真・恋姫†無双 北郷警備隊副長 (残月)
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第一話

他の連載も終わってませんが恋姫を再度プレイした際にこんな話を書いてみたいと思い、執筆に至りました。





世の中には不思議が溢れている。
未だにテレビではUFO特集や心霊特集等の番組も放送しているしUMAを捕まえようとしている人達もいる。

そんな不可思議な事を物語として書く人も沢山居る。
それは認めるし、それは面白いと思う。
だがそれは空想の産物。実際にはあり得ない。

だから目が覚めたら子供になっていたとか、月が1/3を残して消えたりとか、ある日、突然妹が11人近く出来るとか……そんな事はありえない。ありえない


「と……思ってたんだけどなぁ……」


いい加減、現実逃避も止めよう。それをした所で事態は変わらなそうだし。
さて、今更ながら再確認しよう。俺の名は『秋月純一』
某会社に勤めるサラリーマンだ。ちなみに25歳で彼女無し。
うん、ここまではOK。

さて、次にだが俺は昨日の残業が少しばかり長引いた為に帰宅は夜になり、仕方なく俺はコンビニで夕食とビールとタバコを買って帰宅。シャワーを浴びた後に夕食&晩酌。んで寝た。
うん、ここまではOK。

朝目覚めたら駄々広い荒野に居た。←今、ここ。


うん、わからん。何故こうなった?
空を眺めながらそんな事を思うが当然返答は無し。
今現在俺はスーツを着て荒野の真ん中に一人。俺が着てるのは仕事で着ているスーツ。持ち物は携帯電話、タバコ×2、マッチ×1、ジッポ、財布、手帳。
どうでもいいけど俺はタバコはマッチ派である。


「……フゥー」


タバコに火を灯して一旦ブレイク。肺に満たされる煙が俺の頭を少しリラックスさせてくれる感覚になる。
しかし辺りを見渡しても荒野。遠くには山しか見えず。何処の秘境ですか此処?明らかに日本じゃない地形だし。


「誰かに尋ねようにも一人っ子いないし……」


ドッキリとかにしては手が込みすぎてるし『ドッキリ大成功』のプラカード持った仕掛人が隠れる場所も無い。
と……いかん、いかん。また現実逃避しかかってた。


「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」


悲鳴……近いな。じゃなくて!人が居るのか!だったからここが何処か聞けるじゃん!
俺は急いで悲鳴の聞こえた方に走った。


走った先には絵に描いた様なチンピラが三人。具体的にはヒゲ、デブ、チビのトリオ。
対して襲われてるのは猫耳フードの小柄な女の子。
なに、この分かりやすいシチュエーション。


「来ないでよバカ!男が私に触らないでよ!」
「んだとこのアマ!」
「やっちまおうぜアニキ!」
「だ、だな」


なんかチンピラに絡まれてる猫耳フードがチンピラを更に煽っていた。襲われてんなら相手を挑発すんな!つーかアイツ等、ナイフ持ってるし!だが、とりあえずチンピラはこっちに気付いてないから……


「不意打ち!」
「あだっ!?」


適当に拾った木の棒で手前のヒゲの頭を後ろからぶっ叩いた。完全に油断してたからクリティカルヒット!


「な、なん……ぶげっ!?」


驚いていたチビをミドルキックで撃破。問答無用?仕方無いじゃん、だって刃物持ってて怖いんだもん。


「ア、アニキ、チビ!?ぶぎゃ!?」
「ふー……なんとかなった」


残ったデブも木の棒で顔面殴ってK,O,。完璧な不意打ちでチンピラ撃破。つーか、このチンピラ共なんかアクション映画とかドラマとかに出てきそうな格好してるけどこれ如何に?
それよかこのお嬢さんに話を聞かねば。


「っと……大丈夫だったか?」
「男が話しかけないでよ汚らわしい!」


あれー?襲われてたのを助けたのに罵倒されましたよ?


「ああー……それはすまない。でも聞きたい事があってな」
「………チッ。まぁ、まがりなりにも命を助けられたんだし不本意だけど答えて上げてもいいわよ」


下手に出たら舌打ちして更に超上から目線だよチクショー。でも俺の方が年上なんだしここは大人の余裕でサラリと流そう。
とりあえずチンピラが復活したらマズいので、その場から移動しながらだけど。俺は前を歩く猫耳フードに話しかける。


「ここは何処なんだ?恥ずかしながら迷子でな」
「はぁ?馬鹿なの?ここは豫州潁川郡よ」


振り返った猫耳フードの視線が汚らわしい物を見る目から哀れみの視線に変わった。いや、大した差はないけど。ん、ちょっと待て……よしゅう?豫州潁川郡って何処だ?


「アンタ、もしかしてこの国の人間じゃないの?」
「この国と言うか今現在、自分が何処に居るのかすらわかってないんだが」


俺が頭を捻っていたのを見た猫耳フードが質問を重ねるが俺にも何がなんだか……それを見た猫耳フードは深い溜め息の後、口を開いた。


「この国は漢よ。今はもう朝廷の中が腐っちゃってるから、もうじき乱世になるだろうけどね」
「そうか漢か……漢?」


漢って……ちょっと待て漢?ああ、この間、飲んだ日本酒の熱燗は美味かった……じゃなくて。
朝廷って三國志の小説とか映画を見た時に何度も話に出てきたけど……いや、待て。仮に……仮にの話だが今、ここが古代中国だとすれば約1800年前?いやいやいやいやいやいやいやいやいや。


「いやしかし……さっきのチンピラ共の格好……言われてみれば三國志の映画を観た時に野盗があんな姿だったけど……いや、まさかねぇ……ああ、そう言えばあの映画、DVD借りに行こうかな……」
「……何、訳の分からない事、言ってんのよ」


思っていた事が口に出ていたのか猫耳フードは怪訝な表情で俺を見ていた。


「ああ……うん。少し、考え事を……あ、そう言えば自己紹介もしてなかったな俺は秋月純一だ」
「…………男なんかには名も教えたくないんだけど」


話を変えようと思って自己紹介したのに、話をする気もねーよ、この猫耳フード。
なんか今までの話の流れでこの子は男嫌いってのは解ったけど。


「………荀彧よ」
「………What?」


猫耳フードが名前を教えてくれたのは嬉しい。妙に間があったのは苦渋の選択からか。しかし……あり得ない……あり得ない名を聞いたが故に何故か俺の口からは英語が飛び出した。荀彧……まさか……


「ほわ……何?」
「あー……スマン」


英語は通じない。うん、そろそろ腹を括って聞いてみようか。


「えーっと荀彧さん?もしかして曹操の所で働いてたりする?」
「な、なんで私が曹操様のところに仕官しようと思ってるの知ってるのよ!?」




俺は何故か三國志の世界に迷い混みました。
目の前の可愛い毒舌娘は王佐の才と言われた荀彧だった。



『秋月純一』

某会社に勤めるサラリーマン
25歳
彼女無
アニメや漫画が好きなオタク
酒やタバコ好き

原作主人公『北郷一刀』とは別の場所に降り立った男


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第二話




◇◆side荀彧◆◇



アイツと初めて会ったのは親の指示で仕方なく勤めていた袁紹の所に見切りをつけて実家に帰る途中のことだった。
私は実家の近くまで行くと言う商人の馬車に相乗りさせて貰い、近くの村から歩いて実家のある町まで一人で歩いていた時だった。
町のすぐ近くだった事もあり、油断している所を野盗に襲われてしまった。 野盗は男が三人。
ゲスな笑みを浮かべて近づく男達に私は嫌悪感から悲鳴をあげた。


「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


男達は私の悲鳴に回りに誰もいない事を悟ったのかニヤニヤと笑いながら近づく。私は曹操様に身も心も捧げると決めたんだからこんな奴等に触れさせてなるものですか!


「来ないでよバカ!男が私に触らないでよ!」
「んだとこのアマ!」
「やっちまおうぜアニキ!」
「だ、だな」


男達が私を取り囲む。私は恐怖で体が動かなくなっていた。
私は思わず、目を瞑ったその瞬間だった。


「不意打ち!」
「あだっ!?」


聞こえたのは先程の男とは違う男の声と野盗の悲鳴。


「な、なん……ぶげっ!?」


更なる悲鳴に目を開けると見たこともない黒い服を着た男が野盗と戦っていた。


「ア、アニキ、チビ!?ぶぎゃ!?」
「ふー……なんとかなった」


あっという間に野盗三人を倒してしまった黒服の男は額の汗を拭った後に私の方に歩み寄る。ちょっと来ないでよ!


「っと……大丈夫だったか?」
「男が話しかけないでよ、汚らわしい!」


すると男は私の言葉に黙る。ふん、男なんかこれで十分よ!


「ああー……それはすまない。でも聞きたい事があってな」
「………チッ。まぁ、まがりなりにも命を助けられたんだし不本意だけど答えて上げてもいいわよ」


目の前の男は汚らわしい男にしてはまだマシな様だし、不本意だけど命を救われたから答えてあげるわ。
でも私を襲おうとした野盗が目覚めたら元の木阿弥になるから一先ずその場を後にした。


「ここは何処なんだ?恥ずかしながら迷子でな」
「はぁ?馬鹿なの?ここは豫州潁川郡よ」


黙って歩けば良いものを男は私に話しかけてくる。しかも迷子ですって?何、馬鹿なの死ぬの?
しょうがないから場所を教えてあげたけど男は首を傾げてる。まさか本当にわからないのかしら?


「アンタ、もしかしてこの国の人間じゃないの?」
「この国と言うか今現在、自分が何処に居るのかすらわかってないんだが」


私の予感は的中したらしく男は自分がどの国に居るかもわかっていないみたい。私は深い溜め息の後、口を開いた。


「この国は漢よ。今はもう朝廷の中が腐っちゃってるから、もうじき乱世になるだろうけどね」
「そうか漢か……漢?」


漸く場所がわかったのか男は納得した様子になったが、すぐに顎に手を添えて何かを考える仕草をしている。


「いやしかし……さっきのチンピラ共の格好……言われてみれば三國志の映画を観た時に野盗があんな姿だったけど……いや、まさかねぇ……ああ、そう言えばあの映画、DVD借りに行こうかな……」
「……何、訳の分からない事、言ってんのよ」


男はブツブツと何か考え事をしている。と言うか『でーぶいでー』って何よ?私は男を怪訝な表情で見る。


「ああ……うん。少し、考え事を……あ、そう言えば自己紹介もしてなかったな俺は秋月純一だ」
「…………男なんかには名も教えたくないんだけど」


何か考え事をしていた男は私の言葉に明らかに話を変えようとしている。何よ、自己紹介したって私の名は教えたくもないわ。ん、『秋月純一』……珍しい名前ね。姓は『秋』名が『月』字が『純一』かしら?
相手が名乗ったし……まがりなりにも命を助けられたんだし……ああもう!


「………荀彧よ」
「………What?」


私が仕方なく、仕方なく!名前を教えてやったら男は訳の分からない言葉を発した。『ほわと』って何よ!


「ほわ……何?」
「あー……スマン」


私の質問に男は一度、天を見上げて……何、諦めた様な顔してんのよ……


「えーっと荀彧さん?もしかして曹操の所で働いてたりする?」
「な、なんで私が曹操様のところに仕官しようと思ってるの知ってるのよ!?」




目の前の男は何故か私がこれから曹操様の所へ仕官する事を知っていた。コイツ何者よ!

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第三話





ハッキリ言えばしくじった。荀彧は先程の俺の失言から俺が何者かを超怪しんでる。まさか『僕、未来から来たんだよ!』とか言えねーし。


「なんで、私が曹操様の所に仕官しようと思ってるの知ってるのよ!」
「ああー……ええっと……」


荀彧は俺のネクタイを引っ張りながら叫ぶ。地味に苦しいんで止めて。


「話すと……長いんだけど」
「長くてもいいから話して……って男が近寄らないでよ!」


荀彧から近付いたのに何故か俺が悪い事にされた。解せぬ。
その後、少し嘘をついた。曹操や袁紹が俺の居た国でも有名だと言う事。そして最近、袁紹の下を去った軍師の噂を聞いたと話した。


「それで私が荀彧だって気付いたって事?」
「正直予想外だった……女の子だったし」


荀彧の言葉に俺は思った事を口にした。いや、だって三國志の武将って大概男だし。


「女の子で……って今、有名な武将は大抵女性よ?」
「俺の聞いた噂では男だったんだが。荀彧も男で曹操もだぞ」


俺の発言に荀彧はザッと退いた。うん、想像して青ざめたんだね。


「私が男ってあり得ないわよ!」
「ですよねー」


うーんと腕を組んで悩む俺に荀彧は耳元で叫ぶ。キーンと耳鳴りがして五月蝿い。結局、荀彧は納得はしていないがそれ以上の追求はしてこなかった。うん、疑いの目線は消えてない。


「それで……なんでアンタはこの国に居たのよ?」
「いや、それがサッパリ。自宅で寝ていた筈なんだけど……」


荀彧の質問にジェスチャーを交えて説明。俺が知りたいっての。


「何、拐われて来たって事?」
「むしろそっちの方が話が早かったんだけどな」


拐われたとなれば犯人がいる筈。そうなれば犯人探して捕まえる所だ。だがしかし俺は自宅に居たし、仮に犯人が居たとしてもアパートに居た俺を拉致して1800年前の中国に送り込むって壮大なアホな話あり得ないでしょ。


「つまり、無能なアンタは自分の居た国から漢に来るまで気が付かぬまま拐われて無人の広野に棄てられたって訳ね?」
「言葉の端々にトゲがあるけど、概ねそんな感じかな」


とてつもないアホを見る目で荀彧は俺を見る。少なくとも俺はMじゃないからその目は止めて。
なんてアホな会話を繰り広げている間に町に到着した。


「はーあっ。とんでもない日だったわ」
「まったくだ」


荀彧の言葉に頷く俺。うんうん、あっという間だったけど凄い体験をしたもんだ。


「で……アンタ、いつまでついてくるのよ?」
「っと……そうだったな。しかし俺には行く宛が……」


そう話をしながら荀彧に着いてきたが町に着いたからと言って俺に行く宛がある訳じゃない。


「ふふん、良い気味ね」


そして俺の不幸を笑ってるよ、この猫耳フードちゃんは……
なんて思っていたら近くの屋敷から女性が数名出てきた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ええ、今帰ったわ」


屋敷から現れた女性達は荀彧の知り合いか?いや、でもお嬢様とか言ってるし……あ、もしかしてこの時代のメイドさん?。
っと思ったら全員が俺を指差して口をパクパクさせてる。……何事?



「「お、お嬢様が男連れで帰られたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
「は?………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「………どゆこと?」


女性達の悲鳴に近い絶叫が鳴り響く。荀彧がそれと同時に叫ぶが俺には何がなんだか。


「ど、どうしましょう!?」
「ま、まずは荀緄様にご報告を!?」
「宴です!宴の準備を!」


バタバタと再び屋敷に慌ただしく戻っていく女性達。いや、マジで何事?


「なぁ、荀彧……今のは……」
「全部……アンタの所為よ!!」


何事かと聞こうと思ったら、気合いの入った言葉と共に荀彧のアッパーが放たれて的確に俺の顎を捉えた。超痛い。


「あらあら、まあまあ」
「げ、母様……」


俺が痛む顎を押さえていたら屋敷から荀彧そっくりの女性が出てきた。背は荀彧と似て低いが荀彧と違って髪型はロングヘアー。目元は少々タレ目で何処か優しげな雰囲気の人だった。


「御初にお目にかかります。荀家の長をしております荀緄と申します」
「っと……秋月純一です」


おっとりとした雰囲気だが、しっかりとした口調で挨拶されたので俺も慌てて頭を下げた。


「それで桂花ちゃんと、どの様なご関係で?」
「母様!?」
「えーっと……ご関係と言いますか……」


俺と荀彧の関係が気になるご様子の荀緄さん。つーか桂花って荀彧の事で良いんだよな?
俺は少し割愛しながらも荀彧との出会いから今に至るまでを説明した。


「あらあらー。じゃあ桂花ちゃんの命の恩人なのですね」
「違います」


俺の説明に荀緄さんは『あらあら』と笑いながら話を聞いていた。荀彧は即座に否定するが荀緄さんが荀彧の額に指を指してメッと叱る。


「駄目よ桂花ちゃん、命の恩人にそんな言い方しちゃ。純一さんが助けてくれなきゃ桂花ちゃんは今ごろ、その野盗の皆さんに○○が××で△されて……」
「あああ、もうっ!黙って母様!」


突如マシンガントークになった荀緄さん。しかも内容が猥談だし。荀彧が慌てて止めてるけど凄いこと口走り始めたよ。


「もう桂花ちゃんたら」
「溜め息を吐きたいのは私の方です……」


なんとか荀緄さんの口を押さえて猥談マシンガントークを止めた荀彧だが明らかに疲れた表情になっていた。


「兎に角、桂花ちゃんがお世話になりましたから今夜は泊まって行ってくださいな」
「……………私は部屋に戻りますから!」


荀彧を助けた礼として荀緄さんは俺を泊めてくれるらしい。正直、凄く助かったけど荀彧は男の俺が泊まる事に当然、不満があるらしく不機嫌な顔でズンズン歩いて屋敷の中へと行ってしまう。


「あらあら、桂花ちゃんったら。純一さんは夕飯もご馳走しますから楽しんでいって下さいね」
「え、ちょっ荀緄さん!?」


荀緄さんは俺の腕にスルリと腕を絡めると楽しそうに「あらあらー」と笑ってる。ある意味、恐るべし。
その後、夕飯をご馳走になってお酒も振る舞われた。中国のお酒って白酒だっけ?アルコール度数は高かった気がする。


「………フゥー」


俺は食休みと酒で熱くなった体の火照りを冷ます為に外でタバコを吸っていた。
本当になんなんだろうな……この状況。


朝目覚めたら見知らぬ広野に居て、チンピラに絡まれた女の子助けたら歴史の偉人で、その荀彧が女の子で、毒舌吐かれて、荀緄さんのお礼と猥談トーク聞かされて……


「何このラインナップ……」


今日一日を振り返ると非常にアホらしい。こんな事を他の人に話したらバカにされるかイカれてると思われるわ。
そう言えば夕飯の前に別れてから荀彧と会ってないな。あの様子じゃ俺には会いたくないんだろうけど。そんな事を思いながら俺はタバコを消して、あてがわれた部屋に行って寝る事にした。



荀緄は史実では荀彧の父親です。恋姫世界観で女性に変更しました


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第四話



「……………知らない天井だ」


朝一番起きてから出た一言。うん、昨日の事は夢オチだったなんて事はなかった。
実は朝起きたら元通りなんて淡い希望も持っていたのだがそうはいかないらしい。


「やれやれ……っと」


布団から体を出して体を伸ばす。パキポキと骨が鳴る辺り、運動不足なのだろう。
これからどうするかな……昨日は泊めてもらえたけど今日はそうはいかないだろうし……兎に角、朝飯かな。そう思った俺は寝間着からワイシャツとズボンに着替える。ジャケットは家を出る時でいいや。ネクタイを適当に絞めて部屋の戸を開けて外に出れば昨日出会った猫耳が見えた。


「おはよう荀彧」
「ア、アンタ誰よ!?」



わーお……本気で一晩たったら人の事、忘れてるよこの子。


「昨日、会ったばかりだろうが……」
「昨日……ああ、アンタね。昨日と服が違うから間違えたわ」


つまり荀彧は昨日は俺の顔を覚えたのではなく服で覚えていたらしい。スーツに負けたよ俺の存在。
荀彧と朝の挨拶を済ませて食堂に向かえば既に荀緄さんが席に着いて待っていた。


「おはようございます母様」
「おはようございます荀緄さん」
「あらあら、おはようございます桂花ちゃん、純一さん」


荀緄さんは昨日と変わらずニコニコと挨拶をしてくれた。本当に荀彧との差が凄いな、この人。
そんな事を思いながら進む朝食。荀彧の罵倒がBGMの朝食とはこれ如何に?
時おり、気は滅入ったが朝食を済ませて、さてこれからどうしようかと思った所で荀緄さんが俺に話しかけてきた。


「時に純一さん、これ読めますか?」
「凄く……漢字です。じゃなくて読めませんね」


荀緄さんから渡された紙には漢字で一文が書かれていたがサッパリ読めない。そうなんだよな忘れかけてたけど、ここは中国。文字は全て漢文なわけで。


「はん、やっぱり男は無能ね」
「あらあら、桂花ちゃん。純一さんは異国の地から漢に来たんですよ。それも誘拐されたとなれば仕方のない事です」


俺を見て悪い笑みを浮かべる荀彧。黙ってりゃ可愛いのに……
対する荀緄さんはメッと荀彧を叱る。アンタ等、本当に対極の性格だな。


「と言うわけで純一さん。暫く我が家に泊まってくださいな。文字やこの国の風習を教えて差し上げます」
「あ、はい………って、ええっ!?」
「母様!?」


荀緄さんの提案に俺は頷いたけど意味を理解して俺は驚いた。当然、荀彧も驚いてる。



「純一さんは桂花ちゃんを救ってくれて、更に異国の地で困ってるんですもの見過ごせないわ。はい決定」
「ちょ、ちょっと母様!」


荀緄さんはニコニコとしながら次々に物事を決めてしまう。荀彧は席を立ち、荀緄さんに詰め寄る。


「母様、私は反対です!恩なら一泊させた事で返したでしょうし、何より男なんか住まわせるなんて!」
「桂花ちゃん、命を救われた恩義は一泊じゃ返せないわ。それに困ってる人を見捨てるのは荀家の恥よ。それに純一さんは異国の方なのでしょう?この国にも異国の知を知る事は益にもなるわ」


荀緄さんは荀彧の意見を一刀両断する。流石に家長の言葉ともあり、荀彧は納得してないけど荀緄さんの意見が正しいと思ったのか話はそこで終わった。


「……仕官の準備があるから失礼します」
「はーい、頑張ってね」



荀彧は諦めたのかさっさっと食堂から出ていってしまう。出る時に俺をキッと睨み付けて行った。いや、どんだけ嫌われてんの俺?荀緄さんは『あらあらー』と笑っていた。
その後、俺は暇をもて余していた。と言うのも荀緄さんから『授業は午後からにしますからお昼までは好きに過ごしてください』と言われた為に手持ちぶさたなのだ。



「おう、お客人」
「っと?」


ボーッと中庭を眺めていたら後ろから話しかけれた。振り返ると如何にも屈強な男の人が立っていた。


「奥様から聞いたがお嬢様を助けてくれたそうだな」
「奥様って荀緄さんですか?それにお嬢様って荀彧ですか?」


思わず立ち上がりながら質問をぶつけてしまう。つーか、この人、背高いな。185㎝くらいはありそうだ。


「ああ、そうだ。荀家の家長が荀緄奥様。その御息女が荀彧様って訳よ」


ハッハッハッと笑う男性。ああ見えて荀彧ってお嬢様なんだな。


「おっと申し遅れた。ワシは『顔不』荀家の警護を任されとる者だ」
「俺は秋月純一です」


自己紹介されたので俺も頭を下げた。なんかこの人、『武人』って感じがするな。


「おう、それでな。奥様から聞いたのだが、お嬢様を助けた際に三人も倒したとか」
「不意討ちで油断してた所を叩いただけですよ」


顔不さんは誉めてくれたけど正面切っての戦いは無理だろう。相手も刃物持ってたし。


「何を言う、不意討ちでも三人倒せば良いものよ。それにお嬢様を守りながらなら尚の事だ」
「ああー……その……」


ヤバい。なんか顔不さんの口振りから荀家での俺の評価が妙に高い気がする。持ち上げないで!俺、ただのサラリーマンだから!


「どれ、ちっと手合わせでも………」
「あ、あのですね……俺には武術の心得なんかは無くてですね……」


なんか雲行きが怪しくなってきた。俺は漫画とかアニメで格闘技のマネ事とかしたけど本格的なのは無いって!


「安心しろ、手加減するから」
「お願い、通じて俺の意図!」


ハッハッハッと笑いながら俺の襟首を掴んで引きずる顔不さん。いやー!嫌な予感しかしない!と思っていたのだが予想とは違って顔不さん、優しかったよ。

武術の心得が無いことも歩き方で察したみたいで簡単な組手程度で済ませてくれた。逆を言えば顔不さんが本気を出せば俺は簡単にボコボコにされてしまう訳だが悲しいから考えない様にしよう。


「しかし秋月殿は武の才がありそうだ。どうだ、鍛えてみぬか?」
「俺に……武の才が?」


組手で疲れて座り込んでいたのだが顔不さんの話に起き上がる。今まで会社勤めばかりで武道なんかした事ないから意外な一言だった。


「特に『気』の才能がありそうだ。本気で鍛えれば武将になるのも夢ではないぞ」
「いや、武将って大袈裟な……って気?」


顔不さんは俺が武将になれる程の力があるって言うけどそれは過大評価だって。思わず苦笑いしたが俺は顔不さんの言った一言に動きを止める。え、今『気』って言った。


「気……ですか?」
「ああ、気功だ。ワシも少しは修練した身。秋月殿の中から中々の気を感じ取れるぞ」


え、マジですか?気功なんて漫画の世界の話だと思ってた。


「ふむ。ちっとやってみるか」
「え、あ、はい」


なんて考え事をしていたら顔不さんが俺の前にドカッと座る。そして手を合掌の様に合わせた後、力を込める仕草を見せた。すると顔不さんの両手の間には小さな光が……ってスゲー!


「これが……気なんですか?」
「そうだ。体の中に流れる気を制御し、普段とは違う力を見せる。それが『気』だ」


俺の質問に答えてくれた顔不さんはフゥと一息。それと同時に光は消えた。


「ハッハッハッ、興味が湧いたか?」
「そりゃもう!」


顔不さんは不適な顔で笑っていた。そして俺は大興奮。何故なら空想の産物だと思っていた事を修得出来るかもしれないってテンション上がるわ!
その後、俺は顔不さん指導の下、気を練る鍛練を始めた。
顔不さん曰く、俺の気に対する筋は悪くない所か寧ろ早い修得らしい。

その後、テンションが上がった俺は荀緄さんの言っていた『午後からの授業』をスッカリ忘れてしまい、涙目で怒っている荀緄さんに顔不さんと共に平謝りをする事となった。
因みにそんな俺達を見て荀彧は「これだから男は……」と鼻で笑っていた。



今回出た『顔不』はオリジナルキャラです



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第五話





俺が荀家に居候してから数日が経過した。
俺の一日は朝に武術の鍛練。昼には荀緄さんの授業。夜は顔不さんや荀緄さんを交えて酒盛り。そして就寝前のタバコ。
これがここ数日の俺の過ごした日々だった。

顔不さんとの武術の鍛練はめちゃくちゃキツい。
主に組手と気の練りをしている。気の鍛練には幾つか段階があるらしく。『気の発動』『気の掌握』『気の放出』と分かれるらしい。
俺は初期の段階の『気の発動』をしている。
顔不さんが言うには気は誰の中にもあるらしく、それを認識できるかどうかで気の扱いが違うらしい。
俺は早々に気の存在を認識できたので、かなり早いスピードで気の発動を会得している。
顔不さんがやっていた掌に気を集める事は出来る様になった。と言っても相当集中しないと出来ないけど……これも暫くやらねばならない。


次に荀緄さんの授業。
文字の読み書きが主だ。俺は漢文は読めないと伝えたら荀緄さんは幾つかの本を持ってきてくれた。挿絵付きで読みやすいと思ったら子供向けの絵本だった。文字が読めず、絵本で勉強をする大人。この情けない状態を脱する為に相当頑張る気力が沸いた。荀彧なんて通り掛かりに俺の授業風景を見て爆笑しやがった。

そして夜は顔不さんや荀緄さんを交えて酒盛り。
元々酒好きな俺は顔不さんの晩酌に付き合う様になり、そこに荀緄さんも加わる様になり、毎晩宴に近い。
二人も相当酒が好きみたいで俺の知ってる酒の話をするとかなり、食い付いた。主にビールとか日本酒とか。
うろ覚えながらテレビでやっていた製造法を教えると荀緄さんは『なるほど……』と呟いていた。アレ、俺なんか地雷踏んだ?

そして就寝前のタバコ。毎日数本吸ってるから流石に残り少なくなってきた。流石にここで新しいタバコ買うのは難しいよなぁ……マルボロなんて売ってるわけないし。
しかし買い物と言えば侍女さんの荷物持ちとして買い物に付き合うのだが……この時代には合わない物が多い。
町行く女の子がミニスカートやらニーソックスやら、やたらお洒落な格好をしているのが多い。眼鏡とかも明らかにこの時代のデザインじゃねーし。そもそも曹操や荀彧が女の時点で歴史が狂ってるとは思うが。あ、そう言えば煙管とか売ってたな。俺のタバコの本数減ってたから買うのもありか。侍女さんに『買ってあげましょうか?』と言われたが流石にそこまで厚かましくはなれない。

歴史が違うと言えば『真名』の存在だ。真名とは、この国の風習で本人が心を許した証として呼ぶことを許す名前であり、本人の許可無く“真名”で呼びかけることは、問答無用で斬られても文句は言えないほどの失礼に当たるらしい。
因みに俺が真名の存在を知ったのは、つい先日、荀緄さんや侍女さん達から『桂花ちゃん(お嬢様)から真名は教えてもらいましたか?』と聞かれたからだ。
真名の意味を知らなかったので荀彧に聞いたら罵倒と共に竹筒を投げつけられた。的確に顔面に当てる辺り、見事なコントロールだ。
その後、真名について小一時間程、説教を受けた。俺が真名の事を知らなかったのを差し引いてもキツい説教だったと言っておこう。

そう言えば、数日後に荀彧が曹操に仕官する為に家を出ると言っていた。顔を会わせれば相変わらず罵倒されまくっているが居なくなるのは寂しいものだ。






















そして2日後。俺は気を使える事を知った日から考えていた事がある。俺はある意味、この為に気の鍛練を頑張っていたと言っても過言ではない。


俺は両手を正面に突き出す

「かぁ……」

そして体を屈めながら球を掴む様な体制で両手を腰に引きつけ……

「めぇ……」

手のひらに全身の気を集中させ……

「はぁ……」

溜めた気が手と手の間で力を生む。そしてそれが丸みを帯びた気の塊となった、これなら行ける!

「めぇ……」

全国の少年が憧れた夢の技を今、解き放つ!

「波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


俺は気合いと共に両手を突き出した。俺の突き出した両手からエネルギー波が出た!確かに俺はかめはめ波を撃ったんだ!





























それからの話をしよう。
確かに『かめはめ波』を習得した俺だが問題も山積みとなった。
まず第一にかめはめ波を撃った俺だが、その直後に倒れた。
顔不さんの話では体内の気を全て注ぎ込んだ為に気が枯渇して意識を失ったらしい。あの手の技を放つには気を使う分だけ小出しにしなければならないらしいのだが、そんな事は当然知らない俺は全てを使いきってしまったのだ。
暫く安静にしていれば気が体に満ちて治るらしいが面目ない。それを考えるとドラゴンボール初期で山を丸ごと消し飛ばした亀仙人のかめはめ波はどれだけの気を消費したのだろうか。あ、よくよく思い出せば亀仙人、月を消し飛ばすくらいの……止めよう。話のスケールがデカ過ぎる。

第二の問題として破壊力だ。
俺は初めて放つから精々、初期の悟空。つまり、亀仙人のマネをして放ったかめはめ波レベルを想像していたのだが思いの外、破壊力があった。
試しに弓の的を標的として撃ったのだが的を破壊した俺のかめはめ波はそのまま壁をも突き破って空の彼方へと消えたらしい。

つまりは、荀家の屋敷の塀を破壊してしまった訳だ。
他に被害がなかったのは喜ばしいが居候させてもらってる人の屋敷を破壊ってどんだけ無礼を働いてるんだよ俺!



『かめはめ波』
『ドラゴンボール』で亀仙人が編み出した体内の潜在エネルギーを凝縮させて一気に放出させる技。
孫悟空の得意技であり、作品を代表する技。
本編での初披露は亀仙人がフライパン山の火事を消すために放ったものであり、攻撃技としてではなかった。なお、この際に火事は消したものの、亀仙人が張り切りすぎたため同時にフライパン山も吹き飛んでしまった。



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第六話




うぅ……体が痛い……
昨日のかめはめ波を撃ってから体が超痛い。顔不さんの話だと気が枯渇して全身筋肉痛状態なのだという。界王拳を使った悟空の苦しみってこんな感じなのだろうか。
3日もすれば治るらしいが、それまでは安静にした方が良いとの事。
3日……か。荀彧が仕官しに行くのは2日後。見送りも無理かな……
荀彧は俺が見送りに行っても嫌がるんだろうけど。

今日は一日、布団の中で過ごす事になった。真っ先に荀緄さんや顔不さんは見舞いに来てくれた。
顔不さんからはしっかり休むように言い渡されて、荀緄さんはニコニコとしながら本を読んでくれた。あ、この状況でも授業はするのね。
顔不さんの気の講義は気の扱い方による物だった。
気の扱いには大まかに二種類。『強化系』と『放出系』らしい。念能力ですかと思わず聞きそうになったが実は関係はとてつもなく近い。
『強化系』は身体能力の向上等が主で此方は無意識に気を使ってる武将が多いとか。そうは言えばこの間、噂で鉄球を振り回して野盗を退治してる子供が居るとか聞いたけど、それもその部類の人間なのだろう。
そして『放出系』は俺が放った『かめはめ波』等の気功を体外に放つ技が主になり、こちらは才能の部分が多いらしい。他にも医療気功と言って傷を癒す気功も存在するらしいがこれも放出系に属するとか。噂じゃ五道……なんとかと言う医者がそれの使い手と聞いた。いつかは会ってみたいものだ。

授業や講義が俺の気を紛らわしてくれた。なんせ他にやる事がないのだ。
テレビも無ければラジオも無い。新聞すらないから暇潰しも出来ない。やれる事があるとすれば昼寝か文字の練習くらいだ。

荀緄さんの授業が終わるといよいよ暇となる。風邪とかなら体が疲れて眠れるもんだが、俺のは筋肉痛(気肉痛か?)なので、眠くもならない。
等と暇な時間を過ごしていると荀緄さんが授業後も俺の部屋に来て話をしてくれた。退屈なのと寂しさに潰されそうだったので助かります。


「明日……桂花ちゃんが曹操様の所へ行ってしまいますね」
「そうですね……でも、それが荀彧の望みですから」


こんな話題をしてくるのは荀緄さんが寂しいからなんだろう。いや、俺も荀彧が居なくなるのは寂しいけどさ。


「純一さん、ありがとうございます」
「ん……俺、なんかしましたか?」


突然、お礼を言う荀緄さん。いやいや、礼を言うのは居候の立場の俺ですから。


「桂花ちゃん……今まで男の方と話す事なんて無かったんですよ。今ではすっかり純一さんと仲良くなって……」

荀緄さんには俺と荀彧は仲良く見えるらしい。俺、荀彧に会う度に会話の8割ほどが罵倒で埋め尽くされてますが。


「俺……嫌われてるんじゃないですかね?罵倒されてますが」
「まさか、桂花ちゃんは素直じゃないだけですよ。今まであの子は話し掛けられた男性は話もせずに無視してましたから。あの子と会話が成立する。それだけでも凄いんですから」


荀緄さんは本当に嬉しそうに目を細めて俺を見ていた。過大評価ですよ、荀緄さん。


「荀緄さん、お礼を言いたいのは俺もなんですよ。この国に来てから、最初に話をしたのは荀彧なんです。荀彧が居なかったら俺は荒野で野垂れ死んでいた」


そう、偶然だったとは言ってもあの時、襲われている荀彧と会わなかったら少なくとも俺は此処に居ない。


「その後で荀家に居候させて貰ったのも……全部、荀彧と会ったから……それにアイツの容赦無しの罵倒も……俺の悩みを……忘れ……」


話の最中なのに眠くなってきた。荀緄さんは「あらあら」といいながら俺の頭を撫でてくれる。本当に……此処に来てから色んな人に世話になり……っぱな……し……




















◇◆side荀彧◆◇



ここ数日、私は不機嫌だった。それと言うのも数日前に出会った『秋月純一』こいつが原因だ。
野盗から助けられたその日に母様の指示で奴を泊まらせる事になってしまった。
ここまではまだ仕方ないとしても、問題はその後。
なんと母様は朝食の席で秋月を居候させると言い出したのだ。男なんかを屋敷に住まわせるなんて反対よ!
私は母様に猛抗議したけど、家長の権限で決められてしまう。男なんか無能で、臭くて、短絡思考だから嫌いなのよ汚らわしい!

私は秋月を睨むと予定より早く曹操様の所へ仕官すると決めた。そうすれば男なんかと一緒にいなくても済むと思ったから。
その日の夜、私は仕官の準備をしていて夜遅くまで起きていた。母様や顔不の笑い声が聞こえたから酒盛りしてるのね。顔不は先々代から荀家に尽くしてくれてる一家だから無下には出来ないけど声が聞こえない所で飲んでくれないかしら。

そんな事を思っていたら中庭に動く影が……まさか賊!?と思ったけど杞憂だった。
中庭で秋月が煙草を吸っていた。故郷から持ってきていた煙草らしいのだが煙草は臭くて嫌い。そうでなくても男嫌いだってのに。一言、文句を言ってやろうと思ったが私の足は止まってしまう。
秋月は煙草を吸いながら憂いのある顔で空を見ていた。空に浮かぶ月に何かを重ねて見る様に。
秋月の話を信じるなら秋月は気がつけば突然異国に足を踏み入れた事になる。故郷の事を考えてるのかしら。私はその場を後にする事にした。何を言って良いのか解らなくなってしまったわね。

秋月が居候して更に数日、私は偶々、開いていた秋月の部屋の中を見てしまう。そこには幼児向けの絵本を片手に勉強をする秋月の姿が。私はそれを見た瞬間、声を上げて大爆笑してしまった。この国の文字がわからないからって大人が幼児向けの絵本を片手に真面目に勉強している様は笑い話にしか見えない。その後、笑われた事を怒りに来た秋月だけど、悔しかったらこの本くらいは読めるようになりなさいと言ってやった。悔しそうにしている秋月を見るのは良い気味だ。

次の日、秋月が私に「真名ってなんだ?」と聞いてきた。私は転けて持っていた書類に墨を溢してしまう。ああ、もうやり直しじゃない!じゃなくて……


「真名を尋ねるな馬鹿!」
「あだっ!?」


私は近くにあった竹筒をおもいっきり奴の顔面に投げ付けた。痛がっている、当然の報いよ!
その後、秋月の話では母様や侍女達から私から真名を聞いたか訪ねられたらしい。母様は兎も角、侍女達まで私と秋月の関係を疑ってる。私は男なんて嫌いなんだから止めて欲しい。侍女と言えば秋月は侍女の話題にもよく上がる。先日などは一人の侍女が秋月に贈り物をしようとしたらしい。秋月に贈り物は断られたが買い物は楽しかったって言ってたわね。確か、煙管を見てたとか言ってたけど私には関係ない。
とりあえず私は目下の馬鹿に『真名』の重要性を説かねばならない。覚悟しなさいよ秋月!



その2日後、秋月が倒れた。
私が屋敷に帰ると塀の一部が破壊されていた。何事かと問い合わせれば秋月が気を使った技で勢い余って塀を破壊したらしい。ほんの数日前まで素人同然だった奴がなんて進歩の早さだ。その反面、読み書きの習得が遅い気もするが。
一応、様子を見に行ってみると部屋には母様が居た。戸が開いていたので中の会話を思わず聞いてしまった。


「桂花ちゃん……今まで男の方と話す事なんて無かったんですよ。今ではすっかり純一さんと仲良くなって……」


母様には私と秋月は仲良く見えるらしい。秋月なんて大っ嫌いですから!


「俺……嫌われてるんじゃないですかね?罵倒されてますが」
「まさか、桂花ちゃんは素直じゃないだけですよ。今まであの子は話し掛けられた男性は話もせずに無視してましたから。あの子と会話が成立する。それだけでも凄いんですから」


秋月の言葉を母様は否定する。素直云々は兎も角……確かにまともに話した男は秋月くらいね……


「荀緄さん、お礼を言いたいのは俺もなんですよ。この国に来てから、最初に話をしたのは荀彧なんです。荀彧が居なかったら俺は荒野で野垂れ死んでいた」


私はあの日の事を思い出す。突然現れて私を助けた……そっか……あの日の出会いが今に繋がっているのね。


「その後で荀家に居候させて貰ったのも……全部、荀彧と会ったから……それにアイツの容赦無しの罵倒も……俺の悩みを……忘れ……」


会話の最中で秋月は眠ってしまったのか声が途絶えた。悩み?いつもヘラヘラ笑ってる奴に悩みなんてあるのかしら?


「あらあら、純一さん……やっぱりお疲れなのね」


続いて聞こえてきたのは母様の言葉。疲れてる……確かに気を使い果たしてるとは聞いてるけど……


「知らない異国の地に一人きり……強がって笑っていても、誤魔化せませんよ」


強がって笑う?確かに秋月はいつも笑って……まさかいつも笑ってるのは異国の地に一人きりだから寂しさを紛らわせる為に?それに私に罵倒されてる時は悩みが……あ、そうか。私は秋月と最初に話した人だから信用されてるのね。じゃなくて男に信用されたって気持ち悪いだけよ!



『界王拳』
『ドラゴンボール』に登場する技の一つ。気を限界まで高めて一時的に戦闘能力を底上げする、いわゆるパワーアップ技。戦闘力の増強に引き換え、体力を大幅に消費するというハイリスクを伴う、ある意味で博打に近い技となっている。


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第七話




かめはめ波騒動から2日が過ぎた。今日は荀彧が曹操の所へ仕官する日だ。
荀彧は意外にも部屋で寝ていた俺の所へと来て「じゃ……行くから」と別れを告げに来た。思わず可愛いと思いながら「行ってらっしゃい」と言ったら何故か竹筒を顔面に投げられた。解せぬ。
その話を荀緄さんと顔不さんに話したら大爆笑された。何故に?

そして更に次の日になり、俺の体は治った。前回の失敗を糧に同じ事は繰り返さないようにしなければ……
となると顔不さんの講義にもあった『気の掌握』をしっかりとやらねば。これは気をコントロールの事を示すらしく、俺のかめはめ波は『気の放出』本来はこの二つを同時に鍛えなければならないのだが俺は段階を踏まずに『気の放出』をメインに気功波を放った為にコントロールが出来ずに気が枯渇する程の放出をしてしまった。
顔不さんの話にあった気を小出しにするやり方をするとなると『かめはめ波』よりも『波動拳』の方になるのか?
いや、俺の気の総量を考えると『我道拳』の方が建設的な気もする。
まあ、それ以前に体も鍛えなきゃだけど。

それから数日は顔不さんの鍛練と荀緄さんの授業がメインとなった。鍛練は主に組手や筋トレ。そして気の練りやコントロール。

荀緄さんの授業も変わらずだが時おり、侍女さんの買い物を俺が肩代わりしてくる事もある。買い物をして文字の読みや商品を知る事も勉強になるのだと言う。確かに勉強にはなるが初めてのお使いみたいで少し情けなくもある。

そして夜は酒盛りなのだが今日は驚きな一言を聞かされた。なんと荀緄さんは俺の話から日本酒作成に着手し始めたらしい。
え、俺の話から日本酒を作り始めたの?つーか、俺もうろ覚えの知識しかなかったんだけど……まさか、それだけで作る行程まで持っていくとは予想外だった。確か、日本酒って出来るまでに半年くらい掛かる筈だったけど……
でもなんだろう……この人は作ってしまう気がする割りとマジで。

さて、この国の噂になっている事が幾つかある。まず黄色の布を巻いた賊どもが暴れてるとの事だが恐らく黄巾党の連中だろう。三國志の歴史の中でも始まりの乱の切っ掛けとなった連中だ。張角・張宝・張梁が首領だった筈だが……だが劉備や孫策、そして荀彧が仕官しに行った曹操。他にも袁紹、袁術、公孫瓉と言った武将が動く。彼等……いや彼女達が軍を率いて黄巾を潰す筈だ。
そういや、噂を聞く限りやはり武将は殆どが女性らしい。本来の歴史と食い違いが起きてるのか?と言うか男の武将が女になるのなら女の武将は男になるのか?そう言えば絶世の美女と言われた貂蝉は……いや、考えるのはよそう。嫌な予感がする。

次に『天の御使い』の噂だ。詳しくは覚えていないが流星と共に現れ、乱世を沈める存在だとか。
眉唾物の噂だな……まあ、俺も似たようなもんか。なんでも曹操の所に御使いが居るって聞いたけど荀彧も会ったのかな?

そんな事を思いながら、数日過ごした。その間も俺は鍛練をしていたが、気の総量は中々、増えなかった。顔不さんの話では俺には決定的に足りない物があるらしい。それが何か、聞いてみたが自分で気付かないと意味がないと言われてしまい、未だに解らず仕舞いだ。

荀緄さんの授業のお蔭でなんとか読み書きは出来るようになった。いや、この歳になって勉強ってのはキツかった。パソコンも無いし、馴れない筆で書くのは大変だ。
字が下手だと言われたが、こればかりは馴染みが無いので仕方ないと思う。


その後、俺は荀緄さんの頼まれ事で少し離れた町へとお使いに行くことになった。今までは同じ町の中で買い物に行っていたので楽しみだ。
そして俺は……顔不さんの言っていた、俺に決定的に足りない物の意味を知る事になる。



『波動拳』
『ストリートファイターシリーズ』の代表的な技の一つで掌型の波動を放つ遠距離技。リュウやケン、さくら等のキャラが技の使い手。

『我道拳』
『ストリートファイターシリーズ』でダンが使い手の技。波動拳と違い、技の射程距離が極端に短い。波動の技なので攻撃力はそれなりにある。


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第八話







荀緄さんから頼まれたお使いで、普段住む街から少し離れた街へと行く事になった俺。と言っても町の商人が馬車でその街まで行くので相乗りさせて貰っているのだが。

思えばこれが俺がこの世界に来てから初めての遠出となる。荀彧と会ってから今まで荀家の屋敷に居候していたし、買い物や頼まれ事も街の中でしかしてなかったからな。顔不さんからは、外を知るのが一番の蓄えとなるなんて言われた。


「兄ちゃんは……この辺りの人なのかい?」
「ん……ああ、いや。俺は日……いや、少し離れた国から来たんだ」


商人さんから話し掛けられて思わず、俺は『日本』と言い掛けた。三國志の頃だと日本の呼び名は……いいや思い出せそうにない。


「いや、変わった服だと思ってな」
「これは俺の国じゃ仕事着なんですよ。文官が着る服って言えば良いのかな?」


そう、俺は久々にスーツに袖を通した。鍛練の時にスーツを着てると普通に汚れるしな。まあ、普段からワイシャツにネクタイで過ごしてはいたのだ。だが今回は他所に行く子ともあって久々に上着にも袖を通した。うん、仕事に行く時みたいな気持ちになってきてる。


「そうかい。他の国じゃ文官さんはこんな服を……」


商人さんは何処か感心した風に俺のスーツを見ていた。うん、嘘は言ってない。
なんて雑談をしていたら街に着いた。んーっ朝から馬車に揺られていたから体が痛い。
商人さんにお礼をした後に街中をブラリと散策。
少し買い食いをしながら頼まれていたお使いを済ませた。


「お母さん、あれ買って」
「はいはい」


手を繋ぎながら街行く親子。平和なもんだ。俺が三國志と思われる世界に来てから暫くたったけど俺の目には平和な光景が広がっている。
だが見知らぬ街や村では黄巾の連中が暴れてるらしい……そう思うと……少しモヤモヤする。
タバコに火をつけて一服。最近、こうやって自分を落ち着かせる事に慣れてきたな……あ、二箱有った内の一箱目が無くなりそう。吸いすぎたな。


「て、敵襲だぁーっ!」
「っ!?」


ボンヤリと空に消えていく煙を見ていた俺だが突然の町民の声にタバコの灰がポロっと落ちた。


「門を閉めろ!」
「早く家の中に!」


ざわざわし始めた街の仲で俺は逃げ惑う人達と一緒に逃げようとしたが先程の親子の子供が転んで怪我をしてしまっていた。


「おい、大丈夫か?」
「い、痛いよ……痛いよぅ……」


俺は思わず、転んだ子供に駆け寄るが子供は擦り傷が出来て泣いていた。こんな子供が泣いている……なのに俺は逃げるだけか?今の俺は気を使う事も出来るのに?飄々と荀家にお世話になっているだけなのか?


「そっか……痛いよな」
「………おじちゃん?」


突如、変わった俺の態度に目の前の子供は泣き止んだ。いや、泣き止んだのは結構だが『おじちゃん』は止めて。俺はまだ20代だから。
俺はポンと子供の頭に手を乗せて笑みを浮かべる。


「泣くなよ、男の子だろ?」
「う、うん……」
「あ、ありがとうございます。さ、早く逃げるわよ!」


俺の言葉に男の子は完全に泣き止んでくれた。その直後、母親が男の子を連れて行く。母親ははぐれた子供の面倒を見てくれた俺に礼を言うと避難していく人達の中に消えていった。


「さて……と」


俺はタバコを地面に投げると足で踏んで消す。目指すは街の外に来ている馬鹿共の所。



「行けーっ!」「攻めろ、攻めろ!」
「街に入れさせるな!」「もっと防柵を作るんだ!」


街の塀の近くでは街に入ろうとする黄巾の連中と街に入れまいと防戦の軍。いや、義勇軍かな。
さて、義勇軍の手伝いをするか。


「はーい、ちょっくらゴメンなさいよ」
「え、ちょっとお兄さん何してんねん!?」


俺は黄巾の連中が揃ってる門の近くへと歩いていく。何やら坊柵用の材料を集めていた女の子が俺に手を伸ばしていたが時間も無いし、早々と済ませるか。
俺は両手を前に突き出す。その先には黄巾の皆さん。


「かぁ…めぇ…はぁ…めぇ……」
「な、気が集まって……凪みたいに気使いかいな!?」


俺の両手に集まり始めた気の塊に驚く女の子。いや、今気づいたけど関西弁だよな、この子。まあ、気にせずにいってみよう。


「波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「どっひやぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


俺のかめはめ波に驚いた女の子は尻餅を着いていた。そして俺のかめはめ波は防柵を作っていた義勇軍の人達の隙間を縫って黄巾の皆さんへとまっしぐら。
着弾したかめはめ波は黄巾の皆さんを吹っ飛ばして、その勢いをそのままに空へと消えていった。なるほど、前に荀家の塀を破壊した時に気弾は空へと消えたと聞いたがこんな感じだったのか。そういや、今回は気の消費が少ない気がする。
俺は唖然としている街の皆さんを尻目に門へと近付く。


「今ので敵の勢いは削れましたから、そのまま防柵を作ってください」
「あ、ああ……だがアンタは?」


俺はタバコに火を灯しながら街の外へ視線を向けた。そこには、かめはめ波の余波で苦しむ黄巾の皆さん。門の辺りから見ると……まあ、沢山控えてらっしゃる。
町民の方が俺に何者かを聞いてくるが……まあ、通りすがりの未来人です。何処の謎転校生だ俺は。


「………ま、少なくともアナタ方の味方ですよ。それに……」
「なんなんだテメェ!」


俺が町民へ話しかけてる途中で黄巾の一人が俺に向かって叫ぶ。良いこと、言おうと思ったのにチクショウ。
ま、でも……覚悟は決まったさ。うん。俺はタバコを少し強めに吸って煙をフゥーと吐く。煙は俺の前に小さな線を引いた。


「この白線からは……ここから先は全面通行止めだ。通りたきゃ今のをもう2、3回は喰らう覚悟をしろや」


俺の言葉に黄巾の連中はビビった様子だ。うん、この調子でいければ良いのだが……

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第九話





街に入ろうとする黄巾の連中をかめはめ波で一時的に黙らせたが、そう長くは続かないだろう。門は他にも三ヶ所、東西南北とあるので全てを守らねばならない。


「ちょっ……お兄さん何者や!?」
「んー……」


先程の女の子が俺に詰め寄る。まあ、突然現れてあんな事、すりゃ当然か。つーか、この娘……ヤバい……何がヤバいって……ああ、イカンイカン……視線を落としたらガン見してしまう。


「俺は偶々、この街にいた者だ。あの連中が気にくわないから戦いに参戦した……じゃ理由にならないか?」
「なんやお兄さん、正義の味方のつもりかいな」


俺の言葉に女の子は胡散臭げに俺をジロジロと見る。俺が正義の味方なら変身してから戦うよ。


「ほら、話してないで防柵を作ってくれ」
「あ、ああ……ほな、後で話聞かせてな!」


俺がポンと背を叩くと女の子は我に返り、慌てて防柵作りに戻る。さて、俺はもう一発、かめはめ波をお見舞いしてやろうかと思ったが……なんか黄巾の連中の数がさっきの倍近い。
これはヤバいかも。


「おい、お主!」 
「あ、はいはい……どちら様?」


ヤバいなぁ……なんて思っていたら後ろから声を掛けられ、振り向くと青い服に身を包んだ美人とお団子三つ編みの女の子が居た。


「我が名は夏侯淵。此方は許褚だ。先程の気弾はお主の物か?」
「俺は秋月純一。質問の答えなら気弾を放ったのは俺だ」


名乗られて質問をされたのでこっちも自己紹介して質問に答える。すると美人は笑みを浮かべた。


「そうか。私が他の門の所へ行っている間に南の門が突破されそうになったと聞いて焦ったのだが、お主の気弾で状況を変えてくれた感謝する」
「ありがとねー!」


深々と謝罪する夏侯淵と明るく礼を言う許褚。アンバランスな組み合わせな二人だな。ん……夏侯淵と許褚?


「つかぬ事をお聞きするが……まさか曹操の所の?」
「なんだ知っていたのか?」
「そだよー」


OH……やっぱりだよ。夏侯淵と許褚って言えば曹操の軍の中でもトップクラスの武将の筈。まさか、こんな所で会う事になるとは……


「いや……噂で聞いていた程度のもんだよ。それに荀彧……知り合いが曹操の所へ仕官したんでな気になってたんだ」
「ほぅ……ではお主が「あの馬鹿」か」


俺の発言に夏侯淵はクスリと笑みを浮かべた。それに「あの馬鹿」とは何ぞや?


「桂花と話しているとな時おり、「あの馬鹿」の話になるのだよ。名は教えてはくれなんだがお主の事で間違えなさそうだ」
「いつもツンツンした態度で「あの馬鹿」さんの話をしてるよ」


楽しそうに話す夏侯淵と許褚。許褚さんよ、「あの馬鹿」を名前みたいに呼ばないで。


「さて、秋月……街には我々曹操軍の先遣隊が守りを固めて、街の義勇軍も加わった事でなんとか黄巾の大軍を防ぐ事が出来ている……だが腕の立つ者が加わってくれれば更に助かるのだが……」
「そう言われちゃ断れないし……まあ、元々断る気はねーよ」


そう言って俺と夏侯淵と許褚は街に入ろうとする黄巾の連中を睨んだ。


「ふ……ならば頼むぞ。そして死ぬなよ桂花との話を聞かせてもらうのは面白くなりそうだからな」
「いきなり戦意を削ぐ話をしないでくれ……」


静かに笑みを浮かべる夏侯淵とケラケラと笑う許褚。なんか勝っても録な結果にはなりそうに無い気がする。
その後だが俺は夏侯淵と許褚の曹操軍、楽進・李典・于禁率いる義勇軍で街に立て籠り、二つの部隊が連携し、街の防衛をする事となった。
そんな中で夏侯淵と許褚、楽進・李典・于禁は真名交換までしていた。いや、俺とはしてないんだけどさ。
因みに楽進は体に傷を持ち、髪を長い三つ編みにしている娘で于禁は眼鏡を付けて、愛らしい声と口調の娘だ。そして先程、俺と話した関西弁の娘が李典だった。
マジで男の武将はいないのか、この世界。しかも楽進・李典・于禁って魏の武将やんけ!勢揃いか!
それはさておき、俺は街の防衛と時おり、纏めて敵を吹っ飛ばす為のかめはめ波係りとなった。いや、頼りにされるのはいいんだが『かめはめ波係り』って何よ!?鉄砲隊の扱いか!?
なんてツッコミ入れても、この世界の住人には通じないしなぁ……悲しいわ


「夏侯淵様!西側の大通り、三つ目の防柵まで破られました!」
「……ふむ、防柵はあと二つか。どのくらい保ちそうだ?李典」
「せやなぁ……応急で作ったもんやし、あと一刻保つかどうかって所やないかな?」


一刻って確か30分位だったっけ?つーか、今までよく保った方なんだよな。


「微妙なところだな。姉者達が間に合えばいいのだが……」
「しかし、夏侯淵様が居なければ、我々だけではここまで耐えることはできませんでした。ありがとうございます」


悔しそうにだが冷静に戦力分析をする夏侯淵。クールだねぇ……楽進も似たタイプだな。


「それは我々も同じ事。貴公ら義勇軍がいなければ、連中の数に押されて敗走していたところだ」
「いえ、それも夏侯淵様の指揮があってのこと。いざとなれば、後の事はお任せいたします。自分が討って出て……」
「おいおい……それは……」


夏侯淵との話の中で楽進は玉砕覚悟の特攻をしようとしている。俺が止めようとしたら許褚が楽進の前に立った。


「そんなのダメだよっ!」
「っ!」


楽進の玉砕覚悟の発言に、許褚が声を上げてそれを否定した。そんな許褚の声にその場に居た全員の視線が許褚に集中している。


「そういう考えじゃ………ダメだよ。今日は絶対春蘭様達が助けに来てくれるんだから、最後まで頑張って守りきらないと!今日、百人の助けるために死んじゃったら、その先助けられる何万もの民を見捨てることになるんだよ!」


見事な口上だ。こんな小さな子がこれだけの事を言えるとは……


「………肝に銘じておきます」
「………ふふっ」


楽進は自分の未熟さを感じたのか楽進は大人しくなり、夏侯淵が何故か笑った。


「な、何がおかしいんですか、秋蘭様ー!」
「いや、昨日あれだけ華林さまや北郷に叱られていたお前が、一人前に諭しているのが……おかしくてな」


抗議する許褚に夏侯淵は静かに笑う。なるほど受け売りだった訳ね。

「あー!「あの馬鹿」さんまで笑ってる!」
「いや……それ、名前じゃないからね。そろそろ止めてマジで」


ムーっと怒る許褚。だから名前じゃないから、その呼び名は止めなさい。泣きたくなるから。
そんな話をしていたら于禁が慌てて走ってきた。


「夏侯淵様ー!東側の防柵が破られたのー。向こうの防柵は、あと一つしかないの!」
「アカン!東側の最後の防柵って、材料足りひんかったからかなり脆いで、すぐ破られてまう!」


于禁と李典の会話にその場がピリッとなる。ここからが本格的にヤバくなりそうだ。なら……俺の次の行動は決まったな。


「わかってる。ここが正念場だ、気合を入れていけ!」
「東側には俺が行こう。俺の技なら纏めて吹っ飛ばせるからな」


夏侯淵の叫びに俺は東側に向けて歩き出す。一人でも多く居た方が良いからな。


「秋月……もうすぐ我等の増援が来る……時間稼ぎで十分だからな」
「ああ……わかってるよ」


俺はタバコに火を灯しながら東側の門へと歩き出す。そこで立ち止まり、夏侯淵達の方に振り向く。


「時間を稼ぐのはいいが……別に全部、倒してしまっても構わんのだろう?」


俺は笑いながら冗談染みた言い方をした。俺は今、笑えているだろうか。今回の戦いは俺の初陣となった。
正直、テンション上げたりして誤魔化していたけど俺の胃に込み上げる物がある。買い食いなんかするんじゃなかったよチクショウ
歴とした戦争を体験している俺はこうやって自分を誤魔化さないと膝が震えるくらいだ。さっきは覚悟を決めたつもりだったが……体は正直なものだ。
等と思いながら東側の門へ行こうとした時、銅鑼の音が鳴り響いた。

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第十話




銅鑼の音が鳴り響いた後の話をしよう。銅鑼の音は増援の合図だったらしく外から見えたのは曹と夏の文字の旗。それは曹操と夏侯惇の旗印。
俺が手伝う必要もなく、あっという間に黄巾の連中は退治された。ドヤ顔で先程のセリフを言ったので非常に恥ずかしい。


「秋蘭、季衣!無事か!」
「危ないところだったがな……まあ、見てのとおりだよ姉者」
「春蘭様ー!助かりましたっ!」


無事、本隊と合流を果たした先遣隊の夏侯淵と許褚は黄巾を街から追い払い、仲間との再会に喜んでいる。俺は少し離れた位置でタバコを吸っていた。なんて呑気にしていたら金髪の美少女と白い服の少年が来た。あれ……少年の方は服に見覚えが……つーか学生?


「三人とも無事で何よりだわ。損害は……大きかったようね」
「はっ。しかし彼女等と彼のおかげで、最小限の損害で済みました。街の住人も皆無事です」
「……彼女等と彼とは?」


そんな金髪の美少女の言葉に楽進・李典・于禁の三人が前に出る。もしかして、あの金髪の美少女は曹操なのか?


「……我らは大梁義勇軍。黄巾党の暴乱に抵抗するために、こうして兵を挙げたのですが……」
「「あーっ!?」」


真面目に自己紹介を済まそうとしている楽進の言葉を遮る声。見れば互いに指を指して口を開けてポカンとしている。


「何、どうしたの?一刀、春蘭」
「華琳。ほら、竹籠の……」
「いえ、以前に我らが街に竹籠を売りに来ていた者と同じ人物だったのでつい……」


同時に曹操に説明を始める少年と夏侯惇。同時に言ってやるなよ。知ってる顔だったんだな。知ってる顔と言えば荀彧は居ないのかな?なんて思っていたら于禁の口を慌てて夏侯惇が塞ぐ。何やら隠したい事があるのかボソボソと話をした後に于禁もコクコクと頷いて了承した。


「あの時の姉さんが陳留の州牧様やったんやね。兄さんの方も曹操様と一緒やし」
「まさかの出会いだなぁ」


李典と少年が馴染みながら話をしてる。ふむ、話の筋からすると別の街で楽進・李典・于禁が竹籠を売ってる時に曹操、夏侯惇、少年と会ってたって事か。


「……で、その義勇軍が?」
「はい。黄巾の賊がまさか、あれだけの規模になるとは思いもせず、こうして夏侯淵様に助けていただいている次第です……」
「そう。己の実力を見誤ったことは兎も角として……街を守りたいという、その心がけは大したものね」
「面目次第もございません」


曹操の問い掛けに楽進は不覚と言った表情で答える。真面目なんだな。あ、なんか少年がチラチラとこっちを見てる。


「とはいえ、あなた達がいなければ、私は大切な将を失うところだったわ。秋蘭と季衣を助けてくれてありがとう」
「はっ!」


曹操の言葉に頭を下げる楽進。なんか既に主従って感じに見える。いや、曹操が女王様って感じでもあるんだが。


「あの、華琳様。もしよかったら凪ちゃん達を華琳様の部下にして、もらえませんか?」
「義勇軍が私の指揮下に入るということ?」


許褚が曹操と楽進の話に参加する。曹操の疑問に楽進が曹操に説明を始めた。どうでもいいけど俺、かなり蚊帳の外だな。


「聞けば、曹操様もこの国の未来を憂いておられるとのこと。一臂の力ではありますが、その大業に是非とも我々の力もお加えいただきますよう……」
「ふむ……そちらの二人の意見は?」
「ウチもええよ。陳留の州牧様の話はよう聞いとるし……そのお方が大陸を治めてくれるなら、今よりは平和になるっちゅうことやろ?」
「凪ちゃんと真桜ちゃんが決めたなら、私もそれでいいのー」


李典、于禁も楽進の意見に賛成し頷く。それを見て、曹操は夏侯淵の方を向く。


「秋蘭。彼女達の能力は……?」
「一晩共に戦っておりましたが、皆鍛えればひとかどの将になる器かと」


曹操に楽進達の能力を聞かれて答える夏侯淵。なんかチラッとこっちを見たか?


「そう季衣も真名で呼んでいるようだし良いでしょう。三人の名は?」
「楽進と申します。真名は凪……曹操様にこの命、お預けいたします!」
「李典や。真名の真桜で呼んでくれてええで。以後よろしゅう頼んます」
「于禁なのー。真名は沙和っていうの。よろしくお願いしますなのー」


曹操は三人の名を聞き、楽進・李典・于禁は曹操に真名を預ける。良かったね三人とも。あ、曹操がこっちに視線を向けた。


「そう凪、真桜、沙和ね……それと、そこの男は?」
「その者は楽進達と同じく我々と戦ってくれた者です。まだ荒削りですが相当の気の使い手です。そして恐らく桂花の言っていた「あの馬鹿」と思われます」


曹操に聞かれた夏侯淵は俺の事を説明を始める。いや、持ち上げた説明と「あの馬鹿」呼ばわりは止めてくれ。


「あら……あの桂花が「あの馬鹿」って言う程の男はアナタなのね?」
「荀彧はいったいどんな説明をしてたのか非常に気になりますな」


俺はタバコの火を消すと曹操に歩み寄る。この子、背は低いけど威圧感半端ねぇんだけど……


「話は時折、桂花から聞いているわ。異国から来たそうね?」
「そのようです。自分には何がなんだか解らぬ内に巻き込まれたのが妥当な説明になりますが」


曹操の問いになんとなく敬語で答えてしまう。


「それは、そっちの彼も同じだろ。なあ、学生君?」
「あ、そうですね。俺も華林に拾われてから大変だったので」


俺が笑いながら少年に話し掛けると少年は苦笑いを浮かべながら答えてくれた。


「まあ、そう言うな。この世界を体験するなんて学校じゃ学べないぞ」
「そうなんですけど……」


俺の言葉にハハッ……と苦笑いの少年。やっぱりこの学生君も俺と同じか。


「アナタ……一刀と同郷なの?」
「え……あっ!」
「やっぱりか……学生服だからまさかとは思ったけど」


俺は上着を脱いで肩に担ぐ。曹操の言葉に学生君も気が付いた様だ。
どうやら目の前の学生君も俺と同じく日本から……未来から来たらしい。


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第十一話




学生君、改め『北郷一刀』から事情を聴くと状況的には俺と同じだった。ただ俺と違う場所に居て、いきなり野盗に襲われたのを三人の女の子に助けられたらしい。真名の存在もそこで知ったらしいが迂闊にもそこで、助けてくれた三人の内の一人の真名を口にしてしまい刺され掛けたとか。
そして謝罪の後に曹操の軍に拾われて未来の事もそこで話、未来の知識を買われて今に至るとの事。今は街の警備隊の仕事をしてるらしい。

それに対して俺は荀彧を助けてから荀家に居候して、武術の鍛練や読み書きの教えを受けたりと一刀と比べると楽々としてたんだなぁ……
因みに俺、一刀、そして曹操は皆と少し離れた位置で話をして居た。天の国=未来の話になる訳だが流石に天の御使いが未来人と広めるのはマズいとの判断だった。


「………そう」


一通り話を終えた俺だが曹操は顎に指を這わせて何かを考える仕草をしている。美少女は悩む仕草も様になってるなぁ。


「貴方……名は?」
「秋月純一。字と真名は無い」


曹操の問いに答える俺。そして次の曹操の言葉は意外な言葉だった。


「あなた、私に仕えなさい」
「はい?」


いきなりのスカウトに俺は呆けてしまう。いや、会って数分で曹操にスカウトされるってどんな状況よ!?


「アナタは北郷一刀と同じく、天の国の住人……そんな奴が野放しになってるのは危険なのよ」
「二天は要らず……ってか?」


曹操は俺に試す様な視線をぶつけてきている。『天』を名乗るものが多く現れてはその意味が薄くなるし、争いの種にもなる。
そして曹操は俺の言葉に笑みを浮かべた。


「そう。そしてアナタが他国に行くような事になるなら私はアナタを消さなければならない」
「そりゃご勘弁」


俺は曹操の言葉に舌を出して於ける。殺されるのは嫌だし……何より同郷の一刀がいるなら断る理由はないな。


「就職先の誘いがあるならお受けしますが……一度、荀家に戻ってからでよろしいか?頼まれ事も有ったし……何より世話になった家に不義理を残したくないんで」
「礼を尽くせる人間は嫌いじゃないわ。この戦が終わったら一度、帰る事を許しましょう」


俺の言葉に曹操は許可をくれた。オマケに評価は上がった模様。


「我が名は曹操、真名は華琳よ。私の事は好きに呼びなさい」
「確かに受けとりました。……大将って呼ばせて貰いますよ」


まさか、いきなり真名を預けられるとは凄い驚いた。これが器の大きさって奴かね。さて、好きに呼べと言われたけど流石に国のトップを呼び捨てには出来ない。一応、社会人だったんでそこはケジメだな。かと言って『華琳様』と呼ぶ気にもならん。となれば『大将』と呼ぶのが妥当かね。後、一応とは言えど敬語はしなければ。


「よろしくお願いします、秋月さん」
「純一でいいよ。大将の所に仕えてるのはそっちが先なんだから色々と教えてもらうぞ?」


そして俺と一刀は握手をしながら笑った。同郷の人間が居るだけでも安心感は違うものだ。
その光景を見た大将はニコりと笑うと楽進・李典・于禁とも向き合う。


「さて、さしあたりアナタ達四人は、一刀に面倒を見させます。別段の指示がある時を除いては、彼の指揮に従うように」
「…………は?」


ほう、いきなりだなマジで。一刀なんか俺と握手したまま固まってるし。


「どうしたのよ?」
「い、いや……俺に任せるのはどうかと思うんだけど?」


一刀は握手をほどくと大将に詰め寄る。まあ、話を聞く限り、一刀は学生だから急に部下とか言われても戸惑うか。


「あら、何か問題がある?」
「いや……俺に部下が出来ても……あ、ほら年上の純一さんもいるし!」
「いくら年上でも俺は新参なんだぞ。それに大将がお前を指名したんだから心意気には答えて見せろ」


大将の言葉に踏ん切りのつかない一刀に裏拳でポンと胸を叩いてやる。大将は俺の行動に驚いた様だ、ポカンとしてる。


「うぅ……やってみます」
「なら結構。他に異論のある者は?」
「異義あり!」


一刀は観念した様に頷く。頑張れ少年。そして大将が辺りを見回して異論はないかと聞くがこの采配に異を唱えるものが一人。あ、やっぱり曹操軍に居たんだな猫耳ちゃん。


「問題大有りです!なんでこんなのに、部下をお付けになるんですか!しかも秋月まで!」
「あ、居たのか桂花」


ズカズカと乱暴に来たのは荀彧は一刀に抗議してる。つーか一刀、荀彧の真名知ってたんだな。


「ふん!あんたと違って私は有能なの!華琳様、周囲の警戒と追撃部隊の出撃、完了しました。住民達への支援物資の配給も、もうすぐ始められるかと」
「ご苦労様、桂花。で、何の話だったかしら?」


一刀を流れるように罵倒した荀彧に大将はニヤニヤと笑っている。やはりドS、弄る気満々だ。


「北郷の事です!こんな変態に華琳様の貴重な部下を預けるなど……!」
「あら、一刀なら上手く活用してみせると思うけれど?」
「俺もフォローするしな」


荀彧は一刀を嫌ってんなー。大将は一刀を評価してるけど荀彧は納得してない様子だな。あんまり我が儘言うんじゃありません。


「アンタは黙ってなさい!大体なんで此処に居るのよアンタ!」
「荀緄さんの頼まれ事でこの街に来てたんだよ。んで戦に巻き込まれて一晩戦ってた」
「嘘だ!」


荀彧の言葉に説明をしたのだが何故か嘘つき呼ばわりされたよ。しかも言い方が何処ぞのヤンデレヒロインだよ。


「アンタが戦える訳無いじゃない!」
「そうでもないぞ桂花。私は一晩、秋月の戦いを見ていたが見事なものだった」
「ありがとう夏侯淵」


そう言えば荀彧は俺がかめはめ波を撃ってから倒れてる事しか知らないんだっけ。夏侯淵が俺のフォローをしてくれる。ああ、優しさが身に染みる……


「………ふんっ!」
「痛っ!」


夏侯淵の優しさに感動したら何故か、荀彧に足を踏まれた。理不尽な。


「私は結構平気かもー。意外とカッコイイしー」
「ウチもええよ、この人達が上司なら色々学べそうやし」
「曹操様の命とあらば、従うまでだ」


于禁・李典・楽進は口々に言う。取り敢えずの納得はしてくれたみたいだな。


「どうなの一刀。三人こう言ってくれてるし、純一も納得してるのよ?」
「わかったよ、三人とも宜しく」


とうとう観念したのか一刀は彼女達と俺の上司になる事を決めた様だ。


「よろしゅうな、隊長」
「了解しました。隊長」
「はーい、隊長さーん」


それぞれが一刀に隊長としての挨拶をする。舐めきった態度だなオイ。


「そうね……純一には一刀の補佐をしてもらおうかしら」
「んじゃ副隊長か?」


大将の言葉に俺は驚く。いや、新人にいきなり副隊長に任命すんなよ。


「副隊長か……純一さんだと副長って感じですね」
「鬼の副長ってか?」


ハハハッと笑う俺と一刀。そんな光景を見て、大将はニヤッと笑った。あ、嫌な予感。


「そうね……なら純一は北郷隊の副長を正式に任命します。皆は何か異論はある?」
「特に問題はないかと」
「良かったね、四人とも!」


マジで副長に任命されたよ。俺、鬼の副長みたいに厳しくないよ?
その後、大将は残った面子に聞いて回ってる。夏侯淵や許褚は頷いてくれてる。まあ一晩、一緒に過ごしたから、ある程度信頼されてるのかな?


「春蘭はどう?一刀に問題でもある?」
「いえ、これで北郷も少しは華琳様の部下としての自覚も出るのではないかと。彼等の実力は私はまだ知りませんが秋蘭が言うなら間違いはないと思います」


今まで黙っていた夏侯惇に話しかける大将。一刀の評価は低い……のか?


「自覚……一応、あるつもりなんだけど」
「お前ほど無い奴も珍しいぞ」
「それではこの件はこれでいいわね。物資の配給の準備が終わったら、この後の方針を決めることにするわよ。各自、作業に戻りなさい」


一刀の意見もバッサリと切られる。その後、大将の方針決めで皆は作業に戻った。俺も手伝いますかね……にしても副長か

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第十二話





俺は軍議に呼ばれていたので、軍議が行われる大きな天幕に向かった。本来なら物資の配給の手伝いでもしようかと思ったのだが大将から「一刀の補佐になるなら軍議に出る機会も増えるから学んでおきなさい」と言われた為に軍議に参加。天幕に到着すると既に大将や夏侯姉妹、季衣と荀彧に凪と真桜もいた。

因みに部下になるって事で楽進・李典・于禁の真名を授かり、季衣からも真名を預かった。季衣には荀彧の言っていた「あの馬鹿」呼ばわりはなんとか止めさせた。
凪・真桜・沙和は俺の事を『副長』と呼ぶようになり、夏侯姉妹からは『秋月』と呼ばれる様になり真名も預かる事になった。なぜかと言えば秋蘭が『一晩ともに戦い、背を預けたのだ。真名を預けるには足りぬ理由か?』『しゅ、秋蘭が真名を授けるなら私も預ける!』との事。

荀彧は真名を預けてくれなかった。何かを言いかけた段階で大将が待ったを掛けたのだ。『あら、桂花?一刀の時は私が命じたけど無理に純一に真名を預ける必要は無いわよ?』
等と言った為に荀彧が何を言おうとしたかは判らず仕舞い。しかも『純一の最初の目標は桂花から真名を授かる事ね』と超ドヤ顔で言ってきやがった。わかってて邪魔しに来やがったなドSめ。
それは兎も角、どうやら天幕に来たのは俺が最後だったらしく、俺が天幕に入ると軍議が始まった。因みに沙和は補給物資の配給作業の為に此処にはいない。


「さて、これからどうするかだけど……新しく参入した凪達もいることだし、一度状況をまとめましょう。春蘭」
「はっ。我々の敵は黄巾党と呼ばれる暴徒の集団だ。細かいことは……秋蘭、任せた」
「やれやれ……」


大将の後を引き継いで春蘭が説明を開始と同時に預けてくれなかったにバトンタッチ。
いつもの光景なのかな。秋蘭が諦めた様子で春蘭の代わりに前に出る。あ、なんか苦労してるッポイな。


「黄巾党の構成員は若者が中心で、散発的に暴力活動を行なっているが……特に主張らしい主張はなく、現状で連中の目的は不明だ。また首領の張角も、旅芸人の女らしいという点以外は分かっていない」
「分からないことだらけやなぁ」


確かに分からないだらけだ。分かってるのは暴力行為と首領の名が張角って事とその人物が女旅芸人って事か。あ、張角も女なのね。


「目的とは違うかもしれませんが……我々の村では、地元の盗賊団と合流して暴れていました、陳留の辺りでは違うのですか?」
「同じようなものよ。凪達の村の例もあるように、事態はより悪い段階に移りつつある」


悪い段階って事は小さい集団のバカ騒ぎが同じような集団や盗賊団と手を組始めたって事か。
確かに昨日の連中も数は凄かったな。これ以上、増えると軍でも対応しきれなくなるって事ね。


「これからは、暴徒と言えど一筋縄では行かなくなったわ。ここでこちらにも味方が増えたのは幸いだったけれど……これからの案、誰かある?」
「この手の自然発生する暴徒を倒す定石としては、まず頭である張角を倒し、組織の自然解体を狙うところ……ですが……」


大将の質問に荀彧が答えるけど……そりゃ無理な話だな。だって……


「張角って何処にいるんですか?」
「もともと旅芸人だったせいもあって正確な居所は掴めていない。というより、むしろ我々のように特定の拠点を持たず、各地を転々としている可能性が高い」


そう。張角の居場所が分からん事には討伐もクソもない。噂を聞いて捜索したとしても、確証がない上に空振りに終わる可能性の方が高い。現代ならネットとか目撃情報とか出せるんだろうけど。


「成程。本拠地が不明でどこからでも湧いて出る敵か……そりゃ苦労するな、攻めようもないし」
「そうよ。でもだからこそ、その相手を倒したとなれば、華琳様の名は一気に上がるわ」


一刀の呟きに荀彧も頷く。ふむ、だけどまあ……凄い人気なんだな。ただの旅芸人から黄巾党が生まれるまでに人が集まるとは。現代のアイドルグループだってテレビとかの広報で人気が出るもんだけど、人伝の噂くらいしか話を聞く機会がない人達の間でそこまで人気が出るもんなのか?


「す、すいませーん。軍議中、失礼しますなのー」
「どうしたの、沙和。また黄巾党が出たの?」


等と俺が考えていると沙和が恐縮しながら天幕の入口から顔を出していた。


「ううん、そうじゃなくてですねー」
「何だ。早く言え」
「街の人に配ってた食糧が足りなくなっちゃったの。代わりに行軍用の糧食を配っていいですかー?」


春蘭の促しに用件を伝える沙和。ああ、早くも食料が足りなくなったか……ん、食料が?


「桂花、糧食の余裕は?」
「数日分はありますが……義勇軍が入った分の影響もありますし、ここで使い切ってしまうと、長期に及ぶ行動が取れなくなりますね」


そういや、昨日の連中も数は凄かった。そう俺達でさえ食料が足りなくなっている。


「とはいえ、ここで出し渋れば騒ぎになりかねないか。いいわ、まず三日分で様子を見ましょう」
「三日分ですね。分かりましたなのー」


大将の指示を受けて、沙和は天幕を出る。それを見送った大将は荀彧に視線を移して指示を与えている。


「桂花、軍議が終わったら、糧食の補充を手配しておきなさい」
「承知しました」
「すみません。我々の持ってきた糧食は、先程の戦闘であらかた焼かれてしまいまして……」


ふむふむ。義勇軍の食料は焼かれた。だけど黄巾の連中は未だに元気に動いていると……チラッと一刀を見れば何かを考え込んでる。ふむ、同じ答えに行き着いたかな?


「気にしなくていいわよ。アナタ達がそれ以上の働きを見せてくれれば」
「なあ、華琳。糧食の補充は相手もする。けどあれだけの部隊が居ると相当な糧食が必要となる……よな?」


大将の会話に横やりで参加した一刀。その言葉に大将もピンと来たようだ。


「……なるほど」
「にゃ?」
「その手があったわね」
「ど、どういう意味だ?」


文と武で明らかに差が出たな今の会話。主に大将と荀彧、春蘭と季衣で分かれたが。ならば俺が説明しよう。


「あれだけの部隊が動くには武器はともかく、糧食は現地調達じゃ無理がある筈。だからその糧食や武器をどこかに集めてる集積地点がある筈って事だ」
「あら、純一も理解していた様ね」
「一応……勉強はしてたものね」


俺が一刀の説明を引き継いで発言すると大将は感心した風に。荀彧は笑いを堪えながら……今、荀家での俺の勉強風景思い出してるなコイツ……


「華琳様、すぐに各方面に偵察部隊を出し、情報を集めさせます」
「ええ。桂花は周辺の地図から、物資を集積できそうな場所の候補を割り出しなさい。偵察の経路は、どこも同じくらいの時間に戻ってこられるように計算して。出来るわね?」
「お任せ下さい!」


秋蘭が即座に偵察を出すと大将は次いで桂花に指示を出した。即決の判断スゲーなマジで。


「他の者は、桂花の偵察経路が定まり次第出発なさい。それまでに準備を済ませておくように!」


黄巾党を確実に仕留める捕らえられるとなり一気に忙しくなり始める。さて俺は……どうしよう?
思えばやる事、ねーわ。俺、部隊持ってるわけじゃねーし、軍師みたいに知恵を出すタイプでもないし。
沙和の手伝いにでも行ってこようかな?

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第十三話




沙和の手伝いにでも行こうかと思えば大将に引き留められた。なんでも一刀とは違う視点での天の国。つまりは未来の話が聞きたいらしい。
ただし曹操の歴史の話を除いてとの事だ。なんでも自身の未来の歴史を知ると視野が狭まるからいらない、との事。
とは言ってもなぁ……俺もしがない社畜なんですが……


「一刀の話だと……確か『殺羅理萬』だっけ?」
「……サラリーマンな」


覇王様、それは何処のアサシンですか?訂正を入れつつ、サラリーマンの事や俺自身の話をした。んで、少し悩みを打ち明ける。


「気の量が急に増えた?」
「俺はただの一般人だったんで気の量は増えにくいと思ってたんですよ……鍛えても中々、成果が出なかったんで」


そう、この街に来てから戦闘に参加してから俺の気の量は格段に増えていた。たった一発のかめはめ波で体力を使い果たした最初の頃とは違い、昨日から数発、放ったのだが未だに体力に余裕があった。とは言っても後、二発が限度か。


「気の量が増えたのは街での戦闘を経験してからなのね?」
「ん……まあ、そうなるかな?正しくはその前だな。街で子供が泣いていて、子供が泣く切っ掛けになった黄巾の連中に頭にきたんだが……」


ふむ、と考える仕草の大将。


「なら、それね。アナタは戦う意思に目覚めたからよ」
「戦う……意思」


ロトの勇者みたいなもんですか?あ、違いますよね。


「アナタは今まで天の国から来てから戦そのものが未知のものだった。何処か、遠いこと……悪く言えば他人事として無関心だったのよ。それが自ら戦うと決めた事で闘志が沸き、気の量も増えた……って事よ」
「………つまりは気の持ち様ってか?」


そんな都合の良い…….


「やる気のない人間に相応の実力が備わると思って?」
「………ぐうの音も出ません」


どんだけ人を見る目があるんだよ。何者……あ、魏の曹孟徳様でした。
俺の悩みも聞き終えた辺りで春蘭が敵の本陣を見つけたと報告しに来た。さて、本陣を見つけたが敵は移動の準備の真っ最中。早くしなければ敵は逃げてしまうとの事だった。


「この馬鹿!」
「……すまん」


大慌てで出発準備となった所で荀彧の怒号が聞こえてきた。その前には一刀が申し訳ないと項垂れている。


「おいおい、何事?」
「秋月……アンタの上司は予備の糧食を3日どころか全部配っちゃったのよ!」


俺が大将と共に現場に駆けつけると荀彧から事情説明。なぁにしとるか学生君よ。


「つい……張り切りすぎちゃって……ごめんなさい」
「………まあ、今回はすぐに移動しなくちゃいけないし、撤収準備や引き継ぎの手間が省けたから特別に私の指示だった事にしてあげる。でも次に同じ事をしたら……わかってるわね?」


素直に謝る一刀に大将は笑みと威圧のダブルパンチ……恐っ!


「純一、アナタも一刀の補佐なら……今後は手綱を握りなさい」
「………肝に命じます」


去り際に飛んでもねー、一言残したよ覇王様。いや、見てれば別だけどさっきまで話をしてたから止めようもないっての。いや、今後はこうならないようにフォローしろって事だよな。


「一刀……まあ、一度失敗したなら次に活かせ。学生は学ぶのも仕事の内だ」
「純一さん……はい!」


ポンと頭を叩いて気持ちを入れ換えさせる。反省も良いが気持ちを切り替えないと同じことを繰り返すぞ。返事もしっかりとしていたから大丈夫だろう。


全部隊が出発し終えてから数刻後、普通に行軍すれば、半日はかかるところを強行軍でわずか数刻で目的地まで駆け抜けた。そこは、山奥にポツンと立っている古ぼけた砦だった。


「既に廃棄された砦ね……良い場所を見つけたものだわ」
「敵の本隊は近くに現れた官軍を迎撃しに行っているようです。残る兵力は一万がせいぜいかと」


大将は砦を見ると呟く。確かに立派な城……いや、砦か。凪の補足説明から敵は大した量はいないらしい。


「軍が来たから砦を捨てるのか?勿体無いなぁ」
「きっと華琳様のご威光に恐れをなしたからに決まっているわ。だから、わざわざ砦まで捨てようとしているのだろう」


一刀の言葉に春蘭が反応する。いや、いくら曹操が来たからってそんなに過敏にはならんだろう。


「連中は捨ててある物を使っているだけだからな。そういう感覚が薄いのだろう。多分、あと一日遅れてたらここももぬけの殻だった筈だ」
「全く。厄介極まりない連中ね……それで秋蘭。こちらの兵力は?」
「義勇軍と併せて、八千と少々です。向こうはこちらに気付いていませんし、荷物の搬出で手一杯のようです。今が絶好の機会かと」
「ええ。ならば、一気に攻め落としましょう」


大将と秋蘭の会話で次々に話が決まる。これだけの武将が揃ってれば兵力差はあまり関係ないか?


「華琳様。一つ、提案が」
「何?」


と、話が決まり掛けた時、荀彧が話に加わる。


「戦闘終了後、全ての隊は手持ちの軍旗を全て砦に立ててから帰らせてください」
「え?どういうことですか?」


荀彧の意見に首を傾げる一同。それを代表するかの様に季衣が荀彧に訪ねる。


「この砦を落としたのが、我々と示すためよ」
「なるほど。黄巾の本隊と戦っているという官軍も、本当の狙いはこの砦。ならば、敵を一掃したこの城に曹旗が翻っていれば……」
「……面白いわね。その案、採用しましょう。軍旗を持って帰った隊は、厳罰よ」


なるほどね、曹操の軍の威光を分かりやすく表現するのか。そんで通りすがりが旗を見れば噂も一層広まるって事か。


「なら、誰が一番高いところに旗を立てられるか、競争やね!」
「こら、真桜。不謹慎だぞ」
「ふん。新入り共に負けるものか。季衣、お前も負けるんじゃないぞ!」
「はいっ!」
「姉者…….大人気ないぞ」


旗刺し競争となり、それぞれが張り切り始める。主旨が変わってねーか?俺は旗無いから関係ないけど。


「そうね。一番高いところに旗を立てられた隊は、何か褒美を考えておきましょう。あくまで狙うのは敵の守備隊の全滅と、糧食を一つ残らず焼き尽くすことよ。いいわね」
「あの……華琳様?」


大将の言葉に話は終わりとなり掛けたのだがそこで沙和が口を挟んだ。


「何?沙和」
「その食料って……さっきの街に持って行っちゃダメなの?」


その質問は先程まで配給作業をしていた沙和らしいものだった。優しいんだな。


「ダメよ。糧食は全て焼き尽くしなさい」
「どうしてなの?」
「一つは華琳様の風評は上がるどころか傷付く事になるの糧食も足りないのに戦に出た曹操軍は、下賎な賊から食料を強奪して食べましたと」


大将の言葉に不満の沙和は食い下がろうとするが荀彧が引き継いで説明をする。風評や噂ってのは馬鹿に出来ないからな。俺も会社にクレームの電話が来るだけで冷々したもんだ。


「かと言って奪った糧食を街に持っていけば、今度はその街が復讐の対象になる。今より、もっとね」
「あっ」


大将の言葉に沙和は、ハッとなった。そう、ここで糧食を焼かずに回収すれば曹操軍の風評は最悪のものとなる。そして、それを街に持っていけば黄巾党の復讐の対象になる。それで街が襲われでもすれば、本末転倒って事だ。


「あの街には警護の部隊と糧食を送っているわ。それで復興の準備は整うはず。華琳様はちゃんと考えているから……安心なさい」
「そういうこと。糧食は全て焼くのよ。米一粒たりとも持ち帰ることは許さない。それがあの街を守るためだと知りなさい。いいわね?」
「そうそう。それに敵から奪ってきましたって言って渡すのも沙和も嫌だろ?ちゃんと胸を張ってやれる事をしようや」
「あ……うん、なの」


荀彧や大将の言葉と共に俺はタバコを吸いながら沙和に話しかける。うん、素直で良い子だ。なんとなく頭を撫でてやると戸惑いながらも笑ってくれた。


「………女ったらし」
「………え?」


え……今、誰かは分からなかったけどエラく不名誉な事をボソッと誰かが言われた。


「なら、これで軍議は解散とします。先鋒は春蘭に任せるわ。いいわね?春蘭」


いや、俺としては終わりにしたくない。さっきの一言、誰が言いやがった!?


「はっ!お任せ下さい!」
「この戦をもって、大陸の全てに曹孟徳の名を響き渡らせるわよ。我が覇道はここより始まる!各員、奮励努力せよ!」


軍議も終わり、部隊の配置の段階に入ったのだが義勇軍で構成された部隊は凪達三人がやってくれるので俺と一刀はそれを見ているだけだった。ぶっちゃけ俺や一刀が口出ししても役には立たない。俺としては先程の『女ったらし』発言は誰だったのか探りたい次第であります。
その後、凪達が戻ってきてから何故か俺と一刀の金で凪達の歓迎会をする事になった。いや、俺も新人なんだから歓迎される側なんだけど……
まあ、年上の意地もあるし……仕方ないか。

そうこうしている内に曹操軍は黄巾党の物資集積地点を強襲した。とは言っても俺は部隊を持っている訳じゃないので一刀と共に少し後方で戦いを眺めていた。


「どうした!この夏侯元譲に挑む者はおらんのか!?この腰抜け共が!」
「せいやぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「はあああああああっ!」


城のあちこちから聞こえる気合いの入った声。頑張っている様でなによりだ。さて、俺も一発かましとくか。


「かぁ…めぇ…はぁ….めぇ…」


俺が構えると一刀は「まさか……」って顔になった。うん、気持ちは分かる。俺も初めての時はそんな顔をしてたから。


「波ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


俺のかめはめ波は黄巾の一団を纏めてぶっ飛ばした。今のが最後の一団だったのかな?なんかバタバタと兵士の皆さんが確認に来てるし。


「目的は果たしたぞ!総員、旗を目立つところに刺して、即座に帰投せよ!帰投、帰投ーっ!」


春蘭の声が城の中、全体に響いてる。どんだけ大声なんだか……さて、俺はここから暇だな。だって旗無いし。
俺はタバコに火を灯すと適当な所に腰を下ろす。


「どこに旗を刺そうかなー?」
「ん……季衣か」


フゥーと煙を吐いていると旗を持ってウロウロとしている季衣。


「あ、オジ……純一さん」
「はーい、純一さんですよー」


フゥーと再び吐く、煙。今、『オジさん』って言おうとしたな?言ったら気で強化した拳でゲンコツ落としてやる。


「何してんだ?」
「うん、旗刺すのに高い場所探してるんだー」


ふむ、俺は旗が無いし……手伝うくらいはするか。


「だったら季衣、あの塔が一番高いと思うぞ」
「あの塔?」


俺が指差したのは砦の中でも一番高い塔。ただアホみたいに高い為に他の誰も旗を刺しに行ってない。


「確かに高いね。じゃあ、行ってくるねー!」
「おーう。気を付けろよ」


嬉しそうに旗を持ったまま走っていく季衣。元気だねぇ……


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第十四話




◇◆side桂花◇◆



まさかだった……まさか黄巾討伐で赴いた街にアイツがいるなんて……しかも義勇軍と一緒に戦ってた!?あり得ないわよ、アイツは少し鍛練した程度で音を上げる奴だったんじゃ……

でも一緒に戦った秋蘭の話ではアイツは気を巧みに操り戦っていたと言う。しかも秋蘭は『たまに姉者以外の者に背を預けるのも悪くない』とか言ってたし……買い被りよ、アイツはただの馬鹿なんだから。そしてアイツは華琳様の指示で義勇軍の将と共に北郷の部下となった。立ち位置としては北郷の補佐、凪達の上司となるらしい。アイツが北郷の補佐なら丁度良いわ。死ぬほど、こき使ってやるんだから。

その後、軍義をした折りに黄巾党の補給路を断つ作戦が決まった。その際にアイツは勉強をちゃんとしていたらしく、すぐに補給路を断つ作戦に気づいた。

「あれだけの部隊が動くには武器はともかく、糧食は現地調達じゃ無理がある筈。だからその糧食や武器ををどこかに集めてる集積地点がある筈って事だ」
「あら、純一も理解していた様ね」
「一応……勉強はしてたものね」


春蘭や季衣に北郷の説明を引き継いで発言すると華琳様は感心した風に頷いていたが、私はそれどころじゃなくなってしまった。アイツは少し前まで荀家で絵本を読んで勉強をしていたのだ。それも真面目な顔で。私はそれを思い出すと笑いを堪えるのに必死だった。
アイツは私の方を見ていたけど笑いを堪えるのに必死だったのバレたかしら?


軍義を終えると各自、やる事が多く解散となった。アイツはやる事がないのか暇そうにしていた。暇なら私の小間使いにしようかと思ったら華琳様に呼ばれていく。なんでも北郷とは違った知識の持ち主らしく華琳様はその話を聞きたいのだと仰られた。
私は華琳様と話をするアイツ見てイラッときた。なんでアイツが華琳様と楽しげに話をしてるのよ!華琳様と楽しく話をするのは私の役目よ!

なんて言いたかったけど華琳様の手前、そんな事も言えない。私は私の仕事を終えると私にとって目障りな男その二、北郷一刀が配給をしていた。沙和と交代したと言ってた……って、あの馬鹿何してるのよ!?
北郷は3日分と言われた筈の糧食の全てを配っていた。本っ当に男はろくな事しないわね!
私は石を北郷に投げて頭に当てると大馬鹿に説教をしてやると決めた矢先に華琳様と秋月が来た。どうやら話は終わったらしいわね。


「おいおい、何事?」
「秋月……アンタの上司は予備の糧食を3日どころか全部配っちゃったのよ!」


私は先程の分と今の怒りを同時に秋月にぶつける。春欄が敵の本拠地を見つけてなかったら飢え死にする所なのよ!まったく、こんなのが秋月の上司で大丈夫なのかしら?


「つい……張り切りすぎちゃって……ごめんなさい」
「………まあ、今回はすぐに移動しなくちゃいけないし、撤収準備や引き継ぎの手間が省けたから特別に私の指示だった事にしてあげる。でも次に同じ事をしたら……わかってるわね?」


北郷は華琳様に頭を垂れる。それを見た華琳様は広いお心で北郷を特例で許した。華琳様はその場を離れると同時に秋月に歩み寄る。


「純一、アナタも一刀の補佐なら……今後は手綱を握りなさい」
「………肝に命じます」


華琳様の一言に苦笑いになる秋月。秋月は直ぐ様、北郷に向かい合うと口を開いた。


「一刀……まあ、一度失敗したなら次に活かせ。学生は学ぶのも仕事の内だ」
「純一さん……はい!」


秋月は北郷のポンと頭を叩いて気持ちを入れ換えさせていた。こうゆうのに慣れてるのかしら。
その後、全部隊が出発し終えてから数刻後、普通に行軍すれば、半日はかかるところを強行軍でわずが数刻で目的地まで駆け抜けた。そこは、山奥にポツンと立っている古ぼけた砦だった。
私は華琳様の威光を分かりやすく表現する為に旗を落とした砦に刺していく事を進言した。その案はアッサリと通され、将の間では競い合いが始まった。鼓舞にも影響しそうね。
そしていざ、砦を攻めると言う段階で沙和が口を挟んだ。
彼女の言い分は糧食を持ち帰り、街に配りたいとのもの。沙和らしい意見ね。でも、それをすれば一時的に街は救われても華琳様の評判は地に落ちる。その事を説明していると秋月はタバコを吸いながら私達の方に歩み寄ってくる。


「あの街には警護の部隊と糧食を送っているわ。それで復興の準備は整うはず。華琳様はちゃんと考えているから……安心なさい」
「そういうこと。糧食は全て焼くのよ。米一粒たりとも持ち帰ることは許さない。それがあの街を守るためだと知りなさい。いいわね?」
「そうそう。それに敵から奪ってきましたって言って渡すのも沙和も嫌だろ?ちゃんと胸を張ってやれる事をしようや」
「あ……うん、なの」


秋月はタバコを吸いながら、沙和の頭を撫でた。沙和も沙和で戸惑いながらも笑っていた。何よ、なんか手慣れてる動きじゃない……イライラするわね。


「………女ったらし」
「………え?」


私は思わず考えた事が口に出てしまった。小声で言った為に秋月は誰が発した言葉か分からず、辺りをキョロキョロとしていた。良かったバレなかったわね。
その後、砦は直ぐに落とす事が出来た。まあ、これだけの将が集まって落とせない方が可笑しいわね。



「どうした!この夏侯元譲に挑む者はおらんのか!?この腰抜け共が!」
「せいやぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「はあああああああっ!」


城の中で戦っている声が響く。そんな中、私は秋月と北郷を見つけた。乱戦の中、秋月は腰を低く何かの構えを取る。何よ、あの変な構えは……


「かぁ…めぇ…はぁ….めぇ…」


何かを呟く秋月。それに比例して秋月の手には気が集中し始めていた。秋月の隣で北郷は何か凄く驚いていた。


「波ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


秋月が両手を前に出すと、その手から気弾が放たれた。アレが荀家の塀を破壊した技なのね。気を使えると聞いていたけどアレ程の使い手だったなんて……


「目的は果たしたぞ!総員、旗を目立つところに刺して、即座に帰投せよ!帰投、帰投ーっ!」


私が呆然としていると春蘭の声が響く。こうして黄巾の補給路を断つ作戦は成功で終わった。
帰り道、華琳様のお言葉で皆の士気が高まる中、華琳様がふと、何かを思い出して足を止める。


「ああ、そうだ。例の……旗を一番高いところに飾るという話だけれど……結局誰が一番だったの?」


華琳様の一言にその場に居た者が『あ……』と一様に思い出す。


「あーっ!なんか忘れとる思うたら、それか!」
「ハッハッハッ初めての戦で、そこまでの余裕はなかったか!まだまだ青いなぁ!」


真桜は忘れていたらしく、春蘭はしっかりと覚えていたらしい。この手の事は忘れないのに書類仕事は忘れるんだから都合の良い頭よね。


「それで誰が一番だったのかしら?」
「確か……真ん中の高い塔の屋根に旗が刺さってましたよね?」


華琳様の問いに沙和が思い出したかのように呟く。そう言えばに伝える。砦の中心に高い塔はあったけど……まさか、あの屋根に刺さってた旗!?


