―――――どこまで知ってるのかな……?

 

 《このサーバーは3つのエリアに分かれています。これら3つのエリアを、どんな手段を使っても結構ですので突破してください。最後のゴールまで到達すればクリアーとなりますので。制限時間という無粋なモノは設定しておりませんので、どうぞ気長に》

 

 ディスプレイの隅にはコースを横から見たような見取り図が表示され、マーカーでメモリアとデータがいる位置がわかるようになっている。

 さながらアクションゲームのアプリのようだ。その見取り図を見たほくとくんが、「あ」と小さく声を上げた。

 

 「どしたの?」

 「これ…………SASUKEだ」

 「―――――……え(;゚Д゚)」

 

 思わず、隣に座るほくとくんを私は見た。

 ……あ、ちなみに私たちがいる場所は近くの公園のドーム型遊具の中。最近この公園、人気があまりないから子供たちも少なくて、誰かに見られる可能性はないと思う……たぶん。 ってゆーか……

 

 「SASUKEって……あの、テレビで時々やってる、アスレチックのヤバい版みたいな……アレ?」

 「うん……このコース構成……現行版とはちょっと違うところがあるけど、ほとんど一緒だ。『過去問』を所々アレンジして組み入れてる感じかな」

 「もしかしてほくとくん、ワリと詳しかったり……?」

 「毎回見て、録画もしてるんだ。……いずれ、出ようかと思ってるし」

 「あ……アレに出るつもりなの……!?」

 「最初は見てるだけだったけど、どうにも血が騒いでね……。今回のコレ、ちょうどいい予習になりそうだ……」

 

 ほくとくんのこの表情、見覚えがある。

 そうだ、ビューティバグッチャーと戦った時、『相手が強い』とわかった時にした、『あの笑み』だ。

 つまり、今のほくとくんは―――――燃えてる……!

 

 「……頼りにしてもいい?」

 

 そう訊くと、ちょっと驚いたような顔になったほくとくんは、顔を赤くして視線をネットコミューンに落として、

 

 「う……うん……///」

 

 と、小さく返事をした。

 

 「僕の指示をデータに送るよ。それで、最初にデータが進んで、その後からメモリアがついていく……これで行こう。メモリア、データのやり方を手本にするんだ。いいね?」

 《おっけー!》

 

 最初にやってきたのは、互い違いに立てかけられた、4つの斜めの足場。ほくとくんが引いた矢印が、足場に沿って伸ばされる。

 

 「最初のエリア……"クワッドステップス"……タイミングを合わせて、テンポよく渡るんだ」

 「あれ?前に見た時には丸太を上るところだったのに……?」

 「"ローリングヒル"だね。でもこれは省略されてる……オリジナルと違うな」

 「それにしても…………コレ、下はどーなってるの……」

 

 メモリアとデータが立っている少し先、足場の下。実際のSASUKEでは池になってるところだけど―――――

 真っ暗―――――ただひたすらの黒。下も見えない。

 失敗して……足を踏み外して落ちたら―――――メモリアも、データも―――――

 どうなっちゃうんだろう―――――

 

 「大丈夫だよ東堂さん。"ホンモノ"と違って制限時間がない分、慎重に進められる」

 「……うん」

 

 メモリアとデータの先に広がるこの闇に、私は言いようのない不安を感じていた―――――

 

 「データ、行ける?」

 《こんなの、カンタンだぜ!……ほっ、ほっ、おりゃっ!》

 

 データは助走をつけると、互い違いに配置された足場をはずむように跳んで行った。

 

 《楽勝楽勝!ほら、メモリアもとっとと来いよ!》

 《おっけー!》

 

 データの手招きにメモリアは笑って応えると、データと同じようにリズムよく飛び移っていく。

 そして、最後の4つ目の足場を蹴り出そうとしたその時―――――

 

 《り゛ゃッ!?》

 

 着地した右足をメモリアが滑らせて、とんぼ返り(サマーソルト)を打ったと思うと、背中から『闇』へと飲まれていってしまった。

 

 ――――――――――え?

 

 一瞬すぎた。

 私が、何が起きたのか理解するのに、10秒くらいかかった。

 ほくとくんを見ると、口が半開きになったまま唖然としていた。

 コミューンのディスプレイには、呆然として立ち尽くすデータの姿。

 我に返ったように、データが叫んでいた。

 

 《メ……メモリアーーーーーーーッッ!!!!??》

 

 さっき私は、この下がどうなってるんだろうとギモンに思ったけれど―――――

 まさか―――――

 背筋に悪寒が這い登ってきた。その悪寒に急かされるように、私はコミューンのディスプレイに視線を戻す―――――

 

 「…………!?」

 

 ショックすら通り越した私は―――――立て続けの衝撃的ヴィジョンに目を奪われた。

 立ち尽くしていたデータのすぐ横の地面から、『CONTINUE』と書かれた暗紫色の土管がぬーっとせり出してきた。そしてその中から、ぺたんと座ったままの姿勢のメモリアをぽん!と吐き出すと、静かに地面に沈んでいった……。

 

 「仮面ライダーゲンム……"新檀黎斗"さんの"コンティニュー土管"ッ!?」

 

 ほくとくんがモノスゴい形相で驚きの声を上げる。私的にはマリオかなって思ったけど……

 って、そんな場合じゃない!消えていったハズのメモリアがどーして復活したの!?

 

 「だ、だいじょーぶメモリア!?」

 《う、うん……あたしも何が起こったのかよくわかんないけど……》

 

 キョトンとした顔で、メモリアが私を見上げてくる。無事だったのはうれしいんだけど、なんかフに落ちないっていうか……

 

 《どーゆーつもりだゴキ〇リ博士サンよ!?この手のヤツは落ちたらゲームオーバーってのが相場だろーが!?》

 

 どこから見ているとも知れないDr.Gに向かってか、データは声を張り上げる。

 って、あちゃー……データ、言っちゃったか……私、一応地の文担当だから気を遣ってなるべく"アレ"な表現は慎んでたんだけど……

 ……え?私が『この素晴らしい中古スマホに爆焔を!』の回でゴ〇ブリって言ってた?それも地の文担当の時に?……あー……それは、その~……ゴメンナサイ。

 ごほんっ。……それで、データの怒鳴りにDr.Gがどう答えたかというと―――――

 

 《カン違いをなされてもらっては実に困ります。アナタ方"C-ORG"を傷つけたり、ましてやデリートしようなんて考えていませんから。足を滑らせて下に落ちても何らデメリットはありませんのでご安心を》

 《だったらアタシ達をどーしたいってんだ!?ただアタシ達が跳んで回って駆けずってるのを眺めてたいってか!?》

 

 データの問いに、間を置かずDr.Gは答えた。

 

 《……そ・の・と・お・りぃ、ですよぉ♪♪"観測対象"にケガをされたり、デリートされては困ぁりますからねぇ~~……いやぁ、アナタ方のような未知の存在を、こうしてじっくり眺めて観察してぇ、観測してぇ、ぶ・ん・せ・き・できるぅ……♪ワタシの中の渇望感―――――『未知』が癒されぇ、満・た・さ・れ・て・いくぅ……今ッ!今ッッ!!この瞬間がぁっ……!!――――――――――し・ふ・く・の・ぜっ・ちょう(至福の絶頂)ぉぉ↑、ぉぉ↑、ぅぉぉふぅぉ↑、……!!》

 《《………………(;;゚Д゚)(;;゚Д゚)》》

 「「………………(;;゚Д゚)(;;゚Д゚)」」

 

 私もほくとくんも、メモリアもデータも絶句してドン引きしていた。特に語尾のカスレ具合に。

 

 《それだけではあ・り・ま・せ・ん!!!『証拠』の観測によって、『あのひと』が正しかったことが証明できます!!!そしてワタシの『切り札』にもフィードバック可能!!!いいコトづくめとはま・さ・に・こ・の・こ・とぉぉ~↑ぅぉぉぉ~↑……―――――ゴホン。そういうわけなので、ワタシの"電脳回廊"、思う存分エンジョイしてくださいね♪なるべく、長い間居てもらうと助かりますので♪》

 「冗談じゃないz(ごんっ!!)―――――()ゥッ……!!」

 

 Dr.Gの語る『野望』に、怒りの形相でほくとくんは立ち上がった―――――んだけど、ココがドーム型遊具の中ということを怒りのあまり忘れていたのか、ドームの天井で頭を打ってうずくまった。ぷふ、私ちょっと吹いちゃった……

 ……と、ともかく!こんな自分勝手な欲望のために、ピースをさらって、今こうしてメモリアとデータをSASUKEもどきに挑戦させるなんて……!

 

 ―――――でも―――――

 

 Dr.Gってヒト、なんだかんだで、メモリアとデータにケガさせたり、デリートしたりなんてアブないこと、考えてないみたい……言ってることはアブない気もするってことは別として……

 はッ……!!もしかして、実はこのヒト――――――――――

 

 

 ―――――同志(プリキュアファン)……!?―――――

 

 

 たぶん、そうなんじゃ……?

 でないと、見習いとはいえ『プリキュア』であるメモリアとデータ、そして私とほくとくんが変身したメモリアルとデーティアに、こんなに執着するハズがないもの。

 だとしたら、私にとって悪いコトじゃない。

 それに、ジャークウェブと違って、Dr.Gは人間だ。たぶん。話してわからない相手じゃない。

 『キュア友』になれる―――――その可能性があるなら―――――

 

 「何度でも失敗(ミス)が許されるSASUKEなんて……SASUKEじゃない……!生命が一つしかないように、SASUKEも一度のミスで終わりなんだ……それなのに……!」

 

 ほくとくんは、コミューンを持っている方とは逆の右手を、ぐっと握っていた。手の震えが、見ていて伝わる。

 

 「仮面ライダーゲンムみたく『コンティニューしてでもクリアする』だなんてさ……データもメモリアも、モルモットでもゲームのキャラでもないんだよ……!!」

 

 私も同じ思いだった。たとえプリキュアのことが好きだとしても、ここまで来たらストーカーとかその類だ。……仮面ライダーゲンムって何のコトかわかんないけど……

 キュア友になるのは―――――まずは曲がった性根を叩きなおしてから……!ワルいコとは、プリキュアはお友達になれません!!

 そして、『生命』の大切さを知らないヒトとも―――――

 

 「東堂さん……ここからは意地でも"落ちずに"行く……!!なるべく短時間でクリアして、Dr.Gに分析する暇を与えないようにするんだ……一度たりとて落ちさせてやるもんかよ……!」

 

 鋭い目つきとともに―――――ほくとくんの口角が上がったように見えた―――――

 でもその顔は―――――とても頼り甲斐のある―――――ヒーローの表情(カオ)―――――

 

 「……ノーコンティニューでクリアしてやるぜ」

 

 なんか―――――キュアっときた―――――。

 

 ……アタマにタンコブできちゃってるけど。

 

 ――――――――――

 

 それからはほくとくんのナビで、データとメモリアは"SASUKE"を攻略していくことになって―――――

 

 

 ―――――タイファイター―――――

 

 《ほっ!よっ!!へへ、軽い軽い!》

 《似たようなのがサーバー王国のアスレチックにあったもんね~♪》

 

 ―――――タックル―――――

 

 《別に2人同時にタックルしちゃダメってルールじゃないんならぁぁぁ!!》

 《ダブルタックルだぁぁぁぁ!!!》

 

 ―――――サーモンラダー―――――

 

 《コレって意外とコツがいるね……よっ!》

 《上半身の筋肉をうまく使って……ほっ、と!》

 

 ―――――バックストリーム―――――

 

 《ボゴボガバガバガバ………………》

 《おいメモリア!?溺れてんじゃねー!……ぶはァッ、これ考えたヤツ絶対ドSだろグヴォゥッ》

 

 ―――――リバースコンベア―――――

 

 《ちょ、ちょっと待ってデータ……休憩させて~……》

 《こんなトコで休憩すんな!!走るんだよ!走りやがれ~!!》

 

 ―――――ウォールリフティング―――――

 

 《せ~のっ、》

 《《おりゃあ~~~~!!!》》

 《……って、ふたりでやればラクショーだねっ♪》

 《ってかこのコース、1人プレイ前提っぽくねーか?》

 

 ――――――――――

 

 NPC  Dr.G

 

 ――――――――――

 

 「いやぁ……これはこれは……」

 

 思わず感嘆の声が洩れました……

 膂力(りょりょく)、瞬発力、走力、跳躍力、持久力……

 どれをとっても、従来の人型セキュリティプログラムなんかよりも段違いですよ。

 コースのスペック、TV版を分析した上で3割増にしてるんですが……それでも突破しますか。

 ……まぁ一部、反則気味にクリアされちゃいましたが……

 

 《随分とご満悦のようだな―――――……えェ?ドクター様よォ》

 

 ディスプレイの隅の、電調のサーバールームのモニターカメラに映った男性の顔は―――――

 

 「……アウトロー・サン……」

 《ここで何してるかってのはよくわからんから訊かんがな……これだけは言わせてもらいに来た―――――》

 

 彼はカメラが備えられたパソコンの台に平手を叩きつけながら、ワタシをカメラ越しに鋭く睨んで―――――

 

 《電調(俺達)はアンタの道具じゃねぇんだよ……アンタの勝手事に俺達の命、断り無しに使ってんじゃねぇ……!》

 

 ……正直、気圧されました。

 これが―――――修羅場を何度も潜り抜けてきた『本気の大人』の静かな怒り―――――というモノなんですか……。

 

 「……その件に関しては言い訳するつもりはございません。ワタシの興味に事前通告無しに付き合わせてしまったことは素直に謝罪します」

 《面と向かって言ってねぇ時点で誠意の一ッ欠片も感じねェんだよ。大体……声も変えて姿も見せずによォ……姿見せられねえ理由でもあんのか?……それとも、見たら俺達がブッ仆れるようなルックスか?例えば―――――》

 

 

 ―――――……全身ツギハギだらけのフランケンシュタインみたいな見た目でもしてんのか?

 

 

 ―――――!!!―――――

 

 

 「―――――お黙りなさいッッ!!!!」

 《……ッ!?》

 「確かにワタシのした事は倫理に反することですが……!!だからといって"ソコ"を罵倒することはないでしょうに!!」

 

 よくもワタシのことを知らずに、そこまでバケモノ呼ばわりしてくれて!!

 これだから……これだから大人は!!

 確かにワタシは、年に一度の()()()()()()をしなければ、この先どうなるかもわからない体……『ツギハギ』というのも間違っていませんよ……見もしてないのにその洞察力は何なんですかこの男は!?

 

 「こうしてアナタ方に顔を見せずに声を変えて接しているのにも理由があるのです……!!いい大人ならデリカシーと相手のプライバシーを弁えてモノを言いなさい!!」

 《ッ!、論点変えてんじゃ―――――》

 《みっつー》

 

 テテの言葉にアウトロー・サンが振り返った瞬間でした。

 アウトロー・サンの左の頬へと―――――テテの右の平手が打ち付けられるのを、ワタシは見ました。

 唖然とする彼を、テテは毅然と見据えて―――――

 

 《そこまで言わんでもええんと(ちゃ)うか。ええ大人がみっともないで》

 《……ならコイツはどうなんだ、ええ!?こんな得体の知れんヤツに、俺と佐藤は命張らされたんだぞ!?コイツこそ大人の責任ってのをだな―――――》

 《それについては……ウチからも謝る。それで許して言うんはムシのええコトやってことはよぅわかっとぉけど》

 《―――――…………!》

 

 テテの表情に何かを感じたのか―――――アウトロー・サンはそれきり口を噤みました。

 そしてテテはアウトロー・サンの耳元でささやきました。ワタシには聞こえないように言ったつもりだったのでしょうが、鋭敏なマイクが彼女の声を拾っていました。

 

 《……自分で痛い目見るまでほったらかしといた方がええ。ヒトが何言うても聞かんタイプやから》

 《お前……》

 《Gやんが……自分で自分のコトをキチンと面と向かって話せるようになるんは……強い"きっかけ"が必要や……それを掴むんは何時になるか知れへんけど……それまでは自由にやらせたって。でも、今回はウチもやりすぎやった思う。今回みたいなコトは二度とさせへんようにする。……ウチの顔に免じて、堪忍したって》

 

 アウトロー・サンは小さく舌打ちすると、「……佐藤の仕事を見てくる」と告げて、振り返りもせずにサーバールームを後にしていきました。

 

 「…………重ね重ね……申し訳ありません、テテ」

 《いつもンことやんか。……でもなGやん、ウチかてみっつーの気持ちもわかる。……反省するトコはせなあかんで。……それが、『大人の世界』でGやんがやってくために大切なコトや。……それだけは、わかって》

 

 ―――――いつになく真剣な眼差しと口調で語るテテからは―――――『責任ある大人』の強い想いを感じ取りました。

 アウトロー・サンを激昂させ、テテにこうまでさせるコトを―――――

 ワタシはしてしまって、そして今も―――――

 

 「ごめんなさい……」

 《ん♪素直に謝れるんは『ええ大人』の第一歩やな♪またひとつ大人になったなぁ♪♪》

 「からかわないで……くださいよ」

 

 ―――――大人の世界で生き抜くんは、ある程度の狡猾(ズル)さも必要や―――――

 

 そう教えてくれたのは、アナタじゃないですか、テテ……

 そのアナタが、今度は『素直』をワタシに教える……

 実に……実に難しいですよ……。

 なんだか、ヘンな気持ちになりました……

 パソコンの前で、ワタシはどっと力が抜けて―――――

 

 「…………『いい大人』…………です、か」

 

 まだまだワタシは―――――

 そんな『いい大人』には、実に程遠いようですね―――――

 "こんなコト"を、している限りは―――――

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 ここに来るまで……何度ダメかと思ったことか……

 お父さんとお母さんの姿が何度脳裏に浮かんだか……

 でも……あきらめずにたどりついたココが―――――最後。

 

 《まさか……最初の1回以外、一度もミスせずにここまで辿り着くとは……実に恐れ入りましたよ》

 

 『どくたーさん』の言うとおり、そしてほくとが宣言したとおりに、あたしとデータはノーコンティニューでここまで来た。

 ほくととデータ、スゴいんだもん……このコースのことを、まるで知り尽くしてるみたいだった。

 あたしも必死についていって、足場を踏み外さないように慎重に慎重を重ねて―――――

 そして―――――容赦なくあたしとデータをいぢめてきた"さすけ"もあとココだけ……

 あたしとデータが見上げる先は―――――はるか上にある台。

 そこから、2本のロープが延ばされて、目の前に垂れ下がっていた。

 

 《さて……いよいよ最終ステージです。シンプル・イズ・ベスト……近年の複合構成に敢えて逆行させていただきました。その綱を登って、頂上にあるゴール地点の2つのボタンを、おふたり同時に押せばクリアです》

 《Dr.G……SASUKEを参考にしたことをここに来て認めたか……》

 《ツッコミどころ、そこじゃないと思うけど……(-_-;)》

 

 ほくととりんくの言葉は、あたしとデータ以外には聞こえないようになっている……みたい。

 ふたりが何かをしゃべっても、『どくたーさん』は何も反応しなかったし。

 

 《現実空間換算で、高さは90m……"オリジナル"の3倍の長さですが……アナタ方なら楽勝でしょう?ですのでこのステージだけ、30秒の制限時間を設けさせてもらいます。30秒の経過で、綱は自動消滅……おふたりとも、スタート地点まで自動転送されます》

 「ってコトは……アタシたちふたりのうち、どっちかがトチッたら全部が水の泡……無慈悲なリセットってヤツか……」

 「ごくり……」

 

 綱登り―――――これ以上ないほどに、カンタンだ。

 でも、時間内に上り切らなきゃ、全部がやり直しになる、一発勝負―――――

 今までよりも、プレッシャーがハンパない……心臓がバクバクいってる……。

 

 《メモリア》

 「……りんく?」

 《たとえ30秒経って時間切れになっても……絶対諦めちゃダメだよ》

 「え?」

 

 スタートする直前、りんくが小声であたしに言ってきた。

 りんく、何か考えがあるの……?

 合図が鳴って、キュアネット空間の天井一面に、『30』と表示された。データが昇り始めるのを見て、一瞬遅れてあたしもロープを掴んで登り始める。

 木登り、"せんせい"の修行でさんざんやったっけ。最後の方は木だけじゃなくって、サーバー王国の高い建物や、メインサーバーキャッスルの壁も登らされたのをよく覚えてる―――――しかも命綱なしで。

 その"せんせい"や、あたしの修行を見守って、応援してくれたレジェンドプリキュアのみんな―――――

 そのみんなを、取り戻すために。

 そしてみんなを助けて、クイーンを助けて、サーバー王国を甦らせるんだ……!

 

 「どーしたメモリア!?遅れてっぞ!?」

 「!?」

 

 頭の中で考えを巡らせてたのがいけなかったのかも―――――

 すでにデータは上まで登り切って、こちらに手を伸ばしていた。あたしは、もうあと10mくらいの場所。

 

 「早くしろ!!もう5秒切ってんだぞ!?余計なコト考えずに登れ!!早く!!!」

 

 データに急かされて、無心でロープを握りなおして、両手両足を駆使して、全力で―――――

 

 

 ―――――0―――――

 

 

 瞬間―――――

 あたしが握っていたロープが、光の粒になって消え失せた。

 手を伸ばしたデータに、あたしは全力で右腕を伸ばした―――――

 人差し指が、かすっと触れた、けど―――――

 

 「っ―――――」

 「―――――ッ……!!」

 

 何かを叫ぼうとしたデータの目を見開いた顔が、一瞬で遠ざかって―――――

 

 《まだだよ!!諦めないで、メモリア!!》

 《ひだまりポカポカ!キュアロゼッタ!♪》

 

 りんくの声と、ロゼッタのキメ台詞が、たて続いて聞こえた。

 

 ―――――どざっ!!

 

 「ふぁッ!?」

 

 あたしは『何か』の上に落ちた。でも、地面にしては早すぎる。何かと思って見ると、クローバーの形をしたたくさんの光の盾が、あたしの体を受け止めていた。

 これって……ロゼッタウォールだ!

 りんくが『諦めちゃダメって』言ったのって、このことだったの!?

 と、とにかく、これを使えば!

 あたしはすぐさま立ち上がると、階段状に次々と現れるロゼッタウォール目掛けて跳んだ。

 そうだ……!あたしは、りんくの想いも背負ってる。

 りんくがいれば、あたしは―――――飛べる!!

 

 最後のロゼッタウォールから思い切り跳んだあたしは、データがいる足場へと一気に着地する。

 

 「データっ!!」

 「応ッ!」

 

 右側のピンクのボタンと、左側の水色のボタン。あたしはピンクを、データは水色を、同時に叩いた。

 

 ―――――ぷしゅ~~~~~~!!!!

 

 目の前で道をさえぎるように両側から下りていた黄色いバーが上がり、白いケムリがスゴい音を立てて噴き上がって、空中で『X』を描くように交差した。

 

 《完・全・制・覇~~~~~~~~!!!》

 

 男のヒトの声が辺りに響き渡り、歓声が湧き上がる。周りに誰もいないから、違和感バリバリなんだけど。

 

 「ふぁぁ…………ったく……ヒヤヒヤさせやがって……」

 

 緊張が解けたのか、データはその場にへたり込んだ。

 

 「それはあたしも、かも……間に合わなかった時、どうしようって思ったもん……」

 《こんなコトもあろうかと、いつでもロゼッタのチップを使えるようにしておいたからね♪あっちは『どんな手段を使ってもいい』って言ったんだし。落っこちてないからノーコンティニューだよ♪ね、ほくとくん♪》

 《え?…………う、うん、ノーコンティニューだと、思う……///》

 

 いっつも思うんだけど、ほくとはりんくにアマアマなんだよねぇ。りんくの"押し"に、コロッと負けちゃう。そこんトコ、な~んかよくわかんない。ふだんはすっごくカッコいいのにぃ。データはそんなふたりの様子を見てニヤニヤしてるし、う~ん……

 

 「なにボーっとしてんだ、メモリア?行くぜ?」

 

 データの声にはっと我に返ると、黄色いバーの先にいつの間にか道が出来ていて、データはもう10メートルぐらい進んでた。

 

 「うん……!」

 

 そうだった。ここに来た理由は、この先につかまってる、キュアピースを救い出すため。

 ピースが待ってる―――――

 

 ――――――――――

 

 「――――――――――なにこれ」

 

 通路の一番奥―――――行き止まりまでたどり着いたあたしは、愕然とした。思わず全身から力が抜けて、両ひざをついていた。

 一番奥に行けば、キュアピースがつかまっている―――――少なくともあたしはそう思ってた。データも、りんくもほくとも、たぶんそう。

 でも、行き止まりにあったのは、虹色に光る、キラキラとしたボール状のモノ、それだけだった。

 ピースの姿は―――――どこにも見えなかった。

 

 「話が……話が違ェじゃねーか!!どーなってんだ!?」

 

 データはどこから見ているかもしれない"どくたーさん"に叫んだ。

 

 《話は違いませんよ。"ソレ"が、ワタシの言った『アナタ方の欲しがっているモノ』―――――『メモリーカードを保存している、現実のサーバールームのドアロックの解除キー』ですよ♪》

 《!!……やられた!》

 

 どくたーさんの言葉を聞いた瞬間、りんくがくやしげに叫んだ。

 

 「りんく、どういうこと……?」

 《最初から、ピースはキュアネットの『中』にはいなかったんだ……!もうチップは『現実の世界』に実体化しちゃってるから、『ネットの中』には無いんだ……!あるとすれば現実の世界の、このサーバーがある場所……!!》

 「えぇ~~!?ってことは……」

 《どちらにしても……僕達が直接、そのサーバーのある場所に行かなきゃいけないってことか……!》

 

 当然……なんだけど、バグッチャーと違って、あたしたちはこの姿のままリアルワールドに行くことはできない。だからこそ、リアルワールドではマトリクスインストールを使って、あたしたちの代わりにりんくとほくとが『変身』して、バグッチャーと戦ってくれている。

 この場所は最初から―――――りんくとほくとを誘い出すための、大掛かりなワナだったんだ……!

 

 《どうやら、お気づきになって頂けたようで、実に幸い……さ、今度はアナタ方の『お友達』の出番です。もっともここからはノーヒント。この施設の所在地は非公開組織の本拠地故極秘ですからね。……さて、『お友達』がどのようにアナタ方のいる場所を見つけ出すのか、じっくり観察させてもらいましょう……フフフ……》

 

 この、心のうちから湧き上がってくるくやしさ―――――憶えがある。

 あの時だ。はじめて、りんくとマトリクスインストールした、あのプラネタリウムの時と同じ。

 フォースウォール―――――キュアネットとリアルワールドの間にある、次元の壁。

 その向こうで起きていることに、何もできない無力感―――――

 思い出したくない、イヤな感じだった。

 

 ――――――――――

 

 NPC  TIMOTHY FRANCIS

 

 ――――――――――

 

 「……ゲッスいなぁ」

 

 思わず、心ン中の声が洩れてもうてた。

 苦労してゴールにたどり着いても目的のモンはそこには無ぅて、あるんは目的のモンへの『鍵』ってぇ……この子らの心中お察しやなぁ……

 ……まぁ、ウチはこの部屋に入った時から、この事は知っとったけど。

 

 《ゲスいとは実に心外ですね。これは元々、『趣味』と『実益』、その両方を満たせるワタシの策ですよ。『お上』の方々は、"P"の身元の洗い出しとその保護を最優先にしています。"C-ORG"をその身に取り込む前の彼女達を映像や写真に撮影することが出来たなら、あとは身元の洗い出しと保護は実に容易です。―――――これが『実益』……でもって、彼女達が持つ"C-ORG"をその身にインストールするインターフェースを解析することが出来たなら、"P"への変化過程や詳細を先んじて分析することが出来ます……!これが『趣味』……!"あのひと"の理論の証明が大幅に進捗しますよ……!!》

 

 仕事熱心なのはええことなんやけど……入れ込み過ぎんがこの子の悪いトコやなぁ……

 前に、『大人の世界で生き抜くんは、ある程度の狡猾(ズル)さも必要や』って教えたったことがあったけど、この言葉、鵜呑みにし過ぎちゃうか……?

 さっきみっつーにも言うたけど、本格的に『痛い目』を見ぃひんと、この子はわからんのかも知れへん。

 『頭がええ事』と『賢い事』―――――似とるようやけど、全然(ちゃ)う。

 いくら難しい数式や問題解かれたところで、"この社会"全体―――――ひいてはそれを『構成(つく)』っとる『ヒトのココロ』いうんは計算式(ロジック)(ちゃ)うんよ。

 狡猾(ズル)さと素直さ……使い分け所ちゅうんを、もっと勉強せなあかんな、この子は―――――

 

 「……あんたホンマに反省しとん?」

 《アウトロー・サンには悪いと思っています……それは素直に反省しますが、それはそれ、これはこれです。テテの生まれた日本の関西地区ではよく言うらしいじゃありませんか……『他所は他所、ウチはウチ』、と》

 

 そんな意味と(ちゃ)うんやけどな、ソレ……。

 さっきのみっつーの剣幕も、焼け石に水やったんかいな―――――

 

 「ホンマ…………日本語ってムズかしいわ……どんな言葉も都合良くも悪くも解釈できるんやから……」

 《だからこそ好きなんですよ♪―――――反対に、英語というのは風情が無くていけませんねぇ……母国語ながらに恥じますよ》

 

 ホンマ……話はぐらかすんは得意やなぁ、この子……

 とにかく―――――この部屋ん隣の部屋……メインサーバールームに、『例のメモリーカード』が保管されとる。部屋には窓もなく、ただ監視カメラがあるだけ。

 しかも入り口はこの1ヶ所。"P"の2人があのカードを取りに来るには、ウチの目の前を、『素の姿』で通る必要がある。つまりは『正体』を、ウチと監視カメラに否応なしに晒すことになる。

 あのメモリーカード―――――そこまでのリスクを冒してまでも、"あの子ら"にとって、取り戻す価値のあるモンなんかいな……?

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 ……ここにきてまたしても、ネットと現実の壁―――――『第四の壁』が立ちふさがることになろうとは……ッ。

 さすがに、CPアドレスから現実の住所はわかんないし、完全に手詰まり……

 一応、メモリアがどこのサーバーにいようとも、ログアウトしてもらえばこのネットコミューンに一瞬で戻ってもらうことはできる。でもそれじゃ意味ないし……

 どうすれば……どうすれば、ピースのキュアチップがあるサーバーの場所に行けるの……!?

 

 「東堂さん……」

 

 不安げな表情を、ほくとくんが向けてくる。たぶん、彼の方が不安は大きいハズ。ほくとくんにとって、こうしたことはまだよくわかんないだろうし……

 

 「…………………………」

 

 私は、何も言葉を返すことが出来なかった。

 

 ―――――完敗だ。

 

 やっぱり、相手は大人だ。社会人だ。いくらちょっとばかりIT機器に詳しくったって、私はまだ、勉強途中の中学2年生なんだ。

 私からは―――――もう、なにもできない―――――

 

 《…………ひとつ、いいか?》

 

 八方塞がりの中、小さく声を上げたのは、データだった。

 

 「……なんだい?」

 《くだんねぇ思いつきかも知んないけどよ……ふだん、アタシ達がリアルワールドに飛び出して、マトリクスインストールしてんだろ?逆にさ……アタシ達側から、ほくととりんくをキュアネット(コッチ)に引き込んで、キュアネットの中でマトリクスインストール出来ないモンか?》

 「…………!!」

 《でもって、こっからリアルワールドに出られれば―――――》

 

 頭の片隅にはあったけど、『まさか』と思って言いだしはしなかった『方法』。まさしく発想の逆転―――――

 

 《……って思ったんだけどさぁ、そう2度も3度も上手く―――――》

 「データ!それって……!?それってなんなの!?ってかほくとくんとデータ、前にやったことあるの!?」

 《ぉわ!?》

 

 面食らったデータだけど、ちょっと驚いた顔をしながらも答えてくれた。

 

 《ま、前に……というかさ、アタシとほくとがはじめてマトリクスインストールをやった時……アレ、"アタシから"、だったんだ……ほくとは覚えてねぇかもしれねぇけどな》

 「確かに……僕も気がついたらキュアデーティアになってたっけ……」

 《あん時ゃマジでヒヤヒヤしたぜ……こいつ、生身でバグッチャーとやりあって死にかけたからな……》

 「ほ、ホント!?」

 《ネンチャックのヤツに妹さんがさらわれてな……妹さん助けるために、ほくとも頑張ったんだよ》

 

 そ、そんなコトがあったなんて……

 ほくとくんは妹さんを助けるために、敵うかもわからないバグッチャーと戦って、そして―――――

 今まで、どんなプリキュアも経験してない、なんていう壮絶な初変身エピソードなんだろう……!!

 

 「ほくとくん……」(うるうる)

 「ちょ、東堂さんっ!?……そ、そんな立派じゃないよ……現に返り討ちに遭ったんだし……データがマトリクスインストールをしてくれなかったら、本当にどうなってたか……」

 《……と、とにかくだ!アタシたちの方から、ほくととりんくをこっちに引き込めないかって思ったんだけどさ……》

 

 『キュアネットの中に入る』っていうのも現実感湧かないけれど、『そこから現実の世界に出る』なんてのも非現実的極まりない。

 けど、ソレって今更だよねぇ~。何しろアニメのキャラだって思ってたプリキュアが現実にいて、この私自身もプリキュアに変身しちゃって、地面から高層ビルの屋上までジャンプひとつで飛び移れるような、それこそアニメみたいなコトだって現実に出来ちゃってるんだから。

 もうここまで来たら、出来るかどうかは別問題!やらずに後悔するよりも、やって後悔する!何事も前向きチャレンジ!

 

 「やろう!やってみよう!何もしないよりは、ずっといいよ!前に出来たなら、きっと出来るよ!」

 「東堂さん……うん!」

 

 ほくとくんとふたりで顔を見合わせて、私達はふたり同時に、それぞれの変身用キュアチップをコミューンにセットした。

 なんかちょっと緊張する……一度、大きく深呼吸して、ディスプレイの中のメモリアに呼び掛ける。

 

 「準備オッケー、いつでもいいよ!」

 

 ディスプレイの中のメモリアは、データと顔を見合わせて頷くと、胸のイーネドライブに手を当てながら、その言葉を唱えた。

 

 《《プリキュア!マトリクスインストール!!》》

 

 ふたりのイーネドライブが、ピンクと水色の閃光を放った瞬間―――――

 

 「ほぅえええええええええ~~~~~~~!?!?!?!?」

 

 コミューンのディスプレイが私の視界をとらえて、あたりの光景が一気に後ろへと流れて、気が付いた時には光のトンネルを猛スピードで移動していた。

 たとえるなら、遊園地のプールにあるようなウォータースライダーに、頭から飛び込んだような、絶叫マシーンのような感覚……!

 言うまでもなく私はヘンに裏返った叫び声をあげていた。というのも私は絶叫マシーンがメチャクチャニガテ。遊園地に行っても絶対に乗りません!!

 私にとって遊園地は、プリキュアショーを見るための場所!!泣いたり叫んだりする場所じゃ―――――

 って、そんなコト言ってる場合でも場面でもない!!

 

 私とほくとくん、一体全体、どーなっちゃうの~!?

 本当に、キュアネットの中に入れちゃったりするの~~!?!?

 

 ……SAVE POINT




 う~ん、書いてる稚拙的にも『いいところ』なんですが、今回はここまでです!
 次回、りんくとほくとが目にする『画面の中の世界』とは……!?
 そして、現実でも動きが―――――


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キュアネットダイバー

 前回投稿からまたしても1ヶ月経過……
 お待たせしました!

 いやぁ、特撮どころか近年のサブカル界隈でも見かけない『ビルド』の『世界観』が凄まじい……
 しかしながら稚拙的には敵幹部のナイトローグやブラッドスタークのデザインのダークヒーロー的なカッコ良さにシビれております!アレですな、魔進チェイサーを初めて見た時の衝撃を思い出させます……
 年齢を経てから改めて、『敵役のカッコよさ』に気付くことが出来ました……

 さて今回のインプリは、りんくとほくとのキュアネットへの初ダイブ、そしてその後の戦闘―――――
 ……まで書こうと思ったのですが、キリが良く、かつ少しでも早く読者の皆様に続きをお届けしたいと思い、予定の半分くらいで一旦区切りをつけました。

 3次元の存在である現実世界の人間が2次元世界に入ったらどーなるの?……その答えを送信!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

 NPC TIMOTHY FRANCIS

 

 ――――――――――

 

 《ん゛~~~~~!?!?!!?!!?!?!?!!?》

 

 何やこのタコ焼き、タコ小さッ!邪道や邪道!!

 せっかく500円はたいてこんなんって詐欺やないかい!!

 

 《こ……これわ……ッ!!!!!!》

 

 しゃーないなぁ……ココのキッチン借りて、今夜はみっつーとサトー君とカシコちゃん誘って『タコパー』でもしよか。

 Gやんの代わりに昨日のお詫びも兼ねて、パーッと……

 あ、しもたなぁ……青ノリとマヨネーズ切らしとるんやった……タコもついでに帰りに近所のスーパーで……

 

 《いったい何が起きているんですかッ!?》

 「あ゛~もぉ、さっきからうっさいなぁ!?何やねん!?」

 

 ヒトがせっかくオヤツ食うとるのに茶々入れんなや、と思ってイラッとしてパソコンに向き直ると―――――

 画面が真っ青になってた。

 

 「……何やコレ」

 

 って、言うまでもないやん。ブルスクや、ブルスク!!ブルースクリーン!!!

 まさかこのパソコン、逝ってもーたん!?

 う、ウチやない!ウチやないで!?……そらまぁ、2滴くらいキーボードにタコ焼きのソース垂らしてもーたけど……

 そ、そんなんでパソコンってイカレてまうもんなん!?何で精密機械すぐ死んでしまうん!?

 

 「じ、Gやん!!これはそのッ、あの……」

 《ご安心を……そちらのパソコンには異常はないようです。リモートでチェックしておりますので》

 「そ、そか……そらよかった……」

 《そちらと同じく、ワタシの方のディスプレイもイカれてしまってますから。ディスプレイと本体の接続が、何らかの原因で一時的に寸断されているのでしょう。通常のブルースクリーンと違って、文字すら表示されていませんからね》

 

 心臓止まる思ったやんか……一応このパソコンかて政府(おえらがた)備品(モン)やから、壊したらしこたま修理費取られるんやないかと……

 

 《……って、そうなんですよ!!ディスプレイが突然異常を……!これではサーバー内で何が起きているのかわかりません……!早急に復旧を―――――》

 

 そん時、サイレンか警告音にも聞こえるヤな感じの音が、部屋ン中のスピーカーから響き渡った。

 次いで、女のヒトの合成音声があくまでも淡々と語り掛ける。

 

 《本部エリアB-9ニ未識別動体感知。不法侵入者ノ可能性アリ。職員ハ慌テズニ、最寄リノ非常口カラ避難シテ下サイ。実行部隊ハ至急対応ヲ―――――》

 

 なんか、モノモノしいフンイキになってきた……そう思った次の瞬間、重々しい振動が腹の底に伝わってきた。

 こん感じ―――――外国の紛争地帯で『感じ慣れた』、この振動は―――――

 ウチは反射的に窓を開けてた。

 少し遠くの方、『この施設』の敷地内から、炎と煙が上がるのが見えた。

 

 「現実とネットで……一体何が起きてるんや……!?」

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 ……私……どーなったの……?

 たしか、『キュアネットに入る』って、ジョーシキじゃありえないコトにチャレンジしようとして……

 や、やっぱりマズかったのかなぁ……いくらプリキュアだからって、人間がキュアネットの中に入っちゃうなんてムボーにも程があったよね……

 巻き込んじゃったほくとくんにも悪いコトしたなぁ……

 

 『りんく!りんく!』

 

 メモリアの声が聞こえる……ごめん、メモリア……私、たぶんもう―――――

 

 『またうわごと言ってる~……しっかりしてよぉ』

 『なんだったら、アタシが一発闘魂注入してやろーか?』

 

 うぇ!?ビンタはご勘弁っ!データはじょーだんキツいんだから―――――

 ……って、あれ?

 

 「……………………あ」

 

 ようやく正気に戻ってこれた。ここって、いつも変身する時の、"光のタマゴ"の中だ。

 つまり―――――

 

 「うまく……いったの!?」

 『うん!ここ、りんく達がいた公園じゃないよ!キュアネットの中!』

 

 "光のタマゴ"の中からは外は見えないけど、なんとなく"いつもと違う"ことはわかる。

 なんていうか……私の手が、"現実感が無い"見た目になってるから。

 まるで、3Dアニメのような質感……これって……?

 

 『行くよ、りんく!』

 「う、うん!」

 

 言われるままに、私は差し出されたメモリアの手のひらにタッチした。目の前の光景が、ピンク色の光に被われて、メモリアが私の中に入ってくる、いつもの感覚―――――

 

 《CURE-MEMORIAL! INSTALL COMPLETE!!!》

 

 "光のタマゴ"が砕けて、私の視界が開けた。

 

 『ここが…………キュアネットの中……』

 

 こうして実際に見て、感じて、音で聞いて―――――

 ようやく、実感できた。

 まるで流れ星のように空を流れていくのは、回線の中でやり取りされる『情報』や『プログラム』。

 きりきり、かりかり、ぴぴぴぴ…………小さく細やかな、機械の稼働音。

 とても清潔な―――――"自然"をほとんど感じない、『なにもない』匂い―――――

 

 静かで、綺麗で、冷たいけれど、確かに『ヒトの意志』を感じる世界―――――

 

 『まるでグリッドマンみたいだ……!』

 

 この声、デーティア!

 よかったぁ……ほくとくんもこっちの世界に―――――

 

 『え…………えええ~~~~!?!!?!?』

 

 デーティアの姿を見て、私は思わず叫んでしまっていた。

 

 『メモリアル……!?だよね……!?』

 

 反対にデーティアも、私を見て驚いていた。 

 なぜなら―――――

 

 『デーティア……アニメみたいになってる……』

 『メモリアルも……』

 

 言われて初めて、私は自分の姿を確認してみた。

 ……す……すっごーい!!まるでアニメのプリキュアのエンディングみたいな、CGアニメそのものの姿になってる!!

 普段はコスプレって言われても仕方ない感じだけど、今はアニメーターさんが描いたような『それっぽい』感じ!

 ネットコミューンもデザインは変わらないけど、アニメっぽい質感になってるし……まるでVRかそれ以上!

 動画で自撮りをしてみた。最初に変身した時もやったっけ……

 

 をををををを~~~~!?なにこれなにこれ~~!?!?

 最初に自撮りした時以上に、もはや『私じゃなかった』!!

 完全にアニメじゃん、私!!

 足(ほっそ)!!腕も細っっ!!!顔のパーツは小顔で小鼻、ちょっと目が大きめな感じで、『ハピプリ』か『プリアラ』のデザインに近い、そんな感じ。

 ためしに変顔を……、おぉぉ……す、スゴすぎる…………顔の輪郭やら目元やら、アニメっぽく変わっちゃう……!!

 

 変なこと言うけれど、あえて言わせてください!

 

 ―――――私ことキュアメモリアル、"アニメ化"しちゃいました!!

 

 『これってもしかして……キュアネットの中だから……かな?』

 

 首をかしげて、デーティアは私と同じように自分の体をまじまじと見て、自撮りを始めて、そして―――――N〇Kのどー〇くんみたいな顔になって……真っ白になって、がくりと首を垂れた。

 

 『……デーティア?』

 『…………いや、ちょっと……(|||_ _)しばらくは自撮りを控えよーかなー……って……』

 

 たぶんほくとくん、アニメ顔になった自分にショックを受けてるんじゃないかなぁ……ほくとくんが好きなの、特撮モノだし……

 

 《感動してるヒマも落ち込んでるヒマもねぇみたいだぜ、おふたりさん……!》

 《なんか、様子がヘンだよ!》

 

 データとメモリアの声に、私は耳を澄ませた。小さく、何かが震えるような音が、空間に響いている。

 

 《本部エリアB-9ニ未識別動体感知。不法侵入者ノ可能性アリ。職員ハ慌テズニ、最寄リノ非常口カラ避難シテ下サイ。実行部隊ハ至急対応ヲ―――――》

 

 いきなり、女のヒトの合成音声が流れてきた。不法侵入?まさか、今更ながらに私達を捕まえようっていうんじゃ……

 

 《なんかコレ、マズくない……?》

 《だな。キナ臭くなってきやがった。早々にずらかった方がいいぜ》

 『それなら、まずは―――――』

 

 私はすぐ目の前に浮かんでいる、虹色に輝くボール状の物体に手をかざした。

 

 『ピースを助け出してから、だよ』

 

 ――――――――――

 

 NPC TIMOTHY FRANCIS

 

 ――――――――――

 

 「ど、どないしよ……!?言われた通りに避難した方がええんか……!?」

 

 何が起きとんのか、まったくわからん……

 外国の紛争やったら安全確保して逃げるんが定石なんやけど……メインサーバーの中のメモリーカード、放っといてトンズラこくわけにもいかんし……

 ここのパソコン自体がブッ壊れてもーたら、中の"プリキュア"たちがどーなるかもわからへんし……

 あ~~……もぉ……Gやんもさっきからダンマリやし、どないしたら……

 

 ―――――ピピッ、カチャッ

 

 「―――――……!?」

 

 そん時、部屋の奥のサーバールームのドアから音がした。普段は赤いランプが、緑に変わっとった。

 つまり、ロックが解除された―――――っちゅーことは……!?

 ウチは思わずパソコンの画面に向き直った―――――

 そん時―――――ウチは思わず凍りついとった。

 

 パソコン画面から―――――『顔』がぬぅっと飛び出してきとった。

 

 こ……これって、アレ!?リングやら貞子やら、『きっと来る』アレなん!?ウチ、呪われて死んでまうん!?

 せ、せや!このビデオ?を他のヒトに見せれば大丈夫って聞いたことがあるよーなないよーな―――――

 …………でもこの顔……この女の子の顔、どっかで見たことあるよーな……

 

 「おぉぉうわぁぁぁぁ~~~!?!?!?!?(|||▽ □ ▽)」

 『ヴェエエアアアアアアアアアーーーーッッッッ!!!??(`0言0́ )』

 

 ウチと女の子はほぼ同時に絶叫した。って、いやいやいや、この場合叫ぶんはウチだけちゃう!?怖がらす方が絶叫するんってそれって―――――

 

 『どーしてテテさんがいるの!?』

 「そりゃ……って、なしてウチの名前知っとんの!?アンタどっかで会ったことあるん!?」

 『……!( ゚Д゚)……ふふふ、プリキュアにわからないコトはないのです……よっと!』

 

 そう言って、ピンクの髪のコはパソコンの画面から"すぽっ!"と飛び出してきよった。ウチの言葉に答えるとき、ちょっと『間』があったのは気のせいやろーか。

 

 『をを!出られた~!ってか、出られちゃったぁ!』

 《大丈夫?メモリアル?》

 『大丈夫大丈夫!デーティアも出てきなって!』

 

 パソコン画面から今度は別の女の子の声がして、パソコン画面の『枠』に、がし!!と、画面の『中側』から手が掛けられた。こらまたホラーな絵面やなぁ……

 ……と、そこから誰かが出てくると思ったんやけど……

 

 《…………ご、ごめんメモリアル……悪いけど、手を引っ張って……》

 『??どしたの?』

 《……そ、その……………………む、ムネがつっかえた……///》

 『ええ~~!?!?もぉ、しょーがないなぁ~……』

 

 最初に出てきたピンクのコが、パソコン画面の枠の手を両手で掴んで、『ほっ!』と引っ張り出すと、水色のサイドテールの、別の女の子が『うわぁっ!?』と声を上げながら飛び出してきた。

 

 『いたた……"入る"だけじゃなくて"出る"こともできるのか……こうなるとグリッドマンっていうより、『仮面ライダー龍騎』のミラーライダーみたいだ……』

 

 水色の子が、今しがた出てきたパソコン画面をまじまじと見ながら言った。

 それにしても、仮面ライダー引き合いに出すやなんて、なんっちゅーか、プリキュア『らしく』ない感じするなぁ。でもこーゆーのが好きなら、カシコちゃんと話が合うかも……

 

 『テテさん!サーバールームの入口ってどこ!?』

 「そ、そんならすぐソコや……キュアピースがラベルに描いてあったカードもそこに……」

 『わかった!デーティアはそこでテテさん見張ってて!すぐ戻るから!』

 

 ピンクのコはウチが指差した先、サーバールームにすぐさま入っていって、部屋にはウチと水色の子だけが残された。

 ……ウチもやっぱ、『一味』認定されとるんか……見張りにこの子残していくくらいやし、何やするんかと思われとるなぁ……

 と、水色のコがじろりとウチを見てきた。

 

 「あ……いやぁ……ははは、降参や、降参。もう何かしらせぇへんからぁ」

 『それなら、いいんですけど……』

 

 き、気マズい……ウチ、めっちゃ危険人物(アブないヒト)扱いされとるなぁ……

 ピンクのコ、持ってくモン持って、早よ戻ってきてくれへんかなぁ……

 

 『……どうして、キュアチップを横取りしたんです……?』

 

 二人きりの部屋、ふと水色のコが訊ねてきた。

 アレ、キュアチップいうんか。プリキュアが描いてあるチップ、せやから『キュアチップ』。まんまやなぁ。

 

 「まぁ……その、やな……ウチらにとって、キミらのこと、知らんことだらけなんや……Gやんの場合、前々からキミらに目ェ付けてたようやし……せやから、少しでも知りとぅなって、Gやんの口車に乗ってもうた……。金輪際、もうあんなコトはせぇへんし、させへんようにするから……」

 『……それなら、いいんですけど』

 「ウチからも……ひとつ訊いてええ?」

 『何です?』

 「…………怖ないん?」

 

 外国の紛争地帯―――――戦場で戦っとった少年兵に、ウチはこうした質問を何度も投げかけた。

 そして―――――決まってこう返す―――――『怖くない』……と。

 『誰かが死ぬこと』が日常になってもうた世界っちゅうんは、『ヒト』から『ヒト』を奪っていく。それがたとえ、どんなに小さな命だろうと。無思慮に、無遠慮に、分け隔てなく。

 そうして『ヒト』を奪われた末に残るんは、死ぬことを恐れない、死んだところで誰にも悲しまれない、ココロを殺された『ヒトのカタチをしたナニカ』。

 ……もし、このコらもそうなら、みっつーが血眼になって止めようっちゅうんもわかる気がする―――――

 でも―――――この水色のコは、今まで聞いたことのない、そして、ある意味『当然』とも云える答えを返してきた―――――

 

 『……怖いですよ』

 

 ふっと、力の抜けた笑顔を、そのコは浮かべた。

 

 『戦う中で、怖くないなんて思ったことはありません……でも、怖いからって逃げてしまったら、大勢の人が、今……、わたしたちが感じる以上の怖い思いを……悲しい思いをすることになります……だから―――――みんなを……世界を守るために……戦うんです。そして、わたしたちが戦う姿を見てもらうことで、みんなが、心に希望を持ってくれるなら―――――』

 

 このコの瞳は、輝いてた。

 戦場で見慣れた、『生気を失った目』とは違う、『確たる意志』を感じる、輝く瞳―――――

 ……あれ?なんやろ……この生き生きとした目……アレや。

 『好きなモノ』や『好きなコト』―――――所謂『ロマン』を嬉々として語る―――――

 

 

 『男のコ』の目―――――

 

 

 …………いやいやいやいや、ないないないない。

 そんなワケあるかいな……!?このコ、どっからどー見ても女の子やん!?お世辞抜きに美少女やし……おっぱい割とおっきいし……

 ま、まぁ、ボーイッシュなコなんやろ、このコは。キャピキャピしとっていかにもプリキュア!って感じのピンクのコとは好対照っちゅうか……

 

 『でも、まだ"プリキュア見習い"、なんですけどね♪いつかは……みんなにとっての、ホンモノの希望(ヒーロー)になりたくて……』

 「ヒーローかぁ……漠然とし過ぎちゃう?」

 『そうかもしれませんけど……この世界には、ホンモノのヒーローはいませんから……だから、わたしたちがならなきゃ、って思いもあります』

 

 そん時、ピンクのコが奥の部屋から戻ってくるのが見えた。

 

 『……ほとんど彼女の受け売りなんですけどね……でも、今は同じ思いで戦ってます』

 

 そう言うと、水色のコはピンクのコに駆け寄った。

 

 『あったよ!ピースのチップ!ようやくレスキューだよ~!』

 『よかった……これで任務完了だね』

 

 笑いあう二人の女の子。アニメん中から飛び出して、現実の世界に出てきた『プリキュア』―――――

 こんなコたちには、なるべく『大人の世界』っちゅうモンは見せとぉないなぁって、今のウチは率直に思えてた。

 出来るコト、やるべきコトをはっきりと自覚して、自分のため以上に、地球のため、みんなのためにがんばろうとしてるんやなぁ……

 思わずウチは、自然とカメラを構えて、シャッターを切っとった。

 

 『あ!テテさん、撮影と取材はNGですよっ!』

 「あぁ、いやいや(ちゃ)うって、これはあくまでプライベート用や。どっかに売りつけるとかそんな気はあらへんから―――――」

 《ようやくモニターが復旧しました……!?って、"P1"と"P2"!?どうやってサーバールームに?!ネットの中には……いない!?》

 

 ウチのスマホからGやんの声が出てきた。今までダンマリだったのはカメラいじっとったからか。

 

 「おぉGやん、ウチらの負けや。このコら、パソコンの中から出てきてぇなぁ。どんなリクツかは知らんけど」

 《なんと……!キュアネットに生身で出入り可能とは!!ますますもって興味が湧きましたよ……!》

 

 アカン、この子全然懲りてへんわ。

 このまんまやと、またプリキュアのコたちにちょっかい掛けるかもなぁ―――――

 

 『ねぇ、ドクターさん……プリキュアのこと、もっと知りたい?』

 

 出し抜けに、ピンクのコがウチのスマホのカメラをのぞき込みながら言った。

 

 《!……それはもう!!》

 『それなら―――――直接、会いに来てよ!』

 

 な……!?

 このコ、いきなり何言いだすんッ!?

 

 『な~んとなくなんだけど、イメージできるんだよね。クラ~い部屋の中で、6つくらいディスプレイが並んでるパソコンの前で、スナックぼりぼり食べながらマウスカチカチやってるのが』

 《……………………スナックは食べてません……。ベタついた指でマウスやキーボードを触れませんから…………》

 

 Gやんは少し沈黙してから、それだけ反論した。

 さっきの"間"―――――これは……"相当"やな……。

 

 『実を言うと、私もオタクなの。だから、ひとつのコトが好きで、まわりのモノが見えなくなっちゃうその気持ち、よくわかるよ。でも、『それだけ』見てたら、逆に世界が『狭く』なっちゃうんじゃないかな……『画面越し』に世界を見ても、やっぱり知りたい事って、『ホンモノ』を見て聞いて、確かめなきゃ、『ホントに知った』ことにはならないんじゃないかなって……そう思うの。『それ』だけじゃなくって、『それ』を取り巻くいろんなモノゴト……それもいっしょに見なきゃ、100%『わかった』ことにはならないよ?』

 

 確かに、このコの言う通りや。

 ウチかて、『その場所』で起きてる『本当のコト』を、この目で見て、耳で聞いて、体全体で感じて、その感動と衝撃を出来るだけぎょうさんの人に伝えたい思ったから、ジャーナリストになったんや。

 『百聞は一見に如かず』―――――まったくもって、真理やな。

 

 『流石にホントの名前や住所とかは教えられないけど……私、キュアメモリアル!で、この子はキュアデーティア!』

 『わ!////』

 

 おわ、両手で"恋人つなぎ"やないか……❤……ま、まさかこのふたり、女のコ同士でそんなカンケイなん!?

 いや、まさかなァ……でも水色のコ……キュアデーティアちゃん、なんや顔赤くしとぉし、まんざらじゃなさげやし……

 

 『ふたりあわせて『インストール@プリキュア』だよ!ドクターさん、会えるのを楽しみにしてるね!』

 『よ、よろしく…………///』

 《…………………………………………》

 

 なんや……さっきからGやん、ダンマリやないか。

 感動のあまり言葉も出ん、ってゆーのかいな?それとも―――――

 

 ―――――ドォォォォォ……ン……!!

 

 そん時、鳴り止んでいた地響きがぶり返してきたみたいに再開した。

 

 『なに……!?』

 「それがさっきからなんや……避難せぇって放送もあったし、タダ事やあらへん……!」

 『…………この感じ……』

 

 ピンクのコ―――――キュアメモリアルちゃんが、小さく呟いた。見ると、胸元のハート型ブローチが、赤く光っていた。

 

 『行こう、デーティア!ジャークウェブがこの場所を見つけたみたい……!』

 『考えることは向こうも同じ……ってことか……』

 

 まさかこのコたち、"XV"を探知もできるん……!?ますますもって人間離れしとるな……

 それに『ジャークウェブ』って……!?

 そうこう考えてる内に、メモリアルちゃんは部屋の窓をガラッと開けた。

 

 『ごめんなさいテテさん!私達、行きます!窓からだけど失礼します!』

 「え!?ちょ、ここ10階―――――」

 

 止める間もあらへんかった。窓のへりから、メモリアルちゃんはピンク色の軌跡を残しながら『飛び立った』。

 

 『それじゃ……どこかで会うことがあったら』

 

 デーティアちゃんも軽く会釈をすると、メモリアルちゃんを追ってジャンプしていってもうた……

 アカン、見るのは2度目なんやけど、今まで見てきたどんな絵面も霞んでまうわ……アニメやマンガでやるようなことを平然とやるんやから、このコらは…… 

 

 「……って、ポカンとしとる間はないわ……ウチもそろそろ……!」

 

 『避難せい』って放送で言うとるけど、ウチの本業はジャーナリスト。ありのままの場面を撮影(きりと)って、記事にすんのがお仕事や。

 ちょっと体張らせてもらおうやないか―――――

 

 《ふ、ふふふ……ふふふふふふ…………………………》

 

 サーバールームから出よ思ったそん時、スマホからブキミな笑い声が洩れてきよった……。

 

 《ふ、ふはは……ッふふぃひひ……ウェヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!》

 「!?」

 

 な、何や……??こんなイカレた笑い声を出すキャラやったっけ、Gやんって……!?

 

 《そうです!!その通りです!!実に!実に実にその通りですよ!!いやぁ、忘れかけていたことを思い出させてくださった『彼女』には感謝しなければなりませんねぇ……!》

 「な、何なん……?急にヘンな笑い声出しおってからに……」

 《実際にこの目で見て!この耳で聞いて!!この手で触って確かめる!!!研究者としての基本中の基本…………フィールドワークというコトがなってなかったというワケですか!!いやぁ、実に実に!じ・つ・に手厳しいぃ!!…………テテ!!》

 「な……何や……?」

 《決めました!!ちょうど"メンテナンス"の時期も近い事ですし、近日中にワタシも()()()に行くことにします……!電調の皆さんに、顔見せもしたいですから……!何より―――――この目で『彼女達』を見てみたくなりましたしねぇ……!》

 

 なんと……こんな展開になるやなんて……

 どうやらメモリアルちゃんの言葉が、『強いきっかけ』になったみたいやな。

 せやけど―――――

 

 《旅支度です!!パスポートの準備……あぁ、それから就労ビザも申請しなきゃ!日本の親類にも連絡を……ウェヒヒ、ウェヒヒヒヒッ、これから実に忙しくなりますよぉ……!!》

 

 ちょ~っとキョーレツやったなぁ、メモリアルちゃん……

 こらアカン……ヘンな方向にスイッチ入ってもーたかも知れへんなぁ……。

 

 ……SAVE POINT




 ……Dr.Gの脳内再生ボイスがバレたやも。
 でもってDr.Gの『年齢層』もバレちゃったかも。
 『きっかけ』をもらったDr.Gの今後に注目を……!
 そして、外ではいったい何が起きているのか……!?

 次回、11月中に投稿できるようにガンバリます……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

開戦

 空現流奥義大全

 壱式徹甲機動(イチシキテッコウキドウ)・"流星(ナガセ)"

 『跳び蹴り』にカテゴライズされる『貫槍術』のひとつで、空現流本来の技『甲技』。
 大跳躍、もしくは相手よりも高所を取ったところから、一直線に飛び蹴りを放つ。
 氣の流れを制御することで単純な跳び蹴りよりも破壊力を増しており、キュアデーティアは氣の流れの制御をイーネルギーの噴射で代用している。
 元々は『徹甲』の名が示す通り、敵陣の強固な障壁や櫓といった耐久力の高い相手を想定して編み出されたとされる。


 肆式抜刀(シシキバットウ)・"影狩(カガリ)"

 『手刀』にカテゴライズされる『閃剣術』のひとつで、空現流本来の技『甲技』。
 神速の踏み込みから、相手の急所目掛けて居合のように手刀を一閃する。
 この際、両足に氣を集中させることで一時的に瞬発力を高めている。この状態でさらに手の外側へと氣を集中させて手刀の威力を増すことになるのだが、既に両足に氣を集中させているため、手への氣の集中は最低限の箇所に留めることとなる。故に相手に命中させる部位が少しでもズレてしまうと本来の威力を発揮しない欠点がある。
 常人はおろかプリキュアレベルの動体視力でも命中した瞬間を視認することは困難であり、命中してから数秒経過してようやく傷口が開くという超速の手刀である。
 この技を編み出したのは、空現流を暗殺業に用いていたとされる、江戸時代の伝承者であるらしいが詳細は不明。

 ――――――――――

 11月中と申し上げましたが、かなり早く書けちゃいました!
 ……といっても、実は書いてるうちに今話がかなり文量が多くなっちゃいそうで……
 とりあえず1万字ほど書いて区切りが良かったので、ここで投稿しちゃいます!
 『増子班』以外の電調メンバーも登場し、物語を盛り上げます!
 『電調VSジャークウェブ』、ついに開戦です……!!

 2017.11.7 技名の一部を修正。ちょっとしたコトですが……


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

 NPC MITSUAKI MASUKO

 

 ――――――――――

 

 その時―――――

 俺は佐藤の仕事の様子を見た後、社食でうどんを啜っていたんだが―――――

 

 ―――――ドゴォォォォォォォォォォォン!!!

 

 「ヴーーーーーーーッッッッ!!!!」

 

 爆音に驚き、俺は思わずうどんを噴き出してしまった。

 

 《本部エリアB-9ニ未識別動体感知。不法侵入者ノ可能性アリ。職員ハ慌テズニ、最寄リノ非常口カラ避難シテ下サイ。実行部隊ハ至急対応ヲ―――――》

 

 自動放送を耳に入れた瞬間、俺は反射的にスマホを手に取っていた。

 

 「佐藤ッ!井野ッ!!今どこだッ!?」

 《自分は別棟ッス!合流できるかは微妙ッスけど……》

 「無理に合流しなくていい……!近場の連中と連携しろ!井野!お前はオペレータールームに直行だ、いいな!?」

 《え~!?今カシコ、ランチタイムで―――――》

 「俺だってそうだったよ!!終わった後でいくらでも食えばいいだろーが!!緊張感持ちやがれッ!!」

 

 ―――――ったく、これだから実戦経験の少ない奴は……

 この本部施設、こういう時のために、イヤホン型の双方向通信機と防弾チョッキが収納されている隠しボックスが至る所に備えられている。一々、自分の部署の部屋まで取りに行かなくてもいいわけだ。

 銃は―――――ある。弾も満タンまで仕込んである。

 防弾チョッキも身に着けた。見渡すと、他の班の連中も、通信機と防弾チョッキをきびきびと身に着けている。

 まさか、訓練以外でこの光景を見る日が来ようとはな……―――――

 

 ――――――――――

 

 他の部署の連中と、俺は慎重にエリアB-9へと入った。

 ちょうど本棟と別棟との間にあるエリア。この『電調本室』の裏口にあたる場所だが……

 

 「!……止まれ」

 

 何かの気配を感じて、俺は建物の隙間で仲間を止めた。

 足音が―――――それも一人分じゃなく、複数―――――それもかなりの大人数だ。

 一体どれだけの数が―――――そう思って慎重に様子を窺うと―――――

 

 「ッ!?なんだ……あの"着ぐるみ軍団"は……!?」

 

 ざっと8~90人……いや、それ以上の数、100人以上いるだろうか。頭に"XV"のような単眼を付けた人型―――――着ぐるみを着ているように見える集団。

 体型は……痩せ型、中肉中背、肥満体型……様々だ。特撮ヒーロー番組に出てくるようなノリだ。

 その集団が、ずらりと横一直線に並び立っている。

 そして―――――その軍団に守られるように中心にいる、移動式ミサイル砲台に見えるのは―――――"XV"だろう。

 見覚えのある単眼がへばりついていて、手足が生えている。そして、砲身には『P33』とナンバリングがされている。

 ったく……あからさまに兵器感バリバリのヤツを持ち出してきやがって……ちったぁ国民感情にも配慮しろってんだ―――――

 と、そう思ってからよくよく見ると、砲身になっているのはミサイルではなく―――――巨大な口紅だった。

 ……どんなデザインセンスしてやがる。

 

 『この偉容ッ、この一糸乱れぬ行軍ッ!!遂に我が理想の軍隊が完成したッ!!"彼奴"への意趣返しとしては聊か豪華すぎるがなッ!!』

 

 聞き覚えのある声だった。見やると、『巨大口紅砲台』の先端に、"昨日の実体化C-ORG"が、腕組みをして立っていた。

 俺は無意識に舌を打っていた。

 ……そういう事か!なんてこった……

 まさか"奴等"に、1日2日で俺達の本室の場所がバレるなんてな……

 それにしても―――――

 昨日のヤツとの交戦で、俺は確かにヤツの左肩を『AXV(アクシヴ)弾』―――――Anti eXtra Virus BULLET:Dr.Gが開発した"対XV弾"の通称―――――で撃ち抜いた筈だ。

 普通の人間なら悪くて入院、良くても戦闘行為なんざ出来ねぇ重傷……それでもこうして"出てくる"たぁ大した生命力じゃないか、"C-ORG"ってのはよ……!

 よく見ると、左肩から先の腕は、金属めいた光沢を放っている。義手にでも換えたのか……?

 やがて一団が行軍を止め、拡声機を持った"ヤツ"が声を張り上げた。

 

 『小官はッ!!ジャークウェブ第壱大隊長・スパムソンッ!!この施設の指揮官に要求を告げるッ!!!』

 

 周りの連中がその行動にザワつき始めたが、俺は落ち着くように無言で右手を振り上げた。"ヤツ"はなおも続ける。

 

 『一つッ!この施設に()ュア()()が持ち込まれたことは認知しているッ!大人しく我々に引き渡してもらおうッ!二つッ!!我が左肩を撃ち抜いた兵士ッ―――――"マス()・ミ()アキ"の即時引き渡しッ!これら二つを要求するッ!!()もなくばッ―――――』

 

 整然と並んだ人型が、警棒のような武器を一斉に構えた。

 

 『この施設を全面的ッ、且つ徹底的に破壊し尽くしッ、残骸と累々たる屍の山から我が目的の()()を物色させてもらうことになるッ!!……さぁッ、返答は如何にッ!?』

 

 なるほどな―――――

 テテが掻っ攫ったミュ、ミュア……??ともかく"アレ"は、奴等に逆探知されていたということか。そして、それを狙って奴らは現れた……。

 そして、俺も一緒にいることも見越しての要求か。つーか、矢張り俺に目をつけてたか。…………名前、盛大に間違えてるがな。

 奴等にとっては"AXV弾"もまた脅威らしい。もっとも、"ヤツ"の"演説"から察するに、俺を生かすつもりはこれっぽっちも無いらしいが。

 

 《……内閣電脳調査室室長―――――青山雅明だ》

 「……室長ッ!?」

 

 館内放送の声に、思わず俺は天を仰いだ。あんな無茶苦茶な要求に、室長は何を答えるつもりだ!?

 

 《スパムソンと言ったか。一つずつ答えよう―――――最初の要求に関してだが、貴官の言う"ミュアピック"なるモノは当施設には存在しない。そして二つ目の要求……"マスオ・ミクアキ"という職員にも、心当たりはない》

 

 ……まぁ、当たり前の"粛々とした"回答だ。こんなヤツらに真面目に答えることはない。

 

 《こちらからも貴官に警告を行う。……貴官等は当施設に正当な理由なく武装火器を持ち込み、それらの武力を以って理不尽至極な要求を通そうとしている……これは我々内閣電脳調査室、ひいては日本国国家に対する恫喝・侵略行為と見做す―――――よって》

 

 周囲の棟の屋上から、狙撃部隊が一斉に姿を現し、"敵集団"に向けて整然とその銃口を向けた。

 

 《それ以上の侵攻を目論むのであれば―――――内閣電脳調査室215名の精鋭が、存分にその腕を揮うこととなる》

 

 その言葉を合図に、俺もまた仲間達とともに表に出て、銃を構えた。俺とともに出てきたのは、夥しい数の『同僚』達。

 ……正直、俺は自分の班のメンバーや上司にあたる人間以外の『同僚』の顔と名前が殆ど一致しない。それほどまでに"電調"の構成人員は多く、それでいて"横"の繋がりが少ないのだ。

 もっとも、今回のような事態のために図上演習や訓練は度々やっている。その過程で親しくなったヤツも何人かいるから、まったく連携が取れないわけではない。室長もそれを見越してか、職員同士のプライベートな接触には全く干渉しない姿勢を貫いている。そういった人間関係から生まれる信頼を仕事に活かすことを、室長は期待してるってことだ。

 

 《……貴官みたく御託の通じん輩に、国民の血税から捻出した銃弾をわざわざ割きたくないのでね。互いの為にも撤退を勧告する》

 

 流石は嘗て、『ソロブレイカー』と呼ばれて恐れられた男だ。言葉に全く迷いが無い。こう言えば相手はこう言う、という結果を見越しての言葉選びは決して素人には真似できん。

 さぁ、どう出る?この威容に果たして立ち向かう勇敢さ……否、無謀さがコイツにあるのか。

 

 『……フッ……クククククッ……!()オヤマとやらッ!貴官の剛胆さには心打たれるッ!!最近の軟弱なる有象無象にッ、爪の垢を煎じて飲ませたいと思うほどにッ!!』

 

 なかなかに学のあるヤツだ。もっとも、室長の名前もまた間違えてるが。賢いのかバカか、どっちだコイツ?

 

 『だがッ!!その返答が詭弁であることはッ、自明の理であるッ!小官にッ、そして我々には退けぬ理由があるのだッ!!』

 

 同時に、得物を構えた奴等の『兵士』達が、ザッと前に出た。

 

 《やはり相容れぬようだ―――――敵対の意志有りと見做す》

 

 その一言を切っ掛けに、俺を含めた実行部隊のメンバーがずらりと躍り出た。

 この光景―――――まるで戦国時代の合戦場だな……

 300人を超える人数がいるにもかかわらず、その場が冷たい空気で張り詰め、しんと静まり返る―――――

 

 

 

―――――総員ッ、

 

 

電調各班、―――――

 

 

 

 

――――― ―――――

 

 

 

 

―――――攻撃開始ッッ!!

 

 

 

存分に歓待(もてな)せ!!―――――

 

 

 

 

 瞬間―――――

 

 

 見慣れた俺の職場は―――――

 

 

 

 

 戦場と化した。

 

 

 

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

    CURE-MEMORIAL

 ⇒  CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 ―――――その時、物凄い騒声が僕の鼓膜を震わせた。

 そう、ヒトの声。でも、ひとりやふたり、5人や10人の声じゃない。

 もっと大人数だ。それほどのたくさんの人の声―――――

 

 『メモリアル―――――!』

 『うん……!』

 

 すぐ近くにあった10階建てくらいの建物の屋上に着地して、屋上の隅まで行って"それ"を見た時―――――

 僕は無意識のうちに口にしていた。

 

 『…………"レジェンド大戦"………………』

 

 似つかわしくないとはわかってる。でも、そうとしか形容できない状況が、僕達の眼下に広がっていた。

 数えきれないほどのたくさんの黒服のヒトと、ショッカー戦闘員を思わせる着ぐるみ集団が、まさしく『合戦』を繰り広げていた……。

 

 『これって……どういうこと……?』

 《ジャークウェブの連中が来てることはわかってたけどよ……なんなんだあの数は……!今まで"小出し"だった連中がいきなり……!》

 

 心の中でデータが表情を苦くする。

 

 『でも、イーネルギーをぶつけないと、バグッチャーは倒せないわけだし……どうにかして―――――あ!』

 『メモリアル!?』

 

 メモリアルが何かに気付いて、屋上から飛び立った。僕もそれを追いかけようとしたその時、視界の隅に入ったのは―――――

 

 『あれは……!?』

 

 別の建物の屋上だった。5~6人の黒服のヒトたちが長銃身のライフルを構えて地面を狙っていたところに、"戦闘員"の集団が大挙して殺到するのが見えた。

 黒服は何度も銃を撃ちかけるも、真ん中にいるヒトの銃以外、効いている様子がない。

 僕は両脚に力を込め、高々と跳躍した。

 

 『助けないと!』

 《おいほくと!?りんくとメモリアどーするよ!?"ひとり"で突っ込んじまったぞ!?》

 『定期的に連絡を取り合うから……!目に入った以上、放っとけない!』

 

 今この状況、ジャークウェブの軍勢と戦う、ということだけでも危ない事だ。何しろ、対抗手段が限られているのだから。

 昨日の戦いで、増子美津秋と名乗ったあの人の拳銃―――――あれが大量にあれば別、なんだろうけど―――――

 そう簡単に、プリキュア(僕たち)に匹敵するようなチカラを、人工的に作れるものだろうか―――――?

 

 ――――――――――

 

 NPC JIAI SATO

 

 ――――――――――

 

 まさかこんなにも早く、狙撃班(自分たち)の場所まで肉薄されるって……!

 下の拠点守衛班(ガード)は一体何やってたんスか!?

 着ぐるみ集団が屋上の扉を破って突入してきてから2~3分……自分も含めて10人いる狙撃メンバーでも、"AXV弾"を持ってるのは自分一人……

 後のメンツは全員通常弾で、前情報通り効果が全くない。しかし衝撃は通じるのか、命中すると怯むようなリアクションを見せる。

 そこで自分たちがとった作戦は―――――相手の足元目掛けて撃って転倒させ、そこへ自分が"AXV弾"を撃ち込んで撃破する―――――ひたすらその繰り返しだ。

 でも、数が減るよりも奴等の進撃の方が圧倒的に早く、数も全く減らない―――――!"圧し潰される"のも時間の問題か……!?

 

 「狙撃用の大口径だぞ!?ドタマブチ抜かれて死なねぇってバケモンかよ!!??」

 「バイハザじゃねぇんだよ!!とっとと死んどけやオ゛ラァッッ!!」

 「おい佐藤!その特殊弾、予備は無いのか!?ジリ貧もいいトコだぞ!?」

 「昨日今日で量産できるシロモンじゃないッス!」

 「無駄口叩くなッ!!佐藤、お前は俺達が転ばせたヤツをブチ抜くだけに専念しろ!!」

 「ちッくしょォがァ!!コンピューターウィルスごときが人間様ナメんじゃねェェェェ!!!!」

 「こんなんだったら……昼飯のカツカレー全部食っとくんだった……」

 

 他のメンツも、精神的に参ってきている。無理もないよな……あんなバケモノ目の当たりにして、普通でいる方がどうかしている。

 昨日の自分だって、照準(レティクル)越しに"あれ"を見た時、現実離れしたその姿に指を(ふる)わせたものだ。

 四方八方に電撃を放つ昨日の"あれ"は―――――まさしく、"テレビから出てきたプリキュアの怪物"だ。

 娘と一緒に、テレビのプリキュアは見ているし、映画も何回か見た。その中では、怪物はいくらかコミカルに描かれているけど、実際に"そうしたモノ"と相対してみると、その恐ろしさが身に沁みて実感する。

 やっぱり、アレはアニメの存在だからこそ可愛げがあったんだ。目の前に顕現した"それ"は―――――

 通常弾では、たとえ頭部や心臓を撃ち抜いたとて平然と立ち上がってくる、"それ"は―――――

 ゾンビ映画のゾンビよりも怖ろしい―――――

 

 ―――――主任……自分、ここまでみたいッス……

 プリキュアの正体がわかるかもってハシャいでた自分が情けないッスよ……

 

 ―――――瀬里(せり)……らんか……

 尻に敷かれっぱなしの旦那で……情けないパパで、本当にごめん……

 結局、家族の大黒柱っぽい事、満足にしてやれなかったなぁ……

 今度の日曜、遊園地にプリキュアショー見に行く約束してたけど、守れそうにないな……

 絶望感から、ふと空を見上げた。命の瀬戸際とは無縁に見える、雲一つない透き通った青空。

 こんな晴天の下であの世逝きとは―――――勿体なくも感じるな―――――

 ガラにもなく妙な思考に支配されていた自分の視界の中の青空に、その時、青白い光がきらりと輝くのが見えた。次いで、

 

 

―――――空現流貫槍術―――――

 

 精悍な女の子の声が、唐突にひびいた―――――

 

 

 

    (ロク)

 

    (シキ)

 

    (サク)

 

    (レツ)

 

    ()

 

    (ドウ)

 

 

(ライ)    

 

()    

 

(セン)    

 

 さっき見た蒼い閃光が、天から一直線に"それ"の大群の中心に突き刺さった、次の刹那―――――

 黒々とした2~30の人影(シルエット)が、閃光を伴った爆発と、衝撃で生じた無数の瓦礫とともに、木っ端のように空へと吹っ飛んだ。

 大勢の人間が―――――いや、『人間のカタチをしたモノ』が、こんな風に()()()、四方八方に『飛び散る』様を、自分は少なくとも、映画とかアニメとか、ゲーム画面の中でしか見たことが無かった。

 生じた爆風に、思わず自分は怯んだ。でも、目を逸らすことだけは絶対にしてはいけないと心で言い聞かせながら、自分はさっきの爆発の『爆心』を睨み返した。

 

 「何……が……」

 

 起こった?それに、さっきの女の子の声は―――――

 

 《残り15!》

 『それなら……!』

 

 また、女の子の声が響く。土煙の間隙から僅かに見えたのは、水色の輝き―――――

 あの子は……!

 

 

―――――空現流銃撃術―――――

 

 彼女は右脚をするりと弧を描くように後方へと流した。両脚のブーツの足首、そこにある銀色の部分が開き、水色の光り輝く粒子が解き放たれるのが見えた。

 あれは、一体―――――……?

 

 

() (シキ) () (レキ) (ジュウ)

 

"礫  弩(イワトビ)"

 

 先ほどの爆発で舞い上がり、今落下してきた無数の瓦礫。それを―――――

 

 『だだだだだだだだだだだだだだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!』

 

 ―――――上空に舞った"奴等"目掛けて、女の子は飛び道具代わりに立て続けに蹴り放ったのだ。蹴り飛ばされたコンクリート片が、水色の光を纏い、さながらレーザーのように飛び、受け身の取れない"奴等"に突き刺さり、貫通し、粉塵に帰していく。

 

 《ラスト1匹!!》

 『これで―――――()める!』

 

 最後の1体が落ちてきた。女の子は両の手を強く握り、目を閉じ、仁王立つ。

 

 

―――――空現流砕錘術(サイスイジュツ)―――――

 

 そう呟くと同時に、全身から水色の粒子が沸き立ち、それが瞬時に右の拳に集約される様を見た。

 "奴等"最後の1体―――――それが女の子の真上に落ちてくる、その瞬間―――――

 カッと目を見開き、歯を食い縛り、落下してきた"ヤツ"の土手ッ腹に、渾身の直上正拳突きを見舞った。

 

 

()

 

(シキ)

 

(レッ)

 

(プウ)

 

()

 

(ガン)

 

 

"(スメラギ)"

 

 打ち込まれたその瞬間、衝撃波が"ヤツ"を貫通する―――――その様がハッキリと見て取れた。

 拳の先で、"ヤツ"は光の粒子になって分解消滅する。それを見て取ったかのように、女の子の両手両足、腰の左右から真っ白な蒸気が噴き出した。

 

 「……おれ達があれだけ苦戦した"あの連中"を、一瞬で……!」

 「ネットで見たことがある……!あれは、まさか……!」

 

 瞠目し、驚愕する仲間たちの中で自分は立ち上がり、おもむろに訊ねた。

 

 「……君は……」

 

 蒸気が放散する中、水色の女の子はゆっくりとこちらに振り向いて、これでもかというくらいの眩しい笑顔でこう言った。

 

 『通りすがりの、プリキュアです!』

 

 そう都合良くプリキュアが通りすがってたまるかとツッコむべきかと一瞬頭をよぎったものの、結果的に自分たちは助かった。

 結果が良ければOK!ということにしよう。ここは素直に喜ぶべきだ……

 

 「た、助かったッス……」

 

 ……というわけで、どっと力が抜けた。

 さっき、走馬燈さえ見てしまうほどに切迫していた自分の脳ミソが解放されたのか、ヤケに清々しい気分で青空を見上げることが出来た。

 

 『大丈夫ですか?お怪我は無いですか?』

 「え、ええ、うん、まぁ……」

 「す、スゲェ……銃が効かないヤツらを素手喧嘩(ステゴロ)で……」

 「ッてか最初……空から降ってきたよな……?」

 「ドラゴンボールの(スーパー)サイヤ人かよ……」

 

 やっぱり、初見のインパクトは抜群だ。自分も昨日見た時は、思わず頬を抓っていた。案の定、痛かった。今一度、この場で抓ってみる。言わずもがなだが、痛かった。

 

 「ホント、面目ないッスね……自力で何とかしようとして、結局助けられちゃうンスから……現実、気張ってみても、カッコよくはキマらないもんスねぇ……」

 

 家でも仕事でも、カッコいい存在でいようとしても、空回ってばかりの自分。主任にも言われたけど、妻と娘がいるとは到底見えないらしい。まぁ、まだ26の若輩者ッスから……

 

 『そんなコト、ないです!』

 

 水色のプリキュアが、真剣に自分を見つめてこう言った。

 

 「え……?」

 『今皆さんが戦っているのは、皆さんが"戦える"から、ですよね?この敷地の中には、戦えない人たちもたくさんいて、その人たちを守るために戦ってる……そうじゃないですか?』

 「ま、まぁ……そりゃそうッスけど……」

 『ぼ……わたし、それだけでもカッコいいって思います!"出来るコト"を、"躊躇わずに"、見て見ぬふりをせずに、やってるんですから!』

 「それが……仕事ッスから。君みたいなコの方が、よっぽどカッコいいっすよ?」

 『!カッコいい……そう言ってもらえると、嬉しいです♪』

 

 この子、女の子なのに『カッコいい』って言ってもらえることが嬉しいみたいだ。女の子なら『カワイイ』の方がウケがいいんじゃ―――――

 

 『"変身"できることだけが、カッコいいヒーローの条件じゃないんです。"変身"出来なくてもカッコいい人、わたし、たくさん知ってますから』

 

 そう言って、水色のプリキュアは屋上の出入り口を見据えた。さっきの"ヤツら"が、大挙して押し寄せる。その数、ざっと30―――――

 

 『それとも―――――"変身"出来なきゃ、ヒーローじゃない……カッコよくないとでも?』

 

 まるで、自分たちにハッパを掛けるようにこう言葉をつづる"プリキュア"。

 "変身"出来なくても、カッコいい人になれる、か……変身ヒロインに言われても、ちょっとピンと来ないンスけどね……

 でも、自分たちには自分たちの意地ってモンがある。そうだ、ここで絶望して諦めて死んでしまったら、この先―――――

 家族に、カッコいいところを見せるチャンスも、無くなっちゃうじゃないか―――――

 

 「……言ってくれるじゃないッスか―――――」

 

 不思議と、彼女の言葉に闘志が湧いてきた。さっきまでは絶望の使者に見えた"ヤツら"が、まったくもって雑兵に見える。

 

 「これでも自分、所帯持ちなんスよ。娘にカッコいいトコ見せてやりたいって、欲はあるんスから」

 

 愛用のライフルを抱えて、自分はもう一度―――――奮い立つ。

 

 「ヘッ、佐藤よォ、イイ感じにハイになってんじゃねーか」

 「まったくだ。狙撃(スナイプ)しか能の無い電調(ウチ)の下っ端のくせによ」

 「先輩方……」

 「"変身"出来なくてもカッコいい、か……女子中学生にそう言ってもらっちゃ、オジサン達ガンバっちゃうぜェ……?」

 「へぇ、梅澤主任がヤル気出すなんて何年ぶりですかねぇ」

 「うっせぇ」

 

 自分以外の各班の『狙撃担当』メンバーも、強気な表情(カオ)で並び立つ。

 中でも、自分の狙撃の『師匠』ともいえる、梅澤十三主任が言う。

 

 「嬢ちゃん……男って生きモンはよォ……ロマンやメンツ、外ッ面ってのに、女以上に入れ込んじまう生きモンでな……しかもこうして(ハジキ)を持って、普段よりも粋がれる時にゃ、そりゃぁもう燃えちまうモンさ。特に今日は殊更な―――――ウワサのスーパー女子中学生もこうして応援に来てくれたんだ……。」

 

 梅澤主任が、先陣を切ってくる"ヤツら"の一人、その膝元に銃撃を加え、転ばせた。

 

 「"カッコいい大人"の仕事場―――――たっぷり見学していきな」

 

 ―――――ホント……どうしてこんなにダンディなのに、このヒト未だに独身なんスか?

 そんな彼の言葉に、プリキュアは何故か目を輝かせながら聞き入っていた。そして―――――

 

 『…………カッコいい…………』

 

 そんな言葉が彼女の口から洩れるのも聞き逃さなかった。なんかこの子、女の子なのにヤケに感性がボーイッシュな気がする……

 しかしプリキュアはごほんと咳払いをすると、

 

 『……見学だけじゃ物足りませんから、"体験学習"させてもらう、というのは?』

 

 不敵にも聞こえる言葉を口走り、"ヤツら"を見据えて、身構える。

 

 「……フッ……上等だ」

 

 自分たちは、確かに"変身"なんて出来やしない。

 この子みたいに、人間を超えた力なんて無い。

 それでも―――――

 

 ―――――"意地"ってモンがある。

 

 「嬢ちゃんは好きに暴れな。―――――背中は俺達に任せろ」

 「プリキュアの背中を守れるなんて、光栄ッス!」

 『……はい!』

 

 ここからは―――――自分達も"ヒーロー"だ。

 再始動の銃声が、天高く響いた―――――

 

 ……SAVE POINT




 用語解説

 電調梅澤班

 佐藤が『師匠』と仰ぐ電調のトップスナイパー・梅澤十三(うめざわじゅうぞう)が率いる班。班員6人(内オペレーター2人)。
 狙撃担当が梅澤を含めて3人おり、主に要人警護や長距離狙撃を任務とする。
 班員は荒っぽい性格の者が多いが、梅澤の"侠気"に惹かれて集っており、抜群の団結力とチームワークを誇る。

 ――――――――――

 文量が多くなりそうな理由、それは―――――

 『個性豊か電調メンバーがキョーレツな自己主張を始めちゃった』からなんです!!
 特に今回の梅澤主任、昨日まで稚拙の脳内に存在しなかったヒトなんですよ!?

 次回以降も電調各班の個性豊かなメンバーが、メモリアルとデーティアの前に姿を現します!

 ……それと、縦文字読みづらかったらゴメンナサイ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

電撃!ネイルガスの恐怖!!

 バグッチャー大図鑑

 ロゼッタバグッチャー

 身長:現実空間換算4m
 属性:太陽
 実体化所要時間:2時間

 第1話『はじめまして!スマホの中の@プリキュア!』と第2話『エンゲージ!記憶の戦士@キュアメモリア』に登場。
 アラシーザーが、東栄市のネットワーク管理プログラムと、キュアロゼッタのキュアチップを使って生み出したバグッチャーで、人目に触れるキュアネット上に初めて出現した最初のバグッチャーである。
 キュアネット上の情報伝達ネットワークに『壁』となるバリアを仕掛けて情報伝達を阻害、その結果キュアネットに接続している機器に障害をもたらし、東栄市、特に大泉町全域に大小の被害をもたらした。
 キュアメモリアとの戦闘においては、キュアロゼッタの技であるロゼッタウォールを使った攻防一体の布陣でメモリアを苦戦させたが、キュアネット上の応援コメントを受け取りパワーアップしたメモリアのメモリア・ライジングサンダーを喰らい、デリートされた。
 ユナイテーションワードは『陽だまりの四葉よ、その楯を以って電子の流れを堰き止めよ』。


 マーチバグッチャー

 身長:現実空間換算3m
 属性:風
 実体化所要時間:50分

 第3話『旋風の刺客!曲がった@直球勝負!?』に登場。
 アラシーザーが、大泉風力発電所の発電用プログラムと、キュアマーチのキュアチップを使って生み出したバグッチャー。
 風力発電機に手足が生えたような外見であり、頭部のファンはもちろん、両腕もファンに変形させ、合計3つのファンから強烈な暴風を発生させることが出来る。これによって現実空間の風力発電機を暴走させ、『風の公園』一帯に局地的な嵐を巻き起こした。
 キュアメモリアと戦ったが、ロゼッタウォールで嵐を押しとどめられ、最後はメモリア・ライジングサンダーフォールで鉄拳粉砕された。
 ユナイテーションワードは『勇気ある風よ、勇敢を蛮勇に変え、破壊の嵐を齎せ』。

 ――――――――――

 今川焼きwwwビルドは今川焼きですかwww
 す、スミマセン……アメトーークの仮面ライダー芸人で大爆笑してしまった稚拙ですww

 さて今回はかなりネタに走らせていただきました……
 エースバグッチャーの攻撃とキュアデーティアの発奮にご期待を!
 それでは久々に、送信!
 


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

 NPC MITSUAKI MASUKO

 

 ――――――――――

 

 

 「おい!しっかりしろ!」

 「すみませんッ……」

 《弾が足りねぇぇぇ!!》

 《つーか弾効いてねーんじゃねーかこいつら!?》

 《柴田班第4隊、第1隊のサポートに回ってください!》

 《…………あ~……それ、神木班に回してやってくんない?……あそこ、特攻野郎多すぎだし》

 

 無数の銃声に雑じって、あらゆる方向、そして通信機の奥―――――

 『声』が鼓膜を掻き毟るようだ。

 怒号、諦め、恐怖、統制、焦燥―――――人間の感情の坩堝にブチ込まれたような錯覚―――――

 挙句に視界には、黒光りした着ぐるみ集団が、得物を手に迫りくる。

 

 ―――――どこのB級パニックムービーだ。

 

 こいつらの殆どが、今まで『裏のネット犯罪者』を相手に大立ち回りを繰り広げてきた猛者共だが、やはり"こいつら"相手には分が悪いか……。

 こんなフザケた外見で、尚且つ『撃っても死なない』連中なんざ、フィクションにも程がある。人間の想像力の及ばぬ存在―――――

 

 「―――――基本、飛び道具は効かないようですね」

 「!……長谷川!?お前向こうのエリアのハズ……」

 「―――――神木主任から此方に回るよう要請されましたので。……体良く厄介払いされた、とも取れますが」

 

 長谷川清海(はせがわせいかい)―――――俺とは別のチーム、長谷川班の主任だ。

 電調の実行部隊の主任の中でも最年少・21歳で班を率いる『天才』―――――

 

 「―――――連中の動きですが……どうも―――――」

 

 長谷川が視線を促す先には、メインサーバーの存在する中央管理棟があった。

 

 「―――――あそこを目指しているようですね」

 「勘か?」

 「―――――客観的・且つ論理的に分析したまでですよ」

 

 流石は『天才』と言うべきか。この短時間で奴等の"目的"の場所を割り出すとはな。伊達にオペレーターを立てずに、自分で戦いながらオペレートしてる訳じゃないらしい。

 あの中央管理棟の10階―――――メインサーバールームには、テテが"P"から横取りした、"XV"の中から出現した"モノ"がある。

 つまり奴等は既に、あのメモリーカードの詳細な場所を知っている……!ここにいる着ぐるみ連中は全員、俺達を足止めするための"捨て駒"か……!

 もっとも捨て駒と言えど、こちらの攻撃はほとんど通じず、俺や佐藤が持ってる"AXV弾"しか通用しない、『不死の捨て駒』―――――つまり―――――

 

 ―――――詰んでるじゃねぇか……!!

 

 電調で"AXV弾"を持ってるのは、俺と佐藤の2人だけ。しかもその数にも限度がある。

 それに、他の連中が奴等を確実に仕留められる手段を持っているハズが無い。

 こうなったら、あの"敵性C-ORG"だけでも潰すか……?

 俺は巨大なミサイル砲台型"XV"に乗り、仁王立つ"奴"を睨め上げた。だが、奴の姿は少しずつだが遠ざかり、俺と奴の間には、夥しい数の着ぐるみ軍団―――――

 どうすりゃいいんだ……!!

 

 「―――――あぁ、そういえば」

 

 何かを思い出したように、隣にいる長谷川がそう言うと、右腕のスーツの袖口からスッとダガーが飛び出し、右手に握られた。そしてそのダガーを、背後から迫った肥えた"着ぐるみ"に突き刺した。

 立て続けに、左右から迫る3人の"着ぐるみ"に、何処から出したのか連続でナイフを投げ放った。それらは一本も外れず、胴体や腕に命中した。

 しかし、銃が効かない相手に刃物なんざ―――――と思った矢先、懐から黒い箱を取り出し、そこの蝶番式のスイッチを倒した―――――

 

 

エレクトリシーダ・バイレ

 

 長谷川が呟くと同時に、ナイフが命中した4人の"着ぐるみ"が、不自然に四肢を躍らせ、地面へと頽れ、ビクンビクンと体を痙攣させた。

 見ると、ナイフの石突に、肉眼でギリギリ見えるほどの極細のワイヤーが繋がれ、それが長谷川が持つ黒い箱へと接続されていた。その黒い箱には―――――『⚠危険取扱注意 携帯式高圧電流発生装置⚠』と、これ見よがしに書かれたラベルが貼ってあった。

 

 「……コイツは……!」

 「―――――そういう事です。これで2度目、確信が持てました。……実体化したところで、所詮はコンピューターウィルス……つまりは電気信号で動作するプログラムに過ぎません。高圧電流によってプログラムを強制的にビジー状態に陥らせることで、ある程度は動きを封じられます。もっとも―――――」

 「!?」

 

 電流を受けた"着ぐるみ"が、30秒ほどしてすっくと起き上がってくるのを見て、俺は慌てて"ソイツ"に"AXV弾"を発砲した。胴体部に命中し、着ぐるみは霧散するように消滅した。

 

 「―――――自己修復(セルフリブート)を行うようで、2~30秒で復帰します。つまりは足止め程度にしかなりません。完全消滅させるには、やはり"それ"が必須なようですね」

 「でかした……!!長谷川、全員に伝えろ!『高圧電流が効く』ってな!スタンガンやテーザー持ってる奴なら、ある程度はあいつ等に対抗できるだろうよ……!」

 

 倒す事が出来ずとも、少しでも効果のある手段があるに越したことはないだろう。長谷川が通信を行う中、俺は遠くを悠然と往く"敵性C-ORG"を見た。

 奴の狙いは"例のブツ"だけじゃない。この俺への意趣返しもあるだろう。"たったそれだけ"のコトのためにこれだけの大部隊を動員するとは―――――

 異常なまでにプライドが高く、それでいてそれを傷つける奴は徹底的に痛い目に遭わせなきゃ気が収まらない性分―――――

 

 ―――――傍迷惑な野郎だな。

 

 『ッ!見つけたぞ、"()スコ・ミ()アキ"ッ!!』 

 

 ……どうやら邪念が伝わっちまったらしい。巨大な"XV"がドカドカと足音を立てて方向転換し、巨大な口紅(ミサイル)を此方へと向けてくる。

 

 『疼くッ……疼くぞッ!貴官を思い出す度に左肩が疼くッ!!今こうして視界に収めて更に疼くッッ!!!"貴官へ借りを返せ"となッ!!!!』

 「……要は仕返ししたいってだけじゃねーか、大袈裟な野郎だ。左腕の経過は()調()みたいで何より……つーか、ご大層な腕に取ッ換えて来たみたいじゃァねぇか」

 『クククッ、流石に元通りとは行かずッ、義手と交換する羽目になったがなッ!だァがッ!!この鋼鉄の左腕(さわん)こそッ、如何に傷つこうともジャー()ウェブの、ひいては御大将カイザランチュ()の御為に粉骨砕身の覚悟を以って戦う小官の決意の表れッ!!小官の新たなる誇りであぁるッ!!!』

 「ジャークだかタランチュラだが知らんが……生憎とテロリストと長々と立ち話する趣味は無いんでな」

 

 一々些事を大仰に言う奴―――――俺は躊躇なく奴の眉間に銃口を向けた。

 

 「最早俺に言えるのはこれだけだ―――――消えろ」

 

 まったくもって日本の公務員が言うセリフじゃないな―――――

 引鉄に右の人差し指を掛けたその時―――――耳元から井野が叫んだ。

 

 《主任!後方より高エネルギー、急速接近します!!》

 

 

フレプリ見よう見まねっ!!プリキュアキィィィィィィック!!!!

 

 「ッ!?」

 

 後方からだった。ピンク色の光が"着ぐるみ軍団"の中へと突っ込み、"着ぐるみ軍団"が四方八方へと、土煙と、衝撃で砕けたアスファルト片とともに飛び爆ぜるのを見た。

 この光の色―――――そしてこの声―――――

 "それ"が、昨日俺が遭遇した、もうひとつの"人智を超越した存在"であることに気付くのに言葉も何もいらず―――――

 俺は叫んでいた。

 

 「どうして来たァッ!!…………"P1"!!!」

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 

 私が、遠くを行く巨大なシルエットに気付いてジャンプして、少し後にメモリアが言ってきた。

 

 《待ってりんく!ほくととデータ、ついてきてないよ!?》

 『え……!?』

 

 別の建物の屋上で足を止めた私は、喧騒の中を見渡すけれど、デーティアの姿が無い。

 

 《……あ!デーティアの気配、向こうの方!りんくから見て、左後ろ!》

 

 メモリアの声に振り返ると、その方向の真正面、大分遠くの建物の屋上で、土煙が舞った。鼓膜に響く重低音の向こう側に、私は水色の輝きを見た。

 

 《あたし達も行かなきゃ!》

 『……大丈夫、あっちはデーティアに任せよ?……デーティアのコトだもん、きっと、困ってるヒトがいたんだよ。こんな状況だし、臨機応変に、ね?』

 

 この混乱の中で、私ひとりが出来るコトは限られてる。この場にいる人全員を助けるなんて大それたことはできないかもしれない。

 それでも、そんな中で出来るコトをやるために、デーティアは―――――ほくとくんとデータは、あえて"ふたり"で行ったに違いない。

 

 『後でメッセ送る!……私たちは―――――"こっち"だよ!』

 《うん!》

 

 私も―――――私たちも、出来るコトをやらなきゃ―――――

 全員助けられなくても―――――全員助ける、そのつもりで、全力で!

 黒服の人達は、ここの人達で……それから、『ハトプリ』のスナッキーか『ハピプリ』のチョイアークみたいな"着ぐるみっぽい軍団"で溢れかえる様を眼下に見ながら、もう一度私は跳ぶ。見据えるはただ一点―――――

 あの巨大なミサイルっぽいヤツ―――――どこからどう見てもバグッチャー!

 でも、まずは―――――

 その足元、黒服の人達に対峙している、着ぐるみ軍団にロックオン!

 私は空中でひねりを加えて回転して勢いをつけると、一直線に―――――!!

 

 

フレプリ見よう見まねっ!!プリキュアキィィィィィィック!!!!

 

 着ぐるみ軍団のド真ん中に蹴り込んだ。イーネルギーを足先に集中させて蹴り込んだから、その衝撃波で着ぐるみ軍団が弾けるように、四方八方に吹っ飛んだ。

 相手は見渡す限りの大軍団―――――ってか、今までバグッチャー1体ずつしか出てこなかったのに、今になってこんなに出てくるなんて、どうして―――――

 

 「どうして来たァッ!!…………"P1"!!!」

 

 喧騒に雑じって聞こえた声。振り向くと、キックの飛び散る瓦礫と着ぐるみ軍団のスキマから、見覚えのある顔がのぞいた。

 

 『……昨日のオジサン!?』

 

 そーだろーなぁとは思ってたけど、やっぱりココって、オジサンたちに関係してる場所―――――

 

 『役者が揃ったかッ……!貴官まで参戦するとはなッ!これぞ天恵ッ!!』

 

 ミサイルっぽいバグッチャーの上から、腕組みして見下ろしながら大声でがなり立てるのは―――――

 

 『スパムソン!何なのよ、この"謎のザコ敵軍団"は!?こんなに大勢で押しかけて、みんな大メーワクしてるじゃない!!』

 『貴官ッ!!言うに事欠いて雑魚とはなんだッ!!ついでに謎でもなぁいッ!!!この軍勢こそッ、我等()ャーク()ブの叡智の(ひとつ)ッ、()グッチャー"Ver.2.5"!!さらなる改良を加えた実用量産型バグッチャーであるッ!!!』

 

 つまりは、ここにいる着ぐるみ軍団も、全員がバグッチャーなんだ。でも、さっきの私のキック一発で吹っ飛んで、粒子化して消し飛んだヤツもいた。ってことは、やっぱり―――――

 

 『ザコっぽいバグッチャー……略して"ザコッチャー"ってトコね』

 『雑魚ではないと言っているッ!勝手に命名するなッ!!貴官に命名権(ネーミングライツ)は認可されておらァんッッ!!!』

 「公務員の立場から言わせてもらうがな……ココで勝手にドンパチやる権利もテメーらには認可されてないぜ。この場所は俺達―――――"内閣電脳調査室"の"公有地"でな」

 

 オジサンがスパムソンに向けて、手にした拳銃の銃口を向けた。

 

 「出ていかねぇんなら、強制執行だ。公務員ナメんじゃねーぞ」

 『言ってくれるなッ。ならばこちらも遠慮はせんッ!!掛かれィッ!!』

 『『『『『『バグバグ~~~~!!!!』』』』』』

 

 スパムソンの号令で、ザコッチャーの集団が私達に押し寄せた。来るなら来てみなさい!!

 私は先頭で突っ込んできたザコッチャーの胸板に右ストレートを叩き込んで吹っ飛ばし、次に左脚を軸にして後回し蹴りを放った。瞬間、右脚ブーツの『噴射口』からイーネルギーが噴き出して、ピンク色の軌跡が私の視界を横切り、ザコッチャーが消し飛ぶのが見えた。

 2体倒しても、さらに10体ほどに取り囲まれる。キリがない!

 ―――――だったら、こないだ見た"アレ"で!

 

 『オジサンたちは下がって!』

 

 巻き込んじゃったら大変なことになる。私はオジサンたちに叫んでから、手近なザコッチャーの首筋に右のラリアットを喰らわせて押し倒すと、すかさず両足首を抱え込むようにつかんで―――――

 

 

 『メモリアル!!爆裂大回転スイングーーーーーーッッ!!!!』

 

 

 『回転』のイメージを走らせて、腰回りの『噴射口』からイーネルギーを噴き出させて強引に勢いをつけて、時計回りにぶん回す!

 プロレス動画と、日曜8時からやってるけれど、もうすぐ終わっちゃう(2017年11月現在)バラエティー番組の某コーナーを参考にさせていただきました!ありがとう『お父さん』!!

 

 『どぉぉりゃあああぁぁぁーーーーーー!!!!!!!』

 

 気持ちいいくらいにザコッチャーが吹っ飛ぶ吹っ飛ぶ!このままどんどん数を減らすぞ~!

 

 『バグッ、バグバグッ……!(な……なんてヤツだ……!)』

 『バグゥ……(今突撃したら確実にヤバい……)』

 『バグ!!バググッ!!(ま、負けるもんか……!!オレ、帰ったら結婚するんだ……!!)』

 『バ、バグッ!?(フラグ建てんなバカヤロウ!?俺まだやられたくねぇよ……)』

 『バグバグゥ……!!(よぉし、だったらおれが行く!独り身のおれだ、失うものは何もない!!』

 『バグバグ!(じゃぁオレが行っちゃるぜ!!)』

 『バグググッ!!(いや、ここはボクが!!)』

 『バ……バグ……(じゃ、じゃぁ……俺、行こうかな……)』

 『『『バ~グバ~グ(どうぞどうぞ)』』』

 『バグッ!?(ヲイッ!?)』

 

 むむっ!?あそこにイイ感じにザコッチャーが固まってる!そこに今つかんでるこのザコッチャー、プレゼントしてあげる!!

 

 『そぉい!!』

 

 ―――――カッコォォォォン!!!!

 

 『『『『『『バグ~~~~~!!!!!!!!』』』』』』

 

 まるでボウリングだ。勢いのまま投げ込んだザコッチャーがイーネルギーの光で爆発して、その爆発で固まっていたザコッチャーが四方八方に吹っ飛んでいくのが見えた。

 ―――――爽・快・感……!!

 

 『ッつえぇいッ!!我が兵士達ながら不甲斐ないッ!!こうなれば……ッ!バ()ッチャーッ、発射準備ッッ!!!』

 『ベ、ベツニアナタノタメジャナインデスカラネッ!!』

 

 スパムソンの指令に、巨大ミサイル型のバグッチャーがツンデレっぽくそう答えた瞬間、ラブキッスルージュの先っぽが、天高く向いた。

 

 『()ェェェッッッ!!』

 『トキメキナサイ、バキューーーーーーーーン❤!!!!』

 

 ルージュから、天空へ向けて真っ赤な光が打ち上げられた。きらりと空で光ったと思うと、無数の赤い光の雨になって降ってきた!?

 

 『やばッ……!!』

 

 反射的に私はキュアチップをコミューンにセットした。

 

 『キュアチップ、『キュアビート』!キュアット、イン!!』

 《爪弾くは魂の調べ!キュアビート!!》

 

 《CURE-BEAT! INSTALL TO MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!》

 

 

 『キュアメモリアル、"ビートスタイル"よ!』

 

 

 サイドテールと満載フリル!手にする得物はラブギター!

 バリアが使えるビートの力なら、あの攻撃をサバけるかも……!

 

 『ビートバリア、フル!パワーーーーーー!!!!』

 

 ありったけの力を込めて、私はラブギターロッドをかき鳴らした。ギターのけたたましい音色が響き渡り、光のドームが広がっていく。

 瞬間―――――赤い光が降り注ぎ、私達のすぐ頭上で花火のような破裂音が鼓膜を揺らす。私は思わずぎゅっと目を瞑った。

 

 「………………炸裂弾の類じゃなかったようだな」

 

 すぐ後ろから、オジサンの声がした。おそるおそる目を開けて辺りを見回すと、私が展開したバリアの中に、オジサンを含めて4~5人ほどの男の人がいた。

 でも、バリアに入れなかった人は―――――

 バリアの外を見ると―――――真っ白な煙が立ち込めているように見える。バグッチャーの姿も、何も見えない。

 

 《……!主任!周囲の空気から、未知の物質が検出されてます!これって……!?》

 

 女のヒトの声が聞こえる。……誰だろう?っていうか、オジサンを見た時、急にこんな声がした。この『何かを通したような声』……これってもしかして、ココの無線を拾ってるってこと……!?

 ネットにこのまま出入り出来ちゃったりするし、ますますもってマトリクスインストールのスゴさがわかったかも……

 

 「ガス弾か!……ちッ、流石にガスマスクは準備してねぇか……」

 『それなら、私が!』

 

 ガスを一発で吹っ飛ばすなら、迷わずコレで!

 

 『キュアチップ、『キュアマーチ』!キュアット、イン!!』

 《勇気リンリン!直球勝負!!キュアマーチ!!》

 

 《CURE-MARCH! INSTALL TO MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!》

 

 

 『キュアメモリアル、"マーチスタイル"だよ!!はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

 

 気合一閃、私は咆哮とともに、体の中の"力"を一気に放散した。強烈な風が巻き起こって、辺りの煙を一気に吹き飛ばした。同時に、ビートバリアがぱちんと消えた。

 

 「!長谷川!!」

 

 オジサンが、バリアの外に立っていた若い男の人に駆け寄った。その男の人は、うつろな目をして、口を半開きにして、ぼーっとして突っ立っているように見えた。

 

 「オイ!しっかりしろ!長谷川!!」

 

 オジサンは声を掛けながら、肩を掴んで激しく揺らした。すると男の人は、首をかしげるようにオジサンを見た。

 

 「――――――――――――――――――――く」

 

 

 ―――――くぎゅううううううううう~~~~~~~~~~…………………… 

 

 

 男の人はいきなり奇声を発したと思うと、全身から力が抜けたようにだらりと体勢を崩し、地面にへたり込んでしまった。

 

 「くぎゅううううううう~~~……」

 「ど、どうした!?何gくぎゅうううううう!!……」

 「オイしっかりしろ!!く、く、くぎゅうぅうううう…………」

 

 長谷川と呼ばれた男の人が倒れたのが合図だったみたいに、さっきバリアの外にいた屈強そうな男の人達が、次々と『くぎゅうううううう』とヘンな声を上げて、脱力して倒れていった―――――!?

 

 『フハハハハハッ!!効果覿面だなッ!!』

 

 得意げな顔をしたスパムソンが、勝ち誇ったような笑い声を浴びせてくる。

 

 『一体何したのよ!?』

 『今しがた散布したのはッ、さる軍事大国が極秘裏に開発した暴徒無力化用神経性筋弛緩ガスッ……その名も"ネイル()ガス"よッ!!これを吸引したならばッ、2時間は立ち上がれまいッ!!本来ならば貴官と"マス()・ミツ()キ"に浴びせたかったのだがなッ……!!』

 

 まさかのガス攻撃……でも、毒ガスじゃなかったのは不幸中の幸い……って言っていいのかな……

 でも、悶絶して倒れている男の人達に、今がチャンスとばかりに迫ってくるザコッチャーの集団を見た時、そんな安堵は吹っ飛んでいた。

 

 『"アイハアタエルモノ"……コレガ、"アイ"……!』

 『……!!』

 

 ミサイル型バグッチャーが高らかに、そして悦に入ったように叫ぶのを聞いて、私はその時悟った。

 あの巨大な"ラブキッスルージュ"と、この言葉から想起できる、このバグッチャーの"正体"を―――――

 

 『―――――キュアエース……』

 

 間違いない。このバグッチャーに囚われているのは、キュアエース―――――円亜久里ちゃんだ。

 

 《『ドキドキ!プリキュア』のひとり、"紅導(こうどう)のエース"……》

 

 やっぱり、メモリアも気付いたみたい。もっとも今回は言葉以前に、バグッチャーの外見、そのほとんどがまんまビッグサイズのラブキッスルージュだから、プリキュアファンなら誰でもわかる……かも。

 

 《エースの……"プリキュア5つの誓い"は……こんな風に誰かを苦しめるためのものじゃないのに……!プリキュアとして、みんなを……世界を守るために大事なことを教えてくれた誓いを……》

 『―――――捻じ曲げるなんて、許せない!』

 

 キュアエースの説いた"プリキュア5つの誓い"は、プリキュアとしてあるべき理想と気構えを、厳しく、優しく、わかりやすく教えてくれたもの。

 でも、このバグッチャーは、狙ってなのか、それとも無自覚なのかはわからないけれど、その"誓い"を、自分勝手に解釈してる。

 脱力して倒れた男の人達―――――"それ"が、コイツが解釈する"愛を与える"コト、その結果だというのなら―――――

 

 『《こんなの、間違ってる!》』

 

 私は知ってる。エースが教えてくれたこと。

 女の子が、心に刻み持つべき必要なこと。

 困難を乗り切るために、大切なこと、守るべき誓い。

 "愛"の本当の意味―――――

 

 『……待ってて、エース』

 

 私が……私達が、絶対に取り戻す。

 

 本当の"誓い"を。

 

 本物の"愛"を―――――

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

    CURE-MEMORIAL

 ⇒  CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 

―――――空現流閃剣術―――――

 

 

(イチ)    

 

(シキ)    

 

(ダイ)    

 

(ザン)    

 

(トウ)    

 

 

    椿(ツバキ)

 

    (ヒメ)

 

 ―――――ドゴォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 右の手刀に最大限の"氣"を集中させ、巨大な刃と成し、真っ向から振り下ろす。

 

 『『『『バァグゥゥゥゥゥ~~~~!!!!!!』』』』

 

 眼前に群れ成す"戦闘員"の集団を、僕はまとめて叩き斬った。遠目に、機を窺っていた別の集団を見据えた僕は―――――

 

 『でぇえぁぁぁぁぁぁぁーーーッッ!!!』

 

 "氣の刃"を、返す刀で()ち放つ。この『椿姫』は、直接斬るだけでなく、こうして斬撃を『射る』こともできる!

 残心で見据えるその先で、5~6体の"戦闘員"が仰け反り吹っ飛ぶのが見えて―――――

 その余波で廊下の突き当りにあったガラス窓を、フレームごと粉々に粉砕してしまった……。

 

 『……あ( ゚Д゚)』

 

 ……やっちゃった……背筋がサーッと冷えた。

 

 「こぉらぁ~~!!何やってるッスか!!コレで16回目ッスよ!?」

 『ご、ごめんなさい……加減が効かなくて……』

 

 ―――――未だ僕達は、ビルの中にいた。

 緊急事態のためかエレベーターは使えず、僕と電調の狙撃部隊の人達は、階段をひた下るハメになっていた。

 直接制限なく"戦闘員"を倒せる僕を先頭に、命中させれば"戦闘員"を倒せる弾を込めた銃を持っている佐藤さんが後に続き、その後ろから梅澤さんたちが続く、というフォーメーションだ。

 ビルの中は意外と入り組んでいて、階段から階段へ廊下を渡らないといけない場所もあって、そこかしこで"戦闘員"がゲリラ戦を挑んできた。

 梅澤さんや佐藤さんの助力を受けながら、僕は次々と現れる"戦闘員"たちを倒していったけれど―――――

 僕の攻撃の余波でビルの施設が壊れてしまって、佐藤さんがそのたびに怒声を飛ばしてきたのだった……。

 

 「……嬢ちゃん、"プリキュア"とかいったか?"それ"になってから、どれだけ経つ?」

 

 おもむろに、梅澤さんが僕に尋ねる。

 

 『え?……初めて戦ったのが4月の中頃だったので……1ヶ月ちょっと、です』

 「そうか……おい佐藤、お前が(ハジキ)で仕事を始めて1ヶ月……どうだった?」

 「どうだったって……先輩についてくのが精一杯で、毎日が勉強、ほとんど仕事にならなかったッス……」

 「そうだろ?……嬢ちゃんだって、"プリキュア"始めて1ヶ月……駆け出しの新人だ。それがお前、一番前で戦ってくれてんだぜ?しかも相手は普通の(ハジキ)が効かねェ得体の知れん連中だ……なのに佐藤よォ、モノ壊したくらいで一々なんだ?ちったぁ褒めてやれ」

 「す、すんませんッス」

 「そーゆーわけだから嬢ちゃん、まだまだ荒事にゃ慣れてないんだろ?周りのモノに気を配るのは、慣れてからでいいさ。今はモノがブッ壊れるのは気にすんな。モノは壊れても直せるが、人の命ってのは直したくとも直せねェ。降りかかる火の粉を払うことだけに集中しな」

 『は、はい……!』

 「ついでに言っとくが、嬢ちゃんも無理すんじゃねぇぞ。いくら連中とまともにやりあえるのが嬢ちゃんだけだからって、全部背負(しょ)わせるつもりは毛頭無ェ。……取り敢えず後ろは気にすんな。前だけ向いて、出てきた奴だけノシてやれ」

 『!……了解!』

 「フ……いい返事だ」

 

 このチームのリーダーの梅澤さんの取り成しもあって、僕はあっさりと彼ら―――――『内閣電脳調査室』の人達と、即席ながらも共闘することが出来た。

 それにしても、内閣か……やっぱりこの事件、僕や東堂さんが思っている以上に大事(おおごと)になっていってる気がする。

 しかも、Dr.Gのように、ジャークウェブではなく僕達プリキュアに狙いを絞っている人もいるみたいだ。

 ここにいる人たちは信用できると思う。でも、この人達の属する『組織』そのものが信用できるかと問われれば、そこには間違いなく疑問符が付く。

 全貌がまったく掴めず、信用するにも心底からは信用できない―――――『仮面ライダーカブト』の『ZECT』や、『仮面ライダー鎧武』の『ユグドラシル・コーポレーション』を思い出す。……結局ユグドラシルは『スマートブレイン』や『幻夢コーポレーション』みたいな『ブラック企業』だったけど。

 ともあれ、ジャークウェブの出現とそれにまつわる事件は、僕達の予期せぬ方向へと向かって行っているんじゃないか―――――

 

 「!こいつァ……!」

 

 梅澤さんの声で、僕は思案と足を止めた。

 ようやくたどり着いたのは、1階のエントランスロビー。向こう側に見えるあの自動ドアをくぐれば、外に出られる。

 でも、僕達の眼前には、フロアを埋め尽くさんばかりの"戦闘員"が蠢いていたのだった。

 

 「ハハッ……ある意味理想的な待ち伏せじゃねェか。こいつ等のリーダー殿はよく出来た戦略を練ると見えるぜ」

 「"AXV弾"、もう2発だけしかないッス……どーするんスか、コレ……!?」

 「どーするったって……なぁ?」

 「お……おぅ……」

 

 途端に弱気を見せる佐藤さんたちに、僕は発破をかける。

 

 『大丈夫ですよ!こういう時のためのぼ……ワタシたちプリキュアです!ヒーローは、こういう逆境でこそ燃えるんですから……!』

 

 その時、耳元からここにいない男の人の声が聞こえてきた。

 

 《―――――こちら長谷川。各位、この軍勢には高圧電流が有効と判明。スタンガン・およびテーザー銃を所持している班員は積極的に応戦してください》

 

 このくぐもった声の感じ……これって電話か、それとも通信?……通信機器を身に着けているわけでもないのに、どうして僕は―――――

 

 「お前等聞いたか?」

 「聞きましたけど……おれ達スタンガンなんざ持っちゃませんぜ?」

 「一撃必殺のスナイパーが、スタンガンなんざまどろっこしいモンをもってるわけねぇよなぁ」

 「……やれやれ」

 

 呆れた表情を浮かべる梅澤さんを見た時、僕の頭の中にふわりと考えが浮かんだ。

 

 『……高圧電流……ねぇ、データ……』

 《!……そうか、それならあんぜ!それも、ついさっき"取り返したて"、ホヤホヤが!》

 

 やっぱり、そうか。前回戦ったバグッチャーが得意としていた攻撃が電撃攻撃だったから、もしやと思ってデータに訊いて正解だった!

 それに、"電気"といえば、"あの仮面ライダー"の技も使える、きっと!

 

 『電気なら―――――できます!!』

 「へ……!?」

 

 呆気に取られるような顔の佐藤さんに笑顔で頷くと、僕は黄色で彩られたキュアチップを、ネットコミューンにセットした。

 

 『キュアチップ、『キュアピース』!!』

 《ピカピカぴかりん!じゃん、けん、ポン♪キュアピースっ♪!》

 

 同時に、僕の心の中のデータベース―――――『正義ノ系譜』を触発する。

 

   〈MASKED RIDER AMAZON〉

 ⇒ 〈MASKED RIDER STRONGER〉

   〈SKYRIDER〉

 

 《BEHOLD! CHARGE UP STRONGER!!》

 

 指先を揃え、斜めに据えて、力強く(さけ)びを上げた―――――

 

 

キュアっと、変ンンンン身ッ!ストロンガァァァァァァァァァッ!!!!!!

 

 《CURE-PEACE! INSTALL TO DATEAR!!》

 

 火花が弾け、稲妻が迸り、雷光が瞬く。僕の視界を細切れに切り裂きながら、僕の身体を雷のエネルギーが包み込む。

 そして僕は―――――暗雲を劈く黄金色の迅雷を身に纏った。

 

 《INSTALL COMPLETE!!》

 

 一歩、そして二歩歩くたび、歩いたそばから稲妻が迸る。身体の至る所から、スパークが奔る。

 たじろぐ"戦闘員"たちを真っ直ぐに見据えて、僕は高らかに言い放つ―――――

 

 

天が呼ぶ!       

 

 

       地が呼ぶ!!

 

 

人が呼ぶ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞けェッ、悪人共ッ!!

 

僕は正義の戦士!!

 

 

(フン)(ジン)(ライ)()

 

キュアデーティア!"ピーススタイル"ッ!!

 

 

 力強く天を指差し、僕は己の存在を示し、介した。

 

 「か、変わった……!」

 「マジで変身してんのかよ……!!」

 「ほぉ……俺がガキの頃に見てた『仮面ライダーストロンガー』の前口上じゃねェか。嬢ちゃん、なかなか通だねェ」

 「し、知ってるんスか梅澤主任!?」

 「ってか……『僕』って言わなかったか……?」

 

 梅澤さんを含めて、対応は様々だ。でも、明らかに戸惑っている人が多い。

 というか梅澤さん、ストロンガーをリアルタイムで見てたとは……機会があったら語り合いたいなぁ……できたら、変身前の姿で。

 

 《か……カッコいい……!!(☆ ☆)》

 《……アンタならそう言うと思ったぜ、ピース》

 

 心の中で苦笑いを浮かべるデータの隣に、黄金色に輝く『部屋』。

 昨日助け出した時と同じ、キュアピースの姿。

 ロビーの一角に、鏡のように反射する壁があって、僕自身の姿が映る。さながらバナナのような髪型、なんと表現していいのか……

 一瞬苦笑いしたけれど、今の状況を思い出すと同時に、写し見の中の『女の子(ぼく)』は凛々しく表情を変えた。

 

 『まずはコイツで―――――痺れろッ』

 

 僕は両腕を擦り合わせ、高圧電流を触発する。黄金色に輝き、弾ける稲妻をまとった右の拳を強く握り―――――

 

 

エレクトロファイヤァァァァァ!!!!!

 

 思い切り地面に叩きつけた。電流が火花を上げながら地面をまっすぐ迸り、"戦闘員"の集団に命中、途端にスパークして小規模な爆発を起こし、5~6体の"戦闘員"をまとめて吹っ飛ばした。

 

 『できた……!』

 

 この技は仮面ライダーストロンガーの代名詞と言ってもいい。映画の客演でもよく使っているから、まだストロンガーのDVDを見たことが無かった頃の僕でも、強く印象に残っていた。

 それだけに、この技を自分の手で再現し、目の前で電流がスパークした瞬間―――――

 

 僕の心は―――――歓喜に震えた。

 

 《感動は家に帰ってからにしな!》

 《ほくとくん、右、右~!!》

 

 今にも泣きだしそうなピースの必死の形相に、反射的に僕は右へと振り返りながら―――――

 

 

電パァァァンチッッ!!!

 

 ボディブローのように、電流を帯びた左拳を繰り出した。躍りかかってきていた"戦闘員"の鳩尾に吸い込まれるように捩り込まれた左拳から、黄金色の光を伴って強烈に放電し、瞬時に"戦闘員"を粉塵に帰した。

 入口からは、次々と"戦闘員"が押し寄せる。その中に銃らしき得物を両手で構えたヤツが数人雑じっているのを見て、ぞくりと背筋が冷えた。

 

 『!……子供番組に似つかわしくないね』

 《だったら"没収"だ……なぁ、ほくと!》

 《ぼっしゅー?》

 『そうか、アレなら!』

 

 僕は右腕に意識を集中させ、電気の流れを制御する―――――

 

 

電気マグネット!

 

 これは電流制御によって、自分自身を電磁石と化す技だ。銃や、それに使われる銃弾に金属が使われている以上、磁力から逃れることは絶対に不可能―――――!

 目論見通り、ヤツらの銃や警棒みたいな武器が、吸い込まれるように、高く掲げた僕の右腕へと張り付いてきた。だけでなく―――――

 

 「おい嬢ちゃん!?俺達の銃まで引き寄せてどーすんだ!?」

 「完全に丸腰ッスよ~!!」

 

 し、しまった……磁力を一定方向だけに及ぼすなんて不可能だから、当然磁力は全方位に及ぶ。電調の皆さんの銃まで、僕は『没収』してしまっていた……

 

 『ご、ごめんなさい!……ここは、僕が切り拓きますから!』

 

 目の前にはまだ、30人ほどの"戦闘員"が、こちらの機を窺うように、そして入り口を塞ぐように立ちはだかっている。

 こいつら全員を、一気に片付けられる技は―――――

 

 《ほくとくん、ピースサンダーを使って!》

 

 心の中のピースが、グッと拳を握ってこう言った。

 

 《キメてよ!"未来のヒーロー"、でしょ?》

 

 ヒーロー―――――そう言われると僕は―――――

 

 『OK!』

 

 ……割と弱い。

 ピースのアドバイスに頷いて、僕は右腕に張り付いた銃の数々を、電調の皆さんがいる方向に滑らせた。

 再度、右腕を天に掲げる。その名と同じピースサインを形作って、"悪人共"を見据えて呟く。

 

(ショウ) (ライ)

 

 瞬間、黄金色の雷光が天から降り注ぎ、僕の全身を激烈な衝撃と電流が駆け巡る。

 この感覚はさながら―――――『龍』だ。

 そして、左手もピースサインに変えると、指と指の間にスパークが走り、増幅して荒れ狂う。

 今、悪を貫き希望を照らす雷撃を、解き放つ―――――!!

 

(ライ) (メイ) (セン) (コウ)

 

"凱 龍 電 雷 巴(ピースサンダァァァァァ)"!!!!!!

 

 目の前にかざした2つのピースサインから、凄まじい雷撃が放たれ、並み居る"戦闘員"が瞬く間に消し飛ぶ。

 ……自分で使っておいてなんだけど、すごい威力だ……

 

 『バ、バグ……!!』

 

 残るは最後方にいた1体。しかし最後のひとりになろうとも、コイツは闘志を失っていないようで、技の後の隙をついたのか、一直線に突撃してくる。

 

 『まだ挑むか……ならば!』

 

 僕はその覚悟に―――――最強の技を以って応える!!

 

 『とぉッ!!』

 

 僕は前方に宙返りしながらジャンプし、エネルギーを右脚に集中した。雷の力がスパークし、右脚が黄金色の輝きを纏っていく。

 その勢いのままの、10万ワットの超高圧電流を帯びた、仮面ライダーストロンガーの切り札、その名は―――――!!

 

 

ストロンガァァァァ!電!!キィィィィックッッ!!!!

 

 触発され、空気中に放電された電流が、空間を眩い黄金色に染め上げる―――――

 "戦闘員"の真正面にキックがヒットし、戦闘員は仰け反り吹っ飛び、叩き込まれた高圧電流が全身から火花を上げて放電した刹那、炎を噴き上げ、大爆発した。

 同時に、乾いた音が響いて、天井や入口ドアのガラスが、一枚たりとも残すことなく粉砕されるのが見えた……。

 

 『《《……あ( ゚Д゚)( ゚Д゚)( ゚Д゚)》》』

 

 ……僕もデータもピースも、かなり昂ってしまっていた。

 冷静に考えてみれば、"戦闘員"ひとりに、全力の必殺技を叩き込むことも無かったろうに……

 

 「……若いねェ」

 

 梅澤さんが静かに笑みを浮かべるのが見えた。

 確かに僕は―――――まだまだ"未熟"なようだ。

 

 ……SAVE POINT




 キャラクター紹介

 梅澤 十三

 内閣電脳調査室実行部隊・梅澤班の主任調査員。54歳。
 オリンピックへの出場経験もある元射撃選手であり、その腕前から電調にスカウトされた。
 電調の中でもかなりの古株であり、上層部へも顔が利く。
 そのダンディな性格から班員たち全員に慕われており、班員以外にも彼を慕う者は多い。
 表向きでは射撃選手のコーチも行っていて、佐藤とは彼が高校時代にコーチをしていたころからの縁。そのため佐藤は別チームながら、彼の直弟子とも云える存在。
 ちなみに未婚。仕事上、女性に縁が無かったと彼は語るが……。

 ――――――――――

 いやぁ、ネタを詰め込んでいたら文字数が増えてしまって……(^^;)
 次回で第11話は完結となります!今年中に投稿出来たら……いいなぁ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五誓一丸

 キャラクター紹介

 長谷川 晴海

 内閣電脳調査室実行部隊・長谷川班の主任調査員。21歳。
 さる海外の有名大学を16歳で卒業し、電調へとスカウトされた男。
 『文武両道』を地で行く男で、電調でも十指に入る戦闘能力と明晰な頭脳を併せ持つ"天才"。
 性格も沈着冷静で、淡々と任務を遂行する。ワイヤー付きの特殊合金製ナイフを使った近接戦闘を得意としており、潜入任務にも実力を発揮する。
 その頭脳から、かつてはDr.Gの正体ではないかと噂になったこともあるが、彼は否定している。

 ――――――――――

 先日、『平成ジェネレーションズFINAL』を見てきました!
 いやぁ、近年稀に見る『神映画』でした!!
 特にラストシーンのアンクの表情で思わず涙してしまいました……
 まだ見ていない方はぜひ劇場で、この感動を味わってください!!

 さて今回は―――――
 いろいろありすぎて大増量、その字数、なんと2万7千字超!!
 次回以降につながる重要な要素をまとめて詰め込んだ結果こうなってしまいました……
 動画サイト的に言えば『ネタが多すぎてタグに困る』といったところでしょうか……

 今年最後の大増量!!電調VSジャークウェブの決着と、新たなる謎を送信……!!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 『バキューン❤!バキューン❤❤!!バキューン❤❤❤!!!』

 

 ルージュ部分を器用に動かして、バグッチャーが私を狙って連続でビームを放つ。このバグッチャー、今まで戦ったバグッチャーよりもケタ違いに大きいけど、意外に素早い!

 

 『イツデモマエムキ!マエヲムイテアルキツヅケルコト!』

 『……また!』

 

 『5つの誓い』のひとつ、『プリキュアたる者、いつも前を向いて歩き続けること』―――――

 でも―――――!

 

 『その誓いは、そんな乱暴なモノじゃない!』

 『ウルサイウルサイウルサ~~~~イ!!!!!』

 

 バグッチャーはそうわめくと、ジャンプして私の上から躍りかかった。

 単調な攻撃―――――私は跳び退きながら、両手にイーネルギーを集中する。

 

 『そんな、『前にあるモノを全部壊していく』ようなことッ……!』

 

 牽制に、私は2発の光弾を撃った。バグッチャーにまっすぐ向かって行ったけど―――――

 

 『アイスルコトハ、マモリアウコト!』

 

 そう叫んだバグッチャーは、胴体から生えている腕で、周りにいるザコッチャーをがしりと掴んだと思うと、光弾の『矢面』にかざした。

 光弾が着弾して、爆発とともに、ザコッチャーが消滅するのを見た。

 このバグッチャー―――――ザコッチャーを盾にした……!

 

 『!……』

 《ヒドい!》

 

 私は思わず息をのみ、メモリアが悲痛な表情で叫んだ。

 相手は『敵』だけど、それでも、盾にされたザコッチャーが哀れすぎる。こんなのが『守りあうこと』だなんて、曲解もいいところ……!

 

 『ククククッ!勝つためには手段を選ばんかッ!!()いぞッ!それで佳いッッ!!我等ジャークウェ()が求むるは『勝利』ッ!!如何なる犠牲も厭わぬ『圧倒的』ッ、且つ『最終的』な『勝利』であァるッッ!!』

 『!……そんな風に、誰かを、何かを平然と犠牲にして勝ったって……目的を果たしたって、そんなの―――――』

 『『過程』に頓着するなどッ、愚劣の思考にして『結果』に到達出来ぬ惰弱(だじゃく)の詭弁ッ!!『結果』こそが全てッ!『勝利』こそが全てッッ!!!我等が"尖兵"はワルイネルギーが尽きぬ限り幾らでも量産可能なのだッ!!そしてェッ!小官は『上官』でありッ、"尖兵"は『下士官』ッ!下士官が上官の命令を遺漏無く遂行するは、軍においては至極当然ッ!生殺与奪は小官が手の中ッ!!敵軍の士官である貴官にッ、我が軍の兵法兵站に意見具申する権限は無ァいッッ!!』

 『……っ……!』

 

 つまりは『何をしようがお前等には関係ない』って言いたいんだろうけど……

 目の前の『理不尽』、それを見て見ぬふりするなんて、そんなことできない……!

 

 「憎たらしいが……正論だな」

 『……オジサン……!?』

 

 私の後ろから、オジサンが淡々と言う。

 

 「上司の命令を聞くのが部下の基本的な務め……それが大人の―――――『会社』ってヤツのルールだ。『会社』という巨大な『装置』を動かすために、人間は『歯車』に徹しなきゃならねぇ……自分勝手に"歪んだ"り、"欠けた"りした『歯車』が幾つか雑じってるだけで、会社は立ち行かなくなる―――――」

 『それを認めろっていうの!?』

 「―――――でなけりゃ、『社会』はとっくに壊れてるさ―――――まだ子供のお前達には、理解するには苦しいかもしれんがな。だが、認めなきゃならねぇ時が……『大人にならなきゃいけない時』は必ず来るのさ……その時(ようや)く自覚出来んだよ……『自分がガキだった』って……『イキがってた』ってな……」

 『だから……だからって、こんな理不尽が許されていいはず、ない!』

 

 

 ―――――その通りだ!!

 

 

 あたりに響くこの声―――――

 私は思わず空を見上げた。

 

"胡 蝶 華 麗 弾(レモネードフラァァァァァッシュ)"!!!!

 

 黄金色に光り輝く無数の蝶が羽ばたき、バグッチャーに襲い掛かり、連続で爆裂する。

 

 『グガガガガガガガガガガ!?!?』

 

 そして私の隣に降り立った、黄金色のシルエット―――――

 

 『お待たせ、メモリアル!』

 『デーティア……!』

 

 その髪型とコスチューム―――――

 "キュアデーティア・レモネードスタイル"だ!

 それにさっき、レモネードフラッシュを使ってたよね!?『プリキュア講義』の成果が出てるみたい!とりあえず、助け出したプリキュアたちのことから先に教えてあげたのは正解だった感じかな……?

 

 『話は聞いてたよ……僕にとっても不愉快だった……『近くにいたお前が悪い』って理由で盾にされるなんてたまったもんじゃないからね……!』

 

 デーティアは立ち上がって、光に包まれて元の姿に戻ると、私にふっと笑いかけてきた。

 

 『だから、見せてやろうよ……!どんな理不尽にも、『正しい心を持った力』は、絶対に負けないコトをさ!』

 

 そう―――――

 どんなに正論を並べ立てたって、口で理屈を言っていたって―――――

 こいつらの―――――ジャークウェブがやってることは―――――『悪いコト』なんだから。

 

 『"プリキュア5つの誓い"……さっき、僕も聞いたよ』

 『え??』

 

 ……どういうこと?

 さっきまでここにいなかったデーティアが、どーして"プリキュア5つの誓い"のコトを知ってるの?

 

 『仕組みはわからないけど……ある程度離れてても、僕達ふたりの間なら、ある程度の意志疎通ができるみたいなんだ。前に浜辺で戦った時……僕の言葉、ハッキリと聞こえてなかったように見えたけど……キミが『わかってくれた』から、もしかして……と思ってね』

 『あ……!』

 

 思い出した!

 確か、4体のバグッチャーを相手にするために二手に分かれた時、デーティアが言った言葉。実のところ、ドップラー効果みたいな感じになって、『耳では』ハッキリと聞こえてなかった。

 でも、ほとんど同時に、私の脳裏に流れた声は、間違いなく覚えてる。

 

 (こっちの2体は僕が!キミはそっちをっ!!)

 

 コレって、双方向通信……のようなモノかも。最近のバトル系アニメや漫画でよく見るようになった『念話』のようなモノってことなら、便利この上ない……!

 でも、今までのプリキュアで、こんな能力(チカラ)が使えたプリキュアっていなかったハズ。どうして私達だけ……?

 

 『戦う者……『戦士』の"誓い"を、戦いの手段"そのもの"の方便にするなんて、誓った人間に対する冒涜だ……!!』

 

 スパムソンを睨み上げながら、デーティアが叫ぶ。

 

 『フンッ!妄言をッ!!"誓い"とは即ち勝利の鉄則ッ!!我々の御大将カ()ザランチュラに捧ぐッ、それのみよッ!!』

 『"託した者"の心を知らずに、"誓い"を語るなッ!!……見せてやる、"正義の誓い"を!!!』

 

 デーティアは相当頭にキてるみたい。普段の"男の子"らしい語気で叫ぶと、一足飛びに間合いを詰める。

 そして、右の拳を握り締め―――――

 

一つ、腹ペコのまま学校に行かぬこと

 

 まるでスポーツの大会の選手宣誓のように高らかに叫んだデーティアは、バグッチャーの"台車部分"の真正面に、イーネルギーをまとったパンチを打ち込んだ。直前、スパムソンが飛び退くのが見えたと思うと、10メートルを超える巨体のバグッチャーが、ワイヤーアクションのように吹っ飛んでいた。

 

 『な……ッ!?』

 

 瞠目するスパムソン。着地したデーティアが言い放つ。

 

 『今の一撃、あの巨体なら容易に捌けるハズだよ。……朝ごはん、食べたの?』

 『朝食ゥッ!?何を口走ると思えばッ、そのような些末をッ……我等ジャー()ウェブの屈強なる兵卒たる者ッ、たかが食事の一度や二度ッ、抜いたくらいで倒れる軟弱に非ずッ!!常在戦場ッ、食事が摂れるだけでも僥倖と思わんとなッ!!』

 『甘ァいッ!!』

 

 デーティアはびしっ!とスパムソンを指差し、一喝した。

 

 『朝ごはんは、一日のコンディションを決める大事なエネルギー源!胃袋が空っぽのままじゃ、勉強にも身が入らない!戦いだって同じだ!"腹が減っては戦が出来ぬ"!!朝食を制する者は、文武両道を制するんだ!!』

 『生意気ィッ!将軍たる小官に対して訓示のつもりかァッ!?』

 

 デーティアはそれには答えず、大ジャンプでバグッチャーの上を取った。バグッチャーはデーティアを視線で追ったけど、途中で何かに怯んだように、その単眼をぎゅっとつむった。瞬間―――――

 

二つ、天気の良い日に布団を干すこと

 

 思い切り振りかぶっての、脳天へのチョップ振り下ろし!怯んだバグッチャーが、打ち込まれた場所を両手で押さえながら、1歩、2歩、そして3歩と後ずさる。

 

 『何だッ!?……何の光ィッ!?』

 

 見ると、デーティアは『ドヤ顔』だった。そして、目の前に伸びている長い影―――――

 陽がだいぶ傾き、太陽の輝きが西から差し込んでいた。

 

 『太陽の力さ。この光と熱、優しい匂いと暖かさ……僕達人間だけじゃない、地球に暮らすたくさんの生き物たちを照らしてくれる大きな力なんだ!』

 

 つまり、沈みかけてる太陽の光―――――『西日』を利用して、相手の目を眩ませたってことかぁ……

 でも、どーしておふとん?……そりゃまぁ、よく晴れた日におふとんを干せば、すっごく気持ちよく眠れるのはナットクだけど。

 

 『単なる眩惑戦法に聊か大仰ッ!!バグッ()ーッ、怯まず進撃せよッ!!』

 

 バグッチャーはラブキッスルージュの部分をぶんぶんと左右に振って体勢を立て直すと、デーティアに一直線に、足音を響かせながら突撃する。

 

三つ、道を歩く時は―――――

 

 デーティアは今度は後ろへとムーンサルトのように大きくジャンプした。そこに、4台の黒塗りのクルマが、デーティアの後ろから走ってきた。デーティアの横を走り抜けた車の運転席から、スーツ姿の男の人が素早く飛び出し、残った無人のクルマが、次々にバグッチャーの足元に衝突して、炎を噴き上げ爆発する。それを見て取ったデーティアが呟くのが聞こえた。

 

―――――車に気をつけること

 

 『注意一秒、怪我一生……まずは身近な危険にこそ、油断せず、気を配らなければね……。車だって見方を変えれば、人の命を奪う"怪獣"になる……!』

 『む、無人在来線爆弾……ッ!?』

 

 私は思わず、前にテレビのロードショーで見た『シン・ゴジラ』のコレを思い出した。『ヤシオリ作戦』でゴジラの足元にツッコんでいった珍奇極まりない、でもって物スゴく現実的な兵器―――――

 でも、デーティアの言ってることは理に適ってる。ジャークウェブが出てきた今はともかく、普段、平和な日本で怪獣や宇宙人に襲われる、なんて機会はまずありえなかったろう。となると、一番身近で、命を奪いかねないものといえば―――――クルマしかない。

 

 『その特攻精神には敬意を表するがッ、人間共の持つファイアーパワーを幾ら()グッチャーにぶつけたところで無力ッ!!』

 『―――――それはどうかな?』

 

 デーティアの言葉通りに、煙と炎を噴き上げる車から、バグッチャーは2歩ほどよろめいた。

 

 『質量と衝撃は確かな威力……簡単には捌けないからね』

 『くッ……!!』

 『勝機は見えたぞ、スパムソンッ!!』

 

 デーティアは立ち上がって、バグッチャーのミサイル部分目掛けて、まっすぐに飛び上がった。

 その時、バグッチャーが周囲にいたザコッチャーを掴んだ。

 

 『マモリアウコト!』

 

 また盾にする気だ!でも、デーティアはひるむことなくそのまま突っ込んで、両手にイーネルギーを纏わせて、チョップで素早く、バグッチャーの両手首を斬り落とした。それも、ザコッチャーにはかすり傷すら加えずに。

 

四つ、他人の力を頼りにしないこと

 

 『ほぅッ……!貴官も孤高の(つわもの)かッ!その通りだッ!!他者は所詮他者ッ!!最後に信じるは小官のみよッ!!』

 『勘違いするなッ!!』

 

 デーティアはまっすぐにスパムソンを見据える。

 

 『初めから誰かに頼りっぱなしの他力本願で、コトを成し遂げられると思うな!ましてや他人を利用して、何も思わない奴が孤高を語るなッ!!まず自分を信じて、信じ抜いて、ギリギリまでがんばって、ふんばって、どうにもこうにもならない、そんな時にこそ、本当の仲間が……ヒーローが助けてくれるんだ!『"最後"に信じられるのが自分だけ』じゃない……『"最初"に信じられるのが自分だけ』なんだ!!ひとりぼっちは『出発点』、最後に辿り着く『終極』であってはならないんだ!!』

 

 これって、一部のプリキュアにもあてはまる気がする。

 初代のふたりとか、最初から『ふたり』のプリキュアもいるけど、最初は『ひとり』から始まるプリキュアの方が圧倒的に多い。

 そして、仲間や友達を増やしていって、最後にはその『絆』で世界を救う―――――

 最後にたどり着くのは、『みんなで分かち合う平和の喜び』。それも、『ひとり』から始まった大いなる『伝説』なんだ―――――

 

 『そしてこれが、最後の誓いだ―――――』

 

 ッ……!?

 私は目を疑う光景を目にした。

 

 デーティアはバグッチャーを視線に捉えて放さないまま、すっと屈んで、両脚のブーツをニーソごと脱いだ!?

 そ、その、いいの!?プリキュアだよ!?私が今まで見た限り、変身してからコスチュームの一部を脱いじゃったプリキュアっていなかったハズだよね!?

 地の文でツッコんでる間に、デーティアは脱いだブーツとニーソをそっと置いて、屈伸運動と伸脚運動をこなして、軽くその場で3回ほど軽快に飛び跳ねて、力強くバグッチャーを睨み上げた。

 

五つ―――――

 

 裸足のデーティアは駆け出し、『とぉッ!!』と、バグッチャーの遥か上まで大ジャンプして―――――

 

土の上を裸足で走り回って遊ぶこと

 

 空中で縦に横にと回転とひねりを加え、勢いのまま、バグッチャーの頭、ちょうど車の運転席部分へと右足で蹴り込んだ!それでも勢いは止まることなく、そのまま30メートルほど引きずって、ビルの外壁に衝突してようやく止まった。

 バグッチャーは目を『×』にして、その場にへたり込んだ。しゅた!と着地したデーティアの横に、私は駆け寄る。

 

 『何故だッ!?何故裸足の飛び蹴り如きにッ、我がバグッチャーが圧されるのだッ!?』

 『……プリキュア以前に』

 

 デーティアは自信に満ちた表情(カオ)で、スパムソンに答えた。

 

 『鍛錬で培った成果は嘘をつかない。さっきの足刀は、純粋な僕の修行の賜物……プリキュアの力を敢えてセーブするために、靴も脱がせてもらった』

 

 その言葉に、私はちらりと私が今履いてるブーツを見た。確か足の裏、土踏まずの部分に、大ジャンプする時に使うイーネルギーの噴射口がある。これもまた、他のプリキュアには無い、『ちょっと変わったトコロ』。

 それだけじゃない。腰回りやブーツ、グローブの付け根にも、イーネルギーの噴射口がある。そもそもココに、どーやってイーネルギーが回ってきてるのか、未だにナゾだ。

 

 『ぬゥゥゥ……ッ!貴官が先程から口走る標語の如きその語句ッ、一体何だと云うのだッ!?』

 

 うん、それ私も気になってる。高らかにデーティアが叫んだそれは、まるで"プリキュア5つの誓い"のよう。

 ニーソとブーツを履き直して、デーティアは勝気に笑んで、こう答えた。

 

 『……51人のプリキュアの中で唯一、"光の巨人"と同じ名前を持つプリキュア―――――『エース()』に捧げる"誓い"さ。かつて、"帰ってきたウルトラマン"こと、ウルトラマンジャック……郷秀樹さんが地球を去る時、坂田次郎くんに……否、この世界でウルトラマンに……ヒーローに憧れる、全ての子どもたちへと残した至言……その名も―――――!』

 

―――――ウルトラ5つの誓い―――――

 

 『な!?なんですとーーーー!?!?!』

 

 ……正直、素でオドロきました……ッ!

 プリキュアのルーツのひとつ―――――ある意味、プリキュアの『大先輩』であるウルトラマンが、こんなお言葉を残していたなんて……! 

 それにしちゃ、プリキュア5つの誓いと比べたら、具体的で実行しやすいコトばかり。スパムソンに同意するわけじゃないけど、『誓い』というよりは、おじいちゃんやおばあちゃん、それか学校の先生の、小さな子ども達への戒めのような、そんな感じ。

 

 『"誓い"とは、ヒトを"縛る"モノに非ず!ましてや、他者を傷つけ、踏み台にして、保身に走る言い訳にするなど言語道断ッ!!』

 『ならば何だと云うのだッ!?』

 『……"願い"だッ!!』

 

 デーティアは、堂々と言い切った。

 

 『"願い"ッ……だとッ!?』

 『そうだ!先を往く者が、いずれ自分を目指し、後に続き、同じ道を歩んでくる者に、惑わされ、悩み迷うことのないように、言葉として残す道標、それが"誓い"なんだ!』

 

 そっか―――――

 キュアエースも、『壁』にぶち当たっていたキュアハートたち4人に"5つの誓い"の言葉を授けて、高みへと導いていた。結果、4人は新たなるステージに進んで、それはやがて、キングジコチューを打ち倒す力になった。

 エースに……ううん、彼女に宿っていたアン王女の"願い"―――――それが、言葉としてエースの口をついて出ていたモノだったのだとしたら―――――

 

 『フンッ!!そのような"妄想"に何の力があると云うッ!?そのようなモノが、()グッチャーを倒せるものかッ!!』

 

 スパムソンの怒声と同時にバグッチャーが体勢を立て直して、ルージュ部分の側面を開いて、連続でビームを発射する。

 その攻撃を、私とデーティアは素早く左右に跳んで躱す。

 

 『確かに、"誓い"そのものに、相手を倒したり、自分や誰かを守ったりする力があるわけじゃない……それに、"誓い"をきっちり守ったところで、本当にウルトラマンやヒーローになれるなんて保証もないさ……でも!』

 

 巻き起こる爆発の中を、私とデーティアは一直線に駆け抜ける。

 

 『ウルトラマンジャックやキュアエースの"誓い"を聞いた僕とメモリアルが、お前たちジャークウェブと戦っているこの『今』が!"誓い"が決して無駄じゃないこと、その証明だ!!"誓い"は確かに、僕達の心の中に息()いて、戦う僕達を後押ししてくれている!』

 『デーティア……』

 

 プリキュアの誓いと、ウルトラマンの誓い。

 女の子の誓いと、男の子の誓い。

 ふたつの誓いは、かつて別々のヒロインとヒーローが、別々の子どもたちに向けて送ったメッセージ。

 こうであってほしいという、ささやかな"願い"。

 強く、優しく、たくましく成長してほしいという、確かな"祈り"。

 

 私はキュアエースから、デーティアはウルトラマンジャックから、確かにその願いと祈りを、託されたんだ。

 違っているようで、その根本は同じ、『メッセージ』を。

 

 そう―――――これは、メモリアル()とデーティアだから―――――

 『東堂りんく(女の子)』と『八手ほくと(男の子)』だから並び立つことができる、ひとつの―――――

 

 

 

 奇跡

 

 

 

 『私……"プリキュア5つの誓い"、あんまし守れてないかもしれないけど……でもね、こうありたい、なりたいって、出来る限りがんばって……『前向き』に、『誰かに優しく』して、『お互いに守り合って』、『自分を信じて、後悔しない』ように、心掛けてきたんだよ?……今、本当に私はプリキュアになれたけど、まだまだ見習いだし……『一流のレディ』なんて、程遠いし……でも―――――』

 

 私は、胸のイーネドライブにそっと手を当てた。心の中のメモリアが、笑ってるのがわかる。

 メモリアも同じなんだね。エースの"5つの誓い"を、心に刻んでいたのは―――――

 "エースバグッチャー"を見据えて、私は確かな決意とともに宣言した。

 

 『あなたがくれた誓いの言葉で……私は……ううん、私とメモリアは強くなれたの!あなたがくれた『愛の力』が、もっと遠くまで、もっと高くまで、私達を動かしてくれる!たとえ暗闇に不安が揺れ動いたとしても、正義は絶対揺らぎはしない!あなたを取り戻すことで、それを証明して見せるから!!』

 

 見ててね、亜久里ちゃん―――――

 あなたの"誓い"をこの胸に、私たちは戦う!!

 

 

 ――――――――――

 

 NPC MITSUAKI MASUKO

 

 ――――――――――

 

 「理想論言ってくれる……」 

 

 俺の目の前で繰り広げられる、超常の世界が現出したとしか思えない戦いと、その合間に差し挟まれる論闘。

 "P1"と"P2"が言ってることはまさしく空想、子供の理屈。現実味も根拠もへったくれもない。

 対して、"敵性C-ORG"の言葉の殆どに、癪に触りこそすれ納得が行ってしまうのは何故なんだ?

 ―――――いや、考えるまでもない。理由は至極単純だ。

 

 ―――――俺が『大人になっちまった』からなんだ。

 

 昨日、俺がこの"プリキュア"達と初めて会った時に感じた苛立ちの正体こそ、これだ。

 俺は理論を言っている。正しいルールを言っている。モノの道理を説いている。

 普通の子供なら、大人が正しい事を言って聞かせてやれば、大抵の場合納得する。その時点で納得しなくとも、じきに『嫌でもわかる』。

 しかしこいつ等は、それを頑なに認めようとせず、駄々を捏ねて突っ撥ねる。それでいて、『突っ撥ねられて、無理を通せてしまう』ほどの力と、得体の知れない説得力を、こいつ等は持っちまってるんだ。それが、この上なく不愉快だったのかもしれない―――――

 俺がかつて、『大人の身勝手』ってヤツに屈服しちまった、そんな過去から来る(ひが)みも混じっていたのか―――――

 

 《でも、それがいいんですよね♪》

 

 耳元の通信機から、井野の声が響いた。

 

 《"プリキュア"のキモって、ソコなんですよ。ほら、大人の世界―――――つまり『社会』って、いろいろ小難しいんですよ。いろいろ考えなきゃなんないですし》

 「……当然だろ。いつまでもガキじゃいらんねぇんだよ」

 《"プリキュア"シリーズに出てくる悪役って……"それ"を突き付けてくるんですよ。どうせ頑張っても無駄だ、夢は叶わない、未来は明るくない、現実を見ろ、絶望しろ、って》

 「なるほどな。実に"教育的"だ」

 《そんな悪役に、プリキュアたちが……子供達が勝てる理由って、何だと思います?》

 

 その問いに俺は答えられなかった。「いや……」としか返せなかった俺に、井野はこう言った。

 

 

 《『()()()()()』ですよ》

 

 

 「……!」

 

 《元々、子供向けのアニメです。将来こうなりたい、ああなりたいって夢を持ってる子供たちに、幼い時から『大人の現実』を突きつけること―――――それって、子供の夢を奪うコト―――――つまりは『悪』です。だからこそ、そんなコトを突き付けてくる『大人の世界そのもの』を、プリキュアでは『悪役』に仕立てたんです。そして、夢を持った、理想を持った子供達の写し身であるプリキュアたちが、そんな『理屈』を吹っ飛ばして、笑顔で勝つ―――――『大人の理屈に子供の理屈が勝つ』……それが、プリキュアの痛快感(カタルシス)であり、大の大人がプリキュアにハマっちゃう理由なんですよ♪》

 

 そんな目線でコイツはアニメを見ていたのか。正直、俺は井野を『ただのオタク』としか見ていなかったが―――――

 井野の語る『プリキュア論』は、今の俺の心に、深々と突き刺さるようだった。

 

 《仮面ライダーカブト……天道総司さんのおばあちゃんも言ってました!『子供の願い事は未来の現実。それを夢と(わら)う大人はもはや人間では無い。』って♪》

 

 ―――――そうかも、知れないな。穢れを知らない子供には、汚れ(まみ)れの大人の世界は見せられん。でなけりゃ、『R指定』なんてモンはこの世にあるまい。

 確かにそうかもな。現にあそこでふんぞり返っている"敵性C-ORG"は、次々と"プリキュア"に現実論を語って、"プリキュア"の言葉を『妄言』と嗤う、まさしく『人間では無い』奴だ。

 それを覆して、見返して、一泡吹かせてやるには―――――その『妄言』が持つ力とやらで、屈服させるほか手段は無いだろう。

 そして、それを行使できるほどの力を持つモノ―――――それは―――――

 

 「"プリキュア"―――――か」

 

 今、俺達の力の及ばぬ相手と戦う、2人の少女。

 未知の生命体と融合を果たして、人の殻を破り進化した、先駆者たる存在。

 あの2人に、すべてを委ねるしか無い―――――

 

 「………………ッ……」

 

 ―――――とでも言うと思ったか、クソッタレが……!!

 そもそもあの"敵性C-ORG"がここを襲撃した理由の一つは、俺への意趣返しだ。これでもちっとは責任感じてんだよ……!!

 "P1"と"P2"……いや、"プリキュア"……!

 俺達は確かに連中に対してはほとんど無力で、好き勝手に蹴散らされるに等しい存在かも知れない……

 だがな、そんな俺達にだって、『電調』のメンバーっていうプライドやメンツってモンがあんだよ……!!

 それにな―――――

 『上司が部下を使い捨てにして当然』なんざのたまうヤツにデカい顔させんのも癪に障る……!パワハラ前提のブラック上司かよ、テメェは!!

 プリキュア!トドメは譲ってやる!!だからせめて―――――

 この銃の中に残った最後の"AXV弾"―――――

 あのデカブツにブチ込ませろや―――――!!

 

 『気づかぬとでも思ったかッ、()スコ・ミツア()ッッ!!』

 

 拳銃を構えた次の一瞬―――――"敵性C-ORG"の義手の前腕に発火炎(マズルフラッシュ)を見た。

 喧騒の中、タァン、という乾いた裂音が、厭な響きを以って俺の鼓膜を震わせる。

 右の上腕が焼け付くほどに痛み、視界を赤黒い液体が横切っていった。

 

 「し、主任ィィィィィィィン!!!!」

 

 絶叫する佐藤。仰け反ってブッ倒れた俺に、駆け寄るのが見えた。

 そして、吐き捨てるようにヤツが言う―――――

 

 『そこで寝ていろッ。貴官への意趣返しなど後でも出来るッ』

 

 ……ナメたことを言ってくれるなァッ……!!

 どこまで人間見下してやがんだプログラムの分際で!!!

 

 「主任……は、早く応急処置を……誰か、医療担当は―――――」

 「いい!!」

 

 この時の俺は怒りで痛みがトんでいた。どっちにしろ右腕が使い物にならないのは即座に判断して、拳銃を左手で握り直した。

 

 「子供向けのアニメにこんなモンで割り込むにゃ無粋だがなッ……!この一発はよォッ……!これは俺の……いや、人間の……大人の意地ってヤツだ……!!」

 

 震える左腕を"デカブツ"に向け、俺は鉄爪(トリガー)を引いた。

 

大人(現実)、ナメんなァァァァァァァァッッ!!!!

 

 叫び終わったそこで、俺は瞠目していた。

 

 

 

 

 ―――――外した

 

 

 

 

 "デカブツ"の先端部から、僅かに左上に射線がずれたのが、"手応え"で理解できた。

 

 ……だよな。

 

 目の前の連中は、いわば"現出したアニメーション"。こんな黒光りする物騒なモノが、『通用していい』相手じゃないんだよな―――――

 俺とあの連中の間には、見えないカベがあるらしい―――――"2次元"と"3次元"のカベってヤツが―――――

 

 だが―――――その時―――――

 

 失意を喰らった俺の視界―――――ずれた"AXV弾"の射線上に、ピンク色の輝きが割り込んだ。

 そしてあろうことか、俺が放った"AXV弾"を、右手で掴んで、空中でくるりと一回転して着地した―――――

 昨日の、あの時と同じように―――――

 

 「お前…………ッ!?」

 

 何を考えているんだ―――――

 お前のその手に掴んだモノは、まだ子供が―――――『夢を持ってる』お前が見るには、早すぎる『現実』だ。

 それを―――――

 

 「どうしようってんだ!?」

 

 その問いに、さも当然とばかりに、"P1"は答えて見せた―――――

 

 『言ったよね?"オジサンの想い、キュアっと受け取った"って……だから、オジサンの『みんなを守りたい』って想い……それが込められたこの弾は、無駄にはできないよ』

 「…………!」

 

 すると、握られた"P1"の右手の中から、ピンク色の光が漏れ出始めた。そして、"デカブツ"をずいと見上げると、右腕を大きく振りかぶった。

 

 『だから―――――全力でぶつける!私の想いも、いっしょにして!!』

 

 ダン!!と、左脚で踏み込み、全力のオーヴァースロー―――――

 

プリキュアッ!ソウルコメットーーーーッッッ!!!!

 

 投げられた"AXV弾"は超常の運動エネルギーを受け、一条の光線と化し、"デカブツ"の巨大口紅を真っ向から貫通し、夕方の黄昏空へと消えていった。

 刹那―――――

 

 『デ……デ……デルルィィィィィトォォォォォ――――――――――!!』

 

 "デカブツ"は4本脚を擱座させ、全身から光が溢れさせ、内部から破裂するように爆発し、光の粒子が周辺へと降り注いできた。

 俺はその光景を―――――茫然として見つめるしかなかった。

 "デカブツ"がいた場所に落ちていた真っ赤なメモリーカードを拾い上げる"P1"に、俺は絞り出すように投げかけた。

 

 「―――――なんでだよ」

 『?……』

 「なんでそこまで―――――"戦える"んだよ」

 

 命を張って、体を張って―――――自分よりも遥かに巨大な敵に―――――

 勝てる保証なんざ一ッ欠片もないヤツに、どうしてそこまで戦えるんだ?

 それに、戦ったところで、給料だの謝礼だの、何の見返りもあるわけじゃないってのに。

 そんな"曖昧なナニカ"に、どうして一つしかない命を懸けられるんだよ―――――

 "P1"は、少し考えるように空へと視線を向けてから、俺にこう笑いかけた。

 

 

 『"そうしたいから"、です!』

 

 

 

 ……!

 

 

 

 ―――――愚問だった、のかもな。

 昨日も言ってたっけか。 

 

 

 ―――――『出来るコト』があって、それを『やりたい』って想い―――――

 

 ―――――『スキをやりたい』って気持ちがあるなら!―――――

 

 ―――――『護れる力』があるなら!!―――――

 

 

 

 ―――――それは大人だって子供だって、同じだよ!!!―――――

 

 

 

 『……オジサンたちにとって、お節介とか、余計なお世話かもしれないけど―――――でも―――――』

 

 "P1"は、満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 『"それ"が、"プリキュア"ですから!』

 

 

 

 「――――――――――…………」

 

 胸の中にガン詰まりになっていたモノが、すべて吹き出るようなため息が、俺の口から出ていった。

 もはや俺は―――――こう言う他無かった。

 

 「―――――……、負け、だ」

 

 もう何も言えねぇわ。少なくとも俺個人の事情や感情やら、持てる全てを尽くしたところで、この"究極のお節介少女"を『曲げる』ことは出来んらしい。

 何よりも、『この件』に入れ込んで、『解決してやろう』って気概が、俺を含めた電調の連中よりも格段に強い。

 『やりたいから』やってるこいつらと、『給料のため、生活のため』にやってる電調(俺達)じゃ、モチベーションも違うのも当たり前だ。

 加えて、"連中"の事情に俺達よりも詳しく、その上"連中"に対抗する手段も完璧なまでに構築済み―――――

 

 …………いいトシした大人がアホらしくなってくる。

 

 …………つまらんプライドや使命感に縛られて、何意地張ってんだか―――――

 

 「俺はもう、とやかく言わんことにする。そっちはそっちで好きにやれ」

 『……!』

 「とっととあいつらブッ倒して、とっととフツーの学生に戻っちまえ。学生は勉強と部活が本分だろ。危ない事はさっさと終わらせるんだな」

 

 それに、―――――言葉には出さなかったが、見てみたくもなった。

 『子供の理屈が大人の理屈に勝つ』―――――そのカタルシスとやらが、果たして現実でも通用するかどうかを。

 まぁ、大人の言ってること、やってることがが全部正しいとは限らんというのは世の理だ。『間違ってる大人』なんざ、この世に腐るほどいる。

 鬱屈した現代の『大人社会』を突き付けてくる"連中"を、この2人の中学生(子供)がブッ潰す―――――なんとも痛快じゃないか。

 

 『……オジサン……』

 「だぁからオジサンはやめろっつってんだろ……俺ゃまだ32だ。……それとだな」

 

 しかしながら、俺は電調の一員として、こうも付け足した。

 

 「俺達電調がこの件を追うのを諦めたわけじゃないぜ。俺以外の連中が、お前たちをどう思ってるかは知らんからな……あぁそうだ、住所氏名年齢中学……それだけはハッキリさせろ。こちとらとしてもお前らが身元不明なのも色々と困るんでな」

 『ぎくっ……!』

 

 視線をそらし、あからさまにしどろもどろしだす"P1"。矢張りバラせない理由があるのか?

 

 『ええと、それわ―――――』

 

 "P1"がそわそわとしだしたその時―――――

 

 『ぬぅぅぅぅぅッッッ!!!またしても()ニキュアにィィィィッッッ!!!』

 

 野太い野郎の怒りの叫びがこだました。

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 オジサンに身元を問い質されてどうしようかと思ったその時、スパムソンが怒声を放った。

 振り返ると、指揮棒を右手に、私とデーティアに向かって身構えるのが見えた。

 

 『こうなればッ!!この小官自らが出陣しッ!!単身にてこの基地を制圧してみせようッ!!』

 

 ま、まさかこのヒト、たったひとりで私とデーティアや、ここにいる100人以上のヒトたちを相手にするつもり!?

 一見無謀だ。でも、仮にもコイツはジャークウェブ四天将のひとり、つまりは『敵幹部』だ。間違いなく、ザコッチャーやバグッチャーよりも、圧倒的に強い。

 幹部相手に、こんな序盤で戦うなんてめったに無かったハズ……勝てるの……?今の私とデーティアで―――――

 

 『往くぞッ!!ぬゥぅぉぉぉぉォォォォォッッッッ―――――!!!』

 

 スパムソンの吶喊が、私達に向けられた、その瞬間だった。

 スパムソンの足元に、赤紫色の光の弾丸が、私から見て左斜め上方向から撃ち込まれ、小さな爆発を起こした。

 私を含めて、その場の誰しもが、光弾が飛んできた方向を見上げると、その先には―――――

 

 『……!?』

 

 私は思わず瞠目し、息を呑んだ。

 別のビルの屋上に、黒をベースに、ところどころにメタリックカラーを配したメカニカルな鎧を着た人物が、こちらに左腕を向けて立っているのを見た。

 ヘルメットの後ろからは、膝上まで届くくらいの長い金色の髪が二房伸びていた。ヘルメットはほとんどフルフェイスだけど、口元だけは見えていた。

 その体つきから、女性……それも、私達と同じくらいの『女の子』だということはわかるけど……

 

 『誰……!?』

 『あからさまに敵だね……ナイトローグにそっくりだ』

 

 デーティア―――――ほくとくんは、バグッチャーや四天将のみなさんを仮面ライダーの悪役に例えることが多いけど、今回も似たような悪役が仮面ライダーにいるみたい。

 でも―――――

 

 『……よくわかんないけど……今までのプリキュアに出てきた幹部でも、誰にも似てない!コワッ!!』

 『フィッシンッ!?四天将の末席である貴官がッ、単独でリアルワール()に出撃してきたというのかッ!?丁度佳いッ、我々でこの基地の制圧をッ―――――』

 

 やっぱり、アイツも四天将ってこと!?

 アラシーザー、ネンチャック、スパムソン、そして―――――フィッシン。

 これで、ジャークウェブ四天将全員が、私達の前に一度は姿を見せたことになる。

 

 『状況は圧倒的に不利だ……どうする……!?』

 

 デーティアが、まるで自分に問うように(ひと)()ちるのが聞こえた。

 確かに……ここで敵幹部ふたりを同時に相手するのは絶対にキケンだ。

 でも、ここにいるオジサンたちを逃がすこともしなきゃいけないし、どうすれば……!?

 

 《PULL OUT》

 

 フィッシンが、()()()()()()()、電子音声のような声でこう言った。

 

 『ッ!?撤退しろと言うのかッ!?冗談ではないッ!!小官は御大将()イザランチュラの御為にッ―――――』

 《FORCE COMMAND:PULL OUT,SPAMSON》

 

 スパムソンは反論したけれど、フィッシンはまたしても人間離れした声で何かを言った。その時、フィッシンの目の部分のバイザーがチカチカと、赤い光を点滅させた。

 

 『!』

 

 瞬間、スパムソンの表情が硬直したように強張って、そして無表情に戻ったと思うと、直立不動でフィッシンに敬礼すると、

 

 『了解。直チニ撤退シマス』

 

 と棒読み口調で言って、闇色の光に包まれてその場から消え去った。辺りにたくさんいたザコッチャーたちも、たちどころに消え去るのを見た。

 

 『どういうこと……??』

 『意味はよく分からないけど……アイツの言葉を聞いた瞬間、スパムソンの様子が変わった……アイツ、ただの敵幹部じゃないかも知れない』

 

 あの『自分が一番エラい』って思ってるカンジのスパムソンに、ああも簡単に言うことを聞かせられちゃうなんて……

 それに、明らかに『自分の声でしゃべってない』のも気になる。口をずーっと閉じたまま、腹話術みたいにしゃべってる。それも、何か英語っぽい言葉を。

 まわりでは黒服の人達が一斉に、ビルの上にいるフィッシンに銃を向けて、警戒するのが見えた。

 しかしフィッシンは全く意に介さず、左腕を曲げて指を揃えて空へと向ける、手術前のお医者さんのようなポーズを取った。片手だけで。

 油断せず、警戒を解かずにフィッシンを見据えていた私は、フィッシンが右手で取り出したモノに衝撃を受けた―――――

 

 『キュアチップ……!!』

 

 ―――――だった。見間違えるもんか、あのカタチ。しかもフィッシンは、右手の指の間に挟むように、5枚ものチップを取り出していた。

 色は―――――ピンク、黄色、青、紫、赤―――――

 現時点で、私達が取り戻せていないプリキュアの中で、あの5枚の組み合わせは―――――ひとつしかない。

 そしてまるで見せびらかすかのように、フィッシンは5枚のチップのラベルをこちらに提示した。

 

 《『プリキュアアラモード』……!!》

 《アイツ……5人()()()かよ……!?どうするつもりだ……!?》

 

 悔しげなメモリアとデータの声。その声を聞いてか聞かずか、フィッシンは5枚のチップを上へと放り投げた。5枚のチップは回転しながら宙を舞うと、引き寄せられるように、フィッシンの左腕に備えられた、金属感バツグンのツールのスロットへと、次々と吸い込まれていった。

 

 《CHIP EXTRACTION."CURE-WHIP","CURE-CUSTARD","CURE-GELATO","CURE-MACARON","CURE-CHOCOLATE"―――――》

 

 暗い電子音声が『プリキュアアラモード』の5人の名前を読み上げていく。そして―――――

 

 《CHAIN IGNITION》

 

 左腕のツールが、5色の輝きにスパークした。するとそのツールから、5枚のチップが次々と、勢い良く排出された。さながら、前にアクション映画で見たアサルトライフルの薬莢のように―――――

 そう―――――まるで―――――

 『もう用済みだ』―――――と、言わんばかりに。

 そしてフィッシンは、左手をグッっと握り込み、天へとその拳を向けた―――――

 

KIRAKIRAKIRARUN FULL-CHARGE

 

 底知れないほど冷たい声で、その『呪文』が唱えられるのを聞いて、私の背筋を悪寒が奔った。

 間違いない―――――これは―――――……!!

 ダメ……ダメだよ……!それを―――――

 

 "それ"を、ヒトに向けたら―――――!!

 

 『みんな!!逃げてぇっ!!!』

 「なに!?」

 『いいから、早く!!デーティアも、みんなを避難させて!!』

 『う、うん!』

 

 やがてフィッシンの左の拳から、5色の光が天空へと放たれた。

 黄金色の泡状のエネルギーが、渦巻く水色のエネルギーと混ざり合って、紫色のエネルギーの円盤がそれを5つに切断する。切断されたエネルギーが、今度は赤いエネルギーに包まれ、さながら太陽のように燃え上がった。

 最後に、ピンクの光が5つの円盤を包み込み、真っ赤な宝石のようなモノが"デコレーション"されて―――――

 

 私達の頭上に降ってきた―――――!!

 

 『!はやく!出来るだけ遠くに!!走ってぇっ!!』

 

 

 ―――――ド!ド!!ド!!!ド!!!!ドン!!!!!

 

 

 さっきまで私とデーティアが立っていた場所に、『5段重ねのデコレーションケーキ』が完成した。

 それを見た私は、いよいよもって切羽詰まって、ただ他の人達を避難させるのに走り回っていた。

 

SWEE()

TWO()

WON()DERFUL

 

 文字通り―――――それは時限爆弾のカウントダウンだった。

 

 『わっ!?』

 『デーティアっ!!』

 

 デーティアが転んで倒れるのを見て、私はデーティアをかばうようにヘッドスライディングで地面にうつぶせになった。そして―――――

 

A LA MODE

 

 閃光が四方八方へと散って、虹色の大爆発が巻き起こった―――――

 

 ――――――――――

 

 NPC  Dr.G

 

 ――――――――――

 

 ワタシがせっせと旅支度を進めていたその時、ワタシのパソコン画面からけたたましい警告音がこだましました。

 まるで、何かの叫びをあげるように―――――

 

 「なにが!?」

 

 ワタシがディスプレイに駆け寄ると、3つある"Cプログラム"のうちの、最後に閉ざされたひとつ―――――

 『No.50 PARFAIT』が、緑色の光を激しく明滅させていたのです。

 

 「"パルフェ"……!?アナタ、ついにナニカを……!?」

 

 ディスプレイに、様々な文字の羅列が書き殴られていきます。よく見ると、フランス語らしき文字が雑じっていますが……

 やがて、意味の解らない単語がディスプレイにびっしりと―――――

 

 KIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARUKIRAKIRARU

 

 「……"KIRAKIRARU"……"キラキラル"……??」

 

 いったい、なんのことやら……??何を言わんとしているのですか、アナタは……???

 でも、最後に書かれたこれだけは、意味の通じるもので―――――

 

 

 

AKIRA

 

YUKARI

 

AOI

 

HIMARI

 

PEKORIN

 

 

PIKARIO

 

 

 

 

 

ICHIKA

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A I TA I

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 鼓膜と背筋を、轟音が震わせる。

 あたりに、色とりどりの星型の光の粒が降り注いでくる。

 これは―――――"キラキラル"……だ。

 『プリアラ』の世界で、プリキュアの力になる、スイーツに込められている不思議なチカラ―――――その結晶。

 さっきフィッシンが放った技で、キラキラルがあたりにばら撒かれたんだ―――――

 

 ―――――何よ、"コレ"。

 

 ―――――何よ"コレ"は……!?

 

 私が心の中で燃やしていたのは、憤りだった。

 今の技は―――――見間違えるもんか。

 『プリキュアアラモード』の5人が、本来はキャンディロッドを使って放つ合体キメ技―――――

 『スイー・ツー・ワンダフル・アラモード』だ。

 本来は、闇の力に囚われた敵やモノを『浄化』するための技。それなのに―――――!

 こんな、ヒトを『傷つける』ための手段にするなんて!

 

 轟音が鳴り止み、私はおそるおそる、"そこ"に目をやった。

 

 『……!!』

 

 その"結果"から―――――今度は、『恐怖』を感じた。

 直径30mほどの巨大なクレーターが、アスファルトの地面に穿たれていたからだ。

 幸い―――――誰もあの爆発には巻き込まれなかったみたいだけど、何よりも怖ろしく感じたのは―――――

 

 『プリキュアの技を"破壊"に使うとこうなる』ことを、生々しく見せつけられたコト―――――

 

 「おい!?アイツはどこだッ!?」

 

 誰かの叫びで私は我に返って、ビルの屋上に視線を移した。さっきまでそこに立っていたはずのフィッシンは、影も形もなく消えていた。

 つまりさっきのは、煙幕かおとり代わりだったってこと……?

 

 『アイツ……キュアチップを……"使った"……!』

 

 デーティアの言葉がすべてだった。

 今までジャークウェブは、キュアチップをバグッチャーの『材料』としてしか使ってこなかった。

 でもフィッシンは違った。私達と同様に、キュアチップを『攻撃手段』として、その力を引き出して使ってきた。

 フィッシンの左腕のあのツール―――――形は違うけど、私達のネットコミューンと同じ、キュアチップの力を使うツールなのかも。

 だとすれば、とんでもない事だ。

 敵が―――――ジャークウェブが、私達『インストール@プリキュア』と同等の力を、手に入れたことになるのだから―――――

 

 《りんく……アイツを……フィッシンを見た時なんだけど……あたし、なんか"ヘンな感じ"がした……》

 《お前もかよ……アタシもだ。なんっつーか……あのチリチリした感じはジャークウェブなんだけどよ……ちょっと"違う"ってゆーか……》

 

 メモリアとデータが、フィッシンへの違和感を次々に口にする。

 

 『どういうことなの?』

 《う゛~ん……ジャークウェブなんだけど、"それっぽくない"ってゆーか……なんだろ、このモヤっとした感じ~~……》

 《だよなぁ~……あ゛~、アレだ、ノドまで出かかってるけどなかなか出てこねぇ的な……》

 『まさか……アイツを知ってるの!?』

 《知ってるよーな……初対面のよーな……クッソ~~、なんなんだコレはよォ!?》

 

 メモリアとデータの感じるもどかしさが、私にも伝わる。

 つまりふたりにとっても、あのフィッシンは『特殊』なんだ。

 今までのジャークウェブ四天将と違った、『何か』を感じるほどの―――――

 

 「君達―――――そこで動かず、大人しくしていてもらおうか」

 

 厳かな男の人の声が辺りに響いて、私の思考は強制終了させられた。

 あたりを見回すと、いつの間にやら私とデーティアは、たくさんの黒服のヒトたちに完全包囲されていた。

 しかもその全員が―――――拳銃を私達に向けていた。

 

 「安心したまえ、すべて麻酔銃だ。もっとも、少し『強力』なものを用意させてもらったがね。しかし、これが何を意味しているかは君達でも理解できよう」

 

 ザッ!と、その声のした方向の黒服のヒトが、一斉に一歩退き、『道』を作った。まるでモーゼの十戒だ。

 その奥から、銀色の髪の、初老のおじいさんが姿を見せた。なんというか―――――

 

 スゴい目つきをしてる……!!

 アレだよ、アレ!……タダモノじゃない系の目!こんなコト言ったらスッゴく失礼だから地の文だけにさせてもらうけど―――――

 

 "何人か殺っちゃってそうなヒト"キターーー(゚∀゚)ーーー!!!!

 

 「自己紹介をしなければならんな。内閣電脳調査室室長……青山雅明だ。はじめまして、と言うべきかな―――――プリキュアの諸君」

 『室長……さん……』

 

 さっきからの声は、このヒトの声みたい。それにしても、ちょっと気を抜いただけで圧し倒されちゃいそうな、モノスゴい気迫……!

 こんな私に反して、デーティアはさすが男の子と言うべきか、室長さんの視線を真っ直ぐに受け止めている。

 こういう時……やっぱり頼りになるなぁ……と思ったのはほんの数秒、私がデーティアの手とヒザに視線を移すまでだった。

 

 ―――――(ふる)えていた。

 

 恐怖を押し殺しているんだ。怖いのは……デーティア―――――ほくとくんも同じなんだ―――――

 そんな中で、絞り出すようにデーティアが問うた。

 

 『どういうことですか』

 「君達は確かに、正体不明のテロリストと戦い、人々を救ってくれた。それは確かに我々としても感謝すべきことだ。だが―――――それだけの驚異的な力を、未成年である君達が持つのは少し問題があるんだ。それにその力に目をつけているのは、何も"連中"だけではないのだよ。君達をそんな奴等から守るためには、身元を明かしてもらい、我々の保護下に入ってもらわねばなるまい」

 

 保護って言ってるけど……それって、こんな風にテッポー突き付けて言うセリフじゃない……

 つまりは―――――私達を捕まえるってこと……!?

 私達、何も悪いコトしてないのに……!?

 

 『そんな……』

 「無論、素直に我々に従ってもらえば、穏便に事を進めさせてもらう。君達を悪いようには決してしない。だが、抵抗すると云うのならば―――――」 

 

 そこから先は、室長さんは何も言わなかった。だって、今の光景を見たら、容易に想像がつくから。

 

 『お、オジサン……』

 

 この時の私は、オジサンにすがるような視線を送っていたに違いない。オジサンは目線を逸らし、小さく言った。

 

 「悪いな……俺も組織の一員だ。上からの命令である以上―――――逆らえん」

 

 そして、オジサンもまた、私に銃口を向けたのだった。

 

 『……!』

 

 デーティアは、私と背中合わせに立った。少しでも、死角を無くすためだろう。

 どうしよう……私達、捕まっちゃうの!?

 プリキュアが逮捕とか補導とか、正直想定外なんですけど……!?

 こんなの、第11話でやるような展開じゃないよ~~!!

 

 

 『念じなさい』

 

 

 ……!?

 気のせいじゃない、誰かの声。

 ふと視線を落とすと、右手に握ったままだった真紅のキュアチップから、光が漏れていた―――――

 

 

 『"空を飛びたい"と―――――心の底から!』

 

 

 キュアエースの―――――亜久里ちゃんの声が―――――きこえる―――――

 

 『……デーティア―――――』

 『―――――うん!』

 

 エースの声に従って、私は―――――私達は、念じた。

 

 

 ―――――空を、飛びたい!

 

 

 すると―――――

 

 《Wi-Fi WING! EXPANSION!!》

 

 電子音声が響くと同時に、首の後ろのうなじのあたりから、ギュイイィィィィィン、という、何かが猛烈に回転するような音がした。

 そして、コスチュームの全体に張り巡らされたLEDファイバーのようなラインが、ひときわ強い光を放った。

 

 「!やむを得んか……発砲を許可する!」

 

 無数の銃声が耳を劈いた。まさか、本当に撃ってくるなんて!

 でも、発射された無数の銃弾は、私達の目の前でぴたりと止まった。

 いや―――――よく見ると、その銃弾は例外なく、先っぽがつぶれたようになって止まっている。つまり、『何か』に押しとどめられたんだ。

 

 『な……なんなの……??』

 《りんく、背中……!背中を見て!》

 

 メモリアに促されて、私は肩越しに背中に目をやる。そこに見たのは―――――

 

 『…………"(はね)"……!?』

 

 私の背中―――――厳密には、うなじにくっついているHDDのようなモノから、光のラインで形作られたピンク色の、妖精のような翅が生えていた…………!?

