答えの表と裏 (Y I)
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プロローグ

ワールドトリガーにハマってしまい書き上げました!


あらすじでそれぽっいこと書いていますが、この作品が処女作です (笑)

誤字脱字が多発すると思いますが、暖かい目で見守ってください。



「なんなんだよ、こいつら…!」

 

 少年は一人呟きながら、全力で走っていた。

 

 空には黒い穴、地上にはそこから出てきた白い生き物――少年はまだ知らないが、それは白い生き物ではなく『トリオン兵』と呼ばれる兵器。――が人間を襲い、建物を破壊していく。

 その光景は少年の常識内には存在しないものだった。いや、見たことならある。しかし、それはアニメやゲームの中での話だ。なぜ、どうやって、など疑問は山程あるが答えはでない。

 

 しかし、『トリオン兵』を見た瞬間に勝てないという答えだけは出ていた。

 

 それからは周りで建物が壊されようが、人が殺されようが無視して化け物から逃げていた。

 途中「姉さんが死んじゃう!」と大泣きする学ランを着た男の人もいた。家族が埋もれてしまっているのか、壊れた家の瓦礫を素手でどかす女の子もいた。それらを見ても走ることは止めない。止めてしまったらあの化け物に捕まるから。死んでたまるか、その一心で走り続けた。

 

 どれくらい走ったかわからない。それでも目的地は決まっていた。とにかく家を目指した。そうすれば父さん、母さんがいるはずだから。

 そこの曲がり角を曲がれば家だ、というときに後ろからまたしてもあの化け物が現れた。あれに捕まったら終わりだ。そう思いピッチを上げようとした瞬間、

 

 

 

 目の前の女性が少年を化け物の方へ突き飛ばした。

 

 

 え?なんで?

 

 

 そんなこと自分でも答えは分かっていた。それでも信じたくはなかったが、女性が逃げながら嘲笑かと思われるほど歪んだ笑みを浮かべ、

 

 

 

「私が逃げるための身代わりになって」

 

 

 そう言ったのだ。

 

 やっぱりそうか、分かってはいた。だからといって取り乱さないわけがない。すぐ後ろにはあの化け物がいるのだ。逃げるために考えるが答えはでない。つまり助からない。

 それがわかった瞬間なにもかもどうでもよくなり、絶体絶命とは正にこの状況のことか、なんて余計なことを考えていた。

 ああ、ここで死んじゃうのか。やだなぁ。死にたくないなぁ。

 そう思っている内に、化け物は目の前まで迫り、鎌の様なものを振りかぶっていた。少年は目を閉じ、あとは死ぬだけと諦め、殺されるのを待つだけだった。

 

 

 しかし、いつまで経っても衝撃や痛みはこない。少年が不思議に思い目をゆっくりと開けると、

 

 

 

「……え」

 

 

 状況がまったくつかめなかった。

 目の前には少年を庇うようにして、鎌の様なものが突き刺さり、腹に穴が開いている男性と女性がいた。

 

 動揺して庇ったのが誰だか分からなかったが、その二人は少年の両親だった。

 

 両親と分かり助けようとするが、それより先に化け物に両親と共に近くの家に吹き飛ばされ瓦礫の下敷きになってしまった。

 

 衝撃に耐え、すぐさま両親を助けなきゃと思ったが、答えは既に出ている。それでも瓦礫をどかし、両親に待ってて今助けを呼ぶからと言い、その答えを認めない、違う、と否定するかのように行動した。

 しかし、少年の父親は少年の服を弱々しく引っ張り首を左右に振った。

 

「父さんも……母さんも……もう助から……ない……よ」

 

 父親の隣にいる少年の母親も首を縦に振る。

 それでも少年は止めない。そんなことはない。認めない。父親の言葉も、自身の出した答えも否定するかの様に瓦礫をどかす。

 

「お前……だけでも……生きて……くれ」

 

「!……1人でなんか嫌だ!」

 

 少年は学校でいじめられている。それでも両親が支えとなり今まで過ごしてきた。しかし、今その拠り所がなくなってしまうのかもしれないのだ。

 助からないと分かっていても、簡単には諦められない。少年にとって両親は心の支えだったから。

 

 

 

「いい加減に……しろ!! お前だけでも……逃げるんだ!!」

 

 少年は生まれて初めて父親に怒鳴られた。

 優しかった父親がここまで声を張り上げたことは、今まで見たことはなかったので気圧されてしまった。

 それでも「でも、でも…」と迷っている少年を、父親は抱き寄せる。

 

「頼む……お前だけでも……生きてくれれば……それで……いい」

 

「――ッ」

 

 少年は首だけ動かし母親を見ると、もう動けないのか横になった状態から動いていない。

 目が合うと、もう喋ることもできないのか、母親は微笑むだけだった。喋らずとも、あなただけでも逃げていいのよと言われている気がした。

 

 少年は涙が止まらなかった。

 両親と一生離ればれになってしまう悲しさ、両親を見捨てれば助かるという答えしか出せない悔しさ、あの化け物と自分を突き飛ばした女性に対する怒りなど、様々な理由で涙が止まらなかった。

 

 それでも少年は決めた、生き抜くことを。

 

 

「どお……さん……があざん……ごめん……なさい!」

 

「じゃあな……」

 

「……うん」

 

  最後に父親と言葉を交わし、少年は瓦礫から出て走った。

  このとき少年は既に心も体もボロボロだった。普通ならば直ぐに捕まり殺される。

 

 しかし、少年はどこから来るか分からない化け物が来ない道を選び続けた。

 

 

 

 ――右は直ぐに新しく出てくるから、左。

 

 

 ――右から飛び出してくるから、左の家でやり過ごして裏口から出て右。

 

 

 ――左右は瓦礫で道が塞がってるから、真っ直ぐ。

 

 

 

 

 まるで最初から()()が分かってるかのように。

 

 

 

 

 

 そしてある程度逃げたところで、突然頭が割れるような痛みが少年を襲い立ち止まってしまう。痛みで立ち止まったところを、後ろから追ってきた化け物に鎌の様なもので斬られてしまう。

 斬られる瞬間、痛みにこらえて前へ跳んだため命に別状はないが、動けるような傷ではない。

 

(頭が割れるように痛い。それに体が動かない……)

「まただよ…」

 

 本日2度目の絶対絶命。頭痛は激しい、体は思ったように動かない。

 それでも最後の抵抗と言わんばかりに、化け物を睨み付け、無意味と分かっていても動かない体に鞭を打ち石でも投げてやろうとした。

 

「――おっと、ストップだ」

 

 突如背後から声が上がり、少年は動きを止めた。

 少年の前に颯爽と現れたサングラスをかけた男は、刀の様なもので化け物の目を斬ると化け物は動かなくなった。

 

「大丈夫か?」

 

 化け物を倒した男は、倒れている少年に手を差し出すが少年は体が動かず手をとるどころか、首が動かせず男の顔すら見えてない。そして、その言葉で感情が爆発した。

 

「――全然大丈夫じゃない!! あの化け物とあの女のせいで父さんも母さんも死んだ!! 来るのが遅いんだよ!! そんな簡単に倒せるのに何してたんだ、ふざけんなよ!!」

 

「……」

 

 この男になにを言ったって両親は帰ってこないのはわかっているが、叫ばずにはいられなかった。

 

 そして、叫び終わった少年は糸が切れたかのように気絶した。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 サングラスをかけた男――迅悠一は、先ほど姉を殺された少年のことを考えていた。

 

(未来が視えても良いことなんてないね……)

 

 先ほどの学ランを着た少年を〝視た〟とき『近界民(ネイバー)』を憎み、復讐に生きているのが視えた。さらには、自分も毛嫌いされていたのが視えたので、思わずため息をつく。

 

(今はこっちの少年か……あれ?)

 

 今さっきまで叫んでいた少年は緊張の糸が切れたのか、気絶していたので避難場所へ運ぼうと担いだときに異変に気付いた。

 

(未来が視えない? 今まではこんなことなかったのに)

 

 そう、なぜかこの少年の未来が視えないのだ。今までは顔を見れば未来が視えたのにこの少年だけは視えなかったのだ。しかし、迅は今考えてもわからないと思い忘れることにした。

 

 

 避難所へ向かおうとすると、少年が聞き取れるギリギリの声で、「父さん…母さん…」と寝言の様に言う。

 迅はもう一度ため息をついて

 

「やっぱりこのサイドエフェクトはつらいねぇ」

 

 そう呟き避難所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 このとき少年の心は両親を失ったショックから自身を守るため()()になろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 




駄文でしかもグダグダなのに最後までお読みいただきありがとうございます!


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第1話

連続投稿です!


入隊日前日からです。



 界境防衛機関『ボーダー』

 4年前にこの『三門市』に開いた『(ゲート)』からやってきた、異世界からの侵略者『近界民(ネイバー)』に対抗する為に結成された組織。

 そんな組織『ボーダー』に所属し、その中でも優秀な隊員が所属している『A級5位』の部隊『嵐山隊』の隊長を務める嵐山准は、ボーダー本部を目指して歩いていた。なぜボーダー本部を目指しているのかというと――ボーダー隊員なのだから当たり前ではあるが――ボーダー正式入隊日が明日あるのでその打ち合わせがあるのだ。

 

 ボーダー本部を目指して歩いている嵐山は、明日入隊する隊員の中で気になる人物について考えていた。

 ボーダーの入隊試験は、【基礎学力試験】【基礎体力試験】【面接】の3つをやるのだが、『トリオン能力』が高ければ大抵合格する。

『トリオン』とは人間なら誰にでもある心臓の隣に位置する見えない臓器『トリオン器官』から生み出される生体エネルギーである。そのトリオンが多いことをトリオン能力が高いと言う。

 嵐山が気にする人物は、トリオン能力はボーダー内でトップレベルに高かった。

 しかし、入隊させるか少し揉めたらしい。

 聞いた話によれば、なんでも警察沙汰になることが多々あったらしいのだ。反対派の「そんな奴入隊させたらボーダーの印象が悪くなってしまうから入隊させないべき」と賛成派の「トリオン能力が高いのならば入隊させるべき」で揉めたようだ。

 ところがよくよく調べたら、警察沙汰と言っても犯罪のようなものではなく、そこらへんの不良と変わらないレベルだったらしい。

 さらには、ボーダー内で既に隊員が幹部の一人を殴るという暴力事件があったため、同じような者がボーダー内に既にいるならそんなに変わらないだろうという意見もあり入隊が決定。

 

(影浦そっくりだったりしてな……ん?)

 

 暴力事件を起こした本人と新入隊員は似てるのかもしれないな、なんてことを考えていたとき、視界の端で嵐山より15㎝ほど背の低い少年が、ガタイの良い2人組に路地裏へ連れて行かれていたのが目に入ったのだ。

 

(まさかカツアゲか!)

 

 カツアゲだと思うや否や、ボーダーに入隊する前から正義感の強い嵐山は路地裏へ向かって走っていた。

 3人は同じ制服を着ていたので同じ学校の生徒だろう。しかし、体格差を見る限りでは同学年ではなさそうだ。

 人からお金を巻き上げるようなことはさせないぞ、と意気込んで路地裏へ入っていったのだが、

 

 

 

「……は?」

 

 

 嵐山は判断の針を狂わされたように混乱した。

 まず、ガタイの良い2人組の片方が股をおさえて地面に転がっている。そして、もう片方も目をおさえて転がっていた。共通点としては二人とも地面に転がり、悶絶している。

 一方連れて行かれてた少年はけろっとしており、ガタイの良い二人組の財布からお金を抜き取ろうとしている最中だった。

 どうしてこうなった、と混乱していた嵐山も少年が自身の財布にお金を入れるのが目に入り、すぐさま混乱から復活した。

 

「……ハッ!ちょっと君ストップ!」

 

 制止を呼び掛けると少年は動きを止めたが、こちらには見向きもしない。後ろ姿からは話し掛けんなオーラと刺々しい雰囲気が非常によく伝わってくる。

 しばらくしてから少年は諦めたのか、嵐山の方へ振り向いた。お金を持ち主に返すように注意しなければ、と少年と目を合わせる。

 

 

 しかし、嵐山は少年と目を合わせた状態で固まる。

 少年の目がうっすらと何か模様があるように見えたのだ。

 

 

 なんだあれはと考えたがすぐに普通の目に戻っていた。

 それよりも今はお金を返すよう注意しなくては、と少年に意識を向けるも、少年は何か慌てるようにお金だけ置いて素早く忍者のように――パルクールという移動技術で――逃げてしまったのだ。

 すごいな、と感嘆し逃げる少年の背中を呆然と見ていたが、どこかで少年の姿を見たことがあるような気がしたのだ。

 どこでだ、最近だったはず……。たしかボーダー内で、しかも隊の中で見たはずだ。最近、最近……あ!

 

 

 

 

「綾辻と同じ学校の制服だ」

 

 

 同じ隊の『オペレーター』である綾辻遥と同じ学校の制服を着ていただけだった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 ガタイの良い2人組にそれぞれ金的と目潰しを食らわし、2人組からお金を盗ろうとしたところを嵐山に見つかり、慌ててパルクールで逃げた少年――天峰雄助(あまみねゆうすけ)、15歳。

 彼の心臓はいたずらがばれた子供のようにばくばくと脈打っていた。

 カツアゲをしてきた2人組は怖かったが、中学のときによくされていたのでカツアゲ事態には慣れている。しかし、その後に現れた人物が問題だった。

 

(あの人テレビに出てたボーダーの人だよ、大丈夫かな)

 

 雄助は警察のお世話になることが多々あった。先ほどのようなカツアゲに仕返しをやり過ぎたり、パルクールによる危険行為でよく補導されていた。

 パルクールに関しては逃げる際の癖になっているので、しょうがないというか自業自得なのだが、暴力行為。これは雄助自身非常に困っている。やっている本人が何を言っているんだと思われるかもしれないが、とにかく困っている。

 何はともあれ、困っていても暴力行為をしていることは事実なので、この2つは常習犯としてよく知られている。そのせいで先日受けた入隊試験に落ちそうになったのだ。

 つまり、ただでさえ入隊が危うかったのに入隊日前日に暴力沙汰を起こしたなんてボーダー関係者に知られたら入隊できなくなる、顔がばれるのはまずい。という考えにいたり慌てて逃げたのだ。まあ、今も人の家の屋根や屋上、私有地に入ってるので住居侵入罪なのだが。

 

「でも、お金は置いてきたから大丈夫だよね」

 

 お金を置いてきたからといって大丈夫ではないのだが、現場を目撃した嵐山が雄助の顔より目と制服の方に意識がいっていたので大丈夫っちゃ大丈夫である。

 

 

 

「これ以上問題起こさないでよ――()()

 

 

 周りには誰もいないはずなのに、たしかに雄助は()()という人物に話し掛けた。その後も1人で会話を続けるが、傍から見れば完全に独り言である。

 独り言? が一段落して、明日は入隊日だから早く帰ってゆっくり休もうと、さらに独り言をしてから家に帰ろうとして――

 

 

 

 

 塀を踏み外した。

 

 

 

 今日は本当に運が悪いと再確認した。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 雄助が塀を踏み外した頃、嵐山隊作戦室では隊長の嵐山不在で正式入隊日の打ち合わせをしていた。

 

「それにしても嵐山先輩遅いですね」

 

 嵐山がまだ来ないことを怪訝に思い声を上げたのは、嵐山隊エースである万能手(オールラウンダー)、木虎藍。

 

「たしかに嵐山さんが遅刻するなんて珍しいね」

「さっき『悪い、あと少しで着く』ってメールきたからそろそろ来ると思うよ」

 

 同意したのは、嵐山隊の万能手(オールラウンダー)であり援護職人、時枝充。もうすぐ嵐山が来ることを皆に伝えたのは、ボーダーのマドンナ的存在で嵐山隊のオペレーター、綾辻遥。

 ちなみに、雑用で駆り出されこの場にはいないが、嵐山隊の狙撃手(スナイパー)である2.9枚目、佐鳥賢。この4人と隊長の嵐山の計5人が嵐山隊のメンバーである。

 

 

 

「すまない! 遅れた!」

 

 綾辻がそろそろ来ると言ってから少しして、嵐山が肩を上下させながら作戦室へ入ってきた。

 

「嵐山さんが遅刻するなんて、何かあったんですか?」

「ああ、ちょっとな」

 

 嵐山はあの後、地面に転がる2人に話を聞くために2人が復活するまで待っていたのだ。復活した2人に話を聞くと、逃げた少年は最初は怯えていたらしい。しかし、いざお金盗ろうとしたら()()()()()()かのように襲いかかってきて、目潰し、金的、と反則技コンボをしてきたようだ。なかなかえげつない。

 話を聞き終わった後、2人に注意をしてからボーダー本部へと走ってきたのだが、2人の復活を待ち、話を聞き、注意まですればさすがに遅れる。

 

「ところでどこまで進んだんだ?」

「あとは新入隊員の書類確認が少しだけあって、これがまだ終わってない分です」

 

 そう綾辻に言われ渡された書類の束の一番上には、遅刻の原因と言っても過言ではいないあの少年の書類があった。

 

「綾辻、この一番上の書類の彼は……」

「ああ、天峰雄助君ですか?たしか警察沙汰が多いから入隊させるかどうかで揉めた子ですよ。そんな風には見えないんですけどね」

「!……そうか」

 

 まさかの先ほど見た少年が嵐山の気にしていた人物だったのだ。

 しかし、写真の彼と先ほど見た彼の雰囲気が全く違うように感じるのだ。見間違え? それとも兄弟? そう考えるほど雰囲気が違う。あの時は最初に思ってたように影浦に似た刺々しい雰囲気で目つきが鋭かったのだが、顔写真を見るかぎりでは綾辻が言うようにそのような感じはせず目つきも鋭くない。

 

「あれ? 天峰君私と同じ学校だ」

「綾辻先輩の学校って進学校ですよね?そんな問題ばかり起こす人がよく入れましたね」

「それもそうなんだけど……私、学校で天峰君みたいな子見たことないの」

「じゃあ転校生ですかね。この時期に引っ越してきた理由はよくわかりませんが」

 

 彼の書類を囲みながら話している綾辻、木虎、時枝の輪に加わりながら嵐山は書類の下の方へ目を向けた。そこに目を引く欄があった。

 

「家族構成の欄が空白……」

「三門市に1人で引っ越してきたのかな」

 

 家族構成欄が空白になる可能性は2つある。

 1つは、時枝が言うように親元を離れて1人でこの三門市に引っ越してきた場合。親がいても同居人がいなければ家族構成欄が空白であることもある。

 もう1つは、身寄りが誰もいない――天涯孤独の場合。

 それを即座に理解した時枝は、後者の場合あまり気分のいいものではないので前者の可能性を口にしたのだ。さすがは援護職人、気配り上手である。

 

(……充、すまない)

 

 フォローしてくれた時枝に心の中で感謝をし、嵐山は仕事をし初めた。木虎と綾辻も彼の話が終わったのか、残りの新入隊員の書類を確認しだした。

 

 このとき木虎が若干ではあるが不機嫌だった。それに気づいたのは時枝だけだろう。

 恐らく、警察沙汰になることが多いような人物が、トリオン能力が高いことでボーダーに入れるということが気に食わないのだろう。元よりルールに厳しく、最初はトリオン能力が低くて苦労した木虎が不機嫌にならないわけがない。

 

 唯一木虎が不機嫌なことに気づいた時枝は、明日入隊する新入隊員のことで不機嫌になる木虎を見て、

 

 

「明日は面倒事が起こりそうだなぁ……」

 

 

 と小さく呟いた。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

何人も同じ場所にいると書き難い……



次話もよろしくお願いいたします。


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第2話

入隊日からです!

今回はアンチに近いものがあります。
恐らく次もですが……すいません(´・c_・`)


では、どうぞ!


 ボーダー本部、式典用のロビーには白色の訓練生用の制服を着た少年少女が居る。その中には同じく白の訓練生用の制服を着た雄助も居る。

 入隊式を経て今日から正式にボーダー隊員になる彼らの顔は喜びに満ち溢れていた。しかし、雄助の顔は大いに青ざめ、キョドっていた。

 

(思ってたより人がたくさんいる……)

 

 市民から尊敬や羨望の眼差しを浴び、ヒーローとして認知されているボーダー隊員。そのボーダーの入隊式に人がたくさんいるのは当たり前である。

 そんなことを引っ越してきたばかりで知らない雄助は、人混みが苦手であるためロビーの端に避難する。が、何故か雄助は周りから見られていた。

 何か目立つようなことしただろうか……、と考えるが思い当たりはない。それはそうである。目立つことはしてない。ただ、目立つ物をかけている。

 

 目立つのも当たり前である。なんたってこのロビー内でただ1人、真っ黒のサングラスをかけているのだから。

 

(まあ、サングラスしてれば()のことは大丈夫だし、昨日会った人が居ても僕だって分からないはず! 正に一石二鳥!)

 

 雄助は決して頭は悪くない。むしろ、学年1位を獲るほど頭は良い。しかし、サングラスをかければ目立つことなど少し考えれば分かる。

 つまり彼は考えが少しずれている、頭の良い馬鹿である。

 

(まあ、そんなすぐに会うわけないと思うけど……あれ? これフラグってやつかな)

 

 そんな下らないことを考えている内に、壇上に男の人が上がった。

 

 

「ボーダー本部長、忍田真史だ。君達の入隊を歓迎する。君たちは本日C級隊員……訓練生として入隊するが、三門市、そして人類の未来は君たちの双肩に掛かっている。日々研磨し正規隊員を目指して欲しい。君たちと共に戦える日を待っている」

 

 

 話長いんだろうなーと考えていた雄助は、ボーダー本部長からの激励が予想外に短く驚いていた。

 

 それと同時に、カッコいいと思った。

 

 無駄なことは言わず、簡潔に。けれど、確かな想いと願いを伝えた忍田に感動した。

 

「私からは以上だ。この先の説明は嵐山隊に一任する」

 

 忍田の言葉に感動していた雄助は、次に出てきた人達の先頭を見て再び顔が青ざめる。

 

 

 

「これから先を案内する嵐山隊隊長嵐山准だ。よろしく!」

(えぇ!? フラグ回収早すぎでしょ!?)

 

 フラグ回収の早さを嘆いている雄助と違い、周りは大いに盛り上がり黄色い歓声が巻き上がる。

 歓声を聞き、昨日会った人――嵐山が有名人だということに今気づいた。

 

「まずはポジションごとに分かれてもらう。攻撃手(アタッカー)または銃手(ガンナー)を志望する者はここに残り、狙撃手(スナイパー)を志望する者はうちの佐鳥に付いて行ってくれ」

 

 狙撃手志望の訓練生がロビーから去るが雄助は攻撃手志望なのでロビーに残り、バレないようになるべく後ろへ下がる。

 

「改めて、攻撃手組と銃手組を担当する嵐山隊の嵐山准だ。まずは、入隊おめでとう」

(狙撃手の人が別の場所に行って人が少なくなちゃった)

 

 でもサングラスをしてるから大丈夫か、と考えるがサングラスをしているのは1人だけなのでやたら目立つ。

 

 結果、すぐさまバレた。

 

(あそこにいるのは天峰君か……なんでサングラス?)

(なんであの人サングラスかけてるのかな?)

(あのサングラスかけてる人目立つわね……)

 

 嵐山にはバレて時枝、木虎には注目されている。

 サングラスがとても気にはなるが、嵐山は新入隊員に左手の甲を見るように伝える。

 曰く、今起動さている『トリガー』には各自が選んだ戦闘用のトリガーが入っていて、甲の上に出ている数字は最初「1000」だが「4000」まで上げるとB級昇格になるらしい。

 雄助は『弧月』を選んでいて、甲の上には「3000」と書かれていた。

 なんでこんな多いの? と思ったが次の嵐山の言葉で納得する。

 

「ほとんどの人間は1000ポイントからのスタートだが、仮入隊の間に高い素質を認められた者は、ポイントが上乗せされてスタートする。」

 

 仮入隊の間に一回しか行ってない雄助が「2000」も上乗せされているのは、ただ単にトリオン能力が高かったからである。散々トリオン量がスゴいだのヤバいだの言われれば、ああ、そうなのかと納得する。

 周りを見るとほとんどの人が「1000」だったのですぐさま数字を隠した。目立ちたくないし、()みたいになると思ったからだ。

 

「さて最初は、対近界民(ネイバー)戦闘訓練からだ。制限時間は1人5分。早く倒せばその分評価点は高くなるぞ。どんどん始めてくれ!」

 

 一番後ろに居たので前半はよく聞こえなかったが訓練ということは分かったので、さっさと終わらせて端で隠れてようと考え、いの一番に仮想訓練室に入っていった。

 

 

 

 余談ではあるが、雄助はパルクールを小学生のときからやり始めた。

 小学生のときいじめられていた雄助は、どうしたら痛い思いをしなくて済むか考え、闘うのは痛いから論外なので逃げることにした。

 ならどうやったら逃げ切れる、速く走る? 誰かに頼る? いや、誰も追いかけられないようなとこを走ればいいんだ。というちょっとずれた答えに辿り着いてパルクールをやり始めたのだ。

 

 つまり、なにが言いたいかというと

 

 

『1号室終了 時間切れ(タイムアップ)

 

 

 闘う前に逃げることを考える彼が近界民(ネイバー)に勝てるわけがない。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「さて最初は、対近界民(ネイバー)戦闘訓練からだ。制限時間は1人5分。早く倒せばその分評価点は高くなるぞ。どんどん始めてくれ!」

 

 嵐山がそう言うと、我先にと仮想訓練室に入っていく訓練生。その中には彼の姿もあった。

 

「早速彼の実力がわかりますね」

「ああ、なかなか良い記録を出すと思うぞ」

 

 隣にいる時枝も彼の実力が気になるのか1号室を注視している。反対側に居る木虎も1号室を睨むようにじっと見ている。

 

『1号室用意……始め!』

 

 その言葉と共に雄助は――動かない。

 

 何秒か経ってから漸く動き出し、大型トリオン兵『バムスター』に『弧月』を振るうがまったく当たらない。全て空振り。ほぼ動かないのに何故当たらないのか不思議である。

 さらには『バムスター』が大きく動いたり、唸り声を上げると即座に撤退。逃げるときの速さは素晴らしい。

 

「これは……さすがに、ちょっと」

「向いてませんね」

 

 時枝は言葉を濁すが、木虎はバッサリと言い放った。

 ヒット&アウェイならぬミス&アウェイを続けるが制限時間があるので時間切れで終了である。

 仮想訓練室から出てきた彼はゆっくりとした足取りで端の方へ歩いていき体育座りしてうずくまってしまった。

 周りでクスクスと笑っていた訓練生達も彼のガチ凹みを見て流石に可哀想に思ったのか、皆笑うのをやめて自分のことに集中する。

 

「……逃げるときの動きは良かったな」

「嵐山さん、フォローになってませんよ」

「トリオン能力が高くてもあれでは宝の持ち腐れですよ」

 

 木虎が冷たく言うが、たしかにいくらトリオン能力が高かろうと攻撃を当てることができなければ宝の持ち腐れになってしまう。

 

(出てきたときのあの顔は……怯え? まさかトリオン兵に襲われたことがあるのか?)

 

 嵐山は雄助が訓練室から出てきたとき、昨日の彼からは想像もできないほど怯えていたので驚いた。

 それに今の彼からは昨日の様な刺々しい感じがしない。

 

(やっぱり別人か? しかし、違うのは目付きと雰囲気だけであとはそのまんまだしな……)

「嵐山さん、次で最後ですよ」

「ん? そうか、ありがとう充」

 

 思考に没頭していて気づかなかったがどうやら次で最後のようだ。

 最後の訓練生が2分程度の記録を出し、全員が終了したので次に行こうとしたところで後ろの方から声が上がった。

 

「なーちょっといいか」

 

 声を上げたのは、先程時間切れで失格となった天峰雄助だった。ただし、さっきまでの怯えた姿はどこにもなく、まるで()()()()()()()()()()が表に出て来たように形相が一変していた。

 

 

「どうしたんだい?」

「もう一回あれやりたいんだけど、ダメか?」

 

 雰囲気が刺々しくなった雄助は、戦闘訓練をもう一度やれないかと嵐山に問いかける。

 

「……ああ、別に構わないぞ」

「お、マジか! あんがとよ」

 

 本当ならやり直しなどないのだが、嵐山には今の彼ならば記録が短くなると思えたので特別に許可した。

 

「あと質問が1つ。この訓練は初めてだとどんくらいのタイムになる?」

「最高記録は4秒でうちの隊の木虎が9秒だが、1分切れば良い方だ」

 

 嵐山が木虎のタイムを言うと、周りの訓練生達は「早すぎだろ」「すげー!」「さすがA級」など声を上げ、それに気を良くしたのか木虎が満足そうな顔をしている。

 

「ふーん、じゃあやってくるわ」

 

 雄助は自分から質問したにもかかわらず、ぶっきらぼうに返し訓練室に入っていく。

 

 訓練室に入り『弧月』を出し、重心を低くして開始の声を待つ。

 

 

 

『用意……始め!』

 

 1回目にやった時とはうって変わり、開始の声と同時に『バムスター』に向かって跳躍し、その勢いのまま、正確に近界民(ネイバー)の弱点である目を斬り付けた。

 

 あまりの変わり様に訓練生はもちろん、嵐山隊のメンバーも驚愕する。

 

 

 さらに驚くべきはタイムである。

 

『……記録 1.3秒!?』

「なっ……!?」

 

 1回目にやった時は攻撃が当たらず、逃げていただけだったのに、2回目では1.3秒という過去最高記録を出したのだ。

 

 訓練室を出てきた彼を囲んで訓練生達は盛り上がる。

 

「どうやったらあんな動きできんだよ!?」

「木虎さんより早いじゃん」

「お前すごいな!」

「あ、うん。ソウダネ」

 

 訓練生達は彼を称賛するが、彼は人に称賛されたりするのに慣れて無さすぎて片言になる。

 そこにさらに嵐山がやってくる。

 

「すごいな! 今までの最高記録が4秒だったんだが、それを半分以上も上回るなんて。 一回目と違ってまるで別人がやってるみたいだったよ」

「……ソウナンデスカ」

 

 嵐山もこの時、また弱々しい雰囲気に戻っていることに気づいていた。

 どういうことだ……?、と思考を巡らせていると、記録を抜かれた木虎が雄助に突っかかっていた。

 

 

「あなたはなぜ最初から全力でやらなかったんですか? いえ、それよりも本当ならあなたは一回目の記録で失格で終わりですよ」

「あ、いや……はい」

 

 元より雄助に良い印象を持ってなかった木虎は、記録を抜かれた上に、訓練生に「木虎さんより早いじゃん」など言われたので完全に頭に血が上ってしまった。

 

 それ故にいつもはしないような行動をとってしてしまう。

 

 

「だいたいサングラスなんてかけて、人と話す時くらい外したらどうですか」

「これは……その……」

「……あーもう!」

「あ!」

 

 はっきりしない雄助に痺れを切らした木虎は、サングラスを取り上げてしまった。

 

 

 

 

 

「――ヒッ!」

 

 サングラスを取り上げた木虎は小さく悲鳴を上げ、そろそろ止めに入ろうと思っていた時枝も目を見開く。

 嵐山も何事だと思い、雄助の目を見て――恐怖した。

 

 

 

 彼の目が波紋の様に輪が何重にも広がっている模様になっていたのだ。

 

 

 

 彼の目を見てしまった訓練生達の中にも木虎同様小さく悲鳴を上げる者もいた。

 

 人は自分と違うものを拒絶し恐怖する。それはここにいる訓練生達も同じである。

 

「気持ち悪……」

「どうなってんだよあれ……」

「バケモノかよ……」

 

 周りから注がれる視線。皆が口々にする言葉。

 その全てが雄助1人に集中する。

 

「あ……あ……」

 

 目を手で覆い隠して周りからの視線、言葉から逃れようと歩き出そうとするが、気を失ったのか急に倒れてしまった。

 

「おい!大丈夫か!」

「とりあえず医務室へ運びましょう」

 

 

 嵐山と時枝が雄助を医務室へ運ぼうとする。

 

 

 が、気を失っていたはずの雄助がスッと立ち上がったのだ。

 

 

 

「ハァ、またか……チッ!」

 

 急に立ち上がった雄助は何やら独り言をしてから木虎を睨み舌打ちをした。

 

「おい、お前は嵐山でいいんだよな。仮眠室はどこにある」

「あ、ああ。案内するからついてきてくれ」

 

 周りが状況を理解してない内に雄助と嵐山は仮眠室へと向かって行ってしまった。

 

 

 

 そして時枝がこの状況を見て一言。

 

 

「やっぱり面倒事が起きた……」

 

 

 

 

 




次回はお話回です。

一気に色々出てくると思います。

感想、評価お待ちしております!


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第3話

今回は説明回です。

色々とやっちまった感はありますが後悔はしてません 笑


では、どうぞ!


 仮眠室に3人の人物が居た。

 今日ボーダーへ入隊して戦闘訓練で過去最高の1.3秒を叩き出し、寝るためにここへ来た、天峰雄助。

 雄助の対面に座るのは、先程まで入隊指導をしていた嵐山隊隊長、嵐山准。

 その隣に座るのは、嵐山の直属の上司であり、入隊式で訓練生達に激励を送ったボーダー本部長、忍田真史。

 

 

「俺寝るためにここ来たんだけどさ、何で人増えてんの?」

「すまない、急に倒れた者がいると聞いたものでな。それに少し話を聞かせてくれ」

「話すことなんてねぇと思うけどなー」

 

 寝るためにここまで来たのに、なぜか嵐山に加え本部長まで来て、隣のベッドに座り話しかけてくるため雄助は不機嫌になっていた。

 

「まずは謝罪をさせてもらいたい。私の部下が迷惑をかけてすまない」

「俺からも、止めにはいるのが遅れてすまなかった」

 

 そう言い二人は頭を下げたのだ。

 まさか謝ってくるとは思っていなかったので雄助は面食らう。それと同時に意外だと思った。

 人の上に立つ人物が今日入隊したばかりの新入りに頭を下げるとは思わなかったからだ。

 

「お、おう。まあ、そういうのは雄助に言ってやってくれ」

「ん? 君が雄助君ではないのか?」

「んあ?……あーそかそかそりゃ知らねぇわな」

 

 話が少々噛み合わないが、どうやらこの場にいるのは雄助ではないようだ。

 その雄助ではない人物が説明を始める。

 

「まず雄助は精神病を2つ患っている。その内の1つが俺だ」

「どうゆうことだ?」

 

 自分が病気だと言う意味が理解できず聞き返す忍田。嵐山も口には出さないが理解できない。

 

 

 

 

 

 

「解離性同一性障害――つまり〝二重人格〟だ」

 

 

 雄助ではない人物の口から出た言葉は聞き慣れない、しかし理解できる言葉だった。

 

 

 二重人格

 堪えられない状況を自分ではないと感じたり、その時の感情や記憶を切り離し、それを思い出せなくすることで心のダメージを回避しようとして、切り離した感情や記憶が成長することで別の人格となって表に現れ、1人の人間の中で2つの人格が共存するようになる病である。

 

「雄助が主人格で俺は後からできた人格だ。名前は妖介(ようすけ)。歳は16歳、高校二年ってとこだ」

「じゃあ昨日会ったのもさっきの記録を出したのも……」

「ああ、俺だ。昨日はお前の顔見たら急に雄助が出てきて逃げちまったけどな」

 

 なるほど、と嵐山は思った。

 二重人格ならば今までの変わりようにも納得できる。刺々しい雰囲気が妖介で弱々しい雰囲気なのが雄助なのだろう。

 

「……それでもう1つの方はなんて病なんだ?」

「俺的にはこっちの方が重要で〝心的外傷後ストレス障害〟ってやつなんだけど、トラウマを掘り返されると気絶したりしちゃうんだわ」

 

 

 もう1つの病が何か聞いた忍田は、妖介の口にした病名を聞いて戦慄した。

 

 

(彼はこの歳でどれ程心に傷を負ったんだ……!)

 

 精神的に耐えられない状況を人格を2つにすることによってダメージを回避するのが二重人格であり、強い精神的ダメージを受け、それがトラウマになるのが心的外傷後ストレス障害だ。

 

 つまり雄助は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を受けたということ。

 

 それは普通に生活ができていることが異常なほどの精神的ダメージである。

 

 

「そんでこの2つの原因だが、雄助は第一次大規模侵攻の時、目の前で両親が殺されたんだ」

「そう……なのか」

 

 続けざまに出てきた言葉は簡単に聞き流せるものではなかった。

 

 かの大規模災害、第一次大規模侵攻。

 犠牲者1200人以上、400人以上が今も行方不明になった災害。その中には雄助の両親も含まれているということだ。

 

 つまり、家族構成欄の空白はやはり天涯孤独の身であるためだった。

 

「まあ、だからといってそれだけじゃこんなにはなんねぇ」

「何か他に理由があるのか?」

 

 両親を亡くした。それだけでも充分つらいはずなのにまだ何かあるらしい。

 嵐山がその内容が何か聞くと妖介は怒りと苛立ちを含んだ声で説明を始めた。

 

 

「雄助の両親を殺したのは近界民(ネイバー)だが、原因は違う」

「それはどういう……」

「知らねぇ女が自分が助かりたいが為に雄助のことを身代わりにしようと近界民の方に突き飛ばしやがった。それで両親は雄助を庇って殺されたんだ」

 

 

 つまり、雄助は両親を目の前で殺された上に()に殺されそうになったということだ。当時まだ小学生だった雄助にはあまりにも辛すぎる出来事である。

 

「それから雄助は人を信じれなくなっちまってな。ついでに〝女〟が苦手になった。

 ……まあ、こっちは最近大丈夫になってきたけどな」

「こっちってことはもう1つあるのか?」

「ご名答」

 

 妖介がほれ、と目を異様な模様に変えて見せてくる。

 

「これは……」

「なーんでか知んないけどこうなっちまうんだわ」

 

 妖介の異様な模様になった目を見ても、忍田は特に動揺もせずに観察する様に目を見る。

 

「この目のせいで小さい時苦労してな、この目ってキモいだろ? だからさっきみたいな状況がよく有ったんだよ。これが2つ目のトラウマだ」

「その目になるとき目以外に何か変化はあるのか?」

「……あるっちゃある。が、あんま言いたかねぇ」

 

 この時、忍田は彼の目の模様は『副作用(サイドエフェクト)』によるものであると考えていた。

 

 『サイドエフェクト』とは、高いトリオン能力を持つ人間に稀に発現する超能力。とは言っても念力や飛行能力といった超常的なものではなく、あくまで人間の能力の延長線上のものでしかない。

 そしてあの目は副作用(サイドエフェクト)の副作用ではないかと考えたが、忍田は専門外なので技術開発室や専門医に任せることにした。

 

 

「話を戻すぞ。つまりさっきぶっ倒れたのは木虎? がトラウマを掘り返したからだ。

 んで、俺が出てきたってわけだ」

「そうだったのか……本当にすまなかった!」

「いやいや、あんたらより謝るべき奴がいるだろ……そこに居んだろ。入ってこいよ」

 

 妖介が扉に向かってそう言うと、木虎が目を伏せながら仮眠室に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 外で話を聞いていた木虎は後悔していた。

 

 記録を抜かれたことに、訓練生達に自分より尊敬されていたことに腹を立てた。突っかかってしまった。それで彼のトラウマを掘り返してしまった。

 

 なぜ腹を立てた?なぜ突っかかった?