「あれ、僕の旗!」
「季衣……どうやって刺したんだ?」


季衣が嬉しそうに手を上げている。なんとも言えない空気になりかけた時、北郷が季衣に質問する。

「何処に旗を刺そうか悩んでたら純一さんが『あの塔が一番高いぞ』って教えてくれたんだー。後は登って刺してきたの。僕、木登り得意だから!」


季衣の言葉に皆が黙る。またアイツなのね……北郷の補佐になると決まったけど天然で他者の手助けして回ってる印象だわ……


「あれ?その純一さんは?」
「ふむ、そう言えば先程から姿が無いな」


北郷が秋月が居ないことに首を傾げている。秋蘭も知らないとなると何処に行ったのかしら?


「純一は先に帰らせたわ。私に仕えると決まったけど、世話になった荀家に挨拶はしたいそうよ。許昌まで行ってから帰ると時間が掛かるから直接帰らせたわ。挨拶が済んだら許昌に来るように伝えたから一刀、その後は任せるわよ」
「それで居なかったのか。了解、警備隊にも伝えとくよ」


先に帰った!?しかも私に黙って荀家に帰るって何考えてんのよ!


「桂花、純一は貴女にも帰ることを告げようとしてたけど撤収準備の指揮をしてたから遠慮したみたいよ?」
「はぅ!?か、華琳様ぁ~」


私の心情を予想してか華琳様は秋月の事を話してくれた。


「まあ、挨拶だけなら直ぐに帰ってくるさ」
「しゅ、秋蘭!?」


ポンと私の肩を叩く秋蘭。何よ、その悟った様な顔は!
ハッと見渡せば春蘭や一部を除いてはニヤニヤと私を見ている……って……


「アンタ等、何を勘違い……」
「あら、私は何も言ってないけど心当たりがあるの桂花?」


華琳様の言葉は私の胸を貫いた。秋月~皆に誤解されてるのはアンタの所為だからね!許昌に来たら覚悟しなさいよ!!

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第十五話




俺は掃討戦が終わると大将から馬を借りて荀家に向かっていた。最初は普通に帰ろうかと思っていたのだが許昌に寄ってからだと時間が掛かるから先に帰りなさいと言われた。
そして挨拶を済ませたら直ぐに許昌に行き、北郷警備隊に参加せよとの事だ。今までと違って忙しくなりそーだね。

等と考え事をしていたらアッサリと到着。流石に馬だと早いわ。因みに馬に乗る練習は俺が荀家に居候した次の日から顔不さんから習っていた。だって今まで、車か電車で移動してたんだもの。馬なんか乗った事、ねーっての。
そんな訳で武術の鍛練と共に馬上の練習も平行して行われた。数日掛かったが今は普通に乗れる様になった。
現代ではやった事のない馬術や気の扱いなどの才能があるとは何かの皮肉としか思えないな。

荀家に到着すると荀緄さんに怒られた。そりゃ当日に帰ってくるはずが二日と掛かれば怒りもするわ。顔不さんも何事かと聞いてくる。俺は全部を話した。荀緄さんの頼まれ事を済ませた事。そんで街で戦闘に巻き込まれた事。荀彧にも会った事。流れで曹操に仕える事になった事。
顔不さんには気の扱い方がわかった事を。戦う事の覚悟も、全部話した。
荀緄さんも顔不さんも静かに話を聞いてくれた。そして全ての話を終えてから俺は頭を下げた。世話になった人達に何も相談せずに曹操の所で働くと勝手に決めてしまってスイマセンと。


「……いいんですよ」


荀緄さんはそんな俺に優しく声を描けてくれた。そして下げた頭を撫でられた。


「元々、純一さんがこの国での習わしを学ぶ為だったんですもの。その純一さんが曹操様の所に仕えるのが決まるのは喜ばしい事だわ」
「……荀緄さん」


俺は頭を上げて荀緄さんを見た。荀緄さんは俺の頭を撫でながらも涙目になっていた。


「不思議ね……最初は桂花ちゃんを助けてくれたお礼のつもりだったのに……アナタは私の息子みたいになっていたわ」
「荀緄さん………痛っ!?」


荀緄さんの言葉に涙腺が緩み掛けた所で顔不さんが俺の背を平手で叩いた。


「辛気臭い顔をするなお主の門出だ!ワシとしても弟子が腑抜けでは困る!」
「いつから弟子認定っ!?」


バシバシと叩き続ける顔不さん。顔不さんの中では俺は弟子に認定されていたらしい。まあ、悪い気はしないが。
その後、少し宴となった。少なくとも明日、二日酔いにならない程度の飲み方だった。顔不さんにはもっと豪快に飲めと言われたけど少しやる事がある。宴を終えると俺は竹筒に幾つかの案を書いた。以前の日本酒の事もあるが僅かばかりの知恵で恩返し。中身は開けてを御覧あれってね。

さて、そんなこんなで次の日の朝。俺は許昌へ向けての出発となった。
荀緄さんや顔不さんに見送りをされた。少し泣きそうな顔の荀緄さんに「桂花ちゃんの事、お願いしますね」と言われた。まあ……曹操の軍で同僚になる訳だし頑張ります。
でも荀彧に「手伝うよ」と言っても「いらない」「あっち行け」とか言われそうな気も。

そして、いざ出発となると荀緄さんから何かを渡された。何かと開けてみたら中から銀の装飾の煙管が。


「純一さんの新たな門出に……ってね」
「受け取っとけ。故郷のタバコも残り少ないんだろ?」
「ありがとう……ございます」


荀緄さんはウインク一つ、顔不さんは不適な笑顔で俺を見送ってくれた。プレゼントまで貰って恐縮です。ああ、もう……此処に居ると泣きたくなってくる。
さて、許昌に向けて出発!


































「お嬢様と上手くいきますかな?」
「桂花ちゃんも満更じゃないわ。きっと大丈夫よ……うふふ、純一さんが義息子になる日が楽しみだわ」



旅出た後、顔不さんと荀緄さんのこんな会話がされている事を俺は知らなかった。

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第十六話



世話になった荀家を出た俺は早速、許昌を目指した。先日、お使いで行った街から離れた街だが行き方は聞いているし、大将から借りた馬も居るから移動は楽だ。

そして到着しました許昌。何、途中経過?何事もなかったよ珍しく。やめとこ言ってて悲しくなる。
許昌に到着した俺は城の警備隊に話をして、通行許可を待った。いくら警備隊の副長に任命されたからって、俺はまだ魏では名も知られてない男だ。余計なトラブルは避けるべく、ちゃんと手順を踏んで城に行くべきだと考えたからだ。そして待つこと、数分。


「純一さん!」
「北郷警備隊の隊長みずからお出迎えとは頭が下がります」


迎えに来たのは一刀だった。大将に言われてきたんだろうな。


「そんな言い方は止めてくださいよ」
「俺は部下。一刀は上司だろ」


俺の発言に眉を潜めた一刀だが俺が笑うと一刀も笑った。ノリが分かる奴は好きよ俺。


「華琳に頼まれてきました。玉座の間に案内します」
「おう、頼むわ」


俺は一刀の案内で城を歩く。思えば城って初めてだな俺。今までは街中彷徨くだけだったから。
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると、一刀が足を止めた。此処が玉座の間らしい。



「中で華琳が待ってます」
「はいよ。一刀は?」


流石に俺、一人はキツいんだけど……


「あ、俺も一緒です。警備隊の話があるとかで」
「そっか。助かったわ」


一刀も一緒らしい。そして話の口振りから即座に仕事の話になると思うべきだな。俺はネクタイを絞め直すと一刀が先に入った玉座の間へと入る。
そこには玉座に座る覇王・曹孟徳。なんと言うか……絵になるな。女王様って感じが特に。
下座には夏侯姉妹と荀彧の姿も。あ、荀彧から視線逸らされた。


「待ってたわ秋月純一。荀家への挨拶は済ませたのかしら?」
「全て済ませてきました。荀彧にも宜しく伝える様にとの言伝も預かっております」


俺は頭を下げつつ、大将の話に応える。俺の返答に満足したのか大将はそのまま話を続けた。


「なら結構。秋月純一、アナタには天の御遣い北郷一刀の補佐を命じます。役職は北郷警備隊の副長に任命。後の事は一刀に聞きなさい」
「慎んで拝命致します」


大将から仕事の割り振りと役職を貰った。この間も思ったがド新人に役職を与える子……恐ろしい。


「私は仕事が出来る者に仕事を与えるわ。秋蘭からアナタの話を聞いたし、一刀の同郷なら彼を支える事も容易いでしょう?」
「は、了解です」


エスパーかアンタは?アッサリとこっちの思考を読み取ったよ。


「それと……この間はもう少し、砕けた口調だったでしょう?完全に砕けとは言わないけど話易い風で構わないわ」
「は、畏まり……いや、止めた。了解ですよ大将」


俺の仕事用の口調はNGが出された。一刀の事もあるし、普段通りに話せって事ね。



「今日は一刀に城と街を案内させるわ。明日から警備隊の仕事を本格的に始めるから備えなさい。一刀、後は任せるわ」
「ん、わかった」
「了解ですよ」


大将の名を受けて一刀が頷く。今日はまだ体が休められるらしい。馬に揺られてばかりだったから助かるわ。
その後、春蘭から「華琳様の為に励めよ」秋蘭から「これから宜しく頼む」と言われた。うん、此方こそヨロシク。


「荀彧もこれからヨロシクな」
「………ふん」


荀彧にも挨拶したのだがプイッと逸らされた。僕、何かしましたかね?
秋蘭は照れているだけだと言ってくれたけど内心は傷付いてます。

その後、一刀に案内されて城の中の一室を借り受けた。今後の俺の生活する部屋だ。大切にしよう、うん。
部屋に持ってきた少ない荷物を置くと俺と一刀は街へと繰り出した。これは街の案内と必要な物を買い揃える為である。
並んで街並みを歩く。やっぱ他の街とは違うな活気もあるし、何より人が笑ってる。


「良い街だな」
「はい。でも、その分……犯罪やトラブルも多くて。スリとか強盗とか、喧嘩とか……」


俺の言葉に一刀も同意するが一刀は疲れた様子で言葉を繋げる。苦労してんだな。


「だからこその北郷警備隊なんだろ。頑張ろうや隊長」
「はい……副長」


俺の言葉に一刀も笑って返してくれた。やはり同郷って事で馴染みやすいな一刀は。

その後、買い物を済ませた俺達は城壁の上を歩いていた。駄弁りながら俺達は互いの情報交換をしていた。
俺は会社の事や元々住んでいた場所の事。一刀は学校の事や家の事だ。島津分家と聞いた時は驚いたよ、流石に。
そして話は俺の『気』の話になる。やはり先日の『かめはめ波』は一刀の心を捉えたらしく一刀は少々興奮気味に話を聞いていた。


「気が使えるなら、武将とも渡り合えるんじゃないですか?」
「いんや、無理だな。俺の気は凪とは違う感じだし」


一刀は俺が武将みたいに強いのではと聞いてくるがそれは無い。何故かと言えば俺は気の『溜め』が遅いのだ。凪は気弾を蹴りと共に放つが俺は一発のかめはめ波を撃つのに約5~6秒は掛かる。つまりは……



『いくぞ、春蘭!かぁ……めぇ……』
『隙あり!でやぁぁぁぁぁぁっ!』


かめはめ波を撃とうとした瞬間に斬られて終わるな。うん、ゾッとする未来だ。
そもそも今までの俺の戦いや技は壁にかめはめ波を撃ったり、離れた位置から黄巾の連中にかめはめ波を撃ったり、背後から不意打ちしたりと俺にとって条件が揃ってる時の話ばかりだ。仮にタイマンで戦うとなったら俺は戦力には加算されないだろう。今後の課題だな。それと、気を使った技をどんどん試してみよう。可能なら行動の選択肢も増えそうだし。
凪にも話を聞いてみるか。あの娘の方が気の使い手として完成されてるんだろうから。

その後、なんやかんやと話ながら一刀と盛り上がった。だが一刀はテンションが高いと言うか落ち着かない感じだ。聞いてみると部下を持つのが初めてだから緊張しているとの事だ。まあ、この間まで学生だったのが急に部下だなんだと言われれば当然か。


「気持ちは分からんでもないが落ち着け一刀。それにラムちゃんも言ってるだろ『あんまりソワソワしないで』ってな」
「……古いですよ」


俺のボケにツッコミを入れる一刀。俺は古い漫画も好きだからこの手のネタはちょくちょく入れよう。通じるのは一刀だけだけどね。
さて、明日から本格的に北郷警備隊の始まりだな。頑張ろう。

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第十七話



さて、本日より始動の『北郷警備隊』街の平和の為に頑張りましょう。と思っていたのだが……


「隊長、緊張しとるん?さっきから「さて」しか言うてへんやん」
「いや……人前に立つのに馴れてなくて。俺は基本的には恥ずかしがり屋で小心者だからさ」


昨日の事もあったがまだ緊張気味らしいな。真桜のツッコミに一刀は苦笑い。


「アハハッ、そう言う事を自分で言っちゃうのが隊長らしいねー」
「その言葉に引っ掛かりを感じるがそー言う事だ」


そして沙和の失礼を感じる発言にも一刀は笑った。それに感化された真桜と沙和も笑い始める。玉座の間に笑い声のみが響き渡る。


「はあ……隊長、しっかりして下さい」
「……あ、はい」


笑っていた一刀に凪の言葉が刺さる。一刀はへこみつつもなんとか持ち直そうとしている。


「副長も黙ってないで何か言ってください」
「……俺が口を挟まなければこの空気がどれだけ続くかと思ってな。一刀、隊長らしくとは言わんがシャンとしろ。真桜、沙和。一刀はお前達の上司に当たる人間なんだから対応を変える様に。凪、叱りをありがとう。この隊には必要な事だな」


凪が俺に水を向けたので少し真面目な口調で話を始める。


「さて、本日より北郷警備隊の副長に任命された秋月純一だ。立場的には一刀の部下兼補佐。立場的にはお前達の上司になるからヨロシク。一刀、挨拶と仕事の内容の説明を」
「え……あ、はい!」


俺は真面目な顔付きと口調で一刀と凪・真桜・沙和に向き合いながら挨拶と仕事の内容を一刀に促す。一刀は慌てながら俺の一歩前に出た。凪達も俺の態度に少し驚いている様で背を少し伸ばしていた。


「あ、えっと……本日より華琳の命でキミ達の上司になった北郷一刀です。街の警備隊の指揮を任される事になりました。つきましては、この様な案を考えたので意見を聞きたい」


一刀は挨拶と共に巻物を広げた。そこには街の警備案や巡回ルートが記されていた。ふむ、中々考え込んだ案だな。真桜と沙和も先程の態度とは違い一刀の巻物を見ている。凪は元からだとしても二人には少しマジな空気を出しすぎたか?


「純一さ……副長のお考えは……」
「あー……もういいよ一刀。無理に口調を変えんでも。少しマジになりすぎた」


先程の俺の真面目な挨拶に感化されたのか場がピリッとした空気になっていた。いかんいかん、今後に関わるレベルの話になりそうだ。


「俺は一刀の部下なんだし無理に繕う必要もない。お前はお前なりの仕事をしてみろ」
「純一さん…….はい」


一刀はその後、口調を元に戻し凪達と警備の打ち合わせを始める。先程の空気は幾分かマシになったけどグダグダな空気になりそうだ。

その後、街に出てパトロール。もとい警邏を始めた。始めたのだが……
のんびりな沙和、ツッコミ役の真桜、ひとり真面目な凪。
なんて言うかかなりグダグダだった。俺はならべく口を出さないようにと思っていたのだが、この雰囲気だとそうも言ってられないか……
そして、その予感は見事に命中した。


「あーっ!阿蘇阿蘇の新刊!」
「見てやっ!絶版になったからくり夏侯惇!」


真桜と沙和の二人は自分の趣味に没頭。一刀はそれに翻弄されている。俺がハァーとため息を吐いたと同時に聞こえてきたのは悲鳴。


「ひ、ひったくりだー!」
「待てぇー!」


振り返れば、そこには何かを抱えて逃げる男とそれを追う凪。


「何があったんですか!?」
「ひったくりだよ、アイツが店の商品をかっさらって行きやがった!」


一刀が慌てて事情を聴くと店の店主が答えた。なるほど、やっと街の警備隊らしい仕事になったか。
俺も一刀も走って、盗人を追うがチョロチョロと逃げ回り、中々捕まえられずにいた。
そして業を煮やした凪は気を身に纏った。メラメラと燃える闘志は凪の気そのもの。


「待て凪!街に被害が出る」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


凪は一刀の制止も振り切って気を足に溜めた。そして気弾を放とうと構え……あ、ここで止めないとヤバい事になるな。


「はい、そこまで」
「え、うわっ!?」
「隊ちょ、……きゃあっ!?」


俺は一刀を凪の正面に回して突き飛ばす。一刀は凪に抱きつく形となり、凪は突然一刀に抱き付かれて可愛い悲鳴を上げた。ボイスレコーダーがあるなら録音したかった。


「さて、今度は……テメェだ!」
「な、なん……ひっ!」


俺は盗人を追い、全力ダッシュ。俺の剣幕に怯えて逃げ始めた盗人は相変わらずチョロチョロと逃げ回るがなんとか捕まえた。俺、汗だくだけどね。


「純一さん!」
「副長!」
「あーっ!街が大変なの!」
「なんや盗人かいな、副長が捕まえたん?」


俺が取っ捕まえた盗人は縄で既に縛っておいた。そんな時に一刀や凪も到着。そして阿蘇阿蘇とからくり夏侯惇を手にした沙和と真桜も到着。ああ、もう……


「一刀、お前は……もう少し部下を使える様になろうな。凪は少し、肩の力を抜こうか」
「スイマセン。純一さん」
「は、はい……」


俺の言葉に一刀は謝り、凪は俯いた。凪はたぶん俺が盗人を追いかけてる間に一刀からお説教を受けたな。さて、後はサボった二人だな。


「あ、あんな副長……見逃したらアカン思うたんよ……からくり夏侯惇」
「あ、阿蘇阿蘇もすぐに売れちゃう……の」


俺は上着を脱いで肩に担いでいる。ああ、もう暑いから腕捲りもするか。ワイシャツの袖を纏めあげると俺は若干怯えながら言い訳をしに来る真桜と沙和に視線を向けた。


「真桜、確かに絶版になった物があったのは嬉しいよな。でもそれは盗人を見逃す理由になるのか?真桜のからくりに対する情熱はこれからの魏に必要になってくるだろう……さて、沙和も同じだな。沙和の情報通は市場を調べるには最適な物だろう。でも盗人が街に蔓延る事は沙和のお洒落とかに必要か?」


俺の言葉に真桜も沙和も俯く。この手の人間には下手に叱るよりもこの方が効く。俺の説教を見ていた一刀や凪は説教されている二人と俺を交互に見ながらオロオロとしている。


「一刀、凪。後は任せた。コイツ等のフォローと盗人を詰め所に連れていって……一刀は後で警備の巡回の手順の見直し案の提出かな」
「え、あ、はい!」
「あ、その……申し訳ありません副長」


俺は一刀と凪に真桜と沙和を任せると煙管を取り出して火を灯す。俺がフゥーと煙を吐くと一刀と凪は慌てて行動開始。
真桜と沙和のフォローをしながら先程の盗人を詰め所までの連行を開始した。

俺は四人の少し後ろを歩く形で考え事をしていた。
この個性的な三人の部下と頼りない上司が少し不安になったのと……この後、行われるであろう警備隊の予算会議を思うと少し頭が痛くなった。一刀よ、補佐と言っても俺にフォローしきれる内容にしてくれよ。


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第十八話

本来は十七話と同時に更新予定だった話です。少し遅れましたけど投下。





警邏も終了して、凪達を解散させた後に本日の反省会スタート。俺と一刀は隊長室で向かい合って話を始める。


「さて……今日だけど一刀にはどう見えた?」
「その……グダグダだったかと……」


俺の言葉に一刀はズーンと沈みながら答える。うん、気持ちはわかる。


「真桜と沙和はフラフラとどっかに行っちゃうし……凪も俺の話は聞いてなかった気が……」
「真桜と沙和は兎も角。凪のあれは真面目が過ぎるだけだろうな」


一刀は今日の事を思い出してるんだろうな。真桜と沙和はアッサリとサボるわ、凪は一刀の制止も振り切って気弾で盗人を仕留めようとした。仮に凪を止められなかったら街は気弾で破壊されていた可能性が高い。


「報告書……どうしましょう?」
「報告書と言うよりは始末書だな」


おずおずと俺の顔を不安気に見上げる一刀。うん、報告書よりも始末書の方が潔い気がしてきた。


「ま、それは兎も角として……報告書は少し捻って書いた方が良いな……真桜は『からくりに対する情熱は高く、今後の魏の技術向上に役立つ見込み有り』沙和は『流行りや噂に詳しく市場に精通して、情報を集める切っ掛けとなる』凪は『任務に忠実。街の警備案や治安改善に意欲的』と書いとくと良いな」
「………言い換えれば変わる物なんですね」


悪い事も書き方を変えれば違った印象になる。だが大将はこんな事をアッサリと見破る気もするが……


「本当に凄いですよね……純一さん」
「ん、何がだ?」


少し考え事をしていた俺に一刀はポツリと呟く。


「俺、今日の警邏……緊張してたんです。初めての部下が出来て……本当に俺が隊長で良いのかなって。そしたら案の定、真桜と沙和には甘く見られて凪からは叱られて……純一さんがビシッと言ってくれなかったら多分、今日は仕事にならなかった」


一刀は心情を話してくれた。やっぱ不安だったんだな。


「結局、俺は今日何もできなかった。ただ純一さんに頼りきりで……」
「……アホ」


マイナス思考に陥った一刀の額に俺はデコピンを一発。地味に痛かろう。



「じゅ、純一さん?」
「街の警備案はお前が出したんだろ?それを大将が認めて形にしたんだ。それはお前の功績だ、俺は後から来てその功績の仕事に就いただけなんだぜ」


そう、後から聞いた話だったのだが魏に来たばかりの一刀は文字も読めなかった頃に街の警備案を出して大将を驚かせたらしい。一学生が叩き出した意見とは思えず、曹孟徳から一本とったと大将も楽しげに話していた。


「お前はお前なりにやればいい……他の誰かと比べて自分は駄目な奴だと言うもんじゃねーよ」
「………やっぱ純一さんには敵わない気がします」


俺の言葉にハハッ……と苦笑いの一刀。これならもう大丈夫かな?


「そんな大層なもんじゃないんだよ、俺も。この世界に来てからひたすら混乱してばかりだ。潰れないように踏ん張ってるだけだよ」
「………華琳は今の俺達を『胡蝶の夢』って言ってました」


胡蝶の夢……確か荘子は夢に胡蝶となり、自由に楽しく飛び回っていたが、目覚めると紛れもなく荘子である。しかし、荘子が夢に胡蝶となったのだろうか、胡蝶が夢に荘子になったのか誰にもわからないって内容だったか……


「夢か現か幻か……って奴だな」
「思えば俺たちの立場だと今の状況って何かの冗談か……奇跡みたいですよね」


俺の言葉に一刀は何処か思う事があるのか苦笑いだった。確かに三國志の世界にタイムスリップした挙げ句、武将は皆女性とは何かの冗談にしか思えない。そして一刀の言葉にはこう答えるしかあるまい。


「奇跡も魔法も……あるんだよ」
「最後の一言余計でしたね」


俺が微笑みながら言うと一刀は鋭いツッコミを入れてくれた。うん、キレがあるね。


「じゃ……俺はもう行くわ。予算会議は明日になったから他の書類を纏めないとならないんでな」
「あ、わかりました。お疲れさまです」


俺は俺で大将から頼まれてる意見案があるので纏める為に隊長室を後にした。


「さて……今日の事を反省したなら明日以降に反映させてくれよ?」


俺は隊長室を出た後に曲がり角に話し掛ける。その曲がり角には真桜の髪が少しはみ出ていたのだ。姿は見えないが多分、凪と沙和もいるな。気付かなかったけど隊長室での話聞いてやがったな多分。ま、反省してる様だし後は野となれ山となれ。
やれやれ、なんか手の掛かる弟や妹が出来た気分だ。俺はそんな事を思いながら自室へと戻るのだった。

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第十九話




初仕事の次の日。俺は朝早くから鍛練場に来ていた。


「ふ……はぁぁ……」


俺は上着は脱いでワイシャツとズボンのみの服装で鍛練をしていた。気を練る修行は毎日していた。それと言うのも『かめはめ波』以外の技も使える様になる為だ。今のままでは色々と中途半端だからね。

候補としては直接打撃系統の技と即座に打てる放出系統の技の確保だ。打撃系ならシャイニングフィンガーやアバンストラッシュ(ブレイク)。放出系なら霊丸や波動拳と言った所か。
過去に……少年時代に憧れた技を使えるとなればワクワクしてしょうがない。練っていた気も充実し始めたし……やってみるか。
因みに一番やって見たかった『舞空術』は早々に諦めた。何故かと言えば気のコントロールを幾度となく試したが一切、空を舞う事はなかった。顔不さんに聞いてみたが気で脚を強化しての跳躍なら可能だが空を飛ぶ事は出来ないとの事だった。世界最高の殺し屋みたいに柱を投げて、それに乗る練習の方が良いのだろうか……?

それは兎も角として俺は周囲に誰もいない事を確認すると両手を腰元に供える。全身に張り巡らせた気を両腕に回して留める。更に狙いを定めて……今だ!


「波っ!」


俺が両手を前につき出すと溜めた気が上手く出てくれた。通常のかめはめ波よりも気の密度を濃く撃った分、少し虚脱感があったが今は技に集中する!


「はぁぁぁぁぁ……はっ!」



俺は気をコントロールして気弾を上空へと向かわせる。ここまでは順調だ。
そう俺がしているのはクリリンが使用した『拡散エネルギー波』である。これを習得できれば戦いの時にかなり有利になるし、援護にも使える。
よし、一定の高さまで気弾が上昇した……今だ!


「ばっ!」



俺の気合いと共に気弾は地に向かう。これで上手く拡散してくれれば……あれ、拡散しない?と言うか気弾の塊が加速して俺の方に……ヤバっ!?






























この後、俺は自身の放った拡散エネルギー波の失敗番の気弾の塊の直撃を食らった。拡散に失敗した挙げ句、コントロールをミスって自分に落とすってアホだな俺。
しかも気弾の威力はそれなりにあったらしく、俺の居た場所は小さなクレーターが出来上がった。
そして気弾が俺に直撃した際に爆発が起きて朝の城に轟音が鳴り響き、騒ぎを聞き付けた大将や夏侯姉妹も来たと言う。
俺はと言えばクレーターの中心地で気絶していたらしく、医務室に運ばれ、目が覚めた後に事情聴取を受け、後程一人でクレーターの埋め立て作業をする羽目になった。
その日、予定していた予算会議や警邏の仕事は休む事となってしまった。副長としての威厳が損なわれるなぁ畜生。
荀彧?見舞いにも来なかったよ……



『拡散エネルギー波』
ドラゴンボールでクリリンが使用した技。突き出した両腕から一つの強力な気功波を放ち、その後複数に分裂させることで多くの敵を攻撃する技。


『シャイニングフィンガー』
Gガンダムに登場するシャイニングガンダムの必殺技。右手にエネルギーを集中して敵の顔面に叩きつける技。


『アバンストラッシュ』
ダイの大冒険の代表的な技の一つで剣や刀を逆手に構えて、腰を低く捻り、一気に前斬りを放つ技。アローとブレイクに分けられてアローは放出斬撃。ブレイクは直接斬撃となる。


『霊丸』
幽々白書の代表的な技の一つ。指先に霊力を集中させて放出する技。


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第二十話



◇◆side真桜◇◆


最初の印象は変わった兄さんやった。戦場になった街で会うた時、ウチは防柵を作ってたんやけど、そこにフラッと現れた兄さん。
兄さんは黄巾の連中が街の外に来ているのを見ると妙な構えを取った。何してんねん、この人。


「かぁ…めぇ…はぁ…めぇ……」
「な、気が集まって……凪みたいに気使いかいな!?」


凪みたいに気を使う人間は見た事あるけど、気の集束が凪よりも濃いんやけど……


「波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「どっひゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


兄さんの気弾に驚いた、ウチは尻餅を着いてしもた。その気弾は黄巾の連中を纏めてぶっ飛ばして気弾は空へときえてもーた。
ウチが呆けとる間に兄さんは街の人達に防柵を早く作る様に指示した後に黄巾の前に出て、タバコを少し強めに吸って煙をフゥーと吐く。その煙は兄さんの前に小さな線を引いた。


「この白線からは……ここから先は全面通行止めだ。通りたきゃ今のをもう2、3回は喰らう覚悟をしろや」


なんや偉いカッコいい事、言うんやなぁ……
その後、兄さんはウチの上司になった。街での戦闘の後、華琳様から御遣いの兄さんの下で働くように言われた後、そっちの兄さんも上司になったんやった。どちらも兄さんってややこしいけど、隊長と副長に役職分かれたから今後は呼びやすいわ。

その後、副長は一度他の街へ帰ったけど直ぐに許昌に来た。その後でウチはめっちゃ後悔した。最初から仕事サボった所為でめっちゃ怒られた。いや、怒られたちゅーか、呆れられたちゅーか……
兎に角、ウチは嫌な気分になった。あの兄さんには嫌われたくないって気持ちが強なった。沙和も怒られた事に肩を落としていたから同じ気持ちなんやろか?
その後、隊長室で隊長と副長が話してるのを盗み聞きし取ったけど副長にはバレてた。そんでウチ等が隠れてるのをアッサリと見破ると話し掛けてきた。


「さて……今日の事を反省したなら明日以降に反映させてくれよ?」


うう……怒られた後に気を使われるってキツいわ。しかもあんな困った様に笑われたら何も言い返せへん。
もしも……ウチにお兄ちゃんが居たらこんな感じなんかなって思ったわ……






















◇◆side沙和◇◆



沙和が初めて副長に会ったのは街での戦いの時だったの。私は華琳様に糧食の問題を頼んでいたら却下されちゃった時にタバコを吸いながら私達の方へ来たの。



「あの街には警護の部隊と糧食を送っているわ。それで復興の準備は整うはず。華琳様はちゃんと考えているから……安心なさい」
「そういうこと。糧食は全て焼くのよ。米一粒たりとも持ち帰ることは許さない。それがあの街を守るためだと知りなさい。いいわね?」
「そうそう。それに敵から奪ってきましたって言って渡すのも沙和も嫌だろ?ちゃんと胸を張ってやれる事をしようや」
「あ……うん、なの」


副長はタバコを吸いながら私の頭を撫でたの。タバコは服や髪に臭いが付きやすいから嫌いだけど副長の臭いは嫌な感じはしなかったの。


「………女ったらし」
「………え?」


私以外の誰かが言った言葉に副長はキョロキョロと辺りを見回す。なんか可愛いの。
この後、副長は色々な事を聞かせてくれたの。例えば着ている服の名前が『すーつ』って言うらしく天の国の文官が着る服らしいの。私が服に興味あることを話したら天の国の服を色々と教えてくれるって言ってたの、凄く嬉しいのー!
















◇◆side凪◇◆


初めて会った時の印象は凄い人だった。真桜から話は聞いて戦いの最中に彼の気弾を見たが凄まじい。
気を使うには段階があり、まずは気を体内に張り巡らせて身体能力の向上にする。次に体外への放出や武器に気を纏わせる等の技術を学ぶのだが彼はどうやったのか気の放出から出来たらしい。しかし逆に体に気を張り巡らせて身体能力の強化はまだ出来ないと言っていた。順番がバラバラだった。

その後、隊長と共に副長に任命されたあの人は初仕事の次の日に気弾の練習をして自爆したと聞いた。それならまだ仕方ないと思うのだが自爆の仕方が問題だった。

気の操作を失敗して気弾を浴びたと聞いたが、先程述べた身体能力強化や気の放出、気を武器に纏わせるの更に先をいく行為を失敗したが平然とやってのけたのだ。なんて無茶苦茶な人なのだろうと思うと同時に医務室に運ばれていく副長を見て、彼と言う人物がより一層わからなくなった。



















◇◆side一刀◇◆




初めて純一さんと会ったのは黄巾党の征伐に出た秋蘭達の援軍として着いていった時だった。秋蘭達の戦いの手助けをしていてくれたらしく、秋蘭は純一さんの強さを高く評価していた。華琳はその純一さんに話がしたいと言って純一さんを呼びつけた。桂花からも『あの馬鹿』なんて呼ばれ方してたけど男嫌いの桂花が話題に上げるだけ凄いと思う。


「話は時折、桂花から聞いているわ。異国から来たそうね?」
「そのようです。自分には何がなんだか解らぬ内に巻き込まれたのが妥当な説明になりますが」


華琳と話す時、純一さんは背を伸ばしていた。後で聞いたのだが意識的に姿勢を伸ばす相手だと感じたらしい。
その後も華琳と話す純一さんは途中で俺に話を振ってきた。それにより、純一さんも俺と同じく未来から来た事が判明した。その話を聞いて、俺は純粋に嬉しくなった。この世界に俺は一人じゃないと思えたからだった。その後もトントン拍子に話は進み、純一さんも魏に所属となった。ただ……歳上の純一さんを部下に持つ事になったのは複雑だった。
そして迎えた北郷警備隊、始動の日。案の定、俺は真桜や沙和にナメられ、凪には呆れられた。だけど純一さんは毅然とした態度で凪達に接していた。その後の仕事も純一さんがメインで進めて俺は態度でらしい事をせずに一日が終わった。

俺は純一さんの方が隊長をするべきだと思ったが純一さんはそれを否定した。そして純一さんの言葉に励まされた。
『他の誰かと比べて自分は駄目な奴だと言うもんじゃねーよ』
そう言われて俺は再び、やる気を起こした。前に華琳に仕事の事で叱られたけど同じ気持ちになった。俺は俺らしくと言われたが純一さんを目標にしたいと思った。

次の日になると朝早くから城に爆音が鳴り響いた。何事かと華琳や春蘭や秋蘭も音が鳴り響いた場所へと行ったらしく俺もその場へ急行した。場所は鍛練場……そこには何故か小規模のクレーターの中心地で気絶している純一さん。
一先ず純一さんを医務室に連れていった俺達だが純一さんが目覚めてから聞いた話は俺たちの予想の斜め上だった。

純一さんは気弾の練習をしている際にコントロールをミスって自分に落としてしまったらしい。以前のかめはめ波も驚かされたが、まさか拡散エネルギー波までもやってしまうとは純一さんには本当に驚かされてばかりだ。
俺にとって尊敬すべき大人の人がこんな風にドジを踏むなんて思うと俺は純一さんに更に親しみを持てた気がした。

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第二十一話



新技特訓をして気絶した次の日になり、状況整理。
拡散エネルギー波の失敗による盛大な自爆をした俺はクレーターの中心で気絶していたらしい。気のコントロールをしたつもりだったが見事に失敗。漫画の登場人物の凄さを日々実感しつつある。『生兵法とは大怪我の基』とはよく言ったものである。

一刀は気絶していた俺を見て『ヤムチャみたいだった』等と言っていた。え、そんなポーズで気絶してたの俺?操気弾とかの練習も考えてたけど止めとこ。じゃないと、いつか皆の前で何者かに自爆され『ヤムチャしやがって』を披露する羽目になりそうだ。

そんな話は兎も角として本日は普通に警備隊に復帰。予算会議は先伸ばしになった為に今日は通常の勤務だ。
何故かと言われれば俺が寝込んでいた間にまだ会っていなかった魏の将に会った為である。

一人目は曹仁、真名を『華侖』
二人目は曹洪、真名を『栄華』
三人目は徐晃、真名を『香風』

はい、それぞれ魏の重鎮です。またしても皆が女の子でした。また可愛いんだわこの子等。

しかして、やはり癖がある。それと言うのも栄華はとてつもなく厳しい。『魏の金庫番』等と言われる程に財布の紐が固く、昨日も見舞いに来た一刀と共に来たのだが寝込んでいた人間に予算組の話をするとか鬼か。予算は当面の警備隊の動きを見てから判断するとか言われたから暫くは頑張らないとな。因みに俺作成のクレーターは俺自身が埋め直し作業をしたので作業費を請求される事は無かったのは助かった。その後、華琳からの口添えもあったのか渋々ながら真名を許してもらえた

華侖と香風に会ったのは俺が魏に来てから直ぐだった。華侖は大将との挨拶を済ませた後に廊下でバッタリとあったのだ。その場に一刀も居たので紹介をして貰い、アッサリと真名を預けられた。真名が本当にこの世界において重要なのか疑いたくなる。本人曰く『華琳姉も春姉も真名を許してるから大丈夫ッス。一刀っちとも仲が良いみたいだし……これから、よろしくッス純兄!』との事だった。『純兄』って呼ばれるのも悪くないな。
これは余談だが華侖は『脱ぐ癖』があるらしく、暑かったり、テンションが上がると兎に角、脱ぎたくなるらしい。それを知らなかった俺は華侖の脱衣シーンを見てしまい、何故か近くに居た荀彧に『見るな馬鹿っ!』の声と共に目潰しを食らった。

そして香風。この子は少々ポヤンとした所がある。また一刀を『お兄ちゃん』とか呼んでたし。俺の事は『純一さん』と呼んでくれた。この世界の女の子は……いや、女の武将は露出を高めなきゃならない決まりでもあるのだろうか。香風も割りと際どいよ服装。

この三人は前回の黄巾の戦いの時には城待機だったらしい。まあ、城の警護をする将がいないってのはマズいからな。

街の警邏は滞りなく終了。それと言うのも真桜、沙和の両名が真面目に仕事をしてくれたのだ。まあ……まだ寄り道をする癖はあるのだが、職務を放り出さず気になる物は店の人にキープしてもらう等の処置をして仕事を続けてる。本当はそれもどうかとは思いつつも俺も買い食いなどはしてるので……まあ、仕方ない。仕事ってのは真面目にやりつつ気を抜く所は抜かねばならない。難しいよね。


警邏が終わった後に俺は多少の時間が出来たので城の片隅を自由に使わせて貰える様に大将に許可を貰いに行った。最初は渋っていた大将に「天の知識を使った物を試したい」と話したらアッサリと許可と予算が下りた。栄華には「役に立たない物だったら後々、請求の半分は純一さんに回します」と釘を刺されたが許可さえ降りればこっちのものだ。後々、驚かせてやる。
兎も角、許可を貰った俺は城の中に存在する廃材や街に行って安く仕入れられる材木などを購入した。俺が何かを作る事に興味を示した真桜が覗きに来たが今はまだ秘密だ。完成したら真桜にも使わせてやるか。女の子だから喜ぶだろうし。

さて、ある程度準備を済ませたがいきなりは作らない。俺の知識がうろ覚えって事もあり大雑把でも設計はしなければならないのだ。これは夜にでもするとしよう。
となれば最早、日課にすると決めた技の開発に取り組むしかあるまい。昨日の『拡散エネルギー波』は失敗したから……今日は打撃系で行くか。

俺は城の壁に立て掛けた的に向かい合って気を練る。放出系とは違って身体中に気を張り巡らせる。そして凪が使用している技の様に攻撃力を高めたい場所に気を少し多目に回す。体に気が回って熱くなってきた……足に気を溜め、意を決して技に入る!
俺は的から、ある程度距離を詰める為に走る。そして一定の距離に到達すると跳躍して空中で一回転しながら足を前に出し的に迫る。そう、これぞ全国の少年が憧れた技その二『ライダーキック』


「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


通常のライダーキックは無理があるのでクウガのマイティキックを使う。これは上手く行った!的に迫る俺はそう確信した。























「なーんでこうなるかねぇ……」


俺はその場に座り込んで煙管を吸いながら呟いた。
結果的に技は成功したが威力が高かったのか気で強化された足はそのまま的を貫き壁に足跡がクッキリと出来てしまった。

なんだろう……技が成功したのに……こう、スッキリしないと言うか絞まらないなぁ……と感じるのは。

俺は現実逃避をしながら大将や荀彧、栄華にどんな言い訳をするべきか頭を悩ませるのだった。



今回出た『栄華』『華侖』『香風』は英雄譚に出てくるキャラです。


『操気弾』
ドラゴンボールでヤムチャが使用した技。バレーボール程の気の塊を操る技。原作と映画で各種一回ずつ使用されたが大した威力ではなかったのか食らった敵は、ほぼノーダメージだった。

『ライダーキック』
仮面ライダーの最も有名な技。真上に飛び上がり怪人目掛けて落下しながら蹴りを放つ。歴代の仮面ライダーになる度に新しいライダーキックが生まれるが初代がその技の先駆けとなった。

『マイティキック』
仮面ライダークウガでクウガがマイティフォーム時に使用する必殺技。 全力で助走を付けて低軌道から飛び蹴り叩き込む技で更にクウガの力も加わり強力なライダーキックとなっている。


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第二十二話





壁に足跡を付けた俺は荀彧や栄華にめちゃくちゃ怒られた。的を破壊するのは仕方ないにしても壁を破壊するなと……俺だって壊したくて壊してる訳じゃないんだがな。
どうにも新技開発をすると何かしら壊れるな。俺の気のコントロールが悪いってのもあるのだろう。

凪に聞いたのだが俺は一度に込める気の量が多いらしい。
例えば俺の気の総量を100としよう。俺がかめはめ波を放つ際に10の気を込めればいいのに、俺は40近い気を込めてるらしい。はっきり言えば過剰に気を注ぎ込んで威力がハネ上がり、尚且つ気の無駄遣いと化してるらしい。なんとなくアニメや漫画とかだと気を込める動作が妙に力が入ってる描写があるから、それの影響かもしれない。
因みに壁は仮修理で穴埋めしといた。なんか新技開発と共に俺の工事スキルもアップしている気がする。

さて、それは兎も角として説教の次の日。俺は城の片隅で許可を貰った物を作成に取り掛かっていた。一応、昨日の夜に設計図を書いたが……ぶっちゃけ、うろ覚えでしかも素人知識なので上手く行くかは分からないが今回の一件が成功すれば色々とやれる事の幅が増えそうだ。頑張らねば。

まず地面に棒で線を引く。ある程度、スペースを確保できなければ後々、大変になるからだ。次にサイズ……取り敢えず一人分は確保出来ればいいか。試作段階の物だし、万が一失敗しても廃材利用だから工賃も安く済むし。


「あ、副長。仕事サボって何してるん?」
「普段から仕事サボってる奴に言われたかねーよ。そしてコレは仕事の一貫だ」


通り掛かった真桜に野次を入れられた。これも仕事だってのに。


「なんやコレ……?釜戸なんか作って何する気なん?」


真桜は俺が作業していた物の設計図を見て首を傾げた。アッサリと釜戸と見抜く当たり流石だ。


「ちょーっと試したい事があってな。ま、楽しみにしてろ」
「……な、なあ副長?ウチも手伝っても……ええかな?」


俺が真桜から設計図を取り返すと真桜は自身の頬をかきながらそう告げてきた。ふむ……真桜なら工作も得意だし、何より完成したら物を試して貰うのも悪くない。


「よし。なら真桜にも手伝って貰おうかな」
「んんぅ……よっしゃー!」


俺の言葉に嬉しかったのか真桜は握り拳を空に向けて叫ぶ。
そんなに嬉しかったのか?


「天の知識を使った物なんてワクワクする事、目の前でやられて我慢なんか出来へんよ!それに……」
「そりゃ結構。なら真桜には釜戸の土台から作って貰おうかな」


目がキラキラしてる真桜。本当にカラクリ好きなんだな。なんか語尾が小さくなって聞こえなかったけど、まあいいか。真桜に先程の設計図を渡すと真剣な眼差しで目を通した後にニカッと笑った。


「任せとき!ウチに掛かればこんなん、あっと言う間に完成や!」
「マジで速攻で出来そうだな。なら俺も次の作業に入るか」


釜戸作成を真桜に任せた俺は次の作業に入る。木の板を何枚も組み合わせて……


「うーん……ここをこうすりゃもっと良くなるわなぁ……なぁ、副長?設計図を通りやなくても大丈夫?」
「ん、改造するのか?」


俺は俺の作業を開始しようと思ったら真桜が設計図を片手に俺に訪ねる。


「いやな、ここを……こうしたら……」
「あー……そこな。耐久性の問題が……」


俺と真桜は設計図とにらめっこをしながら改善案を出していた。流石本職と言いたくなるが本職は警備隊である事を忘れてはいけない。


「ふむ……なら今日は此処までにするか。真桜、その設計図を預けるから改善案出してくれるか?後、こっちは小屋の設計図な」
「え、ちょっ……ウチの案で大丈夫なん!?」


俺が設計図を渡すと真桜は慌てた様子で俺に聞き返す。新人時代に、いきなり仕事を任された俺もこんな感じだった気がするな……


「真桜はさっきも改善案出してくれたろ。その感じで十分だ」


俺は煙管に火を灯しながら真桜に指示を出す。俺の素人な設計よりも良いものを書き上げそうだ。


「……ほな、任された!早速手直しや!」
「それはいいけど真桜……徹夜はするなよ」


気を良くした真桜は即座に行動に移そうとしたが俺の言葉に足を止めた。そのままギギギッと首だけを此方に回す。


「なんで……わかったん?」
「玩具を貰った子供みたいに、はしゃいでれば分かるっての。設計図は任せたけど明日の警邏に影響が出るのも目に見えたし……」


俺は煙管を真桜に向けて突き出す。真桜は煙の出る煙管を見てキョトンとしている。


「睡眠不足は良い仕事の敵だ。それに、美容にもよくない」
「……ぷっ……アハハッ!副長、気障すぎるわ!」


俺の好きな台詞の一つだが元ネタを知らない筈の真桜に爆笑された。キザと言われりゃそりゃそうか。


「アハハ……ハーっ……笑ったわ。でも……嬉しいわ。ウチの事そんな風に言うてくれて」
「……なら笑うなよな……ったく」


爆笑を終えた真桜は先程の爆笑とは違う……何て言うか恥じらう乙女な笑い方をして俺はドキッとした。思わず真桜に背を向けてフゥーと煙を吐く。ヤバいなんか耳まで熱い。


「副長……この設計図、預からせて貰うわ。ほな、また明日!」
「おう、任せたわ」


そのまま真桜は俺と顔を会わせずに立ち去ってしまう。



「か……はぁぁぁぁぁぁぁ……」


俺は座り込んで煙管を吸いながら白い溜め息を再び吐く。


「何やってんだかねー……俺も……」


消えていく紫煙をボンヤリと見上げながら俺はそう呟いた。
































◇◆side真桜◇◆


アカン、アカン、アカン、アカン、アカン、アカァァァァァァァァァッン!

熱い、顔がめっちゃ熱いわ!なんやねんさっきの副長!ウチは副長から預かった設計図を胸に抱きながら自分の部屋まで全力疾走していた。思い出すのは先程の事。

最初はただの興味本意やった。副長が城の片隅でなんか作ってたから冷やかしに行っただけやのに……副長は真面目な顔付きで何かを作っとった。ウチの冷やかしの言葉にも皮肉で返してきたのは、いつもの事やけど天の国の物を作ってると気付いた時にはウチは自然と口が開いてた。


「天の知識を使った物なんてワクワクする事、目の前でやられて我慢なんか出来へんよ!それに……副長とも……一緒に居れるし」
「そりゃ結構。なら真桜には釜戸の土台から作って貰おうかな」


ウチの最後の言葉は副長には聞こえてなかったんやろうか?全然普通の態度や。ちょっと悔しい思いもしたけど副長の手伝いをやらせて貰えるのは嬉しかった。
その後、釜戸や小屋の設計図の手直しを頼まれた。基本的な部分は変えずに細かい部分を変えて欲しいと頼まれた。
ヤバい……超嬉しいわ。こんな楽しそうなのを仕事として出来るなんて最高や!今日は徹夜やな!


「……ほな、任された!早速手直しや!」
「それはいいけど真桜……徹夜はするなよ」


ウチは速攻で部屋に籠ろうと走ろうとした矢先に副長に呼び止められた。副長、なんでウチの考え分かったん!?


「なんで……わかったん?」
「玩具を貰った子供みたいに、はしゃいでれば分かるっての。設計図は任せたけど明日の警邏に影響が出るのも目に見えたし……」


副長は煙管をウチに向けて突き出す。煙管の先から出る煙と副長を思わず見つめてまう。


「睡眠不足は良い仕事の敵だ。それに、美容にもよくない」
「……ぷっ……アハハッ!副長、気障すぎるわ!」


偉く真面目な顔で気障なことを言う副長。アカン、なんか笑いのツボに入った!


「アハハ……ハーっ……笑ったわ。でも……嬉しいわ………ウチの事そんな風に言うてくれて」
「……なら笑うなよな……ったく」


一頻り笑うとウチは副長の言った言葉を思わず考えてしまう。ウチは沙和みたいにお洒落をしてる訳やないけど一応は女の子やからそれなりに気は使っとる。副長はそんなウチの事を見てくれてたんやな。そんな事を思うと妙に副長の言葉が嬉しくなってまうわ。
副長は照れなのかウチに背を向けてまう。あ、背中……意外と広いんやなぁ……って、アカン、さっきのを見た後やと副長の一挙一動に注目してまう。なんか顔が熱い!


「副長……この設計図、預からせて貰うわ。ほな、また明日!」
「おう、任せたわ」


ウチは副長の顔も見んと逃げるようにその場を後にした。


「はぁー……はぁー……」


自室に戻ったウチは部屋の鍵を閉めるとそのままズルズルと扉に背を預けたまま座り込んでしまう。
なんなんやろう……いつものウチやったら、さっきの副長も笑い飛ばして弄りに行ってたんやけど……


「あーっもう!こんなんウチらしくないわ!」


ウチは今の思考から逃げる為に副長から預かってた設計図を広げた。今はこれに没頭しよう、うん。ウチは設計図を広げた。
あ……これ。副長の煙草や臭いやな。設計図の紙に染み付いてるわ。


「~~~~~~~っ!」



ウチは頭を抱えながら先程からの思考から逃げる様に部屋に備え付けの布団に転がった。
ウチ……ホンマにどうしたんやろ……

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第二十三話





◇◆side桂花◇◆


私はここ暫く不可解な行動をしている秋月の事を華琳様に尋ねていた。秋月は華琳様に城の片隅を使わせて貰うように許可を取っていたが何をしているのか。それに真桜もその小屋に出入りしているみたいだし……


「純一が何をしてるか……ね」
「はい、許可を取ったとは言っても小屋を作成して何をしているか不明でしたので」


謁見の間には華琳様、春蘭、秋蘭、栄華、北郷と揃ってる。しかし誰に聞いても誰も秋月が何をしているか知らないとの事だった。


「そう言えば……最近、純一さんと真桜が警邏の時も良く何かを話してるな」


北郷が思い出したかの様に言うけど私が知りたいのはその内容なのよ!


「確かに……予算を出した身としても何をしているのか知りたいですね」


秋月のやる事に予算の一部を出した栄華も不満気味ね。何をしているのか分からないのに予算だけ持っていかれればそうよね。


「純一は天の国の物を作ると言ってたわよ。真桜はその手伝いかしらね」
「その様です。真桜も最近は秋月に付いて回ってる様ですし」


華琳様のお言葉に秋蘭も同意していた。確かに最近、あの二人が一緒の居る事が多いわね……


「うむ、最近のアイツ等は仲が良いな!」


春蘭、話が既に違ってるわよ。でも確かにあの二人の距離感が近いわよね……


「ふむ……純一が何をしているのか気になるわね……なら見に行きましょう。今の時間ならその小屋に居るでしょうし」
「御意!」


華琳様の提案に春蘭が答えた。その場に居た者が秋月の小屋を目指した。
そして小屋に辿り着くと小屋の回りには何かの作業をして居たのか様々な物が散乱していた。
良く見ればその小屋も少々変わった形をしていた。屋根が高く高めの位置に窓が付いている。


「先程まで何かの作業をしていたのでしょうか?」
「そうみたいね。あら、小屋の中から話し声が聞こえるわね」


秋蘭の言葉に同意しかけた華琳様が小屋の中での声に気づく。多分、秋月と真桜ね。
全員で小屋に近づいて扉を開けようとした、その時だった。


『な、なんや恥ずかしいわ……副長の前で裸になるって……』
『脱がなきゃ始められないだろ。脱ぐときは後ろ向いてるから……』


中から聞こえてきた声にその場にいた全員の動きが止まる。これって秋月と真桜よね……。


『え、ええで副長。準備万端や……ちょっと怖いけど』
『最初だけだ。慣れれば癖になるぞ』


中で服を脱ぐ衣擦れの音が聞こえたと思ったら真桜の少し怯えた様な声が聞こえた……ちょっと……これって


『ん……うぅ……熱いわ』
『初めてだとやっぱツラいか?』


何かに耐えるような真桜の声にそれに対して気遣うような秋月の声。


『あ、でも……めっちゃ気持ちええわ……』
『そうだろ?』


中の様子が声だけで生中継されている。一緒に来ていた他の皆も顔を赤くして聞き入っている。


『最初は恥ずかしかったり、熱かったりで大変やったけど……こんなに気持ちええなら皆、虜になってまうわぁ~』
『すっかり顔がトロけてるな……』


何よ……何よ……こんな事をする為に小屋を作ったの?私には何も言わなかった癖に……


『でもええんやろか……ウチが初めてで……』
『真桜には色々と世話になったからな。その礼もあるんだから、その気持ちよさに身を任せとけ』


私はもう我慢の限界だった。何よ!アンタの世話をしたのは私が最初でしょ!私には何もしなかったのになんで真桜の方が先なのよ!
私は小屋の扉の取っ手に手を掛けて勢い良く扉を開いた。


「ちょっと、アンタ等!何して……るの?」
「…………荀彧、何してんだ?」
「え、ちょっ桂花!?いや、なんで他の皆さんも一緒なん?皆でウチの風呂を覗きかいな!?」



そこに居たのは釜戸の上に大きな桶を構えて、その中に入ってる真桜と釜戸の火の調節をしながら扇子の様なもので自身をパタパタと扇いでる秋月だった。


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第二十四話





俺はここ数日、真桜と共に設計したある物を作っていた。それは『五右衛門風呂』だ。大人が一人で入る簡易風呂。俺が何故コレの作成に踏み切ったかと言えば毎日風呂に入りたいからだ。
この時代の人間なら兎も角として俺の居た現代では毎日の風呂は当然。悪くてもシャワーくらいは浴びるものだ。だがこの時代においては風呂は高級なものであり、庶民は入れるものではなく権力者や役人でさえ『風呂日』と定められた日に入るらしい。なんせこの時代の風呂と言えば現代で言うところの大浴場並みに広いのだ。浴場を洗うのも湯を沸かすのも、かなりの手間であり気軽に入るものではない。故の『風呂日』である。
それ以外の日は桶に水なりお湯なり溜めて手拭いで体を拭く。残った水や湯で髪を洗うのが当然との事だ。

だが手入れも簡単、使う湯も大浴場よりも遥かに少ない五右衛門風呂なら毎日入っても問題はない。それどころか女の武将や文官が多いのだ。五右衛門風呂は受け入れられて量産される可能性も高い。『狭いが湯に浸かれる』と言うアドバンテージはデカいと俺は確信を持っていた。
欲を言えばドラム缶にプロパンガスを連結した『ドラム缶風呂』が一番簡単なのだがドラム缶もプロパンガスも存在しないので五右衛門風呂に至った。

さて、基本的な設計を真桜に任せたのだが予想通り俺の設計を遥かに上回る物を書いてきた。明らかに徹夜した顔だったが良いものを書いてくれたのと期待した顔をされては怒れないわな。設計図の件は誉めたが流石に作るのは明日以降だ。こんな寝不足状態で作業開始とかあり得ない。真桜は不満を口にしていたが。

さて真桜を部屋に送ってから俺は新技開発兼明日からの工事作業の準備としよう。俺の目の前には山積されている木材が大量にある。その殆どが廃材であり本来なら燃やして終わりの代物ばかりだ。だが燃やせば五右衛門風呂の燃料にもなる物を無駄にはしない。かと言って、このままではサイズが大きすぎで邪魔となってしまう。ならば、どうするか。切るしかない。そして俺の新技開発で切る技となれば、あの技しかない!


「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」


俺は右手を空に向けて掌に気を集中させる。すると球状の気弾が出てくるが俺が目指すのは操気弾ではない。イメージしろ……もっと薄く伸ばして……なんでも切れる円盤状に……


「く……うう……」


ヤバいキツい!何がキツいって気弾を一定量キープしながら形を変えるって結構難しい!だが気の消費はあるが気弾は少しずつ形を変えてきた。そして円盤状になった、今だ!


「はぁぁぁぁぁぁぁっ気円斬!」


俺は気合いと共に気円斬を解き放つ。気円斬は真っ直ぐ綺麗に材木の方に飛んでいく。『避けろナッパ!』と言う人も居ないので材木に命中する筈。そして気円斬が材木の真ん中に当たった。

よし、真っ二つ!………にはならなかった。材木には命中したのだが材木は『切れた』と言うよりは『折れた』のイメージだ。本当ならスパーンと綺麗に切れた筈なんだけど……
もしかしてこれは……俺の編み出した気円斬は形だけが気円斬なだけで切れ味ゼロ?なるほど謎は解けた、それも嫌な方向で。

つまり俺の気円斬は気弾が形を変えただけで本来の気円斬みたいにカッター状にはなってなかったらしい。さしずめこれは『気円斬』ではなく『気円弾』って所か?いや、これは実践じゃ使えない。気の消費も激しいし、コントロールにも時間がかかる。
本当に上手くいかないな……んじゃ次は『気功砲』……は止めた。気が枯渇するのが目に見える。
俺は溜め息を吐きながら一部割るのに成功した材木を片付けるのだった。

それから数日。俺と真桜は警邏を終えると小屋と五右衛門風呂の作成に勤しんでいた。予定していた半分ほどの時間と予算で完成したのは真桜の再設計のお陰だろう。と言うわけで。


「一番風呂は真桜に譲ろう」
「え、ホンマにええん?」


俺の言葉に真桜は目をキラキラとさせたが少々遠慮している。まさか完成品を一番に使わせて貰えるとは思ってなかったんだろう。


「真桜には手伝ってもらったし大将に見せる前に試運転しとかなきゃだからな。早く準備してきな」
「え、今すぐ!?」


真桜は俺の言葉に胸を隠しながら後ずさる。こらこら、何を想像した。


「な、なんや恥ずかしいわ……副長の前で裸になるって……」
「脱がなきゃ始められないだろ。脱ぐときは後ろ向いてるから……」


恥じらいの乙女になった真桜。うん、いくらなんでも脱衣シーンは見ないぞ。本当なら水着でも用意したかったが、この時代に水着はなかった。いや、と言うか水着が無くても何故か下着や服の種類は現代と変わらない。明らかにオカシイ気もするがツッコミを入れたら負けな気がする。そういや一刀は大将の下着選びをさせられたとか言ってたな。
……………なんとか気を紛らわせようと思ってたけど厳しい。後ろで衣擦れの音が聞こえるから正直生殺し状態だ。


「え、ええで副長。準備万端や……ちょっと怖いけど」
「最初だけだ。慣れれば癖になるぞ」


真桜の言葉に振り返れば真桜は手拭いを二枚使って上下の大事な所を隠していた。振り返った俺だが即座に視線を反らす。うん、正直直視できない位に良い体です。俺は真桜から視線を反らしたまま指で風呂に入れとジェスチャーをする。風呂の中に入れば視線を反らさなくても大事な所は見えなくなるから大丈夫。


「ん……うぅ……熱いわ」
「初めてだとやっぱツラいか?」


湯船に入ったであろう真桜の声に振り返ると真桜は湯船に浸かっていたが湯の熱さに我慢する様な顔になっていた。


「あ、でも……めっちゃ気持ちええわ……」
「そうだろ?」


湯船に浸かった事で少なくとも胸は見えなくなった。俺は釜戸の前に陣取っているので立ち上がらない限りは真桜の裸を見る事はない。いや、見たくない訳じゃないつーか、自分から提案しといてなんだがハイパー生殺し状態だよ。


「最初は恥ずかしかったり、熱かったりで大変やったけど……こんなに気持ちええなら皆、虜になってまうわぁ~」
「すっかり顔がトロけてるな……」


最初の恥じらいは何処へやら。真桜は完全にリラックスしてる。俺は自作の団扇をパタパタと扇いでいた。釜戸の火の調整用に廃材を組み合わせて作った即興の団扇だが思いの他、上手く出来たみたいで風が心地よい。


「でもええんやろか……ウチが初めてで……」
「真桜には色々と世話になったからな。その礼もあるんだから、その気持ちよさに身を任せとけ」


真桜の言葉に俺は思った事を口にする。今回の五右衛門風呂の作成は真桜の手助けがなかったら、もっと時間が掛かっていた。その報酬が一番風呂なら安いものだ。
それに入ってみた感想を添えて大将に報告しなければならないから俺以外の意見も欲しかったんだし。


「ちょっと、アンタ等!何して……るの?」
「…………荀彧、何してんだ?」
「え、ちょっ桂花!?いや、なんで他の皆さんも一緒なん?皆でウチの風呂を覗きかいな!?」



今回の五右衛門風呂は概ね成功だな……と思っていたら何故か荀彧が怒った様子で小屋に突入してきた。いや、何してんのお前?荀彧の後ろには大将、一刀、春蘭、秋蘭、栄華と勢揃いだし。
あ、流石に真桜も慌ててるな……って驚いたからって風呂から身を乗り出すな!



『気円斬』
クリリンが独自に編み出した技。気を円盤状のカッターに練り上げ物体を寸断する。
ベジータや18号、悟空、フリーザも使用している。


『気功砲』
天津飯の必殺技で体中の「気」を両手に集め、手を重ねて親指と人差し指で四角形を作り、その間から気を放つ強力な気功波。
しかし気の消耗は激しく、勢い余って全ての気を放出してしまうと命を落とす危険がある。


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第二十五話





何故か突入してきた荀彧や小屋の外で呆然としている一刀達。いや、どんな状況コレ?


「なんやなんや、皆で覗きかいな」
「お前は取り合えず湯に浸かってろ。色々と見えるから」 


一刀も居るし、俺は真桜を湯船に肩まで浸からせる。


「で……純一、アナタが作っていたのはコレなの?」
「ああ。これぞ天の国で昔から使われていた『五右衛門風呂』って奴だ」


大将の疑問に答えたが皆さんの視線がキツめです。俺、何かしましたかね?


「ほう、風呂なのかコレは?」
「ああ、釜戸の下で薪を燃やして湯を沸かしてるんだ。底の所が鉄板になっていて熱を伝える役割を果たしてる」


興味深そうに秋蘭が真桜が入ってる五右衛門風呂の観察を始める。


「釜戸で湯を沸かすのなら熱いのではないか?それに底が鉄板なら尚更だ」
「鉄板の上に乗るための木で作った中蓋があるんだよ。じゃないと火傷するから」


春蘭の疑問も尤もだ。それを知らずに入って火傷をした人も多いらしい。


「なら、この水瓶はなんですか?足し湯の為ですか?」
「足し湯と温度調節の為の水だよ。五右衛門風呂は沸くまでが時間が掛かるけど沸いたら一気に熱くなるから水を足して調整しないとダメなんだ。因みに回りが鉄板で固められてるから余熱で中々、冷めないから暖かいのは長続き。更に温熱効果で体の芯から暖まるぞ」


栄華が指摘したのは釜戸の近くに置いておいた水瓶。現代の五右衛門風呂なら水道の水でも足せば良いが今はそうもいかない。となれば水瓶で水の確保が必要だったのだ。


「って言うかなんで『五右衛門風呂』って名前なのよ」
「確か……石川五右衛門が釜茹の刑にされたのが由来なんでしたっけ?」
「そりゃ俗説って事らしいけどな」


荀彧は名前が気になった様子。一刀よ、それは俗説らしいぞ?まあ、釜茹=五右衛門のイメージは根強いが。後は何でも斬れる刀を持つ御仁か。


「その五右衛門とやらは何をしたのだ?釜茹の刑なぞ余程の重罪なのだろう?」
「石川五右衛門は所謂『義賊』って奴でな。手下や仲間を集めて、頭となり悪事を繰り返したんだが相手は権力者のみだった。当時の政権が嫌われていた事もあり、庶民の英雄的存在になっていたらしい」


春蘭は五右衛門風呂よりも石川五右衛門の存在そのものが気になったらしい。まあ、聞かれても俺もうろ覚えなんだが。


「天の国にもそんな者が居たのね。どの国でも変わらないのかしら」
「まあ義賊とか大泥棒とか色々と説はあるがな」


大将の言葉に五右衛門の辞世の句を思い出す。
『石川や 浜の真砂は尽くるとも世に盗人の種は尽くまじ』
この言葉はどの世界でも通じるな……やめとこ堂々巡りになりそうだ。


「ふ、ふくちょ~……」


なんて考え事をしていたら真桜の声が……あ、やべ。


「熱い~……」
「すまん、大丈夫か?」


話に夢中になっていて五右衛門風呂に入ってる真桜を忘れてた!すっかり茹で上がってるよ。


「大将、俺と一刀は外に出るから後は任せた。そこの戸棚に手拭いと湯のみが入ってるから使ってくれ」
「わかったからアナタ達は早く出なさい」
「さっさっと行きなさいよ変態!」


俺は大将に真桜の後の事を頼んだのだが邪魔だと言わんばかりに外に追い出された。荀彧、地味に痛いから脛を蹴るな。
外に出た俺と一刀はちょっとブレイク。
俺が煙管を吸い始めると一刀が口を開く。


「五右衛門風呂を作るってスゴいですね」
「持ってた知識を動員したに過ぎねーよ。お前こそ、町の改善案の草案見たけどアレは『割れ窓理論』だろ?」


一刀は俺をスゴいと言ったが俺から見ればキチンと持っている知識を有効利用する一刀がスゴい。俺には向かない職業なだけに頑張れと言いたいんだからな?


「北郷、秋月。もう中に入っても大丈夫だぞ」


なんて話していたら秋蘭が声を掛けてくる。一先ず、大丈夫になったみたいだな。
中に入ると未だに熱いのか真桜は団扇をパタパタと扇いでいた。服も上のビキニと短パンだけと中々に扇情的な感じだ。


「真桜さんから見せてもらった資料や設計図から見ると量産は可能な範囲内ですね」
「そうね……これだけのお風呂が作れるなら普及しない手はないわ」


大将と栄華は既に五右衛門風呂の量産まで視野に入れてる。流石としか言いようがないな。


「ふむ……これなら鍛練の後でも気軽に風呂に入れるのか」
「それもあるけど毎日入れるってのが大きいわね……」


春蘭、荀彧は興味深そうに五右衛門風呂を観察してる。これは色々と上手くいったな。


「ところで秋月。この風呂に注意点はあるのか?」
「ん、ああ……さっきの真桜を見てわかる通り熱くなりやすいから水を足して適温にしたりとかしないとだな。後、中蓋が無いと普通に火傷確定」


秋蘭の疑問に答えた俺だが確かに危険も多い。いきなり普及させると不味いかもしれないな。


「ふむ……なら純一。この五右衛門風呂の沸かし方から入り方、注意点を纏めた資料の作成を命じるわ。まずは城の中での利用。馴染み次第、民にも五右衛門風呂の提供をするわ」
「となると……暫くはこの試作品のみの稼働だな」


大将の言葉に同意しつつ俺は五右衛門風呂を見た。頑張って作ったが当分はこれ一台な訳だ。


「まあ、ええやん。副長の考えが通ったんやで。ウチも頑張った甲斐があるっちゅー訳や」
「そうだな。それと真桜、髪はちゃんと拭け」


嬉しそうに話しかける真桜だがまだ髪が濡れていた。俺は溜め息を吐くと手拭いで真桜の髪を拭いてやる。つか、真桜って髪を下ろすと印象変わるな。普段から髪留めで纏めてるから新鮮だ。


「ちょ、副長!子供やないんやから……」
「手伝って貰ったお礼の続き……かな?」


最初は嫌がった真桜だが、俺の言葉に大人しくなった。なんか……懐かしいなこの感覚。そんな事を思いながら真桜の髪を手拭い越しに撫でていたのだが気が付けば真桜はジト目で俺を見ていた。


「………どうした?」
「いやな……副長。妙に手慣れてへん?」
「…………へぇ」


俺が質問すると真桜はジト目のまま俺に聞いてくる。大将も面白い話題を見つけたって顔しないで。


「昔……ちょっとな」
「そ……なら今は止めとくわ」


俺はあの娘の事を思い出したがすぐに頭の片隅に追いやった。
ん……ちょっと待て大将。「今は」って事は後々聞く気満々ですかい?


「…………ふん」


荀彧は荀彧でそっぽ向くし……



因みにこの後だが大将や春蘭達も順番に五右衛門風呂に入っていった。狭いだなんだと文句をつけられたが、しっかりと湯に浸かっていったらしいので満足はしたのだろう。
因みに湯に浸かっていったと言っても俺は中に居た訳じゃない。秋蘭と真桜にある程度の注意点を任せて俺と一刀は報告書作りに勤しんでいたからだ。
荀彧には『華琳様のお風呂を覗こうだなんて私がさせないわよ!』と強く言われて追い出されたってのもあるけど、俺一応制作者なのにこの扱いは解せぬ。































後々だが秋蘭から「桂花も気持ち良さそうに五右衛門風呂に入っていたぞ」と教えられた。情報感謝です。

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第二十六話

五右衛門風呂作成の次の日。
俺は朝から新技開発の失敗をやらかした。今回は気の消費を押さえてかめはめ波を放つ練習をして居たのだが上手くいかなかった。気を押さえようとした結果、かめはめ波の出が悪くなった。気の塊が掌を越えるサイズで出たかと思えば細いビームみたいのが飛び出してきた。正直情けなくて泣きそうになる。さながらリーダー波みたいな感じだったから。

俺は情けない結果に終わった朝の鍛練を止めると荀彧からの呼び出しで仕事となった。
荀彧に呼ばれて北郷警備隊の全員が荀彧の護衛に付く事になった。何故かと荀彧に聞いたが『黙って着いてこい』と言われたのと、大将からも護衛の件は正式に頼まれていたので、それ以上は何も言えない。
何をするかも知らされないまま俺達は街の郊外にある森まで来ていた。因みに今回この森の散策に来ているのは俺、一刀、荀彧、凪、真桜、沙和の五名だ。


「なぁ、桂花ぁ。そろそろ教えてーな。今回ウチ等は何するんよ?」
「今回の任務は……怪しい人影を頻繁に目撃するという報告があった森の調査よ。アナタ達には実際の調査と、もし怪しい人影を発見した時の対処をしてもらうわ」


そういや街の人達の噂もあったな。森に怪しげな影を見たとか。明らかに小動物の影では無かったので噂になっていたな。もしかして……


「怪しげな人影……黄巾の連中か?」
「それってー、沙和達が用心棒ってこと?」
「えぇ。私も痕跡についての調査を行うから、もし何かあったら私に知らせてちょうだい」


俺と沙和の言葉に荀彧も頷く。なるほど痕跡調査となると俺達では無理だから荀彧が来た訳か。だったら早めに言ってくれても良いだろうに。


「わかりました。桂花様の警護は私達にお任せください」
「頼りにしているわ」


凪は任務となり、真面目な対応だ。是非とも真桜や沙和にも見習ってもらいたい。


「しかし……怪しい人影か……」
「ま、この手の話はとにかく地味な調査が必要になるな」


一刀の言葉に俺は反応する。そうあくまで噂話から出た目撃情報なのだ。確実に証拠が出てくる訳じゃなく、ひたすらに調査のみを行い、何かしらの情報を持ち帰る。その為には兎に角、探し回るしかない。刑事ドラマとかで見た知識でもあるが、時間を掛けつつ詳細を探らねばならないのだ。


「…………」
「ん、おい桂花?どこに行くんだ?一人じゃ危ないぞ」


そんな中、荀彧は護衛の俺達を置いて何処かに行こうとする。慌てて一刀が呼び止めるが荀彧はギロリと此方を睨むと更に離れようとした。


「荀彧、何か見つけ……」
「隊長、副長。私が行きますから」


俺も声を掛けようとしたのだが凪が俺を追い越して荀彧の護衛に行く。あ、なるほど……


「そうだな。俺や一刀じゃ行けないから凪に任せる。何かあったら大声を出すんだぞ」
「了解です。桂花様、私が一緒に……」


意図を察した俺が凪に指示を出す。荀彧からは睨まれたけど察して口にしなかったんだからまだ良い方だろ。まあ、女の子が大人数で来ている時に離れるとしたら理由は一つだろう。
俺は手頃な岩に腰を下ろすと煙管に火を灯した。


「副長、桂花が何をしたかったか気付いたんは驚いたわ」
「ふくちょーに女心が分かるとは意外なのー」
「あ、そう言う事か……危なく桂花に問い詰める所だった」


真桜、沙和、一刀の順に俺に話しかけてきた。一刀、もしも口に出していたら大将のオシオキ確定だぞ?


「大人になるとな……女性関係には特に気ぃ使うんだよ。まして気難しい相手なら尚更な」


フゥーと紫煙を眺めながら俺は呟く。なんか昨日といい『アイツ』の事を思い出すな……もう終わった関係なのに。


「副長……昨日も気になったんやけど……」
「「キャアアアアアアアァァァァァァァァッ!!」」


真桜が俺に何かを聞こうとした時だった。荀彧と凪の悲鳴が森に響き渡った。まさか黄巾の連中が出たのか!


「行くぞ!」
「「「はいっ!」」」


俺の言葉に一刀達は直ぐ様気持ちを切り替えて悲鳴が聞こえた方へと走った。そして、そこで見た光景とは……























「イヤァ!蛇ぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「や、やめて……来ないで!」


数匹の蛇に迫られて腰を抜かしてる荀彧と凪。二人は抱き合う様に身を寄せていた。


「………凪よ。護衛がそれでどうする?」
「わ、私……蛇だけは苦手なんです!」
「い、いい……いいから助けてよ!」


俺の言葉に凪は震えた声で答えて、荀彧は涙目だ。二人とも蛇苦手だったんだな。


「ったく……」


俺はそこらの枝を拾うと蛇の回りを威嚇する様に叩く。蛇は直接叩いたりすると、怒って反撃してくるので、追いやる感じでヘビの周りを叩けば、その場からはいなくなるとテレビでやっていた。俺に威嚇された蛇は驚いたのか、その場から去っていく。


「……やれやれ」


俺は溜め息と共に枝を肩に担ぐ。隣を見れば一刀が凪に駆け寄っていた。


「ほら、凪。もう大丈夫だから」
「す、すみません隊長」


凪は一刀の胸に抱かれる形で体を預けてる。もしかして腰が抜けたか?いつもは凛々しい凪も蛇でこうなるのか。真桜と沙和は冷やかしの視線を送ってる。


「大丈夫だったか荀彧?」
「ふ、ふん……アンタも少しは役に立つみたいね」


俺が話しかけると荀彧は俺に刺のある言葉を返してきた。でも、いつもの感じよりも元気が……あ、もしかして。


「荀彧も腰が抜けたか?」
「~~~~~~~っ!」


俺の予想が当たったのか荀彧は声にならない声を上げて顔を赤くした。あ、やべ可愛いとか思っちまった。


「腰が抜けたなら意地を張るなよな、まったく」
「ち、ちょっと触らないでよ汚れる!」


俺が荀彧を横抱きに。所謂『お姫様』だっこをすると荀彧は案の定、暴れ始めた。こらこら暴れるんじゃない。


「そのままじゃ帰れないだろ?少しの間だけ我慢……危ねぇ!」
「え、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


暴れる荀彧を宥めようとした俺だが視界の隅に『怪しい人影』を見つけてしまった。ヤバイと判断した俺は乱暴だったが荀彧を真桜と沙和の方に投げた。


「ちょっといくら何でも乱……暴……」
「副長、桂花の態度も悪かった……」
「ふくちょー、女の子はもっと………」



荀彧、真桜、沙和の三人は俺に抗議しようとした途中で声を失った。そう……確かに怪しい人影は確かにあったのだ。だが『怪しい人影』は間違いであり、正しくは『怪しい巨大な人影』
もっと正しく言うなら『人影』では無かった。

俺達の目の前には……三メートル程の巨大な熊が居て、俺達を見下ろしているのだ。額の妙な模様は三日月の様にも見え、その鋭い口からは涎を垂らして如何にも『エサ、ミツケタ』って感じを出していた。



『リーダー波』
世紀末リーダー伝たけしの主人公たけしの必殺技の一つ。
リーダー的な気を溜める事によって出せる気功波。かめはめ波の様な構えからデカイ気の塊が出るが前に進むのは三センチ程の細いビーム。何故か曜日で火・木・土しか使用できない。


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第二十七話





◇◆side一刀◇◆


俺達の目の前には三メートル程の巨大な熊が居た。もしかして噂の怪しい人影ってこの熊の事なのか!?


「こりゃあ……クマったね……」


純一さんが冷や汗と苦笑いをしながらボケるがツッコミを入れる余裕は誰にもない。


「熊程度なら私が……あ、あれ?」
「凪?」


凪が勢い良く立ち上がろうとしたがペタんと座り込んでしまう。あ、凪はさっきの蛇騒動で腰が抜けてるんだった。って事は桂花もだよな。真桜と沙和に支えられてる桂花も動けそうにない。


「ぐるるるるるる……」
「仕方ない……俺が何とかするか」
「じゅ、純一さんが!?」


熊の唸り声にビビった俺だけど純一さんが一歩前に出た。そして、構えを取った……そっか純一さんにはソレがあった!


「かめはめ……波ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


純一さんの手から放たれた、かめはめ波は熊に直撃した。したのだが……


「え……嘘。倒れない?」
「副長の気を浴びてあの程度の損傷……あの熊は相当強い筈です!」


純一さんのかめはめ波の直撃した筈の熊はケロッとしていた。気を使える凪がかめはめ波の威力から、あの熊はかなりの強さだと判断していた。


「ふ、ふくちょー!私達が戦うの!」
「そやで副長はウチ等の代わりに桂花を守ってや!」


純一さんの代わりに私達が戦うと沙和と真桜が出てくるけど純一さんは首を横に振るう。


「ダメだ……お前達は荀彧の護衛に付け」
「ちょ、なんでなん!?ウチ等は気は使えへんけど総合的な戦闘なら……」


真桜の言葉を遮ると純一さんは上着を脱ぎ始めた。


「一刀は魏にとって天の御遣い。そして荀彧は魏の筆頭軍師だ。どちらも失う訳にはいかん。それに……俺はお前達よりも年上で男だ。少しばかりの見栄も張りたくなるんだよ」
「え、ちょっと……」


純一さんは脱いだ上着を桂花に投げ渡す。


「預かっていてくれ……じゃないとボロボロになっちまうから……よ!」
「な、この気の使い方……まさかっ!?」


戸惑う桂花を置いておき純一さんは力を溜める様なポーズを取る。何かに気づいた凪が隣で凄く慌ててた。


「隊長、副長を止めてください!副長は自身の気を爆発させるつもりです!」
「なんやそれ!?」


凪の慌てた様子を見た真桜が沙和と一緒に桂花を連れてくるが、ただ事ではなさそうな事態に焦っていた。


「我々、気を使える人間は自身の内部に気を張り巡らせて強化する事ができる……だが」
「あ、ふくちょー!?」


凪の説明の途中だったが純一さんは熊に向かって行ってしまう。沙和が気づいたが既に遅かった。


「体内に凝縮された気を高めて爆発させる……これは破壊力は通常の数倍もの力にもなりますけど……威力が高すぎて肉体が崩壊する程の……大規模な爆発を起こします」


凪が説明する中、純一さんは熊の虚をつくと熊の背中に張り付いて必死にしがみついている。熊は『離れろコイツっ!』と言わんばかりに暴れ始めた。
ちょ……ちょっと待ったこのシチュエーションだとこの後の展開はマズい!


「副長は我々を助ける為に……自身を犠牲にする気なのでは!?」
「な……ふざけんじゃないわよ!」



凪の解説で事態は飲み込めたがそれを認めてはならない。桂花も今の説明で現状を理解して叫んだ。俺も夢中で叫んだ!今止めないと大変な事になる。


「止めてください純一さん!」
「じゃあなお前等……死ぬんじゃねーぞ」


俺の制止の声に振り返りながら笑みを浮かべた純一さん。そして純一さんの体から気が溢れ出して光を放つ。その光が最大限に到達した時、純一さんはクマを道連れに大爆発を起こした。


「じゅ……純一さぁぁぁぁぁぁぁぁっん!!」
「副長っ!!」


俺と凪は同時に純一さんの名を呼んだ。激しい爆風と砂塵が舞う中で純一さんの安否は分からない。
少し離れた位置では真桜や沙和に支えられて立っていた桂花が膝から崩れ落ちて呆然と爆発した地点を見つめていた。良く見れば真桜も桂花同様に呆然としていた。沙和は唖然として口をポカンと開けて動けなくなっていた。
先程の凪の解説通りなら純一さんの体は木っ端微塵に……


































「あー……ビックリさせやがって」
「ってアンタが残るんかい!?」


煙が晴れて姿を現したのは何故か無事だった純一さん。俺は大声でツッコミを入れた。なんとなくドラゴンボール的な話かと思ったけど純一さんがナッパなのは違うでしょ!?


「いやー……流石に死ぬかと思った」
「なんで、無事なのとか……色々とツッコミを入れたいんですけど」


ハッハッハッと笑う純一さん。いや、アナタは餃子やアバン先生のしたメガンテみたいな自爆をしたのでは?
なんて思ったら桂花がユラリと立ち上がった。あれ、桂花も凪と同じで腰が抜けてたんじゃ?


「……させ……な…わ……この……」
「あ、ゴメン荀彧、聞き取れなかった」


桂花は何かをボソボソと喋ったのだが俺も聞き取れなかった。純一さんが耳を傾けようと体を前屈みにしようとした瞬間だった。


「心配させんじゃないわよ、この馬鹿!」
「ぐふぉ!?」


桂花は叫びと共に純一さんのボディーに見事なボディーブローを叩き込んだ。それと同時に純一さんが悲鳴を上げると、そのまま桂花を押し倒す様な体勢で倒れた。


「ち、ちょっと馬鹿!何すんのよ秋月!………秋月?」
「………………」


桂花を押し倒した純一さんに抗議する桂花だが返事がない。微動だにしない純一さんに流石の桂花も異常を感じた様だ。


「あの……副長は先程の気の放出で限界だったのでは?そこに桂花様がトドメを刺した形になったのではないでしょうか?」


凪の言葉にその場にいた全員が納得してしまった。さっき妙に明るい態度をしていたのも、それを悟らせない為の演技だったのかな?



「もう……最悪よ」



純一さんに下敷きにされながら呟いた桂花。でも言葉にいつもの勢いはなく、どちらかと言えば『しょうがないんだから……』と言ってるようにも見えた。



『さよなら天さん』
ドラゴンボールで餃子が使った技。相手の背中に張り付き、自爆する。天津飯を助けるためにナッパ相手に使用。

『メガンテ』
ドラゴンクエストシリーズに登場する自爆呪文。自らの命と引き換えに魔力的な爆発で敵を道連れにする呪文。敵では主に『はくだん岩』が使用してプレイヤーを悩ませる存在となっている。


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第二十八話






『起きてください先輩』
「ん……もう後、五時間寝かせて……」


微睡みの中、俺を起こす声が聞こえる。懐かしい声だ。


『講義の全てをサボる気ですか。いい加減にしないと単位落としますよ』
「昨日は大学のサークル仲間と朝まで呑んでたから……単位は代返お願い」 


ああ、これは夢だ……


『まったくもう……起きなさい!』
「ごふぁっ!?」


だって……アイツとは……


「寝てる人間の腹を踏みつけるって鬼か!?」
『先輩が起きてくれないからです。さ、私と共に大学に行くか、私の一撃で眠りにつくか二択です』


『』とは……


「通学か気絶の二択かよ!?」
『だって……そうでもしないと先輩、大学サボってばかりだから……』


もう……


「ああ……もう、わかったから泣きそうな顔になるなよ」
『はい!さ、行きましょう先輩!』


別れたんだから……


























「……………俺の部屋か」


夢から覚めて目を開ければ見慣れた天井。体がダルい……今は何時だ……?
頭がボンヤリして思考が定まらない。


「っ……いてて……」


体を起こそうとしたが身体中に痛みが走り上手く起き上がれない。この感覚は覚えがある。初めてかめはめ波を撃った時に気が枯渇して動けなくなった時と同じなのだ。


「っか……駄目だ」


なんとか上体を起こしたが立ち上がれそうにない。再び寝台にボフッと体を寝かせた。体を動かすことが叶わない。
思い出すのは熊を相手に自爆紛いの技を使った事だ。
まあ……自爆と言うか体の外側に俺の気をすべて放出しただけなのだが。顔不さんから気を用いた自爆技を聞いてはいたが流石にそれをする気にはなれなかった。ならば気を自分の内側で爆発させるのではなく外側で爆破したらどうなるか。結果は大成功だった。ウルトラダイナマイトみたいな形になったが熊の背中に張り付いていたから至近距離での自爆。というか至近距離じゃなきゃ威力が極端に低くなるんだろうけど。

それは兎も角……窓から見える空は暗い。となれば今は夜か?と言うか……アレからどうなったんだ?荀彧や一刀達は無事なのか?
誰かから話を聞かなきゃ状況もわからん。


「あ、あんた……」
「ん……」


ボケッと窓から空を見ていたが部屋の入り口付近から声が聞こえて首を動かしてそちらを見ると荀彧が驚愕の表情で俺を見ていた。手には竹簡が……仕事中だったのかな?


「おはよう……って言うべきか?」
「…………馬鹿」


俺の言葉に毒舌を吐きながら寝台近くの椅子に座る荀彧。


「どこまで覚えてるの?」
「んー……自爆技を使って体力ギリギリの所に荀彧の一撃を食らって……荀彧の方に倒れた所までは」


荀彧の質問に答える俺。先程よりも思考がクリアになったからなのか鮮明に思い出してきた。


「その後、アンタは私を押し倒すように倒れてきたわ……汚れちゃったじゃない」
「そりゃ……悪かった」


荀彧は椅子に座ったまま俯いていて表情を伺う事が出来ない。やっぱ怒ってるかな?


「アンタは……三日も寝てたのよ」
「え……マジかよ」


荀彧は俯いたまま口を開く。前回は一日寝てたが今回は三日。余程の状態だったのか?


「あの後、大変だったんだからね。熊はあの状態から起き上がって逃げるわ、アンタを運びたかったのに凪は腰を抜かしたままだったし、真桜は泣き続けて使い物になら無かったから」
「あー……そう」


え……あの熊、アレで仕留められなかったのかよ。それに真桜も泣き続けてって……


「アンタが呑気に寝てる間に色々と動きがあったわ……」
「いや、少なくとも呑気では無かったんだが……」


嫌な夢も見ちまったからな……
その後、荀彧から聞いた話では黄巾は更に勢力拡大をしていたらしいのだが突如、勢いが落ち始めた。
なんでも呂布が出陣して黄巾の本隊を叩いたらしい。曰く呂布一人に対して三万の軍勢だと。ホンマかいな。しかも呂布が勝ったらしい。
流石はこの世界だ。色々とぶっとんでやがる。
他にも春蘭が孫策に借りを作ったとか……この三日間で色々起こりすぎだろ。
本来はもっと時間を掛けた話の筈だけど……


「華琳様からのお達しよ。『秋月純一はそのまま傷を癒す事に集中する事。五右衛門風呂みたいな物の案があるなら随時、設計図を書き上げて提出なさい。』以上よ」
「え……傷を癒す事に……って警備隊の仕事が……」


荀彧の言葉に起き上がろうとしたが肩を押されて寝台に戻される。


「私に押さえつけられる位に弱ってる奴が何言ってんのよ。とにかく寝てなさい馬鹿」
「………わかったよ」


確かに荀彧に押さえつけられる程度で大した抵抗が出来ない状態で警備隊の仕事は無理か。



「じゃ……私は行くから」
「ありゃま……行っちゃうんだ」


荀彧は竹簡を持つと扉の方へと行ってしまう。


「仕事の途中で少し様子を見に来ただけだもの……」
「そっか……呼び止めて悪かったな」


思えば荀彧は大将の言葉を伝えに来ただけなんだろうな。じゃなきゃ俺の見舞いに荀彧が来るとは思えないし。


「……………」
「荀彧?」



荀彧は扉に手を掛けただけで部屋から出ていこうとはしていない。どうしたんだ?


「………なんでも……ないわよ」
「え、あ……荀彧!?」



不安気で……それでいて何かを聞きたそうにしている荀彧の表情。どうしたのか聞こうとしたら荀彧は部屋を出ていってしまう。あの顔は気にかかるな……

俺が目覚めたと聞いた一刀達が見舞いに来てくれた。
真桜は俺を見るなり抱き付いてきた。見舞いに来てくれた事は嬉しかった。そして真桜が抱き付いてきた際に押し付けられた胸が超柔らかかった。
因みに一刀達の話だと荀彧が一番見舞いに来てくれていたらしい。荀彧は俺に仕事を回す為だと言っていたらしいが。
それを教えてくれた大将や秋蘭のニヤニヤした顔が印象的だった。



『ウルトラダイナマイト』
ウルトラマンタロウの必殺技の一つ。自身のパワーを高めた後に相手に抱きついて自爆する技。威力が高すぎる故に一度の使用で自身の寿命を削る荒業。
因みに破壊力はウルトラマンタロウの持つ技の中でも二番目に高い。


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第二十九話




意識は取り戻したが仕事に戻れない。なんせ、あれから二日は過ぎたが未だに寝台で寝ているのだ。
と言うのも起き上がろうものなら一刀を筆頭に真桜、凪、沙和が「無茶はいけない」と止めに来るのだ。
春蘭や季衣は多少の運動は必要だとフル装備で鍛練に誘ってくるが秋蘭や栄華に止められていた。正直助かりました。

華侖や香風は暇を見つけては会いに来てくれる。まあ、オヤツの時間が主なのだが。
大将は来る時間がいつもバラバラだ。なんやかんやと見舞いに来てくれるのは嬉しいが、いい加減自由が欲しい。あ、駄目ですかそうですか。
因みにだが暇潰しにと囲碁や将棋をしたのだが完膚なきまでに叩き潰されました。勝てるとは思っちゃいなかったが泣きたくなった。

あれから荀彧は一度も来てない。なんとなく荀彧の最後の顔が気になってはいるのだが部屋から出るのも禁止されてるのでは荀彧に会うなど到底無理だった。


そして次の日、俺は自由を得た!
既に歩ける位にまで回復したのだからお願いしますと大将に頼み込んだらOKを貰った。ただし完全回復まで新技開発禁止と天の国の物を作る事の二つを命じられた。しかし……新技開発は兎も角、天の国の物を作る方は既に目処が立っている。
と言うのも数日寝たきりだった俺は「車椅子があればなぁ」と何度となく思っていたのだ。そして大将から天の国の物を作れと言われればコレしかあるまい。
車椅子を作れれば医療関係の話にもなる。前回の五右衛門風呂同様に即座に設計図を書き始めた。

以前、テレビで見たのだが車椅子の歴史はかなり古くなんと最初の車椅子の資料が出てくるのは紀元前五百年のギリシャだ。まあ、当時は車椅子ではなく車輪の着いたベッドで最初は車椅子ではなく、移動式ベッドとして作られていたらしい。
その後に出てくる最古の車椅子の使用者はなんと諸葛亮孔明なのだ。つまりはこの時代発祥の物と言える…………今思ったけどコレ出しても大丈夫なのだろうか?五右衛門風呂は兎も角、これから孔明が作り出そうとしている物を先んじて出してしまう。
なんか歴史を大幅に変えてしまいそうな気が……とは言っても有名武将の殆どが女性の段階で歴史は狂ってる気がするが。
それは頭の片隅に追いやるとして……用途を絞り、大まかな説明と設計図を書いた物を真桜に渡しておいた。これで数日後には車椅子も出来るだろう。

仕事を終えた俺は城壁の上へと来ていた。風が気持ちいいし、見張らしもよい。ここで煙草を吸うのは俺のお気に入りだ。
ここ暫く、煙管ばかり吸ってたから久しぶりにマルボロ吸うか。


「ん……荀彧?」
「………」


俺が煙草を口に咥えると荀彧が来た。俺はそれに構わずに火を灯したのだが荀彧は珍しく嫌がらなかった。


「…………煙草、嫌いなんじゃなかったっけ?」
「嫌いよ。それを吸うアンタもね」


今日も荀彧は切れ味抜群だった。この間の表情は俺の見間違いか?暫し無言が続いたが荀彧が口を開いた。


「今日……北郷と凪が黄巾の連絡網を捕らえたわ。紙にこれから黄巾党が集まる場所や時間が指定されていたわ」
「マジか」


荀彧の言葉に驚かされた。つまり黄巾党の根城の場所が判明したって事だろ。一刀に凪よ大功績じゃねーか。


「近日中に魏は黄巾党に総攻撃を仕掛けるわ。ただし……」
「ただし……?」


荀彧はハァと溜め息を吐くと俺を指差した。


「華琳様からはアンタを戦場に出すなと言われたわ」
「うわーい。ここにきて仲間はずれ?やっぱ理由は俺が倒れたからか?」


なんとなく……予想はしていた事態が来た。一刀は前戦には出ないしどちらかと言えば軍師タイプだ。対して俺はどちらかと言えば直接戦うタイプ。そんな俺が気が枯渇してマトモに戦えないなら当然の結果だな。


「それもあるけど今回は華侖と香風も連れていくそうよ。普段は守りにしている子だけど今回は戦場に行くのよ。つまり華琳様はアンタにこの街の守護を命じたのよ」
「なるほど……今回はお留守番って事ね」


これで漸く話が繋がった。俺の体が治っても新技開発させなかったのは俺が駄目になると本来連れていく予定だった華侖達を残さざるを得ない。ならば俺の行動を禁止して守り役に徹しさせる為って訳か。
一刀は天の御遣いとしての役割もあるから連れていくだろうし……となれば俺が残るべきか。


「華琳様からの命なんだからしっかりしなさいよ。じゃあね」
「はーいはいっと。そっちも気を付けてな」


俺が考え事をしていると荀彧はさっさっと行ってしまう。やっぱ煙草の臭いは嫌ですか。俺は荀彧の背を見送りながらこの後の事を思う。


「これで黄巾が終わるとしたら……次は董卓か」


次に起こるであろう動乱に、俺はボンヤリと空に消えていく紫煙を見つめていた。

そして大将達が出陣して黄巾党は壊滅した。他の勢力も居たらしく劉備や孫策も居たのだろう。どんな人達だったのか気になるなぁ。
因みに俺はと言えばわりかし暇だった。他国が攻めてくるという事態はなく、盗人が出てそれを捕まえる程度のものだ。
仮に他国が攻めてくる事態になったら俺はまた自爆技でもして戦わなきゃか?そうなったらウルトラファイティングボンバーで……止めた。鳩尾に一発良いのを貰って昏倒する未来しか見えなかった……
まあ、ともあれ……黄巾党が無くなって、これでめでたしめでたしかと思っていたのだが。


「天和でーす」
「地和よ」
「人和です」 
「純一さん、この子等をアイドルにするように華琳に頼まれたんで俺がマネージャーするからプロデューサーをお願いします」


一刀がやたらと可愛い女の子三人を連れてきた。いやアイドルってどうしろと……って言うか黄巾党滅ぼしに行ってたんじゃなかったのか?色々と説明プリーズ。



『ウルトラファイティングボンバー』

ドラゴンボールZ、リクームの必殺技。全身にエネルギーを溜め、周囲に強大な爆発を起こす……らしいのだが技名を叫んでる途中で悟空の一撃を食らい技は不発に終わった。


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第三十話





正直驚かされた。これが素直な感想だ。
今の世を騒がせていた黄巾党の首領があの三姉妹だったとわ。

長女の張角が天和。次女の張宝が地和。末っ子の張梁が人和。確かに可愛いがこの三人で大陸を揺るがせた暴動が起きたのか……詳細を聞けばこの三人の『人を集める力』に目を着けた大将は三人を生かす代わりに名を捨てさせ、自身に尽くせと取引を持ちかけ、末っ子の人和がそれを承認した。しかし大将は三人の今後を一刀に丸投げしたのだ。そして俺にもお鉢が来たって訳か。
まあ、今日の所は単なる顔見せだけだったが後日、仕事の話をしなければならない。
さて、今俺が何をしてるかと言えば厨房で料理を作っていた。黄巾党壊滅に至っての宴会をするというのだが、荷手解きや事後処理を考えると恐らく夜になる。


「……………」


ならば食事を先に食べさせ、夜に宴会にするのが一番かと思って一刀や凪達に作っていたのだ。


「………………」


俺は独り暮らしをしていたから料理の腕には自信がある。


「………………」


と言うかさっきから視線を感じる様な……


「………………お腹すいた」
「うおわっ!?」


気が付けば背後に人が居た。全く気が付かなかったんだけど!?
振り返るとそこには赤髪の女の子がこっちを見ていた。城の中じゃ見かけない子だな。


「…………」
「………腹減ってんのか?」


暫し無言で見つめあったのだが俺の炒飯の匂いに女の子の腹が『ぐぅ~』と鳴る。


「………食べるか?」
「…………っ!」



俺の問いに、こくこくと首を縦に降る。余程腹が減っていたのか四人前はある炒飯をパクパクと凄いスピードで食べていく。
ま、悪い子じゃなさそうだし、食べ終わったら話を聞いてみるか。


「秋月副長」
「ん、どうした?」


なんて幸せそうに炒飯を食べる子を見ていたら城の兵士が姿を現した。


「曹操様がお呼びです。謁見の間に来るようにとの事です」
「謁見の間に?わかった……えーっと……」


事を告げると兵士は行ってしまうが……この子どうしよう?俺が視線を向けると頭に?を浮かべて小首を傾げてるし。


「俺はもう行くけど食べてていいからな」
「…………ん」


俺は赤髪の子の頭を撫で、謁見の間に急いだ。
謁見の間に到着すると既に他の面子は招集をかけられたいた様で全員揃っていた。俺が最後か。なーんか皆、不機嫌そうだけど?

