ダンジョンに天パ侍がいるのは間違っているのだろうか (TouA(とーあ))
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if ダンジョンに銀さん以外のキャラがいるのは間違っているだろうか
if ダンジョンに破壊神がいるのは間違っているだろうか



リハビリがてら書いたifルートです。本編とはまっっったくこれっっっぽっっちも関係ありません。

銀さんもいません。その代わり破壊神がいます。

あ、破壊神はビルスの方じゃないよ?セルの方だからね?

まぁ息抜き程度にどうぞ。シリアス兼1話完結型です。





 

 

《迷宮都市 オラリオ》

 

 この世界で唯一の『ダンジョン』と通称される地下迷宮を保有する、否、迷宮の上に築き上げられたこの街に、夢を持って足を踏み入れる人間は多い。

 地位や名誉の獲得を夢見る者、一攫千金を夢見る者、運命の出会いを夢見る者、その姿は人によって様々だ。

 それぞれがそれぞれの大望をもって神の家族(ファミリア)となり、冒険者となる。

 

 そのオラリオの中心部では【ギルド】と呼ばれるものがある。

 ギルドとは、迷宮(ダンジョン)を管理し、それに潜る冒険者に出来るだけ()()()()()()に諸知識や様々な情報を提供、公開しており、冒険者の探索のサポートを全般に行っている。加えて冒険者が持ち帰った魔石やドロップアイテムを買い取ったり、オラリオに住む一般市民の意見も聞いたりしているので、実質オラリオの都市の管理している組織と言っても過言ではないのだ。

 

 そのギルドのトップを張っているのは【ウラノス】というこの地上に初めて【神の恩恵(ファルナ)】をもたらした男神である。

 ウラノスは余計な諍いを防ぐ為にギルドの職員達には()()()()()()()()()、【神の恩恵(ファルナ)】を刻んではいない。付け加えると表舞台にも姿を現す事も無い。

 

 故にギルドの最高権力者は“ロイマン・マルディール”という齢150を超えている男のエルフとなっている。

 ロイマンは高貴なエルフであるにも関わらず、1世紀以上居座っているそのポジションのお陰で連日連夜豪遊し尽くし、その下腹はたぷんたぷんと揺れている。醜く太ったその姿のせいでオラリオ中のエルフから“厚顔無恥”と忌み嫌われている。プライドが人一倍高いエルフという種族だからこそ、というのもあるが。

 

 ()()()の最高権力者はロイマンであることは変わりない。

 先に述べた様にギルドはオラリオ全体の管理、即ち治安保持も担っている。治安保持とは言ってもギルドの私警がいるわけでは無く、ギルドに登録しているファミリアがギルドの司令のもと警備に駆り出されるのである。【ガネーシャ・ファミリア】という私警に似たものもあるが、それは個人で動いでいるだけである。

 

 この場合、ギルドの最高権力者であるロイマンが指示を下すのかと思えばそんな事はない。寧ろロイマンはそういう暴力沙汰は不得手である。無論、ウラノスでもない。

 

 では誰がひと癖ふた癖ある冒険者をまとめ、総括するのか。

 結論から言おう────“破壊神”である。

 何を以って其の男が破壊神と呼ばれ出したのか。理由は至極単純であり、其の男が出動すれば敵はおろか其の建物さえも()()()()()()()()()()()()

 

 今宵は久方振りのギルドとトップのファミリアの会合。

 何が起こるか、誰もが分からなかった。ただこれだけは言える────地獄のひとときが始まったのだと。

 

 

 

 

 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 

 

 

「定刻になりましたので定例会を始めたいと思います。司会進行は私、エイナ・チュールが務めさせて頂きます。宜しくお願いします」

 

「うん、有り難う。【ロキ・ファミリア】団長の“フィン・ディムナ”だ。宜しく頼むよ」

 

「【ガネーシャ・ファミリア】団長の“シャクティ・ヴァグマ”だ。五月蝿い主神が来たいとほざいていたが連れて来なくて正解だったようだ。宜しく頼む」

 

「【フレイヤ・ファミリア】は欠席ですか……」

 

 

 団長の二人とエイナは一人の男へと顔を向けた。

 大体、オラリオのトップファミリアの団長が顔を合わせる事が異質で異常であるのだ。だがこの三人は判っていた。()()()()()()()()()()()()()()()ということを。

 男は三人の視線に気付くと口を開いた。声音は周りのピリッとした空気に似つかわしくない素っ頓狂で明るい声だった。

 

 

「みんんなしてェオジさん見てどうしたんだいィ?オジさんそんなに見られたるァ恥ずかしいんだけどォ」

 

「松平公、僕達の自己紹介は終わったのでしていただけるなら…と」

 

 

 ギルドの【破壊神】────本名“松平片栗虎”。

 まるで暗殺屋の様なグラサンにピリッと着こなしている黒が基調の背広に漆黒のコート、煙草。どこからどう見ても悪人ヅラで、取り締まるより取り締まられる方である。

 

 

「ぬぁんだって?あー自己紹介ね自己紹介。その前によォフィン、お前さんの後ろに居るあんちゃん初顔なんだが、誰なんだでぃ?」

 

「ぼっ僕ッスか!?」

 

「お(めェ)さんしか居ないだろあんちゃん。3秒以内に自己紹介しないとドタマぶち抜く……はぁい(イ〜〜チ)

 

 

────バンッ!!バンッ!!

 

 

「2と3はッ!?」

 

「知らねェなそんな数字。男は1だけ覚えときゃ生きていけるんだよォ」

 

「まぁまぁ松平公落ち着いて。彼は僕の後釜にするつもりである“ツッコミ役(ラウル・ノールド)”です。経験を積ませる為に連れて来ました。僕共々宜しくお願いします」

 

「なんでィそういう事か。せっかくむさ苦しいロイマン(お と こ)からエイナ(かわい子)ちゃんに変えたっつうのに男が増えてたからホストクラブにでも迷い混んだのかと思っちまったじゃねェか」

 

((あ、それで今日はロイマンじゃないのか))

 

 

 フィンとシャクティはほぼ同時にそう思った。今までの進行はロイマンが行っていたからである。こういう身勝手なところも松平片栗虎を松平片栗虎たらしめる所以である。

 

 

「ゴホンッ!そろそろ進めても宜しいでしょうか?」

 

「お〜ゴメンねェ、エイナちゃん。今度ご飯奢ってあげるかるァ、それで許してくんない?」

 

「結構です。進めますね」

 

(お偉いさんなのに受付嬢に拒否られてショボンってしてるっス!何なのこの人!?ホントにギルドの【破壊神】なの!?)

 

 

 ラウルは聞いた噂とは全く違う松平の小さな背中に驚いていた。そしてそれに動じた様子も無く、寧ろいつも通りで良かったと、先程よりも緊張が和らいでいる団長らに驚いた。

 

 

「えぇっと……“闇派閥(イヴィルス)”の残党がオラリオの中に潜んでいる可能性があります。以前の松平公の指揮による掃討戦、最後の【疾風】の活躍により九割が片付き、残り一割がオラリオ外へ逃げたというのが今迄の報告だったのですが……」

 

「ここからはこの一連を調べ直した私が話します。私達【ガネーシャ・ファミリア】は一週間程前に起きたある事件…【金品、及び下着の強奪事件】を調べました。すると【 闇派閥(イヴィルス)】が使っていた手口と殆ど同じ、いえそれ以上に狡猾に綿密に犯罪が行われていました」

 

「目的は……手口が同じことから推測するに復讐、かな」

 

「えぇ恐らく」

 

 

 頭の回転が早い団長達の会話にラウルは付いていけない。

 それは松平とエイナにも言えることではあったが。いや松平は聞いているかどうかも怪しい。

 そう思ったラウルは松平に質問を投げかけてみた。

 

 

「松平公はどう思うッスか?」

 

「あぁん? パンツに付いたウ○コが何だってェ?」

 

「一言も言っとらんわ!!話ちゃんと聞いて下さいッス!」

 

「いやラウル、松平公の仰る通りだよ」

 

「え?だ、団長?」

 

「ほら【闇派閥(イヴィルス)】の残党だと決定付ける証拠の写真だよ」

 

 

 フィンから手渡された証拠の写真には『ウ○コのついたパンツ(+ハエ)』が写っていた。

 

 

「ホントにウ○コ付いてたァァァァ!!……でも何でこれが証拠になるんスか?」

 

「【闇派閥(イヴィルス)】の頭は私達、【ガネーシャ・ファミリア】や【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】の第一級冒険者達が()った。頭を失った【闇派閥(イヴィルス)】の下級構成員達は蜘蛛の子の様に散り散りに逃げ回っていたのだが一定の集団を作り上げるとダイダロス通りの建物に立て篭ったのだよ」

 

「そ、其れでどうなったんスか……?」

 

「今も調査中なのだが、ダイダロス通りの建物には私達が知り得ていない()()()()があったらしくね。成り立ての冒険者を捕まえては人質にして立て篭ったのだ。だから手を出せずに困っていた……だがそこで誰もが思い付かない様な指揮を下し、人質を救出したのが松平公だ」

 

 

 シャクティの言葉の裏には尊敬の念が滲み出ていた。フィンもシャクティの言葉に頷いている。ただエイナだけが苦い顔をしていたが。

 ラウルはシャクティの続きの言葉を待った。

 

 

「松平公はまず【闇派閥(イヴィルス)】の連中が要求する食事に全てに“下剤”を盛った」

 

「…ん?」

 

「次にその建物の水道管を破壊。トイレを使えなくしたのだ」

 

「……ん?」

 

「最後は独断で単身で突入。とんでも奇襲に連中は壊滅」

 

「………ん?」

 

「その建物に残ったのは『ウ○コのついたパンツ』だけだった」

 

「ウ○コもらしただけじゃねェかァァァァ!!それをわざわざ御丁寧に今回の犯罪の証拠にしたの!?残党馬鹿ばっか!!馬鹿ばっかッスよ!!」

 

「勿論、ウ○コの臭いが残らない様にオジさんはちゃんとその建物を塵一つ残さず消してあげました。テメェのケツも拭けねェ野郎にはなりたくなかったからなァ」

 

「ウ○コだけにってか!?上手くないんスよ!破天荒にも程があるわ!!」

 

 

 きちんと調べる前に松平が塵一つ残さずその建物を消してしまってせいで、死亡確認が取れなかったのも事実なのだが。その建物以外にいた残党は【疾風】が処理した。

 フィンとシャクティは恐らく数人は今も尚見つける事が出来ていない地下通路で逃げたのだと睨んだ。それ以外に考えようがない。

 

 

「それで今回の対策なんだけど────」

 

「会議中失礼します!緊急事態です!!」

 

「ど、どうしたのミィシャ?」

 

「【 闇派閥(イヴィルス)】です!【闇派閥(イヴィルス)】の残党がオラリオ全ての()()()()()()()を占領したとの報告が!!」

 

「く、クリーニング屋?」

 

「あと『松平を出せ!』と叫んでるとのことです!」

 

 

 唐突な出来事にラウルとエイナは混乱した。

 だがそれでも静かに厳然と佇む大物が三人。眼光は先程よりも数倍鋭利だ。

 

 

「フィン、シャクティ」

 

「「はい」」

 

「俺ァ俺を呼んでる奴のとこに行く。テメェらは団員連れて他のクリーニング屋に急げェ……久方振りの大仕事だァァ!テメェら死ぬ気でやるェェェェやァァァアアア!!」

 

 

 

 

 

 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 

 

 

『ラウル、君は松平公に付いて行くといい』

 

 

 フィンの、上司の言葉でラウルは【破壊神】に付いていくことになった。

 ハッキリ言って面倒事を押し付けられた気しかしないラウルはあからさまに不機嫌な顔をしている。嫌な予感しかしないのだ。

 

 

「オォォイ!松平ァァァアアア!!」

 

 

 占領されている、オラリオで一番大きなクリーニング屋に着いたところを見るやいなや【闇派閥(イヴィルス)】の残党はクリーニング屋の屋上から松平に向けて怒声を放った。

 

 

「…」

 

「聞いてんのかコラあ゛ぁ゛ん゛!?」

 

「…」

 

「無視かゴラァあ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!?」

 

 

 松平は残党の言葉に返事をくれず、ただひたすらにその占領されたクリーニング屋を見ていた。その瞳はその先のことを見据えている様に思える。

 

 

「テメェる゛ァァァァ!」

 

「…な、何だコノヤロー!!」

 

 

「ウ○コ行って良い?」

 

 

「「先に行っとけやァァァァ!!」」

 

 

 残党だけでなくラウルまでツッコんだ。

 松平は少しだけもぞもぞしている。かなり限界が来ているのだろう。ラウルは分かりたくないところを分かってしまった。

 

 

「テメェらが前フリもなくテロ起こしてっからウ○コ行きそびれたんだよ馬鹿ヤルォォォォイァ!!」

 

「前フリしてテロ起こすバカがどこに居るんだあ゛ぁ゛ん゛!?」

 

(うん、残党が正しい)

 

 

 冷静に心の中でツッコむラウル。松平の言葉は全く筋が通っていなかった。勢いだけで押し込んでいる様なイメージである。

 残党は声を大にして今まで心の奥底で燻っていた想いを松平にぶつけた。

 

 

「大体なぁ!!テメェが先の籠城戦の時に俺達が要求した食料の中に超強力な下剤を盛り込んだ事が今回の発端だって分かってんのかあ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!?」

 

「あ゛ぁ゛?」

 

「テメェの下剤のせいで暫くトイレに閉じこもりっ放しだった俺達はケツ穴の締まりがユルユルになったんだよ!!少し力んだだけでプリっとウ○コが出ちまうんだよ!!分かってんのかゴラあ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!?」

 

(もういっそ哀れッス……)

 

「だからテメェらクリーニング屋占領してんのか。クソつけたパンツを洗ってもらう為に」

 

 

 松平はしみじみと呟く。

 ラウルは残党のことを思うと少しだけ目頭が熱くなった。

 

 

「松平ァ!これが何だか分かるか!?」

 

 

 残党がポケットから取り出した物は女性用のパンツだった。大人びたものではなく少し愛らしさが残ったパンツだ。

 

 

「テメェの娘のパンツだ!!ヒャッハー!!さっきウ○コもらした仲間にわ履かせるぞゴルァ!!」

 

「知らねェな」

 

「はぁ!?テメェの娘のパンツだろうが!!洗濯物とかで見るだろうが!!」

 

「だから知らねェつってんだよ。栗子のパンツは俺のと別々に洗えって家政婦にも言いつけてある。思春期の娘を持つお父さん舐めんじゃねェェェェェエエ!」

 

(金銭と下着を盗んでいるのは……ア○ルが緩いからなんスね)

 

 

 ラウルの目尻から雫がひと粒流れ落ちた。前が見えない。どうしてなのかラウル自身も分かっていなかった。

 松平の重い覇気にたじろぐ【闇派閥(イヴィルス)】の残党。何か言い返そうと口を開くが、言葉に出す前に松平がバズーカを向け、鋭くも温かい眼光で射抜いていた。

 

 

 

「良いかァァァァ!父親の役目なんざたかが知れてらァ!ガキなんて(かかあ)さえいりゃ立派に育つんだよ!親父は家に金を入れれば後は用無し、何の役にも立ちゃしねェんだァ!」

 

 

 

「やれる事と言えばいい事したときゃめいっぱい褒めてやること、悪い事したときゃしっかり叱ってやること……それ位だァ」

 

 

 

「その拳骨こそがオラリオの【破壊神】、てめーらオラリオ(ク ソ)共のクソ親父たる俺の役目だァァァァ!」

 

 

 

「「「あ…あぁ……あぁ……!」」」

 

 

 

「てめーらに3秒猶予を与えてやらァ、オラリオの明日の為に生きるか、オラリオの明日の為に死ぬか、どっちか選べィやァァァ!!」

 

 

 

「はぁい(い〜〜ち)……」

 

 

 

「お、俺達はッ!!」

 

 

 

 

 

─────ドォォォォオオン!!

 

 

 

 

「2と3はァァァァァァ!?」

 

 

「知らねェなそんな数字。男は1だけ覚えときゃ生きていけるんだよォ…… 」

 

 

 

 そう吐き捨てると松平は帰るべき場所へ足を向けた。

 ラウルはその光景を見て唖然としつつも、松平のことを改めて破天荒で型破りで【破壊神】であることを認識した。

 

 

─────ラウルが見た居るべき場所へ帰る男の偉大な背中が伝えるものは。

 

 

─────もっこりしたズボンを支えながら、煙草の匂いを漂わせたその巨大な背中が伝えるものは。

 

 

 

─────天下のクソ親父の威厳、それだけだった。

 

 

 

 






紛れもないシリアスでした。


私はとっつぁんが好きです。銀魂の人気投票はとっつぁんと銀さんに入れてます、大体ですが。


お蔵入りにしてた一話でしたが、楽しんで頂けたのなら嬉しいです。


こんな調子で一話完結型で銀魂のキャラをダンまちの世界にぶち込んだ一話をこれからも時折届けたらと思います。

このキャラのやつが見たいってものがあるなら感想欄にて。

では次は本編で会いましょう!感想や評価をお待ちしてます


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ダンジョンに天然パーマが二人居るのは間違っているだろうか【コラボ】


前回や少し前に言ったように『チキン革命』さんとコラボ小説です。

『ロキ・ファミリアの団長は胃潰瘍になりそうなようです』
https://syosetu.org/novel/114793/

この一話はifなので本編とは全く関係ありません。
ですが、とても気持ち良く書けて、ボリューミーな一話になりました。笑っていただけると嬉しいな、と。


ではどうぞ!!





 

 

 僕の名前はフィン・ディムナ。

 オラリオという都市で最強と名高い【ロキ・ファミリア】の団長を務めており、良くも悪くも暇しない毎日を過ごしている。

 

 僕達のファミリアは知名度さながら実力がある故に“オラリオ”という都市の一種の顔となっている。無論、それに沿うように態度や振る舞いが求められることは必然で、オラリオ(この都市)で最も自由な職業である“冒険者”だから、という言い訳は【ロキ・ファミリア】に所属している以上、通用しないのだ。

 

 だがしかし────。

 どの高名高尚なファミリアとて汚点はあるもので。

 このファミリアには汚点…というよりはウ○コみたいな奴が二人所属している。ウサギのウ○コぐらいなら可愛いものだが、ゾウのウ○コまでなると巨大過ぎて周囲に多大な迷惑を掛けるわけで。

 

 

 一人は【白夜叉】と呼ばれる銀髪天パの(主人公)

 一人は【自由(フリーダム)】と呼ばれる赤髪天パの阿呆(主人公)

 

 僕は暇しない毎日を過ごすと同時に頭を抱える…いや、腹を抱える毎日を過ごしているのだ。

 

 

 つまり、僕はストレスのあまり胃潰瘍になりかけなのである。

 

 

 毎日毎日スッキリしない毎日を……いや別に便秘な訳ではないのだけれど、胃の痛い毎日を過ごしている。薬や治療のファミリアである【ディアンケヒト・ファミリア】から胃薬を貰うのは日課であり、団長の“アミッド”からは可哀想な視線を送られる毎日だ。

 

 

 この話は僕が迷惑千万の彼等にちょっとした復讐をする、そんな物語。

 では僕のプチ復讐譚を御観覧あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕刻《【ロキ・ファミリア】in『黄昏の館』》

 

 

「あ〜〜疲れた疲れた」

 

 

 カレーライスの器をお盆に乗せ、ぶつくさ呟く男が一人。

 赤眼・赤髪天パで名を────“スザク”という。線も細く、白蝋(はくろう)めいた肌を持っているため、パット見では男性か女性か見分けがつかない。

 時刻は夕刻、夕飯時である。スザクは食堂の空いたスペースを探し、練り歩く。

 

 

「銀さん、隣いい?」

 

「ん」

 

 

 メープルシロップの掛かったトンカツを頬張る男の隣に座るスザク。

 銀さんと呼ばれた男────“サカタ銀時”は銀髪天パに死んだ魚の眼をしている。スザクとは違い一発で男だとわかる風貌をしている。

 二人が共通しているのは天然パーマである事と、この目の上(ファミリア)()()()()であること。味覚がズレていること、すけこましであること…挙げると枚挙に(いとま)がない。

 全ての食材に感謝を込めて、いただきます。なんて何処かで聞いたことのある口上を述べた上でスザクはカレーライスを口に運ぶ。

 

 

「トンカツにメープルシロップって…本当に糖尿病になるよ、銀さん」

 

「トンカツにメープルシロップはハンバーガーにピクルス、カレーライスに紅生姜、ムスカにバルスと同じくらい運命共同体なんだよ一蓮托生なんだよ。それにカレーライスに“カルーアミルク”飲む奴に言われたかねェよ」

 

「うっせ。まぁ、俺の献立で糖分調整するからいいけどよ。少しは自分で気をつけろよな」

 

「へェへェ」

 

 

 この二人の関係は銀時が一応の先輩でスザクが少し後に入った後輩である。とはいえ殆ど同期の為、大変仲が良い。それはもう周りに迷惑が流星群並みに降り掛かるレベルで。

 加えると、銀時は【Lv.6】に対して、スザクは【Lv.2】。力量差こそ歴然だが地頭はスザクに軍配が上がる。何せ、団長であるフィンに匹敵するほどだからだ。

 

 

「そういやァスザク、ガレスに呼ばれてたな?何やらかしたんだ」

 

「やらかした前提かよ。まぁアレだ、酔った勢いで壊した木製の椅子を一から作ってたんだよ。フィンの命令でガレス(おっさん)に教えてもらいながらな。(のこぎり)で木をゴリゴリ切って組み立てて(ヤスリ)掛けて…マジで疲れた」

 

「………そりゃあご苦労なこった」

 

「何その間?銀さんは?」

 

「俺ァ別に。いつものお店に期間限定パフェ(最終日)を食べに行って…っておい!」

 

 

 パフェという単語を出した瞬間、スザクは銀時の皿を取り上げた。

 

 

「糖分の過剰摂取!今日はダメだ!ラップに包んで明日食べろ!」

 

「そんなもん美味しさ半減するだろうが!今食べなけりゃいつ食べんだよ!俺は甘いもんに関しては真っ直ぐなの!ストレートファイターなの!!」

 

「頭に波動拳でも貰ったか!もう直ぐ三十路のくせしてワガママばかりいいやがって!」

 

「いいだろ別に!糖分はなァ…取れば取るほど天に上る程の幸せな気持ちになんの!俺の人生で一番の楽しみなの!天に向かって昇龍拳なの!」

 

「そのままおっ()んでも知らねぇかんな!腹壊すぞ!」

 

「んだとこちとら糖分切ら………ッッ!!」

 

 

 ガタンッッ、と立ち上がった銀時は一目散に駆けていった。

 あまりの一瞬の出来事にスザクや他の団員は目を丸くする。『本当に腹壊してたの…』というスザクの呟きがかなりの範囲に届くレベルで、沈黙がその場を支配した。

 

 

「ほれ見たこと………ッッ!!」

 

 

 食事を再開しようとしたスザクもガタンッ、と立ち上がり一目散に駆けていった。

 その異様な光景にぽかんとする団員たち。ほくそ笑むのはただ一人────団長のフィン・ディムナだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《『黄昏の館』食堂・トイレ》

 

 

「「ぐぉぉぉぉおおおおおおお!!」」

 

 

 ブリブリブリッと不快な音を響かせながら、それに負けず劣らずの苦悶の声を漏らす銀時とスザク。

 ここは食堂近くのトイレ。だが食堂直ぐのトイレではなく、一つ離れた場所にあるトイレだ。何せ食堂直ぐのトイレは『清掃中』の看板が置かれていたからである。

 

 

「はぁはぁ…誰だよ下剤盛った奴ァ」

 

「少なくとも俺と銀さんが互いに互いを盛った訳ではないから…」

 

「そうだな。今日の配膳は確か、アイズとレフィーヤ…後はベートと」

 

「うぉぉぉぉおおおおおお!!」

 

 

 二人の便意が落ち着いた頃、新たに駆け込んで来た男が一人。

 バンッと扉を開け、バンッと閉め、サッと下ろして、ブリュッと出す。銀時らと同じ様に苦悶の声を上げながら一気に出し切った。

 

 

「その声…ベートか?」

 

「あ゛ァ!?」

 

「何だワンワンか」

 

「殺すぞゴラァ!」

 

 

 新たに入って来た男───狼人(ウェアウルフ)の“ベート・ローガ”はカリカリしながら返答する。

 同時に銀時とスザクは下剤を盛った犯人にベートを外した。ベートも被害者(こっち側)だからである。

 

 

「やァ三人共。お腹の調子はどうだい?」

 

「「「フィンッ!?」」」

 

 

 扉で仕切られている為、顔こそ見えないものの、聞こえてくる声で団長の“フィン・ディムナ”と判断した三人。

 いつにも増して声が揚々なフィンは扉越しに三人に話し掛ける。

 

 

「もう気付いているだろうけど、ここのトイレには“紙”が無い。君達には僕の痛みを少し味わって貰おうと思ってね」

 

「んだと!?」

 

「そう喚くなよ銀時ィ。説明している途中じゃないかァ」

 

「くッ…!」

 

「いいかい?僕は今まで君達のケツを拭きまくった。もうそれは数え切れない程にね。君達が奇行を起こす度に関係各所に頭を下げ、憐れみの視線を頭頂部に感じながら悶々と過ごす日々。時には賠償額と家計簿をにらめっこしながら過ごしたよ」

 

「……」

 

「それなのに君達は反省の色は無色透明。僕に胃薬(相棒)が出来るくらい迷惑を掛けたくせになーんの反省もしない。謝罪もない。酒を飲めば直ぐに忘れる」

 

「「……っ」」

 

「待てよフィン!」

 

 