 

 そんなこと木虎自身分かったていた。ただの〝嫉妬〟である。自分より彼の方がトリオン能力も記録も優れていることに嫉妬したのだ。

 そして雄助に対する嫉妬は、自分に対する怒りに変わり、雄助に八つ当たりしてしまった。

 

 故に、木虎が仮眠室に入って最初にすることは謝罪することである。

 

 

「……その、すいませんでした!」

 

 

 しかし、謝られた本人は何処吹く風と見向きもしない。

 暫くして、無視は可哀想だと思った嵐山は妖介に手を合わせ、何か言ってやってくれと頼む。

 妖介はため息をついてから木虎の方を見ないで言葉を発した。

 

「俺は雄助に危害を加えてくる奴は許さない。それが女だとして……ん?」

 

 

 顔を憤怒に染めて話す妖介。

 しかし、突然何かに反応し目を閉じてしまった。

 それから10秒ほど経って目を開けた妖介は呆れ顔で話し出した。

 

 

「……今すぐぶん殴ってやりたいぐらいだが、雄助から伝言だ」

 

 雄助が直接言わず妖介に伝言を頼んだのは、ただ単にまだ木虎が怖いからだ。

 伝言を頼まれた妖介は心底呆れたと言わんばかりの顔をしている。

 

 

「《僕に木虎先輩が怒るのは当たり前のことです。こちらこそすいませんでした。忍田さんと嵐山さんもご迷惑おかけしてすいませんでした》だとよ」

 

 

 謝罪にきた3人は、逆に謝罪されたのだ

 木虎、忍田、嵐山は思った。彼は菩薩か? と。

 そう簡単に許せるようなものではない筈なのに、許すばかりか彼の方が謝ってきたのだった。

 

 しかし、引っ掛かるところが1つあった。

 

「……木虎、先輩?」

「天峰先輩は高1ですよね? 私中3なんですけど……」

「あー《ボーダーに後から入ったのは僕なので……》ってさ」

 

 

 その言葉を聞いて木虎は感動した。

 木虎の対人欲求は、同年代には負けたくない、年下には慕われたい、そして年上には舐められたくない、なので舐める処か先輩と呼ぶ雄助に感動したのだ。

 

「でも私の方が年下ですので……」

「はいよ。そんなことより俺は本部長に頼みがあんだよ」

 

 それでも年上に先輩と呼ばれるのはむず痒いので断ろうとしたのだが妖介は適当に聞き流し、木虎の感動を「そんなことより」で片付ける。

 流されたことに木虎はムッとするが、今はあまり強く言えない立場であるため堪える。

 

 

「頼みとは?」

「俺が今話したことを広めないでほしい。そこの奴みたいなのがいるかもしれないしな」

 

 そう言い、木虎を横目でギロリと睨んでから視線を忍田に戻し、話を続ける。

 

「それに雄助がボーダーに入った目的は、トラウマ克服のためでもあるから、克服しづらい環境は避けたいんだ」

「なるほど、了解した」

「妖介君には何か目的があるのかい?」

「んー?……まあ話しといて損はないか」

 

 あんま気分の良い話じゃねぇぞ? と付け加えて話し出す。

 

「俺は雄助の第一次大規模侵攻の時の負の感情と記憶から生まれた。つまり――」

 

 

 

 

 この時の発言が誤解を生むとも知らずに。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 妖介に「もう俺は寝るから出てけ」と仮眠室から追い出された3人の足取りは重かった。

 妖介がボーダーへ入った理由は、端的に言えばボーダーに探している人物が居るからであったが、問題は()()の方であった。

 最初に切り出したのは忍田だ。

 

「彼の探している人物というのは迅だろうな」

「間違いなく迅さんですね……」

 

 木虎が間違いなく迅だと断言できるのは、妖介の言っていた特徴が〝ブリッジ部がないサングラスをかけている男〟だったからだ。

 ボーダー内でそんなサングラスをかけているのはセクハラエリート、迅悠一だけである。

 

「あの言い方は憎い相手を探しているような言い方だったな」

「そうですね。天峰先輩の両親が死んだ要因かもしれないって言ってましたし」

 

 妖介の話を聞いた3人は、姉を近界民(ネイバー)に殺されたことから近界民に憎悪を抱く、三輪秀次と同じ()()なのだろうと思っていた。

 

「あまり『玉狛支部』とは接触させない方がいいかもしれませんね」

 

 ボーダーには支部が6つあり、その内の1つが異端の『玉狛支部』だ。

 玉狛支部が異端と言われる所以は、反近界民(ネイバー)の風潮が強いボーダーで近界民に対して友好的である支部故だからだ。

 迅は玉狛支部所属なので接触させない方がいいのは分かりきっている。だが、理由はそれだけではい。

 

 

「そうだな……彼の目的が『近界民(ネイバー)』への()()なら尚更だ」

 

 

 近界民に友好的な支部へ復讐が目的の妖介を行かせるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 



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第4話

お気に入りが30を越えました!!

本当にありがとうございますm(__)m



本文は前回から2月後からのスタートです。

ではどうぞ!


 本格的に寒くなってくる秋の暮れ。雄助がボーダーに入隊してから2ヶ月が過ぎた。

 この2ヶ月で様々な変化があった。

 

 

 つい先日、雄助はB級に昇格した。

 3000ポイントからのスタートにしては遅い昇格だが、色々と問題があったのだ。

 

 C級ランク戦は訓練生――C級隊員だけでポイントの取り合いをする勝負で、手っ取り早くB級になるにはランク戦をするのがいいのだが、雄助は1度も参加しなかった。

 参加しなかった理由は至極簡単である。斬る、斬られる、撃つ、撃たれる、それら全てが怖いからだ。戦闘訓練も同じ理由でやらなかった。それなら妖介にやってもらえばいいのだが「俺はメンドイからパス、お前がやれ」と厳しいお言葉をいただいたので諦めて普通にサボった。

 結果、他の訓練でポイントを稼ぐしかなかったのだが、その他の訓練が雄助の得意分野だった。

 地形踏破訓練、隠密行動訓練、探知追跡訓練、パルクールが出来る上に逃げる隠れるが得意な雄助は、これらの訓練を毎回1位でクリアした。

 しかし、雄助が戦闘訓練及びランク戦をしない理由など知らない他のC級隊員達は、雄助のことを良くは思わなかった。初回の戦闘訓練で最高タイムを出したのに、その後の戦闘訓練及びランク戦に参加しないで、その他の訓練には参加する。そのためC級隊員達の中では陰口や根も葉もない噂が横行している。

 そんなことなど知らない雄助は、黙々と訓練をこなしたが1位でクリアしても20点しか貰えないのでB級昇格に2ヶ月もの時間が掛かってしまったのだ。

 

 

 

 

「天峰君、()()ここにいたの……」

 

 呆れるように雄助へ話しかけてきたのは嵐山隊オペレーター、綾辻遥。

 入隊式の翌日に入隊式での一件を謝罪したい、と嵐山に作戦室へ呼ばれた時に同じ学校の生徒会副会長だとわかった。

 綾辻を確認するや否や、妖介にSOS信号を送る。

 

(妖介変わって!)

《ハァ……あいよ――》

「もう授業始まるよー。またサボるの?」

 

 綾辻が言うようにあと5分もすれば始業のチャイムがなるのだが、綾辻達が居るのは学校の屋上である。

 妖介はいつも屋上で授業をサボっているのだが綾辻に一度見つかってから毎日のように屋上に叱りに来ていた。

 入れ変わった妖介は綾辻をダルそうな目で見る。

 

「――うるせぇなー俺は眠いんだよ」

「あーまた()()()の天峰君が出てきてる」

 

 寝る体勢になった妖介を見て綾辻はため息をつく。雄助と妖介のサボりが綾辻に知られてから2ヶ月。このやり取りはほぼ毎日行われていた。

 

 

 

 暫く沈黙が続いていたが唐突に妖介が切り出した。

 

 

「ところでいいのか?」

「んー? なにが?」

「もう授業始まるぞ。優等生」

 

 妖介に言われハッとする。綾辻はすっかり忘れていたが屋上に来た時点で授業開始まで5分を切っていたのだからもう始まってもおかしくない時間だ。

 

「あー! もう行かなきゃ。ちゃんと授業でるんだよ!」

「必要無いんで大丈夫で~す」

 

 慌てて走って行く綾辻を小馬鹿にしながらもう一度寝る体勢をとる。

 雄助も最初の頃は妖介の行動を抑制しようとしていたが、回数を重ねるほどに「ちゃんと授業出なきゃ駄目だよ」「今日はいいけど明日は出るよ」「……今日はサボる?」「今日は昼寝日和だね!」と段々サボるようになり、最近では自分から昼寝しに行くようになった。とてもいい笑顔で。

 

 

「……なあ、雄助」

《どうしたの?》

「そろそろ慣れてくんね」

《うぐ……》

 

 綾辻が居なくなり、授業開始のチャイムだけが聞こえる屋上で会話――傍から見れば独り言をする2人。

 妖介が言う慣れろ、というのは綾辻のことである。

 綾辻と知り合って2ヶ月。この2ヶ月間で雄助が綾辻と会話した回数はほぼ0である。あるとすれば「おはよう」「え、あ、は、はい」という挨拶と言って良いのか怪しいやり取りぐらいである。

 

「いつかは慣れてくれよ」

《頑張ります……》

 

 あ、こいつ諦めてやがる、と思いつつも元に戻る。

 

《――ふぅ、つうかさー()()()見つかんなくね》

「そういえばそうだねー。2ヶ月で1度も会わなかったね」

 

 2人が探すあいつとは、某セクハラエリートなのだが、入隊してから1度も見つからない。それには理由があり、嵐山隊と忍田が接触しないように働きかけているからだ。そのことを2人は知らないが。

 

《名前は迅悠一だったっけか》

「2ヶ月で名前とサングラス、あとサイドエフェクトしか分かんなかったね」

 

 噂でしか聞かなかったが迅悠一のサイドエフェクト『未来視』。

 目の前の人間の少し先の未来が見える。つまり、現実を人為的にあり得る未来に近づけることによって〝未来の操作〟が可能であるということ。

 それが2人には重要なことだった。

 

《でも、こっちに来て正解だったな》

「そうだね。本人が居たことだし、それに『未来視』のサイドエフェクト……」

《ああ、多分ビンゴだ》

「でも本人が見つからないんじゃしょうがないよね……」

《それなんだよなー。もしかしたら支部とかに居るかもな》

「じゃあさ、前に眼鏡の人が言ってた支部行ってみない?」

《あーいんじゃね、今度そこ行ってみるか》

「ちゃんと差し入れ持ってかなきゃね」

《はいはい。んじゃあ、俺は寝るわ》

「りょうかーい」

 

 三門市に来る前に2人で話し合った内容を再確認しながら次の予定を決める。

 眼鏡の人とは本部で暇していたときにキミもウチに入る? メガネ人口増やそうぜ、と勧誘してきたボーダーメガネ人間協会名誉会長様だ。その時サングラスをかけていたのだがサングラスも眼鏡と一緒なのだろうか。いや、違うはずだ。

 まあ、結局その勧誘は丁重にお断りしたのだが。

 

 話が終わると妖介が寝てしまい、また静かになった屋上。雄助も寝ようとしてそういえば、と思い出し彼はポツリと呟く。

 

 

「――玉狛支部ってどこにあるのかな」

 

 

 嵐山隊と忍田の努力が水の泡になる言葉を。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「……ハァ」

 

 時刻は13時、学生達が楽しみにしていた昼食の時間である。

 クラスメイト達が食堂に行くなり、教室で談笑しながら持ってきた弁当を食べている中、大きなため息をついたのは綾辻である。

 

「どうしたの遥?」

 

 ため息をつく綾辻を心配して声をかけたのは、B級1位二宮隊のオペレーター、氷見亜季。

 

「ため息つくと幸せが逃げるよ~」

 

 そう言って茶化すのは、A級玉狛第1のオペレーター、宇佐美栞。

 この3人は同じクラスで、今は向かい合う形で昼食をとっている。

 

「天峰君のことでちょっとね……」

「あーあの問題児君か」

 

 宇佐美が言う問題児。それはボーダー隊員としても、学校の生徒としても言えることだった。

 初期ポイントの高さに胡座をかいて戦闘訓練及びランク戦に参加しない。しかし、近界民(ネイバー)のことを憎んでいる。それが雄助に対する周りの認識だ。実際は違うのだが、それを知るのは一部の人間だけである。

 氷見は宇佐美の口から出た問題児という言葉に「ああ、あの」と反応する。

 

「あの子って不思議だよね。近界民が憎いならランク戦やって早くB級になればよかったのに、なんでランク戦やらなかったんだろう」

「……そうだね」

 

 氷見の疑問は尤もであった。C級隊員は基地外でのトリガー使用が禁じられており、近界民の討伐はB級にならないと出来ない。近界民が憎い、と言うならばランク戦で手っ取り早くB級に上がればいいのに彼はしない。それが不思議であった。

 綾辻はその理由を知っているが妖介に口止めされているため言えずにいた。

 

「それで、問題児君のことでなにがあったの?」

「生徒会として授業をサボる生徒を放置するわけにいかないけど言うことは聞いてくれないし、それにこの後()()がまた始まるでしょ……」

「つまり、手を焼いていると」

「そういうこと」

 

 もう一度大きなため息をついて、自分で作った卵焼きを食べる。

 

 

「でも話した感じでは良い子だと思うけどなー」

 

 しかし、宇佐美が言った言葉で卵焼きを吹き出しそうになった。

 

「話したの!? なんで!?」

「え? なんでって、サングラスかけてたからだけど……サングラスって眼鏡の親戚みたいなもんじゃん?」

「ごめん、栞。意味わかんない」

 

 宇佐美の眼鏡愛は基本的に人に共感されにくい。というかできない。愛が強すぎるのだ。

 彼女の眼鏡愛はおいといて、話す程度なら問題はないかと思い気を取り直す。

 

 

「それでどんな話したの?」

「君も玉狛支部(うち)こないかって」

 

 

 ところがどっこい一番まずい話をしてたのだ。

 綾辻は叩きつけんばかりの勢いで机に顔をぶつける。

 

 

「えっと……遥?」

「……」

 

 氷見が声をかけるが返答はない。

 玉狛支部のことを2ヶ月間も隠してきたのに、あろうことか玉狛支部所属の人間にバラされていたのだ。そりゃこうなる。

 暫くして、ショックで項垂れていた綾辻はゆっくりと顔を上げる。

 

「……まあ、いつかはバレることだよね」

 

 そう言って綾辻は宇佐美、氷見に事情を説明した。と言っても玉狛支部を知られてはいけない理由だけだが。さすがに病のことまでは言わなかった。

 雄助の、と言うよりは妖介の目的を聞いた2人は動揺を隠せないでいた。

 

 

「……つまり、近界民(ネイバー)だけじゃなくて迅さんもってこと……?」

「……うん。だからあんまり玉狛のことを雄助君に知られたくなかったの」

「そっか……ごめんね遥」

「ううん、大丈夫。いつかはバレることだったし、玉狛支部っていう支部があるってバレただけだから大丈夫だよ」

 

 さ、ご飯食べよ! と続けて、場の雰囲気を変える。

 

「うん、そうだね」

「今は考えたってしょうがないしね」

 

 2人もそれに応えて食事を再開する。

 

 食事を再開してすぐに宇佐美が話題を振ってきた。

 

「ところでさ遥は雄助君のこと、どう思ってるの?」

「……どう、とは」

「好きなのかなーって」

「な、なんで?」

「あーたしかに。よく一緒にいるし」

「それは授業に出なって言ってるだけだよ……」

 

 宇佐美が振ってきた話題は雄助のことをどう思っているかであった。

 たしかに氷見が言うように綾辻は雄助とよく一緒にいる。が、実際はほとんど注意をしているだけで、たまにボーダーについて話したりする程度である。それに話しているのは雄助ではなく妖介とだ。

 

「えーつまんなーい」

「つまんなくていいいの……ん?」

 

 ガールズトークをしていると廊下から数人が走る騒音と騒ぎ声が聞こえてきた。

 

 

「まただ……」

 

 綾辻が肩を落としてそう言った。

 次第に大きくなる騒音と騒ぎ声の正体は――

 

 

 

 

「あいつを捕まえろー!」

「てめぇ、俺の昼飯返しやがれ!」

「待ちやがれ、クソ野郎!」

「いつもいつもふざけんな! 天峰ぇ!!」

 

 

「アーハッハッハッハッ、盗られるお前らが悪いんだよ! マヌケ共が!」

 

 罵詈雑言を浴びて集団の先頭を高笑いしながら疾走するのは天峰雄助――正しくは妖介だが。

 妖介はこの学校に入学してからほぼ毎日のように他生徒の昼飯を盗み食いをしていた。しかも『サイドエフェクト』をフル活用して。

 

 生徒達はいつものように彼の悪口を言ってはやり返される。

 

 

「気持ちわりぃ目しやが――」

「――鏡で自分の顔見てから言えよ。てめぇの顔の方がよっぽど気持ちわりぃわ」

 

 1人目。見事に撃沈。

 

「人から食べ物盗んで乞食――」

「――黙れ、ゴミみたいな声しやがって。飯は俺が食ってやってるんだ。感謝しろゴミボ」

 

 2人目。これまた見事に撃沈。

 

「クソチビの――」

「――あ? 今なんつった?」

 

 

 そして3人目にして妖介の地雷を踏んでしまった。

 

「……今チビっつったのか?」

《妖介抑えて抑えて!》

「お、おう。も、文句あるかよ!」

 

 ピタリと止まってドスの利いた声で再度聞く。

 たしかに雄助の身長は高校1年生の全国平均より5センチほど低い。対して彼にチビと言った生徒は170センチを余裕で越えている。身長差が10センチもあればチビと言ってしまうのも無理もない。

 

 しかし、言った相手が悪かった。

 

 

 

「世の中にはなぁ、言っちゃいけねぇこともあんだよ」

 

 

 妖介は低身長であることをとても気にしていた。しかもそれを高身長のやつが言ったことで更に彼を激昂させたのだ。

 

 

 

「こらー! なにやってるの天峰君!」

 

 今にも掴みかかりそうになった時、廊下に綾辻の制止の声が響いた。

 

「……げっ、またお前かよ」

 

 そう言い心底嫌そうな顔で綾辻を見る。

 妖介は綾辻が苦手である。ただ真面目だからだ。雄助の場合は他の理由があるのだが今はいいだろう。 

 

「げっ、とはなに! だいたい悪いのは天峰君の方でしょ! 毎度毎度人の食べ物盗んで……」

「あーはいはい。わかりましたー」

「あ、こらー! 待ちなさーい!」

 

 お説教モードに入った綾辻に適当な返事をして妖介は走って逃げる。そして綾辻も同じように走って彼を追いかけていってしまった。

 取り残された生徒達は呆然とするしかなかった。

 

 

 そして、一連のやり取りを見ていた宇佐美は独りごちた。

 

 

「あれじゃ遥がオカンみたいだね」

 

 

 ボーダーのマドンナは妖介に対してはオカンになってしまうようだ。

 

 

 

 

 




これからも学校での話がちょくちょくでてきます。

感想、評価よろしくお願いしますm(__)m


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第5話

 学校での栄養補給(昼飯強奪)を終えた雄助――やったのは妖介だが――はそのままボーダー本部に来ていた。

 

「妖介はなんで人の食べ物盗るかな……」

《腹が減ったから》

「まあ、わかるけどさー」

 

 まだ昼過ぎなので他の隊員がいないボーダー本部の廊下を歩きながら先程の栄養補給(逃走劇)の話をしていた。

 

「購買とかで買えばいいじゃん」

《人が食ってるもんってやたらうまそうに見えるから、ついな》

「食いしん坊だなー……まあいいけどね」

《それよか学校をサボるのはいいのか?》

「うん」

 

 妖介の質問に即答する。

 入学してから今日までの間に盗った他人の昼飯は数知れず。そのため完全にヒール役である雄助は、学校に居続けると何をされるか分からないのでそのまま逃げてきたのだ。

 

「それより綾辻さんだよ……」

《あーあれは相当怒ってるな》

 

 妖介はケラケラ笑いながら言うが雄助にとっては笑い事ではない。雄助が綾辻を苦手とする理由は〝心的外傷後ストレス障害〟のこともあるが、それは普通に話す程度なら問題はない。ただどうしても()()()()()()のだ。

 

 どうやって綾辻の怒りを静めるかを考えていたら目的地の扉の前に着いていた。

 目的地である開発室の扉を小気味良く2回ノックをしてから扉を開ける。

 

「失礼します。鬼怒田さんはいらっしゃいますか?」

「おお、雄助。鬼怒田さんなら奥にいるぞ」

「ありがとうございます。雷蔵さん」

 

 雄助の言葉に反応したのは、チーフエンジニアの寺島雷蔵(てらしまらいぞう)

 21歳の若さでチーフエンジニアの座に就いている高い技術力の持ち主であり、攻撃手(アタッカー)トリガーの一つである『レイガスト』を開発した人物である。

 

 雷蔵の言ったとおりに開発室の奥へ行くと目的の人物がいた。

 

「こんにちは、鬼怒田さん」

「ん? 雄助か。随分と早いな」

 

 雄助が開発室へ来た目的の人物、開発室長の鬼怒田本吉(きぬたもときち)

 ゲート誘導システムの開発や本部基礎システムの構築など重要なことを全て行った凄い人である。

 

「えーと、それはですね……」

「またサボったのか」

「……すいません」

 

 来るのが早かったことを指摘され口ごもってしまう。

 鬼怒田はなぜ雄助が学校をサボったのかは想像できるし理解できるのでため息をつくだけにとどめる。

 

 

「まあいい、じゃあ始めるぞ」

「お願いします」

 

 雄助が開発室へ来た理由は定期検査のようなものがあるからだ。大体は『サイドエフェクト』の検査なのだが、精神病の方も少しだが診たりする。そのため開発室の職員達は妖介のことも知っている。

 検査と言ってもトリオン量を測ったり、最近の調子を報告する程度のものだ。その程度ならやらなくてもいいと思われるかもしれないがこの検査が意外と重要なのだ。それに定期検査を初めてから新たにわかったことが2つあった。

 1つは、雄助の『サイドエフェクト』の名称。

 

 

 

  『瞬間最適解導出能力』

 

 

 簡単に言えばどんな状況や疑問、謎でも()()()()()()()()能力である。戦闘中ならば、どのようにしたら相手に攻撃を当てられるか、どのようにしたら相手の攻撃をよけられるかなどの〝答え〟が出せる。

 ただし、本人の性能と知識、能力によるものから答えを出すため、あらゆる手段を用いても状況が打破できない場合は答えが出ない。

 それに強力な『サイドエフェクト』ではあるが弊害は多く、例えばこの能力を使うと目が波紋状になってしまったり、かなり体力を消費したりする。

 そのため、目はサングラスで隠してきたし、体力は学校の屋上で寝たり他生徒の昼飯を食べたりして回復している。断じて授業をサボりたいからとか美味しそうだからとかの理由ではない。必要なことなのだ。他生徒には申し訳ないと思っている、雄助は。

 

 ちなみに学校の生徒には目のことがバレている。入学初日にサングラスが校則違反で没収されてしまい、授業中にうっかり目が波紋状になってしまってバレた。開き直った今では『サイドエフェクト』をフル活用して盗み食いをしている。

 

 

 そしてもう1つは、解離性同一性障害の症状――妖介について。

 解離性同一性障害にはちゃんと治療法があり、人格同士が話し合い解離する理由がなくなれば人格が統合する。だが妖介の場合は他の治療法、というよりは消え方がある。

 

 検査でわかったのだが妖介は『トリオン』でできた人格らしい。

 雄助の『トリオン』が減ると妖介は表に出しにくくなり、空になってしまえば妖介は消滅してしまうということだ。

 もちろん休息を取れば表には普通に出てこれるが空になってしまえば消えてしまう。そこで鬼怒田は雄助の『トリガー』を少し改造して、『緊急脱出(ベイルアウト)』しても一定数『トリオン』が残るようにした。要は、雄助の豊富な『トリオン』の一部を妖介が消えない程度に残しておける、ということだ。

 その機能を『トリガー』に付けてもらってから雄助は、鬼怒田をリスペクトしている。妖介もまあ、感謝はしている。ぽんきちって呼ぶけど。

 

 

(今日の夜ご飯どうしよっか?)

《金ないぞ》

(……だよね)

 

 

 当の2人はそんなことを話しながら検査を受けるのだった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 検査が終わり雄助が出ていった開発室で鬼怒田は好物のカップラーメンを食べていた。

 

「お疲れ様です。鬼怒田さん」

「おお、すまないな」

 

 労いの言葉と共に鬼怒田のデスクにお茶を置いた雷蔵は、雄助の検査結果を聞いてみた。

 

「今回はどうでした?」

「今回も特に問題はなかったわい。少しぼーっとしてることが多かったがな」

 

 ぼーっとしていたのは綾辻の怒りをどう静めるかを考えていたからだ。辿り着いた彼女の怒りを静める方法は彼女の好物グミを献上する、に決定した。

 

 雷蔵はデスクの上にあった、雄助の『サイドエフェクト』の書類に目を付けた。

 

「それにしても雄助の『瞬間最適解導出能力』でしたっけ? 強力な『サイドエフェクト』ですよね。迅の『未来視』並じゃないですか」

「……そうだな、確かに強力な『サイドエフェクト』だ。ランクはAだろう」

 

 ボーダーではサイドエフェクトをS~Aランクの【超感覚】、A~Bランクの【超技能】、B~Cランクの【特殊体質】、Cランクの【強化五感】の4段階のランクを設けて分類している。

 迅悠一の『未来視』は【超感覚】のSランクであり、雄助の『瞬間最適解導出能力』は【超技能】のAランクである。

 たしかに雷蔵が言うように強力な『サイドエフェクト』ではある。しかし――

 

 

「強力故に弊害が多いのだ」

「……弊害とは体力が減ったり、目の変化のことですか?」

「ああ、もちろんそれもある。だが、それだけではない」

 

 残ったカップラーメンのスープを飲み干し、空になった容器をゴミ箱に捨ててから続ける。

 

 

「……雷蔵、お前は人の気持ちが理解できるか?」

「人の気持ち、ですか? まあ、人並みには」

 

 鬼怒田からの唐突な質問は「人の気持ちが理解できるか?」というものだったが、意味が分からない雷蔵は頭の上にハテナマークを浮かべる。

 この質問は鬼怒田が雄助と知り合ってから1ヶ月が過ぎた頃に聞かれたのだ。鬼怒田は「ある程度はわかるぞ」と返したのだが、

 

 

『鬼怒田さん……僕の『サイドエフェクト』は何でも答えが分かる力なんですよね……? でも()()みんなが僕のことを虐めるのか、その()()()が何度答えを求めてもわからないんです……』

 

 

 そう泣きながら言われたのだ。

 自分がどんな行動をすれば虐められるかはわかる。しかし、なぜその様なことをするのかがわからない。何度も何度も答えを求めても答えは出てこなかったのだ。

 

 

「雄助の『サイドエフェクト』はあらゆるものの答えがわかる。だが〝人の気持ち〟それだけはわからないのだ」

「しかし『サイドエフェクト』を使わなければ……」

「分かるかもしれないな。でもあいつ、雄助は分からないことは『サイドエフェクト』で答えを求めるのが癖になっておる」

 

 

 もし面倒な計算をする時、手元に電卓があったら電卓を使うだろうか。もちろんほとんどの人間が使うだろう。人間は楽をする生物なのだから。

 雄助にとっては、計算は〝人の気持ち〟、電卓は『サイドエフェクト』なだけだ。そしてその電卓(サイドエフェクト)では計算の答え(人の気持ち)が分からなかった。それだけだ。

 

 

「さらに『瞬間最適解導出能力』の厄介なところは一度導いた答えを変えることが難しいことだ。あいつの中では〝人の気持ちはわからない〟という答えになってしまっているからのう……」

「じゃあ雄助が近界民(ネイバー)を憎んでいても戦わないのは……」

「ああ。大規模侵攻の際に〝勝てない〟という答えを出してしまったのかもしれぬな」

 

 

 戦えば勝てるかもしれない、少し考えればわかるかもしれない。でも、一度出した答えが誤ったものでも直せないだろう。〝わからない〟〝勝てない〟と、もう答えは1度出ているのだから。

 

 

 

「まあ……固定された答えを変えられるのは妖介だけだろうな」

「妖介には固定された答えの影響がないんですか?」

「恐らくだがな。少なからず近界民(ネイバー)と戦えている。

 ……あのとき雄助が治療を拒んだのも頷けるわい」

「なるほど……近界民への復讐のため、か」

「だろうな。自分ではできないから妖介に頼っているのだろう」

 

 雄助に一度治療を勧めたことがあったのだが凄まじい勢いで首を横に降ったのだ。

 〝解離性同一性障害〟は明らかに異常であり、病である。したがってぜひ治療が必要である、と医師に説明されたのだが雄助は治療を必要としなかった。

 しかし、彼は近界民への復讐のために治療を拒んだのではない。

 

 〝解離性同一性障害〟の患者にも様々な例があり、生活に障害が生じる場合もあれば、人生に充実感が伴っている場合もある。ある患者が「はっきり言ってみんなどうして私のようにしないのかがわかりません」とまで言った例もある。

 雄助の場合は後者。雄助にとって妖介は病ではなく、天涯孤独の身である彼にとって唯一の心の許せる()()だ。

 

 

 

 

 

 

 その勘違いに鬼怒田が気づくのはまだ先のこと。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「この辺にあるはずなんだけどなー」

《こんな土手沿いにあんのかよー》

 

 開発室での検査が終わった雄助は、のんびりと散歩の様に次の目的地へ向かっていた。

 

 今向かっている場所は行ったこともなければ、場所もわからないので『サイドエフェクト』を使い向かっているのだが、全く知らないない場所なので完璧な答えは出ず、この辺かな? 程度の答えしか出ないので若干迷いつつ目的地へ向かっている。

 

 暫く散歩気分で土手沿いを歩いていると目的の建造物が見えてきた。

 

 

「あ! あれ…………だよね?」

《川のど真ん中に立ってるな、しかもボロい》

「でもボーダーのマークも付いてるからあれか……」

 

『サイドエフェクト』が正解だと言っていても信じられないような場所、外見だった。

 川のど真ん中にあるし、ボロボロだし、完全に川の水質を調べたりする建物だと言わんばかりの外見である。

 

 いつまでも建物を見上げていてもしょうがないので橋を渡り建物の入り口に立つ。

 雄助は扉の前で深呼吸を3回ほどしてからドアノブを握った。

 

「ふー……よしっ!」

 

 

 

 そして、意を決して建物――玉狛支部の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 






評価、感想よろしくお願いします!


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第6話

突然ですがこれからは亀更新になると思います……。

大学生活って大変ですね……。

頑張ろ( ;∀;)



「……は?」

 

 扉を開けた雄助は素っ頓狂な声をあげた。

 一番最初に目に入ったのはカピバラ。と、それにライドオンしている少年。

 まずカピバラがデカイ。なぜボーダーの支部にいるのかも気になるが、初めてみるカピバラのデカさに驚いた。1メートルくらいとは言え子供を背中に乗せている。さらにその少年はヘルメットをしていて、カピバラに乗る姿は威風堂々としている。

 

 この子はカピバライダーかな? とくだらないことを考えていると少年の方から声をかけてきた。

 

「むっ、しんいりか……?」

 

《……なんでこいつ偉そうなん?》

(なんでだろうね……)

 

 妖介の真っ当な疑問にそう返すしかなかった雄助。

 カピバラにライドオンしている偉そうな少年は玉狛支部所属のお子さま隊員、林藤陽太郎(りんどうようたろう)。カピバラは雷神丸(らいじんまる)

 

 さすがに無反応はいけない、と思い新入りではないことを伝える。

 

「あのー新入りではないんですが――」

「どうしたの陽太郎、お客さ……!?」

 

 しかし、続けて人を探してることを陽太郎に伝える前に現れたのはここへ来る要因となった人物、ボーダーメガネ人間協会名誉会長こと宇佐美栞。

 宇佐美は雄助と目が合うと固まってしまった。

 

 

 

(うっそぉぉぉお!! 話題になった当日に来ちゃったよ!)

