学戦都市でぼっちは動く (斉天大聖)
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番外編 番外編 オーフェリアの日記

はい。前からあとがきに書いていた日記ですが、今回から番外編として書くことにしました。

毎回1,000文字近くと短いですが以後よろしくお願いします



 

 

 

 

6月×日

 

今日久しぶりにユリスと遊びに行った。その時に花屋に行って何時間も過ごしていた。少し前までは花に触れるのは無理だった私だが、自由になった今は自由に触れるようになった。やはり八幡には感謝しかない。

 

その後カフェでユリスから恋愛相談を受けた。ユリスは名前を出さなかったが、天霧綾斗を好いているのは知っていた。何でもライバルが多いのでどうしたら良いのかと尋ねられた。

 

ユリス曰く天霧綾斗は鈍感らしいので、私は酒を飲んで酔った勢いで既成事実を作ったらどうだと言ったら頭を叩かれた。私が八幡と付き合う前にシルヴィアから八幡を奪う為に考えた作戦だったのだが、ユリスは納得しなかったようだ。

 

 

6月×日

 

八幡が万有天羅の元で稽古をつけて貰っている時にシルヴィアとネットサーフィンをしていたら、『特集!彼氏が隠すエロ本見つけ方』という記事を発見した。

 

それを見た私とシルヴィアは記事を頼りに、八幡がエロ本を隠してないか徹底的に探した。その際に八幡の部屋に入ってありそうな箇所をチェックした。

 

暫くチェックをしていたら八幡の机の引き出しの1つが二重底になっているのを発見した。これは何かあると思いシルヴィアと引き出しをひっくり返してみた。

 

するとそこには『歌と毒の蜜月』『シリウスドームに生まれる紫と白の百合』など色々な題目の私とシルヴィアの漫画が数冊あった。しかも表紙にはR-18ーーー成人向けと表記されていた。シルヴィアを見ると顔を真っ赤にしていたが、私も同じように真っ赤になっていたと思う。

 

内容がつい気になったので2人で読んだら、予想以上に凄くて読むにつれて顔に熱が溜まるのを実感した。

 

全て読み終わるとシルヴィアが真っ赤になりながら「八幡君は私達がこんな事をするのを見たいのかなぁ?」と聞いてきたので私は多分と答えた。

 

するとシルヴィアは予行練習をしないかと提案してきた。私は一瞬悩んだが了承した。するとシルヴィアは漫画のように私の服を脱がしてきたので私も同じようにシルヴィアの服を脱がした。その時に漫画の中にあったようにお互いの胸や尻を揉みながら。

 

そして互いに裸になって抱き合いキスをする。シルヴィアとキスをした事は何回もあるが、八幡とするキスとは違う良さがある。まさかとは思うが3人で付き合っている内に同性愛にも目覚めたのだろうか?

 

そして互いに舌を絡め始めた瞬間、八幡が帰ってきて私達のやり取りを目の当たりにした。

 

 

……これ以降の事は恥ずかしいので割愛した。

 

 

 

 

尚、八幡が隠し持っていた漫画については全て処分した。その際に八幡は落ち込んだが、今後私達が漫画に出ていた事をすると言ったら直ぐに立ち直った。

 

やはり八幡はエッチである。



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番外編 八幡の日記

 

9月▲日

 

今日は新居を買ってから初めての大掃除をした。とはいえ、俺もオーフェリアもシルヴィも余り物を散らかさないので、冷蔵庫の上や本棚の裏など普段掃除しない場所だけを掃除して終わった。

 

部屋の掃除は1時間ちょいで終わったので、次は各々の端末のデータ整理をやった。初めの内は余り聞かない音楽などを消していたか、暫くするとビデオのアプリの中にAVがあるのを発見した。しかも家に置いてあったモノとは違うシルヴィのそっくりさん主演のヤツまで。オーフェリアとシルヴィと付き合う前にダウンロードしていたのを消し忘れていたようだ。

 

慌てて削除しようとしたが、その前にオーフェリアとシルヴィがそれを発見した。あの時の2人の顔は一生忘れない位怖かった。

 

その後、大掃除を済ませた俺は、俺の趣味嗜好を調べる為とAVを見始めた2人に解説をさせられた。もう2度とあんな経験はしたくない。

 

 

 

 

9月◎日

 

今日は久しぶりにシルヴィと2人でデートをした。オーフェリアはリースフェルトと遊びに行ったが、シルヴィと2人きりになるのは本当に久しぶりだ。

 

初めにカップルの間で有名なカフェに行き、カップル限定のパフェやランチセットを食べたが、その際にシルヴィは全て口移しで食べさせてきた。幾ら変装をしているとはいえ恥ずかしかった。

 

その後はシルヴィに招かれてクインヴェールにあるシルヴィの部屋に向かった。今は基本的にウチに住んでいるが、仕事の都合上泊まり込みもよくあるらしく、内装は前に来た時と殆ど変わっていなかった。

 

同時に俺は初めてシルヴィの部屋に入った時の事ーーーシルヴィの唇にキスをした事を思い出して顔を熱くしてしまった。我ながらアレはヤバかったと思う。

 

それはシルヴィも同じ気持ちだったようで、部屋に着いた俺達は顔を赤くしながら互いに寄り添ってキスをし始めた。シルヴィとの2人きりのキスはオーフェリアのするキスとは別の魅力があって最高だった。

 

暫くキスをしているとシルヴィがシャワーを浴びてくると言ってシャワーがある部屋に向かった。着替えを用意していなかったのでそういう事と捉えた俺は間違っていないだろう。10分後、シルヴィがバスタオル1枚でシャワールームから出てきて俺にバスタオルを渡してきた。それを受け取った俺はかつてない程の速さでバスタオルを受け取り、シャワールームに向かった。これについては男だから仕方ないだろう。

 

そしてシャワールームから出るとシルヴィがバスタオルを巻いたままベッドで扇情的な姿を露わにしていた。それを見た俺は一瞬で理性を吹っ飛ばして、ベッドに上がってシルヴィに覆い被さっていた。我ながらヤバいと思ったが、シルヴィは嫌な顔一つしないで俺を受け入れてくれた。

 

そしていよいよ本番という時だった。いきなり部屋に2種類の電子音が鳴り出して雰囲気が完膚なきまでに破壊された。

 

俺とシルヴィは無言で端末を見ると端末には『材木座義輝』と『ミルシェ』と表示されていて、俺とシルヴィの頭の中でブチリと何かがキレる音が聞こえたのだった。

 

 

 

9月◻︎日

 

今日はクインヴェールの公式序列戦である。俺は昨日の恨みを晴らすべく、空間ウィンドウにシルヴィがミルシェをボコボコにしている映像を流しながら、影狼修羅鎧を纏って材木座を殴り飛ばした。

 



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番外編 エリオットの日記

 

 

10月×日

 

今日からアーネストさんに引き継がれて生徒会長となった。アーネストさんに比べたらまだまだ未熟ではあるが、頑張りたいと思う。

 

 

10月△日

 

生徒会長に就任して3日。早くも生徒会長を辞退したくなった。最初に上層部であるEPから与えられた仕事は最近話題となっている比企谷八幡の二股に関する仕事だ。

 

諜報工作機関の至聖公会議からの情報によると暴露したのは我が学園の一色いろはという生徒らしい。EPは前から比企谷八幡ら3人の関係を知っていたが、シルヴィア・リューネハイムが引退する可能性を危険視して公表しなかったが、彼女は逆恨みを晴らすべく暴露したようだ。

 

もしも来週の会見でシルヴィア・リューネハイムが引退宣言をしたら他の統合企業財体が『シルヴィア達の関係を暴露したのはガラードワースの生徒』と公表するのは容易に想像出来る。

 

そう判断したEPは僕に『もしシルヴィア・リューネハイムが引退宣言をして、3人の関係を暴露した人間かガラードワースの生徒だという事が世間に知られたら、世間の矛先を一色いろは1人に向けさせろ』と指示をしてきた。

 

要するに彼女をスケープゴートにするという事だ。彼女の自業自得とはいえ正直やりたくない仕事なのでシルヴィア・リューネハイムは引退宣言をしないで欲しいと思った。

 

EPから仕事を命じられた直後、胃が痛くなった僕は前副会長のレティシア先輩が残した胃薬を飲んだ。

 

 

10月□日

 

今日は例の会見があった。その際に3人は堂々と交際していると宣言した。途中記者が無礼な質問をして比企谷八幡とシルヴィア・リューネハイムが激怒した時は引退宣言するのかと焦ったが、3人の邪魔をしなければ引退はしないようなので安心した。

 

しかしEPはいつでも一色さんをスケープゴートに出来るようにしとけと警戒していた。命令だから逆らうつもりはないが出来るなら平和な状態が続いてほしい。

 

そして一色さんはこれ以上問題を起こさないで欲しい。冗談抜きで

 

 

 

 

12月×日

 

今日は今年の書類の整理をしていた。新年まで2週間を切ったので早めに終わらせたいと思った。

 

しかし夜になって仕事をしていたら事件が起きた。仕事の合間にネットでニュースを見ていたら、『ガラードワースの『友情剣』、公共の場でレヴォルフの生徒会長を殴り飛ばす?!』って見出しのニュースが映っていた。

 

次の瞬間、胃に猛烈な痛みが発生したので急いで胃薬を飲んで突っ伏した。直後レティシア先輩が来たので空間ウィンドウを渡したが、その後の記憶はなく、気がつけば医務室で寝ていて隣のベッドにはレティシア先輩が寝ていた。

 

僕のすぐ近くには幼馴染のノエルが泣いて抱きついてきた。心配をかけたのは申し訳ないが胃に負担が掛かるので抱きつくのは勘弁して欲しい。

 

 

12月◎日

 

僕は昨日の事件の真相を知るべく、昨日比企谷さんを殴った葉山さん及びその時にいた面々を呼び出した。

 

彼らから事情を聴くと、比企谷さんが葉山さんのチームをカス呼ばわりしたからカッとなって殴ったと言ってきた。他の面々もそう言ったので、彼らを返した後にホットラインを使って比企谷さんに問い合わせた所、

 

『あいつらをカス呼ばわりしたのは事実だが、その前に向こうが人の妹にデマを吐いたり、チーム・赫夜を侮辱したから、葉山が売った喧嘩を買っただけだ』

 

と言ってきた。それが事実なら明らかにこちらに非がある。

 

その後、再度葉山さん達を呼び出して問い詰めた所、『チーム・赫夜が卑怯なのは事実だ!』と十数人が言ってきた。

 

しかし僕の目から見たらチーム・赫夜は卑怯とは思わない。小細工を使ってはいたが、それを強豪チームに通用するまでには相当な努力が必要と理解出来たからだ。

 

その事から完全にこちらに非があると判断した僕は葉山さんの序列を剥奪する罰を与えた。葉山さんと連れは反対したが撤回するつもりはない。

 

 

その夜、再度ホットラインを使って比企谷さんに謝罪をすると言ったら、

 

『じゃあマッ缶100本くれ』

 

と要求してきた。何とも欲の無い人だ。

 

通話を終えた後、比企谷さんや葉山さんなどが通っていた総武中を調べてみたが酷いの一言だった。

 

特に学園祭。実行委員が9割以上サボったり、エンディングセレモニーで実行委員長が逃げ出すなど論外としか思えなかった。この事件は比企谷さんが泥を被ってなんとか成功に終わったようだが、危険性があり過ぎる。

 

だから僕は来年度以降は総武中の生徒の受け入れを拒否するように上層部に申請した。



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番外編 エリオットの日記②

2月☆日

 

今日は王竜星武祭準々決勝の日であった。どの試合も見応えがあって素晴らしかった。……比企谷さんとレナティの試合の結末については前代未聞であったが。

 

またノエルはシルヴィアさん相手に最後まで諦めなかった結果、後一歩という所まで追い詰める良い試合であった。客観的に見てもノエルの戦い方は見事だったと断言出来る。

 

しかし同時に大きな問題も起こった。葉山先輩が比企谷さんに危害を加えようとしたのだ。幸い第三者には見られなかったり、比企谷さんは運営に報告しないと言ってくれたので最悪の事態は免れたと言って良いだろう。

 

そのおかげで胃に穴が開く事は避けれたが胃がキリキリして痛い。そろそろ人工の胃を作成しよう

 

 

 

 

2月♩日

 

王竜星武祭最終日。比企谷さんとシルヴィアさんの戦いは壮絶極まりないものだった。お互いの切り札をぶつけ合い、切り札が無くなったら持っているカード全てをぶつけ合い、最後は頭突きで勝負を決めた。

 

泥臭い戦いでガラードワースの戦いとは相反する戦いであったが、不思議と僕の胸には興奮が生まれていた。それはアーネストさん達も同じようで顔には興奮の色があった。

 

結果比企谷さんがシルヴィアさんを打ち破って優勝した。その時僕は凄いとプラスの感情が浮かんだ。レヴォルフの生徒が優勝して喜ぶのには驚いたが不思議と嫌な感情は無かった。よって王竜星武祭の閉会式も気持ちよく迎えられたのだった。

 

 

 

 

2月♫日

 

王竜星武祭が終わった次の日、僕とレティシア先輩は入院した。理由は胃に穴が開いてさたから。

 

昨日王竜星武祭の閉会式が終わった時のことだった。シリウスドームからガラードワースに帰ろうとした際に、至聖公会議から葉山先輩のグループが比企谷小町さんに襲撃をしたと連絡が入ったのだ。

 

その場にいたアーネストさんとノエルによると、それを聞いた僕とレティシアの口から血を流して倒れたらしい。

 

もう嫌だ。何故葉山先輩のグループは毎度毎度比企谷さんに喧嘩を売って殺そうとするのだろう。仮にもし比企谷さんを殺すなら、それこそ壁を超えた人間が必要なのを理解出来ていないのだれうか?

 

正直に言って今直ぐ会長を辞退したい。

 

 

 

 

 

3月◯日

今日は中等部を卒業する日だった。僕は晴れやかな気分の状態で挨拶をした。高等部に進学したら今以上に頑張らないといけない。僕の星武祭の参加枠は後1つしかないが2年後の獅鷲星武祭で優勝しないといけないのだから。

 

それと葉山先輩のグループと一色いろはの監視についても強化しないといけない。つい最近懲罰室や精神病院から戻ってきたが、また問題を起こす可能性が高いのだから。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

3月◯日

 

大学生活1年目ももう直ぐ終わる時だった。今日僕は突如ノエルに大切な話があると言われて呼び出された。

 

何の話だと聞いてみれば、ノエルはつい最近比企谷さんとシルヴィアさん、オーフェリアさんのバカップル3人に認められて比企谷さんの彼女になったと話した。

 

それを聞いた僕は胃に激痛が走るも、長年胃痛に苦しんで耐性が出来たからか穴が開く事は無かった。

 

それから詳しく聞くと比企谷さんが大学を卒業した後に実家に行って、許しを貰って式を挙げると言っていたので、当日は僕も行く事にした。メスメル家当主は温厚で割と放任主義だが、彼氏のイレギュラー性を考えると何が起こるかわからないから。

 

 

3月♫日

 

僕は比企谷さん及び彼女3人とメスメル家に向かった。目的は当然ノエルの結婚について。

 

そしてメスメル家当主と会ってから1分で荒れ始めた。当主は放任主義な上に比企谷さんオーフェリアさんシルヴィアさんとのコネを考えて反対はしなかったが、奥方様や部下は家の名が汚れるとそれはもう猛反発した。途中でオーフェリアさんが激怒しかけるくらいに。

 

暫くの間、反対されてオーフェリアさんが立ち上がろうとした時だった。ノエルが懐から何かを出したかと思えば、自分の持つメスメル家の権力を全て放棄する旨を記された紙、いわば絶縁状に近い紙だった。

 

当然奥方様やメスメル家の部下達は焦って撤回するようにノエルに促すも、ノエルは『ならば結婚を認めてください!』と諦める様子は無かった。

 

暫く押し問答を繰り返した結果、奥方様は渋々ながらも結婚を認め、それによって大勢は決まった。当主と奥方様が認めた以上部下は従うしかないのだから。

 

そうしてノエルの結婚が決まったのだった。式は比企谷さんがW=Wに就職してからとなった。これから先色々と面倒な事は起こるが、頼むからこれ以上僕の胃を傷つけないで欲しいと強く思った。

 

 

 

 

 

 

 

「おや、随分と懐かしい日記だな」

 

E=Pとして仕事を済ませ帰宅したエリオットは自室の書斎の整理をしていたら学生時代に記していた日記を発見してパラパラと捲る。

 

そしてその日記の最後のページーーーノエルが実家に帰って結婚の許可を貰う事を記したページを見て昔を思い出す。

 

「そうだった……あの時のノエルは凄い鬼気迫っていたなぁ……」

 

当時エリオットはノエルの鬼気迫った顔を見て驚きを露わにしていた。

 

その事を懐かしく思いながら日記を閉じて、その日記の隣にある日記を持ってため息を吐く。

 

「そしてその後には様々な問題があって僕の胃が爆発したんだよなぁ……」

 

エリオットは哀愁を漂わせながら最悪の事件について記された日記を開くのだった。




明日から旅行で14までお休みとなりますがご了承ください


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番外編 エリオットの日記③

4月◯日

 

今日、全世界にノエルが比企谷さんの恋人と1人となり、シルヴィアさんとオーフェリアさんを加えた計4人で結婚する事を発表された。

 

ネットを見れば、勿論否定の言葉も多々あった。しかし……

 

『え?ノエルはあのバカップル3人の中に入れたの?街中で平然とディープキスをする3人に?』

 

『それって凄くね?俺あの3人がイチャイチャするのを直で見たことあるけど、入れる自信はないぞ』

 

『バカップル4人の誕生か?!』

 

こねように意外とノエルを凄いと褒める意見があった。まあその意見には賛成だ。僕も3人が学園祭でガラードワースに来た時にイチャイチャするのを見たが、あそこに入るのは至難どころか無理だと思っていたのだから。

 

加えてノエルは比企谷さんの事になると強気になるので記者会見でも大丈夫だろうと思った僕だった。

 

 

 

 

 

4月▲日

 

今日は例の記者会見が行われた。しかし特に波乱は起こらなかった。一部の記者は悪意のある質問をしてきたが、その記者に対して4人は質問を無視して『持っている力を全て駆使して相応の対応をする』と返して、悉く潰していった。

 

しかしそれも当然だろう。ノエルはヨーロッパ屈指の名家の御令嬢で、比企谷さんは歓楽街のマフィアとのコネ、オーフェリアさんは世界最強の力、シルヴィアさんは世界の歌姫としての権力など圧倒的な力を持っているのだから。

 

そして最後に方針を発表した。ノエルは結婚しても大学は辞めず、卒業したらガラードワースで働くか専業主婦になると返した。僕としては今後ガラードワースの発展の為にガラードワースで働いて欲しいと思った。

 

 

 

 

4月◻︎日

 

僕は今入院している。原因は数日前に起こった事件で胃が爆発したからだ。この数日、検査や手術の為に日記を付けれなかったが、今日になって漸くある程度回復したのでベッドの上で記す。

 

数日前だ。僕はE=Pの幹部らにノエルの結婚について話をしていた時にメールが来たのだ。見れば至聖公会議からで葉山グループのメンバーが『比企谷さんに洗脳されたノエルを助ける為』と比企谷さんに襲撃をしたのだ。しかも情報によれば本気で殺す気だったらしい。

 

それに対して比企谷さんは全員返り討ちにしたのだが、その時に偶然警備隊が最初から見ていたらしく葉山グループの面々はその場で逮捕された。

 

それを聞いた時は僕だけでなく一部のE=Pの幹部らも胃に大ダメージが入ったらしく、僕と一緒に入院する事が決まったようだ。

 

……そんな事があって僕は入院して数日間日記を付けれなかった。ネットを見ればガラードワースの評価は最悪で、今や悪名高いレヴォルフよりも低評価だ。

 

正直な話、僕の在学中はこの悪評を消す事は間違い無く無理だろう。これは僕だけでなくE=Pの幹部らも同意見だ。上層部からは少しでも評判を上げる為、僕に獅鷲星武祭で優勝しろと言ってきた。

 

僕は既に星武祭は2回出たので、評判を上げれるとしたら獅鷲星武祭優勝しかない。おそらくそれが僕の生徒会長としての最後の責務となるだろう。それも失敗は許されない責務だ。

 

とりあえず退院したら修行の時間を増やさないとな……

 

 

 

5月◯日

 

人口の胃を用意して退院してから2週間。僕は例の比企谷さん達4人の結婚式に参加した。と言っても比企谷さん達の要望で客については4人の友人や親族が殆どなので、総勢200人程度と主役4人の知名度から考えると小規模な結婚式だった。

 

式場は昔、オーフェリアさんが住んでいたリーゼルタニアの孤児院を兼ねた教会で行われたが客の殆どは有名人であった。

 

僕の前の席にはヘルガ・リンドヴァル隊長や比企谷さんの母親である『狼王』比企谷涼子が、後ろの席には星武祭を荒らしまくったエルネスタ・キューネや材木座義輝にカミラ・パレートに擬形体3人が座るなど豪華なメンバーだった。

 

そんな風に世界に名を馳せている有名人が集まる中、遂に件の4人が現れる。4人はそれぞれ全く別の雰囲気を醸し出しているが、全員何らかの形でこの場にいる客を魅了しているという共通点が存在していた。

 

そして神父の前に立った4人は誓いの言葉を口にしてから指輪交換をする。そして結婚式でお約束の誓いのキスを交わした。4人で同時に重ねるそれは、ガラードワースでなら咎められる行為かもしれないが、何処か神秘的な雰囲気があって思わず魅了してしまった。

 

そして唇を重ねた4人は本当に幸せそうな表情を浮かべていた。願うなら4人の人生に幸あれと心から思った。

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「本当に懐かしい……」

 

エリオットは結婚式について記された部分を読んで感慨深くなる。実際エリオットの脳裏にはあの光景がこびり付いている。

 

「その後は本当に大変だったなぁ……」

 

エリオットはため息を吐く。当時のエリオットの労働環境は最悪だった。結婚式が終わって直ぐにガラードワースの評価を少しでも上げる為に動いたり、生徒会長として本来の仕事に取り組んだり、獅鷲星武祭に備えて訓練をするなど例年以上にハードなスケジュールだった。

 

 

その後獅鷲星武祭を優勝して多少評価を上げ、3回目の星武祭の出場を果たしたエリオットの生徒会長としての仕事は終わった。その時のエリオットの心は歓喜に満ちていた。

 

そして最近になって漸くガラードワースの評価は葉山達が事件を起こす前の評価と同じくらいになったのだ。

 

「そう言えば彼らは最近出所したようだが……嫌な予感しかしないな」

 

それについてはエリオットだけでなく、八幡や八幡の妻3人、警備隊の綾斗や小町も同じ事を考えていた。

 

「万が一再度襲撃をしたら、今度こそガラードワースの評価は地に堕ちる……監視の申請をしておくか」

 

エリオットはそう思いながら日記を閉じて、空間ウィンドウが表示して至聖公会議に連絡を取り始めるのだった。



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番外編 葉山の日記

 

 

10.月◎日

 

明日から獅鷲星武祭が始まる。俺と優美子、戸部に大岡に大和の5人が揃ったチームは客観的に見ても良いチームだと思う。

 

優勝するのは厳しいかもしれないがベスト4ぐらいは行けると思っている。俺達は才能に恵まれて、それでありながら大会に備えて一生懸命努力したのだから。

 

クラスの仲間達も応援してくれた。皆の応援があるなら俺達は頑張れる。可能なら上位4チームはガラードワースの生徒で埋まるように頑張りたい

 

 

 

 

 

10月◯日

 

あり得ない事が起きた。ベスト4は確実と思えた俺達は1回戦で負けた。

 

対戦相手はクインヴェールのチーム・赫夜。明らかにお遊びで参加したと思えるチームだった。

 

しかし実況と解説が比企谷が絡んでいるチームと聞かされて、卑怯な手を使ってくると警戒した。

 

そして試合が始まってから3分もせずに俺達は敗北した。この大会に備えて一生懸命努力した俺達が1回戦で負ける筈がない。

 

これは何かの間違い、もしくはチーム・赫夜がイカサマをしたと考える。比企谷の絡んだチームが正々堂々と戦う筈がないのだから。

 

試合には負けたが、絶対に何か裏がある筈だからチーム・赫夜の試合を何度も見直すことをした。星武祭でズルがあると問題だから。

 

 

 

 

 

 

10月◇日

 

チーム・ランスロットがチーム・赫夜に負けた。あり得ない、誇りある銀翼騎士団のチーム・ランスロットがチーム・赫夜みたいな弱小チームに負ける筈はない。

 

これには皆同意見だった。絶対にズルをしたに決まっている。そう思って抗議したが、エリオット君がズルをしているなら運営が文句を言う筈だと諌めた。

 

しかし比企谷なら運営すらも欺けると俺は考えている。絶対に許されない事だ。王竜星武祭で比企谷を倒してアイツが間違っていることを証明するつもりだ。

 

 

 

 

10月◆日

 

ネットニュースを見ていたら比企谷がシルヴィア・リューネハイムとオーフェリア・ランドルーフェンの2人とキスをしている画像が流れていた。

 

それを見た俺は怒りに囚われた。お前がいる場所は奉仕部であってそこじゃないだろう。その上シルヴィア・リューネハイムを騙して二股をかけるなんて万死に値する行為だ。どうやって騙したのか知らないが、いつか絶対に悪事を裁くつもりだ。

 

そして昼にはチーム・赫夜がチーム・エンフィールドとぶつかって敗北した。それを見た俺は当然と、いい気味と思った。チーム・赫夜が勝ち上がれたのはマグレである事とズルをしていたからだ。

 

最後はクロエ・フロックハートが醜く足掻いていたが、どうせお遊びで参加したのに、負けが決まっているのに、と理解が出来なかった。

 

 

 

 

 

10月□日

 

今日は例の会見があった。その際に3人は互いに愛し合っているといったが、それは間違っている。どんな事があろうと1人の女性を愛するべきだ。騙した挙句二股をかける比企谷は絶対に間違っている。

 

これには俺の仲間も同意見である。今から修行を積んで比企谷を王竜星武祭で倒せるようにしておきたい。本来なら俺の方が上だが、比企谷がどんなズルをするかわからないので警戒が必要だ。

 

 

 

 

 

12月×日

 

今日、クリスマスパーティーの準備をする為にショッピングモールに行ったら比企谷の妹にあったので、俺は比企谷がズルをしないように注意をしたのに適当にあしらわれた。俺は善意で注意したのにあしらうとは兄妹揃って問題のようだ。

 

その後、比企谷が現れて俺のチームをカス呼ばわりしたので殴り飛ばしたが俺は間違っていないだろう。比企谷の言葉は秩序を乱す言葉なのでガラードワースの生徒の俺が比企谷を殴るのは何も間違っていないと断言出来る。

 

 

 

 

12月◎日

 

エリオット会長に呼ばれて昨日ショッピングモールであった事について説明をした。嘘は吐いていない。悪いのは比企谷なのだから問題ない筈だ。

 

ところが夕方に再度エリオット会長に呼ばれて先に喧嘩を売ったのは俺達と言われたが、俺は比企谷やチーム・赫夜がズルをしないように注意しただけだ。事実を言っただけで喧嘩は売っていない。

 

しかしエリオット会長は間違っているのは俺と言って俺の序列を剥奪した。これには俺だけではなく、仲間達も反対したが会長は取り下げてくれなかった。

 

俺が正しいのに罰を与えられる。そうなると答えは1つ。エリオット会長もシルヴィア・リューネハイム同様比企谷に騙されているのだろう。

 

そう判断した俺達は修行の時間を増やした。王竜星武祭で比企谷を倒して、エリオット会長やシルヴィア・リューネハイムを助ける為に。

 

待っていろ比企谷。お前の間違いを正してやる。



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番外編 葉山の日記②

1月1日

 

 

今日は新年なのでグループの皆でショッピングモールに遊びに行った。しかし新年早々比企谷と会って不愉快な気分になった。あいつが会長を騙した所為で俺の序列は奪われたのだから当然だろう。

 

だから俺は会長やシルヴィアさんを騙すなと言ったら、あいつはあろう事か殴った俺が悪いと言ってきた。殴ったのは事実だが、それは比企谷が俺の友人達をカス呼ばわりしたからで当然のことだ。自分が悪いのにそれを棚上げして俺を悪く言うなんて人間として間違っているだろう。

 

その後オーフェリア・ランドルーフェンを唆してシルヴィアさんを騙している事を注意したら、奴は何か卑怯な力を使って俺に殺意を向けてきた。それが何かは分からなかったが比企谷の事だ、どうせ何か強力な道具を利用したのだろう。

 

弱いからって道具に頼り逆恨みをするなんて本当に腐っているとしか思えない。いつか奴には天罰が下るだろう。

 

 

 

 

1月×日

 

いよいよ新学期が始まった。しかし俺の序列は剥奪されたまま。何度も会長に直訴をしたにもかかわらず序列を返して貰えない。これも比企谷の所為だろう。あいつを俺を恐れるが故に会長を騙したり脅したりして、裏で序列を剥奪したのだろう。つくづく最低な奴だ。

 

だから俺は同士ーーー比企谷の行動を間違っていると思う生徒を集めて反対運動を始めた。普通学生運動は問題が起こりやすいから余り良い顔はされないが、これもガラードワースを比企谷の魔の手から救う為だから問題ないだろう。

 

正義は俺達にある。

 

 

 

2月◆日

 

アレから俺のグループは人数を増やして今や500人以上になった。グループのメンバー全員が一致団結してガラードワースを比企谷の魔の手から救おうとしているが、会長は俺の序列を剥奪したままだ。おそらくかなり深く洗脳されているのだろう。

 

もう少し自分から動くべきと判断した俺は公式序列戦に参加して剥奪される前より上の24位となった。理不尽な剥奪を受けた後にして幸先のいいスタートだ。

 

これからもっと努力して銀翼騎士団のメンバーとなり序列1位の座を手にするつもりだ。ガラードワースの生徒会長は序列1位がなるのだし、俺がなってガラードワースを本来の姿に戻していきたいと思った。

 

 

 

 

3月14日

 

大変な事件がガラードワースに流れた。現生徒会副会長のノエルちゃんと前副会長のレティシアさんが比企谷からホワイトデーのお返しを貰ったとの事だった。お返しを貰うという事はバレンタインに2人は比企谷にチョコを渡したのだろう。そんなこと普通はあり得ない。

 

チーム・ランスロットとチーム・トリスタンを卑怯な手で倒したチーム・赫夜の師匠の比企谷が2人からチョコを貰えるなんて……比企谷が2人を脅したか騙したに決まっている。

 

だからグループのメンバーの中で2人のクラスメイトが、注意を呼び掛けたらレティシアさんもノエルちゃんも比企谷は卑怯な人じゃないと怒ったようだ。

 

それを聞いた俺達は驚いた。まさか比企谷がここまで洗脳しているとは完全に想定外だった。急がないといけない。そうでないとガラードワースは比企谷の物になってしまう。

 

だから俺は更にグループはメンバーを増やす事と自身の実力を上げる事に費やす時間を増やすことにした。それに対してグループの皆は俺に協力すると賛成してくれた。

 

やはり持つべきものは友人だ。皆で協力して本当の正義を取り戻すと改めて決心した俺達だった。



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番外編 葉山の日記③

 

 

4月♡日

 

今日から学園祭だ。いつもはグループの皆と鍛錬しているが偶には休憩も良いと判断して、皆で遊びに行くことにした。

 

先ずは星導館に向かったが、その際にいろはを見つけたので気付かれる前にグループのメンバーの中心に隠れた。いろはは例の比企谷が洗脳したシルヴィアさんと『孤毒の魔女』に責められる動画の所為でガラードワースでは孤立している。しかしアレは比企谷がいろはを貶める為にやった事だろう。

 

いろはの状況に対しては同情するが俺の元に来られるとグループの場に乱れが出る可能性があるので距離を置かせて貰おう。王竜星武祭で比企谷を倒したら元のガラードワースになるのでそれまで待っていて欲しい。

 

その後俺達は星導館のウォーターサバイバルというイベントを見学したが、その際に比企谷に洗脳されたシルヴィアさんや『孤毒の魔女』、兄妹だけあって兄に似て性格に問題のある比企谷小町、比企谷の弟子となり卑怯な手を使うチーム・赫夜の若宮美奈兎にソフィア・フェアクロフが揃っていて嫌な気分になった。

 

優勝したのはシルヴィアさんだったが、表彰式ではサプライズとして比企谷が表彰する事になり、壇上で比企谷はシルヴィアさんの唇を奪った。

 

それを見た俺は怒りが生まれるのを自覚した。洗脳したのをいい事に、シルヴィアさんの唇を奪うなんて最低の行為だ。人として許される行為じゃない。

 

なんとしてもガラードワース、シルヴィアさん達を救う為にも頑張らないと……

 

 

4月◎日

 

今日は学園祭最終日なので中央区にあるホテルにある後夜祭に参加した。俺は他所の学園の生徒とダンスをして交流をする。やはり皆で仲良くする事は素晴らしい事だ。

 

そう思いながらダンスをしていると比企谷がシルヴィアさんと『孤毒の魔女』を連れてやって来たのだ。それを見た俺は不愉快な気分になる。ここは他校の生徒と交流する場であってお前のような卑怯者が来るべき場所ではないという事を理解出来ていないのか?

 

暫く交流を続けていると比企谷がシルヴィアさんとダンスを始めた事によってその場にいた人間は2人のダンスに意識を向けて、ダンスが終わってから2人が唇を重ねるのを見て興奮し始める。

 

その後比企谷は『孤毒の魔女』相手にも同じ事をやって会場は盛り上がるが、俺からしたら奴は間違っている。二股、それも洗脳して手に入れた女子2人相手に二股をするなんて最低の行為だ。

 

その後比企谷は沢山の女子と踊ったが、その中には我がガラードワースの誇る才女のレティシアさんとノエルちゃんもいた。比企谷がそこまで沢山の女子相手に洗脳をしているとは予想外だった。

 

特に俺がダンス相手に誘った時に断ったシルヴィアさんと、比企谷と踊った際に顔を赤らめながらも楽しそうに踊っていたノエルちゃんは相当強い洗脳を受けたのだろう。早めに助けないと後遺症が出る可能性もある。

 

俺の後夜祭は一層やる気を出して幕を閉じたのだった。

 

 

 

4月★日

 

今日の公式序列戦で俺は序列16位になった。その時に皆が俺を祝福してくれた。その時に俺は今後の目標を話したら皆、高らかに俺の目標に賛成してくれた。

 

やはり俺はガラードワースを革命を起こせる麒麟児で、持つべき物は友情と正義だろう。

 

俺はこれからも鍛錬を積んで正義を成し遂げていきたいと思う。

 

 

 

 

 

1月▽日

 

年が明けてから2週間以上経過して、今日はいよいよ王竜星武祭のトーナメント発表の日であった。発表時間になり見てみると1回戦から比企谷が相手だった。

 

これは運が良いだろう。もしも違うブロックだったら比企谷と当たらず、比企谷によって洗脳された人やガラードワースを救う事が出来なかった可能性もあっただろうから。しかし1回戦に当たるなら問題ないだろう。

 

トーナメント表を見た俺の友人達は揃って俺を応援してくれて、新しいサーベル型煌式武装を渡してくれた。それを見た俺は嬉しく思った。仲間に渡された絆の証、これで俺は誰にも負けないと確信が持てた。

 

待っていろ比企谷、シルヴィアさんを始めとしたお前に洗脳された人間をお前を倒す事で救ってやる。

 

お前の悪事もここまでだ。正義は必ず勝つことを教えてやる

 

 

 

 

 

2月♡日

 

あり得ない、あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないぃぃっ!

 

優勝候補に含まれる実力を持っていた俺が1回戦で、それも卑怯なことしか取り柄のない比企谷に負けた!それも5分間ハンデを与えられた上でだ!絶対にあり得ない!

 

しかも比企谷が卑怯なことをしたのが悪いのに俺のグループから離れる奴らが現れた。比企谷の奴、俺のグループの人間にまで洗脳をするなんて、どこまで最低な奴なんだ!

 

これは放って置けないしどんな手を使ってでも比企谷を倒さないといけない!星武祭期間中に試合以外で選手がぶつかるのは御法度だが、比企谷の危険性をしっかりと説明すれば運営も納得してくれて、俺はそこまで咎められないだろう。

 

問題はない。俺は何も悪くないのだから。そう、悪いのはズルをしたり他人を洗脳している比企谷だ。

 

しかし比企谷の卑怯さは桁違いなのでしっかりと作戦を立てるべきだろう。もしも俺が洗脳をされたら正義は無くなり、ガラードワースは比企谷に乗っ取られるだろう。正義の為にも焦ってはいけない。

 

なんとしても……俺が比企谷からガラードワースを守らないと……!




葉山の日記は4話構成です。次はいつになるかわかりませんが次が最後です


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番外編 シルヴィアの日記

 

 

 

10月◇日

 

美奈兎ちゃん達チーム・赫夜がアーネスト率いるチーム・ランスロットを打ち破った。それを見た私は凄く興奮した。長い獅鷲星武祭の歴史でもこれほど凄い大金星は無かっただろう。私も凄く嬉しくなった。

 

しかしその嬉しさは夜に吹き飛んだ。八幡君から処刑刀に狙われたとメールが来たからだ。急いで現場の治療院に向かうと近くの自然公園で八幡君が処刑刀と戦っていたので、途中で合流したオーフェリアと一緒に八幡君に加勢した。

 

その後処刑刀の正体が星武祭運営委員長である事には驚かされたが、それ以上に八幡君の左腕がない事を知って悲しくなった。生きていたので最悪の事態は免れたが悲しみが無くなった訳ではない。

 

私とオーフェリアは泣きながらも八幡君を治療院に連れて行った。もう八幡君が傷つくのを見たくないと思いながら。

 

面会時間が終わり名残惜しくも自宅に帰宅するとペトラさんからメールが来た。何事かと思えば私と八幡君とオーフェリアがキスをしている写真がネットに流れてるとのことだった。

 

どうして世界は私達の幸せを邪魔しようとするのかな?

 

 

 

10月◆日

 

今日は決勝戦だ。八幡君とオーフェリアの3人で見たが惜しいの一言だった。クロエがボロボロになりながらもクローディアの校章を破壊しようとしたが、肉体に限界が来て意識を失って倒れてしまいチーム・エンフィールドが優勝した。

 

チーム・赫夜を近くで見てきた私としては凄く悔しい気持ちになった。そんな気分のままシリウスドームに向かうとマスコミが私と八幡君とオーフェリアの3人の関係について聞いてきた。

 

会見で話すと言って質問を無視しようか考えたが、ネットで流れている『比企谷八幡が2人を騙している』など明らかなデマを払拭する為に、私達は3人で愛し合ってると発表した。

 

これについては絶対に揺らがないだろう。私は強い意志を込めてステージに向かった。

 

 

 

10月□日

 

今日は私達3人の関係に関する会見が行われた。案の定、二股について否定的な意見が出てきたが、予想の範囲内だったので世間の意見は関係ないと言った。

 

それだけならまだしも、途中で八幡君がオーフェリアを利用して私を虜にしているのか?、というふざけた質問をされて思わず怒ってしまった。私は自分の気持ちに従って2人を愛しているのに、勝手な事を言わないで欲しかった。

 

何より八幡君がオーフェリアを利用している訳がない。八幡君は昔からオーフェリアの事を1人の女の子として接しているのだ。オーフェリアを物扱いするのも許せないが、八幡君を最低の人間扱いしたのは万死に値する発言だ。ペトラさんが止めてなかったら殴っていたかもしれない。

 

そんな事がありながらも私達は3人で愛し合う事を改めて発言した。これについては何があっても絶対に揺らぐことはないと確信を抱きながら。

 

 

11月◇日

 

今日は3人でデートをした。もう関係がバレた以上変装しないで堂々とデートをしている。変装をしないからか妙にスッキリした気分でデートが出来た。

 

昼食を3人で食べさせ合いっこしたり、公園で八幡君の膝の上に乗ってブランコを漕いだり、ショッピングモールでオーフェリアと一緒に八幡君の服をコーディネートしたり、八幡君に私達の下着を選んで貰ったり……ただのデートなのに凄い幸せだった。

 

デートが終わった夜はオーフェリアと一緒に2人で八幡君を幸せにする為に一生懸命奉仕した。すると八幡君も私達を激しく求めてきたので受け入れた。

 

情事を済ませた後はただただ幸せだった。もう私は2人が居ないとダメかもしれない。八幡君とオーフェリアが居ないと死んじゃう病に罹ってしまった。

 

 

12月×日

 

今日の夜、私はオーフェリアて2人でショッピングモールに行った。八幡君は星露の作った私塾のアシスタントをした後にソフィア先輩と買い物に行ったので居ない。

 

ラッキースケベをしないか心配しながら買い物をしていると人気の少ない場所でソフィア先輩が八幡君にプリキュアの格好をすると迫っていた。

 

それを聞いた私は怒りに呑まれそうになりながらも事情を聞いたら、ソフィア先輩がポンコツを発揮していた事がわかった。実に紛らわしい……

 

その後4人で買い物を再開したら、星導館の小町ちゃんとリースフェルトさんが、葉山隼人率いるガラードワースの面々に絡まれていた。

 

事情を聞いたら葉山隼人が小町ちゃんに八幡君がズルをしないように注意してやってくれと警告をしたようだ。それを聞いた私は再度怒りに呑まれそうになった。

 

それだけならまだしも彼は美奈兎ちゃん達を侮辱したり、八幡君が喧嘩を買ったら八幡君を殴り飛ばしたのだ。

 

オーフェリアと小町ちゃんは純星煌式武装を抜こうとしてリースフェルトさんに止められた。リースフェルトさんの行動は間違ってはいないが、正直に言うと止めないで欲しい気持ちもあった。先に喧嘩を売ったのは葉山隼人で八幡君が言い返したら殴る……明らかに向こうに非があるだろう。

 

その後八幡君は面倒事を避ける為にその場を後にしたが、私の気は晴れなかった。その時私はもしも王竜星武祭で彼と当たったら完膚なきまで叩き潰すと誓ったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 



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番外編 ノエルの日記

 

 

10月◀︎日

 

獅鷲星武祭が終わってから1週間近く経過した。私はフェアクロフ先輩らチーム・ランスロットが引退したので新しく生徒会副会長に就任して、ある仕事の為に1人でアスタリスク中央区に向かった。1人は緊張したがお兄ちゃんは忙しいので仕方ない。

 

その帰りに凄いことが起こった。街を歩いていたら界龍の序列1位『万有天羅』范星露さんに話しかけられた。星露さんは壁を越えた人に勝ちたいなら自分の作った私塾に入れと言ってきた。

 

壁を越えた人とはフェアクロフ先輩や星導館の天霧さん、クインヴェールのシルヴィアさんなど桁違いの人だと理解した私は星露さんの作った私塾『魎山泊』に入ることを決めたのだった。

 

新しく会長になって苦労しているお兄ちゃんを助ける為にも。

 

 

10月◎日

 

今日は星露さんが言う魎山泊に初めて行く日だ。場所は再開発エリアと聞いて少し怖かったが、ある場所に踏み入れた途端不思議な空間にいた。万有天羅は何でもありと聞いたことがあるが本当のようだ。

 

魎山泊では星露さんとの実戦をやりながら自分の長所を伸ばす事をやるのを知った。両方共辛かったが、2、3時間やっただけで強くなった自覚があった。

 

 

 

11月◇日

 

いつものように魎山泊に行くと、星露さんか今日からはアシスタントも一緒だと言ってきた。誰かと思って待っていたら、私が来てから5分程後にレヴォルフの序列2位『影の魔術師』比企谷八幡さんがやってきた。

 

比企谷さんを見た私は驚きと嫌な感情が生まれてきた。私はこれまで彼と話した事はないが、先の獅鷲星武祭で私は彼が指導するチーム・赫夜に負けたし、お兄ちゃんの事を馬鹿にした事もあった事もあって苦手意識もあった。

 

この人とは上手くやっていける自信はない。そう思いながらも鍛錬を開始したが、そんな考えは直ぐに吹き飛んだ。

 

比企谷さんは私との実戦の中で私に何が足りないのか、能力者としての立ち回り方など様々な事を丁寧に優しく教えてくれて、鍛錬が終わる頃には苦手意識が殆ど無くなっていた。

 

鍛錬が終わってからの帰り道、比企谷さんと色々話したがその際にお兄ちゃんを馬鹿にした事も謝ってきたし、この人と上手くやっていけると思った。

 

しかし何故比企谷さんはレヴォルフの人間なのだろう?

 

 

11月❇︎日

 

今日街を歩いていたら偶然八幡さんに会った。八幡さんも暇だから街を歩いていたようなのでトレーニングに付き合ってくれと頼んだら了承して貰い、八幡さんと一緒に中央区にあるトレーニングジムに向かった。

 

今日こそ八幡さんに鎧を使わせるように頑張ったが届かなかった。やはり能力者としての八幡さんは強くて私の一枚も二枚も上手だ。

 

でも私も確実に強くなっているので頑張っていきたいと改めて思った。

 

その事を八幡さんに告げると、八幡さんは優しく笑って私の頭を撫でてきた。その後私が焦ると八幡さんは謝ってきたが、別に嫌ではなかった。お兄ちゃんの抱きしめるのとは別の意味で凄く気持ちが良かったのだから。

 

気分が向いたらまた撫でてくれと頼んだら、八幡さんは若干照れながらそっぽを向いて、私はそれが可愛いと思った。

 

 

 

 

 

12月×日。

 

夜、生徒会室に入るとお兄ちゃんとレティシア先輩が倒れていた。私は急いで保健委員を呼んで医務室に運んで貰った。

 

それから数時間して、お兄ちゃんが目が覚めたので何があったと聞いてみたら、銀翼騎士団候補生の葉山先輩がショッピングモールで八幡さんを殴り飛ばした事がニュースになったらしい。実際にネットを見てみたら八幡さんが殴られている動画があった。

 

お兄ちゃんは翌日に事情聴取をするようだが、八幡さんは悪い事をしていないと思う。八幡さんは他校の生徒、それもガラードワースと仲の悪いレヴォルフの生徒だけど凄く優しいのは知っているから。

 

 

 

 

12月◎日

 

今日、お兄ちゃんが昨日の事件の真相を知るべく、八幡さんを殴った葉山先輩とその時にいた面々を呼び出した。

 

夕方になる頃にニュース速報が出たので見ると葉山先輩の序列が剥奪されたニュースが流れていた。

 

生徒会室に入ってお兄ちゃんに事情を聞くと、昨日葉山先輩が八幡さんの妹にデマを吐いたりチーム・赫夜を侮辱したから、八幡さんが喧嘩を買ったら葉山先輩が殴ったらしい。

 

話が事実なら八幡さんの葉山さんの方が悪いからお兄ちゃんの判断は間違っていないと思った。ただ帰り道、高等部の校舎にて八幡さんの悪口が沢山聞こえたからこのまま平和に終わる事はないとも思った。

 

 

 

 

 

 

1月☆日

 

新年初の魎山泊。八幡さんと模擬戦をしたら遂に八幡さんに影狼修羅鎧を使わせる事が出来た。しかしそこからは一方的となって何も出来なかった。これが壁を越えた人間の強さかと私は戦慄してしまった。王竜星武祭まで後一年少し。それまでに影狼修羅鎧を使った八幡さんから一本取りたいと思った。

 

トレーニングの後に私は八幡さんに警告をした。警告の内容は最近ガラードワースで八幡さんの否定運動が起こっている事について。ガラードワースにいるし闇討ちはしないと思うが念には念を入れて欲しかったので警告をした。

 

 

 

2月14日

 

今日はバレンタインデー。いつもはお兄ちゃんとクラスの皆にチョコをあげるが、今年はそれに加えて八幡さんにも渡した。

 

その時にレティシア先輩も一緒だったが、長いガラードワースの歴史の中でも、レヴォルフの生徒に渡したのは私とレティシア先輩だけだと思う。

 

ちなみに八幡さんのバッグに大量のチョコが入っているのが見えた。八幡さんが女性に慕われるのは予想出来ていたが何となく面白くなかった。

 

 

 

3月14日

 

今日はホワイトデー。私とレティシア先輩は八幡さんに呼び出されてお返しのクッキーを貰った。1つ食べてみたら凄く美味しかった。戦闘力に加えて家庭力も高い八幡さんが羨ましく思った。

 

しかしガラードワースに戻ると問題が生じた。どうやら八幡さんからクッキーを貰っているのを見られたようで沢山の人が私に話しかけてくた。

 

魎山泊の事を知られたくない私は、以前ナンパされていた所を助けて貰ってバレンタインにチョコを渡したから今日お返しを貰ったと嘘を吐いた。

 

それを話すと皆は八幡さんの事を屑呼ばわりして関わらない方が良いとか助けたのも私を利用する為だ、なんて酷い事を沢山言ってきた。

 

私はそれを聞いて凄く嫌な気分となった。チーム・ランスロットを倒したチーム・赫夜と繋がりを持つ八幡さんの事を悪く思うのは仕方ないかもしれないが、屑呼ばわりするのは絶対に間違っていると断言出来る。

 

私は嫌な気分になったので寮に帰ってから八幡さんのクッキーを食べてストレスを発散した。

 

 

 

 

4月♡日

 

今日から学園祭が始まる。私達ガラードワースは基本的に毎日仕事で一杯だが、私は界龍のイベントに出たかったのでお兄ちゃんに頼んだ結果初日の3時間だけ自由時間を作ってくれた。

 

初日の午後に界龍に行くと恋人2人を連れて歩く八幡さんと鉢合わせした。話すと八幡さんも体術を鍛えるために例のイベントに参加するようだった。

 

エントリーを済ませて控え室に向かうと、クインヴェールの序列35位のヴァイオレット・ワインバーグさんと鉢合わせした。八幡さんによると彼女も魎山泊で八幡さんの指導を受けているようで、控え室にて私と八幡さんは、セシリー・ウォンさんに惜敗したワインバーグさんの愚痴に付き合った。

 

暫くワインバーグさんの愚痴に付き合っていると八幡さんと虎峰さんの試合が始まった。八幡さんは能力抜きで戦っていたので終始虎峰さんに押されていたが不屈の闘志で耐え抜いて、それどころか虎峰さんの体術を学び利用して引き分けに持ち込んだ。私も強くなったがまだ足りない。八幡さんのように壁を越えた人も努力しているのだから、もっと鍛錬の時間を増やす事を決めたのだった。

 

そして私の試合となった。序盤は私が押していたがセシリーさんが雷の虎を出すと私の呼び出した茨を次々に破壊して巻き返してきた。

 

このままだと負けると判断した私は八幡さんの影狼修羅鎧をモデルとした聖狼修羅鎧を纏って反撃に出た。それによってセシリーさんの雷は無効化したがセシリーさんに攻撃を当てる事が出来ずに引き分けに終わった。

 

試合の後に八幡さんが技の名前は口に出さないようにしろと注意を受けたので、私は了承してから八幡さんと別れてガラードワースに戻った。すると八幡さんの予想通りガラードワースの人達は色々聞いてきた。

 

その際に八幡さんの事を散々悪く言ってきたので私は我慢出来ずに怒鳴ってしまった。淑女としては失格かもしれないが構わないと思った。八幡さんは凄く優しい人なのを知っているので、八幡さんの事を何も知らないのに悪く言う人を許せなかった。

 

もしもまた理由もなく八幡さんの事を侮辱するのを聞いたら生徒会で取り締まろうと本気で考えた。お兄ちゃんもその件によって胃を痛めているので了承してくれるだろうから。



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番外編 材木座の日記

 

10月◇日

 

今日は獅鷲星武祭準決勝があった。その時にクインヴェールのチーム・赫夜が我の作り上げた『ダークリパルサー』を駆使して絶対王者のチーム・ランスロットを撃破した。

 

それを見た我は驚きと共にとてつもない喜びを感じた。まさか自分の作った煌式武装が獅鷲星武祭二連覇を達成して三連覇を目指していた絶対王者を倒す鍵となったのだ。これほど嬉しい事はない。

 

だから我は思わずアルディ殿にこの事を話したが、それを上司のカミラ殿に聞かれてしまった。その時のカミラ殿の目はガチで冷たく、我思わず失禁してしまいそうになってしまった。

 

その後、リムシィ殿の新型煌式武装の的にさせられて気がつけば医務室で寝ていたのだった。

 

 

 

 

 

11月×日

 

今日、我が宿敵のエルネスタ殿が長期の仕事から帰ってきた。その際に新型擬形体であるレナティ殿を連れて、我とカミラ殿とアルディ殿とリムシィ殿レナティ殿に紹介してきた。

 

その後にエルネスタ殿はレナティ殿に我の事をレナティ殿の祖父と紹介した。何故カミラ殿とエルネスタ殿が父と母で、2人より歳下の我が祖父なのだ?数字の大小も忘れたのか?

 

そんな事をエルネスタ殿に言ったら、エルネスタ殿が引き攣った笑顔を浮かべながら我の顔面に飛び膝蹴りを放ってきたので、我はエルネスタ殿の首にラリアットをぶちかました。

 

その後我とエルネスタ殿はカミラ殿に止められるまで取っ組み合いを始めた。1年近く離れていたが、やはりエルネスタ殿は我の敵である。

 

 

 

 

 

12月×日

 

嫌な日だ。我は純粋にそう思った。

 

今日は『獅子派』と『彫刻派』の合同クリスマスパーティーの準備をする為にショッピングモールに行った。本来なら下っ端がやるべき仕事だと思うが、イベントのコンセプトが『幹部以上の人間が部下を労う為のパーティー』なので仕方ない。

 

その点については問題ない。イベントのコンセプトの内容がアレである以上、『獅子派』の幹部である我も準備に参加するのは面倒だが不満はない。実際去年も準備をしたし。

 

問題は一緒に準備する相手だ。このイベントの準幅をする際に基本的に2人1組でそれぞれ準備をするのだ。

 

尚、パートナーと仕事の内容はクジで決めるのであって、去年の我は『獅子派』の実践クラスの学生のカーティス殿とパーティーで食べるケーキを用意したのだが、今年はあろう事かエルネスタ殿と組むことになった。

 

この時ほど自分の運の悪さを恨んだ事はない。実際にエルネスタ殿もあからさまにため息を吐いていたし。

 

しかしショッピングモールに着いてからはそうも言ってられなくなった。我とエルネスタ殿の担当はパーティー会場の飾り付けに使う装飾の準備だが、パーティーに余り縁のない我達はどれを選べば良いかわからなかった。初めは別々に行動していたが、我はどれが良いチョイスかわからなかった。

 

その後買うべき装飾を決められずにエルネスタ殿と合流する。向こうも手に何も持っていなかったので事情を聴くと、半ば逆ギレしながらどれが良いチョイスかわからなかったと説明してきた。

 

どうやら我と似たような状況だったのだろう。我も同じように事情を話した結果、我とエルネスタ殿は仕方なく、本当に仕方なく一緒に行動して、各々の意見を言い合って、少しずつ装飾を買っていった。

 

今回の件については我もエルネスタ殿もセンスが無くて単独行動をしたら決まらないと判断したから一緒に行動しただけで、決してエルネスタ殿と友達だから一緒に行動したのではない。

 

その後、梃子摺りながらも装飾を買っているとエルネスタ殿が肩を叩いてきたので何事かと思えば顔を上げる。

 

すると視線の先には少し離れた場所にて我が相棒である八幡の妹の小町殿と我が作った煌式遠隔誘導武装を使うユリス殿と総武中の王であった葉山隼人と取り巻きがいて揉めていた。

 

エルネスタ殿を見ると何か面白そうと言って彼女らのやり取りを見つめる。エルネスタ殿と意見が合うのは癪だが意見には同感なので我も動画の準備をする。

 

同時に八幡が恋人2人とチーム・赫夜のソフィア・フェアクロフを連れてやって来た。理由はないが文化祭の一件もあるので面倒な予感がしてきた。

 

そう思っていると葉山隼人が八幡の胸倉を掴んだかと思えば、八幡を殴り飛ばしていた。それを見た我の内には怒りが湧き上がったので、録画した動画を即座にyout◯beにアップした。

 

エルネスタ殿はえげつないと笑いながら我の肩を叩くが知った事じゃない。元々葉山隼人は嫌っていたし、大した理由もなく八幡を殴り飛ばした時点で容赦をする理由はないのだから。

 

 

 

 

12月24日

 

今日は例の『獅子派』と『彫刻派』の合同クリスマスパーティーの日である。不本意だが現『獅子派』の会長の我が乾杯の音頭をとる事になったが、音頭をとった時に大爆笑したエルネスタ殿を見た時、我はパーティーが終わり次第しばき倒したい気持ちに駆られていた。

 

その後は特に問題なくパーティーが進んでいたが、ある時に差し出された飲み物を飲むと酒が混じっていた。おそらく大学部の面々が酒を用意したのだろう。それは構わないが高等部の我らがいる場所から届かない場所で飲んで欲しかった。

 

内心呆れているといきなり横から衝撃が走って気がつけば床に倒れていた。何事かと思い、顔を上げると顔を真っ赤にして息を荒くしたエルネスタ殿が我にひっついていた。しかもしどろもどろな口調で成敗だと爆破とか訳の分からない事を言って我を叩いてきたので明らかに酔っていると判断出来た。

 

何とか振り払おうとするも予想以上に力強く振り払えず、カミラ殿及び部下に助けを求めるも何故か全員優しい目で見てくるだけで助ける素振りを見せてこない。実に薄情な連中である。

 

そうこうしている間にもエルネスタ殿は徐々に絡んできて、終いには我の頬に唇を当ててきたり耳を舐めたりと不気味極まりなかった。これが他の女子ーーー特に美人声優なら大歓迎だが、宿敵のエルネスタ殿がやると怖過ぎて何も出来なかった。

 

結局エルネスタ殿が眠りに着くまで我は何も出来なかった。そして我の痴態をカメラに収めた部下については後日全員処分すると心に決めたのだった。

 

 

12月25日

 

波乱ありのクリスマスパーティーが終わって、新型煌式武装の開発に着手しようと廊下を歩いていたら前方からエルネスタ殿がやってきた。彼女は我を見るなり、顔を赤くするや否やいきなり駆け寄ってきて『ノーカンだから!』と叫んでドロップキックをぶちかましてきた。

 

反応から察するに昨日のやり取りを覚えているようだ。しかしいきなりドロップキックをするのは論外だろう。我が酔って絡んだならまだしも絡んできたのはエルネスタ殿だし。

 

以上の事から我は悪くないと判断して、お返しに二枚蹴りをして床に倒した。するとエルネスタ殿は直ぐに起き上がって組み合ってくるので我も負けじと組み返す。

 

こうしてエルネスタ殿と喧嘩をしていたら気が付けば夕方となり、新型煌式武装の開発の時間が大きく減った事を理解して絶望した。

 

その際にエルネスタ殿も擬形体の研究の時間が減ったと嘆いていたが貴様が悪いだろうに。

 

やはり我とエルネスタ殿は敵同士である。



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番外編 材木座の日記(大人版)

少し本編のネタに悩んでるので暫く後日談ではなく、番外編をやりたいと思います


7月◯日

 

今日我は久しぶりに男子会に参加した。八幡を始め長い付き合いの友人と話すのはとても楽しかった。

 

それぞれの近況について話したら我の結婚についての話題となって、エルネスタ殿の名前が出た。エルネスタ殿とは20年以上の付き合いで10年以上同棲しているが結婚については考えた事が無かったが、八幡らに考えてみたらどうだと言われて考えてみる事にしたのだった。

 

そして帰宅した後だった。同じように女子会に参加していたエルネスタ殿も帰宅してきて、女子会の内容も聞いた。どうやらエルネスタ殿も我との結婚云々の話をされたようだ。

 

その際にエルネスタ殿は自分は我に嫌われていると言っていたが、心底嫌っているなら同棲などしていない。

 

エルネスタ殿が少しでも結婚を考えているなら……そんな軽い気持ちで我は昔声優と結婚するのに備えて準備した婚姻届をエルネスタ殿に突き出した。

 

突き出した時、我は一蹴されると思ったが、エルネスタ殿は躊躇う事無くサインして役所に提出したのだった。

 

予想外の展開に呆然としているとエルネスタ殿はいつもの笑みを浮かべて我の唇を奪ってきた。

 

ファーストキスはレモンの味がすると言われているが、予想外の展開の所為で味が全くわからなかった。

 

 

 

7月×日

 

結婚した翌日、いつものように起きて朝食を作ろうとしたらエルネスタ殿が居ない事に気が付いた。同棲してから殆ど我より先に起きた事がないエルネスタ殿が、我より先に起きた事には驚かされた。

 

キッチンに向かってみればエルネスタ殿が朝食を作っていたのだった。何故作ったのかと聞いてみれば、「結婚したんだし少しは将軍ちゃんの負担を減らしたい」と気恥ずかしそうに返された。 そんなエルネスタ殿を見ると不思議と顔が熱くなってきた。

 

エルネスタ殿の作ってくれた朝食はお世辞にも美味しいとは言えなかった。しかしエルネスタ殿の若干不安そうな表情、包丁による切り傷、小さな火傷を見ると、エルネスタ殿が一生懸命作ってくれたのだと理解して、特に不満を生む事無く完食した。

 

食後に我が作り方を教えるべきかと尋ねたら小さく頷いたので、今後は2人で料理を作る約束をしたのだった。

 

 

 

7月△日

 

結婚してから2日。エルネスタ殿は存外妻として結婚する前のガサツさからは想像も出来ないくらいに頑張っている。

 

家事の腕前はないが掃除、洗濯、風呂洗いなどをやるようになって、我に教えを請うてくるようになった。その都度我はエルネスタ殿に家事のやり方を教えるが、その時の時間は不思議と楽しかった。エルネスタ殿とは擬形体や煌式武装関係において共同で仕事をする事もあるが、それとはまた別の意味で楽しいと思えた。

 

ただ我の着替えを手伝ったり、風呂に入る際に身体を使って我の身体を洗うのは少々恥ずかしいので勘弁して欲しかった。

 

というか結婚する前からエルネスタ殿の着替えを手伝ったり、エルネスタ殿の身体を洗ったりする我ってある意味凄くね?

 

 

 

7月▲日

 

今日、我は一人でアスタリスク中央区に結婚指輪の購入に向かった。

 

結婚指輪は給料3ヶ月分と言われているが我の場合、月に3000億から4000億稼いでいるので、給料3ヶ月分だと1兆円を超えた値段の指輪となってしまう。当然そんな額の結婚指輪など売られてないので必然的に我のセンスが最重要視される。

 

とはいえ女子にプレゼントなど碌にしたことない我には至難の技であった。悩んでいると店員が我に話しかけてきたので事情を説明すると、どんな結婚生活を望んでいると聞かれた。

 

その際に我はずっと楽しければ良いと返したら、店員は我にアイスブルーダイヤモンドの指輪を紹介した。店員曰くアイスブルーダイヤモンドの石言葉に永遠・幸せという意味が込められているらしい。

 

それを聞いた我は購入して家に帰るなり、エルネスタ殿に渡した。対するエルネスタ殿はいつもの天真爛漫な笑顔でお礼を言ってきた。表情を見る限り不満はなかったようで安心した。

 

ただ我がエルネスタ殿の指に指輪をはめた時や、お礼にキスをされた時は恥ずかし過ぎて悶死しかけてしまった。

 

 

 

7月◻︎日

 

結婚してから5日、今日我は初めてエルネスタ殿とデートをした。行った場所は水族館にゲームセンター、映画などだ。

 

今までもエルネスタ殿とは何度も遊びに行ったが、殆どがカミラ殿に騙されて半ば強引という形だったので、その時は毎回喧嘩をしていた。

 

しかし今回は初めて我から誘ったからか純粋に楽しめた。水族館ではイルカを触ったエルネスタ殿が可愛らしかったし、ゲームセンターではメダルゲームで5000枚以上のメダルを稼いだエルネスタ殿のドヤ顔がウザ可愛かったし、映画館ではアクション映画を見てハイテンションになったエルネスタ殿が幸せそうでなによりだった。

 

純粋な気持ちでデートをするのは恥ずかしくもあったが、それ以上に楽しい気持ちが強かった。

 

何故我はもっと早くエルネスタ殿と結婚するという発想に至らなかったのだろうか?

 

その事を八幡に言ってみたら「今更だな、死ね」と返された。返す言葉がなかった。

 

 

 

 

7月☆日

 

今日我はエルネスタ殿と新婚旅行の予定を立てた。エルネスタ殿は日本らしい場所が良いと言ったので京都に行く事になった。尚、親への報告は鳳凰星武祭が終わってからになった。両親も忙しいから仕方ない。

 

一応両親には話をしておいたが、緊張はしてしまう。何せ10年以上同棲しておきながら結婚したのはつい最近なのだ。側から見たらどんな夫婦だよと思われても仕方ないだろう。

 

しかしエルネスタ殿は気にする素振りを見せずいつも通りの表情で何とかなるでしょ?、と言ってきた。こういう時にエルネスタの神経の太さは頼もしいと思った。

 

京都に行くのは中学の時以来なので割と楽しみである。まあそれも当然であろう。中学時代は余った者同士のグループだったが、今回は妻と二人きりなのだから。

 

尚、八幡に楽しみだと電話をしたら「惚気るなバカップル」と言われた。バカップルに関しては貴様ら4人には言われたくないと我は内心激怒した。



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番外編:比企谷八幡のいない中、恋人2人は……(前編)

今回は番外編です。よろしくお願いします


pipipi……

 

アラーム音が部屋に響き渡る。その音は徐々に大きくなっていくが遂に……

 

「う、う〜ん」

 

「……もう朝?」

 

2人の少女が目覚めてアラームのスイッチを切る事で無くなった。

 

同時にベッドにいる2人の少女はモゾモゾと起き上がる。

 

2人は少女でありながら全くタイプの違う2人であった。

 

1人は雪の様に真っ白な髪を持ち、今にも壊れてしまいそうな儚い雰囲気を出す美しい少女。

 

もう1人は明るい紫色の髪を持ち、見る者を元気にするような明るい雰囲気を出す可愛らしい少女。

 

2人の美少女ーーーオーフェリア・ランドルーフェンとシルヴィア・リューネハイムは目をアラームのスイッチを切ると目を擦りながら互いに向き合い……

 

 

「……おはようシルヴィア」

 

「うん。おはようオーフェリア」

 

朝の挨拶をする。シルヴィアは持ち前の明るい笑顔をオーフェリアに向けて、オーフェリアも微かにだが口に笑みを浮かべてシルヴィアに向けた。

 

「……それにしてもまだ眠いわ」

 

「じゃあもう少し寝ていて良いよ?朝ご飯は私が作るから」

 

「……別にいいわよ。そもそもシルヴィアはよく平気ね。昨日あれだけ私に抱きついてスリスリしてきたのに」

 

オーフェリアはそう言ってジト目でシルヴィアを睨むとシルヴィは額に汗を浮かばせながら苦笑いを浮かべる。

 

昨夜シルヴィアは一緒に寝ているオーフェリアが余りにも可愛くて思わずメチャクチャ甘えてしまったのである。

 

「あ〜、あはは……ごめんね。つい可愛くて」

 

「……その台詞、既に50回は聞いたわね」

 

オーフェリアは呆れた表情を浮かべながらため息を吐く。オーフェリア自身シルヴィアに甘えられるのは嫌いではないが、シルヴィアのスキンシップについては少々……いや、かなり激しいので少し自重して欲しいと思っている。

 

「……はぁ、まあ良いわ。とりあえず起きましょう。ダラけていては1日が終わってしまうわ」

 

そう言ってオーフェリアはベッドから起きて寝巻きを脱ぎ下着姿になってクローゼットに向かうとシルヴィアもそれに続く。

 

「うーん。でもさオーフェリア、今日だけは早く終わって欲しいよね?何せ……」

 

一息……

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は八幡君と会えない日なんだから」

 

不満がありまくりの表情をしながらそう口にする。

 

「……そうね」

 

するとオーフェリアもシルヴィアと同じように顔に不満を露わにしながらシルヴィアの意見に賛同する。

 

ここで出てきた八幡とは2人の恋人である比企谷八幡の事である。

 

比企谷八幡

 

オーフェリア・ランドルーフェン

 

シルヴィア・リューネハイム

 

この3人は恋人関係とかなり歪な関係であるが、3人はこの関係を気に入っている。

 

付き合い始めてから半年以上経過していて、初めは上手くやっていけるか全員が不安だったが、その心配は2週間もしないで吹き飛ぶなどして今は3人共幸せに過ごしている。

 

しかし彼は先日あった学園祭で処刑刀という男に左手を斬り落とされて入院する事になったのである。

 

そしてその際に左手に義手を装着する事になったであるが……

 

 

「……今日は義手を装着する日だから仕方ないわ。その分明日思い切り八幡に甘えましょう?」

 

今日は完成した義手を装着する為に1日かけて手術を行うので八幡と面会をするのが不可能なのだ。

 

「そうだね。でも今から憂鬱だよ。1日も八幡君と会えないなんて」

 

シルヴィアが嫌そうな表情を浮かべるとオーフェリアはシルヴィアに呆れた表情を見せる。

 

「………貴女ね。今はともかくアスタリスクの外に仕事に行く時はどうするの?」

 

「そうなんだよねぇ……八幡君と一緒にいるとどんどん好きになっちゃうから次アスタリスクの外に行く時は辛いかもね。というかさ、卒業したら2人とも私のボディガードに就職しない?」

 

「……?貴女卒業したら直ぐに八幡と結婚する、そして結婚する前には引退するって言っていなかったかしら?」

 

「まあね。でもこの前ペトラさんにそれ言ったら猛反対されちゃったから」

 

「……まあ向こうも貴女を手放したくないでしょうからね」

 

「一応交渉は続けるけど結構厳しいからね」

 

「……それなら私は卒業後シルヴィアの護衛をやるのも構わないわ。多分八幡もやってくれるだろうし」

 

オーフェリアは確信を持っている。自分の彼氏がこの事情を聞いたら躊躇いなく承諾する事を。

 

「そっか……ごめんね私の所為で」

 

「別に構わないわ。……私としては3人一緒に過ごせるなら、問題ないし」

 

オーフェリアが照れ臭いのかそっぽを向いてそう口にすると……

 

 

「あーもう!本当に可愛いなぁ!」

 

シルヴィはプルプル震えたかと思いきやいきなりオーフェリアに抱きつく。そして互いの頬を合わせてスリスリする。

 

「オーフェリアにそんな事を言われると凄く嬉しいな。大好きだよ」

 

「し、シルヴィア……!恥ずかしいわ……」

 

好意を隠す事なく甘えてくるシルヴィアに対して、オーフェリアは気恥ずかしそうに身を捩るもシルヴィアは離す気配を全く見せずに甘えまくる。

 

結局、シルヴィは10分以上オーフェリアから離れる事はなかった。オーフェリアは初めは離れて欲しいと思っていたが、5分くらい経った頃には仕方ないという考えが強くなってシルヴィアを抱き返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……買い物?」

 

「うん。八幡君の手術が成功した時にお祝いの品を渡そうと思うの」

 

リビングにてオーフェリアとシルヴィアは朝食を食べながらそんな話をしている。

 

「……そうね。確かに悪くない話だわ。良いわ、行きましょう」

 

「決まりだね。じゃあ今日は中央区のショッピングモールに行こうよ」

 

「……でも八幡の欲しい物って何かしら?」

 

2人は自身の恋人の欲しい物について考え始める。その表情は真剣さが見て取れるくらいだ。

 

「うーん。MAXコーヒーに本とか?」

 

「それじゃありきたり過ぎるわね」

 

「だよね……八幡君って本当に無趣味だからなぁ」

 

「それを言ったら私もそうよ。私の趣味なんて3人一緒に過ごす事以外ないわよ」

 

「まあ私も1番の趣味はそうだけど……」

 

2人はそう言ってからため息を吐く。2人の彼氏の八幡は基本的に趣味が少ない。2人とイチャイチャする時以外は基本的にMAXコーヒーを飲みながら本を読むくらいなのだから。

 

2人が八幡の無趣味について悩んでいる時だった。オーフェリアが手をポンと叩き……

 

「……そうだわ。こんな時は小町に聞くのはどうかしら?」

 

未来に出来る義妹の名前を口にする。それを聞いたシルヴィアもハッとした表情を浮かべる。

 

「そっか。小町ちゃんなら八幡君が喜んでくれるものを知ってるかもね。ナイスだよオーフェリア!」

 

言うなりシルヴィアはテーブルの上にある端末を手に取り空間ウィンドウを開き、未来の義妹に電話をかける。

 

すると10秒くらいしてから……

 

『もしもし。どうしたんですかシルヴィアさん?』

 

パジャマ姿の小町が空間ウィンドウに映り出す。

 

「あ、うん。実はさ八幡君の手術が成功した時にお祝いの品を渡そうと思うんだけど、八幡君余り趣味がないから渡す物を悩んでいるのね?」

 

『だから小町にアドバイスを?』

 

「うん。何か良い物ないかな?本とかMAXコーヒーとかじゃありきたりだから、ね?」

 

シルヴィアがそう尋ねると空間ウィンドウに映る小町は考える素振りを見せてくる。

 

『そうですねー。プリキュアのDVDBOXとかはどうですか?』

 

小町はそう口にする。しかしシルヴィアはオーフェリアと一緒に即座に首を振る。

 

「それは絶対にダメ。八幡君がプリキュアを見てたら妬けちゃうから」

 

「……そうね。私もそれは嫌だわ」

 

シルヴィアが即座に断るとオーフェリアも力強く頷く。

 

アニメのキャラとはいえ自身の恋人が他の女の子にデレデレする事はシルヴィアにとってもオーフェリアにとっても耐え難い話なのだ。

 

『あ、そっか。お兄ちゃんにとってのプリキュアはシルヴィアさんとオーフェリアさんですからね』

 

小町がそう口にするとシルヴィアとオーフェリアの顔に赤みが生まれる。理由は簡単、最後に八幡に抱かれた時、2人はプリキュアの格好をしている状態で抱かれたからだ。

 

「う、うん。そ、そうだね……あはは」

 

シルヴィアが誤魔化すように愛想笑いを浮かべると小町は察したように息を吐く。

 

『あー……そう言えば2人はプリキュアになってお兄ちゃんと一夜を過ごしたんでしたたっけ?』

 

「そ、そうだけど、そこは突っ込まないで欲しいな」

 

『はいはいご馳走様でした。まあそれは置いといて……兄が好きな物と言ったらMAXコーヒーと本とプリキュアですからねー。好きな人なら2人いますけど……もういっそ『プレゼントは私達っ!』じゃダメなんですか?』

 

「……それは退院してからやるつもりだから他の案を考えているの」

 

オーフェリアがそう口にすると小町の目が兄同様にドロドロと腐り始める。

 

『退院してからやるのは決定事項なんですね……』

 

「あー、うん。というか八幡君がやって欲しいって言ったから、ね?」

 

『何考えてるのさあの愚兄はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

すると小町は画面の向こうでフンガーと声を上げて暴れ出す。自分の兄がここまで欲望に忠実になっているとは思わなかったのだろう。

 

するとシルヴィアが口を開ける。

 

「待って小町ちゃん。確かに八幡君はやって欲しいって言ったけど、その前に私達が八幡君を愛したくて提案したの。だから八幡君をそんなに責めないで」

 

シルヴィアがそう口にすると小町は暴れるのをやめる。しかし目は未だにドロドロと腐っている。

 

『あー、はいはい。わかりました。すいません。……とにかく、プリキュアのDVDBOXが駄目で2人をプレゼントにするのが駄目なら思いつきませんね』

 

「そっか……わざわざ連絡してゴメンね?」

 

『いえ、電話をするのは良いですけど惚気るのは止めてくれませんかね〜?』

 

小町がそう口にするとシルヴィアはオーフェリアはキョトンとした表情を浮かべながら顔を見合わせて……

 

「ちょっと待って小町ちゃん。私達別に惚気てないよ?」

 

『いやいや。『八幡君を愛したくて』とか言ってる時点で惚気てますよね?』

 

「え?八幡君を愛したいなんて当たり前の事だから惚気話じゃないよ。ねぇオーフェリア?」

 

「……そうね。私達が八幡を愛するのは私達にとって義務のような物ね」

 

2人にとって恋人を愛する事は当たり前の事であるから惚気話をしたという自覚はない。2人がする惚気話は子供に聞かせられない内容も含まれているので小町には聞かせられない。

 

『……あ、はい。すみませんでした。失礼します』

 

すると小町はゲンナリした表情を浮かべながら通話を切った。空間ウィンドウが真っ暗になったのでシルヴィアも空間ウィンドウを閉じて端末をテーブルに置き……

 

「何で小町ちゃん、疲れた表情を見せたんだろう?」

 

「……さあ?」

 

目の前にいるオーフェリアと共に頭に疑問符を浮かべながら食事を再開した。

 

 

 

結局、朝食を食べてから適当にブラブラして買う物を決める事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、星導館学園の食堂にて……

 

「はぁ……」

 

「どうしたんですか小町さん?」

 

「いつも元気なお前がため息なんて珍しいな。何かあったのか?」

 

「え……ああ、綺凛ちゃんにユリス先輩ですか。いえ、ちょっとお兄ちゃんについて少々」

 

「確か比企谷先輩は今日手術をするんですよね?それなら心配するのは当然ですよ」

 

「それもなんだけど、お兄ちゃん達はバカップルだなぁって改めて思ったんだよ」

 

「バカップル?オーフェリアとシルヴィア・リューネハイムの事か?何かあったのか?」

 

「さっき少々惚気話を聞かされたんですよ。……それもタチの悪い事に、向こうにとっては当然の事らしく惚気話をしている自覚がないんですよ」

 

「惚気話?そういえばあいつらはどのくらい仲が良いのか?以前オーフェリアと遊びに行った際に聞いた時は特に普通って言っていたが」

 

「いやいや、全然普通じゃないですからね?!付き合ってから1年もしないで300000回以上キスをしたり、実家に帰省した時は小町が寝ている部屋の隣で一線を越えたり、プリキュアのコスプレをしてお兄ちゃんを誘惑してからコスプレプレイをしたりと色々な事をしてますからね?!」

 

「っ……!は、はぅぅ……」

 

「ぶふっ……!げほっ!げほっ!ちょっと待て!今とんでもない事を言わなかったか?!」

 

「はい。ですが事実ですよ。それを知った挙句に惚気話を聞かされた小町の気持ちがわかりますか?」

 

「そ、そうか……まあアレだ。偶には愚痴を聞いてやるから元気を出せ。なあ綺凛?」

 

「きゅう………」

 

「……綺凛には刺激が強過ぎたようだな」

 

朝の星導館の食堂には疲れ果てている女子とその女子に同情の眼差しを向ける女子と気絶している女子の3人が何とも表現し難い空気を作り出していた。




次回、街で楽しい事や腹立たしい事が……?