「華琳。今日は会議はしないはずじゃなかったのか?」
「私はする気はなかったわよ。貴方達も宴会をするつもりだったんでしょう?」


そう今日はお疲れ様って感じで解散したのに直ぐに集められたから皆が不満そうにしている。一刀の問いに答えた大将も不満気な顔だ。


「宴会……ダメなん?」
「バカを言いなさい。私だって春蘭や秋蘭とゆっくり閨で楽しむつもりだったわよ」


真桜の言葉にサラリと予定を話す大将。『流石、大将。そこに痺れる、憧れるぅ』と舌の先っぽまで出かかった冗談を引っ込めた。今、冗談を言ったら八つ当たりをされると感じたからだ。


「すまんな。疲れとるのに集めたりして。すぐ済ますから、堪忍してな」


と其処へ真桜と同じく関西弁の女性が謝罪しながら広間に現れる。サラシに袴って凄い格好だな。


「貴方が何進将軍の名代?」
「や、ウチやない。ウチは名代の副官の張遼や。よろしゅうな」


張遼ってまた有名なのが来たな……


「なんだ。将軍が直々にというのではないのか」
「アイツが外に出るわけないやろ。クソ十常侍どもの牽制で忙しいんやから」


春蘭の疑問に答える張遼。十常侍って確か三国志の中でも結構な悪役だったよな……うろ覚えだが十常侍の後に董卓の暴政だったかな?


「ほれ、陳宮。さっさと用件を済ませんかい」
「分かっているのです。でも……」


なんて、考え事をしていたら話が進んでいた。張遼が陳宮という少女に話を促すがなんとも歯切れが悪い。


「何か問題でも?」
「そ、それが…….呂布様が居ないのです」


大将が問い掛けると陳宮の口からとんでもないビッグネームが飛び出した。思えば張遼、陳宮と来ているのだから、その繋がりで呂布でも可笑しくはない。でも居ないってどういう事だ?
と思っていたら謁見の間の扉が開き始める。呂布のご登場か?


「……………」
「れ、恋殿ーっ!?」


何故か先程の赤髪の少女が来ていた。しかも炒飯を盛っていた皿を持って。いやいやいや、ちょっと待て。まさかあの子が呂布?全然、そんな風には見えなかったんだけど!?なんて思っていたら赤髪の少女は俺の所まで来て皿をスッと差し出した。ってあの炒飯は軽く四人前はあったのに全部食べたのか!?


「………ご馳走さまでした」
「………はい、お粗末さまでした」


俺は皿を受け取ったが皆の視線が痛い。
ついでを言えば俺の頭の中で『秋月アウトー!』っと妙に間の抜けたアナウンスが流れた気がした。
呂布はそんな空気をものともせず張遼と陳宮と共に並び立つ。


「曹操殿、こちらへ」
「はっ」


陳宮に促され、大将は呂布の下まで歩み寄ると、片膝を着いて頭を垂れた。あー……相手の方が地位が上なんだな。

「……………」
「えーっ呂布殿は『此度の黄巾党の討伐、大儀であった!』と仰せなのです!」
「……………は」


呂布は一切口を開いていないが陳宮が代弁をしている。大将はそのままの姿勢で返事をした。
その後も陳宮が呂布の代わりに大将に質問と非難を浴びせていた。その度に大将のこめかみがピクリと動いているのを見ると冷々するんだけど……


「『今日は貴公の功績を称え、西園八校尉が一人に任命するという陛下のお達しを伝えに来た』と仰せなのです!
「は。謹んでお受けいたします」


そして一通り、話が済むと大将に新たな地位が与えられた。
つーか、陳宮が代りに代弁してるが、ホントに呂布の言葉なのか正直疑問だ。呂布なんか明らかに、ものぐさな顔してるし。


「『これからも陛下のために働くように。では、用件だけではあるが、これで失礼させてもらう。』と仰せなのです!」


やっと終わった。帰り際に呂布がチラリと俺の方を見た気がしたけどなんだったんだろう?
しかし呂布達が帰ったけど場の空気は重たい。ふと気が付けば皆の視線は俺と一刀に。
『どうしましょう?』と一刀がアイコンタクトしてきたけど、『頼む』と俺は顎で大将を指した。一刀は諦めた様に大将に歩み寄る。


「なぁ、華琳……」
「話し掛けないでっ!」


謁見の間にビリビリと大将の声が響く。やっぱスゲー怒ってんな。


「ああ、もう……腹が立つわね……」


ヤベェよ大将の回りに『ゴゴゴッ』って文字が見える。その雰囲気に誰もが圧倒されていたのだが、ふと大将と目があった。大将の目はこう語っていた『一発殴らせろ』と。
俺は覚悟を決めて上着を脱ぐと一刀に預け大将の前に立つ。そして体に気を張り巡らせて構えをとった。


「呼っ!」
「はぁっ!」


俺の腹に大将の拳が突き刺さる……って超痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?
いや、気で体強化して三戦まで使ったのにダメージがデカ過ぎるんですけど!?


「ふぅ……少しは気が晴れたわ。皆、明日は二日酔いで遅れてきても目をつぶるわ。思い切り羽目を外しなさい。行くわよ春蘭、秋蘭」
「「御意!」」


予想外のダメージにその場に踞る俺を一瞥して大将と春蘭は行ってしまう。秋蘭だけは俺に合掌をしてくれたが。俺が呂布と会っていた為に待たせたとかを含めてもどんだけ怒ってたんだよ。
因みに次の日に『何故、呂布に食事を振る舞った』と大将に問われて正直に話したら、もう一発頂く羽目になった。



『三戦』

グラップラー刃牙で愚地独歩が使用した技。
空手道に古くから伝わる守りの型で呼吸のコントロールによって完成されるこの型は完全になされた時に、あらゆる打撃に耐えると言われる。


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第三十一話






俺と一刀は街の警備案について話をしていた。とは言っても以前、一刀が書いていた『割れ窓理論』が主なのだが。

話は盛り上がっていたのだが凪達が隊長室に来て昼の誘いに来てくれた。意外な事に三人の中で一番グルメなのは凪らしい。ただ好きな物を聞いたら、やたら辛いもののラインナップが多かったが。
まあ、部下からのお誘いは嬉しいもので俺と一刀は揃って昼飯に行く事にした。
凪の勧めで店を決めて注文を頼む。


「ウチは、麻婆豆腐と炒飯」
「沙和は麻婆茄子と炒飯と……後、餃子も食べるのー」
「麻婆豆腐、麻婆茄子、辣子鶏、回鍋肉、白いご飯で……全部大盛り、唐辛子ビタビタでお願いします」
「えっ!?」
「おいおい……」


真桜、沙和、凪の順番に注文したのだが凪の所で一刀は驚いて吹き出した。いや、俺も正直驚いて呆れたんだが。頼んだ料理が全部、唐辛子を使った物のオンパレードなのだから。しかも大盛り。


「あははは、沙和も始めて見た時は『そんなに食べて大丈夫?』って聞いちゃったもん」
「まあ、隊長と副長の気持ちもよう分かるけど、凪やったら大丈夫やで。行きつけの店じゃいつもやっとる事や」
「俺は麻婆豆腐、餃子、白いご飯で」
「あ、俺も白飯と餃子、焼売で」


俺達の会話に凪は恥ずかしそうに少し俯いていた。まあ女の子だろうがよく食べるのはよい事だ。そういや食べると言えばこの間の……


「そーいや、この間の副長には驚かされたわ。呂布将軍を餌付けしとったんやから」
「いや、餌付けって訳じゃなかったんだがな」


真桜の言葉は少し否定した。でも匂いに釣られて来た呂布も呂布だと思うが。


「でもまさか、あんなポヤンとした子が天下の飛将軍とは思わなかったですよ」
「確かにな。でもまあ……悪い子には見えなかったよ」
「あ、ふくちょーが飛将軍を狙ってたの」


一刀の言葉に同意した俺だが沙和が茶化してきたのでデコピンを一発。


「どっちかちゅーたら副長が料理できた方が意外や」
「此処に来る前は一人暮らししてたからな。料理は得意な方だ」


そろそろ日本食が恋しいしなんか作るか?なんて話している内に注文した料理が来た。様々な料理がテーブルの上に所狭しと置かれていく。


「おー美味しそうなの」
「せやな」
「ああ」
「それじゃ!」
「食べるかな」


五人で「いただきます」と言ってから食事開始。



「悪い、凪。酢醤油取ってくれんか?」
「もぐもぐ……んぐっ、ん……はい」
「へへっ。おーきに。副長、沙和、酢醤油いるやろ?」


真桜は凪から受け取った酢醤油を俺と沙和に渡そうとしている。気が利くな。


「ありがとう。真桜ちゃんにしては気が利くのー」
「いやな、その餃子、酢醤油つけて食ったら旨いやろなと思うてなぁ」
「もー。素直に頂戴って言えばいいのに。じゃあ、一個あげるの」
「おーきにな」
「凪ちゃんも食べるー?」
「……ん、食べる……」 


食事をしながら女の子通しでシェアするのは、この時代からなのかと思ってしまう光景だな。つーか凪の食事スピードが凄い早い。


「……隊長、それ何?」
「ん、麻婆丼だけど?」


真桜が一刀の食べていた物に気づき怪訝な視線を送ってる。


「麻婆丼?なんやのそれ?」
「名前通りだよ。丼に盛り付けた白飯に麻婆豆腐をぶっかけた丼物」


「はぁ!?麻婆豆腐を白ご飯にかけてるて……気持ち悪っ!」
「邪道だよ、邪道~変。なのー」
「もぐもぐ……むぅ……」


真桜と沙和は真っ向否定。凪は何も言いはしないが、嫌そうに眉を顰めていた。


「そうか。こっちには麻婆丼は無いんだな。天の世界じゃ当たり前だったんだけどな。食うの楽だし」 
「そーなん?ウチ等からしたら、抵抗あるわ…….」


三人は一刀の言葉に疑いを掛けている。俺等の常識は一部は完全に通じないんだよな、この世界。


「なら麻婆丼を食ってみたらどうだ?一刀、一口だけ食わせてみろよ」
「うーん……じゃ、一口だけ」
「隊長。失礼します」
「ん~……そんならウチも!」


俺の言葉に三人は一刀の丼から差し出した麻婆丼をレンゲで一口分だけ取って食べた。


「……どうだ?」
「うわわっ!?旨いで、コレ!」
「うん、おいしー。何コレ、びっくりー!」
「……意外」


一刀は不安そうに聞くが三人には大好評の様だ。


「白米と麻婆豆腐ってのは別個で食べても旨いし、丼にした時の相性もいい。ついでを言えば辛い麻婆豆腐もご飯と一緒にすると味がまろやかになって食べやすいときた」
「って言うか純一さんもナチュラルに俺の丼を食べさせないでくださいよ」


解説をする俺に一刀からのツッコミが入った。餃子と焼売を一個ずつやるから勘弁してくれ。


「今度、沙和もやってみるのー」
「こんな事やったら炒飯やのーて、ウチも白ご飯にしときゃ良かったなー」
「やってみよ」


凪は一刀同様に自分の白飯に麻婆豆腐をかけて同じように麻婆丼を作り、真桜は白飯を頼まなかった事を後悔していた。沙和は次来たときは麻婆豆腐と白飯は確定だな。


「真桜、白いご飯が良いなら俺のを食べるか?代わりに炒飯は貰うが」
「ええの!?するする交換するわ!」


俺の提案に真桜はバッと俺の白飯を取り上げると炒飯を渡してきた。どんだけ麻婆丼、気に入ったんだよ。
そんな時だった。パリンと皿の割れる乾いた音がした。振り返れば店の店主がプルプルと震えてこっちを見ている。


「あの……何か?」
「そ、それだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


俺が何事かと訪ねたら店主は叫びながら厨房へと駆け込んだ。それと同時に何かを作る音がガシャガシャと聞こえてくる。


「アハハッ麻婆丼、作ってるんとちゃう?」
「……震えてたのは料理の閃きを得たからか」


つまりは麻婆丼に感涙して作ってみたくなったと。真桜は俺の白飯で麻婆丼食べてご満悦みたいだし。


「店主さん、最初から麻婆丼にするつもりなら餡を少し多目にして葱も多目にしてくれ」
「そ、そうか……餡を増やす事で白米と絡みやすくなり、葱を増やす事で豆腐と挽き肉以外の食感を増やす……アンタは神か!?」


少しアドバイスをしたら感激している店主は俺を『神』と呼び始めた。とんでもねぇ、アタシャ神様だよ…….ってか。とりあえず神様呼びは止めさせた。
その後、食事を済ませた俺達はそれぞれの仕事に戻る事にした。


「あー……ビールが飲みてぇ……」


俺は城に戻る最中、煙管に火を灯して食事中に思っていた事を口にした。だって餃子に焼売って完全にビール案件じゃん。現代の味とビールが恋しいわ。

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第三十二話





「ふ……はぁぁぁ……」


今日も朝から新技開発。と言うかやっと新技開発解禁となったので俺は鍛練場で気を練っていた。
今回、俺が試すのは、かめはめ波等の気功波ではない。
直接打撃、だが遠くの敵を見定めて放つ技。


「ふぁぁぁぁぁぁ……」


体に張り巡らせた気を拳に集中させる。そして狙うべきは自身の足元。


「………はっ!」


俺は素早く片膝をつくと拳を地面に叩きつける。これぞシャフル同盟ブラックジョーカーの最終奥義!


「ガイアクラッシャー!!」


俺の拳から気が地面に向けて放たれる。これで……これで……あれ?


「…………失敗か」


確かに気は地面を伝って衝撃を生んだ。しかし『ポヒュッ』となんか気の抜けた音がしただけで終わり。本来なら岩山が出来る筈が単に地面を鍬で耕した程度の荒れ方にしかならなかった。
あー……これ、雨が降ったら泥濘になるな……


「ガイアクラッシャーが出来れば色々と使い道が増えたのになぁ……」


これじゃ畑を耕す為の技みたいだ。いや、これはこれで便利だとは思うが。
泣きたくなったが次の技にトライ。どっちがと言えば此方がメインだ。用意したのはなんの変哲もない槍。だがコレに気を通して相手に投げつけてはどうか?
そう、青タイツの憎めない兄貴の必殺の槍『ゲイ・ボルク』になるのではと考えたのだ。


「さて……上手くいくか……」


今までの経験上、上手くいくと思った物ほど失敗に終わっている……しかも気が枯渇したり、自身に第大ダメージを負う結果が殆どなので希には成功させたいものだ。


「はぁぁぁぁぁぁっ!」



槍を持つと俺は槍に気を流し込む。すると槍に淡い光が灯り始める。これは俺の気が槍に籠り始めた証拠だ。


「狙うは……其処だ!」


俺は槍を逆手に構えて壁に備え、的へと狙いを定める。


「行くぞ……ゲイ……」


俺は槍に込めた気を最大限にして振りかぶった。


「ボルクッ!」


俺は叫びと共に槍を投げ放つ。今回は上手くいったのか、槍は光を発しながら的へと真っ直ぐに走っていく。これは……成功か!ってちょっとヤバい!?投げた的の近くに春蘭が歩いてる!鍛練に来てたのか……兎に角、其処に居たら危ない!と叫ぼうとしたのも束の間。


「ん……なんだ?」
「んなっ!?」


春蘭はまるで蚊でも追い払う様に俺のゲイ・ボルクを剣で叩き落とした。え、俺の必殺技は蚊と同レベルですか?
呆然としていた俺に春蘭は『あ、スマン。邪魔したか?』とか言ってくる始末。春蘭に取って今のは驚異でもなんでもなかったららしい。


俺の全身全霊を込めた技は魏の大剣様に到底足元にも及びませんでした。
因みに槍は粉々になった。槍に気を込めた段階で強度的に保たなかったらしい。
凪に話を聞いたら道具に気を込めるにはやはり適切な量を込めないと器の方が破壊されるとの事だ。
午後の仕事もあるのに俺は意気消沈するしかなかったよ……



『ガイアクラッシャー』
Gガンダムでアルゴ・ガルスキーが使用した技。地面に拳を打ちつけ、大地を隆起させる。
隆起した大地は巨大な針山のようになり、受けた相手はダメージと共に岩塊で機体が拘束される。


『ゲイ・ボルク』
Fateシリーズでランサー『クー・フーリン』の宝具。
魔槍の呪いを最大限開放して渾身の力で投擲する。


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第三十三話




◆◇とある兵士◆◇


私は最近、入隊したばかりの新兵だ。魏の兵士となった者はまず最初に北郷警備隊と言う街の警備部隊に入るのが決まりらしい。

配属されるのは楽進、李典、于禁のそれぞれが預かる小隊に配備され、街の見回りや三将の指導の下で隊列や武術の指南を受ける。
ここまでは良いのだが楽進小隊長達の上司に当たる方々が……なんとも不思議な方々だった。
それは大陸中の噂となり、曹操様の陣営に舞い降りた『天の御遣い』様だ。彼の名は『北郷一刀』と言い、真名は無いそうだ。警備隊の間では彼の総称を『隊長』と呼んでいる。
武力はないが人当たりが良く、警邏に出れば街の者は皆、隊長と話したがる。彼は自身の存在を鼻に掛ける事なく、自然体であるが故に民からも慕われている。
更に曹操様に召し抱えられている為に夏侯姉妹等の魏の重鎮にも変わらぬ態度を取っている。彼は大物とも言えるがうつけとも言える。それでいて隊長は曹操様や夏侯姉妹に気に入られて……その男女の関係に近いと聞く。その快挙を称えて皆は口々に『魏の種馬』と呼んでいたりする。

更にわからないのが警備隊の副長である『秋月純一』だ。
彼は隊長と同郷らしく隊長と親しい。更に軍師の荀彧様の家で兵法を学び、気を扱う強者らしい。
彼もまた気さくで柔軟な思考の持ち主らしく隊長と同様に街に出ると良く民と話をしていた。その事を副長に訪ねたら『人の話を聞くのが街の様子を知る事にもなる。見るだけじゃ伝わらない物もあるのさ』と言っていた。この人は隊長と同じなのだと深く思った。
更にこの人は天の国の物を次々と作り出している。と言うのも副長が創案を出し、李典小隊長が一部の兵を伴って作り上げる。その一部の兵もカラクリ好きな者を集めて作った『北郷警備隊カラクリ同好会』と言うらしく、なんと国から予算が出ているそうだ。
この予算を『魏の金庫番』と恐れられている曹洪様から取ってきたのだと言うから警備隊の隊員は副長の偉業を奇跡と話していた。
余談だが曹洪様からの交換条件で于禁小隊長と提携して天の国の服の作り上げる『北郷警備隊お洒落同好会』をも立ち上げた。これには曹操様も一枚噛んでいるらしく、考えた案を街の服屋に委託しているそうだ。
この間、作った試作を一緒に見せて貰ったのだが……確か『冥土服』とか言っていた。名前の割りには可愛い服だった。


そして何よりも皆が副長を凄いと思ったのは男だと言うだけで罵倒を浴びせる様な荀彧様が副長の前だと少々、様子が変わる。李典小隊長もいつもは明るい方なのだが副長と一緒に居る時は年相応の少女の顔だ。
魏の重鎮を落としていく隊長と副長に我々は『魏の種馬兄弟』と呼んでいた。隊長が弟で副長が兄らしいが。


さて長々と考えてしまったが、そろそろ警邏に……



「いくぞ!超級覇王電え……って痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「じゅ、純兄ーっ!?」


また、副長が新技開発で何かをしてしまったらしい。曹仁様の悲鳴も聞こえたが、一緒に居たのだろう。
私は近くに居た同僚と少し笑うと声が聞こえた鍛練場の方へと走り出したのだった。



『超級覇王電影弾』

Gガンダムで東方不敗が使用した技。
荒ぶる鷹のポーズのような構えをとった後、頭から体当たりを仕掛ける。 頭部以外の部分が、渦巻状の光弾に包まれていて敵陣に突撃した後に『爆発っ!』の掛け声と共に100体近いMSを一瞬で破壊し尽くした。


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第三十四話





「あー……死ぬかと思った」
「いや、むしろ良く無事でしたね」


超級覇王電影弾の失敗をやらかした俺は一刀ととある場所へと向かっていた。しかしまあ、今回の失敗は特に酷かった。なんせ体に螺旋状の気を纏わせようかと気のコントロールをしたら失敗して体が気で捻られた。人間を直接雑巾絞りしたらこうなるよね、的な感じに。しかも、そのまま体制を崩して顔面から地面に激突。俺の新技開発に興味をもって見学に来ていた華侖も慌ててたし。やっぱ素人が真似しちゃアカン技やね。


「さて……一刀はもう三姉妹には会ったんだろ。事務所まで貸したとか聞いたけど?」
「あ、はい。純一さんの事も伝えてあります」


俺が未だに違和感の残る首をゴキッと鳴らしながら聞くと一刀も教えてくれた。そう今日は黄巾の首謀者でもあった張三姉妹と仕事の打ち合わせだ。と言っても調整役や三姉妹の面倒は一刀が担当で俺は予算やライブのアイディアを出す役なのだが。


と言うわけで張三姉妹の事務所に来たのだが……


「あー……暇~……」
「もう、なんで私達が待たされなきゃならないのよ」
「仕事なんだからちゃんとして二人とも。もうすぐ来る筈だから」



事務所の扉を開けたらダラけてる天和、待たされてる事にイラつく地和、姉二人とは違って真面目に対応をしている人和と揃っていた。



「一刀、コイツ等の予算は九割カット。ストリートミュージシャンからスタートさせろ」
「気持ちはわかりますけど落ち着いて。この子等、いつも大体こんな感じですから」


三姉妹の態度に俺はストリートミュージシャンからスタートさせた方が良いと思った。コイツ等ハングリー精神の欠片も無いぞ。


「あー、もう遅いよ一刀!」
「ちぃを待たせるなんて良い度胸ね」
「お待ちしておりました一刀さん。貴方が予算や案を出してくださる秋月さんですね」
「ああ。前は自己紹介と挨拶しか出来てなかったな。一応、キミ達の予算を国から預かる形になった秋月純一だ」



真っ先に一刀に抱きつく天和、文句をぶつける地和、一刀への挨拶もそこそこに俺に挨拶をしてくる人和。マジでコイツ等をアイドルにしろってか?今の所、人和しか評価できねーよ。


「なによ、その顔。ちぃ達じゃ不満だっての?」
「不満つーか不安なんだよ」


地和が俺の表情から何を考えているか察したようだが若干違う。一刀は良い子達と言っていたが俺には果てなく不安が募るばかりだ。


「ごめんなさい。姉達は歌や踊りには熱心なんですが……」
「お願いします純一さん」


人和と一刀が真っ先に頭を下げに来た。慣れてる辺り、普段から振り回されてるな二人とも。



「はぁ……まあ今回は顔合わせみたいなもんだし……人和、今後の営業と予算の話をしたいけど良いか?」
「勿論、喜んで」



天和と地和は一刀に任せて俺は人和と簡単ながら打ち合わせを始めた。村で行う営業と予算決め。更に演出やステージの割り振りなどを決めていた。
とりあえず現代のアイドルがしていそうな事を教えると人和は可能な範囲でそれを取り入れていた。吸収力半端無いんだけど、この子……。あれだな兄弟とかで上がダメだと下の子が良くなる的な……
ともあれ、今日の所はこんなもんだな。低予算で組んでライブの結果次第で今後の予算が変わる仕組みだ。
むしろ俺がでしゃばるよりも一刀に任せた方が良さそうだ。
一刀にもある程度任せて、困ったら相談しろとも言っておいたし。

その後、天和、地和、人和に見送られて事務所を後にした俺と一刀。意外だったのは天和がライブの話をした時に目を輝かせて、やる気を出した事だった。最後にはちゃんと頭を下げてきたし。まあ、今後もヨロシクってね。

一刀は城に戻るが俺は外食してから帰る事にした。適当な店で食事をすませた後に城に帰ろうと思ったのだが、その帰り道で呼び止められた。


「そこのお若いの……お主も複雑怪奇な運命に翻弄されておるな。御遣い殿も大層、深い運命に晒されていたが主も同様じゃ」
「………えーっと占い師さん?」


ローブを被って顔が伺えないけど声からして恐らく老婆。その人に突然声をかけられ………と言うか占われた。複雑怪奇な運命って……あんまり良い内容じゃなさそうだし。


「川の流れは変えられぬ、変えてはならぬ。石を投じれば波紋が広がる。塞き止めれば川は朽ちる。道を増やせば枝分かれをして大河となる。されど大筋は残る、その道を変えてはならぬ。……大局には逆らうな。逆らえば身の破滅となろう」
「色々と難しいな。でも、占いありがとさん」


正直ちんぷんかんぷんです。まあ、占いは占いだし深くは考えないようにしよ。俺は占い師の婆さんに占い代を払うと煙管に火を灯して城へ帰る事にした。


「大局には逆らうな……か」


その部分だけが妙に印象に残ったが……考えてもしゃーないわな。俺は消えていく紫煙と共にその考えを忘れる事にした。


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第三十五話




先日の占いが妙に気になる気もしたが占いは占い。深く考えてもしゃーないと思い仕事に打ち込むこと、数日。
俺は新たな技を会得する為の動作を体に再確認していた。以前、失敗したゲイ・ボルク……更に上をいこうじゃないか。


「……………はっ!」


俺は体中の気を両腕に回す。そして真桜に作ってもらったレプリカ剣に気を通す。今回は頑丈に作ってもらった物なので壊れる心配もない。名付けて『エクスカリバーモドキ』


「………束ねるは星の息吹」


俺はエクスカリバーモドキを正面に構えるとターゲットとなる的を見据える。因みに真桜やカラクリ同好会による鍛練場の壁の補強工事は既に完了している。毎回、壊すくらいなら金を掛けて頑丈にしといた方が良いからね。


「………輝ける命の奔流」


と言う訳で今回は遠慮なしにぶっぱなす!俺は両手に構えたエクスカリバーモドキを振りかぶり、気を最大にする。


「受けるが良い、エクス……」


そう、解き放つのは『 約束された勝利の剣』


「ちょっと、純一?」
「カリ……ばぁっ!?」


危なっ!集中してた所に足払い掛けられて顔から地面にダイブ。超痛い、妙な声出しちゃったよ!鼻が痛い!鼻を押さえながら立ち上がり振り返れば大将が居た。一刀、秋蘭、季衣に……後の三人は誰だ?
ボブカットの可愛い子にボーイッシュな感じの子。それに頭に大きめなリボンを着けた子だ。城じゃ見ない子達だな?


「大将……そちらの子達は?」
「私は顔良。袁本初様の使いで来ました」
「アタイは文醜だ!」
「私は……典韋です」


顔良、文醜、典韋ってまた有名所だな。自己紹介の中にもあったけど顔良と文醜って言ったら袁紹の二枚看板だったな。典韋って魏の武将の名前の筈。最早……女の子なのが当たり前だな、この世界。思わず三人の顔を見詰めたら大将が呆れた風に口を開く。


「あら、早くも品定めかしら純一?一刀もだけどアナタも手が早いものね」
「悪質なデマを広めるな。ああ、逃げないで……って言うか引かないで」


大将の発言に顔良、文醜、典韋がサッと一歩引いた。泣くぞ、コラ。つーか、さっき打った鼻の奥が痛い。あ、鼻血が……


「どうだか、鼻血なんか出してイヤらしい」
「スゴいや、この人。数秒前の自分の行動忘れてるよ」


俺は鼻を押さえながら大将にツッコミを入れる。


「んで、その袁紹殿の使いが何故、城に?」
「それをこれから聞くのよ。でも貴方には頼みたい事があるの」


袁紹はこの大陸でも名家の筈。その人物が自身の二枚看板を派遣してでも伝える事って、どんだけ重要事項なんだろう?
でも大将は俺には別の仕事を与えるッポイな。


「この二人の戦いの見届け役よ」
「ごめん、せめて説明して」


大将はズイッと季衣と典韋の背を押して俺の前に出す。いや、子供の喧嘩に介入しろと?
んで、事情を聴いたら更に頭が痛くなりそうだった。
季衣は『良い仕事に着けたよ。一緒に働こうよ。お城に来てね』的な手紙を典韋に書いた。しかし典韋は季衣のお馬鹿ぶりを知っていたので大きな建物を城と勘違いしたと判断した。そして街に来た典韋だが季衣は見付からない。仕方ないので街の料理屋で働く傍ら、季衣を探していた典韋だが本日、季衣が顔良達を連れて店に現れる。そこで互いに連絡の仕方が悪いと口喧嘩からマジ喧嘩に発展。
店の中で大喧嘩を始めた二人だが顔良と文醜の手によって喧嘩は一時中断したが蟠りを残すくらいなら思い切り、やりなさいと大将が提案。


「で……二人がやり過ぎないように見張ってろと?」
「そうね。後は怪我をした時の応急措置くらいは任せるわ」


やれやれ。まあ、子供の喧嘩くらい……いや、ちょっと待て。季衣はあれでも魏の武将として恥じないくらいの力を持っている。それに喧嘩をしようという典韋も同じくらいに強い筈。それを俺一人で万が一の時には止めろってか。
ヤバい……なんか死亡フラグだ。こんな宇宙の戦闘民族みたいな子供二人を止めるって無理じゃね?


「がるるるる……」
「ううぅぅぅ……」


互いに睨みあってる季衣と典韋。視線で火花が散ってるよ。
そのまま大将達は行ってしまう。顔良だけは『失礼します』と頭を下げてくれた。めっちゃ良い子だよ。


「さて……」


俺は未だに睨みあってるチビッ子二人に視線を移す。下手に止めるよりも、やりあわせる方が良いのは俺も賛成するけど。


「はぁ~……真桜とカラクリ同好会にも声掛けて……場所は近場の森な。後、街の人が近づかない様に見張り要員も確保しといて」
「了解です」


俺は近くに居た警備隊の隊員に指示を出す。隊員が素早く動いてくれる。俺は季衣と典韋の間に入る。


「はい、ブレイクブレイク」
「純一さん」


互いに睨みあっていた二人は俺という介入者が出た為に一瞬、張り詰めた空気が緩んだ。俺は季衣の頭を撫でた。


「此処じゃ被害が出るから外に行こうな。典韋もそれで良いよな?」
「は、はい」


俺は典韋の頭にポンと手を置く。少し戸惑った様子だけど典韋も納得してくれたみたいだった。
さて、お子様二人のデスマッチ観戦と行くか。





『エクスカリバー.約束された勝利の剣』

Fate/stay nightのセイバー『アルトリア・ペンドラゴン』が持つ剣であり、その代名詞とも言える宝具。聖剣というカテゴリーの中において頂点に立つ最強の聖剣。
歴代サーヴァントの宝具の中でもトップクラスの破壊力を持つ。


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第三十六話





さて、チビッ子二人を連れて近場の森へ来たのは良いのだが……


「季衣の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「流琉のわからず屋ぁぁぁぁぁぁぁっ!」


可愛らしい声とは裏腹に土地破壊を続けるチビッ子二人に俺は煙管を吸っていた。轟音と共に森の形が変わっていく。
なんか、森をテーマにした映画でこんなシーンあった気がする。
ある程度距離を取った位置で見ているのだが二人の武器が武器だから稀に此処まで届くから怖い。

二人の武器はぶっちゃけガンダムハンマーと巨大なヨーヨーなのだが二人の気質が出てるな。
季衣のハンマーは真っ直ぐ飛ぶタイプ。野球で言えばストレートだ。
対する典韋のヨーヨーは多少の軌道の変化が見える。野球で言えば変化球って所か。


「副長!お二人の戦いの被害が甚大です!」
「折れた木とかは回収して城に運んどいて薪と工事用の材木にするから」


同行してもらったカラクリ同好会の面々に指示を出す。連れてきて正解だった。彼等には破壊された木を運んで貰ったり、街の人が森に近づかない様にして貰ったりと働いてもらっていた。


「ふ、副長……さっきから超怖いんやけど……」
「耐えろ。俺達が居なくなったら更に被害が出る」


真桜が俺に若干怯えた様子で話しかけてくる。いや、俺だって怖いちゅーねん。


「まあ、油断しなければ……危なっ!?」
「副長、自分で油断しなければって言っといて、それは……うひゃあ!?」


危ねぇ!ハンマーとヨーヨーが交互に襲ってきやがった。少し戦いから視線を外したらコレかよ。


「も、もう……いやや……何回目か分からへんで」
「もう少ししたら大将達の話も終わるだろうから、もう少しの辛抱だ」


そう。今のが始めての危険というわけではなく今まで幾度となく危険に晒されていたのだ。かと言って警備隊の隊員を前に出したら間違いなく、ぶっ飛ばされる。故に俺と真桜が他の隊員よりも前に出なければならないのだ。
って言ってる側からハンマーとヨーヨーが同時に……同時!?
ヤバい流石に同時にこっちに飛んでくるのは今まで無かった。俺は真桜を後ろから庇うように抱き止めると右手に気を集中する。


「ひゃ……ふ、副長っ!?」
「ハアッ!」


真桜が驚いて妙な声を出したが俺は気にせずハンマーを気で強化した手で弾き返す。弾き返したハンマーは、そのままヨーヨーとぶつかって俺達の位置からは反れた。二人は未だに白熱しているのか、そのまま戦いを続行していた。息も上がってきてるし、そろそろお仕舞いか?
つーか、今のかなり上手くいったな。気で強化して手のひらに気を放つ形が一番良いのか?
今の感じもフェニックスウイングみたいな感じだったし。これならベルリンの赤い雨とかも使えるかも。


「どう?調子は」
「おお大将。見ての通りだ」


なんて考え事をしていたら大将が来た。一刀や荀彧も来ていた。あれ、荀彧が超睨んでるんだけど。


「見ての通りねぇ……アナタが真桜の胸を揉んでいる様にしか見えないわよ」
「え……あ……」


大将の言葉に状況整理。俺は先程、真桜を庇った際に胸を鷲掴みしていた。現在、左手が凄い幸せになってる。


「いつまで揉んでるのよ!」
「って!?」


荀彧の背後からの蹴りに俺は真桜から手を離してしまう。


「巨乳!?やっぱり巨乳なの!?」
「痛たたたたたたっ!?」


荀彧はそのまま俺にストンピングを浴びせる。痛てぇ、妙に的確に打ってくるんだけどコイツっ!?


「やるなら徹底的にやれか……ホントに全力でやっていたのか」
「その方が遺恨が残らないもの。可愛いものだわ」


いや、お前達も無視してんなよ!?いつの間にそんなスルースキルを身に付けた!


「い、いややわ副長……揉みたいんなら言ってくれれば……」
「………………」 
「痛だだだだだっ!?」


恥じらいながらもそんな事を言ってくる真桜。その言葉に反応してか荀彧の蹴りの威力がアップした。ちょっと待ったマジで痛いって!
疲れたのか荀彧の蹴りが止むとチビッ子二人の戦いも終わりに近付いた様だ。


「……流琉、お腹すいた」
「……作ってあげるから、降参しなさい」


仲が良いのか悪いのかわからん会話だな。俺は立ち上がると埃を叩いて払う。


「やだ……流琉をぶっ飛ばして、作らせるんだから!」
「言ったわね……なら、季衣を泣かして、ごめんなさいって言わせるんだから!」


あ、第二ラウンド開始の予感。ゴング鳴らしたいな。


「ちょりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


再び飛び交うハンマーとヨーヨー。まだ、やる気らしいな……あ、木の破片が……こっちに……


「荀彧、危ないぞ少し下がってろ」
「え、ひゃあ!?」


さっきの要領で飛んできた木の破片を打ち払う。なるほどコレは便利だ。


「あ、ありが……っふん」
「そこまで言ったんなら最後まで言ってくれよ」


助けられた事に礼を言い掛けた荀彧だが途中で止めて、そっぽを向く。礼を言うにしてもちゃんと顔を見なさいっての。
なんて荀彧と話をしていたら色々と状況が終わっていた。大将と一刀の話も終われば、チビッ子二人の戦いも終わった様だ。二人揃って倒れてる。


「…………きゅう」
「………うみゅぅ」
「やれやれ。向こうも終わったようね」


チビッ子二人の状況と俺達を見て大将が話を切り出す。って事は俺の方も見て放置してやがったな。


「……ゴメンね、流琉。ボク、流琉と早く一緒に戦いたかったから……手紙、きちんと書けてなかったんだよね」
「いいよ。私も季衣と早く働きたかったから…….州牧さまの所で将軍をやってたのは、びっくりしたけどね」


なんか川原で殴りあった不良の仲直りシーンを見てる気分だ。


「じゃあ、ご飯……作ってくれる?」
「うん。一緒に食べよ」
「ようやく決着が着いたようね。二人とも」


話が纏まった所で大将が一歩前に出る。大将が典韋を立たせると話を切り出した。


「もう一度誘わせてもらうわ。季衣と共に、私に力を貸してくれるかしら?料理人ではなく、一人の武人……武将として」
「わかりました。季衣にも会えたし……季衣がこんなに元気に働いている所なら、私も頑張れます」


話を聞いてはいたが大将は元々、典韋を料理人として誘っていたらしい。だが典韋は季衣との事があって断っていたらしいが。


「ならば私を華琳と呼ぶ事を許しましょう。季衣、この間の約束。確かに果たしたわよ?」
「はい、ありがとうございますっ!」
「約束?」


季衣と大将の約束。話の流れからすると典韋を城に招くって所か。


「ふぅー……やれやれだ。あ、城に戻ったら五右衛門風呂、沸かしといて。あのチビッ子達も入るだろうし」
「了解です」


俺はそれを遠目に見ながら煙管を吸う。警備隊の隊員に先に指示を出しといた。戦いまくって汗だくだし泥だらけになってるから、風呂にも入りたいだろう。それに……


「薪は大量に生産されたからな……」


俺は破壊し尽くされた森の惨状を見て呟いた。木は折れ、岩は破壊され、近くに居た猪が数匹仕留められていた。
とりあえず折れた木は材木に。仕留められていた猪を城で出す食材行きだな。当分、どちらにも困りことはないだろう。薪の方は生木なので当分、乾かしてからだけど大量確保には違いない。


「副長、あのお二人に任せれば猪狩りが楽になるのでは?」
「この国から猪がいなくなるから止めとけ」


隊員の一人がそんな事を言ってくるが国中の猪の全てを狩りかねない。
とりあえず城に戻ってから顔良と文醜が話していた袁紹の使いの話を聞かないとか。
そういや、顔良って可愛かったな……って荀彧。俺は何も口にしてないんだから無言で足を踏むな。



『フェニックスウイング』
ダイの大冒険のラスボス、大魔王バーンが真の肉体に戻った時に使える防御技。魔法力を弾く衝撃波を伴った超高速の掌撃を放つ。その衝撃波によって並みの攻撃とあらゆる魔法は弾かれる。


『ベルリンの赤い雨』
キン肉マンの超人ブロッケンJr.の技。ナイフの如く鋭い手刀で相手を切り裂く技。その傷口から吹き出した血がまさに雨のように降り注ぐことからその名がついたとされる。


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第三十七話




顔良と文醜からもたらされた袁紹の話とは反董卓連合の話だった。

『董卓の暴政に、都の民は嘆き、恨みの声は天高くまで届いている』と言うことで皆で董卓を倒そうと声を挙げたらしい。その連合には袁紹を筆頭に袁術、公孫賛、馬騰等の三国志の有名な武将の大半が名を連ねていた。恐らくだが劉備もいるんだろうな。

だけど、反董卓連合なんて名ばかりの物で実際の所は董卓が権力の中枢を握った事への袁紹の腹いせらしい。しかも文醜はそれを否定しなかったとか。
要は統制の取れていない都の文官がやりたい放題にしている事を、董卓の所為にして滅ぼして更なる権力増大をする為なのだろう。なんとも頭の痛くなる話だが、この世界は少なくともそんな世界なんだよな……俺や一刀の居た平和な時代とは違うんだから。

そして大将はこの連合に参加を決めた。下手に逆らって波に飲まれるよりも波の先に立って波の頂にいたいと思ったとの事だ。つまりは混乱が起こるのを外から見るより、内側からしっかり見届け、確実に収めたいって事なんだろう。

だが正直、気乗りはしない。話を聞く限りでは俺の知る歴史とは既に大きく違ってきてる。本来の歴史なら董卓は暴政を確かにしていたのだが、この世界の董卓は寧ろ状況を良くしようとしていたのだ。それを袁紹はコレ幸いと攻める事にした。正しいことをしようとした結果がコレだ。
大将に言わせれば隙を見せる方が悪いとの事だが……
まあ、ともあれ反董卓連合には俺や一刀も行く事になった。天の御遣いを広める為と俺達に諸侯の皆を見させる為とか。

まあ、そんな訳で戦場に行く事ともなれば戦わねばならない事態に陥るかもしれない。毎回、自爆する訳にもいかないので新技開発だ。
何気なく行った事だったが拳に気を纏わせて戦うやり方もありだと思った。なんせ季衣のガンダムハンマーを弾く事に成功したのだから。

凪の話では俺は極端な才能らしい。と言うのも気の放出や武具に気を纏わせる等本来は達人の領域らしい。だが気を手のひらに集中させたりするのは寧ろ基本型なのだが何故か俺は不得手なのだ。要は順序がバラバラなのだ。
アレだ、スーパーサイヤ人になれるのに空を飛べない的な。
それを嘆けばどうにかなる訳ではないので対策は必要だ。その対策の一環が『武器』になるだろう。
武器の使用で技の範囲や戦いかたの幅も広がるが……普段から気を使った技ばかりなので今一武器を使う感覚になれない。レプリカ剣や兵士の使う槍などは使用したが本格的には使ってない。
だったら、いっその事、凪みたいに籠手とかにするか?
真桜に頼んで鉤爪とか収納式のを作ってもらうか。そうすればベアークローからのスクリュードライバーを放てる筈だ。でも全体力使った技を回避されてトドメを刺されるのは嫌だな。
まあ、ベアークロー無しでもマッハ・パルバライザーとかもあるけど……前回失敗した超級覇王電影弾の二の舞にならないように気を付けよう。



因にだが凪の話では気は二種類存在して『内気功』と『外気功』に分かれる。
内気功とは自分で練り上げた気を使う事で外気功とは自分以外の気を吸収して使用する事らしい。ただし外気功を使えるのはそれこそ五十年は修行した者が使う技らしく凪にも使えないそうだ。コレを聞いた俺は『元気玉』を試す事を諦めた。





『ベアークロー』
ウォーズマンの手の甲に収納されている鉤爪。武器ではなく、あくまでウォーズマンの体の一部の認識。

『スクリュードライバー』
ウォーズマンの代名詞とも言える技の一つ。
片手のベアークローを突き出し、錐揉み回転しながら相手に突っ込み刺し貫く。この技で数々の超人たちを再起不能にし、ラーメンマンにもトラウマや後遺症を植え付けた。

『二刀流ベアー・クロー』
七人の悪魔超人編でバッファローマンに放った起死回生の一撃。普段は片手だけで使用するベアー・クローを両手から出し(100万+100万で200万)、トップロープから普段の2倍のジャンプを行い(200万×2で400万)、さらに3倍の回転を加えることにより(400万×3で1200万)、一時的に超人強度1200万パワー相当の威力を発揮したスクリュー・ドライバー。その際、全身が発光して「光の矢」となる。
この計算式はウォーズマン理論と呼ばれる。

『マッハ・パルバライザー』
両手を合わせ全身をドリル状に錐揉み回転させて相手を穿つ突進技。鉄柱を軽く砕く程の威力を持つ。
キン肉マン二世でクロエ(ウォーズマン)が弟子のケビンマスクにベアークローを使用しないスクリュードライバー『マッハ・パルバライザー』を伝授した。

『元気玉』
ドラゴンボールで悟空が界王から学んだ技の一つ。両手を上げ、自然からエネルギーを少しずつ集めて球体を作り、それを投げつける技。 集める量によっては小惑星程のサイズも作成可能。


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第三十八話




「なんで……こんな事になってんのよ?」
「うん。俺にも予想外だった」
「それだけ秋月さんの案が素晴らしかったのでしょう。あ、コレも可愛い……」


城に届けられた大量の衣装に俺や荀彧は少々あきれて、栄華はルンルンと服を選んでいた。
さて、何故こうなったかと言えば以前、俺が案を出した服のデザインや小物の意見を服屋の店主に伝えた事から始まる。この時は沙和の意見として『街の経済が回れば賑やかになる』の事で俺は手始めとして未来の知識の服の委託を考えた。その結果、店主の頭に稲妻が走ったらしく思い付くままに様々な服を作り上げたのだと言う。
少し前に様子を見に行った時にはメイド服が既にあった事に驚きと喜びを感じたものだ。

それは兎も角、店主は素晴らしい意見を出してくれた礼として作った服を大量に持ってきたのだ。大将に話を通したのでそろそろ来る頃だが……


「うわっ、凄い量」
「コレ全部がそうなの?大したものだわ」


一刀と一緒に来た大将。微笑ましいですよ覇王様と言いそうになったが止めとこう。荀彧と大将のツープラトンを食らいそうだ。


「これ……全部女物なの?」
「いんや。服屋の店主には色んな意見を伝えただけでな。でも少し見た感じだと男物と女物で半々だな」


女物は明るい色が多いから、そっちに目が行きがちになるが中にはしっかりと男物の服が入ってる。


「へぇ……確かに色々とありますね。あ、トレンチコートまで」
「え、マジで?着てみるか」


一刀の持っていたトレンチコートを受け取ると袖を通す。なんか普通に着心地良いんだけど。現代のアイディアをアッサリと作り上げるとは恐るべし。


「似合いますね純一さん」
「まあ、元々冬場には、よく着てたからな」


スーツの上から羽織るには丁度良いんだよな。これは嬉しいかも。


「それで中折れ帽子でも被ったら刑事か探偵ですね。ハードボイルドみたい」
「トレンチコートに中折れ帽子って銭形かよ。後、俺は探偵ならスカルが好きだ」


ハードボイルドって格好いいよね。俺だとハーフボイルドだけど。


「それでパードボイルド、これは何?」
「なんで教えてもいない天の国の言葉を出した?それは作務衣だな」


荀彧の言葉にツッコミを入れる。誰がパーだコンチクショウ。的確な言葉を作りおって。


「作務衣?」
「それも天の国の服なのかしら?」


栄華や大将も気になった様だ。荀彧が手にした作務衣に興味津々といったご様子。


「作務衣ってのは……天の国のくつろぎ服みたいなもんかな。パジャマ……寝巻きに使う人も多いし。元々は禅宗の僧侶が日々の雑事を行うときに着る衣らしいが」
「浴衣とか甚平とかと同じですよね」


俺も元々は作務衣はパジャマに使う事が多かった。これも丁度良いし、俺の普段着としてしまうか?


「天の国の服も色々とあるのですね……」
「純一さんのアイディアの伝え方が上手いのか……この国の職人が凄いのか……」


栄華と一刀は他の服も見ている。確かに服屋の店主、凄いよな。ざっくりとした説明と俺の描いた下手な絵でここまでのクオリティの高さを求めるとは。ん、これは……


「これなんか荀彧に似合いそうだな」
「あら、良い感性ね純一。確かに似合いそうだわ」


俺は荀彧に見えないように大将側に服を持っていく。大将もその服を見てすぐに頷いた。すると即座に荀彧が反応を示す。


「秋月の事だからイヤらしい服なんでしょ?」
「その論法だと大将の感性もイヤらしいがな」


荀彧の言葉に思わず反論したが大将って割とオープンにスケベだよな。『大将のオシオキ=イヤらしい事』的な計算式ができてるし。
まあ、でもこの服は普通の服だが荀彧には似合うと思う。


「ふむ……桂花。私は純一の感性を信じて服や小物の案を出させたわ。貴女はそれを否定するのかしら」
「い、いえ……その様な事は……」


あからさまなドS顔の大将が荀彧を追い詰めて壁にトンと手を着いた。壁に追い詰められた荀彧は少し怯えた様な反応をしたが、その表情は愉悦に歪んでる。あ、こらアカンわ。


「取り込みになるなら失礼するか。行くぞ一刀、栄華」
「え、あ、はい」
「は、はひ!」
「あら、見ていかないの?」

俺は大将と荀彧の世界に見入っていた一刀と栄華に声を掛けて部屋を後にしようとする。しかし大将に呼び止められた。


「見たいのは山々だが見たらエラい事になりそうだからな。ま、ごゆっくり」


荀彧の乱れる姿はヒジョーに気になるが見たらリアルに殺されかねん。それにこれ以上、荀彧に罵倒されるネタを増やすのもな。


「つー訳なんで失礼するよ」
「そう……貴方の好きになさい」


俺の言葉に大将はツマらなそうにしていた。あれ、俺は選択肢を間違えたか?しかしこれ以上此処に居ると大将の機嫌を損ねかねないし、俺は一刀と栄華を連れて部屋を出る事にした。連合の準備もしなきゃだしな。




























「……………何よ……馬鹿……」

部屋を出た時に僅かに聞こえた荀彧の声は何を意味したのだろうか。気にはなるが今さらあの部屋には戻れないなぁ……

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第三十九話




俺達は大将の号令の下、軍を率いて都を目指していた。反董卓連合の集まりの為だ。魏を出てから数日になるようだが目的地近辺までは来ているがまだ先のようだ。


「んー。集合場所まで結構あるなぁ……」
「これでも近い方よ。西方の馬騰などは、この何倍もの距離を、私たちよりはるかに迅く駆け抜けるというわ」


俺の耳には一刀と大将の会話が聞こえる。


「西方の人達は騎馬の民だからだろ……生まれてすぐに馬に乗る人達と一緒にされても困るよ」
「相変わらず、変な所にだけは詳しいのね」
「とは言っても必要な知識だろう?」
「荷物は黙ってなさい」
「あ、はい」


一刀と大将の会話に参加しようとしたら荀彧に睨まれて黙る俺。今現在、俺は縄でグルグル巻きにされて馬車の荷物と一緒に運ばれている。
何故、こんな事になったかと言えば反董卓連合に出発する日に新技開発をしたのだ。


『行くぞペガサス流星……ぎゃぁぁぁぁぁっ!腕が!?』
『ふ、副長ーっ!?』


なんか右腕の筋肉がつった。寝てる時に足がつったみたいに凄い張ってる感じ!たまたま近くにいた新兵に心配されたが続いて第二弾!右腕が痛いので左腕でトライ。


『獣王会心げ……痛だだだっ!捻れる!?』
『副長、もう止めてください!?』


とまあ、技を見よう見まねで撃とうとしたら腕の筋肉がエラい事になった。しかも気が枯渇して気絶。しかしその日の内に出発予定だったので俺は気絶したまま馬車の荷台に縛られた状態で輸送されたのだ。
そして先ほど、目を覚ましたけど出発する前に騒がせた罰として未だに縛られたままだった。
しかもお目付け役として荀彧が俺の隣に座っているのだ。この間の一件から妙にギロッと睨まれる事が多くなった。泣ける。


「だらしないよ、兄ちゃん」
「そうですよ、兄様」


季衣と流琉のチビッ子コンビが一刀を嗜める。因みに流琉はこの間から一刀を『兄様』と呼んでいた。流琉にそう呼ばれた一刀の頬が緩んだのを俺は見逃さなかったよ。
そして俺の事を『オジ様』と呼ぼうとした流琉。俺は思わず流琉を『クラリス』と呼ぼうとしたがギリギリで踏みとどまった。それを言ったら『オジ様』呼びを認めた事になりかねない。
とりあえずは季衣と同じ様に呼ぶようにと頼んどいた。



「華琳様、袁紹の陣地が見えました!他の旗も多く見えます!」
「こりゃ……凄いな」


荀彧の言葉に俺は縄で縛られたままの体を起こして陣地を見る。と……陣地からこっちに人が来た。あの子は……顔良だったな。文醜はいないみたいだが……


「曹操様!ようこそいらっしゃいました!」
「顔良か、久しいわね。文醜は元気?」
「はい。元気すぎるくらいですよ。って……なんで秋月さんは縛られてるんですか?」
「ちょーっと仕事でミスっちゃってね」


顔良が縛られてる俺に気づく。うん、気配りの出来る子だね。アハハと乾いた笑みを浮かべたが話は続く。


「で、私たちはどこに陣を張れば良いかしら?案内してちょうだい」
「了解です。それから曹操様、麗羽様がすぐに軍議を開くとのことですので、本陣までおいで頂けますか?」
「わかったわ。凪、沙和、真桜。顔良の指示に従って陣を構築しておきなさい。それから桂花は、何処の諸侯が来ているのかを早急に調べておいて」


顔良との挨拶もそこそこに大将は指示を出す。いや、俺は?


「私は麗羽の所に行ってくるわ。春蘭、秋蘭、それから一刀は私に付いてきなさい。純一は此処で凪達の監督を命ずるわ」
「りょーかい……って縄を……」


大将はそのまま一刀を連れて行ってしまう。いや、俺の拘束を解いてから行けや!


「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ありがと」


見かねた顔良が縄を解いてくれた。うぅ……優しさが身に染みる。と言うか顔良さんが俺の縄を解く為に急接近。
これはヤバい!自然と顔良さんが俺を見上げる形になるので上目使いっぽい。
可愛いなぁと思ってたら背中に衝撃が。振り返ると荀彧が俺の背中を蹴っていた。


「………仕事しなさいよ」
「あ、はい……んじゃ顔良さん。凪達に指示を頼みます」
「そ、そうですね。どうぞ此方へ」


妙なプレッシャーを放つ荀彧。これは下手に逆らうより従った方が良いな。顔良さんもそれを察したのかそそくさと行動開始。
なーんか、この間から本当に機嫌悪いな荀彧。ま、考えても仕方ないか。今は仕事しよ。

そう思った俺は顔良さんの指示のもと陣営設置に勤しんだ。時おり、妙に荀彧に睨まれた気がしたが……



『ペガサス流星拳』
聖闘士星矢の主人公の必殺技。秒間数百発の音速の拳の連打。 

『獣王痛恨撃/獣王会心撃』
ダイの大冒険に登場するクロコダインの必殺技。腕に闘気を集中させ、前方に闘気の渦を放つ。
ダイ達の仲間になった時、バダックの勧めにより獣王痛恨撃から獣王会心撃と改名。 


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第四十話




荀彧に睨まれながらも陣営設置完了。他の陣営も気になるがサボると荀彧が怒るから抜け出さないが今、この場には三国志の英雄が勢揃いしてる様な状況なのだ。
劉備、孫策、袁紹、袁術、公孫瓚……他にもまだまだ居るんだろうけど。
後、気になってたのは今のところ、有名武将は皆女性だから全員が女性なのでは?と考えていた。
荀彧に初めて会った時にも聞いたが有名武将は皆女性と言っていたから間違ってはいないのだろう。
あれ、それでいくと董卓も女性なのだろうか?調べてもらったけど董卓の容姿の情報ってあまり無かったんだよな。
それに写真も無い時代だ。容姿等も人づてで聞くしかない訳で天和……張角の時もあり得ない絵姿が伝わってたし。

まあ、都に行けば全部分かるよな。つーか、これから汜水関を攻めに行くんだよな……呂布とか出てきたら最悪やん。
とまあ悩んでいたのだがそんな間にも事態は進む訳で俺達の目の前には汜水関が聳え立っていた。


「アレが汜水関……」
「デケーな。今からアレを落とせってか」


巨大な砦を一刀と俺は見ていた。簡単に落とせと言われて落ちるもんでもなかろうに袁紹も無理を言う。そもそも作戦が『優雅に華麗に前進』って。ドラクエのコマンド並みに簡単な指示だろ。そんな事言われたら仲間も混乱するわ。セルフメダパニか。


「始まりましたね。でも……本当に見ているだけでいいのでしょうか?」
「いいんだってさ。指示あるまで戦闘態勢のまま待機って、華琳の命令だしな」
「まあ、今んところはこっちが有利みたいやし、大丈夫やろな……」


心配そうな凪に大将の指示待ちな一刀。真桜も一応は事態を見ている。
俺は先鋒として前に出ている劉備と孫策を見ていた。遠目だからしっかりとは見えないがフォルムや髪の長さからいって、やはり女性みたいだ。
煙管の煙をプカプカと空に漂わせて汜水関を見ていたのだが此処まで届く怒号が聞こえてきた。

「聞けぃ!董卓軍の将兵達よ!わが名は関雲長!大徳、劉備様が一の刃である!其方の将は関に篭りきりでよほど武に自信がないと見えるな!!違うというのであれば出て来い!!この青龍堰月刀の錆にしてくれるわ!」


遠くてよく見えんが黒髪のポニーテールが見えた。あれが関羽か?


「なんか汜水関が騒がしくなったのー」
「恐らく華雄が挑発に乗って打って出ようとしているのを仲間が止めている……と言う所だろう」


沙和の呟きに凪が答えた。なるほど武人の誇りがあるからこそ、あの挑発に乗ってしまったって所か。でも出てきてない辺り、なんとか抑えられてるんだろう。


「汜水関守将、華雄に告げる!我が母、孫堅に破られた貴様が、再び我らの前に立ちはだかってくれるとは有り難し!その頸を貰うにいかほどの難儀があろう?無いな。稲を刈るぐらいに容易いことだろう!どうした華雄。反論は無いのか?それとも江東の虎、孫堅に破られたことがよほど怖かったのか?それほどの臆病者、戦場に居て何になる?さっさと尻尾を巻いて逃げるが良い……ではさらばだ、負け犬華雄殿!」


今度は孫策と思わしき桃色の髪をした女性が汜水関に向かって叫んでいる。なるほど過去に因縁があった相手なのか。三国志のいつ頃の話か分からんからコメントしづらいが、やはり効く挑発なのだろう。
汜水関の上から華雄と思わしき声が聞こえる。それに加えて華雄を止めようとする仲間の声も。
その後も武人の誇りやなんやと関羽や周囲に居た武将が叫ぶが汜水関は開かない。なんとも我慢強い人たちだ。ふむ……だったら……



「と言う訳で汜水関まで行ってこようと思うんだが」
「何が『と言う訳』なのよ」


大将に話を持っていったら荀彧に睨まれた。だって、あのままじゃ汜水関、落とせそうにないし。


「なら純一、貴方なら開けられるとでも?」
「確証はないけど……天の国の武将がやった事を試してみたいと思って……どうでしょう?」


大将の質問に『天の国』のフレーズを交えて話す。これなら乗ってくれるか?


「………いいでしょう、試してきなさい。ただし無事に帰ってくる事と彼処には他の陣営も居るのだから粗相の無い様にね」
「りょーかい。さて、準備準備。流琉、ちょっと手伝って」


大将の許可も得たし早速行こう。押して駄目なら引いてみろ。引いて駄目なら押してみろってね。
流琉に準備を手伝ってもらった俺は少々思い荷物を背負って汜水関に向かっていた。因みに大将からは軍を動かす訳にはいかないから行くなら一人で行きなさいと言われた為に一人で向かっている。
真桜や華侖等の一部の人間は一緒に行くと言ってくれたが俺が大将に無理を言ったのだ、その責任を背負わせる訳にはいかん。
さて汜水関の前まで来たが未だに動きはない。武将の挑発と汜水関から聞こえる女性の怒りの声ばかりが響いていた。


「こりゃー……長引きそうだな」
「そうね。それで貴方は何者?」


俺の一人言に返事が返ってきた。振り返れば桃色の髪をした女性が俺の後ろに立っていた。この人が孫策……ヤバい超美人だよ。


「あ……と。俺は許昌の警備隊副長、秋月純一。手伝える事があればと陣営から抜け出してきました」
「ふーん……許昌は曹操の所よね?汜水関の動きがない事に関しての視察と牽制。後は他の陣営の観察……って所かしら?」


おおぅ……アッサリと見抜かれた。まあ、観察っても俺の個人的な興味によるものなんだが、なんで分かったんですか……あ、勘ですか。やっぱ凄ぇよ英雄。此方の予想を遥かに越えた答えが返ってきた。


「まあ、手伝ってくれるのは助かるわね。あの通り、華雄にしては我慢強く堪えてるから」
「はぁ……まあ俺も確証はないんですけどね」


なんか孫策さんの目が俺が何をするのか楽しみって視線になってる。さて、どうするか。


「なんかこう……簡単に出てこさせる方法って無い?」
「うーん……さっきみたいに挑発するのもいいけど……例えば相手より自分が勝ってる部分を思いっきり馬鹿にするとか?」


準備を始めた俺に話しかける孫策さん。俺は準備を進めつつも答えた。口喧嘩とかだとそれが一番効くからね。


「そっか……なら……」


孫策さんは少し前に出るとスゥと息を吸った。何を叫ぶ気なんだ?










「華雄のひーんにゅうぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」



ひーんにゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……


んにゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ……


にゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ……


うぅぅぅぅぅぅぅぅ……














場が静かになった。時が止まったかと思う程に静かだ。孫策さんの叫びだけが山彦みたいに響く。
だが次の瞬間。



「ああああああぁぁぁぁぁぁっ!殺す、アイツだけは絶対に殺す!!」
「落ち着いてください華雄将軍!?」
「おい、縄かなんか持ってこい!将軍が限界だ!」



なんか思った以上に効果が出た。汜水関から華雄の声が聞こえる。多分、部下の声かな……必死に華雄を引き留めてる感じだ。
汜水関は開かなかったが孫策さんは爆笑してる。
いや、つーか孫策さん?俺この後、自分の陣営に戻るの怖いんですけど。
魏の陣営に視線移したら、なんかヤバいオーラ出てるし。主に大将と荀彧だな、あのオーラの発信源は。『貧乳』のフレーズに反応しそうなの、あの二人だし。
はぁ……陣営に戻ったら味方に殺されるかも俺……

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第四十一話




ヤバい……今の俺の素直な感想だ。先程の孫策さんの『貧乳』宣言から味方の陣営のみならず他の陣営からも怒りのオーラが見てとれる。他の陣営にもいたのね貧乳を気にしてる子。


「あっはっはっ……あー、スーっとした」
「貴女の気晴らしにはなったんでしょうが俺は味方の陣営に戻るのが怖いのですが」


ケラケラと笑う孫策さん。俺は貴女のせいで味方に殺されかれないのですが。まあ、愚痴っても仕方ないので本来やる筈だった事の準備を進めていると汜水関の前に居た武将がこっちに来た。


「孫策殿、先程の叫びは何なのですか?」
「面白かったのだー!」
「あら、関羽、張飛」


関羽と張飛!?三国志の最大ビッグネームの関羽と会えるとは……どんな人……え?


「ま……愛美?」
「はい?」


俺は吸っていた煙管を落としてしまう。なんで愛美が……いや、違う。アイツが此処に居る訳がない。凄いポカンとした顔してるし。でもマジで似てる。


「あ、いや……申し訳ない人違いだった。俺の知っている人に凄く似ていたから見間違えた、すまない」
「そうでしたか。勘違いをさせてスミマセン。我が名は関羽と申します」


俺と黒髪の少女は互いに頭を下げた。やっぱりこの子が関羽なのか。向こうも名乗ってくれたし俺も名乗ろうと口を開いた、その時だった。


「それでオジちゃんは誰なのだー?」
「ぐはっ!?」


共に来ていた少女。恐らく張飛は俺をストレートに『オジちゃん』と呼んだ。無垢で残酷な一言に俺は吐血しそうになった。そしてその場に倒れ混む。


「オジちゃんどうしたのだー?」
「……ぐふっ」


倒れた俺に追い討ちを掛けた張飛。ふ、ふふ……言葉のみで俺を倒すとは流石は三国志の英雄の一人。


「こら、鈴々!申し訳ありません!」
「にゃー、痛いのだ!」


張飛の頭を掴み頭を下げさせる関羽。苦労してるね姉上様。
俺は口元の血を拭う仕草をしながら立ち上がる。


「いや、構わないよ」
「まあまあ、あの子くらいの歳なら誰もオジさんに見えちゃうって」


関羽に謝られて、張飛にオジさんと呼ばれて、孫策さんに慰められて。何この状況?


「改めて自己紹介させてもらうよ、俺は秋月純一。許昌の警備隊の副長だ」
「改めて関羽です」
「張飛なのだー」


改めて自己紹介。やっぱりこの子等が関羽と張飛か。しかしまあ、見知らぬ子供に『オジちゃん』って呼ばれた時の『あ、ヤバい年取った』感は半端無い。地味に大ダメージ受けたよ。


「さて、準備してた鉄板の設置も済んだし始めるか」
「何をする気なの?」


興味津々と覗き込んでくる孫策さん。


「孫策さん、お酒は好き?」
「人生の伴侶とさえ思っているわ」


ふむ、此方は問題なし。


「関羽、張飛。食べ物の好き嫌いは?」
「ないのだー!」
「私も特にありませんが……秋月殿、何をお考えなのですか?」


こっちも問題はないな。ならば試してみよう。


「うん、では説明しよう。華雄達を汜水関から引っ張り出す為に今から此処で簡単な宴会をします」
「「「はい?」」」


三人の声が重なった。まあ、そうなるわな。



















先程、設置した鉄板を火で熱して熱々にする。その上に様々な野菜や肉などを乗せて炒める。更に炒めた具材に麺を合わせ、酒を振り掛けるとジュワーと良い音と香りが辺りに立ち込める。


「凄いわねー、炒め物?天の国の料理?」
「お腹すいたのだー!」
「……………」
「これは天の国の料理でね。『焼きそば』って言うんだ。はいはい、すぐ出来るよ」


俺達は汜水関から少し離れた位置に簡易設置した席で鉄板を囲んでいた。俺の作る焼きそばに興味を示しつつ酒を飲む孫策さん。ヨダレをダラダラと垂らす張飛。俺を少々、疑わしい目で見ている関羽。
つーか孫策さん、アンタの飲んでる酒は料理用に持ってきた奴なんですが。

程よく炒めたら特性の塩ダレを混ぜ合わせる。因みにこの塩ダレは俺が現代でも作っていた物で大抵の料理に合う物となっている。だがこの時代において『塩』は貴重なものであり、俺がこの塩ダレを作ったら『無駄使いをするな馬鹿!』と荀彧と栄華に怒鳴られたが、後々この焼きそばを振る舞う予定なので、その時に味に驚くが良いわ。
なんて思っていると塩ダレが麺や具材と絡み合い熱で素晴らしい香りを放つ。
うおっ、張飛のヨダレが滝みたいになってる。早く食べさせてやるか。仕上げに刻みネギを炒め合わせて、ネギ油を少々かければ完成。


「これぞ『ネギ塩焼そば』だ。さ、御上がりよ」
「「いっただきまーす!」」


俺が皿に盛ると孫策さんと張飛は迷わずに食べ始めた。いや、俺が言うのもなんだが少しは疑いなさいっての。
特に孫策さん、アンタは王様なんだから。って言っても多分……『大丈夫よ。え、理由?勘よ、勘』とか言いそうだが。
張飛は張飛で凄いスピードで平らげてるし。


「秋月殿……これが策なのですか?」
「一応ね。散々、侮辱された上に自分達が守る砦の前で宴会なんかされたら怒り心頭だろ?」


この策は天の国の武将……って言うよりは漫画の『花の慶次』にならっての行動なのだが黙ってよ。


「んー、美味しいー。お酒も進むわ」
「はむっ、はぐっ……おかわりなのだ!」
「孫策さん、一応は作戦での宴会なんだから酒は程々にしてくれ。張飛はもう少し落ち着いて食え」


まったく落ち着かないな…………なんか、ごくナチュラルに給仕をさせられてるが今、抗議してもムダだな。
関羽は関羽でタメ息吐いてるし……でも、その仕草がまんま愛美で俺の心境はちっとばかし複雑だ。関羽にも焼きそばをよそって渡そうかな、なんて思っていたら汜水関の扉が開いた。え、作戦成功?


「孫策ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!今すぐその頸を落としてやる!美味そうな匂いを汜水関まで流しおって!!」


華雄とその部下が汜水関から出て突進してきた。積年の怨みと食べ物の恨みがかなり混じった叫びだったが……


「さてと……作戦も上手くいったし、良いお酒も飲めたから気分が良いわ」
「お腹いっぱいになったから負けないのだ!」


ゾクッとした。俺の背後で孫策さんと張飛が立ち上がって武器を手にしたのだが、その瞬間空気が変わった。
先程までの和な雰囲気から武人のそれに。こんなに早く切り替えが出来るものなのか。


「秋月、貴方は退きなさい。元々、此処は私や関羽達が任された関所だし、手伝ってもらった借りは必ず返すから」
「そうだな……俺は下がらせて貰おうか……」


予想外にも作戦が上手く行きすぎた。此処は元々、孫策さんや関羽が任された場所。それに俺は手伝いで来た程度だし、何より戦闘になったら俺は足手まといだな。


「おっと、逃がすと思うてか」
「げ、もう来た!?」


すたこらさっさっと下がろうかと思ったら、目の前には強面のオッサンが。いや、来るの早すぎね?まだ華雄ですら孫策さんの所に辿り着いて無いってのに。


「我が名は胡軫!我等の武と誇りを汚した貴様を許さん!」
「え、俺?」


胡軫って言えば確か、三国志で華雄と同等の将軍だった筈、なんでそんなのに目を付けられ……
俺はチラリと視線を孫策さんに移す。そこには一騎討ち中の孫策さんと華雄。更に反対側では関羽と張飛が華雄の部下達と戦っていた。あ、これ詰んだわ。俺にしか目がいかないパターンですね!


「死に行き、地獄に行ったならば閻魔に我が名を伝えよ。貴様を殺した男の名をなっ!」


胡軫は手にした巨大な棍を俺に突きつける。
え、マジで俺が戦うの?

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第四十二話



あー……やべぇ……どうしよう?
皆様、三国志の武将を前にやるべきコマンドを教えてください。


▶『たたかう』
  『どうぐ』
  『はなす』
  『にげる』


どれを選んでもアカン気がする。つーか、このオッサンも見逃す気無しって目をしてるし。
少なくとも俺の実力で敵う相手じゃないのは確かだ。だったら不意を突いて逃げるしかない。そう思った俺は即座に行動に出る事にした。指先に気を集中して……


「どどんっ!」
「むっ!?」


俺の放った『どどん波』に驚いた様子の胡軫。顔を狙ったので避ける筈。その隙に逃げ……あれ?なんか避ける仕草しないんだけど……それどころか息を吸って……ってまさか!?


「かぁっ!!」
「嘘っ!?」


信じられない事に胡軫は俺のどどん波を気合いでかき消した。マジかよ……そりゃ世界最高の殺し屋も狼狽えるわ、こんなん見たら。


「ほほぅ……気の使い手とは珍しい。だが、まだ不馴れの様だな」


いや、今の一撃で察しすぎだろ。だが多少は警戒してるのか距離を開けたままなのは嬉しい。ヒュンヒュンと棍を振り回す様は正に三国志の武将だ。正直怖いが今、背を見せたら確実に襲われる。


「逃げんのか?まあ、逃がす気もないがな」
「どんだけ、やる気なんだよ……ったく」


逃げられないと悟った俺は胡軫を正面に見据えると構えた。


「……屁のツッパリはいらんのですよ」
「ほう、言葉の意味はわからんが大した自信だな」


この人、俺や一刀と同じで現代から来たんじゃなかろうな?さっきから返しが上手いんだけど偶然?


「この胡軫の一撃に耐えられるかなっ!」
「げ、速っ!?」


振り回していた棍の勢いをそのままに俺に突進してくる胡軫。どうする回避?いや、絶対に間に合わない!


「かあっ!!」
「硬度10ダイヤモンドパ……グウッ!?」


避けられないと思った俺は体に気を通して身体強化でガードした。上手い事、左腕でガード出来たけど超痛い……痛くて吐きそうになってきた。これ腕、折れてんじゃね……


「ほう……よくぞ防いだな。だが、二度目があると思うなよ?」
「二度も……食らいたく……ねーよ……」


左腕を押さえながらなんとか立ち上がるけど痛すぎる。胡軫は胡軫で楽しそうにしてやがるし。
さて、どうする?逃げられないのは今の一撃で良く判ったし……かと言って戦って勝てる相手じゃない。左腕……超痛いけどギリ動かせる……気を通してるから痛みが和らげてるのか?


「他も気になるのでな……貴様への興味は尽きぬがこれで終いよ!」
「……っ!」


俺の考えが纏まらない内に襲い掛かってくる胡軫。どうせマトモに戦って勝てる相手じゃない……だったら……俺は両腕に気の殆どを回して十字に構えた。


「いぎっ!?」
「何っ!?」


俺の頭に向かって真っ直ぐに振り下ろされた胡軫の棍に俺は左腕を盾に距離を詰めた。痛い!超痛い、泣きそうになる……つーか俺馬鹿だなっ!?
一瞬で色んな事を考えたけど相手も驚いてるからチャンスは今しか無いっ!交差していた両腕を左腕を残して外すと右腕を腰元に引き寄せる。後は放つだけ!


「スペシウムアタックっ!」
「ぬおおっ!?」


俺は胡軫のボディーに拳を叩き込むと同時に気を一気に解放した。ゼロ距離での一撃に胡軫も効いたのか後退りをして膝を着いた。あ、ヤベ……気を一気に使いすぎた……意識が……


「秋月っ!」
「秋月殿!?」


遠くから聞こえる孫策さんや関羽の声を聞きながら俺の意識は遠退くのだった。



『どどん波』
『ドラゴンボール』で鶴仙流の奥義。指先に気を集中させ放つ技。生半可なかめはめ波より威力は上らしい。後にサイボーグ化した桃白々が『超どどん波』を使用したが天津飯の気合いでかき消された。

『硬度10ダイヤモンドパワー』
『キン肉マン』の悪魔将軍の技と言うよりも体質。自身の強度を軟体生物からダイヤモンド並に変化させる。いかなる打撃技も跳ね返し、またあらゆるものを切り裂く。コレを破るにはダイヤモンドパワーを用いるか、それ以上のパワーで砕くしか手はない。

『スペシウムアタック』
『ウルトラマン超闘士激伝』でウルトラマンが開発したスペシウム光線の強化技。スペシウム光線の構えからエネルギーを集中してアタック光線の形で放つ。拳に集約した状態でゼロ距離から放つパターンもあり、此方の方が威力が上。



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第四十三話




◆◇side桂花◇◆


汜水関に向かった秋月は孫策や関羽達と何か談笑をしたかと思えば何故か料理を始めた。その料理の匂いが此方の陣営まで流れてきている。
その匂いに春蘭や季衣は腹を鳴らして涎を垂らしている。秋蘭や流琉は今度教えて貰おうかと呟いている。あの馬鹿、敵の陣地の目の前で何してんのよ!


「なるほど……散々侮辱した後で相手に舐めた態度をとる……挑発としては効果的だわ」
「華琳様!」


私が汜水関を見ていたら華琳様が隣に立っていた。華琳様が声を掛けてくださるまで私が気づかないなんて……


「心配かしら、純一の事?」
「ま、まさか!あんな馬鹿、死んでしまえばと……」


華琳様は優しげな微笑みで聞いてくださるけど私はそんな事はちっとも思っていない。私が言葉を重ねようとすると汜水関の扉が開き始めた。


「上手くいったようね。各員は戦闘準備のまま待機。純一が戻り次第、行進の準備を……」
「あの華琳様……秋月はそのまま戦う姿勢に入っていますが……」


華琳様のお言葉を春蘭が申し訳なさそうに遮る。だがその事よりも私も華琳様も汜水関に視線を移した。そこには汜水関の将と戦っている秋月の姿が。あの馬鹿、即座に撤退して来なさいよ!?


「退く間を逃してしまった様ね……」
「秋月はあれで間を読むのに長けています。恐らく、秋月の予想以上に速くあの将が出てきたのでしょう」


華琳様のお言葉に秋蘭が同意と解説を交えて頷いた。私はその言葉を聞きながら、あの馬鹿から視線を移せなかった。
秋月は明らかに自身よりも格上相手に挑むなんて無謀すぎる!


「かあっ!」
「硬度10ダイヤモンドパ……グウッ!?」


あの馬鹿は将の攻撃をなんとか防いだ様だけど一撃で足下が覚束ない状態になっている。遠目で見ても左腕に故障を感じているのは明らかだ。
将は笑みを浮かべて秋月と話をしていた様だが棍を振り上げた。真っ直ぐに振り下ろして馬鹿の頭を砕く気なのっ!?


「他も気になるのでな……貴様への興味は尽きぬがこれで終いよ!」
「……っ!」


将の一振りを秋月は十字に構えた。あの馬鹿、受け止められる訳ないでしょ!


「いぎっ!?」
「何っ!?」


将の棍を秋月は受け止めていた。受け止めた際に秋月の痛そうな声が響く。自身の一撃を止められた事に驚いたのか将は動きを止めてしまう。その好機を見逃さなかった秋月は交差していた両腕を左腕を残して外すと右腕を腰元に引き撃ち抜いた。


「スペシウムアタックっ!」
「ぬおおっ!?」


秋月の一撃に将も効いたのか後退りをして膝を着いた。しかし問題はそこからだった。秋月はそのまま倒れてしまったのだ。


「秋月っ!」
「秋月殿!?」


孫策や関羽の秋月を心配する声が聞こえた。それよりも秋月は……


「ちぃ……よもやコレほどとは……だが」


一撃を食らった将は殴られた部分を一撫ですると立ち上がり、持っていた棍を秋月に向けた。まさかっ!?


「お主が未熟で助かった……このまま成長しては強敵となりうるからな。では、さらばだ!」
「秋月っ!」
「させるかぁっ!」


私はこんな所から声を出しても意味はないと分かっていても秋月の名を叫んだ。将の棍は無慈悲に秋月に……と思ったが、なんと孫策が助けに入った。なんで孫策が!?


「ちぃ!邪魔を……」
「退きや胡軫!汜水関はもうアカン!」


胡軫は邪魔された事に苛立ちを感じつつ関羽と戦おうとしたが張遼の言葉に舌打ちをした後にその場から退いていった。
良かった……アイツは無事だ……


「桂花、良かったわね」
「はい、一時はどうなるか……と……」


華琳様のお言葉に振り返りながら言葉を出したのだが途中で飲み込んだ。振り返ると華琳様、春蘭、秋蘭、季衣、流琉がニヤニヤとしていたから……


「ん、んんぅ……あの馬鹿、もっと上手く戦いなさいよね」
「はーい、こんにちは」


私は咳払いをしながら皆に背を向けた。ああ、もうっ!
その場の空気に耐えられないと思っていたのだが、その空気を破る様に孫策が現れた。共に来ていた呉の兵隊達に担がれながら秋月も一緒だ。気が枯渇して眠っていた時と同じような状態だからやはり先程の光は秋月の気なのだろう。


「孫策。私の軍の者が面倒をかけたわね。」
「構わないわよ。彼のお陰で汜水関を落とせたんだもの」


そう……確かに秋月の行動で華雄や先程の将は汜水関から出てきた。秋月が将と戦ったから孫策は華雄と戦い、関羽と張飛はその部下と戦えた。結果を見れば秋月の助力はかなり大きい。


「汜水関は彼のお陰で落とせたけど、彼自身の命は私が救ったわ」
「そうね……なら純一に関する貸し借りは無しね。春蘭の件は別にするわ」


孫策と華琳様の会話は正に王の会話。私たちは割り込めないわね。


「期待しないで待ってるわ……って言いたいけど彼の働きを見たら期待しちゃうかも」


そう言って孫策は軍医から治療を受けている秋月を見て楽しそうに笑った。コイツ……まさか孫策にも……


「ま、そう言う訳で。じゃーねー」


孫策はそのままヒラヒラと手を振りながら去っていった。その後も関羽や張飛も共に戦った身として心配だったと見舞いに現れ、更に顔良も秋月の負傷を聞いて様子を見に来ていた。
更に関羽からは興味深い話を聞けた。なんでも秋月は関羽を見た際に『愛美』と呼んだらしい。単なる人違いだったそうけど……そう……思わず名を呼ぶような女が居たのね。


「……う……うぅ……」
「アンタって……本当に馬鹿よね」


苦しそうにしたまま寝込む秋月。私はその隣に座ると秋月の顔を覗き込む。後々、問い詰める事が増えたわね。覚悟しときなさいよ。

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第四十四話

目が覚めたら……痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?ボケる間もなく左腕に激痛が走った!


「痛だだだだ……っ……此処は?」


激痛で却って意識が戻った感じだ。左腕が超痛い……ん、添え木に包帯?それに体の節々も凄い痛い。
えーっと確か……そうだ、汜水関で胡軫と戦って……また気を失ったのか俺は。もう少し防御面を鍛えなきゃかな……それと気の総量も増やさないと。
って此処は馬車の中か?今頃だが俺はどうなったんだ?いかん、頭が働かない……つか、妙にボーっとする。
あ、馬車の入り口に見覚えのある兵士が。


「あ……曹操様!秋月副長が目を覚まされました!」
「そう、ご苦労様。後は私が話をするわ」


馬車の外から大将の声が聞こえた。そうか、あの兵士は俺が目を覚ますのを待っていたのか……ん?なんでそんな監視のつく状況に?


「おはよう、純一。気分はどうかしら?ああ、寝たままで構わないわ」
「左腕が超痛い。後、自分がどうなったかわからないから………気分は微妙かな」


俺は起き上がろうとしたのだが大将に止められた。汜水関で戦ってた筈が気が付けば馬車の中じゃ気分も微妙だよ。


「汜水関で華雄と胡軫を誘き出した所まで評価するけど、その後は駄目ね。戦ったアナタは気を失ったのよ。その後、孫策がアナタを私達の陣営まで連れてきてくれたわ。孫策は華雄達を誘き出してくれたけど、その後アナタの命を救ったから貸し借りは無しと言ってくれたわ」
「そっか……俺が気を失った後は孫策さんが助けてくれたのか……」


大将の説明に少しずつだが俺が気を失った後の出来事がボンヤリとだが分かってきた。


「その後、関羽や張飛、顔良も見舞いに来たわよ」
「関羽達や顔良が?申し訳ない事をしたな」


余程、心配させたんだな。でも他の陣営から見舞いに嬉しかったりして。


「モテモテね」
「いや、そんな楽しそうな顔で言わんといて」


大将の悪戯な笑みは嫌な予感しかしないんだけど。今も愉悦神父みたいな笑みだし。


「それで……愛美って誰なの?」
「……………なんで、その名を?」


大将の口から出た名前に俺はピタリと動きを止める。なんで大将が愛美を……


「関羽から聞いたのよ。初めて会ったときに誰かと間違われたとね。その時の名前が『愛美』と聞いてるわ」
「……そっか」


迂闊だった……いや。それぐらいに似ていたから、しょうがないって気もするが。


「面白い話でもなんでもないよ。三年前に別れた彼女ってだけだ。その子と関羽が似てたんだよ……生き写しか、双子みたいに」
「そう……だ、そうよ桂花」
「…………っ!」


俺の言葉を聞いた後に満足そうにした大将は馬車の外に話し掛ける。それと同時に物音がしてから誰かが離れる足音がした。


「もしかして荀彧?」
「アナタが気を失ってから人目を盗んで見舞いに来てたわよ。その愛美の話も気にしてたみたいだし。まあ、三日も寝ていれば当然だけど」


人目を気にしながらでも見舞いには来てくれてたのか……ん、三日?


「ちょっと待て……俺が倒れてから三日?」
「そうよ、因みに虎牢関は既に陥落したわよ。これから都に向けて進軍する所だもの」


OH……どうして俺は毎回こうなんだ。黄巾党の時も肝心な時にリタイヤしてたし。まあ、愚痴っても仕方ないか。


「だったら……今後は?」
「都には抗う力なんかないから殆ど入るだけね。住民の保護や町の復興、炊き出しの指示も出すわ」


もう戦後に向けての話なのね。まあ、ここまで来れば争いも起きないか。


「純一、目が覚めたのなら外に行きなさい。皆、アナタの心配ばかりしてたのよ」
「ん……ああ。そりゃそうか」


少し考え事をしていたが大将の言葉にハッとなる。確かに三日も寝たきりなら心配かけっぱなしだろうし。でも左腕が痛くて動けそうに……つーか、これは折れてんのか?


「この痛み止めを飲んでおきなさい。多少はましになるわ。後、可能なら左腕に微量の気を流しときなさい。痛みが和らいで治りを早くさせるから。後、その左腕は折れてはいないそうよ。ただヒビは入ってるから暫くは痛むと軍医が言っていたわ」
「あ、はい……」


此方の心配は無用とばかりな感じだ。俺の思考を読んだとしか思えない対策の早さだよ。


「んじゃ……行きますかね」
「怪我を追加させるんじゃないわよ」


痛み止めを飲んでから馬車から出る俺と大将。痛だだだだっ!やっぱ痛い!でも左腕に気を通すと痛みがマジで和らいだ。驚いた……感覚的には腰痛の時に湿布を貼って痛みが引く的な感じだが……


「それと春蘭の所へはまだ行かないで。あの子、怪我をしてしまったから今は誰にも会いたくないそうよ」
「……春蘭が怪我!?」


まさか虎牢関での戦いで怪我を!?


「詳しくは後で話すわ。でもお願いだから今はそっとしてあげて」
「……お願いね。了解した」


大将にしては珍しい『お願い』それを断るほど俺も馬鹿じゃない。
俺は煙管に火を灯すと歩き出す。いや、やっぱまだ左腕が痛いから気を紛らわせる為に吸うんだけどさ。


「さて……一刀達と合流するか」


俺は左腕の痛みに耐えながら一刀達と合流すべく歩き始めた。

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第四十五話

つ、疲れた……いや、何が疲れたって……各諸侯の皆さんが俺と胡軫の戦いを見ていたらしく、俺は少しばかり有名になっていた。曰く『天の御使いと同郷の者』『警備隊副長』『気を使う戦士』『天の種馬兄弟』『女ったらし』
後半二つは悪意を感じる呼び名だよな。まあ、そんな感じで歩いてるだけで各諸侯の皆さんが声を掛けてくる。
中でも一番疲れたのは袁紹だった。なんせ……


『あら、アナタが華琳さんの所の下男二号ですの?汜水関での働き結構でしたわ。まつ毛一本分の好感をもって差し上げますわ、オーホッホッホッ!』
『斗詩はアタイのだからな!絶対にやらないからな!』
『もう、麗羽様!文ちゃん!ごめんなさい秋月さん。お体を大事にしてくださいね』
『アナタも苦労してますね。頑張ってください』


とまあ……袁紹、文醜、顔良、田豊の順に慌ただしく言いまくられて去っていった。マトモに労ってくれたの顔良と田豊だけだよ……
一刀達と合流すると一刀を筆頭に皆が来てくれた。いや、それは嬉しいんだがチビッ子三人は俺に抱きついてきたのだが左腕が痛む為にめちゃくちゃ声を殺して叫んだ。まあ、察した秋蘭が季衣達を引き剥がしてくれて助かった。
秋蘭は春蘭が怪我をした時に凄い取り乱した様だが今は平常心を取り戻したと言っていた……でも自分で大丈夫って言うのは信用できな……あ、はい。俺もですよね。

その後、北郷警備隊と共に行動する事になったが……一刀達は俺を取り囲むように歩く。これ以上怪我をさせない為?どんだけ危なっかしいと思われてんだよ。確かに重症になって帰ってきたのは事実だが正直、息が詰まるわ。

少し離れるか……煙管も吸いたいし。とりあえず少し路地に入って一服。はー……落ち着くわ。
一刀達と少し離れて街中を探索していたらなんか怪しげな一行が……ってあれは呂布?


「あ……秋月」
「……よう」


やっほーと挨拶をしそうな雰囲気で呂布が挨拶してきた。一刀から虎牢関での戦いの話は聞いたけど三国一の武将には見えないよなホントに。


「あ……怪我……してる」
「ん、ああ……汜水関でちょっとな……」


呂布は俺の怪我が気になった様だ。「痛い?」と上目使いで聞いてくる。会って直ぐに怪我に気づいて気遣いできるのは優しい証拠。是非とも魏の皆さんにも見習ってほしい。


「ちょ、ちょっと恋!見付かったらヤバイのよ!?」
「あ、ごめんなさい」
「え、詠ちゃん……」


すると呂布と共に居た少女が呂布に声を掛ける。三つ編みに眼鏡にツリ目……委員長タイプだな。つーか呂布の後ろには。その子の他にも女の子が。こっちはなんか上品な子だ。箱入り娘って感じの。着ている服も立派だし貴族の娘とかかな?


「副長、離れないでください!」
「勝手に動くなウジ虫なのー!」
「心配掛けすぎやで!」
「純一さん、何かあったら大変なんですから!」


等と思っていたら一刀達が来た。過保護すぎんだよ今のお前等。


「げ、曹操の所の……」
「へぅ……」

ん?この三つ編みちゃんは何かを警戒し始めた。箱入り娘ちゃんは怯えてる。呂布は……って待った待った!完全に戦闘体制に入ってる!


「ちょっと待ったお前等。呂布も戦わないでくれ、な?」
「………ん」


俺の言葉に従ってくれた呂布。助かった……流石に戦いになったら止められそうにも無かったから。


「ちょっと恋!なんでソイツの言うことを聞いてんの!?」
「………秋月、良い人」


三つ編みちゃんの怒鳴りにも呂布はこてんと首を傾げながら答えた。ああ、なんか小動物みたいで可愛い。


「だからって……」
「なあ、嬢ちゃん……呂布の真名呼んでるけど親しいんだ?」


俺は思った事を口にした。うん、俺の脳裏に掠めた予想が当たったらとんでもない事だ。まさかだよ……うん、まさかだ。


「もしかして君たち……」
「な、何よ……」


じっと三つ編みちゃんを眺めてしまう。この怯え方はやはり……


「董卓に連れてこられて何かされた……」
「ち、違うこの子は董卓じゃない!」


俺と三つ編みちゃんの声が重なる。ん?俺はてっきり董卓に連れてこられた何処かの貴族の娘かと思ったんだが……ん?『この子は董卓じゃない?』って……え?もしかして……


「キミが……董卓?」
「へぅ……」


俺が聞くと箱入り娘ちゃんの方は俯いてしまった。え、当たり?いやいや、まさかでしょ正史で暴虐とか呼ばれたのが……


「き、貴様等!董卓様から離れろ!さもなくばこの華雄の斧の錆としてくれるぞ!」
「か、華雄!?」


否定したかったけど追加情報。もとい華雄が息を切らしながら走ってきた。もう確定だ、三つ編みちゃんも華雄の名を呼んでるし。


「ちょっと落ち着いて華雄。えっと……キミが董卓で間違いないなかな?」
「………はい」
「月!」


俺が膝をつき目線を合わせた状態で話し掛けると答えてくれた。そっか……この子が……


「先程此方の方に……居た、華雄!」
「むっ!?」


俺の後ろで何やら聞き覚えのある声が。振り返ってみると関羽と張飛、そして見知らぬ青髪の少女。


「あ、秋月殿!?お体は宜しいのですか?」
「ああ、休ませてもらったら随分良くなったよ。心配かけさせたな」


俺を視界に納めると関羽は俺に話しかけてくる。ヤバイな……まだ情報整理が済んでない。


「それよりも関羽はなんで此処に?」
「先程、華雄が凄い早さで駆け抜けていくのが見えたので、その先に董卓が居るのではと思い追いかけてきたのですが……」


その勘、当たってるよ。事実、董卓が目の前に居るんだし……


「ぐ……」
「ど、どうすれば……」


華雄と三つ編みちゃんはなんか凄い追い詰められてるし……上手く行くかな?行き当たりばったりだけど、出たとこ勝負だな。


「ああ……華雄が此処に居たのは間違いじゃないが……居るのは董卓の所で働いていた子達だけだぞ」
「…………え?」


俺はポンと三つ編みちゃんの背を叩いた。三つ編みちゃんはポカンとしている。


「董卓は各地から貴族の子や優秀な人材を集めていたみたいなんだ。この子達もその一部だな。華雄や呂布はその子達の事を気にかけていたから心配で走ってきたんだよ」
「そ、そうなのですか?董卓は人拐いみたいな事までしていたとは……」


よし、いい感じに騙されてくれてる。


「待て貴様、何を勝手な事を……私は董卓様の……むぐっ!?」
「少し黙っていてくれ華雄。それで俺達は街の様子を探っている間に困っていたこの子達を見つけてな。華雄は俺達がこの子達に乱暴したと勘違いしてたみたいで気が立ってるんだ。それに俺や関羽は汜水関で華雄と戦っただろ尚更だ」


余計な事を口走ろうとした華雄の口を背後に回り込んで右手で塞ぐ。なんかムグムグと不満を口にしたけど今は無視。


「ふむ……では秋月殿はどうなさるおつもりですかな?」
「っと……キミは?」


黙っていた青髪の少女が前に出て来た。初めてみる子だ。


「おや、自己紹介もせずに失礼しました。私の名は趙雲、今は劉備軍に所属しております」
「秋月純一だ。そこの天の御使いと同郷って言えばわかるかな?」


趙雲ってマジかよ……関羽、張飛、趙雲と揃ってんのかよ!


「おや……ではアナタが種馬兄……」
「すいません、その噂の出所を教えてください。即、殲滅しに行くので」


どんだけ噂になってんだよ!事実無根だ!


「おや、違うとでも?今も華雄への情熱的な包容が見られますが?」
「情熱的って……そんなんじゃ……」


趙雲の言葉にチラリと華雄を見る……………………耳まで赤くなっていた。


「後ろから羽織る様に抱き締めて更に口を塞ぐ……更に耳元には常に貴殿の吐息が……」
「わかったから止めてくれ。華雄も離すから暴れたり、話の腰を折らないでくれる?」
「………ん、ぷぁ……」


ヤバい、趙雲にニヤニヤした笑みは弄る気満々の笑みだ。焦った俺は華雄から手を離したのだが華雄はペタンとその場に座り込んでしまった。え……何、今の可愛い声と仕草。


「ほう……これはこれは流石は種馬兄」
「いや………これはですね……」


いや、あの……なんか、よくない流れなのは分かる。華雄さん、もしかしてアナタは男への耐性0ですか?
あ、董卓と三つ編みちゃんが華雄へ駆け寄ったけど顔が赤い。いや、待って。なんか俺が100%悪者みたいになってるんだけど。


「あわわ……」 
「だ、大胆なのー」
「もう……ウチならいつでも……」
「す、凄いです純一さん」


いや、お前等も顔を赤くして見入るな。否定っつーかフォローしろよ!


「ごほん……兎に角、この子等は俺達が保護をする。関羽達も似たような子がいたら優しくしてやってくれ」
「そ、そうですね……では秋月殿も体をお大事に」
「バイバイなのだオジちゃん!」
「おやおや、夜がお楽しみですな」


俺は話題を変える為に強引に話を進めたが関羽達は何かを勘違いしたまま行ってしまう。趙雲よ、それはドラクエの宿屋の台詞だ。
さて、後は……混乱しきってる、この子等に話を聞かなきゃな……

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第四十六話





関羽達を見送った後に事情を聴く事に。やはり箱入り娘さんは董卓で三つ編み眼鏡ちゃんは軍師の賈駆だった。
この場には董卓、賈駆、呂布、華雄と董卓軍のトップが揃ってる。一刀の話では張遼は魏の陣営に居て今後は魏の武将になるとの事。ならば董卓達も匿えるのでは?と言う話の流れになったのだが……


「それは……出来ません。私達の為に戦ってくれた皆さんを放って私だけ逃げるなんて……」
「でも賈駆さんも呂布さんも華雄さんも貴女が死ぬのを望んでる訳じゃ……」


現在、説得は凪達に任せていた何故かと言えば……


『アンタ等、あの種馬兄弟!?月に近寄らないで!』
『へ、へぅ……』
『先程の包容も凄かった……あれが種馬の実力か……』


警戒心バリバリの賈駆に顔を真っ赤にしている董卓。更に華雄は先程の事を思い出してるのか俺から少し距離を取っていた。うん、泣きそうになる。


「と言うかここで議論しても最終的な決断は大将なんだよな」
「そうですよね……華琳がなんて言うか……」


俺と一刀は離れた位置で話をしていた。なんやかんやと言っても最終的な決断は大将だし、大将にお願いしに行くにしても董卓自身が納得してない。これは難しいか?


「そ、その秋月……どうにか董卓様を説得できないか?ほら、汜水関で私や胡軫にしたみたいな知恵で」
「悪知恵を働かせようにもなぁ……そういや、胡軫はどうしたんだ?陳宮も居ないみたいだし」
「胡軫は虎牢関の戦いから姿が見えなくなった。ねねは恋がお願い事をした」


華雄が俺にどうにか説得できないかと聞いてくるが流石になぁ……と言うか顔を赤くしてモジモジしないで可愛いから。姿が見えない二人も気になったのだが呂布が教えてくれた。陳宮は兎も角、胡軫は行方知らずか……


「ちょっと、アンタ達も何か言いなさいよ!」
「自分で俺達をつま弾きしといて言うわーこの子……」


董卓の説得が難航しているのか賈駆が俺達を呼ぶ。最初からそうしてくれよ。
うーん、とりあえず思い付いた所から話してみるか。


「んー……董卓さんや。董卓が俺達の陣営に来てくれれば賈駆、華雄、呂布、陳宮を救える事が出来る。それに張遼も既に居るから皆と再会できるぞ」
「皆を救える……」


お、少し効いたか?ならばこのまま推し進めるか。


「それにまだ抵抗を続けてる兵士達も華雄が説得する、そうだよな?」
「ん……ああ!私が声を掛ければ兵士達は戦闘を止めてくれる筈だ!」
「猪武者の割には兵士からの信頼は厚いからねアンタ……」


俺が華雄に水を向けると華雄は突然の事態に驚いたが頷いてくれた。更に賈駆の一言もそれを後押しする発言だ。今の一言で軍師としてどれだけ苦労したかと込められた言葉だった気もするが。


「で、でも私は……私のせいで死なせてしまった人達を差し置いて逃げるなんて出来ません!私はやはり非道で冷血なんです!」


話はしたけど董卓の意思は固そうだ……まいったな。多分、自分が原因で戦が起きて人を死なせてしまったと罪悪感の方が強いんだろう。


「御使い様、秋月さん……」
「ゆ、月?」


なんて考えていると董卓は懐から小刀を取り出すと自分の喉元に突きつけた。って、ちょっとお待ちなさい!


「私の首を差し出します……お願いですから詠ちゃん達は助けてください」
「月、駄目っ!」


董卓の願いに賈駆が叫ぶ。こんな良い子を死なせちゃ駄目だと思った俺は夢中で董卓に手を伸ばした。
それと同時にザシュッと刃物で肉を切る音だけが聞こえた。

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第四十七話






◆◇side賈駆◆◇



反董卓連合……それは僕達にとって忌まわしい連合だ。都で悪政をしていた文官を処罰したのだがそれが『董卓は都の権力を奪い暴政を敷いている』とされた。
都が既にボロボロなのは誰もが承知の上だし、僕達はそれを建て直そうと頑張った矢先にこれだ。
この反董卓連合を打ち立てたのは袁紹……名家として名高いが馬鹿の象徴とも言える存在。事実無根の僕達を大悪人にした張本人。そしてその馬鹿の口車に乗った他の諸侯。
なんで……なんで正しい事をした僕達がこんな目に遭ってんの!?
その後も散々だった。元々の勝ち目が薄かった上に董卓軍は華雄の指導が行き届いてしまってるのか大半が猪だった。策も無く、ただひたすらに突進を繰り返して汜水関と虎牢関の両方を陥落させられた。

その後は……もう何も考えなかった。ひたすらに月を連れて逃げた。途中で恋と音々音と合流をしたがまだ油断は出来ない。その矢先だった、都に連合の者達が入り込んできている。早くしないと逃げ場がなくなる!今現在、一度恋の家に行ってセキトと張々を連れていく話をしていたけど時間が無い。ねねの発案でねねだけ別行動を取ってセキトと張々を連れて脱出。その後に合流と決まったのだけど恋?……いない。あの子何処に?キョロキョロと辺りを見回していると恋は連合の武将と話をしていた。


「ちょ、ちょっと恋!見付かったらヤバイのよ!?」
「あ、ごめんなさい」
「え、詠ちゃん……」


僕が声を掛けると恋は素直に頭を下げたけどヤバい事には違いない。その直後、曹操の所の武将がゾロゾロと現れた。恋は即座に戦闘体制に入ったけど男の指示にしたがってそれをやめてしまう。その後の会話で僕の失敗で月が董卓である事がバレてしまう。
しかも華雄がこの場に来た為に関羽や他の武将も呼び込んでしまった。どうしよう、焦って考えが纏まらない。華雄も失敗の連続で責任を感じているみたいだけど華雄にこの場を切り抜ける知恵は期待できないし……


「ああ……華雄が此処に居たのは間違いじゃないが……居るのは董卓の所で働いていた子達だけだぞ」
「…………え?」


僕が悩んでいるとポンと男は僕の背を叩いた。華雄も呆気に取られていた。その後も男は口から出任せで僕達の正体を隠してくれた。なんで……なんで僕達を庇うの?