 

 ここへ来てはいけない人物が来てしまい内心では大慌てだが努めて平静を装い雄助へ話しかける。

 

「あ、天峰くんだよね。どうしたの?」

「えっと、僕人探しをしてて、それでその人は本部の方には居なかったので支部にも行こうかなってなって、それで前に宇佐美さんが紹介してくれたここを最初に……」

(やっぱりかー……どうしよう)

 

 女性が苦手な雄助はつっかえながらも玉狛支部へ来た理由を話すが、宇佐美は自分の発言が雄助をここへ導いてしまったことを後悔していた。

 そんな宇佐美の心の内など分からない雄助は、目に見えて落ち込んでいる宇佐美を見て首を傾げる。

 自分は何か粗相をしてしまっただろうか? と。そう思って視線を落として気づいた。

 

 

「あ! すいません! どうぞ、こ、心ばかりの品ですが!」

 

 

 差し入れの和菓子を渡してないことに。

 雄助は初対面で失礼があったらいけない、と思い来る前に差し入れを渡す時の正しい言葉遣いを調べて、「つまらないものですが」はかえって失礼だというので「心ばかりの品ですが」というフレーズをチョイスしたのだ。

 

 

「え……ああ! 差し入れね! ありがとう」

 

 しかし、渡された本人は一瞬それがなんなのか理解できないほど思考に囚われていた。主に雄助のせいで。

 

 

「ここで話すのもあれだからリビング行こうか」

「すいません。ありがとうございます」

 

 結局、差し入れまで持ってきてくれた彼を帰すのもどうかと思い、中に通すことにした。

 雄助は一度靴を脱いでから振り返り、靴を外側に向け端の方に寄せてから宇佐美についていく。ちゃんと予習済みである。

 宇佐美に連れられリビングに行くと1人の少女がいた。

 

「あ、小南。お客さんだよ」

「……誰よ、そいつ」

 

 そう言って雄助を横目で睨むのは、A級玉狛第1の攻撃手(アタッカー)である小南桐絵(こなみきりえ)

 17歳という年齢の低さに反して、正隊員の中で一番キャリアが長く、旧ボーダー時代から所属していた古株である。そのキャリアの長さもあってか個人ランクでは攻撃手No.3を誇る。

 

 そんな実力者に睨まれた雄助は蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。

 

「あ、天、天峰、ゆ、雄助です!」

「緊張しすぎよ」

「天峰くんは初めての戦闘訓練で1.3秒の過去最高記録を出したんだよ」

《ちなみにあの記録は俺の誕生日と合わせてみました》

(い、今言うこと? まあ、分かってたけど)

 

 妖介の言葉で少し緊張が和らいだ。

 初の戦闘訓練の記録1.3秒。やろうと思えば1秒を切ることも出来たが妖介は自身の誕生日である1月3日に合わせるためやらなかったのだ。

 

 そしてその記録を聞いた小南は瞠目していたが、すぐさま好奇の目に変わった。

 

「へぇ……暇してたし、ちょうどいいわ」

「え?」

 

 言葉の意味を理解する前に雄助は小南に手を引っ張られて奥に連れてかれる。

 わけもわからず連れてかれる雄助は視線で宇佐美に助けを求める。が、合掌するだけで何もしてくれず、結局わけもわからないままエスカレーターのようなものに乗せられてしまった。

 

 雄助が連れて来られたのは何も無い正方形の部屋。

 しかし、次の瞬間部屋は町へと変貌した。それが意味するのは――

 

 

「なにしてるの。あんたも早く換装しなさいよ」

「あ、はい……あれ?」

 

 突如町に変わった空間に驚いていると小南に声を掛けられ、反射的にその言葉に従い『トリオン体』になる。

 ところがトリオン体になって小南を見るとなぜか髪が短くなっていた。

 

「なんで髪が短くなってるんですか?」

「『トリオン体』の外見は生身と違う姿に多少は変えることができるのよ。戦闘時に髪が長いと邪魔だから短めにしたの」

 

 なら身長を高くしてようかな、と考えていると小南が大きな斧を構えている。

 最初は小南が斧を構えている理由が分からなくて首を傾げていたが、その理由を理解した瞬間に雄助の顔が青くなる。

 相手は武器を構えている。さらに、何も無い部屋から町へと変貌したということは、2人が居る場所は『トリオン』でできた()()()()()()()()()

 

 つまり、今から行うのは今まで避けてきた()()

 

 

「じゃあ……そろそろいくわよ!」

「え、ちょま――」

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 烏丸京介は困惑していた。

 

「ぐすっ……」

「いきなり攻撃して悪かったわよ……」

「元気出して、天峰君」

 

 玉狛支部へ帰ってくると見知らぬ靴が有ったため誰か客が来ているとは思っていたが、なぜが客であろう少年は部屋の隅で体育座りをして涙目、そしてその少年を慰める同じ隊の2人。

 

「どうしてこうなったんすか……」

「俺にも説明してくれるか」

「あ、とりまるくん、レイジさんおかえりー」

 

 いつもの仏頂面が少し崩れて困惑した様子なのは、小南と同じ隊の万能手(オールラウンダー)である、烏丸京介(からすまきょうすけ)

 ボーダー内外問わずイケメン認定されているほどのイケメン。ちなみに、本当は「からすま」なのだが「とりまる」とよく呼ばれている。

 

 そして鳥丸に続いて現れたのは、小南、烏丸と同じ隊で隊長の木崎(きさき)レイジ。

 小南と同様に旧ボーダー時代から所属し続けている古株の隊員で、現在ボーダー内で唯一、全てのポジションをこなせる完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)である。

 

 2人にこれまでの経緯を話すと、レイジはため息をつき、鳥丸は仏頂面で「まあ、小南先輩ですから」と呆れたように言う。

 

「だってこいつ最初の戦闘訓練で1.3秒だったのよ! そりゃ強いと思うでしょ!?」

「だからって新人を虐めるのはよくないっすよ」

「一回しかやってないわよ! それに終わったら泣き出しちゃうし、まるで別人みたいじゃない……」

 

 〝別人みたい〟のところに雄助と鳥丸が反応する。

 雄助はギクリといった感じだが、烏丸はキランと面白い物を見つけた様な感じだ。

 

「え、小南先輩知らなかったんですか? こいつ、二重人格なんですよ」

「えっ……!? そうなの!?」

「私も知ってたよー」

 

 この流れは玉狛支部ではお決まりだ。

 小南は非常に騙されやすく、過去に胸が大きくなるという触れ込みに騙されて大量に飴を買ったこともある。

 そのため、よく適当な事を言われてからかわれているのだが――

 

 

「栞も!? じゃあレイジさんは……?」

「ああ、二重人格なんて「なんで知ってるんですか!?」」

「まあ、嘘なん……え?」

「え?」

「「「え?」」」

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「じゃあ、戦闘訓練と問題行動の時の天峰君はもう1人の天峰君ってこと?」

「ええ……まあ、そうです」

 

 あまり言いたいことではなかったのだが小南の言いなさいよオーラに負けて、自分が二重人格であること、妖介の存在、妖介がやったこと、全て話してしまった。

 

 

「なるほどー……、じゃあせっかくだしもう1人の天峰君も含めて自己紹介しようか」

 

 学校で問題児の雄助とここへ来たときのおとなしい雄助の違いに納得した宇佐美は、雄助と妖介を含んだ自己紹介を提案した。

 

「じゃあこっち側から。さっき雄助君を泣かせたのが小南桐絵17歳」

「もうそれはいいじゃない!」

 

 雄助を泣かせてしまったことを言われ、小南は気まずそうな顔でそっぽをむく。

 

「こっちのもさもさした男前が烏丸京介16歳」

「もさもさした男前です。よろしく」

 

 無表情のまま自分の紹介をそのまま復唱する鳥丸。

 

「こっちの落ち着いた筋肉が木崎レイジ21歳」

「落ち着いた筋肉……? それ人間か?」

 

 レイジの指摘はごもっともだが宇佐美の耳には届かない。

 

 一通り玉狛側の紹介が終わると雄助は全員の顔を見て名前と顔を一致させていく。

 

「ムキムキで頭の良い人が木崎さん」

《それじゃゴリラだな》

(妖介うるさい)

「レイジでいいぞ」

 

「イケメンでクールなのが烏丸先輩」

《こいつ近くのスーパーにいたな》

(だよね。すごい列できてたレジの人だよ)

「よろしく」

 

「かわいいけど少し怖いのが小南先輩」

《……》

「怖くないわよ……え!」

「じゃあ次は僕が」

「ちょっともう一回、もう一回言ってよ!」

 

 雄助が漏らした「かわいい」という言葉に小南が驚き半分嬉しさ半分といった反応する。

 良くも悪くも雄助は思ったことを言ってしまう。それに慣れている妖介は何も言わず、ただ呆れるだけである。

 

 玉狛側の顔と名前を一致させると今度は雄助達が自己紹介を始める。

 

「僕が天峰雄助、高1です。で、戦闘訓練とか問題行動をしてたのが――」

「――妖介。歳は16、まあ高2ってとこか」

 

 妖介の登場に全員が目を丸くした。

 

「雰囲気とか目付きって結構変わるんだねー」

「本当に二重人格だったのか……」

 

 宇佐美とレイジの反応に今度は妖介が目を丸くする。

 

「意外とあっさり信じるんだな、お前ら」

「だって、ねぇ?」

「あんた自分で分かってないかもしれないけど、顔つきが全然違うわよ」

「ふーん……そうか」

 

 嵐山隊を除き今まで二重人格について話した人達は、基本的に信じてくれず、妖介の存在を否定して「頭のおかしい奴」と言われるだけだった。それが雄助が二重人格について話さない理由でもある。

 しかし、今回の人達は妖介の存在を否定しなかった。それが柄にもなく嬉しくて口角が上がってしまった。

 

「まあ、雄助を泣かしたお前は許さんがな」

《それはもういいよ……》

「うぐ……悪かったっと思ってるわよ……」

 

 まあこいつは大丈夫だろう、と考えて雄助と変わると、雄助に変わったのに気づいたのか烏丸が疑問を口にする。

 

「ていうか、天峰は高1だろ? 俺も高1なんだが、なんで先輩なんだ?」

「えっと、ボーダーに入ったのは烏丸先輩が先だから……」

 

 真面目か、全員がそう思った。

 

「いや、烏丸でもとりまるでも呼び捨てでいいぞ。タメなんだし」

「じゃあとりまる君でいいですか?」

「あと敬語も」

「あ、は……うん」

 

 これには烏丸もさすがに苦笑い。

 結局雄助は、とりまる君、小南先輩、レイジさんと呼ぶことにした。鳥丸達は天峰だとどっちかわからなくなるから雄助、妖介と呼ぶようになった。勿論妖介は全員呼び捨てである。

 

 烏丸とは学年が同じということもあり、話が弾んだ。どこの学校か、成績はどうだ、ボーダーでのこと、そして――家族のことも。

 

 家族のことを聞かれ天涯孤独の身であることを遠慮がちに言うと、雰囲気が重苦しなってしまった。それに気まずくなり、場の空気を変えようと烏丸の話を聞くことにした。

 

「と、とりまる君は兄弟とかいるの?」

「ああ、いるぞ。弟と妹が2人ずつ」

「5人兄妹かー……ん? じゃあバイトを掛け持ちしているのは……」

「ああ、貧乏だからな」

「とりまる君!」

 

 雄助は烏丸の手を力強く握る。

 

「お互い頑張ろう!」

「ん? ああ」

 

 烏丸はいまいち理解できてないが、雄助は基本的に金がなく、常にひもじい思いをしていたので、貧乏仲間を見つけ得難い喜びを感じてつい握手をしてしまったのだ。

 

 そんな貧乏仲間同士で力強く握手をしていると雄助の腹の虫が盛大に鳴った。

 

 

「あ……」

「飯……食ってくか?」

「……頂きます」

 

 

 

 ちなみにレイジの作った肉肉肉野菜炒めを食べた妖介はレイジのことをさん付けで呼ぶようになったのだった。

 

 

 




皆様の感想、評価がほすい……!

私に感想と評価を恵んでください(´・c_・`)


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第7話

 ――意外と真面目でおとなしそうな子。

 それが玉狛支部の玄関で差し入れを渡された時、宇佐美が雄助を見て抱いた印象だ。

 

 意外と、が付くのは学校で見るあの傍若無人ぷりとのギャップ。まあ、それは妖介という二重人格が原因だったわけだが。

 

 そして、雄助のここへ来た目的。

 宇佐美栞は玉狛支部で唯一、雄助がここへやってきた目的を知っている。

 

 

 天峰雄助の目的は〝迅悠一及び近界民(ネイバー)への復讐〟

 

 そう思っていたのだが……。

 

 

 

 

「美味しいですね!」

「おかわりはあるからどんどん食べろよ」

「今度は妖介が私と模擬戦やるわよ!」

《ダルいので丁重にお断りする、と伝えてくれ》

 

 

 今、雄助は満面の笑みで玉狛支部の皆と食卓を囲み、レイジ特製肉肉肉野菜炒めを食している。

 

 

 

 

 〝迅悠一及び近界民(ネイバー)への復讐〟

 

 それを目的としている者が迅悠一がいるのは知らないとしても、近界民と友好的なこの玉狛支部であのような顔ができるだろうか。

 

 

 A級7位三輪隊隊長三輪秀次(みわしゅうじ)

 彼は第1次大規模侵攻で姉を近界民に殺され、その復讐のためにボーダーへ入隊した。

 好きなことに近界民を駆除することを上げるほど近界民を憎み、迅悠一を始めとする近界民に友好的な玉狛支部を裏切り者と罵る。

 迅悠一に復讐、とまでいかなくても毛嫌いし、近界民に憎悪を抱く三輪は玉狛支部へ来て雄助のような顔ができるだろうか。

 

 いや、決して雄助のように笑顔で食卓を囲むことはないだろう。

 

 なら少々違くてもほぼ同じ目的でボーダーへ入った雄助が、こうも笑顔で玉狛支部にいれるのか分からず、宇佐美の頭の中は困惑と疑問が竜巻のようになってグルグルと回っていた。

 

 

 しかし、その困惑と疑問を解決するのは簡単だ。

 本人に聞けばいい。

 なぜ復讐を望むのか、なぜ二重人格になったのか、なぜそんな笑顔でいれるのか、そう聞けばいい。

 ただそれは聞いてしまえば〝玉狛支部へ来た理由〟を()()()()()()しまう。

 

 

 

 雄助は玉狛支部へ来てから戦闘、自己紹介、飯と完全に周りに流されている状態だ。

 これは宇佐美が立案した「あやふやにして帰ってもらおう作戦」だ。来た理由を忘れてしまうくらいこちらから話を振っていく、という簡単な作戦である。戦闘だけは作戦を話す前に小南が勝手に始めた。結果オーライではあるが。

 この作戦は意地が悪いかもしれないが同じ支部の仲間のためだ。しょうがない、と割りきって、雄助に気づかれないように3人に作戦とその理由を書いたメールを送ったのだ。

 

 

 そう()()に。

 

 

 

「ところでゆうすけ」

「ん? どうしたの?」

 

 

 

 この玉狛支部にはもう1人隊員がいる。

 

 

 

「きょうはなんのために玉狛支部にきたのだ?」

 

 

 ――純粋無垢なお子さま隊員、林藤陽太郎が。

 

 

「? …………ああ!! そうだ、忘れるところだった!」

 

 

 途中までは完璧に進んでいた作戦は小さなカピバライダーによって崩された。

 

「すいません、みなさんに……って、どうしたんですか?」

 

 雄助が思い出した要件を述べようと玉狛支部の皆に振り返ると、烏丸とレイジの仏頂面師弟コンビは額に手を当て天を仰いでいて、宇佐美は机に頭だけを突っ張している。小南に関しては、要件を思い出させてくれた陽太郎の足を掴んで逆さまにして持ち上げている。

 

 

「いや……なんでもない」

「うん、大丈夫だよー……」

「はなせ! なにをするんだこなみー!」

「あんたはちょっと黙ってなさい!」

 

「それで何を思い出したんだ?」

 

 思い出した内容を雄助に聞いているが、レイジ自身その内容はもうわかっている。

 

「あ、えーと、この支部に迅悠一って人いませんか?」

 

 雄助の口から放たれた言葉に4人はバツの悪そうな顔になり、すぐさま視線で会話を開始する。

 

(どうすんのよ、栞!)

(どうしよーレイジさん……)

(素直に言えばいいんじゃないか? どうせあいつも〝視えてる〟だろうし)

(そうですね。迅さんのことですし大丈夫でしょう)

(えーでも! 視えてなかったら……!)

 

 この間およそ1秒。早すぎる。

 

 そして、宇佐美が出した答えは――

 

「……えっとね、雄助君。その迅悠一って人はこの支部にはいないんだ……ごめんね」

「そう……ですか」

 

 嘘で仲間を守ることを選んだ。

 

 

 

 

 だが、

 

《……雄助ちょっと変われ、こいつら怪しすぎる》

(え、でも……)

《いいから》

(わかったよ……――)

 

 

 その嘘はついてはいけなかった。

 

 

「――おい、宇佐美。嘘は言ってないよな」

「うん……」

「そうか」

 

 嘘でないことを確認すると、妖介は『サイドエフェクト』を使い、答えを求める。

 

 求める答えは〝迅悠一は玉狛支部所属か〟

 

 

 ではない。

 

 見たことない人物の答えは曖昧になってしまうのが『瞬間最適解導出能力』である。

 見たことない人物の答えが曖昧になるのなら、目の前の人物から答えを求めればいい。

 

 

 求める答えは〝宇佐美栞は嘘をついているか〟

 

 

 答えは――

 

 

「黒、か」

「え……」

「もういいぞ、雄助」

《それ、あんまり好きじゃないんだけどな……――》

 

 雄助は『サイドエフェクト』を日常生活で使うのを極力避けている。まあ、玉狛支部を探す時は妖介に急かされて使ったが、妖介の使った〝嘘の答え〟の出し方はあまり好きではなかった。

 

「――えっと、みなさんが嘘をついたことは別に気にしてないです」

 

 嘘はつかれ慣れているし、その嘘をつく気持ちはわからないから、と心の中で付け足す。

 

「じゃあ、気まずいんで……なんですか?」

 

 帰ります、そう告げようとしたが皆の視線が自分に――いや、自分の()に集中していることに気づいた。

 

「ッ!」

 

 急いで目を手で覆い隠すが、既にこの場に居る全員が見てしまっている。

 

 

 しかし、先程まで楽しく食卓を囲んでいたのだ。

 みんな少し驚くぐらいだ。大丈夫だ。

 そう思い、皆を見ると

 

 

 

 

 

 宇佐美は見慣れたのか困った顔をしているだけだが、陽太郎や小南は怯え、いつも仏頂面の2人でさえ困惑した顔で雄助を見ていた。

 

 

 

 

 

 ああ、やっぱりか

 

 怯えた顔、化け物でも見るかのような顔、どれもこの目を初めて見た人が浮かべる見慣れた顔じゃないか。

 なぜ大丈夫だと思った? 楽しく食卓を囲んで浮かれたか。この人達なら大丈夫だと思ったか。

 

 

「……期待、しちゃったのかな」

 

 哀愁を帯びた笑みを浮かべてそう言い、雄助は玉狛支部を後にしようとする。

 

 

「あ、待って! 誤解なの!」

 

 小南はそう言って呼び止めようとするが、既に妖介に変わっていた。

 

「誤解、か。待ったらそれが解けるのか?」

「う、うん」

「――いいや、誤解は解けない。もう〝誤った解〟という解が出ているんだから問題はそこで終わってる。それ以上解きようがないだろ」

 

 

 

 誤解は〝誤った解〟という1つの答え。

 

 問題の解は出たのだ。ならそれ以上解きようがない。

 

 故に誤解は解けない。

 

 それは『サイドエフェクト』に苦しんだ雄助を1番知っている妖介の考えだった。

 

 

「んじゃ帰るわ」

「……」

「あー、あとレイジさん。あんたの飯旨かったよ、ありがとな」

「……そうか」

 

 そう言って妖介は玉狛支部を後にした。

 

 

 

 そして、雄助の『サイドエフェクト』が〝この目は人に嫌悪感を抱かせる〟と答えを固定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

(やっぱりハッキリとは視えなかったな……)

 

 本部での仕事が終わり、玉狛支部へ向かう道中で迅は違和感を覚えていた。

 

 最初に違和感を覚えたのは、本部で忍田に会った時だ。

 いつもなら何パターンもの未来が鮮明に視えるのだが、知らない人物が関与しているのかその人物が朧気なものが多数見受けられた。

 その程度ならたまにある。だが今回はその人物が関与している未来が、まるで壊れたテレビの様にノイズが入っていて視えにくいものが多かったのだ。

 ノイズはその人物が深く関わっているものほど強くなっていて、酷いと未来が見えないパターンもある。

 

 それが忍田だけではなく、上層部の面々や殆んどの隊員達を視るとその人物が関わるとノイズは発生していた。

 

 原因は未だに解けていなかった。

 

 

「まあ、会ってみなきゃわかんないか」

 

 そう言って思案を打ち切ると、既に玉狛支部に続く橋の近くまで来ていた。

 

 今日の夜飯の当番はレイジだったことを思いだし、献立を『未来視』で確認する。実に無駄な『サイドエフェクト』の使い方である。

 

 しかし、未来はノイズが入っていて視えにくかった。

 

 

「またか……ん?」

 

 ノイズに気を取られていると1人の少年が橋を渡り、反対方向へ歩いていくのが見えた。

 

 

 

 

 しかし、()()()()()()

 

 

 今までの様なノイズは無く、ただただ何も視えなかった。

 

 

 全身を冷や汗が伝い落ちた様な気がした。

 

(おいおい、まさかあの少年が原因か?)

 

 迅は焦燥感に駆られ、()()()()に向かって走り出す。

 それはそうだろう。少年――雄助が出てきたのは、迅が所属する玉狛支部。

 そして、未来が視えなかったことに対する不安が迅を玉狛支部へ走らせた。

 

 玉狛支部のドアを開けると中は不気味なほど静まり返っていた。

 

 

 ――嫌な予感がする。

 

 未来が視えないことがこんなにも不安だったなんて。

 

 幾度となく〝未来を視たくない〟と思った。

 

 

 だが、

 

 

 〝未来を視たい〟

 

 そう思ったのは初めてだった。

 

 

 

 

 そんな考えを頭の隅でしつつ、リビングへ向かう。

 

 

「みんな居るか!」

 

 ドアを壊しそうな勢いで開けてリビングに入ると、

 

 

 

「あ、迅さん! よかったぁ!」

「やっと帰ってきたわね……」

「お疲れ様です」

「居るが……どうした?」

 

 全員椅子に座って普通に居た。

 陽太郎は雷神丸の背中で寝てるけど。

 

 宇佐美が若干泣き顔ではあるが、皆に特に問題が無いことを確認できた迅は安堵の息を漏らした。

 

「ハァ、良かった……」

「良かった、じゃないわよ! こっちは大変だったんだから!」

「な、なにが?」

「迅さん雄助君と会わなかった?」

 

 小南が怒っている理由が分からず困惑していると、宇佐美が恐る恐る確認をしてきた。

 

「雄助? ここから出てきた少年なら遠目で見ただけだけど」

「よかった~……」

 

 そう言って宇佐美はへたりこんでしまった。

 小南、烏丸、レイジもへたりこみはしないものの、全員安堵している様に見える。

 

「えっと……全く状況がわからないんだけど」

「……なによ。視えてたんじゃないの?」

 

 緊張がとけて冷静になった小南は、『サイドエフェクト』の力で常に先を見据えている迅が珍しく慌てたり、状況を把握できてないことに疑問を持った。

 

 

「いやー、それが今日は殆んど視えなかったんだよ」

「!」

「じゃあ宇佐美が迅のことを言わなかったのは……」

「間違いでもなかったってことですね」

「よかったわね、栞」

 

 雄助に嘘を言ってまで守ろうとしたがそれは余計なことだったのではないか、と思っていた。

 だが、自分の判断は間違いではなかったという事実で少し気持ちが楽になった。

 

「……そっか」

「あのーそろそろ説明をお願いしても?」

「あ! ごめんね、迅さん。どっから話そうか……」

 

 当事者である迅を蚊帳の外に置いて話がどんどん進んでいくので、迅は2度目の説明を要求した。

 

 迅にはまず雄助の目的を教えた。

 

 〝迅悠一及び近界民(ネイバー)への復讐〟

 

 それを聞いた迅は少し思案顔になったが、すぐに続きを促す。

 雄助がここへ来た経緯、妖介のこと、「あやふやにして帰ってもらおう作戦」のこと、そして『サイドエフェクト』のこと。

 

 

「じゃあその雄助って奴の『サイドエフェクト』は嘘を見抜く力ってことか?」

「そうじゃないと思うんだ。雄助君は学校でも『サイドエフェクト』を使って食い逃げしてるし」

「まあ食い逃げのことは置いといて、何で宇佐美はあいつが『サイドエフェクト』を使ってることがわかるんだ?」

「雄助君は『サイドエフェクト』使ってる時、目が渦巻き状になるの」

 

 ちょっと怖いんだよね、と苦笑いしながら宇佐美が言うと全員、特に小南がバツの悪そうな顔になる。

 

「それでみんなが怖がっているの見て、落ち込んで帰っちゃったのか」

「本当に怖いのよ、あの目!」

「本人だって分かってるから隠したんだろうな。それに相当落ち込んでたから昔からよくあったんだろう。悪いことをしたな……」

 

 レイジがそう言うと、全員の雰囲気が重くなってしまったので迅は話を戻すことにした。

 

「じゃあ雄助の『サイドエフェクト』は、〝嘘を見抜く〟〝食い逃げの時に使える〟〝『未来視』を妨害する〟の3要素があるってことだな」

「2つ目はあれだけど3つ目はなんで?」

「雄助の関わる未来は殆んどがノイズが入っていて視えにくいんだ。本人に関して視えないし」

 

 

 ()も視えなかったしね、と心の中で付け足す。

 迅は今までの話から雄助が()()()()()()だと分かっていた。

 あの時の少年ならば自分への復讐を目的としてもおかしくない。

 

 詳しくは分からないが恐らく知ったのだろう。自分が未来を操作できることを。そのせいで両親が死んでしまったことを。

 

 迅悠一が両親を殺したと言っても過言ではないことを。

 

 

 

 ――やっぱり未来なんて視たくない……。

 

 

 そう思った。

 

 

 

 

 

 一方、迅が気落ちしていることに気づいていない迅以外のメンバーは、雄助の『サイドエフェクト』について議論していた。

 

「なんなのよ、あいつの『サイドエフェクト』は!?」

「嘘がわかる上に『未来視』の妨害。頭が痛くなりそうですね」

「迅と同じ視る系かもな」

「明日遥にも聞いてみる」

「むにゃむにゃ……たしかなまんぞく……」

 

 議論していた。誰も寝てなんかいない。

 

 気落ちしていた迅もいつまでもクヨクヨしていてもしょうがない、と笑顔で会話に参加する。

 

「そういえばレイジさん、今日の夜ご飯は何?」

「ああ、それならあそこに……あ」

「どうしたの?」

「雄助が全部食べていったんだった。すまん、迅」

 

 

 

 やっぱり未来は視えたほうがいいかも……。そう考えを改めるのだった。

 

 

 

 

 




評価、感想が私のやる気になります(*・x・)
みなさんがどう思ってこの作品を見ているのか気になります。なんでもいいので待ってます!


まあストレートにいうと


評価と感想がほしい……!


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第8話

評価の色が赤に見えるので眼科に行ったら視力が両目で0.1以下だとわかりました( ;∀;)

評価及び感想ありがとうございます!応援ありがとうございます!

それではどうぞ!




 

 

「ヒャッハー今日も大量だぜ!」

 

 妖介は嬉しそうにそう言いながら疾走する。

 彼の背中にあるリュックサックの中には大量のパンやおにぎりなどの食べ物が入っている。勿論持ち主は別の人物である。

 

 そして例の如く――

 

 

 

「待てや、ゴラァ」

「なにが大量だぜ、だ! それは俺らのだろ!」

「ゲス! クズ!! 外道!!!」

 

「あーはいはい。で? なに?」

 

 

 罵詈雑言を浴びながら追われていた。

 

 

 最早日常になっている妖介による逃走劇。

 妖介にとっては二重の意味でメシウマーな時間、他の生徒達からしたら傍迷惑な時間である。

 

 

 

 いつものルートを疾走していると〝天敵その2〟を発見した。ちなみにその1は綾辻である。

 いつもなら避けて通るのだが〝天敵その2〟の手には妖介の好きなメロンパンがあった。

 

 妖介の目が光る。

 

 あれは盗るしかない。盗らなければいけない。

 そんな使命感にかられる。

 

 しかし、『サイドエフェクト』で盗れないことは分かっている。どうせ()()()()()()のだから。

 だからといって諦めるわけにはいかず、天敵とその仲間へ走っていく――

 

 

「ハァ……また?」

 

 妖介がパンを盗ろうとして伸ばした手をめんどくさそうに、しかし、的確に払う。

 

「あんたもそろそろ諦めなよ」

 

 冷たくそう言うのは、天敵その2菊地原士郎(きくちはらしろう)

 転入して間もない頃、菊地原のパンを盗ろうとして今と同じ様に手を払われ、「きづかないとでも思った?」と鼻で笑われたことがあった。

 それ以来何度も盗ろうと画策し行動するも失敗に終わっていた。

 菊地原士郎はこの学校で唯一妖介が食料を調達できない人物だ。正に天敵である。

 

 

「そこに食料があるならば行かねばならぬだろう!」

「おちつけ天峰」

 

 盗れなかったことに憤慨する妖介を嗜めるのは、(カモ)こと歌川遼(うたがわりょう)

 菊地原に何度も挑んでいる内に知り合った。歌川自身最初は「なんだこいつ……」程度にしか思ってなかったが、雄助が1人暮らしで金が無いことを知ってから面倒見のいい歌川はパンをあげるようになった。

 例え菊地原のパンを盗り損ねても歌川がパンをくれるのだ。正に(カモ)である。

 

「俺のを1つやるから諦めろ」

「えー俺はメロンパンの方が「ならこのコロッケパンは俺が食べよう」て言うのは嘘で、コロッケパン大好きなんだわ」

 

 やれやれ、と言いながらもしっかりパンはくれる。やはり彼は(カモ)である。

 

 

「歌川はなんで毎回そんな奴にあげるかな……まあ、貰う方も乞食かよって感じだけど」

「うるせー陰キャ。黙って俺にパンをよこせ」

「盗れるもんなら盗ってみな」

《妖介、もう諦めなよ。菊地原君も『サイドエフェクト』持ってるんだから》

 

 

 雄助が言う様に菊地原は『サイドエフェクト』を持っている。

 

『強化聴覚』

 

 それが菊地原の持つ『サイドエフェクト』。

 一言で言えば「耳がいい」ただそれだけの能力である。菊地原本人でさえ指摘されるまでそれが『サイドエフェクト』だと気づかないほどだった。

 その性能は常人の5~6倍ほどであり、本人もショボい能力だと思っている。

 

 しかし、そのショボいと思っている能力は妖介に対して相性が良いらしく、とても役に立っている。

 

 

(まあ、本気出せば盗れないこともないけどな)

《そんなしょうもないことに本気出さないでよ!?》

(わかってるわ!)

 

「ところでさ」

「あ?」

「あれ、いいの?」

 

 菊地原はそう言って妖介の後ろを指しているので、妖介はそれに従い後ろを振り向くと

 

 

 

「いたぞ!あそこだ!」

「俺の飯を返せぇ!」

「こらー!天峰君待ちなさーい!」

 

 被害者達が追いかけてきていた。なぜだか先頭に綾辻もいる。

 

「……なんであいついんの? しかも先頭で」

「さあ? 副会長だからじゃない?」

「なにそれ、ダル……」

 

 妖介はため息混じりにそう言って走り出す。

 

 

 

 

 ――めんどいから今日はもう帰ろう。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 妖介が走り去っていくの見送った歌川と菊地原。唐突に歌川が話を切り出す。

 

「……菊地原は本当に天峰と仲がいいな」

「はあ? なんでさ」

 

 菊地原は否定の意味を込めて聞き返した。

 しかし、歌川は知っている。

 

「お前があそこまで毒を吐くのは仲が良い奴ぐらいだろ」

 

 そう指摘された菊地原は一瞬目を見開いたが、すぐさましかめっ面になった。

 

「仲なんて良くないよ」

「それにお前があんなに人と話すなんて珍しいからな」

「……そんなんじゃないよ」

 

 続けざまに指摘すると菊地原の眉間に更に皺が寄った。

 

 

 

 菊地原が初めて天峰雄助の名を聞いたのは戦闘訓練の記録が更新された時である。

 その時は、優秀そうな奴が入ってきたのか、と思っただけだった。普通であれば「優秀そうな奴」というのは期待されたりするものだが、菊地原は優秀そうな奴が嫌いだった。

 ましてや学校では昼休みになると飯を盗りにくる。本人からしたら嫌いな奴がちょっかいをかけてくるのだ。鬱陶しくてしょうがなかっただろう。

 

 

 だが、

 

 菊地原は見た。知った。

 

 彼、天峰雄助の異形の目を。その力を。

 

 

 自分と同じだった。天峰雄助も『サイドエフェクト』を持っていた。

 

 

 

 さらに、『サイドエフェクト』で苦しんでいた。

 

 

 

 

 

 ――雄助は今も『サイドエフェクト』で苦しんでいる。

 お前は『サイドエフェクト』の苦労がわかるだろう。奴のことを少し気にかけてやってくれないか?

 

 定期検査で開発室に来た菊地原に『瞬間最適解導出能力』の力を説明した鬼怒田はそう頼んだのだ。

 

 菊地原も『強化聴覚』というランクで言えばCの『サイドエフェクト』なので大した能力でないと乏さたり、聞きたくない話や自分の悪口が聞こえてしまったり、『サイドエフェクト』の弊害を受けた。

 

 それに比べて雄助の『サイドエフェクト』はAランク。しかも強力な力である。

 なぜそんな奴のことを気にかけなければいけない。いい『サイドエフェクト』に恵まれた嫌な奴だ。そう思っていた。

 

 

 ところが鬼怒田に聞かされた雄助の持つ『瞬間最適解導出能力』の力は強力であると同時に恐ろしいものだった。

 

 目の変化、人の気持ちが理解できない、1度答えが出ると変更ができないなど、菊地原よりも多くの様々な弊害があったのだ。

 

 異形の目のことで虐められたりしただろう。

 

 1度出てしまった答えに苦労しただろう。

 

 自分の『サイドエフェクト』を捨てたいと思っただろう。

 

 

 

 いつしか嫌悪感はなくなり、親近感が湧いてきた。

 

 

 

「――ただ」

 

 故に、眉間に皺を寄せていた菊地原はため息をついてから口角をほんの少しだけ上げて、

 

 

「あいつのことは嫌いじゃないだけ」

 

 

 そう言うのだった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 一方、まだ午後の授業が残っていたにも関わらず学校を脱走してきた妖介は、珍しく雄助と口論をしていた。

 

「まだ午後の授業あったじゃん」

「今日はもう疲れたんだよ。それに受けたとこでじゃね」

「たしかにそうかも知れないけど卒業できなくなっちゃうかもしれないじゃん」

「そんときはしゃーなし」

 

 

 しゃーなしじゃないよ……と言って雄助は項垂れてしまった。

 

 

 

 2人は今精神世界で対話をしている。

 

 雄助の精神世界は、ただただ真っ白で何処まで続いているのかわからない空間。

 変えようと思えばどんな空間にでも変えることが出来る。夏には海にしたり、冬には雪山にしてスキーをしたりと2人の遊び場のような所である。

 

 しかし今は口論、もとい雄助のお説教が行われている。

 

「屋上で寝るのはいいけど、脱走はダメだよ」

「結局授業でてないけどな、それ」

「そうだけどもさすがに学校に居ないのはまずいよ……」

「試験で点取りゃいいんだよ」

「ハァ……まあそれはもういいよ。でも学校から脱走して、なんで本部に来たのさ」

「忍田さんに呼ばれたからだろ」

「呼ばれはしたけどさ……なんでよりによって()()で待つの!?」

 

 雄助の体があるのはボーダー本部。さらに細かく言えば、ボーダー本部内でもかなり人が集まる場所であり、隊員達が個人ポイントを取り合う場、ランク戦室。そのベンチに雄助の体はある。

 

「そりゃあ、あれだよ……なんだっけ」

「忘れないでよ!? みんな僕のこと見てるじゃん!」

 

 雄助は妖介に訴えかけるがすっとぼける。

 天峰雄助はボーダー隊員の中で良くも悪くも目立っているのだ。主に妖介のせいで。

 

 初の戦闘訓練で最高記録を叩き出したが、その後の戦闘訓練及びランク戦に1度も参加しなかった。その人物が突然ランク戦室に現れたので周りの隊員達はざわついていた。

 

「おい、あれって問題児の天峰じゃね」

「なんでここに居るんだろ」

「あいつこんなとこで寝てんのか」

「今さらランク戦すんのかよ」

 

「ホントだ。大人気じゃねぇか雄助」

「いい意味で見られてるわけじゃないけどね!」

 

 本人は動かないだけで寝てはいないのだがランク戦室で寝るような人が居れば目立つだろう。

 

「妖介は最近勝手すぎだよ。昨日玉狛に行った時も言うだけ言って帰っちゃうし」

「しょうがねぇだろ、あいつらが嘘つくからだ」

「それでもあそこまできつく言わなくてもいいじゃん」

「そうですねー。レイジさんの飯美味かったなー」

「たしかに美味しかったねー……ってそうじゃなくて!」

 

 妖介のボケに雄助がツッコミというちょっとした漫才を繰り広げているが雄助は至って真面目に話をしている。妖介は適当に聞き流しているが。

 

「昨日帰らないで残ってたら迅悠一って人の話を聞けたかもしれないし、もしかしたら会えたかもしれなかったじゃん」

「ん?……あ、そうか!」

「妖介のおバカ!!」

 

 昨日あんなにもシリアスな雰囲気を出して玉狛支部の面々に緊迫感を与えていた2人。ところが本人達はそこまで落ち込んでいるわけでも怒っているわけでもない。むしろ、もう1度レイジの飯を食いに行こうかと思っているほどだ。

 

 なぜそう思えるのかは、雄助は少しだけショックを受けたがあれが普通の反応だと思っているからだ。

 一種の諦めの様なものである。

 

 

 故に、今雄助が怒っているのは玉狛支部の面々に対してではない。妖介にである。

 

「もう妖介は出禁ね!」

「え、ちょま――」

 

 雄助は一方的に会話を中断して精神世界から出る。

 

 

 意識を覚醒させてこの後はどうするかを考える。

 忍田に呼ばれた要件は恐らく防衛任務についてだろう。

 

 防衛任務は隊ごとに就くものなのだが、生粋のコミュ障である雄助には隊を組むような友達が居ないし、隊を作るほどの行動力もない。中には1人だけでも防衛任務に就ける者もいるのだが、それは本部が認めた隊員だけであり、入隊したばかりの雄助が就けるわけがない。

 つまり、隊に所属していない雄助には防衛任務が出来ないということ。

 しかし、独り暮らしである雄助にとって防衛任務は大事な大事な資金源である。防衛任務のためだけにボーダーに入隊したと言っても過言ではない。ここで金を稼がなければ生きていけないのだから。

 

 よって雄助は忍田に()()()()を言った。

 

 そのわがままのことでの話だろう、と考えていたが、どういうわけか何やら視線を感じる。

 目を開けると周りには多くの隊員達が居て、皆が自分のことを見ていた。

 

 

「っ!」

 

 

 そのことを完全に忘れていた雄助は見られていることに耐えられなくなり、素早く立ち上がりランク戦室を後にする。

 

 忍田に呼ばれた時間まであと1時間以上ある。

 どこか落ち着ける場所に行こう、と考えたが開発室以外に行くあてがなかった。しかし、開発室の職員達は皆忙しいので逃げ込むためだけに行くのは仕事の邪魔するようで気がひけた。

 

 結局、行くあてのない雄助は仮眠室に隠っていようと仮眠室へと足を運ぶ。

 

 

 

 

「ねえ、君」

 

 

 

 しかし、突然前に現れた少年に声をかけられ、その足を止めた。

 

 

「……えっと、僕?」

「うん、そうそう。君」

 

 

 少年はニコニコとしながら雄助の質問を肯定する。

 

 

「今暇? 防衛任務とかない?」

「……あ、うん。ないよ」

「じゃあさ――」

 

 

 

 ニコニコとした顔を崩さずに少年――緑川駿(みどりかわしゅん)は言う。

 

 

 

 

「――個人(ソロ)のランク戦しない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そういえば雄助の『サイドエフェクト』の元ネタはガッシュ○ルの『アンサートーカー』なんです。

まあ知ってる人多かったと思いますけどね 笑

ガッシュ○ル面白いんでよかった見ることをオススメします。私的には漫画の方が好きです。


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第9話

この小説の投稿頻度が二週間に一度に定着している……。

読んでくれる皆様、亀更新で申し訳ない( ;∀;)





 ――緑川駿(みどりかわしゅん)

 中学生にしてA級4位『草壁隊』の一翼を担う天才『攻撃手(アタッカー)』。無造作な髪型に小柄で活発そうな印象を与える顔立ちをしている。

 彼が天才と言われる所以は、入隊時の対戦闘近界民(ネイバー)訓練で4秒という過去最速記録をだしたからだ。

 

 そんな、天才『攻撃手(アタッカー)』である少年は、ある1人の人物が気に食わなかった。

 

 

 その人物の名は、天峰雄助。

 入隊時の対近界民戦闘訓練のタイムは、1.3秒。それまでの最速記録である緑川の4秒より2.7秒も短いタイムを出した人物だ。

 

 そう、緑川より短いタイムを出して最速記録を更新したのだ。

 それが〝きっかけ〟。

 

 

 緑川が対近界民戦闘訓練で過去最速記録の4秒を出して入隊した頃は、ボーダー内は緑川の話題で持ちきりだった。

 皆が口々に「緑川がすごい」と彼を褒め称える。

 

 気分は悪くなかった。

 

 さらに、その勢いのままA級の『草壁隊』に入隊した。最年少A級隊員の誕生だ。

 

 またしても皆、彼を褒め称える。

 

「緑川は天才だ」「中学生なのにもうA級になっている」「センスの塊だ」

 

 その言葉に愉悦を感じていた。

 

 

 しかし、それを邪魔する者がいた。

 天峰雄助だ。

 戦闘訓練で過去最速の記録を出し、尚且つ他の訓練でも全て1位をとる大型ルーキー。

 

 話題というものは移り変わるものであり、雄助が入隊してからはボーダー内では雄助の話で持ちきりであった。さらには、緑川を称賛する声は減り、逆に天峰雄助を称賛する声が増えた。

 

 ――気にくわない。

 

 C級隊員達の中では、緑川より雄助の方が強い、といった話が出ていた。

 

 ――気にくわない。

 

 ならどっちが強いか証明してやろう。そう意気込んでランク戦室に毎日通った。しかし、雄助がランク戦室に現れることは1度もなかった。

 

 ――気にくわない。

 

 なぜこない。勝ち逃げのつもりか。

 緑川は一向に現れない雄助にイライラしていた。

 本人からしてみれば勘違いもいいところなのだが、緑川にはそうとしか考えられなかった。

 

 ――気にくわない。

 

 雄助がランク戦室にくることはない、と諦めかけていたときにある情報を耳にした。

 

 天峰雄助がボーダーに入った理由は迅悠一に復讐するためである。

 

 それを聞いた瞬間、苛立ちが怒りの念にかわっていった。

 

 

 緑川は迅にトリオン兵から命を救われたことで熱烈なファンになり、ボーダーへ入隊した。

 自分とは真逆の理由で入隊した天峰雄助に不快感を覚えた。

 

 ――なぜ迅さんに危害を加えようとする。

 

 自分の愉悦を邪魔をしてきて、さらには憧れの人物に危害を加えようとする。

 怒りは頂点に達していた。

 

 

 

 噂を耳にしてから数日後、行くのが癖になってしまったランク戦室に向かいながら、この怒りをどうしようかと考えていると()()()がいた。

 

 黒い短髪、あまり高くない身長、真っ黒なサングラス、そして黒のラインが入った白い服。寝ているのかベンチに座り下を向いたまま動かないが、天峰雄助だと確信できた。

 

 

 雄助を見つけた緑川の心にドス黒い何かが広がる。

 

 

 ――ああ、やっと見つけた。

 訓練の時もどうせズルをしてたんだ。人を集めて全員の前でボコボコにしてズルを暴いてやろう。恥をかかせてやろう。そうすれば自分の方が強いと証明できる。そうすればあいつの評判は落ちるだろう。そうすればみんな俺を誉めるだろう。

 

 緑川の承認欲求は止まらなかった。

 

 

 もはや緑川の中では迅のことなど二の次だった。

 

 

 

 悲劇まであと四半刻。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 ――ああ、またこの目か。

 

 ランク戦を持ちかけてきた少年――緑川駿を見て、雄助はそう思った。

 

 

 なぜ緑川がランク戦を持ちかけてきたのか。雄助は『サイドエフェクト』を使わなくても、緑川の目を見ればその理由がわかった。

 

 

 

 中学の時に『サイドエフェクト』を使って試験で満点を何回も取ったことがある。

 最初は皆感心していたが、次第にカンニングをしたんじゃないかと疑われ、なんであんなやつがと妬まれ、最後に不正をしたと決めつけられて虐められた。

 

 

 〝妬み〟

 

 

 雄助が唯一理解できる人の気持ちである。

 いや、正しくは理解できる、というよりも()()()の方が合っている。

 

 中学の時に散々向けられたか妬みの視線により、その気持ちが理解できずともそう思っているとわかるようになった。

 

 それが緑川を突き動かしたのだろうと雄助は感じ取っていた。

 そして、これから緑川がなにをしようとしているのかは、中学の時に散々体験したのでわかったしまった。

 

 

個人(ソロ)のランク戦しない?」

 

 その言葉を聞いて――ああ、やっぱりか、と思った。

 

 なぜこの少年が自分のことを妬んでいるのかはわからない。でも、自分をランク戦でボコボコにでもして恥をかかせたいのだろう。

 

 そう考えた雄助は彼の提案を――承諾した。

 

 

 どうせ断ったところで諦めるような目をしていなかったし、適当に負けてやれば相手の気も晴れるだろう、と考えて雄助は承諾したのだ。

 

 緑川は満足そうに頷くと、ランク戦室の方へ歩いていった。それに雄助は追随する形でついていく。

 2人の後ろには、緑川がわざと大きな声で話をしたためか大勢の隊員達がついてきていた。

 

 ――ああ、やだなー。

 

 大勢の目に晒されるのもそうだが、なによりランク戦、戦闘をしなければいけないことにため息が出てしまう。

 ただ負けるだけでいいとは言え、体を斬られるのだ。とてつもなく嫌で、逃げ出してしまいたい。

 しかし、逃げたところでまた別の日に緑川が来ることは予想できる。さらにはここまで人が集まっているなかで逃げたとなると周りに非難されるだろう。

 妖介に頼る、という道は先ほど雄助自身が閉ざしてしまった。まあ、今頃ふて寝でもしているのでどのみち無理だが。

 

 また戻ってきたランク戦室で雄助は113号室に。緑川は203号室へと入っていった。

 

 

『じゃあ何本勝負にする? 5本勝負でも10本勝負でもいいけど』

 

 ブースに入って初めて見るブースの機器に雄助がてんやわんやしていると、マイクから緑川の声が響いた。

 どうやら本数はこちらが決めていいようだが、5回か10回しか選択肢がない。つまり最低でも5回はボコボコにしたいようだ。

 

「……じゃあ、早く終わらせたいし5回で」

『……ふーん』

 

 雄助の早く終わらせたい、という言葉に緑川は少し苛立ちを覚えた。

 緑川には「さっさと勝って終わらせたい」と言っているように感じたのだ。

 実際のところは「さっさと負けて終わらせたい」なのだが。

 

『……ああ、そういえばハンデはいる? 君、B級になったばっかでしょ。トリガーとかいじってなさそうだし。それに俺はA級だからB級成り立て相手に――』

「――いいからさっさとやろう」

 

 

 瞬間、顔が見えるわけでも声を発したわけでもないのに、マイク越しに殺気が伝わってきた。

 

 ――あれ? まずかったかな?