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番外編:比企谷八幡のいない中、恋人2人は……(中編)

「到着っと、いやー久しぶりに来たけど大きいねぇ」

 

アスタリスク中央区にある巨大ショッピングモールの前にて、シルヴィア・リューネハイムは目の前にある巨大ショッピングモールを見ながら感嘆の声をあげる。

 

「……学園祭はもう終わったけど凄い活気ね」

 

その隣ではオーフェリア・ランドルーフェンが同じように感嘆の声をあげながらショッピングモールを見上げる。

 

2人の髪は栗色となっていて、2人の正体はシルヴィア・リューネハイムとオーフェリア・ランドルーフェンと見抜く人間はいないだろう。

 

「まあまだ一部では春休みだからね。アスタリスクの外から来た人は学園祭以外にも興味があるんでしょ。それよりいつまでもここにいても意味ないし入ろっか?」

 

そう言ってシルヴィアはオーフェリアの手を握って歩き出すので、オーフェリアは手を握り返しながらシルヴィアの後に続いた。

 

「……そうね。頑張って八幡が喜ぶ物を選びましょう」

 

シルヴィアとオーフェリアは互いに頷いてショッピングモールの中に入った。

 

ショッピングモールに入ると沢山の人がいて賑わっている。学園祭の時に勝るとも劣らないくらいの熱気があった。

 

「……先ずは何処に行くのかしら?私はこういうのに疎いからシルヴィアが案内して」

 

「任せて。とりあえず私が考えているのは服とかかな?八幡君あんまりオシャレに興味ないし」

 

八幡は基本的にレヴォルフの制服を着ていて、家ではアンダーシャツとラフな格好で私服を余り持っていない。休日に出掛ける時も制服を着る時もあるくるいでオシャレに興味がないのだ。

 

「なるほど……私が言えることじゃないけど確かに八幡は余り私服を持っていないわね」

 

オーフェリアも持っている私服は少ない。自由になる前は制服と寝巻き以外持っていなかった。

 

自由になってからは同じ八幡の恋人であるシルヴィアや幼馴染のリースフェルトに色々な服を勧められて買ったが数は余りない。

 

「だから服にしようかなって。他には普段使う物とかかな?」

 

「……そうなると手帳とか万年筆とか?」

 

「そうだね。とりあえず行こうか」

 

シルヴィアはそう言いながらマップを開いて近くの服屋を探し始めて、見つけると歩き出したのでオーフェリアもそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

入った服屋は様々な種類の服が売られていた。派手な物から地味な物と多種の服が揃えられている人気の服屋だった。見ると男女問わず沢山の人が店の中で溢れかえっていた。

 

「さて……頑張って八幡君の服を決めないとね。オーフェリアの意見も聞くからね?」

 

「……私の意見なんて参考になるとは思えないわ」

 

オーフェリアは首を横に振る。彼女は自分自身にセンスがないと思っている。だから役に立つとは思っていなかったのでシルヴィアの意見に戸惑ってしまった。

 

「難しく考える必要はないよ。ただ八幡君に似合うと思う服を言ってくれるだけで充分だよ」

 

「……それなら、まあ」

 

「決まり。それじゃあ選ぼっか」

 

「……ええ。あ、それとシルヴィア。それが終わってからで良いから隣の下着売り場に付き合って貰って良いかしら?」

 

「?別に良いけど先月も行ったから早くないかな?」

 

「そ、その……最近大きくなったみたいで少しキツいの」

 

オーフェリアはそう言って顔を赤くする。最近大きくなった事に対して恥ずかしい気持ちが出てくる。自由になる前は特に何とも思わなかったが、八幡と付き合うようになってからはそういった事に対して敏感に反応するようになったのだ。

 

「あ、そうなの?じゃあ仕方ないね。いいよ」

 

「……悪いわね」

 

「別に良いって。私自身もそろそろ八幡君が喜びそうな下着を新しく買おうかなって思ったしね」

 

「八幡の喜びそうな……やっぱり派手なもの?」

 

「そりゃそうでしょ?八幡君凄くエッチだし」

 

シルヴィアは躊躇いなくそう答えてオーフェリアもそれに頷く。自分達の彼氏がどのくらいエッチなのかはしっかりと把握している。その結果派手なものにするべきと判断した。

 

「……そうよね。じゃあ私もその類のものにするわ」

 

「そうしよ。それで退院したら入院していた分も愛してあげよう?」

 

「もちろん。まあその前に本来の目的の服を選びましょう」

 

「そうだね。えーっと……」

 

言うなりシルヴィアは近くにあった服を見渡し始めるのでオーフェリアもそれを真似るように辺りを見渡す。

 

「……八幡は基本的に黒い服のイメージがあるけど、違う色にするの?」

 

「うん。八幡君が黒が好きなのは知ってるけど、偶には違う色も良いかもね。まあだからと言って赤とか黄色とかは違うと思うけど」

 

「……そうね。八幡はそんな明るい色を好むとは思いにくいわ。そうなると青とかかしら?」

 

「そうだね。上着が青だったら、例えばこのシャツなら、下のズボンを黒にしても白にしても似合うからね」

 

そう言ってシルヴィアは青いシャツをオーフェリアに見せる。ベストにも見えるそのシャツは控え目に見ても悪くないシャツである。

 

「なるほど……確かにそれなら八幡に似合うかもしれないわ。でもこれなら青いジーンズも合うんじゃないかしら?」

 

「あ、そうだね。上下共に青でも似合うかも。とりあえずこのシャツは買おっと。そうなると後はズボンだけど……」

 

「どの色にするべきかしら?」

 

シルヴィアの手には青と黒と白の三色のズボンがある。どれも買うつもりの青いシャツとは合いそうなズボンであるので悩んでしまう。

 

「うーん。オーフェリアは何色が良いと思う?」

 

シルヴィアにそう問われてオーフェリアは3つのズボンを見る。その中でオーフェリアが気に入ったのは……

 

 

「……青と黒かしら?」

 

「オーフェリアは青と黒かー。私は白と黒のどっちかかな?」

 

「……なら両者が一致している黒にしましょう」

 

「オッケー。じゃあレジに行こうか?」

 

「……ええ。今から八幡が着るのを楽しみだなぁ」

 

「そうだね」

 

2人はそう言うと同時にレジに並びながら自身の恋人が買う服を着ている場面を想像する。2人の脳内には八幡が買う予定の服を着ていて……

 

『好きだ。お前達を愛している』

 

真剣な表情で2人に告白している場面が映っていた。それを認識した瞬間、オーフェリアとシルヴィアは……

 

 

 

「ふふっ……」

 

「えへへ……」

 

至極幸せそうな声を出しながら満面の笑みを浮かべていた。その表情は誰から見ても幸せそうに見える。

 

すると……

 

 

 

 

 

 

「あのー、前に進んで貰えませんか?」

 

後ろから声をかけられた2人は妄想を止めて後ろを見ると、1人の女性が困ったような表情を浮かべていた。

 

それによって2人はレジに並びながら妄想をしていた事を認識したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

店員がそう言って商品を手渡してくるのでシルヴィアとオーフェリアはそれを受け取って、店の外に出る。

 

それと同時に……

 

 

「うぅぅぅ……私のバカバカ」

 

「恥ずかしいわ……」

 

2人は真っ赤になって俯く。理由は簡単、さっきレジに並びながら恋人に愛を囁かれる妄想をしていたら後ろに並んでいた他の客に前に進んでくれと言われたからだ。

 

「はぁ……私もうダメかも。次アスタリスクの外に行く時大丈夫かなぁ?」

 

既にシルヴィアの中で八幡とオーフェリアは無くてはならない存在となっている。その2人と仕事で離れ離れになるなんて想像するだけて寂しいと思っているくらいだ。

 

「……私には頑張れとしか言えないわね」

 

「オーフェリア冷たいよ。次は2人も付いてきてよ」

 

「……そうしたいのは山々だけど、シルヴィアと違って仕事をしてない私と八幡が長期休暇でもない時にアスタリスクの外に行くのは無理よ」

 

「それはそうだけど……」

 

シルヴィアは膨れっ面を見せてくる。それを見たオーフェリアは……

 

(ちょっと可愛いわね)

 

場違いな感想を抱く。しかし口にはしない。したらシルヴィアが抱きついて甘えてくる可能性が高いからだ。家の中ならともかく外で抱きつかれるのは余り慣れていないのだから。

 

そんな中シルヴィアはやがてため息を頷く。

 

「……そうだよね。ゴメンね無理言って」

 

「まあ気持ちはわかるわ。でも結婚したら毎日一緒なんだからそれまでの辛抱よ」

 

「うん。私何とか頑張るよ。と、それより約束通りオーフェリアの希望の店に付き合うよ」

 

そう言ってシルヴィアは先程彼氏の服を買った店の隣にあるランジェリーショップを指差した。

 

「わざわざ悪いわね」

 

「別にいいよ。さっきも言ったけど私も新しい下着が欲しいし」

 

「……そう。じゃあ行きましょう」

 

2人がランジェリーショップに入る。すると辺り一面に大量の下着が展示されていた。清楚なものから面積の小さい際どいものなど様々な種類があるが……

 

「やっぱり露出の激しいものだね」

 

「……そうね」

 

2人は迷うこと無く面積の小さい下着が売られているエリアに足を運ぶ。すると……

 

「こ、これは……凄いね」

 

「そ、そうね……」

 

シルヴィアとオーフェリアは頬を染める。そこには未だ2人が着けた事がないような際どい下着が揃っていた。予想以上に際どい下着が多くて戸惑っている時だった。

 

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

 

すると近くにいた若い女性店員が2人の近くにやって来た。2人は顔を見合わせて1つ頷く。そしてシルヴィアが口を開ける。

 

「そ、その……彼氏を喜ばせる下着を買いたいんですけど」

 

シルヴィアがそう口にすると店員は笑顔で頷く。

 

「あー、なるほど。つまり際どい下着で彼氏さんに迫りたいと?」

 

「は、はい」

 

「そうですね……当店ではこの2つがお勧めですね」

 

 

そう言って店員が用意した下着は……

 

「ええっ?!」

 

「………」

Tバックの黒い下着と秘部以外の箇所の色が薄く丸見えの紫色の下着だった。

 

2人は一目見たたけで確信した。店員が見せてきた下着はこの店で売られている下着全ての中で際どさがトップ5に入るという事を。

 

真っ赤になりながら下着を見る中店員が話を続ける。

 

「当店ではよく彼氏に迫る時どういう下着を買うべきか尋ねられますが、我々は必ずこの2つを勧めていますね。これらを着て彼氏に迫れば彼氏もその気になると自信を持って言えます」

 

店員の言葉からは絶対の自信が見て取れた。それほどまでにこの下着に自信を持っているのだろう。

 

そう思いながら2人は下着をジッと見て自分が着ている姿を想像する。

 

それによって2人の顔に熱が生じるが、2人をそれを無視して自身らの彼氏である八幡の事も想像する。

 

2人の想像の中では2人が下着姿のまま八幡に迫り抱きついた。すると八幡は2人をベッドに押し倒して荒々しいキスをしながら2人の胸を下着越しに揉み始め、終いには2人のショーツに手を掛け2人の聖域を………

 

 

 

 

 

 

 

「これ買います!私は黒の方でお願いします!」

 

「……私は紫の方を買うわ」

 

そこまで想像した2人は即座に店員に買う事を口にした。すると店員は……

 

「ありがとうございます。お客様のサイズに合ったものが見つかりましたらお声掛け下さい」

 

笑顔でそう言ってから2人に手渡して去って行った。店員が見えなくなると同時にシルヴィアが口を開ける。

 

「……オーフェリア」

 

「……何かしらシルヴィア?」

 

「八幡君が退院した日にはこれで迫ろうね」

 

「そのつもりよ。八幡は入院生活で退屈しているだろうから一杯愛しましょう?」

 

「当然」

 

2人は顔を向き合わせながら固い握手を交わして、互いに適したサイズの下着を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

それから2時間後……

 

「あー、良い買い物したー」

 

ショッピングモールの中にある喫茶店に来たシルヴィアとオーフェリアは一息を吐く。

 

下着を買った2人はその後、自身らの服や料理やお洒落の本などを買って休憩として喫茶店に入ったのだ。

 

「そうね。午後は何処に行くの?」

 

コーヒーを口にしながらオーフェリアはそう尋ねる。

 

「うーん。買いたい物は大分買ったし……甘い物巡りでもしない?」

 

それを聞いたオーフェリアは考える素振りを見せる。学園祭で甘い物は散々食べたが、アレは良いものだったのでまた食べたいと思ったくらいだ。

 

だからオーフェリアは是の返事をしようと口を開いた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで〜、『影の魔術師』がうちの会長を騙したから私と葉山先輩は怒られたんですよ〜」

 

聞き覚えのある甘ったるい声が聞こえてきた。瞬間、オーフェリアとシルヴィアは顔を見合わせて声が聞こえてきた方向を見ると、そこには見覚えのある亜麻色の髪のした女子と彼女と同じガラードワースの制服を着た複数の女子がいた。

 

(あの女……どれだけ八幡を貶せば気が済むのかしら?)

 

オーフェリアの胸中に怒りの感情がフツフツと生まれる中、会話は続く。

 

「おかげで学園祭初日は最悪でしたよ」

 

「そうなんだ……いろはちゃん可哀想……」

 

「本当にレヴォルフの生徒は……!」

 

「最低ね……」

 

他のガラードワースの女性とは亜麻色の髪の女子の話を信じているようだ。次々にレヴォルフの悪口を言う。

 

それを聞いて苛立つオーフェリアを他所に……

 

「学園祭2日目の『覇軍星君』との戦いもズルしたに決まってます〜。本当に最低なんだから……」

 

亜麻色の髪の女子は八幡を悪く言う。

 

もう限界だ、オーフェリアがそう思って立ち上がろうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、八幡君を悪く言うのは止めてくれないかな?」

 

その前にシルヴィアが立ち上がってガラードワースの女子達がいる席の前に立つ。顔には不機嫌な色が混じっていた。

 

「は?どちら様ですか?」

 

亜麻色の髪の女子は訝しげにシルヴィアに話しかける。それに対してシルヴィアは……

 

「私?私は八幡君のライバルだよ」

 

「ライバル〜?あんな卑怯な人の?」

 

「その卑怯って言うの止めてくれないかな?八幡君は口も悪いし素直じゃないけど戦いでズルはしないし基本的に不当に人を貶めるような事はしないよ」

 

それを聞いたオーフェリアは少しだが落ち着きを取り戻した。誰よりも誠実であるシルヴィアがそう口にすると不思議と安堵感が生まれたからだ。

 

しかし……

 

「随分とあの人を庇うようですけど普通に考えてレヴォルフの彼が卑怯なのは正しいと思いますが?てかそれ以前に貴女誰ですか?」

 

亜麻色の髪の女子が訝しげな表情でそう口にする。

 

それに対してシルヴィアはため息を吐き……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はシルヴィア・リューネハイム。八幡君の1番のライバルだよ」

 

ヘッドフォンを外し紫色の髪を露わにしながら自身の名を名乗った。



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番外編:比企谷八幡のいない中、恋人2人は……(後編)

ショッピングモールの中にある喫茶店の周囲は人が100人以上いるにもかかわらず静寂に包まれている。それによってショッピングモールに流れる音楽が大きく響いている。

 

喫茶店の中にいる人間も周囲にいる人間も、喫茶店の中のある一席、より正確に言うとその席の近くに立っている1人の少女を見ている。

 

その少女は世界で最も有名な人物と言われている少女だ。

 

稀代の歌姫にして世界の頂点に立つ史上最高のアイドル

 

クインヴェール女学園の生徒会長にして不動の序列1位

 

前シーズンの王竜星武祭の準優勝者

 

その名は……

 

 

 

 

 

 

 

 

「シルヴィア・リューネハイム……!」

 

何処からともなくそんな声が聞こえる。

 

その声には驚愕の色が混じっているが、オーフェリアは当然の事だと判断した。

 

(……それにしても、シルヴィアは本気で怒っているわね)

 

第三者からしたらそこまで怒っているようには見えないが、ずっと一緒にいるオーフェリアからしたらシルヴィアがかなり怒っている事が直ぐに理解出来た。

 

そう思いながらオーフェリアはシルヴィアを見ると、八幡を侮辱していた亜麻色の髪の女子やガラードワースの女子生徒らは呆気に取られた表情を他の人同様に浮かべている。

 

そしてそんな中シルヴィアの口が開く。

 

「それで?さっき君は八幡君が卑怯な手を使って『覇軍星君』を倒したって言ったけどさ、何を根拠にそう言ったのかな?」

 

シルヴィアがそう口にするとガラードワースの女子生徒らは再起動してシルヴィアから目を逸らす。しかしシルヴィアはその内の一人、亜麻色の髪の女子からは目を逸らさない。

 

亜麻色の髪の女子……一色いろはは居心地が悪そうに身を捩るがシルヴィアは目を逸らさずに一色を見続ける。

 

「私もあの試合を見たけど、八幡君が卑怯な手を使っているとは思わなかった。もし君が八幡君が卑怯な手を使ったって言うならどんな手を使ったのか教えてくれないかな?」

 

「え、えーっと、それは……」

 

一色は口籠る。当然だ、元々彼女は自身の所属する学園の生徒会長に叱られた鬱憤を八幡を侮辱する事で晴らそうとしていただけなのだから。

 

まさかシルヴィア・リューネハイムのように有名人がこんな場所に居て自分の話を聞いていると思わなかった一色は冷や汗をダラダラと垂れ流す。

 

「えっと……それは……」

 

一色はしどろもどろな事しか口に出来ない。そんな彼女を見てシルヴィアはため息を吐く。

 

「……その様子じゃ八幡君を貶す為に言ってみたいだね」

 

シルヴィアの口調は穏やかだ。しかしシルヴィアの話を聞いている人はその口調の奥に強い怒りの色が混じっている事を理解した。

 

しかし人々はそれと同時に彼女がそう言って怒るのも仕方ないとも理解した。

 

前シーズンの王竜星武祭準決勝で比企谷八幡とシルヴィア・リューネハイムは戦ったが、あの試合は長い星武祭の歴史の中でも10本の指に入るくらい人気のある試合である。

 

世界で最も万能と評される魔女と世界で最も多彩と評される魔術師の戦いは、どちらが勝ってもおかしくない試合で見る者全てを興奮させたのだ。

 

そしてその試合の当事者からしたらもう1人が貶されていたら怒るのは必然だろう。

 

周囲の人が一色に侮蔑の眼差しを向ける中、シルヴィは……

 

「別に君が彼をどう思うのかは自由だけどさ、口に出すのは止めてくれないかな?私からしたらライバルがデマによって馬鹿にされるのは凄く嫌な気分になるから」

 

そう言って一色達ガラードワースの生徒に背を向けてオーフェリアの方を向く。

 

「ゴメンねオーフェリア。正直気分が悪くなったから店を出ない?」

 

シルヴィアが手を合わせ申し訳なさそうにしながらそう口にする。対してオーフェリアは……

 

「……そうね。でもその前に」

 

シルヴィアに了承の意を示すと同時に立ち上がり、シルヴィア同様にヘッドフォンを外す。するとオーフェリアの髪が栗色から真っ白になって……

 

「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

 

一色は青い顔を更に青くしながら悲鳴をあげる。そして一色と一緒にいたガラードワースの女子生徒を始め周囲でシルヴィアを見ていた野次馬達は戦慄した表情を浮かべる。

 

それも当然の反応であろう。まさかシルヴィア・リューネハイムの連れが世界最強の魔女だとは誰も予想出来る筈もない。

 

オーフェリアはそんな反応を無視してシルヴィアの横に立つ。そして一色に殺意の籠った瞳を向け……

 

 

「……馬鹿は死ななきゃ治らないって言うけど、どうやら本当みたいね。いい加減八幡を侮辱するのは止めてくれないかしら?次貴女が八幡を侮辱するのを聞いたら星脈世代から普通の人間にするわよ」

 

そう口にしながら手を向ける。

 

「えっ……あっ……!」

 

それによって一色は怯えながらテーブルの下で失禁してしまう。オーフェリア個人としてはここで彼女の息の根を止めたいのが本音だが、そうした場合シルヴィアにも迷惑がかかったり、八幡の命令に背く事になるので手は出さない選択を選んだ。

 

オーフェリアは一色が失禁している事に気付く事なくため息を吐いてシルヴィアに話しかける。

 

「……もう出ましょうシルヴィア。少し人が集まり過ぎてるわ」

 

そう言いながら辺りを見渡すと、いつの間にか野次馬の数は増えていてその数は300を超えているだろう。これ以上集まると色々面倒そうである。

 

「そうだね。行こうオーフェリア」

 

そう言ってシルヴィアが頷くと2人はゆっくりと一色らから身体を逸らして喫茶店を後にした。前には沢山の人が居たが2人が近寄るとモーセが海を割るかのように左右に開いたので、2人は遠慮なく真ん中を通過して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10分後……

 

「ふぅ……」

 

「……休憩目的で喫茶店に入ったのに余計に疲れたわ」

 

ショッピングモールの屋上で再度変装をしたシルヴィアとオーフェリアは大きくため息を吐いた。

 

アレから2人は変装を解いたので周囲から見られまくったが人が余り使わない隅っこ手洗いに逃げて再度変装をした。それによって漸く騒ぎは収束した。

 

しかしそれは表面上の話だ。

 

2人はまだ知らないがネットでは既にシルヴィアとオーフェリアが一緒にショッピングモールで買い物をしている事で話題となっている。

 

また喫茶店での揉め事も誰かが記録したらしく、『ガラードワースの生徒がシルヴィア・リューネハイムとオーフェリア・ランドルーフェンを怒らせた』とタイトルの動画が動画投稿サイトにupされて、5分もしないで再生回数1000万回を突破した。

 

ちなみにこの動画を見たクインヴェール女学園理事長ペトラ・キヴィレフトと聖ガラードワース学園生徒会副会長レティシア・ブランシャールは胃に痛みが発生して胃腸薬を大量に買ったのは言うまでもないだろう。

 

閑話休題……

 

「それにしてもシルヴィアが私より早く突っかかるなんて思わなかったわ」

 

オーフェリアはそう口にする。

 

「まあね。八幡君が卑怯呼ばわりされたのは我慢出来なくてね」

 

シルヴィアは膨れっ面をしながらオーフェリアの言葉に頷くのでオーフェリアも同じように頷いた。

 

実際オーフェリアも八幡が侮辱された時は我慢出来なかったのだから。彼が卑怯だと言うなら自分やシルヴィア、武暁彗と相対してみろと思ったくらいだ。

 

「……それは私も同感よ。それよりこれからどうするの?帰る?」

 

オーフェリアがそう尋ねると、それと同時にシルヴィアの端末が鳴り出した。シルヴィアはポケットから端末を取り出して空間ウィンドウを開くとバイザー姿の女性が映っていた。

 

「あ、ペトラさん。どうしたの?」

 

『どうしたのじゃありませんよシルヴィア。先程ネットを見ましたが、貴女は無闇に正体をバラさないでください』

 

それを聞いたシルヴィアは途端に苦い表情になる。まるでイタズラがバレた子供のような表情だった。

 

「あー、ゴメンね。でもライバル扱いしたから彼女だとは思われないと思うよ?」

 

『ええ。動画を見る限り仲が良いとは思われるかもしれませんが恋人とは思われないでしょうね。もしもこの件に関してマスコミが来ても……』

 

「わかってるわかってる。否定すればいいんでしょ?……嫌だけど」

 

『シルヴィア……』

 

それを聞いたペトラは呆れた表情を浮かべるもシルヴィアは表情を変えない。

 

「だって嘘とはいえ、八幡君との恋人関係を否定したくないんだもん」

 

『我慢しなさい。それが出来ないなら約束通り彼と別れ「絶対に嫌。八幡君と別れるくらいなら死んだ方がずっと良い」……ならわかってますね?』

 

「わかってるよ。もしも今後質問が来たらハッキリと否定するよ」

 

『結構。それと場合によってガラードワースの方とも話をするかもしれませんので』

 

そう言ってペトラは通話を切ったのでシルヴィアは端末をポケットにしまった。

 

「……アイドルも大変ね」

 

「まあね。まあ仕方ないって事で割り切るしかないよ」

 

「……そう。でもシルヴィア。もしも世間に私達の関係が知られてクインヴェールが私達を引き裂こうとしても死なないで。貴女が死ぬなんて私も八幡も望んでいないわ」

 

これはオーフェリアの本心だ。当初は八幡を奪われないか危惧していたが、3人で恋人関係になってからはオーフェリアにとってシルヴィアは八幡同様かけがえのない存在となっている。シルヴィアが死んだら自分は悲しむだろうとオーフェリアは確信していた。

 

それを聞いたシルヴィアは若干目を見開いて驚きを見せるが、直ぐに優しい笑顔を浮かべる。

 

「……うん。ありがとねオーフェリア。そう言ってくれて嬉しいな」

 

「……別に。もしもバレて向こうが引き裂こうとしたら、私が王竜星武祭で優勝して願いを使って邪魔する連中を叩き潰すわ」

 

そう言いながらオーフェリアはポケットから待機状態の『覇潰の血鎌』の発動体を取り出して手の中で遊ばせる。その事からオーフェリアが本気で実行しようとする事をシルヴィアは理解した。

 

「まあそれ以前の話としてバレないように最善を尽くすよ。バレたらその時に考えるよ」

 

「一応聞いておくわ。もしもバレても別れるつもりはないわよね?」

 

「当然」

 

「……ならいいわ。八幡には貴女が必要なのだから」

 

「それはオーフェリアもだよ」

 

 

そう言って2人は軽く笑い合う。その顔には幸せの感情しか映っていなかった。

 

ショッピングモールの屋上から聞こえる2人の笑い声は暫くの間辺りに響き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

シルヴィアは元気よく自宅に帰宅した。それに続くかのようにオーフェリアが静かに家に入った。

 

屋上で軽く笑い合ってから6時間、2人は当初の予定だった甘い物巡りをして、治療院に行ってスタッフに対して手術成功のお守りを八幡に渡すように頼んだり、ウルスラの見舞いに行ってから外で夕食を食べて帰宅したのだ。

 

「……今日は八幡がいないから嫌な日だと思っていたけど、結構楽しかったわ」

 

「そうだね。明日は朝一で八幡君のお見舞いに行こうね。成功してればいいんだけど」

 

「きっと大丈夫よ。仮にもしも失敗したなら私達が八幡の左手になって支えればいいのだから」

 

それを聞いたシルヴィアは笑顔で頷く。

 

「……うん。そうだね。私達は八幡君の隣で支えないとね」

 

「ええ。今日は明日に備えて早く寝ましょう。私結構疲れたわ」

 

「私もちょっと疲れたな。今日はシャワーだけでいいや。オーフェリアは?」

 

「私もシャワーだけで良いわ。シャワーを出たら直ぐに寝ましょう」

 

オーフェリアはそう言うとシルヴィアと一緒に自室のクローゼットから下着と寝巻きを取り出して風呂場に向かう。

 

風呂場に着いた2人は服を脱いで下着姿になる。シルヴィアは清楚なレース付きの白い下着で、オーフェリアはシンプルな薄い水色の下着を着けていた。

 

「………確かに大きくなってるね」

 

シルヴィアがオーフェリアの胸を下着越しに見ながらそう呟くと、オーフェリアは顔に熱が溜まり始めるのを理解した。

 

「……恥ずかしいから言わないで」

 

「ごめんごめん。でも良いなぁ。八幡君はおっぱい星人だから私も大きくなりたいなぁ」

 

シルヴィアは不満そうにそう呟く。2人は八幡が巨乳好きだという事を知っている。今は全て破棄したが八幡の持っていた成人向け雑誌や映像データでは巨乳モノが多かったからだ。

 

しかしオーフェリアは笑顔で首を横に振る。

 

「……大丈夫よシルヴィア。八幡の1番好きな胸は私とシルヴィアの胸なのだから」

 

「そうなの?」

 

「ええ。前学校で昼食を食べている時に八幡に『八幡は巨乳好きだから胸を大きくした方が良いのか』って聞いたら『確かに俺は巨乳好きだが1番好きな胸はお前とシルヴィの胸だ』って言っていたから」

 

「そ、そっか……えへへ」

 

それを聞いたシルヴィは顔を赤らめながらニヤける。好きな人が1番好いている胸は自分の胸と言われて嬉しい感情が生まれたからだ。

 

「……ええ。だから無理して大きくするなんて事は考えない方が良いわよ」

 

「そっか。うん、そうだね。ありがとう。それじゃあ入ろっか。今日は八幡君に変わって洗ってあげるね」

 

「……お願い。私もシルヴィアの身体を洗う?」

 

「うんお願い。それじゃあ……」

 

「……ええ」

 

2人は軽く笑い合いながら風呂場に入った。

 

そしてその後2人はお互いに身体の隅から隅まで洗いあって、風呂場に嬌声が響き渡ったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃあ電気を消すわね」

 

風呂から出た2人は寝巻きを着て、いつも3人で寝るベッドの上に乗る。

 

「うん、お願い」

 

シルヴィアがそう言うとオーフェリアは電気のスイッチを押す。すると部屋の電気は消えて、部屋は月明かりが照らされ薄暗い状態となった。

 

電気を消したオーフェリアはシルヴィア同様に布団を掛けるも……

 

 

「……何か大切な事を忘れている気がするわ」

 

そう言ってもどかしい気持ちになる。理由はわからないがいつもと違う感じにオーフェリアは戸惑っていた。

 

するとシルヴィアが口を開ける。

 

「多分アレだよ。お休みのキスをしてないからだと思うよ」

 

仕事でアスタリスクの外によく行くシルヴィアはこのもどかしさを何度も経験しているから知っているが、毎日お休みのキスをしているオーフェリアはシルヴィアの意見に納得した。

 

「……なるほど。間違いなくそれだわ。それにしてもシルヴィアは良く耐えているわね」

 

オーフェリアはシルヴィアに畏敬の眼差しを向ける。八幡とのお休みのキスを1ヶ月以上もお預けだなんてオーフェリアからしたら拷問よりも地獄である。

 

「……何とかね。だからアスタリスクに帰ってきた時はいつも歯止めがかからなくて八幡君に甘えちゃうんだよね」

 

「……そう。それにしてもこれはキツいわね。何とか出来ないかしら?」

 

オーフェリアは苦痛に塗れた表情を浮かべる。するとシルヴィアは……

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ……今日は私とする?」

 

オーフェリアにそう尋ねる。

 

「……え?」

 

「だから今日は八幡君とじゃなくて私としない?別に私達はもうキスをしてるんだし」

 

実際2人は既にキスをしている。夜八幡と夜の営みをする際に、理性を失った八幡が2人の百合を見たいと要求してくる時もあり、その時に2人はキスをした事もある。

 

だから……

 

「……じゃあお願いして良いかしら?」

 

オーフェリアはシルヴィアの提案を受けた。オーフェリア自身お休みのキスをしないと寝れないと判断したからだ。

 

(それに……シルヴィアとのキス、悪くないし)

 

しかしオーフェリアはそれは恥ずかしいので口にしない。

 

「もちろん。じゃあ……」

 

そう言ってシルヴィアは目を閉じて顔を近づけてくる。それに対してオーフェリアはシルヴィアの肩を掴み同じように顔を寄せて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「んっ……」」

 

そっと触れるだけのキスをする。2人の吐息が互いの顔に当たりくすぐる。

 

2人はゆっくりと離れてお互いの顔を見て……

 

 

 

 

 

「お休み、シルヴィア」

 

「うん。お休み、オーフェリア」

 

互いに笑顔を見せてから抱き合って眠りについた。



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設定 設定

pixivでも投稿してます。

アスタリスク読んでハマって書きました。

ワートリとのクロスは……すみません。モチベーションの低下の為、当分ないと思いますがご了承ください。


 

比企谷八幡

所属 レヴォルフ黒学院

学年 高等部1年(第1話の時点)

序列 2位

二つ名 影の魔術師

 

 

 

 

 

主人公。中学は一般校だったが文化祭の一件で学校に嫌気がさし、その際星脈世代だった事もありアスタリスクに引っ越す。

 

レヴォルフにした理由は女子校のクインヴェールと明らかに向いていないガラードワースを除いた4校からくじ引きで決めた。

 

序列や星武祭には余り興味ないので平和なぼっち生活を望んでいたが、レヴォルフ特有の強者への服従方針により目をつけられる。転校初日にカツアゲをしてきた序列60位のクラスメイトをぼっち生活を潰されそうになった怒りにより蹴散らした。それによりどの道ぼっち生活は潰されたのを知りショックを受ける。

 

転校初日に序列入りを蹴散らした事により有名人となり毎日10回は決闘を挑まれるようになるも、八幡自身桁違いの星振力と天賦の才があったので全員返り討ちにする。

 

決闘を挑まれる事は1年近く続いたが、序列1位『孤毒の魔女』オーフェリア・ランドルーフェンに次ぐ序列2位を手に入れた事により『冒頭の十二人』以外には挑まれる事は殆どなくなった。

 

オーフェリアとはぼっち仲間。レヴォルフで見つけたベストプレイスで一緒に昼飯を食べる。お互い余り話さないが八幡自身はこの時間を割と気に入っている。

 

戦闘スタイルは自身の影を実体化させ星振力を込めて武器にする。形は剣や銃や盾などの武器だけでなく、生物の形にして暴れさせる場合もある。ナイフタイプとハンドガンタイプの煌式武装を使う。

 

また自身の影に潜り移動する事も可能。影にいる間は無敵だが影から攻撃する時には影から出ないといけないのが欠点。

 

中3の時に『MAXコーヒーを一生無料で飲み放題』というアスタリスク開設以来最もふざけていると思われる願いを胸に秘め王竜星武祭に参加する。(鳳凰星武祭と鷲獅子星武祭には組む相手がいない為参加する気なし)

 

予選は無傷で勝利するも本戦準決勝にてクインヴェールの序列1位のシルヴィア・リューネハイムに敗北してベスト4で終わる。それ以降偶に連絡を取り合う仲になり、次の王竜星武祭に参加するように約束される。

 

 

 

 

 

 

 

比企谷小町

所属 星導館学園

学年 中等部2年(第1話の時点)

序列 8位

二つ名 神速銃士

 

八幡の妹。八幡がアスタリスクに転校すると直ぐに兄を追ってアスタリスクに行こうとしたが八幡及び両親がレヴォルフ入学に猛反対した為星導館に入学する。

 

入学当初はレヴォルフ序列2位の妹という事で恐れられていたが持ち前のコミュ力で直ぐに人気者になる。戦闘スタイルは2丁のハンドガンタイプの煌式武装を使った近、中距離戦を得意とするスタイル。腰のホルスターから煌式武装を抜いて狙いを定める速さは一級品で攻撃速度は星導館トップクラス。

 

夢は星導館の序列1位になり王竜星武祭で兄に勝つ事。

 

学校では人気は高く男子のファンも多いが一度ナンパした男を八幡が王竜星武祭準決闘でシルヴィアと戦った時くらい本気を出してボコボコにした為、それ以降手を出す人は1人もいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下陽乃

所属 界龍第七学院

学年 大学部1年(第1話の時点)

序列 3位

二つ名 魔王

 

八幡の知り合いの姉で底が知れない女性。八幡自身何を考えているか理解出来ないので苦手としている。

 

戦闘スタイルは基本に忠実、それでありながら圧倒的な力を持ちスピード重視の体術と黒い炎の星仙術を使いこなす。

 

『万有天羅』范星露の二番弟子で基本的に『覇軍星君』武暁彗との訓練をこなしていて偶に范星露と一緒に木派と水派の面々に修行を課している。

 

決闘、公式序列戦、星武祭ではオーフェリア以外には無敗。王竜星武祭では準優勝、ベスト4と好成績を残していて、3度目の王竜星武祭ではオーフェリア、シルヴィア、八幡全員倒す事を目標としている。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒロインは一応オーフェリアかシルヴィアのどちらかですね。

 

他のガイルキャラは高校に上がると同時に入学するので序列はまだないです。

 

 

 

 

 

予定としては

 

雪ノ下→クインヴェールorガラードワース

由比ヶ浜→クインヴェールor星導館orガラードワース

戸塚→レヴォルフor星導館

材木座→レヴォルフorアルルカント

葉山→ガラードワース

三浦→クインヴェールorガラードワース

戸部→ガラードワースor界龍

海老名→アルルカントorレヴォルフorガラードワース

一色→クインヴェールorガラードワース

 

っ感じです。

 

 



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好感度

ノリで書いてみました


好感度(MAX100)

 

(A)→比企谷八幡

 

(A)が下記の人物の場合

 

☆星導館学園

 

比企谷小町……100

 

戸塚彩加……100

 

天霧綾斗……80

 

ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト……95

 

クローディア・エンフィールド……80

 

沙々宮紗夜……70

 

刀藤綺凛……75

 

 

 

 

☆クインヴェール女学園

 

ペトラ・キヴィレフト……20

 

若宮美奈兎……95

 

蓮城寺柚陽……80

 

ソフィア・フェアクロフ……85

 

ニーナ・アッヘンヴァル……85

 

クロエ・フロックハート……35

 

ルサールカ……50

 

雪ノ下雪乃……65

 

由比ヶ浜結衣……100

 

 

 

 

☆レヴォルフ黒学院

 

ディルク・エーベルヴァイン……ー10000000000

 

イレーネ・ウルサイス……90

 

プリシラ・ウルサイス……100

 

樫丸ころな……80

 

ロドルフォ・ゾッポ……70

 

 

 

 

☆アルルカント・アカデミー

 

材木座義輝……100

 

 

 

 

☆界龍第七学院

 

范星露……100

 

武暁彗……80

 

雪ノ下陽乃……ー100000

 

梅小路冬香……85

 

趙虎峰……80

 

 

☆聖ガラードワース学園

 

アーネスト・フェアクロフ……85

 

レティシア・ブランシャール……75

 

葉山隼人……0

 

一色いろは……ー50000

 

 

 

 

☆恋人2人

 

オーフェリア・ランドルーフェン……天元突破

 

シルヴィア・リューネハイム……天元突破

 

 

 

 

 

 

 

比企谷八幡→(B)

 

(B)が下記の人物の場合

 

☆星導館学園

 

比企谷小町……100

 

戸塚彩加……100

 

天霧綾斗……75

 

ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト……75

 

クローディア・エンフィールド……80

 

沙々宮紗夜……65

 

刀藤綺凛……75

 

 

 

 

☆クインヴェール女学園

 

ペトラ・キヴィレフト……30

 

若宮美奈兎……85

 

蓮城寺柚陽……80

 

ソフィア・フェアクロフ……80

 

ニーナ・アッヘンヴァル……80

 

クロエ・フロックハート……75

 

ルサールカ……50

 

雪ノ下雪乃……75

 

由比ヶ浜結衣……75

 

 

 

 

☆レヴォルフ黒学院

 

ディルク・エーベルヴァイン……ー10000000000

 

イレーネ・ウルサイス……80

 

プリシラ・ウルサイス……90

 

樫丸ころな……75

 

ロドルフォ・ゾッポ……45

 

 

 

 

☆アルルカント・アカデミー

 

材木座義輝……55

 

 

 

 

☆界龍第七学院

 

范星露……75

 

武暁彗……70

 

雪ノ下陽乃……0

 

梅小路冬香……90

 

趙虎峰……90

 

 

☆聖ガラードワース学園

 

アーネスト・フェアクロフ……95

 

レティシア・ブランシャール……85

 

葉山隼人……0

 

一色いろは……0

 

 

 

 

☆恋人2人

 

オーフェリア・ランドルーフェン……天元突破

 

シルヴィア・リューネハイム……天元突破

 



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対人関係

以前書いた好感度の延長です。書きかけの小説の整理をしていたら出てきたのでノリで投稿しました


 

 

 

比企谷八幡→(A)

 

(A)が下記の人物の場合

 

☆恋人2人

オーフェリア・ランドルーフェン……溺愛

 

シルヴィア・リューネハイム……溺愛

 

 

☆星導館学園

 

比企谷小町……最愛の妹

 

戸塚彩加……天使

 

天霧綾斗……ハーレム王

 

ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト……弟子且つ友人

 

クローディア・エンフィールド……協力者

 

 

☆クインヴェール女学園

 

ペトラ・キヴィレフト……若干苦手

 

若宮美奈兎……天使

 

蓮城寺柚陽……清涼剤

 

ソフィア・フェアクロフ……からかいがいのある先輩

 

ニーナ・アッヘンヴァル……小動物みたい

 

クロエ・フロックハート……若干苦手

 

ルサールカ……ノリについていけない

 

雪ノ下雪乃……元部長

 

由比ヶ浜結衣……元部活メイト

 

 

☆レヴォルフ黒学院

 

ディルク・エーベルヴァイン……殺意

 

イレーネ・ウルサイス……悪友

 

プリシラ・ウルサイス……清涼剤

 

樫丸ころな……同情

 

ロドルフォ・ゾッポ……ウザい

 

 

 

 

☆アルルカント・アカデミー

 

材木座義輝……若干ウザい

 

 

 

 

☆界龍第七学院

 

范星露……師匠

 

武暁彗……強敵

 

雪ノ下陽乃……敵意

 

趙虎峰……星露に関して苦労している同士

 

 

☆聖ガラードワース学園

 

アーネスト・フェアクロフ……尊敬

 

レティシア・ブランシャール……からかいがいのあるオカン

 

葉山隼人……忌避

 

一色いろは……敵意

 

 

 

 

(B)→比企谷八幡

 

(B)が下記の人物の場合

 

☆恋人2人

オーフェリア・ランドルーフェン……溺愛

 

シルヴィア・リューネハイム……溺愛

 

☆星導館学園

 

比企谷小町……自慢の兄

 

戸塚彩加……友達

 

天霧綾斗……腐れ縁

 

ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト……師匠且つ恩人

 

クローディア・エンフィールド……協力者

 

沙々宮紗夜……気まぐれ男

 

刀藤綺凛……優しいけど少し怖い

 

 

 

 

☆クインヴェール女学園

 

ペトラ・キヴィレフト……交際に反対

 

若宮美奈兎……友達

 

蓮城寺柚陽……恩義

 

ソフィア・フェアクロフ……後輩

 

ニーナ・アッヘンヴァル……師匠

 

クロエ・フロックハート……若干苦手

 

ルサールカ……シルヴィアを泣かしたら許さない

 

雪ノ下雪乃……元部員

 

由比ヶ浜結衣……恩義

 

 

☆レヴォルフ黒学院

 

ディルク・エーベルヴァイン……殺意

 

イレーネ・ウルサイス……悪友

 

プリシラ・ウルサイス……友人

 

樫丸ころな……優しい

 

ロドルフォ・ゾッポ……友人

 

 

 

 

☆アルルカント・アカデミー

 

材木座義輝……相棒

 

 

 

 

☆界龍第七学院

 

范星露……見込みのある男

 

武暁彗……ライバル

 

雪ノ下陽乃……殺意

 

梅小路冬香……興味あり

 

趙虎峰……星露に関して自分と同じように苦労している者

 

 

☆聖ガラードワース学園

 

アーネスト・フェアクロフ……友人

 

レティシア・ブランシャール……罪悪感

 

葉山隼人……嫌い

 

一色いろは……敵意

 

 



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本編 影の魔術師

 

 

レヴォルフ黒学院

 

校章は覇道の象徴たる二本の双剣。

 

校則は無いに等しく個人主義が強く、非常に好戦的な校風となっている。また学園も積極的に生徒の決闘を推奨している。そのため決闘を原則禁止としているガラードワースとは折り合いが悪い。

 

 

 

 

 

また基本的に素行不良な生徒が多く、アスタリスクの再開発エリアを根城にしているものやカジノで暴れるものも少なくない正に不良の学校だ。

 

そんな学校に俺、比企谷八幡は通っているのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かった……クラスにマトモな奴が1人いて……」

 

高等部に進学して新しいクラスの席に座った俺は隣に座っている女子の顔を見て歓喜の声をあげる。

 

「あ、あはは……少し大袈裟過ぎませんか?」

 

そう言って苦笑いするのはプリシラ・ウルサイス。基本クズが多いレヴォルフの数少ない清涼剤だ。メチャクチャ優しくマジで天使。ガラードワースに行っても問題ないレベルだ。

 

「何言ってんだ?俺が転校した時のクラスなんて初日からカツアゲされかけたんだぞ」

 

その時点で普通の学校じゃない。

 

「あ、それお姉ちゃんから聞きました」

 

「まあ自分で言うのもアレだがあんときはやり過ぎた。てか姉と言えばあのバカ先週再開発エリアで暴れてたが大丈夫か?」

 

姉と言うのはプリシラの姉であるイレーネ・ウルサイスでレヴォルフで3番目に強い人間だ。根が悪い奴じゃないが性格はかなり粗暴でよく暴れている。

 

俺が話すとプリシラは頬を膨らませる。

 

「もー!お姉ちゃんったら!八幡さん、報告ありがとうございます」

 

あー、これでイレーネの奴今夜はプリシラの説教だな。あいつ妹には頭が上がらないしざまぁ。

 

内心笑っていると新しい担任が入ってきて新学期の説明をするが、殆ど全員(多分俺とプリシラ以外)聞いている素振りすら見せない。今更だがこの学校ヤバすぎだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新学期なので授業はなく午前で終わる。授業はないが腹が減ったので飯を食いに行く。

 

廊下を歩くと全員が俺を見ると避けてくる。俺はモーゼかよ?

 

まあそれも仕方ない事だ。一応俺はレヴォルフの『冒頭の十二人』の1人で序列は2位、つまりレヴォルフで2番目に強いって事だ。まあ1位のあいつには勝てる気がしないけど。

 

昔はガンガン決闘を挑まれたりしていたが『冒頭の十二人』入りしてからはかなり減って、2位の座を手に入れてからは公式序列戦で数回挑まれるくらいになった。

 

それにより俺はこの野蛮な学校で平穏な生活を手に入れた。まあ恐れられるのは今でも慣れないけど。

 

息を吐きながら購買でパンを買っていつも1人で飯を食う場所に向かう。あそこは静かな場所で特に何もあるわけではないのでレヴォルフの生徒も殆ど来ない、正にベストプレイスだ。

 

そんな事を考えながらベストプレイスに行くと俺以外にあそこをベストプレイスとしている少女がいた。

 

 

 

 

 

「よう」

 

とりあえず声をかけると少女は振り向いて俺を見てくる。その表情は悲しみと諦観を持っていて今にも泣きそうだ。

 

「……久しぶりね」

 

素っ気ない態度だがこれでもかなり変わった方だ。初めて会った頃はお互い一言も喋らなかったし。

 

「そうだな。春休みには会ってないし久しぶりだなオーフェリア」

 

俺が話しかけるのはレヴォルフ最強、いやアスタリスク最強と言われているレヴォルフ黒学院序列1位『孤毒の魔女』オーフェリア・ランドルーフェンだ。

 

俺自身、それなりに強いと思うがこいつには勝てるイメージが全く出来ない。俺の影はこいつの操る毒を防ぐ事は出来るが圧倒的な星振力による力技をされたら負ける。てか公式序列戦で力押しで負けた。

 

ほぼ無尽蔵の星辰力を誇るが、その反面能力を抑え込むことが出来ず、常に周囲へ毒素をまき散らしている。俺は自身の能力である影が自身の中に入り込み体内をコーティングしているから効果はないが殆どの連中には防ぐ事が出来ないので関わる人間はいない。

 

そんな訳でお互いぼっちだったからか飯を食う場所も同じ場所になってから知り合うようになった。

 

いつも通りオーフェリアの隣に座って買ったパンを食べる。隣ではオーフェリアも特に気にした様子もなくパンを食べている。基本的にお互い喋らないが俺はこの時間が結構好きだ。

 

お互いに無言のまま飯を食べていると風が吹いて目に埃が入り、とっさに目を擦ってしまってパンを落としてしまった。

 

「あー、バカした」

 

勿体無い事をしたな。仕方ない、帰り道レストラン街で飯を食うか。

 

そう思い立ち上がろうとした時だった。

 

 

 

 

 

「……あげるわ」

 

オーフェリアが自分の買ったパンの一つを差し出してきた。初めは遠慮しようと思ったが空腹には勝てずにありがたく頂戴した。

 

全部食べてからオーフェリアに礼を言う。

 

「サンキューオーフェリア。で幾らだ?」

 

そう言いながら財布から金を出す。

 

「別にいいわ」

 

「いや、そういう訳にはいかないだろ」

 

「パン一つくらいタダでいいわよ」

 

オーフェリアはそう言って金を受け取る素振りを見せない。

 

「いやいや、俺は養われる気はあるが施しを受ける気はないぞ?」

 

「……意味がわからないわ」

 

普段の悲しげな表情に若干の呆れが混じる。こいつに長時間そんな表情で見られると変な扉が開きそうな気がするんだが……

 

そんな馬鹿げた考えを持っているとオーフェリアは息を吐きながら俺の手にある金を取る。

 

「八幡は考えを曲げなそうだから貰うわ」

 

そう言いながら金を自分の財布に入れる。それを見て俺は頷いた。

 

「なら良し。ありがとな」

 

「……ん」

 

オーフェリアは頷いて残ったパンを食べる。俺は全て食べ終わっているが何となくオーフェリアの隣で彼女が食べ終えるのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

オーフェリアはパンを食べ終えると同時に俺は無言で立ち上がる。

 

「今日は始業式だがお前は帰るのか?それともあのデブに呼ばれたりしてんのか?」

 

 

 

 

 

あのデブとはレヴォルフ黒学院生徒会長のディルク・エーベルヴァインの事を指している。

 

非星脈世代にも関わらずレヴォルフ黒学院の生徒会長の座についている。序列に入っていないが謀略に長け『悪辣の王』二つ名を付けられるほどに嫌われまくりの生徒会長だ。何せ自分が勝つのではなく、相手が負けるように仕向ける事で相対的に利益を得るスタンスにある奴だ。

 

その上色々な奴を手駒にしているからタチが悪い。序列1位のオーフェリアと序列3位のイレーネもそのメンバーだ。

 

俺は奴の手駒ではないし今後もあいつの手駒になるつもりはない。序列2位になった際に申請云々で会ったが恐怖を感じた。その上生徒会室にはディルク以外の人間の気配を感じたがおそらくレヴォルフの諜報機関の黒猫機関だろう。あんな奴らと関わったら碌な目に遭わないだろうし。

 

「今日は呼び出されてないから帰るわ」

 

「そうか。じゃあまたな」

 

「ええ。また」

 

そう言ってお互いの住む場所に向かって歩き出す。さよならの挨拶は初めて会ってから数ヶ月もかかったが今では普通にするようになった。オーフェリアと会ったばかりの頃の俺からすれば信じられない事だ。

 

 

 

 

 

そんな事を考えながら自分の寮に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

レヴォルフの冒頭の十二人の特権の一つである巨大な1人寮に着いた俺は鞄を置いて横になる。今日は暇だし前シーズンの鳳凰星武祭の記録でも見るか。もう少ししたら今シーズンの鳳凰星武祭もあるし。

 

部屋にある巨大モニターで決勝戦を見ていると俺の端末に着信があった。画面を見てみると知っている番号が出ていた。スルーすると後が面倒なので電話に出る。

 

『やっほー、今大丈夫八幡君?』

 

そこにはピンク髪の可愛い女子がいた。この女子は知っている顔だ。というか知らない奴はこの世にいないと思う。

 

「別に大丈夫だが何か用か?リューネハイム」

 

電話の相手は世界で最も有名な歌姫のシルヴィア・リューネハイム。そしてクインヴェールの序列1位だ。前回の王竜星武祭準決勝で戦って負けて以来交流を持った女子だ。

 

適当に返すとリューネハイムはジト目で見てくる。

 

『八幡君、そろそろシルヴィって呼んでよ』

 

「断る。女子をニックネームで呼ぶのは勘弁してくれ。で、リューネハイム、用は『シルヴィ』……何だよ?」

 

『今日という今日こそシルヴィって呼んでもらうから。じゃないと……』

 

「じゃないと何だよ?」

 

ボコボコにするとかか?だったら大歓迎だ。逆に返り討ちにして王竜星武祭での借りを返してやる。

 

しかしリューネハイムの返事は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今度のステージで八幡君の事が好きですって言うよ』

 

「わかったよシルヴィ。で、何の用だ?」

 

何て事を言ってくんだこいつは?そんな事を言ったら俺は全世界の人間から後ろ指を指されるからね?そんな事になるならニックネームで呼ぶ方が遥かに良い。

 

『ふふっ。じゃあ今度からシルヴィって呼んでね?』

 

「わかったわかった。そういやアメリカ横断ライブお疲れ。次は何処に行くんだ?」

 

リューネハ『シルヴィ』……何でこいつは俺の心の内がわかるんだよ?

 

シルヴィは世界の歌姫ゆえ世界中を飛び回っている。今は日本にいるみたいだが余り長くは滞在しないだろう。

 

『次は1ヶ月くらい後に欧州ツアーだよ。その間は日本にいるから何処かに遊びに行かない?』

 

絶対に遠慮します。リューネハ……シルヴィみたいな有名人と歩いてみろ。間違いなく面倒事に巻き込まれるのが目に見えるわ。

 

とりあえず無難な返事をしとくか。

 

「ああ、行けたら行くわ」

 

『八幡君の行けたら行くは行かないと同じでしょ?八幡君の寮に迎えに行くよ?』

 

止めろ。間違いなく面倒な事になる。新聞部に見つかったらヤバい。

 

「わかったわかった。行くから迎えに来るな」

 

『うん。八幡君ならそう言うと思ったよ。後高等部進学おめでとう』

 

「そいつはどうも」

 

『今年もよろしくね。八幡君と会ってからまだ1年経ってないけど今から次の王竜星武祭が楽しみだよ』

 

シルヴィにそう言われて去年の試合を思い出す。勝てない試合じゃなかった。でもシルヴィの巧みな攻めに押し切られて負けてしまった。

 

「次は負けない。勝ってマッ缶を一生飲み放題だ」

 

『あははっ。やっぱりその願いなんだ』

 

モニターには苦笑したシルヴィが映っているがこれだけは譲れない。

 

『でも八幡君には悪いけど今シーズンも諦めて貰うよ。優勝するのは私だから』

 

そう言って今度は不敵な笑みを浮かべてくる。今更だが……こいつの笑みはどれも魅力的だな。

 

……だが俺も負けるつもりはない。シルヴィに負けた時結構悔しかったし。

 

「まあ試合は2年後だしそれまでに借りを返せるくらい強くなって今度は勝つ。それに妹とも約束してるし」

 

『妹さんって星導館の序列8位の神速銃士の比企谷小町?』

 

「そうそう」

 

そう、俺の妹の小町は星導館学園の冒頭の十二人の1人だ。元々はレヴォルフに入るつもりだったが俺や両親が猛反対して星導館に入った。そんで王竜星武祭に参加する気満々で俺に勝ちたいらしい。

 

『へー。今度会ってみたいな』

 

「会ったらよろしくしてやってくれ。あいつお前のファンだし」

 

何せファンクラブの会員番号は3桁台とかなり古参のファンだ。去年の王竜星武祭で俺とシルヴィが戦ってるのを見てメチャクチャ興奮してたし。

 

『うんわかった……あ!仕事のメールが来たから切るね!』

 

「そうか、わかった」

 

『うん、じゃあ遊ぶ日は今度決めよう。またね』

 

そう言ってシルヴィが画面から消える。どうやら遊ぶ事は決定したようだ。女子と、しかも相手は世界の歌姫かよ?今から緊張して胃が痛くなるわ。

 

俺はため息を吐きながらさっきまで見ていた鳳凰星武祭の続きを見るのを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星武祭

 

統合企業財体が主催しアスタリスクで行われている力を持つ学生同士の大規模な武闘大会。3年を一区切りとし初年の夏に行われるタッグ戦は鳳凰星武祭、2年目の秋に行われるチーム戦は獅鷲星武祭、3年目の冬に行われる個人戦は王竜星武祭と呼ばれる。

 

注目度が非常に高く、世界中にライブ放送され、世界最大の興行規模を誇る。

 

そして優勝者は好きな望みを叶えてもらえるというバトルエンターテインメントでもある。

 

アスタリスクにいる学生は自身の望みを賭けて星武祭に参加する。

 

 

 

 

これは1人の目が腐った魔術師が星武祭やその裏で蠢く陰謀に挑む物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『てめぇ八幡!プリシラに余計な事チクってんじゃねぇよ!!』

 

「……はぁ」

 

当の本人は今はその事を知らずドアの外にいる女生徒に呆れ目を腐らせているが。



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比企谷八幡は世界の歌姫と遊びに行く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高等部に進学してから二週間、俺は今アスタリスクの商業エリアの有名な噴水の前に立っている。

 

予定の時間まで後30分、暇なので過去の星武祭の試合を見ているもののさっきから視線を感じて仕方ない。顔を上げると全員が目を逸らして離れていく。

 

まあ俺は一応王竜星武祭ベスト4の記録を出した上、悪名高いレヴォルフの序列2位の有名人だ。レヴォルフの制服を着てなくても目立つだろう。

 

てか今更だがシルヴィが来たらヤバくないか?片や世界の歌姫、片やならず者学校のNo.2。明らかにヤバい組み合わせだろ?それでシルヴィに悪評が立ったら申し訳ない。

 

そう思っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡君」

 

後ろから声をかけられたので振り向くと茶髪でカジュアルな雰囲気を醸し出している女子がいた。しかし見覚えのない奴だな。いきなり知らない女子に名前呼びされてるけど……いや、待てよ。

 

「もしかして……シルヴィか?」

 

髪の色は違うがシルヴィだと思う。俺の事を名前で呼ぶのはシルヴィとオーフェリアとウルサイス姉妹の4人だけだ。

 

「当たり。出かける時は目立つといけないから変装するんだ」

 

それを聞いて納得した。まあ世界の歌姫が堂々と歩くのは人目を引くからな。

 

「なるほどな。悪いな俺は特に変装してないから目立って」

 

さっきからマジで目立ち過ぎだ。結構苛つく。

 

「気にしないでいいよ。八幡君有名人だから」

 

「お前が言うな。てか何処に遊びに行くんだ?」

 

何処に行くか全く聞いてないし。シルヴィの事だから変な場所じゃないのはわかるけど。

 

「うん。八幡君って星武祭でMAXコーヒー飲み放題って願いを求めるって事は甘い物好きだよね?」

 

「まあな」

 

今更だが俺の願いふざけ過ぎだろ?あのオーフェリアですら呆れさせる事が出来るくらいだし。ウルサイス姉妹は姉が大爆笑して妹は苦笑いしてたけど。

 

「だから商業エリアの美味しいスイーツを食べ回りながらお喋りしようよ」

 

「まあそんぐらいなら構わないが……」

 

っても俺が話せる世間話なんて星武祭以外殆どないけど。

 

「じゃあ行こっか。色々調べてきたんだ」

 

そう言ってシルヴィは俺の手を引っ張って歩き出すので俺はそれに続く。まさか世界の歌姫と遊びに行くなんて……人生ってのは何が起こるかわからないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、2人がいる場所から少し離れた店の陰。

 

「……おい、ミルシェ見たか?」

 

「うん。見たよ」

 

2人の視線の先には自身の学校の生徒会長が男性の手を引っ張って歩いていた。

 

瞬間、2人の女子は驚愕と歓喜の混じった笑顔でハイタッチを交わす。

 

「おいおい!これマジで大スクープだろ!」

 

「うんうん!まさかシルヴィアが男の手を引っ張るなんてさ!」

 

そう言ってはしゃぐのはクインヴェール女学園が擁するガールズロックバンド『ルサールカ』のメンバーのミルシェとトゥーリア。

 

ルサールカは前回の獅鷲星武祭でデビューを飾り、初出場ながらいきなりベスト8入りしたことで一気にブレイクした。世界屈指のバンドだ。

 

最もシルヴィア・リューネハイムには及ばず、その為メンバー全員が打倒シルヴィアを標榜し世界のトップに立つことを夢見ている。

 

そんな事もありシルヴィアのスクープを探した結果彼女らにとって望ましい光景が目に入った。

 

「とりあえず写真は撮れた?」

 

「おう!しっかり!」

 

そう言ってトゥーリアが撮った写真をミルシェに見せてくる。そこにはシルヴィアが男子の手を引っ張っている写真があった。

 

「でもこのシルヴィアお忍びの格好だけど大丈夫かな?」

 

「大丈夫だろ。スクープになったら私達にもインタビューがあるだろうからそん時に『これは間違いなくシルヴィアです』って言えばマスコミは信じるだろ」

 

実際ルサールカのメンバーはシルヴィアのお忍びの格好を知っている為写真に写っている女子は間違いなくシルヴィアだと断言出来る。

 

「確かに……それだったら信じて貰え……ん?」

 

「どうした?」

 

ある事に気が付いたミルシェにトゥーリアが質問をする。しかしミルシェは写真に食いついたままだ。そして……

 

 

 

 

 

「この男子……『影の魔術師』じゃない?」

 

「……は?」

 

そう言われたトゥーリアも写真を見てみる。するとトゥーリアもそれに気付いた。

 

レヴォルフ黒学院序列2位『影の魔術師』比企谷八幡はクインヴェールではかなり有名だ。理由としては去年の王竜星武祭の準決勝でクインヴェールの序列1位であるシルヴィアと互角の戦いを繰り広げていたからだ。どちらが勝ってもおかしくない試合だった事から去年の王竜星武祭の試合では1番の人気を博している試合でもある。

 

そんな事もありクインヴェールでは特に比企谷八幡の名が知られているが……

 

「ああ。間違いなく比企谷八幡だ!まさかこんな大物が出てくるなんて……」

 

「これ本当に一大スキャンダルになるよね?」

 

実際アスタリスクトップクラスの2人が恋仲なら間違いなく世界の話題になるだろう。

 

「なるに決まってんだろ!それより尾行するぞ!」

 

視線の先には未だシルヴィアに手を引っ張られている比企谷八幡の姿があった。

 

「当然!これならモニカ達にいい土産になるよ!」

 

そう言ってルサールカ2人は尾行を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、初めは何処に行くんだ?」

 

暫く商業エリアを歩く中シルヴィに聞いてみるとシルヴィは携帯端末から写真を見せてくる。そこには小洒落たカフェの写真があった。

 

「初めはここ。ここのパフェはうちの学校で有名だから一度食べてみたかったの」

 

そう言ってくるので写真を見ると形の整った美しく、それでいて甘そうなパフェの写真があった。確かに美味そうだ。女子から人気が出るのもわかる。しかし……

 

「そんな店に俺が入って大丈夫か?」

 

男の俺が入ったら間違いなくヤバい絵面な気がする。何せクインヴェールの生徒にとって人気の店だし。

 

「大丈夫だと思うよ。八幡君私との試合でかなり評価高いし」

 

ああ。あの試合か。まあアレはかなり人気らしい。俺は見ると悔しさが蘇るから見ないけど。それより今はもう一つ問題がある。

 

「……ところでシルヴィ。気づいてるか?」

 

「うん。尾行されてるね」

 

背後から視線を感じる。殺気はないのでレヴォルフの奴らの俺に対する闇討ちじゃないだろう。となると……

 

「シルヴィに心当たりは?その姿だからないと思うが」

 

普段の歌姫の姿ならともかくその格好でシルヴィと見抜く奴は少ないだろう。

 

「うーん。一応心当たりはあるな。あの子達なら危険じゃないよ」

 

今の発言を聞く限りシルヴィは尾行している奴らを知っているようだ。とりあえず悪い奴じゃないのはわかった。

 

「だがぶっちゃけ鬱陶しいから撒こうぜ」

 

はっきり言ってさっきから視線を感じて鬱陶しい。害がないからこっちから仕掛けられないし。

 

「いいけどどうやって?」

 

そう言ってくるシルヴィ。しかし俺には絶対の自信がある。俺は少し先に見える路地を指差す。

 

「シルヴィ、あの路地に入るぞ。とりあえず路地に入るまで手を離さないでくれ。そうすりゃ撒ける」

 

「?」

 

シルヴィは頭に疑問符を浮かべているがそれを無視して歩き出す。

 

そして狭い路地に入ると同時に意識を集中して星振力を使用する。

 

 

 

 

 

「影よ」

 

そう呟くと俺の影が俺自身とシルヴィに纏わりつく。

 

「えっ?!八幡君?!」

 

シルヴィが驚く中、俺達は地面に引きずり込まれた。

 

体が全て地面に入るとそこは一面真っ黒な世界だった。しかしシルヴィがいるのは見える。

 

「八幡君?ここって……」

 

どうやらシルヴィは何が起こったか薄々気づいたようなので答えを出す。

 

「ここは俺の影の中だよ。お前も俺が影の中に入れる事を知ってるだろ?」

 

前回の王竜星武祭でも何度か使ったし。てかそれでシルヴィを攻めたし。

 

「それは知ってるけど私も入れるんだ」

 

「正確には俺に触れている存在のみ俺の影の中に入れるだな」

 

触れている状態の武器なども影の世界にしまえるし。

 

「とりあえずこの状態で店に行こうぜ。そうすりゃ気付かれないし」

 

一応外からは影が動いていると思われているが店や住宅地の影を伝っていけばバレないだろう。

 

そう思っている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?!いないよ?!」

 

上から声が聞こえたので上の状態を見れるようにすると予想外の人物がいた。

 

「アレは……ルサールカのミルシェとトゥーリア?」

 

「あー、やっぱりあの子達か」

 

まさかの有名人かよ?!完全に予想外だったわ!

 

「まさか尾行に気づかれてたのか?!早く探すぞ!」

 

「うん!やっぱり写真1枚だけじゃ足りないしね」

 

写真だと?!よく見るとトゥーリアの手にはカメラがあるし。こいつら……シルヴィのスキャンダルを狙ってやがるのか?!

 

マズい。そんな事をしたら俺が後ろ指を指される。そんなのは絶対にゴメンだ。

 

そう思うと同時に俺は影から出る。すると2人はいきなり俺が現れた為に驚き出す。

 

「えぇぇぇぇ?!」

 

「ひ、比企谷八幡?!何で……?!」

 

良し、2人は驚いて冷静さを失ってる。今がチャンスだ。

 

俺はそのままトゥーリアのカメラを奪い取る。すると2人は再起動する。

 

「あ!か、返せ!」

 

そう叫んでトゥーリアが手を伸ばしてくるので俺はそれを避けて影の中に潜る。

 

「しまった!影に潜られた!」

 

「くっそー!出てこい!」

 

トゥーリアは影を踏んでいるが無駄だ。影の中にいる間はオーフェリアだろうと干渉出来ないからな。

 

息を吐きながらカメラを見るとそこにはシルヴィが俺の手を引っ張っている写真があった。

 

「あー、撮られちゃったんだ」

 

シルヴィは苦笑いしているが他人事じゃないからな?

 

「あいつらはスキャンダルを狙ってんのかよ?恐ろしいな……」

 

多分シルヴィに勝つ為だと思うが……せこ過ぎる。

 

俺は呆れながらカメラのデータを消して自分の手だけを影の外に出してカメラを返した。

 

「じゃあシルヴィ、このまま店に行くから案内頼む」

 

「あ、うん。じゃあ路地を出て左に曲がって」

 

そう言われたので俺は自身の影を他の影の中に紛れさせてこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろでは「やっぱり写真消されてる!!」とか「くっそー!こんな事なら先にモニカ達に送っときゃ良かったぜ!」って叫んでいるが気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

影に潜りながら進む事10分……

 

俺達はようやく目的の店に着いたので店の裏にまわり影から出る。それと同時に体に纏わりついていた影は元の地面に戻る。

 

「いやー、八幡君のその力便利だね」

 

「いやいや、お前が言うなよ」

 

シルヴィの能力は歌を媒介にすることでイメージを様々に変化させることができる能力だ。治癒能力を除いてあらゆる事象をコントロールすることができる奴に言われたくない。

 

「そりゃ私も影を操る事は出来るけど八幡君に比べたら弱いし影の中に潜るのは無理だよ」

 

だろうな。そんなレベルまであらゆる事が出来ならオーフェリアに勝てるかもしれない……いや、治癒能力が出来ない以上それでも厳しいか。

 

それほどまでにオーフェリアは別次元の存在である。今の6学園の生徒でオーフェリアに勝てる可能性のある奴って界龍の万有天羅くらいだろう。あいつはあいつで次元が違うし。

 

「まあそうかもな。それより尾行は撒いたし入ろうぜ」

 

割と腹が減っているので何か口にしたい。

 

「あー、アレはごめんね。迷惑かけちゃった」

 

「実害がないから別に気にしてない」

 

実害があったらしばくけど。つーか何をもってスキャンダルを狙ってるんだ?

 

疑問に思いながらシルヴィと一緒に店に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はスペシャルパフェとバニラシェーキにしよっと。八幡君は?」

 

「んじゃ俺は……スペシャルパフェと……コーヒーで。後練乳ってありますか?」

 

店員に聞いてみる。

 

「練乳ですか?ありますよ」

 

「じゃ、それもお願いします」

 

「かしこまりました」

 

店員がそう言うとシルヴィが裾をつかんでくる。

 

「八幡君、何で練乳?」

 

「ん?コーヒーに練乳を入れるとMAXコーヒーに近い味になるんだよ」

 

その事を千葉ッシュという。

 

「八幡君本当に好きなんだ。私も今度飲んでみようかな」

 

「おう飲め飲め」

 

マッ缶を宣伝していると店員が頼んだ品物を運んできた。

 

「お待たせしました。スペシャルパフェ2つにバニラシェーキにコーヒーに練乳でございます。以上でよろしいでしょうか?」

 

「あ、はい」

 

「ありがとうございます。それと……」

 

そう言って俺の方をチラリと見てくるが……何だ?目の腐った奴がこんな店に入るなってか?

 

疑問に思っていると店員は何故か手帳を出してきて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レヴォルフ黒学院の比企谷八幡さんですよね?王竜星武祭を見てファンになったのでサインをいただけませんか?」

 

これは予想外だったな。まあサインは割と慣れているから構わないけど。

 

手帳にサインをした俺はシルヴィと共に空いている席に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの影の魔術師の比企谷八幡さんですよね?その……サイン貰えませんか?」

 

パフェを食べようと席に着こうとしたら星導館の女子生徒が手帳とペンを差し出してくる。またか……

 

俺は内心ため息を吐きながらもペンを受け取りサインを書く。

 

「ありがとうございます。次の王竜星武祭頑張ってください」

 

女生徒は頭を下げて離れていった。

 

「人気者だね八幡君」

 

向かいにいるシルヴィは笑っているが世界の歌姫であるお前には言われたくない。

 

「理解出来ないな。俺に人気があるとは考えにくい」

 

「そう?八幡君の戦闘スタイルは格好良いし、レヴォルフの生徒の中じゃ凄く礼儀正しいから他の学園でもファンは多いよ」

 

シルヴィはそう言って端末を見せてくると頭を抱えたくなった。

 

そこには俺のファンクラブの公式サイトが載っていた。マジか?俺が知らないって事は非公式みたいだが……会員数5300人って多過ぎだろ?!

 

そりゃシルヴィやガラードワースの『聖騎士』アーネスト・フェアクロフに比べたら微々たる数だけどこの数値は予想以上だ。

 

「うわー。見たくなかった」

 

「まあまあ。そう言えば何で八幡君はレヴォルフに入ったの?何ていうか……あんまりレヴォルフの生徒っぽくないし」

 

それについて否定しない。俺は制服を崩してないし授業には毎回出席してるしガラードワースとも揉めた事もないし、レヴォルフっぽくないだろう。

 

「ん?簡単な話だ。俺は入る学校をくじ引きで選んだからだ」

 

俺がそう返すとシルヴィはポカンとした顔を浮かべてくる。今まで何度も顔を合わせたがこいつのこんな顔は新鮮だ。

 

「え?ちょっと待って。くじ引き?」

 

「おう。女子校のクインヴェールと合わなそうなガラードワースを除いた4つからくじ引きをした結果レヴォルフに決まった」

 

俺は別に学校単位で競う星武祭のポイントなんざ興味ないしな。どこに行ってもそこまで変わらないだろう。

 

「……ぷっ。あははっ。くじ引きは予想外だったな。やっぱり八幡君は面白いね」

 

楽しそうにコロコロ笑うが……そこまで笑わなくていいだろ。

 

「……ったく。それより食おうぜ。アイスが溶ける」

 

「ふふっ。そうだね。いただきますっと」

 

そう言ってパクリとパフェを食べるが……甘いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達はパフェを食べながら駄弁り始める。最も俺は話すのは得意ではないのでシルヴィが話題を振ってくるのが多い。

 

「……なるほどな。ルサールカは賑やかな連中って事は良くわかった」

 

何でもシルヴィを超えるべく色々やっているらしい。さっきのスキャンダル云々もその類だろう。

 

「まあね。それで良くペトラさんに怒られてるんだ。八幡君は学校ではどうなの?」

 

どうって言われても特にな……

 

「特に変わった生活は送ってないぞ。学校行って授業受けて、オーフェリアと飯食って、イレーネと喧嘩して、偶にイレーネの妹に夕飯誘われてるくらいだぞ?」

 

「……序列1位の孤毒の魔女とご飯食べて、3位の吸血暴姫と喧嘩って普通じゃないからね?」

 

「そうか?まあ半年近く過ごしてりゃ慣れるだろ」

 

俺と喧嘩出来るレヴォルフの生徒は5人くらいだからな。そん中で1番喧嘩するのがイレーネってだけだし。

 

「でも退屈はしてないんでしょ?」

 

「まあな。てか星武祭見れば退屈じゃないし」

 

アスタリスクに来た理由は総武中の文化祭で嫌気がさした事だけでなく星武祭を生で見たいってのもあるし。

 

「そうだね。そう言えばもう直ぐ鳳凰星武祭だね」

 

鳳凰星武祭は夏だからな。もう少ししたらエントリーが始まるだろう。しかし……

 

「今シーズンの鳳凰星武祭は興味が湧かないな」

 

「え?どうして?」

 

「だって前回優勝ペアは卒業したし、この前レヴォルフの新聞部の記事を見たら準優勝ペアの趙虎峰とセシリー・ウォンは獅鷲星武祭に鞍替えするらしいし」

 

前回の決勝戦は盛り上がってテンションが上がったがあの2組が出ないなら結構興味がなくなる。

 

「へー。レヴォルフって情報機関だけでなく普通の新聞部も凄いんだ」

 

「まあな。結構信憑性の高い記事が多いから学校では人気だぜ」

 

レヴォルフ黒学院の運営母体はソルネージュという統合企業財団で保有する諜報工作機関『黒猫機関』は秘匿性が最も高く優秀と評されている。

 

その為かレヴォルフのメディア系クラブはかなり信用出来る。生徒そのものは信用出来ないのはアレだが………

 

「そうなると獅鷲星武祭で界龍からは久しぶりに『黄龍』のチームが見れるかもしれないね」

 

『黄龍』は『万有天羅』が認めない限り使用出来ないチーム名だ。しかし現序列4位と5位の2人が獅鷲星武祭に出るならあり得るかもしれん。

 

「そうなると……万有天羅の1番弟子の武暁彗か2番弟子の雪ノ下陽乃が出てくるのか?」

 

「覇軍星君はともかく魔王は出てこないんじゃない?前回の王竜星武祭で来年は優勝するって言ってたし」

 

そういやベスト4のインタビューで俺の横でそう言ってたな。

 

「まあ俺としても王竜星武祭に出てもらわないと困る。あの人には借りがあるし」

 

「え?八幡君魔王と戦った事あるの?」

 

「いや決闘はした事ないがアスタリスクに来る前にちょっとな……」

 

あの人と関わった所為で中学では迷惑を被ったからな。出来るなら俺が出る王竜星武祭で叩き潰したい。そしてあの仮面を破壊して屈辱を与えたい。

 

「ふーん」

 

「ちなみにお前にも借りがあるから2年後に返済してやるよ」

 

俺がそう返すとシルヴィは不敵に笑ってくる。

 

「いやー、八幡君には悪いけどまた貸しを作ってあげる」

 

つまりまた王竜星武祭で俺に勝つと言っているのか?それは勘弁して欲しい。

 

「いやいや。俺はともかくお前は3回目の最後の星武祭これ以上貸しを作られたら返せない」

 

「返さなくてもいいよ」

 

「絶対に返してやるよ」

 

普段感情を露わにしない俺でも負けた時メチャクチャ悔しかったし。オーフェリアには勝てないかもしれないがシルヴィには勝っておきたい。

 

「まあそれは2年後に楽しみにしてるよ。ちなみに八幡君は3度目の星武祭も王竜星武祭にするの?」

 

「もちろん。俺ぼっちだから組む相手いないし」

 

「あ、あはは……」

 

いや苦笑いしてるが、レヴォルフにいる俺の知り合いってオーフェリアとイレーネとプリシラの3人だけだから5人必要な獅鷲星武祭には出れない。鳳凰星武祭はオーフェリアは王竜星武祭に出るし、イレーネは人と組まないだろうしプリシラは戦闘向きじゃないし。

 

だから消去法で王竜星武祭しかない。となると3度目の王竜星武祭で1番の敵は万有天羅だろう。

 

「あ、そうそう!忘れてたけどはいこれ!」

 

そう言ってシルヴィは箱を出してくる。箱を開けてみると黒い石のペンダントが入っていた。

 

「この前の海外ライブの時に見つけて八幡君に似合うと思って買ったんだ」

 

「わざわざ悪いな」

 

「いいよ別に。それより付けてみて」

 

シルヴィに促されたので箱からペンダントを取って首にかけてみる。ペンダントなんて初めて付けるからなぁ……

 

ペンダントを付けてシルヴィに見せてみると笑顔を見せてくる。

 

「うん!凄く似合ってる」

 

そうなのか?鏡がないからよくわからん。まあ世界の歌姫のお墨付きなら似合っているのだろう。

 

「似合ってるなら良かった……ん?お前クリーム付いてるぞ」

 

よく見りゃ少し顔にクリームが付いていたのでハンカチを出して拭く。よし、取れたな。

 

改めてシルヴィの顔を見るとポカンとしているが……

 

 

 

 

 

「どうしたんだ?」

 

俺が尋ねると再起動する。

 

「あ、うん。こんな事されたの子供の時以来だから懐かしくって」

 

そう言われて俺は焦り出す。世界の歌姫に何をやってんだ俺は?普通に問題ある気がするんだが……

 

「あー、悪かったな」

 

「ううん。別に気にしてないよ。ありがとう」

 

どうやら本当に怒ってないようだ。その事に安堵しながら俺達は再び食事を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カフェで駄弁る事3時間、折角なので昼食も食べようという話になって昼食を食べると既に2時を回っていた。そろそろ出るか。

 

「うーん。久しぶりにお喋り出来て楽しかったよ」

 

「そうか?俺は殆ど話をしてないからつまらなかったんじゃないか?」

 

「ううん。八幡君聞いたらちゃんと答えてくれたじゃん」

 

そりゃ2人だからな?2人でシカトとか最低だろ。

 

「……まあお前が楽しかったなら何よりだ」

 

「うん。また日本に帰ってきたら付き合ってよ」

 

「へいへい」

 

適当に返しながら店を出ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ。さっきからシルヴィアも比企谷八幡も見つからないしこのカフェで少し休もうぜー」

 

「そうだね。ちょっと疲れちゃった」

 

店の入り口付近にルサールカのミルシェとトゥーリアが俺達が今いたカフェに向かっていた。

 

……え?

 

俺はいきなりの不意打ちで思考を停止してしまった。それと同時に向こうも俺とシルヴィを見て固まっていた。

 

こうして両者沈黙が続く。

 

 

 

 

そんな中真横から声が聞こえてくる。

 

「あー!見て!ルサールカに『影の魔術師』比企谷八幡だ!」

 

横を見るとクインヴェールの女子が叫んでいた。

 

 

 

 

 

それと同時に両者が動き出す。

 

「見つけた!カメラの準備しろ!」

 

「影よ!」

 

トゥーリアが懐からカメラを取り出そうとすると同時に俺は星辰力を消費して影を俺とシルヴィに纏わり付かせる。

 

そして再び影の中に潜り始める。体の半分が潜った時にトゥーリアはカメラを取り出してこっちに向けようとしてくる。間に合え……

 

 

 

 

 

体がドンドン影の中に入る中遂にトゥーリアはカメラを向ける。そして……

 

 

 

 

カシャ

 

そんな音が聞こえると同時に影の中に入ったが……どうなったんだ?

 

 

 

 

 

疑問に思いながら上を見てみると……

 

 

 

 

 

「ダメだ!2人の頭の天辺しか撮れてねぇ!」

 

「あー!惜しい!次からは何時でも撮れるように準備しないと!」

 

どうやらセーフの様だ。今のはマジで焦ったぜ。

 

「あー、びっくりしたね」

 

横を見るとシルヴィは苦笑している。本当に危なかったぜ。

 

「全く……バレたら俺とシルヴィが付き合ってると誤解される所だったぜ」

 

あいつらマジでしばき倒すぞ?

 

「まあまあ。それに私は八幡君が彼氏でも文句ないよ?」

 

シルヴィはコロコロ笑っているがそれは冗談だろう。いくら何でも釣り合ってなさ過ぎる。

 

そんな事を考えながら俺はシルヴィが示した次の店に影を進ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、楽しかった!今日はありがとう!」

 

クインヴェールの校門前でシルヴィは笑顔で礼を言ってくる。

 

あれから3時間、時刻は既に夕方になっている。あの後何度もミルシェ達と会って写真を撮られかけて大変だった。まあ結局スキャンダルになりそうな写真は撮られなかったので良しとしよう。

 

「まあ俺も結構楽しかったぜ」

 

「なら良かった。次会うのは鳳凰星武祭がある頃だと思うから一緒に見ようね」

 

えー、シルヴィと一緒に見たらマスコミが騒ぎそうなんだけど。

 

「ああ。見れたら見ようぜ」

 

「見れたらじゃなくて見れるようにするから。じゃあね!」

 

そう言ってシルヴィは学校に入って行った。あいつ……俺が断る前に逃げやがった。こりゃ鳳凰星武祭は一緒に見ることになりそうだ。

 

ため息を吐きながら俺は影に潜り自分の寮に帰って行った。

 

 

 

 

途中でミルシェとトゥーリアが悔しがっているのを視界に入れながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寮に帰った俺は疲れたのでベッドに倒れ込む。もう今日は疲れたから風呂に入って寝よう。

 

そう思いながらベッドの上で転がっていると電話が来た。誰だ?シルヴィか?

 

「もしもし」

 

すると……

 

『あ、お兄ちゃん?久しぶり』

 

画面を見ると最愛の妹の小町がいた。

 

「おう小町。久しぶりだな。どうした?」

 

『うん。お兄ちゃんの顔が見たくなったから連絡したの。今の小町的にポイント高くない』

 

「その一言がなければな。で、何か用か?」

 

まさかと思うが本当にこれだけじゃないよね?

 

『あ、実はうちの学校に戸塚さんが入学したから……』

 

「何だと?小町それ本当か?詳しく説明を頼む」

 

『うわ、お兄ちゃん相変わらずだね……』

 

何かドン引きしてるが知らん。どうせならレヴォルフに来てほしかった……いや、ダメだ。一緒にいたいのは山々だが戸塚をあんな屑の巣窟に入れる訳にはいかない!

 

『説明って言っても戸塚さんは星導館に入学したんだよ。後結衣さんや雪乃さんもだよ』

 

「え?マジで?」

 

これについては予想外だ。あいつらも星脈世代だったのかよ?

 

『うん。まあ2人はクインヴェールだけど。後結衣さんから聞いたけど千葉村に行ったメンバーは全員アスタリスクに入ったらしいよ』

 

千葉村……って事はあのリア充グループもかよ。戸塚や奉仕部の連中はともかくあいつらもかよ……マジで関わりたくないな。

 

「とりあえず話はわかった。わざわざありがとな」

 

『どういたしまして。結衣さん達お兄ちゃんに会いたがってたから今度暇な時会ってあげなよ』

 

「へいへい。それはわかったが俺は疲れたから寝る」

 

『へ?お兄ちゃんが休日に疲れる訳ないじゃん』

 

おーい。小町ちゃん?お兄ちゃんに対してそれはないでしょ?