「待て貴様、何を勝手な事を……私は董卓様の……むぐっ!?」
「少し黙っていてくれ華雄。それで俺達は街の様子を探っている間に困っていたこの子達を見つけてな。華雄は俺達がこの子達に乱暴したと勘違いしてたみたいで気が立ってるんだ。それに俺や関羽は汜水関で華雄と戦っただろ尚更だ」


上手く騙せそうな所で余計な事を口走ろうとした華雄の口を男は背後に回り込んで右手で塞ぐ。なんかムグムグと不満を口にしている。うわっ……華雄、顔真っ赤になってる。思えば、あんな風に抱き締められて口まで塞がれたら無理矢理求められてるみたいだし。
なんて思っていたら関羽と共に来ていたという趙雲がニヤニヤとしながら此方を見ていた。まさか僕達の正体に気づいて!?


「おや……ではアナタが種馬兄……」
「すいません、その噂の出所を教えてください。即、殲滅しに行くので」


違ったみたい……気にしてるのは男の方ってコイツ等、今噂の『天の御遣い』『北郷一刀』と『御遣いと同郷の者』『秋月純一』しかも他の噂では『天の種馬兄弟』と言われてる存在。


「おや、違うとでも?今も華雄への情熱的な抱擁が見られますが?」
「情熱的って……そんなんじゃ……」


趙雲の言葉を否定したけど華雄は顔が真っ赤になっている。僕の知る限り華雄は武ばかりで他は大した興味を持っていなかった。だから男への耐性も無い筈。


「後ろから羽織る様に抱き締めて更に口を塞ぐ……更に耳元には常に貴殿の吐息が……」
「わかったから止めてくれ。華雄も離すから暴れたり、話の腰を折らないでくれる?」
「………ん、ぷぁ……」


焦った秋月は華雄から手を離したのだが華雄はペタンとその場に座り込んでしまった。僕と月は思わず華雄に駆け寄る。あ、なんか凄い乙女な顔になって……え……何、華雄のこんな状態始めて見るんだけど…….

「ごほん……兎に角、この子等は俺達が保護をする。関羽達も似たような子がいたら優しくしてやってくれ」
「そ、そうですね……では秋月殿も体をお大事に」
「バイバイなのだオジちゃん!」
「おやおや、夜がお楽しみですな」


秋月が無理矢理な話題転換をすると関羽達は少々の誤解と共に去ってくれた。でも関羽達が居なくなったからといって月への脅威が無くなった訳じゃない。


「えっと……少し話を……」
「アンタ等、あの種馬兄弟!?月に近寄らないで!」
「へ、へぅ……」
「先程の抱擁も凄かった……あれが種馬の実力か……」


秋月が話しかけに来るけど月に近寄るな種馬!華雄もノリ気になってんじゃないわよ!


「………はぁ。凪、董卓達と話をしてやって。俺や一刀じゃ話が進まないから」
「え、は、はい」


秋月の指示で凪と呼ばれた少女が前に出た。秋月は北郷と下がって話を聞くみたいだ。
秋月や北郷の話では霞は曹操の陣営に居て今後は曹操の武将になるとの事。ならば僕達も匿えるのでは?と言う話の流れになったのだが……


「それは……出来ません。私達の為に戦ってくれた皆さんを放って私だけ逃げるなんて……」
「でも賈駆さんも呂布さんも華雄さんも貴女が死ぬのを望んでる訳じゃ……」


当の月が拒んでいた。月は自身の責任を感じ、後悔の念に押し潰されそうになっているのが分かる。
華雄が秋月に知恵を借りようとしているが秋月も困った様子だ。月がここまで拒むとは思ってなかったのだろう。その後、秋月の説得でなんとかなりそうかと思ったけど月は首を縦には振らなかった。


「で、でも私は……私のせいで死なせてしまった人達を差し置いて逃げるなんて出来ません!私はやはり非道で冷血なんです!」


月、それは違う!私達は間違ってなかった。もしも間違っていたと言うなら僕達が都でした悪政を敷いていた文官を処罰した事も間違いになる。いつも頑張ってる月だから僕達は着いていくと決めたのよ!


「御使い様、秋月さん……」
「ゆ、月?」


そんな僕の思いは月には届かなかった。月は懐から隠していた小刀を取り出すと自分の喉元に突きつけた。待って何をする気なの月……


「私の首を差し出します……お願いですから詠ちゃん達は助けてください」
「月、駄目っ!」


月の願いに僕は叫んだ。僕達だけ生き残っても月が居ないんじゃ嫌!でも間に合わない。僕は起こるだろう惨劇から目を背けた。それと同時にザシュッと刃物で肉を切る音だけが聞こえた。いや……嫌、見たくない!



「い……痛ぅぅぅぅぅぅぅ…」
「あ……秋月さ……ん?」



聞こえてきたのは秋月の痛みに耐えるかの様な声と月の困惑したかの様な声。僕が視線を戻すと月が自身の喉に突き刺そうとした小刀の刃を素手で掴んで止めた秋月の姿。
刃を掴んだ右手から血が流れ、月の着ていた服に降り注ぐ。


「なぁに……してくれてんのかな?」
「あ、ああ……」


秋月は月から小刀を取り上げると手を広げた。秋月の右手はズタズタになっていた。突き刺そうとした刃を受け止めたのだから当然だが見た目が酷いことになっている。もしも秋月が止めなかったらその小刀が月の首に……と思うと僕は力無くその場に座り込んでしまった。


「なぁ董卓……」
「え……あ……」


秋月が月に話しかけるけど月は呆然としていた。


「助かる可能性があるなら諦めないでくれよ。都に攻め入った俺達が言うのもなんだけど……無駄な死を……痛たたっ」
「あ……て、手当てを……」


秋月が月を説得しようとしていたが正気に戻った月が秋月の手に触れた。


「おいおい、董卓……俺は今……」
「だ、駄目です!手当てをしてください!」


秋月の意見を押し退けて月は秋月の手を手当てしようとしていた。月は自分の着ていた服の一部を破ると包帯みたいに秋月の手を巻き始める。


「………董卓はさ……さっき自分を非道で冷血なんて言ってたけど、やっぱ違うな。本当に非道で冷血なら自分の自害を止めた人間の手当てなんかしないさ」
「そ、それは……へぅ……」


秋月は手当てを続ける月の頭に左手を置いて撫で始める。少し手慣れた様な仕草で。


「なぁ董卓。今、董卓が死んだら皆はどう思うかな?親友が目の前で自害した。守るべき主君の自害を見届けた。大切な友と……優しい子と言ってくれた子達に……それを見せつけるのか?」
「あ……私は……私は……」


秋月の言葉に月は泣きそうになっている。華雄はどうして良いのかオロオロしてるし、恋はいつもの様に月をジッと見ていた。秋月が僕の方を見て微笑んだ……あ、そういう事。


「ねぇ……月。僕は生き残ったとしても月が居ないんじゃ嫌よ」
「月……一緒……」
「董卓様……私にこの戦の敗けを償わせる時間を頂けませんか?」


僕も恋も華雄も月が生き残る事を望んだ。そして月が秋月の手の応急処置を終えると秋月が口を開いた。


「皆、董卓と一緒が良いってさ……うちの大将に話を持っていってみるから……最後まで諦めずに生きてみてくれないか?」
「………グスッ……はい」


月は泣いていた。ズッと我慢していたけど気持ちが溢れ出て泣いてる。悔しいけど月の心を動かしたのは秋月純一……コイツなのよね。


「よし、早速行動だな。俺は大将の説得を……って痛だだだだだだだだっ!?」
「へ、へぅ!?」
「しっかりしろ秋月!」
「副長、手ぇ怪我してんのに握り拳をすりゃ当然や!」
「ふくちょー、右手に巻いた布がドンドン赤くなってるのー!」
「衛生兵ー!」


秋月が気合いと共に立ち上がると右手の状態を忘れた訳じゃないだろうに握り拳でそれを悪化させて地面にのたうち回っていた。その行動に月や華雄。秋月と一緒に来ていた他の武将も慌て始める。さっきまでの真面目な顔付きはまるでなく、ただの馬鹿にしか見えなくなっていた。


「純一さん、華琳の説得は俺がやりますから早く陣営に戻って治療を!」
「な、なんの……シャア専用になっただけだ大丈夫……イタタ……」
「あ、秋月さん……」

北郷の言葉に右手の親指を立てた秋月だがその手は既に赤く染まっており、それを見た月が心配で泣きそうになっている。本当にコイツ等に任せて大丈夫なのかしら……でも先程まで、僕達の心にあった焦燥感はいつの間にか無くなっていた。

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第四十八話








◆◇side桂花◆◇



「そう……そう言う事……」


私は今、華琳様の天幕で董卓達の話を聞いていた。先程、都の偵察に出ていた北郷達。その最中、秋月が董卓達を見つけて董卓達の保護を考えた。北郷達は董卓の正体がバレない様に陣営に戻ると華琳様に上申を申し出た。
華琳様は董卓の話と北郷達の補足説明を静かに聞いておられた。今、この場には華琳様、私、春蘭、秋蘭、北郷、董卓、賈駆、華雄、呂布、陳宮。
そして董卓の保護を考えた当の馬鹿は……


「ギャアアアアァァァァァッ!痛い、痛い!ギブ、ギブ!ノオォォォォォっ!?」
「大人しくしてください副長!」


医療用に立てた天幕からあの馬鹿の悲鳴と軍医の叫びが聞こえる。華琳様に怪我をするなと言われて舌の根も乾かぬ内に怪我をして来たんだから当然の罰よね。
董卓の話を聞く限りだと董卓の自害を止めた際に素手で刃を掴んだとか言ってたけど……


「あ、あの……」
「純一の事なら今は忘れなさい。あれも罰の一貫よ」


董卓は秋月の悲鳴が気になってるみたいね。まあ、あんな風に聞こえれば気になるのも当然だけど。聞こえ方からすれば治療を受けてると言うよりも拷問みたいだしね。


「さて、董卓……純一の考えだし、一刀の口添えもある。更に私に益があるから申し出を受けるわ」
「あ、ありがとうござ……」
「ただし」


華琳様の寛大なお心に董卓が礼を言おうとしたけど華琳様はそれを遮った。


「董卓、賈駆の両名は死んでもらうわ」
「なっ!?保護を受けてくれたんじゃないの!?」


華琳様のお言葉に賈駆が驚いている。助かると思った矢先に言われたら驚くわよね。


「董卓と賈駆の名はもう大陸中に知れ渡ってるわ。それを庇えば私に不利益となるの」
「……でもっ!」


そう、暴虐董卓を保護すれば華琳様の立場が危うくなる。でもそうならない方法は一つ。董卓と賈駆が死ぬ事だけ。
でも華琳様は約束を違える方じゃないわ……恐らく……って春蘭や秋蘭も驚いてるけど側近なら華琳様のお考えを察しなさいよ。


「わからないの?董卓と賈駆の名は有名になりすぎてるのよ。逆を言えばそれ以外はあまり知られていない」
「…………あ、名を捨てろって事か!」


私が口を開くと北郷は華琳様の意図を察した様だ。もっと早くに気付きなさいよ鈍感。


「そう言う事よ。董卓と賈駆の名を捨てなさい。でなければ私でも貴女達を匿うのは不可能よ」
「わかりました……従います」
「月っ!?」


華琳様の提案……いえ、譲歩に董卓が頷き、賈駆が抗議の声を上げたけど董卓は賈駆の手を取った。


「詠ちゃん……私達は秋月さんに全部を任せたんだよ?その秋月さんは大将さん……曹操様の判断に従うって……私は秋月さんをこれ以上苦しめたくないの。それに私達が受け入れれば華雄さんも恋ちゃんもねねちゃんも皆一緒なんだよ?」
「うぅ……月……」


董卓の言葉に唸る賈駆。秋月の提案ってのが気に入らないけど確かに今の条件が最大の譲歩だからこれ以上は望めない筈よ。


「曹操、本当に僕達をどうにかしないの?」
「くどい。この曹孟徳に二言は無い!」


最後に念を押す賈駆に華琳様の激が飛ぶ。最後まで疑いの目をしていた賈駆だけど董卓の言葉に最後は頷いて礼を言った。当然よね。


「礼なら純一になさい、私は利があるから動くだけ。董卓軍の兵士と呂布、華雄を組み込めるのは非常に大きいわ」
「は、はい……」


歯に衣を着せぬ華琳様の発言に董卓は戸惑ってる。


「さて……董卓と賈駆はこの場で真名を渡しなさい。これより董卓と賈駆と名乗る事を禁ずるわ」
「はい……私の真名は月。曹操様にお預けします」
「もう真名だけの名になるのね………詠よ」
「……恋」
「音々音なのです」
「……………」


董卓と賈駆は思うところがあるのだろうけど仕方の無い事よ。その後も呂布と陳宮の真名は聞いたけど華雄だけは黙っていた。


「…………申し訳ないが私には真名が無い。私が物心がつく前に親は他界した。故に私は真名を授かる事が無かった……私に渡せる名は華雄……これのみだ」
「そう……なら華雄で結構よ」


話はここまでと華雄との会話を打ち切った華琳様。あまり踏み込む気はないとの意思表示。多分、華雄は気づいてないけど……


「月……貴女達の任せる仕事は後々伝えるわ……今は純一にその事を話してきなさい」
「は、はい!」


華琳様のお言葉に董卓……いえ、月は嬉しそうに天幕を出ていった。それに続いて詠や華雄、恋、音々音も出ていく。


「桂花も行ってくれる?純一の怪我も気になるし……あの子達の今後も考えたいの。一刀、警備隊の件だけど……」
「……承知しました」


私にも秋月の所へ行けとの指示を出した華琳様はすぐに北郷との会話を始めた。多分、月達の今後を話すのね。
そっちも気になるけど……今は怪我をしたあの馬鹿の所へ行かなきゃね。まったく……余計な心配ばかり掛けさせるんだから……


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第四十九話

魏の陣営に戻る途中で不安気にしていた陳宮を保護。呂布の説明もあり、共に行く事となった。一緒に連れていた犬の張々とセキトも何事もなく着いてきてくれた。なんか凄い人懐っこいな。
そして魏の陣営に到着し、いざ大将に董卓達の事を説明しようと思った矢先だった。


「ちょ、副長!なんで怪我してるんですか!?皆、集合!副長を医療用の天幕に押し込むぞ!」
「「おーっ!」」


警備隊の面々に見付かるなり担ぎ上げられて運ばれた。いや、なんでやねん!


「曹操様からのご命令です。怪我して帰ってきたら問答無用で治療させろと」
「どんだけ予想済みなんだよ覇王様!?」


つーか、俺が怪我をして戻る事を前提に話を進めてやがったな!?


「あいや、ちょっと待った!俺は大将に……」
「あ、純一さん。俺が華琳に話をしますから治療を受けてください」


裏切った一刀!ブルータスお前もか!?


「隊長の許可も得た!進めー!」
「待て……ああ、もう!一刀、そっちは任せたからな!」


不安は残るが治療を受けない事にはコイツ等も納得しそうにないし……一先ず治療を受けてから大将の所に行くか。
俺は警備隊の面々に担がれながら、そんな事を思っていた。
うん、甘い考えだったよね……



「ギャアアアアァァァァァッ!痛い、痛い!ギブ、ギブ!ノオォォォォォっ!?」
「大人しくしてください副長!」


いや、大人しく出来るわけ無いって!さっき小刀を止めた際に右手がズタズタになったけど実は気を通して痛みを紛らわせていたんだけど治療の為に気を止める様に言われた。そして気を止めると激痛が!更に斬れた部分の縫合や駄目になった皮の切除。麻酔ほぼゼロだから激痛!警備隊の面々に体を押さえられてなけりゃ大暴れしてるわ!


「やめろジョッカー!ぶっとばすぞ!」
「副長に治療を受けさせないと我々が曹操様にぶっとばされます!」「後生ですから治療を!」


俺の叫びに警備隊の面々は俺の体を押さえつけながら叫ぶ。うん、理由も使命も分かるけど痛いんじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
そうだ、この治療が終わったら波紋の呼吸を覚えよう!あの複雑骨折を数秒で治すビックリ医療を!

暫くして地獄の苦しみのような時間が終わった。うん、今思えば酒でも飲んで痛みを誤魔化しておけばよかったよ。
「副長、お疲れ様でした」「お大事に」と言い残して去っていく警備隊の面々。お前ら許昌に戻ったら覚えとけよ。めんどくさいシフトにしてやる。


「はぁー……超痛ぇ……」
「副長、その程度で済んだと思ってください。下手をすれば指を切り落とさねばならなかったかもしれないのですよ?」


包帯でグルグル巻きの右手を見ながら呟いた。俺の呟きに軍医は説明をしてくれたが俺はやはりアホな事をしたのだと思った。でも刃を止められなかったら董卓は死んで賈駆達の心に深い傷を残しただろう。軍医から痛み止めの飲み薬を貰って口にした。


「当分、動かさないで下さい。縫合は済みましたが激しい動きや衝撃を与えれば傷が開きますよ」
「あいよー」


軽くグーパーと手を開いたり握ったり。普通に痛いがなんとか動かせる。つーか、現状で俺両手が駄目になってる……ま、でも……


「秋月さん!」
「秋月!」


医療用の天幕に慌てた様子で入ってきた董卓と賈駆。


「どうだった?」
「少し……込み入った事情は出来ましたけど………私も詠ちゃんも……」
「……温情を貰えたわよ」



二人は涙を流しそうになっている。何があったか聞くのは後だけど……



「そっか……よかったよ」
「……はい」
「……グスッ」


二人を抱き寄せて頭を撫でる。右手と左腕に痛みは走るが……この子達を救えたのなら、この痛みも悪くないと思えた。







この後、天幕に入ってきた呂布、陳宮、荀彧に見られて大変な事になった。呂布は「恋も……」と言って抱きついてきた。陳宮は「恋殿になにをするのです!」と俺の足を蹴ってきた。荀彧は「最っ低……」って超睨んできてるし……



『波紋の呼吸』
特殊な呼吸法により、体を流れる血液の流れをコントロールして血液に波紋を起こし、『波紋疾走』と呼ばれる力を生み出す。その力は『太陽の力』とも言われている。
用途としては治癒に使ったり、普通の攻撃では倒せない吸血鬼や屍生人を浄化させることができる。 


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第五十話

反董卓連合の戦いから数週間。拠点を許昌から洛陽に移した魏……ここでもズレてきたな歴史。確か魏の拠点は許昌のままだった筈だけど……まぁ、その事に拘っても意味がない。
俺がやるべき仕事は変わらない。そう街の警備任務だ……さぁ今日も張り切って仕事に……


「秋月、警邏に行くなら私も行くぞ」
「あ、ああ……行こうか華雄」


仕事は変わらんが変わった事が幾つかある。一つ目は華雄の事だ。あの日、華雄は大将に自分を将としては扱わずに一兵卒としてほしいと申し出たらしい。華雄は反董卓連合の戦いを深く反省して一から出直したいと考えたとか。だが流石に元将軍を一兵として扱うのは無理がある。しかも華雄を慕う董卓軍兵が不満を出しそうだ。
そこで妥協案が『北郷警備隊副長補佐』と新たに作られた役職に着かせる事。これは現在、両手が駄目になっている俺の代わりに仕事をする為の役職。
と言うのが表向きな理由で大将からは『補佐にしている間に華雄に色々教えなさい。華雄からの話では華雄は武以外はなにもしてこなかったらしいわ。逆を言えばそれ以外を教えれば華雄は今後化けるかもしれない』との事で俺が教育係。
うん、かなり無理がある。万全状態でも抑えられない華雄をどうしろと?
と思っていたのだが華雄は意外にも大人しくなった。落ち着いて行動する事を心がけているみたいで余程、反董卓連合の戦いが後を引いてるのかも知れない。

そして他にも変わったと言えば……


「純一さん、これから警邏ですか?行ってらっしゃいませ」
「怪我するんじゃないわよ」


月と詠が俺のメイドになった、メイドになった。重要な事なので二度言いました。
これも大将発案なのだが保護すると決めたのは良いがおおっぴらに警護を付けると怪しまれる。かと言って城の中に居ながら何もしないのは変。ならば、この二人に与える仕事は?となり二人は侍女となった。俺の専属となったのも今や俺の補佐となった華雄が一緒にいるから護衛になる。しかも一刀との仕事も多いから警備隊の兵士も動かせると一石二鳥どころか三鳥仕留める結果となった。
ついでを言えば完成したメイド服を月と詠に着させた結果、大将や栄華は自分の侍女にすると言い出したがなんとか止めた。うん、あの可愛さを見たらそうなるのもわかる。余談だがメイド服の完成度から栄華が北郷警備隊お洒落同好会の予算のアップを取り付けてくれた。服の案を考えなきゃなぁ……

さてメイドの月と詠の仕事だが、やはり俺の肩代わりが多い。月は俺の身の回りを色々としてくれた。服を着させてくれたり、食事を手伝ってくれたり。詠は筆が持てない俺の代筆を頼んでる。後は草案を考えた時のアドバイスとか。
やはり両手が使えないのは不便だ。今のところ、華雄、月、詠に仕事を任せきりにしてる。男としてはなんとも情けないと思うが少しでも働こうとすると三人揃って止めに来るから無茶もできん。
因みにこの状態を作り上げたのは大将である。やり口が的確だよな。俺に仕事をさせつつ無茶をしようとしたら止める人間を近くに配置させるって……他にも意味はあるのよ。と大将は言っていたが妙に嫌な予感がする。

そして恋とねねだが一刀が面倒を見ている。何故かと言われれば、この二人は元々董卓軍でも扱いが難しかったらしく、兵を率いて戦うよりも単独で動く遊撃の方が多かったらしい。まあ、恋のポヤンとした感じでは難しいよな。それをねねが軍師として他の部隊との調整をしていたとか。ともあれ扱いが難しく軍の中に入れるのが難しいとなり、ならば天の御遣いの護衛兼有事の遊撃部隊として扱うとの事だ。
恋も恋で一刀に懐いてるや様子で概ね良好な関係と言えるだろう……ただ、ねねは恋絡みだと暴走しがちだ。この間も『恋殿を餌付けするとは何事ですかー!』と一刀を蹴ったらしい。それに怒ったのは凪や季衣、流琉、香風。理不尽な理由で一刀を傷付けたと、ねねを叱った。更に立場的に今は魏に忠誠心を見せねばならないのに関係にヒビを入れる気かと詠からの説教。極め付けに恋からも『ねね……ダメ……』とポカリと軽く拳骨を食らった。周囲から散々怒られたねねは助け船が無いことに漸く気付いて泣きながらも謝り、態度を少しずつ変えていった。
と言うか泣きながら俺の所に来て『どうしたら良いのか分からないのです!』と言っていたので態度を改めて『ごめんなさい』してきなと言ってやった。後日、それがうまく言った事を俺に告げるとそのままフラりと寝てしまった。なんやかんやで疲れてたのだろう。戦に負けて急に陣営を移動となり、回りは見知らぬ人ばかり。気を張ってたから一刀にもキツく当たってたのかもな。俺は眠ってしまった、ねねを寝台に寝かせて軽く撫でてやる。まったく……寝顔は素直なもんだ。


「………とーさま」


寝言を言うねねは可愛がったけど俺はまだそんな歳じゃありません。

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第五十一話

何もする事がないと考え事の時間が増えるのは仕方の無い事だと思う。警邏は華雄がメインで動くし、書類仕事は詠がやる。身の回りは月が全てやってくれる。
休みが出来たと思えば嬉しい限りだが女の子に働かせて俺だけ休んでるってのは悲しい気分だ。

一方の一刀は警備隊の隊長として……いや、それ以外の件でも忙しいんだろう。
思えば先日は大将、春蘭や秋蘭に付き合って買い物したらしいが回った店の数が凄かった。20件近くの店を回りきって様々な服や小物を買ったらしい。女性の買い物は大変なんだな……と思ったが半分は視察染みたものだったとか。しかも一刀は大将の下着選びをさせられたとか言ってた。
…………大将も一刀をからかってる部分が多い。なんやかんやと無理難題や男にとってハードルの高いことを要求する。それに慌てる一刀を見て楽しんでいる。愉悦神父か。
春蘭、秋蘭の両名も一刀と親しい。大将を共に支えると誓ったらしいがそれ以上の感情があるとみた。

栄華や華侖も一刀と仲良さげに話しているのを良く見る。華侖の場合、何かをやらかして一緒に怒られてるパターンが多い気もするが……栄華の場合だと仕事の話や天の国の話が殆どか?でも若干、男嫌いの気があった栄華が一刀と仲良くしているのは驚いた。先日も『一刀さんから聞きましたが秋月さんは……』と言っていたが話の導入から一刀の話だし、本人も気付いているのか呼び方が『北郷さん』から『一刀さん』になっていた。これは後々の展開が楽しみだな。

チビッ子三人組も一刀と良く遊んでる。季衣、流琉、香風は一刀を『お兄ちゃん』と慕っている。まあ、まだまだ子供だなぁ…………と思う反面、背伸びが微笑ましい。

最近、軍に入ったばかりの恋やねねも同様かな?一刀の非番の日とかピッタリと一刀に付いて回ってるみたいだし。大将にも『純一に懐いていたのに意外だわ』と言われたが恋はどちらかと言えば餌付けに近く、ねねは……なんか俺を父親として見ている節がある。ぶっちゃければ恋とねねは揃って『父親に甘える娘』みたいな感じで俺と接している感がある。その事を大将に話したら納得したと言う笑みと共に『少し間違ってるわよ』と言われた。

天和、地和、人和は言わずともって所だな。振り回されてる感じだが三人とも一刀以外のマネージャーはいらないって言ってるみたいだし。

次に霞だがアッサリと魏に馴染んでいた。元々の気質もあるのだろうが誰とでも仲良くしていて、俺も何度か飲みに誘われた。でも今、手がこんなんで月達が許してくれなかった為に未だに飲みに行けてない。まあ、そんな中で一刀と飲む機会があった一刀は霞と飲んで意気投合していた。その日の夜に真桜が『隊長が仕事サボって姐さんと飲んでたわ』と言っていた。おおかた誘われて、なし崩しに飲んで遅刻したな一刀。

次に凪と沙和だが一刀に随分と入れ込んでいる……と言うか、沙和は警備隊の仕事で一刀から教えられた事がハマったのか順当な仕事ぶりだった。『某国海兵隊式指導』をするとは思わなかったが……
一方の凪は最初から一刀を慕っていた気がする。最初は上司。次に尊敬。更に親しみと次々に一刀に当てられたって所か。多分、一刀を慕ってると言う面では一番は凪だろう。

それにしても一夫多妻が当たり前の時代とは言っても魏の曹操と良い関係になるって……一刀、凄いな。

















◇◆side一刀◇◆




反董卓連合の戦いから数週間。兎に角、忙しかった。俺の仕事の補佐をしてくれていた純一さんが怪我で仕事から離れた事がこんなにも影響するなんて。
今、純一さんは怪我を治す傍ら、月、詠、華雄に自身の仕事を教えていた。これは怪我をした純一さんの代わりをしてもらう為の処置らしく。華琳曰く『純一は療養させようにも勝手に怪我をしていくから止める存在が必要になるわ。月達が懇願すれば無理はしないでしょ』との事。

それを踏まえても……純一さんは常々凄い人だと思い知らされる。反董卓連合でも孫策、関羽と共に戦い友好を築いていた。
そして本来の歴史なら反董卓連合で死んでしまう武将を何人も助けた。更に月、詠が純一さんのメイドになった……男のロマンを叶えましたね純一さん。月と詠はそれぞれ違う形で純一さんの手助けをしてるけど……月は純粋なメイド。詠は敏腕秘書って感じに見える。

華雄も純一さんの仕事を手伝っている。主に手を怪我した純一さんの代わりに警邏をしている。最初は不安だったけど凪みたいに真面目なタイプみたいだ。でも霞は華雄に元気がないと言っていた。それなりに長い付き合いだけど、あんなに大人しい華雄は始めて見たって言ってたけど……時折、純一さんを見る華雄の目が乙女だった。月達を保護した時に純一さんが華雄を抱き締めたけど、その影響もあるんだろうなぁ。

他の陣営も言うなら袁紹の所の武将、顔良さんとも仲が良さそうに見えた。本人曰く『苦労人としてのシンパシーを感じた』って言ってたけど……あの人、鼻の下伸ばしてたし。でもあの『彼女にしたい素朴で家庭的な子』って感じだからわかる。

真桜は割りと素直に純一さんが好きだと言っている。自分の気持ちに気付いたら止まれなくなった。からくり方面でも気が合うし、仲の良い兄妹にも見える。最近で無遠慮にあの胸を純一さんに押し付けてる。正直かなり羨ましい。

最後に桂花……アイツは何故、あそこまで純一さんに素直にならないのだろうと本気で思う。まだ純一さんに真名を預けてないみたいだし。『私が男に真名を許すわけ無いでしょ!アンタは華琳様にも言われたから本っ……………当に嫌だけど特例よ!』と言っていた。桂花が純一さんの事を意識してるの他の皆にもバレバレなのに……

華琳は『あら、微笑ましいじゃない。それに桂花は素直じゃないだけよ。寧ろあの状態から素直になった時を思うと……楽しいじゃない』と言っていた。当人同士に任せろと言いたいのだろうけど、その過程を見て楽しんでいるのは良くわかった。

純一さんの事だから、その辺りは上手くするんだろうなぁ……なんて思っていたのだが……
次の日、純一さんが再度、右手を負傷したと警備隊に報告が上がった。その連絡をしたのは……桂花だった。


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第五十二話

俺は朝早くから起きていた。ここ数日、教えてもらった事を実践する為だ。
気を両腕に集中する。一定量をキープしながら、その気を逃さない様に左腕と右手に染み込ませる様にする。無理はせずに目を閉じて座禅を組んで、集中をする。
これは鍛練ではなく一種の治療である。気を意識して怪我をした箇所に流して自己の治癒能力を底上げするやり方で所謂『治療気功』って奴だ。本来は自身の気を他者に分け与えて傷を癒すのが本来のやり方だが、俺は自身に医療気功を使っているので傷を癒す反面、体力はゴリゴリと削れていく。
でも折れかけた左腕が本来とは違ったスピードで治っていくのは感動ものだ。凄い疲れるけどね。

この治療は凪から聞いたのだが予想以上に使えそうだ。ただこの医療気功にはデメリットが存在する。それは気を過剰に送ると副作用が発生する事だ。
例を言えば傷を負った者に気を送りすぎると傷は治るが送りすぎた気の分、体が太ってしまうと言う副作用もあったらしい。
そうならない様に慎重にやらねば……それにあまり無理をしてると……


「秋月さん……」
「ああ無理な鍛練とかじゃなくてリハビリ……簡単に言うと体が鈍ってるから適度な運動をしただけだよ月」


俺を起こしに来た月が俺を呼ぶ。最近、潤んだ瞳の月に言われるのが当たり前になってきてる。月自身、怪我をさせた負い目とかもあるんだろうけど、端から見れば俺が悪者となってしまう。


「なら……良いんですけど無理はしないでくださいね」
「ああ。気を付けるよ」


月は手慣れた手つきで俺の寝巻きを脱がすとスラックスとワイシャツを着させてくれる。これもここ数日で見慣れた光景だ。
…………見慣れたからって月に脱がされるのは慣れない。でも断るのも凄い悪い気がして言い出せないし……。まあ、手が治るまでのまでの話だ。俺は手の感覚を確かめる意味も含めて久々にネクタイを絞めた。今までは手の痛みから上着も着ないワイシャツとスラックスのみの格好だったけど、ネクタイを絞めるくらいには大丈夫になってきた。いや、まだ痛いのは痛いんだけどね。

着替えを終えると月と共に食堂へ。そこでは見知った顔が既に食事や談話に花を咲かせていた。


「おはよう詠」
「あら、おはよう秋月」


給仕をしていた詠に挨拶。月は食堂へ行くと同時に詠の手伝いを開始していた。


「月、コイツ直ぐに起きたみたいね?」
「詠ちゃん……ううん。今日は秋月さん、自分で起きてたんだよ」


詠の質問に少ししょんぼりと答える月。はて、何故に落ち込む?と考えていたら詠が俺の耳を引っ張り俺の体勢を低くさせる。痛いっての!


「ちょっとは考えなさいよ!月はアンタを起こすのを楽しみにしてるのよ!」
「そ、そうなの?」


ギリギリと耳をつねる力が増していく。いや、ちょっとは弁明させて!


「今日はたまたま早起きしちゃったんだよ。それに治療気功を試したかったし……」
「まったく……月を泣かしたら許さないんだから」


俺の言葉に詠は漸く手を離してくれる。あー痛かった。


「泣かせないよう頑張るよ」
「そうしなさい。はい、朝御飯」


満足したのか詠は俺に朝御飯を乗せたトレーを渡す。ふむ、ネクタイを絞めるくらいは大丈夫な訳だし今日から箸を……


「ありがとう詠ちゃん。さ、秋月さん食べましょう?」
「ああ……うん」


俺が今日から箸を使おうかと思っていたのだが月が率先してトレーを持っていってしまう。ああ……これから始まる事を思うと恥ずかしい。


「はい。秋月さん」
「ありがとう月……あむ」


そう所謂『あーん』って奴。俺が箸やレンゲが使えないから代わりに月が食べさせてくれるんだけど超恥ずかしい。回りでは霞や沙和がニヤニヤしながら見てるし。凪は『なるほど……』とか言ってる。何の参考にする気だ?
恥ずかしい時間ほど長く感じるものだが朝御飯を終えて、茶を一杯。うん、落ち着く。


「さて、そろそろ行くか」
「はい。いってらっしゃい秋月さん」


片付けをしてくれた月が見送りまでしてくれる。本当に良い子だよな。


「ちょっと待って秋月。ほら、曲がってる」
「ん、おお……悪いな」


食堂から出ようとした俺を引き留めたのは詠。詠は背伸びをしながら俺のネクタイを直してくれた。ヤバい……超可愛い。


「おーおー、出掛ける前の旦那の身支度を整える新妻みたいやなぁ」
「に、新妻っ!?」


今の状況を霞が冷やかし、詠が過剰反応をしてしまう。


「ち、違う!僕はそんなんじゃ……」
「おんや~?何が違うん?」


明らかに慌てまくる詠に明らかにからかっている霞。もしかしてこれが董卓軍の日常だったんだろうか?


「ほ、ほら!アンタはさっさっと仕事に行きなさいよ!華雄が待ってるわよ!」
「お、おう」



形勢不利と判断した詠は俺の背を押して食堂から追い出す。確かに俺がいると、からかわれる率も上がるわな。
そして警邏に出ると華雄と一緒だ。今日のシフトは午前中に華雄と警邏をして午後から真桜とからくり開発へ、夜は栄華、沙和と共に新たな服のアイデア出し。出来る仕事も増えてきたから一種のヒモ生活も終わっていた。と言うか終わらせたんだけどね。


「……………」
「……………」


警邏に出たは良いのだが華雄が喋らない。いや、今までは仕事の話だとか色々してたんだけど今日に限って妙に静かなんだけど。その割りにはチラチラこっちを見てるし……俺、なんかしちゃった?


「副長、あちらの通りで喧嘩が……」
「ん、わかった。華雄、行くぞ!」
「……承知した!」


静かだった華雄も仕事となるとスイッチが切り替わる。警備隊の案内で現場に到着……到着したのだが……


「何よ、アンタ達が因縁つけてきたんでしょ!」
「ああん!?女が意気がってんじゃねーぞコラっ!」


絡まれていたのは荀彧だった。絡んでるのは恐らく酔っ払い。なんか凄いヒートアップした言い合いになってんだけど。


「秋月副長!」


そんな中、俺に駆け寄ってきたのは警備隊の若者。丁度良いし何があったか聞いててみるか。


「お疲れさん。この状況は?」
「自分も途中からしか分からないのですが……見ていた者の話では……」


ざっくり話を聞くと顛末はこうだ。
何やら考え事をしていた荀彧は街を歩いている内に酔っ払いの男達に声をかけられた。当然の事ながら断る荀彧だったが酔っ払いが何かを言った途端に荀彧はキレて罵声を浴びせた。それがヒートアップしたまま今に至る。

荀彧の男嫌いは今に始まった事じゃないが……なんか妙だよな。なんて思っていたら華雄も到着。話し合いで解決しようと思ったら男の一人が拳を振り上げた。それを見た瞬間、俺は走り出していた。


「荀彧に何してんだテメェ!」
「ぐはっ!?」


俺は荀彧を殴ろうとしていた男の顔面を殴った。超痛ってぇぇぇぇぇぇっ!今すぐに叫びたいが、この状況でそれは出来ん。じんわりと右手の包帯が赤く染まっていく……


「あ……秋月?」
「荀彧……大丈夫だったか?」


俺の右手からポタポタと流れ落ちる血の滴と俺の顔を交互に見ながら呆然と呟いた荀彧。ったく……また傷が開いちまった。

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第五十三話



◆◇side桂花◇◆


その日、私は機嫌が悪かった。いえ、その日に限らずずっと機嫌が悪かった……。反董卓連合が終わってから元董卓軍の兵士や武将を吸収して魏は更なる力を得たと言える。それは華琳様が天下を取るための足掛かりになるから素晴らしい事……そう素晴らしい事なのに……


「はい。秋月さん」
「ありがとう月……あむ」


あの馬鹿と月がやっている事を見るとイライラする。確かに秋月は手が使えないけど、そこまで甘やかせなくてもいいんじゃないの!?
その後も……


「ちょっと待って秋月。ほら、曲がってる」
「ん、おお……悪いな」


食堂から出ようとした秋月を引き留めた詠は背伸びをしながら秋月の『ねくたい』を直していた。近づきすぎよアンタ等!


「おーおー、出掛ける前の旦那の身支度を整える新妻みたいやなぁ」
「に、新妻っ!?」


今の状況を霞が冷やかし、詠が過剰反応をしている。なによ、デレデレして。
私は騒いでる秋月や詠を無視して配膳を下げるとその場から逃げるように食堂を後にした。モヤモヤする……イライラする……ああ、もう!考えが纏まらない!
私はその後の仕事も手に就かなかった。筆を進めようとしても頭に思い浮かぶのは先程の光景。
はぁ……駄目ね。全然集中できないわ。私は一度、頭を冷やす為に城の外へ出た。気分転換も必要よね。

でも……なんなのかしら……私は別に秋月が何をしようが関係ない。真名すら預けてない奴になんか気を止める必要もない。なのに……なんで……


「お嬢ちゃん、俺達と飲まない?」
「嫌よ、他を当たって」


私は思考の海に沈んでいたけど、それを引き上げたのは見知らぬ男達だった。酒臭いから昼間から飲んでるろくでなしなのだろう。こんな誘いになんて私は絶対に乗らない。


「おいおい……断るにしても言い方ってのがあるだろ?」
「触らないでよ!」


男は私の肩を掴んで引き止めようとした。触らないでよ汚れる!私は男の手を乱暴に振り払った。


「んだと、この女!」
「さては、ろくな男と付き合っちゃいないな!」
「女一人をほったらかしにしてんだ、そうに違いないぜ!」


酔っ払いの言葉とは言っても私はカチンと来た。何も知らない癖に……


「確かにあの馬鹿は……ろくなもんじゃないけど……アンタ達みたいな奴等よりもよっぽどマシよ!」


私は考えるよりも先に口が動いていた。何も知らない奴にあの馬鹿を悪く言われたくない。


「んだと……何処のどいつだか知らねぇが……」


そもそもコイツ等は余所者だろう。この国で私や秋月を知らないのは余所者である良い証拠だ。



「何よ、アンタ達が因縁つけてきたんでしょ!」
「ああん!?女が意気がってんじゃねーぞコラっ!」


男の一人が拳を振り上げた。殴られると思った私は思わず目を閉じてしまう。あれ……衝撃が来ない?


「荀彧に何してんだテメェ!」
「ぐはっ!?」


私はその叫びに瞳を開く。其処には私を庇いながら、酔っ払いを殴り飛ばした秋月が。


「あ……秋月?」
「荀彧……大丈夫だったか?」


秋月の右手からポタポタと流れ落ちる血の滴と顔を何度も視線を移してしまう……って、この馬鹿!


「何……してるのよ……」
「い、いや……荀彧が危ないと思ったから……つい」


私が睨みを効かせて問うと秋月はしどろもどろになりながら答える。


「アンタね……その傷が開いたのを私の責にするつもり?」
「あー……そういう訳じゃ……」


秋月の態度に私はもう限界だった。



「アンタが怪我したら私はどうしたらいいのよ!?私を庇ってアンタが怪我したら私はちっとも嬉しくないんだからね!」
「お、おい……」


私は秋月のねくたいを引っ張りながら叫ぶ。それこそ子供みたいに。


「やれやれ……見せつけてくれるな」
「華雄……」


ため息を吐きながら近づいてくる華雄。


「華雄さん、コイツ等は?」
「警備隊の詰所に連行しろ。残りの者は後処理に当たれ」


捕縛された酔っ払い達が連行されていく。どうやら私達が言い争いをしている間に私に絡んでいた酔っ払い達を倒してしまったらしい。華雄は手慣れた様子で指示を出している。
警備隊の仕事についてから落ち着きが出たのかしら……前よりも毅然とした佇まいね。


「悪いな華雄。任せきりにして……痛てて」
「気にするな。その為に私が居る……と言いたいが秋月が怪我をしたのでは私はその役割は果たせなかったと言えるがな」


痛みに耐えながら秋月が華雄に謝罪をするが華雄は冗談混じりの返しをする。春蘭みたいな猪かと思ってたんだけど……これは評価を改めるべきかしら。


「あー……その……」
「ふっ……冗談だよ。桂花、悪いが私は警邏の続きがあるし、他の警備隊の兵士は酔っ払いの連中の連行で居なくなる。秋月の治療を頼めるか?」


華雄の冗談に笑えなくなっていた秋月に苦笑いを溢すと華雄は私にそんな事を言ってきた……これ、本当に華雄なのかしら?董卓軍の頃とは大違いなんだけど。他人を気遣える辺りが特に。


「仕方ないわね……秋月の怪我の報告も私がしとくわ。さ、行くわよ」
「お、おい荀彧!?」


私は秋月のねくたいを引っ張る。そのまま私は秋月を連れて、城へ戻る事にした。
城に戻った私は医務室で秋月の包帯をほどいていた。血濡れで少々触りたくないと思いつつも私は包帯を解いていく。その下の傷を見る為に。
見てみれば傷は然程酷くはなかった。しいて言うなら閉じかけていた傷口が開いた感じかしら。私は血を拭うと新しく包帯を巻く。


「何様のつもり?アンタは怪我を悪化させない為に月や詠、華雄が補佐についてるのよ。なのに怪我をするとか馬鹿なの?」
「……返す言葉もないな」


私の言葉に苦笑いの秋月…………本当に馬鹿なんだから。


「…………『桂花』よ」
「え?」


私の言葉に秋月は目を丸くして私を見てる。あ、こんな顔初めてみるかも。


「なによ……私の真名は受け取れないの?」
「え……いや、だって……」


まったく……素直に受け取りなさいよ。説明なんかしたくないんだから。


「勘違いしないでよね。まがりなりにも二度も救われたんだもの………特別よ」
「そっか……ありがとう。荀彧の真名、預からせてもらう」


私が口にした『特別』の言葉に秋月は嬉しそうにしてる。そんな話をしている内に新しい包帯を巻き終えた。
…………ついでだから書き足しておこうかしら。


「え、ちょっ……何を……」
「いいからジッとしてなさい」


私は医務室に備え付けられている筆を手にすると新たに巻いた秋月の包帯に『使用禁止』と書く。


「これで、ちょっとは懲りなさいよね」
「皆に笑われそうだなコレ」


秋月は私の書いた文字を眺めている。そうやって暫くは笑い者になってなさい。私に心配かけたんだから当然の報いよ。


「ありがとうな………桂花」
「~~~~っ!?」


秋月が私の真名を読んだ時、胸が弾けるかと思った。顔が熱い!何……これ?


「お、おい……桂花?」
「わ、私!アンタの怪我の報告とかしてくるから!」


私は思わず秋月から距離を取り、部屋を出ていく。
熱い。秋月に真名を呼ばれるだけで顔が熱くなるのがわかる。まるで初めて華琳様に真名を呼ばれた時みたいに……って、いやいや無い!あり得ない!
そう……私は朝からイライラしてたし胸もモヤモヤしてたから……これはその延長なんだわ!そうに違いない!

















でも私の胸は今……ドキドキしていた。

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第五十四話

荀彧……いや、桂花から真名を許された次の日。月に起こしてもらった俺はある一つの危機に陥っていた。


「桂花さん……これは私の役目です」
「そうね。でもコイツの怪我を悪化させたのは私よ。責任をとるわ」


俺の目の前では用意された朝食を前に静かに、それでいて気迫に満ち溢れた桂花と月が睨みあっている。二人はどちらが俺に食べさせるのかを争っていた。
事の始まりは朝食が用意されてからだった。いつもの様に俺に朝食を食べさせようとした月だが桂花が持っていた食器を奪ったのだ。本人曰く、『その手を使えなくしたのは私よ。だ、だから……私が食べさせてあげる』と宣言。これに月は『最初に怪我をさせてしまったのは私です。最後までやります』と食器を奪い返した
月は顔は笑っているが一歩も退く気は無さそうだ。俺が口出しをすると更に悪化しそうだし……どうしたら……


「二人とも秋月が困っているだろう。仕事の時間も差し迫ってるんだぞ」
「……華雄」
「華雄さん……」


二人が取り合っていた食器をヒョイと取り上げると諭すような口調で華雄は語り掛ける。桂花は指摘された事にも自覚があったのか『仕方ないわね』と退き下がった。月は……あれ?なんか泣きそうに……華雄も既にいないし。


「華雄なら月から逃げる様に食堂から出ていったわよ」
「大将……ってなんでまた逃げるとか……」


いつの間にか食堂に来ていた大将が俺に話しかける。



「華雄さん……私達とこの国に来てからズッとなんです……避けられてて……」
「ああ、もう……月、泣かないで……」


華雄に避けられてる事に涙を流す月。あ、そうか……反董卓連合の時の事が未だに尾を引いているんだ……
月はもう許したつもりなんだろうけど、華雄は任された関所を二つも落として董卓軍を敗北させたとの罪悪感がある。それだから月に会わせる顔が無いって所か?


「ふむ……これ以上、関係改善が望めないと仕事にも支障をきたすわね」


大将は月を慰める詠から視線を俺に移す。


「頼めるかしら純一」
「えーっと……何故俺に?」


大将の言い出した事だ。拒否なんか出来ないのはわかってるが、何故俺に白羽の矢が当たったのかだけ聞いときたかった。


「あら、華雄はアナタの部下なのよ。部下の様子を見るのは上司の勤めでしょ?それに……」
「そ、それに?」


大将の言い分はわかる。一応、俺の補佐として頑張ってくれてるんだから……


「それに桂花から自力で真名を預かれたんだもの、きっと華雄も立ち直らせてくれるわ」
「「っ!?」」


俺と桂花は同時に顔を見合わせた後に大将に視線を戻す。あ、超がつくくらいニヤニヤしてる。これは……マズい!


「じゃ、俺は警邏に行くと共に華雄の様子見てくるわ!」
「あ、ちょっと、私を置いて逃げるな!」


俺は朝飯もろくに食わずに警邏に出ることにした。俺が食堂を後にしたと同時に桂花宛の質問疑問が飛び交っていた。 すまん、桂花。後でなんか奢るから。つーか、なんで大将は俺が桂花から真名を預かれたの知ってんだよ。昨日の話だってのに。

さて警邏に出たは良いが華雄は俺の前じゃいつも通りだった。いや、いつも通りの様に振る舞ってるのかな……あれだけの事があって『もう忘れた』なんて事はないだろうし。
仕方ない……今日の夜にでも酒に誘うか。今のまんまじゃ何を聞いてもマトモに答えるとは思えないし。
仕事の事だろうが、プライベートな事だろうが愚痴を溢せば
多少なり楽になるだろう。ふと思ったが、これって飲みニケーションになるのだろうか……俺は会社でしょっちゅう参加させられていたが……いや、飲みニケーションではなく普通の酒の誘いと言う事にしとこ。

警邏の途中で華雄に夜の酒の話をしたらアッサリと受けてくれた。華雄も話したい事があるのだとか。
その話を聞くためにも今日は酒盛りしなければならない。
因にだが城に戻ると同時に今朝、一人で逃げた事で桂花に30分ほどの説教を受けた。『ま、まあ……華琳様からお褒めの言葉を頂いたから良しとするわ』と顔を赤らめていた。本当にお褒め『言葉』だったのかも怪しいが踏み込むと面倒な事になりそうなのでスルーしよう。

なんやかんやで夜になり、華雄と酒を飲むことに。因みに飲む場所は俺の部屋でだ。
最初は飲みながら仕事の話。次に俺が天の国に居た頃の話。話をしていると会話も弾むし、酒も進む。さて、華雄の悩み相談を受けようか……………と思ってたんだけどな。


「う……ぐすっ……」


突如、華雄が涙声で啜り泣く様な状態になった。え、俺がまた何かしちまった!?


「私は……なんでこうなんだ……任された関所で敗北し……董卓様を……守れなかった……」
「華雄……」


華雄の思いは俺の想像以上だった。反董卓連合の時の事は華雄にとって最大級のトラウマとなっている。


「董卓様の……皆の笑顔を見る度に思うのだ………私が強ければ……私が孫策に負けなければ……」
「………」


そっか、真面目で融通が効かないけど責任感が強くて勝ち負けに拘り過ぎてるんだな、華雄は。


「それに……貧乳って……言われて……」


あ、気にしてたのかアレ。でも華雄は貧乳って感じじゃ……まあ、孫策と比べると流石に負けてるか。
それにそれを言ったらウチの大将や軍師は……やめとこ。考えただけで殺されかねない。
兎に角、泣いてる華雄をどうにかしないとな。


「華雄……月も詠も霞も恋もねねも誰も華雄のせいで負けたなんて言ってなかっただろ?今、皆は華雄がそんな調子だから心配してるぞ。今の華雄は気負いすぎだ」
「……わ、私は……」


俺は治りかけの左腕で華雄の頭に手を伸ばす。華雄は俯き気味で顔は見えない。


「華雄も一兵卒からやり直したいって言ってたんだろ?償いをするつもりで。確かに立場は出来ちゃったかもだけど……俺も手伝うし、色々教えるからさ。自分から孤独になろうとなんかするな」
「………」


俯いたままの華雄の髪を撫でる。あ、凄いサラサラで良い香りが……


「皆、勿論俺も……華雄が心配だから」
「あき……つき……」


髪を撫でていたのだが華雄はやっと顔を上げた。その瞳に溜った涙が溢れ出していた。


「……優しく……するな!」
「わっ!華雄!?」


華雄は俺を押し倒し、抱き付いてきた。両手を俺の背中に回して泣いている。ヤバい、華雄って意外と華奢で柔らかい……


「優しくされると何もわからなくなる!私は……私はどうしたらいいんだ!教えてくれ秋月!」
「華雄……言ったろ。色々教えるからって。慌てなくても良い」


俺は泣き崩れる華雄をなるべく優しく抱き返した。華雄は驚いた様子だけど少し落ち着いてくれた。


「皆も……俺も華雄と一緒に居るんだ。焦らなくたっていい……何をするにしても……一人で抱え込まなくていい。二人いれば楽しい時は二倍楽しめる。そして苦しい時は半分で済む」
「そう……だな……」


華雄は冷静さを取り戻したのか大人しくなっていた。俺の言葉を聞いて静かに顔を上げた。


「なら……ずっと一緒に居てくれる証がほしい」
「証……どうすれ……むっ」


俺の言葉を遮って華雄が顔を近づけて……そのままキスされた。先程まで飲んでいた酒の匂いと華雄の香りがした。


「ふふっ……証だ」
「か、華雄……」


悪戯な笑みを浮かべた華雄はポフッと俺の胸に頭を乗せる。その直後にスースーと寝息が聞こえ始めた。もう寝たのか……張っていた気が緩んで疲れが一気に来たのか……それとも酒の飲みすぎか。
俺は眠ってしまった華雄を起こさないように抱き上げると寝台に寝かす。華雄との距離が近くなり思い出すのは先程のキス。柔らかかったなぁ……俺は思い出す様に指で自身の唇に触れた。
さて……華雄も寝ちまったし俺も……あ、寝る場所がない。俺の部屋で飲んでいて華雄に寝台を譲ったら俺の寝る場所ないじゃん。
…………仕方ない、床で寝るか。俺はスヤスヤと眠る華雄に『オヤスミ』と小さく言ってから瞼を閉じて……俺の意識は直ぐに沈んだ。

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第五十五話

「ん……朝か」


朝日に照らされて目が覚める。昨日は……あ、そっか。華雄と飲んでから、そのまま寝たんだった。んで華雄が先に寝ちまったから俺は床で寝て……痛たた……やっぱ床で寝ると体が痛い。


「おい華雄……朝って……寝相悪いのか?」
「ん……うぅ……」


起き上がって華雄を起こそうと思ったら華雄は寝台の上で眠そうに丸まっていた。布団は少し乱れて華雄の肌が見えている。
と……いかんいかん。見とれてる場合じゃない。早くしないと月が俺を起こしに来てしまう。こんな状態を見られたら……


「華雄……起きろ華雄……」
「ん……う……」


寝惚けてるよ。普段はスパッと起きる華雄が珍しいな。兎も角早く起こさないと……


「純一さんおはようございます」
「秋月、朝よ起きなさい」
「あ………」


なんて思っていたら月が来た。しかも間の悪い事に今日は詠もセットで来ている。二人は俺と華雄を見てピシッと固まった。
さて状況整理

俺 →服半脱ぎ状態で気だるげ。
華雄→俺の寝台の上で服と布団が乱れた状態で寝ている。
状況→俺が寝台で寝ている華雄の傍に立っている。

結果→あ、これ詰んでるわ






「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」





俺の部屋に月と詠の悲鳴が鳴り響く。
神よ、俺はアンタに何かしちまいましたか?
そうか俺が嫌いか?俺もアンタなんか嫌いだよバーカ。

俺の部屋に向かって聞こえる無数の足音に俺は現実逃避をしながら神を呪っていた。




















暫くした後に俺は玉座の間で正座をしていた。


「ではこれより警備隊副長秋月純一の審議を執り行う」
「極刑でよろしいかと」


大将の言葉に間髪入れずに桂花が意見具申。気のせいかしら……桂花の背後に不動明王が見えるんだが。


「いやー……いくらなんでも極刑は行き過ぎちゃう?」


苦笑いの霞が意見を出す。
と言うか……真面目そうに見える審議だが一部は笑ってる。そりゃそうだ。別に俺が夜這いをして華雄を襲った訳じゃないんだから本来はこの状況もおかしい訳で。


「だそうよ桂花?」
「いえ、断固許しません」


ニヤニヤと笑う大将が桂花に微笑むが桂花は許さないと拒む。ああもう……頼むから冷静になって桂花。そのままじゃド坪にハマるから。大将のドS心が思いっきり刺激されてるから。


「そう……何故許せないの桂花?」
「このケダモノをこれ以上野放しに出来ません!それに私が真名を預けたのに何も……あ……」


漸く頭が冷え始めた桂花。大将の仕掛けた罠にハマった事に気付いたが時既に遅し。
回りが既に冷やかす視線を桂花に送ってる。


「桂花って……つんでれなのー」
「なんや沙和『つんでれ』って?」
「たいちょーが言ってたの。素っ気ない振りをして実はその人に惚れてたり素直じゃない人を『つんでれ』って言うんだってー」


沙和と真桜の会話が聞こえる。それが耳に入って桂花の耳は赤くなっていく。


「あー大将。そこらで止めてくれんかね?」
「あら、純一。こんな可愛い桂花を愛でるのを止めろと言うの?」


俺の言葉に大将は愉悦な笑みを浮かべていた。ドS全開だよ愉悦覇王様。


「いや、可愛いのは認めるが……」
「~~~っ!」
「いやぁ……天然って怖いわぁ…….」


俺の発言に桂花がビクッとなり、霞が言葉を漏らす。つい本音をポロっと出しちまった。俺の隣で桂花の顔が真っ赤になってるし。


「色んな意味で……この馬鹿ぁ!」
「ほぶぁっ!?」


俺の頭に桂花の踵落としが決まる。いや、俺が反応できないレベルの踵落としを放つとは恐るべし。

この後だが漸く起きてきた華雄が昨晩の話をして俺は無罪放免となった。いや、元から大将はそれを見抜いていた節があったけど。


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第五十六話

無罪を勝ち取った次の日。俺は右手が殆ど治った事もあり久々に鍛練場へと足を踏み入れていた。因みに俺は特注で作って貰った胴着を着ていた。まあ、鍛練用にと思って服屋の親父に言ったら作ってくれたのだ。まさかあのまんま作るとは思わなかったけど。


「久々だけど……一先ず気は使えるな」


俺は掌に気の塊を作り出そうとする。するとポゥと気の光が灯りホッとした。
休んでいた間に使えなくなったとかシャレにもならん。


「さて……やってみるか」


俺はビシッと構えを取る。両手を前に突き出す。そして胸の前でアミダを組むように素早く切る。仕上げに両手を突き出して……狙うは壁に設置された的!


「フリーザーっ!!」


特に意味の無い叫びを上げると同時に気弾を発射!やった上手くいった!命中した気弾は見事に的を破壊した。こんなに上手くいったの初めてかも。


「しっかしまあ……少し休んでた割にはちゃんと使えたな」


俺は自身の掌を見ながら呟く。こんなに上手くいったのも驚きだが暫く鍛練そのものを休んでたので使えなくなったのかと不安だったが……いや、技が上手くいったのを考えると休む前よりも調子が上がった気がする。


「副長、朝の鍛練ですか?」
「ん、ああ。おはよう凪」


考え事をしていたら凪が鍛練場に来た。動きやすい服装をしているから凪も朝の鍛練か?


「手も治ったから体が鈍る前に鍛えようと思ってな。久々で心配だったけど気もちゃんと使えたよ」
「そうでしたか。気を一度使えた者は余程の事がないと忘れませんよ。体が使い方を覚えますから」


なるほど。自転車に乗らなくても乗り方を忘れないもんだな。


「………副長、それは新しい胴着ですか?……なんて言うか……派手ですね」
「ああ……うん。天の国で有名な武道家が着ていた胴着なんだ」


そう。凪の発言の通り俺は派手な色の胴着……つまり亀仙流の胴着を着ている。
それと言うのも服屋の親父に様々な案を出した時に寝不足と深夜のテンションで幾つか悪ふざけの産物。つまり、アニメとか漫画の服も数着案として出してしまったのだ。それを服屋の親父は律儀にも作ってくれて……作ってくれたのに着ないのもなんなので今、着ているのだ。まあ、鍛練用にすればいい。
因みに背中の文字は『亀』や『幸』ではなく『魏』の文字が入っていたりする。
凪は凪で納得したのか『これが……天の……』と呟いている。凪も気を使うし興味があるのか?


「凪、ちょっと組手をしないか?」
「わ、私が副長とですか!?」


俺の提案に、なんか恐れ多いとリアクションをする凪。いや、そんな深刻に受け取らないで。


「そんな大袈裟なもんじゃなくてさ……少し体を動かしたいんだ無理をしない程度にさ」
「そ、そうですか?……だったら」


凪は不安そうに俺と向き合う。いくら俺が怪我ばかりしてると言ってもそこまで弱く見られてるのはショックだな。一丁脅かしてやるか。
俺は人差し指に気を溜めると凪に向かって指鉄砲の構えを取る。


「伊達に夏コミ出てねぇぜ、霊丸っ!」
「きゃあっ!?」


予想外だったのか凪は可愛い悲鳴を上げながらも俺の放った霊丸を避けた。



「副長……病み上がりだからと心配してましたけど今の気弾を見て安心しました。今度は私から行きます!」
「お、おう!来い!」



どうやら凪は俺が弱いのではなく病み上がりの方を気にしていたみたいだ。俺の霊丸を見て気に問題が無くて安心したのと武人としての血が騒いだのか瞳に火が灯ってる。

この後、俺と凪は組手をした。まあ、当然の事ながら俺が負けたのだが良い運動になったと思う。
逆に凪は手加減をしながら戦っていただろうから気疲れもあるのだろう。

だけどまあ……今日一番驚いたのは……


「かめはめ波!」
「って嘘ぉ!?ぐぶっ!」



そう……凪がかめはめ波を放ったのだ。どうも俺が仕事を休んでいた間に一刀から話を聞いて、真桜にも話を聞いたらしい。更に以前の熊騒動の際に俺が撃つところを見て修得に至ったとか。
見よう見まねでかめはめ波を修得した悟空を見る亀仙人の気持ちってこんな感じなのね……と俺は才能の差を思い知らされるのだった。



『バーニングアタック』
未来トランクスが使用した技。
印を切るように両手を高速で動かすことで気を練り上げ、突き出した両手から強力な気弾を放つ。
フリーザに放ち、技は避けられたが一瞬の隙を突きフリーザを剣で一振りの下に倒した。


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第五十七話



朝の鍛練を終えて朝食を済ませた後に久々にマトモな警邏へ。因にだが先日の事を引きずってるのか月や詠とは少しぎこちない。早めに関係改善したいものだ。

さて、警邏をする傍ら、俺は少々悩みがある。
それは今朝、鍛練を終えた後に大将に呼び出された事にある。


「純一、貴方に華雄隊の指導を命じるわ」
「いきなり話がぶっとんだな。なんでまた?」


いや、いきなり隊を預かれとかどんなムチャ振りだよ。


「華雄と共に下った華雄直属の隊なんだけど……少し前の華雄みたいに誇り高いのよ」
「……ああ」


大将の一言でなんとなく察してしまった。少し前の華雄って事は反董卓連合の時の華雄だろう。その頃の華雄と言えば誇りが高すぎで回りが見えず挑発にもアッサリと乗ってしまう。
今でこそ華雄はそんな自分を省みて成長したが部下だった華雄隊の兵士は未だにそのままなんだろう。恐らく、指導したのだろうがプライドが高い為に大した効果も無かった筈。


「それで俺が……って言っても俺が指示しても言うことを聞いてくれるとは思えないんだけど」
「大丈夫よ、華雄にも指導を任せるから」


ああ……元上司の華雄が指導に当たれば言うことは聞いてくれるか。


「そして純一は華雄隊を指導しながら彼等の思考を変えていきなさい」


つまり猪突猛進を直せって事ね。まあ、最近の華雄を見てればそう思いたくもなるか。
猪突猛進じゃなくなった華雄は腕も立つし、回りを見て的確な指示を出す。更に他の者へのフォローも完璧と言える。最近では書庫に足を伸ばして勉強もしてるとか。


「今の華雄が砦を守っていたら……反董卓連合はもっと苦戦してたわね」


少し悩む仕草で呟く大将。うん、それには同意する。


「兎も角、華雄と共に元華雄隊の指導を命ずるわ。華雄には後程、役職を与えると伝えて頂戴」
「了解です」


副長補佐以外にも役職を与えるか……いや、それよりも。


「指導って……俺は何を指導するんだよ?」
「あら、こんな時こそ天の知識じゃないの?」


あー……なるほどね。つまり俺の持つ未来の知識で華雄隊を鍛えろと。


「どうなるかわからんぞ?」
「あら、やってみて始めて効果もわかるものでしょう?やるだけやってみなさい。その時が来たら評価してあげるわ」


と……まあ、こんなやり取りがあって俺は華雄と隊を預かる事に。俺のさじ加減で決まる部隊か……マジでどうしよう。


「一刀が沙和に某海兵隊式の指導を教えたからなぁ……他のやり方じゃないと……」


やり方が被るのは良くないし、大将は評価するって言ってたから半端な事は出来ないし……
うーむ、特殊部隊みたいにするか……いや、それこそ新撰組みたいに?いやいや、いっその事、ショッカーみたいな黒タイツ集団……ん、集団?
あ、それがあった。アレを参考にしながら部隊として指導すれば上手く行くかも。よし、華雄に話して新部隊の設立&指導といきますか。

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第五十八話

華雄隊の指導を任された俺は昼飯時に一刀と凪、華雄と合流して今朝方、大将から頼まれた事を話した。その内容に一刀と凪は苦笑い。華雄は頭を抱えていた。


「すまない秋月。私の監督不届きだ」
「いんや、そればっかりじゃないさ」


華雄は頭を下げるが悪いのは華雄ばかりじゃない。そもそも他の国に下って元上司がその国の方針にしたがってるのに元部下が言う事を聞かないってのが間違ってる。会社だったら人事に殴り込みを掛けるレベルだ。


「ま、兎に角……俺と華雄は当分の間、華雄隊の指導に当たる事になる」
「純一さんと華雄だけでやるんですか?」


俺の言葉に一刀が尤もな事を聞いてくる。うん、それだけじゃないんだな、これが。


「指導をするのは俺と華雄と……恋とねねだ」
「え……大丈夫なんですか?」


俺の発言に一刀、凪、華雄がピタリと動きを止めた。残り二人の気持ちを代弁するかの様に凪が尋ねてくる。
その大丈夫はどっちの意味だ?恋が指導の立場で大丈夫って事か?それとも兵士達の身の安全が大丈夫かって事か?まあ、両方かな。


「いつまでも恋とねねを遊ばせておく訳にはイカンと言う事でな……流石に指導は無理だからどちらかと言えば模擬戦の相手かな」
「その段階で華雄隊が駄目になるんじゃ……」


うん、一刀のご指摘ごもっとも。だが、それも狙いの一つでもある。


「確かに大半は恐れを成したり、再起不能になる可能性も高い。だが逆を言えばそれを乗り越えれば最高の兵士にもなる……と言う事か?」
「流石……理解が早くて助かる」


華雄は真っ先に俺の考えに気づいたみたいだ。それともう一つ。


「付け加えると……恋には『手加減』を覚えさせたいってのもある。あのままじゃ他の将との鍛練にも支障を与えかねん」
「そう……ですね……」


俺の言葉に恋との鍛練を思い出したのか凪がブルッと震えた。
俺は参加しなかったのだが魏の武将が数人集まっての鍛練があったらしく、そこに凪も参加していた。そんな中で春蘭が恋に『本気で来い』と自殺志願者としか思えない一言を放つ。その後の事は言うに及ばず。鍛練に参加した者を全員叩きのめした恋は『お腹すいた』とその場を後にした。
今でこそ、味方だが本気の恋と戦うって洒落にもならん。
そして皆には話さなかったが、ねねの話だと『恋殿はあれでも無意識に手加減してるのです。本当の意味での本気は誰も見た事が無い筈なのですぞ』と言っていた。
流石にねねの大言壮語と思いたいが……恋だからなぁ。


「とまあ……色んな意味で今回の華雄隊の指導は今後の魏のあり方にも影響を及ぼすぞ」
「責任重大すぎますよ」


少し遠い目をした俺に一刀のツッコミが入るが話を続ける。


「今後の華雄隊のあり方だが……まず恋との鍛練で一部の精鋭を選ぶ。選考した精鋭は独立した部隊へ……と言うか俺の部隊になる。残りの者は指導を受けさせつつ問題だった猪突猛進を直して改めて華雄の部下へと迎え入れる形になるな」
「待て秋月。私は既に将ではないのだぞ。それを……」


俺の説明に華雄が横やりを入れる。ま、その通りなんだけどさ。


「華雄が警備隊の……俺の補佐になってるけど、さっきも話した通り一部の精鋭が俺の部隊になるんだ。その補佐役にも部隊を預けた方が良いって話になってな」
「む、むう……」


俺の言葉に華雄は口を紡ぐがまだ納得してない様子。


「そうですね……隊長には私達、三羽烏が居ますけど副長や補佐の華雄さんだけ部隊が無い状態でしたから丁度良いのでは?」
「だが……しかしな」


凪のナイスフォローが入るがまだ納得してない。しょうがないトドメの一言と行きますか。


「実はな……大将からの言伝てだが華雄には俺の補佐の他に役職が与えられる予定だ。多分、その役職の為にも部隊は必要になる筈だぞ」
「ん……うぅ……わかった」


最後の最後で漸く首を縦に振ってくれた華雄。多分、大将は未だに少し後ろ向きの華雄を立ち直らせろって意味も含めて話をしたんだな、多分。


「でも純一さん。精鋭部隊って……まさかスペシャルファイティングポーズを?」
「誰がギニュー特戦隊を作るなんて言ったよ?ファイティングポーズしろってか?」


いくら強くてもあのノリは嫌すぎる。技も基本的には隙だらけだし。でもあの当時のベジータよりも強いんだよな。
でもリクームの技はどれもアカン……と言うか失敗するのが目に見えてるし。イレイザーガンとか原作通りになりそうだしファイナルポーズなんか絶対にしたくない。ってかやったら味方に殺されかねない。



『スペシャルファイティングポーズ』
ギニュー特選隊が登場、出動時に使われているポーズ。
エリート部隊が掛け声と共に変なポーズを取る様子はかなりシュールでフリーザは毎回唖然としながら汗を流してる。
ゲーム等ではポーズをする事でステータスが上昇したりもする。

『イレイザーガン』
大きく開いた口にエネルギーを溜め、強力な気攻波を発射する。その破壊力は星の形を変える程。口から放つ為に強制的に口を閉められると自爆する。

『ファイナルポーズ』
中腰になり相手に尻を向けた妙なポーズをとる。厳密には相手を攻撃する技ではないが、ジースの台詞によれば「リクームの十八番」らしい


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第五十九話


元華雄隊の皆さんの指導を開始する日となり、俺は朝早くから鍛練場に居た。
元董卓軍の精鋭と言う事もあり、元華雄隊はビシッと既に整列を完了している。ここまでは良いのだが……マトモに聞くのが華雄のみ。
彼等からしてみれば『誇り高き華雄隊が何故、曹操の将の言う事を聞かねばならんのだ』って事らしいが流石にそれはもう通じないんだよ?って言うか、その為に華雄とか月の立場が悪くなり始めてんだからな?
環境改善等の名目もあるので早く始めるとするか。


「コホン……えー、本日より」
「我等、華雄隊は貴様の言うことなぞ聞くか!」「そうだ、我等の誇りは誰にも汚されはせんぞ!」「華雄将軍、なんか言ってやってください!」


俺が挨拶を始めようとしたら華雄隊の兵士は俺に反発し始めた。いや、早ぇーよ。
ふと、隣を見ると華雄が顔を押さえて、しゃがんでいた。


「どうした、華雄?」
「……………昔の自分を見ている様で恥ずかしい」


うん、こうしてみて初めて昔の自分の愚かさを目の当たりにしてる。黒歴史を暴かれた学生の気分もこんな感じだろう。中二で色々と痛い事をしたのを高校の時の友達に暴露された的な。
まあ……これもある種のリハビリだ。華雄には悶え苦しんで貰おう。


「少し話を……」
「止めてくれ秋月……私の心が持たない……」


俺の服の端をギュッと握る華雄。やだ、何これ可愛い。


「貴様、華雄将軍に何をした!」
「者共、華雄将軍を取り戻すぞ!」


空気の読めないバカ共が支給された武具を手に俺を睨む。ああ……もう……色々と考えてたけどもう止めた。むしろ他の人達がキレた理由もよくわかった。


「文句のある奴……かかってこい。華雄が必死にこの国に馴染もうとしているのに邪魔しかしてないんだ……もういいよね?」
「お、おい……なにかヤバそうだぞ」
「ちょっと待て!あいつ、胡軫将軍と戦ってた奴じゃ……」


俺が体に気を充満させると兵士達は少し退く。つーか、今さら俺に気付くとか……やっぱ根本から性根を叩き直さんと駄目か。


「華雄……少し離れていてくれ」
「な、何故だ、秋月!?これだけの兵士の数だ……一人では……」


華雄も自身の斧を持って俺に助太刀しようとしているが今から俺がやる技は華雄が居ては放てない。



「よく聞いてくれ華雄。今から俺が兵士の半分を一気にぶっ飛ばす技を放つ。でもその技は敵味方問わずにぶっ飛ばす技だから華雄は一度離れてくれ」
「う、うむ……わかった」


華雄を引き寄せて耳打ちする。華雄は顔を赤くしながらも従って離れてくれた。
そして華雄が離れたと同時に兵士達が俺を取り囲む。


「ふっふっふっ……我等、華雄隊に喧嘩を売るとはな」
「華雄将軍が離れた今、貴様に手加減をする必要もない」
「覚悟せいっ!」


それぞれが俺を格下だと見て油断している。なら好都合だ。


「思えば……俺はお前達の上司になるのに挨拶をしてなかったな」


俺は気を体に張り巡らせた状態で指先に力を集中する。
さて、丁寧に挨拶してやるか。俺は人差し指と中指に気を集中させて『クンッ』と空に向かって突き出す。


「な、なんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ば、馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


悲鳴と怒号が飛び交う。俺を取り囲んでいた兵士達は地面から吹き出した爆発に巻き込まれていったのだ。
これぞナッパ流の挨拶。少しばかり丁寧にやり過ぎちまったかな……だって……


「どうだ……参ったか?俺は参ったぞ」
「って、なんで秋月まで巻き込まれてるんだ!?」


一度離れた華雄が戻ってきて倒れていた俺を抱き上げる。いやぁ……身体中痛いわ。


「あの技……本来ならもっと威力もあるし、自分は爆発に巻き込まれないんだけど……何故か上手くいかなくてな……」
「結局、只の自滅ではないか……まあ、兵士達は皆、倒れているが……」


俺の挨拶に元華雄隊は全滅していた。一部はなんとか立ち上がっている。まあ、俺の技は殺傷能力ほぼゼロだから怪我で済んでるだろうけど戦うまでは無理の筈。
この後だが休憩してから改めて元華雄隊と話し合いとなった。
今のままでは華雄や元董卓軍に居た者の立場が悪くなる事と更により選った精鋭部隊を作る話。話を聞き終えると元華雄隊はそれぞれの反応を示した。その後、華雄からの口添え……と言うか改めて魏に下った自覚を持てとか、お前達の誇りはお前達自身が汚しているとか……まあ、この辺りは俺が口を挟む訳にはいかない。華雄なりのケジメの付け方だしね。
俺は煙管を吸いながら元華雄隊と話をする華雄を見詰めていた。凛々しく話す彼女は紛れもなく元華雄隊が憧れて慕う華雄なんだな……と。少しばかり元華雄隊の気持ちがわかった気がするわ。そう思いながら俺は紫煙を空に撒くのだった。












こっちは余談だが様子を見に来た元董卓組である月、詠、霞、恋、ねねは俺が怪我をした事に大慌て。
状況説明をしたら月と詠からめっちゃ怒られた。



『挨拶/ジャイアントストーム』

ナッパの代名詞とも言える技。人差し指と中指を揃えて「クンッ」と天に向かって突き出し、自分を軸とした広範囲を破壊させる技。 
ナッパがベジータと共に地球に降り立った際、挨拶代わりにと、この技を披露し巨大な爆発と共に一瞬にして東の都は壊滅し、技の中心部はクレーターと化していた。
範囲を絞ることも可能で、悟空との戦いでも使用しており、土埃を舞い上げて悟空の動きを見切ろうとした。


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第六十話

月と詠の説教から解放された俺は城に戻り、自室を目指していた。


「ったく……手加減なしなんだからよ……」


俺はゴキッと肩の骨を鳴らす。
月と詠の説教は今までで一番凄かった。まあ、自分達が原因で怪我させといて、それが治ったら元部下が原因で怪我すりゃ当然か。月なんか涙目だったし……あれだな普段は優しい分、怒ると怖いタイプだ。その点、桂花や詠はその場で即座に説教とか当たり散らすタイプだ。
どちらにせよ、説教は確定なのが泣ける。


「やれやれ……この後は報告書を纏めないとな」


大将に取り敢えず経過報告とかしなきゃならないから……後は今後の運営から精鋭の抜擢と……あー、頭痛くなりそう。
と……考えながら歩いてたらもう部屋についてたか。


「ただいまー……っても誰も……」
「おかえり」


あれ?誰も居ない筈の俺の部屋から返事が帰ってきたぞ。オカシイナー。


「報告書が上がってきたんだけど……また怪我したんですって?」


俺の部屋で待ち構えていたのは桂花だった。
桂花は俺の寝台に腰を掛けたまま腕を組み、静かに俺を見ていた。あ、今日は説教で寝れないかも。


と思ってたんだけどな。


「ちょっひょ……聞いへるの?」
「ああ、うん。ばっちり聞いてるよ」


どうしてこうなった?
いや、最初は怪我をした事や自滅した事を罵倒されていたんだけど途中から仕事の話へ。そんで途中から桂花が大将から良い酒を貰ったから飲もうと酒を飲み始める。
そもそも最初は俺を酒に誘うつもりだったらしいが俺が怪我をした為に説教からのスタートとなったのだが……
まあ、それは兎も角……俺も桂花も結構なペースで酒を飲んだ結果、桂花が先に酔っ払いと化した。呂律が回らずに話す姿は可愛いです。
つーか、隙だらけなんだけど。普段では考えられないくらいに距離が近いんですけど。


「にゃによー……あらひのおしゃ……ひっく……が飲めなひの?」
「俺はまだ飲むけどお前はもう止めとけ」


こんだけ酔っ払ってても飲もうとする桂花から杯を取り上げる。さっき聞いた話じゃ明日は休みらしいが、それでも飲み過ぎだっての。


「あぅ……じゃあ、こっひ……」
「え、桂……」


俺から杯を取り上げられた桂花は座っていた椅子から、なんと俺の膝の上に座った。うわ、すごい柔らかい………じゃなくて、ちょっとお待ちなさい!


「んー……おいひい……」
「えぇー……いや、桂花さん?」


更に俺が酒を飲んでいた杯で飲み始める。いや、色々とヤバイんですけど、この状況。あ、髪から良い香りが……って、いやいや。耐えろ、俺!


「あ、あのな桂花……こうゆう事は……そう、愛しの華琳様にしなさいな」
「いいれひょ……わらひが……あんたを、しゅきでやっへる……んらから……」


今、呂律が回ってなかったけど俺の事、『好き』って言ったか?まさか……桂花が……あ、ちょっと待って、甘えられて。こんなに密着してると俺も流石に我慢が……


「あ、あのな……桂花。男ってのは箍が外れやすい。ましてこんな状況じゃ……」
「すー……すー……」


あいたぁ……寝ちゃったよ。この状況で?


「はぁ……ま、相当飲んだしな……」


俺はやれやれと空いた徳利を見ながら溜め息。飲みすぎってのもあるけど、疲れもあるんだろうな。
桂花が酔う前の話が本当なら袁紹が公孫賛の領土を攻めたと言っていた。当然の事ながら公孫賛の軍が耐えられる訳もなく、討ち取られた……と聞いているが真偽の程は定かじゃない。それにこの世界は俺の居た時代の知識との食い違いがある。この辺りは一刀と相談だな
まあ、そんな状勢が変わってきたので桂花も情報集めとかで苦労してたみたいだ。まったく……本当に……


「わ、軽い……」


取り敢えず膝の上から桂花をお姫様抱っこの体勢に変える。桂花の軽さに少し驚いた。いや、間違っても重いとか言ったら魏の女性陣に殺されかねないのはわかってるよ。


「頑張りすぎだよ……桂花……」
「ん……うぅ……」


俺が桂花を抱き上げたまま、寝台に寝かせると少し寝苦しそうにしていた。
出来る事なら家まで送るべきだが桂花の自宅……と言うか屋敷は城の外にあるのだ。その間を、お姫様抱っこはキツい。いや、桂花は軽いから運ぶのは楽なんだけど後の事を考えると実行は出来ないな。


「おやすみ……桂花」
「…………ん、んぅ……」


まるで返事をしたかの様に寝息が聞こえた。
俺は、この間の華雄の時みたいに床で寝るか。
でも、桂花が隣で無防備に寝てるかと思うと……こう……寝付けない。
結局……俺はこの後、眠れるまでの1時間ほど悶々と過ごす事となった。






















◆◇side桂花◆◇




私は秋月と酒を飲んでいた。途中から酔っていたせいで記憶が少し飛んでるけど衣服の乱れが無いからまだ無事な筈。
迂闊だったわ……華琳さまから『良い酒が手に入ったのよ。桂花にも少しあげるわ、純一と飲んできなさい』って言われて私は秋月と飲む事に。
でも、この馬鹿は元華雄隊の指導をして怪我をしたらしい。もう……馬っ鹿じゃないの!?
この間の怪我が治ったばかりで怪我をするんじゃないわよ!

私はその事も含めて秋月を怒鳴った。そしていつ頃からか仕事の話をした。袁紹や公孫賛に動きがあった事を。
その途中から記憶が曖昧なんだけど……一番の問題は今よね。
私は今、秋月に横抱きで抱えられている。
どうにも私は飲みすぎで眠ってしまったらしい。目は覚めたけど酔いのせいで体が動かない。それに……私は寝てると思ってる秋月を見ると起きる間は完全に逃してしまっていた。あ、もう……顔、近いのよ!


「頑張りすぎだよ……桂花……」
「ん……うぅ……」


馬鹿馬鹿馬鹿!起きてるのよ、気付きなさいよ!って……え……これって秋月の布団?
私、秋月が普段使ってる寝台に寝かされた……まさか、この後は………ま、ままま待って!?まだ心の準備が!?


「おやすみ……桂花」
「…………ん、んぅ……」


秋月は私の髪を撫で、『おやすみ』と告げる。え、何もしないの?……このまま、なだれ込むのかと思ったわ。
私がホッとしていると、秋月はそのまま床で寝てしまった。



「何よ……馬鹿……」



私は未だに残る、酔いと眠気に負けて、布団に潜り込む。
すると眠気は倍増したけど胸のドキドキが増して………その後も私は中々、寝付けなかった。



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第六十一話


体が……つーか、頭が痛ぇ……
ヤバぃ……体が動かねぇほどにツラい……完璧に二日酔いだよ。あまりにも飲み口が良いから昨日の酒を飲みすぎだ。


「桂花は……起きれる訳ないか」


思えば昨日は相当に酔ってたし……下手すりゃ昨日の事は覚えてない可能性が高い。
むしろ忘れていた方が良いのかも。だって昨日の事を覚えてたら『何すんのよ、このケダモノ!』って言いそうだもの。


「さて……以前の事を考えると、そろそろか……」


俺はフゥーと溜め息を吐くと自室の扉に視線を移した。


「純一さんおはようございます」
「秋月、華琳から今日は朝遅めに起こしに行きなさいって言われたんだけど……」
「………」


予想通り月と詠が来た。しかも詠の発言から差し金は大将と見た。
そして前回と同じで二人は俺と桂花を見てピシッと固まり……





「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
「おはよう月、詠。取り敢えずこれは誤解だから。月は五右衛門風呂で朝風呂沸かしてきて。詠は俺と桂花に二日酔いの薬、お願い」


あぁ……二日酔いに、この絶叫は響くわぁ……俺は月と詠に後の指示を出しておく。
ほら、既にこの部屋に向かう足音を聞くとこの後の展開が先読み出来るから言っておかないとね。









「で……気分はどうかしら純一?」
「二日酔いで最悪。あ、でも昨日の酒は美味かったよ」


部屋に乱入してきた春蘭に縄でグルグル巻きにされた後に大将の前に引きずり出された俺。自分で言うのもなんだが、この状況に馴れすぎだろう。


「貴様、華琳様の前でなんて口の聞き方だ!」
「ゴメン、春蘭……今はその怒鳴り声もキツいんだわ」


春蘭の声が二日酔いの頭にズキズキと響く。


「あら、昨日は桂花とお酒を楽しめた様ね」
「やっぱ大将の差し金か……月や詠に何か言っただろ?」


なんつーか、予想通りの状態になりつつあるぞ。
昨日、桂花に酒を渡した大将は俺を誘うように言って、更に月、詠に朝遅めに起こしに行くようにと伝えた訳だ。


「その分だと気遣いは無駄に終わったかしら?」
「生殺しが続いたけど可愛い桂花は存分に見れたかな」


俺は縄から抜け出しながら大将の質問に答える。昨日のあの状態で何も出来ないってハイパー生殺しだっての。


「そう……まあ、桂花の気分転換にもなったから良しとしときなさい」
「この所、働き詰めだったからか?」


昨日の桂花から聞いた袁紹の話が本当ならバタバタしただろうからな。


「それもあるけど………桂花の一番の悩みは純一だからよ」
「ん、なんて?」


後半、大将の声が小さくなったんで聞き取れなかった。


「気にしなくて良いわよ。桂花から話を聞いたのなら戦に備えなさい。麗羽の事だから、これからの動きは早いわよ」
「りょーかい。俺は朝風呂行くわ」


大将の話を聞き終えた俺は朝風呂へ。あー、頭痛ぇ……さっさっとサッパリしたい。


「ふむ……流石だな秋月」
「ん?何が流石なんだ秋蘭?」


秋蘭の関心に春蘭が反応する。


「気づかないのか姉者。秋月は姉者が縛った縄から、いとも簡単に抜け出しているんだぞ」
「え……あ……」


俺が縄から抜け出した事に漸く気付く春蘭。縄抜けってコツを知ってれば実は簡単に出来たりする。教えないけどね。


「ほいじゃー……俺はこれで」
「はいはい、後の報告書を楽しみにしてるわ」


大将の言葉に俺は少し青ざめる。そういや、昨日の内に報告書を書こうと思ったけど桂花と酒飲んでたから忘れてた。
朝風呂から上がったら書かなきゃな。

五右衛門風呂に行く途中で月と詠に会った俺は今朝の事を謝られた。誤解されるのは多いけどこうして誤解が直ぐに解けるのは良い事だと思う。
俺は詠から二日酔いの薬を貰うと五右衛門風呂設置小屋へ。


「さーて……朝風……ろ……」
「……な、ななななっ!?」


俺が五右衛門風呂設置小屋に行き、扉を開くと其処には一糸纏わぬ姿の桂花が……風呂から出たばかりの状態で体を拭いていた。OH……コイツぁ、とんだToLOVEるだ。


「この……馬鹿ぁっ!!」
「ありがとうございましたぁ!?」


桂花は近くに置いてあった風呂桶をナイスコントロールな投球で俺の顔面に。
この後、俺は再度、春蘭に連行されて大将の前に引き連れて行くのだった。


後に話を聞いたら俺と大将が話をしている間に桂花も起きたらしく、月や詠の薦めで朝風呂へ。
その後、俺が月や詠と会ったが、その頃には桂花も風呂から上がったものだと思っていたらしく何も言わなかったらしい。
結果、俺は桂花の裸を拝ませて貰うというToLOVEるイベントに遭遇したのだった。

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第六十二話

大将からの二度目の説教が終わった後に朝風呂を済ませてから華雄隊の指導場所へ赴いた俺だが未だに二日酔いがキツい。詠から薬は貰って飲んだのだが大して効いてない気がする。ウコンか液キャベが欲しい……


「副長、大丈夫なん?」
「大丈夫だったら指導に加わってるよ……」


俺の付き添いで来てくれた真桜が心配してくれるが元気が出ない。俺と真桜は指導している華雄を遠巻きに木陰の下で見学していた。


「飲みすぎやで、まったく……」
「………歳かねぇ、俺も」


真桜の溜め息にフト溢した一言。昔はあの位、飲んでも平気だったんだけどな……


「ふ、副長……そんな、ツラいなら横になったらどないや?」
「ん……そうだな。少し横になるか」


真桜の提案に素直に乗ることに。いや、マジでそんくらいツラいんだわ。


「ほ、ほな……どうぞ」


真桜は俺の隣に腰掛けると自身の太ももをポンポンと叩いた。マジで?


「んじゃ……遠慮無く」
「わ、悩み無しかいな」


素直に膝枕を受け入れた俺に真桜は驚いた様だ。


「なんだ誘っておいて?」
「だ、だって副長……いつも、そんな簡単に話に乗らへんやん」


ああ……そういや確かに、この手の話には乗らなかったかもな。
ま、たまには良いだろ。


「少し寝るから……適当な時間で起こしてくれ」
「……それは、ええけど副長……なんで顔がこっち向いてるん?」


膝枕は普通、顔が外側を向くけど俺は真桜側に顔を向けていた。うん、心なしか元気になってきたゾー。


「……据え膳な真桜が悪い」
「思いきった、言い掛かりやでソレ」


あー……ヤバい。柔らかいし、絶景過ぎる色々と。普段から俺を、からかってる割には顔が赤くなってる真桜が可愛いし。
つーか、桂花と言い、華雄と言い、隙だらけなんだよ。男としては理性を総動員して耐えてるってのに……あ、ヤベ……マジで眠くなってきた。







◆◇side真桜◇◆




「副長、大丈夫なん?」
「大丈夫だったら指導に加わってるよ……」


二日酔いの副長が心配で元華雄隊の指導に着いてきたけどホンマにツラそうやな。ウチと副長は指導している華雄を遠巻きに木陰の下で見学していた。


「飲みすぎやで、まったく……」
「………歳かねぇ、俺も」


飲みすぎ、ちゅーよりも男女の仲を拗らせすぎなんとちゃう?ついこの間、華雄との事でもめたばかりやん。なんでウチには何もしてくれないんやろ……ウチの方から割と体くっつけたり、腕組んだりとかしてるんやけど……冗談混じりでやってるのがアカンのやろか?


「ふ、副長……そんな、ツラいなら横になったらどないや?」
「ん……そうだな。少し横になるか」


副長……もしかして、ウチには興味ないんやろか?もしかしてホンマに貧乳派なんやろか?試したろか。


「ほ、ほな……どうぞ」


ウチは副長の隣に座ってポンポンと膝を叩く。ま、ちゅーても副長の事やから何もせーへんやろうけど……


「んじゃ……遠慮無く」
「わ、悩み無しかいな」


え、えええっ!?副長はアッサリとウチの太ももに頭を乗せてきた。なんで今日は乗り気なん!?


「なんだ誘っておいて?」
「だ、だって副長……いつも、そんな簡単に話に乗らへんやん」


ううぅ……予想外や。それに顔がウチの方、向いとるし……普通、顔が外側向かへん?


「少し寝るから……適当な時間で起こしてくれ」
「……それは、ええけど副長……なんで顔がこっち向いてるん?」


副長は普通に寝ようとしとるけど、ウチはそれ所やない。副長の髪がくすぐったいし、副長が喋ると吐息が……うう……それにウチの服装やと膝枕の時ってアカンとちゃう?は、恥ずかしいわ……副長はウチの様子を見てニヤニヤしとるし。


「……据え膳な真桜が悪い」
「思いきった、言い掛かりやでソレ」


ホンマ……卑怯やわ。普段から何も感じてないみたいな態度取ってるのに、こんな時にそんな言い方。


「……すー……」
「副ちょ……寝てもうた……」


もう……期待させといて、そりゃないやろ。


「……もう……副長がズルいからウチもズルするわ……んちゅ……」
「……ん……」


ウチは寝てる副長の頬に口付けをした。副長が一瞬、身動ぎした気がするけど。
次は副長から口付けしてな……ウチは自分の唇を指でなぞりながら……そんな事を思った。

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第六十三話

先日の様々な騒動から一転。今は街の警邏に出ている。
しかし、油断はできない。なんせ大将の予想では袁紹は次に蜀に攻め入り、その後に魏に来ると予想してるのだ。


「その前に……華雄隊と俺自身を鍛えないとな……」


拳をグッと握る。街を……国を守る………それに……桂花や華雄、真桜、月、詠……っとイカンイカン……この間から気が緩んでるな。
でもなぁ……そろそろ、俺も我慢つーか………理性の限界と言うか。
この間の桂花の時は特にヤバかった。桂花が酔い潰れて寝なかったら最後まで行ってたぞ。
俺は煙管に火を灯して、そのまま街を行く。


「やれやれ……この世界に来てから目まぐるしいな」


俺は思う……なんで、この世界に来たんだろう……来てしまったんだろうと。
もう現代には帰れないのだろうか?いつかは帰れるのだろうか?
ずっと考えないようにしていた疑問が頭に過る。

もしも……もしもだが、俺がこの世界から現代に帰れないのだとすれば……俺はもっと自由に生きているだろう。
だが、怖いのはこの世界で大切な者が出来てから別れねばならない時だ。


「……愛美の時はツラかったなぁ……」


前の彼女と別れた時は悲しくなり、ツラかったが涙は流さなかった。だが今はどうだろう?
やるべき仕事も、親しい人も……愛しい者も……現代に居た時と同じくらいに出来てしまっている。
これで現代に帰る日が来ると思うと……ツラい。でも現代には俺の両親や友人達が居る。どちらかを選べなどとは残酷な選択だ。


「胡蝶の夢……か。笑えないな」


俺は右手に気を集中して気弾を作る。こんな事は当然の事ながら現代では出来なかったが今は出来る。
子供の頃、誰もが憧れた『かめはめ波』の習得や使ってみたいと思っていた技の数々を実際に使えるのは本当に夢の様だ。
いや、今朝も『爆砕点穴』を失敗した俺が言うこっちゃないが……普通に突き指したわ。
だが俺の技の習得具合を見ても異常とも言える。本当に夢の中の出来事みたいに。
今のこの俺は夢の中なのか?もしも、この夢から覚めたら桂花達との事は単なる夢の中の話なのか?
あまり良い考えとは言えない思考が頭の中をグルグルと回る。
一刀は大将に『今』を考えなさいと言われたらしい。確かに先の事を考えて、今が駄目になるなら目の前の事を全力で生きろって事だろう。


「でも………いつかは、答えが出るんだよなぁ……」


フゥーと紫煙を吐く。空に消えていく煙みたいに俺の悩みも消えてくれれば良いのに。


「あ、純一さん!」
「ん……おお、一刀。そっちも警邏か?」
「お疲れさまです、副長」


凪を共にしている一刀が俺を見つけて歩み寄ってくる。


「お疲れさん。一刀、なんか疲れた顔してんな、なんかあったか?」
「あ、あはは……」
「春蘭が……いえ、何も言わないでください」


俺の問いに苦笑いの凪に一瞬何かを言いかけて口を閉ざす一刀。
春蘭か……何をしたんだか。なんやかんやで一刀に文句が多いけど何かと信頼してる節はある。


「愛されてるねぇ……一刀」
「……む」


俺の発言にムッとした顔の凪。お前さんも含めて一刀は非常に愛されてるよ。


「愛って……なんなんでしょうね」


疲れきった顔で俺に問いかける一刀。大将に何か無茶振りをされたか春蘭に追いかけ回らせたからだな、この顔は。
だが若者の悩みを聞くのも大人の勤め。答えをやろう。


「愛は……躊躇わない事だろ」
「誰も、そんな宇宙刑事的な返しは望んでませんよ」



『爆砕点穴』
らんま1/2の響良牙の必殺技。
岩や地面の「ツボ」を押し、爆破するように砕いてしまう。 
土木技であり、北斗神拳とは違って人体には無害だが爆破した岩などの石つぶてで攻撃が可能


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第六十四話

一刀から鋭いツッコミを貰った後、各々の担当する地域へと向かう為に再度、別れて警邏に励む。とは言っても俺の担当はもうすぐ終わるので後は城に帰るだけだ。


「旦那!」
「っと……服屋の親父さんか」


不意に呼ばれた渾名。そう、俺は此処の職人さん達に『旦那』と呼ばれているのだ。と言うのも魏に来てから俺は大将から許可を貰った後に、この国の職人さん達に服や武器、料理の話を色々と話したのだ。
その結果、俺は頼りになる知恵袋として職人さん達と仲良くなり、今では旦那と呼ばれるようになっていた。ちょっと銀さんみたいな気分だ。


「旦那、見てくださいよ!旦那に教えて貰った天の国の服、もうバカ売れですよ!」
「そりゃ良かった。教えた甲斐もあるよ」


服屋の親父は興奮気味に俺に話しかけてくる。この世界では何故か、現代と変わらん服や小物があるから教えても大丈夫だろうと現代で流行ってる服や昔流行った服を教えた途端に服屋の親父はそれを作り始めた。
まあ、俺の趣味も多少は入ってる。月や詠のメイド服なんて良い例だ。


「それで旦那……旦那に頼まれてた服、出来ましたぜ」
「ナイス……じゃなくて、ありがとう」


服屋の親父は風呂敷に包んだ服を俺に手渡す。少々大きめだが、それは服が数着入ってるからに他ならない。


「しかし……今回も良い仕事が出来ました。曹洪様や于禁様にもお礼を」
「ああ、必ずしとくよ」


コソコソと話す俺と服屋の親父。実は服に関しては栄華の全面バックアップがあったりするのだ。以前にも話したが俺の服のアイディアで経済が潤う&可愛い服が得られると二重取りの状況に栄華が『国で支援します』と言い放ったのだ。まあ、流石に贔屓になるから表立っては言わないけどね。
実はこの話は服屋だけに収まらない話なのだ。

例えば武器屋だが、カラクリ好きな真桜が俺の発案の武器を作り、武器屋の親父がそれに感化されて色々作り、強い武具が出来るなら我等も協力すると春蘭以下、武将が話をする程。

更に料理屋は大将や凪といったグルメな者達が率先している。料理人である流琉や秋蘭が様々な天の国の料理を作り上げ、それを大将や凪が試食して市場に話が通る。


それぞれが趣味にハマり、更に国が潤い、人の為になる。こんな良い循環が魏では起きている。まあ、それに付け込んでくる悪い奴等も居るがそこは警備隊の出番だ。
そんなこんなで、国の重鎮がそれぞれにバックアップしている様な状況なのだ。だが、おおっぴらに国の支援の形じゃ体裁の問題もあるので俺や一刀が間に入って調整をする形なのだ。その過程で俺の私事も入っても問題はあるまい。
だって今回頼んだ服とか詠に絶対に似合う筈だし。


「皆様には絶対に似合う服だと確信を得ております」
「ありがとう服屋の親父。俺も、同じ意見だ」


俺と服屋の親父は熱い握手を交わしていた。この親父も中々のやり手である。
この後、服屋を後にした俺だが武器屋と料理屋で同じやり取りをする事になった。
とりあえず頼んどいた木刀が来たから一刀に渡しとくか。



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第六十五話

「ふぅぅぅぅ……はっ!」


深い呼吸の後に振り下ろされる一刀の木刀。
俺が武器屋から預かった物を渡したのだが思った以上にに手に馴染んでるみたいだな。


「おー……しかし、思ったより様になってるな」
「ハハハ……部活でやってたのとジイちゃんに習ってたので」


俺は亀仙流の胴着を着て、一刀の素振りを見ていた。謙遜する一刀だが、体の芯がピンと伸びてるから才能は有るんだとおもう。


「……って言うか純一さん。亀仙流の胴着似合ってますね」
「そうだろう?自分でもビックリだ」


似合う以上に、この胴着の着心地が良いのだ。動きやすいし、馴染みが良い。服屋の親父、恐るべし。


「あれ、隊長と副長、何してるん?」


一刀の素振りが勢いに乗ってきた頃に真桜が来た。後ろには凪、沙和、霞と続いてる。


「最近、鈍ってきてるから体を動かそうと思ってな」
「俺はいつもの新技開発だ。後は一刀の素振りを見学かな」


真桜は一刀の素振りに疑問を抱いた様だ。まあ、確かに普段の一刀は鍛練とかするイメージないしな。


「隊長は武術の心得があったのですか?」
「ん……まあ、少し齧った程度だけど」


一刀は素振りを中断して凪達と向かい合う。


「そうでしたか……隊長、私と手合わせしてくれませんか?」
「え、俺が凪と!?敵うわけないじゃないか!」


凪の提案に一刀はオーバーリアクション。どんだけ自分の弱さにコンプレックス抱いてんだよ。


「敵う、敵わないじゃなくて手合わせなんだから、試しにしてみろよ。勝ち負けに拘らずにな」
「は、はぁ……じゃあ、頼む凪」
「はい、胸をお借りします!」


俺の言葉に意を決したのか、一刀は木刀を握り、凪は拳を構えた。


「ほな、ウチが立会人になるわ。双方、始め!」
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「でりゃぁぁぁぁぁっ!」


霞の合図に一刀と凪は同時に動いた。
一刀は木刀の分、リーチがあるから少し優勢に戦っているが凪は将として戦い続けた経験則がある。まあ、凪が勝つだろうな。


「あら、一刀に武術の心得あるとは意外だわ」
「なるほど……だから警備隊に入ってそれなりに働けたのですね」
「うーむ」
「でも腕は大した事ないわね」


二人の戦いを観戦していたら大将、秋蘭、春蘭、桂花とゾロゾロと来た。皆、休憩かい?