 

 原因である雄助は煽ったつもりはなく、ただただ早く終わってほしかっただけなのだが、結果的には火に油を注いだだけだ。

 しかし、雄助は人の気持ちがわからないのだ。なぜ怒っているのか、それが理解できないのだ。

 早くやろう、と急かしたのがいけなかったのはわかるのだが、なぜそこで怒るのか全くわからない。

 本人からしたら「そんなカリカリしないの」とでも言ってやりたいところだが、それを言ったらいけない気がしたので胸の内に留めておく。

 

 

『転送開始』

 

 

 その言葉と共に目の前の景色はブースから町へと変わっていった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

個人(ソロ)ランク戦5本勝負 開始』

 

 開始の合図と同時に緑川は『グラスホッパー』を踏んで雄助がいる方角へと疾走する。

 

『グラスホッパー』

 緑川が愛用する機動戦用オプショントリガー。

 空中にジャンプ台を作り出し、それを踏むことにより加速を得られる。

 

 その速度はかなりのものでスタート時には1km以上合った距離をあっという間に詰めてしまった。

 緑川は標的である雄助を捕捉すると、右手に『スコーピオン』を剣状に形成して力強く握る。

 

『スコーピオン』

『グラスホッパー』と同じく緑川が愛用する攻撃手(アタッカー)用トリガー。

 変形が自由自在で定まった形状を持たない刃。体中どこからでも出現させることが可能で、しかもとても軽く重さはほとんどない。

 軽さを活かし高い機動力を確保できるため身軽なトリガー使いである緑川とは相性がいいトリガーだ。

 

(あいつが持ってるのは……『弧月(こげつ)』か)

 

 対する雄助がその手に握るトリガーは『弧月』。

 鍔の無い日本刀の様な形状をしていて、高いレベルでバランスの取れた攻撃力と耐久力を持つ総合力に優れ扱いやすい傑作トリガー。

 

(受け太刀に回ったら不利だな。スピード勝負でいこう)

 

『スコーピオン』は軽い分脆い。『スコーピオン』より耐久力の高い『弧月』を受け太刀すると簡単に壊れてしまう。

 

 そのことを緑川の沸騰した頭の冷静な部分が思い出させる。どうやら相当頭にきてはいるが冷静なようだ。

 

 あくまで冷静に。そして冷徹に、標的を叩き伏せる。

 それだけを目標に。

 

(――まずは足から!)

 

『グラスホッパー』で更に加速して、雄助に急接近する。

 緑川は流石に奇襲するだけで両足は取れないだろう、と考え次の策を考えながら、雄助の背後から『スコーピオン』を雄助の両足を刈り取る勢いで振るう。

 

 

 しかし、緑川が振るった『スコーピオン』は――やけにあっさり雄助の()()を刈り取った。

 

「は?」

 

 これには思わず緑川も素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 天峰雄助は仮にも戦闘訓練で1.3秒を出した男である。その男がこうもあっさり斬り伏せられるものなのか。

 

 緑川は不信に思いながらも罠の可能性を考慮し、両手も斬り落とした。

 それでも特に何かしてくるわけでもなく、うつ伏せで居るだけだ。

 

 そこで緑川は気づく。

 

 やっぱり弱いじゃん、と。

 

 疑問が確信に変わると緑川は、歪んだ笑みを頬に張り付けたまま、一言も発しないで雄助の首を斬り飛ばした。

 

『天峰 緊急脱出(ベイルアウト) 1-0 緑川リード』

 

 

 

 1戦目が終わってブースに戻った緑川は雄助のブースへと音声を飛ばす。

 

「動けてなかったけど大丈夫?」

『……』

 

 無言。

 軽く煽ってみたが無視されたのかあちらから音はしなかった。

 そのことに少しの苛立ちを覚えたが、それより今は愉悦が勝っている。

 

 次も軽くあしらってやろう、と考えたところで転送された。

 

 

『2本目開始』

 

 

 開始の合図と同時に標的がどこにいるか確認するためにレーダーを見る――が反応がない。

 

「ちっ『バッグワーム』か!」

 

『バッグワーム』

 レーダーに映らなくなるマントのトリガー。

 使用中は常に少しずつトリオンを消費するが、着用することでトリオン体の反応を隠すことができる。

 

 自分だけレーダーに映っていては不利な緑川は『バッグワーム』を起動しながら思考する。

 

(『バッグワーム』を使って奇襲か? それとも単なる時間稼ぎ?)

 

『バッグワーム』を使ったということは奇襲、もしくは単なる時間稼ぎ。そのどちらかだろうと踏んだ緑川だが、実際はどちらでもない。

 

『バッグワーム』を使った雄助の目的は――

 

 

 

 

 

 

(負けるだけでよくてもやっぱり戦うなんて無理ぃぃぃぃいい!)

 

 盛大に逃げるためである。

 

 この男は1戦目に緑川に手足を斬られたときに反応しなかったのではない。恐怖で軽く失神して反応できなかったのだ。

 それにブースに戻ってからの緑川の煽りも無視したのではなく、聞こえないほどに恐怖していたのだ。

 

(勝負を受けた数分前の自分を殴りたい!)

 

 こんなんあと4回もあんの!? ホント数分前の僕のバカ! と1人心の中で騒ぎながら逃げ惑う。

 

 ふとレーダーを見ると緑川の反応がないことに気づく。

 

(あっちも『バッグワーム』使ってきた!……ええい、使っちゃえ!)

 

 緑川が『バッグワーム』を使ったのに気づくのと同時に雄助は『サイドエフェクト』を発動させる。

 この男、逃げに全力である。

 

 

 

 雄助は『サイドエフェクト』で緑川の居る場所をある程度把握できても雄助の方から攻めに転じることはなく、『サイドエフェクト』をフル活用して逃げる。

 逆に緑川は逃げる雄助を捉えるために躍起になって探す。

 

 これではただの〝かくれんぼ〟である。

 まあ、少し殺伐としてはいるが。

 

 

 しかし、この状況も長くは続かなかった。

 雄助が恐怖に耐えられなくなり、うっかり姿を晒してしまったのだ。

 

 この状況に苛立ち始めていた緑川は、自分から姿を晒してきた雄助を見て嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

「あれー? かくれんぼはもう終わり?」

「……」

 

 雄助は下を向いて動かない。というよりも動けない。

 またしても恐怖がそうさせる。ぶっちゃけ漏れそうなレベルである。

 

「まあ、どうやってあそこまで逃げてたか知らないけど――ね!」

 

 その言葉と共に雄助の首と胴は泣き別れした。

 

『天峰 緊急脱出 2-0 緑川リード』

 

 

 2本連取した緑川は上機嫌に雄助のブースへ音声を飛ばす。

 

「もうリーチだよ。次で負けが決まっちゃうね」

『……』

 

 やはり返事は返ってこない。

 まあいいか、と返事が返ってこないことを諦める。

 

 さて、次はどうやって倒してやろうかと上機嫌に考えるが、

 

 

 

 《おい、雄助》

 

 

 

 緑川は知らなかった。

 

 

 

 《人が寝てる間に随分楽しそうなことしてるじゃねぇか》

 

 

 

 雄助の中には悪魔(妖介)が棲んでいることを。

 

 

 

 

 《俺に変われ》

 

 

 

 悲劇まであと600秒。

 

 

 

 

 

 






評価、感想お待ちしております!



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第10話

どうもお久しぶりです!

まずはご報告を。

なんとこの前、ランキングに私の小説がランクインしていました!しかも3位!!
まあすぐに消えちゃいましたけども……笑

こな小説を読んでくださる皆さん! 本当にありがとうございます( ;∀;)


それでは本編をどうぞ!


 

 

 

『3本目開始』

 

 3度目の開始の合図を聞き、緑川は動き出す。

 

 緑川は今、最高に気分が良かった。

 

(結局あいつはズルをして最速記録を出したんだ。じゃなきゃあんな弱いはずがない)

 

 思い浮かぶのは、なにもできずに切り伏せられる天峰雄助の姿。

 2戦してわかる。天峰雄助はあまりにも弱く、あまにも拙い。

 そのことが堪らなく嬉しい。

 

 スキップでもしてしまいそうな気持ちを抑えてレーダーを確認する。

 今回は先程とは違い、レーダーにしっかりと反応があった。

 

『グラスホッパー』を力強く踏んで一気に距離を詰める。

 

(これで俺の方があいつより強いってことが証明できる……!)

 

 眼前に捉えた雄助は、下を向いて微動だにしない。

 

 

 この時、緑川は気分が高揚していて雄助の今までとの違いにきづかなかった。

 

 

(獲った!)

 

 内心ほくそ笑みながら『スコーピオン』を前回と同じ軌道で振るう。

 

 

 

 

 

 

 瞬間。

 

 

 

 

 

 視界が左右に割れた。

 

 

「……あ、れ?」

 

 

 頭が現状の理解に追い付かない。

 

 無機質な音声が事実のみを述べる。

 

 

『緑川 緊急脱出 2-1 緑川リード』

 

 

 緊急脱出(ベイルアウト)する直前に見えたのは、口は弧を描いて目は笑っていない天峰雄助。

 

 

 その目には異形な模様が浮かび上がってた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 ――妖介は憤慨していた。

 

 怒りの矛先は雄助に危害を加える害虫(緑川)に向いていた。

 

 雄助によからぬ感情を向ける輩が居るのは知っていた。だから時間を潰すのにわざわざランク戦室に赴いて、害虫を()()()のだ。

 結局は事情を説明していなかったため、雄助に怒られて出れなくなってしまったが。

 

 ランク戦室に居た時にはそれらしい輩は居なかった。だから、大丈夫だと踏んで寝ていたのだ。

 だが、そこで安心してしまったのがいけなかった。

 間の悪いことに妖介が安心して寝ている間に緑川はランク戦を持ちかけてきたのだ。

 

 

 妖介が起きた頃には雄助の心は消耗していた。

 極度に嫌いな〝戦闘行為〟を強要されていたため、ほぼ気絶していたのだ。

 

 

 雄助が気絶するほど〝戦闘行為〟を嫌うのには理由がある。

 

 第1次大規模侵攻で雄助の両親は近界民(ネイバー)によって命を奪われた。

 その命を奪われる瞬間に雄助は立ち会っている。

 

 近界民のブレードに貫かれた両親の姿と一瞬で致死量だと理解できるほどの血。

 それが〝死のイメージ〟として脳裏に焼き付いている。

 

 

 武器を握ると考えてしまう。

 

 

 もし、今握るトリガーが殺傷能力を有していたら。

 

 もし、それで斬られたら。

 

 もし、それで撃たれたら。

 

 もし、それで斬ったら。

 

 もし、それで撃ったら。

 

 

 

 そう考えると『サイドエフェクト』が答えを出してしまう。

 

 

 〝死〟

 

 単純明解。

 故に恐怖が全身を蝕む。

 

 〝戦闘行為〟が〝死のイメージ〟と結び付いて、雄助の体を恐怖が覆い尽くしてしまう。

 

 

 つまり、武器を握ると両親の死が頭にちらついてしまうため、戦闘をしたくないのだ。

 

 

 そのことをよく理解している妖介は頭にきているのだ。

 

 辛かっただろう、怖かっただろう、苦しかっただろう。

 

 ――なら俺がすべきことはただ1つ。

 

 

 3戦目を終えた妖介は緑川の居るブースへ音声を飛ばす。

 

 

「おーい、真っ二つにされた緑川、いや、グリリバ君。聞こえてますかね? 格下だと思ってた奴に斬られた気分はどう? ねえ、教えて、どんな気持ち?

 ほら、もう1度聞かせてよ「……あ、れ?」って。いやーあのアホ面は最高に面白かったよ。プークスクス」

 

 

 盛大に煽りにいった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

(くそっ! また卑怯な手でも使ったのか!?)

 

 緑川は困惑していた。

 1戦目、2戦目共に瞬殺して格下だと思っていた相手、天峰雄助の動きの変化にだ。

 

 また瞬殺だろう、と思っていた3戦目。同じように突撃すると訳もわからぬままに斬られていた。続く4戦目では困惑と煽られた怒りが相まり、いつも通りの動きが出来ずあっさり斬り捨てられた。

 

 緑川は何が起きたのか全く理解できてなかった。

 

 なぜ、どうして、と頭の中で何度も自問自答するが答えは出ない。それはそうだろう。緑川が相手にしているのは雄助ではないのだから。

 

 そのことを知らない緑川は、もう1つ、困惑していることがあった。

 

(それにあの目は……)

 

 天峰雄助の目の模様を思い出すと神経という神経に寒気が走った。

 

 異形。

 そう言ってしまえば簡単だが、あの目は()()の人間ではあり得ない模様だ。

 そう()()ならあり得ない。しかし、緑川が所属する組織、ボーダーでは普通ではありえない力を持つ者達が存在する。

 

(あの目になってから動きも変わった……もしかして『サイドエフェクト』?)

 

 

 その答えに辿り着くのに大して時間はかからなかった。

 

 そして、怒りが込み上げてくる。

 

(結局ズルしてるようなもんじゃないか……!)

 

 普段の緑川ならそんなことは思わないだろう。しかし、今は嫉妬や承認欲で普段なら考えもしないことを考えてしまう。

 

 

『サイドエフェクト』はどんな能力であれ、戦闘に多大な影響を与える。ボーダー内にも『サイドエフェクト』持ちは数人いる。そしてそのほとんどが強者揃いだ。

 緑川もその人達のことを卑怯だとは言わない。むしろ、尊敬しているくらいだ。

 だが、天峰雄助だけは違う。違ってしまう。

 

『サイドエフェクト』頼りで実力はないくせに、たまたま運がよかっただけじゃないか。

 

 気にくわない相手が特別な力を持ち、自分より優位に立てば、なんであいつなんだと思うだろう。なんで自分ではないんだと思うだろう。

 胸の中でその思いが強くなる。

 

 ――オレの方が、オレの方が強い!

 

 

 

 

 そうこう考えている内に妖介が居る場所へ辿り着く。

 

「どうした小石に躓いた様な顔して」

 

 妖介はニヘラと笑ってそう言う。

 内心では怒りが頂点に達しそうではあるが、努めて冷静に応える。

 

「……ねえ、君さ。なんかズルでもしてんの?」

「あ? ズルってなんだよ……あれか? お前。負けたらズルだ、チートだって騒ぐタイプか。あーやだやだ。()()()に限ってそうやって言ってくるんだよ」

 

 しかし、返ってくるのは煽り。妖介は〝弱い奴〟の所をわざと強調して言う。

 

 その言葉がきっかけで緑川の怒りが頂点に達した。

 

「……うるさい」

「あー? んだよ」

「――うるさい! なんなんだよ、あんたは! だいたい、オレのことを弱いとか言ってるけどアンタは結局、その〝気持ち悪い目〟の力に頼ってるだけのズルい奴じゃないか! その力がなかったらオレの方が「ハァ、うるせぇな」……!」

 

 緑川の怒りの咆哮を遮り、妖介は『弧月』を構える。

 

「ギャーギャーギャーギャーうるせぇんだよ。発情期かお前は。文句があんだったらかかってこいよ」

「言われなくても……!」

 

 会話を終わらせ、緑川は『グラスホッパー』で前へ飛び出す。加速する体は妖介と別の方向へと進み、また別の『グラスホッパー』を踏む。それを繰り返す。

 

乱反射(ピンボール)

 それが緑川が行っている高速移動の名称。

 『グラスホッパー』を周囲に多数配置し、3次元的に高速移動して相手を惑わす、緑川が得意としている技である。

 

 しかし、妖介は『乱反射』で高速移動する緑川には目もくれず、その場から動こうともしない。それどころか欠伸までしている。

 

(くそっ、舐めやがって……!)

 

 怒りに任せて飛び出そうと『グラスホッパー』を力強く踏みしめる。

 

 

 そこでハッとする。

 もしやこいつは自分を単調な動きにさせるために挑発行為をしているのではないか、と。

 

「――ッ!」

 

 そのことに気づいた緑川は前方に『グラスホッパー』を出して方向転換し、一度距離を取る。

 

 

(今行っていたら斬られてた……気がする)

 

 

 直感ではあったがそんな気がしたのだ。

 そしてその直感は間違っていなかった。先程までとは違い、緑川のことを見ようともしなかった妖介が、緑川のことをしっかりと捕捉している。

 

(……なら、今度は!)

 

 もう一度妖介の周りに『グラスホッパー』を多数展開して『乱反射(ピンボール)』をする。

 先程と同じように妖介の周りを右に、左に、上に、下に、と縦横無尽に飛び回る。

 

 そして動かない妖介の後ろから強襲する。

 

 

 

 それを待っていた、と言わんばかりに妖介は居合いの構えで緑川が居る方へ振り向いた。

 

 

 

 が、緑川は途中で『グラスホッパー』を踏み、妖介の頭上を飛び越えた。

 

 妖介に『バッグワーム』被せて。

 

 緑川は途中で『グラスホッパー』を踏んだときに上には自分の体を、前方には『バッグワーム』を飛ばしたのだ。

 

 

(完全に虚をついた! 今度こそ!)

 

 

 前が見えていない妖介の背後からその首を刈り取ろうと、緑川は刃を振るう――

 

 

 

 

 

 

「意外と冷静な判断ができるじゃねぇか」

 

 

 視界を遮られ、緑川がどこに居るのかわからないはずなのに、再度妖介は居合いの構えで背後へと振り向いた。

 

「なっ!?」

「でも残念だったな」

 

 そう言うのと同時に妖介は『弧月』を高速で解き放つ。

 

 高速で解き放たれた『弧月』は緑川の顔面に吸い込まれいき、真っ二つに斬られる。

 

 

 

 

 

 

 

「――がっ!?」

 

 はずだった。

 

 

 

「おー吹っ飛ぶ吹っ飛ぶ」

 

『弧月』をバットのように振り抜いた形ではっはーっと軽快に笑う妖介。

 

 

 なぜ、緑川が斬られなかったのか。

 結論から言ってしまえば、それは『弧月』の切れ味を〝0〟にしたからだ。

 

『弧月』は『スコーピオン』のようにトリオンを消費せずに、刀を自由に出し入れできない。

 そのため『弧月』を持った側のトリガーは必然的に使えなくなってしう。

 しかし、『弧月』はオフにすることで切れ味が0になり、同じ側にセットされた他のトリガーを使用できるようになる。

 

 妖介はこの特性を活かして『弧月』を〝刀〟から〝竹光〟へと変化させたのだ。

 

 

 だが、なぜわざわざ攻撃力を0にするような行為をするのか。

 先程の攻撃で『弧月』をオフにしなければ緑川に勝利していたわけだ。

 

 なぜ刀を竹光にしたのか。

 

 

 それは〝恐怖〟を与えるため。

 

 

 トリオン体はトリオンによる攻撃以外に対しほぼ無敵になる。戦車の大砲やミサイル程度では直撃しても無傷であるほどである。

 オフにした『弧月』。

 オフにしてしまい、攻撃力を有さないトリガーでトリオン体にダメージを与えられるか。

 

 答えは可である。

 攻撃力を有さなくとも、妖介が扱う『弧月』はトリオンで出来た武器である。

 斬ることができなくとも打撃を与えることはできる。

 

 しかし、打撃を与えられる、といってもそれは微々たるものである。

 斬るよりは圧倒的にダメージは少ないだろう。

 

 

 だが、それでいい。いや、そうでなくては困る。

 

 

 何度も、何度でも攻撃をしたいがために切れ味を0にしたのだから。

 

 トリオン体にもある程度痛覚はある。斬られたり殴られたりすれば痛みを感じる。

 緑川を緊急脱出(ベイルアウト)させてしませば1度しか斬れない。それでは痛みが一瞬するだけで終わってしまう。

 

 つまり妖介が切れ味を0にしたのは、痛みを1度ではなく何度も与えたいからだ。

 

 

「初めてやったけどいいな、これ。『竹光弧月』って呼ぶか」

「……ぐっ」

 

 

 緑川は飛ばされて突っ込んだ家の瓦礫から這い出て、自分が飛んできた方を見る。

 

「さて、これからが本番だ。楽しめよ、グリリバ」

 

 そこには心底愉しそうに、心底愉快そうに、嗜虐的な笑みを浮かべて近づいてくる妖介がいた。

 

 

 クソッと心の中で悪態をつき、怒りで己を鼓舞して攻撃を仕掛ける。

 

 

『グラスホッパー』を使い急接近して斬りかかる。

 いなされ、『竹光弧月』で殴り飛ばされる。

 

『乱反射』を使って妖介の周りを高速移動する。

 途中で『竹光弧月』で殴り飛ばされる。

 

 突っ込んだ家の瓦礫から動かないで誘い込む。

 奇襲するよりも先に『竹光弧月』で殴り飛ばされる。

 

 1度距離を取ろうと『グラスホッパー』で後ろへ下がろうとする。

 それを分かってたかのように先回りされて『竹光弧月』で殴り飛ばされる。

 

 何をしても、何をするよりも先に殴り飛ばされる。

 

 緑川は何度も同じ箇所を殴られ、痛みが酷くなっていた。トリオン体でなかったら痣ができているだろう。

 

 

 ――痛い。怖い。逃げたい。こいつには勝てない。こいつには敵わない。こいつからは逃げられない。

 

 そう考えてしまう。

 

 緑川は武器を持ち、近界民と戦い街を守っている、と言ってもまだ中学生だ。

 

 何度も何度も殴られ、逃げれば追ってくる。しかも笑いながら。

 

 そんなことが続けば、まだ中学生である緑川が恐怖を感じるのは当たり前だった。

 

「どうしたそんな顔して」

「……」

 

 緑川は顔を蒼くして血の気の引いた唇を固く結ぶ。

 

 恐怖を植え付け、2度とこんなバカなことができないようにする。

 それが妖介の目的。

 

 

「お前は雄助に恐怖を植え付けた。だから俺がお前に恐怖を植え付けてやる」

 

 悪魔(妖介)は嗤う。

 

 ――雄助に手を出したことを後悔しろ。

 

 

 

 

 




くっ戦闘シーンが難しい……。

まあ言うほど書いてはないんですけどね 笑


あ、あとこの小説の投稿頻度は二週間に一度になると思います。
投稿を待ってくださっている読者の皆様には申し訳ないですが、よろしくお願いいたしますm(__)m


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第11話

お久しぶりです。

まず最初に



投稿が遅れて申し訳ございませんでした……!!!

大学のテストや実家に帰る準備等でなかなか投稿できませんでした(´・c_・`)

では、3週間ぶりにどうぞ!




 

 

 

 妖介対緑川のランク戦を観戦する隊員達はドン引きしていた。

 

 

 今、ランク戦を観戦している隊員の多くがC級隊員であり、その中の大半が雄助のことを良くは思っていない者達である。

 

 A級隊員である緑川とB級なりたての雄助。

 

 雄助のことを良く思ってない者でなくとも、普通に見たらどちらが勝つかなど火を見るより明らかで、彼らも緑川の圧倒的勝利を信じて疑わなかった。

 

 

 1戦目。予想通り、雄助は手も足も出ず負けた。彼らはああ、やっぱりな、と思った。

 2戦目。雄助は緑川から泣き言を喚き散らかしながら逃げた。彼らは雄助のことを嘲笑った。

 

 しかし、ここで勝利できなければ負けが確定してしまう3戦目。なんと雄助が勝利した。彼らの嘲笑は止まり、困惑した。

 続く4戦目。またも雄助が勝利した。彼らの顔は驚愕に染まった。

 

 そして、彼らがドン引きして観ている5戦目。

 先程までは妖介がサドスティックな笑顔を浮かべながら、A級隊員である緑川を『弧月』で吹き飛ばしていて、緑川は面白いぐらい宙を舞っていた。

 それだけでも充分ドン引きものなのだが、今彼らが見ているモニターでは――

 

 

『ふむ、こんなところか』

 

 

 満足げに頷きながらそう言う妖介。

 そして頷く妖介の視線の先には『スパイダー』によって四肢を建物と繋げられ、今にも泣き出しそうな緑川。

 

 

 ――どうしてこうなった?

 モニターを見ている全員が思った。

 

 

 

『スパイダー』

 起動すると両端からかえしの付いた角の出たキューブが出現し、 銛のように角を壁などの場所に撃ち込んで固定することでワイヤーを張れる

 

 単純に通り道をワイヤーで防ぐことで相手の移動を制限したり、 足元に張って敵の足を引っかけて転ばす罠として利用したりするのが主な用途であるのだが、

 

 

『それにしてもナイス磔だな。我ながら天晴れ』

 

 

 新たに磔という使い方を見つけた外道がいた。

 

 

 

 

 しかし、磔にされたと言っても体のどこからでも出せる『スコーピオン』ならば『スパイダー』を切れるのではないか、と思うかもしれないが不可能である。

 

 

 なぜなら、磔にされている緑川自身が恐怖で思考停止しているからだ。

 

 

 度重なる痛みが、妖介の笑顔が、恐怖として緑川にまとわりつき、正常な判断をさせないようにしている。その恐怖といったらもう目から涙を、下から尿を漏らしそうなレベルである。

 

 そんな顔どころか股もぐちゃぐちゃになりかねない状況の緑川がまともな判断ができるわけがない。

 

 

 

 

 

 さて、中学生を磔にして笑う高校生。そんなもの観てれば誰とてドン引きするだろう。

 中には憐れに思ったのか合掌するものもいる。

 

 そんなC級隊員の中に一際冷や汗を流すメガネをかけたC級隊員が1人。

 

 

 彼も雄助の噂は耳に挟んでいた。

 ズルをして戦闘訓練で最速記録を出した、嵐山隊に喧嘩を吹っ掛けた、犯罪者、などなど。その他にも真実か疑わしい噂も多数あった。

 

 彼自身、そんな人物がボーダーに居るのか、と半ば信じてなかった。

 

 しかし、こんな映像を見てしまえばその噂達を信じてしまいそうになる。

 彼はまさか本当にそうなのか? と考えて冷や汗を更にかく。

 

 

 

 眼鏡をかけたC級隊員――三雲修は遠くない未来でこの外道と深く関わることも知らずに。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「それにしてもナイス磔だな。我ながら天晴れ」

 

 ウンウンと満足げに頷きながら自画自賛する妖介。

 自賛しているものが磔というのが非常に残念と言うか、クソ野郎と言うか、もはや悪魔だ。

 

 妖介は頷くのを止め、さて、と前置きして緑川に話しかける。

 

「グリリバ……いや、緑川聞こえてるか?」

「……」

 

 無視、ではなく、ただ単に怖くてそれどころではないだけである。喋らない方が吉だ、と脳の冷静な部分が判断したといくこともあるが。

 

 反応が返ってこなかったため、妖介はため息を1つついて『弧月』を緑川の前にちらつかせる。ただのチンピラである。

 

「返事せんかい」

「――はっはい。すいません!」

 

 今度は少し、いや、かなり食い気味に応える。相当こたえたのだろう。

 それに敬語なあたりしっかり調教済みである。

 

 

「んで、なんでお前は雄助を貶めるようなことをしようと思った」

 

 そんなこと分かりきってはいたが、やはり本人の口から言わせなければ意味がない。

 

 これはヤバい、と思ったのか緑川の顔が蒼くなる。

 

「あ、いや、あれは、なんというか出来心と言うかなんと言うか」

「あ? はっきり言わんかい」

「気にくわないからやりました」

 

 誤魔化そうとする緑川に『弧月』の切っ先を向けると、簡単に口を割る。

 最早、拷問又は尋問と言われて過言ではない。

 

 妖介はそうか、と言い『弧月』の切っ先を下ろす。

 

 

「……あ、あれ? 怒って……はいますね! 分かってるんで、それはもう向けないで!」

 

 怒ってないと思われいたようなので、妖介はもう一度『弧月』を向けると緑川は焦って謝ってきた。

 

「分かってんなら言うなよ……さて、お前は雄助が気にくわないからランク戦を持ちかけた、それで間違いないな」

「はい」

 

 妖介は更に続ける。

 

「雄助に声を掛けた時、わざとでけぇ声出したのは注目を集めて、大勢の前で恥をかかせようとしたためだな」

「……はい」

「ズルだ、なんだ、と騒いでいたのは負けたことが認められなかったから。戦闘訓練の記録を越されたのが認められなかったから。あとそれが今回の動機だな」

「…………はい」

「承認欲に嫉妬。てめぇの感情に雄助を巻き込み、挙げ句の果てには逆ギレ」

「………………はい」

 

 緑川はあたかも自分ではない人物がやられた様に話す妖介を不思議に思いながらも返事をする。

 まあ、その返事も段々と弱くなっているが。

 

「言いたいことはまだまだあるが……まあ、よしとしよう。

 どうだ緑川、なんか言うことあるか?」

 

 そう言われた緑川は数回ほど目をパチクリさせてから、目尻を涙でいっぱいいっぱいにして頭を下げる。

 

 緑川が言わねばならぬことは1つ。

 

 

 

 

「――ずびばぜんでしだっ!!」

 

 

 謝罪。

 雄助に多大なる迷惑をかけてしまったことによる本心からの謝罪。

 

「……そうか」

 

 対する妖介は未だ磔にされたままの緑川を見上げて一言呟いて緊張を解く。

 

 妖介の緊張が解けたことにより、緑川も恐怖から解放され、安心した笑みを浮かべる。

 

 ああ、やっと終わるのか。長かった。辛かった。でも、もう終わったのだ。もう大丈夫だ。

 

 そう思いながら妖介を見る。

 

 妖介は微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ〆いきますかー!」

 

「……え!?」

 

 

 悪魔のお仕置きはそう簡単には終わらないようだ。

 

「いやいやいやいや、ちょっとまって! 今良い感じで終わりそうだったじゃん!」

「いや、だって緊急脱出(ベイルアウト)させきゃいけないだろ」

「普通に自分でするよ!? それに磔は解いてくれてもよくない!?」

「まあまあ静かにしてろって」

 

 

 そう言って妖介は緑川の前まで行き、『弧月』をしまい()()になった。

 

 妖介は武器をしまい素手になった右手を後ろに引き、左手を前に出す。重心を下げて右手の延長線上に緑川の()がくるようにする。

 仕上げに、右手を引いたら肘が当たるであろう場所に『グラスホッパー』を配置する。

 

 武器をしまい素手になった妖介を見て緑川は疑問符を浮かべていたが、右手が股の延長線上に来た時点で察した。

 

「――っ! まってまってまって、普通に、いたって普通に緊急脱出させればいいじゃん!