 

そう思っていると何故か小町のテンションが上がる。

 

『もしかして女の子とデートでもしたの?!』

 

「あー、まあな」

 

あ、やべ。返すの面倒だから適当に返しちまった。一緒に出掛けたがデートではないな。

 

『嘘?!誰誰?!今度小町に紹介してよ!』

 

こいつテンション高過ぎだろ?こっちは疲れてるんだから勘弁してくれ……

 

まあどの道小町はシルヴィのファンだからいつか紹介するつもりだ。だから……

 

「わかったわかった。じゃあ鳳凰星武祭の時に会わせてやるよ」

 

『本当?!』

 

「ああ。それと俺は疲れてるから切るぞ」

 

『ほーい。またね』

 

そう言って電話が切れると疲れが出る。まさか電話だけでこんなに疲れるのか……

 

限界を感じたので立ち上がる。今日は風呂に入って8時前に寝よう。

 

 

 

 

 

俺は息を吐きながら風呂場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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オーフェリア・ランドルーフェンは比企谷八幡に少しだけ心を開いている

 

 

 

 

 

 

高等部に進学してから1ヶ月……

 

授業も特に問題なくこなしながらいつも通り飯を食べる。いつもの事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、その特待生ってどんな奴なんだ?」

 

昼休み、いつものベストプレイスで飯を食っていると妹から電話が来たので相手をしている。まだオーフェリアは来てないので堂々と電話しても問題ない。

 

何でも小町曰く、今日星導館に特待生が来たらしい。しかも生徒会長にして序列2位の『千見の盟主』クローディア・エンフィールドのスカウトらしいので興味がわいた。

 

『えっと……名前は天霧綾斗って人なんだけど、転校初日からリースフェルト先輩と決闘して押し倒してから胸を揉んだんだ』

 

……は?

 

「すまん小町。今は食事中なんだ。下らない話に付き合いたくない」

 

転校初日にセクハラする特待生なんて絶対に嫌だ。俺がエンフィールドなら間違いなく取り消しにする自信がある。

 

『いやいや本当だって!後で決闘の記録ネットで見てみなよ!』

 

小町の口振りからしてマジっぽいが……何やってんだその天霧って奴は?転校初日に胸を揉むって大物過ぎだろ?

 

……てかリースフェルト?

 

「おい小町。リースフェルトってお前んとこの5位だよな?」

 

『そうだよ。二つ名は『華焔の魔女』お兄ちゃん知り合い?』

 

「いや、詳しくはしらん」

 

俺が知ってるのはオーフェリアの昔馴染みって事くらいだ。リースフェルトがオーフェリアと揉めた末決闘して敗北したのを見ただけだ。その後にオーフェリアから昔の話を聞いた。

 

「まあいい。とりあえず決闘はしたんだろ?胸を揉む前の試合はどうだったんだ?」

 

重要なのはそこだ。

 

『うーん。回避能力は結構高かったし、流星闘技も悪くなかったけど……正直言って会長がわざわざスカウトする程じゃないと思う』

 

ふーん。だがあの会長がわざわざスカウトするんだ。何らかの理由がある筈だろう。一度会ったが中々強かな印象だったし。

 

「わかった。ありがとな」

 

『うん。あ!それと小町、戸塚さんと鳳凰星武祭に出るよ!』

 

ほう?鳳凰星武祭に出るのか。

 

「ん?でもお前以前は王竜星武祭に出るとか言ってなかったか?」

 

『小町が出るのはお兄ちゃんが出る王竜星武祭だよ。残った一つは何でもいいし』

 

「なるほどな。ところで戸塚ってどんな戦闘スタイルなんだ?」

 

中学時代を見る限り戦闘向きの性格じゃないし。

 

「戸塚さんは魔術師なんだけど盾を作り出す能力」

 

盾?つまり防御向けって事か?となると鳳凰星武祭での戦術は小町がガンガン攻めて戸塚が守るって感じか?

 

『そうか。まあ優勝は厳しいかもしれんが頑張れ』

 

「もちろん!少なくとも本戦出場はしたいよ!」

 

「……八幡?」

 

後ろから声がしたので振り向くとこのベストプレイスのもう1人の主が来た。

 

「おうオーフェリア。今日は遅かったな」

 

「授業が伸びたのよ」

 

ほーん。だからパンを一つしか買えなかったのか。

 

そう思っていると……

 

 

 

 

 

『え?ちょっとお兄ちゃん?!何でそこに『孤毒の魔女』がいるの?!』

 

「何でって…基本的に昼飯はオーフェリアと食ってんだよ」

 

『えぇーー!!』

 

騒ぐな。オーフェリアもガン見してて居た堪れないからね?

 

「まあ色々あるんだよ。もう切るぞ」

 

『ちょっと待って!2人の関係を聞かせーー』

 

面倒になり途中で電話を切る。ついでに端末の電源も切る。今日は夜まで電源は入れない。どうせ連絡してくる奴なんて殆どいないし。

 

そう思っていると視線を感じるので振り向くとオーフェリアがジーッと見てくる。

 

「今の八幡の妹?」

 

「まあな。世界で1番可愛い」

 

「……そう」

 

そう言ってオーフェリアはパンの袋を開けてパンを食べ始める。こいつ……質問しといてそれだけかよ?絶対俺よりコミュ障だろ?

 

まあそれはともかく……

 

「おいオーフェリア」

 

名前を呼んで俺が持っているパンの一つを差し出す。

 

「食えよ。たった一つじゃ腹減るだろ」

 

午後の授業もあるのにそれだけじゃ腹減るだろうし。

 

「別にいいわ」

 

「いいからやる。いらなかったら捨てろ」

 

「………」

 

オーフェリアは俺の事をいつものように悲しげな表情で見てから暫くして俺が渡したパンの袋を開けて食べ始める。何と言うか……最強の魔女なのに食べている所は可愛いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

オーフェリアが食べ終わったので立ち上がる。いつもの事だ。早く食べ終わった方はもう片方を待ち食べ終わったのを確認して2人同時に立つ。

 

「じゃあオーフェリア。また明日」

 

挨拶をして自分の教室に向かおうとした時だった。

 

「八幡」

 

後ろから話しかけられる。いつもはそのまま去るので珍しいなと思いながら振り返る。

 

するとオーフェリアはいつもの表情のまま

 

 

 

 

 

「パン、ありがとう」

 

そう言ってきた。こいつに礼を言われたのは初めてだ。その事に驚きながらも俺は言うべき言葉を口にする。

 

「ああ。どうしたしまして」

 

オーフェリアはそれを聞くと頷いて自分の教室に戻って行ったので俺も反対方向に歩き出した。

 

オーフェリアに礼を言われた事に対して若干嬉しく思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでお兄ちゃん!『孤毒の魔女』とはどんな関係なの?!もしかして鳳凰星武祭で紹介するのって彼女の事?』

 

寮に帰り端末の電源を入れると小町から大量の着信があった。余りの多さに呆れていると再び電話が来たので出ると第一声がそれだった。

 

「だから飯食うだけの関係だよ。後鳳凰星武祭で紹介するのはオーフェリアじゃない」

 

『え?!お兄ちゃん他にも女の子の知り合いがいるの?!』

 

何でそこまで信じられないんだよ?……まあ中学時代を知っているなら仕方ないか。

 

つーかこれだけの事でここまで驚くならシルヴィを紹介した時、驚き過ぎて小町の心臓が止まりそうで怖いんですけど。

 

「まあある程度はいるな」

 

『いやー、早く会ってみたいよ。もしかしたら『孤毒の魔女』や紹介してくれる人が小町のお義姉ちゃんになるかもしれないんだし』

 

待てコラ。それはつまりオーフェリアやシルヴィが俺の嫁になるって事か?

 

それ怖過ぎるからな?最強の魔女か世界の歌姫が妻とか絶対に逆らえないだろ。てかあんな美人の夫になるのは俺には無理だ。

 

「それはねーよ。つーか鳳凰星武祭の準備はどうなんだ?」

 

後1か月もしないでエントリーは締めきられるのでそろそろ練習を始めるべきだろう。

 

すると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、うん。それ何だけど実はさっき襲われたんだ」

 

小町がいきなりそう言ってきた。

 

……は?

 

襲われただと?小町が?

 

「誰に襲われた?今から殺し……いたぶりに行くから待ってろ」

 

『今殺しに行くって言わなかった?!』

 

「気のせいだ」

 

俺の妹を襲った以上そいつは生かしてはおけない。殺してくれと頼むまでいたぶり続けて全てに絶望してどうでもよくなった瞬間に殺してやるよ」

 

『ちょっとお兄ちゃん?!実際に怪我はしてないから大丈夫だよ。てゆーかお兄ちゃん怖過ぎるよ!!』

 

ん?口に出していたか?てか妹に怖過ぎるって言われるの結構キツイな。しかし……

 

「でも何で襲われたんだ?お前は俺と違って恨まれてないだろ?」

 

俺がレヴォルフに入学した当初は色々な連中に恨まれていたがアレは俺も暴れすぎたって理由もある。しかし比較的平和な星導館にいる小町が人に恨まれるとは考えにくい。俺星導館の連中と決闘した事ないから関係ないと思うし。

 

『それが最近星導館で鳳凰星武祭に参加する序列入りが襲われて鳳凰星武祭を棄権する事件が多発してるんだよ。お昼休みに話した決闘の時にも鳳凰星武祭に参加するつもりのリースフェルトさんも襲われたし』

 

つまり小町個人が狙われた訳でなく星導館は序列入りが狙われていると……

 

事情はある程度理解したが……何故だ?

 

確かに星導館は鳳凰星武祭に強い学校だ。しかし星導館はここ数年本当に弱く去年の順位は実質最下位だ。そんな学校をリスクを犯してまで潰しに行く理由がわからん。

 

「というか風紀委員や警備隊に報告はしないのか?」

 

『それが殆どの序列入りは自分でやり返す気満々だし、警備隊は余り学校に……ね?』

 

まあ自分の学校に頭の固い警備隊を入れたくない気持ちは良く分かる。しかしやり返すってのは理解に苦しむ。襲われて棄権する相手に勝てないだろう。己の力量も理解できんのか?

 

「事情はわかった。とりあえず怪我したら言え。情報を引き出して犯人に地獄を見せるから」

 

小町が怪我でもしてみろ。ディルクと取引して奴の手駒になってでも犯人の情報を引き出して殺してやる。

 

『大丈夫だって。心配性だなー。それより戸塚さんがお兄ちゃんに会いたいんだって。今度時間取れる?』

 

戸塚か。まあ久しぶりに会いたいな。俺の予定は……

 

「今週の土曜日の午前にレヴォルフで公式序列戦があるからその後か日曜日なら空いてるぞ」

 

公式序列戦で俺に挑むのはオーフェリアを除いた冒頭の十二の10人くらいだ。確か指名してきたのはイレーネと末席のモーリッツだったか?

 

イレーネは持っている純星煌式武装は強いが燃費が悪いので長期戦に持ち込めば負けはないし、モーリッツは雑魚だから問題ない。レヴォルフで俺をタイマンで倒せるのはオーフェリアだけだろう。

 

『ほいさっさー。じゃあ戸塚さんに連絡しとくね。公式序列戦頑張ってね』

 

「おう。そういやお前は公式序列戦どうすんだ?」

 

『小町?今回小町は冒頭の十二人からは挑まれてないよ。それで今回挑むのは4位のファンドーリンさんだよ』

 

『氷屑の魔術師』か。戦闘スタイルは氷で相手を止めたり、近距離や遠距離攻撃も出来る万能タイプ。記録を見る限り今の小町の実力なら運が味方をすれば勝てるレベルって所だ。

 

まあ才能だけなら小町が上だ。小町の奴、中等部1年で冒頭の十二人になったし。

 

「まあ厳しいかもしれんが頑張れよ」

 

『もちろん!小町の目標はお兄ちゃんに勝つ事なんだから絶対に勝つよ!』

 

そいつは楽しみだ。……が、俺も負ける訳にはいかない。アスタリスクに移ってから割と戦うのを好きになったからな。というかオーフェリア以外には負けたくない。

 

「じゃあ2年後を楽しみにしてる。またな」

 

そう言って電話を切る。時計を見ると時刻は7時を回っていた。かなり電話をしていたようだ。

 

「とりあえず……飯食うか」

 

俺は戸棚にあるインスタント食品を取り出しにキッチンに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから日は経ち……

 

 

 

 

 

土曜日、レヴォルフの公式序列戦が行われるステージはレヴォルフの生徒で賑わっている。そんな中、売り子や賭けの胴元が騒いでいるのが目に入る。

 

「相変わらずうちの学校のステージはうるせーな」

 

試合まで暇なので休憩場所に向かっている俺は一緒に歩いているオーフェリアに話しかける。

 

「そうね。でも慣れたわ」

 

オーフェリアはいつも通りの表情で返してくる。何年もレヴォルフにいるオーフェリアからすれば慣れるのも必然だろう。

 

「まあそうかもな。後昼飯まだだろ?これ食えよ」

 

そう言ってさっき買ったたこ焼きを差し出す。オーフェリアはまばたきしてから差し出したたこ焼きをパクリと食べる。相変わらず戦ってない時は可愛げのある奴だ。

 

「ところでオーフェリアは今日誰と戦うんだ?」

 

「確か序列16位と25位の2人ね。何故挑むのかしら?私の運命は誰にも覆せないのに……」

 

出たな。オーフェリアの口癖。俺も昔戦う前にそう言われて見事に負けたからな。そこらの奴が言ったらかっこつけに聞こえるがオーフェリアが言うと事実であるように思う。

 

「さあな。実際に戦わないと納得しない奴もいるんだよ」

 

いくら正しくても納得出来ない事もあるがそれと同じだろう。

 

「……そう」

 

そんな事を話していると休憩場所に着いたので中に入る。そこには何人か見た顔がいるが序列入りメンバーだろう。

 

入った瞬間、全員が恐れを帯びた表情で見て距離を取る。……ったくぼっちにこの目はキツイから勘弁してくれよ。

 

息を吐きながら暫くの間待っているとオーフェリアの端末が鳴りだした。どうやらもう直ぐオーフェリアの第一試合が始まるようだ。

 

「……じゃあ行くわ」

 

そう言って立ち上がる。

 

「頑張れよ」

 

適当に応援する。まあこいつに応援なんていらないだろうけど。

 

「んっ……」

 

オーフェリアは良くわからない返事をしてステージの方へ歩いて行った。それと同時にステージを見る。

 

 

 

 

 

5分くらいしてステージにオーフェリアが現れるとステージは騒がしくなる。しかし直ぐに静かになるだろう。

 

反対側のステージからも男子生徒がやってくる。オーフェリアは知り合いだから試合は見るが知り合いじゃなかったら間違いなく見ない。

 

理由は簡単。オーフェリアがレヴォルフで負ける事は絶対にないだろうから。

 

何せ俺の行きつけのカジノのオッズだとオーフェリアが勝つに賭け当たると1.00006倍になって帰ってくる。つまり10万円賭けても6円しか儲からない。

 

逆に対戦相手の男子生徒が勝つと100円が1億円近くになる。それでも殆どの連中がオーフェリアに賭ける。男子生徒に賭けるのは遊び半分の連中くらいだ。

 

 

そんな事を考えている中試合開始のブザーがなり男子生徒がオーフェリアに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『試合終了!勝者オーフェリア・ランドルーフェン!』

 

会場はさっきまでの騒がしさはなくなり重い空気となっている。ステージでは対戦相手の男子生徒が意識を失っていて担架に乗せられていた。

 

オーフェリアはそれを一瞥してステージ入り口に戻って行った。相変わらず桁違いだな。

 

オーフェリアの強さに改めて驚いていると俺の端末が鳴り出したので俺も立ち上がりステージ控え室に向かって歩き出した。

 

控え室が見えてくると前からオーフェリアがやってきたので会釈をする。

 

「八幡」

 

するといきなりオーフェリアから話しかけてきた。飯の時以外でこいつから話しかけられるなんて珍しいな。

 

驚いている俺を無視して話しかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡なら負けないだろうけど頑張って」

 

そう言って俺が返事をする前に去って行った。

 

さてさて。元々やる気はあるが……オーフェリアから応援された以上は全力で勝ちに行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

改めて気合いを入れた俺は歓声のシャワーを浴びながら対戦ステージに入った。

 

 

 

 

こうして比企谷八幡の高等部初の公式序列戦が始まった。



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比企谷八幡の公式序列戦が始まる(前編)

 

 

 

 

 

 

周りから歓声を浴びていると反対側のゲートから1人目の対戦相手が現れる。

 

1人目の対戦相手はレヴォルフの序列12位『螺旋の魔術師』モーリッツ・ネスラーだ。そして俺の事を物凄く睨んでいる。

 

まあ以前俺が序列20位の時に当時序列10位のモーリッツを冒頭の十二人から蹴落としたからな。恨まれても仕方ないだろう。

 

まあだからどうしたって話だが。

 

「よう。あんたとやるのは久々だな」

 

「……ええ。あなたに負けた屈辱は1日も忘れていませんよ。今日あなたを倒して不動と言われている序列2位の座をいただきます……!」

 

俺は序列2位の座を手に入れてからはオーフェリア以外には負けてない。その為レヴォルフの序列1位2位は不動扱いとなっている。

 

「残念だがそれは無理だ。お前の力じゃ俺の運命は変えられない」

 

一度言ってみたかったセリフを言ってみる。するとモーリッツは不愉快そうに目を細める。

 

「あの女の真似ですか……!なるほど、あなたがあの女と連んでいるのは有名でしたがやはり化け物同士仲が良いようですね」

 

そう言われて今度は俺の目が細まるのを自覚する。俺はともかくオーフェリアは裏の世界に巻き込まれて化け物になったんで好き好んで化け物になった訳ではない。

 

だがこいつに説明する気はない。人のプライバシーを話す趣味はないしこんな雑魚に話す時間を割きたくない。

 

「はいはい。どうせ俺は化け物ですよ。御託はいいから早く来いよ。12位のカスが」

 

代わりに皮肉たっぷりの笑みを浮かべる。

 

「き、きさま……!」

 

おっ、呼び方が変わったな。相当キレてやがる。まっ、精々イレーネとの戦いのウォーミングアップくらいの戦いになってくれよ。

 

心の中で次の試合の事を考えている中、試合開始のゴングが鳴る。

 

『試合開始!』

 

アナウンスが流れると同時にモーリッツは俺に突っ込んでくる。それと同時に突風が巻き起こりモーリッツの両腕に纏わりつく。

 

突風がドリル状の三角錐を形成すると同時に俺は腰からナイフ型の煌式武装『黒夜叉』を抜いて星辰力を込め迎え撃つ。

 

黒夜叉とモーリッツの両腕がぶつかると同時に火花が飛び散り甲高い摩擦音が鳴り響く。

 

それを確認すると俺は空いている左手にハンドガン型煌式武装『レッドバレット』を抜いて発砲する。

 

「ちっ!」

 

モーリッツは舌打ちをして下がる。俺のレッドバレットは物理的攻撃力はないかわりに相手の気分を悪くする精神攻撃能力を持っている。気分が悪くなると言っても10発当てて乗り物酔いするくらいでそこまで強くない。

 

要するにガラードワースが持っている純星煌式武装『贖罪の錐角』の粗悪なデッドコピーと思ってくれればいい。あの聖杯と違って人の意識を奪うなんて無理だし。

 

モーリッツが下がるのを見て更に発砲する。何十発も撃ち込んでいるが余り当たらないな。

 

(……仕方ない。距離を詰める)

 

そう判断すると同時にモーリッツに突っ込み再度黒夜叉とモーリッツの右腕がぶつかる。

 

それと同時にモーリッツに向けて発砲しようとする。しかしモーリッツの左腕が俺のレッドバレットを弾き飛ばした。ありゃりゃ、拾うのは無理っぽいな。

 

「……どういうつもりですか?」

 

次の手を悩んでいるとモーリッツが睨みながら話しかけてくる。

 

「何の話だ?」

 

「とぼけないでください。何故一度も影を使わないのですか?」

 

あぁ。それは簡単だ。今の俺は煌式武装による鍛錬中だからだ。

 

去年の王竜星武祭、俺がシルヴィに負けた理由は色々あるがそのうちの一つは煌式武装による戦闘があると思う。

 

当時の俺は自身の能力に頼りまくり煌式武装を軽んじていた。それに対してシルヴィは自身の能力と煌式武装を上手く噛み合わせていた。

 

それ以降俺は毎日煌式武装を使うようになり鍛え、高等部に上がった頃に基礎をマスターしたので実戦練習をする必要があった。

 

そしてその相手がモーリッツって訳だ。

 

まあそれを一々説明するのも怠いからなぁ……

 

「使ってもいいが使ったらお前の勝ち目は0になるけどいいのか?」

 

そう返すと更に目を細めてくるが事実だぞマジで?

 

(……まあいいや。飽きたし適当に終わらせよう)

 

そう思いながら俺は意識を集中して星辰力を消費する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「影の牢獄」

 

そう呟くと俺の影が蠢き出してモーリッツの足に纏わりつき動きを止める。

 

「なっ……?くっ!こんなもの!」

 

モーリッツは振り払おうとするがそんなんじゃ俺の影は振り払えないぞ。

 

「広がれ」

 

俺がモーリッツから離れながらそう呟くと纏わりついていた影が捕食者の口の様に大きく広がりモーリッツを包み込んだ。それは黒いボールのようにステージに存在している。

 

「な、何ですかこれは?!」

 

ボールが出来ると同時にボールの中から叫び声が聞こえてくるので質問に答える。

 

「影の牢獄。俺の星辰力が混じった影で相手を閉じ込める技だ。これを破壊するには純星煌式武装でも持ってくるんだな。……あ、それと中の空気は限られてるから早く出ないと死ぬぞ」

 

実戦で使うのは初めてだがこれを破れるのはそうはいないだろう。そりゃ各学園のトップ3以上の奴らには時間稼ぎすら使えるか怪しいがモーリッツ程度ならこれで充分だ。

 

「くっ!こんなもの……!」

 

そんな声が聞こえてくるのと同時に鈍い音が聞こえてくる。おそらく影の牢獄を破壊しようと試みているのだろう。

 

しかし音は聞こえてくるも破れる様子はない。その音が2分くらい聞こえていると牢獄の中から疲弊したような声が聞こえてくる。

 

この様子だと後2分くらいでモーリッツは息が出来なくなるだろう。そうすりゃ意識不明扱いで俺の勝ちだ。

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだだ!暴風の咬滅!」

 

モーリッツがそう叫ぶと同時に牢獄の中からさっきより遥かに甲高い音が聞こえてくる。

 

出たなモーリッツ最強の技。あの技は攻撃速度が遅いが破壊力ならレヴォルフ屈指だ。これなら牢獄を破壊出来るだろう。

 

案の定牢獄に綻びが生じている。

 

「おおおおおっ!!」

 

モーリッツが叫ぶと同時に更に綻びが広がっている。それにより牢獄全体に罅が出来た。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!!」

 

モーリッツの叫びと共に牢獄は破壊された。破壊された影は俺の足元に戻り始める。

 

うんうん。まさか影の牢獄が破壊されるとはな……。これについては完全に予想外だった。本当におめでとうモーリッツ。

 

だからお礼に……

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあな」

 

速攻で試合を終わらせてやるよ。

 

俺は黒夜叉でモーリッツの校章をぶった切った。

 

「……え?」

 

自身の最強技を放って疲労困憊のモーリッツは素っ頓狂な声を上げる。

 

それと同時にモーリッツの校章が敗北を告げる。

 

『モーリッツ・ネスラー 校章破損』

 

『試合終了!勝者比企谷八幡!』

 

アナウンスが流れると歓声が上がる。先ずは一勝だな。

 

モーリッツを見ると未だに茫然としていた。これは話しかけない方がいいな。

 

そう思いながらステージを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージから消えた俺はオーフェリアが待っている休憩場所を目指す。すると控え室からイレーネが出てきて不敵な笑みを浮かべてくる。

 

「よー八幡。試合見たぜ。中々面白い技持ってんじゃねーか」

 

そう言って肩を組んでくる。

 

「っても純星煌式武装持ちのお前には使わないと思うぞ」

 

「ほー。まあいいや。今日こそお前に勝って2位の座を頂くぜ」

 

「悪いがそう簡単に渡すつもりはないな」

 

「言ってろ。次はステージでな」

 

そう言ってイレーネはステージに行った。確かイレーネの相手は序列30位だっけか?余程の事がない限り負けないだろう。

 

イレーネが見えなくなるまで見送ってから俺も歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩場所に戻るとオーフェリア1人だけだった。向こうも俺に気付いて会釈をしてくるので隣に座る。

 

「お疲れ様」

 

「おう」

 

「八幡の影の牢屋は初めて見たわ」

 

「まあ俺の影技は使い道が色々あるからな。っても牢屋はお前には効果ないだろうな」

 

「……そうね。八幡が私を倒せるとしたらあの技だけでしょうね」

 

そう言われて前回のオーフェリアとの序列戦を思い出す。

 

「まあアレは強力だがデメリットが多過ぎる。現に俺はお前に1回も勝ってないし」

 

アレはまさにつのドリルや地割れと言った命中率の低い一撃必殺だから。何としても2年後の王竜星武祭までにモノにしないとな。

 

そう思いながらイレーネの試合を見ると対戦相手はイレーネの純星煌式武装に押し潰されて気を失った。まあイレーネが負けるとは微塵も思っていなかったけど。

 

次の組み合わせを見ていると腹が鳴る。やっぱりたこ焼きだけじゃ足りないな。

 

「オーフェリア、俺今から追加で飯食うが何か買ってきて欲しい物あるか?」

 

「……じゃあコーヒーをお願い」

 

「それはMAXコーヒーか?」

 

「普通のコーヒーで」

 

ちっ。残念極まりないな。一度オーフェリアに勧めてみたが、一度飲んで以降飲んでくれない。

 

若干ガッカリしながら俺は売店に足を運んだ。



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比企谷八幡の公式序列戦が始まる(中編)

売店に行きハンバーガーセットとコーヒー2つを買った俺は休憩場所に戻ると相変わらずオーフェリア1人だけだった。

 

「ほれ」

 

適当に買ったコーヒーを渡しオーフェリアの隣に座る。

 

「ありがとう」

 

いつもの表情でコーヒーを飲み始めるので俺も買ったハンバーガーセットを食べ始める。

 

画面では序列外の人間が序列入りに挑んでいるが……余り盛り上がってない。まあさっきまでレヴォルフの序列1位2位3位の3連続の試合だったからな。

 

とりあえず俺が賭けてる試合は……よし、順調だな。これなら割と稼げる。携帯を見ながら笑っているとオーフェリアが見てくる。

 

「……八幡も賭けとかするのね」

 

「偶にイレーネに付き合わされる。意外か?」

 

「そうね。別に悪い事とは言わないわ」

 

「そいつはどうも」

 

オーフェリアの冷たい瞳で引かれたら結構……あれ?ヤバい、結構ゾクゾクする。

 

若干ドMに目覚めかけているとオーフェリアの腹が鳴る。当の本人は特に恥ずかしがる素振りを見せていないが。俺は気にしないが女の子なら少しは恥じらいを持てよ。

 

俺はため息を吐きながら無言でオーフェリアにポテトを差し出す。オーフェリアは俺を見てくるので首で促すとポテトを口にする。

 

「……ポテトなんて久しぶりに食べるわね」

 

「そんなにか?」

 

「ええ。昔孤児院にいた頃に食べていたわ」

 

孤児院……確かリーゼルタニアだっけ?星導館のお姫様の国だったな。

 

「ふーん。まあ美味けりゃそれでいい」

 

モグモグ食べているから少なくとも不味いと思ってはいないだろう。

 

「そういやオーフェリア。お前今日序列戦終わったら暇か?」

 

「……?いきなりどうしたの?」

 

「いやこの後妹と会うんだがお前に会いたいらしくて」

 

オーフェリアと知り合っているのを知って以降会わせろ会わせろって言ってくるし。

 

「用事はないけど……無理ね。八幡は効かないから忘れているのかもしれないけど私は常に周囲に毒素を撒いているのよ。八幡の妹に害を及ぼしたら悪いわ」

 

あー、そうだった。俺は体内を影でコーティングしているからオーフェリアの毒は効かないが小町には耐えられないだろう。

 

「それに……私みたいなつまらない人間と知り合っても八幡の妹は喜ばないわ」

 

オーフェリアはそれがさも当然の様に言ってくる。しかし俺はそれに対して異を唱える。

 

「そうか?俺はお前をつまらないと思わないし優しいと思うぞ?」

 

そう返すとオーフェリアはほんの少し、しかし確実に驚きを顔に浮かべながら俺を見てくる。

 

「優しい?本気で言っているの?」

「いやだって俺がパンを落とした時にはくれたし、今だって小町に悪いと思って遠慮したじゃん。普通に優しいと思うが」

 

オーフェリアに近寄ると毒に襲われると悪魔扱いしている人が多いが、オーフェリアの毒を防げる俺からすれば話してみればリアクションは薄いが普通の人間だと思うし。

 

「………」

 

「何だよ?鳩が流星闘技くらったような顔しやがって」

 

「別に……今の私を優しいなんて言う変わり者なんて八幡ぐらいと思っただけよ。後、鳩がくらうのは豆鉄砲よ」

 

「流星闘技は軽い冗談だが……俺ってそんな変わり者か?」

 

「王竜星武祭でMAXコーヒー飲み放題を願う人は普通に変わり者よ」

そこを言われると何も言えないな。これはシルヴィや小町も呆れるくらいだし。

 

「へーへー。どうせ俺は変わり者ですよ」

 

んな事は自分でもわかっている。

 

「……でも、あなたは優しい人。こんな私にいつも優しくしてくれる本当の変わり者」

 

「……っ」

 

無表情でそう言ってくるがハッキリと言うな。別に俺は特に優しくしたつもりはない。だから優しいって訳じゃない。

 

……なのに、オーフェリアに言われると……悪くない気分だ。

 

「……そいつはどうも。俺を優しいって言うなんてお前も変わり者だな」

 

「そうね。私も八幡も変わり者」

 

それについては否定しないがはっきりと言うなよ……しかも自分自身の事も変わり者呼ばわりしてるし。

 

そんなオーフェリアを見て苦笑していると俺の端末が鳴り出した。それはつまり今からイレーネと戦うって事だ。

 

「じゃあ俺は先に行く」

 

「……ええ。頑張って」

 

「お前もな」

 

そう返しながら再度控え室に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージに出ると再び歓声が上がる。一部では「やれー!」だの「ぶ

っ殺せー!」って聞こえてくるがこれは絶対にレヴォルフだけだろう。

 

そう思いながら反対側のゲートを見ると対戦相手のイレーネがやって来た。それにより更に歓声が大きくなる。

 

しかし俺は歓声を無視してイレーネと彼女の肩に担がれている純星煌式武装『覇潰の血鎌』に意識を集中する。イレーネとは何度かやり合った事があるがあの純星煌式武装はあんまり好きじゃない。はっきり言ってやり辛い。

 

俺も腰にある黒夜叉とレッドバレットを抜くとイレーネが不敵な笑みを浮かべてくる。

 

「そういや、お前とは決闘は良くするが公式序列戦でやるのは久々だな」

 

言われて思い出してみる。確かに公式序列戦でやったのは半年前だ。

 

「そうだな。まあ勝つのは俺だ」

 

「言ってろ。今日こそ不動の2トップの一つを貰うぜ」

 

そう言って『覇潰の血鎌』を軽く振るう。いつでも準備万端のようだ。

俺が改めて息を吐くと……

 

 

『試合開始!』

 

試合開始のアナウンスが流れると同時に動き出す。

 

「影の刃」

 

そう呟くと俺の影が地面から刃の形状となり一直線でイレーネに突き進む。

 

「はっ!単体のそれは怖くねーよ!」

 

イレーネは笑いながら軽いステップで回避する。まあこんな挨拶を避けれない奴が冒頭の十二人にいる訳がないよな。

 

だったら……

 

「影の刃群」

 

改めて次の能力を発動する。

 

それによってさっきイレーネに飛ばした影の刃は何百もの小さい刃となって散弾のごとく多方向に襲いかかる。それと同時にレッドバレットをイレーネに狙いを定めて放つ。

 

これが俺の基本的なスタイルである。影の刃群による攻撃で倒せれば良し、倒せなくてもレッドバレットで相手の気分を悪くしてコンディションを下げれば問題ない。

 

事実このスタイルはオーフェリア以外の相手には必ずと言っていいくらい利用している。オーフェリアにはこんな小細工効かないから特別なスタイルで挑んでいるけど。

 

 

「ちぃ!相変わらずいやらしい攻撃だぜ!」

 

そう言ってイレーネは『覇潰の血鎌』を振るって影の刃を破壊しながら銃弾を避ける。しかし完璧に両方をこなすのは不可能のようでレッドバレットの弾丸は何発か受けた。後5、6発当てたら乗り物酔いに近い頭痛を与えられる。そうすりゃ一気に有利になる。

 

「てか重力は使わないのか?」

 

「お前相手に無闇に使ったら負けるだろうが!」

 

あー、そうだった。『覇潰の血鎌』は所有者の血液を奪うんだった。補給役の妹のいないイレーネは乱発は厳禁だろう。

 

(……と、なると俺の隙を突く際に使うはずだ)

 

なら簡単だ。隙の少ない攻撃で削りながら大技で倒す。

 

そう判断した俺は自身の影に星辰力を込める。すると影の一部が地面から離れ形状を変えて散弾銃となった。

 

それが俺の手に渡ると同時に躊躇いなく引き金を引く。すると銃口から50近くの弾丸が一斉に放たれる。

 

更に畳み掛ける為再度影に星辰力を込め影の刃群をイレーネ目掛けて放つ。

 

「ちっ!重獄葦!」

 

対してイレーネは舌打ちをしながら『覇潰の血鎌』を横に振るう。するとイレーネの前方に紫色の壁が現れて全ての影が防がれた。

 

(……やっぱこの程度で純星煌式武装は破れないか。だったら……)

 

「影よ」

 

そう呟くと同時に影が俺の体に纏わりつき地面に引きずり込まれ影の中に入る。幸いイレーネには紫色の壁があるから見られていないだろう。

 

影に入ると同時に俺はイレーネの後ろに回りこむ為に移動を始めた。

 

イレーネの真横あたりに着くと紫色の壁が消えた。するとイレーネは俺がいない事に気付いて一瞬驚いた顔をするが直ぐにキョロキョロし始める。イレーネは間違いなく俺が影に潜っているとわかっているだろう。

 

だが……遅い。俺は既に後ろに回り込んでいる。

 

 

 

俺は影から出てそれと同時にレッドバレットを乱射する。後ろからの不意打ちの為イレーネは10発近く被弾した。これでイレーネにかなりの強さの頭痛が襲うだろう。これなら一気に楽になるな。

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐうっ!十重壊!」

 

イレーネは顔を顰めながらも『覇潰の血鎌』を振るって自身の周囲に複数の黒い重力球を出して俺に放つ。

 

それと同時に影の壁を作るも全ての重力球を防ぐ事は出来ずに2発防ぎ損ねてこちらに向かってくる。

 

1発は迎撃しようとしたレッドバレットに当たる。それと同時に重力球は一気に縮小して、レッドバレットを飲み込んで弾き飛ばした。

 

残った1発は俺の体に当たる。するとさっき同様、重力球は縮小して一気に重力が増し俺に襲いかかる。

 

「ぐううううっっ!!」

 

それによって地面に押し付けられ、高重力に体中が軋む。ヤバい……

 

「か、影よ」

 

俺は痛みに堪えながらも半ば無理やり影に星辰力を込める。それによって影が俺の体に纏わりつき地面に引きずり込まれる。

 

影の中に入ると高重力による苦しみはなくなった。とりあえず負けは回避したな。

 

安堵の息を吐いていると地表ではイレーネが苛ついた表情を見せている。

 

「ちっ!これだから八幡はめんどくせーんだよ!他の連中なら今ので勝ってたのに!」

 

それについては同感だ。あの状態からどうにかなるのは影の中に逃げられる俺ぐらいだろう。

 

 

(……しかし今回は俺のミスだ)

 

イレーネに頭痛を与える事に成功して一瞬油断した。純星煌式武装相手にそれは厳禁だ。

 

 

油断こいた所為で小さくないダメージをくらったな。このままじゃ負けるかもしれん。

 

(……いや、負けるのは嫌だ)

 

オーフェリアに勝つ事を目標としている者としてオーフェリア以外に負けていられない。

 

そう判断した俺は作戦を変更した。初めは長期戦にするつもりだったが短期決戦にする事にした。久々に本気を出すとするか。

 

(さて……オーフェリアとシルヴィ以外に使うのは初めてだが……まあイレーネの実力なら過剰攻撃扱いにならないだろう)

 

最強のカードの一つを切ると決めた俺は目を閉じてゆっくりと、それでありながら大量の星辰力を練り始める。

 

体全体に星辰力が渡ったのを確認して口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「纏えーーー影狼修羅鎧」



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比企谷八幡の公式序列戦が始まる(後編)

 

 

 

「纏えーーー影狼修羅鎧」

 

俺がそう呟くと周囲に存在している影から水音に近い音が聞こえ始める。

 

それを認知すると同時に俺の顔に奇妙な感触が襲いかかり、視界が少し狭くなる。そしてその感触は徐々に首や胴体、足にも伝わる。

 

体全身に伝わると奇妙な感触はなくなり、その代わりに若干の重みを感じるようになった。どうやら装備を完了したようだ。

 

さて、やるか。

 

そう判断すると俺は影の中から地上に上がった。

 

 

 

 

 

 

 

地上に上がるとイレーネは俺を見て目を見開き、観客席からは騒めきが聞こえてくる。

 

「……でたな。2ヶ月前のオーフェリアとの序列戦の時以来に見たな」

 

イレーネは目を細め憎々しげに、それでありながら若干の恐れを帯びた声でそう言ってくる。最後に使ったのはそん時か。

 

「そうだな。悪いが一気に決めさせてもらうぞ」

 

「……相変わらず凄まじい雰囲気の鎧だな」

 

イレーネが指し示しているのは俺が纏っている鎧だろう。現在俺は顔の部分は狼を模した兜をかぶっていて、全身は西洋風の黒い鎧に包まれている。影で出来ているが外見は硬そうな鎧である。

 

俺は息を吐くと同時に突っ込む。それによって若干鎧から影の揺らめきが生じている。

 

「ちいっ!十重壊!」

 

イレーネは叫びながら『覇潰の血鎌』を振るって自身の周囲に黒い重力球を浮かばせて俺目掛けて放つ。対して俺は避ける素振りを見せずに突っ込む。それによって複数の重力球は俺の鎧にぶつかる。

 

普通なら重力球は縮小して効果を発揮するが、今回は縮小する前に全ての重力球は鎧に飲み込まれた。

 

それと同時に鎧から鈍い音が響き渡り重力球を取り込んだ腹辺りに振動が走り吐き気を促してくる。影の中で重力が蠢いているのだろう。

 

 

だが……

 

「無駄だ。俺の星辰力を大量に込めたこの鎧を纏っている時は大したダメージにならん」

 

俺の切り札の一つ、影狼修羅鎧。

 

俺の総星辰力の約半分を注ぎ込んで作られる影の鎧。効果はシンプル、ありとあらゆる攻撃を鎧が飲み込んで俺の体に与えるダメージを減らす。

 

ただダメージ減少量が桁違いで純星煌式武装である『覇潰の血鎌』の重力球を数発食らってもゲロ吐きそうになる程度の痛みで済むレベルで重力によるダメージは殆どゼロだ。

 

消費星辰力が大きい為使う事は滅多にないが普通に使ったら多分冒頭の十二人以外では傷一つ付けられないだろう。

 

俺は特に痛みを感じる事なくイレーネに近寄り拳を放つ。わざわざ煌式武装を使うまでもない。鎧の一撃は並の流星闘技を上回る破壊力だ。

 

「ぐううっ!」

 

イレーネは咄嗟に『覇潰の血鎌』を盾にして俺の拳を受け止めて後ろに跳ぶ。それによって壁にぶつかるが俺の中では手応えを感じない。

 

(……後ろに跳んで衝撃を和らげたか。相変わらず体術も一級品だな)

 

あの技術は俺も会得しようと努力しているが中々上手くいっていないからな。勉強しておこう。

 

「ってーな……ふざけた威力してやがる。全然衝撃を殺せなかったぜ」

 

煙の中からイレーネが首をコキコキしながら出てきた。見ると制服は汚れていて口からは血が出ていたのでダメージは小さくないだろう。

 

一気にケリをつけるべきだろう。そう判断した俺は再度突っ込む。後1発決めれば勝ちだろう。

 

対してイレーネはよろめきながらも『覇潰の血鎌』を構える。

 

「確かにその鎧は強い。だがこれならどうだ?」

 

イレーネの中で『覇潰の血鎌』が嗤っているように震えだす。それと同時にイレーネが一振りすると紫色の光が地面を走る。それはかなりの広範囲だ。

 

『覇潰の血鎌』は重力球を放つ攻撃と範囲指定型の重力操作の攻撃がある。今イレーネが放ったのは後者だろう。

 

しかしこの技には欠点がある。範囲指定の為発動までに若干のタイムラグが存在している。つまり同じ場所に留まらずに動き続ければその効果を受けないで済む。

 

大抵の連中は実力が追いつかず捕まるだろうが俺には特に問題なくこなせる。

 

対象座標の範囲から逃れて拳を叩き込む。それで俺の勝ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思った時だった。

 

「……あ?」

 

いきなり浮遊感に襲われたかと思ったら身体がふわりと浮き上がっていた。

 

試しに腕を動かしてみるが空を切り身体は回転するだけだ。ヤバい、何も出来ない。

 

焦っているとイレーネは笑いながら話しかけてくる。

 

「残念だったな八幡。こいつを見せるのは初めてだが厄介だろ?重力を重くするのは燃費が高いが、弱い場合はそうでもねぇんだよ」

 

なるほどな。だから広範囲を指定出来た訳か。

 

「それにさっき面白い事言ってたな?重力球をくらった時に大したダメージにならないって」

 

「それがどうした?」

 

「って事は少しはダメージがあったんだろ?重力球を10発くらって大したダメージじゃないってのは流石だが……その10倍以上ならどうだ?」

 

イレーネがそう言うと『覇潰の血鎌』のウルム=マナダイトが紫色の光を強める。てか10倍以上だと?!

 

「ーー万重壊!」

 

イレーネがそう言って『覇潰の血鎌』を振ると『覇潰の血鎌』周囲から小型の重力球が大量に現れる。その数は軽く100を超えるだろう。

 

(……ヤバい。どうする?マジで負けるかもしれん)

 

何とかして重力から逃れようとするもバタバタするだけで逃げられん。そう思っているとイレーネはがくりと膝を折った。

 

「ぐうっ……大分使い過ぎだな。これで決めねぇと……!」

 

その顔は苦しそうだ。『覇潰の血鎌』は能力の代償として所有者の血液を要求する。使い手の身体を変質させて外部から血液を摂取できるようにしているが、今回は回復役がいない為これ以上は能力を使えないだろう。

 

つまりこの攻撃を凌げれば俺の勝ちだ。とはいえ凌げるかは微妙だが。

 

そう思う中、イレーネは『覇潰の血鎌』を振り上げる。ヤバいヤバい!

 

「終わりだ!これで序列2位はあたしの者だ!」

 

イレーネはそう叫び『覇潰の血鎌』を振り下ろす。それと同時に無数の重力球が俺に向かって飛んでくる。全部くらったらいくら影狼修羅鎧でもマズイかもしれん。

 

慌てながら辺りを見渡すと地面が見え、地表に俺の影がうつっていたのが目に入る。

 

瞬間、一つの案が浮かんだ。もうこれしかない。

 

 

「影よ!」

 

そう叫ぶと俺の影が地面から一直線に伸びて俺の足に絡む。

 

「なっ?!」

 

イレーネが驚く中、影は俺を無理やり地面に引っ張り始める。影を使って影の中に逃げればいい話だ。

 

しかし考えつくのが一足遅かった。影の中に潜るまで何発かくらうだろう。もっと早く考えついてれば……

 

内心舌打ちをしていると腹に何発もの衝撃が走る。影の鎧の中に入った重力球が影の中で暴れているのだろう。

 

それが何度も襲いかかり吐き気を引き起こす。早く影の中に……!!

 

ドプッ……

 

幾重にも襲いかかる衝撃を耐えながら、何とか影の中に入る事に成功した。

 

影の中に入ると同時に上から爆音がしたので見ると重力球が俺がいる場所に降り注いでいた。アレをくらったら星脈世代でもヤバいだろう。

 

しかし影の中にいる俺はセーフだ。この中にいる間はオーフェリアやシルヴィでも干渉出来ないからな。

 

そう思っていると爆音が止んだので上を見ると重力球は全て無くなっていてステージには限界寸前のイレーネがいた。

 

それを確認して影の中から出るとイレーネは引き攣った笑みを浮かべている。

 

「……ったくてめぇの能力は……『戦律の魔女』とは違った意味で万能だな」

 

息を切らしながらそう言ってくる。いやいや、確かに俺の能力はわりと優秀だがシルヴィに比べたら万能じゃないぞ?

 

「まあ影に干渉は出来ないからな。……それでどうする?俺も大分星辰力を失ったがお前の負けだと思うが」

 

「ちっ……分かりきってる事言ってんじゃねぇよ。あたしの負けだよ」

 

イレーネは舌打ちをしながら校章に手を当てて降参の意を示した。

 

 

 

『試合終了!勝者比企谷八幡!』

 

それと同時にアナウンスが流れて歓声が上がる。

 

余りの煩さに若干苛立ちながらイレーネに近寄り引っ張り起こす。

 

「おらよ。肩貸すぞ」

 

「悪りーな。医務室まで頼む」

 

「へいへい」

 

適当に返事をしながらイレーネに合わせてゆっくり歩き出す。歓声のシャワーが続く中ステージのゲートに歩を進めた。

 

 

こうして俺の高等部初の公式序列戦は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

医務室に着いたと同時にイレーネは輸血パックを取って一気に飲み始める。本当に吸血鬼みたいだな……

 

「よしっ。これで支障なく動けるな」

 

「そいつは良かったな」

 

「まあな。にしてもてめぇの影の中に逃げるアレは反則じみてるだろ!」

 

「それについては俺もそう思っているな」

 

「本当に厄介だぜ。……にしても今回も負けちまったか」

 

イレーネは頭をガリガリかきながら悔しそうな表情を見せてくる。

 

「悪いな。2位の座は結構気に入ってんだよ。そう簡単に渡さねーよ」

 

するとイレーネがニヤニヤしてくる。いきなりどうしたんだ?

 

「けっ。仲の良い『孤毒の魔女』と並んでいるのは楽しそうだな」

 

……何か含みのある言い方だな。結構イラってきた。

 

「おいイレーネ。その言い方だと俺とオーフェリアが恋人みたいじゃねぇか」

 

「ん?違うのか?学校の裏サイトとかにはお前とあいつが恋人って書かれてるぞ」

 

はぁ?!

 

俺は自分の端末を操作してレヴォルフの裏サイトに行ってみる。

 

するとそこには『序列1位と2位の愛の絆』とか『孤毒の魔女、自身の毒で影の魔術師を虜にする?!』とか表示されていた。

 

「よしわかった。裏サイトの管理人見つけてぶっ殺す」

 

前者はまだしも後者の記事はガチで苛ついた。オーフェリアは恋愛に興味ないだろうし、そんな事をする人間じゃないのは知っている。

 

「ん?て事は恋仲じゃ……」

 

「違うからな」

 

「まあ八幡にそんな甲斐性あるわけねーよな。レヴォルフでオーフェリアと会話してるから誤解されたんだろ」

 

まああり得るかもしれん。オーフェリアと話す男子なんて俺とディルクくらいだし。

 

「まあそうかもな。それより俺は約束があるからもう行くがいいか?」

 

「ああ。運んでくれてありがとな」

 

「どういたしまして」

 

イレーネの礼を受けながら俺は医務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

医務室を出て廊下を歩いているとオーフェリアが歩いてきた。となると今から試合なのだろう。

 

「……八幡。序盤油断した?」

 

オーフェリアがいつもの表情でそう聞いてくる。どうやらお見通しのようだ。

 

「まあな。少し油断した」

 

「八幡が油断なんて珍しいわね。まあ八幡が負けるとは思ってなかったけど」

 

「何だ。随分評価してくれてるな」

 

「ええ。レヴォルフで八幡を倒せるのは私だけだから」

 

ぐっ……それについては否定が出来ない。できはしないが……はっきり言われると若干ヘコむ。

 

「うっせぇ。いつか勝ってやるよ」

 

「それは無理ね。八幡の運命じゃ私の運命は覆せない」

 

断言するな。マジでヘコむ。

 

「へいへい。とりあえず試合頑張れよ。応援してる」

 

まあオーフェリアが負けるとは微塵も思ってないが。

 

「……そう。ありがとう」

 

オーフェリアは一瞬目を見開いてからそのままステージに向かって歩き出した。

 

それを見送った俺は先程までいた休憩場所に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『試合終了!勝者オーフェリア・ランドルーフェン!』

 

……うん。予想通りだ。対戦相手の男子に合掌。

 

両手を合わせていると端末が鳴り出したので見ると小町からメールが来ていた。

 

見ると集合時間を過ぎている事に対する文句のメールだった。やべ……

 

時計を見ると10分過ぎていた。となると集合場所に着く頃には30分くらい遅れるな。

 

俺は小町に謝罪のメールを送りながらステージを後にした。

 

 

 

 

 

 

久々に小町や戸塚に会う事を楽しみにしながら。



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比企谷八幡は妹と友人と遊びに行く(前編)

 

 

レヴォルフを出た俺は持てる力全てを使用して商業エリアに向かう。時計を見ると集合時間を20分過ぎていた。これ以上待たせる訳にはいかない。

 

 

集合場所に着くと待ち人がいた。

 

「すまん!待たせた」

 

走りながらそう言うと2人は俺を見てきて近寄ってくる。

 

「お兄ちゃん遅い!小町的にポイント低いよ!」

 

そう言って膨れっ面で詰め寄ってくる妹の小町。うん、怒っている所も可愛いな。

 

「まあまあ小町ちゃん。八幡は理由もなく遅れないよ。先ずは事情を聞こうよ」

 

そう言って小町を宥めるのは中学時代、唯一と言っていい友人の戸塚彩加。男子なのにその笑顔は並の美少女を上回る程だ。守りたい、あの笑顔。

 

「いやすまん。序列戦が最後の方の上、予想以上に長引いた」

 

俺がそう説明すると小町は納得したような表情を浮かべる。

 

「あ、そうなの?じゃあ仕方ないね」

 

公式序列戦は対戦カードによって時間が長引く場合もあり、まして終盤あたりの人間は予想以上に待たされる時もある。小町もそれを知っているので怒りを鎮めてくれたようだ。

 

「悪かったよ。ところで何処に行くんだ?」

 

「あ、それなんだけど小町達お昼ご飯まだ食べてないから何処か飲食店に行かない?」

 

まあ今の時刻は昼飯時と言っていいだろう。俺はステージで食ってきたが小町達は食べてないのか。

 

「わかった。じゃあどこにする?」

 

「うーん。じゃああそこにしない?」

 

戸塚が指差したのは世界的に有名なハンバーガーチェーン店だった。俺は昼にハンバーガーを食ったがまあいいか。

 

「小町はそれでいいですよ。お兄ちゃんは?」

 

「俺はそれで構わない。じゃあ行こうぜ」

 

方針も決まったので俺達はハンバーガーショップに足を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでね!後一歩の所で小町の攻撃を防がれたの!」

 

ハンバーガーショップに入った俺達は適当に注文して今日の公式序列戦について話を聞いている。

 

それで小町が今日の序列戦で星導館の序列4位の『氷屑の魔術師』に敗北した事を知った。小町の話を聞きながら記録を見てみると確かにいい勝負だった。

 

終盤で小町が放った銃撃は氷の壁に防がれ、それと同時に小町の両手が凍らされてそのまま校章を破壊されたようだ。

 

試合の内容については文句なしだ。負けたとはいえかなりいい勝負で小町が勝ってもおかしくなかったと思う。

 

「それでお兄ちゃん。何か良い対策ある?」

 

そう言われて考えてみる。小町の射撃技術は優秀だ。しかしそれだけじゃ上に行くのは厳しい。早撃ち以外に更に違う武器を用意すべきだ。

 

そこで俺は小町にある提案をしてみる。

 

「じゃあ小町。いっそ純星煌式武装を使ってみるのはどうだ?」

 

俺がそう提案すると小町と戸塚が目を見開いてくる。それを見ながら説明をする。

 

「お前の戦闘記録を見る限り射撃技術、身体能力は一級品だが火力不足は否めない。お前は冒頭の十二人だし簡単に許可が下りるだろうしハンドガンタイプの純星煌式武装を借りるのも悪くないと思うぞ」

 

確か星導館は純星煌式武装を六学園で1番保有してた筈だ。ハンドガンタイプもあるかもしれん。

 

「それにだ。鳳凰星武祭には今のお前と相性の悪い奴が出てくるだろうし」

 

そう言って端末を操作して空間ウィンドウを呼び出す。そこには聖ガラードワースの制服を着た男性が映っている。

 

「お兄ちゃん。この人は?」

 

「ガラードワースの序列11位の『鎧装の魔術師』ドロテオ・レムス。この人は2度鳳凰星武祭に出たから多分今回も出てくると思うが、間違いなくお前にとって天敵だ」

 

俺が彼の戦闘記録を小町に見せる。初めは普通の表情をしていたが徐々に嫌な顔になってくる。気持ちはわかるが女子がそんな顔をするな。

 

「うわー。小町この人と当たりたくないなー」

 

小町が嫌がって見ている映像ではドロテオ・レムスが自身に鎧を纏わせて対戦相手に突撃をしていた。

 

しかし小町が真に嫌がっているのは対戦相手が鎧を破壊しても5秒もしないで新しい鎧を作っている場面だろう。

 

この鎧は防御力が高いのも厄介だが、能力で作った鎧の為壊しても彼に星辰力が残っている限り何度も作られる事が1番厄介だ。

 

「つまり今の小町さんが彼と戦ったらジリ貧になるって事?」

 

「戸塚の言う通りになるだろうな。しかも彼自身能力抜きでも強い実力者だ。これを打ち破るには高い火力が必要だ」

 

並の煌式武装じゃ通用するかわからない。それなら純星煌式武装で確実に攻めるべきだろう。

 

「うーん。そう考えると小町は火力不足かもねー。とりあえず月曜日に申請してみるよ」

 

「そうしろそうしろ。折角冒頭の十二人なんだし。戸塚も小町から能力は聞いているがある程度攻撃力のある煌式武装は持っておいた方がいいぞ」

 

場合によっては小町が負けて1人で戦う可能性もあるし。

 

「あいあいさー」

 

「うん。ちなみにどんな煌式武装が良いかな?」

 

「それはお前次第だな。まあ鳳凰星武祭まで数ヶ月あるからゆっくり決めろ」

 

戸塚は入学したばかりだがらどうなるかはわからないが努力次第ではある程度どうにかなるだろう。

 

「うん!ありがとう!ところで八幡は鳳凰星武祭は興味ないの?」

 

「俺?見る分には興味あるが参加するのは王竜星武祭に絞るな。てか鳳凰星武祭に参加するにしても組む相手がオーフェリアとイレーネしかいない」

 

「それ絶対ぶっち切りで優勝じゃん!!というかお兄ちゃん!レヴォルフの知り合いって『孤毒の魔女』と『吸血暴姫』しかいないの?!」

 

「す、凄い組み合わせだね……」

 

正確にはイレーネの妹もいるがあいつは戦闘向きじゃないので除外してある。

 

「まあオーフェリアは王竜星武祭に出るだろうし、イレーネは鳳凰星武祭に興味ないだろうから仮定の話だ」

 

「だよねー。そう言えばオーフェリアさん紹介して欲しかったんだけど無理だった?」

 

あー、そういや小町に紹介してくれと頼まれてたな。

 

「それなんだが……オーフェリアは自分の肌から瘴気を出すから迷惑かけたら悪いって断られた」

 

すると小町は若干悲しそうな顔で頷く。

 

「じゃあしょうがないね。それってどうにか出来ないのかな?」

 

「一応手袋や制服で肌を隠せばギリギリ漏れないがな……」

 

何度が肌から瘴気が漏れているのを見たが……あんな綺麗な肌なのに勿体無い。

 

「そっか。……あれ?でも何でお兄ちゃんはオーフェリアさんと一緒に過ごせるの?」

 

「ん?ああ、それはな……」

 

そう言って俺は口の中から影の塊を出す。すると2人は驚き出す。

 

「は、八幡?!何それ?!」

 

「お兄ちゃんそれ不気味だから早くしまって!」

 

まあ確かに見た目はヤバイかもしれんな。小町にそう言われたので影の塊を体内にしまって口を開ける。

 

「俺は体内を影でコーティングしてるからオーフェリアの毒は効かないんだよ」

 

実際オーフェリアと何度か戦ったが毒を吸って負けた事はない。

 

「じゃあ八幡は『孤毒の魔女』に勝てるって事?」

 

戸塚はそう言ってくる。しかしそれは余り現実的じゃない。

 

 

「正直言って殆ど不可能だ。確かに俺はオーフェリアの毒は効かないが星辰力の差があり過ぎる。だから俺の攻撃は殆ど効かないし、オーフェリアの攻撃を防ぐ事は難しいから」

 

オーフェリアの星辰力は簡単に見積もっても俺の4倍はあるだろう。いくら毒は効かなくても星辰力による力押しをされたら勝ち目は無いだろう。

 

「となると今回の王竜星武祭も……」

 

「十中八九オーフェリアが優勝だろうな」

 

小町が濁した言葉をはっきり口にする。去年の決勝でもシルヴィを殆ど一方的に倒したオーフェリアはガチで強過ぎる。オーフェリアを倒せるとしたら界龍の『万有天羅』くらいだろう。奴の対戦記録も見たが次元が違うし。

 

「まあ王竜星武祭は2年後だからいいだろ。それよりお前らは鳳凰星武祭に集中しろ」

 

「そうだね……僕はまだまだ弱いし頑張ろう!」

 

そう言ってガッツポーズをする戸塚。やだ、可愛すぎる。レヴォルフは殆どが屑だから結構ストレスが溜まるので癒される。

 

「小町も色々と新しい技術も身に付けないと……あ!そう言えばお兄ちゃん!鳳凰星武祭には雪乃さんと結衣さんも出るんだって!」

 

……ほう。あいつらも鳳凰星武祭に出るのか。

 

「マジか。由比ヶ浜はともかく雪ノ下は王竜星武祭に出るかと思ったぞ」

 

あいつ姉の雪ノ下陽乃に勝ちたがってたし。

 

「何か結衣さんに誘われたんだって。あ!でも今シーズンの王竜星武祭には必ず出るって言ってたよ」

 

だろうな。雪ノ下陽乃は後1回しか星武祭に出れない。姉に挑む最後のチャンスを逃すつもりはないだろう。

 

「そっか。ちなみにあいつは強いのか?」

 

中学にいた頃はそこそこ星辰力があるのは知っていたが。

 

「かなり強いと思うよ。高等部に入学して直ぐの公式序列戦で勝って今序列30位だし」

 

ほう……入学して1ヶ月もしないで序列入りか。中学時代から優秀なのは知っていたが戦闘も優秀みたいだ。帰ったら公式序列戦の記録を見てみるか。

 

「どうやら姉同様才能に恵まれてみたいだな。今から王竜星武祭が楽しみだな」

 

まあ1番の目標は優勝よりシルヴィにリベンジを果たす事だけど。あの悔しさは今でも残ってるし。

 

そう思っている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいからオレと闘えって言ってんだよ!」

 

いきなり叫び声が聞こえ、それと同時に衝撃音が響く。んだよ、煩えな。

 

内心舌打ちをしていると戸塚は怯えた表情を浮かべていて、小町は『また始まったよ……』と言わんばかりの表情を浮かべている。どうやら小町は事情を知っているようだ。

 

その事を不思議に思いながら叫び声がした方向を見ると巌のような体軀をした男が、ピンク髪の女子と余り特徴がない男子の2人組が座っている席にあるテーブルに手を叩きつけていた。

 

 

 

(……何だあの光景?てかあのピンク髪、オーフェリアの昔馴染みの『華焔の魔女』じゃねぇか)

 

そう思うと頭が痛くなるのを感じた。

 

 

 

マジで厄介事が起こる未来しか見えねぇ……



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比企谷八幡は妹と友人と遊びに行く(中編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今頭を痛めている。

 

理由は簡単。俺達の近くで面倒事が起こっているからだ。

 

視界の先では巌のような体軀をした男が怒りを帯びた瞳で星導館学園序列5位の『華焔の魔女』ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトを睨んでいた。

 

対してリースフェルトは全く相手をしていないように見える。

 

「おい小町。あのデカイのは誰だ?」

 

とりあえず事情を知ってそうな小町に聞いてみる。

 

「えーっと、うちの序列9位のレスター・マクフェイルさんだよ」

 

「ふーん」

 

「八幡……適当過ぎるよ」

 

「そこまで興味ないからな。お前ら以外で星導館で興味があるのは刀藤綺凛、クローディア・エンフィールド、リースフェルトぐらいだからな」

 

強い奴を見ると何となくわかるがあのマクフェイルって奴はそこまで強くないだろう。

 

「リースフェルトさんも?確かにリースフェルトさんは強いけど……お兄ちゃんにとっては刀藤さんや生徒会長に並ぶの?」

 

小町は不思議そうに聞いてくる。小町の言う通りリースフェルトは今言った刀藤綺凛やクローディア・エンフィールドに比べたら弱いと思う。……いや、あの2人が桁違いなのか。

 

特に刀藤綺凛は中1で序列1位を手にした怪物だ。しかも使う武器がただの日本刀なのがヤバい。もしも彼女が純星煌式武装を持って2年後の王竜星武祭に挑んだらオーフェリアとも良い勝負が出来るかもしれん。

 

いや……今はリースフェルトについてだったな。

 

「いや実力についてはそこまで興味ない。単にオーフェリアの昔馴染みって事でな」

 

「え?!そうなの?!」

 

「まあな。前にオーフェリアから聞いた。それより何であのデカイのはリースフェルトに絡んでんだ?」

 

オーフェリアの話は今はいい。本題に戻ろう。

 

「うーん。僕は今年入学したからわからないや。小町さんは知ってる?」

 

「あ、うん。去年の序列戦なんだけど……」

 

そう言って小町は空間ウィンドウを開いて動画を見せてくる。そこにはリースフェルトが炎を駆使してマクフェイルを追い詰めている動画があった。

 

「去年の序列戦で当時序列5位だったマクフェイルさんが17位だったリースフェルトさんに負けたから……」

 

大体わかった。要するに一度冒頭の十二人から落とされた恨みだろう。俺も落とした連中に恨まれていたからよくわかる。

 

それよりも言いたい事がある。

 

「てかおい。動画を見る限りマクフェイルそこまで強くねーじゃん。こいつ本当に序列5位だったの?」

 

これなら星導館が前シーズンで実質最下位なのも仕方ないだろう。同じ序列5位でも界龍の趙虎峰やガラードワースのパーシヴァル・ガードナーとは雲泥の差だ。いくら1位と2位が強いからってマジで星導館大丈夫か?

 

「うーん。まあそこは言わないで欲しいな」

 

小町が苦い顔をしている。てか小町が去年リースフェルトより先にマクフェイルに挑んでいたら序列5位は小町だったんじゃね?

 

「まあまあ。でも小町さん。一度負けたくらいであそこまで怒らないと思うんだけど」

 

「ああ。それね。その後にリースフェルトさんに2回挑んで負けたから」

 

「だからリースフェルトに序列戦で挑めないから決闘にこだわってる、と」

 

「そうそう」

 

公式序列戦は同じ相手、同じ序列へ指名出来るのは2回までだ。つまりマクフェイルは公式序列戦ではリースフェルトを指名出来ない。だから決闘にこだわってる訳だ。

 

「大体の事情は理解した。その上で聞くがアレは放置して大丈夫か?」

 

見るとマクフェイルがリースフェルトに詰め寄っていてリースフェルトがあしらっている。

 

「大丈夫でしょ?ぶっちゃけ星導館の人は見慣れてるし」

 

どんだけふっかけてんだマクフェイルの奴は?

 

「それはわかったけど天霧君は大丈夫かなぁ?」

 

戸塚は心配そうに言っているが……天霧だと?

 

「ん?リースフェルトの連れの男が天霧なのか?」

 

「うん。同じクラスの友達だから間違いないよ」

 

ほう。あいつが……

 

随分大人しそうな顔をしているな。直で見るのは初めてだがあいつがリースフェルトを押し倒して胸を揉むとは……まさに人は見かけによらないな。

 

 

 

 

 

内心感心している時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるなっ!言うに事欠いて、このオレ様がこそこそ隠れまわってるような卑怯者共と一緒だと?!」

 

再び怒声が聞こえたので振り向くと……マクフェイルの奴が天霧の襟首を掴み上げていた。マクフェイルの顔は憤怒に染まっているが天霧の奴は何をやったんだ?状況から察するにマクフェイルを挑発したんだと思うが。

 

少し気になったので声を聞いてみる。

 

「いいだろう、だったらまずはてめぇから叩き潰してやるよ」

 

「おっと、あいにくだけど俺も決闘をする気はないよ」

 

「あぁ?」

 

「受ける理由がないからね」

 

マジか。挑発して決闘を蹴るとか中々強かだな。てかこれ絶対マクフェイルブチ切れるだろうな。

 

すると俺の予想が当たった。

 

マクフェイルは天霧を突き飛ばして天霧に殴りかかろうとする。ヤバイな完全に切れてやがる。

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天霧君!」

 

戸塚が悲しそうな顔で悲鳴をあげて立ち上がる。おそらくマクフェイルを止めようとしているのだろう。

 

しかし今からじゃ間に合わない。マクフェイルは既に拳を振り上げている。

 

それを認識すると同時に俺は思考に耽る。

 

 

 

 

 

マクフェイルが天霧を殴る→天霧が傷つく→天霧の友人である戸塚が悲しむ→俺が怒る→マクフェイルを殺す→殺人罪で星猟警備隊に捕まる→小町や戸塚に嫌われて離れ離れになる→絶望して自殺する

 

(……ヤバい。死んでたまるか!)

 

その計算が成り立つと同時に俺は自身の影に星辰力を込める。間に合え!間に合わないと俺が死んでしまう。

 

「影よ」

 

俺がそう言うと影が動き出す。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐうっ!!何だこの黒いのは?!」

 

マクフェイルの拳が天霧に当たる寸前に俺の影がマクフェイルの両手両足を拘束して動きを止める。よし、これで天霧は傷つかないから戸塚が悲しまずに済む。

 

安堵の息を吐く中マクフェイルの叫び声が聞こえてくる。

 

「くそがっ!こんなもん……!」

 

無理やり引きちぎろうとしているが無駄だ。俺の星辰力が込もった影はかなり頑丈だからな。

 

「悪い。ちょっとあいつら店から出してくる」

 

息を吐きながら席を立ち歩き出して5人がいる場所に行く。

 

「おいお前ら、煩いから黙れ」

 

近寄りながらそう言うと5人が俺を見てくる。

 

「あぁっ!関係ねぇ奴はすっこんで……お、お前は?!」

 

マクフェイルは俺を睨んできたが直ぐに驚きの表情を見せてくる。見ると他の4人も似た表情を見せてくるが目立ち過ぎるのも考えものだな。

 

「なっ……なっ…なっ……『影の魔術師』」

 

「な、何でレヴォルフ最強の男がこんな所にいるんだよ?!」

 

マクフェイルの後ろにいる太った男が指をさしてくるが人を指さすなって母ちゃんに習わなかったのか?

 

「俺がどこにいようと関係ないだろ。それよりさっきからギャーギャー煩えんだよ。久々に妹と友人に会って幸せな気分を害してんじゃねぇよ」

 

舌打ちをしながらマクフェイルの拘束を解く。今のこいつに天霧を狙うって考えはないだろう。

 

「それとだな。星導館で鳳凰星武祭に参加する生徒が闇討ちされてる事やそこにいる『華焔の魔女』が狙われてるのは知ってるがな、こんな場所で喧嘩売ってると犯人の同類とみなされるぞ?」

 

以前小町からリースフェルトは天霧が転校した日とその後に2度襲われたと聞いた。その事から犯人はリースフェルトを狙っているのがわかる。だからリースフェルトに因縁をつけているマクフェイルが疑われても仕方ないだろう。

 

俺がそう返すとマクフェイルの怒りの矛先が俺に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんな!!そいつと言いオレを卑怯者と一緒だと?!」

 

マクフェイルは天霧を指差しながら切れているが天霧も同じ事を言ったのかよ?

 

「実際お前はリースフェルトより弱いからな。勝つ為に奇襲を仕掛けてもおかしくないと思っただけだ」

 

ここまで言えば天霧の事は忘れるだろう。そうすれば天霧は傷つかず、戸塚は悲しまないで済む。後は……

 

「俺がユリスより弱いだと?!あんなもんマグレが続いただけだ!オレ様の実力はあんなもんじゃねぇ!」

 

目の前でブチ切れているマクフェイルをどうにかしないとな。

 

てか実際リースフェルトより弱いだろ?

 

「俺は客観的な事実を言っただけだ。真面目な話リースフェルトに勝ちたかったらその短気を止めろ。でないと一生勝てないぞ」

 

こいつの戦闘を見たがゴリ押しに拘り過ぎる。状況に応じて引くのを覚えたら勝ち目はあるものを……

 

しかし俺の意見を聞くそぶりを見せず……

 

「てめぇ!」

 

俺に詰め寄ってくる。こいつ彼我の差を理解してないのか?

 

内心ため息を吐きながら影に星辰力を込める。すると……

 

 

 

 

 

「なっ?!」

 

マクフェイルの周囲に影の刃が展開される。それによってマクフェイルは動きを止めたが後1歩遅かったら串刺しになっていただろう。

 

「……だからそのバカ正直っぷりがある限りお前は弱えよ」

 

殺気を出してそう言うとビクリとするがビビり過ぎだろ?でもまあ……これで少しは大人しくなるだろう。

 

俺が影の刃を解除するとマクフェイルは後ずさる。しかし顔は怒ったままだ。プライドだけは高いな。

 

「れ、レスター!そんな化け物の言う事なんて聞く必要ないよ!レスターは不意打ちをしないでリースフェルトを倒せるって!」

 

「そ、そうですよ!レスターさんが決闘の隙をうかがうような卑怯なマネをするはずありません!僕達はレスターさんが真っ向からユリスさんを倒すと信じてますから!」

 

取り巻き2人が慌てながらマクフェイルをフォローする。てかデブ、てめぇ人を化け物呼ばわりとは良い度胸してんじゃねぇか。マクフェイルもろとも潰すぞ。

 

「……ちっ!行くぞお前ら!」

 

マクフェイルは舌打ちをして踵を返し大股で去って行った。はぁ……ようやくいなくなったか。

 

 

 

 

 

安堵の息を吐いていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとちょっとお兄ちゃん!やり過ぎだって!」

 

小町と戸塚がやって来た。

 

「いやすまん。割とイラついてた。反省はしてる」

 

「本当だよ!」

 

「まあまあ小町さん。天霧君は大丈夫?」

 

戸塚が小町を宥めながら天霧を心配する。

 

「俺は大丈夫だよ。それにしても戸塚は『影の魔術師』と知り合いなの?」

 

「うん。中学の時友達だったんだ!」

 

やだ、戸塚に友達って思われてるなんて幸せ過ぎるんですけど。

 

「そうなんだ。俺は天霧綾斗。よろしく」

 

そう言って手を出してくる。間違いない、リースフェルトを押し倒した時といいこいつはリア充だ。

 

「……比企谷八幡だ」

 

適当に返しながら握手をする。

 

「もー、お兄ちゃんったら!もう少し愛想良くしなよ!」

 

「俺に出来ると思ってるのか?」

 

普通に無理だからね?

 

「ごめんなさい天霧君。お兄ちゃんコミュ症だから」

 

こいつは何て事を言ってんだ。

 

「余計な事言わんでいい」

 

小町に軽いチョップを放つ。

 

「痛い!」

 

「あ、あはは……」

 

小町は涙目になって睨んでいるが自業自得だからな?まったく……

 

「まあいい。それより飯を食うの再開しようぜ。はっきり言って疲れた」

 

序列戦に加えてトラブルの発生、これ以上面倒事に巻き込まれたくない。

 

「あ、うん。じゃあ席に戻ろっか」

 

戸塚が頷くので席に戻ろうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て比企谷八幡。お前に話がある」

 

いきなり呼ばれなので振り向くとリースフェルトが固い表情で俺を見ていた。

 

その顔を見て話す内容を理解した。しかもオーフェリアからリースフェルトは頑固だと聞いた事もあるので間違いなく面倒事になると思う。

 

 

 

 

それこそーーー決闘をするくらい面倒事になるかもしれん。

 

俺はため息を吐きながらリースフェルトと向き合った。



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比企谷八幡は妹と友人と遊びに行く(後編)

 

 

「待て比企谷八幡。お前に話がある」

 

リースフェルトがそう言うと小町、戸塚、天霧が俺とリースフェルトを見てくる。

 

俺はそれを無視して返事をする。

 

「わかった。小町に戸塚は席を外してくれないか?」

 

「う、うん」

 

「わかったよ八幡」

 

「綾斗、済まないがお前も席を外してくれないか?」

 

「わ、わかった」

 

話す内容は十中八九オーフェリアの話だろう。余り他人に聞かせる話じゃないし。

 

3人がさっきまで俺達がいた席に移動するのを確認してリースフェルトが口を開ける。

 

「とりあえず少し歩かないか?」

 

俺はその提案に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

俺とリースフェルトが歩いているのは商業エリアにある自然公園だ。

 

暫くの間無言で歩いていたが自然公園の噴水広場に着いたと同時に口を開ける。

 

「で、一応聞くが話したい内容はオーフェリアの事だな」

 

「……その通りだ。この前小町と話している時にお前がオーフェリアと仲が良いと聞いたのでな」

 

「……は?おいリースフェルト、小町の奴は何を話したんだ?」

 

何か嫌な予感しかしないんだが……

 

そして俺の予想は見事に的中した。

 

「ん?彼女曰く『お兄ちゃんってオーフェリアさんと仲睦まじくお昼ご飯を食べているんだよ!』って自慢気に言っていたな」

 

「よしわかった。あいつ後でしばき倒す」

 

何が仲睦まじくだよ?一緒に飯を食ってるのは事実だがアレは仲睦まじいとは言わないからな?捏造するな。

 

「違うのか?」

 

「違う。一緒に飯を食ってるのは事実だが仲睦まじくはない。それより話を戻すぞ」

 

俺がそう返すとリースフェルトは顔を引き締める。

 

「で、何が聞きたいんだ?最近のオーフェリアの様子か?それとも……あいつの体についてなんとかしたいって事か?」

 

「……やはりお前も知っていたのか?」

 

「そりゃ俺も魔術師だからな。まあ今日明日って訳じゃないが遠くない未来に死ぬだろうな」

 

オーフェリアの力は桁違いだ。しかし余りの力ゆえ完全に制御は出来ていないだろう。あいつの使う瘴気はオーフェリア自身も蝕む力、つまり寿命を削りながら闘っているようだ。

 

「だからオーフェリアに無茶な闘いをしないでくれと頼んだ。……後はお前も現場にいたから知っているな?」

 

「……ああ」

 

オーフェリアはリースフェルトの意見を聞かず、どうしてもと言うなら決闘で勝てと言った。それでリースフェルトは敗北した。

 

「優しかった頃のあいつに戻って欲しいと思っている。それが無理ならせめて命を削った闘いだけは止めて欲しいんだ」

 

リースフェルトは沈痛な表情でそう言ってくる。俺は過去のオーフェリアを知らない。しかし今のオーフェリアの近くにいる者として一つだけ訂正をしたい。

 

「リースフェルト。その言い方だと今のオーフェリアは優しくないみたいだがそれは違う」

 

「……え?」

 

リースフェルトが顔を上げる。

 

「昔のオーフェリアは知らないが今のオーフェリアは分かり難いが優しいぞ」

 

「……そうなのか?」

 

「ああ。何せ小町がオーフェリアに会いたいから来てくれって誘ったら『八幡の妹に害を及ぼしたら悪い』って断るくらいだ。他人を気遣ってるし普通に優しいと思うが?」

 

最近では俺が買えなかった好物の惣菜パンを交換してくれたり、教科書を貸してくれたりするし。

 

「そうか……」

 

何か感慨深げに思考に耽っている。暫く考えていると口を開ける。

 

「比企谷、お前はオーフェリアとあいつ自身の体について話した事はあるか?」

 

「ん?あるぞ。お前がオーフェリアと闘って暫くしてから余り能力を使わないでくれないかって頼んでみた」

 

まあ結果はリースフェルトと同じだ。オーフェリアは悲しげな表情をして首を横に振り止めたきゃ決闘で勝てと言ってきた。そんで挑んでボコボコにされた。

 

「……正直に言って俺はあいつと過ごす時間は気に入ってる。だからあいつには能力を使わないで欲しいと今でも思っている。……っても、何度も闘っている内に能力を使うのを止めされるのは無理だと思うようになってきたな」

 

今でも能力を使うのを止めされる云々除いてオーフェリアに挑んでいるが最近じゃ頑張っても勝てないって半ば折れかけている。

 

「……それでも私はオーフェリアに勝って戻ってきて欲しい。……まあ、私より遥かに強いお前からしたら妄言に聞こえるかもしれないが」

 

そう言ってリースフェルトは力無く笑う。

 

しかし……

 

「……別に妄言とは思わねぇよ。寧ろ俺の方が情けねぇよ」

 

俺はリースフェルトの発言を妄言と馬鹿にするつもりはない。

 

折れかけている俺より遥かに弱いにもかかわらず未だに折れていない。それは賞賛すべき物であり馬鹿にする物じゃない。

 

「そうか?」

 

「そうだろ。だってお前は折れてないんだろ」

 

「当然だ。オーフェリアに勝つまで私は折れる訳にはいかない」

 

リースフェルトの目は絶対に譲らないと言っている様な気がして、それは凄く美しく感じた。こいつは本気でオーフェリアを助けたいと思っているようだ。

 

だから俺は一つの助言をする。

 

「だったら鳳凰星武祭で優勝してオーフェリアをレヴォルフ、正確にはディルクから解放してくれって頼んだらどうだ?」

 

星武祭の願いは最優先事項だ。いくらディルクでも逆らうのは無理だろう。

 

リースフェルトはそれを聞くと暫く考える素振りを見せて返事をする。

 

 

「なるほどな……それはいい考えだが無理だ。鳳凰星武祭で叶えたい願いは既に決まっている」

 

マジか。アレだけオーフェリアを助けたいと言っていたが、それよりも優先したい願いがあるのか?

 

「その願いって聞いていいか?」

 

「構わない。私が鳳凰星武祭で叶えたい願いはオーフェリアがいた孤児院の借金返済及び今後の運営資金にあてる金の要求だ」

 

それを聞いて言いたい事を理解した。星武祭の願いに頼らなきゃいけないとは……オーフェリアがいた孤児院は相当酷い経営難のようだ。

 

「つまりオーフェリアみたいに他の孤児が借金のカタになるのを防ぐって事か?」

 

「ああ。私はあの場所が好きなんだ。だからもう2度とオーフェリアの様な人間は出したくない。それが私の第一優先なんだ。お前が提案した願いについては獅鷲星武祭か王竜星武祭で頼むかもしれない」

 

ちょっと待て。こいつまさかグランドスラムを狙ってんのか?まあ少し話しただけでリースフェルトの性格は知っているから本気だろう。

 

(……まあオーフェリアに勝つ気でいる奴だしあり得るかもな。……ん?)

 

「そういやリースフェルト。お前鳳凰星武祭に出るんだよな?」

 

「そのつもりだが?」

 

「それで思ったんだがお前は誰と組むんだ?」

 

優勝を目指すとなると相当強いパートナーが必要だ。組むとしたら刀藤綺凛あたりか?

 

疑問に思ったので聞いてみると……

 

「う……それはだな……」

 

何か言葉を濁し始めた。おい、まさかこいつ……

 

「……リースフェルト。一応聞くがまだパートナー決まってないのか?」

 

だったら最悪の事態だ。エントリー締切まで後1週間ちょいだ。参加できないんじゃ実力以前の問題だ。

 

「あ、ああ……いない」

 

苦い顔をしながらもはっきりと首肯する。それを確認して俺は頭が痛くなるのを感じた。

 

その態度を見て思った。こいつ間違いなくぼっちだ。

 

「……マジでどうすんだ?この時期にエントリーしてない奴なんて基本的に鳳凰星武祭に出る気のない人だろ」

 

「……ああ。だから何とかしないとな」

 

さっきまでの凛々しい雰囲気から一転、哀愁漂う雰囲気になっているリースフェルト。地雷を踏んでしまった俺としては申し訳ない気持ちで一杯だ。

 

「……とりあえず戻るか?」

 

「……ああ」

 

何とも言えない空気のまま俺達は自然公園を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

自然公園を出てハンバーガー店に向かっていると……

 

「比企谷」

 

さっきまでの弱々しい口調はなくなり本来の姿に戻っていたリースフェルトが話しかけてくる。

 

「何だよ?」

 

「お前が本当にオーフェリアと過ごすのが楽しいならオーフェリアにも楽しい時間を作ってやってくれないか?」

 

どうやら本気でオーフェリアの幸せを願っているようだ。それに対して俺も応えたいという気持ちはあるが……

 

「保証は出来ない。俺は割と楽しいがあいつは楽しいと思っているとは限らないし」

 

「わかっている。オーフェリアを大切に思っているお前が側にいてくれるだけでいい」

 

…今日初めて話したのに随分と信頼されたもんだな。まあ一緒にいるのはいつもの事だから構わないが。

 

「わかったよ。出来るだけの事はしといてやる」

 

「ああ。頑張れよ」

 

「お前こそパートナー探すの頑張れよ」

 

そう返すと真っ赤になって怒ってくる。しまった……

 

「う、うるさい!そ、それよりも店が見えてきたぞ!」

 

そう言ってリースフェルトはズンズン先に歩いて行ったので俺もそれに続いた。

 

 

 

 

店の前には小町達がいたので合流する。

 

「すまん綾斗。戸塚に小町も比企谷を借りて済まなかった」

 

「あー、全然大丈夫ですよ。なんだったら1日中引っ張っても「黙れ小町」痛っ!何すんのさお兄ちゃん?!」

 

何か文句を言ってくるが、お前リースフェルトに俺がオーフェリアと仲睦まじいとかデマ吐いた恨みは忘れてないからな?