 二人がフィンの言葉に黙っているとベートは憤慨した様にフィンに言葉を投げ掛ける。いや、投げつけるの方が正しいだろうか。

 

 

「何だいベート」

 

「俺は加害者(そっち側)の筈だッ!?コイツらを嵌める為に同盟を結んだはずだろうが!なんで反故にしやがったッ!」

 

「君を味方に引き入れる事は必須だったからね。なんせ嗅覚で下剤が入ってるのを判ってしまう」

 

「だからどうして……!」

 

「連日連夜の『マヨネーズ紛失事件』。アレは君の犯行だろう?ベート」

 

「…」

 

「沈黙は肯定。この二人だけに復讐するつもりだったけれど、君にもお灸を据えなくちゃと思ってね。納得したかい?納得したら、ワンッて鳴きなよ」

 

「…………わん」

 

「よく出来ました。それでもって後の二人は言わなくてもわかるよね?」

 

「………へい」

 

「………はい」

 

「まぁ忘れている可能性があるから挙げてくよ。まずは銀時」

 

 

 ○居酒屋のツケ(【ロキ・ファミリア】名義)

 ○遠征の遅刻

 ○うら若き団員を夜の街に連れ出す

 ○魔石換金のちょろまかし

 ○確定申告の未提出

 

 

「おい確定申告(そ れ)はやめろ。読者や作者(あ っ ち 側)にもダメージが行くからやめろ」

 

「最近の蛮行はこのくらいか。後はスザクと一緒に椅子を作れという命令を出したのに今日逃げたね?それくらいか」

 

「なっ銀さん逃げたのか!だからあの時、間があったのかよ!!」

 

「しゃあねェだろ!期間限定パフェの最終日だったんだから!椅子作りくらい明日にでも出来んだろ!」

 

「はいはいそこまで。じゃあ続いてスザク」

 

 

 ○他ファミリアの女性を泣かせる(※間接的)

 ○遠征での独断専行

 ○クソコラ写真をばら撒く

 ○団員の歯磨き粉に辛子やら山葵やらを入れる

 ○過度なメタ発言

 

 

「因みに歯磨き粉トラップに引っ掛ったのはベートだけだね」

 

「だってベートしか狙ってないもん」

 

「テメェこのド畜生がッ!!」

 

 

 クソコラ写真についてはティオナの写真の顔から下をティオネに変えるという、怒っていいかどうか微妙な線のイタズラだ。

 鼻の効くベートが歯磨き粉トラップに引っ掛ったのは、ベートが食事にニンニクたっぷりラーメンを食べたからに過ぎない。それもまたスザクの策の一つだったのだが。

 

 

「以上の事から君達には『自分のケツは自分で拭く(物理)ことを学ぼう』という復讐に至った訳だ。君達は波動拳を放つリュウでもなく、昇龍拳を繰り出すリュウでもない。()()()()()()だ」

 

「「「上手いこと言ってんじゃねェ!!」」」

 

「最初にトイレから出て来た者を許す事にするよ。ただし、()()()()()()()()()()()()。僕も少しだけ、あくまで少しだけ罪悪感があるからね。トイレの前には“清掃中”の看板を置いておくから外部からの助けは無いと思ってくれていい。ここのトイレは一番使われていないトイレだしね」

 

 

 食堂は『黄昏の館』内部では少し外れたところにある。

 銀時ら三人が使っているトイレは食堂からはほど近いものの、【ロキ・ファミリア】の団員たちが使うトイレは自室に近いところだ。つまり、ここのトイレは全くと言っていいほど人が来ない。それらも含めてフィンの策略だった。

 

 

「ケツを拭くという事がどれだけ困難かを味わうといいよ。じゃあ健闘を祈ってる。フフフ…ハッハッハッハッハッハ!!!」

 

 

 高らかに笑いながらフィンはトイレを後にする。

 三人は暫しポケェと虚空を見上げ、そして脳をフル回転させこのトイレからの脱出を試みる。

 

 ここに、第一次トイレ戦争が勃発する!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは状況確認だ。つってもフィンが言ったことをなぞるだけだが」

 

 

 先頭切って話すのは銀時だ。

 三人は|銀時|スザク|ベート|空室|というように個室トイレに入っている。トイレの扉はスザクの個室の左斜め前だ。

 

 

「ここのトイレは『黄昏の館』の中でも離れの位置、加えて誰か来ても『清掃中』の看板で入って来ない。つまり外部からの援軍は見込めねェってこった。だから、ここはまず協力しねェか」

 

「協力、か…妥当だな」

 

「チッ…しょうがねぇなぁ」

 

 

 銀時、スザク、ベートは協力の体制を敷く。取り敢えず、ではあるが。

 

 

「よし。オメェらの中に紙を持ってる奴はいるか?俺はもってねェ」

 

「持ってない」

 

「もってねェよ」

 

(まぁ持ってても言わねェよな)

 

(誰が敵に塩を送るかよ。持ってないけど)

 

(クソが…何もねェ)

 

 

 お互いに腹の中を探るように会話する。

 それぞれの所持物はこうだ。

 

 銀時…衣類・木刀

 スザク…衣類

 ベート…衣類・自分の体毛

 

 ここで仕掛けるのはベートだ。ベートは他の面々とは違い、何も持っていない事を分かっている為、行動を起こすのが速い。

 

 

「おい腐れ天パ」

 

「「何だとコノヤロー」」

 

「…銀髪の方だ。協力って言うが、何か手はあんのか?」

 

「ねェよ。だが大人三人が集まりゃ何かしらいい案が出んだろ」

 

「銀さん、案つっても俺達ケツにウ○コ付いてるんだぞ?ウ○コ付いた大人に何が出来んだよ」

 

「いいかお前ら。男はどんな時でも自分を卑下するんじゃねェ。こういう時こそ精神を高潔に保つんだ。どんなになっても品性を失っちゃあいけねェ」

 

「いい事言ってるがウ○コ付いてるからな?俺もお前ら天パ二人も」

 

「取り敢えず持ってるもん全部出せ。話はそれからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《inベート》

 

 

「持ってるもん全部出せ。話はそれからだ」

 

(ねェよだから)

 

 

 ベートはあまり着込まない。即ち、何か紙的なものが入っているとしたら一枚だけの上着がスパッツの中だけとなる。既に衣類の中は確認済みだ。

 

 

(ケツを拭かずにダッシュで近くのトイレに駆け込むって手もあるが、扉の前にフィンが居る可能性もある。拭かずに出たらファミリアに広められる可能性があるし……チッ、居るかどうかトイレの芳香剤が邪魔して確認できねェ)

 

 

 自慢の嗅覚もトイレの芳香剤に邪魔されて言う事を聞かない。

 ベートは少しだけ目を閉じて思案する。そして何気なく()()()()()から一枚の写真を取り出した。

 

 

(アイズ…アイツだけにはバレたくねェ。どうすりゃいいんだよ…考えろ考えろ考え………ん?)

 

 

 写真には偶然撮れたアイズの微笑み。

 ベートはそれを見ながら一つの事実に気付いた。手をワナワナ震わせ心の中で絶叫する。

 

 

  (これ“紙”じゃねェかァァァァあああああ!!)

 

 

 外ポケットは確認したが内ポケットは確認を忘れていたという間抜けな事実。だがその“紙”の発見は新たな苦悩の始まりに過ぎなかった。

 

 ベート…衣類・自分の体毛・アイズの写真(New!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《inスザク》

 

 

「持ってるもん全部出せ。話はそれからだ」

 

(無いんだよなぁこれが)

 

 

 スザクは衣類を確認するが内ポケットも外ポケットも何一つとして紙らしきものは見つからなかった。

 だがスザクには最終手段が一つ残っている。スザク唯一の《スキル》である【おもちゃ箱(トゥーンボックス)】だ。

 

 

(よっしゃ…腹に力入れて)

 

 

「オープン」

 

 

 ブリブリブリブリッ!!

 

 

 自身のウ○コと同時に小声でスキルを発動させる。

 スザクの掌の上に小さな魔法陣が発動する。

 このスキルは、その小さな魔法陣の中に好きなものを好きなだけ収納出来るのだ。制約(縛り)として『自分のもの』と『自分が借りているもの』しか収納出来ない。然し、そのルールさえ守れば、質も量も問わずに、好きなだけ収納できる。中身も完全に把握できる上に、少し意識するだけで好きなものを好きなだけ取り出すこともできる。

 

 

(トイレットペーパー…ティッシュ…その他の使えそうな紙類は無し、と………ん?)

 

 

 目に止まったその項目。

 それは先程まで木製の椅子を作る為に使っていた道具。その道具は間違いなく素材は“紙”と言える。

 

 

((ヤスリ)ね……これ“紙”じゃねェかァァァァあああああああ!!!)

 

 スザク…衣類・ヤスリ(New!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《in銀時》

 

「持ってるもんは全部出せ。話はそれからだ」

 

(とは言ったが有ったとしても何も言わねェだろうし、俺も何も持ってねェんだよなぁ…)

 

 

 銀時もほか二人と同様、手当り次第にポケットをまさぐるが何も出てこない。

 木刀こそあるもののこの場、この時には何の意味ももたない。木刀でケツを拭くことなどできる筈もない。

 

 

(あーなんかねェかなぁ………お?)

 

 

 ポケットではなく、着物の袖に突っ込んだ手が紙らしきものに触れると、銀時は音を立てないようにゆっくり取り出した。

 

 

(えーっと“確定申告”と“給与明細”ねぇ。これがフィンが言ってたやつか。トイレを抜け出せたらギルドに出しに………ん?)

 

 

 グシャッとなった“確定申告”と“給与明細”の書類をマジマジと見つめ、銀時は目をひん剥くと同時に、その紙をギュッと握りしめた。

 

 

(これ“紙”じゃねェかァァァァあああああああ!!)

 

 

 銀時…衣服・木刀・確定申告と給与明細の書類(New!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《再び全員》

 

 

「お前ら確認終わったか〜?」

 

「おうよ」

 

「あぁ」

 

「じゃあ恨みっこ無し、せーの!っで言うぞ」

 

「「「せーの!っ」」」

 

「「「無いッ!!」」」

 

(そりゃそうだ)

 

(まぁまず言わないよな)

 

(言わねェよなぁ)

 

 

 三人の思惑が絡み合い、心理戦へと突入する。

 ただでは転ばない三人は脳をフル回転させ、この状況を打破する手段を探す。だがどうしてもこの結論に辿り着くのだ。

 

 

((((これ)どうしよう)))

 

 

 銀時、スザク、ベート。それぞれがそれぞれの紙を持っている。

 しかしその紙を使えば、各々に色々な形でぶり返しがくる。

 

 

(この紙を使えァトイレからは出れる。だがフィンに今までの分を許して貰えたとして、書類(これら)が提出できなけりゃ絞られるに違いねェ……だァァァァ!どうすりゃいい!?)

 

(ヤスリ、ヤスリ…しかも両面…無理じゃね!?こんなので肛門拭いたら血だらけになるわ!!だが違う手もないのも事実……ぐぉぉぉぉ!!)

 

(アイズの写真、これは紛うことなき紙だ。だがこれでケツを拭いてしまえば俺は…!俺は……!帰れなくなる!そんな気がする。所詮、写真だから良いかもとは少し思うが…駄目だ。俺のプライドがそれを許さねェ!うぉぉぉぉおおおおお!!)

 

 

 そんな時、バタンッッ!と。

 まるで希望がそちらから迷い込んで来るかのように、トイレの扉が開いた音がした。

 三人は一斉に思考を止め、その人物が誰かを推測する。

 

 

「おぅ?殆ど使われとるじゃないか。あ、一つは空いておった…」

 

「「「ガレスううううううう!!!」」」

 

「お、おう!?びっくりした…なんじゃいお前ら。仲良く揃って連れションならぬ連れ便か。仲良いのぉ」

 

「違ェんだよ!そうじゃなくて」「おっさんん!それどころじゃねェ」「おいジジイ!!話聞きやがれっ!」

 

「一斉に喋るな。そんでもって大便くらい静かにさせてくれい。トイレはこの館の中じゃあ一番静謐な空間じゃろうが…よいしょっと」

 

「「「おぃいいいいいいい!!!」」」

 

 

 …………。

 

 

「おぅ?紙がないのぉ。お前さんら、誰か持っとらんか」

 

「「「終わったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

「そりゃ快便じゃったが、誰か持っとらんのか?」

 

「「「そっちじゃねェ!!!」」」

 

 

 ただのウ○コで被害者となった“ガレス・ランドロック”。

 今トイレは|銀時|スザク|ベート|ガレス|という状況になった。状況が改善するどころか悪化しているのは言うまでもない。

 一縷の望みであったガレスでさえ、このザマである。酷い言い様かもしれないが、三人からしてみればこの状況、ストレスがマッハに加速中なのだ。非常にカリカリしている。

 

 

「ん〜〜〜おっ紙あったぞい」

 

「「「ホントか!」」」

 

「さっきまで椅子作りに使っておった“紙ヤスリ”」

 

(((紙ヤスリぃぃぃいいいいいい!?!?)))

 

(アホか!肛門が血だらけになるわ!しかし今はその“紙ヤスリ”は保湿成分を配合したローションティッシュの“スコッティ”に見えるぅぅぅ!!)

 

(また“紙ヤスリ”かと思ったが、ガレスのおっさんが持ってる“紙ヤスリ”は片面だけの可能性がある……!欲しい!)

 

(アイズの写真で拭くよりマシだが…“紙ヤスリ”、ヤスリか……だが片面の可能性がある。ここは手に入れねェと……!)

 

 

「おいふざけんなガレス。そんなもんでケツ拭いたら血だらけになんだろうが」

 

 

(銀さんんんん!?何だと、“紙ヤスリ”が要らないとでも言うのか!?)

 

(ふざけんな腐れ銀髪天パ!ヤスリは今じゃ保湿成分を配合したローションティッシュの“スコッティ”に匹敵するだろうがッ!早まっ……いや待て、この言葉は陽動か?裏を読め…奴の裏を……マヨネーズ足りねェから頭回んねェ!)

 

 

「何じゃい銀の字、お前さん要らんのか?この状況で“紙ヤスリ”は保湿成分を配合したローションティッシュの“スコッティ”に匹敵する代物じゃろうが」

 

「おいおいガレス、よく考えろよ。人って……どうして腕が二本あるか知ってるか?」

 

 

((早まるなぁぁぁぁ!!無理に決まってんだろうがぁぁぁぁぁ!!!))

 

 

(待て、銀さんのこの考えは最終の中の最終手段だ。考えておくぐらいなら良いだろう…だがどうして銀さんは“紙ヤスリ”を拒絶する?何か理由があるのか?まさか…紙を持っているのか?いやそれならば当の昔に個室から開放されている筈だ。読め読むのだスザク!………そうか!)

 

(ふぅ…あの銀髪天パの考えなんざ読めねェ。読めねェなら読めねェなりに言葉から推測しろ!今“スコッティ”を拒絶する理由は!?今勝負を長期戦に持ち込ませようとしている理由は!……そうか!)

 

 

((本当は欲している事を俺達に気付かせないため!!))

 

 

(ふっもう読めたよ銀さん。そうやって欲している事を巧妙に隠し、演じきる事でガレスのおっさんから“紙ヤスリ”の興味を削ぎ、そして手に入れる気だね!……ならば!)

 

(そうか…!長期戦と見せ掛けて短期戦に持ち込む気だな?流石だと認めざるを得ねェな…咄嗟の機転や言葉巧みな話術は、地頭はフィンに匹敵するスザク(クソヤロウ)より優れてやがる…!だが判ったからこそ俺は!)

 

 

((言葉に乗っかる!!思い通りにはさせねェ!!))

 

 

「そうだよガレスのおっさん。“紙ヤスリ”なんてこの状況じゃ毛ほども役に立たねェよ。肛門削る前に脳味噌削ってもらったらどうだ?」

 

「ハンッ!ジジイ、遂にボケたか?そんな“紙ヤスリ”より俺の毛皮の方がよっぽど使えるぜ!」

 

「お前らも揃ってなんじゃ!要らんというのか“紙ヤスリ”!!」

 

 

「お前ら言い過ぎだろ?まァ使い道があるかもしれねェから、ちょっと見せてみろよガレス」

 

 

 

((ツ、ツンデレだとぉぉぉおおおおお!?!?!?))

 

 

 

(ここまでが全部、陽動だったんだね。負けた、負けたよ…完敗だ銀さん。俺はまんまと乗せられた訳だ)

 

(最初から最後まで見据えてやがったあの腐れ銀髪天パ……!クソッ、勝ち目なんざもう無ェ………)

 

 

「しょうがないのぉ…ほれ。儂のはあるからな」

 

 

 スッスッスッとトイレの下からガレスの個室から流れてくる“紙ヤスリ”。

 スザクとベートはそれらを見て、心の中で張り叫ぶ。

 

 

((全員分あるんかいぃぃぃぃぃぃ!!))

 

 

(今までのやり取りは何!?ただの銀さんの本音に惑わされてたってこと!?どんだけ打たれ弱いんだあの人!)

 

(考え過ぎたぞクソがッ!もっと冷静に考えれりゃ判ったのに……!)

 

 

 今までの時間の無駄さに頭を抱える二人。

 すると両方向からゾリゾリゾリゾリと何かを削る音が響き、二人はギョッとその音の方向へ顔を向ける。

 

 

「おーこれ、いいなガレス。すげー粗いじゃん。効くわぁ〜」

 

「じゃろう?銀時。偶にはこんなトイレットペーパーでも良かろうて」

 

 

((“紙ヤスリ”でケツを拭いてるぅぅぅうううう!? ))

 

 

(いや、そんなバカな!ガレスのおっさんならまだしも銀さんまで!?でもこの音はそうだよな…てか、おっさんの“紙ヤスリ”も両面じゃねェかぁぁぁぁ!俺のと何も変わんねェ!こうなったら……!)

 

(いやマジで!?ジジイだけじゃなく腐れ銀髪天パも!?無理無理、でもこの音は拭いてるよね!?拭いてるよね!?拭かなきゃならねェ雰囲気になってるよね!?こうしちゃいられねェ……!)

 

 

「【再誕せよ(リバース)】」

 

 

(腐れ赤髪天パのヤロー、魔法使いやがったな!?勝負を仕掛ける気か!?俺は俺は…ヤスリ、アイズ、ヤスリ、アイズ、ヤスリ、アイズ、ヤスリ、アイズ、ヤスリ、アイズ、ヤスリ、アイズ、ヤスリ、アイズ)

 

 

 スザクの魔法【フライハイト・フランメ】。

 ・炎属性。

 ・形状はイメージ依存、ただし変更および更新可能。

 ・規模及び火力は魔力依存。

 ・模倣推奨。

 ・詠唱式【再誕せよ(リバース)

 

 

 つまり自身のコピーや人の模倣を炎で作れるのである。

 この魔法を使えば、他のトイレからトイレットペーパーを取ってくるなり何なり出来ただろう。しかし、フィンの『本人の力でケツを拭け』というルールに抵触する可能性があった。だから使えなかったのである。

 だが四の五を言っている場合では無い。スザクは魔法で自身の分身体を作り出し、その分身体にケツを突き出した。

 

 

「肛門に付いたウ○コだけ燃やせぇぇぇえええええ!!!」

 

「うぉぉおおおおおおお!!!」

 

 

 スザクとベートは喉が張り裂けんばかりに声を上げ、苦難に挑む。そして────。

 

 

 ジャアアアア……………バタンッバタンッッッ!!

 

 

 心地よい水流の音と同時に二つの扉が一斉に開く。

 飛び出したのはスザクとベート。二人は向かい合い一瞥すると、四肢が爆ぜるように動き出した。

 

 

「「うぉぉおおおおおおおおお!!!」」

 

 

 二人が交錯し、立ち位置が入れ替わる。

 二人の目にはトイレのタイルしか写していない。だが、その顔は何かを成し遂げた爽快感に満ちていた。

 

 

「クソッ…俺の負けか」

 

「【Lv.2】のお前が俺に勝てる訳ねェだろ」

 

「フッ…誰か、軟膏を俺の、ケツ…に……」

 

「だがアッパレ、だった…ぜ」

 

 

 ブシュゥゥウウウウウ……!

 

 

 スザクは衣類のケツの部分から煙を上げながら。

 ベートはケツから血を噴射しながら。

 両者はトイレでバタンとうつ伏せで倒れ伏した。その音を聞き届けたのか、ジャアアアアと二つの個室から心地よい水流の音がした。

 

 

「ホントに“紙ヤスリ”でケツ拭きやがったのかこのワンコロ」

 

「スザクはスザクでケツから黒煙立てとるしのぉ…ん?銀時、お前さんケツを“紙ヤスリ”で拭いとらんのか?」

 

「拭くわけねェだろ。あの音は壁を削ってた音だっつうの。え?拭いたの?」

 

「何も無かったし拭いたに決まっとるじゃろ。【Lv.6】の【耐久値】最大の儂の肛門が“紙ヤスリ”なぞに負けるわけなかろう!?ワッハッハッハッ!!」

 

「【豪傑】の二つ名は伊達じゃねェな…確定申告と給与明細の書類で二枚拭きした俺が恥ずかしいや」

 

 

 よっこいせっと二人を担ぐ銀時とガレス。

 こうして第一次トイレ戦争は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうだっただろうか、僕のプチ復讐譚は。

 

 答え合わせのようなものだが、下剤を盛った先はメイプルシロップ・カルーアミルク・昨晩の冷蔵庫にあるマヨネーズだ。

 

 メイプルシロップに関しては言わずもがな、カルーアミルクはスザク専用に作られたもので、それに盛り、マヨネーズはどうせ奪るだろうと(あらかじ)めにマヨネーズに仕込んでおいた。彼ら三人以外は下りリュウに見舞われてはいない。

 

 銀時?あぁ、勿論こってり絞ってやったよ。

 幾つもの冒険者依頼(ク エ ス ト)に行かせて、世のため人のために尽くし、報酬でツケを支払わせた。確定申告をトイレに流した罰もこれに含めてある。

 

 スザクもベートも奇異な行動を差し控えるようになった。

 

 

 三人は『自分のケツの穴は自分で拭く』という行為をきちんとわかってくれたようだ。とてもいい変化だ。これからは胃薬(あいぼう)の出番も少しは減る事だろう。

 

 

 二度とトイレ戦争が起きない事を願う。ではまた。

 

 

【ロキ・ファミリア】団長 フィン・ディムナ

 

 

 

 

 

 

 





ifの話はウ○コばかりだな、と。
食事中の方、申し訳ありません。特にカレーライスの方、申し訳ありません。

責任は全部、フィンが請け負ってくれます。

以後謝辞。
『チキン革命』さん。
コラボするにあたり、かなり時間がかかってしまいました。その分、かなり面白い一話に仕上がりました。本当にありがとう御座います。
この1話ができたのも、ひとえにスザクのキャラの造形深さによるものが大きいです。素直に脱帽です。

私は一からキャラを作っていませんから。本当に。

本当にありがとう御座いました。又の機会があれば、と。
そしてコラボしたい方がいれば、メール下さい。この作品ではなくても。

感想や評価、お待ちしてます。
ではまた本編で!