 なんでわざわざ()()なの!? ましてやなんで殴ってなの!?」

 

 緑川は必死になって妖介に訴え掛けるが、妖介は集中しているのか目を瞑って聞く耳を持たない。

 

「聞いて! ねえ、ほんとにお願い、聞いてください!」

「必殺――」

 

 やはり緑川の懇願は聞いてもらえず、妖介は攻撃の準備を始める。

 

 腕を更に後ろへ勢い良く引き、肘を『グラスホッパー』へ当てる。

『グラスホッパー』によって加速された拳は一直線に緑川の股間目掛けて飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――(スーパー)滅り込みパーンチッ!!」

「プギャッ」

 

 

 緑川の股間が豪快な音と共に爆ぜ、トリオンの煙が大量に漏れる。

 

 

『トリオン漏出過多 緑川 緊急脱出』

 

 

 

 史上最低最悪な緊急脱出で緑川は一筋の光となって消えていった。

 

 

 

「粉砕! 玉砕! 大喝采! ってか! アーハッハッハッ!」

 

 

外道の高笑いが響く市街地に無機質な音声が外道の勝利を告げる。

 

 

『勝者 天峰雄助』

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「妖介、なんか言い訳はある?」

「え、あの……まず()()外してもらってもいいですか」

「ダメ」

 

 

 緑川の公開処刑が終了して暫くたち、今は妖介と雄助は精神世界で向かい合っていた。

 

「どうしても?」

「ダメ」

「まじか……」

 

 妖介がなぜ先程から雄助に何かを外してくれ、と頼んでいるのか。

 

 それは妖介が今、自分が緑川にやったように磔にされているからだ。

 

 今居るのは雄助の精神世界。雄助が想像すればなんでも創れる。今回創ったのは鎖。それを空中から顕現させ腕にくくりつける。結果、それはそれは見事な磔ができ、空中に綺麗な大の字の妖介が浮かんだ。

 

 

 

 さて、ではなぜ妖介を磔にするほど雄助が怒っているのかというと――

 

 

 

「だって妖介、みんなの前で色々と余計なこと言ったじゃん」

 

 そう言って雄助は妖介をジト目で睨む。

 

 

 

 

 

 ――遡ること30分。

 

 緑川の公開処刑を終え、通話で緑川に「次こんなことしたら生身の方をデストロイすんぞ」と忠告をして晴れやかな面持ちでブースを後にした妖介。

 ブースを出て一番最初に目に入ったのは2人のランク戦を観ていた隊員達の顔だった。

 驚愕、恐怖、嫌悪、畏怖、様々な感情がC級隊員達の顔に現れていた。

 

 それもそのはず、B級隊員なりたてがA級上位に位置する緑川に勝利するどころか、笑顔で緑川を何度も殴り飛ばし、トドメには磔にして股間をデストロイしているのだから。

 

 そして何より〝目〟。

 

 何人かは見たことがあったようだが、大半の隊員は初めて雄助の異形の目を見た。

 初めて見た者達には驚愕と恐怖を、見たことがある者達には嫌悪と畏怖を与えた。

 

 向けてくる感情は違えど、全員の視線と感情が妖介に刺さる。

 

 

 故に妖介は全員に向かって言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブッサイクな顔向けてんじゃねぇよ、モブ共」

 

 と。

 

 

 

 隊員達は急に言われた罵りの言葉に暫し唖然したが、少し経つと感情が怒りに変わった。

 

「まぐれで勝ったからって調子にのるなよ!」

「またズルでもしたんだろ!」

「気持ちわりぃ目しやがって!」

 

 隊員達から上がる暴言。

 それを気にも留めない様子で妖介は隊員達の前に降り立つ。

 

 

「まずはその臭い口を閉じろ」

 

 

 ただ平然と言っただけのその言葉に誰もが従った。

 先程と同じように罵ってきたというのに、誰1人として言い返さなかった。否、言い返せなかった。

 

 妖介は怒っているのだ。憤怒に狂気めいた殺意がこもるほどに。

 妖介が放つ殺意にも似た怒りに気圧され、全員の口から言葉が出てくることはなかった。

 

「ん、静かになったな」

 

 静かになると妖介はめんどくさそうに後頭部を掻きながら言葉を続ける。

 

「お前らも観てたと思うけど、俺はあのバカを折檻してきた。理由は()()を苦しめたからだ。

 お前らの中にも雄助に何かしようとしている奴がいるなら出てこい。()が相手してやる。全員あのバカみたいにしてやるからよ」

 

 ああはなりたくないだろ? と自虐的な笑みを浮かべてそう言うと、隊員達がザワつく。

 

 まるで〝俺〟と〝雄助〟は別人だと言っているようではないか、と。

 

 そのザワつきの原因に気づいた妖介は、あーめんどくせぇな、とぼやきながらも隊員達に答えを与える。

 

 

「俺の名前は妖介。お前らの知る天峰雄助とは別人だ」

 

 

 隊員達のザワつきが一層強まる。

 何を言っているんだこいつは、頭おかしいんじゃないか、と誰もが妖介の言葉を信じない。

 

 

 ――まあ、これが普通の反応か……。

 

 

 脳裏に浮かぶのは玉狛支部の面々。

 妖介の存在を疑うことなく信じてくれた数少ない人達。

 

 しかし、それは今関係ないだろう、と切り捨てる。

 

 

「信じる信じないはお前らの自由だが、雄助は〝解離性同一性障害〟。つまり二重人格だ」

 

 またしてもザワつく。

 

「わかったか? 俺はもう1つの人格ってことだ。

 さっきのランク戦も、訓練もだいたいは俺がやった。今までの結果に文句があるやつは雄助にじゃなくて俺に言え」

 

 以上終わり、と言って妖介はランク戦室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやだってあれは……ねえ?」

「ねえ? じゃないよ!? 必要以上に煽りすぎだし、妖介のことも言っちゃったし!」

「うん、煽ったし言っちゃった」

「……ダメだ、反省してない」

「でもこれで雄助に多少なりとも悪意はいかなくなるだろ」

 

 妖介がそう言うと雄助は悲痛な顔をして俯いてしまった。

 

「……」

「……俺が招いたことだ。お前は気にすることはない」

 

 俺がお前を守るのはいつものことだろ、と続けると雄助は今にも泣き出しそうな顔を上げた。

 

 

 

「それが行き過ぎると僕の心が痛いんだ。

 妖介ばかりに負担をかけて、押し付けて、僕のために全ての悪意を自分に向ける妖介を見ていると僕は辛いし苦しい」

 

「……それでもそれが俺の存在理由だ」

「……妖介は〝最初の約束〟のこと覚えてる?」

 

 〝最初の約束〟

 その言葉を出されて妖介はバツの悪そうな顔になる。

 

 

「……ああ、覚えてる」

「じゃあその約束を守って。僕は苦しんでいる」

 

 

 天を仰ぎ、観念したようにため息をつく。

 

 

「……わかったよ。約束は守る」

「うん、ありがとう」

 

 

 やっと雄助の顔から悲痛さが消え、笑顔が現れた。

 そのことに妖介も呆れながらも安堵する。

 

「じゃあさっさと帰ろうぜ」

「あ、でも忍田さんのとこいかなきゃ」

「気絶するような精神状況で行けるわけないだろ。今日は行けないって連絡いれといた」

「そうなの? ありがとう」

 

 連絡いれるついでに、緑川のことをチクったことは黙っておいた。

 

「おう、とりあえずこれ外してくれ」

「ん? ちょっとまってね」

「あ? いやなんで…… おい! ちょっとまて、なんで拳構えてんだよ!?」

 

 磔にされたままというのも嫌なので妖介は外してくれと頼むが、何故か雄助は先程の妖介と同じように拳を構えていた。

 

 そう、妖介の股の延長線上で拳を構えたのだ。

 

「緑川君を必要以上に痛めつけ、尚且つ僕を苦しめた妖介への制裁。それに僕のことを緑川君を釣るための餌みたいな扱いしたでしょ?」

「いやあれは」

「知ってるよ。僕のためでしょ。それでも説明くらいしてくれてもよかったんじゃないの?」

 

「うぐ……」

 

 的確な指摘にぐうの音もでない。

 

「まあ細かいことは、また家に帰ってからでってことで」

「いやいやいやまってくれ!」

「いくよー」

 

 

 やはり先程と同じように妖介の懇願は聞いてもらえず、雄助の拳が繰り出される。

 

 

 

 

 

「元祖・減り込みパーンチ!」

「ひでぶ!」

 

 雄助渾身のパンチで妖介の股間は昇天したのだった。

 

 

 

 

 

 




今更ながらオリ主の名前の由来をご紹介したいと思います。


最初に名前が決まったのは雄助からでした。
私の名前の一文字である『雄』は絶対にいれようと考えたました。あれでもないこれでもないと考えていた時、本屋でたまたま見つけた昔読んでいた漫画の主人公の名前が『祐助』だったのを思い出し、これはいい、と『雄助』の名前が決まりました。

そして妖介ですが、意外とあっさり決まりました。

二重人格にするのは最初から決まっていたので『雄助』と似た名前にしようと考えていました。

もう1つの人格はどのような性格にしようかときまっていて、悪魔のような性格、と決まっていました。そこで、『悪魔のような』というところが私の好きなスポーツ漫画に出てくる人物にいて、その人物が『妖一』という名前でした。

じゃあ、その人物の『妖』と雄助の『助』を合わせて『妖助』にしようとしたのですが、それでは違和感があったので『妖介』となりました。
さらにその人物はチームの『裏』エースと作中で呼ばれていたので即決定でした。


これが雄助と妖介の名前決定までの経緯でした。

次あたりで『天峰』の由来を書こうと思います。


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第12話

いやー夏休み最高ですね

みなさんは如何お過ごしでしょうか。
私は実家の素晴らしさを実感しております。とはいえ数日後には学校の方へ戻るんですが……笑

さて、それでは本編へどうぞ!


 

「体調の方は大丈夫か?」

「はい、もう大丈夫です」

 

 緑川駿公開処刑事件の翌日、雄助は本部長室へ訪れていた。

 

 本部長室に居たのは、勿論のこと忍田本部長、そして本部長補佐の沢村響子の2人だけだった。

 

「それなら良かった。緑川には私の方から説教をしておく」

「いえ、その件のことはもう大丈夫です。

 僕的にはそれよりも……」

 

 そう言って沢村を一瞥する。

 

 雄助はこの部屋があまり好きではない。

 その理由は沢村響子である。

 別に沢村のことが嫌いというわけでなく、ただ〝大人の女性〟がどうしても怖いのだ。

 もちろん雄助自身、沢村が悪い人ではないことはわかっているし、とても優しい人だと思っている。

 

 しかし、今回のよう部屋に忍田と2人だけの時に訪れると不機嫌になるのだ。

 

「……あ、あの沢村さん……なんでそんなにジト目で見てくるんですか」

「……別にー」

 

 唇を尖らせて、いかにも私不機嫌です感を出してそっぽを向く。

 

 沢村は忍田に恋心を抱いていている。

 つまり本部長室は好きな人と2人だけの空間をだったわけだが、雄助の登場により2人だけの空間を邪魔されてしまい、不機嫌になっているのだ。

 

 そんなことを人の気持ちが分からない雄助が分かるわけもなく、沢村への苦手意識が強まる要因となっている。

 

 だからと言って、ずっとジト目で見られるのは嫌なので、とりあえず機嫌をとるために『サイドエフェクト』を使って選んだ差し入れを渡す。

 

「……あの、これどうぞ」

「……あ! これ私の好きな甘栗! ありがとー」

(ふぅ……機嫌が直って良かった……)

 

 

 と、まあいつもこんな感じで本部長室へ訪れている。

 

 

 2人のやり取りが一段落ついたところで忍田が話を切り出す。

 

「さて、雄助君。早速で悪いが本題に入ろう。

 先日君が言っていた1人で防衛任務就きたい、という要望はやはり認められない」

「やっぱりそうですか……。ではお願いした方は?」

「……そちらの方は許可できるようになった」

 

 生粋のコミュ障の雄助が隊に誘うような友人がいるわけもなく、そんな行動力もない。

 しょうがない、と1人で就けないかゴリ押ししてみたが、やはり1人での防衛任務は許可されなかった。

 

 

 そのことを半ば予測していた雄助は()()()()を言った。

 

 1人がダメなら他の隊に混ざって防衛任務は就けないか、と。

 

 雄助も苦渋の決断だったが、それなら長く居座るわけでないので妖介のことがバレる可能性も低くなるし、目もサングラスで誤魔化せばバレない、と考えて決断した。

 まあ、昨日の件でバレてしまったが。

 

 

 

「だが、合同となる隊はこちらで選ばせてもらうが大丈夫か?」

「……まあ、そのぐらいなら大丈夫です」

「そうか」

 

 そこで会話が途切れる。

 しかし、忍田はまだ何かあるようで、口を開きかけるが、悩んだ末にその口を閉じた。

 

 誰も口を開かない部屋で沢村が叩くキーボードと時計の針の音だけが響く。

 忍田は何か言いたそうにしているが、時計の針の音が10ほど鳴っても未だに言わない。

 気まずさはあるが忍田が何か言いたそうにしているのを見て、雄助は待つことにした。

 

 そして時計の針がさらに20ほど鳴って、漸く忍田が意を決したような表情で再度口を開いた。

 

 

「……私としては君を個人(ソロ)に留めておくのは勿体ないと思っている。雄助君。やはり君は部隊に入る、または創るつもりはないのか?」

 

 

 漸く忍田の口から出てきた言葉は、雄助にとって即答できるものだった。

 

 

「はい、そのつもりはありません」

 

 

 しかし、雄助の返答を聞いた忍田はしつこく食い下がった。

 

「……特別扱いというのも周りの反感を買う恐れもある。そういった意味でも部隊に入ったほうがいいと私は思っている」

「まあ、それは大丈夫かと……え? 急になにさ――」

 

 反感を買ったとしても昨日の事件を見た者ならちょっかいをかけようなど思わないないだろう。なんたって自身の大事な部分がデストロイされる恐れがあるのだから。

 そういった意味を込めて大丈夫、と伝えようとしたのだが、妖介が出てきた。

 

 

「――いやいや、ちょっと待ってくれよ忍田さん。

 なんで俺らが周りのことを気にしなきゃいけないんだよ。自分のことで精一杯なのに周りのことまで気を使うとか罰ゲームか? 手当てちゃんとついてんの? 追加料金発生しないとおかしいだろそれ」

 

 

 要約すれば「周りのことなんて関係ない、自分がしたいことをする」ということだ。

 

 それはそうだ。

 この男は腹が減ったら他人から貰えば(盗れば)いい、と考えるような最低な思考を持ち合わせているのだから。

 そんな男が良くも悪くも周りのことを気にするはずがない。

 

 一方、忍田は妖介達が金に困ってることを思い出し、金銭関係のメリットを話す。

 

 

「君達があまり人に知られたくないことがあることはわかっている。しかし、隊を組めば1人より楽にお金が稼げるし、A級に上がれれば固定給がでる。やはり1人よりも隊を組んだほうがいいと思うのだが……」

「ハァ……そう言うことじゃないんだよ」

 

 

 しかし、それはズレていた。と言うよりか検討違いだった。

 たしかに2人は金には困っているが、給料が上がるからと言って隊を組んだりはしない。

 

 そもそも、手当てだの追加料金だのは妖介が皮肉で言っただけであって、欲しいと言っているわけではない。それに気づかない忍田に呆れ、しつこさに若干の苛立ちを覚えた。

 

 

 

 さらに「1人よりも隊を組んだ(みんなの)ほうがいい」という言葉が()の逆鱗に触れた。

 

 

 

 

「みんなでやることがいいことで、みんなでやることが素晴らしいことで、じゃあ1人でやることは悪いことなんですか?

 どうして今まで独りでも頑張ってきた人間が否定されなきゃいけない。

 

 〝僕〟はそのことが許せない」

 

 

 そう言いきった()は、今日は失礼させていただきます。また後日伺いますので、と言って本部長室を後にした。

 

 

 

 

 さて、()はどっちだったのだろうか。

 

 〝僕〟とは言っていたものの雄助とは思えない、まるで妖介のような、否、妖介そのものの怒りの形相。

 そしてその口から発せられる言葉は静かに淡々と、雄助が使う様な言葉使いで、しかし言葉に込められた怒りは妖介の怒りの様ではっきりと伝わってくるものだった。

 

 

 この言葉は雄助が言ったのか、はたまた妖介が言ったのか。

 それは聞いていた忍田達でもわからない。

 

 

 

 ただ、

 

 あの怒りが非憤慷慨だったのはたしかである。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「どうぞ」

「……ああ、すまない」

 

 沢村に差し出された湯飲みを受け取り、一口飲む。

 沢村が淹れてくれたお茶はいつもと変わらない味のはずなのに、いつもより苦く感じた。

 

「忍田本部長、さっきのは()()()だったんでしょかね……」

「そうだな……もしかするとあれは2人の怒りだったのかもしれないな」

 

『サイドエフェクト』で周りに迫害され、心の支えであった親は大規模侵攻で失い、独りで懸命に生きてきた雄助。

 そしてその姿を1番間近で見続けてきた妖介。

 

 そんな2人に「1人よりも隊を組んだ(みんなの)方ががいい」などと軽々しく言っていいものではなかった。

 激怒してあたりまえだ、と忍田は自分の軽率さを反省していた。

 

「私は焦り過ぎてしまったな。『サイドエフェクト』で人間不信になってしまった雄助君にどうにか人との関係を持ってほしかったのだが……」

「たしか、『瞬間最適解導出能力』でしたっけ?」

 

 沢村の問いかけに忍田は頷く。

 

 沢村と忍田は鬼怒田に雄助の『サイドエフェクト』について教えて貰っていた。もちろん本人の許可をとって。

 

『瞬間最適解導出能力』――読んで字の如く、瞬く間に最適な解を導き出す能力。

 

 強力で便利な能力だ、と忍田は聞いた時に思った。

 それが事実ならば、戦闘中なら常に最適解を導き続けられるし、こう言ってはなんだが勉学においても役に立つのだから。

 しかし、鬼怒田はそれを否定した。

 

『たしかに強力で便利な能力だが、雄助の力は代償が大き過ぎる。

 体力の消費量、目の変化、答えの書き換え不可。雄助は『サイドエフェクト』を使うことによって、体力を多く奪われ、友人を失い、固定観念に縛られてきた。

 さらに唯一答えが出せないものがある。〝人の気持ち〟だ。なぜそうするのか、はわかってもどうしてそう思うのか、それが理解できないそうだ』

 

 

 まるで呪いだ、とその話を聞いた時に思った。

 親が居ない子供が、腹をすかせ、頼る人間も居らず、自分の力と向き合ってきたのだ。

 

 さらに鬼怒田の話には続きがあった。

 

『そして、訳も分からなく虐めてくる者達や大規模侵攻の際にあった()()こともあり、他人は自分に害を及ぼすものだ、と『サイドエフェクト』が答えを出してしまっている。

 そのことが原因で人間不信になり、他人と距離を離すようにしているようでな。特に女性にはそれが顕著に現れている』

 

 

 それは初めて妖介に会った時に言われたこととほぼ同じことだったが、鬼怒田にもう一度聞かされ、それはそうだ、と再度納得した。

 

 人間に殺されかけて、理解できない悪意に晒されて、人を信頼しろと言うほうが不可能である。

 

 だが、今すぐ信頼できずとも徐々に、ほんの少しずつでもいいので、人を信じれるようになってほしいのが忍田の本音だ。

 だから、多くの人と関わり雄助の心を溶かせないかと思い、隊を組むことを薦めたのだが、いかせん強引になりすぎてしまった。

 

 あれほどしつこく言っていたのも雄助のことを想ってだったのだ。

 

 

 故に忍田は呟く。

 

 

 

「願わくば、彼らに信頼できる者が現れればいいのだが」

 

 

 

 

 

「ぶぇっくし!」

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「ぶぇっくし!」

《おいおい、大丈夫か?》

 

 日が西の空に沈み冷え込んだ商店街を晩御飯の買い出しの為、雄助は1人歩いていた。

 

「うん、大丈夫。それにしても最近寒くなってきたねー」

《それな。寒いし今日はおでん食いてぇな》

「じゃあ夜ご飯はおでんにしよっか!」

 

 楽しく和気あいあいと晩御飯の話で盛り上がる。

 しかし、悲しきかな。彼らの財布には紙幣が存在しない。全て硬貨である。

 それに気づくのはコンビニに着いてからだが。

 

 2人の話題は晩御飯から防衛任務へと変わる。

 

《にしてもよ、やっと防衛任務か。楽しみだなー》

「まっっったく楽しみじゃないけどね!」

《なんでだよ、金は貰える、ストレス発散し放題。楽しみじゃねぇか》

「給料はね! それ以外は全然全く楽しみじゃないから!」

 

 防衛任務は妖介からすれば好きに暴れていい上に、金も貰える至福の時ではあるが、雄助からすれば嫌いなことずくしな上に、妖介の存在をうまく誤魔化さなければならないのだ。うまく誤魔化せないと、いつもはビクビクしているのに戦闘になるとヒャッハーする戦闘狂と思われてしまう。

 長い付き合いにはならないとは言え、数日間は一緒に防衛任務をするのだ。それだけは避けたい。

 

 しかし、本人達は2人で会話しているつもりだろうが、端から見れば独り言を言っている様にしか見えない。

 既にすれ違う人全員に頭のおかしい人だと思われてるだろう。

 

《そんなカリカリすんなよ。どうせ戦闘は俺がやるんだから》

「まあ、そうだけど中にいるときでも怖いもんは怖いよ……」

《それは我慢してくれ。生活のためだ》

「だよね……」

 

 ハァ、とため息をつきながら曲がり角を曲がると

 

 

 

 ――それはそれは綺麗な少女が倒れていた。

 

 

 

「……oh no」

《……落ち着け雄助、英語になってるぞ》

 

 あまりの出来事に英語になっている雄助。平静を装ってはいるが結構驚いている妖介。

 倒れている少女は気を失ってはいないが、とても辛そうな顔をしていて息も上がっている。

 それを見て雄助は大いに慌てる。

 

「ど、どうしよう妖介。お、おん、女の子が」

《いやだから落ち着けって。適当に他の奴に任せれば……って誰もいないな》

 

 妖介の言うとおり、先程まではちらほらと見受けられたが、今は1人も見受けられない。

 

 

 

 なんと運の悪いことか。

 

 

 

 

 雄助達がではない。倒れている少女がだ。

 

 

 

 

《じゃあ帰るか》

 

 

 

 もしも、彼女を見つけた人物が雄助達ではなく、他の人物だったら間違いなく助けただろう。

 状態を確認して、救急車を呼ぶなり病院に連れて行くなりするだろう。

 

 だが、なぜ他人を助ける。なぜ助けなければいけない。その理由がわからない。

 

 人として当たり前? 人としてのモラル?

 

 ――そんなもの〝人格〟である俺には関係ない。俺が助けるのは雄助だけだ。他人なんて知らん。

 

 それが妖介の答え。

 

 

 一方、雄助の答えは――

 

 

「いや、病院に連れていってあげよう」

《……なんで?》

「人を助けるのに理由がいる?」

《……》

 

 

 助ける。他人を助ける。

 それは妖介には理解できなかった。

 

 

 お前は他人に殺されかけただろう。他人に傷つけられてきただろう。なぜ助ける。なぜ助けられる。

 

 

 そんなもの簡単だ。雄助が優しすぎるから。

 そしてその優しさの根元は今は亡き母からの言葉だ。

 

 

 

 さて、これでは倒れている少女は運が悪かったことにならない。

 しかし、たしかに彼女は運が悪い。なぜなら――

 

 

 

「てことで妖介頼んだ」

《……はあ?》

 

 雄助は女性が大の苦手なのだから。

 

 あんだけ格好つけて「人を助けるのに理由がいる?」、と言っておきながらの妖介頼り。最高に格好悪い。

 

《やだよ。自分で助けるか救急車でも呼んどけよ》

「いやーそれが携帯の充電が無くなっちゃってて……」

《病院に連れていくしかないと》

 

 携帯の充電が無くなったことにより、救急車を呼ぶ、という選択肢が消え、さらに周りに人が見当たらないことにより、誰かに任せる、という選択肢も消えた。

 結果、残った選択肢は病院に連れていく、しかなくなってしまった。

 

 病院に連れていく、ということは女性に触れる、それどころか密着するかもしれないのだ。そんなこと女性が苦手な雄助ができるわけがない。

 

「……うん。だから、お願い!」

《やだ》

 

 即答。

 

「なんでよ!?」

《俺がそいつを助けることによって発生するメリット、利益は?》

「うぐっ……ない、けど」

《なら俺は何もしないからな。助けたきゃ自分で頑張れ》

 

 じゃあ家着いたら起こしてくれなー、と言って妖介は寝てしまった。

 

「妖介のバカ、アホ、おたんこなす!」

 

 うがー、と誰も居ない夜の商店街で吠える。しかし、吠えたところで手詰まりなのは変わらなず、ただただ雄叫びが商店街に響くだけだ。

 一度深呼吸をしてから冷静になって女の子を確認するが、やはり息が上がり辛そうにしていてる

 

 

 どうしようどうしよう、と雄助が未だ悩んでいると少女の蒼い目と視線が合う。

 

 

 

 ――たすけて。

 

 

 

「――ッ! あーもう!」

 

 雄助は少女を抱き上げる。所謂お姫様抱っこというやつだ。パルクールのために鍛えた筋肉がここで役に立った。

 ただし、雄助の顔は恥ずかしさとトラウマの2つの要素が重なり、もはや紫色になっていたが。

 

 顔色を紫にしながらも『サイドエフェクト』を使って病院の位置を探す。

 

「病院は……あっちか。ちょっと遠いなぁ……」

 

 さっさと行っちゃお、と言い病院へ向かおうとしたが、少女のであろうコンビニ袋が落ちているのに気づいた。

 

 それを拾い、中身を確認する。

 

 

「この人()()好きなんだ、意外……って今はそれどころじゃないや」

 

 

 そう呟き、雄助は病院へ少女を運ぶために走り出す。

 

 

 

 

 

 

 明日この時少女を助けたことを少し後悔するとも知らずに。

 

 

 

 

 

 




前回の後書きで言った『天峰』の由来ですが、こちらは意外と適当です 笑

まだ小説の設定を考えている段階の時、剣道をやってる友人に『天』と『峰』という防具が結構いいのなんだーということを聞いたことがありました。
その場では「へぇー」くらいだったのですが、後日オリ主の名前を決めている時、サイドエフェクトの元ネタである力を使う『金○のガッシュ』の登場人物である『高嶺○麿』の『高嶺』を元にしようと決めました。
その時に友人から聞いた話を思い出し、『高嶺』の『嶺』を『峰』にして『高』を『天』にして『天峰』となりました。

と、まあこんな感じで途中からトントン拍子で名前が決まってしまいました(・ε・` )


それと突然ですが次回の投稿がもしかしたら1ヶ月以上空くかもしれません。
部活の合宿で執筆どころでなくなってしまうので……。誠に申し訳ございません。

なるべく早く書き上げたいと思います( ;∀;)



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第13話

大変お待たせしました!!
それと一度投稿したものを消してすいませんでした。

最終確認及び編集ができていなかったので……。
迷惑ばかりかけてすいませんでした。


それでは本編へどうぞ!


幼きある日、自分が他者と違うと知った。

 それは他者から負の感情しか向けられない、不気味な異形の目だった。

 

 

『気持ち悪……』

『気分悪くなるからこっち向くな』

『こっち来るなよ化け物』

 

 

 浴びせられる罵詈雑言。日に日に増える理不尽な暴力。

 

 

 ――なんでそんなことするの? なんでそうおもうの?

 

 

 ただただ分からなかった。

 世界の全てが敵になった様な気がした。他人は害しか与えない存在だと思うようになった。

 

 だが、両親だけは違った。

 両親だけが救いだった。支えだった。

 塞ぎ込んでいた自分に寄り添ってくれた。優しく包みこんでくれた。

 

 全てが敵ではない。両親は味方であり拠り所だ。そう思っていた。

 

 

 

 

 しかし、味方は、拠り所は突然奪われた。

 白き侵攻者と見知らぬ女性の手によって。

 

 第一次近界民侵攻。

 両親を失い、他人を信じられなくなった大災害。

 

 他人は害を与えるだけでなく、自分から大事な者まで奪っていった。

 

 

 心の支えが居なくなり、世界の全てが己に悪意を向けているとしか思えなかった。

 

 

 そんな時、

 

 

 《男が簡単に泣きべそかくなよ、ナメられちまうぞ》

 

 

 そう言って彼は現れた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「……むにゃ、朝か」

 

 窓から射し込む太陽の光で目が覚め、目を擦りながらムクリと起き上がる。しかし、朝特有の寒さと眠気が合間り、もう一度布団にくるまる。

 数分ほどゴロゴロしてから漸く布団から這い出る。

 

 時刻は5時。

 雄助の朝は少し早い。

 

 

「ふぁ~あ……またあの夢か……」

 

 

 そう独りごちる。

 ()()()から過去の出来事を断片的に夢で見るようなった。最初こそ夢を見る度に涙を流したものだが、何年か経てば涙が出てくることはなくなった。

 勿論、涙が出なくとも見ていて気分が良い物ではないし、出来れば見たくはない。悲しみには慣れることなどできないのだから。

 

「あーもうやだな……」

 

 雄助は夢の内容にうんざりしながらも、ランニングウェアに着替え、ストレッチを始める。

 雄助は毎日ランニングと筋トレを欠かさずしている。

 なぜ? と思うかもしれないがよく考えてほしい。雄助は逃げることに全力だ。持久力をつければ長時間走り抜けることができるし、筋肉をつければ障害物を楽に乗り越えられる。

 つまりはパルクールの基礎練。

 雄助は逃げるための努力は惜しまないのだ。

 

「よし、準備完了」

 

 ストレッチを終え、玄関に行きランニングシューズを履いて外に出ると、やはり朝特有の寒さが雄助を襲う。

 

「う~さむい……」

 

 少しでも寒さを緩和しようと手で腕を擦りながら走り出す。

 雄助は毎日、ランニングを10Km、筋トレはスクワット、腕立て、腹筋、背筋などの自重トレーニングを行っている。

 余談ではあるが、トレーニングの成果で雄助の体はほどよく引き締まっていて腹筋も割れている。所謂、細マッチョというやつだ。

 

 

 走り出してから20分程経った頃に、ふと、昨日の出来事を思い出した。

 

「そういえば昨日のあの人大丈夫だったかな……」

 

 雄助が言う〝あの人〟とは、昨日助けた少女のことである。

 

 

 昨日、少女を病院へ運ぼうと走り出したまでは良かったのだが、いかせん病院までの道のりが遠かった。走り出した地点から病院まで数kmあり、人を抱えて走るにはなかなかしんどい距離だった。

 さらには、途中で自分が恥ずかし事――お姫様抱っこ――をしていることに気づき、1人で大いに慌てた。

 

 まあ、そんなこんなで無事? 病院には辿り着いた。

 あとは病院の人に簡単に事情を話し、早々に病院を立ち去ったのだ。

 

 ただ、立ち去る間際に聞こえた病院の人達の会話的に、運んだ病院は少女がいつも通院している所であり、少女はかなり体が弱いことが分かった。

 どうせもう会わないとは思ったが、そんな話を聞いてしまえば気にもなるものだ。

 

 

 

 昨日のことを思い出している内に家まで戻って来ていたようだ。

 家の中に入り時計を確認すると、いつもなら出発から40分程度で完走するのだが、考え事をしていたせいかいつもより5分程遅かった。

 

 そのことを確認しつつ、筋トレを開始する。

 まずは最も大事な足腰を鍛えるスクワット。

 パルクールはかなりの高さから着地をするため、しっかりと足腰は鍛えなくてはいけない。

 両足着いた状態で100回、片足だけの状態を各30回ずつこなす。

 

 次は上半身を全体的に鍛える腕立て伏せ。

 腕立て伏せは障害物をスムーズに乗り越えるために必要なのだ。

 床で30回、足を高い位置に置き段差を利用して15回を各2セットずつ行う。

 

 続いてボディバランス向上のための腹筋。

 まずは体を90度曲げてVの字にして1分間キープ。終わったら足上げ腹筋を30回。

 ちなみに腹筋しているときの雄助の顔はとてもブサイクである。

 

 終わりに腹筋と同じくボディバランス向上のための背筋。

 腹筋を鍛えているため、背筋をしなくてはバランスが悪くなってしまう。

 背筋のポーズをとって1分間キープを3セット行う。

 

 これで筋トレは終了だ。

 筋トレが終わったところで、シャワーを浴びに風呂場へと向かう。

 脱衣場で服を脱いでいると、鏡に映る自分の背中が目に入った。

 

 そこには右の肩甲骨あたりから斜めに大きな傷痕が1つ。

 

 

「……消えないかな、これ」

 

 

 背中の傷は剣士の恥だからね、などと冗談めかして呟くが、雄助の顔は悲しみに染まっていた。

 

 それは第一次近界民侵攻の際に『モールモッド』の刃で斬られた傷痕だ。その傷痕を見るとやはり()()()を思い出してしまう。

 

 4年経った今でも消えない、ということは恐らく一生消えることはないだろう。

 

 ――傷痕も悲しみも。

 

 

 

 さて、朝からそんな憂鬱な気持ちになってもしょうがないので、そんな気持ちを汗と一緒に流すべく、改めて風呂場へ入ってシャワーを浴びる。

 

 

 シャワーを浴び終えたら次は学校の制服に着替えて朝食。

 

「朝はパン~パンパパン~」

 

 と、口ずさみながらトースターにパンを入れていく。丁度そのタイミングで妖介が起きたようだ。

 

《くあぁー……寝っむ》

「あ、妖介おはよう」

《うぃ~》

 

 なんとも気の抜けた挨拶である。

 妖介は朝が弱いので必然的にこうなってしまう。なんとも対照的な2人である。

 

 ちなみに妖介が完全に覚醒したのは朝食が食べ終わる頃だった。

 

 

 

「ご馳走さまでしたっと」

 

 朝食を平らげ、食器を洗い、学校へ向かう準備を始める。

 すると妖介から疑問の声が上がった。

 

 

 

 

 

《んあ? どこ行くんだ?》

「いや、平日だから学校行くんだけど……」

《ああ、バイキングか》

「いや、学校ね!?」

 

 

 彼らはいつも通りの朝を過ごす。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 いつものように学校(食べ放題)を終えた雄助は、その足でボーダー本部へ向かった。

 

 ボーダー本部へ向かったには理由があり、会わなければいけない人物が2人いるからだ。そしてそのどちらも謝罪が目的である。

 

 その人物とは、緑川と忍田だ

 まず、緑川には先日の公開処刑について。確かに緑川に非があったとはいえ、妖介の制裁はやり過ぎである。あれではトラウマものであり、戦闘に支障をきたすかもしれない。

 そして、忍田は昨日の件について。忍田の言葉に少しカッとなってしまい、色々と失礼な態度をとってしまった。上司に対してそれはいかん、ということで緑川にはお菓子の詰め合わせ、忍田にはお茶請けをお詫びの品として謝罪と共に渡すことにしたのだ。

 

 だが正直な話、忍田にも緑川にもあまり会いたくない。

 緑川は言わずもがな、この前のランク戦が原因でシンプルに怖い。忍田には感情に任せて言葉を発してしまったことから顔を合わせずらい。

 まあ、だからといって謝罪に行かないわけにはいかないので渋々向かっているのだが。

 

 

 さて、沢村さんに睨まれそうだなー、と忍田の所へ謝罪を行った時のことを考えていると、目的地の1つである草壁隊作戦室の扉の前まで来ていた。

 

 しかし、いざ扉の前に立って思う。

 

 

 ――え、どうしよう。

 

 

 緑川の中で妖介は恐怖でしかないだろう。

 人格が違うとはいえ、雄助と妖介の見た目は一緒だ。ならば雄助を見れば恐怖を感じるだろう。

 

 そんな人物が突然自分の元を訪れてたらどうか。

 またなにかされる、と考えるだろう。実際、雄助ならそう考える。

 

 というかまず、扉を開けてくれるかどうかすら怪しい。緑川の心境的には、前日に喧嘩した相手が凶器を持って「謝りに来たんだ。ここを開けて」と言っている様なものだ。そんな状況で誰が開けるものか。

 それに緑川にも非があるとはいえ、相手は中学生だ。他の草壁隊の隊員が居た場合、糾弾される恐れもある。

 

 あー、んー、と扉の前で唸っていると、突如目の前の扉が開いた。

 

 

「はぁ……ん?」

 

 

 目が合う緑川と雄助。

 

「……」

「……」

「…………」

「…………」

 

 目が合うこと数秒。先に動いたのは緑川だった。

 

「――ッ!」

「ちょっと待った! なんで扉閉めるの!?」

 

 動き出した緑川は素早く扉を閉めようとするが、雄助がそれを許さない。

 扉を掴み、閉められないように全力で引っ張る。ここで閉められてしまうと緑川の警戒心が強まり、謝罪する難易度が跳ね上がってしまう。

 つまり、なんとしてでも離すわけにはいかないのだ。

 

 

「まず作戦室に入れさせて! 話をしよ!」

「嫌です……!」

「いいから入れてよ!」

「だから嫌ですって! どうせこの前の仕返しとかでしょ!?」

「違うって!」

「大体、みんなが居ない時に来るあたりが怪しいよ!」

「あ、そうなの? 居たら嫌だったからよかった……」

「なんで居ないとよかったの!? やっぱり仕返しじゃんか!」

 

 

 

 そんな扉での攻防を数分ほどして、漸く草壁隊作戦室へ入室することができた。

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

「やっと……入れた……」

 

 

 結局、雄助は中学生との体格の差をフル活用して強行突破したが、扉での攻防によった2人は息が上がり、椅子の上でぐったりしている。

 

「……あの、ちょっと待ってね、緑川君。今息整えるから……」

 

 その言葉を聞いた緑川の肩がビクリと跳ねる。

 

(また、なにかされるのかな……)

 

 またこの前の様なことをされるのではないかと、不安が過る。

 妖介とのランク戦を終えた後、冷静になった頭で自分の行動を振り返った。

 そして、自分がしたことは理不尽極まりなく、ただの嫉妬からくる八つ当たりであったことを理解したのだ。

 理解したからこそ仕返しをされても当然だと考えていた。

 

 

 故に、次の雄助の行動は理解できなかった。

 

 

「ごめん!」

 

 

 突然の行動に緑川は目を丸くする。

 息を整えた雄助は緑川に対して頭を下げ、謝罪をしたのだ。

 

「この前は本当にごめん。妖介がやり過ぎちゃって……。最後のとか痛かったよね。妖介はちゃんと叱っておいたから」

「え、あれ? この前の仕返しに来たんじゃないの……?」

「いやいや! ただ謝りに来ただけだよ!?」

 

 緑川は胸を撫で下ろす。

 が、安心するのと同時に疑問がわく。

 

 

「でも、なんで……」

「え? だって妖介がまたやり過ぎちゃったから」

 

 

 まるで謝るのが当たり前ではないのか? と問う様な顔で言ってのける。

 しかし、緑川が聞きたかったのは謝る理由ではなく、なぜああまでされても謝れるのか、であったが、そこまで当たり前の様に言われてしまえば何も言えない。

 

「まあ、そういうことじゃないんだけど……その〝妖介〟っていうのは……」

「ああ、そうだよね……。そこを説明しないと――」

 

 そこから、雄助は妖介の説明をした。

 妖介がもう1つの人格であること。戦闘訓練をやったのは妖介であること。問題行動の大半は妖介がやったこと、等を緑川に説明した。

 

 そして その説明を受けた緑川は――

 

 

「……戦闘訓練の時のはもう1人の天峰先輩で? オレと最初に戦ったのも天峰先輩で? でも、途中からはもう1人の方で?