 ハネが生えるって……『ハピプリ』のコスチュームとかそうだったけど、それとは別の……なんっていうか、SF的な『光の翼』だ。

 

 『メモリアル……もしかして、これって……!?』

 

 デーティアの背中からも、水色の光の翼が生えていた。ちょっとだけ、私のと形が違う。

 

 『うん……!出来るかどうかわからないけど……やってみよう……!!』

 

 ここにいるオジサンや、黒服のヒトたちには申し訳ないんだけど―――――

 私は、室長さんに向き直って、そして―――――

 

 『あの……その、ごめんなさい!お邪魔しちゃって、すみません!……私達、』

 

 深々と頭を下げて―――――

 

 『帰りますっ!!』

 「!?」

 

 室長さんが面食らった表情を浮かべるのが見えた―――――のは一瞬だった。

 私が『翅』に意識を飛ばすと、それこそ一瞬で、景色が『下』へと流れていった。

 10秒もしないうちに、私の視界は夕闇の空―――――雲が同じ高さに見える高度まで―――――

 

 『ふわぁぁ…………!!』

 

 風が、私の全身を撫でるのが、わかる。

 遠くの水平線に、ゆっくりと太陽が沈んでいくところ。

 そしてその反対側からは、まんまるの満月が顔を出す。

 

 空の真ん中で―――――赤と青―――――『昼』と『夜』の境界を見た。

 

 『僕達……本当に飛んでる……プリキュアには、こんな力があるんだ……』

 

 背中合わせのデーティアが、驚きの表情を浮かべながら、辺りの景色を見回している。

 言われてみれば―――――たしかに、こんなに『至れり尽くせり』なプリキュアって、いなかった気がする。

 ビルを跳び越すような大ジャンプ、車よりも速く走れるスピード、大柄な相手も吹っ飛ばせるパンチとキック、思いっきり強く叩きつけられても立ち上がれる頑丈さ―――――

 ここまでは、私がアニメで見てきたプリキュアたちとほとんど同じだけれど―――――

 

 私とデーティア―――――『インストール@プリキュア』は、明かに"違い過ぎてる"―――――

 

 

 ―――――スマホを使わずに別の誰かのスマホにメッセを送れたり、

 

 ―――――キュアネットの中と行き来出来たり、

 

 ―――――無線を傍受出来たり、

 

 ―――――プリキュア同士、テレパシーみたいに会話が出来たり、

 

 ―――――身体一つで空まで飛べたり、

 

 

 ―――――そしてなにより―――――

 

 

 

 ―――――『過去のプリキュアの力を使うことが出来たりする』―――――

 

 

 『私達って……スゴい力をもらっちゃったのかもしれない……』

 『え……?』

 

 思ったことが、自然と口から出ていた。

 そう―――――これは現実。

 私達の使っている力は、政府の人達が警戒してもおかしくないほどの力なんだ。

 

 『―――――逆にそこまでの力を以ってしなくては、ジャークウェブに打ち勝つことは難しいという証左でもあります』

 

 その声に、私は思わず握ったままの右手を見た。慎重に、手のひらが上向きになるようにゆっくりと手を開くと、紅いイーネルギーの粒子をフィルターに立つ、キュアエースの姿があった。

 

 『エース……!』

 『りんく……(ひた)向きに"プリキュア"であろうとする貴女の戦い……見せてもらいました。……存分に誇りなさい♪貴女のココロは、一人前のプリキュアに勝るとも劣らぬ気概を持っています』

 『…………エース……あ、ありがとうございますっ!!』

 

 思わず深々と頭を下げてしまった。こんなお褒めの言葉を戴いて、恐悦至極というか……

 

 『それから、ほくとと仰いまして?』

 『は、はいっ!……あの、ごめんなさい!……僕、一方的に僕の考えを押し付けてしまったみたいで……その、プリキュアのこと、よくわかってなかったばかりに……』

 『いいえ……"ウルトラ5つの誓い"……わたくしもいたく感銘を受けました……あれは貴方が『男の子』でなければ伝えられないコト……わたくしたちプリキュアも忘れかけていた大切なコトを、もう一度思い出せた気がします』

 『そんな……僕はただ、"誓い"を捻じ曲げるあいつらを許せなかっただけで……』

 

 ほくとくんの"ウルトラ5つの誓い"も、エースの心に確かに伝わっていたみたい。

 同じ"5つの誓い"同士、通じるものがあったのかも。

 

 『ねぇ、エース……さっき、『そこまでしなきゃジャークウェブに勝つのは難しい』って言ってたけど、それって……?』

 

 さっきエースが言ってたことが少し引っかかってた。エースは頷いて答える。

 

 『貴女達『インストール@プリキュア』が、『見習い』であるにもかかわらず、様々な能力を持つ理由……それはプログラムクイーンが貴女達を、あらゆる事態に対応できるポテンシャルを持った、ジャークウェブに対する最大のカウンターパワーとしようとしたから……と思われます。貴女達がキュアチップを使えるのも、クイーンは最初から、今のような事態にわたくし達が陥ることを想定していたのかもしれません……』

 《つまりプログラムクイーンは、ジャークウェブがみんなをキュアチップにしちゃうってコトを、最初から知ってて……!?》

 《どういうコトだよ……》

 

 メモリアとデータにとっては信じられないかも知れない。っていうか、そこは私も疑問だった。

 本来ジャークウェブが必要としているキュアチップを、どうして私達『インストール@プリキュア』が使えるのか、ということを。

 

 『クイーンとジャークウェブの首魁……カイザランチュラには、何かしらの因縁があるのかもと、わたくしは考えております……以前、カイザランチュラのことをクイーンにお伺いした時……あの時の物憂げな表情を、わたくしは忘れられなくて―――――』

 『……亜久里ちゃん……』

 

 正義と悪の因縁―――――それは、プリキュアの戦いでは切っても切れない縁。

 愛、友情、絆―――――些細な感情のすれ違いや、ボタンの掛け違い、考えの違いで道を違えて、光と闇に分かれて交錯する。

 キュアエース―――――円亜久里ちゃんほど、数奇な『因縁』に翻弄されたプリキュアはいないだろう。

 彼女は、キングジコチューの実の娘―――――アン王女が二つに分けた『心』―――――"プシュケー"の片割れなのだから。

 『善』と『悪』に分かたれたうちの『善』だからこそ、プログラムクイーンがカイザランチュラに向けている『何か』を、鋭敏に感じ取っているのかもしれない。

 

 『プログラムクイーンの危惧が現実となってしまった今、貴女達だけが頼りです……世界の壁を越えて、"誓い"を受け取った貴女達なら、きっと……。わたくしの期待に、見事応えて見せてくださいね♪』

 

 そう言い残して、エースはチップの中へと消えていった。私は『昼と夜の境界』に、真紅のキュアチップをかざした。

 

 『キュアエース、キュアっと、レスキューーーーーー!!!!』

 

 思いっきり叫んだ。エースの期待に応えなきゃという想いと、これだけの力を与えてくれたクイーンを、絶対に助け出すという、新たな"誓い"を込めて―――――

 

 『ーーーっ…………っと、もうすぐ陽が沈むね……みんなが心配するから、早く帰ろう?』

 『うん―――――……あ』

 『?どうしたの?』

 

 きょとんとする私に、デーティアは顔を青くして言った。

 

 『…………ここ、ドコ…………??』

 

 そーいえば私達、そもそもキュアネット空間を通ってさっきの場所に来たんだから、トーゼンだけど『現在地』がわからないんだった。

 でもねほくとくん、スマホって便利なんですよねぇ~(ドヤ顔)

 この間までガラケー使ってたほくとくんは知らないかもだけど、スマホには便利な地図アプリが入ってるんですよ。

 これを使って、ふたりで大泉に帰ろう。その間、短いけれど空中散歩。

 

 『大丈夫』

 『え……?』

 『大丈夫、だよ♪』

 

 デーティアにそう笑いかけると、ちょっとだけ面食らって、顔を赤くして視線を逸らしたけど―――――

 

 『……うん』

 

 自然と、笑ってくれた。そして、ふたりで『昼と夜の境界』を見つめた。

 

 今こうして感じてる風と、幻想的な光景―――――私がプリキュアにならなかったら―――――

 メモリアに出会わなかったら、感じられなかった風。見られなかった光景。

 そうだ―――――私も、唯一無二のこの光景に"誓おう"。

 メモリアを通して、クイーンから授かったプリキュアの力で、必ず私は……私達はこの世界を守る。

 この、太陽と月のコントラストをつくりだす、ひとつしかないこの地球を―――――

 光の翼に、私達は背負う。

 

 

 ―――――みんなが託した『願い』を。

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 NPC MITSUAKI MASUKO

 

 ――――――――――

 

 「……動ける者は動けぬ者の救護を!……"プリキュア"には追跡班を回せ!」

 

 はるか上空へと飛び上がったプリキュアに、流石の室長も面食らったようだ。

 各所に指示を飛ばしながら本部ビルへと戻る室長の背中を見ながら、俺もホルスターに銃を納めた。

 室長はプリキュアの正体探しに躍起になってる。当然俺も、それは重要だと思う。

 そして、"奴等"に対抗する力も―――――

 

 「主に~ん!!」

 「おう、佐藤……」

 「おう佐藤じゃないッスよ!腕ブチ抜かれてるんスから!!救急車が来てるッス、早く!」

 「わかったわかった……ったく、大ゲサなヤツ……」

 「大ゲサって……バイキン入ったらどーすんスかッ!?」

 

 佐藤は慌てて、俺に肩を貸した。口では俺も強がったが、出血多量で流石の俺も気が飛びそうだ。素直に、佐藤の肩を借りることにした。

 救急車に向けて佐藤と歩きながら、俺は心中で今回の『騒乱』の総括をしていた。

 

 "AXV弾"―――――あれの量産体制が整わない段階で襲撃を受けた電調(俺達)は、結局後手に回っちまって、最終的な始末はプリキュア任せになった。

 だが、AXV弾が量産されて各班に配備されれば、状況は一変する。

 Dr.Gも今回の醜態を黙っちゃいないだろう。AXV弾に続く更なる対策を練る可能性もある。

 

 ―――――さてプリキュア、ここからは競争だ。

 俺達とお前達、どっちが先に"奴等"を倒すかの、な。

 

 それから―――――こっちのほうがDr.Gにとっても重要だと思うが―――――

 

 お前たちがどこの誰なのか……そして、そのアニメじみた力をどこから得たのか―――――

 それもいずれは突き止めさせてもらう。

 

 ―――――そう思ったところで、俺は思わず笑っちまった。

 結局、俺の『真実を求めたがる』性分は、まったく変わっちゃいねぇじゃねぇか。

 それとも、どんな立場になろうとも、『真実を求める』ことを、運命が俺に強いるのか?

 ―――――これも"増子家の呪い"か。

 

 俺はプリキュアが去っていった天を仰いで、小さく呟いた。

 

 

 「待ってな、プリキュア―――――じきに追い付く」

 

 ――――――――――

 

 NPC TIMOTHY FRANCIS

 

 ――――――――――

 

 ウチは最後のシャッターを切って、立ち上がった。

 ビルの上から今までず~っと写真(キリトリ)を撮っとったけど、これまた非現実的やなぁ……

 ほとんど、特撮ヒーロー作品(モン)と変わらへんやないか……

 最近のCGはデキが良すぎるやさかい……どこの新聞社に持ち込んでも、合成写真思われるんがオチかもなぁ……

 

 「アカンなぁ……これホンマ、世ン中出してえぇんかなぁ……?」

 

 写真(キリトリ)いうんは『真実性』がモノを言うから、こんなんアニメもえぇトコやし―――――

 

 「精が出るようですね」

 「!?」

 

 いきなり背後から掛けられた声に、ウチは思わず振り返った。

 そこには、白衣を羽織った、何ともまぶしいスキンヘッドのニイちゃんが、微笑みながら立っとった。

 

 「な、なんや?!イキナリ気配殺して現れおってからに……」

 「いやぁ、あまりにも御仕事熱心な御姿だったもので、声を御掛けするのも(はばか)られたのです。これは失礼を致しました」

 「……ってか、ニイちゃんなんなん?誰やったっけ?」

 

 そう言うと、ニイちゃんはニコリと(わろ)て、何故か合掌して答えた。

 

 「いやですねぇ。昨日、日電研で御会いしたではないですか。東堂博士の助手を務めさせていただいております非常勤研究員の、坂下駆(さかしたかける)です。名刺も御渡しした筈ですが……」

 

 言われて思い出して、あわててポケットの名刺入れから名刺を取り出した。

 

 〈日本電脳工学研究所 東堂研究室 非常勤研究員  坂下 駆〉

 

 「あ……あ~……、せやったなぁ、昨日、名刺交換したのになぁ……アハハ、今日ものゴッツい出来事が起こりすぎてなぁ……記憶までトんでまっとるなぁ」

 「確かに……私達の前で起きた出来事は、あまりにも常識からかけ離れています」

 「せやなぁ。でも、この件をヒミツのままにしとくんはアカンことやと思う。キュアネットから出てきたいう連中、明らかにヤバ過ぎるわ……せやから―――――」

 「秘密の(まま)()いと思いますよ」

 「……!?」

 

 坂下クンの声のトーンが変わった気がした。思わず、ウチは彼に振り返った。

 

 「そら……どーゆー意味や……?」

 「其の儘(そのまま)の意味ですよ。この件は、プリキュアとジャークウェブの戦い……第三者が介入しては、ならないのです」

 「ジャークウェブって……アンタ、どこまでこの事知っとんねん……!?」

 「秘密、です♪……さて、この事を知ってしまった貴女には、口封じをせねば()りませんが……貴女の場合、"これ"が口封じの代わりになるでしょう」

 

 坂下クンは右手で指パッチンをした。すると―――――

 

 ―――――パキッ!!

 

 「な……ッ!?」

 

 ウチの使とるデジカメのSDカードスロットが勝手に開いて、その中から、真っ二つに割れたSDカードがボロリと落ちてきた。

 

 「あ゛~~~!!!今日撮った写真(キリトリ)がぁ…………」

 

 せっかく撮ったメモリアルちゃんとデーティアちゃんの恋人つなぎ写真(キリトリ)もオシャカ!!

 こーなるんやったらスマホで撮っとくんだった……

 いやいや!?―――――ちゃうやろ!?ツッコみどころ!?

 

 「い、今アンタ、何したん!?」

 「……何って、御写真を消させてもらったんですよ。流石に、『いっぺん、寂滅(じゃくめつ)してみます?』とまでは言えませんから」

 「……ミョ~な言い回しやなぁ」

 「済みませんねぇ。私が非常勤なのは、住職を本業としている者でして。御仏の教えを説いていると、どうにも言い回しが難解になってしまうのですよ。檀家さんからも説法が難しすぎると苦情が……」

 「いやいやいや(ちゃ)(ちゃ)う!!アンタさっきどーやってSDカード壊したん!?」

 「う~ん……ちょっとした手品、ですね。……貴女の『雇い主』の方にも御伝え頂けませんか?……『もうプリキュアに関わらないで下さい』……と」

 

 なんなん……このニイちゃんは……!?

 丁寧な物腰の中に、なんや得体の知れへんモンを感じる……

 東堂博士の助手言うたけど……明らかにタダモンやあらへん……!

 

 坂下クンは、静かにビルの屋上の端まで歩くと、沈み行く夕陽を見つめて、静かにこう呟いた―――――

 

 

 

 「……"彼女"が出てきたとなると……急がなくては……!」

 

 

 

 

 ―――――STAGE CLEAR!!

 

 RESULT:CURE CHIP No.26『CURE-PEACE』

     CURE CHIP No.33『CURE-ACE』

 

 プリキュア全員救出まで:あと40人

 

【挿絵表示】

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 『澄みわたる海のプリンセス!』




 ―――――りんくの『今回のプリキュア!』

 りんく「今回のプリキュアはだ〜れだ?」

 『愛の切り札!キュアエース!』

 メモリア「『ドキドキ!プリキュア』のひとり、"紅導(こうどう)のエース"!属性はめらめらの『炎』!」

 りんく「アン王女の『善の心』から生まれた円亜久里ちゃんが変身した、トランプの『(エース)』をモチーフにしたプリキュアだよ!」

 メモリア「そんなエースのキメ技は、コレ!」

 『彩れっ、ラブキッスルージュ!ときめきなさい、エースショット!ばきゅーーーん!!❤』

 メモリア「ラブキッスルージュから撃ち放つ、エースショット!!悪いヤツを浄化するだけじゃなくって、動きを止めたり、いろんなことが出来るんだよ!」

 りんく「ここだけの話……『ドキプリ』の5人の中で一番年下なの、エースって知ってた?」

 メモリア「マヂ!?え?で、でもエースだよ!?一番お姉さんに見えるエースが一番年下!?」

 りんく「亜久里ちゃん、やっぱりサーバー王国のみんなにはバラしてなかったかぁ……まぁ、変身が解けないんじゃ仕方ないよねぇ……」

 エース「りんく、そこまでに致しません?……わたくしにもサーバー王国におけるイメージというものがありましてね……」

 りんく「どっひゃぁ!?今回に限ってご本人来ちゃったぁ~~!!」

 エース「お待ちなさいっ!!ここは一人前のプリキュアに導く先達として、特別指導いたしますっ!!メモリア、貴女もいらっしゃい」

 メモリア「…………エースのお説教って長いんだよね」(ボソッ)

 エース「何か言いまして?」(満面の笑み)

 メモリア「!!な、なんでもありましぇ~ん…………」(半泣

 エース「それではご覧の皆様、りんくとメモリアにお説教いたしますので、この辺でご機嫌よう……って、何処に行くのですメモリア!?おふたりとも待ちなさぁ~~い!!」

 ―――――ほくとの『レッツゴーライダーキック!!』

 ほくと「なんだか久しぶりの気がするね、このコーナーでライダーを紹介するのも」

 データ「前回はビルドのネタだったからな、久々にビリッと行くぜ!!今回のライダーはコイツだぁ!!」

 『天が呼ぶ!地が呼ぶ!!人が呼ぶ!!!悪を倒せと俺を呼ぶ!!!!聞けッ、悪人共!!俺は正義の戦士!仮面ライダーストロンガー!!』

 ほくと「城茂さんが変身した、改造電気人間『仮面ライダーストロンガー』!!昭和ライダーの中でも屈指のパワーと電撃攻撃を得意とする、パワフルなライダーだ!!」

 データ「コイツさえいればエネルギー問題も解決だな」

 ほくと「でも、自由に電気を使えるわけじゃなくって、常に垂れ流しの状態なんだ。だから彼は、変身前でも絶縁体で出来た手袋を外せなくなってしまったんだ……」

 データ「今回ほくとがピースの力を使って再現した技は4つだが、今回はその内2つを紹介するぜ!まずはこれだ!!」

 『エレクトロファイヤー!!!』

 ほくと「電気エネルギーを地面に流して離れた敵を攻撃する、ストロンガーの代名詞的必殺技、それが『エレクトロファイヤー』だ!」

 データ「今回までに色んなライダーのDVDを見たけどよ、ストロンガーが出てるほどんどの映画でこの技を使ってるな」

 ほくと「それだけ、ファンの印象にも残った技なんだ。ちなみにこの後、『宇宙刑事シャリバン』に出てくる宇宙犯罪組織マドーの『ガイラー将軍』も似たような技を使ってるね」

 データ「見栄えがいいから東〇も演出使いまわしたんじゃねーか?」

 ほくと「こっ、こら!!そんなコト言っちゃダメだよ!?……つ、次はこの技!」

 『ストロンガァァァ電!キィィィック!!』

 ほくと「ストロンガー最大の必殺技、それがこの『ストロンガー電キック』だ!!10万ワットの電撃をまとったキックによって、敵の奇械人を内部組織から破壊するんだ!戦車も一撃で破壊できるほどの威力があるぞ!!」

 データ「スペックだけ見りゃ相当だがよ、それで倒せなかったデルザー軍団の改造魔人ってマジでバケモンだな……」

 ほくと「デルザー軍団に重傷を負わされた城茂さんだったけど、正木洋一郎博士から超電子エネルギーを発生させる超電子ダイナモを埋め込まれて、パワーアップに成功したんだ。それが、今の平成ライダーにも受け継がれている『フォームチェンジ』の元祖―――――」

 データ「『チャージアップ』、だろ?へへん、アタシも情報仕入れてるんだぜ♪」

 ほくと「そういえば……最近DVDデッキの電源が入れっぱなしになってたのって……」

 データ「スマンほくと!何枚か開けてないDVD開けちまった!!」

 ほくと「データ……ウチの誰かに見られたらどーすんのさぁっ!?それに電源入れっぱなしだと電気代が……」

 データ「……フッ、そんな事俺が知るか!」

 ほくと「データが知らなくても僕が知ってるんだからねぇっ!!!」

 データ「やっべ、逃っげろ~♪」

 ほくと「もう、東堂さんとメモリアの方もそうだったのに、こっちもこのオチ~!?そ、それじゃ次回も、お楽しみにっ!!」

 次回予告

 ほくと「東堂さん、紹介するよ!僕の妹!」

 ののか「八手ののか、5さいです!りんくちゃん、にぃからきいたけど、『プリキュアはかせ』なんだよね?だったらほらほらみてみて!おもちゃいっぱいだよ~!」

 りんく「お……おおおぉ……(恍惚)ほくとくん、あなたの妹さん、サイコーすぎる!!決めました!私、この家の子供になりますッ!!」

 ほくと「ウチの子供って……!?そ、それって、その、ええと……///」

 データ「ノロけてんじゃねぇほくと!!のんのこども園がバグッチャーに!!」

 メモリア「このままじゃこども園のみんなが……!」

 ほくと「な゛に゛ッ!?おのれジャークウェブめ……ののかの通うこども園を襲うなんて……!キサマ達だけは絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛ッ!!!」

 インストール@プリキュア!『狙われたののか!燃え上がれ@ほくとの拳!』

 ほくと「つらぬけ!キミだけのプリキュア道!!」

 ――――――――――

 長々とお付き合いいただき、誠にありがとうございました……
 新たなる敵、新たなる謎のキャラ……盛りに盛った結果の『年末大増刊号』だったわけで……

 次回はほくとくんメインのヒーロー回!!妹を守るために奮闘する彼の頑張りに注目です!

 そんなワケで、これが今年最後の更新です。
 それでは皆様、よいお年をお迎えください♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 狙われたののか!燃え上がれ@ほくとの拳!
嗤う蜘蛛皇


 キャラクター紹介

 青山 雅明

 内閣電脳調査室室長。64歳。

 かつて、内閣府の諜報員として活躍した男。
 単独では遂行困難と云われた任務を幾度も成功させたことから、『孤高の破壊者(ソロブレイカー)』の異名で裏社会の住人から恐れられた。
 その経歴を買われ、内閣情報調査室発足の際に招聘され、室長に就任した。各方面や内閣の深部にまで幅広いコネを持つ。
 剛胆さと冷徹さを兼ね備え、一癖も二癖もある『海千山千揃い』の電調メンバーを束ねる傑物。

 ――――――――――

 先日地上波初放送された『君の名は。』を見た稚拙の母はこう言った。

 母「ア〇マゲドンじゃん」

 稚拙「(;゚Д゚)……」

 母は例のBGMをバックにティアマト彗星に特攻するブ〇ース・ウィリスを見たとゆーのか……

 ……そんなワケで、改めましてあけましておめでとうございます!
 インプリも投稿開始から1周年を迎えました!今年も亀更新かと思いますが、読者の皆様にはぜひお付き合いいただければと思います。

 さて新年一発目の今回は、いきなりですがこれまで断片的に語られてきた『ヤツ』が、ついに皆様の前にも姿を見せることになりました……!
 ジャークウェブの悪の枢軸、その詳細をここに送信!


 愛の切り札!キュアエース!ですわ。

 

 わたくしがかつて説いた、『プリキュア5つの誓い』―――――

 わたくしを捕らえ、バグッチャーの虜囚としたジャークウェブは、わたくしの力と"誓い"を捻じ曲げ、キュアメモリアルとキュアデーティアを倒さんとしました……

 ですが、新たにプリキュア見習いとなったふたりは、わたくしの想像以上に、わたくしと―――――

 そして、異界の"光の巨人"の(おし)えを、心に刻んでいたのです―――――

 

 『"誓い"とは、ヒトを"縛る"モノに非ず!ましてや、他者を傷つけ、踏み台にして、保身に走る言い訳にするなど言語道断ッ!!』

 『先を往く者が、いずれ自分を目指し、後に続き、同じ道を歩んでくる者に、惑わされ、悩み迷うことのないように、言葉として残す道標、それが"誓い"なんだ!』

 『あなたがくれた誓いの言葉で……私は……ううん、私とメモリアは強くなれたの!あなたがくれた『愛の力』が、もっと遠くまで、もっと高くまで、私達を動かしてくれる!たとえ暗闇に不安が揺れ動いたとしても、正義は絶対揺らぎはしない!』

 

 その心持でいれば、貴女達は必ず、一人前のプリキュアへと昇華できることでしょう……

 そしていつか、『本当のわたくし』たちに挑戦するその日を、わたくしは心待ちにしています―――――

 

 『インストール@プリキュア!』―――――

 ときめきと美しさは正義の証―――――あなたの心の切り札です♪

 

 ――――――――――

 

 HOKUTO〈マイナー拳法『空現流拳法』の使い手にして、天ッッッ才でも何でもないごくごくフツーのスーツアクター志望の中学2年生・八手ほくとは、ある日スマホの中に現れたキュアデータとの出会いをきっかけに、『インストール@プリキュア』のひとり、プリキュア見習い・キュアデーティアになっちゃった!!僕、男だよ!?どーして男なのにプリキュアやらなきゃいけないの~!?

 

 DATA〈まぁいいじゃんかよ、完璧な女体化だ!女装してプリキュアやるよりよっぽどマシじゃんか♪

 

 HOKUTO〈良くないよ!!ほら、変身したらムネがこんなに~!!重心上がるし、ぽよんぽよんしてなんかヘンな感じだし……

 

 DATA〈そこまでにしとけほくと、この小説は全年齢向けだ!!作者はR-15タグ付けたくねぇんだ!!

 

 HOKUTO〈ぬぇ!?

 

 DATA〈それによ……世の中にゃ、欲しくても得ることのできないヤツもいるんだ……考えてやれ……

 

 HOKUTO〈な、何の話!?……そ、それに背も縮んじゃって……変身しても東堂さんは全然変わらないのに……

 

 DATA〈確かにな。実はメモリアルの身長は153cmなんだが……なんと!!デーティアの身長は149cm!!ちなみに普段のほくとは165cm。16cmも縮んでるんだなぁ……あ、体重はヒミツな❤

 

 HOKUTO〈どういうこと……と、ともかく、ジャークウェブとの戦いはどんどん激しくなるし、ついには政府の人たちまで絡んでくるし、この先どーなるか全くわかんないよ~!

 

 DATA〈大丈夫!パンチ力3t!キック力6t!ジャンプ力はひと跳び30m!走力は100mを6秒!!どこぞのライダーバトルに放り込まれてもイイ線行きそうなスペックだぜ!?

 

 HOKUTO〈いつの間に調べたのさ……そりゃ確かに『戦わなければ生き残れない!』けどさ……

 

 DATA〈ヒマな時にチョチョイとな♪お前はアタシが認めた世界一の男だ!やる時ゃスペック以上のパワーを出せるのがヒーロー、だろ?胸張ってどんどんバトっていきな!!

 

 HOKUTO〈男なのに女の子に変身しちゃった僕の明日はどっち!?さぁどうなる第12話!!

 

 DATA〈……って、何か聞いたことあると思ったら仮面ライダービルドの前説かよ!!

 

 ――――――――――

 

 ……ENEMY PHASE

 

 ――――――――――

 

 「()ィッシン!!()ィッシンは何処だッ!?」

 

 小官の気は未だに収まらなかったッ。

 先日の戦闘ッ、小官は決死の覚悟で敵基地の単独制圧に乗り出そうとした所をッ、何時の間にかこの『本国』に戻ってきていたッ。

 確か……ッ、小官の前にフィッシンが姿を現しッ、一言二言やりとりをした時までは記憶があるがッ、そこからはぷっつりと記憶が途絶えているッ。

 小官ッ、そして我等四天将に『強制的に』命令を下しッ、意のままに出来る権限を持つのは、我等が御大将カイザランチュラのみの筈……ッ。

 それを何故同階級である筈のフィッシンがッ……?

 

 《…………………………》

 

 その時ッ、柱の陰から不意に姿を見せたのはッ、当の女であったッ。

 

 「(ようや)く見つけたぞッ!貴官ッ、あの時は小官にッ―――――」

 《CALL INSTRUCTION》

 「ぬぅッ……?」

 

 フィッシンは小官の言葉を遮るとッ、まるで小官を案内するかのように歩き始めたッ。

 

 「"招集命令"だとッ……?よもやッ……!」

 《YES》

 

 ……やはりッ、御大将かッ。

 丁度いいッ。この女に関する情報もッ、御大将から聞き出せる機会となろうッ。

 何しろッ、この女を瀕死の状態から蘇生させッ、このような機械の鎧で固めたのもまたッ、誰あろう御大将であるのだからッ。

 本来、御大将に一片たりとも疑念を抱くことは小官にとっては許されぬッ、万死に値する大罪であるのだがッ……

 何故ッ、小官の腑に落ちぬッ……

 えぇぃッ、小官の何が不調なのだッ!?

 これもまたッ、御大将に畏れながら問わねば収まらぬというのかッ……!?

 

 ――――――――――

 

 ジャークウェブ最深部の謁見の間ッ―――――

 広間の中央に据えられた柱ッ、その中腹ッ―――――

 

 円筒形の透明なカプセルの中にッ、神々しき闇が形を成すッ―――――

 

 《皆;動作異常は無いようだね》

 

 この御声ッ……聞き紛う事なきッ、御大将カイザランチュラの御声であるッ……!!

 久方振りの御声にッ、このスパムソンの身体は歓喜に打ち震えているッ……!!

 

 《キュアチップを積載したバグッチャーの稼働ログ;順調に収集出来ているようだね》

 「はっ。……しかし、その度にサーバー王国の残党が出現し、キュアチップを奪還されております……それに関しては、我々の力が及ばぬばかりに……!」

 《いいよ;アラシーザー:ある程度のトラブルは我々も想定していた:しかし;"彼女"たちがリアルワールドでも活動できているとは想定外だったけどね》

 「確かに、人間と融合を果たして人間を変容させるというプログラム……カイザランチュラ様、アレは……」

 《そうだね:"あのひと"は研究を大成させたようだ:流石は"あのひと"だ:我々より先に;"あの理論"を完成させるとはね》

 

 御大将は何を知っているというのだッ……?"あのひと"とはッ……?疑問は尽きぬッ……がッ、小官などが質問を行ったところでッ、この御方の崇高な心中には及ばぬだろう……ッ。

 

 《キュアチップの端子部を見て確信したよ:"星砂晶(せいさしょう)";生物の"意思"に反応する精神感応物質:アレほどのモノでなければ;人智を超えた"異世界のプリキュア"の力を引き出すことなどできないからね》

 「聞いたことがありますよ。数年前、リアルワールドの西之島新島から噴出した無機物質ですね。"動物すらヒト型に変貌させる"力があるとか」

 《そうだよ;ネンチャック:故に;『意志』を力の根源とするプリキュアの力を引き出すには;これ以上ない程の触媒になるんだ:もっともそれだけが;プリキュアの『力』とは思えないけれどね》

 「カイザランチュラ様……キュアチップの構造……より詳細な解析が出来れば、リアルワールドでのバグッチャーの稼働ログの累積と併せて、"現界體(ゲンカイタイ)"の完成により近づくかと」

 《そうだね:本来は我々"そのもの"をリアルワールドに"現界"できればいいのだけれど:()()()な我々の存在がもどかしくてならない》

 「そのための"現界體"です。まずは"対話體(タイワタイ)"と"試戦體(シセンタイ)"の開発を急ぎますので」

 《頼むよ:それと;キュアチップの詳細な解析もね:ネンチャック;後で我々が新たに作製した新型の解析プログラムを;きみにインストールする:それを用いて;より詳細な解析作業を進めてくれないか》

 「光栄の極み……精進します」

 

 ネンチャックめッ……演算分析型端末の分際でッ、御大将カイザランチュラから労いの御言葉を賜るとはッ…… 

 しかしッ、キュアチップとは元々ッ、サーバー王国のプリキュア共にワルイネルギーを浴びせッ、その能力を封じたモノッ―――――

 いわば我等ジャークウェブが作り出したものである筈ッ……それを何故ッ、今更解析する必要があると云うのだッ……?

 御大将カイザランチュラにとってもッ、キュアチップは未だにブラックボックスだと云うのかッ……?

 しかしッ、小官には訊かねばならぬコトがあるッ。余計な思考はここまでとするッ。

 

 「畏れながらッ、御大将ッ!」

 《なんだい;スパムソン》

 「先頃の戦闘ッ、我が手駒が撃破されッ、小官が覚悟を決めて単身敵基地を攻略せんとしたその時ッ、()ィッシンが妨害をッ……!そして御大将、小官は確かに目撃しましたッ!!」

 

 小官はびしりとフィッシンを指差して捲し立てたッ。

 

 「此奴(こやつ)が『強制執行コマンド』をッ、小官に入力したのですッ!!御大将のみが持つ"権能"である筈のコマンドをッ!!御大将ッ、貴方様は何かご存じなのではッ!?」

 

 この間もッ、フィッシンは微動だにせずッ、御大将に向かって片膝をついているままだったッ。御大将は暫し沈黙された末ッ、こう答えたッ……―――――

 

 《きみには悪いことをした》

 「ンなッ……!?」

 

 おッ、御大将が小官に謝罪の言葉をッ……!?

 そッ、そんなッ、小官如きにそのような低頭たる態度などッ……!!??

 

 「なッ、何故謝罪などをされるのですッ!?小官は何もッ……」

 《我々がきみや;アラシーザーやネンチャックに何も説明することなく;"今の状態のフィッシン"を"現界"させてしまった:余計な混乱を招いてしまってすまない》

 「今の状態……カイザランチュラ様、フィッシンは先のサーバー王国での戦闘で重傷を負って以降、このような機械鎧で全身を固めておりますが……確かこの処置もカイザランチュラ様御自ら為されたと聞き及んでおります……畏れながらお尋ねしますが……この処置……一体何を為されたのですか?」

 「……()ラシーザーッ……貴官もそうかッ……」

 「勘違いするなスパムソン。俺もフィッシンの様子が気に掛かっているだけに過ぎん。何事もはっきりさせねば気が済まない質でな」

 

 小官と同じ着眼点を持つとは流石と思わざるを得んッ。

 やはりアラシーザーはッ、小官の同志たるに相応しい男であるッ。その武勇と剛胆さッ、見習うべき点は数多いッ。

 

 《きみたちが疑問を抱くことは(もっと)もだ:ならば;答えるのが道理だ:フィッシンが装着しているのは;将来我々が現界する為に必要となる"現界體";その雛型と云うべきモノ:"試製現界體"と名付けている》

 「おぉ……!!」

 《しかし;長時間現界することは不可能である上;"彼女自身"にも負担がかかる故;現在は我々がリモートコントロールすることで制御を行っているけどね》

 

 つまりッ、フィッシン"自体"は未だ昏睡状態でありッ、"試製現界體"によってッ、いわばマリオネットの要領で御大将により動かされていると云う事かッ―――――

 

 「フィッ()ンッ……見事な忠義ッ……!!仮令(たとえ)意識は無くともッ、文字通り身命を賭して御大将に尽くさんとするッ……!!見上げた女よッ!!少しでも疑念を持ったことッ、小官はここに衷心より謝罪をするッ!!!」

 

 ―――――ゴンッ!!

 

 小官は地に膝を突きッ、頭も突きッッ、土下座を敢行したッッッ。

 

 「……大袈裟な奴」

 

 ネンチャックがそう呟くのが聞こえたがッ、一々気にするほど小官は小さな男ではないッ。

 

 《残念だけれどね:しかしそれ故に確実な操作が可能ともなっているんだよ:スパムソン;『強制執行コマンド』も;"試製現界體"を介してきみに入力したんだ:あの時のきみは思考回路がオーバーフローを起こしかけていて;正常な判断が出来ずにいた:故に;我々が止めた:あのまま放置していたなら;きみは》

 

 

 ―――――"ヒト"を削除(デリート)していたろう

 

 

 「ッ……!!!」

 

 強烈な衝撃がッ、小官の心を直撃したッッ……!!

 

 《以前;アラシーザーとネンチャックも;バグッチャーの稼働ログ収集の際に;"ヒト"を傷つけ;一部をデリートしてしまったけれど;それではいけないんだ:彼らにも指示したけれど;我々の最終目的を忘れてはいけないよ:そのために;"ヒト"を傷つけたり;ましてやデリートすることは極力避けなければならないんだ:バグッチャーの稼働ログの収集も;出来る限りプリキュアに対して行わなければ意味が無いんだよ》

 「……はッ……」

 《思えば彼女にも悪いコトをした:彼女が"このような状態"になったのも;すべてはサーバー王国での戦いに因がある:しかしそれ故に;我々は"プリキュア"がどういった存在であり;そして;如何にして"真のプリキュア"へと到達するのかを;(つまび)らかにすることが出来るようになった:その点;彼女には感謝の念も持っている》

 

 "真のプリキュア"ッ……?

 御大将はあたかもッ、"プリキュア"と区別するようにその言葉を感慨深げに述べたがッ、それは一体ッ……??

 

 「ボクにも、ひとつ疑問があります……。先日のスパムソンとフィッシンの戦闘ログを閲覧したところ……フィッシンがキュアチップの能力を引き出して使用しておりましたが……あれは一体……?以前のフィッシンに、あのような"機能"は備わっていなかったハズ……」

 「何ッ!?」

 

 ネンチャックの言葉はッ、小官にとっても初耳であったッ。キュアチップをワルイネルギーと合成しッ、バグッチャーを生成する"機能"は、我等ジャークウェブ四天将に共通するモノであるッ。

 だがッ、『インストール@プリキュア』の如くッ、キュアチップを直接攻撃手段に転用するとなると話は別になってくるッ。

 ネンチャックの話が真実であるならばッ、フィッシンは新たなる"機能"を手にしたというコトになるのだがッ……!?

 しばし黙り込んだ御大将はッ、静かに切り出したッ。

 

 《きみ達には真実の情報を開示しておこう:彼女がキュアチップの力を行使することが出来る理由;そして;"現在のフィッシン"の詳細をね》

 

 

 

 ―――――ッッッッッッ!!!!

 

 

 

 御大将はッ、小官だけでなくッ、アラシーザーとネンチャックですら瞠目して驚愕するッ、"現在のフィッシン"の状況を述べられたッ……!!

 

 「……それは……本当なのですか……!?」

 

 アラシーザーが絞り出すようにそう問うとッ、御大将はあくまでも穏やかにッ、《虚偽の情報を与えても;仕方ないからね》と答えてからッ、

 

 《我々"だけ"の技術では;キュアチップに直接アクセスして;そのチカラを抽出する"権能"を行使することは不可能だった:しかし;フィッシンが"彼女"と交戦したことで;我々はその"権能"を研究し;行使する機会を得ることが出来た:"この状態のフイッシン"を制御し;解析し;研究することで;我々の最終目的により一層近づくことが出来るんだよ》

 

 と語ったッ。そしてッ、御大将の最後の一言にッ―――――

 小官は震えたッ。

 

 《尽くしてくれてどうもありがとう;フィッシン》

 

 そうッ、なのだなッ……

 フィッシンッ……貴官は文字通りッ、『名ばかりの存在』となろうともッ、その名を以って御大将カイザランチュラに尽くさんとしているのだなッ……!!

 

 《きみ達にも;今まで以上に働いてもらうよ:『突撃戦闘型端末:アラシーザー』》

 

 「御意ッ!」

 

 《『演算解析型端末:ネンチャック』》

 

 「カイザランチュラ様の為に……」

 

 《『嚮導(きょうどう)指揮型端末:スパムソン』》

 

 「ハッ!!」

 

 《そして;『試製現界型端末:フィッシン』》

 

 《AYE,AYE,SIR》

 

 

 

『すべてのヒトのアップデート;そして終わりなき繁栄』のためにね

 

 

 我等四天将ッ、身命を賭しッ、御大将カイザランチュラの御為に尽くすことをここに改めて誓おうぞッ!

 ―――――それにしてもッ……

 

 このような神聖な場にッ、『あの2人』は何処をほっつき歩いていると云うのだッ……!?

 矢張りッ、『サーバー王国の裏切り者』はッ、御大将カイザランチュラに対する忠誠心も知れんというモノだッ……。

 

 ……SAVE POINT




 用語解説

 電調長谷川班

 電調実行部隊主任の中では最年少の21歳・長谷川清海(はせがわせいかい)が率いる班。班員3人。
 主任の長谷川はまさに『文武両道』を地で行く男であり、電調でも十指に入る戦闘能力と明晰な頭脳を併せ持つ"天才"。
 オペレーターはおらず、主任の長谷川がその場で状況を即座に分析、臨機応変に指示を出している。
 『無駄な人間は不要』という長谷川の持論により、必要最低限の人員のみで構成されている。
 全員が冷静沈着な性格で、淡々と任務を遂行するため『氷の三羽烏』の異名を与えられているが、響きが古臭いため長谷川は毛嫌いしている。

 ――――――――――

 ついに本文上に初降臨した、ジャークウェブの首魁・カイザランチュラ……
 本家様に登場する悪の大ボスとは一線を画すその目的とは……!?
 そして、『フィッシンの真実』とは……!?

 たぶん、謎が一挙に増えたんじゃないかと思いますが、それも追々物語で明かされていきますので……

 今回はちょっと短いですが、年始の挨拶がてらというコトで……
 それでは、今年もよろしくお願いします♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大泉こども園プリキュア組

 バグッチャー大図鑑

 トゥインクルバグッチャー

 身長:5m
 属性:星
 実体化所要時間:5分

 第4話『マトリクスインストール!奇跡の新生@キュアメモリアル!!』に登場。
 アラシーザーが、財団Bの博物館『Bミュージアム』の屋上プラネタリウムの映写機制御プログラムと、キュアトゥインクルのキュアチップを使って生み出したバグッチャーで、現実空間に初めて実体化したバグッチャーである。
 プラネタリウム映写機から手足が生えたような外見であり、頭頂部から無数の『☆』型弾丸を発射して攻撃する。アラシーザーの指令で大泉町の中心市街地で破壊活動を行い、多くの死傷者を出す惨事を起こした。
 初変身を遂げたキュアメモリアルの初陣の相手となり、レジェンドインストールなどを駆使したキュアメモリアルの波状攻撃を叩き込まれてデリートされた。
 事実上、人類が初めて遭遇したバグッチャーであり、このトゥインクルバグッチャーの出現が、世界に大小の影響を与えることとなる……
 ユナイテーションワードは『煌めく夜空の星々よ、この安穏なる世界を、脆く、無慈悲に、醜く変えろ』。

 ハッピーバグッチャー

 身長:4m
 属性:光
 実体化所要時間:7分

 第5話『もうひとりのプリキュア登場!その名は@キュアデータ!』に登場。
 ネンチャックが、大泉中学校の図書室の蔵書管理プログラムと、キュアハッピーのキュアチップを使って生み出したバグッチャーで、初の『リーダープリキュア』を媒介としたバグッチャー。
 ボディを含め、無数の『本』が寄せ集まったような形態で、全身の本から無数のレーザーを放つことで、相手を寄せ付けない。さらに本は本体から分離し、浮遊しての自律行動が可能で、所謂『オールレンジ攻撃』も可能と、こと攻撃面では隙らしい隙の見当たらない強力なバグッチャーである。
 当初はキュアネット空間内でメモリアと交戦、圧倒的な攻撃能力で追い詰めるも、キュアデータの乱入で状況が変化、一度は敗北を喫するも、それは『本』を媒介としたダミーであり、本体が実体化するまでの時間稼ぎであった。
 本体が実体化後はキュアメモリアル、そしてキュアデーティアと交戦するが、デーティアの卓越した体術に成す術なく敗色濃厚となり、頼みのオールレンジ攻撃もトゥインクルスタイルにレジェンドインストールしたメモリアルに封じられ、最後はメモリアルの『プリキュア・メモリアルフラッシュ』でデリートされる結果となった。
 ユナイテーションワードは『聖なる幸運の光よ、その輝きを闇に染め、白紙の未来を黒く塗り潰せ』。

 ――――――――――

 プリアラ最終回の興奮冷めぬまま、キーボードをたたいております……
 ラストカットのキュアホイップがとびきり『美人さん』に描かれてたのが印象的でしたなぁ(小並感

 来週からは満を持して『HUGプリ』がスタートします!今回登場のはなちゃんとはぐたんもカワイかったなぁ……(またも小並感

 さて今回は……いろいろ実験して、それから……
 ょぅι゛ょが出るぞ……!!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER SELECT

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    CURE-DATEAR

    ????????

    ????????

 

 ――――――――――

 

 結局、あの日の事件のことは、次の日のニュースや新聞では、ただの一行も報道されなかった。

 それでいいのかな、って、ふと思ったこともあったけど、ちょっとだけ安心してた私がいた。

 私が―――――東堂りんくがキュアメモリアルだってことは誰にも知られていないわけだし、ほくとくんもそう。私達のプライバシーはきちんと守られたワケだ。

 授業でパソコンルームのディスプレイの前に座ると、ちょっとだけ思い出しちゃって、ディスプレイをそっと指で触る。液晶の波紋が、ぽわんと広がる。

 

 ―――――できるわけない、か。

 

 今のこの姿で、パソコンの中に入れるわけないけれど、つい、ね。

 『キュアネットの中に入っちゃった』コト―――――これって、ホントに現実、なんだよね……。

 それだけじゃなくって、空も飛んで、ほくとくんと心の中で会話して―――――

 そういったことに驚いているというコト―――――

 つまるところ私達は、『変身した私達』に、あまりにも無知すぎたんだ。

 そんな私達がはじめたことはと言うとね……―――――

 

 ――――――――――

 

 『メモリアァ!今何キロッ!?』

 《200キロ出てるよ~!!》

 『そっちじゃなくってぇ~~~!!ぶわッぷ!!??』

 

 また雲に突っ込んだ……ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!という、もはやカイブツの声にしか聞こえない『風の音』が、耳の中に飛び込んでくる。

 とたんに、右に左に、上へ下へと、全身が揺さぶられる。えっと……雲の中って気流がスゴいんだよね……油断するとバランス崩しちゃう……!

 ふぇっ?"何いきなり鳥人間コンテストパロッてんの"?"今何してんのか全然わからない"?

 あー……それはねぇ……

 

 私は上空10000m、時速200キロでブッ飛びながら、遠い目で数日前からの出来事を思い出してた―――――

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG LINK TOUDOH

 

 ――――――――――

 

 "あの日"の次の日の放課後、いつものようにパソコンルームに来た私に、ほくとくんが言ってきた。

 

 「試してみたい事があるんだ」

 「試す……??」

 「うん。この間の戦いの時、初めて気づいたことがたくさんあって……それから考えてみたんだ。プリキュアに変身できて、『何ができるのか』……きちんと突き詰めてみたことがなかったな、って」

 

 確かに……私は51人のプリキュアたちのことは骨の髄まで知ってる。だからこそ、レジェンドインストールで他のプリキュアたちの力を借りる時も、ほとんど『なりきり』状態で使いこなすことができる。

 でも、『私自身』―――――『キュアメモリアル』のことは、知ってるようで全く知らない。

 前に、リズムバグッチャーと戦った時、空の上から全力で叫んだら、聞こえるはずもないのに、野球場にいた人たちに私の声が伝わった。

 この時何が起きていたのかは、次の日に野球部の応援に行っていた、クラスメートの高橋おとさんから聞くことができた。

 

 ―――――スコアボードとかケータイのメッセとかにね、〈みんなにげて~~~!!!〉って出てきたの!あれって絶対プリキュアだよ!あの後、野球場からすっごい音したし!

 

 どうやら、『伝えたい情報』を情報機器ごしにメッセージに出力して知らせる……ようなことが出来るらしい。

 もちろん、レジェンドプリキュアでこんなことをできるコはいない。

 その他、パソコンのディスプレイからキュアネットに入れちゃったり、プリキュア同士なら『念話』ができちゃったり、羽が生えて空が飛べたり……

 『インストール@プリキュアのわからん』、多すぎる……

 そんなわけで、ここで改めて、"『インストール@プリキュア』が何ができるのか"を確かめてみようってコト。

 『プリキュア講義』、課外授業の開始です!

 

 「さぁ、実験を始めようか……―――――」

 

 なんか物騒な一言を、ほくとくんの口から聞いた気がしたけど…………

 ま、いっか……

 

 ――――――――――

 

 まず最初に試したのが、『キュアネットへのダイブ能力』。

 これは私から提案した。少しでもネットに詳しい私だったら、なんとか対処できるかも、と思ったから。ほくとくんもOKしてくれた。

 私達がいたのがパソコンルームだったから、早速変身して、電源の入ったパソコンのデスクトップ画面に手を突っ込むと―――――

 

 『をを!!?』

 

 ずぶっ、とした感触。アレだ、すんごいドロッドロの田んぼや沼とかに手を突っ込んだ時の感触、アレだ。

 いったん手を引っこ抜いて、意を決して頭をディスプレイに突っ込むと、そのままずぼっ!と頭が入って、そのまま勢いで全身が入ってしまった。

 前回は『出る』だけだったけど、『入れる』ことが確認できた。これってやっぱスゴくない!?

 そのまま今度は、『どこまで行けるか』の実験。とりあえず、私の家にある、家族みんなで使ってる共用のデスクトップパソコン、そこまで行ってみることに―――――

 ……と、そう思った瞬間、目の前の光景がズバーーーーーーーーーッ!!と流れて行って―――――

 目の前に、四角い枠の奥で、台所に立ってお料理しているママがいた……!?

 

 『え……えええ!?』

 

 おそるおそる、その枠に手をかけて、顔だけ出してみた。ママはこっちに気付いていない。

 す……スゴい。思っただけで、そのパソコンのある場所まで一瞬で移動できちゃうなんて。

 しかもこのパソコン、電源入ってない。つまり、電源が入っていようとなかろうと、キュアネットに接続してさえいれば、その端末まで一瞬で行けちゃうってコト!?

 それなら―――――と、今度は『ほくとくんのネットコミューン』を思い浮かべた。すると、目の前の光景が一瞬で切り替わって―――――

 

 『ばぁ♪』

 《うわぁぁぁぁぁ!?》

 

 ドッキリ大成功♪よぉし、これでこれが『どんな能力』なのか、確証が得られた!

 これは、私の『記憶』をそのまま『ブックマーク』に置き換えて、キュアネットの中を『ブラウジング』できる能力なんだ。

 パソコンやスマホでリンクをクリックやタップすると一瞬で別のページに行けるように、私が覚えていて、場所を知ってて、キュアネットに接続されてる情報機器の中になら、一瞬で行けちゃう。

 しかも、私の身体が通れるくらいの大きさのディスプレイがあれば、そこから現実世界に出ることもできる―――――

 コレって、モノスゴい便利能力……!使い方によっては、たとえ大泉町から離れたところにバグッチャーが出てきたとしても、場所さえわかれば一瞬で行ける!

 バグッチャーが北海道に出ても沖縄に出ても、そこにキュアネットにつながった『画面』や『ディスプレイ』があるなら駆けつけることが出来るわけだ。

 私たち『インストール@プリキュア』に死角無し!どこからでも来なさい、ジャークウェブ!!

 

 ――――――――――

 

 次に、『情報送信能力』を試してみることに。

 目の前にあるパソコンのディスプレイに、文字を出すことが出来るかどうか―――――

 これにはデーティアが挑戦してくれた。

 

 『――――――――――…………』

 

 デーティアは目を閉じて精神集中―――――そして、カッ!と目を見開いて―――――

 

 『ッ!!』

 

 ビシッ!!と、ディスプレイに右手をかざした。すると―――――

 

 〈胸のエンジンに火を点けろ!!!〉

 

 と、ディスプレイにでかでかと表示されたのだった。

 

 「ををっ!……って、なにコレ?」

 『…………う、宇宙刑事ギャバンのオープニングテーマの歌詞……』

 

 確かに男の子が好きそうなフレーズ……でもなんかピンとこないんだよねぇ……

 ともかく気合を入れて念じれば、狙ったディスプレイに文字が出せることは分かった。次は―――――『距離』。

 今度は学校から少しずつ距離を離していって、どれだけ遠くから文字を送れるかの『実験』。

 結果、一番遠くからの『有効射程』は5km圏内くらい、ということがわかった。ちょーど、学校から最寄りの大泉駅くらいまでの直線距離がそれだ。

 で、ちょっと気になったから、この能力がどんなリクツで使えるのかなーって、いろいろといじってたら、左耳のイヤリングに行きついた。耳に穴をあけないおハダにやさしいタイプだ。

 このイヤリングをはずすと、ディスプレイに文字を出せなくなった。つまり、このイヤリングに何か仕込まれてるというコト。

 リングの飾りになっている、濃いピンク色―――――デーティアのは濃い水色―――――の、パチンコ玉よりもちょっと大きいくらいの丸い珠。よく見てみると、中には機械がビッシリと詰められていた。……イーネドライブもそうだけど、プリキュアのアイテムにしてはファンタジー感があんまりない……

 これに関連して、右耳のイヤリングも調べてみると、こっちはどうやら『念話能力』に関係しているみたい。

 つまりは左耳のイヤリングが情報の『送信』、右耳のイヤリングが情報の『受信』を、それぞれ受け持っているみたい。イヤリングのカタチをしたアンテナだった、というコト。

 ……ここまで『機能性』を詰め込んだイヤリング、アニメのプリキュアシリーズでは見たことないんですけど……

 

 ――――――――――

 

 で、本日最後に試すことになったのが『飛行能力』!ある意味これが最大の目玉!

 これを使いこなすことができれば、戦いの時はもちろん、どこかに移動する時でもひとっとび!

 これはふたりでやってみようってことになって、ふたりで変身して屋上に。

 確か……ハネが出るとき、うなじにくっついてるHDDみたいなのから出てきてた……ような気がする。

 私のは見れないから、デーティアの"HDD"を見せてもらった。……そもそも"HDDがうなじにくっついてるプリキュア"ってのもおかしな話なんだけど……

 見た目は、透明なカバーで覆われた、5cmくらいの大きさのディスク。普段の状態でも、中でディスクがギュンギュン回転してるのが見える。

 ディスクドライブの下に、モノスゴ~く小さい字で、こう刻印されていた。

 

 【P.R.E.C.U.R.E. SYSTEM CORE DRIVER】

 

 『プリキュアシステムコアドライバ』……??

 な、なんかますますプリキュアっぽくない気がする……

 それに、『プリキュア』が、本来の『PRECURE』じゃなく、『P.R.E.C.U.R.E.』と、わざわざ一文字ごとに区切ってあるのも気になる……

 もしかして……これって『プリキュア』じゃなくって、なにか別の―――――

 

 『どうしたの?』

 『あ……ううん、ゴメンね。始めよっか』

 

 そうだった、今日は『飛行能力』の実験をするのであって、この"HDD"の検証じゃない。

 『空を飛びたい』と心に念じると、コスチュームのLEDファイバーのような光がひときわ強くなって、周りの景色が一瞬歪んで、"HDD"から光のハネがしゅば!と出てきた。

 メモリアとデータによると、このハネが出る瞬間、目には見えないエネルギーフィールドが同時に出てる、らしい。だから最初にハネを出した時、黒服のヒトたちが撃ってきた銃弾をはじき返すことが出来たのね……。

 とりあえず、『どこまで飛べるのか』を試してみようと、東京スカイツリーまで行って、『証拠写真』を自撮りして帰ってくる、ってことになった。あ、デーティアは富士山の頂上まで行ってくるって言ってたけど、大丈夫かなぁ……

 で、スカイツリーまでは1時間も経たずに着いちゃった!フツー、大泉からだと電車でも2時間はかかるのに……

 

 《高いねぇ~……》

 『なんか今更だけど……足がすくんじゃう……』

 

 ホント、ビルからビルに飛び移ることをいつもやってるのに、高さ634メートル、そのてっぺんからの景色にビビっちゃうなんてそりゃないよね……

 ちょっとふるえる手で、ツリーの先端が写るように自撮りをして、帰りのルートに出発!

 ……したけど、飛んでてちょっと気になったコトが。

 

 『ねぇメモリア……コレ、誰かに見られたり撮られちゃったりしてないかな……?』

 《う~ん……それなら、もっと高いところ飛ぼうよ!》

 『大丈夫かなぁ……?』

 《だいじょーぶだいじょーぶ!そ~れ~!》

 『ちょ、ちょっとぉ!?』

 

 勝手に高度を上げてく!?ちょ、コレってメモリアもコントロールできるの!?

 視界の片隅にある数字が、あっという間に4桁を超えて、5000、6000、7000―――――

 え?『視界の片隅に数字が表示されてる』ってヘン?……それがね……

 キュアメモリアルに変身すると、まるでFPSのゲーム画面のような視界になっちゃうんだよね……前にちょっとだけ親戚の家でやったことあるからよくわかる。

 今の状況とか、私の『中』のメモリアの様子とか、あとは……なんかよくわかんない英語や数字がたくさん。アニメやマンガで見るような、『人型ロボットの視点』を、そのまま連想してもらえたらわかりやすいかも。

 『光のハネ』を出してる間、【Wi-Fi WING DRIVING】と視界の上の方に表示されて、高度計や速度計……かもしれない数字が目まぐるしく増えていく。

 ―――――とか説明してるうち、高度計らしき数字が『10000』を超えた。もうこうなると、雲さえも下にある。

 で、今度はどれだけ早く飛べるのかなぁ~ってメモリアが言い出して―――――

 

 ――――――――――

 

     EX PLAYER SELECT

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    CURE-DATEAR

    ????????

    ????????

 

 ――――――――――

 

 ―――――……時速200kmの風を直に受けてる今に至ります、ハイ。

 正直……今の私の顔は、パソコンやスマホで読んでくれてるみなさんには見せられない顔です……風圧でスゴいことになってます……

 これが小説で本当によかった―――――

 

 ―――――ぼん!!

 

 と、ここでようやく雲の中から出られたみたい。

 よ、よかった……このまま高度を下げて―――――

 

 《りんく、前!前~~!!》

 『ほぇ?』

 

 ほんの一瞬、よそ見してた。

 メモリアに促されて前を見ると―――――

 

 ―――――キィィィィィィィィィィンンンン!!!!!

 

 巨大な飛行機のアタマが見る間に迫ってきてた!?

 

 『ひゃぁっ!?』

 

 くるりと体全体をひねらせて、何とか避ける!!

 だけど、さすがに無理しちゃったみたいで、体全体ががくんと『下』に引っ張られる感覚……!

 

 『《ふぇええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!》』

 

 バランスを崩して、真っ逆さまに落ちて行ってしまいましたとさ……―――――

 

 ――――――――――

 

 『――――――――――ぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!』

 

 や、ヤバい!どんどん地上が―――――それも街が近づいてくる!

 このままだと街中に落ちちゃう!

 

 《!バランスをとるよ!》

 

 メモリアの声が聞こえたと思うと、くるん!と体が空中で一回転して、地面が下に、空が上になった。

 よ、よかったぁ……一瞬、『【悲報】市街地にプリキュア墜落』って、まとめサイトの見出し記事が脳裏に過ぎったものだから、ホントーにヒヤヒヤした……

 

 『あ、ありがとうメモリア……』

 《ううん、あたしもゴメン……高いトコ飛ぼうって言ったの、あたしだし……》

 『無事ならOKだよ♪……あそこの路地に降りよう』

 

 見ると、ゴミ収集所がある狭い袋小路がある。歩いてる人もいないようだし、あそこに降りて変身解除して、とりあえず場所を確認しよう……

 少しずつ高度を落として、ふわりと着地。ここ、どこだろ……??

 まずは場所を確認しなきゃと、ネットコミューンを取り出したその時。

 

 『……………………あ』

 

 袋小路の出入り口。そこに、ハンドボールくらいの真っ赤なゴムボールを持った、ひとりの女の子が立っていた。

 水色のスモックを着てるってことは、どこかの保育園か幼稚園の子……なのかな……?

 その子は、こちらを見たまま、口を半開きにして硬直していた。

 そして、私の方向を指さして―――――

 

 

 「プリキュアーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

 

 

 と大絶叫した。

 

 「みんなーーーー!!せんせーーーーーー!!プリキュアーーーーーーーー!!!!!!」

 

 去り際にもう一度叫んでから、いずこかへと走り去ってしまった……

 

 『………………どッ!?どーしよ~!?見られちゃったよ~~!?』

 《お、おちついてりんく!まだりんく、変身したまま!バレてないよ!?》

 『そ、そそ、そっか……!』

 

 それなら、誰も見てない今のうちに変身を解いて、何食わぬ顔でここから出ていけばいい、か……

 私はネットコミューンの電源ボタンを押して、変身を解いて元の姿に戻ると、ワザとらしく口笛を吹きながら路地から出た。すると―――――

 

 「プリキュアどこだ~~~~!?!?!!?!」

 

 さっきの子とは違う、別の女の子の声だ。ぎょっとして振り向くと、さっきの子と同じスモックを着た赤いショートヘアの子が―――――

 

 ―――――車椅子で爆走してきた。

 

 両腕で車輪を猛烈に回す様は、さながら暴走機関車のようだ。女の子が乗った車椅子はギャリギャリギャリ!!と火花を上げてドリフトすると、路地に入って、そこで甲高いブレーキ音を立てて止まった。

 

 「んぁ~??プリキュアいないぞ~~!!??プリキュアいねが~~~!??!」

 

 今度は秋田のなまはげですか。それにしても、車椅子をまるでレースカーのように使いこなす、驚異の幼稚園児……

 この子は一体……!?

 

 「ねぇーのんちゃぁ~ん!プリキュアいないぞ~~!?」

 「え~!?のんさっきここでみたもん!ピンクいろの、テレビにでてたプリキュア!キュアデーティア"じゃないほう"!」

 

 あとから、先程大絶叫した紫色の髪の子が追いついてきた。

 それだけじゃなく、4~5人の、同じスモックを着た子供たちがぞろぞろと集まってきた。

 

 「のんちゃんほんとにみたの?」

 「みたもん!らんかちゃん、のんがうそつきっていうの!?」

 「そ、そーじゃないけど……」

 「―――――あまりせんさく(詮索)すると、プライバシーのしんがい(侵害)

 「こころちゃんものしり~!」

 「―――――ふふ……どーも」(メガネキラーン)

 「ぬぬぬ……プリキュアめ、オイラにおそれをなしてにげだしたよーだな……!!」

 「ぷらむちゃん、なんかそれワルモノっぽいよ……」

 

 な、なんなの、このコたちは……

 私そっちのけで自分たちの世界に入ってるこの感じ……な~んか見たことあるような……

 ―――――あれだ!『プリキュア談義』をする私とむぎぽんとそらりん、ソレだ!

 

 「ねぇおねえさん!さっきこのみちからプリキュアでてこなかった!?」

 

 紫色の髪のコが、私の服のたもとをくいくいと引っ張りながら訊いてきた。

 

 「プリキュア?……いやぁ、見てないわねぇ……もしいるんだったら私も会いたかったな~」(棒)

 

 すまない、チビッ子たちよ。ヒロインの正体はヒミツというのが、昔からのお約束なのダ。

 

 「あら?あなたらしくないですの。"ぷいきゅあ"のことをあつくかたってくださるあなたなら、もっとこのわだいにかぶりついてくるはずですの」

 

 ……!?

 聞き覚えのあるその声……その独特の"ぷいきゅあ"というイントネーション……

 そして……金髪ツインドリルヘアー!まさか……!!

 

 「おひさしぶり……なきがしますですの。りんくさん♪」

 「さ……さっちゃん!どうしてこんな所に!?」

 

 やっぱり、川村さちちゃん、通称さっちゃん!『財団B』の会長のお孫さん、川村ゆめさんの妹さん!

 

 「どうして?とおっしゃられても―――――」

 

 さっちゃんはくい、と、路地から出たすぐ左側に視線をうながす。

 

 「ここは、わたくしどものかようこどもえんのすぐそばですの」

 「……!」

 

 狭くもなく、学校のグラウンドほど広くなく、ジャングルジムや鉄棒が設置された、適度な広さの園庭。

 赤いとんがり帽子の園舎。見覚えのあるウサギ小屋―――――

 このこども園……ここって……

 

 「…………貴女……東堂りんくちゃん?」

 

 投げかけられた懐かしい声に、私は思わず振り返る。

 ―――――その優しげな表情は、ほとんど変わっていなかった。

 

 「りんくちゃんよね?……お久しぶりねぇ♪大きくなったわねぇ……」

 「園長……先生……?」

 

 忘れるなんて、絶対ない。

 小さい頃にお世話になった園長先生。

 つまり―――――このこども園は、私が小学校に入るまで通ってた、思い出の詰まった大切な場所―――――

 

 

 ―――――大泉こども園―――――

 

 

 ――――――――――

 

 お茶してく?と、園長先生に誘われた。

 最初はちょっと遠慮したけど、私を『"ぷいきゅあ"はかせ』だと園児のみんなに紹介したさっちゃんと、プリキュアファンのみんなにせがまれたのもあって、私は8年ぶりにこども園に足を踏み入れることになった。

 子供達に、『ほんとーにプリキュアにくわしーの?』って疑われたので、みんなにプリキュア関連のクイズを出してもらうことに。

 ……あっという間に全問正解してみせた私を見る、子供たちの目があきらかに変わった。

 スゴい目の輝きようだ。キラキラとした憧れの視線が……なんかハズかしいような……

 学校で待ってるほくとくんにメッセを送って、来客用のスリッパを履いて、一歩踏み込む。廊下の『きゅっ』とした感触が、どこか懐かしい。

 不思議な感覚……建物自体はまったく変わっていないのに、どうして―――――

 

 ―――――こども園が、"小さく"感じるんだろう。

 

 簡単な話。私がそれだけ成長しただけのこと。そして、それだけ時間が経ったこともわかる。

 園長先生についていきながら、かつて駆けずり回った廊下を歩く。むぎぽんやそらりんと、毎日のようにプリキュアごっこをしてたのは、今でも瞼の裏に焼き付いている。

 窓から園庭とウサギ小屋が見えた。よく見ると、ウサギが一羽、小屋の中で動いている。でも―――――

 

 「……さすがにもう、アヴニールはいないよね……」

 

 『アヴニール』は、私がこのこども園にいたころに飼われていたウサギ。まっしろな毛並みがステキだったのをよく覚えてる。

 後々になって、『キラキラ☆プリキュアアラモード』が放送されて、はじめてキュアホイップを見た時、アヴニールを思い出したっけ。

 次の年に始まった『HUGっと!プリキュア』に登場するプリキュアたちの名前が気になって調べてみたら、全員がフランス語由来ってわかって、さらに調べていくと、偶然、『アヴニール』という言葉がフランス語だったことがわかった。

 意味は―――――『未来』。こども園で飼われてるウサギの名前として相応しいのかも、って思って、園長先生のセンスにニヤッとしたっけ―――――もう、こども園を卒園して随分経ったあとだったけど―――――

 ……でも、小屋の中にいるのは別のウサギ。背中に黒い毛が雑じってるから、一目瞭然。

 

 「あのコは"リュック"っていうので」

 

 そう声を掛けてきたのは、さっちゃんの後ろにいた女の子。

 

 「ちぇなか(背中)のけなみが、かばんをちょ(背負)ってるみたいなので」

 「へぇ……って、あなたもしかしてクインシィちゃん!?」

 

 なんか聞き覚えのある舌足らずな話し方だなぁって思ったら、まさかのクインシィちゃん!

 なるほど、普段は"男装の麗人"スタイルだけど、スモック着てるとすっかりフツーの女の子だ。

 しかしながらチューリップを模ったカタチの名札には、『くいんしい』とひらがなで書かれている。執事としての名前を魂の名前として刻んでるのは、お兄ちゃんのギャリソンくん譲りみたい。

 

 「おじょーたまをおまもりちなければなりまちぇんので。りんくたんもくれぐれもちょちょー(粗相)のなきよー、なので」

 「あはは……」

 「リュックはね、アヴニールの子供なの。クインシィちゃん、リュックのことが大好きなのよ♪ヒマさえあれば、すぐウサギ小屋に行っちゃうの」

 

 園長先生が注釈を加えてくれた。

 なるほど……あんなカワイイ子に好かれるなんて、勝ち組じゃん、リュック♪

 ……それにしても、カバンを背負ってるような見た目だから、リュックか……なんかそのまんま。

 でも、アヴニールの子供って言われると、なんだか私も愛着が湧いてくるような気がするなぁ……

 

 「―――――"未来(アヴニール)"と……"カバン(リュック)"、か……」

 

 ――――――――――

 

 「園長先生、全然変わってないですね」

 「そう?また顔の小じわが増えちゃったのよ。最近、ますます歳を感じるようになっちゃって……うふふ♪」

 

 職員室のソファに座って、ふたりでお茶を飲みながら、思い出話に花を咲かせた。

 園長先生―――――本名は馬越界花(かいか)さん。

 その人柄で、私たち園児はもちろん、ママやパパたちにも評判だった。

 卒園してからはほとんどこども園に来なかったから、最近は会ってなかった。

 同じこども園を卒業したむぎぽんやそらりんとの会話の中で、時々話題になってはいたけど、実際に会いに行こうって、どうして今まで思わなかったんだろう……

 

 「昔からりんくちゃん、プリキュア好きだったわよねぇ。……今でも?」

 「モチのロンです!日曜朝8時半からの30分は、人生最高の30分です!!」

 「うふふ♪それを聞いて安心したわ♪……最近、プリキュアのことで世間が騒がしくなってきて、ふと……りんくちゃんのことを思い出したの。この間のことで、りんくちゃんがプリキュアのこと、嫌いになっちゃったんじゃないかって、心配だったのよ」

 「…………園長先生……」

 

 それほどまでに、私のことを心配してくれていたなんて。

 やっぱり園長先生は、あのころから全然変わってない。私達ひとりひとりを、きちんと見て、知って、わかってくれてる―――――

 それはたとえ卒園して、こども園に来なくなっても。園長先生にとっては、私達はいくつになっても『こども』なんだ―――――

 

 「りんくちゃん、昔から言ってたわよね……『いつかようせいさんがきて、わたしをプリキュアにしてくれるの』って。……でもまさか、本当にプリキュアが出てきちゃうなんてねぇ……」

 「!……そ、そうですねぇ……誰かに先越されちゃいましたねぇ、あはは……」

 

 さすがに、そのプリキュアが当の私だって言えるワケない。……10年前の私なら、喜んで言っちゃってたかもだけど。

 

 「だんだんと、アニメと現実の区別がなくなって、"不思議なコト"が、どんどん身近になっていく……」

 

 どこか遠い目をして、園長先生は呟く。

 

 「……"ママ"と過ごした子供のころを、思い出すわね……」

 「園長先生?」

 「あらあら……ごめんなさい、ちょっと昔を思い出しちゃって……」

 「昔と言えば……今も昔話とか、子供たちにしてるんですか?先生創作のアレ」

 「昔から言ってるじゃない。アレは昔話じゃなくって、思い出話なのよ?子供のころの私の思い出……」

 「今更思うんですけど……思い出話に、フツー魔法や妖精は出てこないと思いますが……」

 

 お遊戯の時間の合間に、園長先生が『思い出』を語って聞かせてくれていたのを、よく覚えてる。

 でも、『思い出話』の割には、魔法とか妖精とか、『ファンタジー的』な要素が多分に入ってた。

 だから私達は、これは園長先生の『思い出話』じゃなく、『創作昔話』だって思ってたけど、園長先生は決まって、ノンフィクションを主張する。

 

 「私は"魔女"よ?魔女が魔法や妖精の話をするのは自然でしょ?」

 

 『私は魔女よ』―――――これも園長先生の口ぐせだ。

 でも、『魔女』を自称してるのに、おっとりとしてて、優しい雰囲気を漂わせてる。『フレプリ』のノーザや『スマプリ』のマジョリーナのような、典型的な『魔女像』からはかけ離れてる。

 それに、実際に魔法を使って見せたことなんて、当たり前だけど一度もない。魔法を使ってってせがんでも、『今は使えないのよ♪』とか、『あらあら、MPが切れそう……』とか、『くっ!! ガッツが たりない!!』とか、ありとあらゆる言い訳ではぐらかされてしまうのがオチだった。

 

 「やっぱり、園長先生変わってないですね♪思い出しただけで笑えてきちゃうんだもん……♪」

 「ふふ♪笑ってるりんくちゃん、久しぶりに見ることが出来て、私も嬉しいわ♪」

 

 その時、職員室のドアを開けて入ってきたのは、私―――――キュアメモリアルを目撃して絶叫していた、紫色の髪のあの子。

 

 「りんくちゃん!みてほしいモノがあるの!きてきて~!」

 

 ??……何だろう?

 一言、園長先生に会釈をしてから、私は職員室を後にした。

 

 ――――――――――

 

 紫の子―――――ののかちゃんに連れられて遊戯室に入ると、さっき路地に来た女の子たちがいた。

 

 「おまちしてましたっ!」

 

 濃いピンクのセミロングの、ちょっと控えめならんかちゃん。

 

 「―――――プリキュアはかせ(博士)のりんくさんに」

 

 蒼いロングヘアーで、メガネをかけた知的な雰囲気のこころちゃん。

 

 「オイラたちのとっておきをみせてやるぞ~!!!」

 

 赤いショートカットの、車椅子でドリフトかました活発なぷらむちゃん。

 で、金髪のさっちゃんと、緑の髪のクインシィちゃんと、紫色の髪のののかちゃん。

 この6人は、全員がプリキュアにハマった"キュア友"で、こども園の中で最大の"プリキュア大好きグループ"だと、さっき園長先生が教えてくれた。

 

 「ごらんあそばせですの、りんくさん!」

 「わたしたちの、さいこーけっちゃくなので!」

 「みんなで、へんし~~ん!!」

 

 ののかちゃんの合図でみんなが取り出して、頭からスポっとかぶって見せたのは、なんとダンボールと厚紙で作った、手作りのコスチューム!

 

 「お……おお……をををを……!!!❤❤❤」

 

 こ……この感じ……この感覚……!!懐かしい!めっちゃ懐かしい!!

 おうちでも変身コスチュームを買ってもらってたけど、それでも好きすぎて、こども園の工作の時間でコスチュームをダンボールと厚紙で作ったのをよく覚えてる!

 14歳になって、まさかの『ホンモノ』を着ることになった今でも、この『手作り』感と、それを着る子供達に敵う『カワイさ』は絶対ない!!(断言!)

 この子たち……デキる!!まだ5歳か6歳だというのに、その心には確かに『プリキュア愛』を感じられる!

 結論―――――

 

 久しぶりに言わせていただきます!

 

 

 ―――――すっごく、キュアっキュアです!!!

 

 

 「すっご~い!!よく出来てる!特にココのリボン!ダンボールでここまでデキるなんて……愛を……愛を感じるよッ……!!サイコーにキュアっキュアだよ!!」

 「ふふふ……りんくさんならば、そうおっしゃるとおもいましたですの!」

 「―――――こーそーみっか(構想三日)せーさくいっしゅーかん(製作一週間)たいさく(大作)

 「これをみてもらったりんくたんに、わたちたちからおねがいちたいことがあるので」

 

 6人の女の子たちが、私を見上げてくるけど、さっちゃんが困った顔になった。

 

 「このいしょう、こんどのおゆうぎかいではっぴょうするよていになっておりますですの」

 「でも、おゆうぎかいのだしものの『おはなし』を、まだかんがえてないの……だからりんくちゃんに、おはなしをかんがえてほしいの!」

 「私に……お話を?」

 「それだけではございませんですの。わたくしたちがカンペキな"ぷいきゅあ"にちかづくために、りんくさんには―――――」

 

 さっちゃんの目がきらりと光り、視線が私を貫く。

 

 「わたくしたちの"ぷろでゅーす"をおねがいするですの!」

 「「「「「「おねがいします!」」」」」」

 

 6人全員がそう言って、ぺこりと頭を下げた。同時に言おうとして揃っていないのが、実に『らしい』。

 ……なるほど。つまり、この子たちはお遊戯会でプリキュアショーをしようとしてて、衣装はもう完成した……

 でも、肝心の台本が出来てない……ってことか……

 しかも、プロデュースってことは、舞台演出とかもしてほしいってコト……―――――

 

 どーしよー……私、勉強もあるし、今度のコンクール用の脚本の構想練ってる最中なんだよね……

 しかも、今更言うまでもないけれど、プリキュア見習いとして、ジャークウェブにつかまったレジェンドプリキュアたちを取り戻す使命もあるわけだし……

 

 

 …………って、何考えてるんだ私は。

 

 

 二つ返事で受けるしかないっしょ!!

 

 

 私だってプリキュアを愛する、誇り高きプリキュアヲタク!そしてその愛が高じてホンモノのプリキュア(ただし見習い)になった現役プリキュア!!(見習いだってば)

 でもって、将来は脚本家を目指してる身とあっては、ここで断りゃ女がすたる!!そうよね、キュアメロディ!

 演出とかそーゆーのはやったことないけど、なんとかなる!……たぶん。

 プリキュアに憧れる子供たちの願いにこたえて、夢と希望と情熱を守るのも、プリキュアの使命、だよね!

 よぉ~し、私の脚本・演出の初舞台!つくっちゃうぞ~!!けって~い!!

 

 「おk!みんなのお願い、引き受けました!!」

 「い……いいの!?」

 「もっちろん!!みんなの衣装を見れば、みんながどれだけプリキュアが好きかって、すっごくわかるもん!みんなが一生懸命作った衣装に応えられるくらいの素敵なお話、つくって見せるよ!!」

 「や……やったぁ♪」

 「っしゃーーーーーー!!!」

 「―――――さっちゃんさん、あなた(貴女)かんが()えはまちが(間違)ってなかった」

 「このわたくしがめをつけたんですの!とーぜんですの♪」

 

 思い思いに喜びをバクハツさせる6人の『ちいさなプリキュア』たち。なんてほほえましい光景……

 みんなのママやパパ、先生たちに、みんながどれだけ、『プリキュアがダイスキ』なのかを伝える―――――

 

 私の夢への第一歩は―――――責任重大、だ。

 

 「のんちゃ~ん?お兄さんがおむかえに来ましたよ~♪」

 

 茶色いロングヘアーでメガネをかけた女性の保育士さん(せんせい)が、遊戯室にののかちゃんを呼びに来た。

 ……そういえば、園長先生以外の保育士さん、全員代わってたな……

 

 「!にぃきたぁ~!」

 

 ののかちゃんの表情がにぱっと明るくなった。

 ののかちゃん、お兄ちゃんがいるんだ……それもこのののかちゃんの反応からして、ステキなお兄ちゃんみたい。お兄ちゃん子なんだねぇ……

 

 「ごめんのん、遅くなっ――――――――――」

 

 遊戯室の入り口からひょっこりと顔を出したののかちゃんの"お兄ちゃん"は、私を見て硬直してしまった。

 でもって、私もその"お兄ちゃん"を見て、一瞬頭が真っ白になった。

 ど、どーして…………

 

 ……ほくとくんが大泉こども園に……!?

 

 「と……東堂さん!?なんで、ココに……?!」

 

 いや、それは私の言いたいセリフだって!?……ある意味お約束だけど。

 

 「??にぃとりんくちゃん、おともだちだったの?」

 

 無邪気に私を見上げてくるののかちゃんに、私は恐る恐る訊いていた。

 

 「えぇと……ののかちゃん……そういえば、きちんとしたお名前、聞いてなかったんだけど…………」

 

 そう言うと、ののかちゃんはきちんと私の正面から、満面の笑みで堂々と自己紹介して見せた。

 

 「はって(八手)ののか、5さいです!」

 

 ……SAVE POINT




 インストール@プリキュアのひみつ!

 ・イヤリング
 
 メモリアルとデーティアのイヤリングは、ふたりの『通信能力』を制御するコアになっている。
 メモリアルとデーティアの『思念』を解析して、左耳のイヤリングで送信、右耳のイヤリングで受信することで『念話』を成立させている。
 このことから、コレは『イヤリングのカタチをしたアンテナ』であるとりんくは推測している。

 ・Wi-Fiウィング

 うなじの部分にある『コアドライバ』から出力される光の翼。メモリアルは『蝶の翅』、デーティアは『妖精の翅』をそれぞれイメージした形状となっている。
 電波が飛び交っている場所であれば自由自在に空中を飛行することが出来る便利な能力。さらに、出力される瞬間には不可視のエネルギーフィールドが同時に展開し、相手の攻撃を防ぐこともできる。
 しかし飛行中はウィングの出力にイーネルギー供給が割かれるため、この状態でフルドライブモード=キメ技を使用することは不可能である。

 ――――――――――

 どこかで聞いたような名前がたくさん出てきた今回……
 さちお嬢様を書いたのはリアルで1年ぶりだったりします(汗


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

しらないプリキュア

 キャラクター紹介

 フィッシン

 ジャークウェブ四天将のひとり。
 漆黒のメカニカルな全身鎧に身を包んだ戦士。
 素顔は窺い知れないが、フルフェイスヘルメットから覗く金色の長髪と体つきから、女性、それもりんくらと同年代の『少女』と思われる。
 全く言葉を発せず、機械的に行動する。身体能力・戦闘能力も常識外れであり、痛みも感じないのかダメージを受けても怯む様子を見せない。
 まるで『人形』のように、不自然な動作を見せることもある、四天将でもひときわ謎多き存在。

 以前は口やかましく自己主張が強い性格だったらしいが、第二次サーバー王国侵攻の際に生死をさまよう重傷を負い、カイザランチュラによる蘇生処置を受けてこの姿となり、以来性格も変わったという。
 腕部のユニットにキュアチップをセットし、そのプリキュアの力を引き出し、直接戦闘を行う。
 他にも、キュアチップに対する強力な『権能』を持つ、四天将の『特異点』。
 りんく曰く「誰にも似てない!コワッ!!」

 ――――――――――

 はな「はぐたんが泣き止まない……こうなったらあの手で…………あ~、ごほん」

 はぐたん「??」

 はな「ボクベ~コンム~シャム~シャく~ん♪ベ~コン食べるゥ~の、だいす~きサァ~♪」

 はぐたん「はぐ~♪きゃはははは♪」

 ハリー「……なんやあのネタ……」

 さあや「はぐたんが気に入っちゃって……あれってなんなの、ほまれ?」

 ほまれ「さぁね。……さ~て、今日もドロップドロップ☆」

 さあや「???」

 ――――――――――

 お待たせしてしまった挙句にこのようなネタでお茶を濁して大変申し訳ございません……
 大変長らくお待たせしました!今回はりんくがほくと君のおうちにお邪魔しちゃいます!
 ほくと君に拳法を教えた『師匠』も登場します!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 ののかちゃんとほくとくんと、3人で大泉こども園を後にして、私達は連れ立って通学路を歩いていた。

 

 「驚いたよ……まさか東堂さんが、のんといっしょにこども園にいるなんて思わなかったから……」

 「私だってそうだよ。……偶然ってなんかコワいね」

 「……あ、そうだ。"富士山"の写真。……データ、お願い」

 《おう!》

 

 ほくとくんの制服のズボンのポケットから、データが小さく返事をすると、私のネットコミューンから着信音がした。ポケットから取り出してビューワーを起動すると、『日本最高峰富士山剣ヶ峰』と彫られている石碑が写っていたけど―――――

 

 「……ほくとくんが写ってない」

 

 思った通りのことを口に出してしまった。

 

 「ご、ごめん……割と人が多くて……空から様子をうかがって、ちょっと人が少なくなった時に、何とか撮れた写真だから……とても自撮りができるような時間も無かったし……」

 「そうだったんだ……だよね……『スカイツリーのてっぺん』よりも人が来る確率高かったかも……私こそ、ごめんね」

 「あれ!?りんくちゃん、そのケータイ!」

 

 と、私が取り出したネットコミューンに、ののかちゃんが熱視線を向けてきていた。……やばい。

 

 「すっごくかわいい!!なんか"プリキュアの"っぽいね、ソレ」

 「こ、コレ!?えっと、ケータイの会社がプリキュアとコラボしてて、抽選に応募したらそのケータイが当たっちゃったのよ~、アハハ……」

 「……そーなんだ、いいなぁ~……」

 

 よ、よかったぁ……ののかちゃんが疑り深くなくって……『見せて』ってせがまれて、メモリアとばったり目が合っちゃった……という事態になるなんてシャレになんないし……

 私は思わず小声でほくとくんにたずねた。

 

 「……ねぇ、ほくとくんはネットコミューン、ののかちゃんに見せてないの?」

 

 すると、ほくとくんは顔を赤くして、私から視線を逸らしながら答える。

 

 「み、見せられるワケ無いよ……その……男の僕が持つようなデザインのスマホじゃないし、コレ……」

 

 そう言われて、私はピンクのネットコミューンに視線を戻す。

 リボンやレース、ハートマークをイメージしたデコが満載だ。うん、女の子ならこんな感じのスマホを持っててもフシギじゃない。

 ……けど、男の子がこれを持ってるとなると……―――――

 

 ―――――……なんか、何をどー言っていーのか……

 ……うん、ノーコメントとしておきます。

 

 「りんくちゃん!」

 

 上機嫌で私とほくとくんの先を歩くののかちゃんが、くるりと振り向く。

 

 「のんのおうちにこない?プリキュアのおもちゃがいっぱいあるから、りんくちゃんにみてほしいの!」

 「「ぅえッ!?」」

 

 いきなりおうちにご招待ですかっ!?しかもプリキュアのおもちゃいっぱいですと!?!?

 小学2年生くらいから、プリキュアのおもちゃを買ってもらえなくなって早7年……この(かん)、放送されたプリキュアのおもちゃのCMを見ながら、何度心ときめかせたか……

 中学2年になった今でも、ネット通販や"プレミアムB"のサイトで思わずポチりかけたことも……財団B、プリキュアファンの心をガッチリ掴んでくるんですよ……

 ……それはともかく、私にダブってほくとくんも驚いたような声を上げたのを聞いたけど……?

 

 「だめ……?にぃもいいよね……?」

 「え……えぇっと…………だめ、じゃない……///」

 「!やったぁ♪りんくちゃん、はやくはやく~!」

 

 私の手をがっしり握って、ののかちゃんが私を急かす。

 引っ張られながら、私はほくとくんを見た。私に気付くと、顔を赤くしてうつむいてしまった。

 私におうちに来てほしくない……わけじゃないみたいだけど……どうしたのかなぁ……?

 

 ――――――――――

 

 10分ほどして、ののかちゃん―――――もといのんちゃんが「ここがのんとにぃのおうちだよ!」と紹介してくれたのは、大きなお屋敷だった。もっとも『お屋敷』といっても、なんかその、『古民家』といった方がしっくりくる感じ。

 

 《おっきいおうちだねぇ~……》

 《だろ?》

 

 ため息を漏らすメモリアと、得意げなデータの声がコミューンから聞こえてくる。

 

 「このおうち……だったんだ」

 「え?」

 

 このお屋敷に、私は見覚えがあった。

 

 「お向かいのパン屋さん、むぎぽんのおうちでさ、昔からよく来てるんだ。……そっかぁ……ここだったんだね……」

 

 デジャヴュを感じるワケだ。このお屋敷、無意識のうちに何度も私の目に入っていたんだねぇ……

 

 「はいってはいって!さぁどーぞ!」

 

 にこやかに促すのんちゃん。ちらとほくとくんを見やると、微笑んで軽くうなづいた。

 

 「それじゃ……お邪魔します」

 

 靴を脱いで、古い木目の廊下に上がると、きし、と音がした。……だいじょーぶなのかな、このおうち……

 

 「じぃ~!ただいま~!」

 

 障子戸を開けて、のんちゃんが元気な声を響かせる。そのお部屋をのぞき込むと、紫色の甚兵衛を着た白髪のヒトが私達に背中を向けて座禅しているのが見えた。

 そしてそれを見た一瞬―――――

 

 ―――――ドン!!!!!―――――

 

 という『圧』を感じた。なんか……気軽に話しかけちゃいけないヒトのような気がするんだけど……のんちゃんが『じぃ』って呼んだこのヒトは一体……!?

 そのヒトは振り返ると、ふっと表情を和らげて、のんちゃんに笑いかけた。

 

 「おぉ、ののかよ、帰ったか!ほくとも一緒か……ん?そちらのお嬢さんは?」

 「は、はじめまして!東堂りんくです!いつも、ほくとくんにはお世話になってますっ!」

 「おぉ、これは丁寧に。……ほくと、お前の知り合いじゃったのか。フッ、初めてじゃな、お前が女の子の知り合いをウチに連れてきたのは。隅に置けんのう♪」

 「そ、そーゆーわけじゃ……なくもないけど……ごにょごにょ……///」

 

 ??ほくとくん、なんか顔赤くなってる……家族のヒトだと思うけど……どうしてそこまで緊張するのかな……??

 

 「(ワシ)は八手三郎……ほくととののかに、拳法を叩き込んでおる老いぼれよ」

 「拳法の先生……なんですか?」

 「じぃはじぃだよ~!ね、じぃ~?」

 「ん?おぉ、そうじゃよ~♪……ほくと!なにをボサッとしておる!?お客人に茶を淹れるくらい出来んのか!?」

 「……は!はい師匠!!只今ッ!!」

 

 ほくとくんはびしりと背筋を正すと、台所に取って返して行った。

 あれ……??このヒトのことを、ほくとくんは『師匠』って呼んでて、のんちゃんは『じぃ』って呼んでるけど……結局どっちなんだろう……??

 

 「まったく、気も利かぬバカ弟子が…………東堂さんと仰ったかな?ただっ(ぴろ)いだけのこんな荒ら家(あばらや)であるが、ゆっくりしていかれよ」

 「は、はい……ありがとうございます……」

 

 スゴい迫力のおじいちゃんだった……のんちゃんとお話してる時はデレっとしてたけど。

 ……そして何より。

 

 ―――――『まほプリ』のドクロクシー様に声が似てたのは気のせいじゃない……と思う。

 

 ――――――――――

 

 のんちゃんは私を居間に案内すると、「ちょっとまっててね!」と、そそくさと出ていった。

 ぽつんとひとり残されて、ちょっと寂しくなる。他の人のおうちでひとりきりになると、なんか不安になる。なんとなく居間の中を見渡すと、額縁に入った賞状が鴨居の上にたくさん飾ってある。その全部がほくとくんの名前が書いてある賞状だった。

 でも、全部が『空手』の賞状だった。『拳法』って、やっぱりマイナーなのかなぁ……??

 所々に置いてある家電製品を見ると、ネットにつながってて、引っ切り無しにLEDを点滅させてる家電が満載のウチとは全然違う……というか、古めかしい。

 テレビがやけに分厚い箱型で、その上に黒い小さな箱が置いてある。地デジチューナーなんて、実物を初めて見た気がする。部屋にもエアコンは無いし、掃除機とかも昭和のニオイがしそうなビンテージモノ。一番新しそうなモノは、テレビ台に備え付けられてるDVDプレイヤーで、それももはやほとんど需要の無いVHS一体型という……壁際のカラーボックスに黒い大きめの長方形の物体がたくさん並べられているのを見たけど、あれってもしかしてビデオテープ……!?BD全盛の20XX年の今の時代にビデオテープが現役とわ……

 …………失礼かもしれないけど……まるで"レトロ家電博物館"だ。動いているのが不思議なくらいの家電製品が、フツーに動いてるこのおうちっていったい……

 その時、ジュースが注がれたカップをお盆に載せて、ほくとくんが居間に入ってきた。

 

 「ごめん、お待たせ。……あれ?のんは?」

 「2階に上がってっちゃったみたい。……ありがと」

 

 私はジュースをひとくちすすって、ちゃぶ台の向かい側に座ったほくとくんに尋ねた。

 

 「さっきのヒト……師匠ってほくとくんが呼んでたけど……だれ?」

 「僕のお祖父さんだよ」

 《じゃぁどーして『おじいさん』って呼ばないの?》

 

 それまで人目を気にして黙りこくってたメモリアの声と同時に、コミューンが私のポケットから飛び出してきて、ちょこんとちゃぶ台の上に乗った。

 

 「最初に僕が拳法を習いだした時に約束したんだ。僕が空現流を受け継ぐその時までは、『お祖父さんと孫』じゃなくって、あくまで『師匠と弟子』の関係でいようって。……もし途中で僕が投げ出したら、家を出ることにもなってる」

 「真剣……なんだね」

 「決めたんだ。仮面ライダーみたいに、強くなろうって。もちろん、力だけじゃなくって―――――"ここ"も、ね」

 

 ほくとくんは、右の握り拳を胸板にぶつける。

 

 「最初は単純に『誰にも負けないように強くなりたい』って思って始めたけれど……修行を続けるうちに、『ココロの強さ』も意識できるようになったみたいでさ……本当に『強くなる』って、『どういうこと』なのか、少しずつわかってきたところだよ」

 

 そう言うと、ほくとくんはどたどたという音が聞こえる天井を、遠い目で見上げた。

 

 「でも……それでも……『強さ』の『意味』をわかっても、『世界を守る』っていうコトが……まだ『どういうコト』なのか、実感が無いっていうか……よくわからないんだ……この間、政府の人達が僕達を追ってるってことを知っても、まだ……ね。僕ができるのは―――――」

 

 見上げているその先めがけて、おもむろに手のひらを向ける。

 

 「僕のこの手が届く……『僕の周りの世界』や家族を、出来る限りに守る……だけかな」

 

 ―――――同じだ。

 私が見てきた、『プリキュアたちの戦い』と、ほくとくんの『世界を守る』、そのイメージが重なる。

 私は、今まで見てきたプリキュアたちの日々の姿を思い出しながら、ほくとくんに感じたシンパシィに答える。

 

 「……たぶん、『それ』でいいんじゃないかな」

 「え?」

 「私もね……『この世界を守る、ホンモノのプリキュアになる』って決めたんだけど……ホントはまだ、ピンときてないの。プリキュアも、『伝説の戦士』って呼ばれてるけど……でもね、『世界を救うために戦った』ことって、最後のひと月くらいだけなんだよ。あとは……そう、ほんの身近な、本当にささやかな、みんなの暮らしてる街、友達、家族を、悪いヤツから守ること……『世界を救ったコト』って、実は結果論でしかないんだよ」

 

 世界を狙う悪いヤツらは、プリキュアたちの『身近な存在』に目を付けて、それらを狙って行動を起こす。そうでなくても、悪事のほとんどは、プリキュアたちの目につくところで行われる。プリキュアたちの目に入らないところ、手の届かないところで事件が起きたことは、ほとんどない。

 身近なモノ、いつもの日常、大切な人―――――そういったモノを守るために―――――

 みんなのためにがんばって、プリキュアたちが戦ってきたことを、私は知ってる。

 

 「でも……だからこそ、みんなが『強く』いられたんだと思う。『世界』とかスケール大きすぎて、実感湧かないじゃん。でもさ、ママとかパパとか、友達、学校とか……知ってる人や知ってるモノや場所なら、無くしたくない、傷つけられたくないって、強く思えるんだよね。プリキュアのチカラは『想い』のチカラ……プリキュアは、ハートで戦うんだよ」

 「プリキュアは……ハートで戦う……」

 

 ほくとくんと同じだった。ジャークウェブがこの世界へ侵略しようとしていて、それを止めないと世界がどうにかなっちゃうかもしれない―――――

 でも、私がしてきたことと言えば、この街や学校、そして友達―――――そんな、『ごくありふれたモノ』を守って、戦ってきただけ。

 そうすることで、救われた人たちがいることもわかるし、救えなかった人がいることも知ってる。

 失うモノや守れるモノが、私達から『遠い』存在じゃなく、私達から『近い』存在であればあるほど、私の『守りたい』という想いは強くなる。

 

 「『世界』のために強くなれるかって言われたら、自信ないけど……目に入るモノ、手の届くモノ……『守りたいもののために』なら、強くなれそうな気がするの」

 

 そう考えてみれば―――――プリキュアのアイテムやコスチュームのほとんどに、『(ハートマーク)』があしらわれてるのもわかる気がする。それこそが、プリキュアの強さの証なんだから。

 常識外れのスゴいパワーや身体能力に目が行きがちだけど、それは全部、『ココロの力』が源なんだ―――――

 

 「りんくちゃん、おまたせ~!」

 

 その時、のんちゃんの声とともにふすまが開かれた。するとそこには―――――

 

 「をッ!?………………ををををををををを!!!!❤❤❤❤」

 

 変身コスチュームに着替えたののかちゃんと、おもちゃ箱一杯にぎっしりと詰められたプリキュアのおもちゃの数々!それも全部、DX版!!

 のんちゃんが着てるコスチュームはキュアハッピー!あぁ……なんてカワイイ……カワイすぎる……!!

 ど、動画!!今すぐ動画撮らなきゃ!!これ撮り逃したら一生後悔する!!(ただのファン)

 あぁ!?よ、喜びとコーフンのあまり手ブレがッ!!??(激焦

 

 「す、すっごーーーーい!!!よくこんなに集めたね!?カードコミューンにキュアモ、イノセントハーモニーマイクにキラキラルクリーマーも!……ぅわ!?こ……コレって"プレB"限定の……!!」

 

 確かコレって、限定100個、しかも完全予約制、受注生産だったレアモノじゃ……!?す、素手で触っちゃイケナイ級のシロモノですよ、奥さん!?(誰

 

 「こッ、コレ、どこから……!?」

 「さっちゃんがのんたちにくれたの!『しさくひんがあまったのであげますですの』って!」

 「な……なんとうらやましい……じゅるり」

 

 ファン垂涎モノのシチュですよ……あ、マヂでヨダレが。

 持つべきモノは良き友達ですなぁ……うんうん。

 

 「でも、どーしてもほしいんだけど、うってないプリキュアのおもちゃがあるの」

 

 売ってない……?それっていったい……?

 はッ!もしかして、ボツ設定をホビー化してみました的なアレ!?

 ……となるとまず思い浮かぶのは『プリキュア5』の『メタモルキャッパー』だけど、アレはスクーター型だし、商品化するにはまずそっちの方面とコラボしなきゃ―――――

 い、イカンイカン、妄想が暴走しかけてる……ジュースでクールダウンをば……

 

 

 「のんね、『インストール@プリキュア』のおもちゃがほしいの!」

 

 

 私はジュースをブッと吹き出し、せき込んだ。ジュースのにおいしみついてむせる。

 

 「……さっちゃんにきいたんだけどね、『インストール@プリキュア』のおもちゃは、まだつくれないんだって……えーっとね、『しりょーがすくないからまだむりですの』って」

 

 ま、まさかそう来るとわ……

 確かにプリキュアなんだけど、残念ながら『インストール@プリキュア』はアニメ放送していないコンテンツでして……財団Bがスポンサーってわけでもないから、おもちゃが出ることはこの先―――――

 あ……可能性はゼロじゃないかも。何しろ、"プリキュア"の商標権の一部は財団Bが持ってるわけだし……

 ……となると、この先キュアメモリアルやキュアデーティアの"S.H.Figuarts"とかができちゃったりするかもしれないワケ!?

 それはそれで楽しみなよーな不安なよーな……もし造るなら腕のいい原型師サンにお願いします、財団Bの担当のヒト!!

 

 「アニメ化に続いてフィギュア化かぁ……♪メディアミックス進んでんじゃん……♪♪」(フィギュア化は未定です。それ以前にアニメ化もホントはしてません)

 「??どしたの?」

 「あ、ううん、なんでも……でも、どうして『インストール@プリキュア』なの?あれってテレビでやってないし……どこの誰かもわかんないのよ?」

 「でも、でもね、のんね!キュアデーティアにたすけてもらったことがあるの!」

 

 のんちゃんの目が、ひときわ輝くのが見えた。

 

 

 「のん、キュアデーティアがいっちばん、だいすきなの!!」

 

 

 思わず私はほくとくんを見ていた。そのほくとくんは―――――

 

 

 思いっきり目を見開いていた。

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 

 のんがプリキュアが大好きだというコトは、言わずもがな知っていた。

 ただ、特定の『どのプリキュアが好き』というのは、今までのんの口からは聞いたことが無かった。

 今日初めて聞いたけれど―――――まさか、キュアデーティアが好きって…………

 こんな風に、誰かが『ヒーロー(?)としての僕』のファンになってくれたこと、それは素直にうれしく思う。

 でもそれが僕の妹で、しかも憧れの視線を向けている相手は、『僕であって僕ではない』……

 

 「はぁ…………」

 

 東堂さんを近くの交差点まで送っていく最中、思わずため息が漏れた。

 

 「もしかして、のんちゃんがキュアデーティアが好きって言ってたの、気にしてる?」

 「えぇと、その……どう受け取っていいか、わからなくって……」

 

 たぶんのんのコトだから、『誰が変身しているか』なんて、ほとんど気にしてないだろう。実際僕だって、幼稚園の頃はあくまで『変身後のヒーロー』に憧れて、『誰』が変身していて、その人がどんな事情で戦っているかとか、全然気にしていなかった。それと同じで、のんは純粋に『キュアデーティア』に憧れてるんだと思うけど……

 ……これって、アレだ。『激走戦隊カーレンジャー』の、レッドレーサーに惚れ込んだゾンネット状態だ。

 いわば僕は『猿顔の一般市民』。完全な別人に思われてるんだろう……けど……

 僕の脳裏に過ぎるのは一抹の不安。

 

 ―――――万が一、僕がキュアデーティアだというコトがのんにバレたら。

 

 東堂さんの時は、同じプリキュアだったからどうにかなったものの、もうこんな偶然は起きまい。

 あの時と同じ―――――『大切な人の"ダイスキ"』を奪ってしまうかもしれないという恐怖が、頭をもたげてくる―――――

 

 「……やる気出るよね!」

 「え?」

 

 東堂さんは笑って、拳をグッと握っていた。

 

 「さっきも言ったけど……知らないヒトよりも、知ってるヒトの為なら、強くなれそうって。のんちゃんが応援してくれるんならさ、なおさらじゃん!」

 「……!」

 

 ―――――思い出した。

 僕が初めてキュアデーティアに変身した時、"誰"のために戦ったのか―――――

 "誰"を救おうとして戦ったのかを―――――

 

 ―――――ののかを、返してもらうぞ!!―――――

 

 ―――――必ず……わたしが助けるから―――――

 

 心の中が沸騰して、僕の知らない『()()()』が覚醒したあの日―――――

 絶対に負けない、負けたくないと、僕は力の限り、心の限りに戦うことが出来た。

 

 「ますます負けられなくなったね」

 「僕はともかく……どうして東堂さんが張り切ってるの?」

 「トーゼンだよ!あそこまでのディープなプリキュアファンの子、ネットでもそうそう見ないし……将来有望な子だよ、うんうん♪」

 「は、はぁ……」

 

 どーゆー意味で有望なんだろーか……

 ……ともかく、キュアデーティアに目を輝かせてくれているのんを失望させないように、悲しませないように―――――

 

 ―――――格好悪い所は、見せられない。

 

 のんの前では、格好良い……いや、東堂さんの言うところの『カッコカワイイ』伝説の戦士・キュアデーティアでいなくちゃいけないんだ。

 そして―――――絶対に『負けてはいけない』。

 ヒーローに憧れる子供たちが最も見たくないヒーローの姿―――――それは、『無様な敗北』なのだから。

 敗北は―――――のんに対する『背信』に他ならないんだ。

 

 「のんちゃんとみんなのために、もっとがんばらなきゃね!私も、のんちゃんたちとこども園のみんなが喜んでくれるような劇の台本、書き上げて見せるから!」

 「……そういえば、のんたちが今度のお遊戯会でやる劇の台本、引き受けてくれたんだってね。……ありがとう。……その、何か手伝えることとか、ある?」

 「今のところはだいじょーぶ!とりあえず、私の方で練ってみるつもり。もし何かあったら、その時にお願い。それじゃ、また明日!」

 「うん……今日はありがとう」

 

 東堂さんは僕に手を振りながら、夕陽が沈む西に向かって駆けていった。

 東堂さん、将来は脚本家になりたいって言ってたっけ。シナリオコンクールにも何回か応募してるらしい。

 ―――――僕と同じだ。

 僕が、スーツアクターを目指して鍛錬を積んでるように、東堂さんもまた、夢に向かって頑張ってる。

 それに加えて、僕がデータと出会って、東堂さんもメモリアと出会って、『プリキュア見習い』になった僕達には共通の目標がある。

 

 ―――――『一人前のプリキュア』になること。

 

 51人のプリキュアたちを助け出し、その上で51人のプリキュアたちに勝利する―――――

 遠大な目標だけれど、東堂さんといっしょなら、きっと―――――

 

 そして、その試練を潜り抜けて、一人前のプリキュアに―――――『本物のヒーロー』になれたその頃には―――――

 僕の『本当の気持ち』を、東堂さんに伝えられる強い心も、また―――――

 

 「データ……僕はもっと……強くなりたい」

 《ヘッ、そりゃ……アタシも同じだぜ、相棒♪》

 

 予想した通りの答えが、ポケットの中から返ってきた。

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 「のんちゃんたちの劇の台本を書くにあたって、まずは映像資料からヒントをゲットしようと思います!そこで取り出したるはこのブルーレイ!!」

 

 家に帰って、私はキュアットタブの液晶の上に座っている、メモリアとレジェンドプリキュアのみんなの前で、棚から1枚のディスクを取り出した。

 

 「『キラキラ☆プリキュアアラモード』、第2巻~!!今日はこれを見て参考にしま~す!みんな、拍手~!!」

 《《わ~~~☆☆》》

 

 実はこの光景、今日が初めてじゃなかったりするんだよね。

 3日に1回ほど、私がセレクトした回の上映会をやってる。特にメモリアは目を輝かせながら見入っていて、上映が終わるやいなや、『次はどのプリキュア!?どんなお話!?』って、食いついてくる。

 でもって、レジェンドプリキュアのみんなの反応は様々だ。まさか自分たちが体験した出来事がアニメ化されてるなんて思ってもみなかったらしく、『自分が出てるお話』を見る時はなんか恥ずかしげだ。

 しかし中には冷静に見てる子もいて、『ここは実際はちょっと違った』とか、『この裏で実はこんなことが起きてたんだよねぇ』とか、実際とアニメの違いを指摘したり、感動シーンの裏話を大公開してくれたりしてる。

 つまり、アニメで放送された内容と、実際にプリキュアたちが経験してきた出来事は、ちょっとだけ違うところがあるというコト。

 この違いって、何なんだろう……?

 そもそも、プリキュアたちの体験を、一体誰がどうやって、アニメの脚本のヒトに伝えたんだろう……??

 また謎が……それもすんごく巨大な謎が増えたよーな……―――――

 

 《キュアパルフェ、できあがり!》

 

 今現在流れてるのは、『プリアラ』の第23話『翔べ!虹色ペガサス、キュアパルフェ!』で、キラ星シエルちゃんがキュアパルフェに初変身したシーンだ。

 このシーン、今見ても感動モノですよ……ピカリオとキラリンのエピソードも、涙なしでは語れませんです……。

 

 《っっっえええ~~~~~~~~~~~!?!?!!?!!??!》

 

 突然、素っ頓狂な叫び声を、メモリアが上げた。

 

 「ぅわぁビビったぁ!?急にどうしたの、メモリア!?ってか、上映中はお静かに!」

 《だって!だって!コレ、絶対ちがうよ!?》

 

 テレビ画面を指差して、メモリアは言った。

 

 《キュアパルフェって、誰なの……!?プリキュアアラモードって、()()でしょ!?6人目って、あたし、聞いたことがないよ!?》

 「……!?ちょ……メモリア、何、言ってるの……!?」

 

 この小説を読んでくれてるみんなは当然知ってると思うけど……『プリキュアアラモード』のメンバーは、全部で『7人』いる。

 でも、メモリアは何故かプリキュアアラモードを『5人』で全員だと思ってたみたい。

 そういえば―――――

 

【挿絵表示】

 

 私はメモリアが作ってくれた、『プリキュア救出リスト』を思い出していた。読んでくれてるみんなも、↑のリンクをクリックしてみてね。

 見てもらった通り……『プリキュアアラモード』はキュアショコラから先がおらず、『5人』しかリストに載っていない。

 それに―――――

 次の年に放送された、『HUGっと!プリキュア』から先―――――2018年から先に放送されたシリーズに登場したプリキュアたちは、リストに載ってすらいない。

 このリストが、メモリアが自分の記憶や認識から作ったものだとすれば―――――

 

 メモリアは―――――パルフェを知らないんだ。

 

 ――――――――――

 

 上映終了後、メモリアは周りのレジェンドプリキュアたちに疑問を大いにぶつけていた。

 

 《ねぇ、どういうことなの……?あんなプリキュアがいるって、あたし、聞いてないんだけど……?》

 《無理も無いですね……このことは、サーバー王国の方々には、ほとんどお話していませんでしたから……》

 《いちかちゃんから聞いてはいたんだけど……国のみんなに話す機会が無かっただけなの。隠してたわけじゃないけど……ごめんね、メモリア》

 《ううん……それならいいの》

 

 ビューティとミラクルの謝罪に、メモリアは首を横に振って、にっこりと笑って返した。

 

 《それで……キュアパルフェって?》

 《プリキュアアラモードの、6人目のプリキュア……なんでも、トラブルに見舞われてしまったらしくて、サーバー王国に一緒に来ることが出来なかったらしいです……》

 

 レモネードの説明によれば、パルフェ―――――シエルちゃんはアニメの創作じゃなくって、きちんと元の世界に『本物のシエルちゃん』がいるということみたい。私もほっとした。

 この場に、『プリアラ』のメンバーがひとりもいないことがつくづく悔やまれる状況だ。詳細を語れる子が、誰もいないんだから……

 

 《……それだけではなくってよ》

 

 エースが、私の部屋の、ブルーレイBOXがぎっしり詰められた棚に目を向けながら言う。

 

 《クイーンは、わたくしたちの『世界』以外にも、メッセージを送っていたらしいのですが……何らかの事情でサーバー王国へ来られなかったのか、メッセージがそもそも届かなかったか……いずれにしても、わたくしたち51人が、『すべてのプリキュア』ではないというコトですね》

 《つまり、みんな以外の、見たことのないプリキュアたちもいるってコト……?》

 

 メモリアが、ブルーレイBOXを見上げて、目を輝かせているのが見えた。未だ見ぬ『知らないプリキュア』たちに、想いを馳せているのかもしれない。

 

 「……そうだね。今も毎週日曜日に放送してるわけだし、シリーズが始まるたびにどんどんプリキュアたちも増えて―――――」

 

 そこまで言った時、なぜか胸騒ぎがした。

 クイーンは、プリキュアたちのいる世界にメッセージを送っていたことは、ロゼッタから聞いたし、今しがたエースも説明してくれた。

 結局、サーバー王国に集うことのできたプリキュアは、全部で12のチーム、51人。その数がそっくりそのまま、私の『助け出すべきプリキュアの人数』として認識されている。

 でも……もし、もしも―――――

 クイーンのメッセージが、12のチーム『以外』のチームの世界にちゃんと届いていて、そのチームがサーバー王国を目指していたとしたら―――――

 サーバー王国に馳せ参じることが出来ずに、途方に暮れているプリキュアたちがいるという可能性は―――――?

 我ながら根拠のない。心の中で自嘲しながら、私は何の気なしに、ネットコミューンの『プリキュア救出リスト』を開いた。

 

 

 「―――――――――――――――え?」

 

 

 目を疑った。

 思わず二度見した。

 でも、見間違いなんかじゃなかった―――――

 読んでくれてるパソコンの前のみんなにも、私が見た『現在の』リストを見てほしい。

 

【挿絵表示】

 

 ……おわかりいただけただろうか。

 

 『プリアラ』のリストの右端に、2つの欄が追加されて、それぞれ『No.50 CURE-PARFAIT』、『No.51 CURE-PEKORIN』と書かれている。

 それだけじゃない。今まで『OTHER PRECURE』の行だった場所に一行挿入されていて、『HUGTTO!PRECURE』と題された行と、3人分の欄が追加されていたのである……!!

 

 「ええええええ~~~~~~!?!!?!?!?」

 

 今度は私が素っ頓狂な叫びをあげてしまった。

 

 《りんく!じょーえーちゅーはお静かに!だよ!》

 「もう上映中じゃないって……そ、それより見てよ、みんな!!これ……!!??」

 

 私がリストの最終行を見るよう促すと、11人のプリキュアたちとメモリアはこぞってリストとにらめっこして、驚きの声を次々と上げた。

 

 《これって……えええ~?!》

 《メモリアが追加したわけじゃ……ないよね?》

 《『はぐっとプリキュア』……とお読みするのでしょうか?》

 《な、何って読むの……『いぇーる』……『えんじゅ』……『いといれ』??》

 《『キュアエール』、『キュアアンジュ』、『キュアエトワール』……フランス語ですね》

 《さっすがれいかちゃん、あったまいい~!》

 《どんな子たちなのかなぁ……》

 

 みんな、まだ見たことのない『HUGプリ』のみんなに興味津々のようだ。しかし―――――

 メモリアは何故か、顔を真っ青にしていた。

 

 「メモリア……?どしたの?」

 《あたし……あたし、何もしてないのに……リストが勝手に更新されてる……プリキュアが……増えてる……全部で56人に増えてるぅ……!!》

 

 メモリアがいじったわけじゃないらしい。それならどうして、リストが更新されたんだろう……??誰かがハッキングしたとでも?

 ……それこそまさか、だ。ネットコミューンやキュアットタブのセキュリティはカンペキ。不正ソフトのひとつも入り込めない鉄壁のハズ。

 じゃぁ、いったいどうして?これって何を意味しているんだろう……

 

 《りんくもヒトゴトじゃないよ!?助けなきゃいけないプリキュアが、5人も増えちゃったんだよ~!?》

 「あ……(;゚Д゚)」

 

 そうだ。私達は、キュアチップにされてしまったプリキュアたちを全員救出するために戦っているんだ。

 ()()()が増えたことで、当然目標からは遠ざかったわけで……

 

 「で、でも!本当に5人がキュアチップにされちゃってるのかわかんないし、それにそもそも、パルフェはサーバー王国に来れなかったんだよね?この世界に5人が来てるのかどうかすらわかんないわけだし、まだ判断するには早いよ」

 《……りんくがそう言うなら……》

 

 まぁ、『念のため』ってコトにしておこう。最後の最後まで、この5人の欄は埋まらないかもしれないけれど、ポジティブに考えなきゃ。

 もしかしたら、この世界にキュアエールが―――――野乃はなちゃんたちが来てるかもしれない、会えるかもしれないっていう、ささやかな希望として―――――

 

 《ねぇりんく、あたし、知りたい!あたしの知らないプリキュアたちのこと、もっと知りたい!》

 「……メモリアなら、そう言うと思ったよ♪」

 

 メモリアも、私に負けず劣らずの『プリキュア愛』の持ち主だ。プリキュアのこととなると、とても熱心に勉強しようとしてる。

 

 「そんなワケで、今日は延長戦!ブルーレイ2枚目は『HUGっと!プリキュア』、第1巻~!!」

 《あ、わたしも見てもいいかしら?会ったことのないプリキュアたちのこと、ちょっと興味があるし……》

 《もっちろんだよ!さ、ビート、こっちこっち♪》

 《じゃぁアタシはメモリアのと~なりっ☆》

 《あ!きららちゃんずる~い!メモリアのとなりはあたしが~……》

 《あらあらまぁまぁ♪》

 

 何故かメモリアのとなりは人気の席のようで……

 こうやってプリキュアたちがキャッキャウフフしてる姿を見てるだけでも、私は超キュアッキュアな幸せ者です……❤ 

 プリキュアのみんなを交えてのブルーレイ鑑賞会は、深夜まで続きましたとさ……

 

 ……SAVE POINT 




 ……と言うわけで、今回から『HUGプリ』もラインナップに加わりました!
 小説にどういった形で登場するのかは現段階では決めておりませんが、この先確実に登場することだけはお約束できますので……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夢ガール!

 設定解説

 本小説内におけるプリキュアシリーズの放送概要

 本小説の世界においては、毎週日曜日朝8:30からの本放送はもちろんのこと、BS放送における毎週土曜日夜19:30からの『再放送』も終わる事無く放送されており、さらには傑作選が平日夕方から地上波で繰り返し放送されるなど、小さな子供たちも、生まれる前に放送されたプリキュアシリーズを視聴できる機会が大幅に増加している。
 故にプリキュアオールスターズの商品展開も財団Bによって現実よりも幅広く行われ、全シリーズのおもちゃがロングラン商品となって、シリーズ本放送終了後も流通するなど、現実と比較して社会現象レベルの人気になっており、認知度も非常に高い。

 ――――――――――

 1か月強もお待たせしてしまってすみません!
 前書きの度に謝罪を重ねている稚拙です……
 時間がかかった割に今回は幕間回です。
 特別ゲストも登場します!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 さて次の日、放課後もう一度こども園へとやってきた私は、プリキュア大好き6人組のリサーチを始めた。

 ストーリーの骨子はできたけど、みんなの好みも知らなきゃいけないし、それによってセリフ回しの細かい所も変える必要があるからね。

 それでは最初はこの子から、いってみよー!

 

 「さ……さとうらんかです……」

 

 歴代主人公プリキュア御用達のピンクの髪がまぶしい!佐藤らんかちゃん。

 こう言ったらアレだけど……6人の中ではちょっとアクがないというか、引っ込み思案であんまり目立たないというか……

 そんならんかちゃんが好きなのは―――――

 

 「パパね、おまわりさんでね、とってもかっこいいの!こないだのにちようびにね、ゆうえんちのプリキュアショーにつれてってもらったの!」

 

 パパっ子ですか……なんかわかるなぁ……

 パパって普段はちょっと冴えないけど、いざって時はすっごくカッコいいし、休みの日は家族サービスしてくれるし……

 お巡りさんならなおさらだよね。働く大人のヒトで、一際カッコよく見えるもん。

 それでは本題、らんかちゃんの好きなプリキュアは?

 

 「キュアハニー!あとね、ソード、レモネード……それからジェラート!」

 

 おっ、ひとりじゃないトコにすんごく親密感!欲張りで実にイイ!(・∀・)

 え~と、この4人の共通点って、確か―――――

 

 「♪いただきますと~、ごちそうさま~、えがおがふくらむあいこ~とば~♪」

 

 らんかちゃんは目を閉じて、まるでまぶたの裏に歌詞が書いてあるかのように、すらすらと唄いだした。

 これって、『ハピプリ』でキュアハニーが唄ってた、『しあわせごはん愛のうた』!聞くとお腹がすいてくる魔法の歌ですよ。

 

 「……グランドバースが、頭に浮かんだ」

 

 私の隣にいるほくとくんが唐突にこうつぶやくのが聞こえた。……なんのことかはわからないけど。

 ともかく、らんかちゃんが好きなのは『歌キュア』ってコトね。そーいえばそらりんも『歌キュア』が好きって言ってたし、気が合うかもね。

 では次!

 

 ――――――――――

 

 「―――――たかはし(高橋)こころ」

 

 紺色ロングヘアーでメガネをかけた高橋こころちゃん。時折メガネを直しながら、上目遣いでこちらを見てくるのが印象的だ。

 

 「―――――()きな()もの()はおさかな()きら()いな()もの()あんこ(餡子)

 

 小さな声で、一気に早口でまくし立ててくる。

 

 「―――――それと……ねえ()さんがいつもおせわ(世話)になってるみたいで」

 「姉さん?」

 「―――――たかはし(高橋)おとはわたし()ねえ()さん。クラスにプリキュアがだいす(大好)きなコがいるって、いつも()ってた」

 

 あぁ、高橋さんの!言われてみれば切れ長の目とか清楚そうなフンイキとか、わりかしよく似てる!

 高橋さんとはあんまし話したことないけど、妹さんがプリキュア好きなら紹介してくれたらよかったのに~♪

 

 「―――――いずれはおはなし()したいとおも()ってた。おお()いにかた()()おう、はかせ(博士)

 

 博士とは……知識の方向性がオタクとはちょっと違う気が……まぁいいか。

 さて、いきなりで申し訳ありませんが……こころちゃんの好きなプリキュアは?

 

 「―――――いちばん(一番)()きなのはキュアマーメイド。キュアマリンやキュアアクアも()き」

 

 お、これは一発で分かった!

 

 「水キュアだね!」

 「―――――ん」(こくり。)

 「どうして水キュアが好きなの?」

 「―――――…………わたし()……およ()げない、から……キュアマーメイドみたいに、じゆう(自由)およ()いでみたいから」

 

 珍しいケース、かも。

 たいてい、『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』とばかりに、泳げない子は水を敬遠する。キュアネットでも、そういった意見が大多数を占める。

 でもこの子は、ちょっと違う。

 

 「―――――だいたい、にんげん(人間)みず()はい()っておよ()ぐことになんのいみ(意味)があるのかわからない。にんげん(人間)りくじょう(陸上)せいかつ(生活)するために2ほん()あし()()てるようにしんか(進化)したはずなのに。でもマーメイドはすご()い。()えてみず()せい()そうとするそのこころいき(心意気)……ふつう(普通)ひと()ができないことをへいぜん(平然)とやってのける。そこにシビれるし、あこが()れる」

 「お、おう……(・ ・;)」

 

 目を輝かせるこころちゃんにとって、キュアマーメイド―――――みなみさんは憧れなんだね。

 いつかはマーメイドみたいにスイスイ泳げるようになれるように……フレフレ、こころちゃん!

 

 ――――――――――

 

 「オイラはかがわぷらむ!!ひとよんで『ばーにんぐぷらむ』!!オイラにふれるときゃ、やけどにきをつけな!!!」

 

 と、大見得を切ってくれたのは、逆立つ真っ赤な髪がキュアルージュを思わせる、香川ぷらむちゃん。

 ものすご~くボーイッシュな子だ。最初、私は男の子じゃないかと思ってた……

 

 「ほくとのにーちゃん、オイラのにーちゃんとダチなんだ!いっしょのからてぶ!オイラもからてやってんだけど、あしやっちまっててさ……」

 

 ぷらむちゃんの右の足首に、ギプスがちらりと見えていた。

 

 「あのカイブツにさえやられなきゃ、オイラもプリキュアといっしょにたたかえたのに……!まったくもってなさけねーぞ……!!」

 

 ぷらむちゃんの名字と、足のケガを見て、私は気づいた。 

 

 

 ―――――だいたいよ!!どうしてあんな風になってからプリキュアは出てきたんだよ!!?もっと早く、それこそバケモンが出てくる前に来てくれりゃ、あんなコトにはならなかったんだ!!

 

 ―――――昨日香川くん、街でバケモノに襲われて、それで香川くんの妹さんが大ケガしたって……

 

 

 ぷらむちゃんは、私のクラスメートの、香川桃太郎くんの妹さんだったんだ。

 私が初めてキュアメモリアルに変身して、トゥインクルバグッチャーと戦ったあの時―――――

 トゥインクルバグッチャーが街で暴れたせいで、たくさんの人が傷ついて、中には命を落とした人もいた。

 私が初めての変身に浮かれていた陰で、守れなかった人のひとりが―――――この子だ。

 

 「……………………ごめんね……」

 

 心の中の罪悪感が、ぽつりと口から出ていた。こうして実際に、『あの時』に被害に遭ってしまった人に会ったのが初めてだから、かもしれない。

 

 「??なにあやまってんだよ?」

 「え?……あ、いや、その……」

 「まいっか。……でもさ、あしをけがしたおかげで、この"しるばーぼんばー"をゲットできたわけだ!!みてくれよ、ぴっかぴかだぞ!?オイラのおもったとーりにうごいてくれる、さいこーの"あいぼー"だぞ!!」

 

 "しるばーぼんばー"って……もしかして車椅子のこと……?

 腕を組んでドヤ顔で自慢するぷらむちゃんを見て、正直―――――安心した私がいた。

 足をケガして、車椅子での暮らしを強いられることになっても、こんなに前向きに考えている子がいるなんて。

 私の心のしこりが、少しだけ晴れた気がした―――――

 

 「りんくのねーちゃん?……さっきからなんかヘンだぞ?らんかちゃんやこころちゃんのときはもっともりあがってたぞ??げんきだせよな!?な!?」

 

 そうだった。今日私がやるべきことは反省じゃなくって、今日は好きなプリキュアのリサーチをするためにこども園に来たんだ。

 シリアスモードはここまで!あらためまして、ぷらむちゃんの好きなプリキュアは?

 

 「キュアルージュとキュアサニー!キュアスカーレットもいいぞ!!それから……あ!そーだ、キュアエースもだぞ!!」

 《まぁっ❤》

 

 カバンの中からツンデレ系の声がして、ぎょっとした。そーいえばカバンの中にキュアットタブを入れてたのを忘れてた……

 

 「んぁ?いまなんかきいたことあるよーなこえがしたぞ?」

 「え゛?……気のせいじゃない??」(すっとぼけ)

 

 亜久里ちゃん、感激してるのはわかるんだけど、こども園にいる間はマナーモードでお願いっ!らんかちゃんの時、レモネードもガマンしたんだし……

 ともあれ、ぷらむちゃんが好きなプリキュアは―――――まぁ、そんな予感はしてたけど―――――

 

 「やっぱ、"ひ"をつかうプリキュアってかっけーよな!メラメラもえてドカンとばくはつ!これぞロマンのカタマリだぁ!!」

 

 ぷらむちゃんはそう叫びながら、ダン!と右足を踏み込んだ。……けど。

 

 「っっでぇーーーーーーーーーーー!!!???」

 

 まるでコ〇コ〇コミックに連載されてるギャグマンガのような顔で痛がった。ケガしてるんだから、ちょっとは落ちつこーね……

 ……というワケで、ぷらむちゃんの好きなプリキュアは『炎キュア』……と。

 

 ――――――――――

 

 「……なるほど。それでみなさんにすきな"ぷいきゅあ"をきいてまわっていらっしゃるのですのね」

 

 流石、さちお嬢様は話が早かった。

 普段からメッセでやり取りしてるから、今更聞くことはないかな~とも思ったけど、実はまだ、『特定の、どんなプリキュアが好きなのか』というコトには話題が触れていなかった。

 

 「べんきょーねっちん(勉強熱心)なのでちね、りんくたん」

 

 そう言って、クインシィちゃんはティーポットからカップに紅茶を注いだ。

 まだ小さいながら、手際よく紅茶を淹れる姿は、実に様になっている。

 ……こども園にティーセット一式持ち込んでるコトにはツッコむべきだろーか……。

 

 「改めて……なんだけど、ふたりが好きなプリキュアは誰?ひとりだけでもいいし、『どんな感じのプリキュア』でもいいんだけど……」

 「ふふ♪……それならもう、こころにきめておりますですの♪わたくしがものごころついたときからあこがれ、もくひょうにしている"ぷいきゅあ"!それは―――――」

 

 ガタッ!とイスから立ち上がり、それはもう目を輝かせて堂々と宣言した。

 

 「キュアロゼッタおねーさま、ですの~!!」

 

 なるほど……納得しました、お嬢様。

 かれんさんやみなみさん、あおいちゃんとか、おうちがお金持ちの『お嬢様キュア』はたくさんいたけど、いちばん『お嬢様』してるのって、キュアロゼッタこと四葉ありすちゃんなんだよね。

 

 「"ぷいきゅあ"としてのつよさもさることながら、ざいりょく!けんりょく!!しはいりょく!!!ちをせいし、うみをせいし、そらをせいし、うちゅうさえもせいはするそのちから!!!!わたくしがもくひょーとしている、あこがれのおねーさま、ですの~!」

 

 実のお姉さんであるゆめさんを差し置いて『お姉さま』として慕っているとは……この入れこみようは相当と見ました……!

 

 《素晴らしいですわぁ♪♪》

 「どきっ!!」

 

 その時、またしてもカバンの中から聞き覚えのある声が。まさか、愛するプリキュアたちの声で神経をすり減らされる日が来ようとわ……

 

 《このワタシを目標として精進なさっていらっしゃるとは、感無量です♪ぜひ直接お話を―――――》

 《だっ、ダメですよロゼッタ、セーブセーブ、マナーモード~!》

 《ふたりともやかましいわッ!!》(小声)

 

 感激のあまり思わず声を上げるロゼッタを止めようとしたのは……声からしてレモネードだ。でもって最後に怒鳴ったのはビート。さりげなく生『やかましいわ!』を聞けたのはラッキーだったかも……♪

 で、それきりキュアットタブはうんともすんとも言わなくなった。

 

 「さきほどから、りんくさんの"おかばん"がにぎやかですのね」

 「あ!タブのアプリ、入れっぱなしにしてたんだった~、たぶんそれだよ、あはははは……」(汗

 「……ロゼッタおねーさまのおこえがきこえたようなきがしたのですが……はぁ……"どきどき!ぷいきゅあ"の"さいほーそー"をまちこがれるあまり、ついにわたくし、げんちょーまで……よよよ」

 「おじょーたま……おいたわちいので……」(うるうる)

 

 な、何とかごまかしきれた……この先、プリキュア大好きな子供たちからキュアットタブを隠すことも任務に入るのかぁ……

 

 「そ、そーだ、クインシィちゃんの好きなプリキュアは誰?」

 

 今度はクインシィちゃんに質問。いつもさっちゃんのそばにぴったりくっついてて、あまり前に出ることのないこの子が好きなプリキュアって……?

 

 「キュアミント……あと、キュアダイヤモンドなので。あまり"まえにでない"ところとか、まえにでてかつやくちゅるかたをちゃりげなく"あちつと(アシスト)"ちゅる、ちつじ(執事)のかがみ、なので」

 

 確かに、そのふたりはプリキュアオールスターズの中でも、他のプリキュアを援護したり、守ったりする『縁の下の力持ち』役が多い気がする。

 プライベートでも、かれんさんに寄り添うこまちさんと、マナちゃんの隣で生徒会のお仕事を手伝う六花ちゃん、という構図が容易に頭に浮かぶ。

 クインシィちゃんもさっちゃんと同じで、自分のするべきこと、やるべき『お仕事』を、プリキュアたちから勉強しているんだね。

 

 ちなみに、今日最後に『取材』したのんちゃんは―――――もう聞くまでもないよね。

 

 「キュアデーティア、だいすき!」

 

 でした♪ほくとくんがため息をつくのが見えたけど、まぁ……その、ドンマイ♪

 

 ――――――――――

 

 みんなの好きなプリキュアのことを聞いて、その中から私の中の『劇のイメージ』と重ね合わせて―――――

 

 その日の夜から、私は本格的に台本執筆を始めた。6人それぞれの個性を、そのまま私の考えていた物語に落とし込むのは、今まで私がやってきた"ホン作り"でも経験のない事だった。

 実在の人物をモデルに脚本を書く―――――これがここまで難しいなんて。

 言葉遣い、語彙や語尾、その一文字の違いで、呆気なく『ホンモノ』から逸脱してしまう。さながら綱渡りのような執筆に、私は悪戦苦闘していた。

 それでも、ストレスを感じたりすることは全然なかった。

 みんなが私のことを尊敬してくれていて、プリキュアが大好きって気持ちを思いっきり私に伝えてくれて―――――

 私は勇気と元気をもらってた。

 そんなみんなに、私も全力で応えたい―――――その思いが、私をタブに向かわせていた。

 タブのディスプレイの隅っこから、時折メモリアやレジェンドプリキュアたちが心配そうに私をのぞき込んでいたけど。

 

 「大丈夫♪……ちょっとお話の繋ぎどころが見えなくって、ね……さぁて!」

 

 もうひとがんばり!

 こうやって脚本を書いてる時間―――――私の頭の中にある想像や空想が、私の指を通して文字になって、私以外の『誰か』にもわかるようになっていくこの瞬間―――――

 

 ―――――これまた、『キュアキュアする』んだよね。

 

 ――――――――――

 

 そうして脚本を書きはじめて、5日目のお昼休みの時間。お弁当を食べてる最中―――――

 

 「……きた」

 

 ―――――()()()()()

 

 この小説を読んでくれてるみんなの中にも、自分で小説や、戯曲を書いてるって人もいると思う。そんな人なら、私の言いたいコトがわかるはず。

 ―――――"こんな瞬間"、あるよね。新しいアイデアやストーリー展開、お話の『繋ぎどころ』が、"!"と頭に浮かぶコトが。

 私はこれを―――――『降りる』と呼んでる。

 とっさにネットコミューンを取り出して、メモアプリに浮かんだセリフや言葉、アイデアを忘れないうちに書き込む。そうして残したアイデアを、おうちに帰ってから実際の"ホン"に落とし込んでいく。

 こうなればもう、私のターン!ここから先は、勢いのまま書いてもカタチになるくらい、執筆がラクになる!

 

 ―――――それからわずか2日―――――執筆開始から1週間目の夜―――――

 

 

 「…………でっきたーーーーーー!!!!」

 

 

 完成……しましたッ!!

 私の、そしてこども園のみんなからもらった『プリキュア愛』をこれでもかと詰め込んだ、自分で言うのもなんだけどサイコーの"ホン"!!!

 これならみんな喜んでくれるだろうし、みんながどれだけプリキュアのことが好きかも知ってもらえる!

 よぉ~し、あとはコレをのんちゃんたちに―――――

 

 「―――――あ( ゚Д゚)」

 

 すっかり自分の世界に入っていて、忘れていたことがあった。

 

 

 「ルビ、振らなきゃ」

 

 

 ――――――――――

 

 翌日、さっそく印刷した台本(ルビ振り済み)をみんなに読んでもらったところ―――――

 

 「す、すっげーーーーー!!」

 「―――――ぐっ( ̄ー ̄)+b」

 「あ……あれ……?なみだが……」

 「らんかちゃん、ハンカチなので」

 「く、くいんしぃ……わたくしにもハンカチを…………ずずず……ちーん!」

 

 まさかここまで反響をいただけるとわ……物書き冥利に尽きるというもの。

 

 「のんたちが……プリキュアになってる…………」

 

 特にのんちゃんは、目を輝かせて台本に見入ってくれていた。見てる私もじ~んと来る。その顔が見たかった!

 ……でも、これははじまり。この"ホン"は読み物じゃなく―――――"()し物"なんだから。

 

 「……さて!」

 

 私はぱん!と手を叩いて、みんなをうながす。

 

 「感動してくれるのはうれしいけど、これは台本!これからみんなが、これを覚えて劇をするの!」

 「「「「「「!」」」」」」

 

 みんなの表情が、真剣のそれに変わるのが見えた。

 そう、この"ホン"は、プリキュアファンの、プリキュアファンによる、プリキュアファンの為の、"プリキュア布教劇"……!

 『ホンモノのプリキュア愛』が無ければ、演じることが出来ないシロモノ……!!

 これはある意味、試練だ。プリキュア好きの6人が、『本当にプリキュアを愛しているかどうか』を試すため、の。

 

 「みんなが、プリキュアのことが好きなら……絶対にこの劇をやり遂げられるって、私、信じてる……!」

 

 ここから先は、私だけじゃない。みんなの戦いだ。キュアパイン―――――山吹祈里ちゃんの名台詞とともに、私は託す。

 私の『愛』を、受け止めて、理解してくれること。そして、その身体で表現してくれること―――――

 

 「―――――ふふふ。はかせ(博士)いまさら(今更)なに()()ってる」

 

 ニヤリとこころちゃんの口角が上がり、メガネのレンズがきらーんと輝くのが見えた。

 

 「おうよ!ねーちゃんがかいてくれたサイッコーのだいほん!これでもえなきゃいつもえるってんだ!!」

 

 ぷらむちゃんが白い歯を見せて、両手をグッと握った。

 

 「"ぷろでゅーさー"のごきたいにこたえるのは、"じょゆー"のつとめ……そうでしょ?」

 「そのとーりなので、おじょーたま!」

 「わ……わたしもがんばるっ!がんばって、だいほん、おぼえる!」

 

 ―――――聞くまでもなかったようで。ちょっと甘く見ててゴメンね。

 みんなからリサーチした時、みんなの"プリキュア愛"をアツく聞かせてもらったじゃないの。

 みんなの力強い視線から、みんなのやる気をいっぱい感じる。

 この視線が、この瞳の輝きが、みんなの"キュアキュア"。

 

 「りんくちゃん!のんも、みんなも、すっごくうれしい!だから、いっぱいれんしゅうするね!」

 「のんちゃん……みんな……」

 

 最後にのんちゃんが、みんなを代表するように、私を見上げながら言ってきた。

 この子なら……この子達なら、きっと心配いらない―――――

 プリキュアを大好きでいてくれる、この6人なら―――――

 

 「……やれやれだな。プリキュアなどにまどわされるとは。まだまだ"いんしょーそーさ"がたりないようだな、いもうとみとん」

 「そーだね。もっともっと"けいもー"をひろげないといけないようだね、あねみしん」

 

 ふいに、遊戯室の入り口から声が響いた。その声に振り返ると、そこには、まったく同じ顔をした、ふたりの女の子が立っていた。

 そしてそのふたりの顔には―――――よく見覚えがあった。

 

 「増子シリーズ……完成していたの……!?」

 

 そう、スモックを着たふたりの女の子は、まさしく増子さんだった―――――それも、ちょうど幼稚園児サイズに縮小したような。

 でも、ふたりともかけてる眼鏡が違う。左の子は丸縁、右の子は四角い縁。でもって、髪飾りも違ってて、左の子がつけてるのは裁縫で使う待ち針のようなかんざし、右の子がつけてるのはお料理で使う『ミトン』の形をしている。

 

 「なにをいってるのかわからん、だな。あなたか、ねえさんのいっていた"プリキュアおたく"というひとは」

 「姉さん……?あなた達、もしかして……」

 「わたしはますこ(増子)みしん」

 「わたしはますこ(増子)みとん」

 「「われわれこそ、"いつわり"を"きゅーだん"し、"せいぎ"をしらしめる、"しんじつ(真実)しと(使徒)"!」」

 

 そう言えば前に、増子美祢さんから聞いたっけ。増子さんには、こども園に通ってる妹がいるって。しかもまさか双子だったとは。

 そんな小さな2人の『増子さん』が、背中合わせにポーズを決めて、私達の前に姿を現した。

 

 「おきをちゅけを、りんくたん……!」

 

 物凄い勢いで、クインシィちゃんが私を守るように立った。

 

 「このかたたちはあくみょーたかきふたごのまちゅこ(増子)ちまい(姉妹)なので!」

 「プリキュアのことをバカにしたり、わるものってきめつけてるんだぞ!」

 「―――――てき()だ。プリキュアをあい()するもの()すべての」

 「なんのごようですの?わたくしたちはこれからげきのうちあわせをしなければいけないのですの。"ぶがいしゃ"はすっこんでるですの」

 

 シッシッと、さっちゃんはふたりに手を振ったけど、ふたりの『ミニ増子さん』は不敵に笑う。

 

 「じゃけんにするとは……きらわれたものだね、あねみしん」

 「きらわれたものだな、いもうとみとん。わたしたちは"あくのやぼー"をくいとめにきただけなんだな」

 

 そう言うと、ふたりはみんなの後ろに作られた劇のセット(ダンボール製)を指差した。

 

 「そのげきが、"プリキュア"のまちがった"にんしき"をよにひろめるための"プロパンガス"だということはすでにつかんでいるんだな!」(ビシッ!)

 「ガスだけににおいがぷんぷんするんだね」(ドヤァ)

 「…………もしかして、"プロパガンダ"って言いたかった?」

 「「…………ぐ」」(- -;)(;- -)

 

 "プロパガンダ"というのは、いわゆる宣伝のこと。それも、見聞きした人の考え方を誘導するように仕組まれた宣伝のことだ。辞書で読んだことがある。

 

 「とにかく!そのげきをじょーえんさせるわけにはいかないんだな!」

 「よのためひとのため……そしてなによりせいぎのため!おまえたちの"やぼー"はくいとめてみせるんだね!これいじょう、プリキュアをのさばらせるわけにはいかんのだね!!」

 「ど……どういうことなの……??」

 

 さっきからこの子たち、まるでプリキュアを悪者みたいに言ってる。

 プリキュアが間違ってるとか、プロパガンダとか……

 

 「プリキュアはまちとせかいにはかいをもたらすあくのけしんだね!!」

 「みんなはだれもしらないけれど、わたしたちだけはしってるんだな!」

 「「まちがったじょーしきにかざあなをあけ、しんじつをよにしらしめるのが、われわれのしめい!!」」

 「ちょっと、それって―――――」

 

 モウガマンデキナイ!!

 何よこの子たち、言いたい放題言ってくれちゃって!!

 プリキュアは強きをくじき弱きを助ける正義の味方!世界を救う伝説の戦士!断じて悪の化身などではありませ~ん!!

 私は言い返そうと、その場からガタッと立ち上がろうとした―――――

 

 「ちがうもん!!」

 

 私の視線をさえぎるように増子姉妹にタンカを切ったのは―――――のんちゃんだった。

 

 「だって、プリキュアはカイブツからのんをたすけてくれたもん!とってもかっこよかったもん!!」

 「……のんちゃん……」

 「これからどんなにこわいことがあっても!いたいことがあっても!ないちゃいそうになっても!ぜったいにプリキュアが、のんたちのことをたすけてくれるもん!」

 「のんちゃんのいうとおりよっ!」

 「おぅ!オイラたちがおうえんしてるかぎり、プリキュアはまけないんだぞ!」

 「―――――きょうじん(強靭)むてき(無敵)さいきょう(最強)ふんさい(粉砕)ぎょくさい(玉砕)だいかっさい(大喝采)

 「そーゆーわけなので、まわれみぎちておかえりなちゃいなので!」

 「ふふふ……わたくしのいいたいこと、ぜんぶみなさんがかわりにもうしあげてしまいましたですの。そういうわけですから、"ぶぶづけいかが?"ですの♪」

 「……みんなぁ……」

 

 なんか、ジ~ンときた……

 みんな、プリキュアのことをすっごく好きでいてくれて、信じてくれているって、心にしみる……

 私が今、現在進行形でプリキュアやってるから、余計にキュアっと来ています……。

 こんなみんなのためなら、私、もっともっとがんばれちゃいそう!子どもたちの応援が、プリキュアの力になるんだから!

 ……それにしてもさっちゃん、どこからそんな言葉を覚えてくるんですか……もしかしてお嬢様教育の一環?

 ……それはともかく、プリキュア大好き6人組の一斉反撃を受けた増子姉妹は、少したじろいでいた。

 しかしやがて、姉のみしんちゃんは口角を上げて、唇を震わせるように笑った。

 

 「ふ、ふふふふ……あくまでもしんじつにめをそむけ、プリキュアをたたえるみちをえらぶんだな、きみたちは」

 「そのにんしきがまちがってることを、いまからしょーめいするんだね!」

 

 みとんちゃんの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、ふたりは同時に、何やらメカメカしい帯状のモノをどこからともなく取り出して、同時に自分の腰へと巻き付けた。

 

 ―――――ガシャッ!!

 

 「そ……それはっ!!」

 「?!知ってるの、さっちゃん!?」

 「へいしゃ"ざいだんびー"の"ぷれみあむびー・こんぷりーとせれくしょんもでぃふぃけーしょん"でさいはんされたへんしんべると……!"でらっくすかぶとぜくたー"と"でらっくすがたっくぜくたー"ですの!!」

 「…………へ?(・ ・;)」

 

 え、え~っと……わ、わんもあぷりーず……日本語でお願いできますでしょーか??

 でも、変身ベルトって言ってたってコトは、もしかして仮面ライダー関係?仮面ライダーのおもちゃも"財団B"が販売してるし、さっちゃんが詳しいのもうなづける。

 

 「そのとーりだな、かわむらさち!」

 「われわれは"えらばれしもの"なんだね。ほんとーにつよいのは、アニメのプリキュアなんかじゃなく、ほんとーのにんげんがへんしんしてる、とくさつヒーローなんだね!」

 「「ヒーローのなのもとに、あくのやぼーをくいとめる!それがわれわれのしめい!!」」

 

 そう叫んで、みしんちゃんは赤いカブトムシ型のおもちゃを、みとんちゃんは青いクワガタムシ型のおもちゃを取り出した。

 

 「「へんしん!!」」

 《《HENSHIN》》

 

 ふたりはそれぞれのおもちゃをベルトのバックル部分に挿し込んだ。電子音声が発せられて、ふたりの姿が―――――もちろん変わらなかった。やはりおもちゃだ。

 

 「―――――なに()をする()だ」

 「しれたことだね」

 「そこの"はりぼて"、げきにつかうことはわかってるんだな!いまここではかいし、あくのプリキュアにいんどーをわたしてくれるんだな!」

 「「"きゃすとおふ"!!」」

 《《CAST-OFF》》

 《CHANGE BEETLE》

 《CHANGE STAG-BEETLE》

 「「"くろっくあっぷ"!!」」

 《《CLOCK UP》》

 

 ベルトのバックルの右側のボタンを叩いた増子姉妹は、駆け出すと同時に二手に分かれて、遊戯室の隅っこに置かれていた、劇のセットへと駆け寄っていく。

 このセット、私の台本が完成する前から、フライング気味にみんながつくってた力作だ。逆に私がインスピレーションを受けて、このセットに合わせるように台本を『書かせてもらった』。プリキュア大好きな6人の魂が込められている大事なセット……!

 さっきこの子たち、『はかい』っていってたけど……まさか!!?

 

 「ちょ、本気ッ!?」

 「だめーーーーー!!」

 「「はっはっは~~!!せいぎはかーーーーーーーつ!!!!」」

 

 

 ―――――そこまでだ!!

 

 

 遊戯室の出入口から、凛々しい声が響いた。

 増子姉妹は急停止して、おそるおそる振り返ってくる。

 その声の主を見て、のんちゃんはぱぁっと表情を明るくして―――――

 

 「にぃ~~!♪❤」

 

 のんちゃんだけじゃない、6人全員には、彼はヒーローに見えたに違いない。

 そう、『ハトプリ』に出てくる、人間態(イケメンモード)のコッペ様みたいな、そんな感じの……。

 

 「「た、たいちょう(隊長)!?」」

 

 一方の増子姉妹は、みるみる顔が青ざめていた。……ん?隊長って?

 

 「みしん!みとん!!」

 「「っっ!(> <)(> <)」」(びくっ)

 「何をしてるんだ!……台詞合わせの最中にいなくなったと思ったら!」

 「??台詞合わせ?」

 「……ごめん、東堂さん……このふたり、今度のお遊戯会で仮面ライダーショーをするんだ。殺陣(たて)のことで相談を受けてたんだけど……ちょっと目を離した隙に……」

 

 ほくとくんが言うには、みしんちゃんとみとんちゃんは大の特撮ヒーローファンで、以前からほくとくんを『隊長』と呼んで、本当のお兄さんのように慕っているらしい。

 でも最近、プリキュアが現実の世界で戦いだしたころから、なにかにつけてプリキュアに対抗意識を燃やすようになり、のんちゃんたち6人に対して執拗に嫌がらせをするようにもなった、とのこと。

 その度にほくとくんや、お姉さんの増子さんからカミナリを落とされてるらしいけど、全然懲りてないそうで……

 

 「……このセットはさ……のんやみんなが、心を込めて作った大事な物なんだ。それをどうして壊そうとするんだい?」

 「"プリキュアだから"……だな」

 「プリキュアは"ホンモノ"じゃないん……だね……"せいぎ"はプリキュアにはないんだね」

 「…………いいかい?プリキュアも、ライダーも……当然、スーパー戦隊やウルトラマンだって、何の考え無しに他人の物を壊したり、奪ったり、自分勝手な戦いをしたりしないよね?さっきふたりがしようとしたこと……それは、"誰かの為"になる戦い……だったのかな?」

 「「……………………」」

 

 優しく諭されたみしんちゃんとみとんちゃんは、不満げな表情でほくとくんの視線を逸らしていた。

 

 「自分以外の誰かの為にならない、自分勝手な心無い戦い……それは―――――」

 

 ほくとくんは、ふたりの肩をぽんと叩いて、視線を促して、そのふたりを真っ直ぐ見つめて言った。

 

 

 「正義じゃないよ」

 

 

 それでも納得していないような表情を浮かべるふたりに、ほくとくんは重ねる。

 

 「……『ライダーは』?」

 「「…………え??」」

 「好きなんだろ。…………『ライダーは』?」

 「「…………『たすけあい』」」

 「そう。ライダーだけじゃない、友達みんなで『助け合い』。ヒーローなら……できるだろ?もちろん、プリキュアとも」

 「「!!」」

 

 みしんちゃんとみとんちゃんは、『プリキュア』の名前を聞いた途端に、表情を一変させて遊戯室の出入り口に駆け出すと、こちらに振り返って。

 

 「いくら"かめんライダーオーズ"のことばでも、プリキュアとだけはたすけあいできないんだな!」

 「プリキュアをかばいだてするのなら、たいちょうだって"てき"なんだね!」

 「「"プリキュアにせいぎなし"!!ぜったいにしょーめいしてみせる!!」」

 

 そう言い残し、遊戯室から一目散に出ていった。「みしん!みとん!」とほくとくんが呼び留めたけど、聞いてもいなかった。

 

 「まいったなぁ……」

 

 ほくとくんは後頭部をポリポリ掻きながら、困った顔を浮かべていた。

 

 「にぃ!ありがとう!」

 「やっぱほくとのにーちゃんはオイラたちのヒーローだぞ!」

 「かっこいい……です♪」

 「―――――じつ()おとこ()らしい」

 「やはりとのがたはこうでなくてはなりませんですの♪」

 「そのとーりでち、おじょーたま!」

 

 今度は小さな女の子たちから熱視線を注がれて、ほくとくん、ちょっとテレてます。

 みんなの様子を見て、私は気づいた。みんなにとって、ほくとくんは『のんちゃんのお兄さん』以上の存在なんだ。

 私がこのこども園に来る前、ううん、私達がプリキュアになる、ずっと前から、ほくとくんは『こども園のヒーロー』だったんだね。

 かく言う私も……さっきのほくとくんには―――――

 

 「……キュアっと来た」

 「…………!」

 

 ほくとくんと、一瞬視線が合った。とたん、ほくとくんは顔を真っ赤にして、視線を逸らしちゃった。

 ……私、ヘンな顔でもしてたのかなぁ……??う~ん…………

 …………あ、そういえば、ママからメッセが来てたっけ。

 

 「おつかい、頼まれてたんだった」

 

 ――――――――――

 

 時間は、夕方6時を回っていた。

 通学路の途中にある、大泉駅前商店街が、買い物をする人たちで賑わう時間。

 私は夕陽を背中に受けながら、商店街の一角にある八百屋へとやってきた。

 『フルーツキクチ』。東堂家行きつけの八百屋さんだ。

 

 「いらっしゃい!あれ?りんくちゃん!久々だね~!元気だった?」

 「真琴さん!……ごぶさたしてますっ♪」

 

 菊池真琴さん―――――この八百屋さんの一人娘で、東栄高校3年生。

 とっても元気で明るい、世が世ならプリキュアの主人公してそうなヒトだ。

 

 「聞いたよ、りんくちゃん!こども園の劇の台本書いたんだってね?」

 「うん!真琴さん、誰から聞いたの?」

 「んふふ、お店やってるとね、お客さんからいろいろ情報入ってくるのよねぇ~。そんなわけで!」

 

 真琴さんはすぐそばにあったミカンを手に取って私に向き直ると、

 

 「顧客情報は機密事項に抵触する。口外は出来ん」(キリッ)

 

 ……と、超低音ボイスで語ったのだった。

 

 「ほわぁ……ホンット真琴さんって演技上手だよねぇ。演劇とかやってたりするの?」

 「まっさかぁ。サービスでやってたら、なんかウケが良くってさ。……はい、ダイコン。ニンジンはオマケ♪」

 「ありがとうございます!……でも、もったいないなぁ……」

 「??何が?」

 「真琴さんの演技力だよ!声もいい声してるし、……そうだ!声優さんとかなったらどうかなぁ?」

 「声優さん?わたしが~?……あっははは!じょーだんキツいよりんくちゃん!わたしが声優さんなんてなれるわけないじゃん!……せいぜい八百屋の小劇団がいいトコだよ」

 

 真琴さんは謙遜してるけど、真琴さんのソレは才能だって思うんだよね。

 『普段と違う真琴さん』を見て、その声を初めて聞いた瞬間―――――強烈に覚えてる。

 

 ―――――心臓にズガっと刺さって、別世界に引き込まれる感覚―――――

 

 こんな風に、誰かの心に強く残るような、"ナニカ"を残したい―――――

 私にとっての『プリキュア』がそうであったように、誰かにとっての『プリキュア』を、私もつくりたい―――――

 私が『脚本家』になろうって決めたころを、真琴さんは思い出させてくれた。

 今は―――――『プリキュアを書く』ことに加えて、『プリキュアになる』ことも目標になったけど、その根っこは変わらない。

 

 ―――――誰かの心に、残りたい―――――

 

 必ず見に行くと言ってくれた真琴さんにお礼を言って、家路につく。今度は夕陽が真正面になって、ちょっとまぶしい。

 

 《なんかうれしそうだね、りんく♪》

 

 ポケットの中から、メモリアが私の顔を見上げていた。

 

 「―――――うん」

 

 商店街の門の下から振り返ると、商店街全体を見渡すことが出来る。まだ、商店街から賑やかさは消えず、お店のヒトの威勢のいい声や、お客さんの笑い声であふれている。

 

 「みんな……がんばってるからさ。だから……応援したくなるし、守りたくなる―――――キュアエールの……野乃はなちゃんの気持ちが、わかる気がするよ」

 《キュアエール……この間見た"ぶるーれい"に出てた、あたしたちがまだ会ったことないプリキュアだね》

 「うん…………私もなりたいな……きちんと、大切なヒトやモノを守ってあげられる、"一人前のプリキュア"に……」

 《なれるよ!絶対に!だって、それって元々あたしの目標!あたしとりんくと、データとほくと!みんなで"一人前のプリキュア"を目指すんだもん!ひとりじゃないから、大丈夫だよ!》

 「メモリア……」

 

 がんばるみんなを応援して、そんなみんなが『がんばれる場所』、『がんばれる時間』を守ることが、私の―――――

 ううん、私達の―――――『やりたい使命』。

 

 「よっし!明日からは劇のお稽古!がんばって監督やるぞーーっ!」

 

 だから私も、精一杯『がんばろう』。

 みんなの『ダイスキ』を、力の限り後押しできるように。

 

 ――――――――――

 

 《ところでさっきの八百屋のおねーさん、キュアカスタードに声がそっくりだった!》

 

 「……やっぱり、そう聞こえた?……前々からそう思ってたんだよねぇ……(^_^;)」

 

 ……SAVE POINT




 キャラクター紹介

 菊池 真琴

 東栄高校3年生。
 大泉駅前商店街の八百屋『フルーツキクチ』の看板娘。明るく元気な性格で人当たりも良く、客からの評判も上々。
 小さな子供たち向けには果物をキャラクターに見立てて寸劇を行うなど、サービス精神も旺盛。
 八百屋がりんくの自宅と大泉中学への通学路の途中にあるため、帰りがけにお使いを頼まれたりんくが立ち寄ることも多い。
 同性の先輩ということもあって話が弾んですぐに仲良くなり、今ではりんくの良き話し相手・相談相手になっている。

 本人は自覚していないのだが『ツボにハマった』際の演技力はバツグンであり、その点りんくも着目しているのだが、演劇や俳優の道を目指そうとは今のところ考えていない。高3の春になっても将来像が漠然としていて、進路も決めていない様子。

 アニメ放送された『キラキラ☆プリキュアアラモード』で、キュアカスタード=有栖川ひまりを演じていた女性声優によく似ているらしい(本人は自覚ナシ)。

 約1年後、ひょんなことから某芸能プロダクションの目に留まり、声優業界へと身を投じることになるのだが―――――それはまた別のお話。
 ドラマ『声ガール!』の主人公で、今回は特別出演。

 ――――――――――

 双子の増子姉妹のように、『これこれこうだから○○は弱い!』って言ったりする子供、時々いますよね……
 稚拙はアニメも特撮も分け隔て無く愛する身ですが、小さな子はまだまだ知らない世界が多い故……

 また1か月、またはそれ以上かかるかもしれませんが、次回をお待ちを……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

揺蕩う要塞

 キャラクター紹介

 馬越 界花(園長先生)

 自称65歳。
 りんくやこむぎ、そらがかつて通っていて、現在はほくとの妹・ののかやさち、クインシィが通っている『大泉こども園』の園長先生。
 おっとりとしていてそれでいて明るく、お茶目で優しいおばあさん、といった趣の老婦人。
 元々は先代園長であった夫とともにこども園を切り盛りしていたが、20年ほど前に夫が突然他界。以後は彼女が園長となってこども園を経営している。

 人生で経験した体験談を園児たちに語って聞かせるのが好き。しかし魔女や魔法、妖精が登場したりするなど、ちょっとフィクションも混ざっているようにも聞こえる。
 彼女自身も『魔女』を自称し、魔法が使えると豪語するが、実際に人前で使って見せたことが無いため真偽のほどは定かではない。
 『ママが5人いた』『幼稚園を卒園する前に小学校を卒業した』と語るなど、ちょっと変わった幼年期を過ごしていたことは想像に難くない。
 また一時期医師をしていたことがあるらしく、子供たちの健康管理や急病の際の応急処置にも精通している。

 このような人柄と個性もあり園児たちには大人気で、保護者達からの信頼も厚い。
 卒園後も彼女を慕って、学校の放課後にこども園を訪ねてくる卒園生は後を絶たず、卒園生の子供がまたこのこども園に入園する、というケースもままある。
 りんくも彼女を慕っていたが、最近は疎遠になっていた。

 ――――――――――

 先週のはぐプリで久々に『ネジがブッ飛んだプリキュア』を見た気がする稚拙です。
 さて今回、書きたいことを書いてたらトンでもない文字数になってしまったので、区切りもいいので投稿させていただきました。
 
 お遊戯会前日、それぞれの"戦い"を送信!


 NOW LOADING……

 

 ―――――遥春(ようしゅん)花姫(はなひめ)

 

 ―――――南潮(なしお)海姫(うみひめ)

 

 ―――――銀河の星姫(ほしひめ)

 

 ―――――永遠凰(とわおおとり)焔姫(ほむらひめ)

 

 

 ―――――『肆ノ姫鍵(ヨモノヒメカギ)』集いし時、閉ざされし"岩戸"の錠、解かれん

 

 

 

 ―――――待っています

 

 

 

 ―――――選ばれしヒトの子よ

 

 

 

 ―――――メモリアとともに、私に逢いに来る、その時を

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 

 ―――――……ゃん!りんくちゃん!

 

 ―――――りんくさん、ねぇ、おきてよぉ~

 

 ―――――りはーさるのさいちゅうに、よだれたらしていねむりなんていいごみぶんですの

 

 ――――――――――くち()なか()にミミズでも()()んでみるか

 

 ―――――こころちゃん……それはちょっとどんびきなので……

 

 

 

 「―――――……………………んぁ?」

 

 あ……あれ……??

 私、いつの間に寝ちゃってたの……??

 あ~、アレか……最近、コンクール提出用の"ホン"を書きながら、ネットもやってプリキュア鑑賞もやって……

 働きづめってヤバいかも……『フレプリ』の20話ラストで、ラブちゃんたちが過労で倒れた件もあるし……

 プリキュアと学業と趣味って、全部こなすの大変なんだねぇ……

 

 ―――――っていうか、さっき、何か頭の中に響いてきたような……

 どこかで……聞き覚えのある声だったけど…………

 …………、あれ?

 誰の声だったんだろう?

 それに……なんてっ言ってたっけ……目が覚めたら忘れちゃった……

 とっても漠然としてて…………でも、すごく重要なコトを言ってたような気がする…………

 

 「りんくちゃん、おねぼーさんだね」

 「ご、ごめんね……ん、ん~~~……」

 

 私をのぞき込んでいたのんちゃんとみんなに笑顔を返して、思いっきり伸びをする。肩や首筋のあたりからこきこきと音がした。

 

 「まったく……ほんばんはあしただというのに、ぷろでゅーさーがこれではなんだかふあんですの」

 「―――――しかし、だいほん(台本)かんぺき(完璧)おぼ()えた。しっぱい(失敗)するようそ(要素)みあ(見当)たらない」

 「ほくとのにーちゃんとえんちょーせんせいも、うらかたでてつだってくれることになったしな!」

 

 実はこの劇、音楽を流したり、効果音を鳴らしたり、セットを変えたりとか―――――

 私、監督兼脚本兼演出兼音響監督兼大道具担当だったんですよ……一度通し稽古してみたんですが、これがまた大変で……

 10分ほどの劇なんだけど、終わった後ヒィヒィ言いながら息を切らしてたところに、それまで劇の全体の様子を見ていたほくとくんと園長先生が、私に声を掛けてきた。

 

 ―――――よかったら、効果音手伝うよ?……みしんとみとん?あぁ、それなら大丈夫!リハーサルも終わって、あとは自主練だけだからさ!

 

 ―――――りんくちゃんひとりで大変でしょう?私にお手伝いできること、ない?

 

 正直、涙が出るほどうれしかった。ほくとくんと園長先生のおかげで、『裏方作業』が大幅に負担減になったから。

 それに、園長先生には裏方以外にも『あるお願い』をしようとも思ってたし、まさに渡りに船!

 今日はほくとくんいないけど、当日は私といっしょに裏方としてがんばってくれることになっている。本当に感謝だよ~……

 

 「よっし!明日の本番に向けて準備は万全!後は最後まで気を抜かないこと!がんばろうね、みんな!」

 「ねーちゃんこそ、しっかりたのむぞ?」

 「りんくさん、ほんばんでいねむりしないでね♪」

 「うをッ!?……らんかちゃんいつになくキビシい……」

 

 本番は明日。でもみんな、緊張とか、気負いとかは全然ない。6人全員、笑顔で本番を迎えられそうだ。

 私も、みんなのために一生懸命頑張ろう……!

 

 《!!りんく!》

 

 いきなり、ポケットの中からメモリアが叫んだ、その瞬間―――――

 

 けたたましい音を立てて、窓の防火シャッターが一つの例外なくいきなり降りてきて、遊戯室が真っ暗になった。

 

 「―――――なんだ……!?」

 「どぇぇ!?こしょーかぁぁ~~!?」

 

 いきなり視界を封じられて何も見えない中で、子どもたちの声だけが聞こえる。この暗闇に怖くなったのか、泣き出す声がほかの部屋から聞こえる。ということは、遊戯室だけじゃなくって、他の部屋もこんな状態に……!?

 

 「りんくちゃん!」

 

 懐中電灯を持った園長先生が遊戯室に飛び込んできた。

 

 「「「「「「えんちょうせんせい~~!!」」」」」」

 

 のんちゃんたちが光を頼りに園長先生に駆け寄る。

 

 「先生!これって……!?」

 「わからないわ……どこも壊れてるわけじゃなくって……」

 「園長先生!」

 

 年中組の担任の松岡先生も、懐中電灯を手に遊戯室にやってきた。

 

 「外に出れるドア、どこも電子ロックがかかっとって、出られへんようになってます……!それに、外に連絡しょうにも、何故かスマホが圏外になっとって……Wi-Fiも使えまへん!」

 「そう……先生はみんなと一緒にいてあげて。怖がってる子がいたら、お願いね」

 「……!わかりました!」

 

 教室へと取って返す松岡先生。先生の言葉から察するに、私達―――――

 

 ―――――……閉じ込められた!?

 

 この状況……そしてこの手口、あの時と似てる。

 初めて、私がネンチャックに狙われた時と。

 言うまでも、考えるまでもない。こんなことをするのは、ジャークウェブしかいない!!

 

 「メモ―――――」

 「りんくちゃん……」

 

 ネットコミューンを手に取ろうとしたその時、私の服の裾を、震えながら引っ張る手が見えた。

 そして、私を見上げてきていたのは―――――

 

 「!……のんちゃん……」

 

 今まで、見たことのないくらいの、不安いっぱいののんちゃん、そしてみんなの表情を見た時―――――

 一瞬―――――葛藤した。でもそれはすぐに答えが出た。

 私はメモリアのユーザーで、プリキュア見習いだけど―――――

 でも―――――

 

 「大丈夫、きっと大丈夫―――――」

 

 私はのんちゃんと目線の高さを合わせて、そっと抱きしめてあげた。

 ―――――ここで、こんなに怖がってるみんなを放っておいてまで、戦いに行くことなんてできない……!

 どっちにしろ、みんなの目の前でメモリアをネットに送り出したり、ましてや変身なんてできるワケない。

 『今のみんなが必要』としてくれる『私』は―――――『東堂りんく』。『キュアメモリアル』じゃないんだから。

 

 ―――――~~~~。

 

 ポケットの中がふるえる。ゆっくりと、私はポケットの中のコミューン、そのディスプレイに手を触れて―――――

 

 LINK〈ごめん、メモリア……私、みんなのそばにいてあげなきゃ

 

 ―――――ブラインドタッチだっ。

 私の特技、その3!『スマホブラインドタッチ』!

 スマホの文字入力パターンを全部頭に入れておけば、脳内にスマホのキーボードを浮かべて入力ができるのダ!!

 きちんと入力できたかは見てないからわからない―――――けど。

 メモリアなら、たとえキュアネット空間に行けないとしても、何かの打開策を考えてくれるはず。

 みんなのために―――――頼んだよ、メモリア……!

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 

 「無茶振りだぁ~~~~~~~!!!!!???」

 

 あたしは思わず叫んでた。

 ぷかぷか浮かんでいる、〈ごめんめもり()、わた()、みんなのそばにいてあ()なきゃ〉という文字。

 状況はある程度、あたしもわかってた。さっき、一瞬だけだけど―――――バグッチャーの気配がした。

 閉じ込められて、りんくがこども園から出られなくなったこともわかってる。

 これって……前にトゥインクルが話してたことと、状況が似てる。

 

 ―――――変身しなきゃ!って思っても、カンジンなところで視線があったり、人前だったりってことがあったしね……

 

 それに、りんくやみんなといっしょに見た"ぶるーれい"でも、『人前で変身しちゃダメ』とか、『正体は絶対誰にもないしょ』とか、プリキュアたちといっしょにいる"妖精さん"たちがしきりに言ってたのを見た。

 りんくとあたしがキュアメモリアルに変身して、パンチでシャッターを壊せば、こども園のみんなを助けられるんだけど……

 

 「だ、ダメダメ……!変身をみんなに見られちゃう……!りんくが変身するトコ、見られちゃダメだよぉ……」

 

 う~ん、コレって八方塞がりじゃ~ん……

 しょーがない、ここはあたしが今できることをしなきゃ……!

 え~っと……まずは電波のチェック……圏外になってる!これじゃ、こども園の外に助けを呼べない……!データとも通信できないし、どうしよう……!?

 でも、こども園の『中』……ココだけで完結してるセキュリティのシステムになら、何とかつなげられる……こども園の中の様子だけでも、確かめておかないと!

 アクセス―――――ここだ!ここをこ~して、と……よし、出た!こども園の監視カメラ映像!

 園長室、年長さんの教室、遊戯室に絵本の部屋……みんな真っ暗になってる。泣きじゃくってる子供たちがほとんどだけど、みんなに先生がついてる。一人ぼっちになってる子はいない……

 その中で―――――気になる部屋があった。普段、ほとんど子供たちが寄り付かない―――――

 

 ―――――給食室。

 

 頭の後ろに2つ、輪っかがくっついてるような髪型の先生が、あわてた様子で給食室の中を駆けずり回っているのが見えた。

 なんだろう……?なんかイヤな予感がする―――――

 音声をいっしょに拾ってみると―――――

 

 《No~!No~!Stoooop~!!止まらないヨ~~!!》

 《!?宮原先生、どうしたの!?》

 《Ah、宍戸先生!水道の水が止まらなくっテ!水浸しになっちゃウ~!!》

 

 見ると、給食室中の水道の蛇口が、滝のように水を出している。

 

 「……まさか!?」

 

 あたしは他の部屋の監視カメラもチェックしてみた。すると、廊下にある手洗い用の蛇口までもが、水を出し始めていた。

 ―――――間違いない。ジャークウェブの今回の手は、ネンチャックの時と似てるようで、違う……!

 これは……

 

 「水攻めだぁーーーーーーーーー!!!!」

 

 このままじゃ、こども園が水浸しに……っていうか、みんなおぼれちゃう―――――…………!!!

 りんくがののかたちといっしょにいる以上、あたしもネットコミューンから出らんない……

 あたしとりんくが動けない今―――――頼りになるのはデータとほくとだけ……!

 今回ばかりは他力本願させて、お願い!りんくとみんなを助けてあげて―――――!

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 明日はのんやみんなの劇が上演されるお遊戯会の本番だというのに、今日に限って補習とは、我ながら情けない……

 理数系が苦手な僕にとって、数学は鬼門だ。またしても平均点を上回れなかった。

 もはや補習の常連と化した僕に、数学の西尾先生も困り顔だった。先生……僕も来たくて来てるわけじゃないんです……

 

 《腕っぷしはいいけど脳筋ってある意味お約束だよな♪》

 

 その声にネットコミューンを手に取ると、画面にはにししと笑うデータの姿。

 

 「それ、データが言えるの?」

 《そりゃぁ言えるぜ?アタシ、学校や"お師さん"のテスト、100点以外取ったコトねーもん》

 「ほ、本当!?」

 《前にも言ったじゃんかよ。アタシは見たコト聞いたコト、余さずアタマに入っちまうんだ。ノートなんざ書く必要ねーし、テストって見たコト聞いたコト、コピペすりゃいいだけの"作業"じゃねーか》

 

 そういえば前にデータが言ってた。データは辞書のアプリアンで、絶対記憶能力を持ってる―――――と。

 データにしてみれば、要点がカンペキに記されたノートを持ち込んでテストに臨めるようなものなんだろうけど……

 

 「でもソレ、僕にはマネできないよ……」

 《んあ?そーか?……だったらよ、アタシが勉強見てやろっか?》

 「え?……でもデータ、中学の勉強わかるの?」

 《わかるもなにも、アタシも14だし、こないだまで学校や"お師さん"から習ってたコトとほとんど一緒さ。それに、先生の言葉やら板書やら、全部アタシの頭ン中に入ってんだぜ?そんじょそこらの塾や家庭教師よりも、ウマく教える自信はあるぜ♪》

 「……データって……僕と同い年、だったんだ……」

 《驚くのソコかよッ!?》

 

 なんか、のんを更にヤンチャにしたような印象だから、てっきり僕よりも年下だと思ってた。僕と同い年だったとは予想外だ……

 ……でも、データに勉強を教えてもらえば、これからのテストも―――――

 

 《!ほくと!バグッチャーだ!!》

 

 スニーカーに履き替えて、生徒玄関を出ようとしたとき―――――切羽詰まった声と、コミューンの振動。

 またあいつらか……!

 

 「場所は!?」

 《遠かぁねぇけど…………ッ!?おいほくと!!バグッチャーの反応、のんのこども園からだ!》

 「……!!!」

 

 どくん、と、心臓が強く打つのを感じた。

 まさか、のんやみんなをジャークウェブが狙ってきたのか……!?

 それとも―――――

 

 

 ―――――それじゃ、先にこども園行ってるね!ほくとくんも補習、がんばってね~♪

 

 

 ―――――東堂さんが狙われた、のか……!?

 どちらにしても―――――否、()()()だろうと、僕のやることは一つだけ……!!

 

 「急ごう、データ!!」

 《ああ!緊急変身(エマージェンシー)だ!!》

 

 もう……もう、"あの時"のような思いをするのは御免だ……!!

 手遅れになる前に……手の届く、そこにいる内に―――――

 のんも、東堂さんも、みんなも―――――

 必ず―――――僕が……!!

 

 

プリキュア!マトリクスインストール!!!

 

 ――――――――――

 

 『……!あれは……!?』

 

 ビルからビルに飛び移りながら、全力でこども園に向かっていた僕は、こども園の上空に異質なモノを見た。

 水が―――――巨大なボール状になって浮かんでいた。

 そしてその中で、魚を思わせる鋭角的な(シルエット)が、ゆったりと回遊していたのも見えた。

 

 『くッくッくッ……遅かったな()リキュアッ!!』

 『スパムソン……!!』

 

 こども園のとんがり帽子みたいな赤い屋根に、腕組みをしながらヤツは立っていた。

 僕はこども園全体を見渡せる、こども園から道を挟んだ向かいにある、4階建てのビルの屋上に着地した。

 よく見ると―――――こども園にある扉や出入り口、窓といった外部に通じる場所、そのすべてが鋼鉄のシャッターで覆われていた。

 園庭に出る教室のドア、その下から水が漏れだして、コンクリートが湿って変色している。

 

 『何をした……何をしてるんだ!!』

 『捕獲作戦であるッ!!プリ()ュアが一角を閉鎖空間に閉じ込めッ、そして水攻めを行いッ、キュアチッ()の供出を促すものであァるッッ!!!"鍵"と"水"の力を併せ持つッ、"No.39"の()ップの成せる技であるッッ!!』

 

 やはり、コイツは東堂さんがここにいることを見越してた……!のんやこども園のみんなは、それに巻き込まれて……!

 

 『見ての通りッ、この建造物の完全閉鎖は完了しッ、現在注水工作中であるッ!!1時間も経たぬ内ッ、この建造物は巨大水槽と化すのだッ!!!彼の戦国武将ッ、豊臣秀吉が備中高松城攻略に用いた由緒正しい戦略であるッッ!!!』

 『き……さま……ッ!!』

 《落ち着け、ほくと!……生体反応は確認してる……!のんもりんくも、みんな無事みてぇだ……!》

 

 僕の視界の中のこども園の建物に、たくさんの赤い光点が灯る。これってもしかして、みんながいる場所なの……?

 そして一つだけ、ピンク色に輝く大きな光点―――――遊戯室に重なるこれは―――――東堂さん……!

 

 『よかった……』

 

 心の中で安堵する。まだみんなを、助け出す余地はある……!

 中から東堂さんが脱出できないのは、のんやみんながすぐそばにいるから―――――だろう。みんなの目の前で変身なんてできるわけないから―――――

 

 『必ず……絶対に助ける……!だから―――――』

 

 僕は心に強く決めて―――――ビルの屋上から飛び出した。

 

 『―――――待ってて!』

 『"それ"を簡単に許すとでも思っているのかッ!』

 

 僕の意志は完全にこども園だけに向いていて、もはやバグッチャーの存在は視界からも心からも飛んでいた。それ故に―――――

 

 『タカナ~~~~~レッッッ!!!!』

 

 頭上から躍りかかった巨大魚型バグッチャーに、完全に不意を突かれた。

 

 『グうッ!?』

 

 ヤツが纏っている水の球体が、まるで巨岩のようにぶつかった。これはただの水じゃない、高水圧の水のカタマリか!?

 僕はアスファルトの道路に叩き落され、そのまま水の球体の下敷きにされた。

 

 『圧し潰せッ!!』

 『バグッチャァァァァ!!』

 

 超重量が体全体に圧し掛かって……!しかも掴もうにも、水を掴めるわけもなく……!!

 五体が封じられて……何もできない……ッ!!

 

 《だったらそれ"以外"を使えばァァッ!!》

 

 視界に、〈EMERGENCY IGNITION〉と赤地に白抜き文字で大写しになったと思うと、ブーツの裏から蒼いイーネルギーの光が噴き出し、僕の身体を強引に押し出した。

 とっさに受け身を取って、こども園の園庭、その中心に片膝を突く。

 

 『ありがとうデータ……助かったよ』

 《これくらいワケ無いぜ。……で、どーするよ?りんくやのんたちを助けるか?それとも―――――》

 『……まずはバグッチャーをなんとかする!相手が"水"なら、これでッ……!』

 

 躊躇うことなく、僕はサモナーから一枚のチップを呼び出して、コミューンにセットした。

 

キュアチップ、『キュアピース』!キュアっと、変身ッ!!

 

 《ピカピカぴかりん!じゃんけんポン♪キュアピースっ♪!》

 《CURE-PEACE! INSTALL TO DATEAR!! INSTALL COMPLETE!!》

 

(フン)(ジン)(ライ)()

 

キュアデーティア!"ピーススタイル"ッ!!

 

 ヤツが水を纏っている魚型である以上、高圧電流が通用しないはずはない!

 一撃で仕留める―――――そのつもりで、僕は勝利の印(ピースサイン)を天へとかざす。

 

(ショウ) (ライ)

 

 大気中の静電気や近くの電線を流れる電気―――――それらすべてを右手に集束させて、全身を駆け巡り、増幅される―――――

 

(ライ) (メイ) (セン) (コウ)

 

"凱 龍 電 雷 巴(ピィィィィス、サンダアァァァァァ)"ッッッ!!!!!!

 

 両手に作ったVサインから、バグッチャー目掛けて一直線に放たれた電撃が、空気を裂いて驀進し、バグッチャーの纏う水の球に命中した。これに耐えられるはずが―――――

 

 『!?』

 

 思わず僕は目を疑った。電撃が水の球の表面を伝わって、四方八方に拡散するのが見えた。中心にいるバグッチャーに届いては―――――いない!?

 

 『電撃が……効かない!?』

 《だったら直接ブチ込んでやれ!!》

 《ほくとくん!電キックよっ!!》

 

 何故か目を輝かせながら、鼻息荒くピースが言う。それなら―――――

 

 『……うん!!』

 

 ―――――乗った!

 どういう理屈かはわからないけど、水に電気が効かない道理はないはずなのだから!!

 

   〈MASKED RIDER AMAZON〉

 ⇒ 〈MASKED RIDER STRONGER〉

   〈SKYRIDER〉

 

 《BEHOLD! CHARGE UP STRONGER!!》

 

 『データ!ピース!やるよ!!』

 《任せろッ!!》

 《いっけええぇぇ!!》

 

 心の中のデータベースにアクセスして、全身に電流を漲らせる。そしてその電流を右脚に集束させながら、左脚から駆け出し、バグッチャーのはるか頭上へと跳躍した。

 

ストロンガァァァァァーーッッ!!!!

電ェンッ!!

キィィーーーーーーーーックッッ!!!!!!

 

 僕だけじゃなく、データとピースのシャウトも重なった、三位一体・全力全開の電キック―――――!!

 ―――――これでどうだ!!

 悪いけど、今はお前に構ってるヒマはない!一刻も早く、東堂さんを、のんを、みんなを!助けなければいけないんだ!!

 

 『―――――クッシタリ、シナイ』

 『!?』

 

 確かに僕の放った電キックは、水の球体に真正面から命中した―――――でも、"そこまで"だった。

 電流はすべて周囲に拡散していて、キック『そのもの』も、水の球に受け止められていた。

 

 『ゴキゲンヨウッ!!』

 

 その言葉と同時に、水の球からさらに噴水のような水流が飛び出し、僕は木っ端のように吹っ飛ばされ、こども園をぐるりと囲う塀にぶつかって止まった。

 

 『か……ッ!!』

 

 息が詰まる痛みと、固定観念を破壊されたことに―――――

 僕の心に、焦燥と恐怖が広がっていくのが、わかる―――――

 その僕の精神状態に連動したのか、それともダメージの限界か、"ピーススタイル"の変身が解除されてしまった。

 

 『どうして……どうして水がキックどころか、電撃まで弾くんだ……!?こんなの、ありえない……!!』

 《ほくと!おいほくと……!》

 『だったらどうやればいい……!拳や蹴りが通じない……なら氣弾か……いやダメだ、あの水の球に弾かれる……』

 《……落ち着けッ!ほくとッッ!!》

 『!!』

 

 ―――――心の中の『部屋』で、データが握り拳をその『外壁』にぶつけているのを……()じた。

 

 《今のお前はリクツがわかんねぇ上に、技が通じなかったからパニクってるだけだ!テンパったらそれこそヤツ等の思うツボだぜ!?》

 『……!』

 《とにかくまずは落ち着け、な?……『戦いは焦ったり、冷静さを欠いたヤツから負ける』……"お師さん"もそう言ってたし、お前のじーさんのコトだ、同じようなコト、言われてんじゃねぇか?》

 『……言ってた』

 《やっぱ、な♪……言ったろ?『アタシが何度だって、お前を正気に戻してやる』って。いい加減学習しろよな、"一心同体の上手い使い方"》

 

 ―――――まだまだだな、やっぱり僕は―――――

 

 ひとりではまともに戦えないのが現状だ。そもそもこの"女の子の姿(キュアデーティア)"も、データの助けを借りることで初めて成り立っている、"一心同体"だ。

 それなのに僕は、自分ひとりで戦ってると錯覚して―――――

 

 『……そうだね、データ』

 

 僕達は―――――僕とデータ―――――ふたりで―――――

 

 『僕達は……ふたりで、"キュアデーティア"だ!』

 

 決意は―――――固まった。

 僕はもう、自分が孤独だなんて、思わない!

 

 《キまったところで知りたくねぇか?……あのバグッチャーの"水玉"に、ピースサンダーや電キックが通用しなかった理由をよ》

 『え……?』

 《アイツの"水玉"は……たぶん『純水』だ》

 『純粋??』

 《そっちのじゃねーよ。『スイ』は『水』だ。水以外に雑菌やら不純物やらがなんッッにも入ってねぇ、これ以上なくキレイな真水だよ》

 『そ、そんな水があるの……!?』

 《お前なぁ……この間の理科の授業で先生が言ってたろ?ちゃんと授業聞いてたかぁ?》

 

 ごめん……理数系はニガテで、授業中、どうにも眠気が差してくる。

 それはともかく、水が純水であることがどうして、電気を通さない理由になるんだ?

 

 《水が電気を通すのは、水ン中に入ってる雑菌や不純物が電気を通してるだけで、水はあくまでガイドレールみたいなモンなんだ。水に何にも入ってなきゃ……ガイドレール『だけ』なら、電気は通らない……これが奴の"水玉"に電気が効かなかったリクツだ》

 『そんなコトが……!』

 《自然界にはまず存在しねぇがな……どうやらあのバグッチャー、水の組成分を自在に組み替えて操れるようだな……しかもアレにも高水圧を内側から掛けてる……バリアにもなるし攻撃手段にもなる……厄介この上ないぜ……!》

 

 確かに―――――バグッチャーが纏っている巨大な水の球体は、まったく濁りの無い、無色透明な水だ。

 ああして空気に触れている以上、目に見えない雑菌や不純物が必ず入ってくるはずだけど……

 それも水質を変えて、制御しているというなら、やはりバグッチャー……そして取り込まれているプリキュアが、いかに人智を超えた力を持っているかを思い知らされる。

 

 『貴官等の攻撃は無効ッ!まさしく鉄壁無比の要塞であぁるッ!!畳み掛けろ、()グッチャー!!!』

 『オカクゴ~~~~ッッ!!!』

 

 スパムソンの命令を受けたバグッチャーはドン!!と園庭から浮き上がると、水の球体の頂上から、さながらクジラのように水を噴き出した。噴き出された水が、中空で直角で曲がり、レーザーのように僕に向かってきた!

 

 『!!』

 

 僕は立ち上がり、とっさに回避する。さらにバグッチャーが発射したのか、2発、3発、4発と高圧の水が撃ちかけられる。

 

 《なんだありゃ、近づけねえ!》

 『でも、直線的だ!避けるだけなら―――――』

 

 ―――――簡単だと思ったのが甘かった。

 次に僕が見たのは、バグッチャーが水の球体、その上下左右の4か所から高圧の水が発射され、そのすべてが、まるで空中に見えないあみだくじが仕掛けられているかのように複雑かつ直線的に屈曲しながら、確実に僕に向けて間合いを詰める様だった。

 不規則に迫りくる高圧水流、とっさに僕は連続で身をよじって回避した。ほんの一瞬、発射された高圧水流が、アスファルトの道路に『潜る』のが視界の片隅に入った―――――

 と、次の瞬間―――――

 

 強烈な『下』からの衝撃が、僕の身体を空へと打ち上げた。完全な不意打ちで、空中で受け身を取ることもできない―――――

 そこへ、四方―――――否、上下前後左右、あらゆる方位から無数の集中砲"水"が僕へと襲い掛かり―――――

 

 『ぐああああああああ――――――――――!!!』

 

 いつもよりだだ広く感じるこども園の園庭に、僕は叩き落された。

 

 ―――――強い!