「ほう……北郷の武術は変わってるな」
「天の国の武術なのかしら?」
「恋殿の方が強いのですぞ!」


とか思ってたら華雄、詠、月、ねね、恋と勢揃い。
月は救急箱を持ってきてる。本っ当に良い子だよなぁ。


「双方、それまで!」


等とそうこうしている間に決着がついた。結果は予想通り凪の勝ちだ。
そして大将は一刀の剣、と言うか『剣道』に興味を持った様だ。まあ、この時代の武とは明らかに違うからな。
一刀が剣道の在り方を大将達に説明していると先程の戦いに感化された春蘭が一刀に戦いを挑んだ。

大将の命により『一刀VS春蘭』の戦いが決定。
一刀よ、骨は拾ってやるから全力で戦ってこい。
なーんて思ってたら俺の胴着の袖がクイッと引かれた。視線をそちらに移すと恋が俺の胴着の端を指で引っ張っていたのだ。


「どうした恋?」
「………恋も」
「あら、恋は純一と戦いたいみたいね」


小さく哀願する恋に大将はニヤリと笑みを浮かべた。
え、これ……死亡フラグ?


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第六十六話




はて……どうして、こうなった?
俺と恋、一刀と春蘭が戦う事になってから30分程しか経過していないのに観客席から実況席まで出来上がってる。
警備隊の連中も警邏に出てる奴以外は全員揃って見に来てるみたいだし。いや、警備隊だけじゃなく、城の中の者が殆どギャラリーとして来ているな、この人数だと。


「さぁーて、これから始まります御前試合。実況は私、皆の妹事、地和がお送りします!解説は華琳様と桂花様!」
「よろしく、お願いするわ」
「どっちも死ねばいいのに」


地和は最近、実況が板に着いたな。大将は兎も角、桂花は単なる野次……と言うか罵倒だ。


「さぁて!今回皆様にお送りする対戦は……魏の大剣と名高い春蘭様!対するは魏の種馬、北郷一刀だー!」
「フハハハー!北郷など、一撃で倒して見せるわ!」
「いや、完全武装!?」


ノリノリの紹介に春蘭は乗り気な対応をしている。
と言うか春蘭、フル装備だよ。完全に戦に行く体勢だよアレ。
対して一刀は少々ボロい鎧に木刀。しかも、あの鎧って一刀が警備隊に入ったばかりの頃に先輩から貰ったお下がりって聞いてるし。

この状況……なんつーか、ライオンの前にチワワが居る錯覚が見えるんだが。
だが、俺も人の事は言ってられない。なんせ相手が……


「………………」


ポヤンとした顔で俺を上目使いに眺める少女。この子が天下の飛将軍などと誰が思うのだろうか。
いや、しかし油断など出来ない。俺は直接確かめた訳じゃないが恋は黄巾の本隊三万を一人で相手をしたと聞く。最初は『んな、バカな』等と笑ったが今は笑えない。
なんせ、さっき地和が顔を会わせた時に、めちゃくちゃビビってた。それは即ち、先程の話が偽りじゃないと確信を持つのには十分すぎる証拠だ。どうりで、このお祭り騒ぎに天和が騒がないわけだよ。怖がって萎縮してるんだもん。人和は冷や汗、流してたし。

まあ……今、冷や汗を流したいのは俺や一刀な訳だが。
一刀と春蘭の戦いが始まったか。まあ、予想通り、一刀が春蘭に追いかけ回されている。だが、なんやかんやで春蘭の太刀を避けているのだから大したもんだ。
明らかに一刀が不利な状況から、大将の発案でハンデが付いた。
それは『一刀は春蘭に一撃を与えたら勝ち。逆に春蘭は一刀を完全に倒さねば勝ちにはならない』とまあ、物凄いハンデだ。
だが、春蘭相手ではこのハンデも意味を成さないだろう。


「どうした、北郷!華琳様に出された条件なら私に勝てると思ったか!?」
「どわぁぁぁぁぁぁぁっ!」


春蘭の大剣が一刀の頭上を掠める。頑張れ、一刀。生きて帰ったら今夜は俺が酒を奢ろう。
そして、決着の時は来た。


「あ、アレはなんだ!?」
「バカめ、そんな手に引っ掛かるか!」


一刀は春蘭の背後を指差しながら叫ぶ。流石の春蘭もそこまでバカじゃなかったか。


「あ、華琳が色っぽい姿に!」
「なんだとっ!?」


あ、今度はアッサリと引っ掛かった。大将が絡むと頭のネジが緩むな春蘭。
そして、その隙を突いて一刀の軽い一撃が春蘭に当たった。それは即ち、一刀の勝利を意味する。
その後、春蘭は今の戦いを抗議したが一度、決着した戦いに異論を挟むなと大将の鶴の一声で終わる。
さて……次は俺の番か。


「双方、前へ!」
「………ん」
「………応」


審判をしている霞の声で俺と恋は向かい合って互いを見る。
恋の右手には専用の武器の方天戟。さて、どうするか……いや、恋を相手に小細工は無用か。


「始め!」


霞の合図が出たと同時に俺は両手を既に腰元に構えていた。先手必勝!


「波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ちょ、いきなりかいなっ!?」


俺が溜め無しで放った、かめはめ波に霞は驚きながら数歩引いた。流石にあの距離では自らも巻き込まれると思ったのか良い判断だ。


「…………ん」 


対する恋は迫るかめはめ波に左手を翳して……って、まさか!?
なんと恋は左手で俺のかめはめ波を受け止めると、そのまま左後方へと投げ飛ばしてしまった。
あまりの光景に俺は疎か、周囲のギャラリーでさえ静まり返ってしまっている。


「少し……痺れた」
「あ……そ、そう」


俺が不意打ちに近い状況で全力で放った、かめはめ波は恋の左手を少し痺れさせる効果しかなかった様だ。
これは俺のかめはめ波が弱いのか、恋の戦闘力が桁外れなのか……いや、考える暇は無さそうだ。


「次は……恋が行く」


方天戟を右手で構える恋に俺は『私の戦闘力は53万です』と何故か幻聴が聞こえた。

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第六十七話




初めてラディッツに会ったときのピッコロって、こんな気持ちだったんだね。勝てる気がしないよ。
不意打ちに放った、かめはめ波は全く通用しなかった……さて、どうする?

①操気弾
②猛虎落地勢
③邪王炎殺黒龍波
④セクシーコマンドー


ダメだ……ろくな選択肢が出てこない。俺が自爆するか負ける未来しか見えない。
①かめはめ波が通用しなかったんだから操気弾なんか絶対に効かない。
②謝って済むなら、こんな戦いは起きなかったし、この状態で恋が止まるとは思えない。
③右腕が使い物にならなくなるっての……しかも恋なら黒龍波返しとかしそうだし。
④論外だ。使ったら女性陣が総出で俺を殺しに来るな。


「………行く」


って、考えてる時間も無い!恋は方天戟を振りかぶって俺に迫る。


「危なっ!?」
「……避けた?」


迫る方天戟をギリギリで避ける事が出来た……と言うか恋も手加減してくれてるんだろうな。じゃなかったら俺が恋の攻撃を避けられる筈がない。


「仕方がないな……ならば見せてやるよ」
「………?」


俺の台詞に恋は小首を傾げる。ああ、もう……可愛いな恋は。って和んでる場合じゃない。


「はぁぁぁぁぁぁぁ………界王拳!」
「………変わった?」


そう、俺が使ったのは界王拳。ここ暫く鍛練が出来なかった代わりに俺は体内の気のコントロールを独学でだがやっていた。その結果、短時間だが界王拳擬きが使える様になった。だが、この技はデメリットの方が大きい。


「だあっ!」
「………恋も……本気で行く」


俺の蹴りを防いだ恋は俺の強さが先程までと違う事に気付いて、目付きが変わった。あ、コレはマジの目だ。
放たれる方天戟の一撃を身を低くして避けた俺は勢いをそのままにアッパーを放つがアッサリと見切られて避けられてしまう。


「す、すごい……恋と戦えてるなんて……」
「いつもの副長じゃないみたいなのー」


詠の驚愕の声と沙和の意外そうな声が聞こえた。沙和は後で覚えとけよコンチキショウ。
なんて意識が少し逸れた所でスッと力が抜ける感覚が来た。げ……まさか、もう!?


「や、やば……」
「………秋月!」


俺の意識が飛びそうになったと同時に桂花の声が聞こえた気がした。
俺は体から力が抜けて前のめりに倒れそうになる。あ、ヤバい…………と思ったら、なんか顔に柔らかい物が……
目を開けてそれを確認すると、そこには恋の胸が。
あ、そっか……倒れた拍子に恋の胸に顔を埋めてしまったのか……アハハー


「何をしてんのよ!(のですかー!)」
「ぐふぉっ!?」


背中に凄まじい衝撃が!振り返れないけど多分、桂花とねねが同時に俺の背中に飛び蹴りを入れたな。超痛い!


「やれやれね。純一、その技……恋と一時的にとは言ってもマトモに戦えたのは見事よ。でも時間制限付きでは話になら無いわ」
「ごもっともです……」


大将はアッサリと界王拳擬きの欠点を見抜いていた。そう、俺の界王拳は体内の気を爆発的に消費する為に発動時間が極端に短い。多分1分くらいだ。しかも本来の界王拳と違って、いきなり力が抜けてしまうので、今みたいに急に体が動かなくなる。車やバイクがガス欠で急に動きが止まるのと同じだな。
アレだな、急に力が抜けて動けなくなるのはマリオがスターで無敵状態になるけど時間が来たら解除されて、その直後にクリボーにやられる的な。


「で……いつまで恋の胸に顔を埋める気?」
「い、いや……体が動かないから……俺にはどうにも……」


絶対零度の様に冷えきった詠の声に俺はマジでビビった。いや、だって本当に背筋が冷たくなってるんだもんよ。恋は恋でなんか俺の頭を撫でてるし。


「だが、そのままと言う訳にもいかんだろう。私が運んでやる」
「え……うわっ!?」


華雄の声が聞こえたと思ったら急に体が浮いた。視線を上げれば華雄が俺を抱き上げていた。お姫様だっこで。


「あの……華雄?流石に男がこの抱き方されると恥ずかしいんだが」
「ふ……お前は体が動かないのだから我慢しろ。私に身を委ねていればいい」


俺の言葉に華雄はキランと星が出そうな笑みを浮かべた。あらやだ、イケメン。
そのまま、華雄は俺を部屋まで運ぼうとするが桂花が呼び止める。


「ちょ、ちょっと!秋月はこの後、私と警備隊の会議だったのよ。部屋に行くなら私も行くわよ!」
「あ……純一さんがお部屋に戻るなら私も……」
「そうね、その体じゃ仕事になら無いでしょ手伝うわ」


桂花を皮切りに月と詠も同伴を申し出てくれた。真桜も着いてこようとはしたけど、お前はこの場の後片付けがあるだろうが。


「あっとそうだ……大将」
「なによ?」


俺は力が入らない体を無理をしながら大将に話しかける。華雄に頼んで顔を近づけて貰ってから大将の耳元に手を添えて……


「さっき一刀……カッコ良かっただろ?ちゃんとカッコ良かったって言ってやれよ?」
「~~~~っ!」


大将だけに聞こえる様にボソッと言ってやると大将は顔を赤くした。やはりな。さっきの一刀と春蘭の戦いの時に一刀を見詰める顔が所謂『恋する乙女』になっていた。ギャラリーは当然、戦いを見ていたから大将の表情を気にしている者は居なかったから知っているのは俺だけだろう。


「バカを言ってないで、さっさっと体を治しなさい!」
「いだっ!あー……体は夜には治ると思う。体力が無くなっただけだし、休めば治るさ」


大将のデコピンか額にヒット。体が動かない状態でのデコピンって結構痛い。
周囲には大将が怒って顔が赤くなったように見えているが、ありゃ図星を指摘されて顔が赤くなった口だな。


「ちょっと……華琳さまと何を話したのよ?」
「んー……今後のあり方かな?」


桂花に質問されるが……うん、間違ってない筈。大将と一刀か……面白くなりそうだ。










因みにこの後、部屋に戻った俺だが……


「純一さん、お茶をどうぞ」
「大体ね、アンタは普段から……」
「秋月、先程の界王拳だが……」
「なあなあ、副長。からくり同好会の次の活動なんやけど……」
「ちゃんと寝て休まないとダメなのですぞ!」
「なんで、ねねも秋月と一緒の布団で寝てるのよ!」


この日、俺の部屋に月、桂花、華雄、真桜、ねね、詠が見舞いとして入り浸っていた。
ねね、心配してきてくれたのは嬉しいけど俺の布団に潜り込むのは止めなさい。



『猛虎落地勢』
らんま1/2の無差別格闘の早乙女流に伝わる奥義。
怒り狂う相手の前で、即座に平身低頭身を投げ出し、深々と謝罪の意を述べて相手の怒りを逸らす。
要するに、ただの土下座である。

『邪王炎殺黒龍波』
幽々白書、飛影の最強の技。自らの妖気を餌に魔界の炎の黒龍を召喚し、放つことで相手を焼き尽くす技。 

『黒龍波返し』
黒龍波を受け止めて術者に投げ返す力業。武威が使用。

『セクシーコマンド』
すごいよマサルさんのタイトルにもなっている格闘技。
通常の格闘技によく使われる『フェイント』を技に昇華している。分かりやすく言えば、相手の隙を無理矢理引き出す為、楽に攻撃を当てられる。
技の中にズボンを下ろしたり、チャックを開けたまま戦うなど若干、下ネタが多い。


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第六十八話

◆◇sid桂花◇◆


その日は……朝から戦場だった。


「桂花……お前は秋月を好いているのか?」
「ぶふっ!?」


警備隊の事もあり、秋月、北郷、華雄と会議をしていた私だけど華琳様に呼ばれて秋月と北郷が居なくなってから華雄が妙な事を口走った。私は飲んでいた、お茶を思わず吹いてしまう。


「あ、あんた……急に何をとち狂った事、聞くのよ!?」
「なんだ違うのか?」


私が叫ぶが華雄はサラリと聞き流す様に返してくる。本当に反董卓連合の時とは別人ね。


「あ、あのねぇ……私は男なんか大っ嫌いなのよ!まして秋月なんて会った時から私に害を成す疫病神よ!」
「ほぅ?ならば私が秋月と恋仲になっても、桂花には不都合はないのだな?」


何よ、急に……別に秋月が誰と一緒になったって私は……


「ふむ……ならば今日の夜にでも秋月を誘うとするか。そのまま酒に誘って……」
「勝手にすれば?私よりも胸があるんだから秋月も喜ぶんじゃないの?」


勝手にしなさいよ。それに秋月もきっと華雄の方が良いと言う筈……私みたいに可愛いげがない女なんて……


「桂花………それは嫌みか?私は確かに桂花よりも胸はあるが全体的に筋肉質だ。お前の様に柔らかな女らしい体ではない」
「あんたこそ、嫌み?出るとこ出て、引っ込むところが引っ込んでるなんて羨ましいんだけど」


華雄の発言にイラッと来た。何よ……胸があって、腰が細くて、足がスラッとしてるなんて反則よ。華琳様は別格だけどね。


「私からしてみれば普段の桂花が嫌みだがな。普段から秋月と共にいる機会が長いし、何よりも桂花と話している時の秋月は何処か、安らかな気を放っているぞ」
「はん、当然よ。あいつの面倒を誰が最初に見たと思ってるの?」


そうよ、私があの馬鹿の……って何で、こんな話になってるのかしら……華雄に、あの馬鹿を取られると思うと……こう、胸の辺りがモヤモヤと……


「そうか……だが、私が奴と恋仲になれば、それも私のものだがな」
「………勝手ばかり言ってるんじゃないわよ!あの馬鹿は私が……」


そう嫌だ……あの馬鹿が……


「ただいまー」
「…………おかえり」


私の思考を止めたのは私と華雄の対立の原因本人だった。
呑気にヘラヘラとコイツは……


「ん……何、この雰囲気?」
「桂花……勝負は夜だ。勝った方が夜、秋月と共に過ごす」
「わかった……でも私が勝つわよ」


私と華雄は睨み合う。事情を知らない秋月はオロオロと私と華雄を見比べていた。




そして夜になり、夕食の時間。秋月は城の外で夕食を食べさせている。
私と華雄は城の食堂で席を挟んで睨みあっていた。
そして私と華雄の間に居るのは霞と流琉。


「ほな、呑み比べ勝負開始や。審判はウチが勤めるわ」
「あ、あの……無理はしないで下さいね」


そう、私と華雄は呑み比べで勝負する事になった。武では華雄が有利だし、知では私が有利だ。
勝負を公平にする為にお酒の呑み比べ勝負となってしまった。と言うか審判が一番の飲んべえって大丈夫なのかしら?まあ、流琉も居るし大丈夫よね。
それに私も華雄も明日は非番だから酔いつぶれても問題ないし……いや、問題有るわね。酔いつぶれたら、華雄の勝ちになってしまうから。


「ほな、呑み比べ開始や!あ、流琉。おつまみ、よろしゅう」
「はーい」


霞に頼まれて早速、ツマミを作りに行く流琉。本当に審判する気、あるのかしら?




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第六十九話




その日、俺は一刀、桂花、華雄と警備隊の今後について話をしていた。
袁紹との戦が目前に迫る中、やはり街の安寧を考えるのは警備隊の仕事なのだから。
まあ、会議とは言っても警邏で回る場所とか時間やシフト関係の話が主な訳だが。
そして、ある程度話が進んだ所で大将に一刀と共に呼ばれた。俺と一刀が呼ばれたって事は未来の話関係か。

急いで玉座の間に行った俺と一刀だがやはり話の内容は未来……と言うかこの国の歴史の事だった。
実はこの手の話になると俺は口出しができない。何故かと言えば、俺は三国志の事は既に記憶が薄れている。一刀はまだ学生で授業とかでやった所なら覚えているのだろうが俺は既に大まかなストーリー以外は忘れているのだ。
流石にメジャーな武将の名前は覚えてるけど歴史背景とかはサッパリ。

と言う訳で今現在は大将と一刀の話を聞くばかりだ。まあ、大将は未来の歴史は重要視はしておらず、寧ろその事を話したら罰を与える的な口ぶりだ。大将の気質を考えれば未来が決まってるなど許せないんだろうけど。

そして話が一通り終わると俺は退室した。大将はまだ一刀に話があると言って残らせたけど……まあ、言うだけ野暮か。
と、思いつつも余計な世話を焼くのは年上の性か。俺は一刀には聞こえないように大将に耳打ちする。


「大将……一つだけ御進言を上げますが、一刀はハッキリと言わなければお気持ちが伝わる事がないとだけ言っときましょう。鈍感なんでね」
「~~~~っ!大きなお世話よ!!」


ハッハッハッ、鈍感な学生と素直になれないツンデレ少女の恋愛は良いものだ。俺は大将の拳や蹴りを避けながら、そんな事を思っていた。
……………イカン、かなりオッサンの思考になってきてる。


「隙有り!」
「あいたっ!?」


一瞬の隙を突いて大将の拳が俺を捕らえた。流石、覇王様。相手の隙を見逃さない。


「いい……今後、そんな事を言ったら……」
「こんな時代なんだ……むしろ言わなきゃダメなんじゃねーの?」


俺をマウントポジションで殴り掛かりそうになっている大将。だが俺の一言に動きを止める。
そして俺の上から降りると俺に退室する様に促した。


「純一……話はわかったわ。だったら……今度、話に付き合いなさい」
「はいはい、大将の頼みにゃ断れませんな」


俺は立ち上がり、踵を返しながら玉座の間を後にした。
あれ?なんか思った以上に話が通用したぞ。なるほど、覇王様は恋愛が不得手……止めた。なんかこの思考を続けるとろくな事になりそうにない。サッサッと桂花と華雄の所に戻ろ。


しっかしまあ……平和だよな。いや戦の話をしたばかりで、こんな事を思うのは変だと思うが。
街の警備の話にしても、先程の大将の話にしても平和の中での会話がして俺は気が安らかになっていた。

って、ちょっと待て……ヤバいぞ……こんな事を思ってると所謂、戦争映画とかで『ほんわかしてる時に急に死んで場を引き締める役』みたいなポジションになってる。
特に俺は何故か戦場で武将の方々に遭遇する率が妙に高いんだ。胡軫なんか良い例だ。確かに挑発したのは俺だけど、まさか、いきなりロックオンされるとは思わなかった。
なんて考えていたらさっきまで会議してた部屋についていた。待たせたし怒ってるかな?


「ただいまー」
「…………おかえり」


部屋に入ると桂花と華雄が睨み合っていた。桂花が俺に返事をしてくれたけど妙に怒ってる。なんかジト目で睨まれた。


「ん……何、この雰囲気?」
「桂花……勝負は夜だ。勝った方が夜、秋月と共に過ごす」
「わかった……でも私が勝つわよ」


え、ちょっと会議から抜けた間に何があったの?なんかスゴい剣呑なんだけど。
うーむ、この状態を打破するには……そうだ夕食にでも誘って話を……


「秋月、今日の夕食は外で食べてきて」
「申し訳ない。だが必要な事なのでな」


俺が話を切り出そうとしたら桂花と華雄に背中を押されて部屋から追い出された。
あー……なんだろ。妙に背中が煤けてる感じ……心に風が吹いてるみたいだ。

俺は煙管に火を灯して夕飯、何食べよーかなー……と考えていた。
寂しくなんかないんだからね!誰に言う訳でもない言葉を心の中で叫びながら俺は街に行く事にした。

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第七十話




◇◆side詠◇◆


僕達が魏に来てから暫く経過した。最初は名前を捨てなきゃならなかったり、侍女の仕事とする事になった時は眩暈がしたわね。
でも天の国の侍女用の服は可愛いし……何よりも月が生き生きとしているのが嬉しい。
反董卓連合の時の月は凄く気落ちしてたけど、この国に来てから月は本当に遣り甲斐のある仕事にありつけたと言わんばかりの雰囲気。最近では月がメイド長、僕がメイド副長なんて呼ばれてる。
まあ、僕としても現状の仕事に不満はないわ。


「おっちゃーん、お酒おかわり」
「副長さん、今日は飲み過ぎなんじゃないかい?」


訂正。不満はあるわね。
僕と月は珍しく同じ日に休みを貰った。街中で買い物をしたり、お茶をして楽しんで。そして夕御飯を食べてから帰ろうかと話をしていた時に秋月と会ってしまった。
秋月は詳しい事情は話さなかったけど、城で夕食を食べる事が叶わなかったらしく、外に食べに来たのだと言う。
話の流れから秋月、月、僕で一緒に夕飯を食べに行ったのだが、秋月が妙にお酒に溺れていた。
秋月がお酒好きなのは知ってたけど、こんなやけ酒みたいな飲み方をしているのは初めて見た。


「じゅ、純一さん。飲みすぎですよ」
「んー……月は優しいねー」


月が秋月の心配をすると秋月は月の頭を撫で始めた。ちょっと、勝手に月の髪に触るな!


「へ、へぅ……純一さん……」
「ゆ~え~」
「調子に乗るな!」


月を抱き締め始めた秋月に僕の我慢は限界に達した。僕は秋月の手の甲を思いっきりツネ上げる。


「痛ったたたた!冗談だって、酔っぱらいの戯言と見逃してくれ」
「それで見過ごしたら警備隊は要らないでしょ!桂花や華雄が居ないからってハメを外しすぎよ!」


いつもの調子とは違う秋月を叱る僕。でも、その直後、怒りは四散した。
桂花と華雄の名を出した途端に秋月は酔いが急に覚めた様に静かになって月を離したのだ。え、ちょっと急にどうしたのよ……それにさっきの顔……


「ごめんな月。少し飲み過ぎちまったな」
「あ、いえ……そ、その……」


秋月の急な態度の変わり様に月も混乱してる。ちょっと……何があったの!?


「少し煙草、吸ってくるわ。おっちゃん、まだ飲むから酒だけは用意しといて」
「へい。でも次を最後にしてくださいよ。あんまり飲ませちまうと、そっちの嬢ちゃんに叱られそうだ」


店の店主に話し掛けて外へ出る秋月。店の店主は苦笑いに成りながらも、お酒の準備は進めていた。


「ね、ねぇ月。さっきの秋月、変じゃなかった?」
「うん……まるで寂しさを紛らわせるみたいに、お酒飲んで空元気を出してるみたいに思えたよ」


僕が月に問うと月も同じ違和感を感じていたのか不安そうな顔つきで僕に話しかけていた。
何があったんだろう……秋月はいつも笑っていて、悩みなんか微塵も感じさせない人。どれだけ仕事で失敗しようが、自らの技で自爆しようが周囲を心配させない様に笑ってる。
北郷や他の武将達も秋月が年上なのも含めて頼りにしてる。
だから、こんな秋月は初めて見た。


「あ、本当に月と詠なのです」


なんて僕が考え事をしていると店に、恋とねねが入ってきた。本当に、なんて言う辺り誰かから僕達が此処に居ることを聞いたのかしら?


「外で、とーさ……秋月が煙草を吸ってたのです。『月と詠も居るから一緒にどうだ?』なんて言ってたから来てやったのですぞ」


途中で言い直したけど、ねねは秋月の事を『とーさま』と呼ぶことがある。本人の前や兵士の前じゃ言わないように気を付けているみたいだけど、僕達の前だと時おり呼び方が、とーさまになっていた。
ねねは昔、生まれた村を追い出された過去があるって聞いたから尚更、秋月に父親を求めているのね。


「しかし……あの酔い方を見ると、やはり原因は桂花や華雄なのですぞ」
「………ん」


ねねは入口と言うよりも外に居るであろう秋月の方向を見て呟いた。恋もそれに同意する様にコクリと頷いている……って、ちょっと待って。秋月があんな状態の理由を知ってるの?


「桂花と華雄が秋月の取り合いをしたのです。勝負の仕方は飲み比べ。勝った方が今日の夜に秋月と共に過ごすとの事。そして秋月に知られると恥ずかしいからと桂花と華雄は秋月を除け者にして、今は城で勝負の真っ最中なのです。しかも秋月にその事を告げずに」


呆れた……桂花と華雄の勝負はわかったけど当人をほったらかしにすれば、却って印象悪くなるのに。秋月は除け者にされて落ち込んでたって所かしら。
まったく……爪弾きにされて落ち込むなんてコイツにしては……え、でも……ちょっと待って。そんな事で、空元気を振る舞わなくちゃならないなんてコイツらしくない。酷く脆い物を見ている様だ。まるで拠り所を失い、怖がっている迷子の様に。


「ふー……少し落ち着いた。恋、ねねも好きなもの食べていーぞ」
「………ん」
「言われなくても、そうするのです!」


煙草から戻ってきた秋月が席に戻ってきた。恋やねねも席に座らせると先程、店主に最後にしてくれよと言われた酒を飲み初めて、恋とねねには料理をご馳走して。
すっかり、いつもの秋月に戻ってる。僕はその事に胸がチクリと痛んだ。つまり、僕達は秋月の心の拠り所になれてない。気を使い、助け守らなきゃいけない存在。
秋月は否定するだろうけど………僕達は秋月の重石になってる。
そんな事もあってか僕は秋月を『頼りになるけど、頼っちゃいけない人』と感じていた。


「どうした詠?飲まないのか?」


僕が席にも着かずに立っていたのが気にかかったのか秋月が僕を呼ぶ。
どうするか……もう決めちゃった。


「座るわよ。それよりも、もうそれ以上は飲まないでよね」
「ああ、御無体な!?」


僕は秋月の持っていた徳利を奪う。既に半分も飲んでる……まったく……


「これ以上はダメよ。飲むなとは言わないけど量を考えなさいよね」
「って!」



僕は徳利を持つのとは逆の手で秋月のオデコにデコピンを当てる。
僕はまだ桂花や華雄みたいに、心を許されてないみたいだけど……だったら信頼されるまで世話焼きさせて貰うわよ。
僕は秋月のメイドなんだから。

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第七十一話

更新遅れて申し訳ないです。理由の方は活動報告の方に書きました。


◆◇side桂花◇◆


華雄と飲み比べ勝負をしてから、どれくらいの時間が経過したかも分からない……ひっく……


「わ、わらしは……まだまだ平気よ……」
「ふ、ふん……抜かせ。呂律が回らなくなって来てるではないか……」


私と華雄は机を挟んで、にらみ合いながら酒を飲む。こいつ……いい加減に潰れなさいよね……


「あちゃー……まさかここまで本気の勝負とは思わなかったわぁ」
「ど、どうしましょう……霞さん」


私達の後ろでは霞と流琉が慌てた様子で私達の勝負を見守っていた。


「奴は……あの男は私が守らねばならん。そして、その役目は私のものだ。貴様ごときに先に譲る気はない」
「ふん……言ってくれるじゃない。アンタにアイツの何がわかるのよ……あの馬鹿の笑ってる顔も嫌な顔も……全部、私のなのよ」


華雄と私の言い争い。どっちも互いに譲らない話……の筈だった。


「だったら……その時点で桂花の敗けだな。何故、私が奴を守ると言ったと思う」
「どういう意味よ……」


華雄の意味ありげな言葉に私は食いついてしまう。あの馬鹿は私と一緒の時間が長いんだから私よりもアイツを知っているとは考えづらい。


「アイツは………秋月は強い様に見えて、ひどく脆い。最近のアイツは先の見えない暗がりを恐る恐る歩いている様に見える。桂花……さっきお前は秋月はお前のものだと言ったが……奴の苦しみはわかってやれていたの……か……」
「何よ……私がっ!……寝ちゃった……」


私が何かを反論しようとしたら華雄はそのまま机に顔を預けて寝てしまった。やっぱり限界だったんじゃない……。
でも気になる事、言ってたわね……秋月が強い様に見えて、脆いって。


「まったく……飲みすぎやで。審判役はツラいなぁ」
「私達よりも飲んだくせに、よく言うわね」


私が考え事を始めると、霞が華雄に肩を貸して無理矢理、立たせた。


「審判役なんかやってると酒を飲んでも酔えへんのや。特にこんな話されとったらな」


私と華雄にとっては真面目な勝負だったけど霞や流琉は巻き込まれた側だから大変だったのかしら。


「ま、今日のところは桂花の勝ちな。片付けは流琉がやるし、ウチは華雄を部屋に運ぶから……お楽しみしてきたらー?」
「な、何を……た、確かに、それを賭けた勝負だったけど……私は別に……」


霞の言葉に動揺して、素っ気ない言葉を出そうとした私に霞は人差し指を立てて、止めた。


「桂花が素直やないのはわかっとる。さっきの言い方で桂花が純一のいっちゃん近い場所におるのも理解したけど……一旦、純一の事を見てあげた方がええで……ほななー!」


言うだけ言って霞は華雄を連れていってしまう。流琉は既に片付けをしていたので、挨拶を残して私は食堂を後にした。
食堂を後にした私の行き先は秋月の部屋。
べ、別に私が行きたい訳じゃない。そう、勝負に勝ったから仕方なく……


「うー……頭痛ぇ……」
「だから飲みすぎるなって言ったのよ」
「秋月……お酒臭い」


なんて独り言を言っていたら秋月、詠、恋が反対側の廊下から来た。
来たと言うか……秋月が恋に背負われて詠がそれを支えてる。どんな状況よコレ。


「アンタもねねも似たり寄ったりよ。アンタはお酒の飲み過ぎ、ねねはご飯の食べ過ぎ」
「いやぁ……つい」


ぐったりしてる秋月に文句を言ってる詠。なるほど私と華雄が追い出しちゃったから外で詠達と夕食にしたのね……


「ねねは月が部屋に連れていったけど……アンタはそう簡単な話じゃないんだから、これに懲りてお酒を控える事ね」
「俺だって酔いつぶれたい時があるのよー」


恋に背負われたまま詠との会話を続ける秋月。私はなんとなく隠れてしまい物陰から話を盗み聞きしていた。


「でも桂花も馬鹿よね。華雄との勝負でアンタを追い出したんじゃ本末転倒じゃない。あれで筆頭軍師が勤まるのかしら」


言ってくれるわね詠……今度、象棋でボコボコにしてやるわ。


「バカを言うな。桂花から知略を取ったら貧乳しか残らんぞ」
「アンタ……本人が聞いてないと思って言うわね」


ちゃんと聞いてるわよ!後で覚えときなさいよね、アイツ等……その後、恋は秋月を背負ったまま、部屋に入っていく。
どうしよう……このまま部屋に入っても恋達が居るし……それにアイツも酔い潰れてるから行っても……


「秋月なら、もう寝たわよ。よっぽど心労が溜まってたのね」
「詠っ!?」


私が考え事をしていると背後から声をかけられて驚いた。振り返れば、そこには詠が腕組みをして立っている。何処か威圧的な感じね……


「な、何よ……」
「アンタ……秋月との付き合いが長いってだけで、アイツの事、理解してないのね」


な、何よ急に!しかも私が秋月の事、わかってないってどういう意味よ。


「秋月は寝てるわ。僕と恋はもう行くし、アンタがこれから秋月の部屋に行って……何も感じないなら秋月と一緒にいれないわよ」


え……何よ、それ……私が意味を聞き出す前に詠は行ってしまう。本当になんなのよ。
私は詠の言葉を妙に重く受け止めてしまったのか、秋月の部屋に入るのも躊躇ってしまった……いやいや、何を緊張してるのよ私。ただ、アイツの様子を見に来ただけじゃない。


「くかー……くー……」


居るわね……かなり呑気に寝てる。仮にも警備隊の副長なら私が部屋に入った段階で気配で起きなさいよ。まあ、起きられても困るけど。
でも……さっき詠は秋月は心労が溜まってると言っていた。この能天気に悩みなんかあるわけ?
そう言えば母様も昔……『知らない異国の地に一人きり……強がって笑っていても、誤魔化せませんよ』って言っていた。

もしかして、私と華雄が今日、秋月を除け者にして傷ついた?まさか……コイツに限ってそれはないと思う。
認めたくないけどコイツは魏にとって北郷共々、重要人物となってきている。北郷も同郷からなのかコイツを頼って……あ、そっか……


「秋月には……頼れる人がいない……」


行き着いた答えに私は頭が冷えるのを感じた。
華琳様は仕えるべき主。春蘭達は同僚。北郷は同郷とは言っても頼るよりも頼られる事が多い筈。だったら……


「だったら……秋月が頼るのは……私?……」


その仮定が当たっていたとするなら今日、私のした事は……


「ん……んぅ……」


私が悩んでいると秋月は寝台の上で寝返りをした。寝返りをして出来た隙間は人一人が入るには十分な幅だった。


「………責任を感じる訳じゃないけど……特別なんだからね」


私は靴を脱ぐと秋月の寝台に膝を乗せて体重を掛ける。そして先程、出来た隙間に体を潜り込ませた。
お酒の匂いがする……私も相当、飲んだけどコイツも相当、飲んだわね。飲みすぎのせいなのか……私のした事のせいなのか……秋月は寝苦しそうにしている。


「アンタは……私が捕まえててやる……だから……一人じゃないわよ」


私は秋月の服を掴みながら、そう言ってやると秋月の顔は少し緩んだ。

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第七十二話




意識が覚醒し、瞼を開ける。すると、差し込んでくるのは朝日の光。もう朝か……昨日は飲みすぎたな。まあ、俺は今日休みだし二日酔いでも構わない。
桂花や華雄の事もあってか昨日は次の日の事を考えなかったからな。まあ、今日の俺は自由だ。フリーダムだ。そうと決まれば、欲望に身を任せよう。
惰眠を貪りたい俺は二度寝をしようと寝返りをして……


「あ……おはよう秋月……」


そこには何故か桂花の添い寝姿。なるほど、俺は寝ぼけているらしい。瞼を閉じて更に深い眠りに落ちるとしよう。
グッバイ地球……そして、ちょっぴりヤンチャな人類達よ。


「二度寝するんじゃないわよ。それとも私と一緒なのは現実逃避したい出来事な訳?」
「い、いや……どちらかと言えば、あり得ない光景だと思ったんだが……頬を抓られて痛いのは夢じゃないようだ」


桂花は寝たまま俺の頬を指で抓る。うん、普通に超痛い。


「いや……つーか、なんで一緒に寝台に?昨日の記憶が若干飛んでるんだけど……ヤっちまった?俺、ヤらかした?」
「昨日は何もなかったわよ……アンタが寝た後に私が潜り込んだだけだから……」


俺の抱いた不安に桂花が答えた。そ、そうなのか……なんかホッとしたわ。


「何よ……何もなかった事に安心したの?」
「いや、それだけの事をして覚えてないのがヤバいと思ってたからさ。何もなかったのならそれはそれで。むしろ、その事をしたのなら、ちゃんと覚えていたい……ぶっ!」


桂花がジト目で俺を睨んでいたので本音トークをしたら顔を真っ赤にした桂花が枕を投げてきた。


「こんの……変態!」
「む、それは心外だな。大切な思い出は残すべきだ。むしろ変態と言うならお前と大将の……」


桂花が怒鳴ってきたので反論したら、その途中で口を手で塞がれた。


「アンタ……なんで知ってるのよ!?」



いや、単にカマをかけただけなんだけど、見事に引っ掛かったよ。むしろ入れ食いだ。それに気づいた桂花も顔を俯かせて震えている。


「ハハハッ。まあ……相手は大将だし……深くはツッコミはしねーよ……って危なっ!?」
「死ねーっ!!」


桂花さん、人に物を投げるんじゃありません!ま、待て竹筒はまだしも、文鎮はヤバいって……あーっ!!





















「で……許して貰えたの?」
「暫く雑用をしろとさ……ったく」


桂花の暴走が収まった頃。流石に弄りすぎたと謝ったのだが桂花の態度はツンツンのままだった。それこそ会ったばかりの頃の様な状態だ。
その事を大将に話していたら笑われた。


「ま……漸く桂花も心の整理がついたのよ。まだ何度か悩むでしょうけどね」
「んな、簡単に解決するなら悩みとは言わないだろ」


やれやれと俺と大将は揃って溜め息を吐いた。


「兎に角、問題が解決したなら雑用に行ってきたら?薪拾いだっけ?」
「俺は今日非番だったんだがなぁ……」


大将の言葉に俺は肩を落としながら、本日出勤している警備隊の人間の一部を連れて森へと向かった。何故、一部かと言われれば袁紹の軍勢が近々、魏に攻め入ると予想されているからだ。その為に警備隊も駆り出されているので雑用をするのは必要最低限の人数と定められている。
実を言えば今回のも薪拾いが名目だが怪しい人物や斥候が彷徨いていないかを探る為でもある。


「副長……今日はお休みだったのでは?」
「それに体調も悪そうですし……我等でやりますよ」


同伴している警備隊が声を掛けに来てくれる。優しさが身に染みるわ……しかし、今日仕事をしているのは猫耳軍師のせいだし、体調が悪いのはぶっちゃけ二日酔いだ。
なんて思ってた時だった。


「やぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「なっ!?」


森の陰から何者かが飛び出して俺に襲いかかってきた。俺は咄嗟に何者かの攻撃を避けると即座に戦闘体勢に入る。襲撃者は布で顔を隠しているので何者なのか伺い知れない。


「貴様、何者だ!?」
「我等を魏の警備隊と知っての行動か!」


回りの警備隊が襲撃者に対して叫ぶが襲撃者は持っていた棍棒を肩に担ぐと体勢を低くして構える。しかし、随分小柄な奴だ……でも、こりゃ話は通じそうにないな……


「尋常に……正々堂々勝負!」
「奇襲の段階で正々堂々じゃないだろ」


襲撃者が襲いかかってくると同時に俺は胸の辺りでバレーボール位の気弾を生み出す。この技は酔っている時、または二日酔いの時に威力を発揮する。つまり、今の俺にはお誂え向きの技って事だ。


「錬妖球っ!」
「え……ふぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」


襲撃者は俺の目の前まで迫って来ていたが俺の気弾の方が早く当たり、襲撃者は吹っ飛ばされた。ふぅー……ぶっつけ本番で成功してくれて助かった。


「副長!」
「お見事です!」
「凄いです。さすが副長!」
「驚きました!」


回りの警備隊が褒め称えに来る。よせやい、本人が一番驚いてんだよ。こんなに上手くいくとは思わなかったから。


「ぐ……うう……」
「っと……まだ、やる気か?」


褒め称えられて良い気分のところに呻き声が。見れば錬妖球で吹っ飛ばした襲撃者が起き上がろうとしていた。その行動に警備隊の面々も視線を俺から襲撃者へと移す。


「この強さ……やはり自分の目に狂いは無かったッス!」


襲撃者は巻いていた布を取り払うと俺の前に来て膝を着いた。その容姿は、ねねや流琉と変わらない年頃の子供。


「自分の名は高順!お願いします、どうか自分を弟子にしてください!」


着いた膝を曲げて、両膝を付き、俺に土下座をして弟子入りを志願した襲撃者。
え……どうしろってのよ……しかも名前が高順っ!?



『錬妖球』
幽遊白書で酎が使用した技。自らの妖気を酒気とブレンドさせ、球状にして投げつける。


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第七十三話





「と……言うわけで連れて帰ってしまったんだが……」


あの後、高順の弟子入りを断ったのだが高順は俺の足にしがみついて離れようとしなかった。どうしたものかと悩んだ結果、大将に相談しようと連れて帰えざるを得なかった。
因みにいきなり城に行くのは、なんだと思って現在は警備隊の詰所に居る。


「アンタが拾ってくるのは人じゃなくて薪でしょうがっ!」
「ごもっともでございます」


桂花は俺の胸ぐらを掴んで叫ぶ。はい、まったくその通りなんですが事情が事情なので勘弁して。
今、詰所には一刀、大将、桂花、華雄、凪、沙和、真桜と警備隊関係者勢揃いとなっている。


「えっと……高順だったよな?なんで純一さんの弟子になりたいんだ?」
「あ、はい!自分……実は反董卓連合の時に街から抜け出して戦を見に行ってたんス。その時に秋月副長と胡軫将軍の戦いを見て……震えました。自分も……この人みたいに強くなりたいって!」


一刀が高順になんで俺に弟子入りしたいかを問うと意外な答えが帰ってきた。あの戦いを見てたのか……うん、なんか補正が掛かった見解だね。俺はあの時、胡軫にボコボコにされて最後の最後に反撃しただけだからなぁ……
つーか、高順が弟子になるのは本来の歴史とはかなり食い違いが起きる。

警備隊の詰所に大将と桂花が来る前に一刀から聞いたのだが、高順は本来の歴史だと呂布の部下で『陥陣営』と呼ばれる程の武人だったと聞く。蜀や魏に戦いを挑んで最後には曹操に捕らえられて最後を迎えた……ってのが高順なのらしいが……
ぶっちゃけ、そんな風には見えないし、恋との繋がりも無さそうだ。
そんな中、真桜と沙和が高順に俺の説明をしているのだが……


「なぁ、高順?副長は気は使えるけど他はポンコツやで」
「そうなのー。種馬の癖にフニャ○ンなのー」


とりあえず真桜と沙和の給料はマイナスっと……。紗和は女の子が下ネタを使うんじゃありません!


「高順……副長は警備隊の偉い方で……」


……そもそも、高順が弟子入りって以前に三国志の登場人物が皆、女性ってのも既に歴史が破綻している気もするが……


「それでも自分は秋月さんに……」
「あのね……あの馬鹿はあれで忙しいのよ?それを……」


加えてを言うなら……反董卓連合で命を落とすはずだった月や華雄が生きて魏に居るのも歴史からズレてる……


「そう……決意は固いようね。聞けば純一の気弾にも耐えたそうじゃない」
「は、はい……でも凄い効きました……」


そんなんで大丈夫なんだろうか……このまま行くと、本来描かれている三国志の話との食い違いが……


「決まりね。純一、後は任せるわ」
「………え、何が?」


ヤベっ……考え事に夢中で話を聞いてなかった。


「アンタ……華琳様のお話を聞いてなかったの?」
「す、すまん……考え事に集中して……」


桂花が俺の頬を抓る。最近、この扱いに慣れてきてる自分が怖いわ。


「なら、もう一度だけ言うわ。純一、高順を弟子として北郷警備隊に組み込みなさい。これは命令よ」
「え……いや、俺……弟子を取れる程、強くは……」


大将の無茶な命令に反発しようとするが……


「何も一から全てを教えろとは言わないわよ。それに気を抜きにした戦いなら高順の方が強いわよ。アナタは警備隊の仕事を教えつつ、高順に色んな物を学ばせなさい。季衣や流琉、香風みたいにね」
「あー……はい」


こりゃ反論するだけ無駄か。強制的に弟子を取らされて、更に新人指導か。仕事が増えるなぁ……と言うより俺に弟子が出来る段階で不安しかない。


「さて……じゃあ高順。これから俺はお前を弟子にして北郷警備隊の新人として迎え入れる。いいか?」
「は、はい!自分は名は高順。真名は大河ッス。よろしく、お願いします師匠!」


し、師匠っ!?いきなり呼び方がブッ飛んだ。振り返れば全員が、笑いを堪えてプルプル震えてる。


「ったく……俺は秋月純一。お前の真名、確かに預からせて貰ったぞ大河」


俺は片膝を着いて、大河と目線を合わせる。ったく……こんな純粋でキラキラした目をしたら断れないっての。
この後、大将達にも真名を預けた大河。さてさて……これからどうなるか……


「この後、仕事の予定もないし……真桜。大河を風呂に連れていってやれよ。警備隊に入るなら使う機会もあるだろうし」
「そやね。大河、ウチと一緒に行こか。なんなら一緒に入る?」
「そ、そんな……女の人と一緒に風呂なんて恥ずかしいッスよ!」


俺が真桜に大河を風呂に連れていって欲しいと頼んだら、真桜は裸の付き合いをしようとしたのだが……大河の言葉で皆の動きがピタリと止まった。


「大河……女の子同士で恥ずかしいのか?」
「あ……やっぱり皆さん、勘違いしてたんスね。自分、男ッス」


凪が絞り出した言葉に大河は溜め息を吐きながら答えた。え、マジで男なの?まるっきり女顔なんだけど。


「昔からなんスよ……間違えられるの」
「ま、まあ……どんまい」


ズーンと暗くなった大河の肩をポンと一刀が叩いて慰める。この手の悩みは本人にしかわからないよな。因みにこの後だが大将直々にチェックが行われて大河は男だと断定された。どんなチェックしたのよ大将……
城に戻ってからは五右衛門風呂に連れていき男同士の裸の付き合いをした。本当に男の子だったよ。裸見なきゃ気づかないレベルって凄いわ。



そして、その日はもうトラブルは無いだろうと思っていたのだが……緊急連絡を受けて俺は寝ていた所を叩き起こされた。
その緊急連絡の内容は『劉備が袁紹に国を追われて民と共に魏の国境付近まで来ている』との報告だった。



名  高順。
真名 大河。
髪型 黒髪のショートヘアー。
年齢 季衣、流琉と同年代
服装 七分丈のシャツにハーフパンツ。スポーツシューズの様な靴を履いている。
容姿 中性的な顔立ちで、日焼けの為か肌が浅黒い。
身長 季衣や流琉よりも少し高い程度。
一人称 自分。
口調 語尾に『ッス』を付けるのが口癖。


嘗て秋月と胡軫の戦いを見た際に秋月に憧れを抱いて半ば、押し掛け弟子の様な形で弟子入りした。
秋月の事は『師匠』と呼ぶようになる。
中性的な顔立ちで、よく間違えられるが歴とした男。本人曰く『十人中、九人には間違われる』との事。
今まで自由奔放な戦い方をしていた為に固定された戦い方をしない。ある意味で秋月と通じるものがある。
性格そのものは真面目な部類だが、年相応に遊び好きで人懐っこい。
秋月の気弾をマトモに喰らっても、すぐに回復する程のタフネスの持ち主。


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第七十四話





寝ていた所を叩き起こされて不機嫌な俺は玉座の間に向かっていた。


「ったく……俺の眠りを妨げやがって……」


こっちは昼間から妙に頭痛がしてたってのに……そういや、大河を弟子にするって決めた辺りからなんだよな、頭痛がしてたの。


「遅くなりましたかね?」
「確かに遅かったわね。話はもう終わったわ。これから劉備達に会いに行くから、付いてきなさい」


俺が到着した頃には会議は終わってた。大将はスタスタと俺の横を通り抜けて行ってしまう。確かに少し遅れたけど、俺の扱い酷くね?


「ほら、さっさっと行くわよ。状況は向かう途中で説明してあげる」
「痛ったたたた!?耳を引っ張るな!」


俺が若干、ショックを受けていると桂花が俺の耳を引っ張る。待て、それはマジで痛いんだって!
痛む耳を押さえながら聞いた話によるとこうだ。

自分の国を袁紹に攻められそうになった劉備は国を捨てて民と共に逃げた。目指す先は南方。
しかし、その南方を目指すにも一番安全な道が魏の領土を通行する事なのだ。
そして、その許可を得る為に関羽が早馬で魏へと赴き、要件を伝えた。

そして今、目指しているのは劉備が本陣を張っている野営地ということだ。
それは兎も角として……気になっている事が……


「キミ達、誰?」
「おやー、初対面で真名を聞かないとはお兄さんと同郷の方とは思えませんねー」
「風。あの時、一刀殿もわざとでは無かったと聞いているのですから、その言い方は良くないわよ」


そう。劉備の本陣を目指す最中、見覚えのない女の子が二人陣営に混ざっていたのだ。
そちらの話も聞くと俺が少し魏を留守にしている間に魏に入った軍師らしく、大将も真名を預けたらしい。
大将が真名を預けて軍師に抜擢されるって名のある軍師なのだろうと思って名前を聞いた。
ふわーと髪と雰囲気の感じの子が程昱。眼鏡をした真面目そうな子が郭嘉。
マジか……これで魏の大軍師揃い踏みじゃねーか。

ちなみに反董卓連合の時に会った趙雲と旅をしていたらしく、一刀ともその時に会っていたらしい。この時に一刀は程昱の真名を迂闊にも言ってしまったらしく、趙雲に刺され掛けたとか。

話が逸れたが、程昱と郭嘉の真名を預けてもらった。程昱は『風』郭嘉は『稟』
大将の命令ってのもあるが、一刀と話している内に俺の話も聞いていたらしく真名を預けても大丈夫だろうと判断したらしい。
俺も自己紹介をしてから一刀同様に真名が無いことを伝えると風は『純一さん』、稟は『純一殿』と呼ぶそうだ

この時は知らなかった事だが稟は妄想が凄いらしく、しかもその妄想で鼻血を出す癖があるのだとか。
魏に来る武将は何かしらの個性を抱えてくるのがお約束なのだろうかと思った俺は間違っていない筈。


なんて話をしていたら劉備の陣営に辿り着いた。
大将は劉備の本陣に直接向かうと言い始めて、桂花や春蘭が騒いだけど結局、劉備の本陣へ行く事に。
そこで俺、一刀、春蘭、季衣、流琉、香風、大河、稟と護衛兼勉強と言う形で同伴する事になった。
正しくを言えば護衛は春蘭。補佐が稟。
俺、一刀、季衣、流琉、香風、大河が勉強組な訳だが。明らかに経験不足なメンバーに経験積ませようって感じだからなー。
そういや俺、劉備に会うの初めてだな。どんな娘なんだろ?少し楽しみだ。













なんて思ってたら桂花の投擲した竹筒が俺の頭にヒットした。かるく100メートルくらいは有るんだけど、この距離で俺の頭に当てるって桂花のコントロールが凄い事になってきてると俺は思い知らされるのだった。



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第七十五話





俺は劉備の本陣を目指しながら先程の桂花の投擲を考えていた。


「桂花も良い肩になったな。あの距離を当てるとは」
「いや……言う事はそれだけですか?」


俺の呟きに苦笑いの一刀。いや、プロリーガーでも困難な事を成し遂げた事を素直に誉めたいのよ俺は。
そして一刀と雑談してる内に劉備の本陣に到着。


「曹操さん!」


陣に入ってすぐのところで桃色の髪で関羽と似たような服を着た娘が待っていた。あの娘が劉備か……


「…………久しいわね。劉備。連合軍の時以来かしら?」
「はい。あの時はお世話になりました」
「それで今度は私の領地を抜けたいなどと……また、随分と無茶を言ってきたものね」
「すみません。でも、皆が無事にこの場を生き延びるためには、これしか思いつかなかったので……」
「まあ、それを堂々と行う貴女の胆力は大したものだわ……いいでしょう。私の領を通ることを許可しましょう」
「本当ですか!」


おいおい、マジかよ。この手の会話で口を挟むとろくな事に成らないから黙ってたんだけど、まさか無条件で……いや、大将に限ってそれは無いな。今までの経験からすると……むしろここからが話の本番と言える。


「華琳様!?」
「華琳様。劉備にはまだ何も話を聞いておりませんが……」
「聞かずとも良い。……こうして劉備を前にすれば、何を考えているのかが分かるのだから」


稟や春蘭は大将の言葉に驚いてる。いや、まあ……話が此処で終わればのリアクションだよ、それは。


「曹操さん……」


対して劉備は顔全体に感謝と感激を滲ませている。近くで話を聞いていた関羽や張飛も喜んでいるけど……


「ただし街道はこちらで指定させてもらう。……米の一粒でも強奪したなら、生きて私の領を出られないと知りなさい」
「はい!ありがとうございます!」


本当に嬉しそうに感謝を述べる劉備。一刀もトラブルが無いとホッとしてるみたいだけど……


「それから通行料は……そうね。関羽でいいわ」
「…………え?」
「…………え?」


桃香と一刀がきょとんとしている。いや……劉備は兎も角、一刀はそろそろ大将の行動パターンを読めや。
つーか、似てるなお前等。リアクションまったく同じじゃねーか。


「何を不思議そうな顔をしているの?行商でも関所では通行料くらい払うわよ?当たり前でしょう……貴女の全軍が無事に生き延びられるのよ?もちろん、追撃に来るだろう袁紹と袁術もこちらで何とかしてあげましょう。その対価をたった一人の将で賄えるのだから……安いものだと思わない?」


むしろ関羽が手に入るなら此方としても破格な交渉って事か……確かに関羽の強さは反董卓連合の時に見たからお買い得な事なんだろう


「……桃香様」
「曹操さん、ありがとうございます……でも、ごめんなさい。愛紗ちゃんは大事な私の妹です。鈴々ちゃんも朱里ちゃんも……他のみんなも、誰一人欠けさせないための、今回の作戦なんです。だから、愛紗ちゃんがいなくなるんじゃ、意味がないんです。こんな所まで来てもらったのに……本当にごめんなさい」


関羽が劉備に視線を送ったと同時に劉備は頭を下げて関羽を渡す事を拒んだ。でも、どうする気だ?他に案がないから魏の領土を通行するなんて考えをしたんだろうに。


「そう……さすが徳をもって政を成すという劉備だわ……残念ね」
「桃香様……私なら」


大将は残念そうにしてるな。そんなに関羽が欲しかったのか?……いや、この感じは……


「言ったでしょ?愛紗ちゃんがいなくなるんじゃ、意味がないって。朱里ちゃん、他の経路をもう一度調べてみて。袁紹さんか袁術さんの国境あたりで、抜けられそうな道はない?」
「はい、もう一度候補を洗い直してみます!」


劉備は気持ちを切り替えたかの様に帽子を被った小さな子に指示を出している。あの子が軍師なのか?あ、大将の回りの空気が歪んで見える。気のせいじゃ……なさそうだ。


「なあ、華琳……」
「……劉備」
「……はい?」


一刀が大将に何かを言おうとしたが、それを遮って大将が劉備に話しかける。あ、これヤバイわ。そう思った俺は思わず耳を塞いだ。


「甘えるのもいい加減になさい!」
「……っ!」


スカウターが壊れんばかりの怒号が大将から発せられた。劉備陣営は勿論、此方の陣営もマジビビりする程だ。


「たった一人の将のために、全軍を犠牲にするですって?寝惚けた物言いも大概にすることね!」
「で……でも、愛紗ちゃんはそれだけ大切な人なんです!」


怖ぇー……今までで一番怖いよ大将。あ、ウチのチビッ子達が恐がって俺の服の裾、掴んでる。


「なら、その為に他の将……張飛や諸葛亮、そして生き残った兵が死んでも良いと言うの!?」
「だから今、朱里ちゃんに何とかなりそうな経路の策定を……!」


大将の言葉にも最早、ギリギリの劉備。他所の国の王様を否定したくわねーけど。大将の言うように甘いのだろう。


「それが無いから、私の領を抜けるという暴挙を思いついたのでしょう?……違うかしら?」
「………そ、それは……」

反論できない劉備は大将に言われるがままだ。いや、反論の余地がないのは、その場の誰もがわかっちゃいるんだが。


「諸葛亮」
「はひっ!」
 

大将に水を向けられた諸葛亮と呼ばれた軍師の子はビビってる……まあ、さっきまでの大将を見てれば……え、諸葛亮?この子が?


「そんな都合の良い道はあるの?」
「そ……それは……」


しどろもどろになっている諸葛亮。つまり、それは他に道が無いと言う事に他ならない。この子が孔明か……いや、見えねーなマジで。


「稟。この規模の軍が、袁紹や袁術の追跡を振り切りつつ、安全に荊州か益州に抜けられる経路に心当たりはある?大陸中を渡り歩いた貴女なら、分かるわよね?」
「はい。幾つか候補はありますが……追跡を完全に振り切れる経路はありませんし、危険な箇所が幾つもあります。我が国の精兵を基準としても、戦闘若しくは強行軍で半数は脱落するのではないかと……」


大将が稟に訪ねると稟は淡々と質問に答えた。魏と劉備軍では練度に差がありすぎて比べるのも酷か。今、俺の指導の下で鍛えてる特殊部隊なら別か。
そんな事は重々承知している孔明は俯いてしまい、最後の希望も断たれた劉備はショックを受けている。


「現実を受け止めなさい、劉備。貴女が本当に兵のためを思うなら、関羽を通行料に、私の領を安全に抜けるのが一番なのよ」
「桃香様……」


選択を迫られ、関羽に見詰められて……劉備は顔を俯いてしまう。答えが出せずにどうしたら良いのかわからないんだろうな。


「……どうしても関羽を譲る気はないの?」
「…………」
「まるで駄々っ子ね。今度は沈黙?」


もう大将の問い掛けにも答えられない劉備。長い沈黙が場を支配していた。


「はぁ……もういいわ。貴女たちと話していても埒があかない。益州でも荊州でもどこへでも行けば良い」


完全に呆れた大将が劉備に通行許可を出した。溜め息をしてまるで子供の相手なんかしたくないと言った感じの雰囲気だ。


「ただし」
「……通行料ですか?」
「当たり前でしょう……先に言っておくわ。貴女が南方を統一したとき、私は必ず貴女の国を奪いに行く。通行料の利息込みでね」


大将の言葉を聞いて流石に話の流れを読んだのか劉備が大将に問いかけ、大将は頷いた。


「そうされたくないなら、私の隙を狙ってこちらに攻めてきなさい。そこで私を殺せたなら、借金は帳消しにしてあげる」
「……そんなことは」
「ない?なら、私が滅ぼしに行ってあげるから、せいぜい良い国を作って待っていなさい。貴女はとても愛らしいから……私の側仕えにして、関羽と一緒に可愛がってあげる。一刀も純一も嬉しいでしょう?」
「え、ええっ!?」
「いや、愛らしいのは認めるが……」


わざわざ悪役に徹してるって感じだな大将。それとその手の話題を急に振らないで。一刀は動揺してるし、俺は本音をポロッと言っちまった。


「稟。劉備たちを向こう側まで案内なさい。街道の選択は任せる。劉備は一兵たりとも失いたくないようだから……なるべく安全で危険のない道にしてあげてね。純一と大河は稟の護衛よ」
「はっ」
「了解」
「は、はいッス」


大将の言葉にそれぞれ返事をする俺達。このまま劉備達と一緒に行こうとすると警備隊の面々や兵士達が俺の所に来た。何事よ?


「副長!相手は他国の王や武将です!」「どうか自重を」「新入り、副長を見張ってろよ」
「おい、待てやコラ」


口々に俺が蜀の皆さんに手を出さないようにと言ってくる兵士達。俺が劉備に手を出すと?


「お前等……俺をなんだと思ってる?」
「「種馬兄」」


一糸乱れず言ってくる兵士達。OK.皆殺しの時間だ。


「纏めて吹っ飛ばしてやる……フィンガーフレア……」
「馬鹿やってないで、さっさっと行きなさい」


俺が気の塊を指先に集めた所で大将に中断された。くそう、国に戻ったら覚えてろよテメェ等……

この後、俺と大河は稟の案内の下、劉備達の先導をする事になった。
やれやれ……ってアレ?
確か三国志で、この場面って関羽が魏に一時的に行く話じゃなかったっけ?まさかまた俺や一刀の知る歴史から外れた話になってるのか……そんな事を思いながら俺は煙管に火を灯した。




『スカウター』
ドラゴンボールで使用されている装置で離れた位置の、ある程度強い戦闘力反応をレーダーのように表示する機能や、強い戦闘力反応の出現・接近を警告する機能を持っている。
桁外れの戦闘力を持つ者をスキャンすると、スカウターに負荷がかかりすぎて爆発してしまう


『フィンガーフレアボムズ』
ダイの大冒険の敵キャラ、氷炎将軍フレイザードの持ち技。漢字表記は「五指爆炎弾」
5本の指から1つずつメラゾーマ相当の炎を放つ。同じ相手に放つ、分散させて複数の相手に放つ事も可能。



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第七十六話




俺は大河、稟と並んで劉備達を安全な街道へと案内していた。先程の会合もあってか、とてつもなく空気は重いが。
しても、まあ……さっきの大将は怖かった。「少し、頭冷やそうか」と言われてブッ飛ばされるかと思うほどに。


「私達の案内はここまでです」
「郭嘉さん、ありがとうございます」


っと……考え事をしてる間に国境まで来ていたらしい。気付けば劉備が稟に頭を下げていた。


「お気になさらず。私は華琳様の命でここにいるのですから」


礼を言う劉備にツンケンな態度だ。稟からしてみれば劉備は受け入れがたい存在って事ね。


「秋月殿……秋月殿も曹操殿の言う事に賛成だったのですか?」


等と劉備と稟を観察していたら関羽が俺に話し掛けてきた。しかも答え辛い質問を……って、さっきまで話していた劉備と稟も此方を見てる……まいったな。


「んー……劉備さんや」
「は、はいっ!」


俺が劉備に話し掛けてると劉備は少し顔を赤くして俺と向き合う。はて、何故赤くなる?


「むかーし、むかし。ある所に一人の王が居ました。勇猛果敢で民に慕われる王だ」
「あ、あの……」


俺の突然の語りに関羽が話しかけてくるが今は無視。


「その王はある理由から遠征を決めました。五万の兵を連れて隣国と戦いをしたのです。しかし長きに渡る旅に食料を失ってしまいます」


俺の話に何事かと劉備陣営の武将や軍師も集まってくる。


「食料の無い軍は少しずつ飢えて倒れる者が増えていきます。王の前で一人……また一人と……」


劉備陣営所か稟や大河まで超真面目に聞いてるし。でも此処で話を止めるのは……無理だな。んじゃ続行。


「王は苦しむ兵に涙を流し、自分の食べる食事を目の前の数人の兵に渡しました。キミはこの王を……どう思う?」
「わ、私は……立派な王様だと思います。自分の食事を分け与えて優しい王様だなって……」


俺の問いに正直に答えた劉備。この問いは、とある漫画の一文にある物だ。そして劉備が出した答えはその物語の主人公が出した答えと同じ。


「そっか……それがキミの答えなんだな」
「ま、待ってください!私は間違ってたんですか!?」


劉備は慌てた様子で俺に聞いてくる。さっき大将に言われた事が相当、響いてるらしい。


「間違いかどうかは……自分で考えなきゃな。ウチの大将に言われた事や今までの自分のしてきた事を悩んで考えて……答えを出すしかない」
「は、はい……」


俺が答えを出す気がないのを察したのか劉備は俯いてしまう。いや、なんか俺が泣かせた的な雰囲気が回りに立ち込めてるんだけど……まさかとは思うけど大将はこの状態の劉備のフォローを俺に任せるつもりだったのか?いや、そりゃねーか。


「真実ってのは問い掛ける事にこそ、その意味もあれば価値もある……さっきの王の話もこの言葉も天の国の物語や言葉だ。キミは関羽や張飛、孔明を導く存在なんだろ?民のためにも……道はキミが決めなきゃな」
「うぅ……はい」


俺に出来るフォローは此処までだな。これ以上、肩入れするとマズい気がするし。俺は俯く劉備の頭を撫でたい衝動に駆られたがなんとか耐えた。
なんて言うか……劉備の最初の印象はヒマワリみたいな娘だった。明るくて笑顔が似合う、平和を望む娘。
だが大将の話の後や今を見ると危なっかしい印象も有る。このまま悪い方向に進まなきゃ良いんだが……


「さて……帰るぞ大河、稟」
「はいッス!」
「純一殿……先程の劉備の頭を撫でようと手が動いてませんでしたか?」


元気に返事をした大河に俺の事をキッチリ観察していた稟。土下座しますから桂花達には言わないで、後が大変そうになるから。
さて、早く魏に戻って袁紹と袁術の軍を相手をしなきゃなー。














因みに魏に戻った後、稟が劉備達の事を大将に報告して、それ経由で桂花に話が届きました。お陰で今も桂花の態度はツンツン状態です。解せぬ。



『少し、頭冷やそうか』
魔法少女リリカルなのはStrikerS、第8話で言うことを聞いてくれない生徒(ティアナ)に対して、なのはが指先から放った魔法弾。
「管理局の白い悪魔」が「白い魔王」にクラスチェンジした瞬間。


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第七十七話





「うーむ……どうしたものかな……」
「副長、どないしたん?難しい顔して」


俺がある悩みを考えていると真桜が話し掛けてきた。後ろには一刀、凪、沙和と一緒に居る。


「あー、わかったの。桂花のご機嫌をどうやってとるか悩んでるの!」
「そっちは後で土下座してくるさ」
「土下座じゃないとしたら、何を悩んでるんですか?」
「いえ、隊長と副長はその流れに慣れすぎです」


沙和は機嫌の悪い桂花のご機嫌とりと勘違いした様だが違う。あの後、稟の報告から俺と劉備のやり取りを聞いた桂花の機嫌が急降下したのだ。まあ、そっちは後で土下座してくるとして。
一刀の質問も尤もだが凪のツッコミも当たってる。最近、この流れに慣れてきてる自分が怖いわ。


「うむ……悩みなんだがな。大河の修行をどうしようかと思ってな……」
「大河の……修行ですか?」


俺の言葉に凪が聞き返してくる。大河を弟子にした俺だが、どんな修行をするか悩みっぱなしなんだよ。


「でも大河って副長より強いやろ」
「それが一番の悩みの種だ」


そう……大河は素で俺より強い。でも大河は俺の弟子になりたいと強く志願した。そして俺が師匠となった訳だが自分より強い弟子に何を教えろと?
大河は武器を持たない拳や蹴りで戦う俺と同じタイプだが、一撃は大河の方が重いし、素早さも大河の方が速い。
俺が大河に勝ってるのは身長や体格の差から出るリーチの違いくらいだ。後は気による攻撃。となれば大河に教えるのは『気』による戦いかと言われればそうじゃない。何故ならば。


「ふくちょーが大河に気を教えたら大河も『アッー!』ってなるの」
「俺が技を失敗する前提で話を進めるな」


沙和の言葉に反論したいが七割くらいの確率で失敗してるから否定もしきれん。それと、その叫びは意味合い変わってくるからな?


「そうだな……亀の甲羅背負って走らせたり、『亀』と書いた石を遠くに投げて拾わせてくるか?」
「それは亀仙流の修行ですよね?」
「天の国の修行方法ですか?」


俺がふと漏らした一言に一刀のツッコミが入る。凪は天の国の修行が気になる様子。


「だったら……魏の武将数人でタコ殴りにするとか」
「それ、ライダーリンチですよね?下手をすれば再起不能ですよ」


ある意味、最恐の特訓法だ。世界を救ったライダー七人からの集団リンチ。


「まあ……大河が帰ってくるまでには考えとくか」
「ああー……今、大河って華雄と一緒なんでしたっけ?」


そう、一刀の言葉通り大河は今、華雄と行動している。それと言うのも劉備達を追ってきた袁紹軍を追い返す役目を華雄が率先して受けて、大河は実戦経験が必要と大将から指示を受け、今はここに居ないのだ。
今回は追い返すだけなので、それが終われば態勢を整えて袁紹、袁術の両軍を相手にする事になる。
袁家は馬鹿だが名家で大陸の多くを支配する。しかも袁術は反董卓連合の時に世話になった孫策率いる軍も居る。油断は出来ないな。















因みに大河に技を教える為に俺も新技開発として『龍炎拳』を試したら、地面が少し抉れた程度で終わった。泣ける。



『亀仙流修行』
重い亀の甲羅を背負って牛乳配達をしたり、土木作業をこなして、亀と書かれた石を崖から落として、それを取りに行くなどの修行を行い、基礎体力を異常な程に鍛える。

『ライダーリンチ』
歴代のライダーがスカイライダーに施した特訓。七人のライダーがスカイライダーをタコ殴りにした後に、それぞれの技を叩き込み、最後に七人のライダーキックで終わらせる一種の集団リンチ。これに耐えたスカイライダーは凄まじいパワーアップを遂げた。

『龍炎拳』
ジャングルの王者ターちゃんに出てくる技。手に気を纏わせ、手刀と共に大地を切り裂く技。


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第七十八話

体調を崩しました。皆様もお気をつけ下さい。






◆◇side一刀◇◆



今日から純一さんが大河と修行をするって言ってた。どんな修行をする事にしたんだろう?
すると鍛練場から純一の声が聞こえてきた。


「答えろ、大河!流派、東方不敗は!!」
「お、王者の風よ!」


何処かで聞いた様な掛け声だ。まさかと思って鍛練場を覗いてみると案の定だった。


「全新!」
「系列!」
「「天破侠乱!!」」


純一さんと大河は殴り合いながら叫び続け最後に互いの拳をブツけた所で動きを止める。


「「見よ!東方は赤く燃えているぅぅぅぅ!!」」


締めの言葉を声高らかに決めた二人。いや、何をノリノリでやってるんですか……


「うーむ。天の国の修行とは変わってるんだな」


その光景を見た華雄の感想を聞けたけど、アレは修行じゃなくて単なる挨拶だから。


「さて……軽い運動をした所で本格的に修行を開始する」
「は、はいッス!」



あ、流石にアレを修行とは言わないんだ。でもいったいどんな修行をする気なんだろう……



「と言いたい所だが、ぶっちゃけ大河は素で俺よりも強い。だから俺が教える事が無い」
「そ、そんな……自分は師匠に……」


まさかの純一さんの発言にショックを受けている大河。それを純一さんが待ったを掛けた。


「待て待て、修行をしないとは言ってないだろ。俺も強くならなきゃならないから修行は俺も一緒にする」
「師匠と一緒に……」


純一さんと一緒に修行と聞いて大河はパアッと明るい表情になった。


「では修行を始める前に……これに着替えろ」
「これは……師匠が着てる胴着ッスか!」


純一さんが取り出したのは亀仙流の胴着。デザイン的には子供の頃の悟空の形だ。因みに純一さんは最初から胴着を着ている。
大河は嬉しそうに着替えを始めたけど……本当に女の子に見間違えそうだよ。


「師匠、この重りは何ッスか?」
「それは手首と足首に付けるんだよ。重りが体の負担となって、修行の効果を高めるぞ」


純一さんが大河に渡したのはリストバンド型になっている重り。中には鉛が入ってるらしく、見た目以上に重くなってる。更に背中にはリュックみたいに重りを入れた袋を背負ってる。


「よし、これで準備万端だな」
「お、重いッス……」


胴着と重りを装備した大河は純一さんと違って動き辛そうだ。季衣、流琉、香風みたいに大河もスーパーチビッ子かと思ったけど違うのかな?


「その重りは普段から負荷を掛ける事で体を鍛える。大河、取り敢えず鍛練場の回りを十周走ってこい」
「はいッス!」


純一さんの指示を受けて大河は走り出すが直ぐに重りに負けて足取りが悪くなる。
その光景を見ていたら純一さんが次の準備のために荷物を置いてある俺と華雄の場所まで歩いてきた。


「でも意外でしたよ。大河があんなに動けなくなるなんて」
「実を言うと大河の重りは俺の倍くらいなんだが……それであんだけ動けるんだからアイツも十分規格外だよ」



俺の疑問に純一さんからはスゴい言葉が飛び出した。やっぱこの世界は子供でも規格外な存在ばかりだと改めて思い知らされた。



『流派東方不敗式挨拶』
流派東方不敗の人間同士の出会った際の挨拶であり、互いに殴りあって力量を見るなどの行為も含まれている。


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第七十九話

未だ……不調です。






さて、大河が鍛練場を走り回ってる間に次の準備をしとくか。


「純一さん……それってグローブですか?」
「ああ。服屋の親父さんに概要を伝えたら作ってくれてな。しかもオープンフィンガータイプだ」


そう。俺が準備しといたのは組手用のグローブだ。服屋の親父さんにある程度を話したら作ってくれた。因みに本来は軍手でも作って貰おうかと思って頼んだんだけど、その場で思い付いてグローブも頼んどいたのだ。そしたら此方の予想を遥かに上回る物が出来上がった訳だが。
因みに軍手は街の大工に人気の商品となっている。


「コレが有れば組手も少しはマシになるかと思ってな。ま、これからは俺も同時進行で修行をしていくさ」
「純一さんらしいですね」


因みにサイズは大人サイズが二つと子供サイズが二つ。ある意味、組手をするのに最適な数が揃っていた。
俺はグローブを付けると数発のジャブを放つ。うん、良い出来だわ。


「よし……ならば」


俺は息を吸って身体中の気をコントロールする。身体中に張り巡らせた気は俺の身体の身体能力を上げてくれる。


「よし。この状態をキープしつつ組手だな」


俺が考えた自身の修行は先ずは基礎体力と体作り。そして気のコントロールだ。
気を高めた状態で大河と組手や基礎トレーニングを行えば良い修行になる筈。基礎トレーニングは兎も角、気に関しては以前、顔不さんに聞いたものを取り入れているから効果は有る筈。
そして大河の修行目的は更なる体力作りだ。大河の武器は素早さと自由奔放な戦い方だが、それは体力が尽きたら打つ手無しとなってしまう。ならば重りを付け体力作りと無駄の無い動きを叩き込むのが主な目的となる。


「師匠!走り込み終わったッス!」
「お疲れさん。大河、これを手に付けな」


走り込みを終えた大河に俺はグローブを渡す。そしてグローブの意味を簡単に説明した後に少しの休憩を挟んで組手開始だ。


「はっ!」
「せやっ!」


いざ組手を開始したのだが、やはり体が重い。全身に着けた重りがキツいわ。
重りを付けたから大河のスピードも半減されて動きが見える様にはなったが重りを付けてるのは俺も同様だから動きが鈍くなる。だからこそ、この重りに慣れ、修行を終えた頃には俺も大河も強くなってる筈。



「よし、大河!隙あらば俺を倒す位の覚悟で来い!」
「はい、師匠!」
「がふっ!?」


俺の言葉を聞いた大河は俺の脳天に華麗な踵落とし(重りによる威力増)を放ち、それに対処できなかった俺は一撃の下に倒れた。


「ふっ……お前に教える事はもう何もない」
「し、師匠ー!?」


地に伏した俺を大河が揺さぶる。マジで俺が指導する意味無くね?

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第八十話




俺が大河にK.O.されて情けない師匠をしている間に袁紹、袁術の陣営に動きがあった。
袁紹と袁術の軍は兵士の数は多いが武将が少ない。故に魏を挟む形で二面的に数で攻めてくるだろうと予想されていたのだが此処で予想外の事が起きた。
なんと袁紹と袁術の両軍は手を組んで一つの軍となり此方に決戦を挑んできたのだ。流石、袁家……こちらの予想の斜め上を行くな。


「普通、こういう時って相手を囲ったり、挟み撃ちにしないか?」
「馬鹿なだけよ。どうせ『勇猛果敢に攻め入るのですわ』とか言って顔良や田豊の意見を無視してるのよ」


俺の呟きに桂花が答えた。うん、その姿が容易に想像できる。と言うか桂花もイラついていた様に見える。あ、そう言えば桂花は一時期、袁紹の所に居たんだった。苦労したのね……


「兎に角……兵を集結させて戦えるというなら、こちらに負ける要素は何もないわ。ただ、警戒すべきは……」
「……袁術の客将の孫策の一党かと」


孫策か。確かにあの人ナチュラルに強かった。あれで客将ってんだから。いつまでも袁術に飼われる感じじゃないな。


「そういうことね。だから袁術の主力には春蘭、貴女に当たってもらうわ。第二陣の全権を任せるから、孫策が出てきたら貴女の判断で行動なさい」



春蘭が孫策の相手か……マトモに孫策の相手できるのは、この陣営じゃ春蘭と霞くらいか?


「相手はどうしようもない馬鹿だけれど、河北四州を治め、孫策を飼い殺す袁一族よ。負ける相手ではないけれど、油断して勝てる相手でもないわ。これより我等は、大陸の全てを手に入れる!皆、その始めの一歩を勝利で飾りなさい。いいわね!」


俺が考え事をしている間に軍議は終わっていた。大将の言葉を締めに皆が動き始める。俺も部屋から出ようかと思ったのだが大将に呼び止められた。


「一刀と純一は残りなさい。話す事があるわ」


と俺と一刀は居残り決定。はて、何かしたっけな?俺の疑問を余所に皆が出ていって俺と一刀と大将が残る。


「さて……二人を残した理由だけど……華雄の事よ」
「華雄の事……また何かやらかした?」
「華雄が何か問題を起こしたら即、俺の所に報告が来る筈だが?」


大将の言葉に一刀と俺は同時に首を傾げた。最近は何も問題なかった筈だが。


「今じゃないわ……これからよ。私達がこれから戦うのは袁紹、袁術、孫策よ……この意味わかるわね?」


あ……そっか。袁紹は董卓の恨み。そして孫策は因縁を持った相手の娘。下手すりゃ華雄が命令無視の暴走をするかもしれない。


「貴方は華雄の手綱をしっかりと握りなさい。霞は自制が効くだろうけど華雄は危なげなのだから」
「華雄の場合、手綱を持つ人間を引きずってまで突撃しそうだけど」


大将と一刀は俺を見ながらコメントを溢す。いや、どうしろと?


「どうにかして華雄の手綱を握っていなさい。貴方はある意味、麗羽以上に予想が付かないんだから」
「こっちの予想の右斜め遥か上空を飛んでいきますよね純一さんって」


誉めてもいないし、人をミスター・○ーンみたいに言うな一刀よ。


「はいはい。ま、華雄の事は任されたよ」


俺は軽い溜め息を溢し、玉座の間を出る。しかし華雄の手綱を握れか……


「反董卓連合の時は縄で縛って開門できないようにしようとしらしいが……」


あの時、散々挑発されてキレそうになったのを霞が必死に押さえ、更に部下は縄で華雄を縛って突撃させないようにしようとしたらしい。
結局、華雄を縛る前に突撃を許してしまったらしいが……


「いざとなったら……マジで華雄を縄で縛るか?」
「純一殿。先程の会……ぎ……」


玉座の間を出て警備隊の詰め所に戻る途中で稟と遭遇した。稟はさっきの会議で聞きたいことでもあったのか俺に歩み寄る途中だったのだが俺の独り言をバッチリと聞かれてしまった。


「じゅ……純一殿が華雄を縄で縛り……あまつさえ、その体を……プーッ!」


俺の独り言を聞いた稟は妄想を加速させて鼻血を出して倒れた。今回のオチはお前か稟。

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第八十一話

さて、対袁紹&袁術軍との戦いが始まりました。
開戦はやはり舌戦。まあ大将にアッサリと言い負かされた袁紹が引っ込むと戦は始まった。


「純一さん、遠くでバゴーンとかドゴーンって轟音が鳴り響いてるんですが……」
「そーだなー……」


俺と一刀は高台の上から戦場を見ていた。超圧倒的な戦いに少し引くくらいだ。
真桜が作成した遠石機。大岩を大量に飛ばす兵器に袁紹軍は士気をゴッソリと落とされて、更に春蘭・恋を先頭に武将の突撃を食らう。
袁紹軍は数の上では圧倒的に多いが逆を言えば数だけだ。厳しい訓練に耐え抜いた魏の精鋭相手では歯が立たないだろう。


「敵ながら……春蘭や恋の相手をする袁紹軍に同情します」
「俺等からすれば人間サイズの光の巨人を相手にするよーなもんだしな」


恋は巨大化でもしたら光の巨人と渡り合えるのでは?と最近マジに思うようになってきた。昨日も俺が試しに放ったアバンストラッシュAを何事もなかったかの様に方天戟の一撃で、かき消された。恋にとって俺のアバンストラッシュは、そよ風レベルだったと判明すると泣ける。
それは兎も角、俺が戦場を見ながら煙管を吸っていると華雄が俺の所まで来た。やはり来たか。


「あ、秋月……私も」
「駄目。俺等は遠石機の護衛と戦場の後詰め。こっちから打って出るのは今回は無し」


俺は華雄が全部言い切る前に華雄の動きを制した。相手が袁家だし出たいのはわかるが駄目なものは駄目。ったく……大将も華雄を押さえとけとか結構な無茶ぶりだ。


「で、でも師匠。皆が戦ってるのに自分達は何もしないのは、もどかしいッス」
「何もしないんじゃなくて何かあった時に動くのが俺等だ。それに大河はこれが初陣だろ。焦る気持ちもわかるが落ち着け。戦場を見通すのも勉強だと思え」


初陣に焦る大河を落ち着かせる。大将から大河には戦場の空気を味会わせる様にと言われてたけど、こりゃ大変だわ。
そうして二人を押さえつつ戦場の動きを逐一見ていたのだが既に勝敗は決していた。
以前にも話した事だが袁紹&袁術の軍勢は兵士は多いが武将が少ない。今も戦場の動きの報告を聞いていたが顔良、文醜の部隊以外は敗走を始めている。田豊が指示を出して戦線を崩壊しない様にはしているのだろうが最早、時間の問題か。


「副長、一部の戦場に動きが。既に敗走を始めた袁紹軍ですが強い武将が我等の動きを塞き止めています。如何いたしましょう?」
「敗走の殿か?いや……それとも此方の一角を崩しに来たか……」


などと思っていたら伝令が来た。敗走している部隊を援護しているのか?それと囮として動きに来ているのだろうか?伝令を伝えに来た兵士にその武将が誰なのか聞こうと思ったら再度、伝令が来た。


「報告します。敵の一部が此方に向かってきています!旗の文字から敵武将は顔良かと!」


顔良か……反董卓連合の頃の印象を考えると兵士の為に囮になりに来たか、貧乏クジを引かされたか……まあ、どっちかだろうな。どの道、放っておく訳にはいかないか。






『アバンストラッシュA』
ダイの大冒険の代表格の技。アバンストラッシュにも二種類存在して此方は闘気を衝撃波のように飛ばして攻撃するタイプの撃ち方。威力が控えめな反面、離れた敵を攻撃できる上に連射が効く。
通称アバンストラッシュアロー


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第八十二話





恐らく撤退の殿の役目をしに来たであろう顔良。それが偶々、俺が居た部隊の近くに来たから俺の部隊で対応したのだが……


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「師匠や華雄さんに比べたら楽勝ッス!」


大河や魏の兵士達が顔良の部下達を倒し……


「ふん……中々やるようだが……私の敵ではないな」
「くっ……こんなに強いなんて……」


華雄が顔良を追い詰めていた。いやー……マジで俺、何もしてないよ。しっかし二重の意味で予想外だった。
大河は修行の効果が早くも出始めてる。俺と組手をした時よりも遥かに素早く、そして的確に相手を倒している。
そして華雄は顔良との戦いの最中でも兵士達に指示を出し、周囲を見ながら戦っていた。元々、猪武者と呼ばれていた華雄だけど、警備隊の仕事をさせて落ち着いて辺りを見る事を覚えさせたら、指揮官としての働きが凄い事になった。
俺……師匠や警備隊の副長として誇れる部分無くなってるなぁ……外は晴れてる筈なのに頬に雨の滴が流れそう。


「む、どうした秋月?取り敢えず顔良は気絶させて縛っておいたぞ」
「師匠、顔良さんの部隊の方々ある程度倒したら皆さん逃げてったッス」


ここまでくると、この涙は顔良宛の気がしてきた。袁紹の軍の練度が低いのは聞いてたけど、将軍置いて逃げるかね普通。


「わかった……大将の指示も聞かなきゃだから顔良は俺の天幕に運んどいて」
「副長、曹操様が来る前に手を出されるとお怒りを……痛っ!」


相も変わらず誤解されたままの種馬疑惑を信じる部下を殴った俺は間違っていない筈。












◇◆side顔良◆◇



なんで文ちゃんは言うことを聞いてくれないんだろう……私や田豊ちゃんや軍師の皆さんが決めた戦術を無視して突撃。
全軍を石鎚のように固めて前進するって言ったのに『任せろ、アタイが全部、切り裂けばいいんだ』って言って突撃して行った。他の隊に援護を行かせようとしたら曹操軍の新兵器みたいな物から大岩が飛んできて戦線はボロボロ。
田豊ちゃんに麗羽様を任せて私は隊を引き連れて前に出ようとした。
そしたら曹操軍の夏候惇将軍や元董卓軍の呂布将軍が突撃してきて隊は離散した。今まで見たこともないくらいにアッサリと。


「顔将軍、指示を!」
「……あ、はい!部隊を固め、そして前進!文醜部隊と合流の後に撤退を!」


それでもなんとかしようと部下に指示を出し、せめて麗羽様の撤退する時間と文ちゃんを助けに行かなきゃ。
まずは助けてから、それから考えよう、今後のことを。
でも、私の考えは打ち砕かれる。


「顔将軍、部隊が散り散りになり、逃げ出す者達が!」
「袁紹様は真っ先に逃げてしまわれました!」
「袁術様の部隊と連絡が取れません!」


次々に飛んでくる報告に私は目眩がした。田豊ちゃんは麗羽様を押さえ切れなかったのかな?麗羽様は私達に全部押し付けて逃げちゃったのかな?袁術様はどうしたんだろう。きっと逃げちゃったんだね。
私がそれでも戦線を何とか一角でも切り崩そうと部隊を動かしたら、そこには元董卓軍の華雄将軍に……秋月さん。


「ほほぅ……後詰めで退屈していた所だ。私が相手をしよう」


そう告げた華雄将軍は大斧を私に向ける。その闘気は反董卓連合の時とは比べ物にならない程に高まっていた。


「華雄……顔良は……」
「ふっ……わかってるよ。出来る限り生け捕りにするさ」


秋月さんの問いに華雄将軍は私から視線を逸らさずに答えた。私を生け捕りにするって……いくらなんでも私を甘く見すぎです!


「はぁぁぁぁっ!」
「遅いっ!」


私は大槌を振りかざし、華雄将軍を押さえ付けようとしたけど叶わなかった。華雄将軍は大斧で私の大槌の軌道を変えると、そのまま大斧の柄で私を殴り飛ばす。


「かはっ……まだ!」
「遅いと言っただろう!」


一撃貰ったけど、この程度なら問題ない。私は大槌を横薙ぎに振るうが華雄将軍は無理に受け止めず、間合いを詰めて大槌が振り抜かれる前に私の胸に掌底を叩き込んできた。予想外の攻撃に私は勢いを殺せずに吹き飛ばされてしまった。


「その程度か?華雄隊は顔良の部隊を包囲しつつ、殲滅しろ。深追いはするなよ!」
「あ……ぐ……」


殴り飛ばされた私は大槌を杖代わりになんとか立ち上がるけど、華雄将軍の重い一撃に体は参っていた。そんな私を余所に華雄将軍は部下に指示を出している。反董卓連合の時とはもう別人かと思う。
そして秋月さんの近くにいる少年は凄い早さで私の部下を倒していく。もう……駄目なのかな……


「ふん……中々やるようだが……私の敵ではないな」
「くっ……こんなに強いなんて……」


私はもう……どうしたら良いのかわからなかった。文ちゃんは居ない。麗羽様は逃げちゃった。私はなんで戦ってるんだろう……そんな私の隙を突いて華雄将軍は私の腹部に拳を入れた。


「秋月からの頼まれ事でもあるからな命は取らん。少し眠れ」


華雄将軍は力の入らなくなった私の手を縛ると肩に担ぐ。朦朧としている意識の中で私は秋月さんと華雄将軍の会話を聞いていた。


「む、どうした秋月?取り敢えず顔良は気絶させて縛っておいたぞ」
「師匠、顔良さんの部隊の方々ある程度倒したら皆さん逃げてったッス」


華雄将軍とさっきの男の子かな?秋月さん、師匠って呼ばれてるんだ。


「わかった……大将の指示も聞かなきゃだから顔良は俺の天幕に運んどいて」
「副長、曹操様が来る前に手を出されるとお怒りを……痛っ!」


華雄将軍の肩で揺られながら話を聞いてるけど……秋月さんってやっぱり種馬のなのかな?噂は本当なんだ。


「ったく……今度、本格的に噂の出所を確かめるか。華雄、後詰めの指揮を頼む。俺は顔良を天幕で休ませてから大将の所に行くから」
「うむ、心得た」


華雄将軍は肩から私を下ろすと秋月さんに渡したみたい。クラクラする……もう意識が飛びそう……


「ったく……なんで、こんな疲れた顔してるんだか……大将の所に行くまで時間があるから少しでも休んでくれよ」


そう言って私の頬に手が添えられる。意識が朦朧としてるけど、それは秋月さんの手だとすぐにわかった。


なんだろう……秋月さんの手は暖かくて……心地好くて……


私の意識はそこで途絶えた。




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第八十三話





袁紹軍との戦いは曹操軍の勝利で幕を閉じた。まあ、ある意味順当な勝利な気もするが。
そして戦を終えた後、俺は目を覚ました顔良を連れて大将の所へ。顔良は抵抗もなく、此方の指示に従うと言ってくれた。
大将の天幕へ行き、事情を話したのだが桂花は『またか、コイツ……』みたいな目で俺を見ていた。


「そう……話はわかったわ。では顔良……貴女はどうしたいの?」
「私にはもう……行く宛もありません。袁紹軍は無くなってしまいましたけど、文ちゃんや麗羽様を探そうと思います。きっと困ってると思うので」


大将の問いに俯き気味に答える顔良。それを聞いた大将は溜め息を吐いた。


「貴女の麗羽に対する忠誠心は大した物だけど……アレに尽くしても損するばかりよ?」
「で、でも麗羽様も文ちゃんも私が居ないと……」


大将は顔良を半ば諦め気味に説得をするが顔良は二人が心配なのか聞く耳を持たない様子だ。


「と言うか袁紹達に頼られてるからってアレは異常よね」
「………共生依存って奴かもな」


桂花の呟きに俺は以前、テレビか何かで知った知識を呟いた。


「なによ、その共生依存って……」
「依存されることに依存してしまうって事。簡単に言うと誰かに頼られなきゃいけない、頼られれば嬉しいって気持ちが強いって感じか?話を聞くと袁紹は顔良や田豊に政治を丸投げ。更に文醜は顔良頼りきりらしいしな。しかも袁紹、文醜は顔良に対して悪気ゼロだから始末に悪いし。どんなにダメな奴にでも頼られれば、それを愛と感じるが如く顔良の精神状況も変わっていったんじゃないか?」
「だそうよ顔良。貴女の今の顔を見れば思い当たる節は多そうね」
「あ……あ……私……」


顔良はフルフルと震えながら今までの事を思い出しているのか青ざめ始めてる。


「はぁ……この調子じゃ放り出すのは酷ね。純一、顔良の事を任せるわ。落ち着いたらアナタの所に寄越すから面倒を見なさい」
「え、あー……了解です」


有無を言わせぬ大将の視線に俺は頷く事しか出来なかった。桂花が凄い睨んできてるけど。
取り敢えず顔良が落ち着くまでは俺は顔を出さない方が良さそうだ。大将もまだ顔良に話があるって言ってたし。


「まったく……種馬が……」
「あの……今回、俺は顔良を救った位置だよね?なんで俺が手を出す為に顔良を連れてきたみたいな風になってんの?」


桂花の言葉に流石に抗議の声を上げるが桂花の冷たい視線が変わらない。


「救った……ねぇ。そうやって人の心の弱味に付け入る気?」
「できりゃ、心の隙間を埋めてやったと言って欲しいね」


少なくとも俺は善意での行為なのだが。自分で言っといてなんだが、心の隙間を埋めるってなると笑顔が素敵なサラリーマンを思い出す。ドーン!とかは出来ない……と言うかしたくない。
まだ色々と抗議はしたいが大将と顔良の話を邪魔する訳にもイカンので俺は大将の天幕を後にした。




因みに国に帰った後に大将から『顔良を警備隊に組み込みなさい。ああ、他の仕事を教えても構わないわ。顔良の好きにさせてあげなさい』と言われた。
いったい何の話をして、この結果に至ったんだか……



『ドーン!』
『笑ゥせぇるすまん』の主人公・喪黒福造の使う術か魔法。
客の願望を叶えるが、約束を破ったり忠告を聞き入れなかった場合にその代償を負わせ、破滅に追い込む際に使用される。
その効果は客によって様々で酷いパターンだと財産的・精神的・社会的な破滅や家庭崩壊に陥る。また死亡したり、人間の姿から別の生き物にされてしまう。
逆に軽いパターンだと会社の上司からの叱責、失職、失恋程度で済む。


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第八十四話

さて、国に帰った俺達だが大将の言い付けで顔良に警備隊の仕事を教える事に……とは言っても、あーだこーだと説明するよりも俺や一刀と一緒に居た方が分かりやすい筈。


「…………」


俺の後ろを無言で着いてくる顔良。大将と何の話をしたかは分からないのだが俯き気味で顔は晴れてない。やっぱ、この間の話が尾を引いてるのかな。


「副長殿、蒸したてのが出来た所だ。持っていってくれ!」
「お、ありがとう。あ……もう一つ貰えるかな?」


街中を散策していたら肉まん屋の親父さんが蒸したての肉まんをくれた。顔良の分も貰おうと思ったら親父さんはニヤッと笑った。


「なんだい新しい女かい?副長殿も手が早いねぇ!」
「店を潰したろか?」


素敵な事を抜かした肉まん屋の親父に気功弾を撃ち込んでやろうかと思ったけど、互いに冗談だと分かってるのでゲラゲラと笑いながら肉まんを受けとる。


「っと……そうだ副長殿。向こうの区画の方なんだが……なんかガラの悪そうな奴等が最近、住み着いてたぜ」
「ん、わかった。調べとくよ、あんがとね」


親父さんからの情報も得てから顔良に肉まんを渡す。俺はすぐに肉まんを食べたのだが顔良はポカンとしていた。


「あ、あの……秋月さんって警備隊の副長なんですよね?あんなに気さくに話し掛けられんですか?」
「ん、まーね。堅苦しいの好きじゃないし。一刀も大体、同じだぞ。顔良も冷めない内に肉まん食べな」


顔良の話を聞きながら、もしゃもしゃと肉まんを頬張る。お、更に旨くなってるな。やるな、親父さん。


「あ、はい……あ、美味しい。ってそうじゃなくて!なんで警備隊の副長さんが威厳も感じさせない事をしてるんですか!」
「旨いなら何より。質問の答えだが……んー厳しさも大事だけど俺は人の繋がりを大事にしたいからかな?」


顔良は信じられない物を見たと言わんばかりな感じだ。


「人との……繋がり?」
「警備隊が街に居るから安心ってのもそうだけど、だからって物々しい雰囲気じゃ街の人たちは落ち着かない。だからある程度、親しい方が良いのさ」


一刀も俺とほぼ同じ考え方をしてる。まあ、親しみを持てるのとサボりで意味が違うが。


「それでさ、さっきの肉まん屋の親父が情報くれただろ?あれも親しくして接しやすいから教えてくれたんだ。ただ厳しいだけの警備隊だと、さっきの親父さんは詰め所に足を運んで上申しないと国には聞き入れてもらえない」
「それをお手軽にする為に……ですか?」


顔良は俺の話にかなり食い付いている。何かを確かめる様に。


「それが全部とは言わないよ。でも街の人達の協力も得て、街を良くしていくのも警備隊の仕事……かな?」
「…………本当に袁家とは違うんですね」


俺の発言に顔良は俯きながら小声で何かを呟いた。何を呟いて何を考えたのか俺には分からないが顔良には大事な事なんだろう。
その後、俺は街の巡回を続けながら服屋や武器屋を回って頼んどいた物のチェックや進行状況を確かめる。顔良はその事に、いちいち驚いていた様子だが。


「ま、俺の一日はこんな感じかな。今日は巡回を主軸にしたけど事務仕事は別にしてるから」
「今日のも十分事務仕事……いえ、なんでもないです。今日はありがとうございました。明日は北郷さんの方に着いていってみます」


巡回を終えて城に戻ると俺は顔良に仕事の事を改めて伝えた。何か言いたそうだったけど、顔良は俺に頭を下げて行ってしまった。


「なーんか、焦ってる感じ……かな?」


俺は煙管に火を灯して肺に煙を入れる、今日の顔良は何処か焦ってると言うか……


「ま、大将も絡んでるし俺が考えるこっちゃないか」


フゥーと煙を吐く。明日は一刀の所か……大将も国の仕事を教えろって言ってたし、顔良次第かね。


「あ、純一さん!」
「副長、お疲れ様です」
「一刀に凪か、そっちは終わったのか?」


俺と同じく、街の巡回に出ていた一刀や凪が戻ってきた。


「はい。こっちの方は問題なしです」
「おう、お疲れさん。こっちの方は肉まん屋の親父さんに聞いたんだが……」


俺と一刀は簡単に情報交換をする。あ、そう言えば。


「明日だが顔良がそっちに着くぞ」 
「隊長に顔良さんが?」


俺の言葉に凪の眉がピクッと動いた。


「大将の言い付けでな、今日は俺の所に居たよ。明日は一刀の所ってな。凪、大将の推薦でもあるし、頼まれ事でもあるんだ」
「うぅ……はい」


多分、凪は顔良が一刀に何かすると思ってるんだな。まあ、つい先日まで敵側だったんだから仕方ない。


「凪、何かあるとは思えないけど明日の一刀の護衛……任せたぞ」
「ハッ!承知しました!」


俺が凪に指示を出すと凪はパアッと明るくなった。そのまま意気揚々と明日の予定組みに行ってしまう。


「あんなに張り切って……愛されてるねぇ一刀。大事にしろよ、あんな良い娘は特に」
「愛されてる……って俺は皆を大事にしますよ」


俺の言葉に一刀は真っ直ぐ俺を見た。ふむ、これなら大丈夫だな。


「そうか……んじゃ、嫉妬に刈られて斬られないように気を付けろよ。俺はバッドエンドコーナーで道場でも開いて待ってるからな」
「不吉な事を言わんでください」

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第八十五話

難産でした……次回はスッキリ描きたい……






◆◇side顔良◆◇


袁紹軍が倒され、麗羽様や文ちゃんとはぐれて曹操様の所で保護されて数日。
私は曹操様の納める国と麗羽様の納めていた国の違いを見せつけられた気分になっていた。

曹操様の薦めで暫く、この国のあり方を見学する事になったけど……税が安く、国益が安定してる。民に笑顔が溢れ、皆さん生き生きとしていた。
麗羽様と曹操様で生きざまが違うと分かっていたけど、ここまで国に差が出るなんて思ってなかった。

そして、ある日。私はこの国の警備隊副長、秋月純一さんのお仕事を手伝う事になった。以前、麗羽様の発案した反董卓連合の時に会った不思議な人。その後も何度か会う機会があって、その度に目が離せなくなる人だった。
今日の彼の仕事は街の巡回だと聞いていたのだけど……街に出てから民に気さくに話し掛けられていた彼を見て信じられなかった。街の警備隊とは犯罪者が居ないかを見張る役目なのでは?と思っていたから。


「っと……そうだ副長殿。向こうの区画の方なんだが……なんかガラの悪そうな奴等が最近、住み着いてたぜ」
「副長さん、新作の小物を作ったんですが」
「この間、教えてくれた天の国の服を……」


それからも彼は街の人や商人から話し掛けられ、その一つ一つを聞き逃さずに聞いていた。思ったけど、これって街の警備の巡回なのかな?何故、こんな事をするのかと聞いてみたら彼は『人との繋がり』を大事にしたいと答えた。
私も麗羽様の代わりに街の警備案とか出してたけど根本から違う物だった。
その後も街の巡回をしながら街の人達の相談を受けて予定していた時間よりも少し遅れて城に戻った。


「ま、俺の一日はこんな感じかな。今日は巡回を主軸にしたけど事務仕事は別にしてるから」
「今日のも十分事務仕事……いえ、なんでもないです。今日はありがとうございました。明日は北郷さんの方に着いていってみます」


秋月さんは今日はただの巡回だと言ったけど今日のも十分に事務仕事だったと思う。街の人達の声を聞いてそれを改善案に盛り込んで、部下に指示を出して……


「私がしてきたのって……何だったんだろう……」


私は秋月さんの傍を離れると、ポツリと呟いた。その言葉に答えてくれる人は此処にはいない。麗羽や文ちゃんの代わりに田豊ちゃんと頑張って政治や軍備を頑張っていたけど……この国を見てしまうと自分の何もかもが否定された気分だった。

次の日になり、警備隊の北郷一刀さんと楽進さんと一緒に巡回に出たけどやはり秋月さんと同じで民との触れ合いを大事にしてる。
そのやり方は曹操様の方針かと聞けばそうではなく隊長と副長の方針ですと楽進さんから返答が来た。その言葉に私は益々分からなくなってしまう。
曹操様からは、この国に留まって見識を広めなさいと言われたけど、秋月さんと接していると……


「行くぞ、シャイニングフィン……痛ったー!?」
「師匠ーっ!?」


秋月さんの悲鳴と高順君の叫びが聞こえる。彼が本当にわからなくなるけど……目が離せないのは決まりかな?