 えっと、今は……もう1人? 天峰先輩?」

「うわぁー! 落ち着いて落ち着いて!」

 

 様々な情報が入り乱れ、ショートしてしまった。

 

 

 暫くしてから、やっとのことで情報の整理ができた緑川は、優しいのが雄助、恐いのが妖介、とわかりやすくまとめたのだった。

 

 今までの違和感に納得がいった緑川は改めて謝罪するが、雄助の方も「妖介がやり過ぎて……」と頭を下げるので、お互いが謝り続ける水掛け論の様になってしまった。

 お互いに頭を下げ続ける状況が続き、埒が明かないと思った雄助は話を変えて、なぜ他の隊員がいないのかを聞くことにした。

 それから話が弾み、少し打ち解けあうことができた。

 

 

「そういえば天峰先輩だと両方になっちゃうな……どうしたらいいかな?」

「僕に聞くんだ……。まあなんでもいいよ?」

「うーん……じゃあ、あまみん先輩で!」

「あ、うん。いいけど――」

 

「――俺のことそんな舐めた呼び方したら――わかってるな?」

「イエス、サー!」

 

 

 打ち解けあうことができた。

 

 

 

 

 

 

 そう、緑川は思っていた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「いやー怒ってなくてよかった」

《これでまた逆ギレでもしてきたら殺ってたとこだわ》

「……やるの字が物騒だよ」

 

 緑川に謝罪する、という第1関門を突破した雄助は、第2関門である忍田への謝罪をするため、本部長室へ足を向けていた。

 

「ていうか、妖介がやり過ぎなきゃよかったんでしょ」

《いやいや、それを言うなら緑川だろ。あいつが何もしなければよかったんだ》

「まあそうだけど……」

《生身でデストロイして「いや、そしたら僕もやるからね」うげっ! それは勘弁してくれよ……》

 

 妖介の心底嫌そうな反応を聞いて、そこまで嫌なのかと雄助は面白そうに笑った。

 

《どうだ、止まったか?》

「ん? なにが?」

 

 口許を緩めた雄助を見て妖介はどこか安心したように言う。

 

 

 《震えだよ》

 

 

 そう、雄助は緑川と話している時から作戦室を出るまでの間、ずっと手が震えていたのだ。

 他人が見れば気づかないであろう些細な震え。だが、妖介が気づかないわけがない。

 

「……よくわかったね」

《あったりめぇだろ、俺だぞ?》

「それもそうだね」

 

 タハハ、と誤魔化すように笑う雄助。

 

 やはり緑川に対する恐怖心は簡単には拭えないようで、緑川とは終始目も合わせられなかった。会話もほとんど相槌を打っていただけだ。

 

「でも、まあ……もう大丈夫。ありがとね、妖介」

《……はいよ》

 

 照れくさそうに返事をする妖介。それを聞いた雄助はまた、口許を緩めた。

 

「よーし! それじゃ用事すませてラーメンでも食べに行こっか」

《いや、財布の中は?》

「空! だけど貯金はあるよ」

《崩すのか……まあ、いいけどな》

 

 今日は特別だからね、と浮き立つ雄助は、本部長室へと向かう足を速める。

 

 そうして数分ほど歩けば本部長室だ。

 先程とはうってかわり、扉の前でオロオロすることはなく、すぐさま扉をノックして入室する。

 

「失礼します。天峰です」

「ん? 雄助君か。どうしたんだ?」

「あのこの前のことで……ん?」

 

 本部長室に入るといつも通り忍田と沢村が居たのだが、もう1人見慣れない女性が居た。

 その女性はゆっくりと振り返ると、雄助を見て刮目した。

 

 

「あ……もしかして昨日助けてくれた……」

 

 

そう言われて女性を見る。

ボブにした色の薄い髪。蒼い目。病弱そうな雰囲気――。

 

 

「――あ、昨日の人……」

 

 

 どうやら本部長室に居た女性は昨日雄助が助けた女性だったようだ。

「ぼ、僕が帰ったあと大丈夫でしたか?」と雄助がどもりながら尋ねると、女性は「おかげさまで大丈夫でした。本当にありがとうございました」と何度も頭を下げた。

 

 

「なんだ2人は知り合いだったのか」

 

 

 忍田はそんなやり取りを見て言う。

 

 

「じゃあ最初の防衛任務は()()()とでも大丈夫か?」

 

 

 ――それはまるで死刑宣告の様に聞こえた。

 

 

 

 

 




遅れたばかりなのに申し訳ありませんが、これからは更新が不定期になると思われます。

失踪はしないよう頑張りますので、これからもどうかよろしくお願いします!


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第14話

更新遅れてしまいすいません……!

頭の中ではストーリーはできてるんですが、それを文章にするのが難しい。というか大変。
更新の早い作者の方々ってすごいですよね……。


では、1ヶ月ぶりにどうぞ!


 

 

 雄助は1人頭を抱えていた。

 

 

(猛烈に帰りたい……)

 

 

 怯えたように縮こまる後輩。

 

 怪しいものでも見る目を向ける先輩。

 

 もはや別室にいるタメ。

 

 そして、そんなチームメイト見て苦笑いする隊長。

 

 

 この状況を一言で表すなら〝辛い〟。

 自分から後輩を守るように立たれるのもそうだし、自分が入室して即行で逃げられるのもそう。全てが辛い。

 

 

 

 

(ああ……もうどうにでもなれ……)

 

 

 

 

 

 

 こうなってしまった原因を知るのには時を少々遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 雄助が忍田から死刑宣告を受けた後、雄助は今日から()()()共に任務をこなす那須隊隊長――那須玲と那須隊作戦室に向かって項垂れながら歩いていた。

 

 項垂れながら歩く雄助に那須は質問する。

 

「……えっと、天峰君。なんでそんなに落ち込んでいるの?」

「……いや、まあ……ちょっとした諸事情で……」

 

 雄助が言うその諸事情とは、まず、女子が隊長をやっている隊で防衛任務をすることになってしまったこと。

 どこの隊でもオペレーターは女子なのでそれはしょうがないが、戦闘員、ましてや隊長が女子となると会話する量が増え、さらには防衛任務の殆どの時間一緒にいるのだ。雄助としては死ねる。

 

 次に、女子である那須が率いる那須隊と()()()共に任務をすることになってしまったこと。

 この件に関しては過去の自分を呪った。

 本来ならば当初の予定通り1日ごとに違う隊を転々とするつもりだった。しかし「初めての任務だし慣れるまで数日間いたらどうだ?」と忍田に言われたのだ。

 鬼かこの人は、と思ったが前回失礼な態度をとってしまったことや那須本人がいることもあり強くは出れず、結局了承してしまったのだ。

 

 そして――

 

「あ……もしかして()()()のこと?」

「……まあ、そうですね」

 

 那須が言う()()()とは雄助が死刑宣告を受け、数日間任務を共にすることが決定した後のことだ。

 

 任務を共にすることが決定した後、雄助と那須は任務を数日間共にするのにお互いのことを〝倒れていた人〟〝助けてくれた人〟程度にしか分かっていなかったので自己紹介をすることになったのだ。

 

 最初に那須の方から自己紹介をして、お嬢様学校に通っていることや昨日倒れていた理由、桃缶が好きなことなどが判明したが、そこまでは特に問題はなかった。

 

 問題は雄助の自己紹介で起きた。

 

 

『えっと……天峰雄助って言います。高1です……』

『天峰君ね。今日から数日間よろしく』

『あ、あと知ってるとは思いますが僕二重人格でして……』

 

 緑川とのランク戦の際、妖介が大勢の前で盛大にバラしてしまった秘密。それを聞いて二重人格――妖介の存在を信じた者が何人いただろうか。

 

 妄言だ、と嘲笑った者も居ただろう。

 本当に? と半信半疑の者も居ただろう。

 

 そうだったのか、と納得した者も居たかもしれない。

 もしかしたら誰1人として信じていないかもしれない。

 

 疑う者がいることは分かりきっているが、信じる者がいると確証は持てない。

 目の前に居る那須も恐らく信じてはないだろう。

 それならば先に自身の口からもう1度、妖介の存在を明確に示した方が混乱しないだろうし、理解してもらえるだろうと思っての行動だったのだが――

 

 

 

『二重……人格?』

『ん!?』

 

 

 

 ランク戦をまず見てない、または、そのことを耳にしてない人がいる可能性を考えていなかった。

 

 そこまで話してしまえば、那須がその内容を知りたがるのは当然である。なんとか誤魔化そうとしたが、またしても忍田に「同じ隊で戦うのだから教えた方がいい」と言われてしまい、結局全て話したのだ。

 

 妖介の存在を聞いた那須は最初こそあまり信じていなかったが、忍田と沢村が妖介の存在を肯定したことにより、那須も雄助の言葉が本当のことであると信じるようになった。

 

 

「ハァ……なんで気づかなかったんだろ……」

「なんだかごめんなさい。その時は体調が良くなくて本部には行ってなかったの」

「あ、いえ。僕が気づかなかったのが悪いんですから……」

 

 

 そうは言ってはいるが、自分が喋らなければ妖介の存在を知られることはなかったのだ。口では平気だと言っているが、心の中で自分の軽率な行動を後悔した。

 

 

(あー最悪だ……)

《なんで自分から言ってんの? ねえ、バカなの? 中学のときのこと忘れたの? 》

(……今はそれ以上言わないでよ)

 

 

 後悔しているというのに追い討ちをかける妖介。

 

 妖介が言う中学の時のこととは、雄助が中学生の時、周りの皆に「僕の中に妖介っていうのがいるんだ」と言っていた時のことだ。

 もちろん、そんな突拍子もない話を誰も信じてくれるはずもなく〝頭のおかしい奴〟というレッテルを貼られ、それを理由に虐められていた。さらには『サイドエフェクト』のことも相俟って虐めは加速。

 結果、雄助は妖介の存在を公にするのを嫌うようになったのだ。

 

 そのことを忘れるはずがない。ただうっかりしていただけなのだ。雄助自身、言われなくともバカなことをしたとわかっている。

 だが、妖介は尚も続ける。

 

 

《それにこの前のは俺が悪かったけど、今回はお前のミスだからな》

(ねぇ、そろそろ泣くよ?)

 

 

 涙声でそう訴える雄助。

 

 妖介が緑川とのランク戦の際に大勢の前で自身の存在を公にしたのは、少しでも周りからの悪意を雄助から自分へと逸らそうとしたためであり、雄助を思ってのことであるため雄助も本気で怒ってはいなかった。

 

 しかし、今回は妖介の言うとおり完全に雄助のミス。

 

 これからも同じようなミスをして痛い目を見るのは雄助である。故に妖介は厳しく言うのだ。

 

 

《同じ事を繰り返せば痛い目見るのはお前だ。自分のことを棚に上げる気はないが、俺のことを言うのは必要最低限にしとけよ》

(……うん、わかってる)

 

「どうしたの?」

 

 

 妖介とは別の声がしたので妖介との会話を止め、意識を現実へと戻すと、那須が怪訝そうな顔で自分の顔をのぞき込んでいた。

 

「っ! い、いえ、なんでもないです」

 

 そのことに驚いた雄助は、慌てて距離を取りながら返事をする。

 そんな雄助の行動に那須は首を傾げていたが、「なんでもない」と本人が言っているため「そう?」と言うだけに留め、作戦室へと向かった。

 

 

 それから数分も経たぬ内に那須隊の作戦室前に2人は辿り着いた。

 

 

「さ、ここが私達の作戦室よ」

 

 

 じゃあ入りましょうか、と那須に言われるが雄助はなかなか一歩が踏み出せない。

 

 那須隊の隊員は昨日のことを知っているのか、どう思っているか、そして妖介の存在をどう捉えているか。

 

 

 様々なことが気になって足が重くなる。

 

 

 不安に駆られていると那須に苦笑いしながら「緊張しなくても大丈夫よ」と言われ、その言葉でハッとし、意識を戻す。

 

「っ……すいません。大丈夫ですよ」

「そう? 凄く顔が強張ってたから緊張してるのかと思ったわ」

 

 そう言って那須は、改めて作戦室の扉を開き中に入っていく。雄助も那須に続いて作戦室へ入る。

 

 作戦室に入って一番目を引いたのは、那須隊の誰かの趣味だろうか、部屋の至るところにある壁の凹凸や謎のパイプだ。さらに、作戦室を見渡すと全体的に整理整頓されていて、とても綺麗だ。

 

 そして、視線を右から左へ向けると棚の上に写真立てが2つ。雄助は入り口から左にあるそれを見た瞬間、嫌な予感が背筋を冷たく流れた。

 

 その写真には那須を含めた4人の()()()が写っていた。

 

 

(いやいや、そんなわけない。あれは……そう! 那須先輩の友達、学校の友達との集合写真を飾ってるだけ――)

 

 心の中で必死に()()()()()を否定する、が……

 

 

 

「あ! 那須先輩こんにちはー!」

「遅かったわね、玲」

「なにかあったんですか?」

(――と、思っていた時期が僕にもありました)

 

 

 奥に居た少女達によって〝ガールズチーム〟という可能性が事実となった。

 

(オワタ……)

《あーそのなんだ? ドンマイ?》

 

 どこか他人事の様に言ってくる妖介の言葉も耳に入らないほど、雄助は落ち込んでいた。

 

 まさかの女子のフォーカード。

 A級、B級合わせて数十とある隊の中で2つしかないガールズチーム。その内の1つを引くとはなんたる不運。

 こうなったのも――妖介の――日頃の行いが悪いせいだろうか。

 

(ていうか忍田さんは知ってて那須隊に入れたのか!? 女子は苦手だって知ってるはずなのに!)

 

 なんの嫌がらせだー! と心の中で叫んでいる内に、那須は他の隊員達と挨拶を終わらせたようで、雄助のことを説明していた。

 

「――で、今日から数日間、私達の隊と一緒に任務をすることになったの」

「ふーん、じゃあその後ろの子がそうなの?」

 

 納得の声を上げたのは身長が雄助よりかなり高い、那須隊の切り込み隊長、熊谷友子(くまがいゆうこ)だ。

 彼女がそう言うと、雄助の肩がビクリと跳ね上がる。

 

(ど、ど、どうしよう。とり、とりあえず自己紹介かな)

 

 那須の後ろから皆に見える位置まで移動し、那須での失敗を踏まえて自己紹介をする。

 

「えっと、あ、天峰雄助です。今日から数日よろしくお願いします」

 

 当たり障りのない自己紹介を済ませて、一先ずは安心する。

 

 那須は緑川とのランク戦があった日には本部に行ってなかったと言った。ということは、その日には防衛任務が無く、他の隊員達も本部に来ていなかったということ。

 つまり、他の隊員達も妖介の存在を知らない可能性が高い。

 ならば自分から言わない限り――那須はあの落ち込み様を見ているため言わないだろうと予測――あの日のことが露呈することはない――

 

 

「あー! この前駿くんに酷いことしてた人!!」

(――と、思っていた時期が僕にもありました(2回目))

 

 

 雄助の期待をあっさりと裏切る声を上げたのは 女子中学生にして指ぬきグローブを愛用する剛の者、日浦茜(ひうらあかね)

 彼女は雄助と緑川のランク戦があった日に狙撃手(スナイパー)の合同訓練があったため、本部へ赴いていたのだ。

 防衛任務が無くとも本部へ赴く者はいる。そのことを雄助は考えていなかった。

 

 〝酷いこと〟の部分に反応した熊谷は怪訝な表情で日浦に〝酷いこと〟の詳細を問う。

 

 

「……どうゆうこと、茜?」

「この前その人が駿くんとランク戦をしてたんですけど、『弧月』で何度も殴ったり『スパイダー』で磔にして……あの、その……ひ、酷い方法で緊急脱出(ベイルアウト)をさせたりしてたんです!」

 

 途中顔を赤くし要領を得ない説明をしていたが恐らく股間をデストロイしたことを言っているのだろう。

 しかし、それを聞いた熊谷は、言葉で言い表せないほど惨い方法で緑川を緊急脱出させたと勘違いし、日浦を庇うように前に出る。

 

 

「……本当なの?」

「え、いや、あれはその、僕だけど僕じゃなくて――」

「本・当・なの?」

「――僕がやりましたっ」

 

 さながら尋問の様なやり取りに那須は苦笑いするしかなかった。

 

 ちなみに那須隊の隊服や作戦室をデザインした引きこもり系オペレーター、志岐小夜子は男性が苦手なため退出中である。

 

 長くなってしまったが、こうして冒頭の状況になったのだ。

 

 

 

 

 

 

(ああ……もうどうにでもなれ……)

 

 

 雄助が半ばヤケクソになっている間にも那須隊の面々はフォーメーションを固めていく。

 切り込み隊長が牽制し(睨み)、剛の者が後ろから援護射撃を行う(怯えた目を向ける)。さらに引きこもりが別室からサポートをする(へ自分を避けて退出したという事実)。完璧なフォーメーションであり、その全てが雄助に少なくないダメージを与える。

 

 そんな一方的な攻撃が続いている中、雄助はハッとした。

 

(あれ? でも妖介のことには触れてないな)

 

 そう、日浦は〝緑川が酷いことされた〟とは言ったが〝二重人格や妖介のこと〟には一切触れていない。そのことに気がついた雄助は、もしかして妖介のことはバレてない? と期待で胸を膨らませる。

 

 

「あ! そういえばその人ランク戦が終わったあとにニジュウジンカク? とか解離性なんとかがどうとか言ってました」

(3度目の正直じゃないのか……!)

 

 

 が、やはりその期待は剛の者に打ち砕かれた。

 悲しきかな。世の中には〝2度あることは3度ある〟という諺があるのだ。

 

 

「なにそれ? どうゆうことよ」

「私にもわかりませんよ。ねえ那須先輩?」

「え、ええ。そうね」

 

 

 日浦が同意を求めるが、相手はこの場で唯一その意味が理解できる那須である。那須も那須で誤魔化しているつもりだろうが、目線が明後日の方向へ向いている。

 そしてその目線は明後日の方向から雄助の方へ。

 もちろん日浦と熊谷からはどういうことだと言わんばかりの目が雄助へと向けられている。

 

 

 

 女子3人の視線を独り占めするという普通の男子なら喜ぶであろう状況で、雄助は悟りを開いたかの様な表情で立ち尽くし、己の過去を振り返る。

 

 

 

 

(僕、運無さ過ぎない?)

《え、今更?》

 

 

 己の運の無さを再確認させられた那須隊との会合であった。

 

 

 

 

 




これからも亀更新が続くと思います。
それでも読んでくださるという読者の方がいれば嬉しいです。

失踪するつもりはないのでこれからもよろしくお願いします!


失踪する場合はご報告いたします 笑


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第15話

お待たせしました!!投稿が遅れてしまいほんっとうにすいません……。
言い訳がましいですが大学が忙しく、また部活の方も忙しくてなかなか執筆できませんでした。



では、1ヶ月ちょいぶりに本編をどうぞ!



 

 

 

 警戒区域。

 そこは三門市の中に存在するボーダー隊員以外の立ち入りを禁止している区域であり、三門市内全域に開いていた(ゲート)をボーダー基地周辺に誘導した結果、生まれた門が開く可能性がある場所。

 かの第一次大規模侵攻により大きな被害を受けた東三門市の成れの果てであり、今では倒壊した建物が散乱し、ゴーストタウンと化している。

 

 そんな近界民の侵攻を受け、ゴーストタウンと化した旧東三門市、現警戒区域の中にある一軒家の屋根で雄助は、合同で防衛任務にあたるはずの那須隊の面々と離れた位置で体育座りをしていた。最早〝合同〟任務など名ばかりである。

 

(……虚しい)

 

 トリオン体のため、ゴーストタウンに吹き抜ける風で寒さは感じないが、その代わりに空虚さを雄助に与える。

 

 

 もちろん雄助が望んでこういった状況になったわけではない。

 

 雄助が己の運の無さを再確認した後、志岐が「も、もうすぐ防衛任務が始まります」と言いに作戦室へ戻ってきたのだ。雄助を見るや否や、脱兎の如く逃げ出したが。

 志岐の言葉を受け、熊谷と日浦は渋々ながらトリオン体へと換装し、隊長である那須もそれに続き換装した。雄助も那須隊の面々に続くような形で換装すると、ちょうど出動の時間になってしまった。

 熊谷と日浦は聞き出したいことが聞き出せず、雄助は弁明やら言い訳やらができぬまま出動することとなった。

 

 結果、日浦と熊谷は雄助に不信感を抱いたままの出動となったため、雄助は隔離ボッチと化したのだ。

 

 

「これが僕の運命なのさ……」

《女子と一緒にいるのは嫌なんだろ? だったら別にいいじゃねぇか》

「いや、そうなんだけど……。あの不審者を見様な目はきついよ……」

《まあ、耐えろ》

 

 妖介から厳しいお言葉を頂き、そうだよねー……、とぼやきながら横目で那須隊を見遣る。

 何を話しているのかは遠くて聞き取れないが、3人、もしくは志岐も交ざって談笑でもしているのだろう。

 

 

 

 

 

 その光景を見ていると、ひどく羨ましいと感じる。

 

 

 話したいとか、一緒にいたいとか、分かり合いたいとか、そういう事ではない。

 

 彼女らはお互いを〝信頼〟しているだろう。

 

 雄助はその〝信頼〟という安らぎを得たいのだ。

 誰かに信じられて頼りにされたいわけではなく、誰かを信じて頼りたいのだ。独りはとても怖くて、誰も信じられないのはとても辛い。

 妖介(最も信頼できる者)がいるというのにとても強欲で。そんな風に考える自分が気持ち悪くて。

 それでも、その安らぎを得たいと想ってしまうのだ。

 

 

 

 だが、その想いとは裏腹に――

 

 自分と彼女らの距離が心の距離を表しているようで。

 自分と彼女らの間に見えない壁があるようで。

 自分と彼女らの違いを見せつけられているようで。

 

 お前は独りなんだ。

 

 ――そう、言われているように感じるのだ。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 熊谷は視線の先で体育座りをしている天峰雄助に不信感を抱いていた。

 緑川に対する暴行、謎の妄言、日浦から聞いただけの話だが、不信感を抱くには充分であった。さらに先程から1人で誰かと話しているかの様に何か言っているのだ。怪しさマックスである。

 

 だが、不信感を抱く反面、疑問も抱いていた。

 

 本当に彼はそんなことをしたのか、と。

 

 最初こそは驚愕のあまり日浦の話だけで判断してしまったが、冷静になってみると彼がそんなことをするような人物だとは思えなかった。

 虫一匹すら殺したこと無さそうな雰囲気。常にビクビクとした気弱そうな態度。高校1年生にしては低い身長。

 人に暴行を加えるどころか逆にカツアゲにでもあっていそう――実際あっているが――というのが改めて雄助に抱いた印象だった。

 

 

 

 

 

 熊谷があとでちゃんと話を聞いてみよう、と心の中で決意している一方で、那須、日浦、志岐の3人は雄助の入隊時のことについて話していた。

 

『天峰って名前どっかで聞いたことあると思ったら、彼、対近界民(ネイバー)戦闘訓練で1.3秒を叩き出したルーキーだ』

「駿君の記録を半分以上も越えてるじゃないですか!?」

『そうだね……それに初期ポイントも3000からみたい』

「あら? そうだったのね」

 

 

 志岐からの情報に日浦は大いに驚いた。まさか雄助が純粋に強い人だとは思っていなかったのだ。

 日浦が緑川と雄助のランク戦で見たのは最後の1戦のみ。その1戦も戦闘とは程遠いものであり、暴力、拘束、尋問、トドメはデストロイ。最早、残虐と称されても否定はできないものである。

 そのため日浦は雄助に悪い印象しか持っていない。故に、雄助は何か卑怯な方法を使って勝った、と思っても仕方が無いことであった。

 

 一方、那須は雄助から妖介がしてきたこと――悪行含む――を粗方聞いているのであまり驚いていなかった。

 

 

 

「でも、狙撃手(スナイパー)のわたしなら兎も角、あの人と同じ攻撃手(アタッカー)の熊谷先輩があの人のこと知らないっておかしくないですか?」

「……あ、ああ。そうね」

 

 

 突然話を振られた熊谷は曖昧な返事をしつつも、たしかに、と思っていた。

 初めての戦闘訓練で1.3秒を出したともなると、ボーダー内で話題にならないはずがない。ましてや同じポジションである熊谷ですら知らないのはたしかにおかしい。

 

 そんな2人の疑問に志岐が答える。

 

『うーん……そうですね。詳しいことは分からないんですけど誰かが情報を広げないようにしてたみたいです』

「どういうこと、小夜ちゃん?」

『その時の映像がないんです。それにその場に居たC級隊員達はその時のことを口外禁止にされてるっぽいです』

 

 

 その誰か、とは嵐山隊隊長嵐山准とボーダー本部長忍田真史である。

 この2人は、その日にあった雄助の心的外傷後ストレス障害の発作のことを広めないでくれ、と妖介に頼まれたため、その場に居たC級隊員達に口外禁止を言い渡した。

 戦闘訓練の記録が広まらなかったのは、これの副次的なものである。

 

 ちなみに、戦闘訓練の映像を消したのは、『サイドエフェクト』の副作用である目を見られたら嫌であろう、という忍田の気遣いである。

 

 

『あー……あとB級昇格に2ヶ月かかったっていうのも理由ですかね』

「? 3000ポイントからスタートしたんですよね。 どうして2ヶ月もかかったんですか?」

『C級隊員の中じゃ結構有名みたいだけど、天峰君は初期ポイントの高さに胡座をかいて、訓練に全く参加してなかったって話だよ』

 

 

 その話を聞いてほえー、と些か間抜けな声を出す日浦。そんなことはないと思うけどなぁ、とその話の信憑性を疑う那須。

 三者三様の反応をする中、熊谷がふときになったことを口にする。

 

 

「ていうか、小夜子はどこからそんな情報を持ってきてるのよ」

『……秘密です』

「あんた変なことしてないでしょうね!?」

 

 

 そんな熊谷の一言で、ゴーストタウンには似つかわしくない少女達の笑い声が警戒区域の一角で響く。

 そこが警戒区域だということを()()()、白くそろった美しい歯を見せて声を出して笑いあった。

 

 ある程度笑うと、不意に日浦が声をあげた。

 

 

「あれ? あの人、急に立ち上がってどうしたんでしょう」

「ん? ……ほんとだ。どうしたんだろ」

 

 3人の視線の先では、先程まで体育座りしていた雄助が徐に立ち上がっていた。

 

 熊谷と日浦の2人が突然動き出した雄助に警戒を強めた、次の瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――っ! (ゲート)発生! 座標は……皆さんの真上です!』

 

 

 

 警戒区域に相応しい、ボーダーの警報とサイレン音がけたたましく鳴り響き、続くようにして空に空いた大穴から紫電を轟かせ白き侵攻者が現れた。

 

 

 

 

 

「――散開するよ! 茜ちゃん、熊ちゃん!」

「え、あ、はい!」

「了解!」

 

 門発生の通信がはいった瞬間に指示を出す那須。

 だが指示を出すその声はいつもの冷静沈着なものではなく、焦りを含んだものであった。

 

『すみません、那須先輩! 門発生に気づくのが遅れました……』

「反省は後にしましょ。それよりもサポートお願いね」

『は、はい!』

(そうは言ったものの完全に気が緩んでた……!)

 

 那須は自分の気の緩みを叱咤した。

 

 しかし、侵攻者である近界民(ネイバー)は待ってはくれない。次の指示を出すために近界民をもう1度見た瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後方で眩い閃光。

 

 

 次いで腹の底まで響く爆音。

 

 

 

 

 活動を停止し、地面へ倒れ伏す近界民。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何が起きたか分からず、思考が停止した。

 

 

 今さっきまでこちらの世界へ侵攻しようとしていた近界民が、頭部から後ろが(ゲート)を出る前に弱点である目玉を打ち砕かれ、ずり落ちる様にして活動を停止した。

 

 誰が? どうやって?

 

 その答えを得るために光と音の発生源である後ろを向く。

 

 

 

 

 

 

 

 そこには狙撃手(スナイパー)用トリガーの中で最も威力の高い『アイビス』を射撃姿勢で構えた天峰雄助が居た。

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハー! 汚物は消毒だぜ!」

 

 世紀末のような雄叫びをあげていた。

 

 

 攻撃手(アタッカー)なのになんで『アイビス』使ってるの? とかいつからここは世紀末になったの? とか疑問はいくつかあったが、那須隊一同、彼の豹変ぶりに唖然として動けずにいた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「ヒャッハー! 汚物は消毒だぜ!」

《随分楽しそうだね……》

「そりゃそうだろ! やっとのお楽しみだぞ!」

 

 ソウダネ、と雄助は適当に返事を返しつつ吐息を洩らした。

 

 近界民(ネイバー)の出現に気づいたのは雄助ではなく妖介であった。

 負の感情を溜め込む雄助にまたか、とため息を吐いた妖介は、『サイドエフェクト』を使って「近界民はいつになったら来んだよ~」と愚痴っていた。

 すると『サイドエフェクト』が反応し「数秒後に近界民が出現する」という答えが出たのだ。

 

 それからの行動は迅速だった。

 

 すぐさま雄助と入れ替わり、ドカンとぶっぱなしたいと思って新しく入れた『アイビス』を装備。(ゲート)が開くであろう位置へ『アイビス』を向け、『モールモッド』が現れた瞬間にぶっぱなしたのだ。

 

 

 と、まあ間一髪ではあったが結果的には那須隊を助けることができた。あと少しでも遅れていたら、狙撃手(スナイパー)である日浦が緊急脱出(ベイルアウト)していた可能性は高かっただろう。

 

 

 

 しかし、そこまで考えて不可解な点が1つあることに気づいた。

 なぜ狙撃手である日浦が那須達と行動を共にしていたのか。狙撃手ならば離れた位置にある高台に居るはず。

 

 その答えを『サイドエフェクト』で求めようにも()()()()()()

 

 それが意味することは、行動を共にすることになにかしら日浦の気持ちが関係している、ということである。

 

 

 

 

 まあ、雄助にとってそんなこと()()()()()()のだが。

 それがどんな気持ちかなんて考えたとこでわからないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにぼーっとしてんだ、次来んぞ!」

「「「っ!」」」

 

 雄助が考えること放棄したのと同時に妖介の怒号が那須隊へ飛ぶ。

 妖介の言うとおり『モールモッド』が1体、『バムスター』が2体、(ゲート)から姿を現した。

 

 妖介はそれを確認すると志岐へ通信を飛ばす。

 

「志岐? だったか。通信は繋がってるな」

『え……あ、は、はい』

「俺の支援はしなくていい。お前の隊のことだけ集中しろ」

 

 妖介はそれだけ言うと、もう1体の『モールモッド』の方へ志岐の困惑の声を無視して向かう。

 

 

「よっと」

 

 

『モールモッド』に向かうついでに『バムスター』を1体、『アイビス』で打ち砕く。

 その際、熊谷に当たりそうになったが、まあ問題はない。

 

 

「ちょっと! 危なかったんだけど!?」

「おい、那須。1体はお前らにやる」

「え、ええ。わかったわ」

「無視するなー!」

 

 

 那須はこれがもう1つの人格である妖介なのだと分かっていても、その変貌ぶりには驚愕を隠せずにいた。

 いくらなんでも変わりすぎだろう、というのが那須の感想であった。

 

 一方、妖介は周りの困惑、文句、驚愕を無視して、これまた新しく入れたトリガーを装備する。

 

 そのトリガーの名は『スコーピオン』。

 変形が自由自在で定まった形状をもたず、体中どこからでも出現させることが可能で、しかもとても軽く重さをほとんど感じない攻撃手(アタッカー)用トリガーである。

 

 今まで妖介が主に使っていた攻撃手用トリガーは『弧月』だったが、緑川とのランク戦が終わった後、雄助から『弧月』の使用禁止を言い渡されたのだ。

 

「前のと比べると、これ軽すぎんだよ」

《『弧月』は2度と使ったら駄目だからね……!》

 

 わーってるよ、と気怠げに返事をしながら、民家の屋根をパルクールの要領で飛んで行く。

 するとものの数秒で『モールモッド』に最も近い屋根に到着する。

 先程は門から頭を出した瞬間に倒してしまったため、今一度『モールモッド』の全貌をよく見据えて一言。

 

 

「……なんかゴキブリみたいだな、こいつ」

《今言うことそれ!?》

 

 

 そんな冗談? を言いながらゴキブリもとい『モールモッド』の眼前に降り立った。

 

 降り立つのと同時に『モールモッド』が妖介のことを斬り裂かんとその(ブレード)を振るう。

 妖介は焦ることなくその刃を『スコーピオン』で()()()()、斬り結び、斬り上げ、斬り捨てる。その度に『モールモッド』の手足が胴体と離れ、地面に転がる。

 

 十数回も打ち合えば、手足が全て斬り落とされ身動きがとれない『モールモッド』の完成だ。

 

 

「……なんかさっきよりキモい」

《いやまあ……うん》

 

 

 手足が多数存在しゴキブリの様な見た目も気持ち悪かったが、胴体だけで揺れ動いているのもまあまあ気持ち悪い。

 

「キモいしさっさと片付けるか」

《そうだね》

 

『スコーピオン』を振り上げ、弱点である目を一閃する。

 妖介により手足を全て斬り落とされ、キモいキモいと言われながら機能停止させられるとはなんと憐れなことか。

 

 一通り『モールモッド』のことを罵倒し終えた妖介は、寝てるから次出てきたら起こして、と言って雄助と入れ替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か言い訳はある?」

 

 

 額に青筋を浮かべて憤慨している熊谷に気づかず。

 

 

 

 

 

 




日浦が狙撃手なのに那須達と一緒にいた理由は次話で明かします。
まあ、察しはついてるとおもいますが 笑


そういえば雄助と妖介のBBF風なキャラクター紹介とか書いてみたいなーとか思ったり。
しかし、そんな上手く書ける気がしない……!

まあ、いつかは書いてみようと思います。



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第16話

失踪したと思った? 残念してませんでした(ФωФ)






すいません、調子乗りました。

いや、本当に申し訳ありません……!
大学のテスト、部活の合宿等でなかなか投稿できませんでした。

恐らく次回もこのくらい間が空くと思います。
4月になれば多少楽になるんですけど……。それまでは踏ん張ります( ;∀;)


それと苦し紛れで書いたため、おかしな部分が多々あると思います。そこは暖か目で見守ってください。

ではどうぞ!





 

 

 

 雄助は女性が苦手だ。

 

 

 

 

 まだ幼い頃、『サイドエフェクト』の影響で変化してしまった目を気味悪がった者達は、男は暴力で、女は言葉で雄助を虐めた。

 

 暴力は耐えられた。

 身体に痛みが走り、切り傷や痣ができようとも、いずれ切り傷は塞がり、痣はなくなって痛みはなくなるのだから。

 

 しかし、言葉は堪えられなかった。

 暴力とは違い、言葉で傷つくのは〝心〟。

 心にできる傷は、身体とは違いなかなか治らなかった。

 

 

 ――なんで、なおらないの……? なんで、なにかいわれているだけでむねがいたいの……?