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第一章 その男、侍につき
プロローグ


ダンまちにハマりました。

投稿速度は遅いです。


《迷宮都市 オラリオ》

 

 この世界で唯一の『ダンジョン』と通称される地下迷宮を保有する、否、迷宮の上に築き上げられたこの街に、夢を持って足を踏み入れる人間は多い。

 

 地位や名誉の獲得を夢見る者、一攫千金を夢見る者、運命の出会いを夢見る者、その姿は人によって様々だ。

 それぞれがそれぞれの大望をもって神の家族(ファミリア)となり、冒険者となる。

 彼等に共通するのは()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 然し────何事にも例外は有るものである。

 

 

 

 

「ふぁ〜〜〜今何時?」

 

 

 或る一室で一人の男が目覚め、ゆっくり体を起こした。

 其の部屋は所謂、『和』というスタイルで作られており、机、椅子に加え、服が入っているであろうタンスは全部木で出来ていた。敷き詰められた畳は香りで部屋を優しく包み込んでいた。

 

 

「10時か。何か忘れてる気がすんなぁ・・・・・・」

 

 

 水色がかった銀髪の天然パーマに死んだ魚のような目。

 黒の上下服の上に雲をイメージさせる波模様が入った白い着物を片方だけ羽織り、黒ブーツを履いている。

 外見からして無気力、脱力感が感じられる男は何も無い宙に向かって呟いた。

 

 

「ガレスのおっさんと飲んでた記憶があるが・・・・・・取り敢えず食堂に行くか」

 

 

 男は腰に“洞爺湖”の銘が入った木刀を差し、部屋を出た。

 部屋の外、“黄昏の館”と呼ばれる其の建物は閑散としており、物音一つしない。

 男はそれを異常自体だと捉える事はなかった。寧ろ腹の虫が鳴いている自身の方が異常事態だと捉えている程だ。

 

 

「うーす・・・あ、あれ?」

 

 

 男が事態に気付いたのは大食堂に入った時だった。

 多少遅れたとは言え、広大な食堂で()()()()()()()居ないのは不自然であり、不気味でもあった。

 

 

「おはよう銀時。朝ごはん、ここにあるで」

 

「うーす。ロキ、ありがとよ」

 

 

 男────銀時は呼ばれた声に釣られるように机の間をぬって歩いた。

 銀時を呼んだ女性────ロキは、糸目に緋色の髪と端麗な顔立ちだが、出るとこは全く出ていないと云う残念極まりない容貌だった。

 だが其の正体は下界に降臨した神である。神力を封印して零能へと身をやつしているが纏う雰囲気と迫力は人とは別種の神威を帯びている。

 

 

「おーこれこれ。やっぱ朝は“宇治銀時丼”じゃなきゃなぁ」

 

「ほんとよく食べるなぁ・・・見てるこっちが胸焼けするわ」

 

 

 銀時の目の前に有るのは“小豆(あずき)”と呼ばれる小豆を茹で、砂糖を加え、甘く味付けした物をホカホカのご飯の上に山盛りに盛った物だ。銀時はこれを“宇治銀時丼”と名付けている。

 ロキは“宇治銀時丼”を食べる銀時に温かい眼差しをそそいでいる。それは子の食事風景を優しく見守る、親のそれだ。

 

 

「ふぅー食った食った。御馳走さん」

 

「銀時、フィンから手紙預かっとるで」

 

「フィンから?・・・嫌な予感が────」

 

 

 銀時はロキから手紙を預かり、その場で開いた。手紙には随分な達筆でこう記されていた。

 

 

 + + + +

 

 銀時、先にダンジョンへ向かうよ。

 

 僕らが18階層(セーフティポイント)に着くまでに合流しなければ遠征後の宴のお代と損失した武器やポーションの代金は全部君持ちだ。

 

 明日は遠征だと言うのに潰れるまで飲む君には良い薬だろう。

 

 ではまたダンジョンで。

 

 

 ロキ・ファミリア団長 フィン・ディムナ

 

 + + + +

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 銀時の背に嫌な汗がつたう。何度読み返そうが手紙の内容は変わる事はなく、銀時に現実を叩きつけていた。驚愕に頬を引きつらせる銀時とは打って変わり、目の前にいるロキ(主神)は銀時の表情を見てニタニタしている。

 

 

「やっちまったァァァァァ!!!!」

 

 

 自業自得による慟哭に誰も答える者はいない。

 銀時は頭を抱え、体をくねらせるが、ロキはやれやれ顔で笑みを浮かべるだけだ。

 苦悶に身を悶えていた銀時はピタッと動きを止めて呟いた。

 

 

「いっそのことサボるか・・・」

 

 

 清々しいほどダメ人間である。

 ロキはそんな銀時を見ても苦笑を漏らすだけだ。仕方ないなぁこの子は、の一言に尽きている。

 だがロキ・ファミリアにとって銀時が居るのと居ないのとでは天と地ほど差があるのも事実であった。

 

 

「銀時」

 

「んぁ?」

 

「他の団員はそうでも無かったけど、()()は結構トサカに来とったで」

 

「なん・・・・・・だと・・・・・・」

 

 

 ロキの言うママとはこのファミリアの副団長である。

 銀時にとって逆らい難い人物であり、女性でありながら、男性にも女性にも尊敬され、神でさえもその美貌を羨ましがる程の人物である。

 

 

「あーもう判りました。行くよ、行きますよ、行けばいいんだろもう」

 

「気を付けてな~子供たちのこと頼んだで、銀時」

 

 

 銀時はやおらに立ち上がり、大食堂の扉に向かって歩き出した。

 銀時はロキの言葉を返すことは無かった。ただ、片手を上げて、応えた。ロキはそれだけで十分だった。

 

 

 オラリオの街を一人の侍が疾走した。

 

 

 




どうも初めまして。

銀さん大好き。ダンまち大好き。リューさん大好き。

補足として、酔いつぶれたため、銀さんは何時もの服装で布団の中に入りました。ダンジョンに行く前にきちんと着替えてます。はい。

もしよければ感想と評価ください。モチベーションが上がります。

次回はロキファミリアの皆との関係性だったり、危機だったり。

ちなみに、Lv.6です。ステータスは次回。

※編集して字下げを行いました。


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ロキ・ファミリア

私の想像した三倍はお気に入りや嬉しい感想が来たのでモチベーションが上がりました。

ではどうぞ。


《ダンジョン 18階層》

 

 

「ハァハァ・・・よし、着いたな。」

 

 

 ダンジョン18階層。

 それはダンジョンの中でも冒険者が初めて訪れる安全階層(セーフティーポイント)であり、とりわけこの階層は別名『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』とも呼ばれるほどの美しい地形が広がっている。

 

 

「さて・・・と。フィンたちはどこだ?」

 

 

 銀時はダンジョンを疾走し、ここ18階層にまで辿り着いていた。

 周囲を見渡し、ロキ・ファミリアの遠征組が居ない事を確認すると或る目的地に向かって歩き出した。

 銀時が目指した場所は『リヴィラの街』と呼ばれる冒険者が経営している街である。

 街には武器屋や道具屋以外にも魔石等を換金する買取どころも存在する。同時に物価がかなり高いが。

 

 

「お!旦那じゃないですか!安くしときますよ!」

 

「旦那!いい酒入りましたよ!」

 

「旦那!ポーションどうですかい!」

 

「「「旦那!!」」」

 

「うっせぇ!!ならず者ども!!破産するわ!!」

 

 

 リヴィラの街の冒険者兼商人にとって銀時はイイカモであった。

 酒で酔わせ、ノリと勢いで物品を買わせ、ロキ・ファミリアにツケるのだ。勿論、酔った銀時は何も覚えておらず、団員に絞られることは珍しくない。

 同時にリヴィラの街の人達にとって銀時は気軽に話せる良き友であった。Lv.という冒険者にとっての隔絶とした差の中で、全くと言っていいほど感じさせない銀時の無気力でだらしない性格と金に汚く、図々しい一面を誰一人として嫌う者など居なかった。

 

 

「お?ボールスじゃねえか」

 

「あぁん?なんだ腐れ天パ」

 

 

 銀時が声をかけたのは緊急時に街全体を取り仕切る立場にある【Lv.3】のボールスだった。

 事実上、街の大頭(トップ)のボールスは声をかけてきた銀時に怪訝な表情を見せる。酒癖の悪い銀時はボールスに迷惑を掛けることが多いのだ。

 

 

「ロキ・ファミリアの野営地を知らねェか?」

 

「何か知りたいなら()()()()()()()に従え」

 

「はぁ〜。上層で手に入れた魔石全部だ」

 

「・・・南端の森林だ」

 

「結局、いつもんトコか。あんがとよ」

 

「フンッ」

 

 

 銀時が回りくどいことをしているのには理由がある。

 ロキ・ファミリアの副団長に会わないようにする為である。正確にはその副団長に会わずにこっそり遠征組に合流する為である。

 

 名は《リヴェリア・リヨス・アールヴ》【Lv.6】

 

 彼女は王族(ハイエルフ)であり、迫力はさながら性格面からロキ・ファミリアの母の様な存在である。

 勿論、副団長だけあって名実ともに実力は折り紙付きだ。二つ名は《九魔姫(ナインヘル)》。

 いい加減な性格である銀時も彼女の意見主張には反抗できない。というより恐怖が刻み込まれている。

 

 銀時は野営地にこっそり近づいてた。

 木々に隠れながら野営地に近付き、せっせと働いていた或る青年に声をかけた。

 

 

「ラウルーラウルー」

 

「ん?・・・あ!銀さん!」

 

「バカヤロウ!声が大きい!」

 

「すみませんっす!」

 

 

 ラウル・ノールド【Lv.4】

 性格は真面目だがどこか貧乏籤を引かされてしまうなど、気苦労が絶えない青年だ。団長であるフィンからも中層でのパーティの指揮を任されるほどの信頼を得ている。

 だからといって目立った容姿や業績はなく、ついた二つ名は《超凡男(ハイ・ノービス)》。

 

 ラウルは人目をはばかって、銀時に近づいて行った。

 二人は木陰に隠れ、口を開いた。

 

 

「皆の様子はど、どうだ?」

 

「リヴェリアさん、カンカンっすよ。ただでさえ近寄り難いのにもっとヤバイっスよ」

 

「oh、ジーザス・・・・・・」

 

「ジーザス?と、とにかく、早く合流して謝らないと」

 

 

 神が話す言語を銀時は使うがラウルは判らない。

 状況を見てラウルは合流するのが吉だと思い、立ち上がった。だが、銀時はラウルの袖を引っ張り、もう一度座らせた。

 

 

「何いってんだラウル」

 

「へ?だって合流しないと・・・」

 

「バカヤロウ!合流したら怒られんだろうが!」

 

「自業自得でしょうが!今になって何言ってんスか!」

 

「ハンッ。考えてみろラウル。この状況、どう考えてもお前が俺を庇っているようにしか見えない。最初に俺を見つけた時点でフィンに報告しなかったお前は俺と同罪だぜ?一蓮托生、運命共同体だ」

 

「外道!あんた外道だよ!!最初から巻き込むつもりだったスね!」

 

「ガーハッハッハ!!」

 

 

 銀時の高笑いとラウルの慟哭が森林に響く。

 銀時は暫くしてラウルにある策を提案した。

 

 

「まぁそう言うなラウル。タダとは言わねぇ」

 

「・・・・・・何スか?」

 

「遠征から戻ったら女紹介してやるよ」

 

「まままままマジっスか!」

 

「リヴェリアから雷を落とされるのとお前に女を紹介するのを秤にかけると圧倒的にお前だからなぁ」

 

「若しかしてあんな事やこんな事をし放題ッスか?」

 

「おう。勿論だ」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「「グヘヘヘへへへへ」」

 

 

 合意した二人は互いに手を握りあった。加えて気持ちの悪い笑みを浮かべ、頭の中はピンクに染まりきった。

 妄想に囚われた二人は背後から近づく人物に気付かなかった。

 

 

「何やら楽しそうな話をしているな?私も混ぜてはくれないか?」

 

「駄目だ駄目だ。これは男と男の話なんだよ。女が入り込む隙なんざねぇよ。そして男と男の約束は時に命よりも重い」

 

「そうッスよそうッスよ!俺たちは────あ」

 

「大体なぁ女は男の秘密を知りたがり過ぎなんだよ。お前達にも秘密がたくさんあるだろうに。というか秘密しかねぇだろうが。化粧の下とか、服の下の秘境とか」

 

「銀さん銀さん」

 

「なんだよラウル。俺は今熱くなってんの。不平不満が爆発してんの」

 

「後ろ後ろ。後ろっス」

 

「だからなんだよ。これだから女は・・・・・・・・・リヴェリアさん?」

 

「これだから女は・・・続く言葉は何かな?銀時」

 

 

 二人の背後にいたのは件のリヴェリアだった。

 リヴェリアは頭に青筋を浮かべ、満面の笑みを二人に向けている。しかし、目は全く笑っていなかった。

 銀時とラウルの顔が真っ青になり、体がガタガタ震え始める。

 

 

「えぇっと・・・・・・これだから女は秘密を着飾って美しくなると言いますか、なんといいますか・・・」

 

「ふむ。銀時、言い残したことはあるか?」

 

「ま、待ってくれ!ラウルも同罪だろ!」

 

「あんたホント最低ッスね!!男の約束はどこにいったんスか!!」

 

「バカヤロウ!!そんなの()()の前じゃ無価値なんだよ!男の約束より自分の命だ!ポーションより糖分だ!!」

 

「誰がママだ」

 

「ぶへらッ!!」

 

 

 リヴェリアの杖術による横殴りを頬にもらい、銀時は数メートル吹き飛んだ。

 ラウルは開いた口が塞がらず、ただピクリと動かない銀時を眺めていた。

 

 

「ラウル」

 

「ひゃい!」

 

「銀時をフィンの元まで連れていけ」

 

「りょ、了解ッス!」

 

 

 

 

✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 

「こ、ここは・・・・・・」

 

「目が覚めたかい?銀時」

 

 

 目覚めると天幕の中だった。銀時はゆっくりと体を起こして声が聞こえてきた方向へ体を向けた。

 そこには幼い姿をしながらも、声には威厳と風格を感じられ、物腰や佇まいはリヴェリアに勝るとも劣らない。

 

 団長 《フィン・ディムナ》【Lv.6】

 

 指揮官として優秀でありながら戦闘能力も非常に高い。

 付け加えるのならファミリアの最初の入団者でもあり、オラリオの女性冒険者の中でも一位二位を争う人気者だ。二つ名は《勇者(ブレイバー)》。

 

 

「お灸を据えようと思っていたけれど・・・その様子だとリヴェリアにキツイのをもらったようだね」

 

「反省してます・・・」

 

「ならいい。宴のお代だけ出してもらう事にするよ」

 

「フィンさまァ〜♡」

 

 

 損失した武器とポーションの代金をチャラにしてくれたフィンに銀時は感謝の眼差しを向ける。

 まぁ本当はフィンの少しばかりの同情があったのだが銀時は知る由もない。

 

 

「それにしても強烈なモノをもらったのぉ銀の字。まぁ愛のムチだと思えばいいじゃろう」

 

「どこに愛があるんだよ。ムチよりも飴をくれ。飴を。俺ァ甘党なんだよ」

 

 

 銀時に声をかけたのは巨漢のドワーフだった。

 

 《ガレス・ランドロック》【Lv.6】

 

 豪胆な性格に加え、オラリオにおいて一位二位を争う力と耐久の持ち主である。ロキ・ファミリアの最古参の一人である。二つ名は《重傑(エルガルム)》。

 ちなみに、昨夜銀時と飲んでいたのもこのドワーフだ。

 

 

「そういえば銀時。アイズに会ったかい?」

 

「いや、会ってねぇが・・・どうかしたのか?」

 

「アイズも少しムスッとしていたからね。リヴェリアほどじゃないけど」

 

「・・・・・・・・・・・・マジで?」

 

「マジだよ」

 

「マジじゃ」

 

「はぁ・・・ちょっくら行ってくるわ」

 

 

 銀時は手を振りながら天幕を出た。

 残ったフィンとガレスはお互いに顔を合わせ苦笑した。普段は怠惰そのモノだが人一倍責任感が強いのが銀時という男だった。

 

 

 

 

✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 

「アイズ」

 

「銀ちゃん・・・・・・」

 

 

 銀時の声に振り返った少女は蒼色の軽装に身を包み、肌はきめ細かいと同時に瑞々しい。繊細な顔立ちは遠目から見てもわかるほど整っている。透いた輝きを宿す瞳は髪の色と同じ金色だ。

 

 《アイズ・ヴァレンシュタイン》【Lv.5】

 

 オラリオ最強の女剣士と名高い彼女は休憩中の今でも素振りを一人で行っていた。小さな努力から積み重ねていき、一級冒険者となった彼女の二つ名は《剣姫》。

 

 

「今は休憩中だろ?体、休めとけって」

 

「・・・・・・いつきたの?」

 

「あー少し前だ。悪いな心配かけて。誰も起こしに来てくれないから寝過ぎちまったよ」

 

「起こしに行ったのに起きなかった」

 

「あん?何だって?」

 

「別に。銀ちゃん、少し付き合って」

 

 

 アイズは腰を落とした。

 瞬間、アイズは疾風となって銀時に殺到する。

 

 

「やっぱりこうなるか・・・」

 

 

 銀時は“洞爺湖”と彫られた木刀を抜刀し、アイズと相対した。

 アイズが放つ一閃を銀時はこともなげに弾いた。アイズは止まる事を知らず、地面ギリギリを滑空する様に突き進む。

 袈裟斬り、逆袈裟、刺突。閃光といっても過言でない剣閃の嵐が銀時を襲う。

 銀時は木刀を剣閃に合わせる様に振るう。アイズの斬撃全てを最低限の力でいなす。

 アイズは斬り上げ、横薙ぎの様に側面や下方からの剣閃を織り交ぜる。自分の持ちうる戦技を駆使し銀時に殺到する。

 だが其れらを銀時は()()()()()()、全て弾き、斬り払った。

 

────────其処には。

 

 自分の技が研鑽されていくこと、自身の器が今昇華している事に確信を覚え、笑みを浮かべる《剣姫》と。

 

 羽虫を払うが如く繰り出される技を相殺し、全てを無に返す《夜叉》の姿があった。

 

 

(しめ)ェだ」

 

「────ッ」

 

 

 銀時の渾身の斬り上げにアイズは愛刀“デスペレート”を弾き飛ばされた。“デスペレート”は宙で二、三度回転し近くの地面に突き刺さった。

 アイズは衝撃に震える手を抑えながら銀時に問いかけた。

 

 

「どうしたらそんなに強くなれるの?」

 

「俺ァ強くなろうとしたんじゃねぇ。護りてぇもんを護る為に強く在ろうとした。ただ・・・そんだけだ」

 

 

 銀時は木刀を腰に携え、歩き始めた。

 アイズは慌てて突き刺さった愛刀を取りに行き、銀時の横に並ぶ様に走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《坂田 銀時》 【Lv.6】

 

 二つ名《白夜叉》

 

 

【 力 】:S 902

【耐久】:C 648

【器用】:B 762

【敏捷】:A 866

【魔力】:I 0

【狩人】:C

【拳打】:B

【魔防】:C

【剣士】:A

【寸断】:A

 

 

 《魔法》

 

 

 

 《スキル》

 

最後の侍(ラストサムライ)

 

 ・【魔力】を0にし発動。

 ・持ちうる全ての武器に【不壊属性(デュランダル)】等を付与。

 ・【魔力】以外のアビリティを高補正。

 

武士道(マモルベキモノ)

 

 ・護るべきモノが存在する限り発動。

 ・状況に応じてアビリティ補正。最大ニ段階の引き上げ。

 

【夜叉】

 

 ・瀕死時発動。

 ・────────────。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。お気に入り登録や感想とても嬉しいです。

補足。
フィンたちは銀さんが18階層に来ていた事を知っていました。理由はツンデレ狼の嗅覚です。



疑問なんですが・・・皆さん、実写化どう思います?

感想、評価お待ちしてます。ではまた次回。


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冒険者依頼

高評価、お気に入り有難うございます。

いつのまにかお気に入りが300を超え、感想がたくさん届き、嬉しい限りです。

遅れましたがどうぞ。


《50階層》

 

 

 「暇だなァ〜」

 

 「そうか」

 

 

 銀時はリヴェリアと共に50階層に待機していた。50階層は18階層と同じく安全階層(セーフィーポイント)である。

 他の主要メンバーは冒険者依頼(クエスト)により51階層の『カドモスの泉』に向かっていた。

 

 冒険者依頼(クエスト)

 読んで字の如く、冒険者に対しての依頼、その総称のことを指す。

 特殊な材料を必要としている生産系の【ファミリア】やオラリオの商人、迷宮都市を運営しているギルドなどダンジョンでしか取れない素材を求める人々が依頼主であり、その依頼を受注した冒険者は依頼を達成しその見返りとして報酬を得るのだ。

 そして今回のクエストは、銀時たち【ロキ・ファミリア】が懇意にしている医療系のファミリアである【ディアンケヒト・ファミリア】からのものだ。内容は51階層に存在する『カドモスの泉』から要求されたかなりの量の泉水を採取してくるというものである。

 

 ダンジョンでも珍しい51階層は迷路のような形をとっており、小回りが利く少数精鋭が望ましい。よって同時に二か所の『カドモスの泉』から泉水を取るために二つのパーティーが組まれた。・・・なのだが。

 

 

 「一班のメンバーどうにかならなかったのあれ」

 

 「私に言うな。正直不安だがティオネが引っ張ってくれるはずだ。私達はここで彼らの帰りを待とう」

 

 「はいよ」

 

 

 各班の割り振りはこうなっている。

 

 一班にはティオナ、ティオネ、アイズ、レフィーヤ。

 二班にはフィン、ガレス、ベート、ラウル。

 

 一班のレフィーヤと二班のラウルを除けば第一級冒険者だ。

 オラリオ最高位の魔導士であるリヴェリアは50階層(ここまで)来るのに長文詠唱の魔法を使い精神力を大幅に消費したので回復させるために留守を任された。

 何故か分からないが銀時も残された。

 

 

 「暇だなぁ」

 

 「ならば誰かと代わってもらえば良かったではないか。一班に混ざれば刺激的な時間を送れたはずだろう?」

 

 「刺激的とかいうレベルじゃすまねェよ。命幾つあっても足りねェわ」

 

「問題ないだろう。既に死んだ魚の様な目をしているではないか」

 

「誰が死んだ魚の目だ!」

 

 

 銀時とリヴェリアが口喧嘩をしている光景は【ロキ・ファミリア】にとって珍しくはない。付け加えるならば銀時がリヴェリアに叱られている姿を見るのも珍しくはない。

 

 

 「なんだあれ!!」

 

 

 二人は団員の声で我に返った。

 団員が指さす方向を見てみると傾斜面の岩璧・・・つまり50階層と51階層の大穴から()()がよじ登って来ていた。

 

 

 「芋虫?見たことあるか?銀時」

 

 「ねぇよ。新種だろうな・・・てか多ッ!!」

 

 

 よじ登って来ていたのは全身の色を黄緑色に包み、膨れ上がった緑の表皮にはところどころ濃密な極彩色が刻まれていた。見るからに毒々しい。無数の短い多脚からなる下半身は芋虫の形状に似ていた。

 芋虫型の新種は視認するだけで十はいた。徐々にキャンプのある一枚岩に近づいてくる。

 

 

 「総員戦闘体制!キャンプを守れ!弓を扱える者は前線に!盾も忘れるな!」

 

 「「「はい!」」」

 

 「銀時は矢から零れた新種を斬れ!持ち場から離れる事は許さん!」

 

 「了解。さァてやりますかね」

 

 

 新種のモンスター達は多脚を使い、一枚岩に張り付いてよじ登って来た。

 前線に居る団員はモンスターを限界まで引き付け、矢を放つ。大したダメージはないが体勢が崩れ、何匹か巻き込み下へと落ちていく。

 

 

 「うわっ!!」

 

 「どうした!・・・・・・・・・おいおいマジかよ」

 

 

 悲鳴を上げた団員の元へ銀時が向かうと、団員の装備していた盾が溶けていた。銀時はそれをみて目を見開いた。

 

 

 「リヴェリア!奴らは腐食液を使う!下に落ちたモンスターを見てみれば矢も溶けてやがる!」

 

 「武器破壊か!面倒な・・・・・・」

 

 

 リヴェリアの新たな指示により、ギリギリまで引き付けるのではなく安全面を考慮して防衛に徹した。

 だが間違いなくジリ貧であることは誰の目にも明らかだった。

 銀時も矢から零れたモンスターと相対していた。腐食液を避けつつ、モンスターの多脚を斬り、体制が崩れたところを崖から落とすことに専念した。腹などを斬れば体内から腐食液が飛び散る事が分かっていたからだ。

 

 

 「リヴェリアさん!矢が残り少ないです!!」

 

 「構わん!放て!!」

 

 

 モンスターによる腐食液を盾で防いで捨てるの繰り返しも限界を迎える。次の一手を探さなくては全滅することは目に見えていた。

 

 

 「てめぇら!ここにある木を使え!!」

 

 

 団員が振り向くと銀時が()()()()()()()()()()()()()()()()が木の山を作っていた。矢がなくなっても一時しのぎにはなる量はあった。

 

 矢がなくなると団員は銀時が運んできた木をモンスターに向かって投擲し始めた。

 

 

(あれ・・・これ木というより角材?)

 

 

 投擲した団員たちがそう思い始めたのも無理はない。銀時が運んで来たのは森で切ったような木ではなく、大小違いはあるが綺麗に整えられた角材だった。

 どこかで持った事のある感触と重量が団員たちに違和感を覚えさせたが目の前に蔓延るモンスターから注意を削ぐ事は出来ない。

 

 

 「助かったぞ銀時!その木はどこから持ってきたのだ?」

 

 「ん?ちょっと離れたところにまとめて置いてあったから丁度いいやと思ってよ」

 

 

 銀時が指し示した場所をリヴェリアは目で追った。そこはキャンプのすぐ隣だった。

 

 

 「あれはテントを立てる時に必要な角材だ馬鹿者ッ!!!」

 

(何やってんだアンタァァァァ!!)