 

「まあいい。それより次は何処に行くんだ?」

 

元々適当に遊びに行く約束をしていたが何処に行くかは知らない。

 

「あ、それなんだけど天霧さんを案内する事になったからよろしくね〜」

 

小町はそう言ってくるが天霧の案内だと?

 

「ん?リースフェルトは市街地を案内してたのか?」

 

「ああ。それで昼食を食べていたらレスターに絡まれたんだ」

 

なるほどな。普通に案内するのが随分と面倒な事になったんだな。哀れなり。

 

天霧とリースフェルトに同情していると小町が手を叩く。

 

「そ・れ・よ・り。時間も押してるし早く行こうよ。あ、お兄ちゃん『面倒だからパス』ってのは無しだからね?」

 

ちっ。完全に思考を読まれてやがる。流石妹だけはあるか。

 

断っても意味がないのは理解しているのでため息を吐きながら頷く。

 

「はいはい。わかったよ」

 

「よーし!レッツゴー!」

 

小町は笑顔で歩き出す。リースフェルトは少し驚きながら、戸塚と天霧は苦笑しながら小町に続いたので俺も後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

結局案内が終わったのは夕方だった。

 

「今日はありがとう。勉強になったし楽しかったよ 」

 

「そ、そうか。い、いや、何度も言うが私は借りを返しただけだ。礼を言われる筋合いはないぞ」

 

「借り?お二人は何かあったんですか?」

 

小町が興味深そうな表情で尋ねる。

 

「いや、決闘の最中に助けられたんだ」

 

決闘?天霧の転入初日にやったヤツか?て事は……

 

「天霧がリースフェルトを押し倒して胸揉んだやつか?」

 

少なくとも俺が知っている決闘はそれくらいだし。

 

そう思っていると視線を感じるので見るとリースフェルトが真っ赤になって睨んでいた。後ろでは天霧と戸塚は真っ赤になっていて小町はニヤニヤ顔を浮かばせていた。

 

「そ、その話は蒸し返すな!!」

 

どうやらアレは事実のようだ。転校初日に天霧は何をやってんだか……

 

「悪かったよ。てか何でお前らは決闘する事になったんだよ?」

 

普通に考えて冒頭の十二人であるリースフェルトが転校初日の天霧に決闘を挑むとは思えないし、天霧もさっき話した感じだと大人しい性格だ。転校初日に決闘を挑むとは考えにくい。

 

よってなんで決闘をする事になったか気になるが……

 

(……何でこいつらはさっきより顔が赤いんだよ?)

 

天霧とリースフェルトは林檎のように真っ赤な顔をしている。その事からただ事じゃないのは理解できる。マジで何があったんだ?

 

疑問に思っている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

近くで怒号と罵声が耳に入る。

 

見ると駅の近くでレヴォルフの学生十数人が揉めていた。相変わらずうちの学校は屑が多いな。

 

高校から入学した戸塚と最近転校してきた天霧は物珍しそうに見ているが小町とリースフェルトは呆れたような視線を向けていた。

 

「……全くレヴォルフの連中は相変わらず馬鹿な事ばかりやっているものだ」

 

「え?ユリス、どういう事?」

 

「レヴォルフは校則が無いに等しい学園なんだ。その為素行不良な生徒が多いんだ。比企谷みたいなマトモな生徒なんて1割もいないだろうな」

 

「1割どころか1%もいないぞ」

 

「うわー。お兄ちゃんくじ引きで学校選んだの間違いじゃないの?」

 

「何?!比企谷、お前くじ引きで行く学校を決めたのか?!」

 

リースフェルトが信じられないといった表情で俺を見てくる。うん、今更だが適当過ぎたな。

 

俺が返事を返そうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

レヴォルフの生徒達が俺達の周囲に展開し始めて乱闘が始まった。

 

それを見て俺は嫌な予感がした。レヴォルフに通っている俺には直ぐにわかった。間違いない、これは……

 

内心舌打ちしていると天霧の後ろから1人の学生が短剣型の煌式武装を持って突っ込んできた。

 

 

それを確認すると同時に影に星辰力を込めて影を操作する。

 

高速で動く影は地面から離れて天霧を刺そうとする学生を捕らえる。

 

「ぐうっ!」

 

捕まった学生は苦しそうな声を上げるがどうでもいい。連中の狙いは十中八九俺だろう。関係のないこいつらを巻き込むつもりはない。

 

そう思いながら更に影に星辰力を加えて影を広げる。それによって影は触手のような形状となる。

 

「蹂躙しろ」

 

俺がそう呟くと影の触手は周囲に広がりレヴォルフの学生全員を捕らえた。

 

「八幡、これは?」

 

全員捕まえたのを見ていると戸塚が話しかけてくる。

 

「うちの学校の屑共が街で人を襲う時使う手なんだが……乱闘の最中にターゲットを取り囲んで痛めつけんだよ」

 

「あくまでターゲットは『乱闘に巻き込まれた』だけという風に装うからタチが悪いんだ」

 

俺の説明にリースフェルトが補足を加える。

 

「連中の狙いは多分俺でその際にお前らを巻き込む形になったんだろう。天霧はとばっちりくらいそうになったし悪かったな」

 

そう言って頭を下げる。

 

「あ、いや……怪我してないし気にしないでよ」

 

そう言って手を振ってくる。怪我でもしたら本当に申し訳ないし。

 

内心謝りながら影を使ってレヴォルフの連中を引き寄せる。拘束された連中は俺を見て怯えだすがどうでもいい。

 

俺はリーダー格らしきモヒカンの胸ぐらを掴む。

 

「おいてめぇ。俺を狙うのはともかく関係ない奴ら狙ってんじゃねぇよ。殺すぞ」

 

「ひぃぃぃぃっ!な、何でお前がいんだよ?!」

 

ん?まるで俺がいるのが予想外みたいな言い方だがどういう事だ?

 

「おい。一応聞くがお前らが狙ったのは俺か?」

 

「ち、違う!俺らじゃ束になってもあんたには勝てねぇよ。俺達の狙いはそいつらだよ!」

 

そう言って天霧とリースフェルトを指差す。って事はさっきのは初めから天霧を狙っていたのか?

 

「誰の指示だ?ディルクのカス野郎か?」

 

「し、知らない!顔は見てないんだ!!」

 

「顔を見てない?メールで指示されたのか?」

 

「そうじゃなくて黒ずくめだったから顔を見てないんだよ!」

 

「そいつの特徴は?」

 

「背の高い大柄な奴だった。そんで……」

 

そう言ってモヒカンはポケットから封筒を出してくる。中を見ると幾らかの金と紙が入っていた。そこには……

 

「天霧とリースフェルトの写真があってそいつらを痛めつけろって指示が書いてあるな……お前らに心当たりはあるか?」

 

「俺はないよ。ユリスは?」

 

「ないな」

 

そう言われて首を傾げる。リースフェルトはまだしもアスタリスクに来たばかりの天霧を狙う奴がいるとは思えない。犯人は何で天霧を狙うんだ?

 

犯人の行動に疑問を抱いている時だった。

 

 

 

「あ、あいつ!あいつだ!あいつに頼まれたんだよ!」

 

モヒカンがそう言ってくるので後ろを見ると人影が路地へと逃げ込んでいた。

 

「待て!」

 

「ユリス!深追いはまずい!」

 

それと同時にリースフェルトと天霧が路地に向かって走って行った。

 

「ちっ!小町と戸塚はここにいろ!」

 

舌打ちしながら俺も後に続く。レヴォルフの生徒は拘束したままだがどうでもいい。

 

俺が路地に着く。

 

するとそこにはアサルトライフル型の煌式武装を持った黒ずくめの男がリースフェルトを狙って放っていた。リースフェルトは地面に転がって躱していた。どうやら能力に頼りきりの魔女じゃないようだ。

 

そう思っていると地面に新しい影がチラリと見えたので上を見る。

 

するとそこにはクロスボウ型の煌式武装を持った黒ずくめの男がいた。まだいるのかよ!!しかも天霧を狙ってやがる。

 

 

 

「ちっ」

 

舌打ちをしながら腰からレッドバレットを抜いて屋上目掛けて発砲する。

 

それと同時に黒ずくめの男は消えたので俺は捕まえる為に屋上に上がる。

 

しかしそこには誰もいなかった。どうやら逃げ足だけは自信があるようだ。

 

ため息を吐き天霧達の所に下りる。

 

「すまん。襲撃者の1人を逃した。そっちは?」

 

「私達も逃してしまった。全く逃げ足だけは大したものだ」

 

リースフェルトは不愉快そうに息を吐く。まあ狙われている者としては気持ちはわかる。

 

「……そろそろ警備隊がやってくるだろうし私達も退散するぞ」

 

「リースフェルトに同意だな。星猟警備隊は融通がきかないからな。捕まると面倒だ」

 

そう言って3人で小町と戸塚の元に向かう。

 

「皆大丈夫だったの?!」

 

「怪我はしてないが犯人は逃した。複数いるのは厄介だから戸塚も気をつけろよ」

 

「う、うん」

 

「ヤバイよお兄ちゃん。あれ警備隊じゃない?!」

 

小町が指差す方向を見ると警備隊の連中が目に入る。まだ気付いていないようだが見つかったら面倒だ。

 

「おいお前ら。今から影に潜るから全員俺の体に触れろ」

 

「八幡?どういう事?」

 

「俺に触れている存在は影に入れるんだよ。逃げるから早く触れ」

 

俺がそう言うと全員が俺の体に触れる。それを確認すると影に星辰力を込める。

 

 

「影よ」

 

そう呟くと影が俺達の体に纏わりつき影の中に潜る。

 

完全に影に入りきると俺は警備隊がキョロキョロしているのを見ながらこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから15分……

 

 

俺は星導館学園から少し離れた場所のカフェの裏に行き地上に出る。

 

「送るのはここまででいいか?」

 

影から出た俺はそう尋ねる。

 

「うん。ありがとう八幡!」

 

「お、おう」

 

やだ、戸塚可愛過ぎる。

 

「……影に入るというのは不思議な気分だな」

 

「そりゃ普通は入らないからな」

 

「いやー、お兄ちゃんの能力って本当に便利だねー」

 

「まあな。とりあえずお前ら全員狙われてるから気をつけろよ」

 

この場にいるメンバーで俺以外は全員襲われているからな。

 

「わかってる。今日は助かったよ。ありがとう」

 

天霧は礼を言ってくる。

 

「それは構わないが……お前は狙われる心当たりはあるか?」

 

転校して間もない奴を狙う理由がどうしてもわからない。それとも天霧の奴、アスタリスクに来る前に何かやったのか?

 

「うーん。正直言ってないね」

 

顔を見る限り嘘を吐いているようには見えないが……

 

「まあとりあえず用心はしとけ。俺は帰る」

 

序列戦があってトラブルの連続……はっきり言ってかなり疲れた。

 

「じゃあね〜お兄ちゃん」

 

「今日は楽しかったよ八幡」

 

「色々と世話になったな」

 

「またね」

 

4人からの挨拶を背に受けて俺は自分の寮に向けて歩き出した。

 

 

 

 

レヴォルフに近づいた俺は寮に戻ろうとしたがある事に気付いた。

 

「やっべ。よく考えたら家に食材がないんだった……」

 

昨日食材を買う予定だったが頭痛くて買いに行かなかったんだった。

 

……仕方ない。コンビニ弁当にするか。学校の食堂は今からは怠いし。

 

ため息を吐きながらコンビニに向かう。今日はため息が多いな……

 

その時だった。

 

 

 

 

 

「……八幡?」

 

いきなり話しかけられる。俺を八幡呼びする人は数少ない。そしてこの声は……

 

「昼の序列戦以来だな。オーフェリア」

 

そこには今日話題となったオーフェリアがいた。

 

「八幡は今帰り?」

 

「ああ。そんで夜飯にコンビニ弁当を買おうと思ってたんだよ」

 

「八幡、前に家では自炊してるって言ってなかった?」

 

「いつもはな。でも今日は寮に食材ないから仕方なくな」

 

コンビニ弁当はそこまで好きじゃないが今から食材買って飯作るのは怠い。

 

そんな事を考えているとオーフェリアは何かを考えているような表情を見せてくる。どうしたんだ?

 

疑問に思っているとオーフェリアが口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………だったら私の寮で夕食食べる?」

 

………え?



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オーフェリア・ランドルーフェンは比企谷八幡に初めて笑顔を見せる。

「………だったら私の寮で夕食食べる?」

 

……は?

 

「えーっとだな……オーフェリア。それはどういう意味だ?」

 

オーフェリアの真意を聞き出す。女子が自分の寮に男子を誘うのは普通にダメだからね?

 

「……?どういう意味って私の寮で夕食を食べないかって誘っただけよ」

 

いや、まあ……そうだけどさ。

 

「いやいや。女の子が男を簡単に自分の寮に誘うなよ。下手したら襲われるかもしれないだろ?」

 

まあ俺は警備隊のお世話になりたくないから襲わないけど。

 

するとオーフェリアは特に表情を変えずに口を開ける。

 

「八幡にそういう事をする度胸があるとは思えないわ。それに八幡じゃ私に勝てないし」

 

それを聞いて納得した。特に後者。オーフェリアを襲っても返り討ちになるだろう。

 

それより気になっている質問をする。

 

「でも何で俺を誘うんだ?」

 

正直言ってオーフェリアから飯の誘いがくるなんて本当に思わなかった。

 

「……八幡にはお昼にご馳走になったからそのお礼のつもりよ」

 

ああ……なるほどな。

 

納得したので本題に戻る。

 

女子からの誘い。本来なら間違いなく断るだろう。しかし今日はリースフェルトとオーフェリアについて話した為かオーフェリアの誘いについては断りづらい。

 

(……まあ、飯くらいで楽しい時間になるとは思えないが……受けるか)

 

そう判断して俺は口を開ける。

 

「わかった。悪いがご馳走になっていいか?」

 

「ええ。じゃあ付いてきて」

 

オーフェリアはそう言って歩き始めたのでそれに続いた。にしても女子寮に行くのがバレたらヤバイから気をつけないとな。

 

 

 

 

 

 

オーフェリアが住んでいる場所はレヴォルフの中ではなく外縁居住区にある学生寮だった。俺が借りている寮とは雰囲気が違うが中々豪華な外観だ。

 

「……上がって」

 

「邪魔するぞ」

 

オーフェリアに案内された部屋の中に入る。部屋の中には必要最低限の家具と棚に幾つかの本があるくらいで女子にしては割と殺風景な部屋だ。

 

(……まあ俺の部屋も似たような感じだし、これなら気楽に過ごせるな)

 

俺の部屋はオーフェリアの部屋に大量の本とパソコンを加えた様な部屋で割と似ている。だから気苦労する事はないだろう。

 

「…今から作るから少し待ってて」

 

オーフェリアはそう言って棚からエプロンを取り出してつけている。

 

(オーフェリアのエプロン姿って………何つーか良いな)

 

オーフェリアがつけているのはピンク色のシンプルなエプロンだった。オーフェリアがエプロンをつけるなんて今までイメージ出来なかったが実際に見てみると……予想外に似合っていて驚いた。

 

「何か手伝うか?」

 

オーフェリアが料理を作っているのにボケーっとしてるのは悪い気がするのでとりあえず聞いてみる。

 

「別にいいわ。退屈だったらそこにある本でも読んでていいわよ」

 

そう言われたので本棚を見てみる。そこにはファッション誌などは一切なくあるのは小説だけだった。今更だが本当に女子らしくない部屋だな。

 

いくら読んでいいと言われても女子の私物に触れる度胸はないので端末を操作して今日レヴォルフで発行された新聞を読み始める。賭けのオッズや歓楽街のおすすめスポットが掲載されている新聞を発行するのは六学園でもレヴォルフだけだろうな。

 

そんな事を考えながら暫くの間新聞を読んでいるとチーズの良い匂いが辺りに充満し始める。

 

その匂いを嗅ぐと同時に端末から目を離す。ヤバい、何だこの食欲をそそる匂いは?

 

そう思っているとオーフェリアが2つの食器を持ってきた。

 

「お待たせ」

 

テーブルの上に置いた食器を見るとそこには熱々のグラタンがあった。見るからに美味そうだ。涎が出てくる。

 

「じゃあ食べましょう」

 

そう言ってオーフェリアは俺の向かいに座るので俺も端末の電源を切ってオーフェリアと向き合う。

 

「じゃあいただきます」

 

「……どうぞ」

 

オーフェリアに了承を得たので一口食べる。

 

すると目を見開いてしまう。

 

 

(……美味ぇ。何だこれ。俺トマト嫌いなのにこのトマトソースは普通に食えるぞ?!)

 

正直言って美味い以外の感想はない。てかマジで予想外だ。言っちゃ悪いがオーフェリアって料理するイメージないし。

 

 

 

 

「美味いなこれ」

 

オーフェリアを褒めると、オーフェリアはいつもの表情でパクパク食べている。

 

「……そう?ずっと昔に習った料理よ」

 

「ずっと昔に?て事は孤児院にいた時か?」

 

俺がそう聞くとオーフェリアは顔を上げて俺を見てから息を吐く。

 

「……ユリスに聞いたの?」

 

「ああ。今日偶然会ってお前の事を聞いた」

 

オーフェリアはいつもより少し悲しげな表情を浮かべ俺に話しかけてくる。

 

「……そう。ユリスは諦めてなかった?」

 

オーフェリアの質問は『リースフェルトは私を連れ戻すのを諦めてないのか?』という意味だろう。

 

「ああ」

 

「……やっぱりね。もう私の運命はここにあるのに……」

 

オーフェリアはそう言ってレヴォルフの校章に手を当てる。

 

「まああいつは絶対に諦めないと思うぞ」

 

何せグランドスラムを目指す奴だ。諦めるとは思えない。

 

「無理よ。ユリスじゃ私の運命は覆せない。……仮に覆せたとしても昔の様には戻れない」

 

ん?覆せたとしても戻れないだと?

 

「どういう事だ。仮にリースフェルトがお前に勝ったらリースフェルトに従うんだろ?」

 

「……ええ。でも私の体は汚れて花を触る事も出来なくなって皆に否定される存在になったの。だから元通りの関係には戻れない」

 

汚れているとはオーフェリア自身から湧き上がる瘴気の事を言っているのだろう。花ってのはよく分からんが昔好きだったのだろう。

 

しかし俺の考えは違う。

 

「別に戻れない事はないだろ?」

 

俺が思っている事を口にするとオーフェリアは目を見開いて俺を見てくる。

 

「何を……?」

 

「だから関係が戻らないとは限らないだろ。俺が思うにリースフェルトは『周りからお前が化物と言われようがそんなもの関係ない!』って言うと思うぞ?」

 

というか絶対にそう言うと思う。少なくともリースフェルトは絶対にオーフェリアを否定しないだろう。殆どの人は知らないが俺もオーフェリア・ランドルーフェンは優しい事を知っている。

 

だから……

 

「リースフェルトだけじゃなく俺もお前を否定するつもりはない」

 

「……信じられないわ」

 

オーフェリアは悲しげな表情のまま首を振る。多分今まで化物扱いされていたせいか、その辺りは信じられないのだろう。

 

「……そうか。じゃあ証拠を見せてやる」

 

「……え?」

 

オーフェリアが不思議そうな顔をしているのを確認しながら俺は残っているグラタンを食べ終えてオーフェリアと向き合う。

 

「オーフェリア、悪いが手袋を取ってくれないか?」

 

「……本気で言ってるの?」

 

「ああ」

 

俺がそう言うとオーフェリアは理解に苦しむとばかりの表情を浮かべながら右手に付けている手袋を外した。

 

手袋を外すとオーフェリアの美しい白い肌が現れる。それと同時に白い肌から揺らめくように瘴気が立ち上る。

 

「外したわよ。……それでどうするの?」

 

オーフェリアが質問してくるが決まっている。俺がオーフェリアを否定してない事を証明するだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はオーフェリアの手を一切躊躇わずに掴んだ。

 

それによって腕に激痛が走り腕も変色しているが知った事じゃない。

 

「……っ!?」

 

オーフェリアを見ると信じられない物を見たような表情をして驚いていた。何だよ、お前もそんな顔するのかよ。瘴気による痛みの強さよりそっちの方が驚いたぞ。

 

オーフェリアの表情の変化に驚いていると、半ば強引に手を振り払われる。

 

顔を上げるとオーフェリアは未だに驚いた表情をしながら外した手袋を再度付けていた。

 

付け終わると同時にオーフェリアは自身の体から瘴気を出して俺の手に当てる。それによってさっきまであった痛みがみるみる無くなり腕の色も元に戻る。その事から今オーフェリアが出した瘴気は俺が腕に触れた瘴気を打ち消す効能があるのだろう。

 

腕の色が元に戻ると同時にオーフェリアは俺に話しかけてくる。

 

「……八幡正気?何を考えているの?」

 

若干落ち着いたものの未だに驚いた表情を浮かべているオーフェリア。

 

「何を考えているって俺はお前を否定しないって証拠を見せただけだ。問題なく触れるなら否定してない証明になるだろ?」

 

俺がそう返すとオーフェリアは目をパチクリしながら俺を見て、やがてため息を吐く。

 

「……八幡って馬鹿?」

 

「おいこら。そんなキョトンとした顔で言われると腹立つから止めろ」

 

ぶっちゃけ結構イラってきたぞ。

 

「だって……私の体を知っていて、それでも触ってくるとは思わなかったわ」

 

「まあそうかもな。でもこれで俺はお前を否定してないって証明になったか?」

 

「……それは」

 

オーフェリアは黙る。

 

大体こいつの体は好き好んでこうなった訳じゃない。だから俺はオーフェリアを悪と否定するつもりはない。否定されるべきはアスタリスクに来る前に馬鹿やりまくった俺みたいな存在だ。

 

「……まあそれでもお前が『比企谷八幡は私自身を否定している』と思っているならこれ以上は言わない。ただ、俺はお前と過ごす時間は楽しいと思ってる。これだけは事実だ」

 

そう言って俺は立ち上がる。

 

「……帰るの?」

 

「飯も食い終わったしな。警備隊や風紀委員に見つかったら面倒だしそろそろお暇するべきだろう」

 

そう返して鞄を持って玄関に向かうとオーフェリアも後を付いてくる。

 

「じゃあなオーフェリア。飯美味かった」

 

そう言ってドアを開けようとした時だった。

 

服を引っ張られる感じがしたので振り向くとオーフェリアが俺の制服の裾を掴んでいた。

 

「オーフェリア?」

 

突然の行動に驚きながらもオーフェリアの行動の意図について尋ねてみる。

 

「また来てくれる?」

 

「……え?」

 

「……私も八幡と過ごす時間は楽しい。だから……」

 

オーフェリアはそう言って黙るが言いたい事は理解した。

 

俺自身オーフェリアと過ごすのは嫌じゃない。そして……

 

ーーオーフェリアにも楽しい時間を作ってやってくれないかーー

 

リースフェルトとの約束もある。だから……

 

 

「ああ。また呼んでくれ」

 

断る理由はないな。俺はオーフェリアの誘いを了承した。

 

俺がそう返すとオーフェリアは普段連んでいる俺以外には分からないと思えるくらい小さい、それでありながら本物の笑顔を見せてきた。

 

「……ありがとう。じゃあまた学校で」

 

「ああ。また学校でな」

 

いつも別れの時に使う挨拶を交わして俺はオーフェリアと別れた。

 

オーフェリアの寮を出て自分の寮に歩いている中、俺は不思議な高揚感に包まれていた。

それが何なのかは分からないが不思議と気分は良かった。



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比企谷八幡は天霧綾斗の力の一端を知る

オーフェリアの家で夕食を取った翌日

 

いつも通り学校に行く。教室に入ると授業間近なのに半分くらいしか生徒はいなかった。流石レヴォルフ、学級崩壊同然の状態が普通とはな……

 

「あ!八幡さんおはようございます」

 

そう言って笑顔で挨拶をしてくるプリシラはマジで天使。まさに掃き溜めに鶴だな。癒される。

 

「おはよう。今日って宿題あったっけ?」

 

「はい。数学の課題が……って逃げちゃダメです!」

 

プリシラが俺の服を掴んでくる。

 

「離せプリシラ。俺は頭が痛いから保健室に行かなきゃいけないんだ」

 

「数学の課題を忘れたんですよね!数学は四時間目ですから今からやれば間に合います!」

 

「えー。頼む写させて」

 

レヴォルフは六学園の中では成績が悪いが俺の数学はその中でも下位クラスだからやる気がしない。次の星武祭で優勝したら『学校の授業から数学を除外する』って願うべきか?

 

「ダメです!宿題は自分でやらなければ意味がありません!さぁ座って!」

 

ダメだ。やっぱりプリシラは怒ると怖い。イレーネがプリシラには頭が上がらないと言う気持ちがよく分かる。

 

「さあ、急いでやりましょう!」

 

いつの間にか椅子に座らされた俺はそんな事を考えながら授業開始までプリシラに見張られながら数学の課題をやり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って事があったんだよ」

 

「……そう。お疲れ様」

 

昼休みになりベストプレイスに向かった俺はオーフェリアに愚痴っている。オーフェリアはいつものように悲しげな表情をしながら俺の話を聞いて相槌をうっている。

 

「そういえばオーフェリアって成績良いのか?」

 

そう尋ねるとオーフェリアは端末を開いて俺にデータを見せてくる。それによるとオーフェリアの成績は上位20人の内の一人だった。

 

「マジかよ……しかも数学は90点超えかよ」

 

「八幡はどうなの?」

 

そう言われて思わず顔が引き攣った様な気がする。しかしオーフェリアは見せたんだ。俺のを見せないってのは筋が通らないだろう。

 

息を吐きながら端末を開いてオーフェリアに昨年の学年末試験のデータを見せる。

 

「……数学が酷いわね」

 

昨年の学年末試験の結果は総合成績は300人中上位50位以内に入っているが数学はワースト10に入っているからな。

 

「まあな。おかげでレヴォルフに入ってからはテスト後は毎回補習だ」

 

しかも高等部からは留年があるからな。このままだとマジでヤバい。

 

そう思っている時だった。

 

 

 

「じゃあ私が八幡に数学を教える?」

 

オーフェリアから予想外の提案をされて呆気にとられてしまう。当の本人は特に気にした様子もなく話し続ける。

 

「この成績だと長期の休みには補習漬けになるでしょうし……」

 

はっきり言うな。わかっていても傷付くからね?

 

「それに……八幡と一緒に過ごすのは楽しいし」

 

あのー、オーフェリアさん?男子にはっきりと言うのはやめてください。その気がないってのは理解出来るけど普通の男子は誤解しちゃうからね?俺は大丈夫だけどね。

 

まあ成績の良いオーフェリアなら教え方も上手そうだし構わないが……

 

「じゃあ期末試験2週間くらいになったら頼む」

 

オーフェリアが俺と過ごして楽しいと思うなら一緒に過ごすのも吝かではない。リースフェルトが望んでいるだけでなく、俺もオーフェリアと過ごす時間は楽しいし。

 

「そう……わかったわ……ふぁあ」

 

オーフェリアは頷きながら小さく欠伸をしてくる。珍しいな。

 

「お前が欠伸なんて珍しいな。寝不足か?」

 

「……ええ。昨日眠っていたら彼から呼び出しが来て……」

 

彼とはレヴォルフの生徒会長のディルク・エーベルヴァインだろう。全くあのデブは時間を考えろよ。

 

「……午後の授業まで後1時間くらいある。俺が起こしてやるから少し休め」

 

「……いいの?」

 

「構わない」

 

深夜にわざわざ仕事をした奴が少しくらい休んでもバチは当たらないだろう。

 

「……じゃあ肩、借りてもいい?」

 

そう言うなりオーフェリアは俺の肩に頭を乗せる。……いや、まあ……寝ろと提案した手前強く言えないがよ……無防備過ぎだろ?

 

「……好きにしろ」

 

「んっ……」

 

オーフェリアはそう言って瞼を閉じる。そして10分もしないで寝息を立て始めた。

 

戦闘中は凄く怖いが……寝ている時は本当に普通の女の子みたいだな。出来ることなら起きている時も普通の女の子になって欲しいな。

 

俺はそう思いながら昼休み終了のチャイムが鳴るまでオーフェリアを眺め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁぁぁー。今日も疲れた」

 

あれから4時間、全ての授業が終わったので俺は帰りがてらコンビニに入りお菓子と飲み物を買い始める。

 

オーフェリアは昼休み終了の際には大分すっきりした様子だったので安心した。てか俺も寝ちゃって2人で遅刻しかけたくらいだったし。

 

(……っと。これで全部か。値段は……大体三千円くらいか。少し買い過ぎたか?)

 

一瞬、そう思ったが首を横に振る。こまめに買いに行くのは怠いしこれでいいか。

 

そう思いながらレジに並んで買った品を店員に出す。さて買い終わったらスーパーで食材でも……ん?

 

会計を待っている間コンビニの外をぼんやり眺めている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「天霧?」

 

コンビニの外で先日会った天霧綾斗が全力で走っていた。一瞬顔が見えたが尋常じゃない程焦っている顔だった。しかも向かっている先は再開発エリア。レヴォルフの人間ならともかく、星導館のような学校の生徒が行く場所じゃない。……何か嫌な予感がするな。

 

そう判断した俺は急いでコンビニを出ようとするが……

 

 

「お客様!商品のお受け取りとお会計がまだです!」

 

店員に呼び止められる。くそっ、このタイミングかよ?!

 

舌打ちをしながら金を払って商品を受け取る。

 

 

コンビニを出ると同時に買った商品を影の中に入れて天霧が走った方向に向けて走り出す。

 

しかし天霧を見かけてから2分、見つけるのは至難だろう。再開発エリアは廃ビルが結構あるから下手な鉄砲数撃ちゃ当たる作戦は出来ない。

 

となると人に聞くしかない。星導館の学生が再開発エリアを歩いていたら目立つから情報は簡単に手に入るだろう。

 

そう判断した俺は正面から歩いてくるレヴォルフの男子生徒を捕まえる。するとそいつは怯え出す。

 

「ひぃっ!ひ、比企谷八幡!」

 

くそっ。目立つとこういう時に面倒だな。だがそうは言ってられない。

 

「聞きたい事がある。お前この辺で星導館の制服着た奴を見なかったか?」

 

俺がそう聞くと男子生徒はキョトンとしている。その様子からカツアゲされると思ったのか?

 

「せ、星導館の奴って男子生徒か?」

 

「ああ。見てないか?」

 

「そ、それなら……再開発エリアの外れにある解体工事中の黒いビルに向かっていたのを見たぞ」

 

よし、有効な情報を手に入れた。再開発エリアの外れに行く星導館の男子生徒なんてまずいない。となるとそいつが天霧って可能性が濃厚だ。

 

「すまん」

 

男子生徒に礼を言って走り出す。何か後ろから「あれ?俺、殺されないで済んだの?」とか言っているが今回はそれどころじゃないから見逃してやる。

 

 

 

あれから3分……

 

俺はようやく男子生徒に言われた黒いビルを発見した。再開発エリアの外れであるから間違いなく当たりだろう。

 

そう判断して近寄ってみた時だった。

 

 

 

 

 

 

俺はいきなり総毛立つのを感じた。

 

 

原因は……

 

俺は例の黒いビルを見ると圧倒的な星辰力が光の柱を形成していた。

 

(……何だ。あの星辰力は?かなりあるぞ)

 

いつもオーフェリアと戦っているからそこまで驚きはしないが……あの星辰力はアスタリスクでもトップクラスだろう。

 

理由はない。理由はないが俺はあの星辰力は天霧の物だと思う。それならあのクローディア・エンフィールドが天霧をスカウトしたのも頷ける。

 

そう判断した俺はこっそりと進み廃ビルに近寄ってみる。そこには……

 

片手に黒い剣を、もう片手にリースフェルトを持った天霧が武器を持った沢山の人形の攻撃を避けていた。

 

(……何やってんだありゃ?しかもあの人形……もしかして以前襲ってきた奴か?)

 

人形は槍や剣、銃やクロスボウなど様々な武器を持っている。数にして100体くらいか?てかそれを1発もくらわないで避けている天霧も中々やるな。

 

「ふ、ふふふ……よくかわしますね。ですが、逃げてばかりでいいのですか?」

 

天霧の身体能力に感心していると声が聞こえたのでそちらを見る。すると星導館の制服を着た痩せこけた男が天霧を挑発している。様子を見る限りこいつが人形を操ってんのか?

 

(だとしたら……小町を狙ったのもこいつか?)

 

「そうだね。今ので十分わかったよ。あなたの能力で個別に動かせる人形はせいぜい6種類ってところだろう?」

 

殺意を露わにしている中、天霧がそんな事を言ってくる。

 

ん?どういう事だ?今来たばかりだからよくわからん。

 

疑問に思っていると痩せこけた男子生徒は天霧を嘲笑する。それに対して天霧は……

 

「見ればわかるよ。完全に自由に動いているのは6種類、後はある程度パターン化した動きしかしてない。それも16体くらいまでかな。残りは全部同じように引き金を引いたり腕を振ったりといった単純な動きをしているだけだ」

 

天霧がそう言うと男は青ざめた顔で震え始める。

 

試しに人形を見てみると……うん。確かに殆どが単純な作業しかしていなくてマトモに動いていないな。てか6種類16体ってチェスの駒をイメージしたのか?

 

それにしても攻撃を避けながらそれに気付くとは……本当に興味深い奴だな。この実力なら王竜星武祭も余裕でベスト8以上にいけるだろう。

 

天霧の観察眼に感心していると……

 

 

 

 

「くそがああああああ!!」

 

いきなり男が叫びだした。いきなり変わり過ぎだろ?

 

 

しかし狂った人間ほど面倒な存在はないな。そろそろ俺も出るか。

 

そう判断して俺は自身の影に星辰力を込める。

 

「影の病」

 

そう呟くと俺の影は形を大きく変える。

 

「潰れろ!潰れてしまえっ!!」

 

男がそう叫ぶと前衛にいる人形が天霧めがけて襲いかかる。

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

人形は途中で動きを止める。人形は無理やり動こうとするが動ける気配はなし。

 

「な、何だ?何が起こったんだ?!」

 

男が見るからにテンパりだした。そりゃそうだ。自身の操る100体を超える人形が1体も動かなくなったからなぁ。

 

見ると天霧とリースフェルトも呆気に取られているのでそろそろ種明かしをするか。

 

俺は息を吐き物陰から現れる。

 

3人は俺を見るなり驚いた表情を見せてくる。特に人形使いの男は絶望した表情を浮かべている。

 

そんな中、俺は殺意の籠った笑みを人形使いの男に見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう。お前が人の妹を襲撃した男でいいのか?」

 

 

 

 

 

 

『あれほど殺意のある目を見るのは初めてだった』——後に天霧綾斗とユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトはそう語る。

 



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こうして物語の序章は終了する。

「よう。お前が人の妹を襲撃した男でいいのか?」

 

俺はそう言って笑いながら3人の方に向けて歩を進める。

 

「な、『影の魔術師』!どうしてここが?!」

 

人形使いの男はビクビクしながら指を向けてくる。その顔は絶望に満ちている。俺は更に絶望を与えるべく笑みを深める。

 

「質問してんのは俺だ。てめぇが小町を襲撃した屑でいいのかって聞いてんだよ?」

 

「ひぃぃぃ!」

 

人形使いはそう叫びながら後ろに下がる。が、後ろにある壁にぶつかって地面に崩れ落ちる。

 

「ひ、比企谷。どうしてここに?」

 

人形使いに近寄ろうとするとリースフェルトが話しかけてくる。

 

「ん?さっきコンビニで買い物してたら天霧が再開発エリアに向かって走ってるのが見えたんだよ。それでピンときた。それよりリースフェルト、こいつが例の襲撃者でいいのか?」

 

「あ、ああ。そうだ」

 

ふーん。こいつがやっぱり小町を狙った屑か。

 

「こいつには後で地獄を見せるとして……天霧、お前中々やるな。クローディア・エンフィールドがスカウトしたのも納得したぜ」

 

「いやいや。100体以上の人形を縛りつけている比企谷に比べたら大した事ないよ」

 

よく言うぜ。四色の魔剣の1つ『黒炉の魔剣』を持ってる奴が弱い訳ないだろうが。四色の魔剣は純星煌式武装の中でもかなり強力で使い手を選ぶと聞く。同じ四色の魔剣を持つガラードワースのアーネスト・フェアクロフを考えると弱いとは思えん。

 

「そうかい。……まあ今はどうでもいいな。とりあえず先ずはこの人形を全部ぶっ壊すか」

 

そう言って天霧から視線を外して100体以上の人形とその操り手を見る。

 

「ひぃぃぃ!な、何で動かないんだよ?!動けよ!!動いてあいつを殺せよ!」

 

男はそう言って人形を操るような素振りを見せるも、当の人形はギシギシ音を立てるだけで動く気配はない。斧を振ったり銃を発砲しようとしても指の先まで影が纏わりついている為攻撃をする事が出来ない。

 

(……何だよ拍子抜けだな。100体以上の人形を動かせるからどんなもんかと思ったがこの程度の拘束すら抜け出せないなんて)

 

 

もういいや。全部ぶっ壊すか。

 

俺は手を上げて

 

 

 

 

 

 

 

「犯せ、影の病」

 

そう言って指をパチリと鳴らす。

 

瞬間、人形に纏わりついていた影は拘束力を上げて人形を締めつけ始める。それによってさっきより遥かに大きくギシギシ音を立てる。

 

「や、止めろ!」

 

人形使いは俺がやろうとしている事を理解して制止の声をあげるがもう遅い。

 

 

100体以上の人形は大きな破砕音と共に全て粉々に砕け散った。

 

全ての人形はバラバラとなり地面に広がる。

 

「そ、そんな……僕の人形が……」

 

人形使いは呆然としている。しかしだからといって放置するつもりはない。

 

「さて、次はお前だ」

 

俺がそう言って影の触手を蠢かせると人形使いは尻餅をつきながらも叫び出す。

 

「ま、まだだ!まだ僕には奥の手がある!」

 

そう言って腕を振るうと背後にある瓦礫の山から巨大な人形が現れる。さっき全て破壊した人形の5倍くらいの大きさで人というよりゴリラの体型をしている。

 

しかし特に恐怖は感じない。はっきり言って簡単に破壊出来るだろう。だから……

 

「おい天霧。アレはお前に任せた」

 

「え?俺?」

 

天霧がキョトンとした顔をしながら俺を見てくる。俺としてはこいつの実力を見てみたい。だから天霧に任せてみる。

 

「まあ安心しろ。万が一ヤバくなったら助ける。それにリースフェルトはカッコイイお前を見てみたいらしいし」

 

天霧に抱かれて真っ赤になっているリースフェルトを見ながらそう言うとリースフェルトは更に真っ赤になる。

 

「ひ、比企谷!な、何を言って……?!」

 

いや、そんなに真っ赤になって否定しても説得力ないからね?それに元々リースフェルトを助けに来たのは天霧だ。俺は何となく付いてきただけだし。

 

そう思いながら天霧を見ると天霧はため息を吐きながら頷く。

 

「はぁ……わかったよ」

 

そう言うと『黒炉の魔剣』を構える。対して人形使いはやけくそになったような笑いをしながら腕を振るう。

 

「ははは!さあ、僕のクイーン!やってしまえ!」

 

そう言うと巨大な人形は素早い動きで俺達に詰め寄る。俺は万が一に備えて影を展開できるように準備する。

 

天霧はというと息を吐いて人形の拳があたる直前に『黒炉の魔剣』を閃かせる。

 

 

 

 

 

「五臓を裂きて四肢を断つーーー天霧辰明流中伝ー九牙太刀!」

 

天霧がそう叫ぶと一瞬だった。

 

一瞬にして巨大な人形の両手足が斬り落とされ地響きを上げながら地面に倒れこむ。そして胴体には大きくえぐられた跡がある。

 

(……何が大したことないだよ?普通に強いじゃねぇか)

 

にしても何でリースフェルトと決闘した時に本気を出さなかったんだ?この強さなら言っちゃ悪いがリースフェルトを瞬殺出来ると思うぞ?

 

疑問に思っていると天霧は人形使いに近寄る。

 

「ひ、ひぃぃぃ!」

 

すると顔を引きつらせながら逃げ出した。転がるように人形の残骸の中を逃げるが逃すつもりはない。

 

「影よ」

 

俺がそう呟くと俺の影が地面から現れて人形使いの両手両足を縛る。念の為骨は折っておくか。

 

そう思いながら影の拘束力を上げると鈍い音が聞こえる。

 

「がぁぁぁぁぁ!!」

 

人形使いは絶叫を上げながら暴れる。うるせぇなぁ。

 

「お、おい比企谷。やり過ぎじゃないのか?」

 

リースフェルトが引き攣った顔をしてくるがやり過ぎだと?

 

 

 

 

 

 

「そうか?妹を狙った屑に優しくする理由はない。大体犯人を逃げられなくするのは当然だと思うが?」

 

「そ、それは……そうだが……」

 

「……まあお姫様には刺激が強いかもしれないな。で、こいつはどうすんだ?風紀委員や警備隊に連絡するならさっさとしろ」

 

「ああ、それならクローディア達が来ると思うからここで待機……ぐっ!」

 

「天霧?」

 

天霧が話している途中、急に表情が苦痛に歪みだした。

 

「ど、どうした?」

 

リースフェルトも驚きながら尋ねる。しかし天霧が返答する前に異様な雰囲気を感じ取った。

 

周囲の大量の万応素が天霧を中心に集約されていく。

 

(……何だこりゃ?)

 

辺りに俺とリースフェルト以外の魔術師や魔女はいない。って事はこいつはあらかじめ仕込まれていた物だろう。それ自体は珍しくはないが……

 

(これほどの万応素を何に使うんだ?)

 

「あああああああっ!」

 

天霧がそう叫ぶと同時に複数の魔方陣らしきものが天霧を取り囲む。更にその魔方陣から光の鎖が現れて天霧の体を何重にも縛りつけていく。

 

「これは、先ほどのーー?!」

 

リースフェルトは驚いた表情をしているが事情を知っているようだ。

 

「うっ……」

 

天霧は呻き声を最後に気絶する。それを確認すると同時に俺は影を操作して地面に影のクッションを敷く。それによってリースフェルトを抱き抱えていた天霧は怪我をしないで済んだようだ。

 

「おい!綾斗!しっかりしろ!」

 

リースフェルトが心配そうな表情をしながら天霧に話しかけている。

 

「おいリースフェルト。お前はこれを知ってるのか?」

 

俺が尋ねるとリースフェルトは俺を見て話しかけてくる。

 

「……わからない。だがさっきの魔方陣は……お前が来る前にも見た。その魔方陣は綾斗が星辰力を高める際に弾け飛んだものと同じものなんだ」

 

よくわからないが……星辰力を高める際に必要な儀式みたいなものか?

 

まあ今はそれについてはどうでもいい。問題は天霧の容態についてだ。一応医療機関に連れてった方がいいだろう。

 

そう判断した俺は影に星辰力を込める。

 

 

 

「目覚めろーー影の竜」

 

そう呟くと自身の影が辺り一面に広がり魔方陣を作り上げる。そして黒い光が迸り魔方陣を破るゆうに20メートルくらいの大きさの黒い竜が現れる。

 

「ひ、比企谷……?」

 

リースフェルトは驚いた表情を見せているが暴力には使わないからね?

 

「リースフェルト、その竜に乗って天霧を治療院に連れてけ。そいつの状態は知らないが念の為だ」

 

初めて見る能力だ。念の為治療院に行っておいた方がいいだろう。

 

「ああ……だがサイラスは……」

 

サイラス?ああ、この人形使いか。

 

「クローディア・エンフィールドへの引き渡しは俺がやっとく。ついでにお前と……そこで気絶してるマクフェイルも治療院で診てもらってこい」

 

よく見りゃ少し離れた所にこの前に暴れていたマクフェイルもいるし、リースフェルトも軽くない怪我をしている。星脈世代だから後遺症はないと思うが治療院には行った方がいいだろう。

 

「……いいのか?」

 

「構わない。俺は無傷だし暇だし。行くならさっさと行け」

 

そう言いながら気絶してるマクフェイルを拾って竜に乗せると、マクフェイルは竜の中に入り込む。影の竜の中は快適だから高速で移動しても問題ないだろう。

 

「済まない……では、サイラスの引き渡しは任せる」

 

リースフェルトはそう言って天霧を支えながら影の竜の中に潜り込む。

 

それを確認した俺は竜に移動先を指示する。影の竜は一度雄叫びを上げると翼を広げて治療院に向かって一直線に飛んで行った。

 

竜の速度は時速500km、これから3分もしないで治療院に着くだろう。

 

俺は竜が見えなくなるのを確認して、サイラスと向き合う。

 

 

「さて……クローディア・エンフィールドが来るまで嬲るとするか」

 

自分でも嫌らしいと思うくらい邪悪な笑みを浮かべてサイラスに近寄る。

 

「ひぃぃぃぃぃ!!い、嫌だっ!助けてくれぇぇぇぇ!」

 

サイラスは惨めに泣きながら助けをこう。しかし無駄だ。

 

「無駄だ。天霧もリースフェルトもマクフェイルも既にいない。ここは俺とお前の2人きりだぜ」

 

俺が天霧達を治療院に運んだ理由はあいつらを助ける為だけでなく、サイラスを嬲る邪魔をさせない為でもある。多分天霧やリースフェルトは嬲るのを止めそうだし。

 

はっきり言ってこいつは小町を襲撃するという俺の逆鱗に触れる行為をした屑だ。殺しはしないが地獄を見せるつもりだ。

 

そんな事を考えながら俺は影に星辰力を込めて小さい塊を作る。

 

「行け」

 

そう呟くと影の塊はサイラスの口の中に入る。

 

「んんっ?!」

 

サイラスは驚いた表情を見せているが疑問に思っている顔だ。まあまだ攻撃してないからな。

 

30秒くらいしたので俺は口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「嬲れーー暴れ影針鼠」

 

俺がそう叫んだ瞬間、サイラスの口から大量の血が出る。

 

 

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

両手両足を拘束されているサイラスは余りの苦痛に叫ぶ事しか出来ないようだ。

 

俺が今やっているのはサイラスの胃の中に入れた影の塊を針鼠の形に変えて暴れさせる事だ。

 

今サイラスの胃の壁は大量の針が刺さっている状態になっている。その激痛は半端ないだろう。以前喧嘩を売ってきた歓楽街のマフィアにやったら痛みで気絶したし。

 

「ぐぅぅぅぅぅ!や、やめ……ぁぁぁぁぁ!!」

 

サイラスは叫ぶ事しか出来ない。しかし殺すつもりはない。殺したらヤバイしな。だから俺は影針鼠の一部を削ってサイラスの胃の壁の穴が開いている部分をコーティングする。これなら出血多量で死ぬ事はないだろう。

 

(さて、次は小腸を嬲るか)

 

そう判断して影に指示を出そうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでにしていただけませんか?『影の魔術師』」

 

後ろから話しかけられたので振り向くと金色の髪を持った美しい少女、クローディア・エンフィールドがいた。

 

(……まあ、両手にある剣で美しさが凶々しくなってるけど)

 

そう思いながらエンフィールドの両手を見る。

 

そこには目玉の様な鍔飾りの文様を持つ、不気味な形状の双剣があった。

 

純星煌式武装『パン=ドラ』星導館学園が誇る純星煌式武装の中でも、未来視という破格の能力を持った魔剣。直で見るのは初めてだが……中々不気味だな。

 

そう思いながら息を吐く。

 

「はいよ。戻れ」

 

そう言って指示を出すとサイラスの口から影の塊が出てくる。

 

 

「……なるほど。それでノーマン君の体内を蹂躙した訳ですね」

 

「そんな所だ。胃に幾つか穴は開いてるが穴は影でコーティングしてあるから死ぬ事はないと思うぞ」

 

「そうですか。彼にはまだ利用価値があるので死んで貰っては困るのですよ」

 

「利用価値?……ああ、アルルカントに貸しを作ると?」

 

「あら?彼がアルルカントの手先とわかったのですか?」

 

「確証はないがな。星導館の技術であんな人形100体も作れるとは思えない」

 

あんな技術があるのはアルルカント以外には考えにくい。

 

そう思いながらいつの間にか気絶しているサイラスを地面に放る。

 

「ほらよ。大分嬲ってスッキリしたし連れてけよ。……そこで隠れてる男にでも頼んでな」

 

俺がそう言って近くにある柱を指差す。すると柱の裏から頬に目立つ傷を持った星導館の制服を着た男子生徒が現れた。身のこなしのレベルはかなり高いな。そしてこの場所にいる事から星導館の特務機関『影星』のメンバーだろう。

 

「いやー、バレないように隠れてたんだけどな。流石レヴォルフ最強の男」

 

態度はヘラヘラしているが目の奥には強い光がある。間違いなくこいつも一流だろうな。

 

「そいつはどうも。それより連れてくなら連れてけよ。俺は帰る。……あ、そうだエンフィールド。天霧達は治療院に連れてったんで」

 

「そうですか。どうもありがとうございます」

 

「どうしたしまして。んじゃ俺はこれで」

 

適当に挨拶を返して廃ビルを後にする。さてさて……サイラスを生かしてアルルカントに貸しを作って何をするのやら……

 

 

 

そんな事を考えながら俺は懐にあるマッ缶を取り出して飲みながら自分の寮に向かって歩き出した。







新章予告

鳳凰星武祭も近づく最中、比企谷八幡はある事を知る。

「……それで自我を持った機械を武器として星武祭で使う事をアルルカントは考えているらしいのよ」

「ほう武器として、か……」







平和に過ごしているとレヴォルフ黒学院に昏梟の校章を持つ者達が現れる。

「今度我が学園がレヴォルフ黒学院と星導館学園の三校で新型の煌式武装の開発をする事になってな。その挨拶に来たのだよ」

「いやー。私の人形ちゃんを100体纏めて木っ端微塵にした君と鳳凰星武祭で1番の脅威になりそうな剣士くんをこの目で一度拝んでみたくってさー」

「はははははっ!久しぶりだな八幡!我が相棒よ!」








アルルカントの煌式武装について興味を持つ中、星導館の面々と関わり合う。


「……オーフェリア・ランドルーフェン。……よろしく」

「いやー!兄がお世話になっています!」

「じゃあよろしくね八幡!」

「それがお前の新しい切り札か……小町」

「これで決めるよお兄ちゃん!」

「……八幡。私、八幡と一緒に……」

「おいオーフェリア。今直ぐ警備隊にど変態がいると通報しろ」

「ちょっと待ってちょっと待って!!」





学戦都市でぼっちは動く

銀綺覚醒編 近日発表



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比企谷八幡は妹に協力すると約束する

肌を刺すような7月の日差しは昼になると一層厳しくなり、学生だけでなく大人までもそれを忌避するだろう。

 

俺がいつも昼飯を食べるベストプレイスは日差しを遮る物がない。よって普通の学生なら雨の日や今日みたいな日差しが強い日は利用しないだろう。

 

 

 

 

 

普通の学生なら

 

 

 

 

「……やっぱり八幡は魔術師というより道士に近いわね」

 

オーフェリアはパンを食べながら若干感心しているような雰囲気を出しながらそう言ってくる。

 

影の中で

 

そう、今日は日差しが強いって事で俺とオーフェリアは俺の影の中で昼飯を食っている。影の中は熱を遮る事が出来るので日光に苦しむ事なく過ごせる。

 

普通なら女子と密閉された空間で2人きりなんて無理だが、オーフェリアとは長く一緒にいるからか緊張はなく、寧ろ少しの安心感があって心地良い。

 

「まあ俺の力は攻撃、防御、支援どれもそこそこ使えるから道士寄りかもな」

 

影の刃、影の鎧、影による分身体なんでも出来るから否定はするつもりはない。

 

「それよりオーフェリア、さっきの六花園会議の話の続きを頼む」

 

俺はさっきまで話していた事について聞いてみる。

 

 

 

六花園会議 それはアスタリスクにある六つの学園、星導館学園、クインヴェール女学園、レヴォルフ黒学院、アルルカント・アカデミー、界龍第七学院、聖ガラードワース学園の生徒会長が1ヶ月に一度アスタリスクの中央区にある高級ホテル、ホテル・エルナトで行われる会議である。

 

その場に参加出来るのは各校の生徒会長のみだが、会議の後で生徒会役員や生徒会長と関わりが深い人間は会議の内容を知る事はあり得る事だ。

 

そしてオーフェリアはレヴォルフの生徒会長であるディルク・エーベルヴァインと関わりが深いからある程度の情報を持っている。だから俺は偶にオーフェリアから話しても特に問題ないと思える話を聞いている。

 

「ええ。確か……何処まで話したかしら?」

 

「確かアルルカントが人工知能を搭載した(自我を持った)機械をアスタリスクの学生として受け入れて星武祭への参加を提案して他の学園に却下された所までだな」

 

俺は人工知能を持っている機械はそこそこ興味が湧いて戦ってみたいとは思ったが上の人間からしたら迷惑千万だろう。

 

仮にその提案が通っても有利になるのはアルルカントだけだ。それなりに根回しをするか、他の学園に対するメリットを示さない限りそんな提案一蹴されるのがオチだ。

 

「……そうだったわね。それで却下されたから自我を持った機械を武器として星武祭で使う事をアルルカントは考えているらしいのよ」

 

「ほう武器として、か……」

 

それを聞いて俺は納得した。確か星武憲章には道具……つまり武器武装の使用に関して、形状でそれを制限するような項目はなかったと思う。

 

普通の単純作業しかできない自動制御の擬形体なら速攻でスクラップになるのが目に見える。しかし……その擬形体に人間と同じような判断力を持たせればどうなるかはわからない。

 

その上、強力な煌式武装や装甲を取り入れたら星武祭は荒れるかもしれない。

 

「ふーん。このタイミングでそれを提案するって事は鳳凰星武祭で出てくるのか?」

 

出来るなら王竜星武祭に出て欲しいな。俺アスタリスクに来てから戦闘狂になったし。

 

「そうじゃない?興味ないけど」

 

オーフェリアはいつもの表情でそう返す。

 

「ったく……相変わらずだな。少しくらい興味がある物とかあるのか?」

 

ぼっちである俺すら読書とプリキュアがあるってのに……そんなんじゃ退屈だろうに。

 

すると……

 

「……私が今興味があるのは八幡だけよ」

 

オーフェリアは事も無げにそう言ってくる。それを聞いた俺は顔が熱くなるのを感じる。

 

勿論オーフェリアにその気がないのは理解している。理解してはいるが……はっきりと言われるのは恥ずかしいな。

 

「……マジで?」

 

つい聞いてしまう。オーフェリアは平然としたまま頷く。

 

「ええ。……八幡といると何だか安らぐのよ」

 

そう言ってパンを食べ終えたオーフェリアは俺の肩に寄りかかる。以前オーフェリアが俺の肩を借りて寝て以降、オーフェリアはよく俺の肩に寄りかかってくるようになった。

 

俺自身恥ずかしいという気持ちはあるが心に蓋をしてそれに耐える。それでオーフェリアが安らいでくれるなら羞恥心なんて無視するつもりだ。出来る事ならオーフェリアには裏の仕事をしていない時には安らいで欲しい。

 

そんな事を考えながらオーフェリアの頭の重みを感じているとポケットにある携帯端末が着信を知らせる。俺はポケットから端末を取り出すと画面に『比企谷小町』と表示されている。

 

「すまんオーフェリア。電話が来たから出ていいか?」

 

一応一緒にいるオーフェリアから許可を取らないとな。

 

「いいわよ」

 

了承を得たので空間ウィンドウを開く。

 

するとそこには星導館に通う最愛の妹の小町の顔が表示されていた。

 

 

『もしもしお兄ちゃん?』

 

「おう。どうした小町?」

 

『うん。実はお願いが……って、お兄ちゃんの周囲真っ暗だけど何処にいるの?』

 

小町が不思議そうな顔で見てくる。あー、そういや忘れてたな。

 

「ああ。日光がきついから影の中で飯食ってる」

 

『ほぇ〜。お兄ちゃんの能力ってやっぱり多彩だね。アスタリスクで1番じゃないの?』

 

それについては否定しない。アスタリスクの生徒の間では1番強い異能者はオーフェリア、1番万能な異能者はシルヴィ、1番多彩な異能者は俺と評されている。

 

「そうかもな。ところで何か用か?さっきお願い云々言っていたが」

 

『あ、そうそう。鳳凰星武祭まで1ヶ月切ってるじゃん?だからお兄ちゃんに稽古付けて欲しくて』

 

「俺?」

 

『うん。同じ学校の人には手を晒したくないしね』

 

「だからって何で俺……ああ、ひょっとして前シーズンの王竜星武祭の予選で俺が使ったアレを練習に使うのか?」

 

『そうそう。アレなら充分な実力もあるし良い練習になると思うからね』

 

なるほどな。確かにアレなら良い練習になるだろう。

 

「わかった。どうせ暇だし付き合ってやる」

 

『本当?!ありがとうお兄ちゃん!』

 

うん、妹に礼を言われるのは実に気分が良いな。

 

「俺達は学園は違うから練習場所は学外中央区にあるトレーニングジムでいいな?」

 

『それなら大丈夫だよ。既にステージは鳳凰星武祭が始まるまでの1ヶ月間予約してあるから。冒頭の十二人の肩書きって便利だよね〜』

 

それについては否定しない。住む部屋や学費免除、学校での待遇その他もろもろが優遇されるからな。

 

「わかった。じゃあその場所のデータを俺の端末に送っといてくれ。今日からで良いのか?」

 

『うん!今日からで大丈夫?』

 

「問題ない」

 

『じゃあ今日の6時からよろしく。またね!』

 

そう言われて通話が切れるので端末をポケットにしまう。

 

通話を終了した俺はペットボトルの水を飲んでいるとオーフェリアに制服の裾を引っ張られる。……何かその仕草可愛いな。

 

「八幡の妹は鳳凰星武祭に出るの?」

 

「まあな。そんで今日からトレーニングに付き合うつもりだ」

 

「……ああ。確かに八幡の能力なら良い訓練になるわね」

 

俺の力を1番知っているオーフェリアは納得の表情を浮かべる。

 

「そういう事だ。良かったらお前も来るか?」

 

「……八幡、私の体を忘れたの?」

 

いやいや。忘れていない。その上で提案している。

 

「いや、覚えている。瘴気で周りに迷惑がかかると言うならこうすればいい」

 

俺はそう言って影をオーフェリアの服の内に入れる。そして影は形を変えてオーフェリアの服の下に展開される。

 

「……これは?」

 

「こうやってお前自身の服だけでなく、俺が作った影の服で二重にすれば確実に外に瘴気が漏れる事はないと思うぞ?」

 

俺の影を破るには多量の星辰力を必要とする。そりゃオーフェリアが少しでも本気を出したらこんな服一瞬で破壊されるだろう。しかし本人の意志を無視して出てくる瘴気程度なら防ぐ事も可能だろう。

 

「………」

 

オーフェリアは無言で自分自身の体を見渡している。そして暫くしてから口を開ける。

 

「どうだ?」

 

「……大丈夫だわ。これなら瘴気が漏れる事はないわね」

 

オーフェリアはそう言って頷く。

 

「なら良かった。じゃあ来てくれないか?小町も以前お前に会えなくて残念がってたし」

 

オーフェリアはそれを聞いて暫く考える素振りを見せてから無言で頷いた。

 

「そうか。悪いな」

 

「……別に構わないわ。それよりもお願いがあるのだけど」

 

「お願い?何だ?」

 

こいつが頼み事なんて完全に予想外だ。出来ることなら叶えてやりたいが……

 

「……いえ、また今度にするわ」

 

「ん?今はいいのか?」

 

「……ええ。まだ心の準備が出来てないから」

 

心の準備?よくわからないが今は頼み事をしないようだな。

 

「わかった。じゃあ心の準備が出来たら言ってくれ。俺に出来ることなら全力を尽くす」

 

「んっ……」

 

オーフェリアは頷いて俺の肩に頭を乗せてくる。こいつが何を願うか知らないがそれが吉となる事を願うだけだ。

 

俺は目を閉じているオーフェリアを見ながら肩を貸し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから3時間……

 

「すまんオーフェリア、遅れた」

 

「集合時間前だから別にいいわ」

 

午後の授業が全て終わったので俺達は小町が教えてくれたトレーニングジムに行く事になった。

 

今の時刻は4時半、トレーニングジムの場所はレヴォルフからゆっくり歩いて1時間くらいの場所にあるから歩くつもりだ。そうすれば集合時間30分くらい前といい時間だしな。

 

「じゃあ行こうぜ」

 

「……ええ」

 

オーフェリアが頷いたのを確認して歩き出す。隣にはオーフェリアもいるので問題ないだろう。

 

そう思いながらレヴォルフの校門を出た時だった。

 

俺はピタリと足を止めてしまう。それに気付いたオーフェリアも不思議そうな顔をしながらも足を止める。

 

しかし俺は前から歩いている4人に意識を割いていた。

 

1番手前にいる眼鏡をかけて気の弱そうなレヴォルフの生徒は知っている。ディルクの秘書をしている樫丸ころなだ。もの凄いドジって事くらいしか知らないが、何故ディルクが彼女を秘書にしているかはアスタリスク七不思議の一つとなっている。

 

その後ろに並んで歩いているのはアルルカントの制服を着た2人組だ。

 

1人は褐色肌の女性で、切れ目の目と、生真面目そうな口元が冷たい印象を与えている。

 

もう1人の女性は天真爛漫な笑顔を浮かべていて褐色肌の女性と比べて元気という印象を与えている。

 

しかしその3人については大した問題じゃない。

 

問題は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はははははっ!久しぶりだな八幡!我が相棒よ!」

 

夏なのにアルルカントの制服の上にコートを着て、指抜きグローブを装着している見覚えのあるデブだけだ。

 

 

それを見た俺はこう思った。

 

 

何やってんだ材木座?

 

 

俺の目の前にはかつて同じ中学にいた男、材木座義輝が褐色肌の女性には蔑まれた視線で見られながら剣を構えているようなポーズを取っていた。

 

 



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オーフェリア・ランドルーフェンは嫉妬の感情を知る

俺はどうしたらいいんだ?

 

目の前には見覚えのあるデブがアルルカントの制服を着て剣を構えているポーズを取っている。

 

……なんでコイツがここにいんだよ?

 

そんな疑問が頭を占めていると制服の裾を引っ張られるので見るとオーフェリアが不思議そうな顔で制服を引っ張っていた。

 

「……八幡、知り合い?」

 

「知らない。こんな奴は知ってても知らない」

 

即答する。知らないものは知らない。寧ろ知ってたまるか。

 

「まさかこの相棒の顔を忘れたとはな…見下げ果てたぞ!八幡!」

 

「相棒って言ってるわよ?」

 

「違うからな」

 

何でこいつと相棒なんだよ。俺の相棒がこいつなんて嫌だ。組むなら戸塚やオーフェリアやシルヴィが良いわ。

 

「それに相棒。貴様も覚えているだろう、あの地獄のような時間を共に駆け抜けた日々を…」

 

「体育でペア組まされただけじゃねぇか...」

 

「ふん。あのような悪しき風習、地獄以外の何物でもない。好きな奴と組めだと?クックックッ、我はいつ果つるともわからぬ身、好ましく思う者など作らぬっ!」

 

相変わらず鬱陶しい奴だ。もういいや。

 

 

「はぁ……何の用だ、材木座?」

 

ため息を吐きながら返事をする。

 

「いかにも!我は剣豪将軍材木座義輝だ!」

 

そう言って高らかに手をあげる材木座。……今更だがこんな夏にロングコート着て暑くないのか?

 

もういいや。こいつは放置して話が通じそうな褐色肌の女性に聞くか。

 

「あのー、すみませんがこのデブは何で「酷いぞ八幡!」黙れデブ。何でこのデブがここにいるんですか?」

 

材木座のツッコミをスルーして褐色肌の女性は息を吐きながら口にする。

 

「……ああ。こんなのでも一応私の右腕なのだが、私がレヴォルフに行くと言ったら付いていくと聞かなくてな……」

 

え?何?この女性はかなり出来る雰囲気だが、材木座の奴彼女の右腕なの?

 

「おい樫丸。このアルルカントの人達は何者だ?」

 

顔見知りの樫丸ころなに質問をしてみる。

 

「あ、はい!こちらはアルルカント・アカデミーのカミラ・パレートさんとエルネスタ・キューネさんと材木座義輝さんです!」

 

いや、名前じゃなく何でアルルカントの生徒が来たかを聞いているんだが……

 

内心突っ込んでいると褐色肌の女性ーーカミラ・パレートが口を開ける。

 

「今度我が学園がレヴォルフ黒学院と星導館学園の三校で新型の煌式武装の開発をする事になってな。その挨拶に来たのだよ」

 

あん?共同開発?んな事してもアルルカントにメリットがあるとは……

 

一瞬そう思ったが直ぐに理由を悟った。

 

……つまりあの人形使いのサイラスが馬鹿やらかした見返りって訳か?

 

しかし腑に落ちない点がある。

 

「それはわかったが何でレヴォルフも?共同開発する事になった理由はサイラス云々だろうけど普通は星導館だけじゃないのか?」

 

俺がそう尋ねるとカミラは若干驚きの表情で見てくる。まさかはっきりとサイラスの名前を出すとは思わなかったのだろう。俺についてはサイラスを充分嬲ったので今は特に含むものはない。……少しやり過ぎたし。

 

話を戻すと、サイラスがやったのは星導館の生徒を襲った事だ。レヴォルフは関係ない筈だが。

 

「レヴォルフからは『彼がレヴォルフの生徒に攻撃を仕掛けた』と追及されてな。その結果レヴォルフとも共同開発をする事になったのだよ」

 

レヴォルフの生徒……俺かよ?!

 

つまりレヴォルフはサイラスが俺に攻撃を仕掛けたって事を盾にアルルカントから技術を貰うって腹か。

 

随分いやらしいやり方だ。サイラスが俺に攻撃を仕掛けたのは事実だが、簡単に無効化して寧ろ返り討ちにしたのに俺を被害者扱いにしてアルルカントから技術を奪いに行くとは……

 

自身の通う学校の貪欲さに呆れているとエルネスタって女子が手を上げてくる。

 

「それでカミラがレヴォルフに行くって知って、あたしと剣豪将軍くんは君に会いたくと同伴したんでーっす!」

 

エルネスタって奴はそう言って笑顔でぴょこぴょこ飛び跳ねる。カミラとは随分違うな。

 

「……なるほど。てか材木座、何でお前はアスタリスクに来たんだ?」

 

こいつの将来の夢はライトノベル作家だった筈だ。わざわざアスタリスクに来る理由がわからん。

 

「うむ、実は我の両親はアルルカントの卒業生で実家も煌式武装の開発を仕事としているのでな。だから普段仕事を手伝っている我もアルルカントに行けと言われたのだよ」

 

「ふーん。つまり小説家の夢は諦めたのか?」

 

「否!我は決して諦めるつもりはない!両親は我に跡を継いで欲しいようだが我は小説家以外で大成するつもりは毛頭ないわぁ!」

 

そう言って手を高く上げてポーズを取る。なんか我が生涯に一片の悔いなし!とか言って死にそうなポーズをしているがお前がやるとカッコ悪く見えるな。

 

材木座に呆れているとカミラは呆れたようにため息を吐く。

 

「……私としては小説家の夢を諦めて煌式武装の開発に集中して欲しいのだが。もう試作を読むのは疲れたよ」

 

……ああ。この人も材木座の小説(偽)を読んだのか。凄く疲れた顔をしてるよ。あの苦痛は読んだ者にしかわからないからな。

 

「つーかこいつの煌式武装の開発の腕はどうなんすか?」

 

「……悔しいが一流と言っても過言ではない。彼の作る煌式武装は素人でも簡単に使えて、それでありながら優秀な人間が使えば優れた武器になる。我らが『獅子派』の象徴とも言える立派な技術者さ。……それなのに何故彼の書く小説はつまらないのだろうな?」

 

「へぼぇっ!」

 

それを聞いた材木座はさっきまで取っていたポーズを止めて地面に崩れ落ちる。

 

……それはともかくカミラは技術者としての材木座の事は本気で評価している。『獅子派』は確か煌式武装の開発の専門で、アルルカントにおける最大派閥と聞いた事がある。その象徴とも言えるって事は本当に優秀な技術者なのだろう。

 

それを聞いて俺は思った。

 

「材木座、お前は小説家として大成しないから技術者になれ。そっちの方が間違いなく大成するぞ」

 

「はぶぅ!」

 

材木座はそれにより地面に仰向けに倒れる。少し言い過ぎたか?

 

一瞬そう思ったが直ぐにその考えを打ち消した。ここで慰めると直ぐに調子に乗るのが目に見える。ここはシカトでいいだろう。

 

そう思っているとエルネスタが材木座に笑顔で近寄る。

 

「大丈夫だよ!剣豪将軍くんの小説を面白いって思う人は世界に1人くらいはいると思うから!」

 

「ひぐぇっ!」

 

あ、エルネスタの奴、トドメを刺しやがった。材木座は呻き声を上げて口から魂を出しているし。こいつが1番容赦ないな……

 

とりあえず気絶している材木座がいる理由はわかったが……このエルネスタは俺に会いに来たと言っていた。何をしに来たんだ?

 

「で、あんたは何で俺に会いに来たんだ?」

 

そう尋ねるとエルネスタが笑顔で俺に近寄ってくる。って近い近い近い!!

 

良く見たらこいつ凄く美人だし、髪からは良い匂いがするし緊張するんだけど?!

 

顔が熱くなっているのを自覚しているとエルネスタは……

 

 

「いやー。私の人形ちゃんを100体纏めて木っ端微塵にした君と鳳凰星武祭で1番の脅威になりそうな剣士くんをこの目で一度拝んでみたくってさー」

 

そう言ってにぱっと笑う。

 

おいマジか?この女、まさに今「私が黒幕です」と告白しやがったぞ。いくら手打ちになったとはいえ自分からバラすか普通?

 

呆気にとられている中、エルネスタは俺の体を触りながら顔を近づけてくる。

 

「ふーん。実際に見ると記録より遥かに雰囲気を感じるねー」

 

ちょっと?!マジで勘弁してください!てか俺が少しでも顔を動かしたらキスしそうなんですけど?!

 

誰か助けてくれ!そう思ってエルネスタの後ろを見るとカミラは内心呆れた表情をしながら俺に謝りのジェスチャーをしてくる。その様子じゃ助けてくれないようだ。

 

材木座は未だエルネスタの一撃をくらって屍になっていているから役に立たない。

 

(……あれ?これ詰みじゃね?)

 

内心諦めてかけている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……八幡、そろそろ行かないと集合時間に間に合わないわよ」

 

オーフェリアが俺の制服の裾を引っ張りながらそう言ってくる。言われて時計を見ると5時前だった。確かにオーフェリアの言う通りこのまま話していると遅れるかもしれない。ここはオーフェリアに感謝するべきだろう。

 

しかし……

 

 

(……何だ?オーフェリアの奴怒ってるのか?)

 

……オーフェリアの顔を見るといつも通りの悲しげな表情だが、少しだけムスッとしている気がする。

 

根拠はない、根拠はないが……今のオーフェリアは機嫌が悪いと思う。

 

まあ今はオーフェリアの話に乗ろう。

 

「……あ、ああ。そうだな。っー訳で悪いが俺は行かせてもらうぞ」

 

そう言ってエルネスタから離れる。

 

「にゃはは、ざーんねん!あたしとしては君に興味あるし、昔、『大博士』の元にいた『孤毒の魔女』ともお近づきになれなら嬉しいんだけどなー」

 

俺はそれを聞いて少し驚く。オーフェリアは昔ディルクの下ではなくアルルカントの『大博士』の元にいたのは噂で聞いていたがまさか事実とはな……

 

オーフェリアを見ると特に表情を変えずに首を振る。

 

「……興味ないわ」

 

「ちぇー、残念っ」

 

「それより八幡、行きましょう」

 

オーフェリアはそう言ってスタコラ歩き出した。気のせいかもしれないがいつもより足が速い気がする。

 

「あ、おい!じゃあ俺も行く」

 

アルルカントの連中に適当に挨拶をして走り出す。

 

(にしても……アルルカントの煌式武装開発か……場合によっては俺も自分の煌式武装を改良したいな)

 

アルルカントの3人を見ながらオーフェリアの元に近寄る。

 

「待てよオーフェリア。どうしたんだよいきなり早歩きしてよ」

 

こいつが早歩きするなんてマジで珍しいだろ?何か悪い事したか?

 

「……何でもないわ」

 

オーフェリアはそう言っているが直ぐに嘘だと理解する。

 

「嘘つけ。いつも一緒に過ごしている俺からすれば不機嫌なのはわかるからな?」

 

他の人はオーフェリアの表情を見抜く事は出来ないが半年以上一緒に過ごしていた俺からすれば丸わかりだ。

 

俺がそう尋ねるとオーフェリアは一瞬俺を見てから更に足を速める。マジで何かあったのか?

 

疑問に思っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………バカ」

 

オーフェリアの口からそんな言葉が出てきた。え?今のオーフェリアが言ったの?

 

疑問に思っている中、オーフェリアは俺に構わずに歩いて先に行っている。

 

それに気付いた俺は慌ててオーフェリアの後を追いかける事しか出来なかった。



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比企谷八幡は妹と友人に鳳凰星武祭の為の訓練を施す(前編)

午後5時45分、俺とオーフェリアは中央区にある小町が指定したトレーニングジムの入り口にいる。

 

集合時間の15分前か……まあ悪くない時間だな。

 

「じゃあオーフェリア、入ろうぜ」

 

「……ええ」

 

オーフェリアはそう言って頷く。さっきまでの不機嫌さは既に無くなっている。

 

レヴォルフを出てから30分、その間オーフェリアは不機嫌だったがトレーニングジムに着く直前で……

 

 

 

 

『……ごめんなさい。私が勝手に嫌な気分になって八つ当たりしてしまったの。八幡は悪くないから謝らないで』

 

そう言って謝ってきた。理由は知らないがあの時のオーフェリアはいつもより悲しげな表情をしていたので俺は特に言及しなかった。オーフェリアのあんな顔は見たくないし。

 

 

トレーニングジムに入りフロントに小町が借りている部屋を聞くと、従業員は若干ビビりながらも案内してくれた。まあレヴォルフの序列1位と2位の2人が来たら普通ビビるよな。

 

案内された部屋に着いたのでインターホンを鳴らす。

 

「おーい小町。来たから開けてくれ」

 

そう連絡すると空間ウィンドウが開いて小町の顔が見えてくる。

 

『あ、お兄ちゃん。今……開ける……え?!オーフェリアさん?!』

 

小町が隣にいるオーフェリアを見て驚きの表情を見せてくる。

 

「ああ。今日は来てくれた。それと瘴気については対策をしてあるから害はない」

 

あの後念のため、もう1着影の服を作ったし。

 

『そうなんだ……っと、ごめんごめん。今開けるね!』

 

小町からそう言われて20秒後、機械音がして扉が開くので中に入る。

 

中に入ると中々大きいトレーニングルームが目に入る。大きさは半径30メートル以上の円形ステージ。隅にはギャラリーが見れるような観覧席と記録を見直す為のパソコンらしき物もある。

 

俺はいつもレヴォルフのトレーニングルームを使うから知らなかったが学外にも中々良いのあるじゃん。

 

感心していると小町と戸塚がやって来た。

 

「来てくれてありがとう〜。それと……初めまして〜。お兄ちゃんの妹をやっています比企谷小町です。よろしくお願いします!」

 

小町はそう言ってオーフェリアの手を取る。こいつ俺と違ってコミュ力高過ぎだろ?てかお兄ちゃんの妹をやっているってどんな自己紹介だよ?

 

当のオーフェリアはいきなり手を取られて若干驚きの表情(多分俺以外にはわからない)を浮かべていた。多分だが、手袋越しとはいえ瘴気が出る手を取るとは思わなかったのだろう。

 

「……オーフェリア・ランドルーフェン。……よろしく」

 

オーフェリアは小町の手を振り払わずに挨拶を返す。

 

「八幡の友達の戸塚彩加です。よろしく」

 

戸塚も笑顔で自己紹介をしてくる。正直言って小町と戸塚ならオーフェリアに対して優しく接してくれると思う。

 

そしてオーフェリアにはそういう人間が必要だ。オーフェリア自身も優しいんだから楽しい時間を過ごして欲しいし。

 

「……ええ」

 

オーフェリアは戸惑いながらも返事をする。多分俺以外には基本的に恐れられているからどう接すればいいのかわからないのだろう。

 

「いやー、まさかお兄ちゃんが自分から女の子を連れてくる日が来るとはね〜。アレ何でだろ?お兄ちゃんが遠くに行っちゃったみたいだな」

 

そう言って小町は涙ぐんでいるがお前は俺を何だと思っているんだ?