 

 

 幼き雄助は膝を抱え、1人で、独りで胸を押さえて泣いた。

 唯一の味方であり、拠り所である両親にその答えを求めようともした。けれども、大好きな両親に余計な心配をさせたくなくて言わなかった。

 

 

 1人で、独りで堪えて、考えて、答えを求めた。

 

 

 

 でも答えは出なかった。

 何でも分かる〝力〟を使っても答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 答えがでないのは必然であった。

 人の気持ち。つまりは〝心〟が理解できない〝力〟、『サイドエフェクト』で分かるわけがなかった。

 

 

 

 心の刃――相手に危害を加えようとする心。

 

 

 

 その心をもってして彼女らは、雄助に言葉を発していたのだから。

 

 

 

 心で(言葉)を造り、言葉()で刺す。

 何本も何本も〝言葉〟という刃を雄助の心に突き刺す。

 

 

 そうやって言葉()(トラウマ)を作ってくる女性が雄助は苦手だ。

 

 

 

 だから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんなの危ないでしょ! 当たってたらどうすんのよ!?」

「……はい、すいません」

 

 苦手な女性に感情(怒り)のこもった言葉を向けられると胃が痛い。

 

 

 

 

 

 場所は那須隊作戦室。

 そこでミーティングという名の説教が行われていた

 

 

 

 

「まあまあ、落ち着いて熊ちゃん」

 

 

 作戦室に戻ってきてからずっと怒られている雄助を不憫に思ったのか、事情をある程度把握している那須が熊谷を宥める。

 

 

「玲……でも、おかしくない!? 百歩譲って『アイビス』を何の確認も無しに撃ったのはいいとして、謝罪が無いってどうよ!? しかも()()()()!」

 

 

 那須の言葉で幾分か冷静になったが、まだまだ怒り心頭であり、雄助のことを指で指して不満をぶつける。

 

 

《人のことを指差したらいけないんだぞー》

(はぁ……)

 

 茶化す様に言う妖介にため息が漏れる。

 

 

 こうなってしまった原因は、お察しの通りトラブル発生機こと妖介である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖介の放った『アイビス』が当たりそうになった熊谷は、近界民襲来をやり過ごして一息ついている雄助に「何か言い訳はある?」と額に青筋なんて浮かべずにヤサシク声をかけた。

 すると、雄助はびくりと肩を震わせ、一拍置いてから錆びたロボットのように振り向いた。その顔は青白く、冷や汗をダラダラと流していたが。

 

 さてこの怒りをどうしてやろうか、と怒りの鎮め方を考えていると、耳に聞き慣れた志岐の声が響いた。

 

『門発生します! 座標誘導誤差は2.37です!』

「――熊ちゃん行くよ!」

 

 次いで聞こえた那須の声で、即座に思考を戦闘のものに切り替え、門から出てきた近界民の元へ向かう。

 雄助も寝てしまっている妖介のことを起こし、即座に入れ替わる。

 

 

 さて、ここからが問題なのだ。

 いや、まあその前から問題大ありなのだが、トラブル発生機は更にやらかす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ファイヤー」

《え、ちょ!》

 

 ズドン! と本日3度目になる『アイビス』特有の重低音が響く。

 躊躇なく放たれた『アイビス』の弾丸は、近界民の弱点である目に、吸い込まれる様にして着弾した。

 

 

 熊谷の右肘から先を吹き飛ばして。

 

 

 

「~~っ!? ちょっと! 今度は当たったんだけど!!」

「はい、第2射どーん」

 

 肘から先が無くなった腕を指差して、吹き飛ばした本人に抗議するが、妖介は我関せずといった顔で第2射を放つ。

 放たれた弾丸は第1射と同じく、吸い込まれる様にして近界民の目に着弾し、活動を停止させた。

 

『ち、沈黙を確認。後続はありません……』

「うし」

《いやいやいやいや、うし、じゃないよ!?》

「んあ? 瞬殺だったろ」

《そういうことじゃなくて、ほら、熊谷先輩の腕!》

「それは射線上にいるあいつが悪い。俺は悪くない」

《…………なんなのさ、その暴論》

 

 

 

 雄助が妖介の暴論に呆れている一方、熊谷は修羅に落ちかけていた。

 

「……」

 

 熊谷(修羅)はゆらり、と獲物を仕留めるために得物を構える。

 

「く、熊谷先輩? なんで、『弧月』構えてるんですか? もう近界民はいませんよ?」

「そ、そうよ熊ちゃん。とりあえずそれを下ろしましょ!」

 

 2人の声が届いたのか熊谷は、腕をダラリと下げ、俯いているため前髪で目元が見えない顔を2人に向ける。

 

「……私の右腕ってあいつが……撃ち抜いたのよね……?」

「は、はいぃ!」

「……あいつは私に……謝ったっけ?」

「そ、そうだけど、天峰君だって悪気があったわけじゃないはずよ!」

 

 俯いたまま先程起こった事実を1つ1つ確認していく。

 

「……この右腕の恨み、晴らさないでおけようか」

「あの……怖いですよ、熊谷先輩」

 

 いつもはカッコ良くて優しい先輩である熊谷が、今はその面影の無い幽鬼の様な佇まいでいる。そのことに恐怖を感じる日浦。

 

 その日浦が熊谷(幽鬼)に声をかけた瞬間、今まで俯いていた熊谷が突然、顔を勢い良く上げた。

 

 

 

 

「――いやっ!」

「ひっ……!」

「晴らさなければならない!!」

 

 

 そう言って鋭い眼光で獲物を睨み付ける。

 

 あまりの気迫に日浦が短い悲鳴を上げて那須の背後へ隠れ、那須もどうしたらいいか分からずオロオロとしてしまう。

 

 

 そんな時、熊谷の耳に至極冷静な声が届いた。

 

 

『落ち着いてください熊谷先輩。隊務規定違反になりますよ』

「!……すぅー……はぁー……そう、ね」

 

 

 志岐の冷静な指摘を受け、深呼吸をして怒りを鎮める。

 熊谷が落ち着いたのを見て、那須と日浦は心の中でホッと安堵のため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 一方、そんなやり取りをしていることなど露知らず、雄助は戦闘が終わったので妖介と入れ替わっていた。

 

「あっ、もう防衛任務終了の時間だ」

《なんだよ。もう終わりか》

「5匹も倒したじゃん。 充分でしょ」

《たった5匹じゃ足らねぇよ。それに大した金にもならないだろ》

「あーそっか……」

 

 まだまだ満足できねぇ、と言う妖介に雄助は呆れていたが、妖介が指摘した金銭問題を聞いて、たしかにまだまだ足らないと思った。

 

 近界民をお金として見れば戦えるかな? と少々残念なことを考えて、ハッとした。

 そういえば、まだ熊谷に謝罪をしてないではないか、と。

 急いで謝罪しようと熊谷達のいる後ろを向いた瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が真っ暗に。次いで頭部、主にこめかみ辺りに痛みが走った。

 

 

 

 

 

 

 

「イデデデデデ! 痛い痛い痛い!」

「とりあえず作戦室に行こう、玲」

「そ、そうね」

 

 

 暗やみの中で聞こえた声でこの状況を作り出した人物を特定した。そして何をされているのかも。

 

 雄助の痛みの原因、それは熊谷による脳天締め。所謂、アイアンクローというやつだ。

 

 しかし、誰か分かったところで意味はなく、ギリギリと軋む様に掴まれ、痛みが継続して襲いかかる。

 

「ちょ、ほんとに痛いです!」

「そりゃそうでしょ。痛くしてるんだから」

 

 何を当たり前のことを、とでも言いたげな顔で締め上げる。

 

「さて、戻ろうか」

「このままですか!?」

 

 そうして雄助はアイアンクローによるダメージを受けながら、引き摺られる様にして作戦室へと運ばれていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まだこめかみが痛い……)

《あいつゴリラかよ》

(絶対言っちゃだめだよ、それ)

 

 失礼なことを言う妖介を注意しながら、まだ痛むこめかみを押さえる。

 たしかに妖介を止めなかったのも、すぐに謝罪しなかったのも悪いとは思っている。それでも、()()()()()()()にはトリオン体の力で行うアイアンクローは痛過ぎるのだ。加減をしてほしいものである。

 失礼ではあるが、ゴリラと称しても間違いないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてんの!?」

「あっ! はい、聞いてます!」

 

 

 などと考えていると熊谷の怒声が響いた。

 痛みに気を取られ過ぎていたが、今は熊谷の説教のまっ最中である。この様子ではまだまだ終わりそうにないが。

 そろそろ、怒られ続ける心も正座を続ける足も限界突破しそうである。

 

 しかし、そこで待ったをかけたのは那須だった。

 

 

 

 

 

 

「熊ちゃん、ちょっといい?」

「待って玲。私はまだ許して「熊ちゃん」……分かったわよ」

「ありがとう」

 

 

 

 そう言って那須は正座をしている雄助の前まで進み、屈んで視線を合わせる。

 

 

 

「雄助君」

「っ! な、なんですか?」

 

 

 

 今まで〝天峰君〟と呼んでいた那須が突然、下の名前で呼んだことに驚き、どもってしまう。

 

 

 更に、次の那須の発言で雄助は更に驚愕する。

 

 

 

 

 

「さっきのはもう1人の君、妖介君だよね?」

「……! そ、それは!」

 

 

 

 

 突然のことで雄助は暫し呆然としてから、慌てて他の2人に聞かれないように那須を止めようとする。

 なぜ那須がそのことを皆の前で言ったのかが理解できない。

 幸い、他の2人は話の意味が理解できず、首を傾げているが、それでも妖介のことをあまり知られたくない雄助にとって、今のは心臓に悪過ぎる。

 

 雄助がそのことを抗議をしようと口を開く前に、那須が真剣な表情で言葉を発する。

 

 

「そうならちゃんと説明しなきゃ。みんな不信感を抱いたままになっちゃうよ」

「僕はあまり妖介のことは言いたくないんです……」

「だとしてもこのことはちゃんと言わなきゃ」

「……どうしてですか?」

 

 しつこい那須に少し棘のある声色でどうしてか聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって――〝信頼〟してもらえないじゃない」

「ッ!」

 

 

 その言葉が酷く胸に突き刺さる。

 それは彼女らを見て羨ましく思ったもの。

 自分が欲した安らぎとは違い、信じられて頼られるものである。しかし、それを得られたなら欲した安らぎに1歩近づけそうな気がした。

 

 元々、いつかは言わなければいけないのかもしれない、と考えてはいた。

 ただ、そのきっかけ(勇気)が無かった。

 

 

(……妖介)

《んーまあ、いいんじゃね? お前がしたいようにしろよ》

(ごめん、自分勝手で)

《謝んな。んでもってそれは俺もだ》

(……フフ、それもそうだね)

 

 

 今からしようとしていることは、言ってしまえば、妖介を売って安らぎを得る様なものだ。とても利己的で最低なことだ。

 それでも妖介は笑って、それを許す。

 妖介にとって最優先事項は己ではなく、雄助だから。

 

 

 そうして雄助がどうするかを決意をするのと同時に那須から声がかかる。

 

 

「無理にとは言わない。でも、一緒に任務をしている相手を知らないって、私は嫌かな」

「そうですよね……」

 

 雄助は1度深呼吸し、未だに話の内容に付いていけてない2人の方へ顔を向ける。

 

 

 

 

「皆さんにお話があります」

 

 

 雄助は1歩、進んでみることにした。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「……なるほどね。理解はしたわ」

「あ、ありがとうございます」

 

 10分程の説明の末、なんとか理解してもらえた。

 途中、何度も2人に、は? みたいな顔され時は泣きそうになったが、堪えて説明を続け、最終的には那須の証言もあり、なんとか信じて貰えた。

 

 

「駿君とのランク戦の後に言っていたのは、このことだったんですね」

「そうね……。でも、なんで玲は教えてくれなかったのよ」

「フフ。なんでかしらね?」

 

 

 熊谷は妖介のことを教えてくれなかった那須をジト目で問い詰めようとするが、那須は笑って誤魔化す。

 

「……ハァ。まあ、いいわ。もう疲れた……」

 

 誤魔化された熊谷の一言を聞いた那須が、1度手を叩いて注目を集める。

 

 

「それじゃあ報告書を書き終えたら今日はもう解散にしましょうか」

「賛成です~。私も疲れました……」

「そうしよっか」

 

 

 那須の提案に日浦と熊谷が賛成するなか、雄助は遠慮がちに手を挙げ、自身の処遇を問う。

 

 

「あ、あのー僕は……」

「あたし達の方で報告書はやっておくから、あんたは帰っていいよ」

「え、でも……」

「やり方わかんないでしょ?」

「わかんないです、けど……」

 

 報告書程度なら『サイドエフェクト』を使えばできるので、そのことを伝えようとしたが、それよりも先に熊谷が頭をガシガシとかいて声を荒げた。

 

 

「あーもう! こっちの気持ちも汲みなさいよ!」

「?」

 

 

 熊谷は、初めての防衛任務で疲れているだろう、という理由で雄助のことを早めに帰してあげようとしているのだ。

 

 それは心遣い、所謂〝優しさ〟だ。

 

 つまり、雄助にはわからない。

 当の本人である雄助がキョトンと首を傾げているのがいい証拠だろう。

 

 

「ハァ。 なんで伝わんないのよ……。あーもう今日はため息ばっかついてる気がする」

「え、あの……すいません?」

「なんで疑問系なのよ。とりあえず報告書はあたし達でやるからほら、帰った帰った」

「え、ちょっと……あ……」

 

 熊谷に押されて作戦室の外に無理矢理追い出され、抗議をする前には扉が音をたてて閉まってしまった。

 

 

「……閉め出されちゃった」

《いいじゃねぇか、帰れって言われたんだ。さっさと帰ろうぜ》

「うーん……そうだね。じゃあ帰ろっか」

 

 

 そう言いながら那須隊作戦室を後にする。

 ボーダー本部の迷路の様な廊下を歩き、ロビーを過ぎて外へ出る。

 外へ出ると、時刻はそんなに遅くはないのに、太陽は既に沈んでおり、月や星が輝いていた。もうそんな時期か、とひとりごちて、身震いをしポッケに手を入れて歩き出す。

 

 後は帰路につくだけなのだが、そこでふと、疑問が沸いた。

 

 

「どうして、僕のことを早く帰らしたかったのかなぁ」

 

 

 そのことを考えながら歩を進める。

 

 もちろん『サイドエフェクト』は使ったが、答えは出なかった。

 数時間前の雄助なら『サイドエフェクト』で答えが出なければ、興味を持とうともしなかっただろう。現に日浦の時は即座に思考を切り捨てた。

 

 

 しかし、今は『サイドエフェクト』で答えが出なかった問題に興味を持っている。

 

 

 

 別に、人の気持ちが分かるようになったわけではない。ただ気になっているだけで、時間が経てば興味は薄れ、まあいいか、と流すことだろう。

 

 

 

 

 それでも、気になるようになった。

 

 この変化が、この1歩がきっかけとなり、今日受けた〝優しさ〟が分かるようになる。そんな日がいつか来るのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女子だけじゃないとできないこととかあったのかな?」

《着替えとかか?》

「なるほど」

 

 

 

 まだまだ、先は長そうではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




日浦が狙撃手なのに那須達と一緒にいた理由は次話で明かすと言いましたが、あれは嘘です。

はい、すいません。
まとまりきらず書けませんでした。まあ、大した理由でもないんですけどね 笑
次こそは明かします(フラグ)。


では、また次回。



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第17話

お久しぶりです!

部活の合宿も終わり、新学年にも慣れてきて、やっと投稿することができました!


久しぶりでおかしな点が多々あるとは思いますが、そこは暖かい目で見ていただければと思います。



「――と、いうことにしてほしいのですが、お願いしてもいいですか?」

『たしかに、そのほうがいいかもしれないが……』

 

 

 那須隊との合同任務があった翌日、トレーニングを終え、まだ日の出したばかりの時刻に、雄助は忍田と電話をしていた。

 なぜ、雄助がこんなに日の出したばかりの早い時間に忍田へ電話をかけたのか。それは――

 

 

『……しかし、今まで避けてきたことだろう。本当にいいのか』

「はい、もう決めたことなので」

 

 

 昨晩した決断、自分の逃げ道を無くして逃げられないようにするため。

 忍田の最終確認にも即答し、その考えが不変であることが窺える。

 

 暫しの沈黙の後、忍田はため息を1つついて雄助の要望を了承した。

 

 

『……そうか。では、次回からは君の要望通りにするよ』

「ありがとうございます! ……あ、すいません。そろそろ学校に行くので」

『ん? ああ、そうか。 ……ちゃんと授業を受けるんだぞ』

「は、はい」

 

 失礼します、と言って電話を切り、受話器を戻し終えるのと同時に大きく息を吐く。

 

 

 〝決断〟と言っても、そんな大それたものではない。

 なんだそんなことか、と、なんだ今更か、と思うであろう、ちっぽけでとても小さなもので、既に1度妖介がやっていることで。

 

 それでも、今まで逃げてばかりだった雄助にしてみれば、とても大きなことであり、この選択をするのにどれだけの覚悟が必要だったことか。

 

 

 

 雄助のこの選択が吉と出るか凶と出るか、それはまだわからない。

 

 

 ただ、

 

 

《なんで那須隊にしたのか聞かなくてよかったのかよ》

「あ……忘れてた」

《なにしてんだよ……まあいいや、行こうぜ》

「そうだね」

 

 

 ちっぽけで小さな1歩ではあるが、たしかに雄助は前へ1歩進んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《バイキングへ》

「いや、だから学校ね」

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「……なんでそんなにジロジロ見てんだよ」

「だって……ねえ?」

「わからなくもないけど……」

 

 熊谷の同意を求める声に苦笑いをしながら応える那須。

 

 場所は警戒区域。

 雄助は昨日に引き続き、那須隊と合同任務にあたっていた。

 

 

 

「けっ。俺は珍獣かなにかかよ」

「似たようなもんじゃない」

「……まあ、俺的にはゴリラが喋るほうがよっぽど珍しいと思うけどな」

「誰のことよ!」

 

 訂正。妖介が、だ

 

 揶揄に怒った熊谷が殴りかかってくるが、妖介はそれを適当にあしらいながら、こちらを見ているもう1人の人物に通信を飛ばす。

 

 

「ついでに狙撃手(スナイパー)のお前も見すぎだ」

『え!? あ……すいません……』

 

 

 その人物とは、遥か遠くにあるアパートの屋上から、スコープ越しに妖介のことを見ていた日浦だ。

 

 そして注意を受けた日浦は驚愕していた。

 

 

(嘘、300メートル以上離れているはずなのに……!)

 

 

 そう、妖介達が居る場所から日浦のいる狙撃地点まで300メートル以上は離れている。

 しかし、それだけの距離があるのにもかかわらず、日浦の視線に気づいたのは『サイドエフェクト』を使ったからだ。

 

 この場に集合したときには居たはずの人物が、気がついた時には消えていたら、普通は何処に行った? と思うだろう。

 妖介も例外では無く、その答えを『サイドエフェクト』で求めた。更に、場所が分かったついでに何をしているかの答えを求めた結果、此方を観察していることに気づいたのだ。

 

 しかし、便利な携帯アプリのように『サイドエフェクト』をポンポン使う妖介にもう1つ疑問が沸いた。

 

 

「つうかさ」

「なによ」

あいつ(日浦)、今日は一緒じゃなくていいんだな」

 

 

 妖介の疑問を受けた熊谷は、今まで繰り出し続けていた拳を一旦止めて、あー、と気まずげな顔をする。

 

 

「ほら、あんたとは昨日初めて会ったじゃない? 会うまでに色んな噂を聞いてたから私達も結構警戒してたのよ」

「だから、みんなで話し合って茜ちゃんを1人にするのはやめよう、ってなって一緒に行動してたの」

 

 

 本人も少し怖がってたしね、と苦笑いしながら言う那須達の話を聞いて、妖介はほー、とどうでもよさそうに反応し、雄助はなるほど、と思った。

 

《だから昨日は一緒にいたのか》

(それで逆に危険な目にあってんだから世話ねぇよな)

《……原因は妖介みたいなもんじゃん》

 

 雄助は、はあ、とため息をついて、昨日のことを振り返っていた。

 

 

 

 昨日分からなかった感情の正体――〝恐怖〟。

 それが日浦が妖介に対して抱いていた感情。

 

 恐らく、緑川とのランク戦を見て抱いた感情なのだろう。

 恐怖とは、有害な事態を体験、自身と異なるものを目撃等をした場合に生じる感情だ。たしかに、()()()()()を目撃すれば恐怖を感じるだろう。

 

 

 

 

 

 

 しかし、解せない。

 

 

 会った時から思っていたが、なぜ日浦はあれを見ても那須や熊谷に言わないのだ。

 あれは人に嫌悪感を与えるものであるのと同時に、直感的に危機感を覚えるものだ。そんなものを仲間に伝えないわけがない。

 

 ――わからない。彼女が何を考えているのか。

 

 そんなものを伝えないとなると、何か企んでいるんじゃないか。そう勘ぐってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうやって雄助が日浦に対して不信感を募らせている一方で、妖介は昨日の戦闘時のことについて熊谷から質問されていた。

 

 

 

「そういえば昨日から気になってたんだけど、あんた攻撃手(アタッカー)でしょ? なんで『アイビス』使ってるのよ。しかもなんであんな巧いのよ」

 

 

 熊谷から上がった疑問は至極当然のものであり、那須隊全員が思っていたことであった。

 なんたって妖介は、走りながら撃ったり、スコープを覗かないで撃ったりしていたのだ。しかも、それでもって近界民の弱点である目玉のど真ん中を撃ち抜くのだ。

 そんな本職の狙撃手でさえ難しい芸当を、本職ではない、攻撃手である妖介がやってのけるのだ。そりゃ疑問に思うだろう。

 

 

「気分。センス」

「文で喋りなさいよ、文で!」

 

 

 ところが、帰ってきた返答は適当極まりないものだった。

 

 適当な返答に怒る熊谷にあーもううるせぇな、と気怠げにしながらも改めて応える。

 

「実際のとこ本当に気分で入れただけだ、あれは」

「気分で入れただけであそこまで使えちゃうんだ……たしかにセンスね……」

「頭おかしいわね」

『そうですね』

 

 那須がどこか呆れたようにぼやき、熊谷は頭がおかしいと言い、それに志岐が同意を示す。

 

 そんな那須隊の、主に熊谷の反応に対して、妖介は額に青筋を浮かべながら反論する。

 

 

 

 

「あのな……センスっつっても銃口初速、弾頭重量、抗力係数、重力、方角、風速、標高、高低差、気圧、湿度、気温、地球の自転によるコリオリの力とかを計算すればあんなの誰でもできんだよ。雄助だってできるぞ」

「「『『……』』」」

 

 

 

 当たり前だろ? みたいな感じで妖介の口から出てきた言葉の数々に、理解が追い付かない那須隊一同。

 いや、確かに分からない言葉もあるが、言葉の1つ1つは理解できる。ただ、それがどう影響するのか、どうやって計算するのかが理解できない。

 

 

「……だってさ、茜。あんたできる?」

『無理に決まってるじゃないですか!?』

「……もしかして妖介君と雄助君て学者さんか何か?」

「んなわけねぇだろ。ただ銃を使うって決めた時に弾道計算の仕方を調べただけだ」

 

 それで『サイドエフェクト』で答えを出したんだけどな、と心の中で付けたしておく。

 

「調べただけって……あーだめ。頭痛くなってきた」

「2人は所謂、天才ってやつかしらね」

「……そうだな」

 

 那須が感嘆したように2人のことを〝天才〟と称したが、当の本人は微妙な反応をした。

 

 

 

 ここで妖介、もとい2人について補足をしよう。

 

 2人が持つ『瞬間最適解導出能力』。

 たしかにこの能力は那須が言うような天才、天性の才能、生まれつき備わった才能ではある。

 

 しかし、万能ではない。

 

『瞬間最適解導出能力』は本人の知識や能力から答えを導き出す。

 答えを導く下地、今回で言うならば弾道計算の仕方だが、それを知らなければ答えは導けない。しかも、知ったとしてもそれだけでは()()()()()()()()は導けない。

 瞬間的に最適な解を導くためには、その知識を深く理解し、その計算を解くことができる計算能力を持っていなければならいのだ。

 

 つまるところ、馬鹿ではこの力を扱えきれない。

 

 たしかに雄助は元々頭が良かったが、それは一般的な学生と比べての話であり、弾道計算なぞ出来るような頭ではなかった。

 

 だから、〝努力〟をした。

 

 多岐にわたる分野を学び、体験し、様々な知識を()()()からずっと蓄え続けた。

 学び、体験し、蓄え、それを何度も、何度も繰り返した結果、雄助が高校に上がる頃にはIQ190と確率的には世界に4人程度しか存在しない程の頭脳となった。

 

 

 

(才能は有限、努力は無限、てな。雄助のあれは天才って言葉で片付けていいものじゃねぇよ)

「どうしたの?」

「……いや、なんでもない」

 

 その事を説明するとなると、『サイドエフェクト』のことも教えなくてはならないため、適当に流しておく。

 

 それと同時に、またしても熊谷からあ、そうだ、と質問が上がった。

 

「頭がおかしいと言えばあれはどうなってんのよ。あの『スコーピオン』で『モールモッド』の(ブレード)を受け止めてたやつ」

 

 熊谷は、耐久力が低く、受け太刀には不向きな『スコーピオン』で、どうやって『モールモッド』のトリオン兵最高硬度を誇る刃を受け止めたか、それを聞きたいのだろう。

 頭がおかしい、で思い出されるのは非常に腹だたしいが、適当に応えると先程と同じ様になるためちゃんと応える。

 

「受け太刀する部分だけを予め硬度を高めて、あとは手首、肘、肩、腰、膝と全身を使って衝撃を受け流せばいい。そうすれば折れることはない」

 

 それを聞いた熊谷が神妙な顔つきで、トリオン能力があまり高くないとできないのか問うが、妖介はこれはトリオン能力ではなく技術の問題だ、とそれを否定する。

 

「じゃあ『弧月』でも?」

「まあな。俺も前まで『弧月』でやってたし」

「なるほど……」

 

 その一言を呟いてから、腕を組みながらあー、うーん、と唸り、何かを思案している。

 暫くして、思案が終わったのか顔を上げて妖介を見据える。

 

「じゃあさ、今度その技術を――」

「――無理」

「最後まで聞きなさいよ! ていうか、なんでよ」

 

 私にも教えて、と続ける前にかなり食い気味に断る。

 

 

「いや、だって俺がそこまでする理由がないだろ。教えることによる利益、メリットは? 無いだろ」

「……感謝されるとか」

「アホか」

 

 鼻で笑い、じゃあこの話は終わりだ、と言って話を打ち切る。

 熊谷は断られてむくれているが、そもそも頼む人物が悪い。人を助けることに利益を求めるような男が、感謝されるだけで動くわけないだろう。妖介を動かすとなれば金か飯を献上するほかない。普通に山賊と同類である。

 

 

 そうやって、山賊がむくれる熊谷を放っていると、今度は那須が質問を投げ掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、そのサングラスってなにか意味あるの?」

《……っ!》

 

 

 

 

 雄助が息を呑んだ。

 

 

 恐らく『サイドエフェクト』が反応したのだろう。驚愕、焦燥、緊張、不安、と様々な感情が入り乱れているのが分かる。

 

 しかし、それをおくびにも出さず妖介は返答する。

 

 

「なんでそんなこと気にすんだよ」

「いや、いつもつけてるから何か意味があるのかなーって思って」

 

 

 中で雄助が安堵からくるため息を吐いた。

 那須は変に疑っているわけではなく、ただ単に興味本位で聞いているだけのようだった。

 

 しかし、油断はできない。妖介が変なことを口走らない保証はない。故に、雄助は妖介が変なことは口走らないように、念入りに釘を刺す。

 

 釘を刺された妖介はわーったよ、と返事をし、眩しいから、とか、目が弱いから、とか適当に誤魔化そうと、口を開きかけたその瞬間――。

 

 

 

 

 

 

 

『――(ゲート)発生しました!』

 

 

 志岐による今日初めてとなる門発生報告により、話の中断を余儀なくされる。

 その報告を受けた妖介は水を得た魚のように門の元へ直行する。

 

 

 

「いぃよっしゃあぁぁぁぁ! やっと来やがったか!」

「あ! ちょ、コラ! 待ちなさい、おすわり!」

 

 

 熊谷の制止も聞かず、犬より聞き分けがない山賊は獲物を狩りに突っ走っていった。

 

 那須は小さくなっていく妖介を見て、呆れたように小さく笑う。

 

「ははは……じゃあ私達も行こっか、熊ちゃん」

「はぁ……そうね。援護よろしく、茜、小夜子」

『わかりました!』

『了解です』

 

 

 そうして、1人でヒャッハーしてる山賊の元へ少女達は向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、雄助はタイミングよく門が開いたことに1人、安心するのだった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 少女はここ数日のことを思い返し、泥沼に落ちた様に悩む。

 

 その原因は彼の、いや、彼らの渦巻き状に変化したあの異形の目だ。

 

 

 

 

 初めてあの目を見たのは、彼が緑川とランク戦をしていたときだった。

 あの緑川を切り捨てた時の目は、思い出しただけで身体中を恐ろしいものが走り抜けるのを感じる。

 

 

 そして、その数日後。彼と少女の隊で合同任務をすることになった。

 

 まずは、彼の危険性を説いた。

 次は、彼が言った妄言について。

 そして、あの目のことを言おうとして、出撃の時間となってしまった。

 

 ならば、あの目のことは彼が居ない時に他のメンバーに相談しよう、と決めた。

 

 しかし、それと同時に、ふと思った。

 そういえば、なぜ、彼は室内にも関わらずサングラスをしていたのだろうか。

 

 

 

 オシャレ?

 

 目が弱い?

 

 

 

 

 それとも――

 

 

 

 目元を()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで考えて気づいた。

 

 もしかして()()()をサングラスで隠しているんじゃないか、と。

 

 その考えに行き着くと、そうとしか考えられなくなった。

 

 

 

 

 

 

 少女は悩んだ。

 悩み、悩んで、これでもかというほど悩んだ。

 

 

 彼の秘密を話せば、自分が感じている恐怖が、不安が和らぐ。

 しかし、彼の秘密を話せば、彼が傷つく。

 

 

 

 

 

 

 少女は天秤にかけた。

 

 彼の秘密と自分の心の安寧を。

 

 

 

 

 

 

 

 少女は優しかった。

 

 悩んだ末に、彼の秘密を口外しないことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼がその優しさを理解できないとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の話は不可解、というかおかしな部分が多数あると思います。
それはシンプルに強引に進めたせいです。申し訳ございません。


あと、小説内では解説されていない部分の解説を少々。


Q.なんで妖介は日浦が見てるのに気づいたの?

A.雄助の『サイドエフェクト』が凄いからです(適当)
まあ、スコープに反射した光とかで分かったのでしょう(適当)



Q.コリオリの力ってなに?

A.赤道に近いほど地球自転による回転周速度が速いことから、緯度方向に移動する物体が軽度方向に対する力を受ける、というものです。詳しくはゴルゴ13を。



Q.IQ190てヤバない?

A.『サイドエフェクト』込みでのIQとなります。無しだと130くらい。
あと高嶺○麿君もIQ190だったので無理矢理合わせました。



Q.IQって鍛えられるの?

A.可能らしいです。書くと長くなってしまうので詳しくはググってください。


と、まあ、こんなものでしょうか。

何か分からない部分や解説が欲しい部分がある場合は、コメントいただければ返信いたします。必ずしも答えれるわけではないですが……。




今回はここまで!

では、また次回。



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第18話



セーフ(;゜∀゜)
まだ11月だからセーフ(;゜∀゜)
コメントでの返信は嘘にはなってないはず。








さて、まずは初手安定の謝罪です。



長らくお待たせしましてすいませんでしたっ!!!

一応ちょくちょく書いてはいたんですが、いまいち納得できず、書いては消してを繰り返してました。
本当に申し訳ありません……。








と、まあ謝罪はこの辺にしておいて……




ワールドトリガー連載再開しました!

葦原先生、ありがとうございます!



今回の投稿もワールドトリガー連載再開を知ってのものでして、

ワールドトリガー再開?
はっ? え!? 嘘じゃない? マジ?
よっしゃっ! いっちょ書いたりますか!

みたいな感じで書き上げました 笑
約2年ぶりに続きが読めるとあって狂喜乱舞してました。






さて、前書きが長くなってしまいました。
今回、約4? 5? ヶ月ぶりの執筆なので拙い部分が多々あるとは思いますが暖かい目で見守ってください。

本編へどうぞ!




 

 

 

 

 

 

 それを見た瞬間、全身の血の気が引き、かすかに体が震え出し、『サイドエフェクト』が体を縛り付ける。

 足は地面に固定されたかの様に動かず、腕は針金で縛られたかの様に動かない。

 更に、体を動かすための指令を出す脳は、あの日の光景をフラッシュバックさせる。

 

 

 

 あの惨劇を、絶望を。

 

 

 

 その光景がフラッシュバックしたのに続いて、熱い液体が食道を逆流する。

 そして胃の中にあったもの全てが激流の如く喉を焼き裂き、口腔から吐き出される。

 這いつくばり嘔吐し、なんて情けないことか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、少年はそれでも立ち上がる。

 

 

 

 

 

 ――クソッ、動けよっ!

 

 

 震える手足を叱咤し、無理矢理に動かす。

 

 

 

 ――それは自分の答えじゃねぇだろ……!

 

 

 

『サイドエフェクト』が出す、〝勝てない〟という答えを否定し、目の前の敵を鋭く睨む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――()がやんなきゃいけねぇんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「――君! 天峰君!」

「……んあ?」

 

 自分を呼ぶ声に反応して目を覚ます。

 覚醒しきっていない意識の中で、目を擦り、伸びをしながら欠伸をする。

 

「ふあぁ~……」

 

 更に、体を起こしてもう一度欠伸をする。

 その瞬間、肌を突き刺す様な風が妖介を襲ったことにより一気に眠気が覚め、自分が学校の屋上で昼寝していたことを思い出す。

 

 次いで、声の主を探すべく、視線を左、右と向けたところでその人物はいた。

 

 

 

 

「……なんだ、お前か」

「なんだお前か、じゃないよ……」

 

 声をかけてきた人物は生徒会副会長様である綾辻だった。

 妖介は半眼でまたか、とでも言いたげな視線を綾辻に向けるが、心底呆れた、とでも言いたげな顔をされてしまう。

 

 

「こんな時間にこんなとこで寝てたら風邪引くよ」

「ん? ……あーたしかに」

 

 

 そう言いながら空を見上げる。

 太陽は既に西へと沈み、空は茜色から群青色へ移り変わり、うっすらと星星が浮かび上がっている。

 どうやら昼寝をしている内に下校時間が過ぎてしまっていたようだ。

 

 よくもまあこんな時間まで寝ていたものだ、と妖介が感心していると、綾辻がところで、と話を切り出した。

 

 

「授業は出たの?」

「逆に出たと思うのか?」

 

 

 自信満々に断言する。

 その全く悪びれもない妖介の態度に、綾辻は手を額に当て、天を仰いでしまった。

 

「やっぱりかぁ……」

「なんだよ」

「いや、なんというかやっぱりかぁって……」

「はぁ?」

 

 要領を得ない返答に妖介は首を傾げる。

 いつもの綾辻なら物事を明確にはっきりと伝えるのだが、今日はなぜだか不明瞭である。

 

 更に、そのことに違和感を抱くのと同時に思い出す。いつもなら授業に出てないのを前提に屋上へ説教をしに来るのが、今日は授業に出たかを確認してきたことを。

 

 綾辻の言動に違和感を覚える。

 恐らく、『サイドエフェクト』を使えばその原因はわかるだろう。しかし、そんなことで体力を消費するのも馬鹿らしいので本人に聞くことにした。

 

 

「なんかあんならはっきり言えよ」

「あー……うん。ちゃんと説明するね」

 

 

 どうやらちゃんと説明はしてくれるらしい。

 それなら最初からそうしろよ、と口に出そうとしたがその前に綾辻による説明が始まってしまった。

 

 

「えっと、まず天峰君が授業出なかったり、警察とか近隣の住民から苦情がきたりするから生徒会でも先生達からも問題視されてる、ってことはわかってる?」

「まあ、そうだろうな」

「そうだろうなって、わかってはいるんだ……」

 

 それなら止めようよ……、という綾辻の嘆きは、続きを促す妖介の声によってかき消された。

 

「で?」

「……今日の朝も生徒会の会議で学校内外からくる天峰君に対しての苦情が報告されてね」

「はいはい」

「それを聞いてた先生方が今まで何回もあったことだから、さすがにこれ以上は学校全体の尊厳に関わってくる、って話になったの」

「おう。それで?」

「それで、反省文とか停学とか何らかの罰を与えようって話が上がったけど、教頭先生が罰のかわりに問題行動を止めるように注意するだけでいいって」

「え、教頭優しくね」

 

 まさかの対応に妖介が驚くが、綾辻はでも、と続ける。

 

 

 

「その代わりにこれ以上授業受けなかったり、問題行動を起こすなら……」

「なら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……その、退学にする……って……」

 

 

 

 

 

 綾辻から告げられたそれは、これ以上問題を起こせばクビにするぞ、という教頭からの最終警告。

 退学ともなれば、将来に影響を及ぼすほどのものであり、とても重い処罰である。

 

 その警告に対して妖介は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、それだけか?」

「……へ?」

 

 

 

 

 

 予想の斜め上をいく返答に間抜けな声が出てしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいやいや! 退学だよ、退学。わかってる!?」

「おう。ふわーっと」

「ふわーっと!?」

 

 

 一瞬呆けていたが再起動した綾辻は〝退学〟の意味を理解しているのか確認をする。しかし、返ったきたのはなんとも微妙な擬音であり、理解してない、というよりは適当に流しているだけ、ということが確認できた。

 

 その妖介は、耳を防いであーうるさいうるさい、と嫌な顔をしてから疑問を口にする。

 

 

 

「だいたい問題起こしたら俺が退学になるんだろ? なんでお前がそんなに慌ててんだよ」

 

 

 それは妖介が一番聞きたかったこと。

 そのため、逆になんでそんなに落ち着いてるの? という綾辻の至極真っ当な返しは無視する。

 

 

「なんで無視するかな?」

「いいから、はよ」

「もう……なんでってそりゃあ知り合いが退学ってなったら普通は焦るでしょ。ましてや同じボーダー隊員がってなればね」

「はぁ?」

 

 

 

 その答えを聞いて苛立ちを覚える。

 やはりわからない。なぜ、綾辻がこうも焦るのかが。

 

 そもそも人の気持ちがわからない妖介に理解できないのは当然である。妖介の理解できないそれは、心配の念からくる所謂、優しさなのだから。

 

 

「それが理由かよ」

「そうだよ。それに生徒会副会長としても退学なんて見逃せたものじゃないからね」

「なんだよそれ、わけわかんねぇ」

 

 

 次第に胸の内で苛立ちが強まっていく。

 

 役職上の都合で注意しにきたならまだわかるが、綾辻はそれだけではなかった。知り合いだから、と。()()は、と。そう言ったのだ。

 

 その普通が理解できないことにも苛立つが、それ以上に、綾辻の言う〝普通〟がわからない自分達が、まるで普通ではないみたいに言われていることに強く苛立つ。

 

 たしかに自分という存在は普通ではないだろう。それは認める。

 

 しかし、雄助は極々普通の存在だろう。

 

 自分のことは別にいい。ただ雄助のことをまるで異常者のように扱われたことに腹が立つ。

 

 

 

 被害妄想? 自意識過剰? なんとでも言えばいい。

 

 

 

 普通が理解できない。

 

 だからむかつく。

 

 

 普通ではないと言われてる様に感じる。

 

 だからむかつく。

 

 

 

 ()()()がちらつく。

 

 だからむかつく。

 

 

 

 綾辻遥がむかつく。

 

 

 

 

 だから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そんなんで俺に関わるな……!」

 

 

 苛立ちからでた突き放すような言葉に、綾辻は一瞬怯むがそれでも食い下がる。

 

 

「っ! そんなんでって……! 生徒会としても一個人としてもこれは見逃せる様なことじゃありません!」

 

 

 その言葉に不変の意思を感じ、妖介はしかめっ面になる。

 

 暫しの間そのままの状態でいたが、ここで言い合ったとしても綾辻の意思が変わらないことを悟った妖介は、不本意だか、非常に不本意だが妥協案を出すことにした。

 

 

 

 

「ハァ……じゃあこうしよう」

「?」

「俺が問題を3つ出す。3問全て答えられたら真面目に学校生活を送ってやるよ。ただし、1問でも間違えたら2度と俺に指図するな」

 

 

 妖介が提案した内容は、3つの問題全てを答えられたら言うことを聞くが、間違えれば2度と指図するな、というものだった。

 しかし、この条件では妖介が有利過ぎるため、綾辻は抗議する。

 

 

「それじゃ天峰君が有利過ぎない?」

「当たり前だろ。こっちが妥協してやってんだから」

 

 

 そう言って綾辻の抗議を一蹴し、妖介は更に続ける。

 

「そもそも俺はお前の話を無視して帰ってもいいんだ。でも、ここで帰ったとしたらお前はまた注意しにくるだろ? それはそれで面倒だからこうして提案してんだ」

 

 

 そう言って妖介は1度ため息をつき、綾辻にこの条件を呑むのかを目で問いかける。

 

 

 

「……全問正解したら真面目に学校生活を送ってくれるんだよね?」

「もちろん」

「じゃあ、わかった。反故にしないでよ」

 

 

 返ってきたのは了承の意。つまりはその提案に乗るということだ。

 

 

「りょーかい、じゃあ早速第1問だ」

「……っ」

 

 

 

 そう言って口の端を吊り上げる妖介を見て綾辻は身構える。

 結局の所、出題するのは相手なのだから有利なのは妖介だ。1発目から答えられないような無理難題が出されればそこでもう詰み。

 故にどんな問題がくるのか、と身構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「円周率を答えろ」

「……はい?」

 

 

 予想外な問題に思わず間抜けな声が出てしまう。

 

 綾辻が拍子抜けするのも無理もない。

 円周率といえば、最も重要な数学定数とも言われており、数学をはじめ、様々な分野に出現し、よく目にするもののため円周率を知らない人などほとんどいないだろう。

 

 

 

「えっと……3.14でしょ」

 

 

 勿論、綾辻が知らない訳もなく、これが1問目? と疑問に思いながらもあっさりと1問目が終了――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいや、そこから先の数字もだ。下10桁まででいいから答えろ」

 

 

 

 する訳が無く。

 下10桁、つまり3.14からあと8つの数字を求めろということだ。

 

 しかし、それを言われた綾辻は特に驚くことも文句を言うことも無く、1度だけため息をつき、なぜ下10桁までなのかを妖介に問う。

 

 

「やっぱり……で、なんで下10桁までなの?」

「なんとなく」

「……天峰君らしいね」

 

 

 そう言って、綾辻は答えを導き出す為に記憶を辿る。

 

 

 円周率。

 それは誰もが知っている、と先程は記したが、それは学校の授業で習う3.14までの話だ。そこから先、ましてや下10桁までとなると知っている者の方が少ない。

 建築、精密機械等、円に係わりのある仕事をしていれば別だが、普通の人生において、3.14以降の数字を知る必要も無ければ使うことも無いのだから。

 

 つまり、3.14以降の数字を知るとなれば、自身で日常では決して使わないその数字を調べるしかないが、綾辻はそれを調べるような生活をしているわけではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「3.1415926535、でしょ?」

「……正解だ」

 

 

 

 が、綾辻はその数字を知っている。

 

 

 

「なんで知ってた?」

「さあ? なんとなく、かな」

 

 

 先程の意趣返しか、知っていた理由を聞いても適当に返される。

 

 

 実際の所、綾辻が円周率をここまで覚えていたのは偶々である。

 前日に数学の予習をしていたら円周率を使う問題があり、その時になんとなしに調べ、ある程度の桁までを覚えていたのだ。

 

 

 

 

「ちっ……まあ、いい。じゃあ次だ」

 

 意趣返しされたことに舌打ちをし、次の問題を出題する。

 

 

 

「第2問。この学校の校則に記載されている停学及び謹慎に――」

「万引、窃盗、喫煙、飲酒、不純異性交遊、家出、パーマ、脱色、染色、交通違反、運転免許不正取得、不正乗車、定期券の不正使用、暴力行為、薬物乱用、その他、が校則に記載されてる停学及び謹慎になる行為だよ」

 

 

 

 が、妖介が問題を出し終える前に、綾辻が食い気味に答えを述べ、それに対して妖介は、問題を出し終える前に答えられたことが癪に障ったのか眉間に皺が寄る。

 しかし、それは一瞬であり、すぐにため息をつき、まあわかって当然か、とひとりごちる。

 

 

 

「……今のが第2問?」

「ああ、そうだけど?」

 

 妖介の言葉を聞いた綾辻が、怪訝な表情で訪ねると、妖介はあっけらかんとした態度でそれを肯定した。

 

 なぜ妖介はわかって当然の問題を出したのか、綾辻にはそれが理解できなかったので、何か裏でもあるのか、と思いきって本人に聞いてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の問題に特に深い意味はない。ただ、俺に退学どうこう騒いでる奴がそんなことも知らなかったら面白いなーって思っただけだ」

 

 

 返ってきた答えに思わず綾辻は天を仰ぐ。

 やはり、というか妖介らしい理由だった。

 

 

「そっか……うん、そうだよね。だって天峰君だもんね」

「なんだよそれ。なんか腹立つな」

 

 

 眉間に皺を寄せてそう言う妖介に一言謝る。

 

 

「ごめんごめん。でも、最初の問題に比べたら簡単過ぎると思うけどいいの?」

 

 そんなことのために1問を使ってしまってよかったのか、という意味を込めて軽い気持ちで質問した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいんだよ。どうせ3問目は答えられない」

 

 

 瞬間、妖介の雰囲気が一変した。

 

「……っ」

 

 妖介の雰囲気は先程までとは打って変わり、静かな緊張感が漂っており、3問目が非常に難解な問題であることを嫌でも理解してしまう。

 

 その雰囲気にあてられてか、あるいは次の問題で間違えれば全てが無意味になるからか、それともその両方か。綾辻の緊張感も高まる。

 

 

「第3問」

 

 

 最後の問題ということもあって、お互いの緊張感が高まり、空気が張り詰める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――くぎゅうう。

 

 

 

 

 

 

 ふと、そんな音が響いた。

 

 

「……?」

 

 

 突然のことで一瞬思考が停止するが、綾辻はその音の正体をいち早く理解すると、自身から出た音かを確認する。

 しかし、どうやら自身から出た音ではないようだ。

 

 では、一体どこから?