 今までのバグッチャーもそうだった……でも今回のバグッチャーは、『肌で感じる』強さよりも、『頭で感じる』強さがにじみ出ている。

 僕の思考が追い付かない、力ではどうしようもない、僕が追い求める『強さ』とは全くの別方向の『強さ』を、このバグッチャーは(ふる)っている……!!

 

 『クックックッ……このバグッ()ャーは攻防双方に優れた性能を発揮するッ!!強さとは単純な『出力』『剛性』のみに非ずッ!!斯様なる『理論応用』も又ッ、戦略に於いて重要な意味を持つのでああァァるッッ!!我がジャーク()ェブのッ!技術力はッッ!!世界一ィィィッッッ!!!!』

 《(なぁに)が世界一だ!キュアチップから無理やり力を引き出しといてバカ言ってんじゃねぇ!!さっきの"水鉄砲"だって何のことはねえ、パスカルの原理の応用じゃねーか!!》

 『ぱ、ぱす……??』

 

 またしても理科の授業か。なんか僕、頭痛くなってきた……

 

 《液体ってのは、圧力を加えても体積が圧縮されねえ代わりに、圧力が液体を介してあらゆる面に同じように伝わるんだ。コイツの場合、あの"水玉"の中の水圧を、そのまま外に撃ち出してんだ……空中でグネグネ曲がるのは、おそらく目に見えない誘導レールみてぇなのを打ち出す瞬間に張り巡らしてんだろうな。地面に潜っても勢いそのままに飛び出してくるのももっともな話だな……》

 『え……えぇっと……つまり……??』

 《……あ、ほくとにはわかりづれぇか……あ~、そーだなぁ…………、!アレだ、"エレクトロファイヤー"だ!》

 『ストロンガーの……!?』

 《アレだって、静電気を使って砂鉄やらの目に見えづらい金属を導線代わりに使ってんだろ?あれと同じで、アイツは水を誘導する"導線"を空中に作って、水鉄砲をくねらせてんだよ》

 『!なるほど……!』

 

 それならわかる。つまりは目に見えない導火線……この場合は導"水"線と呼ぶべきだろうか。

 それにしてもデータ、物知りな上に例えが上手だ。こんなデータに勉強を教えてもらえるなら、テスト勉強もはかどるかもしれない―――――

 ―――――なんて、どうして今テスト勉強のことを考えてるんだ!?今はコイツを倒して、のんと東堂さんを助け出すのが―――――

 

 ―――――……コイツを、倒して……?

 

 いや、待て……今この瞬間もこども園への『水攻め』が進んでいて、僕がコイツを倒さない限り、それが終わることはない。

 でも実際の僕は、バグッチャーに攻めあぐね、手も足も出せずにいる。このままじゃ遠からず"時間切れ"を迎える―――――

 

 ―――――『タイムリミットは近い』……!

 

 そう考えれば、必然的に僕のやるべきことは変わる。今僕がすべきことは、『バグッチャーを倒すこと』じゃない―――――

 僕は鋼鉄のシャッターで閉ざされたこども園を見て、確信した。

 

 ―――――『みんなを助けること』だ……!!

 

 僕は何をムキになっていたんだ……?そもそもヒーローが戦う理由は、『守ること』であって、『倒すこと』じゃない。

 そんな基本的なことを忘れてたなんて―――――

 

 《思い出せたんなら、実践すりゃいーだろ》

 

 心の中から、データがささやく。

 

 《……アタシにいい考えがある。ヤツの―――――》

 『わかった』

 《!?アタシゃ何も言ってねーぞ!?》

 『言わなくてもわかるよ。―――――"一心同体"、だよね?』

 《……お、おぅ》

 

 これはウソでも何でもなかった。僕の考えてることがデータに筒抜けなように、データの考えてることも、僕にはすべてわかる。

 ―――――乗ったよ、データ!

 

 『データ、東堂さんのコミューンは!?』

 《こども園のWi-Fi電波、あのバグッチャーに妨害(ジャミング)されてるみたいだが……この距離なら"例のチカラ"でイケるぜ!》

 『何をゴチャゴチャ話しているッ!?……攻撃を再開せよッ!!』

 『リップルリップル~~~ッッ!!!』

 

 バグッチャーの絶叫と同時に、高圧水流の連射が襲い来る。一か所に留まってちゃダメだ、『チャンス』が来る、その時までは!

 

 《走れッ!!》

 『データ、東堂さんのコミューンにつないで!!』

 

 まずはこども園にいるみんなを、一か所に集めないと―――――!

 つながれ、東堂さんに―――――いや、

 

 

 ()()()()に!

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 もう、見るからに逃げ場が無かった。

 遊戯室の一段高いひな壇に私とみんなはいるけれど、私の膝下まで水につかっている。

 どこから流れてきたのか、ゴムボールが2個ほどぷかぷかと浮かんでいた。真っ暗な中に、蛍光色のソレはよく目立つ。

 水音だけが響くこの暗闇―――――私でさえ恐怖を感じるこの場所で、のんちゃんたちは―――――

 

 「パパぁ……ぐすん、パパ、たすけてよぉ……」

 「なくなよらんかちゃん!ないたら……お……オイラも……オイラもなぎだぐなっぢまうじゃねーがよぉぉ……」

 「―――――…………」

 

 らんかちゃんとぷらむちゃんの様子を見たのか、こころちゃんがみんなから顔を背けて、肩を震わせていた。たぶん―――――泣いてる。

 

 「すまほもつうじないですの……はっぽーふさがりですの~!!」

 「あぁ……こんなときぎゃりちょん(ギャリソン)おにーたまがいれば……」

 

 さっきまでは気丈にしていたさっちゃんとクインシィちゃんまで、ついに取り乱し始めていた。

 他のみんなも、泣いてたり、暗い表情で先生にしがみついて放さなかったり―――――

 ちょっとだけ大人の私よりも、こども園のみんなの方が、ずっと怖い思いをしてるに違いない。

 なのに私は―――――変身できない私は―――――

 こんなにも無力で―――――

 

 「……あきらめちゃだめだよっ!」

 

 ―――――でも、こんな中でも、涙ひとつ流すことなく、みんなを励ましている子がいた。

 

 「のんちゃん……」

 「ぜったい……ぜったいプリキュアがたすけてくれるよ!だから、あきらめないで!」

 「で、でもむりだよ……プリキュアがくるまで、こんなの……」

 「むりじゃない!ぜったいむりじゃない!プリキュアはぜったい、きてくれるもん!」

 

 この子だけは―――――諦めてない。

 心からプリキュアを―――――私たちを信じてくれている。

 この子の気持ちに、私は応えたい。でも、この子がいると、私はプリキュアになれない―――――

 

 ―――――なんてジレンマなの……!!

 

 葛藤が私の心を圧迫してたその時、私のネットコミューンが着信音を鳴らした。

 ここには電波が通っていないハズ―――――ということは!?

 私はとっさに通話ボタンを押した。

 

 《東堂さん、聞こえるっ!?大丈夫なのっ!?》

 

 やっぱり、ほくとくん!しかもこの声、()()()()だ!ほくとくん、キュアデーティアに変身してる!

 

 「ほくとくん!もしかして、来てくれたの!?」

 《今、こども園のそばでバグッチャーと戦ってる!みんなを助けるために、お願いしたい事があるんだけど!》

 

 デーティアの声に雑じって、ドゴン!ドガァン!!と、重々しい音が耳を突く。声の調子が強いのも、バグッチャーの攻撃を避けながら話してるから……なのだろうか。

 

 「どうすればいいの!?何でも言って!?」

 《園長先生、そこにいる!?話をさせて!!……できれば、みんなにも声が聞こえるようにして!》

 

 園長先生、に……?いやな予感がしたけれど、私は「う、うん……!」と、気圧されるように返事をして、通話モードをスピーカーモードに切り替えた。

 

 《園長先生!……突然、ごめんなさい!ぼ……わたし、プリキュアです!!》

 「プリキュアっ!?♪」

 

 デーティアが呼び掛けた園長先生よりも先に、のんちゃんが反応した。

 

 「その声、キュアデーティアだよね?!そうだよね!?」

 

 さっきまでぎゅっと唇をかんで恐怖に耐えながら、みんなを励ましていたのんちゃんの目から―――――

 ようやく涙がこぼれた。

 

 《のん……ののかちゃん!……よかった……みんなも無事!?》

 「はい!ごたいまんぞく、もんだいございませんですの!」

 「ぴんぴんしてるぞっ!!」

 《必ず助けてあげるから……!もう少し、我慢できるね!?》

 「―――――もーまんたい(無問題)まか()せろっ」

 「こわいけど……がまんするっ!」

 《……よぉし、みんないい子だっ…………園長先生、聞こえますか?》

 「聞こえているわ。貴女のことも、かねがね」

 《いきなりこんなお願いをするのも恐縮なんですが……こども園のみんなを、遊戯室のひな壇に集めてください!それと……本当に申し訳ないんですが―――――》

 

 デーティアは言葉を選んだのか、それともためらったのか、少し間を置いてから言った。

 

 

 《こども園の建物の一部を―――――壊してもいいですか》

 

 

 私の心が―――――少しだけずきりとした。

 今すぐにみんなを助け出すには、こうするしかないのはわかる。でも―――――

 ううん、違う。違うんだ。()()()()()、デーティアはためらったんだ。

 

 《ここがみんなにとって大事な場所で、明日がお遊戯会だってことは知ってます……でも、こうするしか……!》

 「……このこども園は、子供たちの……そして、かつて子供"だった"みんながつくった、たくさんの思い出が詰まってる大切な場所―――――私の半身のような、そんな場所よ―――――」

 

 園長先生は目を閉じて、そっと胸元に手を当てて、厳かに、ゆっくりと語った。まるで、園長先生が心に刻み込んできた思い出を、言葉に乗せるかのように。

 しかし園長先生は目を開くと、表情を真剣なものに変じさせた。こんな表情をする園長先生を、私は初めて見た。

 

 「でも―――――」

 

 ここで園長先生の表情が一変した。何かの覚悟を決めたかのようにカッと目を見開くと―――――

 

 「今ここで怖がっている子供たちの命……子供たちの"未来"とは、とても代えられるものじゃないわ。建物は壊れたら直せるけれど、命は失くしたら直せないもの……!だから……思いっきり!ド派手に!!遠慮無くやっちゃってちょうだい!!!」

 

 直接デーティアが見えるわけじゃないのに、園長先生は拳をグッと握って、なんか最後はノリノリだった。

 でもその言葉は―――――紛れもなく『子供たちを守る大人の覚悟』、そのものだった。

 これが―――――園長先生の本気、なんだ―――――

 

 「園長先生……」

 《……!ありがとうございます!……後は……任せてください!》

 

 そこでデーティアの通話はプツッと途切れた。外からは、水音に雑じって轟音が響いてくる。

 コミューンを私に返した園長先生は、メガネをかけた秋谷先生に、他の教室にいる先生や子供たちを集めてくるようにお願いすると―――――

 

 「…………がんばってね――――――――――"お兄さん"」

 

 こう、小さく呟いたのだった。

 そしてその視線は、まっすぐ―――――

 キュアデーティアが戦う、園庭へと向けられていた。

 

 ……SAVE POINT




 キャラクター紹介

 増子 みしん・みとん

 りんくのクラスメート・増子美祢の妹で、双子の姉妹。
 丸縁眼鏡をかけ、右側頭部に待ち針型のかんざしを付けていて、語尾に『~だな』と付けるのが記事担当の姉・みしんで、角縁眼鏡をかけ、左側頭部にミトン型の髪飾りを付けていて、語尾に『~だね』と付けるのが写真担当の妹・みとん。

 ふたりともネクラ系でふたりだけの世界に入りがち。
 ちなみに互いのことは『あねみしん』『いもうとみとん』と、わざわざ『姉』『妹』と付けて呼び合っている。
 長姉の美祢同様、増子家の人間らしく探求心旺盛で、幼いながらこども園で『こどもえんしんぶん』を作っている。
 『インストール@プリキュア』が現れてからはプリキュアの正体を探るべく行動しているが、公正な視点での取材をしておらず、明らかにプリキュアを貶めたり、悪評を広めようとしていることがわかる歪曲報道を行っている。

 ふたりともあからさまにプリキュアを敵視しており、記事のでっち上げも日常茶飯事。そのためののかたちとは口論が絶えない日々。
 何故ふたりがこのような行動をとるようになったのかは不明で、ウソ記事をこれでもかと書きまくるやんちゃな双子に、姉の美祢も困り果てている。
 ちなみに姉妹揃って特撮ヒーロー番組に傾倒していて、その方面の知識に詳しいほくとは憧れのおにーさん。

 ――――――――――

 果たして次回、稚拙は1万5千字前後でうまくまとめられるのか……!?
 第12話、ラストスパートは次回で!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

凛然一念、涙払一輪

 バグッチャー大図鑑

 リズムバグッチャー

 身長:7m
 属性:音
 実体化所要時間:8分20秒

 第6話『あなたはだあれ?キュアデーティアの@正体!』に登場。
 ネンチャックが、携帯端末用電波中継基地のプログラムと、キュアリズムのキュアチップを使って生み出したバグッチャー。
 電波塔から手足が生えたような外見であり、スマホを通じて指向性睡眠促進音波を発信することで、スマホの持ち主を眠らせていた。同時に、キュアデーティアをおびき寄せることも目的としていた。
 相手を拘束する光のリングや、炎の輪を発射する攻撃でキュアメモリアルを苦戦させるも、キュアデーティアの出現で形勢を逆転され、最後はメモリアルの『プリキュア・メモリアルフラッシュ』と、デーティアの『プリキュア・デーティアインパルス』を立て続けに叩き込まれ、デリートされた。
 ユナイテーションワードは『たおやかなる音の調べよ、無知なる者を眠りにいざなう邪音を爪弾け』(本編未発表)。

 レモネードバグッチャー

 身長:現実空間換算4m強
 属性:光
 実体化所要時間:1時間

 第7話『僕がプリキュアになった日 涙を祓う@ほくとの決意!』に登場。
 ネンチャックが、とある自動車のエンジン制御プログラムと、キュアレモネードのキュアチップを使って生み出したバグッチャー。時系列上、ネンチャックが初めて繰り出したバグッチャーである。
 全身に金色の鎖が巻き付いたような球体状のボディをしており、幹線道路を走る自動車のプログラムに立て続けにハッキングを行い、車を動かなくしたうえでキーロックを誤作動させ、運転手や同乗者を車内に閉じ込めただけでなく、空調を誤作動させるなどの悪行を働いた。
 戦闘では全身の鎖を振り下ろしたり、全方位に放つほか、無数の蝶型エネルギー弾『レモネードフラッシュ』をも発射して相手を寄せ付けない戦法を取る。
 キュアデータがほくとと出会って最初の相手となり、データは絶対記憶能力とほくとのナビゲートによって的確に攻略、最後は『データ・ボルトスクリュー』で蹴り砕かれてデリートされた。
 ユナイテーションワードは『弾ける伝説の力よ、鋼の心臓を握り、金色の鎖を以って足枷となれ』(本編未発表)。

 ――――――――――

 はぐプリとは、『許容』である―――――

 昨日放送分のはぐプリを見て、そう悟ってしまった稚拙です……

 さて、今回でラストと言いましたが、想定以上に文量が増えてしまいまして、間に1回挟みます!誠に申し訳ございません……ッ!!
 『インストール@プリキュア』の抱える意外な弱点、そして新たなるキュアデーティアの覚醒を送信!


 NOW LORDING……

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

    CURE-MEMORIAL

 ⇒  CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 東堂さんとのんの声を聞いた時、僕は素直に―――――安心した。

 『まだ間に合う』……それが僕の希望だ。

 1分でも、1秒でも、一瞬でも残っているのなら、それはすべて僕のチャンスになるんだ……!

 

 『どうしたどうしたッ!?遂に万策尽きッ、逃げ回る事しか出来なくなったかッ!?ならば即刻投降しッ、貴官等の持つ()ップを全て譲渡するがいいッッ!!!』

 

 スパムソンがこども園の屋根の上から煽る。そりゃ、そっちから見た僕は、放水を避けまくることに集中していて、反撃なんて考えていないように見えるだろう―――――

 

 ―――――……その通りさ。

 

 僕は今、バグッチャーを『攻撃して、倒す』なんてことはこれっぽっちも考えていない。

 万策尽きた?……ああ、そうだ。今の僕に、このバグッチャーを撃破できる手段はない。

 逃げ回る事しか出来ない?……正解だよ、悔しいけど。

 ……でもね、スパムソン……流石に僕の思考までは読めないか―――――

 

 《ほくと!こども園の全員、遊戯室のひな壇に集まったぜ!》

 

 ……時間だ!

 僕は放たれる高圧放水を紙一重で連続でかわしながら、園庭を一直線に進み、こども園の園舎に肉薄する。

 そして立ち止まり、園舎を背に、僕は空中で回遊するバグッチャーを見上げた。

 

 『クククッ、足を止めたかッ!遂に観念したようだなッ!!』

 『……ああ。観念した―――――』

 『ならばこの一撃で貴官を粉砕せしめてくれるッ!!バグッ()ャーッ!!一斉攻撃にて殲滅せよッッ!!!』

 『ヨロシクテ~~!!!』

 

 スパムソンの指示に応えたバグッチャーが、水の球体の八方から水流を放った。直角に曲がった8発の高圧放水が、一斉に僕へと向かう―――――

 

 ―――――それを、待ってた!!

 

 思わず僕は顔に笑みを浮かべて、真上へと跳躍した。

 水流は僕の背後の園舎―――――遊戯室の横、園庭へと通じる通用口を塞いでいた、防火シャッターに命中し―――――貫通した。

 

 『んなッ!?』

 

 スパムソンの驚愕の声と同時に、シャッターに開いた大穴からおびただしい水、そしてこども園のみんなが使っていたと思われる歯ブラシやコップ、クレヨンやかばんなどが一気に園庭へと流れ出てきた。

 さっきと同じ場所に着地した僕は、声の限りに叫んだ。

 

 『みんな今だ!早く逃げろッッ!!』

 

 文字通り堰を切ったように、こども園のみんなや先生たちが、穴の開いた防火シャッターから駆け出してきた。

 ヤツが攻撃してこないとも限らない。僕はみんなを背にして、上空のバグッチャーを見据えた。

 

 『ぬぅぅぅぅぅッッッ…………!!!!』

 《残念だったなスパムソン!!てめーの水攻めはこれでオシャカだぜ!!》

 『……フンッ!我が()グッチャーの攻撃を利用して隔壁を破壊するとはッ、他力本願も甚だしいッ!!そしてッ、貴官自らの力を以って隔壁を破壊しなかったその心根ッ、軟弱ッ!貧弱ッッ!!惰弱の極みッッッ!!!そうだッ!貴官はそれだけの力を保持しているにも関わらずッ、結局は実行に移せぬ只の弱者よッッッ!!!』

 『……ッ……―――――』

 

 僕を指差して捲し立てるスパムソンに、僕は言い返すことが出来なかった。

 確かにそうだ―――――僕は僕の手でこのこども園を破壊することを恐れたんだ。

 かつて東堂さんがかけがえのない思い出をつくっていた―――――

 そして今は、のんやみんなが楽しく過ごしているこの場所を―――――

 僕は、僕の手で壊せなかった。

 僕がこの手であのシャッターを壊していれば、みんなをいち早く助け出せていた―――――

 

 僕の判断が、みんなを長い間、苦しめることになっていたというのか―――――

 

 

 ―――――そんなこと、ない!!

 

 『……!!』

 

 その声は、こども園の屋根の上から聞こえてきた。

 思わず振り返った視線の先には―――――

 春に咲く桜花の如き、鮮やかな輝き―――――

 

 『キュアデーティアは……弱くなんかない!!』

 

 その強い言葉に―――――

 僕のささくれた心が、ゆっくりと癒されていく―――――

 

 『思い出の場所……気持ちのこもったモノ……それを大切にして、大事にしたいって想いは、誰にだってあるの!それを自分の手で壊すことって、とても辛いことなんだよ……!そんな、『思い出も簡単に壊せる』コトが『強さ』だっていうのなら……』

 

 彼女は、胸のイーネドライブに右手を当てながら叫んだ。

 

 

 『そんな『強さ』なんか、私はいらない!!』

 

 

 ……あぁ、やはり、そうか。

 ようやく、わかった―――――

 キミがどうして、そんなに眩しいのか―――――

 

 

 ―――――少なくとも―――――私は熱狂したよ。

 

 ―――――初めてキュアデーティアを見たときね―――――すっごく"イイ"って思った……!

 

 ―――――『子供たちが熱狂してくれるなら、男の子プリキュアもアリ』って♪

 

 ―――――っていうか、八手くんじゃないとダメ!あのカッコカワイさは、八手くんがデーティアじゃないとダメだもん!

 

 

 僕がプリキュアになってしまったことに戸惑いを見せた時も、キミは僕の背中を押してくれた。

 キミの言葉が、キミの笑顔が、僕に勇気を、自信をくれた。

 『プリキュア』のことがまったくわからなかった僕の手を取って、教えてくれた。

 『プリキュア』が、『仮面ライダー』と同じ、子供たちの憧れである"ヒーロー"であることを。

 僕よりも、ずっとずっと、『プリキュア』のことを知っている、僕の想い人―――――

 

 東堂りんくさん―――――

 

 キミは―――――

 

 "こうありたい"と切に願う、僕の『もう一つの目標』―――――

 

 

 『理想のプリキュア』―――――そのものだったんだ―――――

 

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 暗闇を轟音とともに割いたのは、水のカタマリだった。

 遊戯室の入り口側、園庭に通じる開き戸を封鎖していた防火シャッターに大穴が開いて、こども園全体に溜められつつあった水が、一気にそこから流れ出た。

 水の勢いが収まったところに、外から叫び声が響いた。

 

 『みんな今だ!早く逃げろッッ!!』

 

 それを合図に、先生たちの先導で子供たちが一斉に駆けだした。私はみんなといっしょに脱出して、ドサクサ紛れにさり気無く列から抜け出すと、園舎の陰に隠れて、誰も見てないことをよ~く確認して、変身した。

 こども園の屋根の上に立ったその時、スパムソンの罵声が聞こえた。一方的にデーティアを罵る言葉に、私は思わず言い返していた。

 

 『そんな『強さ』なんか、私はいらない!!』

 

 デーティアが、自分の手でこども園を壊さなかった、()()()()()()こと―――――それは私は『弱いこと』だなんて思わない。

 人が人を想う心。『誰か』の気持ちを考えて、思いやることができる『強い』意志―――――

 それは―――――『優しさ』って呼ぶべきモノなんだ。

 

 『お待たせ、デーティア!』

 

 私はデーティアの隣に降り立った。なんか私も、デーティアの顔を見て、ホッとした。今まで正直……怖かった。

 そんなデーティアはというと―――――

 

 『…………―――――……///』

 

 なんか、私を見たまま、ぽ~っとしてるカンジ。なんか顔を赤くしてるし……

 

 『??どしたの?』

 『……!あ、その…………あり、がとう……』

 『お礼を言うのは私の方……みんなも無事だよ!』

 

 そう言ってこども園の門の方を見やると、私とデーティアの視線に気づいたのか、歓声を上げる子供たちの姿。

 

 「あ!こっちみたので!プリキュア、がんばってなので~!」

 「おうえんしておりますですの~!」

 「……まけないで!」

 「そんな"さかなやろー"、みずたまからひきずりだしてたたきにしちまえ~~!」

 「―――――いっぽんづ(一本釣)り。ごきたい(期待)ください!」

 

 みんなが思い思いの声援を、私達に送ってくれている。……なんか、聞き覚えのあるフレーズも混じってるけど、まぁいっか。

 

 「キュアデーティア~!」

 

 そんな中で、ひときわ響くこの声―――――のんちゃんだ!

 ……やっぱりキュアデーティア推しなのね……たまには私にもプリキュア愛をください……

 

 「ありがと~!それから、まけないで~~!!」

 

―――――Emotional NEtwork DRIVE system―――――

 

START UP

 

 ふと、『愛をください』と思ったのが引き金になったんだろうか。

 みんなの声―――――みんなの想いが、私の中に入ってくるのを感じる。

 それは私の中で膨らんでいって、身体全体に行きわたる。

 

 『なんか……なんか来た……!すごく……すっごく……!!』

 

 心の限り―――――私の中に駆け巡る力の限りに―――――!!

 

 『いーーーーーーーーーーねーーーーーーーーっっっっ!!!!!!!!!!!!』

 

 私は、(さけ)んだ。

 体中から湧き上がるピンク色の輝きが増幅されて、炎のように燃え上がる。

 

 『わかるよ、僕も……!!』

 

 隣に立つデーティアの身体からも、いつも以上の水色の光が燃え上がってる。

 

 『のんの……みんなの想いが……みんなの応援が、僕達の中で力になるのが……!!』

 

 その言葉で、私は悟った。

 メモリアが前に戦った時、キュアネットの応援書き込みで、メモリアがパワーアップしたのと同じなんだ。

 キュアネットの中では書き込みが力になったけど、この現実の世界では応援の言葉や心が、直接私達の力になるんだね……!

 

 『くッ……なんだッ……!?イーネルギーが高まっているだとッ!?何が起こっているッ!?』

 『人の命を何とも思わないあなたにはわかんないでしょうね……!私の……私たちに力を貸してくれてる、みんなの想い、みんなの心……みんなの"意志"の力は!!』

 

 そう、イーネルギーは、人が人を想う、『優しさ』の具現。

 みんなが私達を応援してくれるその限り、私達はどこまでも強くなれるんだ!

 

 『だからこそ……知ることができた。みんなが……ののかが、どれだけ怖い思いをしたのか……悲しい思いをしたのかを……!!』

 

 ―――――……!!

 

 びり、と、背筋に電流のようなものを感じた私が振り返ったその先には、燃え立つ青白いイーネルギーをその身に纏ったデーティアが、一歩、また一歩と、スパムソンが屋根に立つ園舎へと近づく様があった。

 

 『明日は……みんなが楽しみにしていたお遊戯会だったんだ……!それをお前は……みんなの楽しい思い出が詰まった、このこども園ごと壊した……!お前は赦されざる罪を犯した……!!』

 『ぬッ……!だがそう仕向けたのは貴官であろうがッ!!』

 『黙れッッ!!』

 

 ―――――!!!!

 

 青白いイーネルギーがスパークして、デーティアの全身に迸った。ここまで昂ったデーティアはを見たのは、初めてかもしれない。

 デーティアの―――――ほくとくんの堪忍袋の緒が、怒りの炎で()き切れたんだ―――――

 デーティアは刃物のような視線をスパムソンに突き刺しながら、更には指まで差して言い放つ。

 

 『"対バイオロン法"、第六条……"子どもの夢を奪い、その心を傷つけた罪は特に重い"……ッ!!』

 『ほぇっ!?』

 

 た、"たいばいおろんほー"!??!ってか"ばいおろん"って何!?ワケのわからない単語に混乱する私。

 

 『妄言をッ!!そのような戦争法律などッ、小官のデータベースに存在しないではないかッ!!そもそもバイオ()ンとは何だァッ!!!??』

 

 スパムソンもスパムソンで、律儀にも大真面目に反論している。うん、私もそんな法律知らない。

 

 『最早問答無用ッッ!!みんなを……ののかを怖がらせ、悲しませ、恐怖を植え付け、涙の一滴でも落とさせたキサマだけは絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛ッ!!!』

 『()イオロンとは何だと訊いているゥゥゥゥッッッッ!!!』

 

 スパムソンの怒鳴り声とともに、はるか上空に浮いていた巨大水玉から、極太の水流が連続で発射されるのを見た。まるでレーザーのように、連続で園庭へと突き刺さってくる。

 さらには巨大な水風船をドカドカと投下するものだから、私とデーティアは右に左に回避した。

 

 『あの水攻め……!それにこども園の扉に『鍵』を掛けた能力……あのバグッチャーが取り込んでるのは海藤みなみさん……キュアマーメイド!絶対そうだよ!』

 《成程な……!『プリンセスプリキュア』のサブリーダー、"海姫(うみひめ)のマーメイド"か……!確かにマーメイドなら、水を操るのは朝飯前ってか……!》

 

 ここまでの苛烈な攻撃は、爆撃機さながらだ。マーメイドの優雅さ、美しさを思わせる要素は一かけらもない。辛うじて、巨大な水のボールの中に浮かぶ古代魚のようなシルエットから、『海を知ること』を志したみなみさんの面影を感じ取れるけど―――――

 

 『高高度からの絨毯爆撃ッ!!この距離ならいかなる遠距離攻撃も届かぬッ!届いたところで"純水の盾"が防ぐッ!さぁ諦めろッ!諦めてキュ()チップと()ーバー王国の残党の身柄を引き渡すのだッッ!!!』

 『冗談じゃないぜ!―――――メモリアル!』

 『うん!』

 

 前の私達なら泣き寝入りしていたかもしれないけれど、今の私達は違う。

 相手がどこにいようと、どんな高さにいようとも―――――

 

 《Wi-Fi WING! EXPANSION!!》

 

 ―――――私たちの翼が、捉える!

 

 『んなッ!?』

 

 驚くスパムソンを尻目に、翼を開いた私達は空を睨む。

 

 『プ()キュアが……!』

 

 スパムソンが瞠目する。

 

 「"ぷいきゅあ"が……!!」

 

 さっちゃんが目を見開く。

 

 「―――――……プリキュアが」

 

 こころちゃんが口を半開く。

 

 「プリキュアがっっ!!!」

 

 ぷらむちゃんが両拳を握る。

 

 「プリキュアが!!!!」

 

 そして、のんちゃんが瞳を輝かせて―――――

 

 

プリキュア(ぷいきゅあ)が、()んだーーーーーーーーーーー!!!!!

 

 

 子ども達の大歓声と、スパムソンの驚愕の絶叫がユニゾンした。そして、私は背中に風を受けるような感覚を受けた。

 文字通り―――――私とデーティアの背中を、子供たちが『押して』くれてるんだ……!

 

 『単独飛行能力を得たというのかッッ!!!??……だが肉薄できたところでッ、"純水の盾"を貫通できる道理がッ―――――』

 『"外"から無理なら―――――』

 

 デーティアの右の掌に、イーネルギーが集束して、一気にその輝きを増す。そしてそのままそのエネルギーを、"水のボール"の内側へと、無理やり押し込んだ。

 

 『―――――"中"から撃砕(くだ)くのみ……!!』

 

 瞬間、閃光と同時に炸裂音が響き、無色透明だった"水のボール"の内側が、一瞬で真っ白になった。

 

 『バグウゥゥゥウウウウアアアアア!!』

 

 バグッチャーの不気味な悲鳴が、周囲にこだました。これって効いてるってこと……!?

 

 『メモリアル!エネルギーを、"水"の内側で炸裂させるようにするんだ!』

 『お、おk!!』

 

 言われたとおりに、私もバグッチャーの"水のボール"へと急接近した。イーネルギーを右手に込めて―――――

 

メモリアル!ココロシェイカアァァァーーーー!!!

 

 ―――――"内側"で、炸裂させる!

 

 鈍い爆音が鼓膜を(つんざ)く。爆発が"水のボール"の内側で、無数の泡に変わってボール全体を覆う。さっき真っ白になったように見えたのは、泡だったんだ。

 泡が消えて水の中の様子が見えるようになると、バグッチャーが"水のボール"の中で激しくのたうち回るのが見えた。

 

 『バカなッ!?"純水の盾"がこうも簡単にッ……!?』

 《なぁ将軍様よぉ、"ダイナマイト漁"って知ってっかぁ?》

 『ッ!?』

 

 デーティアのイーネドライブから、データの自慢げな声が響く。

 

 《爆弾を水ン中にブチ込んで、その爆発の衝撃波で動けなくなった魚を獲るんだよ。水ン中じゃ、空気中よりも衝撃波の威力が強くなるんだ。コイツが水のバリアを張ってる以上、いずれは爆殺必至だぜ?》

 

 『くッ……なんだとぉぉぉ…………ッッッ!?』

 《ほくと!りんく!一気にガン押しだ!!パワーアップしてる今なら!!》

 

 苦虫を噛み潰すようなスパムソンの声に、データの声がオーバーラップする。

 確かに、みんなの応援を受けてる今の私は超絶好調!

 マーメイド待ってて、もうすぐ助けてあげるから―――――

 

 

 ―――――プリキュアがいくらがんばっても、どうせかてないんだな―――――

 

 

 『……!?』

 

 なに、今の……!?

 体全体に、違和感が走った。

 

 

 ―――――どうしてプリキュアなんかがほんとうにでてきたんだね―――――

 

 

 まるで、体の節々に電流が走ったような感覚が、私を襲った。

 それだけじゃない。

 ―――――声が、聞こえる……

 たくさんの応援の声に雑じって、私たちプリキュアに対して、冷ややかな感情を向ける声が―――――

 

 『隙を見せたなッ!!』

 

 空中で動きが止まってしまった私に、上からの強い衝撃。

 強烈な水圧の放水に―――――私がこども園の園庭に叩きつけられるのに数秒もかからなかった。

 次いで、デーティアまでも墜落してきた。たぶん、私と同じ放水を受けたんだろう。

 子どもたちの不安げな悲鳴が、辺りにこだましていた。 

 

 『……大……丈夫?メモリアル……?』

 『なんとか、ね……ちょっとキツいけど、まだ行け―――――』

 

 ―――――あ~あ、やっぱりせけんのひょうばんは"デマ"だったんだな―――――

 

 ―――――プリキュアがまけるのもじかんのもんだいだね―――――

 

 『う……!?』

 

 今度ははっきりと聞こえた。同時に、コスチュームのLEDファイバーのような光ってる部分がチカチカと明滅して、体中からがくりと力が抜けた。

 起き上がろうとしたデーティアも、片膝をついていた。私と同じように、コスチュームの光のラインが明滅を繰り返している。

 

 『今の……メモリアルも、なの……!?』

 『気のせいじゃない……なんか……ヘンだよ……!?』

 《りんく、あっち!みんなの方を見てみて!》

 

 メモリアが促す先には、こども園の正門前で、私たちに声援を送るこども園のみんなの姿。その中の何人かにチェックがされて、数値が併記されている。

 

 〈EMOTION GAIN〉

 

 〈NONOKA HATTE:210%〉

 〈SACHI KAWAMURA:130%〉

 〈IIKO TOKITA:160%〉

 〈RANKA SATO:120%〉

 〈KOKORO TAKAHASHI:130%〉

 〈PLUM KAGAWA:150%〉

 

 これって……みんなが送ってくれてる声援……というか、"想い"の強さが数値化されてる……ってこと……??

 それに、みんなの身体から、赤や青といった、色とりどりの光のラインが伸びて、私とデーティアのイーネドライブとつながっているのも見える。

 特にのんちゃん、スゴいパワー!仲良し6人組は100%台、他のみんなも80~90%くらいの数値の中で、ひとりだけ200%を超えてる!のんちゃんの想い、キュアっキュアに感じる!

 でも―――――

 

 『あれって……みしんちゃんとみとんちゃん……だよね……!?』

 

 このふたりだけは―――――違った。

 このふたりからは、真っ黒な闇のラインが伸びていた。そして―――――

 

 〈MISHIN MASUKO:-40%〉

 〈MITTEN MASUKO:-30%〉

 

 ……と、数値がマイナスになっている。

 

 《マズいよ……あのふたりから、ワルイネルギーが出てる……!さっきから調子がおかしいのも、あのふたりのワルイネルギーの影響だよ……》

 『そんな……でも、どうして!?』

 『あのふたりの"プリキュア嫌い"は相当だ……こんな形で僕達に影響するなんて思わなかったけど……ぐ!?』

 『デーティアっ!』

 『またちょっとビリッと……けどさ……!』

 

 よろめきながら、デーティアはゆっくりと立ち上がって、私を見る。それも―――――

 笑って。

 

 『それなら―――――あのふたりも味方にすればいいんだよ!』

 『ほぇ!?』

 『プリキュアが嫌いな子供達でも釘付けにできなきゃ、ホンモノのヒーローの名折れだからね。『プリキュアだってカッコいい』ってところを見せれば、あのふたりでも納得するよ』

 『で、でもどーやるの!?これ以上なにか技とかあるわけじゃないし……』

 『大丈夫―――――僕に任せて』

 

 そう言うと、デーティアははるか上空に浮遊するバグッチャーを見上げた。

 

 『みんなが……ののかが僕に望んでる、『プリキュアとしての一番カッコいい姿』……それで戦う』

 

 プリキュアとして一番カッコいい姿―――――その言葉の意味が、その時の私にはわからなかった。

 今でもサイッコーにカッコいいデーティアが、これ以上『プリキュアとしてカッコよくなる』方法って……??

 

 『今から僕は―――――少しだけ、"僕をやめる"』

 『へ……??(・ ・;)』

 

 《CURE-DATEAR―――――PHASE SHIFT……!!》

 

 小さく呟いたデーティアは、気持ちうつむいて、目を閉じた。すると、イーネルギーの輝きの『カタチ』が、ゆっくりと変わっていくのを見た。

 激しく燃え立つようなカタチから、静かに燃える、そんな感じに―――――

 そして、純白だったマフラーに、金糸の刺繍が浮かび上がった。その刺繍は、百合の花にも見えた。

 

 《りんく……ほくとの感じが……"変わった"……!》

 『うん……この感じ……前にも一度……』

 

 覚えがある。ほくとくんに私がキュアメモリアルだってことを告白したあの時の戦いの時にも、一度だけ私が遭遇した―――――

 

 『イーネルギーの『波形』が変わったッ……!?バカなッ、イーネルギーの波形の変化など絶対に有り得ない(ハズ)ッ……貴官はッ……否ッ……!』

 

 スパムソンが、こども園の屋根から怒鳴るように叫ぶ。

 

 『お前は誰だッ!?』

 『"僕"の中の"わたし"』

 

 間髪入れず―――――デーティアは答えた。

 

 『普段は陰に隠れてその姿を見せない、"八手ほくとのペルソナ"―――――普段は押し殺されてる、()()()()大切なヒトが理想とするプリキュアの姿……それが―――――』

 

 デーティアは、そっと自分の胸に手を当てながら言う。

 

 『()()()

 

 もうこの仕草だけで、私は『いつものキュアデーティアと違う』ことを悟っていた。

 ふだんなら、自分から『胸に手を当てる』ことなんて、絶対にしない。だって、デーティアは『体は女の子』だけど、『心は男の子』だから。

 いくら自分の身体とはいえ、『女の子の胸を触る』なんて、()()ほくとくんがするはずがないもの。

 

 『わたしは……みんなが憧れるヒーローになりたいの……!だからまずは……わたしの大切なヒトに憧れてもらえるように……わたしは戦う!』

 

凛然一念(リンゼンイチネン)涙払一輪(ルイフツイチリン)

 

キュア、デーティア……!

 

 すらりと流れるような、滑らかな構えからポーズを取って、いつもとは違う名乗りを上げるデーティア―――――

 こ、これわ……―――――!

 

 『"女子力全開モード"だーーーーーーーー!!!』

 

 ……SAVE POINT




 惜しいところですが今回はここまでッ……!!
 女子力全開モードのキュアデーティアの全力はまた次回!!
 キュアマシェリ&キュアアムール誕生までには、何とか……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『カッコいい』とは

 設定解説

 大泉こども園

 大泉中学校の近くにある認定こども園。
 鉄筋コンクリート2階建て、園児数およそ50人。職員数6人。
 クラスはきりん組(年長組)、うさぎ組(年中組)、りす組(年少組)の3つ。
 園長先生の人柄もあって、東栄市内のこども園の中でも非常に人気が高い。

 大泉こども園の先生たち

 おっちょこちょいだけど、一生懸命な千葉先生(年長組担任)、
 ボーイッシュで元気いっぱい、関西弁とオーバーオールがトレードマークの松岡先生(年中組担任)、
 クールに見えるけどとっても優しい宍戸先生(年少組担任)、
 陽気で音楽好きなお料理の達人、英語ペラペラの宮原先生(給食・清掃担当)、
 メガネがトレードマーク、おっとりとした秋谷先生(事務・庶務担当)―――――の5人。
 全員が幼馴染らしく、プライベートでも仲がいいらしい。

 ――――――――――

 どうにかマシェリ&アムール登場に間に合いました……!!
 女子力全開キュアデーティアの本気と顛末を超大ボリュームで描く12話完結編、ここに送信!!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

   EX PLAYER SELECT

 

 ⇒ CURE-MEMORIAL

   CURE-DATEAR

   ??????

   ??????

 

 ――――――――――

 

 『"女子力全開モード"だーーーーーーーー!!!』

 

 こう、表現せざるを得なかった。

 前に一度、私の前でデーティアが『こうなった』とき―――――

 

 ―――――メモリアル―――――わたし、わかった気がするの……わたしがプリキュアになった意味……わたしが……どんな『存在』になりたいのかが―――――

 

 ―――――わたしだけにしかなれない―――――プリキュアに、なりたい!女の子だけじゃない……男の子も夢中にさせられるような―――――そんな、『ヒーローみたいなプリキュア』に、わたし、なりたい!

 

 こう言って、私の手を躊躇することなくぎゅっと握ってきたのを覚えてる。あと、すごく輝いてた瞳も。

 データが言ってたっけ……『変身してる時にテンションが上がると時々こうなる』って。

 でも、今回はちょっと違う気がする。"自分から"、デーティアが"切り替えた"ようにも見えた。前の時は、マフラーに刺繍がされるなんてことも無かったし……

 おそるおそる、私はデーティアに話しかけてみた。

 

 『ね、ねぇ……いったい……どーゆーことなの??』

 『あれからね……メモリアルに"このこと"話した時から、考えてたの。メモリアルがわたしに言ってくれたことも含めてね。"プリキュアやってる時くらいは―――――"なりきっちゃっても"、いいんじゃないの?"って』

 『……あ!』

 

 思い出した。『せっかくプリキュアやってるんだし、変身してる時くらいは女の子になりきってもいいんじゃない?』……って感じのことを話したっけ。

 

 《んで、色々考えた末が"コレ"さ。心の底から『プリキュア』に寄せて、『演じ切る』……役者志望のほくとがたどり着いた、究極の自己催眠だな。ま、フォームチェンジみたいなモンだ。ともかく、今のコイツは"八手ほくと"じゃねぇ―――――正真正銘の"キュアデーティア"だぜ♪》

 『今、ちょっとだけ、ね❤』

 『マジっすか……』

 

 まさかホントーに心の中まで女の子にしちゃうなんて……さすがほくとくん、プリキュア道を極めるために妥協ナシってことね……

 あ、でも……

 

 『どうして、それが『プリキュアとしての一番カッコいい姿』……なの?』

 『少なくとも、自分のことを『僕』って言って、男言葉で喋ってるプリキュアより、こうして自然体で『女の子してる』プリキュアの方が、"プリキュアとして"カッコいいって思わない?』

 『た、確かに……』

 

 もっとも、今の状態を『自然体』って言っちゃっていいのかどーか……その……デーティア元々男の子だし……

 でも、今まではちょっとだけ『男の子らしさ』が残ってたデーティアの仕草や立ち居振る舞い、笑顔のそれから、完全に『男の子らしさ』が抜けている。

 これってやっぱり……のんちゃんのため、なのかな。プリキュアが大好きなのんちゃんのために、『のんちゃんの理想のプリキュアでいる』ことに徹してる。

 のんちゃんにカッコいい所を見せるために、頑張ろうとしてるんだ―――――

 

 『毛色は変わったようだがッ、貴官等が手も足も出せぬことに変わりなしッ!!往けィッ!!』

 『バ~ブル~~~~!!』

 

 スパムソンがバグッチャーをあおると、上空のバグッチャーが巨大な水風船を投下した。

 

 『『!!』』』

 

 私とデーティアは反射的に飛び退いた。直後に、水風船はこども園の園庭に着弾した。でもその水風船は破裂することなく、まるで粘液のように園庭に平べったく広がっていった。そしてその水面から、たくさんの人影がぬ~っとせり出してきた。

 

 『バグッ!バグバグッ!!』

 『バグ~!!』

 『……ザコッチャーが出てきたぁ!?』

 『あの水がそのまま、実体化のゲートになってるみたいね……』

 

 しかも今回のザコッチャーは、三叉の槍を構えた、まるで人魚か半魚人のような出で立ちだ。キュアマーメイドの影響を受けて、ザコッチャーも姿形を変えてる……!?

 

 『見ててね、メモリアル』

 『え……?』

 『わたしの、カッコいいところ』

 

 そう言い残して、デーティアは一瞬でザコッチャー軍団との間合いを詰めた。

 ―――――あれ?デーティアがカッコいいところを見せたいのって、のんちゃんだったはずじゃ??

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    CURE-MEMORIAL

    CURE-MEMORIA

    CURE-DATEAR

 ⇒  CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 この小説読んでる画面の前のアンタ……うん、そのリアクションは正しい。

 

 正直なところ、どーしてこーなったのか、ほくと本人に語らせるのは酷な話だ。だからここからはアタシ、キュアデータが地の文で説明をする。

 きっかけはさっきほくとも言ってたように、りんくの言葉だ。『せっかくプリキュアやるんだから、変身してる時くらいは女になりきってもいーじゃんか』って、アレだ。

 あの言葉は相当ほくとに効いたらしい。惚れてる相手からのアドバイスだし、効かねえワケねぇもんな。

 『東堂さんと肩を並べるに相応しい、カッコいいって思ってもらえるプリキュアになる』って張り切っちまったほくとは、徹底した『女らしさの研究』を始めた。

 アタシは『それってどうなんだ?』って思ったけど、ほくとは気合入ってて本気みたいだったし、ここで余計なコト言ってせっかくのやる気を削ぐのも良くねぇと判断して、何か言うのはやめといた。

 

 ほくとの特技―――――これまたスゴいんだが、『初めて見た他人の動作をその場で完コピできる』コトだ。

 最初に参考にしたのは、やっぱりというかなんというか、キュアメモリアルの戦いだった。アタシやメモリアが記録しておいたメモリアルの戦闘記録や動作ログを見て、即座にそれを真似して見せたのには、流石のアタシも感心したもんだ。

 で、それからは仮面ライダーやスーパー戦隊のDVDで、『女形』のアクターの演技を見て、その場で真似する特訓に入った。アタシはその手伝いで、作品ごとのアクターが誰か―――――それも、『各話』ごとに詳しく調べてほしいってほくとに頼まれた。まだコイツ、ネット検索もロクに出来ねぇんだよなぁ……そーいや、女形が出てるのはほとんどがスーパー戦隊だったな。ピンクや女のイエローなんか、割と多かった。

 ほくとは一切妥協しなかった。立ち姿から構え、パンチやキック、回避や防御のモーションはもちろん、やられた時の姿勢や受け身まで徹底的に再現して、自分の体に染み込ませていったんだ―――――

 そしてほくとはさらに『女らしさ』を追求するため、『あるモノ』に手を出すんだが―――――

 

 ……と、アタシが説明してる間に、ほくとは先頭のザコッチャーの間合いに素早く入った。ザコッチャーの槍の突きをひらりとかわすと、姿勢を落とした鋭い廻し蹴りでザコッチャーの足元を引っさらった。

 

 『バグッッ!?!?』

 

 キックの勢いで、ぐるん!とザコッチャーが回転してふわりと浮いた。そこへ―――――

 

空現流―――――凛武(リンブ)

 

壱輪閃(イチリンセン)・"弾崩砲(タンポポ)"

 

 イーネルギーが込められた掌底を、ザコッチャーのみぞおちに叩き込む。ザコッチャーはまっすぐ一直線に吹っ飛んで、粉みじんに消滅した。

 

 ―――――ほくとが手を出した『あるモノ』―――――それが、コレだ。

 

 ほくとがウチの蔵の中で見つけた、空現流拳法の古い書物の中に記されていた『もう一つの空現流』―――――

 

 

 ―――――空現流拳法"凛武"―――――

 

 

 普段、ほくとのじーさんがほくととのんに教えてるのは、『空現流拳法"燦武(サンブ)"』。基本、力押しで相手をブッ壊すオーソドックスな拳法で、『男拳(だんけん)』とも称される。

 対してこの『凛武』は、歴代の『女性の空現流継承者』が培ってきた技の数々、いわば『女拳(じょけん)』だ。今の継承者はほくとのじーさんだから、たぶんじーさんも知らないか、知ってても教えてないんじゃないかとアタシはニラんでる。

 『燦武』と比べて力押しの技は少なく、体幹を巧みに使ったキレのある技、身体の柔らかさを活かした技がほとんどで、相手の攻撃を読んで受け流したり、反撃したりする『返し技』も数多い。パワーよりも、スピードやテクニックを重視した、『合気道』や中国拳法の『柔拳』によく似たスタイルだ。なんつーか、"お師さん"の戦い方にも重なる。

 ほくとは度々蔵の中に入っては『凛武』の書かれた書物を漁り読んで、その動作を自分に叩き込んでいった。無論、じーさんとの普段通りの修行もこなしながら、だ。

 この辺はほくとの才能、3週間ちょっとで、この『凛武』のほとんどもモノにした。ちょうどそのころ、ほくとはのんから"あの言葉"を聞かされた。

 

 ―――――のん、キュアデーティアがいっちばん、だいすきなの!!

 

 のんが、キュアデーティアにゾッコンだったことを聞いたコトで、ほくとの"スイッチ"が本格的に入っちまったんだと思う。

 りんくだけじゃなくって、のんにも『カッコいいプリキュアの姿を見せたい』と張り切った結果、『前々からの副作用』が思わぬ形で『力』になった。

 戦っている最中にハイになると、心が『女の身体』に引っ張られる現象―――――ほくとは"それ"すらも利用して、自分の理想とするプリキュアの姿を『心底から演じる』という境地に至った。

 今まで、『心・技・体』が、『男の"心"と"技"』と『女の"体"』でちぐはぐになっていたほくとが、その全てを『女』に統一することで、『一本筋の通った強さ』を実現したのが、今の『キュアデーティア』だ。

 マフラーに花の刺繍が入ったのは……流石のアタシも予想外だったけどな……

 

 

 ―――――データ……僕はもっと……強くなりたい―――――

 

 

 ……まったく、お前は大したヤツだよ。

 有言実行、恐れ入った。意外っちゃぁ意外だけどよ、こんなカタチで『強く』なっちまうんだもんなぁ……

 

 ……だから言ったろ?ほくと本人からコレを語らせるのは酷だって。

 特に惚れてるりんくにゃ、死んでも言えねえな―――――

 

 『見てて、みしんちゃん、みとんちゃん……カッコいいのは、特撮ヒーローだけじゃないってところ―――――!』

 

 そうそう、このふたりへのアプローチが、今回最大のポイントだ。このふたりがプリキュアにヘイトを集めないよう、ヒーローばりにカッコよく戦ってみせようぜ……!

 と、今度は5体ほどのザコッチャーに取り囲まれた。まぁここは敵陣だし、こうなるのも頷ける。さぁ、ここはどう攻略する?

 

 『大丈夫よ!こんな時は―――――コレで!』

 

 全方位から躍りかかる連中に、"キュアデーティア"が放つのは―――――

 

空現流・凛武

 

弐輪開華(ニリンカイカ)―――――"燈廻(ヒマワリ)"

 

 倒立から両脚を180度開脚して、腕の力だけで高速回転して、周りの連中を吹っ飛ばす技。これを変身前からこなすんだから、ほくとの身体能力は元々からとんでもねぇレベルだ。

 ザコッチャーが同時に蹴ッ飛ばされて、粒子状に霧散する。しかしその途端、足元の水のフィールドから、ポコポコと新たなザコッチャーが"補充"されてくる―――――

 

 《雨後(うご)(タケノコ)ってヤツかよ、こいつ等は……!》

 『キリがないよ~~!』

 

 向こうではメモリアルも湧いて出てくるザコッチャー相手に"無双"してるが、いずれは数の暴力に圧されちまうかもしれねえ。

 

 《ほ……もとい、デーティア!》

 『……そうね!"彼女"の力を借りるわ!』

 

 アブねぇアブねぇ……『ほくと』って呼んじまったら、"スイッチ"が切れちまうかもしれねぇ……

 さて……画面の前のアンタもある程度予想はついてるよな?『水』を相手に、『電気』が通じねえ……そんな時、『水』に効くモノっていったら―――――

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 ……戦いながら、私、デーティアに見とれてた。

 『変身してる私』でさえ見えない、流れるような素早い動き。

 一発でザコッチャーを仕留めた掌底。

 取り囲まれても動じることなく、ただ鋭い視線を相手に突き刺して―――――

 逆立ちしたと思うと、コマのように超回転!!

 

 ―――――ヤバい。スッゴくキュアっキュア!!

 

 今が戦いの最中じゃなかったら、絶対スマホのカメラで撮ってる!

 ……なのにこのザコッチャー!倒しても倒してもポンポン出てくるし、デーティア撮らせてくれるヒマもない!!

 

 『じゃぁまぁ……しないでぇぇぇッッ!!!』

 

 両肘からイーネルギーを大噴射!デーティアが脚なら、私は腕だぁっ!!

 

メモリアル、トォォネェェーーーーーーード!!!!!

 

 格闘ゲームでおなじみのダブルラリアット!取り囲まれたら、コレで一掃だぁ!!

 

 《でもりんくぅ~~~、これってぇ~~~~……(@@)》

 『う……うん……私もちょっとチョーシに乗りすぎたかも~……(@@)』

 

 ……否応なしに目が回る。この技、使いまくるのはよそう……

 

 《ほ……もとい、デーティア!》

 『……そうね!"彼女"の力を借りるわ!』

 

 デーティアがキュアットサモナーから、青色のチップを取り出し、そして―――――

 

キュアチップ、『キュアビューティ』!キュアっと……変身……!

 

 《しんしんと降り積もる……清き心……!キュアビューティ……!》

 《CURE-BEAUTY! INSTALL TO DATEAR!! INSTALL COMPLETE!!》

 

(セイ)(レイ)()(ドウ)

 

キュアデーティア―――――"ビューティスタイル"……!

 

 氷の色を身に纏ったデーティアが、園庭の真ん中で凍気(トウキ)を放つ。

 一歩、二歩と歩くたび、その足元が凍っていくのが見える。それを見て取ったバグッチャーが、一歩、二歩と後ずさる。

 

 『メモリアル、みんなをお願い』

 『う……うん!』

 

 私を肩越しに見たデーティアの言葉に、私は大ジャンプしてこども園のみんなや先生たちの前に立った。

 守ってというからには、前にマーチスタイルで使ったような、モノスゴい技を使うかもしれない。それなら……

 

キュアチップ、『キュアロゼッタ』!キュアット、イン!

 

 《ひだまりポカポカ!キュアロゼッタ!♪》

 《CURE-ROSETTA! INSTALL TO MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!》

 

キュアメモリアル、"ロゼッタスタイル"!ですわ♪

 

 「ロゼッタおねーさまですのーーーーーーー!!!!!(+ +)」

 『ほふぇっ!?』

 《まぁっ❤》

 

 ロゼッタ大好きさっちゃんが大喜びで後ろから私にHUGっと抱きついてきた!?

 ちょっと、今はバトルの真っ最中!!ロゼッタさんもよろこんでる場合じゃ……

 

 「おじょーたま、おちついてくだちゃいなので!あぶないなので~~!!」

 

 あわててクインシィちゃんがさっちゃんを引きはがす。

 でも、せっかくロゼッタが好きなさっちゃんのために、ここは……

 

 『……特等席だよ♪見てて!』

 「!……はいですの!」

 

 もう目がキラキラ……まさしく憧れの人に向けられる視線だ。

 そんな風に見てくれるのなら、ここは張り切るしかないっしょ!

 

プリキュア!ロゼッタリフレクション!!

 

 みんなを守るように、超ビッグなリフレクションを地面に突き刺した。これなら大丈夫!

 

 「こっ……これが『なまリフレクション』ですの!?なんてつるつる!すばらしいしつかんですの~!!」

 『ちょ?!Σ(゚Д ゚;)』

 《あらあら❤》

 

 お、お嬢様ぁっ!?!?、『見てて』って言いましたけど、『触っていいよ』とは言っておりませんよ!?それにありすちゃんもまたよろこんでる……

 さっちゃんは私がつくったロゼッタリフレクションをぺたぺた触って、ついには頬擦りまで……お気持ちはわかるんですが、今はバトル中なんで……

 

 「おじょーたまぁ~!!はなれてくだちゃいなので~!!」

 「あぁっ!ロゼッタおねーさまが!リフレクションがぁ~……(泣)」

 『あ、あはは……(^^;)』

 

 またしても引き離されるさちお嬢様。おいたわしや…………あ、リフレクションにヨダレが……。

 と、とにかく、これでみんなを守る準備はOK!

 

 『い、いーよ!デーティア!』

 『……!みんな、目をつぶってて』

 

 肩越しに私を見て、にこりと笑ってうなづいたデーティアはこうみんなに促すと、一瞬鋭い表情に変わって、ザコッチャーの群れを見据えた。

 

 『データ、ビューティ―――――往きましょう』

 《ああ!》

 《存分にどうぞ……!》

 

 そして右手に、水色に輝く冷気を凝縮していく―――――

 

 『……邪悪を取り巻く全ての"刻"を―――――今此処に()める』

 

 ゆっくりと、その冷気の光を空へと掲げて―――――

 

凍 刻 冷 綺 閃(ヴァルハラ)

 

 強烈な閃光が放たれて、私の視界を塞いだ。

 何が起きたのか全く分からなかった。私はリフレクションを維持するためにラブハートアローを構えたまま目をぎゅっと閉じていた。

 ……すると、私の後ろから、子供たちの歓声が静寂(しじま)を裂くように押し寄せた。

 その声に促されるように、おそるおそる目を開けると、そこには―――――

 

 『…………え……!?』

 

 目を疑う光景が広がっていた。

 こども園の園庭全体が―――――冬景色に変わっていた。

 地面がスケートリンクのようにツルツルに、木は全部樹氷になって、10体ほどいたザコッチャーも例外なくカチンコチンに……!

 しかも、園庭の隅にあるウサギ小屋だけは凍っておらず、ウサギの"リュック"が元気に走り回っていた。

 デーティアはあの一瞬で、ザコッチャーのいる場所だけを凍らせちゃったんだ……!!

 

 《前に一度だけ見たコトがありますわ……》

 

 心の中の"部屋"にいるキュアロゼッタが、絞り出すように口を開く。

 

 《4年前の"プリキュアーツ"で、超高速でかく乱するキュアムーンライトの動きを封じるためにキュアビューティが放った、前方広範囲への瞬間凍結術……ほくとさんはこんな一瞬でビューティの技をモノにしたと……!?》

 

 つまりこの技はデーティアのオリジナルじゃなくって、元々キュアビューティが使ってた技なんだ。でもアニメでこんな技使ったことないし、これっていったい……?

 

 《……ワタシたちプリキュアは、16年の時を、ただ無為に過ごしてきたわけではありません。51人51色、それぞれのやり方で、『守るための強さ』を磨いてきたのです。お部屋のブルーレイディスクに記録されているワタシたちは、文字通り過去の姿なのですよ♪》

 

 ロゼッタが私の心を見透かすように―――――ううん、違う。明確に『見透かしてから』言ったんだ。

 そして、そのロゼッタの不敵にも見える笑顔を見て、忘れかけていたコトも思い出した。

 ……思い出してしまった。

 

 ―――――私達はいずれ、『51枚の壁』をすべて突破しなければ、一人前のプリキュアとして認めてもらえないコトを。

 

 レジェンドプリキュアのみんなは、『1年間』で加速度的に強くなっていった。それこそ、一つの世界を守ることができるほどに。

 そんなみんなが『16年分』強くなってるって、想像ができない…………

 ロゼッタの言うとおりだ。もはや私の部屋に揃えられた"異世界の実録(ブルーレイディスク)"は、過去の遺物―――――単なる参考資料と化した。

 私が知っているプリキュアたちは―――――その全部の、たった『16分の1』に過ぎない……―――――

 

 《りんく!デーティアが……》

 

 メモリアに促されたその先には、完全凍結した園庭を、悠然と歩くデーティア。かつ、かつ、と、靴音が静かに響いている。

 

 『…………あなたの()まった"刻"は……もう、進まない』

 

 そして、一番手前にいた、凍りついたザコッチャーの目前に立った。

 

 『でも…………"魂"は―――――霊天(レイテン)へ―――――』

 

 右の人差し指で、ザコッチャーを包んでいる氷柱に―――――とん、……と軽く触れて、くるりと振り返った。

 ―――――瞬間。

 

 ―――――バキィィィィィィン!!!!

 

 氷柱が、中に閉じ込めているザコッチャーごと、ガラスが割れるような音を立てて粉微塵になった。

 そして次々と、他の氷柱が触れてもいないのに破裂するように粉砕され、やがてすべてのザコッチャーが、跡形もなく消滅した……!

 

 『……スゴい……!』

 

 私は思わず息を呑んだ。文字通り―――――『美』の一字に尽きる光景。

 粉砕された氷のかけらが舞って、太陽の光を反射してキラキラと輝き、キュアデーティアの姿を逆光の中に際立たせる―――――

 

 

 ―――――!

 

 

 心が、鳴った。

 鳴るのを、感じた。

 声に出してない。そう、これは声にならない。

 コトバに、できない。できようが、ない。

 この感覚は―――――そうだ。

 テレビの画面よりもとても大きなスクリーンで、私たちの"ミラクルライト"の光を受けて、奇跡を起こした、戦うことを運命づけられた女の子たちに、心奪われたあの日―――――

 私が、『プリキュアのことが好きだ』って、初めて明確に自覚できた、物心がついていたかそうでないかの、思い出すことができなくなりかけてる、あのころのときめき―――――

 

 《あたしも、わかるよ……これって……はじめてプリキュアのみんなを見た時の気持ち……でも、でも……何って言ったらいいかわかんない……!》

 

 そう、それでいいんだよ、メモリア。この気持ちをコトバや文字になんて、出来るはずがないもの。

 わかったよ―――――デーティアが私に伝えたいコトが。

 "それ"を、こども達にわかってほしいってこと、なんだよね。

 振り返ると、目を輝かせて歓声を上げる子供たちの姿。その中の、みしんちゃんとみとんちゃんを見てみると―――――

 

 「な……なんかカッコいいんだね……」

 「だ、だまされてはだめなんだな、いもうとみとん!あれはプリキュアなんだな!……ま、まぁたしかにちょっとは……カッコ……ごにょごにょ……」

 

 〈EMOTION GAIN〉

 

 〈MISHIN MASUKO:-20%〉

 〈MITTEN MASUKO:-16%〉

 

 さっきよりも、数字が『+』寄りに近づいてきてる気がする。

 イイ感じ!このままカッコよく戦えれば、あのふたりもきっとプリキュアのことを好きになって、応援してくれる!

 

 『尖兵と転送ゲートを同時に封じるとはッ……!!だがしかァしッ!!()グッチャーは遥か上空ッ!!転送ゲートも再生成すれば良いのであるッ!!』

 

 スパムソンが息巻くと、上空に浮かぶ巨大な水のボールから、また巨大水風船が投下されようとしていた。

 あのバグッチャーを何とかしないとまたやり直しだ。でも、レジェンドインストールしていると空は飛べなくなるし……

 

 『どうすれば……!』

 『大丈夫よ♪』

 

 私の隣に立ったデーティアが、にっこりと笑った。ホント、元々の男の子らしさが完全に消えた、純粋無垢な『女の子』の笑顔だ。

 

 『ここから―――――射貫(いぬ)けばいいわ』

 『……そっか!ビューティのブリザードアローなら!』

 『それもあるけど……今回は使わせてほしい武器があるから』

 『……えっ?』

 

 デーティアが両手を目の前にかざすと、そこに冷気が集結していって、ブリザードアローのような氷の弓を形作っていく。

 そしてそこから、またしても形が変わる。シンプルなブリザードアローと比べて、機械的な意匠が込められたカタチに完成した。

 

 「そっ……それは……!!」

 「『かめんライダーがいむ(仮面ライダー鎧武)』のしんせだいアーマードライダーたちのせんようぶき……"ソニックアロー"なんだな!?」

 「どーしてプリキュアが、かめんライダーのぶきをしってるんだね!?」

 

 みしんちゃんとみとんちゃんが、驚きの声を上げた。もしかしてコレって、仮面ライダーの武器!?

 デーティアはみしんちゃんとみとんちゃんに笑ってうなづくと、氷で形作られた"ソニックアロー"を番えて、はるか上空のバグッチャーへと向けた。

 

   〈KAMEN RIDER ZANGETSU〉

 ⇒ 〈KAMEN RIDER ZANGETSU-SHIN〉

   〈KAMEN RIDER DUKE〉

 

 《GENESIS POWER! THAT'S GREAT CHIEF!!》

 

 デーティアのネットコミューンから電子音声が流れて、アローの射線軸上に、たくさんの巨大な雪の結晶が並んだ。

 

 『データ、ビューティ……今一度』

 《おっしゃぁ!》

 《この一矢に、私の心も重ねます!》

 『……キュアマーメイド……貴女の曇らされた"心の真珠"……晴らして見せる!』

 

ソ ニ ッ ク ボ レ ー(M E L O N E N E R G Y ! !)

 

 デーティアの決意の言葉とともに、チャージされた冷気が空へと一直線に放たれた。雪の結晶を通過するたびに増幅されて、巨大な冷気の一矢と化した。

 同時に、バグッチャーが巨大水風船を投下した。その水風船と冷気の輝きが、空中で交錯した―――――のは一瞬だった。

 巨大水風船は瞬時に凍結―――――を通り越して、粉塵となって消え失せた。なおも冷気の矢は驀進していって、バグッチャーが纏う水のボール、そのド真ん中に命中した。

 

 『フンッ!その"純水の盾"は超高圧・超高温の"超臨界流体"ッ!!氷の矢如きで凍結できるハズが―――――ッ』

 

 水のボールが丸ごと凍った。ついでにスパムソンの表情も凍った。

 

 「「さすがくれしましゅにんだな(ね)!」」

 

 〈MISHIN MASUKO:-10%〉

 〈MITTEN MASUKO:-7%〉

 

 増子姉妹が同時に快哉の声を上げる。……"くれしましゅにん"って誰……??

 

 『……どんな液体でも、"水"なら凍るわ。−273.15 ℃(絶対零度)をぶつければ』

 

 注釈を加えるように、デーティアが呟いた。

 そして程なく、凍りついた水のボールが園庭に落下して、粉々になるとともに、青い古代魚のようなバグッチャーの『本体』が、初めて私達の眼前にその姿をあらわにした。

 

 『ドコニイルカ~~!!?ココニイルカ~~!!??クツクツ~!!!ゲタゲタ~~~!!!!』

 

 そう叫びながら、バグッチャーは園庭をのたうち回っている。全長5mくらいの巨大な魚が奇声を上げながらぴちぴち跳ね回るという珍奇極まりない光景に、子供たちは悲鳴交じりの叫びをあげながら、私の後ろに回った。

 

 「―――――どんびき」

 

 そんなつぶやきが聞こえた。私のすぐ後ろに隠れたこころちゃんだった。

 そういえば―――――こころちゃんの好きなプリキュアに、キュアマーメイドもいたっけ。

 もちろん、このバグッチャーにキュアマーメイドが囚われてることをこころちゃんが知る由もないだろうけど―――――

 

 『ぬぅぅッ……!だがまだだッ!まだ終わらんよッ!!再度"純水の盾"を生成すればッ……!!』

 『させない!』

 

 デーティアがサモナーから別のチップを呼び出した。あの青いチップは―――――

 

キュアチップ、『キュアビート』!キュアっと……変身!

 

 《爪弾くは魂の調べ!キュアビート!》

 《CURE-BEAT! INSTALL TO DATEAR!! INSTALL COMPLETE!!》

 

(シン)(オン)(コン)(ゲン)

 

キュアデーティア―――――"ビートスタイル"!

 

 今度はキュアビート!滑らかなポージングとともに、音の力が『♪』のカタチになって、周囲に放散するのが見えた。

 

 『動きを止める!』

 

 デーティアは持っていたラブギターロッドを豪快に地面に突き刺したと思うと、頭のくせっ毛―――――いわゆる『アホ毛』に右手を添えた。そして―――――

 

 ―――――ギュゥゥィィィィイイン!!!!

 

 鋭くかき鳴らした。エレキギターの音色が響き渡るとともに、紫色の光が『♪』に圧縮される。

 をを!!これはまさしくキュアビートの『ヘアギター』!!いいなぁ……私も変身した時やっとけばよかったぁ~……

 ……と、デーティアは光る『♪』マークを、まるでナイフのように投げ放った。放たれた『♪』マークが4つに増殖して、バグッチャーの四方の地面に突き刺さると、そこから楽譜を思わせる光の五線を展開して、バグッチャーを完全包囲した。

 それを確認したデーティアは、地面に突き刺していたラブギターロッドを引っ張り出した。ここからやることと言えばただ一つ―――――ハートフルビートロックだっ!

 ……しかしデーティアは私の予想外の行動を取った。ラブギターロッドを手にしたまま、バグッチャーに向かって猛然と突進していって―――――

 

 『せぃッ!!』

 

 ラブギターロッドの一番後ろ側―――――『❤』型の装飾部分を、無理やりバグッチャーの胴体に叩き込んで、グリッ!とねじ込んだ!?

 こ、これってどーゆーこと!?ってか、ラブギターロッドで直接相手を叩いたり突いたりしちゃいけません!?おもちゃを持ってるよい子のみんな、絶対にマネしちゃだめだよ~~!?!?ホンモノのギター使ってマネするのも禁止の方向で―――――

 

 『データ!ビート!……ロックに行くわよっ!!』

 《ちょ、ちょっとほくとぉ!?ラブギターロッドってそんな使い方じゃ―――――》

 《いぃから見てろってビート!》

 「あっ!あのわざはっ!!」

 「かめんライダーとどろき(仮面ライダー轟鬼)のひっさつわざ!!」

 

 バグッチャーに背を向けたまま、こちらに向かって右の親指を立てて、ウインクしたデーティアが放つその技は―――――

 たぶん、私には―――――()()()()

 

   〈MASKED RIDER IBUKI〉

 ⇒ 〈MASKED RIDER TODOROKI〉

   〈MASKED RIDER ZANKI〉

 

 《INHERITANCE SOUL! ROCK OF OGRE!!》

 

 

 

 

 

音  撃  斬

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魂を揺さぶるエレキの激音が、ラブギターロッドからかき鳴らされる。

 込められた音の力が、バグッチャーの中へと直接く―――――

 この音―――――どうしてだろう―――――

 私の心に、吸い込まれるように入っていって、身体の奥底から全身に清々しく響き渡っていく。

 それでもって、私の心―――――魂を、これでもかと、これでもかと揺さぶっていく……!!

 これは仮面ライダーの技、仮面ライダーの技なのに、どうして―――――

 

 

 こんなにも高揚(たかぶ)るんだろう

 

 

 さっき見た光景を見た時の気持ちと、重なる。

 言葉に出来ない、この気持ちは―――――

 

 「キュアデーティア……カッコいい~~!!」

 「すっげ~~!!」

 「―――――うん!うん!!」

 「すてき……」

 

 応援してくれているみんなも、この光景に見とれて、激しいギターの音色に聞き惚れている。

 

 「……………………だね……」(ぽか~ん)

 「……………………だな……」(ほげ~)

 

 みしんちゃんとみとんちゃんもまた、何かを感じたようだ。

 そう!"それ"なんだよ……!私と、そしてデーティアが言いたかったコトは、"それ"なんだ!

 『カッコいいコト』に、プリキュアも、ライダーも、何であろうと関係ない!

 私がキュアキュアになるこの気持ち、ハートの奥底まで揺さぶられて、引っ張られて、かき混ぜられて、整えられて―――――

 ええっと、とにかくこういうことをわかりやすく言ってくれた子がいた!『はぐプリ』の愛崎えみるちゃんのあの言葉―――――!!

 

ギュイーンとソウルが

シャウトするのです 

 

 ビートと同じでギターが得意だったあの子の言葉の意味、今ようやく、『本当の意味で』わかった気がする!

 『ギュイーン』とハートをつかまれて、『ソウル』がビビビと打ち震え、歓喜の声を『シャウト』する!

 

 ―――――『カッコいい』って―――――こういうコト、だったんだよ!!

 

 『デルルルィィィィィィトォォォォォォ!!!!!!』

 

 爆散するバグッチャーと同時にこども達から巻き起こったのは、歓喜の声の大嵐。

 

 『やったぁ~!!』

 

 笑顔でそれに応えるデーティア―――――彼女に歓声を送りながら手を振る私はもはや、プリキュアでもプリキュア見習いでもなく―――――

 

 ―――――こども達と一緒に声援を送る、ただの一ファンになっちゃってた―――――

 

 『ぬぅぅッ……!!まぁいいッ、稼働ログの採取は出来たッ……!』

 

 スパムソンがこう言い捨てて、こども園の屋根から消え去るのが見えた。

 稼働ログって……いったいなんなんだろう……??

 

 ――――――――――

 

 ほどなく、残されたキュアチップから、青いイーネルギーとともにキュアマーメイドの姿が幻影のように浮かび上がった。

 

 『マーメイド、大丈夫ですか?』

 『ええ……心配をかけたみたいね。でも、平気よ。……心配なのは、あの子たちの方……』

 

 マーメイドが視線を向けるのは、私達をきょとんとして見ているこども園のみんな。

 ……ってか、どうしてそんな顔してるの?特にこころちゃん、大好きなキュアマーメイドが目の前にいるんだよ?

 

 『心配いりません!』

 

 デーティアが笑って、マーメイドに答える。

 

 『あの子たちはみんな……強い子たちですから』

 

 みんなが、プリキュアが好きで、プリキュアに憧れて、『プリキュアみたいになりたい』と、強く思ってる。だからこそ、どんな困難を前にしても、絶対にめげない、逃げない子たちだ。

 その証拠に、この戦いの場から逃げ出した子は、誰一人としていなかった。みんな、私達に声援を送りながら、私達の戦いの様子をその目に焼き付けてくれた。

 

 『みんなの憧れの存在になれるように……わたしはもっと、強くなるつもりです』

 『わ……私もっ!』

 

 少し、驚いたような表情をマーメイドは見せて、そして安心したようにこう言った。

 

 『……データ。素晴らしいユーザーと契約したみたいね』

 《だろ?コイツはどんどん強くなる。じきにアンタも追い抜かれちまうぜぇ~?》

 『その時を楽しみに待ってるわ♪……りんく、メモリア……残りの『プリンセスプリキュア』を救い出して、サーバー王国の扉を一刻も早く開くのよ』

 《もっちろん!あとはフローラとスカーレットのふたり!》

 『必ず、はるかちゃんとトワちゃんも助け出します!』

 『……お願いね』

 

 私達に願いを託して、マーメイドのヴィジョンがチップから霧散した。『P-39』のチップを掴んだデーティアは、天にチップを掲げて、ささやくように宣言する。

 

 『キュアマーメイド、キュアっと救出……完了!』

 

 デーティア初の救出宣言を、私はそばで見守った。

 マーメイド―――――みなみさんの表情から、私の決意は強くなった。

 ジャークウェブからこの世界を守ることも大事なんだけど、それと同じくらい大事なことがある。

 『離れ離れにされてしまった51人の親友たち』を、もう一度『取り戻す』ことだ。

 みなみさんが物憂げな表情に見えたのも、はるかちゃんとトワちゃんが、まだどこにいるのかわからない不安があるから、だと思う。

 『あの日』、何があったのかは知ってるけど、詳しい事を助け出したプリキュアたちから聞く、ということはしていない。みんなにとってつらい思い出を蒸し返してまで、聞くべきことじゃないと思ってるから。

 そんなみんなを、もう一度、『あるべきカタチ』に戻すこと。かけがえのない友達と、当たり前のように笑い合える日常を取り戻すこと。

 そのためにも―――――

 それまでの間、みんなの―――――『プリキュアの力』を―――――ちょっとだけ、お借りします。

 

 「プリキュア~~~!!」

 

 と、ののかちゃんを先頭に、こども園のみんなが一斉に駆けてきた。ののかちゃんは思いっきり、デーティアの胸に飛び込んだ。

 

 『ののかちゃん!無事でよかった……!』

 「またたすけてくれてありがとう!キュアデーティアがぜったいきてくれるって、しんじてたもん!」

 『ののかちゃん……』

 「ほんものの"ぷいきゅあ"のたたかいをこんなまぢかでけんがくできるなんて、こうえいですの!」

 「おーいにちゃんこー(参考)にさちぇてもらいまちたので!」

 「めっさコーフンしたぞ~!りんくのねーちゃんにもみせてやりたかったぞ~!!」

 「―――――こんなとき()はかせ(博士)、どこへ()えた。この『ピンクいろ()の』をせっかくしょーかい(紹介)するつもりだったんだが」

 『あ、あはは……』

 

 ごめんね、目の前の『ピンクいろの』がりんくのねーちゃんで、はかせです……

 声はともかく、顔立ちもちょっと変わっちゃってるからカンタンにはバレないか……髪の毛も目も真っピンクだし……

 

 「……でも……こどもえん、こわれちゃった……」

 

 らんかちゃんがぽつりとつぶやいた。すると、テンションMAXだったみんなが、急にしゅんとしてしまった。

 

 「!……あした、おゆうぎかいなのに……」

 「―――――セットもすいぼつ(水没)してしまったしな……」

 

 こども園の園舎は、見るも無残な姿になってしまっていた。

 遊戯室の外壁には大穴が開いて、その他の部屋も水没してしまって、目を覆いたくなる惨状だ。

 

 「なぁ、さっちゃん!さっちゃんちでなんとかできねーのかよ~!?あした!あしたなんだぞ~!?」

 「もちろんしゅうりのえんじょはおしまないですの……でも、さすがにあしたまでにこどもえんをなおすのは……」

 

 ぷらむちゃんがさっちゃんに懇願するけど、さっちゃんも唇をかんでいた。

 お遊戯会が開かれるのは明日。でも、こんな状態のこども園を、明日までにどうにかするのはどうあがいても不可能だ。

 

 「ちゃちゅが(流石)にむりなので…………こんなの、まほうでもつかえないことには……」

 「そーだ!えんちょうせんせい、まほうがつかえるんでしょ!?なんとかしてよ~!!」

 「「「「「「えんちょうせんせい~!!」」」」」」

 「あ、あらあら……」

 

 のんちゃんに続いて、他のみんなも園長先生に迫り始めて、先生はちょっと困惑気味だ。先生、普段から『魔法が使える魔女だ』って言ってたけど、流石にそれは無いよね―――――

 

 ―――――……!"魔法"…………?

 

 『……………………できるかも』

 『……え?』

 

 ふいに、キラっとひらめいた……!

 今の私なら―――――ううん、『私たち』なら、不可能を可能にすることができるかもしれない!

 私たちは、もう既に"それ"を手にしていた。

 

 『P-42』―――――『輝石』のチカラを。

 

 ――――――――――

 

 みんなが固唾を飲んで見守る中、私は呼び出したチップを、ネットコミューンに挿し込んだ。

 

キュアチップ、『キュアミラクル』!キュアット、イーーン!

 

 《ふたりの奇跡!キュアミラクル!》

 《CURE-MIRACLE! INSTALL TO MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!》

 

キュアメモリアル、"ミラクルスタイル"!

 

 魔法の輝きの力を身に纏い、ひとりだけど『二人の奇跡』、ここに降~~臨!

 え~っと、『我が名は~』とか名乗った方がいい?

 

 《さ……さすがにソコまでは……(^^;)》

 

 ミラクル、ちょっとヒイてる……ゴメン、じょーだんです。

 

 「「「「「「わぁ……!」」」」」」

 

 目の前でミラクルスタイルへの変身を見て、みんな目をキラキラさせてる。

 こうした変身だけでも、みんなにとっては『魔法』をこの目で見たのと同じなんだ。

 この感動、一生モノだろうなぁ……私だって初めて変身した時、心底感動したもん……

 ……さて、おふざけはココまでにして、ここからは本気出さなきゃ……!

 

 『"リンクルステッキ"―――――!』

 

 言葉とともに思いを込める。すると光が集まって、アニメで見覚えのある、先端がハート形の杖のカタチに実体化した。

 

 『わぁ……』

 

 思わず息をのみながら、私はステッキを手にした。これからやろうとしてること、そしてその規模を思えば、余計に緊張してくる。

 

 『メモリアル……アナタを疑うわけじゃないけど、本当にできるの……?『魔法でこども園を元通りにする』なんて……』

 『言ったからには責任もってやらなきゃね。戦いはほとんどデーティアに任せっきりだったから……こんな時こそ、プリオタの本領発揮だよ!』

 

 さっき私は、こども園のみんなや先生方に、こう宣言したんだ。

 

 ―――――魔法です!魔法、使えます!こども園を、魔法で元通りにして見せます!

 

 キュアミラクル―――――『魔法つかいプリキュア』の魔法なら、壊れたこども園も直せるって思ったから。

 でも、アニメの中では、そんな大規模修復魔法を使ってなかったハズ。だから、言ったはいいけどちょっぴり自信が……ない。

 

 《……魔法のコツは、『イメージすること』だよ》

 

 私の不安を感じてか、ミラクルが優しく声を掛けてくる。

 

 『……イメージ……?』

 《思い出して。このこども園はりんくが思い出をいっぱい作った場所だよね?それに、みんなの思い出もいっぱい詰まってる……こども園だって、そんなみんなの悲しい顔なんて、きっと見たくないはずだよ!》

 『……!……みらいちゃん……』

 《わたしも、いっぱい力を貸すよ!だから―――――がんばって!》

 《あ、あたしもがんばる!!》

 

 なんとなく―――――ううん、ハッキリわかった。『魔法』って、どういうことなのか。

 『私が魔法でこども園を直す』というのは、『表面的』なコト、『体面的』なコトなんだ。

 私がやることは、『みんなの想いを現実にする』コト。ここにいるみんなが、『今すぐに、こども園を元通りにしたい』『明日、お遊戯会をやりたい』という想いを、『こども園』に『届ける』コトなんだ。

 それなら―――――

 

 『みんな、『魔法つかいプリキュア』の魔法の呪文、知ってるよね?』

 「もっちろん!」

 「"キュアップ・ラパパ"!なので!」

 『そのとーり!私といっしょに、みんなで呪文を唱えて!みんなの想いも、いっしょに魔法で届けるの。みんなの思い出が詰まった、このこども園に……。先生方もお願いします!』

 「や、やってみます!」

 「うふふ……"あの頃"を思い出すわね♪」

 

 園長先生が何か意味深に笑ってるのが視界に入って、ちょっと首をかしげる私。

 そして私は、こども園の建物に、園庭側から向き合った。

 園長先生が『半身』とも呼んだ『こども園』がずっとため込んできた、こども達や先生たちの『想い』とシンクロさせて―――――

 

 『メモリア、ミラクル、みんな……いくよ!せーのっ!』

 

 

キュアップ・ラパパ!

 

 

 ミラクルとメモリアも―――――そして、こども達と一緒に、呪文を唱える。

 私に願いを託してくれる『こども達』の想いを、こども達が楽しい思い出をいっぱい詰め込んだ『こども園』に、伝えるために―――――

 

 

こども園よ……壊れる前に、戻りなさい!

 

 

 お願い―――――

 

 "あなた"も、こども達のことを愛してくれているのなら―――――

 

 みんなのために、壊れる前の姿に―――――

 

 

 ―――――カタ……。

 

 

 足元に転がっていた瓦礫のかけらが、わずかに動いたのが見えた。

 すると次の瞬間、こども園全体が虹色の光に包まれたと思うと、辺りに散乱したモノや瓦礫が、まるで映像の早戻しのようにこども園へと吸い込まれていく。

 30秒も経たないうちに、こども園は元通りに―――――いや、『元』以上に綺麗になってその姿を取り戻したのだった。

 

 ―――――想いが、通じた。

 

 私たちの『想い』に、『こども園』が、応えてくれたんだ―――――

 

 『………………やった……!やったよ~!!』

 

 思わずそう叫んで、どっとへたり込んだ瞬間、後ろに控えていたこども達の大歓声が私を包んだ。らんかちゃんが、真っ先に私に抱きついてきた。

 

 「プリキュアさんっ!……ありがとうっ!すごい!すごいよ!」

 「しんじられませんけど……まさにきせき……まほうですのっ!」

 『私こそ、ありがとう……みんなのおかげだよ!みんなが想いと力を貸してくれたから……!私だけじゃ、絶対無理だったよ~……』

 

 お礼を言ったその瞬間、レジェンドインストールが解除されてしまった。カシャ!と、ネットコミューンのスロットから、ミラクルのチップが強制排出されてきた。

 どうやらこうやって魔法を使うことは、かなりの負担になるみたい。一回だけで解除されちゃうってことは……私、『魔法つかい』としてはまだまだってこと、なのかな……

 

 『ありがとう……みらいちゃん』

 

 チップをぎゅっと抱きしめて、文字通り、『奇跡』をくれた魔法つかいに、心の底からの感謝を―――――

 

 ――――――――――

 

 みんなといっしょに、こども園の中を確認してみると、元通りを通り越して、まるで新築同然にピッカピカになっていた。

 でも、かつてこども園にいたこども達『だった』ヒトたちが刻んだ思い出―――――柱への落書きや、今ここで思い出を作っているみんなのかばんや歯みがきセットとかは、そっくりそのまま残っていた。

 そして―――――遊戯室。みんながつくった手作りのセットや衣装も、水没する前のキレイな状態で、何事も無かったかのように元通りになってた……!

 

 「―――――!……これなら、だいじょうぶ(大丈夫)……!」

 「あした、げきができるぞ~!!」

 「みんなぁ~!おゆうぎかい、できるよ~!」

 

 のんちゃんが心から嬉しさをバクハツさせていた。

 のんちゃんの―――――ううん、みんなのこの笑顔を見られただけでも、プリキュアになって良かったって、そう思える。

 

 『わたしだけだったら……こうしてみんなの笑顔が見れなかったかもしれない……貴女がいてくれて、本当に良かった』

 

 そう言って、私の横に立ったデーティアの笑顔は、なんだかとても大人びて見えた。

 なんというか……『お姉さんオーラ』が出てる。……実際はのんちゃんの『お兄さん』なんだけど……あ、今は『お姉さん』と呼んだ方がいいのか……どっちだろ。

 

 『それは……私も……デーティアが来てくれてなかったら、どうなってたかわかんないし……』

 

 このみんなの笑顔は、どちらかが欠けていても取り戻せなかった。私達が"ふたり"だったから、今こうしてここにいられる。

 

 『―――――ありがとう、デーティア』

 

 お礼を言ったその瞬間、私の左手を、デーティアの右手が優しく握ってきた。

 思わずデーティアの顔を見ると―――――

 いつもよりも―――――まっすぐに、私を見てて―――――

 

 『―――――………………え』

 

 ヤバい。

 

 顔、近っ……!

 ここまでアップでデーティアの顔を見たのってはじめてな気が……。

 なんてーか、自然なナチュラルメイク……唇にはうっすらリップが。

 それに……なんかイイにおいがする……お砂糖か、メープルシロップのような、ふわっとした―――――…………

 

 キュアキュアを通り越して―――――

 

 

 "キュン"としそうな、なにやらはじめての気配―――――…………

 

 

 「―――――ほぅ。おふたり(二人)はそーゆーかんけい(関係)か」

 『どぅえっ!?』

 『きゃっ!?』

 

 び、ビックリしたぁ……こころちゃん、気配を殺して近づいてくるんだから……

 

 「それってどんなかんけー?」

 「―――――らんかちゃんには、まだはや()い」

 「どのくらい?」

 「―――――10ねん()くらい。んふふ……♪」

 

 え、え~っと、これってちゃんとこころちゃんに説明した方がいい……のかな……?

 でも、とにかく……なんか……助かった。

 さっきのドキドキ…………アレって……なんだったんだろう…………。

 あのまま視線が合ったままだったら……

 私……どーなっちゃってたの…………??

 

 ――――――――――

 

 それからはなんというか……『プリキュアショーの後の握手会』のような状態になった。

 質問攻めにされるのはまだ序の口、コスチュームをつんつんされたり、引っ張られたり……

 レジェンドインストールを見せてあげると、ひときわみんなの目が輝いた。

 そして今度は――――ファッションショーがはじまった。

 『どんなプリキュアにも変身できる』とカン違いされちゃったのか、色んなプリキュアをリクエストされて、変身するたびに歓声が上がる。

 さっき取り戻したキュアマーメイドにも、こころちゃんのリクエストで早速変身!う~ん、まだ私、みなみさんみたいな清楚な感じが出ないなぁ……特におヘソまわりの色気が無い……

 

 「―――――わたし()()ってるマーメイドとちが()う。やりなお()し」

 『がーーーーーん!!』

 

 も~ちょっと身長伸ばして、強く優しく美しくなって出直しますです、ハイ……

 クインシィちゃんの『推しキュア』をまだ取り戻せてないから、リクエストに応えられなくてごめんねと謝ると―――――

 

 「おきになちゃらずなので。それよりも、もっといろんなちゅがた(姿)をみちぇてくだちゃい!いっぱいちゃちん(写真)をとって、おじょーたまにおわたちちて、ぢゃいだん(財団)びーのちょーひん(商品)かいはつにいかちてもらうので!」

 

 ま、まさかさっきからず~っとクインシィちゃんがスマホを構えてるのはこのためで……??

 つまるところ、キュアメモリアルとキュアデーティアのの"S.H.Figuarts"、近日発売決定ですか……!?

 

 ヤバい。

 

 おこづかい貯めとかなきゃ。(真剣)

 ともかく……ホント、こども達は元気のカタマリだ。体力の配分を考えずに朝から大暴れするから、お昼寝タイムですやすやしちゃうんだろーねぇ……

 そんな、みんなとのひと時を楽しんでる中―――――

 

 「やっぱり、なんかなっとくいかないんだな…………」

 「なっとくいかないんだね……」

 

 さっきから遊戯室の隅っこで、ばつが悪そうな顔でじっとしているふたりがいた。

 "アンチプリキュア"筆頭格であるみしんちゃんとみとんちゃんにとっては、やっぱりこの状況は居心地が悪いのかな……

 

 『……どうしたの?』

 

 そんなふたりに、デーティアは少し腰を落として、ふたりと同じ目線で声を掛けた。

 

 「お、おかしいんだね!あなたはプリキュアなんだね!」

 「なのに、なのに……」

 「「プリキュアがかめんライダーのわざをつかうなんて、おかしいんだな(ね)!!」」

 

 ……それはもっともだと思う。

 私はいつもいっしょに戦ってるから、今まで何の違和感も無かったけれど、キッチリしてるヒトにはやっぱりヘンに見えるのかな……

 

 『ちょっと、何よソレ!?デーティアはね―――――』

 『メモリアル……いいの』

 

 言い返そうとした私を制して、デーティアはなおも笑ったままふたりに語る。

 

 『……わたし、仮面ライダーが好きで……仮面ライダーにあこがれて、いつかはなりたいって思ってたの。でも、実際なっちゃったのがプリキュアだった……それだけのお話。今でもライダー、大好きだから。プリキュアが仮面ライダーみたいに戦うのって、そんなにヘン?』

 「いわれてみれば……そ、そこまでヘンってわけじゃ……ないんだな」

 「ちょっとは……かっこよかったんだね」

 『ならOKじゃない?少しでも『カッコいい』って思ってくれたのなら、わたしもうれしいわ♪』

 

 その笑顔がふたりの心になにかをもたらしたのか、ふたりの背筋がぴしっ!と正された。

 

 『『カッコいい』って思うコトって、それって、リクツじゃないって思うの。もちろん、『カワイイ』って思うことも。男の子が『カッコいい』って思って、女の子が『カワイイ』って思うコトもそうだけど、男の子が『カワイイ』って思って、女の子が『カッコいい』って思うコト……世の中の『カッコいい』や『カワイイ』に、好きとか嫌いとか、区切りや区別なんて必要ないんじゃないかなって。もちろん、みんなが好きなモノや嫌いなモノがそれぞれ違うこと、『カッコいい』や『カワイイ』の基準が違うことも知ってるけど……『カッコいい』って思っちゃったら……もう、それが『カッコいい』としか思えなくなる……ふたりだって、仮面ライダーや特撮ヒーローのこと、"『カッコいい』から好き"なんでしょ?どうしてそれが好きなのって、答えられたりとか、できる?』

 「「た、たしかに…………」」

 『そのとおりよ♪心に感じた『カッコいい』に、理由なんてつけられない―――――』

 

 

『カッコいい』のは―――――『カッコいいから』なの!

 

 

 ……な、なんか、この宇宙の真理を聞いたような気がする……

 『カッコいい』を感じるその『瞬間』を、言葉に置き換えるのは無理な話だ。

 そして、『カッコいい』をそのまま『カワイイ』に置き換えても成立する。

 『どうしてプリキュアが好きかをきちんと説明してほしい』って問われても、多分私は答えられない。もし無理やり答えようにも、取り留めのない、漠然とした答えになるはずだ。

 何かを好きになることに、理由なんていらない。心奪われたら、もう―――――

 

 「「…………す……すばらしいんだな(ね)~~!!」」

 

 突如、みしんちゃんとみとんちゃんはそう叫んで、デーティアの手をがっちりと掴んだ。

 

 「あなたのゆーとーりなんだね……!」

 「カッコいいコトにりゆーなんてつけられないんだな……!あなたもまた……『カッコいい』んだな……!!」

 

 なんと!?こんなに早く手のひらくるりんぱ!?

 びっくりした私は、思わずこのふたりのイーネルギーの数値を見てみた。すると……

 

 〈MISHIN MASUKO:30%〉

 〈MITTEN MASUKO:27%〉

 

 あっとゆー間にプラスになってる!

 あんなにもプリキュアを毛嫌いしていたみしんちゃんとみとんちゃんが、プリキュアを応援してくれるようになるなんて……

 文字通り身をもって、そして信念をもって、デーティアが『プリキュアのカッコよさ』を証明してくれた結果だよ……!

 『あのふたりも味方にする』―――――有言実行……すごいよ、ほくとくんは―――――

 

 「…………でも」

 

 みしんちゃんとみとんちゃんが、今度は私に振り返る。……まさしく、『敵』を見るような視線も添えて。

 

 「みとめたのは"みずいろ"さんだけなんだね……!」

 「そっちの"ピンク"はまだまだなんだな!」

 「「ぜんぜんいーとこなかったんだな(ね)!!」」

 『ちょ!?なんで~!?ほ、ほら、リフレクションでみんなを守ったり、魔法でこども園元通りにしたじゃん?!』

 「それとこれとははなしがべつなんだな」

 「きょうのえむぶいぴー(MVP)は"みずいろ"さんだね」

 『ぐはッ……!!』

 

 しょ、しょんなぁ……あ、ふたりから私にワルイネルギーが……シビれて余計にめちょっくがぁ……

 つまりは、このふたりが好きになってくれたのはデーティアだけで、私は未だに目のカタキですか、そーですか……

 

 『まぁまぁ♪ヒーローたる者、みんなで仲良く出来なきゃね。―――――『ライダーは』?』

 「「『たすけあい』!」」

 『OK♪上出来っ♪』

 「「えへへっ♪」」

 

 デーティアがふたりの頭をなでなですると、ふたりはにっこり。もうすっかり、みしんちゃんとみとんちゃんはデーティアの虜のようだ。

 この様子を見ていたのんちゃんが、こうつぶやくのを聞いた。

 

 「キュアデーティアって……なんだかにぃみたい!」

 『!?!?!?』

 

 ……ちょ、ちょっといくらなんでも核心突きすぎじゃないですかっ!?ヒーロー特有の超速理解!?

 神経がすり減る感覚って、こういうのを言うんですね……

 でも、のんちゃんといっしょにいるさっちゃんたちは口々にこう言う。

 

 「ののかさん、それはさすがにありえないですの」

 「キュアデーティアはおんなのこだよ?」

 「そーだぞ?プリキュアって、おんなのこしかなれないんだぞ?」

 「だいいち、ちぇたけ(背丈)ぢぇんぢぇん(全然)ちがうので」

 「―――――おっぱい、おお()きい」

 「うん……わかってる。なんとなくそっくりなところがおおいっておもっただけなの。かめんライダーがすきなところとか、やさしいところとか!」

 

 のんちゃんも、『キュアデーティア=ほくとくん』とは、さすがに直接は関連付けなかったみたい。

 でもやっぱり、必然、なのかな。私以上にほくとくんといっしょにいるのんちゃんだからこそ、デーティアにほくとくんを重ねられるのかもね。

 

 「……そこのピンクの貴女?」

 

 と、みんなの様子をほほえましく見守っていたところで、私に声を掛けてきたのは、園長先生だった。

 

 「ちょっと、いいかしら?」

 

 ――――――――――

 

 誰もいない、西陽が差し込む夕暮れの職員室。

 そこへ私を連れ出した園長先生は、出し抜けにこう言った。

 

 

 「貴女――――――――――りんくちゃんでしょ」

 

 

 ―――――…………え?

 

 さっきから驚きの連続で、もはや胃薬ちょーだい状態の私に、本日最大級のストレスが叩き込まれましたよ、ハイ。

 どして?なして?なじょして??園長先生の目の前で変身したわけじゃないのに……

 も、もしかしてさっきみんなに隠れて変身したのを見られてた!?

 そ、そうだ、まずはなんとかしてごまかさなきゃ……!!

 

 『そ―――――そんなわけないじゃないですかぁそのりんくちゃんって子全然知りませんしそれに顔も似てないですし―――――』

 「ウソをつく時、左上を見るクセ。……やっぱり、変わってないわね♪」

 

 ……私は無意識に、視線を左上に向けていた。

 今まで言われるまで、私自身まったく気づかなかった。

 

 「それに、貴女がりんくちゃんじゃないなら、どうして私がここの園長って知ってたの?もしかしたら、通りすがりのおばあさんかもしれないのに。みんなのことも、どうして知ってたのかしら?」

 『……………………(滝汗)』

 

 とんでもないレベルで口を滑らせてる。そして―――――

 

 「何より……『プリキュアのことが大好きで仕方がない』っていう女の子で、貴女と同じ年頃の子って言ったら……りんくちゃんしかいないじゃない♪」

 

 ―――――……トドメを刺された。

 ダメだ……何を言い訳しようとしても、このヒトにはかなわない。

 私のパパやママと同じくらいに、私のことを知り尽くしてる―――――

 

 《りんくぅ……》

 

 いいの、メモリア。

 このヒトなら―――――大丈夫。

 本当に……この人には―――――

 

 『かないませんよ…………先生』

 

 笑うしかなかった。

 

 「やっぱりそうだったのね♪もうひとりがほくとくんなら、お似合いだこと♪」

 『どうしてそこまで……!?…………フツー、絶対わからないと思うんですけど……特にほくとくんは……』

 「あらあら♪ある意味、りんくちゃんよりもわかりやすいわ♪のんちゃんやこども達のために、あれだけ一生懸命になれる子は、あの子くらいだもの。仮面ライダーが好きなコトもね。見た目が変わっても、『みんなのお兄さん』ね♪」

 

 いや……ホント、ここまでわかってしまう先生には恐れいりました。

 今までは冗談めいて聞こえていた『私は魔女よ』という言葉も、ここまでくると信憑性(しんぴょうせい)が増してくる……

 そんな先生は、"あのころ"と同じ優しい視線を私に向けながら、感慨深げに言う。

 

 「『プリキュアになりたい』って夢―――――叶えたのね」

 『はい……って胸を張りたいところなんですけど……こう見えてまだ、『見習い』なんです。『一人前のプリキュア』には、まだまだですよ』

 「つまり、『プリキュア見習い』ね。……うふふ♪」

 『もぉ、笑わないでくださいよっ。一人前目指して、日々努力を重ねてるんですっ』

 「違うの、昔を思い出しただけ……私もちょっとした『見習い』だった時期があったから、ね。―――――りんくちゃん、今日は本当にありがとう……こども達を助けてくれて、それに、こども園も元通りにしてくれて……私にとっては……ううん、こども達にとっても、りんくちゃんもほくとくんも、もう『見習い』なんかじゃないわ」

 

 先生は私の手を取って、そっと頭を下げた。

 

 

 「貴女たちふたりは―――――立派な『プリキュア』よ」

 

 

 先生の目に光るものが見えたその時―――――今まで私の中で張り詰めていたモノが、そっと緩んだ気がした。

 そして、私が助けた人から直接聞いた、『感謝の言葉』だったことも重なったのかな―――――

 私の中の緊張が、涙になってあふれ出してきた。

 

 『……!先生ぃ……………………』

 

 戦うことは、つらかった。

 私達がしくじれば、世界が終わるというプレッシャーもあった。

 これを誰にも相談できないもどかしさがあった。

 でも、このこども園や、そこで過ごす子供たちの笑顔を守ることができたコト―――――

 先生から、こうして感謝の言葉(ありがとう)をもらって、私達を立派って言ってくれたコト―――――

 今までずっと、直接言ってもらえなかった、()()()()()を貰ったことで、私はこう思える―――――

 

 

 私達は―――――間違ってなかったんだ。

 

 

 私―――――プリキュアになって、本当によかった―――――……

 

 

 ――――――――――

 

 翌日、予定通りにお遊戯会が開かれた。

 みしんちゃんとみとんちゃんの仮面ライダーショーの次は、ついにのんちゃんたちの出番!

 私、東堂りんくプロデュースの初舞台、遂に開演です!

 

 「ほしのプリキュア!『キュアスターライト』!」

 

 うんうん、さすがのんちゃん!おうちのプリキュアごっこで鍛えた演技力、サイコーに活かせてる!

 

 「ひかりのプリキュア!『キュアシャイニング』ですの!」

 

 おじょーさま、輝いてます!今までいそうでいなかった黄キュアですなぁ。

 

 「だいちのプリキュア!『キュアグラン』なので!」

 

 やっぱりクインシィちゃんには緑キュアが似合うって思った!落ち着いた感じがよく似合ってる!

 

 「うたのプリキュア……きゅ、『キュアディーヴァ』!」

 

 ちょっとセリフ噛んじゃった……だいじょーぶだよ、らんかちゃん!私以外、噛んだの気付いてない……ハズ!

 

 「―――――みず()のプリキュア……『キュアウンディーネ』」

 

 ミステリアスなこころちゃん、一番演技が様になってるかも。

 

 「ほのおのプリキュア!『キュアフランマ』ッ!!」

 

 実は一番難産だったのがぷらむちゃんのキャラ。車椅子をどう劇に落とし込もうか頭をヒネった分、こうして舞台に上がっている姿を見ただけでその苦労が報われたと思えるなぁ……

 

 「わたしたち!……せーのっ」

 

プリキュアシスターズ!

 

 ん~!キマッたぁ~!!みんなとってもキュアッキュアだよ!!

 このネーミングは、6人中5人が、お兄さんやお姉さんのいる『妹』だったことに由来する。らんかちゃんは一人っ子なんだけど、そこはもうノリで通しました!

 

 《みんなで、このせかいをまもるクル~!》

 

 この語尾で「!?」って思ったそこのアナタ、これこそが私のこだわりポイント!

 『スマイルプリキュア!』の妖精、キャンディをゲストとして登場させました!……"天の声"だけだけど。

 台詞の一言一句、そのすべてが、キュアットタブの中の『スマイルプリキュア』のみんなの完全監修!で、声はどうしたかと言うと―――――

 

 「……こんな感じかしら?」

 「サイッコーです、園長先生!!」(グッ)

 

 園長先生にお願いしました!

 ……というのも、キャンディの登場も、園長先生に声を入れてもらうコト前提で考えてたこと。

 園長先生が『ポケモン』のピカチュウや『ワンピース』のチョッパーのモノマネが上手だったことを思い出して、声がよく似てるキャンディももしかしたら……と思って、園長先生にお願いすると、二つ返事でオッケー頂きました!

 園長先生のモノマネボイスをハッピーたち『スマプリ』のメンバーに聞いてもらった時、そっくりだって驚いてたっけ……

 

 ―――――そして……

 

 私がはじめてプロデュースした『プリキュアシスターズ』は、ところどころでセリフを間違えたりしたけど、なんとか最後まで公演して―――――

 会場の親御さんや地域の皆さんから、大喝采を浴びてカーテンコールを迎えたのでした。

 ここまで来るまで、山あり谷ありジャークウェブありで、まさしく私は"産みの苦しみ"を味わった。

 その末のこの拍手喝采は、私にとっては何よりの癒し―――――苦労が報われる瞬間だ。

 こども達の……みんなの笑顔は、私にも元気をくれる。

 この笑顔を守るために、私、これからもいっぱいがんばるね。

 ほくとくんといっしょに、誰からも『ヒーロー』って認めてもらえるように。

 『みんなのプリキュア』に、必ず私は……ううん、私達はなって見せるから―――――

 

 ――――――――――

 

 ――――――――――

 

 NPC  KAIKA UMAKOSHI

 

 ――――――――――

 

 お遊戯会が無事に終わって、本当によかった……

 この日を無事に迎えられたのは……りんくちゃんとほくとくんのおかげね。

 さて、明日は日曜日。そして明後日からは、また新しい日々が始まる。

 久しぶりに……なつかしい『美空の街』に出かけてみようかしら―――――

 そう思いながら、職員室の私の机の上の書類をまとめて、家路につこうかと思った時―――――

 

 ―――――♪♪♪

 

 スマートフォンの着信音が鳴った。その電話に出ると、これまた……ご無沙汰だった声。

 

 《園長先生、お久しぶりです!》

 「あらぁ♪お元気だったかしら?ここ最近連絡が無かったものだから、ちょっと心配してたのよ?」

 《ごめんなさい……研修が忙しくて……でも、もうすぐ研修期間も終わりなので、その時にまた、改めてお礼に伺おうかと……》

 「楽しみにしてるわね。……貴方ももうすぐ、夢を叶えるのね。なんだか、自分のことみたいに嬉しくなっちゃうわ」

 《なんだかご機嫌ですね。何かあったんですか?》

 「ええ♪貴方と同じで、夢を叶えた子に会えたからかしら♪……でもまさか、本当にお医者さんになっちゃうなんてね。こども園にいたころは、ゲームのお話ばかりしてた貴方が、いきなり『ドクターになりたいから勉強させてほしい』って言って、私を訪ねてきた時は本当に驚いたわ」

 《命を助けてもらったご恩返し……みたいなものですから……元ドクターだった園長先生のアドバイスがあったからこそ、ここまでやって来れたんです……!すみません、急患が入ったようなので、これで!また後日!》

 

 慌ただしく、彼は電話を切った。

 りんくちゃんと同じで、夢に向かって一生懸命……久しく顔を合わせていないけど、声の感じからして、成長を感じさせてくれる。

 立派なお医者さん(ドクター)になった貴方に会うのが、今からとても楽しみだわ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………永夢(エム)くん―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――STAGE CLEAR!!

 

 

 

 RESULT:CURE CHIP No.39『CURE-MERMAID』

 

 プリキュア全員救出まで:あと46人

 

【挿絵表示】

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 『海風に揺れる一輪の花!』

 

 !!!DANGER!!!DANGER!!!DANGER!!!

 UNKNOWN ENEMY INTRUSION!!!

 

 『蒼い……(ザァッ)……密の……(ザザッ)……しるし……!』

 『あま(ガガガッ)…………界に……(ザザザッッ)……福を……』

 

 「ようやくこの日が来ましたぁ……実に楽しみです、ウェヒヒッ……♪

  さぁ、行きましょう……"ローズ"、"フェリーチェ"♪」

 

 《Yes,ma'am》

 

 《OK,her》




 ―――――りんくの『今回のプリキュア!』

 りんく「今回のプリキュアはだ〜れだ?」

 『澄みわたる、海のプリンセス!キュアマーメイド!』

 メモリア「『プリンセスプリキュア』のサブリーダー、"海姫(うみひめ)のマーメイド"!属性はざぶざぶの『水』!」

 りんく「ノーブル学園の生徒会長、海藤みなみさんが変身した、『海のプリンセス』!」

 メモリア「そんなマーメイドのキメ技は、コレ!」

 『高鳴れ、海よ!プリキュア!マーメイド・リップル!!』

 メモリア「水の柱に相手を閉じ込めちゃう、マーメイドリップル!なんか……トラウマがよみがえりそうな……」

 りんく「何かあったの?」

 メモリア「昔ね、マーメイドの水泳教室に行った時、おぼれかけたことがあって……マーメイドに助けてもらわなきゃどーなってたか……」

 りんく「……泳げないんだ」

 メモリア「……(こくり。)」

 りんく「な~んだそんなこと?それなら、おフロで顔をつけるところから始めようよ!……あれ?でもスマホを水につけると……う~ん……」

 メモリア(ネットコミューンが完全防水なのはりんくには言わないでおこ~っと……それじゃみんな、ばいば~い……)

 りんく「キュアットタブの中におフロのアプリが……あったっけ……???」

 ―――――ほくとの『レッツゴーライダーキック!!』

 ほくと「…………/////////////////」

 データ「どしたよ?顔真っ赤だぜ?」

 ほくと「…………僕、僕もう……ハズかし過ぎて東堂さんに顔向けできない……」

 データ「あのなぁ、このコーナーは本編の反省会コーナーじゃないんだぜ……??」

 ほくと「うん……だから今日はデータがやって…………」

 データ「ちぇっ、ッかたねーなぁ……今回のライダー技は二つ、まずはコイツだ!」

 《MELON ENERGY!!》

 データ「『仮面ライダー斬月・真』をはじめとした、ゲネシスドライバーを使って変身する新世代アーマードライダーたちの必殺技、それが『ソニックボレー』だ!果物型のフィールドを突き抜けるエネルギーの矢で、相手をブチ抜く技だぜ!」

 ほくと「……男がプリキュアに変身して戦ってる……??そんなバカな話があるか……みんな、疲れているのか……」

 データ「疲れてんのはオメーだッ!!……あぁ、重症だなこりゃ。次はコレッ!」

 『音撃斬、雷電激震ッ!!』

 データ「『仮面ライダー轟鬼』が、『音撃弦・烈雷』に『音撃震・雷轟』を組み合わせて放つ『音撃斬・雷電激震』!!今回ほくとはラブギターロッドで代用したんだが……あの後ビートから大目玉食らったんだよなぁ……」

 ビート「当然でしょ!?そもそもどこをどう間違えて、ラブギターロッドをこんな風に使っちゃったのよ!?」

 データ「おぉ!ちょーどよかったビート!今回の技の元ネタ、アンタにも見てもらいたいって思ってたトコでさ。ホイこれ。キュアネットに転がってた轟鬼と武器の資料」

 ビート「な……何よコレ……ギターのこんなところに剣がついてる……こんなギターがあったなんて……って、"ピクシブ"?"戸田山エレン"?…………コレって……」

 データ「そーゆーコト。ギターつながりでネタにしやすいんだと」

 ビート「……使えるわね」

 データ「……は?(・ ・;)」

 ビート「今度のプリキュアーツで使ってみようかしら……雷電激震……」

 データ「ヤベえ。ビートに変なスイッチ入っちまった……ラブギターロッドを改造とかしねぇだろぉなぁ……ほくともヌケちまってるし……ま、次までにはフツーに戻るだろ。じゃ、またな!!」

 次回予告

 ほくと「あれ?東堂さんちの前に誰かいる……」

 りんく「金髪の女の子?でも会ったことのない子だし、誰だろ?」

 Dr.G「インストール@プリキュア……会いたかったですぅ♪
      さぁ、ワタシの可愛い"子供達"と、存分に遊んでくださいね♪」

 メモリア「な、なにこれ!?しかもこの"ヘンなの"から……」

 データ「どうしてローズとフェリーチェの気配がするんだッ!?」

 インストール@プリキュア!『Dr.Gふたたび!プリキュアの正体は@ワタシが暴く!』

 りんく「ピカっとキュアっとあつめてプリキュアオールスター!」

 ――――――――――

 この数日間かなりの無理をした気がします……
 実は今回入れようとして、あまりの文量に次回冒頭に回すことにした部分もあるんです……
 最後の『プリキュア救出リスト』、よく見ると……??
 半年間もこの『12話』に費やしてしまったことは痛恨の極みッ……!!

 次回からは『電調編』最終章!Dr.Gとの直接対決です!!


 あぁ……これで気兼ねなくマシェリとアムールに会える……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 Dr.Gふたたび!プリキュアの正体は@ワタシが暴く!
見つめるその先


 キャラクター紹介

 プリキュアシスターズ

 八手 ののか

 プリキュアハマり度:★★★★★★★★★★
 好きなプリキュア:キュアデーティア!

 リーダー格。紫キュア担当。
 演劇『プリキュアシスターズ』では、星のプリキュア『キュアスターライト』を担当。
 詳細は『連続スマホ突然発火事件』後書き参照。

 川村 さち

 プリキュアハマり度:★★★★★
 好きなプリキュア:キュアロゼッタ

 サブリーダー格。黄キュア担当。
 演劇『プリキュアシスターズ』では、光のプリキュア『キュアシャイニング』を担当。
 詳細は『蒼い閃光』前書き参照。

 時田 いいこ(クインシィ)

 プリキュアハマり度:★★★★★★★
 好きなプリキュア:キュアミント・キュアダイヤモンド

 緑キュア担当。
 演劇『プリキュアシスターズ』では、大地のプリキュア『キュアグラン』を担当。
 詳細は『蒼い閃光』前書き参照。

 佐藤 らんか

 プリキュアハマり度:★★★☆☆
 好きなプリキュア:キュアソード・キュアハニーなど『歌キュア』

 桃キュア担当。
 電調増子班・佐藤慈愛の娘。
 パパっ子で、カッコいいパパが大好き!と宣言してはばからない。
 引っ込み思案で歌が好き。そのため綺麗な歌声を響かせる『歌キュア』がお気に入り。
 普段は大人しいが、いざというときは大胆な行動を見せることも。
 演劇『プリキュアシスターズ』では、歌のプリキュア『キュアディーヴァ』を担当。

 高橋 こころ

 プリキュアハマり度:★★★☆☆
 好きなプリキュア:キュアマーメイド・キュアアクアなど『水キュア』

 青キュア担当。
 りんくのクラスメート・高橋おとの妹。
 物静かな雰囲気のメガネっ子。しかし語り出すと淡々とした口調で延々と語り続けるため、本当はおしゃべり好き。
 読書好きで、その知識量はいささか年齢離れしている。
 カナヅチで泳げないことがコンプレックスになっていて、その反動か自由自在に水を操る『水キュア』に憧れている。
 演劇『プリキュアシスターズ』では、水のプリキュア『キュアウンディーネ』を担当。

 香川 ぷらむ

 プリキュアハマり度:★★★★☆
 好きなプリキュア:キュアルージュ・キュアサニーなど『炎キュア』 

 赤キュア担当。
 りんくのクラスメートでほくとと同じ空手部の男子・香川桃太郎の妹。
 活発で小生意気な元気っ子。自称『ばーにんぐぷらむ!!』。早くも中二病に目覚めているのか、なにかと言動が芝居がかっていて、カッコつけたがる。
 トゥインクルバグッチャーの襲撃で両脚を負傷し、現在は車椅子での生活を強いられているが、
 それすらも自らの個性を引き立てる材料として考える超ポジティブ思考の持ち主。
 それを証明するかのように、車椅子に『しるばーぼんばー』と銘を付け、1ヶ月にも満たないうちに、自分の体の一部のように扱えるまでになった。
 『炎使い=カッコイイ!!』というシンプルな脳内等式から『炎キュア』が大好き。
 演劇『プリキュアシスターズ』では、炎のプリキュア『キュアフランマ』を担当。

 ――――――――――

 先日の『はぐプリ』……皆さんもうご覧になりましたよね!?
 まさかの『せんせい』&『お師さん』降臨!
 事前情報全く無しでのこのサプライズ……やるな、東アニ!

 ……それにしてもはぐたん……もしかしてご親戚の方に、コートを着た『おのれディケイドォォォォ』とかいつものたまってるプリキュア大好きオジサンがいるのでは……(汗

 オーロラ開いてプリキュア召喚とかまんまあの人なもんでつい思いだしちゃいました……(^^;)

 さて今回からは電調編最終章!新キャラも登場し、多くの謎が明かされる超重要回となります!お見逃しなく……!!


 澄みわたる海のプリンセス!キュアマーメイドよ。

 

 誰かを守りたいと想う心―――――

 人に優しくしたいという気持ち―――――

 

 それはそのまま、『プリキュアの強さ』に変わるの―――――

 

 『思い出も簡単に壊せる』コトが『強さ』だっていうのなら……そんな『強さ』なんか、私はいらない!!』

 『みんなを……ののかを怖がらせ、悲しませ、恐怖を植え付け、涙の一滴でも落とさせたキサマだけは絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛ッ!!!』

 『『プリキュアとしての一番カッコいい姿』……それで戦う』

 『お前は誰だッ!?』

 『"僕"の中の"わたし"』

 『『カッコいい』のは―――――『カッコいいから』なの!』

 

 こども園のみんなのために、一生懸命戦ったあなた達は、『強く、優しく、美しく』を体現した存在―――――

 これから先の戦いの中で、この経験は間違いなく、あなた達の力になる……

 自分の心の力と、信じてくれるみんなの力―――――それをひとつにできれば、きっと―――――

 

 『インストール@プリキュア!』―――――

 

 覚えてて。

 探してたまぶしさは、どんなときも自分の中にあることを―――――

 

 ――――――――――

 

 NPC ???????????

 

 ――――――――――

 

 

 "システマスゲート"が映し出す、とある世界のかつての情景……

 

 観測日付座標は―――――『2018年6月17日』―――――

 そう―――――この日は『育みの世界』で『新たな伝説』が目覚めた日。

 

 ―――――『真紅の"友気(ゆうき)"』と、『紫紺の"心機(しんき)"』―――――

 

 ふたりの"愛"が、奇跡を起こした日―――――

 

 《次元観測に精が出るみたいだね》

 「!……」

 

 まるで幽霊か人魂のように空間に浮かび上がるその姿―――――

 

 《薄暗いこの部屋で見ることができるのは;あの"門"だけだからね:退屈しのぎくらいにはなるだろうから》

 「……貴方は……!」

 《我々も;観察をさせてもらった:そして;"確信"もした》

 「……!」

 

 いずれは、彼が気付く日が来ると思っていた。もっとも、ああいった"奇跡"は、プリキュアたちの世界では"必ずいずれは起こりうる"。

 単純に、それが彼の目前で起きただけのこと。だけど―――――

 

 《やはり;我々の推測は正しかった:『プリキュアの意思』は;並行世界や時間軸すら;いとも簡単に超越する:"あの端末"があの場に出現したのは;奇跡でも何でもなく;むしろ必然と云うべきだろうね:彼女達は"意思の力"で;並行世界もしくは他時間軸の"あの端末"を;あの場に呼び寄せたんだ》

 「……だから……だから何だと言うのです……!?」

 《"間違っていなかった"ということだよ:我々も;そして;貴女も》

 

 私の判断は……"間違っていた"とでもいうの……?

 16年前、システマスゲートの向こう側に見えた世界の、戦う力を持った女の子たちに、救いを求めたことは―――――

 

 《バグッチャーの稼働ログも順調に採取されている:もうすぐだ;もうすぐだよ:貴女のいた世界に;我々も往ける》

 「……その時は来ません。貴方は稼働ログを得ると同時にキュアチップも失っています。得るモノよりも、失うモノが大きい物事に、成功はあり得ませんから」

 《その心配はいらないよ:何故なら》

 

 彼の周囲に、3枚のキュアチップがふわりと浮かんだ。

 

 《こうして;"補充"されているからね》

 「…………!!」

 

 そのチップを見て、私の"心臓"が早鐘を打った。

 そう―――――それは、『存在し得ない筈の』チップだったのだから―――――

 

 〈P52 CURE-YELL〉

 〈P53 CURE-ANGE〉

 〈P54 CURE-ETOILE〉

 

 「…………それ……は……!」

 《"あの時";サーバー王国に来なかった;否;『"彼の世界"で認識されていなかった』故に;"門"が認識しなかったプリキュア達だよ》

 「そんな!?」

 《それだけではない》

 

 さらに、2枚のチップが浮かび上がってきた―――――

 

 〈P55 CURE-MACHERIE〉

 〈P56 CURE-AMOUR〉

 

 「どうして!?そのふたりまで……!?」

 

 私が……あの時メッセージを送信するよう指定"できた"のは、『12の世界』だけだというのに……

 どうして、『13番目以降』の世界から、プリキュアたちが召喚されているの……!?

 それに、すでにキュアチップにされている理由も……!!

 

 《貴女は大きな勘違いをしていたんだ》

 「…………………………え?」

 《貴女は16年前;"門"で観測した世界のプリキュアたちに救いを求めた:でも;"門"は全てのプリキュアたちの世界を認識できなかった:その理由を貴女は知らないけど、我々は知っている》

 

 確かに―――――

 私が観測したプリキュアたちの世界は、明らかに『30以上』あった。それなのにどうして、『12』の世界にしかメッセージ送信が指定できなかったの?

 

 《我々の干渉により;"門"が"プリキュアの世界"とは異なる"とある世界"に接続されていたからだよ:故に;"彼の世界"で未だ認識されていないプリキュアは;そもそもメッセージを受信してすらいない》

 「……でも、システマスゲートは今も『認識』を続けています。こうして、『育みの世界』で()()()起きた出来事も―――――」

 《かつてではない:『現在進行形』で『認識』されていることだ》

 「現在………………!?」

 《貴女は16年前の時点で"門"が破損し;それ以降は観測しか出来なくなったと思っているようだけど;それは違う:我々の手にかかれば;"門"を修復し;調整することはそう難しくはなかったよ》

 「ゲートを……復元したというのですか……!?16年間、私達が修復できなかったのに……!?」

 《"我々"が;『個』にして『群』であるが故さ:"門"を修復する上での知識も;"この我々"に無くとも;"別の我々"に存在していただけのこと》

 

 ……やはり、そうだ。

 "彼"はもう、"彼"ではなくなっている。

 私は、"彼"の持つたくさんの顔を知っている。

 私とともに研究を重ねた、ネットワーク工学者としての"彼"。

 心優しく、誇り高い為政者としての"彼"。

 そして―――――そのふたりがひとつとなった、"彼"。

 キュアネットの中のワルイネルギーを過剰に取り込み、『カイザランチュラ』という存在に変容し、"彼"はサーバー王国へと『逆襲』を始めた。

 その時の"彼"も常軌を逸していたけれど―――――今、目の前にいる"彼"は、その"誰"でもなくなってしまっている―――――

 そう、まるで―――――

 

 ―――――私の知らない"彼"ではない"誰か"が、"彼"の口ぶりを真似て、目の前にいるかのよう―――――

 

 《さっきも言ったけど;現在の"門"は;"プリキュアの世界"とは接続されていない:けれども;現在接続されているのは;"プリキュアの世界"を含めた『ありとあらゆる世界』と接続され;観測が可能となっている夢のような世界だよ:現在"門"が観測しているのは;"その世界"を介して;"現在その世界がリアルタイムで認識しているプリキュアの世界"なんだ》

 「そんな……そんな世界が存在するというのですか!?世界そのものが『ターミナル化』されているような、そんな……!!」

 《僥倖だった:我々がこの世界を認識できたのは:もっとも;『時の速度』が一定である以上;これ以上未来で認識されるであろうプリキュアを現時点で認識できないことは惜しいけどね:けれど;それによって;労せずキュアチップが手に入る:"彼の世界"でプリキュアが新たに認識される度;強制リンク召喚プログラムによって;"彼の世界"を経由して"プリキュアの世界"からプリキュアたちを"この世界"の『滅亡直後の時間軸のサーバー王国』に呼び出し;高濃度ワルイネルギーによってキュアチップ化すればいいのだからね:故に;『プリキュアがキュアチップにされ;我々の手に落ちた』という結果だけが今この時に残る:過去に干渉しない限り;この手段は誰にも止められない:この世界においては;時間制御技術は確立されていないからね》

 「では……"その世界"が新たなプリキュアを認識するたびに……貴方は労せずしてキュアチップを手に入れる……!」

 《素晴らしいだろう:こうして解析したキュアチップの;プリキュアの『並行世界を渡る力』を解析し;我々は世界の壁を超える:ヒトの生活圏域を拡げ;果てしなく進化(アップデート)させるために:それにはまず;『世界の壁』は邪魔な存在だ:現実とキュアネットも;『世界』の此彼(しひ)も区別なく;ヒトが子を成し;育み;次代を残す環境を整えねば:そして我々は;その認識を"彼の世界"へと向ける:より良くヒトをアップデートさせるためには;『この世界』の有する情報は少なすぎる故に》

 「貴方は……貴方は、何を考えているのです……!?リアルワールドへと侵略することが目的ではなかったのですか……!?」

 

 "彼"は―――――『どこか』を見ていた。

 

 《我々は;"彼の世界"へと赴く:あらゆる世界と接続され;あらゆる世界を創造し続けている;"彼の世界"へと:この世界を『No.108564』と定義づける『笛吹ノ書庫』の存在する世界―――――》

 

 

 

 

真の第四の壁(トゥルーフォースウォール)』の向こう:『現実(ホンモノ)の世界』へ

 

 

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 中間テストまで、あと1週間。今日から部活休止期間に入って、みんなが連れ立って学校を後にしている。

 私はほくとくんと、今後のことを話そうといっしょに帰ってたんだけど……

 

 《プリキュアが増えてるぅぅぅぅ!?!?》

 「ちょっ!?声が大きいよ、データ……」

 

 昨日の夜にメモリアがやったリアクションと全く同じ反応だった。

 あわててほくとくんが辺りを見回したけど、幸い今の声に気付いた人はいないみたい。

 そう、すべては昨日の夜、寝る前のことだった。いきなりメモリアが素っ頓狂な声を上げた。

 

 ―――――また増えてるぅぅぅぅ!?!?!?!?

 

 何事かと思ってキュアットタブを見てみると―――――

 

【挿絵表示】

 

 ……増えてたorz……予想はしてたけど。

 エールとアンジュとエトワールまで来てるのに、キュアマシェリとキュアアムールが来てないわけないですよねぇ……

 レジェンドプリキュアのみんなはまたも目を輝かせて、私にふたりのことを聞いてくる。マシェリ―――――愛崎えみるちゃんが小学生のプリキュアだって教えてあげると、《仲良くなれそうな方ですわね♪》と、エースが頬を緩めていた。

 でもって、アムール―――――ルールー・アムールちゃんのことを教えてあげたら……

 

 ―――――アンドロイド~~~!?!?!?

 

 みんなが一様に、驚きの声を上げていた。 

 ってゆーか、男の子がプリキュアになってることより、ロボットの女の子(アンドロイド)がプリキュアになってることの方がオドロキなのだろーか……

 中でもピース……やよいちゃんの目の輝きようはスゴかった。その場でスケッチブックを取り出して、まったく似てない想像図まで描いたほどだもん。どことなく『スマプリ』の35話に出てきた『ハッピーロボ』に似ていた。特にバケツをひっくり返したような頭のあたりが……

 そんなみんなには『はぐプリ』のブルーレイを見てもらって、ストーリーを追体験してもらうことでナットクしてもらおうっと……

 ともあれ、助けないといけないプリキュアたちは2人増えて、残り46人になってしまったとさ……

 

 「助けては増え、助けては増え……(さい)の河原で石を積んでも、鬼の金棒でホームランされる気分……」

 《なにそれ?》

 「あとでビューティかマーメイドに聞いて~……」

 「でも、確かに変だよね……サーバー王国に来ていたプリキュアたちは全部で51人なのに、その後も増え続けるなんて……」

 《プリキュア達が出てきたシステマスゲートは、16年前の戦いでブッ壊されてそのままだし……いったいどーゆーカラクリだ?》

 《ってゆーか、ホントーにこの世界に来てるのかもわかんないんだよねぇ~》

 「実際に、そのプリキュアたちのキュアチップを取り込んだバグッチャーが出てこない限り、証明にはならないね……」

 

 ほくとくんとメモリアの言うとおりだ。キュアネットの中で本人たちに出会ったわけでもなし、今までキュアチップをゲットしたわけでもなしで、私達からどうアクションを起こしても、『はぐプリ』のみんなの『存在証明』が出来ない現状―――――

 

 「どうにか、こっちからチップを取り戻しに行けないのかなぁ……」

 

 かといって、ジャークウェブの本拠地がどこにいるのかわかんないし、そもそも現実世界にはまず存在していないだろう。何しろ、プログラム生命体の軍団なんだから。

 

 「はぁ~……どうしたものかなぁ……」

 「おやおや、何かお悩み?」

 「ふぇ!?」

 

 ぼーっとして歩いていた私の顔を、むぎぽんがのぞき込んできた。

 

 「りんくちゃんって、考えとること顔に出やすいしなぁ。ため込むんはよくないえ?」

 

 いつの間にか私の横に、いつも目を細めてニコニコしているそらりんが並んで歩いていた。

 

 「……そんな深刻なコトじゃないって♪今度のテストで赤点取ったら、お小遣い減額なんだよ~……これだと今度出る新作のフィギュアが買えなくて……」

 

 言い訳っぽいけど、コレは本当。最近何かと金欠で……

 このふたりと話をするの、すごく久しぶりな気がする。メモリアのユーザーになって、プリキュアになってからは、ほくとくんといっしょだったり、こども園に行ったりしてて、むぎぽんとそらりんのこと、ちょっとないがしろにしちゃってたのかもしれない。

 でも、ふたりがいっしょにいるこの時が、私がいちばん、私のままでいられる時間なのかもしれない。プリキュアのことを忘れて、『普通の中学2年生』でいられる。

 世界がヤバいとか、プリキュアを全員取り戻すとか、そんなことに比べれば全然深刻じゃないことだけど―――――

 

 「深刻じゃんっ!!」

 

 次の瞬間私が見たのは、モノスゴい形相のむぎぽんのドアップだった。

 

 「ちょー深刻じゃん、お小遣い減額!!こーなったら週末テス勉やるわよ!」

 「ふぁ!?」

 「ええなぁ、それぇ♪わぁ、ちょっと英語苦手なん。りんくちゃん、教えてくれん?」

 「い、いいけど……ってかもうやること前提?」

 「ったり前でしょ!アタシ達3人から赤点出たら、我々"プリキュア大好き同盟"の恥ってもんよ!『プリキュアに熱中しすぎて勉強がおろそかになった』なんて、言われたくないし!」

 「そやねぇ♪どっちにしろ、来年わぁ達受験やしぃ。お勉強しといて損はないんやない?」

 

 大切なことを―――――ううん、大切で、当たり前のことを忘れかけてたのかもしれない。

 プリキュアになってのしかかった運命は確かに深刻だ。でも―――――

 むぎぽんやそらりんにとっては、テストで赤点取ったり、お小遣いを減らされることの方が、ずっとずっと"深刻"なんだ―――――

 

 「……そう、だね」

 「?なんかりんくちゃん、しんみりしとんねぇ」

 「そう?」

 

 ―――――こうして、『当たり前』のことに一喜一憂して、みんなで泣いたり笑ったりする日常。

 それを、『当たり前にする』こともしなきゃいけない。これはみんなに限らず、自分のためでもある。

 ホントーは、世界を守って戦うことなんて、中学生のやることじゃない。そこだけは増子美津秋さんに同意だ。

 4月にメモリアと出会わなければ、こんな会話も何気ない青春の1ページに過ぎなかっただろうけど……今は……

 

 「がんばらなきゃ……!」

 

 ヒーローと中学生の両立―――――『どちらか』を完遂するまでは、終われない。

 レジェンドプリキュアたちを見習って、キチンとこなさなきゃね!

 

 「……とゆーわけだから……ほくと!週末道場借りるわよ!あそこ、空いてるでしょ?」

 「な、なんでそうなるんだよ!?」

 

 いきなり話題の矛先を向けられて、ほくとくんが動揺する。

 

 「ウチはパン屋で日中もバタバタしてるし、そらん()はアパートだし!」

 「じゃ……じゃぁ、東堂さんの家は……?」

 「あんなプリキュアグッズやブルーレイで埋め尽くされた"痛部屋"で、アタシら3人が集中して勉強できると思う!?」

 「絶対途中で脱線するわなぁ~♪」

 「痛部屋……地味にヒドい……」

 「……わかったよ。予定もないしさ。……その、僕も……勉強会、いいかな?数学と社会、ちょっと不安だし……」

 「…………ま、場所提供してくれるんだしね。いいわよ。教えられるトコなら、教えてあげてやっても……いいし……

 

 むぎぽんは、何故かほくとくんの視線を逸らしながら、どんどん小声になっていった。

 

 「そういえばりんくちゃん、最近八手くんといっしょにおること多いなぁ♪いつの間に仲良くなったん?」

 

 そ、そらりん!?藪から棒にいきなり何言いだすんです!?

 

 「何故か今日もアタシたちについてきてるし、さっきもなんかいい感じのフンイキだったし……4月からこっち、急に仲良くなってどーしちゃったのよ~?」

 「えっ!?……そ、それわ……」

 「…………"勉強"っ!」

 

 私達の後ろにいたほくとくんが、絞り出すように言った。

 

 「勉強だよ。……その、妹がプリキュア好きでさ……プリキュアごっこで、悪者役やるんだけど……その時に、イカデビルやシオマネキングとかじゃ……ライダーの怪人じゃダメって思ってさ……それで、東堂さんに教えてもらってるんだ。プリキュアの悪者のこと……」

 「ふ~ん……」

 

 腕組みをしながら、むぎぽんがジト目でほくとくんを見据えてくる。かなり苦しい言い訳……に聞こえるけど、半分はホントだと思う。何しろ、のんちゃんのためならどこまでも強くなれる、最高のお兄さんだもん。

 

 「もしかして、放課後ふたりでパソコンルームに入り浸ってんのも、お勉強の一環なん?」

 「そ、そらりん知ってたの!?」

 「わぁだけやないえ?クラスのほとんどのみんながもぉ知っとぉけん♪」

 「ナイショでやってたつもりなら、まだまだ甘いヨ、おふたりさん♪」

 「……マヂですか」

 

 そりゃ、堂々と職員室にパソコンルームの鍵を借りに来てれば見てる子も多いか……でも、まさかパソコンルームが『インストール@プリキュア』の作戦会議室だとはだれも思うまい……フフフ。

 とりあえず、『ほくとくんにプリキュア講座をしている』という隠れミノが出来てる現状なら、私達のコトがバレる心配は当分無いか……

 さて、もうすぐ我が家だ。レジェンドプリキュアのみんな、マシェリとアムールを見てどう思ったかなぁ……?

 

 「……!?」

 

 ここを右に曲がれば我が家が道路の左側に見える、と言う所で―――――私達は思わず足を止めた。

 というのも―――――

 

 「また……また来てしまいました……東堂博士のご自宅……今ここに先生がいらっしゃらないとわかっていても、ついついここに来てしまうのはどーしてでしょーか……!!解せません……ワタシ自身が実に解せません!!ああでもしかし……ニッポンに来たからには必ず寄っておかなきゃいけない最・重・要スポット!!あぁそうです、ここで記念に一枚……」

 

 真っ赤なベレー帽をかぶって、()()()()リュックサックを背負った小柄なヒトが、電柱の陰に隠れながら独り言をブツブツ言いながら、懐からスマホを取り出して、私の家にカメラのレンズを向けていた。

 思わず私はギョッとして、ちょっとヒイてしまっていた。不審人物なのは確定的に明らか……!!

 え?これって通報モノ……なのかな……??知らないヒトが私んちを監視してるんですけど……!!??

 しかしどうしたもんでしょぉ……私、ここを通らなければおうちに帰れないわけで……しかもこのヒトが見てるおうちに住んでるわけで……

 オロオロしている私の横を、誰かがつかつかと通っていくのが見えた。次の瞬間―――――

 

 「そこで何をしている!!」

 

 あからさまな不審者に鋭い声を浴びせたのは、ほくとくんだった。

 

 「……うぇひっ!?」

 

 妙な声を上げて振り返ったその顔には、見覚えはない。私も初めて見る人……っていうか、小柄な女の子だった。

 髪はプラチナブロンドで、ダークプリキュアみたいな前髪ぱっつんのおかっぱ頭。でも何よりも目を引いたのは、そのメガネ。

 まさしく、一昔前のマンガやアニメで見るような、ガリ勉キャラがかけてるような瓶底メガネだ。『ぐるぐるメガネ』と言ったらわかる人もいるかも。

 ってか、日本語通じるんだろーか……見た目カンペキに外国(あっち)の人だし……でもさっき、日本語で独り言を言ってたような……

 

 「見慣れない顔だけど……東堂さんの家に用があるなら、堂々と玄関から訪ねて行ったらどうなんだ?」

 「あ!?いや、その、あの、ワタシはですね、ええっと……」

 

 しかしほくとくんはそんなこともお構いなしに、当たり前のように日本語で詰問した。

 気圧されて、あたふたしだした女の子は、明確に日本語を返した。つまりは日本語は通じるらしい。それにしてもこの声、『ヒーリングっど❤プリキュア』のキュアグレース―――――花寺のどかちゃんの声によく似てる。のどかちゃんよりちょっと低めのトーン、だけど。

 自分がスマホを持っていたのを思い出したのか、とっさにスマホをポケットにしまおうとしたけど、あわてたせいか取り落としそうになった。

 

 「あっ!」

 

 そのスマホを、誰かがひょいとキャッチした。女の子も私も、思わずその『誰か』を見ると―――――

 

 「相変わらず、りんくのおばあちゃんのことが大好きなのねぇ。ってか、来るなら来るって言ってから来てよね―――――ジェミニ」

 

 むぎぽんはあきれ顔でそう言って、女の子にスマホを返した。

 

 「む……む……ムギィ~~……(泣)」

 

 涙声で、女の子はむぎぽんにHUGっと抱きついた。呆気に取られる私とほくとくん。しかしそらりんは全く動じてないようで、

 

 「こむぎちゃんの知り合いだったんねぇ♪」

 

 と、ニコニコしながら言った。ホント、そらりんのこの『泰然自若』っぷりは尊敬に値します……

 

 「む、ムギ!!なんなんですかこのオトコは!?こんな……こんな、実にコワイオトコ、前に来た時はいなかったじゃないですかぁ!!」

 「お向かいのほくとよ。メッセで言ってたでしょ?拳法やっててチョー強いって」

 「な、なるほど、"アイアンフィスト"の彼ですか……」

 「えぇっと……むぎぽん、そちら、どちらさま?」

 「あぁ、ゴメンゴメン。このコ、アメリカに住んでるアタシのいとこなの。……ほら、みんなとは初対面でしょ?」

 

 むぎぽんにうながされて、女の子はメガネを指で直して、私達に向き直った。心なしか、さっきからしおらしくも見える。背中のリュックサックがモノスゴく主張してるけど。

 

 「ジェミニ……ジェミニ・ノーサップ……です」

 

 瓶底メガネの隙間から、ブラウンの瞳が上目遣いに私を見上げてくる。よく見ると、顔だちの雰囲気がむぎぽんに似ている。あと、そばかすがちょっと目立つかな。

 それにしてもアメリカに親戚がいるとわ……むぎぽんっちって意外とワールドワイドなんだねぇ……

 

 「へぇ~……アメリカに親戚がおるなんて初耳ぃねぇ♪」

 「アタシのおばあさんが、お母さんが生まれた後にアメリカに行ってね。そこで叔母さんが生まれて、アメリカ人の伯父さんと結婚して、そんでジェミニが生まれたってワケ。……それで?アタシに何の連絡も寄越さずに急に日本に来るなんて、何があったの?」

 「連絡なら、伯母さまにしましたよ?てっきりムギには伯母さまづてに伝わってるものかと思ってましたが……」

 「さてはお母さんワザと言わなかったわね……」

 「それで、ジェミニ……ちゃん?どうしてりんくちゃんちを隠し撮りしょうとしてたん?」

 

 そう、肝心なのはそこだ。アメリカからはるばるやってきて、わざわざ私の家を盗撮しようとしたワケって……??

 そらりんに笑いかけられたジェミニちゃんは途端に顔を赤くして力説する。

 

 「か、隠し撮りとは失礼ですねっ!?ニッポンに来た時には必ずここに立ち寄って、写真を撮るのが一番の楽しみなんですっ!!"キュアネットの母"と言われている東堂博士が生まれ育ったこの家……今すぐに世界文化遺産に登録してもいいくらいの重要文化財ですっ!!」

 「……え~っと……ウチが世界遺産になっちゃったらそれはそれでメンドーなコトになりそうな気が……( ̄▽ ̄;)」

 「ジェミニはりんくのおばあちゃん……東堂博士の大ファンなのよ。早く博士といっしょに研究とかをしたいからって、去年飛び級で大学卒業しちゃったくらいだもん。確か……"えむあいてー"だっけ?」

 「「大学~~~!?!?!?」」

 「あらまぁ~♪」

 

 なんと!この子、もう大学を卒業しちゃってるってことですか!?て、天才です!!マジモンの天才!!

 確かに見た目からはインテリ感がするというか……主にメガネが。

 

 「"好きなコト"を突き詰めていっていたら……いつの間にか大学を出てただけですよ。……まぁ、"やりたいコト"への近道にはなりましたけどね」

 「やりたいコト?」

 「ええ―――――」

 

 ジェミニちゃんのメガネが、キラリと光るのが見えた。

 

 「"未知"を―――――"倒す"ことです」

 「…………へ?(・ ・;)」

 「"知らない"コト―――――"未知"は、ワタシにとっては"敵"なんです。だから"倒さなければ"なりません。"未知"を"倒して"、"知らない"を"知っている"に、"未知"を"既知"に変えること……"知る"こと……"真実を明らかにする"ことこそ、ワタシが今、一番やりたいコト、なんですよ……♪」

 

 この時、ジェミニちゃんの表情が―――――

 ヤケに凶悪に見えたのは、気のせいだっただろうか。

 "知る"ということを"倒す"と表現するあたりから、なんだかちょっと語気も変わったようにも感じた。

 

 「そーいや最近、なんか仕事始めたってメッセに書いてたけど……」

 「まぁ、雇われですけどね。今回はいつもの"メンテ"もありますけど、お仕事絡みでお会いしたい方々もいらっしゃって、その挨拶にも、と……少し長めにお世話になるかもしれませんが、よろしくお願いします」

 「毎度のことじゃん♪でもウチにいる間は……」

 「わかってますよ♪パン作りも、実にいい気分転換になりますから♪」

 

 ということはジェミニちゃん、むぎぽんの家にしばらくいることになるワケね。でも、大学卒業してるわけだし、ウチの中学に転校してくるわけじゃなさそう。

 おばあちゃんの大ファンって言うから、おばあちゃんのお話いっぱいしてあげようかなって思ったんだけど……

 そうだ!それならメッセのアドレスを交換すれば―――――と思ったその時、宅配便のトラックが私達の横を通り過ぎていくのが見えた。

 それを見たジェミニちゃんが、「コレはマズいです……!」と小さくつぶやいた。

 

 「恐らくあのトラックにワタシの荷物が……!トンデモない量なんですよ!!今お店に横付けされたら実にヤバいことになります!!ムギ、急ぎましょう!!それでは皆さん、また今度っ!!」

 「ええ~~!?もぉ、わかったわよぉ!……ごめん!また明日ね!」

 

 ジェミニちゃんを追って、むぎぽんもダッシュで走り去る。曲がり角の向こうに、ふたりの姿が消えていった。

 

 「な……なんか、あわただしい子だったね……」

 「僕のことを"アイアンフィスト"って呼んでたけど……どういうことだろう……?」

 「それじゃ、わぁはこっちだけん、また明日なぁ♪おふたりとも、ごゆっくりぃ♪うふふ……♪♪」

 

 そらりんは何故か意味深に笑いながら―――――というか、いつも通りの細目のままで、T字路の向こう側へとご機嫌な様子で歩いて行った。

 でもどうして『ごゆっくり』……??

 なんかそらりん、時々よくわかんないコト言ったりするんだよねぇ……特にほくとくん絡みのことになると……

 時折、私とむぎぽんに注がれる『全てをわかってる』ような視線っていったい……?

 

 「じゃ、じゃぁ、僕もここで……また明日!」

 「……うん、また明日!」

 

 私の家の前で、ほくとくんと別れて、我が家に入る。

 ふと、靴箱の上のデジタルフォトフレームに視線が止まった。ちょっと前のおばあちゃんが、私に笑いかけている。

 

 「おばあちゃん……おばあちゃんが好きって子が、アメリカから来てくれたよ―――――」

 

 ジェミニちゃんのことを思い出して、ちょっとうれしくなって、思わず語りかけちゃった。

 おばあちゃんを目標にして、勉強して大学まで卒業して、いっしょにお仕事したいって子が、はるばる訪ねてきてくれたんだもん。

 なのにおばあちゃん、今どこで何してるのやら……最後に連絡貰ったのが今年の年賀状で、私の13歳の誕生日にはプレゼントも何もなかったし……せめてひと声でもいいから、おばあちゃんの声が聞きたいなぁ……

 …………それにしても、おばあちゃんって…………

 

 

 「…………(わっか)……」

 

 

 ……SAVE POINT




 実は今回からちょっと思う所がありまして、過去投稿分も含めてそらりんの一人称を変更してます(わたし⇒わぁ)。
 さらに方言女子度がアップ……してますかねぇ?

 それにしてもジェミニちゃん、一体何者なんだ……??


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

S.A.V.E.SYSTEM

 先日の投稿からこっち、ランキングに載ったりUAやお気に入りがトンでもないことになったりして、ありがたく思うと同時に恐縮にも思っている稚拙です……

 こりゃ、半端なモノは書けませんな……身の引き締まる思いでキーボードを叩く毎日です。

 さて今回、Dr.Gの『虎の子』がついにメモリアとデータの前にその姿を現します……!!
 それから……キュアマリンファンの皆様には今回のマリンの扱いについて先にお詫びを申し上げておきます……
 それでは、送信ッ!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 その日の夜―――――異変はやっぱり突然だった。

 ママの悲鳴が家中にこだまして、慌ててキッチンに駆け付けると、キッチンの蛇口からドバドバと水が―――――

 ……って、これってつい最近見たことあるんですケド!?

 まさかと思ってネットコミューンを取り出すと、やはりというかなんというか、メモリアのイーネドライブが真っ赤にギラギラ光ってた。

 それに、むぎぽんやそらりん、クラスのみんなからもメッセが来て、みんなの家も同じ状況みたい。

 つまりはこの間こども園にやったことを、今度は町全体でやろうってコト……!?

 

 《りんく!あたしをキュアネットに送って!》

 「おk!頼んだよ!」

 

 これをやるのも久々だ。なにしろ、最近はいきなり現実世界にバグッチャーが出てきて、私が直接変身してたから。

 あわてて部屋に取って返すと、私はネットコミューンのアプリアイコンをタップしながら叫ぶ。

 

プリキュア・オペレーション!!

 

 コミューンの画面の中で、メモリアが光の球体に変化して、光のリングが現れる。

 あれ?1、2、3………………13??

 今までこの時に現れていた光のリングは、『12個』だったよーな……目の錯覚かな、まいっか。

 ともかく、今度は町ごと水攻めなんて、絶対にさせないんだから!

 

 「頼んだよ……メモリア!」

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 「デリーートーーーーーーー!!!!」

 

 ―――――どっか~~~~~ん!!!

 

 「ぬぅぅぅぅッッッ!!!まさか実体化前にバグッ()ャーをデリートされるとはッ!!力を上げているというのかッ、プリ()ュアッ!?」

 「ケッ、バカ言ってんじゃねー!アタシたちプリキュアに……ことにこのキュアデータ様に、同じ手が二度通じると思うなってんだ!!」

 「前回のキュアマーメイドのバグッチャーも水のバグッチャーだったからね!水対策は万全だよ!」

 

 (らっく)勝!今回のバグッチャー、な~んかあっけなかったなぁ。

 今回のバグッチャーは、前にキュアネットで見た、『水上バイク』に似たカタチだった。

 でも、マーメイドのバグッチャーと違ってピースサンダーがフツーに効いて、動きが止まったところでビューティブリザードでカチンコチンに凍らせて、最後は鉄拳粉砕!

 ……もしかして、もうネタ切れなのかなぁ?

 

 「次はこうはいかんぞッ!!」

 

 そう言い捨てて、スパムソンは消え去った。

 

 「イーっだ、二度と来るなぁ~っ!」

 「ま、来たら来たで盛大に歓迎してやるけどな♪……さて、"今回のプリキュア"がお待ちかねだ」

 

 あたしが拾い上げた水色のキュアチップから、イーネルギーが舞った。そこから現れたのは―――――

 

 『いやぁ~、戦いを1文字も書かれずにやられちゃうなんて思わなかったよぉ~♪( ̄▽ ̄)どんな風に戦ってくれるのか楽しみだったんだけど、まさかの出オチなんてどーなってんのさぁ~!?p(>△<)q説明してよね~!!!』

 「…………アンタかよ……『ハートキャッチプリキュア』のサブリーダー……(-_-;)」

 「……"海花(かいか)のマリン"……(-_-;)」

 

 キュアマリンって、時々よくわからないコトを言うんだよね。『書かれる』とか『出オチ』とか……なんのコト?『誰』に説明してもらうの??

 前にもりんく、どっかヘンな方向を見て、『誰か』に話しかけるようにしゃべってたこともあったし。まるでりんく達以外の『誰か』があたし達のことを見てて、その『誰か』に話しかけてるみたい……。

 

 《えりかちゃん……ホンモノもフリーダムだ……(汗)》

 『?もしかして、メモリアのユーザーさん?あどーもどーも、ウチのメモリアがお世話になっておりまして♪( ̄▽ ̄)』

 《ふぇ?いえいえこちらこそ、メモリアにはお世話になりっぱなしで……》

 「オカンかよッ!!」

 『それでそっちがデータのユーザーさん……って!?まさかまさかの男の子!?……え……データ、じょーだんだよね?いつきみたく男の子のカッコをした女の子……だよね??(〇 □ 〇;)』

 「んなワケあっか!正真正銘、アタシが選んだ最強の男だ!」

 《ど、どうも……》

 

 まぁ、最初はそんなリアクション取るよね……他のみんなも驚いてたもん。

 今から思えば、みんなが心配してたのはマトリクスインストールのコトだったのかも。男の子が男の子のままで『あのカッコ』はキッツいよね……

 でもどーして、ほくとはマトリクスインストールすると、女の子になっちゃうんだろう……?

 

 『(〇 □ 〇)………………ま、いっか。(・o・)その様子だとイイ感じにやってるみたいだし、データが選んだんなら、アタシも信じるっきゃないっしょ♪期待してるヨ、男の子!』

 《き、期待されます……》

 『そいじゃま、何かあったら呼んでね~♪』

 

 ウインクしながら手を振ったマリンは、イーネルギーのフィルターの奥へと消えた。そしてチップは流れ星のように、リアルワールドのりんくの元へ飛び立っていった。

 レジェンドプリキュアの中で一番にぎやかなマリンを取り戻せたし、キュアットタブの中も明るくなりそう!

 ……でも、マジメなビューティやエースやマーメイドがいることをまだ知らないんだよね……―――――

 

 《おっけー!キュアマリン、キュアっとレスキュー!!》

 「これで13人かぁ……まだ先は長いね」

 「なぁに、このペースなら、そう時間はかからねぇさ。タブを満員すし詰めにしてやろーぜ!満員電車みたいにさ♪」

 「ソレって詰めすぎだよぉ~♪」

 

 データだったら、ホントにやっちゃいそうだなぁ……

 でも、やんなくっちゃ。あと45人のレジェンドプリキュアたちを、必ず助けなきゃ。

 それにその中には、"せんせい"もいる―――――

 今ごろ、どうしてるんだろう……"せんせい"、キュアチップにされて動けずにいるんだよね……

 待ってて、"せんせい"……あたしが……あたしたちが、必ず―――――

 

 《メモリア!!》

 「!」

 

 りんくの声と同時に―――――殺気が飛んできた。

 データといっしょにとっさに飛び退くと、足元で何かが火花を散らせて弾けた。

 ―――――これって……!?

 

 「ンだァ!?将軍サマのご帰還かぁ!?未練がましいんだよさっさと出てこいやぁ!あ゛ァッ!?」

 

 目をツリ上がらせてがなるデータ。こんなコト言うのもなんだけど、どっかのプロレスラーのにんげんさんみたいにすんごくオラついてる……この様子はキュアットタブにいるみんなにも見えてるから、あとでまたエースやビューティからお説教されるんだろーなー……あたしもとばっちりで。……って、そんなこと考えてる場合じゃないよね……!

 殺気が飛んできた方向を見上げると、今度は2体の銀色の物体が猛スピードでこっちに突っ込んでくるのが見えた。あたしは右側に、データが左側に避けると、"銀色"はその間を突っ切っていく。

 2体の"銀色"はそのまま進んだかと思うとピタリと止まって、くるりとこちらに向き直った。ようやく、その全体像が見えてくる。

 全身メタリックシルバーの胴長のカラダに、一対の翼。りんくの家に来てから知った、『くりおね』っていうリアルワールドの生き物によく似た形をしていた。

 

 《あれって……バグッチャーじゃない……なんなの……!?》

 《いきなり攻撃してきたんだ……味方のはずは……ないだろうね……!》

 

 りんくとほくとも驚いてる。その見た目もそうだけど、気配もバグッチャーのそれじゃない。バグッチャーが出してる、『ぴりぴり』した気配を、コイツからは感じない……。

 でも―――――

 

 「おい……メモリア―――――……!?」

 「う……。……うん。わかる」

 

 ―――――知ってる。

 あたしは―――――この気配を、知ってる。

 データも同じだ。『信じられないモノを見た』ような表情が、それを物語ってる。

 でも、どうして、"こんな姿"になってるの―――――……!?

 どうして、この2体の"ヘンなの"から―――――

 

 《やはりこちらでしたかぁ……♪"XV"の反応がありましたからもしやと思って来てみれば……今日はツイてますねぇ……♪》

 

 ねっとりとしたブキミな声が、あたりに響き渡る。この声って……!

 

 《《Dr.G……!!》》

 

 りんくとほくとが同時に叫ぶ。

 

 《アナタの『お友達』のおススメで、ニッポンに会いに来ちゃいましたぁ~……♪回りくどい事はもうナシにして、このワタシがちょ・く・せ・つ……じ・き・じ・き・に、アナタたちを調べさせてもらうことにしたんですよぉ♪》

 「直接って……りんくが言ったのはそういう意味じゃないのに……!」

 「おい!……なんなんだこの"メタル野郎"は……!! それに、この気配は……!!」

 《あぁ、そういえばこちらもご紹介していませんでしたねぇ―――――》

 

 どくたーさんは、小さくつぶやいた。

 

"プロトセーブ"―――――起動

 

Yes,ma'am

 

OK,her

 

 "ヘンなの"が、感情のこもってない、女の子のような声を出した。同時に、目にあたる部分に一つ目のような光が灯った。向かって左側は紫、右側は緑色の光―――――

 

 《"セーブ(S.A.V.E.)システム"―――――Speciality Anti Virus Eraser SYSTEM……"対特殊コンピュータウィルス用強化型ワクチンプログラム"といったところでしょうか。"この子たち"は、そのひな形です。名前通りの試作型とはいえ、アナタたちがキュアネット上で戦ってデリートしてきた"XV"と戦っても、圧勝できるほどの戦闘能力を持ち合わせておりますので》

 「……データ…………」

 「あぁ?」

 「…………言ってるコト、全然わかんない」

 「……心配すんな、お前がわかんなくても問題無ェことだ―――――……で?その大した名前のヤツをどーしてアタシ等にけしかけんだ!?……テストすんならバグッチャー相手にやりやがれってんだ!!」

 《"バグッチャー"……?"XV"のコトですか。一つ情報、実に感謝します♪》

 「戦わなきゃいけない理由を聞いてんだってば!」

 《知れたコトですよぉ♪…………ワタシは、アナタたちのコトを『知りたい』、それだけなんです♪でも……アナタたちはなぁんにも教えてくれません……どこで生まれたのか、どうして存在してるのか、何が目的なのか……そもそもどんなプロトコルで構成されているのか、どんなプログラム言語が用いられているのか………………その、『すべて』を、ワタシは、『知りたい』だけ…………♪♪》

 

 ねっとりとした声とともに、イヤな予感が、あたしの中で広がっていく―――――

 

 《ワタシにとって"未知"は"敵"……アナタたちの存在はまさに世界にとっての"未知"……!!……『知らないこと』は『知らなければ』……『わからないこと』は『わかるように』しなければ……(つまび)らかにしなければいけないのです》

 

 そしてそれは、次の瞬間あたし自身に襲い掛かる―――――

 

 《…………だから、教えてください♪アナタたちの、"スベテ"を―――――》

 

1バイトたりとも(のぉこぉ)らぁずぅぅぅぅぅぅ↑↑!!!!

 

 2体の"プロトセーブ"が、どくたーさんの声と同時に突っ込んできた。モノ凄い瞬発力にとっさの回避も出来ずに、あたしとデータはそのまま真正面から受け止める形になった。

 一つ目の顔が、あたしの視界に大写しになる。ひときわ、瞳のように灯る紫色の光がブキミに光る。

 

 《あぁそうですぅ!!もぉし痛かったら、手を挙げてくださいねぇぇ!!》

 「歯医者かよッ!!」

 《も・っ・と・も……ワタシはアナタたちに『痛覚』があるのかどうか『知りたい』だけですので―――――》

 

 ジャキッ!!という音とともに、"プロトセーブ"のボディが両開きになった。中には円のように並べられた、黒光りする砲身があたしに向けられていて―――――

 

痛くてもやぁめませぇんけどねぇぇ~~↑↑!!!!

ウェヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!!

 

 紫色の光があたしの視界を覆って、全身に痛みが走って―――――

 あたしは吹っ飛ばされていた。

 ついでに意識まで吹っ飛ばされそうになる―――――

 

 《メモリアぁっ!!》

 

 ―――――けど、りんくの声が意識と身体をつなぎとめる。空中で受け身を取って着地すると、"一つ目"をぎょろぎょろと動かしてあたしの様子をうかがう"プロトセーブ"をにらむ。

 

 《Attack Mode》

 

 "プロトセーブ"はそう呟いたとたん、背中からうねうねと2本の腕を伸ばして、その先っぽを大きな鉄球のように変形させた。

 

 「げっ!?」

 

 あたしに向かって躍りかかった"プロトセーブ"は、腕の先の巨大鉄球を容赦なくあたしに振り下ろした。

 ―――――これだけはくらっちゃいけない!

 その一心で、死に物狂いで飛び退いた。鉄球がさっきまであたしのいた場所に打ち付けられて、爆音のような音といっしょに、キャッシュデータが土煙のように舞った。

 鉄球が振り下ろされた地面には―――――ぽっかりとクレーターができていた。

 

 「や……ヤバいよ……コレ……!!」

 

 スゴい攻撃力……こんなのまともにもらっちゃったら、一発でバラバラ確定だよ……!!

 

 「言うだけのことはあるな……!!コイツ、ヘタなバグッチャーよりも強い!」

 

 一方で、データはもう1体の"プロトセーブ"の回転体当たりをさばいていた。"プロトセーブ"はデータにぶつかった反動で間合いを離すと、両腕のハネのような部分を、『前ならえ』のようにぴんと伸ばした。

 

EMERALD ACCELERATION

 

 緑色の光の輪っかが腕から出てきたと思うと、輪っかと輪っかの間からピンク色のビームが発射された。

 

 「ッ!?」

 

 データが目を見開いたのを見た―――――それも一瞬で、データはビームの奔流に呑み込まれた。ビームが命中したキャッシュデータの地面が、大爆発を起こした。

 

 「……データぁっ!!」

 

 背筋がぞっとして、思わず悲鳴のような声が出た。もうもうと立ち上る煙の中に、あたしは思わず突っ込んでいた。

 うつぶせに倒れていたデータを見つけた時は、胸が()し潰されそうになって―――――

 

 「データ!しっかりして!データっ!!」

 「………………泣きそうな声出すんじゃねェよ」

 

 ぴくりと指を動かして、あたしを見上げながら、データは笑ってた。

 

 「伊達に"お師さん"に鍛えられちゃないさ……あんなビームの1発や2発、ブチ込まれたトコで大したこたねェよ……」

 

 立ち上がってホコリをはらったデータは、鋭い視線を2体の"プロトセーブ"に向けた。

 

 「それよりもよ……見たか、今の……」

 「!……うん……そっくりだった……!」

 

 さっき、緑の目の"プロトセーブ"が使った技に、あたし達は見覚えがあった。

 

 《キュアフェリーチェの……"エメラルド・リンカネーション"……だった……!?》

 

 りんくの震える声が降りてくる。それに、紫の目の"プロトセーブ"は―――――

 

 《それに……あっちのパンチ……地面にクレーターを作るほどのパワー……まさか……ミルキィローズ……!?》

 

 やっぱり―――――りんくもわかってたんだ……

 データは2体の"プロトセーブ"を睨んだまま、その"向こう"にいるどくたーさんに向かって―――――

 

 「説明しろ……」

 

 今までに聞いたコトのないくらい、怒りのこもった声で叫んだ。

 

 

 「どうしてこいつらから……ミルキィローズとキュアフェリーチェの気配がするんだッ!?」

 

 

 そう―――――この2体の"プロトセーブ"から感じたのは、懐かしさ。

 ジャークウェブにキュアチップにされてさらわれたはずのローズとフェリーチェが、どうしてどくたーさんのところに―――――

 それに、"こんな姿"になって……

 

 《もしや……"ローズ"と"フェリーチェ"の"Cプログラム"のことをおっしゃっているので?またまた情報、実に感謝です♪》

 「答えろッ!!ふたりに何しやがったァッ!?返答次第じゃタダじゃおかねェぞ、あ゛ァ!?」

 《何って……そうですねぇ~……ワタシは"拾ったモノ"を"使ってる"だけに過ぎませんよぉ?》

 「まさか……ふたりのキュアチップを"プロトセーブ"に…………!?」

 

 最悪の予想だったけど、あたしは問わずにはいられなかった。

 

 「ローズとフェリーチェを…………"ソレ"に……―――――?」

 

 少しの間、どくたーさんは押し黙って、こう答えた。

 

 

 《……『そうです』と言ったら…………どうなさいますぅ?♪》

 

 

 ――――― ! ―――――

 

 

 はっきりと―――――

 

 あたしの中で、何かが『切れる』音が聞こえた。

 

 そして―――――

 

 頭のてっぺんから手足の指先まで―――――

 

 『熱氣』が浸透して、燃え上がった。

 

絶対にィィッッ!!!

許さないッッッ!!!

 

 "せんせい"は―――――

 『怒りは、『頭』ではなく、『体』に溜めろ』って言ってた。

 でも、今、この瞬間だけは、"せんせい"が止めても、あたしは止まんない。

 

 怒りのままにパンチを繰り出す―――――

 熱さに急かされキックを放つ―――――

 

 一撃、一撃、叩き込むたびに―――――思い出してくる。

 

 ときどき修行の様子を見に来てくれたローズが、戦い方のコツを教えてくれたこと。

 

 くじけそうになった時、フェリーチェが応援してくれたこと。

 

 そのふたりの笑顔も、あたし達の取り戻すべきモノだった。

 

 ―――――それなのに―――――

 

 ―――――それなのに!!

 

 

 《急激な出力の上昇……ウェヒヒヒッ、感情をダイレクトにエネルギーに変換するとは、まるで『人間』みたいですねぇ!!いい!E!!実にイイイイイィィ!!!!ここまで詳細な記録ができるとは実に僥倖、実に幸運ンン~~!!さぁここからですよぉ~!!見せてください、アナタたちの『スベテ』を!!大人しくワタシに!世界に!"あのひと"にぃぃ!!!真実を曝け出してくださいぃぃぃぃ!!そして証明するのです!……"あのひと"の理論を!"博士"が正しかったことを~~~~~~↑↑↑!!!!!!》

 

 どくたーさんの言葉が、あたしとデータの怒りをあおる。でも、もう、このにんげんさんの言葉は聞かないことにした。元々言ってることは全然わかんなかったけど。

 もしあたしがバグッチャーみたいにリアルワールドに出られるのなら、今すぐ出たい。

 そして、このにんげんさんを―――――どくたーさんを思いっきり―――――

 

 

殴  り  た  い

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 《コレ!コレです!!実にコレですぅぅぅ!!!アナタたちが殴り、蹴り、投げ、跳ぶ!その度に真実へと!!Q.E.Dへとち・か・づ・い・て・い・くぅぅぅ!!!見せてください!もっと、もっと、もっと、もっと!!!!!アナタたちにはそれを見せる義ぃ務があるんですぅぅ!!それがワタシのため!世界のため!!"あのひと"のためぇぇぇぇ↑↑↑!!!!ウェヒッ、ウェヒヒヒッッ!…………ウェヒヒヒヒヒヒ!!!!!》

 《しゃべるなあああぁぁぁぁああぁぁぁあぁあぁぁ!!!!!!!》

 《生きてここから帰れると思うなド外道がァァァァァァッッッ!!!!!》

 「メモリア!落ち着いて!私の声を聞いて!メモリアぁっ!!」

 《データ!抑えて!怒りに身を任せちゃいけない!!こういう時に冷静になれって言ったの誰だよ!?》

 

 だめだ……メモリアもデータも、私とほくとくんの言葉が全然聞こえてない……

 それにさっきから、ネットコミューンが異常に発熱して、しかもありえないくらいに振動してる。

 それこそ、スマホを握りつぶすぐらいに、両手で思い切り持っていないと、今にも私の手からすっぽ抜けていきそうな勢いだ。

 これは―――――メモリアの怒り―――――……

 私にもわかる。私だって、Dr.Gがやったことを許せない。

 ミルキィローズとキュアフェリーチェ―――――くるみちゃんとはーちゃんが変えられたままのキュアチップを、"プロトセーブ"に組み込むなんて……!

 事情を知ってるか知らないかわからないけど、でも、これだけは言える。

 

 ―――――プリキュアは『モノ』じゃない!!

 

 たとえキュアチップに姿形を変えられても、その中には確かに、『生きてる命』が、魂が宿ってる!

 それを"あんなモノ"に閉じ込めて、力だけを引き出して利用するなんて、バグッチャーを作ってるジャークウェブと同じ!

 でも、メモリアとデータの怒りは尋常じゃない。まさか、ふたりのキュアチップは、バグッチャーとは『違うカタチ』で"プロトセーブ"に組み込まれているんじゃ―――――

 ううん、ダメだ!そんなコト考えちゃだめだ!そんな"最悪"のことなんか……!!

 どうにか……どうにかしなきゃ……!どうにかして、メモリアとデータに私とほくとくんの声を伝えなきゃ……!

 でも、今のメモリアには何を言っても聞いてくれないし……データはそれ以上に頭に血が上ってるし……

 なんとかして、ふたりの頭を冷やさないことには―――――

 

 

おちつけーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 そのとき―――――

 あたしが放ったパンチから、大量の『水』が突然噴出した。

 それは2体の"プロトセーブ"を押し流し、並んでいたあたしとデータの全身にどば~~!!!っと降りかかった。

 

 《………………………………………………は?》

 

 あたしもデータも、"プロトセーブ"もみんな、ずぶぬれになって思わず動きを止めてしまった。

 ってか……これって……なんなの……??

 あたしの視界のすみっこには、四角いワクの中に、きょとんとしてるりんくの顔が映ってた。そして、その下のワクには―――――

 

 《頭冷えた?》

 「…………キュアマリン…………?」

 

 どうして、さっきキュアチップに戻って、リアルワールドに出てったはずのマリンが……??

 それはりんくも同じだったようで、すぐさまツッコミを入れていた。

 

 《ど、どーやってコミューンに!?マリンのチップ、さっき受け取ってキュアットタブに入れといたはずだけど!?呼び出した覚えもないのに!?》

 《どうやったかアタシもよくわかんないんだけどね……あえて言うなら―――――気合よっ!ふんす!!》

 《き、気合!?》

 《伝説の戦士であるプリキュアたる者、気合があればなんでもできるのよ!……たぶん》

 「たぶんかよ!?」

 《そんなコトより!詳しいコトはタブの中にいたみんなに聞いて、ふたりの戦う様子を見てたけど、何よさっきまでの戦い方ぁ!?"ぷっつん"しちゃったらマトモに戦えるわけないじゃん!短気は損気!》

 「で、でも!ローズとフェリーチェが……!」

 「あぁ……!あの"メタル野郎"に改造されて―――――!!」

 

 まくしたてるあたしとデータに、マリンはため息をついて、あきれるように肩をすくめた。

 

 《あのさぁ……あっちの言ってるコト真に受ける必要なんてある?もしかしたら、メモリアとデータを怒らせるためにウソついてるかもしれないじゃん》

 「!……そりゃ、そうだけど……」

 《でしょ?でもま、ふたりの感覚は信じてもいいかもね。こうしてコミューンの中にいると、ふたりの気配、アタシも感じるよ―――――》

 

 言葉の後半から、マリンの表情が険しくなった。こんな顔するマリンって、めったに見たコトが無い。マリンって、ほとんどいつも笑ってるから―――――

 

 《…………確かめてみなよ》

 「え……?」

 《ウソかホントかわからないんだったら……あの"銀色の"を動けなくしてからつかまえて、じっくり調べればいいんじゃないかな?……後の結果がどうなるかはさておいて、さ》

 「…………マリン、アンタ……」

 《メモリア!アタシの力も使って!……もっともあんたに使いこなせるかわかんないけどね~?》

 「とーぜん!りんくといっしょに"ぶるーれい"を見て、マリンのことも勉強したもんね!」

 「そーいや、マリンタクトパクられたってのも見たぜ?それに夏休みの宿題のこととか―――――」

 《あ゛~!!それはダメ!言っちゃダメ~!!アタシの黒歴史~~!!》

 

 あわてるマリンを見て、思わずあたしとデータは笑みをこぼした。

 でもって……笑ったら、さっきまでまわりが見えないくらい怒ってたのがウソみたいに、清々しい気分だった。

 それに―――――前向きになれた。

 りんくの言ってた、『HUGっと!プリキュア』のみんなと同じだ。『この目で見てない』のに、決めつけちゃうってよくないよね。

 マリンの言うとおり―――――確かめなきゃ。本当に、"プロトセーブ"の中にふたりのキュアチップがあるのかを。

 ふたりが、無事でいるかどうかを―――――

 

 《キュアネット空間の中にこれほどの水量を生むとは……"別のCプログラム"をインストールしたようですねぇ……これはオドロキです!汎用性まで持っているとは、いよいよもって魅力的じゃないですかぁ♪……それにしてもさっきまで一体どなたとやり取りを……??》

 「……悪人には見えないありがたい先輩(カミサマ)が"降りて"きたのさ。おかげでやるべきコトもはっきりしたしな♪」

 「あたしたちは……"プロトセーブ"に勝つよ!そんでもって―――――」

 

 あたしは"プロトセーブ"をびしりと指さして、宣言した。

 

 「『お持ち帰り』しちゃうもんねーっ♪」

 《な・ん・で・す・と・っ!?》

 「アタシ達が勝ったら、"メタル野郎"はアタシ達のモノだ!持って帰ってじぃ~っくりね~っとり調べさせてもらうぜぇ……ぐへへ」

 「データぁ、なんかイヤらしいよぉ……」

 

 データったら、ドコまで本気なんだろ……これには苦笑いするしかなかった。

 でも、『持って帰る』のはマジ本気!どうやって持って帰るかは……とりあえずボッコボコにしてから考える!

 

 《な……なんと!ゴートーですか!?強盗行為に及ぼうというのですか!?しかも"プロトセーブ"に……我が子にも等しい"プロトセーブ"に!?ゆ、許せませんっ!!これはもはや強盗ではなく誘拐!拉致!!監禁ですっ!!》

 「どの口が言いやがるッ!?」

 「ローズとフェリーチェを誘拐して、そんな姿にしちゃったのはアンタのくせにっ!」

 「ちょーどいい……"メタル野郎"をかっぱらうついでに、キュアチップをどこからちょろまかしたのか、身代金代わりにアンタに吐いてもらうのも悪かねぇなぁ……♪」

 《きょ……凶悪すぎます!極悪ですっ!!いったい"コレ"のどこがプリキュア、どこがヒーローですか!?完全に犯罪者の思考ですッ!!》

 《データ……さすがの僕もそう思うよ……》

 

 ほくとの苦笑いが視界の隅の四角いワクに見えた。悪ノリはその辺までにした方がいいって……

 

 「どくたーさん……しょーぶだよっ!」

 「仕切り直しの第2ラウンドだァァァァッッ!!」

 

 あたしもデータも、もう怒りにはとらわれない。

 やるべきことを、力いっぱいやるだけだ。

 

 待ってて―――――ミルキィローズ、キュアフェリーチェ―――――

 

 あたしたちが、絶対に助けてあげるから!

 

 ……SAVE POINT




 今回稚拙が書いてて一番楽しかった場所……それは―――――

 Dr.Gのセリフだったり。

 書いてて『あぁ、稚拙ってホントドSだなぁ……』と改めて自覚したり……

 それから、この度の豪雨災害に遭われた方々には心からお見舞い申し上げます……
 前回も含めた今回の『水攻め』、豪雨災害が起こる前に考案していたものでして……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Show must go on

 空現流奥義大全

 参式落烈破城槌(サンシキラクレツハジョウツイ)・"金剛砕(コンゴウサイ)"

 『踵落とし』にカテゴライズされる『戦槌術』のひとつで、空現流本来の技『甲技』。
 跳躍から、相手の頭頂部を目掛けて氣を帯びた強烈な踵落としを見舞う。
 "流星(ナガセ)"同様、イーネルギーを帯びることで通常の踵落としのそれとは比較にならない破壊力を生み出し、バグッチャーの頭頂部から入った衝撃で校庭のグラウンドが広範囲にわたってひび割れるほどの威力を発揮する。
 元は戦国時代の合戦において、人体最大の弱点である『頭部』を兜ごと粉砕する目的で編み出された技とされる。

 試製零式電脳砲(シセイレイシキデンノウホウ)・"蒼月火矢(ソウゲツヒヤ)"

 『氣弾』にカテゴライズされる『砲撃術』のひとつで、ほくとオリジナルの技『乙技』。
 イーネルギーを右の掌に集中・圧縮し、球体状の青白い光弾として発射する。命中と同時に圧縮されたイーネルギーが炸裂・大爆発を巻き起こす。
 プリキュアのキメ技クラスの威力を持つ一方でエネルギー消費も激しく、連射は出来ず、一発撃つだけで放熱が始まってしまうほど。
 変身後のキュアデーティアの中で循環するイーネルギーを効率的に攻撃手段として転化できないかとほくとが研究し、編み出した技である。『試製』と銘じているようにまだ試行錯誤段階の技であり、更なる洗練の余地を残している。
 なお空現流拳法には、イーネルギーを使わず、体内の『氣』を練って、氣弾として発射する技も実際に存在し、ほくとの祖父や父は実際に『波〇拳』じみた氣弾を撃てるらしい……!?

 ――――――――――

 最近21XX年でイレギュラーハンターをやってる稚拙です。

 さて今回は『総力戦』!!

 メモリアとデータが、りんくとほくとのみならず、レジェンドプリキュアたち全員の想いと力を結集し、Dr.Gとプロトセーブに立ち向かう『第2ラウンド』を送信!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

 NPC  Dr.G

 

 ――――――――――

 

 拝啓、東堂博士―――――

 

 今、ワタシは―――――

 

 絶っ!頂ぉぉ!!の中にいますぅぅぅぅ~~~↑↑↑!!!

 

 ワタシと博士が追い求めてきた"未知"が、力の限りにて・い・こ・う(抵抗)してきてるんですぅぅぅ~~~↑↑↑!!!!

 いい!イイ!!実に実にEですよぉぉぉ~~~↑↑↑!!!!

 博士!博士!!どこかで見ていらっしゃいますかぁ、はぁかぁせぇぇぇぇ~~!!

 アナタの"仮説"が今ここに!!理論の中でしか存在しなかった"C-ORG"が、実際にワタシの"子供たち"と"遊んで"くれてるんですよぉ~~~!!!

 あの姿はまさに天使……とてもプログラム"のみ"で構成されているとは思えません……

 う・つ・く・し・いぃぃぃぃ………………↑↑↑↑↑!!!!!!!!!

 

 《勝負に勝ったら!!》

 《ローズとフェリーチェは渡してもらうぜぇっ!!》

 

 そうおっしゃいますけれど、ワタシだって"欲しい"んですよ……

 プロトセーブといっぱい戦って、アナタたちの"構成"を、最後の1バイトまでお見せいただかなくてはねぇ……

 だ・か・ら―――――

 

 「お渡しするわけには行きませんねぇぇ~~!!!」

 

 プロトセーブ"Type-(ローズ)"……攻撃システム起動―――――

 巻き込みなさい―――――"蒼き薔薇の猛吹雪"に!!

 

ROSE ENERGY BLIZZARD

 

 高速回転運動からのエネルギー弾の連射によって、自身を中心とした『渦状弾幕』を巻き起こす攻撃機能……巻き込まれれば、一般的なコンピューターウィルスならば数秒も経たず粉微塵に破壊(デリート)される威力です。

 さぁ、これも捌いてみてください……アナタたちならきっとできますよぉ……♪

 

 《これって、"ミルキィローズ・ブリザード"!?》

 《だったら巻き込まれないように距離を取ればいいだけだッ!止むまでやり過ごせ!》

 「1体だけならそれで正解なんですが……残念ながらタッグマッチなんですよねぇ……コ・レ・は❤」

 

 プロトセーブ"Type-(フェリーチェ)"……攻撃システム起動―――――

 鏖壊(オウカイ)せしめなさい―――――"翠玉の煌めきの光"の下に!

 

EMERALD TERMINATION

 

 もう一つの攻撃機能……"エメラルド・アクセラレーション"のエネルギーを広域放射……全てを終わらせる光の雨です。

 これでちょうど"ローズ・エナジーブリザード"の攻撃範囲をカバーできるハズ……逃げ場は―――――

 

 《まとめて吹っ飛ばすよ~~!!うおおおおおぉおぉぉぉぉーーーー!!!!》

 

 こ、これは……超高エネルギー反応!?

 "C1"がここまで……いえ、まさかインストールした"Cプログラム"を使用して……!?

 恐ろしく広い予想攻撃範囲が表示され、ワタシがあわててプロトセーブに退避指示を出した瞬間―――――

 

マリン!!ダイナマイトぉぉーーーーー!!!

\(> □ <)/

 

 ヤケクソ気味に両腕を天に掲げた"C1"の絶叫とともに、ディスプレイがホワイトアウトしました―――――

 しかし!しかししかし!!そんなヤケッパチのアプローチでは、ワタシのプロトセーブは簡単に陥落できませんよ……

 

 ただひとつ―――――『アレ』さえ喰らわなければの話ですが……

 

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 モノスゴい変顔のメモリアが一瞬映ったと思うと、青白い閃光でディスプレイがふさがれてしまった。

 なんと……ダイナマイトですか!?

 プリキュアの中では『個人技』がダントツに多いマリンの技の中で、まさかそれを選ぶとは……

 

 ……いいね!(グッ)

 

 いきなり使いこなしてるじゃん、マリンの力!

 

 〈DRIVE:P17 CURE-MARINE〉

 〈TIME LIMIT:00:23〉

 

 ディスプレイ上方の表示に目が行った。今使ってるキュアチップと、その残り時間が表示されているけど……

 ……って、さっきまで残り時間は2分以上あったのに、23秒!?

 

 「こ……これってどーゆーこと!?」

 《ぜぇ……ぜぇ……なっ、なにこれ……体力しぼり取られる感じ…………》

 

 ディスプレイの片隅に映るマリンが、必死の形相で息を切らしてる……

 まさか……メモリアやデータがキュアチップの力を使うときの時間制限って、体力式だったの~!?

 

 「マリン、大丈夫!?」

 《あ、命に別状ないから心配ご無用なんだけど……と、とりあえずもうカンベンして……》

 

 〈TIME LIMIT:00:00〉

 《CHIP EJECT!》

 

 カウントが0になったとたん、ディスプレイのマリンがプツン!と消えた。

 つまり……チップの力の時間制限は、大技を使うとさらに減っちゃうわけか……気をつけなきゃ。

 そして―――――私は覚悟を決めた。

 この戦いは、文字通りの『総力戦』になる。

 メモリアとデータだけじゃ、この"プロトセーブ"を捕まえるなんてできない。

 キュアットタブの中にいる、レジェンドプリキュアたちの力も借りなきゃ、きっと、勝てない―――――

 

 「……みんな―――――」

 

 ―――――そう思って、キュアットタブが置いてある机に振り返った私が見たのは、直立したタブと、その中で並んで立っている、12人のプリキュア達だった。

 ……その後ろで、マリンがうつぶせになって、ぐで~っと横になっているのが見えた。完全にダウンしてる……

 時間切れになったチップがどうなるのか気になってたけど、キュアットタブに自動的に戻るのね……

 

 《言葉は……必要なくってよ》

 「……エース……」

 《私達の大切な仲間を取り戻すために、メモリアとデータにに力を貸すわ》

 《そして……私達の……ヒトの持つべき『尊厳』を(けが)した者を―――――》

 《見過ごす訳にはいかないよ。たとえ、それがジャークウェブじゃなくって、同じ人間だったとしてもね》

 「……リズム……ビューティ……トゥインクル……」

 

 全員が、険しい表情だった。そして、その中の誰よりもくちびるをかみしめていたのは―――――

 

 《だから、りんくさん……!》

 《わたし達全員で、ふたりを……はーちゃんとくるみちゃんを、助けよう!》

 

 レモネードとミラクル―――――うららちゃんとみらいちゃんだった。

 他のチームの子たちよりも、たくさんの時間を過ごした、かけがえのない―――――

 

 ―――――友達以上の存在―――――

 

 それを奪われて、都合のいいように『改造』されて、意思を奪われ人形のように使われているその姿を見せつけられたふたりの気持ちは、身を引き裂かれる思いに違いない。

 

 「ありがとう……!行くよ、みんな……」

 

 そんなふたりの……ううん、みんなの、『ひとつになった覚悟』を私は受け取って、まっすぐな視線に静かにうなづいた。

 

 「全力で、メモリアとデータに力を貸して!!」

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

 ⇒  CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 《さぁ~っきはちょっとビックリしましたがぁ、あの程度のアプローチで機能不全を起こすほど、プロトセーブはヤワに造っていませんよぉぉ~!!先程の『誘拐宣言』には面食らいましたが、ワタシが逆にアナタたちを"ハイエース"しちゃいましょーかぁぁ~~!!?!?》

 《ちょ、ハイエースなんて言い出しちゃったよこのヒト!?》

 《東堂さん、ハイエースってどういうこと?クルマ??》

 《あ、あとで調べてっ!!(焦)》

 

 相変わらずキミョーなテンションの声が、"プロトセーブ"越しに降りてくる。……『はいえーす』ってなに??