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第八十六話





顔良の案内をした次の日。書類仕事を終えた俺は大河と組手をしていた。いつものように俺が劣勢だったのだが、俺は起死回生の一手に掛けた。


「行くぞ、シャイニングフィン……痛ったー!?」
「師匠ーっ!?」


気を右手に一気に集中させたら右手の指がビキッと嫌な音を立てた。鋭い痛みに俺はその場に倒れ混む。


「くお……あああぁぁぁぁぁ………」
「し、師匠、師匠!?」


大河が俺を案じて身を揺さぶるが右手がヤバイくらいに痛い。


「あ、秋月さん!?しっかりしてください!?」
「純一さん!」
「副長!」


俺の悲鳴を聞き付けたのか顔良や一刀、凪も来たようだ。いや、顔は上げてないから声での判断なんだが。この後、俺は四人に運ばれて医務室へと搬送された。





「副長……どうやったら右手の指を同時に5本も突き指するんですか?」
「いやぁ……右手に気を集中したらビキッときたわ」


最近、俺の専属となりつつある医師のジト目を視線から反らしながら答えた。なんとも最近は遠慮がなくなってきたな、この人も。


「副長……以前は普通に気を手に込めてましたよね?」
「ん、ああ……今回使った技は掌全体に気を込めて相手の顔に叩き込む技だったんだが……」


手に気を集中させるのには慣れてきた筈だったんだがなぁ……


「…………副長、もしかして掌だけではなく指にも気を込めましたか?」
「ああ、掌の気を叩き込んだら指先の握力で相手を逃がさない技だから」


凪の質問に答えた俺だが凪は、その答えに得心が行ったという表情になる。


「はぁ……それが原因です。気を一定の箇所に集中させるにはそれ相応の気を操らねばならないのです。指先に集めたり、すぐに放つだけなら兎も角、気を指先と掌に集中させれば器……つまり副長の手が保たなかったのでしょう」
「あー……なるほどね」


凪の説明で指五本を同時に突き指するミラクルを引き起こした原因がわかった。
今までは拳に気を集中したり、掌だけだったのを指先にまで範囲を伸ばしたのが原因だったのか。しかも全体を気で覆うのではなく指に気を這わせた結果、俺の手は気を保つ事が出来ずに崩壊……とまでは行かなくとも突き指状態になったと。


「副長の体は怪我の見本市ですな。若い医師達の勉強になります」
「この国の医療に貢献できて何よりだよ」
「アンタ……皮肉を言われてる自覚を持ちなさいよ」


随分な言われようだがマジで医療貢献になってるだけに笑えない話だ。だが俺の身を持って若い医師の勉強に役立てるのならば……なんて思ってたら後ろからツッコミが入る。振り返れば呆れ顔の桂花が居た。


「桂花、来てたのか?」
「そこの馬鹿が怪我をしたって報告を聞いたから見に来たのよ」


一刀が桂花の来訪に驚くと桂花はサラっと理由を述べて俺の方へと歩みを進める。


「ったく……アンタは!」
「ほーひ、ひたひって……」


桂花は流石に怪我人を叩く気にはならなかったのか俺の頬を両手でつねっていた。


「アンタね……忙しくなりそうな時に余計な心配させるんじゃないわよ!」
「ほりゃ……わるかっはな」


桂花は俺の頬をつねったまま叱るが俺はこんな状態じゃ喋れないってのに。


「あれ、それじゃ桂花ちゃんは仕事を差し置いて秋月さんのお見舞いに来たんですか?」
「っ!!」


そこで桂花の行動に驚いた顔良が思った事を口にした。まあ、袁紹の所の時代の桂花しか知らないなら、そりゃ驚くか。桂花は桂花で自分の行動指摘されて顔赤くしてるし。可愛いなぁ。






こんな風に思ってもらえて……俺もそろそろ決めるべきかな。一刀や大河に冷やかされ、二人に罵声を浴びせる桂花にそれを止めようと宥める凪と顔良を見ながら……俺はぼんやりとそんな事を思っていた。


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第八十七話





この世界に来てから元の世界に帰る事を考えていたが……その手立てが一切見当も付かない。
いつかは帰れると考え、惚れた女にも何も言わなかった。
元の世界に帰る事を諦めた訳じゃないけど、俺ももう少し己の気持ちに素直になっても良いと思い始めてる。
じゃあ惚れた女に告白しに行くかと問われれば今現在は無理な訳で。


「ですから、この予算は……」
「だとしてもなぁ……」


現在、俺は魏の金庫番相手に交渉を続けていた。つーか、俺がする交渉じゃない気がするのだが。
警備隊の予算の話をしに来たのだが現在、軍の拡大による影響で警備隊にこれ以上、予算は割けないと言われ、何とか都合をつけてほしいと交渉をしているのだが難航中である。


「………一息着きましょうか。互いに熱くなりすぎてます」
「ふー……そうだな」


栄華の提案に俺も乗る事にした。確かに少し熱くなっちまったかな。
しかしまあ……何かを決意すると仕事が入ったり、用事か入ったりとままならないものだ。


「………何か悩みでもおありですか?」
「……ん、喋っちまってたか?」


溜息を吐いた俺に栄華がお茶を差し出しながら聞いてくる。口にしちまってたかな?


「いえ、数日前から様子が違って見えていたので……って何でニヤニヤと私を見るんですか?」
「いやな。俺が悩みを抱えているのは事実だが男嫌いの栄華が俺を見ていてくれたかと思うとな」


確かに俺はここ数日考え事をしていたが男嫌いを自称していた栄華がそんな風に男である俺を気にしていてくれたとはな。


「わ、私だけじゃないです!一刀さんや桂花も気にしていたので!」
「そうかい。ありがとな」


俺は栄華に礼を言うと共に、やはりこの国で生きていく覚悟を決めるべきだと再認識していた。元の国に帰りたい気持ちは未だ、変わらない。でも元の世界と同じくらいに、この世界を好きになり始めてる。


「巨乳は我等の敵である!!」
「「「敵である!!!」」」


俺がそんな感傷に浸っていたら外から謎の雄叫びが聞こえた。


「今のは……桂花か?」
「後半は禀さんや季衣、流琉ですね……」


真っ昼間から何を叫んでるんだアイツ等は……


「さて……少しクールダウンした所で……」
「そうですね。でも譲る気はありませんよ?」


今のは聞かなかった事にして再び、会議を始めようとした所で部屋の戸が開いた。


「こんにちはーなのー!」
「さ、沙和!副長も栄華様も仕事中なんだぞ!?」
「あはは……お邪魔します」


元気よく沙和が入ってきたと思ったら凪が紗和に手を引かれて入ってきて、それに続いて一刀が入ってきた。
ってよく見れば凪はいつもの服装ではなく……


「制服?」
「あー!副長も制服って言ったのー!」


俺の呟きに沙和が反応を示した。どうも話を聞くと凪が今、着ている服は紗和のオリジナルらしく、この服装を見た一刀も同じく感想を言ったらしい。そして今は色々な人に凪のオシャレデビューを見せに回ってるらしい。


「なるほどね。だが似合ってるぞ凪」
「あ、ありがとうございます……」


モジモジしながら礼を言う凪はいつもの凛々しい雰囲気とは違って実に可愛らしい。一刀も同じ事を思っていたのか俺と目があった一刀は同時に立ち上がりピシッガシッグッグッと意志疎通を試みる。
やはり女の子が可愛いのは万国共通で素晴らしい事なのだ。


「秋月さん……予算の件ですが口利きしてもよろしいですよ。ただし……」
「わかっている……任せろ」


栄華は俺に何かを訴える視線を送ってくる。その瞳はこう語っていた『予算に口利きする代わりに可愛い服を所望します』と。俺も凪の姿を見て心が洗われたよ。服屋の親父に渡すつもりだった天の国の服の案を大量放出すると今決めた。


「交渉成立だな」
「いいでしょう」


俺と栄華は先程、一刀としたのと同じようにピシッガシッグッグッと意志疎通を交わした。
一度見ただけで覚えるとは栄華、恐るべし。



『ピシッガシッグッグッ』

ジョジョの奇妙な冒険第三部で海底を潜航中の潜水艦から敵の攻撃により脱出を余儀なくされてしまう。
その際、ジョセフから水中での簡単なハンドサインを指導されたのだがポルナレフは自分もハンドサインを知っていると言うとハンドサインをやって見せる。
『手を叩く→ピースサイン→右目に親指と人指す指で作った○を当てる→額に右手をかざして遠くを眺める仕草をする』だった。 
これを見た花京院はすかさず「パン、ツー、マル、ミエ」→「パンツ丸見え」と読解。ポルナレフは花京院とタッチし、互いに意思疏通が叶った事に更なるハイタッチを行った。
それが『ピシッガシッグッグッ』である


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第八十八話




◇◆side文官◇◆


私は名もない文官。私は魏の文官として書庫で日々働いているのですが、少し前から魏へと来ていた警備隊の副長、秋月純一様の事をお話しします。
副長さんは荀彧様のご実家で文を学んだらしく、字は少々乱れていましたが読み書きは問題なくこなされる方でした。
副長さんと荀彧様は仲が悪い様に見えて実際は仲が良く……と言いますか、荀彧様が素直になれていないだけなのですが……これは城に使える者達の総意かと思います。
このお話はそんなお二人の身に起こったお話なのです。


これは、とある日。
副長さんが所用で書庫に入らしたのですが荀彧様も偶然居合わせて荀彧様は副長さんにキツいお言葉を浴びせていました。一通りお言葉を聞いた副長さんは再び、仕事に戻っていきました。後程、お話を聞いたら『もう慣れた』との返答が……やはり只者では無いと実感します。

それは兎も角、副長さんはお人好しで自身の仕事がお済みになった後も文官の手伝いを始めていました。バタバタと書庫を走る副長さんに荀彧様の機嫌は悪くなっていきました。
何故なら、副長さんに仕事をお願いしている文官の大半が女性だったからなのです。
副長さんは文官の間でも評判が良く、話題にもよく上がります。それ故に、ここぞとばかりに女性文官達は副長さんに仕事を頼んでいます。
そしてそれに比例して荀彧様の機嫌も悪くなっていってます。荀彧様はフンと鼻を鳴らすと自身の仕事へ戻ってしまいました。
荀彧様はご自身が欲しい本の一つが高い所においてあり、目一杯手を伸ばして本を取ろうとしていますが、無常にも少し届かないでいる。すぐ横に置いてある足場を使えばいいのでしょうが荀彧様は意地になっているのか一向に足場を利用する気配がありませんでした。私は差し出がましいと思いながらもお手伝いをしようと思ったら本を抱えたままの副長さんが彼女の隣に行き、目当てであろう本を取る。


「ほら、これだろ?」
「あ、秋……あ、ありがとう」


不意に助けが来た事に驚いた荀彧様でしたけど、それが副長さんだと気付いて顔を赤くされていました。上司に言うべき言葉ではないのですが非常に可愛いです。


「ったく……意地張らないで足場を使えよな」
「そ、そうね……次からはそうするわ」


副長さんの指摘に荀彧様は顔を赤くしたまま頷きました。以前の荀彧様でしたら、こんな対応は無かったかと思うとドキドキです。


「足場を使わないなら俺を呼べよ。そのくらいなら手伝えるんだからよ」
「あ……う、うん」


副長さんの笑みに顔を赤らめたまま頷く荀彧様。甘い、とてつもなく甘酸っぱいですよ、お二人共!


「じゃ、また後でな」
「あ、待って秋月!」


そのまま立ち去ろうとする副長さんを呼び止めようとした荀彧様。呼び止められた副長さんは勢い良く振り返ってしまいました。


「ん、どうした桂花?」
「きゃっ!?」


振り返った副長さんの肘が荀彧様の胸の辺りに当たってしまいます。


「あ、悪い桂花。アバラは大丈夫だったか?」
「え……アバラ?」


副長さんは荀彧様の安否を気にしている様ですが遠目で見ていた私には別の意味で安否が気になりました。だって……


「ああ、今強く当たっちまったからな。痛くなかったか?」
「………あのね、秋月」


副長さんは本当に純粋に荀彧様の事が心配なのでしょうが……荀彧様は自身の胸に手を当ててプルプルと震えてらっしゃいます。私はハラハラとお二人のお話を聞いていました。


「アバラじゃなくて……胸なんだけど……」
「………………………………………え」


荀彧様は涙目になって副長さんに訴えかけ、副長さんは「あ、ヤバい」と言った表情になってます。
数分後、荀彧様が椅子に座って足を組み、見下ろされる形で床に正座している副長さんの姿が。
書庫の中なので非常に目立ってますが誰も言い出せません。
この光景は曹操様が書庫にいらっしゃるまで続いていました。

このお二人が素直に好き合うのは、いつ頃のお話になるのでしょうか?
今日も女性文官の間では噂話が絶えません。

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第八十九話




俺は今、至福の時を迎えていると言っても過言ではない。
男ならば誰もが夢見る『自分の為に料理を作ってくれる女の子』それが今、俺の前にいるのだから


「そうですよ……はい、お上手です」
「う、む……そうですか。ありがとうございます」
「華雄の上達ぶりは凄いわね……私も負けらんないわ」


厨房に立ち、料理をする月と華雄と詠。エプロン姿で台所に立つ女の子って良いね!


「なにニヤニヤしてるのよ、気持ち悪い」


そして今日も桂花の毒舌は切れ味抜群である。と言うのも、この間の胸の一件以降、言葉の端々にトゲがある。そろそろ泣きたい。


「いえ……桂花さんは純一さんが他の女の子に鼻の下を伸ばしてるのにイラついてるんじゃ……」
「シッ!言わない方が懸命だ」


向かい側の席じゃ流琉と一刀が並んで座ってる。うん、後で覚えてろよ。


「しかし意外でしたよ。華雄が料理をしてるなんて」
「ちょっと前から始めてな。最初の頃は俺が教えてたんだが今じゃ俺なんかより、よっぽど上手く作れる様になってるよ。それに天の国の料理も少しずつ覚えてきてるしな」


一刀は華雄の料理を意外と言ったがそれは間違いじゃない。それこそ最初の頃は大変だったんだから。


「でも華雄さんの手並みは凄いですよ。月さんや詠さんと同じくらい手付きが良いです」
「慣れ始めたらメキメキと上達してな……最初の頃なんかは酷かったんだぞ……例えば……」



◆◇導入編◆◇

華雄に頼まれて俺が料理を教える事になった。華雄も色々な事に目を向ける様になったのは良いことだ。張り切って教えてやろう。


「んじゃ、この包丁で野菜を切ってくれ」
「任せろ……どりゃあっ!」
「野菜ごと、まな板を切るなーっ!」


野菜もろ共に、まな板まで切れたよ。危ない……と言うかどんだけ力を入れたんだよ。




◆◇炒め物◆◇

「野菜を炒める時は油を少し鍋に……」
「む……これくらいか?」


俺の言葉を聞いた華雄はザパーッと大量の油を鍋に投入し始めた。


「鍋の淵、ギリギリまで油を流すな!少しと言っただろ!」
「量を多くすれば美味くなるものではないのか!?」
「何処から仕入れた、その知識!?」



◆◇包丁編◆◇

華雄は次々に野菜をみじん切りにしていく。最初の頃とは違って包丁の使い方もかなり上手くなってるな。
って、華雄は切る予定じゃない野菜までみじん切りにし始めてる。


「避けろ、菜っ葉ーっ!……じゃなかった。菜っ葉は切らなくて良いから」


俺は華雄が切ろうとしていた菜っ葉を横に移動させた。



◆◇材料採取編◆◇

「肉だな……よし、山に行って猪でも狩りに……」
「市場に行って買ってこような」


大斧を持って山へと向かおうとした華雄を止めた俺は間違っていない筈。








◆◇◆◇



「と……まあ、こんな次第でな」
「むしろ、その状況から良くここまでの料理を……」


俺が話をしている間に華雄、月、詠の料理は完成していた。
先程、話していた初期の華雄の駄目っぷりを聞いていた一刀、流琉、桂花は目を点にしている。
そして皆で揃って食事を頂く事に。


「うわっ、美味っ!」
「凄いです!」
「………やるわね」


一刀、流琉、桂花の順に感想が出るが三人とも驚いた様子だ。まあ、さっきまでの話を聞いた後にこんだけ美味い料理が出てくれば当然のリアクションか。


「ど、どうだ秋月?美味いか?」
「ああ、美味いよ華雄。ありがとな」


俺が素直に感想を言うと華雄はガッツポーズをした。俺も料理をするけど、やはり作ったものが美味いと言われるのは嬉しいからな。


「私も料理人として今度、華雄さんにお教えしますね」
「ああ、よろしく頼む!」


華雄の料理に触発された流琉が華雄と熱い握手を交わしていた。なんか凄いやる気だ。


「でも、まあ……さっきの華雄や月や詠を見てると……純一さんと新婚さんみたいでしたね」
「「「っ!!?」」」


一刀の何気ない一言に華雄、月、詠の顔が一気に赤くなった。ふむ、この三人が新婚か……少し想像してみると……


「悪くない、って言うか凄く良い……痛っ!?」
「………フン!」


俺の溢した言葉に桂花が俺の足を踏みつけた。しかもそっぽ向かれた。








因みにこの後だがドヤ顔の華雄と桂花が喧嘩が始まってしまう。月と詠は先程の俺の言葉が効いているのか顔を赤くしたままでマトモに俺と話をしてくれなかった。
トドメとばかりに大将から『天の国の知識を出したのに私を呼ばなかったわね?』もお叱りを受けた。

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第九十話




「副長さんもまた珍しいものを発注しますな」
「悪いね、無茶言って」


俺は服屋の親父さんに、とあるデザインを書いた服の案を渡して作るように頼んでいた。最初に発注書を見て、首を傾げた親父さんは間違っていない。俺がそれだけアホな服の案を出したのだから。


「ああ、いえいえ!副長さんのお陰でウチの店は儲かってるんですから副長さんの頼みなら作ってみせます!」
「そっか。じゃあヨロシク頼みます」


親父さんに改めて服の注文を頼んだ後に俺は服屋を後にする。今回、頼んだ服はぶっちゃけ新しい技開発の為に必要な物だ。あの発注書通りに作れたとして、後は俺次第。だがこれが上手くいけば俺の強さは更なる段階へ……やめとこ、何らかのフラグにしか思えないわ。


「と……あれは……」


煙管に火を灯して城へ帰ろうとしたのだが、その途中の茶屋で見かけたのは……おいおい、マジですか!?
茶屋に居たのは月、詠、華雄、顔良。何やら危険な取り合わせだ。何があったらこの面子で茶屋に揃うんだよ!
これは何があったか確かめなくては……とりあえず気付かれないように茶屋に入って客を装って話を聞くか。
こそこそと店に入り、月達の死角になる席に座り、話をこっそりと聞く事に。
なんせ、顔良は反董卓連合を決めた袁紹の部下だった。その事に関して今まで問題が起きなかった方が凄いとも思えるが、この状況は大丈夫か?まあ、まずは会話を聞いて……


「じゃあ……月ちゃんは、その後で秋月さんと?」
「はい。華琳様に命じられて詠ちゃんと一緒に純一さんの侍女になりました」


あれー?予想外にも仲良く話してる。てっきり一触即発な雰囲気になるのかと思ってたんだけど。


「斗詩も侍女やってみる?学ぶ事が多いわよ」
「ふむ、その冥土服とやらも似合いそうだな」


詠と華雄も普通に会話してるし……あれ、俺の勘違い?なんか考えが先走り過ぎた?
ごくごく普通の女の子の会話だよ……なんかもっと殺伐とした雰囲気を予想していただけに驚きだ。
ともあれ、何事もないならそれはそれで良し。なんか肩透かしを食らった気分であるけど……

でもまあ……俺が見たかった光景でもあるんだよなぁ………争っていたとは言っても、いつかは手を取り合える世界。劉備もこんな世界を目指すとは言っていた気がするけど……大将からは『アナタと劉備では根本が違う部分がある』と言われた。
ま、これ以上は考えても仕方ないし、盗み聞きも野暮だな。
俺は店に茶代を払い、月達に見付からないように店を後にした。
ふと思ったが、この世界に来てから茶ばかりだから、そろそろコーヒー飲みたい……

この後、城に戻った俺は鍛練をしていた。新しい技の開発もそうだが、今は俺の中の気をコントロールする事が重要なのだ。
そして気をコントロールして放つ技がこれだ。


「ジャン……ケン……グーッ!」


俺は気を拳に集中して木にぶら下げた簡易サンドバッグを殴った。サンドバッグは俺の拳の威力に一瞬、宙を舞うが木に縛り付けられたロープによって引き戻される。
この簡易サンドバッグは俺が考えたもので、ずだ袋に砂を入れて上の口を縛った上で木に吊るしたものだ。
徒手空拳で戦う者の鍛練には最適だし、木とか岩を直で殴って自爆を防ぐためでもある(主に俺が)

さて、珍しく鍛練も無事に終わったので書類仕事に勤しむ俺。言っていて少し悲しくなったが周囲の認知もこんなもんなので最近は気にしなくなってきた。


「……ん?」


書類を纏めていく最中、気になる項目を見つけた。
『顔良を侍女として一時的に働かせる事について』なんだこりゃ?そういや、今日街で見かけた顔良も久しぶりな気がした。暫く、魏内部の様々な部署に顔を出してるとは聞いていたけど今度は侍女?そう言えば詠が侍女として働くか?みたいな事は言ってたけど……


「顔良のメイド服か……ヤバい超似合いそうじゃん。スカートはロングスカートとか似合いそう」


と言うか、あのビジュアルなら寧ろメイド服がマッチしすぎる。是非とも見てみたいな。


「って……そっちは兎も角。なんで顔良はここまで色々な所を回ってるんだが……」


見た感じ、警備隊・武官・文官・雑用と色々して最後に侍女の仕事を学びに来てるみたいだし……袁紹の所から離れて思うところがあるんだろうけど、ちっと不自然だ。でも大将が何も言わないって事は問題はないんだろうけど。


「と……そろそろ寝るか」


考え事をしながら仕事してたら結構な時間が経過していたのか窓から外を見れば、すっかり暗くなっていた。この世界には当然時計なんてないので、感覚的に時間を図るしかないんだが、恐らくもう寝る時間くらいにはなってる筈。んじゃこの書類を纏めたら寝るかな。
と思ったのも束の間。少々控えめにだが俺の部屋の戸がノックされた。


「はーい。鍵は開いてるよ」
「失礼します。純一さん」


部屋に入ってきたのは月だった。まだメイド服姿のままで、お盆にはお茶を乗せている。


「さっき部屋の前を通った時に部屋の明かりが付いていたので、まだ起きてると思ってお茶をお持ちしました」
「ありがとう……月」


優しく微笑む月に俺は思わず、泣きそうになる。月の優しさを1%でも桂花に移植できないかなマジで。


「ど、どうされたんですか?」
「ん、月の優しさを噛み締めてた」


俺は月からお茶を受けとると口にする。うん、昼間はコーヒー飲みたいとかボヤいたけど月のお茶があるなら、いいやとさえ思えるなぁ。


「そう言えば……純一さん。お昼頃にお茶屋さんに居らしたんですか?」
「ぶ……っ!?」


月の言葉に口にしたお茶を吹く所だった。なんでバレた!?


「じ、実は華雄さんが純一さんが居たと言っていたので……」
「あー……そっか」


月の言葉に思わず納得した。今の華雄なら気配を察する事は容易いだろう。にしても簡単にバレるとは……


「私や詠ちゃんや華雄さんを気にしてくれてたんですよね?斗詩さんが居たから……」
「うん……まあ。でも普通に会話してたから驚いた」


そう。昼間も思ったのだが顔良は袁紹の……


「純一さん……私、今の生活が好きなんです。確かに反董卓連合の時に名を無くしました。今までの私を全て消し去ってしまった戦い。でも……純一さんが私を救ってくれた」


月は俺の右手に手を重ねてくる。俺の右手には、あの時、月を止める為にした行動の爪痕が残されていた。


「その時の私と斗詩さんが重なって見えたんです。斗詩さんは袁紹さんの命令にしたがって都に攻め行ったけど……その結果全てを失った。君主も友達も……」


そっか……月の言葉でやっとわかったかも。月と顔良は立場が逆転してしまったから今の顔良の気持ちがわかるんだ。自害しようと自暴自棄になった自身と重ねて。


「でも最初は大変だったんですよ。詠ちゃんやねねちゃんから斗詩さんには近づくなって言われたり、華雄さんは顔良さんと決闘しようとしたり……」
「その光景が目に浮かぶよ。でもどうして、その状態から真名を交換しあう仲に?」


元董卓組としては袁紹配下の者を取り入れるのは反対ってのはよくわかるんだが、どうして真名を交換できたのやら。


「私は少しずつでしたけど……斗詩さんとお話しするようになったんです。そして分かったんです。斗詩さん……魏に来てから今までの自分を後悔してるって」
「後悔してる?」


月の言葉に思わず聞き返してしまう。


「袁紹さんの言いなりで色々な事をして……反董卓連合も劉備さんの時も……」
「あー……自分の意思は其処に無かったって事か」


自身の意思は其処になくても、やった事は罪。もしかして大将はその事を顔良に学ばせる為に?


「はい。斗詩さんとお話をする内に斗詩さんが自責の念に押し潰されそうなのを見ちゃったんです。泣いて……董卓への謝罪も聞けました」
「その事を会話の中から察した詠や華雄も参加してお昼のお茶会か」


なんとく察しは付いた。顔良が本気で反董卓連合の事を悔いている事を悟った月や詠達は自身の事は明かさなかったけど、顔良の謝罪を受け入れたんだ……董卓の名は既に死んだ。だから月個人として月は顔良を受け入れたんだ。
全てを否定するんじゃなくて、かと言って全てを水に流す訳でもなく……少しずつ歩み寄る事を決めたって事か。


「月達が……それに納得したなら良いんじゃないか?まだギクシャクはするだろうけど……」
「クスッ……この事は純一さんが教えてくれたんですよ」


俺の言葉に月は面白そうにクスクスと笑う。はて、何故俺が?


「月……それって」
「純一さんは……無自覚ですから……」


月は座っていた椅子から立ち上がると俺の隣に立つ。スッと俺の首に腕を回して……


「好きです……大好きです純一さん」


そう言った月の言葉と共に俺の頬に、とてつもなく柔らかい何かが押し付けられていた。それと同時に感じる女性特有の良い匂い。
月は俺の頬に自身の唇を当てていた。


「え、あ……」
「お、おやすみなさい!」


俺が呆然としている間に月は俺から素早く離れてしまう。
そして顔を真っ赤にしたままパタパタと走って部屋から出ていってしまった。


「あー……完全に不意打ちだったな」


なんて口では言うものの俺の心臓はヤバいくらいにバクバクと活動を活発にしている。
と言うか今さら、頬にキスされた程度でドキドキしている自分にも驚いてはいるのだが。






だから俺は気づかなかった。開いた扉の影から今の俺と月の一部始終を見ていた奴が居た事に。




『ジャジャン拳』
『ハンターハンター』主人公ゴンの念能力。
『グー』拳に集中させたオーラで相手を殴りつける。
『パー』掌に集中させたオーラを相手に向かって撃つ。
『チー』手に集中させたオーラを剣に変化させ相手を切り裂く。


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第九十一話



「真桜の様子が変?」
「はい……」


月に頬をキスされてから3日後。朝の鍛練をしていた俺に凪が相談を持ちかけたのが始まりだった。


「またカラクリの事で何か失敗でもしたか?」
「いえ……それとはまた別な感じでして……」


俺の言葉に凪は複雑そうな声を出す。ふむ、何かあったかマジで?


「警邏の最中に表情をコロコロと変えていました。急に怒ったり、顔を赤くしたり、泣きそうな顔になったりと……」
「中2病でも発症したか?」


真桜の行動を聞くと思春期特有の症状にしか思えない。


「発症って……病気なのですか!?」
「いや、そこまで深刻に受け止めるもんじゃねーよ。要は心の問題……かな?」


俺は汗を拭うと煙管に火を灯す。やれやれ、何があったんだか。
ここ暫く事務の仕事ばかりで外に出てなかったから真桜の様子を知るよしもなかったんだが。


「まぁ……今日は昼から俺も警邏だし、その時に真桜の様子を見てみるか」
「よろしく、お願いします。最近の真桜は警邏を真面目に勤しみ、普段とは違う様子なので」


俺に頭を下げる凪だが真面目に勤しんでるなら本来は結構な筈なのだが、真桜の評価はやはりそんなもんなんだろうな。
やれやれ。しかし本当に何があったんだが……





◆◇◆◇




「………」
「………」


さて、午後になり警邏に出たのだが、普段から喋り倒す真桜が終始無言なのだ。何となく空気も重いので俺から口を開くのも躊躇ってしまう。
なんなんだかなぁ……話も出来ないから何があったかも聞けないし。


「とー……秋月!」
「ん、ねねか」


どうしたものかと悩んでいたら、ねねが向こうの通りから歩いてきた。


「ねねは買い物か?」
「そうなのですぞ……って頭を撫でるななのです!」


買い物袋を抱える姿が微笑ましくて思わず、ねねの頭を撫でる。なんか頭を撫でたくなるんだろう不思議だよね。


「あ、あ……やっぱりなんか……」
「ん、真桜?」


ねねとじゃれていると真桜が驚愕の表情で俺を見ていた。いや、何事よ?


「やっぱり……副長は貧乳好きやったんか!?」
「いや、なんの話をしてんだテメーは!」


何を思ったから大声で叫んだ真桜に俺はビシッと真桜の額にチョップを一撃。何をトチ狂ってるんだ!


「だ、だって……この間、月っちと副長が……接吻をしてるの見てもーて……今もねねとイチャついて……そ、それで副長は貧乳好きなのかなーって」
「見てたのかよ!?」
「ゆ、月と接吻とはなんですとー!?後、貧乳って言うななのです!」


何を口走ってるんだコイツは!?いや、見られてたのも驚きだけどさ。


「やっぱあれか!無いか有るかわからんくらいのがええんか!?」
「落ち着け真桜!」


俺の部屋とか城の中ならまだしも街中で叫ぶ内容じゃないだろうが!


「曖昧なさんせんちでプニッとしたのがええのか!?」
「ちょっ!じゃなくて意味わかって言ってんのか!」


3㎝って微妙に言えてないから意味はわかってないなコイツ。


「そ、そやかて……華雄や顔良は兎も角、桂花とか詠とか月とかねねとかー!」
「具体的な落差を示すななのですー!!」


真桜の言葉に完全にキレてる、ねね。この場に桂花が居なくて良かったよ。殺されてたからね……たぶん俺が。
さて、これ以上被害拡大をされる前に……


「よっ……と」
「え……うひゃあ!?」


俺は真桜を正面から抱き抱えると米俵を担ぐみたいに肩に真桜を担いだ。真桜の腹が俺の肩の上に来る感じで。


「ちょ……副長!?」
「とーさま!?」
「やかましい!これ以上変な噂が流れる前に帰るぞ!」


驚く二人を後目に俺は城へ向けて全力ダッシュをした。途中で警備隊の若いのに会ったんで少しばかり残業を頼んだ。本来、俺と真桜が回る予定だった巡回コースを回るようにしてもらった。残業手当てを出さんとな。



◆◇◆◇ 



「ったく……ただでさえ、種馬兄なんて不名誉な噂が流れてるんだから勘弁しろよ」
「うぅ……すんません」


城に着く頃にはすっかりと冷静さを取り戻した真桜は顔を赤くしたまま俺の部屋で正座をしている。ったく……凪の言っていた、ここ数日の真桜の様子が変だったのは月が俺の頬にキスをしたのを見たらしく、その事から俺が貧乳好きだと勘違いをしたらしい。なんちゅー勘違いだ。


「だって……副長、ウチが胸を押し付けてもなんもしてくれへんやん」
「ギリギリの所で耐えてんだよ阿呆が」


立ち上がりプーっと頬を膨らませる真桜。何も感じてないとでも思ったか。理性を総動員して耐えてるんだよ。


「あー、そっか。副長はへたれやからウチに手を出せへんのやな」
「………真桜」


流石にカチンと来たので俺はユラリと立ち上がると真桜に歩み寄る。


「あ、あれ……副長?お、怒ってしもた?」
「………」


俺は無言のまま真桜に歩み寄り、真桜は俺の態度に脅えながら後退りをして壁に背を向ける。
そしてトンと真桜の背が壁にブツかると俺は真桜の顔のすぐ横に手を乱暴に突いた。ドンと音が鳴ると同時に真桜がビクッと震えた。そして怯えた表情で俺を見つめる真桜に俺はなんかゾクッとした。ヤバい……なんか俺の中で目覚めそうな予感。


「真桜、そんだけ挑発したんだから……覚悟は出来てんだろうな?」
「え、あ、ちょっ、待って副長……ウチ……そんな……」


俺の言葉にいつもの調子はなく、ただ狼狽しまくりの真桜。俺がグッと身を寄せると真桜は身を固くして震えていた。
そんな真桜に俺は迫り……額にキスをした。


「え……ふぇ?」
「少し迫られてそんな調子じゃ……身が持たないぞ」


キスをした後に離れた俺を真桜は額に手を当てながらポカンとしていた。


「月との事も……真桜が思ってるほどの事は無かったよ。だから……焦って変な噂流さないでくれよな」
「もう……ズルいわ副長……そんなん言われたら……」


俺はそう真桜に告げると真桜はニヤッと笑うと俺に迫り、つま先立ちになって俺の肩に手を乗せて背伸びをしながら俺の額にキスをした。


「へへー……お揃いやね」
「な、おま……」


真桜は悪戯が成功したと、いつもの表情に戻っていた。


「副長がウチを嫌いにならんで良かったわー。ほ、ほなウチはカラクリの調整があるからー!」


と思ったのも束の間。真桜は早口にそう告げるとバタバタと俺の部屋を出ていった。


「強がってたんかな……やれやれだ」


最期のは真桜が強がって……と言うか照れ隠しでやったってのは良くわかった。


「ま、これで……….」


そう真桜の調子も良くなり、解決だと思っていたんだ……この時までは……















「ね、ねぇ……秋月は貧乳好きだと聞いたんだけど……」


顔を真っ赤しながら聞いてくる詠。
そう……あの時、俺は真桜を担いで城に戻ったが、ねねは俺の部屋に来る事はなかった。
その時、ねねは俺にキスした事をなんと月本人に聞きに行った挙げ句、真桜が口走った事を話したらしい。
その結果、城に『秋月は貧乳好き』と噂が流れてしまったのだ。


こうして俺は今、ほぼ毎日の様に誤解を解く日々を過ごすはめになる。
因みに一番誤解を解くのに時間が掛かったのは桂花だったりする。



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第九十二話





◇◆side一刀◇◆


数え役満姉妹の大型ライブ。
本日は視察も兼ねて華琳達も見学に来ている。一番良い席を確保して楽しんでもらう&今後の予算をもぎ取る算段だと純一さんらしい意見を出していた。
三姉妹……特に天和と地和には今回のライブの重要な事だから調子に乗らない事と釘を刺しておいたし、純一さんからも気を付ける様にと言われていたから大丈夫。因みにその純一さんは仕事で徹夜だから終わり次第合流するって言ってた。
準備は万端。これで大丈夫。
そう……大丈夫だと思っていたんだ……


『あれれ~?声を出さない子達が居るぞ~!』


マイク越しに地和が此方を指差している。そう、貴賓席に案内された華琳達だがライブの熱に押され気味でファンがする叫びをしなかったのだ。その結果、盛り上がらないと地和が文句を付けて、ファンクラブの連中が血走った目で此方を睨んでいた。
暴走したアイドルのファンって怖いよね。


「貴様らぁぁぁぁぁっ!烏合の集まりだと思って堪えていればいい気になりおって!下がれ下がれ下郎ども!このお方をどなたと心得る!」


遂にファンの行動にキレた春蘭が大声で叫ぶ。その姿はご老公の付き人の如く。いつもなら純一さんがやるポジションだけど今日は居ないから……


「畏れ多くも先の副将軍………」
「……副将軍って誰よ」
「……空気読め、北郷」
「お前は少し黙っていろ」
「………うぅ、すまん」


ボケたら華琳達からの総ツッコミで黙らされた。この状況下で、いつもボケられる純一さんが改めてスゴいと思わされるよ。


「このお方をどなたと心得る!畏れ多くも魏国国主、曹孟徳様にあらせられるぞ!」
「頭が高い!控えおろう!」


春蘭と秋蘭が華琳の両サイドに控えて叫ぶ。いや、だから水戸のご老公なんだってそれは。兎に角、この流れはマズい。なんとか話を静めないと……


『ええい!皆の者、出合えっ、出合えぇぇぇい!』
「「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」
「地和のバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


地和の叫びに呼応したファンが一斉に押し寄せる。だから純一さんにも釘を刺されたけど華琳達相手に騒ぎはマズいんだってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!。だが俺の叫びも虚しく華琳達もノリノリで対応を始めていた。


「ふん。この曹孟徳に楯突こうなど、何という身の程知らず。春蘭、秋蘭。構わないから、やっておしまいっ!」
「はっ!」
「はっ!」


華琳の号令の下、その場に居た武将達は武器を構えて……ってヤバいって!?
俺が頭を抱えてどうしようと思った、その瞬間だった。
俺達の背後から円盤形の気弾が飛んできて、迫り来るファンの足元に突き刺さった。気弾は地面を抉り、俺達とファンの間に溝を作った。って……この気弾は、まさかっ!?






「随分な騒ぎだな……手伝ってやろうか?ただし真っ二つだぞ……」
「純一さんっ!?」


火の灯した煙管を吸いながら此方に歩み寄る純一さん。
来ているスーツは着崩れてワイシャツとスラックス。そして緩めたネクタイで怠そうにしていた。
そうか……仕事が終わったら来るって言ってたけど、そのまま来たんだな。


「急いで仕事を終わらせて……徹夜明けで来てみれば……なんだ、この騒ぎは?」
「あ……いや、その……」


純一さんの問いに答えられない。と言うか、眠たいのか目が座ってる純一さんが怖すぎる。
会場も水を打ったみたいに静かになっている。


「地和……盛り上がるのは結構だが騒ぎにはするなと言った筈だが?」
『あー……えっと……盛り上がって……つい』


地和もテンションが上がった状態だったから、やってしまったけど純一さんの登場で頭が冷えたのか、今はヤバいと本能的に感じてるみたいだ。さっきまでの勢いが完全に消えていた。


「つい……ね。ついで地和は国の王に暴動を仕掛けたのか?」
『あ、その……』


フゥーと紫煙を吐く純一さん。っと言うか純一さん……真島のお兄さんみたいです。
その雰囲気に華琳達も黙っちゃってるし。


「んだとコラッ!地和ちゃんに文句あるってか!?」
『あ、馬鹿!?』


その時だった。ファンの一人が純一さんに食って掛かったのだ。地和もマイク越しに叫ぶがファンの一人は既に純一さんに向かって走っている。


「悪い子には何が有ると思う?……拳骨だ」


そう言うと純一さんは腕をグルグルと回し始めた。え、何を……?


「舐めるな!」
「食らえ……必殺!」


純一さんの相手を馬鹿にした様な行為に殴り掛かろうとファンの一人が拳を振り上げた瞬間、純一さんも間合いを詰めた。


「ア~ンパーンチっ!」
「ぶふぁっ!?」


純一さんの拳が先にファンの顔に直撃し、ファンは10メートル程、吹っ飛ばされた。いや、でも、アンパンチってアンタ……


「さあ……次は誰かなぁ~?」
「な、舐めやがって……行くぞ!」
「「おうっ」」
『ああ、皆、ちょっと待って!?』


純一さんが再度、腕を回し始めるとファンの一部が又しても暴動と成り始めて純一さんに襲いかかる。人数としては10人程度。先程の事もあってか大半のファンは頭を冷やした様だが一部はまだ頭が熱い様だ。
人和の制止も無視して暴動は始まってしまった。


「アンパーンチ!」
「ぐぶぁ!?」
「つ、強いぞ!?」


純一さんのアンパンチによって潰されていく一部の暴動達は兎も角、大半のファンは引き気味だ。
今までで一番上手くいってる技が、アンパンチってどうなんですか純一さん……


「うぅむ……見事な技だ、あんぱんち」
「何処がだ、ただ腕を回してから殴っているだけではないか」


純一さんと暴動の戦いを見ていた華雄の呟きに春蘭は疑問をぶつける。いや、疑問は俺もあるんだけど。


「あの技の恐ろしい所は腕を回すことにある。腕を回す事で、間合いを測りづらくなり、更に遠心力で加速された拳が射程圏内に入ったと同時に襲ってくる。何とも恐ろしい技だ」
「な、なんと……」


華雄の解説に驚く春蘭。華雄の解説は凄いけどあれは、ただのアンパンチだから!
その後、春蘭や霞達も暴動鎮圧に加わり、数え役満姉妹の大型ライブは中止……と言うか延期になった。暴動を鎮圧の後に純一さんがステージの上で地和を正座させて説教をする事態となったのだ。

勢いに任せて馬鹿な騒動を起こすなら二度と大型ライブはさせないと怒ったんだ。確かにそれを許したら黄巾の時と同じだからね。天和と人和は地和を止められなかった事を叱られてたけど。
その姉妹が説教をされる光景を見た、ファン達も熱くなるのは良いが周囲に迷惑をかけたら暴動と変わらんと純一さんの一声で静まり反省していた。

全てが終わって、舞台袖に戻った純一さんはフラりとベンチに倒れて寝てしまった。純一さんも徹夜明けのテンションで少し変になってなんだな。

でも、あんな状況でも妙に上手く纏めるのは純一さんらしいかな?



『アンパンチ』
アンパンマンの一番有名な得意技であるパンチ。片腕を振り回して力を貯め、渾身のパンチを放つ。
その威力はバイキンマンの乗る円盤やバイキンメカを山の向こう側まで吹っ飛ばし、星にする程。


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第九十三話





◆◇side桂花◆◇


数え役満姉妹の催しから数日。私は華琳様から命じられた仕事をこなしていた。そして、少し息抜きと城の中を散歩していたのだけど……


「どうした秋月!あんぱんちとやらを放って見せろ!」
「見切られると分かってる技を出すと思ったか?食らうが良い、太陽け……って熱っ!?」


中庭で華雄と模擬戦をしている秋月が居た。先日とは違う技を華雄に使おうとしたらしいが技を放とうとした瞬間、顔を押さえて踞る。


「くおぉぉぉぉぉぉぉぉ……顔が熱い!?」
「何をしようとしたんだ秋月?顔に向かって気を放てば当然だろう?」


華雄の発言から秋月は顔に気を集中しようとしたらしいけど、あれって完璧な自滅よね?


「こ、この技は太陽拳と言ってな……瞬間的に気を集中させて光を放って相手の目を眩ませる技なんだが……」
「それでか……ほら、大丈夫か?」


苦しんでいる秋月に華雄は用意していたのか、濡らした手拭いで秋月の顔を拭いていた。なんか……この間から距離が近いわよね。



◆◇


「純一さん、お茶をどうぞ」
「おお、ありがとう月」


月の淹れたお茶を嬉しそうに飲む秋月。月の顔が赤いのはアイツを意識してるからよね……


◆◇


「副長の言うてた頑丈な棍棒ってこんなんか?」
「お、流石だな」


秋月と真桜は新しい素材で作った棍棒の固さを確かめていた。


「でも、なんで棍棒なん?」
「警備隊の武装としては此方の方が適切かと思ってな。まあ、試作だし俺が試しに使ってみるか」


並んで武具の確認をする二人。


「ウチとしては……副長の下の棍棒を確かめたいんやけど」
「女の子がそんな事を口にするんじゃありません」


秋月は手にした棍棒で真桜の頭を叩く。叩かれた真桜も笑ってる。軽口で話し合えるのは通じ合ってるからって気がした。


◆◇


「うーむ……やっぱ勝てないか」
「ふふん、ねねに勝とうなんて10年早いのです!」


今度はねねを相手に囲碁をしてる。ねねは秋月の相手をしてやってるなんて、言ってたけど逆よね?秋月がねねの相手をしてる感じよね間違いなく。


◆◇


「秋月……買い物に出たら服屋の店主さんから『副長さんから頼まれた、服や衣装が出来ましたとお伝えください。その中の『あの服』なら貴女に似合いそうだ。もしかして貴女に着せる為に考案した服なんじゃないですか?』って言われたんだけど?」
「親父さんめ……でも確かに『アレ』は詠に似合いそうだ。服が届いたら着てくれないか?」


秋月は仁王立ちして睨んでいる詠にサラッと答える。


「ふ、ふーん。着て欲しいんだ……だったら僕の前で土下座でも……」
「お願いします」
「即座に実行するな!止めてってば……ああ、もう!頭を上げて!」


詠の強がった言葉に即座に土下座をした秋月。そんなに着て欲しい服とかあるのね……詠も悩む事無く土下座をした秋月に却って焦ってるわね。


◆◇


ここ数日、なんとなくアイツを見てたけど……仕事の合間に女の子と絡みすぎじゃないかしら……しかも私には何もしない癖に……
私は書庫で苛つきを抑えながら仕事をしていた。なんで私、こんなにイライラしてるのかしら……


「え、副長さんに?」
「そうなんですー。相談したら親身に相談に乗ってくれて……」
「流石、優しいわね」


書庫で仕事をしている文官達の話し声が聞こえる。そう……文官達にも手を出してるのね…。
私は不機嫌なまま、書庫から出る。イライラして仕事にならないわね。少し早いけど夕飯にしようかしら。

私が食堂に向かっていると向こうの通りに秋月が書類を抱えていた。私のこのイライラの全てをぶつけてやろうかと思ってアイツの所へ行こうとしたら死角になって気づかなかったけどアイツの隣に歩いてる人物が目に入る。
それは最近、魏に入った顔良だった。袁紹の所から離れてから生き生きとしてるのよね……ま、まさか秋月と…………


「斗詩も魏に慣れてきたみたいだな」
「はい、秋月さんのお陰ですよ」


いつの間に真名の交換したのよ……私はその事を問いただそうと歩み寄ろうとした。その瞬間だった。


「あ、あの……今晩、お食事ご一緒しませんか?」


え……?


「その……あんまり美味しくないかもしれないですけど……料理は得意な方なんです。だから……どうでしょう?」
「まあ、今日の夕飯も決めてなかったし……ご馳走になろうかな」


顔良の言葉に秋月は悩むそぶりを見せた後に承諾していた……


「やったぁ!じゃあ行きましょう!」
「おっと……焦らなくても良いって……」


顔良は秋月の答えが嬉しかったのか秋月の腕に抱き付いて共に歩いていく……もう、なによ!なによ!
私は文句の一つでも言ってやろうかと思ったけど……先程まであった苛つきは消えていた。







「なんで……こんな……」





私は胸を抑えてその場に座り込んでしまう。
なんでこんなに苦しくて……寂しいのよ……



『太陽拳』
独特のポーズで頭部から気を放ち相手の目をくらませる。サングラス越しなら直視しても問題ない程度の光量と思われるが、逆に目で物を見る相手であれば相当の格上にも通用する地味に強力な技。 
使い勝手良いらしくコツを掴めば誰でも使用可能で天津飯以外にも複数の技の使い手が存在する。


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第九十四話





斗詩から夕食をご馳走になった次の日。俺は服屋に出向いていた。


「しっかし……まさかの出来上がりだ」
「頑張らせて頂きました」


先日、詠から服や衣装が出来上がったと聞いてはいたがここまでのクオリティで仕上げるとは……


「副長さんに頼まれていた特注は此方ですが……」
「うん、注文通りで何より。つーか完成度の高さに驚いてるよ」


詠に着せるつもりだった服とは別に新技開発の為に考案した服も出来上がっていたが、頼んだ通りに出来てる。明らかにこの時代の服じゃないのだが、そこは割愛。
服を受け取った後も話し込んでしまって、すっかり夕方になってしまったが俺は今日は非番なので問題ない。むしろ新しい衣装話で盛り上がりすぎたくらいだが。

城に戻った俺は栄華に服の報告をしていた。新作をいくつか見せたのだが目がキラキラしてる。確かに今回の服の出来は最高とも言えるからな。ついでを言えば一刀も驚くだろう……クククッ。


「そう言えば秋月さん?桂花に何かしましたか?」
「ん、桂花に?」


栄華は何かを思い出したか様に俺に問いかけるが桂花になんかあったのか?


「ここ最近、様子が変だったので……秋月さんが何かしたのかと……」
「むしろ最近は桂花に何もしてねーよ。大将から新しい仕事を頼まれたって言ってたからな」


俺だって桂花と喋るの我慢してるのに桂花に何かしたのかと思われるのは心外だ。


「なら良いのですが……」


ジト目で睨まれる。いや、俺ってどんだけ信用ないのよ。
悲しい思いもしながら俺は栄華と今後の街の経済の話をしてから部屋を後にした。そろそろ大将も行動を起こすって言ってたから忙しくなるな。


「………ちょっと」
「ん、桂花?」


夕飯を食べようかと食堂を目指していたら背後から声を掛けられる。振り返ると桂花が俺を睨んでいた。


「どうしたんだ桂……ぐぇ!?」
「……………」


桂花は無言のまま俺のネクタイを引っ張る。待った待った首が絞まるから!?


「お、おい桂花?」
「…………」


俺が話しかけても桂花は無言のまま、俺のネクタイを引きながらズンズンと歩いていく。なんかドナドナされる牛の気分なんだが
そんな事を思って到着したのは城の中にある桂花の部屋だった。
桂花は乱暴に部屋の戸を開けると中に入り、俺もそれに続いて部屋の戸を閉めた。そういや、桂花の部屋に入るの初めてか。って……なんか嗅ぎなれた臭いが……


「………ひっく」
「桂花……お前、酒飲んでるのか?」


そう。桂花の部屋の中には酒の臭いが充満していた。よく見れば机の上には酒瓶があるし。その事に驚いていると桂花が俺を寝台に突き飛ばした。


「あ、あの……桂花……さん?」
「…………」


ギシッと寝台が軋む音がした。俺が寝台に倒れた後に桂花も寝台の上に膝を乗せ、なんと俺に跨がってきた。


「どうしてくれんのよ……」
「……え?」


何事なのかと俺が狼狽えていると桂花が口を開いた。いや、いきなり恨み節を言われても。


「華琳様から仕事を貰ったのに……イライラすんのよ。アンタの顔がチラついて……集中できないのよ……」
「え……あの……」


いきなりの告白に驚く。いや、仕事で集中できないのが俺のせい?


「辛いのよ……アンタが他の娘達と話してるのを見ると……もっと……もっと私にも構いなさいよ!」
「………桂花」


俺はマジで驚いてる。桂花がポロポロと涙を流して本音を俺に語っているのだから。


「ごめん……桂花が大将から仕事を任されたのを知ってたから邪魔しないようにと思ってたんだが」
「駄目よ。許さない」


俺の謝罪に即答である。


「んじゃ……どうしたら良い?」
「あ、アンタを……今から襲うわ」


何を言うてるんですか、このネコミミ王佐の才は。コラコラ、ネクタイを緩めて脱がそうとするな!


「落ち着けよ桂花。桂花は酔ってんだからさ」
「あ、当たり前よ!酔ってなかったらアンタ相手にこんな事するわけないでしょ!全部、お酒のせいよ!」


え……なんかしっかりとした返事が来た。


「そうよ……お酒が私を狂わせてるのよ……」


口調もしっかりしてるし……もしかして桂花は、この行動の全てを酒のせいにしたいのか?
だとすれば色々と納得できる。今までの発言は酒で酔っていたから本心じゃないと言い張りたいのか……
その線が当たりかもな。桂花から酒の臭いはするが泥酔って感じじゃないし。
今も不安げな顔で俺を見てるから間違いはなさそうだ。


と……言うかですね……


「桂花……顔こっち……」
「え?……む……ちゅ……ん」


俺は桂花を引き寄せてキスをした。
桂花は驚いた様子で固まってしまい、されるがままだった。


「ぷぁ……ちょっと待って……」
「襲うと言っておいて口づけで驚くなよ」


桂花はされるがままだったが俺を押し退けて拒もうとしたが俺の言葉に恥ずかしそうに黙ってしまう。
………その姿が可愛すぎて俺の理性は完全にノックアウトされた。


「よっと……」
「え、きゃあっ!?」


俺は桂花の左手を掴んで自身の方に引き寄せる。それと同時に俺は桂花と入れ替わるように体を起こした。
これで桂花が寝台に背を預け、俺が上になる形となる。


「え、あ、その、ね……」
「…………」


体勢が入れ替わり、桂花には先程までの『酔った』と言った演出はもう無かった。
俺が黙っていた事に恐怖を覚え始めたのか何を言おうかも定まらない様だ。


「俺さ……色々と我慢してたのよ。この世界に来てから世話になった桂花や魏に来てから仲間になった娘達のも含めて理性でなんとか耐えてた……でもさ」


そう、この世界の娘達は色々と無防備だから。いや、狙っての行動もあったんだろうけどさ。
俺の言葉に桂花も聞き入っている。だから俺は耳元で囁いた。


「好きな娘にこんな事されて我慢なんか出来るかよ」
「~~~~っ!?」


その言葉に桂花の顔は酒以外の理由で一瞬で真っ赤になった。
俺はもう止まる事は出来ない。
此処から先は大人の時間だ。



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第九十五話





桂花との熱い夜を過ごした次の日。


「…………夢オチってのは無かったか」


俺は行為に及んだ後に桂花の部屋でそのまま寝た。と言うか、お互いに力尽きて寝てしまったと言うか。
今までのパターンから邪魔が入ったり、桂花が嫌がったりしたりとしてきたが、そんな事もなく。


「スー……スー……」


俺の隣で寝ている桂花。昨日は無茶させ過ぎたな。
さて、この後様々な問題が山積みな訳だ。

まず一つ目。この後の桂花との関係だ。
昨夜の桂花は酒を飲んでいた。更に桂花は酔った勢いでの行動だと言い張っていた。つまり今回の事を無かった事にされそうなのだ。やっと本懐を遂げたのでこれは勘弁だ。

そして二つ目。荀家の事だ。
荀緄さんと顔不さんに桂花との事を頼まれていたのだが、こんな意味の頼まれ事じゃ無かろう。むしろ娘を傷物にしたとか言われかねん。荀緄さんがグッジョブしてる絵が頭の中に流れたが何故だろう。

最後に三つ目。ぶっちゃけ大将の事だ。
今回の一件。仮に黙っていたとしても全てを見通されてる可能性がある。

『私の可愛い桂花を傷物にしたのよ。覚悟は出来てるわよね?』

ヤバい。一番リアルに想像できた。
だが落ち着け俺。COOLだ、COOLになるのだ。
こういう時こそ落ち着いて行動しなければ……


「桂花、秋月が昨日の夜から姿が見えんのだが何かしらな……」
「あ……」


俺が今後の事を考えていた所で華雄が桂花の部屋に来た。俺も桂花も裸で寝台に揃って寝ていたバッチリ見られた。


「な、なななっ!?なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「何よ……うるさい……あ……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「…………こう来たか」


華雄の声に桂花が目覚めた。目覚めてから寝ぼけていた桂花だが目が覚めたと同時に状況を理解して悲鳴を上げた。
俺はと言えば、この後の展開を考えて頭を痛めていた。




◆◇◆◇



「で、申し開きはあるかしら?」
「いや、この状況に疑問はあるんだが」


何故か玉座の間がお白州みたいになってんだけど。
春蘭と秋蘭が刀持ちの武将みたいになってるし。
俺はと言えばワイシャツとスラックスを着た後にお白州で正座していた。


「……言い残す事はそれだけかしら?」
「お奉行様。流石に乱暴すぎますな」


大将は絶を取り出して俺の首を刈ろうとしたが俺は真剣白羽取りでなんとか受け止める。


「あら私の桂花を傷物にしたのよ。首を切られる程度で済むなら御の字でしょ」
「本懐を遂げた次の日に死んでたまるかよ……流石に抵抗するわ!」


俺は大将の絶を弾き返すと気を体に込める。それに対して春蘭が構えるが上等!


「ほぅ……ならば華琳様に代わり私が相手を務めよう」
「今の俺は阿修羅すら凌駕する存在だ」


剣を構える春蘭に俺は気を込めて相対する。


「ほう……後悔するなよ?」
「後悔なんかするかよ。じゃなきゃ惚れた女を抱くわきゃないだろ」


春蘭から本気の闘気を感じる……だからと言って今から退けるか!


「そ、ならいいわ」
「「へ?」」


いざ戦いが始まる瞬間に大将から許しが出た。何故に!?


「か、華琳様!?」
「純一が不純な動機だったり桂花を抱いた事に後悔しているようなら許さなかったわよ。でも春蘭と戦おうとした気概や今の言葉を聞けば十分よ」
「大将……」


大将の言葉に俺も春蘭も驚いていた。まさか大将からアッサリとお許しが出るなんて。


「し、しかし華琳様!」
「姉者、華琳様がお許しになられたんだ。我等が意見するべきではない」
「む……むぅ……」


戦いが中断された事に春蘭は不満を言おうとしていたが秋蘭に咎められて剣を納めた。いや、俺も驚いてんだけど。


「純一もお咎め無しよ。朝風呂にでも行ってくれば?」


大将はそう言うと玉座の間から出ていってしまう。いや、今の一連の流れはなんだったの?


「華琳様は最初から咎める気は無かったのだろう。秋月の気持ちを確認しときたかったんだろうさ」
「成る程、流石は華琳様だ。秋月、華琳様に感謝しろよ」


秋蘭も春蘭も大将に続いて出ていってしまう。そういや、秋蘭は慌てた様子もなかったし、大将の考えをわかってたのかな。春蘭はわかってなかったみたいだけど。
大将からの咎めがないなら心配事の半分は解消されたもんだな……安心したし、風呂行こ。














「あ、あんた……」
「あー……また、このパターンか」


風呂場に来た俺を迎えたのは五右衛門風呂に入ろうとしている裸の桂花。
俺は桂花から手桶が飛んでくると思って目を瞑ったのだが、いつまで経っても手桶が飛んでこない。
妙だと思って目を開けたら其処には少し不満そうに五右衛門風呂に入る桂花の姿。


「………何、ボーっとしてんのよ。入ったら?」
「え、あ……ああ」


手桶を投げないどころか、一緒に風呂の提案までしてくれた。
俺は戸惑いながらも桂花と風呂に入る事にした。

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第九十六話




狭い五右衛門風呂に俺と桂花は一緒に入っていた。
俺が胡座をかいて座り、その上に俺に背を向ける形で桂花が乗るのだが……昨日の今日でこんな事をされると流石に……また理性が飛びそうになるっての。かと言って止める気はサラサラ無いが。


「……何、盛ってるのよ。これだから種馬は……」
「俺が種馬なら桂花は肌馬……ぶっ!?」


桂花の発言に反論したら頭突きが来た。超痛い。


「次、肌馬って言ったら殺すわよ」
「はいはい……っと」


んじゃ、盛りのついた雌猫……と言おうかと思ったけど止めた。二発目の頭突きが来そうだったから。


「ねぇ……前に言ってた愛美ってどんな娘だったの?」
「………急にどうした?」


何故このタイミングで愛美の事を聞くかなコイツは……


「教えて……お願い」
「………愛美は俺の大学の後輩だった」


抗議しようかと思ったけど桂花の真剣な眼差しに、この質問に意味があると思って俺は真面目に答えた。


「大学って前に北郷が話してた学校って奴?」
「一刀が行っていた所とはまた少し違うけどな。それぞれの分野を選考して学ぶ所かな。そんで愛美は俺の一つ下の娘だった」


同じサークルに居たって言っても分からんだろうからそこは割愛。


「そんで……2年くらいかな付き合ってたのは……俺の卒業間近に別れてな」


思い出してると段々辛くなってくるな……


「振ったの?」
「振られたの……愛美曰く、俺は運命の相手じゃないんだと……」


思い出したら凹んできた。桂花の柔肌に癒されよう……軽く抱き締めたら抵抗しなかった。驚きながらも素直に堪能する。


「運命の……って何よそれ」
「なんでも……夢を見たそうだ。その夢の中で、ある人とまた出会う約束をしたんだと。そして俺はその相手じゃないんだとさ」


当時の事を思い出すと中々に泣けてくる。桂花の胸の辺りに手を伸ばしたら抓られた。


「随分勝手な話なのね……アンタは納得したの?」
「しなかったさ……でも真面目な娘でそんな事を言い出す奴じゃなかったから本気なんだと感じてさ。魏の軍勢だと……凪に近い感じかな」


そう愛美は凪みたいに真面目な塊みたいな娘だった。それだけに真剣な思いだったと気付いて別れを受け入れたんだ。


「……最後の……質問なんだけど……」
「なんだ?」


桂花が少し俯いて最後の質問をすると言ってくる。これ以上何を話せと?


「その……愛美って娘と肉体的な関係はあったの?」
「…………」


これはいったいなんの拷問ですか?前の彼女の事を根掘り聞かれたと思えば、その手の関係まで聞かれたよ。


「………あったよ」
「………そう」


俺の答えにチャプンとお湯に顔を沈める桂花。いや、話をしてキツいのは俺なんだが。何が悲しくて今、好きな娘の前で前の彼女の話をせにゃならんのだ。


「私はもう行くわ。昨日仕事に集中できなかったから今日は仕事しなきゃだから」
「ああ……そう」


なんとも昨日関係を持ったってのにドライだねぇ。マジで無かった事にされたか?


「……ねぇ」
「ん、どうし……む」


五右衛門風呂から出ようとした桂花だが突然振り返ったかと思えば俺にキスしてきた。俺の肩に手を置いて抱き締めるように。


「ん……んちゅ……」
「……ん……は……」



なんとも情熱的に舌を絡めるキス。キスが終わって離れると俺と桂花の唇から銀の一筋の橋が出来上がったが直ぐにプツンと切れた。


「あ、あの……桂花?」
「あ、アンタは初めてじゃなかったかもだけど私は初めてだったの。で、でもアンタがこの世界に来てからの初めては私なんだからね!」


早口言葉で捲し立てる桂花に俺はやっと理解した。桂花は今までの俺を知らないから知ろうとした。聞くのも辛いだろう事をちゃんと口に出して質問した。今までの桂花じゃ考えられない。
今までの桂花なら天の邪鬼で聞こうともせずに拗ねるだけだったんだろうけど……一晩で素直になったもんだ。


「そ、それと……仕事が終わったらアンタの部屋に行くから……」


そう告げると脱衣所にダッシュ……と言うか脱兎した桂花。
最後の一言……お前は俺を萌え殺す気か。

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第九十七話

◆◇side桂花◆◇


風呂場を後にした私は書庫へと向かい、仕事に没頭していた。昨日、出来なかった分を今日やらないと華琳様に報告できないからね。
昨日、集中できなかったのが嘘のように私は筆を走らせていた。むしろ此処までスラスラと進むと私自身驚いている。


「仕事は捗っている様ね」
「か、華琳様!?」


私が仕事を進めていると書庫に華琳様が居らした。書庫の文官達も慌てている。


「ああ、他の皆は仕事を続けて。私は桂花と話をしにきただけだから」
「「御意」」


華琳様の一声で文官達は仕事に戻る。華琳様が私に話……この瞬間思い付くのは昨日片付けられなかった仕事の事と……昨日の秋月との事。


「桂花……昨日の事なんだけど?」
「は、はい……」


ニコニコと歩み寄る華琳様。華琳様のこの時の目は私を可愛がってくださる時の目。でも今の私には少し嫌な予感のする物だった。


「純一と閨を共にしたそうね?」
「……………はい」



華琳様が私を後ろから、優しく抱き締めてくださった。
いつもの様に優しく、甘い包容。昨日、今日と秋月も私を抱き締めたけど雲泥ね。ったく……アイツももっと私を労りなさいよね。



「ふふっ……妬けるわね桂花。私の包容最中に『誰』の事を思い浮かべたの?」
「か、華琳様!?私は別に秋月の事なんか……」


私は華琳様のお言葉にハッとなる。華琳様に包容していただいてるのに他の事を考えるなんて、ましてや秋月の事を……


「あら桂花?私は『誰』と言ったのよ。純一とは言ってないのよ?」
「は、はぅ……華琳様ぁ~」


華琳様は待ってましたと言わんばかりの対応……い、いけない。このままでは……


「ねぇ……桂花?」
「は……はい」


華琳様は私の包容を解くと私の前に回る。


「純一は貴女を抱いた事を後悔してないそうよ。しかも、純一が貴女を抱いた事を咎めようとしたら抵抗したわ。春蘭と戦おうとする覚悟まで見せてね。愛されてるわね」
「~~~~~っ!?」


華琳様のお言葉に顔が熱くなるのがわかる。頬が緩むのを感じる。ヤバい……嬉しい、嬉しすぎる。これって、もしかして……私が秋月にベタ惚れ……


「まったく……男嫌いの桂花を雌猫にしてしまうなんて、やり手ね純一は」
「か、華琳様~」


私の態度にやれやれと肩を竦めてしまう。


「あら、でも……そんな雌猫の桂花と純一を一緒に可愛がるのも面白いわね。桂花、想像してみなさい?」
「か、華琳様と秋月と……」


私は想像した。二人揃って私を……ああ、いけません華琳様!秋月も……そんな……


「………ふみゅう」
「あ、ちょっと桂花!?」


その光景を想像していたら頭が熱くボーッとなって私の意識は遠のいた。

この後、目覚めた時。既に夜遅くになってしまい、華琳様から今日はしっかり休むようにと言いつけられ、私は秋月の部屋には行けなかった……クスン。



















◆◇side華琳◆◇


「………ふみゅう」
「あ、ちょっと桂花!?」


私が想像してみなさいと言ってから桂花はブツブツと妄想をしたのか最後には湯気が出そうな程に顔を赤くしてから目を回して倒れてしまった。私は慌てて桂花を抱き抱える。

流石に予想外だったわね。桂花が純一にベタ惚れだとは思ったけど、ここまでなんて。


「曹操様、荀彧様は……」
「日頃の疲れが出たようね……休ませるから、貴女達に仕事を任せても良いかしら?」
「ハッ!お任せください!」


心配そうに桂花の事を見にきた文官達。
私の言葉に元気よく返事をしてくれた。慕われているのね


「それにしても……」


未だに私の膝で気を失っている桂花。とりあえず夜は純一と約束でもしてるだろうから断らせないと駄目ね。


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第九十八話




朝風呂にも入り、仕事の後の希望もあるかと思うと仕事にもやる気が出る。さ、頑張って街の警邏に行こうか。


「副長、荀彧様を抱いたって本当ですか!?」「副長、遂に本気を出したって?」「流石、種馬兄。本領発揮ですか?」「他の娘も待ってますよ副長!」


集合場所に言ったら次々に囃し立てる警備隊の諸君。
もう、コイツ等ったらー









※暫くお待ちください








「で……何処で聞いた、その話?」
「副長……溜め無しで気功波を放ちましたね……」


俺の手加減抜きの気功波を食らった警備隊の皆さんは大半が地に伏している。凪のツッコミも聞き流したくなる状態だ。


「もう城内の噂なのー」
「朝から華雄が騒いで、春蘭が驚いて大声を上げたから一気に噂が広まりましたね」
「あの時か……」


沙和と一刀の言葉に納得した。そういや、朝目撃ドキュンされたのは華雄だった。そこから一気に噂が広まるとは迂闊だった。


「うぅ~……貧乳か!やっぱ副長は貧乳好きなんか~っ!?」
「お前はお前で妙な事を叫ぶな!」


話に加わらなかった真桜が叫んだ。この状況でそんな事を叫ぶな阿呆!


「だ、だって~……一番、脈の無さそうやった桂花が一番乗りしてまうんやもん……」
「うっ……」


真桜の言葉に俺も言い淀んでしまう。確かに今まで月や詠、華雄、真桜、斗詩からアプローチを受けていた。そんな中で口喧嘩……と言うか一方的に罵倒されていた桂花と一足飛びで関係を持てばそうもなるか。いや、でも俺が貧乳好きと噂を広められるのは困るんだが。


「しっかし荀彧様とはなぁ……」「賭けは俺の勝ちだな」「配分どうだったっけ?」


なんて思っていたら俺の気功波で倒れていた警備隊の皆さんが起き上がってくる。コイツ等……俺でトトカルチョしてやがったな。とりあえず警邏が終わったら、もう一発叩き込んでおくか。


「ったく……」
「でもこれだけ噂になるのは純一さんが慕われてるからですよ」


俺の溜め息に一刀が慰めるような口調で話しかけるが、それはお前も同じだからな?
この後、警邏に出た後も落ち着かなかった。桂花の言葉が頭の中でリフレインする。

『そ、それと……仕事が終わったらアンタの部屋に行くから……』

超インパクトがある。なんて言うか……シンプルな分、破壊力が半端無い。

なーんて、思ってたんだけど。



「桂花だけど、今日は部屋には行かない……と言うか行かせないわよ」
「…………はい?」


仕事が終わって食堂で飯を食っていたのだが大将からそんな事を言われた。桂花が来ないのは一先ず、置くとしても何故、大将がそれを知ってるの?


「桂花だけど……私が少し、弄ったら倒れちゃったのよ。本当に……昨日何があったのかしらね?」
「いや……その……」


大将の睨みにダラダラと冷や汗が流れる。


「まったく……私と寝たときでも見た事無い顔してたわよ」
「すいません……もう勘弁」


大将の言葉に追い詰められてるのもあるけど桂花が来ない事がダメージデカいわ。


「………桂花を可愛がるのも結構だけど、他の娘達も気に掛けなさい」
「……ああ、わかってるよ」


大将の言葉が妙にズシンと響いた。俺は桂花と関係を持ったが他の娘達も気に掛けてくれていた。それに気づかない程、鈍感じゃない。


「アナタや一刀の居た所じゃ一人を愛するのが当たり前みたいだけど……アナタが本気で彼女達を思うのなら彼女達とちゃんと向き合いなさい」
「………了解ですよ」


本当に全部、お見通しなんだな。つーか、国のトップからお許しが出るとか……


「頑張りなさい種馬兄。弟を見習いなさい」
「持ち上げてから落とすなや」


種馬云々は兎も角、月達とも向き合う……か。
ん……?と言うか、大将の口ぶりからすると一刀の女絡みは全部把握してるって事か?

あんま考えんとこ……考えるなら月達との事だな。
俺はそんな事を思いながら冷めた夕食をかっ込んだ。

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第九十九話






「どうした秋月……お前の力はこんなものか?」
「………弱い」
「ぐ……がはっ……」


倒れた俺を見下しながら告げる華雄と恋。
何故、こんな事になったのだろう……俺は地に伏しながら、そんな事を思っていた。





◆◇一時間程前◆◇


「うりゃあ!」
「よっと……」


大河の拳を受け流すと俺はそのまま腕を取り、勢いをそのまま利用して投げ飛ばす。
大河も流石に身軽なので軽々と体を捻り、衝撃を殺しながら着地した。


「ふー……少し休憩にするか」
「押忍!」


俺と大河は朝から鍛練をしていた。桂花の事があって数日気の抜けた生活をしてしまったが体に喝を入れなければならないと思って気合いの入れた組手をしていた。
そして朝から鍛練をして居たので、ちょっと一息。流石に疲れた。


「良い気合いだな秋月。私も混ぜてもらおうか」
「え……華雄……?」


背後から掛けられた声に振り返ると華雄が自身の武器を持って立っていた。若干、殺気だっている気もするが。


「あ、あの……華雄?」
「細かい話は無しだ……」


妙な雰囲気に俺は嫌な予感がしたから、まずは話をしようと思ったのだが華雄は大斧をグッと強く握りしめて振りかぶった。


「私と……戦え!」
「危なっ!?」


真っ直ぐに振り下ろされた大斧は俺が立っていた位置に突き刺さる。咄嗟に飛び退いたけど、飛び退かなかったら只じゃ済まなかっただろう。


「か、華雄!ちょっと待て!?」
「問答無用だぁ!」


迫り来る大斧の連撃をなんとか避けているが当たるのも時間の問題。そして今の華雄は話が通じない。
この二点は間違い無さそうだ。キレた春蘭と同じだな。
多分だけど俺と桂花絡みの事なんだろうなぁ……


「ちっ……話を聞くにも華雄の頭を冷やさないとか」


俺は覚悟を決めると手に気を込める。


「か…め…は…め……」


かめはめ波を撃とうとしたその時だった。ゾクッと背後に寒気走り、振り返るとそこには華雄と同じく武器を構えた恋の姿が……


「波っ!」


俺はかめはめ波を恋の足元に向けて放ち、その反動で飛んだ。これぞ緊急離脱かめはめ波!
と……飛んだところまでは良かったのだが、この後、壁に激突して頭を打った。超痛い。


「ふむ……お前も来たか恋」
「うん……恋もやる」


多分、恋のやるは「(鍛練を)やる」の意味だったんだろうけど俺には「殺る」に聞こえたのは気のせいかしら。


「秋月……許さない」


あ、これは「殺る」の方だわ。じゃなくて!


「あ、あの………恋?なんで、そんなやる気に?」
「月と詠、ねね……元気無かった」


俺の質問に恋は答えてくれた。少し言葉が足りない気もするが……ん、月達が元気無い?


「えーっと……その原因が俺?」
「……」


コクリと頷く恋。


「少し前から元気が無かった。他の人に聞いたら秋月と桂花が原因って城の皆が言っていた」
「………あー」


なんとなくだが話の輪郭は掴めてきた。つまり、俺と桂花が関係を持った事で月達は少なからずショックを受けた。そしてその事を元気つけたいと思った恋は原因を探し、答えが俺だと行き着いた……と。
そして城の皆とは兵士や文官、侍女達に訪ねたのだろうが、彼等もまさか、こんな結果になるとは思わず、恐らくボカした言い方をしたのだろうが、恋は言葉そのままに受け取った。その結果が『秋月をボコボコにする』と言ったところか?
んで、その流れで行くと……華雄の方は噂とかじゃなくて直接、俺と桂花の寝ているところを見てた訳だから誤解とかじゃなくて本気で来てた訳だ。
変な話、自分で撒いた種が原因とも言えるか……大将の言葉が重く、のし掛かる。


『桂花を可愛がるのも結構だけど、他の娘達も気に掛けなさい』
『アナタや一刀の居た所じゃ一人を愛するのが当たり前みたいだけど……アナタが本気で彼女達を思うのなら彼女達とちゃんと向き合いなさい』


そっか……そうだよな。桂花との事で浮かれてたけど月達と向き合わなきゃならなかった。
その対応が遅れたから、この状況な訳で。なら自分のケツは自分で拭かなきゃだな。


「華雄……恋……来い!」
「ほぅ?」
「……行く」


先ずは二人との対話が必要だが今は話が通じないだろうし、ガス抜きも兼ねて俺が相手をせねば。俺は意を決して華雄と恋に構えをとる。二人は俺が戦う姿勢を見せたと同時に武器を構えた。



◆◇◆◇


そして今に至る。一対一でも勝てないの一対二なんて勝てる訳ねー。しかも、華雄も恋もいつもより強かった気がする。


「ま、まだ……だ」


俺は立ち上がり、気を両手に込めて手を合わせる。満身創痍でこの技は危険だが……やるしかない。


「お、おい……秋月?私もやり過ぎたが……これ以上は……」


頭が冷え始めた華雄が慌て始めたが、俺にも意地がある。そしてこれは俺の贖罪でもあるから少しは痛い思いをしなければとも思う。


「食らえ、万国吃驚掌!」
「っ!」


そうこれぞ亀仙人の奥義、万国吃驚掌。本来は体の中の静電気とかを集めるが俺は気で代用する。俺は気を常に放出し、敵にダメージを与え続ける。気の消費とコントロールが難しく、放つ側が失敗すると自身にダメージが返ってくるが……俺は恋に向けて万国吃驚掌を放った。これで少しは……


「えいっ」
「…………えぇー」


なんと恋は俺の万国吃驚掌を体を振るっただけで振り払った。俺の技が未熟なのか恋が規格外なのか……まぁ……両方か……


「秋月?……秋月!?」
「し、師匠ー!?」



俺の前で小首を可愛らしく傾げる恋。それを見ながら俺は意識が遠退いていった。それと同時に聞こえてきたのは心配する様な声で俺の名を呼ぶ華雄と大河の声だった。
あれ、そういや途中から姿が見えなかったけど、大河は何処に居たんだろうか?



『逆かめはめ波/離脱かめはめ波』
かめはめ波を相手に向けるのではなく反対に放ち、その反動を利用する技。攻撃手段としては体当たり。回避としては敵の攻撃を避ける・天下一武道会で場外敗けを防ぐ為に使用された。

『万国吃驚掌』
亀仙人の持つ技の中で対人に優れた技。体内に流れる微量な電流を互いに合わせた手の平に集中させ、腕を突き出すと共に放射する。被弾した相手は空中に浮遊させられることによって四肢の自由を奪われ、やがては感電死してしまうという、非常に危険な技。


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第百話






『ごめんなさい……ごめんなさい先輩……』


……そんなに謝るなよ。


『だって……私のわがままで……』


愛美の思うようにすればいいさ。


『はい……さようなら……先輩』


ああ……じゃあな……



















「う……あ……?」


目を開ければ見慣れた天井。痛む体は俺の思う通りには動いてくれず、ただ全身に痛みが走っただけで終わった。
ああ、久々にやっちまったな……まあ、華雄と恋の悪魔超人コンビと戦えばこうもなるか。


「すー……すー……」
「…………桂花?」


静かに聞こえた寝息に首を動かせば俺が寝ている寝台に上半身を預けて眠る桂花の姿。壁を背に寄り添う様に月と詠が眠り、ねねが月の膝を枕に寝ていた。真桜は椅子に座ったまま、船を漕いで寝ている。


「皆……集まってたのか?」
「秋月さんが倒れたと聞いてから皆、大慌てだったんですよ?」


俺の呟きに来る筈の無い返事が返ってきた事に驚いて視線を移せば、そこには水を溜めた手桶に浸した手拭いを絞る斗詩の姿が。


「斗詩……」
「シーッ静かに。皆さん、漸く寝た所なので……」


俺が斗詩の名を呼んだら怒られた。漸く寝た……あ、窓の外を見ると真っ暗……どんだけ寝てたんだか。あれ……そう言えば……


「華雄さんと恋ちゃんは華琳様が罰を与えましたよ。『いくらなんでも、やり過ぎよ。暫くの間、罰を受けなさい』って言ってました」
「………そっか」


斗詩は俺が知りたかった事を先読みして教えてくれた。いや、もしかしたら大将が予想して斗詩に言っといたのかも知れんが。


「華雄さんも……きっとどうして良いか分からなくなったんだと思います。好きな人に気持ちを打ち明けられず……その中で好きな人が他の人と一緒になったから……華雄さんはこれが初恋だと言っていましたから……」
「どうしたら良いか分からなくなったからって……」


斗詩の言葉にタラリと汗を流した。どうしたら良いか分からなくなって頭がオーバーヒートを起こして、暴走……うん、せめてもの救いは対象が桂花じゃなくて俺だった事かな。うん。


「大河君は秋月さんが華雄さんと恋ちゃんが戦ってる事を知らせに来てくれたんですよ。朝議の最中にバタバタと走り込んで来ました」
「そっか……あの時、大河が居なかったのは助けを呼びに行ってくれたのか」


ナイス判断だ大河。仮に一緒に戦っていたら屍が一つ増えて終わりになっていた。


「その後、皆で現場に駆けつけたら……ちょうど秋月さんが倒れた所でした」
「ああ……体力の限界と気が枯渇して倒れた辺りか」


最後に華雄の声と大河の声だけは聞こえていた。つまり丁度、その時に大河が大将達を連れてきたのだろう。


「…………秋月さん。もう無茶はしないでください」
「俺はしたくないんだけど、向こうから来るからさ……」


少なくとも俺から喧嘩を売った覚えはない。今回は潔く買っちまった気もするが。


「皆、心配してたんですよ」
「それは……この惨状を見ると分かるかな」


斗詩の言葉に苦笑いな俺。回りを見渡せば桂花や月達が俺を心配してくれたのは、よく分かる。


「勿論、私も心配してましたからね」
「う……すまん」


顔を近づけて念を押す斗詩。睨んでるつもりかもだけど可愛いなぁおい。


「目が覚めたばかりでしょうけど……もう一度寝ておいた方が良いですよ。明日から私と大河君と華雄さんで秋月さんの仕事を手伝いますけど忙しくなりそうですから」
「え……忙しく?」


何故に忙しくなると?


「秋月さんは知らなくて当然です。今朝の会議で決まった事ですから」
「あはは……俺が寝てる間に決まった事なのね」


そりゃ知らなくて当然か。


「だとすれば……明日から手伝ってもらうのに、こんな遅くまで看病させちまってゴメンな」
「いいんですよ私が好きでしてる事ですし……それに」


俺の謝罪を斗詩は笑顔で返してくれた。本当に頭が下がる。


「私も……諦めてませんから」
「っ!」


斗詩はフワリと顔を近づけると、ほんの少し触れる程度のキスをしてくれた。


「今は皆が寝てるから……少しだけ役得です」


斗詩は嬉しそうに笑うと、そのまま部屋を出ていく。まったく……敵わないな。この世界の女の子達は。
















◆◇side桂花◆◇



「今は皆が寝てるから……少しだけ役得です」


何が役得よ、他の皆は寝てるけど私は起きてるわよ!
私は秋月の寝台で寝てたんだから、そこで話せば私は目が覚めるに決まってるでしょ!
ああ、もう……起きる間を逃したわ……


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第百一話




華雄&恋のタッグにボコボコにされた次の日。
俺、完全復活!

一晩寝たら回復した。いや、傷はまだまだ痛むけど体力はすっかり回復した。やっぱ寝るのが一番か。
因にだが目覚めたら誰もいなかった。
俺が目覚めるよりも早く、皆は起きたらしく昨日、斗詩が言っていた『忙しくなる』に関連してるのだろう。
机の上には書き置きが残してあり、目が覚めたら大将の所へ行くようにとのお達しだった。書き置きの端には『心配させるな馬鹿!』と恐らく桂花の書き置きも残されていた。


「心配させてばっかりだもんなぁ……」


俺は寝巻きからスーツに着替えながらボヤいた。なんつーか……頑張ってトレーニングしてるけど成果が見えないのがツラい。
こうなったらやってみるか地獄のトレーニングを……毎日腕立て100回、上体起こし100回、スクワット100回、ランニング10kmこれだけやれば強く……止めた。なんかハゲそうだ。

キュッとネクタイを絞めて大将の下へ。なんかお小言も言われるだろうなぁ確実に。


「ふ、副長!?もう起きても大丈夫なのですか!?」
「あ、おはよう凪。歩ける程度には回復したよ」


仕事中なのか書類を抱えた凪と出会う。ちゃんと書類仕事もしていてエラいわ凪。是非とも真桜と沙和にも見習ってほしい。まあ、そんなこんなで凪と共に歩いていると疑問が凪から飛んできた。


「あの……副長。華雄さんから話を聞いたのですがまた新技を使ったとか……」
「ああ……今回使ったのは万国吃驚掌って技なんだけど……」


華雄から俺の新技を聞いて同じ気の使い手として気になった凪は技の概要を知りたかったらしい。俺は技の名と効果と俺が失敗した……と言うか恋に通じなかった事を話した。……話したのだが凪は信じられないものを見る目で俺を見た後に深く溜め息を吐いた。


「副長……本当にどうして、そんなに出鱈目なんですか……」
「え……俺、ディスられた?」


なんか凪にとてつもなく馬鹿にされた。解せぬ。


「良いですか副長。以前にも話しましたけど気の使い手には段階があります。『気の発動』『気の掌握』『気の放出』と」


それは覚えてる。基礎を顔不さんに学んだ時にも言われた事だ。


「気の発動は言うまでもなく気を使える者。気の掌握は気を操る事で拳や武器に気を纏わせたり身体能力を上げる事が出来る者。そして気の放出は気を体外に放ち攻撃、または気功で傷を癒す事なのですが……副長は順番がバラバラなんです」


ハァ……と溜め息が止まらない凪。俺ってそんなにダメなのか?


「今回の件にしても副長が万国吃驚掌を放つ前に自身の気を体内で練り上げてから撃つべきでした。にも関わらず副長は体力の無い状態で技を半端に完成させた……もう異常ですよ」
「そんなにか?」


俺はギリギリいっぱいの状態だったからそこまで考えが回らなかったんだが。


「……その状態なら技が発動する前に倒れてますよ。それに今回は副長も早々と回復してますし」
「そっか……技が恋に通じなかったのは出力が単に足りなかったからか……」


俺が凪の言葉に納得……ん、早々と回復して?


「言われてみれば……今回は一晩で体力が戻った?」
「副長も最初の頃は寝込んだりしてましたよね?それも3日間も。でも今回は一晩で回復されてます。私でもあそこまで気を使ったのなら一晩で回復は無理ですよ」


凪の言葉にハッとなる。言われてみれば寝込む機会が多かった俺だけど倒れて寝込む度に俺の寝込む時間は少なくなっていた。もしかして……俺って自分が思っているよりも強くなってるのか?


「後は……副長のお相手が強すぎるのも問題ですね」


考え事をしていた俺に凪の言葉が耳に入って俺はピタリと動きを止めた。
俺の今までの戦績。
『VS野盗』
『VS顔不』
『VS黄巾党』
『VSクマ』
『VS胡軫』
『VS恋』
『VS大河』
『VS華雄&恋』


大半が格上じゃねーか。しかも、これ等の間に新技開発で自滅してるのも含めると倒れて寝てる期間も多い訳だ。
なんか無駄にタフネスになった気分だ。


「ん……でもだったら何で俺の気は枯渇しやすいんだ?鍛えられてる割りには倒れてる率が高い気が……」
「それは副長が慣れない技を使うからです。普段でも慣れないことをすれば疲れますよね。気を使う事柄は通常の数倍は消耗が激しくなる筈です。しかも副長が気を使い始めたのが最近なら尚の事です」


あー……段々原因が判明してきた。つまりは俺の気はまだ発展途上なのに俺が様々な技を試したからだ。思えば今の俺は、かめはめ波を数発撃てる様になっている。それは俺がかめはめ波を撃つのに慣れてきたからだ。逆に新技開発は慣れない事をして更に神経を集中しているから非常に消耗が激しい。
最近になって体を鍛え始めているが倒れたと言う事は俺の気を使う技術はまだ基礎が出来てないと言う事になる。
謎が解けると単純なものだ。要は俺の勇み足だっただけだし。暫くは技の開発よりも気に慣れる事を練習した方が良さそうだ。
それを考えると見ただけで相手の技をものにするドラゴンボールの住人は流石である。




『サイタマ式トレーニング』
ワンパンマンの主人公サイタマが3年かけて行ったトレーニング。
腕立て100回、上体起こし100回、スクワット100回、ランニング10kmを毎日休まず行う。
サイタマはこれで理不尽な程に強くなったが敵からは『嘘をつくな』と言われ、弟子のジェノスからは『ツラくない。むしろ一般的なトレーニングだ』と評された。


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第百二話



まだ凪と気の話をしたかったけど、大将の所へ行かなきゃならないので一旦別れる事に。
なんか凪も季衣と遠征らしい。話を少しだけ聞いたのだが他の面子も遠征やら討伐とか調査で結構城を離れているとか……俺が知らない間に何が決まったんだか……まあ、大将に話を聞けばわかるか。


「失礼します」


俺は大将の部屋に話を聞くべく入った。


「ふふ……桂花ちゃんも純一さんの前では、お猫さんですね~」
「ほら、桂花。私達に純一との営みを教えてみなさい」
「か、華琳様ぁ~」


俺は静かに扉を閉めた。
風と大将が桂花に尋問していた。これは関わったら確実にヤバいと俺の危機察知能力が警報を鳴らしていた。


「さて……書類整理でもしてくるか」
「逃がさないわよ」


逃げようかと思ったら、いつの間にか扉が開いており、大将が俺の肩を掴んでいた。


「元気そうね純一。回復したなら何よりだわ」
「すいません……お腹痛いんで早退します」


ニコニコとしているが決して笑っていない大将。
心なしか掴んでる手にも力がスゴい入ってる。


「あら、一日寝ていたのにまだ体調か悪いのかしら?。まあ、逃げたければ逃げなさい。私と風はこれから桂花に可愛らしい服を着せるわ。生着替えよ」
「大将、体調は万全なので是非とも拙者を末席にお加えください」
「あらら~。純一さんもお兄さん同様に非常に素直なのですよ」


大将の言葉に俺は即座に片ひざを着いた。風が何やら呟いたが見逃すわけにはイカン。


「この馬鹿……そ、そんなに見たいなら……その……」
「はいはい、桂花ちゃんもノロケないでください。あくまで純一さんを留める為の方便なのですから」


意外にも桂花がノリ気だったが風の一言で騙された事に気づく。チクショウ。


「まったく……妬けるわね。ま、そっちは後回しにするわ。純一、これが当面貴方に預ける仕事よ」
「後々追求はされるのね……っと?」


どうやら桂花関連の事は言い逃れ出来ないようだ。そんな事を思いながら渡された資料に目を通したのだが……


「大将……ちぃとばかり将が足りなくねぇかい?」
「そうね、やる事が多いのよ」


俺の問いをはぐらかす大将。自分で理解しろって事か……春蘭や秋蘭等の主要な将や軍師は討伐や遠征、調査に出る。
霞や他の一部の武将はまだ城に居るが数日後には調査に出る予定っと……ものの見事に城から将が居なくなるな。
今後、城に残る主だった面子は大将、一刀、俺、桂花、風、真桜、斗詩、大河、月、詠となる。月と詠は将でも軍師でもないが一応カウントしてみただけだ。
要は東西南北の各方面に武将や軍師を派遣し、中央には殆ど残っていない状況な訳で……いくらなんでも城をがらんどうに空けすぎだ。まるで敵に隙を見せる為に無理に春蘭達を遠征に向かわせた様な……って、まさか……


「大将……大きい獲物を釣るにしては餌が大き過ぎませんかね?」
「あら、美味しい餌を用意するのも釣り師の腕の見せ所じゃない」


ビンゴ。大将はわざと城に将を残さずに派遣した。そしてがら空きになって攻めに来るであろう者を待っているのだ。
そして今の勢力圏で魏に攻め入るような所はある程度限られてくる。大将はどの勢力が来るかを待つと同時に、その力すら計るつもりだ。乱暴すぎる気もするが……


「って……あれ?華雄と恋は?」


資料に目を通していたのだが華雄と恋の名は無かった。


「斗詩から話は聞いてるとは思うけど二人には罰を与えたわ」
「え……何をしたんだ?」


罰を与えたって……資料に名前が載らないってよっぽどだぞ。何をした……?