 

 この屋上には自分ともう1人しか存在しない。そして自分ではないことはわかっている。

 と、なると必然的にこの場にいるもう1人、妖介が音の発生源となるわけだが……。

 

 そう思い、音の発生源である妖介、否、妖介の()へと視線を向け、そこからゆっくりと顔へ視線を移すと真顔の妖介と視線が合う。

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腹減ったから帰る」

「ちょっとぉ!?」

 

 

 

 サイナラー、と妖介は言って、綾辻の制止を無視して屋上を後にしてしまった。

 そのため、妖介を止めるために伸ばした腕は何も掴むことも無く、ただ宙に浮く。

 

 

「……」

 

 

 ポツン、と1人残された屋上で肌を突き刺す用な風が綾辻を襲うが、そんな冬特有の冷たい風とは反対に、綾辻の心と頭は熱くなっていた。

 

「~~~っ!」

 

 

 綾辻は拳を強く握りしめ、体を震わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もーなんなのーー!!」

 

 

 そんな怒りの叫びが群青色の空に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《んーよく寝た……!? え、あれ、もう夜じゃん!?》

「……まだ寝てたのか」

 

 

 

 

 

 

 

 







雄介が完全に空気でしたね 笑

今回の話は私の大好きな漫画『アイシールド21』を元にしております。読んだことがある人ならこの先の展開が少しわかるのではないでしょうか。
読んだことないよーという人はぜひ読んでみてください。



さて、今回も解説を少々。

Q、妖介は円周率をどのくらいまで覚えてるの?

A、素で覚えてるのは100桁くらい。
計算しようとすれば数万桁まで普通に出せる。
『サイドエフェクト』フル稼働すればもっといくが体力的に無理。


Q、綾辻は校則を全部覚えてるの?

A、生徒会副会長だもの。


Q、綾辻の記憶力良すぎない?

A、生徒会副会長だもの。


Q、雄介寝すぎじゃない?

A、雄介だもの。


くらいですかね。
何か他に質問等がございましたら感想にてお答えいたします。



次回の投稿はなるべく早く出来るように頑張ります。
本当に頑張ります。次回こそは、次回こそは早く投稿できるよう頑張ります。本当の本当です。


では、また次回に。



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第19話

お、お久しぶりです……。

いや、あの言い訳をさせてください。
1月くらいには投稿しようと思ってたんですが、部活の方が大変で12月から3月は合宿などのイベントが盛りだくさんでして、はい、そうですね、その、本当にごめんなさい。

でも、どうせ遅れるんでしょ? とかみなさん薄々勘づいてたでしょうし、別に……あ、いや、なんでもないです。ごめんなさい。




遅れに遅れた平成最後の投稿、19話です。どうぞ。




 

 

 

「そう言えば昨日、僕が寝てる間に何かあった?」

《いや、特には》

「そっか」

 

 

 綾辻とのいざこざ? があった次の日。

 那須隊との合同任務を終えた雄介は、飲み物を求めてロビーへと向かっていた。

 

 

「まあ、何かあったとしても綾辻さんが怒りに来るくらいだしね」

《あーまあ、そうだな》

 

 

 ほとんど正解だけどな、と思いながらも妖介は適当に返事をする。

 結局、昨日の出来事はわざわざ教えることでも無い、と妖介が結論付けたため、雄介は昨日綾辻が屋上へ来たことすら知らないでいた。

 

 

 

 

 

「寒い日はココア1択だよね~」

《激同》

 

 そんな話をしながら辿り着いた自動販売機で、ココアを1つ購入する。

 どんなにお金が無くとも、寒い日のココアには勝てないのだ。

 

 

「ん?」

 

 

 ココアも買ったし、さあ帰ろう。

 そう思い、歩き出した視線の先に5~6人程の人だかりが出来ていた。

 

 それ自体は大したことじゃない。

 ただ、その中に見覚えのある無造作ヘアーの小柄な少年がいたことが問題なのだ。

 

 その少年に気付かれたら面倒なことになる、と直感が告げている。そのため、雄介は気付かれないように気配を消して抜き足差し足を繰り返し、出口へ向かう。

 

 そう、気分は暗殺者(アサシン)

 

 雄介は真っ正面からの戦闘はからきしだか、隠密行動においてはC級時代の訓練で毎回1位を取るほどに長けているのだ。この程度の隠密行動など造作もない。

 

 

 

 出口はもう目と鼻の先。

 

 

 

 

 

 

 

(ふっ……他愛な――)

「あっ! あまみん先輩!」

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「風間さんはこないの?」

「大学のレポートがあるそうで」

「どうせ太刀川のを手伝わされてんだろ」

「チーム数はどうする?」

「3つでいいんじゃないかしら」

「早くバトろーぜ」

「ダルい」

 

 

 ――どうしてこうなった?

 

 

 雄介は目の前で盛り上がる11人を見てそう思った。

 

 

 

 雄介は緑川に見つかった後、半強制的に人だかりへ連れてかれ、その輪に加えられた。

 加わった輪の中には数分前まで一緒にいた那須と熊谷、そして知らない人物が2人居た。

 

 その人物は、No.1射手の出水とボーダー唯一の槍使い米屋の2人だった。

 

 どうやらこの2人は、緑川をボコボコにした人物が那須隊と防衛任務を共にしていると聞き、その人物の詳細や防衛任務の様子を那須達に聞いていたらしい。

 

 そしたらそこへ本人が来たとなれば、戦闘狂である米屋が黙ってない。

 

 

 

 ――ちょうどいいや。このメンバーでチーム戦でもしようぜ。

 

 

 

 と米屋が提案し、それに雄介以外が賛同してしまった。

 そこからはトントン拍子で事が進み、出水が防衛任務終わりの荒船隊の面々と近くにいた菊地原、歌川、偶々通りかかった諏訪を誘い、総勢12人のメンバーとなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

(もう帰りたい……)

《つうかよ》

(……どうしたの?)

 

 チーム戦をやることになった流れを思いだし、ワイワイ盛り上がる11人を死んだ魚の様な目で見ながらそんなことを考えていると、妖介が疑問を口にした。

 

 

《歌川、菊地原、緑川は『サイドエフェクト』のこと知ってるだろ? 緑川は忍田さんに口止めされてるからいいとして、2人に口止めしなくてもいいのか?》

(あー……)

 

 

 妖介が懸念しているのは、『サイドエフェクト』の存在を知っている歌川と菊地原が作戦会議などで他のメンバーに『サイドエフェクト』のことを言ってしまわないか、ということだ。

 

 那須隊での出来事で二重人格のことが公になるのに抵抗はほとんど無くなった。

 

 しかし、『サイドエフェクト』は別だ。

 

 既に玉狛支部に赴いた際、〝変化した目は人に嫌悪感を抱かせる〟という解は得ている。

 

 

 

 

 

 

 

「歌川君、菊地原君」

「? どうした」

「……何?」

 

 故に、他のメンバーから少し外れたとこへ2人を手招きする。

 それに対して歌川はすぐに応じ、菊地原も少し間があった上に嫌そうな顔をしたがちゃんと応じてくれた。

 

 他のメンバーがこちらに気づいてないのを確認し、小さな声で、申し訳ないんだけど、と切り出す。

 

 

「えっと、お願いがあって……その〝目〟のことなんだけど……」

「ああ、そのことか。安心しろ。別に言ったりしない」

「あ、ありがとう!」

 

 やはり、というべきか人柄のいい歌川は雄介の申し出を快く承諾してくれた。

 

 しかし、

 

「……」

「き、菊地原君……?」

 

 

 それとは反対に菊地原は何も反応を示さない。

 何か気に障る様な事言ったかな、と内心ビクビクしながら不安げに菊地原を見る。

 そんな視線を向けられた菊地原は、ため息をついてから口を開く。

 

「……なに? 『サイドエフェクト』を知られていないことでアドバンテージでも得ようっていう腹図もり?」

「そ、そうじゃないよ……! 僕はただ〝目〟のことを……」

「キミがそんなつもりじゃなくても、こっちはそう受け取ることができるんだよ。それにわざわざ口止めするってことは、ぼくらがバラすんじゃないかって疑ってるってことでしょ?」

「え!? あ、え……ご、ごめん……」

 

 

 

 菊地原の刺のある言葉を受けて、雄介は項垂れてしまう。

 雄介は2人が言わないとは思っている。しかし、思ってはいるが信じてはいない。菊地原が言うように疑っているのは確かである。

 

 これ以上は可哀想だと思った歌川が「おい」、と菊地原を諌めようとするが、それと同じタイミングで菊地原が「でも」と続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「キミからはいらない音が聞こえない」

「……え?」

「だからまあ、言わないでおいてあげるよ」

 

 

 そう言って、菊地原は他のメンバー達の方へ行ってしまう。

 なぜ菊地原が突然言わないようにしたのか分からず、雄介は呆然としてしまい、その一連の流れを見ていた歌川は苦笑いした。

 

 

 今までの経験から、雄介が『サイドエフェクト』のことで様々な不安を抱えてしまうのは菊地原自身、よく分かっているし、()()()()()()

 しかし、雄介の行動を菊地原が言ったように捉えることもできるため、そう捉えることもできるぞ、と忠告をしたのだ。

 

 まあ、言い方は辛辣だが菊地原なりの優しさ、というやつなのだ。

 

 

 

 それに――

 

 

「大丈夫だ、天峰。あいつの言い方はちょっとあれだが、別にお前のことを嫌ってるわけじゃないし、『サイドエフェクト』のことも言わないさ」

「うん……。それは嬉しいんだけど……〝いらない音〟ってなんのことなんだろう……?」

「ん? ああ、それか。それはお前らが良い奴ってことだよ」

「?」

 

 

 菊地原が言った〝いらない音〟。

 それは菊地原に対する悪口や陰口のことを指す。

 

 菊地原の『サイドエフェクト』である『強化聴覚』。

 それは一言で言ってしまえば〝耳がいい〟ただそれだけの能力であるが、その有用性は菊地原が所属する部隊『風間隊』が菊地原が加入したこでA級3位まで一気に駆け登ったことで証明されている。

 しかし、菊地原の『サイドエフェクト』が知られるようになった当初は、その能力を周りの隊員達は「地味だ」「大したことない」「盗み聞きには使える」と蔑み、聴きたくもないその音を勝手に耳が拾ってしまう。菊地原はそんなことを何度も経験してきた。

 

 

 

 

 

 だが、雄介、妖介からは、

 

 

 

 初めて会った時も。

 

 嫌味を言った時も。

 

 軽口を言い合った時も。

 

 

 そして今も。

 

 

 

 〝いらない音〟が聞こえたことはなかった。

 

 だから、嫌いな優秀そうな奴である雄介を、毎回ちょっかいをかけてくる妖介を、菊地原は嫌いになれないのだ。

 

 

 もちろんそのことを雄介が知っているはずもなく、歌川の言葉の意味を理解しかねているが。

 

 

 

「良い奴? つまり……どうこと?」

「さすがに全部は教えられないな」

 

 

 そう言って歌川は困った様に笑う。

 さすがに菊地原の過去をバラすわけにもいかないので、〝いらない音〟の内容を全て話すことはできないのだ。

 

 そのことを知らない雄介は釈然としないが、教えられない、とはっきりと言われたため、これ以上の追求をやめ、自力で答えを得ようと『サイドエフェクト』を使用する。

 

 それと同時に、チーム戦をする集団のなかから米屋が手を振り上げてこちらに声を投げ掛けてきた。

 

 

「おーい。歌川と天峰、くじ引きするぞ」

「今行きます。ほら、天峰も行くぞ」

「あ、うん」

 

 

 その声に応じた歌川に従い、集団へと向かう。

 

 

 その途中、雄介は『サイドエフェクト』によって得た答えについて考えていた。

 

 答えを求めた結果、〝いらない音〟の意味はわかった。

 しかし、『サイドエフェクト』のことを黙っているのとどう関係があるのか、それが分からなかった。

 

 だが、分からない理由は分かる。また感情だ。

 

 

 なにが関係している。

 喜か? 怒か? 哀か? 楽か?

 それとも、愛か? 憎か?

 

 

 分からない。

 雄介にも、もちろん妖介にもその感情、感謝が、優しさが分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、

 

 

 

 

 

「――ありがとな、菊地原」

 

 

 

 なぜか、()の口からは自然とそんな言葉が漏れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うっさいなぁ」

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

「おれらは狙撃手0、Cは攻撃手が0か。随分偏ったな」

「ねー。Bが一番バランス取れてるよ」

 

 開始前の短い作戦会議の為に集まった対戦ブース内で、出水と緑川は今回のチーム分けについて話し合っていた。

 

 

 くじ引きをした結果、チーム分けは

 

 

 Aチーム

 天峰、緑川、米屋、出水

 

 Bチーム

 菊地原、歌川、荒船、熊谷

 

 Cチーム

 那須、諏訪、半崎、穂刈

 

 

 

 

 となった。

 

 たしかに2人の言うように、Aチームは前衛に偏り、逆にCチームは後衛に偏る中、Bチームだけが攻撃手2、万能手1、狙撃手1、となかなかバランスの良いメンバーとなっている。

 

 それに不満があるわけではないが、緑川が「でもさー」と言葉を続ける。

 

 

「よねやん先輩といずみん先輩が一緒って、このチームバカばっかりだよね」

「おい、こら。お前もその1人だろ。てか、俺を弾バカと一緒にすんな」

「そりゃこっちのセリフだ、槍バカ」

 

 そう、この2人はそれぞれ弾バカ、槍バカ、と呼ばれており、Aチームがバカだらけだ、と言った緑川自身も迅バカと呼ばれている。そしてこの3人はまとめて〝A級3バカ〟と称されているのだが、その3人全てがAチームに集まってしまったということである。

 

《緑川自身もバカだから、本当にこのチームバカだらけじゃねぇか》

(妖介含めてね)

《どこがだよ。俺、超頭良いじゃねぇか》

(妖介は頭の良いバカってやつだよ)

《んだとぉ!?》

 

 プラス、頭の良いバカこと妖介だ。

 本当にAチームにはバカしかいない。

 

 

 ギャアギャアと妖介が騒いでいるのを、ハイハイと適当にあしらっていると、そういえば、と出水が質問を投げ掛けてきた。

 

 

「お前、攻撃手なのに防衛任務で『アイビス』使ってたってのは本当か?」

 

 急に話を振られたため、ビクリとしてしまう。

 恐らく那須か熊谷にでも聞いたのだろう。別に隠すことでもないので、素直に首を縦振る。

 すると、その反応を見た緑川が驚愕と当惑の混じった声を上げた。

 

「あまみん先輩狙撃手になったの!?」

「ち、違うよっ! トリガーセットに『アイビス』入れてるだけで攻撃手のままだよ」

 

 その否定の言葉に緑川が安堵の息を漏らし、米屋はへぇ、と感嘆に似た吐息を漏らす。

 

 

「攻撃手なのに『アイビス』使ってんのか、おもしれぇな。〝完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)〟にでもなるのか?」

 

 

 米屋の口から出た聞き慣れない言葉に疑問符を浮かべてしまう。

 

 

 〝完璧万能手〟

 攻撃手、銃手もしくは射手、狙撃手の全てに対応、更にその全てが8000ポイント以上の者をそう呼び、ボーダー内に1人しか存在しないポジションである。

 

 もちろん、そんなポジションの存分など今しがた初めて聞いた雄介は、それがなんのことか分からず、頭の中が疑問符でいっぱいになってしまう。

 

「なんだ、完璧万能手のこと知らなかったのか」

 

 その雄介の反応を見て米屋は、本当におもしれぇ奴だな、と快活に笑い、周りもそれにつられて笑う。

 自分のことを笑われた雄介が不満そうな顔をすると、また周りは謝りながら笑う。

 

 暫くそうやって笑いあっていたが、時計を確認した出水が声を上げた。

 

 

 

「っと、流石に作戦立てないてまずいな」

「でも、作戦っていってもこのメンバーじゃ突撃しかなくない?」

「どう突撃するかを決めんだよ」

《……》

 

 

 〝作戦〟

 その言葉に妖介が僅かにだが反応する。

 ここにいる者達は隊長でないとはいえ、自分以外は全員がA級の精鋭達である。その精鋭が一体どんな作戦を立てるのか、妖介は少々気になっていた。

 

 

 

「とりあえずは俺がサポートするからあとは臨機応変に」

「結局それな」

「了解~」

 

《おい、大丈夫か。こいつら》

(……ノーコメントで)

 

 

 が、妖介の期待するような作戦が立てられることはなかった。

 そもそも、このチームにいるA級の精鋭とされる者達は全員がバカだ。頭を使うようなことで期待するのは間違いである。

 

 

 

「お、そろそろ始まるな」

「おーし。やるからには1位だな」

「当たり前じゃん!」

 

 そんな妖介の落胆を他所に、チーム戦開始が目前まで迫り、3人の士気が高まっていく。

 それにつられてか、戦闘が嫌いな雄介でさえ気持ちが――戦うのは妖介だか――少々昂り、いつもより少しだけ大きな声で妖介に声をかける。

 

 

「じゃあ妖介頑張ってね!」

《ん? ああ。そういやぁ言い忘れてたわ》

「? どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《俺戦わないから、よろしく》

「…………………………………why?」

 

 

 

  そんな言葉と共に、雄介は転送の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 




次話からチーム戦スタートです。

ちなみに人選及びチーム分けに関しては、菊地原と歌川、3バカ以外は適当です。思いつきで詰め込みました。


次回こそ! 本当の本当に! 次回こそは早く投稿できるように頑張ります。(フラグ)

遅れたら……ごめんなさい。許してください。なんでもします。(なんでもするとは言ってない)




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BBF風キャラ紹介



お、お久しぶりです。皆様いかがお過ごしで……あ、いらない? 早くしろ?


では、初手安定の謝罪を。




誠に申し訳ございませんでしたあぁぁぁぁぁぁあ

本当に申し訳ないです。
免許取得、部活の合宿、就職試験勉強、などがあり執筆に手が回りませんでした。

え? 言い訳するな? 甘えるな?

ごもっともでございますっ……!

こんな私の小説を待ってくれている方々。本当に申し訳ございませんでした。
これからもおっっっっそい更新が続くとは思いますがよろしくお願いいたします。


では、今回は前々から書こうと思っていたBBF風キャラ紹介です。矛盾点やおかしな点があるかもしれませんが、その場合は〝優しく〟指摘してください。


優しくですよ。



※リハビリ的な感じで書いたんで後で書き直したりするかもしれません。


 

 

 

 

 

【天峰雄介】

 

 

〔PROFILE〕

 

ポジション:アタッカー

 

年齢:15

 

誕生日:3月1日

 

身長:163cm

 

血液型:A型

 

星座:みつばち座

 

職業:高校生

 

好きなもの:昼寝、食事、家族

 

 

〔FAMILY〕

 

父、母、妖介

 

 

〔PARAMETER〕

 

()内は『サイドエフェクト』使用時

 

トリオン 12(12)

 

攻撃 0(0)

 

防御・援護 0(0)

 

機動 9(9)

 

技術 0(0)

 

射程 0(0)

 

指揮 7(12)

 

特殊戦術 6(8)

 

TOTAL 34(41)

 

 

〔RELATION〕

 

妖介 ←家族(兄)

 

鬼怒田 ←感謝感激雨霰

 

 

〔TRIGGER SET〕

 

※20話チーム戦時

 

主トリガー

 

スコーピオン

 

アイビス

 

グラスホッパー

 

スパイダー

 

 

副トリガー

 

スコーピオン

 

メテオラ

 

バッグワーム

 

シールド

 

 

SIDE EFFECT

 

『瞬間最適解導出能力』

 

どんな状況や疑問、謎を瞬時に答えを導く能力。

ただし、本人の性能と知識、能力によるものから答えを出すため、あらゆる手段を用いても状況が打破できない場合は答えが出ない。また、人の気持ち、感情が関わっている場合も答えが出ない。

 

 

 

 

 

 

 

【天峰妖介】

 

 

〔PROFILE〕

 

ポジション:アタッカー

 

年齢:16

 

誕生日:1月3日

 

身長:163cm

 

血液型:A型

 

星座:かぎ座

 

職業:高校生

 

好きなもの:昼寝、食事(略奪)、家族

 

 

〔FAMILY〕

 

雄介

 

 

〔PARAMETER〕

 

()内は『サイドエフェクト』使用時

 

トリオン 12(12)

 

攻撃 10(10)

 

防御・援護 6(12)

 

機動 9(9)

 

技術 7(10)

 

射程 5(8)

 

指揮 6(10)

 

特殊戦術 3(6)

 

TOTAL 58(77)

 

 

〔RELATION〕

 

雄介 ←家族(弟)

 

鬼怒田 ←ぽんきち(感謝)

 

 

 

 

 

 

不運なチビ

『ゆうすけ』

 

 

家族大好き人間。所謂、ファミコン。

妖介の集金活動(略奪)とパルクールでの不法侵入が合わさり、警察から目をつけられている。過去のトラウマにより人を信じることができない。特に女性が苦手。

ちなみに、雄介が授業をサボりまくってるのに退学にならないのは、校長に賄賂を渡してる、校長の弱味を握ってるなどの噂が学校でたっている。それを聞いた雄介はなんとも言えない顔をした。

 

 

 

 

 

 

もう1人の僕(外道)

『ようすけ』

 

パズルを完成させていないのに現れたもう1人の僕(外道)。金的、目潰しは常識。むしろなぜしない。雄介のことを優先事項1位としており、雄介のことを傷つける奴は許さない。木虎と緑川はギルティ。

雄介のトリオンから誕生した人格のため、雄介のトリオンが空になると消滅する可能性があるが、鬼怒田がトリガーを改造して緊急脱出をしてもトリオンを一定に保てるようにしてくれた。一応感謝はしている。ポン吉って呼ぶけど。

 

 

 

 






薄っぺらい感じで申し訳ないのですが、これが私の限界ですっ……!

チーム戦の話は半分くらい書けているのですが、人数が多いと頭がパンクしそうでして……
頑張って早く書き上げれるよう努力します。努力〝は〟します。ごめんなさい。


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第20話 予行練習

お久しぶりです。
予約投稿されていたのにきづきませんでした 笑

色々と落ち着いたので投稿を再開させていただきました。


投稿ペースはとてもゆっくりですがこれからもどうぞよろしくお願いします。


 戦闘、開始。

 それと共に転送された出水は周りを確認する。

 

「おっ、工業地区か」

 

 ランダムで選ばれたマップは工業地区。

 背の高い工業プラントが複数乱立した地形で、狙撃の射線は通りにくく、大きな建物の間の通路などは比較的開けているため射撃戦が行いやすいマップだ。

 狙撃手(スナイパー)が居らず、A級1位部隊の射手(シューター)の出水を擁するAチームからしたら非常に助かるマップである。

 

 

「さて」

 

 

 まずは合流を、とレーダーに目をやる。

 レーダー上では、狙撃手が『バッグワーム』を使用したことにより光点が4つほど無くなっている。

 

「あん?」

 

 そう、4つ光点が無くなったのだ。狙撃手は3人しかいないのにだ。

 しかも、その消えた光点は仲間内の1人である──天峰雄介である。

 

 出水は様々な可能性を考えた。

 不意討ち? 狙撃の場所取り? 

 それとも何か別に目的がある? 

 

 そこまで考えて思い出す。

 そもそも何か目的があるにしても雄介のトリガーセットを聞くの忘れていた、ということを。

 

 トリガーセットを知らなければ目的を知るどころか、連携を満足に取ることすら出来ない。

 出水はすかさず雄介へと通話を繋げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、天峰。さっき聞き忘れてたけど、お前のトリガーセットって──」

 

『あばばばばばばばば』

「!?」

 

 

 どうなってるんだ? と続ける前に雄介の奇声が耳に届き、肩をビクつかせる。

 壊れた様にあばあば言い続ける雄介に、出水は何かトラブルでもあったのかと思い、慌てて安否を確認する。

 

 

「お、おい、大丈夫か?!」

『──菊地原を最優先で倒せ』

「……は?」

 

 だが、返ってきた声は先程とは打って変わり、はっきりとしていて、とても力強いものだった。

 あまりの変貌ぶりに加え、突然の命令に出水が茫然としている間に、更に話は進んでいく。

 

『菊地原はマップ中央から左斜め上、米屋の左隣の光点だ。出来れば3人で潰せ。あいつ以外のBチームの奴らは菊地原から遠い位置にいるから合流には時間かかると思うが油断はするな』

「ちょ、ちょっと待──」

『菊地原の『サイドエフェクト』は厄介だが、射手の出水がいれば射程の差で勝てる。誰かが先に菊地原と接敵したとしても必ず出水が来てからあたるようにしろ。それと緑川の左斜め上と出水の右上には狙撃手がいるから、可能なら緑川は北上するついでに倒して、出水の方は無視して構わない』

 

 

 次々と耳に入ってくる情報ではっとした出水は、その情報を何故知っているのか、と疑問を口にしようとする。しかし、その疑問に被せるような形で更なる情報が追加され、制止の声すら聞いてもらえなかった。

 

 

 

『あと、俺のことはいないと思ってくれればいい。何かあればこっちから通信をとばす』

 

 んじゃ、と言って通話を切られてしまう。

 

 パニックになる雄介。

 突然の変貌。

 更にはマシンガンの様に出てきた情報量。

 

 その全てが合わさり出水は呆気に取られていた。

 

 そして、通話を切られてから少し、思考停止した出水はとりあえず緑川に通話を繋げた。

 

 

「緑川、聞いてたか」

『……うん。説明いる?』

「おう。頼む」

 

 だよねー、と半ば分かりきっていた返答に緑川は苦笑いを浮かべる。

 

 

『いずみん先輩はあまみん先輩が二重人格って話聞いたことある?』

「あー噂でなら聞いたことあるぞ」

『それって実は本当のことなんだけど──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

《俺戦わないから、よろしく》

 

 

 頭の中で反芻する。

 

 

《俺戦わないから》

 

 

 意味を咀嚼する。

 

 

 〝妖介戦わない〟=〝雄介戦う〟

 

 

 頭が理解する。

 

 

 

 

 

 

「あばばばばばばば」

《とりあえず『バッグワーム』着てから……って、おい》

 

 

 転送直後、雄介は転送前に妖介から放たれた衝撃の一言により、絶賛パニクっていた。

 

 

《早く『バッグワーム』を……》

「あばばばばばばば」

《……ダメか──》

 

 そう言って妖介は『バッグワーム』を起動するためだけに、パニクっている雄介と入れ変わり、丁度元に戻ったタイミングで出水から通信が飛んでくる。

 

 

 

『おい、天峰。さっき聞き忘れてたけど、お前のトリガーセットって──』

「あばばばばばばばば」

『!?』

 

《はぁ……──》

 

 だが、今の雄介はそれどころではない。あばあば言うので手一杯だ。

 そんな状態の雄介がまともな会話を出来るはずもなく、仕方なく妖介がもう1度入れ代わり、1番厄介な菊地原の排除を出水に命じ、通信を終える。

 

 

「──んじゃ……と、おーい雄介大丈夫か」

《た、たた、た、戦わないって、な、なんでっ!?》

「いや、まず落ち着け」

 

 先程と比べて喋れるようにはなったが、未だパニック状態の雄介に落ち着くように言う。

 

 少し大袈裟に深呼吸を繰り返し、幾分か落ち着いたのを見計らい、雄介と入れ替わる。

 

 

《落ち着いたか?》

「……どうして、戦わないの?」

 

 

 妖介の質問には答えず、逆に雄介が問い質したのは、今1番気になっていることだった。

 

 基本的に妖介の中で優先順位1位は雄介であり、それが覆ることは今までほとんどなかった。多少言うことを聞かないこともあるが、雄介が本当に嫌なことであればしないし、させない。

 

 故に分からない

 

 なぜ、本当に嫌な戦闘行為をやらせようとするのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

《なんとなく?》

「真面目に。じゃないと──」

《オーケー。わかったからその拳は下ろせ》

 

 

 とりあえず、固く握られた拳は下ろした。

 次はないことが伝わったのか、妖介はわーってるよ、と冷や汗をかきながら言う。恐らく分かってなかったのだろう。

 

 そこから妖介はため息を1つつき、理由を簡潔に述べる。

 

 

 

 

《まあ、簡単に言えば予行練習みたいなもんだよ》

「……なんの?」

 

 

 

 今のでなんとなくは察せた。

 それでも呆けたのは、その〝もし〟を考えたくない、あってほしくないことだから。

 

 しかし、妖介は言う。

 

 

 

 

 

《もし、俺が戦えなくなった時の、だ》

「そ、それは……」

 

 

 

 想像していたことが言葉に出されて言葉が詰まる。

 

 

 その『戦えなくなった時』というのはどういう時だろうか。

 

 自身のトリオンが少なくなり、妖介と入れ替われなくなった時だ。つまり、雄介が戦場に立たなくてはならない時である。

 

 

「で、でも妖介だってそうならないよう戦ってるし、緊急脱出(ベイルアウト)だってあるじゃん!」

《たしかにな》

「じゃあ……!」

《でも、絶対じゃない。戦いでは常に最悪を想定しなくちゃならない。もし俺がヘマしたら? もし緊急脱出がつかえなかったら? そういう〝もし〟が起きたとしたらお前が戦場に立つしかないんだよ》

 

 

 そんなことは雄介自身わかっている。しかし、だからといって戦えるわけではない。

 

 どうしても想像してしまうのだ。

 雄介が戦うかもしれない〝もし〟と同じ様に、本当に斬られて、撃たれてしまうかもしれない〝もし〟を。

 

 

 

 

 

《いいか妖介。別に俺は〝戦え〟って言ってるわけじゃない》

「……え?」

《立ち向かわなくてもいい。ただ〝生き残れ〟》

 

 

 生き残り方には大きく分けて2つある。

 1つは、立ち向かい、敵を倒して生き残ること。もう1つは──

 

 

 

「──逃げて生き残る?」

《そうだ》

 

 

 戦うのが嫌ならば無理に戦う必要はない。

 敵が来ない場所まで逃げきるなり、増援が来るまで逃げ続けるなり、隠れたりすればいい。そうやって〝生き残る〟。

 

 

 

《それなら雄介でもできるだろ》

「そうだけど……」

 

 

 逃げるだけ、と言うのは簡単だが、鬼ごっことは訳が違う。なにせ相手は武器を持って追い掛けてくるのだから。だが、できないこともないレベルでもある。

 故に悩む。

 

 ──本当にあぶなければ妖介が助けてくれるかも。だけど、戦場に立つなんて怖いし。でも、逃げきれば怖い思いをしなくてすむ。けど、逃げきれなければ……。

 

 

 

 そうやっていくつかの事柄が衝突し、波を立て続けた結果雄介は、

 

 

 

 

「──よしっ!」

 

 

 

 

 そう声を張り上げ、自身の頬を両手で挟むように叩き、声を上げる。

 

 

「僕は出来る! 出来る奴だ! 逃げるぐらいなら妖介に頼らなくても僕は出来る!」

《おお……!》

 

 

 先程までの愚図っていたにも関わらず、己を鼓舞し、闘志を滾らせようとする姿に感動し、「ああ、これなら心配はいらないな」なんて思って安心をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よね? 妖介」

《……》

 

 涙目な雄介を見るまでは。

 

 

妖介はほんの少しだけ不安になった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「『変化弾(バイパー)』!」

 

 6×6×6に分割されたトリオンキューブが、様々な線を描きながら菊地原に迫る。

 

「……チッ」

 

 その迫りくる弾達を『シールド』と建物を使い遮り、1度距離を取る。

 

「2体1なんて卑怯だね」

「わりぃな。これも作戦らしいんだわ」

 

 菊地原の悪態に対して、米屋は槍を構え直して返答をする。

 しかし、その返答に菊地原は違和感を覚える。

 

「……らしい?」

「ああ、天峰のな」

 

 それを聞いて、雄介の持つ『サイドエフェクト』の力を思い返し、なるほど、と納得する。

 しかし、そこで更に疑問が生じる。

 

 

(なんで、チームの半数をも使ってぼくを狙う?)

 

 

 この2人の近くにいたから? 

 ──いや、違う。

 

 A級隊員だから? 

 ──いや、違う。

 

 

 

 ──『サイドエフェクト』持ちだから? 

 

 

 

(もしかして……)

「考え事するなんて余裕じゃねぇか」

 

 

 考察に耽っていた菊地原に無数の弾丸が襲来する。

 それらを建物を使うことで回避しようと試みるが、着弾と同時にその弾丸達が爆ぜ、爆風によって生まれた土煙から槍が伸びてくる。

 その首を狙った突きを『シールド』で防御するのではなく、大きく後退することで回避する。

 

「やっぱし避けられるか」

 

 元よりこれで獲れるとは思っていなかったのか、煙の向こうで米屋が笑いながら言う。

 もし、仮に立ち止まって小さな体捌きだけの回避や『シールド』を小さくして首だけの防御していた場合、米屋の十八番である『弧月』専用オプショントリガー『幻踊』を用いた突きによって首が落ちていただろう。

 

『幻踊』

『弧月』専用オプショントリガー。

 通常では刃部分の変形ができないが、これを使いトリオンを消費して瞬間的にブレード部分を変形でき、敵に攻撃を避けたと思わせて不意を付いたり、敵の防御をかわして攻撃を仕掛けたりすることが可能になるのだ。

 

「見え見えだよ」

「うっせぇ、次は獲ってやるよ」

 

 そう言って距離をとった菊地原に迫る。

 

 米屋は出水の援護を受けながら、菊地原は自身の『サイドエフェクト』を駆使しながら攻防を繰り広げる。

 暫く、出水の援護を受けて米屋は菊地原と攻防をしていたが、ある通信が米屋と出水に届く。

 

 

『────』

「! よっしゃ、了解。弾バカァ!」

「誰が弾バカだ!」

 

 米屋の声に応えながら出水が『炸裂弾(メテオラ)』と『変化弾(バイパー)』を〝合成〟する。

 

『合成弾』

 2つの弾トリガーを合成し、それらのトリガーの特徴を引き継いだ弾を使用する方法。強力ではあるが普通の射手ならば合成するのに相応の時間がかかるものを考案者である〝天才〟出水の場合、合成速度は──約2秒。

 

 

「『変化炸裂弾(トマホーク)』!」

 

 

 2×2×2に分割されて放たれた弾丸は、全てがそれぞれ違う軌跡を描きながら菊地原を囲むように着弾する。瞬間、2人が居た地面ならず、周りの建造物すら爆撃によって粉砕する。

 その爆撃の中心にいた菊地原は『シールド』である程度のダメージは防げたが、『シールド』が割れてしまい、爆風によって無防備な状態で宙に浮いてしまった。更には追撃で米屋が迫ってきている。

 しかし、『シールド』は割れてしまっても米屋は『スコーピオン』で捌ける。出水は『合成弾』を使ったばかりのため、追撃はない。

 

 

(これならまだ)

「──と、思うじゃん?」

 

 立て直しがきく、そう思い、『スコーピオン』を構えた矢先、耳に届いた()()の声と足音に菊地原は舌打ちをする。

 

 

 

 

 聞こえている、聴いている。来ることはわかっている。しかし、避けられない一閃。

 

 

 

 

 

 

「──2点目」

 

 

『バッグワーム』を装備した緑川が背後から菊地原の頸を刈り取る。

 

 

『伝達系切断 緊急脱出』

 

 

 菊地原が緊急脱出する。

 

 

 それと同時期──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《やっと──》」

 

 

《終わったぁ……》

「動けるぜぇ……!」

 

 

 

()()の準備が整った。

 

 

 

 




転送位置は次のようになっています。
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      C穂刈       B熊谷
 B菊地原
    A米屋        C那須
          B荒船
     A出水
 C半崎
           C諏訪
  A緑川    B歌川     A天峰

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