 

 「自分の欲にまみれて他人様(ヒトサマ)にメーワク掛けやがって……!ニンゲンの中にも、ジャークウェブとどっこいのロクデナシがいるってこったな……!」

 「……データ……!」

 「ヘッ、わかってんよ!だからって、ニンゲン全員がロクデナシじゃないってこともさ!そうでなきゃ―――――」

 

 データは一気にジャンプして、緑の目の"プロトセーブ"に拳を振りかぶる。

 

 「ほくとやりんくと組んじゃいねぇさッ!!」

 

 強烈な右フックが横ッ面をとらえて、吹っ飛ばす。

 ―――――そうだよね。

 あたしだって、そう思う。にんげんさんがみんな、悪いコト考えてるなんて思えないから。

 けど―――――

 

 「あたしもっ―――――」

 

 あたしはまっすぐに、紫の目の"プロトセーブ"に駆け出す―――――

 プリキュアたちのことをこれっぽっちも大切に思っていない、悪いコト考えてるにんげんさんには―――――

 

 「……オシオキっっ!!」

 

 ―――――ローリングソバットをプレゼント!!

 ばぎっ!!という音が響いたのが聞こえた。続けて両手に力を込めて―――――

 

 「だだだだだだだだだだだだだだ!!!!」

 

 力押しだぁっ!!反撃なんてさせない!隙を見つけたら一気にキメろ!!"せんせい"なら、きっとこうする!!

 "プロトセーブ"がひるんだのを見たあたしは、相手のアタマを両手でがしっ!とつかんで、思いっきり頭を振りかぶって―――――

 

 「ぬぅぁっっ!!」

 ―――――ごんっ☆!!

 

 ―――――頭突きぃっ!

 前に、『体で一番カタい場所は頭』って"せんせい"から教えてもらってたし、それに―――――!!

 

 「いい加減にしてよねローズッ……!!」

 

 額を"プロトセーブ"の顔面にめり込ませたまま、あたしは紫色の単眼、その"中"にいるだろうミルキィローズに語り掛けていた。

 

 「こんなヘンな機械()に思い通りに操られるなんて、らしくないよ……!みんな待ってるよ!レモネードも心配してるんだから、出てきてよ!ねぇっ!!」

 《ppppppppppppppppppppppp》

 

 "プロトセーブ"―――――ううん、"ローズ"は何も言わずに、ただヘンな音を出して、『目』をチカチカさせて、あたしを『見て』るだけだった。

 あたしの言葉が届いているのかどうか、まったくわからない鉄色のカオ―――――

 

 《言ってる意味がよくわかりませんねぇ……説得のおつもりですかぁ?……お生憎ですが、プロトセーブにそういった情緒的なモノは『搭載』しておりません。というか、『できません』。鉄腕アトムやドラえもんのような『心を持った人工知能』は、現代の技術レベルでは未だ開発不可能なので》

 「どくたーさんっ!!……そっちの言ってることも、全然わかんない!!」

 《……では、実に端的にお伝えしましょう―――――》

 

 瞬間、『目』以外何もなかった"プロトセーブ"のカオが、グバァッ!!と、バケモノのように開いた。ギザギザの鋭い牙が、冷たく光るのが見えた。

 

 《アナタの言葉は―――――》

 

と・ど・き・ま・せ・ん

 

 ―――――ガブッ!!!

 

 "プロトセーブ"が前のめりにかみついてくるのを、あたしはとっさに身体をのけぞらせてかわした。

 ……あ、アブなかった……!!こんな攻撃まで仕掛けてくるなんて……!?

 

 「…………聞こえてんだろ、フェリーチェ!!」

 

 もう1体の"プロトセーブ"が発射する緑色の光弾の嵐をかいくぐりながら、データが叫んでいるのが見えた。

 

 「キャラじゃねんだよ!!いつもの甘々ド天然はどーした!?それとも戦ってる間はガチモードってのは変わってないってか!?……だったら"そんなの"から出てきて、直接()りやがれってんだ!!」

 《攻撃を防ぎなさい!》

 《OK,her》

 

 ジャンプして、そのままキックをぶつけようとするデータ。どくたーさんの言葉に、緑の目の"プロトセーブ"が答えると―――――

 

TOURMALINE FIELD

 

 ピンク色の光が"プロトセーブ"を包み込んで、データのキックをガードした。ピンクトルマリンのリンクルストーンの力も使うの!?

 弾かれたデータ目掛けて、"プロトセーブ"はそのままキリモミ回転しながら突撃してくる。

 

 「ナメんなよ……!テメェらが得意気に使ってくる技はよぉ…………―――――」

 

 空中で受け身を取ったデータは、突撃してきた"プロトセーブ"を真っ向から―――――

 

 「全部見たコトあンだよッ!!」

 

 ―――――ハイキックで蹴り上げた。蹴っ飛ばされた"プロトセーブ"はバリアを解除しながら、空中でふわりと受け身を取った。

 

 「……手札判ってる奴にドヤ顔で見せびらかして楽しむなんざ哀れみすら感じるぜ―――――」

 

 "プロトセーブ"を睨み上げるデータが、そう低く呟くのが聞こえた。

 

 《――――――――――――――――――――ずるい》

 

 すごく小さな声だった―――――けど、あたしには確かに聞こえた。そして―――――

 

 《ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい―――――ずるいですぅぅぅぅ~~~!!!》

 

 まるで小さな子供がダダをこねるみたいな、どくたーさんのわめき声がキンキンと響いた。

 

 「なん……なの……?」

 《だぁ~って!だぁ~ってぇ~!!アナタたちだけこちらの手の内が全部わかってるってずるいじゃないですかぁぁ~~!!??》

 「ずるいって……それはそっちがローズとフェリーチェのチカラを勝手に使ってるからで―――――」

 《ワタシは知りたいだけですのにぃ……この場でワタシだけアナタたちのコトを知らないなんてアンフェアですよぉ……ねぇ?教えてくださいよぉ……?イイじゃないですかぁ、ちょっとだけでもぉ……❤もっともっと仲良くしましょうよぉ~~……❤❤お互いを知って、知り合って、知り尽くして、互いに互いを確かめ合いましょぉよぉ~~~~❤❤❤》

 

 ボイスチェンジャー越しだけど、すんごいネコナデ声だってことはわかる。このどくたーさん、テンションの上がり下がりが激しすぎて、とてもついていけない……

 

 「なぁにが仲良くだぁ!?だったらハナッから襲ってくるんじゃねーよ!!いまさら何言いやがる!?」

 「それなら、ローズとフェリーチェを返してよ!!そっちがローズとフェリーチェを返してくれるんだったら……―――――」

 《………………あ、それは無理ですね》

 

 ふだんの調子に戻ったどくたーさんがアッサリと言った。

 

 《この2つの"Cプログラム"は、ワタシにとって実に大事な、大ぁい事な研究対象なんですよ……♪大切なコトだから2回言わせていただきました♪ですので、お渡しできません》

 「ッざけんな!!やっぱりテメェ、アタシたちをモルモット以下にしか見てねぇんじゃねぇか!!」

 「"プリキュアをプリキュアとして見ようとしない"限り、あんたとは仲良くなれない!」

 《…………………………実にヒドいですよぉ。そして実にザンネンですねぇ……お話の余地があると思ったのですが、やはりアナタたちはこの場で"お持ち帰り"して、ラボでじっくりしっかりのっぺりねっとりこってりふっさりもっさりさっぱりはっきりべったりと解析させていただくしかあぁりませんねぇ~~……♪あんなところからこぉんなところまで……じゅるり……❤》

 

 ヨダレをすする音が聞こえて、背筋がぞくりとふるえる。データも同じように感じたようで、ドン引きした表情を浮かべていた。

 

 《さぁてそうと決まれば茶番はこ・こ・ま・で……情報収集用の『スカウトモード』ではこんなところですかねぇ》

 「じょーほーしゅーしゅー……??」

 「手加減してくれてたんだとよ。……おおかたここから、『ちょっと本気出す』ってカンジか?」

 《お話が早ぁい!そちらの"C2"……水色の(かた)は口振りと違って中々のインテリのようで》

 「脳筋扱いは慣れてんだよ―――――本気出すなら出してきな!!」

 「あたしたちだって負けないんだからねっ!!」

 《そぉーですか!!それではお言葉に甘えて、モードチェェェンジと行ぃぃきましょ~~かぁ~↑↑!!》

 

"プロトセーブ"―――――"イレイザーモード"!!!

 

Yes,ma'am!

 

OK,her!

 

 "プロトセーブ"のコトバの感じが強くなるのが聞こえた。すると、紫の目の"プロトセーブ"が口をグバッと開けたと思うと、ググッと大きくなって、今までの『くりおね』みたいなカタチから、巨大な4本足の姿に変わった。頭の両側から大きな耳が垂れ下がったような姿が、ますますバケモノじみてる。

 もう一体の緑の目の"プロトセーブ"は、"紫の目"ほど大きくならずに、両手両足が生えて、背中には4枚のハネを背負った、まるで『妖精さん』のような姿になった。"紫の目"とは対照的な、ちょっとファンタジーっぽいカタチ。

 もっとも2体とも、単眼(ひとつめ)は変わってないから、余計にブキミに見えるけど―――――

 

 《!!……『ミルク』と……『はーちゃん』……!?》

 

 りんくの『信じられないモノを見た』といった表情が、あたしの視界の片隅に見えた。

 確か―――――"ぶるーれい"であたしも見た。ミルキィローズの『ほんとうの姿』と、『子どものころ』のキュアフェリーチェ―――――

 その姿が、変身した"プロトセーブ"に似ている……気もするけど……

 

 《これこそプロトセーブ本来の、ウイルス駆除プログラムとしての姿です!!本番はここからですよぉぉ!さぁ、すべてをさらけ出して、力の限りに戦って、抗ってみてくださぁぁぁ~~~~~い↑↑↑↑!!!!!》

 「上等ぉッ!吠えヅラかきやがれェッ!!」

 「ローズ……フェリーチェ…………行くよ!!」

 

 "紫の目"が、鋭い爪を持った右手を力任せに叩きつけてくる。……けど!

 

 《ひだまりポカポカ!キュアロゼッタ♪!》

 

 『天の声』を聞いて反射的に両手をかざすと、クローバーのカタチのバリア―――――ロゼッタウォールが"紫の目"の一撃を防ぐ。

 

 《させませんわ!》

 「ロゼッタ!」

 《ワタシたちも、あなたたちと心はひとつですわ!》

 

 見ると、"緑の目"が4枚のハネを分離させて、データにけしかけていた。分離したハネそれぞれが意志を持つように飛んで、データに光の弾丸を撃ちかける。 

 

 《澄みわたる、海のプリンセス!キュアマーメイド!》

 

 今度は、キュアマーメイドの声が降りてくる。

 キメ台詞といっしょに、データの手にクリスタルプリンセスロッドが握られた。データはロッドを回転させて光弾をはじくと、"緑の目"にロッドを向ける。

 

 「高鳴れ、泡よ―――――!」

 

プリキュア!バブルリップル!!!

 

 たくさんの泡が、まるで数珠つなぎのように"緑の目"に殺到して、破裂する。

 

 《……ローズとフェリーチェを取り戻したいのは、メモリアとデータだけじゃない……私達も、想いは同じ!》

 《しんしんと降り積もる、清き心―――――キュアビューティ!》

 

 今度はビューティの声。クリスタルプリンセスロッドが一瞬で消え失せて、データの右手に冷気が集中していく。

 

プリキュア!ビューティブリザァァァァドッッ!!

 

 左手で『*』のカタチを描いて、銀色の輝きが放たれる。さっき炸裂したバブルリップルの水分が一瞬で凍って、さながら地面から伸びた氷の鎖が、空中の"緑の目"をがっちりと捕らえたみたいだ。

 

 《キュアチップに封じられたとはいえ、伝説の戦士としての矜持を捨てたわけではありません……!》

 《爪弾くは魂の調べ!キュアビート!》

 「うぉぉぉおおおおりゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ラブギターロッドを抱えるように持ったデータが大ジャンプして、"緑の目"の上を取った。まさか!?

 

 《わたしとみんなの心……魂の音色が重なる―――――》

 

 ―――――バキィィィィィィ!!!!!

 

 ま た だ よ(メモリア、白目)

 

 データはラブギターロッドを叩きつけるように―――――ううん、まんま叩きつけた。データがラブギターロッドの『ネック』を持ってた時点でなんとなく予想はついたケド。

 

 《……ってぇ?!こぉらぁ!!まぁたそんな使い方をして~~!!!(怒泣)》

 

 ビートが目をツリ上がらせて、涙を流しながら怒っているのが見える。なんか最近、ラブギターロッドがぞんざいに使われてる気がしてならないんだけど……

 ともあれ、地面にたたきつけられた"緑の目"に、ラブギターロッドを突き立てて離れたデータは、後ろにジャンプしながら両腕を左右に伸ばした。

 

 《ピカピカぴかりん!じゃんけんポン♪キュアピースっ♪!》

 

 黄金色の電流が、目に見えてデータの両腕にスパークする。

 

 《メモリアとデータは、たったふたりで戦ってるわけじゃ……ないんだからぁっ!》

 「おうよ……!アンタたちの意地とプライド、チップ越しにビリビリ来るぜ……!!後輩として、先輩方は立てなきゃなぁッ!!喰らええェッッ!!!」

 

 データはニィッと歯を見せて笑うと、両手の指を勝利のカタチ(ヴイサイン)に変えて、"緑の目"に向けた。

 

プリキュアッッ!ピィィィス!!

サンダアアァァァァァァッッッ!!

 

 「ラブギターロッドは避雷針代わり!!必殺必中電光石火、バラバラになりやがれぇェェッッ!!」

 《!!イケませんっっ!!》

 

 それまで"ヨユーシャクシャク"だったどくたーさんの声が、急に切羽詰まった感じに変わった。

 瞬間、それまであたりをふわふわ浮いていた4つの"緑の目のハネ"が、"緑の目"に降り注ぐ電撃をさえぎるように折り重なって―――――

 

 ―――――ドッゴオォォォォォオオオン!!!!!

 

 "紫の目"の爪をロゼッタウォールで受け止めていたあたしにも、爆音とケムリが襲い掛かった。それにひるんだのか、"紫の目"が手を引っ込めるのが見えた。

 思わずあたしは、データに駆け寄った。でも―――――

 

 「……………………手応えが薄い」

 「え……!?」

 「……仕留め損なった―――――来るぞ!!」

 

 黒々とした煙幕を突き破って、光の弾丸が鎖のように連なって飛んでくる。あたしとデータは、それを見切ってジャンプする。殺気が先に飛んできてたから、不意打ちには感じなかった。

 でもこのケムリ…………ちょっとジャマ!相手が見えない!!

 それなら―――――

 

 《吹き飛ばすついでに、"それ"ごと真っ向から撃ち抜けばいいよ!》

 

 《勇気リンリン!直球勝負!!キュアマーチ!!》

 

 マーチの声とキメ台詞が立て続けに響いて、あたしの中に風が渦巻く。

 

プリキュア!マーチシューーーーートっ!!!

 

 煙幕目掛けて、あたしは風のボールを蹴り込んだ。煙幕を巻き込んで、四方八方に散らせていく。

 

 《芸達者ですねぇぇぇ~~!!もっと引き出し、あるんじゃないですかぁぁ~~↑↑↑!?!?!!?》

 

 "紫の目"の巨大な腕が、マーチシュートを弾き飛ばすのが見えた。マーチシュートが効かない!?

 ―――――だったら!!

 

 「りんく!イチバチだけど、前に言ってた"アレ"できる!?」

 《"アレ"だね……!!……よぉし、行くよ!!》

 

 リクツだったら、できるはず……!

 あたしは―――――カクゴを決めた!

 

キュアチップ、『キュアリズム』、『キュアエース』!!

ダブル!キュアット!!イーーーーーン!!!

 

 《爪弾くはたおやかな調べ!キュアリズム!》

 《愛の切り札!キュアエース!!》

 

 キュアチップ、2枚重ね!!

 正直何が起きるかわかんないけど、ばっちこーい!!

 

 「ぬ゛ゅッ!?」

 

 ドン!!と来た!!??

 なんか一瞬、カラダにズシンとのしかかったような気もするケド……!!

 あたしの中を、ふたつのチカラが同時に駆けめぐる……!

 

 《だ……大丈夫なの!?》

 「なんとか、ね……!行くよ!」

 

 まずは右手に―――――!

 

 「ラブキッスルージュ!」

 

 そして左手―――――

 

 「ファンタスティックベルティエ!!」

 

 まったく違うチームの、ふたりのプリキュアの武器を両手に構えたあたしに、"紫の目"が長い耳を振り乱しながら、荒々しく突撃してくる。両腕を振りかざして、あたしを捕まえようとするけど―――――

 

 《そんな粗い攻撃で……!》

 《メモリアを捉えることはできなくてよ!》

 

 リズムとエースの声が聞こえる。その言葉に応えるように、たたきつけられ、振るわれる巨大な腕を避けていく。

 

 《今よ、メモリア!私達の決意(キアイ)鼓動(レシピ)と!》

 《わたくし達の想いが、貴女の切り札になります!!》

 

 あたしの視界の隅の『ワクの中』で、背中合わせに両手をつないだリズムとエースがあたしに檄を飛ばす。それを聞いたあたしは、反射的に両手の武器を交差させた。

 

 「よぉぉぉし!!」

 

 チカラを―――――ルージュとベルティエに込めて―――――!!

 

彩れ―――――そして、翔けめぐれ!!

 

プリキュアっっ!!

パー・フェス・デュエット!!!

 

 発射の反動で、あたしは大きく吹っ飛ばされた。顔を上げると、放たれたエースショットの弾丸に、3つのリングが重なって、一直線に"紫の目"に飛んでいくのが見えた。

 そして―――――

 

 ―――――ガシガシガシィィィィィィン!!!!!

 

 

 ()()()()

 

 

 あたしは思わず、ニヤリと笑んでいた。"紫の目"の巨体をリングがしばって、足元に浮かんだ魔法陣が両足をとらえて放さない。

 動きを止めれば、こっちのもの!……あとはどうにかして『お持ち帰り』できるようにしないとだけど、さすがにこんな大きさじゃ―――――

 

 《動きを止めましたかぁ……いい判断ですけどぉ~…………↑》

 

 ―――――ガ、ガガガ…………ギギギギギ…………

 

 「!?」

 

 "紫の目"が、リングにしばられながらのけぞるように顔を空に向けた。

 

 《"頭"さえ動かせれば戦えるんですよねぇぇ!"ミルキィバスター"を使いなさぁぁ~~い!!》

 《……Yes,ma'am!!》

 

 "紫の目"があたしをにらんできたと思うと、口を大きく開いて、その中に紫色の光が集まっていく。さっき"緑の目"が撃った『エメラルド・リンカネーション』に似てるけど、『びりびり』が大きい!

 避けるのはカンタンだ。アイツ自体は動けないんだし、あいつの首が回らない真後ろにまで行けばいい。

 でも―――――あたしは―――――!

 

 「……逃げない!!」

 《だよね!そう言うって思った!!》

 

 りんくもわかってくれてたみたい。そう―――――プリキュアは、相手のぶつけてくる『想い』から、絶対に目を逸らしたり、逃げちゃいけない!

 これからしてくる攻撃が、どくたーさんの『想い』だっていうのなら、あたしは―――――

 あたし達は、真正面から受け止める!! 

 

キュアチップ、『キュアハッピー』!!キュアット!!イーーン!!!

 

 《キラキラ輝く、未来の光!キュアハッピー!》

 

 ―――――あたしの中に、光のチカラが"降りてくる"。

 

 「ハッピー……あたし……間違ってないよね」

 《もちろん!》

 

 視界の片隅に、ハッピーの笑顔が見えた。

 

 《あのヒトの気持ちを受け止めるって決めたなら、ためらっちゃダメだよ!》

 「わかってるよ……こういう勝負時を乗り切る秘訣は笑顔(スマイル)!……だよね!」

 《……!正解!最後に勝つのは笑顔と気合だよ!メモリア!》

 

 そうだ―――――笑うんだ!

 あたしは"紫の目"と向き合って、両手にありったけの『光のチカラ』を込める。

 

MILKY BUSTER

 

 ―――――ヴヴアアァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!!!!

 

 先手はあっちだ。暗い紫色の光の渦が、"紫の目"の口から吐き出された。

 

 《これこそ究極のそ・お・ご・り・か・い(相互理解)ぃぃ!!ワタシの"子供たち"の力とアナタたちの力、ぶつけあわせて確かめましょおぉおぉ!!レッツ正面衝突ですぅぅ!!ウェヒヒヒッヒヒヒヒ!!!!!!》

 「……()()()()……」

 

 その声を聞いた瞬間、全てを理解できた気がした。

 

 そっか―――――

 どくたーさんは、"これ"がやりたかったんだ。

 "それ"が、どくたーさんの言う、"知る"ことだったんだ。

 それなら―――――あたしは―――――!

 あたしが返すのは―――――!!

 

プリキュアあぁぁぁっっ!!

ハッピイィィィィィィィィィ!!!!!

 

ッッッシャワアアァァァーーッッッッッ!!!!!!

 

 あたしとりんくとハッピー―――――全力全開のシャウトとともに、あたしはピンク色の輝きを放った。

 

 ―――――ズドゥゥゥゥウウウウウウウウアアアア!!!!!!!!

 

 あたしたちの『光』と、"紫の目"の『光』が、空中でぶつかり合った。同時に、あたしの両手にモノスゴい『圧』がかかった。

 これが―――――どくたーさんの『想いの圧力』……!?

 

 《す・ば・ら・し・いいぃぃぃぃぃいいいい~~~~↑↑↑↑!!!!!なんというパワー!なんという出力、なんとゆうううぅぅぅぅうぅぅうぅ↑↑↑↑!!!!!!!!そう!そうです!!そのチカラです!!!プログラムが持ちえるハズのない『感情』、それがワタシとぶ・つ・か・り・あ・っ・て・い・るぅぅぅぅぅぅぅううう~~~~↑↑↑↑!!!!!!!!》

 「そんなに……そんなにあたしたちを『知りたい』って言うなら……!!」

 

 あたしは―――――

 あたしを信じて、力を貸してくれているみんなの気持ちを、ひとつにして―――――

 

 「チカラとか、出来ることとかだけじゃない……!!あたしたちのココロも……"生きてる(あかし)"も!!!」

 

ちゃんと、知ってよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!

 

 両腕から、ピンク色の稲妻がスパークして、『光』がさらに強くなるのを感じた。両脚で踏ん張って、『圧』を押し返すんだ!!

 

 《こっ……!!こここここここ!!こぉのぉチカラぁぅわぁぁぁぁぁぁぁ!?!??!》

 

 あたしから見える『紫色の光』が、あたしの放つ『ピンク色の光』に押し返されて、もろともに"紫の目"を飲みこむのが見えた。

 

 《これが!これこそが!!ワタシと博士の追い求めていたモノ!!博士!博士!!はぁかぁせぇぇぇぇ~~!!!今ここに!アナタが正しかったことが証明されたのですぅぅ!!!!ワタシは……!ワタシは……!!ワぁタぁシぃわあああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑!!!!!!!!!!!!!―――――――――――――――……………………………………》

 

 ―――――ヅゴゴゴォォォガガガドドドドドドゴゴゴアオアオアアアアオオオオーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!

 

 モノスゴい音を立てて、火柱のような爆発が巻き起こった。

 

 「はぁ……はぁ……はぁ……っ」

 

 全身に、ビリビリした感覚がまだ残ってる。立て続けにキュアチップの力を使ったから、ちょっとキツいかも……

 でも―――――

 

 「………………やっ」

 《てないよメモリア!まだ反応がある!》

 

 りんくの声にうつむきかけた顔を上げると、もうもうと上がるケムリの中から、銀色の『くりおね』みたいなカタチの"プロトセーブ"が飛び出すのが見えた。

 

 《……アニメじみた断末魔というモノを一度上げてみたかったので叫んでは見たものの……理解ができないモノですねぇ》

 

 どくたーさんの声も聞こえてきた。……まぁ、どくたーさん本人が攻撃をくらったワケじゃないから、無事だろうけど。

 さっきとは打って変わって、テンションも下がってる。

 

 《"イレイザーモード"を解除……プログラムに限った話、『大きいコトはいいコトだ』という格言は当てはまらないようですねぇ―――――あぁ、それと》

 

 まだ止まないケムリの向こうから、銀色のトガったハネが4つ飛んできて、あたしを取り囲む。

 

 《まだ"フェリーチェ"が残っておりますので♪》

 《OK,her!!》

 

 "緑の目のハネ"のビームの弾が、前後左右、さらには頭の上からも嵐のように襲ってくる。何とか避けようとしても、避け切れない!手足や体のいたるところにヤケドのような傷が刻まれていく―――――

 なんとか……なんとかしなきゃ……!

 

 《きらめく星のプリンセス!キュアトゥインクル!》

 「メモリア~~~!!!」

 

 不意にトゥインクルのキメ台詞とデータの叫び声が聞こえて、上を見上げた。そこには―――――

 ☆型の円盤に乗ったデータが、こっちに突っ込んできながら、あたしに右手を伸ばしてた。

 

 「っ!」

 

 迷うヒマもなく―――――ううん、迷うハズもなく、あたしはデータの右手を掴んだ。あっという間に、データに引っさらわれる。

 

 《ナイスキャッチだよ、データ!》

 「へへッ、こーゆーオイシイ役もたまにはアリってモンだぜ!」

 「…………ふぁぁ…………」

 

 なんか……こーゆーの見たことある。

 ワルモノにさらわれたヒロインを、イケメンのヒーローが助け出す、アレだ。ピースが描いたマンガにもこんなシーンがあったっけ。

 

 「ありがとデータ……助かったよぉ」

 「イイってコトよ!……"フェリーチェ"をなんとかするぞ、しっかりつかまってろ!」

 「うん!」

 

 データは☆型円盤を加速させて、追いかけてくる"緑の目"を振り切ろうとするけど、2枚の"緑の目のハネ"があたし達の進路をさえぎる。

 

 《来たよ、データ!》

 「ヘッ、ジャマするヤツはブチ抜くまでだぜ!!」

 

 トゥインクルの警告にそう答えたデータは、クリスタルプリンセスロッドを取り出して、両手で握った。

 

 「キラキラ、月よ!!」

 

プリキュア!フルムーン・ハミング!!!

 

 満月のカタチをした黄金色のバリアが、ロッドの先に張られた。でもコレって、相手の攻撃を防ぐワザじゃ―――――

 

 「バリアが攻撃を防ぐだけのモノだって(だぁれ)が決めたァッ!?」

 

 ―――――そうだった。ロゼッタのチカラを使ってたりんくもそうだけど、バリアはそう『単純な道具』じゃない。

 そのカタさは、盾としてだけ使うなんてもったいない!

 

 ―――――ドガアアアァァァァ―――――!!

 

 バリアを張ったまま、あたしたちは一直線に"緑の目のハネ"に突っ込んだ。弾き飛ばされた"緑の目のハネ"が、火を噴いて爆発するのが見えた。

 

 《アタシたちの"ランウェイ"に立ってたのが悪いよ☆》

 「そーゆーこった!道を塞いだテメーを呪いな!!」

 「データ……今日はなんかカゲキだね……」

 

 データに影響されちゃってるのか、トゥインクルもチョットだけカゲキになってる気がする……

 

 「いい加減ッ……ロボット物に出てきそうなその攻撃は見飽きた!!」

 

 データはひらりと☆型円盤をターンさせて、"緑の目"本体に円盤を走らせる。そして―――――

 

 「メモリア、アタシの合図で飛び降りろ!1……2の……3ッ!!」

 「ちょ、いきなりっ―――――」

 

 それでも合図通りに飛び降りられたのは、データとは『以心伝心』してるから、かな。

 残された☆型円盤は"緑の目"に一直線にぶつかって、キラキラした光の粒を辺りに撒き散らしながら爆発した。

 

 《なんてだ・い・た・ん(大胆)……!!!"フェリーチェ"、イレイザーモード解除!!》

 

 爆風から、元の姿に戻った"緑の目"が飛び出して、さっき元の姿に戻ってた"紫の目"と合流する。

 

 「待ってたぜ、その時を!!」

 「最後は―――――"このふたり"と、いっしょに!!」

 

 この戦いで、11人のプリキュアたちに力を貸してもらった。

 でも、今、いちばん、"プロトセーブ"にとらわれてる"ふたり"を助けたいのは―――――

 

キュアチップ、『キュアレモネード』!!

キュアチップ、『キュアミラクル』!!

 

キュアットッ!!イィィィィン!!!

 

 《はじけるレモンの香り!キュアレモネード!》

 

 ミルキィローズといっしょに思い出を作って、戦ってきた、キュアレモネードと―――――

 

 《ふたりの奇跡!キュアミラクル!》

 

 キュアフェリーチェのお母さんとして、ともだちとして、ずぅっといっしょだった、キュアミラクル―――――

 

 「いっしょに行こう―――――レモネード!」

 《……Yes!!》

 「取り戻そうぜ……なぁ、ミラクル!」

 《うん!!》

 

 ふたりの想いを、あたしたちが力にする!

 

 「輝く乙女の弾ける力!受けてみなさい!!」

 

プリキュア!!レモネードフラアァァァッシュ!!

 

 まとまっていた2体の"プロトセーブ"めがけて、あたしはレモネードフラッシュを放った。

 とっさに避けるためか、"プロトセーブ"は二手に別れた。でも―――――

 

 「お~っと、あんまし離れんじゃねーぞー❤」

 

 青いオーラをまとったデータが、片方の"プロトセーブ"の背後に回って、掌底で吹っ飛ばした。このスピードって、サファイアスタイルのチカラ……?

 

 「スキありっ!!」

 

プリキュア!!プリズムチェエェェーーーンッッ!!!!

 

 あたしは両腕から光のチェーンを放って、さっきデータに吹っ飛ばされた"紫の目"の"プロトセーブ"を―――――

 

 「とらえたよっ!!データ!!」

 「こっちも……うりゃっ!!」

 

 今度は金色のオーラがデータの身体から噴き出したと思うと、金色に光る2つのボールがデータの両手に握られて、そこから光のチェーンが繰り出されて、"緑の目"の"プロトセーブ"をガッチリ絡めた。今度はトパーズスタイルだ……!

 

 「つかまえたァ!」

 《な……!?HO☆BA☆KU(捕縛)ですと!?しかしそれでプロトセーブを制したと―――――》

 「思ってないって!完全に動けなくするまではね!―――――レモネード!」

 《わかりました!》

 「行くぜミラクル!!」

 《準備OKだよ!》

 

 あたしとレモネード、データとミラクルの『ココロ』が、シンクロしていくのがわかる。あたしとデータは、"プロトセーブ"を絡め捕ったままの光のチェーンを、そのままゴーカイに振り回す!

 あたしは時計回りに、データは反時計回りに"プロトセーブ"を、ハンマー投げみたいに振り回して―――――!

 

プリキュアッッ!!!

 

サテライトォォォォ!!!!

 

クラアァァァァァァァッシュ!!!!!!!

 

 

 ―――――ドォォォォン!!!(1カメ、真上から)

 

 ―――――ドォォォォン!!!(2カメ、激突した2体のプロトセーブのアップ)

 

 

 ―――――ドォォォォォォォォォオオオオンン!!!!!!!!(3カメ、全体俯瞰)

 

 

 そのまま大激突(クラッシュ)!!

 ちょっと前にデータと見た、ハンマー投げの動画を参考に考えてた技だけど、ウマくキマッてくれた!

 

 《ココまで……ココまでするんですねぇ!?なんとゆーエキセントリック少女ガアルですかぁ~~ッ!?》

 《古いネタ……(-_-;)》

 

 どくたーさんの言葉に、りんくが苦笑いしてる。

 

 「お~っと、まだまだ終わらんぜ?この"トパーズスタイル"のチカラってのはびりびりの『雷』属性でね……アタシの合図(スイッチ)ひとつでビビビと通電可能なシロモノなんよ」

 「え゛!?それってあたしもビビビって来ちゃう!?」

 「安心しな。ピースの電撃と違って、こちとら雷『魔法』……電撃の流れをある程度はコントロールできっから、お前がビビんなくても問題ねーよ」

 《カ……カミナリ!?デンキ!?やっ!?ややややややややや………………やめてくださぁぁ~~いッッ!!!!!》

 

 いきなり、どくたーさんの語気が変わった。必死な半泣き声は、さっきまでウェヒウェヒ笑ってたそれと明らかに違う。

 

 《プロトセーブもプログラムの範疇内である以上、サージ電流によって予測も出来ない致命的な損傷(エラー)を引き起こすおそれがあるのです!!ですから早まらないでください!!》

 「……悪いがな……冷静に見えてるかも知んねーが、アタシもそうだけど、もうみんな頭にキまくってんだよ……特にアタシは、テメーみたいなゲス野郎を見て聞いて感じるだけでも無性に腹が立つ……正義の味方向きかもな。でもよ、アタシは仮面ライダーみたくカッコよくはなれねぇし、プリキュアたち……ことにキュアマリンみたく、『海より深い心』を持ってるわけでもねぇ……せいぜい、近所の側溝(ドブ)ぐらいのモンだ」

 《DO☆BU☆GA☆WA(ドブ川)ッ!?……お、お願いします!!"スイッチ"しないでください!!ビリビリカンベンしてください!!!食べ……もとい押さないでくださぁぁ~~~~い!!!!》

 「いいやッ―――――「限界」だッ―――――」

 

 データは、この上ないゲス顔で"プロトセーブ"を見下ろしながら言い捨てた。

 

押  す  ね

 

 瞬間、データの握っている光のチェーンを稲妻が奔って、縛られている2体の"プロトセーブ"を襲った―――――!

 

 《あぁぁぁべばぁーーーーーーーーーーー!?!?!!?!?!?!!?!?!?!?!?!!》

 

 この世のモノとは思えない、ガラスを引っかくようなどくたーさんの珍奇な悲鳴がこだました。そして―――――

 

 ―――――ポン!

 

 ……という効果音を、"プロトセーブ"が鳴らした。見ると―――――

 

 〈ProtoS.A.V.E.は応答していません プログラムを閉じると、情報が失われる可能性があります〉

 

 というメッセージボードが、"プロトセーブ"の上に浮かんでいた。コレって、パソコンやタブレットのプログラムに負荷がかかった時に、画面に表示されるメッセージだ。

 

 「コレって……やったの……!?」

 「……みたいだな。ピクリともしねぇ」

 

 慎重に近づいて、指でつんつんとさわってみる。……なんの反応もなく、まったく動かない。目の光は消えて、どっちが"紫"なのか"緑"なのか、区別がつかなくなっている。

 

 《ふたりとも……ソレ、ホントに持って帰っちゃうつもり……なの?》

 「もっちろん!……うわ、重っも!!??」

 

 持ち上げようとしたけど、ぜんぜんビクともしない。コレ、何でできてるのぉ……??

 

 「う~ん……トッツキどころがねぇなぁ……」

 《どういうこと、データ?》

 「こン中にローズとフェリーチェのチップが入ってんなら、どっかに入れ口ねぇかなぁって思ったんだけど……確か口からビーム吐いてたよな、コイツ……ってか口が無くなってんぞ……??」

 

 ブツブツ言いながら、データは"プロトセーブ"のあちこちをイジくってるけど、どこかがパカッと開くわけでもなく、顔をしかめて、最後にはにらめっこを始めた。

 ホント、『お持ち帰りする』って言ったものの、どーやって持って帰って、どーやって調べればいいんだろー……そこまで考えてなかったよぉ……

 

 《………………うう……ネットワーク上の電流が逆流するとは……なんとかPCは無事のようですね…………》

 

 その時、聞いたコトのあるようなないような、女の子の声を"プロトセーブ"が出した。

 

 《!?ボイスチェンジャーが故障……!?どどど、どーしましょぉ~……これでは威厳もヘッタクレも……うぇひ!?カメラが勝手にONになってる……!?》

 

 それを聞いて、あたしは気づいた。

 あたしの視界の右端に、りんくたちの様子がわかる『ワク』が浮かんでいるけど、その反対側―――――

 視界の左端に、見慣れないにんげんさんの顔が見えていた。"ぶるーれい"で見た『ハートキャッチプリキュア!』の、『ダークプリキュア』にそっくりな髪型、メガネをかけた女の子。

 

 「……だぁれ?」

 《うぇひっ!?ま、まさか顔バレしちゃいましたぁ……!?》

 《……えっ……!?》

 《まさか……そんな!!》

 

 りんくとほくとにもこのにんげんさんが見えたみたい。でも、スゴくおどろいてるのは―――――どうして?

 

 《……まぁ、いいでしょう。アナタたちの『お友達』も見ているのでしょう?いい機会です。アナタたちの『本質』を、"博士"に代わり暴く人間として、ここらで改めてご挨拶させていただきましょうか―――――》

 

 がたりと立ち上がったその女の子は、メガネのレンズを怪しく光らせて―――――

 

 《ワタシは、日本政府高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・内閣電脳調査室チーフテクニカルオブザーバー――――――――――》

 

 真っ白なマントみたいな白衣をひらりとひるがえして、堂々とした笑顔で、あたしたちにこう名乗った―――――

 

ジェミニ・ノーサップ!!!

 

 《ヒトはワタシを―――――"Dr.G"と呼びます―――――クラスの皆には内緒ですよっ☆ウェヒヒっ♪》

 

 SAVE POINT……




 ついに正体を現したDr.G―――――改めジェミニ・ノーサップ……!
 中のヒトのイメージは……もうおわかりですよね?

 プロトセーブを撃破された彼女が取る次の一手は……!?
 まだだ……まだ終わらんよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

東堂博士の影

1ヶ月ぶりです、お待たせしました稚拙です!

ついに最後の平成ライダー、ジオウが始まりました!!

のっけから天ッッ才物理学者と筋肉バカ登場と、大盤振る舞いな公式様に期待大です!!

……ビルド最終回でスカイウォールの無い世界に融合させたのは、てっきりジオウへの摺り合わせのためと思ってたのですが……あっさりスカイウォール出てきててツッコんだのは稚拙だけではないハズ……

さて今回はジェミニちゃんが次なる一手を打ってきます!
『東堂博士』をめぐる思惑がぶつかる『第3ラウンド』を送信!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 衝撃の真実を前に、私は思考停止していた……。

 あの、どー考えても全然フツーじゃないDr.Gの正体が、まさかむぎぽんの従姉妹のジェミニちゃんなんて……

 ってかむぎぽん、このコト知ってる……!?わけないか……。知ってちゃ、あんな風に普通に話したりなんてできてるハズないし……

 でも、実際にコミューンのディスプレイに映っているのは、まぎれもなくプラチナブロンドの前髪ぱっつん、ぐるぐるメガネのジェミニちゃんだ。

 昼間とは違って、科学者とかお医者さんがよく着ている白衣を羽織っている姿は、まさに『ドクター』といった出で立ちだ。この姿のこの子を見て、改めて実感できた。

 ―――――この子が、Dr.Gなんだって。

 ……白衣の袖から手が出てないのはご愛敬……なのかな……?

 

 《……プロトセーブ、ログアウト》

 

 ジェミニちゃんがささやくようにそう言うと、ディスプレイの中のプロトセーブが光に包まれて、一瞬で消え去ってしまった。

 

 《なッ!?》

 《"プロトセーブ"が!?》

 

 驚くメモリアとデータを尻目に、ジェミニちゃんはそれはもうステキすぎるドヤ顔をカメラに向けてきた。

 

 《アナタたちをもっと解析したいのはや・ま・や・ま……なのですがぁ、これ以上キュアネット上で戦ってしまうと、余波によってネットワーク障害を起こしかねませんからねぇ……第2の『アイ・クライシス』はゴメンです……そ・こ・でぇ……》

 

 ニヤリと白い歯を見せて、メガネを怪しく光らせて、ジェミニちゃんがカメラにドアップに迫ってくる。

 

 《『お友達』の方、お聞きなんでしょう~~??ワタシぃ……アナタたちにぜひとも直接お会いしたいんですよぉ……❤アナタたちが如何様にして"彼女達"と接触し、融合し、進化を行い"先駆者(Pioneer)"となったのか……ゆっくりお茶しながらお話しませぇん?》

 《ゼッタイ行っちゃダメ!》

 《ああ……!あからさまなドデカい釣り針だぜ》

 《おやおやぁ、おふたりともツレませんねぇ…………"ローズ"と"フェリーチェ"を持って帰るのではなかったのですかぁ?そ・れ・と・も……もう必要無くなっちゃいましたかぁ~?先程までの執念は一体どこへやら……薄情なんですねぇ、ウェヒヒヒッ♪》

 《ぬゅ~~~……》

 

 ジェミニちゃん、煽る煽る、煽りよる。メモリアは悔しそうな顔を浮かべている。

 でもこれは……見方によってはチャンスだ。

 ジェミニちゃんに事情を直接話して―――――私たちの正体に触れない範囲で―――――、ミルキィローズとキュアフェリーチェのキュアチップを穏便に譲ってもらえるなら―――――

 でもでも、これまで私達に何度もちょっかいをかけてきたジェミニちゃんが、素直に話を聞いてくれるとも思えないし……

 

 《僕は行く》

 「……!」

 

 ディスプレイの端に映ったほくとくんが、まっすぐに私を見据えていた。

 

 《"虎穴に入らずんば虎子を得ず"……たとえ罠でも、そこに目的があるなら行かなきゃいけない時もある……今が、その時だと思う》

 

 ……まるで今から最終決戦にでも行くんじゃないかってくらいの真剣な表情だ。

 でも、不思議とその表情を見たら、私も覚悟が決まってくる。

 

 ―――――行かなきゃ。

 ―――――プリキュアたる者、逃げちゃいけない……!

 

 「……わかったよ、ほくとくん……私も行く。……メモリア」

 

 私の視線にうなづいたメモリアは、どこから見ているとも知れないジェミニちゃんに叫んだ。

 

 《いいよ!行くって!》

 

 それを聞いたジェミニちゃんの表情が、喜びのそれに変わる。それも―――――すんごくマッドな感じの。

 

 《そぉ~ですかぁ!!それはそれは!!いやぁ~、うれしいです!実に実にうれしいですヨ~!!……今から30分後、大泉大橋の西側のたもとの河川敷でお待ちしています!!それではまたの・ち・ほ・ど!デートデートぉ~❤ウェヒヒヒヒヒヒっ❤❤❤》

 

 最後までハイテンションのまま、ジェミニちゃんはスキップしながら画面から姿を消して、ジェミニちゃんが映っていた枠が『NO SIGNAL』という文字に変わった。

 

 《……夜の河川敷で優雅にお茶するヤツがどこにいんだよ……(汗)》

 《決闘……だよね……昔ながらの》

 

 苦笑いするデータとほくとくん。私は座っていたベッドから立ち上がって、部屋の窓を開けた。さっきまでの『水道パニック』の影響か、消防車のサイレンがそこかしこから聞こえている。

 

 「行くよ、メモリア」

 《……うん!》

 

 ジェミニちゃんには、聞きたいコトが山ほどある。

 でも、何を話していいか、何を話しちゃダメなのか―――――

 "聞きたい"ことはあるけれど、どこまで"訊いて"いいんだろうか―――――

 まだ全然、心の整理がついてないけど―――――

 

 それでも、ひとつだけ確かなことがある。

 ジェミニちゃんの言葉から感じる『想い』がそうであるなら―――――

 

プリキュア!マトリクスインストール!!

 

 ―――――まだ、希望を捨てるのは、早いって思うんだ。

 

 ――――――――――

 

 30分後―――――

 

 途中でデーティアと合流した私は、電灯に照らされてその輪郭をうっすら見せている、大泉大橋のたもとにたどり着いた。

 

 『ジェミニちゃんが指定した場所って……ココだったよね……』

 

 あたりを見回すけど、まったく人気(ひとけ)が無い。橋の下は真っ暗で、私たちのコスチュームのイーネルギー伝達ラインが放つ、ピンクと水色の光が照明代わりになっている。

 実はこの大泉大橋、現在改修工事のために終日全面通行止めになっていて、クルマが近づくこともない。

 

 『コレ……割と目立つね……(汗)』

 『仮面ライダーだと……ファイズやゴーストみたいなカンジだね』

 

 真っ暗な中で電飾満載の着ぐるみを着て立ってるのと同じだし、誰か来ちゃったらどうしよう……

 

 「これはこれは……夜でも明るくて実に便利ですねぇ、そのお洋服。電源、ドコについてるんです?」

 

 暗闇から突然発せられた声と同時に、私たちの周囲がいきなりたくさんのライトで照らされて、一瞬目がくらんだ。

 おそるおそる目を開けると―――――

 

 『…………ぴゃぁッ!?Σ(〇 ▽ 〇;)』

 

 私は思わず声を上げていた。フツーならこういうシチュの場合、スポットライトに照らされたジェミニちゃんが堂々登場―――――っていうのが王道なんだろうけど……

 ジェミニちゃんは、私の目の前に立っていた。

 いや、目の前というのも語弊がありそうだ。

 ほくとくん風に言うなら―――――『懐に入られていた』ってゆーヤツ。

 つまり―――――私にぴったりと密着していた……!!

 

 「こうして直にお会いできて、実に実にうれし~ですぅ……❤うぅ~ん、甘ぁ~いイイニオイがしますぅ……それでいてHDD特有の清潔感のある香りもほどよく混じってますねぇ~……❤」

 

 ジェミニちゃんは私の周りをぐるぐる回りながら、くんかくんかと私のニオイを嗅いで回る。

 

 「あぁそうですぅ、味もみておきましょう―――――」

 

 味ってなんだーーーーーーーーーっっ!?!?!?!

 私は声に出さずに心で絶叫した。……どうして声に出さなかったかって?

 

 …………コワすぎて声が出なかったんだよ~~……(涙)

 

 で、ジェミニちゃんが何をしだしたかというと、私のコスチュームのスカートのすそをつまんで、んぁ~っとその口に入れようとしたものだから、私はあわてて振りほどいた。

 

 『ひぃっ!?』

 「あぁん、もぉ……じっとしていただかないとダメじゃないですかぁ!これではアナタたちを詳しく調べられませんよ~……」

 『ふ、フツー食べようとする!?物理的に!?』

 「物理的?いいえ、『科学的・論理的』に食べようとしたんです♪ですから味見させてください♪そうしないとナットクできません」

 『……(〇 〇|||)』

 

 だ、ダメだ……とっつきどころがどうとかのレベル以前に、話が通じない……

 私たちのことを『調べる』ことに夢中になって、周りが見えてないどころか……

 ジョーシキすらわからなくなっちゃってるってコト……!?

 

 『ジェミニさん……だったよね。どうしてそこまで、ぼ……わたしたちのことを知りたいの?訳を教えてくれたら、力になれるかもしれないのに……』

 『そ、そうだよ!どーしてメモリアやデータを襲ったりしたの?』

 「…………どうしてって……再三お話してるじゃありませんかぁ……ワタシはただ、『知りたい』だけですよ。知らないモノゴトを『知って』、『理解したい』のに、アナタたちはなにも教えてくれないからです……」

 『それはっ……その理由も教えてくれないからで―――――』

 「『知ること』に理由がいるんですかぁっ!?『知識を得ること』に誰かの許可が必要なんです!?そんなの必要ないでしょう!?…………だから『博士』はご自分で答えを得ようとされた……そしてその『一端』をつかんで、『あの論文』を―――――」

 

 ハカセ?……ロンブン??

 ……時々ジェミニちゃんが言う、ハカセ―――――『博士』って……

 ……!、まさか―――――

 

 「ワタシは……証明するんです……!アナタたちの『スベテ』を知って、アナタたちの『存在』を証明して…………―――――東堂博士が、間違っていなかったことを!!そのために、アナタたちが纏う『未知』というモヤを(はら)います!!」

 

 やっぱり、おばあちゃん……!?

 おばあちゃんが、サーバー王国やプリキュアのことを知ってたってコト……!?

 どうして……おばあちゃん、そんなこと一言も教えてくれなかった……

 私がプリキュアが大好きってことも、おばあちゃんは知ってるハズなのに……―――――

 

 「でも……モヤだらけのアナタたちでも、ひとつだけハッキリとしていることがあるんですよ。アナタたちは―――――」

 

 ジェミニちゃんは、私達に背中を向けて歩き出し、おもむろに空を見上げたと思うと、そのまま肩越しに見返って言い放った。

 

()()()()()()()()()()()()

 

 ……いきなり―――――それもどっかで見たことのあるような角度と構図で放たれた、私達の存在(と、この小説のタイトル)『そのもの』に楔を打ち込む爆弾発言に、私もメモリアも一瞬頭が真っ白になった。

 

 「『電脳生命体と融合し再生を果たした先駆者、それが現実に存在する確かなる証拠』……東堂博士が存在を予見された、電脳生命体を肉体にインストールすることで、本来高度な計算・演算を必要とされる電脳情報を、意識・呼吸・接触といった、単純な生物活動レベルで自在に取り扱えるように『進化』した、『高度情報化生命体』―――――そう……アナタたちはプリキュアではなく、『先駆者(パイオニア)』と呼ぶべき存在なのです」

 『よ、よくわかんないけど……でも!私達はれっきとしたプリキュアだよ!まぁ、まだ見習いだけど……』

 『キミがどうしてそんな結論に至ったかは訊かないことにする……でもわたし達はプリキュアとしてここにいる……それだけは、譲るわけにはいかないよ』

 「いーーーえっ!博士が予見され、今まさにここに存在しているアナタたちを、あろうことか架空の!それも子供向けテレビアニメのキャラクターなどと同一視するなど、実に言語道断、ナンッセンッス、です!!」

 『……!!!』

 

 さすがに今の言葉にはカチンと来た。特に、『プリキュアが本当にいる』という事実を知った今なら、私は心底から反論できる。

 

 『アニメのキャラクターじゃないもん!!プリキュアは本当にいるんだから!!』

 『そうだよ!キュアネットの世界と……今、ここにね』

 「…………なるほど。つながりました。やはり東堂博士は正しかったことがよぉくわかりましたよ……」

 

 こちらに向き直ったジェミニちゃんは、少しうつむき加減だった。

 

 「論文に書かれていましてね……『高度情報化生命体』の外見は、『電脳生命体』側のイメージよりも、『人間』側のイメージが優先されて反映される、と……―――――つまり」

 

 ジェミニちゃんは私をまっすぐにらみつけ、びし!!と指差した。

 

 「キュアメモリアルとおっしゃいましたか……アナタのイメージが原因なんです!アナタが『プリキュアの姿』をイメージしなければ()()()()()()()にはならなかったのです!!東堂博士の夢である『高度情報化生命体』に、アナタのイメージが汚点を付けてしまったのです!!!」

 『…………そ、そんな……!』

 

 ショックというよりも、あまりにも一方的で、理不尽な決めつけに悲しみと怒りがこみ上げてくる。

 おばあちゃんが、どうやってサーバー王国やアプリアンたちのことを知って、さらには『プリキュア』の存在を知ったのかはわからない。

 でも、ジェミニちゃんは私達のことを『プリキュアじゃない』って言って―――――

 『高度情報化生命体』―――――『先駆者(パイオニア)』―――――

 そして極めつけに―――――

 私が―――――『おばあちゃんの夢』の…………汚点…………

 

 「本来……アナタたちには穏便にワタシに協力していただきたかったのですが……アナタたちに、『博士の夢』を(けが)したことへの責任を取ってもらわなければ、ワタシの腹の虫がおさまりませんので……―――――」

 

 ジェミニちゃんは、アンテナのついたVRゴーグルのようなモノを頭にかぶった。

 

 「たっぷりじっくりこってりねっとりと!痛い目に遭ってもらいますぅぅぅぅ~~~↑↑↑!!!ウェヒヒヒヒヒ!!!!!」

 

 『例の笑い』と同時に、ジェミニちゃんの背後から飛び出してきたのは―――――

 

 《Yes,ma'am》

 《OK,her》

 

 銀色のクリオネのような、ずんぐりむっくりのカタチ。

 見間違えるはずがない―――――けど……!

 

 『"プロトセーブ"……!!』

 《どーしてリアルワールドにいるの!?》

 

 本来は『ウィルス駆除ソフト』でしかないハズのプロトセーブが、キュアネットそのままのカタチで、私達の眼前にその姿を現した……!?

 

 『まさか……バグッチャーと同じ、『現実世界への実体化』……!?』

 

 デーティアが口にした懸念に、ジェミニちゃんは首を横に振った。

 

 「キュアネットのみならず、現実空間に実体化し、破壊活動を行う"XV"……アナタたちの仰るところの"バグッチャー"との戦闘を念頭に置いたプログラムである『セーブシステム』が、現実空間での戦闘に対応していないわけがありませんよ♪こうして戦闘用ドローンにダウンロードすれば、現実空間でも稼働させることが可能なのです♪……もっとも、こうしてワタシが『補助操縦』する必要があるのですが」

 

 つまりはドローンの自律制御と同じってことか。どっちにしても、あの2体のドローンの中に、ローズとフェリーチェが囚われてることには変わりない。

 今度は、私とデーティアががんばる番―――――なんだけど……

 なぜか、ドローンからローズとフェリーチェの気配を感じられない……

 ……というか、感じるのは感じるんだけど、なんかビミョーにローズとフェリーチェとは同じような、そうでないような、言葉にしがたい違和感が……

 

 『……プロペラやエンジンを積んでいないのに浮いてる……』

 

 デーティアは、少し驚いているような顔をしていた。確かにフツーのドローンなら、ヘリコプターみたいにプロペラがあるはずなのに、このプロトセーブにはそれが無いし、音も全くしない。

 無機質な外見と、ゆらゆらと不気味に浮遊するその様は、まるで幽霊だ。銀色のっぺらボディが夜闇に浮かび上がって余計にコワい。

 

 「お気づきになられましたかぁ♪このドローンには、『超小型反重力飛翔推進装置』を組み込んであるんですよぉ♪」

 『反重力……!!?』

 『飛翔推進装置……!?』

 

 急にSFそのものなコトバが飛び出し、思わず私とデーティアは驚きの声を上げていた。

 確かに、そんなSFじみたモノでないと、このドローンが飛んでいる理由の説明がつかない。どう見てもこのドローン、飛びそうなカタチをしていないから。

 

 「ワタシも実物をこの目で見るまではSFじみた話だと思っていたのですが……こうして本当に開発され、それもプラモデルサイズのオモチャに搭載可能なほどに小型化、コストダウンがされていたのですよ。技術提供を引き受けて下さった『ファクトリーアドバンス社』には感謝しなければいけませんねぇ♪」

 『ファクトリーアドバンス……聞いたコトある……』

 『メモリアル、知ってるの?』

 『うん……川村さんがね。最近になって、財団Bのフィギュア・プラモデル部門のシェアを奪ってきてるおもちゃメーカーだって。確か、『フレームアームズ・ガール』っていうフィギュアがウリらしいけど……』

 『おもちゃ会社がオーバーテクノロジーか……まるで幻夢コーポレーションだ』

 

 ライバル企業がこんなアニメのようなオーバーテクノロジーを発明しちゃったコト、たぶん川村さんは知らないだろーなぁ……

 がんばれ財団B!私もプリキュアグッズ、いっぱい買うから!!

 

 「さて……雑談はここまでに致しましょう……ここからは―――――ワタシとこの子たちのステージですぅ~~~↑↑↑!!!!」

 

 ジェミニちゃんの絶叫とともに、ジェミニちゃんの背後にあった黒い横断幕がばさりと取り払われた。そこから、2体のプロトセーブと全く相似形のクリオネ型のドローンが、まさに視界を覆うほど飛び出してきた。

 

 『こんなにたくさんっ……!?』

 《えぇぇ~~!?も、もしかしてローズとフェリーチェ以外のプリキュアたちがみんな!?》

 『いや……ありえない!全部で70体いる!』

 《ああ……まだ助け出せてねぇプリキュアたちは『HUGっと』とかいうチームを入れりゃ45人……帳尻が合わねぇもんな》

 

 ……ってか今、デーティアが一瞬で『70体』って数を出したよね……!?ほくとくん、数学苦手って言ってたけど、どうして……??

 ―――――理由はすぐに分かった。私の視界の片隅に、【TARGET:Prototype S.A.V.E. System Drone 70/70】というインフォメーションが、アクションゲームの撃破ノルマのように表示されているのが見えた。

 デーティア―――――ほくとくんの視界にも同じ表示がされてるとしたら、『70体』と一瞬でわかったことにも納得が行く。

 

 『……この表示って、もしかしてメモリア?』

 《?……あたし、なんにもしてないよ?てっきりりんくが数えてくれたって思ってたけど……》

 

 これって……私とメモリアが意識しない間に、私でもメモリアでもない『ナニカ』が、ドローンの数を一瞬で数えて、私とメモリアに教えてくれたってことになる……よね?

 戦うとき、相手の位置が一目でわかる全方位レーダーが表示されたり、空を飛ぶときには高度計まで―――――

 ……私やメモリアが計算したわけじゃないのに、状況に応じて、私とメモリアは必要な情報を知ることができるようになってる……

 私は無意識に、胸のイーネドライブにそっと手を当てていた。

 クイーンが至れり尽くせりにしてくれたのはうれしいんだけど……なんだかだんだん、私の知ってるプリキュア達よりも『人間離れ』していくような気がして―――――

 ……だからおばあちゃんは、『プリキュア』のことを『高度情報化生命体』って呼んだの……?

 人間でも、ましてや『プリキュア』でもない、別の―――――『ナニカ』。

 

 『……!』

 

 そう、『ナニカ』だったんだ―――――

 レーダーも、高度計も、ドローンの数を数えたのも―――――

 

 ―――――『(あたし)』だったんだ。

 

 私とメモリアが、考えてないだけだったんだ。

 つまり、ふだん無意識にやってる、まばたきや呼吸と同じ。

 意識しなくても、『(あたし)』が全部、やってたんだ―――――

 

 『…………私―――――』

 《そこから先……考えない方がいいよ》

 『!』

 

 頭の中に声が響いて、私は思わずデーティアに振り返っていた。デーティアの左耳のイヤリングの濃い水色の宝玉が点滅しているのが見えた。

 ―――――真剣な眼差しが、私をまっすぐ見すえていた。

 

 《キミはプリキュアだ。もちろん、僕も。誰が何と言おうとね……たとえ、キミのおばあさんが、僕たちを『プリキュアじゃない』と言ったとしても》

 《……デーティア……》

 《何より、僕たちはサーバー王国のことを知ってるからね。事情を知らない勝手な決めつけに、心を揺さぶられることはないよ―――――つまり》

 

 デーティアは笑顔で親指を立てた。

 

 《信じるキミが正義(ジャスティス)!真実の王者だ!!》(白い歯キラーン☆)

 

 ………………

 …………

 ……

 

 『…………ぷっ、んふふっ……ww』

 

 ……思わず吹き出してしまった……ww

 ご……wwゴメンナサイww……地の文に草生やしちゃうくらいおかしくって……ww

 でも、言ってることはよくわからないけど、とにかくすごい自信なのはわかる。

 そして―――――これ以上ないくらいに前向きな言葉だってことも。

 

 《……スベッたな、ほくと♪》

 《デ、データぁ……ちょ、メモリアルも笑わないでよぉ……僕は真剣だよ!?》

 《うん……わかってる。デーティアはいつも真剣で、本気だってコト―――――ありがと》

 

 なんだか、心がラクになった。

 ……そうだ。

 私がメモリアやプリキュアのみんなから聞いたことは、絶対にウソじゃない。文字通りの『真実』だ。

 何より私の()()は、『キュアメモリアル』、なんだ。無意識に……いつの間にかつけた名前だけれど、その名前が嘘偽りじゃないことは、私自身がいちばんよくわかってる。

 それに、レジェンドプリキュアのみんなも、子どもたちも、私たちの戦いを見てくれた人たちも、ジャークウェブのヤツらでさえも、私たちを『その名』で呼んでくれている。

 私は―――――私たちは―――――

 

 《……そうだよね》

 

 私たちの存在を、今ここでジェミニちゃんに示す!

 私たちが、おばあちゃんやジェミニちゃんが言うところの『高度情報化生命体』じゃない、『インストール@プリキュア』だってことを!!

 

 「……いきなり思い出し笑いしだしたので何かと思いましたよ。それと耳飾りがチカチカしてましたねぇ……ミョーな周波数の通信電波を拾ってましたが……双方向通信でもしてたのですかぁ?」

 『……まぁね。プリキュア同士、心と心でお話しできるの。便利でしょ♪』

 

 言葉にはもう揺らがない。私は自然と、勝気な笑顔を作ってた。

 

 『見てて、ジェミニちゃん―――――これが、"私たち"だよ!』

 

 デーティアと視線を合わせると、笑ってうなづいた。私と心は―――――ひとつ!

 

記し、念じる、無限の未来!

キュアメモリアル!!

 

渾然一体!涙祓一心!!

キュアデーティア!!

 

未来へつながる電子の輝き!

 

キラメくふたりは!

 

 

インストール@プリキュア!!

 

 

 私が―――――

 私たちが、プリキュアだ!!

 

 みんなにとってはたぶんどこかで聞いたような言葉だと思うけど、ジェミニちゃんにぶつける想いはこれしか浮かばなかった。

 ジェミニちゃんが、おばあちゃんが、どこの誰が何を言おうとも―――――

 

 私たちは、『インストール@プリキュア』なんだ!!

 

 「あくまでプリキュアと言い張りますか……!いいでしょう!!その意固地、真正面から粉砕してあげましょう!東堂博士の、名にかけて!!」

 

 ジェミニちゃんの絶叫と同時に、70体のプロトセーブが私とデーティア目掛けて襲いかかる。

 

 『僕たちだって、負けない!!』

 『たとえ……たとえおばあちゃんが、プリキュアのことを否定したとしても……―――――!!』

 

 無数に浮かぶドローンのその向こう―――――ジェミニちゃんのその背後に、おばあちゃんが見えた気がした。

 おばあちゃんの影が、私の視界にちらつく―――――

 ごめん、おばあちゃん―――――

 

 私は―――――プリキュアだから。

 

 ―――――ダダダダダダダダダダダダ!!!!!

 

 たくさんのプロトセーブが、私とデーティアに機銃を撃ちかけてきた。オレンジ色の砲火が一斉に輝いて、鼓膜が裂けそうなほどの発砲音が耳をさえぎる。

 キュアネットのプロトセーブと違って、現実世界では当然のように"現実的"な武器。だけど―――――

 

 ―――――見える。

 

 私には、発射された銃弾の一発一発が見えている。たぶん、デーティアもそう。

 銃弾に書いてある英数字や、金色の本体に灰色の弾頭、その弾頭にミゾが3本ある、っていうのもはっきりと見える。

 前に、増子さんのオジさんが撃った銃弾をキャッチしたことがあったけど、あれも『狙って出来た』。

 集中して見ることができさえすれば、この弾幕も簡単にかいくぐれるほどのとんでもない動体視力。

 いや―――――たぶん、単純な動体視力だけじゃない。

 プロトセーブがどの位置から発砲して、どこに着弾するのか―――――つまりは、"射線"。

 それも、視界に入っているプロトセーブの射線が、私には全部『見えている』。

 私には、たくさんの光のラインが張り巡らされているように見えていて、それを避けているに過ぎない。こう見えてるのも、たぶん『私の無意識』が計算してくれているから、かな。

 もっとも、避け切れなくても、銃弾を弾いたり、叩き落したりすることも出来る。十分に対処可能だ。

 それにこの弾―――――ゴム弾だ。やっぱりジェミニちゃんは、なるべく私たちを傷つけないように無力化したいらしい。

 いいよ―――――

 

 『―――――……受けて、立つ!!』

 

 70体のプロトセーブを全部叩き落として、私たちの存在を示す!!

 

 「でも全部避けられるわけではないんでしょぉぉ~~↑↑↑!?!?!?」

 『ッ!』

 

 突然、背後から強い衝撃。振り返ると、マズルから硝煙をくゆらすプロトセーブ。

 ―――――くやしいけど、その通りだよ。

 70体すべての銃撃を見切れるわけじゃないし、死角に入られたらそれまで。

 ある程度攻撃を喰らうことは織り込んで戦わなきゃ……!

 

 『数が多すぎる……!!』

 《ってか、どれにローズとフェリーチェが入ってンのか、もう見分けがつかねぇぜ!?》

 

 ここまでの大軍を相手にするのは2度目だけど、あの時と違って今回は私たちふたりだけ。

 でも―――――

 もし、『アレ』ができれば、少しは対抗できるかも……

 

 『メモリア!』

 《りんくの考えてること、わかるよ!……でも、ホントにできるかちょっとビミョーだけど……》

 『やってみようよ!やらないで後悔するよりも―――――』

 《やってから後悔する!……でしょ?》

 『(σ・∀・)σさっすがぁ~♪』

 

 よくわかってる!《……あれ?なんかセリフを取られたよーな……》っていうメモリアの声が聞こえた気がするけど、まぁいいか。

 

 『行くよ、メモリア!』

 《おっけー!!》

 

 メモリアがどうやって『アレ』をやったか、正直全然わかんないけど―――――

 やれば絶対できる!だって私は―――――私たちは―――――

 

 プリキュアなんだから!!!

 

CURE-MEMORIAL!! FULL DRIVE!!!

 

 全身からチカラが湧いてくる感覚。そして、全身から放出されるイーネルギー―――――

 私の視界が、イーネルギーの輝き、ピンク色に染まる。

 

プリキュア!サイバーイリュージョン!!

 

 体いっぱいにため込んだチカラを、一気に放出する―――――

 すると、私の周囲にピンク色の光が、柱のようなカタチを取った。その数―――――9つ。

 

 「むむむ!一体何をしでかしますか!?もっとも何をしでかしても対処は―――――」

 

 光の柱と同じ数、9体のドローンが光の柱に突進した、瞬間―――――

 

 ―――――バキィィィィィイ!!!!!!

 

 9体同時に、ドローンが飛んできたその方向に、そのまま返されるように吹っ飛んだ。

 

 「………………( ゚Д゚)」

 

 呆気に取られるジェミニちゃん。

 

 『……!!』

 《オイオイマジかよ……!?》

 

 光の柱が消えたそこに立った『9人』を見て、デーティアは瞠目して、データが驚きの声を上げる。

 ―――――無理ないか、ふたりには言ってなかったし、私もできるかわからなかったから。

 でも―――――できたよ。

 さぁ、出番だよ―――――

 

 『もぉっ、いきなり突っ込んで来るなんて……お姉ちゃん怒っちゃうよ!』

 『でも、キラキラしててとってもキレイぴゅる~♪』

 『多勢に無勢、か……フッ、面白い戦いになりそうだね』

 『皆さん、あまり時間をかけては駄目ですよ。私達の存在自体をどれだけ維持できるか、まったくの未知数なのですから』

 

 ―――――そう、これは私の『分身』。

 相手の数が多いなら、帳尻を合わせればいい。いわば『戦いは数だよ兄貴!』ってゆーやつだ。

 前に、メモリアがバグッチャー相手に分身してたのを見て、私にもできないかな~って考えてたことだけど、ぶっつけ本番でウマくいってくれた!

 しかもメモリアの使ってた分身と違って、明らかに『実体』がある!数では全然かなわないけど、ちょっとは差が縮まった……のかな。

 それにしても……9人のうちの4人の分身は、見た目は『(キュアメモリアル)』なんだけど、なんかその……キャラや目つきが明らかに違う。

 

 『どんなにたくさんいたって、負けないんだから!』

 

 この私は、すっごく目がキラキラしてる。日常系アニメに出てきそうな女の子のよーなカンジだ。

 

 『ちょっとかわいそうだけど、みんなをいじめるなら手加減なしぴゅる!』

 

 こっちの私は……アイドルアニメに出てきそうな感じ、かな。……『ぴゅる』ってなんだろう??

 

 『こうした戦いでこそ、私の力の見せ所だ!プリキュアの誇りにかけて、この戦い……必ず勝つ!』

 

 こちらの私は……宝塚の男役みたいだ。目元がキリッとしてて、頼りになりそうなオーラがスゴい。

 

 『分散して事に当たれば、問題ないでしょう。ただ、迅速に、ということだけは念頭に置いてください』

 

 4人目の私は口調がカタい。『はぐプリ』のルールーちゃんを、さらにカッチカチにしたようなイメージ……だろーか。

 

 で、5人目以降は……なんか周りをきょろきょろと見まわして、スゴく驚いて、目を輝かせてる。

 まるで、この世界を初めて見たかのようなリアクション―――――

 

 『りんく!』

 

 目が合った5人目の『私』は、なぜか私を『りんく』って呼んだ。それに、この声って……

 

 『もしかして……メモリア!?』

 

 まさかと思って、心の中の『部屋』をのぞいてみたけど、そこにメモリアはいなかった。

 

 『えへへ……リアルワールドに来れちゃった♪』

 

 照れ笑いを浮かべて、上目遣いに私を見てくるその姿は、いつも見ているメモリアと同じだった―――――

 

 『ど、どーなってるの!?』

 『あたしもよくわかんないケド……なんか来れちゃった!』

 

 そ、それでいーの……?

 なんかこう、ちゃんとしたリクツがあるんじゃ……

 ま、まぁ、プリキュアのみんなはどーやっても説明できない奇跡を今まで起こしてきたわけだし、今回もそれが起こった……って解釈するしかないのかも……

 あれ?こーしてメモリアが私の分身に『入ってる』ってことは、後の4人の分身は、まさか……

 

 『ここがリアルワールド……ど、どうしよう……ほんとうに来ちゃった……』

 『そ、そーですよねー……あたしなんかが来ちゃいけないトコですよねー……や、やっぱ帰っちゃダメー……ですか……?』

 『なぁに言ってんだ!?あたし達が何のために呼び出されたって思ってんだ!?このあたしがいるんだから大船に乗ったつもりでドーンと構えろよ!』

 『きゃはははははっ♪ばとるばとるー!!』

 

 ……こっちもこっちで個性豊かな面々だこと……

 大人しそうな子、そわそわしててちょっと弱気な子、強気な子、無邪気な子……みんな私の姿をしてるけど、声はメモリアだ。

 つまりこっちの4人は、メモリアが『担当』か。

 

 『よぉし……メモリア、みんな、準備はいい?ちょっとの間だけど……いっしょに戦って!』

 

 私の呼びかけに振り返る、『9人の私』。みんなが私を見つめて、力強くうなづいた。

 

 『ああ、もちろんだとも!』

 『おーあばれするぴゅる~~!!』

 『言われるまでもありません』

 『いっぱいばとるー!!♪』

 『い、一生懸命がんばります!』

 『任せなりんく!なんなら、あたしひとりで全部片付けてやってもいいぜ?』

 『く、口だけなら何でも言えるけど流石にひとりってのは……あ!ご、ごめんなさいっ!……あたしもお手伝いするんで、その、どーかよろしく……』

 『そんなわけだから、み~んなまとめて!お姉ちゃんにまっかせなさ~い!♪』

 

 個性豊かなみんなの決意表明。そのラストに、まっすぐ見つめるのは―――――メモリア。

 

 『夢みたいなこの時間……大切にするね!りんくといっしょに、あたし、戦うよ!』

 

 70体を相手にするにはちょっぴり少ないけど、そこは愛と勇気でカバー!

 さっき、ジェミニちゃんは『ワタシとこの子たちのステージ』って宣言したけど、ここからはキャスト交代―――――

 

 『私たち!』

 

劇団"メモリアル"!!

 

 脚本・構成・監督はこの私!

 私プロデュースの舞台(ステージ)を―――――

 私と、メモリアと、『ちょっと違う』私とメモリアの力と技とプライドを―――――

 ジェミニちゃんに見せてあげる!

 

 ……SAVE POINT




メモリアルの分身体、8人全員の元ネタを答えられたらスゴいです!!
お暇な方はチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
次回もちょっと間が空くかもですが、気長にお待ちを……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キュアデーティアのシンカ

超絶神回を見た―――――
その感動に震えながら、ルパパト見つつ投稿する稚拙です。

ドクタートラウム、桃キュア総攻撃"プリキュアストーム"(稚拙命名)を叩き込まれた上、しかもはぐプリの新キメ技の犠牲者第一号という、ある意味悪役冥利に尽きる退場でしたな……
『生みの親』をその手にかけたこととなるルールーさんの心中は果たして……

それと……やはり遅れまして申し訳ございません!

そして重ね重ね、今回で終わりじゃないです!スミマセン!!
長くなりすぎたので、書きあがった前半部分を先にお届けしたく思いまして……

劇団メモリアルの思わぬ弱点とデーティアの"爆闘"を送信!

P.S. 思う所あってタイトル変えました。


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER SELECT

 

    CURE-MEMORIAL

 ⇒  CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 いつもは、"ひとり"しかいない僕のパートナー。

 その姿が―――――全く相似形の姿が、僕の眼前に『10』もの数で現れた―――――

 僕には、まったく見分けがつかない。10人全員が『キュアメモリアル』の反応を示して、僕の視界の隅のレーダーに表示されている。

 

 《こいつぁ……》

 『……仮面ライダーナイトのシャドーイリュージョン……いや、ディケイドのディケイドイリュージョンか……!』

 《いや最近のヤツならオーズのガタキリバコンボだろ》

 

 心の中のデータと分身ライダー談義を交わす僕だけど、データがガタキリバコンボの話題を出したところで、ふと、ある想像が浮かんだ。

 ……でも、流石に()()まではできない、と思う。頭の中の雑念を振り払い、僕はしっかりと前を見据える。

 

 「むむむ……!!まさかご自身を現実空間にコピペするとわ……!!今更ですが非現実的で非科学的ですッ!!あ、アナタたち、1対11ですよ!?ヒキョーだとは思わないのですか!?」

 

 顔を真っ赤にして怒るジェミニさんに、10人のキュアメモリアルが口々にまくしたてる。

 

 『70体(コレ)のドコが『1』なんですかぁっ!?』

 『あのー……数だけならあきらかにそちらの方が多いと思うんですけど……』

 『どの口が言いやがるッ!!』

 『それに……あなたは大きなカン違いをしてるぴゅる!』

 『そう……たとえ私達がこれ以上に……貴女を上回る100人や1000人に分身したところで、変わらぬ真理がありますから』

 

 本物と思しき、ひとりのメモリアルがジェミニさんを指差し、叫んだ。

 

 『今の私たちは、1の力を10分割しただけ!!10人に増えようと、私は私、たったひとりだよ!ふんす!!』

 『つまり2対70には変わらないってこと!ふんす!!……(σ・∀・)σさっすがぁ~♪』

 

 ものスゴいドヤ顔で言い放つメモリアル。

 ……ど、どこかで聞いたようなコトバだ。東堂さん、特撮モノには興味ないって言ってたけど、ソレって明らかに特撮由来のセリフだよ?チーキュの猿顔の一般市民のセリフだよ……?

 

 「哲学的とてヘリクツはヘリクツですッ!!……でもでも、おふたりしかいなかったのを11人にまで増やしてくださったことは大・感・謝ですぅ……♪何故かって?みなさんまとめてお持ち帰りできるからですよぉぉぉぉぉっぉ~~~~↑↑↑↑↑!!!!!!」

 

 聞いてもいないのにこう叫ぶとともに、ジェミニさんは70体のプロトセーブをこちらにけしかけた。暗い夜空が、あっという間に銀色の幽霊じみたシルエットで埋め尽くされていくのを見た。人工知能で制御されているとは思えない動きで殺到する。

 

 『どっ、か~~~~~~~~~~~ん!!!!』

 

 ひときわ『ばとる』と連呼していたメモリアルが、右の拳を地面にたたきつけた。轟音とともに土煙が上がり、10体ほどのプロトセーブが巻き込まれて木っ端のように舞う。

 全く前触れない行動だったから僕も面喰らい、舞い上がったプロトセーブを追って、思わず上に視線を移す。

 10人の分身のうち、4人がすぐさまそれを追ってジャンプして―――――

 

 『『『『せーのっ!!』』』』

 

 ―――――どんッッッ!!!

 

 ほぼ同時に、思い切り振りかぶった右の拳を、ちょうど4人の目の前に浮いていた4体のプロトセーブに打ち込んだ。

 

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 

 『『『『いったぁ~~~~~~~い!!!!!』』』』

 

 『……え(;゚Д゚)』

 

 4人のメモリアルが絶叫して悶絶し、そのまま地面に落ちてきた時、僕は一瞬で呆気に取られた。

 ど、どういうこと……?いつものメモリアルなら、アレくらいの大きさの相手なら一発で吹っ飛ばせるはずなのに……!?

 

 『か……カタい……なんて硬さなのぉ……!?』

 『超合金Z……ううん、宇宙合金グレンぴゅる~~っ……』

 『こんなハズでは……!』

 『カンタンにボコれねーじゃねーかぁ~!!』

 

 口々にくやしさを口にするメモリアルたちの中、ひとりだけ―――――

 

 『す、スッゴくカタかったぁ……ってか、私直接パンチしてないのにどーしてぇ……??』

 

 ひときわ痛がっているメモリアルがいた。見たところ、いつものメモリアル―――――東堂さんらしい。

 さっき飛び立って、パンチを放った中には、本物のメモリアルはいなかった。彼女の言うとおり、直接パンチしたわけでもないのに『本物』がダメージを負っている。

 ―――――まさか、分身のダメージが全部『本物』に集中してしまうんじゃ……!?

 

 「!……ふふ~ん……♪なるほどぉ……」

 

 ジェミニさんの口角が上がるのが見えた。また何か、彼女に情報を与えてしまった……のか?

 

 『メモリア、キュアネットの中で相手をした時と、手応えが違っていたりはしませんか?』

 『た、確かに……こんなにガッチガチじゃなかったハズだけど……ぐぇっ!?』

 

 不意に現れた1体のプロトセーブが、メモリアと思しき分身メモリアルを突き飛ばすように、後ろから激突した。

 それをきっかけにしてか、70体のプロトセーブが10人のメモリアルとひとりの僕に、ヒッチコック映画さながらに一斉に群がってくる。

 

 『ふぇぇぇ~!?!!?取り囲まれたぁ~~!!』

 『カタいし多いし手が付けられません~!!』

 『ばとるできな~~い!』

 

 なし崩しで11人で応戦するけど、10人のメモリアルは追い払うだけで精一杯のようだ。展開が一方的すぎる……!?

 満を持して繰り出したはずの技が、どうして……!?

 

 「ウェヒヒヒヒ!!先程からエネルギー総量を計測させていただいておりますが……アナタたち、何とも律儀でヒーローらしい……♪」

 『……何を言って……?』

 

 きらり、と、ジェミニさんのメガネが光る。

 

 「10人に増えたキュアメモリアル……おひとりあたりのエネルギー総量……キュアデーティアの10分の1ほどしかございませんねぇ」

 『え……!?』

 「先程、『1の力を10分割しただけ』と仰っておりましたけど、まさか有言実行してくださっていたとは!ありがたい10姉妹(シスターズ)ですねぇ♪」

 『今年は酉年じゃないけどね……!』

 《ツッコミ返してる場合かよッ!?》

 

 思わず特撮ネタにツッコんでしまったけど、僕の危惧は当たっていたことになる。

 今10人いるメモリアルは、本来の10分の1しか実力が出せない。その状態でプロトセーブ1体ですら勝負にならないのなら、結果は目に見えている。

 このままじゃ、物量に圧し潰されるのは時間の問題……!どうする……!?

 

 「初見ではビビッちゃいましたけどぉ、これで11人まとめてハイエースしやすくなったということですねぇぇぇ~~~↑↑↑!!!」

 

 合図とともに、プロトセーブの機関銃が一斉に火を噴いた。

 

 『!辻畳ッッ!!』

 

 反射的に、僕は拳を地面にたたきつけ、板状に隆起させる。

 

 『みんなは後ろに!……僕が…………守るッ!!』

 『デーティア……』

 

 すぐ後ろに回った、本物と思しきメモリアルの視線に頷いた僕は、隆起させた岩盤の盾を飛び越え、70体のプロトセーブの『矢面』に立つ。まるで無数のロケット花火が僕に向かって飛んできているような、そんな視界だ。

 1発、また2発と、腕、足、頬―――――弾丸がかすっていく。でも不思議と、ほとんど痛みを感じない。文字通り、『(サツイ)』の無い攻撃だから、だろうか。

 でも、10分の1の力しかないメモリアルとその分身たちにとっては、この弾丸の1発でさえ、当たればどうなるか知れない。そう思えば―――――

 

 

 ―――――……退けない!

 

 

 僕はもはや光線に見える銃撃の嵐の中、ただ一点を見て歩き出す。

 防御は―――――(おそ)れだ。

 この"鉄火嵐"の中―――――僕は"無防(フセガズ)"で征く―――――!!

 

 「ほほぉ……この弾幕の中をノーガードで悠然と歩いてくるとは……キュアメモリアル『ではない方』がどうやら本命みたいですねぇ……いい()()です……アナタの作戦目的とIDは!?」

 

 無数の銃声の中、何故かジェミニさんの声がハッキリと耳に入った。僕は考えるまでもなくこう応じた。

 

 

 

キ ュ ア デ ー テ ィ ア

 

 

 「やはりそう答えますかぁ♪アナタを先程から観察してましたけど……ミョ~に(をとこ)らしいと言いますか、割とお言葉が男性寄りと言いますか……アナタ、もしかして―――――」

 

 調子に乗りすぎたか―――――?思わず生唾を飲み込んだ。その動揺がデータにも伝わったのか、

 

 《誘導尋問(ネタフリ)に引っかかったからだろッ》

 

 ……というお叱りの言葉を心中に直接打ち込まれた。……もっともで返す言葉も無い。

 しかしジェミニさんは自嘲気味に笑んで、首を横に振る。

 

 「―――――……なぁんて冗談ですよ♪アナタ方を先程から解析させていただいている段階で、アナタが正真正銘の女性であることは承知済みですので」

 

 ……正直、フクザツだ。バレなかったことにホッとするべきか、頭の中は解析出来てないじゃないかとツッコみ、嘆くべきか。

 プログラムクイーンが施した"仕掛け(マトリクスインストール)"は、最新の分析機器すら欺くほどに、僕の身体を作り替えてしまっているらしい……

 

 『……関係ない』

 「……?」

 『僕が()()()だとしても、キミを止めることには変わらないから』

 「たぁしかにぃそぉですねぇ……♪アナタ方が男性だろうと女性だろうと、ワタシが連れ帰ることに変わりないですからねぇ♪」

 『甘いね』

 「はいぃ?」

 

 僕は猛進してきたプロトセーブを振り払うように殴り飛ばすと、まだ覚悟も何も知らない、殺意さえ機械に込められない、年齢以上に『小さく』見える少女に言い放った。

 

 『ツクリモノの十や百……サツイのない千や万で……覚悟を砕けるとは思わないで』

 

 殴り飛ばされたプロトセーブが爆ぜたのか、爆発音が響き、橙色の光が視界の隅に映った。

 

 「―――――……!!!」

 『自分のためにしか戦えない……ましてや自分で『痛み』を知ろうとしないキミには、僕たちを倒すことは不可能だ。断言できる』

 「な、なかなかのハクリョクですけれど……人間、トーゼンじゃないですか!!『痛い』のはイヤなんです!!これ以上、ワタシは『痛み』を受け入れられませんので!!」

 『…………今、殴ったこの手……僕は……痛いよ』

 

 僕は、手に残るかすかな痛み、そしてそこからわかる確かな『真実』を、言葉に乗せてジェミニさんにぶつける。

 

 『戦いに痛みは必然……相手を傷つける度に、確実に自分も傷つくんだ……体と心、両方が。それを恐れて、自分自身は手を下さないキミに、僕たちを止めることはできないよ』

 「何をおっしゃいますか……この70体のプロトセーブ、すべてがワタシの手足同然!ワタシの情熱全てを注いだ子供たちなんですよ!!」

 『―――――……そうか。それが"手足"か』

 

 僕は静かに構え直して、ジェミニさんを見据えた。

 

 『なら、"70体のキミの手足"を全て()ぐ。あぁ、そういえば言い忘れていた……キミは僕たちを『高度情報化生命体』って言ったけど……実は僕、機械オンチでね。パソコンを触ると5分で壊れるんだ……だからそのプロトセーブも"触ったら"壊れるかどうか……"実"際に"験(ため)"してみるいい機会だ』

 

 自然とこの時、僕は笑っていた。

 怒りか、決意か。心の中の烈火が僕の背中を押す―――――

 

さぁ、実験を始めようか。

 

 「さ、さっき1体壊しましたよねぇ!?実験台にされるのはたまりません!"少し本気モード"でかかりなさぁぁぁい↑↑↑!!!」

 

 69体のプロトセーブの『目』に、赤、青、黄、緑―――――様々な色の光が灯る。そして一斉に僕に向き直ると、獲物を捕食する肉食動物のように『口』を開け、躍りかかる。

 全方位から襲い来るプロトセーブが顔のそばを通過するたび、ギュイイィィィィィ、というモーター音が耳につく。歯の部分がチェーンソーか何かになっているのか―――――

 ―――――そうとて!

 

 ―――――斬ッ―――――!!

 

 斬り上げ手刀一閃、1体を裂く。これで残り68体か。……多いな。

 今度は2体のプロトセーブがくっついて、その間に稲妻じみたフィールドを張った。確かに―――――さっきより殺意は増したか。

 何時までも避けてはいられないし、メモリアルたちの分身がいつまでもつかわからない。なるべく一気に数を減らしたいけど―――――

 

 《燃えてるねぇ、男の子♪》

 

 いきなり脳裏に声が響く。この声は、さっき助けたばかりの―――――

 

 『キュアマリン……!?』

 《またかよ!?》

 《またかよとは心外ねぇ。せっかくこのアタシが悩める後輩にピンチを切り抜ける必勝法を授けてあげようってのに》

 

 さすがは伝説の戦士だ。この状況を逆転できる策があるのか。容易に頼るのは良くないと思うけど、今は猫の手も借りたい。『それって!?』と声を張ると―――――

 

 《…………お~あばれ!!》

 『………………え(・ ・;)』

 《考えるな!感じろ!!昂るハートをパンチに乗せて、その手で勝利をつかみ取れ!!……ってヤツ?》

 《必勝法でもなんでもねーじゃねーかッ!!》

 『いや……そうでもないよ』

 

 僕は―――――理解した。

 つまり、"心"だ。

 この状況を切り抜けたい、誰かを守りたい―――――

 そんな僕の"心"を、そのまま"力"に換えて戦うこと―――――

 そして、それができるのは―――――

 

 『キミの力を借りるよ、マリン!!』

 《……大正解!》

 

 僕は左手のキュアットサモナーから水色のキュアチップを呼び出し、ネットコミューンのスロットに差し込んだ。

 

 『キュアチップ、『キュアマリン』!!』

 《海風に揺れる一輪の花!キュアマリン!!》

 

心火(シンカ)を燃やして―――――キュアっと……変身!!

 

   〈KAMEN RIDER CROSS-Z〉

 ⇒ 〈KAMEN RIDER GREASE〉

   〈KAMEN RIDER ROGUE〉

 

 《BURN THE HEART FIRE!! SCRASH DISCHARGER!!》

 

 《潰れる!流れる!!溢れ出ぇる!!ROBOT IN GREASE!! BURRRAAHHH(ぶるぁぁぁぁ)!!!!》

 

 《CURE-MARINE! INSTALL TO DATEAR!!》

 

 水色の光が、無数の水しぶきとともに、花弁のように舞い散って、僕の纏うコスチュームを彩る。

 

 《INSTALL COMPLETE!!》

 

(シン)()(ゼン)(カイ)

 

キュアデーティア―――――"マリンスタイル"!!

 

 ―――――滾る……!

 心の中に、青白い炎が灯り、燃え上がる!!

 『こころの力』を使うキュアマリンと、『心火』を燃やして戦う仮面ライダーグリス―――――

 果たしてこれが―――――ベストマッチ足り得るか―――――

 

 「今までに見たコトの無い姿ですねぇ……♪いやぁ、出し惜しみしないというのはありがたいコトですよぉ♪ヒトから進化したそのチカラ、もっともっと見せてくださぁい……♪」

 『いいよ。存分に。……でもね、キミに見せるのはヒトの『進化』じゃない―――――"僕の"――――――――――『心火』だ』

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    CURE-MEMORIAL

    CURE-MEMORIA

    CURE-DATEAR

 ⇒  CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 ここまで、ほくとの『熱』が直接伝わるのは―――――初めてだ。

 ただ、ひたすらに―――――

 (アツ)い―――――

 

 《見た時以上に……『中』はアッツアツだねぇ♪》

 

 アタシの隣に水色の光の球体が浮かび上がって、その中にキュアマリンが現れる。

 

 《ついてこれっか?何から何まで"規格外"なコイツによ》

 《今更何言ってんのさ。世間じゃ『プリキュア一の問題児』だとか、『全然萌えない』とか言われてるアタシだよ?むしろ大歓迎!》

 《どんな世間だよ……》(汗)

 《ほくと、聞こえる~?さっき言った通りだよ!『ハートキャッチプリキュア』のチカラは、『こころの力』!ハートがアツけりゃアツいほど、どんどんパワーアップするよ!完全燃焼してみなよ、男の子!!》

 『……わかった!行くよ!!』

 

 ほくとは駆け出し、直近に浮いていたプロトセーブに右の拳を叩き込んだ。インパクトの瞬間、拳の甲から青白く光る杭のようなエネルギーが突き出し、プロトセーブの顔面を貫く。

 

 『……"ツインブレイカー"か!』

 《さっそく見覚えない技!》

 《ほくとはこーゆーのが得意なんだぜ♪》

 

 のっけからトバしてるなぁ……でもこれなら、1体を一撃で倒せる。一撃必殺としては理に適ってる。

 

 『直撃ィ!』

 

 ―――――2体目。

 

 『吶喊ンン!!』

 

 ―――――3体目。

 

 『裂帛ゥッ!!!』

 

 ―――――4体目!

 

 プロトセーブの胴体や顔面を穿って砕く、その度に、心の中が熱く、熱く燃え上がる―――――

 

 

 心火(シンカ)を燃やして―――――心花(シンカ)を咲かせるッッ!!』

 

 

 《どーよ?ありえねーだろ?アタシでさえ知らない引き出しをコイツは持ってんだ…………って、どした?》

 

 さっきから、マリンがやけにおとなしい。全然喋らねーマリンなんざ、違和感ありまくりで背筋がゾゾッとする。アタシが隣の『部屋』のマリンに目を向けると―――――

 

 《はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……》

 

 息を弾ませ、うつむいているマリンは―――――笑っていた。

 

 《……、イイね……!ここまでアツいと、アタシも力の貸し甲斐があるってもんよ……!!》

 《確かにな……いつもよりクソ(アツ)いぜ、ほくとのハート……!感じるぜ……"心火"をよ……!ガッとキやがる……!!》

 

 ほくとの胸のイーネドライブ、その中が熱を帯びるのを、ほくとの感覚を通して感じる。ほくとは迷わず、"それ"をしっかりとつかんだ。

 

(あつ)まれ―――――心花(ハナ)の力!マリンタクト!!

 

 中心部に回転円筒(シリンダー)が備えられた、長さ40cmほどの得物。ハートマークと金色の装飾で彩られたそれが、今日は妙に力強く見える。

 ほくとは右後方から近づいてきたプロトセーブをタクトで薙ぎ払うと、そのさらに後方に控えていた3体を立て続けにタクトからの光弾で撃ち落とす。

 撃ちかけられる機関銃の集中砲火には連続バック転でかわして、高く跳ぶ!左手が円を描いて、『こころの力』が集束する―――――

 

海 花 大 車 併(マリン、シューーート) ! ! !

 

 解き放たれた『こころの力』が流体状に圧縮されて、四方八方に拡散し、さながら意志を持つかのようにプロトセーブを追いかけ、炸裂する。

 しかし今度は、着地したほくとの前方から、不意に別のプロトセーブが迫る。

 

 『ッ……!!』

 

 ほくとはマリンタクトのシリンダーに手をかけ、勢い良く回転させる。そして、その回転部分を―――――

 

 『だぁぁぁぁぁ!!!』

 

 プロトセーブの胴体に強引に押し付ける!!

 

 ―――――ギャリギャリギャリギャリギャリ!!!!

 

 金属が削れる喧騒な音と、橙色の火花が、うるさいほどに迸る―――――!

 そのプロトセーブがただの鉄屑と化すのに、10秒と掛からなかった。

 そうそう、コレだ!!

 撃つ、斬る、弾く―――――そんな常識の範疇に囚われない道具(ツール)の使い方!これが無いとほくとじゃ……"キュアデーティア"じゃねェ!!

 

 《うわ……流石のアタシでもここまではしないわぁ~……》

 《掃除道具に使おうとしたその口が何言ってんだ……ほくとは基本、道具をトリセツ通りには使わねぇ男なんだよ♪》

 《それって絶対コワすじゃん……でもま―――――》

 

 マリンは呆れ顔をニヤリと笑ませた。

 

 《そういうの、アタシも嫌いじゃないよ♪》

 

 不思議なほどに、ほくととマリンの心がシンクロしていくのがわかる。

 アタシと、ほくとと、キュアマリン―――――

 3人の鼓動が、熱を帯び、高鳴り、重なっていく―――――

 そしてほくとは再度、大地を蹴って空に舞う。

 

 

 守りたい―――――

 

 

 その一心が、五体に浸透して、燃え上がり、力に換わる―――――!!

 

 『データ!マリン!!行くよ!!』

 《おっしゃぁ!燃えろ、ほくと!!》

 《やるっしゅ~~~!!》

 

SCRAP FINISH!!!

 

 『スクラッシュドライバー』の、力の入った電子音声がネットコミューンから響き渡り、そして―――――

 

心 火 海 煌 烈 花 槍(スクラップマリンダァァァァァァイヴ) ! ! !

 

 ―――――ドゴォォァァァァァァ!!!!!

 

 "こころの激流"を纏った、渾身のライダーキック―――――!

 "こころの力"が大地に炸裂して、青白い閃光と大爆発を巻き起こし、数十体のプロトセーブを"心衝の波濤"に飲み込み、四方八方に吹っ飛ばす―――――

 

 「ウェヒイィィイィィイィィイイイイイィィィイッィ↑↓↑↓↑↓↑↓!?!?!?!?!?!?!?」

 

 ドクターが仰け反るように奇声を上げた。

 

 「喜ぶべきか憂うべきかワケわかりませんよぉ……♪♭ワタシの"手足"が、"子供たち"がこうも蹂躙されているのに、それでもアナタたちにこれっぽっちも怒りや憎しみを抱かないのはどーしてなんでしょお……」

 《知るかよ……!》

 「それは!!東堂博士が望んだ存在たるアナタたちのご活躍にぃ、東堂博士へのワタシの想いが"きゅんきゅん❤"してるからなんですぅ……❤❤これはまさに、ワタシと東堂博士が望んだジャスティ~~~ス!!!」

 《うっわぁ~……》(汗)

 

 さしものマリンもドン引きするか。ウン、アタシもドン引く。

 

 『果たしてそれが……"正義"と言えるの?』

 

 心中とは逆に、かなり感情を抑えた声でほくとは訊ねる。

 

 「あ・た・り・ま・えですぅ~!東堂博士のためになるなら、ワタシの一挙手一投足はす・べ・て正義!!それなのに正義のヒーローたるアナタたちは、どーしてワタシたちを攻撃しちゃうんです?正義のヒーローが正義の一般人相手に蛮行を働くなどあってはいけませんよねぇ~?」

 『………………………………』

 「いいですかぁ?正義の反対は『悪』ではないのです……正義の反対は『別の正義』!『悪』などというのは、その『別の正義』が気に食わない時に使う、『主観的な方便』に過ぎないのです!それってこれ以上ないほど身勝手ですよねぇ~?『悪』と決めつけられるワタシにとっては、たまらないほどの理不尽ンン~!!よってアナタたちは正義のヒーローでも、プリキュアでもないのです~!!アナタたちは高度情報化生命体!!東堂博士が待ち望んだ新・人・類なのですぅぅぅ~~!ウェヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」

 《ほくと……!》

 《む~~!!言い方がなんかムカつく~!!》

 『……いいんだ、マリン』

 

 ほくとは動じていなかった。マリンを抑えるようにイーネドライブにそっと手を当てると、改めてドクターをまっすぐに見た。

 

 『……確かにキミの言う通りかもしれない』

 《ンな!?》

 《ほくとぉっ!?》

 

 ほくとの返答があまりにも予想外で、アタシもマリンも目を飛び出させて驚いた。でも―――――

 やっぱりほくとは、ほくとだった。

 

 『ヒトにはそれぞれ自分なりの『正義』がある……ヒトによって、『良いコト』と『悪いコト』の境界線が違ってて、自分が『良いコト』だと思っても、それが他のヒトには『悪いコト』として認識されることも、良くあることだ……それが時に誤解を生んで、諍いや戦いの(モト)となる……『正義』って言葉は、どこまでも曖昧で、どこまでも脆くて……少しのきっかけで、容易く変わってしまう―――――』

 

 そういえば……"お師さん"も同じようなコトを言っていた気がする。

 自分の考えていることが、時にうまく伝わらないこともあるって。

 でも―――――

 

 『でも―――――自分の『正義』と、他人の『正義』が重なった時……それはもう、『自分だけの正義』じゃない……!それが、みんなとともに分かち合える、本当に信じるに値する『真の正義』なんだ!』

 「それがどーしたというのです!?ワタシだって、東堂博士とともに分かち合っている『正義』なんですよ!!ワタシだって『ワタシだけ』が持っている『正義』ではないのですよ!!」

 『確かにね……でも、ひとつだけ言えることがあるよ。他人の命や自由を縛って、自分の都合のいいように使うこと……それに『正義』があるの?』

 「??なんのことですぅ?」

 『何の罪もない人、ささやかに幸せを謳歌する人たちの平和を守るために、プリキュアたちは戦っていた……そんな彼女達の自由を、キミは縛り、利用している……!誰にも、他人の『(じゆう)』を身勝手に奪う権利なんてないんだ!!』

 「ですからなんのことですかぁ!?」

 『まだ一人前のヒーローになれてない僕が言えたことじゃないかも知れないけど―――――僕は……人間の自由と平和のために、この力を使う!!ローズとフェリーチェを、『キミ』という鎖から解き放つために!』

 

―――――()()()()()()!!

 

〈SOUL-SYMPARATE〉

 

〈HOKUTO   120%〉〈DATA    120%〉

 

〈ERIKA    120%〉

 

《CURE-DATEAR! CURE-MARINE!!》

 

HEARTCATCH! LEGENDRIVE!!!

 

 突然、『心の部屋』全体が、強烈な青白い光に包まれた。

 同時に、ほくとの全身がキュアマリンを象徴する水色の光に包まれて、うなじのハードディスクが展開して、イーネルギーをこれまでにない勢いで噴き出し始めた。

 

 《海より広いアタシの心が……今にもフットー(沸騰)寸前だぁぁぁ~~~―――――!!!!!》

 

 マリンの絶叫が、『心の部屋』にこだまする。いきなり叫ぶもんだから、アタシはビビッてしまっていた。心臓に悪いぜ……

 

 《な、なんだ……!?》

 《はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……――――――――――ねぇ、データ…………アタシ―――――ホレたわ♪》

 《―――――――――――――――へ!?》

 

 出し抜けに放たれたマリンの言葉に、アタシは一瞬思考停止してしまった。

 

 《そーゆー意味じゃないんだけどさ、どうしてなのかな……アタシのハートがココまでアツくなったの……久々かも……"すんごいまっすぐ"……突き刺さってくるみたいな……!!》

 

 この笑顔を見たコトがある。"プリキュアーツ"で、勝利を確信した時の、"あのカオ"だ。

 

 《ほくと―――――聞こえる!?》

 『マリン!?……これって、いったい……!?』

 《ここまでアタシをアツくしてくれたほくとに、アタシからのプレゼント!》

 

 マリンは、ニカッと笑って、Vサインを向けながら叫んだ。

 

 《アンタに伝授してあげる!アタシが16年かけて編み出した―――――"最終奥義"を!!》

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

    CURE-MEMORIAL

 ⇒  CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 『最終……奥義……!?』

 

 それって、いったい……!?

 そう思った瞬間、僕の纏っている『マリンスタイル』のコスチュームに変化が起きた。

 ブーツやグローブ、ワンピーススカートのいろいろな部分がスライドするように『変形』して、その隙間に隠されていた、仮面ライダーファイズのフォトンストリームさながらに張り巡らされているイーネルギーの伝達ラインが、青白い閃光を発する。

 そして、今はウェーブががったロングヘアーになっている髪の毛の1本1本までも、水色の光を放ち始め、水色に染まったイーネドライブから青色の光のリボンが伸びる。

 その時、両目に強烈な『熱さ』を感じた。目が眩んだり、見えなくなったりするわけじゃなく、むしろ周りが昼間のように、はっきりと見えるようになった。

 

 「こ……これわ!!全身がさらにカタチを変えています!!髪も目も服もガンガン光ってます!!な……なんですか!?いったい何が始まるんですぅ~~!?!?」

 

 それは僕にもわからない。『最終奥義』の全容を、僕も知らないんだから。

 

 《やるよ、ほくと、データ!!》

 『う……うん!!』

 《こうなりゃ(はら)ァくくるぜ!!》

 

 いつもとは違って、マリンから僕とデータに発破をかける。すると、《僕は何もしていない》のに、右手にマリンタクトを呼び出すと、空間に螺旋を描いて、思いッ切りヒロイックに振り回した後、ダン!と天へと掲げた。

 

 『行くよ!!"こころの大樹"の名のもとに!!!』

 

 この言葉も、僕がしゃべったわけじゃない。僕の―――――キュアデーティアの身体を、キュアマリンが動かしてる、の……!?

 そう思案を巡らす暇もなく、マリンタクトの先端に、青白い光の球体が現れ、風船のようにみるみる膨張していく。タクトを通して、身体全体から『チカラ』が注ぎ込まれていくのがはっきりとわかる。

 同時に、大地が激しく揺れ、光の球体に引き寄せられるように、土煙や石礫が舞い上がる。何らかの力場……のようなモノが形成されているの……か?

 そうしてあっという間に、直径10mほどの、超巨大なエネルギーの球体へと成長すると、マリンタクトが球体に吸い込まれるように消えていった。

 

 《こ……こんな隠し球があったのかよ!?》

 《この間のサーバー王国の時は、色々あって使えなかったんだけど……でも、今なら……!ほくととデータと、3人でなら!》

 『僕たちで……なら……?』

 《……さ、レクチャーはここまで!後は思い切り!!ほくとに任せるよ!!》

 

 僕はマリンに促され、わらわらと浮遊するプロトセーブを睨むと、両腕を大きく振りかぶって、エネルギー球を思い切り投げつけた。

 

 

()

 

 

()

 

 

()

 

 

()

 

 

(ヴァ)

 

 

 周囲の空気を震わせながら驀進したエネルギー球が、ゴゥッ!という重々しい轟音とともに炸裂した。

 まるで朝陽が昇ったかと錯覚するほどの鋭く眩い閃光が、一瞬周囲の空気を掻き込むように吸い込んだ次の刹那、一気にそれらを斥力のまま、衝撃波とともに吐き出した。

 撃った僕自身も思わずひるんで、よろけて尻餅をついてしまった。そこへ激しい爆風が押し寄せたものだから、土塊が、小石が、草が、視界に映るありとあらゆるモノが、僕への無思慮で無遠慮な飛び道具へと変貌して襲い来る。

 僕は―――――肝が冷えていた。

 この威力―――――さながら小型の核兵器じゃないか。

 こんなモノを解き放ってしまった以上、プロトセーブは全部まとめて跡形なく消し飛ぶどころか、ジェミニさんや、メモリアルもどうなっているか―――――

 背筋が一際冷えたその瞬間、データが"そう"したのか、それとも僕の恐怖が本能に呼び掛けたのか、視界の中のレーダーが大映しになって、9つの光点が灯った。

 そのうち8つは、一か所にまとまっている。メモリアルの気配をはっきりと感じて安堵すると、残ったもう一つの光点の場所へと視線を移す。

 ちょうど爆風が吹き止んだ先に―――――ぺたりと座り込んで放心状態になっていたジェミニさんの姿があった。

 

 『よ……よかった……みんな無事で……』

 《見た目ド派手だけど、『マリンダイナマイト』の応用だからね。『傷つけたくない相手』には効かないんだよねぇ♪》

 『ジェミニさん!ジェミニさん、大丈―――――』

 

 ―――――ガシュウゥゥゥゥゥゥ――――――――――……………………

 

 ジェミニさんに駆け寄ろうとして一歩を踏み出したその時、全身に鉛のカタマリのような感覚がのしかかり、重さに両ひざをついて、跪いてしまった。

 全身の光が消え、コスチュームが元の状態へと順繰りに戻っていく。

 

 『なん、だ………………!?』

 《おい!?どーなってんだマリン!!アンタ―――――》

 

 『心の部屋』の中、データが横にいるマリンに振り向くと―――――

 さっきまで普通に立ってしゃべっていたマリンが、仰向け大の字になって倒れていた―――――

 

 《…………!!マリン!!大丈夫かよ!?おい!!?》

 

 データは顔を真っ青にしてマリンを揺り起こし、その顔をのぞき込んだ―――――けど。

 

 《………………だいじょ~~~ぶ……♪チカラ全部出し尽くして、今日のところはもーダメだわ、アタシ……どーやら『最終奥義』、体力ヤバいくらい削るみたい……あとは、お願い……寝かせてぇ……》

 

 マリンはかすれ声を出しながら、力なく笑っていた。光に包まれて『心の部屋』からマリンが消えると、ネットコミューンからマリンのチップが強制排出され、レジェンドインストールが解除されてしまった。

 

 『キュアマリ……ン……!?』

 

 ―――――…………!!!

 くそ、さっきからこの倦怠感は……ッ!?

 身に纏っているコスチュームが、鉄塊のように重い……!!

 まともに立ち上がれないほどの()()は……

 

 ―――――な・ん・だ……!?

 

 視界の隅に〈NOW FORCED COOLING PLEASE WAIT AT 2:30〉と表示され、最初の一桁の数字がカウントダウンしていることに気付く。

 

 《くっそ……どうやら強制冷却に入っちまったようだ……!あと2分半は、マトモに動けねぇ……!!》

 

 この状況で2分半!?長すぎる!!

 僕がメモリアルを……東堂さんを守るって決めたのに……それなのに……!!

 

 「……………………どーやら」

 

 ジェミニさんの声が降って来て、どうにか顔を上げると、そこには―――――

 

 「最後に笑うのはワタシのよぉですねぇ……❤」

 

 『冷や汗を流しながらもどうにか作ったのがありありとわかる』ドヤ顔のジェミニさんと、その後方に浮遊する2体のプロトセーブ―――――

 

 「まさかアナタひとりに、68体用意した量産型ドローンをすべてオシャカに……それもチリも残さず消滅させられてしまうとは思いもしませんでしたよぉ……」

 『ニセモノ……とはいえ……プリキュア達の『命を縛る』モノを…………野放しには、できないからね……!螺子(ネジ)一本たりとも……灰すら残すまいと決めた……!!』

 「………………ウェヒッ❤」

 『!?』

 

 彼女は口角をニタリと上げたかと思うと、身体全体を仰け反らせ、天を仰いで―――――

 

 「ウェヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!❤❤❤❤❤❤❤」

 

 ―――――狂い笑っていた。

 

 「どこまでも!どこまでも!!ど・こ・ま・で・も!!!ワタシの心を躍らせてくださるんですか、アナタがたはぁぁぁ~~!!!!↑↑↑↑❤❤❤❤❤❤窮地に追い込まれれば追い込まれる度、さらに強力な戦闘能力を発揮して窮地を脱する!まるでどこかの戦闘民族のよぉですねぇ~~!!でぇもぉ!!ワタシが着目しているのは()()ではないのですぅ……現在の情報を瞬時に解析し、適宜適切に処理するその能力は、人間の頭脳やコンピュータですら成しえなかったコト!アナタがたの真価は、戦闘の埒外にあるのですぅ……で・す・か・ら」

 

 残った2体のプロトセーブが空中に並び、2体の間に目に見えるスパークが走った。

 

 「どうか抵抗せずぅ、ワタシにス・ベ・テを委ねてくださいネぇ❤❤コレがワタシがアナタに贈る、愛のしゅ・く・ふ・く(祝福)❤100万ボルトのビリビリ高圧電流ですぅぅぅぅ~~~!!!!!!↑↑↑↑❤❤❤❤❤ウェヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!」

 

 ―――――そんなモノが愛であってたまるかッ……!!

 でももはや、そんな言葉を返す事すら出来なくなっていた。この冷却時間が、恨めしくてならない……!!

 要はハイリスク・ハイリターンか……これから先は、『この力』の使いどころを考えなきゃ……!

 そして、そんな思考を巡らせる間に、目の前には『死の電撃』が迫る―――――

 

 ―――――ヤバいな……本当に……死ぬかもしれない―――――

 

 どんなバグッチャーの攻撃よりも現実的な恐怖感が、僕の1m前方にまで詰めてきていた。

 

 ―――――!!!!!!―――――

 

 不意に、2体のプロトセーブに、光り輝く巨大な四葉のクローバー型のバリアが飛来して―――――激突した。

 

 「ん゛なッ!?」

 

 瞠目するジェミニさんをヨソにスパークし、2体のプロトセーブは空中で堰き止められた。

 これは―――――"護葉反鏡陣(ロゼッタリフレクション)"だ。

 でも、普段のメモリアルや僕が使うモノよりも巨大で、何より全体が眩い"太陽色"に輝いている……

 これほどまでの技、どうやったら―――――

 そう思って、ふとメモリアルがいる方向を見た時―――――

 メモリアルは―――――いなかった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 そして、もう一度2体のプロトセーブに向き直った僕は―――――

 

 未だかつて見たコトの無い―――――どんなヒーローも見せたことのない―――――

 

 

 その『蹴り姿』に―――――僕は恋した。

 

 

 わかりやすく表現するなら、仮面ライダー電王・ロッドフォームの『ソリッドアタック』に、仮面ライダーアギト・シャイニングフォームの『シャイニングライダーキック』で蹴り込んだ―――――そんなカタチだ。

 太陽の輝きを全身に纏い、四葉の障壁へと一直線に突き刺さった"それ"は、愚直なまでに―――――

 否、それを"愚か"と表現することこそ"愚かしい"。

 

 鋭利に、剛美に、健実に―――――

 

 ただひとつの、唯一無二の "直" へと収斂された―――――

 迷いも、陰りも、躊躇いといった、心身ともにあらゆる "雑" を取り去って―――――

 五体のすべてを、この一瞬だけ "貫" の一字"そのもの"へと昇華した―――――

 

人 即 武 具 也

 

 ―――――空現流拳法の基礎概念を、そのまま"体現"したような―――――

 肉体そのものを質実剛健たる "槍" へと洗練し、鋳鍛し、敵へと突き刺さる―――――

 

 極限まで精緻、かつ剛毅にカタチ作られた芸術作品を見たような―――――

 そんな感覚だった。

 

 かくて僕の脳裏に―――――陽々色(ヒヒイロ)で彩られた神槍の銘が刻まれた―――――

 

 

 

プ  リ  キ  ュ  ア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……SAVE POINT




 設定解説

 プリキュア・サイバーイリュージョン

 分身を生成、制御する技。メモリアが使用したものと異なり、『虚像』ではなく、完全な実体である。
 それ故相手を撹乱することよりも、手数を増やし、多数の相手を制圧するための『攻撃的分身戦術』といえる。
 しかし、2人に分身すれば能力は半分に、3人になれば3分の1に……といった具合に、ひとり当たりの能力が分割されてしまうのが欠点。
 なお、分身体の半数はキュアメモリアが制御を担当、人格や声もメモリアのものになる。
 分身体は各々が異なる人格を持っており、それぞれが独自の判断で行動する。
 これらの人格はりんくとメモリアの深層に潜んでいる内面意識=ペルソナを抽出したものであるらしく、本人とは似ても似つかぬ性格をしていて、かつ千差万別なのはそのため。

 ※分身体の人格

 キュアメモリアル(ほんわか)

 天真爛漫な性格のメモリアル。
 『みんなのために戦う』ことを至上の喜びと感じ、本人よりもプリキュアとしての使命感が強い。
 なお、事あるごとに自分を『お姉ちゃん』と称するが理由は不明。
 モチーフは『ご注文はうさぎですか?』の『ココア』。

 キュアメモリアル(てんねん)

 ちょっと不思議ちゃんな性格のメモリアル。
 思ったことをすぐ口に出すが、考えてることはそんなに黒くないため悪意はほとんどない。
 語尾に『ぴゅる』をつけて喋ったりする謎多き存在。
 モチーフは『SHOW BY ROCK!!』の『モア』。

 キュアメモリアル(きらきら)

 某歌劇団の男役のような性格のメモリアル。
 自分に絶対の自信を持ち、時には荒々しく戦う、どこか男らしい面も。
 モチーフは『魔法少女育成計画』の『ラ・ピュセル』。

 キュアメモリアル(つんつん)

 いつも無表情、感情を表に出さないメモリアル。
 常に冷静で、丁寧な口調で話す『ちょっと近寄りがたい』印象。
 モチーフは『Charlotte』の『友利奈緒』。

 キュアメモリアル(メモリア)

 キュアメモリアが制御を担当する、キュアメモリアルの分身体。
 言うまでもないが人格はメモリアのまま。
 『本当の意味で』リアルワールドに来られたことに感激している様子。

 キュアメモリアル(わくわく)

 メモリアが制御を担当する分身のうちの一体。
 メモリア以上に幼い、小さな子供のような性格。
 無邪気だが好戦的で、『ばとる』がとても大好き。
 モチーフは『selector infected WIXOSS』の『タマ』。

 キュアメモリアル(おっとり)

 メモリアが制御を担当する分身のうちの一体。
 ちょっと引っ込み思案で、おっとりとした性格。
 世話好きな面もあり、他人への気配りを忘れない。
 モチーフは『ログ・ホライズン』の『セララ』。

 キュアメモリアル(ぶつぶつ)

 メモリアが制御を担当する分身のうちの一体。
 思ったことをぶつぶつと口にしてしまう、良く言えば正直、悪く言えば他人を傷つけやすい性格。
 しかし根は真面目で、やる時はやるが、調子に乗って失敗してしまうことも。
 モチーフは『ひそねとまそたん』の『甘粕ひそね』。

 キュアメモリアル(おおくち)

 メモリアが制御を担当する分身のうちの一体。
 男口調でさも自分を大物のように語る、根拠のない自信に満ちた性格。
 しかしながら他の分身がわりと破天荒なため、ツッコミ役に回ることもしばしば。
 モチーフは『七つの大罪』の『ホーク』。

 ――――――――――

 いつの間にやらメモリアルも『レジェンドライブ』を発動!!
 いったい何がどーなってこーなったのか、そして電調編の真の結末は、また次回で!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

UNION

 用語解説

 レジェンドライブ

 リアライズスタイルのプリキュアが、融合しているプリキュア見習いのみならず、レジェンドインストールしているレジェンドプリキュアとも精神の共鳴を果たした時に発動可能となる三位一体の奥義で、『レジェンドインストール版フルドライブ』とも云える状態。
 この際、うなじ部分の"コアドライバ"から、通常時の数十倍ものイーネルギーが供給され、体内を循環し始める。
 余剰熱の蓄積も通常形態のフルドライブとは比べ物にならないため、強制冷却を行うためにコスチューム全体が変形し、レジェンドインストール中はコスチュームで覆われているイーネルギー伝達ラインが露出して、外気にラインを晒すことで温度を下げ、更にコスチューム各所のラジエーターパネルが開放、余剰イーネルギーを熱と光に変換し強制排出するため、全身から高熱とともに強烈な閃光を発する。
 また、髪の毛は放熱のため、瞳は高熱下においても視力を確保するためにイーネルギーの強制供給を行うため、それぞれ発光する。
 結果、髪の色全体や両の瞳の色もレジェンドプリキュア同様になり、より『オリジナル』の印象へと近づく。
 サーバー王国に召喚されてからの16年間で、新たにレジェンドプリキュアが編み出した、究極のキメ技を放つことが可能となる他、隠された能力があるらしいが……?
 しかし、レジェンドライブ発動後は強制的にレジェンドインストールが解除されてしまう上、その後の3分間は強制冷却を行うため、まともに動くことすらままならなくなる程パワーダウンしてしまう。

 ――――――――――

 平成ジェネレーションズFOREVERの予告編で号泣してしまった稚拙です。
 レジェンドライダーの中の人がひとりも映像に出ていないのにあそこまで泣けるなんて反則じゃないですか……!
 しかも平成最後の今回、テーマが『メタフィクション』ですと!?『メタフィクション+ライダー』なんてトンカツ+カレーのベストマッチのよーなモノじゃないですか!!
 数週間後、レジェンドキャスト発表で再び泣き、そして劇場で三度ボロ泣きする稚拙の姿がおそらくは……

 さて今回は2話連続投稿となります!その理由ですが……
 前回『次回投稿で完結させる』とのたまった手前、この投稿で最後まで行きたかったのですが、稚拙の『話数完結編』のお約束となりつつある『字数大幅増加現象』が発生、ボリューム過多のカロリーオーバーになってしまいまして……
 苦肉の策として、最終局面を2話に分け、同時に投稿することにしました。

 しかし何故『同時』なのかというと、『前半』だけ読んで放置……となると、劇中におけるりんくさんの言動に不完全燃焼される読者の方がいらっしゃるかもしれないと考慮いたしまして、何故りんくさんがその言動に至ったか、その理由を語る『後半』もすぐに読めるようにしておいた方が、読者の方々の精神衛生上よろしいかと思った次第であります……

 さて、前置きが長くなってしまいましたが『前半』スタートです!
 オドロキの決着に……アクセス!フラァァッシュ!!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER SELECT

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    CURE-DATEAR

    ????????

    ????????

 

 ――――――――――

 

 ―――――『プリキュア・ロゼッタランツェ』が放たれる、5分ほど前―――――

 

 『マリンに変わったぴゅる!』

 『このまま押せ押せですねっ♪』

 『デーティア……すまない……私達が不甲斐無いばかりに……!』

 

 私の分身たちが、デーティアの戦いを見守る中、私は―――――

 

 『……………………………………』

 

 ―――――ショゲ込んでました、ハイ。

 せっかくデーティアに期待させて使ったサイバーイリュージョンが、通用しないなんて……

 プリキュアでこんなパターン、ありました?……なかったですよね、ハイ……

 新キメ技って初登場補正かかってるから絶対成功するハズですよね~……?

 なのにどーしてこんなコトになっちゃったの~……?

 期待してて読んでいたディスプレイの前の皆さん、ホントーにゴメンなさい……(>人<)

 私は沈んだ気分で体育座り。デーティアが作ってくれた岩盤の盾に背を向けて、デーティアが実際に戦っているところは、『私自身』からは見えていない。

 でも、分身のみんなが見ている光景は、私の視界にシンクロして、否応なしに見えてしまう。

 ……一発一発がスゴいなぁ、デーティアのパンチ……やっぱり、拳法やってると動きのキレなんかがダンチだなぁ……

 

 『……りんく』

 

 ふと顔を上げると、私が私を見つめてました。……なんで?なんで?ふたりいる!

 

 『うそ!……じゃないよっ』

 『メモリア……だよね』

 

 今は見た目が私と一緒だから、一瞬混乱したけど、目もとが『子どもっぽい』から、すぐに『メモリア』だってわかった。

 

 『どうしちゃったの、りんく……そんなに、分身したあたし達が頼りなかったのがショックだったの……??』

 『……………………』

 

 正直には言えなかった。

 メモリアだって、こうやって現実の世界に来られて、はじめて画面越しじゃない『ホンモノの私』とお話しできるのに、『せっかく現実に来たのに期待はずれじゃん』なんて―――――

 ……言えるワケ、ない…………

 

 『カッコ悪いな、私―――――』

 『え……?』

 

 思わず、弱音がこぼれていた。

 

 『こども園の時から、ちょっと考えててね……ほくとくんって……デーティアって、ホントカッコいいな……って。園長先生は、私のことも『立派なプリキュア』って言ってくれたけど……でも私、こども園の時出遅れちゃったし、今もデーティアに守られっぱなし……ガンバろうって思っても……上手く行かなくって……園長先生が言ってくれた『立派なプリキュア』って……『一人前のプリキュア』って……なんなんだろう……―――――』

 『それは……51人のプリキュアたちを取り戻して、でもって全員に勝って、それで―――――』

 『…………私……"それだけ"じゃ、ないって思う―――――』

 

 メモリアが言う"一人前の条件"は、あくまでレジェンドプリキュアたちがメモリアに示した、『カタチ』だけのものに過ぎないと思う。

 "見習い"じゃない、"本当のプリキュア"の条件、それは―――――

 

 《今この時に―――――"それ"に気付くことができたコト……それだけでも、一歩前進、ですわね♪》

 

 突然の声にネットコミューンを取り出すと、そこにはキュアドールサイズのキュアロゼッタがいた。

 

 『……ロゼッタ……?』

 《確かに、困難を乗り越えるには……想いを成し遂げるためには"力"が必要……それが通じない時、ヒトは"無力"を思い知る―――――ワタシも、サーバー王国でそれを痛感しましたわ……しかし―――――》

 

 一瞬暗い表情に変わったロゼッタだけど、すぐに私に笑顔で笑いかけて―――――

 

 《プリキュアは、純粋な"力"のみでは戦いません。人を超えた腕力も、脚力も、闇を浄化する大いなる輝きも、そのすべては―――――"心"から生まれ出づるモノ……そして、その"心"は―――――》

 『……相手を想う―――――』

 

 

 

"マゴコロ"

 

 

 

 《その通りですわ♪…………ワタシたちのみならず、すべての……それこそ、ワタシも知らないプリキュアの皆さんのこともご存知のりんくさんなら、おわかりのハズ……最後の最後まで、『邪なココロ』……"憎しみ"に囚われたまま戦ったプリキュアは、いましたか?》

 

 そんな子は、いなかった。相手を倒したいとか、やっつけたいとか、めちゃくちゃにしてやりたいとか、そんなコトのために戦ったプリキュアなんていない。

 敵に操られたり、何かの事情で、周りが見えずにがむしゃらに戦ってしまっていた子もいたけど、最後には憎しみから解放されて、世界のために戦う本当の―――――

 

 『――――――――――……!』

 

 ……そっか―――――

 わかった、気がする。

 "本当のプリキュア"の条件―――――

 

 《そして―――――りんくさんが『今』、『戦う理由』は、『何』ですか?》

 

 私が―――――今、こうして『ここ』にいるのは―――――

 どうして、ジェミニちゃんと、戦っているのか―――――

 

 『そう……私達は、彼女を『倒す』ために、ここにいるわけではありません』

 

 振り返ると―――――また、私が私を見つめてました。

 今度は―――――8人いる。

 

 『私達がここにいるのは、あの子と『おはなし』するため、だよねっ♪』

 『私達のことをどう思っているのか……それを知るために』

 『私達が『てき』じゃないって、伝えるためぴゅる~!』

 

 『私の中の私』が、心の中を代弁してくれる。

 私がここに来ようって思ったのは、少しでも、ジェミニちゃんの心の中を知りたかったから。

 

 ―――――なぜ、ミルキィローズとキュアフェリーチェをあんな姿にしたの?

 

 ―――――どうして、私たちに戦いを挑んできたの?

 

 すべてはそんな小さなギモン。

 そう考えると―――――私も、あの子も『同じ』なんだなって、今さらながらに思った。

 『知りたい』―――――ただ、それだけだったんだ。

 

 『でも……あたし……あたしは……どくたーさんを『殴りたい』って思っちゃった……あたし、プリキュアなのに……カッとなっちゃって……』

 

 メモリアが拳をぎゅっと握って、体を震わせていた。その顔を見上げると―――――

 

 

 ―――――泣いていた。

 

 

 『りんく……ロゼッタ……あたし……プリキュア失格だよぉ…………!』

 

 『一人前のプリキュアになりたい』―――――メモリアの想いは、いつも一緒にいる私が、誰よりも知ってる。

 でも、さっき一瞬でも、メモリアは憎しみに身を任せて拳を揮ってしまっていた。そのことを、メモリアはひどく後悔しているようだった。

 ―――――でもね。

 

 『―――――メモリア』

 

 私はメモリアを、そっと抱きしめた。

 瞬間、背中の方でモノ凄い爆音が響いた。視界が一瞬青白く染まって、爆風が押し寄せる―――――

 でも、私は動かなかった。大切なことを―――――メモリアにまっすぐ、伝えたかったから。

 

 『りん、く……?』

 『メモリアが、それを"イケナイコト"だってちゃんとわかってる……だから、泣いてるんだよね』

 『……うん』

 『それなら、大丈夫だよ。絶対、大丈夫。私たち、生きてる限り……何度でも、何回でも"やり直し"できるんだから』

 『やりなおし……?』

 『そう。後悔して、反省して、もう同じ失敗をしないようにするってこと。……人間って、そーゆーもんでしょ♪』

 『でもあたしにんげんさんじゃないよ?』

 『そ、そこはホラ、さぁ……コトバのアヤっていうか……』

 

 あはは、やっぱシマんないや。

 でも、それが私らしくて……()()()()()()()

 

 『……いいの?あたし……りんくといっしょに、プリキュアしても、いいの?』

 『もっちろん……!私…………メモリアじゃなきゃ、イヤだよ』

 『―――――!』

 

 前に―――――

 

 

 私が―――――プリキュアで、いいのかな―――――

 

 

 そう言った時―――――メモリアがこう返してくれたっけ。

 

 

 あたし、りんくじゃなきゃ、イヤ

 

 

 いつの間にか―――――私もメモリアじゃなきゃ、()()()()()()()

 『どっちか』が『どっちか』じゃなくっても、『キュアメモリアル』じゃないし、『キュアメモリアル』にはなれない。

 私たちふたりで、『一人前のプリキュア』を目指すんだ―――――

 

 『伝わってきます……りんくのキモチ』

 『ああ……あったけぇ……』

 『あたし……あたし、もう大感動……!!』

 『ぽっかぽか~!』

 

 『メモリアの分身たち』も、思い思いに『私のココロ』を受け止めてくれていた―――――ちょうど、その時。

 

 〈TIME LIMIT 0:00〉

 

 視界の片隅のカウントダウンがゼロになった。とたん、目の前のメモリアが、ピンク色の光に包まれていく。

 

 『……時間切れ、だね』

 『うん……』

 『私が……メモリアの分も、きちんとジェミニちゃんに伝えるよ。……こんな戦い、もう終わりにしなきゃ。こんな、『スキとスキ』のぶつかり合いなんて……悲しすぎるから』

 『りんくが、プリキュアが大好きなのとおんなじくらい……どくたーさんも―――――』

 『そう。だから、メモリアも力を……ううん、『想い』を私に貸して?目いっぱい―――――ありったけを』

 『もっちろん!……ね、みんな!』

 

 メモリアが視線をうながすその先には、光に包まれている『8人の私』が、笑ってうなづいていた。

 少しの間だけだったけど、私を手伝ってくれてありがとう―――――

 そうお礼を言おうと思ったけど、口にする前に泡のように消え去ってしまった。

 

 ―――――大丈夫。伝わってるよ。

 ―――――だって、私たちは―――――『私』なんだから―――――

 

 ……そうだったね。

 

 『メモリア』

 『うん!』

 『一緒に行くよ』

 『おっけー!!』

 

 最後に、メモリアも光の中に消えて、『私の中』の『心の部屋』に戻っていくのがわかる。

 

 《プリキュアの神髄とは、『信じて、伝える』コト……戦いはそれに至る『過程』に過ぎないということを理解できたのなら……ワタシの『想い』もお貸しできますわね♪》

 『……ロゼッタ……?』

 

 不意に、左手の甲の『キュアットサモナー』が、何もしていないのに勝手に起動した。浮かび上がってきたのは、『P31』のナンバリングがなされた、オレンジイエローのキュアチップ。

 そしてそれは、まるで意思を持つかのように―――――ううん、明らかな意思の下、私のネットコミューンのスロットへと吸い込まれていった。

 

 《ひだまりポカポカ!キュアロゼッタ!》

 《CURE-ROSETTA! INSTALL TO MEMORIAL!!》

 

 ―――――太陽が、私を包み込む。

 両手のアームカバー、両脚のブーツが光から形作られ、黄色いリボンが結ばれて、スカートがふわりと広がる。四つ葉のクローバーがあしらわれたリボンでツインテールが結われて、前髪の一部がオレンジ色に染まるのが見えた。

 右目に強い熱を感じる。黄金色の光が、視界を覆う。

 そういえば―――――私がはじめてレジェンドインストールをしたのも、キュアロゼッタだったっけ。

 ロゼッタウォールやロゼッタリフレクションを―――――アニメの中でしか見たことがなかった技の数々を、私が現実に使えたことは、私が『プリキュアになった』実感を、もっと強くしてくれた。

 キュアロゼッタ―――――ありすちゃんも、私を『プリキュアの世界』に引き込んでくれたひとりなんだ。

 

 《"愛することは、守り合うこと"―――――『プリキュア5つの誓い』のひとつですわ。その"愛"―――――"プリキュアの愛"は、知っている方、お友達、大切な場所だけに向けられるものではありません―――――》

 『うん……知ってるよ。―――――敵意を向けてきている『戦う相手』もまた、"愛"を伝える相手だって。『愛こそ、プリキュアの力』……そして……『力は、己の愛するモノを守るためのモノ』……そうだよね』

 《!……おじい様の、お言葉―――――》

 『守るコトは力……守護(ぼうぎょ)こそ最大の(こうげき)……あらゆる邪悪を制する―――――それが、『愛』。私とメモリアと……ありすちゃんの『愛』―――――目一杯のキュアキュアを……ジェミニちゃんに見せてあげようよ』

 《りんくさん―――――》

 

 

大切なタカラモノを―――――壊さないように

 

 

〈SOUL-SYMPARATE〉

 

〈LINK   120%〉〈MEMORIA    120%〉

 

〈ALICE    120%〉

 

《CURE-MEMORIAL! CURE-ROSETTA!!》

 

DOKIDOKI! LEGENDRIVE!!!

 

 

 ―――――きこえた。

 

 はっきりと、身体に響いた。

 『ナニカ』が切り替わる音だ。

 瞬間、首の後ろ―――――うなじにくっついているHDDがガシャッと音を立てたと思うと、けたたましい猛回転を始めて、オレンジ色のイーネルギーを噴き出した。

 

 《ワタシと……メモリアと……りんくさんの愛で……世界に……愛のひだまりを―――――》

 《ロゼッタ……??どうしたの?なに、言ってるの……??》

 《今こそ託しましょう……ワタシが16年かけて鍛え上げた、"愛の一閃"を!》

 『それって、なんの………………んぅ…………❤』

 

 な、なんか……ヘンな声が出ちゃった…………

 だって、うなじから全身に行きわたるイーネルギーが、どくん!と脈打ったように律動するのを、確かに感じたんだから……。

 それが合図だった。

 ブーツとアームカバーが、真ん中から両開きになった。スカートのフリルの部分やコスチュームが次々にスライドして、その内側に隠れていた、LEDファイバーのようなイーネルギー伝達ラインがむき出しになる。そして、両肩の背中側のパフスリーブと、ふくらはぎがパカッと開いて、クローバー型のテカテカしたパネルがあらわになる。

 ……っていうか、こんなのが仕込んであったなんて、私全然気づかなかったんですけど!?

 ツッコむヒマもなく、今度はイーネドライブが眩い黄金色に輝いて、それに連動するかのように、"LEDファイバー"が脈打つように一定のリズムで光を放ち始めて、やがて目も眩むほどの閃光になった。

 でもって、今度はツインテールの『ロゼッタヘアー』になっている髪の毛全体も、オレンジがかった黄金色に光って、両目も同じ色に被われて目が眩みそうになる。

 

 ―――――『私』が、カタチを変えていく。

 

 『ふたり』じゃない、完全な『さんにん』になっていく。爪先、指先、頭のてっぺんからカラダの奥底まで、細胞の、DNAのひとつひとつまで組み合わされて、編み込まれた、『キュアメモリアル』を超えた『融合一体感』が、私の全身を駆け巡る。

 今までの『レジェンドインストール』は、単なる『なりきり』に過ぎなかったけど、『これ』は、違う。

 身も心も『キュアロゼッタ』になった―――――そんな気分すら感じてる。

 

 《りんくさん、ご存知ですか?ワタシ……キュアロゼッタのシンボルマーク……トランプの『クラブ』の由来を……》

 『ほえ?……ええと、ちょっと勉強不足で存じ上げませんです……』

 《それは『棍棒』……抵抗の象徴……抑圧された感情が、逆転噴出する刹那―――――》

 

 そう、さながら詩のようにロゼッタが呟くと、私はゆっくりと、デーティアとプロトセーブが戦っている方向に、『勝手に』向き直った。

 ―――――え?

 ちょ、待って待って!!私のカラダ、今『勝手に』動いちゃったんですけど~~!?!?

 

 《防御こそ最大の攻撃―――――そして、その逆もまた(しかり)……刮目してくださいな―――――攻撃を凌ぎ続けた"楯"が、"槍"へと転じる瞬間を!》

 

 私はこれまた『勝手に』、"ラブハートアロー"を取り出すと、ロゼッタリフレクションを作り出した。それも、今までに見たことのないほど大きな、それも全体が太陽のような輝きを放っている。

 

 『はぁッ!!』

 

 "ラブハートアロー"を叩いて、私は巨大リフレクションを放った。一直線に飛んだそれは、がくりと両ひざをついていたキュアデーティアに迫っていた、2体のプロトセーブを直撃して、動きを止めた。

 

 『当たった…………ふぇっ!?』

 

 立て続いて、今度は内股気味に腰を低く落として、右手を地面に突いて、左腕を横後方に流す……ってコレ、スパイ〇ーマッのポーズじゃん!?

 ……い、いきなりどーして!?こーゆーのってほくとくんのやりそうなネタなんじゃ―――――

 

 《全身に―――――"陽だまりのチカラ"を溜め込み……身体を"槍"へと研ぎ澄ます―――――》

 

 身体全体の輝きが、どんどん強くなる。循環しているイーネルギーが、ついには体の表面にスパークして現出し始める。

 もちろんポーズはさっきの『ス〇イダーマッ』のままで、私には何が起きてるんだかさっぱりわからない。さらには―――――

 

 ―――――ギギギ……カキキキキ……!!

 

 最初はコスチュームから音がしてると思ったけど、ちがう……身体『自体』が、"きしみ"はじめた……!!

 骨や筋肉に、内から外から、恐ろしいまでの『圧』が加わって―――――

 身体全体に、イーネルギーが充満している―――――

 

 〈TARGET LOCK-ON〉

 

 『矢じりがハート形になった弓矢』―――――『ドキドキ!プリキュア』のシンボルマークが、私の視界の中で2体のプロトセーブに重なる。

 このままだと、多分これから放つ攻撃が、あの2体を直撃する―――――

 ……って、それってマズくない!?あの2体―――――最後に残ったプロトセーブの中には、ミルキィローズとキュアフェリーチェが……!!

 

 『ちょ、ちょっとタンマ!ロゼッタ……ちょっとお願いがあるんだけど……!』

 

 ―――――私のお願いに、ロゼッタは微笑みながら、静かにうなづいた。

 

 《かしこまりましたわ♪……往きましょう―――――りんくさん、メモリア!》

 『うん!!』

 《おっけ~!!》

 

 ロゼッタに促されて、私は一歩蹴り出した。

 二歩目で、私は地面から跳んだ。

 その瞬間―――――

 

 《これが―――――陽々色一閃(ヒヒイロイッセン)―――――天照神槍(アマテラスノカムヤリ)です!!!》

 

 

 私は―――――

 ううん、私たちは―――――

 

 邪悪を貫く、一振りの『槍』になった―――――

 

 

プ  リ  キ  ュ  ア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 NPC  GEMINI NORTHUPP

 

 ――――――――――

 

 ―――――勝った!勝ちました!!電調編完ッ!!

 ……というモノローグって敗北フラグなんですねぇ……

 "キュアデーティア"にプロトセーブが最後の攻撃をしようとしたまさにその時、巨大な板のようなモノが視界の外からぶつかってきて、そして今度は飛び道具……!!

 もうひとり……"キュアメモリアル"の仕業かと振り向くと、もうそこに彼女はおらず……

 そこで初めて、その『飛び道具』が、『彼女自身』であると気が付きました……!!

 

 「…………………………!?」

 

 しばし唖然としていたワタシは……言葉が出ませんでした……

 ゴーグルには、次々と有り得ない数字が表示されていきます…………

 

 Impact Speed(衝突速度)……1,195km/h

 Impinging Surface Temperature(衝突面温度)……3,916℃

 

 ……どちらにせよ、人間が生身で出せる速度と温度ではなく、ましてや肉体(カラダ)が耐え切れるモノではありません……!!

 これはもう―――――いや、既に考えていた通りなのですが―――――

 ―――――人間じゃない―――――……。

 

 「ヒトのカタチをした神器…………神槍(ガングニール)とでも呼べとッ!?」

 

 そうワタシが呟くのを尻目に、弾き飛ばされたプロトセーブが、上空で大爆発するのが見えて、思わず目を覆いました。

 次に目を開いた時、咄嗟に"彼女"を探すと―――――盛大な土煙を上げ、地面に轍を作りながら、200mほど先で着地する"キュアメモリアル"の姿がありました。

 オレンジがかった黄金色の光を全身に纏ったその姿は、否応なく『太陽神』という単語を、ワタシの脳裏に想起させます。

 しかし―――――立ち上がり、振り返った彼女の顔に浮かぶ表情は―――――

 

 

 

 怒

 

 

 

 「ひ…………!!!!!!」

 

 背筋が、凍りつきました。

 その恐怖を受け取ったのか、ワタシの頭から、ドローン制御デバイスがするりとズリ落ちました……

 でもってついでに……腰も抜けました………………。

 

 ―――――プシュウウゥゥゥゥゥゥ!!!!!!

 

 "キュアメモリアル"の全身から、真っ白な蒸気が噴き出る様が、まるで今の彼女の感情が噴出したようで、より心臓を"刺して"きます……

 そして、ゆっくりと、ワタシに向かって歩きはじめました。

 一歩ずつ歩みを進めるその度に、身に纏っているコスチュームから光が消え、お台場に建っているユニコーンガンダムのように、各部がスライドしていき、今度はコスチュームが最初に会った時のような感じに戻って、またしても蒸気噴出。そんなに体中から何度も湯気を噴き出して、以前にニッポンで放送していたというどこぞのボイラーのCMキャラクターですか……!?

 やがてついに、ワタシの目の前に"キュアメモリアル"が立ちました。腰に手を当てて、眉をつり上げてワタシを見下ろす、暗闇の中でも十分光源になるほど光るピンク色の瞳は―――――正直、怖いです……

 そして、しゃがみこんで、彼女がワタシに視線を合わせます。逸らそうとしても逸らせません……なんたる威圧感……!!

 きっと……きっと怒鳴られますよね……ワタシ、散々暴れまくりましたし…………

 …………い、いいでしょう!ワタシもハラをくくります!!

 常人を超えるほどのパンチでも、音速を出せるキックでも、受け止めましょう!!一撃で済むならそれで結構!!人間には215本も骨があるのです!1本くらい何ですか!?真実を明らかにするための未来への投資と考えれば―――――

 ……それに、『高度情報化生命体』のパワーをこの身で体験できるまたとない……―――――❤

 はッ!?……ワ、ワタシ何を考えてたんです!?

 い、いえ!やっぱりイヤです!!さっきのは一時の気の迷い!ワタシはまだ生きるのを諦めてませんッ!!痛いのはイヤです!!カンベンしてくださ――――――――――

 

 

めっ!

 

 

 ……うぇひ?

 

 『……だよ!ジェミニちゃん……私、確かに『会いに来てよ』って言ったけど、こんなカタチで会いに来ちゃダメだよっ』

 「…………え……あの……」

 『それにこんな夜遅くに出歩いて……もう日が変わっちゃってるよ!子供なんだから夜更かし厳禁!……あ、私もか…………ごほん!しかもローズとフェリーチェを『あんなの』にしちゃって……』

 「そ、その……」

 『……反省してる?』

 「え……?」

 『"悪いコト"したって自覚ある?』

 「それは………………」

 『自覚があるんなら、やるコトはひとつ!……わかるよね?』

 

 それは……もちろん。

 

 「…………ごめんなさい」

 

 確かに……ご迷惑をおかけした……のかもしれません……先に突っかかったのはワタシですし……

 で、でも、社交辞令ですよ!?フツー、こんなので許されるわけないですよ!?

 行おうとしたワタシが言うのもアレですが、コレって傷害・誘拐未遂事件ですよ!?もしもしポリスメン案件ですよ!?

 ワタシが仕事をしている『社会』では、謝っただけで済まされるなんて―――――

 

 『おk!許しますっ♪』

 「う…………うぇひっ……!?」

 

 そのあか抜けた笑顔に、ワタシは一瞬で毒気を抜かれてしまいました。

 

 『とりあえず、私たちに襲い掛かったのはこれでおしまいっ!恨みっこナシ!終了っ!!』

 「い、いいんですか!?ソレで!?そ、その……ワタシ、悪いコトしたんですよ!?オシオキとかそーゆーのは……―――――」

 『……してほしいの?』

 「そ、そんなシュミはありませんっ!!ただ……謝っただけで済ませてしまっていいものかと……」

 『う~~~~ん………………』

 

 "キュアメモリアル"はアゴに手を当てて少し考えた後、笑ってこう言い切りました。

 

 『いーんじゃない?』

 「いーんじゃない?……って……そんなノリで……」

 『いーの。だってさ、私たちプリキュアだよ?日曜朝8時半の、子どもたちのヒーローだよ?済んだことや過ぎたことをネチネチ引きずってもしょーがないじゃん。子ども向けアニメでドロ沼展開は誰も喜ばないって。……あ、でも何回かやらかしたっけ、プリキュア……

 「それっ……それはアニメの中の話であって、現実でそれは……」

 『現実でもさ、私たちには"そんなコト"する権利ないし……それに……私はそこまであなたのコト、キライになれないもん』

 

 ()()()()やれば、フツーのヒトなら大嫌い、顔も見たくない!!という心境になるはずです。

 それなのに、どうして……

 彼女は私の心中を読んだかのように、理由を付け足しました。

 

 『あなたは何度も、私たちのこと、『すごい』って言ってくれてたじゃん!』

 「―――――!」

 

 

 ―――――魅力的じゃないですかぁ♪

 

 す・ば・ら・し・いいぃぃぃぃぃいいいい~~~~↑↑↑↑!!!!!

 

 これが!これこそが!!ワタシと博士の追い求めていたモノ!!

 

 こうして直にお会いできて、実に実にうれし~ですぅ……❤

 

 アナタたちのご活躍にぃ、東堂博士へのワタシの想いが"きゅんきゅん❤"してるからなんですぅ……❤❤

 

 

 ―――――……確かに……

 ワタシが彼女達と戦っていたのは、彼女達を『倒すため』ではなく、『知るため』。そのために、どうにかして連れ帰って、東堂博士の論文を証明するために協力してもらおうと思っただけ……

 決して彼女達のことを心底『憎んで』いたワケでは……ま、まぁ、"キュアメモリアル"に対しては、少し私怨が雑じったかもしれませんが……

 

 『一度だってあなたは、私たちを貶したりなんてしなくって……いっぱい褒めてくれてたよね?それってつまり、私たちのこと……『プリキュアのことが好き』ってコトだよね!』

 「ど……どーしてそんな結論になるんですかっ!?それにアナタたちをプリキュアだとは―――――」

 『プリキュアが好きな子に、ワルい子なんていない!ジョーシキだよねぇ♪』

 「プ、プリキュアが好きというワケでは……!ワタシ、アニメなんて見ませんし……」

 『え゛、マジ!?プリキュア見てないの!?それって絶対ソンしてる!人生9割ソンしてるよ~ッッ!!』

 

 9割とわ……このヒトの人生の中で、プリキュアはそこまでのウェイトを占めているのですか……

 

 『でもどっちにしてもさ、私はあなたのこと、キライになれないことは同じだよ。…………さて』

 

 さっきまで、単なるオタクの目をしていた"キュアメモリアル"が表情をきりっと正しました。そしてその後ろに、へたり込んでいたもうひとり―――――"キュアデーティア"が立ちました。

 

 『ここからが本題!私たちも、あなたにお願いがあるの』

 

 まっすぐな眼差しだった。こちらから目を逸らすのが、実に失礼だと思えるほどに。

 

 『私たちは、この世界をキュアネットから侵略しようとしてるやつら……ジャークウェブと戦ってるの』

 『『僕らの世界が何者かに侵略されてるぞ』……なんて、空想じみたことを言ってるかもしれないけど……これは訓練でも、リハーサルでもないんだ』

 

 "あ~ハイハイハイ、『いかにも』って感じの言い回しだな~"……と思ってしまいました、何故か。

 もっとも、現実に"XV"が出現して破壊活動を行っている現状、そして目の前にいる彼女達を見れば、もはやそれが現実であることは明々白々、『事実は小説よりも奇なり』……とはよく言ったモノです。

 ただひとつ……"ジャークウェブ"なる存在は興味深いですね。それが"XV"……キュアネットと現実、双方で破壊活動を行える実体化可能コンピュータウィルス―――――"バグッチャー"を開発し、使役しているテロ組織ですか……

 現代ネットワーク工学を遥かに超越した、非常識的な技術を持った集団……ネットワーク工学者として、実にそそられる存在ではありますが……

 

 「それはワタシも知っていますよ。でなければ、プロトセーブを開発したりはしませんからね」

 『それ!その"プロトセーブ"!あなたの使ってるプロトセーブの中に、私たちが探してるプリキュア……ミルキィローズとキュアフェリーチェがいるの!』

 『ジャークウェブの侵略からこの世界を守ると同時に、僕たちはジャークウェブに戦う力を奪われてしまった、51人のプリキュアたちを取り戻して、キュアネットの奥にあるサーバー王国にいる、プログラムクイーンを助け出さないといけないんだ』

 『ふたりがいないと、クイーンを救うことが出来ないの……だから、お願い……ふたりを返してほしいの!』

 

 ますますもって、実に非現実的です……キュアネットの奥に国家があって、クイーンを助ける……まさしく子供向けアニメかテレビゲームじみたお話ですけれど……

 "ローズ"と"フェリーチェ"……確かに、名前は一致しています。

 "Cプログラム"が……プリキュア……??

 ええと……持ってきたタブレット端末で検索……と。アッサリとヒットしました。

 "ミルキィローズ"は、『Yes!プリキュア5GoGo!』に、"キュアフェリーチェ"は、『魔法つかいプリキュア!』にそれぞれ登場したキャラクターですね。両方、同じプリキュアシリーズに登場したキャラクターでありますけれども。

 

 「お願いと言われましても、おふたりともテレビアニメのキャラクターではないですか。ワタシのプロトセーブにインストールしているプログラムとは、名前だけ同じ別物では?」

 『違うの……!その……この世界ではアニメになってるんだけど、みんな、本当にいるの!』

 『こんな風に……姿形を変えられてしまったけれどね……』

 

 "キュアデーティア"の右手の甲が光ったと思うと、その中から見覚えのあるメモリーカードが顕現しました。またしても非科学的な現象が……ワタシ、頭が痛くなりそうです……

 ……コレは……先日テテが持ち帰り、ワタシが構造解析を遠隔操作で行っていたメモリーカードですね……

 

 『キミには見覚えがあるよね?キュアピースのキュアチップだよ。これは正真正銘……"生きている人間の女の子"が封印されて、カタチを変えられてしまった姿なんだ』

 『……あなたがプロトセーブに組み込んだのも、ふたりの女の子……美々野くるみちゃんと、花海ことはちゃんなの』

 「……!!!!」

 

 なんて……なんてコトでしょう……

 これで合点がいったと同時に、ジャークウェブの技術力に、実に戦慄を禁じえませんでした……

 "Cプログラム"のプロトコルが、『人間の意志』に酷似していたのは当然ですよ……それが、人間『そのもの』であれば、すべて説明がつきます……まるで『人間そのもの』とは思っていましたが、まさか本当に―――――

 プログラムの解析を意固地なまでに拒んでいたことも、あのメモリーカードが未知の材質で出来ていたことも。

 そして―――――『PARFAIT(パルフェ)』が、『AITAI(あいたい)』と意思表示したことも―――――

 すべて―――――"Cプログラム"、『本人』の意思だったということ。

 『人間の生命』をそのままプログラム化して、ウイルスに組み込んで、その人間の意志と関係なく使役する……実に……実に人間業ではありませんよ……!

 でも――――――――――

 

 「―――――…………違います」

 『え……?』

 「…………ワタシが、プロトセーブに組み込んでいるプログラムは……違います…………プロトセーブに組み込んでいるのは、"ローズ"と"フェリーチェ"『そのもの』ではありません……これらのプログラムを解析して、ようやく得られたほんのわずかな、たった20MBほどの動作記述……それを既存の人工知能に組み込んだ、それだけの……"デッドコピー"なんです……」

 『『ええええええ~~~!?!?!?!!?!??!?』』

 「ネットから拾った出処のわからないプログラムをバカ正直にそのまま使うなんて、そんなコワいマネ出来ませんよ!?」

 

 ……もしやおふたりは、プロトセーブに"ローズ"と"フェリーチェ"をそっくりそのまま組み込んでいたと思っていたのでしょうか……?

 

 『だ……だってジェミニちゃん、『ローズとフェリーチェのチップをプロトセーブに組み込んだ』って言ってなかった!?』

 「あれは……その……アナタの『お友達』をその気にさせるための……ブラフだった……と言いますか……というか、『組み込んだ』とは一言も……」

 『そんなぁ……』

 《マリンの言った通りだった……》

 

 言葉は選ぶべきでした……あらぬ誤解を招くことになっていたとは……

 ただ……サイズさえ完全に把握できない、膨大かつ詳細不明なプログラムのうちの、ほんの20MB解析できた記述……それを組み込んだだけで、プロトセーブは飛躍的に『進化』しました……

 簡易的でありながら、自律的に物事を判断し、行動し、攻撃プログラムさえも自身で構築してしまうほどに―――――

 それが『人間』であることを懐疑的な観点から鑑みても、このプログラムの『全容』を解明することが、楽しみでもあり、恐ろしくもある―――――

 まったく……彼女たちは、ワタシを退屈させませんね……

 

 『じゃ……じゃぁ、ホンモノのローズとフェリーチェはどこに……!?』

 「アメリカの、ワタシの自宅のPCに保存しています……ニッポンには持ってきていません……ワタシにとっては、貴重な手掛かりですから……!」

 『手掛かりって……』

 「ワタシが、アナタたちの存在を証明しようと、手掛かりを求めてキュアネット中を探し回って、ようやく見つけた手掛かりなんです!解析を進めれば、必ず……必ず、東堂博士の論文が本当だと証明できるんです!ワタシと、東堂博士をつないでる、たったひとつの……手掛かりなんです……!ですから……ですからっ……!」

 

 さっきまでとはまた別の恐怖心が、心の中に湧いてきました。

 東堂博士とのつながりを絶たれてしまうのではないか、これ以上、C-ORGや彼女達を『知ること』ができなくなるのではないか……そんな恐怖が―――――

 Cプログラムが、『人の命』だと知ってもなお、手放したくないと思うワタシって……救いようのないワガママですよね…………

 それに、そんなワガママが通ってしまうほど、彼女達も甘くは―――――

 

 『そっか……それなら、しょうがないね♪』

 「……うぇひ?」

 『メモリアルっ!?』

 

 "キュアデーティア"も、彼女の言葉に表情を変えました。『……あとで説明するから……ごめん』と、"キュアメモリアル"は小さく謝ると、

 

 『あなたにとって……ローズとフェリーチェがどれだけ重要で、大切にしてくれてるってコトは……その顔を見ればわかるよ』

 「……あ」

 

 ワ、ワタシ……いつの間に泣いて……?

 ……ワタシ、ここまで彼女達に入れ込んでいたのですね……こうも感情を表に出してしまうなんて……

 幼い頃―――――コンプレックスのカタマリだったワタシの心に希望を灯してくれた東堂博士……そのお力添えをしたくて、いち早く博士に近づきたくて、勉強をたくさんして、何度も挫折して、その度に這い上がって、ここまで来て、ようやくつかんだ一筋の光―――――

 この涙は、東堂博士に向けたのか、それとも―――――

 ……ワタシ自身……わけがわからないですよ……

 

 『だから、私も無理は言わない。"誰かのために"がんばってるコから、大切なモノを取り上げるなんて、そんなの良くないしね』

 

 "キュアメモリアル"が、ワタシの頭にぽん、と手のひらを乗せて、ワタシは思わず彼女を見上げました。

 

 『そこで私から提案なんだけど―――――競争しようよ!』

 「競争……?」

 『そ。私たちが、ローズとフェリーチェ以外のプリキュアたちを全員助け出すその時まで……ふたりのことは、あなたに守ってもらうことにする。で、みんなを助け出した最後に、もう一度あなたに会いに行く。ローズとフェリーチェを、今度こそ取り戻すためにね』

 「は、はぁ……」

 『あなたは今まで通り私たちの正体を調べて、居場所を突き止めて、家から連れ出して東堂博士に会わせる!どっちが先に目標達成して、会いに行けるかの競争!どう?』

 「え……ええと……その……」

 

 この方の勢いに一瞬戸惑いましたけど、冷静に考えてみればこの提案、少なくともワタシにはデメリットはありません。

 ワタシは今まで通りにこのおふたりを分析し、解析して、東堂博士の論文を実証できればそれでよし、しかもおうちがわかれば東堂博士に会ってくださると……!?

 さらに、このおふたりが目標を達成するまでは、ワタシは"ローズ"と"フェリーチェ"を解析し放題……!

 ご提案自体はあちら様、まさしくWin-Win!

 

 「…………ウェヒっ♪」

 『?』

 「わかりました……その"競争"、お受けしましょう!」

 『ホント!?いいの?!』

 「ええ。アナタたちがワタシにもう一度会いに来るその時までに、必ずアナタたちを完全解析して、おうちにお迎えに上がりますからねぇ~❤」

 『その意気だよ!でもその代わり、これだけは約束して。ローズとフェリーチェに、乱暴なコトは絶対しちゃダメだよ!女の子なんだからねっ』

 「そ、それはもちろん!丁重におもてなしさせていただきます!!」

 

 ただ……現時点で意思疎通がまったくできない"ローズ"と"フェリーチェ"に、乱暴なコトもおもてなしもロクに出来ないのでは……と、言ってから思ってしまいました。

 

 『今度会う時は友達として!それか……いっしょにジャークウェブと戦ってくれる仲間として!プロトセーブ、すっごく強かったし……』

 「そ、そうですか……!?……そう仰って下さるのは実に嬉しいのですが……―――――」

 

 ワタシは、2体のプロトセーブが転がっている、橋のたもとに視線を移します。2体のプロトセーブは、それぞれ片側の翼を破壊されて、それは無残に―――――

 

 『……言ったでしょ?大切なモノを取り上げたり、しないよ。……動かしてみて』

 「え……!?」

 

 まさか……さっきあんなハデに爆発してたのに!?普通"あんなの"に巻き込まれれば無事では―――――

 制御デバイスをかぶり直して、再起動を掛けます……すると。

 

 《《PPPPPPPPPPPPPPPP………………》》

 

 カメラ部のLEDが点灯して、反重力装置独特の『澄んだ音』が響いて、ふわりと浮かんで……―――――

 

 「う……動きました!動いてますよ!!損傷率8割超のこの状態で……!!実に奇跡ですぅ……!!」

 『ホンモノのローズやフェリーチェが閉じ込められてるかもしれないって思ったから……ちょっとだけ、急所を外したの。結果オーライだったみたいね♪ドクター・トラウムだってあそこまでフルボッコにされても生きてたし……

 『全然わからなかった……』

 《録画してるから、あとでチェックしようぜ♪》

 

 "キュアデーティア"の胸のハート型のブローチが水色の光で点滅して、彼女と一体化しているであろう"C2"の声が響きます。

 

 『ミルキィローズやキュアフェリーチェのキメ技をあんな風に再現できるって、スゴいよ!最初は本物のローズとフェリーチェが入ってるからかなって思ったけど、自分で作ったのならスゴいって!』

 「そうなんですか……?」

 『あとで『CURE-TUBE』見てみてよ!実際のアニメのふたりの技と見比べてみたら、どれだけそっくりかわかるって!』

 「は、はぁ……参考にしてみます」

 

 実に……この方はプリキュアが大好きなのですね。

 先程からの戦い方、言動、その全てが、"ヒーロー"のそれですもの。さながら、本当に『テレビの中から飛び出してきた』ような。

 目の前にいるのに、まるで手の届かない遠くにいるかのような―――――

 そんな、"強烈な非顕在性"を禁じ得ないこの方たちは、一体何処の誰なのか―――――

 最初は彼女達の『本質』を追い求めるあまり、彼女達の『パーソナリティ』に、当初興味はありませんでしたが……

 ワタシとそう年齢が変わらないように見える、ふたりの少女―――――

 彼女達の"内面"をも、ワタシは『知りたい』と感じていました―――――

 

 『さて、と……もう遅いし、明日も学校だし……私たち、そろそろ帰るね』

 「あ……あの!」

 

 こちらに背を向けた"キュアメモリアル"を、思わずワタシは呼び止めていました。

 

 「その……今日は本当にごめんなさい…………そして―――――ありがとうございました!」

 

 今日のこの戦い……ワタシにとって無駄ではありませんでした。

 いくつもの謎が解明され、同時に、アナタたちのことをもっと『知ること』ができると、ワタシに教えてくださったこと。

 こんな、知識欲だけでご迷惑をかけてしまったワタシのことを想って、尊重してくださったこと。

 そして―――――

 "キュアメモリアル"―――――彼女の言葉の一つ一つが、ワタシの琴線に触れたこと。

 ワタシの言葉を否定することなく、あるがまま受け入れて、ワタシと彼女達の目標を『競争』というカタチで互いの発奮材料にする、ある種の『したたかさ』……。

 ―――――今日、ワタシが得たモノで一番大きかったのは、『この方の存在』だったのかも知れません……。

 この方が、東堂博士が追い求めていた『先駆者(パイオニア)』で、本当によかったと、心から思ってしまっているほどですから……。

 "キュアメモリアル"は、そんなワタシを肩越しに見て、ふっと口元を緩めます。

 

 『お礼なんていいって。……これからは競争になるけど、私たち、手は抜かないからね。『待ってる』、なんて言わないよ』

 

 その瞬間―――――逆光に映える桃色の輝きが、ワタシの脳裏に鮮烈に刻み込まれました。

 

 

 

 

 

 『先に往ってる』

 

 

 

 

 

 その言葉と桃色の軌跡を残して、彼女は住宅街の向こうへと消えました。もうひとりの"キュアデーティア"も、ワタシに軽く会釈すると、その姿を追って飛び立っていきました。

 

 「……う……うぇひ……♪」

 

 また―――――涙が出てきましたよ……。

 

 「よりにもよって……まさか博士と同じコトを仰られるとは―――――」

 

 以前、ワタシが1度だけ、東堂博士と直にお会いした時に、思いの丈を博士にぶつけた時、返されたお言葉もそう―――――

 

 

 ―――――私は待ちはしませんよ?先に往ってます。貴女のその意志で、私に追いついてきてください

 

 

 何故だか……東堂博士と"キュアメモリアル"が、ワタシの中でダブりはじめたじゃないですか……

 けれどこれは、彼女なりの檄なのでしょうね。ワタシが、ワタシの持てる力のすべてを以って、この『謎』を解明してみろ、という挑戦状―――――

 

 「わかりました……博士……そして、"キュアメモリアル"……アナタたちに、必ず何時か、恩を返します……博士の論文を証明し、そして……『先駆者(アナタ)』たちの詳細・実体を解明することで!」

 

 近年……ここまで滾ったことはありません……

 そう考えてみれば―――――あながち間違いではないのかもしれませんね。

 彼女達こそ、電脳世界から、ワタシを『退屈』という停滞(ユガミ)から救いに来た、『ヒーロー』だということは―――――

 

 ……SAVE POINT




 ……ね?りんくさんの言動に不完全燃焼されたでしょう?
 何故無理やりにでもローズとフェリーチェのありかを聞き出さなかったのか、と。
 その答えは……次回で。
 今回はすぐに読めますよ♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

P.R.E.C.U.R.E.=Q.E.D.

 さて……後半です。
 りんくさんがどーして無理にキュアチップのありかを聞き出さなかったのか……
 そして、東堂博士が『インストール@プリキュア』をどう認識していたのか……
 その他諸々の謎が明かされる、電調編の完結編を……
 インスタンス・アブリアクション!!


 NOW LOADING……

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER SELECT

 

 ⇒  CURE-MEMORIAL

    CURE-DATEAR

    ????????

    ????????

 

 ――――――――――

 

 住宅街の電柱から電柱へ、おうちやマンションの屋根から屋根へ、飛び移りながらの帰り道―――――私が最初にしたのは、謝罪だった。

 

 『うららちゃん……みらいちゃん……それに、みんな……勝手なこと言って、本当にごめんなさい!』

 

 そもそもこの戦いは、ジェミニちゃんが利用していると思われていた、ミルキィローズとキュアフェリーチェのキュアチップを、彼女から取り返すことが目的だった。

 でも私は……結果的にジェミニちゃんから、ローズとフェリーチェのキュアチップの詳細な場所を聞き出すことはしなかった。

 それもみんなに相談もせずに、私が勝手に決めてしまった。でもって、勝手に『競争しよう』って提案して…………

 もぉ~~~!!!私ったら何やってるの~……見習いのくせに出しゃばって、一人前みたいに振る舞って、自分勝手に決めちゃって―――――

 

 《りんくさん……ひとつだけ、聞かせてください》

 《どうしてあの子から、ふたりのキュアチップのありかを聞こうとしなかったの?》

 

 私のネットコミューンからはレモネードの、デーティアのネットコミューンからはミラクルの声が、それぞれ響いてくる。

 ディスプレイの上に立つふたりは、"キュアドール体型"だけれども表情が真剣だった。突き刺すような視線が、今の私の心をずきりと刺激する。

 でもそれに負けないように―――――私は口から絞り出す。

 

 『……間違ってるって、思ったから。"そんなの、プリキュアじゃない"って思ったから……!』

 

 これが―――――私の想いだった。

 私が『アニメの中のみんな』を見て学んだ、『もしもプリキュアならこうするだろう』という、ある種のシミュレーション―――――

 

 『やろうと思えば、無理やりジェミニちゃんからキュアチップのありかを聞き出すことはできたかもしれないけど……でも、それってダメだって思ったの……!あんなに、おばあちゃんのことを想って、涙まで流してくれたあの子に、『別の涙』を流させてまで……そんなやり方、ジャークウェブやプリキュアのみんなが戦ってきたワルいやつらと同じじゃん!……私たちの都合だけを、一方的に押し付けるのは……良くないって、思った…………』

 

 そこまで語った時、レモネードとミラクルの表情がやわらかいそれに変わってたから、ちょっと力が抜けた。

 

 『…………か……ら……』(汗)

 

 ど……どしたの?私、ヘンなこと言ったの……?

 い、いや……コレはまさか……『笑顔の圧力』ってヤツ……!?

 家に帰ったらレジェンドプリキュアのみんなから超絶お説教満漢全席フルコース~!?

 エースにビューティ、ロゼッタとマーメイド……マジメ系4人のお説教なんて特に――――――――――

 …………ちょっとだけしてもらいたいかも……❤

 

 《りんくなら、そう言うって思ってた!》

 『……へ?してもらいたいっての聞こえてた……?

 《そうですね♪もしあそこでジェミニさんから無理やりキュアチップのありかを聞き出してたら、それこそわたし達全員でお説教するところでした♪》

 

 そ、そーなんだ……私、いつのまにやら正解ルートを選んでたワケね、ホッ……聞こえてなかった的な意味でも……

 

 《ありがとう、りんくさん、メモリア……ローズとフェリーチェを取り戻すために、がんばってくれて……》

 《ふたりとも、強引なやり方で助けてもらっても、ちっともうれしくないだろうしね……でも!ああやってジェミニちゃんにチャレンジするって言ったからには、有言実行だよ!ちゃんと、ローズとフェリーチェを迎えに行くこと!》

 『もちろんだよ!……私も……ありがとう……私の気持ち、わかってくれて……』

 

 そう、言ったからにはやらなきゃ。改めて、決意を心に刻み込む。

 ローズとフェリーチェには申し訳ないけれど、ふたりを大切にしてくれているジェミニちゃんのところにいるのなら、きっと大丈夫。

 いつか必ず、ふたりを迎えに行くから―――――その時まで待っててね、くるみちゃん、はーちゃん―――――

 

 『"罪を憎んで人を憎まず"、か……ヒーローのキホンだね』

 

 ふと振り向くと、いつの間にか横にデーティアがいた。

 

 『正直……僕はそこまで考えられてなかった……彼女からどうやってキュアチップを取り戻すか、それしか……』

 『ううん……フツーそうだよ。結局……プロトセーブにはふたりは入ってなかったけどね。……デーティアも、ありがとね。私のこと守ってくれて』

 『え?いや……あれは無我夢中で……そ、それよりも、メモリアルは大丈夫なの?』

 『?なにが?』

 『なに、って……"レジェンドライブ"だよ。凄いパワーだったけど、使った後に急に力が抜けて……僕は動けなくなっちゃったんだけど……キミはなんともないの?』

 『ほぇ?』

 

 確かにアレはスゴかった……全身を駆け巡るイーネルギーの感覚、まだ覚えてる……

 でも―――――同時に、私が『私じゃなくなっていく』―――――そんな、ヘンな感じもあった……

 アレが……『インストール@プリキュア』の……本当の力……なの?

 

 『なんとも………………ん゛ッッッ!?』

 《り、りんく!?なんかヘンだよ~~!?》

 

 思えば、そこでちょっとだけ気を抜いたのがいけなかったのかもしれない……

 胸のイーネドライブから、全身に電流が走ったと思うと、本当に全身からピンク色のスパークがびりびりッ!と迸って、がく!と五体ががっちりロックされたように固まってしまった。そして―――――

 

 ―――――ぱちん!!

 

 「え?えええええ~~~~~~~!!!!?????」

 

 こ、こんなところで初めての強制変身解除~!?

 い、今さらレジェンドライブの反動が来たってコト~!?

 しかもここは住宅街の真上!!お、落っこちちゃう~~!!

 しかし泣いて叫んだところで我らが母なる地球さんが私だけ特別扱いしてくれるはずもなく、『さぁおいで、抱きしめてあげる!』とばかりに私を地面に引き込み始める―――――

 ま、待った~!私を含めた人間って生き物は、おカタいアスファルトにHUGっとされると死んじゃうんですってば~!!

 

 ――――― ! ―――――

 

 「………………あれ…………??」

 

 覚悟を決めて両目をぎゅっとつむった私は、急にふわりと『浮かされた』。

 落ちた……わけじゃないみたい……おそるおそる目を開けると―――――

 

 『……間に合ってよかった……』

 

 いつも見る『男の子顔』よりも幼い感じの、ちょっと大きめの水色の瞳が、私を見下ろしていた。

 さらさら流れる水色の髪が、月光に反射して輝いて見える。

 

 「…………あ…………」

 

 私……『お姫様抱っこ』……されちゃってる……

 女の子なら、憧れの男の子に一度はされてみたい、『壁ドン』と並び称される恋愛シチュエーションのひとつ…………

 でも私は、人生初のお姫様抱っこを、男の子じゃなくって、『プリキュア』に奪われちゃいました……❤

 誇りあるプリキュアオタクとして、こんな嬉しいことは無い………………

 あ、でも私をお姫様抱っこしてるプリキュアに変身してるのって―――――

 

 『と、とっさのことだったから……そ、その……ごめん……っ』

 

 デーティアは顔を赤くして、私から視線を逸らすけど、そんなテレなくてもいいのにぃ~♪

 どこかのマンションの屋上に着地したデーティアは、私を下ろしてくれた。

 

 「ありがとう…………あ、あれ?」

 

 なんか、身体がダルくて、力が入らない。足がふらついて、立ってるのもキツくなってくる……

 ふらついて倒れそうになったところを、デーティアが受け止めてくれた。

 

 『大丈夫!?やっぱり、レジェンドライブの反動が……』

 「こんなに……キツいの……?」

 『僕の時は3分くらい動けなくなっただけだけど…………無理しすぎだよ』

 「どうしても……ジェミニちゃんと……お話……したかった……から、ね…………」

 

 ヤ、ヤバい……気が遠くなってきた…………

 まだ家までかなりあるのに、こんなところで気を失ったら………………

 

 ―――――ふぁさっっ―――――

 

 「…………ふぇ?」

 

 気が遠くなり始めてぼやける視界の中で見えたのは、キュアデーティアが、首に巻いてた純白のマフラーを右手で引き抜くように取り去る後ろ姿。

 そしてすぐさま、そのマフラーが私の首にかけられる。

 

 『まだ、夜風が冷えるからね。よかったら、使って』

 

 言われるまま、私はそのマフラーをぐるりと巻いた。言うまでも無いけど―――――スんゴく暖かかった。

 しかも………………なんかいいにおいがする……❤

 こ……このまま"くんかくんか"したいけど、さすがにソレはドン引きされるからやめておくとして……

 

 『……よっと』

 

 ほぇ……!?

 お……お姫様抱っこの次は『おんぶ』ですと~~!?!?!?

 そ、そこまでしてもらわなくっても……で、でもカラダに力が入んない……

 

 「ちょ……ほ、ほくとくん……っっ!?」

 『名前呼び禁止っ♪家まで送るよ。……メモリア、東堂さんの家まで案内してくれる?』

 《おっけー!》

 

 お、おっけーって、メモリア……

 あぁでも、もう意識がもたないかも……

 デーティアのうなじの水色のHDDが、ぼやける視界に大きく映る。

 

 【P.R.E.C.U.R.E. SYSTEM CORE DRIVER】―――――

 

 HDDに刻まれている文字が映ったのが、私が最後に見た景色。

 デーティアの背中で夜風に揺られるうちに、疲れと眠気が限界に達して、まぶたを開けてられなくなる。

 

 ……ジェミニちゃん……わかってくれた……のかな?

 あの子なら絶対、ローズとフェリーチェに乱暴はしない。だって、ローズとフェリーチェには結局、直接何もしてなかったわけだし、それに、『おばあちゃんとの絆』の一部なんだから。

 私たちのこと、全部を話すことはまだできないけれど……おばあちゃんが大好きなジェミニちゃんなら、きっと―――――

 それにいつか……おばあちゃんにも、『今の私』を見せてあげたいな。『私、プリキュアになれたよ!』って報告して―――――

 でも―――――

 

 おばあちゃんは―――――

 

 本当にプリキュアのことや、サーバー王国のこと、知ってたのかな―――――?

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER SELECT

 

    CURE-MEMORIAL

 ⇒  CURE-DATEAR

    ????????

    ????????

 

 ――――――――――

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~………………/////////////////

 (↑勢いと成り行きでやったこととはいえ、あまりの恥ずかしさに地の文すら綴れない状態。)

 

 《おいほくと!?どーした!?放送事故みてーになってんぞ~!?これ小説だから何やってんのかわかんねーぞ~!?ほくと~~!?》

 

 

 ――――――――――

 

 NPC  GEMINI NORTHUPP

 

 ――――――――――

 

 帰宅したときには、午前2時を回っていました。

 物音を立てずにコッソリと裏口から入ったのですが、その瞬間に明かりがついて、ムギが目をツリあがらせて仁王立ちしてました……

 

 「ちょっとジェミニ!こんな時間まで一体ドコほっつき歩いてたのよ!?こっちは水浸しになったお店や工房の片付けで大変だったのに!!」

 「す、スミマセン……お仕事関係で急に呼ばれてしまいまして……」

 

 『職場』を言い訳にするのは実に忍びないのですが……ムギをはじめとした稲上家の皆さんには申し訳なく思う次第で……

 明日、朝一でお店のお手伝いをすることをムギと約束して、まだ完全に荷物を片づけきれていない自室に戻り、デスクに腰かけると、思わず大きなため息が出ました。

 今日は……色々とあり過ぎました……まだ頭の中が混乱して、レポートにまとめるにしても今書くと支離滅裂になりそうなので止めておきましょう……

 こんな時は―――――これを読むに限ります。ワタシが、今のワタシになる『きっかけ』をくれた論文―――――

 

 【電脳生命体と融合し再生を果たした先駆者、それが現実に存在する確かなる証拠】

 

 幼いワタシに希望をくれた、東堂博士の初期の論文―――――ずっとずっと、大切にしているワタシのバイブル。

 悔しいことや悲しいこと、つらいことがあった時に読むと、不思議と心が晴れてくるのです。

 そして―――――ワタシが初めて心に希望を抱いたあの頃を、思い出させてくれます―――――

 特にこの部分、本文中に初めて、題名である『電脳生命体と融合し再生を果たした先駆者、それが現実に存在する確かなる証拠』と書かれている一節が、ワタシのお気に入りなのです♪

 その最初の単語を取って、『高度情報化生命体』の通称に『先駆者(パイオニア)』と名付けたのです―――――

 

 「……!?」

 

 何度も読み返したその一節を今日この時に読んだ瞬間―――――

 全身に電流が走ったような感覚―――――

 ワタシは、本を思わずばさりと落としてしまっていました。

 

 「……ふ……ふふ……ふふひひひ………………うぇひひひひひひひひひ!!!!!!!!!………………そうですか、そういうことでしたか!!!」

 

 ―――――実に……実に笑わずにいられましょうか、()()が!?

 もう数えきれないほど読んだはずのこの本のこの一節に、こんなことが……こんなコトバが仕掛けられていたなんて!!

 

 「もう博士は……そこまでたどり着いていたということですか……!ワタシがここまでかかったのに、もう……!!!」

 

 そうなんですよ……!

 東堂博士はもう、知っていたのですよ……!

 こんなの、わかる人間にしかわからないじゃないですか……!!

 

 『電脳生命体と融合し再生を果たした先駆者、それが現実に存在する確かなる証拠』―――――

 この一節の、英語で書かれた原文―――――

 

 【Pioneer(先駆者) of Real Evidence(確かな証拠) Computer-organism(電脳生命体) United(融合) Reincarnation(再生) Existence(存在)

 

 これらの単語の頭文字を繋げて読むと―――――

 

 Pioneer of

 Real

 Evidence

 Computer-organism

 United

 Reincarnation

 Existence

 

 

P.R.E.C.U.R.E.

 

 「最初から……!博士は最初から、彼女達が『プリキュア』だということを知っていたのですね……!」

 

 これでは、あの方たちを『プリキュアではありません』と断じたワタシが、バカみたいじゃないですか……

 もうあの方たちは、あの方たちが名乗る遥か以前から、『プリキュア』だったということですね……

 彼女達を否定するその度に、ワタシは博士をも否定していた、ということですか……

 

 「実に……実にイジワルですねぇ………………」

 

 こうなれば、彼女達との約束を果たしましょう……!

 彼女達―――――『プリキュア』の実体と実在を、必ず世に知らしめることで、アナタにご恩をお返ししましょう……

 今は閉じこもり、ワタシたちに姿をお見せにならない"あのひと"に、ワタシは必ず報います…………!!

 

東堂いづみ博士―――――

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 あれから3日たった朝の通学路―――――

 私はあまり体調がよろしくなかった。

 頭がボ~っとして、身体にも何となく力が入らない。授業中も居眠りしちゃうくらいで……

 メモリアもちょっと調子が悪いみたいで、日中もずっと寝っぱなし。

 たぶん……というか十中八九、この間の戦いの『レジェンドライブ』のせいだ。

 プリキュアに変身して戦うようになって結構経つけど、ここまで疲れを引きずるのは初めて。

 レジェンドライブ……あれからみんなに聞いたけど、発動したマリンやロゼッタも、ほとんど知らない能力だったみたい。

 ふたりも相当疲れていたようで、今朝もそのふたりだけは呼び掛けても応じてくれなかった。

 超強烈なパワーを出せる一発逆転の切り札……だけど、その後のリスクも考えて使わなきゃいけない、諸刃の剣―――――

 今までのキメ技や能力とは次元が違う。レジェンドプリキュアのみんなの技にも、ここまで反動がのしかかる技ってなかったと思うし、気を付けなきゃ……

 

 「あ、りんくちゃんおはよ~♪」

 「おはよ~……」

 

 いつもの丁字路で、そらりんが待っててくれた。

 

 「まだ調子よくないん?」

 「まぁ……あと1日か2日寝ればどーにかなるっしょ……とりあえず、休まなくっても大丈夫……むぎぽんは?」

 「先に行くって。日直じゃないのにどしたんだろ~ねぇ。なにかわかりる?」

 「ううん……どっかの部活の朝練に付き合ってんじゃない?もうすぐソフトボール部の地区大会だし」

 

 結局通学路でむぎぽんに合流することなく、学校の校門までたどり着いたその時―――――

 

 「お待ちしてましたよキュアギーク!!」

 

 という、どっかで聞いたような―――――ううん、聞いたことのある声が投下された。

 この声……もしや!?

 振り向くと、太陽を背に、校門のそばの塀の上に仁王立ちする人影……!?

 

 「とぅっ!!」

 

 ひらりと飛び降りて、私の前に着地―――――

 

 ―――――だんっっっ!!!!!!!

 

 「~~~~~~………………!!!!」

 

 ―――――したけど、足ががくがくと震えてる。……痛かったみたい。

 

 「大丈夫??っていうか………………ジェミニちゃん!?」

 「そのとーりっ!!お名前を憶えていていただいて実に光栄です、キュアギーク」

 

 カッコよく登場したけど最後に締まらない着地をしちゃったジェミニちゃんは、大泉中学の制服を着て、その上に白衣を羽織るというなんとも自己主張の激しいカッコだった。

 けど……

 

 「どうしてここに……ってゆーか、そのカッコって!?さっきから"キュアギーク"ってなに?」

 「うぇっひっひ……♪順を追ってご説明しましょう。まず、ワタシがニッポンに来た理由です。……実はワタシ、さる筋から『ある存在』の調査を依頼されまして」

 「それって…………??」

 「…………最近流行りの、『プリキュア』ですよ、『プリキュア』!」

 「は、はぁ……」

 

 あれ?このコ、この間まで『アナタたちはプリキュアではありません』とか言ってたのに、フツーに『プリキュア』って言ってる……?

 と、とにかく、何も知らないフリをしてテキトーに話を合わせとこーっと……

 

 「でもって!その『プリキュア』のおふたりはズバリ!中学生のどなたかであると踏みましてねぇ……そこで!情報収集のため、ワタシもこの大泉中学校に通学することにし・た・の・で・す~~!!新鮮なネタはやはり現場からに限りますからねぇ、ウェヒヒッ♪」

 「わぁ、すんごいなぁ♪2年に転入するん?」

 「いえ、一つ下の1年生です。ワタシ、一応12歳なんで。ニッポンの中等教育は質がいいと聞きますので、この際ついでに学生生活を満喫するのも悪くないかと♪―――――で!」

 

 ずい!と、今度は私の顔にジェミニちゃんが迫る。

 

 「ムギから聞くところによると?アナタ、『プリキュア』にお詳しいそうで?その上東堂博士のお孫さんとお伺いしましたよ!?なぜ最初にお会いした時にそのことを教えてくださらなかったのですか!?」

 「いや初対面の時にむぎぽん言ってたじゃん!?」

 「スミマセンねぇ……あの時のアナタ、ワタシにとってはモブキャラでしたので♪」

 

 仮にもこの小説の主役に何を言ってんですかアナタ。……っていうメタなツッコミはこの辺にしておこう……

 

 「『プリキュア』のコトを骨の髄まで知っているというアナタには、『ヲタク(Geek)』の呼び名が実に相応しい!というワケで、アナタは今日から『キュアギーク』です!」

 

 あの……私、キュアメモリアルなんですが。 

 姿が変わると名前も変わる『SS』のふたりじゃあるまいし……

 

 「アナタには東堂博士のことですとか、プリキュアのことですとか、聞きたいコトが実にたくさんあるのです!これからはアナタにも全面的に協力してもらいたたたたたた!?!?」

 「こらジェミニ!あんたいきなりいなくなったと思ったら!ほら、まだ手続き終わってないんだから、行くわよ!……ゴメンねぇりんく……この子ったらこないだからプリキュアにゾッコンになっちゃってね……まぁ、たま~にでいいからヨタ話に付き合ってあげてよ、お願いね~♪」

 

 追いかけてきたむぎぽんがジェミニちゃんをあっさりと捕まえると、校舎の中に取って返して行った。

 

 「よ、よろしくお願いしますねぇ~♪」

 

 ……と、ジェミニちゃんが去り際に手を振っていた。

 

 「うふふ♪なんか、またにぎやかになりそうやねぇ♪」

 

 そらりんは相変わらずニコニコしてるけど、これからは別の学年とはいえ、同じ学校に増子さん以上の『プリキュアを追う者(チェイサー)』が誕生してしまったわけで、私にとってはヒヤヒヤの日々が始まるってことですよね……?

 で、でも……これってハッパかけちゃった私のせい……ですよねー……ハイ。『どっちが先に目標達成するか競争だよ!』って提案したのは私だし……

 ジェミニちゃんはおばあちゃんのためにがんばろうとしてるんだけど、私も私で正体バレたらマズいワケだし……

 こーなったら、ジェミニちゃんよりも先にローズとフェリーチェ以外のプリキュアたちを全員取り戻して、残りのふたりを早く迎えに行かなくちゃ……!