 

「うるせぇな。お前が以前連れて来いって言ったから連れて来たんだよ」

 

「えー。でもアスタリスクに来る前のお兄ちゃんだったら絶対連れて来ないと思うよ?」

 

ぐっ……そこを突かれたら否定は出来ない。

 

俺が苦い顔をして黙る中、小町はオーフェリアに嬉々として話しかける。

 

 

「それでオーフェリアさん。兄の事をどう「よし小町。今日のトレーニングは初めから本気でやろうか?」な、何でもないです!すみませんオーフェリアさん!気にしないでください!」

 

何か余計な事を言いそうになっていたので星辰力を出しながら軽く脅すと小町は大人しくなる。

 

「……どうしたの八幡?」

 

「大丈夫だオーフェリア。今の小町の質問については気にしなくていい。いや、寧ろ気にするな、気にしないでくださいお願いします」

 

「あ、あはは……」

 

それを見ていたオーフェリアはキョトンとした表情を浮かべ、戸塚は苦笑いをしている。

 

 

 

 

 

2人の違う顔を見ながら意識を切り替えて小町に話しかける。

 

「まあ初っ端から本気は出さないがそろそろ訓練を始めるが良いな?」

 

少し真面目な口調で言うと2人は真剣な表情になる。それを確認して俺はオーフェリアの横に立ち2人に話しかける。

 

「んじゃ先ずはお前らがどこまでやれるかを確かめる」

 

そう言って俺は意識を集中して影に星辰力を込める。ある程度溜まったのを確認して口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

「起きて我が傀儡となれーーー影兵」

 

俺がそう呟くと俺の影が黒い光を出す。

 

そして影からの五体の黒い人形が湧き出る。その姿は真っ黒ではあるが全て俺と同じ体格をしている。そしてレヴォルフの制服を着ている。まあ真っ黒だけど。

 

「出たねお兄ちゃんの影兵。一体あたりの実力はどれくらいなの?」

 

「今回は五体呼び出したから大体序列30位から50位……つまり鳳凰星武祭の予選を運が良けりゃ突破出来るくらいだな」

 

俺の能力の一つ、影兵。

 

簡単に言うと星辰力を消費して影の兵隊を作る能力だ。

 

影兵の実力は呼び出した数によって変化して、数が多ければ多い程弱くなり、数が少なければ強い兵隊となる。今回は五体呼び出したから五級影兵と呼んでいる。

 

五級影兵一体あたりの実力は序列30位から50位くらいだが、呼び出したのが一体だけ……一級影兵ならレヴォルフの冒頭の十二人の中堅クラスになれるくらい強い。

 

実際に前シーズンの王竜星武祭の予選で、面倒臭がりの俺は一級影兵を召喚して、それだけで本戦入りを果たした。

 

(……いや違った。クインヴェールの元序列8位のソフィア・フェアクロフだけは人形を倒したな)

 

アレはマジでビビった。冒頭の十二人中堅クラスの一級影兵を瞬殺したからな。兄のアーネスト・フェアクロフと同等の剣技を持つと評されているだけの事はあった。

 

まああいつ、生身の相手を傷つけられないって致命的な弱点があったから影兵が倒された後俺自身が瞬殺したけど。

 

閑話休題……

 

とりあえず目標は……鳳凰星武祭までの目標は二級影兵……序列で言うなら10位から20位……本戦出場確実クラスのペアを撃破する事だ。

 

それを苦戦する事なく倒せるようになればベスト8入りも可能だろう。

 

それが出来たら……本戦に出場しそうな連中の研究だな。

 

俺の見立てだと界龍の幻術兄妹やガラードワースの正騎士コンビあたりは出てくるだろう。

 

天霧とリースフェルトについては言っちゃ悪いが今の小町達じゃ勝てないから除外する。

 

そんな事を考えながら俺は持ち込んだジュラルミンケースを開けて待機状態の煌式武装を4つ取る。

 

そして五体いる五級影兵の内二体を呼んで煌式武装を2つずつ渡す。渡したのはナイフ型とハンドガン型の2種類だ。影兵は俺の分身体だから俺自身が使うタイプの武器が最適だ。

 

「んじゃやるぞ。ルールは鳳凰星武祭と同じように校章を破壊するか、相手を気絶させた方の勝ちだ。影兵の気絶については気絶するような攻撃をくらったら自然に消滅するからしっかり判定出来る。それでいいな?」

 

俺が最後の確認をすると小町と戸塚は頷きながら煌式武装の準備をし、待機位置に移動する。

 

俺とオーフェリアが観覧席に行くと同時に煌式武装を持った影兵は待機位置に移動して、残りの三体は俺とオーフェリアの後に付いてくる。

 

観覧席に着くと俺は記録する為のカメラを起動して撮影の準備をしながらオーフェリアに話しかける。

 

「オーフェリア、悪いんだけどよ……場合によってはお前もアドバイスしてくれないか?出来るだけあいつらを強くしたいんだよ」

 

まあオーフェリアは余り物事に興味を持たないから多分断られると思うが。それならそれでいい。今回は付き添いだし無理に手伝ってくれと言うつもりはないしな。

 

そう思っていると……

 

「……別に構わないわ」

 

意外にも肯定の意を示してきた。これには完全に予想外だった。

 

「……いいのか?」

 

「……ええ。八幡にはいつも優しくして貰ってるし構わないわ」

 

オーフェリアはそう言って観覧席に座ってステージを見つめている。

 

「ありがとな」

 

「……ん」

 

お互いに一言だけ交わして席に座る。ステージでは既に小町と戸塚と二体の五級影兵が待機位置に着いている。

 

それを確認した俺は息を吐いてマイクを手に取って声を出す。

 

『模擬戦、開始』

 

トレーニングルームに俺の声が響くと同時にステージにいる4つの存在が動き始めた。

 



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比企谷八幡は妹と友人に鳳凰星武祭の為の訓練を施す(中編)

始めに動いたのは小町だった。2つのハンドガン型煌式武装を一瞬の速さで出して発砲する。

 

煌式武装をホルスターから抜き放ち、起動して、発砲するまでの所作はメチャクチャ速い。2つ名が『神速銃士』というのも納得出来る腕前だ。

 

狙いは影兵の胸にある校章だ。しかしこの距離なら簡単に防げる。影兵はナイフ型煌式武装を振るって銃弾を弾く。

 

しかし小町もそれを理解していたようだ。銃弾が弾かれると同時に影兵との距離を詰める。

 

いくら小町が早撃ちが得意でも距離があったら防がれるだろう。だから牽制射撃をして影兵の隙を作るのが小町の本当の目的なんだろう。

 

 

当然影兵も近寄ってくる敵を無視するつもりはなくハンドガン型煌式武装を小町目掛けて発砲する。校章を無理に狙わずにダメージを与えるのを優先にしたのだろう。影兵の放った銃弾は小町の頭、胸、腹、足など様々な場所に向かって飛んでいった。

 

 

 

 

しかしその銃弾は1発たりとも小町に当たる事は無かった。

 

小町の前方に西洋風の巨大な盾が現れて銃弾を全て弾いたからだ。

 

小町と影兵から視線を外すとステージの一番端で戸塚がいて、その周辺には魔方陣が展開されていた。

 

(……なるほどな。以前小町から戸塚の能力は盾を生み出す能力と聞いていたがこんな感じなのか)

 

見たところ、結構頑丈な盾の様で銃弾が当たっても綻び1つ生じていない。その事から戸塚の魔女としての……じゃなかった、魔術師としての実力が優秀である事が理解できる。

 

放った銃弾が全て盾に防がれると同時に小町は横に跳んで二発発砲する。それによって1人の影兵が持っているナイフ型煌式武装とハンドガン型煌式武装が手から弾かれて地面に落ちる。

 

そんな隙を小町が逃す訳もなく再度発砲して手に煌式武装を持っていない方の影兵の校章を破壊する。まずは一体やられたか……

 

校章が破壊された影兵はドロドロと溶けて俺の足元に戻る。普通の人ならパートナーがやられたら動揺するが影兵には関係ない。

 

残った影兵はハンドガン型煌式武装を小町に向けて乱射しながら横に跳んで小町の右側に移動しながら近寄る。銃弾で動きを制限して近接戦に持ち込む、シンプルながら中々有効な手段だ。

 

しかし……

 

 

「別れて!」

 

戸塚がそう叫ぶと巨大な盾は2分割されて、片方は小町の正面に残り、もう片方は小町の右側に移動する。

 

(……へぇ。盾は分割も出来るのか。中々便利だな)

 

俺が感心していると小町の正面にある盾は銃弾を、右側にある盾は影兵の進行を防いだ。

 

「えいっ!」

 

戸塚が可愛い声を出すと影兵の進行を防いでいる盾が影兵をどついて吹っ飛ばす。それによって影兵はバランスを崩してよろめく。

 

「これで終わりっ!」

 

小町はそう言って影兵との距離を詰めながら発砲する。放った銃弾は寸分違わず校章に当たり砕け散った。

 

走りながら小さい校章の破壊を難なくこなせる銃使いはアスタリスクでもそう多くないだろう。こと銃の扱いにおいて小町の実力はガラードワースの序列5位パーシヴァル・ガードナーに匹敵するくらいの実力だし。

 

そう思っていると影兵がドロドロと溶けて俺の足元に戻るので模擬戦終了のブザーを鳴らす。

 

さて……次は今後の方針について話し合わないとな。

 

俺は息を吐きながら2人の所に向かって歩き出した。

 

「あ、お兄ちゃん!どうだったどうだった?!」

 

小町が俺に近寄りながら聞いてくる。

 

「そうだな……まあ本戦出場は今の実力でも問題ないだろう。……ただ、本戦で勝ち抜けるかとなると微妙だな」

 

俺の見立てじゃ本戦出場は可能だ。しかし本戦からは冒頭の十二人を始め各学園の上位の序列者が大量に出てくる。今の実力じゃ冒頭の十二人ペアには負けるだろう。

 

「んじゃ総評行くぞ。お前らのスタイルは小町が攻めに特化して戸塚が守りに特化した鳳凰星武祭じゃ割と珍しいスタイルだ」

 

鳳凰星武祭に参加するペアは基本的に2人とも攻守どちらにも対応するスタイルなので、小町達のペアは珍しい。

 

「もちろんそれを否定するつもりはないがお前ら……特に戸塚はある程度の攻めを覚えて貰う」

 

攻めの要の小町が負け=ペアの負けってのは少々リスクが高過ぎる。だから戸塚もある程度攻める手を覚えるべきだ。

 

「うーん。以前ハンバーガーショップで八幡からそれを聞いて剣や銃の練習をしてるんだけど……」

 

そう言って顔を曇らせる。どうやら結果が芳しくないようだ。まあ入学してから2ヶ月だ。こればっかりは仕方ないのかもしれん。

 

そこで俺は一案を思いつく。

 

「じゃあ戸塚、ちょっと待ってろ」

 

俺はそう言って持ち込んだジュラルミンケースから待機状態になっているある煌式武装を取り出して戸塚に投げる。

 

「そいつを起動してみろ」

 

「う、うん」

 

戸塚はそう言って煌式武装を起動すると大きさ60cmくらいの両手で持つタイプの銃が現れる。

 

戸塚はよいしょって可愛い声を出しながら銃を構える。ヤバいくそ可愛い。

 

そう思った俺はバレないよに手持ちのハンディカメラで撮影をする。撮れた写真を見るとそこには天使が銃を構えていた。うん、癒されるな。

 

俺が鼻の下を伸ばしていると制服の裾を引かれた。見るとオーフェリアがトレーニングジムに来る前と同じように微妙に不機嫌な表情で俺を見ていた。

 

「……何だよ?」

 

「……今は訓練中よ。2人は真面目にやっているのだから八幡も真面目にやったら?」

 

 

「あ、ああ」

 

まあ確かにそうだ。2人は鳳凰星武祭で勝ち抜く事を目標としているんだ。指導する者として真面目にやらないとな。

 

しかしまさかオーフェリアがそういう事を言ってくるなんてな。

 

そう思いながらハンディカメラを仕舞って戸塚を見る。……てかオーフェリア?何で制服の裾を引っ張ったままなんですか?

 

オーフェリアは未だに微妙に不機嫌な表情をしながら俺を見ている。真面目にやるからその目は止めてくれ。

 

オーフェリアにジト目で見られていると戸塚の準備が完了したようなので逃げるように戸塚に話しかける。

 

「じゃあ戸塚、早速こいつを撃ってみろ」

 

そう言って戸塚の正面に残っている五級影兵三体を配置する。

 

「わかった」

 

戸塚は頷いて煌式武装の引き金を引く。

 

すると銃口から50を超える光弾が広範囲に放たれて影兵を穿った。

 

影兵がドロドロに溶けて俺の足元に戻ると戸塚が話しかけてくる。

 

「八幡、これって……」

 

「散弾型煌式武装だ。これなら敵を狙うのが楽になる」

 

散弾はある程度狙いをつけるだけで相手に当てる事が出来るので初心者にはもってこいの武器だ。

 

「ただ星辰力の消費は大きいから必要以上には使うな。敵がお前に近寄ってきた時以外は使わないで小町を守る事に専念しろ」

 

いくら狙うのが楽になるとはいえ戸塚は初心者だし本来の仕事は小町を守る事だ。攻撃という苦手な分野に意識を割き過ぎるのは悪手だ。

 

「うん!わかったよ八幡!」

 

戸塚は笑顔でそう言ってくる。可愛い……守りたい、この笑顔。

 

一瞬鼻の下を伸ばしかけたが自重する。真面目にやらないとまたオーフェリアが機嫌を悪くしそうだし。

 

「とりあえずそれはやる。散弾の弾数や射程距離を変えたかったら装備局に行け。んで次は……」

 

 

 

そう言って小町をチラリと見ると小町は頷く。

 

「確か以前お兄ちゃんは小町が火力不足って言ってたよね?」

 

「ああ。今回の試合を見て確信した。今のお前じゃ星辰力の高い防御タイプの奴を崩すのは厳しいだろうな」

 

さっきの試合では小町の早撃ちや狙いの定め方、相手との立ち回り方は一流だった。しかしハンドガン型煌式武装から放たれた弾丸の威力は心許なかった。

 

俺が口を開けようとすると小町は真剣な表情で頷く。

 

「うん。だから小町はお兄ちゃんに言われた通り純星煌式武装を学園から借りたよ」

 

俺はそれを聞いて驚いた。純星煌式武装を借りられたのか?

 

「マジで?」

 

「うん。マジだよ」

 

小町はそう言ってポケットから待機状態の煌式武装を出して展開する。

 

 

すると小町の手元には真っ黒な銃が現れる。そしてその銃のグリップの部分には紫色のコアが輝いている。

 

普通の煌式武装のコアであるマナダイトは緑一色だ。しかし純星煌式武装のコアであるウルム=マナダイトは様々な色をしている。紫色という事はアレは間違いなくウルム=マナダイトで純星煌式武装である証明となっている。

 

「これが小町の借りた純星煌式武装『冥王の覇銃』だよ」

 

何だその物騒な名前は……明らかにヤバい雰囲気を醸し出してやがる。

 

純星煌式武装の雰囲気にドン引きしていると1つの不安が現れる。

 

「……なあ小町、その純星煌式武装の代償は何なんだ?」

 

純星煌式武装は強力だが所有者にリスクを背負わせる物もある。

 

例えばレヴォルフのイレーネが持っている『覇潰の血鎌』は誰にでも比較的高い適合率が出る反面、『所有者の血液』を代償として求めてきて燃費が悪いと言われている。

 

他にもガラードワースのアーネスト・フェアクロフの持つ『白濾の魔剣』は『物体をすり抜け任意の対象のみを切ることが可能』という糞ふざけた能力を持つ反面、『常に高潔でありながら私心を捨てて全ての行動において秩序と正義の代行者たらねばならない』という糞ふざけた代償を必要としている。

 

出来るなら危険ではない代償であって欲しいんだが……

 

「代償?これの代償は燃費の悪さだね」

 

「燃費の悪さ?どんな意味でだ?」

 

「それがとにかく星辰力の消費が凄すぎるんだよ。3発撃ったら星辰力切れで気を失っちゃうくらいなんだよ」

 

……え?マジで?燃費悪過ぎだろ?『覇潰の血鎌』より使い勝手が悪いだろ?

 

「そこまで代償が厳しいって事は相当強いんだろうな?」

 

「あ、うん。この前天霧さんとリースフェルトさんペアと模擬戦したらリースフェルトさんを防御ごと吹き飛ばして気絶させたから」

 

……随分過激な事をしてるなこいつ。てかリースフェルトも決して弱くないのに防御ごと吹き飛ばして気絶させるって……

 

小町がそう言ったのでリースフェルトと昔馴染みのオーフェリアを見てみるが表情に変化はない。少しくらいは表情を変えると思ったが……

 

まあ特にリアクションをしてないから今は置いていこう。

 

「わかった。じゃあちょっと俺に撃ってくれ」

 

決闘や公式序列戦なら映像データがネットに出るが、模擬戦ならデータがない時もある。だから実際に威力を知りたい。

 

「え?!それはお兄ちゃんが危ないよ!」

 

小町は慌てて手を振るが問題ない。こちらも相当のカードを切るだけだ。

 

「大丈夫だ。纏えーーー影狼修羅鎧」

 

俺がそう呟くと足元にある影が立ち上り俺の体に纏わりつき奇妙な感触が襲いかかる。それは徐々に広がり体全身に伝わると奇妙な感触はなくなり若干の重みを感じるようになった。これで装備を完了したようだ。

 

「あ!八幡それ……」

 

「王竜星武祭準決勝でシルヴィアさんと戦ってる時にお兄ちゃんが使ってた鎧じゃん!」

 

「まあな。この影狼修羅鎧は俺の持つ技の中で最強の防御力を誇る技で、使った相手はここにいるオーフェリアとシルヴィとイレーネだけだ。多分これなら耐えられるぞ?」

 

俺がそう言うと小町は一層驚いた顔で詰め寄ってくる。その表情は正に鬼気迫るものだ。何かあったのか?

 

疑問に思っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん?!シルヴィってシルヴィアさんの事を愛称で呼んでるけど仲良いの?!」

 

そっちかよ?!

 

そう言えば忘れてた。小町の奴シルヴィの大ファンだったんだ。そりゃ兄がシルヴィって愛称呼びしてから気になるよな!

 

でもこんな時にそんな事を聞くなよ?!

 

内心小町に突っ込んでいる時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………八幡。シルヴィア・リューネハイムと仲が良いの?」

 

横からは何かオーフェリアも同じ事を聞いてくるし。分かりにくいが不機嫌な表情してるし。

 

てか何で今日のオーフェリアは不機嫌になりまくってんだ。いつもは殆ど感情を出さないくせに。

 

小町とオーフェリアに見られて焦っていると地面に置いてある鞄から着信音が鳴り出した。俺の携帯端末に誰か連絡してきたようだ。

 

(よし。これを使って誤魔化そう)

 

「悪い。電話が来たからその話は後でな」

 

内心電話をしてきてくれた人に感謝しながら通話ボタンを押す。

 

すると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっほー、八幡君。今大丈夫?』

 

空間ウィンドウが開き、今話題に出ていたシルヴィア・リューネハイムが笑顔で笑いかけてきた。

 

 

………終わった。



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比企谷八幡は妹と友人に鳳凰星武祭の為の訓練を施す(後編)

 

 

 

沈黙が続く。はっきり言って音が全くしない。

 

周りの状態

 

戸塚 電話の相手が予想外の相手だったのか口に手を当てて驚いている

 

小町 電話の相手が自身が大ファンである世界の歌姫だと知って固まっている

 

オーフェリア 理由は知らないが更に不機嫌な表情になって俺を見ている。

 

そんな中、俺は緊張して固まっている。てかオーフェリアが怖い。ここまで感情を露わにするオーフェリアは初めて見た。てか何でこいつ機嫌が悪いの?

 

『おーい。八幡君?返事してよー』

 

疑問に思っていると事情を知らないシルヴィが不思議そうな表情で手を振ってくる。

 

シカトしたのは申し訳ない。しかしその上で言いたい。

 

(……このタイミングで電話すんなよ!)

 

もちろんシルヴィは一切悪くない。悪くはないが……タイミングが悪過ぎる。何なの?今日の朝占いで俺の星座最下位にもかかわらずラッキーアイテム持たなかった罰なの?

 

とりあえず無視するのは悪いのでシルヴィに話しかける。

 

「よ、ようシルヴィ。久しぶりだな」

 

するとシルヴィは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うん。この前八幡君とデートして以来だから……2ヶ月ぶりくらいかな?』

 

更に爆弾発言をしてくる。

 

待てコラァ!お前は火にガソリンを入れるのが趣味なのか?!そんなに俺を殺したいのか?!

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

焦っていると後ろで小町が叫び出す。

 

『え?!八幡君?今の何?!』

 

シルヴィが驚いた表情で俺を見てくる。どうやらシルヴィからは小町が見えていないようだ。

 

そう思っていると足に痛みを感じたので見るとオーフェリアが俺の足を踏んでいた。痛い痛い痛い。

 

てか今日のオーフェリアは変だ。今も何か拗ねた表情で足を踏みながら制服の裾を掴んでるし。

 

こりゃ早くシルヴィとの電話を終わらせないと俺がヤバい。

 

「な、何でもない。それで何か用か?」

 

これ以上は俺の胃がヤバい。さっさと用件を聞いて電話を終わらせないといけない。

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うん。欧州ツアーも半分終わって八幡君の声を聞きたくてかけちゃった』

 

そう言ってシルヴィはイタズラじみた表情で舌を出しながら新しい爆弾を投下してきた。

 

………終わったな。

 

こいつは狙ってやっているのか?ねぇそうなの?

 

「…………八幡?」

 

内心シルヴィに突っ込んでると横にいるオーフェリアがジト目で俺を見ながらどす黒いオーラを纏って近寄ってくる。そのオーラは星辰力とは別のような物だ。

 

しかし何故かメチャクチャ怖い。はっきり言って公式序列戦でオーフェリアと相対している時よりプレッシャーを感じる。

 

「いや待て。落ち着けオーフェリア。頼むからそのオーラをしまってくれ」

 

手を横に振りながら後退していると、シルヴィはオーフェリアが見えたようで若干驚きの表情を浮かべていた。

 

『あれ?八幡君、そこに『孤毒の魔女』がいるの?』

 

「ん?ああ、ちょっと一緒に妹の特訓に付き合っていてな……」

 

俺がそう返すとオーフェリアは空間ウィンドウを見て口を開ける。

 

「………シルヴィア・リューネハイム。一つ聞きたい事があるのだけどいいかしら?」

 

オーフェリアはいつもの悲しげな表情でありながら妙にプレッシャーを出しながらシルヴィに話しかけてくる。

 

「え?私に?」

 

シルヴィは意外そうな表情をしながらオーフェリアに返事をする。俺も正直驚いている。まさかオーフェリアが質問なんてするとは思わなかった。

 

「ええ。貴女でないとダメなの」

 

「うん……まあいいけど……何?」

 

シルヴィは若干緊張しながらオーフェリアに質問を返す。頼むから揉めないでくれよ……

 

俺や小町、戸塚がハラハラしている中、オーフェリアは口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……八幡とはどういう関係?」

 

………え?

 

俺は予想外の質問に固まる。何でオーフェリアは俺とシルヴィの関係について質問するんだ?完全に予想外だ。

 

「お?こ、これはもしかして………?!」

 

横では小町がいきなりテンションを上げだしたし……何なんだこの空気は?

 

シルヴィはキョトンとしている。まあこんな質問してくるなんて思わないよな。

 

『えーっと、私と八幡君の関係だよね?』

 

「……ええ。答えたくないなら構わないわ。八幡に聞くから」

 

俺かよ?!てかオーフェリアさん怖過ぎる!

 

『いや、別に答えるのはいいんだけど……』

 

そう言ってシルヴィは少し考える素振りを見せてくる。頼むから変な事は言わないでくれよ……

 

そう思っている中、シルヴィは口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

『そうだね……ライバル兼ボーイフレンドってところかな?』

 

更に爆弾発言をしやがった。

 

「えええぇぇぇぇ!お、お、お兄ちゃんとシルヴィアさんが?!」

 

小町は未だかつて見た事がないくらい驚きの声をあげている。違う!誤解だからな!!

 

小町に弁解をしようとすると制服を引っ張られたので見るとオーフェリアがいつもより悲しげな表情で俺を見てくる。

 

 

「……八幡。本当に八幡はシルヴィア・リューネハイムと恋人なの?」

 

……お前も誤解してんじゃねーよ!!普通に考えてボーイフレンド(恋人)じゃなくてボーイフレンド(友達)ってわかるだろ?!

 

…….てかその顔は止めてくれ。いつもより悲しそうな表情を見ていると俺も嫌な気分になるからな。

 

「ったく……オーフェリア。俺はシルヴィとは付き合ってねーよ。ボーイフレンドってのは友達って意味だよ」

 

「……本当?」

 

「本当だって。大体俺みたいなぼっちと世界の歌姫であるシルヴィは釣り合ってねーよ。……シルヴィも普通に友達って言ってくれよ」

 

ため息混じりにシルヴィを軽く睨むとシルヴィは苦笑いする。

 

『あー、ごめんね。あんまり男の子の友達いないから変な言い方しちゃったね。オーフェリアさんもごめんね?』

 

そう言ってオーフェリアにも謝ってくる。まあ人によって価値観が違うからボーイフレンドと呼んでも仕方ないかもしれないな。

 

「……別に構わないわ。でも一つだけいいかしら?」

 

え?良くないから。頼むから揉めないでくれよマジで。もう胃が痛くて痛くて堪らないからな?

 

『え?いいよ。何かな?』

 

俺が内心突っ込んでいるのを余所にシルヴィはオーフェリアと話している。

 

シルヴィから問われたオーフェリアは口を開いて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………負けないから」

 

ただ一言そう言った。

 

え?負けないから?どういう事だ?オーフェリアの実力はシルヴィの数段上だ。

 

何か後ろでは小町が「宣戦布告キター!!」って喜んでいるが、オーフェリアがわざわざシルヴィに宣戦布告する必要性を感じない。

 

疑問に思いながらシルヴィを見ると俺同様キョトンとしていた。

 

しかし直ぐに理解したのか笑ってくる。

 

『あー、なるほどね。大丈夫だよ。私は勝負の土俵に上がってないから』

 

ん?どういう事だ?まだ実力が足りてないって事か?

 

「シルヴィ、何の話をしてんだ?」

 

疑問に思った俺はついシルヴィに聞いてみる。するとシルヴィは両手でバツマークを作ってくる。

 

『八幡君は知っちゃダメ。女の子には色々あるんだから』

 

……なるほど。どうやら女の子特有の話なのか。だったら無理に聞くのは野暮ってもんだな。

 

「わかった。じゃあこれ以上は聞かない」

 

下手に藪をつついて蛇を出す趣味はないしな。

 

『そうそう。それが正解……ん?』

 

シルヴィは笑っていたが妙な声を出してくる。空間ウィンドウでは下を向いているが何かあったのか?

 

そう思っているとシルヴィが顔を上げてくる。

 

『ごめん。マネージャーに呼ばれちゃった。余り話が出来なかったけどそろそろ切るね』

 

「仕事なら仕方ねーよ。頑張れよ」

 

『うんわかった。あ、最後にオーフェリアさん』

 

いきなりオーフェリアに話しかけてくる。既にいつもの表情に戻ってあるオーフェリアは空間ウィンドウ越しにシルヴィと向き合う。

 

「……何かしら?」

 

オーフェリアが質問をするとシルヴィが不敵な表情を浮かべて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今の私は勝負の土俵に上がってないけど上がった場合は負けないからね』

 

 

 

そんな事を言って空間ウィンドウが消えた。……何だったんだ?

 

「………負けない」

 

オーフェリアがブツブツ言っている事を疑問に思っていると小町が近寄ってきて肩を叩いてくる。

 

「お兄ちゃんやるねー!小町嬉しいよ!」

 

そう言ってバシバシ叩いてくるが意味がわからない。何でシルヴィがオーフェリアに宣戦布告しただけで俺が凄い扱いになってんだよ?

 

「よくわからん世界だ。それより本題に戻るぞ」

 

「……へ?本題って?」

 

小町はキョトンとしているがアホの子かこいつ?いや、アホの子だったな。直で会うのは久しぶりだからすっかり忘れてた。

 

「アホ。お前の純星煌式武装の威力テストだろうが」

 

俺がそう言うと小町は今思い出した様に手をポンと叩く。……本当に忘れてたのかよ?

 

「あ、そうだった。シルヴィアさんに驚いて忘れちゃってたよ」

 

「あ、あはは……」

 

戸塚は苦笑いしてるが忘れるなよ………

 

「はぁ……まあいい。俺はもう準備出来てるんだしお前も準備しろ」

 

そう言って俺はステージの開始地点に立つ。すると小町も直ぐに配置につく。しかしそれは若干不安そうな表情だ。

 

「……ねぇお兄ちゃん。本当に大丈夫なの?これ本当に凄い威力だよ?」

 

そう言って小町は起動状態になっている『冥王の覇銃』を見せてくる。

 

「大丈夫だって。こっちは公式序列戦で純星煌式武装を何度も相手してんだし。撃つなら早く撃て」

 

いくら凄い純星煌式武装でもオーフェリアの一撃に比べたら遥かにマシだと思うし。

 

それでも小町は躊躇っている。どんだけヤバい銃なんだ?

 

疑問に思っている時だった。

 

 

 

 

「……大丈夫よ。その銃で八幡を倒すのは無理だから」

 

いつもの表情に戻ったオーフェリアが小町にそう言ってくる。それを聞いて確信した。オーフェリアがそう言った以上『冥王の覇銃』で俺が大怪我する事はないだろう。

 

「小町。心配すんな。遅かれ早かれ星武祭では使うんだ。今更ビビってどうすんだよ?」

 

冒頭の十二人クラスのペアには使わないと厳しいだろうし。

 

俺がそう言うとようやく納得したような表情を見せてくる。どうやら覚悟は決まったようだな。

 

「わかった。じゃあ撃つよ」

 

そう言って小町は『冥王の覇銃』を構える。すると『冥王の覇銃』のウルム=マナダイトが紫色の光を出し始める。同じ紫色と言ってもイレーネの『覇潰の血鎌』とは違って比較的明るい気がするな。

 

それを確認した俺は鎧に包まれた左手を突き出して防御の姿勢を示す。

 

「よし、小町撃て」

 

俺がそう言うと小町は頷き……引き金を引いた。

 

すると銃口から紫色のスパークを帯びた黒い光が一直線に俺の左手目掛けて発射された。

 

(……弾速は普通のハンドガン型煌式武装より若干速いくらいだな。んで、威力は……)

 

『冥王の覇銃』の特徴について事細かに観察していると光が俺の左手の籠手の部分に飲み込まれる。

 

 

瞬間、籠手の部分からスパーク音と衝撃が響き渡る。

 

(……マジか?!こいつは予想以上だ)

 

籠手の部分に飲み込まれた光は抑えきれていないのか軋む音も追加されて俺の左手に痛みを与える。なるほど、確かに攻撃に特化した純星煌式武装という事もあるな。

 

そう思っていると影狼修羅鎧の籠手の部分が膨らんでいる。どうやら威力を削りきれずに溢れ出そうとしているのだろう。

 

そして……

 

 

 

轟音と共に左籠手が弾け飛んだ。その際に削りきれずに残った衝撃が左手に襲いかかり血が飛び散る。

 

「お兄ちゃん大丈夫?!」

 

それを見た小町は心配そうな表情で近寄ってくるが問題ない。

 

「大丈夫だ。ちょっと出血しただけだ。にしても中々の威力だな」

 

籠手だけとはいえ破壊するとは……単純な破壊力ならトップクラスだろう。

 

「とりあえず小町。『冥王の覇銃』は弾速はそこまで速くないから当てる状況を作れるようにしとけ。冒頭の十二人クラスなら避けるのはそこまで難しくないぞ」

 

しかも消費星辰力も半端ないからリスクがデカすぎる。

 

「まあ確かに天霧さんにはまるで当たる気がしないしね」

 

……ああ。まあ確かに天霧は速いからな。言っちゃ悪いがタイマンで天霧に銃弾を当てるのはガチで難しいと思う。

 

「まああいつは強いからな。とりあえず小町、鳳凰星武祭までにする事は①『個々の実力を高める事』②『2人の連携力を高める事』③『切り札の一撃を相手に当てる為の作戦を組み立てる事』の3つだ」

 

とりあえず俺がやるべき事は影兵を使って②と③を中心に仕込む事だろう。①については学校でもやれるし。

 

「うん。小町頑張るよ!」

 

どうやらやる気は出たようだ。なら俺も全力でサポートしないとな。

 

「じゃあもう一回影兵出すから再戦するぞ」

 

「待って!八幡の治療が先!」

 

すると戸塚が膨れっ面で注意してくる。

 

「いや別にこの程度「ダメ!」……わかったよ。ちょっと治療室行ってくる」

 

「あ、じゃあ僕も行く!」

 

戸塚が手を上げてくる。別に逃げるつもりはないんだが……まあいいか。

 

「わかった。じゃあ小町とオーフェリアは待っててくれ」

 

「………わかった」

 

「あいあいさー!」

 

2人の返事を確認したので俺と戸塚はトレーニングルームを出た。

 

 

 

 

 

 

それから10分……

 

俺は手に包帯を巻いた状態で戸塚と医務室を後にする。痛み止めも使ったので痛みも殆どない。

 

「ふぅ……良かった。大事にならなくて」

 

戸塚は自分の事のように安堵の表情を浮かべている。戸塚に心配されるってのは………中々良いな。

 

内心喜びながらトレーニングルームに入る。

 

すると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで八幡は私の手を直接握ってくれて私を肯定してくれたの」

 

「ふぉー!お兄ちゃんやるー!!」

 

オーフェリアと小町が駄弁っていた。てか話してる内容……

 

(オーフェリアの家で飯食った時の話じゃねぇか?!オーフェリアの奴、何話してんだよ?!)

 

 

アレは他人に絶対に知られたくない内容なのにあいつはペラペラ喋ってんじゃねぇよ!てかマジで死にたい!

 

内心荒れていると向こうも気付いたようだ。小町が良い笑顔で近づいてくる。

 

「いやーお兄ちゃんやるねー。いつの間にそんなテクニックを身につけたの?」

 

そう言って肩を叩いてくる。普段は可愛いと思う妹だが今はイラッとくる。

 

「テクニック言うな。アレは……その無意識にだな……」

 

「無意識っていう事は心の底からオーフェリアさんの事大切に思ってるんだ!小町嬉しい!」

 

そう言ってよくわからん踊りを見せてくる。それを見てブチっときた。

 

「……おい小町。治療も終わったし訓練の再開といこうか。先ずは個々の実力の向上からやるぞ。今から俺と戦うぞ」

 

俺が低い声でそう言うと小町がビビりだす。

 

「い、いやー、そ、それは小町にはまだ早い気が……」

 

「いやいや。王竜星武祭で俺に挑むんだろ?予行練習って事でやるぞ」

 

そう言って小町を引っ張りながらステージの中央に立つ。小町はビクビクしているが傷付けるつもりはない。目的は小町の戦闘能力の向上だから小町が攻めて俺が小町の攻撃を防ぐのが訓練内容だ。俺が一方的に攻めていては訓練にならないし。

 

「さぁ……始めようか」

 

「えっ……ちょ、待っ……」

 

小町がそう言うと同時に訓練開始のブザーが鳴った。

 

 

さあ、訓練の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後、ステージには肉体的には傷1つ付いていない小町が疲労困憊の状態で寝転がっていた。



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早起きすると色々ある(前編)

「やぁっ!」

 

小町の叫び声が聞こえると同時に光弾が俺に襲いかかる。それを確認すると同時に右手をスッと上げて地面から影の盾を出してそれを防ぐ。

 

そしてお返しとばかりに左手を振るって地面から影の刃を生やして放つ。一直線に飛んだ刃の狙いは小町の胸にある赤蓮の校章。

 

しかし影の刃は戸塚の出す巨大な盾に防がれる。防御力は中々だな。

 

そう思いながら俺は一歩下がり2人を纏めて視界に入れる。

 

「影の刃群」

 

そう言うと同時に影の刃が小さい100の刃に分裂されて2人の元に囲むように一斉に飛んでいく。これなら避けれないだろう。

 

そう思っていると戸塚は目を瞑り見た事のない魔方陣を作り出す。

 

そして……

 

「群がってーーー盾の軍勢!」

 

戸塚がそう言うと小町と戸塚の前に展開されていた巨大な盾がバラバラになり数百の小さな盾となり2人の周囲に展開する。その数は少なく見積もっても150はあるだろう。戸塚の奴、こんな隠し技を持ってるとはな……

 

そして小さな盾は影の刃群の射線上に展開されて衝突する。それを見ると同時に影に潜り戸塚に詰め寄る。

 

地上では影の刃と大量の盾がぶつかり合い相殺される。まあ影の刃群は当てる事を優先で威力は低いからな。

 

そう思いながら突き進む中、戸塚は目を開く。しかし直ぐに驚きの表情を浮かべる。

 

「あれ?!八幡はどこ?!」

 

「戸塚さん気をつけて!お兄ちゃんは影の中に潜ってます!」

 

小町は注意するがもう遅い。

 

俺は戸塚との距離を3メートルまで詰めると同時に影から飛び出してナイフ型煌式武装の黒夜叉を振るって戸塚の校章をぶった斬る。先ずは1人……

 

校章が破壊されるのを確認して小町を見る。ハンドガン型煌式武装で撃ってくるが影の盾が全て防ぐ。無駄だ。俺の防御を崩すには『冥王の覇銃』を使え。

 

そう思いながら俺は影の盾を前方に展開しながら小町に突っ込む。『冥王の覇銃』は威力は高いが避けるのはそこまで難しくない。少なくとも今みたいなタイマンなら避けられるだろう。

 

俺は勝ちを確信しながら小町に突っ込んでいる時だった。急に小町は驚いた表情を見せてくる。何だいきなり?

 

疑問に思っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?!何でシルヴィアさんがここに?!」

 

横を指差しながら言ってきた。

 

は?いやいや、シルヴィは欧州ツアーに行っているはずだ。ここにいる筈がない。

 

……いや、もしかしたらいるかもしれん。シルヴィの奴、ステージの上で俺の事を好きだと言うと脅したり、寮に乗り込みに行くとかとんでもない事を言ったりするし。もしかしたら……

 

そう思いながら横を見ると………誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隙ありー!」

 

それと同時に小町がそう叫んだので前を見る。すると小町の手にはいつの間にか『冥王の覇銃』が握られていて放ってきた。

 

光が一直線に突き進んでくる。これは……避けれるか?

 

俺は身体を捻りながら横に跳ぶ。すると間髪入れずに光が通った。

 

光が通り過ぎると腕に痛みが走る。見てみると右腕にかすったらしく制服が破けて血が出ていた。

 

(……かすっただけでこれかよ。まあ戦闘には支障ないから良しとするか)

 

前を見ると小町が呆気に取られた表情をしていた。まさか躱されるとは思っていなかったのだろう。

 

しかし敵の前でボケーっとするのは感心しないな。

 

俺は更に小町との距離を詰めて影で『冥王の覇銃』を奪い取る。それによって漸く再起動したようだが遅いからな?

 

俺は自身の周囲に影を蠢かせながら小町を見る。小町は焦った表情をしながら周りを見る。しかし戸塚は既に校章を破壊されたので助けに来ない。俗に言う詰みってヤツだ。

 

暫くの間小町はキョロキョロしたかと思えば俺の方を向いて、

 

 

 

 

 

 

 

 

「てへっ」

 

舌を出してウィンクをしてきた。

 

それを確認した俺は影で小町の校章をぶった斬った。それによって校章は真っ二つになり地面に転がり落ちた。

 

 

 

それと同時にブザーが鳴り模擬戦終了を俺達に伝えた。さて、次は反省会だなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全くこの馬鹿が」

 

「痛い!痛いよお兄ちゃん!」

 

トレーニングルームにて模擬戦が終わったので反省会をしながら夕食を食べている。オーフェリアはディルクに呼び出されていない。

 

そして今買ってきたサンドイッチを食べながら小町の頭にチョップをしている。

 

「確かに相手の隙を突けと言ったがな……んなやり方があるか。星武祭でやったら笑い者だぞ?」

 

てか世界規模で放送される星武祭であんなフェイントによって負けたら末代までの恥になるぞ。

 

「こ、小町は悪くないよ!お兄ちゃんが強過ぎるのが悪いよ!」

 

そうきたか……全くこいつは。

 

「はぁ……まあいい。次に戸塚、お前の盾の分裂については中々良かったが防御以外にも使えるようになれ」

 

小町にチョップをするのを止めて戸塚と向き合う。

 

「防御以外?どういう事?」

 

「前回俺の影兵とやった際に盾をぶつけて影兵のバランスを崩しただろ?」

 

「うん」

 

「それと同じように大量の小さな盾を相手に飛ばすのを会得しとけ。散弾の煌式武装があれば相手はかなりウザがるだろうからな」

 

アレは多量の攻撃を防ぐより飛ばしてぶつけた方がいい。上手くいけば相手の隙を作れて『冥王の覇銃』を活かせるかもしれないし。

 

「わかった。やってみるよ」

 

「そうしろそうしろ。魔術師や魔女は多彩さがある方が有利だしな」

 

そう返しながら今日アスタリスクであった時事ニュースを見てみる。

 

(うわぁ……ガラードワースの『贖罪の錘角』の使い手が現れたのかよ。しかも5位のパーシヴァル・ガードナー。こりゃ獅鷲星武祭はまたチーム・ランスロットの優勝だな。んで次は……ん?)

 

ニュースを見てみると知った名前があった。あいつは何をやっているんだ?

 

そこには『刀藤綺凛、いきなりの決闘!対戦相手の天霧綾斗予想に反して良い勝負を繰り広げる!』と載っていた。

 

ちょうど今星導館に通っている上に天霧と交流のある2人もいるし聞いてみるか。

 

「おい小町に戸塚、これは何なんだ?」

 

「ん?どれどれ……ああ、これね。悪いけど小町は後になって知ったからよくわからないな。戸塚さんは?」

 

「あ、うん。えっと……お昼休みに僕と天霧君と矢吹君で食堂に行こうとした時に何か……刀藤さんが刀藤さんの伯父さんに叩かれて、それを天霧君が止めようとしたら決闘になったんだ」

 

色々言いたい事はあるが天霧が底知れないお人好しだという事はよくわかった。そしてリースフェルトの件といいトラブルに巻き込まれやすい体質であるという事も。

 

そう考えながらネットに落ちてある決闘のデータを見てみる。

 

そこにはハイレベルな戦闘があった。

 

特に天霧の『黒炉の魔剣』に触れないように攻撃の軌道を変えて攻める刀藤の剣、はっきり言って異常過ぎる。これで13歳とは恐れ入る。才能だけなら六学園の序列1位でもトップだと思う。

 

(こりゃ2年後や5年後の王竜星武祭は気を引き締めないと危ないな)

 

そう思いながら記録を見ていると天霧が攻勢に出た。このままじゃジリ貧と感じたのか多少のダメージを無視して攻め始める。しかし……見切りの間合いが近くないか?こんな攻めを刀藤クラスの敵にやったらカウンターで校章をやられるぞ。

 

すると予想に違わず、刀藤の放った斬り上げをくらって天霧の校章が破壊される。しかも天霧の奴、決着のアナウンスが聞こえるまで気付いていない風だったし。

 

(……そういやあいつ最近転入したばかりだったな。て事は校章の存在を忘れていたのかもな)

 

でなければあんな無理な攻めはしないだろうし。やれやれ……

 

息を吐きながら空間ウィンドウを閉じて立ち上がる。

 

「さて、そろそろ休憩は終わりだ。もう一本行くぞ。……言っとくが小町、次にあんなふざけたフェイントをしたら基礎トレ3倍だからな」

 

そう言ってステージの中央に向かって歩き出す。

 

後ろでは「お兄ちゃんの鬼!」とか「小町ちゃん、落ち着いて」とか言っているような気がするが気のせいだろう。

 

 

 

 

それから3日後……

 

『それでね。天霧さん刀藤さんも落としたっぽいんだよ。仲良さそうに歩いてて……これで4人目だよ』

 

「マジでギャルゲーの主人公なのかあいつは?」

 

深夜小町と電話していたら天霧の話になった。以前から天霧がリースフェルトと幼馴染の沙々宮って奴とクローディア・エンフィールドの3人と仲が良いのは知っていた。当初はリア充爆発しろと思ったが刀藤まで追加されると呆れの感情しか浮かばない。

 

「そうかもねー。ちなみに本命はリースフェルトさんだよ。まあ小町は生徒会長に賭けてるけど」

 

「小町ちゃん?賭けは良くないよ?」

 

いつの間にそんな悪い子になっちゃたの?お兄ちゃん悲しい。

 

「いやいや。公式序列戦で賭けしたり歓楽街で遊んでるお兄ちゃんに言われたくないからね」

 

「待て。何で知ってる?」

 

「昨日の訓練の時にオーフェリアさんから聞いた。別に止めろとは言わないけど身を滅ぼさないようにね?」

 

「大丈夫だ。毎月決められた額しか遊んでないから」

 

せいぜい月50万くらいしかつぎ込んでないし。

 

「ならいいけど。ふぁ〜。そろそろ眠いから切るね」

 

「おう。おやすみ」

 

「んっ、おやすみ」

 

そう言って電話が切れたので端末をベッドの脇に置いて俺も睡魔に逆らわずに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日……

 

ベッドから落ちた衝撃で目を覚ます。

 

痛みを堪えながら時計を見ると朝の5時前だった。微妙な時間だな……

 

息を吐いて立ち上がる。二度寝するには少し遅い時間なので散歩でもするか。

 

俺はクローゼットにあるレヴォルフの校章の付いたジャージを着て部屋を後にした。

 

 

 

外に出ると白くぼやけた世界が目に入る。朝のアスタリスクは湖の上にあるから湖の水と大気の温度差から霧が発生しやすい。

 

しかし今日の霧はいつもより深い。まるでイギリスの霧の都みたいだ。

 

霧の深さに驚きながら歩き出す。早起きすると寮の周辺を散歩するのはよくあるが今日は早く起き過ぎた。

 

よって今日は久しぶりにアスタリスクの外周をグルリと回る予定だ。湖があるせいか比較的涼しいし散歩するには絶好の場所だろう。

 

 

そう思って霧の中を10分程歩いていると………

 

 

 

「……八幡?」

 

いきなり横から話しかけられたので振り向くとオーフェリアがいた。白い髪と霧によって幻想的な雰囲気を醸し出していて見惚れてしまった。

 

……しかし気のせいか?いつもより悲しそうだ。

 

「お、おうオーフェリア。お前も散歩か?」

 

「早く起きたから。八幡は何処に行くの?」

 

「俺?俺はアスタリスクを外周する環状道路だけど」

 

「……私も一緒に行っていいかしら?」

 

オーフェリアが同行を求めてくるとは珍しい事だな。まあオーフェリアには気を遣わなくて済むしいいか。

 

「わかった。じゃあ行こうぜ」

 

「んっ……」

 

オーフェリアは頷くとジャージの裾を掴んでくる。最近よくやってくるようになったな。

 

俺は保護欲を駆り立てるオーフェリアの姿に苦笑しながら歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

アスタリスクを外周する環状道路は時間が時間だけあって人が殆どいない。偶に早朝訓練をしている学生とすれ違うくらいで、まだ街全体が眠ったように静かである。

 

俺とオーフェリアは霧に包まれた湖の岸沿いにある歩道をゆっくりと歩いている。

 

散歩して10分……

 

……やっぱりオーフェリアの様子はおかしい。散歩を始めてからずっと俺のジャージの裾を掴んでいる。

 

オーフェリアが俺の服を掴む事は高校に上がってからよく経験するが歩いている時にはして来なかった。だからいつもと様子が違うのが簡単に理解できる。

 

「なあオーフェリア」

 

「……何?」

 

「いや、何かあったのか?いつもと違う雰囲気だし」

 

そう尋ねるとオーフェリアはジャージから手を離して自身の胸に手を当てる。それは儚くて今にも壊れそうだ。

 

オーフェリアは暫くその体勢を取ってやがて口を開ける。

 

 

「……八幡、一つ聞いていいかしら?」

 

「何だ?」

 

俺がそう尋ねるとオーフェリアは息を一つ吐いて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……八幡は私の事、好き?」

 

そう言ってきた。

 

 

…………………え?



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早起きすると色々ある(中編)

 

「……八幡は私の事、好き?」

 

オーフェリアはそう言ってくる。

 

え?ちょっと何を言ってるの?好きって聞かれても困るんですけど?

 

てかオーフェリアがこんな質問をしてくるなんて完全に予想外なんですけど。マジで何があったの?

 

(……いかん。とりあえず質問の意図を考えよう)

 

オーフェリアの事が好きかって?

 

………うん。質問の意図なんて丸分かりだな。とりあえずオーフェリアに事情を聞いてみるか。

 

 

「……えーっとだな、オーフェリアいきなりどうしたんだ?」

 

そう尋ねるとオーフェリアが口を開ける。

 

「……今日寝ている時に嫌な夢を見たの」

 

「夢?どんな夢だ?」

 

オーフェリアの夢の中で俺が何かやらかしたのか?だとしたら申し訳ないな。

 

「……八幡に嫌いって言われた夢。目が覚めた時に凄く胸が痛かったの。その後に外を歩いていたら八幡に会って……」

 

一緒に散歩する事になって俺から様子を問われて今に至る、って訳か。

 

なるほど、話はわかった。その上で言わせて貰おう。

 

「オーフェリア。誤解がないように言っておくが俺はお前の事を嫌ってない」

 

「……本当?」

 

「ああ。嫌ってるなら一緒に飯も食わないし、妹に会わせたりしないし、今だって一緒に散歩なんてしねーよ」

 

「……そう。なら良いわ」

 

そう言ってオーフェリアは軽く頷く。その表情はさっきに比べて大分マシになっている。(それでも十分に悲しげな表情だが)

 

安堵の息を吐いている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……八幡が私の事を嫌っていないのはわかったわ。その上で聞きたいのだけど……八幡は私の事、どう思っているの?」

 

さっきより答えにくい質問をしてきた。

 

勘弁してくれ。さっきの質問は好きか嫌いの2択、しかも嫌いじゃないって答えも使えたから良かったが、今回の質問は自分の意見が答えの質問だ。マジで答えにくい。

 

 

 

「………八幡」

 

オーフェリアは俺に近寄ってくる。近い近い近いからね?顔には早く答えろって書いてあるしマジでどうしよう?

 

「えーっとだな……その、何だ……どこか放っておけない感じだな」

 

俺が今出せる最善の答えを出す。……恋愛感情かはわからない。しかし何故か一緒にいたいと思うし、どうにも放っておけない。

 

俺がそう返すとオーフェリアはよくわからない表情をしてくる。

 

「……わかったわ。じゃあ最後に一つ良い?」

 

まだあんのかよ?!もう勘弁してくれ!これ以上は胃がもたないからな。

 

「最後だぞ?」

 

「ええ。………八幡は好きな人がいる?」

 

どこか不安そうな表情で聞いてくる。マジで今日のオーフェリアは何なんだ?まさかと思うが俺の好きな人を聞いてdisるとか?……いや、オーフェリアはそんな事しないか。

 

「……いない、けど」

 

少なくとも今はいない。まあ気になる奴なら幾らかいるけど好きかどうかは知らないので言わなくていいだろう。

 

「……そう。だったらまだ……」

 

オーフェリアは後ろを向きながらブツブツ言っている。とりあえずオーフェリアの地雷は踏んでないようだな。それなら良いけど。

 

(……しかしオーフェリアが恋バナに興味を持つとはな……。それは嬉しいがそういう事は女子と話して欲しい)

 

俺は男子、しかもあまり女子と関わらない男子だからそういう話は無理だ。

 

そう思っているとオーフェリアは俺の方を向いてくる。

 

「……何度も質問をしてごめんなさい。もう大丈夫よ」

 

……確かに元のオーフェリアに戻ってるな。オーフェリアの心の中で何があったか知らないがもう大丈夫なのだろう。

 

「……そうか。じゃあ散歩の続きをするか」

 

「ええ」

 

オーフェリアは頷くと俺の横に立ち歩き出した。さっきと違ってジャージを掴んではいないがさっきより距離が近い気がする。

 

てか更に近寄って来てないか?

 

つい気になってオーフェリアに話しかけようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

少し離れた場所から鈍い爆発音が聞こえてきた。

 

音源の方向を向いてみると霧とは別に煙が上がっていた。……何だ?テロか?

 

「オーフェリア、怪我人がいるかもしれんからちょっと行ってくる」

 

万が一テロで怪我人が多かったら俺の力は役に立つし行っておいたほうがいいだろう。

 

「……私も行くわ」

 

オーフェリアがそう言ってくる。俺はそれを見て一つ頷いて音源の方向に向けて足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

現場に着くと巨大なクレーターが空いていた。クレーターの内部を見てみるといくつもの階層の下に水があった。アレはおそらくアスタリスクのバランスを取るための重りとして利用しているバラストエリアの水だろう。

 

そんな所まで貫く様な穴を開けるなんて明らかに人為的な物だろう。何を企んでやがるんだ?

 

(……とりあえずバラストエリアに人が落ちてないか確認しに行くか)

 

そう判断してバラストエリアに行く為に影の竜を召喚しようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

周囲からガサゴソ音がして何かが近寄ってくる。

 

辺りを見渡して見ると靄の中から見た事のない生物が出てきた。その姿は恐竜のように爬虫類に近い顔を持ち口からは牙が見えていた。

 

その数は4体で明らかに俺とオーフェリアを睨んでいる。

 

「……アレは、確かフリガネラ式粘性攻体」

 

オーフェリアはどうやら知っているようだ。

 

「オーフェリア、アレなんだか分かるのか?」

 

「ええ。確かアルルカントの『超人派』が作った擬似生命体よ。昔見た事あるわ」

 

『超人派』の物か。まあかつて『超人派』に関わっていたオーフェリアがそう言うなら間違っていないのだろう。

 

「って事は狙いはお前か?」

 

だとしたら馬鹿としか思えない。こんな物じゃオーフェリアに傷一つ付けられないだろう。

 

「……わからないわ。私がレヴォルフに移ってからアルルカントに絡まれたのは今日が初めてだから」

 

……って事はオーフェリアが狙いとは考えにくいな。もしかして俺か?でも俺アルルカントと接点は……

 

 

(……あったな。この前レヴォルフに来た3人と接点あったな。しかしそれでも俺が狙いとは思えない)

 

3人と会った日の深夜にエルネスタとカミラと材木座について調べてみたが、エルネスタは『彫刻派』でカミラと材木座は『獅子派』でいずれも『超人派』ではなかった。

 

『獅子派』は昔『超人派』と組んでたらしいが数年前に手を切ったから関係があるとは思えない。

 

まあ奴らの狙いが俺であろうとオーフェリアであろうと関係ない。狙いに来た以上ぶちのめすだけだ。

 

そう思っているとオーフェリアが手を上げようとしているので慌てて手を掴んで止める。

 

「待てオーフェリア。お前が暴れたら周りを巻き込むから俺がやる」

 

オーフェリアの力は瘴気を操る力だ。体内を影で強化している俺はともかく関係のない人が瘴気をくらったらまず無事じゃ済まないし。

 

そう言ってオーフェリアを見るとオーフェリアは俺の事をガン見しているが顔に何か付いてるのか?

 

疑問に思っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………八幡。わかったから手を離して。………恥ずかしいわ」

 

オーフェリアがガン見しないとわからないくらい少しだけ頬を朱に染めてそう言ってくる。

 

そう言われて俺はオーフェリアの手を強く握っている事を理解した。

 

「わ、悪い!」

 

謝りながら手を離す。俺の馬鹿野郎。手を掴まなくても声をかければ良かったじゃねぇか。

 

手袋越しなのに凄くドキドキする。オーフェリアの奴に恥じらいがあるとは思わなかったし。てか凄く可愛い。これがギャップ萌えってヤツか?

 

内心心臓がバクバク鳴っているのを実感していると、痺れを切らしたのかトカゲもどきが雄叫びを上げて飛びかかってくる。

 

「……ったく、影の刃」

 

そう言って星辰力を影に込めると影の刃が4本現れてトカゲもどきの首を纏めて斬り飛ばした。弱すぎだろ?こんなんで俺やオーフェリアを狙ったのか?こんなん1億匹いても負ける気がしないな。

 

そう思った時だった。

 

斬り飛ばした首がその場で水飴のように溶け出した。そして半透明のスライム状態になったかと思えば首の付け根とくっ付いて、ものの10秒くらいで元の姿に戻った。

 

「んだこりゃ?オーフェリア、こいつら不死身か?」

 

「違うわ。確か……体の中に核があってそれを破壊しない限り何度も蘇るのだったと思うわ」

 

「サンキュー。だったら……」

 

俺は地面から影の塊を4つ作り上げて、それらを動かしてトカゲもどきの口の中に入れる。

 

それに対してトカゲもどきは口を大きく開けて焔を出そうとしている。まさか人間以外に万応素とリンクできる生物がいるとはな……

 

それについては驚いたが遅過ぎる。隙だらけだ。

 

 

 

 

「嬲れーーー暴れ影針鼠」

 

俺がそう呟くとトカゲもどきの腹辺りから大量の影の針が突き出した。

 

「オオオオオオォォォ!」

 

トカゲもどきは絶叫を上げ地面にスライムを撒き散らしながら暴れ出す。しかしトカゲもどきの体内にいる暴れ影針鼠はそれを無視して暴れ続ける。あたかも体内全てを蹂躙するかの如く。

 

暫く暴れているとトカゲもどきの体内から球状の物が出てきてバラバラになった。

 

同時に地面に蠢いていたスライムはピタリと動きを止めて再生する気配を見せなくなった。どうやらあの球状の物が核だったようだな。

 

全滅したのを確認するとオーフェリアが話しかけてくる。

 

「……初めて見る技ね」

 

「まあな。体内に潜り込んで相手の内臓を破壊する技だ。んなもん試合で使ったら間違いなく失格になるからな」

 

「そうね。……疲れてないと思うけどお疲れ様」

 

「サンキュー。さて次は……」

 

 

俺は息を吐いてクレーター内部の1番奥にあるバラストエリアを見る。

 

「こんな場所を爆発させるって事は俺達以外の誰かを狙った罠かもしれん。一応確認しに行くがお前も来るか?」

 

「……八幡が行くなら行くわ」

 

その言い方止めろ。何か恥ずかしいから。

 

俺はオーフェリアから逃げるように顔を背けながら影に星辰力を込める。

 

 

 

「目覚めろーー影の竜」

 

そう呟くと自身の影が辺り一面に広がり魔方陣を作り上げる。そして黒い光が迸り魔方陣を破るゆうに20メートルくらいの大きさの黒い竜が現れる。

 

竜は現れると頭を下げてくるので俺は頭の上に乗ってオーフェリアに手を差し出す。

 

「ほれ、摑まれよ」

 

「んっ……」

 

オーフェリアが俺の手を掴んだのを確認して引き上げる。頭に乗ると同時に竜の頭から影が伸びて、落ちないように俺とオーフェリアの足に絡みつく。

 

さて行くか……

 

俺が指示を出すと影の竜は雄叫びを上げて巨大なクレーターの中に飛び込んだ。

 

 

数十メートル潜るとバラストエリアに到着した。辺りを見回すと、下には広大な水面が、周囲には巨大な柱が無数にあった。これがアスタリスクを支えている場所か……

 

 

っと、とりあえず落ちた人がいないか確認しないとな。

 

俺は竜にゆっくり飛びまわれと指示を出す。指示を受けた竜は自転車と同じ位の速さでゆっくりと動き始める。

 

てかオーフェリアは背中に抱きつくの止めてくれないか?足に影が絡みついてるから落ちる心配ないし。さっきから背中に柔らかな感触がしてヤバいんですけど?

 

舌を噛みながら煩悩を退散させつつ水面を探してみるも人どころか、物一つ見つからない。もしかして誰も落ちてないのか?……まあそれなら安心だけど。

 

 

そう思っていると……

 

「……八幡。あれ見て」

 

背中に抱きついているオーフェリアが話しかけてくる。オーフェリアが指差した方向を見てみると少し離れた所に一部がくりぬかれている柱があり、人影が2つ見える。

 

……どうやら落ちた奴らは柱の一部をくりぬいて足場を作ったようだ。重要施設の構造物を破壊するとは中々やるな。

 

的はずれな事に感心しながらその場所に行くよう竜に指示を出すと一直線に突き進む。さてさて、さっさと助けてやらないとな……

 

 

 

そう思って目的地に着くと………

 

 

 

 

 

 

 

「………比企谷?」

 

知った顔がいた。何でこいつがここに?

 

「お前、天霧か?んでそっちの女は刀藤綺凛か?」

 

足場にいたのは顔見知りである天霧綾斗と星導館の序列1位『疾風迅雷』刀藤綺凛がいた。

 

 

 

 

 

 

 

両者ともに下着姿の状態で。

 

 

 

 

 

………え?何やってんのこいつら?まさかと思うが事後なの?

 

 

あまりの予想外の光景に俺は言葉を失ってしまった。



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早起きすると色々ある(後編)

俺は今予想外の光景を目にしている。

 

オーフェリアと散歩していたらバラストエリアに繋がる巨大なクレーターを発見。人が落ちていないか探していたら足場がある所に、星導館学園に通う天霧綾斗と刀藤綺凛がお互いに下着姿で向かい合っていたのだ。

 

向こうは俺達を見て驚きと恐れの混じった表情で見てくる。まあ悪名高いレヴォルフの2トップがいきなり現れたらビビるよな?

 

てかマジで何をやってんだ?バラストエリアで中学に上がったばかりの刀藤と、下着姿で今にもキスしそうな距離で向かい合っているし。

 

そう考えている時だった。

 

俺はふと天霧とリースフェルトが決闘した映像を思い出した。

 

あん時は天霧がリースフェルトを押し倒して胸を揉んでいたな。しかも転校初日で初対面なのに。

 

しかも天霧って小町曰く、お姫様、幼馴染、生徒会長、そして目の前にいる刀藤と仲が良いんだよな?

 

そう考えていると天霧達がここにいる理由って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(刀藤と情事に耽る為じゃね?)

 

もしそれならガチでヤバいぞ?刀藤は13歳、明らかに犯罪じゃねぇか。

 

 

俺はオーフェリアの方を向いて話しかける。

 

 

「おいオーフェリア。今直ぐ警備隊にバラストエリアにど変態がいると通報しろ」

 

ならさっさと通報するべきだ。

 

「わかったわ」

 

オーフェリアはそう言ってポケットから携帯端末を取り出そうとすると天霧は大慌てで口を開ける。

 

「ちょっと待ってちょっと待って!!誤解!誤解だからね!」

 

「黙れど変態。客観的に見て明らかにヤバい絵面だからな?」

 

まさかと思うがバラストエリアに開けたクレーターって刀藤と情事に耽りたい天霧が人目を避ける為に開けたんじゃねぇよな?

 

もしそうならガチで捕まるべきだ。それも無期懲役で。

 

オーフェリアが端末を取り出して通報しようとすると……

 

 

「待ってください!天霧先輩は悪くありません!天霧先輩は私を助けてくれたのです!」

 

刀藤が焦りながら弁解する。その様子は明らかに必死だった。てか気付いてないみたいだけど下着姿で近寄らないで!てかエロいな。こいつ本当に13歳か?

 

内心突っ込んでいると背中に痛みを感じる。痛ぇ!

 

後ろを見るとオーフェリアがジト目で俺の背中を抓っていた。痛いから止めろ!

 

「………八幡のバカ」

 

言いたい事を理解した。女の下着を見るなって事だろう。わかったから抓らないで。痛いから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほどな。つまりお前らもあのトカゲもどきに襲われた、と」

 

オーフェリアに背中を抓られてから数分、天霧と刀藤から事情を聞いている。

 

ちなみに天霧と刀藤は俺の影で作った黒い服を着ている。話をする前にオーフェリアに物凄い顔で、

 

 

 

 

 

「……今直ぐ八幡の能力で彼女に服を作って」

 

とドスの利いた声で言われ、ビビりながら刀藤の服を作りその際に天霧の服も作った。

 

「うん。ところで何で比企谷は『孤毒の魔女』と一緒にいたの?」

 

若干驚きながら聞いてくる。隣にいる刀藤なんてかなり怯えてるし。まあ俺はよくオーフェリアと戦ってるから慣れてるが、オーフェリアの戦い方はかなり禍々しいからな。

 

「あん?俺とオーフェリアは散歩してたんだよ。ところでお前は襲われる心当たりはあるのか?」

 

さっき俺達が襲われたのは『超人派』関係でオーフェリアを狙ったって理由が思いつくが天霧達が襲われる理由はないだろ?

 

「うんまあ、それなりに」

 

天霧は腑に落ちない顔をしながらもそう返す。それを見た俺は1つの考えが浮かぶ。

 

(……もしかしてあのエルネスタって女が関係してんのか?)

 

あの女、俺だけでなく天霧にも興味を持ってるって言ってたし、アルルカント繋がりで関係あるかもしれん。

 

まあエルネスタは有能みたいだからボロは出さなそうだし、仮に犯人でも証拠は掴めないだろう。

 

 

そう判断した俺はこの話は終わりにする事にした。

 

「わかった。じゃあこの話は終わりにするぞ。とりあえず星導館まで送るから乗れよ」

 

影の竜を指差す。

 

「あ、うん。ありがとう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

2人はおずおずしながらも竜に乗る。後は……

 

俺は竜の一部を抜き取って5メートルくらいの影の鷲を作り出す。

 

「オーフェリアは先に帰ってろ」

 

そう言ってオーフェリアに鳥に乗るように指示を出す。

 

「……何で私は先に帰るの?」

 

「ん?天霧の奴、鳳凰星武祭でリースフェルトと組むんだよ」

 

俺がそう返すとオーフェリアは天霧を見る。しかしそれも一瞬の事で直ぐに俺と向き合う。

 

「……彼がユリスと?」

 

「ああ。だからあいつらを送って星導館に着いた時、天霧を探しているリースフェルトとお前が鉢合わせしたら面倒になるからな」

 

そんな事になってみろ。リースフェルトは間違いなくオーフェリアに決闘を挑んでオーフェリアはそれを受けて星導館は瘴気塗れになるだろう。それで小町や戸塚が倒れたら笑えないからな。

 

「……そう。わかったわ」

 

オーフェリアは息を吐いて鷲に乗る。

 

「悪いな」

 

「……別に構わないわ。じゃあまた学校で」

 

「おう。また後で」

 

そう返して鷲に指示を出すと影の鷲は甲高い鳴き声を上げながら、オーフェリアを乗せてクレーターに向かって一直線に飛んでいき、そのまま地上へ出て行った。

 

影の鷲が見えなくなったのを確認して俺は竜に乗って2人に話しかける。

 

「んでお前らは星導館の校門までで良いか?」

 

「あ、うん。刀藤さんは?」

 

「わ、私もそれでいいです」

 

「よし。んじゃ行くか」

 

竜に指示を出すと雄叫びをあげながら飛び始めた。さて……安全運転をすりゃ星導館まで5分くらいか。

 

(……というかこのバカでかい穴は誰が修復するんだ?)

 

一瞬その事を考えたが直ぐに止めた。うん、アスタリスクの統合企業財体から人が派遣されるだろう。それに俺が壊したわけじゃないし咎められないだろう。

 

そんな事をのんびり考えながら地上に上った。

 

 

 

 

 

 

 

 

地上に出た俺達は星導館に向けて一直線に進む。未だに霧は深く前は見えにくいがアスタリスクは名前の通りでわかりやすい地形をしているので迷う事はないだろう。

 

朝風を体に浴びていると後ろから肩を叩かれる。

 

「比企谷、1つ聞きたい事があるんだけどいいかな?」

 

そう言われて聞きたい内容は直ぐに理解できた。この場面で質問するって事はアレだろう。

 

「聞きたい事はわかる。どうせオーフェリアとリースフェルトの事だろ?」

 

「……うん。前にユリスが『孤毒の魔女』の名前を聞いた時に複雑な表情をしてたから」

 

まあリースフェルトはオーフェリアに対して怒りや悲しみなど色々な感情を持ってるからな。複雑な表情もするだろう。

 

「まあ気になるのも仕方ないか。でも悪いが話せない。かなり込み入った話だからな」

 

「そうか……わかった」

 

「ならいい。言っとくがリースフェルトに聞くのも諦めた方がいいぞ。あいつ多分『これは私とオーフェリアの問題だ!』って言って答えないと思うぞ」

 

「ああ……まあユリスならあり得るかもね」

 

「だな。それと俺からも1つ質問があるんだがいいか?」

 

「え?うんいいよ」

 

「じゃあ聞くぞ。この前サイラスとやり合った時にお前を縛った鎖、誰に付けられたか知らないがあれ何だ?」

 

今の今まで忘れていたが天霧を縛ったあの力は異常だ。

 

「あー、それはその……」

 

そう言って天霧は目を泳がせる。どうやら余り知られたくない事のようだ。

 

「言いたくないなら言わなくていいぞ?」

 

「あ、いや……比企谷にはあの時治療院に送って貰ったし話すよ。あれは俺の姉さんがかけたものだよ。姉さんの能力は万物を戒める禁獄の力なんだ」

 

「……なるほどな。つまりお前は一定時間しか全力を出せないと?」

 

「うん。5分以上持ったのはあの時が初めてだし。普段は3分が限界かな」

 

なるほど……3分しか力を出せないってどこのヒーローだよ?まあある意味こいつはヒーローみたいだけどさ。

 

そんな事より俺は知りたい事がある。

 

「なあ天霧。お前の姉ちゃんはお前の力を封印してるみたいだがよ、その力って『魔術師』や『魔女』にも通用するのか?」

 

「多分ね。それがどうかしたの?」

 

 

それを聞いた俺はある考えが浮かんだ。

 

「なあ天霧。いつかでいい。お前の姉ちゃんの力を貸して貰いたいんだが」

 

もし異能者の力も封じ込められるなら……

 

「うーん。でも姉さんは5年前に失踪して行方がわからないんだ」

 

「……そうか。野暮な事を聞いて済まなかったな」

 

「別にいいよ。姉さんには姉さんの事情があったんだろうし」

 

天霧はそう言って手を振っている。それに対して申し訳ない感情を持っていると竜が雄叫びを上げる。

 

下を見るといつの間にか星導館の校門の真上に来ていた。下を見ると人はいなかった。まあまだ朝6時前だからな。

 

それを確認した俺は竜に指示を出して地面に着地した。

 

竜が地面に足をつけると頭を下げるので天霧と刀藤を地面に下ろす。

 

「んじゃ俺は帰る。影の服は胸にあるレヴォルフの校章に触れたら解除される。自分の部屋に着いたら校章に触れろ。言っとくが今触れたらこの場で下着姿になるから触れるなよ?」

 

「あ、うんわかった。どうもありがとう」

 

「送っていただいた上、服まで貸して貰いありがとうございました」

 

「別に服は影で作ったもんだから気にすんな、もう行け」

 

そう言って星導館を指差すと2人はもう一度礼を言って校門に向かって去って行った。

 

俺は2人が見えなくなるまで見送って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人払いは済んだぞ。そろそろ出てきたらどうだ?」

 

後ろに向けて声をかける。

 

すると校門の影から見覚えのある顔が出てくる。

 

「あらあら。よくわかりましたね。流石『影の魔術師』」

 

そう言って薄い笑みを浮かべながら出てくるのは星導館の生徒会長のクローディア・エンフィールドだった。しかし今回は『パン=ドラ』を持っていないので凶々しさは感じないな。

 

「そいつはどうも。で、何か用か?」

 

「そうですね……先ずは綾斗と刀藤さんを助けて星導館まで送っていただいてありがとうございます」

 

どうやら俺が助けたのは理解しているようだ。随分情報が早い事で。

 

「別に構わない。それより本題に入れ」

 

お礼なんざ建前だろう。それだけだったらわざわざ隠れる必要はないはずだ。

 

そう思っているとエンフィールドが口を開ける。

 

 

「そうですね……単刀直入に言います。私と連絡先を交換していだだけませんか?」

 

……は?連絡先の交換だと?いきなりどうしたんだ?

 

「……とりあえず理由を聞こうか」

 

「簡単な話です。貴方と繋がりを持っておく事がメリットがあると思ったからですよ。何せ貴方は……」

 

軽く笑いながら一区切りすると真剣な表情で見てくる。

 

「レヴォルフのNo.2で圧倒的な力を持っている。にもかかわらずディルク・エーベルヴァインの手駒にならず、ソルネージュから『黒猫機関に入れ』という誘いを蹴りながら、何度も星導館の生徒を助けている人間ですからね」

 

別に星導館の生徒を助けたのは結果的にそうなっただけだ。しかしそれは大した問題ではない。俺が聞きたいのは……

 

「待て。何で俺が黒猫機関にスカウトされた事を知ってんだ?」

 

俺の力は戦闘だけでなく諜報能力にも優れている。何せ影の中に入れるだけでなく他の影に紛れる事も出来るからな。

 

それで序列2位に上がった頃にレヴォルフの運営母体であるソルネージュにスカウトされたが面倒だから断った。

 

あの件を知っているのは俺とレヴォルフの会長のディルクとソルネージュの幹部クラスの人間だけだ。星導館の諜報機関が知っているとは完全に予想外だ。

 

「実は影星にも貴方と同じように黒猫機関にスカウトされた人がいるのですよ。その人から貴方も候補と聞いたのですよ」

 

俺はそれを聞いて浮かんだのはサイラスの事件の時にいたあの男だ。理由はないが何となくあの男の様な気がする。

 

まあそれはどうでもいい。話を戻すと……

 

「……つまりレヴォルフの情報を流すスパイになれと?」

 

「そこまでの要求はしません。こちらが情報が欲しい時に手伝って欲しいのですよ。貴方の能力は私の知る限り最も隠密性に優れていますので」

 

つまり非常時に協力して欲しいって訳か。

「あんたにあるメリットはわかった。連絡先を教えてもいいが条件として俺自身が欲しい情報があった場合に協力する事を約束しろ」

 

俺もそれなりに情報網を持っているがディルクやソルネージュと繋がりがないからそこまで優れてはいない。

 

そう言った意味じゃ他所の学園と偶に協力するくらいなら悪くない。

 

「……いいでしょう。ただしあくまで私と貴方の関係は私的な物です。互いの目的が一致しない限りは私個人による情報網以外によって手に入る情報は渡しませんがよろしいですね?」

 

「……それでいい」

 

一般生徒の俺と違って生徒会長であるエンフィールドの情報網は間違いなく優れている筈だ。

 

俺はエンフィールドに頼まれたら情報を収集する、エンフィールドはエンフィールド個人の持つ情報網を俺に貸す。

 

………まあ損はしてないな。今まで影に潜って情報収集した際は一度もバレてないし。

 

「そうですか。では……」

 

そう言ってエンフィールドは端末を出してくるので俺も端末を出して連絡先を交換する。

 

「んじゃ俺は帰る。欲しい情報があったら連絡しろ」

 

「ええ。ごきげんよう」

 

エンフィールドの笑顔を背に俺はレヴォルフ近くにある自分の寮に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時の俺はまだ知らなかった。

 

エンフィールドと連絡先を交換した事が今後の運命を大きく変えるという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀綺覚醒編 完



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トーナメント表が発表されて色々な思惑が交錯する

『……それでねお兄ちゃん。刀藤さんと沙々宮先輩も出場枠に空きが出たから参加するんだよ』

 

「ほうほう。てか沙々宮って強いのか?」

 

俺は久しぶりに食堂で飯を食べながら妹と電話をしている。今日はオーフェリアは用事があるようでいないので食堂で飯を取っている。いつもは混んでいるから行かないが今日は空いている。

 

現在は7月の終わりで鳳凰星武祭に参加しない生徒は夏休みになっている。俺は星武祭を直接見に行くので学校に残っているが学生の半分くらいは実家に帰省している。鳳凰星武祭が終わったら一度小町と実家に帰省する予定だが。

 

 

 

『うん。何度か戦ったけど銃型の煌式武装で白兵戦するし』

 

待て。銃型の煌式武装で白兵戦だと?意味がわからん。銃で相手を殴ったりするのか?まあ冒頭の十二人に入っている小町が強いと言っているんだし強いのだろう。

 

さて……となると星導館からは、現序列1位の天霧と旧序列1位の刀藤が出るのか。まあ鳳凰星武祭を得意とする星導館からすればこの2ペアに期待してるのだろう。

 

「そうか。じゃあ今日の組み合わせ発表で本戦までに当たらないように祈っとけ」

 

トーナメントの組み合わせは後15分くらいで発表される。その為、今の時間でも時計を確認している生徒がチラホラいる。

 

『うん!そろそろ食堂に着くから切るね』

「ああ。またな」

 

挨拶をすると電話が切れるので空間ウィンドウを閉じる。さて、食べるのを再開するか。

 

俺は先程注文したラーメンをちゅるりと一気に口にかきこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

ラーメンを食べ終えて食器を片付けていると携帯端末が鳴りだす。その音は周りからも鳴り出していた。トーナメントの発表時間だからだ。

 

すると食堂にいるほぼ全員が携帯端末を開くので俺もそれに続いた。

 

鳳凰星武祭の参加人数は512人、256組だ。人を探すのも割と怠い。

 

息を吐きながらAブロックから探してみると幸いな事に小町と戸塚はAブロックだった為直ぐに見つかった。Aブロックの他の選手を見ると冒頭の十二人は小町以外いないので余程の事がない限り本戦には出れるだろう。

 

安堵の息を吐きながら他の有力選手を探してみる。

 

Cブロックには天霧とリースフェルトがいるからCブロックはこいつらだろう。てかこのブロックにいる奴ら不憫過ぎる。天霧の力は1日5分くらいしか出せないみたいだが鳳凰星武祭は2週間かけてやるから、封印で悩む事はないだろう。

 

雪ノ下と由比ヶ浜はDブロックか。由比ヶ浜の実力は知らんが予選最後に当たるだろう界龍コンビ以外には負ける可能性はないだろう。

 

Hブロックにはアルルカントのエルネスタとカミラがエントリーされているがもしかして人工知能云々のやつか?だとしたら興味深いな。もしかしたら煌式武装を作ったのは材木座だったりしてな。

 

……ん?Jブロックには葉山の名前がある。あいつ本当にアスタリスクに来たのかよ。行った場所はガラードワースだが皆仲良くのあいつには向いてるかもな。てかパートナーは一色いろは?誰だか知らないがてっきり三浦と組むかと思ったぜ。

 

厄介そうなのはガラードワースの銀翼騎士団のコンビと界龍の双子くらいだろう。

 

準優勝の趙虎峰とセシリー・ウォンの2人は本当に獅鷲星武祭に鞍替えしたようで名前はなかった。俺あのコンビのファンだから残念だ。まあいたら優勝するのはあの2人か天霧とリースフェルトのペアのどちらかだろうな。アルルカントについては良くわからんから除外するけど。

 

しかし1番気になるのは……

 

「何でこいつらも出場するんだ?」

 

 

俺は一息吐いて再度トーナメント表を見る。

 

俺の視線の先にあるのはGブロック。そこにイレーネ・ウルサイス、プリシラ・ウルサイスと表記されていた。

 

……この組み合わせについては良くわからん。イレーネが出るとしたら王竜星武祭だと思ったし、プリシラは星武祭そのものにそこまで興味なかった筈だ。

 

(そう考えると後は……)

 

一瞬だけ思考に耽ったが直ぐに理解した。参加する理由なんてアレしか浮かばない。

 

それと同時に俺はある場所に足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

俺は今、薄暗く陰気な廊下を無言で進む。この場所は一般の生徒には立ち入りが許されない区画だ。俺はそれを一切気にしないで歩き続ける。

 

レヴォルフには『強者への絶対服従』という唯一絶対のルールがある。俺の場合は序列2位、つまりレヴォルフで2番目に強いので大抵の要求は通る。

 

俺は序列2位になった時に与えられた権限を使ってセキュリティチェックをパスして奥に進む。

 

今回向かっている場所は懲罰教室。レヴォルフの中でも特に凶暴凶悪の学生が集められている牢獄の様な場所だ。俺が話したい相手はその場所にいる。

 

入口に着いた俺は警備員に話しかける。

 

「おい。イレーネ・ウルサイスの部屋に案内してくれ」

 

話したい相手はイレーネだ。何か歓楽街のカジノで暴れて潰した事で捕まったらしい。元は向こうがイカサマしたのが原因らしいがやり過ぎだろ?

 

「イレーネ・ウルサイスですか?彼女ならつい先程釈放されましたよ」

 

ちっ。入れ違いになったか。とんだ無駄足になっちまったな。

 

俺は軽く舌打ちをして懲罰教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

懲罰教室を出て日光を受ける。何度かあそこには行ったが慣れないな。

 

息を吐きながら携帯端末を開いて電話をかける。するとワンコールで繋がった。

 

『んだよ八幡。なんか用か?』

 

画面には派手な制服とマフラーを着用しているイレーネが飯を食いながら顔を見せてくる。

 

「よう。シャバの空気はうまいか?」

 

軽く皮肉を込めて挨拶をする。

 

『ああうまいね。何せあそこじゃ腹が減って仕方なかったからな。……で、あたしに何か用か?』

 

「ああ。お前が鳳凰星武祭に出るなんてなと思ってな」

 

『好き好んで出るわけじゃねえよ。ディルクからの仕事が入っちまってよ。あいつが勝手に出場登録をしてたんだよ』

 

やっぱりあのデブか動いているのか。でも何でだ。あいつは裏でコソコソするのが主だ。星武祭みたいな表舞台で仕事をするとは考えにくい。

 

「ふーん。ちなみに依頼内容は?」

 

そう尋ねるとイレーネは予想外の回答をしてきた。

 

 

 

 

 

 

『ん?あたしがディルクに頼まれた依頼は星導館の1位を潰せって内容だけど』

 

……天霧を?何でだ?てか天霧は転校して半年も経っていないのにどんだけ狙われているんだ?不幸過ぎだろ。右手が幸運を打ち消しているの?

 

とりあえず詳しく聞いてみるか。

 

「何であのデブは天霧を?」

 

『ディルクが言うにはそいつの使う純星煌式武装が厄介だから今の内に潰したいらしい』

 

それだけでか?確かに『黒炉の魔剣』は強力だがそれだけでわざわざ潰すとは考えにくい。ディルクの性格はクズそのものだが有能な人間だ。おそらく他にも理由があるに違いない。

 

「そうか………悪いな時間を取らせて」

 

『別に構わねーよ。話が終わりなら切るぞ。今飯食ってる途中なんだよ』

 

「ああ。時間を取らせて済まない。じゃあな」

 

そう言って空間ウィンドウを閉じる。さてさて……一応あいつに報告しておくか。

 

俺は息を吐いて自分の寮に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

寮に帰って夏休みの宿題をある程度やった俺はある番号に連絡をする。

 

『もしもし。どうかいたしましたか?』

 

空間ウィンドウに映るのは星導館の生徒会長のクローディア・エンフィールド。この前連絡先を交換して以来初めて連絡を取る。

 

「ああ、ディルクが星導館にちょっかいをかけようとしてるからその報告をな」

 

『……詳しく聞きましょう』

 

エンフィールドはにこやかな笑顔を消して真剣な表情を浮かべてくる。それを確認した俺はディルクが天霧を潰そうとしている事、その理由は『黒炉の魔剣』が危険だからである事を話した。

 

『……そうですか。情報提供には感謝します。ですが厄介ですね』

 

「まあな。何せ闇討ちじゃなくて試合で潰すつもりみたいだし」

 

闇討ちなら護衛をつけたりすればどうにかなるが試合だと邪魔が入らないからな。対処の仕様もないだろう。

 

「……ところでエンフィールド。『黒炉の魔剣』は何かいわくつきなのか?」

 

でないとディルクがわざわざ狙うとは思えないし。

 

『……そうですね。実は『黒炉の魔剣』は5年前に貸与記録には貸し出されていないと記録されているにも拘らず実戦データだけがあるのですよ』

 

「マジで?」

 

純星煌式武装は厳密に管理されていて貸与記録と実戦データが集積されるようになっている。どちらか片方だけないのは誰かが無断で持ち出したか貸与記録を弄ったかだな。

 

「はい。そして『黒炉の魔剣』は……綾斗のお姉さんが使っていたかもしれない純星煌式武装なのです」

 

それこそマジか?純星煌式武装を使える魔女とかチート過ぎだろ。

 

「天霧の姉ちゃんは失踪したと聞いたが?」

 

『ええ。彼女は5年前に入学して、その半年後に本人都合による退学となっています。ですが我が学園の生徒や教員は彼女を知らないようでお手上げですね』

 

つまり学籍は持っていたが学校には通っていなかったって事か?それでありながら『黒炉の魔剣』を持っていたかもしれない。

 

(……ディルクが天霧を狙っているのは天霧の姉ちゃんが関係あるかもしれん)

 

まあそれは今どうでもいい。理由はどうであれ、天霧が狙われている事の方が重要だ。

 

「……随分キナ臭い事はわかった。とりあえず今はイレーネと天霧が当たるまでは動かなくていいだろ?」

 

『そうですね。ディルク・エーベルヴァインが裏で動くとしたらイレーネ・ウルサイスが負けてからでしょうね』

 

「わかった。イレーネが負けたら連絡する」

 

『あら?自分の学校の生徒は応援しないのですか?』

 

エンフィールドはからかうように笑ってくる。いや、応援はしてるぞ?イレーネにしろプリシラにしろ仲良いし。ただ……

 

「応援はしてる。ただそれでも天霧達が勝つと思ってる」

 

言っちゃ悪いがイレーネが天霧を止められるとは思えん。今大会で天霧をタイマンで倒せるとしたら刀藤くらいだろう。

 

『まあ私の綾斗は強いですから』

 

うわ、本当に天霧モテ過ぎだろ?私の綾斗とか言ってる時点でゾッコン過ぎだろ。

 

「まあライバルは多い上、お前は生徒会長で多忙だけど遅れをとるなよ」

 

『そうですね。まあ綾斗は奥手で鈍感ですからそこまで焦っていませんよ』

 

鈍感って……あいつ本当にギャルゲーの主人公かよ?