 

 

 団員の意見が一致した瞬間であった。

 銀時はそうなの?という疑問を顔全体に浮かべている。新たにモンスターを突き落とすと指揮を取るリヴェリアに向かって大声で声をかけた。

 

 

 「まァまァそう言うなよ。物を惜しんで死んだら意味ねェだろ?」

 

 「ママじゃないリヴェリアだ!」

 

 「ンなこと言ってねぇよ!耳クソ詰まってんの!?」

 

 

 戦場でもいつもと変わらない二人の声を聞いて団員たちは気が引き締まる。駄目なふたりを見ると自分がしっかりしなくては、と思うのだ。

 

 

────疾風。

 

 

 芋虫型のモンスターの大群を横殴りする様に一つの銀閃が走る。

 団員からどよめきの声が広がるが、直ぐに収まった。そして爆発的に士気が上がる。

 

 

 「ようやくか・・・最後だ!気を抜かず持ち堪えろ!!」

 

 

 銀閃を走らせるアイズは次々とモンスターを屠り、灰へと変えていく。遅れて、ベートやティオナやティオネが駆け付け、遠方からはレフィーヤの魔法が飛来する。

 

 

 そして────轟き、折り重なる詠唱。

 

 

 「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け】」

 

 

 戦場を一望出来る岩場に、エルフの団員を中心とした魔道士達が一斉砲撃の準備をする。

 

 

 「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪(ふぶ)け、三度の厳冬────我が名はアールヴ】!」

 

 

 先頭に立つリヴェリアの詠唱完成を皮切りに、魔道士たちが続々と魔法の行使過程を終える。複数の魔法円 (マジックサークル)が展開される中、魔力の連なりが『今すぐ退避しろ』とばかりに下で戦うアイズたちへ警鐘を鳴らした。

 蜘蛛の子を散らす様に、第一級冒険者たちがモンスターとの戦闘を切り上げて離脱する。

 

 

 「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 

 氷、炎、雷。多種の攻撃魔法が雨あられとなって大地へ着弾する。

 体液を撒き散らし、モンスターたちが粉々に砕け散り、あるいは燃えて感電していく。無数の爆発が連鎖し、魔法の残滓が周囲を舞った。

 

 

 「あらかた片付いたか・・・」

 

 「お疲れさん」

 

 

 全魔力を注ぎ足元がふらつくリヴェリアに銀時は()()()()()。断じて柔らかい感触を楽しむ為ではない。

 勝利と脅威が立ち去ったことにより空気が弛緩し、全員の空気が和らぎ始めた。

 

 

 「────!?」

 

 

 突如、50階層に音が轟いた。

 木をいっぺんにへし折る、遠方から轟く破砕音が。

【ロキ・ファミリア】の誰もがその方角を振り向き、武器を再装備し臨戦態勢に纏い直した。

 

 どれほど待ったか。

 

 大した時間はもしかするとかかっていないのかもしれない。だが長く感じた。

 油断なく音源の方角を見つめていた銀時たちの視界にそれは現れた。

 

 

 「あれも下から来たってか?」

 

 「51階層は迷路の筈だが・・・・・・」

 

 「ぶっ壊してきたんだろうよ。よっぽど俺達に会いたかったらしい」

 

 「冗談にしては笑えないな・・・」

 

 

 およそ6(メドル)あるその巨体に全員が驚愕に顔を引きつらせた。いや、大きさだけではない。その姿形も異形だったのだ。

 先ほどのモンスターと同じく芋虫を連想させる下半身は変わらない。ただ、小山のように盛り上がっていた上半身は滑らかな線を描き、人の上体を示していたのだ。

 扇に似た厚みのない扁平上の腕には二対四枚で、後頭部からは何本も垂れ下がる管の様な器官がある。

 濃厚な色彩が及ぶ顔面部分には鼻も目も口もないが、線の細さから女性のものを連想させた。が、大きく盛り上がった腹部が女性的な要素を全て台無しにしていた。

 

 

 「あの腹、何溜めてんの?幸せ?」

 

 「私達を天へと還す絶望だろうな」

 

 

 あの腹の途轍もない量の腐食液がまき散ればどれだけの被害を周囲に及ぼすが想像に難くない。

 下で戦っていたフィンの決断は早かった。それは遠征組の団員の命を守る責任があるからだった。

 

 

 「総員、撤退。速やかにキャンプを破棄し、最小限の荷物を持ってこの場から離脱する」

 

 「おい、フィン!逃げんのかよ!」

 

 「あのモンスターをほっとくの!?」

 

 

 フィンの意見にベートやティオナが噛み付く。第一級冒険者としての矜恃が、何より【ロキ・ファミリア】としての責任と誇りが、眼前のモンスターを野放しにすることを許さなかった。

 

 

 「僕も大いに不本意だ。でも()()()()()()()()()()()()、かつ被害を最小限に抑えるにはこれしかない。月並みの言葉で悪いけどね」

 

 

 フィンは表情を消して、金髪金眼の少女に向き直った。

 

 

 「アイズ、君が討て。十分に距離をとったら信号を出す。それまで時間を稼いでくれ」

 

 「わかった」

 

 

 アイズは女体型のモンスターに向き直った。

 フィンに制止の声がかかるが一喝し鎮める。ラウルにリヴェリアに撤退の合図を出させ、離脱する。

 

 

 「団長!援護だけでも・・・」

 

 

 アイズを尊敬するレフィーヤだからこそ最後の最後まで取り縋った。その姿を見て第一級冒険者の殆どは悲痛の表情を浮かべた。

 

 

 「大丈夫だ」

 

 「え?」

 

 

 その声に反応したのはフィンなのだが、その顔には笑みが浮かんでおり、レフィーヤは少し驚いた。反対され、怒られると思っていたからだ。

 

 

 「()()()が向かっているよ、絶対ね」

 

 「あの男って・・・」

 

 「オラリオ1馬鹿な侍だよ。今頃、アイズを護るために刀を抜いているはずさ。だから安心しなよ」

 

 「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「右のほっぺどうしたの?赤くなってるよ?」

 

 

 「これか?ママの胸にHIT&AWAYしたら紅葉(もみじ)の判子を押されたんだよ。いちち、手加減しろよなホント」

 

 

 「む・・・・・・」

 

 

 「と、とにかくやるか」

 

 

 「うん」

 

 

 「これから見せますは《剣姫》の《白夜叉》の(つるぎ)の舞。そのデカイ図体で味わいな化け物」

 

 

 

 

 

 

 

 




三話終わりました。いかがでしたか?
リヴェリアは銀時のせいで少し性格が変わってます。ハッハッハッ!


先週のWJで()()()が帰って来てうぉぉぉ!となり、今週のWJでやっぱりあの人も空知の子供だったんだなぁと思いました。アニメはどこまで行くんでしょうね。


実写化について《鬼兵隊》のビジュアルがでましたね。
意外としっくりきたのは私だけでしょうか?
菜々緒さんのまた子は半端じゃなかった!
堂本さんの高杉も普通にカッコ良かったし。
長澤まさみさんのお妙は可愛いけど胸あるのでなしの方向で。もう一度いう。可愛いけど。


あともう一つ。
感想欄などにハーレムでいいんじゃないの?とかなりの意見を頂きました。
実際、プロット上どっちにでも出来るので問題ありませんが。・・・すこし考えますね。


次回は原作主人公との出会いと打ち上げ。

感想と評価をお待ちしてます。ではまた次回に。


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豊饒の女主人

お蔭様で日間ランキング12位に入ることが出来ました。嬉しい限りです。

感想は随時返信していくので返信が来たら『もうすぐ投稿するんだな』と思っていただければ。

ではどうぞ。



《豊饒の女主人》

 

 

 「ミア母ちゃーん、来たでー!」

 

 

【ロキ・ファミリア】は遠征後の盛大な酒宴を開く為、オラリオの西のメインストリートにある最も大きな酒場に来ていた。

 酒場の名は“豊饒の女主人”。ロキのお気に入りの店の一つで、店員が全て女性であるのとそのウェイトレスの制服がロキの琴線に触れたという事実は周知だった。

 店内とテラスの二つの一部を貸し切って催される酒宴は第一級冒険者が居る事もあって否が応にも目立った。

 

 

 「みんな遠征ごくろうさん!今日は銀時の奢りや!たらふくになるまで食べて飲めぇ!かんぱーい!!」

 

 「「「かんぱーい!!」」」

 

 

 立ち上がったロキを音頭を取ると、次には一斉にジョッキがぶつけられた。始まった酒宴は団員たちの多くが大いに羽目を外し、普段近づき難い上のLv.の人達とも交流した。

 アイズが口に料理を運んでいると、ティオナが話し掛けてきた。

 

 

 「ねぇねぇアイズ!」

 

 「どうしたの?ティオナ。」

 

 「50階層のあの気持ち悪ーい化け物どうやって倒したの?トドメを刺したのがアイズだってことは分かったけど遠目だったから詳しいことは何も判らなくてさぁー。」

 

 「えぇとね。あの時は・・・」

 

 

 アイズは銀時の戦闘についてまず語った。

 アイズの脳裏にはあの時の銀時の戦闘が焼きついていた。

 たった一本の得物でモンスターの攻撃をいなし、斬り払い、 切断し、アイズの負担を最小限にまで減らし、自身がどれだけの傷を負おうがその歩みを止めず、道を自らの手で斬り拓き、戦場を駆る《夜叉》の姿を。

 

 それから自身がどう動いたのかを。

 銀時の剣技に見惚れると同時に彼の信頼に応えようと一点突破の必殺の一撃を繰り出したこと。その一撃は女体型のモンスターの全てを穿ったこと。

 

 女体型のモンスターの体が膨れ上がり、爆粉と腐食液が一気に飛散し大爆発を起こしたが、最後の力を振り絞って刀を振り抜き、風の力で焔の海を割ったこと。無事な二人の姿を見た仲間の大歓声は遠く離れた戦場でも聞こえたこと。

 

 全てが終わった後に銀時に撫でられた事は誰にも言えない秘密ではあるのだが。

 

 

 「ほぇ〜〜やっぱり銀さん凄いね。私も間近で見たかったなぁ。あと一つだけ聞いていい?」

 

 「うん。なに?」

 

 「あのモンスターって鱗粉?花粉?まぁどっちでもいっか。粉みたいな物を振り撒いて爆発させてたじゃん?銀さんどうやって防いでたの?」

 

 「えっと・・・木刀を凄いスピードで地面を抉る様に振り抜いて、土とか石とか巻き上げて爆粉にぶつけてた。あとその時何か叫んでた」

 

 「え?何を?」

 

 「確か『どりゅうせ』」

 

 「アイズさん駄目です!!よく分からないけどこれ以上は駄目です!」

 

 

 アイズとティオナの会話にアイズの隣に座っていたレフィーヤが入り込む。

 レフィーヤの鬼気迫る表情に二人は少しひくが、それも直ぐに終わり、目の前にある食事へと手が伸びた。

 

 ティオネがフィンに酒をかなりのペースでつぎ、ガレスとロキが飲み比べをしている中、一人の狼人(ウェアウルフ)が口を開いた。

 

 

「そうだアイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

「あの話・・・?」

 

 

 アイズがそう呟くと狼人(ウェアウルフ)────ベートはジョッキを片手に続けた。

 

 

「あれだって、帰る途中、何匹か逃がしたミノタウロス!最後の一匹、お前が五階層で始末しただろ!? そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

 

 アイズの頭には或る白髪の少年の姿が浮かんだ。

 

 昨日の出来事である。

 地上への帰宅途中、17階層で多数のミノタウロスが【ロキ・ファミリア】を襲い、それを返り討ちにすると、集団で逃げ出したのだ。

 逃げ出した時点で十分異常事態(イレギュラー)なのだが、奇異なる事は重なる様にミノタウロスは上層へと登り始めたのだ。

 慌てて追い掛けたアイズたちがミノタウロスに追い付いたのは5階層だった。

 その時にミノタウロスに襲われていたのが白髪の少年で、アイズが瞬殺した時の返り血で真っ赤に染まってしまったのだ。

 声を掛けようとしたアイズだが脱兎の如く逃げ出されたので内心モヤモヤしていた。

 

 

 「ミノタウロスって、17階層襲いかかってきて返り討ちにしたらすぐ集団で逃げ出していった?」

 

「それそれ! 奇跡みてぇにどんどん上層に上がって行きやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていったやつ! こっちは帰りの途中で疲れてたってのによ~」

 

 

 普段より調子が上がっているベートにアイズは何か嫌な予感を覚えてしまった。

 

 

 「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせぇ冒険者(ガキ)が」

 

 

 ベートは耳を貸すロキたちに当時の状況を詳しく語った。

 

 

 「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ。可哀想なくらい震え上がっちまって顔を引き釣らせてやんの!まぁアイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったがな!」

 

 「それでどうなったんや?」

 

 「それがよぉ。くっせー牛の血を全身に浴びて・・・真っ赤なトマトになっちまったんだよ!アイズ、あれ狙ったんだよな? そうだよな? 頼むからそう言ってくれ!」

 

「・・・・・・・・・そんなこと、ないです」

 

「アハハハッ! そりゃ傑作やぁー! 冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!」

 

 

 どっと周囲が笑いに包まれる。

 笑っていないのは不快感を募らせるリヴェリアぐらいで、他の誰もが堪らえきれずに笑い声をあげた。

 

 

「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震え上がるだけの情けねぇ野郎を。あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

 

「・・・・・・あの状況じゃ、しょうがなかったと思います」

 

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。 ・・・・・・・・・じゃあ質問を変えるぜ? あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

 

 ベートの強引な問いにフィンが軽く驚く。

 

 

 「ベート、君、酔ってるの?」

 

 「うるせぇ!ほら、アイズえらべよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちの雄にめちゃくちゃにされ────ウォッ!?」

 

 「ギャーギャーギャーギャーやかましぃんだよ。発情期ですかコノヤロー」

 

 

 外へ放り出されたベートに相反する様に死んだ魚の様な目をした銀髪の男が店内へ入ってきた。

 その光景に狂騒に包まれていた店内が静まり返り、誰もがその行く末を期待し傍観した。

 

 

 「てめぇふざけんなよッ!腐れ天パ!」

 

 「ほれフィン。今日の酒代な。適当に冒険者依頼(クエスト)をこなしたが、ギルドで換金するのに手間取っちまった。今から参加でよろしく」

 

 「うん、十分だよ。これなら大丈夫そうだ」

 

 「無視すんじゃねぇ!表でろゴラァ!!」

 

 「えっと・・・・・・ペーターだっけ?うるさいから静かにしてくんない?」

 

 「どこかで羊飼ってそうな名前だな!ベートだ!ベート・ローガ!」

 

「キャンキャン吠えるなよ、耳に障る」

 

「────ッ!上等だボケッ!」

 

 

 ベートは店外から加速し、店内にいる銀時の頭部に強烈な蹴りを放つ。

 銀時はその蹴りを(かぶり)を振るだけで躱し、蹴りとは別の足を両手で掴み、地面に叩きつけた。店が衝撃に揺れる。

 

 

 「ガッッッ!!!」

 

 「わんこは四肢で這い蹲うのが似合ってらァ。誰か縄持ってない?」

 

 

 店員がどこからか縄を持ってくると、銀時とティオナは協力してベートを縄で身動きを封じた。そのあと店の外に吊るしあげられた。

 

 

 「ガハッゴホッ!・・・雑魚を雑魚と言って何が悪い!?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 「ベルさん!」

 

 

 店員の少女の叫びと共に一人の少年が店の外へ飛び出した。銀時とティオナ、吊り上げられているベートの横を走り去った。

 アイズも立ち上がり、店の外へ飛び出した。追いかけようとしたとき、銀時がアイズの肩に手を置き制止した。

 

 

 「男が女に関係することで馬鹿にされた時、起こす行動は二つだ。キ○タマ縮こませてそこで立ち止まるか、死ぬまで男を吼え続けるか、だ。アイツの目は死んじゃいなかった。問題ねぇよ」

 

 「・・・・・・・・・うん」

 

 「アイズ。ちょっとだけ俺のノリに付き合ってくれる?」

 

 「・・・?わかった」

 

 

 心配は杞憂だと諭し、アイズに許可をとった銀時は店の中に戻り、諸手をあげて吼えた。

────最高に悪い顔で最悪な笑みを浮かべて。

 

 

 「さぁここで公開告白したわんこにアイズからの返答でぇす!」

 

 「なっ!?」

 

 

 

 

 「・・・下品なベートさんだけはごめんです。」

 

 

 

 

 「ふられてやんの!!ガーハッハッハッハッ!!」

 

 「「「アッハッハッハッハッハ!!」」」

 

 

 先程以上の笑い声が店を包み込んだ。

 縛られているベートは勿論、口で罵倒できても手は出せない。店内に広がる嘲笑と哀れを含む視線に憤慨と恥辱で顔が真っ赤になる。その姿はまるで────。

 

 

 「ベート顔真っ赤やん!!“トマト”や!トマトになっとる!!アッハッハッハ!!」

 

 「無様だな。フフッ」

 

 「可哀想だからやめてあげなよ皆。アハハッ」

 

 「これは暫く酒の肴になるじゃろうな・・・ガッハッハッ!!」

 

 

 ロキに続き、リヴェリアやフィン、ガレスまでも笑い始める。銀時に至っては抱腹絶倒である。

 ベートは罵詈雑言をやめて顔を伏せた。“公開告白”の後に“公開処刑”されたベートは『穴があったら入りたい、いや寧ろ掘るから縄ほどいて・・・』とキャラが崩れるほどに弱った。

 

 

 「俺の腹を捩じ切る気かわんこ!なぁ見た?店員さん?」

 

 

 銀時はベートを指さしながらおもむろに店員の一人の肩を抱いた。

 銀時は確認するべきだった。その肩を抱いた店員が誰なのかを・・・。

 

 

 「私に触るなァァァァァァ!!」

 

 「だァァァァァ!!」

 

 

 銀時は抱いた腕を両手で掴まれ、遠心力によって店の外へ投げ飛ばされた。硬い地面に頭を打ち付け、ゴチン、と鈍い音が響く。

 そして店内は静まり返った。

 

 

 「もうリュー、銀時さんに乱暴しちゃダメでしょ?」

 

 「シル・・・ですが私はサカタさんには何故か過剰に反応してしまうのです」

 

 

 投げ飛ばしたのに悪気のない顔をするリューに一同は唖然とする。

 店内が沈黙に包まれる中、一人だけ銀時を笑い飛ばしている者がいた。

 

 

 「ざまぁねぇな腐れ天パ!!ハッハッハッ!」

 

 

 銀時がやられ、元気を取り戻したベートである。

 ここぞとばかりに笑うベートは意気揚々している。二人の相性を知っている【ロキ・ファミリア】にとっては見慣れた光景であった。

 

 

 「はぁ・・・これでも喰らえ」

 

 

 起き上がった銀時はベートに近づく間に鼻をほじり、ほじった指を吊るされたベートの眉間に付けた。

 

 

 「汚ねェェェェ!!取ってェェェェ!!」

 

 

 ハナクソがついた事に絶叫するベートに対して、周りは哀れみの視線を向けた。しかし向けるだけで誰も助けに行こうとはしなかった。

 

 

 街中に轟くベートの慟哭は酒宴が終わるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 




はい四話終わりました。

ベートに合掌。彼に救いは・・・ハハッ。

下品なベートは嫌いだけど下品な銀ちゃんは慣れてしまったアイズたん。再びベートに合掌。

リューさんはやっぱり原作のあのひとで。シルはやっぱり原作のあの人ですよね。リューを制御したりとか怖いところとか。



感想欄で実写化について皆さんの意見が聞けて嬉しいです。まぁ賛否両論ですよね。やっぱり。

一番完成度高いの新八だと思うの。うん。
一番完成度低いの神楽だと思うの。うん。

本当に橋本環奈さん鼻ほじるんでしょうかね?


ではまた次回。感想、評価お待ちしてます。


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怪物祭

実写化について言ってきたが、ビジュアルみて気づいた。

────あれ?万斉は?

鬼兵隊の他の幹部は色々出てるのに万斉だけ出てねぇ。なんでや。調べたら配役いねぇし。なんてこった。いやまぁ《紅桜篇》だから殆ど出番ねぇけど・・・やっぱ配役無いのかね?

勝手に配役考えてみましょうか。
三味線が武器って所から・・・桐谷健太とか?
語尾の《ござる》から・・・佐藤健とか?

こんなところでどうでせう?

まぁ取り敢えず五話どうぞ。






 

 

 「こんな時間まで何してやがる?」

 

 「ぎ、銀ちゃん・・・・・・えっと」

 

 

【ロキ・ファミリア】のホームである“黄昏の館”。辺りは既に闇に包まれており、照らすのは街灯と建物から漏れる光のみだ。

 銀時はそのホーム前の門で恐る恐る中へ入ろうとするアイズに声を掛けた。

 

 

 「はぁ、聞くまでもねぇか」

 

 「・・・・・・・・・ごめんなさい。【ゴブニュ・ファミリア】に愛剣(デスペレート)を整備に出してて、代剣としてレイピアを借り受けたの。慣れる為に潜ってて・・・」

 

 

【ゴブニュ・ファミリア】は武具や防具、装備品の整備や作製を行う鍛冶の派閥だ。知名度は同業大手の【ヘファイストス・ファミリア】を下回るものの、作り出す武具の性能そのものは勝るとも劣らない、質実剛健のファミリアだ。【ロキ・ファミリア】をはじめ、冒険者にコアなファンが多い。

 

 アイズの恰好は上から下まで完全武装。誰がどう見てもダンジョンに潜っていたのだとわかる。

 銀時は頭をガシガシ掻いで、俯くアイズをいつもの気怠げな双眸で見つめて言った。

 

 

 「散歩でも行くか?」

 

 「・・・・・・うん」

 

 

 二人は冒険者で湧き立つ比較的明るい中央広場(セントラルパーク)の方向へ足を向けた。

 冒険者の豪気な笑い声が響く中、二人はあまり口を開かなかった。だからと言って気不味い訳ではなく、二人の間に流れる心地好い沈黙を楽しんでいるだけであった。

 

 

 「あ、じゃが丸くん・・・」

 

 「おや、買ってくかい?今なら安くしとくよ」

 

 

 アイズが足を止めたのは一つの露店の前だった。

 その露店は北のメインストリートにある銀時らのホーム“黄昏の館”と中央広場(セントラルパーク)の途中にあった。

 露店には気の良さそうな獣人の店員が一人いた。夜という事もあって機材の殆どが片付いている。今は売れ残ったのを捌いている様だった。

 

 

 「そこのお兄さんも買ってきなよ。安くしとくからさ」

 

 「俺ァもう()()()()と夕飯食ったからなぁ。アイズは?」

 

 「まだ・・・・・・じゃあ二つちょうだいおばちゃん」

 

 「はい、まいど!・・・お兄さんはいいのかい?」

 

 「いいっていいって。また今度な」

 

 

 銀時は自分の腹具合を見て店員の言葉を断った。

 アイズは買ったじゃが丸くんに夢中だが、店員は顔をしかめた。売れ残ったのである。

 

 

 「そうかい。小豆(あずき)クリーム味が残っちまったよ。どうするかねぇ・・・」

 

 「おばちゃん、何味だって?」

 

 「んん?小豆(あずき)クリーム味だよ。意外と合うって人気でねぇ・・・」

 

 「何個余ってる?」

 

 「三つだよ」

 

 「よし全部買おう」

 

 「えっ本当かい!?まいど!!」

 

 

 銀時は小豆(あずき)クリーム味のじゃが丸くんを受け取るとアイズと一緒にその場で食べ始めた。

 アイズはじゃが丸くんを二つ食べた銀時に視線を送った。それはもう・・・鳥肌が立つぐらいの。

 気づかない銀時ではないので言葉を発することなく、アイズの要望に応えた。小豆(あずき)クリーム味のじゃが丸くんの()()()()()()()()()()()()()

 

 その様子は仲の良い兄妹そのもので、微笑ましいワンシーンだった。

 

 

 「ごちそうさん。おばちゃん、明日は揚げたてで頼むわ」

 

 「気に入ってくれた様で嬉しいよお兄さん!だけど明日は東のメインストリートの所で店を出すんだよ」

 

 「いつも移動してんのか?」

 

 「違うよ違うよ。明日は祭りじゃないか。稼ぎ時だからねェ」

 

 「明日は怪物祭(モンスターフィリア)だよ。銀ちゃん」

 

 

 店員が言い、アイズが補足した祭、“怪物祭(モンスターフィリア)”とはオラリオの中でも上位に位置する【ガネーシャ・ファミリア】主催の年一回開かれる祭りである。

 目玉は東のメインストリートにある【ガネーシャ・ファミリア】によって円形闘技場(アンフィテアトルム)で行われるモンスターの調教(テイム)である。

 その他にも手軽に食べられる串料理を含めた露店や怪物祭(モンスターフィリア)に因んだ小物やアクセサリーが販売されており、冒険者だけでなく商人や民間人の活気で満ち溢れる催しでもある。

 

 

 「そういやぁそうだったな。気が向いたら行くわおばちゃん」

 

 「まぁそう言わず来ておくれよ。お兄さん!」

 

 

 二人はもう一度店員に『ご馳走様』と言い、帰路に付いた。店員は明日の準備に忙しいと額に汗を滲ませながらせっせと動きはじめた。

 

 二人は他愛もない話を交わし合い、ホームである“黄昏の館”にたどり着いた。門番の団員に通してもらい、館に入った。・・・そこまでは良かった。

 

 

 「夜遅くまで少女を連れ回していい御身分だな銀時」

 

 

 魔王(リヴェリア)がいた。

 腕を組み、片方の手には杖を持ち、仁王立ちし、額に青筋を浮かべている魔王が。顔に浮かべているのは笑顔。勿論、目は笑っていない。

 銀時の背に嫌な汗が伝い、顔色はみるみる青く染まった。ちなみにアイズは銀時の背に隠れている。

 

 

 「いやぁ〜別に連れ回してはないですよ?ただ散歩してただけで・・・」

 

 「はぁん?散歩も連れ回すも意味は一緒だろう?ホントにいいゴミ分だな銀時」

 

 「なんか違ぇ!発音が違ぇよ!!」

 

 「嫁入り前の娘を、うら若き娘を、夜に連れ歩いてる時点でゴミだ、クズだ、そこらと同じ塵芥だ」

 

 「隠す気無しか!気持ちが剥き出しじゃねぇか!殺意が漏れてんじゃねぇか!・・・・・も、もうリヴェリアさんったらアイズの事になるとムキになるんだから。いやぁねぇもう・・・ね?アイズ。」

 

 「リヴェリア、銀ちゃんを許してあげて。銀ちゃんは私を夜の街に連れ出してくれただけだから」

 

 「違ェェェェェ!!!間違ってないけども!!その言い方は誤解を招いちゃうから!!やめてェェェェ!!」

 

 「ほう?銀時、言い残したことはあるか?」

 

 「待ってくれ!その杖おろして!!ママには嘘ついちゃいけなっ────」

 

 「ママじゃないリヴェリアだァ!!」

 

 「ちゃぶァッ!!」

 

 

 リヴェリアの杖術の縦殴りによって銀時は地へと叩きつけられた。鈍い音が館に響き渡る。

 アイズは地に伏している銀時を見て顔を青ざめた。見慣れた光景ではあったが鳥肌が立った。恐る恐る目の前にいる魔王を見るとそれは大層綺麗な笑顔でアイズに微笑みを向けていた。

 

 

 「色々言いたい事はあるが・・・まぁいい。遠征が終わった後だからしっかり体を休めておけ」

 

 「うん、わかった。・・・ごめんなさい」

 

 

 アイズの謝罪にリヴェリアはこれみよがしに溜息をつく。反省しているのがわかるとリヴェリアは母のような眼差しを向けた。アイズは自然と体を小さくしてしまう。

 

 