 とはいえ…………

 

 「これからいったい…………ど~なるの~~~!?」

 

 ――――――――――

 

 ……ENEMY PHASE

 

 ――――――――――

 

 

 むぅッ……よもやッ、ここまで連続で作戦を失敗するとはッ、このスパムソン不徳の至りであるッ。

 『2度も同じ作戦は使うまい』という先入観の裏をかいたつもりであったがッ……プリキュアめッ……。

 だがこれからどうするかッ……矢張り一度ッ、『本国』に戻りッ、体勢を立て直すかッ……

 

 「―――――よォ、ゴブサタしてるなァ、将軍サマよォ」

 

 思案している小官はッ、不意に声を掛けられたッ。

 この声ッ……実に久方ぶりであったがッ、忘れもしないッ……!

 

 「貴官等はッ……!現在まで何処で活動していたァッ!?先日の御大将()イザランチュラの招集にも応じなかったとはッ……貴官等に御大将の忠実なる駒たるッ、ジャー()ウェブの尖兵としての自覚はあるのかァッ!?」

 「ハイハイ将軍サマ、悪ぅございましたよ。でもさァ、忘れてねェか?カイザランチュラ様は(オレ)達に独立行動の権利って奴を下さってるんだぜ?」

 「感謝。報恩。忠節」

 

 この2人ッ……新参者でありながらッ、どのように御大将カイザランチュラに取り入ったというのだッ……?

 それに御大将も御大将でッ、何故このような粗暴な『裏切り者』共に独立行動権などッ……

 否ッ、御大将の聖断にッ、一士官たる小官が口を挟むなどッ、天に唾するが如き愚行にして愚考ッ……!これもまたッ、ジャークウェブ繁栄という栄光の未来を見据えたッ、御大将の慧眼であるッ……!!

 

 「してッ?貴官等は何故このような場所をほっつき歩いているッ?よもや我等()ャークウェブに良からぬ思考を巡らせているのではあるまいなッ……!?」

 「まァ落ち着けよ……アンタ達が『サーバー王国の残党』相手にドンパチしてる間に、『イイモン』を拾ってなァ。『コイツ』で何かできないか、ちょっと工作してたンだよ」

 「改造。適合。応用」

 「……そーゆーこった。『コイツ』が、これからの戦いを変えるぜ……?まずは実験してみなきゃなァ……そうだな―――――」

 

 その女はッ、オモチャめいた板状のモノを取り出しッ、悪辣に口角を上げたッ―――――

 

 「標的(ターゲット)は―――――キュアメモリアル」

 

 

"GAME START"だ―――――

 

 

 

 

 ―――――STAGE CLEAR!!

 

 

 

 RESULT:CURE CHIP No.17『CURE-MARINE』

 

 プリキュア全員救出まで:あと45人

 

【挿絵表示】

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 !!!DANGER!!!DANGER!!!DANGER!!!

 UNKNOWN ENEMY INTRUSION!!!

 

 『あたまいた~い……カラダがおも~い……』

 『りんく……あたし……もうダメかも………………』

 

 

 

 !!!ATTENTION!!!

 PARALLEL UNIVERSE APPROACHING!!

 

 『患者の運命は……オレが変える!!』

 

 

See You Next Game




 ―――――りんくの『今回のプリキュア!』

 りんく「今回のプリキュアはだ〜れだ?」

 『海風に揺れる一輪の花!キュアマリンっ!』

 メモリア「『ハートキャッチプリキュア』のサブリーダー、"海花(かいか)のマリン"!属性はざぶざぶの『水』!」

 りんく「明るく前向きノーテンキなファッション部の部長、来海えりかちゃんが変身した、『こころの大樹』を守る海の戦士だよ!」

 メモリア「そんなマリンのキメ技は、コレ!」

 『花よ、煌めけ!プリキュア!ブルーフォルテウェェェェイブ!!』

 メモリア「花の力の弾丸でワルモノを浄化する、ブルーフォルテウェイブ!」

 りんく「ちなみにハトプリの浄化技、マリン自身が喰らったことあるんだよね……」

 メモリア「え゛……だいじょーぶだったの、ソレ……?」

 マリン「いや~、あの時はマジで昇天寸前だったよ、イヤホント」

 りんく「ですよねー。ご本人登場しないわけないですよねー。だってえりかちゃんだもんねー」

 マリン「いや~どもども♪このコーナーに出られるの楽しみにしてたんだよねぇ♪つぼみ~!いつき~!ゆりさ~ん!映画のはぐプリ見た~!?インプリ読んでる~!?」

 りんく「息をするよーにメタ発言する……キュアチップにされてるから読んでるわけないぢゃん……映画のコトは触れないでおこう……

 マリン「タブの中見てきたけど、ま~おカタいメンツが多いわねぇ~。アタシと波長が合いそうなのみゆきとやよいくらいじゃん。でもま、きららもいるからタイクツしないか……せめてひめやいちかあたりがいればなぁ~……」

 りんく「その皆さんを早く助け出せるよう善処しますです、ハイ」

 マリン「さぁてこのアタシが入ったからにはインプリはガツンとオモシロくなるよ~!作者さんもこの勢いで、一気に最終回まで寝ずにブッ通しで書いちゃいなよ~♪」

 りんく「いやいや作者さん死んじゃうって……」(汗)

 メモリア「??さくしゃさんってだれ?」

 マリン「じょーだんじょーだん♪それじゃ次回もアタシがグイグイ引っ張っちゃうからね~!♪ばいば~い!!」

 りんく「え゛!?コーナー乗っ取りのピンチ!?」

 ―――――ほくとの『レッツゴーライダーキック!!』

 ほくと「…………/////////////////」

 データ「って、また同じ始まり方してっぞほくと……」

 ほくと「僕……僕……なにやってんだ……」

 データ「いい加減本編の反省会コーナーにすんなっての……んじゃ気を取り直して、今回のライダーはコイツだぁ!!」

 《潰れる!流れる!!溢れ出ぇる!!ROBOT IN GREASE!! BURRRAAHHH(ぶるぁぁぁぁ)!!!!》

 『心火を燃やして……ブッ潰す!!』

 ほくと「『仮面ライダービルド』に登場した、猿渡一海さんが変身する北都の仮面ライダー……それが『仮面ライダーグリス』だ!」

 データ「お、今日は復帰が早いな。……でこのグリス……今までほくとが再現したライダーの中では一番最近のライダーだな。読んでるヤツの記憶にも新しいはずだぜ」

 ほくと「最初は仮面ライダービルド……桐生戦兎さんへの刺客として、東都と北都の戦争に参加してたんだけど、代表戦に負けてからは西都に故郷を奪われたこともあって、戦兎さんに味方してくれたんだ」

 データ「それからはビルドとクローズの心強い仲間になったんだが…………な?」

 ほくと「うん……でも、この場で僕が語れることは、ほとんどないと思う……最後まで見てもらった方が早いと思うから」

 データ「アイツの戦いぶりを焼き付けておけたからかな……今回、グリスの戦術でマリンの力を限界以上にまで引き出せたのはさ」

 ほくと「……そうだと思いたいね」

 データ「さてほくと……次回からはスペシャルゲストが登場するらしいぜ?お前も、読んでるヤツもキモがブッ飛ぶぜ♪それじゃ、またな!!」

 ほくと「??いったい誰なんだろう……??」

 次回予告

 ナレーション「次回、『インストール@プリキュア!』」

 ―――――りんくが手に入れた、1本のゲーム―――――

 りんく「じゃじゃ~ん!『ベストフレンドプリキュア』!おこづかいためて買ったんだ~♪」

 メモリア「早くやろーよ~!」

 ―――――喜びのりんくを、謎の奇病が襲う―――――

 りんく「頭が……くらくらする…………」

 メモリア「あ、あたしも~……」

 ほくと「そんなバカな―――――……でも、これって―――――"ゲーム病"だ……―――――」

 園長「私の知り合いに、これの治療法を知ってるお医者さんがいるわ」

 ―――――そして、ほくとは邂逅する―――――

 ??「変身ッ!!」

 ほくと「ま……まさか……あなたは……!!」

 ??『ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!!』

 第14話『EXCITE@EX-AID!』

 ほくと「仮面ライダー……エグゼイド……!!」

 ――――――――――

 ……というワケで、電調編、堂々完結です!長かったぁ……
 ジェミニちゃんはこの先も所々で登場して、りんくさんやほくとくんをヒヤヒヤさせてきますので、どうか彼女も生暖かく見守って頂けたらなぁ、と……
 1年半の間、電調編にお付き合いいただきありがとうございました!

 さて……予告をご覧いただいてもうお分かりと思いますが、次回より『クロスオーバー編』第1弾として、『仮面ライダーエグゼイド編』が始まります!!
 
 単なるクロスオーバーにとどまらず、その後の展開にも大きな影響を与える一大転換点となる予定です。それでは、また!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仮面ライダーエグゼイド編 第14話 EXCITE@EX-AID!
笑顔の世界のSTONE FOREST!


 レジェンドインストール図鑑

 ロゼッタスタイル
 属性:太陽

 戦力分析 力:2 技:4 速:3 防: 知:4 特:4

 『ドキドキ!プリキュア』のサブリーダー、『キュアロゼッタ』のキュアチップをネットコミューンにセットしてレジェンドインストールした、『インストール@プリキュア』の護葉戦闘形態。
 キュアロゼッタ同様の防御を主体とした戦闘スタイルであり、敵の攻撃をしのぎながら、その中で一瞬のスキを狙う。
 コスチュームにたくさん配置されたクラブマーク型パネル『プランテクローバー』から、赤外線から紫外線までのあらゆる『光』を吸収し、エネルギーに変換する。
 熱を持つ光源は大なり小なり赤外線を放出しているため、ほんの僅かな薄暗い光源や、それを受けた地熱からも光を受け、力にすることが可能。そのため昼間はもとより、完全な暗闇でない限り、安定した戦闘能力を発揮することができるようになっている。
 もちろん、世界で最も強力な光源である『太陽光』の下では最大限にパワーアップするのは言うまでもない。
 『ロゼッタウォール』と、それを大型化した『プリキュア・ロゼッタリフレクション』は、太陽エネルギーを集中させて物理的指向性を付与した、『結晶化した太陽光の盾』。光線のように一気に放出するのではなく、緩やかにエネルギーを注ぎ込みつつ展開するため、エネルギー消費がそれほど激しくない利点もある。
 また、リフレクションは攻撃を防御するごとに、相手の攻撃エネルギーを蓄積し、攻撃を受ければ受けるほど防御力が上昇する。
 しかしエネルギー許容量には限界があり、それを超過した攻撃を受けると破砕されてしまう。
 太陽エネルギーのバイアスを制御することで、片面に防御のための斥力を発生させたまま、もう片面を物理接触可能な平面とする、ということも可能。
 そのため盾として使うことはもちろん、空中に配置して足場として使うこともできる。
 また、バイアスの加速方向を変化させることで、攻撃手段として前方に射出したり、外縁部を刃とした斬撃武器として扱うこともできる。
 この際、蓄積されたエネルギーが、攻撃手段としてのリフレクションの破壊力にそのまま転換されるため、相手が苛烈な攻撃を行えば行うほど、ロゼッタの反撃もまた苛烈となるのである。

 マーチスタイル
 属性:風

 戦力分析 力:3 技:3 速: 防:2 知:2 特:2

 『スマイルプリキュア』のひとり、『キュアマーチ』のキュアチップをネットコミューンにセットしてレジェンドインストールした、『インストール@プリキュア』の旋風戦闘形態。
 キュアマーチ同様の機動力を重視した戦闘スタイルで、敵の攻撃に真っ向から一直線に突撃し、勇敢に戦う。
 コスチュームの翼状の『ウィングパニアー』によって周囲の気圧を探知し、自身から一定範囲内の任意の空間地点に特異点を設定、その一点の気圧をコントロールすることが可能。
 ある一点の気圧を上昇させ、別地点の気圧を低下させれば、気圧上昇させた地点から気圧低下させた地点へと、気圧傾斜力が働く。この際、気圧の不均一を解消しようとする空気の作用として発生する現象が『風』である。
 マーチスタイルはこうした気圧のコントロールを行うことで、頭の中で思い描いたとおりの風向・風速を伴う、ありとあらゆる『風』を発生させることができるのである。
 故に、カマイタチなどの『真空状態』を発生させることは実は『管轄外』であり、気圧制御における『空気流の操作』に対しては、それほど応用が利かない。
 だが、発生させた低気圧特異点に高気圧特異点を叩きつけることで、超高圧縮気体を作り出し、『衝撃波』として撃ち出したりなど、直接的な攻撃手段は数多い。
 『プリキュア・マーチシュート』もそのひとつで、球状に圧縮した超高圧縮気体を蹴り放ち、一定地点で炸裂させる技である。
 この際、安定していた超高圧縮気体がキックによって撃ち出される際に安定性が乱れることで『起爆』、急激膨張することで衝撃波が発生、気圧差によって爆発的に増幅することで局地的、かつ風速100m/hを超える激烈無比な竜巻を発生させる。
 あまりに強烈な気流故、生半可な攻撃で相殺することは不可能に近い。また、幾重にも積層化された衝撃波は、物理攻撃や質量攻撃、銃撃や、ミサイル・バズーカ弾頭といった砲熕兵器の進入やそれらの爆発エネルギーを遮断、放散させることは勿論、ビームやレーザーといった光学・粒子光線兵器すらも拡散・無効化するほどであり、活用次第では攻撃を防ぐバリアとしても機能する。
 また、上昇気流と下降気流を自在に発生させられるその利点から、炎属性と組み合わせての熱風や、氷属性と組み合わせての降雨・降雪、雷属性と組み合わせての雷雲発生など、局地的ながら天候を自在に操作することもできる。
 その点、炎属性のキュアサニーや氷属性のキュアビューティ、雷属性のキュアピースが同チームにいる『スマイルプリキュア』というチームはこの『天候操作』にうってつけであり、同じ5人編成の『プリキュア5』とは異なる連携戦術に、一層幅を持たせていると云えよう。

 ――――――――――

 『ぱすてるメモリーズ』に『グリムノーツ』……
 今期のアニメからはディケイドのニオイがすると常々感じる稚拙です。

 お待たせしました!
 今回から、本格的クロスオーバー『仮面ライダーエグゼイド編』に突入です!
 ……が、最初はワンクッション置いて、レジェンドプリキュアの皆さんが『あの回』を見てしまった話と、キュアピースの『新たな目標』を送信です!

 ……ちなみにスタイル解説は俄か齧りの『なんちゃって科学』ですので、拙いところはご容赦を……


 海風に揺れる一輪の花っ!

 キュアマリンこと、えりかさん参・上ッ!

 全世界ウン億万人のプリキュアファンのみんな、おっっ待たせ~!

 アタシの時代……久しぶりに来ちゃったかな……!(ドヤァ

 

 いやぁ~、あのジェミニって子、すんごいキャラしてるわぁ……

 顔芸キマりまくりだったし、ウェヒウェヒイイ感じに笑ってたし……

 後輩たち~?まごまごしてると主役取られちゃうよ~?

 ……なぁんてね♪主役はキャラで勝ち取るんじゃなくって……

 ―――――ハートの(ツヨ)さで、キマるのよ……!

 

 「……手札判ってる奴にドヤ顔で見せびらかして楽しむなんざ哀れみすら感じるぜ―――――」

 「チカラとか、出来ることとかだけじゃない……!!あたしたちのココロも……"生きてる(あかし)"も!!!ちゃんと、知ってよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 『自分の『正義』と、他人の『正義』が重なった時……それはもう、『自分だけの正義』じゃない……!それが、みんなとともに分かち合える、本当に信じるに値する『真の正義』なんだ!』

 『『待ってる』、なんて言わないよ―――――先に往ってる』

 

 コスモスの花言葉は『乙女の真心』!

 戦ってる間も、その相手とわかりあえる可能性をあきらめずに探すコト!

 パンチやキックで語るだけがプリキュアじゃないってね!

 ウチのリーダーなんか、『くらえ!この愛!!』なんて言っちゃうくらいだもん。愛が無けりゃ、プリキュアじゃないっしゅ!

 でもまぁ肩身せまいわぁ……帰ってくるなりマーメイドにネチッこくお説教されるし、ビューティには正座3時間させられるし、エースにはくどくどと……

 あ~もう!!トゥインクルとファッション談義するヒマもないじゃ~ん!!\(>△<)/

 つぼみぃ~!いつきぃ~!!ゆりさぁ~ん!!!アタシ、元気だけどなんかタイクツだよ~~!!

 でもアタシが来たからにはもう怖いモノなんて何もない!後輩たちも大船に乗ったつもりでド~ンとついてきちゃいなさぁ~い!!

 戦え!負けるな!『インストール@プリキュア!』~~~!!!

 

 ……え?調子に乗りすぎ?だぁってアタシ推しの作者さんがノリノリd(カット)

 

 ――――――――――

 

 《……何を言ってるのほくとくん?りんくちゃんは風邪をひいて、近所の病院に行ってきただけでしょ?なのにどうして、そんな遠くに……それに、そんな名前の病院、聞き覚えが無いわ……》

 「そんな……でも、確かに園長先生も一緒に……!」

 《早くののかちゃんをお迎えにいらっしゃい……待ってるわ》

 「せんせ……―――――!」

 

 電話が途切れて、静寂だけがその場に残った。

 だだ広い造成地―――――その向こうの海に、夕陽が沈んでいくのが見える。

 

 「どういう……コトなんだ―――――」

 《ほくと……》

 

 ……僕が見た幻だったのだろうか。

 あの日僕が出会った『彼ら』は、僕が『彼ら』を愛しすぎた故の夢に過ぎなかったのだろうか。

 すべて、泡沫の裡に消えた、『幻の夢』だったとでもいうのだろうか―――――

 

 「でも……僕は……覚えてる―――――」

 

 ―――――そうだ。

 夢や幻なら、僕がこの手にしている『これ』は、誰が説明できる?

 ―――――たとえ僕以外の誰もが忘れ去ったとしても、僕だけは覚えている―――――

 僕のこの目に、この記憶に、この手この足全身に、焼き付けられたあの戦い―――――

 そして残された、『プリキュアではない戦士の力』が封じられたキュアチップを―――――

 

 【EX-EXD KAMEN RIDER EX-AID】

 

 僕の『憧れのひとり』とともに戦ったあの日のことを―――――!

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 「たっだいま~!」

 

 今日も元気に、そしてジャークウェブが騒ぎも起こすことなく、無事に一日終わりました!

 今日はちょっとした用事があったから、放課後のプリキュア講義はお休みにして、まっすぐおうちに帰ってくると―――――

 キュアットタブがヤケに静かだった。

 普段なら、プリキュアたちの『おかえり~♪』の合唱で耳が幸せになるところなんだけど―――――

 

 「……??みんな、どしたの?」

 

 何か思ってタブをのぞき込むと―――――

 

 「………………ゑ」

 

 ―――――地獄絵図だった。

 

 ぺたんと座り込んでるハッピーとミラクルが青ざめた顔で涙目になってるわ、

 レモネードとトゥインクルの中1黄キュアふたりが涙を流して抱き合ってるわ、

 正座してるリズム・ロゼッタ・マーメイド・ビューティの4人組がハンカチで涙を拭きながら静かに微笑んでるし、

 エースとビートは『見てはいけないモノを見てしまった』的な愕然とした表情を浮かべてるわ、

 マーチはひとり全てを納得したような感じでうんうんとうなづいてるわ、

 寝転がってるマリンがどこから持ってきたのかおせんべいボリボリかじってるわ―――――

 …………つまり。

 

 「……えぇと……その……何があったの??」

 

 まったくわからん。

 

 《……あ……りんくちゃん、おかえりぃ~…………》

 

 ゆっくりと振り向いたハッピーが、引きつったままの顔をこちらに向けてくる。

 確か……今朝学校に行く前、みんなが『ブルーレイを見たい』って言ってきたから、こないだまでみんなが見てた『HUGっと!プリキュア』の続きをブルーレイプレイヤーにセットして、『キュアットゥース』でタブにリンクさせて―――――

 

 ………………『はぐプリ』の続き!?……ってコトは!?

 みんなが見たのって……まさか!!

 イヤな予感がしてタブのメディアプレイヤーを見ると、すでに再生は終わってチャプター選択画面に戻っていた。その最終チャプターのタイトルは……

 

 〈最終話 輝く未来を抱きしめて〉

 

 やっぱり!最終話!!

 あ……あの、放映された途端にネットで大騒ぎになった、あの伝説の……!!

 そう―――――25歳になった野乃はなちゃんが、その……比喩とかでも何でもなく、ホントーの意味で『はぐたんのママになっちゃう』、あの……!!!

 プリキュア史上前代未聞の最終話!!!

 その……あまり細かく地の文に書いちゃうと対象年齢上がっちゃうから書けません!!

 プリキュアは小さな女の子が見てナンボですから!!……って、私何言ってんの……

 

 《男の子も大人も子供もみ~んなプリキュアになっちゃったのも驚いたけど……》

 《ま……まさかあんな展開になるとは思いませんでしたね……》

 《見るだけで体力を使った気がする……》

 《感動のラストでしたわ……ワタシたちもあんな風に、お母様が苦しみ抜いた末に産んでくださっていたのですね……まさに奇跡ですわぁ》

 《こうしてここにいられるのも、生を授けてくださったお母様のおかげだということを……改めて実感することができました……》

 《カクゴがいるんだね……『お母さん』になるの、って》

 

 ……でも、みんなはしっかりと受け止めてくれたみたい。

 私だって、初めて見た時は感動と衝撃がないまぜになって、1時間くらい呆然としたままだった覚えがある。

 だから、かな。はぐプリを見てから、ママはもちろん、パパ、おばあちゃん、むぎぽん、そらりん、それから……私を取り巻く全ての人―――――

 みんなのことを、前よりもっと、大切に想えるようになった。

 私は、ひとりで『生きてる』んじゃない。みんなに『生かしてもらってる』んだって、思えるようになった。

 そして―――――『次の世代』に、命を、心を―――――『つないでいくことの覚悟』も、また―――――

 

 《《……………………(((|||゚Д゚)))》》

 

 一方で……顔を真っ青にしているプリキュアがふたり。

 タブの隅っこで肩を寄せ合っていたのは、エースとビート。

 

 《わ……わたくし……とんでもないカン違いをしていたのかもしれませんわ…………》

 《そ、そうね……響も奏も、あんなコト教えてくれなかったし……》

 

 そういえばこのふたりは、いわゆる『フツーの女の子じゃないプリキュア』、なんだよね……

 それで『あのシーン』を何の予備知識もなく見ちゃったとなると……たぶん、初見だった時の私よりもショック受けてるかも……

 ビートの様子を見ていたリズムが、《お、教えられるワケないでしょっ》と、小さくツッコむのが見えた。

 

 「ね、ねぇ……大丈夫?ふたりとも……」

 《す、少し……考える時間をください……あ、赤ちゃんはコウノトリが運んでくるものと信じておりましたが……その……////》

 《メイジャーランドで習ったのと違う…………》

 

 ああ、そういう認識なのね……ってか亜久里ちゃんってそもそも……おっと。

 

 《ですが…………》

 

 ふと、エースは表情を柔らかくした。

 

 《なんでしょう……自然と応援していました……『がんばれ』って……》

 

 その気持ち―――――私にもわかる。

 第1話からずっと『HUGっと!プリキュア』を見てきた人なら、最終回のあのシーンでショックを受けてこそすれ、目を逸らすなんてことは絶対しないと思う。

 あの瞬間―――――私も、はなちゃんに『エール』を送ってた。

 『ママになること』を、最初から最後まで、真正面からごまかさずに取り扱った『はぐプリ』だからこそのラストシーンだったんじゃないかなって、私は思ってる。

 

 《あたしは何回か、お母さんの出産に立ち会ったことがあるから知ってはいたけど……ちょっと思い出しちゃった》

 「え!?なおちゃん、それって本当!?」

 《く、詳しくお話を聞かせてくださいませ!》

 《あたしもあたしも~!》

 

 とたんに、マーチの元にプリキュア達が殺到した。

 そういえばなおちゃんって、弟と妹、合わせて6人の大家族なんだっけ。末っ子のゆいちゃんが生まれた時のことはスマプリの42話で見てたけど、『出産に立ち会った』っていうのは初耳だなぁ……

 アニメでは語られていないだけで、私が……というか、ファンの誰も知らないエピソードが、まだまだプリキュア達にはあるってことかぁ……

 ……ゼヒとも教えてほしいです、ハイ。

 

 《ま、結論から言えば『ママになるのはタイヘン』ってことだよね、うんうん》

 

 目を細めてニンマリしながら、おせんべいをぼりぼりかじるマリン。ってか、そのおせんべいどこから……そこ、タブレットの中、だよね……??

 …………あれ?

 なんだか、キュアットタブのディスプレイに違和感がある。プリキュアのみんなが過ごしている『プリキュアルーム』、その全体が画面に映ってるんだけど……

 

 「ハッピー、ミラクル、レモネード、トゥインクル、リズム、ロゼッタ、マーメイド、ビューティ、エース、ビート、マーチ、マリン…………」

 

 一人ひとり確認して―――――そこで初めて、私はその"違和感"の正体に気がついた。

 

 「ね、ねぇみんな!?ピースは!?やよいちゃんがいないよ!?」 

 

 ルームの中に、キュアピースがいない……!

 今朝、みんなにあいさつして家を出た時には、タブの中にいたのははっきりと覚えてる。それにキュアチップをどこかに持ち出したわけでもないし……

 軽くパニックになりかけていた私に、落ち着いた……というか、かる~い感じでマリンが言った。

 

 《あ、ピースだったら――――――――――》

 

 

デ ー ト ❤

 

 

 ( ゚Д゚)………………………………はゐ?

 

 

 《で!?》

 《ぇ!?》

 《と~~~!?!?!?》

 

 ハッピーとマーチ、レモネードが、すんごい変顔になりつつ飛び上がって驚いていた。

 ……って、デート!?デートってアレですか!?アイビキ!?ミンチ!?ハンバーグ!?

 エンキョリ恋愛してるあかねちゃんはともかく、やよいちゃんには恋愛フラグのレの字も立ってなかったのに、この世界に来てカレシができちゃったんですか!?!?

 ヴェエアアアアアアアアアーーーーッッッッ!!!??(`0言0́)どっ、どどどどどどどーーぉしよぉーーー!!!?こ、公式さんごめんなさぁ~い!!!

 くぁwせdrftgtyふじこlp

 

 

 ♪:ピンポンパンポ~ン

 

りんくさんがまともに地の文を綴れなくなってしまったため、恐れ入りますがしばらくお待ちください。

 

 

 (2分後)

 

 「…………はッ!?わ、私は一体何を……」

 《こないだキュアネットで見た"じょーききかんしゃ"みたいにお部屋の中を走り回ってたよ》

 

 メモリアがコミューンの中からそう言ってきた。

 

 「はぇ……??」

 《せっかくだから動画も撮っといたよ♪》

 「え!?……そ、それは削除しといて、お願いだから……」

 

 え……えぇっと……"お部屋の中をしゅっぽしゅっぽと走り回る私"なんて醜態、晒したくないのでご勘弁を……

 とゆーか全然覚えていないんですが……

 と、ともかく閑話休題(はなしをもどして)……

 

 「や、やよいちゃんがデートって!えりかちゃん、それ本当!?」

 《……ゴメン、モノのたとえだったんだけど、あそこまでショック受けるなんて思わなかったわ……それから……みゆき、なお、うららもごめんね》

 

 そう言いながら、マリンは苦笑いしながら私やみんなに両手を合わせていた。

 

 《りんくさんはワタシたちプリキュアのことになれば、たとえ火の中水の中、地の底から宇宙の果てまで、行きつく(ところ)まで行ってしまうヒトなんです》

 《私たちがうれしかったら、『うれしい』って笑ってくれて、悲しかったら、『悲しい』って泣いてくれる……まるで自分のことみたいにね》

 《いちいち、『プリキュア愛が重い』のよねぇ♪》

 《当のプリキュアのアタシたちがちょっぴりドン引くほどに、ね☆》

 《ですから……これからは突拍子の無いことをりんくに向かって言わないように……いいですね、マリン?》

 《りょーかいしましたっ、エース教官っ!海より深く、ハンセーしてます!!》

 

 びしっ!と、マリンはエースに向かって背筋を正して敬礼する。……『キュアドール体型』だからなんかカワイイけど♪

 ってか、まさしく『伝説の戦士』のみなさんに私のことをこんな風に言ってもらえるとなんだかテレますなぁ~……えへへ……

 

 《それで、ピースはどこに行ってるの?》

 

 話題を本線に戻すように、メモリアがたずねる。

 

 《あぁ、それね。こないだ『気合があれば自力でコミューンに行ける』ことがわかって、やよいにやり方教えてあげたらさ、さっそく!って出かけていったよ》

 「つまり行ける場所はコミューンだけってことね……でも私のコミューンには来てないから―――――」

 《そゆこと♪りんく以外にコミューンを持ってるのって―――――ひとりしかいないっしゅ♪》

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 《す……すっごいキラッキラ……コレって髪の毛!?》

 《アンタだってバナナみてーなすんげぇ髪してんじゃねえか……》

 

 コミューンの上に映し出されるホログラムのキュアピースが、『宇宙船』のグラビアに目を光らせる。

 雑誌の中で凛々しく構えるのは、『仮面ライダーエグゼイド・ムテキゲーマー』。エグゼイドの最強フォームだ。

 

 《ねぇほくとくん、これって借りてもいいの!?出来たら借りて、ね、お願いっ!》

 「……大判の雑誌は基本貸し出し禁止なんだ。明日も来るから、さ」

 《そんなぁ……ぐすん》

 

 涙ぐむピースを見ると、僕もなんだかいたたまれなくなる。でも、その気持ちはよくわかる。

 毎月こんな雑誌を買えるほどのお小遣いを、僕はもらっていない。だからこそ、こうして定期的に図書館に行って、『宇宙船』をはじめとした特撮ヒーロー専門雑誌を読み耽っている。

 今日、こうしてキュアピースが一緒に来ている理由を説明するには、3日ほど前までさかのぼらなきゃいけない。

 それは突然だった。

 

 ―――――ほくとくん、お願い!……特撮ヒーローのこと、仮面ライダーのこと……勉強させてほしいの!

 

 ネットコミューンに現れたピースは、真剣な表情で僕を見上げて、こう言ってきた。

 僕もデータも驚いて理由をたずねると、こども園での戦いの時、ピースサンダーや、ストロンガー電キックがバグッチャーに通用しなかったことがずっと心残りになっている、と答えた。そして―――――

 

 ―――――ヒーローのことを勉強して、もっともっと、みんなのために強くなりたいから……!だから!

 

 その『目』は、『ホンモノの目』だった。

 プリキュアとして、強くなりたいという強固な意志が、涙を溜めたその目に、はっきりと見えた。

 ……こうしてピースは、放課後になると僕のコミューンにやってきて、僕の家で一緒にライダーのDVDを観たり、こうして特撮雑誌を読んで『勉強』を始めたのだった。

 

 《か……顔に『ライダー』って書いてある……こんな大胆なデザインがあるなんて……こっちはひらがなで『らいだー』!?》

 

 今度は仮面ライダージオウと仮面ライダーゲイツのビジュアルに驚いてる。確かに……僕もジオウを初めて見たときは面食らったなぁ……『誰が何と言おうと俺は仮面ライダーなんだ!』と、強烈に自己主張するこのマスクには。

 ゲイツのマスクも好きだ。『ひらがな』は得てして『子供向け』になりがちだけど、鋭角的なデザインからは、幼稚さを微塵も感じないスタイリッシュな印象を受ける。

 

 《やっぱりカッコイイなぁ、仮面ライダー……昔の『昭和ライダー』も、最近の『平成ライダー』も、どっちも違ったカッコ良さがあって……》

 《すっかりハマッたみてぇだな♪アタシの見込んだ通りだったぜ、うんうん♪》

 「データだって最初、ライダーやスーパー戦隊のこと、『プリキュアと似たようなもんだろ』ってバッサリだったよね?」

 《ぁ?ンなこと言ったっけかぁ~?》

 「言ってたって」

 《忘れたなぁ~、そんな昔のこと♪》

 「昔って……出会って2ヶ月ちょっとだよ?」

 

 そういえば……4月にデータと出会ってから、『まだ』これだけしか経っていない。

 もう何年も前から一緒にいたような錯覚さえ覚えるのはどうしてだろう?

 

 《これからおうちでDVD?》

 「本屋に寄って、ね。『クウガ』のコミックス版の最新刊、今日が発売日だから」

 《え!?クウガってマンガ版あるの!?》

 《あぁそっか……ピース、DVDばっか見てたもんな》

 《えへへ♪おかげで昭和から平成、主役ライダーの変身ポーズ、全部できるようになっちゃった♪》

 《たった3日でよくやるぜ……》

 

 昨日、こんなことがあった。

 ふと授業中、引き出しの中のネットコミューンに目を落とすと、仮面ライダーBLACK RXの変身ポーズをキメているキュアピースが見えた……

 しかも、割とキレッキレだった。僕が憧れるスーツアクターの一人、『次郎サン』ばりだった。

 僕と目が合ったその瞬間、誰に向けたともわからないドヤ顔が見る見るうちに涙目になって―――――

 プツンと、画面が真っ暗になった。

 あぁそうか、ゆうべデータにイジられてピースが涙目でふくれっ面をしてたのはこれが原因か……

 ライダー談義を交わしながら図書館から出ると、沈みつつある西陽が不意に目に入って、目が眩みそうになる。

 ―――――明日もいい天気になるな。

 

 《あのね……ほくとくん、データ》

 

 その時、ポケットの中からピースがぽつりと切り出した。ポケットに目を向けると、上目遣いで僕を見上げるピース。

 

 「何?」

 《ホントはね……ふたりに言ってなかったことがあるの……ワタシが、仮面ライダーのことを勉強したい、もうひとつの理由……》

 

 右に左に、視線を泳がせてから、意を決したように僕を見据えたピースは言った。

 

 

 《ワタシ、仮面ライダーを描きたい!》

 

 

 彼女の目は―――――錦に輝いていた。

 夢を見つめて、その夢を叶えようと希望に満ちた、金色の瞳―――――

 

 《……昭和ライダーも、平成ライダーも……!サーバー王国のみんなにも、元の世界のみんなにも!こんな、カッコいいヒーローがいるんだって、ワタシだけが知ってるなんて、そんなのもったいないよ!》

 「教えて……って……ピースの世界に、仮面ライダーは……??」

 《テレビでもマンガでも、似たようなヒーロー番組はやってたけど、『仮面ライダー』って名前は、この世界に来て初めて聞いたの。石ノ森章太郎先生の名前を聞いたのも、つい最近だったから……》

 《サーバー王国で子供向けって言ったら、ほとんどピースのマンガのアニメだったしなぁ》

 

 データが付け加えてくれるに、サーバー王国には『特撮ヒーロー番組』は存在しないようだ。

 もっとも……アニメの中みたいなキュアネットの中で、どんな風に『特撮』を表現するのか、その辺りの疑問はあるけれども。

 

 《もちろん、そっくりそのまま描いちゃったら石ノ森先生に失礼だから、ワタシのオリジナルの仮面ライダーを描くつもり…………なんだけど……》

 「凄い!凄いよ!!」

 

 僕は人目もはばからず、ネットコミューンをポケットから取り出してディスプレイを見つめていた。

 ピースは驚いて目を丸くしていた。

 

 《ほく、とくん……??》

 「ピースは……元の世界に戻ったら、その世界で初めて『仮面ライダー』を描くんだよね……!?それって、『ピースが石ノ森先生になる』ってことだよね!それって……それって―――――」

 

 『仮面ライダー』という『ヒーロー』―――――

 人間の自由のために戦い、時代が望む限り現れ続ける、人知れず、はたまた人々の声援を受けながら平和を守る、バイクに乗った仮面の戦士―――――

 そんな"概念"を、萬画家・石ノ森章太郎先生はこの世界に生み出した。

 彼がいなければ、僕が『スーツアクター』という夢に憧れて、強くなろうと目標を決めることもなかったに違いない。

 いや―――――たぶん、僕だけじゃないだろう。

 『仮面ライダー』という存在に憧れ、心動かされ、救われ、希望を抱いて、心の中で想いを描き、祈り、声を張り上げて応援して、おもちゃを身に着け野山を駆け、技の数々を模倣しようと暴れ回り、無茶をして大人に叱られ―――――

 『仮面ライダー』という"概念"は、日本人……否、この世界に生きる不特定多数の人々の心の中に、『何かしら』を残している―――――そんな存在だ。

 この、スマホの液晶に立つ黄金色の女の子は、そんな偉大なる"概念"に感銘を受けて、世界の壁を乗り越えて、『別の世界』の人々にも、『それ』を伝えたいと、心の底から願っている。

 今、手のひらの上にいる彼女は、すぐ目の前にいるけれど、ものすごく遠く、高いところを目指している。

 キュアピースは―――――『別の世界の石ノ森章太郎先生』になろうと決意したんだ。

 元々語彙力に乏しい僕はただ……

 

 「……スゴいよ!!」

 

 ……としか言えなかった。

 ここまで考えて、言葉に出せるのはこれだけ。その時の僕は、感動が頭の中を圧迫していた。

 

 《ありがとう、ほくとくん……でも石ノ森先生は持ち上げすぎだって……ワタシまだ、ホンモノのマンガ家じゃないし……サーバー王国ではたまたま、ワタシ以外にマンガを描いてるヒトがいなかっただけだし、『元の世界』で、きちんとデビューしたわけでもないし……》

 「それでも……うれしく思うよ。ピースが、『ピースだけの仮面ライダー』を描く……僕がその手助けができる、ってことにもさ」

 《描けたらアタシたちが読者第一号だな、ほくと!》

 「え!?……その……いいの……?」

 《もちろん♪ワタシが描いた最初の仮面ライダーは、ほくとくんとデータに読んでもらうつもりだから!でも、もっともっとライダーのこと、一杯勉強しなきゃいけないし……クウガのコミック、早く買いに行こうよ!》

 

 ぐい、と、ネットコミューンが僕の手を引っ張る。

 

 「ちょ、ピースっ!?」

 《……やれやれ……まるでもうひとり、ほくとが増えたみたいだぜ♪》

 

 これは……僕も中途半端な気持ちでピースに協力するのはいけないな。

 僕が持っている資料が、これから『別の世界の仮面ライダー1号』の原型になるのかもしれないのだから。

 そう考えると―――――否応無しに心が躍る。

 そして、行きつけの本屋に向かう足取りも、心なしかいつも以上に軽く感じた。

 

 ―――――十数分後、『仮面ライダークウガ』のコミックス版の表紙を見て歓声を上げるキュアピースが、ネットコミューンの中にいた。

 

 ……SAVE POINT




 キャラクター紹介

 ジェミニ・ノーサップ(Gemini Northupp)

 『Dr.G』を名乗り、内閣電脳調査室のオブザーバーを務める、12歳の女の子。父がアメリカ人、母が日本人のハーフである。
 常に羽織っている白衣とまぶしいばかりのプラチナブロンド、昭和の漫画のキャラを思わせる瓶底メガネ、そばかす顔がトレードマーク。
 メガネは祖母が使っていたもので、祖母の死の間際に譲られたもの。そして白衣は母から誕生日のプレゼントとしてもらったもので、それぞれとても大事にしている。
 昨年MITを飛び級で卒業した、ネットワーク工学の天才と呼ばれる才媛。
 実体化ウィルス"XV"の対策と、"P"を直に調査するために来日した。
 英語・日本語を完璧に、中国語とドイツ語・イタリア語を日常会話レベルで話すことができる。もっとも本人は『日本語で話すのが一番ラクで、一番好き』と語る。
 常に丁寧な口調で話し、何ごとも淡々と事務的にこなすため、他人を寄せ付けない雰囲気を持ち、辛辣な皮肉を口にすることも。
 他人事や興味のないことにはとことん無関心を貫く一方、興味を持ったことや疑問はとことん追求し、結論や解決を見ないことには気がすまない性格。本人曰く『"未知"は敵』。
 そのためには他人などお構いなしに突っ走り、自身の知識欲の赴くままにテンションを暴走させて周囲を困惑させることもしばしば。
 一方、大人たちに囲まれて育ったためか、年相応の女の子として扱われると狼狽するという一面もある。
 『付き合いの浅い人間を本名で呼ぶのは無礼』という持論があり、初対面や付き合いの浅い人間に対しては、ニックネームめいたあだ名で呼ぶ。
 りんくの祖母である東堂いづみ博士を深く尊敬しており、ネットワーク工学を志したのも東堂博士の論文に感銘を受けたため。
 『"P"の正体・および関係者は中学生』と推測し、中学生の情報を多く得るために、りんくと同じ大泉中学校の1年に転校してくる。
 "P"を分析するためのプログラム『セーブシステム』を独自に開発しており、ネット上でプリキュアに差し向けたり、現実空間では『セーブシステム』を攻撃用ドローンにダウンロード、キュアメモリアルとキュアデーティアと戦わせたりと、プリキュアの本質を探るためにはジャークウェブもお構いなしの行動をとることも。
 祖母の実家が稲上家であり、こむぎとは親戚関係にある。彼女の家にホームステイという形で居候していて、時々パン屋も手伝っている。
 大学生の時に自炊をしていたため、意外と料理上手。
 鉄道マニアであり、暇な日は小旅行に出かける、所謂『乗り鉄』。
 口ぐせは『実に~』。

 ――――――――――

 はぐプリの最終回はまさに衝撃的でした……
 しかしながら、『はぐプリだからこその最終回』でもあったとも思います。
 さて次回はりんくさんが遂に『アレ』を知っちゃう上に……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キラ☆ヤバなGAME!

 レジェンドインストール図鑑

 トゥインクルスタイル
 属性:星

 戦力分析 力:3 技:2 速:4 防:4 知:3 特:3

 『プリンセスプリキュア』のひとり、『キュアトゥインクル』のキュアチップを、ネットコミューンにセットしてレジェンドインストールした、『インストール@プリキュア』の星姫戦闘形態。
 キュアトゥインクル同様の機動力を活かしたヒットアンドアウェイ戦法を得意とするほか、特異点設定による局地的重力制御が可能。
 重力制御によって生じる空間の歪みが、通常空間と干渉することで発光現象を生じ、その際空間不連続面が星型に知覚される。
 これが『☆型の光』であり、その不連続面は外縁部一定方向に局地的高重力を発生させている。それ故に『☆型の光』は物体と接触した際に、接触対象を(やすり)のように切削、斬断する。これがキュアトゥインクルが放つ『☆型の光による攻撃』の正体である。
 また、重力場が解放されることによって局地的に空間を捩じれさせ、その内部の物体を範囲内の空間ごと捩じり切って消滅させる、持続時間数秒間の局地的ブラックホールを発生させることも可能である。
 キュアトゥインクルが放つ『プリキュア・トゥインクルハミング』は前者、『プリキュア・ミーティアハミング』が後者の原理を応用した技である。
 さらにロゼッタウォール同様、特異点設定の具合によっては空間不連続面『そのもの』を足場として利用することもできる。

 ハッピースタイル
 属性:光

 戦力分析 力:3 技:3 速:3 防:3 知:2 特:

 『スマイルプリキュア』のリーダー、『キュアハッピー』のキュアチップを、ネットコミューンにセットしてレジェンドインストールした、『インストール@プリキュア』の閃光戦闘形態。
 両手甲の『プリズムディフューザー』によって周囲の『光』を集約してエネルギーに変換する、ロゼッタスタイルとよく似た特性を持つ。
 しかしハッピースタイルのエネルギー生成は、『光』の中の『可視光線における電磁波』ではなく、『粒子と波動の二重性』に特性をフォーカスし、あらゆる『光』を電子化してエネルギーに変換する『光電効果』を利用したもので、ロゼッタスタイルのそれとは原理が異なるモノである。
 また、ロゼッタスタイルが『緩やかなエネルギー放出』に特化しているのに対し、ハッピースタイルは『急激なエネルギー放出』に特化している。
 循環しているエネルギーを解放発射する『プリキュア・ハッピーシャワー』は、電子化した光エネルギーによる光波照射砲。
 発射された超高熱の光エネルギーは瞬時に空気をイオン化させ、射線軸からの半径3m、有効射程500mの範囲内の悉くを、激烈なプラズマ渦流に巻き込み焼灼する。
 1人のプリキュアが単独で放つ技としては最大級の威力を持つが、比例してエネルギー消費は非常に激しく、1発の発射で循環しているエネルギーをほぼ使い果たし、一種の飢餓状態に陥ってしまい、一時的に強烈な脱力状態に苛まされてしまう。
 こうなってしまうとまともな戦闘は不可能であり、他のプリキュアの援護が必要不可欠となる。
 またハッピースタイルのみならず、『スマイルプリキュア』のレジェンドインストール形態には、精神力を技の出力に変換する『チャクラ・リタブライザー』が備わっているため、プリキュアの精神高揚=気合によってパワーアップする特性を持っている。

 ――――――――――

 『ジオウ』に登場したブレイドのマスク、通常フォームなのにジャックフォームっぽく見えたのは稚拙だけでしょーか……??

 さてお久しぶりで早速申し訳ないのですが……

 ま だ 永 夢 先 生 は 出 て き ま せ ん 。

 長いコトお預けにしてしまってスミマセン……
 今回はピースがライダーのことを知りたい『もう一つの理由』と、新プリキュア登場後おなじみとなった『救出リスト』ネタを送信!


 ……NOW LOADING

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

 ⇒  CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 ネットコミューンにプリダウンロードされてるアプリのひとつに、『訓練アプリ』ってのがある。

 コミューンの中で、アタシやメモリアが過ごしてる『居住メモリ』の空間を一時的に取っ替え引っ替えて、トレーニングや、色々なシチュエーションを想定した訓練ができるアプリだ。

 さすがに一日中、コミューンの中でぐーたらやってるのもストレス溜まるし、腕も鈍っちまうから、一日最低1時間はこのアプリの中でひと暴れするようにしてる。

 このアプリを起動してる間は、ほくとがいなくても元の体型に戻れるし、100%の実力も出せる。もっとも、アプリを切らなきゃここから出られなくなるけどな。

 いつも自主トレする時は、雰囲気が出るように『採石場跡地』にステージ設定をしてる。理由?……ほくとが一目で気に入っちまってさ。『特撮の特訓』といえば『いつもの採石場跡地*1』―――――だろ?

 で、今日もほくとが一ッ風呂(ひとっぷろ)浴びてる間、崖上から岩がゴロゴロ落ちてくる設定にして、それをひたすらブッ砕くトレーニングでもしようかと思って、アプリを起動した―――――

 

 「……ンな……!?」

 

 アタシも前に広がったのは、『採石場跡地』じゃなかった。

 青い空に浮かぶ白い雲。寄せては返す波の音。照りつける太陽に熱せられた砂の地面、そこから立ち上る陽炎―――――

 

 「砂浜…………いや、厳密にゃ違うな……」

 

 タダの浜じゃなかった。そこかしこに色とりどりのパラソルが開いて、ビーチバレーでもやるのか知らんが、少し先にはネットが張ってある。

 そして振り返ると、木造平屋の建造物。メシを喰ったり、水着やレジャー用品、シャワールームの貸し出しとかをやってる、アレだな。

 えぇと、屋号は―――――

 

 「海の家れm」

 「それ以上は言わせないでゲソ!!」

 

 と、海側に面した木造テーブル、その上にしゅた!と降り立ち、堂々たる仁王立ちでアタシを見下ろしてくるのは―――――

 

 「キュアピース!?……こりゃどーゆーこった!?いつの間に訓練アプリイジりやがった!?」

 「せっかくデータのコミューンにおジャマしたんだし、直接アナタの実力を確かめられるいい機会じゃなイカ!……って思ってネ♪さぁ、手加減無用!本気でかかってくるでゲソ!!拳と拳で語り合おうじゃなイカ!!」

 「……………………………………」

 

 ……あぁ、……うん。……わかる。

 コレを読んでるディスプレイの前のアンタ、みなまで言わんでもわかる。

 代わりにアタシがツッコむから、まぁとりあえず落ち着け、な?

 

 「(-_-;)…………オイ……さっきからキャラ違くねーか?やたらとイカイカゲソゲソ連呼しやがって……"バグッチャー返り"でもしてんのか?*2

 「あ、ゴメンね♪さっきまで『スーパーヒーロー大戦Z』*3のDVDをほくとくんと見ててね……スペースイカデビルの口グセがうつっちゃったでゲソ♪」

 

 あ~、なるほどそっちか。……たぶん、読んでるアンタが想像していたのと『元ネタ』は一緒だろーけどな。

 かく言うアタシは昭和の硬派なイカデビルが好みなんだが……ここでイカデビル談義をしてもしゃーなイカ。……おっと。

 にしても、ピースのイカゲソ口調がミョーに堂に入っていると感じるのはアタシだけか?……まぁ、これ以上ツッコむのはよそう。ネタに字数割き過ぎて話が進まんからな……稚拙は10000字前後で収めてーんだよ……

 

 「まぁいいさ……言っとくけどな、『胸を借りる』なんて殊勝なコト思っちゃいねーぜ?真っ向から実力試しできるいい機会だ。闘るからにゃ全力……たとえ、アンタが本気を出せないってわかっててもよ」

 「……そう?……なんかココ、いつも以上に力がみなぎるんだよね……」

 

 そう呟くと、ピースは右手を握って放し、握って放しを繰り返す。その度に、金色の稲光が小さくスパークするのが見える。

 そーいや、ピースも元の体型に戻ってるな……訓練とはいえ、本気を出せるってことか。さっきのは失言だったみたいだ、アタシらしくねェ。

 

 「…………ん。イイ感じ……。」

 「アタシの訓練場をナイスアレンジしてくれた礼に、"イカ黄金"にしてやるぜぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 訓練だろうと、本気でブッ倒す。

 じゃなきゃ、いずれ来る『訓練じゃない、その時』に、勝てないだろうからな。

 ……で、その結果は―――――

 

 

 (2分後)

 

 

 orz

 

 

 《WINNER―――――CURE-PEACE!》

 

 ズタボロ丸焦げで波打ち際にボロ雑巾のように捨てられた、哀れなアタシがあったとさ。

 たった2分で新鮮な焼死体一丁上がりたぁ……カワイイ顔してなんとやら、だな……

 

 「勝った……ライダーキックの勝利だ!」

 「いやアンタライダーキックなんざやってなかったろ」

 

 ……ソレ、『仮面ライダー』第13話の1号ライダー最後のキメ台詞だな。*4言葉通り、ピースはキックなんざ放ってねーのにこんなこと言うもんだから、ツッコむために即座に回復しちまった。

 それにしても……やっぱ伝説の戦士だな、このヒトは。指先ひとつ触れられなかった。

 開始早々、ピースサンダー『ぶっぱ』してきたのはまだまだ序の口、りんくやディスプレイの前のプリキュアファンが見れば確実に度肝を抜かれる技の数々が、容赦なくアタシに浴びせかけられた―――――

 

 ―――――雷で自分と相手の間の直線の両サイドを塞いで『一本道』を作って、『強制タイマン』に持ち込む技。

 

 ―――――両手から雷撃を鞭のように繰り出す技。

 

 ―――――両掌の間に雷撃をチャージして球状にして発射する、格闘ゲームなんかでよく見た技。

 

 ―――――で、その『雷撃球』を雷撃の鞭で繋いで、鎖鉄球のように振り回す技。

 

 ―――――トドメは雷撃を溜めた拳を地面に叩きつけて、周囲の地形ごと広範囲を粉砕、無数の雷が地面から『天に昇っていく』ありえねー技……。

 

 

 ……信じられっか?これだけの技が、たった2分の間に立て続けに襲い掛かってきたんだ……―――――

 

 余 裕 で 死 ね る 。

 

 「……つーか、これだけキョーレツな技持ってんのに、アンタどーしてプリキュアーツだと万年初戦敗退なんだよ?本気出せばワリとイイ線行くんじゃねーの?」

 

 アタシの解せない点だった。以前から疑問には思っていたんだが、今回実際に戦ってみて、アタシの中で『確実な』疑問になった。

 地の文とはいえあまり言いたかなかったんだが……正直に言う。今までアタシは、ピースの実力を疑問視していた。

 その理由はさっきアタシが言ったとおり。アタシは物心ついた時からずっと、年に一度のプリキュアーツを見てきたんだが、キュアピースはずっと『初戦敗退』だったからだ。

 ほとんど攻撃手段を持ってないシャイニールミナスでさえ、アタシが見た限りでは2回ほど初戦を突破してるのに、だ。

 模擬戦とはいえ、今日アタシはピースの実力を直に知ることができた。―――――『伝説の戦士』は伊達じゃなかった。

 だからこそ、余計にアタシは解せなくなった。これだけ強い"雷巴のピース"が、どうして、と。

 そんなアタシの心持を受け取ってくれたのかは知らねぇが、アタシの言葉に、ピースは『申し訳なさそうな、力のない笑顔』を返してきた。

 

 「みんな、この16年でとっても強くなった……ロゼッタやマリンの技、見たでしょ?……あの技も、16年間の『結晶』……ふたりだけじゃない、みんなも……」

 「まぁな……確かにありゃスゴかった……ピースもあんな感じの『切り札』あんだろ?それかさっきの中に……?」

 

 ピースは首を横に振る。

 

 「ワタシ……無いの。みんなみたいな、『最高の技』が。16年の間、何をやっても、何を試しても、ワタシなりの『結晶』にはたどり着けなかったの……」

 「そう……なのか」

 「ワタシだけ……置いてかれちゃってる……焦ってもしょうがないってのはわかってるんだけど……どうしてもワタシ、掴めなくって……」

 

 なるほど、"それで"、か。

 ピースがさっき使ってた『技』に、一切の『銘』が無かったのは。

 編み出した技が『切り札』足り得る確信に至れなかったからこそ、画竜点睛たる『銘』を付けられず、『無銘の技』という『残滓』だけが残った―――――

 ―――――粋な表現をすりゃこんなトコか。

 

 「ずっとずっと……悩んでた。幾ら身体を動かしても、ペンを握ってマンガを描いても……イメージできなかった……ワタシだけの『最高』ってなんだろう?って……見つけられないまま、ワタシは『あの日』を迎えてしまった―――――」

 「"やつら"が……サーバー王国に攻めて来た日―――――」

 

 思い出したくないのは、みんな同じ、か―――――

 すべてを失った、『あの日』を―――――

 

 「16年経って、『もうジャークウェブは来ないかも知れない』って、心のどこかで思いかけてた……だからワタシ、甘えてたのかもね……16年の間、全然変わらないワタシと、みんなの姿に…………サーバー王国で負けて、キュアチップに変えられてしまってから……ワタシ、ずっと後悔してた……何もかも、中途半端で終わっちゃうのかな、って。伝説の戦士『キュアピース』としても、マンガ家『黄瀬やよい』としても……ワタシ、なんにもできずじまいだった……」

 

 流石のアタシも空気を読んで、『あの日』の詳細を進んでプリキュアたちに訊いて回るなんてことはしなかった。ヘタしたら……こんな『全年齢向けの小説』じゃ文章にできねぇような、悲惨な光景だって目にしたのかも知れねえから。

 アタシだって無念だった。悲しかった。悔しかった。親父もお袋も、レコも殺されて、それなのに何も出来なかったアタシが、この上なく情けなかったんだ……

 でも―――――肝心なコトを忘れかけていたのかもしれない。

 この―――――涙をぼろぼろ流して、(ハナ)*5を時折すすりながら、声を濁らせ、顔を曇らせ、しゃくり上げながら言葉を絞り出す、見てくれ、"おおよそ『伝説の戦士』とは思えない女の子"の方が―――――

 

 ずっと、辛い想いを抱え込んでたんだ―――――

 

 「でも……でもね……助けてもらってから、ほくとくんがやって見せた『仮面ライダーストロンガー』……ワタシ、素直に『カッコイイ!』って思ったの……!それで気づいたの……ワタシはまだ……『知らないコト』が多すぎたんだ、って……!だから、仮面ライダーのことをもっと知りたいって思ったの……ううん、仮面ライダーだけじゃない、スーパー戦隊も、ウルトラマンも、メタルヒーローも……この世界の特撮ヒーローも、アニメのキャラクターも……もっともっと、いっぱい知りたい!」

 

 果たして……これは純粋に後悔の涙か?……それとも、『知らない可能性』に気付いて、それを知るチャンスを得たが故の歓喜の涙か?

 まぁ、どっちにしろ―――――

 

 「……ほら」

 「??」

 「仮にもアンタ、動画サイトやヲタク共の間じゃダントツ人気の『萌えキャラ』だぜ?涙と鼻水でグッシャグシャのそのツラ、この世界のアンタのファンにゃ見せらんねぇから……さ」

 「!……ありがと……」

 

 アタシが差し出したハンカチを受け取ったピースは、存分に涙を拭いて、洟までかんだ。お約束だ。

 ……『泣き虫』ってのは個性(キャラ)だけど、ずっとソイツの泣き顔見てぇなんて悪趣味は持ち合わせてねえんだ、アタシは。

 やっぱり―――――『伝説の戦士(プリキュア)』には笑顔が似合う。『"スマイル"プリキュア』には、尚更、さ。

 

 「その、さ……アタシからも、礼を言わせてくれ」

 「え……?」

 「初めてさ……その……"プリキュアの本音"ってのを、聞けた気がしてさ。ほら、"お師さん"って、あんまし腹割って話してくれたこと無くってさ……一緒に暮らしてても、なんかその……訊きづらい事とか、いろいろあったもんだから……」

 「……そうかもね……ほのかちゃん、色々抱え込んじゃうタイプだし」

 「まぁ、半人前の……たかだか2年くらいしか一緒に暮らしてないアタシが、込み入った事を聞いちまうのもアレって思って……アタシが遠慮しがちなとこもあったのもあるけど……えぇっと……」

 

 ……アタシ、何言ってんだ。

 それにいつの間に"お師さん"の話題になってんだ……?

 えぇっと……つまりアタシが言いたいのはだな……

 

 「まぁ、その、アレだ!……うれしかった!半人前(見習い)のアタシに、一人前(一端)のアンタが、ここまで腹割って話をしてくれたってことがさ」

 「つまんないお話で、ごめんね?……それに、グチっぽくもなっちゃったし……」

 「いや、よくわかった!仮面ライダーを描きたいのも、参考にして強くなりたいのも、どっちも『ホンモノ』だって……アタシのハートにグッときた!―――――でもよ」

 

 ……ちょっと待て。

 キュアピース、アンタが本気なのはよくわかった。強くなりたいがために、『この世界』のサブカルチャーを参考にする気概、大いに結構―――――

 だが―――――

 見落としてねぇか?

 

 「……目上のプリキュアのアンタ相手に……ちょいと説教臭くなっちまうかもしれねーけど、いいか?」

 「?なぁに?」

 「ピース……『今まで全部見たモノ』を、『本当に知った』のか?……あんたが『もう勉強する必要はない』って判断したモノの中にゃ、まだ、勉強する『余地』があるんじゃねーかって思うんよ、アタシは」

 「どういう、コト……?」

 「『燈台下暗し』ってあんだろ?こうして『別世界』に来ちまって、そこで創作(つく)られた『仮面ライダー』とか、いろんな『新鮮なモノ』に目が眩んで、『身近だったモノ』に、かえって目が行かなくなっちまってねーのか?」

 「ワタシにとって……『身近だったモノ』……」

 「言うまでもねーじゃんか。アンタ自身が『何』なのかって、もう一回考えればさ」

 「…………伝説の戦士、『プリキュア』…………」

 「…………アタシはさ……『ソレ』も答えの一端だって思うんだ。かく言うアタシも、りんくに会って、『ソレ』をこの目で見るまで半信半疑だったんだがな……」

 「りんくちゃん…………あ!まさか……!!」

 「そ。アンタが『知らないプリキュア』だ」

 

 サーバー王国には、12の世界から、51人のプリキュアがやってきていた。それが『全員』だと思っていた。

 前にキュアットタブに遊びに行った時に、りんくの部屋で見た―――――

 『それより先のプリキュア』のブルーレイBOXを見るまでは―――――

 

 「知っての通り……りんくの部屋にあるブルーレイBOXには、『HUGっと!プリキュア』とか、『スター☆トゥインクルプリキュア』とか、サーバー王国に来てない……いるかどうかすらわからねぇプリキュアの映像資料ってのもあるんだ。そこからヒントを貰うってのも、アリなんじゃねーかって思うんだけど……」

 

 ピースの目がキラキラと光ってる。食いつき良すぎだな……

 

 「それも見たい!ぜひ見たい!!あ、でもはぐプリは見たから、そのスター……?ってのが見たいなぁ……あぁでも『風都探偵』*6全巻読めてないし……ほくとくんと『平成ジェネレーションズFOREVER』見る約束もしてるし……」

 

 えぇと……ヤバい。こりゃヘンなスイッチ入っちまったか?

 コレ、放置すると特撮もアニメも色々とヤバいレベルで取り入れた、ディープな『腐女子』ってのが出来上がるんじゃねーか……?

 ま、まぁ大丈夫か……『仮面ライダーのマンガを描く』って、キッチリ目標決めてるわけだし……

 そんなピースに、ひとり紹介したいヤツがいるんだが。

 聞いたらブッ飛ぶぜ?……ソイツの素性。

 

 「そーいえばな、その『スター☆トゥインクルプリキュア』にさ、アンタと同じ雷使いのプリキュアがいるぜ?」

 「本当!?」

 「ああ、『キュアミルキー』って言うんだけど、ソイツが実はな―――――」

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

 ⇒  LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 

 《《宇宙人~~~~~~!?!?!!?!?》》

 

 『はぐプリ』を見終わったみんなに、今度は『スター☆トゥインクルプリキュア』のブルーレイを見せてあげようとした時に、『どんな子たち?』ってたずねられて、思わず口を滑らせてしまった……

 まだ見てない人にうっかりネタバレとは……誇りあるプリキュアオタクである東堂りんく、一生の不覚……ッ。

 

 《宇宙人のプリキュアって、想像ができないわね……》

 《やよいちゃんに想像図描いてもらおうよ?》

 《……って、こんな時に限ってピースがいない……》

 

 夜になって、やよいちゃんから連絡があった。ほくとくんのおうちに泊まるみたい。

 データが言うには、『ライダーにハマった』って……そんなワケ…………―――――あ。

 やよいちゃんならアリか……ヒーローとか、ロボットアニメが好きなんだっけ。

 

 「スタプリかぁ……はぐプリのみんなもそうだけど……どうして16年前、サーバー王国に来なかったんだろう……?」

 

 ふと、そんな疑問が浮かんだ。

 どうしてきっかり、『プリアラ』の、それも『初期メンバー』までの『51人』だったんだろう?

 年で言えば、2017年……そこで区切られているのには作為的なモノを感じる……

 それにこのあいだ、メモリアが作ってくれた『救出リスト』が更新されてたのも気になる。

 『来ていない』ハズのパルフェやペコリン、そして『はぐプリ』のメンバーも続々と追加されて―――――

 本当に来ているのか、まだわからないのに……この胸騒ぎは何なんだろう?

 そう思って、キュアットタブの画面を切り替えて、『救出リスト』を開いた―――――

 

【挿絵表示】

 

 「………………(;゚Д゚)」

 

 ゑ――――――――――

 

 あー、アレね。目の錯覚かなぁ……

 今日の私、ちょっとテンション高いから、見えないモノも見えちゃってるんだ、ウン。

 

 《り……りんく……また増えてるよぉ……》

 

 そんなまさかと、目をこすってもう一回しかと見た。メモリアも私に倣って、目をこすってもう一回リストを見る。

 

 「な……なんかいつも以上の大増量なんですけど~~!?」

 

 どーしてこーなった……

 どうしてこうなった!?(AA略

 『はぐプリ』の下の行に、ついに『スタプリ』が追加されたのはまだいいとして、一番下のは何ですか!?

 名前どころか、『?』としか書いていない12の欄はいったい……!?

 しかもコレ、カウント的に『別枠』になってるみたい……一体コレって……

 

 「……どーゆーこってすか?」

 《あたしも聞きたいよ~……》

 

 でも、逆に考えるんだ。

 このリストに載ったってコトは、この世界のどこかに『スタプリ』のみんなが来てる可能性がある、ってコトでは?

 はなちゃんたちだけじゃなくって、星奈ひかるちゃんたちにも会えるかもってコト?!

 つまりコレって……

 

 《……りんく?》

 「―――――…………キラやば……だ☆」

 《り、りんく!?》

 「コレって、マジキュンキュアキュアキラやばだぁ~~!!!☆❤」

 《また始まっちゃった……今回はいろいろ混ざっちゃってる……》

 

 うん、『ノルマが増えた』なんて後ろ向きな考えは、私には、そしてプリキュアには似合わない!

 読んでくれてる人の精神的ストレス的な意味でも、『スタプリまで出るかも!?』って期待してもらった方がいいに決まってる!

 こうして、ホンモノのプリキュア達にも会えたんだし、『スタプリ』のみんなにも、きっと……!

 

 「待っててねひかるちゃん!私、きっと会いに行くから……!!」

 《りんくさん、俄然やる気ですね♪》

 《りんくだけじゃないよ!宇宙人のプリキュア、ワクワクもんだぁ……!》

 《どのような方たちなのでしょうか……もし日本語が通じなかった時のことを思うと、少し不安ですね……》

 《大丈夫じゃないかな?ビートとだってこうして話せてるんだし》

 《あ、そういえば……いつも一緒にいるからすっかり忘れてたわねぇ》

 《か~な~でぇ~……(涙)》

 《ハイハイよしよし……♪》

 《……ともかく、百聞は一見に如かず、ですわ。早速ブルーレイを見てみましょう》

 

 そんなこんなでみんなは『スタプリ』鑑賞会に突入してしまいましたとさ……

 あ、そうだそうだ……今日早く帰ってきたのにはちゃんと理由があるんだよねぇ~♪ふんふん~♪♪

 

 《ゴッキゲンだね、りんく》

 「やっぱそう見える?……んふふぅ~♪今日はコレの発売日なんだよねぇ~♪じゃじゃ~ん!『ベストフレンドプリキュア』!おこづかいためて買ったんだ~♪」

 《ををををををを~~~!?!!?!?!な、なんっすかそれは~~!?》

 「前々から期待大だったんだよねぇ~♪『財団Bの本気』って、キュアネットでも評判だったし、絶対買うって決めてたの!……ネット通販禁止されてるからお店で買わなきゃいけなかったけど、予約しててよかったぁ~♪」

 

 オリジナルストーリーで描かれる、テレビでも映画でも見たことのないプリキュアオールスターズの物語がゲームに……!!

 財団Bサマ、あざーーっす!!明日、川村さんとさっちゃんに菓子折り持っていきたいくらいの大感謝!!

 早速ゲーム機の電源を入れて、と……

 

 《早くやろーよ~!》

 「お、メモリアさんもやりたいと?んじゃ、ネットコミューンをキュアットゥースでゲーム機とリンクさせて、と……OK!これでコミューンを2Pに設定したから、ふたりで出来るよ!」

 《やったぁ~!》

 「よ~しメモリア!目標はイベントスチルフルコンプ!!キュアブラック、レベルカンストさせるよ~!!」

 《せんせいをさいきょーにするんだね!おっけ~!!》

 

 メモリアもノリノリ!やっぱプリキュアは、ひとりよりもふたりだよね!

 あんましゲームはしない私だけど、今日だけはキュアキュアなゲーマーだ……ッ!!

 中学生としては不健全なのはわかってるけど……今日は寝る間も惜しまない!!

 あ、よい子のみんなはあんまり夜更かししちゃダメだよ~♪キュアメモリアルとの約束よ❤

 

 《りんく~!たすけてぇ~!あたしのキュアホワイト、ザケンナーに囲まれちゃったぁ~!》

 「む、助けを呼ぶ声!今行くよ、ほのかちゃ~ん!!」

 

 ………………………………

 ……………………

 ………………

 ……

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 この日の僕は空手部の朝練で早朝から学校に出ていた。

 朝練が終わって教室に戻ってくる時、隣の教室をのぞき込むと、いつも東堂さんが座っている窓際の席に、誰も座っていないのが見えた。

 もしやと思ってネットコミューンのメールソフトをチェックしても、新着メールは何一つない。

 あくせく僕は、むぎに声を掛けていた。

 

 「カゼをひいて休むって、ママさんがさ。なんでもゆうべ、プリキュアゲームを寝落ちするまでやってたらしくって……まぁなんとも"らしい"理由で……」

 「ちょっと熱が出たみたいでなぁ~。お薬飲んでぇ、一日ゆっくり寝れば治る言うてたしぃ、大したことないってぇ」

 

 鷲尾さんの注釈に、ホッと胸をなでおろす。……東堂さんってゲームもするんだ……

 

 「それにしても八手くん、やっぱ気になるん~?」

 「え……??」

 

 鷲尾さんの細めた瞼の隙間から、漆黒に近い深緑色の瞳が僕を捉える。

 実は僕、鷲尾さんがちょっとニガテだ。いつもニコニコしていて、まったく心中が読めない。そして今みたいにたまに向けてくる、この『全てを見透かしている』ような視線がどうも……

 彼女に何かされたとか、彼女が僕を嫌っているわけではないのは知っているけれど、東堂さんやむぎといつも一緒にいる鷲尾さんに『見られる』たび、意識して身構えてしまう自分がいるのは事実だ。

 まさか鷲尾さん……『気づいて』るんじゃ……―――――

 

 「なんなら放課後、お見舞い行ってみたらどやぁ?こむぎちゃんはお店のお手伝いあるしぃ、わぁは……ちょっと用事あるしぃ、プリントとか持っていける子がおらんのよぉ。先生にはわぁが言うとくからぁ、それじゃぁお願いなぁ~❤」

 

 鷲尾さんはそう言うと、その笑みを絶やさぬまま教室を後にしてしまった。

 

 「そ、その……いいの?僕で……クラス、別なんだけど……」

 「そこらへんはそらがイイ感じに先生に言ってくれるっしょ。……ま、今日のトコはお願いね」

 「う、うん……」

 

 いいんだろうか……申し訳ないような、なんというか……

 それとも…………鷲尾さんもむぎも、気を遣ってくれたの……??

 いや、まさか……ふたりにはキッチリ隠せてるハズだ、絶対……たぶん……おそらく…………。

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

 ⇒  CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 「……キたんじゃねコレ?」

 

 思わずアタシの口から出ていたのは、"勝機"……!!

 りんくが風邪ひいて休んでて、その見舞いにひとりで行けるって、こりゃ神サンからの啓示だぜ、啓示!!

 

 「もしかして、データもそう思った!?」

 

 と、横に立ってるピースが鼻息荒く言ってきた。

 ……って、

 

 「ま……まさかアンタ、知ってたのか!?」

 「ワタシだけじゃなくって、タブの中にいるほとんどのみんなは気づいてるよ?」

 「マ……マヂかよ……」

 「……ひょっとして、ワタシたちを『青春そっちのけで戦ってばっかりの、三度の飯よりバトル大好きなアマゾネス集団』だって思ってた?」

 

 ……りんくのブルーレイを見るまで、薄々そうぢゃないかと思ってたとショージキに言ったら炭にされる……そう悟ったアタシは瞬時に空気を読んだ。

 

 「―――――……ンなこたぁねーって。まぁ少なくともアンタには、恋バナってのは無縁だと思ってたけどさ」

 「『失礼度』、40点っ」

 「……わりぃ」

 「"人間観察"って、作家(モノ書き)には必須のスキルなんだから。……将来、純愛モノとか、ラブコメとかも描いてみたくもあるし、ね。その時に『ホンモノの恋愛を知らないから描けません』なんて、プロが言っちゃいけないって思うから。特に女の子はね❤」

 「恋バナも仕事の材料、か」

 「『病気で休んだ女の子を、放課後お見舞いに行く男の子、おうちには女の子ただひとり』……なんて、王道シチュ!何も起きないはずがなく……んふふ……❤」

 

 ま、ほくとが男を上げるチャンスってのは確かだな。

 ベッドに臥せってるりんくに気の利いた言葉でもかけてやって、リンゴの1個でも剥いてやりゃ、りんくも『キュアキュア』から『キュンキュン』になっちまったりするかも……ガラにもねぇな、アタシ……

 あ、でもピース……

 

 「……それ、元ネタBLモノだぜ」

 「……Σ(;゚Д゚)」

 

 ……そのツッコミが余計だったのかもしれない。

 次の瞬間、「ちょとやぁだぁデータったらもぉ~!❤」というセリフとともに背中を平手でキョーレツにブッ叩かれたアタシは、それはもう美しい直線を描いて吹っ飛んで、(フォルダ)に頭から突き刺さった。

 結局こーなるのか。ちくせう。

 ……とにかく、ちょっとばかしフォローはしてやるか。メモリアにメッセでも送って…………あ。

 そーいや今朝、りんくのコミューンにメッセを送ったけど、メモリアからの返信がねぇ。かといってそのまま返ってきてるわけでもなし、確実にメッセは届いてるはずだ。所謂既読スルーか?

 ま、りんくと一緒に寝てるか、プリキュア談義に夢中になってメッセに気付いてないのかもな。放課後、帰り際にもう一度メッセを送ってやるか。

 それにしても―――――……

 

 

 …………ピースも好きなのか、"そーゆーの"。

 

 SAVE POINT……

*1
埼玉県大里郡寄居町の『大英興業採石場』。昭和から平成にかけて数多のヒーロー達が、火薬マシマシ爆風飛び交う死闘を繰り広げた聖戦の地である。現在は戦場(ロケ地)になっておらず、変わって栃木県栃木市の『岩船山採石場跡』が主戦場となっている

*2
第10話第3節『大人の理屈と子供の理屈』参照。ピースバグッチャーの外見や口調が妙にイカじみていた

*3
2013年公開の映画『仮面ライダー×スーパー戦隊×宇宙刑事 スーパーヒーロー大戦Z』のこと。十文字撃=ギャバンtypeG、操真晴人=仮面ライダーウィザード、伊狩鎧=ゴーカイシルバー、宇佐美ヨーコ=イエローバスターの4人をメインに、宇宙犯罪組織マドーと結託し、魔法の力を得てパワーアップしたスペースショッカーとの戦いを描いた作品。

*4
ちなみにこの回は『旧1号編』の最終回である。この回のライダーは変身しっぱなし、声も故・市川治氏が代役で担当されていた(ノンクレジット)という、ライダーシリーズ全体を見ても特異な回であった。実は、本郷猛役の藤岡弘、氏が撮影中のバイク事故により入院を余儀なくされ出演できなくなってしまったため、脚本で生身の本郷が登場していたシーンを差し替える等の措置を行った結果である。この回を以って本郷猛は表舞台から一旦姿を消し、翌週から"第二の男"・佐々木剛氏演じる一文字隼人が、2号ライダーとして登場した。藤岡氏演じる本郷の復帰は、第40話での客演を経て、第52話にて果たされることとなる。なおこの決めセリフは、2016年発売のゲーム『仮面ライダー バトライド・ウォー創生』において、実に45年の時を経て、オリジナルキャストである藤岡氏によって収録され、現代に蘇った

*5
『鼻水』。

*6
週刊ビッグコミックスピリッツで連載中のマンガ。脚本:三条陸氏・作画:佐藤まさき氏。『仮面ライダーW』TVシリーズ終了後の風都を舞台に、翔太郎とフィリップ、そして彼らの仲間たちの活躍を描く正統続編。監修を東映の塚田英明プロデューサー、クリーチャーデザインを寺田克也氏が務める、紛れもない『公式』作品である。『映像』、そして『実写ドラマ』の制約から解き放たれた超絶アクションやトリック、ドーパントデザインや能力はコミックならではで、『萬画』がはじまりであった『仮面ライダー』が、21世紀の現代に果たした『原点回帰』とも云える。ただ連載誌が連載誌だけに、子供達の教育上あまりよろしくない表現もちらほらあるので注意されたし




 キャラクター紹介

 東堂 いづみ

 70歳。
 りんくの祖母にして、日本電脳工学研究所所長。
 16年前、全世界のインターネット回線の全てが機能不全を起こし、復旧不能となった『アイ・クライシス』に際し、新たな原理でのネットワーク回線方式を構築・提案し、『キュアネット』の基礎を作り上げた『キュアネットの母』。
 高齢となった現在でも精力的にネットワーク研究を続けているが、日電研を拠点に世界中を飛び回っているらしく、めったに帰宅しない。最後にりんくがいづみと直接対面したのは1年と少し前、小学校の卒業式の時である。
 しかし、毎年りんくの誕生日には絵手紙を添えた何かしらのプレゼントを贈ってくるなど、りんくへの愛情は深い様子。りんくの使っているネットコミューンのベースとなったスマホも、昨年の誕生日プレゼントである。
 現在は日電研にいるらしいのだが、数か月前からメインサーバールームに施錠して閉じこもってしまった。あらゆる連絡手段も遮断され、監視カメラも彼女自身が止めているようで、メインサーバールーム内がどうなっているのか、そもそもメインサーバールームに彼女が本当にいるのかどうかすら、わからなくなってしまっている。
 アイ・クライシスの発生する4年前(物語の20年前)、『電脳生命体と融合し再生を果たした先駆者、それが現実に存在する確かなる証拠』なる論文を発表しているが、無名であった当時は学会からも相手にされなかったようである。
 なお、共同研究を行っていた男性研究者と、助手であった2人の女性研究者がいるのだが、その3人とも現在行方不明となっている。
 ちなみに常識はずれなほどに外見は若々しく、70歳であるにもかかわらず40代前半(見方によってはさらに若く見えるらしい……)の女性にしか見えない。
 若さを保つ秘訣は『ヒ・ミ・ツ❤』とのこと。

 坂下 駆

 日本電脳工学研究所の非常勤研究員を務める青年。
 4か月前、東堂博士が日電研のメインサーバールームに閉じこもり始めてから、前任者から引き継ぐ形で東堂博士の助手となった。
 東堂博士から家へのフォローを任されているらしく、時折東堂家を訪れているためりんくとも面識がある。
 太陽光が反射するほどのスキンヘッドがトレードマークであるが、これは普段はお寺の住職をしているため。
 僧侶らしく落ち着いた性格で、物腰も柔らかく、仕事ぶりも有能。
 神出鬼没で常人離れした身体能力を持ち、フィンガースナップだけで離れた場所の電子機器を操作したりと、謎の多い存在。

 ――――――――――

 別の小説で見かけた『脚注機能』が面白いな~と思って使ってみました。
 見づらいとかクドいと思ってしまったらスミマセン……
 ともあれ、風邪で寝込んでしまったりんくさんと、ひとりで放課後りんくさんの家に行くことになってしまったほくとくんの運命や如何に!?
 次回、遂に物語が動きます……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦慄のREALIZE!

 空現流奥義大全

 弐式旋風(ニシキセンプウ)・"円舞蜻蛉斬(エンブセイレイザン)" 

 『廻し蹴り』にカテゴライズされる『鎌刀術』のひとつで、空現流本来の技『甲技』。
 跳躍から強烈な廻し蹴りを見舞う、所謂『旋風脚』。
 イーネルギー噴射による加速により、通常の旋風脚とは比べ物にならない破壊力を生み出す。
 手練れの者が扱えば、一撃で相手の首を刎ね飛ばせるらしいが、さすがにソコまでの境地にほくとは至っていない。

 壱式地殻防壁(イチシキチカクボウヘキ)・"辻畳(ツジダタミ)" 

 『防御術』にカテゴライズされる『防楯術』のひとつで、空現流本来の技『甲技』。
 氣をまとった握り拳で地面を叩いて大地を板状にそそり立たせることで、飛び道具を防いだり、相手の侵攻を阻む障壁とする。
 土の地面、つまりは未舗装地で使用することが前提の技であるが、気の練り込み次第では舗装されたアスファルトやコンクリート、金属の地面すら叩き起こせる。
 中学生であるほくとは当然この技を知ってはいても使えなかったが、キュアデーティアに変身したことで使えるようになった。

 ――――――――――

 シンカリオンが終わってしまった……
 土曜の朝が寂しくなりますね……

 どうも遅れまして申し訳ありません、稚拙です。

 お待たせしました!
 ついに『あの人』がインプリに登場します!!
 1万8千字の大増量、送信です!!

 もはや言葉は不要……ただこの瞬間を味わうがいい!


 ……NOW LOADING

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 昼休み―――――

 給食を食べ終えてから、鷲尾さんから東堂さんに渡すプリントを受け取って、残り時間はさてどうしようかと廊下に出た、その時だった。

 

 《ほくと!大変よ!!》

 「ッ!?」

 

 廊下に響き渡るキュアビートの声に、ギョッとして辺りを見回す。驚いたような、あるいは不審な視線が5つか6つ、僕へと突き刺さってくる。

 

 「……………………~~~……////」

 

 顔から火が出そうだった……

 僕はポケットの上からネットコミューンをコツンと叩くと、一目散に廊下の突き当りにある男子トイレ、その『個室』へと駆け込んで、コミューンを取り出した。

 発信元はキュアットタブだった。

 

 「いきなりなんなのっ……!?」

 《ご、ごめんなさい……もしかして授業中だったの?》

 「違うけどっ……それよりどうしたの?」

 《りんくとメモリアが急に苦しみだして……さっきまで静かに寝てたのに……!》

 《夜更かししてたりんくはともかく、メモリアも……っていうか、コミューン自体がビリビリしててヤバイんだって!!》

 《メモリアの様子を見るために何回もコミューンに行こうとしたんだけど、弾き返されて入れないの!》

 《りんくさんのご両親は共働きで、おふたりとも夜まで帰ってこれません!頼りになるのは、ほくとさんしか……!》

 《お願い!早くりんくちゃんのおうちへ―――――!》

 

 プリキュアたちが助けを求める声が矢継ぎ早にコミューンから飛んで、突然通信が途切れてしまった。

 

 「ちょ!?……みんな!?」

 《――――――――――――――――――――――――――――――》

 

 無情にも、ディスプレイには『通話終了』の文字が浮かんだ。

 

 《メモリアのコミューンにも発信ができねぇ……タダ事じゃねェぞ、コイツは……!!》

 

 考えるよりも先に、身体が動いた。

 

 《ほくとっ!?》

 

 『個室』を、トイレを飛び出した僕は、自分の教室に戻って荷物をまとめる。

 

 「ほくと!?どしたよ!?」

 「ごめんモモ、急用ができたから帰る!先生には言っておいて!」

 「おい!?ほくと!?」

 

 モモに短く伝言を頼んで教室から出る間際、鷲尾さんとむぎが連れ立って歩いていた。目が合ったむぎが間髪入れず声を掛けてくる。

 

 「え!?ほくとぉ!?」

 「急用ができた!今から帰る!」

 「りんくん()は!?」

 「後で寄る!」

 

 ……というか、そこが目的地だ。

 全速力で学校を駆けだした僕は、東堂さんの家へと走る。

 この間、ジェミニさんに呼び出された時の帰りに、東堂さんを家まで送っていったから、家の場所は覚えてる。僕の家に帰るまでの途中だ。

 

 ―――――東堂さん……!

 

 ただの風邪で寝込んでいてこじらせただけなら、プリキュア達がわざわざ連絡してくるはずがない。

 とすれば、尋常ならざる『ナニカ』が起きた……それも、『彼女たち』絡みの事件と考えるのが自然だ。

 今こうしている間にも、東堂さんの家では確実に異変が起きている。そして……進んでいる。

 学校から僕の家までは歩いて40分、通学路を外れて近道をして、かつ走っても30分ほどの距離がある。本来は自転車通学してもいい距離だけど、トレーニングも兼ねて自転車通学はしていない。今日ばかりはそれがもどかしくてならない。

 途中にある東堂さんの家までは、20分ほど……といったところか。

 

 《どうするほくと!?いっそ変身してくか!?》

 

 ポケットから飛ぶデータの声に、とっさに周囲を見回した。

 ちょうど今、大泉駅前商店街の入ったばかりで、買い物をするお年寄りや、店先でお店の店員さんと談笑するおばさんなど、夕方ほどではないけど人通りが多い。

 

 「……いや、ダメだ……!このまま行く!」

 

 こんな往来のド真ん中で変身なんてできるワケが無い。僕は商店街をまっすぐ、貫くように駆け抜けた。

 

 ―――――待ってて、東堂さん……!

 

 ――――――――――

 

 ……さすがに息が上がってきた……

 学校から家まで……いや、途中の東堂さんの家まで、こんなに距離があっただろうか……?

 足が止まる。肩が弾む。汗が流れる。アスファルトの、黒灰色の地面に汗が落ちて、シミを作るのが見える。

 この感じ……たぶん、僕が『プリキュアに慣れてしまった』故の違和感だ。

 いくら体を鍛えたとて追いつけない『領域』の身体能力を体感し、それに慣れてしまったんだ。

 キュアデーティアに変身すれば、このくらい走ったところで息一つ切らさないだろう。それだけじゃない、今頃とっくに東堂さんの家に着いている。

 逆に僕は、無意識にそれを『当然』と思ってしまっていた。まさかこんな弊害があるなんて……!

 

 「…………行かなきゃ……早く……行かなきゃ……!」

 

 無意識に口から出ていた。

 今この瞬間にも、東堂さんの身に何かが起きている……立ち止まっている、時間は……!

 

 「あれ?にぃ?」

 「……!?」

 

 ふいに、のんの声が飛び込んできて、僕は思わず振り返った。

 早く東堂さんの家に向かうことが頭の中を占めて、『どこを走っているのか』が完全に頭から抜けていて、周りの景色も見えなかった。

 ここは―――――大泉こども園の正門前だった。

 

 「どーしたの?がっこーは?」

 「え、えぇと……」

 「ののかちゃん?誰とお話してるの?…………あら、ほくとくん!こんな時間にどうしたの?」

 

 今度は向こうから園長先生までやってきた。どうしよう……?

 確かに、この時間なら中学生は普通学校にいる。学生服姿の僕が真昼間に街をうろつくのは考え物だ。

 僕自身、何が起きているのかよくわからないのに、どうやって説明したものか……?

 それに、ここで立ち止まってる場合じゃ……―――――

 

 「……あら?ちょっとごめんなさい」

 

 ふと、園長先生がスマホを取り出した。その画面をざっと流し見したと思うと、

 

 「……急いでるみたいね。車を出すから、裏に回って」

 

 と、僕をこども園の裏手へと招いた。

 

 「え……??」

 

 ……どういうこと?僕は何も言ってないのに……

 不審に思いながらも、僕は案内されるがままにこども園の裏の駐車場に止めてあった、園長先生の軽自動車の助手席へと座った。

 園長先生は事務の秋谷先生に一言二言何かを伝えると、運転席に乗り込み、エンジンをかけ、車を発進させた。

 いつもの通学路が高速で流れていく中で、僕は園長先生に尋ねた。

 

 「あの……どうして……?」

 

 いろいろと訊きたいコトがあって、逆に言葉が出てこない。それを察してくれたのか、園長先生は笑って応えてくれた。

 

 「データちゃんがメールしてくれたのよ♪りんくちゃんが大変だ、ってね」

 《こんなこともあろうかと、園長センセとメアド交換しといたんだぜ♪》(ドヤァ)

 「そうだったんだ……ありがとう」

 

 このドヤ顔が、今この時にまぶしく見える。お礼を言わなきゃ、バチが当たると思ったほどに。

 

 「それで、りんくちゃんの様子はどうなの?」

 「それが……プリキュアたちから連絡があって、それっきりで……」

 《こっちからも、りんくのコミューンやタブに連絡が入れられなくなっちまってる。切羽詰まった状況ってのは間違いなさそうなんだけどな》

 《みんな……大丈夫かな……》

 

 見ると、心配げにうつむいているピースの姿。ピースだけは僕のコミューンにいたおかげで助かったみたいだけど……

 ほどなく、東堂さんの家の前に到着した。車が止まるのを待てずに、僕は助手席から飛び出し、ドアノブを握って捻った。

 ……!開かない!

 右に捻ろうが左に捻ろうが、ガッチリと固められたドアノブが僕の突入を阻んでいる。

 ……当然か。今日日、平日昼間に鍵をかけずに外出している家なんてない。家に残っているのが病気の人で、安静にしなければいけないならなおさらだ。

 

 「どうしよう……!?合鍵なんて無いし……!」

 《今の時代、『鍵』なんて使ってんのはほくとん()くらいだぜ》

 

 言われて見れば……このドア、どこにも鍵穴が無い。

 

 「…………(;゚Д゚)」

 

 ……愕然とした。我が家と他の家との生活水準の差に。

 家の蔵の鍵にも南京錠を使っている我が家は、やっぱり時代に取り残されているんだろーか……この僕も含めて……

 

 《コミューンをドアに向けてみな》

 

 データに言われるままにコミューンをドアに向けると、コミューンの画面が切り替わって、何かの文字が入力されたと思うと、ドアから『ガチャッ』という小さな音が響いた。

 

 「開いた……!?」

 《こ・ん・な・こ・と・も・あ・ろ・う・か・と、りんくからセキュリティコードを貰っといたんだぜ♪》(超ドヤァ)

 「せ、せきゅ……??」

 《あ~……要は"合鍵"だよ、あ・い・か・ぎ!……ホンットアナログ人間なんだからよォ》

 

 データと出会ってからはや2ヶ月、まだまだこうしたコトバに疎い自分が情けなくなってくる……

 つくづく、僕はデータに頼りっぱなしなんだなと自覚する。

 でも、こうして"合鍵"をもらえたってコトは、僕は東堂さんの家に出入り自由ってコトになる……のか……!?

 そ、それって…………つまり………………………………

 

 ―――――ゴンッ!!

 

 「!!ッッ~~~~~~~~……………………」

 

 僕の手からコミューンが飛び出してアゴに直撃した。

 ……データの仕業だ。

 

 《妄想に浸ってる場合じゃないだろ、さっさと行くぞ!》

 

 ……そうだった。こんなところで足を止めてる場合じゃない!

 僕は宙に舞ったコミューンをあわててキャッチして、東堂さんの家を見上げた。

 東堂さんの家……来るのは二度目だ。

 でも、前回来た時は変身していて、2階にある東堂さんの部屋に直接送っていったから、こうして玄関から入るのは初めてだ。

 意を決して手前開きのドアを開けて、靴を脱ぐ。目の前に、2階へ向かう階段がある。

 ためらうことなく階段を駆け上がる。東堂さんの部屋はどこだ……?

 ―――――簡単に見つかった。

 階段を上ったすぐそばに、『LINK'S ROOM』と書かれた、ピンク色の看板がかかったドアがあったから。

 思わずドアノブを握りかけたけど、看板の下にはこう書いてあった。

 

 〈入るときはノックしてね❤特にパパ!〉

 

 ……あ、あぶないあぶない……

 こうした礼儀はきちんとしておかないと……。

 僕は呼吸を落ち着かせてから、ドアを右手で軽く2度叩いた。

 …………返事はなかった。

 

 「……ごめん……、入るよ、東堂さん!」

 

 中の東堂さんに聞こえるように少し強めに言ってから、僕はドアを開けた。

 

 「―――――……ッ!」

 

 前に来た時には真っ暗で、しかも窓から入ったからわからなかった、東堂さんの部屋―――――

 そこに入った瞬間、眩暈のような錯覚に陥った。

 壁や天井にこれでもかと貼りたくられた、プリキュアたちのポスターの数々。

 棚に並び立つ数十体のフィギュア。

 本棚にはプリキュアのマンガ版だろうか、関連本がぎっしりと詰められ、ラックには数多くのブルーレイディスクの箱が整然と立てられていた。

 …………これが……東堂さんの部屋の全容―――――……!

 

 《ほくとっ!》

 

 僕を呼ぶ声に、持っていかれそうになる意志を戻すと、向かって右側の学習机の上に、半透明のプリキュアたちの姿があった。

 そして左側には……―――――

 

 「東堂さん!」

 「………………ほく……と、くん………………?」

 

 ベッドの中でうっすらと目を開けた東堂さんが、僕を見上げる。ハッとしてその顔を見ると、ものすごい汗をかいている。息も苦しそうで、話すのもやっとじゃないだろうか。

 ……『ただのカゼ』で、ここまでこじらせるモノなのか……!?

 もしかしてインフルエンザとか、肺炎とか、もっと重い病気なんじゃ……!

 

 「あ…………もぉ夕方かぁ………………ごはん、たべなきゃ……ごほっ!ごほっ……!」

 「大丈夫!?……まだお昼だよ!……みんな、東堂さんにいったい何―――――」

 

 

 ――――――――――バチッ……。

 

 

 机の上のキュアットタブに振り返ったその時、何かがスパークするような音が、ひときわ強く耳に入った。

 ハッとして、ベッドの東堂さんに視線を戻した僕は―――――

 ()()()()、この世のモノじゃないモノを見た。

 

 「そんな、バカな…………!!!」

 

 東堂さんの身体の表面―――――そこに、オレンジ色の四角い光が、浮かび上がっては消える。

 まるで、電波障害を起こしたテレビの映像のように、東堂さんの姿『そのもの』が、ノイズがかったように乱れては元に戻る―――――

 ザ、ザ、ザ……と、不気味な音を立てながら。

 

 「…………ほくと……くん……?」

 

 戦慄が背筋を這い上がる中、僕はキュアットタブに声を絞り出していた。

 

 「何が…………あったの………………」

 《つい、30分ほど前までは割と元気だったんだけど……いきなり……!》

 「メモリアは!?コミューンなら東堂さんのお父さんかお母さんに連絡できるんじゃ……!」

 《それが……》

 

 ロゼッタが視線をうながす先には、東堂さんの右手―――――に握られた、ピンク色のネットコミューンがあった。

 

 《おい、メモリア!こんな時にいったい何やって―――――》

 

 データはそこで絶句してしまった。不審に思って東堂さんのコミューンをのぞき込むと、そこには―――――

 

 《う……うぅぅ……寒いよぉ……あたまいたいよぉ……!けほっ!》

 《メ……メモリア!?》

 《あ゛…………データぁ…………なんか、さっきからヘンなの……あたまガンガンするし、のどがイガイガするし、すっごく寒いし……どーなっちゃったの、あたし……?》

 《…………メモリア……》

 

 顔を真っ青にして、せき込むメモリア。その身体には、東堂さんと同じオレンジ色のノイズが走っていた。

 そして時折コミューン自体が異状を知らせるように、オレンジ色の光を走らせる―――――

 

 《メモリアもほとんど同時にビョーキになっちゃって……しかも、メモリアのコミューンにも入れなくなっちゃったの……!》

 《りんくのお父様とお母様の連絡先を知らなかったから……ほくと、貴方だけが頼りだったのよ》

 《ほくとさん……もしかして、りんくさんとメモリアに何が起こっているのか、知ってるんですか!?》

 

 そう―――――僕はこの"症状"を―――――知っている。

 でも、それは"あり得ない"はずだ。この病気が"実在"することは、決して―――――

 心の中の嵐を何とか鎮めながら―――――"現実"と"架空"の境界に折り合いのつかない現状の中で、僕はレモネードのすがるような視線に、重々しく頷いた。

 

 

 「"ゲーム病"だ……―――――」

 

 

 《"ゲーム病"……!?》

 《な……何よソレ!?ゲームのやりすぎ依存症!?この世界のゲーム依存症って"こんな"のになっちゃって死にかけちゃうヤバい病気なワケ!?ってかふたりとも、ゆうべ一晩ぶっ続けでゲームしてただけじゃん!!》

 「マリン、違うよ…………正確には……"バグスターウイルス感染症"…………コンピューターウイルスが原因の病気だよ」

 《"バグスターウイルス"……?バグッチャーとは別のウイルスってこと?》

 《……アプリアンのメモリアが、コンピューターウイルスに感染するのは理解できるのですが……何故、りんくさんにも症状が……?》

 《簡単なリクツさ、ビューティ。バグスターウイルスは、"人間にも感染する"コンピューターウイルスだからな》

 《感染したヒトのカラダと記憶を通して、現実の世界に実体化するの……でも、ワタシたちじゃどうしようも……》

 《ね、ねぇ……どうして、わたしたちが知らない、"この世界のコンピューターウイルス"のことを、データとやよいちゃんが知ってるの……!?》

 

 不安げに訊ねてきたハッピーに、僕は答えた。

 それが、たとえ彼女たちにとって、そして僕自身にとって―――――

 ―――――"非現実的"であろうとも、僕はこう言う他無かった。

 

 「バグスターウイルスは……『仮面ライダーエグゼイド』に出てくるコンピューターウイルスだから」

 

 プリキュア達が、にわかに表情を変えるのが見えた。

 

 「だから……厳密には"この世界のコンピューターウイルス"じゃない……"テレビの中"の、空想の産物…………その、ハズなんだ…………―――――」

 

 自然と僕は、この部屋の隅にある、薄型液晶テレビ、そしてそこに接続されているゲーム機へと視線を向けていた。

 そばには、プリキュア達が描かれているゲームソフト―――――『ベストフレンドプリキュア!』とタイトルが書かれていた―――――のパッケージがあった。これが"感染源"……なのだろうか。

 もちろんこの世界に、幻夢コーポレーションは存在しないから、ガシャットで稼働するゲームが存在するはずはない。パッケージも、よく普及しているディスク式だった。

 つまり東堂さんとメモリアは、ガシャットではないこのゲームから、ゲーム病に感染したことになる、のか……?

 

 《そんなコトって……!?特撮ヒーロー物の病気が現実に出てくるなんて……》

 《……この世界のニンゲンたちにとっちゃ、アンタ達プリキュアも『アニメのキャラクター』だぜ?それが『この世界に実際にいる』時点で今さらじゃねーか》

 《……!》

 

 データの実に理に適った返しに、疑問を口にしたマーチをはじめ、プリキュア達は皆溜飲を下げたようだった。

 そう、これは、ある意味『同じ』だ。

 こうやって、『アニメのキャラクター』と思っていたプリキュア達が、僕や東堂さんの身近に現れたことと、同じこと。

 今回、架空から現実になったのが、『バグスターウイルス』だった―――――それだけのことだ。

 

 ―――――でも。

 

 ―――――どうすればいいんだ……!?

 

 当然だけど―――――この世界に仮面ライダーはいない。

 否、厳密には"いる"。でも、"いない"。

 『テレビの中』や『ヒーローショー』という"虚構"の中にしか、東堂さんを苦しめているウイルスを駆除し、治療することのできる、『彼ら』は存在しないんだ。

 当然そんな虚構の存在に、この事態の解決を頼むことはできない。かと言って―――――

 僕がプリキュアであろうと、できるのはそのチカラで街や人々を守って、バグッチャーを倒すことのみだ。バグスターウイルスを東堂さんの身体から追い出すなんて、そんなこと―――――できない。

 

 ―――――僕は……なんて無力なんだ……!

 

 『知っているけれど、全く未知の現象』に、ただ立ち尽くすしかないなんて。

 いくら東堂さんを助けたいと思っても、"それ"を行使できる力が手元にないことが、こんなにもどかしく感じるなんて―――――

 『力無き心は無力』―――――拳法を習い始めて最初に聞いた師匠の(おしえ)。僕は心底、その言葉を噛み締めるしかなかった―――――

 

 「…………大丈夫よ」

 

 背後から掛けられたその一言に、ハッとして振り返る。

 東堂さんが感染しているバグスターウイルスをどうにかできるかもしれないという『安堵』と、本当に解決できるのか?という『疑惑』。

 背反する思いが渦巻く心中のまま向けた視線のその先には―――――園長先生。

 

 「私の知り合いに、これの治療法を知ってるお医者さんがいるわ」

 「え……!?でも……―――――」

 「急ぎましょう……!取り返しのつかないことにならないうちに、早く……!」

 

 有無を言わさず、園長先生は僕を促す。

 先生といっしょにどうにか東堂さんを車の後部座席に乗せて、僕はもう一度助手席に座った。それを見て、園長先生は車を急発進させた。

 ―――――なんて手際の良さだ。

 園長先生が昔、お医者さんだったのは知っているけど、察しの良さから何から何まで、段取りが良すぎる……というのは考え過ぎだろうか?

 未だ混乱収まらぬ車中で、僕は先生に尋ねていた。

 

 「先生……この病気を……"ゲーム病"を知ってるんですか!?でも、この病気は―――――」

 「……こども園のOBにね、ちょっと変わった病気を専門に治療してくれる先生がいてね。まだ研修医なんだけど、腕は確かよ」

 

 そして、「―――――ほくとくんも、()()()()()()人よ」と、付け加えるように笑ったのだった。

 そう言われても、僕にお医者さんの知り合いはいない。精々、行きつけのお医者さんくらいだ。

 行きつけのお医者さんは、よくいるフツーのお医者さんらしい60代半ばくらいのおじいさんだったし、今しがたそのお医者さんの病院の前を車が通過していった。となると、僕の知ってる人じゃない……―――――

 

 《自分で言っといて何なんだけどよ……本当に……りんくとメモリアがかかってんのは、"ゲーム病"なのか……?》

 

 ふと、データがポケットの中から呟いた。

 

 「どういうこと……?」

 《症状がよく似た病気を"()間違える"、ってのは、リアルワールドじゃよくある話らしいが……"コイツ"も、ゲーム病とよく似た別の病気、なんてことはねぇのか……?》

 

 データらしくないことを言うと思ったけど、その気持ちは分かる。

 ―――――『認めたくない』ことを。

 もし、この"症状"が"ゲーム病"と認めてしまえば、その時点で絶望する他ないからだ。

 治す方法がない、今の僕にはどうすることもできない―――――そんな無力を『認めたくない』のは、データも同じなんだ―――――

 

 《現に……ドラマん中じゃ、人間に感染こそすれ、コンピューターのプログラムには何の影響もなかったろ?……なのに、メモリアが……リアルワールドに出られないメモリアも同時に感染してるリクツがわかんねぇんだ》

 「………………キミが見せてくれた、"CURE-TUBE"の『エグゼイド』のスピンオフ……『ヴァーチャルオペレーションズ』の第5話……グラファイトがシミュレーションシステムの中にいただろ……?……元々コンピューターウイルスなんだし、ある意味、人間よりもアプリアンの方が感染しやすいのかもしれない……」

 《でも、そりゃ……―――――》

 「僕だってわかってるよ!……まだ僕たちが判断するのは早い…………早いんだ……」

 

 園長先生の知り合いというお医者さんが誰かは知らないけれど、すべてはその人に東堂さんを診察してもらってからだ。

 素人の僕たちでは、判断はできない―――――

 

 「………………う、うあああぁぁぁぁぁ…………!!!!!」

 

 その時、後部座席の東堂さんが急に苦しみだして、リクライニングで横倒しにしていた後部座席から上体をがばりと起こしたと思うと―――――

 

 ―――――ドガァッ!!!!

 

 変身もしていないのに、腰が入っていない左腕一本だけで後部座席のドアを吹っ飛ばしたのだ。

 車を発進した時に、ドアには自動でキーロックがかかっていた。それを、レバーに触れることなく、拳一発で……!!

 

 「りんくちゃんっ!?」

 

 驚いた園長先生は、車を急停止させた。この場所は―――――

 この間、ジェミニさんと戦った、橋のたもとの土手だった。

 東堂さんはなおも苦しみながらふらりと車から降りると、転げ落ちるように土手を下っていった。

 

 「……東堂さんっ!!」

 

 慌てて僕も土手を下る。それを待っていたかのように、東堂さんがこちらに振り返った。

 

 「ほ……くと……くん………………逃、げ…………うぁ、あああああああああああ!!!!!!」

 

 その一瞬、東堂さんの両の瞳が、いつもの濃い紅色から、血のような赤色に染まるのを、僕は確かに見た。

 そして、東堂さんの全身からオレンジ色の球体が湧き出て、東堂さんの全身を覆って―――――弾けた。

 

 「…………!!!」

 

 僕の目前で―――――東堂さんは『変身』した。

 無言でこちらに振り返ったその姿は―――――"キュアメモリアル"だった。

 否―――――"キュアメモリアル"に似て非なる"ナニカ"であることは、すぐに理解できた。

 右半身が黒、左半身が白―――――その色彩は、仮面ライダーW・ファングジョーカーを否応なしに想起させる。

 そして、右が白、左が黒の仮面を被り、表情が窺い知れなくなっている。

 プリキュア的表現をするならば―――――"ダークメモリアル"といったところか。

 

 《変身しやがった…………!!》

 「……データ……バグッチャーの反応は……―――――」

 

 データも動揺しているのがわかる。僕の右手を通じて、データの心の震えが伝播する。

 何秒間かの沈黙を経て、データはひとことだけ絞り出した。

 

 《…………………………無ぇ》

 

 つまりこの"存在"は…………"バグッチャー"じゃない。

 そして、僕が知る限りでは、こうして"人間に感染するコンピューターウイルス"は、ひとつしかない。

 

 

 

 バ グ ス タ ー ウ イ ル ス

 

 

 

 『…………私は……―――――』

 

 "そいつ"は、東堂さんの声でそう言った。

 ―――――瞬間、僕の心は極まった。

 僕は無意識に"そいつ"に向かって走り出し、

 

 『全ての"プリキュア"に絶望をもたらし、あらゆる未来を摘み取る"プリキュアの影"―――――』

 

 右足で大地を蹴って跳躍し―――――

 

 『ネガky―――――バシィィィィィィ!!!!!!

 

 "そいつ"の側頭部に一撃を放った。

 

 『………………初対面の女の子が自己紹介してるところに跳び回し蹴り(フライングレッグラリアート)を喰らわせるのが、この世界の挨拶なの……?』 

 

 不満げな声が、仮面越しに発せられた。

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

 ⇒  CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 ―――――ほくとのヤツ、一瞬で沸騰しやがった。

 こういう時―――――『誰かが理不尽にいなくなるコト』ってのに、ほくとは過敏に怖がってる。

 のんがネンチャックにさらわれた時のブチギレシーン、思い出すか読み返してみな。……アレの再現だな、今回は。

 『変身中や名乗り中の攻撃はご法度』っていう『お約束』さえ、堂々と破るくらいには見境が無くなっちまう。

 そりゃ、『最愛の人』が闇堕ちすりゃ、是が非でも取り返したいって思うよな。

 ……って、アタシも茶化してる場合じゃねぇ。

 あの"闇堕ちメモリアル"からは、メモリアの気配もする。メモリアもまた、ウイルスに感染してたってコトだ。

 つまりコイツは、単純に"2人分"の戦闘能力を持った奴……という可能性が高い。

 コイツが仮にバグスターだってんなら……こんなヤツ、『仮面ライダーエグゼイド』の本編にはいなかったが……どういうこった……!?

 

 《………………初対面の女の子が自己紹介してるところに跳び回し蹴り(フライングレッグラリアート)を喰らわせるのが、この世界の挨拶なの……?》

 

 挨拶代わりにほくとが放った跳び廻し蹴りは、左腕一本で止められてた。

 まぁ、ほくとの身体能力は生身でも高いけど、だからって"怪人"相手に通用するレベルじゃねぇ。

 ほくともそれをわかってたようで、さして驚いた顔はしてない―――――が。

 

 《"その声"で喋るな》

 

 ほくとは底冷えするような声で返すと、宙返りして着地した。

 

 《ふふふ、まぁいっか。この私……『ネガキュア』の相手に足るのなら、プリキュアじゃなくても文句は言わないよ》

 《"その顔"で笑うな》

 

 意に介せず、『ネガキュア』と名乗った"闇堕ちメモリアル"は1歩、2歩と、ほくとに歩み寄ってくる。

 

 《"その足"で歩くな……"その手"を振るな……"その(からだ)"で…………動くな……!!》

 《ちょっと何よさっきからアナタ!?……するなするなするな、ダメダメダメって……何様のつもり!?》

 《お前は知らないと思うがな…………―――――》

 

 凄惨な目つきで、ほくとは"ネガキュア"を睨みつけた。

 

 《その姿は……『プリキュア』は……東堂さんにとって特別な意味を持ってるんだ……!東堂さんにとっての、夢、希望、憧れ……そして目標なんだ……それを勝手に使うことを……僕は許さない!!東堂さんを……返せッ!!》

 《へぇ……❤》

 

 ほくとの言葉に、何かを悟ったのか"ネガキュア"は不敵に笑う。

 

 《ご心配なく。私達バグスターにとって、"宿主"は誰よりも大切な存在……"この子"が死んじゃったら、私も消えて無くなっちゃうんだし。傷つけはしないし、傷つけさせもしないわ―――――で・も》

 

 (なまめ)かしい手つきで、体をくねらせながら、"ネガキュア"は自分の体を触っていく。コレが小説で助かったぜ……映像にしたら確実に15歳以下お断りになっちまう。

 ……でも今、明らかに『バグスター』って言いやがった。つまりコイツはバグスターで確定か……!!

 "ネガキュア"のバグスター―――――『ネガキュアバグスター』って奴か―――――

 

 《『私』が『私』になるために……この子の『スベテ』を貰うわね……❤だから安心なさい。"そのあと"はアナタの望みどおりにしてあげてもいいんだから……❤》

 《……!!!……ッッ!!!!東堂さんは返してもらう!!お前を東堂さんから引き剥がして!!やろう、データ!》

 

 ほくとがひと際強く、コミューンを握るのを感じた。

 

 「いいのか―――――」

 

 アタシは訊き返しながらほくとの顔を見上げた―――――

 

 「……!!」

 

 その表情は―――――燃え上がるような怒りを、どこまでも静かに湛えた顔。

 見苦しい苛々顔でも、冷め切った無気力顔でもない。怒りを溜め込んで、いつでも出せるようにしている―――――

 ―――――完全に頭に血を上らせず……オーバーフロー寸前でキープしている状態、だろうか。

 

 「……ほくとくん……滾ったね」

 

 静かに、ピースが呟いた。

 

 「ああ……!完全にキてるな。だが、今までの"単純に頭に血が上ってる"のとは違うぜ」

 「うん……」

 

 ピースも、今までのほくとと違うことは理解してくれてるようだ。

 ほくとはキュアデーティアのチップを取り出し、スロットにセットした。

 

 《START UP! MATRIX INSTALL!!!》

 

プリキュア!マトリクスインストール!!

 

 コミューンが唸りを上げて輝く。今日のほくとは―――――一味も二味も違うぜ……!

 

 《CURE-DATA! CURE-PEACE!! INSTALL TO HOKUTO!!》

 

 ……ん!?

 コミューンの音声、なんか違くないか…………!?

 

 ――――――――――

 

 『どーなってんだ、こりゃ……』

 

 いつもの『変身空間(仮)』が展開されたまではいつものことだったんだが……

 

 『なんでココにピースが……!?』

 

 ほくととアタシだけしか入れないハズのこの空間に、何故か元の頭身に戻っていたキュアピースまでもが一緒に入っていた……!?

 

 『コレって……!もしかして!?』

 

 ……なるほど、そういうことか!

 ピースも伊達にこの数日でライダー傑作選をイッキ見してねぇな、ヒーロー特有の超速理解で助かる!

 

 「やろう―――――」

 

 ほくとが、右の拳を突き出して、決意の表情で言った。

 

 「僕たちで……東堂さんを取り戻すんだ!」

 『……そうだな。でも―――――』

 

 忘れてもらっちゃ困る。あのバグスターに感染してるのが、『誰と誰』なのかを―――――

 

 『アタシだって、メモリアを取り戻したいんだ……付き合ってもらうぜ』

 「今さらなんだよ、もう……」

 

 険しい表情がふっと和らいだ。アタシがほくとに拳を合わせると、3つ目の『グー』がそこに合わさってきた。

 

 『なんかコレって、『仮面ライダー剣』の後期オープニングみたいだね♪』

 『"心に剣、輝く勇気"……ってか?』

 「1人足りないけどね」

 『言うなよオイ……』

 

 3人で笑い合うと、なんか余計な力が抜けた。

 後は託すぜ―――――ほくと!!

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 《CURE-DATEAR! INSTALL COMPLETE!!》

 

 いつもの変身と―――――違った。

 電流が体中から迸り、黄金色の稲妻が視界を切り裂く。

 光の球体から降り立った僕は、まっすぐに"ネガキュア"を見据えた―――――

 

 

ピカピカぴかりん!じゃん、けん、ポンっ!♪

 

キュアデーティア、"ピーススタイル"っ!♪♪

 

 

 『…………………………………………』(満面の萌え萌えスマイルのまま硬直、滝のように流れ出す汗……)

 

 ……………………………………………………………………な―――――

 

 『なんだコレはぁぁぁぁぁ~~~~~!?!?!?』

 

 この一連の行動、もちろん僕が意識してやったコトじゃない。身体が勝手に動いた。

 いつものレジェンドインストールとは全然違う前口上とこのポーズ、どこかで聞き覚え、見覚えが……―――――

 

 《なるほどな。あらかじめ"先輩方"がコミューンの中にいる時にマトリクスインストールをすりゃ、直接レジェンドインストールできるってことか……!》

 『え……?えぇっ……!?』

 《そっか!『ジオウ』に出てくるライダーたちと一緒ってことね!ほら、ライドウォッチをセットしておけば直接アーマータイム出来るアレよ!》

 

 ピースが目を輝かせて解説してくれたおかげで、僕でもなんとか呑み込めた。

 彼女がネットコミューンの中にいたから、今こうしてピーススタイルへと直接変身したんだ。

 

 『ふぅん……最初からキュアピースの力を使うなんて、もしかして"尺"押してる?』

 『……あぁ、そうだね―――――東堂さんを助けるための時間が無くなる……だから―――――』

 

 僕に―――――『キュアデーティア』に、東堂さんをバグスターから分離できる能力があるかどうかはわからない。

 でも……僕に出来ることは、(ただ)一つしかない―――――

 

 『お前を、倒す』

 

 僕は蹴り出し、一瞬で間合いを詰め、右の拳を放った。

 でも、その拳はすらりといなされ、相手の右上段蹴りが確実に僕の側頭部を捉えに来る。

 まともに食らうわけには……!

 左腕で防ぐも、音と同時に筋肉を通じて骨にまで響く衝撃―――――

 

 『……、ッッ……!!』

 

 まだだ―――――!

 間合いを離さず、立て続けに拳と蹴りを放つ。それをわかっているのか、相手もこちらの打撃の隙間を縫うように、的確に『狙って』くる。

 全てをいなすことは不可能だ。ほんの数センチ、ほんの数ミリ、一撃一撃の打点をずらす。『致命点』に叩き込まれなければ、喰らったところで立て直しは可能だ。

 攻撃と防御、その双方に、僕は『本能的に神経を割いていた』。

 

 『ふぅん……実力は互角ってところかしら?』

 『…………………………悔しいけど…………そうだね』

 

 本当に―――――悔しい。

 "こんなヤツ"に東堂さんが利用され、その実力が僕と『互角』だということが。

 『素』の力で、"コイツ"を凌げる『点』が……僕には無い。

 

 『でも……お前は僕にまともに触れられたくないようだ』

 『当たり前でしょ?今のアナタは"ピーススタイル"……触れれば最後、電撃ビリビリだし』

 『……………………………………』

 『ま、アナタの攻撃のパターンは、"この子"が教えてくれてるからね……ふふふ♪』

 

 ―――――そういうことか。

 コイツはバグスターだ。東堂さんの記憶を、もう吸い上げ始めているということか……!

 

 『それなら……東堂さんも見たことの無い技なら通用する道理だね。……データ、ピース……前に話してた"アレ"を使うよ』

 《"アレ"か……大丈夫か?》

 『原理ははっきりしてるんだろ?だったら実践あるのみさ―――――ピース、"加減"は任せるよ』

 《……う、うん!》

 

 心の中の半分涙目のピースが、上目遣いで頷く。

 それを見て取った僕は、息遣いを整え、ネガキュアバグスターを見据えた。

 

 『僕自身を―――――『(いなづま)』と成す……!!』

 

 6~7mくらいの間合いを、僕は一気に詰めた。瞬間目前に迫るのは、"アイツ"の仮面に覆われた顔が、驚きでのけぞりかける様―――――

 ―――――成功だ。

 瞬時に左側方に回り込み、右の掌底、槍の如く、()()すように!

 

 ―――――ダンンンン!!!!!

 

 『向こう側』まで突き抜ける、衝撃の余韻。

 木っ端のように吹っ飛ぶ様を()()()()()()()、"奔らせる"。

 

 『追い抜く―――――!』

 《―――――もっと速く!!》

 

 足先へと伝わる『電流』。グン!!と衝撃を受ける僕の身体。

 そして一瞬で―――――"アイツ"が吹っ飛んでいく、その先―――――20mほど向こう側へと回り込めた。

 一足飛びに駆けた後の地面が黒く焼け焦げ、跡のように残っているのが、視界の隅に入る。

 

 『穿点穴(ガテンケツ)―――――』

 《全開パワーで……!!》

 《行けェェェェェ!!!!》

 

 両の拳に迸る雷光。吹っ飛んでくる相手目掛けて―――――

 

 『うおおぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!』

 

 有りっ丈の両拳を叩き込んだ。それも、ただの乱打ではない―――――

 ()()()()()()()の威力を持つ乱打を。

 腕の骨が―――――否、全身の骨と筋肉が軋む音が、鋭敏になった僕の耳に染みてくる。

 この『技』は―――――僕だけで編み出した技じゃない。

 データの知識と、ピースの能力が無ければ、創り得なかった技だ。

 最初は『ピースの能力をどうにか応用できないか』という、データの提案だった。

 

 ―――――電気を操れるんなら、例えば……そうだな、(アタマ)からの『電気信号』なんてのも操作できねえもんか?

 

 理屈は既に完成していた。そして今、実戦で試してる。

 人間が、命の危機を感じた時に無意識に発揮する、所謂『火事場の馬鹿力』―――――

 この『潜在能力』を、脳から中枢神経を通して、全身の筋肉へと伝達する『電気信号』をピースのチカラで操って、増幅・高速化することで、半強制的に引き出し、行使する―――――

 つまりはゴレンジャースーツと同じ原理を、ピースのチカラで再現したわけだ。

 でも―――――プリキュアの身体能力は、『もともと人間を超えて』いる。

 その状態で、()()()潜在能力を引き出す―――――

 

 ―――――ギシ……ッ。

 

 身体中の、『プリキュアの身体』の筋肉や骨が悲鳴を上げる。

 常人を遥かに超えた身体にさえ、瑕疵を入れるほどの負担を強いるこの『(ワザ)』を、長時間は使えない―――――

 この身体が、『(コワ)れる』……、前に!―――――

 

 

 ()める……ッ!!―――――

 

 

 一際強く―――――

 

 ただひたすらに、強く―――――

 

 全身の『氣』を、右の拳に集束する。

 握力『そのもの』で、僕自身の拳が粉砕されそうなほどに、右腕の筋肉全体が張り詰める。

 限界の速度を―――――

 限界の瞬発力を―――――

 限界の筋力を―――――

 その全てを超えた『僕自身(キュアデーティア)』を―――――

 

 

 "(イナズマ)"の如き"攻"め、邪悪を"刹"那に貫く"戈"と成す―――――

 

 

 これが―――――

 

 

 僕達が作り出した―――――

 

 

 『僕』という名の『武器』!!

 

 

 

―――――空現流 神器忽開(ジンキコッカイ)―――――

 

廿(ニジュウ) (ロク) (シキ) (コン) (ゴウ) (ショ)

 

 

(デン)  (コウ)  (セッ)  ()

 

 

 

 

 ――――――――――!!!――――――――――

 

 

 

 

 最後の、渾身の正拳。

 

 でも―――――

 

 心の中に、ひとかけらだけあった―――――『(おそ)れ』が―――――

 

 僕の『切っ先』を鈍らせていた―――――

 

 

 『惜・し・い❤』

 

 最後の正拳の手首を、取られた―――――

 

 『もっとも?並みのウイルスならともかく、レベルアップしてる私にそんなの効かないけど―――――』

 

 グン!と身体を振られ、僕の上体が崩れ、そして―――――

 

 『―――――ねっ!』

 

 天地がそっくり返り、左腕一本で上空へと投げ上げられた……!

 受け身を取る間もなく、"アイツ"が放ったのか、真っ黒なエネルギーの弾丸が僕目掛けて繰り出される。身を固めて防ぐも、立て続けにエネルギー弾が命中し、爆音とともに炸裂する。

 

 『残念だけど……"私のゲーム"すら知らないアナタに、ゲームの住人たる私を倒せる道理はないの。アナタはココで―――――』

 

 爆音に雑じった"アイツ"の声が、不意に―――――

 

 『ゲームオーバーよ』

 

 ―――――耳元から囁かれた。

 ぞっとして振り返ろうとしたけど―――――

 

 「ほくとくん……!!」

 

 振り返る間もなく、今度は数十メートル下の地面へと強烈に叩きつけられた。

 園長先生の叫ぶ声が聞こえた瞬間、背中を思い切り圧迫されて、一瞬息ができなくなる。

 ま……まだだ……!まだ戦えなくなったわけじゃない……!ここから反撃を―――――

 

 

ネ ガ キ ュ ア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕目掛けて―――――モノクロームカラーの"隕石"が叩き落ちてきた。

 漆黒のオーラをまとった、それも自由落下の勢いが乗った右の下段突きを、仰向けに倒れて起き上がれず、無防備なままの僕の鳩尾に叩き込まれた。

 僕の身体を衝撃が突き抜け、一瞬のうちに周りの地面が崩壊を起こしてクレーターが作られた。

 

 『ご………………ごぅはぁ……ッ……―――――……』

 

 息が詰まって、口から、光る何かが噴き出した。

 少なくとも血じゃない―――――イーネルギーのかけらか何か、か。

 最早腕にも足にも力が入らず、起き上がる事すら―――――

 そう感じたその瞬間―――――変身が解かれてしまった。

 

 《ほ……ほくと……大丈夫か……!?》

 「そっちこそ……!?データ、その傷……!!」

 

 思わずコミューンを手に取ると、ボロボロのデータがそこにいた。

 僕の身体にはほとんど傷はなく、体がだるくなっている、その程度。さっき喰らった攻撃が嘘のようだ。

 ―――――まさか、変身している間に負ったダメージは全部データやメモリアが肩代わりしてるってコト……!?

 

 《いつものこった、今さら気にすんな》

 「……ピースは!?」

 《きゅぅ~………………》

 《……ダメだ、完全にノビちまってる……》

 「こうなったら……僕たちだけでもう一度……!」

 《悪いが……無理だ……!ダメージの蓄積でマトリクスインストールが解除されちまったら、次にもう一度やれるまで5分のインターバルが要るんだ……!》

 「そんな……!」

 《それにどっちにしろ、ピースがコミューンの中にいる以上、ピース抜きじゃ変身できねえ……『いつものフォーム』に変身しようにも、いったんピーススタイルにレジェンドインストールしてからじゃねぇと……!》

 

 八方塞がりじゃないか!!

 でも……でも……!

 

 それでも………………ッッ!!!

 

 僕は立ち上がり、目の前に立つ"アイツ"を見据えて―――――構えた。

 

 『あら、まだ戦う気なの?……自分の身体をよく見なさいよ。……生身で立ち向かってくる気?』

 「………………その気さ。お前が東堂さんに"寄生"している限り、僕の闘志は……尽きない……ッ!」

 『カッコつけちゃって。…………おヒザは正直さんみたいだけど❤』

 

 いつの間にか、『キュアデーティア』は、僕の一部、僕の自信になっていたようだ。

 だって実際―――――『それができない』だけで、こんなにも恐怖心を刺激するのだから。

 "アイツ"は、ゆっくりと僕に歩き寄ると、クイ、と下あごを指で軽く持ち上げた。抵抗しようにも―――――

 ―――――できなかった。

 

 『もう放っておいてくれないかしら?だって、私が『完全体』になれば、『この子』の記憶はそっくりそのまま、私が永遠に引き継いであげるのに。アナタにとっても悪い話じゃないでしょ?』

 「…………誰が……許すかよッ……!」

 『許す許さないの話じゃないの。私は()()()()()と生きていけないんだし』

 「それでも…………僕は…………!!!」

 

 "アイツ"を睨み下げ、僕は意地の限りに、心の限りに叫んだ。

 これだけは―――――奪わせたくなかったから。

 

 「お前から取り返す!東堂さんの夢も!希望も!心も!命も!!―――――」

 

東堂さんの、モノなんだ!!!!

 

 

 

 

 ―――――その通りだよ

 

 

 

 「……!?」

 

 その場にいない、『誰か』の声が、不意に響き渡った。

 そして。

 

 真っ白な、マントのような白衣が、太陽を背にまぶしく舞うのを見た。

 美しい跳び蹴り姿を僕の瞼に焼き付けた『彼』は、"アイツ"を蹴飛ばし、僕の前に降り立った。

 

 「……………………………………」

 

 吹っ飛ぶ"アイツ"を尻目にすっくと立ちあがると、『彼』はひるんで尻餅をついていた僕に、手を差し伸べる。

 

 「大丈夫?」

 「……は、はい……」

 

 自然と、僕はその手を取っていた。

 派手目の色合いのTシャツに白衣を羽織り、変わった形の聴診器を首にかけたその姿―――――

 

 この人を―――――

 

 僕は知ってる―――――

 

 「きみの想いは……ぼくが背負う」

 「え……?」

 「『命』は……患者さんのモノだ。…………お前のモノじゃ、断じてない」

 『…………いきなり蹴とばしてお説教なんて……なんなのよアナタは!?』

 

 泥を払いながら立ち上がり、こちらを睨みつけてくる"アイツ"に、『彼』は毅然と言い返した。

 

 「……ただのドクターだよ。……もっとも、まだ研修中の見習いだけどね。でも―――――」

 

 『彼』はどこからか、蛍光色で彩られた黄緑色とピンク色の派手な色合いの道具を取り出し、腰へとセットした。両端から灰色のベルトが射出され、固定される。

 

 「お前のような、『命』を軽んじるようなバグスターを"切除"するくらいは、できるよ」

 

 そして、ピンク色のオモチャめいた、手のひら大の板状のモノを手に取ると、そのスイッチを親指で押した。

 

 

MIGHTY ACTION X(マイティアクション、エエエェェェックス)!!!!!

 

 

 まるで衝撃波か波紋のように、『ブロック状の光』が周囲の地面や橋桁に広がり、大きな色とりどりのメダルのようなモノがあたりにランダムにばら撒かれていく。

 その時、不意に風が吹いた。『彼』の前髪がふわりと浮き上がり、口角が上がる。

 

 ―――――その光景もまた、僕の記憶の中にある。

 

 ―――――間違い無い―――――

 

 ―――――この人は…………!!

 

 

大  変  身  !  !

 

 

 《GASHAT(ガシャット)!!》

 《GA!CHAAAANNNN(ガッチャーーーン)!!》

 《LEVEL UP(レベルアーーップ)!!》

 

 

MIGHTY JUMP(マイティジャァンプ)!

MIGHTY KICK(マイティキィック)!!

 

MIGHTY MIGHTY ACTION(マイティマイティアクショォン)! X(エエェェェックス)!!!!

 

 

 躍動的なポーズとともに、『板状のモノ』をベルトのバックルの左側のスロットへとに差し込み、ピンク色のレバーを右側へと倒した。

 瞬時にマゼンタ色の光が『彼』を包み込み、板状の立体映像が『彼』を透過し、『別の姿』へと変える―――――

 

 全身を覆うマゼンタ色の『アクションギアスーツ』―――――

 

 腕部と脚部を覆う金属感のある光沢を放つプロテクター『メックビルドガード』―――――

 

 右胸に赤・青・黄・緑の四色が配された『エクスコントローラー』―――――

 

 残存体力を映像で可視化した、左胸の『ライダーゲージ』―――――

 

 鶏冠のように逆立った髪の毛を意匠化した頭部と、ゴーグルを模し、極端にキャラクタライズされた複眼『アイライトスコープ』―――――

 

 

 そう―――――

 

 紛れもなく彼は―――――

 

 僕がかつて、テレビの中に見ていた―――――

 

 テレビの中にしか『いようはずもない』―――――

 

 こうして、『現実には存在しないハズ』のヒーロー―――――……!!

 

 もはや夢か幻かわからないこの状況を前にして、僕は無意識に、『彼』の名前を口にしていた―――――

 

 

 

 「仮面ライダー……エグゼイド……!!」

 

 

 

 "アイツ"を睨みつけたまま、『彼』は自らにか、それとも"アイツ"に囚われた東堂さんにか、呟くように言い放つ。

 

 

 

 『患者の運命は―――――オレが変える!』

 

 

 SAVE POINT……




 設定解説

 レジェンドインストール補足

 マトリクスインストールを行う際、レジェンドプリキュアがネットコミューンにいる、もしくはキュアチップをセットしていると、そのレジェンドプリキュアと一緒に『3人』でマトリクスインストールを敢行することとなり、直接そのレジェンドプリキュアのスタイルへと変身、名乗り口上・ポーズもレジェンドプリキュアと同じものを披露する。

 ――――――――――

 ついに参上いたしました、我らが永夢先生!!
 果たしてりんくさんを『ネガキュアバグスター』から救い出すことが出来るのか!?
 また次は間が空くかもですが、気長にお待ちを……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ライダーキック:The REAL

 レジェンドインストール図鑑

 リズムスタイル
 属性:音

 戦力分析 力:3 技:4 速:2 防:2 知: 特:4

 『スイートプリキュア』のサブリーダー、『キュアリズム』のキュアチップを、ネットコミューンにセットしてレジェンドインストールした、『インストール@プリキュア』の音奏戦闘形態。
 スカート部に備えられた『ストリングプリーツ』から特殊な超音波を発振し、周囲の物体から跳ね返ってきた音波を再受信することで、物体の位置を把握することができる。
 これは潜水艦のアクティブソナーや、コウモリやクジラが使う『エコーロケーション』と同様の原理であり、たとえ完全な暗闇の中や、目や耳が完全に塞がれていようとも、周囲の状況をほぼ完璧に把握することが可能となっている。
 『ファンタスティックベルティエ』は、一定の空気振動である『音波』を、ハーモニーパワーを介し、周辺の媒質である気体や液体の流れを収斂・集束して制御することが可能なハンドベル型ツール。
 これを用いて放つ『プリキュア・ミュージックロンド』は、音波を円環状のフィールドに集束・固定して発射する『可視化された音波の輪』。
 この輪は、輪の内部に対して指向性が持たされており、標的を拘束して捕らえた後、円環内フィールドに超高周波振動を継続的に発生させることで、標的やその周囲を振動そのもの、またはそれによって発生した高熱によって分解・ないしは溶断する。
 ベルティエを2つに分離したベルモードで放つ『プリキュア・ファンタスティックピアチェーレ』は、中空に描いたハート型フィールド内に、絶え間ない超高周波振動を発生させることで空気を熱し、プラズマ化させて発火させた『音の炎』。
 フィールド周囲の空気振動さえもベルティエで制御しているため、有効射程距離は意外に長い。


 レモネードスタイル
 属性:光

 戦力分析 力:1 技: 速:4 防:2 知:3 特:4

 『プリキュア5』のメンバー、『キュアレモネード』のキュアチップを、ネットコミューンにセットしてレジェンドインストールした、『インストール@プリキュア』の麗弾戦闘形態。
 パワーは他のスタイルに比べてやや非力であるが、それを補う技の数々と高機動力で相手を翻弄する。
 ハッピースタイルとほぼ同様の原理で『光』をエネルギー源とするが、放出の際は『光の指向性』、およびその制御に重点を置いており、直接的攻撃力はそれほど高くはない。
 『プリキュア5』共通装備である、両拳の甲の『バタフライエフェクター』から、黄金色の光を引き出し、解き放つ。この際、『バタフライエフェクター』の効果によって、放出された光は蝶の形に知覚される。
 この『光の蝶』を高速生成、広範囲に連射する『プリキュア・レモネードフラッシュ』は、他のプリキュアの技と比較して、一発当たりの弾速は遅く、攻撃力も高くない。
 しかし、その真価は『広範囲に低速弾を無数に発射することで相手を牽制、行動範囲を必然的に狭め、機動力を奪う』ことにある。
 さらにこの『蝶形光』を相転移させて制御し、鎖状に連結して振るう『プリキュア・プリズムチェーン』で、敵を直接捕縛することも可能。
 捕縛から攻性エネルギーを電流のように流してダメージを与えることもできるほか、広範囲に無数のチェーンを放ったり、地面にチェーンを潜らせて敵の地面の下からチェーンを『奇襲』させたり、回転させて防御を行ったり、チェーン自体を鞭のように振るうことで武器として扱ったり、更には敵に巻き付けて再度相転移を行って『起爆』―――――
 と、攻防一体、変幻自在のマルチツールとして扱うことができる。
 『プリキュア5』のメンバーの中で、レモネードは一撃必殺級の強力な技を持っていない。しかし、撹乱や援護に特化した多彩な能力は、集団戦闘を前提とした能力を持つ『プリキュア5』には必要不可欠な存在なのである。

 ――――――――――

 メモリア「やっぱりせんせいがいっちば~ん!ふんす!」
 データ「アタシ的にはお師さん1位なんだけどなぁ~」
 マリン「ゑ?アタシが3位?ま、まぢでアタシの時代来ちゃった!?」

 いやぁ、プリキュア大投票、スゴかったですねぇ……
 プリキュア部門では"せんせい"と"お師さん"ことブラック・ホワイトがワンツーフィニッシュ、作品部門も主題歌部門も初代が1位と、まさしく『原点にして頂点』を見せつけられました……
 NHK様、神企画をありがとうございました!!

 そしてついに始まった令和ライダー・ゼロワンですが、アクションもさることながら見た後にちょっとした切なさを感じるのは稚拙だけでしょうか……
 『特撮版BEETLES』、もしくは『戦うプラスティック・メモリーズ』と稚拙は勝手に思ってるのですが……

 さて遅ればせながらエグゼイド編の続きです。
 遂に登場したエグゼイドVSネガキュアバグスターの戦いを送信!


 ……NOW LOADING

 

 『仮面ライダーエグゼイド』とは、20XX年10月2日から20XX+1年8月27日まで、テレビ夕陽系列で毎週日曜9:00 - 9:30に全45話が放送された特撮ヒーロー番組である。

 

 仮面ライダーシリーズ生誕45周年記念作品として製作された本作は、ライダーのモチーフに『ゲーム』、ストーリーの骨子として『医療』を据え、『人間にも感染するコンピューターウイルスと戦う医師たちの群像劇』が描かれた。

 ライダーたちの人間関係は物語の中で目まぐるしく変化し、1話見逃してしまうと敵だったライダーが味方に、味方だったライダーが敵になっていた、果ては死んだはずのライダーが復活、ということもままあり、ファンにとっては1話たりとも見逃せないジェットコースター的展開であった。

 主人公の宝生永夢を中心に、当初はバラバラでライダー同士の戦いにすら発展することもザラであったライダーチームが、後半に移行するにつれて結束を深め、抜群のチームワークを発揮するようになったことは特筆すべき点であろう。

 個性豊かな登場人物たちが織りなす人間ドラマを中心とした骨太のストーリーはファンにも好評となり、メインターゲット層である子供達にも、変身ベルト・ゲーマドライバーをはじめとする玩具類は大ヒット商品となった。

 放送終了後にも映画・Vシネマ・小説において後日談が展開され、中でも時系列上の完結編と云える小説版は、それまでの映像作品で培われ、ファンに定着した『永夢のイメージ』を180度変えるものであるとして、今でもファンの間で議論の的となっている。

 だが、結果的に1人のシナリオライターによって徹頭徹尾描かれたのは『"命"をめぐる物語』であった。

 『ゲーム』と『医療』という、一見無関係に見える2つの要素が、『命』という共通のファクターを経て融合し、それによって生みだされたキャラクターたちが彩る物語は、多くの特撮ファンの支持を得て、未だにその人気は衰えていない。

 間違いなく、『平成ライダーシリーズ』はもとより、『特撮作品』というジャンル全体においても、傑作に値する作品であると云えるだろう。

 

 ―――――『ネット百科事典・Curepedia』より一部抜粋、加筆

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 

 『白昼夢』というのだろうか、これは―――――

 それとも、あまりにも非現実的な出来事に触れすぎたが故に、僕のアタマがついにおかしくなったのか?

 

 《お……おい……コイツは……!!》

 

 データも僕と同じ心境だったらしく、唖然とした声を上げている。

 僕の目に映る仮面ライダーエグゼイド*1は、画面越しに見るエグゼイドと、明らかに違っていた。

 所謂『スーツ』じみているわけではなく、各部分から金属の光沢を煌々と放っている。左胸のパネルには、残存体力を示す『ライダーゲージ*2』が表示されているけれど、スーツのモノとは違った『映像感』がある。液晶パネルそのものが、胸に埋め込まれているようにも見える。変身ベルト―――――『ゲーマドライバー*3』の前面パネルもまた、テレビ画面のように鮮やかに表示されている。

 そして、仮面ライダーを『仮面ライダー』たらしめる複眼『アイライトスコープ』は、ライダーゲージと同じく映像のような外見になっていて、ゴーグルの中で時折まばたきする様も見える―――――

 総じて―――――『着ぐるみでは到底繕えない現実的存在感』を、その全身から醸し出していた。

 『テレビの中から飛び出してきた』―――――否、そんな言葉で()()を表現するのは些か言葉足らずだ。

 『最初から現実に仮面ライダーエグゼイドが存在していて、今この瞬間、僕の前に初めて姿を現した』―――――

 そう表現するに相応しい程の情報量を、この"仮面ライダーエグゼイド"は、僕に向けて放っていたのだった。

 よく知っているようで、その実はじめてこの目で見た『現実の仮面ライダー』は―――――

 ―――――僕には、鮮烈すぎた。

 

 「永夢くん!……永夢くんでしょ?」

 

 いつの間にか僕の後ろに立っていた園長先生が、非現実的な背中に訊ねる。

 親しげに声を掛けるその姿に、違和感を禁じ得ない。

 なぜなら……もし、このエグゼイドに変身しているのが、()()()彼なら―――――

 聖都大学附属病院*4の研修医―――――宝生永夢先生なら―――――

 彼は実在しているハズはなく、そして当然、園長先生が顔見知りのハズも無い。

 せいぜい、ドラマを見て知っている、くらいのハズ、なんだけど―――――

 エグゼイドはこちらをちらと見て、すぐさまネガキュアバグスターへと視線を戻して―――――

 

 『―――――……園長先生―――――久しぶり』

 

 え……!?

 ()()()()って……

 思わず僕は、園長先生とエグゼイドをかわるがわる見ていた。

 

 『話したいことは山ほどあるけど……今はその子と一緒に下がっててくれ』

 

 まさか―――――本当に、永夢先生なのか……!?

 それに、先生と顔見知りなんて……

 今更ながら、何が現実で、何がフィクションなのか、その境界すらわからなくなってしまった。

 データが僕のスマホの中に現れ、バグッチャーと対峙して、プリキュアに変身した時以上に、僕はこの『非現実感』の中、混乱の極みにあった。

 僕が憧れたヒーロー、その"ホンモノ"を前にしているというのに、僕は―――――

 一歩も動けず、一言も喋れずにいた。

 

 『……見たことのないバグスターだな。オレがプレイしたことのないゲームのキャラ、か……でも』

 《GASHACON BREAKER(ガシャコンブゥレイカー)!!》

 

 エグゼイドの手に、(ハンマー)のような、ピンクと緑のボタンが備えられた武器が実体化する。

 

 《JA-KIIIN(ジャ・キィィン)!!》

 

 音声と当時に刀身がそそり立った。

 仮面ライダーエグゼイドが使用する、『マイティアクションXガシャット』に登録された専用武装(ガシャコンウェポン)―――――

 "激打撃斬"『ガシャコンブレイカー*5』だ。

 これもまた、テレビドラマで見ていた小道具(プロップ)とは明らかに違っている。

 ドラマでは剣と一体成型で表現されていた『ブレードエリミネーター』が、燃える炎のように刀身から立ち昇っていたからだ。

 『刀身そのもの』じゃなく、『斬撃に沿って放ったレーザーワイヤーで攻撃している』という、ドラマの設定に合致したその外観が、『ホンモノの説得力』を僕に焼き付けてくる。

 

 『初見プレイでも、ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!』

 

 聞き慣れたキメ台詞を放ったエグゼイドは、一瞬でネガキュアバグスターの間合いに入ったと思うと、一太刀、そして返す刀で二太刀目を浴びせた。

 命中する度に、HIT!というエフェクトが立体的なアニメーションともに飛び出す。まさしく、ドラマさながらだ。

 

 『つぅ……!ったいわね~!プリキュアで武器使うなんて悪者の常套手段じゃない!邪道よ邪道!!』

 『邪道?使えるシステムやアイテムをフルに使って攻略するのが、ゲームのルールだろ!……でもま―――――』

 

 やれやれと首を振ったエグゼイドは、ガシャコンブレイカーをハンマーモードに《BA-KOOOM(バ・コォォォン)!!》と戻して、『ほいっ』と、はるか上空に向かって放り投げると―――――

 

 『いいぜ?―――――来いよ!』

 

 ―――――右手の指を揃えてくいくいと曲げて、相手を挑発する。

 

 『っっっきぃぃぃ~~!!!なめんじゃないわよっっっ!!!』

 

 仮面に被われていても、その奥の表情が簡単に想像できるほどの怒りのリアクションを見せると、ネガキュアバグスターはまっすぐエグゼイドに向かっていき、がむしゃらに仕掛ける。対するエグゼイドは、その攻撃をかいくぐりながら、パンチやキックを的確に打ち込んでいく。一目で『格が違う』ことがわかる戦いぶりだ。

 

 《……やっぱ……………………すげぇ》

 

 力の抜けたデータの声が、いやに鮮明に聞こえた。

 僕は―――――もう、なにも語ることはできなかった。

 僕の五感、そのすべてに叩きつけられる、圧倒的な―――――

 

 

 ホ  ン  モ  ノ

 

 

 『おいおいその程度かよ?"魅せプレイ"もできやしないぜ。ちょっとは"魅せ場"を作らせてくれよ、なっ!』

 

 エグゼイドはひらりとネガキュアバグスターを跳び越すようにジャンプして、上空に浮かんでいた黄色いメダル―――――"エナジーアイテム*6"をキャッチした。

 

 《コウソクカ(高速化)!!》

 『行くぜ!』

 

 着地したエグゼイドは、残像を残すほどの超スピードで疾走し、ネガキュアバグスターの周囲を旋回して翻弄する。この状態のエグゼイドにネガキュアバグスターは攻撃はおろか触れることさえ出来ず、繰り出す攻撃は全てMISSの文字が浮かぶ。時には背後に立ってトントンと肩を叩き、相手が振り返ると同時に回り込んで視界から消える、という余裕まで見せつけた。

 

 『こんな……こんな遊び半分のヤツなんかに……!』

 『遊び半分なんかじゃないぜ?オレはいつでも全力だ!全力でプレイして、全力で戦って―――――』

 

 最後に真正面に回ったエグゼイドが、ミドルキックを叩き込みながら叫ぶ。

 

 『全力で救命(たす)ける!!』

 

 ―――――GREAT!

 

 ひるんで吹っ飛ぶネガキュアバグスターに、エグゼイドは向き直る。

 

 『―――――そうすることが、オレが……いや、『オレ達』が、この手の中に見つけた"答え"だから』

 「……!」

 

 気持ち、エグゼイドの視線がうつむき加減に下を向くように見えたのは、たぶん気のせいじゃない。

 本当に彼が―――――僕がテレビで見ていた宝生永夢先生なら、やっぱり―――――

 

 『なにカッコつけてんのよ……バカバカしい!私は『生きたい』、それだけなのに!』

 『だからって他人を犠牲にしていいってのはムシが良すぎるぜ―――――あ』

 

 エグゼイドが何かに気付いたのか、ネガキュアバグスターを指差す。

 

 『ソコ、危ないぜ』

 

 いきなりそう言われて怪訝に思ったのか、ネガキュアバグスターは面食らったようにその場で動きを止めた。そこへ―――――

 

 ―――――ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ~~~~~~~……………………ン、

 ―――――GREAT!

 

 さっき、『邪道』と言われて上空へ投げ上げたガシャコンブレイカーが、ネガキュアバグスターの頭のてっぺんに見事に落っこちてきた。

 

 『!!!!!っつぅぅ~~~~~……………………!!!!』

 

 ネガキュアバグスターは悶絶して頭を押さえてのたうち回った。ギャグマンガでよく見るような光景が繰り広げられている。

 

 『言わんこっちゃない……さて、フィニッシュだ!』

 

 エグゼイドはゲーマドライバーから板状のツール―――――『ライダーガシャット』を引き抜き、さながら口元から息を吹きかけるような仕草を見せると、ベルトの左側面のキメワザスロットに差し込んだ。

 

 《GASHAT(ガシャット)!!KIMEWAZA(キメワザ)!!!》

 

 両手を組んで、身体をほぐすように動かしてから、腰を低く構えたエグゼイドの右脚に、エネルギーが集中して、輝きを増していく。

 意を決すように、エグゼイドはキメワザスロットの中のライダーガシャット、そのスイッチを押した。

 

MIGHTY

―――――――――――――――――――――――――

CRITICAL STRIKE!

 

 ライダーガシャットが叫びを上げる。それを合図に一際激しくスパークするエネルギーを纏ったまま高々とジャンプしたエグゼイドは、跳び蹴りの姿勢に入ったと思うと、ネガキュアバグスターへと真っすぐに急降下キックを放った。

 エグゼイド必殺のライダーキック―――――『マイティクリティカルストライク』。

 通常のキックとは異なり、空中で数種類のキックを立て続けに決めるこの技は、数あるライダーキックの中でもテクニカルな技だ。

 その瞬間の姿は―――――僕の脳裏へと深く刻み込まれた。

 所謂『ライダーキック』―――――それも、『本物のライダーキック』を、この目にしたのだから。

 迸る閃光、空気を裂く轟音、美しいまでの蹴り姿、連続で命中するキックの打撃―――――

 五感で(さと)るすべてが、テレビ画面越しでは到底知ることのできない、圧倒的な―――――!

 

 ―――――ドゴォォォォォォオオオオオン!!!!!!

 

 エグゼイドが着地を決めると同時に、橙色の爆炎が轟音とともに巻き昇った。熱風が、座り込んでいる僕に土埃とともに襲ってきて、思わず僕は右腕で視界を覆った。

 この熱、この風―――――これは、画面やスクリーン越しで見ている限り、決して味わえない臨場感―――――!

 でも、内心興奮していた僕の視界―――――陽炎の向こうに、はっきりと見えた。

 両ひざをついて、草の地面にばたりと倒れ込む東堂さんの姿を。

 

 「……!東堂さんっ!!」

 

 立ち上がるエグゼイドを尻目に、僕は思わず東堂さんに駆け寄って抱き起こした。

 

 「東堂さん!大丈夫!?しっかり!!」

 「……う……う~ん……」

 

 よ、よかった……息がある……

 流石は『ドクターライダー』の異名を持つエグゼイドだ。東堂さんに傷一つ負わせることなく、バグスターだけを"切除"してくれたみたいだ。

 

 「歩ける!?」

 「……な、なんとか……」

 

 東堂さんはうつろな目をしていたけど、どうにか僕の言葉に応えてくれた。僕は東堂さんに肩を貸すと、土手のへりまでどうにか連れて行くことができた。

 

 《おい、様子がおかしいぞ……?りんくもメモリアも、まだキツそうじゃないか……!?》

 

 データにそう言われて、僕は東堂さんの姿を見やった。オレンジ色のノイズが、顔や腕に走る様が治まっていない。

 それに―――――

 もしバグスターの完全撃破に成功していたなら、GAME CLEAR!の表示が出るはず。それが出ない、ということは―――――!?

 

 『まだゲームは続いてるってことか』

 

 エグゼイドがそう呟いたのを合図としたかのように、先程ネガキュアバグスターが撃破された場所に向かって、無数のオレンジ色の粒子が集中していき、結合して増殖し、人型を成していく。そして―――――

 

 『……よくも……よくもやってくれたわね……!まさかプリキュア以外のヤツにコケにされるなんて……!――――――――――悔しい……!』

 

 『マイティクリティカルストライク』をどうやって避けたかはわからないけど、倒されていなかったのか……!

 エグゼイドが言ったとおり―――――まだ終わっていない!

 白黒のシルエットが、悔しさからか身体を震わせている―――――

 

 ――――――――――!

 

 背筋を舐められるような悪寒が、一瞬奔った。

 何かが―――――起こる……!

 

 『くやしい……悔しいクヤシイKUYASHII口惜しい悔ヤSHIい――――――――――』

 

―――――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!

 

 闇の底から響くような悍ましい絶叫を、ネガキュアバグスターが発した。一瞬、ヤツの白黒の仮面が、中心線から真っ二つに割れるのが見えたと同時に、その全身をバグスターウイルスが覆い尽くした。

 

 「何が起こってるんだ……?」

 『ウイルスの突然変異……!?』

 

 エグゼイド―――――永夢先生もまた、戸惑っているようだった。

 つまり、永夢先生が突然変異したウイルスを見るのは初めてということになる。

 ……となると、突然変異したバグスター―――――"ネビュラバグスター*7"を見たことが無い、のだろうか……?

 やがて、球体状になったウイルスが破裂するように弾け飛び、そこには―――――

 

闇の使者、ネガキュアブラック!!

闇の使者、ネガキュアホワイト!!

 

ふ た り は ネ ガ キ ュ ア ! ! !

 

光の力を信じる者よ!!

 

尻尾を巻いて、帰りなさい!!!

 

 現れたのは―――――『ふたり』だった。

 見た目も、白黒だったさっきまでの姿と違って、片方は短髪の黒、片方は長髪の白とはっきりしている。

 ちょうど、さっきまでのネガキュアバグスターが―――――

 

 「分離した、のか……!?」

 《いや……多分違うな》

 「え……?」

 

 データは2体に分離したネガキュアバグスターを、苦々しい顔で睨んでいた。

 

 《元々……メモリアとりんく、『2人』に感染してたバグスターだ……最初の姿は『2体分』が一緒くたになってたんだろうよ。それが、頭数を増やしてエグゼイドに対抗するために『元に戻った』―――――》

 「それが……"こいつら"の本当の姿……なのか……」

 

 黒いネガキュアバグスター―――――"ネガキュアブラック"は、エグゼイドをビシッ!と指差したポーズのまま叫ぶ。

 

 『あたしたちが負けたのは、"ひとり"だったから!"ふたり"なら、絶対に負けない!!』

 

 この言葉に合わせ、白いネガキュアバグスター―――――"ネガキュアホワイト"がずいと前に出る。

 

 『覚悟してもらうわよ!』

 

 心なしか、口調もさっきまでの『妖艶』な雰囲気から打って変わって、ハキハキとした正統派ヒロインのようだ。

 ただ―――――この時、データが目を大きく見開いた驚愕の表情を浮かべていたことに、僕は気づいていなかった。

 ネガキュアブラックが一歩踏み出したと思ったその時には、ソイツはその場から消えていた。

 ―――――どこへ行った!?

 

 『だだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!!!!』

 

 次にネガキュアブラックを見た時には、エグゼイドに猛ラッシュを叩き込んでいた。エグゼイドと2人のバグスターとの間合いは6~7mはあったのを、一瞬で……!

 受ける側のエグゼイドは、両腕を交差させて肩をすくめ、防御を固めていた。虚を突かれて間合いを詰められた以上、とっさの判断だったに違いない。

 

 『……こ、のォッ!!』

 

 右腕を大きく振り抜いて、エグゼイドはネガキュアブラックから間合いを離す。でもその時―――――

 

 『はああぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!』

 

 間髪入れず、今度はネガキュアホワイトが、ネガキュアブラックの頭上を跳び越すように、空中から錐揉み回転しながら踵落としを見舞う。防禦してクリーンヒットを避けたエグゼイドだけど、エグゼイドの立っている足元、その地面にヒビが入り、鈍い音とともに地面が沈み、エグゼイドのライダーゲージが2割ほど減少するのが見えた。

 

 「防禦(ガード)の上からでもあれだけのダメージが……!?」

 《空中で回転を加えることで破壊力を増すワザ……それにさっきの"ブラックモドキ"の猛ラッシュ……間違い無ぇ……!!》

 

 データは確信したように言った。

 

 《アイツら……!"お師さん"とメモリアの"せんせい"……キュアホワイトとキュアブラックの戦い方を完コピしてやがる……!!》

 「えっ……!?」

 《だとしたら……マズい!!》

 

 データの危惧は、すぐに僕の眼前に現れた。

 落ちていたガシャコンブレイカーを拾い上げたエグゼイドが、ハンマーモードを振り上げるようにネガキュアホワイトに命中させた。ガードするも勢いのまま吹っ飛ぶネガキュアホワイトの先に、ネガキュアブラックがジャンプする。示し合わせたように、黒と白が頷くのが見えた。

 

 『でぇい……!!』

 『やぁぁっ!!』

 

 ―――――空中で、黒と白が交錯する。

 ブラックがホワイトの両足の裏をドッキングさせるように蹴り飛ばし、さっき吹っ飛んできた軌道をそのまま、先程以上の速度でホワイトが戻り飛び、その勢いを乗せてエグゼイドへと蹴り込んできた……!

 

 『ぐぅぁッ!!』

 「……!!」

 「永夢くん!!」

 

 土手ッ腹にキックを叩き込まれたエグゼイドが仰け反り吹っ飛ぶ。思わず僕は息を呑み、園長先生が悲鳴めいて永夢先生の名前を呼ぶ。

 ―――――よろめきながら起き上がるエグゼイドのライダーゲージが、一気に5割削れていた。

 

 《やっぱりか……!脚力自慢の"お師さん"をメインに据えたタッグ技だ……メモリアと組んで2対2で組手した時に―――――》

 「……データ、見たことがあるの!?」

 《……いや、実際喰らったことがある……腹に》

 「え……」

 

 その技にトラウマでもあったのか、データは顔色悪くおなかをさすっていた。

 

 『………………ッ()ぇ…………いい一発だったぜ……』

 『随分と余裕みたいだけど……』

 『やせ我慢はしない方がいいわよ?』

 

 鳩尾を右手で押さえながら、ふたりのネガキュアバグスターを見据えるエグゼイドだけど、まだどこか、余力を残しているように見える。

 ―――――そうか。

 

 「―――――……まだ、"基本フォーム"だ」

 《……ほくと?》

 「エグゼイドの本気は―――――ここからだよ」

 

 彼が、僕の知っている『仮面ライダーエグゼイド』なら、こんなところでは終わらないハズだ。

 実際に―――――彼はまだ、諦めていなかった。

 

 『やせ我慢?冗談キツいぜ……最初はパターン見てからってのが攻略の基本……だから……―――――』

 

 エグゼイドはスロットからマイティアクションXガシャットを取り出すと、ホルダーから新たなガシャットを取り出した。

 その色は―――――オレンジと青緑。ツートンカラーの、幅広のガシャットだった。

 

 『……、オレも"相棒"と戦わせてもらうぜ』

 

 ラベル部分をネガキュアバグスターに示すように目前に掲げ、そのスイッチを押した。

 

MIGHTY(マイティ)BROTHERS(ブラザーズ)X(ダブル)X(エェェェックス)!!!!!

 

大ぁぁぁぁぁぁぁい、変 身 ッ ! !

 

 大仰にも見えるアクションとともに、エグゼイドはドライバーを触発するようにゲーマドライバーのレバーを開閉する―――――

 

 《DOUBLE GASHAT(ダブルガシャット)!!》

 《GA!CHAAAANNNN(ガッチャーーーン)!!》

 《DOUBLE UP(ダブルアーーップ)!!》

 

 陽気な電子音声が響き渡ると同時に、大地を蹴ったエグゼイドが高々と天に舞った。

 

         ♪俺がお前で!

お前が俺で!!♪         

We're!

         ♪MIGHTY!(マイティ)

MIGHTY!!(マイティ)♪         

BROTH(ブラザ)ERS(ーズ)!!!♪

Hey!!!

 

X(ダブルエーー)X(ーーーックス)!!!♪

 

 

 閃光とともに降り立ったエグゼイドは―――――

 『ふたり』になっていた。

 

 『『っ!?』』

 

 その姿を見たふたりのネガキュアバグスターがたじろぐのが見えた。

 無理もない。ふたりで、互いの肩のパーツ"フェイスアンブレイカー*8"を接続した左右対称のポーズを決めながら着地したこの姿は―――――

 ―――――平成ライダー……否、昭和の世から令和へと連綿と続く仮面ライダーたちの中で、最も異色とも云うべき仮面ライダーだから―――――

 『仮面ライダーW』で披露された『ふたりでひとり』の仮面ライダーの逆をいく、『ひとりでふたり』の仮面ライダー、それが―――――

 

 「……"ダブルアクションゲーマー・レベルXX(ダブルエックス)"……!!」

 

 思わず、僕はその名を口に出していた。 

 オレンジとエメラルドグリーンを主体としたスーツのカラーリングが、僕の目に眩しく焼きつく―――――

 

 『行くぜ―――――パラド』

 

 エメラルドグリーンのボディカラーの、"XX L(ダブルエックス・エル)"が、静かに呟いた。

 

 『ああ―――――心が躍るな、永夢』

 

 もうひとりのオレンジ、"XX R(ダブルエックス・アール)"が応える。

 

 『『超キョウリョクプレーで、クリアしてやるぜ!!』』

 

 ふたり同時にふたりのネガキュアバグスターを指差すと、"R"はネガキュアブラックに、"L"はネガキュアホワイトに、まるで最初から示し合わせたように突撃していった。

 

 SAVE POINT……

*1
宝生永夢が変身ベルト・ゲーマドライバーと変身ツール・ライダーガシャットを使って変身する仮面ライダー。今回変身したのは、基本形態と云える『アクションゲーマーレベル2』。モチーフジャンルは『アクションゲーム』で、ゲーム『マイティアクションX』の主人公『マイティ』がモデルになっている。瞬発力を活かした軽快かつアクティブな戦闘を得意とし、バランスの取れた能力を発揮する。アクションゲームのように、リアルタイムで迫る敵の攻撃に素早く対処し、立ちはだかる障害を乗り越えていく『究極の攻略者』。他にも様々なライダーガシャットを使用し、戦況や相手に応じたフォームへと『レベルアップ(フォームチェンジ)』することで能力を変化・上昇させることも可能。主人公ライダーらしく、戦いを経て新たな姿へと変身・強化していくのだが、それは後ほど……。

*2
その名の通り、ライダーの残存体力を可視化し、メーターとして示したもの。攻撃を受けるとこのメーターが減少していき、体力が0になると『ゲームオーバー』となり、文字通り死亡してしまう。劇中では仮面ライダーレーザー=九条貴利矢が仮面ライダーゲンムの襲撃を受けてライダーゲージが尽き、死亡してしまった。

*3
『仮面ライダーエグゼイド』における変身ベルト。誰にでも扱えるわけではなく、『バグスターウイルスの抗体を作る適合手術を受け、適合した人間』しか使用することはできない。また、バグスターでも人間の遺伝子を取り込んだ者や、人間からバグスター化した者でも使用することが可能。内部は巧妙かつ緻密にブラックボックス化されており、劇中では設計・開発者である檀黎斗以外に製作・修復できる者は存在していなかった。

*4
『仮面ライダーエグゼイド』の主な舞台となる、郊外に立地する総合病院。主人公・宝生永夢がこの病院に研修医として着任するところから物語が始まる。地下には衛生省が密かに建造したCR(Cyberbrain Room:電脳救命センター)があり、ゲーマドライバーを使って仮面ライダーに変身する医師たちによる、バグスターウィルスに感染したゲーム病患者の施療が行われている。

*5
仮面ライダーエグゼイドが使用する可変型武器。マイティアクションXガシャットに登録されたガシャコンウェポンで、ゲーム「マイティアクションX」で主人公・マイティが使用する武器を模している。手槌形態のハンマーモードと、片手剣形態のブレードモードの2種類の形態を使用可能で、ライダーガシャットを装填することで必殺技の発動も可能。

*6
ライダーガシャットの起動時、ゲームエリアにばら撒かれるメダル型のアイテム。ライダーのみならず、バグスターも取得することが可能。取得することで能力の強化や回復、補助効果を受けることが可能だが、中には取得した者にデメリットをもたらすトラップ的アイテムも存在する。

*7
映画『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL』に登場した、バグスターの突然変異種。『仮面ライダービルド』に登場する『ネビュラガス』を浴びせられたバグスターウイルスで、通常のバグスターウイルスよりも戦闘力や感染力が増大。特に感染力が非常に強力で、感染していない人間でも触れられるだけであっという間にネビュラバグスターへと変貌してしまい、劇中ではパンデミックを引き起こした。『平成ジェネレーションズFINAL』は、テレビ版エグゼイドの後日談である劇場版『トゥルー・エンディング』よりも更に後の時間軸の物語であり、それをエグゼイド=永夢が知らないということは……?

*8
仮面ライダーエグゼイド・ダブルアクションゲーマー・レベルXXが装備するエネルギーシールド発生装置。不可視の特殊なエネルギーバリアを発生させ、敵の攻撃や侵入を防ぐことができる。前段階であるダブルアクションゲーマー・レベルXの頭部が分割装備されたものであり、レベルXX・Rは左肩に、レベルXX・Lは右肩に装備している。これを互いに接続し、レベルXのマスクを形作りながら左右対称のポーズを決めて登場する姿は非常に印象的で、このフォームを象徴する姿としてファンの脳裏に強く焼き付いている。




 例によって字数が多くなりすぎたのでここまでです(涙
 ダブルアクションゲーマーVSふたりはネガキュアのタッグバトルはまた次回で!!

 さて、アンケートの結果、ピースのレジェンドライブの技名は圧倒的支持で『ライダーネタ』にけって~い!え~っと……コレ、プリキュア小説なんですけど……読者の皆様、そんなに仮面ライダーが好きか~!!(>▽<)
 どのような技名になったのか、それは後々のお披露目をお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

BACKUP:運命共同体

 バグッチャー大図鑑・特別編

 ネガキュアバグスター(ステージ1)

 りんくが買ってきたゲームソフト『ベストフレンドプリキュア』(ジャンル:友情と絆のプリキュアクション)に仕込まれていたバグスターウイルスが、ゲームをプレイしたりんくとメモリアに感染した後、実体化したバグスター怪人。

 元となった『ベストフレンドプリキュア』のステージ6『ネガポジ王国』のボス、『ネガキュア』がモデルとなっている。プレイヤーが操作しているプリキュアがネガポジ反転し、顔に仮面をつけた姿をしており、それまでのプレイヤーの操作の傾向やクセを読み取り、それを基に行動パターンが決定されるという強敵で、プレイヤーはまさに『自分との戦い』を強いられるのである。

 キュアメモリアルに変身しているりんくに感染していたためか、ネガキュアバグスターの姿は『闇墜ちしたキュアメモリアル』と形容できる姿となった。しかし、これはバグスターウイルスがネットコミューンの変身アプリを暴走させているわけではなく、りんくとメモリアの記憶からキュアメモリアルの容姿と戦闘データを抽出したバグスターウイルスが、りんくを素体にウイルス自体を『肉付け』して、マリオネットのように操作しているに過ぎない。
 しかし戦闘能力は通常時のキュアメモリアルに匹敵するほどで、キュアデーティアも変身解除に追い込まれるも、その後現れた仮面ライダーエグゼイドには、戦いの経験の差もあって劣勢を強いられる。追い詰められたネガキュアバグスターは……―――――

 ――――――――――

 すぐ投稿するとかのたまっておきながら、毎度お待たせしてしまいスミマセン……
 それにしても仮面ライダー滅の存在感ときたら……
 悪堕ちした高岩さんがここまで恐ろしく見えるとは……!
 相手は伝説の高岩さんだぞ!?絶対に勝てない……逃げるんだよォー!!
 ゴーストでジャイロが出てきた時以来の絶望と恐怖を感じております……

 今回で『エグゼイド編・前篇』完結です!
 衝撃のラストを、お見逃しなきよう……!


 ……NOW LOADING

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 エグゼイドが2人に『分裂』したのを見て、更に気付いたことがある。

 

 「……片方が……パラドだ」

 

 ―――――パラド。

 本来は永夢先生の敵であるバグスターの首謀格だった存在だ。

 永夢先生自身に感染していた『もうひとりの永夢先生』にして、『天才ゲーマーM』の()()―――――

 人間とバグスター……『命』の価値観がまったく違う故に永夢先生とは何度も剣を交え、絶対に分かり合えないと思われていた相手―――――

 でも、永夢先生から『命はひとつしかない』ということ―――――『命の意味』を教えられ、それを受け入れたことで正義に目覚め、永夢先生とともに戦うようになった彼が、ここにいるということは―――――

 

 《テレビの最終決戦間近か、それより後のエグゼイドか……》

 

 データも考えていることは同じようで、そんな独り言が聞こえた。

 

 《GASHACON KEY SLASHER(ガシャコンキースラッシャー)!!》

 

 そのパラドが変身していると思われる"R"が、9つのキーボードが備えられた、変わった風体の剣―――――『ガシャコンキースラッシャー*1』を手にした。

 

 『行くぜ……!』

 JA(ジャ)JA(ジャ)JA(ジャ)KIIIIIIIIIINNNN(キィィィィィィィン)!!!》

 

 刀身部分―――――『ブレードエリミネーターGKS』から、青色のエネルギーで形成された刃が噴き出し、ブラックに振り下ろされた。とっさに両腕を交差させたそこへ命中して、金属めいた衝突音が響いた。

 

 『!……この感じ、アンタもバグスター……!?』

 『ああそうさ。もっとも、お前と違って"良性"の、な!』

 

 "R"はスラッシャーを振り抜くように間合いを離すと、側面の『アタックラッシュキーパッド』、そのうちの大型の黄色いキーを叩くように押す。

 

 ZU()KYU(キュ)KYU(キュ)KYUUUUUUNNNN(キュゥゥゥゥゥゥゥゥンンンン)!!!》

 

 刀身上部の銃身『ガンエリミネーターGKS』に、黄金色のエネルギーが迸る。両手持ちで狙いを定めた"R"がトリガーを引くと、銃口からエネルギーの弾丸が連射された。

 何発かがブラックに命中して、炸裂音と同時に火花が舞い散る。

 

 『く……同じバグスターなのに、どうしてあたしたちの敵に!?』

 『俺がお前の敵になったんじゃない……()()()()()()()なんだよ!』

 

 再度、"R"の銃爪(ヒキガネ)とともにエネルギー弾が放たれる。しかし二度目は通じないとばかりに、ブラックはリストバンドで弾丸を振り払うと、跳躍して"R"の上を取り、前宙からの踵落としを放った。"R"はそれをスラッシャーの刀身で受け止めるも、立て続けにブラックは二度、三度、四度も空中で回転し、連続で踵落としを見舞う。"R"の複眼の右目が緊張のそれに変わった。

 

 『バグスターと人間が一緒にいられるわけ……ない!』

 

 その言葉を聞いた瞬間、橙色の複眼()をカッと見開いた"R"が、アタックラッシュキーパッドの大型の橙色のキーを叩いた。

 

 SU()PA()PA()PAAAAAAANNNN(パアァァァァァァン)!!!》

 

 キーの下部の『アックスエリミネーターGKS』から、橙色のエネルギーの斧頭が飛び出し、力任せに振り抜いてブラックを引き剥がした。

 遠間に着地したブラックを、うつむき加減から上目遣いに"R"が睨む。

 

 『……勝手に決めつけんなよ。俺は自分の意志で此処にいる……それに、俺以外にも人間と共存してるバグスターはいくらでもいるぜ。…………仲間を手に掛けたくない。大人しく永夢のリプログラミングを受けるんだ』

 『!?冗談じゃない!あたしの命はあたしのモノ!誰にもジャマはさせない!!』

 

 強情にも聞こえるその言葉に、"R"は静かに返す。

 

 『……………………お前、昔の俺だな』

 『はぁ?』

 『お前は自分の命が絶対大事で、それ以外はどうなってもいいって思ってるんだろ』

 『当たり前じゃない。それがあたし達バグスターの存在意義なのよ!』

 『存在意義なんて、幾らでも変えられる!それに何も、お前ひとりだけで変えなくてもいい!俺だってそうだ……『人間たちを攻略するバグスターの参謀・パラド』は"あの時"、永夢に()()()()()()()()()()()からな。誰かの力を借りたっていい!お前だけで変えられなくとも、俺が変える!』

 

 左の拳を握り、自分の胸を叩いた"R"が叫ぶ。

 

 『お前(バグスター)の運命は、俺が変える!!』

 

 僕には、仮面の向こうのパラドの表情が見えた―――――そんな気がした。

 数多の戦いを経て、『命の意味』を知った彼だからこそ云える言葉だ。

 でも―――――

 

 『言うだけならいくらでも言えるわ……そう簡単に運命なんて変えられちゃ、たまったもんじゃないわよ……!あたしはあたし、バグスターのままでいたい……!命や運命を他人に勝手にいじられるなんて……』

 

 

 ―――――そんなの、ぶっちゃけ、ありえない

 

 

 『決裂か……―――――永夢!』

 

 "R"が叫ぶと、それまでホワイトと格闘していた"L"が振り向き、『ああ!』と返し、ミドルキックを叩き込んでホワイトを吹っ飛ばすと、大ジャンプで"R"の隣へと着地した。そして、"R"が持つスラッシャーから幻影のようにもう一振りのスラッシャーが出現して、"L"の手に渡り、実体化する。

 それを見て取った"R"と"L"は、スラッシャーのスロットに、それぞれのマイティブラザーズXXガシャットを装填した。

 

 《DOUBLE GASHAT(ダブルガシャット)!!KIMEWAZA(キメワザ)!!!》

 

 対称に構えたふたりのエグゼイドが、エネルギーが迸るスラッシャーを手に、ブラックを見据えた。そして―――――!

 

 

MIGHTY BROTHERS

――――――――――――――――――――――――――

CRITICAL FINISH!

 

 

 二振りのスラッシャーの刀身から、三日月形の斬撃波動が飛び出し、交差して『X』の文字を形作り、河原の草むらを刈り払いながら驀進する。そこへ―――――

 

 『ブラック!危ないっ!!』

 

 不意だった。

 視界の死角から、白い影が黒い影を突き飛ばすのが見えた。

 

 ―――――ドッゴァァッァアァァァァァァンン!!!!!!

 

 劈く閃光―――――

 さっきまでブラックが立っていた場所が、轟音とともに爆裂した。へたり込んだブラックは、呆然とした様子でそれを見つめていた―――――。

 

 《アイツ……!》

 「仲間をかばったのか……!」

 

 特撮でもよく見るシーンだ。でも、それを『敵』が行ったとなると、どうにも言えない複雑な気分になるのは僕だけだろうか。

 その時―――――脱力したブラックの手が、ぐっと握られるのを見た。

 

 『…………けない……』

 「……!?」

 

 "氣"の流れが、変わった―――――?!

 悪寒に似た"氣"を感じ取った僕の背筋が、ぞくりと戦慄するのがわかる。

 

 『()()()()()()()!!うわあああああああーーーーーーッッッッ!!!!』

 

 立ち上がり、絶叫したブラックの全身から、オレンジ色のバグスターウィルスの光が噴き出した。

 

 『なんだ……!?』

 

 身構えるふたりのエグゼイドの眼前で、放出されたオレンジ色の光が、人間の形を成していく。そして―――――

 

闇の使者、ネガキュアホワイト!!

 

 ついさっき、ブラックをかばって爆散したはずのホワイトが、まったくの無傷、五体満足の状態で顕現したのだ。

 

 「な……」

 《……ッソだろ……!?》

 『『……!?』』

 

 僕はもちろん、データも唖然とした。ふたりのエグゼイドが瞠目するのが見えた。

 

 『言ったでしょ?"絶対に負けない"って!』

 『私たち……"ふたり"なら!』

 

 仕切り直しとばかりに、今度は逆に、ブラックが"L"、ホワイトが"R"へと突撃した。

 

 『何度だって!!』

 『相手してやるぜ!!』

 

 《《コウソクカ(高速化)!!》》

 

 ふたりのエグゼイドが同時に『高速化』のエナジーアイテムを取った瞬間、エグゼイドとふたりのネガキュアは、もはや姿を目で捉えられない程に加速した。黒と白、橙と緑の"軌跡"だけが周囲の地面のみならず空間までをも縦横無尽に駆け、ぶつかり合い、火花を散らす。

 

 《み、見えねぇ……!!》

 「…………!!」

 

 速すぎる……!!

 特撮でもよく見るけれど、こうなってしまうと語るに語れない。四色の風が乱れ舞うそれはまさに、画面やスクリーンの向こう側の光景だ。

 でも、"僕のすべて"を圧倒的に刺激する、視覚と聴覚に感じるそれは、紛れもない現実で―――――!

 僕の眼前で一際強くぶつかり合った4つのシルエットが、視界の中で両端に別れる。

 ふたりのネガキュアは抱え込み回転しながら宙を舞い、近くの橋の橋脚へと張り付くように()()―――――信じられないけど、もはや重力を無視しているとしか言いようがない光景だ―――――し、ふたりのエグゼイドを睨む。

 

 《KIMEWAZA(キメワザ)!!!》

 

 電子音声に振り向くと、川の浅瀬に立つふたりのエグゼイドが、ネガキュアのいる橋を見上げながら構えるのを見た。エネルギーがスパークし、足元の水面が激しく沸騰して蒸気が立ち昇る様まで見えた。 

 

MIGHTY DOUBLE

――――――――――――――――――――――――――――

CRITICAL STRIKE!

 

 ふたりのエグゼイドが同時にジャンプし、左右対称のダブルライダーキックを『斜め上方』へと放った。そして、それを見て取ったかのように、ふたりのネガキュアも橋脚を蹴り出し、まるでエグゼイドと鏡合わせのようなダブルライダーキック―――――この場合はダブルネガキュアキックと云うべきか―――――を繰り出す。そして―――――

 

 

 ―――――!!!!!!!!!!!!!―――――

 

 

 激突の瞬間、轟音と閃光が散った。衝撃波が四方八方へ襲い掛かり、僕の間近の地面にも着弾して爆炎を巻き上げる。

 ―――――反射的に、僕は東堂さんを庇っていた。幸い、僕と東堂さん、そして園長先生に直接衝撃波は襲い掛からなかった。

 こんな爆発の中で殺陣をやっているスーツアクターさんは本当に凄いと感心し直すと同時に、死ぬかと思うくらい肝が冷えた。

 

 「……!」

 

 恐る恐る河原に視線を戻すと、そこはチリチリと雑草が燃え散る中の決闘場と化していた。

 そして、ふたりのエグゼイドとふたりのネガキュアが、五体満足、ほとんど無傷で、4人それぞれ距離を置いて向かい合っていた。

 あれだけの力の衝突を経ても、互いに譲らない。恐ろしいほどの互角の戦い。

 これは―――――殺気……?それとも、闘気……、だろうか。

 恐ろしいまでの冷徹な感情が、張り詰めながら、見えない渦を巻いて、空気さえも獣の様に呑み込んで場を支配している―――――

 言葉一つ、息一つ、この両者の間に挿し込むことすら許されないほどの―――――

 これが―――――本物のヒーローが……命の奪い合いを演じてきた戦士たちが放散する―――――

 

 

 ―――――"氣"―――――

 

 

 『―――――…………互角……みたいね……!』

 

 仮面にこびり付いた泥をぬぐいながら、ネガキュアブラックが"L"を見据える。 

 

 『……1回やられたクセに言ってくれるじゃねーか』

 

 "L"の双眸が、苦々しげに鋭く変わる。

 

 『永夢……もうわかってるな』

 

 "L"とネガキュアホワイトを代わる代わる見ながら、"R"は力を抜いて、右手に携えたキースラッシャーをだらりと下ろした。

 

 『ああ。RPG(ロープレ)によくいるタイプの奴かもな―――――』

 

 "L"が、"R"をちらと見て頷く。

 

 『……決めるんだったらお前に任せるぜ、パラド』

 『ああ―――――一気にクリアしてやる―――――よッ!!』

 

 語気を強めた瞬間、"R"はキースラッシャーを"L"に向かっていきなり投げつけた―――――!?

 

 『『「《!?!?》」』』

 

 僕だけでなく、データも面食らった表情をしていたに違いない―――――後で聞いたところによると『マジで裏切ったかと思った』と語っていた―――――。まさかの『仲間割れ』に面食らったのか、ふたりのネガキュアの行動も一瞬遅れた。

 しかし"L"は、飛来したキースラッシャーを身体を反らせて避けながら、グリップ部分を掴んでキーパッドの黄色部分を叩き、その勢いのままくるりと回転して片膝をつき、さながら猟師のような見事な構えで射撃を放った。

 この一瞬で完全に虚を突かれた形になったネガキュアのふたりは、接近しようにも"L"の射撃に阻まれ、間合いを詰めることが難しくなった。

 それを見た"R"が、ゲーマドライバーにセットされたマイティブラザーズXXガシャットを取り外し、黄色いダイヤルが備えられた、赤と青、ツートンカラーのガシャットをその手に取った―――――!

 

 《お、おい!ありゃ……!!》

 「うん……間違いない……!パラドの本気が来る……!!」

 

 最初に永夢先生が変身した時と同様の躍動的な構えから、"R"がパラドの声で叫ぶ。

 

マ ッ ク ス 大 変 身 ッ ! !

 

 《DUAL GASHAT(デュアルガシャット)!!》

 《The strongest fist! What's the next stage?》

 《GACHAAAAAANNN(ガッチャーーーン)!!》

 《MAZARU UP(マ・ザ・ル・アーーーップ)!!!》

 

♪赤い拳強さ!

蒼いパズル連鎖!!♪

赤と蒼の

! 交 差 !

 

PERFECT(パーフェクト)KNOCKOUT(ノックアァァァウト)!!!♪

 

 "R"の姿が、まったく別の仮面ライダーへと変わるのを、僕とデータは瞠目して見つめていた。

 金色のフレーム"ゴルビルドガード"に彩られたアーマーは、赤と青のツートンカラー。

 太陽のそれを思わせる頭部に、左右の色が違う複眼。

 さながら、中世の闘士を思わせるこの姿こそ、パラドの真の姿にして最強形態(フォーム)―――――

 

 「"仮面ライダーパラドクス*2"…………"パーフェクトノックアウトゲーマー・レベル99(ナインティナイン)*3"…………!!」

 

 人間の遺伝子を取り込むことで、ゲーマドライバーの使用を可能としたパラドが変身した、パラドクスの最強形態―――――

 この姿になった以上、もはや容赦はしないということか。

 

 『……!また姿形を変えても!』

 

 "L"の牽制射撃を掻い潜り、ホワイトがパラドクス目掛けて突撃する。でも―――――

 

 『お前はそこで……止まってろ』

 

 パラドクスが左腕をホワイトへと向けた。すると、周囲から紫色と灰色、黄緑色のエナジーアイテムが、さながら意志を持つかのようにホワイトへと殺到した。

 

 《コンラン(混乱)!》

 《コウテツカ(鋼鉄化)!》

 《テイシ(停止)!》

 

 立て続けにエナジーアイテムを喰らったホワイトは、ふらりと上体を不自然に揺らしたと思うと、足元から足首までが鋼鉄化し、ついには動かなくなってしまった。

 

 《鬼畜過ぎんだろ……》

 

 ドン引きする声がコミューンから絞り出された。それは僕も同じだよ……

 

 『ホワイトっ!!』

 『また横槍でも入れられたら厄介だからな……お前を確実に倒すためにはアイツは邪魔だ』

 『く……!』

 『……同じバグスターの(よしみ)だ……一撃で―――――』

 

 そう呟いたパラドクスは、ゲーマドライバーのレバーを閉じた。

 

 《GA!CHOOOONNN(ガッチョーーーン)!!》

 《URAWAZA(ウラワザ)!!!》

 

 『―――――……、楽にしてやるよ』

 

 《GA!CHAAAANNNN(ガッチャーーーン)!!》

 

 

PERFECT KNOCKOUT

――――――――――――――――――――――――――――

CRITICAL BOMBER!

 

 

 レバーの解放と同時にパラドクスの全身にエネルギーが満ちて、周囲の雑草を切り裂きながら迸る。

 力強く跳躍したパラドクスは、両脚を揃えたドロップキックをブラックに放った。

 それを見たブラックは、両腕を交差させて正面から受け止めようとする―――――!

 

 『おおおぉおぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

 パラドの吶喊が、轟音の中をかき分けて聞こえてくる中、僕はもう一つの声を確かに聞いた。

 

 

 『―――――…………ごめん、ホワイト……―――――』

 

 

 ―――――ズガガアアァァァァァァァァァァンンン!!!!!

 

 

 爆炎とともに、オレンジ色の粒子が周囲へと拡散して、そして、消えていった。

 

 《……や……やりやがった……!!》

 

 文字通り、塵も残さず消滅する様を、僕は確かに見た。

 

 「最強フォームの必殺技を受けたんだ……これで……―――――」

 

 復活する……出来るハズは無い……と思う。

 ホワイトを復活させる能力を持っているブラックさえ倒してしまえば――――― 

 

 『後はお前だけだぜ?どうする?』

 

 エグゼイドがそう声を掛けると同時に、ホワイトのエナジーアイテムの効果が切れたのか、足元をふらつかせながらもなんとか踏ん張り、エグゼイドとパラドクスを睨み返してきた。

 

 『それとも……たったひとりで俺達に挑むか?』

 

 パラドクスの問いにホワイトは答えなかった。

 ―――――でも。

 

 『………………ふふふ……うふふふふ…………』

 

 肩を震わせ、仮面の奥から泣き声にも聞こえる笑い声か、それとも笑い声に聞こえる泣き声か、切れ切れのか細い声が河原に流れる。

 

 『何が可笑(おか)しい!?』

 『可笑しい?……そうね……"それ"が可笑しいのだから、笑うしかないのかもね……?』

 

 ホワイトはするりと舞うような構えを見せたと思うと、仮面越しにもわかるくらいの鋭い『視線』を、エグゼイドとパラドクスに向けた。

 

 『だって――――――――――私は()()()()()()()んだから♪』

 『『!?』』

 『ひとりじゃない限り……()()()()()()()!!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!』 

 

 今度はホワイトの全身から、オレンジ色の粒子が噴き上がる。この光景、ついさっきも……!?

 

 《おいおいおいおい……まさか……!?》

 

 データも僕と同じ予想をしていたようで、不安だけが高まっていく。

 そして、そんな僕とデータの予感は、"その通り"に目の前に―――――

 

闇の使者、ネガキュアブラック!!

 

 ―――――"再生"した……!