 

「まあ頑張れ。じゃあまたな」

 

『ええ。また』

 

挨拶を返して空間ウィンドウを閉じる。

 

……にしても天霧の野郎、女子と仲が良いなんてリア充じゃねぇか。大爆発とかしないかな?

 

そんな事を考えながら今夜の夕食の準備をしようとした時だった。

 

携帯端末が鳴り出した。このタイミングって事はエンフィールドか?

 

そう思いながら着信相手を確認しないで空間ウィンドウを開く。

 

「どうしたエンフィールド、何か伝え忘れたのか?」

 

そう言って空間ウィンドウを見ると………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………八幡?」

 

そこに映っていたのはクローディア・エンフィールドではなく、オーフェリア・ランドルーフェンだった。

 

………マジか?



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こうして鳳凰星武祭が開幕する。

 

 

 

「………八幡?」

 

画面に映っていたのはクローディア・エンフィールドではなく、オーフェリア・ランドルーフェンだった。

 

ヤバい恥ずかしい。いきなりエンフィールドとか言っちまったよ。次からはちゃんと着信相手を確認しよう。

 

……とりあえずオーフェリアに謝ろう。

 

「悪いオーフェリア。1分前までエンフィールドと電話してたから勘違いをして『……八幡』……何だオーフェリア?」

 

謝っている最中にオーフェリアが遮ってきた。しかも何かどす黒いオーラを纏っていてメチャクチャ怖い。

 

『……今エンフィールドって言っていたけどそれはクローディア・エンフィールド?』

 

「あ、ああ。そうだけど」

 

俺がそう返すとオーラの強さが増した気がする。え?今なんか地雷踏んだのか?今の一言だけでオーフェリアは怒ったの?

 

「……何で八幡が彼女の連絡先を持っているの?」

 

え?何でだって?そりゃ向こうが連絡先を交換しようと言ってきたからだけど。

 

しかし何故かそう言えない。オーフェリアの地雷はどこにあるかわからないから下手に言えない。しかし言わない選択は間違いなく地雷だ。マジでどうしよう?

 

悩んでいる時だった。

 

『……ごめんなさい。誰の連絡先を持っていても八幡の自由なのに強く当たってしまったわ』

 

オーフェリアが画面越しに謝ってくる。既にどす黒いオーラは消えていてしおらしい態度を取っている。

 

 

 

「あ、いや……別に怒ってないから気にするな」

 

『……本当?私の事嫌いになってない?』

 

オーフェリアはいつもの悲しげな表情に不安を加えた表情で見てくる。その顔を見ると何故か胸が痛くなる。

 

「安心しろ。大抵の人間は嫌ってきたからな。今さらちょっとやそっとじゃ人を嫌いにならねぇよ」

 

『……理由が悲しいわね。でも………良かった』

 

オーフェリアはそう言って安堵の息を吐いている。不覚にもその仕草にドキッとしてしまった。

 

つい照れ臭くなってしまったので顔を背けてしまう。普段悲しげな表情をしているこいつのそんな顔は破壊力はヤバすぎるな。

 

「そ、それはいいが何でおれに電話したんだ?」

 

これ以上こいつのこんな顔を見ていると顔が更に熱くなりそうなので半ば強引に話を戻す。

 

『……八幡は鳳凰星武祭が始まったら小町達を応援しに会場に足を運ぶの?』

 

「ん?一応そのつもりだが?」

 

少なくとも小町が出る試合は全部直で見るつもりだ。天霧ペアを始め他の有力ペアはどうせ簡単に予選は突破するだろうし、予選は見るつもりはない。

 

『……その時に私も一緒に行っていいかしら?』

 

「……随分予想外の頼み事だな。星武祭は興味ないんじゃなかったのか?」

 

『……そうね。星武祭を一緒に見たいのは建前。本音を言うと八幡と一緒にいたいから』

 

……やっぱりな。オーフェリアが星武祭に興味を持っていないのは知っていたから目的は俺と過ごす為なのは明白だ。

 

にしても……オーフェリアの発言については言われたばかりの頃は緊張していたが、しょっちゅう平然とした表情で一緒にいたいって言ってくるから慣れちまったな。

 

しかし……

 

「別に構わないが一ついいか?」

 

『何かしら?』

 

「実はずっと前にシルヴィと一緒に見る約束をしたからシルヴィもいるかもしれないがいいか?」

 

そう尋ねるとオーフェリアの目がほんの少し細まった気がする。何だ?また地雷を踏んだのか?だとしたら嫌な予感しかしないぞ?

 

若干ビクついていると……

 

『……わかったわ』

 

意外にもオーフェリアは了承してきた。マジか?

 

「……いいのか?お前てっきりシルヴィと仲が悪いかと思った」

 

『別に仲は悪くないわ。単に私が彼女を一方的に危険視しているだけよ』

 

……は?危険視だと?オーフェリアがシルヴィを?言っちゃ悪いがオーフェリアからすればシルヴィは雑魚だと思う。シルヴィを危険視する理由がわからん。

 

理由は知りたいが聞く事が最大の地雷のような気がするので聞かないでおこう。

 

「わかった。じゃあ後でシルヴィに聞いてみる」

 

『お願い。まあ彼女が拒否するなら大人しく下がるわ。先に約束をしたのは彼女だし』

 

「シルヴィが拒否するとは思えないが……まあ一応聞いとく」

 

その後は適当に雑談(と言っても俺とオーフェリアは互いにコミュ障なので片方が質問してもう片方が質問に答えるだけ)をして空間ウィンドウを閉じる。

 

さて……次はシルヴィか。

 

(……確かシルヴィは今日生放送があったから忙しいしメールにしとくか)

 

そう判断した俺はシルヴィに『鳳凰星武祭が始まったらお前と見る約束をしていたが、オーフェリアも追加して貰っていいか?』とメールを送る。

 

すると5分もしないでメールの返信が来た。内容は『いいよ。見る場所はクインヴェールの生徒会専用席で良い?』と書いてあるがレヴォルフの生徒が入っても大丈夫なのか?

 

まあシルヴィから誘っている以上問題ないのだろう。『別に構わない』と返信して携帯端末をポケットに入れる。

 

俺は息を吐きながらテレビをつけてニュースを見る。まあこの時期だから鳳凰星武祭に関するニュースが多い。

 

見ると天霧、リースフェルトペアについて解説してるし。まあ優勝候補筆頭だから当然だろう。

 

小町達は本戦出場は問題ないと思うが本戦からは厳しい戦いになるだろう。優勝は無理だと思うがベスト8以上には上がって欲しいものだ。

 

俺はそんな事をのんびりと考えながらテレビを見続ける。いつの間にかテレビの画面が変わっていて、世界の歌姫が笑顔を浮かべているのが不思議と印象に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして鳳凰星武祭当日……

 

「……元来煌式武装にはこれといった制限を設けてこなかったけれど、技術の進化というのは目覚ましく、色々と不都合な部分が出てきたわけだ。具体的に言うと、自律駆動する機械を武器としてどう扱うか」

 

 

俺とオーフェリアはアスタリスク中央区総合メインステージ、通称『シリウスドーム』の最上階層の観客席で星武祭運営委員会委員長マディアス・メサの開会の挨拶を聞いている。これは例の人工知能についてだろう。

 

(つーか毎年開会式は見ているが委員長の話だけでいいだろ?)

 

マディアス・メサの話は聞いていて飽きないが、その後の式典は聞いていて眠くなる。てか前シーズンの王竜星武祭の時は立ったまま寝ちまったし。

 

そんな事を考えながらステージを眺め回すと生徒会長が並んでいる所で目が止まる。

 

それと同時にシルヴィがウィンクしてくるがあいつはあの距離から俺が見えているのか?

 

疑問に思っていると制服の裾を引っ張られたので見るとオーフェリアがジト目で見てくる。……お前やっぱりシルヴィと仲悪いだろ?

 

内心オーフェリアに突っ込んでいる中高らかな宣言が耳に入る。

 

「そして、星武祭を愛し、応援してくださっている諸氏には、これがまた一段階進化した新たな星武祭へ繋がるものである事をご期待いただきたい。星武祭は常に世界で最高のアミューズメントであり、無二の興奮と感動を生み出すステージであり、そして魂を震わせる至高のエンターテイメントなのだから!」

 

マディアス・メサがそう締めくくると観客席からは爆発的な拍手が鳴り響く。まあ客からすれば盛り上がれば何でも良いだろうからな。

 

対照的に選手からは嫌な空気が漂っている。観客から受けていても実際に参加する人からすれば迷惑千万な話しだから仕方ないだろう。

 

マディアス・メサが壇上から降りると統合企業財体のお偉いさんや各学園の学園長の話が始まる。

 

しかしこれは生徒だけでなく観客もそこまで熱心に聞いていない。まあ観客からすれば早く試合を見せろと思っているだろうから仕方ない。

 

かく言う俺も退屈過ぎて欠伸をしてしまう。しかも昨夜はゲームにハマって寝たのは深夜3時で3時間くらいしか寝てない。

 

「……眠いの?」

 

「ん?まあな」

 

「……だったら開会式が終わったら起こしてあげるから寝たら?」

 

え?マジで?そいつはありがたいな。

 

「じゃあ頼んでいいか?」

 

「いいわよ」

 

オーフェリアがそう言ったので俺は言葉に甘えて目を閉じる。すると直ぐに睡魔が襲ってきたのでそれに逆らわずに意識を閉ざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

暗闇の中、揺さぶられる感触がする。何だよ?何が起こっているんだ?

 

「……八幡」

 

ん?俺の名前を呼んでいるのか?この声は確か……

 

疑問に思っているとさらに揺さぶられる感触がする。それでも尚真っ暗という事は目を閉じているのか?

 

そう判断して俺は目を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっと起きたわね」

 

目を開けるとそこにはさっきの声の主であるオーフェリア・ランドルーフェンが目の前にいた。

 

(……そっか。俺確か開会式で眠くて寝ちまったんだ)

 

「んっ……起こしてくれて悪いな」

 

「……ええ。開会式も終わったし小町達が試合をする会場も聞いたわ。だからそろそろ起きて」

 

マジか?会場の場所も聞いといてくれたのか。オーフェリアには感謝だ。

 

……しかし、何故俺の正面にオーフェリアがいるんだ?

 

疑問に思っていると後頭部に柔らかく生温かい感触がした。……何だこれ?

 

そう思いながら触ってみるとムニッとした感触が手に伝わる。んだこれは?柔らかいな。

 

 

「……っ、八…幡……」

 

するとオーフェリアがくすぐったそうな表情を浮かべる。それを見て俺は嫌な予感を感じた。おい、まさか……

 

 

半ば強引に顔を上げ、下を見てみる。するとそこにはオーフェリアが足の全てを覆っている真っ白な靴下があった。

 

端的に言うと俺はオーフェリアの膝枕で寝ていた事になる。

 

「……えっとだな、オーフェリア。その……俺はお前に倒れこんだのか?」

 

「……ええ」

 

オーフェリアはほんの少しだけ頬を染めながらそう返す。悪い事をしちまったな。

 

「……すまん。悪い事をしたのは謝る。だから警備隊に突き出すのは勘弁してくれ」

 

反省はしている。だがこの歳で警備隊のお世話になるのは冗談抜きで勘弁して欲しい。

 

「……別に気にしてないわ。だから八幡も気にしないで」

 

そうは言っているが……顔赤いからな?俺に非があるのは事実だから怒りたいなら怒って構わない。

 

「……本当に良いのか?」

 

「……ええ。それより早く行きましょう」

 

オーフェリアはそう言って顔を背けながら歩き出した。心なしか少しばかり足が早い。

 

それに気付いた俺は慌ててオーフェリアに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2分……

 

 

 

 

 

 

 

 

見事にオーフェリアとはぐれました。

 

いやだってシリウスドーム広過ぎなんだもん。その上観客は10万人以上だ。はぐれても仕方ないと思う。

 

「……ここシリウスドームじゃ合流は無理だろうからそうだな……12時半にカノープスドーム一階の売店の隣にあるトイレ前に集合しないか?」

 

現在俺は小町と戸塚が試合をするカノープスドームの地図を見ながらオーフェリアと連絡を取っている。

 

『……わかったわ。昼食はどうするの?』

 

「それはシルヴィと合流してからでいいだろ。試合開始は2時からだし」

 

『そうね。じゃあまた後で』

 

そう言ってオーフェリアが電話を切ったので俺も歩き出す。

 

 

 

 

人混みに飲まれながらも何とか進む。こんな事なら最上階層の席にするんじゃなかったな。

 

ため息を吐きながら正面ゲートに辿り着き、シリウスドームから出ようとすると、

 

 

 

 

 

「オレたちと当たるまで負けるんじゃねぇぞ!」

 

何か聞き覚えのある声が聞こえたので見てみると、星導館のマクフェイルが取り巻きのデブと一緒にドームから出て行ったのが見えた。

 

あいつがあんなセリフを吐くって事は……

 

 

そう思いながらさっきまでマクフェイルがいた方向を見ると天霧とリースフェルトがいた。

 

そして天霧の背中には女子が抱きついていた。……あいつマジでギャルゲーの主人公かよ?

 

現実にあんな人間が本当にいるのかと感心していると向こうも俺に気付いたのか近寄ってくる。

 

 

 

「やあ比企谷。久しぶり」

 

天霧は爽やかな笑顔でそう言ってくる。相変わらずリア充の雰囲気がするな。

 

しかし何故か天霧には苛立ちを感じない。同じリア充の葉山からは胡散臭さがしていたのに。

 

「そうだな。そういや序列1位になったんだな。お前ってトラブルに巻き込まれ過ぎだろ?」

 

入学早々リースフェルトと決闘したり、サイラスに狙われたり、刀藤と決闘したり、バラストエリアに飛ばされたり、再度刀藤と決闘したりと何処のラノベの主人公だよ?

 

「全くだ。おかげで私の胃はこいつのおかげでしょっちゅう痛くなる」

 

俺が冗談混じりに言うとリースフェルトは真剣な表情でうんうん頷く。

 

「あー、それは……ごめん」

 

天霧は苦笑いしながらリースフェルトに謝る。なんだかんだ良いコンビだなこいつら。

 

そう思っているとさっきまで天霧に抱きついていた小さい女の子が天霧の制服の裾を引っ張っている。

 

「……綾斗、知り合いなの?」

 

「え?あ、うん。比企谷さんのお兄さん」

 

「……ああ。レヴォルフ序列2位の」

 

少女は納得した様な表情を浮かべて近寄ってくる。

 

「……綾斗の幼馴染の沙々宮紗夜。よろしく」

 

沙々宮? って事は……

 

「……ああ。お前が銃で白兵戦する奴か」

 

「うん、そう」

 

んな過激な事をする奴だからもっとゴツい女かと思ったぜ。まあ人は見かけによらないからな。身長が低いからって舐めるつもりはない。

 

「そうか。俺は比企谷八幡だ」

 

挨拶を返していると刀藤が近寄ってくる。

 

「……あの!先日はどうもありがとうございました!」

 

そう言って頭を下げてくる。あの時も頭を下げていたのに……随分と律儀な奴だ。

 

「……ん?比企谷は刀藤とも知り合いなのか?」

 

リースフェルトが不思議そうに聞いてくる。まあ悪名高いレヴォルフの序列2位と純粋無垢な女の子に接点があるとは考えにくいよな。

 

「まあな。このまえ天霧と刀藤がバラストエリアで下着姿で……」

 

「わー!比企谷!ちょっと待った!」

 

すると天霧は俺の口を塞いでくる。しまった、寝起きの所為かペラペラ喋っちまった。刀藤なんて真っ赤になってるし悪い事をしたな。

 

内心刀藤に謝罪しているとリースフェルトと沙々宮からどす黒いオーラが漂いだした。あ、これはオーフェリアが偶に出すヤツと同種の物だ。

 

「……下着姿だと?」

 

「……綾斗。詳しい話を聞かせて」

 

2人は鋭い視線を天霧に向けながら近寄っている。

 

「あ、いや、それは……」

 

天霧はしどろもどろになりながら後退するも2人は更に距離を詰める。

 

それを見た俺は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(よし逃げよう。君子危うきに近寄らずだし)

 

方針を決めた俺は刀藤に話しかける。

 

「すまん刀藤。人を待たせてるからもう行く。予選頑張れよ」

 

そう言って俺はダッシュでシリウスドームを後にした。後ろからは「ちょっと比企谷。助けて……!」と聞こえたような気がしたが……うん、気のせいだろう。

 





次回、ガイルキャラの登場です


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比企谷八幡は試合に出ないが疲れ果てる(前編)

 

 

天霧を見捨てた俺はシリウスドームを出る。現在の時間は11時50分で集合時間まで40分ある。昼飯はオーフェリアとシルヴィと相談して食うとして……時間もあるし試合観戦中に食べるお菓子でも買っておくか。

 

そう思っている時だった。

 

「お兄ちゃん!」

 

後ろから聞き覚えのある声が聞こえたので振り向く。

 

するとそこには最愛の妹とそのパートナーだけでなく見知った顔がいた。

 

 

「……雪ノ下と由比ヶ浜か?」

 

そこには中学に時に同じ部活にいた雪ノ下と由比ヶ浜もいた。

 

俺が4人に気づくと全員で近寄ってくる。

 

「ヒッキーやっはろー!」

 

由比ヶ浜は笑顔で手を振りながらそう言ってくるが、よそでその挨拶をするのやめろ。マジで注目を浴びるからな。

 

実際に周りからは「あれって『影の魔術師』の比企谷八幡じゃん!」とか「ヒッキーって呼ばれてるのか?」って聞こえていてめちゃくちゃ恥ずかしい。

 

「久しぶりだな。100歩譲ってヒッキーは我慢するからやっはろーはやめろ。アホっぽいし」

 

「アホ言うなし!」

 

いややっほーとハローを合わせたと思える言葉を作ってる時点でアホだろ?

 

内心突っ込んでいると雪ノ下が近付いてくる。

 

「あら?相変わらず目が腐っているわね失踪谷君」

 

「お前の毒舌は久しぶりに聞いたな。てか失踪谷ってなんだよ?」

 

「何も言わないで転校したかと思ったら去年の王竜星武祭で大暴れした人の事よ」

 

あー、それは確かに俺ですね。家族以外にはアスタリスクに行く事を言わないで、その翌年に王竜星武祭で大暴れしましたよ俺。

 

「そうだよ!一言くらい言ってくれても良かったじゃん!」

 

「僕も八幡がいなくて寂しかったよ」

 

「あー、それについては済まなかったな」

 

まあこいつらには一言くらい言っても良かっただろう。それについては俺の落ち度だな。

 

「まあまあお兄ちゃんも反省してるみたいだしこの辺で許してあげましょうよ」

 

小町がそう言うと空気が元に戻る。ナイスだ小町。

 

小町を褒めていると由比ヶ浜その流れに乗る。

 

「そういえばヒッキーってレヴォルフで2番目に強いんだね!驚いちゃったよ!」

 

「あ?まあな。ってもオーフェリアの奴には勝てる気がしないけどな」

 

「やっぱりヒッキーでも無理なの?」

 

「無理だな。今の所全敗だし」

 

しかも互角の勝負でなく殆ど一方的にやられている。オーフェリアに勝ちたかったら俺が10人必要だろう。それでその内の9人は負けると思う。

「……『孤毒の魔女』姉さんが勝ちたがっている人」

 

自分の姉と一悶着ある雪ノ下はオーフェリアに思う所があるようだ。でもあの女じゃ勝てないだろう。あの女はせいぜい俺やシルヴィと互角ぐらいだし。

 

「てか何で雪ノ下はクインヴェールにいるんだ?俺はてっきりガラードワースか界龍に行くと思ったぜ」

 

「……私も初めは界龍にしようかと悩んだわ。でも由比ヶ浜さんがクインヴェールに行くって言ってきて……」

 

誘われたって訳か。まあ姉と一緒の学校になったら間違いなく界龍の生徒は頭を痛めそうだな。

 

そんな事をのんびりと考えている時だった。

 

 

 

「……あれ?比企谷じゃん」

 

後ろから話しかけられたので振り向くと青みがかった黒髪の少女がいた。確かこいつも同じ中学だった。

 

名前は、えーっと、確か……川、川……川越だったか?

 

界龍の制服を着た川越がこちらに歩いてくる。すると後ろから川越の弟らしき男もやって来て俺に会釈をしてくる。

 

「お久しぶりっす。お兄さん」

 

瞬間、俺は怒りの余り星辰力を抑えきれず溢れ出させてしまう。

 

「お前にお兄さんって言われる筋合いはない。小町に手を出したら影の中に閉じ込めて餓死させるぞコラ」

 

小町の恋人は俺より強く誠実な男だけだ。アスタリスクで言うならアーネスト・フェアクロフや武暁彗クラス以下の男は絶対に認めん。

 

「あんた何大志に喧嘩売ってんの?」

 

川越弟に殺気を向けていると姉が怒りの表情で俺を見てくるので星辰力を抑える。怖い、怖いですからね。

 

「悪かったよ。で、何でお前がここにいんの?」

 

「そりゃ鳳凰星武祭に出るからに決まってんじゃん」

 

……え?

 

「ちょっと待った。お前参加してたの?」

 

トーナメント表を見た時川越って名前あったか?

 

「あるわよ。Eブロックに」

 

そう言って空間ウィンドウを開いて指差してくる。そこには川崎沙希、川崎大志と表示されていた。

 

「あ、そっか。川越じゃなくて川崎だったのか」

 

道理で見つからない訳だ。

 

「……あんた殴るよ」

 

川崎が再び怒りの表情を見せてくる。恐怖を感じた俺は即座に頭を下げる。

 

「すみませんでした。痛いの嫌なんで勘弁してください」

 

プライド?そんな物知るか。

 

「次間違えたら殴るから」

 

「……貴方、人の名字を間違えるなんて最低よ」

 

雪ノ下が冷たい目で見てくる。それについては返す言葉がないが、中学時代材木座の名前を間違えまくっていたお前には言われたくないからな?

 

 

 

 

内心雪ノ下に突っ込んでいる時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぱぽん!久しぶりだな八幡よ!」

 

聞き覚えのある、それでありながら聞きたくない声が聞こえてきた。振り向くとアルルカントの制服を着たデブがいた。

 

「うわ……」

 

由比ヶ浜は嫌そうな顔をする。しかし俺はそれを攻めるつもりはない。何故なら俺も同じ顔をしているからだ。

 

しかし材木座はそれを無視して近寄って俺に話しかけてくる。毎回思うが俺だけに話しかけんなよ。

 

「まさかこんなところで会うとはな……やはり我と貴様には切っても切れない……」

 

「黙れ。俺とお前に絆なんてない。それより単刀直入に聞くぞ。お前やっぱり今回の自律機械に関わってるのか?」

 

俺がそう言うとこの場にいる全員が真剣な表情になって材木座を見る。まあ今回の鳳凰星武祭で注目されている事だからな。

 

「無論だ。我もその計画に参加したからな」

 

 

今までにも自己判断できるレベルの人工知能は実用化されているが星脈世代と同レベルで戦える物は存在していない。それでも尚星武祭に出すって事は余程自信があるのだろう。

 

アルルカントの試作品に興味を持っていると正面から『獅子派』の筆頭、つまり材木座の上司であるカミラ・パレートが歩いてきた。

 

「ここにいたのか。そろそろ時間だから……ん?」

 

向こうも俺に気付いたようだ。

 

「こんな所で会うとはな。『影の魔術師』」

 

「レヴォルフであって以来だな」

 

「そうだな。君は鳳凰星武祭に参加しないようで安心したよ。君と『孤毒の魔女』が組んで出場したら優勝は無理だろうからね」

 

「……ほう。つまり俺とオーフェリアが参加していないなら優勝出来ると?」

 

大した自信だ。序列1位の天霧や旧序列1位である刀藤もいるのに負けるつもりはないようだ。

 

「少なくとも私とエルネスタは優勝出来ると思っているな」

 

カミラからは確かな自信を感じる。優勝する事を一切疑っていない表情だ。

 

てか雪ノ下さん?貴女カミラの事睨み過ぎだからね?どんだけ負けず嫌いなの?

 

カミラはそれに気付いていないのか、はたまた無視しているのかわからないが材木座と向き合う。

 

「それより材木座。そろそろ煌式武装の最終チェックがあるから行くぞ」

 

「うむ。承知した!ではさらばだ八幡よ!そして宣言しておこう。優勝するのはアルディとリムシィである!」

 

2人はそう言って試合会場に向けて歩き出した。……アルルカントの試合もチェックしておくか。アルディとリムシィってのは自律機械の名前か?

 

そう思っていると裾を引っ張られるので振り向くと由比ヶ浜だった。

 

「ねぇヒッキー。今の女の人って誰?」

 

あん?つーか何でジト目で見てんだよ?よくわからん奴だ。

 

「アルルカント・アカデミーの『獅子派』会長のカミラ・パレートだよ」

 

「『獅子派』?何それ?」

 

見ると全員が同じく知らない表情をしている。まあこいつらは高等部から進学したから知らないのも仕方ないな。

 

「アルルカントでは研究する内容によって色々な派閥に分けられてんだよ」

 

「派閥?ねぇヒッキー、派閥って何?」

 

……そこからかよ。アホ過ぎる。苦笑いしている戸塚以外呆れてるし。

 

「……要するに研究内容によってグループ分けしてるって事だよ」

 

「あっ!そういう事なんだ!初めからそう言ってよ〜」

 

いやいや、派閥の意味を知らないなんて誰が予想出来るか。今更だがこいつよく総武中に受かったな。

 

「それで比企谷君。その『獅子派』という派閥はどんな研究をしているの?」

 

「『獅子派』は煌式武装の開発が専門だな。彼女の研究チームが開発した煌式武装を使用したタッグが前シーズンの鳳凰星武祭で優勝したんだよ」

 

以前レヴォルフで会ってからエルネスタとカミラについて調べたが、カミラの実績には本当に驚いた。前シーズン、アルルカントの順位は総合2位だったが間違いなくカミラのおかげだろう。

 

「嘘っ?!」

 

「本当だ。他の星武祭でも彼女の作った煌式武装を使った学生が本戦に出て大量のポイントを稼いだからな。今回参加するアルルカントペアには充分気をつけておきな」

 

おそらく今回のアルルカントの選手はカミラの煌式武装を持っているだろう。前シーズンの実績を考えると油断は出来ないな。

 

「……というよりお前らはそろそろ会場入りしないのか?」

 

「あ、うん。それなんだけど私達今からご飯食べに行くんだけどヒッキーも来ない?」

 

飯だと?今は暇だが……オーフェリアとシルヴィと先に約束しているからな。……どうしよう。

 

まあ断るにしろ、2人も一緒にするかはさておき2人に連絡するのが第一だろう。

 

 

 

 

 

 

とりあえず電話する許可を貰おうとすると

 

 

 

 

 

 

 

「結衣せんば〜い」

何か後ろから聞いていて甘ったるい声が聞こえてくる。振り向くとガラードワースの制服を着た亜麻色の髪をした女子が由比ヶ浜に向かって手を振っている。

 

「あ、いろはちゃん。やっはろー」

 

由比ヶ浜はそう言って手を振ってくるが知り合いか?

 

「雪ノ下、知り合いか?」

 

「ええ。彼女は一色いろはさん。総武中にいた人で私達より一学年下の人よ」

 

一色いろは……確か葉山と組んでいた奴だったか?

 

「結衣先輩と雪ノ下先輩も出るんですね。当たったらよろしくお願いします」

 

「うん!負けないよ」

 

「いえ。勝つのは私と葉山先輩ですよ」

 

あ、やっぱり葉山と組んだ奴か。葉山がこのタイプの女と組むとは予想外だ。

 

「でも意外。てっきり隼人君は優美子と組むと思ったよ」

 

「あ〜。三浦先輩なら勝って譲って貰いました」

 

マジか。決闘で勝って譲って貰いましたって怖いな。まあアスタリスクでは力が全てだし一色は悪くない。悪いのは負けた三浦だ。

 

しかし……

 

「つーかガラードワースが決闘していいのかよ……」

 

俺の記憶が正しければガラードワースは決闘禁止だったと思うが……

 

俺の呟きが聞こえたのか一色って奴が俺を見てきて目を見開いている。

 

「え?結衣先輩、何でアスタリスク最強の魔術師がいるんですか?」

 

「ヒッキー?ヒッキーは総武中にいたからだよ」

待て由比ヶ浜。お前初対面の人にヒッキーって言うな。マジで止めてくれ。

 

内心突っ込んでいるが、一色は特に気にしてないようだ。

 

「あ、そうなんですか。 一色いろはって言います。よろしくお願いしますね?せんぱい♪」

 

そう言って笑顔を浮かべてくる。その時に俺は思った。

 

 

あざとい。あざと過ぎる。三浦が嫌いなタイプだろ。こいつに負けた三浦は絶対キレていてガラードワースの生徒は怯えているだろう。

 

無関係なガラードワースの生徒に合掌。強く生きろ。

 

「あ、いろは。ここにいたのか」

 

馬鹿な事を祈っていると一色のパートナーである葉山隼人がやって来た。どうやら本物のようで雪ノ下が嫌な表情をしている。葉山嫌いは相変わらずか。まあぼっちと葉山じゃ相性は悪いからな。

 

すると一色は笑顔で葉山に近寄り葉山の腕に抱きついた。……ここに三浦がいなくて良かったぜ。

 

「ごめんなさ〜い。結衣先輩に会ったので」

 

一色がそう言うと葉山はこちらを見て一瞬だけ目を細めてから笑顔を向けてくる。

 

「やあ雪ノ下さんに結衣。ヒキタニ君も久しぶり」

 

……会って早々ヒキタニ呼びかよ。つーかてめえ文化祭の時に比企谷って言ってただろうが。何でわざわざヒキタニ呼びしてんだよ?

 

 

 

 

つーか俺ヒキタニじゃないし、リア充嫌いだからシカトでいいだろ。

 

 

俺はそう判断して昼飯についての話に戻そうとしていると不意に周囲の空気が一変した。

 

学生、観客含めて全員の間に騒めきが生じ、緊張感が張り詰める。

 

「え?な、何?」

 

「は、葉山先輩。怖いですぅ」

 

その空気は驚愕や畏怖、嫌悪など様々な悪感情の混じった空気だ。

 

由比ヶ浜と一色は声に出しながら怯えている。他のメンバーも差はあれどビビっているが俺はこの正体を瞬時に理解した。

 

騒めきがする方向を見ると1人の少女が人混みを割るように現れた。

 

 

 

 

 

 

 

「オーフェリア・ランドルーフェン……!」

 

雪ノ下が戦慄したような口調で呟いたその名はレヴォルフ、いやアスタリスクで最強と評価されている少女の名前だ。

 

俺は基本的にオーフェリアと一緒にいるからあの空気を感じた瞬間、直ぐにオーフェリアが近くにいると理解した。

 

周りでは由比ヶ浜も川崎姉弟も葉山も一色も信じられない表情でオーフェリアを見ている。まあまさかアスタリスク最強のオーフェリアがこんな所にいるなんて予想外だろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!お久しぶりですオーフェリアさん!」

 

そんな中、我が妹はそんな空気を一切読まないでオーフェリアに話しかける。その表情は如何にも楽しそうだ。他の連中は驚きの表情で小町を見ている。

 

「………久しぶりね小町に戸塚彩加」

 

オーフェリアはいつもの悲しげな表情のまま小町に返事をする。基本的に恐れられているオーフェリアにとって小町の反応は意外なのか小町の前だと割と素直だ。

 

「うん。オーフェリアさんは八幡と試合を見に来たの?」

 

戸塚も笑顔でオーフェリアと話す。オーフェリアには2人の様に分け隔てなく優しい人が必要だから俺としても2人が話しているのを見ると気分がいい。

 

「ええ。八幡は2人の試合を見に行きたがっていたから。……それより八幡」

 

オーフェリアはそう言って制服を引っ張ってくる。

 

「……ここにいるのは八幡の知り合い?」

 

「ん?中学の時の知り合いだけど」

 

「……意外ね。八幡いつもぼっちって言ってるから知り合いが1人もいないと思ったわ」

 

「やかましいわ」

 

若干イラッとしたのでオーフェリアの頭にチョップをする。すると周りが騒めきだす。それを確認すると俺はアスタリスク最強のオーフェリアにチョップをするなどというぶっ飛んだ行為をしたと自覚した。

 

「……痛いわ八幡」

 

オーフェリアは頭を抑えながらジト目で見てくる。嘘つけ。序列戦で何度かお前にダメージを与えた事あるがあっちの方が痛いだろ?

 

「悪かったよ。とりあえず知り合いはいる」

 

そんなやり取りをしていると葉山は爽やかな笑みを浮かべながらオーフェリアに近寄ってくる。

 

 

「中学の時、ヒキタニ君と同級生だった葉山隼人です。よろしくね、オーフェリアさん」

 

流石リア充、ナチュラルに相手を名前で呼びやがる。つーかさっきも思ったが名前間違えるとかいい度胸してるな。

 

内心葉山に毒づいている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり総毛立つのを感じた。

 

横を見るとオーフェリアの周囲から圧倒的、それでありながら禍々しい星辰力が膨れ上がる。

 

俺の遥か数倍以上の量の万応素が荒れ狂う。それによって空気が震え、全てを捩じ伏せ、押し潰すかのように凶暴な威圧感が放たれる。

 

周囲にいる小町達が圧倒的な威圧感に戦慄している中、万応素の中心にいるオーフェリアは悲しげな表情を、しかし目には殺気を込めながら葉山を見ている。

 

……ヤバいな。オーフェリアの奴キレてやがる。理由は知らないが葉山がオーフェリアの地雷を踏んだのだろう。

 

とりあえず俺が何とかしないとヤバい。先ずはオーフェリアがキレた原因を見つけないといけない。

 

若干慌てながらオーフェリアに話しかけようとすると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ。貴方はわざと八幡の名前を間違えているのかしら?」

 

オーフェリアは葉山にそう言ってくる。

 

それを聞いて俺は『キレてる理由そんな事かよ!!』としか思えなかった。

 

 

……え?てかオーフェリアを大人しくさせるの出来るのか?




後編はオーフェリアブチ切れ&オーフェリアとシルヴィアのプチ修羅場をお送りします


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比企谷八幡は試合に出ないが疲れ果てる(中編)

長くなりそうなので3話構成にしました


現在、シリウスドーム周辺は地獄と化している。空気が震え、圧倒的な威圧感が放たれている。

 

「……ねえ、貴方はわざと八幡の名前を間違えているのかしら?」

 

その威圧感を引き起こしてオーフェリアは絶対零度の視線で葉山を見ながらゆっくりと近寄っている。葉山との距離は5メートル。

 

周りを見ると選手や観客は距離を取りながらこちらを見ている。圧倒的過ぎてオーフェリアから目を逸らす事すら許されない。

 

憎悪の視線の対象となっている葉山は震えながら後ずさりする。余りの威圧感からか葉山の横にいた一色すら葉山から離れるがそれを責める者はいない。

 

オーフェリアは更に歩を進める。足取りはゆっくりだが一歩進む度に万応素が激しく吹き荒れる。

 

……つーかオーフェリアよ、俺がヒキタニ君って呼ばれるだけで王竜星武祭で出す力を出してんだよ?

 

俺が悪く言われたから怒ってくれるのは本当に嬉しいが……

 

(それだけでここまで怒るのはマジで勘弁してくれ!)

 

それだったら寧ろ怒らないで欲しいんですけど!てか怖い、怖すぎる。

 

「……もう一度聞くわ。何故貴方はわざと八幡の名前を間違えているのかしら?」

 

そう言って距離を詰める。葉山との距離は4メートル。

 

葉山は腰を抜かして地面に倒れこむ。しかしオーフェリアはそれを無視して歩を進める。葉山からしたら死神の足音の様に聞こえるだろう。

 

そして遂に葉山がビビりながら口を開ける。

 

「い、いや………間違えてヒキタニ君と言ってしまったんだよ」

 

嘘つけ。お前何度か比企谷って呼んだ事あるだろ。

 

しかしそれは口にしない。俺をヒキタニ呼びしてキレたオーフェリアにそれを言ったら更に怒るだろうし。

 

そう判断して黙っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に自身が総毛立つのを感じる

 

オーフェリアを見ると今さっきまでより更に星辰力が膨れ上がる。

 

それによって更に激しく万応素が暴れ回り地面のアスファルトを剥がし始める。

 

(……嘘だろ?!オーフェリアの奴、ここまで星辰力を持っていたのかよ?!)

 

完全に予想外だ。オーフェリアの奴、俺の予想していた星辰力の数倍を保持していたのかよ?!前回の王竜星武祭、シルヴィと戦った時ですらここまでの力は出していない。

 

これがオーフェリアの本気なら……俺が30人いても勝てるかわからないぞ。

 

今、俺は理解した。本気のオーフェリアに勝てる人間はこの世に存在しない。いるとしたらそれは間違いなく神の領域に足を踏み入れた人間だろう。

 

戦慄している中、オーフェリアは葉山に話しかける。

 

 

「……嘘ね。八幡は昨年王竜星武祭でシルヴィア・リューネハイムと一緒に最も盛り上がった試合をしたのよ?そんな有名人の名前を間違える筈がないわ。……つまり、貴方は八幡に悪意を持っているのね?」

 

オーフェリアがそう結論づけると星辰力が更に荒れ狂う。まだ本気じゃなかったのかよ?!

 

「あ、あ、あ……お、俺は……」

 

葉山は余りの恐怖に逃げる事すら出来ずに立ち止まってしまう。オーフェリアはそれを確認して更に距離を詰める。葉山との距離は3メートル。俺の予想だとオーフェリアは一切の躊躇いなく葉山を殺すだろう。

 

ヤバい。葉山が死んでも別に心が痛まないからどうでもいい。しかしオーフェリアが人を殺して犯罪者になるのは嫌だ。しかも理由が『俺がバカにされた』って下らない理由で犯罪者になるなんて絶対に許せない。

 

(……でもどうすればいいんだ?オーフェリアの怒りを鎮めるなんて無理だろ)

 

 

力づく?無理だ、秒殺される。

 

説得する?今のオーフェリアが話を聞いてくれるとは思えない。

 

 

じゃあ、どうすれば……

 

方針に悩んでいる時だった。

 

「お兄ちゃん!オーフェリアさんを鎮められる可能性がある方法を思いついたよ!」

 

小町が肩を叩いてそう言ってくる。マジか?!

 

「本当か?!早く教えろ!」

 

既に葉山との距離は2メートル。急がないとガチでヤバい!!

 

「うん!!………すればいいんだよ!!」

 

小町は案を提案してくるがふざけてるのか?

 

「おい小町。今はふざけてる場合じゃ「本当だって!以前オーフェリアさんがそれをして欲しいって言ってたの!!」……本当か?」

 

「いくら小町でもこんな時にはふざけないよ!急いで!あの金髪の人、殺されちゃうよ!」

 

見てみると葉山との距離は1メートルを切っていた。

 

(……背に腹は変えられないか。仕方ない)

 

俺はそう結論づけて小町の案を実行する為オーフェリアの元に走り出す。自身の周囲に星辰力を展開して、荒れ狂う万応素に逆らいながら突き進む。

 

前を見るとオーフェリアと葉山の距離は50センチを切って遂にオーフェリアが手を挙げる。それは葉山からすればギロチンの刃に見えるだろう。

 

「あ……い、嫌だ…」

 

葉山が嘆く中、オーフェリアは手を止める。後数秒で振り下ろすだろう。

 

俺はオーフェリアが引き起こす万応素によって体に走る痛みに耐えながらオーフェリアとの距離を更に詰める。

 

そしてオーフェリアが手を振り下ろそうとすると同時に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めろオーフェリア」

 

後ろからオーフェリアに抱きつき、オーフェリアの手に触れて振り下ろすのを防ぐ。

 

するとオーフェリアの手は動きを止める。直に触れる事でオーフェリアが引き起こす圧倒的な力によって激痛が体を襲うがそれを無視してオーフェリアを優しく抱きしめる。

 

小町から言われた提案は『オーフェリアに温もりを感じさせろ』だ。

 

普段の俺なら恥ずかしいから絶対にやらないだろう。しかしオーフェリアは別だ。俺は絶対にオーフェリアを否定しないと決めたからオーフェリアがそれを望むから恥なんて捨ててやる。

 

「……八幡?」

 

オーフェリアは手を振り下ろすのを止めて顔だけ後ろに向けてくるので俺は口を開ける。

 

「俺は特に気にしてない。だから怒りを鎮めてくれ。お前にそんな事をして欲しくない」

 

そう言って抱きしめるオーフェリアの体は冷えていた。こりゃ温もりを感じたい訳だ。

 

「……でも、あの男は八幡を……」

 

「あいつがどうなろうと知った事じゃないが、あいつを殺してお前が咎められるのは嫌だ。だから頼む」

 

誠意を持ってオーフェリアにそう言うとオーフェリアはそっと息を吐く。

 

「……わかったわ」

 

オーフェリアがそう言うと同時に周囲から禍々しい威圧感は消えて元の空気に戻る。

 

剥がれているアスファルトや倒れこんでいる雪ノ下達がオーフェリアの怒りの激しさを物語っていた。とりあえず怒りは鎮められたみたいで安心だ。

 

息を吐いているとオーフェリアは俺の腕の中から離れて葉山に話しかける。

 

「……今回は八幡が止めたから許すけど………次はないわ」

 

明らかに殺意を込めて葉山にそう言う。しかし葉山は既に気絶していたので耳に入っていないようだ。

 

「おい一色。葉山を連れてけ」

 

とりあえず倒れていても邪魔なので葉山のパートナーである一色にそう指示を出す。

 

一色は無言でコクコク頷きながら葉山を抱えて自分の対戦するステージに向かって走り去って行った。

 

とりあえず一件落着か……

 

息を吐いていると携帯端末にメールが来たので見るとシルヴィからだった。

 

内容は『今から3人でご飯食べない?可能なら12時半にカノープスドーム正面ゲートの近くにある噴水に来て』と書いてあった。

 

俺はオーフェリアにメールを見せる。

 

「……どうする?」

 

「……そうね。受けましょう」

 

オーフェリアが賛成の意を表明したので俺はシルヴィに『了解。今から向かう』と返信する。

 

 

 

メールを返信すると俺は小町と戸塚に話しかける。

 

「すまん小町。シルヴィの奴から呼び出しがかかったから俺とオーフェリアはもう行く。昼飯はお前らだけで食ってくれ。俺は元々オーフェリアとシルヴィと食う予定だったんだが……合流はしない方がいいだろう」

 

そう言ってチラリと2人の後ろを見ると雪ノ下達はオーフェリアに恐怖に塗れた視線を向けていた。こんな中シルヴィも合流して飯を食ったら気まずい事間違いなしだ。

 

小町と戸塚もそれを理解したのか頷く。

 

「……そうだね。わかったよ。シルヴィアさんによろしくね」

 

「わかった。またな」

 

「またね八幡にオーフェリアさん」

 

「……あ!その前に!」

 

小町はそう言ってオーフェリアの元に近づいて頭を下げる。

 

「あのっ!さっきは兄の為に怒ってくれてありがとうございました!」

 

オーフェリアはそれを聞いて目を見開く。まさか礼を言われるとは思ってなかったのだろう。

 

「……小町。本気で言っているの?後ろの人達みたいに怖くないの?」

 

「……正直に言うと少し怖かったです。でもあそこまで兄を想ってくれて嬉しかったです!」

 

「……本当に貴女と八幡は変わった兄弟ね」

 

オーフェリアは若干呆れの表情を浮かべている。まあ俺も小町も割と変わっているのは否定しないが。

 

「……ったくお前は。行くぞオーフェリア。それと今日はお前らAブロックの試合を見るから頑張れよ」

 

「うん!2人ともまたね!」

 

小町の笑顔を確認して俺とオーフェリアは背を向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シリウスドームからカノープスドームまでは徒歩10分。この調子でいけば12時20分前に着くだろう。

 

道程の半分くらいまで歩くとオーフェリアが話しかけてくる。

 

「……八幡。さっきはごめんなさい。痛かったでしょう?」

 

さっきとはオーフェリアがブチ切れていた時に吹き荒れていた万応素の事だろう。

 

「別に怒ってないから気にしていない。俺こそいきなり抱きついて悪かったな」

 

非常時とはいえアレは立派なセクハラだ。警備隊に訴えられても文句は言えない。

 

「……いいえ。私は怒ってないし……嬉しかったわ。人の温もりなんて2度と感じる事はないと思っていたから。……私は皆に否定される存在だから」

 

それを聞いて俺は悲しくなる。昔は人の温もりを感じる事が出来たのに……今は無理だなんて神ってのは残酷過ぎる。

 

「……皆じゃねーよ。少なくとも俺は絶対に否定しない」

 

「……ありがとう。……それと八幡、一ついいかしら?」

 

「何だ?」

 

俺が尋ねるとオーフェリアは珍しく口籠る。こいつが口籠るってどんな事を言ってくるんだ?

 

若干ビビっている中、口を開ける。

 

「虫のいいお願いかもしれないけど……その……また、私の事を抱きしめてくれない?」

 

オーフェリアは不安そうな表情をしながら上目遣いで見てくる。予想以上の破壊力によりつい目を逸らしてしまう。こいつこんなに可愛かったのかよ……

 

さて、オーフェリアのお願いについてだが……

 

「……わかったよ。好きにしろ」

 

俺はオーフェリアの願いを叶える。そんな事でオーフェリアに安らぎを与えられるなら安い物だ。恥ずかしいなんて言ってられない。

 

俺がそう返すとオーフェリアは俺の胸元に飛び込んで背中に手を回してくる。

 

「……本当に温かいわ」

 

いきなりの行動に俺が驚く中、オーフェリアはそう言って顔を埋めてくる。

 

(……戦ってる時はあんなに怖いのに……やっぱり中身は普通の女の子だな)

 

オーフェリアの言葉を聞いて驚きの感情が消えた俺は苦笑しながらオーフェリアの背中に手を回す。周囲からは視線を感じるが今はどうでもいい。

 

「……八幡」

 

「何だよ?」

 

「……貴方に会えて、本当に良かったわ」

 

そう言って更に強く力を込めて抱きついてくる。

 

(全くこいつは……俺を過大評価し過ぎだからな?)

 

しかしそこで口に出す程空気の読めない俺じゃない。

 

俺は黙ってオーフェリアを受け入れて背中を撫でる。いつか…いつかわからないが、オーフェリアには誰かによって本当の自由と幸せを掴んで欲しい。

 

こうして俺達はオーフェリアが満足するまで抱き合っていた。



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比企谷八幡は試合に出ないが疲れ果てる(後編)

修羅場にしようとしましたが止めました。

修羅場はシルヴィアが本格的に参戦してからガンガン出す事にしましたがご了承ください


 

 

「お待たせ〜」

 

12時25分、カノープスドーム正面ゲートの近くにある噴水、俺とオーフェリアが突っ立って待っていると後ろから話しかけられる。

 

 

振り向くと栗色の髪をした可愛い女の子が走ってくる。それはお忍び姿のシルヴィア・リューネハイムだった。普段の姿だと目立って面倒になる事間違いないからな。

 

シルヴィは笑顔でこちらにやってくる。

 

「八幡君久しぶり。オーフェリアさんも王竜星武祭以来……ん?」

 

シルヴィは笑顔から一転訝しげな表情を見せてくる。いきなりそんな顔をしてくるとは完全に予想外だ。

 

 

「久しぶりだなシルヴィ。何か変な顔をしてるがどうかしたか?」

 

「あ、うん。……八幡君もオーフェリアさんも顔が赤い気がするけど風邪引いてるの?」

 

シルヴィはそう指摘してくる。

 

流石シルヴィ。俺はともかくオーフェリアの頬が染まっている事を見抜くとはな。オーフェリアの頬はしっかりみないと分からないくらいにしか赤くなっていないのに。

 

そう、俺とオーフェリアは顔が熱くなっているのだと思う。理由は簡単。今さっきまで市街地という公共の場で俺とオーフェリアは抱き合っていたからだ。

 

抱き合っている最中は気にしていなかったが抱擁を解いた瞬間、物凄い羞恥に襲われた。周りを見ると六学園の生徒だけでなく観客もこちらをガン見していたからだ。

 

特に印象に残っていたのは、以前サイラスの事件の際にエンフィールドと一緒にいた星導館の制服を着た影星と思えるチャラそうな男だ。あいつだけは嬉々とした表情でハンディカメラを回していたが、次会ったらぶっ殺す。

 

オーフェリアは人目を気にしていないようだが俺は恥ずかしくて仕方なかったので全力疾走でその場を離れた。その時は逃げれば勝ちと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそこからが本当に恥ずかしかった。

 

12時20分に俺達はカノープスドームの集合場所に着いた。

 

俺は恥ずかしさから逃れる為にオーフェリアに話しかけなかった。俺から話しかけたら悶え死ぬからな。

 

そう思いながらシルヴィを待っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……八幡。またお願い……』

 

オーフェリアの奴が頬を染めながら爆弾を落としてきた。それによって顔が熱くなるのを感じながら返事に悩んだが、一度了承した手前断れず再び了承してしまった。

 

了承すると恥ずかしさの余りオーフェリアから目を逸らしてしまった。

 

そしてシルヴィが早く来る事を祈ると同時にシルヴィに話しかけられて、今に至るという訳だ。

 

 

 

 

 

 

「い、いや大丈夫だって。心配するな」

 

「……ええ。問題ないわ」

 

俺とオーフェリアがそう返すとシルヴィは訝しげな表情で俺とオーフェリアの顔を交互に見る。……頼むから気付かないでくれよ。

 

内心祈っているとシルヴィは息を吐いて頷く。

 

「うーん。わかった。無理には聞かないけど風邪引いてるなら無理しちゃダメだよ」

 

どうやらこれ以上の詮索はしないようだ。ガチでありがたい。全部吐いたら間違いなく悶死する自信があるからな。

 

「頼む。それで飯は何処に行くんだ?あんまり目立たない場所にしてくれ」

 

何せ悪名高いレヴォルフの2トップが飯を食いに行くんだ。俺が飯屋の人間なら間違いなく門前払いする自信がある。

 

「大丈夫大丈夫。私が準備してきたから。はいこれ」

 

そう言ってシルヴィは俺にはヘアバンドを、オーフェリアにはヘッドフォンを渡してきた。

 

「んだこれ?」

 

「私がお忍びをする時に使う物と同じで髪の色を変えられるの。まあ、正確には変わっているように見せるんだけど」

 

そう言われたので早速付けてみて鏡を見ていると銀髪になっていた。マジか、似合わねえな。

 

オーフェリアを見るとシルヴィと同じ栗色の髪になっていた。白い髪も悪くないがこれはこれで良いな。

 

とりあえずオーフェリアに鏡を渡す。オーフェリアは鏡で自分の髪を見ると何処か懐かしそうな表情をしていた。

 

「どうしたんだオーフェリア?」

 

「……昔の髪の色と同じになったと思っただけよ」

 

ん?て事は実験の所為で髪の色が変わったのか?まあ髪の毛がどうだろうとオーフェリアはオーフェリアだ。

 

「まあこれならバレないな。んで飯は何処で食うんだ?」

 

「……とりあえず此処でいいかな?」

 

シルヴィが空間ウィンドウに表示した店は和洋中揃っている中々高級そうなレストランだった。

「わかった。オーフェリアもそれでいいか?」

 

「……ええ」

 

「そっか。じゃあ行こっか」

 

シルヴィがそう言って俺とオーフェリアの手を引っ張り出す。いきなり手を掴むとは相変わらずコミュ力の高い奴だな。

 

オーフェリアもいきなり手を掴まれて予想外だったのか目を見開いている。

 

俺達は特に逆らう事なくシルヴィに引っ張られながら目的地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的地のレストランはかなりの生徒(特に星導館とクインヴェールの生徒)で賑わっていて席が満席だった。

 

待つ事10分、漸く案内された席は近くにある自然公園が丸ごと見える良い席だった。

 

「とりあえず頼もっか。私はシーフードグラタンにするけど2人は?」

 

「メニュー見る前から決めるって事は常連か?」

 

「まあね。お忍びで出かける時はよく使うよ」

 

「んじゃ俺は……中華ランチセットにするか。オーフェリアは?」

 

オーフェリアを見るとメニューのあちこちを眺めていて悩んでいる様子だった。

 

「……八幡。私、こういう店には来た事がないから決められないわ」

 

「……マジで?」

 

「え?仕事の時とかは?」

 

「……仕事先で用意された物しか食べないから。普段は惣菜パンしか食べないし」

 

「うーん。じゃあこのハンバーグセットにしたら?シンプルで美味しいよ?」

 

「……じゃあそれで」

 

オーフェリアが了承したのでシルヴィは注文をする。後15分くらいで食べられるだろう。

 

しかし問題がある。

 

(ヤバい。これ飯来るまで無言じゃね?)

 

何せ俺とオーフェリアはコミュ障だ。特にオーフェリアは星武祭にも興味を持ってないので話す事がなさそうだ。同じコミュ障の俺ならともかくシルヴィには荷が重いと思う。

 

下手したら飯が来るまで無言で気まずいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた。

 

「……それでよく八幡の肩を借りるけど凄く安らぐのよ」

 

「そうなんだ。今度私も借りて寝てみようかな?」

 

「………ダメ」

 

「あははっ。冗談だって」

 

オーフェリアとシルヴィは特に気まずい空気を出さずに話をしている。俺は無言で俯いている。気まずいのは俺だけだ。

 

発端はこうだ。

 

シルヴィが

 

『2人は普段どう過ごしているの?』

 

って聞いてきた。

 

するとオーフェリアの奴が俺と過ごした一時(俺にとっての黒歴史)を暴露した。そしてそれを聞いたシルヴィが楽しそうな表情でオーフェリアに質問をしてオーフェリアがペラペラと答えている。

 

それによって俺のメンタルはグリグリ削られて大ダメージを受けている。いつか心がぶっ壊れそうだ。

 

「……あ、後さっき凄く怒ったの」

 

「あー、開会式終わってから正面ゲートで凄まじい万応素が荒れ狂ってたらしいけど、オーフェリアさんがやったの?」

 

「……そう」

 

「アレ結構話題になってたけど何があったの?」

 

やっぱり話題になってたのかよ。てか咎められるんじゃね?

 

「……八幡がバカにされたから、ついその男を殺そうと……」

 

待てオーフェリア。お前はついであんな桁違いの力を出したのか?冗談抜きで怖過ぎる。

 

「なるほどね……気持ちはわかるけどそんな事しちゃダメ。オーフェリアさんが捕まったりしたら八幡君が悲しむよ」

 

「待て。何で俺の名前をだす?」

 

「えっ?だって八幡君、オーフェリアさんの事大切に思ってるでしょ?」

 

「……そうなの八幡?」

 

当の本人が聞くな!答えられないからな!

 

「あ、いや、そのだな……」

 

「そうだよ。だって八幡君と電話すると八幡君が話す内容っていつも妹さんとオーフェリアさんの事だから」

 

シルヴィィィィ!お前余計な事を言ってんじゃねぇよ!マジで恥ずかしい。ナイフで臓腑を抉られている気分だ。

 

(……決めた。次の王竜星武祭で絶対にシルヴィを叩き潰す)

 

「……そう。………嬉しいわ」

 

オーフェリアはほんの少し頬を染めながら言ってくる。その顔止めろ。マジで顔が熱くなる。

 

顔の熱を冷まそうとお冷を飲もうとすると注文した料理がやってきた。

 

「あ、料理が来たから一旦お話は止めよっか」

 

……ふぅ、助かった。これ以上続いていたら発狂していたかもしれない。

 

 

安堵の息を吐いていると目の前に頼んだ品が置かれる。チャーハン、キムチ、八宝菜など様々な中華料理の食欲をそそる匂いが鼻を刺激する。

 

他の2人の前にも料理が置かれる。

 

「じゃあ食べよっか。いただきます」

「いただきます」

 

「………」

 

オーフェリアは無言だ。

 

「オーフェリア、挨拶はしろ」

 

普段俺と飯を食ってる時は俺も言ってないから気にしてないが、今はシルヴィもいる。しっかり挨拶はするべきだろう。

 

「……いただきます」

 

オーフェリアは頷きながら挨拶をするので箸を持って食べ始める。うん、美味いな。流石世界の歌姫が認めるだけの事はある。

 

俺は夢中になって中華のランチに舌鼓をうっている時だった。

 

「八幡君」

 

シルヴィが呼んでくる。何だよ、また俺の黒歴史を聞いて臓腑を抉るのか?

 

疑問に思いながら顔を上げると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいあーん」

 

いきなり口の中にスプーンを入れられる。いきなり何だ?

 

シルヴィのいきなりの行動に驚きながらもスプーンの上にあるグラタンを食す。……美味え。何だこのソースは?絶品だろ。

 

「美味しい?」

 

「……美味い」

 

「そっか。なら良かった。それにしても八幡君結構可愛いね」

 

美味いのは認めるが……シルヴィの笑顔は腹立つ。後可愛いって言ったが男の俺に可愛い言うな。

 

内心シルヴィに毒づいていると視線を感じたのでそちらを見ると、オーフェリアがジト目で見ている。……何でそんなに機嫌が悪いんだよ?

 

そう思っているとオーフェリアはナイフで切ったハンバーグをフォークに刺して俺に突き出してくる。

 

「……えーっとだな、オーフェリア、それは……」

 

……食べろって事か?

 

しどろもどろに返しながらオーフェリアを見ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………八幡。………あーん」

 

そう言ってフォークを更に近づけてくる。

 

(……ヤバい。何か恥ずかしい)

 

普段感情を出さないオーフェリアからのあーん、何とも言えない背徳感がある。何かが込み上がってくる。

 

これは……逆らえない。

 

気がつくといつの間にか俺は口を開けていた。

 

そして口の中には肉汁たっぷりのハンバーグが入る。本来なら美味いと思うがオーフェリアからのあーんの破壊力がヤバ過ぎて味が一切わからなかった。

 

「……美味しい?」

 

「……あー、まあな」

 

「そう……良かった」

 

すまん。味を感じなかった。嘘を吐いたが許してくれ。

 

俺は心の中でオーフェリアに謝罪しながら自分が頼んだ料理を食べるのを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局その後もシルヴィとオーフェリアにそれぞれ2度あーんをされて食事が終わる頃には疲労困憊になっていた。

 

……何で試合に参加しない、それ以前に試合が始まっていないのに俺はこんなに疲れているんだ。

 

俺は今日は早く寝ようと強く心に決めた。

 

 

 

 



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こうして鳳凰星武祭初日の一回戦が終了する

 

午後1時55分カノープスドームVIP席。

 

VIP席には星武祭運営委員や、統合企業財体の人間、テレビでよく見るアスタリスク外部からやって来た政治家、様々な偉い人がいる。

 

しかしそれらの人々は全員端の方にいて中心の席をチラチラと見ている。

 

VIP席には有名人が集まるのは常だが中心にいるのは他の人とは桁違いで有名な人物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー。試合始まってないのに帰りたい……」

 

その中心にいる3人のうちの1人である俺、比企谷八幡は視線に晒されていて胃を痛めている。

 

「まあまあ。私と王竜星武祭で戦った時は何万人にも見られてたじゃん」

 

俺の右隣に座りながら俺の右肩に頭を乗せて笑顔を見せてくるのはクインヴェール女学園序列1位『戦律の魔女』シルヴィア・リューネハイム。

 

「……いや、まあそうだけどさ……試合する時は見られても仕方ないって割り切れるからな。こういう場面には慣れてないから……頭痛い」

 

試合なら気にしないで済むが、こんな場所でお偉いさんにジロジロ見られるのは慣れていない。

 

「………八幡。頭が痛いなら小町達の試合が始まるまで私の膝で寝る?」

 

そう言って俺の左肩に頭を乗せてくるのはレヴォルフ黒学院序列1位『孤毒の魔女』オーフェリア・ランドルーフェン。

 

現在俺はアスタリスク2トップの魔女に挟まれながら試合開始を待っている。そして俺自身もアスタリスク最強の魔術師と噂されている存在だ。目立たない筈がない。

 

閑話休題……

 

「いや……膝枕は遠慮しておく」

 

さっきもされたがアレは麻薬だ。一度されただけで気分が高揚した。もう一度されたら間違いなく虜になる自信がある。1ヶ月もしたら昼休みに俺からオーフェリアに膝枕をしてくれと頼むだろう。

 

「……わかったわ。じゃあもう少し肩を借りていいかしら?」

 

「もう借りてるだろ。好きにしろ」

 

「……んっ」

 

すると肩に更に重みがかかり、オーフェリアの体温や髪を感じてくすぐったい。

 

「んーっ。オーフェリアさんの言う通り、本当に八幡君の肩って安らぐね」

 

反対ではシルヴィも倒れこんでいる。

 

VIP席に来て直後、シルヴィが俺の肩に頭を乗せてきた時オーフェリアは何故かどす黒いオーラを出してきた。

 

初めはそれにビビっていたが、オーフェリアは直ぐにそのオーラを消してシルヴィと反対側の肩に頭を乗せてきた。

 

何でどす黒いオーラを出したのか、そして直ぐにオーラを消したのかは理解できないが長時間あのオーラを浴びないで済んで良かったな。

 

「……そうね」

 

オーフェリアはシルヴィの意見を肯定しながらスリスリしてくる。止めろ!それはガチでヤバいですから!!

 

内心オーフェリアに突っ込んでいるとアナウンスが流れ出す。

 

 

『はいはーい!こちらは第二十四回鳳凰星武祭第三会場のカノープスドームだぁ!実況は私ABCアナウンサーのナナ・アンデルセン、解説はアルルカントOGの左近千歳でお送りするぞー!』

 

『どうぞよろしく』

 

『さて、試合開始まで後少し。今のうちにもう一度ルールのおさらいだぁ!』

 

ルールはもう知っている。勝利条件は相手ペア両名の校章をぶっ壊すか、相手ペアを気絶させるかだ。1人さえ残っていれば挽回のチャンスは十分にある。王竜星武祭は一発勝負だしな。

 

「……すまん。腹が痛いからちょっと手洗いに行ってくる」

 

小町の試合は確か第4試合だ。後15分くらいは余裕がある。

 

「うん。わかった。気を付けてね」

 

いや、何を気を付けろって話だからな?こんな場所で襲われるなんてあり得ないし、大抵の相手なら蹴散らせるからな?

 

俺は若干呆れながらVIP席を出て手洗いに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから15分後……

 

俺は今全速力でVIP席に戻っている。

 

トイレに着いた時には大量の観客が並んでいた。毎回星武祭を見ると思うが試合開始前のトイレは混雑し過ぎだ。しかも並んでる間やトイレに籠っている間に幾度か歓声が聞こえてきた事から試合が始まっているのだろう。

 

腹を壊して小町の試合を見逃すとか笑えないからな?

 

 

そう思いながらVIP席に戻ると同時にアナウンスが流れ出す。

 

『続いて第4試合!こぉーこで登場したのは星導館学園序列8位比企谷小町選手と、そのパートナーの戸塚彩加選手だぁ!』

 

それと同時に歓声が鳴り響く。ふぅ……ギリギリ間に合ったようだ。

 

 

俺は安堵の息を吐きながら席に着くとシルヴィとオーフェリアは再び俺の肩に頭を乗せてくる。……乗せるのは構わないが帰って早々かよ?

 

「ギリギリ間に合ったね。2回戦以降は試合が始まる前に行った方がいいよ」

 

それについては同感だ。見逃したりしたら笑えない。

 

「そうだな。確か小町達の対戦相手は……」

 

「ガラードワースの序列25位と32位の騎士候補生ペアだよ」

 

「……そうだったな。まああいつらなら問題ないだろ」

 

小町は冒頭の十二人だし、戸塚もこの1ヶ月、手を抜いているとはいえ俺の攻撃をある程度凌げるようになるくらいに成長したし。今回出場しているドロテオ・レムス、エリオット・フォースターペアならともかく候補生クラスなら問題ないだろう。

 

「……てか前から思ったがよ、銀翼騎士団って子供っぽくね?」

 

ガラードワースの冒頭の十二人は銀翼騎士団と言われているが普通に冒頭の十二人で良くね?百歩譲ってチーム・ランスロットやチーム・トリスタンは良いが銀翼騎士団はないだろ。

 

「あはは……それアーネストはともかくレティシアには言わない方が良いよ」

 

あー、確かにあいつは煩そうだな。アーネスト・フェアクロフは一度話した事があるが割と気さくだったけど、レティシア・ブランシャールは見るからに頭が固そうだったし。

 

「善処する」

 

そんな事を話していると実況の声が聞こえてくる。

 

『比企谷選手と言えば前回の王竜星武祭ベスト4まで残ったレヴォルフ黒学院序列2位、『影の魔術師』比企谷八幡の実の妹だが、妹本人も中等部1年の時に冒頭の十二人入りした才能に恵まれた実力者!その実力は折り紙付き!』

 

まあ小町も入学して半年もしないで冒頭の十二人入りだからな。才能だけなら刀藤の次くらいだろう。

 

『それにしても……いやぁ、パートナーの戸塚選手と並んでると絵になるとゆーか、女の子2人が華やかに……』

 

『ナナやんナナやん!今データを見たけど戸塚選手は男や!女の子やあらへん!!』

 

実況の話に解説者が割って入る。それと同時に観客席からも騒めきが聞こえる。実況だけでなく観客も戸塚を女の子と勘違いしてやがる。

 

『ええぇー?マジで?……本当だ。あんなに可愛いのに……。あー、こほん、それは大変失礼をば!』

 

実況の人が謝っている中、ステージにいる戸塚は真っ赤になって俯いている。まあこれ全世界に放送されてるからな。親やアスタリスク外部の友人に見られると考えたら恥ずかしくて仕方ないだろう。

 

小町はどうしていいかわからずオロオロしているがこればっかりは仕方ないだろう。

 

「……ねぇ八幡君。本当に男の子なの?」

 

シルヴィも若干驚きながらそう聞いてくる。

 

「まあな。っても正直俺も今でも女と勘違いしそうなんだよなぁ。あいつ普段の仕草もメチャクチャ可愛いし……痛え!」

 

いきなり手に痛みを感じたので見てみるとオーフェリアが俺の手を抓っていた。手袋越しでこの痛みって……直で抓ってきたらどんだけ痛いんだよ?

 

「…………バカ」

 

オーフェリアはそう言って悲しげな表情をしながら不貞腐れる。オーフェリアのその仕草は可愛いと思うが抓るのは止めてください。

 

「……今のは八幡君が悪いね」

 

シルヴィは呆れ顔をしているが戸塚が怒るならともかく、何でオーフェリアが怒るんだ?

 

疑問に思っていると、小町達とは反対側のゲートから2人組の男女ペアが出てきて煌式武装を起動する。

 

男の方は巨大なバスタードソード型煌式武装で女の方は細いレイピア型煌式武装だ。ガラードワースは剣技を正道としているので学生も剣を使う者が多いな。

 

ガラードワースの2人が煌式武装を出すとさっきまで恥ずかしがっていた戸塚も真剣な表情になり小町と話している。気のせいか戸塚の顔が気迫に満ちているような……

 

 

そう思っていると、いよいよ試合開始時間となる。

 

 

「『鳳凰星武祭』Aブロック一回戦四組、試合開始!」

 

 

 

 

校章の機械音声が試合開始を告げると同時に、ガラードワースの2人は突っ込む。2人の狙いは小町のようだ。明らかな格上を真っ先に潰す。戦術の一つだろう。

 

それに対して戸塚は自身の前に巨大な盾を顕現して、小町はその場から動かずに腰にあるホルスターからハンドガン型煌式武装を抜いて発砲する。

 

撃つまでの流れが余りにも滑らかだったので煌式武装を抜いている所は微かにしか見えなかった。神速銃士の二つ名は伊達じゃないな。

 

ステージ上にいるガラードワースの2人も同じのようで、マトモに回避する前に2人の煌式武装に被弾する。

 

男の方が持っているバスタードソード型煌式武装は少し跳ね上がっただけだが、女の方が持っているレイピア型煌式武装は女の手から離れる。

 

女は慌てて煌式武装を取ろうとするが、

 

『群がってーーー盾の軍勢!』

 

モニターでそう叫ぶと巨大な盾は50近くの小さい盾に分裂する。そしてその大量の盾を操作して対戦相手2人に飛ばす。

 

そのうち半分の盾を女の手やレイピア型煌式武装にぶつけて武器を取る邪魔をして、残りの半分を男の脛にぶつけて足の動きを止めている。

 

『おおっと?!な、何と戸塚選手、初めに盾を出した事から防御寄りのスタイルかと思いきや、ガンガン相手にぶつけて攻めています!アレは痛そうだぁ!!』

 

『盾を顕現する魔術師は何度も見ましたが攻撃に利用する魔術師は初めて見るなぁ……』

 

実況はハイテンションで戸塚の実況をしているが……確かにアレは痛そうだ。特に男子、盾は脛だけに当たっている。モニターに映っているガラードワースの男子生徒は苦悶の表情を浮かべている。

 

(……もしかして試合前のアレでイライラしてんのか?)

 

戸塚って意外と根に持つからな。試合前の女の子疑惑で相当ストレスがたまっているようだ。

 

しかし戸塚の盾の大量分割は侮れない。現に女の方は煌式武装を遠くに飛ばされて素手だし、男の方は脛をガンガン狙われて地面に倒れかけている。

 

そしてそんな隙を小町が逃す筈はない。

 

小町は息を吐きながら煌式武装で相手の校章に狙いを定めて発砲する。

 

煌式武装から放たれた2発の光弾は一直線にガラードワースのコンビの校章に向かって………

 

 

 

 

 

 

 

「試合終了!勝者、比企谷小町&戸塚彩加!」

 

 

校章が地面に割れ落ちると同時に機械音声が会場に試合終了のアナウンスをする。

 

それによって会場には歓声が響き渡る。

 

『な、何とぉ!開始1分もしないで決着がついたぁ!早い、早過ぎるぅ!』

 

『戸塚選手の盾の使い方はインパクトがあったけど、2人の校章を纏めて破壊する比企谷選手の精密射撃はすごいなぁ……』

 

解説が続く中、小町と戸塚はステージから退場する。

 

「八幡君の妹の試合を生で見るのは初めてだけど強いね。パートナーの盾の使い方も面白かったし」

 

「……盾の使い方は以前八幡が教えていたわ」

 

「ん?という事は八幡君が2人を鍛えたの?」

 

「まあな」

 

っても俺が鍛えたのは鳳凰星武祭開幕1週間前までだ。その後の1週間は見てないが……正直言って予想以上に成長している。

 

これなら本戦でもトーナメントの組み合わせ次第では良いところまで勝ち進む事が出来るだろう。

 

そう思いながら俺は次の試合のレヴォルフのペアと界龍のペアの試合を見るため視線をステージに移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2時間後……

 

 

 

「……これでカノープスドームの試合は終わりか」

 

カノープスドームで行われる試合が全て終わった。カノープスドームで行われたAブロックの試合を見る限り小町と戸塚を倒せるペアはいないだろう。

 

「そうだね。私は用事があるからもう行くけど八幡君とオーフェリアさんはこれからどうするの?」

 

「俺は小町達の所に行くつもりだ。オーフェリアも来るか?」

 

「……じゃあ行くわ」

 

「わかった。二回戦は4日後だしまた一緒に見ようね。じゃあね」

 

シルヴィはそう言って一足先にVIP席を後にした。他のお偉いさんも試合が終わった直ぐに退場したのでVIP席に残っているのは俺とオーフェリアだけだ。

 

さて……先ずは小町達に電話するか。

 

俺が小町の端末に電話をすると直ぐに空間ウィンドウが開いて小町の顔が見える。

 

「もしもし」

 

『もしもし。どしたのお兄ちゃん?』

 

「先ずは一回戦突破おめでとさん。見事な手際だったぞ」

 

『あー。まあね。でも戸塚さん凄い気迫で怖かったよ……』

 

うん。知ってる。観客席からも気迫を感じたし攻め方も容赦なかったし。

 

「ま、まあ楽に勝てたし、純星煌式武装も戸塚の散弾型煌式武装も知られてないから良かっただろ」

 

『そうだね。出来るなら本戦まで隠しておきたいし』

 

そこらの雑魚ならともかく、冒頭の十二人クラスの対戦相手なら一回見られただけで対策をしてくる筈だ。だから手持ちのカードは出来るだけ伏せるべきだ。

 

「そうしろそうしろ。ところで今から会えるか?」

 

俺がそう尋ねると小町は苦い顔をするがどうしたんだ?

 

『悪いけどお兄ちゃん。それは明日以降にしてくれる?試合前の解説で戸塚さん落ち込んでるし』

 

まあ世界中に女と思われながら実況されたからな。メンタルが弱っていても仕方ないだろう。

 

「なら仕方ないな。じゃあまた今度にしよう」

 

『お願いね。その時にシルヴィアさんにも会わせてよ』

 

「シルヴィの都合によるな。じゃあ」

 

そう言って空間ウィンドウを閉じてオーフェリアと向き合う。

 

「小町達は無理っぽいし俺は寮に帰るがお前はどうすんだ?帰るなら送るぞ」

 

「……お願い。八幡は帰ったらどうするの?」

 

「どうするって……飯食ってダラダラするぐらいしかする事ないな」

 

俺はそう言ってVIP席を後にしようとするとオーフェリアが制服の裾を掴んできた。

 

「どうした?帰ろうぜ」

 

「……八幡はこれからは特に予定がないのよね?」

 

「そうだな。何か手伝って欲しいのか?」

 

夕食に使う食材を買いに行くくらいなら別に構わないが……

 

しかし俺の予想は大きく外れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その、時間に余裕があるなら……また私を抱きしめて欲しいのだけど……」

 

オーフェリアは俯きながらそう言ってくる。

 

(……完全に予想外だな。こいつ意外と甘えん坊なのか?)

 

 

いや、まあ、確かに今日は暇だけどさ。抱きしめてくれって……そりゃさっきは了承したけど、改めてやると考えると……

 

 

俺が悩んでいる時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ダメ?」

 

オーフェリアが上目遣いで不安そうな表情で俺を見てきた。

 

それを確認すると、俺の体は自然と動いていた。

 

 

結局、俺はオーフェリアが満足するまでずっと抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳳凰星武祭初日 知り合いが参加した試合の結果

 

天霧&リースフェルト

天霧1人でガラードワースのペアを瞬殺

 

エルネスタ&カミラ

開始1分攻撃をしないにもかかわらずレヴォルフのペアに無傷で勝利

 

雪ノ下&由比ヶ浜

同じクインヴェールのペア相手に危なげない試合運びで勝利

 

川崎沙希&川崎大志

界龍特有の星仙術によって余裕の勝利

 

葉山&一色

葉山が試合開始までに目が覚めなかった為、不戦敗

 

 



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比企谷八幡は意外な場所で意外な人物と遭遇する。

 

 

 

鳳凰星武祭初日、カノープスドーム。俺は今日、シルヴィとオーフェリアの3人でこの会場に来ていた。

 

理由はシンプル、最愛の妹と俺の数少ない友人の2人が初の星武祭に参加するのでそれを見るからだ。

 

予選一回戦は対戦相手を完封して勝利した。これについては戸塚が少し怖かったが実に満足した結果だ。

 

そして試合が終わってシルヴィは用事があるので帰宅した。小町と戸塚は試合前に色々あって今日は会わない事になった。そこまでは問題ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまでは。

 

問題はそこからだ。

 

 

「……んっ」

 

現在カノープスドームのVIP席にて俺はオーフェリアを抱きしめている。対するオーフェリアも俺の背中に手を回して抱き合っている状態だ。

 

シルヴィが去って、俺が暇と知ったオーフェリアは俺に抱きしめてくれと頼んできた。

 

初めは断ろうか悩んでいたが上目遣いでお願いしてきたらいつの間にかオーフェリアを抱きしめていた。いや、だって、あの上目遣いの破壊力はヤバ過ぎて逆らえないからね?

 

まあそんな訳で俺はオーフェリアと抱き合っているのだが、既に40分経過している。

 

何度か「そろそろいいか?」と聞いたがオーフェリアは「もう少し」って返して離れる気配がない。いくらVIP席に他の人がいないからって……

 

内心困っている中、それを知らないオーフェリアは俺の胸元に自身の頭を当ててスリスリしている。それはマズイから止めてくれ!

 

「……八幡」

 

オーフェリアが俺の名前を呼ぶと何かが込み上がってくる。マズイのは事実だが……

 

(何か……悪くないな)

 

オーフェリアは俺と過ごして安らぐと言っているが、どうやら俺もそうみたいだ。

 

そんな事をのんびりと考えているとオーフェリアが背中から手を離すので、俺も同じようにすると抱擁がとかれた。

 

「もういいのか?」

 

「……ええ。ありがとう」

 

「……そうか。じゃあ帰ろうぜ」

 

そう言って歩き出すとオーフェリアは頷いて俺の後に続いた。

 

 

 

カノープスドームを出ると夕日が見えていた。時計を見ると5時過ぎだった。まあ試合が終わってから1時間近く抱き合っていたからな。寮に戻る頃には6時を過ぎているだろう。

 

カノープスドームはレヴォルフから遠いのでモノレールで帰らないといけない。俺とオーフェリアはホームでモノレールが来るのを待つ。後五分でくるな。

 

 

「……ユリス」

 

そんな事をのんびり考えていると後ろからオーフェリアの呟きが聞こえたので後ろを見ると、オーフェリアは駅構内にある巨大モニターに映っている天霧とリースフェルトを見ていた。

 

「どうした?リースフェルトを見て何か思ったのか?」

 

俺がそう尋ねるとオーフェリアは首を横に振る。

 

「何でもないわ。私とユリスはもう関わる事はないわ」

 

若干冷たい口調でオーフェリアはそう返す。その時俺はつい、前から聞きたかった事を聞いてしまう。

 

「……お前はそれでいいのか?」

 

俺がそう口にするとオーフェリアは若干驚きの混じった表情で俺を見てくる。俺自身も必要以上にオーフェリアに踏み込んだ事に驚いている。

 

「……いいも悪いもないわ。私が彼の所有物である以上殆ど自由はないのだから」

 

やっぱりオーフェリアはディルクがいる限り自由にはなれないようだ。全く……本当に世界ってのは残酷だな。

 

「……そうか。悪かったな変な事を聞いて」

 

「別にいいわ。今更の話だから」

 

オーフェリアはそう返す。それと同時にモノレールが来た。ドアが開いたので乗ろうとした際、ふとオーフェリアの顔を見るといつも通りの悲しげな表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし今のオーフェリアの顔には少しだけ寂しさが混じっている様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから30分、オーフェリアの寮に着いたのは6時丁度だった。となると俺の寮に着くのは6時半前だろう。

 

「……送ってくれてありがとう」

 

「気にすんな。またな」

 

「……2回戦も小町達をまた見に行くの?」

 

「そのつもりだが?」

 

「じゃあ……また一緒に行っていいかしら?」

 

「別に構わないぞ。行きたきゃ連絡しろ」

 

「わかったわ。……じゃあまた」

 

オーフェリアはそう言って自分の寮に入っていった。オーフェリアが見えなくなったのを確認して俺も帰路につく。

 

(……さてと、夜飯は何を作るか)

 

そんな事を考えながらのんびり歩いていると携帯端末が着信を告げる。見ると小町からだった。

 

それを確認して空間ウィンドウを開くと小町が気迫の篭った表情で画面いっぱいに映り出す。

 

「ど、どうした小町。怖いから離れてくれ」

 

『そんな事はいいの!それよりお兄ちゃん!何かうちの学校で作られてる新聞でお兄ちゃんとオーフェリアさんが街中で抱き合っている写真が載ってたんだけど、これどういう事?!』

 

何?!あの写真が載っているだと?!