 「うぅえっぷ・・・アイズたんとリヴェリア、後は銀時か・・・何しとるん・・・おえっぷ・・・水、水ちょうだい・・・」

 

 

 三人の傍をロキが通りかかる。

 足元は覚束ず、顔色は悪い。何より凄まじく酒臭かった。

 ロキは三日前の『神の宴』からこの調子だった。フィンやリヴェリアの制止を聞かずやけ酒をし、宿酔。馬鹿にしようとした女神に逆にやり込められたのが原因であるとリヴェリアたちは聞かされていた。

 

 

 「で、何やっとるん?」

 

 「アイズが銀時にこの時間まで連れ回されてな。私が銀時に少々灸を据えていたところだ」

 

(少々っていう威力かこれ?銀時、地に伏して動かへんやんか・・・・・・・・・まぁでもアイズたんとデートしたなら当然の報いやな)

 

 「じゃあアイズたん、明日のフィリア祭はうちと回ろなー。勿論、拒否権は無しや」

 

 

 ロキは強引に約束を付けて言い逃げした。

 アイズはそれが自分のことを気にかけてくれる優しい心遣いなのだと理解した。だから断るつもりはなかった。

 

 

 「さて私も戻るとするかな」

 

 「リヴェリア・・・銀ちゃんどうするの?」

 

 「世話役(ラウル)にでも伝えておくといい。勝手に拾ってくれるだろう。」

 

 「そう・・・・・・だね」

 

 

 数分後、銀時に肩を貸すラウルの姿を哀れみの視線で見つめる団員の姿があったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほんと人多いなぁおい。これじゃあの店も見つかんねぇや」

 

 

 “怪物祭(モンスターフィリア)”当日。

 銀時は昨日偶然訪れたじゃが丸くん屋の露店を探していた。理由は簡単。糖分が足りないからである。

 だが大きな催しだけあって人が街路を超えて溢れ返っている。街路には人の流れが出来ており逆らう事など不可能であり、人とぶつかる事はざらだった。

 

 

 「ご、ごめんなさい」

 

 

 銀時がぶつかったのはフードを被った少女だった。少女は銀時とぶつかったあと軽く謝罪し人の波へ再び呑まれて行った。

 たったそれだけ。それだけの筈なのだが銀時の手にはそこそこの重みのある包みが握られていた。先程まで()()()()()()()()()筈なのに。

 銀時は再びじゃが丸くんの露店を探し始めた。探しながら先ほどの包みの口を開き中を物色し始めた。

 

 

 「中々入ってんな・・・俺より持ってんじゃん。1万ヴァリスぐらいか」

 

 

 包みの中は金貨であった。

 銀時はその金貨の一枚を親指で弾いては受け止め、弾いては受け止めを繰り返した。まるで何かを待っているかのように。

 

 すると突然、白い着物の袖を引っ張られ、路地裏へと連れ込まれた。

 

 

 「返して下さい」

 

 「何を?」

 

 「盗った金貨を返して下さいって言ってるんです!!」

 

 

 銀時を路地裏へと連れ込んだのは先ほどぶつかった少女であった。

 少女は銀時にキッと鋭い視線を送っている。だが銀時はいつもと変わらないやる気のない顔を崩さない。

 

 

 「それってこれのことか?」

 

 「それです!!返してください!!」

 

 「良く言うぜ。俺の金貨をぶつかりざまに盗ったくせに」

 

 「────ッ!?」

 

 

 少女は驚愕に目を見開いた。それが全てを物語っていた。

 先ほど、銀時とぶつかった時に少女は銀時の金貨の入った小鞄(ポーチ)をスったのだ。それを見抜いた銀時はお返しとばかりに少女の金貨の入った包みをスった。それに気付いた少女が銀時に自身の金貨を返してもらう為に路地裏へと連れ込んだのだった。

 

 

 「ま、相手が悪かったな。俺からスろうなんざ百年早ェ。それにツメも甘ェ」

 

 「・・・・・・・・・」

 

 「それに盗みって奴ァ、相手の懐に手ェ忍ばせる度に知らず知らずてめーの懐からも大事なもんが零れてるもんだ」

 

 「・・・どうすれば返してもらえますか。」

 

 

 少女が銀時の目と目を合わせよう上を向くと今まで被っていたフードが脱げた。

 そこから覗いたのはひょこひょこ動く獣の耳。少女は犬人(シアンスロープ)だった。今まで隠れていた栗色の尾が左右に揺れる。

 

 

 「まぁ頼みごとするなら通すべき筋を通してもらわなくちゃならねぇ」

 

 「・・・こんないたいけな少女に何を頼むって言うんですか」

 

 「そりゃあ・・・・・・」

 

 

 

───────・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 「ケーキって・・・」

 

 「ケーキを舐めちゃいけねぇよ。綺麗な形に照り輝く果物。そしてたくさんの糖分。これほど整ったもんもあるめぇよ」

 

 

 銀時と犬人(シアンスロープ)の少女は東のメインストリートから少し外れた喫茶店で向かい合って座っていた。

 幸せそうにケーキを頬張る銀時を見た犬人(シアンスロープ)の少女は苦笑をこぼす。少女は目の前にいる男の持つ子供がそのまま大人に育ったかのような雰囲気を不思議に思った。だがすぐに切り替え、本題に移った。

 

 

 「それで・・・ケーキ奢りましたから返してくださいますよね?」

 

 「小鞄(ポーチ)に入ってた俺の金貨を返してくれるんならな」

 

 「なっ!あの小鞄(ポーチ)、全く入ってませんでしたよ!?最初から殆ど空っぽだったじゃありませんか!」

 

 「しらばっくれてんじゃねぇぞ。入ってたから。祭を豪遊できるぐらい入ってたから」

 

 「入ってませんでしたよ!!子供にケーキ奢らせた挙句にたかるなんてどういう大人ですか!!」

 

 「ハンッ。自分(テメー)子供(ガキ)だって知ってる奴はもう大人だよ。大人はちゃんと罪を償わねぇと」

 

 「ちょっ待ってくださいよ!!必要なんですよ!死活問題なんです!」

 

 

 立ち上がる銀時に犬人(シアンスロープ)の少女は銀時の手を掴み制止の声をかける。その顔は焦りで埋め尽くされていた。

 

 突如、銀時たちがいる店にギルドの職員であろう見目麗しいエルフの女性が店の中に飛び込んできた。

 

 

 「サ、サカタさん!!」

 

 「ん?俺?」

 

 

 ギルドの職員であろうエルフの女性は銀時の近くまで近寄って耳打ちした。

 

 

「闘技場からモンスターが逃げ出しました。人手が足りません。力をお貸し下さい」

 

 「はぁ、何やってやがる【ガネーシャ・ファミリア】の連中は・・・」

 

 

 銀時とギルドの職員が目の前で話しているのを見つめる犬人(シアンスロープ)の少女は何か異常事態が起こったという事だけしか分からなかった。そしてなぜこんなダメな大人をギルドの職員が頼るのかを頭の中で一人問答していた。

 

 

 「ではよろしくお願いします。どうかその【白夜叉】の力、お貸し下さい」

 

 「しっ【白夜叉】!?この死んだ魚の様な目をした人がッ!?あの【白夜叉】!?」

 

 「おいコラ、どういう意味だそれは。ホントにギルドに突き出してやろうか、あぁん?」

 

 「すみません!ホントに驚いただけなんです!!許してください!」

 

 

 思わず思ったことを口に出してしまった犬人(シアンスロープ)の少女は驚きを隠せなかった。

 ケーキを幸せそうに頬張り、年下の少女から金をたかるようなマネをする大人が第一級冒険者だとはどうしても思えなかったのだ。

 銀時は思考に沈んでいる犬人(シアンスロープ)の少女を見下ろして言い放った。

 

 

 「おいガキ。やるべき相手は選ぶこった。その()()も分かる奴は分かるからな」

 

 「────ッ・・・・・・はい」

 

 

 一瞬だけ落とされた声量に背筋が震えた。一瞬にして寒気が全身を襲った。そして徐々に離れていく男が本当に【白夜叉】だったのだと認識した。

 机には自身が持っていた金貨の包みが置かれてあった。中身を確認しなくても何も盗まれていない事もわかった。

 自分の愚かさに嫌気が指すと共にとんでもない相手と口論してしまったのだと過去の自分を苛んだ。

 

 

 

 「あ、返し忘れてしまいました・・・・・・・・・」

 

 

 

 少女の手には大して金が入っていない小鞄(ポーチ)だけが残り、店の外では獣の遠吠えが轟いていた。

 

 

 

 

 




はい五話終わりました。急ピッチで仕上げたのでたぶん雑です。はい。気づいたら修正します。

前書きで言いたい事は言ったので何を言うべきか。

まずはお気に入り1000件突破しました。ありがとうございます!!これからもこの二次小説を宜しくお願いします!


犬人(シアンスロープ)の少女って誰なんでしょうね。うわぁ誰だろうなぁ(棒)


ではまた次回お会いしましょう。感想、評価お待ちしてます!


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武士道と憧憬

前回の感想について。

そんなにマダオ枠気になります?皆さん。


今回はこの世界での銀時の過去に少し触れます。

ではどうぞ。




 白と黒に染まった酷く凄惨な世界。

 

 

 一人の銀髪の少年が片手に自身の背丈ほどある刀を、片手に薄汚れた握り飯を持って座っていた。

 

 

 少年の周りには死屍累々の肉塊が転がっている。

 

 

 少年にとって“死”は、訪れないことはない明日のようにいつも傍にいる隣人であった。

 

 

 

 少年は東洋の国の()()()()であった。

 

 

 

 物心付いた時から手には血のこびり付いた刀が握られていた。

 

 

 生きる為に強くなり、生きる為に感情を捨て、生きる為に目の前に蔓延る全てを屠った。

 

 

 その行為に嫌悪も自己憐憫も感じ得ない。厭、感じ得る程の心も持たなかった。

 

 

 少年は生きる為に、自分を()()為に、死体を貪る唯の“悪鬼”だった。

 

 

 同じ穴の狢である者も、少年を忌避し、畏怖した。仲間意識など皆無だった彼らだったがその思考だけは共有していた。

 

 

 然し、たった一人。

 

 

 果てない闇を彷徨う少年に道を示唆した男が居た。

 

 

 男は誰よりも強く在りながら誰よりも命を尊んだ。無意味な殺生は決して好まなかった。それが自身の命を危機に陥れる者であっても。

 

 

 

────私も君も生き残る為に強くならざるを得なかった。ですが君と違うのは自分(テメェ)武士道(ルール)を持っていることです。

 

 

────武士道(ルール)・・・・・・。

 

 

────えぇ。迷いながらも、藻掻き足掻いて苦しんで君だけの武士道(ルール)を見つけて下さい。そして君は君が思う“侍”になって下さい。私はいつまでも君を見守っていますよ。

 

 

 

 男の微笑みと柔らかな言葉は徐々に少年の世界に色を与えていった。

 

 

 少年は男を“師”と仰いだ。決して切れぬ本物の絆がそこにはあった。

 

 

 

────君に私の得物を差し上げます。私はこれで十指に余る戦場を生き抜いてきました。

 

 

────木刀?

 

 

────えぇ。何かを奪う事しか出来ないのであれば、何かを()()事から始めましょう。“活人剣”というものです。

 

 

 

 全ての出来事が偶然ではなく必然であるかのように、この二人の出逢いもまた宿命であったかのように思えた。

 

 

 出逢いも唐突であるのならば別れも唐突。

 

 

 再び“鬼”が戦場に降り立つ日までそう遠くはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 

 

 

 

 《東メインストリート》

 

 

 「蛇かと思ったけど・・・これは花かな?」

 

 「どっちでもいいわ。行くわよティオナ。レフィーヤは詠唱お願い」

 

 「はっはい!」

 

 

 銀時と同じくティオナ、ティオネ、レフィーヤの三人も脱走したモンスターの駆除に当たっていた。とは言ってもモンスターの殆どがロキに同行していたアイズによって屠られたのだが。

 地中から出現した()()であろうモンスターと三人は戦闘を開始した。だが怪物祭(モンスターフィリア)であったため、ティオナとティオネは自身の武器を持っていなかった。徒手空拳での戦闘となった。

 

 

 「ッ!?」

 

 「かったぁ〜!!」

 

 

 モンスターの皮膚を打撃した瞬間、彼女達は驚愕を等しくした。渾身の一撃が阻まれたのだ。

 素手とはいえ、並みのモンスターであれば肉体を破砕する第一級冒険者の強撃だ、にも関わらず貫通も撃砕もかなわない。凄まじい硬度を誇る滑らかな体皮は僅かばかり陥没したのみで、逆にティオナたちの手足にダメージを与えてきた。

 

 

 「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)。汝、弓の名手なり】」

 

 

 レフィーヤが詠唱を紡ぐ。花型のモンスターは姉妹に掛かりっきりでレフィーヤを歯牙にもかけていない。

 

 

 「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】!」

 

 

 速度に重点を置いた魔法が完成し、解放を前に魔力が収束した直後────ぐるんっ、と。

 それまでの姿勢を覆し、モンスターがレフィーヤに振り向いた。

 

 

 「────ぇ」

 

 

 その異常な反応速度に、レフィーヤの心臓は悪寒とともに打ち震える。

 レフィーヤは直感した。モンスターは────『魔力』に反応した、と。

 そして衝撃がレフィーヤの腹部を貫いた。

 

 

 「「レフィーヤ!?」」

 

 

 地面から伸びる黄緑色の突起物は防具も装束も纏っていない無防備な腹に叩き込まれた。

 ティオナたちの叫喚が耳を撫でるが、返事をすることも立ち上がることも出来ない。

 

 花型のモンスター、もとい食人花はレフィーヤを喰らおうと地面を這い、殺到する。

 レフィーヤの霞みかけている瞳が食人花を捉えた時、視界に金と銀の光が走り抜けた。

 

 

 「アイズ!」

 

 

 ティオナが増援に歓喜の声をあげるが、状況はあまり芳しくない。

 

 再び地が隆起し、新たに三体の食人花モンスターが現れた。

 

 加えてレフィーヤを守るために放った一撃でアイズのレイピアが亀裂音の後、破砕した。

 (エアリアル)という付加魔法(エンチャント)とアイズの激しい剣技に耐えかね細身のレイピアがとうとう根をあげてしまったのだ。

 

 食人花は瀕死のレフィーヤではなく、アイズに向き直り襲い掛かった。ティオナたちには見向きもせず三体同時に、である。

 

 

 「ちょっ!今度はアイズ!?」

 

 「魔法に反応してる・・・・・・・・・?」

 

 

 ティオナたちも打撃を加えるが、食人花の矛先はアイズから変わりはしない。アイズの『魔法』に反応しているのは明白だった。

 ティオネはアイズに魔法を解くよう呼びかけるがアイズは躊躇った。一般人に被害がいくのを恐れたからである。

 

 

 「────え?」

 

 

 アイズの視界に逃げ遅れた一般人の姿が飛び込んできた。

 一般人、()()()()()()()()()()は屋台の前にうずくまり震えていた。このままでは食人花の攻撃に巻き込まれるのは確実だった。

 アイズは風の気流を全力で纏う判断を一瞬で下した。

 

 

 

 そして────捕まった。

 

 

 

 その光景をギルドの職員によって助けられたレフィーヤは捉えていた。

 激痛が体を走るが、気にならない。それ以上に心が傷んだ。何も出来ずに足を引っ張った情けない自分に、腹が煮えくり返るほど怒りを覚えた。

 ここから目を背けて、いずれ来るであろう援軍に全てを委ねようと体の痛みが囁きかけた。

 ぐっと喉を詰まらせるレフィーヤは俯いて、目を瞑り────次には。

 左手を握りしめ、勢いよく双眸を見開いた。

 

 

 「────私はっ、私はレフィーヤ•ウィリディス!ウィーシェの森のエルフ!!神ロキと契りを交わした、このオラリオで最も強く、誇り高い、偉大な眷属(ファミリア)の一員!逃げ出すわけにはいかない!」

 

 

 吐き出した言葉が力を与え、今一度レフィーヤを戦場へと立たせる。

 

 

(どんなに強がっても私はあの人たちに相応しくない。そんなこと誰よりも私がわかってる!)

 

 

 追いかけても追い縋っても差は開くばかり。

 劣等感に苛まれるほど、卑屈に陥ってしまうほど、憧憬は遠すぎる。心が折れてしまうほど遠いのだ。

 

 

(でも・・・!)

 

 

 自身を受け入れてくれた彼女たちの隣りにいたいと、自分を何度も救い出してくれた彼女たちの傍にいたいと。

 次こそは自分が彼女たちを救いたいと、切実に願う彼女を誰が笑えるだろうか。

 

 

 「【ウィーシェの名のもとに願う】!【】」

 

 

 距離を詰め、射程圏内に入り詠唱を開始する。

 血反吐を吐こうが、何度も足をつこうが、あふれる涙でその頬が枯れることがなかろうが。

 追い縋ってでも、追い付いてやるとレフィーヤは誓った。

 

 

 「【エルフ・リング】」

 

 

 長文詠唱が完成した魔法に魔法円(マジックサークル)が山吹色から翡翠色に変化する。

 収斂された魔力に戦闘していた三人が気づく。食人花も同様に。

 

 レフィーヤに神が授けた二つ名は【千の妖精(サウザント・エルフ)】。

 エルフの魔法に限り、詠唱及び効果を完全把握したものを己の必殺として行使する、前代未聞の反則技(レアマジック)。二つ分の詠唱時間と精神力(マインド)を犠牲にし、レフィーヤはあらゆるエルフの魔法を発動させる事が出来る。二つ名はその魔法に因んだものだ。

 

 

 「【閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

 

 召還するのはエルフの王女であるリヴェリアの攻撃魔法。極寒の吹雪を呼び起こし時さえも凍てつかせる無慈悲な雪波。

 

 

 「はいはいっと!」

 

 「大人しくしてろッ!」

 

 「ッッ!」

 

 

 三体の食人花がレフィーヤに急迫するが、神速ばりの三人が殴り蹴り弾いて突撃を阻む。

 それでも地面からモンスターの触手は突き出てくる。衝撃が足や肩を掠め、流血する。

 

 

 「【吹雪け、三度の厳冬────我が名はアールヴ】!」

 

 

 致命傷を避けたレフィーヤは紺碧の双眸を釣り上げ一気に詠唱を終わらせた。拡大する魔法円(マジックサークル)がレフィーヤの周りを光で包み込む。

 

 

 「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 

 三条の吹雪。

 斜線上からアイズたちが離脱する中、大気をも凍てつかせる純白の細氷がモンスター達に直撃する。食人花のありとあらゆるものが凍結され、やがて動きは完全停止した。

 

 

 「ナイス、レフィーヤ!」

 

 「散々、手を焼かせてくれたわね、この糞花ッ」

 

 

 歓呼するティオナと若干鶏冠(とさか)に来ているティオネが食人花の上に着地する。

 一糸乱れぬ渾身の回し蹴りが食人花の体躯の中央に炸裂し、文字通り粉砕した。

 

 

 「レフィーヤ、ありがとう。リヴェリア、みたいだったよ・・・・・・凄かった」

 

 「アイズさん・・・」

 

 

 アマゾネスの二人が粉砕している時、アイズは満身創痍のレフィーヤに駆け寄っていた。

 アイズの言葉に目を見開いたレフィーヤは感極まったような照れたような複雑な表情を作り、うつむいた。

 

 

 「あの・・・」

 

 「あ・・・じゃが丸くんの・・・・・・」

 

 

 レフィーヤの傍で微笑むアイズに声をかけたのは、昨日に銀時といったじゃが丸くんの店の店員の獣人だった。

 その店員こそ先ほどの戦闘で逃げ遅れた獣人だ。店員は二人に向かってゆっくり頭を下げた。

 

 

 「助けてくれてありがとう。モンスターにビックリしちゃって腰が抜けてねェ・・・年は取りたくないもんだよ」

 

 「私は別に・・・この子が、レフィーヤが頑張ってくれたから」

 

 「そ、そそそんな事ないですよ!」

 

 

 顔をブンブン振るレフィーヤにアイズは少しだけ微笑んだ。レフィーヤのお蔭だよ、と心の中で呟いた。

 

 

 「それでねェ、お礼がしたいんだ。後片付けもあるだろうから終わったらもう一度店に寄っとくれ。揚げたてのじゃが丸くんをご馳走するよ。勿論、そこのエルフのお嬢ちゃんにもね」

 

 「いえ、そんな!私は当然のことをしたまでで・・・ですよね?アイズさん?」

 

 「うん。私もレフィーヤと同じです。守ることは私たちの役目ですから」

 

 

 アイズとレフィーヤは店員のお礼を断った。

 店員は困った顔をして目を瞑り腕を組み、黙考。しばらくして目を開き口を開いた。

 

 

 「なら()()()()()()()()に渡しとくれ」

 

 「え?」

 

 「え!?」

 

 「ほら、昨日の夜、お嬢さんと銀髪のあんちゃんが寄ってくれただろぅ?今日来るって言ってたから折角小豆(あずき)クリーム味を残してあげていたのにさ、来なかったもんだから。売れ残ると困るから兄ちゃんに渡してくれよ。そのお兄ちゃんはお嬢さんたちと同じファミリアなんだろ?」

 

 「あ、銀ちゃんか。それなら・・・・・・」

 

 「え?夜?銀時さんと?アイズさんが?ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ・・・・・・執行対象だZ」

 

 

 アイズはその提案に了承し、後片付けが終わった後に伺う運びになった。

 

 

 数時間後、アイズたち四人が伺うと、一人では絶対に食べ切れない量の色々な味のじゃが丸くんを渡された。

 

 

 店員の厚意に自然と笑みがこぼれた少女たちの横顔が夕日に照らされ赤く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻《円形闘技場(アンフィテアトルム) 舞台裏》

 

 

 

「よぅ、大猿(コング)ヤロウ。こんな所で何してやがる」

 

 

「・・・貴様こそ、何をしている?外で暴れるモンスターを駆逐しなくて良いのか?」

 

 

「ハッ。ウチの姫様方が頑張ってくれてるよ。・・・もう一度聞く。ここで何してやがる」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「だんまりか。猿でも言葉は理解出来ると思っていたンだが・・・・・・」

 

 

「・・・・・・私は猪人(ボアス)だ。猿ではない」

 

 

「猿だよ猿。それも大猿。女のケツに敷かれることを何よりも幸せだと思い、女のケツを四六時中追い掛け続ける大猿だ。たとえその女が真の魔性であろうが鼻の穴からケツの穴までありとあらゆる穴を愛するただの大猿だ。何一つ間違っちゃいねェだろ」

 

 

「フン。貴様には判るまい。貴様の様な男は尚更・・・な」

 

 

「判りたくもねェし、判りたいとも思わねェよ。俺が判りたいのはテメェの女神(おんな)が何を考えてこの騒動を起こしたのかって事だけだ」

 

 

「・・・・・・そうか。私は向けられた神意に従いあの方の寵愛に応えた、それだけだ。貴様は何に従い此処に行き着いたのだ?」

 

 

「俺ァ自分(テメェ)武士道(ルール)に従っただけだ。」

 

 

「フフ。そうであった、そうであったな・・・貴様という男は。久しく忘れていたこの感覚、この渇き。貴様があの方に代わって満たしてくれるのかどうか見せてもらうぞ【白夜叉】」

 

 

「ほざきやがれ。乳離れ出来ないガキの皮をとっとと剥いてやらァ。感謝しやがれ大猿!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい六話終わりました。

えっと銀時の過去ですが、今回の話はガバガバです。それはわざとです。今後、少しずつ挟んでいき補完していきます。

付け加え。
戦争奴隷といっても銀時は人を殺すことに優秀でありましたからそこそこ生きていけるだけの報酬がありました。
そしてあの人は吉田松陽ではありません。だって幕末じゃないもの。


えっと最後に会話だけ出てきたあの人は少しだけ性格が変わってます。誰のせいとは言いません。それに誰ポジか何となくわかってくれたよね?


筋肉だけで決めました!!!!