 

 『黒だけじゃなかったのか……!』

 『くそ……こうなったらもう一度白から攻略するしか……!』

 

 身構えるエグゼイドとパラドクス。しかし、よろめき片膝をつくホワイトにブラックが駆け寄ると、

 

 『……ホワイト、ここは一旦退くよ!』

 『……ええ!』

 

 ふたりとも、バグスターのオレンジ色の粒子に包まれて、霧のように掻き消えていった。

 激闘から一転、あっさりとした幕切れに拍子が抜け、少し遅れて安心感が胸に満ちた。

 しかし―――――ネガキュアバグスターを攻略したわけじゃない。

 あのふたりを完全撃破しない限り、ゲーム病を発症した東堂さんを治療することはできないのだから。

 でも…………―――――

 

 僕に果たして、何ができるだろうか―――――

 

 ネガキュアバグスターにまったく敵わなかった僕は―――――

 

 無力なのだろうか―――――

 

 《GA!SYUUUUUNNN(ガッシュウゥゥン)!》

 

 ゲーマドライバーの電子音声が鳴り響いて、うつむいていた僕は反射的にそちらに視線を移した。

 エグゼイドとパラドクスが立っていた場所に、ふたりの青年が立っていた。

 

 「……逃がしたか……」

 「焦らなくてもいいよ。まだ詳細もわからない新種なんだから」

 「必ず攻略法を見つけてやろうぜ」

 「うん…………ありがとう」

 「じゃ、また後でな」

 

 黒い服を着た青年は、白衣の青年に笑顔を向けると、オレンジ色の粒子と化して白衣の青年へと一体化した。

 ―――――一瞬の静寂の中、風が吹いて、白衣がはためく。

 

 「あ………………」

 

 わかってる。

 わかってる、はずだ。

 

 「あの………………」

 

 知っている。

 僕は、この人のことを知っている。

 だけど―――――

 僕の呼びかけを聞いたのか、青年はこちらに振り向いた。

  

 僕は―――――

 問いかけずには、いられなかった。

 

 

 「あなたは…………?」

 

 

 精悍な表情が、ふっと和らぐのを、僕は見た。

 

 

 そう―――――

 

 画面の中―――――

 

 スクリーンの向こう側―――――

 

 『四角く』隔てられた世界の中にしかいなかった人が―――――

 

 僕の『最終目標』へと、ずっと前にたどり着いていた、大いなる先達が―――――

 

 『ナニモノ』にも隔てられていない、僕の視界の目の前に立っている―――――

 

 

 「ぼくは―――――宝生永夢(ほうじょうえむ)。CRのドクターだよ」

 

 

 笑顔で歩み寄ってきた彼は、姿勢を低くして東堂さんを守っていた僕へと、手を差し伸べた。

 

 「……大丈夫。きみの友達は、必ずぼくが―――――ぼく達が、助けてみせるから」

 

 僕はその手を取って、立ち上がった。

 暖かくも―――――力強い手だった。

 今まで、何人も―――――否、数えきれないくらいの人々の命を救ってきた、本物のヒーローの手―――――

 

 僕の両の目から―――――自然と、涙があふれた。

 そして―――――目の前の世界が、霞んだ。

 

 

 ありとあらゆる感情が、頭の中と胸の中に渦巻く中で、これだけは、はっきりと、心にふっと湧いたことを覚えている。

 

 僕は、今、奇跡のような―――――

 ううん、『奇跡のはじまりに立ったんだ』と。

 

 これから先、何があっても、絶対に忘れることのない、忘れることのできない―――――

 

 『奇跡の日々』のはじまりを、僕は予感していた―――――

 

 

 ――――――――――

 

 ……ENEMY PHASE

 

 ――――――――――

 

 日が傾きかけたあたりから、東栄市全域に夕立ちめいた大雨が降り出した。

 アスファルトが濡れる独特の臭いが充満しだす薄暗い裏路地に、オレンジ色の粒子がふわりと湧き上がり、2つの人影を成していく。

 雨宿りをしていたノラ猫が、『何やねん!?ワイのナワバリに勝手に入ってくんねや!!』と猛抗議するかの如く、全身の毛を逆立てて『フーッ!!』と唸る。

 だがその粒子が実体化して、2人のコスプレじみた人間となると態度を一変させ、『おみそれしやした~!!』とばかりに駆け出し、路地の隅に置かれていた水色のポリバケツを蹴倒しながら逃げ出した。

 仮面で顔を覆っているふたりの少女―――――その内黒色をまとったネガキュアブラックは、ビルの壁にもたれかかるように背を預け、雨を降らすどんよりとした曇り空を見上げた。

 

 『……まさかあんな連中がいるなんてね……!完全な想定外だったわ……』

 『復活する度に蹴り倒されてたらジリ貧だもんね……』

 『このままじゃ……負けないにしても勝つことなんてできない……!あたし達に……もっとチカラがあったら……!』

 

 

 ―――――使い古しなセリフだけんなァ、今のテメーらが一番望んでる言葉をくれてやんぜ。

 

 

 その場にいない第三者の言葉が響き、ハッとして身構えるふたりのネガキュア。

 不意に、ネガキュアの進路も退路も塞ぐように、路地の両側にひとりずつ、ふたりの人影が立った。

 その内のひとり―――――暗緑色の髪の少女が、悪魔じみた表情で言った。

 

 『……()()()()()()?……ッてかァ?』

 『誰!?』

 『……まさか……プリキュア!?』

 

 ホワイトの言葉に癪に障るモノがあったのか、暗緑色ではないもう片方―――――暗黄色の髪の少女が、一瞬で間合いを詰め、腰の後方から伸びる尻尾、その先端をホワイトの首筋へと付きつけた。電源コードのプラグに似ていれど、鋭利な先端からは『殺意』が滲み出ている。

 

 『心外。憤慨。沈黙。掌握。存在―――――消去』

 『……やめろキュアハック。デリートすんな』

 『……………………是。キュアウイルス』

 

 キュアハックと呼ばれた暗黄色は、尻尾をすっと引っ込めた。長い前髪で隠れた目線からはその感情を窺い知れないが、ばつが悪そうにしているのがありありと見て取れる。

 

 『その名前……やっぱりプリキュアなんじゃ……!』

 『それ以上その名前口にしない方がいいぜ?……流石ん(オレ)もキちまいそうんなる』

 『……まぁいいわ。それで?さっきアナタが言ってた『力』ってどういうことかしら?詳しいお話を聞きたいんだけど』

 『あーそーゆーのまどろッこしいからパスな―――――』

 

 ――――――――――ドズッッッッ!!!!!

 

 鈍い音とともに、ブラックは腹部に鋭い、それでいて焼けつくような痛みを感じた。思わず下を見ると―――――

 キュアウイルスの左手が自分の腹部にめり込んでいる、"ありえない光景"がそこにあった。

 

 『!!!!…………あんた……何……を……!?』

 『やれやれ………………テメーら………………()()()()()なんだよ』

 『……!?』

 『モルモットんクセにイキんなッての』

 『実験台(モルモット)……私たち……が……ッ……!?』

 

 痛みの中で目を向けたブラックの視界の隅に、ホワイトの鳩尾にも、キュアハックの左手が突き刺さっているのが見えた。

 

 『バグスター。ワルイネルギー。因子。移植。……実験台。自我。不要』

 『テメーらはジャークウェブの『次の計画』のために己達が培養したんだよ。『種菌』手に入れんのにも苦労したんだぜ?なのに勝手に戦われて勝手に消えられちゃ困んだよ』

 『あ……あたし達は……あたし達は………………!!』

 『『実験台なんかじゃない!』……ってかァ?―――――』

 

 ありきたりな定型語を先読みして茶化すと、キュアウイルスは狡猾な笑みをブラックに寄せた。

 

 『―――――……残ァン念ェンでぇしたァ!何をどう頑張ってもテメーらは己達の『作品(ツクリモノ)』!以上も以下もねーんだよ!ギャハハハハハハハ!!!!』

 『抵抗。無駄。概念。不変。推薦。諦念。…………フフフ、クフフフフフ………………♪♪♪』

 

 キュアハックも彼女らしくなく口元を歪めた。

 

 『そん、な…………』

 『だぁかぁらぁさァ………………力が欲しいんだったらくれてやんよ。本家本元の、『伝説の戦士』サマの力をなァ!!』

 『そ……れ……は…………』

 『あーもう黙れよ。つか、そもそもテメーらの見てくれが気に入らねぇ――――――――――"あのふたり"にそっくりなだけでブチ消したくなんだわ』

 

 瞬間、ブラックとホワイトにねじ込まれた『何か』が、闇色の光を噴き、その光の奔流に意識がさらわれそうになる―――――

 雨音と痛みと、それとは別の何かが、ふたりのバグスターの五感を掻き消し、埋め尽くして、呑み込んでいく―――――

 

 『誇り高き灼熱の(ほむら)よ……黄昏に身を沈め、暗闇の中で黒く燃え上がれ!!!』

 『世を超越せし魔法よ、四つの色彩を以って、真なる宝を混沌に染め上げよ――――――――――』

 

 

バグッチャー!ユナイテーション!!!

 

 

 

 

 

 

 

 ……ま、精々暴れていいデータ採らせて役立ってくれや。

 

 

 ギャハハハハハハハハハハハハッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 ―――――STAGE CLEAR!!

 

 

 

 RESULT:NONE

 

 プリキュア全員救出まで:あと50人

 

【挿絵表示】

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 『ふたりの魔法!』

 『真紅の炎のプリンセス!』

 

 

See You Next Game

*1
仮面ライダーエグゼイド専用武器。マイティブラザーズXXガシャットに登録されているガシャコンウェポンで、(ブレード)(ガン)(アックス)の3つのモードをシームレスに切り替え、遠近双方に即座に対応することが可能な多目的複合武器。所謂『中間フォーム専用武器』であるが、このフォームのみならず、その先の『最強フォーム』に至るまで専用武器としてエグゼイドに愛用され続けた、平成ライダーシリーズの中でも珍しい武器である。

*2
パラドが、『パーフェクトパズル』と『ノックアウトファイター』、2つのゲームデータが納められた特殊なガシャット・ガシャットギアデュアルを用いて変身した仮面ライダー。劇中で初めて登場した、『バグスターが変身した仮面ライダー』である。『パズルゲーム』をモチーフジャンルとし、エナジーアイテムを自在に操作・複合使用できる『パズルゲーマーレベル50』と、『格闘ゲーム』をモチーフジャンルとし、パンチ主体の格闘戦を得意とする『ノックアウトゲーマーレベル50』、2つの形態を切り替えながら戦う。パズルゲームと格闘ゲーム―――――すなわち知力と武力……相反する2つの力を使いこなして相手を圧倒する『二律背反の闘士』。レベルの高さもあり、当初はCRのライダーたちはおろか、仮面ライダーゲンムさえ圧倒する強さを見せ、続く仮面ライダークロニクル発動後もバグスター側の最強戦力として君臨、多数のライドプレイヤー達をゲームオーバー=消滅に追い込んだ。しかしマキシマムゲーマー・レベル99登場後は劣勢に追い込まれることとなり、策を講じたパラドは永夢=人間の遺伝子を手に入れ、そして……

*3
仮面ライダーエグゼイドのマキシマムゲーマー・レベル99に対抗するため、策を講じたパラドが永夢=人間の遺伝子を取り込むことでゲーマドライバーの使用を可能とした上で『マザルアップ』した、仮面ライダーパラドクスの強化形態。パズルゲーマーとファイターゲーマーの双方の能力をフォームの切り替えをすることなく使用できるのは勿論、スペックもさらに強化され、レベルも登場当時の最大値タイであった『99』であるため、並のライダーでは太刀打ちできない強力無比な戦闘能力を持ち、敵対する者に『完璧な敗北』を与える。また、天才ゲーマー"M"の戦闘センスにより、エグゼイド・マキシマムゲーマ―レベル99とは同レベルながら僅差で競り勝ったこともある。パラドが永夢とともに戦うようになってからは、CRにおける最強戦力の一角として、贖罪の戦いを続けている。




 ―――――りんくの『今回のプリキュア!』

 りんく「今回のプリキュアはだ〜れだ?」

 『蒼い薔薇は秘密のしるし……ミルキィローズ!』

 メモリア「『プリキュア5』のひとり、"蒼棘(そうきょく)のローズ"!属性はひえっひえの『氷』!」

 りんく「妖精のミルクが大変身!美々野くるみちゃんがさらに変身した、青いバラの戦士だよ!」

 メモリア「そんなローズのキメ技は、コレ!」

 『邪悪な力を包み込む、薔薇の吹雪を咲かせましょう……!ミルキィローズ・ブリザァァァァド!!』

 メモリア「青いバラの花吹雪で相手を一瞬でバラバラにしちゃう、ミルキィローズ・ブリザード!……って、なんかヤバい技だよね、コレ……」

 りんく「ファン投票では『最強のプリキュア』の呼び声もあるローズだけど、サーバー王国でも、やっぱり?」

 メモリア「毎回プリキュアーツのベスト8には必ず入ってたよ!……戦う度にリングが穴だらけになってたけど」

 りんく「ローズと言えばクレーター、クレーターと言えばローズ!これ、テストに出まーす」

 メモリア「なんのテストなんだか……(-_-;)」

 りんく「ちなみに一時期、シャイニールミナス共々プリキュア認定されてなかったのよねぇ……今でこそオールスターズにいるけど……名前に『キュア』がついてないからだったのかしら……」

 メモリア「ほくとが言ってたよ?仮面ライダーにも『仮面』ってつかないライダーがいるって」

 りんく「ガンダム顔してないけど実はガンダム……って感じかしら……ややこしや……でもって今回は二本立て!お次はこの子!!」

 『遍く生命に祝福を―――――キュアフェリーチェ!』

 メモリア「『魔法つかいプリキュア』のひとり、"祝神(しゅくしん)のフェリーチェ"!属性はランランの『花』!」

 りんく「妖精のはーちゃんが成長した、花海ことはちゃんが変身した、3人目の伝説の魔法つかい!」

 メモリア「そんなフェリーチェのキメ技は、コレ!」

 『Cure up!―――――プリキュア!エメラルド・リンカネーション!』

 メモリア「花の命のチカラでワルモノを浄化する、エメラルド・リンカネーション!はぁ~、いきかえるぅ~♪」

 りんく「サーバー王国だとずっと変身しっぱなしのプリキュア達なんだけど、普段のフェリーチェってどーだったの?正直気になって……」

 メモリア「なんってゆーか……オンとオフが激しいってゆーか、戦う時といつもはほとんど別人なんだよね……戦ってる時は『キリッとしたお姉さん』って感じでカッコいいんだけど、前に保育園に来た時なんか、ミラクルとマジカルそっちのけで、子供たちといっしょにはしゃいで鬼ごっこやお絵描きして遊んじゃうくらいだもん」

 りんく「ちょっと想像できないかも……フェリーチェの姿のままで『はーちゃん』やってるとか……」

 メモリア「ところで今回、どーしてローズとフェリーチェを紹介したの?」

 りんく「う~ん、今回紹介しておかないといけないよーな気がして……ってゆーか最近の私、ミョーにぞんざいに扱われてる気が……主役なのに病気にかかっちゃうなんてはっぷっぷ~だよ……」

 メモリア「??しゅやくって?」

 りんく「次回は絶対に名誉挽回だぁ~!!はっくしゅん!!」

 メモリア「無理しちゃダメだって……へ、へっきし!!」

 ――――――――――

 ―――――ほくとの『レッツゴーライダーキック!!』

 ほくと「ついに本物の仮面ライダーと対面した僕!今回紹介するのは!」

 データ「もちろん、コイツだぜ!!」

 《MIGHTY JUMP! MIGHTY KICK!! MIGHTY MIGHTY ACTION! X!!!!》

 『ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!!』

 ほくと「聖都大学附属病院の研修医・宝生永夢先生が変身した"ドクターライダー"、それが彼、『仮面ライダーエグゼイド』だ!」

 データ「まさかホンモノに出会えるなんてな……コイツぁどーゆーこった?」

 ほくと「テレビの中の存在だと思ってた仮面ライダーが、僕達の目の前に……!」

 データ「着ぐるみでもスーツでも、中に高岩サンが入ってる訳でもねぇ……目の前で変身したのを見たから間違いないぜ!!」

 ほくと「戦いの中で、周囲の人々も、バグスターの心さえも動かしていったあの人を前に、僕は……―――――」

 データ「ノセられちまってるなぁ♪」

 ほくと「パラドとのコンビネーションも健在だった……もしかして、あの永夢先生は……?」

 データ「お~っとそこまでだ、ネタバレはカンベンな。次回はなんと!あの『CR』に潜入だ!それじゃ、またな!!」

 ほくと「え?!ってことはもしや!?」

 次回予告

 ナレーション「次回、『インストール@プリキュア!』」

 ―――――テレビの中にしかなかった場所が、ほくとの目の前に―――――

 ほくと「本物の……CR……!」

 ―――――憧れのライダーたちが、次々と現れて―――――

 ??「新種のバグスターらしいな」

 ??「エグゼイド……お前そういうシュミがあったのか……」

 りんく「パペピプペポパポ?」

 ????「ポッピーピポパポ!」

 ―――――現れたバグスターに変化が……!?―――――

 ????『バグスターの反応が消えただと!?』

 ????『攻撃が効かない?!』

 ―――――迷えるピースに、永夢が贈る言葉とは―――――

 ピース《ワタシ……カッコ悪い、ですよね……》

 永夢「何のために戦うのか……もう一度考え直してみるのは、どうかな」

 ―――――キュアデーティアとライダーに、新たなる力が……!?―――――

 ??「これぞ!二つのチカラの融合!"プリキュアガシャット"!!(クァミ)に不可能は……無いのだァァァァッッッ!!!」

 デーティア「キュアデーティア……"エグゼイドスタイル"!!」

 第15話『輝くHEROはキミのそばに! GAME START@エグゼイドスタイル!』



 ―――――そして明かされる、世界の真実―――――


 ????「ここが『稚拙な物書き』が書いた『小説の中』だからこそ……"彼"を封じ込めるのに丁度良かったのよ」


 ――――――――――

 というワケで、『エグゼイド編・前篇』、完です!
 エグゼイドのみならず、パラドクスまで登場させることができたのは嬉しい誤算でした!
 彼、プロップの段階ではいなかったんですから……(汗

 次回は更にエグゼイドキャラ続々登場!そしてオリジナルガシャットも出ますのでお楽しみに!!

 ……次は1話書くのに何ヶ月かかるんだろう……(遠い目)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 輝くHEROはキミのそばに! GAME START@エグゼイドスタイル!
We're "DOCTOR RIDERS"!


 プリキュア次回作のタイトルと概要、発表されましたね。
 『癒し』に『ヒーリングアニマル』……もしかしてプリアラ以来のケモミミプリキュアなんでしょーか……?
 正式なキャスト発表が待ち遠しい稚拙です。

 さて、今回はついに、ほくとくんがあのCRへと足を踏み入れます……そして、『彼ら』も……!

 あと今回の投稿はなんと、東海道新幹線の車内から、初のスマホ投稿です!
 時速285キロの超高速の旅路から、今、送信!!


  ―――――大丈夫?

 

 柔和な表情(カオ)の青年が、まだ幼かった私の手を取った。

 

 ―――――()()()……時間を遡ってこの時代にまで……キミを助けられて良かった……

 

 ()()()()()()()()()()()()()私に、彼は不思議なモノを渡した。

 

 ―――――キミに、これを持っておいてほしいんだ。いつか必ず、おれは必ずキミの元に戻ってくるから。それを受け取るためにね。

 

 真っ黒な、オモチャめいたモノ。よく見ると、懐中時計にも見えた。

 もっとも、まだそんな知識も知恵も持ち合わせていなかった私には、ソレが『何』なのかすら、わからなかったのだけれど―――――

 

 ―――――じゃあね。…………いつかキミは、おれ達と一緒に戦わなければならない時が来るから―――――

 

 それから、永い永い時が過ぎたけど―――――

 まだ、彼は戻ってこない。

 やがて、"私が造りだしてしまったモノ"のために、争いが起きて、数多くの"世界"をそれに巻き込んでしまった。その中で、たくさんの"仮面の戦士"たちや、"色彩の戦隊"たちと出逢い、ともに戦ったけれど……その中に、彼の青年の姿はなかった。

 

 今……彼はどこにいるのかしら―――――

 

 

 ねぇ、『この小説』を読んでいる、そこのアナタ?

 

 

 ……そう。アナタ。パソコンのディスプレイや、スマホやタブレットの画面を通して、私を『文字』として認識している、アナタのコトよ?

 

 アナタなら、知っているんじゃないかしら?

 

 『彼』が今、どこにいるかを―――――

 

 優しい笑顔の中に、不思議な強さを秘めた―――――

 

 

 『時の王』と呼ばれた、彼の行方を―――――

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 担架(ストレッチャー)に乗せられ、運び込まれた東堂さんを乗せた救急車が、サイレンを鳴らして走り出した。後ろのドアが欠けたままの園長先生の車が、救急車の後についていく。

 僕は、園長先生の車の助手席から、前を走る救急車をじっと見つめていた。眩しく明滅する赤色警告灯(パトランプ)と、耳を鋭くつくサイレン音が、僕の心に否応なく不安を落とす。でも―――――

 

 《心配すんなって。()()永夢センセーがついてんだ。な?》

 

 データがポケットの中からそう言うと、不思議と心の中に安心が生まれる。

 救急車に乗り込んだ白衣の背中。その姿が、僕の目にはっきりと焼き付いている。

 

 ―――――ぼくは―――――宝生永夢。CRのドクターだよ。

 

 "テレビの中のフィクション"―――――僕にとっての彼は、まさにそれだった。

 でも、彼は僕の前に現れ、僕の目の前で『仮面ライダーエグゼイド』へと変身し、東堂さんを侵した病魔―――――"バグスター"と戦いを繰り広げたんだ。

 僕の憧れであり、目標でもある―――――仮面ライダーのひとり。その姿はあまりにも鮮烈で―――――

 

 「……うん」

 

 "あの人なら、きっと"―――――

 彼の翻る白衣からは、そう僕に思わせるに十分な説得力を感じさせていた。

 

 《……にしてもよ、園長先生》

 

 ポケットからニュッと上半分だけを覗かせたコミューンから、データが見上げる。

 

 《どーして園長先生が、()()()()()にしかいねぇ永夢センセーと顔見知りなんだよ?》

 

 いきなり核心をつくのかよ―――――

 肝が冷えた。

 しかし園長先生は、表情を変えぬまま答える。

 

 「永夢くんはね、大泉こども園のOBなの。彼がお医者さんになりたいって言ったとき、そのお勉強も教えてあげたことがあるのよ?……もちろん、彼がゲーム病を治療する仮面ライダーになってたことも知ってたわ。言ったでしょ?『ほくとくんもよく知ってる人』って」

 

 確かに―――――よく知っている。

 『仮面ライダーエグゼイド』という、特撮ヒーロードラマの主人公として。

 でも―――――

 

 「……それは……テレビの話で……」

 「う~ん……そうねぇ……。確かに、『テレビの中の人』かもね。『例の衛生省の記者会見』から、有名になったし……」

 「衛生省の記者会見って……!?」

 《おいセンセー、そりゃドラマん中の―――――》

 「……!データ!ここは……!」

 

 園長先生の言葉で、更に『空想と現実』の区別がつかなくなって混乱する僕の目に、さらに追い打ちをかける白い建物が姿を見せた。その建物へと救急車が入っていき、園長先生の車もそれを追っていく。駐車場の入り口近くの石碑に書かれた端正な文字に、僕は釘付けにされた。

 

 〈聖都大学附属病院〉

 

 《マジかよ……》

 

 データも、呆気にとられた表情を浮かべていた。

 〈救急車搬送口〉と、赤地に白抜き文字で書かれた案内表示がある場所に救急車が止まると、サイレンが鳴り止んで後部ドアが口を開け、ほとんど同時に救急隊員の人達が手際良く担架を運び出した。

 永夢先生はその作業を手伝いながら、取り出したスマホでどこかしらに連絡を取ると、救急隊員の人達から引き継いで、病院の看護士さんらしき何人かの人と、東堂さんを乗せた担架を院内へと運んでいった。

 僕は息を呑みながら、園長先生の車の助手席からこの一部始終を見つめることしかできなかった。

 

 「私達も行くわよ」

 

 園長先生に促され、僕達は"ドラマの中の病院"に足を踏み入れた。

 永夢先生に東堂さんの名前や連絡先を伝えていたのが幸いしてか、受付で東堂さんの関係者だと園長先生が伝えると、すぐさま受付の事務員さんが院内放送で誰かしらを呼んだ。

 2分もしない内、ピンク色の看護士(ナース)服を着た女の人が、僕達の元へとやってきた。

 

 「電脳救命センターの看護士、仮野明日那(かりのあすな)です」

 「あッ……!」

 

 またも僕は驚きの声を上げかけたが、ここは病院だ。すぐさま驚きを飲み込んだ。

 この看護士さんもまた、『仮面ライダーエグゼイド』の主要登場人物……それも、メインヒロインだ。

 

 ―――――本当にここは、僕の住んでいる大泉町と地続きなんだろうか……それとも僕は、『仮面ライダーエグゼイドの世界』に迷い込んでしまったのだろうか……?そんなバカな、ディケイドじゃあるまいし……

 僕は疲れているのか……

 

 「どうしたの、ほくとくん?」

 

 園長先生に促され、僕達は明日那さんの案内で院内を進む。通路の突き当たりのエレベーターに入ると、エレベーターは下へと降りていく。エレベーターが止まり、チン!という小気味の良い音から一拍置き、自動ドアが左右に開くと、見覚えのある字体(フォント)の文字が見えた。

 

 「本物の……CR……!」

 

 電脳救命センター―――――通称『CR*1』。

 ドクターライダーたちの人間ドラマが幾度となく繰り広げられた、ゲーム病医療の最先端―――――

 しかし、六角形のロゴが印された入口は閉じられ、中の様子はわからなくなっていた。

 

 「こちらでお待ちになってください」

 

 明日那さんにそう言われ、側にあった灰色の長ソファ―――――こんなソファ、ドラマにあったっけと思ったけど、その時の僕は拘泥できる心持になかった―――――に僕達が腰を下ろすと、彼女はCRの扉の奥へと入っていこうとする。

 

 「あ、あの……!」

 

 思わず立ち上がり―――――僕は呼び止めてしまった。 

 でも、何をどう言っていいのかわからない。

 『ここはいったいどこですか?』とか、『あなたはドラマの中の人ですよね』とか……言える訳がない。

 そんな戸惑いが不安のそれに見えたのだろうか、それまで険しい表情だった明日那さんはふっと表情を和ませて、

 

 「大丈夫よ♪ここには最高のゲーム病専門ドクターが何人もいるんだから♪アナタのお友達も必ず元気になるわ♪」

 「……!は……はい……!東堂さんを……頼みます……!」

 

 またも思わず―――――今度は頭を下げていた。

 それを見た明日那さんは笑顔で頷いて、CRの奥へと消えた。

 僕は―――――どっと力が抜け、ぐったりと長ソファに腰を下ろし、天を仰いだ。無表情の天井が、僕を見下ろしていた。

 

 《何キンチョーしてんだよ》

 「……そういうワケじゃ……ないさ……」

 

 ポケットの中からの茶化しに、僕は力なくそれだけ答えた。

 

 《つーかよぉ……お前、いつもの感じと違くねーか?普段のお前なら、大コーフンでサインくれだの握手してくれだのここで変身してくれだのまくしたてるんじゃねーのか?》

 「……かもね」

 《じゃぁなんでテンションダダ下げてんだ?》

 「……………………」

 

 ―――――どうしてなんだろうな……

 その時の僕は、データの問いに答えることができなかった。

 明確にその『答』を理解するのに、その時の僕の思考回路にはあまりにも負荷がかかりすぎていた。

 後になって振り返ってみれば、他愛のない、それでいて大人気のない、至極単純な理由だったんだけど―――――

 20分ほど経っただろうか。再びCRの扉が開き、明日那さんが姿を見せた。

 

 「お待たせしました。担当医から病状をご説明させていただきますので、こちらへどうぞ」

 

 ついに僕は……CRに足を踏み入れた。

 真っ白な壁に、赤いラインに『AID』と書かれた広い空間。そこに設置された、解析ディスプレイ付きのベッド。部屋の隅に目をやると、上の事務所へと通じる螺旋階段、天井近くの覗き窓―――――

 何もかもが、ドラマと同じだ。

 その、ドラマの中にしか見たことのなかったベッドに、左腕に点滴を打たれた東堂さんが仰向けに横たわっていた。

 

 「東堂さん!」

 

 思わず駆け寄ってその顔を覗き込むと、すやすやと寝息を立てていた。

 

 「……ゲーム病は接触感染することはないが、あまり患者を刺激するな。鎮静剤の投与で眠っているから、尚更な」

 「す、すみま―――――」

 

 その声に振り向いた僕は、またも心臓が強く打つのを感じた。

 

 「せ……ん……」

 

 白衣を羽織った端正な顔立ちの若い男性は、僕ではなく園長先生に向き直った。

 

 「今回、処置を担当させて頂きました、鏡飛彩(かがみひいろ)です」

 

 『仮面ライダーブレイブ』としてバグスターと戦いながら、天才外科医としても名を馳せる彼まで、僕の目の前に―――――

 

 「どうぞ、お掛け下さい」

 

 言われるまま、ベッドのそばに置かれた丸イスに、園長先生と僕は腰を下ろした。

 

 「まず、容態についてですが―――――」

 

 それからは、東堂さんがゲーム病にかかっていること、その治療には普通の病気とは根本的に異なる専門的な技術と知識が必要なこと、そして自分たちはそのゲーム病治療に関するスペシャリストの集団である―――――と、飛彩先生は語った。

 

 「……ですので、お孫さんのゲーム病は必ず完治します。何も心配する事はありません。我々にすべてお任せ下さい」

 

 あくまで感情を込めずに事務的に語るところは、ドラマの飛彩先生と同じだ。『患者とその関係者に必要以上に関わらない』という彼のスタンスが、ありありと感じられる。

 しかしここで、園長先生はクスクスと笑った。僕は思わずぎょっとした。怪訝そうな表情を、飛彩先生は園長先生に向けた。

 

 「……なにか、ご不明な点でも?」

 「いえいえ、違うのよ……♪確かにりんくちゃんとはそのくらい歳が離れてるけど、私はりんくちゃんのおばあちゃんじゃないわよ♪」

 「……!?」

 「……そ、そうだったんですか!?う、ぉうわぁっ!?」

 

 CRの後ろの部屋から、それまでパソコンに向き合っていた白衣の人があわてて振り返ったと思うと、ハデに転んで、飛彩先生と僕達の間に『べちゃっ!』と倒れ込んだ。

 

 「…………おい……研修医……」

 

 ため息をついて、飛彩先生は永夢先生を睨み下ろした。

 

 「す、すみません飛彩さん……お年頃から園長先生のお孫さんかな~……なんて思ったんですけど……」

 

 頭をポリポリとかきながら、白い歯を見せて笑う永夢先生。さっきの転ぶ様といい、ドラマで見た光景が目の前で繰り広げられている……

 

 「お前の知り合いなのか?」

 「はい!お世話になったこども園の園長先生で、医大を目指していた頃には勉強も教わってたんです」

 「こう見えても私、元小児科医なのよ♪」

 「……そうでしたか。……ただ、ゲーム病治療に関しては我々に一任していただきます。既存の医学は全く通用しませんので」

 「もちろん、そのつもりよ♪りんくちゃんのご家族には私から連絡しておくわ。……りんくちゃんのこと、よろしくお願いします」

 

 園長先生は立ち上がり、丁寧に頭を下げると、「行きましょう」と僕を促した。

 僕も園長先生に倣って頭を下げてから、園長先生について行く。

 その時、背後から飛彩先生と永夢先生の小声でのやり取りが耳に入った。

 

 「新種のバグスターらしいな」

 「ええ……今までの幻夢コーポレーションのゲームにも、それらしきキャラクターはいませんでした」

 「今までに無い症例……感染源も不明、か…………」

 「"カルテ*2"は貴利矢(きりや)さんに渡してありますけど、解析には時間がかかるかも知れないそうです……感染源になったゲームさえわかれば、あるいは……」

 

 途端―――――足が止まった。

 僕は―――――このまま帰ってしまっていいのだろうか? 

 何もせずに、何も聞かなかったことにして帰るのか?

 

 ―――――否―――――

 

 僕は―――――

 少しでも、永夢先生の力になりたい。

 

 ―――――否、否!

 これは建前だ。本心から、芯の本音をぶち撒くなら―――――ッ。

 

 東堂さんを、元気にしたい……!

 あの笑顔を、僕の手で取り戻したい…………!!

 

 「あの……!」

 

 永夢先生と飛彩先生の視線が突き刺さる。

 一瞬、飛彩先生の鋭い視線にたじろぎそうになったけど、ここで怯んじゃダメだ……!

 僕はしっかりと、ふたりを見据えた。

 

 「東堂さんのゲーム病の感染源に……心当たりがあります」

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

 ⇒  CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 ……よく言った。

 ホンモノのヒーローを前によくぞ踏ん張った……。

 ここでほくとが何も言わずに帰ってたら、誠心誠意丹誠込めた、熱烈な罵倒(オ・モ・テ・ナ・シ)を浴びせてたところだ。

 "逃げない"ってのはまぁ、強さだな。どういった形であれ、な―――――

 で、詳しく話を聞きたいと、ほくとは事務所に招かれた。

 園長先生はというと、りんくちゃんのご両親に連絡しなきゃと、ひとりでCRから出ていっちまった。肝心なこと、聞きそびれちまった。

 つまりは―――――ほくとは事実上ひとりで、ライダーだらけ(今の所3人)の事務所へと残されちまったワケだ。

 ……螺旋階段を上がった先のCRの事務所もまた、ドラマと全く同じだ。

 天井から下げられたモニターや、永夢センセーや飛彩センセーがデスクワークをしてるだろう机、顕微鏡……

 そして、ピンク色で塗られた一角。その奥には、ゲーム機の筐体。ココ……ホントは練馬の撮影所じゃねーだろーな……?

 ファンとしては飛び上がりてぇほど嬉しいんだが、今のアタシはしがねぇスマホだ。今出てったら、永夢センセーたちを混乱させちまう。ガマンだ。アタシの記憶に、コピペして保存しとこうか。……こういう時、アタシが『辞書』のアプリアンだったことに感謝したくなる。

 さて、永夢センセーに促されたほくとは、ドラマん中でセンセーたちが語り合っていた円形の大きなテーブルを前に座った。

 ほくとは雰囲気に呑まれそうなのを必死に堪えてる、それがよくわかる。おっかなびっくりながらも、ほくとはりんくとメモリアがやっていたゲームのことを話した。

 

 《《"ベストフレンドプリキュア"……?》》

 

 口をそろえてそう言い、首をかしげるセンセーたち。

 

 《そのゲームはどこで……?》

 《昨日がゲームの発売日で、ゲームショップで予約していた……と聞いてます》

 《ぼく達の知らないゲームが……それもウイルスが混入されたゲームが"また"市販されてるなんて、そんな……》

 《ある意味『仮面ライダークロニクル』よりも厄介だな……宣伝が大々的でない分、こちらが後手にならざるを得ない……》

 《そんなゲーム……いったいどこの誰が……》

 

 ここでアタシの頭ン中に、ふとギモンが浮かんだ。

 

 「おかしいぜ……『ベストフレンドプリキュア』だけどよ、しきりに財団BがCM流してたぜ。ゲーム好きの永夢センセーならまずチェックしてるハズじゃねぇか……?」

 

 おっと、思わず声に出しちまった。永夢センセーに聞かれちゃヤバい。アタシはここにはいない、いいね?

 幸い永夢センセー達にアタシの声は聞こえてなかったようだ。飛彩センセーが顎に手を当て考えている。

 

 《幻夢コーポレーション以外の何者かが、バグスターウイルスを使って何かを企んでいるのかもな……》

 

 ―――――私の知らないゲーム、だと……!?

 

 《《!!!!!》》

 

 ふたりのセンセーと明日那サンの顔が真っ青になった。

 この声は……はは~ん、なるほどなぁ♪

 

 ―――――私の……この(クァミ)の許可なく…………!!

 

 《勝手にゲームをォ……、作るなァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッッッ!!!!!》

 

 ピンクの部屋の中から飛び出してきたオレンジ色の粒子が集まって、ニンゲンのカタチになった。

 

 《あッ……あなたは…………!!!!!!!!!!》

 

 見ろよこの『!』の数wwwほくとの受けた衝撃のハンパ無さが文章にも出てるぜ。この辺小説って便利だよなぁ。

 ……って、要らんことに地の文割いてる場合じゃねーか。ある意味、『仮面ライダーエグゼイド』を象徴する大物の御登場だ。

 

 ―――――檀黎斗(だんくろと)

 

 バグスターウイルスを発見した上、悪用して他人様(ヒトサマ)に大迷惑をかけまくった、幻夢コーポレーション*3の元社長サマだ。

 つまりはすべての元凶、ともすればラスボスなワケだが、いろいろあってCR預かりの身となっている。

 ―――――どうしてそんなヤツが味方の基地みたいな所に、しかもニンゲン離れした登場の仕方してるのか、って?

 ……正直、一言二言で説明できる自信がアタシには無ぇ。それに説明したらしたで、トンでもなく長くなっちまう。

 『仮面ライダーエグゼイド』の連中について詳しく知りたいヤツは、本編をDVDかブルーレイで見てもらった方がわかりやすいだろう。

 そんなのまどろっこしい、ってヤツは、ググるかWikipedia読んでくれ。もっとも、読んだところでわかるかどうか保証はできねぇ……

 ……一人一人の説明が超長ェんだよ、天下のWikipedia様でも。いっそ、一人一人を独立記事にした方がいいくらいに、『仮面ライダーエグゼイド』のキャラってのは複雑怪奇だ。

 その中でも、この檀黎斗ってヤツは一際ヤバい。ニンゲン辞めてる自称神で、超ヤベーイヤツ。エグゼイドの顔芸担当。あ、一言二言で説明出来ちまった。

 そんなヤツだから、ヘタに刺激したら何されるか分かったもんじゃねぇ。挙句の果てにどう呼んでいいかも時期によって変わる*4からな……

 ほくとよ、選択肢ミスるんじゃねーぞー。

 

 《………………だ……》

 

 

 ―――――檀黎斗()さんっっ!!!

 

 

 …………この沈黙がイタい。

 唖然とする永夢センセー、頭を抱える飛彩センセー、何故か驚いたような顔をしている明日那サンの視線がさらにイタい。

 

 《…………ほぅ》

 

 なんと―――――(クァミ)は途端にニカッとしやがった。

 

 《初対面の第一声から、私を(クァミ)と崇め讃えるとは……少年、名は?》

 《は……八手ほくと、です……》

 《ほくと、か……うむ、大いに見込みのある少年のようだ♪私も未知のバグスターには興味がある。ほくとよ、この私の神僕(しんぼく)として、そのゲームとバグスターについて大いに語るがいい》

 

 ……エラく尊大で回りくでぇ言い回しだが、つまり『協力してやるから詳しく話してみろ』ってトコか。

 ふぅ、なんとか神サンのご機嫌取りには成功したらしい。一応味方にしといて損は無ぇだろう。何しろ、エグゼイドが『最強フォーム』になるためのアイテムを作ったのは誰あろうこの神サンだ。起死回生のイイモノを閃いてくれるかもしれんしな。

 ……しかし、ほくとの話を聞く内に、神サンはだんだんと難しい表情になり、しまいにゃ―――――

 

 《―――――――――――――――》(ち~ん。)

 

 腕組みして薄ら笑いを浮かべたまま、白目剥いて真っ白になっちまった―――――

 つまり、神サンもわからん、ってコトじゃねーか。期待してソンしたぜ……

 

 《く、黎斗~~!?》

 《……珍しいモノを見られたな》

 

 あわてる明日那サンの横で、何故か感心するように、飛彩センセーが神サンの顔をのぞき込む。

 

 《……はッ!?……むぅ……(クァミ)ともあろうこの私が、一時(いっとき)ながら意識を喪失するとは……そもそも、"プリキュア"とは一体何だ!?何かの専門用語か!?》

 

 ……全知全能の神サンでも、知らんことはあるらしい。

 

 《女の子に人気のアニメですよ。異世界の妖精に選ばれた女の子が、伝説の戦士"プリキュア"として、世界の平和を守るために戦う……っていう》

 《……え!?永夢先生、プリキュアを知ってるんですか!?》

 

 アタシも驚いた。

 永夢センセーがサラッと『プリキュア』の名を口にしたんだから。

 ココがドラマん中なら、『その中』で完結してる世界観で、『別の作品』である『プリキュア』を知ってるワケがねぇ。

 ……イカン、アタシもこんがらがってきた……

 ほくとの驚き顔に、どこか照れるように永夢センセーは笑う。

 

 《まぁ……少し、ね》

 《『カワイイ』と『カッコイイ』のバランスが絶妙なの♪女の子なら一度はプリキュアに憧れるって聞くし!》

 《……そういうモノなのか?》

 

 明日那サンもプリキュアを知ってるようだな。……ん?明日那さんって『フツーの女のヒト』だっけか?

 反対に飛彩センセーは理解できんようだが。

 

 《決めポーズがカッコいいのよね~♪『闇の力のしもべたちよ!』》

 

 明日那サンはノリノリで"お師さん"のマネをする。アタシもガキん頃よくやったっけ。さすがに"御本人様"の前でやる度胸は無かったが。

 

 《そうそうソレです!『とっととおうちに』―――――》

 

 永夢センセーも明日那サンに倣ってキュアブラックのポーズをキメる。知ってるのが『少し』のワリに詳しいじゃねーか……

 と、その時、ちょうど永夢センセーのそばの職員通用口が両開きに開いた。

 

 《帰りな…………―――――さ…………》(凍)

 

 ビシッと指差したその先―――――通用口から、白衣を羽織った、白と黒にくっきりと分かれた頭髪の、目つきの悪いニンゲンの男が現れた。

 その男はドン引きした表情を浮かべて、永夢センセーを睨んでいた。

 

 《エグゼイド……お前そういうシュミがあったのか……》

 

 ……永夢センセーの顔が、引きつったままポーズ*5した。

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 「ご、誤解です!誤解なんですよ大我さん!ぼくはただ……」

 「ニコ*6にいい土産話ができたぜ。『エグゼイドはゲームだけじゃない、アニメも大好きな全方位ヲタクだ』ってな」

 「そーじゃないんですって~……」

 

 花家大我(はなやたいが)先生が、こんなにも砕けた態度で永夢先生に接しているなんて―――――

 彼は『仮面ライダースナイプ』として、最初はCRのドクターライダーたちのガシャットを狙い、永夢先生たちとは対立していた。

 それから、戦いの舞台が『仮面ライダークロニクル*7』に移るにつれ、CRのドクターたちと共闘するようになったけれど―――――

 

 「小さな女の子の患者さんとの話題作りのために、『プリキュア』も片手間に見てただけなんです!ホントなんですってば~……」

 「……そーゆーコトにしといてやるか。まぁ、エグゼイドの"凝り性"は今に始まった事じゃないけどよ」

 「話が横道に逸れたままだ。研修医をイジるのはその辺にしておいた方がいい、無免許医…………いや―――――」

 

 大我先生にじろりと睨まれた飛彩先生はフッと笑って、

 

 「今は『開業医』だったな」

 

 ……と訂正すると、大我先生はほんの僅かに、どこか嬉しそうな表情を浮かべるのだった。

 大我先生は、元々医師免許を剥奪されていた『無免許医』だったけれど、『仮面ライダークロニクル』の事件解決に貢献した功績から、特別措置として、ゲーム病専門医としての活動が認可された―――――と、テレビの最終回のエピローグで語られていた。実際、最終回ではクリニック開業に向けて準備している様子も描かれていた。

 大我先生が開業医になっている……ということは、ここにいる永夢先生たちは、早くとも『テレビシリーズが終わった後の永夢先生』たち……なのだろう。

 

 「……まだ準備中だがな。手続きやら仕入れやらで、ロクに寝るヒマもありゃしねぇ」

 「今日はどうしてココに?」

 「開業準備の打ち合わせで近くに来てたら、レーザーがメール寄越して来やがったんだよ。『新種のバグスターが出た』ってな。CR(ココ)なら何か情報があると思って来てみたが……」

 

 そう言って大我先生は永夢先生たちの表情を見渡してから、

 

 「その様子だと……まだ何もわかっちゃねぇらしいな」

 「今しがた患者への応急処置が終わったばかりだからな。……大口を叩いた元社長も、ロクに役立っていない」

 「……お前はどうやら神罰がお望みと見た……それと何度言えば理解できる!?私の事は檀・黎・斗・神!!と―――――」

 「まぁまぁまぁ……」

 

 永夢先生が睨み合う飛彩先生と黎斗神さんをなだめる。

 納得いかない、と言った憮然とした表情で、黎斗神さんはどっかと椅子に腰を下ろす。

 

 「……まずはゲームの現物が無いと何も始まらん。せめてPVでも見ることができれば何かしらヒントになるだろうが……」

 「ゲーム病に感染しているということは、どこかにガシャットもあるはずだ……お前、知らないのか?」

 

 大我先生にそう問われたけど、僕はただ、「いえ……」としか答えられなかった。

 プリキュアのゲームのガシャットなんて、存在しているわけもない。僕が見た東堂さんの持っていたゲーム機は、よくあるディスク式だったし……―――――

 

 ―――――おいおい……『ゲーム病治療の若きプロフェッショナル集団』ってマスコミ様におだてられてるセンセー方と自称神サマが、ガン首揃えて何シケたツラしてんだか……―――――

 

 どこからともなく声が響くと、僕の背後に急に気配がした。思わず振り向くと―――――

 

 「よっ♪」

 「……あ……あなたは……!!」

 「貴利矢さん!」

 

 九条貴利矢(くじょうきりや)先生―――――『仮面ライダーレーザー』。

 元々は監察医で、CRのドクターたちとは付かず離れず、独自の立場からバグスターと戦っていた人だ。

 一度は仮面ライダーゲンムの手に掛かって命を落としたと思われていたけれど、バグスターになって復活して、テレビシリーズ最終盤で正式にCR所属になった―――――はず。ここにいる貴利矢先生が、僕がテレビで見た貴利矢先生なら。

 

 「おいレーザー……てめぇおれを頭数合わせに呼びつけやがったな!?」

 「まぁまぁ、新種のバグスターが相手なんだし、安全運転に越したこと無し……それに、興味もあんだろ?でなけりゃこんな忙しい時にノッて来やしない……違うか?」

 「……チッ、相も変わらず口八丁手八丁回る奴だ……」

 「簡単には死ねないんでね♪前より"回転数"アゲてんのさ」

 

 呆れたように舌を打つ大我先生を見事に言いくるめた貴利矢先生は、両手に一つずつ、大きな紙袋を持っていた。

 

 「貴利矢さん、ソレは?」

 「?……あぁ、そうそう!コイツだ!コイツを永夢に渡したかったんだよ。とっておきの土産だぜ」

 

 思い出したように、貴利矢先生は二つの紙袋をテーブルの上に置くと、その内一つの中身を取り出した。

 

 「……!これは……!」

 

 永夢先生は瞠目していた。彼だけじゃなく、他のドクターたちまでも。

 ただひとり―――――黎斗神さんだけは、ソレを見て興奮気味に身震いするのが見えた。

 CRを驚愕の渦に巻き込んだ『ソレ』はまさしく、僕が東堂さんの部屋で見た『モノ』―――――

 ゲーム機本体と、『ベストフレンドプリキュア』のゲームソフトだった。

 

 「お……おおおお……ほくと、コレか!?コレが君の言っていたゲームの現物か!?」

 

 物凄いギョロっとした目で僕を見る黎斗神さんに、たじろぎながら僕は頷く。

 

 「は、はい……」

 「何なんだこの黒く平べったい箱物は……!?外見に遊び心の欠片もない……それにガシャットのスロットも無いぞ!?一体ドコにガシャットをセットするのだ!?」

 「こんなゲームハード、見たことがない……ディスク型のゲームソフトなんてモノも初めて見る……」

 

 黎斗神さんと永夢先生の驚く様は、僕にはひどく異常に見えた。

 何故ならこのゲーム機は、全世界で1000万台以上も販売されている、最もメジャーなゲーム機だからだ。一流のゲームクリエイターである黎斗神さんと、天才ゲーマー"M"の異名を持ち、ゲームを愛してやまない永夢先生が、これを知らないはずがないのに―――――

 

 「レーザー……コレをどこで手に入れた?」

 「永夢から"カルテ"を受け取ってすぐに、患者の嬢ちゃんの家に行ってみたのさ。で、嬢ちゃんの部屋からコイツを見つけ―――――」

 「ちょっと貴利矢!!!」

 

 いきなり明日那さんが眉をつり上がらせ、貴利矢先生を睨み上げた。

 

 「アナタ、年頃の女の子のお部屋に勝手に入ったの!?」

 「ん゛な!?」

 「監察医……もしソレが本当なら品位を疑うぞ」

 「まったく……エグゼイドといいてめぇといい……」

 「揃いも揃って変人だなぁ~!!!ブゥ゛ェ゛ハハハハハハハ!!!!!」

 「うるッせーよテメーにだけは言われたくねぇ!こん中でダントツの()()が!!」

 「なんだと訂正しろ九条貴利矢ァッッ!!黎斗神だァァァァァァァ!!!」

 「変なのは否定しないんだな」

 「あ、あのぉ……みなさん……」

 

 端から見ていると、やはりというか何というか、トンでもない集団なんだなと改めて思う。個性だけなら平成どころかすべてのライダーシリーズの中でもトップクラスだ……

 こんな人達の中で頑張ってきた永夢先生って……

 

 「やっぱり……凄いな……」

 「……?ほくと君?」

 「あ、い、いえ……」

 

 こ、これは決して永夢先生以外の人達が奇人変人だって言ってるんじゃないんだ、ただ、その……

 緊張をごまかすように、僕は貴利矢先生に話題を振った。

 

 「そ、それで貴利矢先生、このゲームのことですけど……」

 「ちゃぁんと親御さんのOKはもらってる。園長先生からも連絡行ってたし、親御さんもじきここに来るだろうよ。……さて」

 

 ここからが本題とばかりに、貴利矢先生は永夢先生を見た。

 

 「このゲーム……お前だったらどうするよ?」

 「勿論!!この場で即・刻・分・解して内部構造の解析を―――――」

 「アンタにゃ聞いてねえ……「九条貴利矢ァァァァァ!!!!!」永夢、お前ならこのゲームを『活かせる』と踏んだが……どうよ?」

 

 どこかイタズラ小僧じみた貴利矢先生の表情に、永夢先生は笑い返しながら、

 

 「もちろん…………ノりますよ!」

 

 と、立ち上がった。

 

 「永夢センセーならノって来ると思ったぜ♪」

 「ゲーム機が……何かに使えるんですか……?」

 

 まさかと思って、僕は永夢先生を見た。このゲームから新たなガシャットが作れたり……なんて展開があるのだろうか……!?

 しかし永夢先生は、最も『彼らしい』、ゲームの活用法を語ったのだった。

 

 「このゲームを……『攻略』する!」

 「攻略って……クリアするってこと……ですか!?」

 「うん。このゲームの中に、あのバグスターのルーツや、倒すヒントが必ずあるはず……そのためには一通り、エンディングまでプレイしてみるのが一番って思ったんだ」

 

 その言葉に、他のドクターたちはすべてを理解しているかのように―――――

 

 「永夢ならそうするって思ってた!」

 「研修医らしい判断だな」

 「ま、エグゼイドの取り柄と言えばゲームかリプログラミング、それぐらいだしな」

 「それでこそ……宝生永夢だ」

 「ホント、期待を裏切らねぇ奴だよ。ノせたら予想通りか、それ以上にノっちまう。たまに暴走するけどな♪」

 「一時期迷走してた貴利矢さんほどじゃないですけどね♪」

 「コイツ、デカい口叩くようになりやがって!」

 

 彼らの間には、確かな信頼がある。

 誤解とすれ違いを乗り越えながら、一年間を駆け抜けたドクターライダーたちの絆を、僕は彼らの笑顔から感じ取っていた。

 

 「ほくと君……もう一度、きみに約束する。このゲームを必ず攻略して、ぼくが……いや―――――」

 

 永夢先生はCRにいる全員を見回して、改めて言った。

 

 

 「りんくちゃんの運命は……"ぼく達"が変える」

 

 

 その笑顔に、目頭が熱くなるのを感じた―――――

 でも僕は、必死にこらえて―――――

 

 「は、はい……!東堂さんのこと……改めてよろしくお願いします!」

 

 椅子から立って、心から頭を下げた。

 

 ―――――彼らなら、きっと―――――

 

 そう思えるほどの、彼らが起こしてきた奇跡を、僕はすべて知って、目の当たりにしているのだから―――――

 

 「……ところで貴利矢、もうひとつの袋には何が入ってるの?」

 

 明日那さんが、テーブルに置かれた二つ目の紙袋に視線を移す。

 

 「あぁコレか?そのゲームほど重要じゃないかも知れないんだけどよ、どうにも気になってついでに持ってきたんだよ。……睨むなって、コレも親御さん了承済みだっての!」

 

 明日那さんの視線にたじろぎながらも、貴利矢先生が紙袋の中から取り出したモノが僕の視界に入ったその瞬間―――――

 心臓が口から飛び出しそうになった。

 

 「タブレット端末……のようだな」

 「オモチャじゃねぇのか、コレ?」

 

 飛彩先生と大我先生が口々に言うソレはまぎれもなくコb……じゃなく、キュアットタブだった……!!

 

 「まるでプリキュアに出てきそうなデザインね……ほくと君、これに見覚えは?」

 「い、いえ……」

 

 明日那さんの問いに、思わず首を横に振ってしまった……

 まさか貴利矢先生がキュアットタブに目を付けてしまうなんて……

 当然ながら、このタブの中にはピース以外のプリキュアたちが全員いるわけで……

 今は電源が切ってあるみたいだけど、下手に電源を入れられてしまうと―――――

 

 「研修医……この端末、患者が持っている携帯電話(スマートフォン)とデザインがよく似ていないか?」

 「言われてみれば……そうですね。そういえば、もう一つ気になったことがあって……りんくちゃんですけど、眠っている間もずっとスマホを握ったままなんです。検査の時に放してもらおうとしたんですけど、ぼくの力でも敵わなくて、結局スマホごと検査に……」

 「虚弱体質が……仮面ライダーが寝てる女子中学生の握力に負けんなよ」

 「すみません……でも、信じられないくらいに強く握りしめてて……飛彩さんでもダメだったんです。それから、スマホごと検査した結果なのかわからないんですけど、そのスマホからも、バグスターウイルスが検出されているんです。人間の患者さん同様に、『スマホがゲーム病に感染している』としか言いようのない状態で……」

 

 ……メモリアのことか。

 そう思うと同時に、ポケットの中が静かに振動するのを感じた。

 

 「元々バグスターはコンピューターウイルス……とはいえ、『電子機器がゲーム病を発症する』とは前例が無いな……」

 「バグスターに感染したスマホを握ったまま放さないって……こりゃ明らかに関係あるんじゃねぇの?」

 「そして、そのスマホとタブレットの見た目がそっくりなら、尚更怪しいな」

 

 マズい!!

 CRのドクターたちの視線が、一斉にキュアットタブに注がれている……!

 何故かはわからないけど、今永夢先生たちにプリキュアたちを見られちゃいけない気がする……!

 彼女たちを見た永夢先生たちがどんな反応をするか知れないけれど、余計にコトがこじれる可能性が高い。何より―――――

 

 「安心したまえ……この(クァミ)の手で、1バイトたりとも(のぉこぉ)らぁずぅぅ、隅から隅まで解析してやるぅぅ……何も心配は無ァい!!ヴェ゛ーーッハッハッハッハハハハァッ!!!!!!!!」

 

 ―――――倫理的にもこの小説の内容的にも、一番プリキュアと出会っちゃいけない、プリキュアに会わせちゃいけないヒト……否、(クァミ)がいるんだよなぁ~……ジェミニさんと同じコト言ってる……

 彼の毒牙にかかったが最後、プリキュアたちが何をされるか知れたものじゃない。でもキュアットタブに黎斗神さんの手がかかる、もはやこれまでか―――――

 その時だった。

 けたたましい警報音がCRに鳴り響いた。

 

 「バグスター発生の緊急通報……ここの近くよ!見境無しに暴れてるみたい!」

 

 これは……助かったと安堵していいのだろうか。

 とりあえずタブへの危険は遠ざかったけど、この近くにバグスターが出たわけだし……

 モニターに映し出された映像には、白と黒、ふたつのシルエット。コイツは……!

 

 「!りんくちゃんに感染している、新種のバグスター……!!」

 

 永夢先生も、驚きながらモニターを見つめていた。

 

 「……妙だな」

 

 黎斗神さんが呟くのが聞こえた。

 

 「バグスターは物理的に離れていても、感染者と電子的に接続され、その気になれば感染者のすぐ側に一瞬で移動が可能だ……だがこの個体は出現位置にズレが生じている……感染者の位置を正確に特定できない、特殊な状態に陥っているのか……?」

 「ぼくが出ます!」

 

 永夢先生は白衣の襟を直しながらCRを出ようとした。でも―――――

 

 「待て、研修医。俺が行く」

 

 永夢先生を制して、飛彩先生が立ち上がった。

 

 「飛彩さん……」

 「東堂りんくの担当医は俺だ。それにお前には、このバグスターの『攻略法』を探る役目があるだろう?お前はお前の仕事に集中しろ」

 「……現状、確実にこのバグスターを倒す方法はわかりません……それでも……?」

 「余計な気遣いはノーサンキューだ。……時間稼ぎにはなる。お前が攻略法を見つけ出す時間の、な。それに()()()に、何かの拍子で確実な切除術が見つかるかも知れん。やり方は幾らでもある……この一年、何度も言った筈だ―――――」

 

 飛彩先生は白衣を翻し、職員通用口に進みながら、永夢先生に背を向けたまま言った。

 

 「俺に切れないものはない」

 

 飛彩先生の背を見て、またひとり立ち上がるドクターがいた。

 

 「付き合うぜ」

 「開業医……」

 「二体いるんだ、頭数がいるだろ。それに新種のバグスターと直に()りあえるいい機会だ」

 「……一年前のお前に、今のお前の爪の垢を煎じて飲ませてみたいものだな」

 「抜かしやがれ」

 

 連れ立って、飛彩先生と大我先生はCRから出て行った。

 

 「さぁてお仕事お仕事!神サンよぉ、アンタにも永夢の攻略サポートと分析、手伝ってもらうぜ!」

 「私に指図するなァッ!!!……チッ、仕方が無い……タブレットは後回しだッ」

 

 苦々しげにキュアットタブを見やると、黎斗神さんはオレンジ色の粒子になって、ピンク色の一角の中へと消えていった。

 

 「ほくと君……」

 「……はい。病院の外には出ずに、ロビーで待ってます」

 

 CRは今から"戦闘態勢"に入る。そんな中で、何の力にもなれない僕がいても足手まといになるだけだ。キュアットタブをCRに置きっぱなしにするのがひどく心残りだけれど、僕は一旦、席を外すことにした。

 去り際、眠っている東堂さんが横目に入る。

 

 「……………………」

 

 ―――――本当に、僕は無力だ。

 仮面ライダーたちの横に並び立つ、そのラインにすら立てない僕は、所詮は半端者、未熟な見習いプリキュアなんだから―――――

 そう思った時、ふっと『腑に落ちた』。

 病院に着いてから、永夢先生や明日那さんたちを前にして、感動こそすれ興奮のひとつすら感じず、ただ鬱屈した『何か』が胸の内に溜まっていた、『厭な感覚』の正体―――――

 僕はCRの自動扉をくぐり、扉が閉じると同時に脱力して、廊下の壁にもたれかかった。

 

 「は……はは……」

 《……ほくと?》

 

 なんてコトはなかったんだ……

 僕はただ―――――

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()―――――

 

 

 東堂さんを助けようにも、助ける力が僕にはない。そんな時に現れた永夢先生に―――――

 僕が助けられない人を、助けられる力を持っているヒーローに―――――

 あろうコトに、僕は―――――

 

 「どうにもこうにも……ガキじゃんかよ……」

 

 なまじ戦える力を持ってしまって、それが敵わず、でもって自分よりも格上の存在が現れて、それに素直に敬意も抱けず―――――

 

 《トーゼンじゃね?ソレ》

 

 思わず僕は、ポケットからネットコミューンを取り出した。

 

 《お前も、アタシも、まだ14年しか生きて無ぇんだ。格上なんざこの世にごまんといらぁ》

 「データ……」

 《アタシも最初は『最強のプリキュアになる』ってイキってたけど……ほくとのじーさんとか、エグゼイドとか、他の特撮のヒーローとか……サーバー王国にいたままだと、まず知らなかった『強いヤツ』を知れて、ちっとは身の程知ったんだぜ?》

 「……諦めたの?」

 《冗談!『最強のプリキュア』、まだ諦めちゃないぜ!》

 

 データは白い歯を見せて、ニカッと笑った。

 

 《アタシはさ、アタシだけの『最強のプリキュア』を目指す!力で最強とか、心で最強とか、今更ありきたりはナンセンスだしな。アタシ自身が納得する『最強』ってヤツを、必ず見つけるつもりだぜ!》

 「データだけの……『最強』……」

 《だからさほくと、強いヤツに劣等感抱いて嫉妬するってんのも、悪いコトじゃ絶対ねぇ!要はこれからどうするか、だ。このまま何もせずにズブッてくか、それ以外の道を進むか……その感情を活かせるか殺しちまうかはお前次第だぜ?》

 

 そうだ。

 何をやってるんだ僕は―――――

 何バカなコトを考えてたんだ―――――

 ついこの間戦い始めた僕が、歴戦の勇士であるドクターライダーたちに、全てにおいて劣っているのは当然じゃないか。

 そもそも僕は一人前ですらない、プリキュア『見習い』だ。比較するなんておこがましいことだったんだ。

 

 「……ありがとう、データ。お陰で吹っ切れた―――――」

 

 僕が本当の意味で、永夢先生たちと同じ場所に立つために、今僕ができることといったら―――――

 

 「行くよ、データ!」

 《行くって、お前!?》

 「本物のライダーの戦いを、少しでもこの目で見る……そこから先は、後で考える!」

 《……それでこそ、アタシが認めた最高のニンゲン、だぜ!……でも、ひとつだけ釘刺しとく》

 「何?」

 《間違っても、ライダーとバグスターの戦いに割って入るなよ。ありゃ他のライダーがタダの怪人と戦うのとはワケが違う。飛彩センセーが言ってるだろ?『バグスター切除手術』ってな。アレはただガムシャラに戦ってるワケじゃねぇ、専門知識や技術が必要な『手術』なんだ。アタシたちが素人療法でどうにか出来るレベルじゃねぇ。……いいか、絶対に『見るだけ』にするんだぞ。手を出すなよ、いいな!?》

 「……わかった」

 

 データはこうまで念入りに釘を刺すけど、僕だってわかっているさ。

 彼らの戦いは、必ず僕の糧になる。

 そして今僕に出来ることは、ただ―――――

 彼らが、東堂さんの運命を変えてくれることを、祈るしかないんだ。

 

 SAVE POINT……

*1
衛生省によって、聖都大学附属病院の地下に極秘裡に建造された対バグスターウィルス・ゲーム病専門医療施設。当初は院長以下ごく限られた者にしかその存在を知らされていなかったが、バグスターウイルスの大規模感染拡大を防ぐためにその存在を公表され、現在ではゲーム病医療・バグスター研究の中心地としてその名を知られている。

*2
ここでの『カルテ』とはバグスターとの戦闘記録を指す。CRのライダーたちがバグスターを相手に戦ったデータは、ゲーマドライバーやバグヴァイザーⅡに自動的に記録され、逐一衛生省のデータベースにリアルタイムで転送・保存される。このカルテは、CRをはじめとしたゲーム病治療の関係者ならば誰でも閲覧可能となっており、バグスターの解析や研究はもちろん、ゲーム病患者の治療にも役立てられる。尚、これは本作オリジナル設定であり、原作『仮面ライダーエグゼイド』にこのような設定は存在しないことを留意されたし。

*3
『仮面ライダーエグゼイド』における有名ゲームメーカー。衛生省の依頼でゲーマドライバーやライダーガシャットを開発してバグスターへの対抗手段を提供したが、同時にバグスターウイルスの出所でもあった。さらには社長である黎斗がバグスターウイルスをばら撒いた主犯と発覚、その後に新社長に就任した天ヶ崎恋がこともあろうにバグスターだった(当然、社屋の一角はバグスターのアジトと化していた)、満を持して開発した新作ゲーム『仮面ライダークロニクル』がバグスターが人間を絶滅させるためのゲームだった、その後に新たに社長となった檀正宗自らが『仮面ライダークロニクル』の運営側に回ってしまう…………等々、その悪辣ぶりは枚挙に暇がない。果ては『従業員が出した退職届を社長が破り捨てる』という、人権侵害も甚だしい描写も劇中で見られているばかりか、武力攻撃を3度(冬劇場版・18話・22話)も受けており、経営状況もさることながら従業員の安全すら保障されていないという、平成ライダーシリーズに登場する『悪の企業』の中でもブッちぎりの『最悪のブラック企業』である。

*4
劇中では『檀黎斗→新檀黎斗→檀黎斗(シン)→クロトピー("ピー"は放送禁止音)→檀黎斗(ツー)』……と変遷した。ちなみにすべて自称。さらに『仮面ライダージオウ』客演時には『檀黎斗王』を自称していた。

*5
『仮面ライダーエグゼイド』の最終盤の敵『仮面ライダークロノス』の特殊能力。ゲームエリア内にいる自分以外の全ての人物の時を止め、一切の動きを停止させてしまう、文字通りの反則的能力である。

*6
フルネームは西馬(さいば)ニコ。『天才ゲーマー"N"』と呼ばれ、『天才ゲーマー"M"』(永夢)とeスポーツ界で並び称される女子高生プロゲーマー。かつて永夢(実はパラド)にゲームで手酷く負けたことを根に持ち、永夢に一泡吹かせるため、CRと敵対していた時期の大我に接触、永夢を倒すようあの手この手で大我をけしかけた。幾度かゲーム病にも罹患してしまうなど無茶をすることも多かったが、やがて成り行きから大我がCRと共闘するようになると、永夢の『真実』を知り、ドクターたちの戦いと医療にかける想いを間近で見たことで徐々に心境を変化させ、『仮面ライダークロニクル』発動後からは『ライドプレイヤー(本作における量産型ライダー)』を自らカスタマイズした『ライドプレイヤーニコ』に変身してドクターライダーたちとともに戦線に立ち、多くのバグスターを撃破する殊勲を挙げた。すべてが終わり、高校を卒業した後はゲーム大会の賞金を使って幻夢コーポレーションの大株主となって会社経営に携わりながら、大我の病院やCRにも度々顔を出している模様。何故ここで解説しているかというと、実は今回出番が無いから。ファンの方はゴメンナサイ。

*7
黎斗が開発していた『究極のゲーム』。劇中ではパラドが完成させ、幻夢コーポレーションから一般販売された。プレイヤー自身が量産型ライダー・ライドプレイヤーに変身し、バグスターを倒し、ヒーローになるために戦うリアル・サバイバルゲーム。しかしその実態は、バグスターに倒されてゲームオーバーになると、コンティニューもできずに消滅してしまう(しかもそれは実際にゲームオーバーになった直後に初めて説明される鬼畜仕様)というデスゲームであり、むしろバグスター側が『人類を攻略し、滅ぼすためのゲーム』だったのである。その無茶苦茶な仕様は筆舌に尽くしがたく、この注釈にはとても書ききれないため、読者の皆様で各自御検索頂きたい。ちなみにCEROは『A』(全年齢対象)である。




 ちなみに今回、約8割方はスマホで書きました。
 『Google keep』のおかげで、仕事の休憩中や外出先でもインプリが書けるようになったんです!
 神アプリですよ、これ……やるな、Google!!

 次回、ブレイブ&スナイプVSネガキュアバグスター……しかし、バグスターに異変が……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

GACHIで来い

 バグッチャー大図鑑・特別編

 ネガキュアバグスター(ステージ2)

 ネガキュアバグスターが2体に分離した状態。
 "ステージ2"とあるが、厳密にはこちらが本来の姿。
 姿形は初代プリキュアに似ており、キュアブラックに似た『ネガキュアブラックバグスター』とキュアホワイトに似た『ネガキュアホワイトバグスター』の2体。
 オリジナルの初代プリキュア同様、ブラックは相手に反撃する間も与えぬほどの手数で攻め立てる猛烈なラッシュ攻撃を、ホワイトは切れ味鋭い回転殺法と投げ技を駆使した攻撃を得意とする。また、ふたりが力と息を合わせたコンビネーション攻撃も強烈無比。
 最大の特徴として、どちらかが撃破されると、残ったもう片方が撃破された側を瞬時に復活させる能力を持っており、常に『ふたり』で戦うことが可能となっている。これは、互いが『互いのバックアップ』として機能していることを意味しており、これを攻略するには……??
 同じく『ふたり』のヒーローであるエグゼイド・ダブルアクションゲーマー、そして仮面ライダーパラドクスと戦闘を繰り広げるも、復活能力で抵抗した。
 その後、キュアウイルスとキュアハックに『あるモノ』を埋め込まれて……!?
 なお、『ブラック』はメモリアに、『ホワイト』はりんくにそれぞれ感染したバグスターウイルスが実体化した存在である。

 ――――――――――

 あけましておめでとうございます!稚拙です!
 今年もどうぞインプリに変わらぬご愛顧をよろしくお願いいたしますm(_ _)m
 こうして年の変わり目に投稿できるというのは特別な気分になりますね♪

 さて、年はじめのインプリはプリキュア小説であるにもかかわらず、仮面ライダーが大暴れ!!
 ブレイブ&スナイプの戦い、その『前編』を送信です!

 ※ちょっとショッキングなシーンがあるかもなのでご注意を。


 ……NOW LOADING

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 聖都大学附属病院のすぐ近くのビル街―――――

 交差点から、"ソイツ"の姿を僕は覗き見た。

 近くの店舗のショーウィンドーは無惨に叩き割られ、道路も陥没してアスファルトはひび割れ、乗用車が数台ひっくり返って火を噴いている。辺りには焼け焦げたオイルの臭いが充満していた。

 

 《他のニンゲンは……もう避難したみてぇだな》

 「うん……」

 

 データの声で、人の気配がないことに気づく。

 でも―――――

 

 『ウ……ウウウウゥゥゥゥ………………!』

 『コワ、ス…………ゼンブ……ハ・カ・イ……!!』

 

 低い呻き声を漏らしながら、獲物を求めてさまよう、ふたりのネガキュアバグスター。その様は、もはや『プリキュアの姿をした別の"ナニカ"』としか形容できない―――――

 

 「前と違う……!?」

 《あぁ……フンイキがまるで変わってらぁ……"お師さん"やブラックみたいな感じが消えてやがる……》

 「埒外の禍々しい殺気……この短時間に何が……!?」

 

 その時、僕たちから向かって右側から、二つの白衣が熱風にはためいた。

 

 「暴れるのはそこまでにしておけ。これ以上の怪我人はノーサンキューだ」

 「病院としては儲かるから、むしろ大歓迎じゃねぇのか?"お医者さん"」

 「警察官や消防士と同じだ。暇に越したことはない」

 「チッ、食い上げちまうだろーが」

 

 ふたり並んで軽口を叩き合いながら、飛彩先生と大我先生が歩いてきて、ネガキュアバグスターと少し離れたところで立ち止まった。

 

 「近くで見るとますます趣味が悪いな……ポッピーピポパポの亜種、みたいなもんか……」

 「今更外見に惑わされるか―――――」

 

TADDLE QUEST(タドルクエスト)!!

 

BANG!BANG! SHOOTING(バァン!バァン!シューティィィング)!!

 

 ふたりの先生が、ほぼ同時にガシャットの起動スイッチを押すと、"ゲームエリア"が波紋のように広がり、あたりにエナジーアイテムがばらまかれる。

 ―――――そして。

 

術式レベル2……!

 

第弐戦術……!

 

 

! 変 身 !

 

 《GASHAT(ガシャット)!!》

 《GA!CHAAAANNNN(ガッチャーーーン)!!》

 《LEVEL UP(レベルアーーップ)!!》

 

TADDLE MEGGLE! TADDLE MEGGLE!(タドルメグルタドルメグル)

TADDLE QUEST―――(タドルクエスト~~)!!♪

 

BABANG!BANG! BANG!BABANG!!(ババンバン!バンババン!)YEAH!!

BANG!BANG! SHOOTING(バン!バン!シューティングゥゥゥゥ)!!

 

 飛彩先生と大我先生がゲーマドライバーにガシャットを差し込み、レバーを開くと、二人は光に包まれ、ゲーマドライバーからワイヤーフレーム状の立体映像が飛び出した。

 立体映像が透過した二人は、鎧を纏った仮面の戦士へと、その姿を変える―――――

 

 「仮面ライダーブレイブ*1と……仮面ライダースナイプ*2……!!」

 

 目の前で変身を遂げ、現れるふたりの仮面ライダー―――――彼らもまた、エグゼイドと同等のリアリティあふれる姿を、僕の目と脳裏に焼き付けてくる。

 

 『これより、バグスター切除手術を開始する!』

 《GASHACON SWORD(ガシャコンソード)!!》

 『ミッション開始……!』

 《GASHACON MAGNUM(ガシャコンマグナム)!!》

 

 それぞれの専用武器(ガシャコンウエポン)を手にしたブレイブとスナイプが駆け出すと同時に、ふたりのネガキュアバグスターは絶叫とともに全身からオレンジ色の光を放った。途端、ネガキュアバグスターの周囲にオレンジ色の粒子が結集して、数十体ほどの、覆面を被ったようなヒトガタになった。

 

 「バグスターウイルスの戦闘員……!?だけど……」

 

 戦闘員としてのバグスターウイルスは、それを生み出すバグスター怪人の影響を色濃く受けた、個性的な姿になる。

 僕にとって『未知のバグスター怪人』であるネガキュアバクスターから生み出されたバグスター戦闘員も、見慣れない姿をしていた。

 灰色のぴっちりしたスーツを着たタイプ、真っ黒のスーツを着て、顔にサングラスを付けたタイプ、そして顔に『NO』と、さながら『仮面ライダージオウ*3』のライダーのように書いてあるタイプの、3種類の戦闘員がいた。

 

 《ありゃ、プリキュア達が戦ったワルモノ共にこき使われてた戦闘員だな……"お師さん"の講義やりんくのブルーレイで見たことがある》

 「そういえば……東堂さんに聞いたことがあったっけ……」

 《『砂漠の使徒*4』の『スナッキー*5』、『幻影帝國*6』の『チョイアーク*7』、それから……『ノットレイダー*8』の『ノットレイ*9』だな。あの"モドキ野郎"共、中途半端に『ザコとザコ』を"合体事故"させてやがる……》

 

 確かに、バグスター戦闘員と、プリキュアたちが戦った戦闘員、双方が中途半端に合体させられたような、『どちら』ともつかないひどい外見だ。

 

 「でも、どうしてあんな不恰好に……」

 《マトモにウイルスを増殖させられない状態、かもな……様子がおかしいコトといい……くそッ、猛烈にイヤな予感がするぜ…………》

 

 データの不安をよそに、歴代プリキュア達が戦った戦闘員を中途半端に模した『スナッキーバグスター』と『チョイアークバグスター』が、ブレイブに向かって殺到する。『ノットレイバグスター』の一団は、レーザーガンを構えてスナイプ目掛けて一斉砲火をかけた。

 しかし、スナッキーバグスターとチョイアークバグスターの群れを、ブレイブは流れるような剣捌きで次々と斬り伏せた。それを見た一群が警戒し、剣が届かないギリギリの距離を保って、ブレイブを取り囲む。

 

 『間合いを取ろうが…………無駄だ』

 

 ブレイブは、携えている剣―――――"爆炎氷結"『ガシャコンソード*10』のBボタンを3回、叩くように押す。ソードの刀身から紅蓮の炎が噴き出し、長大な炎の剣と化した。ブレイブがその場で舞うように回転しながらソードを振るったと思うと、一瞬の間の後、バグスター戦闘員の胴体にまっすぐ斬跡が刻まれ、爆炎を噴き上げて弾け飛ぶ。

 少し離れているスナイプへと視線を移すと、撃ちかけられるレーザーの嵐を、スナイプは前転や側転を駆使しながら素早く掻い潜り、横転した車の陰に潜んで相手を窺いつつ、"乱弾必中"『ガシャコンマグナム*11』をライフルモードに―――――

 

 《ZU・KYUUUUUNNNN(ズ・キュゥゥゥゥン)!!》

 

 ―――――と切り替え、レーザーが止んだ一瞬を逃さず、ノットレイバグスター目掛けて引鉄を引いた。放たれた光のライン―――――発射されたそれが『エネルギー弾』ということは"設定"から知っているけれど、僕には一条の光線にしか見えなかった―――――がノットレイバグスターの頭部にまっすぐ突き刺さる。刹那、激しく頭を仰け反らせ、やがて全身が破裂するように消滅する。立て続けに、2発目、3発目、4発目が、2体目、3体目、4体目のノットレイバグスターへと叩き込まれた。しかも、それらすべてが一撃必殺の脳幹狙撃(ヘッドショット)で……!

 

 『……頃合いか』

 

 出端(でばな)を挫かれて慌てふためくノットレイバグスターの軍団を見るや、スナイプは意を決したように車の陰から飛び出し、マグナムのAボタンを押した。

 

 《BA・KYUUUUUNNNN(バ・キュゥゥゥゥン)!!》

 

 ガシャコンマグナムの"ライフルモード"の銃身が折りたたまれて、"ハンドガンモード"へと切り替わる。スナイプは軍勢の先頭にいたノットレイバグスターの鳩尾を、駆け抜ける勢いのまま乱暴に蹴り飛ばし、尻餅をついた相手に追撃とばかりに発砲して消滅させると、次いで周りの集団にマグナムを乱射した。次々と数を減らしていくノットレイバグスターも、ようやく反撃態勢が整ったのかスナイプ目掛けて撃ち返す。

 

 『数だけ揃えたところで―――――』

 

 銃声に混じった呟きが聞こえた。スナイプは肩に装備した『スタンヘキサマント*12』を翻し、一斉射されたレーザーの悉くを弾くと、目前のノットレイバグスターの肩を踏み台に高々と跳び、マグナムのBボタンを押す。

 次の瞬間、空中で激しく錐揉み回転したスナイプから、無数のエネルギー弾の雨が周囲に浴びせかけられた。けたたましい銃声とともにノットレイバグスターの軍勢の一角が1体、また1体と消し飛び、同時にアスファルトに無数の穴が穿たれていく。

 最後に残った1体には、その目前に着地したスナイプが跳び膝蹴りを放って、ノットレイバグスターを仰向けに転倒させ、さらに起き上がれなくするためか、その胸板を右足で強烈に踏みつけた。抵抗するノットレイバグスターが顔を少し起こしたと思うと、その眼前には―――――

 

 ライフルモードのガシャコンマグナムの銃口―――――

 

 

 『死ね』

 

 

 銃声とともに、ノットレイバグスターの頭部が、潰れたトマトのように破裂するのを、僕とデータはハッキリと見てしまった―――――

 

 「………!!!!」

 《エグ過ぎて参考にならねぇ…………》

 

 たぶん、東堂さんやメモリアが見たら失神モノの映像だろう。清廉潔白かつ王道を往く『プリキュアの戦い方』からは、あまりにもかけ離れている。

 データが言った『参考にならない』というのも、おそらくその点だと思う。当たり前なんだけど、基本、プリキュアはこんな戦い方をしてはいけない。小さな女の子の憧れの的である『伝説の戦士』たるもの、己が流血はおろか、相手の返り血一つ、その身その顔その装束にこびり付くことを許されないのだから。

 だが、時に仮面ライダーは、恐ろしく泥臭く、血(なまぐさ)く、勝つためには手段を選ばぬバイオレンスな戦いぶりを見せる。『仮面ライダーアマゾンズ*13』のライダーたちが典型的な例だろう。

 大我先生の情け容赦の無い戦いぶりから、僕はホンモノの―――――

 

 "命懸けの戦い"を知ったのかもしれない―――――

 

 『お前ら―――――"子供番組"のキャラクターだってな』

 

 大我先生の呟きとともに、再びマグナムの銃身が折り畳まれると、隠れていない左側だけが覗くスナイプの赤い複眼が、凄惨な視線をスナッキーバグスターとチョイアークバグスターの集団に突き刺した。

 ……これまた、東堂さんが聞いたら怒るかもなぁ。『プリキュアをそこらの子供番組といっしょにしないで!』って具合にさ。

 

 『お呼びじゃねぇんだよ……おれ達はごっこ遊びやってんじゃねぇ……おれ達を本気で殺る気が無いなら、とっとと失せやがれ。もっとも―――――』

 『キーーーッ!!』

 

 突如、スナイプの背後からスナッキーバグスターが飛びかかった。

 

 ―――――ダァン!!!!!

 

 スナイプは振り向くことなく、ノールックで背後からの襲撃者を射り散らす。

 

 『……コイツみたいな()()()()()()なら……タダで()()してやるぜ』

 

 その様を見た戦闘員バグスターたちはみるみる顔を真っ青にして、にわかに悲鳴を上げ、逃げ出し始めた。

 当たり前の反応だろう。今まで『女の子向け』の戦い方しか―――――いわば『メルヘンチック』な世界しか知らなかった彼らに、いきなり突きつけられた現実的―――――もっとも、仮面ライダーとて"元々"フィクションだけれども―――――、かつ圧倒的な"純粋暴力"。逃げ出せるなら逃げ出したいのも頷けるものだ。

 しかし、逃げ惑う戦闘員バグスターの流れの中、逆らって突っ込んで来る戦闘員が現れた。

 否―――――よく見ると、勇敢にもスナイプやブレイブに突撃してきているわけじゃない。何故ならその戦闘員は―――――

 宙を舞い、"先ほどとは違う"悲鳴を上げながら素っ飛んできていたからだ。

 何事かと見やったそこには―――――

 

 『ダァァァァァァァァ!!!!!』

 『カッテニ……ニゲルナァァ!!』

 

 逃げ出してきた戦闘員バグスターの先に、ふたりのネガキュアバグスターが立ちふさがったと思うと、戦闘員バグスターの首元をむんずと掴んで、片腕一本で持ち上げ、力任せに投げ返した……!?

 投げ返された戦闘員バグスターが、摩擦熱で炎を上げ、弾丸となってスナイプやブレイブに"強制特攻"させられる……!

 

 《これまた……"お師さん"らしからぬ戦い方だな……》

 「データ……」

 《あぁ、わかってる。もう"あれ"は、"お師さん"とブラックの"モドキ"でも何でもねぇ……ただの怪物だ》

 

 プリキュアであれば、こんな非道な戦い方はしない。エグゼイドやパラドクスと戦った時の彼女らは、それでもまだ、堂々とした戦いぶりを見せていた。それなのに、どうしてこんな……

 彼女らの身に、何かが起きたことは間違いないのだけれど―――――

 

 《くそッ……さっきから、"イヤな予感"が収まらねぇ……!こうまで『アタシの予感が外れてくれ』って思ったこたぁねぇ……!!》

 

 データは、見るほどに辛そうな表情で、戦いの様子を見つめている。その先で、ふたりのネガキュアバグスターが投げつけてくる、飛び道具と化した戦闘員バグスターを、ふたりのライダーは斬り捨て、撃ち落とし、あるいは咄嗟にかわして捌いていた。『外れた』戦闘員バグスターは周辺のビルや電柱に突っ込んで爆散するわけだし、どちらにせよ彼らには哀れな最期が待っている―――――

 敵とはいえ、不憫すぎる。

 やがて埒が明かないと考えたのか、それとも本能的にか、ネガキュアバグスターは数十体もの戦闘員バグスターを強引にひとまとめにして、直径5mほどの巨大なボール状に"成形"すると、それをふたりがかりで高々と持ち上げた。アレを投げつける気か……!?

 

 『チッ……おいブレイブ!』

 『いいだろう……オペを長引かせるつもりは無い!』

 

 ふたりのライダーは互いに頷き合い、それぞれのゲーマドライバーからガシャットを引き抜き、ガシャコンウェポンのスロットへと差し込み、トリガーを引く。

 

 《《GASHAT(ガシャット)!KIMEWAZA(キメワザ)!!》》

 

TADDLE BANG!BANG!

――――――――――――――――――――――――

CRITICAL FINISH!

 

 ブレイブとスナイプの複眼が一際輝くとともに、ブレイブが諸手持ちのソードを大上段から振り下ろした。同時に刀身から火炎と冷気が混ざりあった、弓形の大きな斬撃波動が放たれ、アスファルトを削り砕きながら驀進する。その横で、スナイプが両手で構えるライフルモードのマグナムの銃口から、稲妻をまとった光の奔流が噴き出した。

 それを見てか、対するネガキュアバグスターも、戦闘員バグスターのカタマリを力任せにぶん投げる。そして―――――

 

 ―――――!!!!!!!!―――――

 

 空中で閃光が迸り、轟音が響き渡る。拡散した衝撃波が周囲の道路にヒビを入れ、電柱をへし折り、信号機や乗り捨てられた車を破壊し、ビルのガラスを分別無く割り砕く。

 その時、データが何事かを叫んでいた。でも僕は、『"データが叫んでいた"ということしかわからなかった』。―――――後々聞いたけど、『そこは危ないから逃げろ』といった言葉を叫んでいたらしい。

 データの言葉は、その時の僕には、一言一句たりとも、耳に入っていなかった。

 ただ、光と爆炎が、降り注ぐ無数のガラス片に反射して、ダイヤモンドダストの如く輝く中で繰り広げられる『力と力の鍔迫り合い』という非現実的な光景に―――――

 僕は、洗練された一枚の絵画を見たかのような、『常軌を逸した感動』を―――――確かに脳裏に刻みつけていた―――――

 しかし、『激突』は一瞬だった。重なり合ったふたりのライダーの必殺技が瞬時に戦闘員バグスターの『巨大肉弾』を貫通して爆砕せしめると、その先のふたりのネガキュアバグスターに命中して、爆炎を噴き上げた。

 ――――――――――時が動き出した。

 

 「…………………………終わった………………のか……!?」

 《バッ!?おま―――――》

 

 思わず呟くと、データがポケットの中で暴れる。迂闊なことを言ったのか、僕は……??

 ふと、視線がふたりのライダーに向いた。すると―――――

 

 『手応えはあったが……!』

 

 ブレイブの複眼が、驚いたように見開かれていた。

 彼の視線の先には―――――

 拡散した無数の粒子が再度集結して、2つの人の型を形成したかと思うと、またしても『あの』姿に復元する様があった。

 

 『エグゼイドの言ったとおり……"一時期のゲンム*14"みてぇな復活能力(しぶとさ)だな。どうする、一旦出直すか?』

 『いや、オペを続行する。『あれ』がバグスターである以上、切除できない道理は―――――』

 

 

 

 

 《『あれ』が―――――"バグスター"ならな………………》

 

 震える声が、ポケットの中から漏れ出てきた。

 それを聞いて、僕はコミューンを手に取った。そこには―――――

 

 《もう『あれ』は――――――――――》

 

 胸のイーネドライブを赤々と輝かせ、表情を青くしたデータがいた―――――

 

 

"BE ON GUARD!!! BUGUCCHER REALIZE!!!"

 

 

バ グ ス タ ー じ ゃ ね ぇ

 

 

 ブラックの全身からは紅蓮の炎が巻き起こり、そしてホワイトの全身が、逆に漆黒の闇へと染められていく―――――

 炎の中から、そして闇の中から、ふたりのネガキュアバグスター―――――

 否、バグスター『だったモノ』が、人間の自由のために戦う仮面の戦士を睨み刺す―――――

 

 

ケダカク……トウトク……ウルワシク……!!!

 

オチテ、ナイ……!ケイサン、ドオリ…………!!

 

 

 予防対策も、免疫抗体も、治療法も―――――

 バグスターウイルスに対する、その悉くが通用しない未知の存在―――――

 

 ドクターライダーたちにとっての『最悪の病原体』が、その牙を剥いた瞬間だった―――――

 

 SAVE POINT……

*1
鏡飛彩がゲーマドライバーとライダーガシャットを使って変身する仮面ライダー。今回変身したのは、基本形態と云える『クエストゲーマーレベル2』。モチーフジャンルは『ロールプレイングゲーム(RPG)』で、ゲーム『タドルクエスト』の主人公キャラクターがモデルになっており、その姿は甲冑を纏った中世の騎士を彷彿とさせる。エグゼイドと比較してパワーと防御力に優れており、専用剣・ガシャコンソードを用いた接近戦を得意とする。ロールプレイングゲームのように、的確な判断から敵の打つ手を思考し、会心の一撃を叩き込む『勇敢なる騎士』。ライダーガシャットを用いての『レベルアップ』では、戦闘能力もさることながら多彩な『魔法』を発動させての支援・援護を行うことも可能となり、様々な戦況において優れた能力を発揮できる万能の戦士である。

*2
花家大我がゲーマドライバーとライダーガシャットを使って変身する仮面ライダー。今回変身したのは、基本形態と云える『シューティングゲーマーレベル2』。モチーフジャンルは『FPSガンシューティングゲーム』で、ゲーム『バンバンシューティング』の主人公がモデルになっており、闇夜に潜む狙撃手を思わせる容姿をしている。専用銃・ガシャコンマグナムを用いた高速精密射撃を得意とする、ブレイブとは真逆の戦闘スタイルを持つ。ガンシューティングゲームのように、迫り来る敵を正確無比な射撃を以て、確実に射抜いて封殺する『乱射必中の狙撃者』。ライダーガシャットを用いての『レベルアップ』では、空中からの強襲射撃能力や、重火器を多数装備しての制圧砲撃能力を獲得し、中~遠距離における射撃・砲撃戦闘において、さらにその火力に磨きをかける。

*3
平成ライダーシリーズ20作目にして最終作。『タイムトラベル』を主題に、『クウガ』から『ビルド』までの過去19作品の平成ライダーとのクロスオーバーを展開、過去作の主役をはじめ、オリジナルキャストも多数ゲスト出演した。平成ライダーシリーズを、そして『平成』という一時代そのものを締めくくる、まさしく総決算に相応しい一大娯楽作品となった。劇場版では、仮面ライダーのパロディである『仮面ノリダー』から『木梨猛』がサプライズ登場、古参ファンの度肝を抜き話題となった。

*4
『ハートキャッチプリキュア』と戦った悪の組織。こころの大樹を枯らし、地球を砂漠化することを最終目的としていた。首魁・デューンは宇宙人であり(小説版で判明)、それ以外の幹部クラスは全員が洗脳された地球人であった。組織のオリジンやデューンの動機等、多くの謎が明かされないまま壊滅したが、小説版においてデューンの過去なども含めて詳細に綴られているため、ハトプリファンは必読。

*5
砂漠の使徒の下級戦闘員。記念すべきプリキュアシリーズ初の『戦闘員』、いわゆる『ザコキャラ』である。様々な体格や背格好の者が存在するが、全員が暗灰色の全身タイツのような服を着た人間の姿をしている。服の中には砂がギッシリと詰まっていて、実体は『動く砂人形』にすぎない。攻撃を受けたことで服が破損して中身の砂が溢れてきたところ、白衣を着た衛生兵らしき個体がやってきてテープや包帯で穴を塞いで修繕する、コミカルな場面も見られた。さらに戦闘能力が高く、体格も態度もデカい上級戦闘員『ボスナッキー』も少数ながら存在している。

*6
『ハピネスチャージプリキュア』と戦った悪の帝國。"世界を最悪の形に変えて、全人類を不幸にする"ことを目的に全世界に宣戦布告、女王・クイーンミラージュの命により、世界各地に怪物・サイアークを放ち、全世界を混乱の坩堝に叩き込む。日本の首相官邸を襲撃するなど、現実のテロリストさながらの蛮行も働いているためか、それまでのシリーズの悪の組織と異なり、世界的にその存在が明確に認知されている。世界各地のプリキュア達が幻影帝國に対抗するための戦いを開始、『全世界のプリキュアVS幻影帝國』―――――『プリキュア世界大戦』と云っても過言ではない、プリキュア史上最大規模の戦いが展開された。

*7
幻影帝國の下級戦闘員。全身黒タイツに白い手袋とブーツ、赤いサングラスをかけた姿をしている。スナッキー同様に、体格には個体差がある。基本的には徒手空拳で戦うが、手から電撃を放射する能力を持つほか、一般人にも躊躇なく襲い掛かるなど、危険度はスナッキー以上。とはいえ実は戦闘力はプリキュア戦闘員の中では最弱クラスで、(武道の心得があったとはいえ)普通の中学生に倒された個体が存在するほど。倒されると跡形もなく消滅することから、少なくとも人間ではないと思われる。他、ダンスや歌など、癒し効果のある技をプリキュアが発動すると、なんとプリキュアといっしょに踊り出し(時にはどこからともなく楽器まで取り出す始末)、最後は大勢が一斉に真っ白になって浄化昇天してしまうなど、スナッキーに勝るとも劣らないコミカルな面も持つ。

*8
『スター☆トゥインクルプリキュア』と戦った悪の組織。理不尽な理由で母星を追われ難民となった異星人たちが、首領・ダークネストと最高幹部・ガルオウガの元で結成した大規模な星間暴力機構であり、自分達を日陰者へと追いやった、宇宙や惑星に蔓延る固定観念―――――すなわち『宇宙社会』そのものへ復讐し、自分達が宇宙の支配者へと成り代わるべく、全宇宙に侵略行動を行っている。宇宙征服の鍵となる『プリンセススターカラーペン』と宇宙妖精・フワの奪取を目論み、フワを(かくま)い、プリンセススターカラーペンの収集を開始したプリキュアたち、そして彼女達の住む地球へと侵略の魔手を伸ばす。惑星間移動や星系・銀河規模での侵略行為など、幻影帝國を優に上回る、プリキュア史上最大規模(2019年現在)の悪の組織である。しかし終盤で『衝撃の真実』が発覚すると、一転『組織ごとプリキュアと共闘する』という前代未聞の経緯を辿った。

*9
ノットレイダーの下級戦闘員。幹部・アイワーンが開発した強化スーツを装着した異星人たち。ブーツに内蔵された小型ロケットマズルで、宇宙空間を自在に巡航する機動力を持つ。レーザーガンで武装し、徒党を組んでプリキュアたちに襲い掛かる。終盤ではマスクを外した姿も披露した上、とある事情により、史上初めて『プリキュアと共闘した戦闘員』という栄誉ある称号も授かった。また、地球人や異星人にスーツを強引に着せ、ネガティブな感情を増幅することで巨大化させて強化した『巨大ノットレイ』も存在。こちらはいわゆる『今週の怪人』である。

*10
仮面ライダーブレイブが使用する専用武器。タドルクエストガシャットに登録されたガシャコンウェポンで、ゲームフィールド内のアイテム『伝説の剣』が変化して生成された。高熱火炎属性の『炎剣モード』と、極冷凍結属性の『氷剣モード』を切り替えて使用する。また、ライダーガシャットを装填しての必殺技発動も可能。初期フォームから最終フォームまで徹頭徹尾、ブレイブの愛刀として数多くの敵を斬り伏せた。変身前の飛彩も振るったことがあるほか、エグゼイドやゲンムがブレイブから強奪する形で使用したこともある。

*11
仮面ライダースナイプが使用する専用武器。バンバンシューティングガシャットに登録されたガシャコンウェポンで、連射性能に特化した『ハンドガンモード』と、射程と威力に特化した『ライフルモード』を切り替えて使用できる。他のガシャコンウェポン同様、ライダーガシャットを装填し、必殺技を発動することも出来る。変身前の大我も使用し、バグスター戦闘員と戦ったほか、ライドプレイヤーニコがスナイプから借り、バグスターを倒したこともある。

*12
仮面ライダースナイプの右肩から背面にかけて装備されているシールドマント。一見普通のマントだが、表面は電磁コーティングが施された無数のセルパーツによるハニカム構造であり、これにより『軽さ』と『強靭さ』の両立を実現せしめている。帯電状態のマントは攻撃に転用することも可能で、スナイプの接近戦を補う役目を担う。

*13
2016年にシーズン1が、翌年2017年にシーズン2が制作された仮面ライダーシリーズの一作。シリーズ史上初のネット配信限定作品である。昭和ライダーの『仮面ライダーアマゾン』を原典としているが、モチーフのみ引用したリブート作品である。過激で情け容赦の無い、猟奇的かつ残虐な表現が徹頭徹尾なされており、お茶の間のよい子に見せようものなら大号泣、間違いなくトラウマになる代物。心臓の弱い方も要注意。しかしながら、『子供向け』という、ある意味『仮面ライダーシリーズ』を縛る最大の鎖を自ら引き裂き、喰い千切った本作は、『龍騎』や『電王』などを担当した小林靖子氏によるハードなストーリーと、平成ライダーシリーズで培われ、さらに昇華された超絶アクションにより、コアなライダーファンから高い評価を得た。後にシーズン1の再編集版が深夜にテレビ放送され、これにより『仮面ライダー史上初めて深夜帯に放送された作品』ともなった。なおシーズン2は残虐表現がこれでもかとばかりにパワーアップ。制作スタッフも最初からテレビ放送不可能な内容で制作することを明言、実際テレビ放送版は制作されていない。ちなみに『平成ライダーシリーズ』に本作はカテゴライズされておらず、同じく昭和ライダーのリブート作品である『仮面ライダー THE FIRST』共々、『平成の時代に生まれた昭和ライダー』とされている模様。

*14
仮面ライダーゲンム・ゾンビゲーマーレベルXのこと。檀黎斗がバグルドライバーとデンジャラスゾンビガシャットを使用して変身する強化形態である。その名の通り、モチーフは『ゾンビパニックゲーム』で、そのプレイヤーキャラをモデルとしている。『どんな強力な攻撃で倒されても即座に復活する』特性を持つ、絶対に倒されない『幻の悪夢の如く何度でも蘇る幽鬼』。厳密には、ライダーゲージが0になった際の『死の状態』を再現・維持することで『死にっぱなし』の状態となっている。一時期の黎斗はこのゾンビゲーマーの力を以って、最初の生贄とばかりに、自身の身辺を嗅ぎ回っていた貴利矢を惨殺、CRのドクターたちの強大な敵として立ち塞がった。




 レジェンドインストール図鑑

 ビートスタイル
 属性:音

 戦力分析 力:4 技:3 速:3 防: 知:2 特:3

 『スイートプリキュア』のメンバー、『キュアビート』のキュアチップを、ネットコミューンにセットしてレジェンドインストールした、『インストール@プリキュア』の音魂戦闘形態。
 同じ『音』を使うリズムスタイルと比較した場合、『音』を『衝撃波』とみなして制御する能力に比重を置いており、『音』の持つ『破壊力』をダイレクトに引き出して攻撃することが可能となっている。
 頭髪の一部分は『クレフカールホーン』という一種のセンサーで、周囲の物体の持つ『固有振動数』を瞬時に解析する能力を持つ。これを利用して、標的の固有振動数に合致した『音』を繰り出すことで、確実に標的を破砕する。
 特殊なフィールド内に圧縮した『音』を放って、自在に制御・展開することで、直接攻撃はもちろん、相手を拘束する五線譜状のベルトとすることも可能。
 通常時は『クレフカールホーン』を使って音を繰り出すが、専用ツールである『ラブギターロッド』を用いることで、より効率的に『音』の制御を行える。
 これを用いて放つ『プリキュア・ハートフルビートロック』は、原理こそリズムスタイルの『ミュージックロンド』と同様であるが、『音の収斂能力』に秀で、標的の固有振動数に応じた音を繰り出せるビートの放つそれは、より大きな威力を発揮する。
 さらに、ラブギターロッド自体を標的に突き刺し、音=衝撃波を直接送り込んで相手を粉砕する芸当も可能であるが、あくまでイレギュラーな使用方法であり、推奨はされていない。

 ――――――――――

 燃え上がる炎、白を覆い尽くす闇……
 これは最早、バグスターでもプリキュアでもないバケモノ……!!
 次回、インプリ史上最強の敵が、ブレイブとスナイプに襲い掛かります!
 そして、ほくとくんは―――――

 あ、注釈が多い上に長ったらしくてスミマセン……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ワクワクもんのSHOW TIME!

 用語解説

 メモリアビジョン

 キュアメモリアとキュアメモリアルが使用する、『画像操作』のアプリティによる虚像投影能力。
 主に自分の虚像を投影して相手を攪乱するのが主な用途だが、自分のみならず、メモリアの覚えている人物・物体であればなんでも虚像として投影できるほか、リアライズスタイルになればりんくの記憶も参照して虚像を作り出すこともできるようになるため、応用が利く。
 また、投影した虚像を自在に操作することもできるが、あくまでもホログラフィであるため、実体はなく、当然ながら攻撃力もない。
 なお、一度に生成できる虚像の最大数はキュアメモリアは10体、キュアメモリアルは20体、最大出力時で30体である。

 ――――――――――

 スタプリ最終決戦、終了しましたね……
 宇宙創世神話にまで話が及んだことに、想像以上のスケールの大きさにキラやばさを感じて戦慄した稚拙です。
 公式様が初めて『PRECURE』という単語での『言葉遊び』をなされたことに『おっ!』と思いまして……この言葉をインプリ内でバクロニム『P.R.E.C.U.R.E.』にした稚拙としては小さな喜びですね。

 さて、今回は『本格暴走モード』に突入したネガキュアバグスター……否、『別のナニカ』VSブレイブ&スナイプの対決を送信!


 ……NOW LOADING

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 空気が変わった―――――

 辺りの空気が震えているのが、僕でもわかる。

 豹変したふたりのネガキュアバグスター―――――

 否―――――彼女達は……。

 

 《もう『あれ』は……バグスターじゃねぇ―――――『バグッチャー』だ……!》

 「でも、どうして!?」

 《『潜伏期間』が終わったのかもな……》

 「潜伏期間……!?」

 《病気のウイルスってのは、カラダに入ってすぐに病気を引き起こす訳じゃねぇ……何日か、もっと長いと何週間か経ってから、病気の症状を出すんだよ。忘れたか?バグッチャーは元々キュアネットで造られてリアルワールドに出てくる……それまでの時間を『潜伏期間』って考えりゃあ合点がいく……》

 「バグスターの中に……バグッチャーが潜んでたってコト……!?」

 《様子がおかしかったのもそのせいらしいな……ここからはヤバいかもしれねぇ……》

 

 データの呟きに、僕は思わずブレイブとスナイプを見やった。すると―――――

 ふたりとも、バグスターが変じた『バグッチャー』を見たそのまま、瞠目していた。複眼が、明らかに驚きのそれに変わっている。

 

 『バグスターの反応が……"消えた"……だと……!?』

 『どういう事だ……目の前に"いる"のに"いない"とは……!ならば『これ』は―――――』

 

 ―――――"消えた"……"いる"のに"いない"……

 そうか、ドクターライダーたちのシステムは、『バグスターウイルス』を検知することはできても、『バグッチャー』を検知することは出来ないんだ……!

 今のブレイブとスナイプには、バグッチャーを追うことは―――――

 

 『モエヨ』

 

 誰も気づかなかった。

 全身に焔を纏った"ブラック"が、ブレイブの懐に入っていたコトに。

 

 『!?―――――』

 

 ミドルキックが鳩尾に入り、ワイヤーアクションのように一直線にブレイブが吹っ飛ぶ。それを見て駆け出した"ブラック"は全身の焔を更に燃え上がらせ、遂にはヒトの形状をかなぐり捨てて"火の鳥"へと変貌し、翼をはためかせてブレイブへと突撃した。

 

 『ホノオノ……ツバサ!!』

 『く……何も解らずに焼却されるのは―――――』

 

 すぐさま体勢を立て直したブレイブは、真っ向から向かってくる火の鳥を、大上段からの振り下ろしで迎え撃った。

 

 『ノーサンキューだッッ!!』

 

 火の鳥は中心から両断され、ブレイブの左右を命中することなく通過した。

 しかし、死に体と思われた火の鳥はもがれた半身を瞬時に再生すると、二羽の火の鳥となって、ブレイブにまとわりつくように旋回し始めた。

 

 『何ッ!?うおあぁぁッッ!?』

 

 ブレイブの全身が炎に包まれる。抵抗してソードを振るも、空を斬るばかりだ。

 

 『ブレイブ!』

 『構うな、もう一方だ!!』

 『チッ、指図すんな!!』

 

 スナイプは毒づきながらも、残ったもう片方―――――"ホワイト"目掛けて発砲する。

 

 『フフフ……♪』

 

 もはやその名とは真反対の漆黒にその身を染めた"ホワイト"の、仮面に覆われていない口角が上がったと思うと、全身が黒い霧のように変化して、バラバラになった。エネルギー弾はそのまま、何もなくなった空間を通過していく。

 見ると、無数のコウモリの群れが辺りに羽ばたいていた。

 

 『……ッ!?』

 

 驚くスナイプを尻目に、そのコウモリの群れが集まって、再度"ホワイト"の姿を形作る。

 

 『アタラナイノヨネ♪』

 『な……!?』

 

 "ホワイト"はスナイプの、すぐ背後に立っていた。

 スナイプは反射的に、振り向きざまに銃爪(ひきがね)を引く。しかしまたしても"ホワイト"は分散して無数のコウモリに姿を変え、再集結する。

 スナイプはその度にマグナムを撃ち放つも、まるですべてを見切っているかのように、"ホワイト"は分散と集結、再構成を繰り返す。

 

 『ゼンブ……ムダ、ナノヨネ』

 『!?』

 

 気が付くと、スナイプの周囲に、『4人』の"ホワイト"が立っていた……!?

 

 『『『『"キュアップ・ラパパ"』』』』

 

 小さく呪文を唱えた瞬間、4人の"ホワイト"がかざした両掌から、それぞれ白・赤・青・黄色の光線が、中心点に位置するスナイプ目掛けて放たれた。

 

 『ぐぁぁぁぁぁぁぁーーーッッッ!!!』

 

 スナイプの絶叫が、僕の背筋に悪寒を(はし)らせる。

 

 《この攻撃……間違いねぇ……!キュアスカーレットとキュアマジカルだ……!》

 「え……!?」

 《『プリンセスプリキュア』のひとり、"焔姫(ほむらひめ)のスカーレット"と、『魔法つかいプリキュア』のサブリーダー、"真宝(まほう)のマジカル"……何がどうなってあんなバケモンなんかに……!》

 

 僕には―――――やはりサッパリだ。

 ただ―――――

 この状況、『黙って見ていろ』と言われていたとて―――――

 もう傍観者の時間は、終わりだということは、わかる―――――!

 いや、そう考える前に、僕は歯を噛みしめて、一歩を踏み出していた。

 

 《おい》

 

 ポケットの中が振るえた。

 

 「悪いけど、約束破る」

 《誰が止めるっつったよ》

 「え?」

 

 ここに来る前、データは『絶対に割って入るな』と釘を刺していた。その禁を破ることになるのだけれど……

 

 「いいの……?その……」

 《別にダブルスタンダードったワケじゃねぇよ。アタシが言ったのはあくまであのバグスターが『タダのバグスター』だったら、って話だ。『バグスターを退治してゲーム病を治す』ってコトに、アタシらは手出しも口出しもする権利は無ぇ。やり方をよく知ってる医者(プロ)に任せるンがスジだ……》

 

 データは、ポケットからネットコミューンを這い出させて、ライダーたちを圧倒するバグッチャーを見た。

 

 《でも、ありゃもうバグスターじゃねぇ、バグッチャーだ……。ライダーのセンセー方の管轄外になる……逆に、だ。アタシ達ゃ『インストール@プリキュア』……バグッチャー退治の―――――》

 

 僕を見上げて、ニヤリと笑うデータを見ると、僕も思わず笑顔になった。

 

 「《専門家!》」

 

 もっとも、まだまだウルトラマンには肩を並べられないけど。

 

 《つーワケだ……行こうぜ、ほくと!一人前には程遠いが、サイドキック*1程度にゃ暴れてやろうぜ!》

 「うん!……あ、でも、ピースが……」

 

 いざ、という時に、気にかかった。そういえは、キュアピースが気を失ったまま、コミューンの中にいたのではなかろうか。

 

 《こんなコトもあろうかと、CRを出てくる時、タブに『送っといた』ぜ。ついでにタブの"センパイ方"に、『何があっても電源入れんなよ、絶対入れんなよ!絶対だぞ!!』……って伝えといたさ》

 「……マリンが()()だと勘違いしなければいいけど……」

 《もっとも、『"最高級"のセキュリティ』でガードしてるから、流石の神サンでも突破はできねぇだろうけどよ》

 「セキュリティ……?」

 《…………『誇りあるプリキュアオタク・東堂りんく完全監修プリキュアカルトクイズ』……!》

 「…………………………………………え?」

 

 一瞬、言葉を失った。さらにデータは語る。

 

 《ノルマは連続正解100問、1問でも間違えたら最初からやり直しの超鬼畜仕様……プリキュア『本人』たちがチャレンジしたが誰も100問正解できなかったらしい……本人たちすら知らねぇ事もクイズ化するって、アイツどこまで腐ってんだか…………》

 「あ、あはは…………」

 

 なんだか聞いたことある話だと思ったら、『仮面ライダーゼロワン*2』で、或人社長が工房の電子ロックに爆笑ギャグを設定していたのと同じじゃないか。そう思ったら、自然と吹き出してしまった。

 

 《話が逸れちまったが……リラックスできたろ?大丈夫だ、なんも心配はいらねぇ!思いっきりトバしてこうぜ!!》

 「ああ!」

 

 ポケットから背中を押されて、僕は大通りへと繰り出した。

 紅蓮の炎に焼かれるブレイブと、四方から光線を浴びせかけられるスナイプ―――――

 ライダーたちが窮地に立たされているその光景に背筋を(ふる)わせながらも、僕は叫んだ。

 

 「…………やめろっっ!!」

 

 空気の流れが、止まった。"ブラック"がブレイブへの攻撃を止めて元の姿に戻り、"ホワイト"も一体になってスナイプへの光線照射を中断して、こちらを見てきた。

 とりあえず、ブレイブとスナイプへの攻撃を止めさせて、こちらに注意を引き付けることには成功したらしい。

 

 『お前……!"東堂りんくの付き添い"か!?』

 『邪魔だ!素人がしゃしゃり出てくるな!』

 

 やっぱり―――――怒鳴られた。少しだけ心がずきりと鳴る。気圧されそうになるけれど、僕はぐっとこらえて。

 

 「僕も……戦います!」

 『寝言は寝て言え!ただのガキに何が出来る!?』

 《いやぁ、それがただのガキじゃねぇんだよな、コイツ♪》

 

 僕はポケットの中からコミューンを取り出した。画面の上に、立体映像のデータが立った。

 

 《アタシが認めた、世界一のニンゲンだかんな♪そこんとこヨロシクな、大我センセ♪》

 『……な……!?』

 

 スナイプの複眼が見開かれるのが見えた。ドラマの着ぐるみ(スーツ)と違って、表情をころころ変えるその瞳から、大我先生の驚愕が見て取れる。

 そして、その奥に立つブレイブもまた、別の驚きを感じていたようで―――――

 

 『東堂りんくと同じ携帯電話だと……!?』

 《お、流石は天才外科医の飛彩センセー、いいトコに目ェつけんじゃねーか♪ま、あからさまに"女々しい"見てくれだから、家族にすらハズくて見せらんねぇ、住めば都のアタシの()()……コイツを持ってるほくともりんくも、ごくフツーの中学生ってぇのは世を忍ぶ仮の姿……しかしてその正体は……!》

 

 なんだか少しムズがゆく思いつつ、僕は変身用キュアチップをコミューンにセットした。

 

 《START UP! MATRIX INSTALL!!》

 

 水色の光が辺りにあふれる。ちら、とブレイブとスナイプを見やってから、僕は叫ぶ。

 

プリキュア!マトリクス!インストールッッ!!

 

CURE-DATA! INSTALL TO HOKUTO!!

 

 光の空間の中で、データとぶつけ合わせる右の拳にも、気合いが入る。そしてそれは、データも同じだったようで。

 ―――――やっぱ、そうだよな。

 

 『本物の仮面ライダー』と一緒に、戦えるんだからさ!!

 

 《CURE-DATEAR! INSTALL COMPLETE!!》

 

 

渾  然  一  体

 

涙  祓  一  心

 

 

キ ュ ア デ ー テ ィ ア ! !

 

 

 心なしか―――――

 いや、明らかに。

 構え(ポーズ)と名乗りに、一層の力が入る。

 

 『『!!!プリキュアァァァァァ!!!!!』』

 

 僕の変身を目にした瞬間、バグッチャーは悍ましい叫び声を上げ、まずは全身漆黒の"ホワイト"が突っ込んできた。僕は一撃目の右の正拳をいなして、左足を軸に右の上段回し蹴りを相手の側頭部に放った。僕の予想が正しいなら―――――

 

 ―――――!!

 

 "ホワイト"の口角が上がる。

 命中はしたが、がっちりと左腕で受け止めている―――――()()()()に。

 ―――――やっぱり、まともに喰らっちゃくれないよな。

 今まで戦ってきてひとつだけ、バグッチャーに関して確信できたことがある。それが、"これ"だ。

 『首より上』―――――即ち、『頭部』への攻撃は、100%確実に阻止される。『顔』を含めた頭に攻撃を喰らうことを、バグッチャーは頑なに拒むんだ。

 その理由は―――――この間、東堂さんが教えてくれた。

 

 ―――――ほくとくん!プリキュアたるもの、絶対に顔や頭に攻撃を受けちゃダメ!顔は女の子の命なんだから!小さな子供たちもどこで見てるかわからないからね。ボロボロの傷だらけの顔なんて、子供たちに見せちゃダメ!絶対にガードして防ぐこと!いい?

 

 聞くところによると、プリキュアのアニメも、顔には絶対に攻撃がまともに当たらないようになっていて、顔への攻撃は必ず防御するように作っているらしい。

 

 ―――――さすがにそれはアニメの中だけじゃないか―――――?

 

 やるかやられるか、ドコをどう攻撃されても文句は言えない実戦でそんなコトがあるワケが無い―――――

 当時まったく信じられなかった僕は、僕のコミューンに通って半ば居候状態だったキュアピースをはじめ、プリキュアたちに片っ端から聞いてみた。『顔に攻撃をまともに喰らったことがある?』と。

 ―――――驚きのリサーチ結果が出た。

 

 "本物の"プリキュアの、頭部および顔面への攻撃成功率――――――――――0%。

 

 少なくとも、僕たちが救出した13人のプリキュアたちは、顔面にクリーンヒットを受けたことがなかった。受けそうになったけどうまく防いだり、かわしたり、助けが来たりして、命中は免れたという。つまり、アニメの中の描写は紛れもない事実であり、未だかつて、『プリキュアの顔』にまともに攻撃を命中させた者は、本当に存在しないということ。

 

 ―――――"伝説の戦士の顔"は、『聖域』。

 

 ……つまり、だ。

 たとえバグッチャーに堕とされようと、プリキュアたちは、その志を捨ててはいない。

 『顔だけは絶対死守する』という、プリキュアとしての矜持を守り続けているんだ。

 ―――――目の前の、化け物と紙一重の存在とて……。

 

 『……安心、したよ』

 

 ―――――顔は鉄壁、さりとて"そこ"以外の僅かな『隙』にさ!

 

 瞬間、僕は右足を引く勢いのまま、反対の左足で相手の脇腹を薙いだ。衝撃と清々しい打撃音が、僕の神経を稲妻のように伝播する。

 ……、この感覚だよ。

 

 

 

 ―――――(ハイ)った

 

 

 

 吹っ飛んで(くずお)れた"ホワイト"の姿を見て、今一度驚くライダーたちの"表情"が目に入る。

 

 『効いた、だと……!?』

 『何がどうなってやがる……!?』

 

 僕はすぐさま間合いを離し、ブレイブとスナイプに並び立った。

 

 『飛彩先生、大我先生、今の内に態勢を立て直して下さい!』

 『お前女だったのか!?』

 『う゛……ッ』

 

 いずれツッコまれるコトは覚悟してたけど、まさか開口一番の第一声とは……さすがは仮面ライダースナイプ、言葉の弾丸も痛い……

 

 『"付き添い"……いや、"中学生"……。お前のその姿とその力は、一体……!?』

 

 飛彩先生にこう呼ばれると、僕もCRの一員になったような嬉しさを感じる。たぶん、この時の僕は無意識にニヤニヤしていたかもしれない。

 い、いや、ニヤけてる場合じゃない。僕はだらしのない表情を叩き直して。

 

 『事情は後でお話しします……!あれはもう、先生たちの知るバグスターじゃありません……!』

 『ヤキツクス……!ヴァァァァァァア!!!!』

 

 余計なことは言わせないとばかりに、"ブラック"がその口から連続で火炎弾を放った。

 

 『おい、プリキュアは口から火を吹く大道芸集団なのか?』

 《あんなインドのヨガ使い*3みてぇなプリキュアがいてたまッかぁ!?》

 

 もっとも東堂さんによると、『目からビームを撃ち、胸から熱線を放射したプリキュア』がいるらしい。思わず僕は苦笑いしていた。

 着弾し、火柱を噴き上げる火炎弾を散ってかわすと、スナイプが反撃とばかりに連射する―――――が。

 命中しても、『HIT!』どころか『MISS!』の表示も出ない。"ブラック"も、怯むどころか全く意に介していない。

 

 『手応えが無ぇ……効いてんのか……?』

 『炎が相手ならば……冷気で散らす!』

 《KO・CHIIIINNNNN(コ・チィィィィン)!!》

 

 ブレイブがAボタンを操作すると、ガシャコンソードの刀身に、氷色の冷気が巻き起こる。火炎弾を真正面から1発、2発、3発と斬り散らし、猛然と"ブラック"へと肉薄して連続で太刀を浴びせる。

 しかし、この怒涛の斬撃をまともに受けてなお、"ブラック"はけろりとしている―――――!?

 

 『なに……ッ?!』

 『ユメナド……アワレナモノガシンジル…………マボロシ!』

 

 "ブラック"の両手が炎に包まれ大きくなり、さながら"炎の鉤爪"と化すのを見て、僕は駆け出し、横っ腹目掛けて蹴り込んだ。

 

 『……おまえは何を言っているんだ』

 

 そのとき、僕は思わず笑っていた。

 

 『今この瞬間……"『夢』と一緒に戦ってる"僕に、"哀れ"だなんて失礼だなぁ』

 《そーそー、哀れなのは小次郎サン*4で間に合ってんだよ!》

 

 一足飛びに間合いを詰めて、連続で拳と蹴りを叩き込む。相手は防御を固めるけど、勢いでこじ開ける!

 

 《イイぜ、効いてる!一気に押し込め!》

 『ああ!』

 

 氣を溜め込む―――――するとその意志に呼応して、イーネルギーが集束する。

 

 右の拳を握り、

 

 力を込め、

 

 踏み込み、

 

 

 捻じ込む様に―――――!!

 

 

―――――空現流砲戦術―――――

―――――参式荒咬発破(サンシキアラガミハッパ)―――――

 

(コウ) () (ホウ)

 

 

 ボディブロー気味に繰り出した拳、そのすぐ先で氣―――――まだ氣を練って発現できない僕は、イーネルギーで代用せざるを得ない段階だけど―――――を炸裂させて、その衝撃で標的を吹き飛ばす『氣を用いた"(とお)し"*5』―――――

 直撃は言わずもがな、如何に全身を炎と化して実体を無くそうとも、空気中を伝わる衝撃波が炎を散らす。

 この間合いなら、どう化けようが―――――当たる!

 狙い通り、"ブラック"は"そのまま"、上体を仰け反らせて宙に舞い上がり、背中から地面に落ちた。

 拳を引いて残心を構えると、手首の部分、右手のグローブの裾の銀色の"放出口"から、熱を帯びた真っ白な煙が上下に噴いた。

 

 《ワンインチ*6たぁ恐れ入った》

 『寸勁(すんけい)じゃなくて浸透勁(しんとうけい)*7だよ。ワザと『外側』に打って、衝撃波にしただけさ』

 《……コレをイーネルギー無しで出来るお前のじーさんやオヤジさん、プリキュアとガチで殴り合えるんじゃね……?》

 

 ……考えたことが無かった。

 『間合いの外から当たる寸勁』……そんな技がある武術なんて、他には無いよな……

 

 『どういうワケかわからんが……中学生の攻撃だけは効果があるようだな……』

 『ただのパンチがどういう理屈だ……!?』

 

 先生たちは僕の攻撃だけがバグッチャーに効いている様子を、訝しげに窺っている。

 現状―――――僕の……『プリキュアの攻撃』だけが効いている…………。

 ―――――まさか……

 

 そう思った矢先、無数の黒いコウモリが僕に向かって殺到し、まとわりついてくる。思わず振り払うと、コウモリが結集して、独特な髪型の、全身漆黒の少女のカタチになる。口元に笑みを湛えるさまは、僕を嘲笑っているかのようだ。

 

 『やっぱり黙っちゃないか』

 《コイツが起き上がって来る前に"スカーレット"を仕留めたかったトコだがな……》

 『今は出来ることをやるだけだよ……!』

 《待って!》

 

 突然、コミューンから別の誰かの声がした。あわてて手に取ると、画面の中に―――――

 

 『キュアミラクル……!?どうしたの!?』

 《ほくと、お願い……わたしもいっしょに、戦わせてほしいの》

 『……!』

 

 小さな姿に浮かべる切なげな表情から、固い決意が見て取れる。

 確か……キュアミラクルとキュアマジカルは、プリキュアたちの中でも特に強い絆で結ばれた、互いが互いの半身のような存在―――――そう、東堂さんが言っていたのを思い出した。

 

 《今のあの子に、わたしの言葉は届かないってコトはわかるけど……でも、どんな方法でもいいの、わたしのこと……わたしが、『ここにいる』っていうことを、あの子に……リコに、伝えたい……!だから……》

 『わかった』

 

 僕は即断即決、即答した。

 理由は簡単だ。

 

 《ほくと!?……いいの?》

 『うん……言葉にして伝えられないこと……相手が『言葉を聞けない』状況だってこと……僕も同じような経験があるからね』

 

 元々僕も、言葉にするのはどちらかといえば苦手だ。だから、だろうか。僕が武道に打ち込んで、『言葉以外の会話術』へと傾倒してしまったのは―――――

 東堂さんに想いを伝えられないのも、ひとえに僕の『弱さ』に他ならないのかもしれない―――――

 

 『でもそういう時だって……不器用な僕にも、言葉を、"想い"を伝える方法があるんだ。口でも目でも、顔でも語らない―――――』

 

 僕は左手の甲、『キュアットサモナー』に意識を集中する。

 

 『拳で語る』

 

 ピンク色のキュアチップが現れ、それを手にすると、僕はコミューンに迷わずセットした。

 

 『キュアチップ、『キュアミラクル』!』

 《ふたりの奇跡!キュアミラクル!!》

 『ミラクル……キミの想いを伝えるのを、僕が手伝う……僕がキミとキュアマジカルの―――――』

 

 

 

最 後 の 希 望 だ

 

 

   〈KAMEN RIDER NADESHIKO〉 

 ⇒ 〈KAMEN RIDER WIZARD〉

   〈KAMEN RIDER BEAST〉

 

 《LIFE IS SHOW TIME! FROM FINAL HOPE!!》

 

♪SHA BA DO BE TOUCH HENSHIN! SHA BA DO BE TOUCH HENSHIN!♪

シャバドゥビタッチヘンシーン!シャバドゥビタッチヘンシーン!

 

キュアっと―――――変身!

 

FLAME! PLEASE!! HE! HE! HEHEHEEEE!!

フレイム!プリーズ!!ヒー!ヒー!ヒーヒーヒー!!

 

 コミューンから魔法陣が放たれる。仮面ライダーウィザードのモノ―――――とは、見た目が違う。

 五芒星と5つのハートマークを組み合わせた円形の魔法陣。たぶん、『魔法つかいプリキュア』の魔法陣か。

 それが僕の右側から僕の体を通過して、灼熱の魔力が僕の全身を満たしていく―――――

 

 《CURE-MIRACLE! INSTALL TO DATEAR!! INSTALL COMPLETE!!》

 

 

()(セキ)(ライ)(ホウ)

 

キュアデーティア……"ミラクルスタイル"!

" ル ビ ー モ ー ド " ! !

 

 《いきなりルビーのチカラ!?……ってゆーかさっきの歌って何?しゃばどぅび……???》

 《……歌は気にすんな。魔法使いの仮面ライダー……ウィザードの基本フォームは"赤"なんだぜ!》

 

 ミラクルが驚くのも無理ないか。

 東堂さんから、『魔法つかいプリキュア』の『基本フォーム』は『ダイヤモンド』と聞いていたけど、ここは"僕流"で行く。

 データの言う通り、まずは基本の―――――『赤』から、だ。

 なんとなく、童話に出てくる女の子のような姿だ。髪は……大きなツインテールか。相手の目を引くのに使えるかも。

 

 《……こうして近くに来ると、はっきりわかる……"そこ"にいるんだよね……リコ》

 

 心の中、ピンク色の光の球体の中に現れたミラクルが、目の前に立つ"ホワイト"―――――否、"マジカル"を見つめる。

 しかし対する"マジカル"は、肩を揺らしながら、息を弾ませこちらを見ている。その口元が、ゆっくりと開いて―――――

 

 『…………ミ……ラ、イ……………………』

 《……!そうだよ、みらいだよ!リ―――――》

 

 一言だけ発した言葉に、ミラクルの瞳から涙があふれる、でも―――――

 

 『……!!、シロ……クロ……モット、モット!モットマエニィィィィィ!!!!』

 

 不意に頭を抱えて奇怪な叫び声をあげたと思うと、"マジカル"は我慢できないとばかりに躍り掛かった。

 

 『!』

 

 とっさに僕は、飛び退いて回避する。それと同時に心の中のデータが叫ぶ。

 

 《ミラクル!今のコイツとは落ち着いて話せる状況じゃねぇ!》

 『だから……言葉以外のチカラに想いを乗せる!』

 《……うん!ほくと、お願い!リコを……ううん、マジカルとスカーレットを助けて!》

 

 僕は頷いて再度飛び上がって間合いを取り、改めて"マジカル"を見据えた。

 

 『ぶっつけ本番、理屈もわからない僕にどこまでできるか、わからないけど―――――』

 

 

―――――さぁ、ショータイムだ。

 

 

 確か―――――前にミラクルの力を使った東堂さんが、呪文を唱えてたっけ。

 のんや、こども園の子供たちが無邪気に唱えたその呪文を、僕は呟く。

 

 『―――――キュアップ・ラパパ』

 《CONNECT! PLEASE!!》

 ―――コネクト!プリーズ!

 

 僕のすぐ右側に、魔法陣が現れる。迷わず僕は右腕を突っ込んだ。

 中にあった"それ"を手に取り出すと、先端にハートのカタチがあしらわれた杖―――――『リンクルステッキ』が引き出されてきた。

 

 《りんくもそうだったけど……ほくとも魔法使うの初めてだって思えない……》

 《『魔法ヒーロー』に関しちゃ、ほくともりんくもしっかり予習してるからな。もっとも"参考書"が違うから、使い方は全然違うがな》

 《それって、さっきデータが言ってた『仮面ライダー』さんのコト……?》

 《おうよ!……魔法界とは別の、『ナシマホウ界』とも違う世界の"魔法つかい"だぜ?そそられね?》

 《それって、なんだか……ワクワクもんだぁ……!》

 『興味を持ってくれて嬉しいよ。じゃ、早速!』

 

 もう一度、僕は呪文を唱える。

 

 『……キュアップ・ラパパ!』

 《BIND! PLEASE!!》

 ―――バインド!プリーズ!

 

 しっかりと念を込めたステッキを"マジカル"に向けると、"マジカル"の左右と足元に真紅の魔法陣が現れ、その中から鋼鉄の鎖が伸びて、あっという間に"マジカル"の両手両足を拘束した。

 

 ―――――できた!

 

 《すごい!これが仮面ライダーさんの魔法!?》

 『"キミ達の呪文"を使ってるから、真似事に過ぎないけどね』

 《初めてにしちゃやるじゃんか》

 『"魔法"は、『想いを現実にすること』……東堂さんが……メモリアルが、見せてくれてたからね』

 

 とはいえ、歴代のライダーの技の中でも、最も人智を超えた技である、ウィザードの魔法をこの手で再現出来るなんて……

 なんだか僕も、『ワクワク』してきた……!

 

 『ホッヂャァァァァァァァァァァ!!!!』

 

 と、"マジカル"は鎖を自力で引きちぎった。胸の辺りが赤く、煌々と光っているのが見て取れる。

 

 《あちらサンも"赤の姿"に化けたみたいだな》

 《ルビーのチカラは物凄いパワーが出せるの……!ほくと!》

 『それはこちらも同じコト……近づかれる前に、押しつぶす!』

 

 今一度、僕はステッキに念を押す。

 

 『キュアップ……ラパパッッ!』

 《BIG! PLEASE!!》

  ―――ビッグ!プリーズ!

 

 ステッキを左手に持ち替え、目の前に出現した赤い魔法陣に、僕は思いきり右の張り手を打った。すると、魔法陣を通過した僕の腕が直径3メートルほどに巨大化して繰り出される。ドラマでもウィザードがよく使っていた、腕を巨大化させての攻撃―――――

 

 ―――――ガシィッ!!

 

 ―――――を、止められた!?いや、僕の腕の感覚からして、抱え込むように掴まれてる!?

 まずい!……というか、巨大化した僕の腕で視界がふさがれてしまって、相手の様子が見えない!?何がどうなってるんだ……!?

 

 《本気(マジ)か!?》

 《本気(マジ)でぇっ!?》

 『……本気(マジ)だ……!!!!』

 

 次の瞬間、僕はふわりと浮かされたと思うと、思い切り上空へとぶん投げられた。

 

 『《《うわぁぁぁぁ!?》》』

 

 天地がひっくり返って、みるみる地面が遠ざかっていく。視界の中、さっきまで僕達がいたその一点が、赤色に輝いている―――――

 その輝きが、"青"に変わるのが、確かに見えた。

 

 『青に光った……!』

 《……追ってくるよ!気を付けて!》

 《空中戦の"青"に化けたか……!》

 『ならこっちも、"青"で迎え撃つ!』

 《おいほくと!?ウィザードの"青"って―――――》

 

 ―――――それはわかってるさ。

 でも敢えて、僕は"マジカル"と同じチカラで勝負したいんだ。

 そうしなきゃ、はっきり伝わらないじゃないか―――――

 ミラクルの、マジカルへの『想い』が。

 

 ―――――『常に同じ姿』で戦っていた、『もうひとりの自分』への『コトバ』が……!

 

WATER! PLEASE!! SUIII SUIII SUIII SUIIIII♪

ウォーター!プリーズ!!スイ~スイースイースイ~

 

" サ フ ァ イ ア モ ー ド " ! !

 

 確かこの姿は、水中戦だけじゃなく、空中戦にも特化していると聞いている。

 スタイルはウォーターなれど、特性の中にハリケーンも含まれているということか―――――

 

 『イヤダワ』

 『……!!』

 

 空中で受け身を取って体勢を整えた瞬間だった。

 背後から、舐めるような気配が登って来たのは。

 

 『……ハヤク、スリツブサナイト』

 『"水"を簡単に潰せるとは―――――』

 

 僕は素早く振り返りながら、コスチュームの一部分の羽衣を放った。

 

 『思わないことだね!』

 

 しかし―――――

 

 『ファビュラスマックス!!』

 

 紙一重でかわされた。

 まぁ、師匠から"布術(ふじゅつ)"を習い始めたのはちょっと前からだから、いきなり実戦投入したところで付け焼刃になるのは当然だったのだけど。

 

 《その使い方、フツーの発想じゃないかも……かく言うわたしも一度使ったけど……

 《ほくとは『使える』と判断したモンはなんだって使うのさ。キッチンならフォークを投げたりイスで殴ったり……カンフー映画なんか参考になるぜ?》

 『そういうコト。水、即ち変幻自在……こんな使い方も出来るよ!キュアップ、ラパパ!』

 《BIG! PLEASE!!》

 ―――ビッグ!プリーズ!

 

 今度は羽衣を巨大化させつつ、"マジカル"の周囲を包囲するように伸ばして―――――延ばす。さすがは魔法つかいのコスチューム、力を込めればどこまでも伸びる!

 やがて、"マジカル"を中心とした"羽衣のリング"が空中に出来上がった。

 

 『ちょっとだけ"魔法使い"は中断だ。データ、ミラクル―――――』

 

 

 

 

ひとっ走り、付き合えよ。

 

 

 

 

   〈KAMEN RIDER MAJA〉 

 ⇒ 〈KAMEN RIDER DRIVE〉

   〈KAMEN RIDER MACH〉

 

 

 《BRAIN CELLS TOP GEAR! ALL WE NEED IS DRIVE!!》

 

 《そう来るか……!いいぜ、考えんのはやめて脳細胞トップギアでブッちぎれ!!》

 《い、今、『考えるのをやめる』って言いました!?だ、大丈夫!?》

 《シートベルトをきちっと締めてりゃ問題無ェ!!》

 《ココ、ベルトなんてないけど~!!??》

 

 《HISSAAATSU(ヒッサーーツ)!! FULL THROTTLE(フルスロットル)!!SPEED(スピード)!!!》

 

 "羽衣リング"の中心にいる"マジカル"に、車輪代わりの高速回転する青い魔法陣をぶつけて抑え込み、動きを止める。それを見計らい、僕はそこへ思い切り勢いをつけて蹴り込んだ。一撃目の蹴りが命中する、その勢いで高速回転している"羽衣リング"を蹴り返し、再度"マジカル"へと蹴り込み、またリングを蹴って―――――を、角度を変えながら、相手の息つく暇も与えぬほど連続で叩き込む。

 これこそ、『仮面ライダー史上最も恐ろしいライダーキック』と称された、仮面ライダードライブ・タイプスピードの必殺技―――――!

 

 

ス ピ ー ド ロ ッ プ

 

 

 『ガガガガガガガガガガ!?!?!?!?!?!?!?!?』

 

 魔力を機動力に変換する"サファイアモード"なら、超高速で相手を翻弄するこの技も再現可能だ……!

 悪いけど、キミだけでもここで"鎮める"……!キミの―――――いや、キミの中に封じられている『彼女』の帰りを、待っている人がいるんだ……!

 

 《戻ってきて―――――お願い!》

 

 

 

 

 

 

リコーーーーーーーーーっっっ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 SAVE POINT……

*1
主にアメコミのヒーローに存在する概念で、ヒーローをサポートする『相棒』や『助手』のような存在。ヒーローに助けられたり、ヴィラン(悪者)の悪事や事故によって身寄りをなくした10代の少年少女が、ヒーローに弟子入りすることでサイドキックになることが多い。中には正体を知られてはいけないヒーローの正体を独自に突き止めて接触、自身の情報収集能力を売り込み、押し掛け的にサイドキックになった例もある。なお、きちんとヒーローから一人前と認められ、独立してヒーローになったサイドキックは実は多くなく、師事していたヒーローが戦死してその名跡を継いだり、ヒーローと決別して独自のヒーロー名を名乗って勝手にヒーロー活動を始めるケースもある。無論、サイドキックが志半ばで戦死したりすることも珍しくなく、さらにはヒーローや正義に絶望し、『闇堕ち』してヴィラン側に回ることすらある。著名なサイドキックとして、『バットマン』の『ロビン』や、『キャプテン・アメリカ』の『バッキー』等がいる。ヒーロー物に限らなければ、『シャーロック・ホームズ』における『ワトソン』もこれに該当する。近年、『僕のヒーローアカデミア』のヒットによってこの言葉を知った方も多いと思われる。

*2
元号が『令和』に変わってから初めて製作された仮面ライダーである、『令和仮面ライダーシリーズ』第1作。大企業・飛電インテリジェンスが開発した、人間と遜色ない外見のAI搭載人型ロボット『ヒューマギア』が普及している世界を舞台に、暴走したヒューマギア『マギア』と、それらを発生させるテロリストグループ『滅亡迅雷.net(めつぼうじんらいネット)』と戦う、飛電インテリジェンスの若き社長・飛電或人(ひでんあると)=仮面ライダーゼロワンの活躍を描く。ヒューマギアが働いている『仕事』や、本来『心が無い』はずのヒューマギアが見せる『人間性』を通じて、『社会に導入される先進技術と、これから我々がどう付き合えばよいか』という、将来必ず現実の社会に突きつけられるであろう『重い』テーマを扱いながらも、ライダーたちの必殺技の名称が画面いっぱいに大仰に表示される演出や、スピーディな展開、そして主人公である或人の、正義感に溢れる熱く明るい性格(あと時折繰り出されるウケないギャグ)もあり、作品全体の雰囲気は比較的明るい。ライダーシリーズで初めて、放送当初からレギュラーキャラとしての女性仮面ライダー(仮面ライダーバルキリー)が登場したことも話題となった。2019年最後の放送で滅亡迅雷.netが(表向き)壊滅、2020年初頭からは飛電インテリジェンスのライバル企業・ZAIA(ザイア)エンタープライズの台頭と、ZAIAの社長・天津垓(あまつがい)が変身する新たな戦士『仮面ライダーサウザー』、原因不明の暴走を見せるマギア、そして、人間がプログライズキーを用いて変身する新たなる敵『レイダー』が登場する、『ZAIA編』とも呼ぶべき新章に突入している。

*3
対戦格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズに登場するインドのヨガ修行僧『ダルシム』のこと。口から火を噴く、関節を外して手足を伸ばして攻撃する、テレポートするなど、格闘ゲーム界の元祖色物キャラクターのひとりにして、1990年代前半の日本全国の子供達に『ヨガ』の何たるかを全力で誤解させた元凶でもある。ただ、ファイトスタイルこそ色物であるがそこは徳の高い僧侶、『聖者』と呼んでも差支えの無いシリーズ屈指の人格者なので、あまり変な目で見てはならないのかもしれない。最新作『ストリートファイターⅤ』では、白髭をたくわえ、頭にターバンを巻いた、加齢を感じさせるとともに威厳を増した姿になっているので必見。

*4
特撮作品群『メタルヒーローシリーズ』の初期3作品『宇宙刑事シリーズ』に登場した、シリーズ名物といえる愛すべき脇役『大山小次郎』のこと。善良な宇宙人とのコンタクトを夢見るお人好しの青年で、第一作『ギャバン』ではUFO専門のルポライターとして登場、第二作『シャリバン』ではUFOだけではなく超常現象にも取材範囲を広げていた。続く第三作『シャイダー』では一転、ペットショップのオーナーになっていたが、オカルト雑誌を愛読しているなど宇宙へのロマンは忘れていない様子。三部作すべてで歴代宇宙刑事たちと親交を深め、3人の宇宙刑事全員と交流した、劇中唯一の地球人となった。しかし、彼らが宇宙刑事であることを知ることはついになく、度々事件に巻き込まれていた。データが彼を『哀れ』と称したのは、とある回の次回予告で『宇宙人とコンタクトしようと哀れな努力を続ける小次郎』とナレーターに断じられてしまったコトに由来する。以降某動画配信サイトでは、東映特撮作品における『毎回のようにレギュラー出演して、その都度事件に巻き込まれる三枚目のコメディリリーフ』を『哀れ枠』と呼んで親しむ(?)ようになった。なおそんな小次郎サンであるが、テレビシリーズのその後を描いたVシネマ『宇宙刑事 NEXT GENERATION』では、民間のエネルギー研究所の所長を経て、なんと宇宙刑事たちが所属する銀河連邦警察に自らも所属、腕利きのサイバー犯罪捜査官として活躍しているという、テレビシリーズの哀れな扱いから一転した大出世を遂げ、ファンを驚かせるとともに、テレビシリーズから約30年経ち、年相応に老いはしたものの、当時と変わらぬ人好きのする飄々とした人柄を見せ、健在ぶりをアピールした。

*5
『通し』とも。当て身技を主体とする武術『骨法』の技術のひとつ。中国拳法の浸透勁と似ており、相手が分厚い鎧を着ていたとしても、鎧の内側の肉体にダイレクトにダメージを与えることができるという。

*6
『ワンインチパンチ』のこと。香港映画伝説のアクションスター『ブルース・リー』が用いた寸勁で、『最小限の動作で最大限の破壊力を生み出す』とされる。リーが学んだ詠春拳、周家蟷螂拳の技術の応用らしい。仮面ライダーシリーズでは『仮面ライダーフォーゼ』の2号ライダー『仮面ライダーメテオ』が披露したことがあり、その際はなんと主人公・如月弦太朗に向けて放たれ、彼を一度死に至らしめている。ちなみに『詠春拳』は仮面ライダーゴーストのアクションにも取り入れられており、流れるようなしなやかな動作が特徴。

*7
勁の一種であるが、本来中国武術に浸透勁という語は存在しないらしい。日本で一般化した概念であるらしく、インパクトの際に工夫することで『物体内に衝撃を万遍無く伝播されられる』技法であるらしい。




 用語解説

 メモリア・ライジングサンダー

 拳にイーネルギーを集中させ、電撃状にスパーク。
 そのまま、イーネルギーを込めた拳で全力パンチを行うキメ技。
 キュアメモリアの最強キメ技で、キュアメモリアルも使用可能。

 プリキュア・メモリアルフラッシュ

 イーネルギーを集中して、フルドライブ状態に移行したキュアメモリアルのキメ技。
 イーネドライブから出現した『タッピンスティック・メモリアルロッド』から、高密度イーネルギーの奔流を放射、バグッチャーを呑み込み、浄化してデリートする。
 この際、リボンの『∞』状に結ばれている部分が粒子加速器の役割を果たし、イーネルギーが集束、高速回転する。

 ――――――――――

 なんと、『まほプリ』で使用されていた『魔法文字』のフォントにハーメルン様が対応されていたので、使わせていただきました!
 少しはまほプリっぽい雰囲気が出せたでしょうか……??
 果たしてミラクルの想いは囚われのマジカルに届くのか……
 いいところですが、また次回で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

僕とアタシが、『MIRAI's HOPE(ミライノキボウ)

 データ「オイほくと。仮面ライダーサウザーの必殺技な、ありゃ絶対マネするな」

 ほくと「え?どうして?」

 データ「技の名前のカットインのトコに、『©ZAIAエンターブライズ』って書いてあったろ。ありゃ、必殺技が著作権を持ってるってコトだ……ウカツにマネしちまうとヤバいコトになる……ある意味、ジャークウェブよりもよっぽど()()()()()()()を相手に裁判所でバトルファイトをだな―――――」

 ほくと「な、なんだかよくわからないけど、大変な事になるかもしれない、ってコトは覚えておこう……。」

 ――――――――――

 いきなりお茶を濁してスミマセン、稚拙です。
 前回の時に書こうと思っていたネタなんですが、忘れちゃっていまして……(^^;)
 それにしても、まさかリアルの世界にビョーゲンズが出現してしまうとは……
 このせいで稚拙の趣味である鉄道旅行もできやしません……
 ヒーリングっど❤プリキュアの皆さん、こっちに来て何とかしてくれませんかねぇ……?

 さて今回は『ブレイブ&スナイプVSネガキュアバグスター』の最終章となります!
 まさかの展開の連続、書いてる稚拙もビックリの驚きのレベルアップ、ここに送信!


 ……NOW LOADING

 

――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    CURE-DATEAR

 ⇒  CURE-DATA

 

――――――――――

 

 《リコーーーーーーーーー!!!!!》

 

 最後のキックが命中する、その瞬間だった。

 

 《LIQUID! PLEASE!!》

 ―――リキッド!プリーズ!

 

 全身を液体化した()()()()()は、キックが命中すると同時に、大きな水の球体に変わって、"マジカル"を包み込んだ……!

 ……って、コイツぁ……!?

 

 『ようやく……止められた……!』

 《ほくと……お前……!?》

 『こうでもしなきゃ、抑え込めないって思ってさ……』

 

 なるほど、自分も相手も『水』なら、先に化けたもん勝ちってか。

 確かこの手の液体化魔法、本来『魔法つかいプリキュア』は使えなかったハズだ。それならたとえ水の中で息ができようと、水になってる()()()()()に手の出しようもない。仮にフォームチェンジしたところで溺れて終了、為す術が無くなるワケか。

 だが……

 

 《なぁ、ほくと……》

 『何?』

 《コイツを閉じこめたはいいけどよ……これからどうするよ?》

 

 30秒ほど沈黙した。

 

 『………………………………あ』

 《考えてなかったのかよ!?》

 

 つまり相手からは攻められないがこっちからも手出し出来ねぇ千日手*1じゃねーか……南光太郎でもこんな凡ミスしねーぞ……

 

 《わたしは……少しだけならこのままでもいいかな~って思うけど……》

 《いいのかよ……これまたどーしてよ?》

 《……お話、し足りないから……これなら、ちょっとだけの間だけでもお話しできるじゃない?》

 《なぁんか、熟年夫婦みてぇだなぁ。親父とお袋を思い出すぜ……16年も同棲してりゃ、そうなっか♪》

 《ど、同棲って……せめて『ルームシェア』って言ってよっ////》

 

 いやぁ、サーバー王国でのミラクルとマジカルのラブラブっぷりは評判だったなぁ。見てるこっちが恥ずかしくなっちまうくらいに見せつけてきやがるんだからなぁ……

 

 《フェリーチェもまぁイイ感じに子供っぽかったから、3人でいると完全に子連れの新婚家庭―――――》

 

 ――――――――――……?

 

 違和感を覚えた。

 なんだ、この感じ……?

 "体力"を削られたり、吸われたりしているわけじゃぁない。なんかこう、"やる気"というか、アタマん中からゆっくりと、何かを"抽出"されているような―――――

 そういえばさっきから、捕らえている"マジカル"がいやに大人しいな。全身を脱力させて、ピクリとも動いていない。

 ……いや、違う……

 よく見ると"マジカル"の右手から、黒い光が仄かに放たれていた。

 

 『…………ドレインタッチ…………』

 

 "マジカル"が底冷えするような声で呟くのが、聞こえた。

 

 『キエチャウ…………キエタクナイ……ソウデスヨネ…………"メグミン"サン……?』

 《な……何言ってんだ、コイツ……!?元々ワケワカランことばかり言ってるが

 《"ドレインタッチ"……"めぐみん"……"爆裂"…………うっ、頭が……》

 《アンタまで何言い出すんだ!?つーか魔力吸われてるってコトだろ!?早く何とか―――――》

 

 そのとき―――――

 不意に、トンでもねぇ熱量が真下から迫ってくるのを感じた。コイツは―――――!!

 アタシは思うより先に叫んでいた―――――

 

 《―――――ほくとッッ!!》

 

 

今すぐ魔法を解けぇぇぇぇぇぇ!!!!!

 

 

 瞬間―――――

 火の鳥が視界を燃やした。

 途端に戻る確かな"実体"―――――

 

 『コイツ、は……!』

 《"スカーレット"のヤツ……!狙ってやがったのか……!》

 

 あのまま液化したままだったら、跡形もなく蒸発させられてた―――――それほどの熱量を確かに感じる。

 だが―――――

 

 《………………マジ、カル…………?》

 

 それだけじゃなかった。

 その名を呟くミラクルの声で気付いた。

 

 "マジカル"が、縦真一文字に両断されていたことに。

 

 《なんだ…………と……!?》

 《…………………………あ、……あ、ああ、……》

 《ミラ……ク、ル…………?》

 

 

 《                                》

 

 

 ―――――!!!!!!!!!―――――

 

 《ぐぅあああああああああっっっ!!!》

 

 ミラクルの絶叫がこだました瞬間、全身に今まで感じたことのない、暑さでも寒さでもない―――――"(いや)な感覚"が全身を侵して、這いずり回った。

 

 『う、あああ!ぐぁああああああああ!!!』

 

 アタシと感覚を共有しているほくとにも"厭な感覚"が襲い来る。言葉にするのもおこがましいが、『全身の血管に小さい針をしこたま入れられて、内側から刺されまくる』ような―――――

 

 ―――――ズドン!!!

 

 その音と衝撃で、いつの間にか地面に墜ちていたことに気づくも、まだ"厭な感覚"は治まらない。全身からイーネルギーをスパークさせながら、なおもほくとはアスファルトの道路上でのたうち回る。

 

 『おい何があった!?どこをやられた!?』

 『チ……どうなってる……!』

 

 ブレイブとスナイプが駆けつけてくるも、まともに受け答えできねぇ……

 何か攻撃を喰らったわけでもなく、単純に『自分自身の不具合』でこうなった、なんて、カッコ悪すぎて言えやしねぇが……ッ!!

 

 《ぅ、ぁ、ぐぅぅ……ッ!!》

 

 ―――――なんとか、しねぇと……!

 いきなりこうなっちまったが、原因は一つしか考えられねえ……!

 

 《ミ、ミラクル!……おい、ミラクル!!》

 

 アタシは隣の"部屋"に半ば強引に体―――――厳密には違うが、こうイメージしてくれりゃ問題ねぇ―――――を押し込んで、とてもアニメじゃ見せられねぇような凄惨(むご)い顔のミラクルを見た。

 

 《リコ……リコ……リコが……リコ、リ、リコ、リコ……》

 

 涙を止め処無く流し出してくる両の目の焦点が合ってない。ここまで錯乱したプリキュアを間近で見たのは、たぶん初めてだ。その様子に少し気圧されながら、アタシは怒鳴る。

 

 《……よく見ろ!違ぇだろ!?ありゃマジカル"本人"じゃねぇ……ッ!》

 《リコ……じゃ……な、い……?》

 《あぁそうだ……!マジカルの力を無断借用してる、見た目がソックリなだけのタダの偽物(パチモン)だっ……!!》

 《に、せ、もの……………………》

 《だいたいな、ちょっとヌケてっけど基本マジメなマジカルがよ、ワケわかんねぇことブツクサ呟きまくるキャラか!?》

 《…………!!》

 《つーか、アンタの方がマジカルのことよくわかってんだろ!?……冷静に考えてみろよ!アタシが知ってる"真宝のマジカル"より、アンタが知ってる『キュアマジカル』……いや、『十六夜リコ』のほうが、よっぽど『ホンモノ』なんだよ!!わかんだろ!アンタが知ってるアンタの相棒……"ソイツ"は……どんなヤツだったよ…………?》

 

 そう言い切った時にはもう、ミラクルはきょとんとした顔になっていた。そして、こう言ったんだ。

 

 

 

 《………………………………ぽんこつ》

 

 

 

 『キュアマジカル』を表現する言葉として、これほど的を射た言葉はねぇよなぁ……

 真面目なんだが、空回りとか奇行とかも割と多くて、完璧主義だけど完璧にゃ程遠い……クールビューティーならぬ"フ"ールビューティー、いわゆる残念美人なんだよな。ま、アタシはそこがマジカルのチャームポイントだって思ってるけど。

 

 《でも……失敗するところも……それをちゃんと勉強して克服するところも……真面目なところも……負けず嫌いなところも……ちょっとおっちょこちょいなところも……わたしは……そんな……そんなリコの…………》

 

 

 

 

 

 "全部"が、『だいすき』で……

 

 

 "全部"が、『かわいい』って思う……

 

 

 

 

 《ぷ、っははははははははは!!!!!!!》

 

 いや、おかしくて笑ってるわけじゃねぇんだ。

 やっぱこの人にマジカル語らせて、敵うヤツなんざいねーわ。年季が違いすぎらぁ。

 

 《データ……?》

 《やっぱアンタら、ナイスカップルだぜ!ラブラブ全開おしどり夫婦じゃねーか!》

 《ふ、"ふ~ふ"って……////////》

 『ああ……そうだね』

 《ほくと!お前……》

 

 ほくとも大分楽になったようで、よろめきながらも立ち上がる。

 

 『キミとマジカルは、一心同体だって聞いてる……同じ空に浮かぶ、月と太陽……昼と夜、世界を照らし続ける、ふたつの天の光……』

 

 ほくとにしちゃ、粋な表現使うじゃねぇか。しかしミラクルはこうツッコむ。

 

 《太陽と月は同じ空に昇らないハズじゃ……》

 『だからだよ』

 

 ほくとは、天に浮かぶ太陽にその右手をかざす。まるで、『仮面ライダーウィザード』のオープニング映像のワンシーンみたいに。

 

 『まるで月と太陽……重なる時の衝撃……!"奇跡"か"魔法"と感じさせる、"ふたつの天の光"が並び立つ光景……それがキミたちふたりの本当の姿なら……僕も、"それ"が、見てみたい……!』

 

 ほくとは、胸のイーネドライブを掴んで言った。

 

 『言ったよね……僕はキミだけの『希望』じゃない……キミと彼女……『ミラクルとマジカル』の、『最後の希望』だって……!だから―――――』

 

 ほくとが視線を向けたその先に、土煙がそそり立った。やがて、全身を炎に包んだ"スカーレット"と、漆黒の闇をまとった"マジカル"が、五体満足でその姿を現す。

 ……ってか、やっぱり"マジカル"は再生してやがったか。とはいえ、プリキュアの姿(ガワ)で"デスベホマ*2"かますとか、やっぱコイツら、胸クソモンだ……!

 

 『―――――僕とデータを、信じて』

 

 ほくとも同じ思いだったらしく、ぎり、と拳を握り締め、ふたりの"邪悪な類似品"を睨んだ。

 

 《……ほくと……データ…………ごめん》

 

 ぽつりと、ミラクルが呟く。

 

 《わたしのせいで……わたしが心を乱したせいで、ふたりに迷惑かけて……わたし……》

 《皆まで言うなよ。そりゃ、大切な人が目の前で八つ裂かれちゃ、誰だってああなるさ……》

 

 不意に、アタシの心をトゲが刺す。

 

 《アタシもそうなりかけた……から、さ》

 

 ミラクルは……まだいい方さ。

 真っ二つになったのがニセモノで。

 アタシの目の前でいなくなったのは―――――

 

 "ホンモノ"―――――だったんだから―――――

 

 《!データ、ごめん……ごめんね……》

 《……そう何度も謝んなって。『伝説の魔法つかい』サマにヘコられちゃ、ムズガユいぜ。でも―――――》

 

 ミラクルをこんな目に遭わせたアイツらには、きっちりと仕返ししなきゃ気が済まねぇ―――――

 

 《とりま、オトシマエはつけさせてもらうとしようぜ》

 『あぁ……勿論だ。ミラクルの心を……絆を抉りつけたこと……許すわけには行かない……!』

 《データ……ほくと……》

 『僕が助けたいのは、東堂さんだけじゃない……プリキュアたちを助けることも、僕のやるべき、果たすべき使命なんだ……!』

 

 自分に言い聞かせるように、ほくとは叫ぶ。

 

 『……キミたちの昨日……今日……明日……これからずっと先の"未来(みらい)"……すべてに流すその涙を"希望(ほうせき)"に変える……!だからミラクル―――――もうキミに、絶望なんかさせはしない!』

 

 あぁそうさ。

 『伝説の魔法つかいの、"最後の希望"』になろうぜ。

 アタシたちの本気(マジ)を、ヤツらにぶつけるんだ……!

 

 《ほくと……データ……―――――》

 

 ミラクルの目からは、さっきとは違う、希望に満ちた輝きを放つ"(ほうせき)が、あふれていた。

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

    CURE-MEMORIAL

 ⇒  CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 『おい何が起こってた!?おれ達にも解るように説明しろ!?』

 

 マグナムを二体のバグッチャーに向けたまま、スナイプががなる。

 

 『別の女の声も聞こえていたが……本当に大丈夫か?』

 

 ブレイブの複眼に、明らかな困惑の色が見える。でも多分、説明すると長くなるし、きちんとわかってもらえるように説明する自信も、暇もない。

 僕は笑って―――――アームウォーマーの裾を引っ張って直す*3と、ふたりのライダーに応えた。

 

 『ご心配なく!もう大丈夫です!』

 

 さぁ、ここから仕切り直しだ。

 ここからは慎重に、地に足を着けた立ち回りを心掛けないと。それなら―――――

 

 『キュアップ・ラパパ!』

 

LAND! PLEASE!! DODDODDO!DODODON!DODDODDODON!

ランド!プリーズ!!ドッドッド!ドドドン!ドン!ドッドッドン!

 

" ト パ ー ズ モ ー ド " ! !

 

 この姿で、どっしりと構えようじゃないか。

 

 『さっきから見ていたがその力……『Dr.パックマン事件*4』で研修医が遭遇した仮面ライダー……『ウィザード』に似ているな』

 『!晴人さんを知ってるんですか!?』

 『直接は見てないがな。エグゼイドの報告書(カルテ)で読んだだけだ……魔法なんて全く以てマユツバものだがな』

 

 仮面ライダーウィザードのみならず、『あの映画』で彼らと共闘したライダーたちも実在しているのかと思うと、さらに胸が高鳴るのを感じてやまない。……ただ、質問事項が増えた気がする。彼らは敵以上に、僕の一挙手一投足に注目している、のだろうか。

 

 『ボワアアァァァァァァァ!!!!』

 

 "スカーレット"が獣のような咆哮を上げると、自身を火の鳥の姿に変えた。呼応するように、"マジカル"も漆黒のコウモリへと変じた。炎と闇のバケモノが、まっすぐ僕へと殺到する。

 

 『……突っ込んで来るぞ!』

 『それなら、これで!!キュアップ・ラパパッッ!!』

 

 《DEFEND! PLEASE!!》

 ―――ディフェーーンド!プリーズ!

 

 "スカーレット"と"マジカル"の進路上に、四角い岩の壁がそそり立った。そこに激突したのか、衝突音が耳を衝く。

 一瞬で岩の壁にヒビが入るのを見て、僕は連続で岩の壁を立たせる。前だけじゃなく、前後左右、斜めと、全方向の進路を岩の壁で塞いで、動きと視界を封じる―――――

 これぞ―――――

 

―――――空現流封殺兵法―――――

 

(ハッ) () () (フウ) (ジン)

 

 《動きを止めたか……やるじゃねぇか!》

 『さぁ、フィナーレだ……行くよ、データ!ミラクル!』

 《よっしゃぁ!》

 《うん!!》

 

 すぐさま"ルビースタイル"に戻って、リンクルステッキに念を込め、唱える。

 

キュアップ…………ラパパッ!!

 

L'POUCH MAGIC TOUCH GO!!

ルパッチマジックタッチゴー!

 

CHOUIINE! KICK STRIKE!!

チョーイイネ!キックストライク!!

 

SAIKOHHHHHHH!!!!!

サイコーーーーーー!!!

 

 僕の眼前の岩の壁が次々に砕けて、赤い魔法陣が幾重にも展開されて、僕を導く。焔のラインが延びて、一直線に"道"をつくる。

 これが僕の……僕たちの、勝利への道だ!

 僕は駆け出し、まとまって立っている"スカーレット"と"マジカル"を見据える。

 そして、飛び込み側転から、連続での後方転回へと―――――

 

 《ひゃぁ~~~!?》

 

 心の中のミラクルが悲鳴をあげる。こうしたアクロバット、プリキュアなら慣れてるハズだけど……

 この技こそ、ライダーキックの中で最も『よい子のみんながまねできない』最高難度の技……その名は―――――!

 

S T R I K E W I Z A R D

―――――ス ト ラ イ ク ウ ィ ザ ー ド―――――

 

 

 跳躍から、勢いを乗せて繰り出したキックが、"スカーレット"を正面から捉え、その背後にいた"マジカル"を巻き込んで吹っ飛び、その場を取り囲んでいた岩の壁、その一枚にぶつかり止まった。

 

 『ふぃ~……』

 《そこまでマネするたぁ徹底してるな》

 『これをしなければウィザードじゃないからね。でも―――――』

 

 これは残心でもある。ゆっくりと立ち上がろうとするふたりのバグッチャーに、油断はしない。

 

 『まだ、終わってない』

 

 今までのバグッチャーとは、スタミナが段違いだ。でも、ここまでのタフネス、いったいどこからくる……?

 

 《リコとトワ……苦しがってる……》

 『……ミラクル……』

 

 ミラクルの心が、僕の中に広がっていく。

 

 《データ……ほくと……わたしも……わたしも"希望"になりたい……!》

 

 心の中のミラクルがそっと右手を伸ばす。その先にいるのは、苦悶に体を震わせる"マジカル"と"スカーレット"―――――

 

 《"ここ"にいるわたしの手が、あのふたりに届かないコト……触れられないコトはわかってる……でも……でも、わたしだって、リコとトワを助けたい!助ける力になりたい!》

 

 熱く―――――

 それでいて優しい、ミラクルの『想い』が、僕の中へと浸透していく―――――

 

 『わかるよ……言葉にしなくても、"こうして"いると伝わってくる……大切な人を失いそうになること……手が離れそうになることが辛いことなのは、誰にとっても同じことなんだ……』

 《手が届かねえまま、目の前で消えて無くなるところを直接見ちまったら、なおさらな……だから、『もう誰にも味わわせたくねぇ』って、そんな気持ちになる……!》

 《ほくと……データ……》

 『そんな心の傷……心が流す涙も全部、僕は……僕たちは掬い上げる……!たとえこれが、"最高難度のピンチ"とて……』

 

僕たちは…………立ち向かう!!

 

 

〈SOUL-SYMPARATE〉

 

〈HOKUTO   120%〉〈DATA    120%〉

 

〈MIRAI    120%〉

 

《CURE-DATEAR! CURE-MIRACLE!!》

 

MAHO GIRLS! LEGENDRIVE!!!

 

 

 ―――――()()()()()

 

 瞬間、僕の姿が、まだ変身していない姿(フォーム)へと変わる。ピンク色を基調とした、ミラクルスタイルの基本形態―――――"ダイヤモンドスタイル"か。

 そして、首の後ろの機械が唸りを上げ、グローブとブーツ、ワンピースがスライドして変形し、ピンク色のラインが眩い光を放ち始める。少し戸惑って近くのビルのウインドーに目をやると、自分の髪の毛が黄金色(きんいろ)に輝き、両目が薄紫色に光るのが見えた。

 心の中にいるキュアミラクルのヴィジョンと、今の僕の姿が重なっていく―――――

 

 《この力……この魔力……わたし達なら、できるかもしれない……!》

 『ミラクル……これは……!?』

 《本当は、わたしとマジカル、フェリーチェとモフルン……4人で協力して使うために考えた魔法……わたしひとりで使えるかどうか、今まで自信がなかった……でも……でもね!ほくとが希望をくれた……データから勇気をもらった……!だから……!》

 『ミラクル……』

 《ヘッ、アタシゃマジレンジャー*5かよ……いつ勇気出したっけ?》

 《"他人のココロ"に遠慮なしに"直接入ってくる"なんて、フツーやらないと思うけどなぁ~♪》

 《……ったく、"からかい上手"なこって》

 

 やれやれと笑うデータに、笑い返すミラクル。

 

 『これって……"日曜日の朝の魔法"の集大成だね……!』

 《?日曜日??》

 《理由は後でほくととりんくに聞きなよ》

 

 仮面ライダーウィザードの『希望』―――――

 魔法戦隊マジレンジャーの『勇気』―――――

 そして、魔法つかいプリキュアの『絆』―――――!

 

 『すべて』を、この魔法に―――――!

 

 《行くよ……ほくと!データ!》

 『ああ……ショータイムだ!』

 『マジで行くぜ!!』

 

キュアップ・ラパパ!!

 

 3人で呪文を唱えると、3つの魔法陣が僕の周囲に展開して、ぐるぐると回転をはじめる。そしてその魔法陣の上に、光り輝く宝石が顕現した。

 確かアレは―――――

 

 『"リンクルストーン"……だよね?』

 《ストーンから直接魔力を引き出して、わたし達の魔力と合わせて増幅させるの……!ふたりとも、わたしと一緒に!》

 『……!うん!』

 《アタシ達のアタマん中は接続済みだぜ!ミラクル!思いっきりブチかましてくれ!》

 《……オッケー!》

 

 両手でリンクルステッキを握り締め、ふたりのバグッチャーを見据えて―――――

 

 『《《絆の金剛、力の紅、自由の蒼、創造の黄……隔世(かくぜ)(くぎりめ)超越せし輝石、つながる奇跡……》》』

 

 魔力の高まりとともに、呪文の詠唱がはじまる。すると、ふたりのバグッチャーの足下に、僕の周囲に展開されているモノと同じ魔法陣が現れ、回転し始めた。周囲の空気が震えて、地鳴りにも似た轟音すら響き渡る。

 

 『《《収斂(しゅうれん)せし祈念(きねん)、高揚せし心願(しんがん)、此処に顕現せん……境界を解き放たれし大いなる魔の理よ、今こそ、希望と勇気と絆とともに結晶せしめ、伝説の魔法つかい・"プリキュア"の名の下に爆裂せよ!!はぁっ!!!》》』

 

 気合の裂帛とともにステッキをバグッチャーに向けると、身体の中の魔力が一気に弾けた。解き放たれた『見えない魔力』が、バグッチャーめがけて一気に集束する、そして―――――

 

 

 ――――――――――!!!!!!!!!!

 

 

 『……!』

 

 思わず僕は、息を呑んだ。

 岩の壁がすべて粉々に吹き飛ぶと同時に、巨大な、そして透明な『結晶体の花』が咲いて、ふたりのバグッチャーを完全に閉じ込め、その動きを()めていたからだ。

 

 《集中して!》

 『わかった!』

 《おっしゃぁ!》

 

 その上で、さらに魔力を集中させる。全身からピンク色の光が漏れ出し、弾けるようにスパークして、『結晶体の花』へと流れ込む。

 透明だった花が、桜のような淡いピンク色に染め上げられた次の瞬間―――――

 

 

輝 石 氷 結 極 大 爆 裂 魔 法(ジュエリアルエクスプロージョン)

 

 

 一瞬の閃光の後、極彩色の大爆発を巻き起こした。

 衝撃波でビル街の窓やドアのガラスの一切合切が弾け散り、街路樹が根こそぎ掘り返され、周囲に乗り捨てられていた車が木っ端のように吹っ飛ぶのが、視界の隅に見えた。大型トラックすら横転し、爆風に押されるようにアスファルトを滑っていく、背筋がぞっとする光景がそこにあった。

 

 『中学生ッ!何をしたァッ!!??』

 『ちッ……ゲームエリアでもないのに*6傍迷惑な野郎だ……!だが……!』

 

 飛彩先生の怒声と、大我先生の舌打ちがかすかに聞こえた。

 ……でも、戦慄しているのは僕も同じ。"レジェンドライブ"で使う技はぶっつけ本番、実際に放つ僕ですら全容を知らないから、結果を見てぞっとする。

 爆風の中、とかく僕の心臓が早鐘を打っていた。

 

 《………………お願い……!》

 

 切ない声が、胸の中から響く。

 僕もまた、心の中では祈りに近い思いを抱いていた。マジカルとスカーレット、そして東堂さんの苦しみが、これで終わりを迎えるなら―――――

 

 ―――――ゆらり。

 

 『…………!!!』

 

 陽炎の中、揺らめく影に戦慄した。

 

 《マジ、かよ……!?》

 

 瞠目するデータ。

 

 《そんな…………!》

 

 ミラクルの表情から、希望が消える。

 

 

ウウウウウウアァァァァァァァア!!!!!

 

 

 叫声がこだまし、周囲の爆煙が四散する。

 

 『効かな、かった……!?』

 

 心の中で広がっていく恐怖心に体が反応したのか、身体の各所から蒸気が噴き出す。

 全身の光が消え、コスチュームが元の状態へと戻っていく―――――

 

 《ごめんね……トワ…………ごめんね………………リコ…………》

 

 ミラクルの無念の言葉が胸に響いて、コミューンからミラクルのチップが強制排出されてしまった。

 そして、視界に〈NOW FORCED COOLING(強制冷却) PLEASE WAIT AT 3:00〉と、英語と数字が浮かび上がり、カウントダウンが始まると同時に―――――

 

 ――――――――――!!!

 

 レジェンドインストールが解除され、鉛のような重量が全身に圧し掛かる。僕は思わず片膝をついた。

 

 《ほくと……ッ!!》

 『く……ぅぅ……ッ……!!』

 

 ミラクルの、渾身の大魔法さえ無傷で乗り切るなんて……!!

 おかしい……!どうしてこうも、肝心要の手が"(いな)される"んだ……!?

 単純に頑丈なだけじゃ説明がつかない……!いったいどんなカラクリがあるってんだよ……!!

 

 『ち……くしょぉぉぉ…………!!』

 

 もはや手がない―――――!

 勇んで戦いだして、またこれかよ……!また、これ、かよッッ……!!!

 

 

 

 ――――――――――ダァン!

 

 

 

 『!?』

 

 銃声が、僕の心の絶望を割いた。

 顔を上げると、先程まで全身に焔を纏っていた"スカーレット"が、変化する前の"ブラック"に似た姿に戻っていて、右肩を押さえていた……!?

 

 『なんとなく、だが…………カラクリがわかってきたぜ』

 

 その声に振り向くと、仮面ライダースナイプの構えるマグナムの銃口から、硝煙が洩れている。

 その隣に、仮面ライダーブレイブが立つ。

 

 『焔や暗闇が無くなった途端、バグスター反応が復帰した……"そっちの姿"なら、おれ達ライダーの攻撃が通る道理か』

 『……そして"もう一つの姿"となるとバグスター反応が消え、中学生の攻撃が通用するということだな……』

 

 そういうことか!

 奴らは、『バグスター』と『バグッチャー』、それぞれの姿を切り替えられるのか!

 さっきのミラクルの魔法を凌いだのも、とっさに『バグスター』の姿に切り替えたから、とすれば合点がいく。

 立ち上がれない僕のすぐ横を、ブレイブとスナイプ、ふたりのライダーが通り抜ける。

 

 『中学生―――――よくやった』

 『ここからはまた、おれ達の"手術"だ。お前はしばらくそこで見物してな』

 

 ふたりとも、僕を見てはいなかった。でも―――――

 その言葉から、優しさを感じたのは、絶対に気のせいじゃなかった。

 

 『ブレイブ』

 『ああ』

 

 ふたりは揃って、また別のガシャットを手に取った。ブレイブは黄色、スナイプはオレンジ色のガシャット。それらもまた、見覚えがあった。

 ブレイブが持っているのは、音楽ゲーム『ドレミファビートガシャット』。スナイプのモノは戦闘機操縦ゲーム『ジェットコンバットガシャット』だ。

 ふたりはそれぞれ、バグッチャー……否、『バグスター』に見せつけるようにガシャットを掲げた。その時―――――

 

 『『ゼッタイニ…………マケナイィィィィ!!!!』』

 

 ふたりのバグスターが同時に叫び、掌から白と黒の光弾を放った。それらの光弾はまっすぐに、ガシャットを掲げていたふたりのライダーの手首に命中し、ガシャットが高々と宙に舞った。

 

 『『!!』』

 《変身中に攻撃するたぁ掟破りなヤローだッ……!》

 『ジャマは……させない!!』

 

 僕は全身の倦怠感を振りはらって、サイドスロー気味に光弾を投げ放った。命中はしなかったけど、バグスターの出端はくじけた。ライダーたちがレベルアップする時間は稼げるはず……!

 そう思ってふたりのライダーに振り返ると、無事にガシャットはその手に戻っていた。

 ―――――しかし。

 ブレイブが手にしていたのは、()()()()()()()()()()()()()()

 スナイプが手にしていたのは、()()()()()()()()()()()()()

 つまり、ふたりが本来使用するハズだったモノとは、『逆』のガシャットを手にしてしまっていた。

 でも―――――

 ブレイブとスナイプは、互いを一瞬見やっただけで、迷わず同時に言った。

 

 

 『『借りるぞ!』』

 

 

 ………………(;゚Д゚)

 

 『ええええええ~~~~!!?!?!?』

 《い、いいのかよ!?その……ソレって……!》

 

 驚愕のあまり絶叫する僕。我慢ならないデータがツッコむ。もっとも、しどろもどろになったけど。

 意に介さず、ブレイブとスナイプは宣言する。

 

 

 『『コイツに使えて、俺(おれ)に使えない(はず)は無い!!』』

 

 

 意地っぱりというか、なんというか……

 元々、飛彩先生の恋人である百瀬小姫さんが感染したバグスターを大我先生が取り逃がしたことで小姫さんが亡くなり、そこから複雑な因縁が生まれたふたり。

 紆余曲折を経て和解した今でも、やっぱり内心ではライバル……なんだろうか。

 

JET COMBAT(ジェットコンバット)!!

 

DOREMIFA! BEAT(ドレミファ!ビィィト)!!

 

 ブレイブとスナイプがガシャットを起動すると、ふたりのライダーの背後に四角いゲーム画面が浮かび上がり、その中からオレンジ色の『コンバットゲーマ』と『ビートゲーマ』、2体の『ゲーマ*7』が飛び出してきた。警戒して突撃しようとするふたりのバグスターに、ビートゲーマとコンバットゲーマが、たくさんの音符とミサイルをばらまき、牽制する。

 

 《GA!CHOOOONNN(ガッチョーーーン)!!》

 

術式レベル3……!!

 

第参戦術……!!

 

 《GASHAT(ガシャット)!!》

 《GA!CHAAAANNNN(ガッチャーーーン)!!》

 《LEVEL UP(レベルアーーップ)!!》

 

TADDLE MEGGLE! TADDLE MEGGLE!(タドルメグルタドルメグル)

TADDLE QUEST―――(タドルクエスト~~)!!♪

A GACCHA(アガッチャ)!! ♪JET! JET! IN THE SKY!(ジェット!ジェット!インザスカァイ!)

JET! JET!(ジェットジェット) JET COMBAAAAAT(ジェットコンバァァァット)!!

 

BABANG!BANG! BANG!BABANG!!(ババンバン!バンババン!)YEAH!!

BANG!BANG! SHOOTING(バン!バン!シューティングゥゥゥゥ)!!

A GACCHA(アガッチャ)!! ♪DO!DO!DOREMIFASO!RA!SI!DO!(ド・ド・ドレミファ・ソ・ラ・シ・ド)

♪OK! DOREMIFA BEAT(ドレミファビート)~~!!♪

 

 

 こうして、僕の目の前に、既視感と違和感がごちゃ混ぜになった、未知のフォームのライダーが現れた。

 片や、鋼の翼を背負った騎士―――――『仮面ライダーブレイブ・コンバットクエストゲーマーレベル3』。

 此方、肩にスピーカーを備えた狙撃手―――――『仮面ライダースナイプ・ビートシューティングゲーマーレベル3』。

 "設定的に有り得た"けれど、ドラマには一切登場しなかった、幻の姿―――――!

 

 『これより―――――バグスター切除手術を―――――』

 『ミッション―――――、』

 

 

再 開 す る !

 

 

 ブレイブの背中のユニットが火を噴いたと思うと、一瞬で滑空、"ホワイト"を引っさらって天高く飛んだ。宙に舞った"ホワイト"に、ブレイブは前から、後ろから、上から、下からと、何度も往復しながら連続で斬撃を叩き込む。最後に高空からのキックで"ホワイト"をビルの壁面に叩きつけ、追撃とばかりに『ガトリングコンバット*8』を"ホワイト"目掛けて集中連射した。

 

 《使いこなしてやがる……》

 

 データは唖然としていた。たぶん、この時の僕はデータと同じ表情だったと思う。さっきの宣言は伊達じゃなかったということか。

 怯んでいた"ホワイト"は首をぶんぶんと振って気合いを入れ直すと、ビルの壁を蹴って地面に着地、上空から撃ちかけられる炸裂光弾の雨をすり抜けてダッシュ、二棟並んで建っている高層ビルの間、その壁を、稲妻のような速度のジグザグ軌道で()()()()、滞空していたブレイブへと跳び蹴りを放った。

 ―――――この間、僅か三秒弱。目で追うのがやっとの、超高機動戦闘―――――!

 

 『く!』

 

 ブレイブは空中でかわすも、別のビルを蹴って"ホワイト"がターンしてくる。そこへ今度は無数のミサイルを発射した。"ホワイト"目掛けて、まるで意思を持つかのようにミサイルが殺到する。しかし―――――

 "ホワイト"は飛来するミサイルを足場に、八艘跳びでブレイブに肉薄してきた……!

 

 《……ありえねぇ……》

 

 さっきまでとはまた、別ベクトルの超常的戦闘……!!極限まで肉体の潜在能力を引き出した人体の躍動たるや、僕に『ヒトの可能性』を感じさせてくる―――――その『ヒトのカタチをしたモノ』が、『怪物』であることを忘れさせるほどに。

 花火のようにミサイルが連なって爆ぜ、爆風に乗った回転で勢いを増した"ホワイト"の手刀を、ブレイブは咄嗟に構えたガシャコンソードで受け止め、跳ね上げた。さらに上へと跳び上がった"ホワイト"は、自由落下の勢いを乗せた両脚蹴りを落としてくる。さっきから"ホワイト"は、元々空が飛べないとは思えぬほどの空中戦術で、空飛ぶブレイブと五分の戦いを繰り広げている―――――

 

 『データ……データの師匠って……』

 《いんや、あそこまでバケモノじみちゃねぇ……たぶん……そのハズ……だと思う…………》

 

 『心の部屋』のデータの表情が、だんだんと自信のないモノに変わっていく。つまり、プリキュアはそこまでできるポテンシャルを秘めていると、データも思い知ってしまったのだろう。

 

 『ただ浮いているだけのイージーな存在と……思われるのはノーサンキューだ!!』

 

 ブレイブはガシャコンソードのモードを切り替え、降下してくる"ホワイト"にミサイルをさらに撒き撃った。またも"ミサイル八艘跳び"にかかろうと空中姿勢を変えた"ホワイト"の眼前で炸裂した。しかしミサイルからは炎ではなく、真っ白な煙が散った。

 

 『グ…………!?』

 

 がくりと態勢を崩して落下する"ホワイト"。体表面の所々が白く染まり、霜のようなモノが付着しているようにも見えた。

 

 《冷凍弾か……!どうやらブレイブのジェットコンバットは、ミサイルの撃ち分けができるらしい……!》

 

 データの言葉を示すように、僕の視界に注釈じみた温度解析が重なる。なるほど、ミサイルの爆風をモロに受けた身体の前面の温度が、急激に低下している。

 背中から地面に落下した"ホワイト"のその向こうでは、"ブラック"が周囲を伺いながら身構えていた。

 しかしそこに、スナイプの姿はなく―――――

 

 『スナイプがいない……!?』

 《つーかなんだ……?"ブラック"の周りに浮かんでんのは……》

 

 珍奇な光景だった。

 "ブラック"を取り囲むように、たくさんの、色とりどりの『音符』が浮遊していた。

 

 『ウザイ……ウザァァイ!』

 

 我慢できないとばかりに、ブラックが手近な音符を殴りつけた。瞬間。

 

 ギュイィィィ―――――!

 

 殴られた音符が破裂して、エレキギターに似た音を立てた。そして殴った"ブラック"が、頭を抱えてよろめくのが同時に見えた。

 

 《こっちはこっちでどーなってんだ……?》

 

 すると今度はどこからか銃声が鳴り、その数と同じ数の音符が消え、さらに"ブラック"が頭を抱え、ついにはすぐ側の電灯に頭をガンガンと打ちつけ始めた。

 

 『"高周音波浮遊機雷"……なかなか使えるな』

 

 少し離れた所に、ライフルモードのマグナムを持ったスナイプが降り立った。

 

 『ゆっくりと敵を追いつめ、接触感知で爆破……狙撃の追い込みにお(あつら)え向きだな―――――』

 『グ……ゥゥゥゥァァアアァ!!』

 

 スナイプの姿を認め、振り返る"ブラック"。しかしそこで残った音符が連続で炸裂する。

 

 『―――――……しかもおれの脳波で起爆も出来る』

 

 "ブラック"は5メートルほど吹っ飛んだ。しかしすぐに立ち上がると、もはや遮蔽物のない道路を、スナイプ目掛けて猛然と突き進む。

 それを見たスナイプは躊躇なくライフルモードのガシャコンマグナムを構え、銃爪を引いた。瞬間、"ブラック"は射線から右側へと回り込むように回避する―――――が。

 

 『ウァ!?グウウゥ!?』

 

 何か、見えないモノに弾き飛ばされるような、"違和感のある"吹っ飛ばされ方だ。何が起きた……!?

 それにさっき、スナイプが放った銃撃の射線、その周囲が"歪んで"見えたのは僕の気のせいか……!?

 

 『この弾は"避けても当たる"。どう足掻こうが……無駄だ!』

 

 そう言い放ち、スナイプはさらに立て続けて銃爪を引く。右肩、左膝、そして腹―――――"ブラック"はその度によろめく。

 

 『…………いい加減、"ヒーローごっこ"には飽きた……とっとと子供番組に還れ……!』

 

 恨めしく呟いたスナイプは、ドレミファビートガシャットをガシャコンマグナムのスロットに差し込んだ。

 

 『この一刀で……完全切除する!』

 

 上空から声が―――――全く聞こえなくてもおかしくないけれど、僕にはさっきから飛彩先生の声だけは鋭敏に―――――聞こえた。

 ブレイブもまた、ガシャコンソードにジェットコンバットガシャットをスロットに差し込む。

 

 《GASHAT(ガシャット)!!KIMEWAZA(キメワザ)!!!》

 

JET DOREMIFA

――――――――――――――――――――――――

CRITICAL FINISH!

 

 ブレイブは背部から無数のミサイルを放ち、ガトリングコンバットを連射しながら急降下してくる。オレンジ色の爆風と真っ白な冷気がモザイク模様のように"ホワイト"を包み込み、光の五月雨がそこへ降り注ぐ。

 その視界を、無数の音符が彩る、渦を巻いたエネルギー光波が横切る。見ると、スナイプの構えるマグナムからは光り輝くビームが、左肩の『ワッツアップサウンダー*9』からは音符を纏った竜巻状のエネルギーが放たれ、それらが一つに重なって"ブラック"を巻き込んだ。

 同時に、身動きできなくなった"ホワイト"目掛けて、自由落下とブースター、2つの勢いが重ねられたブレイブ渾身の大上段唐竹割りが"ホワイト"へと振り下ろされ―――――

 

 

 ―――――ヅドォォォォォォォォァァァァァァァンンンンンン!!!!