「あら、簡単な事よ。貴方が作った特殊部隊の訓練もうすぐ終わるらしいじゃない」
「ああ……アレね」


大将の言葉に俺が創設した部隊を思い出す。元華雄隊の一部を引き抜いて特殊な訓練を積んでいる部隊。基本的には華雄、恋、ねねに訓練相手は任せてる。俺は時折り、様子を見に行ってる程度だが前に見たときはもう殆ど訓練は済んでおり、すぐにでも実行部隊になれそうな感じだった筈だけど。


「その『特殊部隊がちゃんと機能するまで秋月純一との接触を禁ずる』それがあの二人に課した罰よ」
「……………それって俺にも罰になってないか?」


あの二人からしてみれば俺に会えないのは罰になる。だがそれは俺も二人に会えなくなるので俺にも罰が与えられた様な状態だ。


「純一……『私は他の娘達も気に掛けなさい』『本気で彼女達を思うのなら彼女達とちゃんと向き合いなさい』と言ったわよね?その忠告が無駄になった結果よ。貴方も甘んじて罰を受けなさい」
「……りょーかい」


つまり、今後はそんな事が起きないように気を付けろって事ね。


「でも……気持ちはわかるわ。こんなに可愛い桂花なんですもの夢中になるわ」
「ひゃん!か、華琳様!?」


大将はそう言いながら桂花の背後に素早く回り込み、服の上から桂花の胸を揉み始めた。大将の細い指が桂花の胸を揉んで桂花は小さな悲鳴を上げる。
俺はその光景をじっくりと特等席で拝まされた。


「華琳様、桂花ちゃん。純一さんが獲物を前にした虎みたいになってますよ」
「ん……ごほん」


風の一言に俺は咳払いを一つ。いや、こんな光景が目の前で繰り広げられて視線を反らすなんて出来ない。いや、出来る筈がない!反語。


「や、やぁ……見ないで秋月ぃ……」


次の瞬間、俺のハートは桂花にステラ(流星一条)された。
熱い吐息と潤んだ瞳でそのセリフはヤバい。もう完全に撃ち抜かれた。
大将はと言えば呆然とした顔の後に一気に顔が赤くなった。そうだよね。今のは一撃必殺だったよね。覇王様にも効いたようだ。

この後だが色んな意味で燃え上がった大将は桂花を連れて閨に引きこもり、俺と風は追い出された。超後ろ髪引かれてます。
俺はと言えば遠征に出る将達の仕事を一刀と共に肩代わりして仕事をしなければならないのだが……


「集中出来そうにねぇ……」


先程の光景が目に焼き付いた俺は仕事に集中出来ないまま今日一日を過ごす羽目になった。



『ステラ(流星一条)』
Fateシリーズの登場人物アーラシュの宝具。
あらゆる争いを終結させる弓矢。
その射程は2500km(千島列島から沖縄くらいまでの距離)


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第百三話




大半の将と軍師が居ない今、街を守るのは警備隊の仕事となる。普段と違う部分があるとすれば俺と一刀が出払っている人達の仕事をしている事だろうか。
ぶっちゃけやる事が多い。重要な案件は大将、桂花、風が処理しているが、それ以外のものは全て俺と一刀の所へと回ってくる。分担して処理はしているが正直追い付かない。
と言うか書類の処理だけならまだしも俺と一刀の本来の仕事である警備隊の仕事もあるのだ。
そっちは大河に任せてる部分もあるが当然、大河一人に出来るわけもなく俺か一刀が時折、気晴らしも兼ねて警邏に出るのが最近の状況だ。
そして当然一人抜けると仕事は大変になる……まあ、月や詠や斗詩にも手伝ってもらってる。

そんで……今日は俺が警邏の日な訳で。今現在、警邏と言う名の気晴らし散歩をしていた。だって書類の処理ばかりで気が滅入るんだもん。
因みに真桜は工房に籠って色々と発明をしていた。なんでも大将からの頼まれ事をしているらしい。なんか霞が遠征に出る前に武器のデザインで揉めてたらしいけど帰ってきたら話を聞いてみるか。


「副長!あちらの通りの巡回を完了しました!」
「ん、ご苦労さん」


巡回を終えた兵士が俺に敬礼をした後に城へと戻っていく。さて、俺も城に戻ってトレーニングかな。
実を言えば俺は最近、常にトレーニングをしている。筋トレ等のトレーニングではなく主に『気』を取り扱う方だが。

日常的に俺は体内で気を練るトレーニングをしていた。書類仕事や警邏の最中でも地味にキツいが頑張った。
と言うのも凪曰く俺の気を扱う力は非常にアンバランスらしい。そしてその状況で俺は様々な技を試す事をした為に体がそれに対応出来ていないとの事。
まあ、アレだ……RPGとかでバランスよく鍛えようとしたけどステータスが低くてそもそも弱いキャラとか。戦士なのに無理矢理魔法覚えさせようとしたりとか。魔法使いなのに刀剣を鍛えたりとか。
まあ、そんな感じで俺は色々と中途半端なのだろう。
それは凪にも指摘されたのだが俺が気を使った新技開発をしていた事で気を使う方面の事は下地が出来ているから鍛えれば問題はないとの事だ。何度も倒れた事は決して無駄では無い。それがわかっただけでも嬉しかったりする。


「ま……ここ数日でそれも解消されつつあるか」


俺は掌に気弾を作り出す。以前よりも簡単に尚且、鍛えられた気弾だ。
散々失敗してきたが今ではいとも簡単に出来てしまう。
そして大将に言われた事でも俺は焦っていたのだろう。

いつか帰れるのか。
それとも帰れないのか。

その考えが俺の頭に常にあったから俺の心は落ち着かず、気にも乱れが生じていたらしい。

「いい?『息』とは『自分』の『心』と書くのよ。貴方の心が乱れてるのは自らの心が落ち着いていないと思いなさい。焦るなとは言わないわ。でも……貴方が背負うものが既にある事を……心に刻みなさい」


その時の大将の言葉が妙に印象的だった。背負うもの……か。


「師匠、お願いするッス」
「ん、ほんじゃ……今日も頑張るか」


犬だったら尻尾をブンブンと振っているだろうと思う大河と共に俺は鍛練場へと足を運ぶ。実は最近、俺は大河と秘密特訓なるものをしていた。この特訓内容は大将や桂花にすら秘密にしている。いや、秘密の特訓をしている事はバレてるけどね。内容を秘密にしてるだけで。
大将や桂花、詠に散々問い詰められたが俺と大河は意を決して返答をする。


「それは秘密ッス……」
「何故ならば……」
「「その方が格好いいから」」


俺と大河は息の合ったセリフを出す。実は追求されたらこう答えると決めていた。
この後、大将の拳と桂花&詠の軽い説教が待っていたが秘密特訓の事は話さなかった。だって秘密兵器になる予定なんだもの。


そして、そんな日々を過ごしていたのだが、ある日報告が入る。蜀が魏の領土に進行を開始したと。



少し長くなりそうだったので分割。次回より戦です。


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第百四話





「本陣の設営、終わりました」
「両翼もやで」
「一応……全部完了です」
「あいよー、お疲れさん」


一刀、真桜、斗詩の報告を聞きながら煙管を吸い、プカプカと煙を上げる。蜀が攻めてくる事を聞いてから俺達は街から出て近くの城へと移った。街の人達が被害を被らない様にする為とそちらの方が迎え撃ち易いからだ。


「ご苦労さま。なら、すぐに陣を展開させましょう。向こうは既にお待ちかねよ?」
「……大軍団だな」
「そーだな」


大将の言葉に一刀が平野に展開する蜀軍を見回す。一刀の言葉に俺は同意する。どんだけ戦力かき集めてきたんだか。


「そうかしら?」
「報告やったら、約五万やったっけ?」
「旗は……劉、関、張、趙……」


数もさることながら一流どころの武将揃い。本来なら籠城して明日には帰ってくるであろう春蘭達を待つのが一番なのだが……


「最初から守りに入るようでは、覇者の振る舞いとは言えないでしょう。そんな弱気な手を打っては、これから戦う敵全てに見くびられることになる」
「いや……五倍以上の兵力に対して籠城しても誰も文句言わないと思う」


俺の意見は一刀寄りだな。流石に五倍の敵とか無理すぎる。さながらフリーザに挑んだバーダック如くだよ。


「それにこの戦いで負けたら、劣勢でも相変わらず攻めに出た覇王とか、項羽の再来とかって言われるんじゃないか?」
「だからこそよ。ここで勝てば、我が曹魏の強さを一層天下に示すことが出来る。こちらを攻めようとしている連中にも、いい牽制になるでしょうよ」
「そうすりゃみんなの負担も減る……か」


ここを終点と思わずに先を見越して……か。俺みたいな一般人とはそれこそ感覚が違うんだろうな。


「その為には一刀、純一。その命、賭けてもらう必要があるわ……頼むわよ」
「へぇ……」
「……ああ」


大将の言葉に俺は感心して一刀はポカンとしていた。大将は俺達のリアクションに小首を傾げる。


「……どうしたの一刀、変な顔をして。純一もニヤニヤ笑うなんて何よ?」
「いや、そうやって面と向かって頼むなんて言われたの、そういやはじめてだなー、と思ってさ……」
「うんうん……遂に大将も素直……痛だだだだっ!?」
「そうだったかしら?」
「華琳様!出陣の準備、終わりました!いつでも城を出ての展開が可能です……って何をしてるのですか?」


会話の最中に大将がごくナチュラルに俺の右足を踏んでいる。余計な口出しはするなってか!?


「何でもないわ……桂花、流石に仕事が早いわね」
「はっ。各所の指揮はどうなさいますか?」


そのまま続けられる会話。皆、注目しよう?秋月さんが踏まれてるのよ?


「中央は私自身が率いるわ。左右は桂花と風で分担しなさい」
「俺はどうする?」
「一刀は真桜と共にで全体を見渡しておきなさい。戦場の全てを俯瞰し、何かあったらすぐに援軍を廻すこと。それが貴方の仕事よ」
「……了解。頑張ってみる」


着々と話は進むけど……俺は?


「先日の反董卓の戦で、諸葛亮と関羽の指揮の癖は把握しております。必ずや連中の虚を突いて見せましょう!」
「ええ。よろしく……それと純一、大河、斗詩は一刀と共に戦局を見なさい。そして援軍を廻す際には貴方達が率いる事」


成る程、援軍を廻すにしても各所の指揮は必要って事か。


「なあ華琳。それで……勝てるのか?」
「勝つのよ」


不安げに聞く一刀に大将は間髪入れずに答えた。ここまで来たらやるしかないってね。



◆◇◆◇



さて、戦の前に両陣営の大将により舌戦が行われているのですが……当然の事ながら俺達に聞こえる筈がない……筈がないのだが大将が劉備を言い負かしている様にしか見えない。


「……っと……秋……」


そもそもの話をすると大将もこの状況になる事を見越してたのかもだよなぁ……


「聞い……月……」


だとすれば……痛いっ!?突如足に痛みが走る。見てみれば桂花が俺の左足を踏んでいた。さっきは大将に右を踏まれたので左右の足を踏まれちまった。


「私を無視するなんて良い度胸ね?」
「すまん……ちっと考え事してた」


足を踏まれたまま睨まれる。あ、ヤバい。近距離で桂花が俺を見上げてるって。ちょっとしたシチュみたい。


「まったく……さっきの質問だけど、ねねが何処に行ったか知らない?誰も姿を見てないそうなのよ」
「ああ、ねねなら蜀が攻めてきたって報が来たときに大将から別命受けて国を離れたよ」


蜀が来たと聞いてから大将はねねに別命を下していた。なんで俺がそれを知っているかと言えば俺もそれに少し関わっているからだ。


「……ししょー」
「ん、なんだいつもの元気はどうした大河」


桂花の疑問に答えたら今度は大河の元気がなかった。


「だって……優しそうな劉備さんが攻めてくるなんて……」


大河は前回会った時の印象で『劉備は優しい人』と言う認識をしていた。だからこそショックだったのだろう。


「大河も見ただろうけど劉備も前に大将に怒られてただろ?それで劉備も思うところがあったんだろうよ」
「………うぅー」


俺の言葉に大河はまだ不満そうだ。ポンポンと頭を叩くけど機嫌は治りそうにない。ったく……


「劉備は大将に対価の支払いの話をされていただろ?それに対して劉備は答えを出したんだ。それを受け止めるのは俺達だがな……」


そう……劉備は大将の問いに言葉ではなく態度で示した。攻めてこいと言われて迷わず攻めに来た辺り、周囲も囃し立てた可能性は高い気もするが。


「ま、大将の忠告だったんだろうな」
「忠告ッスか?」


大将なりの忠告だったのだと思う。優しさだけでは乗り切れない物があると。いつか逃げられない時が来ると……


「そ、曲がりくねった優しい忠告」


ま、大将も素直じゃないし。と、まあ…….俺等が話をしていたら舌戦を終えた大将が帰ってきた。
妙に機嫌が良さそうな辺り、前回同様に言い負かしてきたな、あれは……


「聞け!勇壮なる我が将兵よ!この戦、我が曹魏の理想と誇りを賭した試練の一戦となる!この壁を越えるためには、皆の命を預けてもらう事になるでしょう!私も皆と共に剣を振るおう!死力を尽くし、共に勝利を謳おうではないか!」


そして戻ってきた大将の鼓舞が響く。蜀陣営も同様に盛り上がり始めてる。始まるか……


「敵軍、動き出しました!」
「これより修羅道に入る!全ての敵を打ち倒し、その血で勝利を祝いましょう!全軍前進!」


大将の号令で俺達も動き出す。俺も準備しといた荷物を持ち、立ち上がる。
さぁて……行きますか。


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第百五話




そんな訳で戦が始まった。
大将が籠城を最初からするのは嫌と言ったので迎え撃つ事になったのだが……


「もう限界だな……大将、呼び戻して籠城するぞ」
「そ、そんなん言うたかて華琳様は前線の真っ只中やで!?」


そう……いくら鍛えた魏の精鋭と言っても数の暴力には敵わなかった。どうにか戦線を支える様に指示を出し、援軍を回していたのだが流石に限界だ。


「だったら俺が行きます!華琳を連れ戻す!」
「た、隊長!?隊長が行ったかて何も変わらへん!むしろ邪魔に……」
「行くぞ一刀。大将の説得は任せた」


今にも飛び出していきそうな一刀に真桜が抗議しようとしたが俺は止めるべきではないと思った。ぶっちゃけ大将の説得とか一刀くらいしか出来そうにないし。


「真桜、斗詩と一緒に残存戦力を纏めてくれ。それと相手方に気付かれない様に籠城の準備な。大河は一刀の護衛だ」
「ああ、もう……後で文句言うたるからなっ!」
「り、了解ッス!」
「あの……純一さんは?」


俺は真桜と大河に指示を飛ばす。一刀は俺がどうする気か気になっている様だ。


「俺は新しい装備を着てから行く。先に行け、大将の説得もそうだが先ずは安全の確保だ」
「わかりました!」


俺の言葉を聞いた一刀は大河と共に大将を探しに行った。後は俺がこの日の為に用意したコイツを纏うだけだ。
俺は袋からソレを取り出すと身に纏う。ぐ……重っ……予想以上の重量だが仕方ない。
それに、ねねは間に合わなかったのか……そろそろ来ても良い頃だと思ったんだがな。まあ、愚痴っても仕方ない。俺は新たな装備の付属として一緒に作った帽子を被る。これで完璧だ。
新しい装備を纏った俺は城から出ると大将を連れ戻す為に先に行った一刀と大河を探す。


「居た……ってアレは胡軫!?」


意外にも一刀達は直ぐに見付かったが予想外の人物も一緒だった。まさかの胡軫だ。
反董卓連合以降、足取りが掴めなかったが蜀に居たのか……一応、行方を探しては居たが……前回の劉備との顔合わせの時には居なかったから油断してたな。
胡軫と関羽、趙雲が大将と一刀と大河の目の前。そしてそれを囲うように兵士達が陣形を組んでいる。生け捕り……または確実に仕留める為の処置なのだろう。どういう訳だか大河は一刀の足元で倒れてる。なんとか立ち上がろうとしている辺り、意識はあるのだろう。

俺はギリギリ、バレない距離を保ちつつ間を待った。一瞬の隙が出来れば救出に迎えると判断したからだ。
そしてその時は直ぐに来た。胡軫は一刀と大将を仕留めようと棍で横薙ぎにしようとしていたのだ。

一刀と大将が危ないと思ったと同時に駆け出した。不意を突いて兵士達を跳ね除けた俺は更に加速して、一刀と胡軫の間に割り込み、腕を十字に組んでガードした。胡軫の棍が俺の腕にメキッと音を立ててめり込む。痛い……だが以前の程のダメージは無い。


「ふぅ……なんとか間に合ったか」
「そ、その声……純一さんですか!?」


一刀は声で俺だと気づいた様子だ。よし、そのまま大将を庇ってろよ。


「秋月……殿なんですね?」
「ほほぅ……あの時の若造か」


関羽も俺の声を覚えていたのか何処か悲しそうな声で対する胡軫は嬉しそうに俺かと聞いてくる。その言葉に俺は待ってましたと答えるしかない。


「違うな……今の俺は……」


そう……今の特注コートを纏った俺は……


「キャプテンベラボーだ」


ビシッと親指を自身に向けて立てる。
そう、これぞ服屋の親父と武器屋の親父の共同製作『なんちゃってシルバースキン』

本来のシルバースキンは攻撃が当たった瞬間硬質化するが、そんなものを作るのは不可能だ。
そこで俺が考えたのはコートの下地に鎖帷子の様な物を編み込む事。そしてそれに気を通す事で防御率を格段に上げる事が出来る仕組みになっている。凪の鎧や手甲みたいなもんだな。
なんちゃってシルバースキンと凪の鎧の違いを挙げるなら、凪の鎧は通常の鎧と違って動きやすさ重視で軽量化&身に纏う面積が少ないと言う事。逆に、なんちゃってシルバースキンは全身をカバーする鎧のようになっている。その分、凪の鎧よりかは重いが通常の鎧よりも軽くて動きやすくなっている。更に凪と同じく気を鎧の部分に纏わせる事で防御率を高める。凪は一部に気を纏わせるコントロールをするが、なんちゃってシルバースキンは常に微量の気を流し続け、常に防御率が高いようにしている。そして先程、胡軫の一撃を防いだ様に部分的に流す気の量を増やせばその部分の防御率を高められる。

デメリットがあるとすれば今の俺は気功波の類いの使用が難しい事だろう。
理由としては単純で気を全身に回すのと部分的に気を集中する作業をする為に気のコントロールをしているからだ。その状況で、かめはめ波を撃とうとすれば、気の量が足りなくなるか自爆の二択。いつもの気絶パターンと化してしまう。気功波を使うとすれば全身に回してる気を止める事。しかしそれをすれば、なんちゃってシルバースキンはただのコート型の鎖帷子となってしまう。
つまり、肉弾戦がメインとなるのだ。まあ、それもブラボー技を駆使すれば問題ない……筈。
そして自己紹介の名乗りで周囲の視線が冷たくなった気がする。


「なんとも粋な名乗りだ。愛紗、やはり良い御仁のようだ」
「何処がだ……華蝶仮面の様に苛立たしいだけだ」


趙雲、ありがとう。少し救われた気がする。関羽……お前は誰かに恨みでもあるのか?


「ほぅ……あの時よりも強くなった様だな」
「秋月殿……私とて退く気はありません」
「やれやれ……ならば私は……」


ヒュンと胡軫の棍と関羽の青龍偃月刀が俺の方に向けられた。趙雲は……大将と一刀を見定めている。
うん……ヤバい気もするが……いや、ヤバい気しかしないがやるしかない。
そう、思いながら俺は強く拳を握った。





『シルバースキン』
武装錬金のキャラ『キャプテンブラボー』の武装錬金。
攻撃に対して瞬時に金属硬化して鱗のように剥がれ落ち、破損部分は瞬時に再生、着装者を完全防御する。 
その防御力は全武装錬金中トップクラス。

『キャプテンベラボー』
同作品内で主人公と対立する事になったキャプテンブラボー。その事を信じられない主人公は目の前のキャプテンブラボーは偽者で『お前はキャプテンベラボーだ!』と偽者である事を主張したが、そんな事はなくキャプテンブラボー本人だった。


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第百六話




「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「必殺ベラボー正拳突き!」


振るわれた関羽の青龍偃月刀の一撃をガードしつつ、受け流すと間合いを詰めてブラボー正拳突き改めて、ベラボー正拳突きを放つが体勢を整えた関羽は青龍偃月刀で受け止めてしまう。つーか、青龍偃月刀硬いな!?


「隙あり!」
「危なっ!?」


続いて胡軫の棍が迫ってきていたので瞬発的に身を低くして避ける。低い体制から体を伸ばしてアッパーを放つが胡軫は距離を開けて避けられてしまう。


「ならば私の牙も御賞味あれ」
「なんの……あ……」


続いて趙雲が跳躍しながら俺に槍を向けてくるのだが、それが問題だった。趙雲の服は丈が異常に短い。それ故に少し動いただけで中が見える訳で。俺は趙雲の白い服と綺麗な肌の間に一匹の蝶を見た。


「せいっ!」
「ちいっ!?」


俺の胸を狙った突きを上手く避けると趙雲は槍の柄を下段から払うように上段へとかち上げた。俺はそれを肘で叩き落とすと趙雲との距離を開ける。


「ふぅ……危ねぇ……」


思わず本音が口から漏れた。なんちゃってシルバースキンのお陰でダメージ少ないけど関羽、趙雲、胡軫を俺が相手をするのは流石に無理がありすぎる。


「ふふっ……見事な腕前ですな。我等、三人を同時に相手をして無事とは」
「そりゃどーも」


趙雲の言葉に俺は平静を装いながら答える。いや、正直、ギリッギリッだからね。
こりゃ大将と一刀と大河を連れてサッサッとトンズラした方が良さそうだ。俺は退く為に片足を半歩後ろに下げる。


「おや、こんなに良い女が居るのに逃げる算段ですかな?」
「………こりゃ困ったね」


少しの挙動で考えが読まれた。出し抜くのは難しいか……


「純一さん、俺も華琳を連れて大河と逃げようとしたんだけど趙雲が立ち塞がって逃げられなかったんだ……あと少しだったのに……」
「そちらの御遣い殿も上手く逃げ仰せようとしたものだ。愛紗や胡軫ならまだしも私には通じんよ。そちらの少年も筋が良かったが私の相手にはならなかった様ですが」


成る程……一刀は目潰し用の煙玉を用意していたけど趙雲は関羽や胡軫とは少し離れた位置に居たのだろう……そして大河は突破口を開こうとして戦いを挑んだが敗れた……って所か。
参ったな……何がマズいって搦め手が通じない相手が一番厄介なんだよな……


「秋月殿……降伏してください。桃香様もそれを望んでいます」
「関羽……」


そんな中、関羽は辛そうな顔で降伏を進めてくる。生憎だがそれは出来ないんだよ。俺は関羽達に見えないように一刀にハンドサインを送る。


「関羽……俺は俺なりに思う所がある。だから……」
「秋月殿!」


俺は全身に回していた気を解くと右手に気を集中する。そして辺りを見回してから大将に話を振る。


「大将……確か劉備が退いたのは、あっちの方角だったよな?」
「え?……ええ、あっちの方よ」


俺は大将に劉備が退いていった方角を確認すると右手に集中した気を放つ。俺は掌の上には作り出した気弾を振りかぶった。


「行けぇ!」
「や、止めて下さい秋月殿!」


俺が気弾を劉備が退いた方角の空へ投げると、その場に居た全員が俺の投げた気弾に視線が集中していた。それこそ俺の狙い通り。


「弾けて混ざれっ!」
「なっ!?」


俺が上空に投げた気弾は俺の合図に弾けた。それと同時に辺りに眩しい位の光が差し込む。


「なんだコレは!?」
「ま、眩しい!?」
「目がぁ……目がぁ~!」


関羽や胡軫達も目が眩んでる様子。これぞ俺の編み出した、なんちゃってパワーボール。当然、大猿になんてなれない。これの効果は実は太陽拳の様に眩しい光を出すだけだ。太陽拳が使えずに悔しい思いをした俺が試行錯誤の末に作り出した技だ。
実は出撃前に一刀にはコッソリと、なんちゃってパワーボールの事を話していた。そしてハンドサインを送ったらパワーボールを使うと指示を出しておいた。つまり、この場で目が眩んでいないのは俺と一刀のみ。
俺は大河をおんぶし、一刀は大将を抱く。しかも所謂、お姫様抱っこ。


「行くぞ!」
「はい!」


俺は一刀と共に包囲から脱出する。早く城に戻って籠城戦しなきゃだな。








『ブラボー正拳突き』
キャプテンブラボーの13の技の一つ。ホムンクルスを生身で倒せる強力なパンチ。


『パワーボール』
ドラゴンボールでベジータが使用した技。星の酸素と自身の気を混ぜ合わせることで、小型の月を作り出す。


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第百七話

今回は短めです





なんちゃってパワーボールで上手い事、隙を作ったけど長持ちはしない上に城までの距離を考えれば邪魔も入るだろう。急がないと……って大将が妙に静かだ。
ふと一刀に視線を写せば、一刀に抱かれ、少々うっとりとした瞳で一刀を見上げてる………惜しいな、携帯のバッテリーが切れてなきゃ速写してたわ。


「待ぁぁぁぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「ヤバッ……もう回復したのか!?」


無駄な事を考えていたら後ろから関羽が追っかけてきた。その直ぐ後ろには趙雲も一緒に向かってきてる。胡軫は追ってこなかったのか……まあ、ムスカ状態だったしダメージデカかったのだろう。


「ちょっと、追い付かれるわよ!」
「しょうがないだろ!俺は大河背負ってるし、そもそも装備が重いんだよ!」


大将の言葉に反論するが確かに追い付かれそうだ。なんちゃってシルバースキンのデメリットその2。『重すぎて移動するときには不便』が追加された。


「とは言っても……迎え撃つにはちと厳し……いや、このまま走り抜け一刀!」
「え、あ、はい!」


どうしようかと悩んでいた俺だが前方に『援軍』が見えたので、一刀に指示を出す。間に合ってくれたか!
俺と一刀が城に向けて走り続けると謎の一団が前に立ちふさがる。一刀や大将は敵かと思って足を止めようとしてしまうが俺はそのまま走り抜けろと一刀の肩を叩く。その意図を察したのか一刀は少し遅れてだが走り続け、そしてその一団を追い越した後、関羽と趙雲が迫ってくるがその一団は揃って口を開いた。


「「まばゆきは月の光、日の光!正しき血筋の名の下に、我等が名前を血風連!」」


そう、彼等こそ俺と華雄で鍛えた精鋭部隊『血風連』
実は彼等の修行場所は魏からそう遠くない山の中なのだ。今回の騒動が起きてから俺はねねに華雄、恋、血風連を連れてくる様に頼んでおいた。本来なら戦の前に合流できるのがベストだったけど、このタイミングで来てくれたのは有難い。


「愉快な連中の様だな」
「だが数だけだ。突破するぞ」


趙雲と関羽が血風連を見てそれぞれコメントを出す。甘いな……血風連を鍛えたのは俺だけじゃないんだぜ?


「やれやれ……容易に突破出来ると思ったか?」
「貴様……華雄!?」


血風連の一団から一人が前に出る。それは血風連と共に来た華雄だった。


「秋月、北郷……先に行け。私は関羽を相手にする」
「ふん……貴様ごときが私の相手になるだと?」


華雄の挑発にアッサリと乗って来る関羽。やっぱ此方を甘く見てやがるな。


「隊長、副長。ここは我等にお任せを」
「頼んだ。行くぞ、一刀……華雄、待ってるからな」
「え、あ……はい!」
「ああ……すぐに合流するから待っていてくれ」


血風連の一人に声を掛けられた俺はそのまま一刀を連れて城へと走った。華雄は俺の言葉を聞いて小さな笑みを溢して答えてくれた。




『血風連』
ジャイアントロボに登場する十傑集直系の怒鬼直属の戦闘集団。
高い戦闘力を持ち、チームワークを活かした集団戦法を駆使する。全員が編み笠を深く被り、武器は七節棍や刀。


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第百八話

遅くなりました。更新再開です。






◆◇side華雄◆◇


私と恋は先日の罰を受けて魏から少し離れた山の中で魏の特戦部隊となる『血風連』の最終調整をしていた。
しかし罰の内容が『特戦部隊が仕上がるまで秋月純一との接触を禁ずる』とはな……正直、とてつもなく堪えるものだ……
今まで秋月と共に過ごすことが多かった分、離れるととても寂しいと言うか……ふ、私も桂花の事は馬鹿に出来んな。

そんな事を思いながら血風連の仕上げを行い後数日と行った所で魏からねねが来た。しかもやけに慌てた様子で。
話を聞けば蜀が魏に攻めに来たと言う。劉備め……先日、魏の領土を素通りさせて貰った上にこの仕打ち……特に関羽は反董卓の時の挑発の借りも返させて貰おうか。


「聞けぃ者共!今、魏に蜀が攻め入ろうとしている!我等はこれより魏に戻り、蜀を叩き潰すぞ!これは魏を守ると同時に我等の初陣となる!その姿を大将、曹孟徳に見せ我等の強さを証明して見せるのだ!」
「「御意!!」」


私の号令に揃って返事をした血風連は即座に陣地を撤収させ、我等は魏へと急いだ。
秋月の教えで血風連の指導は完璧なものとなっていた。個人の技量もそうだが連携した強さを持たせる事で、その力を更に高めさせる。秋月の話では血風連とは天の国の物語に出てくる部隊だそうだが素晴らしい部隊だ。私もその物語をいつか読みたいものだ。

そして馬を急がせ魏に戻ると既に戦は始まっていた。近くに居た魏の兵士に話を聞き状況を確認した私は大将と北郷。そして秋月を救う為に兵達に指示を出す。


「ねね、私は血風連と共に秋月達の救出に向かう。お前と恋は城の付近の蜀の兵士を倒して退路を確保してくれ」
「………お前、本当に華雄なのですか?」


私の指示に疑いの視線を送ってくる、ねね。確かに昔の私なら有無を言わさずに突撃していただろう。


「私とて成長しているのだ……それにまた守れないなんて事にはなりたくないからな」
「あたっ!」


私は軽く拳骨をねねの頭に落とす。それと同時にねねの頭を撫でた。


「………頼むぞ」
「だったら殴るななのです!」


私が溢した一言にねねは涙目になりながら恋を連れて城の方へと向かっていった。少し力を入れすぎたか?まあ、それについては後で謝るしかないな。
ねねと恋と別れた私は血風連と共に秋月達を探そうと動き出した、その時だった。
突如、気弾が空に放たれたかと思えば、それが眩しい光を放ったのだ。私たちは離れた位置に居たから大した事にはならなかったが近場にいたら目が眩んでいただろう。だが、あんな事を仕出かすのは魏では一人しかいない。
そう確信した私は血風連に指示を出す。


「これから大将や副長が通るだろう!蜀の追撃を防ぐ為にも隊列を作れ!」
「「ハッ!」」


私の指示に従った血風連。そして予想通り、大将を抱いた北郷に大河を背負った男……見慣れぬ服を着ているが秋月の筈。
そして彼等が来た時、関羽達も後を追ってきたが我等はそれを阻むように前に出た。


「「まばゆきは月の光、日の光!正しき血筋の名の下に、我等が名前を血風連!」」


血風連の代名詞と秋月から教えられた台詞を叫ぶ血風連。ふふ……私も血が騒いできたよ。


「愉快な連中の様だな」
「だが数だけだ。突破するぞ」


趙雲と関羽が血風連を見てそれぞれ感想を述べるが趙雲は兎も角、関羽は粋と言うものがわからん様だな。それに我等を格下に見ているのが容易に解る。


「やれやれ……容易に突破出来ると思ったか?」
「貴様……華雄!?」


血風連の一団から私は前に出る。私の登場に驚く関羽と趙雲。少しばかり良い気分だ。


「秋月、北郷……先に行け。私は関羽を相手にする」
「ふん……貴様ごときが私の相手になるだと?」


私の挑発に関羽は私を見下した態度を取る。あの時と同じと思うなよ。


「隊長、副長。ここは我等にお任せを」
「頼んだ。行くぞ、一刀……華雄、待ってるからな」
「え、あ……はい!」
「ああ……すぐに合流するから待っていてくれ」


血風連の一人に声を掛けられた秋月は北郷を連れて城へと走った。私に声を掛けてくれた時、帽子をズラして顔を見せてくれた。ああ、やはり私はアイツが好きなんだ……まったく恋とは厄介な感情だな。


「華雄……貴様ごときが私の足止めが出来ると思っているのか?すぐに後を追わせて貰うぞ!」
「……やれやれだ。血風連は趙雲の相手をしろ」
「「ハッ!」」


関羽の言葉に私は溜め息を吐きつつ血風連に指示を出した。何故だろうな……以前見た時よりも関羽の存在が小さく感じるな。


「来い関羽……以前の私だと思うなよ!」


私は金剛爆斧を握り締めると関羽の青龍偃月刀と刃を合わせた。


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第百九話




◆◇side趙雲◆◇


強い……正直な感想だ。華雄が精鋭と言っていた血風連は見事な動きで私を翻弄していた。
血風連は私が攻勢に出ると数人が前に出て私の槍を受け止める。そして受け止めた数人とは別に背後から両脇に私を挟むと七節棍を振るう。私が退がり七節棍を避けると追撃で正面から突きが来る。
それを受け止めれば、今度は側面から蹴りが飛んできたので私は距離を取るが血風連は私の包囲を崩さずに居る。

非常にやりづらい相手だ。血風連は集団戦闘の専門家と言った所か……付かず離れず。それでいて私の間合いの外から中へと切り替えが早い。私の距離での戦いが出来ない……やっかいなものだ。
それに血風連を率いていた華雄も同様のようだ……愛紗が相手をしていたが分が悪そうだ。


「くっ……はぁ……はぁ……」
「どうした……お前の実力はこんな物なのか?」


息切れを起こし満身創痍が目に見える愛紗と息切れを起こさず、悠々としている華雄。どちらが優勢なのかは明らかだ。
愛紗の油断もあったのだろうが華雄は凄まじく強くなっていた。あろうことか華雄は愛紗との戦いの最中にも回りに居た血風連以外の兵達にも指示を出しながら斧を振るう。つまり愛紗との戦いは余所見をしながらでも出来ると言う事の現れだ。

ギリッと歯軋りが聞こえた。それは愛紗の物なのか私自身の物なのか……いや、両方か。私も愛紗も桃香様の剣となると誓って戦ってきた。なのになんだ……華雄や血風連が現れただけで先程までの優位性が失われた。
しかも、この血風連は魏の精鋭とは言っても兵の一部にしか過ぎない筈。なのに私は足留めをされて愛紗は格下と見ていた華雄に劣勢。

なんて……なんて惨めなんだ……


「頃合いだな……退くぞ」
「なんだと……逃げるのか!?」


華雄の一言に私を取り囲んでいた血風連はザッと一気に引いていく。ここまで統率が取れているとは、やはり侮れないな。
愛紗は華雄が逃げると思っている様だが、それは違うだろう……


「ふん……私の仕事は撤退援護だ。貴様等を討つ事ではない。それにそろそろ追い掛けないと追い付けなくなりそうだから……なっ!」
「ぐぅっ!?」



華雄は我々に事情説明をすると同時に愛紗に重い一撃を放つ。なんとか防いだ愛紗だが、その隙に華雄は血風連と共に既に退却していた。
反董卓連合の時は猪武者にしか見えなかった華雄だが今は違う。周囲と状況の判断を冷静に下し、自身も前に出る理想的な将軍となっていた。この短期間の間にどうやったら、そこまで強くなれるのだ?


「逃げられたか……逃げ足だけは速いようだな」


愛紗は華雄が去った方角を見て呟いたが私はそうは思わない。恐らく愛紗は先程の戦いも自身の油断が招いた事だと思っているのだろうが、それも違うだろう。華雄は何かの切っ掛けで化けたのだ。只の猪武者から有能な将へと。
やれやれ……魏には誰かを育てるのに優秀な人材が居るようだ。まさか噂の天の御遣いか?まさかな。





◆◇side秋月◆◇




「いっくしょ!」
「風邪ですか純一さん?」


一刀や他の兵達と全力と城へと戻った俺達。恋とねねが兵を纏めて退路を確保してくれて本当に助かった。そして城に到着したと同時にくしゃみが出た。誰か噂でもしてんのか?


「なんとか戻ってこれて良かった。華雄達もこっちに向かってるみたいです」
「足留めの後に直ぐにこっちに来たみたいね。下手に追撃をするよりも良い判断だわ」


一刀の話の通り、華雄も関羽達の足留めをした後に直ぐに後を追ってきたらしい。良かった……昔の華雄ならそのまま突撃していたかもしれないと思うとゾッとするわ。


「華琳も助けて、華雄や恋とも合流して……なんとかなるかもな」
「なんとかするのよ」


ふと一刀と大将を見てみれば一刀は少し震えていた。そっか一刀は武将との戦いを間近に感じたのは今回が初めてだったのか。


「そっか……そうだよな。ハハッ……まだ少し覚悟が足りなかったみたいだ」
「あら、私を救ったのだから貴方達は英雄って言われるかもしれないわよ」


そんな一刀を察したのか大将は冗談混じりの話を始める。


「俺は英雄なんて柄じゃないよ」
「一刀……」


一刀は大将の言葉を首を横に振って力無く笑った。そんな一刀に大将も掛ける言葉を失ってる。ふむ……ならば。


「心配するな一刀。遊び人は悟りの書がなくてもレベル20で英雄になれる」
「純一さん、それは賢者です」



俺のボケに鋭いツッコミが入った。だが、それと同時に先程までの笑みから本当の笑みへと変わったのを感じる。大将の顔色も少しはマシになったか。やっといつもの調子になってきたか。


と……そんな話をしている間に華雄と血風連も城に戻ってきた。城門を閉じて遂に始まる籠城戦。もう一踏ん張り頑張りますか。





『悟りの書』
ドラクエ内のレアアイテムで悟りを開くための書物で、これを持っていると『賢者』に『転職』できるようになる。特定のモンスターが落とす超激レアアイテム。ドロップ率は約1/2048と言われている。
因みに悟りの書無しでも『遊び人』を鍛えれば賢者になれるので大半のプレイヤーは遊び人から賢者に転職させた。



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第百十話

お気に入りが3000を越えました。ありがとうございます!






遂に始まった籠城戦。
中々城を落とせない蜀は様々な手を使ってきた。既に使われなくなった地下古水道に侵入しようとしてきたが桂花の指示により封鎖罠設置がされており、蜀の兵を潰した。更に直接城門を攻め落としに来た連中には無限丸太落とし装置で返り討ちにした。
しかし、どうしても城を落としたい蜀の皆様は未だに諦めずに城攻めを続けている。中でも胡軫は気合いが入っている。


「こうなったら自決か特攻……DEAD OR ALIVE」
「結果的にどちらも死にますよ、それ。それにそんなの許しませんからね」


なんちゃってシルバースキンを着たまま城壁の上から様子を見ていたのだが、俺の呟きに一刀の鋭いツッコミが入る。


「そんな真似したら私も許さないわよ」
「あ、そうだ。真桜は?」


腕を組んで俺を睨む桂花。桂花と一刀のダブルブリザード視線に俺は視線を泳がせながら先程から姿の見えない真桜の事を訪ねる。


「大丈夫よ。別の作戦が有るから、そちらを任せているだけ」
「そうかなら良いが……」


姿が見えないから心配してたんだけど他の作戦に行ってたのか……部下が頑張ってるなら俺も……


「一刀、弾岩爆花散で奴等を吹っ飛ばしてやるから後は頼んだぞ」
「明らかに自爆技じゃ無いですか。純一さんはバラバラになったら元には戻りませんよ」


等と一刀とバカな会話をしていたのだが周囲が騒ぎ出してきた。


「華琳様!地平の向こうに大量の兵が!」
「敵の増援か!?」
「劉備もそれほどまでの余裕が有るわけ……」


慌てて城壁の向こうを見れば、確かに地平の辺りに大量の煙が見える。桂花の叫びに俺も驚き、一刀も驚愕していた。


「狼狽えるのはやめなさい!……桂花。新たな部隊の旗印を確認なさい」
「旗は……何あれ!?こんな大量の旗って……それに将軍格の旗が幾つも!どこかの連合軍なの!?」
「………まさか西の部族連合か……!?」


ザワザワとし始めたが大将の叱咤に皆が黙り、状況確認が始まった。


「んー……ちがいますねー………」
「あれは、まさか!」
「旗印は夏侯、郭、典、許、楽、于、李、お味方の旗ですねー」


俺も身を乗り出して城壁から身を乗り出して見てみると風の言葉通り見えているのは味方の旗。


「え、だって、春蘭たちは明日の朝までかかるって……それに、李って、真桜だよな?なんで向こうに居るんだ!?」
「こっそりと探しに行ってもらったのよ………まあ、必要無かったみたいだけれど」


一刀の呟きに答えた桂花。どうやら真桜が探しに行くまでもなく皆が帰還していた様だが。
やれやれ……これで大丈夫だな……
俺は城壁に背を預けて座り込む。

あー……なんか疲れたな……
天の国……現代か……今は何もかも皆、懐かしい……

俺は疲れからか瞼を閉じる。其処で俺の意識は途絶えた………















◇◆side桂花◇◆



春蘭達が予想以上に早く帰還をしてくれたおかげで一気に反攻の兆しが見えてきた。私達は華琳様の指示で蜀を押し返し始めた。
すると、いつもなら五月蝿いくらいの秋月が妙に静かだった。

ふと見てみれば秋月は城壁に体を預けたまま座り込み、静かになっていた。
壁に寄りかかったまま動かなくなった秋月。その姿に私はすごく嫌な予感がした。


「ちょっと、秋月?」
「…………」


私が声を掛けても返事が無い。ちょっと……まさか……


「あ、秋月!?」
「……………すかー……ぐー……」


心配して叫んだ私に返ってきた返答は人を小馬鹿にした様な小さな寝息。コイツ……この間で寝たって言うの!?


「この馬鹿……」
「寝ているのなら寝かせてやりなさい。今回の純一は大金星だったのだから」


こっちが心配したってのにコイツは……殴ってやろうかと思ったら、小さな笑みを浮かべたまま華琳様が私の肩に手を置いて制止する。
蜀を追い払って戻ってきた春蘭が北郷に食って掛かってるけど私は溜め息を吐くしかなかった。


「心配させないでよ……馬鹿」


私は秋月の隣に腰を下ろす。起きたら文句言ってやるんだから覚悟しなさい。





『弾岩爆花散』
ダイの大冒険の敵キャラ『フレイザード』の奥の手。
『氷炎爆花散』の変形で、身体を爆弾の如く破裂させた後に自身の体であった岩を操り、嵐の如く相手に攻撃を加え続ける必殺技。
この岩石一つ一つがフレイザードの意思を持っており、砕けば砕くほどフレイザードが有利になる。
自分の身体なので好きに元の身体に戻ったり、巨大な岩石にする事も可能。


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第百十一話






蜀を追い返した次の日。俺は途中で気絶……と言うか疲れからか寝てしまっていたらしい。
どうやら、なんちゃってシルバースキンは界王拳を使った時よりも気の消費は激しくないものの結構、気の消費があったらしく熊の冬眠の如く俺は眠ってしまったらしい。援軍が来て、気が抜けたってのもあるんだろうけど。

しかし俺にとって口惜しいのは大将と一刀のラブコメシーンを見逃した事だ。
初めての実戦で体の震えが止まらなかった一刀を大将が優しく抱いたらしい。ちくしょう、そんな弄り甲斐のあるシーンを見逃してしまうなんて……まあ、それですら春蘭に邪魔されたらしいが。

そして俺はと言えば……死んだように眠ってしまった為に桂花に心配され、月はそんな俺を見て血の気が引いて倒れそうになり、詠やねねは目に涙を溜めていたとか。真桜や華雄は蜀に俺が殺られたと勘違いして、蜀に更なる追撃をしようとしたらしい。斗詩は事後の後始末をしている最中で俺の事を聞いたらしく、普段の落ち着きからは想像できないくらいに慌てていたらしい。心配かけて本当にスイマセン。

そんな死んだ風に眠ってから目が覚めれば当然の様に皆さま方からの有難い説教を頂きました。特に月と詠がスゴかったです。


「ま、今回は寝たきりにならないだけマシか」


俺は城内を散歩する傍ら体を伸ばす。今まで技の反動とかで、ぶっ倒れてたから今回は大成功とも言えるだろう。それ以上に俺が関羽や趙雲と互角に渡り合えたってのも大きいが。だが今回の戦いでは関羽達が俺のなんちゃってシルバースキンに驚いていた&見慣れない物である、この二点を踏まえても全力ではなかった気がする。胡軫は恨み全開って感じだったけど……


「ま、兎に角……」


俺は拳をグッと握る。なんか……強くなった実感を得るのが嬉しいのは男なんだからなのだろう。久々に中2病になりそうだわ。

そして俺が強くなったと同時に嬉しいのは華雄&血風連の華々しいデビューだ。大将を助けた上に追撃の足止めを見事に果たした。正直、俺の想定以上の働きをしてくれた。

逆に大河は今回、気合いが入りすぎたと言うか相手が悪かったと言うか……趙雲に挑んで返り討ちにされていた。先程見舞いにも言ったのだが非常に凹んでいた…………と言う事はなく寧ろ、気合いが入った様だ。


「師匠!自分、もっと強くなりたいッス!!」


と非常に気合いが入っていた。修行に関しては俺も望む所だ。俺も今回の、なんちゃってシルバースキンで自信が付いた。他にも試したい事が沢山あるからな。
大河にも、そろそろ気功波の指導をしてみるか。


そんな事を思いながら俺は煙管に火を灯す。

















あと、忘れてたけど服屋の親父に頼んでいた服も届いてるから女の子達にも着て貰わないと。実に楽しみだ。



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第百十二話





「さて……此処に集まってもらったのは他でもない」


俺は城にある某室にて碇司令の如く、顔の前で手を組んで凄みを出す。俺の目の前には一刀、栄華、沙和と並んでいる。
この面子こそ北郷警備隊おしゃれ同好会の幹部だ。因みにこの部屋はおしゃれ同好会の会議場所としていつも使われている部屋だったりする。


「秋月さん……貴方や一刀さんは兎も角、私は忙しいんですよ」
「いや、俺も純一さんも割りと忙しいんだが……」


栄華が不満を口にして一刀が反論する。


「お前の不満も尤もだ栄華。だが……今回の話は今後の北郷警備隊おしゃれ同好会の活動に大きな影響を及ぼす話となる」
「なんですって……」


俺の言葉に栄華は反応を示した。うん、だが……本題は此処からだ。


「まず……つい先程、春蘭と秋蘭が倒れて医務室に運ばれた」
「え……あの二人が!?」
「いったい……何が……」


俺の言葉に驚く一刀と栄華。驚かないのは俺と沙和のみ。なぜならば、その現場に居たからだ。


「俺がプロデュース……いや、案を出した服が完成し、二人に見せた。そしてそれを華琳が着ている所を想像したのだろう……二人は静かに鼻血を出した。その後、医務室行きだ」
「まさか……稟じゃあるまいし」
「恍惚とした表情で服を見つめながら鼻血が出てたのー」


俺の説明に一刀は否定気味だったが沙和がその場に居た時の状況を補足説明する。


「そ、そんな素晴らしい服が出来上がったと言うのですか!?」
「いや……作ったのは月達が着ている様なメイド服。そして天の国の巫女が着る巫女服」


俺が作った服は計四着。その内の三着を春蘭と秋蘭に見せたのだ。


「そして……誰とは言わんが『金色の閃光』と呼ばれ人気投票でも上位に君臨し、金髪・ツインテール・鎌と条件が揃ったので思わず作り上げた魔導師の服だ」
「リリカルでマジカルな感じの娘ですか!?」


俺の説明に一刀は食い付いた。うん、気持ちは良く分かる。


「あえて言おうタイトルは『死に刈る☆華琳』だと!」
「純一さん!俺はアンタに一生着いていくよ!」


俺と一刀は熱い握手を交わした。これ以上の熱い握手は存在しないだろう。


「二人で盛り上がってないで説明してくださいな」
「あ、悪い……と、まあ俺の作った服で魏の柱とも言うべき二人が撃沈したんだ。この流れで行くと……?」
「そっか……桂花や稟なんかは絶対に倒れる」


栄華のツッコミが入ってから説明を続けて一刀が納得をした。つまりこのままだと『華琳様大好き勢』が鼻血による出血多量で仕事にならんと言う事だ。


「うー……せっかく盛り上がって来てたのにーなの」
「俺とて悔しいさ……桂花にも着て欲しい服が沢山あるってのに」
「秋月さん、然り気無くノロ気ないで下さい」


沙和が悔しそうな声を出すが俺だって悔しいんだ。なんて思っていたら栄華からツッコミが入った。


「因みに桂花にはどんな服を作ったんですか?」
「ふ……所謂『猫耳パジャマ』だ」


俺は部屋の片隅に置いておいた服を取り出して見せる。その服を見た栄華はスッと俺に手を伸ばし……意図を察した俺は栄華とピシガシグッグッと意思疏通。


「是非とも着ている所を見てみたいです!」
「他にも月にはブレザー。詠にはセーラー服。華雄には……」
「いや、どんだけ作ってるんですか。見てみたいけど」
「あー、これも可愛いの!」


作ったは良いがまだ着て貰ってない服が大量にあるので見てもらうと、まぁー盛り上がる事。
だがな一刀……先程言っていた服だが一着だけは既に大将に渡してあるんだ。それを見れるかは……お前次第だぞ。
大量の服を栄華や沙和と見ている一刀を眺めながら俺はそんな事を思っていた。



















◆◇side華琳◆◇


純一がつい先日私に渡してきた服。これは一刀が天の国で通っていた学校で着ていた服の女子仕様の物らしい。
おしゃれ同好会の活動で作った物を私に届けに来た純一は妙にニヤニヤとしていた。


「これを着て一刀に見せろって事なのかしら……」


私は身に纏った『ふらんちぇすか学園制服』を鏡に写して見ていた。


「一刀が喜ぶのかしら……」


私はポツリと呟く。純一はなんやかんやで結構気遣いが出来る人間だ。その反面で面白がっている様にも見えるけど。


「純一の言う通りになるのは癪だけど……一刀に用事があるのも本当の事だし……行こうかしら」


私は踵を返すと部屋を出る。確か……おしゃれ同好会の会議があるって言ってたわね。私はその会議が良く開催されている部屋へと向かった。






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第百十三話



「しかし……こうしてみると服のサイズがバラバラですね」
「そこは個人差があるから仕方ないだろう」


一刀が大量の服を見て呟いた。うん、魏の女性陣って落差が激しいからね。栄華と沙和には『サイズ』とは天の国における『大きさ』を示すものだと以前教えたので話は、このまま進められる。


「たいちょーやふくちょーはいつもその服だから関係ないかもだけど、女の子は大変なのー」
「そうですよ。特に背が伸びたり、胸が大きくなると服の採寸が合わなくなりますから」
「いや……これが俺達の一張羅だから」


沙和と栄華の言葉に苦笑いの一刀。確かに一刀は制服。俺はスーツと着た切り雀だからなぁ……最近は武道着やなんちゃってシルバースキンとか着てるけど。
でもまあ、男なんてそんなもんだ。


「でも確かに……女の子は大変なんだな」
「あー、たいちょーの視線が沙和の胸に来てるのー」


一刀の発言に沙和は「いやん」と言わんばかりに胸を隠しながら抗議の声をあげた。言うほど嫌がってる様には見えんが。


「い、いや……それは……ゴホン」


わざとらしく咳払いで誤魔化そうとしている一刀。うん、一刀よ気持ちは分かるぞ?まして思春期なら当然とも言えるだろう。


「あ、そうだ!純一さんの大人の意見は?」
「あら、興味深いですね」
「聞きたいのー!」

そして矛先を俺に向ける一刀。後で覚えとけよ、この野郎。
栄華も沙和も弄る気満々な顔だし。
良かろう……ならば聞かせてやる。


「甘いな一刀。俺は巨乳は至高の萌えだが貧乳は究極の萌えだと思っている。相反する存在……だが、それが良い」


俺の言葉に三人は聞き入っている。いや、予想外の答えだったのかな?


「それぞれに特徴としての差が際立つがそれは個性と言うもの。逆にそれがその娘の魅力とも言えるな」
「純一さん……俺はまだ修行が足りなかった……」


俺の言葉にガクッと膝を着く一刀。ふ……若さとはそう言うものだ。


「貴方達……お姉様や桂花に聞かれたら洒落に……あ」
「どうした栄華……げ」


栄華が俺達に注意を促そうとして途中で言葉を失った。俺が振り返ると、大将が満面の笑みで扉を開けたまま硬直している。


「あ、あの……大将?これはですね……」
「そ、そう……会議が盛り上がりすぎちゃってさ……」


俺と一刀はなんとか大将の怒りを沈めようとしたが効果は無さそうだ。笑みを浮かべたまま絶を片手に歩み寄るのは最早、恐怖でしかない。栄華と沙和は既に部屋の片隅に避難している。逃げ場は……無さそうだ。
等と俺が思考に逃げていたのだが大将は俺と一刀の前に立つと絶を振り上げ、口を開いた。



「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」



そう言って大将は、その手に持った絶を……アーッ!!



























「で……なんの話だったの?」
「その質問は出来たら絶を振り下ろす前に聞きたかったです」


俺達は大将の前で揃って正座をしていた。
因みに絶は俺が真剣白刃取りで受け止めた。人間死ぬ気になってやれば案外出来るものだ。



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第百十四話





「天の国の服も悪くないわね」
「流石です、お姉さま!」


俺と一刀がプロデュースした服を身に纏う大将。そしてそれを称賛する栄華。
確かに似合ってんだよなぁ。一刀もズッと見惚れてる感じだし。
現在、北郷警備隊おしゃれ同好会では大将のファッションショーが開催されていた。先程までの事を大将に話したら服を着てみたいと言い出し始めた。流石に大将も女の子故に服に興味が行く様子。
ツッコミはしなかったけど、先程まで大将が着ていたのは俺が一刀から聞き出してデザインしたフランチェスカ学園の女子の制服だったりする。

それはさておき、ファッションショーが開催されてから大将はかなりの数の服に着替えてる。巫女、ナースと言った服からカジュアルな現代風の服も華麗に着こなしていた。

それでまあ……現在は……


「ほら……桂花?貴女を逮捕しちゃうわよ」
「ああ……華琳様……」


大将を探しに来た桂花が婦人警官の服を着た大将に手錠を掛けられて押し倒されていた。因みに手錠は俺が真桜に詳細を話したら簡易的な物だが作ってくれた。いつも思うのだが現代の物をアッサリと再現してしまう真桜の才能は凄いな。それに頼りきりなのも現状だが。
大将は盛り上がってるけど……そろそろ止めるか。


「あー……大将。お楽しみのところ悪いが、そこまでにしとこうか?」
「もう、何よ。せっかく桂花と楽しんでたのに」


その格好で人を襲って、その発言は色々とアウトな気もするが此処は三国志的な時代だし、深くツッコんだら負けな気がするな。


「ほら、他にも服があるし……他にも見たいって一刀が目で訴えてるぞ」
「もう……仕方ないわね」


俺の言葉に大将は渋々ながら桂花の上から降りた。やれやれ……あのまま放置していたら色んな意味で収まりが付かなそうだったから止めて正解だな。大将はそのまま他の服を持って着替えに隣の部屋へと行ってしまう。


「邪魔しないでよね……せっかく華琳様と楽しんでたのに」
「そりゃ悪かったな」


文句を言ってくる桂花。俺はその言葉をサラッと流しながら手錠を外そうとするのだが外れない。


「あれ……おんや?」
「ね、ねぇ……ちょっと?」


俺の動きから事態を察し始めた桂花が不安げな表情で俺を見詰める。うん、その予想は当たってると思う。


「ヤバい……外れない」
「ちょっと、どうするのよ!?」


ガシャガシャと手錠を鳴らす桂花。いや、その手錠を使ったのは大将なんだが。


「こんな状態じゃマトモに仕事も出来ないじゃない!」
「それにこんな所を襲われたら……」
「いや……其処で俺達を見ないでくれよ」
「そうだぞ桂花。仮に襲うなら俺が……痛いっ!?」


絶望した様な顔をした桂花。その途中で栄華が口を挟んで俺と一刀を見る。馬鹿を言うな栄華。桂花を襲うとしたら、それは俺の役目……と言おうとしたら桂花が手錠された手で俺を殴った。的確に手錠を武器にする辺り侮れない。


「馬鹿な事、言ってんじゃないわよ!」
「いや、混じりっ気無しの本気だ」


踞りそうになった俺を押し倒して桂花が俺の腹の上に乗る。そして胸ぐらを掴みながら叫ぶが俺は冷静に返した。


「つまり秋月さんは『桂花を抱く男は俺だけだ』って言いたいんですね」
「甘っまーいの♪」


そんな俺達のやり取りを栄華と沙和がニヤニヤとしながら見ていた。他人の目を気にしない会話をしたのも俺達だけど外野から弄られるのも悔しい。桂花は桂花で顔を真っ赤にして言葉を失ってる。


「お前らなぁ……」
「あら、面白い事になってるようね」


反論しようかと思ったら着替えを終えた大将が戻ってきた。
今回、大将がチョイスしたのはフランチェスカとは違う制服だったりする。とある科学の的な制服なのだが……おかしいなビリビリをイメージしながら作ったのに、ツインテールに小柄な体格の為に、どちらかと言えばテレポーターの方になってる。いや、似合ってるんだけどさ。


「どう一刀?」
「スゴい似合ってるよ華琳!」


スカートを翻して着ている服と自身を見せ付ける大将。所謂『魅せ方』がわかってるよなぁ。現代ならトップモデルみたいだ。
しかし、まあ……真っ先に一刀に聞く辺り乙女だねぇ……一刀に誉められて頬染めてるし。


「華琳様、此方ですか?朝議での事ですが……」


その時だった。大将を探して稟が部屋に来たのだ。マズい……俺は直感的にそう感じた。


「か、華琳様……なんと可愛らしいお姿に……そして秋月殿と桂花が……ふ、ふふ……」


稟の視線は華琳に釘付けになった後に、稟は俺と桂花を交互に見てからブツブツと何か言っている。
あ、こりゃアカン。俺は上に乗っていた桂花を抱き抱えると大将と一刀の方に投げ渡す。二人は驚きながらも上手いこと桂花をキャッチしてくれた。
そう……俺の予想通りならこの後……


「か、華琳様ぁ……ふ、ふぷ……プゥーッ!」
「ぎゃぁぁぁぁっ!やっぱりぃぃぃぃっ!?」


稟の鼻から大将への愛と妄想によって構築された鼻血が吹き出して、ちょうど俺の居た位置に雨となって降り注いだ。スラックスは無事だが上半身のワイシャツは血塗れと化した。
俺は血塗れになりながらも立ち上がり、自身の服を見てから……叫ぶしかない。



「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁっ!」
「純一さん、ネタが古いです」



俺の叫びに一刀のツッコミが入った。
因みに桂花の手錠は真桜に任せて外してもらいました。





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第百十五話





「大体ね、アンタは……っ!」
「いや、俺ばかりに責任がある訳じゃ……」


桂花と口喧嘩する俺。はて、どうしてこうなったんだか……と少し前を思い出すと俺は朝食を済ませた後に警備隊絡みの事で桂花と話をしていた。最初は普通に警備隊の話をしていた筈なのだが途中から桂花の機嫌が悪くなっていき、現在に至る。俺が何かしちまったのかと聞こうかと思えば飛んでくるのは罵詈雑言。原因の切っ掛けすら掴めない状態だ。


「た、種馬の癖に二人きりになったのに手を出さないって……どうなのよ!」
「………ほほぅ?」


罵詈雑言の中に本音が混ざってた模様。なるほどなるほど。


「あ、その……違っ……」
「そうだよなぁ……この間の手錠の時にも期待させといて結局何も無かったもんなぁ……」


俺はユラリと桂花に歩み寄る。桂花は自分の失言とそれを望んでいた事を俺に察知された事の羞恥で顔が赤くなって涙目になっていた。ああ、もう……可愛いなぁ。


「それはそうと……そんな罵詈雑言を出してしまう口はよろしないかもなぁ」
「な、何よ……もともとはアンタが……んっ!?」


何かを言おうとした桂花の唇を俺は自分の唇で塞ぐ。驚いて抵抗しようとした桂花だけど、すぐに落ち着いて俺に身を委ねてくれた。本当にこう言う時はすぐに素直になるな。


「……っは」
「ん……あ……」


俺と桂花の唇が離れると互いに息を吸う。急だったし驚いたから長くは出来なかったけど充分に……


「や、駄目ぇ……もっとぉ……」


次の瞬間『刺し穿つ死棘の槍』が俺の心臓を打ち抜いた。
桂花はトロンとした瞳と表情で俺の首に腕を回して抱きついてきたのだ。いや、もう……反則過ぎるぞ。
うん、朝だけど……いきなり大人タイムだなコレは。
そう思いながら俺は桂花を押し倒そうとした。


「桂花?先日決まった草案の件なの……です……が……」


なんてまあ……図った様なタイミングで栄華が訪ねて来た。
栄華は俺と桂花の状況を察すると分かりやすく顔の下から上へとメーターが上がるみたいに真っ赤になっていく。


「な、何をしてるんですかっ!?」
「うーん、男女の……へぶっ!?」
「答えないでよ馬鹿っ!」


栄華の問いに答えようとしたら的確に顎にアッパーが来た。
この後、めちゃくちゃ説教された。





◆◇◆◇



さて、説教受けてから警備隊の仕事を済ませた後、俺は鍛練場に来て気を高めていた。


「今の俺なら……出来る」


俺は両手から気を放ち頭上で気のアーチを作る。アーチをキープしながら更に力を込めていく。
気による戦い方のコツを掴んだ俺は次のステージへと向かうべく様々な事を考えた。
気を刃にして攻撃できるのであれば気を爆弾の如く破裂させて広範囲への攻撃が出来るのではないかと。気を爆発させる事は以前、熊相手に自爆技で実証済み。ならば、その爆発を相手に気弾として放ち、着弾と同時に爆発を引き起こせば大ダメージとなるだろう。


「よし……行くぞ!」


俺は上手く行くと確信していた。なんちゃてシルバースキンやなんちゃてパワーボールも上手く扱う事が出来たし、俺の気を扱う技術は向上している筈。
俺は両手から発して頭上でアーチを作っていた気の塊を頭の上で手を組み、合体させる。


「これぞ究極の爆発呪文イオナズンッ!」


俺は両手を突き出して気弾を放つ。俺の両手から放たれた気弾が放たれ……あれ?前に飛ばない?あ、なんか手元で光が……
























「恐らく今回は……気を意図的に爆発させようとした為に気の制御が上手くいかず副長の掌から気弾が放たれる事がなく、更に『爆発させる』と意識していた為に爆発だけは上手くいった……と思います」
「冷静な解説ありがとよ」


鍛練場には爆発によるクレーターが大きく出来ていた。俺はその中心でボロボロになりながら音を聞きつけて来た凪の解説に耳を傾けていた。久々にヤムチャしちまったよ。気絶はしなかったけど。


「しかし凄い爆発でしたね。城が揺れましたよ」
「ドリフだったらアフロになるレベルの爆発を引き起こしたな」


一刀が驚いた様子で告げに来るが俺が一番驚いてんだよ。
しかし、まあ……今回の事で気の取り扱いが更に難解になったが……
今回の失敗は普段と違い『気を練る』『気を放つ』だけではなく『気を練る』『気を制御する』『気を放つ』『気を爆発させる』とした為に失敗。結果として『気を練る』『気を爆発させる』だけが発動。結果、自分の手元でイオナズンが炸裂した訳だ。


「とりあえず穴埋め作業しましょうか」
「………そーね」


手慣れた様子で俺の作り上げたクレーターの埋め立て作業を開始する警備隊面々。


「いつもすまないね」
「それは言わないお約束ですよ」


俺の言葉に苦笑いながらも作業を手伝ってくれる一刀。
この後、大将と桂花に呼び出されて、むっちゃ怒られた。
桂花は先程の事が途中で中断された憤りも含めて怒ってた気もするが。








『刺し穿つ死棘の槍』
fateシリーズのランサー『クー・フーリン』が編み出した対人用の刺突技。真名解放すると槍の持つ因果逆転の呪いにより「心臓に槍が命中した」という結果を作ってから「槍を放つ」という原因を作る。つまり必殺必中の一撃を可能とする。


『イオナズン』
ドラゴンクエストシリーズに登場する呪文で『イオ系』最上位呪文で、大爆発を起こし敵全体に大ダメージを与える。全シリーズを通して相手に与えるダメージがデカい呪文。
DQ9以降では更にこれを上回る呪文として『イオグランデ』が存在する。
『ダイの大冒険』でも魔王ハドラーが使用しており、呪文を放つ際には両手を使わねばならない。これは他の極大呪文にも共通していた(ベギラゴン、バギクロス等)



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第百十六話






イオナズンの失敗による自爆をしてから数日。今回は然したる怪我もなかったので復帰も早い。以前の俺なら気絶したもんだが俺のタフネスぶりも上がっているとみた。

さて……今回は怪我もなかったし……新しい技の目処も立った。本来なら順調と言えるのだが……


「…………」


食堂で朝飯を食っていたのだが背後からの視線がキツい。自爆をした日から詠が俺の事を睨んでる。もう超不機嫌オーラが出ている。何があったかと話し掛けようとしても不機嫌なまま、そっぽを向いて行ってしまう。まるで取り付く島も無い。


「まいったなぁ……話も出来ないんじゃ」
「少し前の桂花みたいですね」


俺の呟きに一刀も同意する。確かに、あのツンツン状態は桂花みたいなんだよな。なんか拗ねてると言うか。


「そうね、純一。以前の華雄の時もそうだけど、ちゃんと彼女達と向き合いなさいと言った筈よ」
「……大将」


これまた、いつの間に食堂に来たのか大将が俺を睨んでいた。いや、正しくは笑みを浮かべているのだが凄みが有ると言うか……


「詠には任せてる仕事も多いし、今後に影響しても困るわ……………解ってるわね?」
「………了解です」


大将の言葉が『訳:早急に問題解決しないとオシオキ』に聞こえた。うん、間違っちゃいない筈。
しかし、どうにかしろってもなぁ……


「土下座でもしてくるか」
「すすり泣きも追加ですね」
「以前にも言いましたけど、お二人はその行動に慣れすぎですよ」


俺と一刀の会話に凪のツッコミが入った。


「純一さん……」
「月……」


等と話をしていたら配膳を終えた月が俺を見上げていた。はぅ……しかも、そんな泣きそうな顔しないで罪悪感ハンパないから。


「純一さん……詠ちゃんはきっと拗ねてるんだと思います」
「やっぱそうか……拗ねてるか」


月のアドバイスで詠がやはり拗ねてると確信する。でも拗ねてる原因は……


「あ、あの……やはり副長が桂花様ばかり構ってるからなのでは……真桜も愚痴ってましたし」
「ああ……そう」


うん。俺が原因なのは良く分かってきた。凪に愚痴る辺り警備隊には噂が伝わってる可能性が高いな。


「そっか……うん。とりあえず詠と話してくるよ。それに……月もゴメンな」
「へ、へぅ!?」


俺は謝罪と共に月を抱き締める。わ、凄い軽い。抱き心地も抜群。恥ずかしがるのが最高。星三つです。


「よし、行ってくる」
「は、はい……行ってらっしゃい」


俺は月から離れる。ポーッと顔が赤くなってる。その状態でも俺を送り出そうとするのは流石だ。詠の機嫌直したら月にも時間作るよ。
食堂を出る際に一刀と凪に視線を移したのだが凪が一刀をチラチラと見ていた。顔はめっちゃ乙女になっていた。頑張れよ一刀。俺も頑張るから。


さて、通りすがりの兵士達から話を聞くと詠は書庫へと向かったらしい。その情報を得た俺は急いで書庫へと向かった。
書庫に到着して文官に挨拶をしながら詠を探す。途中で『今日は荀彧様はまだお越しになってませんよ』と言われた。改めて桂花ばかりに気を使ってたと実感される。
そんな事を思っていたら詠を発見。椅子に座ってなんかの本を読んでいた。


「詠……少し話があるんだがいいか?」
「…………」


詠は俺の言葉を聞いても手元の本から視線を移さずに無言を貫いている。


「頼む……話を聞いてくれ」
「……よいしょ」


俺は土下座をして詠に頼み込んだのだが詠は座っていた椅子から俺の背に乗る。


「違うぞ詠。上に乗ってくれって意味じゃない」
「……踏めばよかった?」


顔を上げて抗議しようとしたら詠は座ったまま俺の顔をグリグリと踏みつける。俺はMじゃないから嬉かないぞ。



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第百十七話




土下座をしたら上に乗られて顔を踏まれた。うん、普通に酷くね?でも、靴のまま踏まずに靴を脱いでから踏んだのは詠の優しさなのだと思いたい。


「………で、何の用なの?」
「ああ、その……デートのお誘い……かな?」


俺の上から降りた詠の冷たい視線と質問を受けながら答える。我ながらデートの誘いとか……


「でぇと?何よそれ、天の国の言葉?」
「あ……そりゃ通じないか……えーっと逢い引きって言えば分かるか?」


最近、忘れがちだったが三国志の時代とかで横文字は通じないわな。確かデートに該当するのは逢い引きだった筈だけど違ったかな?


「ま、まあ……兎に角、俺と出掛けようって話だ」
「………いやよ。桂花でも誘ったらいいじゃない」


詠は顔を赤くした後にサッと本で顔を隠すとそっぽを向いた。
やっぱ月が言ったみたいに拗ねてる感じだな。桂花を引き合いに出す当たり特にそう感じる。こう言う場合は……


「実力行使!」
「ひゃあっ!?」


俺は椅子に座っていた詠の両足を片腕で抱えると同時に反対の腕で詠の背に腕を回す。そのまま俺が立ち上がれば詠を抱き上げた状態、所謂『お姫様抱っこ』に出来るのだ。背もたれがない椅子に座っていた詠相手にだからこそ出来た荒業である。


「ち、ちょっと!下ろしてよ!」
「だーめ。詠が素直に話を聞いてくれないからこっちも実力行使だ。城の外に用事があるから付き合ってもらうぞ」


俺はそう言いながら書庫を後にする。お姫様抱っこのままで。当然ながら人目を引くが覚悟の上だ。
途中で桂花とすれ違って『話を聞かせてもらうわよ』『今度話すから今は勘弁して』とアイコンタクト。通じ会ってる事を喜ぶべきなのか尻に敷かれ始めてるのを嘆くべきなのか……

まあ、兎に角……


「此処が今回の目的地だ」
「此処って……」


多少顔がひきつってる詠。それもその筈。この店は以前、詠が俺との関係を冷やかされた服屋なのだ。つまりは俺の御用達。


「此処に預けてる服を着てほしくてな。詠の為に作った一品だぞ」
「ぼ、僕の為に……じゃなくて!そう言うのは僕じゃなくて桂花や月に……」


詠の為に作ったってのも嘘じゃない。いつかプレゼントするつもりだったのも間違いじゃないが、詠の話を聞くために少しばかり話しやすい状況を作りたいのが本音だ。


「じゃ……お願いします」
「「はーい!」」


俺が店の中に声を掛けると店の中から元気よく女性店員が出てくる。二人はガシッと詠の両腕を捕らえて拘束した。


「さ、参りましょう!」
「副長さんから頼まれましたから任せてください!」
「ま、待って!僕は着るとはぁぁぁぁぁぁぁ………」


凄い勢いで店の中に連れ込まれていった詠。ドップラー効果付きで店の中に吸い込まれていった。店員さんのテンションも妙に高かったな。


「副長さん、いらっしゃいませ」
「店長さん。おじゃましてるよ」


俺が店に入ると店長さんが迎えてくれた。店員二人が詠を連れてったから当然か。


「急な訪問で驚きましたよ」
「んー……ちっと複雑な話があってね。話しやすくする為に少し散歩してんだわ」


店長さんと軽く話をしていたら店の奥から先程の店員が戻ってきた。着替え終わったかな?


「流石副長さん、あの服素敵です!」
「そうそう、可愛いですよ!」
「そっか……んで、着替えた詠は?」


先程のテンションが持続されたままだった。しかし着替えた筈の等の本人が居ない。と思ったら不満気な顔で詠が店の奥から出てきた。
そして出てきた詠の姿に俺は目を奪われた。


「………何よ」
「ブラボー……おお、ブラボー……」


素晴らしいの一言だった。今の詠はセーラー服を着ている。しかも髪型や眼鏡は変えていないので見事なまでにマッチしていた。
似合うとは思ってたけどここまでとは……不覚、この秋月。戦力を見誤ったわ……俺は思わず拍手をしながら詠を見詰めた。


「な、何よ……ぶらぼうって」
「超似合ってるって事だ。素晴らしい」


顔を赤くしたまま聞いてくる詠に俺は親指をグッと立てて答える。是非とも『委員長』と呼びたい逸材だ。


「に、似合ってる……そっか……」


俺の言葉に詠の表情が緩んだ気がする。やっと笑ってくれたかもな。


「それで僕を連れ出したのって……」
「さ、行こうか。まずはお茶かな?」
「へ……ち、ちょっと!?」


詠が早くも話を終わらせようとしたので手を引いて店の外へ。不機嫌になる前に色々としましょーね。
この後、お茶したり、買い物したりと詠の機嫌を取った。最初は拒み気味だった詠も途中からは純粋に楽しんでくれていたみたいだ。繋いだ手も離さないでくれたしね。今は夕食を食べた後に酒を飲んでいた。

しかし……俺ほどの年齢の男がセーラー服の似合う娘を連れ回すって現代だったら色々とマズい気もしたが……考えないようにしよ。後が怖そうだ。
さて……散々遊んだ後でそろそろ本題に……


「ねぇ……僕に聞きたいことがあるんでしょ?」
「……ありゃまー」


聞こうと思ったら先手を取られた。


「なんで僕が不機嫌だった……とか?」
「んー……そこまで先読みされるとどう聞こうか悩んだ自分が虚しくなるな」


完全に読まれてたよ。しかもちょっと気を使われてるし。


「だったら僕も聞きたい……なんで秋月は……その桂花以外には手を出さないの?噂は聞くけど実際には桂花だけでしょ?」
「………思ったよりも深く刺さった質問だなぁ。前に話したかもだけど……天の国じゃ一夫多妻は認められてない。だから……」


だから桂花以外には関係を作ってないと言おうとしたら詠が先に口を開いた。


「でも……秋月も『種馬』が仕事なんでしょ。北郷は色々と関係持ってるみたいだけど」
「『種馬』が仕事として認知されてる件に関しては別に話し合うとしてだ……」


もう既に仕事として認知されてる辺りが泣ける。だからと言って種馬だから抱いたと思われるのも心外だ。


「秋月……アンタが僕達を思って手を出さないのは分かったけど……それはそれで残酷なのよ。僕達は少なくとも……その……待ってるんだから……」
「そっか……またやっちまったな俺は」


大将からの『ちゃんと他の娘も見ろ』の言葉をまたしても再認識してしまった。詠がここ暫く機嫌が悪かったのは俺が正しく『何もしなかった』からだ。期待させといて桂花ばかりにかまけて他の子を蔑ろに……した覚えはないが彼女達にはそう思われてしまう。特に詠からしてみれば月を泣かすなってのもあるんだろう。


「俺も……まだまだだなぁ……」
「普段の気遣いがそこにも発揮して欲しいわね」


溜め息を吐いたら詠から追い討ちの一撃が来た。いや、俺も悩んでるのよ?


「あのな……俺も結構堪えてる部分があるんだぞ……真桜とか華雄なんて隙が多いし……」
「だったら悩まずに行けばよかったじゃない。特にあの二人もアンタに惚れてるのが目に見えてるんだし」


俺の言葉にも詠は酒を注ぎながら答える。いや、だから頑張って理性を総動員してるんだよ俺。真桜は服装があんな感じだし、華雄は華雄で鍛練の時とかも服の裾が舞って視線に困る時があるし。


「月や詠はメイドって普段から愛でたいし、斗詩は世話焼き女房みたいで甲斐甲斐しいし、ねねは時おり布団の中に潜り込んでくるしで……普段から理性と煩悩の戦いなんだぞ」
「そうね……普通に腹立たしいわね。それでいて桂花が一番なんでしょ?」


あ……やばっ。詠からフツフツと怒りのオーラが……確かにさっきの言い方だと自慢してるみたいだよな。


「………意気地無し」
「さっきの話聞いてた?意気地云々じゃなくて堪えてるんだからね?」


詠はジト目で俺を睨む。俺は俺なりに悩みがあるっちゅうのコイツは……


「とことん話し合おうか?」
「そうね……僕も不満があるから言っとくわ」


互いの杯に酒を注ぐ。こうなりゃとことん言ってやろうじゃないの。

って感じで酒飲んで口喧嘩したら、かなりスッキリした。思えばここまで誰かに悩みを打ち明けて語り合ったの、この世界に来てから初めてかも。ありがとな詠。
飲み終えてから城に戻る間は気まずくなってたけど……俺はもう一つ……抑えていた言葉を詠に告げた。








◆◇side詠◆◇




秋月にでぇとに誘われてから服を着替えて……

街中を仲良く散策して……

夕御飯を食べてからお酒を飲んで……

秋月の悩みと僕達の思いを話したら……

それから暫く口喧嘩をして……

互いに言いたい事を沢山言い合って……

帰り道は互いに無言になって……

城に着く頃には二人とも頭が冷えて気まずくなって……

そのまま別れて部屋に戻ろうかなって思っていたら……

秋月の口から聞きたかった言葉が出て……












僕は断らずに彼の部屋へと一緒に行った。





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第百十八話

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朝日の光が窓から差し込み俺は目を覚ます。体が心地好い疲れを残したままだ。と言うのも……


「すー……すー……」


隣で可愛らしい寝息を立てながら眠る詠が居るからだろう。詠って三つ編みを解くと雰囲気変わるよな。髪も長いんだし髪型変えると可愛いかもな。ポニーテールとかにしてみたい。なんて思いながら詠の髪に触れていたら詠が目を覚ました。


「お、おはよう……」
「ああ……おはよう」


恥ずかしがりながら布団で顔半分を隠してる詠。何気なく可愛いぞ詠。ポイント高いわ。
しかし……これで名実共に種馬か。一刀は割りと飛ばしてる感じだが……まあ、一刀は若いしな。逆に俺くらいの歳だとこう……色々と男女の関係の悩みがあるから踏み出せなかった訳だが、この時代の人達から見れば俺や一刀の方が違った考えをしてるんだよな。貴族や将軍は本妻の他にも側室とか居るのが普通みたいだし
その事を以前、大将に相談しようと思ったが普段から女を侍らせてる人に相談してもアカンかった。


「ね、ねぇ……秋月」
「ん、どうした……」


詠の声に振り替えれば詠は既に着替えを始めていた昨日プレゼントしたセーラー服ではなくメイド服へと着替えている。生着替えとは詠も大胆に……


「見るな、馬鹿!」
「……そっちが呼んだんだろ」


なんて事はなく枕が飛んできた。


「あ、ごめん……そ、その月になんて話せばいいかと思って……」
「あー……そうだよな」


詠が悩んでいたのは月の事だ。俺の自惚れじゃなければ月も俺の事を思ってくれている。前に頬にキスしてくれた時の事を思い出すと……じゃなくて。
月が詠を心配するように詠も月を心配する。そして月の気持ちに気づいていた詠は先に俺と関係を持ってしまった事を悩んだ。


「その責任は……俺が負わなきゃだよな」


俺は月や他の子達にも話をしなければと思い立ち上がった……その時だった。


「ぐ……あああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ちょ、秋月!?」


俺は激しい激痛に教われた。立てなくなり両膝を着く。これは……この痛みは……


「大丈夫なのっ!?ねぇ、秋月!?」
「ぐ……か……はぁ……」


詠が心配して俺に駆け寄るが俺は返事をするのもツラい……これは……この体の芯から痛む……この痛みは……


「ちょっと、誰か来て!秋月が!?」


詠は自分ではどうにもならないと思ったのか廊下に出て声を張り上げる。良い判断だ、俺はもう……立てそうにない……


「秋っ……純一!」


俺がスローモーションに床に倒れるのを見た詠は俺の事を純一と呼び……俺はその場に倒れ込んだ。

























「ぎっくり腰……ですか」
「みてーだな」


俺専用のベッドが完備された医務室で一刀の呆れたような呟きに答えた。
俺はベッドにうつ伏せで寝ていた。だって仰向けに寝てると痛いんだもの。ちなみにだがぎっくり腰の正しい体勢とは無いらしく本人と体と症状によって変えなければならないらしい。今回はうつ伏せが楽な体制なので、うつ伏せしてる。でも、うつ伏せだけだと腰に負担が掛かるので痛みが少し引いたら体勢変えないとな。


「まったく………心配させて」
「随分素直になりましたね桂花」


医務室で溜め息を吐く桂花に稟が珍しそうに呟く。うん、最近素直だからね猫耳軍師様は。


「それで……純一の体調はどうなの?」
「ふむ……普段の疲れが出たようですね。暫く安静にしていてください」


大将は俺の容態を軍医に聞いている。彼も最早、俺の専属とかしてるな。


「安静だと?そんな物はな……叩けば治る!」
「止めろ、何をする気だ!」


なにやら物騒なことを言った後に握り拳を振り上げた春蘭。そんな春蘭を華雄が真っ先に止めてくれた。


「まだ何もしていないだろうが!」
「何かしてからじゃ手遅れだ、たわけ!」


春蘭を羽交い締めにしたまま医務室を出ていく華雄。本当に最近、優秀な将軍だよな。互いに武器持ってない状態で春蘭を制圧できてるんだから。


「日頃の疲れね……昨晩が激しかっただけじゃないの?」
「っ!!?」


大将はチラリと詠を見ながら呟き、詠は目に見えて分かりやすく顔を一瞬で真っ赤にした。桂花の時といい見てたんじゃなかろうな覇王様。

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第百十九話





「あー……ツラいなー……」


医務室から自分の部屋に戻った俺は部屋で寝ながら煙管を吹かしていた。だって暇なんだもの。
かと言って出掛けるほど腰の痛みが引いた訳じゃない。つーか、飲んだ痛み止めが超効いてるんだけど怖いくらいに。
医務室から出るときに大将の妙な笑みが気になる。あれは詠にする質問が楽しみなのか、調合した薬の効き目が知る事が出来たのが嬉しかったのか……いや、両方か。

しかし……医者の話じゃ過労って言ってたが、そんなに疲れが溜まっていたのだろうか。思えば、この世界に来てから色々あったからな。体は休めても心が休まってなかったのだろうか。

気を覚えて自爆して。大将の所に行ってから自爆して。反董卓連合で自爆して。桂花と仲良くなって自爆して。大河を弟子にしてから自爆して。


「自爆しかしてねぇ……」


思い返してみると自爆しかなかった……新技開発も八割は失敗してるし。


「風呂行こ……」


俺は溜め息と吐くと煙管の火を消して風呂場へと向かった。腰痛の時は風呂に限る。しかも今回は五右衛門風呂ではなく、大将達が使ってる大風呂を使っても良いと大将から言われている。医務室から出る時に沸かし始めると言っていたからそろそろだろう。


「副長、お疲れさまです。準備できてますよ」
「ああ、ありがとう」


大風呂へと行くと侍女が風呂の準備は済んでいると教えてくれた。
と言うわけで大風呂。五右衛門風呂も嫌いではないが大風呂で広々と入るのも好きだ。
俺は痛む腰を我慢しながから服を脱ぎ、浴場へ。


「さて、入るか」
「はい。では、お背中流しますね」


いざ入ろうかと思った俺の独り言に返事が帰ってきた。しかも背中を流してくれるとはありがたい……じゃなくて!


「ゆ……ゆえ?」
「は、はい……」


振り返れば手拭いで前を隠している月。恥ずかしいのか頬は赤く染まっている。


「あ、あの……なんで」
「そ、その……華琳様から『純一は後でお風呂に行くだろうから体が不自由な純一を助けてあげなさい』……と」


なるほど、あの時の笑みはこの事を予想してたからか。完全に掌で踊らされてるな俺。月は月で顔を真っ赤にして俺を見上げてる。


「あー……その、お願いできるかな?」
「は、はい!」


俺の頼みを月は聞いてくれた。俺が腰を下ろすと月は背中を洗い始めてくれる。
無心だ……無心となれ。この状況で欲望を出すのはダメだ。


「……くすっ」
「どうかしたのか月?」


俺がこの状況下で無心になろうとしているのを月が笑った。そんなに可笑しかったか?


「あ、いえ……詠ちゃんも同じだったのかなって……思ったら」


月の言葉に俺は思考が止まる。そういや詠の事をどう話せば……


「詠ちゃんとの事……詠ちゃんから聞きました」
「え……詠から?」


ちょっと待て。詠から昨夜の事を聞いたってのか?


「あー……ごめん。俺は……」
「謝らないでください。詠ちゃんにも謝られたんですけど私は怒ってないんです。寧ろ嬉しかったんですよ」


謝ろうとしたが月に止められた。え、って言うか嬉しかった?


「詠ちゃんはいつも私に遠慮しちゃうんです。でも、詠ちゃんが自分から純一さんと一緒になったって聞いて嬉しかったんです」
「そっか……」


体を洗ってもらってから二人して湯船に浸かる。月は俺の隣にピッタリと並んでいる。
しかし、聞くと月と詠って似てるんだよな。互いが互いの事を思うところが。
月は詠の事を思ってるし、詠は月の事を思ってる。正直、俺が関係を持つのが詠が先じゃなくて月だったとしても同じように『良かった』と言う気がした。


「月……」
「え、純一さ……ん」


俺は月にキスをした。密着してる分、月のドキドキが伝わってるみたいだ。


「俺は……その……他の国から来たから感覚が違うだろうけど……みんな大事にしたい……だから」
「わかってます……私だけじゃなくて詠ちゃんも華雄さんもねねちゃんも桂花さんも斗詩さんも真桜さんも」


俺の言葉を遮って月は皆が同じ気持ちだと教えてくれた。


「他の誰かが言うことかだからと、ご自身の気持ちに無理をしないでください。純一さんにとっての一番が誰かはわかっています。それでも……私は、私達は貴方をお慕いしています」
「そっか……うん」



途中から泣きたくなっていた。俺が思う以上に彼女達はしっかりと俺を見ていた。寧ろ俺が躊躇っていた事や悩みも見抜かれていた。


「純一さん?」
「ん、ああ……酒飲みたいと思ってな」


月はが不安そうな顔で俺を見ていた。俺は誤魔化すために咄嗟に酒を飲みたいと告げる。いや、嘘じゃないよ。風呂に入りながら熱燗って最高じゃん?


「だ、駄目ですよ!」
「わかってる。言ってみただけだからさ」


プクッと頬を膨らませた月を抱き寄せる。
わかってるよ……体を治してからだよな。

そんな事を思いながら俺は月と風呂を堪能した。













後日、ニヤニヤと笑みを浮かべた大将に詠の事も含めて質問攻めにされた。



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第百二十話

長くなりそうだったので一旦区切ります。今回は短め。





◆◇side斗詩◆◇


私は大河君と一緒に街の警邏に出ていた。その途中で私は秋月さんの容態を聞いていた。大河君の話だと秋月さんの腰痛は大分回復したみたい、良かった。


「じゃあ……秋月さんは部屋で仕事してるの?」
「桂花さんを始め、月さんや詠さんが部屋から出さないようにしてるッス」


秋月さんの腰痛は結構良くなったと聞いてたけど……なんでそんな事になってんだろう?


「ほっとくと師匠はまた怪我をするだろうから外に出さない方がいいって言ってたッス」
「そんな子供みたいな……ああ、うん。そうかも」


私は大河君の話した桂花ちゃん達の言葉を否定しようとしたけど妙に納得してしまった。秋月さんって放っておくと当たり前の様に怪我をしていくから……


「師匠は『暇ーだ、酒飲みてー、煙草吸いてー』って言ってたッス」
「秋月さんらしいなぁ……」


秋月さんの真似をしている大河君。その姿が妙に似ていて笑ってしまう。
でも大河君の話が本当なら秋月さん相当暇してるのね。警邏が終わったらお見舞いに行こうかな?


「顔良隊長!彼方の通りで騒ぎが!」
「わかりました。行こう大河君!」
「了解ッス!」


部下の一人が街中の騒ぎを報告してくれた。私は大河君と一緒に騒ぎが起きている場所へと急ぐ。
騒ぎが起きているのは居酒屋だった。そこでは酔っ払った男性三人が道行く人に喧嘩を売ったり、居酒屋の店員の女の子に絡んでいる。女の子は叩かれたのか右頬が赤くなっている。


「やめなさい!」
「あぁん!?なんだテメェ等!?」


私が女の子に絡んでいた男の人を引き離すと酔っ払った男の人達は私を睨んでくる。


「北郷警備隊の者です。暴れるのを止めなさい!」
「あんだぁ?北郷警備隊は酒を飲むのが罪だって言うのか?」
「飲むのが悪いんじゃ無いッス。飲んで人に迷惑を掛けるのが悪いんスよ!」


私が名乗ると酔っ払いの一人が言い返してくる。大河君がそれに正論を返す。でも酔っ払った人達は話が通じずに暴れるのを止めそうにない。それどころか出された料理を投げてくる始末。
私が警備隊の皆さんに目配せすると全員が頷いてくれた。そして酔っ払い達を取り押さえようとした、その時だった。


「おばあちゃんが言っていた」


その場に居た全員が声のした方に振り返る。この声……秋月さん!?でも少し声が違うような……


「男がしてはならない事が二つある。食べ物を粗末にする事と……女の子を泣かせる事だ」


秋月さん……なんだと思う。何故ならばそこに居たのは眼鏡をかけて髪型を変え、普段とは違う服装の秋月さんだったから。そして何故か秋月さんは右手を空に向け、指差していた。





『天道語録』

『仮面ライダーカブト』の主人公『天道総司』がことあるごとに発言する名言であり、彼の尊敬する数少ない人物である『おばあちゃん』の言葉。
必ず右手を天に向け、指を差しながら「おばあちゃんが言っていた」という言葉から始まる。


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第百二十一話





「……暇だ」
「碁を打つのにも飽きたのですか?」


最早、何度目になるか分からないボヤキが口から発せられ、向かい側に座るねねが応えた。とも言うのも俺は部屋で暇をもて余しているからだ。
時を少し遡り、ぎっくり腰になった俺は仕事を休まざるを得ない状態となってしまった。しかし、その腰痛も一週間ほど安静にしたのでほぼ回復。
さて、体も治ったので仕事をしようかと思ったのだが、そこで桂花が待ったを掛けた。


「中途半端な治し方だとまた再発するわよ。休みなさい」


と俺に仕事をさせない動きに出たのだ。いや、流石に大将が止めるかと思えば


「そうね……この先、やる事が増えるから純一に倒れられても困るわ」


と桂花の案に乗ってきたのだ。マトモな理由のようにも思えたが一瞬見せた笑みがなんとも嫌な予感を感じさせる。
そんな訳で既に三日程経過したが未だに城から出られない日々を送っていた。
そして監視役として初日は桂花が俺の部屋に書類を持ち込んで仕事。二日目に詠が俺の部屋に。三日目には月が付き添う形となっていた。
そして四日目となる今日はねねが俺の相手をしてくれているのだが朝から碁ばかりしていたので流石に飽きてきた。朝は大河が警邏の前に顔を出しに来たが、挨拶くらいで言ってしまったので結局は退屈なのだ。
今までの心配事もあるからなんだろうけど、流石に体が鈍りそうだ。


「うーむ……体を動かさないのが却って悪影響になりそうだ」
「だったら、ねねに良い考えが有るのですぞ!」


肩をゴキッと鳴らした俺にねねが良い笑顔を向けてきた。ほほぅならば聞かせてもらおうか。








◆◇side桂花◆◇




あの馬鹿が腰を痛めてから11日が経過した。放っておくと勝手に自滅していくあの馬鹿を止める為に私は華琳様に進言したところ受け入れてくださった。詠や月も賛同したのが大きかった。でも華琳様には私達の考えが見通されていたらしく……


「早く体を治して貰わないと逢い引きも出来ないもの……ね?」


私達だけに聞こえるようにコソッと告げられた言葉に私達は顔を赤らめた。華琳様にはバッチリとバレていたのだから。
そして秋月が7日ほどで治ったと言っていたが私達は結託してアイツを城から出さないようにした。常に誰かがアイツに付き添っていれば無理もしない筈と踏んでいたのだ。


「今日はねねに任せたけど……大丈夫かしら?」


私は秋月の部屋に向かいながら考える。朝から秋月の傍に居れる事を喜んでいたけど……少し不安だった。
ねねも大人ぶってるけど子供なのよね……時折、秋月を『とーさま』って呼んでるし。
私が考え事をしてる間に秋月の部屋の前まで来ていた。私が戸を開けようとしたけど、戸が少し開いていて中から声が聞こえてきた。


「ありがとう、ねね。気持ちいいぞ」
「なによりなのです」


な、何してるのよアイツ等!?私は思わず息を飲んで声を沈めた。今の声は間違いなく秋月とねね。私はそのまま聞き耳を立てた。


「意外だったな、ねねがこんな特技を持ってるのは」
「なら、もっと気持ちよくしてあげるのです」


ねねの特技で秋月が気持ち良く……え、ちょっと……まさか。私は頬が熱を持つ感覚を感じながら部屋から聞こえてくる声を聞いていた。


「秋月、カチカチなのです」
「最近忙しかったからな……腰痛で大人しくしてたけど自分じゃ出来ないからな」


私は耳を済まして扉の影に張り付き、会話を聞き逃さないようにする。


「ほら、此処を押すと気持ち良くなるのですぞ」
「くはぁ……効くぅ……」


この会話……そう……アイツ、ねねにまで手を出したのね……


「秋月の背中……暖かいのです」
「そうか?そう言うねねは指がふにふにしててちょっとくすぐったいかな?」
「むぅ……ねねは子供じゃないのです」


私が気遣っていたにも関わらず他の娘と……


「もういいぞ。ねねも、してばっかりじゃ疲れるだろ?」
「大丈夫なのです。その……とーさまはちゃんと気持ち良くなれたのですか?」


私のイライラは頂点に達した。


「ああ、ねねが頑張ってくれたからな」
「えへへ……だったら、もっと頑張るです」


もう我慢できない!私は扉に手を掛けた。


「ちょっとアンタ達!何して……る……の」


部屋に入って見た光景に私は言葉を失った。





◆◇side桂花end◆◇





寝台にうつ伏せになって、ねねにマッサージをしてもらっていたら桂花が勢い良く部屋に入ってきた。いや、何事よ?


「どうした桂花?」
「何……してるの?」


俺の質問に、質問が返ってきた。そいつはルール違反だな、と思ったが桂花は顔を俯かせている。過去の経験上この雰囲気はヤバい。正直に話した方が良さそうだ。


「ねねがマッサージ………肩揉みとか背中の指圧をしてくれるって言うんでな頼んだんだ」
「ふふん、ねねに掛かれば簡単なのです!」


ねねが俺の背中から降りたのを感じたので起き上がる。おお、スゴい楽になった。肩が軽いわ。


「そう……それは良かったわ」
「何故、そう言いながら竹筒を振りかぶる?」


桂花は答えに納得……したのか?いや、理解はしたけど納得してない感じがする。


「紛らわしいことしてんじゃないわよ!」
「え、何と勘違いしたんだ?」


今まさに投げようとした桂花だが俺の一言にピタリと動きを止めた。そしてみるみる内に顔が真っ赤になっていく。


「言えるわけ無いでしょ馬鹿!」
「ぷろぁ!?」


桂花の投げた竹筒を顔面に食らった。その後、桂花は部屋を出ていってしまう。


「……ねねが悪かったのですか?」
「しいて言うなら間が悪かったかな」


俺は痛む鼻を押さえながら答える。大方、桂花の勘違いだろう。真桜の風呂の時もそうだったし。


「さて……と」
「何をするのですか?」


俺は立ち上がると部屋の服棚から幾つかの服を取り出す。普段はスーツばかり着てるから市井の人が着る服を着るのは久し振りだ。


「何、着替えて外に行こうと思ってな。暇だし料理のひとつでもしようと考えたんだが材料を買いに行かなきゃなんだ」
「桂花や月達から外に出すな言われてるのです……って目の前で着替えるななのです!」


おっとお子様には生着替えは刺激的だったかな?ねねは俺に背を向けてる。なんてアホな事考えてないでサッサッと着替えよ。ほんでもって服屋の親父から作って貰った伊達眼鏡を装備。髪も少し崩すか。
なんせ、そのまま行って『副長が外歩いてましたよ』なんて話が出れば桂花達も更に怒りそうだし。
ま、サッと行ってサッと帰ってくれば問題ないだろう。
それに先程の詫びも含めて料理を振る舞うと決めたんだし。


「と、兎に角……そんな変装しても駄目なのですぞ」
「だったら、ねねも一緒に行こうか?俺が怪我をしないように監視してれば良い。それに、ねねにも俺の料理を味わって貰いたいからな」


フンとそっぽを向いていた、ねねだけど俺の言葉に振り返る。ふむ、あと一歩。


「そうだな……ねねも一緒に料理して恋に振る舞ってみるか?きっと喜ぶぞ」
「ぐずぐずしないで行くのですぞ!」


俺の言葉に目を輝かせ、俺の手を引くねね。まあ、待ちなさい。出掛ける前にやる事があるから。






◇◆◇◆






「うぅ~……恥ずかしいのです」
「そう言うな、似合ってるぞ」


城を抜け出した俺とねねは手を繋いで街中を歩いていた。何故、ねねが恥ずかしがってるのかと言えば、着ている服が普段と違うからだ。俺が変装したのに、ねねがそのままじゃ意味がないので、ねねにも着替えて貰った。
現在のねねは所謂フリフリな可愛い服を着ている。栄華が見たら間違いなく食いつくなコレ。そして縛っていた髪を解き、帽子を脱がせた。手を繋いで歩いているのは親子っぽく見せる為だ。
ここまでやれば俺だとは気づくまい。実際、料理の材料を買った際にも市場の人は俺に気付いてなかったし。ねねがアドリブで俺の事を『とーさま』も呼んだのも効果有り。
それに……ねねが俺の手を割りと強く握ってる。離したくないって言ってるみたいだ。

そんな訳で俺は左手でねねと手を繋ぎ、右手で先程買った豆腐を持っていた。
何故豆腐かと言えば俺が作る料理は麻婆豆腐と決めたからだ。厨房に器を借りに行くついでに材料を確認した所、ネギや挽き肉などは有ったのだが豆腐だけがなかった。そこでボウル状の器を借り、市場まで買いに来た。
しかし、良い豆腐が買えた。この豆腐で麻婆豆腐を作れば最高の麻婆豆腐になるだろう。
拘りの一つだが俺の麻婆豆腐は辛さは控えめで味をまろやかにする様に心掛けている。辛すぎると麻婆豆腐の味が解らなくなってしまうからだ。そこで辛味を控え目にして、旨味を引き出す。言わば味のパーフェクトハーモニー……完全調和だ。
さて、買うものも買ったしサッサッと帰るか……


「北郷警備隊の者です。暴れるのを止めなさい!」


と思ったら聞こえてきた斗詩の声。何事かと通りを見てみれば北郷警備隊の皆さんに斗詩と大河。
酔っ払い関係のトラブルかな?遠目で見てみれば酔っ払い達は料理を警備隊に投げ付けている。更に店員の女の子は殴られたのか頬が赤くなり涙目だ。
その時だった。ねねが繋いでいた手を離し、俺が持っていた器を俺から取り上げる。


「とーさまを外に出すとこうなると思ったから桂花や月達が止めてたのです。揉め事に率先して首を突っ込むのが目に見えてたのですぞ」
「うっ……」


ねねからの指摘に言葉を失う。グサリと刺さるね。


「待っててやるからサッサッと終わらせてくれば良いのです」
「………ありがとな」


豆腐が入った器を両手でしっかりと握るねね。俺はねねの頭を一撫ですると居酒屋の方へ歩き出す。


「おばあちゃんが言っていた」


警備隊の面々が居るし、正体がバレない様に俺は少し声を低くしながら声を掛ける。


「男がしてはならない事が二つある。食べ物を粗末にする事と……女の子を泣かせる事だ」


俺は天を指差しながらポーズを決めた。バレてないよね?

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第百二十二話

数話前にぎっくり腰の話を書きましたが本当にぎっくり腰をしてしまいました。ヤバい感がハンパないです。
少し良くなったので執筆再開。今回は短めです。






変装をして声を少し変えたけど……どうだろう。斗詩は明らかに疑いの視線を送ってきてるし。


「なぁんだと、てめぇ!」
「俺たちはなぁ!」
「やんのかこるぁ!」


なんて思ってたら酔っ払い三人は俺に絡んできた。


「酔って店ならびに通行人への迷惑行為。覚悟しろよ?」


俺はグッと拳を握ると体を弓のように捻りあげ、限界まで伸ばす。そして、それを撃ち放つように全てを拳に乗せる!これぞ花山薫の方程式「握力×体重×スピード=破壊力」


「ぶげふっ!?」


花山薫みたく人を数十メートルは飛ばせなかったけど威力は充分だ。


「や、野郎っ!」
「おい止せ!」


残った二人は片方が刃物を取りだし、片方は酔いが醒めたのか刃物を取りだした方を止めていた。


「お前らなんかに……俺の気持ちがわかって堪るか!」
「………お前が何に苦しんで酒に溺れたのかは知らん……だが、他の人に迷惑を掛けていい理由にはならないな」


俺は襲い掛かってくる刃を避ける。ぶっちゃけ普段から恋や華雄の攻撃を見ている俺には通じないだろう。慣れって怖いわぁ。
だが、このままと言うわけにもイカン。落ち着いてタイミングを合わせなければ1.2……1.2.3……よし、このタイミングだ。俺は右足に気を集中して……今だ!