ではまた次回。感想と評価をお待ちしてます。


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マダオ二人

お久しぶりです。

実写版銀魂について。

真撰組のビジュアルが公開されましたね。色んな意味でビックリしました。


近藤勇(中村勘九郎)→わかる。ピッタリ。

沖田総悟(吉沢亮)→まぁわかる。似合ってた。

土方十四郎(柳楽優弥)→う、うん・・・うーん。


中村勘九郎さんは主演の小栗旬之助さんが推したらしいですね。グッジョブ小栗旬之助。

皆さんはどう思いましたか?私はこう思いました。はい。


では七話どうぞ。

※二巻につなげる話なので短いです。




《黄昏の館》

 

 

 「『円形闘技場(アンフィティアトルム)・半壊』やて。巷じゃあ脱出したモンスターの仕業になっとるらしいけど」

 

 「・・・・・・・・・」

 

 「それにしても銀時。どうしたんやそのケガ。まるで()()()()()()()()()()様なケガやんか」

 

 「・・・・・・・・・転けました」

 

 「ふぅ~~~ん」

 

 

 黄昏の館。銀時の自室。

 包帯を至るところに巻かれている銀時は布団から体を起こして、主神であるロキの与太話に付き合っていた。だが一度も目を合わそうとはしない。

 そんな銀時にロキは明るい声で話し掛ける。だが目は笑っておらず、話という(てい)の優しい尋問が続く。

 

 

 「あーそうそう。フ•レ•イ•ヤからな、『今回の件は水に流してあげるから、また私の可愛い子供と遊んであげて』って言われたんよ。何でやろなぁ」

 

 「・・・・・・・・・さ、さぁ」

 

 「大体、フレイヤ(あっち)が“男”の為に“魅了”してモンスターを解放したのに、いつの間にかウチが犯人扱いされとるし。ホント気に食わんわぁ。胸もデカいし

 

 「すんませんッしたァァァァァ!!!」

 

 

 銀時は布団から飛び上がり、ロキに対して極東特有の謝り方である土下座をする。

 ロキは嘆息し、肩を竦める。その後にいつもの道化の笑顔を浮かべ、銀時の頭を叩いた。

 

 

 「もうえぇよ。頭上げェや。銀時が皆の為に刀を振るってくれたのは分かっとる」

 

 「ロキ・・・・・・・・・」

 

 「ちょッッッとやり過ぎやけどな」

 

 「もうホントすんませんでした」

 

 

 再度、銀時は地に額を擦り付け謝罪した。

 ロキは仕方ないなぁ、と呟くと銀時の頭を撫でた。天然パーマの髪をゆっくりじっくりと梳く。

 

 

 「出逢った時から変わらんなぁ。自己犠牲、とはちゃうけど一人で突っ走るところはホンマに」

 

 「・・・・・・すまねェ」

 

 「えぇよ。こうして元気な顔を見れるんや。ウチはそれだけで十分。ただもうちょっと自分の体を大切にしてくれたらえぇなぁとは思うけどな。アイズたん達にもこってり絞られたんやろ?」

 

 「あァ。骨何本か逝っちまってたからな。万能薬(エリクサー)飲んだから大丈夫だっつったのに付きっきりで看病して来るから、逆に疲れたぜ」

 

 

 あの日。怪物祭(モンスターフィリア)の日。

 銀時は闘技場の地下で、フレイヤ•ファミリアのある男と一戦交えた。

 お互いが己の信じるモノを糧にし、衝突した。

 銀時は今まで培った伎倆(わざ)と戦闘の経験を全て絞り出し木刀を振るった。

 剣の腕は伯仲していた・・・が、地力が差を生んだ。Lv.という無慈悲な程に明確な差が勝敗を分けた。

 

 

────そこまでよ。お互いに矛を収めなさい。

 

 

 決着が付く寸前、透き通る様な声が二人の耳に届いた。

 発した声の主は紺色のローブを被っており、顔は見えなかったものの正体だけは感じ取れた。人物ならぬ神物。

 

────美の神•フレイヤ。

 

 銀時は木刀を腰に携え直すとフレイヤと男を一瞥し、闘技場を後にした。フレイヤが目の前に現れた時点で、事の顛末が誰の仕業だったのか言わずとも理解したのだ。幾度の血が流れ、ふらついた足取りで黄昏の館まで着くと意識を失った。

 

 翌日、目を覚ますと目を腫らしたアイズが自身の顔を覗き込んでいた。その横にはティオナがヨダレを垂らして眠っていた。

 

 

────心配・・・したんだよ。銀ちゃん。

 

────悪ィな。

 

 

 

 「美少女に看病されるとか羨ましいわ。それもアイズたんなんて・・・ウチもケガしようかなぁ」

 

 「やめとけやめとけ。色々問題になるから。それにアイツらに看病されてる間、外に行けねェんだよ。一回、試したらリヴェリアが笑顔で部屋の外で待機してたからなぁ」

 

 「・・・・・・やっぱやめとく」

 

 

 その光景を想像したのか、ロキは顔を青ざめ口を閉ざした。そんなロキに銀時は話しかける。

 

 

 「アイツらはダンジョンに潜ってんだろ?」

 

 「ん?そうそう。アイズたん達の借金の返済の為になぁ。ベートが誘われなくてヘコんでたけど」

 

 「わんこはお留守番か・・・ハンッ」

 

 「そうなんよ。それでな銀時、明日地下にベートと調査に行くんやけど一緒に着いてきてくれへん?アイズたん達が遭遇したっちゅうモンスターの居場所を探りに行くんやけど」

 

 「はいよ、主神さま。明日な」

 

 

 その答えに納得したのかロキはスキップしながら銀時の部屋を後にした。

 銀時はロキの姿が見えなくなると、ゆっくり立ち上がり普段着の着物に着替えた。暫く体を動かしていなかったせいか、バキバキだったので一通り体をほぐし、外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《豊穣の女主人》

 

 

 

 「うぃーす」

 

 「あ、銀時さん!いらっしゃいませ!こちらへどうぞ!」

 

 

 銀時は《豊穣の女主人》へ来ていた。既に夕方なので酒場モードである。

 店員の一人であるシル・フローヴァに案内された席はカウンター席だった。カウンターに座り、いつものお酒とつまみを注文する。

 

 

 「やぁ。また随分とヤンチャしたみたいだね銀さん」

 

 「まぁな。お蔭で暫く呑めねェ状況に置かれちまった。今日はとことん呑むつもりだ」

 

 「じゃあ俺も付き合おう。また暫く()()を離れることになりそうだからね」

 

 

 銀時の隣に座る男・・・否、()()は橙黄色の髪色にポーラーハットを被り旅人を装っている。だがそれが道化(ポーズ)である事を銀時は知っていた。と、同時に自分の性格と似たり寄ったりであることも。

 

 

 「聞いてくれよォ~銀さん。アスフィが俺に冷たいんだ。反抗期ってやつかなぁ~俺は寂しい」

 

 「わかる、わかるぞヘルメスさん。最近、リヴェリアだけじゃなく、アイズも俺に冷たい視線を送ってくるんだよ。銀さん寂しい」

 

 「でも────」

 

 「でも────」

 

 「「可愛いんだよなァ・・・アッハッハッハッ!!」」

 

 

 男神────ヘルメスは酒が入った銀時と一緒にファミリアの女子、または女性について語り始める。その会話の内容はダメ親父そのものでセクハラまがいだ。

 

 

 「銀さんの所はプリップリの女の子ばかりじゃないか。羨ましいよ」

 

 「あぁ~ボンキュッボンは多いが性格に難があるヤツばっかだ。もうちょっと可愛げがある方が俺は好きだね。そっちの姫さんだって上玉じゃねェか」

 

 「アスフィはねぇ~可愛いけど甘やかしてくれないんだ・・・まだルルネの方が可愛げがあるよ」

 

 「まぁ結局────」

 

 「どっちみち────」

 

 「「可愛んだよねェ・・・ガッハッハッハッ!!」」

 

 

 店内に陽気な声が響く。

 店員や女性客の殆どが二人に冷たい視線を送るが気にした様子も気付いた様子もない。

 そんな二人に近付く、一人のウェイトレスの姿があった。そのウェイトレスは二人に怪訝な視線を送ると共に口を開いた。

 

 

 「サカタさん」

 

 「ん?」

 

 「おや?リューちゃんじゃないか。珍しいね、君が声を掛けてくるなんて」

 

 「アナタには話し掛けていません。神ヘルメス」

 

 「釣れないなぁ・・・」

 

 

 銀時に声を掛けたのは店員の一人であるエルフのリュー・リオンだった。

 話し掛けてきたのがリューだと分かると、銀時の顔が一気に青ざめた。

 

 

 「な、ななな何?」

 

 「その・・・以前、訪れてくれた際に無礼を働いてしまった事を謝罪したく・・・」

 

 

 以前とは、ロキ・ファミリアが遠征の帰りに《豊穣の女主人》で宴会を行った際に、銀時がリューにうっかり触れてしまい投げ飛ばしたことだ。

 あれはリューの不可抗力であるし、銀時の不注意で起こってしまった事故であったので、謝る様な事では無い筈なのだが・・・。

 

 

 「もぅリューちゃん!そんな顔してたら可愛くて綺麗な顔が台無しだぞぉ?」

 

 「黙ってて下さい。神ヘルメス」

 

 「はい。すみません。黙ります」

 

 「それでサカタさん。私はアナタに謝罪したいのですが」

 

 「そうだなァ・・・お酌してくれ。それで手打ちだ」

 

 「そんな事で・・・いいのですか?」

 

 「いいんだよ。美人を横に侍らせるだけで酒はなんぼでも美味くなるもんだ」

 

 

 リューは渋々銀時の酌に付き合った。こんなのでいいのか、という疑問が終始頭の中に浮かんでいたが。

 銀時はお猪口に入った酒を飲み干すとリューと向かい合って言った。

 

 

 「なぁリューさんよ。シケた面してねェで笑おうや」

 

 「笑う・・・ですか?」

 

 「そうそ。ほれ、ニッ!」

 

 「こう・・・ですか?」

 

 「ちッがァァう!こうだこう!」

 

 「こう・・・・・・ですか?」

 

 

 リューは銀時のマネをしようと、指で頬を押し上げる。半強制的に剥き出しになった白い歯と今まで見た事のない困った表情のリューに男性冒険者は恍惚な表情を浮かべる。

 不器用な笑顔に思わず、店内が優しい空気と笑い声に包まれる。勿論、店内の隅ではシルを含めた店員たちが笑いを堪えていた。

 

 

 「あの・・・俺、神なのに空気なんだけど・・・」

 

 

 ヘルメスの呟きは酔った銀時と頑張って笑顔を作ろうとするリューには聞こえることは無かった。

 

 

 後に《豊穣の女主人》のエルフ店員の不器用な笑顔が可愛いとオラリオ中に広まるのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。またせてしまって申し訳ありません。如何でしたか?


この場を借りて謝辞を。
お気に入りが1200件を超えました。ありがとうございます!!これからも頑張りますので応援よろしくお願いします!

そして・・・
『しんと』さん、『MA@KInoco』さん最高評価ありがうございます!!
『コーコーや』さん、『Nm』さん、『六華』さん、『ミルクココア』さん、『ユキニティー』さん、『blank s』さん、『カクト』さん、『ライトニング葉桜』さん、『ドン吉』さん、『バルサ』さん、『ユーロ圏』さん、高評価有難う御座います!!

みなさんの評価は励みと共に身が引き締まります!


ではまた次回にお会いしましょう!感想評価お待ちしてます!!


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必・殺・技

・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで?

昨日、一昨日で評価付き過ぎでしょう?どして?嬉しいけど。狂喜乱舞してるけど。書き溜めしてたこの話も投稿するけど。在庫セールス並みだけど。

言いたいことは後書きにて。ではどうぞ。





 

 「うぇっぷ・・・気持ち悪」

 

 「銀さん、吐かないで下さいっスよ?」

 

 「ふんッ。だらしねェ・・・」

 

 

 銀時、二日酔い中。

 銀時、ラウル、ベート、ロキの四人は東のメインストリートに来ていた。理由は怪物祭(モンスターフィリア)で起きた()()()()()()()を除く、異常事態(イレギュラー)の調査である。

 

 

 「銀時、ホームで休んでてえぇよ?二日酔いの辛さは嫌という程知っとるし」

 

 「お、俺ァ、一度結んだ約束は反故にしねェよ。ウプ・・・」

 

(その割には前回の遠征で男の約束を簡単に破棄してたっスけど!?状況によってコロコロ変わり過ぎでしょアンタ!?)

 

 「吐くんじゃねぇぞ腐れ天パ。匂いが移る」

 

 

 主神であるロキが先頭を歩き、ベート、ラウル、少し離れて銀時が続く。

 フラフラした足取りに加え、明らかに体調が優れていない銀時をロキとラウルは気遣うが、ベートは素知らぬ顔でどんどん進む。

 

 

 「俺、水貰って来るッス。そこで待っていてください!」

 

 「ウプ・・・助かる・・・・・・」

 

 「ラウル頼んだで〜」

 

 

 一行は足を止め、一時の休息に入った。

 ラウルは銀時の為に近くの店へ水を貰いに行き、ロキは苦笑を浮かべつつも介抱する。だがベートだけ静かに苛立ちを募らせていた。

 

 

 「チッ。そんな体たらくだから()()()にヤられんだろうが」

 

 「・・・なんでベートがそれを知っとるんや?」

 

 「ハッ。あの日、腐れ天パがホームに帰ってきた時に匂ったんだよ。()()()()()()血の匂いと獰猛な獣の匂いがよ」

 

 「なるほど・・・な」

 

 

 ロキは目を閉じ、ベートの言葉を噛み締める。

 銀時はいつも以上に死んだ双眸をベートに向ける。だがその双眸は先程までとは違い、何かの感情が渦巻いているのが見て取れた。

 

 

 「この際だから言ってやる!テメェは()()()の憧憬だろうが!これ以上負けんじゃねェ!みっともねェ姿を晒すんじゃねェ!しっかりしやがれ腐れ天パ!!」

 

 「ベート・・・・・・」

 

 「・・・・・・・・・」

 

 

 ベートの感情を顕にした叱咤は銀時の心の奥底に深く刺さった。

 銀時はフッと笑うと、隣で支えてくれていたロキに目配せした。ロキは少し顔をほころばせてベートに向き直り口を開いた。

 

 

 「なんやなんやぁ?ベートは銀時のことを心配しとるんか?可愛いやっちゃなぁ!」

 

 「バッ、いやちがッ────」

 

 「わざわざ()()()たんまで出して心配するとはなぁ・・・あのベートが・・・」

 

 「だからちがッ────」

 

 「わかっとるわかっとる。ベートはアイズたんが大好きなだけや。そしてアイズたんが憧憬を抱いてる銀時に嫉妬してるだけやんなぁ。可愛いなぁホンマに」

 

 「おい!聞けよ!」

 

 

 ウガァ!と赤くなって叫ぶベートに、ヒッヒッヒッ、とロキは邪笑する。

 ひょうきんな主神の前では、斜に構えるベートの態度も台無しだった。

 

 

 「もうッほんまベートはツンデレなんやから」

 

 「やめてくれよロキ。男のツンデレなんて気持ち悪くて見れやしね────オロロロロロ!!」

 

 

 銀時が地面に吐瀉物をぶちまけるのと同時に、ベートは後方に飛んだ。ロキは左方に飛んでギリギリ回避する。

 

 

 「テメェ!ちょっと毛に付いちまったじゃねェか!どうしてくれんだゴルァ!」

 

 「も、問題ねェよ。これはもんじゃ焼だから。お前の毛にはもんじゃの生地が付いただけだから」

 

 「大丈夫やベート!銀時の言う通りこれはもんじゃ────オロロロロロロ!!」

 

 「どこが大丈夫なんだよ!!テメェも貰いもんじゃしてるじゃねェかァ!!汚ェッ!臭ッ!!鼻が曲がる!!」

 

 「何この混沌(カオス)・・・・・・・・・」

 

 

 水を貰いに行っていたラウルが水を片手に戻ってくると、途轍もない混沌(カオス)の状況が目の前に広がっていた。

 ラウルは両腕を組んで彼らを叱る様に声を荒らげた。

 

 

 「もう皆さんしっかりして下さいッス!僕たちはオラリオの上位ファミリアなんスよ!!それに、()()()女神がゲロぶちまけていいんスか!!」

 

 「仮にも、ってなんやラウル!ちょいと話を聞かせて────オロロロロロロ!」

 

 「うおッ!?・・・最悪だ!最悪ッスよ!とりあえずこの水を飲むッ────オロロロロロロ!」

 

 

 結局、貰いもんじゃの波に耐えきったベートが新たに水を取りに行った。その時に貰った水で、付いたゲロをきちんと洗い流したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《東・メインストリート 下水道》

 

 

 「大変な目に遭ったッス・・・・・・」

 

 「そう言うなラウル。これも経験だ。大人になる為の・・・な」

 

 「良い風に纏めるのやめましょう?全然、カッコ良くないッスよ銀さん」

 

 

 一行は()()()()すると調査を再開した。とは言っても昨日にロキが粗方調べていたので、残るは下水道のみとなった。

 古びた小屋の中にあった螺旋階段を降りると、耳朶に届いてくる水流の音と暗闇が蔓延る下水路が見えた。

 一行は携帯用の魔石灯を取り出し、明かりを灯した。薄暗い闇を温かな光が照らす。

 

 暫く、当てずっぽうに下水路を調べ回ると、一行の前にこれまで目にしたことのない鉄の門扉が現れた。

 年月を感じさせる古い両開きの門は、重量感溢れる錠前が取り付けられており、左右の扉を固く閉ざしていた。

 

 

 「旧式の地下水路みたいやなぁ・・・なんか臭うなぁ」

 

 

 そのロキの意見は三人にとっても納得がいった。

 ベートがその錠前を軽く力を入れて引きちぎると、ゆっくりとその門扉は開いた。

 

 門扉前の短い階段の先は、通路と水路の区別なく浸水していた。闇夜の下の河川の様に黒く揺らめく水面に、開けたベートと三人は口元を歪めた。

 

 

 「水浸しじゃねえか・・・」

 

 「誰かおんぶしてぇや!靴濡らしたくない!」

 

 「だとよラウル」

 

 「俺ッスか!?」

 

 「何の為にお前を連れてきたんだと思ってる?ロキが我が儘いい出した時の犠牲になってもらう為に決まってるだろうが」

 

 「つべこべ言わずにさっさと背負いやがれ。進むぞ」

 

 「アンタら覚えとけよこんちくしょう!!」

 

 

 ロキをラウルが背負い、ベートと銀時を先頭に奥へと進み始めた。

 水の高さは各々の脛あたりにまで及んでいる。加えてダンジョンの様に迷宮のようになっていた。

 

 

 「わんこ、匂いはどうだ?」

 

 「いや、微かに人の匂いが有るが・・・水のせいで薄れちまってるから、上手く嗅ぎ分けられねぇ・・・」

 

 

 旧式の地下水路に人の残り香があることをベートが見抜くが、詳しい情報は得られないようだ。

 川の上流を遡るように水の流れを辿っていく中、やがて大きな『穴』が現れた。

 石材をボロボロに崩れさせ、大きく壊れた水路の壁面。水はここから流れ出て、さまよう様に旧式の地下水路に巡っているようだった。

 

 

「当たりみたいだな」

 

「あァ。くっせぇ匂いがプンプンするぜ」

 

「え?まだゲロ臭う?」

 

「そっちじゃねぇよ!確かに少し臭いけども!」

 

 

 ロキを背負ったラウルを後退させ、銀時とベートはその大きな『穴』をずんずん進む。薄暗い地下水路を恐れることなく迷うことなく進み、現れた階段を上る。

 

 

 「広ェとこ出たな」

 

 「貯水槽だろうよ。ほら、いたぜ」

 

 

 一本道だった水路がひらけると、高さ10メドル以上あるであろう長方形の空間が現れた。大きな等間隔を空けて並んでいる無数の石柱は頭上の天井を支えている。

 

 ずるずる・・・と何かを引きずる様な音が響き渡ると、闇を掻き分け、黄緑色の体皮があらわになる。

 長大な体躯をくねらせ、絡み合ったような格好で出現する複数の食人花のモンスター。

 一行の気配を感知したのか、広間の奥から大蛇の様に這いより、一度ぶるりと蠕動したかと思うと、粘液を引きながら先端部分を開花させた。

 毒々しい極彩色の花弁を広げ、牙の並ぶ醜悪な口を晒し、モンスターは体を持ち上げ、頭上高くから銀時たちを見下ろした。

 

 

 「あのモンスター、ティオネたちによれば打撃に強いらしいで。あと魔法に反応するんやて」

 

 「【魔力】が0の俺には関係ねェよ。わんこ、お前打撃通らないなら致命傷だろ?」

 

 「ハッ。得物が木刀の奴に心配されちゃ世話ねェな。問題ねェよ」

 

 

 ベートは右手を腰に回し、燃えるような緋色のナイフを取り出した────『魔剣』である。

 抜き身の刀身を右足、白銀のメタルブーツに宛てがう。

 魔法効果を吸収する特装武装(スペリオルズ)《フロスヴィルト》に、『魔剣』の刃から緋色の波流が流し込まれる。

 

 

 「景気がいいこって。こんなヤツらに()()を使うかね?」

 

 「別に躊躇いはねェよ。テメェごと消し炭にするつもりだからな。せいぜい気を付けな」

 

 「ほざきやがれ。オメーこそ気ィつけな。ぽっくり死なれると葬式代がかかっちまう」

 

 「ハッ!そっくりそのまま返すぜ!」

 

 

 二人は一斉に飛び出した。

 食人花のモンスターはロキの忠告があったとおり、魔法に、つまり『魔剣』で火炎を付加された特装武装(スペリオルズ)を持つベートに反応した。

 

 

 「────しゃらくせェ」

 

 

 野獣を連想させる獰猛な笑みを浮かべたベートは、自身に殺到する触手を見切り、避け、かいくぐり、一匹に炎を纏った右足で渾身の足刀を叩き込む。

 

 

『────────ッ!?』

 

 

 ベートの必殺の一撃に同胞が炭と化したモンスター達は覆い被さる様に上空から接近する。

 ベートは口元に獰猛な笑みを浮かべ、モンスター達の後方を指差した。

 

 

 「────がら空きだぜ?」

 

 

 食人花の口腔を背後から木刀が貫き穿つ。

 その一撃は食人花のモンスターの核である『魔石』を砕き、一気に灰へと還した。

 

────奇襲。

 

 銀時が最も得意とする戦法であり、身体の奥底に眠る戦いの“記憶”の断片を再起させる引鉄(トリガー)である。

 

 

 「ウオォォォォォオッ!!」

 

 

 地に着くと同時に、全身の筋肉を(バネ)にし、大地を踏み抜き加速。

 全身が唸りを上げ、血液が沸騰し、木刀を握る手に全神経が集中する。

 食人花のモンスターのしなる鞭が顔を掠めるが、無視。否、感覚は全て一点のみに集約される。

 

 

────刺突。

 

 

 全神経が集中し、全ての感覚が一点のみに集約された銀時の必殺の刺突が、食人花のモンスターの腹を穿ち、破砕と粉砕をもたらした。

 大地を轟かす一撃は止まる事を知らず、他の食人花を巻き込み、後方へと弾き飛ばした。

 

 

 「────────ベート」

 

 

 銀時の上空を飛び越え、一匹の狼が疾駆する。

 緋炎を帯びる右足が獰猛に煌めき、床に火片の靴跡を残しながら徐々にモンスター達へ肉薄。

 緋色の鮮やかな火線が大気を焦がし、一気に跳躍。石柱を左足で蹴りつけ、更に加速。

 火矢の如く、燃え盛る右足を食人花の頭部へ突き出す。

────その爆砕の一撃は悪魔(ディアボロ)の如し。

 

 

 「悪魔風脚(ディアブルジャンプ)ゥウァァァァア!!」

 

 「アウトォォォォォォォォオ!!!」

 

 

 ベートの必殺の一撃に呼応する様にラウルの轟々する叫びが貯水槽に響き渡る。

 頭部に決まったベートの必殺の一撃は大爆発を引き起こし、食人花の体が爆散する。連鎖する様に次から次へと食人花モンスターの長躯が爆散する。

 

 

 戦いが終結した薄闇の中で、通常の状態に戻ったベートのメタルブーツと銀時の“洞爺湖”の木刀が『魔石灯』の灯りに反射し、輝きを辺りに散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 




はい八話終わりました。如何でしたか?今回は銀魂らしさが出せたと勝手ながら思ってます。

原作ではこの調査はロキとベートの二人で行うのですが、銀さんを暴れさせて、ラウルをロキの護衛役として同伴させました。



まぁ・・・ツッコミ役が欲しかっただけなんだけどね!!



毎度恒例になりつつある謝辞。

三月八日、日間ランキング三位に入りました!ありがとうございます!!

『ゆっきい』さん、『秋庭 祐憧』さん、『ニート予備軍』さん、『チュッパチャプス』さん、『耶義』さん、『ゆるゆりゆるゆる』さん、『偽恋』さん、『A3U33』さん、最高評価ありがとうございます!!

『銀魂』さん、『鶴マタギ』さん、『codejanner』さん、『KATSU51』さん、『Taronekokichi』さん、『NOアカウント』さん、『カッパの耳くそ』さん、『雷神卿』さん、『ボルボックス男爵』さん、『jdg7』さん、『FREET』さん、『Eire』さん、『キノラ256』さん、『エレイシア』さん、『光龍翁』さん、『氷の騎士団』さん、『薬袋水瀬』さん、高評価ありがとうございます!!


皆さんの評価は私の血となり肉となり力となっています!本当にありがとうございます!!


ではまた次回。感想、評価お待ちしてます!!


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歓楽街

前回と同様、たくさんの評価と感想をいただいて感謝感激雨あられ。

なぜかこの作品の感想ではなく、WJの銀魂の感想だけを頂いたりしましたが。ネタバレヨクナイ。まぁ私はWJ見てるから良いんですけど。 他の読者さんが・・・ね。


今話はやっとあの場所へ。そして()()()の人物を出します。


ではどうぞ!