 

 

 ほぼ同時に、2発の爆音が鼓膜を揺るがし、風圧と熱が僕の髪を激しくなびかせた。

 これで2度目だ。2度、僕とライダーたちの必殺攻撃を叩き込んだことになる。並みのバグスターやバグッチャーなら、とうに塵に帰していてもおかしくないが―――――

 

 

 

 ―――――!―――――

 

 

 

 この、気配……は…………―――――

 

 『ムダ……ムダムダムダ!!ムダナノヨネェェェェ!!』

 『ヨミガエル……フェニックス!!』

 

 闇と焔が巻き上がる。

 ネガキュアバグスター―――――否、ネガキュアバグッチャー、3度目の相転移―――――

 

 『チッ、またか……!このままじゃジリ貧だぜ!?』

 『……こちらの消耗も激しくなってきた……ゲムデウス以来のハードなオペだ…………!』

 

 しかも、さっきとは逆に、『バグッチャー』の反応がある。飛彩先生と大我先生の判断は、間違っていなかったことになる。

 ……でも―――――

 

 《…………りんくにゃ悪いがよ…………『ベストフレンドプリキュア』って…………クソゲーなんじゃないか…………?》

 

 諦めがデータの声色から滲んでいた。

 如何に強力な攻撃とて、効かなければ意味はない。

 やつらが、攻撃を喰らう前に『もう片方の姿』にシフトしてしまえば、どんなに強力な攻撃だろうと簡単に無効化してしまう。

 じゃあ、どうする…………?

 決まってる。

 『両方の姿に効く攻撃』を叩き込めばいい。それくらい、僕にもわかる。

 でもそんな攻撃、僕も、ライダーたちも使えない……!

 プリキュアの『イーネルギー』と、ライダーの『バグスター駆除プログラム』を、同時に叩き込むなんて、そんな都合のいいこと―――――

 

 《飛彩さん!大我さん!》

 

 その時、沈黙を貫く声が響く。

 永夢先生が、ブレイブとスナイプのゲーマドライバーを通して通信を送ってきていて、僕はそれを傍受しているらしい。

 

 『……どうした研修医』

 《あのバグスターの攻略法の目処がつきました!それと、りんくちゃんの病状が……!》

 『!?東堂さんに何かあったんですかっ!?』

 

 僕は思わず通信の向こうの永夢先生に叫んでいた。やはりというかなんというか、永夢先生の返答は戸惑いだった。

 

 《ほくと君!?どうしてほくと君がそこに……!?》

 『とんでもねぇスーパー中学生だぜ。取り敢えず今のコイツを見て驚いてみるかエグゼイド?』

 『ちょ、大我先生!?』

 『……その辺りも含めて、こちらで得られた"治験"の結果も突き合わせる必要があるな』

 《わかりました……一旦撤退を!》

 『了解した……現時点を以て、バグスター切除手術を一時中断する……!』

 

 ……やはり今はそれが妥当か……―――――

 現時点で、僕たち3人だけでこのバグスターを倒せる手段も情報も足りない。それに何より、東堂さんの様子が気になる。一刻も早く、CRに戻らないと。

 でも、僕の『冷却時間』が終わるまであと20秒かかる。撤退するにしても、僕が確実に足手まといに……―――――

 

 『とっととずらかるぞ』

 『―――――へ?(○ ▽ ○)』

 

 僕はスナイプにひょいと担がれた。右腕一本で、米俵さながらに。

 

 『"ファイヤーマンズ・キャリー*10"なんざ柄じゃねぇんだがな……やれ、ブレイブ!』

 『ッ!』

 

 僕を担いだスナイプの前にブレイブが立ち、ミサイルとガトリングコンバットを乱れ撃った。爆風とガンスモークで目の前が灰色に染まり、瞬間がくんと体が引っ張られる。

 僕を担いだまま、スナイプは走る。そしてその横に、ブレイブが並行して飛ぶ。彼の黄色い複眼が、ちらと僕を見てきた。

 

 『……お前のその力……そしてバグスターの突然変異……無関係とは思えん。お前の持っている情報、知っていること……すべて話してもらうぞ―――――中学生』

 

 ギラリと、ブレイブの複眼が鋭く僕を睨んできた。

 あぁもう……よくもまぁ、僕は後先を考えない人間なんだな……プリキュアのこと、バグッチャーのこと、ジャークウェブのこと……果たしてどう説明したものか……東堂さんも寝込んでしまっているし、どうすればいいんだ………………

 そう思うと―――――自然と涙が出てきていた。思い出したように発動する、僕の『泣き虫スキル』……

 

 『……どうした!?負傷したのか!?開業医、もう少し丁寧に搬送しろ!』

 『チッ、男ならピーピー泣くんじゃねぇ…………ん……?いや、女か……?』

 

 SAVE POINT……

*1
本来『千日手』とは、将棋やチェスにおいて同じ配置が何度も繰り返してしまい、どちらか一方が手を変えない限り対局が終わらない状態……いわゆる『無限ループ』を指す。つまりデータは本来とは違う意味でこの言葉を使ったわけだが、敵・味方ともに攻め手を欠いた膠着状態であるからして、この表現もあながち間違っているとは言い難い。

*2
体力制のアクションゲームなどで、わざとミスして残機を消費、体力を全回復して直近のチェックポイント・セーブポイントからやり直すプレイを指す。主にボス戦等に備えて回復アイテムを温存したい時、体力満タンで強敵に挑みたい時などに行う。初心者ゲーマーによく見られるプレイスタイルであるが、上級者・ガチゲーマーには"邪道"に見えるプレイでもある。

*3
ほくとくん、超絶本気の合図。『ミスター仮面ライダー』こと中屋敷哲也氏が劇中で行っていた、ライダースーツのグローブの片方の裾を、もう片方の手で引っ張る動作が元になっている。『こんニチ』では披露済みだが、本編では初披露となる。

*4
映画『仮面ライダー平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴーストwithレジェンドライダー』で語られた事件で、『エグゼイド』本編第10話と11話の間の出来事。4つのプロトガシャットを幻夢コーポレーションから強奪した、『Dr.パックマン』こと元・ネクストゲノム研究所所長・財前美智彦とその一党が起こした事件。彼が開発した『パックマンウイルス』の出現によって日本中が大混乱に陥ったが、永夢たちドクターライダーのほか、天空寺タケル=仮面ライダーゴーストとその仲間たち、泊進ノ介=仮面ライダードライブ、葛葉紘汰=仮面ライダー鎧武、操真晴人=仮面ライダーウィザードの参戦と活躍により、鎮圧された。この事件で、永夢が適合手術を受けていないにもかかわらずゲーマドライバーを使用できた理由が、『永夢自身がバグスターウイルスの保菌者だった』ことが明らかになり、さらに事件の終盤において、イレギュラーな形ではあるがダブルアクションゲーマーが初めて発現している。また、この事件で出現した、パズルゲーム『ハテサテパズル』をモチーフとした『ハテナバグスター』のデータは黎斗に回収され、『パーフェクトパズル』としてガシャットギアデュアルに組み込まれ、仮面ライダーパラドクス誕生の遠因となった。さらに黎斗はゴースト、ドライブ、鎧武、ウィザードの戦闘データの収集と解析に成功し、『レジェンドライダーガシャット』を完成させ、また別の事件を起こすことになる……など、この後の永夢たちの運命に少なからぬ影を落とす事件であった。

*5
スーパー戦隊シリーズ第29作『魔法戦隊マジレンジャー』のこと。『魔法、それは勇気の力』をキャッチコピーに、地上侵略を企む邪悪な妖魔たちの軍団『地底冥府インフェルシア』を相手に、人が持つ『勇気』が生み出す魔法を武器に迎え撃つ、魔法使いの兄弟たち『マジレンジャー』の活躍と成長、その家族の絆を描いた作品。『ファイブマン』『ゴーゴーファイブ』以来の(そして2020年現在最後の)『兄弟戦隊』であるが、従来の兄弟戦隊では長男だったレッドを、末っ子の三男に据えるなどの新機軸も見られた意欲作であった。また余談であるが、『ミスター平成ライダー』こと高岩成二氏が2020年現在、最後にレギュラー出演した戦隊シリーズでもある(マジレッド役を担当)。

*6
『ゲームエリア』とは、ドクターライダーたちが活動するために適した領域のことで、ライダーガシャットの機能のひとつに、このゲームエリアを自動生成する機能がある。さらに、エリア内にはエナジーアイテムが自動でばら撒かれる。また、ゲーマドライバーの『ステージセレクト』機能を使うことで、ゲームエリア自体を森や廃工場といった、全力で戦っても周囲への被害が少ない場所へと転送することができ、ここで大我が言っているのは『周囲に被害が及ばない場所でもないのに大爆発なんて起こすな』というニュアンスである。

*7
ドクターライダーたちがレベル3以上にレベルアップする際、ガシャットから出現するサポートドロイド。概ね成人男性の上半身と同じくらいの大きさで、出現と同時に敵対者に牽制行動を行った後分離、ライダー本体に合体装着することでライダーをレベルアップさせる。

*8
背部の飛行ユニットから保持アームで懸架されている、左右二門の炸裂光弾ガトリング砲。使用する際は前方に回し、腰だめに構えて発射する。1発当たりの威力はガシャコンマグナム・ハンドガンモードの40発分を誇り、最大発射速度は毎分5400発。上空から乱射することで短時間で広範囲の敵を掃討することが可能。

*9
左肩に装備されている、2連スピーカー型のサウンド攻撃装置。音楽に合わせ、音符型のエネルギーボムを生成・発射する機能を持つ。スナイプが使用する際は、バンバンシューティングのデータと相互干渉した結果、発射されるエネルギーボムは『破壊音波機雷』という形に性質が変化している。

*10
消防士や自衛隊員が、傷病者を迅速に搬送するための運び方の一種。運ぶ方にとって負担が少なく、かつ素早い搬送が可能だが、運ばれる方は腹部が圧迫されるため、負傷部位や患部によっては負担が大きく、非常時以外は推奨されない。近年、アニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の劇中にてこの搬送方法が披露され、さながら米俵のようにヒロインたちが運ばれていったことから『お米様抱っこ』という俗称がつけられ、アニメファンにも浸透している。




 キャラクター解説

 仮面ライダーブレイブ コンバットクエストゲーマーレベル3

 仮面ライダーブレイブが、『ジェットコンバットガシャット』を使用して召喚した『コンバットゲーマ』を装着、変身した形態。
 飛行ユニット『エアフォースウィンガー』によって空中を自由自在に飛行可能な上、『ガシャコンソード』による格闘戦と、両腰の炸裂光弾ガトリング砲『ガトリングコンバット』による射撃戦、その双方をこなすことが出来、距離・状況を問わずに高い戦闘能力を発揮できる万能戦士となった。
 また、『エアフォースウィンガー』に搭載された多目的武装コンテナからは、通常の小型誘導ミサイルのほか、絶対零度の冷気を炸裂させる凍結弾頭ミサイルを切り替えて発射することが可能で、『ガシャコンソード』のモード切替に連動している。
 しかし、防御力を重視して敵の攻撃に耐えつつ反撃する戦法を得意とするブレイブと、高速飛行能力を与えるジェットコンバットガシャットとの相性は実は良くなく、互いの長所を打ち消し合ってしまう、バランスの悪い組み合わせである。だが、飛彩が1年間の実戦の中で培った戦闘センスと、激務の合間に行ったシミュレーター訓練により、バランスの悪さを感じさせない戦いぶりを見せる。
 必殺技は、空中へ飛び上がり、背部から2種類のミサイルとガトリングコンバットの一斉射を地上の標的に発射して牽制、動きを止めた後、空中から降下の勢いを乗せたガシャコンソードで一刀両断する『ジェットクリティカルフィニッシュ』。


 仮面ライダースナイプ ビートシューティングゲーマーレベル3

 仮面ライダースナイプが、『ドレミファビートガシャット』を使用して召喚した『ビートゲーマ』を装着、変身した形態。
 両肩の『アッパーチューンショルダー』によって、『ガシャコンマグナム』から発射するエネルギー弾に特殊な振動波による回転運動をプラスしている。このエネルギー弾が通過する際、周囲に特殊な超高周振動波が発生、命中せずとも衝撃波でダメージを与えられる。大我曰く『避けても当たる弾』。
 また、エネルギー弾自体も威力と貫通性能を増幅され、攻撃力をアップさせている。
 さらに、音符型の浮遊機雷を左肩の『ワッツアップサウンダー』から発射することが可能。これは炸裂と同時にフォノンメーザーを発振しつつ周囲を破壊する、いわば『破壊音波機雷』であり、相手の行動範囲を狭めて動きを止め、最適な狙撃ポジションに相手を追い込むことができる。無論、これ自体の破壊力も侮れない。
 機雷には各種センサーに連動した切替式信管を搭載しており、接触によって起爆する『直接信管』、一定時間経過後に起爆する『時限信管』、さらにはスナイプの脳波によって起爆タイミングを制御可能な『遠隔信管』を、スナイプの脳波で自在に切り替えることができるようになっている。 
 加えて、左腕の『ドレミファターンテーブル』のスクラッチによる音楽をガシャコンマグナムにチャージすることで、ライフルモードのガシャコンマグナムから強力な破壊音波を発射することが可能となる。
 必殺技は、『ワッツアップサウンダー』とガシャコンマグナムから強力な破壊音波を同時発射して攻撃する『ドレミファクリティカルフィニッシュ』。

 ――――――――――

 ……というわけで、いったん撤退となったキュアデーティア&ブレイブ&スナイプ……
 そして、りんくさんの身に起きた異変とは……!?
 また、さらに厄介になったネガキュアバグッチャーを攻略する術は……!?
 ……長くなりましたので、また次回で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

HEROのコトバ

 ・詳細プロフィール:東堂りんく編

 年齢:13歳
 誕生日:20XX年2月1日(ふたりはプリキュア第1話放送日=プリキュアの日)
 星座:水瓶座
 身長:153cm
 体重:?kg
 血液型:A型
 髪の色:赤紫(変身時:濃いピンク)
 瞳の色・濃紅(変身時:ピンク)
 好きな食べ物:ミルクキャンディ(特に味が濃いのが好き)
 苦手な食べ物:もずく
 好きなもの:プリキュア!
 苦手なもの:視野の狭い人・食わず嫌い・運動全般
 得意な教科:国語・英語・社会
 苦手な教科:体育
 趣味:プリキュアアニメ鑑賞・キュアネットサーフィン
 特技:初めて触る電化製品を、説明書を読まなくても完璧に操作できる(ただし1分くらいいじらないといけない)
 好きな言葉:『愛は地球を救う』
 大事な物:はじめて映画に行った時にもらった『ミラクルモフルンライト』
 尊敬する人:おばあちゃん
 将来の夢:アニメ脚本家

 ――――――――――

 お久しぶりでございます!
 約11ヶ月お待たせしてしまい、申し訳ございませんでしたッッ!!!
 『インストール@プリキュア!』、本日2021年1月17日から更新を再開いたします!

 ……思えばいろいろありました……リアルビョーゲンことコロナでどこにも行けぬ日々……感染が怖くて未だに劇場版ゼロワンを見られておりませぬ……最悪、ネット配信待ちになりそうです……

 さてさて今回は、意外なヒトがキュアットタブに来るお話と、悩めるキュアピースのお話です。

 それでは……11ヶ月ぶりの……送信!


 ……NOW LOADING

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 「…………………………」

 

 聖都大学附属病院に辿り着いた時には、とっぷりと日が暮れていた。

 CRへの廊下を歩く最中も、飛彩先生と大我先生は僕をじろじろと見ていた。突き刺さってくる視線が痛い……

 

 「お前……」

 「は、ひゃい!?」

 

 思わず声が裏返ってしまった。僕の顔を鋭く覗き込む大我先生……

 

 「…………男、だよな……」

 「そ、そうですけどっ……」

 「だがさっき……女になってなかったか?見た目も声も……」

 「え、え~っと……」

 《あ~、その辺りはアタシたちもわかんねぇんだ……あんましツッコむのはやめてくれ》

 「そう言うお前も理解しがたい……アンビリーバブルな存在だがな」

 

 僕が持つコミューンの画面の上に立っているデータを飛彩先生は訝しげに見やった。

 

 「コンピューター上のアバターにしては感情が豊かすぎる……本当にバグスターとは関係ないのか?」

 《関係ねぇって。"30分"ズレてんよ》

 「?30分……??」

 

 飛彩先生は「30分……何のことだ……?」と、顎に手を当て考え込んでしまった。

 そんなやりとりをしているうちに、CRの入り口まで戻ってきた。いろいろな意味で、この扉をくぐる気が重い……

 扉が両側へとスライドして開いた。

 

 「ポッキーパキパキ?」

 「ポッピーピポパポ!」

 「パペピプペポパポ?ロマンチックでコスモチックね

 「ち~が~う~よ~!」

 

 …………………………

 

 一瞬、何を見たのかわからなくなってしまった。

 ハデな衣装を着た、見覚えのあるピンクの髪の女の人と東堂さんが、なにやら言い合っているように見える、けど……

 

 「あ、ほくとくん!おかえり~♪」

 「と、東堂さん!?その……大丈夫なの!?『病状が変わった』って永夢先生から聞いたんだけど……」

 「一体どういうことだ、研修医―――――」

 

 困惑した表情で立っていた永夢先生を、飛彩先生はじろりと見やった。

 

 「ゲーム病に感染して、発病していながら……ここまで"健常"な患者は見たことがないぞ……?」

 「それが……目を覚ましたと思ったら、いきなりこんな調子で……」

 

 流石の永夢先生も戸惑いを隠せないようだ。

 相変わらず、東堂さんの体は時折オレンジ色に明滅している。これだけは、ここに搬送されてくるまでの彼女と何ら変わりない。でも―――――

 

 「じゃぁ次は神経衰弱やろうよ!()()()()さんが先攻でいいよ♪」

 「ポッピーだってばぁ!」

 

 あまりにも―――――『いつもの東堂さん過ぎる』。

 ゲーム病が発病すると、たいていはベッドから起き上がれないほどの苦痛にあえぐことになる。その様はドラマでもよく目にした光景で、今日の昼、最初に見た東堂さんもまさにそうだった。

 でも東堂さんは、キュアットタブの神経衰弱ゲームで、ポッピーさんと遊ぶことができるほどに元気だ。

 あ、ポッピーさん―――――ポッピーピポパポさんのコトも説明しとかなきゃいけないか。この病院で最初に僕と園長先生を案内してくれた看護士、仮野明日那さん―――――その本当の姿。『ドレミファビート』のバグスターで、パラドよりも前にCRに協力していた良性のバグスターだ。

 

 「でもま、それも納得の分析が出たぜ。今し方、な。とりあえず……コレ見て驚け」

 

 階段を上がってきた貴利矢先生が、紙の資料をテーブルに広げた。それに目を通した永夢先生たちの表情が、驚きのそれに変わる。

 

 「……おいレーザー……改竄なんざしてねぇだろうな?」

 「今更お前等に演技してもしゃーないだろ……自分だって半信半疑なんだよ」

 「とても普通の人の数値とは思えません……ぼく達のようにバグスターへの抗体を持ってる人か、それ以上の……」

 「あ、あの……いったい何が……?」

 

 僕の問いには、資料に目を落としたままの飛彩先生が答えてくれた。

 

 「東堂りんくの血液中のバグスター抗体……常人の10倍以上の数値だ」

 「……!?」

 「それだけじゃないぜ。電子顕微鏡でこんなのも撮れたとありゃ……な」

 

 次に貴利矢先生は、モニターに視線を促す。それは、オレンジ色の球体の攻撃から、まるで何かを守るように動く細胞の映像だった。しかもその細胞は―――――

 

 「ハート型の……遊走*1細胞……!?」

 「おそらくは白血球の中の『好中球』が変異したヤツだ。結論から言って、嬢ちゃんの体ン中には、普通の人間が持っていない未知の抗体がある。……それもとびきり強烈なヤツがな。しかもこの抗体、攻撃性は全く無い。むしろ異常なほどの"防御性"がある……バグスターはもちろん、悪性のウイルスのほとんどから健常細胞をガードして、侵食を防いでる。バグスターウイルスに罹患して、かつ発病しても短時間しか症状が現れず、今はピンピンしてるカラクリがコレだ」

 

 信じられないモノを見せられたのは、僕も同じだ。

 まさか東堂さんの身体に、バグスターさえ寄せ付けない抗体があったなんて……

 

 「そうなると……ますますお前たちが怪しくなってくるな……」

 

 じろりと、大我先生が僕を睨んできた。

 

 「変異したバグスターと互角に戦える戦闘能力と、東堂りんくが持つ新型抗体……そしてバグスターに感染している携帯電話と同型のモノ、そこに棲んでいるアバター……」

 

 飛彩先生もまた、僕に疑惑の視線を向けてくる。

 最後に永夢先生が、僕と東堂さんを見て、真剣な顔つきで言った。

 

 「教えて、くれるかな―――――きみたちは一体……?」

 

 緊張した空気に包まれるCR―――――

 

「……??……ほぇ??」

 

 その中で東堂さんは、目を点にして、頭の上に『?』を浮かべていた。

 

 ――――――――――

 

 それから僕と東堂さんは、僕達の身の上について先生方に語ることとなった。

 ただ、『僕にとって永夢先生たちは"架空の人物"という認識だった』ことや、ゲーム機のこと―――――つまりは『現実とフィクションの境目』に関わることは出来る限り言及を避けた。これ以上、事態を複雑にしたくなかったこともあるけど……『何故か触れてはいけない気がした』ことが最大の理由だ。どうしてかは……わからないけど。

 説明の途中でうっかり東堂さんが口を滑らせかけることが何度かあったけど、何とか乗り切ることができた。

 さらには、データが記録―――――否、『記憶』していた、今までの『インストール@プリキュア』の戦いを即席で編集したという映像も見てもらった。時間はちょうど30分、アニメの総集編のようなノリの脚色は入っていたけれど、永夢先生をはじめ、CRのドクターたちは真剣な顔つきでそれに見入っていた。

 

 《……というワケで、アタシ達はジャークウェブの連中からこのリアルワールドを守るため、ンでもってキュアチップにされちまった先輩プリキュアたちを全員助け出してサーバー王国を復興させるため……キュアネットの中と外で八面六臂の大立ち回りの真っ最中……ッてトコさ》

 

 得意気に説明を終えたデータが胸を反る。

 しばしの沈黙―――――あまりにも現実離れした説明に、先生たちは閉口してしまったのか―――――

 たぶん、東堂さんのハート型の細胞も、プリキュアの力に由来するものだろう。……だとすると、僕の中にも……?

 

 「許せん……許せんぞ、ジャークウェブ……ッッ!」

 

 最初に声を上げたその人は、拳を握り、うつむき加減に歯を食いしばり、身体全体を小刻みに震わせていた。

 

 「ネットワークの中からこの世界を侵略しようなどと…………」

 

 意外だった。

 まさかこの人が、ジャークウェブの野望にここまで感情を高ぶらせるなんて。

 

 「この世界はァ!いずれこの檀・黎・斗・神!の足下に(ひざまず)くために存在しているのだァ!世界の(クァミ)の許可無く!!勝手に世界を横取りするなァァァァ!!!!」

 

 こんなにも堂々と世界征服宣言……ある意味、黎斗神さんらしいというかなんというか……

 

 「コイツの妄想はともかく……「またしても九条貴利矢ァァァァ!!!」ネットの中からの侵略者とは見逃せねぇな」

 「中学生の変身と戦闘を目撃した以上、真実としか捉えようがない……実にアンビリーバブルだが」

 「しかもアニメのキャラが、別の世界に実在していたとなると……どこまでが現実かそうじゃないか、区別がつかなくなるな……」

 

 大我先生は呆れたように言うけど、それは今の僕も同じ。この場所、そして僕の周りにいる人達……みんな、僕にとっては"フィクション"だと思っていた存在なんだから。

 

 「……よく、話してくれたね」

 「!……」

 

 永夢先生の優しい瞳が、僕を見ていた。

 

 「ぼくたちが、きみたちの戦いを手助け出来るかはわからない……ぼく達はあくまで、病気を治す『医者(ドクター)』だからね……でも―――――」

 

 永夢先生は、東堂さんに目を向けた。

 

 「りんくちゃんのゲーム病を治療することで、きみたちの戦う力になれるなら……ぼくは喜んで協力するよ。りんくちゃん、ほくと君……一緒にゲーム病と戦おう!」

 

 爽やかな笑顔が、僕にはとても眩しく見えた―――――

 僕や東堂さんに向けてくる視線、言葉……そのひとつひとつ、どれを取っても、彼は『ヒーロー』だった。いささか、完璧すぎるほどに。

 でも、だからこそ、子供たちは彼の戦いに喝采し、彼の怒りや悲しみに心を痛め、彼とともに一年間を過ごしたんだ。『仮面ライダーエグゼイド』という、番組とともに。

 そしてそれは―――――僕も同じで。

 

 「……ありがとうございます」

 

 感激とともに、深々と頭を下げていた。

 

 「……それで研修医、あのバグスターの攻略法が見つかったと言うが?」

 「……はい。皆さん、これを見て下さい」

 

 永夢先生がモニターに視線を促す。すると、ゲーム画面をキャプチャーしたと思しき画面に、見覚えのある白と黒、二人の仮面の少女が映し出された。

 

 「これは……!?」

 「あのゲームのプレイ画面か」

 「『ベストフレンドプリキュア』……そのステージ6のボスキャラと、新種のバグスターがよく似ているんです。もっとも、ゲーム内では僕が操作していたキャラクターにそっくりな姿になって、あのバグスターとは違う姿になりましたけど……」

 「あ、それって……」

 

 画面を見ていた東堂さんに、ドクターたちの視線が集まる。

 

 「私とメモリアはキュアブラックとキュアホワイトでプレイしてたから、ばぐすたー?……あの怪人もブラックとホワイトそっくりになったのかも……」

 「ぼくも何回か同じステージを別のキャラクターでプレイしてみて、そのボスが操作しているキャラクターと同じ姿になったことを確認しました。……そうなると、あのバグスターの姿はりんくちゃんの操作キャラクターのイメージを反映していたことになる……りんくちゃん、あのボスキャラにどんなストレスを……?」

 「……倒せなかった……」

 「……え?(・ ・;)」

 

 東堂さんは目をつり上がらせていた。

 

 「あのボス強すぎ!!3時間も粘ってぜんっぜん勝てなかったんだもん!(▽ 皿 ▽♯)」

 《それで最後はおなか出したまま寝オチしちゃったんだよねぇ~》

 「メ、メモリア!?」

 《あ~……なるほどな。そりゃカゼひくわ》

 「む……ぐーの音も出ない~……」

 

 コミューンからメモリアとデータに茶々を入れられ、東堂さんはへこんでしまった。

 

 「疲れと寝冷えで抵抗力が弱まったところにバグスターが感染して発病、といったところか……」

 「発症経緯はともかく……エグゼイド、肝心の攻略法とやら……一体なんだ?」

 「これを見てください」

 

 永夢先生が、もう一度映像を再生する。永夢先生が操作しているキュアミラクルが、同じような姿の黒いシルエットに攻撃し、それが決まって体力ゲージが空になるのが見えた。しかし、その『黒いミラクル』は即座に起きあがり、体力ゲージが満タンになると、今度は味方のキュアホイップに攻撃を加えた。

 

 「……復活した……」

 「このボスはふたり一組なんです。でも、片方だけ倒しても、もう片方が残っていれば、瞬時に復活するんです。……そこで、CPU(コンピューター)操作の味方NPCとタイミングを合わせれば……」

 

 今度は、ミラクルとホイップが連携して、2体の黒いプリキュアの体力ゲージを均等に減らしていく。すると画面上の、キュアミラクルの体力ゲージの下のゲージが光った。クマのぬいぐるみみたいな妖精キャラが『いまモフ~!』と叫ぶと、ミラクルとホイップが並び立ち、黒いプリキュアにそれぞれの得物を向けた。眩い光線が黒いプリキュアを飲み込み、2本の体力ゲージが同時に空になり、ふたりの黒いプリキュアは霧散して消えた。

 

 《これで、ネガポジおうこくはへいわになったモフ~!》

 

 妖精キャラのセリフに続いて、『ステージクリア!』というメッセージがファンファーレとともに表示された。

 

 「す、スゴい!そーやってクリアするんだ!」

 

 東堂さんが驚きの声を上げる。

 

 「……これが、『攻略法(こたえ)』です」

 「なるほどね、『同時に仕留める』、か。そりゃいくら片方に集中攻撃してもムダなわけだ」

 「だが……これで上手く行く保証も無いな……」

 

 明確な攻略法が示されてもなお、飛彩先生は深刻な顔をしていた。

 

 「ああ……奴等が『ただのバグスター』なら、コレでカタがつくかも知れんが……」

 「……バグスター反応が消失して、別のウイルス……"バグッチャー"に変化する相転移現象……あれを使われると、仮面ライダーの攻撃は通用しなくなる……」

 「ありゃ"極性反転"だな……とんでもなく速度が速い上に、二つの姿に自由自在……まったくとんでもねぇな」

 「それって……?」

 

 聞き慣れない言葉だったから、思わず僕は永夢先生に訊ねた。

 

 「細胞が別の役割を果たす細胞に変化することだよ。もっともそれは、細胞生成の段階で起きることだから、今生きている生き物が起こす……まして、自分の意志で極性反転を起こすことは無理なはずなんだけど……」

 《『ウルトラマンメビウス*2』に『ディノゾール*3』って怪獣がいたろ?ソイツが頭吹っ飛ばされた後、逆立ちして『ディノゾールリバース*4』になったのも極性反転だぜ》

 「あ……!」

 

 データの注釈で納得した。確か、逆立ちした上に二又のシッポが頭になって、パワーアップして復活したんだっけ。

 

 「ウルトラマンってなんだ?」

 「え?あ、その……」

 

 大我先生が訝しげに訊いてくる。そういえばドラマで大我先生を演じていた俳優さん、『ウルトラマンX*5』にも出てたんだよな。もっとも目の前にいるのは俳優さんじゃなく、れっきとした『本人』なんだけど。

 ……というか、プリキュアは知ってるのにウルトラマンは知らないのか……

 

 「2つの姿を自在に使いこなす……まるでパラドクスだな」

 「そして"バグッチャー"に変異した状態で、二体を同時に切除することは……現時点では不可能、か……」

 「ぼくの"ハイパームテキ"も、未知のウイルスに通用する保証がありませんし、どのような作用をバグッチャーにもたらすのか、全く予想が出来ません……迂闊な使用は出来ないと判断します……」

 「そんな……」

 

 エグゼイドの"最強の力"も、バグッチャーには使えないのか―――――僕の心に暗雲が立ち込める。

 現時点で東堂さんは元気に見えるけど、いつまた病状が急変するかわからない。変身して戦うなんて到底無理だ。

 それに、いくら渾身の必殺技を叩き込もうとしても、命中する直前にもう片方の姿に変わられては全く意味がない。

 ライダーの攻撃と、プリキュアの攻撃。

 この『ふたつの要素』を、『二体同時』に叩き込む―――――最低限、プリキュアが『ふたり』必要なこの『勝利条件』を満たす手立ては、今は―――――

 沈鬱な空気がCRに立ちこめ始めた、その時だった。

 

 「フ……フフフフフッ……フハハハハハハハハハハ!!!」

 

 その場の全員がぎょっとして視線を刺した先には―――――

 

 「要は仮面ライダーがプリキュアの力を使えるようになればいいのだろう?」

 

 得意げに胸を反る"神様"がいた。

 

 「それがカンタンに出来りゃ苦労しないぜ。だいたい、『プリキュアの力』なんてどーやってライダーに落とし込むんだよ?」

 

 貴利矢先生の疑問に、黎斗神さんはテーブルに置かれたキュアットタブに目を落とし、

 

 「ククク……私に良い考えがある。この(クァミ)からの吉報を待つがいい……!」

 

 ……と、恐ろしく悪役めいた冷笑を浮かべたのだった。

 このヒトが笑うと……ロクな予感がしないんだよなぁ……

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    HOKUTO HATTE

 ⇒  CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 今日のところは解散、ということで、りんくとメモリアはそのまま入院、当直の永夢先生以外のCRのメンツは全員帰っていった。

 ほくともひとまずは家路についたけど、アタシは昏倒しちまったミラクルの様子が気になって、CRのキュアットタブに残ることにした。ほくとにはコミューンだけ持って帰ってもらえば、何かあってもすぐにコミューンに戻れるし、な。

 

 「……ミラクル、大丈夫か?」

 

 タブの中のミラクルの部屋を、アタシとマーメイド、トゥインクルとで見舞った。

 ミラクルはベッドに横になっていた。

 

 「……ありがとう……だいぶ楽になったみたい……ごめんね、力になれなくて……」

 「ミラクルのせいじゃねぇよ……アンタの想いをマジカルとスカーレットに『伝えきれなかった』アタシたちが、まだまだ弱っちかっただけだ……」

 「データ……あまり、自分を責めては駄目よ。……ミラクルもね」

 「……マーメイド……」

 「まだ終わったワケじゃないよ。データもあきらめてないんでしょ?」

 

 トゥインクルがアタシに笑いかける。それはもちろん―――――

 

 「ったりめーだ!何しろ仮面ライダーのセンセーたちが味方なんだぜ?それにあの"神サン"が、知恵を絞ってくれてる……大丈夫、きっと上手く行くさ……もちろん、他力本願にゃしないつもりだけどな」

 「データ……」

 

 負けたまんまじゃ―――――

 取られたまんまじゃ、終われねえ。

 

 「今度は、私達も力を貸す番ね」

 「トワっちとリコりんを助け出して、りんりんのビョーキも治して……みんないっしょに、りんりんのお家に帰ろっ!」

 「……おう!」

 

 このふたりだって、賭ける想いはミラクルと同じだ。

 次は必ず、アタシたちが―――――

 

 「データ……あのね、お願いがあるんだけど……いいかな?」

 「んあ?」

 

 ミラクルが上目遣いでアタシを見て、言った。

 

 「ピースの様子も……見てきてほしいの」

 「……そういや、タブん中にいなかったけど……どうしたんだ?」

 「あの子も……なんだか抱え込んじゃってるみたい……最初の時にあのバグスターに敵わなかったコト、気にしてるのかも……」

 「ああ、わかったぜ…………」

 

 実はあれから、ピースは自分の部屋(フォルダ)に閉じこもって、アタシがタブに来たら、入れ替わりに今度はりんくのコミューンに行っちまった。まさかアタシ、避けられてんのか?

 ともかく、"あの時"だってピースのチカラをフル活用出来なかったアタシとほくとに責任がある。ピースのせいなんかじゃない。

 

 その時―――――

 

 広間(デスクトップ)の方が妙に騒がしくなった。悲鳴混じりのプリキュアたちの声が、出入口を閉め切っているミラクルの部屋(フォルダ)にまで染み入ってきていた。訝しげに、マーメイドが振り返る。

 

 「……何事かしら?」

 「ヒトが養生してるってのに騒々しいな……ちょっくら、様子見てくる」

 

 まったく……マリンあたりが何かやらかしたのか……?半ば呆れながら、アタシは広間(デスクトップ)のドアを開けた。

 

 「おい、何の騒ぎ―――――」

 

ヴェ゛ッ゛ハハハハハハハハハハハハア゛ァ゛ア゛ッ!!!!!

 

 この、『プリキュアのドールハウス』みてぇなファンシーなフンイキのキュアットタブに、恐ろしいまでに似つかわしくない、汚ッたねぇ哄笑がこだまし、アタシの背筋がぞくりと(ふる)え、そして―――――

 

 「マヂかよ……」

 

 なんか、その……唖然とした。

 漆黒のスーツに身を包み、顔に薄ら笑いを浮かべる"ソイツ"に、ロゼッタとマーチが対峙していた。

 

 「まさか……キュアットタブのセキュリティを突破して侵入してくるなんて……!」

 「普通の人間……じゃないようだけど……!」

 「何者です……!?名を名乗りなさい!」

 

 エースが啖呵を切りながら前に出て、ラブキッスルージュをまっすぐソイツに向けると、ソイツは薄ら笑いの口角をさらに広げた。

 

 「……本来ならば、この(クァミ)を前にして先に名乗らぬという不敬千万たる行為だが……今日の私の機嫌は殊更上々だ……(クァミ)をも恐れぬその勇敢さを特別に買おう……異世界の伝説の戦士『プリキュア』の諸君!この私こそ、この世界を統べる、空・前・絶・後!にして全・知・全・能!!の(クァミ)!!!檀!黎!斗!s」

 

マリンシューーート!!!

 

 スーツの神サンにあらぬ方角から高圧水弾が連続で命中、神サンは大の字にブッ飛んで倒れた。その場にいるプリキュアたちの視線が、その発射源たるキュアマリンに集中する。

 

 「…………ダサいし長い。」

 

 ―――――アンタがソレを言うか!?

 つーかソレ、ニチアサのヒーローとしちゃ一番のタブーだぞ!?ヒトが名乗りをキメてる時に攻撃加えるなんざ、アバレキラー*6くらいしかしたコトねぇぞ!?

 

 「ぐぅ……(クァミ)が崇高なる我が名を教示しているというのによもや乱入するとは……不敬に不敬を重ねるかァ……!伝説の戦士がなんたる―――――」

 「みんな、今だよ!!」

 「何ッ!?ま、待て!!話を―――――」

 

 よろめきながら立ち上がろうとする神サンの言葉はもはや届かず、無情にもハッピーが号令をかけた。途端、レモネードのプリズムチェーンが神サンを簀巻きに縛り上げ、そこへハッピーシャワーとマーチシュートとビューティブリザードとエースショットが立て続けに撃ち込まれて爆発、さらにはミュージックロンドとハートフルビートロックの光輪が神サンを縛り上げてさらに大爆発、コレで終わったと思ったら最後にオマケとばかりにロゼッタリフレクションが神サンの前後左右に、遮蔽物代わりとばかりに突き刺さった。

 

 「………………………………………………」

 

 神サンは尺取虫よろしく、ケツを突き上げてうつ伏せに突っ伏して、ピクリとも動いていなかった。

 『神の丸焼き』、一丁上がり。わずか20秒の爆速クッキングだった。

 

 「うっわ……」

 

 ……この光景を見たアタシと、画面の前の読者(アンタ)の思ってること……ピタリと一致すると思う。

 ……せーのっ、

 

 

 エ ゲ ツ ね ぇ

 

 

 ……神サンよ、アンタはこのキュアットタブへの『入り方』を間違えたんだ。

 いきなりアポも無しでノックもせずに、女のコだらけの"女子寮"に闖入(ちんにゅう)したとあっちゃ、そりゃおめーリッパな『不法侵入』だよ、アンタ。ただでさえ不審人物……いや、この場合は()()()なんだから、入り方は考えよーぜー。初対面の印象って後々まで引きずるからな、いやマジで。

 アタシは全身黒コゲでぶすぶすとケムリを上げている神サンに、しゃがみ込んで言った。

 

 「どーやって入ったかは敢えて訊かねえ……『檀黎斗神(アンタ)だから』って理由でどうとでも理解できらぁ……でもさ、ウチの先輩方にとっちゃ、そのキャラは黒酢ドリンクの原液並に濃くて酸っぺぇんだよなぁ……」

 「キュアデータ……お前は、一体……?」

 「(アンタ)信者(ファン)だよ」

 

 ……主に顔芸のな。

 

 「!うわ……!?……やれやれ……先走ったと思ったら、やっぱりこうなってたか……」

 「ちゃんと事情を話さないからだよ~……」

 

 そこへ、白衣を羽織った貴利矢センセーとポッピーピポパポが、キチンと玄関ドアを開けて登場してきた。そうそう、最初からそうやって入ってくればよかったんだよ。

 

 「コイツがビックリさせちまって悪かったな、お嬢ちゃんたち」

 「ごめんね……黎斗には後でオシオキしておくから!」

 

 ……もう充分オシオキされてると思うんだが……鬼か、ポッピーさんよ。

 

 「九条貴利矢先生と、仮野明日那さんですね?お話は先程から、このタブの中から伺っていました」

 「……でも、どうやってこのタブの中に?アナタたちは普通の人間では……?」

 「りんくお嬢ちゃんから、許可はもらってるぜ。別にハッキングしたわけじゃないさ」

 「ワタシたちは良性のバグスターだから、コンピューターの中と外を自由に行き来できるの!」

 

 そう、タブに入ってきた3人は全員、純粋なヒトじゃなく、ヒトならざるバグスターだ。もっとも、出自(オリジン)はそれぞれ違うがな。

 ポッピーピポパポは、神サンのお袋さんに感染して、その記憶をバックアップに実体化した、世界で最初に人類に味方したバグスター。

 でもって、貴利矢センセーと神サンは、ヒトの体をプロトガシャットにバックアップすることで、『人間の遺伝子を持ったバグスター』になって復活した存在だ。

 どちらも、バグスターっていう怪人同然の身でありながら世のため人のため―――――神サンはビミョーな線だが―――――に戦う、ポッピー曰くの『良性のバグスター』ってワケだ。

 ……説明がよくわからん?……ごもっとも。アタシもかいつまんで地の文綴ってるんだがな、前にも言ったけど『仮面ライダーエグゼイド』の設定は明らかに子供向けじゃないほどに複雑怪奇なんだよ。だから、Blu-rayや配信とかで実際に番組を見てもらった方が、こんな文字媒体の小説……それもどこの馬の骨ともしれんヤツが書いてる二次創作のプリキュア小説なんかよりもよくわかるってモンだ。

 ……と、アタシがそっぽ向いて地の文で語ってる間に、あちとらは盛り上がっているようだった。なんだかんだで、ポッピーはプリキュアと並んでても違和感ないし、貴利矢センセーは陽キャだし、神サンよりかは先輩方と馴染めるだろうしさ。

 

 「お話はここまで!ワタシたちは遊びに来たワケじゃないの!」

 「そういうコト。……あのバグスターとバグッチャーの"合併症"を倒すために、お嬢ちゃんたちの協力が必要なんだと。……ソコで焦げてる変質者サマが言うには、な」

 「!!!私は変質者ではなぁぁぁい!!黎斗神だァァァァァアッ!!」

 

 神サン復活。貴利矢センセーの言葉にはいちいち反応すんのな。

 

 「……兎も角、だ……私とて何処の誰とも知れん輩に私の許可無く勝手にゲームを作られ、勝手にバグスターを生み出され、さらにはジャークウェブなどという新参者に世界を横取りされようというこの事態を、(クァミ)として見過ごすわけにはいかんのだ……!君達も東堂りんくに感染したバグスターを放ってはおけまい?……私と君達の利害は一致している……さあ、異世界の伝説の戦士諸君……―――――」

 

 神サンは両腕を広げ、"なんとかざんまい"よろしく言い放った。

 

 「この(クァミ)たる私にィ、その大いなる力を委ねるがいいィッ!!フゥッハハハハハハハハハハハハァァッッ!!!!」

 

 で、こんな大々的な神託(パフォーマンス)を見せつけられた先輩方はというと―――――

 

 

 

 ―――――ドン引きだった。

 

 

 

 ――――――――――

 

 NPC CURE-PEACE

 

 ――――――――――

 

 

 あれから―――――

 

 ワタシはデータにも、ほくとくんにも顔向け出来なくなってた。

 少しでも、この世界のヒーローたちのことを勉強しようとして、張り切って戦ったのにあの結果。プリキュアの先輩として情けないよ……

 結局、データを避けるように、ワタシはりんくちゃんのネットコミューンに来てしまっていた。

 メモリアの病状が安定したのか、コミューンとの行き来もできるようになってたけれど……

 

 「やっぱり……今のままじゃ、ダメだよね……」

 

 いつになく……ワタシ、弱気になってる……

 あれから16年経っても、ワタシは変わらなかった……変われなかった。

 みゆきちゃんも、あかねちゃんも、なおちゃんも、れいかちゃんも……他の世界から来たプリキュアのみんなも……16年の間で、ちゃんとやりたいことも見つけて、夢も叶えて……だから……その『夢』と、『チカラ』を合わせて、『結晶』を作り出すことが出来たんだね……

 

 「ワタシ……どうしたら、いいんだろう……」

 

 『伝説の戦士』って呼ばれても……今のワタシは余りに無力で…………

 

 「…………う、うぅ………………」

 

 また……泣いちゃった……

 16年経っても、泣き虫は治んないよ……

 

 《……どうしたの?》

 

 急に声をかけられて、びっくりして声のした方を見上げると、そこには―――――

 

 「…………あ」

 

 当直医としてCRに残ってた永夢先生が、コミューンをのぞき込んでいて、涙目のワタシと目が合ってしまっていた。ワタシはあわてて涙をぬぐった。

 

 「……えと、あの……その……ワタシ……」

 《!……ごめん、起こしちゃったかな……?》

 「あ、いえ……ワタシは起きてましたから……メモリアは……ぐっすりです♪」

 

 念のため、ワタシはメモリアの部屋(フォルダ)とは別の部屋(フォルダ)にいた。その部屋(フォルダ)の明かりは消えていて、かすかに寝息が聞こえてきてた。

 

 「ワタシの方こそ……その、ごめんなさい……当直の最中なのに……」

 《気にならないよ。りんくちゃんもメモリアも、今は安定してる。ただぼくは、ふたりが一秒でも早く完治出来るように……頑張るだけだから》

 

 そう笑うと、永夢先生は視線を別の方向に動かした。気になって、ワタシはディスプレイの上に立ってみた。永夢先生が見ていたのは、ゲーム機が繋がれたテレビモニター。りんくちゃんとメモリアが遊んでいて、バグスターウイルスが仕込まれていたあのゲームを、永夢先生は真剣な眼差しでプレーしていた。

 

 「そのゲームって……」

 《……"あのバグスター"の攻略法はつかめたけれど、まだ何か、ヒントが隠されてるかもしれないからね。……遊んでるワケじゃないよ?》

 「知ってます。それが永夢先生にとっての"本気"ってことも」

 《……よく知ってるね?》

 「え!?……ど、ドキュメンタリーで見ました、から……」

 

 あ、あぶない……永夢先生たちには、永夢先生たちが『ドラマの中のヒト』だって言っちゃいけないんだった……思わず背筋がひやりとした。

 永夢先生は《テレビの取材なんて、CRに入ったことあったっけ……?》と首をかしげながらも、ゲームの画面に向き直った。

 

 「みんな……戦ってる……りんくちゃんとメモリアのために……マジカルとスカーレットのために…………でも、ワタシは……」

 

 ワタシだけ、何も出来ていない。

 "あの時"もそうだ。ワタシは何のチカラにもなれないままに、みんなの中で真っ先に、キュアチップに封印されてしまった―――――

 

 「ワタシ……カッコ悪い、ですよね……」

 

 涙といっしょに、弱音もこぼれてしまった。

 

 《……ぼくだって、そうだよ》

 「……?」

 《患者さんを不安にさせないためにも、せめて、患者さんの前ではしっかりしてないと……カッコ良くしてないといけないんだけど……どうにも、ね》

 「そ、そんなことないです!永夢先生はお医者さんとして、仮面ライダーとして、立派に戦ってるヒーローじゃないですか!そんな永夢先生がカッコよくないなんて、ワタシは思いません!」

 

 永夢先生は少し驚いたような顔をして、ふっと表情を緩めた。

 

 《……そう言ってもらえると嬉しいよ。世界を救ったことのある、きみに、ね》

 「え……?」

 《ぼくはまだ、何も終えられていないんだ……バグスターウイルスに感染して、プロトガシャット*7に閉じ込められてしまっている人達*8が、もう一度この世界に元気に帰ってこられる日は、いつになるかはわからないんだから……だから……ぼくにとって、きみ達プリキュアは『目標』なんだ……!最後まで戦い抜いて、人々の笑顔を取り戻すコトが出来たんだから……!》

 「……!」

 

 ―――――わっ……わわわ、ワタシが……目標……!?

 『仮面ライダー』が、こんなワタシなんかを、目標にしてくれているなんて……

 なんだか、照れくさくなっちゃった……たぶん、今のワタシ、顔が真っ赤になっちゃってる……と思う……

 

 《ぼくも、絶対に立ち止まらないし、諦めない……いつか、仮面ライダーじゃない『普通のドクター』に戻れるその日まで、ね。…………まだ研修も終わって……普通のドクターにすらなってないのに、ヘンな話なんだけど……あはは》

 

 力なく笑う永夢先生。でも、その目には、確かな決意が宿ってた。

 

 《……まさかぼくが、プリキュアみたいに変身して戦うことになるなんて、最初は夢にも思わなかったけど……でも、あの時のぼくは、明日那さんが持っていたゲーマドライバーに、自然に手が伸びてた……きみも……はじめて戦ったときのこと……まだ覚えてる?》

 「は、はい……」

 

 "あの日"のことは、昨日のように思い出せる。

 みゆきちゃんが転校してきて間もないころ、アカオーニが繰り出してきたアカンベェに苦戦していたハッピーとサニー―――――みゆきちゃんとあかねちゃん―――――

 ワタシのコトを励ましてくれたふたりのチカラになりたい、って心から願った―――――

 そんなワタシに、スマイルパクトが―――――戦うためのチカラが顕現した―――――

 

 永夢先生は、ワタシを見て安心したような顔になって。

 

 《それなら、きっと大丈夫……どうして戦うことを選んだのか、なんのために戦うのか……"どうありたい"のか……それが折れない限りは、何度倒れても立ち上がれる……!壁に当たったら、振り返ってみるのもいいかもしれないよ?……まぁ、これはぼくなりの解決法だけどね。……ぼくより先に目標にたどり着けたきみなら、必ず迷いを振り切れるはずだよ。ぼくも信じてる》 

 

 なんだか、絡まり合っていたココロの糸が、ふっとほどけた―――――そんな感覚が、ワタシの胸の中に広がっていく。

 

 「……ありがとうございます、永夢先生」

 

 思わず、ワタシはお礼を言っていた。そういえばワタシ、本当は永夢先生より年上、なんだよね……りんくちゃんの前で本当のトシのコトを言っちゃうと怒られちゃいそうだけど……

 でも、歳とか関係なく、永夢先生はワタシの憧れ、ホンモノの『仮面ライダー』のひとり。そんなヒトに、目標だって言ってもらって、アドバイスまでしてもらえちゃって…………

 ほくとくんやデータが聞いたら、うらやましがるだろうなぁ、きっと♪

 永夢先生は最後に、《それじゃ、おやすみ。体を冷やさないように、暖かくしてね》と笑いかけると、CRの照明を落として、イヤホンをテレビモニターにつないで、黙々とゲームの続きを再開した。真っ暗なCRには、モニターの輝きと、永夢先生がコントローラーを操作する、カチカチという小さな音だけが残っていた。

 ワタシはその姿を見届けて、コミューンの中に戻り、胸にそっと手を当てて、目を閉じる。

 

 「大丈夫…………きっと、大丈夫……」

 

 ワタシは何をしたいのか―――――

 

 ワタシはなんのために戦うのか―――――

 

 ワタシにとっての、『カッコいい』って、何なのか―――――

 

 

 

 

 

 

 16年。

 

 

 

 

 

 

 プリキュアになってから、今までのワタシを、記憶の奥底まで―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ―――――なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワタシ、最初からわかってたんだ。

 

 

 

 やりたいことはマンガ家で。

 

 戦うのは、みんなの笑顔を護りたいからで。

 

 『カッコいい』こと、それは―――――。

 

 

 

 

 

 16年の間、ワタシの『芯』は、折れずに残ってくれていたんだ―――――

 

 

 

 ワタシの中で、バラバラだった欠片(ピース)が、ひとつにつながって、あわさって、『カタチ』になっていく。

 

 

 

 ―――――みゆきちゃん。

 

 ―――――あかねちゃん。

 

 ―――――なおちゃん。

 

 ―――――れいかちゃん。

 

 ―――――キャンディ。

 

 ―――――ポップ。

 

 

 

 16年の間、ずーっと遠回りしちゃってたけど―――――

 

 

 

 

 ワタシ、見つけたよ。

 

 

 

 

 

 ワタシだけの―――――

 

 

 『黄瀬やよい』だけの、『最高』を―――――!

 

 

 

 SAVE POINT……

*1
細胞が細胞膜や血管等の境界をすり抜けて移動すること。白血球がこの性質を持つことがよく知られている。

*2
ウルトラマンシリーズ誕生40周年記念作品。過去にウルトラマンが地球を守るために戦い、ウルトラマンが去ってから25年の間、怪獣や宇宙人が一切現れなくなった世界を舞台に、宇宙警備隊のルーキー・ウルトラマンメビウス=ヒビノ・ミライと、突貫気味に結成された新米防衛チーム・CREW GUYSの成長と活躍を描く。シリーズで初めて過去作との明確なクロスオーバーを展開し、過去作のウルトラマンやその演者たちも多数ゲスト出演、ファンを喜ばせた。また、物語の中盤でメビウスの正体がミライであるとGUYSの面々に知られるも、その後も共闘を続けたという、ある種シリーズの『タブー』を破った作品ともなった。

*3
『ウルトラマンメビウス』第1話で初登場した怪獣で、別名『宇宙斬鉄怪獣』。水素をエネルギー源としており、宇宙空間で少ない水素を取り込むために『断層スクープテイザー』と呼ばれる舌を使用、鞭のように振るって宇宙空間の水素を採取する。またこの舌は恐るべき切断能力を持つ上、長さ1万m、細さ1000万分の1mmという極めて特殊な構造をしており、放たれてから視認することはほぼ不可能で、近接戦闘では無敵といえる戦闘能力を持ち、あらゆる物体を不可視の鋼線で両断してしまう。地球に来襲後市街地を蹂躙、その後メビウスの初陣の相手となり、必殺光線『メビュームシュート』を頭部に受け爆発四散した。その後第5話と第11話で別個体が登場し、その内第11話の個体は後述の『ディノゾールリバース』にパワーアップして復活した。

*4
『ウルトラマンメビウス』第11話に登場した、ディノゾールの強化形態。別名は強化前と同じく『宇宙斬鉄怪獣』。GUYSの攻撃で頭部を吹き飛ばされたディノゾールが逆立ち(Reverse)して立ち上がり、手を足に、足を爪状の部位に変化させ、二又の尻尾の神経節を肥大化させて新たな脳幹=頭部を形成、復活(Re:birth)した姿。ギリシャ神話の『オルトロス』を彷彿とさせる双頭の姿となり、前述の『断層スクープテイザー』も二本同時に放たれるなど、飛行能力を失って尚余りあるパワーアップを遂げた。攻めあぐねるメビウスとGUYSだったが、ウルトラマンヒカリが参戦して断層スクープテイザーを切断したことで形勢逆転、最後はメビウスとヒカリの必殺光線を同時に撃ち込まれて撃破された。

*5
2010年以降に制作されたウルトラマンシリーズ『ニュージェネレーションシリーズ』の第3作。怪獣が封印されたフィギュア『スパークドールズ』が、謎の宇宙線『ウルトラフレア』によって活性化、怪獣となって暴れ出した世界を舞台に、防衛チーム『Xio(ジオ)』に所属する若き隊員・大空大地と、彼と『ユナイト』して戦う戦士・ウルトラマンエックスの活躍を描く。『サイバー感に満ちた全く新しいウルトラマン』と銘打ち、主役のエックスを含め、スパークドールズから復元されたデータを基とした『サイバー怪獣』などには機械的、かつ電脳的な演出がなされている。ちなみに本作『インストール@プリキュア!』のイメージソースの一部もこの作品だったりする。

*6
『爆竜戦隊アバレンジャー』に登場した、天才外科医・仲代壬琴がダイノマインダーで変身する追加戦士。追加戦士の身でありながら、その独特のメンタリティからアバレンジャーの敵に回り、あろうことか敵組織・エヴォリアンのボスの座にまで上り詰めた、戦隊史上初の本格ダークヒーローである。アバレンジャーたちのスーツの試作型である0号スーツであり、アバレンジャーをはるかに上回るスペックを持つ。データが言及したのは、第20話『キラーオー、アバレ初め!』でアバレンジャーが名乗っている最中にアバレキラーが攻撃を加えた(レッドが被害に遭った)、文字通りの『掟破り』を指し、この暴挙に出たのは半世紀近くの長い歴史を持つスーパー戦隊シリーズの中でも(映像作品に限れば)彼のみである。曰く『ダサい』。ちなみに映像媒体以外では『小説 侍戦隊シンケンジャー 三度目勝機』で、アヤカシ修羅によってシンケンジャーが被害に遭っている(こちらはグリーンが攻撃を受け、ブルーが猛抗議していた)。曰く『長い。貴様らの様式美に付き合っている暇などない』とのこと。余談になるが、今の所(2021年1月現在)プリキュアシリーズで名乗り中に攻撃を受けた事例は無い。プリキュアシリーズの悪者は空気が読めるらしい。

*7
その名の通り、ドクターライダー達が使用しているライダーガシャットの試作型。全部で11本存在する。システム黎明期のモノである故、使用者の安全性を度外視した設計がされており、強大な戦闘能力を得られるが、使用者が人間であった場合は強烈な負担を強いられる。さらにこのプロトガシャットには、『とあるデータ』がセーブされていて……それは後述。

*8
実はプロトガシャットには、今までバグスターウイルスによって消滅させられてしまったすべての人々の『容姿』『人格』『遺伝子』……すなわち『命』が、データ化されてセーブされている。このデータが存在していれば、黎斗や貴利矢同様に『人間の遺伝子を持つバグスター』として蘇生させることが可能である。しかしデータのサルベージには『仮面ライダークロニクル』のマスターガシャットが必要で、それもテレビシリーズの最終決戦の際に破壊されてしまっており、現状、消滅してしまった人々のサルベージ="治療"は不可能な状態にある。しかし永夢は『たとえ今は救えなくても、消滅者達を救い出す為の"治療法"が将来見つかる可能性は決してゼロじゃない』と記者会見で語り、消滅者たち一人一人の名前を呼びかけるように読み上げた上(その中には黎斗や貴利矢も含まれていた)で、人々の命を真の意味で救うため、決意を新たにしていた。現在、プロトガシャットはCRによって厳重に管理されている。




 ・詳細プロフィール:八手ほくと編

 年齢:14歳
 誕生日:20XX年4月3日(『仮面ライダー』第1話放送日)
 星座:牡羊座
 身長:165cm(変身時:149cm)
 体重:43Kg(変身時:?Kg)
 血液型:AB型
 髪の色:濃紺色(変身時:ライトブルー)
 瞳の色:紺色(変身時:スカイブルー)
 好きな食べ物:中華料理全般
 苦手な食べ物:豆類
 好きなもの:特撮ヒーロー全般(特に仮面ライダー)
 苦手なもの:理不尽・無礼
 得意な教科:体育・家庭科
 苦手な教科:数学・理科
 趣味:拳法修行・自主トレ・特撮番組鑑賞・料理(ただしお菓子は作れない)
 特技:料理・初めて見た他人の動作をその場で完コピできる
 好きな言葉:『カッコいい理由は、『カッコいいから』』
 大事な物:妹・スーツアクターごとに動きのクセをまとめた研究ノート
 尊敬する人:師匠・スーツアクターのT岩S二氏とO元J郎氏
 将来の夢:仮面ライダーの主役スーツアクター

 ――――――――――

 ピースと永夢先生のやり取り……今回の執筆で悩みながら書いたところです。
 結果として、以前書いた予告の永夢先生のセリフはボツとなり、『嘘予告』となってしまったワケで……
 予告に擦り合わせようか迷ったのですが……今の稚拙の気持ちをストレートに書きました。

 あ、それと実は、12ある『クロスオーバー作品』なんですが、1作変更させていただくことといたしまして……
 今度、リストが表示される際の変化にご注目いただければ、と。

 それではまた!今年もインプリをよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

(CLEAR)率0%の無理GAME(ムリゲー)

 バグッチャー大図鑑・特別編

 ネガキュアバグスター(ステージ3:ネガキュアバグッチャー)

 ふたりのネガキュアバグスターに、何者かによってキュアチップが埋め込まれ、さらに大量のワルイネルギーを投与されたことで、バグスターとバグッチャーの複合体といえる存在へと突然変異した存在。CRの面々は『合併症』という通称を付した。
 無理やり埋め込まれたキュアチップとワルイネルギーからの膨大なデータにバグスターの人格データが圧迫されている為か、理性は殆ど崩壊状態となっており、目についたモノすべてに襲い掛かる野獣のような存在となっている。

 通常形態(バグスターモード)での戦闘能力は大幅に向上、さらに歴代プリキュアシリーズに登場した戦闘員を模した雑兵バグスターを生み出せるようになった。
 また、キュアチップの力に由来した変異形態(バグッチャーモード)へと即座に変化し、バグッチャーとしての力を行使することが可能。この際『ブラック』は『キュアスカーレット』を模した炎を自在に操り、自身を火の鳥へと変える能力を、『ホワイト』は『キュアマジカル』を模した魔法能力や、自身を無数のコウモリへと変えて撹乱する能力を、それぞれ行使する。

 永夢のゲーム攻略により判明したこの2体を完全攻略する方法は、『2体同時に撃破する』こと。しかし、通常形態時はプリキュアの攻撃を、変異形態時はライダーの攻撃をそれぞれ無効化してしまう厄介な特性を持つため、この2体を攻略するには、『プリキュアとライダーの力を兼ね備えた攻撃を2体同時に叩き込む』という、現状極めて困難な手段が必要となってしまっている。

 ――――――――――

 ……コロナを必要以上に恐れる父によって映画館に行くのを止められ、劇場版ゼロワン&セイバーが配信待ちになった稚拙です……。
 それでもパンフレットは通販で入手、配信開始まで開封しないつもりでおります……

 さて、トロプリがついに始まりました!
 第1話を見終わって抱いた印象は『明るく楽しいプリキュア』といった感じですな。……某プロレス団体のキャッチコピーっぽい……

 今回、一ヶ月以上お待たせしたのは間違いなくバトルがあるから……
 そして注釈欄に凝ってしまったからです、ハイ……

 さて、今回は投稿後に寝ます……稚拙は基本、この時間以降は起きていられません……

 送信……おやすみなさ~い……


 ……NOW LOADING

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 

 ゆうべ、一刻も早くCRに行きたいと思いながら床についたからか、朝5時に目が覚めてしまった。

 向かいにあるむぎの家―――――『稲上ベーカリー』から、パンを焼く香ばしい匂いが流れてきている。

 今日は土曜日、学校も休みだ。むぎもきっと、早起きして手伝いをしてるんだろうな。

 せっかく早起きしたんだし、早朝ランニングするのも悪くない―――――そう思って布団から起きあがる―――――

 

 《ほくとくんっ!!》

 「ぅわぁっ!?」

 

 いきなり背中から叫ばれた。心臓が強く打ってびっくりする。僕はその声の元だろう枕元のネットコミューンを反射的に見ていた。そこには―――――

 

 「ど、どうしたの……ピース……?いつの間に……??」

 

 コミューンの画面の上に、真剣な眼差しで僕を見上げる、立体映像のキュアピースが立っていた。ゆうべはCRのキュアットタブに泊まってたはずだけど、いつの間に戻ってきてたんだろうか。その疑問を口にする前に、ピースは―――――

 

 《ワタシ、ようやくわかったの!ワタシがホントに好きなコト、『カッコいい』ってなにかが!それに、それにねっ!?》

 「ちょ、ちょっと待ってピース……まだこんな時間……!師匠達が起きちゃうよ……!」

 《あ……ご、ゴメンね……》

 

 あわてて口元を両手で覆うピース。そのまま申し訳なさそうに、潤んだ上目遣いで僕を見てくる。

 この仕草……確かに"守ってあげたいオーラ"が出てるなぁ……ピースの人気がトップクラスという話、わかる気がする。

 ……でも、その金色の瞳からは、昨日までのどこか迷いを含んでいた色が、確かに消えていた。

 

 《実はね、ほくとくん……》

 

 ピースは、それまでデータにしか話していなかったことを、僕にも語ってくれた。

 他のプリキュアたちが、サーバー王国に来てから16年の間に編み出した『究極の技』を、ピースだけはどうしても編み出せなかったこと。

 そして、昨日ネガキュアバグスターと戦った時にも、ピースの中に『焦り』があったから、上手くチカラを貸せなかったかもしれないこと。

 でも、ピースはこれまでの人生や戦いを振り返って、見つめ直して、ピースの中の『理想の自分』を、ようやく見いだせて、心の中で『カタチ』にできたことを―――――

 

 《今まで……ごめんなさい!……ワタシ、ちょっとどうかしてたみたい……!ワタシにとっての夢とか、『カッコいいこと』とか、全部ワタシ、知ってたの……知ってたのに、心の奥に閉じこめて、見えないようにフタしてて……でも、もう―――――》

 

 その、澄んだ金色の瞳が、真っ直ぐ僕を射抜いた。

 

 《大丈夫》

 「ピース……」

 《……さては、永夢センセーにハッパかけられでもしたか?》

 

 突然、ピースの隣に立体映像のデータが立った。

 

 《!データ……》

 《抱え込んでんじゃねぇかって、ミラクルが心配してたぜ?……でもその様子じゃ、いいアドバイスをもらえたみてぇじゃねぇか》

 《うふふ♪ちょっと、ネ♪》

 「ね、ねえ!永夢先生と話したの!?どんな話したの!?」

 《ソレはナイショで~す♪》

 

 ピースの告白を聞いて、僕は彼女のみならず、レジェンドプリキュアたち全員に詫びねばならないと思った。

 忘れかけていたんだ。

 『レジェンドプリキュアたちも、人間なんだ』ということを。

 僕の中で、『伝説の戦士』という彼女たちを表現する称号が、独り歩きをしてしまっていた。雲の上の、それこそ物語の主役として映像化されるほどの手の届かぬ存在に、僕の心が勝手に昇華してしまっていた。

 でも、違っていたんだ。世界を守るために戦い抜いた彼女達だって、未だに『完成』されていない。否、おそらくこの先も、『完成』される時は未来永劫やってこない。だからこそ、迷って、足掻いて、悩んでいたんだ。

 ピースは今、確かにひとつの『壁』を破壊して、高みへと昇った―――――僕たちの次元を、またひとつ引き離して。

 そしてそれは、僕とデータ、東堂さんとメモリアが超えるべきひとつの『壁』が、より強靭になったことを意味する。僕たちが強くなるのを、彼女たちも座して待ってるワケじゃない。

 

 『プリキュア』は、無限に強くなっていく―――――

 

 僕たちが彼女たちを捉えるのが先か、彼女たちが僕たちの届かぬ境地へと達するのが先か―――――

 不謹慎かもしれないけど、こう思ってしまった。

 

 

 ―――――面白くなってきたな。

 

 

 そして同時にこうも思った。

 

 

 ―――――う、うらやましい……ッッッ。(涙目)

 

 

 僕が永夢先生と話せたのは、バグスター関連の話題だけだったのに……プライベートのこととか、色々話したんだろーか……僕も永夢先生と話したりゲームしたりしたい……ッ!!

 だ……ダメだ。今はバグスターを倒して、東堂さんとキュアマジカル、キュアスカーレットを助け出す、それに全力を尽くさないと。

 大丈夫、時間はある。何しろこの日本、それも車で行けるくらいの距離に、聖都大学附属病院が実在していることがわかったんだ。僕は本物の仮面ライダーにいつでも会いに行ける機会を得られたんだ。この件が終わったら、永夢先生たちの仕事の邪魔にならない程度に、CRを訪ねればいい―――――

 

 

 ―――――この時の僕は、架空の存在だと思っていた偉大な先達が、本当に実在していたことに興奮していて、何もわかっていなかった。

 

 『プリキュア』と『仮面ライダー』が、"同じ世界に同時に存在している"ことが、如何に『(イビツ)』であるのか、を。

 

 そして、そんな『奇跡の日々』を長々と続けさせてくれるほど―――――

 

 『世界』は、都合良くできてはいなかったということを―――――

 

 ――――――――――

 

 「……検査結果が出たぜ」

 

 その日CRに着いてすぐ、僕は貴利矢先生に呼ばれた。

 

 「ニラんだ通り……ほくと、お前の血液にも"例の細胞"が存在していた。……オトコらしからぬカワイイ細胞がな♪」

 「カワッ…………!!?////」

 

 昨日、僕は念のためと思って、貴利矢先生に僕の血液検査をお願いしていた。貴利矢先生も渡りに船だったらしく、即座に了承してくれた。

 そして結果は―――――予想通りだった。

 顕微鏡で拡大された僕の血液サンプル写真には、それはもう見事なハート型の細胞が写し出されていたのである。

 

 「りんくお嬢ちゃんに続いてお前からも"コイツ"が検出されたことで確信した……コイツはプリキュアだけが持つ免疫細胞だ。プリキュアが持ってる『イーネルギー』……だっけか?それに長時間曝された白血球が変異したんだろうよ。名付けて『イーネ細胞』といったところか」

 「はぁ……」

 「ンでさっそく、この細胞が持つ抗体を電子化したデータと、昨日リサーチしたプリキュアのデータを元にして、あちらの"カミサマ"が何やらこさえてるみたいなんだが―――――」

 

 貴利矢先生はCRの一角、ゲームルームに視線を向けた。そのゲームマシンの画面の中には、ラベルが貼られておらず、塗装もされていない真っ白なガシャットを前に、難しい顔で唸る黎斗神さんがいた。

 

 「―――――……逆転の切り札、未だ完成せず、ってところだ」

 「……」

 

 あからさまに不安が顔に出てしまったのか、貴利矢先生は笑って言う。

 

 「そんな顔すんなって!そのトシであんまりネガティブに考えんなよ?いざ人を"ノせる"って時、そんなんじゃ誰もノってこねえぜ?」

 「……はい」

 「出来るコトからすりゃいいんだよ。諦めず、ブレーキ踏まずに足掻いてりゃ、必ず道は見えてくるモンさ。あとはその道をアクセル全開で突っ切りゃいい。気負えとは言わねえけど、期待はさせてもらうぜ、『伝説の戦士』さんよ♪」

 

 貴利矢先生は僕の肩を手のひらでポンポンと叩いて椅子から立ち、CRの奥へと戻っていった。

 

 「……出来るコトから、か……」

 《金言だな。ヒーローの基本だぜ》

 「……そうだね」

 

 データがポケットの中から言う。

 僕に出来るコトは限られている。それは僕だけじゃなくて、ここでバグスターと戦っているCRのドクターたちも同じなんだ。

 そして―――――今、僕に出来るコトは―――――

 

 ――――――――――

 

 「……気分は、どう……?」

 

 こう僕が訊ねると、ベッドの上の東堂さんは、笑って応える。

 

 「うん、ちょっとダルい感じはするけど……まぁまぁ元気、かな?」

 《いっぱい寝たからかいちょーかいちょー!》

 《ったく、入院患者らしからねぇな……》

 

 コミューンの上で健在をアピールするメモリアに、呆れ顔でデータが笑う。

 ―――――そう、永夢先生たちが東堂さんのゲーム病を治すために必死で戦っている中、バグスターと直接戦うこと以外で僕が出来るコトは、ただひとつ。

 東堂さんの傍にいること、それだけだ。

 少しでも、彼女が負っているストレスを和らげることしか、CRにいる僕が出来るコトはないから。

 東堂さんが入院したのが昨日だというのに、ベッドのそばの机にリンゴが置いてあるのが目に留まった。誰が持ってきたんだろうか。気が早いなぁ……

 

 「リンゴ食べる?」

 「うん!……皮むき、できるの?」

 「任せてよ」

 

 子供の頃から、自然とリンゴの皮がむけるようになっていた。最近はどれだけ切らずにつなげられるか、にも密かに挑戦中だけど、なかなか上手く行かないもんだ。

 

 「ほくとくんって、割と女子力高めだよね」

 「!?じょっ!?」

 

 急にそう言われて、手がすべりかけた。危うく果物ナイフを取り落とすところだった……危機一髪だ。

 

 「だってほら、こないだの合同調理実習の時に見てたけど、お料理手慣れてる感じだったし……今も皮むき上手だし……私なんか包丁持っただけでgkbr(ガクブル)なのに……」

 「家の環境でたまたま、だよ……家族で家事を持ち回ってれば、ね」

 「いいなぁ……私もプリアラ見てからお菓子づくりやってみたけど、あんまり上手く行かなくって……」

 「……」

 

 皮をむく手が、ふと止まる。

 

 「ほくとくん?」

 

 

 ―――――ほくとが作ったお菓子……甘く、ないね……

 

 

 「どうしたの?ほくとくん??」

 「…………え?……あ……ううん、なんでもないよ……ごめん、手が止まって」

 

 ―――――……今のは……そうか。

 何年か前、小学生の時の―――――

 ある程度料理が出来る僕が、『お菓子』だけは作れなくなってしまったきっかけになった、あの―――――

 

 その時、僕の心を(うつつ)へと引き戻すかのように、データが叫ぶ。

 

 《ほくと!》

 

 その胸のイーネドライブが、赤々と光っていた。

 

 ――――――――――

 

 僕は永夢先生、飛彩先生、貴利矢先生と一緒に、聖都大学附属病院の駐車場へと出た。

 件のふたりが、そこにいた。

 

 『モヤス……スベテヲモヤシツクス……』

 『マホウ……モット……マホウ……!』

 

 紅蓮の炎と漆黒の影。さながら、自然現象そのものが女の子のカタチになって、敵意を向けてきているかのようだ。

 怪訝そうな表情で、貴利矢先生はふたりのバグッチャーを睨む。

 

 「なるほどな……確かにバグスター反応が無いな。つまり今は"バグッチャー"の状態、ってコトか」

 「変身していなくてもわかるんですか?」

 「自分、バグスターだからさ。"同類"かそうでないかは雰囲気でわかるんだよな」

 「元社長が突貫で『ゲームスコープ』*1とゲーマドライバーにインストールした『バグッチャー探知システム』も、問題なく作動しているようだ」

 

 飛彩先生がゲームスコープに目を落としながら言う。

 昨日の戦いでは、ブレイブとスナイプがバグッチャーを探知できず、対応に苦慮する様を僕は間近で見た。黎斗神さんはその問題に早速対応したらしい。あのカミサマは『出来るコト』をするのがホントに早いんだよなぁ……。

 

 「子供番組のキャラからだいぶかけ離れたな。こんな姿のプリキュアを見せられた日には、テレビの前のお茶の間のガキ共はギャンギャン咽び泣くだろうな」

 

 大我先生も姿を現し、永夢先生を見やって訊く。

 

 「……ゲンムが作ってる"切り札"は?」

 「まだ、完成していません……今のぼくたちが、あのバグスターを攻略できる手立ては、現状――――――――――ありません」

 「ニコから聞いたぜ。こういうゲーム、『無理ゲー』とかいうらしいな」

 「確かにそうです。……でも、無理ゲーでも、やるんです。たとえクリアできなくとも、ぼくたちが戦った時間の分、必ず"次"へとつながるんですから……!」

 

 永夢先生は、隣に立つ僕を見る。

 

 「ほくと君……ここはぼくたちが戦って時間を稼ぐ。だからきみは―――――」

 「いえ、大丈夫です。僕もみなさんと戦います。……出来るコトからするって、決めましたから。……ですよね、貴利矢先生」

 「!……よく言った。お前、ノってるじゃねぇか♪」

 「ノせられましたからね♪」

 

 見習いとて、僕も頭数に入っている。

 それに、今の"ヤツ"の姿は"バグッチャー"だ。まともに通用する攻撃を放てるのは僕しか―――――プリキュアしかいない。

 

 「……わかった。お互い、無理をしないように戦おう」

 「はい!」

 

 永夢先生たちがゲーマドライバーを装着して、ガシャットを取り出すのを見て、僕もコミューンをこの手に取った。

 ―――――……いよいよだ。

 

MAXIMUM MIGHTY X(マキシマムマイティ、エエエェェェックス)!!!!!

 

TADDLE FANTASY(タドルファンタジー)!!

LET'S GOING KING OF FANTASY!

 

BANG!BANG! SIMULATIONS(バァン!バァン!シミュレーションズ)!!

I READY FOR BATTLESHIP!

 

BAKUSOU BIKE(爆走バァァイク)!!

 

 ガシャットの起動キーが押され、周囲にゲームエリアが波紋のように広がるのが見える。

 

 《本物の仮面ライダーと同時変身たぁ、ファン冥利に尽きるじゃねぇか……!なぁほくと!》

 「……ああ……!」

 

 緊張感と高揚感に板挟まれる中、僕は少し力が入った手で、コミューンにキュアチップをセットした。

 

START UP! MATRIX INSTALL!!

 

 僕と4人のドクターたちは、まっすぐに2体のバグッチャーを見据えたまま、静かに、そして鋭く変身の(ポーズ)を演じ、そして。

 

術式レベル50……!

 

第伍拾戦術……!

 

零速……!

 

変 身 ! ! !

 

マ ッ ク ス 大 変 身 ! !

 

プリキュア!マトリクスインストール!!

 

 《《DUAL GASHAT(デュアルガシャット)!!》》

 《《GA!CHAAAANNNN(ガッチャーーーン)!!DUAL UP(デュアルアァァップ)!!》》

 

 《GASHAT(ガシャット)!!》

 《GA!CHAAAANNNN(ガッチャーーーン)!!LEVEL UP(レベルアーーーーップ)!!》

 

 《MAXIMAM GASHAT(マキシマムガシャット)!!》

 《GA!CHAAAANNNN(ガッチャーーーン)!!LEVEL MAX(レベルマーーーーーックス)!!》

 

 《CURE-DATA! INSTALL TO HOKUTO!!》

 

TADDLE MEGURU(タドルメグル) RPG!!

TADDLE FANTASY(タドォォォルファンタジーーーー)!!!!

 

♪スクランブルだァッ!♪出撃発進!!

BANGBANG SIMULATIONS(バンバンシミュレーショォォォォンズ)!!!!

発 進 ッ ! !

 

♪爆走!独走!激走!暴走!

BAKUSOU BIKE(爆走バイクゥゥゥゥッ)!!

 

♪最大級のPOWERFUL(パワフル) BODY(ボディ)!

DARIRAGAANNN(ダリラガァァァン)!!

DAGOZUBAAARRRNN(ダゴズバァァァン)!!

MAXIMAM POWER(マキシマァァムパワァァァ)!! X(エエェェェェェックス)!!!!

 

CURE-DATEAR!! INSTALL COMPLETE!!!

 

渾  然  一  体

 

涙  祓  一  心

 

 

キ ュ ア デ ー テ ィ ア ! !

 

 

 眩い閃光が周囲へと迸り、構築された『ゲーマ』がブレイブとスナイプへと装着される。そして、エグゼイドの顔を象った一際巨大なゲーマへとエグゼイドが吸い込まれ、即座に人型へと変形し、地響きを立てて着地する。

 その隣で、僕もプリキュアの姿へと変わり、ここに5人の戦士が並び立つ。

 

 ―――――仮面ライダーブレイブ・ファンタジーゲーマーレベル50*2

 

 ―――――仮面ライダースナイプ・シミュレーションゲーマーレベル50*3

 

 ―――――仮面ライダーレーザーターボ・バイクゲーマーレベル0*4

 

 ―――――そして、仮面ライダーエグゼイド・マキシマムゲーマーレベル99*5

 

 歴戦の戦士たちが、僕を中心に並び立つ―――――

 ……って、僕がセンター!?

 ちょ、ま、待ってって……!?

 い、いいのかな……ホンモノの仮面ライダー達を差し置いて、僕が戦隊で言うトコロのレッドのポジションに……っっ……///

 

 『ノーコンティニューでクリア……は、今は出来ない……けど、ゲームオーバーには絶対にならないぜ!』

 

 エグゼイドのいつもの決め台詞も、今回ばかりは少し違う。

 現時点では絶対にクリアできない―――――勝利条件のない戦いに、僕たちは挑むんだ―――――

 

 『場所を移すぜ……!』

 《STAGE SELECT!》

 

 レーザーターボがスイッチを起動し、周囲の景色が文字通り一変、駐車場から、きわめて見覚えのある岩場になった。

 

 《おお、コレがホンモノのステージセレクトか!生の特撮ワープ*6が体験できるとはなぁ。この感じ岩船山*7か?》

 『何の話だ?』

 『い、いや、なんでも……』

 

 レーザーターボの問いにしどろもどろする中、2体の"ネガキュアバグッチャー"が咆哮し、無数のザコバグスターを生み出したと思うと、嵐のようなビームの弾幕が視界を埋め尽くす。

 刹那、爆音が鼓膜を震わせ、背後から熱気が豪風とともに無遠慮に追い巻き、僕の長髪とマフラーを乱れ靡かせる。

 ―――――これこそ、魂を屠る光。

 ―――――命を侵す、戦の熱。

 それに急かされ、背を押されるように―――――

 

 『行くぜ、ほくと!!』

 『……はいッ!!』

 

 ―――――憧れの声とともに、駆け出す。

 

 同時に、またも爆発が巻き起こる。

 僕の右側面から、スナイプが砲弾を一斉射し、左側面からブレイブが放つ魔法の光が、灰色の砂利地を色とりどりに染め上げる。

 そして眼前には、視界と殺風景を埋め尽くし、奇声を叫びながら殺集する異形の兵群(レギオン)―――――

 

 『『『『『『『『バグゥゥゥァァァァア!!!!』』』』』』』』

 

 いつ終わるかもわからない、勝ち目の見えない戦いに、僕らは今、身を投じた。

 

 ――――――――――

 

    PLAYER CHANGE

 

    LINK TOUDOH

    CURE-MEMORIA

    CURE-DATEAR

 ⇒  CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 さっき、軽口を叩いて悪かった。

 コイツはヤバい。

 これまでアタシたちが戦ってきた中で、間違いなく最大級の難戦だ。下手すると―――――否、十中八九、プリキュアたちが敗れ、アタシとメモリアが落ち延びるキッカケになった、ジャークウェブの『第二次サーバー王国侵攻』……それに匹敵するヤバさだ。

 何しろ、今のアタシたちにとって、勝つための条件がまったく揃っていない。やれることは時間稼ぎだけだ。ゲームみてぇにザコ狩りまくって経験値が手に入るならまだしも、残念ながらそんな気の利いたシステムはこの現実様には実装されてねぇんだと。非情だ。

 それでいて、負ける可能性だけが残されてるとか、冗談だと思いてぇ。隣に『準最強フォーム』のマキシマムゲーマーのデカいガタイが立ってても、まったく安心できねえ。

 歴代プリキュアがノしてきたザコキャラを不恰好に真似たザコバグスターが、ゾンビめいて殺意を向けてくる。

 ほくととエグゼイドが雄叫びを上げながら殴り、蹴り、投げちぎって叩きつける。スナイプに目を向けると、全身の砲塔から閃光が奔り、次の瞬間、10体くらいのザコバグスターが爆発と同時に木っ端のように舞い上がって吹っ飛ぶ。反対側ではブレイブがマントを翻すとともに無数の魔法陣が浮かび、そこから剣や槍、矛や斧を持った別のザコバグスターの一群が召喚され、"ネガキュアバグッチャー"率いるザコ共と交戦を開始する。別の地点では、レーザーターボが"双刃烈破"ガシャコンスパロー*8を手に、撃っては蹴り、斬っては殴るの大暴れ。

 これを、100体以上のザコの大軍相手にやっている。しかもザコは"ネガキュアバグッチャー"から無尽蔵に補充されてくるときた。

 岩船山めいた広大な荒れ地が戦場と化す。だがコイツは、レジェンド大戦*9のような見てて心躍る戦いじゃねぇ。

 ハッキリ言ってやる。この『インストール@プリキュア!』が『小説』で良かったよ。

 

 ―――――こんな地獄絵図を映像化できてたまるか。

 

 《!?なんて数だ!?》

 《増殖能力が昨日より格段に向上している……!このままだと数に押し切られるぞ!!》

 《目に入るヤツ全部が敵だと思えッ!手も足も止めるな、ノンストップでブチのめせ!!》

 《言われるまでも無ェ!!》

 《無秩序に増殖する……まるでガン細胞だ……!!》

 

 爆音や喧騒に紛れて、ライダーたちの怒号が通信で飛び交う。

 

 《これは……ヤバいかもしれない……!》

 『永夢先生……!?』

 

 アタシたちをフォローするためか、さっきからアタシたちと離れず戦ってくれているエグゼイドの呟きが聞こえた。

 

 《ゲームエリアの"容量"は無限じゃない……!このままバグスターが増殖し続けたら、"容量"がパンクしてゲームエリアが崩壊する!》*10

 『それって……!?』

 《ここで増殖したバグスターが全部エリアの外に放出されて―――――》

 

 最悪のシナリオが、アタシとほくとの脳裏によぎり、背筋に戦慄が走る。

 

 『!!…………聖都大学附属病院に、こいつらが殺到する……!!!』

 

 アタシたちが失敗(トチ)ったら、メモリアとりんくのゲーム病を治せないし、マジカルやスカーレットを救えないのはもちろんわかってる。

 それに加えて、病院にいる何百人というニンゲンの命が危険に晒されるコトになるたぁ……!!

 ……このハードさ……このシリアスさが、『仮面ライダーの戦い』ってヤツ、なのかよ……!!

 

 《レーザー!?テメェどうした!?押されてるぞ!!》

 

 スナイプの爆音雑じりの声が通信越しに響く。ほくとは余裕が無いから、アタシが"中"からそちらを見やると、ザコの大群の中、勢いに押されて一歩、また一歩と後退するレーザーターボの姿が一瞬だけ確認できた。

 

 《チッ……!プロトガシャットは全部返しちまったからな……!かといってギリギリチャンバラはレーザーターボ(コイツ)のレベルアップにゃ対応してねぇし……!*11泣き言言ってもしゃあねぇが……!》

 『どういうことです……!?』

 《レーザーターボは基礎スペックこそ高いが、本分は機動力で攪乱する高速戦闘だ。乱戦には致命的に向いていない》

 《飛彩センセーバッサリだねェ……》

 

 確かに、レーザーターボの華奢な体で、こんな大乱闘は酷というものだ。よくスパロー一本で凌いでる。もっとも……ほくとは素手なんだが。

 

 《それなら、コレをレーザーに届ければ……!》

 

 エグゼイドが、群がるザコをブッ飛ばし、合間に一本のガシャットを取り出した。

 

 《……く……!いつの間にこんなに引き離されたんだ……!?レーザーが孤立している……!》

 『僕が届けますッ!』

 「お、おい!?」

 《ほくと!?》

 

 ほくとはエグゼイドの手からガシャットを引っ手繰る(ひったくる)と、レーザーターボの方向めがけて猛進を始めた。視界を埋め尽くす敵、敵、敵―――――を、全身で薙ッ倒す。ある意味わかりやすい。目に入るヤツ、仮面ライダー以外は残らずブチ()めしゃいいんだから。

 左手のキュアットサモナーに、ほくとは青いキュアチップを呼び寄せた。

 

 『キュアチップ、『キュアマーメイド』!キュアッと……―――――!』

 『バグゥゥァァ!!!』

 

 目前のザコにチップをはね飛ばされた……!

 それだけでなく、足を止めたほくとの手足に、我先にとザコが喰らいついてくる。

 

 『ぐッ!?』

 「ほくとッ!!」

 『なぁ、めるなぁぁーーーッ!!!』

 

 両手脚からイーネルギーを噴き出し、群がるザコを吹っ飛ばし、目の前のザコの肩と頭を踏み台にして跳び上がり、空中でチップをキャッチした。

 

 『―――――、変ェン、身ッッ!!』

 《澄みわたる、海のプリンセス!キュアマーメイド!》

 

 水色の閃光が迸り、身体に水魚の装束を纏って着地する―――――!

 

(チョウ)()(セイ)(カイ)

 

キュアデーティア、"マーメイドスタイル"!!

 

 アタシの隣に青い『部屋』が形成され、その中にキュアマーメイドの姿が現れる。

 

 「……始まったのね」

 「あぁ……好評決戦中だ。すまねぇけど、今は時間稼ぎにしかならねぇ……スカーレットを助けるのは―――――」

 「それで充分よ」

 「!」

 

 マーメイドは、凛とした笑みをアタシに向けていた。

 

 「それが、最後にスカーレットとマジカルを取り戻すための布石になるのなら……これからほくとが打つ手は無駄ではないと……私も信じるわ」

 「……ありがてぇ……ッ」

 

 こんな、時間稼ぎのためだけに力借りるってのに、何もかもわかってくれてるマーメイドには頭が下がる。何としても、必ずスカーレットを助け出す。……必ずだ。

 

 『流れの(まま)に……ただ、逆らわず乗りこなすのみ……!』

 

 ほくとの足元から水柱が立ち、アタシたちは宙に舞った。天高く身体を翻すその様は、人魚(マーメイド)の名に相応しい。

 

 「さて跳んだぜ……ここからどうするよ?」

 『そのまま跳び続ける!』

 「それって……!?」

 『この状況にピッタリの技があるんだ!データ、マーメイド、行くよ!!』

 

 最近流行りの"全集中"、足先に全神経を尖らせて―――――

 ほくとは『ザコの頭のてっぺん』に着地し、さらにバック宙で跳ぶ。跳躍の瞬間、水飛沫が飛び散る―――――

 ザコの頭のみを足場に、上半身を一切使わず、脚のバネだけを使った後方宙返りだけで、大乱戦の中を跳んでいく奇技―――――

 

 

―――――空現流 躍動術―――――

 

卅玖式(サンジュウキュウシキ) (ミナ)()(ガケ)

 

 

(スイ) (ギョ) (ハッ) (ソウ) (トビ)

 

 

 さながら、水面を跳ねる魚だ。なるほどこれなら、ごった返しの3密状態だろうと関係なしに進める。その上常にイレギュラーな軌道で空中を跳ね回るから、狙撃も当たりにくい利点がある。

 もっとも―――――

 

 《ぅぉわ!?なんだァッ!?》

 

 この光景を見たニンゲンは確実に腰抜かす。何しろ、『ごった返す人混みの中、その頭だけを足場に、美少女が連続バック宙しながら迫ってくる』ってビジュアルだぜ。案の定、貴利矢センセーはドギモを抜かれたようだ。

 

 『永夢先生からの、お届けモノ―――――ッ!!』

 

 最後の跳躍から、レーザーターボに躍り掛かろうとしていたザコの背中目掛けてライダーキックを放って足蹴飛ばし、レーザーターボの横へと着地して―――――

 

 『……です❤』

 

 と、満面の笑みでガシャットを差し出すもんだから、レーザーターボの複眼部分がふっと消え、真っ暗になるのが見えた。コレ、無表情になってるな。

 

 《お前……本当は男装のなんちゃらじゃねぇよな……?》

 『ち、違いますっ!』

 

 さっきも地の文でさりげなく言ったけどさ、『キュアデーティア』って掛け値無しの美少女だ。まぁ、変身した姿なんざ鏡で見る機会なんてほとんど無いだろうから、最初に変身した時以来、ほくとはまともに『キュアデーティア』の顔を見てねぇ。……というか、意識しないようにしてるのかもな。

 ともかく、ニコッと笑いかけりゃ、老若男女の9割はコロッと惹かれるくらいには、『キュアデーティア』はカワイイ。

 ……い、言っとくがな、自画自賛ぢゃねーんだぜ!?ほくとが女体化しちまうのはアタシのせいじゃぁねぇ!アタシも『変身アプリ』を何度も調べてみたけど『異常ナシ』の一点張り……ともかく、クイーンを助けて詳しく訊いてみるっきゃねぇんだ……

 

 『そ、それよりもコレを使ってください!』

 

 慌ててほくとが差し出したガシャットを、レーザーターボは手に取る。少し、複眼が怪訝げに変わる。

 

 《おいおい、コレか……自分と相性悪いだろ、コレ……まぁでも、この状況にゃ打って付けか……永夢センセープロデュースなら、ノるっきゃないっしょ!!》

 

 右手の指をガシャットのグリップに引っ掛け、クルクル回して小粋に構え、そのガシャットの起動スイッチをレーザーターボは押した。

 

GEKITOTSU(ゲキトツ)!! ROBOTS(rrrrロボォォッツ)!!!

 

 そう、コイツは『ゲキトツロボッツガシャット』。エグゼイドはコイツをレーザーターボに使わせたかったというワケだ。

 だが揃いも揃ってKYなザコ敵軍団は、『変身中は手出し無用』っていう暗黙の了解すらどこ吹く風、理性も品性も微塵も感じさせない奇声を上げて殺到する。

 ―――――まったく……。 

 

 『様式美(ルール)ぐらい、守ろうぜ……?』

 

 ほくとはクリスタルプリンセスロッドを手に取り、思い切りジャンプすると、

 

 『貴利矢先生!跳んで!!』

 《!》

 

 何をしようとしてたかは完全には伝わらなかったろうけど、『何かやる気だ』ってのは貴利矢センセーも悟ったようで、ガシャットを持ったまま真上に跳躍した。流石はひと跳び52.1メートルのハイスペック、アタシたちのジャンプ高度をアッサリ超えていった。それを見たほくとはニヤリと笑む。やはりほくともはこのジャンプ力を把握してた上で貴利矢センセーに跳んでもらったか。

 

ドレスアップキー!"アイス"!!
 

 

 ロッドにキーを捩じ込み、冷気が空気を巻き込み始める。

 

(レイ) (ゲキ) (ラク) (カイ)

 

"海 姫 零 凍 弾(フローズンリップル)"!!!!!

 

 一瞬にして巨大な氷塊……否、『氷山』がロッドの先に形成されたと思うと、ほくとはそれを地面に向け、思い切り蹴落とした。当然それは重力に従って降下し、群がっていたザコを圧し潰しつつ、重々しい音を響かせて叩き落ちた。視界の片隅の『撃墜カウント』が『28』増えた。

 

 《やるゥ……》

 『まだ、ここからです!』

 

 後は落下するだけ―――――だと思ったか? 

 ほくとはこれだけじゃ終わらねぇ男だよ。

 右の拳を強く握り締め、ただ一点を見据える―――――

 

 

―――――空現流 砲戦術―――――

 

壱拾陸式(ジュウロクシキ) 陣形裂断(ジンケイレツダン)

 

(ジュウ) (バク) (サイ) (ゴウ) (ガン)

 

 

 

 

 

 

 叩き落ちた巨大氷山に、自由落下の勢いを乗せた渾身の下段突きが打ち込まれた瞬間、砕かれた氷山が無数の徹甲弾と化し、全方位に放たれる。『陣形裂断』とはよく言ったもので、密集隊形だったザコ集団がそれはもう見事に吹っ飛んだ。視界の片隅の『撃墜カウント』が、一気に『79』増えた。

 

 「………………凄い、わね……」

 

 マーメイドには刺激が強かったか、顔をひきつらせてヒイている。『巨大氷山にジャンピング瓦割りブチかますキュアマーメイド』なんて映像(モン)、ネットのドコにもまず転がっちゃいねぇ衝撃映像だからな……

 ともあれ―――――

 

 『……露払いました……!』

 「カッコよく変身してくれよな!!」

 《……まったく、ノせ上手なこって!》

 

 ザコがひしめくゲームエリアの中、ポッカリと"ウルトラ広場"*12よろしく『穴』が空いた場所にアタシたちとレーザーターボが降り立つ。同時にアタシたちの全身から蒸気が噴き出し、視界を覆う。

 レーザーターボは待ってましたとばかりに―――――

 

爆 速 !

 

 《GASHAT(ガシャット)!!》

 《GA!CHAAAANNNN(ガッチャーーーン)!!》

 《LEVEL UP(レベルアーーップ)!!》

 

♪爆走!独走!激走!暴走!

BAKUSOU BIKE(爆走バイクゥゥゥゥッ)!!

A GACCHA(アガッチャ)!! ♪ブッ飛ばせ!突撃!激突(ゲ・キ・ト・ツ)パンチ!!

GE()KI()TO()TSU()! ROBOTS(ロボッツ)!!!

 

 衝撃波とともに白煙が散る。

 鋼鉄の左腕が目を引く真紅の拳闘士―――――『仮面ライダーレーザーターボ・ロボットバイクゲーマーレベル0』の爆誕だ。

 更なる『原作未登場フォーム』の登場に、ほくとはまたも見とれちまってる。

 

 《さァて……ノせる代わりに、全員まとめてノしちゃうぜ!!》

 

 群がるザコの群れへと突撃したレーザーターボは、左手の"ゲキトツスマッシャー"*13を最初に見定めたザコの土手ッ腹に叩き込み、吹っ飛ばす。それはもう美しい直線を描いてザコ集団に突き刺さり、ボウリングのピンのように四方八方に飛散する。見てて景気のいい光景だ。

 殴り散らされるのは御免と、ザコ集団の中のノットレイタイプのヤツがビームを撃ちかける。だがそこは脚力自慢のレーザーターボ、残像が見えるほどのスピードで光の弾幕をかいくぐり、ザコ軍団を殴り潰していく。一瞬動きが止まった―――――ところに死角から光迅が閃く―――――が。

 

 《見えてるぜ》

 

 突き出したゲキトツスマッシャーの掌に、ビームが受け止められてスパークしているのが見え、やがてぐしゃりと握り潰された。

 

 《言ったろ?全員ノす、ってな!》

 

 レーザーターボはザコ軍団を見据えると、キメワザスロットにガシャットを差し込み、右手でゲーマドライバーを触発させる。

 

 《GASHAT(ガシャット)!!KIMEWAZA(キメワザ)!!!》

 

 

GEKITOTSU

―――――――――――――――――――――――――

CRITICAL STRIKE!

 

 

 左腕にエネルギーが火花めいて溢れ出し、思い切り振りかぶった構えから射出された。ブースターに点火したゲキトツスマッシャーが先頭のザコに命中して殴り倒し、Uターンして戻ってくる。

 そこでレーザーターボは、ゲキトツスマッシャーをジャンピングソバットで蹴り返し、再びザコを殴らせる。あとは繰り返しだ。まるで足だけでテニスのラリーでもしているかのように、ゲキトツスマッシャーがレーザーターボとザコ軍団の間を凄まじいスピードで往復する。

 

 『凄い……!』

 

 唖然とするほくとを後目に、レーザーターボは高々と跳び、それをゲキトツスマッシャーが追いかける。そして―――――

 

 《うぉぉぉうりゃぁぁぁぁあ!!!!!》

 

 空中で一回転し、ライダーキックの体勢に入りながら急角度で降下してくる。そのライダーキックの足先に、なんとゲキトツスマッシャーが金属音を立てて合体、足先に握り締めた鉄拳が装着された、『ライダーキックの体勢で放つライダーパンチ』という、斜め上過ぎる技がアタシたちの前に顕現したのだった。

 ブースターの加速がノせられた爆撃の如き急降下攻撃が、ザコ軍団のド真ん中に『着弾』し、土煙とともに爆発と衝撃波が巻き起こり、四方八方にザコが舞った。

 

 『僕達も!……代わるよ、マーメイド!』

 「わかったわ!」

 

 アタシたちも見物してるヒマはない。殺到するザコの攻撃をかわしながら、ほくとは次なるキュアチップをコミューンに叩き込む。

 

 『キュアチップ、『キュアトゥインクル』!』

 《きらめく星のプリンセス!キュアトゥインクル♪!》

 『キュアっと……変身ッ!!』

 

()()(セイ)(レン)

 

キュアデーティア、"トゥインクルスタイル"!!

 

 今度はトゥインクルスタイルにチェンジだ。思えば、キュアデーティアになって初めてのレジェンドインストールがコレだったな。……さて、初心に返ってどう立ち回るか。

 

 『少し目が回るけど、ちょっとだけガマンして!』

 「え?えええ!?」

 

 いきなり呼び出されてこれなら、トゥインクルが困惑するのも無理はない。

 ほくとは星の力を練り込んで目の前に回転をかけて放ち、その高速回転する『☆』に、両手を重ねて突っ込み、『☆』の回転に乗って全身を回転体と化し、ザコ共の群れに突撃する―――――!

 

 

―――――空現流 槍突術―――――

 

卌式(シジュウシキ) 金剛螺旋(コンゴウラセン)

 

(ラン) (エイ) (マガツ) (ボシ)

 

 

 場所を埋め尽くす『敵』を、もはや『人』とは見做(みな)さず『壁』と見て、自分の身体を『ドリル』と化し特攻、『掘り進む』っていう―――――"常識?なんだそりゃ?食えるのか?"的発想から編み出されたとしか思えん狂気のワザだ。

 ほくとと一緒に蔵ン中の書物でこの技の図解を見た時ゃ、『こんな技、ニンゲンが出来るわきゃねーだろwww』って草生やしてたが……

 

 や り や が っ た 。

 

 回転エネルギーをトゥインクルの技から引き出すたぁ……ほくとのアイデアが眠る脳内在庫は売り切れとは無縁だ。……逆に、ほくとのじーさんやオヤジさん、生身ひとつでコレが出来るのか……??

 そんなわけで、アタシたちはゲームエリアにひしめくザコの群れを、ドリルのように掘り進んでるワケだが……

 つーか、ほくと―――――

 

 「ドコ向かってんだ!?」

 

 まさかと思ってレーダーを見ると、『敵』を示す無数の赤い光点の中に、一際目立つ巨大な2つの赤点へと、アタシたちは真っ直ぐ向かっていた―――――!

 

 「ボス狙いか……!でもよ!」

 『わかってる!"勝つ"方法はない!でも違うだろ?僕達は見習いとて『プリキュア』だ!―――――』

 

 "ザコの壁"を突っ切った先に―――――そいつらは立っていた。

 

 『"想い"を伝える……それが、僕達の戦いだ!!』

 「……!」

 

 忘れかけてた。

 アタシたちはプリキュアなんだ。

 周りがライダーだらけだからって、無理に合わせるこたぁねぇ。

 殴る蹴るの肉体言語は『手段』に過ぎねぇ、プリキュアの本質は『心を伝えるコト』なんだって、"お師さん"もそう言ってたっけか。

 そして、その伝えるべき『心』は―――――

 

 

 「トワっち!……リコりん!」

 

 

 ―――――『鍵の姫』の、『真心』で。

 

 

 「いっしょに帰ろっ……!みなみんとみらいっちも……他のみんなも待ってる……!そんなトコに閉じこもってないでさ!」

 《…………プシュゥゥゥゥ………………?》

 

 トゥインクルのその言葉に反応したのか、触れるモノを容赦なく灼かんとする赤黒い炎を全身から舞い上がらせている"スカーレット"が、くい、と、こちらに視線を向けてくる。何か、ガスが抜けるような吐息も添えていたが。

 

 《…………キ、ラ……、ラ…………―――――》

 「……!」

 

 通じた、のか。

 ―――――否、ミラクルの時と同じだ。

 『違う』のはもう知ってる。

 今までのもそうだったが、バグッチャーは取り込んでるプリキュアのキメ台詞やら名言やら、さらには『声が似てる"別の誰か"』の台詞まで、何の脈絡もナシにベラベラと、そのプリキュアと『同じ声』で口走ってくる。しかしそれには何の意味もない。クルマや機械の駆動(エンジン)音と同じだ。

 ……わかっちゃいる、いるんだが―――――

 ニンゲンってのは、そうしたコトに、滅法……ッ。

 

 「トワっち……!!」

 

 涙目のトゥインクルが叫ぶ。

 

 

 《…………………………メ……、》

 

 凶々しい双眸がアタシたちを捉えた時には―――――

 もう、遅かった。

 

 

 《メカラ、ビーム》

 

 

 言葉通りに"スカーレット"の両目から赤黒い光線が噴き、無防備なアタシたちの鳩尾あたりに叩き込まれた。ほくとの呻きと苦悶の声が重く響き、同時にアタシとトゥインクルにも衝撃と灼熱が襲いかかった。

 

 『ぐぅぅぁ………………ッッッ!!!』

 「がッッッ……………………!!!!!!」

 「うぅぅぅっっ…………!!!!」

 

 カラダが骨すら残さず融かされると錯覚するほどの悍ましい『熱』が、アタシとほくととトゥインクルが一緒くたになったキュアデーティアの全身をのた打ち回って荒れ狂う。     

 

 「……トワっちと……リコりんに……アタシの声……届かなかった……ゴメン…………ゴメン……みなみん……みらいっち…………―――――」

 

 星色の燐光を残して、アタシの隣からトゥインクルの姿がかき消えた。同時にレジェンドインストールも解除されてしまった。

 倒れた先の地面の砂利が、刺々しくて素肌に刺さるようだ……。

 

 《チッ、何やってやがるプリキュア!?》

 

 スナイプの怒号が飛んでくる。それでも援護射撃も飛ばしたか、アタシたちの周囲に群がるザコが爆風に吹っ飛ぶ。

 

 《中学生!ペースを乱すな!》

 《ったく、調子にノるのはいいけどよ、周り見ずに先走ってクラッシュしてちゃしゃぁないだろ!》

 

 ブレイブとレーザーターボの有り難い説教が身にしみる。そりゃ、ライダーのセンセー方からすりゃ、勝手に独断専行して勝手にやられたようにしか見えねぇだろうからなぁ……"プリキュアの心ライダー知らず"ってトコか。

 さらにアタシたちが視界に入って危険を察知したからか、ふたりのバグッチャーが進撃を開始した。ひしめくザコ共をかき分け、最後方で砲撃しているスナイプ目掛け、一直線に突貫してくる。

 

 《!させるかッ!!》

 

 それを見るや、エグゼイドが一瞬で進路上に仁王立った。マキシマムゲーマーはその巨体に反して俊敏で、100mを0.99秒で駆け抜ける。遮蔽物さえなけりゃ、このゲームエリアならドコでも一瞬だ。アタシたちにはエグゼイドが瞬間移動してきたようにしか見えなかった。

 

 『永夢先生……まさか!?』

 

 突っ込んできた"スカーレット"と"マジカル"の前に立ちはだかったエグゼイドは、その(おお)きな()で、ふたりのバグッチャーの頭をガシリと掴むと―――――

 

 《リプログラミングだッ!!!》

 

 ―――――その手があったか!

 『リプログラミング』―――――エグゼイド・マキシマムアクションゲーマーレベル99の真髄とも云える特殊能力(アビリティ)だ。

 バグスターの遺伝子を解析して、それを書き換え、能力を弱体化させたり、無力化させたりすることができる権能だ。

 ホントーはもっと複雑な事情やら設定やらが山ほどあるんだが、地の文でも注釈でもとても語りきれねぇから端折らせてもらう。一言で言えば―――――まぁ、『チート*14』だな。もっとも、コレはエグゼイドのチートの『その1』にすぎないんだけれども。

 ともかく、この手が通用すれば、倒せなくとも弱体化くらいは―――――

 

 《うォッ!?》

 

 だが、エグゼイドの両手がスパークして弾かれた。それを隙と見たふたりのバグッチャーは、掌底を同時にエグゼイドに叩き込んだ。

 

 《くぅッ!》

 

 身長256cmの『最大級のパワフルボディ』が土煙を上げて10メートルほど押し飛ばされ、片膝をつくその様は、アタシを、そしてほくとを慄然とさせるのに十分なインパクトを持つ絵面だった。

 

 『永夢先生ッ!?』

 《リプログラミングが……通用しなかった……!》

 『……!』

 《何だと……!?》

 

 ドラマの中でも、数々のトンデモ能力を発揮して、エグゼイドを勝利に導いてきたリプログラミングが、コイツには通用しなかった―――――

 もっとも、アタシにとっちゃある程度は想定内だったが。今のコイツらは『バグッチャー』の形態だ。対バグスターに特化している仮面ライダーの攻撃は通用しない状態で、果たしてどうだ、とは思ったが……やはり、か。

 しかも意地悪なことに、コイツらはさっきからずっと『バグッチャー』のままだ。こっちのメイン戦力が仮面ライダーだってことを見越してやがる。『この姿なら倒されない』コトをパーペキに理解してやがるのか。

 ……完全にナメられてる。畜生がッ。

 

 《モエテ、キエロ……!!》

 《ウゥゥゥ……!グゥゥゥゥゥァァァァ!!!》

 

 ふたりのバグッチャーが同時に炎と五色の怪光線を放ち、ザコ軍団がそれに合わせてレーザーを一斉発射した。目が眩むと同時に轟音が耳を塞ぎ、殺人的な爆発熱が全身を灼く―――――

 

 『『『『『うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』』』』』

 

 レベル99やレベル50のライダーたちが、為す術無く膝を折って倒れ伏す―――――

 つまりは、それほどまでの脅威ってことか、『アレ』は―――――

 

 《く……くぅッ……!!》

 

 絞り出すような永夢センセーの声とともに、倒れたエグゼイドが砂利を被る。

 

 《時間稼ぎ……どころじゃないな……!》

 《このままだと遠からず……逆にこちらが制圧されてしまうぞ……!》

 《でももうリタイアもリトライも出来ねえ……!やれるだけのことをやってコレかよ……ッ!》

 

 歴戦のドクターライダー達までも、その口から勝機を出せなくなっている。

 

 《まだだ……!!》

 

 突っ伏したままのエグゼイドが、開いていた手を拳に握る。

 

 《まだ、オレは諦めない……!!》

 『!』

 《約束だから……!オレ達が運命を変える……必ずゲーム病を治すって、オレはりんくとほくとに約束したんだ……!!オレは……!絶対に諦めない……!食らいついてでも、オレはこの場を耐え凌ぐ……!!たとえこの戦いが"負けイベント"*15だとしても……!!》

 

 雄々しく立ち上がったエグゼイドは、肩を揺らしながら身構えると、バグッチャーを睨んで―――――

 

 《ゲームオーバーには……簡単には……なってやらないぜ……ッ!!》

 『……永夢先生……!』

 

 そうだな―――――

 アタシたちのヒーローは、決して諦めないんだ。

 でなけりゃ、アタシとほくとが―――――そして彼の戦いを固唾を呑んで見守ってきた子供達が、憧れねぇワケねぇんだよな。

 その憧れのヒーローと、肩を並べて戦ってるってんならさ……

 

 『……いつまで寝てんだ、僕ってヤツは……』

 

 おぼつかない脚になんとか力を入れて、ほくとは立ち上がる。

 

 『負けられない……!マジカルを待ってるミラクルのためにも……!スカーレットを待ってるマーメイドとトゥインクルのためにも……!そして……!東堂さんとメモリアに、元気になってもらうためにも―――――』

 

 全身にもう一度、イーネルギーを迸らせ―――――

 

 『笑ってもらうためにも!!』

 

 一歩、ほくとは前に出て、"スカーレット"と"マジカル"を見据える。

 まだ、立ち向かう気概ってヤツは、尽きちゃいない―――――

 

 『お前たちが放つ焔も、魔法も……!それは孤高を気取った冷たい城に過ぎない……!痛くない!熱くない!!今こうして、僕達はまだ立っている!!ここが絶望の淵だろうと、希望は灯ったまま消えちゃいない!!……必ず…………キミ達を助け出す―――――』

 

 ふっと、ほくとは険しかった表情を緩めて、優しく呟いた。

 

 『………………待ってて、スカーレット……マジカル…………東堂さん』

 

 

 その時だった。

 

 ほくととエグゼイドは2人分くらい間を空けて立っていたが、その間を、突然ピンク色のビームが後ろから突っ切っていき、ザコ共の群れを消し炭にしながらふたりのバグッチャーに直進して、命中した。

 

 「な……!?」

 

 アタシもほくとも瞠目していた。それはエグゼイドも同様だったようで、まずはふたりのバグッチャーを見た。まるでなんちゃらの十戒のようにキレイな直線がポッカリと出来上がり、その先でバグッチャーが唸り声を洩らしながらよろめいているのが見えた。さっきのビームが効いているのか。

 そして次に見たのは、そのビームの発射源と思しき後方。その先にいたのは―――――

 

 

八 手 ほ く と ォ !

 

 

 『!!!!』

 

 ……この、声は……!!

 そして、このイントネィションは……!!

 

 「何故君がプリキュアに変身しているのか……何故傷だらけでバグスターの攻撃を耐え凌いでいるのか……何故ゲームエリアの中で戦っているのくワァ!その答えはただ一つ…………ァハァ…………」

 

 …………まったく。

 どうやら遅刻癖持ちなのは、ヒーローだけじゃないらしい。

 

八 手 ほ く と ォ !

 

君がこの(クァミ)、檀・黎・斗・神の降臨を!!

心待ちにしていた男だからだァーーーッッ!!

アァーッハハハハハ!!!

アァァーーハハハハハハハハッッ!!!!

 

 

 この邪悪なテンプレが、今のアタシにはマジで神託に思えた。

 

 

 

 SAVE POINT……

*1
CRのメンバーに支給されている聴診器型ツール。患者の身体を瞬時にスキャンし、ゲーム病への感染の有無、感染したバグスターウイルスの種類を瞬時に診断し、診断結果を投影する。また、外部の医療機器と接続し、患者から採取した血液などの検体から、より高度かつ詳細な解析も可能。通信機能も搭載しており、ゲームスコープ同士の双方向通話はもちろん、ゲーム病関連の救急通報が優先して送られるようになっている。

*2
仮面ライダーブレイブが、新たに黎斗が開発した、2つのゲームデータがセーブされた特殊なガシャット『ガシャットギアデュアルβ』を用いて変身した強化形態。モチーフとなったゲームは、プレイヤーが魔王となり、勇者を倒し世界を征服するダークファンタジーゲーム『タドルファンタジー』。そのためか暗黒騎士を彷彿とさせる刺々しい鎧とマントを身にまとっており、『闇堕ちしたブレイブ』と形容できる姿となっている。ガシャコンソードを用いた近接戦闘はそのままに、『魔法』を発動することで遠距離への攻撃や魔力障壁による防御、瞬間移動や飛行なども可能とした。さらに雑兵バグスターウイルスをその場で生成し、意のままに使役する能力も持っている。圧倒的な攻撃能力と物量を以て、『相手の世界』を『征服』する『幻想の魔王』。当初は圧倒的性能に飛彩が振り回されており、変身解除後に苦悶の表情を浮かべ、時にはファンタジーゲーマに意識を乗っ取られ、暴走状態となったこともあったほど。しかし後に克服し、テレビシリーズ中盤におけるブレイブの主力フォームとして活躍した。

*3
仮面ライダースナイプが、『ガシャットギアデュアルβ』を用いて変身した強化形態。モチーフとなったゲームは、プレイヤーが多数の戦艦を率いる司令官となり、自軍艦隊を指揮して敵艦隊を撃破していくウォー・シミュレーションゲーム『バンバンシミュレーション』。両腕・両肩に10門の砲塔を装備し、そこから砲弾やミサイルを一斉発射することが可能で、その火力は凄絶無比。更に強化されたレーダー機能をも駆使することで、多数の敵集団を単騎で制圧できる圧倒的な砲撃能力を発揮する。全身からの一斉砲撃により、無数の敵を壊滅させる『全身爆装の殲滅戦艦』。当初、飛彩同様の負荷に襲われるも、プロトガシャットを使った戦闘を経験していた大我はものの数秒で克服し、この力をモノにしている。これ以上の強化がなされなかったスナイプにとっての最強形態であり、スナイプは最終盤までこのフォームで戦い抜いた。

*4
九条貴利矢がゲーマドライバーと『爆走バイクガシャット』を使って変身したライダー、『仮面ライダーレーザー』の強化形態―――――それが、『仮面ライダーレーザーターボ』である。通常形態であるレベル2がバイク型であり、いささか汎用性に欠けていた通常のレーザーとは異なり、最初から人型となっている。この形状変化は、檀正宗が複製・改造して貴利矢に与えた2本目の爆走バイクガシャットによってもたらされており、黎斗が使用している『プロトマイティアクションXガシャットオリジン』の機能の一部が移植されているためである。『レベル0』の固有能力として、バグスターウイルスを不活性化させる『アンチバグスターエリア』の展開が可能。モチーフジャンルは『レースゲーム』で、ゲーム『爆走バイク』の主人公キャラクターがモデルとなっている。他のライダーと比較して各部の装甲を極限まで削ぎ落としており、至ってシンプルかつシャープな容姿をしている。爆発的な瞬発力と機動力を活かし、パワー溢れる必殺の一撃を叩き込む『零速の蹴撃者』。死亡したと思われた貴利矢はこの姿で復活、一時は正宗の尖兵を演じたが、やがてCRに帰還した。

*5
不死身の仮面ライダーゲンム・ゾンビゲーマーレベルXを倒すため、ドクターライダーたちが協力して作り上げた『マキシマムマイティXガシャット』を使用して変身した、仮面ライダーエグゼイドの強化形態。それまでのドクターライダーとはありとあらゆる点において一線を画しており、ガシャットによって召喚された大型ゲーマ『マキシマムゲーマ』にエグゼイドが格納され、マキシマムゲーマが人型に変形することで変身が完了、パワードスーツ(武装外骨格)のようにマキシマムゲーマにエグゼイドが乗り込む形となる。それによって完成する身長256cm、体重256kgの巨躯は、『最大級のパワフルボディ』と謳われるに相応しい迫力あふれる存在感を持つ。戦闘能力も非常に高く、ボディ強度と腕力を活かした真っ向勝負での近接格闘は勿論、その見た目に反し機動力・走力も凄まじく、攻守において隙はない。手足には伸縮機構が組み込まれ、思いの外リーチは長い。さらに状況に応じてエグゼイドがマキシマムゲーマから離脱して一時的に別行動を行うことも可能で、その際はマキシマムゲーマが自律稼働モードに切り替わり、的確にエグゼイドを援護する。離脱したエグゼイドはレベル2と同様の外見であるが、レベルは99のまま維持されており、戦闘能力を落とさぬまま、様々な戦局に柔軟に対応することが可能。これらの究極とも云えるスペックを以てゲームエリアを縦横に蹂躙、有無を言わさずバグスターを駆逐する『バグスターの天敵』。しかし、この形態の真髄は単純な戦闘能力とは別にある。詳細は後述。

*6
特撮作品でよくあるシチュエーションとして、戦闘中にいきなり戦場が切り替わる光景を揶揄した言葉。その例は枚挙に暇が無く、まともに解説すると膨大な文字数になるため詳しくは読者様各自で検索されたし。メタ的には、市街地や公共施設等でのロケでは火薬を使った大規模な爆発が起こせないため、採石場跡地や廃工場といった、火薬が使える郊外のロケ地に移動する必要があるため。しかしこれを逆手に取った作劇が行われた例もあり、『宇宙刑事シリーズ』における各種異空間や『時空戦士スピルバン』のバイパススリップ、『ウルトラマンネクサス』のメタフィールドなど、『戦闘専用空間に引き込む』『空間転移装置を使って戦場を移動する』という設定がされる作品もある(ステージセレクトもこれにあたる)。『仮面ライダークウガ』ではさらにこれを突き詰め、『怪人を市街地で爆発させると周囲に被害が出るため、怪人を爆発させても被害が出ない場所にどのようにして誘き出すか』という現実的観点の問題へと昇華させ、作劇に盛り込み話題となった。

*7
正式名称『岩船山中腹採石場跡』。栃木県栃木市岩舟町畳岡にある大規模な採石場跡地。広大かつ殺風景で、火薬が使用できる郊外に位置している(それでも爆発を伴う撮影時には近隣住民にその旨が周知される)ことから、仮面ライダーシリーズやスーパー戦隊シリーズにおける大規模戦闘シーンの撮影において幾度となく戦場(ロケ地)として使用されている『聖戦の地』。『いつもの採石場』と言えばほとんどの特撮ファンには通じる。東北自動車道の佐野・藤岡ICから車で15分、JR両毛線岩舟駅から徒歩10分の場所にあり、ロケをしていない時であれば無料で入山可能。稚拙が人生で一度は訪れたい場所のひとつ。インプリ外伝『こんニチ』の『キュアデーティア 対 蒼の怪盗団』でも戦いの舞台となったが、本編では初登場(?)となる。

*8
仮面ライダーレーザーが使用する専用武器。『ギリギリチャンバラガシャット』に登録されたガシャコンウェポンで、エネルギーの矢を発射する中距離攻撃用のボウガン『弓モード』と、分離させて接近戦用の双手鎌とした『鎌モード』を切り替えて使用でき、ガシャットスロットにガシャットを装填して必殺技の発動も可能。レーザーがゲンムによって倒されたことでガシャットごと奪われ、そのまましばらくゲンムの武器となっており、『遺品を戦いに用いる』という行為を以てゲンムの外道さを引き立たせていた。ゲンムの撃破後は永夢がガシャットを奪還、後に復活した貴利矢に返却されており、今回使用しているスパローはこのガシャットに由来する。尚、正宗の尖兵となっていた時期は、正宗から渡された『プロトギリギリチャンバラガシャット』由来のスパローを使用していた。レーザー、ゲンム、そして量産型ライダーであるライドプレイヤーが使用したが、その全員が倒され、一度は落命する憂き目に遭っており、一時期は『呪われているのではないか』と、ファンの間でまことしやかに囁かれていた。

*9
スーパー戦隊シリーズ第35作『海賊戦隊ゴーカイジャー』、及びその劇場版『199ヒーロー大決戦』等で描かれた、岩船山を舞台とした一大決戦。宇宙帝国ザンギャックの大艦隊襲来に対し、初代戦隊『ゴレンジャー』から当時の最新戦隊『ゴセイジャー』までの全戦隊のメンバーが一同に集結、ザンギャックの大部隊を相手に大乱戦を繰り広げた。この撮影における戦隊ヒーローはCG一切無し、200人近くにのぼるヒーロー、そして同程度の数の敵兵士は全員スーツアクターが演じた。普段アクションを担当しているJAE(ジャパン・アクション・エンタープライズ)のアクターでは当然数が足りず、引退状態のアクターや、全国のヒーローショーで活動している劇団員も駆り出されたという、空前絶後、前代未聞の撮影となった。数百人の色とりどりのヒーローたちが画面を埋め尽くすその映像の凄絶さはまさに『東映の本気にして狂気の極み』であり『歴史の集大成』。こんな注釈欄ではとても全容を語り切れぬため、是非実際の映像をご覧いただき、『奇跡』を体感していただきたい。稚拙はコレを初めて視聴した際、『自分は夢を見ているのか……?』と呟いたのを、ハッキリと覚えている。

*10
この設定は本小説オリジナルの設定であり、原作にこの設定は存在しない。しかしライダーガシャットは電子的記録媒体である以上、『容量』の問題は確実に存在していると思われる。

*11
ギリギリチャンバラガシャットでのレベルアップで出現する『チャンバラゲーマ』には、バイク型の仮面ライダーレーザーレベル2と合体して人型にするための四肢パーツが含まれているため、事実上通常のレーザー専用で、他のドクターライダーとの互換性が無い。

*12
ウルトラマンシリーズでの戦闘シーンやスーパー戦隊シリーズの巨大ロボでの戦闘の際、戦場となる市街地のド真ん中に、いかにも『ここで戦え』とばかりに一カ所だけ造成された場所を揶揄した言葉。撮影の際、破壊していいミニチュアと破壊してはいけないミニチュアがある故、スーツアクターの方々は立ち回りに苦慮する。そこで要らぬ予算を捻出しないように現場で生み出されたアイデアがコレ……であると思われる。あくまで稚拙の推測に過ぎない。昭和~平成初期までの特撮では頻繁に見られたが、近年はほとんど姿を消し、『無人となったビルのオフィスの窓越しに戦闘を撮る』『戦闘の震動で自動車や自転車が吹き飛び横転する』『ウルトラマンと怪獣が移動しながら繰り広げている戦闘が、ビルの隙間から見え隠れする』といった、市街地での戦闘を違和感なく、かつ魅力的に見せる工夫がされている。スタッフ諸氏が培ってきた"匠の技"には頭が下がるばかりである。

*13
ゲキトツロボッツゲーマーの左腕に装備された大型アーム。ライダーのパンチ力を10倍に増幅する効果があり、さらに小型ロケットブースターを内蔵しており、射出して遠距離攻撃も可能。最大握力は50tで、掴んだ敵は決して放さない。

*14
コンピューターゲームにおいて、プログラムを書き換えて行う行為全般を指す。主に操作キャラのパラメータを書き換えて最強にしたり、所持金をMAXにしたり、通常のプレイでは入手困難なアイテムをあっさりと入手したり……など、枚挙に暇がない。所謂『裏ワザ』が、製作者が意図して入れ込んでいたりしていて、発見者は賞賛されたりするのに対し、『チート』は製作者のプログラムの穴を突いたもので、あまり誉められたモノではない。特に不特定多数の人間がプレイしているネットゲーム等では忌み嫌われ、発覚すれば運営者から永久BAN(永久にそのゲームがプレイできなくなる)などの重い処分が科せられることも珍しくない。……ここからはあくまでも私見だが、チートは全くの『悪』ではない。どうしてもクリアできないゲームをクリアさせてくれる、ある種の『お助けアイテム』のようなものである。ただ、それに安易にすがり、『ゲームを普通に楽しんでいる他人』に対して使うのが悪なのだ。故にチートを用いるのは1人で楽しむ『1人用ゲーム』に留めておくべきであろう。無論、使わないに越したことはないのだが。

*15
『敗北イベント』『負け確』とも。RPGやアクションゲームのストーリー進行において、その時点のプレイヤーキャラクターの強さでは絶対に倒せない強敵が現れ、プレイヤーやその仲間キャラが必ず敗北する戦闘イベントのこと。この際敵として登場するのは、主人公や仲間と因縁を持つライバルキャラクター、もしくはラスボスであることが多い。敗北してもゲームオーバーにはならず、場面転換等で物語は進行する。主人公や仲間たちがこのイベントを経て敵の強大さを身を以て思い知り、挫折を経験し、更なる強さを求めて決意を新たにする、等のストーリー上の転換点となる事が多く、その『因縁の敵』を後々、主にストーリー終盤になってようやく撃破できるようになることでプレイヤーの溜飲を下げる、という展開が多い。なお、先述の『チート』を使えば、敗北イベントにあっさりと『勝利』してしまうことも不可能ではないのだが、プログラムが意図しない現象故、その後のイベントの進行に支障をきたすことがあるため、素直に負けておいた方がいい。ただ『やり込み派』のプレイヤーにとってはそそられる要素でもあり、チートを使わず、権謀術数を巡らせ、わずかな可能性と運に賭け、苦難の末に負けイベントに勝利するやり込み動画が、ネットには多数アップされている。近年は製作側もそれを意識し、達成のご褒美としてボーナスアイテムをプレイヤーに支給するなどの粋な計らいも見られたりする(もっとも戦闘で勝っても、シナリオ上はそこで『負けた』ことを前提に進行することがほとんどである)。




 キャラクター解説

 仮面ライダーレーザーターボ ロボットバイクゲーマーレベル0

 仮面ライダーレーザーターボが、『ゲキトツロボッツガシャット』を使用して召喚した『ロボットゲーマ』を装着、変身した形態。
 エグゼイドのロボットアクションゲーマーレベル3同様、左腕の強化アーム『ゲキトツスマッシャー』を使用した格闘戦を展開する。
 また、胸部に装備された『ガードアクチュエーター』によって単純な防御力も向上している。
 それまでレベルアップに用いていたギリギリチャンバラガシャットがレーザーターボのレベルアップに対応しておらず、檀正宗から渡されたプロトガシャットはCRに返却したため、結果的にレベルアップができず、多数の敵への対処に苦慮していたレーザーターボにエグゼイドが渡したガシャットによって変身した本形態だが、敢えて装甲を削ぎ落して瞬発力と機動力を重視したレーザーターボと、攻撃を受け止めつつ真っ向から攻め込むゲキトツロボッツガシャットは全く正反対の特性を持っており、ブレイブ・コンバットクエストゲーマー同様にバランスが悪い組み合わせである。

 だが今回の戦闘の主目的は『時間稼ぎ』であり、物量で攻めてくる敵に対して、回避でやり過ごすより、ある程度攻撃を喰らうことを前提として、耐え凌ぐ方が得策―――――と、貴利矢は『爆速判断』、この形態が顕現することとなった。
 もっとも、元のバイクゲーマーレベル0も瞬間的なパワー出力はエグゼイドのアクションゲーマーレベル2を上回るため、攻撃力自体はエグゼイドのロボットアクションゲーマーレベル3を遥かに凌駕する。
 必殺技は、『ゲキトツスマッシャー』を射出、テニスのラリーのように複数回蹴り返して攻撃、最後は飛び上がってのライダーキックにスマッシャーを装着して攻撃する『ゲキトツクリティカルストライク』。

 ――――――――――

 今回地の文がヤケに尖ってた気がします……劇場版ゼロワンが配信待ちになった腹いせ、でしょうか……。

 降臨、満を持して―――――(違)

 次回、神の恵みが来ちゃいます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

こんしゅうのニチアサはおやすみです。
駅伝の日のメモリア


 ……プリキュアが無かった。
 本日、そんな絶望を味わっている全世界数億人のプリキュアファンの皆様に、ちょっとしたプレゼントです。
 片手間かつ飛ばし飛ばし、ホンの2時間ほどで書いたので拙い部分が多いかもしれませんが、クスッと笑っていただければ幸いです。
 メモリアが知らなかった『ニチアサ』の現実を送信!


 やっほー!あたし、キュアメモリア!

 ちょっと寒くなってきたけど、カゼなんかひいてない?

 みんなも体調には気をつけて、お勉強やお仕事、がんばってね~♪

 

 今日は日曜日!

 そう、そうなんです!日曜日なんです!

 週に一度、りんくが何よりも楽しみにしてる―――――

 

 ―――――プリキュア放送日!!

 

 朝8時半からの30分は、りんくにとって、そしてあたしにとっても大事な時間!

 まだ『ぶるーれい』にも入ってない、見たコトの無いプリキュアたちの、知らないお話が見られる唯一の時間!

 毎週、わくわくしながらふたりで正座してテレビの前で待つのが、とっても楽しみなんだよねぇ~♪

 

 ……でも。

 

 今日は、なぜか違ってた―――――

 ふだんなら、6時半にはベッドから起きて、さっさと朝ごはんを食べて、7時半には5chにチャンネルをセットしてるりんくが、今日に限って8時になってもベッドの中で『ぐーすかぴー』と寝息を立ててる……。

 ネットコミューンを動かして、おふとんの上で何度もジャンプして起こそうとしたけど、ちょっとサムくなってきたから分厚いおふとんに変えて、さらには毛布を仕込んで、アタマまでおふとんをかぶった『ふるあーまーりんく』にはまったく通用しない……

 もう時計は8時20分を回ってしまってる。

 

 「りんく~!起きてよ~!プリキュアはじまっちゃうよ~!」

 《zzzzzzz………………えへへ~……もぉ食べられないよぉ~♪zzz……》

 

 うわ……ベタなネゴト。

 って、そんな場合じゃない!早くりんくを夢の中の食べ放題バイキングから助け出さなきゃ、りんくが人生の中で何よりも大事な30分を見逃しちゃうことに……

 時間は……8時28分!?も、もうダメだぁ、オシマイダー!!

 

 「こーなったら……あたしが録画するっきゃない!!」

 

 意を決したあたしはネットコミューンの同期機能を使ってテレビの電源を入れると、メニュー画面を開いて録画の準備をする。

 5ch……8:30~9:00に予約セット。もちろん最高画質で!

 これで準備オッケー!いつでもバッチこ~い!!

 ……そうだ、目覚まし代わりにせめて音だけでもりんくに届ければ……!

 そう思って、8時半ちょうどに、あたしはチャンネルを5chに切り替えた―――――

 

 《……第○○回全日本大学駅伝、現在の順位は1位A山学院大学、2位T海大学です。……ここで4位集団に動きがあったようです、第3中継車の―――――》

 

 …………………………( ゚Д゚)

 

 ―――――ナニコレ。

 

 

 いつも通りのカッコカワイイプリキュアの姿は、ドコにもなかった。

 その代わり、タンクトップに短パンを履いた男のにんげんさんたちが、ひたすら道路を走ってる映像だけが延々と流れ続けている………………

 あ……あたしとりんくが見たかったのは、こ……こんなんじゃ、ない…………

 どぼちて…………どぼちてこーなっちゃったのぉ……??

 

 「う……ウ…………」

 

―――――ウボァーーーーーーーーーーーー!!!!!!

 

 ――――――――――

 

 「……なるほど。それがさっき聞いた皇帝の断末魔だったってワケね……」

 

 ……おはようございました、東堂りんくです。

 今日は9時に目覚ましをセットしてたんだけど、夢の中になんともカワイイ皇帝の断末魔が響いてきたから思わず目を覚ましちゃいました♪

 ……それにしても。

 

 「なんとも情けない声上げちゃって……朝っぱらからどーしちゃったのよ……」

 《ぐすん……だって……だっ゛でぇ゛……》

 

 メモリアったら、鼻水垂らしてぐずっちゃってる……よっぽどショックなことがあったのかなぁ……

 

 《プリキュアやってなかったぁぁぁ~~~~!!!!》

 

 ……………………はい?(・ ・;)

 

 《8時半になってもりんくが起きてこなかったから、録画しようと思ったら……プリキュアやってなかったの~!なんかにんげんさんが走ってたけど、プリキュアじゃなかった~!》

 「え?…………あーそーゆーことね。完全に理解した」

 

 ……コレ、ネタっぽいけどちゃんとわかってますよ?画面の前の皆さん……

 

 「先週のプリキュアの放送中に出てきたメッセージ、メモリア読んでなかったでしょ」

 《めっせーじ?》

 「そ。……ちょっとリモコン貸して?」

 

 私はリモコンで、レコーダーに録画しておいた先週分の放送、その放送終了6分くらい前の映像を出した。

 

 「ここ。ほら、よく見てて」

 《~~~…………》

 

 ネットコミューンのディスプレイの上に座り込んでるホログラムのメモリアが、よ~く目を凝らす。そして、テレビ画面の下の方にこんな文字がスクロールされてきた。

 

 〈らいしゅうはおやすみ。じかいは11月11日のほうそうだよ!ホームページもチェックしてね!〉

 

 《あがーーーーーーーー!!!!!!????》

 

 メモリアはアゴが外れるくらいの大口を開けて、愕然としていた。

 

 「……つまり元々、今日はプリキュアの放送は()()()()で、次回は来週日曜日、ってコト」

 《しょ、しょんなぁ~~!?せっかく楽しみにしてたのにぃ~……》

 「こればっかりはどーにもならないのよねぇ……ホンット、5chを呪いたくなるわ……"はるカナショック"の時なんかは『こんなテンションで2週間過ごせ』ってゴーモンもいーところよ……ブツブツ……」

 《り……りんくがマジなカオしてる……》

 「いい機会だわメモリア、教えてあげる…………プリキュアにはね、どーしても勝てない『オトナの事情』が3つあるのよ」

 《み、3つも!?》

 「まず1つ、『ゴルフ』!!全米オープンゴルフは放送時間は9時まで!だからどーしてもプリキュアはツブされちゃうのよ……あとの仮面ライダーはやってるのに~!!」

 《……5chのいぢわる》

 「そして2つ、『駅伝』!!今回の場合はコレね。全日本大学駅伝の中継は8時前から約6時間ブッ続けで放送するから、プリキュアも仮面ライダーもスーパー戦隊もまとめてドボン!!」

 《ほくとやデータもきっとがっかりしてるね……》

 「最後の3つ目、『年末年始』!!年末の29・30・31日と正月3が日に日曜日がかぶってたら、まず諦めなきゃね……年末年始の特番で、放送枠がゼツボーグ……」

 《お正月もいいコトだけじゃないんだ……が~ん……》

 「つまりは年に最低3回、『プリキュアの見られない日曜日』があるのよ……残念だけど、私たち視聴者は成す術がないわ。私は『大丈夫な方』なんだけど、あまりの見たさに禁断症状を起こして、『これは駅伝やゴルフをやってる回なんだ』って幻覚を見る人もいるとかいないとか……」

 《ま、まぢで……??》

 《それだけではありませんよ》

 

 一気に説明し終えたところで、キュアットタブの電源が勝手に入って、ディスプレイにキュアビューティが映った。

 

 《サニーから聞いた話なのですが……関西に限った話、『4つ目』が存在するとか……》

 「や……やっぱりあったの!?『スマプリの世界』にも、『ソレ』が……!!」

 《な……なんなの、それって……!!》

 《『プリキュアの放送』が中止に追い込まれる、関西限定の『4つ目』の事情……それは―――――》

 

 カッ!と目を見開いたビューティが、絞り出すように言った。

 

 《…………『甲子園』です》

 《こーしえん?聞いたことないけど、ナニソレ?》

 「春と夏の年に2度、高校生のヒトたちが甲子園球場っていう所で野球の大会をするの。それぞれ『春の甲子園』、『夏の甲子園』って呼んでるんだけど……問題なのは『夏』の方なのよね」

 《ええ……関西地区では毎年、プリキュアの制作を担当している放送局が、民放では唯一の地上波完全生中継を、試合開始前から行うのです……放送開始は……午前8時》

 《8時って……プリキュアがはじまる30分前!》

 《放送終了は夕方6時ごろ……そこから先はBS放送、もしくはその夜の『熱闘甲子園』で放送されるらしいのですが……》

 「平日はともかく、土日も同じ時間帯で放送するから、ニチアサは揃って全滅なの……」

 《でもそれって、"かんさい"ってところだけなんだよね?他のところのプリキュアはどーなるの?》

 「もちろん、いつも通りに放送されるの。だから、関西のヒトだけ、2週間くらいニチアサを見られなくなっちゃうのよ……」

 《ええ~~!?かわいそうだよソレって~!!》

 「ネットではわざわざ関西のヒトのために、関西のヒト限定の、ネタバレ厳禁の専用スレが立てられるくらいだもんねぇ……」

 《……放送中止になった分は後日、平日の午前中に集中放送して、他の地方との『時差』を無くす措置を取ってはいるらしいのですが……プリキュアが見られない関西地方の小さな子どもたちの気持ちを考えると、つらいモノがありますね……》

 「うん…………それにしてもれいかちゃん、あかねちゃんから伝え聞きしたにしてはヤケに詳しいねぇ……」

 《『こちらの世界』では、私達が体験した出来事が実際に放送されていると聞いたので、その放送形態も調べているうちに、詳しくなってしまって……では……♪》

 

 ビューティがにっこり笑うと、ぷつんとキュアットタブの電源が落ちた。

 なんだったんだろ、今の……

 

 《どっちにしても、今日はプリキュア見れないんじゃ~ん……あ~あ、なんかヒョーシ抜けって感じだねぇ》

 「さぁて……おなかペコペコだし、朝ごはんにし~よおっと」

 

 でも……プリキュアが無い日曜の朝って、確かに欲求不満になる。

 こんな日は―――――

 

 「《ブルーレイ(ぶるーれい)》!!」

 

 だよねっ!

 よっしゃ!今日は気合入れて、"アレ"を見ることにけって~い!!

 

 「じゃ~ん!!ついこないだ買いたてホヤホヤ!まだ封も開けてない、『HUGっとプリキュア!❤ふたりはプリキュア ~オールスターメモリーズ~』!!」

 《な……なんかスゴそぉ……!!りんく!りんく!はやく見ようよ~!!》

 「まぁまぁ、まずは朝ごはんから、ね。……ママ~!おっはよ~!!」

 

 ……みんなは、プリキュアの無い日曜日をどう過ごしてる?

 私は―――――ある意味いつも通りかも。ブルーレイだって、日曜日にはいつも見てるから。

 ……そうそう!ちょうど今映画もやってるから、こんな日は映画を見るのにぴったりかも!

 テレビではプリキュアのみんなに会えないけど……映画館に行けば、みんなに会えるよ!

 

 ……あ、でも、私たち……『インストール@プリキュア』に会えるのは、このハーメルンだけだよ?

 これからも私たちのこと、いっぱい応援してね♪




 このミニコーナーは、プリキュアをはじめとした『ニチアサ』の放送が中止された時、気が向いたら書くかもしれません……
 続きは……あるんでしょーか(汗


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

年の瀬のデータ

はぐプリもジオウもルパパトも無い……
大人の都合で楽しみなニチアサが無くなるなんて間違ってる!!
……というわけで、続き、ありました。

日曜朝8時30分にプリキュアが始まらない心の中の虚無感……そんな『年末ニチアサロス』に陥っている皆様に、代わりと言ってはアレですが、ちょっとしたお歳暮を……
いやホントつまらないものですが……よろしければ。


 おーっす!キュアデータだぜぇ!

 ……んぁ?声が小せーなぁ。起きてっかぁ?朝メシ食ってっか~!?

 もう一回だ、お~~っす!!!

 ……ん♪オッケー上出来だ!冬休みだからってダレてんじゃーね~ぞ~?

 コタツに入ってミカンばっか食ってないで、たまにはカラダ動かせよ~?

 

 ……さて、今日は12月30日。年の瀬だ。

 どこの家でも年明けの準備で忙しくなる。アタシが"居候"してる、この八手家も例外じゃない。

 最近、大手の菓子メーカーやインスタントライスなんかを作ってるメーカーが、お手軽に飾って、飾り終えたら中から個包装のモチを取り出して食える『鏡モチもどき』を売り出しはじめてからこっち、家でモチつきして鏡モチを作ったりする家は今日日だいぶ減ったみてぇだが、知っての通り、この家は『古き良き昭和』ってヤツを大事に大事に守ってる。

 もっとも、昭和の時代でも『モチつき機』なんていう便利な機械も出てきたっちゃぁ出てきたんだが……どーやらこの家のじーさんには扱いきれなかったらしい。

 結局―――――正月に使う鏡モチとか、この家は全部手作り。それも昔ながらの杵と臼で、ぺったんぺったんやるアレで、だ。

 しかもモチだけじゃねーんだ、これが。門松や正月飾り、年越しソバも粉からじーさんが手打ちで作る。今時珍しいぜ、こんなアナログな家は……。

 おっと、前置きがチト長くなっちまってすまねぇな。で、今アタシたちが何してるかってーと―――――

 八手家年の瀬恒例イベント『餅つき』のために、切らしてた『モチ取り粉』ってヤツを買いに行ってくれっておつかいを頼まれたほくとと、近所の24時間営業のスーパーに来ていた。

 それにしても……

 

 《こんなに朝早くからごった返してるなぁ》

 

 朝の8時半だってのに、親子連れやオバサンたちでガヤガヤだ。カートの買い物カゴに、これでもかとモノが詰め込まれ、レジも大渋滞している。

 

 「年末だからね。いろいろ買わなきゃいけないモノもあるし、お正月になると開いてない店も多いからさ」

 《なるほどな……ってオイ、今さりげなく『仮面ライダーチョコ』カゴに入れたろ》

 「コレだけは僕のお小遣いで買うよ」

 《だったらのんにもなんか買ってきなって。お、プリキュアグミ!あれどーだ?》

 「あぁ、のんの好みなら―――――こっちだね」

 

 そう言いながらほくとがカゴに入れたモノを、アタシはコミューンからのぞき込む。

 

 《……プリキュアソーセージ?》

 「早く大きくなりたいからって、スーパーに来るたびに買ってもらってるんだ。カルシウム入ってるしね」

 《ケッ、魚肉ソーセージ(ギョニソ)なんて邪道じゃねーか》

 「好きな人多いよ?……データって案外グルメ?」

 《そーゆーわけじゃねーけど……最近ウマいモン食ってねーせいかもなぁ》

 

 たぶん、画面の前の読者(アンタら)もギモンに思ってると思う。『アプリアンって何食ってんだ?』って。

 ん~……なんつーか、『充電』だな、普段は。1日1回、30分くらいケーブルをプラグにつないでさえくれれば、丸1日イケる。

 ……プリキュアらしいファンシーさが無い?……悪かったな、リアリティ重視の設定で。

 ……前にりんくが『コミューンは充電しなくてもいい』って言ってた?……あぁ、それコミューン本体の話な。それとアタシの腹具合はまた別問題、って話だ。

 でもサーバー王国にいた頃は、フツーにメシ食ってたんだよな……それがいざこっちに来てみりゃ、飲まず食わずでも何も感じなくなっちまった。

 つーか、サーバー王国を脱出してから、ほくとのスマホにたどりつくまで、アタシって何食ってたっけ……ま、いっか。忘れてるってことはたいしたことじゃないんだろ、多分。

 レジに並んで5分くらい経って、ようやく支払いを終えられた。ごった返す人波を逆行するように、ほくとはスーパーを出た。

 

 「……寒っ……風強いね……」

 《年末寒波ってヤツだな。……雪まで降ってきやがった。こんなんでもホントにすんのか?年明け恒例の寒稽古っての》

 「そりゃぁね。逆に寒さで体が引き締まるよ」

 

 なんて話を暇つぶしにしてると、あっという間に家に戻ってきた。

 時間はもう9時前だ。

 

 《そーいや今日はヤケにゆっくりしてるな。いーのか?9時からジオウ見なくてよ?》

 「今日は年末だからジオウは無いよ。ついでにルパパトもね。データのコトだから、どうせ知ってたんでしょ?」

 《……バレてたか》

 

 テレビ局の方も『年末編成』とかの理由で、ライダーも戦隊も今日の放送は無い。もちろん知っててネタフリしたんだが。

 なんでも、前回ニチアサが放送されなかった11月4日、りんくの家ではメモリアがプリキュアが無かったのを知らずに大慌てだったらしいが……アイツらしいっちゃアイツらしい。

 おおかた、テレビの字幕スーパーや公式ページなんかをチェックしてなかったんだろう。ちょっとした検索ぐらい、アプリアンとして出来ねーのか、アイツ……

 

 《早く仮面ライダーウォズとシノビが見てえなぁ》

 「シノビの俳優さん、『ニンニンジャー』でスターニンジャーやってた人だよね」

 《忍者つながりってか?……つーか、2022年のライダーなんて出していーのかよ……これで2022年に放送されるライダー、『仮面ライダーシノビ』で決まりじゃねーか》

 「2043年のスーパー戦隊が『ダイレンジャー2』で決まってるような感じかな?」

 《マイナーなネタだな、ソレ……新しい元号もわかんねーのに、『新元号ライダー』なんて出しちまって、問題ねーのか?》

 「コレは僕の考えなんだけど……たぶんシノビは『新元号ライダー』じゃなくって……『平成ライダー』だと思うんだ」

 《ほぉ?そりゃまた何故だ?》

 「ジオウに登場するライダーは、みんな平成ライダーなんだ。だから、『もし『平成』が終わらずに、2022年まで『平成』が続いている世界の仮面ライダー』じゃないかって思うんだ」

 

 ……ここまで読んで、違和感を感じたヤツは立派なインプリフリークだ。

 アタシたちが過ごしているこの時代、ホントーは『20XX年』……"近未来"って設定だ。

 しかし―――――アタシたちは、画面の前のアンタたちが今テレビで見てる、『現在放送中』のライダー―――――『仮面ライダージオウ』の話題で話をしてる。

 『ホントーはほくと、ジオウの結末知ってるんじゃねーか?』ってツッコミ……大いに結構……。

 だが……ソレはあくまでも『本編』のハナシだ。

 この『こんしゅうのニチアサはおやすみです。』、略して『こんニチ』はいわば雑談。小説の体裁を借りた、『稚拙』のコラムや考察みてーなもんだ。

 こまけぇこたぁいいんだよ!!(AA略。デカすぎんだよやる夫)

 画面の前のアンタらが時事ネタとノリを楽しんで、ニチアサが無かった虚無感ってヤツをちょっとでも紛らわせてくれりゃ、書いた『稚拙』も報われるってモンよ。

 

 《……なるほど、シノビは『2022年の新元号ライダー』じゃなく、『平成34年の平成ライダー』ってか。ほくとにしては頭ヒネッてんな♪》

 「『ほくとにしては』は余計だよっ」

 《んで?ジオウ見ないってんならどーするよ?》

 「宿題か……師匠の門松づくりの手伝いかといきたいところなんだけど……」

 

 その時、不意にほくとの部屋の入り口から気配を感じた。あわてて物陰に隠れて様子をうかがうと―――――

 

 《のん?……―――――》

 

 そこにはコスプレしたのんがいた。今日のコスチュームは……ほほう、キュアラブリーか。よくよく見りゃ学校の制服っぽいデザインだよな、コレ。

 

 「……来ると思ったよ」

 「……―――――にぃ」

 

 うつむき加減ののんが、上目遣いにほくとを見据える。しかも―――――普段とは違う、鬼気迫る表情だ。

 

 「プリキュアごっこ、ねんまつスペシャル。おひるやすみをはさんでゆうがたまで」

 「…………コースは?」

 「まじがち(本気真剣)

 「わかった。準備するから、先に行ってて」

 

 のんは黙って頷くと、踵を返して去っていく。

 

 《……やっぱ来たか。スーパーヒーロータイム無い日は、はぐプリも無いもんな》

 「あはは……まぁ、冷えた体をほぐすいい修行になるさ」

 

 ……驚いたろ?これが『プリキュアが無い日ののん』だ。

 プリキュアが無い日の朝9時きっかりに、のんは準備万端整えてほくとの部屋を訪ねてくる。そして必ずプリキュアごっこに誘う―――――

 ……というか、有無を言わさぬ強制参加だ。プリキュアが無かったウップンを、のんは『自分自身がプリキュアになることだ』とばかりに、プリキュアごっこで晴らしている。

 でもって、その日の不満の加減によってコースが決まる。

 

 ―――――いつもこども園でやってるプリキュアごっこレベルの、パンチやキックほとんど無しの『おてがる(お手軽)』コース

 

 ―――――程よいスパーリングレベルで闘り合う『そこそこ』コース

 

 ―――――空現流の基礎レベルが解禁される『まじ(本気)』コース

 

 ―――――空現流の発展技レベルまで使っていい『がち(真剣)』コース

 

 ……で、今回のんが指定したのは、空現流のすべての技を使って本気で立ち回っていい、必ず道場でやらなきゃいけない素人お断りの『まじがち(本気真剣)』コース。もちろん最上級グレードだ。今日は殊更にゴキゲンナナメらしい。

 まだ小さい割に、のんもかなりの使い手だ。時々修行の様子を見てるけど、さすがはほくとの妹、じーさんの孫。ところどころで常識外れの動きを見せるから油断できねえ。将来、マジでプリキュアになっちまうかもなぁ♪

 

 「……今日は『ハピネスチャージプリキュア!』だったね。『誰』で相手しようか?」

 《オレスキーあたりいいんじゃねーか?》

 「あのハイテンションキャラ……なんかスパムソンに似てるから抵抗あるなぁ……見た目も似てるし」

 《ならファントムだな。ちょーどいーじゃねーか、『ウィザード』の怪人になったつもりでやればさ》

 「あれは違うんだけどね……」

 

 ほくともほくとで、りんくとの『勉強会』が活きている。たどたどしくも、プリキュアごっこで歴代プリキュアの悪の幹部を演じながらのんと闘り合う芸当ができるようになった。ほくとも役者志望なんだし、いい自主トレにもなってる。

 ほくとがプリキュアのプの字も知らなかった頃、イカデビルやシオマネキングとか、ライダー怪人でのんの相手をやってたのが懐かしいぜ。前に一度ダグバやった時なんてあまりにハマりすぎちまってのんを泣かせちまったなぁ。それ以来、ダグバは『ほくとの中の九郎ヶ岳遺跡』に封印されちまった。仕方のねぇことだがな……

 

 「さて……明日は餅つきもしなきゃいけないし、修行納めも兼ねて…………手合わせと行こうか」

 《手加減してやれよ?……主に道場への被害的な意味でよ》

 「……善処してみるよ」

 

 ほくとはコミューンごとアタシを拾い上げてポケットに突っ込んで、部屋を出る。

 ……とまぁ、こんなモンだ。メモリアんトコと違ってあんましドタバタしてねーから、ちょっとつまんなかったか?

 でもよ、年の瀬はドタバタするよか、ゆっくりのんびり過ごして、年越しソバ食って除夜の鐘聞くのが一番だって思わねぇか?

 幸いにもバグッチャーは出てこねぇし、ジャークウェブも正月休みみてぇだな。年中これなら平和なんだがな―――――

 ……冗談だよ。それじゃこの小説が成り立たなくなっちまうよな。日常系じゃないんだよインプリはさ。

 

 さて来年は、『スター☆トゥインクルプリキュア』が登場だな。今度はフォーゼからアイデアを持ってきた宇宙プリキュアってトコか……

 プリキュアにもついに宇宙人加入かよ……いよいよ見境無くなってきたって言いてぇけど、りんくだったら受け容れちまうんだろーなぁ……ま、アタシもだけどな♪

 

 特撮では新展開に入る『ジオウ』や、クライマックスを迎える『ルパパト』も要チェックだが、先日発表された『騎士竜戦隊リュウソウジャー』も注目だな。稚拙が珍しく『近年稀に見る、ネーミングがカッケー戦隊』と言ってたな。

 『平成ジェネレーションズFOREVER』も絶賛公開中だ!仮面ライダーを愛してくれた画面の前のアンタ!まだ見てねぇなら映画館にダッシュだぜ!

 ……ちなみに稚拙はまだ見てねぇから、ネタバレを感想に書き込むのはカンベンな♪

 

 ……あ、それとこの話題は『こんニチ』だけの内密でな?本編ではまだアタシは『スタプリ』のことを知らねえ。いいね?

 一応……『本編のアタシ』はジオウとルパパトの結末も知ってるっちゃぁ知ってるんだが…………言えるわけがねぇ。

 アタシは知ってても、アタシを書いてる『稚拙』が知ってる訳ねぇからな♪アタシも言えるわけがねぇんだ。

 未来のことを知ってても、全部話せるわけじゃねぇ。アタシゃ『逢魔降臨暦』じゃねーんだよ。そこんトコヨロシクな。

 

 そんじゃ改めて……

 

 今年も『インストール@プリキュア!』を読んでくれてあんがとよ!

 来年も……まぁ、亀更新は変わらねーかもしんねぇな。今現在稚拙が書いてるのも『佐賀のゾンビ』だしよ……

 でもま、来年のインプリはのっけから『仮面ライダーエグゼイド』とのコラボ編!楽しみに待っててくれよ!

 

 ンじゃ、来年も応援ヨロシクな!いい年を迎えてくれよ~!!




……以上、『データ、世のギョニソ派を敵に回すってよ』をお送りしました(汗)

データの言ったとおり、この『こんニチ』はいわば小説の体裁を借りたコラムか雑文のよーなもので、『こんニチ』の設定はインプリ本編とは関係ないので悪しからずご了承を……

オマケですが、現在のキュアットタブの状況を、読者様に先行大公開いたします!!

【挿絵表示】

……お気づきになられましたでしょうか?
この変化、りんくさんたちはまだ気づいておりません……

特に最下部の12箇所の欄は、これからインプリ世界に姿を見せる、クロスオーバー予定の別作品の手がかりです。『EX-』の後に続く、『登場作品のタイトルを略した3文字のアルファベット』から、何の作品か予想してみるのも一興ではないかと……?

なお中には明確な戦闘描写のない、非バトルモノの作品もいくつか紛れ込んでおります。果たしてそんな作品のキャラがプリキュアとどう絡むのかも期待していただければ、と。

ちなみに『インプリへの登場予定順』で並んでおります。となると大トリを務める作品は……!?これ以上わかりやすい3文字はないですよね(汗)

今年も『インストール@プリキュア!』をご愛読ありがとうございました!読者の皆様、良いお年をお迎えください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プリキュアといっしょにゴルフをみよう!

 キュアコスモ!
 グランドジオウ!!
 リュウソウゴールド!!!

 次回のニチアサは新ヒーロー&最強フォーム降臨祭だぁぁぁ!!!!

 ……と思ったら……

 おのれゴルフゥゥゥゥ!!貴様によって(ry

 おそらく"はるカナショック"以来焦らされているであろう全国のニチアサファンの皆様へ贈る『こんしゅうのニチアサはおやすみです。』の時間がやってまいりました!!

 今回はなんと……『プリキュアがゴルフと和解する』お話です。
 首をかしげているディスプレイの前の貴方、そのリアクションが正解です、ハイ。

 プリキュアがゴルフを解説する、おそらく前代未聞の『ゴルフ回』をここに送信いたします……!!


 コレは……恐ろしいまでの『焦らし』だ。

 次回予告で期待させといて、その画面の下に無情に表示される―――――

 

 ら い し ゅ う は お や す み 。

 

 「生殺しだぁぁ~~~~!!!」

 

 全世界30億人のプリキュアファンの皆さん、おはようございます……!!

 日曜の朝から怒れる主人公、東堂りんくです……!!

 

 「マオちゃんが……怪盗ブルーキャットがキュアコスモになろうって時に……!!」

 

 今日……令和元年6月16日、日曜日……

 朝8時30分、5chで放送している番組ときたら…………

 

 「パパやイケメン選手目当てのママならいざしらず……小さな女の子がゴルフなんてわかるワケないじゃない……!!」

 《そ~だそ~だ~!》

 

 そう、全米オープンゴルフの中継でプリキュアは放送休止(おやすみ)、キュアコスモは一週間おあずけなんですよ……

 ある意味……"はるカナショック"以来のゴーモン……!!

 

 《あ、そーいえば、データからこんなメッセが届いてたよ?》

 

 メモリアがコミューンのメッセージソフトを開くと、目をツリ上げたデータが出てくるや、こうまくし立てた。

 

 《グランドジオウとリュウソウゴールド初登場って時にゴルフだぁ!?特ヲタナメてんじゃねーぞテ〇朝ァッ!!うぎいぃぃぃぃぃーーーーー!!!!》(血涙)

 《デ、データ、落ち着いてって……ほら、ピースも何か言ってあげてよ……》

 《…………ほくとくん……"ペブルビーチ"ってアメリカのドコでゲソ……??カミナリ落としてどっか~んとやるでゲソ……そうすればジオウもリュウソウジャーも見られるでゲソ……♪ゲ~ソゲソゲソゲソ……♪♪》(光の無い瞳……)

 《ピースがイカデビルに!?いやいやいや!?ダメだよ!?第一現実の世界に来れないのにどーやって(ぷつん!)》

 

 …………やよいちゃんがキャラ崩壊してるのはツッコまないであげてください……

 

 「データ……いつの間に特ヲタになっちゃったんだろー……」

 《??"とくをた"ってなーに?》

 「それはあとでマーメイドかビューティにきいてねー。……さて」

 

 今日はプリキュアの放送が無い…………そんな『キュアロス』をどーやってまぎらわそーか、悩んでるディスプレイの前のみんな!

 私、東堂りんくは考えてみました…………

 いくらプリキュアの放送が中止になっちゃったからといって、ゴルフに怒ったり恨んだりすることって―――――

 それ、なんか違くない?

 

 "好き"が、人によって違うことは当然―――――でもね、"人に迷惑をかける"『好き』だけは、"素敵"だって思えない!

 

 前にこんなこと言いました、私。

 プリキュアが好きな人がいるように、世の中にはゴルフが好きな人もいる。

 年に1度のゴルフ中継を心待ちにしていた人だっているんだよね。

 プリキュアたるもの、憎しみで戦うべからず!わかりあおうとすることこそ、プリキュアの本分!

 

 私は、プリキュア史上初(かもしれない)ことを―――――

 

 『ゴルフとの和解』を、今、成し遂げて見せます!!

 

 ……というわけで、今日は特別企画!題して―――――!

 

 

プリキュアといっしょにゴルフをみよう!

 

 

 1.ゴルフってどんなスポーツ?

 

 

 りんく「はいみんな拍手~!」

 

 みんな「「「わ~~~~♪」」」

 

 りんく「つまりは思い切って、『ゴルフをプリキュアのみんなと解説しちゃおう』っていうコペルニクス的発想よ!」

 

 メモリア「ま……まぢで"ゴルフ回"をするなんて……」

 

 りんく「さて、そもそもみんな、ゴルフがどんなスポーツか知ってる?知ってる人、はーい」

 

 ロゼッタ「少しだけですが、セバスチャンに教わったことがありますわ♪ボールをクラブで打って、ホールのカップに入れる……それまでの回数の少なさを競うスポーツですわね」

 

 りんく「そのとーり!……他のみんな、わかった?」

 

 マーチ「えぇと……専門用語が多くてさっぱり……」

 

 ビート「ボールだけなら……」

 

 りんく「専門用語をできるだけ省いて説明するとね……つまり、決められたコースのスタート地点から、コースの奥にある穴にボールを入れるまでにかかった回数が少ない人の勝ち、ってルールなの」

 

 マリン「最初からそう言ってよ~!ありすのいぢわる!」

 

 ロゼッタ「あら、ごめんなさい♪」

 

 りんく「実際に中継の映像を見てもらった方がわかりやすいかもね。メモリア、例の映像出して~♪」

 

 メモリア「は~い!」

 

 

 2.ゴルフ中継で出てくる数字って?

 

 

 メモリア「……画面の右上に数字が並んでるね」

 

 ハッピー「14H……451Y、PAR4……え、え~っと……ナニコレ?」

 

 りんく「これはそれぞれ、14番ホール、451ヤード、パー(フォー)を意味してるの。それぞれ、14番目のコースで、そのコースが451ヤードの長さで、コース内で4打以内でゴールすればOKってコト。……厳密にはちょっと違うけどね。ゴルフコースは普通1つのゴルフ場に18コースあって、それを1日で回るの。地上波のゴルフ中継は大抵、最後の方の3~4コースしか中継しないのよね」

 

 マリン「ってかなんで長さがヤードなワケ?メートルのほうがわかりやすいじゃん」

 

 りんく「最近の中継だとメートルを併記してるテレビ局もあるけどね。ちなみに1ヤードは0.9144メートルね」

 

 レモネード「……頭が痛くなってきました……」

 

 りんく「で、PAR(パー)4だからこのホールは『ミドルホール』。中くらいの長さね」

 

 ミラクル「っていうことは、それよりも長かったり、短かったりするホールもあるの?」

 

 りんく「PAR3の『ショートホール』、PAR5の『ロングホール』、それから『ミドルホール』の3種類があるの。ほとんどのゴルフ場が、18ホールの合計がPAR『72』になるように設定されてるの」

 

 エース「……ということは、18ホールを72打で回ればよい……ということですね」

 

 りんく「その通り……と言いたいところなんだけど、ゴルフはあくまでもスポーツ!72打よりもいかに少ない打数で回れるかを競うんだから!……メモリア、次の画面を出して」

 

 メモリア「あらほらさっさー!」

 

 

 3.◎〇△…………これってなに?

 

 

 りんく「次に出てきたのは個人成績ね。『-1』かぁ、ふむふむ」

 

 トゥインクル「マイナスってコトは負けてるの?」

 

 りんく「お、いいトコに目を付けましたねきららちゃん!これは『マイナスいち』じゃなくって、『ワンアンダー』って読むの。それまでのPARよりも、1打『少なく』打ててるってコトを表してるの」

 

 リズム「つまり、『-』の数字が多いほどいい成績ってことなのね……」

 

 りんく「ちなみに逆に『+』になると『オーバー』って読むの。『アンダー』とは反対に、余計に打数を使っちゃってることね。あと、それまでのPARと同じなら『イーブンパー』っていって、『E』で表示されるの。つまりプラマイゼロ」

 

 マリン「『マイナス』が多いほど良くって『プラス』が多いほどダメって……他のスポーツと正反対ぢゃん」

 

 レモネード「紛らわしいですね……」

 

 ハッピー「ねぇねぇ、選手の人の名前の下にある〇とか△とかって……なに?」

 

 りんく「個人の成績表ね。それまでのコース結果をわかりやすく表示してるの。『(横線)』は『パー』で、ポイントの増減は無し。『〇』はバーディーで、『△』はボギー……―――――」

 

 メモリア「ま、またゴルフ用語がぁ~……」

 

 りんく「あ、ごめんごめん……コースの打数……PARよりも1打『少なく』カップイン……ゴールできたことを『バーディー』って呼んで、得点が『-1』されるの。表で言うと『〇』ね。このバーディーをいかに多く稼ぐかが、ゴルフの勝負ってワケ」

 

 マーチ「それで、『△』は?」

 

 りんく「『ボギー』のことね。PARよりも1打『多く』余計に打ってカップインしちゃったことね。得点が『+1』されるの。ちなみに2打で『ダブルボギー』、3打で『トリプルボギー』……で、得点もどんどん『+』に……まぁ、プロでここまでやっちゃうヒトはほとんどいないんだけどね……」

 

 マーメイド「あら?……ということは、2打以上『少ない』打数でカップインすることもあるんじゃないかしら?その場合はどうなるの?」

 

 りんく「それこそがゴルフのロマン!PARよりも『2打少なく』カップインできたら『イーグル』って呼んで得点が『-2』されるの。一発逆転の大チャンス!……なんだけど、プロの人でも難しいのよね……」

 

 ロゼッタ「ちなみに『3打少なく』カップインできれば、『アルバトロス』と呼ぶのですわ。得点が『-3』されるのですが、プロでも滅多に出ることはなく、ましてやテレビ中継ではまずお目にかかれないかと……」

 

 ビート「なるほどね。時々、画面の下に『FOR BIRDIE』って出るけど……それは『この一打で入ればバーディー』ってことだったのね。緊張するのもわかるわ……」

 

 りんく「そしてさらに!……最初に打ったボールがホールに直接ナイスオン!……これはみんなもよく知ってると思うけど……??」

 

 マリン「あ、それ知ってる!『ホールインワン』ね!」

 

 りんく「そのとーり!プロでも『3756分の1(某ゴルフ雑誌の統計によるため多少の誤差あり)』の確率でしか出ない奇跡の一打!」

 

 メモリア「それって宝くじに当たるよりむずかしいんじゃ……」

 

 りんく「……でも実は『アルバトロス』の方が確率が少ないんだよね。男子プロではその確率……なんと15万分の1!」

 

 ビューティ「まぁ……!」

 

 りんく「女子プロだとさらに下がって100万分の1……アマチュアだと200万~300万分の1……宝くじを当てるよりも、アルバトロスを出すのは難しいのよ……」

 

 ハッピー「はっぷっぷ~……」

 

 ロゼッタ「でも、その一打のロマンに魅せられたゴルファーは数多く、今日も数多のゴルファー達はゴルフ場に集うのですわ。……さて、ここからはそんなゴルファーたちが使う『クラブ』を、ワタシがご紹介いたしましょう♪」

 

 

 4.ゴルフクラブはカードデッキ?

 

 

 ロゼッタ「クラブの語源はワタシ、キュアロゼッタのシンボルの『♣』と同じで、『棍棒』なのですわ♪……というワケで、クラブについてはワタシがご説明致しましょう♪」

 

 マーチ「中継を見てる限り……全部鉄なの?」

 

 ロゼッタ「クラブはヘッド……ボールを打つ場所の素材によって大まかに、『ウッド』と『アイアン』の2種類に分けられていて、その中でも柄の長さによって番号が振られているのですわ。『1番ウッド』『3番アイアン』などと呼びますね。番号が大きくなるほど、概ねボールを打った時の飛距離が短くなり、弾道が高くなりますわ」

 

 トゥインクル「『ウッド』って……まさかアレって木で出来てるの!?……それにしては打った時にスゴい音がしてるけど……」

 

 ロゼッタ「実際、昔のウッドのヘッドは柿の木で作られていたそうですが、今はステンレスやチタン合金といった金属製や、それに炭素繊維(カーボンファイバー)を組み込んだ複合製が主流ですわね。でも、『ウッド』の呼び名は今でも名残として使われているのですわ」

 

 メモリア「な、なんかスゴそう……」

 

 ロゼッタ「ティーショット……第1打目で使われる『1番ウッド』は『ドライバー』と呼ばれていて、すべてのクラブの中で最も飛距離が出るクラブ……でも、柄が最も長く、ヘッドも重く作られているので、扱いも難しいのです。プロでも、最もこだわって選ぶクラブだといわれていますわね」

 

 マリン「じゃぁそれで飛ばしまくればいーじゃん」

 

 ロゼッタ「ゴルフはそんな単純なスポーツではありませんよ?……そんな時のために、位置を微調整する『アイアン』を使うのです。更に最近は、ウッドとアイアンの中間の性質を持つ『ユーティリティ』というクラブも出てきましたわね。そして短い距離を飛ばすための『ピッチングウェッジ』や、バンカー……砂場からの脱出を目的とした『サンドウェッジ』……その中間の『アプローチウェッジ』、そしてグリーン上で使用する『パター』……クラブは種類が多く、そして奥深いのですわ」

 

 りんく「そーいえば一時期、石川遼選手が『0番アイアン』ってのを使ってたよね」

 

 ロゼッタ「それは例外中の例外で、YONEX社が販売していたユーティリティの一種、"ゼロアイアン"のコトですわ。『0番アイアン』は実際には存在しないのです」

 

 ミラクル「け、結局……クラブって全部で何種類あるの……??」

 

 ロゼッタ「わかりません♪」(即答!)

 

 ハッピー「ゑ」

 

 ロゼッタ「今現在、何種類出てるのかはわからないのです。ウッドでも少なくとも11番、メーカーによっては70番なんていう数字までありますし……実は同じ番号でも、メーカーによって微妙に性質が違ったりしますので、まさしく星の数ほど、クラブは存在すると言っても過言ではないでしょう」

 

 マーチ「……………………………………( ゚Д゚)」

 

 マリン「あー……気が遠くなってきたぁ……」

 

 ロゼッタ「でも、そんな星の数だけあるクラブの中から、1人のプレイヤーが1試合に持ち込めるのは―――――たった『14本』だけなのです」

 

 エース「14本……だけなのですか?!」

 

 ロゼッタ「そうですわ♪自分に合ったクラブを見つけて、選んで……選りすぐった14本のクラブだけが、試合中に使える『武器』となるのです。……さながら、カードゲームのデッキと同じですわね♪」

 

 ハッピー「あ、それならわかりやすいかも!」

 

 ロゼッタ「データ放送で、有力選手が使っているクラブセッティングを見ることのできる中継もありますわ。プロゴルファーたちが選んだ『デッキ』を見比べてみるのも、一つの楽しみ方……新たな発見があるかも知れませんわね♪」

 

 りんく「日本のプロゴルファーたちのセッティングが細かく見られるサイトもあるから、参考にしてみてね~♪」

 

 

 5.コースはまるでアクションゲーム!

 

 

 りんく「さて、ここからは実際に、プロゴルファーのプレーを見ながら、ゴルフのコースを説明するね!」

 

 ビューティ「最初に打ち始める場所……ここが『ティーインググラウンド』ですね」

 

 りんく「ここから、ゴールのグリーンの中央までの距離が、『コースの長さ』になるの。ここにティーを刺して、その上にボールを置いて……ナイスショット!」

 

 リズム「さっきから実況のアナウンサーさんと解説の人以外、ほとんどしゃべってないわね……すごく静かだわ」

 

 ロゼッタ「ゴルフは集中力が何よりも求められるスポーツ……一打ごとに全神経を研ぎ澄ませるため、気を散らせる騒音は厳禁ですわ」

 

 メモリア「アナウンサーさんはしゃべってるけど?」

 

 りんく「あ、アナウンサーさんと解説の人は実際そこにいるわけじゃなくって、映像を見ながら別の場所で話してるからね。……さて、ボールがうまくフェアウェイに乗ったね」

 

 エース「きれいに短く刈り揃えられた芝生ですね」

 

 りんく「『フェアウェイ』はボールもよく弾んで、よく転がるし、次に打つ時も打ちやすい場所ね。このフェアウェイをキープしながら進むコトはゴルフの基本なの。いわばコースのメインストリートね。でもその周りは……」

 

 マリン「うっわ~……雑草ボサボサ……」

 

 りんく「ここはわざとこうしてあって、『ラフ』って呼ぶの。草のせいでボールも転がらずにすぐ止まっちゃうのよね。次に打つ時もよく飛ばなかったり、草に引っかかってヘンな方向にスライス……曲がって飛んでいっちゃったりするから、出来る限り避けて進むのが定石よ」

 

 マーメイド「最終的にグリーン……カップの周りの芝地に乗せればいいのね」

 

 ビート「そこまではパワー任せでガンガン進んでもOKね!」

 

 りんく「いやいや~……そこはいぢわるに作ってあるんですよヘレンさん」

 

 ビート「ヘレン(ちゃ)うわッ。……グリーンを取り囲むように砂場が作ってあるわね」

 

 りんく「『バンカー』ね。大抵、グリーンの周りに最低1つは掘ってある『コースの落とし穴』ね。……フェアフェイのド真ん中に掘ってあることもあるけど……」

 

 ミラクル「『落とし穴』っていっても『見えてる』よね?そう簡単に打ち込んじゃうワケ……―――――」

 

 レモネード「あ、打ち込んじゃいましたね」

 

 ミラクル「ゑ」

 

 ロゼッタ「コースを深読みするあまり、『見えてる落とし穴』にハマってしまうことも多々ある事なのですわ……」

 

 マーチ「あちゃ~……」

 

 りんく「脱出するには『サンドウェッジ』のクラブを使うんだけど……飛距離も出ないから思わぬ足止めになっちゃうのよね」

 

 メモリア「あ!今度は池にボールが~!」

 

 エース「俗に言う『池ポチャ』ですね♪」

 

 マーメイド「よく知ってるわね……」

 

 りんく「正式には『ウォーターハザード』って言って、池や川から取り出すために1打分のペナルティが科せられちゃうの。もっとも、『ボールが打てれば問題ない』から、池に入ってでもボールを打ちに行くタフな人もいるのよね」

 

 ハッピー「そ、それって危ないんじゃ……」

 

 りんく「実際、落ちちゃったら絶対取れない『池ポチャ』もあるのよね。今回中継される全米オープンが開かれる"ペブルビーチ"の名物・7番ホールなんて、ほら…………」

 

 ロゼッタ「まぁ❤なんという絶景でしょう!」

 

 トゥインクル「え゛……い、いやいやいや、周りガケじゃん!断崖絶壁じゃん!!??」

 

 マーチ「ピースが喜びそうな『東映ロゴ』が出てきそうな荒波……」

 

 りんく「ペブル"ビーチ"の名前通り、このコースは海沿いに作られてて、その浜風もゴルファーたちを苦しめる、なんか間違っちゃったよーな難コース……!」

 

 ロゼッタ「まさに天然自然の要塞……降りかかる艱難辛苦を乗り越えた先に、栄光のグリーンが待っているのですわ」

 

 りんく「でも、ゴルファー最後の強敵がこの『グリーン』!ここではパター以外使っちゃいけません!」

 

 ミラクル「ボールを浮かせちゃいけないってこと……?」

 

 りんく「そのとーり!……ここからはボールからカップまでの距離の計算や、正確な力加減が求められる重要ポイント……もう力任せは通用しないわよ……?」

 

 ハッピー「はっぷっぷ~……わたしこういうのニガテ~…………」

 

 メモリア「ねぇ、どーしてしゃがんでカップを見てるの?」

 

 ロゼッタ「中継では若干上からカメラが映していますから、一見グリーンは真っ平に見えますが、実は微妙な傾斜や、芝の質が違う箇所があるのです。ですから、あのように平面的な目線で見ることで、グリーンの傾斜を意識してパッティングできるようになるのですわ」

 

 レモネード「…………バーディーパット、外してしまいましたね……ちょっと力が弱かったみたい……」

 

 ビューティ「しかもボールがどんどん下に……つまり……」

 

 マーメイド「このグリーン、画面の上から下への坂になっていたのね」

 

 りんく「中継ではグリーンが坂になってるかどうか、アナウンサーさんや解説さんが説明してくれることもあるから、要チェックよ!」

 

 マーチ「ようやくカップイン……パーだね」

 

 リズム「何とか持ち直せたみたいね……」

 

 りんく「仕掛けられたワナを乗り越えて、最後は知力でボールをカップに沈める……アクションゲームみたいなものだと思って見れば、ゴルフもとっても楽しく見られるよ!」

 

 メモリア「(σ・∀・)σさっすがぁ~♪」

 

 

 ・さいごに!

 

 

 りんく「……というわけで、ざっくりゴルフを解説してみたけど、どーだった?」

 

 マリン「ど・こ・がざっくりよ~!?ワリとマジでガッツリ*1だったぢゃん!!」

 

 エース「しかし、きちんとルールを理解できれば、少なくともつまらなくはなくなる……そうではなくって?」

 

 レモネード「確かにそうですね♪」

 

 トゥインクル「ゴルフが好きなパパさんやおじいちゃんとも、ゴルフ中継を見ながら会話が弾むかも!」

 

 ロゼッタ「そんなワケで、プリキュアが無い日曜8時半、プリキュアファンの皆様も、特撮ファンの皆様も、これを参考にゴルフ中継をご覧になって見てはいかがでしょうか?」

 

 ミラクル「長い距離のバーディーパットは、見てるこっちもワクワクもんだぁ!」

 

 ハッピー「ホールインワンが出れば、とってもウルトラハッピー!」

 

 マーチ「世界屈指の難コースに直球勝負で挑むプロゴルファーたちの真剣な表情も見どころね!」

 

 りんく「『スター☆トゥインクルプリキュア』はおやすみだけど、パパやおじいちゃんといっしょに、家族みんなでゴルフを見て過ごすのもアリかもね!」

 

 メモリア「6月23日、ついにキュアコスモが出てくるんだね……あたし、もう待ちきれないよ~!」

 

 リズム「あら?……でもお部屋の棚にブルーレイディスクがあったような……」

 

 りんく「それは言わないお約束。今日は令和元年6月16日なの。……それじゃ、ディスプレイの前のみんな!」

 

 

 みんな「「「よい休日を~~~!」」」

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 《ぐをををををををを!!何年か前までは9時でゴルフ終わってたぢゃねーか!!!なんで今年に限って11時までやりやがるんだぁぁぁ~~!!!》

 《イイコト思いついたでゲソ。テ〇朝の中継機器をネットからショートさせればいいんじゃなイカ?ゴルフを中継できなければジオウとリュウソウジャーを放送するしかないじゃなイカ!完璧な計画じゃなイカ!》

 《おお!ソイツはイ~カんがえ(いい考え)だ!!テ〇朝をハッキングか……アプリアンのアタシなら不可能じゃないな……フッフッフ……》

 《侵略……侵略でゲソ……!!ゲ~ソゲソゲソゲソ!!》

 

 え~っと……八手ほくとです……

 なんというか……朝からごめんなさい……

 ジオウとリュウソウジャーの放送が中止になって、データもピースもちょっとおかしなことになってて……

 確かに……ジオウの最強フォーム『グランドジオウ』と、リュウソウジャーの新戦士『リュウソウゴールド』登場を前にしてもうあと1週間待たなきゃいけないのは僕も残念だけど……

 テレビ局にはテレビ局の都合があるんだし、ゴルフ中継が好きな人だっているんだし……わがままは……良くないよね?

 あ、データとピースはああ言ってるけど、実際にはしないと思うから……安心してください♪

 ……となると、これからのんがプリキュアごっこを挑んでくる頃か……そう思って、ふと窓の外を見た―――――

 

 

 ―――――カッ!!

 

 

 突然、窓の縁側に鋭い音とともに何かが突き刺さった。見ると、長方形の薄い板―――――カードだった。

 

 《ぉわッ!?》

 《ひぇっ!?》

 

 一発で正気に戻るデータとピース。ただならぬ気配に、僕は思わず窓から身を乗り出した。

 そこで―――――僕は見た。

 少し離れた家の屋根の上に、3人の人影を。

 雨が降っていて薄暗かったから、よく見えなかったけど、僕の視線を感じ取ったのか、すぐにどこかへと消え去ってしまった。

 遠ざかる気配に不審を感じながらも、僕は突き刺さったカードを手に取ってみた。

 そのカードには―――――こう記されていた。

 

 

予 告 状

 

この夏、『聖地』をいただきに参上致します

 

蒼の怪盗団

 

 

 「これは……!?」

 

 否応なしに、僕の胸が早鐘を打つ―――――

 

 それはまさに、僕に思わぬ出会いを『予告』するモノ―――――

 

 僕にとって忘れられない、一番熱い『令和元年』の夏が、もうすぐそばまで近づいていた―――――

 

 

 ―――――To Be Next "Today's NICHIASA is Stop broadcasting!"……

*1
実は本当に『ざっくり』である。基本中の基本を紹介しただけでもこれだけの文量になってしまうほど奥が深いのがゴルフなのである。『もっとゴルフのことが知りたい!』という方は、読者様方各自でお調べください。これ以上書くと本格的ゴルフ小説になってしまいかねませんので……(汗)




 いかがでしたでしょーか……?

 ゴルフ知識ですが、ゴルフ好きな稚拙の父に付き合ってゴルフ中継を見たり、ゴルフゲームをやったりして得た知識を総動員しました。実際ゴルフをやったことも無い人間が書いたものですので、間違ってたらゴメンナサイ。あくまでも『ゴルフが知らないヒトでもこれを読んでおけばなんとな〜くゴルフ中継がわかるように』書いた『副読本』のよーな雑文ですので……(汗

 さて、『こんニチ』初の『つづく』展開となりました……!!
 次にニチアサが休止となる日、それは……―――――
 そして、『蒼の怪盗団』とは……!?

 謎を残しつつも今回はここまでです!
 また次に……今度はエグゼイド編の最新話で!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キュアデーティア 対 蒼の怪盗団 前篇

 あれ?
 今日、プリキュア放送してるよね?
 ジオウもリュウソウジャーも中止じゃないのに、どうして『こんニチ』が投稿されてるの?

 ……そんなアナタは知らないだけなのです。
 今朝、全国でただ1局、ニチアサを放送していないテレビ朝日系列局があることを……
 そしてその局はあろうことに、プリキュアの制作局だということを……

 そのために、笑顔を奪われた子供たちがいることを……

 じゃぁ、その『理由』が無かったら?
 ……『無くなって』しまったら?
 そうすれば、子供たちの笑顔は取り戻せるのか?