 

俺はそれを聞いてあの時写真を撮っていた星導館のチャラそうな男を思い出した。星導館の新聞って事は十中八九あの男が新聞に載せたのだろう。

 

「おい小町。どういう事だ。その新聞後で俺の端末に送れ」

 

『それはいいけど……本当に何があったの?』

 

小町にそう言われた俺は仕方なく全て話した。

 

『ほーん。なるほどねぇ。とりあえずお兄ちゃんはオーフェリアさんがまた頼んだら拒否しないで抱きしめるように!』

 

うん、実はもう更に1回抱きしめています。拒否しようとしましたが出来ませんでした。

 

「善処する。……ところで小町。お前の学校の新聞部で顔に目立つ傷がある男って知ってるか?」

 

あの写真を撮った思える男は顔に目立つ傷がついていたから特定は難しくないと思う。

 

『顔に傷?多分夜吹さんだね。ちょっと待ってね。えーっと、この人かな?』

 

小町がそう言うと例の新聞と共に1人の男子生徒の画像が俺の端末に送られてきた。

 

間違いない。あの時写真を撮ってた男だ。そうか、夜吹って言うのか。

 

「サンキュー小町。悪いが夜吹って奴に『今度星導館に行くからその時に三途の川ツアーに連れてってやる』と伝えといてくれ」

 

嫌がっても力づくで連れてってやる。俺はアスタリスクのゴシップ記事を見るのは嫌いじゃないがネタにされるのは大嫌いだ。天国の扉を見せてやる。

 

『……うん。一応伝えとくけど……殺さないでね?』

 

アホか。殺したら犯罪者になるから殺さねーよ。三途の川手前には連れて行くが川を渡らせるつもりはない。

 

「んな事わかってる。悪いが苛ついたからもう切るぞ」

 

『あ、うん。じゃあまたね』

 

そう言って小町の顔が空間ウィンドウから消えたので空間ウィンドウに例の新聞を表示する。

 

するとそこには『レヴォルフ2トップ、市街地で抱き合う!!』とか『2人の間には愛があるように見え、それを育んでいると推測される』だの見ていて苛立つ見出しや記事があった。あいつマジでブチ殺す。

 

帰って飯食って寝ようと思ったが気が変わった。少しストレスを発散しに行くか。

 

そう思いながら俺は自分の寮とは反対方向に向けて足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

再開発エリア

 

かつてアスタリスクで最大のテロ『翡翠の黄昏』の舞台となった場所だ。

 

その事件による被害は甚大で、事件の後始末や責任問題などの追求があって復旧予算の編成が進まず、そうこうしているうちに不良や各学園の退学者、アスタリスク外の犯罪者が集まりだして暗黒街となった。

 

とはいえ再開発エリア全域が犯罪者の温床という訳ではない。今から俺が行くような歓楽街は割と治安が良い場所だ。(それでも再開発エリアだから街中にはチンピラやマフィアがゴロゴロいるけど)

 

歓楽街にはクラブやバーなど酒類の提供を主とする飲食店や地下の違法カジノや風俗店など違法店舗もある。

 

そんな店を素通りしながら裏路地にあるカフェに入る。このカフェは客が少なく騒がしくないから俺のお気に入りの店だ。

 

店に入ると店内はガラガラだった。カウンター席に座る。マスターがやってくる。

 

「おやおや。あんたが来るなんて……妹さんが鳳凰星武祭1回戦に勝って嬉しいからか、市街地での抱擁の噂でイライラしているからか……」

 

マスターはニヤニヤしながらそう聞いてくる。

 

「マスター。いつもので。ちなみに今日来た理由は後者な」

 

俺がこの店に来るのは嬉しい時に1人ではしゃぐ為か、苛ついた時にストレスを発散させる為だ。今日はさっきの新聞で苛ついたからここに来た。

 

「はいはい。……で、結局事実なんだろ?」

 

「抱き合ってたのは事実だから否定しねぇよ。っても愛は語ってない」

 

カフェに来る途中ネットも見てみたがそこにも『愛の語らい』とか『最強夫婦』とか載ってて死にたくなった。

 

「あの写真を見たら説得力はないと思うぞ」

 

マスターが覆せない事実を口にしながら俺の前にMAXコーヒーの入ったシャンパングラスを出してくる。歓楽街でもMAXコーヒーを出す店は少ない。俺はこの店がMAXコーヒーを出すと知った瞬間、常連になると決めたくらいだ。

 

「それについては……まあアレだ。俺が悪いし諦めるしかないな」

 

オーフェリアとの抱擁に関する噂は苛立つが元はと言えばあんな所で抱き合った俺達が悪いし。するなら人目のつかない場所でするべきだったな。

 

あの時の事を後悔している時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……から、ちょ……付きあっ……」

 

「そうそ……いい店知って……行こうよ」

 

「だからさっきから……って言って……」

 

店の外から揉め事の気配を感じ取る。声は聞き取りにくいが男2人が女をナンパして女が拒否している感じだな。

 

(……ったく、何を考えているんだ?)

 

男2人についてはどうも言わない。歓楽街にいる男は悪が多いし。

 

俺は寧ろナンパされている女に文句を言いたい。声からして1人でいるようだが、こんな場所に1人で来るなんて危機感がないのか?

 

俺は息を吐きながら席から立ち上がる。マスターは事情を理解しているように笑っている。

 

「随分とお人好しだな」

 

「別にそんなんじゃねぇよ。外が煩いと俺が落ち着いて過ごせないからだよ」

 

そう言ってカフェのドアを開ける。

 

 

声の方向を見ると薄暗くてよく見えないが壁に寄りかかっている女にマフィアらしき2人が近寄っている。

 

俺はそれを確認すると男2人に近寄って蹴りを2発放つ。

 

蹴りをくらって吹っ飛んだ男は怒りの表情を露わにして起き上がりながら煌式武装を起動する。いきなり蹴りを入れた俺が言うのもアレだが……随分と物騒だな。

 

しかし俺の顔を見た瞬間、男2人は急に驚きの表情を見せてくる。

 

「なっ……お、お前!」

 

「『影の魔術師』!」

 

あー、やっぱり俺って有名なのか。マジで目立ち過ぎるのも考えものだな。

 

内心面倒臭がっていると、男2人はいつの間にかいなくなっていた。うん、まあ戦わないで済んだのは良かったな。

 

俺が息を吐いていると………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………八幡君?」

聞いた覚えのある声が耳に入る。いや、でも……あいつがこんな所にいるとは考えにくい。

 

 

そう思いながら女を見ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シルヴィ?」

 

そこには2時間くらい前に一緒に鳳凰星武祭に見ていたシルヴィア・リューネハイムがお忍びの格好をして立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「……って訳なので近い内にお兄ちゃん、星導館に来るので頑張って生き延びてくださいね。夜吹さん」

 

「えっ、ちょっ、マジで?!……頼む天霧!助けてくれ!」

 

「夜吹、それは……」

 

「綾斗、助ける必要はない。こいつは一度痛い目を見た方がいい」

 

「え、えーっと………私はどうすれば?」

 

「……綺凛が気にする必要はない。全て夜吹の自業自得」

 

「……マジかよ?俺、生きられるか?」

 

 

星導館学園の食堂にて夜吹英士郎は八幡の怒りを知り嘆いていた。



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比企谷八幡はシルヴィア・リューネハイムの事情を少し知る。

俺は目を疑った。何故彼女がここに?

 

再開発エリア繁華街、基本的に不良学生やチンピラ、果てはマフィアが集うこの場所に彼女がいるとは思えない。

 

俺は改めて目の前の少女に確認を取る。

 

 

「えーっとだな。もう一度確認するぞ。お前シルヴィだよな?世界の歌姫の」

 

違うと少しの期待を込めて聞いてみる。しかし現実は残酷だった。

 

「うんそうだよ。去年の王竜星武祭で八幡君と戦ったシルヴィアだよ」

 

……マジか?本当にシルヴィかよ?こんな所にいるなんて完全に予想外だ。

 

「……話、聞いてもいいか?」

 

いくらシルヴィが強いからといって、女の子が歓楽街に1人でうろつくのは感心しない。

 

「……うん。じゃあとりあえずどこかの店に入らない?」

 

「それなら俺が今いたカフェでいいか?」

 

あそこの店はとある理由で内緒話をするのに最適だ。

 

「うん。いいよ」

 

シルヴィは了承したので俺は1つ頷いてさっきまで居たカフェに入った。

 

マスターは俺を見ると驚きの表情を見せてくる。理由はアレだろう。女をナンパしたと思ってんだろう。

 

俺はマスターが口を開く前に、先に自分の口を開ける。

 

「マスター。二階を借りるぞ。それとこいつにはマスターのおまかせコーヒーで」

 

そう言って専用の部屋代5000円をカウンターの上に置く。マスターはそれを聞いて驚きの表情からニヤニヤ笑いを浮かべながらコーヒーの準備をする。

 

「ほうほう。昼に『孤毒の魔女』、夜はナンパした女。あんたも男だねぇ」

 

「殺すぞ。借りるのは内緒話をする部屋だ。情事をする部屋じゃねえよ」

 

「じょ、情事?!」

 

シルヴィは若干赤くなりながら驚いているが一々気にすんな。俺は情事なんてするつもりはこれっぽっちもない。

 

「まああんたがそんな事するとは思わないけどな」

 

「ならそのニヤニヤ笑いを止めろ。それより鍵とコーヒー」

 

「はいはい」

 

マスターはそう言って鍵とおまかせコーヒーを出してきた。

 

「んじゃ付いて来い」

 

「あ……う、うん」

 

それを受け取った俺はさっき自分が頼んだMAXコーヒーを持って店の奥に歩き出す。そして従業員専用のスペースに躊躇わずに入って階段を上る。

 

目的の部屋の前に着いたので借りた鍵を借りて中に入る。部屋にテーブルが1つと椅子が4つしかない簡素な部屋だ。

 

「入ったら鍵をかけてくれ」

 

シルヴィにそう言って椅子の1つに座る。シルヴィも部屋の鍵をかけてから俺の向かい側に座る。

 

「このカフェの二階は人に見られたくない事や聞かれたくない事をする時に使う部屋でな。金を払えば普通に借りれる」

 

「そ、そうなんだ……」

 

以前イレーネと賭けで稼いだ金を取り扱う際に何度か借りた事もあるから勝手は知っている。中には未成年者がラブホ代わりに利用する部屋もあるらしい。まあ使った事ないからよく知らないけど。

 

「さて、話を戻すぞ。何でお前が歓楽街みたいな危ない場所にいるんだ?お前の実力なら怖くないかもしれないがここは女子が1人で来る場所じゃないぞ?」

 

ましてやシルヴィは世界の歌姫だ。こんな所に来たってだけで世間はシルヴィを叩くと思うぞ?

 

 

 

 

「うん。実は私、人を探してるの」

 

俺の質問に対するシルヴィの返答はシンプルだった。しかし……

 

「お前の能力は使わないのか?」

 

シルヴィは歌を媒介にして自身のイメージを変化させられる。そしてそのイメージを内包する歌を歌えばあらゆる事象を呼び起こせる万能の力だ。以前シルヴィから探知行動や隠密行動も出来ると聞いていたが何でだ?

 

「私の能力でもある程度範囲を絞らないと無理だよ。対象範囲によって消費する星辰力も違うしね」

 

「それはわかった。で、アスタリスクに反応は……」

 

「あったよ。けどそれだけ。今私がわかるのは探している人がアスタリスクにいる事だけ」

 

なるほどな。アスタリスクにいるのがわかっている、しかしそれ以上はわからないからわざわざ足で探しているのか。

 

これでシルヴィがしょっちゅう変装して外出している理由が理解出来た。

 

しかしまだ腑に落ちない。

 

「んじゃ何で再開発エリアを探してるんだ?普通に考えて探すなら行政エリアの主要施設だろ」

 

探知系の能力は設備が整っていれば無効化出来る。アスタリスクだと今言った行政エリアの主要施設や学園の中枢部、ホテルのVIPルームなどが該当する。

 

対して再開発エリアの歓楽街には探知系の能力に対する防衛設備が余り整っていない筈だ。わざわざ再開発エリアを探す理由がわからない。

 

俺がそう尋ねるとシルヴィの顔に陰が生じる。それを確認した俺は慌てて訂正する。

 

「いやすまん。言いたくないなら言わなくていい。少し踏み込み過ぎた」

 

これはシルヴィの問題だ。部外者の俺が無闇に踏み入っていい問題ではない。

 

「ううん。私は気にしてないから聞いて大丈夫だよ。それに八幡君なら周りに言いふらさないだろうし」

 

正確には言いふらす相手がいないだけどな。まあ今は真面目な話をしているし口にはしないけど。

 

「そうか。まあでも話したくないなら言わなくていいぞ」

 

俺がそう返すとシルヴィは首を横に振ってから口を開ける。

 

「……私が探してる人は……『蝕武祭』に出場してたみたいなの」

 

「……っ!」

 

正直返す言葉がなかった。予想以上にヤバい案件だった。

 

蝕武祭

 

星武祭では物足りない屑共が作ったとされる非合法・ルール無用の武闘大会。ギブアップは不可能で、試合の決着はどちらかが意識を失うか、もしくは命を失うかによって決まる。確か星猟警備隊隊長、ヘルガ・リンドヴァルによって潰された。

 

しかし……まさかシルヴィの探してる人が蝕武祭に参加してるとは……

 

「だから再開発エリアは1番有力な場所なんだ」

 

シルヴィは俺の顔を見ながらそう言ってくる。まあ蝕武祭に参加する連中がいるとしたら再開発エリアみたいな場所だろう。

 

「……なるほどな。だから歓楽街にいた訳か?」

 

「……うん」

 

「お前がここにいた理由は理解した。でも何で蝕武祭に?お前の知り合いに蝕武祭に関わるような屑がいるとは思えないが」

 

蝕武祭の噂については何度か聞いた事があるがどれも胸糞悪くなる話だ。作り上げた人物にしろ、観客にしろ、参加する学生にしろマトモな人間とは思えない。

 

「それが全くわからないんだよね。蝕武祭については私にも殆ど情報が入って来ないし。ベネトナーシュに調べて貰うとW&Wにも知られちゃうから余り頼りたくないし」

 

ベネトナーシュはクインヴェールの運営母体の統合企業財体『W&W』の保持する諜報機関だ。シルヴィがベネトナーシュを使うという事は統合企業財体に情報が筒抜けになる、この辺りはレヴォルフもクインヴェールも変わらないのだろう。

 

全く……シルヴィも随分と面倒な事に巻き込まれてるな。

 

「……ふぅ。で、これ飲んだらまた探しに行くのか?」

 

「まあね。と言ってもペトラさんに怒られるから1時間くらいかな」

 

となると9時くらいには歓楽街を後にするのだろう。

 

「……そうか。もしお前さえ良ければ俺も付いてっていいか?」

 

「……え?」

 

「何だよその顔は?」

 

「いや……だって八幡君が自分から提案するなんて……明日は雨かな?」

 

可愛い顔してキョトンとするな。ぶっ飛ばしたくなる。

 

「ほっとけ。まあアレだ……知り合いが蝕武祭に関わっている人を調べるなんて危ない事してちゃほっとけないし、お前みたいな可愛い女子が1人だと歓楽街は面倒だしな」

 

歓楽街の連中は基本的に男で女に目がない。知り合いがそんな場所で危険な事をしてるのを放っておくほど俺は薄情ではない。

 

俺がそう返すとシルヴィは少し驚いたような顔をして目をぱちくりしてから口を開ける。

 

「ふーん。じゃあお願いしてもいいかな?星武祭がやってる時の歓楽街って結構面倒だしね」

 

まあ星武祭の開催期間中はアスタリスク外部から人がやってくる。その為警備隊の取り締まりも厳しくなっている。よって歓楽街を仕切るマフィアも見回りを増やしていてぶっちゃけウザいし。

 

「ああ。ってもお前がかなりヤバい場所に行きそうになったら止めるぞ」

 

歓楽街の奥では麻薬とか普通に売ってる場所もあるし。

 

「わかってるよ。流石にそこまでは無茶しない。警備隊に取り調べを受けたくないし」

 

そう言ってシルヴィはコーヒーを全て飲み切って立ち上がる。俺もそれを確認して立ち上がる。

 

「じゃあ行こっか。今日は中心部のカジノあたりを調べるからエスコートよろしくね」

 

中心部のカジノか。まああの辺りはよく行ってるから問題ないな。

 

「はいはい。じゃあ行くぞ」

 

「うん。あ、そうそう……」

 

シルヴィは一区切りして俺に笑顔を見せてくる。

 

 

「さっきは可愛いって言ってくれてありがとう。八幡君に言われるとは思わなかったよ」

 

……は?いきなりなんだ?

 

疑問に思いながら記憶を辿ってみると……うん。確かに言ったな。

 

「あ、いや……それはだな……」

 

返す言葉がなく、しどろもどろになっているとシルヴィはクスクス笑ってくる。

 

「ふふっ。照れてる八幡君、結構可愛いね」

 

だめだ。口でシルヴィには勝てる気がしない。俺はため息を吐きながら敗北を受け入れてカフェを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間………

 

「……見つからなかったな」

 

歓楽街を出て再開発エリアの出口に着いた俺はため息を吐く。

 

結局見つかりませんでした。カフェを出た後シルヴィが探しているシルヴィの師匠、ウルスラ・スヴェントの顔写真を見せて貰い中心部のカジノを調べたが手がかりは一切なし。

 

「まあ私もずっと前から探してるけど全然手がかりが見つからないからそんなに落ち込まなくて大丈夫だよ。それより案内ありがとう。八幡君のおかげで調べにくい所も調べられたよ」

 

まあカジノの裏側とかは従業員と知り合いになってないと無理だからな。その点で言えば俺に賭け事など色々教えてくれたイレーネに感謝だ。

 

「でもあんまり危ない事に首を突っ込んじゃダメだよ」

 

「安心しろ。非合法のカジノとか風俗には行ってない。つーか蝕武祭が関係している人を調べてるお前が言っても説得力ないからな?」

 

カジノも危ないが蝕武祭に比べたら可愛いものだ。

 

「そう言われたら返せないなぁ」

 

「まあ別に構わないが。とりあえず帰るなら送るがクインヴェールまででいいか?」

 

レヴォルフとクインヴェールは隣同士だから送ってもそこまで時間はかからない。俺が影に星辰力を込めて竜を作り出すとシルヴィは頷く。

 

「じゃあお願い」

 

「はいはい。んじゃ乗れよ」

 

そう言ってシルヴィの手を引っ張り竜の上に乗せる。それと同時に竜が雄叫びを上げて空高く飛び上がる。体に当たる夜風は夏でありながら中々涼しくて心地よい。

 

そんな事を考えながら俺達は再開発エリアを背にクインヴェールに向けて一直線に飛んで行った。

 

 

 

 

竜に乗る事3分、クインヴェールの校舎が見えたので竜の飛行速度は下がり校門の真上で停止する。俺は再度竜に地面に降りるよう指示を出す。

 

地面に降りると竜は雄叫びを上げながら俺の影に戻る。

 

「送ってくれてありがとう」

 

「おう。もしまた、カジノやバーの裏側を調べたかったら呼べ。合法な店ならそこそこ顔が利いてるしな」

 

「わかった。と言っても明日から生徒会の仕事もあるから当分無理だけどね」

 

「まあ俺は歓楽街でよく遊んでるし見つかったら連絡する」

 

「ありがとう。じゃあまた夜のデートをしようね」

 

「ばっ……お前なぁ……」

 

「ふふっ。やっぱり照れてる八幡君可愛い。またね」

 

シルヴィはそう言って校門の中に入って行った。それを見送った俺は息を吐く。全く……

 

それにしても……まさかシルヴィの師匠が蝕武祭に参加しているとはな……シルヴィには割と世話になっているし出来るだけ力になりたいものだ。

 

色々と重い話を聞いて疲れた。今日は早く寝よう。

 

 

そう思いながら俺はクインヴェールを後にして自分の寮に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、クインヴェールの校門近く

 

 

「……ねぇパイヴィ、今の聞いた?」

 

「聞いたわモニカ。シルヴィアは間違いなくデートって言ってたわ」

 

「じゃあ春にリーダーが言っていたのはやっぱり……」

 

「事実かもね。シルヴィアは比企谷八幡と付き合っているかもしれない」

 

「………」

 

「………」

 

ルサールカのメンバー、モニカとパイヴィは無言で顔を見合わせてからハイタッチを交わした。

 

 

 

 

 



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鳳凰星武祭5日目、比企谷八幡は目を付けられる(前編)

 

 

 

鳳凰星武祭5日目、シリウスドーム

 

1回戦に4日かけ、今日から2回戦が始まる。

 

そんな中俺は今シリウスドームのVIP席で1回戦の時の様にオーフェリアとシルヴィに挟まれ肩に2人の頭を乗せられながら試合を観戦している。

 

つーか2人の髪の毛がくすぐったいんですけど?オーフェリアに至っては頭をスリスリしているし。

 

煩悩を振り払う為舌を噛みながらステージに注目する。横を見たら邪な気分になるだろうし。

 

 

 

 

『……トロキアの炎よ、城壁を超え、九つの災禍を焼き払えーーー咲き誇れーーー九輪の舞焔花!』

 

ステージではリースフェルトの周囲に可憐な桜草を模した火球が九つ現れて、対戦相手のクインヴェールのタッグへ襲いかかる。

 

それによって片方のポニーテールの少女の校章はぶっ壊れた。もう片方のツインテールの少女は双剣型煌式武装で火球を切り払っていく。

 

そして最後の一つを切り払うと……

 

『綻べーーー熔空の落紅花』

 

少女の足元に魔方陣が浮かぶ。

 

「あれは設置型だね」

 

「ああ。初めの火球で倒せれば良し。倒せなくても罠に嵌めれたらそれで問題なし。リースフェルトの奴、中々多彩な攻めだな」

 

「いや、アスタリスクで最も多彩な能力者の八幡君が言っても嫌味にしか聞こえないよ?」

 

いや……まあ俺の力が多彩なのは事実だが、影の服とか戦闘用以外が多過ぎる。基本的に戦闘は雑魚には影の刃を使い、強者には影狼修羅鎧を纏って肉弾戦とゴリ押しだ。あんまり設置型の技は持ってないし。

 

シルヴィの言葉に突っ込んでいる中、ツインテールの少女の頭の上に巨大な椿の花が現れて落下する。

 

少女は逃げようとするも時既に遅く、焔の花は大爆発を起こしてあっさりと飲み込まれた。

 

『試合終了!勝者、天霧綾斗&ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト!』

 

機械音声が決着を宣言する中、ツインテールの少女は仰向けで倒れていた。

 

「あー、やっぱりあの2人相手じゃ厳しいか」

 

自身の所属する生徒が負けたからかシルヴィの口調は若干残念そうだった。

 

まあ今回鳳凰星武祭に参加している中であのコンビを倒せるペアは数少ないからな。クインヴェールからは冒頭の十二人も出てないしクインヴェールが優勝するのはないだろう。

 

「まあそれは仕方ないだろう。っと……次の試合は雪ノ下と由比ヶ浜のペアが出るのか」

 

今日、このシリウスドームで行う2回戦は俺の知り合いがかなり参加する。順番で言うと天霧とリースフェルトペア、雪ノ下と由比ヶ浜ペア、小町と戸塚ペア、イレーネとプシリラペアが参加する。

 

っても結果は見なくても大分予想は出来る。今思った4ペアは間違いなく勝つだろう。まあイレーネとプシリラペアの対戦相手は冒頭の十二人だから多少梃子摺るかもしれないけど。

 

「雪ノ下雪乃さん……うちの学園の30位で魔王の妹なんだよねー」

 

魔王……界龍の序列3位、雪ノ下陽乃。万有天羅の二番弟子で星武祭ではオーフェリア以外には無敗を誇る実力者。(俺とシルヴィは戦った事ないけど)

 

そして俺がアスタリスクに転校する原因を作った元凶。あの女が文化祭で余計な事をしなかったら俺はアスタリスクに来てなかっただろう。その件については感謝しないでもないが、散々引っ掻き回した事については許さない。

 

そんな事を考えているといつの間にかステージには4人並んでいた。そういや雪ノ下は氷の力を使うのは知っているが由比ヶ浜については知らないな。

 

対戦相手は星導館のペアか。見ると雪ノ下はレイピア型煌式武装を展開し、相手ペアは両者共に刀型煌式武装を展開するが由比ヶ浜は徒手空拳だ。界龍の生徒ならともかく……クインヴェールの由比ヶ浜が素手って事は魔女か?

 

疑問に思っていると試合開始のブザーがなる。その瞬間、星導館コンビは一直線に由比ヶ浜に突き進む。由比ヶ浜は序列外だから雪ノ下より与し易いと判断した故だろう。

 

『凍てつきなさいーー氷槍雨』

 

雪ノ下がそう呟きレイピアを振るうと雪ノ下の後ろから八つの氷の槍が顕現されて星導館ペアに降り注ぐ。中々狙いはいいな。

 

星導館ペアは全て防げないと判断したのかバックステップをして下がる。リスクをおかしてまで由比ヶ浜を狙うつもりはないのだろう。

 

すると由比ヶ浜の周囲に星辰力が湧き上がるのを見れる。あの万応素からしてやっぱり魔女か。

 

『えいっ!』

 

由比ヶ浜の掛け声と共に地面から4つの魔方陣が浮かび上がる。そして魔方陣からは真っ白な犬が現れる。何だあの犬?

 

『行けっ!』

 

由比ヶ浜がそう言って星導館ペアを指差すと犬は鳴き声を上げながら2匹ずつ星導館ペアに襲いかかる。

 

男の方はポケットからハンドガン型煌式武装を出して2発発砲して、女の方は刀型煌式武装で斬りかかる。4匹の犬に攻撃が当たる。

 

 

すると犬は大きな声で吠えながら大爆発を引き起こした。

 

『おおっと?!由比ヶ浜選手の能力で生み出した犬が大爆発を引き起こしたぁ!!』

 

『攻撃したら爆発する能力っスか。おそらく由比ヶ浜選手の指示でも爆発出来ると思うので厄介っスねー』

 

実況と解説の言葉を聞いている中、ステージを見ると女の方の校章は破壊されて、男の方は爆風で体勢を崩している。

 

そしてそんな隙を対戦相手が見逃すはずがない。

 

『凍てつきなさいーー氷結大虎』

 

雪ノ下の前方に5メートルくらいの巨大な魔方陣が現れて魔方陣が消えるとそこには巨大な氷の虎がいた。

 

対戦相手の男は尻もちをついたままビビっている。まあアレは仕方ないな。

 

雪ノ下はその男を冷ややかに見ながらレイピアを振るう。すると氷の虎は雄叫びを上げて前足を振るう。

 

モロに受けた男子はステージの壁に向かって一直線に飛んでいき、やがて壁にぶつかり気絶した。

 

『試合終了!勝者、雪ノ下雪乃&由比ヶ浜結衣!』

 

アナウンスが流れると歓声が響き渡る。ステージでは由比ヶ浜が雪ノ下に抱きついている。相変わらず百合百合してるが由比ヶ浜は世界中に中継されているのを忘れているのか?

 

いや、忘れているだろう。雪ノ下はメチャクチャ恥ずかしそうにしてるしドンマイ。

 

 

俺は息を吐きながら立ち上がる。

 

「俺今から昼飯買ってくるがお前ら食いたい物あるか?」

 

次の目当てである小町と戸塚の試合まではまだまだ時間がある。それなら今のうちに昼飯を買っておくのが建設的だろう。

 

「じゃあ味は何でもいいからサンドイッチお願い。オーフェリアさんは?」

 

「八幡と同じ物でいいわ。MAXコーヒーを除いて」

 

MAXコーヒーを除いてんじゃねぇよ。シルヴィは笑うな。何でそこで笑うんだよ?

 

「わかったわかった。じゃあちょっと行ってくる」

 

ため息を吐きながらVIP席を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

食い物や飲み物などが売っている場所は選手や観客がいてかなり賑わっていた。

 

俺とオーフェリアのはどうしよう?

 

俺の昼飯は会場入りする時に見つけたケバブにしようと思ったがオーフェリアが同じ物にするなら変えよう。アレ明らかに油多そうだったしオーフェリアに悪い。

 

……とりあえずその辺で売ってる弁当にするか。

 

そう思いながら歩くと視線を感じる。気配から察するに人数が5人。気配の消し方からしてかなりの手練れだ。

 

しかし……狙われる理由がわからん。ここ最近は特に恨まれる事はしてないし狙われる理由がない。

 

(……まあこんな場所で襲いかかる程馬鹿じゃないだろう)

 

誰だか知らないがこんな場所で襲いかかったら間違いなく警備隊や自身の所属する学園に咎められるし。

 

 

そんな事を考えている時だった。

 

「あ、お兄ちゃん!」

 

横から声をかけられたので振り向くと小町と戸塚、さっき試合に勝利した雪ノ下、由比ヶ浜ペアもいた。

 

「おう。お前らも昼飯か?」

 

「うん。試合前に食べようと思って」

 

そう言ってくる4人の手には弁当があった。

 

「ヒッキー勝ったよー!」

 

「見てた。まあお前ら4人のブロックには冒頭の十二人はいないし本戦出場は楽勝だろう」

 

「当然ね」

 

雪ノ下は自慢気に言っているが 試合を見る限り由比ヶ浜も序列入り出来るくらいの実力は持っている。その点から行って本戦出場は可能だろう。

 

「ヒッキーはもうご飯食べたの?」

 

「ん?いや、今からオーフェリアとシルヴィと食うつもりだけど」

 

俺がそう言った瞬間、雪ノ下と由比ヶ浜の顔に恐怖の感情が浮かぶ。

 

あ、しまった。こいつらオーフェリアがブチ切れているのを間近で見てるんだった。トラウマの1つや2つ、出来ていても仕方ないだろう。

 

「あ……そ、そうなんだ」

 

「……ああ。だから一緒に食わない方がいいよな?」

 

間違いなく気まずくなる。そんな場所で飯を食っても不味いだけだろう。

 

「う、うん。ゆきのんも今度でいいよね」

 

「……そうね」

 

雪ノ下も暗い顔で頷く。嫌な気分になっているようで申し訳ない。しかし理解して欲しい、アレは葉山が悪いし。

 

「……そういや、葉山は試合を棄権したみたいだがメンタルは大丈夫なのか?」

 

オーフェリアの怒りを直に受けたんだ。人によってはトラウマになるかもしれないし。

 

「あー……実は目が覚めたんだけどトラウマになっちゃったみたいで治療院に通ってるんだ。いろはちゃんヒッキーに怒ってたから気を付けてね」

 

待てコラ。何で俺に怒ってんだよ?元を辿れば葉山が悪いしキレたのはオーフェリアだからな?

 

 

「まあ気をつける。それより小町と戸塚はもうすぐ試合だけど頑張れよ」

 

「あいあいさー。後、暇になったらシルヴィアさん紹介してよ!」

 

「はいはい。鳳凰星武祭終わったら紹介してやるよ」

 

「やったー!」

 

シルヴィアのファンである小町ははしゃぎまくる。ちょっと小町ちゃん?人目を気にしてくれないかな?

 

「ね、ねぇヒッキー。ヒッキーは何でシルヴィアさんの知り合いなの?」

 

由比ヶ浜が制服を引っ張りながら聞いてくる。

 

「ん?いや、前回の王竜星武祭で戦った後、後夜祭で連絡先を交換した」

 

「へ、へぇー。……もしかして彼女だったりするの?」

 

はぁ?シルヴィが?俺の彼女?

 

「由比ヶ浜さん。比企谷君にそんな甲斐性がある訳ないじゃない」

 

おい雪ノ下、それは認めるが俺が言うならともかくお前が言うな。

 

「ないないない。てか俺がシルヴィの彼氏だったら俺はとっくに墓の下だからな?」

 

世界の歌姫であるシルヴィと付き合ってみろ。全世界にいる数億人のシルヴィのファンに狙われるからな。

 

「そ、そっか……」

 

何でいきなりそんな事を聞いてくるんだ?よくわからん奴だ。

 

由比ヶ浜に内心そう突っ込んでいると携帯端末が鳴り出した。

 

「すまん。電話だわ」

 

一言断って空間ウィンドウを開くとオーフェリアが画面に映る。

 

「ひぃっ!」

 

由比ヶ浜は怯えた声を出しバックする。お前な……いくらトラウマがあっても面と向かってそんな声を出すな。

 

「どうしたオーフェリア?」

 

『……大分時間かかってるけど大丈夫?』

 

オーフェリアに指摘されて時計を見るとVIP席を出てから20分以上経っていた。

 

「いやすまん。知り合いと会って話し込んでた」

 

『……ならいいわ。私もシルヴィアも気にしてないからゆっくりでいいわよ』

 

「いや大丈夫だ。もう行く」

 

『……そう。じゃあ』

 

オーフェリアはそう言って電話を切ったので俺も空間ウィンドウを閉じて小町達と向き合う。

 

「という事で悪いが俺は行く。頑張れよ」

 

「あ、うん。ねぇヒッキー。もし総武にいた人が全員本戦に出場したら皆で集まらない?」

 

「あ?俺は鳳凰星武祭に参加してないんだぞ?そんな奴がいて空気悪くするのもアレだし遠慮しとく」

 

「え?そんなの気にしなくていいよ。僕は八幡がいてくれたら嬉しいよ」

 

「よしわかった。日時が決まったら連絡しろ」

 

「切り替え早っ?!ヒッキーどんだけさいちゃんの事好きなの?!」

 

「ぜ、全然好きじゃねぇよ!ちょっと気になっているだけだからな!」

 

「それほぼ好きじゃん!」

 

「はぁ……」

 

雪ノ下は呆れた様にため息を吐いている。バカやってて済まん。

 

内心謝っていると小町と戸塚の携帯端末が鳴り出した。

 

「あ!試合開始30分前だ!そろそろ控え室に戻ってご飯食べないと!」

 

「そうしろそうしろ。遅刻して失格じゃ笑えないぞ」

 

「うん!じゃあ結衣さんと雪乃さんも行きましょう」

 

「ええ」

 

「うん。……あ!ヒッキー、連絡先教えてよ!ヒッキー中学辞めてから連絡取れなくなったし」

 

ああ……そういやアスタリスクに来る時に携帯端末変えたな。だから戸塚とも連絡が取れず、アスタリスクで再会して再び連絡先を交換したな。

 

「飯食ってる時に小町に教えて貰え。小町、任せた」

 

「あいあいさー!」

 

小町がそう言ったのを皮切りに4人は去って行った。さて……俺も昼飯買わないとな。

 

そう思いながら俺は近くにある弁当屋に足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

 

「……見た?」

 

「見たわ」

 

「どう思う?」

 

「明らかに仲が良いだろ!おのれ比企谷八幡!シルヴィアや『孤毒の魔女』だけじゃ飽き足らず更に4人もの女子を手玉にとるとは……!」

 

ルサールカのメンバーであるトゥーリアは怒りに顔を染めて平手に拳を叩きつける。

 

それを見たメンバーで1番常識人であるマフレナはため息を吐く。

 

流れとしてはこうだ。

 

 

①モニカとパイヴィ、比企谷がシルヴィアと夜のデートをしていたと勘違い

 

②ルサールカ、シルヴィアのスキャンダルになり得ると喜ぶ

 

③モニカ、ネットを見て比企谷とオーフェリアが抱き合っている画像を発見して他のメンバーに告げる

 

④ミルシェとトゥーリア、比企谷がシルヴィアとオーフェリアに対して二股をかけていると勘違いして激怒

 

⑤シルヴィアを陥れる作戦は却下して比企谷の調査

 

⑥今現在、マフレナを除いたメンバー全員が比企谷が更に4人の女子に手をかけていると勘違い。

 

⑦マフレナの頭に頭痛が走る

 

……となっている。

 

「よ、よりにもよって六股だとぉ?!あの女の敵め!」

 

ミルシェもトゥーリアと同じように怒りを露わにする。

 

 

(……シルヴィアさんと『孤毒の魔女』はまだしもあの4人は違うと思いますよ。それ以前に2人は妹と男の子ですし)

 

シルヴィアと夜のデート云々は録音データから、オーフェリアとの抱擁についてはネットや学園新聞から事実と思うが、あの4人はただの知り合いだと思う。

 

マフレナはその事を他のメンバーに伝えようとしたがミルシェとトゥーリアの怒りの形相を見て匙を投げた。今までの経験からして話した所で……

 

 

『何だとぉ?!まさかあの男、妹や可愛い男子にも手を出してるのか?!』

 

……と、更に怒りそうだからだ。

 

(ごめんなさい。比企谷さん、ボクには止められないので頑張ってください)

 

マフレナは内心比企谷に謝りながらミルシェとトゥーリアの暴走を見てため息を吐いた。

 

 

 

 

 



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鳳凰星武祭5日目、比企谷八幡は目を付けられる(中編)

 

「あ、おかえり八幡君」

 

VIP席に帰るとシルヴィが手を振りながら迎えてくれた。

 

「おう。サンドイッチはこれで良かったか?」

 

そう言いながらローストビーフとポテトサラダの2種類のサンドイッチを渡す。

 

「うん。ありがとう」

 

「なら良かった。ところでオーフェリアは手洗いか?」

 

「うん。そろそろ……あ、戻ってきたね」

 

シルヴィに言われて後ろを見るとオーフェリアが入ってきてこちらに歩いてくる。

 

「ほいよ。昼飯は海鮮丼で良いか?」

 

「……ええ。ありがとう」

 

オーフェリアは頷きながら差し出す海鮮丼を口にする。さて、今やってる試合が終わればいよいよ小町達の出番か。

 

内心ワクワクしながら海鮮丼を食べているとステージ上のアルルカントのペアがガラードワースのペアを撃破して試合終了のアナウンスが流れる。よし、次か……

 

 

「勝てよ……小町、戸塚」

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だと思うよ?あの2人に勝てるとしたら冒頭の十二人ペアクラスの実力者ペアぐらいかな」

 

それはわかっている。わかっているが不安なんだよシルヴィ。

 

対戦相手は界龍のペア。序列入りはしてないが界龍の生徒は序列入りしてなくても強い奴がゴロゴロいる。

 

俺が見守る中、遂に次の試合が始まる。

 

『さぁーて、続いて第八試合、まずご紹介しますのは一回戦を1分以内に勝利した星導館の比企谷小町、戸塚彩加ペア!』

 

『一回戦は2人の巧みなコンビネーションだったッスけど二回戦はどうなりッスかねー』

 

解説の声が響く中ステージを見ると既にステージには4人揃っている。界龍のペアは両方とも女子で片方は槍型煌式武装を、もう片方は素手だ。

 

界龍は徒手における高度な戦闘技術が有名で、星辰力を直接攻撃力に転換する事が出来る唯一の方法であり、体術と組み合わせると近接戦闘では有利になる。

 

4人の中で緊張感が走る中……

 

 

『鳳凰星武祭Aブロック二回戦八組、試合開始!』

 

試合開始の宣言がされる。

 

それと同時に界龍のペアは2人して戸塚を攻める。どうやら援護に特化した戸塚を潰す算段のようだ。

 

『群がってーーー盾の軍勢』

 

戸塚の前方に盾が現れて100個以上に分割されて対戦相手に向かって飛んでいく。

 

 

対して対戦相手の2人は煌式武装と槍の先端に星辰力を込めて盾を弾きながら前進する。戸塚の技は初見ならビビるかもしれないが見た事があるならビビらないだろう。2人とも特に盾とぶつかる事なく前進している。

 

当然、現在フリーになっている小町は何もしない訳がない。小町は腰のホルスターから二挺のハンドガン型煌式武装を取り出して発砲する。狙いは槍型煌式武装を持っている方の女子だ。

 

槍持ちの女子は槍を回転して小町が放った光弾を弾く。しかし小町は特に戸惑う事なく撃ちまくる。

 

『戸塚さん!そっちは任せます!』

 

『うん!』

 

小町が槍持ちを狙い、戸塚が素手の方の足止めをするようだ。

 

槍という小回りが利きにくい武器を使っているためか、槍持ちの女子は小町の攻撃を凌ぐ事が精一杯で反撃に転ずる事が出来ていない。これなら時間が経てば小町が勝つだろう。

 

だから戸塚の仕事は1秒でも長く素手の方を足止めする事だ。

 

戸塚の方を見ると、戸塚は手を振って盾をガンガン飛ばし、女子はそれを弾いたり砕きながらガンガン前進する。

 

状況から見て戸塚が不利だ。戸塚は1つ1つの盾に毎回指示を出しているから精神的にも負担が大きい。

 

対する女子は大分見切ったのか顔や足、校章に当たりそうな盾だけ弾いて、多少のダメージを無視して突っ込んでいる。

 

戸塚はそれを確認すると再び前方に巨大な盾を出す。どうやら再び分割させて撃ち込むのだろう。

 

すると女子の手に大量の星辰力が見える。どうやら盾が分割される前に破壊する算段だろう。

 

『はぁっ!』

 

掛け声と同時に女子の拳が戸塚の盾とぶつかる。

 

その後軋むような音がすると思ったら巨大な盾がひび割れて崩壊する。流石界龍の体術はレベルが高いな。

 

しかし……戸塚の方が一枚上だ。

 

戸塚は女子の拳が盾に当たる直前に懐から待機状態の煌式武装を出して手に持つ。

 

するとマナダイトに記憶させてある元素パターンが再構築されて戸塚の手に銃が持たれる。

 

それと同時に戸塚は稼働状態となった銃を構え敵に向ける。稼働状態になってからの狙いの定め方は割と早い。どうやら俺との訓練以外でしっかりと練習していたのだろう。

 

俺が感心している中、素手の女子は目を見開いて下がろうとするがもう遅い。戸塚は引金を引く。

 

すると銃口から50近くの光弾が広範囲に放たれて女子の体を蹂躙する。

 

『ぐはぁっ!』

 

女子らしからぬ呻き声をあげながら吹っ飛ぶ。体を見ると胸に付いてある校章は砕け散った。

 

『おおっと!戸塚選手の散弾が炸裂!これで2対1だぁ!!』

 

『散弾型煌式武装ってチョイスが良いッスね。散弾は威力は高いが射程が短いのが欠点。しかし戸塚選手の能力と組み合わせれば散弾の利点を最大限に発揮できるッス』

 

そう。散弾型煌式武装は射程が短いのが欠点だ。しかし戸塚の盾の能力があれば別だ。

 

戸塚の盾が相手を足止めできたらそれで良し、盾で足止めが無理なら近寄ってきた相手を散弾で迎撃すればいい。2つの戦法が対になっているのが戸塚の強みだ。

 

戸塚は撃破を確認すると散弾型煌式武装を構えたまま槍型煌式武装を持っている女子に近寄る。

 

それを確認した女子は引き攣った表情を見せてくる。まあ今小町の銃撃に押されていて戸塚に対処出来ない状態だしな。

 

小町はそれを理解したのか対戦相手の校章と頭を狙いガンガン発砲する。防御しなくてはいけない場所を徹底的に攻められてはたまったものではないからな。

 

女子は慌ててそれを弾く。しかし無理に防御したので体勢が崩れる。それでは小町の銃撃を凌ぐ事が出来ても戸塚の散弾は凌げない。

 

戸塚は好機を逃さず散弾の引金を引く。

 

銃口から放たれた大量の光弾が再度対戦相手を蹂躙する。当たりどころが悪かったのか吹っ飛んだ女子はそのまま地面に倒れこんで起き上がる気配を見せない。どうやら意識消失したようだ。

 

 

「試合終了!勝者、比企谷小町&戸塚彩加!」

 

機械音声が会場に響くと観客席からは歓声が鳴り響く。

 

『な、なんとぉ!一回戦同様一方的な展開です!今回は戸塚選手が果敢に攻めていました!』

 

『両選手も攻め方が激しいッスね。場合によっては格上も食えるかもしれない勢いには期待ッス』

 

そんな実況の話を聞いている中、2人は退場して行った。良かった良かった。

 

「八幡君。ガッツポーズするなんてよっぽど嬉しいんだね」

 

横からシルヴィにそう指摘されたので見てみると確かにガッツポーズをしていた。無意識って恐ろしいな。

 

「まあ嬉しいな」

 

「これなら3回戦も大丈夫だね」

 

シルヴィの言う通り、3回戦に当たる相手はそこまで強くないから余程の事がない限り勝つな。まあ冒頭の十二人が予選で負けるなんて……

 

(いや、モーリッツの奴はアルルカントの擬形体の当て馬になってボコボコにされてたな)

 

哀れモーリッツ。まああの擬形体を倒せるペアは殆どいないだろう。アルディの防護障壁はクソ硬いし、リムシィに至っては殆ど手の内を見せていない。

 

何せアルディに防護障壁があるんだ。リムシィもそれなりに凄い武器を持っているだろう。それ次第では優勝する事も可能だろう。

 

閑話休題………

 

まあとりあえず小町が予選敗退はないだろうから良しとしよう。そんな事を考えているとシルヴィが欠伸をしているのが見えた。

 

「シルヴィ……お前昨日もお忍びで動いたのか?」

 

「ん?いや昨日あんまり眠れなくてね」

 

何だ。てっきり深夜遅くまで再開発エリアでウルスラを探してるかと思ったが、単に眠れなかっただけなら良かった。

 

「眠いなら無理しないで寝ろ。試合が終わったら起こすぞ」

 

「大丈夫。折角試合を見に来たんだし勿体無いよ」

 

「そうか。ならいいが」

 

「ありがとう。でも、もし眠くなったら八幡君の膝を借りていいかな?」

 

は?膝を借りていいかなだと?

 

「ばっ!し、シルヴィ……」

 

「……絶対ダメ」

 

俺がテンパっているとオーフェリアがどす黒いオーラを出してきて怖いんですけど?

 

「あははっ。ごめんごめん。それより次の試合始まるよ」

 

当のシルヴィは笑いながらステージを指し示してくる。……うん、やっぱりシルヴィには勝てる気がしないな。

 

俺は苦笑しながらシルヴィと同じようにステージを見ると、ステージには既に4人が出揃っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2時間後……

 

「あー、楽しかった」

 

シルヴィは満足そうな表情で伸びをする。

 

今日やる二回戦の試合は全て終わった。特に注目されていたのはイレーネのペアとマクフェイルのペアの試合だろう。何せ予選で唯一冒頭の十二人がいるペア同士の試合だったし。

 

試合は中盤まではある程度互角だったが、イレーネがプリシラから血を貰ってからはイレーネ達が有利に試合を運び勝利した。やっぱりプリシラの力はあの純星煌式武装と相性が良いな。

 

そんな事を考えながら俺達は帰る為シリウスドームを出てのんびりと歩いている。

 

「まあ楽しめたな。三回戦は明後日か……」

 

「あ、それなんだけど、私三回戦と本戦の一回戦は仕事あるから2人で見て」

 

「……わかったわ」

 

「はいよ。仕事頑張れよ」

 

「うんありがとう。私はここで、またね」

 

そう言ってシルヴィはクインヴェールの方へ向かう電車がある駅に向かって去って行った。

 

「俺達も帰ろうぜ」

 

「……ええ」

 

オーフェリアも頷いたので俺達もレヴォルフの方へ向かう電車がある駅に向かって歩こうとした時だった。

 

「……オーフェリア」

 

「ええ。尾行されてるわね」

 

少し後ろから複数の人の気配がする。それは明らかに俺達を見ている。

 

「……八幡に心当たりは?」

 

「心当たりはないが、昼に同じような気配を感じた」

 

「それって昼食を買いに行った時?」

 

「ああ。まあ仕掛けてくる気配はないし放っておいても大丈夫だろ」

 

仮に仕掛けてきても万有天羅とかじゃないなら返り討ちに出来る自信があるし。

 

「……そう。まあ実害がないなら放っておいてもいいと思うわ」

 

つまり実害があるなら容赦なく叩き潰すって事ですか?オーフェリアさん、それは勘弁してください。以前葉山にブチ切れた時みたいになったら俺の胃が崩壊しますからね?

 

内心オーフェリアに突っ込みながら駅に入って電車に乗った。

 

電車に乗っても尾行されているようで不吉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱりまだ気配を感じるわ」

 

オーフェリアはそう言う。それについては俺も知っている。

 

あれから20分、レヴォルフの近くの駅に着いてオーフェリアを寮まで送っているが未だに尾行されている。初めは潰そうか考えたが街中で暴れると面倒なので止めた。

 

結果、実害がないので放置する事にした。ただし実害があったらオーフェリアが叩き潰す事になった。

 

 

そんなこんなで尾行に気付かない振りをしながら歩いているとオーフェリアの寮に着いた。

 

「じゃあオーフェリア、またな」

 

そう言って俺は背を向けて自分の寮に帰ろうとする。

 

すると制服の裾を掴まれたので振り向くとオーフェリアが俯きながら制服の裾を摘んでいた。

 

(……あー、いつものアレな)

 

この瞬間、俺は次にオーフェリアが言ってくる事を即座に理解した。

 

「……いつものアレだな?」

 

俺が尋ねるとオーフェリアはコクンと頷く。はいはいやりますよ。幸いオーフェリアの寮は人が少ない場所にあるから問題ないし。

 

俺は息を吐いてオーフェリアを優しく抱き寄せてオーフェリアの背中に手を回す。

 

「……んっ」

 

するとオーフェリアも俺の背中に手を回して胸に顔を埋めてくる。

 

(……っ。いくらオーフェリアに温もりを与える為とはいえ……恥ずかしいな)

 

オーフェリアは世間からは恐怖の対象として扱われているが、いつも一緒にいる俺からしたら戦闘以外では怖くない。寧ろかなり可愛い。

 

そんな女子を抱きしめるって……これは慣れる気がしないな。

 

そんな事をオーフェリアが胸元でしてくる頭スリスリに悶えながら考えている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわわっ!」

 

横から叫び声と物音がした。

 

俺は咄嗟にオーフェリアとの抱擁をといて横を見ると右側に見えるコンビニの裏から人影が2つ現れた。

 

「ちょっとトゥーリア!押さないでよ!」

 

「わ、悪ぃ!……って、ヤバ!気付かれたぞ!」

 

「嘘ぉ?!」

 

そう言って叫んでいるのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ルサールカのトゥーリアとモニカ?」

 

クインヴェールが誇るガールズロックバンド、ルサールカのトゥーリアとモニカが倒れこんでいた。

 

何でこいつらがここに?てかさっきから尾行してたのはこいつらか?

 

疑問に思っているとトゥーリアが叫ぶ。

 

「バレちまったもんは仕方ねぇ!お前らも出て来い!」

 

すると左側のマンションから残りのメンバーであるミルシェとパイヴィとマフレナも出てきた。何で世界が誇るガールズロックバンドのメンバーが全員こんな所にいるんだよ?こいつら暇人なのか?

 

「何でお前らがここにいるかは後で聞くが……用があるのは俺とオーフェリア、どっちだ?」

 

まあ多分俺だけど。以前シルヴィと遊びに行った時にスキャンダルを狙ってたし。その事からシルヴィに関する事だろう。

 

 

内心ため息を吐いているとルサールカのリーダーであるミルシェが俺の前に立ち口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「用があるのはあんたよ、比企谷八幡!あんたが六股をかけている事について説明してちょーだい!!」

 

 

…………は?

 

え、ちょっと待って。六股?いきなりどうした?六股どころか彼女1人すらいないからな?

 

何でルサールカは俺に向けて鋭い視線を向けてくるんだ?訳がわからん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………八幡。六股ってどういう事?」

 

そして何でオーフェリアは俺にどす黒いオーラを向けてくるんだ?訳がわからん。

 

 

 

これぞまさに前門のルサールカ、後門のオーフェリアだ。

 

 

 

 

………あれ?前門はともかく、後門はヤバくね?

 

てか俺生きて帰れるの?

 

 

 



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鳳凰星武祭5日目、比企谷八幡は目を付けられる(後編)

マジでどうなっているんだ?俺、比企谷八幡は困惑と恐怖の感情を抱いている。

 

前方には怒りのオーラを纏っているガールズロックバンドのルサールカが、後方には言葉では表現しにくいどす黒いオーラを纏っているオーフェリアがいる。

 

マジで怖い。特にオーフェリア。何でお前がキレてるの?

 

てか六股って何だよ?マジで理解できない。

 

(……とりあえず先ずはルサールカからだな)

 

そう判断してオーフェリアのどす黒いオーラに耐えながらルサールカと向き合う。

 

「先ず初めに聞くが六股って何だよ?訳がわからんぞ」

 

俺がそう尋ねるとトゥーリアが怒りの表情を向けてくる。

 

「とぼけんじゃねぇ。お前がシルヴィアや『孤毒の魔女』を始め6人の女を誑かしてやがるんだろ?!」

 

「待て。シルヴィを誑かした記憶はない」

 

つーかシルヴィを誑かす事って無理だと思うぞ?あいつも色々汚い世界を見てるし。

 

俺がそう返すとパイヴィが携帯端末を出してくる。

 

「あら?ネタはあがっているのよ。これを聞いても誑かした記憶はないって言えるかしら?」

 

そう言ってパイヴィは空間ウィンドウを開く。真っ暗であるという事から音声データか?

 

 

そんな事をぼんやり考えていたが音声データを聞いた瞬間、思考がぶっ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まあ俺は歓楽街でよく遊んでるし見つかったら連絡する』

 

『ありがとう。じゃあまた夜のデートをしようね』

 

 

空間ウィンドウからは俺とシルヴィの声が流れる。それは鳳凰星武祭初日、俺とシルヴィがクインヴェールの校門で別れる際に交わした言葉だった。

 

(……聞かれてたのかよ!よりによってこいつらに!)

 

呆気にとられているとモニカが更に詰め寄り指を突き出してくる。

 

「私も同じデータ持ってるから!あんた、シルヴィアを歓楽街に連れてっていかがわしい事したんでしょ!」

 

…….最悪だ。よりによって歓楽街の所も聞かれてたのかよ?

 

「……八幡」

 

後ろではオーフェリアが更にどす黒いオーラを噴き出している。ヤバい、後ろを向けない。向いた瞬間、喉笛を搔っ切られそうだ。

 

しかし音声だけ聞いたらそう捉えられても仕方ない。オーフェリアについても抱き合っている所は見られた。

 

それについては事実であるから否定はしない。だから事情を知らないルサールカから二股野郎と責められるならそれを甘んじて受けよう。

 

しかし……

 

「……シルヴィと歓楽街にいたのは事実だ」

 

「やっぱりお前「だが歓楽街にいた目的はいかがわしい事をする為じゃない」じゃあ何であんな場所にいたんだよ?!」

 

トゥーリアの言葉に被せて反論すると更に問い詰められる。

 

「それについては話すつもりはない」

 

シルヴィの目的について許可なく話すのはシルヴィのプライバシーの侵害になる。それこそ何と謗られようと勝手に話す訳にはいかない。

 

まあこんな説明でこいつらが納得できるとは思えないが。

 

「そんなんで納得できるわけないじゃん!」

 

案の定ミルシェは噛み付いてくる。

 

「別にお前らが納得しようがしまいが関係ない。お前らが何と言おうと話すつもりはない。それでも尚、シルヴィの事について問い詰めるなら……」

 

俺が息を吐きながら星辰力を込める。

 

 

 

 

 

 

瞬間、ルサールカの5人の首元に影の刃を突きつける。

 

「ここでお前らを叩き潰す事になるがいいか?」

 

殺気を出して5人を見据える。シルヴィのプライバシーについては教えるつもりもない。今は軽く脅しただけだが、それでも諦めないなら力づくで諦めさせる。

 

対して5人は怯えた表情を見せるがミルシェとトゥーリアは直ぐに打ち消して戦意を滾らせてくる。

 

「上等!5対1で勝てると思ってんの?」

 

「やってやろうじゃん!力づくで聞き出してやるぜ!」

 

そう言ってギター型純星煌式武装『ライアポラス=カリオペア』と『ライアポラス=ポリムニア』を稼働状態にする。

 

交渉は決裂のようだ。ならこちらも容赦しない。

 

再度星辰力を込めて新しく技を発動しようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと落ち着いてください!星武祭中に街中での決闘は厳禁です。警備隊だけじゃなくてマネージャーにも怒られますよ!」

 

マフレナが慌ててそう注意してくる。

 

するとミルシェとトゥーリアは青い顔をしながら動きを止める。前にシルヴィからシルヴィとルサールカのマネージャーは怖いと聞いていたが本当に怖いようだ。

 

そんな事を考えているとマフレナが1番前に出てきて頭を下げてくる。

 

「あの……先に尾行をしたのはこちらですし、しつこく問い詰めたのはすみません。でも街中で暴れたりしたら比企谷さんも咎められると思うので矛を収めてくれませんか?」

 

そう言われて俺は大分気が削がれた。どうやらこいつは話が通じるようだ。

 

「……いや、こっちも脅すような真似をして悪かった」

 

そう言って影の刃を地面に戻す。

 

それを見て安堵の息を吐くマフレナに話しかける。

 

「悪いがシルヴィの話についてはあいつのプライバシーの問題があるから話すつもりはない。それとこっちから聞きたいが、何で俺が六股をかけているって事になってんだ?」

 

シルヴィとオーフェリアについては百歩譲って二股野郎と責められても構わない。しかし六股については心当たりが一切ない。何を以って六股かけてる事になったんだ?

 

俺がそう聞くとマフレナが苦い顔をする。何でそんな顔をしてんだ?

 

疑問に思っていると……

 

 

「しらばっくれんじゃねー!今日の昼にうちの生徒2人と星導館の生徒2人、計4人の女の子と仲良くしてたじゃねーか!」

 

あん?クインヴェールの生徒と星導館の生徒……それって、小町と戸塚と雪ノ下と由比ヶ浜の事か?!

 

 

 

 

 

 

 

完全に誤解してんじゃねぇか!話してただけで仲が良いなら世界中はカップルで埋め尽くされるからな?

 

「………八幡のバカ」

 

つーかオーフェリア、そう言って背中を抓るのは止めてくれ。痛い、痛いからね?

 

「待て。勘違いしてるからな?つーか星導館の2人は妹と男だぞ?」

 

俺がそう返すとマフレナ以外の4人は騒めきだす。その事からルサールカのメンバーはマフレナだけが常識人である事がわかる。

 

暫くするとミルシェが口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だとぉっ?!つまり妹と男の娘にも手を出しているのか?!」

 

……呆れて物も言えん。もう嫌だ……

 

俺が内心嘆いている中、トゥーリアとモニカが詰め寄ってくる。

 

「お前ぇ!よりによって血の繋がった妹にも手を出したのか?!このど変態!」

 

「色魔!漁食家!色情狂!」

 

もう限界だ。

 

俺は息を吐いて自分の影に星辰力を込める。

 

すると自身の影が大きくなりマフレナ以外の足元に広がった。マフレナ以外のメンバーは驚きの表情を浮かべる。

 

それを無視して口を開ける。

 

 

 

「呑めーー影の禁獄」

 

俺がそう呟くと影がマフレナ以外の4人に纏わりつき真っ黒な立方体となる。

 

「え?!ひ、比企谷さん?!」

 

「安心しろ。これは人を封印する技だ。どんな人間でも5分は出れない」

 

俺が使う技の中で3つある切り札のうちの一角を司る技だ。影の中に星辰力を凝縮させて相手を閉じ込める封印技だ。5分間だけはオーフェリアだろうと破れない技だ。

 

まあ攻撃力は一切無いし、封印状態の敵に干渉出来ないから使用する機会が極端に少ないけど。

 

「悪いが1番マトモなお前以外は暫く黙って貰った。んじゃ誤解を解かせて貰うぞ」

 

「あ、いえ。ボクは比企谷さんが六股をかけているとは思っていませんよ。星導館の2人は妹さんと男子であるのは知っていましたし、うちの生徒と話していましたが恋仲であるとは思いませんでした」

 

……ヤバい。さっきまでバカ共と話していた所為か凄く嬉しく感じてしまう。マトモってこんなに素晴らしいんだな……

 

「……でも二股については良くわからないんです。そこだけを説明して貰えれば他の皆も安心出来ると思うのですけど」

 

そう言って4つの立方体を見る。

 

まあ確かにな……こいつはともかく、他の4人にはある程度説明しないと怠い事になりそうだから説明するか。

 

「先ず、シルヴィの事についてだが、繁華街の比較的マトモな場所……外部からの客も来るような場所で偶然会って買い物に付き合わされたんだ」

 

もちろん嘘だ。ウルスラについては説明出来る事じゃない。しかしマフレナなら信じてくれるだろう。

 

「つまり、デートとは恋人同士の交流ではなく友人同士の交流なんですか?」

 

「ああ。そんでオーフェリアについてだが……」

 

説明しようとしたが口を噤んでしまう。あれ?どう説明しよう?

 

恋人同士でないのに毎日抱き合ってるって端から見たら問題ありまくりじゃん。こればっかりはヤバいな……

 

 

返答に悩んでいると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私が八幡に頼んでいるの」

 

オーフェリアは俺の横に立ってそう言ってくる。見るとさっきまで纏っていたどす黒いオーラは消えている。どうやらオーフェリアの誤解は解けたようだ。良かった良かった。

 

「え……そうなんですか?」

 

「……ええ。私が頼んでるからしてるだけで、八幡が自発的に私を抱きしめた事はないわ」

 

「つまり比企谷さんと付き合ってないんですか?」

 

「ええ。私と八幡はまだ恋人じゃないわ」

 

オーフェリアがそう言うとマフレナは少し考えるような素振りを見せてから頷く。

 

「わかりました。この封印が解けたら説明しておきます。今日はご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 

そう言って頭を下げてくる。そんな事をされちゃ怒るに怒れない。

 

「いや、別に構わない。だが、それでこいつらが納得するか?」

 

正直言ってするとは思えない。間違いなく再度突撃してきそうだ。

 

「正直厳しいと思いますが何とか納得させてみます」

 

「そうか。悪いな」

 

「いえ。先に誤解をしたのはこちらですから。それよりそろそろ5分経つので離れた方がいいかと」

 

「いいのか?」

 

「むしろ離れてください。ここに当事者がいたら絶対に納得しないので」

 

うん、まあ……そうだな。

 

そんな事を考えていると立方体の形が崩れ始める。ヤバい!封印が解け始めた。急いで逃げないと。

 

そう思っているとオーフェリアが制服の裾を引っ張ってくる。

 

「……とりあえず私の寮に入って」

 

そう言って引っ張りながら歩き出す。まあ後10秒もしないで4人が出てくるからな。その案に乗らせて貰おう。

 

俺はマフレナに目で謝罪しながらオーフェリアの寮に入る。

 

 

 

 

 

 

 

部屋の中に入る直前、『あ、逃げられた!』『ちくしょー!』って声が聞こえてきた。正に間一髪だったな。

 

 

俺は玄関で安堵の息を吐く。

 

「すまんオーフェリア」

 

「……別にいいわ。それより時間が時間だしご飯食べていく?」

 

「……ああ。頼む」

 

普段の俺なら女子の部屋で食うのは忌避するが、精神的に疲れ果てたのでオーフェリアの誘いを受けてしまった。

 

「……わかったわ。じゃあ上がって」

 

オーフェリアがそう言ってリビングに歩き出したので俺もそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時の俺はまだ知らなかった。

 

オーフェリアの家に泊まり、あんな事が起こるという事を



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比企谷八幡はオーフェリア・ランドルーフェンと……(前編)

表からは騒ぎ声が聞こえる。

 

内容は聞き取れないがルサールカが未だ俺を探しているのだろう。オーフェリアにはマジで感謝だ。匿ってくれた上に飯まで用意してくれるとは。

 

俺は今、オーフェリアの寮のリビングの椅子に座って、今日シリウスドーム以外の場所で行われた試合を見ている。

 

特に見入ったのは星導館の刀藤と沙々宮ペアと界龍の双子が出ている2試合が良かった。前者は流れるような攻撃と圧倒的な破壊力をもつ銃型煌式武装、後者は星仙術と双子特有の巧みな攻めが面白かった。

 

明後日から予選最後の三回戦、どうなる事やら……

 

 

のんびりと三回戦の有力ペア同士の試合の賭けのオッズを見ていると……

 

 

「……お待たせ」

 

エプロンをつけているオーフェリアが俺の前に料理を置いてくる。見ると米に味噌汁、鮭の切り身に卵焼きと純和食が並ぶ。オーフェリアの奴、和食も出来るのかよ。正直予想できなかった。つーか、前に飯食いに行った時にも思ったがエプロン姿のオーフェリア可愛いな。

 

そんな事を考えていると……

 

「ん?」

 

オーフェリアは俺の料理の横に同じように料理を置く。え?何でそこに置いてんの?

 

疑問に思ったが直ぐに解消した。……ある意味したくなかったが。

 

 

「……んっ」

 

オーフェリアは全ての料理を運び終えると俺の隣に座ってきた。そして身長に差があるので俺の肩にオーフェリアの髪が触れる。

 

「……お、オーフェリア?」

 

いきなりの行動に変な声を出してしまう。以前飯をご馳走になった時は俺の隣ではなくて向かい側に座っていた筈だ。

 

しかし今回はメチャクチャ近い。試合を見に行った時と同じくらい近い。しかも今回はオーフェリアの寮って場所なので試合会場より遥かに緊張するんだが。

 

「……何?」

 

オーフェリアは自分は変な事をしていないと言うような不思議そうな表情をしている。

 

「……いや、そのだな……近いって」

 

女の子の部屋でくっつくなんて刺激が強過ぎるからな。マジで勘弁してくれ。

 

「……嫌だった?」

 

「……は?」

 

オーフェリアを見るとシュンとした表情を見せてくる。俺自身特に悪い事をしていないのに凄く罪悪感を感じてしまう。何だか申し訳ない。

 

「私は八幡の隣にいたかったけど……八幡が嫌なら離れるわ」

 

……こいつは本当にズルい奴だな。狙ってやっているとは思えないが、そんな言い方をされたら嫌とは言えない。

 

オーフェリアの過去を知っている俺からすれば、こいつの望みは出来るだけ叶えてやりたい。

 

そしてこいつの望みは俺が恥じらいを捨てれば簡単に叶う願いばかりだ。

 

だったら恥じらいを捨てるしかない。

 

「……お前の好きにしろ」

 

「いいの?本当に嫌ならいいのよ?」

 

「嫌じゃねぇよ。だから気にするな」

 

「……ありがとう」

 

オーフェリアはそう言って横にすり寄ってくる。嫌じゃないが……やっぱり恥ずかしいな。

 

まあ……いいか。

 

「んじゃ……いただきます」

 

俺が手を合わせるとオーフェリアも俺の行動を真似て手を合わせて挨拶をする。

 

「……いただきます」

 

そう言って味噌汁を一口飲む。

 

「……美味いな」

 

温かくて飲むと良い気分になる。俺も自炊はするが味噌汁みたいな家庭的な物は余り作らないから、中学時代に家で小町がつくった味噌汁を思い出してしまう。

 

「……そう?八幡にそう言って貰えると嬉しいわ」

 

オーフェリアは頬を染めながら目を逸らす。会った頃に比べて大分感情豊かになっていてこっちも顔が熱くなってくる。

 

「あ、ああ……」

 

俺も照れくさくなりオーフェリアから視線を逸らし自分の頬の熱さから逃げるように飯にがっつく。

 

「……ねえ。八幡は家に帰ったらどうするの?」

 

暫くの間飯をがっついているとオーフェリアが話しかけてくる。顔を見る限りいつもの表情になっていた。

 

俺も俺自身を確認してみるとさっきまであった顔の熱も大分冷めたのを理解したので口を開ける。

 

「まあ多分、鳳凰星武祭の試合を見るか夏休みの宿題をやるかのどっちかだな。多分後者を優先するけど」

 

予選の有力試合は本戦が始まる前日に1日休養日があるのでその時に見ればいいしな。それより宿題だ。何せ数学だけは全く手をつけてないし。

 

「……もし数学をするなら期末試験の時みたいに教える?」

 

オーフェリアがそう言ってくる。

 

「え?いいのか?」

 

期末試験の時、俺は数学がヤバイのでオーフェリアに教えを請うた。そしたら予想以上に分かり易く期末試験では5割を超えた。これはレヴォルフに来て以降最高の点数だった。あの時俺はオーフェリアを神と勘違いして崇めかけたくらいだったし。

 

「……いいわよ。私も八幡と過ごせるから」

 

「そうか。じゃあ頼む」

 

オーフェリアの後半の発言についてはスルーする。オーフェリアは結構恥じらいなく色々な事を言うから真に受け過ぎると精神が保たない。

 

「……ええ。わかったわ」

 

オーフェリアは1つ頷いて食事を再開するので俺もそれに続く。それにしてもオーフェリアに宿題を手伝って貰えるなんてありがたいな。これを機に沢山やって夏休み後半は遊び倒してやる。

 

そんな事を考えながら俺もオーフェリアに続いて食事を再開する。食事中に話す事は殆どなかったがこの時間は安らぎを感じて気分が良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃあ始めましょう」

 

食事をしてから30分……

 

食後のコーヒーを飲んで一休みをしたので宿題の時間だ。

 

俺は空間ウィンドウを開いて数学のファイルを開く。そしてそれを視認すると同時に頭痛が走る。

 

「……頭痛くなってきた。もう帰りたい」

 

「……だめ。わからない所は教えるから頑張って」

 

現実逃避気味に空間ウィンドウから目を逸らすとオーフェリアが両手で俺の頬を掴んで元の位置に戻す。

 

「……でもなぁ……いや、頑張ります」

 

せっかくオーフェリアがわざわざ時間を割いて教えてくれるんだ。こちらもしっかりやらないとオーフェリアに悪いしやるか。

 

「……そう。じゃあ1問目から……」

 

オーフェリアがそう言って空間ウィンドウを指差してくるので俺は問題を解き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして……

 

「……これでどうだ?」

 

俺はオーフェリアにやれと言われた10問を解いてオーフェリアに見せる。現在の俺は疲労困憊となっている。

 

只でさえ数学は苦手な上、オーフェリアが容赦ない。教え方はメチャクチャ上手いがかなり厳しい。何せ間違えまくると冷たい視線で見てくるし。あの視線浴びまくると一時的に変な扉が開いて一瞬、踏んで欲しいと思ってしまうくらいだし。

 

オーフェリアはそれを受け取り暫くガン見してから顔を上げる。そして俺にほんの少しの、それでありながら優しい笑顔を見せてくる。

 

「……10問中8問正解。良く頑張ったわね」

 

そう言ってギュッと抱きしめてくる。いつもと違って俺に確認を取らず抱きついてくる。

 

しかし俺はそれを拒絶しないでオーフェリアからの抱擁を受ける。疲れ切っている俺は凄く安らぎを感じて離れる事が出来ない。

 

「……少し休みましょう。3時間続けたのは私が悪かったわ」

 

オーフェリアにそう言われたので時計を見ると夜11時前だった。マジか。予想以上に頑張ったな俺。

 

そう思うと途端に睡魔がやって来た。

 

今日会ったイベントは鳳凰星武祭の観戦、ルサールカによる尋問、嫌いな数学を3時間勉強の3つだ。

 

それら3つの要素によって俺の精神は限界にきたようだ。

 

 

 

 

「………八幡?」

 

オーフェリアの不思議そうな声を最後に俺は意識を手放した。最後に感じたオーフェリアの抱擁に対して安らぎを感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………んっ、んんっ」

 

身体に衝撃が走ったような気がしたので目を開ける。

 

するとそこは真っ暗だった。外を見ると夜の帳が下りていて真っ暗だった。

 

(……あれ?俺は確か……)

 

寝る前の記憶が全くない。マジで何があったんだっけ?

 

思い出そうとすると新しい事に気付く。

 

「つーかここどこだ?知らない天井だし」

 

暗くてよく見えないが今、俺が寝ている部屋は俺の借りている寮の寝室じゃない。家具の配置が違うし窓の場所も違う。うちの寮の窓はベッドの横にあるがこの部屋には本棚の横にあるし。

 

とりあえず今いる場所を調べる為起き上がろうとするが身体に重みがかかり動けない。それを感じたからか俺の眠気は完全に覚めた。

 

何だ?何かが俺の身体にひっついているみたいだが……

 

疑問に思いながら俺はかけられている布団を引き剥がすと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………八幡」

 

何とそこにはオーフェリアが眠っていて俺の身体に抱きついていた。

 

 

……え?何でオーフェリアがここにいるの?

 

そう思うと俺は漸く思い出した。そうだ、俺は数学をやっていたら精神的に限界が来てダウンしたんだ。

 

それで俺は寝落ちしたのか?でも何で同じベッドで寝てんだ?

 

疑問に思っていると俺は新しい事実に気が付いた。否、気が付いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の身体にはバスタオルが巻いてあるが、その下は上半身裸でパンツ一枚しか身に纏っていなかった。

 

 

それを認識した俺はある考えに至ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もしかして俺、オーフェリアと大人の階段を上ったの?」

 

 



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比企谷八幡はオーフェリア・ランドルーフェンと……(後編)

 

 

 

どんな時でも冷静であるべき。

 

それは正しい事だと思う。感情を露わにして冷静さを失うのはあらゆる事においてもするべきではない。そうすると本来の力を失い普段なら出来る事も出来なくなるかもしれないからだ。

 

そう言った事もあるので俺は常に冷静である事を心がけるつもりだ。

 

しかし今の俺にはそれが無理だと断言出来る。

 

何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………八幡」

 

今現在、俺はオーフェリアの寮の寝室と思える場所で、パンツ一枚とバスタオルしか体に纏っていない状態でオーフェリアに抱きつかれているからだ。

 

女の子の寝室で殆ど裸の状態で女の子と抱き合っている。しかも俺は寝る前の記憶が全くない。

 

これで冷静にいられる男は絶対にいないだろう。いたとしたらそいつはホモだ。俺はホモじゃないから冷静でいられない。

 

(……いやいやいや。マジでどうなってんの?疲れ果てて寝落ちしたぐらいしかわかんねぇ。その後に何があって俺はこんな状態になってんだ?)

 

とにかく冷静になろうとするが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んんっ、八幡……もっと……」

 

俺に抱きついているオーフェリアが更に強く抱きついてくる。それに背中に回されている手が動きバスタオルがはだけて、上半身は半分裸になってしまう。

 

(ヤバいヤバいヤバい!これはガチでヤバい。パジャマ越しとはいえオーフェリアの胸が俺の胸板に当たってヤバい)

 

つーかメチャクチャ柔らかい感触が胸板に当たって気持ち良い。これが朝まで続いたら間違いなく狂いだし……ん?

 

オーフェリアの抱擁を受けているとある事に気が付いた。

 

(……パジャマ越し?という事は……オーフェリアは服を着ているのか?)

 

そう思った俺はオーフェリアを見ると暗闇でもパジャマを着ているのがわかった。しかも俺達の周囲からは特に変な感じの匂いがしない。

 

その事から……

 

(……オーフェリアと情事に耽っていないって事か?)

 

起きた時はパニックになっていたからオーフェリアと大人の階段を上ったのかと思ったが、冷静になって考えてみると状況から判断するにオーフェリアと大人の階段は上ってないようだ。

 

とりあえずそれなら良かった。意識もない状態で大人の階段を上るなんて真っ平御免だ。

 

安堵の息を吐いている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んっ……八幡……気持ち良いわ……」

 

オーフェリアがそんな寝言を言ったかと思ったら、頭を俺の首の方に近寄らせて舌を出して俺の首筋を舐めてきた。

 

それにより俺はビクンと反応してしまう。ちょっと?!オーフェリアさん?!それはマジでヤバいって!てかどんな夢を見てんだよ?!

 

「オーフェリア!頼むから起きろ!」

 

寝ているオーフェリアには悪いがこれ以上は俺のリミッターが解除されそうなので起こす事にした。流石にこの歳でムショに入るのは絶対に嫌だ。

 

「んっ……んんっ……」

 

俺がオーフェリアを揺らすとオーフェリアの瞼が開く。

 

「……んっ、八幡?」

 

オーフェリアは目を擦りながら俺を見てくる。そして暫く俺を見て意識がはっきりしたようで抱擁をといてきた。

 

オーフェリアの顔を見ると月の光で殆ど見えないにもかかわらず頬が染まっているのがわかった。それを見た俺はこんな時にもかかわらず胸が熱くなるのを感じた。

 

「……す、すまんオーフェリア」

 

特に理由はないがつい謝ってしまう。何をやってんだ俺は?

 

「……八幡は悪くないわ。……それより寝ている間八幡に変な事をしたかしら?」

 

はいしました。抱きついたり首筋を舐めてきました。

 

しかし俺はそれを口に出来ない。思ってるだけで顔が熱くて仕方ない。口に出したら悶死する可能性がある。

 

諸々の事情を踏まえて俺は嘘を吐く事にした。

 

「いや、特になかったな」

 

「……そう。なら良かったわ」

 

オーフェリアはホッと息を吐いている。心から良かったという表情をしている。こりゃ口に出すのはやめておいた方がいいだろう。

 

「ところでオーフェリア。俺、何があったか覚えてないんだ。あの後何があったんだ?」

 

状況やオーフェリアの態度からして情事に耽っていた訳ではないようだが……女の子と抱き合って寝ているなんて普通は考えられないし。

 

「……そうね。先ず八幡、数学の宿題をやっていたのは覚えている?」

 

「ん?ああ、それは覚えているな」

 

「……それで休憩しようとしたら八幡が眠ってしまったの。これについては早く休憩を入れなかった私の所為だわ」

 

「いや、それは別に構わない」

 

試合を見に行ったり、ルサールカの尋問で結構疲れてたし。それがなかったら寝落ちはしなかったと思うし。

 

「それでその後は何があったんだ?俺が上半身裸になっている理由は何だ?」

 

俺がそう返すとオーフェリアは頬を染めてくる。おい、俺が寝てる間に何があったんだ?てか聞くのが怖くなったんだけど。

 

「……八幡が眠った後に……その、汗の臭いがしたから体を拭いたの」

 

「……マジ?」

 

え?つまりオーフェリアに服を脱がされたの?ヤバい、顔が熱くなってきた。マジで悶死しそうなんだけど?

 

「……ええ。それで服を脱がしたのだけど……体を拭いていたら机にあった水を溢してしまって八幡の服と下のシャツを濡らしてしまったの。……ごめんなさい」

 

「いや、特に怒ってないから気にするな」

 

オーフェリアはそう言って謝ってくるが本当に怒ってない。寝落ちした俺の体を拭いてくれたんだ。そんな優しい人間のミスに対して怒るつもりはない。

 

それ以前に俺の能力を使えば服なんて簡単に作れるし。

 

「じゃあ服は……」

 

「今はお風呂場にある暖房を使って乾かしているわ。それと……」

 

オーフェリアは一つ区切り頬を染める。何を言ってくるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その、下は拭いてないけど大丈夫?」

 

爆弾を投下してきた。

 

「いや問題ない。寧ろ拭くな」

 

拭いていたら間違いなく自殺していると思う。

 

……まあ今の俺がこんな格好をしている理由は理解した。要するにパンツ以外の脱がした服に水を溢したからだろう。とりあえず情事に耽っていたからって理由じゃないから安心だ。

 

「……そうよね。私もそれはまだ早いと思ったからしてないわ」

 

「それでいいんだよ。俺がこの格好の理由はわかった。んじゃ最後の質問だ。……何で俺はお前と一緒に同じベッドで寝てんだ?」

 

ここ重要。特に間違いは起こってなかったから良かったが、一歩間違えたら取り返しのつかない事になっていただろう。

 

「……私の寮には他のベッドやソファーがないから八幡を寝かすとしたらここ以外ないから」

 

「んな事しないで床に放置しといて良かったのに」

 

「……それは悪いわよ」

 

「そいつはサンキューな。ま、もう起きたし俺は帰るわ」

 

朝まで寝てるならまだしも起きたならオーフェリアに悪いし帰るとするか。

 

そう判断した俺は即座に影の服を纏いベッドから出ようとすると……

 

「……待って。八幡さえ良ければこのまま一緒に寝てくれないかしら?」

 

オーフェリアが影の服の裾を掴みながらそう頼んでくる。おいおいおい……

 

「お前な……流石にそれはヤバいだろ?」

 

さっきまではともかく、お互いに一緒に寝る事を認知して寝るんだぞ?寝れる気がしないし。

 

そう判断した俺はオーフェリアに再度断ろうとするとオーフェリアは俯きだす。いきなりどうしたんだ?

 

疑問に思っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お願い」

 

上目遣いでおねだりをしてきた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり八幡は温かいわ」

 

オーフェリアは俺に抱きついてスリスリしている。俺は半ば投げやりになりながらオーフェリアの背中に手を回す。

 

はい、結局断りきれませんでした。今現在、俺はオーフェリアと一緒に寝ています。

 

でも決してやましい気持ちがあって寝ている訳ではない事は理解して欲しい。あんな悲しい表情をしている割と仲の良い女の子がおねだりをしてきたら断れないだろう。

 

「……そいつはどうも。つーかお前、俺と初めて会った頃に比べて変わり過ぎだろ」

 

初めて会ったのは1年以上前で会った当初はベストプレイスでお互い一言も話さずに近くで飯を食ってたのに、今じゃ一緒に寝てくれと言ってくるんだ。変わったとしか言いようがない。

 

「……そうね。八幡と出会った。それによって欲しかったけど諦めていた物が手に入ったからだと思うわ」

 

「……ん?欲しかったけど諦めていた物?」

 

よくわからない言い方だな。オーフェリアは何を言っているんだ?

 

「……八幡は私が昔孤児院にいたのは知ってるわよね?」

 

「ああ」

 

「……あの頃は本当に幸せだった。けど孤児院から離れて色々な場所で実験を受けて、アスタリスクに来た頃には全てがどうでもよくなったわ」

 

「まあそうなっても仕方ないかもしれないな」

 

リースフェルトから聞いたが借金のカタとして招集する研究所なんて碌な物じゃないだろう。

 

「……だけど、八幡がアスタリスクに来て一緒に過ごすようになって孤児院にいた頃と同じように幸せになったわ」

 

「……そんな事をはっきり言うな」

 

顔が熱くて仕方ない。オーフェリアが嘘を吐くとは思えないので事実なのだろう。そう認識すると更に顔が熱くなる。

 

「事実よ。それで私は……一度諦めていた幸せという存在がまた手に入ったから……私を幸せにしてくれる八幡に甘えてしまうの。だから……」

 

オーフェリアは一つ区切り俺を見て……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡の許す限りでいいから八幡に甘えさせて……」

 

そう言って更に強く抱きしめてくる。まるで絶対に離すものかと言っているように強く抱きしめてくる。

 

今の言葉を聞く限り……もしかしたらオーフェリアはある意味俺に依存しているのかもしれない。

 

しかしだからと言って俺は拒絶出来ない。

 

もしも拒絶した場合オーフェリアが壊れる、もしくは暴走するかもしれない。

 

どの道数少ない友人がそんな目に遭うのは見たくない。

 

俺は息を吐いてオーフェリアを抱き返し好きに甘えさせる事にした。この関係が正しいのかはわからないが好きに甘えさせる。

 

それが正しい事か悪い事なのかわからないが……少なくともこの時だけはオーフェリアの好きにさせるべきだろう。

 

そう思いながら俺は瞼を閉じて意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

光を感じたので目を開けると……

 

「……おはよう。八幡」

 

オーフェリアが抱きつきながら挨拶をしてくる。え?!何でオーフェリアがここに?!