 

 「そこのお兄さん、寄ってかないかい?」

 

 「旦那旦那!ウチで楽しんでいかないか〜い?」

 

 「ハイハイ後で行くから後で!」

 

 

 桃色の魔石灯が闇深き夜を照らし、淫靡な雰囲気を際立たせる。

 銀時は一人、南東のメインストリートに足を運んでいた。

 南東のメインストリートと言っても、隣接する繁華街とは違う活気がある場所に銀時はいる。

 女性の殆どは半裸であり、背中や腰を丸出しにしたドレスで着飾っていてどこか蠱惑的だ。変わって男性の顔はだらしないものが多い。

 

 

 「ほら、一緒に楽しみましょう?」

 

 「どうせ来るんなら今でもいいでしょう旦那様?」

 

 「だァァッ!離せ!俺は積極的な女は嫌いなんだよ!!」

 

 

 蠱惑的な女性たちはいわゆる“娼婦”である。

 街に居る男たちに魅惑的に微笑んだり、時には挑戦的に微笑むその姿は非常にしたたかだ。

 勿論、銀時も例外ではなく街に居る娼婦たちに声をかけられたり、体を触られたり、体を押し付けられたりするなどのこの街における洗礼を一身に受けていた。

 

 

 「今ならワカメ酒でも構いませんよ?アワビの踊り食いから栗拾いまでなんでもサービスしますよ?」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・今度来ますゥゥゥゥ!!」

 

 

 何かを振り切る様に銀時は目的地に向かって駆け出した。

 魅惑的な女性に鼻をだらしなく伸ばす男たちをかき分け、視界に女が入らないように下を向いて走る。()()()来ているので前を向く必要もなく目的地へは数分で着いた。

 着いた、とは言ってもある建物に隠れた路地裏であり、そこから更に進まなければならないのだが。

 

 銀時が取り出した行灯型の魔石灯で暗い細道の路地裏を照らし、しずしずと歩き、誰にも見つかることなく()()を抜け、館の()()と見られる場所へ辿り着く。

 

 その館の五階まで音を立てずに慎重に上り、少し廊下を歩き、かすかに光が漏れる襖の中へと入る。

 

 

 「よォ来たぜ、春姫(ハルヒメ)

 

 「お待ちしておりました、銀時様」

 

 

 襖の中には静かに佇む一人の狐人(ルナール)がいた。

 きらやかな金の長髪に、同じ毛並みの耳と尻尾。透き通る様な(みどり)の瞳は銀時を温かく見つめ、紅の着物は彼女の容貌を更に際立たせていた。

 

 

 「悪ィ少し遅れちまった。通りで絡まれてよ」

 

 「構いません。それに銀時様はわたくしの為にわざわざ赴いて下さっているのです。どうして責める事が出来ましょうか」

 

 「そうか。じゃあいつもの安酒(エール)を頼む」

 

 「ふふ、かしこまりました」

 

 

 狐人(ルナール)────春姫はお猪口を持つ銀時に酒を注ぐ。銀時はそれを一気に飲み干した。

 安酒(エール)であるため、度数が高いわけがなく、簡単に酔いが回ることも無いが銀時は普通に飲む酒よりも春姫の注ぐ酒が何よりも美味だと思えた。

 

 

 「それで銀時様。今宵はどの様なお話をしてくださるのですか?」

 

 「そうだな・・・ある天才の侍の話でもしようか。天狗に育てられ、生き別れた兄と共に父親の仇を討つ英雄譚。知ってるか?」

 

 「いえ存じ上げません。どうかお聞かせください!」

 

 「お、おう。あれは────」

 

 

 銀時は春姫に向かってポツポツと語り始めた。

 二人は()()()()に身を置いた同士であり、同じ国、つまり東洋の島国の出身であった。二人の気の会う事も自明の理だと言える。

 

 

 「────結局、英雄になった天才の侍は心底から信頼していた兄に裏切られて死んでしまいました。・・・まぁこんなところか」

 

 「そ、そんなっあんまりです・・・うぅ・・・うぅ・・・・・・」

 

 「ちょッ泣くな!泣かないで!お願いだから!300ヴァリスあげるから!」

 

 

 英雄の悲劇に思わず涙ぐむ春姫を銀時はあの手この手で宥める。

 どうにか泣き止んだ春姫に銀時は安堵するともう一度口を開いた。

 

 

 「この英雄譚の中で本当にしたたかだったのは英雄の侍じゃなくてその奥さんだろうな」

 

 「・・・どうしてでございますか?」

 

 「その奥さんは夫を殺した兄夫婦の前で舞い踊ったのさ。自分の命を捨てる覚悟で夫への想いの唄を口にしながらな・・・」

 

 「唄でございますか。どの様な?」

 

 「えっと確か・・・」

 

 

『吉野山 峰の白雪 踏み分けて 入りにし人の 跡ぞ恋しき』

 

 

 「綺麗な唄でございますね。そして悲しい。本当に夫を恋い慕っていたのでございましょうね」

 

 「そうだなァ悲しくも美しい唄だ。嫌いじゃねェ」

 

 

 春姫の瞳からほろりと一滴の雫がこぼれた。先程までとは違い、温かく優しい雫だった。

 しんみりとした空気にお猪口に酒を注ぐ音だけが響き渡る。

 

 

 「銀時様はその様なお話をどこで読まれたのですか?」

 

 「ん?読まれたってか、聞かされたんだよ。俺の師匠がその手の話が好きでな」

 

 「そのお師匠様のお名前は?」

 

 「──────だ。聞いたことねェだろ?」

 

 「はい。でも銀時様がここまで優しく在れるのはそのお師匠様のお蔭なのでございましょうね・・・」

 

 

 銀時はその言葉に一瞬だけ目を見開くと、ふっと微笑んだ。

 春姫はその微笑みの意味はよくわからなかったが。

 

 

 「それにしてもここは静かだな。オモテとは偉く違ェ」

 

 「別館でございますから。本館は・・・」

 

 

 銀時達がいるのはある館の別館の五階の一部屋 。

 異国情緒が溢れるこの街を牛耳るファミリアの本拠地(ホーム)の別館である。

 別のファミリアに所属している銀時でも正面から入れる娼婦館ではあるのだが、春姫のとある事情により裏から入らねばならなかった。

 

 

 「アイシャさんがこの部屋を毎度用意して下さるんですよ。たくさん話せる様に、と気を利かして下さって・・・」

 

 「それは向こうで聞き耳立ててるヤロウか?」

 

 「────ッ」

 

 

 スー・・・と襖が静かに開くと赤面したアマゾネスの女性が現れた。

 アイシャと呼ばれた女性は黒の着物に()()()()、少しはだけさせた着物から見える双丘は見る人を釘付けにし、清楚な中にも妖艶さを演出していた。下ろせば臀部まであろう黒髪は頭上で束ねられて団子になっており、綺麗なうなじを見せ付けると同時に、アイシャの額にある()()()()()を目立たせていた。

 

 

 「アイシャさん?いらっしゃったのなら仰ってくれれば良かったのに・・・」

 

 「いや、ついさっき来たところでねェ・・・」

 

 「あん?お前、俺が英雄譚を語っていた時から居たじゃねェか」

 

 「そッそれはその入りづらかったというか、感動してたというか・・・

 

 

 尻すぼみに小さくなっていくアイシャの声は銀時たちに届くはずもない。

 そんな姿を見た銀時は怪訝な顔をして首を捻るばかりだ。なぜなら以前会った時はこの様な雰囲気ではなかったからである。

 

 

 「なぁ春姫。どうしたのコイツ。俺が知ってるコイツはギラギラした目で男を見定めて食い漁るような女の獣だった筈なんだが。なんでこんなにお淑やかになってんの?」

 

 「ど、どどどうしてでしょうね。わたくしにはさっぱり・・・」

 

 

 何かを必死に隠す春姫に対して銀時は魚の死んだ様な目を更に腐らせていった。

 赤面したまま動かないアイシャは目を泳がせている。そんなアイシャに春姫が助け舟を出す。

 

 

 「ほら、アイシャさん。銀時様がわざわざ来て下さったのですから精一杯おもてなししないと」

 

 「そ、そうだねェ・・・」

 

 

 銀時を挟む様に座るアイシャと春姫は代わる代わるお猪口に酒を注いだ。

 銀時の顔は相変わらず怪訝なままだ。

 

 

 「ねェ怖いんだけど。両手に花って聞こえはいいけど、さっきから震えが止まらないんだけど」

 

 「あ、アイシャさん!銀時様は震えが止まらないんですって!温かい料理を出したらどうでしょう!?」

 

 「そ、そうだな!持ってくる」

 

 

 動きがぎこちないアイシャが席を立つ。銀時は震えに加え冷や汗をかきはじめた。

 暫くして、黒のお膳を持ったアイシャが再び襖を開けて入室してきた。

 

 

 「アイシャさん凄いです!こんなに沢山料理が作れるなんて!日頃から銀時様の為に料理をムグッ────」

 

 「これ以上喋るな春姫。いいな?」

 

 

 口を手で塞がれ、鋭い目つきで睨まれる春姫は何度も頷いて了解の意を示した。

 アイシャが銀時の前に置いた料理はどれも見栄えがよく、綺麗に盛り付けられていた。空腹をおぼえさせ、食欲をそそるには十分だ。

 

 

 「アイシャさん、食べさせてあげないと!」

 

 「お、おう。まずは“山芋鉄板”・・・あーん」

 

 「いや、自分で食べ────」

 

 「食え」

 

 

 アイシャが作った食べ物を本人から半強制的に食べさせられる銀時は先程から表情が曇ったままだ。

 アイシャは銀時の言葉を待つようにじっと見つめる。

 

 

 「・・・うめェよ」

 

 「よかっ────んんっ。次は“アスパラと鶏肉のにんにく炒め”だ。食え」

 

 

 先程と同じく差し出される食べ物を銀時は口にする。

 これも変わらず美味であり、銀時好みの味付けであった。

 

 

 「普通にうめェ・・・」

 

 「そ、そうか・・・じゃあ最後は“すっぽん鍋”────」

 

 「ちょッッと待てぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 銀時はアイシャからのあーんを遮り、声を荒らげる。

 アイシャはポカンとしたまま動かない。

 

 

 「これ全部“精”のつく料理じゃねェかァァァ!」

 

 「な、何か問題が?」

 

 「問題だらけだよ!問題しかねェよ!」

 

 「そ、そうか・・・・・・銀時、食べなんし♡」

 

 「言い方の問題じゃねェェェェ!!俺にこれを食わせて何するつもりだ!」

 

 「何ってナニを・・・」

 

 「だァァァァ!女性がそんなはしたない事言うんじゃありませんッ!!ほら、純情な狐人(ルナール)も居る事だし・・・」

 

 

 銀時が振り向くと、そこには純情な狐人(ルナール)の姿はなく、代わりに桃色の魔石灯に照らされた布団が一式敷かれてあった。

 

 

 「おいぃぃぃぃ!!そういう所は気が利く()じゃなくていいんだよォォォォ!!」

 

 「まぁまぁ。これでも飲んで落ち着け」

 

 

 アイシャから渡された小瓶を中身を確認することなく銀時は飲み干した。

 ちょっとした苦味がある独特の飲み物に銀時は再び顔をしかめる。

 

 

 「え?この飲み物何?」

 

 「東洋の島国から取り寄せた“赤マムシ”という飲み物だ」

 

 「結局“精力剤”じゃねェかァァァァ!!」

 

 

 激昴した銀時は空になった小瓶を下に叩きつける。バリンッと割れた音が響く。

 銀時はさんざん叫んだので息が荒れ、その姿を見たアイシャは肩を落とし、呟いた。

 

 

 「じゃあ片付けてくる・・・・・・」

 

 「ハァハァ待てよ。」

 

 

 料理が乗る黒のお膳をアイシャが下げようとすると、銀時がストップをかける。

 アイシャから強引に箸を奪い、三種の料理を口に掻き入れる。

 数分もせず空になった料理を見て、アイシャは目を見開いた。

 

 

 「ごちそうさん。美味かったぜ」

 

 「あ、あぁ・・・」

 

 

 そう一言だけ呟くと銀時は立ち上がり、部屋を後にしようと襖に手をかけた。

 アイシャはそんな銀時の横顔をただ見つめていた。

 

 

 「また来る。春姫にも伝えておいてくれ」

 

 

 銀時が部屋を出て暫く経って、アイシャは銀時の落とし物に気づいた。それを手に取って銀時を追いかける様に立ち上がる。

 

 

 「銀時ッ!」

 

 

 アイシャが銀時に追い付いた所は裏口だった。

 銀時は声に反応すると髪を乱しつつも追い掛けてくるアイシャに近寄った。

 

 

 「こ、これ忘れ物・・・」

 

 「ん?あァ・・・こっちの小鞄(ポーチ)に入っていたのか」

 

 

 アイシャから渡された物は恐らく精製金属(ミスリル)で作られたであろう『D』の記号が浮かぶ“瞳”だった。

 

 

 「怪物祭(モンスターフィリア)小鞄(ポーチ)を奪われてから、古いヤツを使っていたがボロが来ちまってたみたいだな。破れてらァ」

 

 「それは何だ?」

 

 「知らねェよ。金になるだろうと思って取っておいただけだ。サンキュな」

 

 

 銀時はそう言うと、前かがみのまま夜の街へと呑まれて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アイシャさん、どうでしたか!?」

 

 「近い近い!・・・飯は全部食べてくれたよ。美味しい・・・だとさ」

 

 「良かったです!今まで頑張った甲斐がありましたね!御礼のつもりだったのでしょう?」

 

 「あぁ」

 

 

 アイシャの脳裏に浮かぶとある思い出。

 

 数年前、目の前で優しく微笑む狐人(ルナール)にむしゃくしゃし、嫌気がさして娼婦館に運び込まれた大切な石を叩き割った。

 犯人は直ぐに自分だとバレてしまい、所属しているファミリアの団長から額に一撃貰った。血が垂れ流れる中、その団長は更に追い打ちを掛けようと肉薄してきた。

 

 

 その時。

 

 

 その団長の横腹を思いっきり木刀で殴った酔っ払いの侍がいた。

 憤慨した団長はその酔っ払いに襲い掛かるが攻撃を全ていなされ、最後に強烈な峰打ちをもらい、気絶した。

 問題が解決することは無かったのだが、その酔っ払いの侍と一緒に訪れていた冒険者を装う()()が、その大切な石の情報が入り次第持ってくるという事で話がついた。

 

 だがそんな出来事があったという事実を目の前で目を輝かせる狐人(ルナール)は知らない。

 

 

 「銀時様も勿体ないですよ。こんなにアイシャさんが想って下さってますのに」

 

 「・・・」

 

 「『俺は積極的な女は嫌いだ!』でしたか。アイシャさんを変えた銀時様の言葉は」

 

 「・・・・・・その言葉を銀時は酔っていて覚えてないらしいがな」

 

 「・・・・・・・」

 

 「何か言えよ!泣き虫!」

 

 「ひはいへふ!はいひゃさん!」

 

 

 アイシャは言葉に詰まった春姫の両頬を引っ張る。涙目になったところで流石にやめたが。

 

 

 「わたくしにも銀時様のような英雄様が来て下さるといいなぁ・・・」

 

 「ふん。男の裸を見るだけで気絶する女が何言ってんだか」

 

 

 狐人(ルナール)は知らない。

 辛気臭い顔を晴らす為に、アイシャが銀時に話し相手になってくれと頼み込んだことを。

 

麗傑(アンティアネイラ)】は知らない。

 銀時と話している時、誰よりも可憐で恋する乙女の顔になっていることを。

 

 

 二人は知らない。

 一人の男が三日三晩ムラムラして悶々と過ごすことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい終わりました。いかがでしたか?

寝る三十分前にこの作品を書くのですが、誤字が多い。ホントに。誤字報告してくれる方、本当にありがとうございます。


毎度恒例謝辞。
『ハイスクールD×D』さん、『死にかけ爺さん』さん、『Narato』さん、『MS_Type_GANDAM_Frame』さん、『スライム極』さん、『ウサギ男』さん、『歌神utagami』さん、『佐双』さん、『竹刀』さん、『南雲ハジメ』さん、『もりりん之助』さん、最高評価ありがとうございます!!

『wakkaron』さん、『sethie』さん、『拓摩』さん、『Jason』さん、『アルカディアス』さん、『Fiju』さん、『ブロッコリー』さん、『とし1024』さん、『keyyu』さん、『yuki000』さん、『エリュシデータ×ダークリパルサー』さん、『ロジョウ』さん、『superwakley』さん、『暁宇宙』さん、『Messiah』さん、『9×9=81』さん、『リュージーン』さん、『tsuyuto』さん、高評価ありがとうございます!!

まえがきにも言いましたがみなさんの評価と感想は本当に励みになっています。


途中で出てきた英雄は言わずもがな、でしょう。



話は変わり、私の知り合いに銀魂好きの女子がいるのですが、話によると月詠はあまり好かれていないとのことで。

え!?マジで!?って驚いたのは私だけでしょうか。


みなさんはヒロインの中で誰が好きなんでしょうか。


ではまた次回にお会いしましょう!


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階層主

前回の感想欄にて。

どれだけ君たち、エルフの王に夜這いさせたいの?

変態しかいねぇ・・・だが悪くない。

書いた人とはいい酒が呑めそうだ。


ではどうぞ!


《ダンジョン•37階層》

 

 

 ダンジョン・37階層は『白宮殿(ホワイトパレス)』と呼ばれる。

 その名の謂われは白濁色に染まった壁面と、あまりにも大きい迷宮構造だ。ところどころに休息(レスト)に使用出来る小部屋などは存在するが、上層とは異なり全ての要素が大きく広い。

 そんな城壁に近い階層を銀時、リヴェリア、アイズ、フィン、ティオナ、ティオネ、レフィーヤ、その他のサポーターは探索していた。

 

 

 「それでアイズはあんな無茶な探索してんのか」

 

 「あぁ。だがその理由を聞いても『何でもない』の一点張りで、何も話そうとしない」

 

 

 銀時とリヴェリアは先頭で鬼神の如く剣を振るうアイズを見てそう呟いた。

 

 

 銀時が歓楽街へ行ってから数日後、アイズ、リヴェリア、フィン、ティオナ、ティオネ、レフィーヤの六人は地上へ一度帰還していた。

 

 理由は18階層で起こった、とある事件にある。

 

 リヴィラの街で【ガネーシャ•ファミリア】の【Lv.4】であるハシャーナが殺害された事件である。

 それを調査していた一行だったが、異常事態(イレギュラー)が起こり、 以前の遠征で遭遇した芋虫型の新種と交戦。そしてハシャーナを殺した犯人であろう赤髪の女と交戦した。

 どうやらその女が新種の調教師(テイマー)だったらしく、レフィーヤの援護を受けたアイズが交戦するが押し返されたという。そして後に参戦したフィンやリヴェリアの力量を見定めて立ち去っていったらしい。

 

 アイズが一人無双しているのは、赤髪の女に辛酸を舐めさせられただけだと思っている者もいるが、付き合いの長いフィンやリヴェリア、銀時はそれだけが理由でない事を見抜いていた。

 

 

 「しッかし、ちょっとでも苦戦すりゃァ可愛げがあるってのに。止まる気配ねェな」

 

 「ヒヤヒヤするが仕方ない。どうせ空腹になったら治まるだろう。ティオナかレフィーヤにアイズは任せよう」

 

 

 リヴェリアの言葉通りに小腹が空いたアイズは止まった。ティオナやレフィーヤがすかさず駆け寄り、あれよこれよと食べ物や回復薬(ポーション)を渡そうとする。食べ物だけは口に入れている。

 

 

 「おらよッ!」

 

 

 勿論、銀時も戦闘に時折参加している。

 この階層は戦士系(ウォーリアー)のモンスターが多く出現する。

 ミノタウロス級の体格を誇る『バーバリアン』、蜥蜴人(リザードマン)の上位種である『リザードマン・エリート』、黒曜石の体を持つ『オブシディアン・ソルジャー』。殆どが人型である。つまり、詠唱する暇もないので魔道士にとってはかなりの鬼門な階層だ。

 サポーターも含め、リヴェリア、レフィーヤと魔道士のいるこのパーティーは自然と戦闘を行わなければならなくなる訳だ。

 

 そろそろ、折ってしまった剣の借金分のヴァリスが溜まり、地上に帰還しようかとなってきた矢先、アイズがとんでも発言をした。

 

 

 「フィン、リヴェリア、私だけまだ残らせて欲しい」

 

 

 その言葉にパーティーの全員がアイズに振り向く。

 アイズの視線は確かな意志を漂わせており、驚いたフィンも軽く瞠目した。

 

 

 「フィン、私からも頼もう。アイズの意思を尊重してやってくれ。私が残るから、滅多に言わないこの子の我が儘を聞き入れてやって欲しい。」

 

 「「「「リヴェリア!?」」」」

 

 「・・・わかった。許可するよ。但し、安全面を考慮してもう一人残ってもらう。それが条件だ」

 

 

 リヴェリアが残るという事もあり、フィンは首肯した。

 他の面々は危ないからとかなり反対している。

 

 

 「銀時、残れ」

 

 「やなこった」

 

 

 リヴェリアから振られた提案を銀時は間髪入れずに一蹴した。さすがのリヴェリアも顔をしかめ、アイズは寂しそうに目をウルウルさせる。

 

 

 「銀ちゃん・・・」

 

 「そんな目しても嫌だっつうの。俺ァ早く帰りたいんだよ」

 

 「銀時、本当にそれが理由かい?」

 

 

 アイズの呟きに反論した銀時だが、フィンが疑問を呈した。フィンの問いに銀時は目を泳がす。

 

 

 「ほ、他に何の理由があるってんだよ」

 

 「ここには『スパルトイ』という全身白骨(がらんどう)のモンスターがいるよね?君は確か()()()()()()が苦手だったような・・・」

 

 「まさか銀時、貴様・・・」

 

 「ちッ違ェし!平気だし!苦手じゃなェし!別に『スパルトイ』の姿が怖いとかじゃねェし!」

 

(((怖いんだ・・・)))

 

 

 銀時以外のパーティーメンバーの意見が一致した瞬間だった。

 銀時は言い訳を並べているが、誰もそれに耳を貸していない。他は帰還の準備を着々と進めていた。

 

 

 「じゃあアイズを頼むよ。リヴェリア、銀時」

 

 「フィンさんちょっと待って!!置いていかないでェェェェ!!」

 

 

 銀時の叫び虚しく他の面々は帰還した。

 銀時もそれに乗っかろうとしたが、リヴェリアの笑顔で仁王立ち、加えてアイズのジト目がそれを阻んだ。

 

 

 「ありがとうリヴェリア、銀ちゃん」

 

 「今更だな。これっきりにしてほしいところだ」

 

 「ごめん・・・来るよ。」

 

 

 アイズの呟きと同時に地面が隆起した。

 岩の悲鳴とともに夥しい亀裂が生じ、地割れの如く大地が割れる。

 

 

『────ォォォォォォォォォォオッッ!!』

 

 

 他ならぬ階層主。

 37階層に君臨する『迷宮の孤王(モンスターレックス)』。

 

────ウダイオス。

 

『スパルトイ』をそのまま巨大化させたような骸骨のモンスター『ウダイオス』は全身を漆黒に纏っている。

 下半身こそ地中に埋められたままであるが、上半身だけでも高さは十(メドル)に迫るほどでら前のめりに折れ曲がる背骨は無数の椎骨が震えながら意思を持った様に波打っている。

 巨躯の中心には規格外の大きさの魔石が分厚い胸骨と助骨に守られているように存在している。それはさながら心臓のようであった。

 

 

 「『ウダイオス』・・・もう三ヶ月経ったか」

 

 「もう・・・嫌。帰らせて」

 

 

 三ヶ月前に【ロキ•ファミリア】の全戦力を投入して駆逐した存在に、リヴェリアは半ば呆然とこぼす。銀時は更に悲観したが。

 

 

 「銀ちゃん、リヴェリア、手を出さないで」

 

 

 アイズの予想通りに出現した階層主に対し、アイズは腰の鞘から《デスペレート》を抜き放つ。

 神々さえも認める偉業を成し遂げ、限界を超克する為には丁度良いのであった。

 

 

 「すぐに終わらせるから」

 

 

 階層主の黒骨が震える。臨戦状態へと移行する最強の敵を前に。

 アイズは地を蹴り、無謀な戦いへと身を投じた。

 

 

 

 そこからは長くもあり、一刹那の様な時間が過ぎた。

 

 

 

 アイズは超短文詠唱である『テンペスト』を使い、『ウダイオス』と衝突。力は拮抗しているものの、手数が多い『ウダイオス』が明らかに優勢だった。

 だが何度も『目覚めよ(テンペスト)!』『吹き荒れろ(テンペスト)!!』と唱えたアイズは更に加速し、『ウダイオス』を追い詰め、右腕を吹き飛ばした。

 

 すると『ウダイオス』の切り札が出現。

 集団で攻めた時には確認されなかった『ウダイオス』の隠し球。

 

 体長六(メドル)ほどあるでろう黒大剣。階層主の天然武器(ネイチャーウェポン)

 

 だがアイズはそれに怯むこと無く、『ウダイオス』の攻撃を避けながら肉薄。逃走など頭の中に全くなかった。

 

 

 銀時とリヴェリアはついでとばかり出現する無数の『スパルトイ』を駆逐。勿論、心はアイズの安否にあった。

 

 

 

 全ての決着がついた時、立っていたのはアイズだった。

 

 

 

 満身創痍のアイズにいち早く駆け付けたのはリヴェリアだった。じっとしてろ、と一言言うと回復魔法をかけ、血に汚れた顔を強く拭う。アイズは片目を瞑り、頬をぶにぶにと押されながらされるがままになった。

 

 

 「ねぇリヴェリア。どうしてほっぺが赤いの?」

 

 「・・・・・・・・・気のせいだろう」

 

 

 あからさまに目を逸らすリヴェリアに、むぅとアイズは唸る。

 

 

 「ねぇ銀ちゃん。どうしてまたほっぺに紅葉が出来てるの?」

 

 「・・・・・・・・・気のせいだ」

 

 

 リヴェリアと同じく、あからさまに目を逸らす銀時にアイズは目を細め、むぅと唸る。

 何かが二人の間であったという事だけがアイズの中でわかったことだった。

 

 

 

 

 + + +回想+ + +

 

 

『ウオォォァァァァァア!』

 

『うるさい!黙って処理出来ないのかお前は!』

 

 

 銀時は奇声をあげながら『スパルトイ』と交戦していた。

 だが苦手であるので視界に入れないように()()()()()戦闘していた。方法は単純。空気の流れを読んで木刀を振るうだけ。加えるなら相手に殺気をぶつけて反射したものを体全体で認識するだけだ。

 

 単純ではあるが、幾千の戦場を乗り越え、無数の戦闘を行ってきた銀時だからこそ行えた技だった。

 

 

『はぁはぁ落ち着いたか・・・ん?』

 

 

 骨の音がなくなり、銀時は目をゆっくり開いた。

 

 だがそれが間違いだった。

 