 これは、ひとりの少年が、『憧れ』と『大人の事情』に葛藤しながら、信念を貫く『聖地』をめぐる戦いを繰り広げた、ひと夏の物語である―――――

 ……なんてシリアスに書いておりますが、『こんニチ』なのであんまり肩肘張らずにお読みください♪


 その日―――――

 

 令和元年8月11日、朝―――――

 

 高校球児たちの『聖地』、『阪神甲子園球場』は―――――

 

 兵庫県西宮市甲子園町1番82号から―――――

 

 忽然と、その姿を消していた―――――

 

 困惑と悲嘆、驚愕と無力感に苛む多くの人々が『そこ』に集う中、季節外れの吹雪が舞う。

 それは、無数の長方形の紙切れだった。人々はそれを拾い上げた。

 紙切れには、洒落た書体でこう書かれていたのだった―――――

 

予告通り、確かに『聖地』をいただきました

 

蒼の怪盗団

 

 ――――――――――

 

 僕―――――八手ほくとは、扇風機の風に吹かれながら、リュウソウジャーの放送を見終わった。

 見終わると同時に、据え付けのビデオデッキから音がした。録画も終わったらしい。

 これには理由があって、のんに頼まれたからだ。

 プリキュア大好きで、特撮には興味の無いのんがどうして?と疑問に思って訊ねると、こども園のみんなでケボーンダンス*1を踊って、応募するらしい。

 こども園だけで練習するのに飽き足らず、家でも練習したいからと、僕にビデオの録画をせがんできたわけだ。

 デッキからテープを取り出して、ラベルを貼って、マジックで『ケボーンダンス』と書いておいた。これならのんでもわかるだろう。

 さて、『朝の日課』も終わったことだし、お昼ごはんまで夏休みの宿題を少しでもこなそうかと、居間を出て自分の部屋に戻ろうと階段を上りかけた―――――

 

 《電話だぜ》

 

 振動とともに、ポケットの中からデータの声が響く。反射的に、コミューンに手を伸ばすと。

 

 《……ん?ちょっと待て》

 「どうしたの?」

 《非通知だ。胡散臭ぇ電話かも知れねぇから気をつけろよ》

 「わかった。ありがとう」

 

 こういう時、データのアドバイスはありがたい。最近、この手の電話を使った犯罪が増えてるらしいから、気を付けないと……

 自室に戻った僕は意を決して、画面の緑色の受話器のアイコン―――――『通話』ボタンを押した。

 

 「……もしもし?」

 

 "電話に出る時、最初に自分の名字や名前を言わない"―――――家の電話の受話器にそう書いたメモが貼ってあったのを思い出しながら、電話の向こうにいる人物の出方を窺った。

 

 《やぁ。予告状通り、『聖地』はいただいたよ。八手ほくと君。……いや、"キュアデーティア"と呼んだ方がいいかな?》

 「……!?」

 

 成年男性の声で、いきなり僕の"核心"に触れられた。心臓がひときわ大きな鼓動を打つのが感じ取れ、間髪入れずに僕はコミューンに返した。

 

 「聖地って……!?それに、どうして僕のことを……!」

 《よく思い出してみたまえ、2ヶ月前……令和元年6月16日の日曜日……あの日は雨だった……キミの部屋の窓際に予告状を投げ込むのには苦労したんだよ》

 「予告状……それって……!」

 

 思い出した……!

 胸騒ぎをして、捨てずにとっておいた"それ"を、僕は慌てて机の引き出しから取り出した。

 

 

予 告 状

 

この夏、『聖地』をいただきに参上します

 

蒼の怪盗団

 

 

 《そう、それさ。……テレビを見てみたまえ。こんな時でも、予定通り8時30分から『ニチアサキッズタイム』を放送したテ〇ビ朝日には素直に敬意を表したいがね》

 《平常運転のテ〇東はともかく、他の局は朝から大騒ぎだぜ……!居間に戻ってテレビ点けてみな!》

 

 データに促されて、僕は居間に戻ると、父さんが神妙な顔でテレビ画面を見ていた。

 N〇Kのニュース番組だった。でもこの時間、高校野球を生中継しているはずだけど……

 

 《……お伝えしておりますとおり、今朝6時ごろ、兵庫県西宮市の甲子園球場が消失しているのを、管理会社の阪〇園芸の従業員が気付き、警察に通報しました。人的被害は確認されていないとのことですが、阪〇園芸の従業員によりますと―――――》

 「…………(;゚Д゚)」

 

 瞬間、僕は唖然とした。自然と口が半開きになっていた。

 ニュースは淡々と、甲子園球場が一夜にして消え失せ、まるで最初からそこには何も存在していなかったかのような、広大な更地になっていたことを伝えている。

 

 「むぅ…………困ったことになったなぁ」

 

 ニュースを見ながら、父さんが唸る。

 

 「どうしたの……?」

 「いやな?今日、俺の母校が試合する予定でな……昔のクラスメートとかもあっちに応援に行ってるんだが―――――」

 「お父さん~?浦部さんから電話~!」

 「おう、すぐ出る!……浦部……確か息子が野球部だったか……」

 

 母さんが父さんを電話口に呼ぶ声がして、座布団に座っていた父さんは立ち上がり、居間を後にする。

 

 《まぁ、そういうことさ》

 

 電話の向こうが得意気に言った。

 

 「"これ"を……あなたが!?」

 《そう言っているじゃないか。少しは人の言うことを聞きたまえ》

 《で?こんなたいそれたことをして、ほくとに何させよーってんだ?つーかてめー誰だ?》

 《そうした諸々のことは、こうして電話越しに話す事ではないからね。……どうかな?僕達と会ってくれないかい?》

 《行くなよ?絶対行くなよ!?》

 

 ―――――データ、それって某3人組お笑いトリオの前フリだよ……フツーそれは、『行け』って言ってるのと同じで……

 ……ごほん。

 もっとも本気で取り合うつもりは僕も無い。それにどうせ、場所は甲子園だろう。今から兵庫県の西宮まで行くにしても、一体どれだけ時間とお金がかかるのやら。

 変身して飛んで行っても3時間前後かかるだろうし、ネット経由で行こうにも場所がわからないから―――――

 と、コミューンの画面に地図と場所が表示された。

 

 《この場所に来てくれたまえ》

 「行きます」(即答)

 《おォい!?》

 

 即断即決―――――

 この場所なら……日本男児(をとこ)として、往かねばなるまい……!!

 

 ――――――――――

 

 ……ってなわけで、ここから先はアタシ、キュアデータが地の文だ。

 ほくとは2階の自分の部屋に駆け上がるといきなり変身して、ウイング最大速度で夏空をカッ飛ばし、1時間もかからずにこの場所にたどり着いた。

 ま、郊外とはいえ関東近郊だ。ここなら甲子園よりも近場だからな……

 変身を解いたほくとは、改めて周囲を見渡した。

 

 《圧倒される………………》

 

 そこには、『何もなかった』。

 強いて言えば、切り立った岩場に囲まれた、十数人が乱闘出来そうな、砂利の地面の広場だった。

 マップが示している場所は、『栃木県栃木市岩舟町畳岡』。そう、ここは―――――

 

 《『岩船山採石場跡地』……こんな形で来ることになるとは思わなかったけど……来て……よかったぁ……!(T T)》

 

 特撮ファンだったら見たことがあるよな?『いつもの採石場』。それがココだ。

 車で行くなら、東北自動車道の佐野・藤岡ICから車で15分、電車ならJR両毛線岩舟駅から徒歩10分のトコだ。

 ロケをしてない時だったらいつでも誰でも入れるから、気軽に『聖地巡礼』したいヤツはハイキングがてら登ってみるといいぜ!

 ……にしても、ほくとのヤツ…………あぁ~あ、久々にボロ泣きしてやがる……稚拙が泣き虫設定忘れてたのはナイショな。

 そりゃまぁ、『聖地』だもんな……こんな機会でもなきゃ行くヒマ無かったもんな。宿題もしなきゃならんし、拳法修行もこなして、部活も……それに加えてプリキュアやってんだから、夏休みに入っても忙しいんだよな、ほくと……

 

 《写真!写真撮ろうよデータ!アプリ、起動してよ!ねぇ!》

 「(-_-;)あのなほくと……泣きたくなるくらいうれしいのは分かるがな、一体何のためにここに来た?」

 《その"見習い"クンの言う通りだ。観光なら後にしてくれたまえ》

 

 さっきの電話口と同じ声が響いた。ほくとが振り返った先には、ひとりのニンゲンの男が立っていた。

 

 《……!!あ……!!!》

 

 その男を見た瞬間、ほくとは目を見開き、歓喜に震え、そして―――――

 ……ワンパターンなんだが、やっぱり、泣いた。

 

 《あなたは……!仮面ライダーディエンド……海東大樹さん!?》

 

 軽薄そうな薄ら笑いを浮かべたナンパな男。何か見たことある上に、ほくとのこの反応……マジかよ。

 そーいや、こないだ仮面ライダージオウに出てたな。髪を染めててチャラ度が増してたけど。

 ……にしても、心底嬉しそうな泣き顔だこって。まさに憧れの人を生で見れた、絵に描いたような感激リアクションだ。

 

 《流石は、将来スーツアクターを目指している八手ほくとクンだ。僕のことも熟知してくれているようで光栄だね》

 《その声……電話で話していたのも……?》

 《ああ、僕さ。君にはどうしても僕に……いや、》

 

 海東大樹は、ドラマの中同様のイジワルな笑みを浮かべながら、ほくとに視線を促した。

 

 《"僕達"と会ってほしかったからね》

 

 振り向いた先に、しゅた!と降り立つ、暗い青色のタキシードを着た怪しさ満載の男。

 ソイツにも見覚えがあった。

 

 《待ち草臥(くたび)れたぞ……》

 

 でもって―――――

 やっぱりほくとは歓喜に涙した。

 

 《透真さん……ルパンブルーの宵町透真さんですよね?!》

 

 そして、その反対側には―――――

 

 《心配してソンしたわ》

 

 ネコ耳を生やした青髪の、ほくとと同じ年頃の女が立った。

 で、その女を見たほくとは―――――

 

 《………………………………………………》

 

 一瞬で泣き止んだ。

 

 《……………………誰?(・ ・;)》

 《がくっ……予想はしてたけど、いざ面と向かって言われるとちょっとヘコむにゃん……↷》

 

 落胆して肩を落とす女だったが、すぐさま立ち直って、得意げな顔で自己紹介を始めた。

 

 《ワタシはユニ。『スター☆トゥインクルプリキュア』のキュアコスモよ。プリキュアに詳しいお友達から聞いてなかったのかしら?》

 

 ……ちょっと待ったコールだ。

 ……どーして『プリキュア本人』が、こうして目の前に立ってる?

 アタシたちはそもそも、キュアチップにされちまったプリキュア達をジャークウェブから取り戻すために戦ってるハズだ。

 キュアチップにされてるハズのプリキュアがどーしてここにいるんだ?

 ――――――――――って、画面の前のお前たちなら察してくれてるよな。

 ほくとも同じ疑問を持ったようで、アタシの代わりに問い質してくれた。

 

 《どうして……プリキュアはみんなキュアチップにされてるハズじゃ……!?》

 《う~ん……まぁその辺りは『本筋』じゃないってコトで……画面の前のお友達も、カンベンしてちょうだいにゃん♪》(カメラ目線)

 《本筋……??……それに誰と話してるの?(- -;)》

 

 ……つまり、この話が『本筋』じゃなく、『こんニチ』だから登場できたってコトか。メタに片足……いや、どっぷり両足どころか全身ツッコんでるな。

 まぁ、今回コイツが出てきたのは、そういうネタを垂れ流すコーナーだからこそ許される『ノリ』ってこった。笑って許してくれぃ。

 さて……仮面ライダー、スーパー戦隊―――――そして、プリキュア。

 ―――――この状況を形容するに相応しい言葉がある。

 

 「……『ニチアサキッズタイム』勢揃いかよ……」

 

 日曜朝の子供たちの楽しみ、そこから1人ずつメンツが集まりやがった。

 だが、どうしてこの3人が―――――って、これも今更説明なんざ必要ねぇか。

 

 《あなたたちは……いったい……!?》

 

 唖然として問いかけるほくとに、海東はフッと笑い、()()()()()()()()()()を取り出した。

 ほくとが身構えるとともに、いつの間にか海東の両隣に立った透真とユニが、それぞれの変身ツールを手に取り、そして―――――

 

変 身 !

KAMEN RIDE(カメンライド)―――――"DIEND(ディ・エェェンド)"!!!》

 

快 盗 チ ェ ン ジ

《BLUE!!(ツー)(シックス)(ゼロ)!》

MASQUERAZE(マスカレェイズ)!!KAITOU CHANGE(快盗チェーーンジ)!! LUPIN RANGER(ルパァンレンジャー)ーー!》

 

スターカラーペンダント!!

カラーチャーーージ!!

 

 閃光が迸り、何かの衝撃波がアタシとほくとにぶつかってきて、ほくとが怯むのが見えた。

 しかもユニとかいう女の歌声まで聞こえてくるもんだから、一体何が起きてるのやら……

 そうこうしている内に、3人の『蒼い戦士』が、アタシとほくとの眼前にその偉容を現したのだった。

 

仮面ライダー……ディエンド!

 

 

ルパンブルー……!!

 

 

銀河に光る、虹色の!スペクトル!!キュアコスモっ!

 

 

 三者三様の名乗りを披露した後、ディエンドを中心に集結した3人は、改めて決めポーズを取り、高らかに宣言する―――――

 

 

我ら―――――

 

蒼 の 怪 盗 団 ! !

 

 

 瞬間、こいつらの背後で青い煙を放つ爆発が巻き起こった。戦隊シリーズでお馴染みの『色爆』だな。昔だと『科学戦隊ダイナマン』とかで使われた、セメント爆発*2に色粉を混ぜたヤツだ。怪盗のくせにハデ好きな野郎どもだ……

 

 《蒼の……怪盗団……!?》

 

 それにしても面白い芸名だな。

 『怪盗ライダー』のディエンド、『快盗戦隊ルパンレンジャー』のルパンブルー、そして『怪盗ブルーキャット』を名乗っていたキュアコスモ―――――確かに3人全員、『ニチアサキッズタイムに出てくる"蒼い怪盗"』という共通点がある。

 だがこの3人、共通点はあれども『一匹狼』気質のクセ者だ。―――――ユニはこの後の展開次第でどうなるか知らんが。

 そんな連中が、こうして徒党を組んでアタシ達の前に立つ理由―――――

 そしてそれが、『甲子園消失』と無関係じゃないのは確かなこと―――――

 

 「さぁ聞かせてもらおうじゃねぇか。アンタ達が、どうしてあんなコトをしたのかをよ。……オラ、ほくとも何か言ってやれ!」

 

 景気づけに、ほくとを促した。一歩、ほくとは神妙な表情で前に出た。

 まったくわからんだらけの状況だが……とりあえず、窃盗は犯罪な。今回甲子園が盗まれたおかげで、一体どれだけのニンゲンが迷惑被ったと思ってやがる。

 このドロボーどもに、仮面ライダーディケイドよろしく説教かましてやるのも悪くねぇ。

 ほくとなら、正義の味方ってヤツがどうあるべきか、堂々と言うことができるはずだ―――――

 そう思って、アタシはほくとの顔を見上げた―――――

 

 《………………………………、》

 

 

 

 

 

サ イ ン く だ さ い

(真顔で涙を流してどこからかサイン色紙を差し出しながら)

 

 

 

 

 

 ……………………………………(ノ∀`)

 

 

 ……そうだった。

 

 

 

 コイツ―――――

 

 

 

 特ヲタだった。

*1
『騎士竜戦隊リュウソウジャー』のエンディングテーマ『ケボーン!リュウソウジャー』に合わせて踊るダンス。エンディング映像でリュウソウジャーの6人が踊っている。公式サイトではリュウソウジャーのキャストや子供たちはもちろん、『仮面ライダージオウ』のキャストや東映特撮OB・OG、特撮ソングの歌手の皆さんや東映太秦映画村のお侍さんたち、果ては東映本社や日本コロムビア、ニチフリの社員の皆さん、クレヨンしんちゃんまでもがダンスを披露している。ほくとくんの脳内再生CVの伊藤美来氏も踊っていらっしゃる動画もあるのでお時間があればどうぞ。

*2
特撮作品での爆発演出は大別して2つあり、炎を激しく巻き起こす『ナパーム爆発』と、灰色の煙が激しく拡散する『セメント爆発』に区分できる。『セメント爆発』は『仮面ライダーV3』のオープニングの爆発、と言えばお分かりいただけるだろう。灰色のみならず色粉を混ぜることで色とりどりの爆発を巻き起こせる利点もあるが近年は減少中で、主に昭和時代の特撮の演出に多用されている。ナパーム爆発は現在放送中の『ウルトラマンタイガ』のオープニングでサブタイトルが出るシーンの爆発がまさにソレ。派手な炎を噴出するため見栄えが良い。火薬を使わずともCG合成可能で、火薬の使用許可が下りないような市街地で怪人が爆発四散するエフェクトはまずCGと見ていいだろう。坂本浩一監督や上堀内佳寿也監督が多用する傾向にある。ちなみに稚拙は断然ナパーム派。やはり火薬は生に限る。




 次回予告

 高校球児たちの聖地といえる甲子園を盗んだ『蒼の怪盗団』の目的とは……!?
 そして、憧れのディエンドとルパンブルーを相手に、ただの特ヲタと化してしまったほくとは戦えるのか?!
 あと、仮にもメインテーマであるプリキュアの一員であるにもかかわらずアウトオブ眼中なキュアコスモに見せ場はあるのか!?『フシャーーーッ!!(# ゚Д゚)』

 次回『こんしゅうのニチアサはおやすみです。』、『キュアデーティア 対 蒼の怪盗団 後篇』!!

 ―――――正義の味方は大人の事情に勝てるの?

 ――――――――――

 というわけで、ちょっと短いですがこんなの書いてみました。
 マジでほくとくんの泣き虫設定を忘れちゃっておりまして、この際なので感激の涙を存分に流していただきました。

 さて『こんニチ』としてはまたしても『つづく』となりました。次回は来週か再来週にでも……

 P.S. 高岩さん、お疲れさまでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キュアデーティア 対 蒼の怪盗団 後篇

 さてお待たせしました後篇です!!
 エグゼイド編の執筆が遅れていることへのお詫びとして、素敵なプレゼントもご用意いたしましたので、どうぞ!


 結局3人分のサインをもらったほくとは感涙に(ムセ)ていた。

 ……素直にサインに応じてくれた蒼の怪盗団(コイツら)蒼の怪盗団(コイツら)だが。

 しかもほくと、サインペン持ってなかったもんだから、なんとキュアコスモのスターカラーペンで書いてもらったというとんでもなくプレミアなサインだ。

 てっきりコスモにはサインを頼まんものかと思ったが、色紙はきっちり3人分用意しててビックリしたぜ。

 コスモのサインはりんくへのおみやげだと。……なんだかんだで意識してんじゃねぇか、コイツぅ❤

 

 《さて……キミにこうしてこの『聖地』に来てもらったこと……そして僕達が『聖地』を盗ませてもらったこと……それは全くの無関係じゃない》

 《どういうことですか》(キリッ)

 

 ディエンドが海東の声で説明を始めると、ほくとはさっきまでのヲタ全開のマヌケ面はどこへやら、すぐさま表情をシリアスモードに戻した。

 ……サイン色紙を手に持ったまんまだからマヌケが抜けきってないが。

 

 《甲子園球場……高校球児たちにとっての『聖地』……だが、この『聖地』は―――――》

 《"ある人々"にとっては、忌まわしい『悪の総本山』とも云える場所になってしまっているのよ》

 

 ルパンブルーとキュアコスモが、神妙な口ぶりで言う。

 

 《悪の……総・本・山……!?》

 

 ごくりと息を呑むほくと。頬にひとすじ汗が流れる。

 ―――――色紙を持ったまんま。

 

 《僕達が甲子園球場を盗んだのは―――――『笑顔』が奪われてしまうことを止めるためさ》

 《甲子園球場が存在し、夏が来る……その度に、人々から『笑顔』が奪われる》

 《それを止めるためには、いっそ甲子園球場をこの世界から無くしちゃう方が都合がいいのよ》

 

 言ってることの意味がさっぱりわからん。

 甲子園で笑顔が奪われるって……??

 

 「何言ってんだアンタら……??やってることと言ってることのつながりが全然見えねぇんだけど……」

 《それならば、単刀直入に言おう》

 

 1歩前に出たディエンドが言った。

 

 

 《甲子園での高校野球が日曜日に放送されてしまうと、『ニチアサキッズタイム』の放送が延期にされてしまう……仮面ライダーやスーパー戦隊……そしてプリキュアを楽しみにしている関西の子供達から、笑顔が奪われてしまうのさ》

 

 

 

 

 

 …………………………( ゚Д゚)ハァ?

 

 

 

 

 

 《甲子園の所為で……俺達の活躍を見ることができない……それは関西の子供たちにとって、この上ない苦痛だ……》

 《子供たちだけじゃないわ。『見てもらう』側のワタシたちにとっても、心苦しいことなのよ》

 

 ディエンドに同意するように、ルパンブルーとコスモがうなづきながら言う。しかも割と深刻な表情で言ってくるのは何故だ。

 …………言ってることはシュール極まりないんだが。

 

 《……わかりますっっっ!!!!!(☆ ☆)》

 「ぅえぇっ!?」

 

 ほくとは目を輝かせ、真顔で"蒼の怪盗団"に同意していた。おいおいマジかよ……

 

 《ゴルフや駅伝や年末年始で、ライダーやスーパー戦隊が見れない時の、日曜日の朝の物足りなさと言ったら…………仮面ライダーBLACKやRXのアクターさんが次郎サンじゃない代役だった時と同じよーな物足りなさなんですよ!!!決めポーズのキレが違うんです!!》(BLACKとRXの名乗りポーズをキメながら力説!)

 「はァ!?Σ(;゚Д゚)まぁ気持ちはわからんでもないが……ビール腹じゃねぇBLACKはBLACKじゃねぇ

 《だから、僕もスーパーヒーロータイムが無い日曜日はモチベーションが下がるんです……だから、お気持ちはよくわかります!!!》

 

 まぁ、これはアタシもわからんでもない。つーか、アタシがリアルワールドに来て初めて触れた娯楽が、ほくとに付き合って見始めた特撮で、いつの間にやら日曜の朝はテンションがハイになってるアタシがいた。

 週に一度の特別な時間―――――りんくもそう言ってた気持ちが、わかる気がした。

 前に、ジオウもルパパトも無い年末の朝のほくとの様子を読んでもらったが、あの時は至って普通だったな。

 実はあの時書かれてなかったんだが、寝起きから買い物に出るまでのほくと、割としょんぼりしてたんだ。年末年始の準備を始めて、多少シャキッとしたけどな。

 

 《普通に暮らしている人々は知らないだろうけど……僕達は、テレビを見ている日本中の子供達の声援から、潜在的な力を得て戦っている》

 《お前たち『インストール@プリキュア』が、ネット上の書き込みからイーネルギーを得ているようにな》

 《え……!?》 

 《子供達が、日曜朝8時30分からの1時間半の間、テレビの前で応援してくれているからこそ、ワタシ達は全力で戦うことができるのよ》

 《戦う僕達の姿を見ることで、子供達が勇気づけられ、その子供達が僕達に声援を送ることで、僕達は戦える―――――その循環によって、『ニチアサキッズタイム』は成り立っているのさ》

 

 ……これは……ショーゲキの事実、なんだろーか。日曜朝8時30分からの1時間半にそんなヒミツがあったとは……

 でもまぁ、『ヒーローが戦うのは子供の声援ありき』とは、なんとも微笑ましい設定じゃねぇか。

 ルパンブルーがさらに続ける。

 

 《子供達の声援は、番組を放送している26の『中継局』を介して、戦う俺達へと送られる……だが、高校野球が放送されることで、その中継局の『同期』が乱れてしまう》

 《子供たちの声援の同期が乱れると、僕達の実力が100%発揮できないのさ》

 《同時に、子供達もワタシたちの戦いをテレビで見ることができなくなってしまう……甲子園は、関西の子供達の笑顔を奪ってしまうモノなのよ》

 《…………………………………………》

 

 おろ?ほくとの表情が変わったぞ。

 さっきまで『ただのファン』だったカオが、なにやらシリアスに……

 

 《……キミに頼みたいことはただ一つ。僕達の活動の『黙認』だ》

 《ヒーローとして、子供達の笑顔を守ることは当然にゃん♪》

 《『特撮を愛するプリキュア』として……お前はこの頼みを断ることはできないはずだ》

 《…………………………………………………………》

 

 尚もほくとは口を真一文字につぐんだままだ。

 さてほくと……憧れのヒーローのお願いだが……どうする?

 

 ――――――――――

 

 『答えを聞こうか―――――八手ほくとクン』

 

 海東さんが迫るように問うてきた。

 でも―――――

 僕の答えは―――――

 

 極まっていた。

 

 

 「それは――――――――――」

 

 

 

 

 ―――――できません

 

 

 

 

 『『『……!?』』』

 

 キュアコスモの表情が驚きのそれに変わった。マスクで表情を伺い知れないディエンドとルパンブルーも、少したじろいだように見えた。

 

 『……何故だ?日曜の朝にスーパーヒーロータイムが見られないことを何よりも悲しむお前が……!?』

 『そうよ!関西の子供達だけが理不尽な目に遭っているのに、かわいそうだと思わないの……!?』

 

 コスモの悲痛な声が心を揺さぶってくる。でも僕は、揺さぶられども、折れなかった。

 

 「確かに……高校野球の放送で、仮面ライダーやスーパー戦隊の放送が見られない子供たちはかわいそうだと思うし、同情もします……気持ちはよくわかります―――――でも」

 

 確信と自信をもって、僕は伝える。

 

 「……でも、それまで練習で培ってきた結果を出す機会である『大会』を奪われてしまう高校球児の皆さんの気持ちも……わかるんです……!僕も……アスリートですから」

 『『『……!』』』

 《………………フッ》

 

 データが小さく笑うのが聞こえた。

 

 「特撮番組やアニメは放送が延期しても見る機会はあります……もし生で見られなくても、録画もできますし……後々になれば、DVDやブルーレイも出ます……でも、高校野球は……スポーツは違います!たった『一度きり』なんです……!大会が……力を出す機会を奪われてしまったら、もうそれきりなんです!今生きてる僕が今過ごしてる、『中学2年生の夏』が今しかないように……高校球児の皆さんの、『甲子園に出られた夏』は、今この瞬間しかありません……!そして、その皆さんが活躍する様子を楽しみにしている人たちの気持ちも、ないがしろにはできません……!僕は………………―――――」

 

 意外に思う人がいるかもしれないけど、これは僕の信念だ。

 僕は確かに特撮ファンだけど、空現流拳法を習い修め、空手部の一員として日々鍛錬にいそしむ、ひとりのアスリートだ。

 大会に向けて鍛錬を重ねて、仕合で結果を収めて、それを仲間たちと共有して、喜びを分かち合う―――――それは、何物にも代えがたい最高の思い出だ。

 それを味わえる機会を得て、甲子園に集っている、全国の高校球児たち。その、たった一度きりのチャンス。汗と涙に包まれた、一生心の中に残り続ける―――――

 それを―――――『誰かの人生で一度きりの、かけがえのない瞬間』を、無理やりに奪ってまで…………

 

 「僕は…………そこまでして、スーパーヒーロータイムを見たくありません!!」

 

 そして僕は、ネットコミューンにチップを差し込み、変身アプリを起動する。

 

 「あなた達は僕の憧れのヒーローだ……でも、そのやり方を……誰かの笑顔を犠牲にして笑顔を作ることは、正義だとは思えない!!」

 《START UP! MATRIX INSTALL!!!》

 《CURE-DATA! INSTALL TO HOKUTO!!》

 

 青白い球状のフィールドが僕を包み込み、僕の隣にデータが立った。

 

 「……超克()てるかどうかは知れないが……届いた暁―――――聖地は返して貰い受ける!!」

 

 一瞬、データと目を合わせて、僕は左の拳を、データは右の拳を、互いに目を合わせずに繰り出した。ぶつかり合ったその瞬間―――――

 

 《CURE-DATEAR!! INSTALL COMPLETE!!!》

 

 広がる衝撃波。全身に循環(みなぎ)るイーネルギー。

 3つの青い影を鋭く捉え、キュアデーティアと化した僕は吼える。

 

 『あなた達が正義なら……僕を薙ぎ倒して、屈伏させて、心を潰して(まか)り通れるはずだ……だが見習いなれども、後のめりには倒れない!!いざ尋常に勝負ッ!蒼の怪盗団ッッ!!!』

 

 我ながらのビッグマウスに、少し驚いていた。

 目の前に立つのは誰あろう、憧れの、ホンモノのヒーローたちだ。

 それを相手に、本気で勝負を挑もうなんて、僕はなんて愚かなんだ?

 でも自然と、恐怖心や後悔、不安は感じない。勝てるかどうかはわからない。でも、『負ける』という危惧は、僕の中にはひとかけらも無かったのは何故だろう?

 ―――――しばしの沈黙が、岩船山を支配した。

 3人の中で唯一表情が見えるキュアコスモも、うつむき加減に見えた。

 

 『…………そうか。それがキミの選択か』

 『想定の範囲内だな』

 『それならもう、口で語ることはないにゃん……♪』

 

 3人が構える直前、僕は駆け出した。

 ディエンドの"ディエンドライバー*1"とルパンブルーの"VSチェンジャー*2"の銃口が僕に向けられ、無数の光弾が僕に襲い来る。

 

 『……ッ!』

 

 流石の鉄火嵐だけど、避けられない数じゃない。一発一発を掻い潜るように足捌きを流して、確実に間合いを詰める!

 だが―――――

 

 『そのくらいの芸当、ワタシが出来ないとでも?』

 

 目の前に肉薄するキュアコスモ―――――流石はプリキュア、僕が出来ることは彼女も出来る道理か。

 

 『わかってた、さ!!』

 

 飛来する光弾の中、僕とコスモは連続で拳をぶつけ合う。プリキュアほど、見た目と強さが反比例するヒーローはいないだろう。

 こんな、アニメに疎い僕が見てもわかるほど『可愛い』女の子が、拳を握って殴ってくるのだから恐れ入る。

 

 『でぃぃやァッ!!』

 『せいッ!!』

 

 ―――――ダンンンンンンン!!!!!!!!

 ―――――轟ゥゥゥゥゥゥゥンンン!!!!!!!!

 

 僕とコスモが同時に後ろ回し蹴りを放ち、それが交錯する。衝撃波が巻き起こり、僕の周囲に拡散して爆ぜた。岩船山の岩肌に一部がぶつかったのか激しく炸裂し、灰色の煙を巻き起こすのも視界の隅に見えた。

 

 『僕達の存在を―――――』

 『忘れてもらっては困るな』

 

FINAL ATTACK RIDE(ファイナルアタックライド)! D・D・D・DIEND(ディディディディエェェェェェンド)!!!》

CYCLONE(サイクロン)!! KAITOU BOOST(快盗ブゥゥゥゥスト)!!!》

 

 気付くと、僕の右ナナメ前方にルパンブルーが、左ナナメ前方にディエンドが立ち、その銃口をこちらに向けていた。瞬間、コスモがジャンプして僕の視界から消えた。

 銃爪(ひきがね)が引かれると同時に、青いエネルギーの奔流と緑色の風のエネルギーの戦輪(プロペラ)が、空を切り裂き驀進してきた。咄嗟に跳躍して回避する僕の背後で、轟音とともに岩肌が爆ぜた。見ると、橙色の爆炎が岩肌を舐めるように立ち昇っていた。

 ……―――――コスモは囮……!

 この3人の中で唯一接近戦が得意なコスモが僕の動きを止めておいて、ディエンドとルパンブルーが僕を仕留めに来る、そういう戦術か……!

 でも……それでも食らいつく!!

 弾幕を掻い潜ってディエンドかルパンブルーに肉迫できれば、分はこちらに傾く。

 そうすればこの勝負、僕の勝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『……え?』

 

 気が付くと僕は、両腕を縛られ、大の字にされて動けなくなっていた。

 見ると、右腕をルパンブルーのバックルから分離したワイヤーが、左腕をキュアコスモの手に握られているロープが、そして胴をディエンドのディエンドライバーの銃口に繋がれたワイヤー*3が、それぞれ縛っていた。

 

 《ウカツだった……このディエンド、どうやらジオウに出てきたディエンドらしいな……!!》

 『ご名答。スウォルツから貰った"時を止める力*4"さ』

 

 やはり……そうか……!

 ディエンドが持っているのが、"ディエンドライバー"じゃなく、"ネオディエンドライバー*5"だったことにもっと気を割いておくべきだったんだ……!

 『仮面ライダージオウ』での戦いで、海東さんは時間停止能力を手に入れていた……てっきりライダーの誰かを召喚(カメンライド)して、けしかけてくると思っていたけど甘かった……!

 

 『やろうと思えば……ということか……!』

 『ちょっとした変化球だけどね』

 《何が変化球だぁ!?ド反則だろうが、チクショーーー!!》

 

 データが怒鳴る通り、反則もいいところだ。

 『仮面ライダーカブト』のカッシスワームが使った『フリーズ』といい、『仮面ライダーエグゼイド』の仮面ライダークロノスが使った『ポーズ』といい、この手の能力は相手が抵抗する手段が無いに等しい。ことに、僕のような『格下』なら、尚更のこと……!

 

 『反則だろうが何だろうが……俺達は元々『怪盗』を名乗っているからな……もっとも、俺は他の2人とは違う『()盗』だが』

 『アウトローは今更、なのよねぇ』

 『キミには大いに期待していたのだけれど―――――残念だ』

 

 瞬間、僕の全身をすさまじい電流が駆け抜け、激痛が奔るのを感じた。3人がそれぞれが持つワイヤーにエネルギーを通したのだろう。

 

 《ぐうあああああああああああーーーーーーーーーーー!!!!!!》

 『う……ぐあぁぁぁああああぁぁぁ!!!!』

 

 こんなところで……それも仮面ライダーやスーパー戦隊、本家本元のプリキュアのメンバーにやられるなんて……

 こんな事って、アリかよ……!!

 

 『や…………やめろぉぉ蒼の怪盗団ンンン!!!!ぶっとばすぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 《ジオウの映画に出たからってここでそのネタ持ってくるかァぁッ!?今時ノリダーなんて知ってる奴少ねぇだろォ!?稚拙のトシがバレる!!!

 

 ま、まだだ……!

 まだ負けてたまるか……!!

 可能性はまだ残ってるハズだ……!!

 そう、これは『こんニチ』、『本筋』のストーリーじゃない!!ここでやられるわけがない!!《は!?》

 やられてしまったらそれこそ『インストール@プリキュア! 完』だ……!!《何言ってんだほくと!?》

 ここだからこその……『脇道』だからこその打開策が―――――

 

 《……はぁ……………………あるぜ》

 

 何故かため息をつきながら、データがぽつりと言った。

 

 『ほ……本当……ッ!?』

 《こんな状況でハッタリかましてもしゃーないからな……!とっておきの……『脇道』だから……ココがネタまみれの『こんニチ』だからできる手が、な……!!》

 『よ、よし……それで行こう……!』

 《そうと決まれば…………リザーブイーネルギー、バーストォッッ!!!》

 

 データが叫ぶと同時に、全身の噴射口からイーネルギーが爆発的に噴き出した。

 勢いで両腕と胴の拘束が解けたのを見計らい、大ジャンプして岩船山中腹に着地した。

 これから何をするかはデータが『言わずとも』教えてくれている。僕は気合を入れて右手のグローブの袖を左手で引いて直す*6と、こちらを見上げる3人を見据えた。

 

 『……あなたたちが知らない僕のチカラ……いや……僕が譲り受けたチカラを……今!!』

 《みんな大好き……劇場版お馴染みの――――――――――『先行登場』だーーー!!》 

 

 僕は1枚のチップを呼び出し、高々とそれを掲げた。

 

 『!!何故キミがソレを!?』

 『今のお前が……それを持っているはずは無い!!』

 『それは……()()()()()()()()()()()()()()()()()の……!!』

 《キュアコスモ…………アンタには礼を言うぜぇ……》

 

 僕の心の中で、ドヤ顔のデータが言う。

 

 《ここが『本筋じゃない』って、ヒントをくれたんだからな~~~~》

 『データ……プリキュアがしちゃいけない顔だよ、ソレ……(^^;)』

 

 ドヤ顔を通り越した、『粘着的で()()()な笑顔』……これが小説でよかった……

 と、とにかく!蒼の怪盗団と、ディスプレイの前の皆さんに―――――

 

 

 

 お 見 せ し よ う 。

 

 

 

 『キュアっと―――――大・変・身!!!』

 《KAMEN RIDER EX-EID! INSTALL TO DATEAR!!》

 

 

♪相当!EXCITE!EXCITE!答えは!♪

(ワン)!この手の中!(ツー)!進むべきLife!(スリー)!生きていくだけ!♪

 

(エイ)(ユウ)()(ソウ)

 

キュアデーティア、"エグゼイドスタイル"!!!

 

 

 

 『ふ……フシャーーーッ!?!?(;゚Д゚)』(驚)

 

 キュアコスモが驚くのも無理もない―――――

 それに―――――ディスプレイの前の皆さんも驚いていますよね?(カメラ目線でドヤ顔)

 どうして、まだ手に入れてもいないはずの、『仮面ライダーエグゼイドのチップ』を持ってて、しかもレジェンドインストールまでこなしてるかって……?

 データが言ったとおりの、『劇場版でお馴染みの先行登場』だから、だ!!これなら『蒼の怪盗団』も知るハズがない!!

 え?"どうしてこうなった"って?……それはあとがきを読んでください♪

 ……"どんな見た目かわからない"?"本筋"の『仮面ライダーエグゼイド編』をお楽しみに!

 

 『……虚仮(こけ)脅しを……!』

 

ATTACK RIDE(アタックライド)! DIEND NEO BLAST(ブラァスト)!!》

 

 こちらに向けられたネオディエンドライバーの銃口から、無数の青色の光弾が空中に放たれ、そのすべてが途中で軌道を変え、僕へ向かって殺到してくる。

 ―――――それなら、これで……!

 

 『ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!!』

 《GASHACON BREAKER(ガシャコンブゥレイカー)!!》

 《JA-KIIIN(ジャ・キィィン)!!》

 

 浮かび上がった"ガシャコンブレイカー"を手に取り、斬撃形態"ソードモード"に変形させると、僕へ向けて近づく光弾をまとめて斬り払った。斬られた光弾が連続で僕の背後の岩肌に着弾して、爆発を巻き起こす。

 

 『その剣捌きは厄介だな……!!』

 

 ―――――来る!

 ディエンドが僕に向けて左手を伸ばす。でもその能力も、『僕の世界(ゲームエリア)』なら―――――!

 僕はすぐそばに浮いていた赤いメダル―――――"エナジーアイテム"に手を伸ばした。

 

 《ハンシャ(反射)!!》

 

 一瞬、僕の全身が光に包まれた。何か、強い衝撃を受けたような感覚に襲われたけど、痛みは感じなかった。

 

 『!?ディエンドが!!』

 『固まってるにゃん……』

 

 左手をかざした姿勢のまま、ディエンドは石像のように動かなくなっていた。

 どうやら、成功したみたいだ。

 

 《敵の攻撃を反射できるエナジーアイテムがあること、よく覚えてたなぁ》

 『番組に出てきたアイテムはもとより、ガンバライジング*7やブットバソウル*8限定アイテムも、全部頭に入ってるからね!』

 《特ヲタ万歳ってやつだな……!面食らってる今がチャンスだ、攻めろ!!》

 『OK!』

 

 僕は近くにあった別のエナジーアイテム―――――『マッスル化』をキャッチすると、ガシャコンブレイカーをハンマーモードに―――――

 

 《BA-KOOOM(バ・コォォォン)!!》

 

 ―――――と戻して、10メートルほどの高さの台地から高々と跳んだ。そして―――――!!

 

 『でぃやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 思い切り地面を叩いた。すると、地面がまるで、あらかじめ地雷でも仕掛けられていたかのように連続で爆破されて、衝撃でルパンブルーとキュアコスモが怯むのが見えた。

 

 《隙が見えたぜ!》

 『ああ!これで、ゲームクリアだ!!』

 

 《CURE-DATEAR! EX-AID!! FULL DRIVE!!!》

 

 全身から、仮面ライダーエグゼイドのシンボルカラーである赤紫(マゼンタ)色のイーネルギーが巻き起こり、僕の中に力がみなぎっていく。

 中腰に構えて、固まっている蒼の怪盗団の3人を見据えた。

 

 《KIMEWAZA(キメワザ)!!!》

 

 

PRECURE CRITICAL

―――――――――――――――――――――――――

STRIKE!

 

 

 『とおッ!!』

 

 僕は高まる力の勢いに乗って垂直に跳び、最高到達点から右足の先にエネルギーを集中させ、キックとともに突撃した。

 

 『でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!』

 《稚拙からの詫び代わりのライダーキック、受け取りやがれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!》

 

プリキュア!コスモシャイニングッッッ!!!!

MAGIC(マジック)!! KAITOU BOOST(快盗ブゥゥゥゥスト)!!!》

 

 キュアコスモが持つレインボーパフューム―――――この時僕は名前を知らず、後で東堂さんに聞いた―――――から強烈な光線が放たれ、同時にルパンブルーが装備した巨大な弓から、光の矢が飛んできた。

 

 《撃ってきやがった!!》

 『構わない!』

 

 強烈な衝撃が足先にぶつかり、全身へと伝播する。空気を震わせる轟音が耳を衝き、キックの勢いが止められる。

 

 『うおおおぉぉぉぉぉぉおおおぉおぉぉぉおぉッッッッッ!!!!!!!!』

 

 気迫で負ければ、その場で負ける!

 僕は―――――

 正義を為すため―――――

 自分を貫くために―――――

 

 

負けられ、ないんだあああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!

 

 

 思わず放った裂帛が、光の奔流と巨大な一矢を、切り裂き押し込んだ。

 キックの一撃目がルパンブルーを捉えて吹っ飛ばすのを見た。次いですぐ隣のキュアコスモに空中での連続廻し蹴りを叩き込んで弾き飛ばすと、最後は残った棒立ちのディエンドに打ち込める限りの蹴りを打ち込み、最後に渾身の宙返り蹴りで蹴飛ばした。

 爆発が立て続いて3発巻き起こり、最後に特大の爆発がその3つの爆発を飲み込む勢いで盛大に立ち昇った。

 

 『――――――――――僕の、勝ちだ』

 《すんげぇ爆発……坂本カントクの演出かよ……》

 

 決まったところでそれを言っちゃうかなぁ……?

 でも、僕も苦笑いしながら―――――

 

 『……上堀内監督かもよ?』

 

 ―――――こう返していた。

 

 ――――――――――

 

 倒れた蒼の怪盗団の3人はダメージからか変身は既に解かれていて、程なく立ち上がった。

 僕は変身を解いて、思わず駆け寄った。

 

 「あ……あの、ごめんなさい!!……大丈夫ですか?」

 

 自分でやっておいて何だけど、相手は正真正銘、本物のヒーローたち。

 その相手の意志を真っ向から否定してしまって、今になってなんだか怖くなってしまった……というのが正直なところだ。

 土埃を払いながら立ち上がり、こちらに振り返った海東さんは―――――

 笑っていた。

 

 「……完敗だよ。キミの信念と気迫が、僕達を()えた……それだけだったわけだ」

 「え……?」

 「フ……その熱さ、『あの熱血刑事』を思い出す……」

 「ただの特撮オタクじゃなかったってコトにゃん♪」

 「……ヒドいなあ」

 

 ユニさんの言葉に苦笑いしながら、透真さんの言葉に胸が熱くなっていた。

 透真さんが知る『熱血刑事』といえば―――――GSPO(国際警察)のあのヒトしかいない。その『彼』を引き合いに僕を評してくれたことを、素直に嬉しく感じていた。

 

 「正直なところ……僕達はキミに止めてもらいたかったのかもしれないな」

 「え……?」

 

 その時、3人を光が包み込んだ。

 

 「ワタシたちは、『本当のワタシたち』じゃないの」

 《ど……どういうこった……!?》

 「『甲子園の所為でニチアサキッズタイムが見られない』……そんな無念の想いが寄り集まり……『ヒーロー』の形をとった存在……それが『俺達』だ」

 「え……えええ~~~~~っ!?」

 

 つ、つまり……僕はその……ユーレイとかオンネンみたいなモノに岩船山まで呼び出されて戦ってた……ってことになるの……!?

 

 「だがキミに敗れ、キミの信念……キミの『スーパーヒーロータイムを想う心』を受けたことで……僕達の心は解放された……キミは僕達に勝ったんだ。ご要望通り、甲子園球場はすぐに、元の場所に戻しておこう」

 

 この場から甲子園球場が元の状態に戻ったのかはわからない。けれど、この晴れやかな表情にウソが無いことは、僕も信じたいと思った。

 

 「関西の子供達には……とても顔向けできないな……」

 「……それに今戦っている、仮面ライダージオウとリュウソウジャーの連中にも……借りを作ることになるな」

 「心残りを持って消えちゃうのは……ちょっと未練があるけどね……」

 

 残念そうな表情を浮かべる3人に、僕は思わず言っていた。

 

 「ヒーローたちを応援する場は……なにもテレビの前だけじゃないですよ?今はDVDやブルーレイもありますし、遊園地やイベントのヒーローショーに行っても、子供達は憧れのヒーローに会えますから……」

 「「「………………!!!」」」

 

 3人の表情が、何やらハッとするものに変わった。

 

 「それに……今、仮面ライダージオウとリュウソウジャーの劇場版が公開中です!テレビで応援できなくても、映画館でも応援できます!……プリキュアも、秋に映画が公開されるって東堂さんが言ってたし……そんな場所からの応援って……ヒーローたちには届かないんですか……?」

 「……………………それは……」

 「考えていなかった……」

 「……にゃん…………」

 

 3人とも、互いに顔を見合わせて驚いていた。

 

 《まさか……お前ら知らなかったのか?それにライダーと戦隊なら、東映特撮ファンクラブやauビデオパスに入りゃ、カネはかかるが本放送終了後30分で配信されるし、プリキュアだったらTVerでタダで見れるぜ?もちろん、1週間遅れなんて時差無しでさ》

 「え!?ホント!?Σ(;゚Д゚)」

 《お前知らなかったのかよ……(-_-;)ジオウやリュウソウジャーの放送中に画面の上にズラズラお知らせが流れてくるだろーが。1号ライダーとアカレンジャーのロゴのアレだよ、アレ》

 

 そういえば……そんなのがあったような気がしないでもないよーな……ドラマに集中してて目に入っていなかったし、知っててもネットには相変わらず疎いから……

 

 「ワタシたちの思ってた以上に……今の子供達には、ワタシたちの姿を見て、応援できる方法がたくさん用意されてるってことね……」

 「テレビだけにこだわっていた俺達が……今更ながらに馬鹿らしくなってくる……」

 

 と、3人の姿が急激に薄くなってきていた。

 

 「そろそろお別れみたいね……」

 「俺達はまた、『画面の向こう側』に戻るだけだ」

 「大事な事に気付かせてくれたお礼に……キミ達が探しているキュアチップの在り処について、知っていることを伝えたい」

 「え……!?」

 「ジャークウェブに姿を変えられたプリキュア……すなわちキュアチップは、その全てをジャークウェブが持っているわけじゃない。そして、そのうちの何枚かは、『世界の壁』をすり抜けて、『別の世界』にまで散ってしまっている」

 《ンな……ッ!?》

 「……そのうちの1枚……"桜花"のチップは―――――"スクリーンの向こう側"にある。『"勇"ましく"唱"い、"双"つに"彩"る戦乙女』たちの島にね」

 「そ、それって……!?」

 「それじゃ―――――いつか、また会おう」

 

 最後に海東さんは僕に向かって指で鉄砲を作って撃つジェスチャーを見せると、透真さんとユニさんとともに、光の粒になって消えていった。

 

 《この世界に無いチップもあるって……どうしろってんだよ……》

 

 歯噛みするデータ。でも―――――

 

 「行けるからこそ……海東さんは教えてくれたんだと思う」

 

 そうでなければ、何も言わずに彼は去っていったはず。海東大樹という人は、無意味なことを言わない人だということを、僕はよく知っているから―――――

 そして―――――

 

 「……いつか、か」

 

 彼に―――――

 正真正銘、『本物』の海東さんたち仮面ライダーに追いつけるように―――――

 僕はこの道を、まっすぐに進み続けよう。

 

 眩しい夏空に消えた3人の怪盗たちに、僕は誓った。

 

 

 ――――――――――

 

 岩船山採石場跡の、知られざる激闘。

 その一部始終を、岩陰から見ている人影がいた―――――

 

 「『あの子』から頼まれて様子を見に来てみたけれど……なかなか面白い子みたいだ。彼等なら……"11の世界のチカラ"を集められるかもしれないな」

 

 そこへ、別の2人の人影が姿を現した。

 

 「こんなところにいたのかい―――――」

 「早く来い。お前が来なければ始まらん」

 

 促された人影はすっくと立ちあがると、ほくとに背を向け歩き出す。

 数歩歩いたところで、ふと立ち止まり、肩越しに振り返った。

 その人物を、2人のうちのひとり―――――くすんだ色の服を着た青年が呼ぶ。

 

 「さぁ行こう。最後の1ページが待っている―――――」

 

 

 

 我 が 魔 王

 

 

 

 "魔王"と呼ばれた青年は、「わかってるよ、ウォズ」と答えると、最後にほくとに向かって、小さく呟いた。

 

 

 

 

 「―――――待ってるよ、『時の谷』で」

*1
仮面ライダーディエンド専用のマルチツール光線銃。元々は大ショッカーが開発したツールであるが、何らかの経緯で海東が盗み出したと思われる。2つの銃身から光弾を発射する銃としての使用はもちろん、ライダーカードを装填することで、変身や各種必殺技の発動のほか、ディエンド最大の特徴である、他のライダーを召喚して使役する『カメンライド』を発動させる。

*2
『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』で、双方の戦隊が使用する銃型変身ツール。ルパンコレクションとしての正式名称は『Changer le monde-世界を変える-』。VSビークルをセットして、変身や武器の召喚・必殺技の発動のほか、セットしたビークルを巨大化させて巨大戦力とすることも可能。

*3
『仮面ライダー×仮面ライダー×仮面ライダー THE MOVIE 超・電王トリロジー EPISODE YELLOW お宝DEエンド・パイレーツ』で披露された機能。

*4
『仮面ライダージオウ』のEP42『2019:ミッシング・ワールド』で、海東がスウォルツから(無理やり)与えられた力で、元々はタイムジャッカーの面々やツクヨミが持つ能力。文字通り対象(生物・非生物)の時間を止めてしまう。また、特定の対象や空間内のみの時間を止めるといった、ある程度の指向性も有する反則的……否、もはや完全なる論外能力である。本来は止められている最中も対象の意識は維持されているが、今回は本編と少し描写を変更させていただいたことをご容赦されたし。実はスウォルツの一族のみがが持つ特殊能力であり、スウォルツ以外のタイムジャッカーはスウォルツから力を与えられていただけに過ぎず、ツクヨミはスウォルツの妹であったため使用することができた。

*5
『仮面ライダージオウ』にディエンドが登場した際に所持していた新たなディエンドライバー。機能更新が為されたのか、『クウガ』から『キバ』までの平成1期のライダーはもとより、『W』から『ビルド』までの平成2期のライダーまでも召喚可能になっているほか、ディエンド本人のスペックも4倍以上と大幅にパワーアップしている。なお、どのようにディエンドライバーをネオディエンドライバーにパワーアップさせたのか、その理由は現時点では一切不明である。

*6
ほくとくん、超絶本気の合図。『ミスター仮面ライダー』こと中屋敷哲也氏がちょくちょく劇中で行うモーションが元ネタ。

*7
仮面ライダーシリーズを題材としたデータカードダス。説明は長くなるので各自ネットで調べてください(おい!)。

*8
ガシャポンのメダルと連動した『くじガシャポン』のゲーム。これまた説明しだすと長くなるので各自(コラ!!)




 片手間で書いたつもりがどえらい分量になってしまってスミマセン……
 ……自分で書いといてなんですが、なんなんでしょーかねぇ、この宣伝小説は……(汗
 エグゼイド編の執筆を差し置いて書かせていただいたお詫びに、エグゼイドスタイル先行登場&最高最善のン我が魔王にちょっとだけ登場していただきました。
 戦闘描写とかいろいろと簡潔になったのは、あくまでネタとして今回書かせていただいたためなのでご容赦を……でも本編に直結する伏線もちらほらあったり……

 仮面ライダージオウ最終回は25日に放送です!あ、関西地区の皆様は26日放送ですので1日お待ちいただくか、ネット配信をご利用いただきますよう……
 
 実はエグゼイド編で披露する予定のキュアピースのレジェンドライブ、技の命名に悩んでおりまして……
 ここは稚拙の一存で決めるわけにはいくまいと考え、インプリ初のアンケートを実施します!
 次のエグゼイド編投稿まで、エグゼイド編最新話とこんニチ各話にアンケートを設置しますので、どしどしご投票ください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

こんニチ1周年企画・ニチアサのネタ流用を検証してみた

 46分、間に合わなかった……
 ニチアサの無い今朝、8:30に予約投稿しようとしたんですが、やはり突貫では間に合いませんでした……

 今回のこんニチは1周年記念の小ネタ集になります。
 プリキュア⇔特撮でどれだけネタが流用されてるか、インプリのみなさんが大検証!
 果たしてどうなりますことやら……
 なお今回、引用した作品には放送時期を併記してあります。『ネタの鮮度』のご参考にどうぞ……


 りんく「おはよーございまーす!今日は令和元年11月3日の日曜日!時刻は8時30分!それでは今日も元気にスタプリを―――――」

 

 メモリア「あ、今日は"えきでん"があるからスタプリおやすみだって」

 

 りんく「ずがーん!!めちょっくはっぷっぷ~……」

 

 データ「ゼロワンもリュウソウジャーも中止……せっかくナダが仲間になったってのによぉ……」

 

 ほくと「マックスリュウソウレッド登場まで、もう一週間ガマンだ!画面の前の良い子のみんななら、ガマンできるよね!」

 

 メモリア「ふっふ~ん!今年は先週の"おしらせ"、見逃してなかったもんね~♪ふんす!」

 

 りんく「そーいえば去年の今頃だったっけ、この『こんニチ』が始まったのって。メモリアが駅伝ではぐプリが"おやすみ"なのを知らなくって大騒ぎしたのよねぇ……」

 

 ほくと「今日はそんな"ニチアサのない日"にお届けしてきた"こんしゅうのニチアサはおやすみです。"1周年特別企画!」

 

 データ「題して!!」

 

 りんく「さぁカメラが下からグイッとパンしてタイトルロゴがドーン!」

 

 

 

~~こんニチ1周年企画~~

ニチアサのネタ流用を検証してみた

 

 

 

 りんく「初代プリキュアからスタプリまで連綿と続いてきた栄光のプリキュアシリーズ!令和になってもまだまだ勢いは止まらない!」

 

 ほくと「プリキュアが終わってもチャンネルはそのまま!仮面ライダーとスーパー戦隊が活躍するスーパーヒーロータイムが始まるよ!」

 

 データ「同じ放送局、同じグループ会社製作だからな。切っても切れない縁ってのがあるんだよな」

 

 メモリア「そこで今回は!じゃじゃん!」

 

 りんく「プリキュアよりも歴史の長い仮面ライダーやスーパー戦隊のモチーフ……つまり『元ネタ』が、どれだけプリキュアシリーズに使われてるか、それとは逆にプリキュアシリーズで使われたネタが仮面ライダーやスーパー戦隊でどれだけ使われてるかを調べてみた~!!」

 

 データ「最近流行りのYouTuberの動画みてーなノリだな」

 

 メモリア「プリキュア基準で検証を進めていくね!というわけでまずは!」

 

 

1.ふたりはプリキュア&ふたりはプリキュアMax heart

(2004~2006)

 

 

 りんく「栄光の初代プリキュア!伝説はここから始まった……」

 

 データ「アタシの"お師さん"とメモリアの"せんせい"だな!」

 

 メモリア「さすがに"せんせい"たちがライダーさんや戦隊さんのネタを使っちゃったりなんて―――――」

 

 りんく「……実はネタまみれなのよねぇ……」

 

 メモリア「なんですと~~!?」

 

 りんく「だってほら、企画のはじまりからして『仮面ライダー(1971~73)』や『ウルトラマン(1966~67)』がルーツなわけだし、監督さんが『ドラゴンボール(1986~97・2009~11・2014~18)』のヒトだし……」

 

 ほくと「『ふたりで戦う』ってところはまさにダブルライダー……仮面ライダー1号と2号だね。他にも、『宇宙鉄人キョーダイン(1976~77)』や、『兄弟拳バイクロッサー(1985)』でもふたりで戦うヒーローがいたから、そこからインスピレーションを得た……とも考えられないかな」

 

 りんく「そんなヒーローにお詳しいほくとくんに、こんな動画をプレゼント。ほい」

 

 ほくと「『マックスハート最終決戦』……?……………………コ……コレは!!??」

 

 データ「このシーン、絶対ほくとならピンと来ると思ったぜ♪」

 

 メモリア「"せんせい"とキュアホワイトがダブルライダーキックを使ってる~~!!??」

 

 りんく「最終決戦で等身大のジャアクキングを一度は()したこの技、どこからどー見てもライダーキックなのよねぇ……」

 

 データ「他にも、『2年続いた』ってトコなら、初代ライダーも、初代戦隊こと『秘密戦隊ゴレンジャー(1975~77)』もそうだよな。やっぱ人気があると長続きするぜ♪」

 

 りんく「こうしてプリキュアシリーズはあっという間にお茶の間の女の子のハートをバッチリキャッチしたのでした♪」

 

 データ「バトルがガチすぎてPTAから文句が殺到したってウワサもあるけどな……そもそもカントクがドラゴンボールだし、"お師さん"のバァさんだって悟空の―――――」

 

 

(へェァ)っっっーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 ―――――ドッゴォォォン!!!

 

 データ「おごーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!????」

 

 メモリア「で、データぁーーー!?」

 

 りんく「こ……これは、『()』!『()』がどこからともなく飛んできた!?」

 

 ほくと「何故か飛んできた『()』が激突!腹が爆発して死んでしまう!!」

 

 データ「………………腹は爆発してねぇし死んでもねーよバーロー……無理にキツツキネタ入れんなってんだ……げほっ」

 

 りんく「それにしてもどうして『()』が……え?どしたの?(画面手前から誰かが差し出した紙切れを受け取るりんく)…………え~っと?『今回のこのコーナーで、公式様をおちょくったり、イジッたり、重箱の隅をツツいたり、調子に乗ってナマイキなコトを言ったプリキュア見習いの方々には、現在紹介しているプリキュアにからめたなんらかの必殺技が何の前触れもなく無慈悲に炸裂しますのでそのつもりで』……だって」

 

 データ「なんじゃぁそりゃぁ!?」

 

 りんく「今回はほのかちゃんのおばあちゃんの声優さんネタだったわけね……だから『()』が……」

 

 メモリア「…………みんな、ヤケに正式な名前を言うのを避けるね……(ー_ー;)」

 

2.ふたりはプリキュア Splash star(2006~2007)

 

 りんく「精霊の力を借りて戦う2代目プリキュアだね!」

 

 メモリア「??2代目?」

 

 データ「この世界で放送された順番で言ってんだよ。……あぁそっか、サーバー王国にゃ初代からプリアラまでまとめて来たもんな」

 

 ほくと「見たところ、バトルの描写がソフトになったような……」

 

 りんく「前作から引き継いだ監督さんが、親御さんの意見を取り入れた結果らしいわ」

 

 ほくと「なるほど……『仮面ライダー』のあのシーンみたいな感じ、かな」

 

 メモリア「あのシーン??」

 

 ほくと「『仮面ライダー』は『変身ブーム』の火付け役になって、子供達にも大人気になったんだけど、ライダーごっこをして遊ぶ子供たちの中には、高いところからライダーキックの真似をして飛び降りて大ケガを負う子も出てきて、社会問題になっていたんだ」

 

 データ「そこで、放送の中で本郷や滝がライダーキックを真似するガキンチョを注意するシーンがわざわざ入れられたんだ。『ライダーキックは、厳しい特訓を積んだ仮面ライダーだからこそできる技だから、素人がウカツに真似すんな』ってさ。今じゃ考えられないぜ」

 

 りんく「ネットで見たことあるけど、最近のライダーキックって『いかに子供達が真似できないようにするか』も考えてあるらしいけど……」

 

 ほくと「『子供達が真似すると危ない』という点では、プリキュアも同じだったってコトだね……そこで制作側が先手を打った、と……」

 

 データ「もう一つ被ってるネタがあるぜ。前半と後半で変身ツールが違ってるだろ?」

 

 りんく「ミックスコミューンとクリスタルコミューンね」

 

 データ「ソレな、『仮面ライダー鎧武(2013~14)』見た時思い出したんだけど……」

 

 ほくと「バロンの強化変身だね!戦極ドライバーからゲネシスドライバーに取り換える……」

 

 データ「そう、ソレよ!その後の『ゴースト(2015~16)』のアイコンドライバーGとか、『ビルド(2017~18)』のスクラッシュドライバーとかさ、ベルトを取ッ換え引ッ換えして変身するライダーも増えた気がするなぁ」

 

 りんく「いいなぁ、そこらへんプリキュアって便利が効かないっていうか……ブルームからブライト、イーグレットからウィンディにスパッとフォームチェンジできないもん」

 

 メモリア「自由にフォームが変えられるプリキュアは、ハピプリまで待たなきゃいけないもんねぇ」

 

 ほくと「オモチャが増えると親御さんの財布にもダメージが……特にウチの場合はのんのオモチャ代もバカにならなくて―――――」

 

 

飛羽返しッッ!!

 

 

 ―――――ズバァッ!!!

 

 ほくと「グワーッッッ!??!」

 

 メモリア「ぽ、ポン刀持った赤い人が突然やってきてほくとをズバッとやってって、何事もなかったかのように去っていったぁ~~!?!?!」

 

 りんく「か、完全に通り魔じゃん!?ほくとくん生きてる!?!?」

 

 ほくと「ふぅ……ここが"こんニチ"じゃなかったら即死だった……アレは『太陽戦隊サンバルカン(1981~82)』のリーダー、バルイーグル!?刀を使ってるってことは二代目の『飛羽イーグル』だ!」

 

 データ「……確か、『SS』のラスボスのアクダイカーンの声って、二代目バルイーグルの俳優サンらしいな……それで今回は飛羽返しかよ……」

 

 りんく「『イーグレット』って、『鷲の雛』って意味もあるんだって。……多分偶然だけど……オモチャの売上がシリーズ最低だったの気にしてるんだろーね……」

 

 メモリア「ねぇ……コレって紹介終わるたびに誰かがオチ担当として犠牲になるパターンなんじゃ……」

 

 りんく「た、たぶん気のせいだよ…………たぶん……(視線をそらしながら)」

 

3.Yes!プリキュア5&Yes!プリキュア5GoGo!

(2007~2009)

 

 ほくと「これはもう僕でもわかるよ!プリキュアでスーパー戦隊シリーズを再現しようとしたんだね!」

 

 メモリア「……まぁ、そうなるよねぇ~」

 

 りんく「女の子向けにピンクをリーダーにしてる以外はほとんど戦隊モノだもんねぇ~」

 

 データ「ミルキィローズなんてまんま追加戦士枠だしなぁ」

 

 みんな「「「「あはははははははははははははwwwwwww」」」」

 

 

ヨクリュウオー!!

ブリザードクローストライクッッ!!!

 

 ―――――ガギガギガッキーーーーーーーン!!!!

 

 

 りんく「あ、ココの声だぁ~♪(凍)」

 

 データ「…………なんとも鮮度のいい必殺技じゃねーか……キンキンに冷えてやがるっ……!ぶるぶる」

 

 ほくと「先々週登場したばかりのヨクリュウオーが来てくれるとはね……ガタガタ」

 

 メモリア「あ、あたし本編だといちおうビョーキなんだけど……ぶぇっくしょん!!!」

 

4.フレッシュプリキュア!(2009~2010)

 

 りんく「『5』のエンディングに出てきた『ダンス』を発展させて、メインテーマにしたのがこの『フレプリ』!エンディングムービーはアニメ業界にもショーゲキを与えたのよね!」

 

 メモリア「『ぬるぬる動く上にカワイイCG』って今までなかったんだってね」

 

 データ「なぁ……アタシ、とんでもねぇコトに気付いちまったんだが…………フレプリの設定ってさぁ……」

 

 りんく「?」

 

 データ「『仮面ライダー鎧武』にまるっと流用されてんじゃねーか……?」

 

 メモリア「…………え?またまたデータったらじょーだんキツいよぉ♪設定とかだけ借りるならともかく、ストーリーとかもパックンチョ♪しちゃうなんてさぁ~♪」

 

 ほくと「僕も驚いたよ……『鎧武』の4年前に、似たような設定のプリキュアを放送してたって知った時はさ……」

 

 りんく「ゑ……そ、その『鎧武』の設定って……」

 

 ほくと「『ダンスチームに所属してる、フルーツがモデルの鎧を纏った仮面ライダーが、別の世界・ヘルヘイムからの侵略者と戦う』ってストーリーなんだ」

 

 メモリア「ほぇ?……そ、それって……」

 

 りんく「『ダンスが大好きな、フルーツの名前を持ったプリキュアが、別の世界・ラビリンスからの侵略者と戦う』フレプリ…………」

 

 みんな「「「「 ( ´・ω) (´・ω・) (・ω・`) (ω・` ) 」」」」

 

 みんな「「「「( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )」」」」

 

 

セイ、ハーーーーーーーッッッ!!!!

 

 ―――――ドッガアアアァァァァァァァン!!!!!!!!

 

 

 りんく「…………東〇さん、ツッコんでほしくなかったみたいね…………(黒焦げアフロ)」

 

 ほくと「さっきの声と砲撃……これは仮面ライダー鎧武・カチドキアームズの武器……『火縄大橙DJ銃』の大砲モードだね(黒焦げアフロ)」

 

 メモリア「どんな名前ェ!?*1(黒焦げアフロ)」

 

 データ「……『パッションさん大好き』な"キュア梅盛"に百枚おろしにされなかっただけありがてぇと思うべきか……(黒焦げアフロ)」

 

5.ハートキャッチプリキュア!(2010~2011)

 

 りんく「さすがにハトプリにはネタ流用は無いんじゃないかなぁ……?オタク大賞受賞作だよ?」

 

 ほくと「いや……甘いよソレは!」

 

 データ「いるじゃねぇか……特撮……特に昭和ライダーやスーパー戦隊に不可欠な『アイツら』が、プリキュアシリーズに初めて姿を現したのは『ハトプリ』なんだぜ!」

 

 メモリア「あいつら~?」

 

 ほくと「そう…………『戦闘員』だ!!」

 

 りんく「イーーーッ!?」

 

 データ「砂漠の使徒の『スナッキー』こそ、プリキュアシリーズ初の戦闘員!……バトルが賑やかになったぜ♪」

 

 メモリア「そーいえば、でっかい体の『ボスナッキー』もいたね」

 

 ほくと「実はそのボスナッキーも、モデルになった戦闘員がいるんだ。……これを見て、東堂さん。初代『仮面ライダー』のワンシーンなんだけど……」

 

 りんく「オヨ?ぴっちりスマートな戦闘員の皆さんにの中に、ちょっとおなかがぽっこり出てて横幅の広いぽっちゃりなヒトが……」

 

 データ「通称『メタボ戦闘員』だ。まぁ単純に『中の人』の体型の違いなんだがな、コアな人気があるんだぜ♪アタシゃコイツを見た時、すぐボスナッキーとダブったなぁ」

 

 メモリア「スナッキーからチョイアーク、それからノットレイにつながっていくんだねー。あ、ザコッチャーのことも忘れないであげてね~♪」

 

 ほくと「あれ?ノットレイって顔に文字が書いてあるんだね。そういえば同じころに放送されていた『仮面ライダージオウ(2018~2019)』って確か顔に文j……―――――」

 

 

ターゲット・ロックオン。

ツインバスターライフルを発射する。

 

 ―――――ブッピガン!!ドオオオォォォォォォ!!!!!!!!!!!

 

 ほくと「なんで僕だけ…………(泣)」(まっくろ)

 

 りんく「あ、今度はデューン様の声だ❤」

 

 メモリア「ほぇ~……羽の生えたでっかいロボットがビーム撃ってったぁ~……」

 

 データ「ネットで見たぜ。ありゃ『新機動戦記ガンダムW(1995~96)』の『ウイングガンダムゼロ』だな。それもOVA版の。詳しく話すと長くなるからパース」

 

 りんく「ヒロインの中の人がミップルなんだよねぇ~♪」

 

 データ「マヂか!?……全然わからんかった……」

 

 メモリア「この間まで『クレヨンしんちゃん(1992~放送中)』の声もやってたらしいよ?」

 

 りんく「……………………あ」

 

 ほくと「……どうしたの?」

 

 りんく「…………これ、全部テ〇朝……」

 

6.スイートプリキュア♪(2011~2012)

 

 りんく「……ほくとくん」

 

 ほくと「何?(にこにこ)」

 

 りんく「すっごく語りたそうな顔してるからどーぞー」

 

 ほくと「いいの!?この話、話しちゃっていいの!?そ、それじゃ……ごほん!」

 

 データ「りんくのヤツ……ついに自分から語るのをやめたぞ(小声)」

 

 メモリア「オシオキがこわいんだね(小声)」

 

 ほくと「『スイートプリキュア♪』は、音を使って戦うプリキュア……仮面ライダーにも、音を使って戦う、『仮面ライダー響鬼(2005~06)』がいるんだ!」

 

 りんく「()()()!?なんとキュアメロディの()ちゃんと名前まで同じとは奇遇ね……」

 

 データ「もっとも方向性は違うがな。『響鬼』は和風テイスト、『スイプリ』はクラシックチックで正反対だよな」

 

 メモリア「ネットには『北条響鬼』ってネタもあるね」

 

 りんく「でもさすがにこれはフレプリと鎧武ほどロコツじゃないでしょ……単純にモチーフが被っちゃっただけなんじゃ……」

 

 データ「甘ェぞりんく!!ギターを武器にする奴出してる時点で確信犯ぢゃねーかッ!!そもそも轟鬼の『烈雷』が戦国時代からあるってなんだそりゃ!?戦国時代にエレキギターが伝来しててたまるか―――――」

 

音撃斬・雷電激震ッッ!!!

 

 メモリア「おろ?どこからともなくギターの音が……」

 

 データ「……やっべ」

 

 りんく「このパターンは…………」

 

 ほくと「ど、どこかに仮面ライダー轟鬼が―――――」

 

ハァッ!!!!

 

 ―――――ザスッ!!ビビビビビビビ!!!

 

 データ「ほんげぁ~~~!?」

 

 メモリア「なんであたしたちまで~!?」

 

 ほくと「これは『仮面ライダーディケイド(2009)』でディエンドが召喚した轟鬼が使ったバージョンだ……!広範囲の相手を一掃する……!!」

 

 りんく「ちょ……ちょっとこれはキョーレツ……し……しびれびれ~~…………」

 

7.スマイルプリキュア!(2012~2013)

 

 りんく「実はスマプリには裏話があるの」

 

 ほくと「……裏話?」

 

 りんく「企画された時は、史上初めての『ひとりで戦うプリキュア』だったの」

 

 データ「ほぉ……『ヒーローとしての原点回帰』をプリキュアでやろうとしてたのか。それはそれで見たかったな」

 

 メモリア「でも、スマプリは5人だよ?何があったの?」

 

 りんく「……前の年に起きた『東日本大震災』……その影響は、アニメ業界にも広まってたの。あんな辛い出来事を経験した、心に深い傷を負った子供たちに、どうメッセージを届けるべきか、って」

 

 データ「まぁ、な……アニメ見てる場合じゃねぇ、なんて気分になってもおかしかねぇからな……」

 

 りんく「そこで、『見てくれた人たちが毎日笑顔になれるように』……という願いを込めて作られたのが、スマプリだったの」

 

 ほくと「『仮面ライダーオーズ(2010~11)』の劇場版と同じだね……」

 

 データ「わかりやすいストーリーだったのもそういう事情だったんだな…………」

 

 メモリア「あ、でもさぁ…………」

 

 りんく「?どしたのメモリア?」

 

 メモリア「『ゴプリキュア』とか、『ふぉーぜ』と同じ日に京都に修学旅行に行ってたのって狙ったとしか―――――」

 

みんなの笑顔のために!!!

 

 ―――――ボボボボボボボボボンンン!!!!!

 

 メモリア「ぐぎゃーっ!!火が!火がぁ~~!!」

 

 りんく「メモリアが炎上したぁっ!?これがホントのネット炎上!?」

 

 データ「なるほど……今回は『笑顔』つながりで『仮面ライダークウガ(2000~01)』・アルティメットフォームの『超自然発火能力』か……」

 

 ほくと「平成ライダーで唯一の『ひとりしかライダーがいない番組』でもあるね」

 

 メモリア「解説はいいから早くたしけてぇ~~~!!!!あちちちちち!!!」

 

8.ドキドキ!プリキュア(2013~2014)

 

 りんく「さてこの作品でシリーズは通算10作品目を迎えるワケだけど……今回のモチーフは『トランプ』!」

 

 メモリア「世界で一番有名なカードゲームだよね~♪」

 

 ほくと「昔からあるこのモデルに特撮が目を付けないワケは無く……『ジャッカー電撃隊(1977)』で早くも特撮で使われたんだ」

 

 データ「77年!?そりゃまた早いな……」

 

 ほくと「そのあと、満を持して『仮面ライダー剣(2004~05)』で仮面ライダーのモチーフとして採用されたんだ」

 

 りんく「逆にその間、子供向け作品のモチーフに使われなかったのがビックリ……」

 

 メモリア「ねえデータ、ほかにもドキプリには『ぶれいど』のネタがあるって聞いたんだけど……」

 

 データ「敵幹部のベールの声優サンな、『剣』に顔出しで出てたんだよ」

 

 りんく「マジバナ!?」

 

 データ「ウソじゃねーぜ。『剣』のOPと『ドキプリ』のED、クレジットを見てみな」

 

 りんく「をを!ホントーだ!!イメージ通りのシブいダンディ!」

 

 ほくと「君の体がそうなったのは私の責任だ。だが私は謝らない」(キリッ)

 

 メモリア「ナニソレ?」

 

 ほくと「烏丸所長の名台詞だよ」

 

 りんく「ヒトにメーワクかけといて謝らないなんてジコチューすぎ!」

 

 データ「一応フォローもあるんだがな……これもセリフだけが独り歩きしちまった結果か……あ、それと主役の名前が『剣崎一真』ってんだが……」

 

 りんく「ケンジャキ……じゃなくって剣崎!?まこぴーと同じ名字!」

 

 データ「しかも同じスペードの戦士だから、ネットにはネタが転がりまくってるのなんのって。剣崎を演じてた俳優サンも『キュアソードの兄貴役』としてオファーが来ないか待ってたみたい―――――」

 

ROYAL STRAIGHT FLASH!!

ウェェェェェェェェェェイ!!!!!

 

 ―――――ドゴオオォォォォォォォ!!!!!!

 

 データ「ヲイ!?別に公式様おちょくってねーだろ?!」(まっくろ)

 

 メモリア「結局オファーは来なかったんだね……」(遠い目)

 

 ほくと「仮面ライダーブレイド・キングフォームの最強必殺技……ロイヤルストレートフラッシュだ……!」

 

 りんく「男の子にも女の子にも、トランプはウケがいーんだねぇ……」

 

 データ「一方『剣』はネタとしてもファンに受け入れられたとさ……絶対公式は確信犯だろ……え、ちょ!?バーニングザヨゴはカンベン…………ぎゃーーーーーーーーーーす!!!!!」

 

9.ハピネスチャージプリキュア!(2014~2015)

 

 りんく「プリキュアシリーズ10周年記念作品は、全世界のプリキュアVS最大の敵・幻影帝国!!これはもう…………センソーだよ……!!」

 

 メモリア「スケールでっか!!」

 

 りんく「私的には元ネタは『デジモンアドベンチャー02(2000~01)』だと思うけどね」

 

 ほくと「日本だけじゃなくって、海外にもヒーローがいる特撮といえば……知る限りでは『ビーファイターカブト(1996~97)』かな?」

 

 データ「また懐かしいモノを……って、アタシゃ生まれてねーかw……あれ?ほくとのトシって……」

 

 りんく「けど惜しかったのは、全世界のプリキュアが1つの画面に収まって戦うことが無かったことかなぁ……オールスターズでその辺フォローしてくれてたけど……」

 

 ほくと「んふふ……東堂さん、実はこんなシーンがスーパー戦隊にあるんだよ……『海賊戦隊ゴーカイジャー(2011~12)』の第1話がコレだ!!」

 

 りんく「え……?ええ……??えええ~~~~~!?!?!!?」

 

 メモリア「…………めまいがしそう……」

 

 ほくと「『ゴーカイジャー』までの全34スーパー戦隊、192人の戦隊ヒーロー勢揃いの図!!」

 

 データ「あまりに現実離れした絵面に、稚拙が『夢を見ているのか……?』と思わず呟いたのを覚えてるほどなんだぜ!!」

 

 ほくと「JAEのスーツアクターさんほぼ全員に加えて、ベテランの人や地方のヒーローショーのアクターさんまで駆り出した、文字通り『伝説の戦い(ロケ)』だったんだ!」

 

 データ「さらにだ……これに歴代仮面ライダーまでもブチ込んだ『スーパーヒーロー大戦(2012)』なんてモンもやってんだよな……」

 

 ほくと「プロデューサーさん曰く『川中島の合戦』……!アクション監督さんが『おい、そこのピンク!』って呼ぶと30人くらいの戦隊ピンクが同時に振り向く地獄のような状況……」

 

 メモリア「あたしもピンクだから振り向いちゃいそう……」

 

 データ「まさに東映の本気を見たぜ……」

 

 りんく「プリキュアでも『はぐプリ』でこんな感じの企画をやってくれたけど、やっぱり私は『1年通してのクロスオーバー』が見たいのよね~。東アニさん、まだ~?」

 

 メモリア「…………あれ?このページに載ってるのって……『キュアフォーチュン・真』?『キュアテンダー・闇』?ねぇコレって―――――」

 

王の判決を言い渡す―――――死だ!

 

 ―――――クルクルクルクルシュバッ!

 

 メモリア「ほぇ?」

 

 ―――――ビュンッ!!

 

 メモリア「おげゃーーーーーーー!!!!↑↑↑……――――――――――」

 

 りんく「メモリアが…………すっ飛んでった……」

 

 ほくと「仮面ライダーサガの『スネーキングデスブレイク』…………何かハピネスチャージプリキュアと関係が?」

 

 データ「ハピプリの『神様』……ブルーの声優サン、仮面ライダーサガの俳優サンなんだよ。久々に中の人ネタに戻ってきたな……ついでにメモリアがツッコもうとしたのは同じ時期に放送されてた『鎧武』とネタ被りしてたコトか……」

 

 りんく「……ねぇ、メモリアどーなっちゃうの……??」

 

 データ「あの上には魔皇力の空間がある……そこに吊るされてドカンだ。アレだ、『新・必殺仕事人(1981~82)』に出てきた『三味線屋の勇次』のアレよ」

 

 りんく「よく知ってるわねそんな昔のネタ…………」

 

 ほくと「子供達はもちろん、親御さんたち……おじいちゃん・おばあちゃん世代には好評だったとか、そーじゃなかったとか」

 

 りんく「どっち!?」

 

10.Go!プリンセスプリキュア(2015~2016)

 

 りんく「ツッコミ入れるお覚悟はよろしくて……?……『お姫様』って、『特撮ヒーロー』の正反対って言ってもいいような気がするけど……」

 

 メモリア「なにか、特撮と関係があるネタってあるのかなぁ?」

 

 ほくと「初めてこれを見た時に僕は確信した…………『財団Bの中でユグドラシル・コーポレーションとホープキングダムは繋がっている!!』と……!!」

 

 データ「あったんだよクリソツなシロモノがな!!それも第1話から出てんだよ姫プリになぁ!!!」

 

 ほくと「これがその問題の物証…………ユグドラシルのザル警備を突破してちょろまかしてきた『ゲネシスドライバー』とエナジーロックシードだよ」

 

 りんく「……なんかヤバい発言をほくとくんがしちゃった気がするけどスルーしよ~っと……。で、これが姫プリと関係が?」

 

 データ「メモリアくん、例のモノを」

 

 メモリア「かしこまりましたぁ~♪はいコレ、『プリンセスパフューム』とドレスアップキーだよ♪」

 

 りんく「出所は…………聞かない方がいっか……」

 

 ほくと「この2つを同時に起動させてみると……」

 

 メモリア「…………こ……これわ!!!」

 

 りんく「ゲネシスドライバーとプリンセスパフューム、仕掛けがそっくり!!」

 

 ほくと「内部事情的に見て、ゲネシスドライバーの仕掛けを、次の年のプリンセスパフュームに応用したんじゃないかな?見栄えもいいし」

 

 データ「だからって起動アイテムまで似通ったものにする必要あったのかぁ?『錠前』と『鍵』ってよォ」

 

 メモリア「ざ、財団Bにも色々と『じじょー』があったんじゃないかなぁ~……??」

 

 りんく「オモチャを作るのもタダじゃないんだし……ねぇ?」

 

 データ「?ふたりともイヤに財団Bの肩持つなぁ……?」

 

 ほくと「それにしても、もうこれで『鎧武』ネタが3つも……プリキュアのスタッフさん、実は『鎧武』好きなんじゃ―――――」

 

ここまでだな、俗物!!

行け、ファンネルッ!!

 

 ―――――バシュバシュバシュバシュ!!!

 

 ほくと「ビ、ビームが四方八方から!?避け切れ……うわぁ~~!?」

 

 りんく「『機動戦士Zガンダム(1985~86)』の『キュベレイ』の武器、ファンネルだね」

 

 データ「ディスピアの声を初めて聞いた稚拙はテレビの前で思わず平伏したという……歴代プリキュアの大ボスで史上最も『勝てないオーラ』が出てたらしい……」

 

 りんく「わかる……わかるマンだよぉ……お茶の間の良い子号泣だよぉ……」

 

 メモリア「…………あ、あたしも泣きそーになったのはナイショで……」

 

11.魔法つかいプリキュア!(2016~2017)

 

 データ「さぁ……」

 

 ほくと「ショータイムだ!」

 

 メモリア「急にフンイキ変わったね……」

 

 データ「『魔法つかいプリキュア』は宝石の力を使う魔法つかい……その4年前に、『そのまんま』な仮面ライダーが人々の希望になっていた……」

 

 ほくと「その名も『仮面ライダーウィザード(2012~2013)』!魔宝石の指輪の力で戦う魔法使いの仮面ライダーだ!」

 

 りんく「そーいえばインプリ本編でもチラッと触れてたよーな……」

 

 ほくと「それ以前に、戦隊では『魔法戦隊マジレンジャー(2005~06)』で既に通った道……『魔法ヒーロー』は、特撮の方が先輩ってことさ」

 

 りんく「ふふ~ん……そう思う?」

 

 メモリア「そう思っちゃう~~??」

 

 データ「な、なんだ……??」

 

 りんく「『女の子が不思議なチカラを使うアニメ』の元祖はそれより古いよ……?『プリキュア』も、立派な一ジャンルになった『魔法少女』の一種と考えるなら、『魔法使いサリー(1966~68)』が一番早いんだよねぇ」

 

 ほくと「53年前とは……まだ白黒テレビの時代か……」

 

 データ「今までで一番古い奴出してきやがった……!」

 

 りんく「そんな意味では、この『まほプリ』は原点回帰!何しろ、サリーちゃんは東アニの『魔女っ子アニメ』の第1号!プリキュアの大先輩の中の大先輩なんだから!」

 

 ほくと「最近は朝ドラでも取り上げられたらしいね」

 

 りんく「宝石といえば実はもう一つつながりがあってね?モフルンの中の人は別のアニメで宝石の―――――」

 

東方不敗が最終奥義!!

石破ッ!!天ンン驚ォォォォ拳ェェェェェン!!

 

 ―――――ドッゴォオォォォォオオオオオン!!!!!

 

 りんく「ぅええええええ!?!?ドクロクシー様がなんかモノスゴいの撃ってきたぁあぁぁぁぁ!?」

 

 ほくと「師匠ッ!?今確かに師匠の声がッ!?」

 

 メモリア「ここにきて初めてりんくだけオシオキ喰らったね」

 

 データ「ちなみに最初は東方〇敗だが正体はグ〇ハム・〇ーカー……おっと」

 

12.キラキラ☆プリキュアアラモード(2017~2018)

 

 りんく「うさぎと!」

 

 メモリア「戦車を!」

 

 りんく・メモリア「「レッツ・ラ・まぜまぜ~♪」」

 

 ほくと「『仮面ライダービルド(2017~2018)』、できあがり!」

 

 データ「お次は……元気!」

 

 ほくと「笑顔!」

 

 ほくと・データ「「ベストマァッチ!」」

 

 りんく「『ひらめきのデコレーション』!キュアホイップ!」

 

 メモリア「いぇ~い……!」(超低音)

 

 ほくと「…………というワケで、この頃は何かと『2つの力で戦うヒーロー』が多かったんだよね」

 

 データ「『ウルトラマンオーブ(2016)』や『ウルトラマンジード(2017)』とかな」

 

 りんく「でもニチアサには図ったかのように『まぜまぜ』で『うさぎ』なヒーローが同時期に……」

 

 メモリア「東〇さん狙ってたんじゃないの~?」

 

 データ「キュアカスタードも将来の夢は『科学者』だからなぁ……オイ……コレは言い訳のしようが無いぜ……?」

 

 ほくと「ちなみに『ビルド』のフルボトルには…………『ケーキフルボトル』がある!!」

 

 メモリア「え!?じゃぁ、『うさぎ』と『ケーキ』の『ふるぼとる』で変身すれば……」

 

 りんく「仮面ライダービルドもキュアホイップに変身できる…………!?」

 

 データ「ナイナイナイナイ\/(-_-;)それよかホイップとレモネードの中の人が『仮面ライダーゼロワン(2019~)』に出てきてしかもホイップは怪人(マギア)化―――――」

 

MAX HAZARD ON!!

OVERFLOW!……ヤベーーーイ!!!

 

 データ「あ……アンタは!!なんでアンタがここに!?……ってちょっと待て暴走済みかよしかもどーしてアタシだけ襲ってくるんだオイイィイィィィイイイ!?!?!?!」

 

 りんく「な……何今の真っ黒な仮面ライダー…………もしかしてアレが噂のB()L()A()C()K()()()!?」

 

 ほくと「仮面ライダーブラックを()()()()()()って呼ぶなんて……東堂さん、通だね

 

 メモリア「……あるぇ~??」

 

 ほくと「……ごほん。アレは仮面ライダービルド・ハザードフォーム……変身すると理性が吹っ飛んで敵味方の区別なく襲い掛かるようになる、平成ライダーでも最凶最悪クラスのフォーム……変身している桐生戦兎さんもついに自力で克服することはできずに、新しいアイテムを作って解決したくらいだからね……」

 

 りんく「さ……さすがにそんなキケンな子はプリキュアにはいない……」

 

 メモリア「どーでもいーけどさぁ……データ、助けなくていーの?」

 

 データ「誰かコイツを止めてくれぇえぇぇ!!ぐぇッ!!」

 

13.HUGっと!プリキュア(2018~2019)

 

 りんく「プリキュア15周年記念作品!ってことで、もりだくさんだったよねぇ、はぐプリ」

 

 メモリア「"せんせい"が出てきてビックリしたぁ」

 

 りんく「ねぇほくとくん、はぐプリにも流用ネタ、あるの?」

 

 ほくと「もちろん!僕が見つけたネタは……これだ!」

 

 りんく「キュアアムール…………ルールーちゃん?」

 

 データ「ネタじゃなく……コイツは完全なオマージュキャラってヤツだと確信したね」

 

 ほくと「彼女の境遇や辿った運命が……『仮面ライダードライブ(2014~15)』に登場した『チェイス』にそっくりなんだ……」

 

 データ「『最初はロイミュードの処刑人だったが、戦いの中で正義に目覚めて仮面ライダーになった、シンボルカラーが紫色のアンドロイド』ってヤツなんだが……」

 

 メモリア「ね……ねぇ、キュアアムールって…………」

 

 りんく「『最初はクライアス社の社員だったけど、戦いの中で正義に目覚めてプリキュアになった、シンボルカラーが紫色のアンドロイド』…………」

 

 みんな「「「「 ( ´・ω) (´・ω・) (・ω・`) (ω・` ) 」」」」

 

 みんな「「「「( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )」」」」

 

イッテイーヨ!!

『逝っていい』、ってさ…………

 

 ―――――ピッポー、ピッポー、ヴオオオオオオオッッッ!!!!

 

 メモリア「うぎゃーーーー!!!横断歩道に斬り殺されるぅ~~~~!!!!」

 

 データ「チェイサーじゃねーのかよ!!シンゴウアックス持ったマッハかよ!!!」

 

 りんく「私はまだ逝きたくない~~~!!!!」

 

 ほくと「ま、待ってくれ、剛!!落ち着け!!やめろ!!剛!!!うわああああーーーーッッッ!!!」

 

 データ「こんなに殺意に満ちたオシオキがあってたまるかぁ~~~~ッッ!!!!」

 

14.スター☆トゥインクルプリキュア(2019~)

 

 りんく「何度も命の危機を乗り越えながらようやくたどり着いた最新作……」

 

 メモリア「舞台は地球を飛び出して、無限に広がる大ウチュー!」

 

 ほくと・データ「「宇宙……キターーーーーーー(゚∀゚)ーーーーーーー!!」」

 

 りんく「そーいえば本編でもやってたね、ソレ」

 

 ほくと「当然!特撮で宇宙といえば『仮面ライダーフォーゼ(2011~12)』!」

 

 データ「実は『宇宙戦隊キュウレンジャー(2017~18)』ってのもあるんだぜ☆」

 

 ほくと「そんなわけで、特撮と宇宙とは切っても切れない縁があるのさ」

 

 メモリア「ほぇ~……」

 

 りんく「初めての宇宙人プリキュアが登場したけど……まぁウルトラマンは言うまでもなく宇宙人だとして……」

 

 ほくと「もちろん、宇宙人の仮面ライダーもいるよ!『フォーゼ』の劇場版の『仮面ライダーなでしこ』とか、『ビルド』のエボルとか、『ジオウ』のギンガとかね」

 

 データ「……もっともなでしこ以外はワルモノだがな」

 

 メモリア「ねぇ、その仮面ライダーギンガって…………」

 

 ほくと「?」

 

 メモリア「どーして地球を滅ぼそうとしてたの?」

 

READY GO!!

BLACKHOLE FINISH!! CHAO……!

 

 メモリア「ほぇ?わ、わ~~!?吸~い~込~ま~れ~る~~!!↑↑↑」

 

 ほくと「こ、これは『仮面ライダーエボル・ブラックホールフォーム』の必殺技、『ブラックホールフィニッシュ』だ~~~!!↑↑↑」

 

 データ「まぁ……唐突に出てきて唐突にブッ倒された感強いからな、ギンガ……スタッフとしてもソコは突かれたくなかったんだろう……↑↑↑」

 

 りんく「でもなんでブラックホール~!!??↑↑↑」

 

 データ「……スタプリにひとりいるだろ、『チャオ』っていう奴……()()つながりなんぢゃねーか?↑↑↑」

 

 りんく「それってキラヤベ~~イ~~~!?↑↑↑↑」

 

 ほくと「エボルトォォォォォォォォォォ!!!!!!↑↑↑↑」

 

 

さいごに

 

 

 りんく「……どーにか生き延びられたね、私達…………」

 

 データ「てか今回アタシたち、単にネタを叩き込まれる場()提供されたに過ぎなかったんぢゃねーか……??」

 

 ほくと「でも、これでプリキュアと特撮がいかに『互いを意識しているか』がわかった気がするね」

 

 データ「お互いに切磋琢磨しながら、子供達のために戦ってきたわけだな!」

 

 メモリア「??ねぇりんく、この『スタプリ』の次のプリキュアのブルーレイ、まだ開けてないんだね。……え~っと、ヒー……」

 

 りんく「あ゛~~!!ダメ!!それはまだ開けちゃダメ~!!」

 

 データ「今日は駅伝でニチアサは無いけど、スタプリの映画はまだまだ公開中だから、ロスってるヤツは映画館へGoだ!」

 

 ほくと「冬には恒例のライダー映画も公開するね。フォースライザーで変身するゼロワン・『仮面ライダー001』の活躍も楽しみだ!」

 

 りんく「な……なんかバタバタしちゃったけど、みんな、これからも『インストール@プリキュア!』をよろしくね~!!」

 

 メモリア「よい休日を~♪」

 

 

*1
稚拙の私見であるが、特撮史上最もブッ飛んだ名前(と発想)の武器だと思う。




 何やらメモリアが口を滑らせかけましたが、華麗にスルーして下されば(汗

 なぜこんな駄文を書き散らしてしまったのか稚拙自身にもわかりませぬ……
 クスッと笑って、少しでもニチアサロスを紛らわせてくだされば幸いです……

 ではまた、今度はエグゼイド編でお会いしましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もしも、この世界に、本当にビョーゲンズが現れたら、その時、あなたは―――――

 2020年4月20日―――――
 衝撃的なニュースが全国を駆け巡りました。

 『新型コロナによってプリキュア本放送延期』―――――

 2004年2月1日に放送が始まって16年―――――
 大きな事件・事故や災害がない限り、一度も『本放送』を途切れさせることがなかった『プリキュア』が、新型コロナウイルスに『敗北』した―――――

 稚拙はこの重大局面を鑑み、臨時的ではありますがこんな文章を送信させていただきます……
 メタフィクションを混ぜている都合上、ちょっと気分が落ち込むかもしれませんが……

 プリキュア達は、諦めてません。

 そしてそれは、ヒーローたちも同じで。

 『ヒーリングっど❤プリキュア』たちが、どうして『テレビに出られなくなった』のか―――――

 それには、壮絶な決意があったのです―――――


 …………どうも、すんごくお久しぶりです…………東堂りんくです…………

 今日、朝8:30にテレビの5chを見たんだけど…………

 

 「……あれ……これって、前に見たような……」

 

 あれ?

 今日って、令和2年の4月26日だよね……

 先週の予告で、ひなたちゃんがプリキュア辞めるとか言ってたけど、それはどーなったの?

 

 「……ねぇ、メモリア―――――」

 《りんくぅ……番組表を見て》

 

 番組表を見てみると、『ヒーリングっど❤プリキュア』の横に、『おさらいセレクション』の文字。

 

 「セレクション!?ってことは再放送!?なんで!?どーして!?本放送の時間帯なのに!?」

 《りんく、さっきプリキュアのホームページを見てみたんだけど、こんなメッセージが……》

 

 私はコミューンの画面をのぞき込んだ。

 

「ヒーリングっど❤プリキュア」からのお知らせ

新型コロナウイルス感染症に対する安全対策に最大限の配慮をするべく、

「ヒーリングっど❤プリキュア」は、

第13話以降の放送を延期させて頂きます。

(中略)

自分や家族、身近な人たちの健康を守るため

皆さまも、できる限りの感染予防を心がけて頂き、

くれぐれもお身体には気をつけてお過ごし下さい。

 

(以上、公式サイトより抜粋)

 

 「あがーーーーーーーー!!!!!!????」

 

 愕然とした。

 私は頭の中が真っ白になった……

 ひとしきり叫んだあと、私は―――――

 

 「――――――――――(〇 □ 〇)」

 

 ―――――燃えたぜ……燃え尽きたぜ……真っ白にな……

 私はベッドにばったりと倒れ込んでしまった。

 

 《り、りんく~~!?》

 

 ―――――今、これを読んでくれてるみんなには、今さら説明する必要は無いと思うけど……

 新型コロナウイルスが世界中に感染拡大、ここ大泉町もその影響を免れることは出来ず……

 私も『おうちぐらし』です。

 学校も休校中、授業はWeb授業、ほくとくんにもここひと月くらい直接会ってないし、むぎぽんやそらりんたちにも会えてない。むぎぽん、おうちのパン屋さんもお客さんがめっきり減って大変だって電話で言ってたっけ……

 パパはテレワーク、ママはパートさんのお仕事が減って、ふたりともほとんどおうちにいる。

 お買い物はほとんどママがマスクを着けて行ってる。私?私はパパとお留守番。必要以上の大人数でスーパーやコンビニに行くのも、感染拡大につながるらしいし……

 

 「外にも出らんない……学校にも行けない……そんな私に残された最後の希望がテレビのプリキュアだったのに……コロナはそれまで奪っていくっていうの……?めちょっく……はっぷっぷ~…………」

 《ねぇりんく、『ころな』ってそんなにヤバいの?プリキュアのアニメを再放送にしなきゃいけないくらいに大変なの?》

 

 メモリアは無邪気に言うけど……あぁ、いいなぁ……メモリアはアプリアンで。現実のウイルスとは全く無縁。

 あ、でも本編でヘンなコンピュータウイルスにかかっちゃってるし、そこは同じ……なのかな。

 

 「……簡単に言うとね、『お薬が効かない、超ヤバいカゼ』みたいな感じ、かな」

 《えぇ~!?お薬が効かないの!?かかっちゃったらどーなるの!?》

 「治らないわけじゃないけれど……それでもつらい思いはするし、最悪、命を落とすこともある、大変な病気なの。それに、油断してると簡単に人にうつっちゃうし、『かかってても、症状が出ないまま元気』なこともあるの。知らないうちに、人にうつしちゃうこともあるみたい……」

 《そんなぁ……》

 

 落胆の表情を浮かべるメモリア。でもその時、何かに気付いたようにメモリアはハッとした。

 

 《!……まるで、ビョーゲンズだね》

 「確かに……」

 

 『地球全体を病気にしてる』って意味だと、まさしく『リアルビョーゲンズ』……

 正直私、『プリキュア達が本当にいて、この世界に来てくれた』ことが本当に嬉しいって思ってる。

 でも、『こんなの』まで本当に出てくるなんて思ってもみなかった……リアルワールドのビョーゲンズは、ダルイゼンのような男の子の姿でも、シンドイーネみたいな女の人の姿でも、グアイワルっぽい筋骨隆々でも、バテテモーダみたいな獣人のような姿でも、当然、メガビョーゲンみたいな怪物の姿でも―――――どれでもない。

 

 コロナウイルスは―――――『見えない』。

 

 《……もしかして、グレースたち、みんなを助けるためにテレビに出られなくなったのかも……》

 「……え……!?それって……どういうこと……?」

 《もしかしたら『ころな』って、『リアルワールドに来たビョーゲンズ』なのかも……だから、みんなを助けるために、グレースたちもこっちに……》

 

 ……その発想は……無かった!

 フツーの人なら一笑に付すかもしれないけれど、私ならわかる。私の部屋にあるタブに、プリキュア達が『いる』、私なら―――――

 

 《誰かが助けを求めている限り……どこへでも、どの世界へも……わたくし達プリキュアにとっては、当然のことですね》

 

 その声にがばりと頭を起こすと、キュアットタブの上に、ホログラムのキュアエースが立っていた。

 

 「エース……亜久里ちゃん……」

 《ほっとけなかったのかもしれないね、あの子たち……》

 《響とはちょっと違ったタイプだけど、思い立ったらまっすぐなのは同じね》

 「なおちゃん……奏ちゃん……」

 

 タブの上に、今まで助けたプリキュアたちが集まってくる―――――

 

 《世界中から、苦しみや悲しみを感じます……ウイルスに苦しんでいる、人々の声が聞こえます―――――》

 

 切なげな表情で、胸に手を添えるロゼッタ。

 

 《でも、同じくらい聞こえるのは、コロナウイルスと今この瞬間も戦い続けてる、お医者さんや看護士さんたちの声……》

 《『絶対にウイルスに負けない』という、正道を貫く強い意志……》

 《確かな『鼓動』が、世界中を駆け巡っているのがわかるわ》

 

 レモネード、ビューティ、ビートが、思いを馳せるようにどこかへと視線を送る。

 

 《今、ウイルスにかかっていない人も、出来ることはたくさんあるわ》

 《お家で待ってれば、きっとウルトラハッピーなことが待ってるから!》

 「みなみさん……みゆきちゃん……」

 《案外、さ》

 

 笑ってマリンが言う。 

 

 《アタシ達がプログラムクイーンの助けを求める声を聞いてこの世界に来たように、『ヒーリングっど❤プリキュア』のみんなを、『向こう側の世界』の誰かが呼んだんじゃないかな?》

 

 そっか。

 プリキュアなら、『行ける』んだっけ。

 ここにいるみんなだって、世界を越えて、サーバー王国を救うためにやってきたんだから。

 

 《信じて、待とうよ!このふたりを助けてくれたのも『お医者さんたち』なんだし!》

 《だからわたしは……この世界に暮らしてるみんなのことも、心から信じられるから―――――》

 

 トゥインクルとミラクルに連れられて現れた、ふたりのプリキュア―――――

 

 《あの時、『運命を変えてもらった』から、ワタクシはここにいられる……ならばこそ……!》

 《ヒトのココロ……想いの力が奇跡を起こすの……そして、人の知恵で乗り越えられないモノは無いの。そうよね、りんく?》

 「トワちゃん……リコちゃん―――――」

 

 そう、だよね―――――

 マジカルとスカーレット、そして私とメモリアを病魔から救いだしてくれた、『先生』―――――

 あの時助けてもらった、『仮面ライダーのお医者さん』のような、強い心を持ったお医者さんたちが、この世界にはたくさんいるんだもの―――――

 

 《絶望するのは、まだ早いよ》

 《そーそー!この程度じゃ、アタシからファントムは生まれないぜ♪》

 「!?その声は!」

 

 コミューンがいつの間にかテレビ電話に切り替わっていて、ほくとくんとデータ、キュアピースがそこにいた。

 

 《ネットには、コロナウイルスのせいで出かけられない子供達のために、たくさんのヒーローたちがメッセージを出してくれてるんだ!》

 《それだけじゃないぜ?悪役連中からも熱いメッセージが寄せられてるぜ!》

 《正義と悪が争っていた中に、突然現れた第3勢力……正義と悪は一時休戦して、いっしょに脅威に立ち向かう……燃える展開ねっ!!》

 

 やよいちゃんの鼻息が荒い。ほくとくん()に居候するようになって結構経つけど、すっかりデータみたいな特ヲタになっちゃって……

 

 《キラメイジャーのレッド役の俳優さんも新型コロナウイルスに感染してしまったけれど、先輩ヒーローたちや子供たちの激励を受けて、元気になったんだ!》

 《ヒーローにとって一番の力は、新兵器でも新装備でもねぇ……元気な子供たちの声だ!子供たちの応援があれば、ヒーローは何度でも立ち上がれる……そうだろ?》

 

 ヒーロー達が戦えるのは、子供たちの応援があるから―――――

 そしてそれは、プリキュアも同じで―――――

 

 「本当に子供たちが、心の底から応援できるその日まで…………のどかちゃん……ちゆちゃん……ひなたちゃん…………―――――」

 

 このディスプレイの、その向こうに、助けを求めてる人がいる。

 苦しんでいる人がいる。

 戦ってる人たちがいる―――――

 

 私は……この『四角い世界』から、『そっち』に行くことはできないけれど―――――

 どうか、私達の分まで、『ほんとうの世界』のみんなを、元気にしてあげるために―――――

 

 

 「がんばって―――――ヒーリングっど❤プリキュア―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――その夜、私は不思議な夢を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「お大事に❤」」」

 

 メガビョーゲンが浄化され、病気になった土地が元に戻っていく。

 キュアグレース、キュアフォンテーヌ、キュアスパークルの3人は、笑顔でそこから立ち去ろうとした―――――

 

 『お前たち―――――『ヒーリングっど❤プリキュア』だな』

 

 青年の声に、3人が振り返る。

 

 「……誰!?」

 「ヒーローショーの着ぐるみ?」

 「あの……あなたは……?」

 

 グレースが訊ねると、その、『バーコードを人型にしたような』マゼンタのヒーローはこう答えた。

 

 『"通りすがりの仮面ライダー"……『仮面ライダーディケイド』だ。……これを見ろ』

 

 ディケイドが視線をうながすと、オーロラのような銀色の光が現れて、その中に映像が浮かび上がる。

 そこには、病院のベッドで人工呼吸器を付けて苦しむ人々―――――

 そして、その人々を懸命に治療する医師や、看護士たちの必死の形相が映る。

 場面が変わり、どこかの研究所―――――そこでは、白衣を着た研究者たちが、パソコンや試験管を真剣な目で見つめていた。

 街や観光地からは人が消え、まばらに見える人々は、皆マスクを着けている。テレビのニュース番組では連日のように、感染者数や死者数を伝える暗いニュースが流れ、出演者同士の間隔も、不自然なまでに広い。

 ネット上にはありもしない情報や負の感情が拡散し、スーパーマーケットには長蛇の列。レジには物々しい透明の板が張られ、中には従業員に冷ややかな言葉や怒号を浴びせる人の姿も。

 

 その世界に暮らす人々からは、笑顔と活気が奪われていた―――――

 

 「……これは…………!?」

 『お前たちが戦っている……"メガビョーゲン"だったか?その一体が『世界の壁』を越えて、とある世界にウイルスをばら撒いた……このウイルスはあっちでは『新型コロナウイルス』と呼ばれてるらしいが……この世界の医療技術では、今のところ容易に治療できる手立てはない……何十万、何百万という人間たちが、今も感染症に苦しんでいる。それだけじゃなく、見えないウイルスをひどく恐れるあまり、人間の心までもが闇に閉ざされ、蝕まれている……『この世界全体が病気に冒された』と言ってもいい……最悪の状況だ』

 「!……ひどい……!そんな……!」

 『お前達は、『地球の医者』を名乗ってるそうじゃないか―――――俺も『世界の破壊者』呼ばわりされちゃいるが、こうまでイレギュラーな破壊をされている世界を見るのも忍びないんでな……俺なら、お前たちを『この世界』に連れていけるが……どうする?』

 

 グレースは、まっすぐにその映像を見据えて、言った。

 

 「私……その世界に行く」

 「グレース……!」

 「メガビョーゲンが暴れているのなら、そこがどこでも、私達が行かなきゃ……!『向こうの地球さん』と、そこに暮らすみんなの病気を治して、『お手当て』してあげることも、私達……プリキュアの使命だもの」

 「……そうね。わたしも行くわ」

 「グレースが決めたのなら、アタシも行くし!」

 

 フォンテーヌとスパークルも、決意を固める。

 

 『だったら、オレ達も行かせてもらうぜ!』

 『まさか、ノーサンキューとは言うまいな?』

 『フン……別の世界にまで回診に行く羽目になるとはな』

 『どうせなら、相乗りで行こうじゃないの』

 

 また、別の男性たちの声が響く。

 

 「あなた達は……?」

 『オレは仮面ライダーエグゼイド!こっちはブレイブとスナイプとレーザーターボ!オレ達全員、ドクターなんだぜ!』

 「お医者さんってこと!?やったぁ!だったらいっしょに行こ行こ!ね!?」

 『ひ、引っ張るな金髪!ベクトルは違うがニコを思い出す……!』

 『元より、おれ達はお前達の加勢に来た』

 『ま、未知の新型コロナウイルス相手に、どこまでできるかわからねぇけどな。頭数は多い方がいいだろ?』

 

 新たな『ドクター』たちの登場に、にわかに湧き立つプリキュアたち。そこへ―――――

 

 『"地球の未来"を救うためなら、俺たちも行くぜ!』

 

 5人の、色とりどりのスーツをまとったヒーローが立った。

 

 『ゴーレッド!』

 『ゴーブルー!』

 『ゴー、グリーン!』

 『ゴーイエロー!』

 『ゴーピンク!』

 『人の命は地球の未来!』

 『燃えるレスキュー魂!』

 『救急戦隊!』

 『ゴー!』

 『ゴー!!』

 『『『『『ファイブ!!!!!』』』』』

 『出場!!』

 

 「また別の……ゴーゴーファイブ??」

 『ちょっとおカドは違うかも知れねぇが、命を助けるのに、俺たちが出ないワケにゃ行かねぇだろ?』

 『誰かが助けを求めているなら、おれ達はどんな現場にも出向く』

 『ウイルスから人々を助けるのも、レスキュー活動だしな!』

 『僕達も力になるよ!』

 『人々の命を……無限の未来を救うために……大丈夫。あなたたちには、私達がついてるわ』

 「!ありがとうございます……!」

 

 笑顔で頭を下げるグレース。ふと、少し表情を暗くして。

 

 「……でも、私達がいない間、ビョーゲンズをどうすれば……それに、家族にも説明できないし……」

 『それなら、いい方法を持ってる奴がいる。……出番だぜ、『王様』』

 

 ディケイドがそう言うと、オーロラのようなカーテンの向こうから、またひとり、ヒーローが姿を現した。顔に『ライダー』とカタカナで書いてある、個性的な顔だった。

 

 「あなたは……?」

 『『仮面ライダージオウ』。キミ達のこともよく知ってるよ、『ヒーリングっど❤プリキュア』』

 

 ジオウは『手を出して』、とグレースを促す。差し出したグレースの右手に、ジオウは黒い円盤状の物をそっと置いた。すると、黒い部分が鮮やかなピンク色に染まり、ジオウはそれを手に取った。

 

 『これで、キミたちの世界……『日曜朝8時30分の世界』の時の流れを止めておくことができる。もちろん、ビョーゲンズの動きも、ね。『バテテモーダと初めて戦った日』、そこから先に時間が進まないようにしておくよ。これでしばらくは、キミ達も『向こうの世界』のことに集中できるはずだよ。キミ達が『向こうの世界』での使命を終えて、元の世界に戻ってきたら、時の流れを再び戻そう』

 「ほ、本当ですか!?」

 『厄介な事なんだが―――――』

 

 うんざりした様子で、ディケイドが言う。

 

 『新型コロナウイルスは『プリキュアの世界』以外にも、多くの世界に影響を及ぼしている……』

 『だから、おれとディケイドが色々な世界を回って、その世界の時の流れを一時的に止めているんだ。()()()()()()の均衡が崩れないように……このライドウォッチに、『その世界の時』を封じ込めて、ね』

 『『海賊(ワンピース)の世界』、『電脳生命体(デジモン)の世界』、『人と獣の絆(ポケモン)の世界』、『学園都市(超電磁砲)の世界』、『美食(食戟のソーマ)の世界』、『北米大陸横断レース(天晴爛漫!)の世界』……それから……あぁ、『熊本で釣りをしている女子高生(放課後ていぼう日誌)の世界』にも行ったな』

 「は、はぁ……」 

 『でも、これは本来、『時の掟』に反すること……時間は、どの"世界"も、その世界(作品)に定められた速さで流れなければならないのだから……いずれは破綻し、限界が来る……』

 『"時の凍結"は、後に続く"世界"にも影響を及ぼす……このままでは、認識されぬまま破壊されてしまう"世界"も現れるだろう……最悪、"世界の破壊の連鎖"も有り得る……だがウイルスの蔓延さえ止められれば、あるいは―――――希望的観測だがな』

 「……責任重大……だね」

 

 ディケイドの言葉に、表情を真剣のそれに変えるスパークル。

 

 『キミたちを待ってる人たちが―――――必要としてる人たちがたくさんいる。"こっち"のことは―――――"彼ら"に任せて』

 

 ジオウが視線を促す、その先には―――――

 

 『俺の名はゼロワン……仮面ライダーゼロワン!』

 『ひらめきスパークリング!キラメェェェェイ、レッド!』

 

 名乗りを上げるふたりのヒーロー。そのうち、キラメイレッドと名乗ったヒーローが前に出て、腰を曲げて頭を下げた。

 

 『みんな……ゴメン!実はオレ、あのメガビョーゲンと戦ったんだけど、止められなくて……逆にウイルスに感染してしまったんだ……でも、仲間達や『先輩たち』、応援してくれている子供達(みんな)のおかげで、こうして元気になれたんだ!』

 

 キラメイレッドが、グレースに1枚のメモリーチップを渡した。

 

 『このチップには、オレの血液から『CARAT』が作ったウイルス抗体のデータが入ってる。向こうの世界で、ワクチンを研究している人に渡して。きっと、役に立つはずだよ』

 「……!ありがとうございます!」

 『抗体がありゃ、()()()()ても大丈~夫!はい!アルトじゃ~~、ないとぉ~~~!!!』

 「…………ぷっww」

 「ちょ、フォンテーヌ!?」

 

 ゼロワンがいきなりサムいギャグを飛ばす。すると、目を背けながらフォンテーヌが吹き出し、思わずスパークルがツッコんだ。

 

 『……プリキュアのみんな。みんながいない間、こっちは俺達が持たせてみせる。だから、安心して向こうの世界の人達を助けてあげてくれ!』

 『こっちには小夜もいるから、ウイルスの心配はいらないよ!オレと同じような思いをする人々をこれ以上増やさないためにも……頼んだよ、プリキュア!』

 「ゼロワンさん……キラメイレッドさん……本当にありがとう!……それから……行ってきます!『向こうの世界』で苦しんでいる地球さん、そしてみんなを、お手当てするために……―――――!」

 

 3人のプリキュア、4人のライダー、5人の戦隊ヒーロー―――――

 ジオウとゼロワン、キラメイレッドに見送られながら、ディケイドが作り出したオーロラカーテンを、ゆっくりとくぐっていく。

 

 「待ってて―――――向こうの世界の―――――『テレビの向こうの世界』のみんな―――――」

 

 

 

 私達が、必ず―――――

 

 

 

 

 




 突貫で書いたので、拙い文章になったのはよくわかります。
 矛盾だらけなのは百も承知です。
 でも、稚拙は確かに、絶望の中でこんな希望を見たのです。

 ヒーリングっど❤プリキュアが、日曜朝8時30分に帰ってくるのを待つまでの間、出来る事はただひとつ。

 『感染を広げないコト』、それだけです。

 なるべく家にいましょう。不要不急の外出は避けましょう。
 それでも出かけなければいけない場合は、混雑・『三密』を避け、必ずマスクを着けましょう。外出先にアルコール消毒があれば、必ずしましょう。家に帰ったら、石鹸で手洗いをして、うがい薬でうがいをしましょう。
 たくさん寝て、栄養をたっぷりとって、免疫力を付けましょう。
 間違っても、感染されてしまった方へのいわれのない中傷やバッシングはやめてください!彼らこそ、コロナの最大の被害者なのですから……
 また、転売目的の買い占め、不要なモノの買い貯めには走らないでください!

 基本的な事を心掛けていれば、誰でもプリキュア達の力になれます。
 皆で協力さえすれば、きっと、必ず、人類はコロナに勝てます。
 だって、テレビの中から飛び出してきてくれた最高のヒーローたちが、我々に力を貸してくれているのですから―――――
 ディケイドとジオウが『時を止めなければいけない世界』の増加を食い止めること、そしてプリキュア達が、テレビの中に戻ってこれるのを早めることが出来るのは他でもない、我々なのです。

 最後に。
 新型コロナウイルスに感染してしまった皆様、心からお見舞い申し上げます。
 また、亡くなられた方々には、心よりお悔やみを申し上げます。

 そして、新型コロナウイルスと正面から向き合い、今この瞬間も命を懸けて戦い続けてくださっている医療従事者の皆様、社会インフラを維持し続けてくださっている公共交通機関の職員、スーパー・コンビニの従業員の皆様―――――

 『新型コロナウイルスと戦うすべての人々』に、『仮面ライダー響鬼』のキャッチコピーを贈ります。



 ―――――"ぼくたちには、ヒーローがいる。"





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

時代が望む時

 令和2年5月10日―――――
 ついに、『ニチアサキッズタイム』の3番組が、新作放送を中断するという前代未聞の事態となりました。
 先日の『こんニチ』に引き続き、遅ればせながら突貫作業で書き上げたこのような雑文を送信させていただきます……


 おはようございます、八手ほくとです!

 …………ですが……

 

 皆さんもご存じの通り、新型コロナウイルスの影響は僕達の住む大泉町にも及んで、学校は休校中、激しい動きが伴う拳法の修行もできない状況で……

 どうにも……だいぶ腕が鈍ってる気がする……

 東堂さんにも会えてないし、退屈だ……

 そして今日、令和2年5月17日の朝―――――

 

 「プレジデント・スペシャル……?」

 

 僕は首をかしげた。

 

 《要はゼロワンの総集編だとさ。この後放送のキラメイジャーもこないだ映画館で見たエピソードZEROだし、いよいよもって東映のストックが底をついたみてぇだな……総集編の割に重要情報さらりとブッ込んでた気もするがな

 《滅亡迅雷.netが勢揃いして、これから面白くなりそうなのに~……それにしてもガルザの声、どこかで聞き覚えがあるでゲソ

 

 データとピースも落胆を隠せないようだ。

 この間から、プリキュアも『再放送』になって、のんもゴキゲンななめだ。こども園は開いているけど、常にマスクを着けてなきゃいけなくて、うがいや手洗いもこまめにしているらしく、めんどくさいとぼやいていた。

 

 「いつまで続くんだろうな……」

 

 つい閉塞感から、ため息と共にそんな言葉が出てしまった。

 このコロナ禍、先が見えなくて、どうにも不安になってしまう。

 師匠は『耐えることが、勝機を見出す手段となることもある。"涓滴(けんてき)岩を穿(うが)つ"が如く……出来ることを万事怠りなく、ただ(つつが)なく行い、暗闇の中でも絶えず光明を待つのだ』―――――と仰っていたけれど……。

 

 《さすがにそればかりはわかんねぇよ。でもさ、ひとつだけ言えることがあるぜ》

 「なに?」

 《『何時かは終わる』、ってコトさ。明けない夜、止まない雨はねぇ。そん時になりゃ、ハメを外して騒げばいい。ガマンした分、楽しみは増えるぜ?》

 

 そうデータに言われ、ハッとした。

 異種格闘技の大会で、会心の一撃を決めた瞬間、それまでつらい修行に耐えてきた苦しみが、一気に解放される感覚―――――

 要はそれと同じなんだ。

 コミューンの中では、ピースがニコニコしながらデータの頭をナデていた。

 

 《データがそんなこと言えるようになるなんて……大きくなったねぇ~……センパイとして嬉しいなぁ~♪よしよし♪》

 《バッ!?……そ、それくらいアタシだってガマンできらぁ!/////……そ、それよりもだ、ほくと!こないだ、りんくがメッセで送ってきてたんだけどよ―――――》

 

 ―――――東堂さん!?

 僕は思わずコミューンをがしりと強く握っていた。

 

 「東堂さんがどうしたの!?―――――まさか……」

 《ちげーって、あんまし強く握んな!……りんくがさ、不思議な夢を見たってさ。割と鮮明に覚えてたから、コミューンのメモアプリに思わず書いちまったんだと。小説風に書いてくれてるから、読んでみっか?》

 「うん―――――」

 

 僕はコミューンのアプリを開いて、東堂さんが見たという『夢』を読ませてもらった。

 

 「………………正直……うらやましい……」

 

 僕も……見られるものなら見てみたかった……!!

 ヒーリングっど❤プリキュアを、仮面ライダーディケイドが『向こう側』に案内して、それに仮面ライダーエグゼイドをはじめとしたドクターライダーたちや、救急戦隊ゴーゴーファイブが協力、さらには仮面ライダーゼロワンとキラメイレッドが見送ってくれるなんて……

 

 「劇場版だ……」

 《ああ……劇場版だな……》

 《スーパーニチアサ大戦ね……》

 

 データとピースが厳かな表情で半笑いを浮かべたまま涙を流している……

 

 《むむむ……ワタシもなんだか『降りて』きた!ほくとくん、ペイントアプリ借りるね!》

 

 ピースが鼻息を荒くしていきなりアプリを起動した。画面の半分が突然仕切られ、データが追いやられる形になった。

 

 《どわっ!?いきなりアプリ開くなっての!?せめーだろーがッ!?……ダメだ、完全に熱中してやがる。こーなりゃイーグレットばりに集中しちまうからなぁ……》

 

 僕はピースの様子を見て、ふと笑みがこぼれた。ピースの活き活きとした姿から、東堂さんが脚本を書く姿が想像できたから、かも。

 

 「データ」

 《んぁ?》

 「少し……散歩でもしようか」

 

 ――――――――――

 

 この近所程度なら、いい気分転換になるかもと、僕はマスクを着けて家を出た。

 いい天気だ。思えば今年のゴールデンウイークは、外出自粛が呼びかけられる中にあって皮肉なほどに天気が良かった。あの日の夕方に見た夕陽は、いつになく綺麗に見えていた。

 

 「耐えて……みようか」

 

 ふと、そんな言葉が口から出ていた。

 

 《ん?》

 「考えてみたんだ。ヒーローはさ、逆境の中にあっても、決して諦めないから……今、『何もしないこと』が、逆転勝利につながるのなら……"心頭滅却、我慢一念"……ってさ」

 《らしいじゃねぇか♪ヒーローがあっさり勝負に勝っちまったら、そりゃ番組として成り立たねぇしな。ノーリスクでライダーキックはブチかませねえもんさ》

 「データ……」

 『そう……だからこそ、『ヒトの想い』は確かな奇跡を起こす―――――』

 

 突然の声に、僕は振り返った。そこには―――――

 

 『―――――僕達を、この世界に形作ったように、ね』

 

 

 ―――――澄み渡る青空のようなボディ。

 

 ―――――闇夜に溶け込む紺青のスーツ。

 

 ―――――ひらりと翻る虹彩のスカート。

 

 

 僕は瞠目し、彼等の名を呼んでいた。

 

 「『蒼の怪盗団』…………!?」

 《アンタら……どうして……甲子園にはちと早いぜ……?》

 

 データも驚きの声を上げる中、ルパンブルーとキュアコスモが言う。

 

 『今回は前回以上に、子供達の『負の感情』が蓄積されてしまっているようでな……残念ながら俺達にも"鉢"が回ってきちまったらしい』

 『今はディエンドに連れられて、流れ旅の途中にゃん……ひかるやララたちも『色々やってる』のに、ワタシだけ『こっち』ってないわよ……"新人研修"も無期限延期にゃん

 『まぁそうぼやかないでくれたまえ……"彼女たち"の応援に向かうゼロワンとキラメイジャーの諸君に、"(はなむけ)"を集められるのが僕達しかいなかっただけのことさ。あの(つかさ)が頭を下げて頼んできたとあれば、断りきれないよ』

 「はなむけって……!?それに、ゼロワンとキラメイジャーが応援って……!?」

 

 まるでこの3人―――――

 『東堂さんの夢』の、その『裏』で動いているような、そんな口振りだ―――――

 まさか―――――

 

 「いったい……何をしているんですか……?」

 『こうやって……"願い"を―――――集めているのさ』

 

 仮面ライダーディエンドが、天空へとすっと右腕を掲げた。その手には、ネオディエンドライバーが握られていた―――――

 銃声とともに光り輝く球体が撃ち出されると、その球体は空中で静止し、そこへ無数の光が集まっていくのが見えた。

 

 『ヒーローが最も、戦う原動力に変えられる"概念"―――――"子供達の応援"を、様々な世界から集めて、彼らの……そして『向こう側』で『見えざる敵』と戦う、『白衣の英雄』たちの力とする……それが僕達の役割さ。……もっとも、士以外に世界から世界に渡れるのが僕だけだった、というのもあるけれどもね』

 『……だからといって俺達まで連れ出すことはないだろう』

 『惑星レインボーにまで押し掛けてくるなんて思わなかったにゃん』

 『それについては……まぁファンサービスの一環と思ってくれたまえ。少なくとも僕一人よりかは、『この画面の向こう』で見てくれている『彼ら』も喜んでくれるだろうしね♪』

 《ここが『こんニチの世界』なことをいいことにメタ発言全開だな……》

 『今回の仕事……流石に止めはしないね?』

 

 ディエンドの問いに、僕は頷いた。

 

 「もちろんです!それが……『テレビの中』で戦えなくなってしまったヒーローたちの力になるなら……もしよければ、僕も―――――」

 『その申し出はありがたいんだが……キミがいるべきは『この世界』だ。幸い『この世界の有り様』は、この世界を形作っている『稚拙な物書きクン』の指先ひとつでいくらでも変えられるからね。キミは、果たすべきコトを果たしたまえ。……もっとも物書きクンは今、『20XX年(心あるロボットの世界)』の観察にご執心みたいだが』

 『本来なら、俺達が出会うのは去年の夏だけだったハズからな』

 『緊急登板は今回限りにしたいにゃん』

 『二次元の世界は、思ったよりも"脆い"世界だからね……さて、この世界の"祈り"も集まったようだ』

 

 ディエンドが、光の玉が変化した一枚のライダーカードを回収すると、3人の背後にオーロラカーテンが現れた。

 

 『僕達は行かなければならない。出来るだけ多くの『二次元世界の祈り』を、『向こう側』にいる『旭日の救急連盟』の諸君に託すためにね』

 『そのための"応援"に、俺達の"後輩"も旅立とうとしている』

 『裏方は裏方らしく、スポットライトを避けながら優雅に歩くにゃん♪』

 『そういうことだ―――――失礼するよ。そしてまた会おう。―――――いつか、『来たるべき未来』で―――――』

 

 コスモとルパンブルーがオーロラの向こうに消えると、最後にディエンドが僕に向かって指鉄砲を向け、オーロラをくぐっていった。

 そして僕の目前から、オーロラカーテンは痕跡を残さず消え失せてしまった。

 

 《……結局言いたいことだけ言って勢いのまま行っちまった感があるな……》

 「東堂さんの見た夢は……たぶん、夢じゃないんだ―――――」

 《だろうな。……さて、アタシ達も"願い"を送らせてもらおうか。もっとも、アタシ達みたいな『二次創作キャラ』は、連中みてぇなメジャーな『公式ヒーロー』と比べりゃ、影響力は蚊の涙だが》

 「……でも、それが確かなチカラになるなら―――――」

 

 僕も、『向こう側』でウイルスと戦う、すべての人々にエールを贈ろう―――――

 

 いつか、すべてが、あるがままの天然自然へと修復されるように―――――

 

 大丈夫。

 ヒトの想いは、必ず奇跡を起こせる。

 

 かつて、数多のヒーローたちが、僕達に見せてくれたように。

 

 

 

 ―――――次は、僕達の番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その夜―――――

 まるで僕の熱望を誰かが聞き入れたかのように―――――

 

 僕は、あまりにも鮮明な夢を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いを終えた仮面ライダーゼロワンの元に、オーロラカーテンが広がった。

 そしてその向こうから現れたのは―――――

 

 『あんたは……この間の……確か、仮面ライダーディケイド!?』

 『……よくない報せがある』

 

 ディケイドは、うつむき加減に切り出した。

 

 『この間、『向こうの世界』に送り出したエグゼイドたちドクターライダーと、救急戦隊ゴーゴーファイブ……そして、ヒーリングっど❤プリキュアだが……どうも苦戦しているらしい』

 『……なんだって……!?そんな……』

 『新型コロナウイルスの影響が、以前よりも多くの世界に広がってしまっている……この世界が"歪み"に侵蝕されるのも、時間の問題だ……どうやら、お前にも『向こう』に行ってもらう必要がありそうだ。まぁ、社長のお前からしてみれば『出張』といったところだな』

 『それってどーゆー……―――――』

 

 ゼロワンの問いには誰も答えず、ディケイドの背後のオーロラカーテンから、5人のヒーローが飛び出し―――――

 否、『押し出されて』きた。

 

 『ぅわぁっ!?』

 『キ、キラメイジャー!?』

 『ゼロワン!……ってことは、まさか……』

 『ウイルスの脅威に、おれ達も一丸にならなければいけない時が来たんだ』

 

 キラメイジャーに続き、オーロラカーテンの向こうから現れるのは―――――

 

 『ジオウ……!』

 『新しく始まった……おれ達平成ライダーが次につないだ、新たな時代……『令和』の礎となるキミたちが、こんな戦いに行かなければならないのは、本当は間違っていること……でも―――――』

 

 本来ならば強いられるはずもない『戦い」へと駆り出さねばならないことをジオウは詫びたが、ゼロワンはこう応えた。

 

 『わかってるって。"誰かが必要としてる"―――――それだけで、オレが戦う理由になる。ヒューマギアと同じなんだ……オレのチカラを……ゼロワンのチカラを望んでる人がいる限り、オレはどこの世界でも戦う……!』

 『オレもだよ、ゼロワン!』

 

 キラメイレッドがゼロワンに頷く。

 

 『オレもコロナに感染してわかったんだ……たくさんの人が、オレを……オレ達を応援してくれてるって。オレも、みんながいなかったら、今こうしてここにいられなかったかもしれない……今度はオレ達が、みんなにチカラを分けてあげる番なんだって……そう思うから』

 『"時代が望む時"―――――そういうことか』

 

 その一言を発したディケイドに、皆の視線が向けられる。

 

 『それって……?』

 『"時代が望む時、仮面ライダーは必ず蘇る"―――――仮面ライダーを知る『ある作家』の言葉だ。もっとも、"今"必要とされてるのは仮面ライダーだけじゃないがな。俺達全員が、"コロナの破壊者"になる時だ―――――だが……』

 『……?オレ達をプリキュア達が向かった世界に連れて行ってくれるんじゃないのか?』

 『それは……』

 

 口を濁すディケイド。訝しむゼロワンとキラメイジャーの面々の前に、ジオウが事情を説明する。

 

 『実はあれから、『現実(向こう)の世界』と『創作(こちら)の世界』との境界が、繋がりにくくなってしまったんだ……たぶん、ウイルスの影響が大きくなったからだと思う……今のままじゃ、ディケイドの力だけで扉は開けない……そこで……これを使う』

 

 ジオウの手から、たくさんの、色とりどりのライドウォッチが浮き上がった。

 

 『このライドウォッチには、コロナウイルスの影響を最小限に抑えるために、おれとディケイドが回った『色々な世界の時』が込められてるんだ』

 『物事には『原因と結果』……即ち『因果』が必ず存在する。この『ライドウォッチ』が『結果』であるなら、その『原因』である『ウイルス』が蔓延している世界とは『因果』で結ばれている。ライドウォッチを介せば、『向こう』に続く扉もこじ開けられるかもしれない』

 『ゼロワン……そしてキラメイジャー……キミ達の世界の『時』も、扉を開くために必要になる……手を出して』

 

 ゼロワンとキラメイレッドが右手を差し出すと、ジオウは2人の右掌に漆黒のブランクウォッチを置いた。一瞬ウォッチから光が放たれ、ゼロワンのウォッチは黄色に、キラメイジャーのウォッチは赤・黄・緑・青・ピンクの5色に染まった。

 ゼロワンがウォッチを見ると、『ANN-SUN0900』『2020.5.10』『35』と、意味深な英数字が刻まれていた。

 同様にキラメイジャーのウォッチにも、『ANN-SUN930』『2020.5.10』『10』という数字があった。

 

 『これで、『日曜朝9時の世界』と『日曜朝9時30分の世界』の時の流れは止まった。ゼロワンの世界では『ZAIAと滅亡迅雷.netの全面対決があった日』、キラメイジャーの世界では『ヨドミヒメ事件を解決した日』から先に、時間が進まなくなる。キミたちがいない間の世界は、一定期間内の出来事がループして繰り返されることになる』

 『言うなれば世界全体が"再放送"される状態になるわけだ』

 『身も蓋もないな……』

 『これで、『向こう側』への扉を開けられるはずだ……ライドウォッチから、"因果のツナガリ"を手繰り寄せる……!』

 

 ゼロワンとキラメイジャーのウォッチも、ふわりと浮かび上がり、ライドウォッチの群れへと入っていき、順々に輝いていく―――――

 

 《"FUGO KEIJI(富豪刑事)"!》

 《"SYOKUGEKI NO SOUMA(食戟のソーマ)"!》

 《"HOUKAGO TEIBOU NISSHI(放課後ていぼう日誌)"!》

 《"DIGIMON ADVENTURE:(デジモンアドベンチャー:)"!》

 《"APPARE RANMAN(天晴爛漫!)"!》

 《"GARUGAKU(ガル学。)"!》

 《"DUEL MASTERS KING(デュエル・マスターズキング)"!》

 《"MYUWCLEDREAMY(ミュークルドリーミー)"!》

 《"MAJOR SECOND(メジャーセカンド)"!》

 《"IDOLLISH SEVEN(アイドリッシュセブン)"!》

 《"KINGDOM(キングダム)"!》

 《"YU-GI-OH SEVENS(遊戯王SEVENS)"!》

 《"KAIKETSU ZORORI(かいけつゾロリ)"!》

 《"GAL TO KYOURYU(ギャルと恐竜)"!》

 《"TOARU KAGAKUNO RAILGUN(とある科学の超電磁砲)"!》

 《"GUNDAM BUILD DiVERS Re:RISE(ガンダムビルドダイバーズRe:RISE)"!》

 《"POCKET MONSTER(ポケットモンスター)"!》

 《"ZOIDS WILD ZERO(ゾイドワイルドZERO)"!》

 《"PUZZ-DRA(パズドラ)"!》

 《"KIRATTO PRY☆CHAN(キラッとプリ☆チャン)"!》

 《"BLACK CLOVER(ブラッククローバー)"!》

 《"BORUTO(BORUTO)"!》

 《"ONE PIECE(ワンピース)"!》

 《"CHIBI MARUKO CHAN(ちびまる子ちゃん)"!》

 《"SOREIKE ANPANMAN(それいけ!アンパンマン)"!》

 《"SAZAE SAN(サザエさん)"!》

 

 《"HEALINGOOD❤PRECURE(ヒーリングっど❤プリキュア)"!》

 

 《"KIRAMEIJER(キラメイジャー)"!》

 

 《"ZERO-ONE(ゼロワン)"!》

 

 コロナウイルスの影響を受けたため、ジオウとディケイドが『時を止めざるを得なかった世界』のライドウォッチが、名乗りを上げるように次々と叫び、巨大な円を形作るように空中に並んだ。

 そして、円の内側の景色が歪み、銀色のオーロラへと変じたのだった。

 

 『ライドウォッチが手繰り寄せてくれた……!』

 『……だが……!まだ足りない……!』

 

 ディケイドの言葉を証明するかのように、ライドウォッチが形作るゲートは、不安定に明滅している。まるで風に揺らされるロウソクの火のように、今にも消滅してしまいそうな―――――

 

 《ATTACK RIDE!―――――YELL(エール)!》

 

 不意に、あらぬ方向から閃光が飛来し、ゲートにぶつかった。その場にいる全員が、一斉にそちらを見る。

 ディケイドが呆れるように言った。

 

 『……相変わらず美味しい所だけを持って行く連中だ……だがいいタイミングだったぞ、"チームコソ泥" 』

 『……誰の頼みで行ったと思ってるんだい。あんまりだなぁ、士』

 

 軽薄そうな声でディケイドの辣弁に応えたのは、ディケイドに似た、全身空色(シアン)の鎧に身を包み、銃を構えた戦士―――――仮面ライダーディエンドだった。

 

 『それと俺達は『蒼の怪盗団』だ。いい加減に名前を覚えろ』

 『あと、ワタシとルパンブルーはディエンドに付き合わされただけにゃん』

 

 不満を口にするルパンブルーとキュアコスモだが、ディエンドは意に介さず。

 

 『まぁ、見送りは賑やかな方が盛り上がるからね。……"彼ら"も、はなむけの言葉を贈りたいそうだ』

 

 ディエンドが視線を促した、その先には。

 

おのれディケイドォォォォォ!!

おのれジオウゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

 崖の上に立つ、くすんだ色のコートを羽織った、メガネの中年男性―――――鳴滝が叫ぶ。

 

 「お前たちのせいで、『再放送』という環、『総集編』という回顧に、数多の世界が囚われてしまった!……だがコロナウイルスに我々が対抗するにはこうするしかないのだ……世界が新たな物語を綴れない以上、時を繰り返さねばその世界は歪んでしまう故にな……!今こそ二次元世界の力を結集し、ウイルスの脅威に立ち向かう時なのだ!それにはライダーも戦隊もプリキュアも、特撮もアニメもゲームもマンガも関係ない!!」

 『……アレ、誰?』

 

 ゼロワンがディケイドに尋ねると、ディケイドはうんざりしたように答えた。

 

 『……タチの悪い"追っかけ"だ』

 『せっかくだから来てもらったんだよ』

 『チッ、余計な事を……』

 

 ディエンドの『お節介』に舌打ちするディケイドを尻目に、鳴滝は続ける。

 

 「日本のサブカルチャー、"クールジャパン"が今こそ一丸となり、ウイルスを駆逐する力となる時なのだ!!そしてそれこそが―――――"彼"のいる時代へと繋がっていく!!」

 『彼―――――……ッ!?』

 

 鳴滝のとなりに現れたその人物を見て、一際たじろいだのは―――――ジオウだった。

 

 『……久しいな、若き日の私よ』

 

 荘厳な男の声だった。全体的なディテールはジオウと同じなれど、金のフレームが散りばめられたその外見からは威圧感すら覚える。そう、彼は―――――

 

 『オーマジオウ……!!』

 『ねぇ、スゴくキラキラしてるけど、アレは……?もしかして、ジオウのお父さんとか?』

 

 無邪気に訊ねるキラメイレッドに、唖然としたままジオウは返す。

 

 『未来の……50年後の、おれだ……』

 『マジで!?』

 『……とんだ大物ゲストだな。未来の『最低最悪の魔王』が、わざわざ何の用だ?』

 『知れたこと。『令和』などという浅い歴史の下に生まれた若造共が、『時代』を背負い戦う覚悟があるかを見定めに来たまでよ。……ゼロワン、そしてキラメイジャーよ、"門"の声に耳を傾けよ!』

 

 オーマジオウが促すと、先ほど"門"へと放たれた光から、多くの『声』が聞こえてくる。

 

 ―――――がんばれ、ゼロワン!

 

 ―――――負けるな、キラメイジャー!

 

 ―――――コロナなんかに負けるか!

 

 ―――――仮面ライダーもスーパー戦隊も、俺達よりもつらい戦いに勝ったんだ!俺達だって……!

 

 ―――――ぼく、まけないよ!また、ゼロワンやキラメイジャーをテレビでおうえんしたいから!

 

 ―――――私達の"心の中のヒーロー"は、いなくなったりしない!

 

 ―――――"その時"が来るまで、みんな待ってるぜ!

 

 

 『この……声は……!?』

 

 唖然とするゼロワンとキラメイジャーの面々に、オーマジオウは厳かに語る。

 

 『お前達が背負って戦う……『令和』という時代を生きていく者達の声だ』

 『士の頼みで、色々な『世界』でキミ達を応援している人々……特に、『子供達』の声援を集めていたのさ。ライドウォッチだけじゃ"門"を開けない時の為の保険として、ね』

 『こんなにもたくさんの子供達が……』

 『オレたちに……力を貸してくれている……!』

 『……若造共よ。お前達に、新たなる時代を担う覚悟があるか!?この時代に生きる者共を……『令和を背負う』覚悟があるか!?』

 

 ゼロワンとキラメイレッドは、迷わず返した。

 

 『もちろんだ!こんなにも、オレたちを必要としてくれている人達が……子供達がいるってわかったんだ……!『時代が望む』限り……オレは……ゼロワンは戦う!!』

 『この時代の小さなキラメキを守って、未来へとつなげる……!みんなが信じてくれる、だからオレ達は磨き上げ、進み続ける!それがオレ達、キラメイジャーだ!!』

 

 その返答に、オーマジオウは頷いた。

 

 『ならば()く往けぃ!!往って時代を繋げて見せろ!下等な病原体如きに蝕まれる時代であるならばそこまでだったということよ!それを(いな)とするならば、お前達が『令和』の礎となれ!『新たなる英雄』になれ!!『新たなる伝説』になれ!!!『令和という時代が望んだ戦士』たちよ!!』

 

 オーマジオウの言葉を合図とするかのように、ゼロワンとキラメイジャーは門へと駆けだした。

 

 『行くぞ!みんなの日常を取り戻すために!』

 『当たり前の日々を……もう一度過ごすために!』

 

 時代が望む限り―――――

 そして、その時代に暮らす、人々が望む限り―――――

 

 彼らは、『テレビの外』でも、戦い続ける―――――

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 『頼んだよ……『令和の戦士たち』……』

 

 祈るように、ジオウがつぶやく。

 

 『どうやら……俺達のやったことは無駄じゃなかったらしい』

 『……え?』

 

 ディケイドがそう言うと、"門"を形作っていたライドウォッチの一つがきらりと輝き、ジオウの手元へと飛来した。薄紫色のそのライドウォッチから、ジオウは何かを感じ取る。

 

 『この世界の時が……また動き出すことを望んでいる……!世界が元に戻りたがっているんだ……!』

 『『日曜朝10時30分の世界』だな。これから少しずつ、こうして『再び動き出す』世界が増えていくだろう……いずれは、『こいつらの世界』もな』

 

 ディケイドが見上げる先には、プリキュア、ゼロワン、キラメイジャー―――――『日曜の朝を守るヒーロー』たちの世界のライドウォッチが浮かんでいた。

 

 『うん―――――ここにあるすべてのウォッチを戻せる時が来るその日まで……俺達も戦うんだ……!行こう、ディケイド。まずはこの世界から……!』

 『フ…………やれやれ……また忙しくなりそうだ』

 

 ジオウとディケイドは、連れ立ってオーロラカーテンの向こうへと消えていく。

 

 彼らの戦いもまた、誰も知らない場所で、これからも―――――

 

 

 

 

 

 

 

 令和2年5月25日―――――

 

 緊急事態宣言、一斉解除




 用語解説

 ワールドライドウォッチ

 仮面ライダージオウが、新型コロナウイルスの影響を食い止めるために、様々な世界の時の流れを一時的に止め、その『止まった時』を封じ込めた、特殊なライドウォッチ。
 ジオウがこれを持っている限り、『ある特定の時間』から、その『世界の時間』が進まないようになる。
 通常のライドウォッチと異なり人物の顔は描かれておらず、ライダーズクレストの代わりにその『世界』を象徴するマーク『ワールドクレスト』が描かれており、通常顔が描いてある面には、その世界の世界軸=『放送時間帯』と止まった時点の時=『放送中断日』、『放送中断時の話数』が数字として刻まれている。
 (例:『ヒーリングっど❤プリキュア』のウォッチには、『ANN-SUN0830』(放送時間帯)、『2020.4.19』(放送中断日)、『12』(放送中断時の話数)が刻まれている)
 ↓のリンクに、今回ディケイドとジオウが集めたウォッチをまとめてありますので参考にしてください。

【挿絵表示】


 ――――――――――

 突貫で書き上げた割に時間がかかって申し訳ありませんでした……
 今回のコロナ禍で放送中断の憂き目にあった作品を調べてまとめていたらこんなにも遅く……
 ただ、遅くなったからこそ本日の『緊急事態宣言解除』の日にアップできるのも事実でして……(単なる偶然
 来週日曜には、全ての世界の先陣を切り、『日曜朝10時30分の世界』の時が再び動き出します。ジオウとディケイドが忙しくなるのはこれからかもしれませんね。

 さて、本日、緊急事態宣言は全面解除されました。
 しかしこれで終わりではありません!新規感染者の方が完全にゼロになったわけではなく、ウイルスの脅威が完全に去ったわけではありません!
 これからも今までの感染対策をなるべく継続し、油断しないように過ごしていきましょう!

 そしていつか、いつも通りの『日曜日の朝』が戻ってくるその日を、心待ちにしましょう……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プリキュアをとりもどせ!!

どーも、こちらではお久し振りの稚拙でございます。
今回の『おやすみ』は前代未聞、まさかのサイバー攻撃による放送中止……

これはプリキュアファンのみならず、アニメファンに対する宣戦布告と受け取りました!!

実は今回の投稿に先立ち、とある方から檄文とも取れるSSをメッセージにて受け取りまして、それに刺激を受けてこんなのを書いてみました。
……本当はオールスターメモリーズの初回、即ち3月の20日に投稿しようと思ってたんですが凝りに凝ってしまった結果今日この時の投稿となった次第でして……

インプリ本編が更新停止中なことへのお詫びも兼ねて、スペシャルなプレゼントもご用意しておりますので、どうぞ最後までお楽しみください!
それでは、送信!!


 おはこんばんちわです!

 読者さんによってはすっっっごくお久しぶりの主人公・東堂りんくです!

 

 その……まずはこの場を借りてお詫びを。

 

 『ロックマンの世界』に続いて『ウマ娘の世界』が『見え』てしまって、その世界の『観測』を始めてしまったばっかりに、この『インストール@プリキュア!』の更新が1年もほったらかしになってしまってごめんなさい!

 『エグゼイド編』がクライマックスなのに、中途半端になっちゃってますけど、いつか必ず再開します!今回はそのお詫び代わりの投稿にもなりますので、よろしければどうぞ最後まで楽しんでください!

 

 …………あ゛~~……腰痛い。持病の腰痛がぁぁ……コレも整形外科の待合室で書いたんだよなぁ……

 

 ……って、作者さんが。……最後のは完全にグチみたいだけどスミマセン……

 

 え~、ごほん!さてみなさん、今までこの『こんニチ』で採り上げてきたプリキュアの本放送が"おやすみ"になった理由ですが……

 マラソン、ゴルフ、甲子園、年末年始、でもってコロナと採り上げてきたけど……

 

「不正アクセスですと~~~!?!?」

 

 まさか……プリキュアをはじめとしたアニメの総本山(りんくさんの主観です)たる『東アニ』様がサイバー攻撃を受けて『デパプリ』が放送延期~~!?

 こ、こんな"おやすみ"、前代未聞!驚天動地!!焼肉定食~~~!!!(イミフ

 

《今週からは『オールスターメモリーズ』を3週に分けて放送するって》

 

 それマ?メモリアさん。

 つまりソレって、先週の『おさらいセレクション』も含めて、デパプリの本放送が4週間、まるまるひと月分吹っ飛ぶってことぢゃないですか。

 お……おのれ……

 

「……おのれディケ……もといハッカァァァァァァ!!貴様のせいでデパプリの世界(?)が破壊されてしまったァァァァァ!!!!(血涙)」

《り、りんく!?》

「……我々はいつになったらキュアヤムヤムに会えるんだーーーーー!!!ちくせう……ちくせう……」

 

 なんかほくとくんが好きそうなキャラになっちゃってサーセンです。

 あ、でもオールスターメモリーズが地上波放送されるってことは、地上波でもあの感動が味わえて、見たことないヒトも見てくれてまたファンが増えるってコトで布教的にはウハウハですねぇ。じゅるり。

 

「それにしても、不正アクセスかぁ……最低1ヶ月も本放送が延期されちゃうってコトは、よっぽどのコトをされたのかな……」

《『ふせーアクセス』って、前にあたしとデータが『どくたーさん』のところにピースを助けに行くためにやった……アレ?》

「う~ん……そればっかりは実際に見たわけじゃないからわかんないけど……多分、アレよ。バグッチャーを潜り込ませて、サーバーのデータを抜き取ったり壊したりとか、的なことをやられたんじゃないかなぁ……まぁふつーのハッカーはバグッチャーなんて持ってないかもだけど」

《!も、もしかして、『でぱぷり』が見れなくなったのって、ジャークウェブのしわざ!?》

「いやいやまさかまさか……いくらなんでも『現実とリンクしてるメタフィクション小説』のこの『インプリ』だからって、まさかそんな……」

《???めたふぃくしょん??》

《メモリア!りんく!事件だ!!》

 

 いきなり、データの声がコミューンから響きわたる。

 

《バグッチャーが街で暴れてる!すぐに来てくれ!》

 

 私とメモリアはぎょっとして顔を合わせる。

 ま、まさか……

 

――――――――――

 

 私がたどり着いた東栄市の中心市街地には、デカデカとしたバグッチャーの巨体が我が物顔で鎮座していた。

 そして、そのバグッチャーの頭の上には、キントレスキーとガメッツを合わせたようなヤツが立っていた。

 

『フハハハハハ!!久しいな、サーバー王国の残党と人間の子供!!貴様たちも変わらぬようで何よりだ!』

「!?あなたは!?」

 

 

 ……………………………………

 …………………………

 ……………………

 …………

 ……

 

 

 

「…………………え~っと……………どちら様でしたっけ?」

『ガクッ……ぬぅ……だが確かに忘れ去られていても仕方あるまい……現実時間で4年3ヶ月ぶりに帰ってきたジャークウェブ四天衆が一人!アラシーザーだッ!!*1

「あぁそーいえばそんなのいたっけ」

《懐かしさすら感じるねぇ》

『そんなのとは何だそんなのとは!!(怒)それにキュアメモリア!貴様まで忘れるとは嘆かわしいな……くくく、まぁいい。今回はこの俺の復帰作戦第一號として、この『収集型バグッチャー』のテストを行わせてもらったが首尾が上々でな!!』

「どういうこと……!?」

 

 その時、全体像が横を向いていたそのバグッチャーがどかどかとこちらに向き直った―――――

 

「…………ゑ゛……!?」

 

 思わず目を疑った。アラシーザーが『収集型』と銘打ったそのバグッチャーは、全体が三角形のガタイで、顔の下の三角形の頂点には縦書きでデカデカと『東〇』の二文字。明らかに、見覚えのあるソレだった。

 

「……そ、その見た目は……!!」

 

 いつの間にか横にいたほくとくんが瞠目している。

 

《なんっつーか……ゼンリョクゼンカイキャノンをブチ込んだらスッゲェ絵になりそうなヤツだな……》

 

 データの呆れるような声も聞こえる。……ゼンリョクゼンカイ?何だソレ。

 

『ククク、気づいたようだな。その通り!!このバグッチャーには、『東アニ』から掠め盗った『デリシャスパーティ❤️プリキュア』の放送に不可欠な重要データが収められているのだ!!』

 

 ……(; ゚Д゚)

 マ?それマ?マジでマジでマ??

 

『このデータさえあれば、『デリシャスパーティ❤️プリキュア』は未来永劫放送されず、プリキュアの歴史は此処に潰える事となるのだ!フハハハハハ!!!!』

「……………………」

 

 ……………………………………

 …………………………

 ……………………

 …………

 ……

 

 

あんたかーーーーーーー!!!!!!

 

 

「きゅっ……?(OxO;)」

 

 ほくとくんが珍妙な表情でこれまた珍妙な鳴き声を発した。

 

《ほらりんく!やっぱりあたしの言ったとーりだったじゃん!》

《例のニュースは知ってはいたが……まさかマジでジャークウェブの仕業だったとはな……》

「ど、どういうこと?データ?」

《のんが言ってたろ?『プリキュアがいきなり再放送になった』ってヤツ。アレ、コイツの仕業。りんくがブチギレっのも当然だな。ほくとも考えてみろよ、『リバイスやドンブラがジャークウェブの不正アクセスのせいで放送できなくなった』って思えば……どうよ?》

「!!おのれジャークウェブ!!ゆ゛る゛さ゛ん゛っ゛!゛!゛」

 

 ほくとくんも私の怒りをわかってくれたようだ。

 自然災害とかウイルスとか、そーいった事情なら仕方がない。でもサイバー攻撃!コレだけは許せない!『サイバー系プリキュア』として、サイバー犯罪許すまじ!!

 

「今回のあなたの行為は、全世界のプリヲタ100億万人への宣戦布告!!よって誇りあるプリキュアヲタクの代表たるこの私!東堂りんくの名において、そのバグッチャーに勝つ!勝って『プリキュアを取り戻す』!!行くよ、みんな!!」

「うん……!」

《がってーん!!》

《沸いてきたぜ……久々にな!!》

 

《《START UP! MATRIX INSTALL!!!》》

「「プリキュア!マトリクスインストーーール!!」」

《CURE-MEMORIA! INSTALL TO LINK!!》

《CURE-DATA! INSTALL TO HOKUTO!!》

《INSTALL COMPLETE!!!》

 

記し、念じる、無限の未来!キュアメモリアル!!

 

渾然一体……涙祓一心!キュアデーティア!!

 

未来へつながる電子の輝き!

 

キラメくふたりは!

 

インストール@プリキュア!!

 

 

 なんか久し振りに変身した気がするのは気のせい……なのかな??

 とにかくっ!

 

『今日の私はアルティメット爆おこクライマックス!!デパプリを待ってる子供たちのためにも、そのバグッチャーだけは逃がさない!全宇宙1兆億万人のプリキュアファンの愛と怒りと哀しみをその身に受けなさぁぁぁぁぁい!!!』

 

 脚本家志望のくせに語彙が崩壊するほど完全に頭にキてたのがマズかった。この時、バグッチャーが両手を『パン!』と合わせる攻撃の合図が目に入っていなかった。

 ジャンプで飛びかかった私とデーティアの両側面から、

 

 ―――――びたぁぁぁぁぁんん!!!

 

 と、青白く輝く巨大な『板』に挟まれてしまった。

 

『ぐ……なんだコレッ……!!??』

『この攻撃って……キュアスパイシーの『ピリッtoサンドプレス』っ……!?まさかこのバグッチャーって!?』

『明察!!『放送データ』をそのまま利用できるのだ!よってこういった攻撃も出来る!!』

『500㌔㌍パーーーーーーンチ!!!』

 

 バグッチャーの右腕がピンク色に輝いたと思うと、強烈な鉄拳が飛んできた。

 

『きゃぁぁっ!?』

『くぅっ!』

『ククク、現在放送中の新鮮なデータを使ったプリキュアの攻撃の味はどうだ!?骨身に染みよう!?』

 

 っつ~……確かにイタい。

 しかもインプリ本編ならともかく、『こんニチ』にしてはガチな部類に入る攻撃じゃない……!

 ―――――考えてみれば、当たり前か。

 この攻撃は元々、キュアプレシャスとキュアスパイシーの―――――

 正真正銘、ホンモノのプリキュアの技なんだから。

 ―――――だから、だから、余計に。

 

『……許せない!』

『メモリアル……』

『災害とか、あらかじめ決められてるスポーツイベントや年末年始のスペシャル番組のためにプリキュアが放送中止になるのは仕方がないよ……!テレビ局にも事情があるし、何よりスポーツイベントやスペシャル番組を楽しみにしてるヒトもいる……災害の時に、正しい情報をいち早く伝えるのも、テレビの役割なんだから……コロナが流行った時だって、あの時は制作現場の人達もどうすればいいかわからなかっただけ……でも!!』

 

 私はバグッチャーの巨体を睨み上げた。

 

『不正アクセスだけは、『誰かが意図的にやった悪事(コト)』!あなたたちの行いは、子供たちやファンの人たちから『笑顔』を取り上げる蛮行(コト)!!だから私は!あなたたちを絶対に許せない!!』

 

 そう宣言すると同時に、私の胸の『イーネドライブ』が眩しい光を放った。

 

 

 ―――――そうだよ!不正アクセスでプリキュアが見れないなんて間違ってる!

 

 ―――――プリキュアだけじゃない!今度の『ワンピース』楽しみにしてたのに!

 

 ―――――『デジモン』の続きどーしてくれんだ!!

 

 ―――――『ダイの大冒険』、今度こそ最後までアニメ化してほしいのにこのタイミングでそれはないだろ!!

 

 ―――――『ドラゴンボール』の映画もだ!絶対許さねぇ!!

 

 

 

『こ、これって……!?』

『僕にも聞こえた……ファンの人たちの声が……!』

 

 そうだ。

 今回の件で悔しい思いをしてるのは、何もプリキュアファンの人たちだけじゃない。

 『東アニ』のアニメーターさんたちがつくるアニメを楽しみにしていた人たちの嘆きと悲しみの声が、イーネドライブを通して伝わって、そして―――――

 

 

 ―――――その想いが、今、『力』になって、『カタチ』になる。

 

 

 私の両手の甲から、5つの光の球体が飛び出したと思うと、私とほくとくんの手に落ちてきた。

 

『これは……!』

 

 

〈P51 CURE-YELL〉

 

〈P56 CURE-STAR〉

 

〈P61 CURE-GRACE〉

 

〈P65 CURE-SUMMER〉

 

〈P70 CURE-PRECIOUS〉

 

 

 まだ、私達がまだ見ぬ未来で手に入れるはずの、5枚のキュアチップがそこに顕現していた……!

 

《『あの時』……サーバー王国に来てなかったプリキュア達のチップ……!》

《ヘッ、『先行登場』は東〇の得意ワザってか!だったら使わせてもらおうぜ、ほくと!りんく!》

 

 データの言葉に頷いて、私とデーティアは、託されたその力をネットコミューンのスロットに挿し込んだ。

 

キュアチップ、『キュアスター』!キュアット、イーーーーン!!

 

宇宙(ソラ)に輝く、キラキラ星!キュアスター!》

《CURE-STAR! INSTALL TO MEMORIAL! INSTALL COMPLETE!!》

 

キュアチップ、『キュアグレース』!キュアっと、変身!!

 

《重なるふたつの花!キュアグレース!『ラビ!』》

《CURE-GRACE! INSTALL TO DATEAR! INSTALL COMPLETE!!》

 

キュアメモリアル、“スタースタイル”だよ!!

 

(セイ)(メイ)(カン)()

キュアデーティア、“グレーススタイル”!!

 

 

 変身、出来た!

 ネットの中のファンの人たちの想いがカタチになった、超限定版、ここだけのレジェンドインストール!

 案の定……というか当然というか、普通のレジェンドインストールと違って、レジェンドプリキュアたちの心はこのチップには宿っていない。『心の部屋』も、メモリアの横に増えることは無く、そのまま。あくまでも『力』だけのモノだ。

 それでも、ジャークウェブからデパプリを取り戻すために、この力、使わせてもらいます!

 

『その姿……!貴様等、どこからそのチップを!?』

『さぁね。強いて言うなら……』

『奇跡!……わかりやすいでしょ♪』

『理解不能だぁぁぁぁ!!!』

 

 アラシーザーの怒鳴り声と同時に、バグッチャーが両手から『△』と『〇』の形をした光線を連続発射する。私とデーティアは直線的なその攻撃を回避して、同時に駆けだした。

 

『跳ぶよ、メモリア!』

《おっけー!スターの得意ワザ、いっくよーー!!》

 

 両手から、私は『☆』型のエネルギー体を繰り出すと、それを足場に思い切り蹴り跳んだ。空に撃ち出された砲弾のように、私はビルよりも高く跳ぶ。

 

プリキュア!スタァァァパァァァァンチッッッ!!!

 

 振りかぶった私の右手に『☆』が宿り、バグッチャーの真正面を捉える。会心の感触!!

 バグッチャーがワイヤーアクションのように真っ直ぐ吹っ飛ぶ様を見てから、もう一度『☆』型のエネルギーを張って、追いかけるように地面と水平に跳べば―――――

 

《追いつけるんだよね!》

『そーゆーこと!!』

 

 吹っ飛んできたバグッチャーに先回りして、さらに力を溜めて―――――

 

『キラやば、いっぱぁぁぁぁぁつ!!』

 

 スターパンチをアッパーで繰り出して、バグッチャーを今度は上に吹っ飛ばした。く~っ、この感触、たまんない!

 

『なんの!!撃ち返せバグッチャー!』

『デーーーリパーーーー!!』

 

 空中で受け身を取ったバグッチャーが、三角形型のリング光線を撃ちかける。するとそこへ―――――

 

光 波 肉 球 障 壁(プニシールド) ! !

 

 ピンク色の肉球型のバリア!これって!

 

『……『生命の輝き』……それがカタチになったモノ』

 

 ヒーリングステッキを構えた、グレーススタイルのデーティアが割り込んできてた!

 

『好きなアニメを見たり、好きなキャラクターを応援したりすること、即ち心の癒し!心身ともに健康でなければ、元気に生きてるとは言えないんだ!!人の心から『楽しみ』を……『生きる意味』を奪うお前たちを、僕は許さない!!』

《ほくとの『命』!バッチリ見な!》

 

  〈KAMEN RIDER JUN〉

⇒ 〈KAMEN RIDER GHOST〉

  〈KAMEN RIDER SPECTER〉

 

《BURN THE LIFE! INHERITANCE THE SOUL!!》

 

『みんなのために……命、燃やすぜ!!』

 

 グレーススタイルのデーティアは両手を広げるような独特の構えを取ったと思うと、まるで陰陽師のように印を組んだ。

 

《ダイカイガン!オレ!!》

《オ メ ガ ド ラ イ ブ ! ! !》

 

 デーティアの背後にピンク色の巨大な『目』のような魔法陣が浮かび上がったと思うと、そこから右脚に光が集中していく。『力』を一点に集中させたデーティアは高く跳び上がって―――――

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!』

 

 見事なライダーキックが、一直線にバグッチャーに突き刺さる。爆音のような重低音が響き渡って、100メートルは吹っ飛んだように見える。

 

『次だ、行くぞ!!』

《見せてやるぜ、14歳、真夏の全力全開!!》

 

キュアチップ、『キュアサマー』!キュアっと―――――

 

チ ェ ン ジ 全 開 ! !

 

『え!?チェンジ!?変身じゃないの!?』

『前に見せてもらったキュアサマー……パッと浮かんだのは、ライダーじゃなくって、『こっち』だから!』

 

《ときめく常夏!キュアサマー!!》

《CURE-SUMMER! INSTALL TO DATEAR! INSTALL COMPLETE!!》

 

(ゼン)(リョク)(コウ)()

キュアデーティア、“サマースタイル”!!

 

 をを!!デーティアがセパレートハイウェストの常夏スタイルに!!

 最初の頃はほくとくん、ああいうのハズカシがってたのに、もうすっかり立派なプリキュアに―――――

 

『…………………………』

 

 あ、顔がこわばってる……サマーって割と露出多いからねぇ……

 

《今更ハズカシがんな!固まってる場合か!?》

『……ぐ、わかってる!!だからこそ!!全力全開だぁぁぁ!!!!!』

 

 半ばヤケクソ気味にデーティアは叫ぶと、起き上がって体勢を立て直すバグッチャーに真正面からダッシュして―――――

 

『おりゃぁぁぁッッ!!』

 

 思いっきり振りかぶった右のパンチがバグッチャーの胴体に炸裂する。いつものデーティアらしいキレイなパンチじゃなくって、力のこもった、荒々しいパンチだ。

 

『今やりたいことを今、力の限りに、命の限りにがんばる!それが『全力全開』!その機会を奪うものを、僕たちは討つ!!』

 

 そうだ。

 テレビの前で、好きなアニメを見て、好きなキャラクターを声を上げて応援する―――――

 これって、『トロピカってる』って言える。

 今、はっきりわかった……!

 

 

 『トロピカる=全力全開』なんだ!!

 

 

《ほくと!ぶつけろ!!》

『よぅし……!』

 

 デーティアはハートルージュロッドを構え、その先端をバグッチャーへと向けた。

 

『全力……全開!!』

 

スゥッパーーーゼンカイタイッッ(S U P E R Z E N K A I T I M E)!!!》

 

 格闘技イベントで聞こえてきそうな超ハイテンションの女性のアナウンスがこだまして、軽快なリズムの待機音が流れ出すとともに、太陽の形をした巨大なエネルギー弾が、ロッドの先に形成された。

 

ゼンカイフィニッシュバスター!!

 

 ロッドから放たれた太陽がバグッチャーにぶつかって、さらにその上から―――――

 

《ダ イ ゼ ン カ イ ! !》

 

 もう一発おまけとばかりに、バグッチャーへと太陽が沈む。爆発の向こう側に、ゆらりと起き上がろうとするバグッチャーの影。しぶとい!

 

『よぅし、デーティアに負けてらんないね!次はコレ!『オールスターメモリーズ』のヒロイン!輝く未来を抱きしめるよ!』

《めちょっく~~~!!!》

 

 あはは、メモリアったらはしゃいじゃってる♪気持ちはわかるよ、だって少しの間だけだけど、まだ見ぬプリキュア達の力を借りられるんだから!

 

キュアチップ、『キュアエール』!キュアット、イン!!

 

《輝く未来を……抱きしめて!!みんなを応援!元気のプリキュア、キュアエール!》

《CURE-YELL! INSTALL TO MEMORIAL! INSTALL COMPLETE!!》

 

キュアメモリアル、“エールスタイル”!!

 

 これこれ!この『ぱっつんヘアー』!これがエールのトレードマーク!

 前にわざとこの前髪にした時、むぎぽんやそらりんはともかくとしてクラスのみんなから『前髪切りすぎたの?』総ツッコミを受けたのが懐かしいなぁ……

 

『感傷に浸っている場合かぁぁ!!』

『プレーーーース!!!』

 

 私の両側に青くて四角いエネルギーのカタマリが現れるのが見えた。瞬間、私は真上に大きく跳んだ。

 

『たかが日曜朝の30分、たったそれだけの時間のために何故貴様等はそこまで戦える!?寝ている輩も多いだろうに!!』

 

 

 ―――――ぶちっ。

 

 

《あ》

 

 背後でびたーーーーん!!と、青いエネルギー同士がぶつかる音を後目に着地した私は、聞いてはならない単語を耳にしてしまった。

 同時に、私の中で"ナニカ"が切れる音、も。

 

『…………今、何て言った?』

『ぬ?』

『今……『たかが日曜朝の30分』って言いました?』

『ふん、言ったがそれがどうした!?』

《あ~あ……りんくの"じらい"踏んじゃったね。あたしもう知~らないっ》

『あなたね……』

 

 私は息をすぅっと思いっっっきり吸い込んで―――――

 

『その30分のアニメを作るために、どれだけの人が頑張ってるのか知らないからそんなこと言えるのよ!!いい!?どんなストーリーかを大まかに決める人、ストーリーを書く脚本家さん、小物や武器のデザインを考える人、画面割りやタイミングをコンテにして描く人、背景を描く人、キャラクターを描く人、描いた絵をつなげてアニメにする人、最後の仕上げに色を塗る人、音楽を作る人、演奏する人、録音する人、音楽を選んでどこにどう使うかを決める人、オープニングやエンディングや挿入歌を作ったり歌ったりする人、キャラクターに魂を吹き込む声優さんとその所属事務所、そしてその演技に細かく指示をする人、録音スタジオの人、CGでアニメを作る人、部署と部署の間の調整をする人、宣伝をする人、公式サイトを作る人、オモチャやグッズを作るメーカーさんの人、それを売るお店の人、コミカライズを描くマンガ家の先生、そのマンガやアニメの最新情報を載せてる雑誌の出版社の人、イベントの制作や進行をする人、それからアニメのいろんな所を取り仕切ってる監督さん、そして!そんなアニメを作る場所と機材と道具を提供してくれている制作会社さんとそのすべての社員さんと、放送してくれてるテレビ局の人たち、配信してくれてる動画配信サイトの人たち!!……30分のアニメを作るのにね、いったいどれだけの人の力と時間とお金がかかってると思ってるのよ!!!だからこそ私たちは『全力』なの!だから私たちは、一週間を楽しみにして生きていられるの!『全力』で作ってくれたアニメを、『全力』で楽しんで、応援することが、アニメを作ってくれた人たちへのサイコーの『応援』になるんだから!!作る人も、私たち見る人も、その30分に命懸けてるんだからね!!!!『たかが』なんて言うな!!人の夢を……人の全力を―――――』

 

人の『命』を、(わら)うな!!!

 

『世界は『仕事』で回ってる!そりゃアニメなんて、見ないヒトは見ないから必ず必要じゃないかもだけど、それでも!"それ"に全力を傾けてる人がいる限り、やっぱり、"それ"は必要なんだよ!"それ"を嗤って、貶して、バカにするあなたたちジャークウェブは、やっぱり許しちゃおけない!!』

 

 ―――――一気にまくしたてた。

 『インプリ』史上最長の長台詞、読みにくかったらゴメンナサイ……

 

『さぁ……行くよ!』

 

 身体の中に、パワーがみなぎる。これがはぐプリの、『アスパワワ』の輝き!

 その輝きを、取り出した『プリハート』に込める!

 両手首の黄色いシュシュが、ふわりと私の両手にかぶさってポンポンに変わる。

 

『フレ!フレ!!』

 

 

ハーーーーーーート!

フォーーーーーーーー!

 

ユーーーーーーーーーーーーッッ!!

 

 

 空間に大きく描いたハートマークを、私は思い切り飛ばした。何かがはじけるような音とともに、巨大なピンク色のハートマークの形になったアスパワワの光が、バグッチャーに直撃する。けど……!

 

『ぬ゛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!だがまだだ!まだ終わらぬ!!』

『ギギギギギギギギッギギ……!!ガァァァァァッッッッ!!!』

 

 まだ耐える!!

 ……そりゃそうか、だってこのバグッチャーの中身は正真正銘の現役プリキュア(の放送データ)、補正がかかりまくってるに違いない。

 

『メモリアル……次は僕が行く』

 

 私の横に、すっとデーティアが並び立つ。

 

『デーティア……』

『"応援は力"―――――僕の心にも、響いたよ。だから、僕も伝える……!本当に、大切にするべきモノを!!』

《往こうぜ……!"天の道"をさ!》

 

キュアチップ、『キュアプレシャス』!キュアっと……変身!!

 

《あつあつごはんでみなぎるパワー!キュアプレシャス!》

《CURE-PRECIOUS! INSTALL TO DATEAR! INSTALL COMPLETE!!》

 

(マン)(ハン)(マイ)(ユイ)

キュアデーティア、“プレシャススタイル”!!

 

 え!?えええ!?!?

 デーティアが最初にプレシャスですか!?

 しかも両足をキレイに揃えた、モデルさんのような直立姿勢!ちょっとゆいちゃんとキャラが違うよーな……

 

『…………………………』

 

 その時デーティアはゆっくりと、右手の人差し指をかかげて、天を指さした。私はそれにつられるように指の先を見たけど、青空がただ広がるだけ。

 

『??何かあったの?UFO?』

『…………おばあちゃんが言っていた……』

 

 お、おばあちゃん?急に何言いだすのほくとくん?

 前にほくとくんの家にお邪魔した時、おじいちゃんはいたけどおばあちゃんはいなかったよーな……

 

人のモノを盗む奴は、もっと大事なモノを無くす……本当に大切なモノ―――――それは『心』だ……悪事を重ねるたびに、心は闇に染まっていく……!心を蝕むお前たちを……僕は……いや、僕たちは許さない!!』

 

 

  〈MASKED RIDER HABATAKI〉

⇒ 〈MASKED RIDER KABUTO〉

  〈MASKED RIDER GATTACK〉

 

《GO TO NEXT LEVEL! CLOCK UP TO FUTURE!!》

 

 

ク ロ ッ ク ア ッ プ

《CLOCK UP!!》

 

 瞬間、目の前からプレシャススタイルのデーティアがかき消えた。

 

『ふぇ!?消えた!?ホンモノのプレシャスにこんな技なかったけど!?』

 

 そうツッコんだとたん、デーティアはバグッチャーの背後にスッと現れた。何コレ!?瞬間移動!?

 

『小癪な!追え、バグッチャー!』

『無駄だよ』

 

 振り向きながらのパンチも、一瞬で消えるデーティアには当たらない。それどころか、デーティアからの見えない攻撃が何度もヒットして、バグッチャーがのけぞる。

 

 

1(ONE)

 

 

 ん?今何か聞こえた?

 

 

2(TWO)

 

 

 気のせいじゃない、英語の音声が聞こえた!

 

 

3(THREE)

 

 

 その瞬間、バグッチャーがまるでワイヤーアクションのように一直線に吹っ飛んで、その『吹っ飛ぶ先』に、背中を向けているデーティアが現れた。

 

 

ラ イ ダ ー 、 キ ッ ク

《RIDER KICK!!》

 

 

 振り向きざまに、まるで稲穂のような黄金色の光をまとった上段回し蹴りがデーティアから放たれて、バグッチャーのおなかへと斬り裂くように命中した。まともに喰らったバグッチャーはさっき吹っ飛んできた道を折り返すように吹っ飛んで、今度は通りの向こう側のビルの側壁に激突して止まった。

 

『い、今のがライダーキック!?その、アレだよね?ライダーキックってデパプリの6話でスパイシーがやってたよーな跳び蹴り……じゃなかったっけ??』

 

 私の先入観はコレだ。フレプリのみんなの『プリキュアキック』みたいなあれを想像してたけど、今のって??

 

『……”仮面ライダーカブト”のライダーキックさ』

 

 私の隣に、一瞬でデーティアが戻ってきた。

 

『キュアプレシャスも、カブト―――――天道総司さんのように、おばあちゃんが言った言葉を大切にしてる子、って聞いたからね』

《このネタは必然だぜ?》

『あぁ、それで!』

 

 ナットク!だからネットでも割と仮面ライダーカブトに引っ掛けたネタをたくさん見かけたわけね。

 ……あれ?でも結局どーしてライダーキックがフツーの跳び蹴りじゃないの??その辺りをあとで詳しく―――――

 

『貴様らぁぁぁ!!やり放題やってくれおって~~!!』

『どっちがよ!!』

 

 私は即座にアラシーザーにツッコみ返した。

 

『世界中のみんなが必要な『大切なモノ』を奪って、ただで済むと思わないことね!』

『メモリアル、今度はキミが!』

 

 デーティアが元の姿に戻って、私にプレシャスのチップを差し出してくれた。

 

『カッコよく、キメてよ!』

『……OK!』

 

キュアチップ、『キュアプレシャス』!キュアット、イーーーン!!

 

《あつあつごはんでみなぎるパワー!キュアプレシャス!》

《CURE-PRECIOUS! INSTALL TO MEMORIAL! INSTALL COMPLETE!!》

 

キュアメモリアル、“プレシャススタイル”だよ!!

 

『私は……絶対に取り戻す!私達がプリキュアを見られるように……デパプリの『次のおはなし』に出会えるように!日曜の朝、テレビの前で、笑顔になってくれるみんなのために!プリキュアを!おなかいっぱい楽しんで!!デリシャスマイルになりたいから!!』

 

 だから、私は戦う!

 『”プリキュアを取り戻す”ために戦うプリキュア』―――――

 それが私達、『インストール@プリキュア』なんだ!

 

『行くよ、メモリア!』

《おっけー!!》

 

 全身に力を込めて、私は駆けだした。

 

『なんの!迎え撃て、バクッチャー!』

『500㌔㌍―――――』

 

 バクッチャーが拳を振りかぶるのが見えた。でもね、その技は『魂』入ってないよ!

 

『プリキュアの”技”ってのはね―――――ハートがこもってるんだから!!』

 

 右腕に力を込めると、強烈なピンクの光が集まる。間合いに入って、しっかり大地を踏みしめて、まっすぐにバグッチャーを捉えて―――――

 

 

500キロカロリー!パァァァァァンチッッ!!!

 

 

 ―――――ダン!!(1カメ、右から)

 

 ―――――ダン!!(2カメ、真上から)

 

 ―――――ダンンンンン!!!(3カメ、メモリアルの真後ろから)

 

 

 インパクトが、相手の体を衝き抜ける感覚!

 ほくとくんが前に言ってた、『勝ち』の感覚!

 キリモミ回転しながらバグッチャーが吹っ飛んで、肩の上に乗っていたアラシーザーがジャンプして離脱するのが見えた。

 

『さ、キメよっか!』

《うん!おなかいっぱい、パワー全開だね!》

 

 左腕のハートキュアウォッチに力を込めて、目の前に大きく三角形を描く。

 

プリキュア!プレシャストライアングル!!

 

 描いた三角形に両手をかざすと、たくさんのピンク色の『△』が、まるでトンネルのように突き進んで、バグッチャーを包み込んだ。

 

 ―――――手ごたえ、アリ!

 

 確信した私は、くるりと振り返って、両掌を合わせて。

 

 

ごちそうさまでした!

 

 

『デリーーーートォォォォォォ……………………』

 

 バグッチャーの全身が光になって、まるで霧のように散っていくのが見えた。

 

『くぅぅ……!!久々に出番があったと思ったらやはりこれか!この借りはいずれ本編で返してくれる!さらばだ!!』

 

 捨て台詞を残して、アラシーザーもどこかへと消えていった。

 ってか、次に本編でコイツが来るのはいつになるのやら。その時まで、さらば、アラシーザーよ。

 

『!メモリアル、見て!』

 

 デーティアが指差す先には、さっきまでバグッチャーがいた場所に、ピンク色に輝く光の玉が、ふわふわと浮かんでいた。

 

『あれって……??』

 

 

 

 ――――――――――ありがとう

 

 

 

『ふぇ?……あ!』

 

 何もしてないのに、勝手に元の姿に戻ったと思ったら、5枚のキュアチップがピンクの光の玉へと吸い込まれるように飛んでいって、その光の玉も、空高く飛び上がり、青空の向こうへと消えた。

 

『今のは……?』

『デパプリの放送に必要なデータ……かもね。東アニさんに返してあげないといけなかったんだけど……でも、きっと……』

 

 さっきのが本当に不正アクセスで抜き取られたデータだったとしたら、きっと、『帰るべき場所に』帰っていったんじゃ、ないかな。

 だってさっき飛んで行った方向、東アニのある大泉の方向だったもん。

 

『私たちが出来ることはここまで。だから、あとは……』

 

 私たちに出来ることは、楽しみに待つだけ。

 いつか、デパプリの『次のおはなし』が、テレビで見ることのできる日まで―――――

 

――――――――――

 

 家に帰ってきた私がパソコンでネットを開くと、ニュースサイトの見出しにこんな記事が上がっていた。

 

 

 

〈東〇アニメーション、4月16日から新作の放映を再開〉

 

 

 

『を、ををを…………をををををををををををををを!!!!!!!!』

《どしたの?え!?ほんと!?ってことは……》

『うん!うん!!そうだよメモリア!』

 

 ……本当のところは、何がどうなってこんなことになったのか、これを書いてる稚拙さんもわからないんだよね。

 でも、大好きなモノが見られなくなることがこんなにも辛くて、待ち遠しくって。

 それがもう一度見られるようになるコトって、こんなに『キュアっキュア』なコトなんだ!

 プリキュアを……ううん、東アニの人たちがつくるアニメを、ファンのみんなはずっと待ってたんだから!

 

 日曜の朝8時30分は、テレビの前に全員集合!

 

 

 ―――――デリシャスパーティ♥プリキュアが、帰ってくるよ!

*1
アラシーザーが最後に登場した回『嗤う蜘蛛皇』の投稿は2018年1月5日。りんくさん&メモリアとアラシーザーが直接対面した最後の回となると、『一心同体!ふたり"で"プリキュア!』。この回の投稿は2017年1月27日となりさらに1年ほど前になる。アラシーザーよ、4年以上も放置して、正直、スマンカッタ。by稚拙




久々にりんくさんを書いたらビミョーにギャル寄りになったでござる。

さて、最後までお読みくださった皆様に、本編が更新停止中なことへのお詫びも兼ねまして、稚拙からのせめてものプレゼント……

『仮面ライダーエグゼイド編』が終わった後の新章の予告を初公開です!どうぞ!!

――――――――――



「あ……あんた達は……!!」


「ついに姿を現しやがったか……サーバー王国の……

"お師さん"のカタキってヤツがよォ……!!」



「まったく……四天将とか御大層な名前持ってる割に、こんなザコも潰せねえんだなァ……」



「実力。猜疑」



「サーバー王国の残りカス……キッチリと引導を渡してやんよ―――――……」



侵蝕の戦士ィッ!キュアウィルス!!


掌握の戦士―――――キュアハック



ジャークウェブ@バグキュア……!




インストール@プリキュア!
 
―――――新章予告編―――――
 



「今日は命日なんよ…………わぁの、おかーちゃんの……」


「その……アタシのせいかも、って……ほくとが、お菓子作り苦手になったのって……」


「だからワタシは……"ジェミニ"と名付けられたのですよ」


内藤雷針(ないとうらいしん)。あー、アレ?増子サンは知ってるっしょ?同僚っての?」



Hidden Code:"Amazing Grace"



銀河雷撃大斬圏(ギンガライゲキダイザンケン)―――――『逸輝斗扇(イッキトウセン)羽衣丸(ハゴロモマル)』!!』


「ほくと様の御首級(ミシルシ)をお受け取りに、はるばるお伺い致しましたの❤」


『コイツをバグッチャーと一緒だと思うなよ?』

《悪趣味極まりねぇこってまぁ……》


「電調神木(かみき)班!!特攻(ブッコ)めやあぁぁァァァァ!!!!」


《コイツぁ……"入れ子"か!!》

『足止め、ってことか……"本命"を逃がすための……!』


(もしかしてむぎぽん……ほくとくんのこと……)



『呆気ねーなァー。何ァにがプリキュアだ。ザコじゃねーか』

『惰弱。脆弱。貧弱。最弱』


「メモリア……私……どうしたらいいのか、わかんなくなっちゃったよ……

わかんないよぉ……!」


「僕たちはこんなにも………………無力だったのか…………」




「未熟!未熟!!あまりに未熟ッ!!!だからお前はアホなのだぁぁぁ!!!!!」


「こんなモンだったのか?…………お前たちの覚悟ってのは」


「もう、電池も切れてる昔のだけど…………後生持ってるのも変だよね……」


『まさか『サブ垢』で"入れちゃう"なんて……意外だけど……』


「まけないでっ!!おねがいプリキュアぁっ!たってよ!がんばってぇぇ!!!」


『私たち、プリキュアだもん……奇跡の一つぐらい、自力で起こせなきゃね……!!』


「………………生キテルッテ感ジガスル…………」


『累積、イーネルギー、計測、不能』


《ふんぬらば~~~~!!》


『ウェェェェェェェェェェイ!!!!!!!』





「『アマテラス』……大気圏離脱……追跡は―――――不可能です―――――」


「どうすんだよ……どうしてくれんだよ―――――プリキュアァッ!?」



『ちょっと宇宙(そこ)まで行ってくる!』


『『『『『5つの光が導く未来!輝け!スマイルプリキュア!!』』』』』



『閉じこもってちゃダメ!あなたのお父さんは、そんなこと望んでない!!』


『マジウケるぜ!!ふたり揃って万策尽きたかァ?―――――

立ったまま意識切断(シャットダウン)してやがらァ』



そして―――――
 


『"3人目"の……プリキュア見習い……!』


『予想外の……"4人目"だね』



ハートにふわっと♪癒しの歌声♪



世界を変える、叡智の天啓!
 


未来へつながる電子の輝き!

キラメく『4人』は!


インストール@プリキュア!!!!





『ンだよソレ…………聞いてねェぞォォォォォ!?!?』





インストール@プリキュア!
 
―――バグキュア編―――
 

―――――鋭意執筆中―――――









――――――――――きこえる……。






『あなた』は……だあれ?――――――――――



――――――――――

この予告、以前の『電調編』の予告ほど、鵜呑みにしない方がよろしいかと思います。
なにしろ、ミスリードをガンガン狙って意図的にシャッフルさせていただいたセリフや、『バグキュア編』以後の展開から持ってきたセリフもありますので……。

さて執筆の最中、4月16日分放送から、東映アニメーション様の新作放送が再開、デパプリも17日に第6話を放送、という朗報も入りまして、本編のラストも投稿直前にちょろっと変えましたものです。
……そして運営様の規約『実在の企業~』に引っかかるかもと思いまして本文中の表記を全部伏せ字や略称にするのも直前であわててやりました(汗

今日の放送で前回のデパプリをきっちりおさらいして、来週の新作放送に備えましょう!

それでは、よい一週間をお過ごしください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。