「1.2.3.……ライダーキック!」
「はぶぅ!?」


俺は振るわれた刃を避けて気を集中していた右足でカウンターを叩き込んだ。流石に背後からの回し蹴りは無理があるって。
しかし、冷々した。慣れたと言っても素手VS刃物って怖いから。でも、まあ綺麗にカウンター入ったな。完全に気絶してら。


「す、すいません!もうしませんから……」
「その辺りは警備隊の皆さんに言うんだな。じゃ俺はこれで……」


残りの一人は完全に戦意喪失していた。だったら俺の仕事は終わりだな。さて、後は警備隊に後を任せて……


「逃がしませんよ」
「俺は善意で揉め事を止めた一般人。出来ればこのまま見過ごして欲しいんですけど」


逃げようと思ったら斗詩に肩をがっしりと捕まれた。


「あら、一般の方なら尚更です。協力していただいた方のお名前を聞かなきゃですね」
「俺は……その……」


ニコニコとしている斗詩が却って怖い。ここは取り敢えず名乗らねば……えーっと


「俺の名は……雲井ひょっとこ斉だ」
「仮にも偽名を名乗るなら、もっと考えてくださいね秋月さん」


俺の名乗りに斗詩は深い溜め息を吐いた。完全にバレてら。
と言うか、しょうがないじゃん咄嗟に名乗ったんだから前田慶次と同じだよ。


「まったく……なんで変装なんかしてるんですか?」
「いや……城を抜け出したとバレたら大変な事になるだろうから変装して買い物済ませたら素早く帰ろうかと思って」


ヒソヒソと城から抜け出した事と変装の経緯を話した。


「本当に素早く帰るなら問題なかったんですけどね……」
「う……すまん」


斗詩にジト目で睨まれる。確かに首を突っ込むほどじゃ無かったんだろうけどさ。


「今回の事は黙っててあげますから……今度は私と出掛けてくださいね?」
「お、おう」


斗詩は俺の耳元で囁く。斗詩もなんやかんやで甘え方が上手いよな。ドキッとしたわ。
この後、警備隊の事を斗詩に任せ、俺はねねと城に戻り、料理に取り組んだ。
作った麻婆豆腐は皆に好評だったが凪には辛味が足りないと少しばかり不評だったが。
ま、外に出た事もバレなかったし、料理も作ったで問題無だな。




















と……思ってたんだけど。


「純一、城に引き込もって退屈だったのは理解するけど、もう少し方法を考えなさい」


夕食後の後片付けをしていたらすれ違い様に大将からボソッと告げられた。本当に何処までお見通しなんだよ覇王様。



『花山薫の方程式パンチ』
バキシリーズの登場人物『花山薫』が使うヤクザパンチ。
「握力×体重×スピード=破壊力」という方程式から、強力な一撃を生み出す。その威力は人を数十メートル吹き飛ばし、時には装甲車を数メートル先まで殴り飛ばし破壊する程の威力を持つ。


『ライダーキック(カブト)』
仮面ライダーカブトが使うライダーキック。既存の仮面ライダーとは違い、相手が背後から飛び掛るタイミングに合せて、振り向きざまにカウンターで放つ上段回し蹴り。


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第百二十三話

お待たせしました。更新再開します。


先日のぎっくり腰も治って、数日。やっと自由を手にした俺だが現在違った意味でピンチである。


「どうした秋月!貴様の実力はこんなものか!?」
「ぐ……くそっ……」


そう、何故か俺は春蘭と模擬戦の真っ只中なのだ。何故こうなったかと言えば……復帰した俺が鍛練場に顔を出す→華雄と春蘭の鍛練中→二人に見つかる→休んだせいで体が鈍ったのではと疑いを掛けられる→Let's模擬戦。

と、まあ……流れるように模擬戦となった。何故春蘭としているかと言えば華雄とは普段から模擬戦とか血風連の訓練で互いの手の内を知られているので私が相手をすると春蘭が立候補。こっちには拒否権すら与えられなかった。

そんな訳で俺はなんちゃってシルバースキンを装備した上で春蘭と戦っているのだがいかんせん不利だ。
だが、この間のカブト版ライダーキックを成功させた俺には対策もある。

俺は素早くしゃがむと地面をバァン!と強めに叩く。それと同時に気で強化した脚力でジャンプしながら標的である春蘭に迫りながら両足で蹴りを放つ!


「RXキック!」
「む、ぬぅん!」


これぞRXキック。決め技ではないがダメージを与える繋ぎ技として、これ以上のものはない!実際、俺を攻めていた春蘭も初めて防御に回ったし。この隙を逃すわけがない!
俺は予め用意していた模擬刀を構えると気を集中して模擬刀に注ぎ込む。すると模擬刀の刃が気の光で輝き始める。ここまで上手く出来てると少し怖い気もするが、いざ!


「ギャバンダイナミッ……く?」
「………折れたではないか」


俺がギャバンダイナミックを放つと春蘭も大剣で迎え撃とうと振りかぶった。そして刃が重なったと同時に俺の持っていた模擬刀はアッサリと折れてしまった。何故に!?また気の出力不足だったのか?


「ふむ……秋月の気に模擬刀の方が保たなかったらしいな」
「そう……なのか?」


華雄が折れた刃を持ちながら教えてくれた。前だったら気の出力不足で駄目になったもんだが。


「以前見た時と違った気がしたのでな。それに秋月の気の強さは私がよく知っているさ」
「そっか……華雄が言うならそうなのかもな」


華雄に武の事を誉められると流石に嬉しいな。普段から負けっぱなしってのもあるが。


「なんだまったく……どの道、戦うことが出来なくなったのだろう?秋月は先の戦で関羽や趙雲と対等に戦ったと聞いたから試してみたくなったと言うに」
「いや……あれは騙し騙し戦っただけだからな?」


どうやら春蘭は俺が関羽達と戦った時の事を聞いたらしく俺の強さを確かめようとしたらしい。過大評価したみたいだけど、あの戦いでは俺は防御を固めつつ、相手の隙を突いただけだからな?


「それに強さを言うなら華雄だろ?撤退の時に関羽と戦って推していたって聞いたけど」
「既に華雄とは刃を合わせた。華雄の強さは私も認めているぞ」


へぇ……春蘭が認めるって余程の事だな。『私が華琳様の一番だ!』なんて、いつも言ってるから意外だ。


「春蘭に認められた強さって凄いな華雄」
「それは結構だが春蘭がしつこかったんだ。仕事があるはずなのに私に模擬戦を申し込みに来たんだからな。秋月が倒れてから数日毎日な。秋蘭に仕事を押し付けていた様だから私が数日手伝ったくらいだぞ」


なんか立場逆転してないかい?春蘭よりも華雄の方がこの国の将軍に見える。うん、気のせいだと思いたい。


「ま、俺の強さを確かめるのは次回にしてくれ」
「なんだ用事でもあるのか?」


鍛練場を後にしようとする俺に春蘭が質問してくる。この後、警邏に行って終わったら斗詩とデートなんだよ。



『RXキック』
仮面ライダーBLACKRXの使うライダーキックで片手で地面を叩いた後、ジャンプ中に前方に跳びながら後方回転を加えて両足で蹴り込むライダーキック。

『ギャバンダイナミック』
ギャバンの決め技。
レーザーブレードで敵を真一文字に叩き斬る。ジャンプしながら一回転を加えて斬るverもある。


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第百二十四話





警邏を終えてから斗詩と合流した俺は城を出て街へと出ていた。私服に着替えた斗詩は俺の左腕を抱き締めながら共に歩く。ぶっちゃけ俺は今、左腕に全神経が集中している。だって桂花よりも……やめた。考えただけで後々、何か言われるような気がする。

この後、適当な食事所に入って夕飯&晩酌。この店は最近、気に入ってた店だ。料理が美味いし、何よりも酒の種類が豊富だから。
そんでまあ……二人して酒を楽しんでいたのだが……


「ふきゅう……せかいがまわってまふぅ~……」


既に斗詩が酔い潰れていた。斗詩ってこんなに酒に弱かったっけ?机に体を預けたまま顔が赤い。


「斗詩、飲み過ぎだぞ。親父さん、水を貰える?」
「はふゅ……らいじょうふ……れふ」


俺が店の親父さんに水を頼み、斗詩を抱き起こすがフラフラだ。斗詩は大丈夫と言ってるみたいだけど呂律が回ってない状態で言われても説得力皆無だよ。
水を飲ませたけど余程酔っているのか口から少し零れてしまう。唇に濡れた水……ほんのり赤みの掛かった頬って……いや、イカンイカン。ちゃんと介抱せねば。
この後、酔い冷ましにと少し外の空気を吸わせる為に外へ出て店から椅子を借りて外で腰を掛けていた。酔った体には夜風が心地好く感じる。


「あ、秋月しゃん……私はもう大丈夫れふから……」
「まだ微妙に呂律が回ってないからもう少し大人しくしてな」


先程よりかは酔いが覚めてきてる様だがまだ呂律が回ってない上に立ち上がろうとしたけどプルプルと足が震えて立ち上がれそうにない。


「う……はい……」



そう言うと斗詩は俺の隣に座り込む。俺は煙管に火を灯してフゥーと紫煙を吐く。もう少し斗詩が落ち着いたら帰るか。ここまで斗詩が酒に弱いとは思わなかった。


「んふふ……秋月さん……」


そしていつもはしないみたいに甘えてくる。俺の肩に頭を乗せてスリスリと嬉しそうに俺の腕に抱きついてくるのだ。ヤバい……超可愛い。


「あー……斗詩、そろそろ帰ろうか?」
「え……あ、はい」


このままでは俺の理性の方が耐えられなくなりそうだ。俺は煙管を消すと斗詩に帰るように促すが斗詩は不満そうにしていた。俺もね、もう少しは続けたかったんだよ。でもここ外だからね。少し乗り気になっちゃったけど夜の街の人の目って結構気になるから。
俺は店の親父さんに支払いを済ませ、帰ろうかと思ったのだが肝心の斗詩が駄目だった。酔いは覚めてきているがまだ足下が覚束無い様でフラフラと危なっかしい。

俺は着ていたスーツの上着を脱ぐと斗詩の腰元に袖を巻く。こうしないとスカートの中が見えちまうからな。
斗詩の前に片ひざ立になり斗詩を背負うと立ち上がる。斗詩が苦しくなさそうなのを確認すると俺は城へと向かって歩き始めた。
ある程度の酔いは覚めたみたいだけど斗詩がこれ以上具合が悪くならないように、揺らさないように歩かないとな。なんて思っていたらスルッと斗詩の腕が俺の首に掛けられる。そのままフワリと優しく抱き締められた。


「秋月さんは……優しすぎます」


弱い訳でもないが強くもない自然な力の加減で俺の体に身を寄せていた。
俺の背中にとてつもなく柔らかい物が押し付けられている。


「麗羽様や文ちゃんの所から離れて……寂しくて……心細かった私に優しくして……」


ポフッと俺の背に顔を埋める斗詩。そっか……そうだよな。慣れてきていたけど斗詩は袁紹の所に居たんだ。それが急に陣営が変われば心細いよな。


「ズルいですよ……本当に。ただ優しいだけじゃなくて皆を笑顔にして……周りに心配要らないって笑って……」


斗詩は今まで抱えていた物を吐き出すかのように告げる。もしかして今日、妙に酒に弱かったのは張り詰めていた緊張の糸が緩んだからなのかな。


「……好きになっちゃいますよ皆……私も月ちゃんも詠ちゃんもねねちゃんも華雄さんも真桜ちゃんも……でも一番なのは多分、桂花ちゃん」


斗詩の言葉に俺はドクンと心臓が跳ねた気がした。え、桂花が一番俺を好きって……


「桂花ちゃん、隠してるつもりなんでしょうけど女の子達の間じゃ噂になってるんですよ。文官さんや侍女さん達なんか『どうやって副長と荀彧様をくっ付けようか』なんて会議までしてるみたいですし」


斗詩さん?酔いのせいか口が軽くなってませんか?でも俺にとっては嬉しい情報だけど。つーか、俺の知らない所でそんな会議が行われていたとは。まあ、俺も人の事は言えない事してるけど。

話をしている内に城に到着。門番に事情を簡単に話すと「これからお楽しみですか?」と聞かれたので斗詩を揺らさない様に門番を蹴った。
そして門から斗詩の部屋に行くまでの間に背中からは寝息が聞こえてきた。
俺は斗詩の部屋に入ると備え付けの寝台に寝かせる。布団を掛けて寝ている様子は実に心地よさそうだ。


「おやすみ……斗詩」


俺は寝ている斗詩に軽くキスをしてから部屋を出た。キスした時に少しだけ微笑んだ様に見えたのは気のせいだったのだろうか。



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第百二十五話




「この件は大将に確認してからだな」
「了解です」


俺は書類に目を通してから凪に渡す。暫く休んでたから確認する書類が多い。


「ん……この南通りの怪しい店ってのは?」
「最近、開店した様なのですが……ぼったくりの疑惑が出てます」


どの時代でも、ぼったくりってあったのね。こっちは後々、店に赴いて確認しなきゃだな。


「それと副長、真桜の部屋の近隣の方々から苦情が……」
「またか……真桜にはなんか言った?」


凪がとてつもなく言いづらそうに俺に真桜の事を告げに来る。おおよその予想が付いた。


「一応、話はしたのですが……」
「いや、いいわ……」


凪が言いづらそうにしてるのが既に答えだ。まったくアイツは……


「ちょっと行ってくる」
「お願いします。私では怒っても最近、効果が薄いので」


部屋を出る俺に凪は頭を下げる。本当に苦労してんな。今度、飯でも奢ってやろう。
さて、真桜には拳骨をくれてやろう。

そもそも以前から真桜の部屋の周辺から苦情が殺到していたのだ。今回の件は良い機会だ。たっぷり説教してくれよう。








◆◇◆◇








「う~む……やっぱりこの部分は……いや、あかんあかん!妥協したら一流の職人は名乗れんで……ぴぎゃ!?」
「一流なら作業場で仕事しろ。何回注意させる気だ」


俺は自室で一人言を繰り返しながら作業に没頭している真桜の頭に拳骨を落とした。


「な、何すんねん副長!」
「何すんねんじゃないだろ。作業なら作業場でしろと何度言わせる気だ」


そう、これは初めての事じゃない。真桜は作業場で仕事をせずに自室でやってしまう。そして作業場でする作業を自室でやれば当然近隣に音が鳴り響き五月蝿い。そしてその五月蝿さから苦情が出て俺や凪の所に報告が来る。その度に怒りに行くのだが中々改善されないので毎回の事となっていた。


「そんなん言うたかて、その場で浮かんだ閃きは逃したくないねん!」
「だったら、それを書き残してから作業場でしろ。真桜の工兵としての仕事は認めるがそれ以上に苦情が来てるんだよ」


いや、真桜の気持ちもわかるんだよ?アイディアって一瞬だからね生まれるのも通りすぎるのも。


「うぅ~……ウチかて毎度叩かれたくないねん」
「俺だって毎回、拳骨落としたい訳じゃないぞ」


ジト目で睨んでくる真桜だが俺だって好きで拳骨してる訳じゃないぞ。やれやれ、飴と鞭な訳じゃないけど少しは甘やかしてやるか。
俺は真桜を抱き締めてやる。


「うひゃあ!?ふ、ふくちょ……」
「真桜……いつも真桜の工兵としての技術には助けられてる。でも、その事で周囲に迷惑が掛かってるのも事実なんだ」


俺は真桜の耳元で囁く。いつも悪ノリが過ぎる真桜だがこう言う時は大人しい……と言うか乙女だ。


「俺も真桜を叱るのは頼りにしてるし可愛いと思ってるからなんだ。少しは……解ってくれよ?」
「副長……うん」


俺が真桜を抱き締めながら髪を撫でてやる。真桜は気持ち良さそうに撫でられ続け体を俺に預けてる。
まったく……普段からこれくらい素直に……ん?


「………………………ふーん」
「………………………OH」
「ふくちょ?……あ」


何故か視線を感じて振り返れば部屋の戸が開いており、そこには書類を持った桂花が立っていた。その視線は凍てつく波動を放っているかのように冷たい。


「真桜の部屋が五月蝿いって苦情が私の所まで報告書が上がってきたから真桜に注意しようかと思ってきたんだけど……そう。そう言う事なの」
「あ、あの……桂花さん?」


ヤバい……とてつもなくヤバい。今までの経験上この流れはマズい。と思っていたら桂花がズンズンと近づいてくる。あ、超怒ってるな。


「……離れなさいよ!」
「とっ!?」
「ひゃっ!?」


互いに抱き合っていた俺と真桜だったが桂花が俺の襟首を掴んで引き剥がされる。突然の事態に俺と真桜は悲鳴を上げた。


「ほら、行くわよ!真桜は部屋の片付けをして五月蝿くしないようにしなさい!」
「は、はい!了解や!」
「お、おい桂花!?」


桂花は何処にこんなパワーがあるのか俺をズルズルと引きずったまま部屋を出ていく。真桜も勢いに押されて桂花に敬礼で返した。


「おい桂花、少し強引だったんじゃ……」
「………アンタが他の娘と抱き合ってんのは見たくなかったのよ」


引きずられたまま桂花に先程の事を聞こうとしたら桂花は振り返らずに答えた。よく見りゃ耳まで真っ赤になっている。


「そうかい……」
「……馬鹿」


桂花の態度に少し嬉しい思いをしていたのだが、桂花は不満そうに口を開く。焼き餅焼く位には素直になってくれた訳ね。


因みにこの日以降、真桜は作業場で仕事をする様になってくれた。時おり、まだ自室で作業する為に俺が怒りに行くのだが……それを待っているかの様に真桜はいつも悪戯な笑い方をしていた。





『凍てつく波動』
ドラクエシリーズの特技で効果は相手パーティーにかかっている補助魔法等の特殊効果をすべて消す。主にボスキャラが使用してくるのでボス戦では苦労させられるプレイヤーが多かった。


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第百二十六話







「うおりゃあっ!」
「甘いっ!」


俺の持つエクスカリバーモドキと華雄の大斧が噛み合って火花を散らす。力比べでは華雄には勝てないので俺は身を引き、エクスカリバーモドキを横薙ぎに払う。


「良い反応だ……だが!」
「ごふっ!?」


華雄は大斧の柄を俺の腹に叩き込む。なんちゃってシルバースキンを着てなかったらヤられてたな。
俺は殴られた衝撃を利用して華雄と距離を取る。然り気無くなんちゃってシルバースキンに回していた気を解く。


「行くぞ……新必殺!」
「むっ!」


俺がエクスカリバーモドキを逆手に構えると華雄は大斧を構え直す。俺はそれと同時にエクスカリバーモドキに気を込めて地面に突き刺す。


「ガンフレイ……ぶはっ!?」
「……今回は地面が爆発したか」


地面に刺したエクスカリバーモドキから発せられた気は暴発して石つぶてと土埃が俺を襲う。華雄からは呆れた様な声が発せられていた。


「痛てて……失敗した」
「毎回飽きないわね、純一。それとも笑いを取るためにやってるのかしら?」


盛大に自爆した俺を笑う大将。失礼な俺は毎回本気だ。


「ふざけてる訳じゃないんだがな」
「副長、先程の技はどのような技なのですか」


やれやれと俺はなんちゃってシルバースキンに付いた土埃を落としていると凪は先程の技を訪ねてくる。真面目だねぇ。


「さっきの技はガンフレイムって言ってな。地面に剣を突き刺して火柱を出す技なんだが気を使って代用できないかと思ったんだが」
「そうですね……その説明通りの技なら気を伝達させる技術を学ぶべきかと」


凪は先程のガンフレイムを真面目に検証してくれている。ふむ、技術次第なら再現は可能か?


「しかし……純一さんが羨ましいです」
「ん、そんなに自爆したかったのか?お勧めはしないぞ痛いから」


同じく見学に来ていた一刀が呟く。俺はエクスカリバーモドキを地面から引き抜きながら答えた。


「いや、自爆したい訳じゃないですよ」
「そりゃそうか」


好きで自爆する奴は栽培戦士くらいだ。


「純一さんって『気』を使って技を色々と試してるじゃないですか。やっぱり憧れますよ」
「まあ……気持ちはわかる」


俺も初めてかめはめ波を撃った時は体が震えたよ。


「だが一刀よ。気を使うだけが全てじゃないぞ」
「え、どういう事ですか?」


俺はなんちゃってシルバースキンの帽子を脱いで華雄と向き合う。華雄は何事かと首を傾げている。


「行くぞ、13のブラボー技の一つ!」
「じゅ、純一さん!まさか……」


俺の叫びに一刀は何をする気なのか気付いたようだ。ならば刮目せよ!


「悩殺、ブラボキッス」
「はぅ!?」


俺が投げキッスをすると華雄はヘソの辺りを押さえながら声を上げた。おお、効果があった。


「な、なんだったのだ今のは……きゅんと来たぞ」


顔を赤くしながら俺を見詰める華雄。可愛いけどむしろ効いた方がビックリしてるんだが……


「華琳、凪……悩殺、カズトキッス」
「あ、あぅ…….」
「馬鹿!」



俺の後ろでは一刀が大将に技を試していたが効き目がなかったのか一刀が大将に殴り飛ばされていた。凪はその場にしゃがみこんでしまう。


「今度やったら、ブチ撒けるわよ」
「……ふぁい」


一刀が血溜まりに倒れ、大将の手には絶が握られていた。状況と台詞がマッチし過ぎだよ。
でもよく見りゃ大将の顔真っ赤だし凪は立ち上がれなくなってるから効果は抜群だと思う。

むしろ大将相手にやろうと思った心意気を評価するぞ一刀。








『ガンフレイム』
ギルティギアシリーズのキャラ『ソル=バッドガイ』の技。
地面に封炎剣を突き刺し、そこから火柱を発する飛び道具。

『悩殺ブラボキッス』
キャプテンブラボーの13の技の一つ。ただの投げキッスなのだが女の子をときめかす効果を持つ。


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第百二十七話





「うーん……相も変わらず新技は上手く行かないな」


俺は調理場で食材を刻みながら呟いた。つい先日のガンフレイム失敗が少しばかりショックなのだ。
なんちゃってシルバースキン以降は技の極端な失敗が無かったのだが今回は久々の自爆だった。


「一応、修行はしてるのに……やり方が悪いのか……」


凪に言わせれば『副長は常識が色んな意味で通じないので私の助言では……』との事。凪も最近は言うようになったなぁ。
でも、まあ……なんちゃってシルバースキンのお陰で大した傷も追わなかったし気絶もしなかった。


「あれだな。一歩進んで二歩下がる的な……」
「それは前に進んだとは言わないわよ」


独り言に返事が返ってきたので振り返れば桂花が調理場に来ていた。


「桂花、どうしたんだ?」
「アンタが部屋に居ないから探しに来たんでしょうが」


俺の質問に答えながら調理場に入ってくる桂花。俺は嬉しさと笑いを堪えるのに必死だった。
だって桂花が俺を探しに来た事を否定しなかったんだもん。以前なら『華琳様に頼まれたのよ』とか言い訳付けてたけど、それが無くなった。それだけでもスゴい嬉しい。


「で、何で料理してんのよ。小腹が空いたなら……」
「ああ、いや。小腹が空いたんじゃなくて大将からの頼まれ事でな。これも仕事なんだよ」


桂花が俺に質問をしてくるが俺も単に小腹が空いたと言う理由で料理をしてる訳じゃないのよ。


「華琳様から?」
「ああ、天の国で野営や遠征の時に簡単に作れて大量生産可能な料理や保存の効く料理は無いかと聞かれてな。で、まあ……簡単に料理の概要を話したら『作れ』の一言が飛んできた」


大将も割りと無茶ブリをする。大将の舌を満足させられるのは魏でもごく一部の料理人だけだってに。とりあえず食材は切り終わったから次は割下か。


「ふーん……これがその料理?」
「ああ、まだ下拵えの段階だけどな」


俺はそう言いながら調味料を合わせていく。三国志みたいな世界なだけあって調味料にも偏りを感じたが味見をしつつ味を整える。


「なんて料理なの?見たことないわ」
「この料理は牛丼ってんだ」


鍋で牛肉とネギを炒め、ある程度、火が通ったら割下を投入。後は煮込むだけだ。


「牛丼?」
「簡単に言うと薄く切った牛肉を炒めて汁で煮込んだ物を白飯の上にかける料理だ」


保存は効かんが大量生産って言うなら牛丼は大丈夫だろう。作り方さえ分かれば簡単に作れるし。


「ふーん……あ、良い匂い」
「ふむ……どれ」


煮込む過程で甘じょっぱい匂いが調理場に充満する。俺は小皿に汁を少し移して味見をする。ふむ、再現したい味に近くなってるな。ここは他の意見も聞いてみたいところ。


「桂花、少し味見をしてくれないか?」
「あ、うん。わ、美味しい!」


同じように小皿に汁を少し移して桂花にも味見を頼んだ。汁を飲んだ桂花からは『美味しい』の一言に俺は安堵する。


「なら、この味で決まりだな。大将と一刀呼んで試食会だな」
「ちょっと、私好みの味で良いの?華琳様にお出しするんでしょ?」


俺の呟きに桂花は不安そうな表情で聞いてくる。


「だからこそ俺はそれを出したいんだよ。俺が作って桂花が味見したってな」
「秋月……」


俺と桂花は鍋を挟んでそんな会話をしていた。俺の言葉に桂花は何かを言おうとしたが、その時だった。


「……お腹空いた」
「なんだ、この良い匂いは?私にも食べさせろ!」
「純一さん、僕もー!」


突如、調理場の扉が開いて恋、春蘭、季衣の魏の腹ペコトリオがやって来た。牛丼の匂いに釣られて来たか。


「桂花、丼にご飯盛ってくれ。俺は汁の味を調整するから」
「はいはい。まったく、手が掛かるわねアンタ達は」


俺は桂花に指示を出しながら鍋を見る。桂花は面倒と口では言いながらも丼にご飯を盛り、春蘭達に毒づいていた。


「俺達、手の掛かる子供を抱えた夫婦みたいだな」
「そうね……でも春蘭みたいな子供は嫌よ」


俺の言葉に桂花は苦笑いをしながらも応えてくれた。春蘭みたいなのが子供だったらお父さん立つ瀬ないわ。
桂花が盛ってくれたご飯の上に牛丼の汁を鍋から移して完成っと。


「へい、お待ち」
「なんだこれは?」


俺は恋達の前に牛丼を出すが春蘭が見たことない牛丼に躊躇った。


「牛丼と言ってな、天の国の料理だ。春蘭、文句を言うのはいいけど恋と季衣は既に食べてるぞ負けていいのか?」
「な、何!?」


俺の言葉に隣の恋や季衣を見る春蘭。二人は部活帰りの学生みたいに牛丼をかっ込んでいる。見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。


「純一、おかわり」
「僕もー!」
「ぬ、負けるか!」


早くもおかわり要求の恋と季衣。春蘭も負けじと牛丼を口にして美味いとわかったのかスゴいスピードで食べ進めていく。


「桂花、ご飯盛ってあげて」
「ちょっと、華琳様にお出しするんでしょ?」


俺の言葉に文句を言いながらも丼にご飯を盛る桂花。


「この状況じゃ仕方ないだろ。もう少し食べたら落ち着くだろうし」
「まったく……甘やかすんだから」


俺の発言に不満そうだけど素直に盛ってくれてる辺り桂花も甘いと思う。


「ほい、おかわりお待ち」
「わーい!」
「はふはふはふっ!」


出されたおかわりを喜ぶ季衣に間髪入れずに食いつく恋。フードファイターか。


「牛丼とは汁があるから食べやすいな」
「量としては普通にしたつもりだったんだがな。因みに汁が多目なのが『ツユダク』汁が少な目なのが『ツユヌキ・ツユギリ』って言うんだ」


春蘭の疑問に答えた俺。因みに俺は牛丼はキン肉マンと同じくツユギリ派だったりする。


この後だが……三人のフードファイターは鍋で作った牛丼を殆ど平らげてしまい大将へ出す分が無くなってしまう。
と言うのも俺が途中から考え事をしていて残量を考えずに春蘭達のおかわりに対応してしまったからだ。気付いたときには鍋は空。
俺は慌てて食材を買いに行こうと思ったのだが調理場を出る際に大将と一刀に遭遇。
うっかりと三人に料理を振る舞ってしまい牛丼が無くなったと事情を話したら、ミッチリと怒られた後に後日作り直すようにと言われた。


それよりもだ……俺が途中から考えていたのは桂花の事だ。
先程の会話の中で夫婦や子供の話をした時に……桂花は否定をしなかった。それって桂花が俺との事を思ってくれている?……いや、俺の考えすぎか。単に気にしなかっただけかもな。

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第百二十八話








◆◇side桂花◆◇



「居ないわね……」


私は先日、またしても自爆したと聞いた秋月の部屋を訪ねていた。気絶や怪我は無かったと聞いたけどもう出歩いてるのかしら。
私が来たんだから無駄足を踏ませないで欲しいわね。それとも他の娘と一緒なのかしら……
私が悩んでいると通りすがりの侍女が「副長さんなら調理場向かいましたよ」と教えてくれた。私は侍女に礼を言うと調理場へと向かう。
調理場に到着すると秋月が居た。中に入って声をかけようとしたけど秋月は食材を刻みながらブツブツと呟いている。私が入ってきた事にも気付かない辺り余程、集中しているのだろう。


「あれだな。一歩進んで二歩下がる的な……」
「それは前に進んだとは言わないわよ」


私が声を掛けると、やっと気づいた秋月が振り返れる。間抜けな顔して何考えてたんだか。


「桂花、どうしたんだ?」
「アンタが部屋に居ないから探しに来たんでしょうが」


呑気な質問をしてくる馬鹿に私は溜め息を吐きながら答えてやる。心配させるなって言うのよ。


「で、何で料理してんのよ。小腹が空いたなら……」
「ああ、いや。小腹が空いたんじゃなくて大将からの頼まれ事でな。これも仕事なんだよ」


この馬鹿が料理をしている事に疑問を持った私だが秋月からは意外な答えが返ってきた。


「華琳様から?」
「ああ、天の国で野営や遠征の時に簡単に作れて大量生産可能な料理や保存の効く料理は無いかと聞かれてな。で、まあ……簡単に料理の概要を話したら『作れ』の一言が飛んできた」


何処か遠い目をしている秋月は私との会話を続けながら手際よく調理を続けていた。


「ふーん……これがその料理?」
「ああ、まだ下拵えの段階だけどな」


天の国の料理だからなのか作業行程を見ても私にはどんな料理かわからなかった。


「なんて料理なの?見たことないわ」
「この料理は牛丼ってんだ」


牛丼って事は牛肉を使う料理なの?珍しいわね。


「牛丼?」
「簡単に言うと薄く切った牛肉を炒めて汁で煮込んだ物を白飯の上にかける料理だ」


秋月の説明に私は物を想像する。簡易的に出来る上に大量生産に向く料理なら確かに遠征の時に利用できるかも。


「ふーん……あ、良い匂い」
「ふむ……どれ」


グツグツと煮込まれた鍋から沸き上がる匂いに私は思わず声を上げてしまう。味見をしていた秋月は少し悩んだ素振りを見せてから私に皿を差し出した。


「桂花、少し味見をしてくれないか?」
「あ、うん。わ、美味しい!」


つい反射的に皿を受け取った私は汁を味見する。その味は私が食べた事の無い味で素直に驚いてしまった。


「なら、この味で決まりだな。大将と一刀呼んで試食会だな」
「ちょっと、私好みの味で良いの?華琳様にお出しするんでしょ?」


秋月の呟きに私は驚いてしまう。華琳様にお出しするのに私の舌なんかで確かめた物を出すなんて。


「だからこそ俺はそれを出したいんだよ。俺が作って桂花が味見したってな」
「秋月……」


秋月の言葉に私はドキッとしてしまい、先程の皿に視線を移してしまう。そういえば、この皿は秋月が使った皿で……つまりは間接……


「……お腹空いた」
「なんだ、この良い匂いは?私にも食べさせろ!」
「純一さん、僕もー!」


思考の海に沈み掛けた私を引き戻したのは春蘭達だった。季衣や恋なら兎も角、大人の春蘭まで食べ物の匂いに釣られたのはどうかと思うけど。


「桂花、丼にご飯盛ってくれ。俺は汁の味を調整するから」
「はいはい。まったく、手が掛かるわねアンタ達は」


秋月の言葉に私は従う。大方、私に頼んだみたいにコイツらにも味見をさせる気なのね。それほどの舌を持ってるとは思えないけど。


「俺達、手の掛かる子供を抱えた夫婦みたいだな」
「そうね……でも春蘭みたいな子供は嫌よ」


秋月の言葉に私は苦笑いだった。だってそうでしょう?季衣みたいに元気な子や恋みたいに純粋な子なら兎も角、春蘭みたいなのが我が子だったら苦労しかないわよ……って、違う!何で私は秋月との子供の事なんか考えてるのよ!?あ……でも秋月って面倒見が良いから子供の世話とか任せられるかも……


「桂花、ご飯盛ってあげて」
「ちょっと、華琳様にお出しするんでしょ?」


秋月の言葉にハッとなる。私ったら何を考えて……


「この状況じゃ仕方ないだろ。もう少し食べたら落ち着くだろうし」
「まったく……甘やかすんだから」


私は文句を言いながらもご飯を持ってやりながら秋月の甘やかしに呆れていた。コイツ、子供とか出来たら絶対に甘やかすわね。私がしっかりしないと……………じゃなくて何で私はコイツとの夫婦生活を考えてるのよ!
ああ、もう……なんか駄目だわ。

私が頭を抱えていると先程みたいに考え事をしているのか上の空になっている秋月が春蘭達のおかわりに答えていた。


「ちょっと、秋月!鍋が空じゃない!?」
「え、あ……しまった!」


私が指摘すると秋月は正気に戻ったのか空になった鍋を見て慌てている。


「ヤバいな……大将が来る前に作り直さなきゃ!桂花、俺は市場に行ってくるから後を頼んだ!」
「ちょっと!」


秋月は走って調理場から出ていってしまう。この状態で丸投げしないでよ!と思ったら、ぎこちない動きで戻ってきた。それもその筈。調理場の外には華琳様が要らしていたのだから。
秋月はその後、頭を下げながら事の顛末を話していたけど己の失態を認めたから華琳様が許す筈もなく、そのまま説教が始まっていた。

私は華琳様に怒られる秋月を見ながら先程の秋月が発した夫婦や子供の事を考えていた。

コイツは私が悩んだり考えてる事を知らないのよね……馬鹿馬鹿しいと思うと同時に少しは察しなさいよと思う気持ちを持っていた。


「………馬鹿」


私の口から自然と漏れた言葉は秋月に向けた物だったのか……それとも私自身に向けた物だったのか……わからなくなってしまった。

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第百二十九話

昨日の牛丼だが作り直したは良いが大将からダメ出しを食らった。牛肉の調達などの手間を考えると牛丼は遠征には向かないとの事だ。他の候補としてはカレーを考えていたが、この時代の人達に受け入れられるかが心配だ。
後はスモークサーモンとかか?タバコで作る方法もあるらしいけど……

まあ、その件は一先ず置いておく事となり、俺は通常業務に戻る事になった。
警邏をして書類整理。その後は一刀との会議をしてから兵士の訓練へと向かう。

その中で俺は新たな鎧を身に纏っていた。
黒く光るボディに体にフィットする鎧。そして顔を隠す為の仮面。そう……これこそ!


「俺は……ファイティングコンピューターだ」
「って何でウォーズマンなんですか!?そこまで言ったら仮面ライダーでしょ!?」


俺の纏った鎧に一刀のツッコミが入る。


「いやー……ライダーも考えたんだけど先にウォーズマン鎧が出来もんだからさ。木彫りで作ったんだけど上手く出来てるだろ?」
「まさかの手作りですか!?しかも木製!」


いや、勿論遊びで作った訳じゃないぞ。一応、考えがあっての事だし。


「実はな……気を伝達させる物によって力の強弱が変わるんだ。例えばだが真剣と木刀に気を通したとしよう真剣なら切れ味が上がる。木刀なら打撃力が上がると効果が違うが気を通す量に関しては木刀の方が気の伝達率が高い」
「なるほど……あれ、でも凪は鋼の手甲とか使ってますよね?」


俺の説明に納得した一刀だが更に疑問が出た。目の付け所は悪くないな。


「当然ながらデメリットがあってな木製だと気を送りすぎると器の方が保たない。だから凪は鋼の手甲を使ってんだろ。因にだが……俺の鉄甲も特別製でな。ベアクローが収納されているぞ」
「なんで、そこまで知識があって毎回自爆してるんですか?それと無駄にギミックに手が込んでますね」


ガションと手甲からベアクローを出したら一刀から溜め息とツッコミが来た。


「俺だって好きで自爆してる訳じゃない。前回の失敗を踏まえて新しい技の開発をしてるけど、その度に新しい問題が浮上してくるんだよ」
「事ある毎に自爆してるから最早、警備隊の名物と化してますよ」


俺はウォーズマン鎧を脱ぎながら自爆の事を説明する。一刀よ、人を自爆天使みたいに言うな。任務了解とか言わないから俺は。


「ま、色々試すしかないって事だ。やりもしないで駄目だとは決めつけたくないんでな」
「それは良いですけど心配する側の身にもなって下さいよ。毎回、フォロー入れるのも大変なんですから」


そりゃ悪かったな。でもまぁ……今度のは自信作だし失敗はあるまい。


「まさかとは思いますけど……次はゲームとかのアイテムとか武器を試そうとか思ってますか?」
「……………」


一刀の言葉に俺は手にした物を袋に詰め直した。一刀の顔は驚愕に染まっていた。


「今、仕舞いましたよね!明らかに魔界村の槍でしたよね!?」
「試作品だ、気にするな!」


コイツ、勘が良くなってきてるな。まさか予想されるとは思わなかった。


「しかも、なんつーマニアックなチョイスしてるんですか!」
「古いゲームほど難易度高いし中毒性は高いよな」


FCのゲームはシビア過ぎるけどハマるものが多い。俺も動かせるFCを探して頑張ったものだ。


「それに……暴れん坊天狗とかケルナグールに走らなかっただけマシだと思え」
「そこまで行くと知ってる人はかなり少数だと思います」


確かに……とは思うが、それを知っている一刀も只者ではあるまい。
色んな意味で熱い議論をして居た俺達だが時間も差し迫ったので解散。なんか一刀は大将に呼ばれているらしい。面白くなりそうだから見に行きたいけど試作品の片付けがあるから無理だな。
そんな事を思いながら片付けをしていたら猫耳の影が俺に差し込む。この影の持ち主は一人しかいないな。


「桂花、どうした?」
「顔を上げないで良く私って気付けるわね」


いや、これ以上無いくらいに分かりやすいヒント引っ提げてるからだよ。


「また遊んでたの?」
「仕事だっての」


どうも桂花から見ると俺のやってる事は遊びに見えるらしい。まあ、趣味が入ってるのは否定できんが。


「ま、いいわ。それ片付けたら時間有るわよね?」
「お、珍しいな。お誘いか?」


桂花の言葉に俺が煙管に火を灯しながら聞くと桂花は少し俯いた。あれ、いつもなら即座に否定が来るのに?


「そうよ……悪い?」
「…………いや、スゴい嬉しい」


目を反らしながら頬を赤く染めて拗ねた様に言う桂花。
そのリアクションは反則だっての。


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第百三十話




片付けも終わったので桂花と街へ。夕食兼晩酌の為だ。
本当なら本格的に飲みたかったのだが桂花から止められて少ししか飲んでない。話があるから泥酔したくないし、させたくないそうだ。

すぐに話を切り出すかと思っていた桂花だけど歯切れが悪く、中々話を切り出そうとはしなかった。
何かを話そうかと口を開くのだが直ぐに閉じてしまう。なんと言うか……まだ自分の中で何を話すか纏まってない感じだ。
俺は桂花が話をするのを待っている間に酒をチビチビ飲んでいた。


「その……アンタさ……」
「んー…….?」


俺が煙管に手を伸ばそうとした所で意を決した様に桂花が話を始めた。割りと長かったな。


「天の御遣いじゃないけど……北郷と同郷なのよね?」
「ん……ああ。一刀とは同じ国に居たな」


桂花の言葉に俺は久しぶりに日本を思い出す。そういや、この国に来てから随分と時間が経過したよな。


「アンタにも……帰る国があるのよね?」
「帰りたいとは思っても帰れるかは別だがな」


思えば無茶苦茶な事だらけで最近は現代にどうやれば帰れるか考えてなかったな。それほど、この国に馴染んでたって事か……仕事に忙殺されてるとも言うが。


「もしも……帰れるとしたら……帰りたいの?」
「………フゥー」


桂花の発言に俺は煙管は止めて久々にマルボロに火を灯して吸う。久々に感じるマルボロの匂いにすっかり忘れた感覚を思い出していた。


「どうなんだろうな……帰りたいと思って帰れるなら苦労はないし……」
「………」


俺の言葉に桂花が俯く。何を思って俺が国に帰るなんて話を切り出したんだか。


「ずっと……この国に来てからバタバタとしてたから、その考えはなかった。天の国でも俺の知り合いや家族は居る訳だし……せめて一言は伝えたいかな」
「………そう」


つーか、俺はハッキリと帰りたいとは今は言えない。だって俺が現代に帰ると言う事は桂花とは会えなくなるって事なんだから。


「………華琳様の覇道の途中で帰るなんて言い出したら、とっちめてやろうかと思ったけど要らない心配だったわね。私が一生死ぬほど、こき使ってやるから覚悟しなさいよ」
「く……くくっ……」


俺は桂花の言葉に笑いを堪えられなかった。桂花は俺が笑ったのを見て怒り始める。


「ちょっと、何笑ってるのよ!」
「だってさ『一生死ぬほど、こき使ってやる』って事は……一生一緒に居るって事だろ?」


俺の言葉に桂花は自身が出した言葉の意味を再確認して顔がカァーと赤くなっていく。ああ、もう……可愛いなぁ。


「いやぁー、まさか桂花からプロポーズされるとはねー」
「何よ『ぷろぽーず』って……」


俺がケラケラと笑っていると桂花がプロポーズの意味を訪ねてきた。まあ、わからんよな。


「天の国の言葉で求婚を意味する言葉だ」
「きゅ、求婚……ち、違うからね!私が言いたかったのは……」


見るからに慌てる桂花。もう少し見ていたい気もするが弄り過ぎると後が怖いし止めとくか。


「わかってるって。勢いと意地張りで言っちまったんだろ?」
「……その、分かってるって顔も腹立つんだけど」


俺が煙草の火を消しながら話すと桂花からジト目で睨まれた。解せぬ。
その後、いつもの調子に戻った桂花と酒を飲んだのだが桂花が案の定酔いつぶれた。なんか胸の支えが取れたかの様にスッキリとした顔をしていた。
つっかえる程、胸が無かろうと思わず視線を下げた辺りで目潰しが来た。酔っていても的確に狙う辺り侮れん。

店を出る時にはフラフラだがなんとか歩ける程度に回復した桂花と並んで歩く。城までの道程だが俺は少しでもゆっくり歩きたかった。
桂花が『酔ってるから』と俺の服の袖を掴んでいるのだ。微妙に素直に成りきれてないのが桂花らしい。
そんな幸せタイムも直ぐに終わりを迎えた。城に着いた俺達だがなんとなく部屋には戻らなかった。
まあ、互いに明日の仕事が朝早いからどちらかの部屋に……なんて事にはならないのだが。



「アンタ……言ってたわよね。この世界に来てから大変だったって」
「ん……ああ」


桂花が俺の袖から手を離したかと思ったら口を開く。うん、大変だったけどなんで、このタイミングでその話を?


「私も本当に大変なんだからね……背伸びするの」
「え……んむ」


桂花が背伸びをして俺の首に手を回してキスしてた。身長差もあってか桂花は爪先立ちになりながらキスをしてくれている。俺は桂花の背に手を回して支えた。
どれくらいの時間だったかはわからない。触れた程度だったのか……それとも十数秒だったのか。その認識も出来ない位に急だった。そして桂花が離れる素振りを感じた俺は背中に回していた手を離す。ゆっくりと離れた桂花の顔は湯気が出るのでは?と思うほどに真っ赤だった。


「そ、その……おやすみ!」


桂花はそのまま逃げるように……と言うかマジで逃げて行った。俺はその場にしゃがみ込む。既に体を重ねた間柄だってのに、こんなにドキドキさせられる。


「あー……もう不意打ち過ぎるだろ」


俺の唇には先程まで触れていた桂花の柔らかな唇の感覚が名残惜しそうに残っていた。

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第百三十一話

今年最後の更新になります。来年もヨロシクです。






桂花にドキドキさせられた次の日。俺は大将に呼び出されて、大将の部屋に来ている。詳しくはまだ聞いていないが恐らく重要な事なのだろう。


「さて……秋月純一。貴方は一刀と同郷……そうよね?」
「ええ、間違いないでしょう。お互いの情報交換もしたけど、その情報に齟齬は無かったんで」


開口一番に聞かれたのは一刀と同郷の事か……となると、やはり話の内容は天の国の事か?でも、その割には一刀は呼んでないみたいだし。


「なら聞きたいのだけど……一刀は天の国だと学生と呼ばれる立場と聞いたわ」
「ああ。俺は社会人で一刀は学生だが?」


思えば一刀は普通の学生だったんだよな。それが魏の警備隊隊長と人生とは分からないものだ。俺が言えることではないが……


「そう、そうよね。でも貴方も数年前までは、その学生だったんでしょう?」
「ん、ああ。大学を出たときは22だったからな」


さっきから何故か大将は既に知っている内容ばかり聞くんだ?ん……もしかして。


「元学生だし、一刀と同郷だから一刀の趣味や思考もわかるだろうから、教えて欲しい……か?」
「…………」


俺の問いに無言の大将。沈黙は肯定ってね。


「そういや、俺の作った服を迷わずに着て一刀に見せに行ってたな」
「そうだったかしらね」


俺の言葉に惚けた様子の大将。ヤバい面白すぎるぞ、この状況。
まさか大将が一刀の為に俺に相談を持ち掛けて来るとは……


「ふむ……一刀は無理に迫ったり高圧的な態度を取るよりも普通に接する方が良いぞ。後、春蘭や秋蘭みたいに接するみたいじゃなくて……」
「私は何も聞いてないわよ」


俺の言葉を遮る大将。その割にはピクピクと耳が動いてるから興味津々と見た。


「ああ、俺も聞かれちゃい無い。だからこれは俺の独り言だな」
「そう……勝手になさい」


そう言う大将は落ち着きなく脚を組み直したり、トントンと指で自身の腕を突いている。一刀の事となるとボロが出やすいな。
今なら『死刈☆華琳』の衣装を進めたら着てくれるだろうか?いや、話を持ち掛けた段階で俺の首が刈られかねん。


「ま、俺に言える事があるとしたら、自然体で付き合うのを進めますよ。曹孟徳としてではなく、只の華琳として……ね」
「………覚えておくわ」


俺は大将に最後のアドバイスを送ると大将はそっぽを向いた。多生なり自覚はあるのね。
そんな事を思いながら部屋を後にした俺だが、その帰り道で一刀と会う。


「どした一刀?」
「あ、その……華琳、俺の事何か言ってました?純一さんだけ呼ばれたから……」


なるほど……俺だけ呼ばれたから自分の事を怒る話でもしてたと思ってるのか。


「ちげーよ。今後の相談だよ」
「わ、そうなんですか?」


俺は少し乱暴に一刀の頭を撫でる。少し戸惑った様子の一刀に俺は笑ってしまう。
大将は一刀の事を知りたいと俺を呼び、一刀は大将と俺がどんな話をしているかを気にした。
それはつまり互いが互いを思って行動してるって事だ。立場は違うんだろうけど学生の恋愛を見て相談に乗ってる気分た。


「ま、心配はいらんさ。それよりも報告書纏めて大将の所へ行ってきたらどうだ?」
「は、はい。そうします!」


俺が手を離すと一刀は行ってしまう。頑張れよ若人よ。


「何、ニヤニヤしてるのよ」
「おおっと、このタイミングで毒舌かよ」


少しいい気分で一刀を見送ったと思ったら昨日とは違ってツンツン状態の桂花が書類を抱えて俺を睨んでいた。


「なーに怒ってるんだよ」
「……別に」


俺の言葉にフン!とそっぽを向く桂花。何をそんなに怒って……あ、もしかして。


「俺が大将の所に行ったのは今後の相談があったからだ。桂花が思うような事は無かったぞ」
「ふ、ふーん……そう。わ、私は別に華琳様にアンタが呼ばれた事なんか気にしてないし、華琳様がアンタの毒牙に掛かるかもなんて心配してないし……この種馬」


素直な心情吐露ありがとう。お前は俺をなんだと思ってる?あ、種馬ですよね。
それにしてもこれはどっちに焼き餅焼いてるんだか微妙な所だよな。しかも最後には毒吐かれたし。


「ま、ともあれ……」
「な、何よ……」


俺は笑みを浮かべると桂花に歩み寄る。


「そーんな、悪い事を言う口は塞がないとな」
「え、待っ……ん……」


俺は桂花の唇に自身の唇を押し付ける。昨日とは立場が逆になったな。
キスを終えて名残惜しいが離れると桂花はトロンとした表情になっていた。さっきのツンツン状態からのギャップが激しいから破壊力ハンパないです。


「じ、じゃあ……今後は毒舌は控えるようにな」


俺は早足にその場を後にする。自分で言った先程の発言が恥ずかしかったのもあるが、今の状態の桂花を見ていたら色々と……主に理性が止まらなくなりそうだったからだ。





















◇◆side桂花◇◆


私の唇を強引に奪った馬鹿は自分で言った事が恥ずかしくなったのか逃げるように去って行った。
私は自分の唇を指でなぞる、さっきまで押し付けられていたアイツの唇を思い出す。
本当に馬鹿よね。私が悪口を言う度にアイツが口付けをしてくるなら……


「もっと……言いたくなるわよ馬鹿」


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第百三十二話

あけましておめでとうございます。
今回はかなり短め。






最近、俺の仕事が増えた。いや、軍の仕事とかじゃない。更にを言えば警備隊の仕事でもない。かと言って国の政治の話でもない。
では、何が増えたか……その答えはここにある。


「副長さん、俺……最近、飲み屋のお姉さんに惚れてて……」
「秋月様、警備隊の彼に想いを伝えたいのですが」
「あ、あの……私……好きな人が居て……」


と、まあ……何故か恋愛相談を持ち掛けられるのが多い。ここ最近急に増えたのだ。しかも男女問わずで街中でも相談される事もあってとっても不思議。特に城の中で働いてる方々の話が多い気もするが何故こんな事態に?


「うーん……断り辛いし参ったな」
「何が参ったん?あ、桂花と夜の営みをどうするか悩んでるん?」


俺が悩んでいると一緒に警邏に出ていた真桜がニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべて俺を見ていた。丁度良いし真桜に話してみるか。


「真桜……俺は今、悩みを抱えていてな。どうするべきかなーって思ってるんだ」
「も、もう……桂花の体に飽きたんなら……」


ふむ、上司の話をマトモに聞こうとしない部下には……


「ふぎゅうぅぅぅぅぅっ!?痛い痛いて!?」


俺は真桜の鼻を摘まむと垂直に持ち上げる。これって地味に痛いんだよね。しかも俺と真桜じゃ深長差があるから更に痛い筈。


「真桜ちゃーん?オジさん、真面目に聞いてるの」
「わかった!わかったから許してーな!」


真桜に泣きが入ってきたから摘まんでいた鼻を離す。涙目になりながらも俺を睨むとはまだ反抗するか。と、思った所で後ろから声を掛けられた。


「アンタ達、街中で何してるのよ?」
「こんにちは純一さん、真桜さん」
「詠、月。実はな……」


振り返れば買い物帰りなのか荷物を持った詠と月。俺は先程、真桜に話そうと思った事を説明しようとしたら先に真桜が口を開いた。


「痛たた……酷いで副長。ウチの(鼻の)先端を摘まんで持ち上げるなんて。女の子は優しゅうしてほしいんやで」


真桜は態とらしく胸を押さえながら誤解しそうな事を口走る。しかも重要な部分を抜かして話やがった。そして嫌な予感がしたので振り返ると詠の体から何やらオーラの様な物が立ち上がっている。


「こんの……変態!」
「あぼっ!?」


その直後、詠の拳が俺の腹に突き刺さった。エラく腰の入ったパンチだったと記述しておこう。


「……が……ど……」
「………どうせ僕は小さいわよ!」
「やっぱり……純一さんも大きい方がいいのかなぁ……」
「うーわー……予想以上やった……」


意識を失う直前に耳にしたのは詠の怒りの籠った発言と月の少し悲しそうな呟きだった。
後、真桜……俺が目を覚ましたら覚えとけよ?

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第百三十三話

◇◆side詠◇◆


真桜の発言から思わず秋月を殴ったけど意識を取り戻した秋月から話を聞くと真桜の悪戯だった事が判明した。思わずカッとなって殴っちゃったから謝ったんだけど……


「ああ、いいっていいって。コイツが悪いんだし」
「痛ったたたたたたっ!?」


秋月は真桜に抱き付くような体勢で絡んでいる。天の国では格闘技の一つで関節技と呼ばれる技術らしい。


「これぞモモスペシャルその二『アグラ・ツイスト』」
「ちょっ、堪忍や!痛たたたたっ!?」


秋月は笑いながら真桜に技を掛けている。コイツ等の関係って恋人と言うよりも兄妹よね。


「それで……なんでこんな事になってんのよ」
「んー……それがな」
「待ってや!普通に会話を始めんといて!」


私と秋月は普通に会話を始めようとしたけど真桜が先に音を上げた。
そして真桜の拘束が解かれないまま聞かされたのは秋月が最近、様々な人から恋愛相談を持ち掛けられる事。その事に首を傾げていた秋月は真桜に何故そんなことになったのかと聞いた所、真桜が悪ふざけをしたらしい。そしてその最中で僕と月が会って現在に至るとの事。


「理由は……なんとなくわかるかも」
「え、マジで?」


コイツも本当に無自覚よね。月も苦笑いだし。


「アンタは自分で思ってる以上に他の人から好かれてるのよ」
「それに人当たりもよくて話しやすいですし」


コイツや北郷は自分の事を平凡だと思っているけど、それはあり得ない。天の御遣いと呼ばれ、華琳や魏の重鎮とも気軽に話が出来る存在。それで有りながら気さくに話しかけやすい。でも、それ以上に城の中の人間や民達が相談を持ちかけたのは別の理由だろう。


「何してるのよ……アンタ達」
「あらあらー純一さんったら大胆なのですよー」
「秋月殿が真桜と、くんずほぐれず……プーッ!」


と其処へ桂花、風、禀の軍師三人が通りがかる。桂花は秋月と真桜が絡み合ってるのを冷めた視線を送り、風は面白い物を見たと笑みを浮かべて、禀はいつも通り妄想を膨らませて鼻血を出して倒れた。


「この間もそうだけど、真桜の方がいいわけ?」
「いや、そう言うんじゃなくて……」


桂花の睨みにたじたじの秋月。その隙を見計らって真桜は既に脱出していた。


「きっちり聞かせて貰うからね」
「いやいや、聞くなら今聞いて!明らかに話の姿勢じゃねーし!」


そう言って桂花は秋月の耳を引っ張って連れていく。


「あ、副長!まだ警邏の途中やで!」
「アンタがそれを言うの?アンタがサボってるの私の所まで報告来てるんだけど?」
「後の事はウチに任せてやー」


ズルズルと引きずられている秋月を止めようとした真桜だけど反論できなくなって笑顔で見送る。責任逃れに秋月に差し出してるけどサボってるのがバレてる段階で手遅れよね。


「頼りになる部下ね」
「しっかりサボってるのがバレてるねー。怖いよ母さんや」


桂花の嫌みに秋月は何処か諦めた様な声を出している。


「誰が母さんよ!」
「お似合いなのですよー」
「秋月殿と桂花の夫婦……ふ、ふふ……」


桂花は顔を赤くして摘まんでいた耳から手を離して秋月の頭を殴り、風は後で弄る気満々みたい、禀も鼻に詰め物をしながら笑みを浮かべてる。最近よく見る流れよね。


「も、もう……行くわよ!」
「はーいはいっと。あ、月に詠も一緒に帰ろうか」
「後で華琳様に報告ですね」
「面白い事になりそうなのですよー」


桂花は耳まで真っ赤にしながら秋月の手を引く。禀と風は面白そうに後を着いていく。僕と月は秋月の提案に乗って一緒に帰る事にした。


「ねぇ、月」
「なぁに、詠ちゃん?」


僕が話しかけると月は小首を傾げる。僕は秋月が恋愛相談を持ち込められる一番の要因を口にした。


「相談される一番の要因は桂花と恋仲になった事よね」
「そうだよね」


僕の言葉にアハハと笑みを浮かべる月。男嫌いを公言していた桂花を落としたとあって城の中でも街の中でも噂になったから魏の民は秋月を恋愛の達人とでも思ったのだろう。月も思い当たる節が多いから笑ってる。そして笑った後、月は秋月と桂花の後を追う。


「ほんと……なんで、あんなのに惚れちゃったんだろ」


僕の溜め息は誰かに聞かれる事もなく消えていき、僕は皆の後を追って歩き出した。



『アグラ・ツイスト』
『THE MOMOTAROH』の主人公モモタロウが使用する「モモ・スペシャル」のその二。下半身をインディアン・デスロック、上半身をコブラ・ツイストで攻める複合技。


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第百三十四話






◆◇side凪◆◇



私は今、副長と戦っている。いつもの鍛練と平行して行われていたのだが実践式修行として鍛練の締め括りに私と副長が試合形式で戦う事となった。
今回、副長はなんちゃてしるばーすきんと言う戦闘服は纏わずに以前から使用していた亀仙流の胴着を着ている。副長曰く『なんちゃてシルバースキンに頼ってばかりじゃなくて己を鍛えたい』と仰っていた。


「うおりゃあ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」


副長の右拳を反らしながら、がら空きとなった脇腹に肘を叩き込もうとしたが副長は左手で私の肘を受け止めると逆に右足で私の足を払う。私は体勢を崩してしまうが副長の腕を掴んで、引っ張りながら体勢を入れ換えて副長を押し倒した。私の下になった副長の顔面に拳を突き付ける。


「………まいった。降参」
「はい、お疲れ様でした」


副長の降参を聞いてから私はフゥと一息ついて副長から離れる。


「いやー、まいったまいった。まだ凪には敵わないな」
「私にも気を使うものとして、そして将としての意地があります。まだ副長には負けませんよ」


副長は軽口で負けて悔しいと言う。私もまだ負ける気はないと言うけど内心では穏やかじゃない。副長は確実に強くなっている。今回こそ、なんちゃてしるばーすきんを装備していないが、もしも装備していたら先程の戦いの結果は逆転していたかもしれない。


「師匠、出来ないッス!」
「やってみろ!気合いだ気合い!」


副長は私との戦いを終えた後に試合を見ていた大河に気の使い方を教えていた。大河は座り込んで掌に気を込めている。


「手がじわーと熱くはなってるッス」
「掌に気を集中させる事は出来てるな……放出させるとなると……」


大河も大河で物凄い早さで気の扱いを習得していた。今は気の放出で手間取っているらしいが、それでも私よりも早い習得だ。


「はぁ……」


私は思わず溜め息を漏らす。私が幼い頃から修行してやっとの思いで習得した気を僅かな期間で習得していく副長と大河に私は僅かにだが劣等感を感じたのかも知れない。


「凪、お前からもアドバイス……じゃなかった、助言は無いか?」
「凪さ~ん、お助けッス~」


私の方を向く副長と大河。助けを乞うているけど私の助言では……


「私などでは……やはり副長が教えた方が良いのでは?」
「何言ってんだよ。凪は魏の武将の中で一番、気の扱いが上手いだろ。凪以上の使い手は知らんぞ」


ああ、もう……こう言う所は本当に隊長と副長は良く似ている。誰かが落ち込んでいる時に持ち前の優しさと感覚で誉めたり慰めたりする。


「それに俺が教えると大河が自爆しかねん」
「どんな教え方をするつもりですか!?」


副長の発言に驚く私。こう言った思考も私達とは違う。隊長も『純一さんはいつもこっちの考えの斜めを行く』と言っていた。


「仕方ありませんね……では私がご教授させていただきます」
「おう、頼むよ凪」
「お願いします凪さん!」


私は仕方がないと言いながら副長と大河に気の扱い方を教えていく。
出来の悪い兄と手の掛かる弟を持ったようだと思ったのは私の秘密だ。


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第百三十五話





凪、沙和の二人が一時的にだが街の警備から外された。その理由は涼州の馬騰へ魏に下るようにと交渉しに行く人物の護衛と付き添いらしい。
その話を聞いた俺は見送りにと交渉団がいるであろう門へと行く。
馬騰か……反董卓連合の時は代理で馬超が出てたらしいけど、どんな人なんだろう。そんな事を思っていると門に到着。
交渉事となれば行くのは秋蘭辺りかな?


「お、なんだ秋月。馬騰の所へ行く私の見送りか?」
「大将は涼州に火種を送り込む気か?」


なんとそこに居たのは秋蘭じゃなくて春蘭だった。一番交渉に向かない人物に俺は思わず本音が出た。春蘭を送り込むなんて『戦争しようZE!』と言ってる様なもんだ。


「私じゃ不満だと言いたいのか秋月?」
「危なっ!いや、交渉と聞いていたから秋蘭が行くもんだと思ってたから……」


春蘭は大剣を抜くと即座に斬りかかってきた。俺は真剣白羽取りで受け止めると疑問を口にする。


「華琳さまが馬騰の所へ行くのは私だと指名してくださったのだ、わかったか!」
「スマン!わかった、わかったから先ずは剣を下ろそうか!」


流石に春蘭のパワーにいつまでも耐えるなんて無理!手が痺れてきた!


「おやおや、仲良しさんですねー」
『おっと男女の仲に口を挟むのは野暮だぜ嬢ちゃん』


俺がギリギリの状態で耐えていると風と宝譿が茶化してきた。


「風……この状態を見て、そんな事が言えるのか?」
「はいー。お兄さんと純一さんはとても似てるのですよー」


つまり風視点だと春蘭に斬られてる一刀は仲良しの証拠……なるほど奥が深い。って言ってる場合じゃない!


「春蘭、俺が悪かった。勘弁してくれ」
「ふん、最初からそう言えば良いのだ」


そう言って春蘭は大剣を下ろす。最初の段階で謝ったのに……とは言わない方が良いな。春蘭はそのまま兵達への指示の為に離れていった。


「そもそも今回の交渉相手は馬騰さんなのでー、同じ位の官位を持っている春蘭様が交渉に出向くのが礼儀なのですよ」
「官位……ああ、なるほどね」


官位は実際に朝廷から授けられた位。馬騰はその正式な官位だから同じ位の官位を持つ春蘭じゃなきゃ駄目だって事らしい。


「因みに魏の内部で馬騰さんと同じ位の官位を持っているのは華琳様と春蘭様。後は元董卓軍だった恋ちゃんと霞ちゃん、華雄さんくらいですかねー」
「正式な官位ってなると、そんなもんか」


秋蘭が官位がそこまで無いのは意外だったな。もうちっと高いかと思ったが


「風様、副長。お疲れさまです」
「ふくちょー、サボりなのー?」


等と風と話をしていたら凪と沙和が来た。どいつもこいつもサボりと決め付けやがって。


「確かに俺は警邏の最中にサボる事もあるが……お前等程じゃないからな?」
「痛たたたたたたっ!?」


いつぞやの真桜みたく沙和の鼻を詰まんで持ち上げる。本当に地味に効果的だ。


「一応見送りにな。一刀も来たがってたけど書類が貯まってたからそっちを優先させた」
「………そうですか」


俺の言葉に凪は少ししょんぼり。見送りなら俺よりも一刀に来てほしい気持ちもわかるけどさ。


「副長、隊長がサボらない様に見ていてください」
「……そーだな」


凪の言葉に俺は苦笑いになった。俺もサボる事もあるし、何よりも凪の言葉の真意は『隊長の女癖の悪さを見といて下さい』なんだろうと思った。まあ、本人も気づいてないッポイけど。


そうこうしている間に交渉団は出発した。暫くの間、春蘭、風、凪、沙和に会えないな。
しかし涼州か……トラブルが無い事を祈りたい。
俺はそう思いながら煙管に火を灯した。




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第百三十六話





交渉団を見送ってから、なんのトラブルも無かったのだが交渉団が帰ってきてからトラブルが発覚した。
馬騰は『己は最後まで漢の臣である』と言って魏に下るのを拒んだ。と言う訳で俺達の涼州行きが決定した。


「ま、なんにしても急すぎるんだよなぁ……」


俺は服屋と鍛冶屋の親父に頼んでおいた物を受け取ってから帰路についていた。以前、頼んだ品が完成したとタイミング良く連絡が来たのだ。


「ま、交渉だけで上手く行くなら戦にはならんか」


俺は煙管に火を灯しながら呟く。今回の交渉は春蘭が代表だが実際に交渉したのは風だった。そりゃそーか。
しかしマズいのが次の相手が騎馬主体だと言う事だ。
ぶっちゃけ俺の今までの戦い方は対武将。血風連は華雄が監修しているから騎馬戦にも対応出来るけど俺自身は馬に乗って戦う経験は寧ろ少ないくらいだ。なんちゃてシルバースキンだと重すぎて馬が辛いだろうし。


「ま、それを解消させるのがコレな訳だが」


俺は服屋の親父から渡された服を包んだ袋に視線を移す。
これは、なんちゃってシルバースキンに続く物だ。


「後は気孔波の類いで牽制とかか?」


こんな時に拡散かめはめ波が使えたら……と思ってしまう。ジャイアントストームは自分も味方も巻き込む自爆技と化してしまったし。
それにしても涼州か……桂花の話じゃ細かな部族からなる連合みたいな地域らしい。反董卓連合みたいなもんかと思ったのだが五湖と言う董卓の時よりも長く戦ってる因縁深い相手だから反董連合みたいな寄せ集めよりも統率が取れている集団との事だ。
ただ……一番の心配する所が今回の行き先が涼州だと言う事。相手が馬騰……つまりはその子である馬超とも戦うと言う事だ。馬超と言えば蜀の五虎大将軍の一人だ。西涼の錦馬超の名で有名な武将だ。反董卓連合の時には会わなかったけど女の子らしい。


「なんとなーく……嫌な予感がするんだよなぁ……」


今までの経験から歴史に名高い武将の名を聞くと嫌な予感がする。なんせ今まで関羽、趙雲と戦ってきたのだ。更に胡軫にもロックオンされてるし。この流れで行くと涼州に到着してから馬超と即エンカウントして戦う事に……いや、流石にそこまで無いと思いたい……無いよね?


「関羽や趙雲、胡軫の時はぶっちゃけ不意打ちだったから、なんとかなったけど馬超は完全に戦闘体勢で来るだろうから……う~む」


なんちゃてシルバースキンの事やなんちゃってパワーボールの事で相手のペースを乱してから戦ったからなぁ。後は華雄や血風連の増援もあったし。


「いっそ、新技開発に勤しむか……」


悩んだ末に俺は新たな技を生み出す事にした。うん、少しでも生存確率を上げとこう。






因みにだが、新技開発をしようとしたら桂花以下数名から止められた。遠征前に潰れる気かと……そこまで深刻に言われるとは割りとショックだ。


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第百三十七話





涼州に向かう事となり数日。馬や馬車に揺られながら俺達は涼州に入り始めていた。
流石に遠いな一日馬や馬車で移動して数日掛かるんだから……車やバイクなら一日とか考えない方が良いのだろう。馬車以外の乗り物を何か考案するべきだな、うん。
例えば……柱か何かを投げてそれに乗り移り高速飛行する世界最高の殺し屋式移動方法とか。


「いっそ試しに大河を丸太に括り付けてから投げるか?」


大河なら軽いから丸太を投げる事さえ出来たらマジで出来そうな気がしてきた。


「何、ブツブツ危ない事、言うてんねん純一」
「ん、ああ……ちっと考え事」


馬車の荷台で考え事をしていたのだが口に出ていたらしい。霞に話しかけられるまで気付かないなんて、よっぽど考えに集中していたらしい。


「なんやしたい事があるから馬やのーて馬車の荷台に乗りたい言うから荷台に乗せてんやで。サボりかいな」
「いや、やりたい事があるのはホント。今はちょっと考え事しながら作業してたから」


咎める様な霞の言い分に反論しながら俺はサイズ調整をしていた手袋を装着する。うん、サイズもピッタリだな。手を握ったり、開いたりしても違和感無いし。


「その手袋ってあれか?『なんちゃってしるばーすきん』とか言う奴かいな」
「これはその改良版。本当は調整してから、この遠征に来たかったんだが時間がなくてな。それで今やってんの」


霞はこの手袋をなんちゃってシルバースキンと思ったらしいが実は違う。これは服屋と鍛冶屋の親父に頼んで作ってもらった、なんちゃってシルバースキン第二弾。前回は時間があったからサイズ調整したけど、今回は受け取った次の日に出発したから時間がなくて、この数日間荷台で揺られながら作業に没頭していた。


「そうなん?ほんで大河を丸太に括り付けるて何する気やったん?」
「………いや、一種の修行法になるかなーって」


霞に投げ掛けられた疑問に、本当の事言っても伝わらないだろうから誤魔化してみた。


「もうちっと修行考えた方がええで?聞いたけど大河、最近修行が滞ってるらしいやん」
「んー……大河はちっと特殊なタイプ……いや、特殊な感覚の持ち主みたいなんでな通常の修行じゃ伸びが悪そうなんだよ」


霞の言い分に苦笑いの俺。そう最初の頃は兎も角、気の修行を初めた大河だが気の放出が上手くいかず停滞してる状態が続いていた。


「まあ、気の事に関しても条件付きだが使用は可能になった。後は実戦で感覚養って行くしかないかな?」
「そんならええけど……師匠がこんなんじゃ大河も苦労するでホンマに」


霞の言葉に、ほっとけとツッコミを入れようと思ったら何やら周囲が騒がしくなり始めた。


「何事や!?」
「奇襲です!涼州の騎馬部隊が奇襲を仕掛けてきました!」


霞の叫びに伝達役の兵士が叫んだ。涼州に入っていきなりこれかよ。


「狼狽えるな!こっちも騎馬隊集めて対抗すんで!」
「後方にも伝達してくれ。補給部隊は防御を固める様に指示を」
「御意!」


霞と俺の指示を聞いた伝達役の兵士は走っていく。俺はと言えば先程までサイズ調整をしていた服を身に纏い帽子を被った。


「さぁて……初めての騎馬戦だな」


俺は荷台から飛び降りると迫ってくる涼州の兵士達を見据えて構えた。





『桃白白式移動方』
ドラゴンボールの登場人物『桃白白』が行う特殊な飛行方法。
武空術を使えない桃白白が主に柱や大木などを上空へ投げ飛ばし、それに飛び乗って移動する。 その速度はジェット機以上とされている。


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第百三十八話





新たな装備を纏った俺は馬車から飛び降りると迫り来る騎馬隊に視線を向ける。


「騎馬か……スピード勝負になる……なっと!」
「ぬおっ!?」


俺は足に気を集中させて跳躍し、迫り来る騎馬隊に向けて飛び蹴りを放つ。自分でも思った以上に高く跳んだのでビビった!新しいなんちゃってシルバースキンは思いの外、気の調整が難しそうだ。
しかし相手も流石だ。完全に不意を突いたと思ったのに器用にも馬上で体を捻って俺の飛び蹴りを避けやがった。


「何者だ、面妖な奴め!」
「俺か?俺は……キャプテンベラボーだ」


涼州の騎馬隊の一人が叫んだので名乗った。場の空気が若干冷えた気がしたが戦いは続く。


「単なる馬鹿だ!」
「畳み掛けるぞ!」
「ふっ……敵を甘く見ると痛い目を見るぞ!」


俺の事を下に見た涼州の騎馬隊が数騎、駆けてきたので俺は先程よりも足に気を込めて、その場でジャンプする。おおっと!?さっきもそうだけど高くて結構怖い!


「流星……ベラボー脚!」


俺は跳躍した勢いに加えて足に気を込め直してある程度の高さからに落下しながら騎馬隊に迫った。予想外の俺の攻撃に騎馬隊は足を止めてしまう。それは悪手だと言っておこう。俺はそのまま流星ベラボー脚を騎馬隊の一人に浴びせた。蹴られた奴は馬を置き去りに数メートル吹っ飛んだ。おお、思った以上の威力になった。


「俺が単なる馬鹿ならお前等は複数の馬鹿だな。俺を甘く見た事を後悔させてやる……」
「くそっ……退け!退け!」
「退却だ!」


俺が睨みを効かせながらグッと拳を握ると騎馬隊はアッサリと退いて行った。周りを見れば他の騎馬隊も撤退してる。随分、アッサリと退くな。


「純一、足止めしてくれて助かったで!」


俺が退いて行く騎馬隊を見ていると霞が戻ってきた。


「役に立てたか?」
「純一がさっきの騎馬隊を足止めしてくれてたから側面の攻撃に耐えれたんや。さっきの騎馬隊が来てたら隊列崩されて、もっと被害がデカなったで」


目に付いた騎馬隊を相手にしただけだが思った以上にプラスの結果になったらしい。


「んで……なんなん?その服?」
「なんちゃってシルバースキン第二弾。なんちゃってシルバースキン(攻)って所か」


霞が俺の服を見て眉を潜める。そう、俺の着ている服は『なんちゃってシルバースキン』の第二弾。今回のシルバースキンは前回の物と違い、体全体を鎖帷子で防御するのではなく、拳や関節、脛などの部分を手甲等で覆い、急所などの部分のみを鎧で固める。それらを服で装飾して見た目は単なるロングコートにしか見えない様になっている。言ってみれば気を込めて戦う為の物で、初代なんちゃってシルバースキンが常に防御の為に気を流し続けるのに対して第二弾は瞬間的に気を手甲や脛当てに送り込み攻撃力や跳躍力を上げる物だ。
因みになんちゃってシルバースキン(攻)のデザインはシルバースキンアナザータイプだったりする。


「しかし……涼州に入っていきなり奇襲とは思いやられるな」
「奴さん、奇襲に馴れとったわ。粘らずに一撃与えてから即離脱。しかも動きが速いからこっちの立て直しが済む前にもう一度来る。苦労するでホンマ」


俺と霞はやれやれと肩を竦める。そしてその予想通り俺達は数日奇襲され続ける日々を送る事となる。





『流星ブラボー脚』
キャプテンブラボーの13の技の一つ。十メートル近く飛び上がり、電柱を地面にめり込ませるほどの威力の飛び蹴りを放つ。ぶっちゃけライダーキック。

『シルバースキン・アナザータイプ』
普段使っている核金とは違う核金を使って発動させたシルバースキン。デザインが違うだけで性能は従来の物と同様。


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第百三十九話



俺と真桜、沙和、霞は夜の見張りをしていた。涼州に来てから毎日奇襲を受ける日々……夜くらいは寝たいと思うがほぼ毎日夜襲を受けていた。ぶっちゃけ昼間の方が寝れる気がする。なんて思いながら欠伸をしていたら一刀が起きてきた。


「おはよー」
「何や、眠そうやねぇ。隊長」
「おはよう一刀。少しは寝れたか?」


真桜と俺が話しかけると一刀は眠そうに口を開いた。


「ああ、大丈夫。でも最近、眠りが浅くて……地面に布を敷いただけで寝苦しいのに、ようやく寝られたと思ったら、襲撃があるし……」
「せやねぇ……昨日はめずらしゅう夜襲がなかったけど、ここの所ほとんど毎日やったもんね」


真桜の言葉通り昨日は夜襲が無かった。正直ありがたかったよ。なんちゃってシルバースキン(攻)は重大な欠陥が見つかったから。


「真桜は元気だな」
「元気なもんかい。単に夜明け前から起きとったから眠う見えんだけや」
「むしろ徹夜明けのテンションだな」


一刀の言葉にツッコミを入れる真桜。話し相手が増えるだけでも眠気は多少飛ぶからありがたい。


「夜の見張りだったのか、お疲れ様。純一さんもですか?」
「ああ、これから一眠り……出来たら良いなぁ……」


俺は煙管に火を灯す。眠さと疲れからか肺に染み渡る煙が深く感じられた。


「うー……眠たいのー……」
「沙和も夜の番だったのか?」
「ウチもやで」
「霞もか。おはよう」


沙和と霞も夜の番明けで順次、顔を出す。人の事言えないが眠そうだねぇ。


「夜起きてるのはお肌に悪いの……真桜ちゃーん。そばかす、ひどくなってないー?」
「大丈夫やと思うけどなぁ……隊長、どない思う?」


沙和の質問を真桜がニヤリと笑みを浮かべてから一刀に振る。ああ、弄る気満々だな。


「たいちょー、この辺とかひどくなってないのー?」
「お、おい。ちょっと、そんなに顔を近付けるなって!」


沙和に体を寄せられて、どぎまぎしている一刀。沙和も寝惚けているのか無防備に一刀に体を寄せている。もうキスする距離だよね、これ。


「近寄らないと分からないのー」
「だ、大丈夫だからっ!」


一刀は沙和の肩を掴んでひっぺがした。普段、それ以上の事をしてるだろうに。


「んもぅ!二人とも、適当に言ってるの!ふくちょー、どうかな?」
「……見た目はそんな悪くなってなさそうだぞ」
「そやね、あんまり変わっとらん様に見えるわ」


一刀と真桜の意見は宛になら無いと思ったのか俺に聞いてくる沙和。スマン、ぶっちゃけわからんのだ。霞も同様のようだ。


「おはようございます」
「おはようッス」


なんて話をしていたら凪と大河が起きてきた。二人とも目がパッチリ開いて完全に目が覚めてる感じだ。


「おはよう、凪、大河」
「凪も大河も早いなぁ」
「この時間は普通、皆起きているのでは?」
「自分も朝日が昇ったら起きてるッスよ?」


俺と一刀の言葉に首を傾げる凪と大河。素で真面目なコンビは朝も異常に早起きなのだと判明した。


「凪ちゃーん、大河ー。私のそばかす、ひどくなってないー?見て見てー」
「……すまん、沙和。こういうのは良く分からなくてな……皆に聞いてくれ」
「じ、自分も同じッス……」
「も、もう皆なんて知らないのー!」


沙和は最後の望みと凪と大河に詰め寄るが返ってきた答えは沙和の望むものでは無かった。プルプルと震えた沙和はその場を後に走っていってしまう。


「あーあ、行ってもうた。隊長のせいやで?あそこで沙和の腰くらいこう、グッと抱いて見せてやな……」
「お、おい真桜!?」


真桜は一刀をジト目で見た後に凪を抱き寄せ腰に手を回した。スルリと凪の細い腰に真桜の指がかかる。


「『沙和。お前の美しさは、そばかすくらいで損なわれるものじゃないよ』……くらい言わなアカンで」
「離してくれ……真桜。と言うか揉むな」


芝居染みた演技と言葉を凪に囁く真桜。凪は少し慌てた様だが今は呆れていた。更にオマケとばかりに真桜は凪の胸を揉んでいる。


「いや、俺がやったら駄目だろ……それは」
「そやね、それに一刀がそんな台詞を吐くとは思わんなぁ……」
「だ、大胆ッス……」
「………フゥー」


一刀、霞、大河の順にコメントを出す中、俺は煙管の火を消して立ち上がる。


「真桜、夜の番お疲れ様……疲れ、取ってやろうか?」
「え、ひゃっ!?ふ、ふくちょ……」


俺は真桜から凪を引き離すと真桜の腰に手を回して抱き寄せる。突然の事態に真桜は慌て始めた。


「ほら、逃げないで……」
「あ、ちょ……待ち……あ、あかん……」


腰から背中に手を回して真桜の体が少し浮く位に抱き寄せる。真桜は爪先立になりながらも俺にしがみついた。


「ふ、ふわわ……」
「見たらアカンでー」
「だ、大胆……」
「こ、これが大人のやり方か……」


顔を真っ赤にした大河の目を霞が手で覆い、凪は俺の行動に顔を赤くしている。一刀は俺の動きに感心していた。


「……って言ってやれば良いんだとさ」
「へ……あ……」


俺が真桜から手を離すと真桜は残念そうな声を出す。


「人をからかうなら、それ相応の事は……ってな」
「うぅー……ズルいわ大人って……」


俺にからかわれた事を悟った真桜が俺を睨む。俺はスッと真桜の耳元に顔を寄せる。


「人を呪わば穴二つってな。少しは反省しろ……それとも本当にこれから仮眠も出来ない様にしてやろうか?」
「~~~~~っ!?」


俺が耳元で囁きながら髪を少し撫でてやると言葉の意味を察した真桜は顔を真っ赤にして天幕の中に逃げ込んだ。俺も徹夜明けで少しテンションが変になってるらしい。


「ふ、副長……大河の様に小さな子も居るのですから、もう少し自重を……」
「……そうだな。俺も少し軽率だったかもしれんな」


顔を赤くしたままの凪に咎められる。少しやり過ぎたかな。
しかし、まあ……夜襲ばかり続くと身が持たんな実際。兵士達も疲れが見えるし………何かしらの対策は必要だよな。
なんて思っていたのだが、この日の数日後を境に夜襲の数は少しずつ減っていくのだった。


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第百四十話





涼州に入ってから数日後。日に何度も奇襲を受ける日々が続いていた。いくら魏の精鋭と言っても毎日この調子じゃ身が保ない。因みに先日は奇襲仕掛けてきた部隊にナッパ流の挨拶をしてやった所、大変好評で即座に逃げていった。俺の体はボロボロだったが元からマトモに戦えない状態なので今更である。今回発明した『なんちゃってシルバースキン(攻)』だが、かなり体に悪い。と言うのも瞬発的に気を高めて戦う為に、その気の運用に馴れていない俺の体は着いてこれなかったのだ。結果、体の一部か筋肉痛となっている。
感覚的には『普段、体を動かさないのに久々にバッティングセンターで体を動かして筋肉痛になった』的な感じだ。


「どうにも上手くいかんなぁ……」


俺は痛む体を起こして天幕の外に出た。すると其処には荷物に体を預けて眠る凪が。


「……すぅ……すぅ……」
「凪は生真面目だからな……他の人より気苦労も多いか」


俺は毛布をソッと凪の膝に掛ける。今は少しでも寝ていてくれ。そんな俺の思いを察するかのように一刀や霞も静かに俺と合流。


「ごめんなさーい、遅れました!」
「季衣を起こしてたら遅れたッス!」


いつも元気印の季衣が寝坊とは珍しい。大河も季衣を起こして遅れたか。


「……はっ!?奇襲か!」


チビッ子二人の声に目を覚ました凪。まだ寝ぼけてるな。


「はぁぁぁぁぁぁっ!」
「ちょっ!?こんな所で気弾を撃とうとするな!?」


寝ぼけてる凪は気を放ち、そのまま気弾を撃とうとしている。一刀の声も届いていない様だ。


「はぁ!」
「あうっ!?」


その直後、霞の手刀が凪の意識を刈り取った。お見事。


「た、助かったよ霞」
「こんな所で気弾撃たれてたまるかいな」


やれやれ……こんなんで、今回の遠征大丈夫なんだろうか。俺はそんな事を思いながら煙管に火を灯した。
そして、そんな俺の思いとは裏腹に大将から涼州の街へ行くようにと指示を受けた。街で行うのは工作員の補給物資の引き渡しや情報交換。こんな街にまで魏の工作員を仕込むとは……なんて思っていたら工作員をしていたのは張三姉妹だった。
表向きは張三姉妹のライブだが、三姉妹や付き人達が街で諜報活動や物資の確保など色々してくれていたらしい。ぶっちゃけ人和がメインでやっていたんだろたうけど。
そして三姉妹のライブを行う事で涼州の兵士達の奇襲の数を減らした。黄巾の乱の原動力となったものは侮れないな。


「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


傍目に見ても盛り上がりすぎだろ。どんだけ娯楽に餓えてたんだか……。


「味方の陣地でやれば士気上がるんじゃないかな?」
「ふむ……良い案ですね。検討しましょう」


一刀の呟きに稟がマジな答えを返していた。
俺は舞台で踊り歌う三姉妹を見つめた。大将達を招いたライブでは良くない行動を起こしたもんだが、こうしてみると本当にトップアイドルって感じだよな。


「俺もプロデューサーとして色々考えるか……」
「あ、それ良いですね。天和達も純一さんのアイディアの服とか着たがってましたよ」


俺の発言に一刀が三姉妹が俺の意見を求めてると教えてくれる。ふむ……なら考えてみるか。


「天和は衣装を変えてEMOTIONとか歌って欲しいな」
「ミーアですか……俺はラクス派なんですが」


俺の案に一刀は不満そうだ。別に俺もミーア派と言う訳じゃないんだがな。


「天和はラクスっぽくないだろ。それに想像してみろ……天和がミーア・キャンベルの衣装を着ている所を」
「ぐっ……似合いすぎます」


キャラ的に天和はラクスよりもミーアっぽい。スタイルとかも、かなり近いのでは?


「一刀殿も純一殿も何か邪な事を考えませんか?」
「ソ、ソンナ事ナイヨー」
「これも立派な仕事の話だぞ稟」


ジト目で禀に睨まれ一刀は片言で否定した。ショートするまで興奮するなよ一刀。
それに一刀はマネージャーで俺はプロデューサーなんだ。うん、仕事の話には違いない筈。
取り敢えず今回の遠征が終わったら服屋の親父と相談だな。



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第百四十一話




涼州の兵士達の奇襲率を落としてから俺達は馬騰の構える城へと向かっていた。途中で馬超や馬岱とも戦う事になった。
大将は馬騰と対峙する事を楽しみにしてたのか出てきたのが馬超で残念そうにしていた。
へぇ……あれが馬超か、可愛いな。なんて思っていたら腹部に鋭い痛みが走った。


「ふぐっ!?」
「何、鼻の下伸ばしてるのよ」


桂花の肘が俺の腹にめり込んでいた。いや、ちょっと見とれてただけじゃん…….
この後、舌戦で馬超を負かした大将が面白くなさそうに戻ってきた。なんで負かしたのに不満そうなんだか。


「麗羽よりも弱かったわ」


袁紹よりも舌戦が弱いって……かなり致命的だよなぁ。なんて思う間もなく戦が始まる。相手は当然のごとく騎馬主体の部隊だったが大将の発案で真桜率いる工兵隊が地面を掘り水を流して泥濘に変えた。こうする事で騎馬の機動力を完全に奪った。
馬超や馬岱が騎馬から降りて戦いを挑んできたが霞や春蘭達に任せて大将や俺達は城へと向かった。


「あ、待て!」
「あーばよ、とっつぁーん」


馬超達が後を追おうとしたけど俺はこの手のお決まりの台詞を残して城を目指した。


「何なの、『とっつぁん』っんて?」
「世界的に有名な犯罪者を捕まえる人の事」


大将の疑問に俺は煙管を吸いながら答えた。
そして俺達は馬騰の城へと到着。当然の事ながら護衛の兵達も居たが秋蘭や華雄も同行していたので相手をしてもらう事に。いつもの事ながら俺も一刀も何もしてないな。


「馬騰を探しなさい!抵抗しない城の者は傷つけては駄目よ」
「了解」


城の中へ入ると大将からの指示を受けて俺や兵達は馬騰を探す。と言うか……馬騰を探し当てたとしても俺なんかじゃ返り討ちの確率が高い。とは言っても探さない訳にはいかんが。


「ま、部屋の一つ一つを見ていくしか……あ?」


俺が気まぐれに部屋を開けたら寝台に体を半分起こしている女性にその周囲に数人の侍女が居る。


「ま、まさか……もう来るとはな」
「あー……もしかして、馬騰さん?」


なんでこう……妙な所で当たりを引くかな俺も。馬騰は馬超の髪をセミロングにした感じで少し痩せていた。


「去りな……私は曹操に膝を折る気はない」
「取り敢えず話を聞いてもらえませんかね?」


ハッキリ言って怖ぇーよ。この人の一睨みでこっちは萎縮しちまったってのに。眼光だけで人を殺せそうだよ。


「ん……お前もしかして噂の天の御使いか?」
「そりゃ俺じゃねーよ。もう一人の方だ」


大将の所に居る男で武将みたいなのは俺か一刀くらいだからな。そりゃ勘違いされるか。


「そうか……なら、お前が種馬兄か」
「涼州にまで来て、その名で呼ばれるとは思わなかったなぁ……」


……もしかして大陸全土に噂が広まったんじゃなかろうな。


「ふ……くくっ……まさか最後に天の御使いの片割れに会えるとはね……」
「ん……ちょっと待った最後って……」


馬騰の言葉に違和感を感じた俺が歩み寄ろうとした瞬間。馬騰が血を吐いた。


「なっ!?」
「私は曹操に屈しない……地獄まで逃げ切ってやるよ」


驚いている俺を尻目に馬騰は笑みを浮かべた。まさか死ぬ気か!?


「おい、アンタ!?」
「毒さ……私はもう戦えそうにないんでね。さっき飲ませてもらったよ」


毒っ!?なんでこんなにアッサリと死のうとすんだよ!?


「馬鹿か!」
「アンタ……気の使い手か?無駄だよ毒を飲んだのはアンタが来る前だ。もうとっくに体に回ってる……」


俺は自身の気を馬騰に送り込もうとするが効果が薄そうだ。くそっ!もっと医療気功の事を学んどくべきだった。


「何を……悔しそうにしてるんだい?私は……敵だぞ」
「敵だろうが味方だろうが……人の死は嫌だ……」


今まで散々戦いの中で人の死を見てきたが嫌なものは嫌だ。甘いと言われても構わない。人の死に慣れる事はいけない事だと思うから。


「参ったね……最後の最後でアンタみたいのに会っちまうとは……アンタ、名前は?」
「秋月純一……字と真名は無い」


馬騰は震える手で俺の手を掴んだ。なんとなく察してしまう。この人はもう……


「そうかい……覚えとくよ。それと最後に頼みたい……アタシの娘に……遺言を……」


俺は馬騰の言葉に無言で頷く。俺は自然と握る手に力を込めた。


「アンタはアンタの道を……行き……な……」


その言葉を最後に馬騰の手からスッと力が抜けた。それと同時に大将が部屋に入ってきた。


「純一?……馬騰!?」


その光景に大将は目を見開いた。俺は馬騰さんの手を離すとソッと布団の上に乗せてから離れる。


「馬騰さんは毒を飲んで自害した。『私は曹操に屈しない……地獄まで逃げ切ってやるよ』だとよ」
「そう……他には?」


大将は毅然とした態度をしているが、その肩は震えていた。


「俺の名を教えて……馬超宛の遺言を託された」
「そう……下がりなさい。他の誰もこの部屋に入る事を禁ずるわ」


大将の言葉に頷いた俺は部屋を出た。途中で一刀とすれ違ったから部屋に入らない方が良いと伝えてから俺は城の城壁へ向かった。


「………線香の代わりがこんなんで悪いけど」


俺は煙草に火を灯して城壁の上に立てる。煙が空に向かって登って行くのを見届け、俺は手を合わせた。


「さよなら……馬騰さん」


最後にほんの少ししか話さなかったけど……良い人だと感じた。
俺は空に向かって登り消えていく煙に目を伏せて馬騰さんに別れを告げた。

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第百四十二話



◆◇side詠◆◇


「秋月の様子が変?」
「……うむ」


涼州の遠征から帰ってきた華雄から、そんな話を聞いた。華琳の話では秋月は馬騰の最後を看取ったのだと言う。そして、その後から秋月の様子が変だったらしい。何処か上の空でボーッとする時間が増えていたらしい。
確かにここ数日、心此処にあらずって感じだったわね。


「アイツが能天気なのは、いつもの事だけど今回は様子が変ね……」
「ああ……桂花が話しても効果が薄かったからな。重症だ」


確かに重症だわ。でも桂花が話しても反応が薄いんじゃ僕が行っても……


「頼むぞ詠……桂花に次いで秋月の信頼を勝ち取ってるのは……お前だ」
「……華雄」


華雄は僕と肩をポンと叩くと行ってしまう。秋月の信頼を得ていると聞いて僕は頬がニヤけてしまったが、秋月の性格から皆を信頼しているのでは?と思ってしまう。


「先ずは……秋月に会わなきゃね」


僕は秋月を探しに行く事にした。城の中に居るなら自分の部屋か桂花の居る部屋か……言ってて少しイラッと来たけど探してみよう。そして部屋に居ないとなれば……彼処ね。










僕の予想通り秋月は部屋には居なかった。そして部屋に居ない場合、高確率で城壁に居る。そこで煙管を吸う事が多いから。
そして僕の予想通り秋月は城壁の所にいた。煙管を吸いながらボーッと空を眺めてる。華雄から聞いてたけど、本当に腑抜けになったみたい。
僕は秋月の隣に立つけど秋月はチラッと此方を見たけど直ぐに視線を空に戻した。


「………何か言いなさいよ」
「鳥が飛ぶ、ご覧のとーり……ごふっ!?」


口を開いたかと思えばくだらない冗談が聞こえたので思わず秋月の腹に拳を叩き込んでしまった。まったく……本当に腑抜けてるわね。普段とは違った意味で。華雄達が心配するのも無理無いわね。


「本当にどうしたのよ?」
「………俺がしてきたのって……何なんだろうなって思ってな」


僕の言葉に秋月は立ち上がると再び、煙管を咥える。


「ここ最近、技の開発やら装備を充実させてただろ?技は兎も角、装備の方は割りと順調だった。涼州での戦いも有利に進められる事が多かったし」


秋月の話を聞く限りじゃ問題はない。寧ろ、順調な方だと思う。


「で、な……俺は馬騰さんに会って……」
「そこまでは聞いたわ」


秋月が城の中をさ迷って偶然、馬騰の居た部屋を引き当てたと。


「いい人だったよ。大将とは違った意味で器が大きかった」
「そうね……僕も馬騰とは何度も会ってるけど将として恥じない人物よ」


秋月はそう言いながら自分の掌を見詰めた。その瞳はいつもの物ではなく悲しさや自分の力の無さを咎めている……そんな風に見えた。


「でも。馬騰さんは死を選び……俺は助ける事が出来なかった」


秋月はそう言って拳を握る。そして再び開いた時には手の中に気弾が生まれていた。


「馬騰さんの手から力が抜けた時……俺は自分の力の無さを恨んだよ。俺の手の中からスルッと命が落ちちまった」
「……秋月」


僕は……秋月が言いたい事がなんとなくわかった気がした。今、秋月は……泣きそうになっている。


「この国に来てから俺は『気』の力を得た。役職を貰って色んな人を助けた……けど俺は……」
「もう……いいわよ」


言葉を繋ごうとした秋月の手を握った。秋月は馬騰を救えなかった事を悔やんでいる。秋月は無理無茶を平然とする。失敗しても笑ってる。それは周囲を笑わせる為だ。だから皆はそんな秋月を見て、どんな時でも卑屈にならずに次を目指していけた。
そんな秋月が今回は目の前の死に耐えきれなくなっていた。秋月も戦場に出るから死を間近に見るのは初めてではない。でも……馬騰の時は、ほんの少しでも触れてしまった人の心に
秋月の心が揺らいだ。


「アンタは優しすぎるのよ……そんなんじゃ潰れるわよ」


劉備と考えが近い何て言われてる秋月だけど劉備と決定的に違う所がある。それはこの覚悟だろう。
劉備は『平和にしたい』と言っているが蜀に張り込ませている間者の話では劉備は軍備を関羽や張飛に丸投げしていて、政治も孔明に任せきりだと聞く。自身で動いて戦い悔やむ秋月とは違う。秋月は自分で動いた上で悩んで平和を望んでいる。
僕は秋月の手の感触を確かめる。掌には月の自害を止めた時の傷がまだ残っていた。


「でも……アンタは力の無さを嘆くけど僕や月はこの手に救われた。華雄も恋もねねも斗詩もそうよ」


僕は秋月の手が好きだった。戦っている者の手にしてはいつも安らぎを与えてくれる様な手が。


「だから……自分に力が無いなんて言わないで。僕達を助けた事を……嘆くような事も」
「………詠」


僕は秋月の手を握り額に押し付ける。


「力が無いと言うなら強くなってよ……いつもみたいに……笑ってよ……」
「……詠」


僕は気が付いたら涙を流していた。馬騰の事で傷付いていた秋月を慰める筈だったのに僕は泣きたいのに泣けない秋月を見ているのが辛くて泣いてしまった。


「そっか……んじゃいつもみたいに」
「え……ひゃあ!?」


一瞬、暗い声を出したかと思ったら、いつもの声に戻った秋月は僕の胸を揉み始めた。なんで!?


「あ、詠……胸が大きくなった?」
「アンタが揉むからでしょ。最近、お気に入りの下着が着れなくなって困って……じゃないわよ!!」
「おぶっ!?」


僕の胸を揉み続ける秋月の顎に狙って平手打ちを放つ。パーンと良い音が鳴ると同時に秋月が倒れた。


「なんで、いつもみたいにって言ってから胸を揉むのよ!?」
「痛ぁ……いや、いつものパターンだと俺か一刀がセクハラした疑いで殴られる事が多いから……でも、気合い入ったよ」


そう言って立ち上がった秋月の頬には僕が付けた紅葉が綺麗に出来ていた。そして、その瞳は先程までと違っていつもの秋月の瞳だった。


「ありがとな詠」
「紅葉付けた状態で格好付けられても絞まらないわよ」


秋月はいつもの笑みを浮かべていたが頬に紅葉が付いたままじゃ冗談にしか見えない。
でも、先程まで沈んでいた表情からいつもの秋月に戻っていた。


「まだ思う所はあるけど……馬騰さんの頼まれ事もあるし頑張らなきゃだな」


馬騰からの頼まれ事が何なのか気になったけど……秋月が元気になったなら良いか。僕は空を見上げる秋月を見ながらそんな事を思っていた。


















◆◇おまけ◆◇



「先を越されたわね、桂花」
「私は気にしてませんから」


そんな二人のやり取りを見ていた華琳と桂花が居たとかなんとか。

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第百四十三話




詠のお陰で気力を取り戻した俺は張り切って修行に専念……出来たら良かったのだが、ここ数日ボーッとしていた為に書類が溜まっていた。大将からは「今回の事は馬騰の事もあったから見逃したけど……次は無いわよ」と言われた。しっかり見抜かれてたな。


「やれやれ……骨休みをする事もままならんな」


サボってた俺が言えた義理じゃないか。山と積まれた書類に一枚一枚に目を通していく。


「役満姉妹衣装案……マジか」


確かに考えるとは言ったけど普通に書類に混ざってるとは……人和辺りだな、こんなやり方するのは。


「ま、ある程度は考えてるし……ガンダムかマクロスで行くか」


どうせなら面白可笑しくしてやろう。前にも思ったが天和ってミーアが似合いそうだし。


「人和はランカ辺りか……地和はどーすっかな」


考えれば考える程に面白くなっていきそうだ。特に三姉妹はノリノリでやってくれそうだからな。


「ま、この件は後だな。他には……」


大半の書類は警備隊絡み物なのだが一部は違ったりする。先程の役満姉妹の衣装案が良い例だ。城内の厄介事を解決する役もしてる……なぜ俺にお鉢が回ってきたのかは謎だが。そんなこんなで書類を処理しているけど終わりが見えない。


「ん……真桜の奴また発明を部屋でやってやがるな」


苦情の類いの書類も混じってるし。やれやれ気晴らしも含めて殴りに