 

一瞬、驚いたが直ぐにオーフェリアの家に泊まった事を思い出した。

 

てか近い。近いからな?俺の顔とオーフェリアの顔の距離は10センチ。少し魔がさしたらキスするくらいの距離だ。

 

俺はさりげなくオーフェリアから距離を取る。

 

「……おはよう。今何時だ?」

 

「7時半。今から朝食を作るけど食べる?」

 

「ん?その前にシャ……いや、何でもない。朝飯貰ってもいいか?」

 

危ねぇ、シャワー借りていいかって聞きそうになっちまった。女の子の寮のシャワーを借りるって何か危ない雰囲気あるからな。

 

「……?よくわからないけど朝食はいるのね?わかったわ」

 

オーフェリアはそう言って起き上がり部屋を出て行った。

 

それに対して俺はいつまでもダラダラしてたら悪いと判断したので、起き上がりオーフェリアの朝食作りを手伝った。

 

 

その際にオーフェリアが「……こうして2人で並んでいると夫婦みたいだわ」と妙な事を言ってきたのでチョップをしたらジト目で睨まれた。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

あ、朝食についてはガチで美味かったです。あーんするのは止めて欲しかったけど。

 

 



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比企谷八幡は抽選会で学園の長たちと関わる(前編)

鳳凰星武祭7日目、シリウスドーム

 

「試合終了!勝者、比企谷小町&戸塚彩加!」

 

ステージにいる2人が煌式武装をしまうと大歓声が包み込む。

 

『何とぉ!この試合も圧勝!比企谷・戸塚ペア、見事本戦進出を決めました!』

 

三回戦も一、二回戦同様危なげなく勝利した2人を見て安堵の息を吐く。

 

「……よかったわね八幡」

 

隣に座って頭をスリスリしてくるオーフェリアはそう言ってくる。今日はシルヴィは仕事でいない。ま、明日の抽選会は生徒会長がくじを引くのでその時に会う約束をしてるけど。つーか集合場所がクインヴェール生徒会専用の席だが、レヴォルフの2トップが入っても大丈夫なのか?

 

「まあな。問題は明日の抽選会なんだよな……」

 

くじを引くのはエンフィールドだから俺にはどうにも出来ないけど。まあ初戦から天霧、リースフェルトペアやアルルカントのアルディ、リムシィペアなんて引いたらブチ切れるかもしれないけど。

 

今のところ本戦に勝ち上がっている有力ペアは刀藤、沙々宮ペアとアルルカントの擬形体ペア、ガラードワースの正騎士ペア、界龍の万有天羅の弟子のペアだろう。界龍と言えば川越姉弟も万有天羅の弟子らしい。侮るのはダメだろう。

 

天霧、リースフェルトペアとウルサイス姉妹のペアはまだ三回戦を終えてないが絶対に負けないだろう。

 

多々いる強敵の存在に頭を悩ませながら次の試合を見る。

 

既に試合が始まっていてステージでは天霧とリースフェルトのペアが界龍のペアを一方的に蹴散らして本戦出場を果たしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日……

 

「やっほー、2人ともいらっしゃい」

 

シリウスドームにあるクインヴェール生徒会専用の部屋に入るとシルヴィが笑顔で手を振ってきた。

 

「……こんにちは」

 

「よう。ところでシルヴィ、俺達を入れて大丈夫なのか?」

 

仮にも生徒会長が自身の学園専用の部屋に他校の生徒を入れるって割と問題だろう。

 

「ん?大丈夫だよ。他の役員は学園で仕事をしてるし2人とも鳳凰星武祭に出てないから」

 

それでいいのか?まあシルヴィがそう言ってるなら大丈夫だろう。

 

息を吐きながらシルヴィの隣の席に座りステージを見ると運営委員と思われる人物が巨大な空間スクリーンの前でなにやら熱弁を振るっている。

 

「いやー、抽選会が始まるまで結構退屈だから2人が来てくれて良かったよ」

 

シルヴィの言う通り、抽選会は最後にやるものでそれまではお偉いさんの挨拶やら、前半戦の統括だの退屈な話ばかりだ。今も今大会の傾向やら、前大会との比較を説明していているし。実際去年の王竜星武祭では抽選会はサボって後になって組み合わせを知ったしな。

 

しかしシルヴィは生徒会長なのでサボる訳にはいかず、退屈な話を聞かされている。こりゃ誰かを呼んでも仕方ないだろう。

 

「それは別に構わない。そう言えば抽選会ってどういう順番でくじを引くんだ?」

 

「前シーズンの総合順位の高い順。つまり最初にアーネストが引いて私が最後だよ」

 

確か前シーズンの総合順位はガラードワース、アルルカント、界龍、レヴォルフ、星導館、クインヴェールだったな。

 

「という事はエンフィールドが引くのは最後の方か。初戦から外れは引かないでくれよ」

 

頼むから冒頭の十二人がいるペアとアルルカントの擬形体ペアとか引かないでくれ。つーか強い者同士潰しあってくれ。

 

「こればっかりは運だからね。ところで八幡君は何処が優勝すると思う?」

 

シルヴィにそう言われるので考える。ふむ……正直言って迷うが……

 

「アルルカントの擬形体ペアだな」

 

「そっか。私は星導館の『叢雲』と『華焔の魔女』の2人かな。オーフェリアさんは?」

 

「……シルヴィアと同じだわ」

 

2人はそう言ってくるがそれは厳しいと思う。何せ天霧はあの力をマトモに使えるのは5分だけだ。30……いや20分使えるなら俺も天霧達が優勝すると思うが5分なら優勝は無理だろう。

 

まあこいつらは天霧の封印を知らないからな。封印を知らなかったら俺も天霧達だと思う。

 

そんな事を考えていると俺の携帯端末が鳴り出したので見てみると小町からで『緊張してきた。お兄ちゃんヘルプ!』と書いてあった。ヘルプって何だよ……?

 

「はぁ……すまん、俺ちょっと妹の所に行ってくる」

 

何をヘルプすりゃいいかわからないがとりあえず行くしかない。

 

「あ、じゃあ私も行っていいかな?八幡君の妹さんにも興味あるし」

 

「それは構わないがここにいなくて大丈夫なのか?」

 

「うん。別にここで待機してろって言われてないし、私の出番が来たらメールが来るから大丈夫だよ」

 

なら大丈夫だろう。

 

「わかった。じゃあ行こうぜ」

 

俺がそう言うと2人は立ち上がって生徒会専用の部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

小町によると1番高い階層にいるらしい。各学園の生徒会専用の部屋は割と上の階層にあるのでそこまで時間がかからない。

 

俺達が廊下を歩いている時だった。

 

「……すまん。腹が痛いから先に行っててくれ」

 

後少しって所で急な腹痛が襲ってきた。凄く痛い。

 

「大丈夫?」

 

「……大丈夫じゃない。長引きそうだから先に行っててくれ。ほい、小町がいる席の座標」

 

そう言って俺はシルヴィの端末に座標を送ると同時にダッシュで手洗いに向かった。何でこんなに腹が痛いんだよ?もしかして抽選会の結果が気になって俺も緊張してるのか?

 

そんな事を現実逃避気味に考えながら俺はトイレのドアを開けて中に入り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後……

 

「……ふう」

 

激闘を終えた俺は手を洗う。久々に骨のある闘いだったな。激闘だっただけに達成感が半端ない。

 

さて、俺も急いで行かないとな。小町の奴が俺の黒歴史を話してたらヤバイし。

 

手を洗った俺は手洗いを出て目的地に急ぐ。その足は軽やかだった。

 

軽いステップを踏みながら曲がり角を曲がると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んきゃ?!」

 

妙な声が聞こえて体に衝撃が走る。

 

すると大量の紙の書類がバサハサと落ちる。

 

「……っと、悪い……って樫丸じゃねぇか」

 

そこにはいたのはレヴォルフの生徒会秘書を務めている樫丸ころなだった。

 

「あ……ひ、比企谷さん。す、すみません!」

 

樫丸はそう言ってペコペコ頭を下げてくる。ヤバい、凄く罪悪感を感じる。

 

「いや、こっちも余所見してたからな。拾うの手伝う」

 

そう言って俺が書類を拾い始めると樫丸は再びペコペコしながら拾う。

 

俺は紙を拾いながら樫丸を見る。どう見てもレヴォルフに相応しくない学生だ。普通にクインヴェールの方が似合っているし、ガラードワースで過ごしても違和感がないだろう。

 

以前ドジを踏んでレヴォルフに入ったと聞いた時は余りのドジっぷりに呆れてしまった。しかしあの後にディルクにスカウトされて秘書になったと知った時は耳を疑った。

 

ディルクは基本的に人間を能力でしか判断しないので、樫丸は何かしら優れた所があるのだろう。

 

……拾い集めた紙を再び落としている所を見ると全く信じられないが。

 

俺はため息を吐きながら樫丸の落とした紙を拾い集めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらよ。これで全部だ」

 

「す、すみません。何度も落としてしまって」

 

そう、あの後樫丸は3回紙を落としたのだ。マジでドジ過ぎる。言っちゃ悪いがディルクが認める程の能力を持っているとは思えん。

 

そうなると答えは一つだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あのデブ……ロリコンだったのかよ。あの体型でその趣味は犯罪だぞ)

 

ディルクが自分の趣味で樫丸を秘書にした。

 

そうとしか考えにくい。だから何度ドジをしても手元に置いているのだろう。

 

自分の出した結論に頷いている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいころな。いつまで待たせんだよ?」

 

苛立ちの混じった……というか苛立ちしかない声が後ろから聞こえてきたので後ろを見る。

 

そこには1人の青年がいた。色のくすんだ赤髪で、背は低く小太り、目には暗く深い苛立ちのようなものが燻っている。

 

ディルク・エーベルヴァイン。

 

レヴォルフ黒学院において初めて非星脈世代として生徒会長になった男だ。

 

自らは絶対に手を汚さずに、他人を盤上の駒のように動かしながら暗躍をするというのが世間からの評判だ。序列外にもかかわらず『悪辣の王』という二つ名を付けられるくらいだし当然だろう。

 

向こうも俺の存在に気付いたらしい。目が合った瞬間に苛立ちの混じった目で睨みながら舌打ちをしてくる。相変わらずこいつは人を苛立たせるな。

 

「す、すみません会長!」

 

樫丸はペコペコ頭を下げながら謝ってくる。これ以上ディルクと関わるとこっちも疲れる。早めに退散するべきだ。

 

「じゃあ樫丸。俺はもう行くが次からは気をつけろよ」

 

「は、はい!ご迷惑をおかけしました!」

 

「気にすんな。じゃあな」

 

そう言ってこの場を去ろうとした時だった。

 

「待て。てめぇに話がある」

 

ディルクが後ろから呼びかけてくる。……面倒な予感しかしないな。

 

しかしここで無視すると後々もっと面倒な事になりそうだ。

 

そう判断した俺は再度ディルクと向き合う。

 

「……んだよ?こっちも暇じゃないからさっさとしろ」

 

俺がそう返すとディルクは俺を睨みながら口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に言うぞ。これ以上オーフェリアに関わるな。てめぇがいてあいつが腑抜けたら迷惑なんだよ」

 

 

 



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比企谷八幡は抽選会で学園の長たちと関わる(中編)

 

「単刀直入に言うぞ。これ以上オーフェリアに関わるな。てめぇがいてあいつが腑抜けたら迷惑なんだよ」

 

シリウスドームの廊下にて、うちの学園の生徒会長であるディルク・エーベルヴァインは俺にそう命令してくる。その表情はこの世の全てを嫌悪している表情だ。

 

随分といきなりだな。まあ俺の返答は一つだけだ。

 

「断る。俺がお前の命令を聞く義理はない」

 

俺がオーフェリアと関わりを無くすのはオーフェリアが俺に絶交を告げる時だけだ。俺はオーフェリアと過ごす時間は楽しいと思ってるので、少なくとも俺からあいつに絶交を告げる事はないだろう。

 

俺がそう返すとディルクは忌々しそうな表情で俺を睨み舌打ちをしてくる。

 

「ちっ、ふざけやがって……」

 

ふざけてるだと?

 

「ふざけてるのはお前の方だ。オーフェリアがどんな事を考えてようがそれはオーフェリアの自由だ。お前が関与していい事じゃねぇよ」

 

「はっ。アレは俺の物だ。俺がどう使おうとてめぇには関係ねぇよ」

 

「黙れカス。さっきから黙って聞いてりゃオーフェリアを物扱いしてんじゃねぇよ。あいつは唯の女の子だ」

 

「……本気で言ってんのか?あの怪物を女の子呼ばわりするなんてイカレてんのか?」

 

「……あ?」

 

俺はそれを聞いて本気でキレそうになった。

 

圧倒的な力を持っている上に他人と殆ど関わらないから怪物呼ばわりされているが、俺はそれが間違いだと知っている。

 

オーフェリアは普通に笑ったり拗ねたり怒ったりする何処にでもいる普通の女の子だ。

 

まあ相手の考えを無理やり変えさせるつもりはない。どうせ変わらない人間が殆どだし。

 

「オーフェリアを女の子扱いするのがイカレているなら俺はイカレていて結構だ。それより話を戻すぞ」

 

そう言って一つ区切り口を開ける。

 

「俺をオーフェリアと関わらせたくなかったら俺を屈服させてみろよ。生徒会長のお前ならうちの学園のルールは知ってるよな?」

 

そう言って影の刃を5本ディルクの首元に突きつける。

 

「ひぃぃぃぃ!」

 

1本も突きつけられていない星脈世代の樫丸が涙目でビビっているのに対して、非星脈世代のディルクは特に驚きを見せない。

 

レヴォルフでは校則は無きに等しく、外からは個人主義者の巣窟と呼ばれているが一つだけ唯一絶対のルールがある。

 

 

『強者への絶対服従』

 

レヴォルフにおいては力こそが絶対だ。幾ら悪い事をしようが力がある者なら許される。逆に正しい人間でも弱かったらそいつが悪とされる事もあり得る。

 

力と言っても腕っぷしの強さと権力の強さの2種類がありディルクが持っているのは権力の強さだ。

 

とはいえ、俺はディルクの下に就いていないし一般生徒なので権力で争うつもりはない。逆に向こうも非星脈世代なので決闘で俺と争うつもりはないだろう。

 

そういう訳で土俵が違うから俺とディルクは今後もどっちが上か争う事はないだろう。というかする気もない。

 

つまり俺がディルクにオーフェリアの扱いについて咎める事は出来ないが、ディルクもまた俺を咎める事は出来ないって事だ。

 

「……ふん。やってみろよ。俺を刺した瞬間てめぇは終わりだろうがな」

 

ディルクは特に表情を変えずに俺を挑発する。

 

星武祭の間は防御障壁がある場所以外での決闘は禁止だ。もちろんシリウスドームの廊下で暴れたりしたら警備隊に捕まるだろう。

 

その上ディルクは非星脈世代だ。星脈世代が常人を傷付けたら基本厳罰に処される。俺がディルクを殺したら俺は間違いなく死刑になるだろう。

 

もちろん俺もそれを理解しているので刺すつもりはない。軽く脅すつもりで出したがまさか顔色一つ変えないとはな。この事からディルクはアスタリスクの闇をかなり見てきた事が簡単にわかる。

 

 

お互いに無言になり睨み合っている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな場所で揉め事は止めてもらいたいね、双剣の総代に『影の魔術師』」

 

そう言われると同時に影の刃が全て斬り落とされた。

 

凛とした声が聞こえたので声のした方向を向く。

 

そこには貴公子然とした青年がいた。整った顔立ち、癖のない淡い金髪、身に纏う白を基調とした清廉な制服といい、見る者全てを魅了する雰囲気を醸し出している。

 

しかし少しでも見る目がある者ならその整った顔の奥に鋭利な刃が潜んでいる事に気が付くだろう。

 

 

アーネスト・フェアクロフ

 

聖ガラードワース学園の生徒会長にして序列1位、『聖騎士』の二つ名を持つ男。過去に獅鷲星武祭で二連覇を成し遂げ、来年で三連覇は殆ど確実と言われる程の実力者。

 

そしてその男の手にあるのはガラードワースが誇る純星煌式武装『白濾の魔剣』

 

聖剣とも呼ばれる純星煌式武装は任意の物体だけを選んで斬る事が出来る物で純星煌式武装の中でもかなり凶悪な物だ。俺の影の刃は生半可な武器じゃ斬れないが『白濾の魔剣』なら可能だろう。

 

俺は予想外の人物の登場で一瞬驚くが口を開ける。

 

「……これは俺とあいつの問題です。フェアクロフさんは口を出さないでくれませんか?」

 

俺がそう返すもフェアクロフさんは首を振る。

 

「そういう訳にはいかないんだよ。秩序の守護者たるガラードワースの代表として、そしてこの聖剣を預かる『聖騎士』としてもこの状況を見逃す事は出来ない」

 

まあ予想通りの返答だ。つーかフェアクロフさんじゃなくても普通の人間なら止めにかかるだろう。シルヴィあたりでも止めるだろうし。

 

しかもフェアクロフさんの実力は本物だ。俺が勝てるかわからないからディルクとはこれ以上話すのは無理だろう。

 

ディルクもそれを理解しているのかフェアクロフさんを一睨みしてから舌打ちをする。人に嫌われる態度をとるのはブレないな……

 

「ちっ……行くぞころな」

 

ディルクはそう言って俺達に背を向けて歩き出した。

 

「わっ!ま、待ってください会長!そ、それじゃあ!し、失礼します!!」

 

さっきまで腰を抜かしていた樫丸は慌てて立ち上がり俺達に頭を下げてから転びそうになりながらもディルクの後を追っていった。

 

2人が曲がり角を曲がって見えなくなった所で息を吐きフェアクロフさんに話しかける。

 

 

「……まあ、その、アレです。迷惑かけてすみませんでした」

 

そう言って軽く頭を下げる。さっきはああ言ったがあそこで止めてくれたのは感謝している。フェアクロフが居なかったらずっと睨み合いになっていただろう。

 

「僕は僕の役目を果たしただけだよ。だから頭は下げなくていいよ」

 

そう言われたので頭を上げる。フェアクロフさんの顔を見るとディルクがいた頃に見せていた冷酷な顔は無くなっていて人の良さそうな顔になっていた。

 

(……前から思っていたがこの人の内側は怖い気がする)

 

普段から高潔な人なのは知っている。しかし一度箍が外れたら間違いなくヤバい気がする。

 

もちろん根拠はないのでそれを口にする事も顔に出す事もしないが。

 

「ただこういった事は今後は控えて欲しいな」

 

「そっすね。わかりました」

 

最近どうもオーフェリアの事になると少し感情的になるんだよな。今後は気をつけた方がいいだろう。

 

「わかってくれるなら僕はこれ以上その事に関しては言及しないよ。それと比企谷君」

 

「はい。何でしょうか?」

 

まさかここでいきなり名前を呼ばれるとは全く思ってなかった。とりあえずさっきの件についてのお咎めについてじゃないだろう。

 

「君に聞きたい事があるんだ。少し時間を取らせて貰ってもいいかな?」

 

俺に聞きたい事だと?理解できん。仮にもガラードワースの生徒会長が、折り合いの悪いレヴォルフの一般生徒である俺に聞きたい事があるとは思えない。

 

返事に悩んでいるとポケットにある端末が鳴り出した。誰だよこんな時に?

 

フェアクロフを見ると笑顔で頷いてくる。どうやら出ても大丈夫のようだ。

 

俺は一礼して端末を開けるとシルヴィから『遅いけど大丈夫?』とメールが来ていた。

 

あ、そっか腹壊してから、樫丸の書類を拾う手伝いをしたり、ディルクと対峙したり、フェアクロフさんと話してるからな。端末の時計を見るとシルヴィとオーフェリアと別れて20分近く経っていた。そりゃ気になるよな。

 

とりあえずシルヴィに『すまん。急用が出来たから遅れる。後30分もしないで戻れると思う』と返信して端末をポケットに入れる。

 

「すみません。とりあえず話は聞きますが30分以内に済ませていただけるとありがたいんすけど」

 

「10分もかからないと思うから大丈夫だよ。とりあえず座ろうか」

 

そう言われたのでフェアクロフさんの視線の先に目を向けると席があった。

 

俺は一つ頷いて席に座る。今更だがガラードワースの代表とレヴォルフの序列2位が向かい合って座ってるって端から見たら凄い光景だな。

 

フェアクロフさんの仲間である冒頭の十二人、通称『銀翼騎士団』がいなくて良かった。もしもいたら間違いなく煩い事になるだろう。特に生徒会副会長の『光翼の魔女』レティシア・ブランシャールあたりは頭が固いからな。良かった良かった。

 

「それで聞きたい事とは何ですか?」

 

生徒会長であろう人がわざわざ俺に聞きたい事があるとは想像出来ないんだが……

 

疑問に思っている中フェアクロフさんが一つ頷いて口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は鳳凰星武祭に出場したうちの生徒で一回戦で棄権した人がいるんだ。それでうちの学園では君とミス・ランドルーフェンが悪いと噂されているんだが真実を聞かせてくれないかな?」

 

……ああ。そんな事もあったな。そりゃ生徒会長のフェアクロフなら聞きたいよなうん。

 

 

てかどうしよう?真実は知っているが理由が恥ずかしくて言いたくないんですけど?



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比企谷八幡は抽選会で学園の長たちと関わる(後編)

 

 

 

 

「実は鳳凰星武祭に出場したうちの生徒で一回戦で棄権した人がいるんだ。それでうちの学園では君とミス・ランドルーフェンが悪いと噂されているんだが真実を聞かせてくれないかな?」

 

フェアクロフさんは俺にそんな事を聞いてきた。

 

俺はそれを聞いて納得した。確かに自身の学園の生徒が他所の、それも仲の悪い学園の生徒の所為で鳳凰星武祭を棄権したと噂されていたら当事者の1人に聞きたくなるのは当然の事だろう。

 

それは理解出来るし、俺も自分自身やオーフェリアが濡れ衣を着せられるのは嫌だから説明したい。説明はしたいが……

 

「ううっ……」

 

「比企谷君?大丈夫かい?」

 

フェアクロフさんは心配そうな表情をして頭を抱えて唸る俺を見てくる。

 

「いえ……大丈夫です。大丈夫なんですが……」

 

恥ずかしくて口にしにくい。

 

何せ葉山が気絶した理由はオーフェリアの殺気を受けたからだ。そしてオーフェリアが殺気を出した理由は俺が葉山にヒキタニ呼びされたからだ。しかもオーフェリアは途中、葉山が悪意を持って俺をヒキタニ呼びしたと思ったら更に殺気を出したくらいだ。

 

それを説明するのは……何というか……メチャクチャ恥ずかしいんですけど。

 

「話せないなら無理には聞かないよ?」

 

そう言われて一瞬そうしようと思った。しかし……

 

(……ダメだ。俺はともかくオーフェリアが悪く言われるのは我慢出来ん)

 

オーフェリアは俺の為に怒ってくれたんだ。やり過ぎだとは思ったが正直嬉しかった。

 

だから正直に話す事にした。

 

(……っと、その前に)

 

「いえ。話します。ですがその前に一つ良いですか?」

 

「何かな?」

 

「大した事ではないんですが……フェアクロフさんはこの事についてどう考えているんですか?」

 

この人に限ってないと思うが自身の学園を贔屓しているかもしれない。それが少し気になった。

 

フェアクロフさんはそれを聞いて一度まばたきしてから口を開ける。

 

「今の所は状況証拠しかないから何とも言えないかな。君は今話している限り悪い人じゃないと思うし、ミス・ランドルーフェンは余りに他人に関心を持たない人だ。余程の理由がある限りあんな事はしないと思うな」

 

……驚いた。予想はしていたが全く噂などに流されていない。ここまで公平な人とは思わなかった。

 

顔に驚きが出ていたのかフェアクロフさんは笑ってくる。

 

「僕の学園と君の学園は折り合いが悪いけど、それを理由にして贔屓とかはしないから安心していいよ」

 

その顔には嘘偽りがないのは直ぐにわかった。

 

(……なるほどな。『聖剣』に選ばれる訳だ)

 

『聖剣』の代償は使用者が常に高潔であり、私心を捨て、全ての行動において秩序と正義の代行者である事である。つまり持っているフェアクロフさんの意見は正しいという事になるだろう。

 

俺が持ったら間違いなく適合率はマイナスだ。そして『聖剣』が俺を殺しに来そうだな。

 

閑話休題……

 

とりあえずこの人には話しても良いだろう。それでフェアクロフさんが『お前が悪い』と言ったら俺が悪いんだし罰を受けよう。

 

「わかりました。説明はしますのでとりあえず最後まで聞いてください」

 

フェアクロフさんが頷いたので俺は口を開いて説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って感じですね」

 

そう言って口を閉じる。

 

俺はフェアクロフさんにオーフェリアがキレた理由は葉山が俺をヒキタニ呼びして悪意があると思ったからだという事、葉山とは同じ中学だった事、その頃からヒキタニ呼びしていた事、本名はヒキタニじゃないのを知ってるにもかかわらずヒキタニ呼びしている事全てを話した。

 

フェアクロフさんは俺の話を全て聞いてから頷くと

 

「……そうか。比企谷君、うちの生徒が済まなかった」

 

そう言って頭を下げてきた。

 

「……え?!い、いや……俺は気にしてないので頭を上げてください」

 

いきなり頭を下げてきたのでついテンパってしまった俺は普通だと思う。何せ現アスタリスク最強の剣士が頭を下げてきたんだ。誰だってビビるだろう。

 

俺が慌ててそう言うとフェアクロフさんは頭を上げてくる。それを見て安堵の息を吐く。こんな偉い人に頭を下げられたら胃が痛くなりそうだし。

 

「葉山君とは話をしておくし、君とミス・ランドルーフェンの悪評についてはこちらで消しておくよ」

 

「はぁ……じゃあよろしくお願いします」

 

「わかった。それともう一つ聞きたいんだけど、ミス・ランドルーフェンの怒りを鎮めたのは比企谷君でいいんだよね?」

 

「え?あ、はいそうです」

 

「今回はこちらに非があるけど、もしまた同じような事があったらミス・ランドルーフェンが怒りを露わにする前に止めてくれないかな?」

 

「もちろんです」

 

俺は即答する。いくら葉山が悪いとはいえオーフェリアのアレはヤバ過ぎる。当事者である俺はともかく、そこらへんにいた野次馬からしたらオーフェリアが悪いと思われても仕方ないかもしれん。

 

「そうか。それなら良かったよ」

 

「それぐらいなら構いません。それで話はこれで終わりですか?」

 

「うん。もういいよ。時間を取らせて済まなかった」

 

「いえ。それでは失礼します」

 

俺は頭を下げてこの場を後にした。とりあえず特に咎められずに済んだので良かったな。

 

安堵の息を吐きながら小町達がいる場所に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的の場所に向かって走っていると、少し先に4人の女子……間違えた、3人の女子と1人の男の娘が楽しそうに談笑していた。

 

向こうも俺に気付いて手を振ってくる。意外にもオーフェリアも小さくだけど手を振ってきた。

 

「あ!お兄ちゃん遅い!」

 

小町がプリプリ怒ってくる。うん、俺の妹可愛過ぎるな。

 

「悪い悪い。ちょっと用事があったんだよ」

 

「え?お兄ちゃんに用事なんてあるの?」

 

小町が心底意外であるという態度を取ってくる。これには戸塚やシルヴィも苦笑いしてるし。

 

「あったんだよ。正直疲れた」

 

俺がそう言って戸塚の隣の席に座ると小町が何か閃いたように手をポンと叩く。

 

「あ!もしかして可愛い女の子をナンパでもしたの?」

 

んな訳ないだろ。俺がナンパなんてするか。

 

てか何でオーフェリアはジト目で見るんだよ?俺ってそんな軽薄な男って思われてるの?

 

「違う違う。ディルクのカスとフェアクロフさんに捕まっただけだよ」

 

色々と誤解されると面倒なので正直に話す。

 

すると小町と戸塚は驚きの表情を浮かべ、オーフェリアとシルヴィは近寄ってくる。

 

「……彼に何か言われたの?」

 

「『悪辣の王』が八幡君に?八幡君この短時間で何があったの?」

 

2人が詰め寄って聞いてくる。特にオーフェリアは有無を言わさない雰囲気を出して俺を見てくる。

 

俺は息を吐いてさっきまでにあった事を話した。

 

全部話すとオーフェリアは無表情のまま携帯端末を取り出し空間ウィンドウを開く。そして何処かに電話し始める。

 

暫くすると繋がりさっきまで見た顔が映る。

 

『何だオーフェリア?俺は今忙しいから手短に済ませろ』

 

そこに映っていたのはディルクの顔だった。それを認識した瞬間、緊張が走る。俺やオーフェリア、シルヴィはアスタリスクの裏をそこそこ知っているから特にビビらないが小町と戸塚はビビっている。

 

つーか前から思っていたがディルクの奴、顔に贅肉付きすぎだろ?今は関係ないけど。

 

「……わかったわ。じゃあ言うわ。貴方さっき八幡に私と関わるなと言ったみたいだけど余計な事を八幡に言わないで」

 

オーフェリアはハッキリとそう言った。するとディルクは目つきを鋭くする。

 

『……何だと?』

 

「……私は八幡と過ごす時間が好きなの。だから余計な事は止めて」

 

『てめぇ、俺の言う事が聞けないってのか?』

 

「八幡に関する事ならそのつもりよ。貴方に逆らう事も躊躇わないわ」

 

オーフェリアはそう言ってディルクの返事を聞かずに空間ウィンドウを閉じて端末をポケットにしまった。

 

「……オーフェリア」

 

俺は不安の余りついオーフェリアに尋ねてしまう。

 

「……八幡は気にしないで。私、今言った事後悔してないわ。……でも、八幡が私と関わりたくないなら関わらないから……」

 

そう言いながら不安そうな表情で俺を見てくる。そんな捨てられた犬みたいな表情で見んなよ……

 

「……別にお前と過ごす時間は嫌いじゃねぇから気にすんな」

 

視線から逃れながらそう返事をする。

 

視線をオーフェリアから外すとシルヴィと小町が若干ニヤニヤしながら俺を見てくる。

 

「……何だよその目は?」

 

「別に。八幡君も素直じゃないって思っただけだよ。嫌いじゃないじゃなくて大好きって言わないと」

 

「そうだよねー。お兄ちゃんこの前小町と電話した時に『オーフェリアと過ごす時間は本当に楽しい』って言ったのにさ」

 

シルヴィィィィィィィ!小町ぃぃぃぃぃぃぃ!!!余計な事を言ってんじゃねぇよ!!

 

俺は怒りの余り2人の顔面を掴む。指の間からは2人の驚きの表情が見える。

 

「え?!ちょっと八幡君?!それは止めーー!」

 

「お兄ちゃん?!小町達が悪かったから助けーーー!」

 

 

観客席には悶絶したような声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃあ抽選会行ってくるね。痛たっ」

 

シルヴィが反省したような表情をしながらそう言ってくる。

 

「……あー、まあ、さっきは悪かったな」

 

流石にアイアンクローはやり過ぎたか?つーか世界の歌姫にアイアンクローをした俺って……

 

「ううん。私もからかい過ぎだし」

 

シルヴィは笑いながらステージに向かって行った。本当にすみませんでした。

 

「お兄ちゃん本気でやり過ぎだよ……」

 

逆に小町はジト目で俺を見ているがお前は少し反省しろ。おかげで凄い恥をかいたぞ。

 

「……八幡。貴方も私と同じ様に思ってくれて嬉しいわ」

 

オーフェリアはそう言って手を握ってくるが、もうその事は言わないでくれ。さっきから言われまくってマジで悶死しそうだからな?

 

「まあまあ。恥ずかしいのはわかるけど女子にアイアンクローはよくないよ」

 

戸塚は俺の唇に指を立てて注意をしてくる。可愛いなぁ……

 

戸塚に見惚れていると歓声が上がったのでステージを見ると六学園の生徒会長がステージにいた。いよいよ抽選が始まるのか。

 

小町と戸塚はそれを認識するとさっきまでの雰囲気は無くなり真剣な表情でステージを凝視している。

 

10万人を超える観客がステージを凝視する中、前シーズンで総合優勝をしたガラードワースの生徒会長のフェアクロフさんがくじを引き歓声が再度上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10分……

 

『次に星導館学園の本戦出場者の抽選を行います』

 

ガラードワース、アルルカント、界龍、レヴォルフの四校がくじを引き終え、遂に星導館の番だ。

 

「お願いだからハズレは来ないで……!」

 

小町は真剣な表情で祈っている。戸塚も似た様な表情をしている。

 

 

まあ気持ちはよくわかる。埋まってない枠は後六つ。

 

しかしその内の三つは外れの中の外れだ。そのペアは……

 

アルルカントアカデミー、アルディとリムシィの擬形体ペア

 

レヴォルフ黒学院、イレーネ・ウルサイスとプリシラ・ウルサイスの姉妹ペア

 

聖ガラードワース学園、ドロテオ・レムスとエリオット・フォースターの銀翼騎士団ペア

 

と大外れだ。頼むからその3つには当たらないでくれ。

 

内心祈っていると……

 

 

 

『天霧綾斗&ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトペア、15番!』

 

アナウンスが流れて歓声が上がる。天霧達の相手は……

 

(……いきなりイレーネ達かよ。ディルクにとっては待ち侘びていた展開になりやがったな)

 

何とかしたいのは山々だが星武祭で邪魔するのは不可能だ。俺が出来るのは祈る事しかない。頼むからヤバい事にならないでくれよ。

 

 

 

 

『刀藤綺凛&沙々宮紗夜ペア、30番!』

 

そんな事を考えている内に次の組み合わせも決まったが……

 

(……ちっ。対戦相手は雑魚の当たりかよ)

 

2人が当てたのは最も良いと思える枠だった。出来ればそこには小町達が当たって欲しかった。見る限り準決勝で当たると思えるアルルカントのアルディ、リムシィを除いてそこまで強くないだろうし。

 

 

そんな中、遂に小町達の番となる。頼むから外れは来るな。

 

目を瞑って祈っていると……

 

『比企谷小町&戸塚彩加ペア、2番!』

 

アナウンスが流れたので目を開けて見てみると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『比企谷小町&戸塚彩加 VS ドロテオ・レムス&エリオット・フォースター』

 

と巨大スクリーンに表示されていた。

 

それを見て俺は思った。

 

エンフィールド外れ引いてんじゃねぇよ。





星露は出そうと思いましたが出すと長くなりそうなので学園祭編にまわす事にしました。ご了承ください


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抽選会の後、比企谷八幡は色々な事をして過ごした

 

 

 

夕方、夏だからかまだ日差しは高い。暑いのが嫌いな俺にとってはまさに苦痛だ。

 

俺は自分の寮で強い日差しを受けながら出かける支度を済ませて外に出る。

 

抽選会が終わって自分の寮に戻ってぐうたらしてると、小町から前に行ってた本戦出場の祝賀会をやるから来いと連絡が来た。

 

俺は『明日の対戦相手は強敵なのに大丈夫なのか?』と疑問に思って聞いてみたら『作戦考えてたら頭が痛くなったから気分転換だよ』と言ってきた。まあ苛ついている時は碌な作戦は浮かばないからと納得した。

 

集合場所は偶然にも鳳凰星武祭初日にオーフェリアとシルヴィの三人で飯を食ったレストランだった。あそこなら迷わず行けるし飯も美味かったから文句はない。

 

そんな事を考えながら最寄りの駅に歩いていると……

 

 

「あれ?比企谷?」

 

正面から見知った2人組が来た。何でこいつらがここに?

 

「天霧にリースフェルトか。奇遇だな」

 

「そうだね。比企谷はどうしてここに?」

 

「それはこっちのセリフだ。俺はこの近くに住んでるからともかく、ここはレヴォルフの生徒が多いからお前らが来る所じゃないぞ」

 

俺が住んでいる場所は比較的治安が良いがレヴォルフの生徒が多く住んでいるので他学園の生徒は余り来ない。

 

「あ、うん。実は……」

 

天霧が口を開き説明をしてくる。それによると昼にチンピラに絡まれていたプリシラを助けたらしくお礼に飯に呼ばれたようだ。

 

「……お前って本当にトラブルに巻き込まれ過ぎだろ?」

 

「そ、そうかな?」

 

そうに決まってんだろ。転入初日にリースフェルトに決闘を挑まれたり、サイラスに襲われたり、刀藤と決闘したり、妙な生物に襲われたり、刀藤倒して序列1位になったり、ディルクに狙われるお前は絶対にトラブルに愛されているだろう。

 

「そうだろ。んでリースフェルトは何でここに?」

 

「私はただの付き添いだ。タッグパートナーに何かあったら困るのでな」

 

んな事は気にしなくていいと思うが……

 

プリシラは優しいし、イレーネも素行は悪いが筋は通すから多分危害を加えてこないだろうし。

 

「そうか。あいつらのマンションならあそこの4階だぞ」

 

そう言って後ろにある小綺麗なマンションを指差す。

 

「そうなんだ。ありがとう。ところで比企谷は何をしてるの?」

 

「ん?俺は今から中央区の飯屋で妹と中学の知り合いと本戦出場祝賀会に参加するんだよ」

 

「ほう?小町と戸塚以外の知り合いも本戦に出場するのか?」

 

「まあな。クインヴェールの雪ノ下、由比ヶ浜ペアと界龍の川越姉弟だ」

 

「なるほどな。……ん?川越ではなく川崎ではなかったか?」

 

あ、そうだった。ダメだ。いつも間違えてしまう。やっぱり川越でいいだろ。

 

「悪い間違えた。お前らは一回戦からイレーネだがあいつは結構強いぞ」

 

「わかっている。しかしお前は私達より小町達の心配はしないのか?相手はガラードワースの『鎧装の魔術師』と『輝剣』の正騎士コンビだぞ?」

 

だよなー。はっきり言って四回戦の対戦相手は格上だ。小町と戸塚もコンビネーションは上手いがそれだけで対戦相手に勝てるとは限らない。

 

「んな事は百も承知だ。だから今から飯食いに行きながらあいつらに策を授ける」

 

一応相手を出し抜ける策は幾つか考えてきたので今日教えるつもりだ。上手くいったら勝てるかもしれないし。

 

「ほう……小町からはお前に鍛えて貰っていると聞いていたが本当のようだな」

 

「まあな。俺は王竜星武祭しか参加しないから暇だったし。……おっと、悪いが時間が迫ってるから俺はもう行く」

 

「あ、うんまたね」

 

「ではな」

 

2人と挨拶を交わし俺はモノレール乗り場に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから30分……

 

「え〜。本戦出場を祝って……乾杯!!」

 

レストランにて由比ヶ浜がそう言ってグラスを掲げる。

 

「「「乾杯!!」」」

 

「乾杯」

 

「……乾杯」

 

グラスがぶつかり音が鳴る。

 

「……….」

 

俺はそれをのんびり眺めながらジンジャーエールをチビチビ飲む。

 

「……ってゆきのんと川崎さんも元気良く言ってよ!!ヒッキーに至っては乾杯してないし!!」

 

由比ヶ浜がテーブルを叩いて俺と雪ノ下と川なんとかさんに文句を言ってくる。

 

「……騒がしいのは好きじゃないのよ」

 

「あたしも雪ノ下と同じ」

 

「俺は鳳凰星武祭に参加してないから」

 

「もう!3人ともノリ悪いし!!」

 

いやお前なら俺達がノリ悪いのを知ってるだろ?俺も騒がしいのは好きじゃないし。

 

「はぁ……全くごみいちゃんったら……」

 

「ごみいちゃん言うな。つーかお前は初戦から正騎士コンビと当たるってのに元気過ぎだろ」

 

俺がそう返すと小町は苦い顔をして目を逸らす。

 

「うっ……ほ、ほらアレだよ!試合前なんだし景気付けしとかないと!」

 

「まあ構わないが……それについてだが、俺も幾つか策を考えてきたが後で聞くか?」

 

「え?!本当に?!お兄ちゃんありがとう!!」

 

小町は一転して笑顔になり俺に詰め寄ってくる。現金な奴だな……

 

「えーっ?!小町ちゃんズルい!ヒッキーあたしにも教えてよ!」

 

由比ヶ浜はそう言って制服を引っ張るがそれは止めろ。最近オーフェリアは怒ると俺の制服を引っ張ってきて伸びてるし。

 

「いやいや、お前らの四回戦の相手は雑魚だからいらないだろ?」

 

組み合わせでは雪ノ下、由比ヶ浜ペアの枠は四回戦の相手が雑魚だからかなり当たりだろう。五回戦で川崎ペアと当たり準々決勝では小町達か正騎士コンビのどちらかと当たるだろう。

 

「え?ヒッキー本当?」

 

「多分な。五回戦の川崎に勝てるかわからないけどな」

 

まあ小町達にしろ、雪ノ下達にしろ、川崎達にしろ決勝に上がるのは無理だと思うがな。準決勝で当たると思うのは天霧、リースフェルトペアか界龍の双子あたりだ。はっきり言って今のこいつらじゃ勝てないだろう。

 

「……私が目指しているのは優勝のみよ。だから準々決勝で負けるつもりは毛頭ないわ」

 

そう言って雪ノ下は不敵な笑みを小町達に向けてくる。すると川崎が雪ノ下をギロリと睨んでいる。まあ川崎ペアは五回戦で当たるがそれに勝つと言っているような物だからな。それは理解できるが飯食ってる場所で揉めるな。

 

「いやー、雪乃さんには悪いですけど優勝は天霧さん達かアルルカントの擬形体のどっちかだと小町は思うんですけど」

 

「出場者がやる前から投げるなバカ」

 

そう言って小町の頭にチョップをする。

 

「だって〜天霧さんは冗談抜きで桁違いだし。勝てるビジョンが全く見えないし」

 

「まああいつは強いだろうからな」

 

「八幡なら天霧君に勝てる?」

 

戸塚がそう聞いてくる。ふむ……俺が天霧にか……

 

「保証はないが多分勝てる」

 

少なくとも今の天霧には負けないだろう。何でも斬る『黒炉の魔剣』は俺にとって最悪の相性だが、天霧にはリミットがある。アレを何とかしない限り俺には勝てないと思う。

 

「準決勝だの準々決勝の話は後にしろ。次の相手はただでさえ格上なのに余計な事を考えてたら100%負けるぞ」

 

「う、うん。わかったよ」

 

小町が反省していると料理がやってきた。それを確認すると全員が一度話を止めて料理が目の前に置かれるのを見守った。

 

そして料理が全て置かれると食事が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほーん。俺が去った後にそんな事がなぁ……」

 

飯を食いながら俺がいなくなった後の総武中の話を聞いている。何でも葉山グループのメンバーの1人が同じグループのメンバーに振られたり、葉山と組んでいた一色って奴がノリで生徒会長にさせられたりと面倒な事件が起こりまくったようだ。

 

「てか雪ノ下は依頼とか受けなかったのか?」

 

「ええ。どれも奉仕部の理念から外れていたから」

 

「正しい判断だな。んなもん受けたら碌な事にならないし。てか前から思っていたが俺の知り合いアスタリスクに来過ぎじゃね?」

 

雪ノ下は中学の頃から高校生になったらアスタリスクに行くと言っていたが他の連中がアスタリスクに来るとは思わなかった。

 

「だってヒッキーもゆきのんもアスタリスクに行って私だけ置いてきぼりとかあり得ないし!」

 

「あたしは中学の終わりに界龍からスカウトが来たから。学費免除とか待遇が良かったからね」

 

「僕は八幡と会いたかったら!」

 

「お、おう。そうか……ありがとな」

 

「ヒッキーデレデレし過ぎだから!」

 

「この男……戸塚君に対しては相変わらずね……」

 

いやだって戸塚可愛いんだもん。これは揺らぎない事実だから仕方ないな。

 

そんな事を考えていると端末が鳴りだした。誰だ?

 

端末を開くとオーフェリアからだった。オーフェリアがメール?珍しいな。

 

疑問に思いながらメールを見ると絶句してしまった。そこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『八幡、今鼻の下をのばしていた?』

 

ただ一言、そう表示されていた。

 

その後の記憶は覚えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッキーってば!!」

 

いきなり衝撃が走ったので辺りを見渡すと俺以外の全員が立ち上がっていた。

 

「由比ヶ浜?どうしたんだよ?」

 

「どうしたんだよじゃないよ!さっきか何度も呼んでるのに返事しないし!もう解散の時間だよ!」

 

何?!もうそんな時間かよ!!

 

由比ヶ浜に指摘されて漸く思い出した。そうだ……オーフェリアから来たメールを見てから俺は……

 

つーか何でオーフェリアは俺の鼻の下がのびているのがわかったんだ?怖過ぎる……

 

「わ、悪い。完全にボケっとしてた」

 

マジか。しかも俺の前にある飯はいつの間にか無くなっていた。無意識に飯を食べていたのか?

 

「もう……ちゃんとしてよね」

 

由比ヶ浜の愚痴を聞きながら俺も立ち上がり自分の分の金を出して店を出る。

 

「小町ちゃんとさいちゃんは大変だろうけど一回戦頑張ってね!」

 

「はーい」

 

「頑張って準々決勝まで行くからね」

 

「ええ。受けてたつわ」

 

「もう準々決勝まで行く気みたいだけど準々決勝に行くのはあたし達だから」

 

「ま、負けないっす!」

 

鳳凰星武祭参加者6人は全員やる気満々のようだ。さてさて、どうなるやら……

 

「じゃあ次は鳳凰星武祭が終わってから会おうね!」

 

由比ヶ浜と雪ノ下はそう言ってクインヴェールの方向に行くモノレールがある駅に歩いて行った。

 

「姉ちゃん。俺達も帰ろうぜ。お兄さんもありがとうございました」

 

「だからてめぇにお兄さんと……いや、なんでもありません」

 

文句を言おうとしたが姉の睨みによって沈黙してしまう。怖い、怖いですからね?

 

「全くあんたは……いくよ大志」

 

そう言って2人も界龍の方向に行くモノレールがある駅に向かっていった。

 

「じゃあ戸塚さん、帰ろっか」

 

「待って小町さん。八幡から明日の試合のアドバイス」

 

「あ!そうだった!!」

 

このアホ……肝心の事を忘れてんじゃねぇよ。

 

「全く……一応聞くが祝賀会に来る前に対戦相手の2人のデータは見てきたな?」

 

「うん。改めて見ると自信がなくなっちゃったよ」

 

戸塚は不安そうな表情を浮かべる。

 

「今大会初の格上との試合だから仕方ない。とりあえずお前らが立てた作戦を説明してくれ」

 

「うん。戸塚さんはフォースターさんの足止めをして、その間に小町が『冥王の覇銃』でレムスさんを倒す作戦なんだけど……」

 

細かい部分の作戦が思いつかないようだ。まあ格上相手だと作戦を立てるのは難しいからな。

 

「まあお前らが勝てるとしたらそれが1番の方法だな。それをこれから更に綿密に計画する必要がある」

 

そう言って戸塚を見る。

 

「戸塚、お前は今までの試合だと盾を飛ばして近寄らせず、相手が近寄ってきたら散弾型煌式武装を展開して発砲していたな?」

 

「うん」

 

「明日の試合では初めから散弾型煌式武装を起動してガンガン撃て。近寄ってきてから起動するのじゃ間に合わない。近寄ってきたら迎撃じゃなくて、近寄らせない事を重視しろ」

 

今までの試合のやり方だと起動する前に負けるだろう。いくら腕を上げていても戸塚は素人に毛が生えたくらいの実力だ。エリオット・フォースターには厳し過ぎる。

 

「わ、わかった」

 

「良し。次に小町」

 

「な、何?」

 

「試合が始まってから暫くは逃げ回って戸塚と距離をとれ」

 

「どういう事?」

 

「おそらく相性的にお前の相手はドロテオ・レムスになってエリオット・フォースターが戸塚を潰しに来る。だけどもしエリオット・フォースターが足止めに苛立ちを感じて戸塚を後回しにしてお前を狙いに来たら対処できない」

 

「あー、だから距離をとって直ぐには来れないようにすると?」

 

「そういう事だ。それと『冥王の覇銃』を使うのは相手がお前に攻撃する時だ。カウンター狙いで撃った方がいい」

 

ドロテオ・レムスのスタイル的に攻撃している時に最大の隙が出来る筈だ。確実に倒すとしたらそれしかない。

 

「それはわかったけどレムスさんを倒した後のフォースターさんはどうすればいい?」

 

「それについては考えがある。試合にはこれを持ち込んで使え」

 

そう言って俺は小町にある待機状態の煌式武装を投げ渡す。

 

「お兄ちゃん!これって……?!」

 

小町が驚きの表情を浮かべて俺を見てくるので頷く。

 

「エリオット・フォースターは才能はあるがまだガキだ。だから多分引っかかる。それで主導権を握って一気に決めろ」

 

試合のデータを見る限り騙し合いに向いてないイメージだからな。

 

「うん。わかった!」

 

「ありがとう!やっぱり八幡は頼りになるね!」

 

お、おう……守りたい、この笑顔。

 

「き、気にすんな。それよりお前らも頑張れよ」

 

「うん!じゃあ戸塚さん!急いで帰って練習しておきましょう!」

 

「そうだね。じゃあまたね!」

 

「おう。またな」

 

2人が星導館の方向に行くモノレールがある駅に向かっていったのを確認して、俺も自分の寮に帰る為俺が使うモノレールがある駅に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レヴォルフの真ん前にある駅に降りると時計は9時を回っていた。疲れた……

 

息を吐きながら自分の寮に歩いていると……

 

「……八幡」

 

校門からオーフェリアが出てきた。心なしか疲れている、それでありながら嬉しそうに見える。

 

「おうオーフェリア。ところでさっきのメールは何だよ?」

 

あのメール見てそれ以降の記憶がないし。

 

「……何となくそう思ったのよ。それで実際は?」

 

怖い。怖いからオーラを出さないでくれ。

 

「い、いや特にのばしてない。それより何かあったのか?」

 

話を逸らす為に適当な事を言うとオーフェリアはオーラを消して口を開ける。ちょろい、助かった。

 

「……彼に呼ばれて、今さっきまで八幡に関わるなって言われたのよ」

 

あー、なるほど。ディルクの野郎、完全に俺の事をオーフェリアのガンと思ってるようだな。

 

「で、返事は?」

 

「もちろん断ったわ。でもあんまりしつこいから……」

 

「しつこいから?」

 

何を言ったんだこいつは?何か嫌な予感しかしないんだが……

 

俺の嫌な予感に違わずオーフェリアは爆弾を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……八幡と過ごす時間を邪魔するなら、彼にとって本当の意味で私が必要になった時に動かないと言ったわ。そうしたら了承して貰ったわ」

 

………脅しじゃねぇか!!

 

怖いんだけど!何?こいつがここまでディルクに逆らうのは初めてだろ?

 

正直言ってそこまでする程か?俺にそんな価値があるとは思えないんですけど?

 

「そ、そうか……」

 

「……ええ。だからこれで八幡が許す限り八幡に甘えられるわ」

 

そう言ってギュッと抱きついてくる。顔を見るとわかりにくいが確かな笑みを浮かべている。付き合いが長いからオーフェリアは本当に喜んでいるのがわかる。

 

(……全くこいつは。俺にそこまでの価値はないのに……)

 

 

そう思いながらも俺はオーフェリアの笑顔を失わせない為に、オーフェリアの背中に手を回して優しく抱きしめ好きなだけ甘えさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後抱擁は20分続け、別れようとしたら『……また泊まりに来ない?』と誘ってきたがそれはガチで勘弁して欲しかったので断ろうとしたが、上目遣いで頼まれたので誘いを受けてしまった。

 

 

 

 

 



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比企谷八幡は会場に向かう

 

 

 

pipipi……

 

そんな音が聞こえると同時に俺は目を覚まして携帯端末のアラームを止める。時計は午前7時を回っていた。

 

「……んっ。もう朝?」

 

俺の体に抱きつきながらそんな声を出してくるのはオーフェリアだ。

 

昨日オーフェリアに泊まりに来てくれと言われ断り切れず、一緒のベッドで寝た。

 

しかしベッドに入ってからがヤバかった。

 

オーフェリアはベッドに入るなり俺に抱きつき、胸板に顔を埋めスリスリしてきたり、『……八幡といると幸せになるわ』とか『貴方に会えて良かった』とか俺が悶えまくるような事をガンガン言ってきた。

 

ようやく眠ったかと思ったら無意識に胸を押し付けてきたり、耳にエロい寝息を吹きかけてきたり、終いには頬にキスをしてきてガチで理性が保つか不安だった。

 

しかし目が覚めた時に俺とオーフェリア共に裸ではなかったので理性が保ったのだろう。良かった良かった。

 

「ああ。もう朝だから起きろ」

 

「……んっ。おはよう、八幡」

 

目を擦りながら顔を俺に近づけてきて、挨拶をしてくる。くそっ……可愛すぎるだろ。文句が言えなくなっちまった。

 

「ああ。おはようオーフェリア」

 

息を吐いて俺も挨拶を返す。

 

「……うん」

 

オーフェリアは1つ頷いてからギュッと抱きついてくる。こいつ俺に依存し過ぎだろ。このままで本当にいいのか?

 

そう思っていると、

 

「んっ……八幡……八幡」

 

そう言って更に強く抱きついてくる。あー、やっぱりオーフェリアには逆らえん。

 

俺はオーフェリアを引き離す事を諦めて抱きつかれ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後……

 

「……それでいつ頃家を出るの?」

 

起きた俺達はオーフェリアの寮のリビングにて、朝食を食べているとオーフェリアにそんな事を聞かれる。

 

「そうだな……これ食ったら直ぐに出ようぜ。席取りが面倒だし早く行きたい」

 

今日はシルヴィがいないからVIP室は使えない。よって六学園の生徒専用の席を取らないといけない。一応小町から控え室使用許可証を貰っているが、もしもオーフェリアとリースフェルトが鉢合わせしたら面倒な事になりそうだから使う気はない。

 

「……だったらうちの学園の生徒会専用のブースに行かない?」

 

「え、やだ。もしディルクと会ったら面倒だし」

 

会ったら間違いなく喧嘩売ってくるだろうし。頭が痛くなるのが簡単に理解できる。

 

そう思っているとオーフェリアが首を横に振る。

 

「……大丈夫。彼は基本的に生徒会長室でしか見てないからいないと思うわ」

 

ふーん。ディルクの最強の切り札のオーフェリアがそう言っているなら間違いないのだろう。

 

「わかった。じゃあ後で許可証をくれ」

 

「わかったわ。それより八幡……ご飯は美味しい?」

 

オーフェリアは不安そうに聞いてくる。……何でこんな時に自信のない表情をしてんだよ?

 

「普通に美味いけど?」

 

「そう……良かった。じゃあこれも食べて」

 

そう言ってフォークをベーコンに刺して俺の口に近づけてくる。え?またですか?

 

「いや、あの……オーフェリア?そのだな……」

 

しどろもどろになっているとオーフェリアは

 

 

 

「……あーん」

 

そう言って更に近づけてくる。ダメだ、逆らえん。

 

「んっ」

 

俺は諦めて口を開けると口の中にベーコンが入る。オーフェリアがフォークを抜くと同時にベーコンを噛み始める。

 

くそっ……美味すぎだろ。

 

オーフェリアが微笑んでいるのを見て、負けたような悔しい気持ちになりながらも朝食は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間後……

 

俺達は今シリウスドームの正面ゲートの前にいる。周りを見ると鳳凰星武祭初日にオーフェリアがブチ切れた痕跡はなくなっていた。剥がれたアスファルトは既に修復されていた。運営委員や統合企業財体有能過ぎだろ?

 

「第一試合開始まで後40分……先に荷物を置いてから飲み物を買おうぜ」

 

小町と戸塚の試合は第一試合とはいえ時間に余裕もあるので先に荷物を置いてから飲み物と軽食を買っても問題ないだろう。

 

「そうね」

 

 

 

 

 

 

オーフェリアが頷いたのでシリウスドームに入る。

 

中に入ると沢山の観客がいて賑わっていた。

 

各学園の生徒会専用の席がある場所に歩いていると周りからは『どっちが勝つ?』みたいなこれから始まる本戦一回戦の話が聞こえてくる。

 

やっぱり本戦になると桁違いの人気だというのを改めて理解した。そんな中、小町達は大丈夫か?

 

そう思いながら目的地の階層に行こうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?比企谷君にミス・ランドルーフェン?」

 

後ろから爽やかな声が聞こえてくる。こんな爽やかな声を出す人は1人しか知らないな。

 

後ろを向いて頭を下げる。

 

「どうもっすフェアクロフさん」

 

後ろには予想通りガラードワースの生徒会長のアーネスト・フェアクロフさんがいた。周りを見る限り他の生徒会のメンバー、つまりチーム・ランスロットの面々はいないみたいだ。

 

「ごきげんよう。比企谷君。ミス・ランドルーフェンも鳳凰星武祭初日にはうちの生徒が迷惑をかけて済まなかったね」

 

そう言ってオーフェリアにも頭を下げてくる。

 

オーフェリアは一瞬、まばたきをしてから口を開ける。

 

「……その事は八幡から聞いたわ。八幡が許した以上何も言わないけど……次はないわ」

 

オーフェリアに殺気が纏われる。

 

「わざわざそんな事を言うなバカ」

 

俺は呆れながらオーフェリアの頭にチョップをする。こいつはわざわざ喧嘩売るな。

 

「……痛いわ」

 

「黙れ。もし次あんな事があったら俺が対処するからお前は何もするな」

 

お前がキレたらヤバいじゃ済まないからな。俺が適当に対処した方がいいだろう。

 

「……でも」

 

「でももへったくれもない。いいから何もするな」

 

「……わかったわ」

 

オーフェリアは渋々と言った表情を浮かべているが頷いた。

 

「なら良し。……という事なんで次回からは棄権する選手は出ないと思います」

 

視線をフェアクロフさんに向けてそう話す。

 

「こちらも2度とあんな事がないように尽力するよ。ところで君達はこれから誰かと待ち合わせをしているのかな?」

 

「は?いえ、別に誰とも待ち合わせはしてませんが」

 

シルヴィは仕事があるし、小町達は試合前だから邪魔したくないので待ち合わせはしていない。フェアクロフさんはどういう意図でそんな事を聞いてくるんだ?

 

「もし君達さえ良ければうちの生徒会専用の席で一緒に見ないかい?先日のお詫びという事でお茶とお菓子を振る舞うよ」

 

「……正気ですか?俺とオーフェリアはレヴォルフの人間ですよ?」

 

いくら俺やオーフェリアがガラードワースを嫌ってなくても、ガラードワースの面々は俺やオーフェリアを嫌っているだろう。そんな場所に行っても揉めるのが目に見えている。

 

俺がそう返すとフェアクロフは笑顔で首を横に振る。

 

「大丈夫だと思うよ。学園ではまだ噂が広まっているけど、生徒会の皆は既にこちらに非があるのを理解してるし」

 

そうは言っているが……

 

「オーフェリアはどうする?」

 

とりあえずもう1人の当事者にも話を聞いてみる。

 

「……八幡の好きにしていいわ」

 

オーフェリアは特に表情を変えずに言ってくる。俺かよ……

 

さて……

 

普段の俺なら断っているがどうにも即答出来ん。フェアクロフさんを見ると穏やかな表情をしているがどうも奇妙な感じがする。まるで俺の心の内を見抜こうとしている気がする。

 

しかし……

 

「わかりました。それでは同行してもよろしいですか?」

 

誘いを受ける事にした。俺自身、一端でも良いのでフェアクロフさんの心の内を読み取ってみたくなった。一緒にいればそれが叶うかもしれないし。

 

「ああ。わかったよ」

 

「どうもっす。オーフェリアもそれでいいか?」

 

「構わないわ」

 

「決まったみたいだね。それじゃあ付いてきてくれないか?」

 

フェアクロフさんは踵を返し歩き出すので俺とオーフェリアもそれに続いた。

 

エレベーターに乗ると目的の階層に向かって上り始めた。

 

「そういえば他の生徒会メンバーはいないんすか?」

 

「レティシア達なら先に行っているよ。僕は挨拶回りをしていて終わった所で君達に会ったんだ」

 

生徒会長ってのは面倒だな。てかフェアクロフさんやエンフィールドあたりはともかく、ディルクが挨拶回りしている所とか想像出来ん。つーかしたら吐きそうだ。

 

「随分大変そうですね」

 

「慣れてしまえばそうでもないよ。それより今日の試合はよろしく頼むよ。とは言っても戦うのは僕達じゃないけど」

 

まあ今日の第一試合は俺の妹とフェアクロフさんの仲間がぶつかるからな。つーか俺がフェアクロフさんと戦ったら厳しいだろうな。

 

「そっすね。まあ勝つのは小町達ですけど」

 

「ほぉ、君の妹さん達も強いけどうちのドロテオとエリオットも強いよ?」

 

「それは百も承知っすよ」

 

そんな事を話しているとガラードワースの校章である光輪のマークがついた扉があった。

 

「ここがガラードワースの生徒会専用の部屋だよ。入って」

 

フェアクロフさんがそう言うと扉が開く。

 

3人で中に入ると……

 

「おかえりなさいアーネスト。挨拶回りは終わ……」

 

金髪の女子が俺達がいる方向にやってきて……途中で動きを止めた。完全にポカンとしている。

 

その他にもこの部屋にいる3人も俺達に気付いたようだ。赤髪の青年は面白そうな顔で口笛を吹き、真面目そうな男は若干目を細めて俺とオーフェリアを見ていて、男装をしている女子は感情の読めない瞳を向けてくる。

 

そんな中、フェアクロフさんは口を開ける。

 

「ただいまレティシア。ああ、比企谷君とミス・ランドルーフェンはこの前のお詫びという事で僕が招待したんだ」

 

フェアクロフさんがそう言って俺を見てくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、金髪の女子、ガラードワース序列2位にして生徒会副会長の『光翼の魔女』レティシア・ブランシャールは大声を出した。

 

 

 

 

 

 



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比企谷八幡はガラードワースの生徒とお茶を飲む

 

 

 

ガラードワースの生徒会専用の部屋に叫び声が響き渡る。声を出しているレティシア・ブランシャールは気品を感じる美しい女子だが叫び声には余り品を感じない。まあ品のある叫び声なんてないだろうが。

 

ブランシャールは叫び声を上げてから一息吐いて俺達の方にやってきてフェアクロフさんに詰め寄る。

 

「どういうつもりですかアーネスト!何があったら『孤毒の魔女』と『影の魔術師』の2人がここに来る事になったのですの?!」

 

まあブランシャールの反応が普通だよな。自分の所属している学園の長が折り合いの悪い学園の2トップを連れてきたんだし。

 

「ここに来る途中で偶然2人に会って、この前のお詫びとして招いたんだよ。比企谷君とミス・ランドルーフェンは悪い人じゃないから問題ないと思うよ。レティシアも今度お詫びするべきと提案したじゃないか」

 

「それは……そうですけど、流石に生徒会専用の部屋に招くのは少々問題だと思います!万が一2人が部屋から出る時にガラードワースの生徒に見られたりしたら……」

 

まあそうだよな。フェアクロフさんはさっき生徒会のメンバーは事情を知っているが、学園ではまだ噂が広まっていると言っていた。もし俺とオーフェリアがここから出るのをガラードワースの生徒に見られたら問題になるだろうし、フェアクロフさん達にも迷惑がかかるだろう。

 

だから俺が口を開ける。

 

「安心しろ『光翼の魔女』俺とオーフェリアが帰る時は影の中に潜って帰る」

 

俺がそう言うとブランシャールは俺に視線を向けてくる。

 

「まあそれなら……ところで貴方の能力は他人にも使えるんですか?」

 

「正確には『俺と触れ合っているあらゆる存在』だ。こんな感じに」

 

そう言って俺はオーフェリアの手を掴み影の中に入り直ぐに出る。

 

俺が影から出るとブランシャールは感心した表情で見てくる。

 

「前から思っていましたが貴方の能力は本当に多彩ですわね」

 

「まあこれでも黒猫機関に勧誘された事もあるからな。多彩さには自信がある」

 

俺の力は戦闘にも向いているが諜報は更に向いている。何せ影の中にいれば誰からの干渉も受けない安全地帯だし。

 

「ちょっ!貴方、そんな事をガラードワースの私に話すなんて正気ですの!?」

 

何でそんなに驚いてんだよ?

 

「至って正気だ。勧誘は蹴ったし、それ以前に別に俺はガラードワースを嫌ってないし」

 

まあ多少苦手だけど。規律と忠誠を絶対とする学園は俺には向いてないし。

 

「……貴方、かなり変わってますわね。本当にレヴォルフの生徒ですの?」

 

「一応レヴォルフだ。ってもくじ引きで決めたけどな」

 

「く、くじ引きっ?!あ、貴方、自分の行く学園をくじで決めたんですの?!」

 

「まあな」

 

俺はただ総武中にいたくなかったからアスタリスクに来たからな。学校はぶっちゃけどこでもいい。

 

「君がレヴォルフの生徒らしくないとは思っていたが……そういう事だったのか」

 

フェアクロフさんは納得したように頷く。

 

「へぇ!どうせならうちに来て欲しかったねぇ」

 

そう言って楽しげに俺の肩を叩くのはチーム・ランスロットのメンバーの一人『黒盾』のケヴィン・ホルスト。ガラードワースの生徒にしてはチャラいと聞いていたが本当のようだ。

 

それとすみませんがくじの中にはガラードワースは入ってなかったのでガラードワースに来る事はあり得ないです。ガラードワースは嫌いではないが苦手なので。

 

「呆れた男だ。自分の進路をくじ引きで決めるとは」

 

ため息を吐きながら俺を見てくるのはチーム・ランスロットのメンバーの一人『王槍』のライオネル・カーシュ。戦闘スタイル同様普段の生活でもかなり真面目そうだ。

 

……うん。まあ確かに自分の進路をくじ引きで決めるのはアレだったな。つーか小町が俺と同時期にアスタリスクに来ていたら俺はレヴォルフにはいなかっただろうし。

 

「では会長。お茶とお菓子の準備を致します」

 

そんな中、今年新しくチーム・ランスロットに入った『優騎士』パーシヴァル・ガードナーは特にリアクションを見せずにお茶とお菓子の準備を始めている。

 

20年ぶりに聖杯こと『贖罪の錘角』に選ばれた人間という事で前から興味はあったが……予想以上に不気味だ。単純な戦闘能力なら俺の方が遥かに上だと思うが何となく危ない匂いがする。

 

少しだけ恐怖を感じながら俺とオーフェリアはフェアクロフさんに案内された席に座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

パーシヴァル・ガードナーがそう言ってテーブルの周りにいる全員の前に紅茶とお菓子を出してくる。

 

「サンキュー」

 

適当に礼を言って紅茶の中に角砂糖を入れようとした時だった。

 

「ちょっと待ちなさい比企谷八幡!」

 

俺の向かい側に座っているブランシャールがいきなり俺を呼んでくる。

 

「ん?どうした?」

 

俺今特に変な事はしてないけど、ブランシャールにとっては気に触る事でもしたのか?

 

「どうしたではありませんわ!角砂糖四つは入れ過ぎです!一つにしなさい!」

 

……これについては完全に予想外だ。

 

「見逃してくれよ。俺は甘い物が好きなんだよ」

 

「却下ですわ!限度というのがあります!」

 

「いいじゃねぇか。人生は苦いんだし飲み物くらいは甘くていいだろ?」

 

「何を達観したような事を言っているのですか?!高校生の言う言葉じゃありませんわ!」

 

さっきからブランシャールのツッコミが激しい。それを聞いていて俺は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーかアレだな。ブランシャールって淑女ってイメージがあったが、どっちかって言うとおかんだな」

 

ついポロリと漏らしてしまった。

 

「お、おかん?!」

 

ブランシャールは呆気にとられた表情を見せてくる。

 

「……おかん?比企谷君、おかんと言うのは母親という意味で合ってるかい?」

 

フェアクロフさんがそう聞いてくる。まあフェアクロフさんならおかんの意味を知らなくても仕方ないかもしれん。

 

「はいそうです」

 

「なるほど。ふふっ、おかんとは言い得て妙だね」

 

「アーネスト?!」

 

フェアクロフさんはそう言って爽やかな笑みを浮かべてくる。

 

「お、おかん……やばい。レティにはピッタリの言葉だ」

 

「ケヴィンまで?!〜〜〜!!」

 

ケヴィンさんが肩を震わせて笑っている。それを見たブランシャールは真っ赤になった頬を膨らませながら俺を睨んでくる。ブランシャールの周囲からは星辰力が出ている。ヤバい怒らせちまったようだ。

 

「すまんブランシャール。少しからかい過ぎだ」

 

これ以上怒らせると面倒なので謝る事にした。

 

俺が頭を軽く下げるとブランシャールの周囲から星辰力がフッと消えた。

 

「……もう」

 

ブランシャールはため息を吐きながら自身の手元にある紅茶をグイッと飲む。顔はまだ赤いが、ここで怒るのは馬鹿らしいと判断したのだろう。怒りの気配はなくなった。

 

「ははっ。いや、今のは良かったぜ『影の魔術師』」

 

「は、はぁ……」

 

ケヴィンさんはいまだに笑いながら俺の肩を叩いてくる。つーか笑うとブランシャールが睨んでくるんで止めてください。

 

内心ケヴィンさんに突っ込んでいる時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさ『影の魔術師』は『孤毒の魔女』とはどこまで行ったんだ?」

 

 

いきなり爆弾を投下してきた。

 

「……っ!げほっ!ごほっ!」

 

予想外の攻撃により紅茶が気管支に入ってむせてしまった。苦しい。ケヴィンさんと反対側の隣に座っているオーフェリアを見ると頬を染めていた。どうやらオーフェリアにとっても予想外だったようだ。

 

「おいおい大丈夫か?」

 

「はぁ、はぁ……大丈夫です。でもいきなり何で……」

 

「そりゃ鳳凰星武祭初日に道の真ん中で抱擁をしたんだしさぁ。直で見た俺からしたらすげぇ情熱的に見えたぜ」

 

見てたのかよ?……いやまあ道の真ん中、しかも星武祭中だから凄い人がいたから見られても仕方ないかもしれんが……

 

「うぅ……恥ずかしい」

 

何で俺はあんな場所でオーフェリアを抱きしめてしまったんだ?いくら頼まれたとはいえ、抱きしめるなら路地裏でやれば良かったものを………俺の馬鹿野郎!!

 

「まあかっこ良かったしいいじゃん。それよりあの抱きしめ方よりもっと情熱的な抱きしめ方があるけど聞く?」

 

絶対に嫌だ。聞いたら恥ずかしくて悶死する自信がある。

 

俺が断りの返事をしようとすると……

 

「……教えて」

 

その前にオーフェリアがケヴィンさんに教えを請うた。待てコラ。

 

「おいオーフェリア……」

 

「……私は聞きたい。そして八幡にそのやり方で抱きしめて欲しいのだけど……ダメ?」

 

俺がオーフェリアを止めようとしたが、オーフェリアは上目遣いで俺を見てくる。……毎回思うがオーフェリアの上目遣い破壊力あり過ぎだろ?

 

周りを見るとフェアクロフさんは見守るような笑みを向けていて、ブランシャールは真っ赤になっていて、ライオネルさんは呆れたような顔をケヴィンさんに向けていて、パーシヴァルは無表情で紅茶を飲んでいる。……パーシヴァルの奴、冷静過ぎだろ?

 

当のケヴィンさんは楽しそうな表情で俺とオーフェリアを見て口を開ける。

 

 

 

 

「だそうだ『影の魔術師』。男なら淑女の要請に応たえるのが義務だぜ」

 

ぐっ……まさに八方塞がりだ。現にケヴィンさんはニヤリとした表情を向けて更に口を開ける。

 

「いいか?この写真だとお前は彼女の背中に手を回しているけど……」

 

そう言って各学園の新聞に載っている写真を見せてくる。うわ……改めて見るとよくあんな場所で抱き合ってたな俺達。つーか何で持ってんですか?

 

「こん時にお前は手を動かすんだよ」

 

「手を動かす?」

 

意味がわからん。

 

「そうそう。その後に少しずつ腰の方にゆっくり動かすんだよ。そんで更に引き寄せるとかなり情熱的になるぞ」

 

はぁ?!腰に手を回すだと?!

 

無理無理!絶対に無理だから!普通に抱き合っていても凄くドキドキするのに腰に手を回して更に引き寄せるとか無理だろ!

 

「あ、いや……それは……」

 

「大丈夫だって。何度も経験した俺が言うんだし。それに『孤毒の魔女』も満更でもない表情をしてるぜ?」

 

そう言われてオーフェリアを見ると頬を染めながらチラチラ見てくる。何だよ……そんな顔をすんなよ。こっちも変な気分になるからな?

 

 

ドキドキしているとライオネルさんが固い表情でケヴィンさんに話しかける。

 

「相変わらずだな。お前は少しは慎みを覚えたらどうだ?」

 

「おいおい。俺はただ淑女の要請に応えてるだけだぜ?レオも少しはそこらへんに興味を持った方がいいんじゃない?」

 

「興味ないな」

 

「レオこそ相変わらずお固いなー」

 

「お前が軽薄過ぎるだけだ」

 

額を近づけながら口論を始める。これ止めなくていいのか?

 

そう思っていると唐突な銃声が響いた。は?銃声?

 

「……お二人共、お客様がいる前ですよ?」

 

見るとパーシヴァルが短銃型の煌式武装を展開して、その銃口を天井に向けている。そして天井には穴が穿たれていた。

 

「……いや、生徒会専用の部屋で煌式武装をぶっ放す方が迷惑だからな?」

 

つい本音が漏れてしまう。口喧嘩止める為に煌式武装をぶっ放す奴なんてレヴォルフでも数少ないぞ?無表情の癖にやる事過激だな。

 

パーシヴァルは俺をチラリと見て頭を下げる。

 

「失礼しました。つい癖で」

 

は?つい癖でだと?こいつまさか学園でも同じ事をしてんのか?

 

内心突っ込んでいるとブランシャールはげっそりとした表情を浮かべている。

 

「見苦しい所をお見せしまして申し訳ありません。この子の引き金は本当に軽くて生徒会室の天井にも何度穴があいたことやら……」

 

マジか?何度も穴があいたのかよ?

 

つーかガラードワースは六学園の中で唯一名門と称されているが……中々癖のある人間が多いな。

 

そんな事を考えている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『長らくお待たせいたしました!それではこれより四回戦、本戦の一回戦第一試合を始めまーす!!』

 

会場に実況アナウンスが響き渡る。

 

瞬間、全員の意識が切り替わったように表情を変えてステージを見る。

 

会場には天地を揺るがすような大歓声が沸き上り無数のライトが縦横無尽に舞い踊る中、出場ゲートから四人の人間が姿を表す。

 

いよいよか……勝てよ小町に戸塚



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比企谷八幡は妹の戦いを見守る(前編)

『いよいよ本戦の第一試合が始まろうとしています!まず東ゲートから姿を現したのは聖ガラードワース学園のドロテオ・レムス、エリオット・フォースターペア!そしてそしてその反対側、西ゲートからは星導館学園の比企谷小町、戸塚彩加ペアの入場です!』

 

『第一試合から冒頭の十二人がいるペア同士の対決ッスね。その上どちらも予選は殆ど対戦相手を寄せ付けずに勝ち上がってきてるッスから楽しみッス』

 

耳をつんざくような大歓声、それに対抗するかのように音量を上げた実況の声が響く中、四人がゲートからステージに足を踏み入れて向かい合う。

 

戸塚の正面にいる金髪の幼気な雰囲気の少年はガラードワース序列12位『輝剣』の二つ名を持つエリオット・フォースター。

 

「決闘をすると煩いガラードワースの環境で中等部の奴が冒頭の十二人か……ったく、初戦から天才が相手かよ」

 

ガラードワースは基本的に決闘は禁止なので、他の学園に比べて序列を上げるのが難しいとされている。

 

レヴォルフはその逆で決闘を推奨しているので序列はガンガン変動する。まあ冒頭の十二人の上位陣は殆ど変わらないが。少なくとも俺とオーフェリアは序列が下がった事は一度もない。

 

「確かにエリオットには才能がありますけど……転入して1年もしないで冒頭の十二人入りした貴方の妹も天才だと思いますわよ」

 

「ああ……まあな」

 

普段の言動からアホだと思っているから時々忘れるが、ブランシャールの言う通り小町も天才の一人だ。今の星導館の冒頭の十二人で中等部の生徒は小町を入れて二人しかいないし。才能だけなら星導館でトップに近いだろう。(トップは間違いなく刀藤だけど)

 

そんな妹の正面にいるがっしりとした体格の青年がガラードワース序列11位『鎧装の魔術師』の二つ名を持つドロテオ・レムスだ。歴戦の猛者といった風格で今大会の出場選手の中でも最年長クラスの人間だろう。

 

「比企谷小町にとってドロテオは最悪の相性だ。普通に戦ったら間違いなくドロテオが勝つだろうな」

 

ライオネルさんの言う通りドロテオ・レムスの能力は小町にとって最悪の相性だ。

 

しかし……

 

「まあ1ヶ月前の小町なら100%負けますね」

 

俺がそう返すとライオネルさんが訝しげな表情を見せてくる。

 

「ほう……口調からしてお前が何かしたのか?『影の魔術師』」

 

「まあ軽い訓練とアドバイスはしましたね。今回の鳳凰星武祭で『鎧装の魔術師』が来ると予想されていたので」

 

「いくら妹とはいえ……他所の学園の生徒を鍛えるなんて正気ですの?」

 

「至って正気だ。俺からすりゃレヴォルフより妹の方が重要だ。それにレヴォルフは王竜星武祭を重視していて、鳳凰星武祭と獅鷲星武祭には力を入れてないしな」

 

「それはそうですけど……」

 

「まあそれは人それぞれでしょ。それよりお前の妹、可愛いな」

 

ケヴィンさんがそう言ってくるが……

 

「それは否定しませんが手を出したら八つ裂きにするので。小町の彼氏は俺より強い事が最低条件ですから」

 

軽く殺気を込めてそう返す。

 

「うぉっ。怖い怖い」

 

「貴方より強い男性となると……アーネストと界龍の『覇軍星君』くらいでしょうね」

 

だろうな。天霧もいい線いっているがまだ負けないだろう。つーかあいつの場合、リースフェルトや沙々宮、刀藤にエンフィールドと沢山の女に惚れられているかな。小町もそのハーレムメンバーに入りそうで怖い。

 

「お喋りはそのくらいに。そろそろ始まるみたいだよ」

 

フェアクロフさんがそう言ってくるのでステージを見る。すると小町は両手に二挺のハンドガン型煌式武装を、戸塚は右手に散弾型煌式武装を手に持って起動している。

 

対するエリオットはクレイモアタイプの片手剣型煌式武装を手に持っている。ドロテオはまだ煌式武装を手に持っていないが対戦が始まったら持つのだろう。

 

『さあ!そうこうしているうちに開始時間が迫ってまいりました!ベスト16に進むのは星導館かはたまたガラードワースか!』

 

実況がそう叫ぶとモニターに映る四人の校章が光り出す。

 

『鳳凰星武祭四回戦第一試合、試合開始!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校章がそう告げると同時に小町は両手にあるハンドガン型煌式武装をドロテオの胸に狙いを定め発砲する。狙いを定めてから発砲までの時間は殆どない。しかし放った光弾は一直線にドロテオの胸にある校章に向かって飛んでいく。その事から小町の銃の腕前が一流だという事が素人でも理解出来るだろう。

 

同じ様に戸塚も散弾型煌式武装を発砲する。狙いはエリオットだ。今回は近寄らせない事が最優先なので結構撃ちにいくのだろう。

 

『おっと』

 

戸塚の目論見通りエリオットは後ろに大きく後退した。光弾は一発も当たっていないが問題ない。こんなんで倒せるなら苦労しないし目的はエリオット相手に時間稼ぎをする事だ。後ろに下がるのは充分な成果だ。

 

しかしドロテオの方は……

 

『ははっ!開始と同時に胸の校章を狙いに来るとはな、『神速銃士』』

 

ドロテオの薄い笑い声が聞こえると同時にドロテオの胸のあたりから周囲に鎧が生まれる。それによって小町の放った光弾は弾かれてしまう。

 

鎧は胸から体の隅まで広がっていき、遂には全身に鎧が纏われた。それはまるで西洋風のプレートアーマーを纏った騎士みたいでガラードワースに相応しい姿だ。

 

ドロテオの能力は『鎧装の魔術師』の二つ名からわかるように高い防御力を持つ鎧を生み出すものだ。

 

しかし1番厄介なのは鎧は能力の産物であるので、壊れても即座に修復されて元に戻ってしまう事だ。さらに校章も鎧に覆われてしまう。その事からドロテオを倒す方法はただ一つ。鎧の内部にまで届くような高威力の攻撃を叩き込む事だ。

 

しかし小町にとってそれは最悪の条件だ。小町の戦闘スタイルは持ち前のスピードで相手を撹乱してからの精密射撃による攻撃で、攻撃力を余り重視していない。よって小町の武器ではドロテオの鎧を破壊するのは至難だろう。

 

『さて……それではこちらも攻めさせてもらうぞ』

 

ドロテオはそう言って左手を前に突き出す。すると薄いプレートが無数に現れて組み合わさっていく。

 

10秒もしないでそれは層を成して、そこには馬の形をした鎧が現れる。合理的に考えたら馬の形をした鎧を作る必要はないが、能力はどこまでそのイメージを自分の中に構築出来るかによって精度が大きく変わる。

 

そしてこれがドロテオにとって最も理想の形なのだろう。実際に予選では馬の形をした鎧を作り対戦相手を蹂躙していたし。

 

そう思っているとドロテオは馬に乗り馬上槍型煌式武装を起動する。見た目は完全に中世の騎士だ。カッコイイな。

 

『行くぞ!』

 

『あらら……最初から全開かぁ』

 

ドロテオがそう言って馬の腹を蹴ると馬は猛スピードで駆け出した。その速度は本物の馬より遥かに速い。

 

それに対して小町は明らかに嫌そうな顔をして、ため息を吐きながら真横に動き出す。嫌なのはわかるがその顔は止めろ。一応これ全世界に発信されてるんだからね?親父あたり卒倒しそうだ。

 

「女子のする表情ではありませんわね……」

 

ブランシャールが呆れた表情をしている。うちの妹がすみません。

 

内心謝っていると……

 

『群がってーーー盾の軍勢』