 瀕死の『スパルトイ』の頭蓋骨にある空洞な目に見つめられていたのだ。

 『スパルトイ』の上半身、下半身は銀時の木刀によって粉砕されていたのだが、頭蓋骨の陥没した目だけが銀時の顔に向いていた。

 

 

『イヤァァァァァアッッ!!』

 

 

 

 もにゅん。

 

 

 

 目の前の『スパルトイ』の頭蓋骨から送られる虚無の視線に心底驚いた銀時は、全速力で後方へ飛んだ。

 もにゅん、と柔らかい感触に頭が包まれた銀時は一瞬だけ途轍もなく幸せを感じたが、頭の上から降り注がれる殺意の籠った視線に体がガクガク震えた。

 

 

『────お粗末』

 

『へ、へ、変態ッ!!』

 

 

 エルフの王が思わず、そう叫んでしまうほど銀時の鼻は伸びていた。

 バチンッッ!という音はアイズらの戦闘で周囲に響くことはなかった。

 

 

 + + +終了+ + +

 

 

 

 アイズの問いにリヴェリアと銀時は、何故こうなってしまったのかを顧みていた。

 

 

((アイツが悪い))

 

 

 結局、二人とも同じ答えに辿り着いていたのだが。

 アイズは二人を交互に見やると少しだけ頬を膨らませて拗ねた。相手にされない事が気に食わなかったのだ。

 

 

 銀時とリヴェリアはアイズを挟んで帰路についた。

 三人の間には会話こそなかったものの、モンスターに遭遇した時は抜群の連携で駆逐して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ダンジョン・5階層》

 

 

 「あ・・・あれ・・・?力が入らない」

 

 

 いかにも初心者という体の一人の白髪の少年がフラフラした足取りでダンジョンを散策していた。

 なぜフラフラなのかというと、人生初の魔法が出現し、主神に黙ってダンジョンへ赴き、超短文詠唱の魔法を連発した為だ。初心者によくある魔法の使いすぎによる精神疲労(マインドダウン)だった。

 

 

 「あ・・・やばい、視界が歪みはじめ・・・て・・・・・・」

 

 

 ドサッとダンジョンの中でぽつねんと少年は転がってしまった。力が入らず、起き上がれない。

 

 

────おいおい、大丈夫かよ。

 

 

 そんな声が聞こえた。

 重い瞼を頑張って開くと何匹かのモンスターに囲まれている自分を護るように剣を振るっている男の姿がぼんやりと見えた。

 

 

(なんて綺麗で・・・力強い剣舞なんだろう・・・・・・。)

 

 

 ぼんやりとした視界であっても、圧倒的な剣舞は少年を興奮させた。

 少年の最後の視界に映ったのは鼻をほじりながらモンスターをいとも簡単に屠っていく銀髪の男だった。

 

 

 「うぅ・・・あ、あれ?ここは・・・・・・」

 

 

 少年が目覚めたのは少し経ってからだった。

 何か頭の柔らかい感覚に心地よさを覚えつつも、周囲を見渡すために体を起こした。

 

 

 「幻覚?」

 

 「幻覚じゃないよ」

 

 

 少年の目と鼻の先にはさらりと流れた金髪の神をも羨む美少女がいた。そして少年の憧憬の人物でもある。

 今起こっている現実を呑み込み始めた少年は首から上を赤く染めていき、あっという間に爛熟した林檎を作り出していた。加えて深紅(ルベライト)の瞳の中が糸ミミズのようにぐちゃぐちゃになっていた。

 

 

 「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁブヘッ!」

 

 「いってぇなぁ・・・前見ろ前」

 

 

 無我夢中に逃げ出した少年はその方向にいる男に気付けなかった。

 少年は衝撃で尻餅をつくと、ぶつかった男を徐々に見上げた。

 

 

 「あ、あなたは・・・・・・」

 

 「んん?」

 

 

 鼻をほじる銀髪の男は少年からすれば命の恩人でもあった。そして自身に剣を魅せた男でもあった。

 

 

 「ぼ、僕を弟子にしてください!!」

 

 

 咄嗟に出た言葉に一番驚いたのは少年自身だった。だが引っ込める訳にもいかない。それに目の前にいる男の剣に魅せられたことは間違いなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「弟子になりてェんなら────焼きそばパン、買ってこいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい終わりました。いかがでしたか?

引越しがあって投稿がおくれてしまい申し訳ありません。どうにか調子を取り戻したいです。

では毎度恒例謝辞。

『スリーピーアッシュ』さん、『スライム極』さん、『天魔・夜刀』さん、『ファントムD×D』さん、『〆霧』さん、『やんゆー』さん、『ゎかさぃも』さん、『V3_X』さん、『奇巌』さん、『リクルート85』さん、『かっつ』さん、『耶義』さん、『助広雨椿』さん、最高評価ありがとうございます!!


『カンラ』さん、『tatatata21』さん、『クレイマン』さん、『黯戯 狂華』さん、『マルク マーク』さん、『黒龍帝』さん、『さばの味噌煮』さん、『ゆうAB』さん、『夕月夜一』さん、『ミラネ』さん、『キノラ256』さん、『みおや』さん高評価ありがとうございます!!


これからも頑張っていきますので応援宜しくお願いします!!



私はこの話を書いている時はDOESの『曇天』を聞きながら書いてます。なんとなく銀魂の曲の中で好きなんですよね。
卒業とか別れの時には『Good Coming』の『仲間』を聞いてます。

みなさんは銀魂の曲ならどんなのが好きなんでしょうか。


銀魂実写化について。

かぶとがり篇をやるらしいですね。ということは金ピカの近藤を中村勘九郎さんがするのでしょうか。

そう思うと少しだけ楽しみになってきます。


ではまた次回。感想評価お待ちしてます!


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師匠と弟子

前回の感想欄。

わざわざ好きな曲をいっぱいあげてくれた方、ご苦労さまでした。みなさんの意見が聞けて嬉しかったです。

ではどうぞ!


 

 

 「顎引け。足止めんな。集中切らすんじゃねェ」

 

 「ハァハァ・・・はい!」

 

 

 深夜。都市の北西にある市壁の上部。

 月明かりに照らされながら木刀とナイフが幾度とぶつかり合い、銀髪と白髪が風になびく。

 

 

 「ブヘラッ!」

 

 「あーあ。気ィ失ってらァ・・・」

 

 

 銀時は1週間前から白髪の少年の師事を請け負っていた。

 

 少年の名は『ベル・クラネル』

 

 冒険者に成りたてであり、銀時からしてみればひよっこ同然の人物である。

 

 

(なんでこんな事してんのかねェ俺は・・・)

 

 

 そんな人物をなぜ師事しているのかを一番疑問に思っているのは他でもない銀時だった。

 

 銀時がベルに初めて出逢った時は『豊穣の女主人』だった。とは言ってもすれ違っただが。それから暫くして、ダンジョンで魔法の過剰使用による精神疲労(マインドダウン)で倒れ、モンスターに囲まれているベルを救った。ただの偶然であるし、ベルの『弟子にして下さい!』の一言を鼻で笑い一蹴する事も出来たのだが、どうしてもしなかった。

 

 それから1週間。銀時はベルの師事をしていた。 わざわざ深夜に、である。銀時なりの目論見があると言えばあるのだが、全て失敗に終わっている。

 

 

(パシっても嫌な顔一つしねェ。かなり強めに叩いても諦めずに向かってきやがる。少し褒めたら満面の笑顔。テメェは何かの主人公かコノヤロー・・・)

 

 

 日に日に強く綺麗に輝くベルの深紅(ルベライト)の瞳に比べて、銀時の目は日に日に腐っていた。

 理由は簡単。ベルの自分にない純真で素直な心が銀時にとって毒であるからだ。それともう一つ。

 

 

(()()()()()()・・・。この上からの視線は間違いなく美神(アイツ)だろうが・・・)

 

 

 銀時は刺さる視線に自身の目を合わせる様に視線の方向へ首を向けた。

 瞬間、クスッと微笑まれた様な感覚を覚え、更に目を腐らせた。ベルを取り巻く環境に嫌気がさした為だ。

 

 

 「・・・んんっ。いてて・・・」

 

 「起きたかベル」

 

 「はい師匠。もう一本お願いします!」

 

 

 ベルは身を屈めて低姿勢になる。

 銀時は木刀を握りしめ、ベルを見る。どう来るかを予測するためだ。

 ベルはじりじりと足を滑らせる。シッ!と空気を吐き出すと同時に地面を蹴った。

 

 

 「ハアァッ!」

 

(いい(もん)はもってる。呑み込みもアイズほどじゃねェが早ェ・・・)

 

 

 ベルの得物はナイフ。つまり一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)が基本だ。その為に必要な足を持っている事を銀時は見抜いていた。

 ベルのLv.に合わせる様に銀時は木刀を振っている。だが1週間前よりもかなり力を入れている事は事実だった。

 

 

 「ウォォオッ!!」

 

 「思考捨ててヤケクソになんじゃねェ。んなもんはゴブリンにでも喰わせとけ!」

 

 「フギャッ!」

 

 

 一段階上がった剣戟に思考が追い付かなくなったベルは銀時に特攻。あっさりと逆襲に遭った。

 ぶっ飛ばされたベルは何度か回転し市壁に激突。目を回して気絶する。

 そんな弟子の姿を見た銀時はふっと息を吐き、事前に持って来ていた飲み物を口に入れる。

 

 

 「ほんと、俺ァコイツのどこに惹かれたのかねェ・・・」

 

 

 銀時の中で渦巻いているのはやはりその疑問だった。

 銀時の様な第一級冒険者が他のファミリアの団員の師事を受け持つなど御法度であることは言われずともわかっていた。

 それでも初めて言葉を交わし、パシった日から数日経つ。銀時の中でもどうしてベルを鍛えているのか自身を理解出来てなかった。

 

 

(まさか・・・ベルと自分(テメェ)自身を重ねちまってんのか。()()()()()・・・もとより救う気はねェが。)

 

 

 自身が至った一つの答えに自分自身が呆れた。

 暫く呆然としていると、気絶していたベルが目を覚まし、銀時に質問を投げかけた。

 

 

 「師匠、その飲み物?容器?なんですか?見たことないんですが・・・」

 

 「ん?あァこれは万能者(友人)に作ってもらってな。飲み(もん)を冷えたたまま保存できる優れもんだ」

 

 「わぁ便利ですね!中身は何です?」

 

 「“いちご牛乳”だ」

 

 「“いちご牛乳”?ってあの“いちご牛乳”ですか?」

 

 「その“いちご牛乳”だ。言っとくが俺が【デメテル・ファミリア】に打診して売り出したもんだからな」

 

 「えぇっ!?!?」

 

 

 銀時の言う【デメテル・ファミリア】とは麦や野菜、果物などの農業を営む商業系の派閥である。

 銀時はそのファミリアの主神であるデメテルと繋がりがあり、ファミリアに訪れた際にデメテルの偶然の産物で出来た“いちご牛乳”をご馳走になったのだ。そして一口でハマった銀時がデメテルに打診し世に売り出したのだった。ひたすら美辞麗句を並べ立てて踏み切った商売だったが大当たり。結果【デメテル・ファミリア】の名を売る事にもなった。加えて銀時の財布事情を()()()()()一つの事業でもある。

 

 

 「そして俺は生粋の“いちごぎゅーにゃー”だッ!!」

 

 「“いちごぎゅーにゃー”!?」

 

 「そう!己の名誉を掛けてひたすら“いちご牛乳”を飲み続ける男の事を指す言葉だ!」

 

 「は、はぁ・・・」

 

 

 “いちご牛乳”の良さを力説する銀時に苦笑いを浮かべるベル。

 数分後、興奮が収まった銀時は明日のベルの修行内容について語った。

 

 

 「そんでもって明日は早朝から【デメテル・ファミリア】の所へいけ」

 

 「そ、早朝ですか?」

 

 

 今現在、深夜だけあってベルは身体の疲労を懸念した。だが心配は杞憂に終わる。

 

 

 「8時半に行ってもらう」

 

 「あ、あれ?意外と遅いですね。5時とか言われるのかと思いました。」

 

 「バカヤロー!8時半はまだおネムの時間だろうが!十分早いんだよ!」

 

 「は、はぁ・・・」

 

 

 何度目か分からない苦笑いを浮かべるベル。

 二人が解散したのはそれから十分後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《【デメテル・ファミリア】本拠(ホーム)・麦の館》

 

 

 「待っていたわ。あなたが銀さんの言っていた子ね」

 

 「は、はい!」

 

 

 指定された時間より十分ほど早い8時20分。

 ベルは銀時の指示通り【デメテル・ファミリア】を訪れていた。

 迎えてくれたのは主神であるデメテルである。

 蜂蜜色のふわふわとした長髪に、服の上からでもわかるほどの双丘。優しげな垂れ目はベルを温かく迎えてくれた。

 

 

 「えっとデメテル様。何をすればいいんでしょう?」

 

 「うふふ、こっちよ。新しく作る畑を耕してもらうわ」

 

 「は、はい!」

 

 

 デメテルから案内された場所はまだ手入れされていない畑だった。

 だがベルはオラリオに来る前はこのような仕事をよく手伝っていたので自信があった。

 

 

 「えっと・・・ベルだったかしら?銀さんから手紙を預かっているわ。はい」

 

 「なんでしょう?・・・・・・・・・え!?」

 

 

 銀時からの手紙というより指令は、畑を鍬を使わずに()()()()()()というものだった。追記で5キロほど重みのあるバンドを両手両足に付けろとも。

 

 

 「よいしょっと・・・じゃあ頑張ってね、ウフフ。」

 

 「は、はい・・・」

 

 

 デメテルが運んで来た5キロの重りを両手両足に付けたベルはくよくよしても仕方ないので早々に作業を開始した。

 

 

 

 + + +二時間後+ + +

 

 

 

 「お、終わった・・・よし!!」

 

 「お疲れさん。初めてにしちゃ意外と早かったじゃねェの」

 

 「し、師匠!おはようございます!今まで何してたんですか?」

 

 「あん?9時半に起きて、ここで朝飯食べてたんだよ。美味しいんだよなぁこれが」

 

 「えぇ・・・」

 

 

 いつもの死んだ魚のような目をした銀時にベルは心の中で嘆息する。

 銀時は椅子から立ち上がるとベルを少し離れた所まで連れ出した。その場所は果実の木々に囲まれている場所だった。

 

 

 「ベル、ナイフ構えろ」

 

 「わかりました!」

 

 

 痛む手を強引に無視して、ベルはナイフを握る。銀時はそれを確認すると木刀を抜刀した。

 

 

 「これが終わったら今日はおしまいな」

 

 「はい!それでどんなことを?」

 

 「ちょっと待ってろ。」

 

 

 銀時はベルではなく一つの木に向いた。

 少しキョロキョロした後、木刀を思いっきり木に向かって振り抜いた。

 

 

 「すべて斬れ!!」

 

 「へ?」

 

 

 銀時はそれだけ言うと脱兎の如く走り去った。

 ベルがポカンとしているとブゥゥンとあまり聞きたくない羽音がした。

 

 

 「もしかして・・・蜂!?!?」

 

 

 何十匹という数の蜂がベルに向かって殺到する。勿論、ベルはそんな数を対処できる訳がなく・・・。

 

 

 「師匠ォォォォォォォオオ!!」

 

 

 ベルは銀時と同じくひたすら逃げ回ることになった。この時、ベルはナイフを二刀扱うことを覚えたのであった。

 

 

 

 + + +30分後+ + +

 

 

 

 「お・・・終わったぁ・・・・・・」

 

 「随分と時間掛かったじゃねェか」

 

 

 ベルは二刀で全ての蜂を斬り終わるとその場に倒れ込んだ。

 銀時は事前に持って来ていた万能薬(エリクサー)を、全身が腫れ上がっているベルに向かってぶっかける。

 みるみる元の姿に戻ったベルを銀時は引っ張り、蜂の巣まで連れていく。事前に聞かされていたベルの魔法である『ファイアボルト』で蜂の巣を焼却した。

 その後、銀時は【デメテル・ファミリア】のホームである『麦の館』を訪れた。

 

 

 「少し早いけどお昼ご飯食べていきなさい」

 

 「あ、ありがとうございます!いただきます!」

 

 

 ある一室に入った銀時とベルはテーブルの上に置かれてある見た目から美味だとわかる食べ物に涎を垂らす。

 デメテルが優しく二人にそう言うとベルは用意してくれていた昼食にかぶりつく。

 途端、ベルの深紅(ルベライト)の瞳から滴がポロポロ流れ出る。

 

 

 「お、おぃじぃよぉ・・・う゛ぅ・・・えぐっ・・・」

 

 「よしよし。銀さん、少しやり過ぎではなくて?」

 

 「・・・・・・すんません」

 

 

 デメテルはベルの頭を優しく撫でる。そして銀時を軽くたしなめた。

 豊穣の女神だけあって豊かな作物をふんだんに使ったこの昼食はベルにとっても銀時にとってもほっぺが落ちる程美味であった。

 

 

 「ねぇベル。あなたはどうしてそんなに頑張るのかしら?」

 

 「グズッ・・・どうしても追い付きたい人がいるからです。その人を必死に追い掛けているから・・・」

 

(ハハーン・・・なるほどね)

 

(もぅ悪い顔。(はた)から見れば兄弟みたいなのに)

 

 

 ベルの振り絞った声に何かを感じ取った銀時。その銀時の浮かべている笑みを見てデメテルは少しだけ顔をしかめた。

 

 

 「師匠はその・・・僕みたいに憧憬を抱いている人はいるんですか?」

 

 「・・・いる。どこまでも強く在り、優しく在った人だ」

 

 「へぇ・・・その人は今どこにいらっしゃるんです?」

 

 「・・・さぁな。どこかで子供に物事を教えてるんじゃねぇの?」

 

 「そうなんですね!どんな人だったんです?」

 

(嘘ね・・・)

 

 

 デメテルはそう思うも口には出さなかった。銀時が哀愁を漂わせることは全くなかったからだ。

 銀時は出された“いちご牛乳”を喉に流すと、少しだけ自分の過去を語りだした。

 

 

 「まぁなんつうの。どこまでも底がしれねェ人だったよ。俺ァ物心ついた時から刀握ってたんだが、一度も勝てなかった」

 

 「師匠でさえ勝てないなんて・・・」

 

 「正直、目の前に蔓延る無数の敵よりも恐ろしく感じたな。その人は或る隊の隊長だったんだが、誰一人として勝てなかった」

 

 

 少しだけ過去を懐かしむ銀時の声は温かくも寂しくも感じた。ベルもデメテルも聞き入っていた。

 

 

 「では銀さんは小さな頃から戦場を渡り歩いていたの?」

 

 「あぁ、そうだな。あの人に教えを説いてもらった後でも戦争、戦闘の繰り返しだった。あの人の指揮下で動いたよ」

 

 

 銀時の過去の話がひと段落すると、次はベルの過去の話をすることになった。

 結局、二人が【デメテル・ファミリア】をお暇したのは正午を過ぎた時間帯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「野菜、いっぱいもらっちゃったなぁ・・・神様喜んでくれるかなぁ・・・」

 

 

 ベルはホームである廃教会を目指してメインストリートを歩いていた。両手で抱えている袋には採りたての野菜が溢れ返っている。

 

 

 「師匠の話、どこかで聞いたことがある気がするんだよなぁ・・・」

 

 

 銀時はベルとデメテルに自身のちょっとした過去と渡り歩いてきた戦場について語った。

 その戦場や戦闘をベルはどこかで聞いたことがあると思ったのだ。

 

 

 「おじいちゃんが聞かせてくれた英雄譚の中にあったのかな?でもあまり覚えてないって事は僕はあまり好きじゃなかった話なんだろうな」

 

 

 ベルは必死に記憶を探る。

 そしてたどたどしいが記憶の断片を引き当てた。

 

 

 「確か結構新しい本だったはず。国の為に滅私奉公して、最後には国から裏切られ、全ての責任を押し付けられた部隊。確か名前は────」

 

 

 隊長の名まで思い出しはしなかったが、ベルは確かな確信を持って部隊の名を思い出した。そして銀時のことがよりわからなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部隊の名は────赤報隊。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい終わりました。いかがでしたか?

多分、誤字多いので気づいたら直します。寝る十五分前ぐらいにいつも書くので。


『追記』
デメテルに労力を提供する代わりに他の神たちには銀時たちの事を内緒にしてもらってます。団員たちにも同じくです。


今回は結構掘り下げてみました。次からは三巻の内容ですね。頑張ります。


毎度恒例謝辞。

『現実逃避の神様』さん、『やなか』さん、『ラーク』さん、『イベリコ豚29』さん、『アオン』さん、最高評価ありがとうございます!!

『薬袋水瀬』さん、『岬サナ』さん、『えれきあ』さん、『ブブゼラ』さん、『長信』さん、高評価ありがとうございます!!


皆様の応援は私のやる気に直結してます!がんばります!


あとベル=パクヤサって感想欄に書かれていたのですが、半分正解半分不正解です。もう少ししたらわかると思います。はい。


今回は好きな篇を語りましょうか。
私は『四天王篇』や『将軍暗殺篇』が好きですね。泣ける話が好きです。あと沖田の姉のミツバさんが出る話も。


ではまた次回!少々遅れます!感想評価お待ちしてます!


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レッツ パァァリィィィィ!!

どうも“万事屋父ちゃん”改め“TouA”です。

なんで偽っていたのかを話すには私事が絡むので割愛の方向で。


ただ、混乱させてすみませんでしたァァァ!!


謝ったのでもういいですよね?ということでこれからも『ダンジョンに天パ侍がいるのは間違っているのだろうか』を宜しくお願いします。


では略称、『ダン(ザム)』12話行っきまァァァァァァァす!




 

《黄昏の館 庭園》

 

 

 「よし集めてきたな。」

 

 「銀ちゃん何するの?」

 

 「ねぇねぇ何するの?銀さん」

 

 「まぁ見てな」

 

 

 茜色の夕陽が周囲の風情をかき立てる。

 銀時、アイズ、ティオナの三人は【ロキ・ファミリア】のホームである『黄昏の館』の庭園にいた。

 三人の前には大量の落ち葉、どこか折れている細い木の棒。そして山積みになっている()()()()()がある。

 

 

 「デメテル(知り合い)から予想以上に沢山貰ってなァ・・・せっかくだから俺の出身でやってた事を久し振りにしてみようってな。」

 

 「だから何するのさ!」

 

 「()()()だよ焼き芋。ほら、手伝え」

 

 

 ちなみに落ち葉はティオナ、木の棒はアイズが取ってきた。

 アイズはサツマイモを銀紙で包み、その上から鉄の串を一本ずつ刺していく。

 ティオナは形から、というだけの理由で1から火起こしさせられていた。つまり木と木をすり合わせて火を起こすのである。

 銀時は木の棒と落ち葉を絶妙なバランスで組み合わせていく。アイズらはその手際の良さに目を丸くした。

 

 

 「あっ!煙出てきたよ銀さん!!」

 

 「そこの木屑を乗せりゃあいい。それで火ィつく筈だ」

 

 「あ、煙消えちゃった・・・テヘヘ。」

 

 「誰が山盛りのせろつったよ!この絶壁がっ!」

 

 「だ、誰が絶壁だっ!成長してるもん!数年も経てばティオネみたいにナイスボディになるもん!・・・はぁ、これ意外とキツイのに~!」

 

 

 泣き声を出しながらティオナはもう一度作業を始める。

 アイズは黙々とサツマイモを銀紙で包んで鉄の串を刺していた。その目は真剣そのもの。視線だけでサツマイモを射殺せるレベルだ。

 

 しばらくして二人の下準備が終わると、銀時はパパッと組み合わせものに火を移しサツマイモをふかしていく。アイズとティオナはその光景をまじまじと見ていた。

 

 

 「あ!私、何が飲み物取ってくるよ!」

 

 「いちご牛乳」

 

 「私も」

 

 「自然とパシられた!?でも行ってきま〜す!」

 

 

 ホームへと姿を消したティオナを見送った後、アイズはおもむろに口を開いた。

 

 

 「銀ちゃん、ベル(あの子)に剣を教えてるの?」

 

 「あぁ」

 

 「どんな事してるの?」

 

 「あ~毎日手だけで畑を耕したり、数少ない“いちごぎゅーにゃー”のもとに毎朝いちご牛乳を届けさせたり。勿論、自身のLv.相応にあった重りをつけてやらせてる」

 

 「ねぇ銀ちゃん、剣を教えてないよ?」

 

 「問題ねェよ。週二程度でダンジョンでナイフ二刀の使い方を教えてらァ。ベルが元々持っていたナイフと俺が買ってあげたナイフ。まぁ才能こそ光るものはねェものの、努力と気合いでカバーしてるぜアイツ」

 

 「強く・・・なってるんだね。銀ちゃんがそこまで言うなんて」

 

 「さぁなァ・・・ただ俺ァ『不幸な天才より、幸せな凡人を増やす努力』をしてるだけだ」

 

 「そう・・・なんだ。私も会ってみたいなぁ。また膝枕して・・・うぅん。きちんと話したい」

 

 

 弟子を語る銀時は自然と頬が緩んでいた。銀時に自覚はなかったが。

 アイズは最後の一言だけ違和感を覚えた。まるで銀時の言葉でないように思えたからである。だがそれよりも傷つけてしまったであろう少年と今一度話したいという気持ちが大きかった。

 

 

 「銀さ〜ん!持ってきたよ!」

 

 「楽しそうなことしてるね、銀時」

 

 「団長ぉ一緒に食べましょうね!」

 

 「あわわわわ・・・いいんですか?こんなことして・・・」

 

 「たまには悪くないだろう」

 

 「銀時〜ウチも参加でよろしゅうな!」

 

 

 ティオナが飲み物を持ってくると、それに続く様にフィン、ティオネ、レフィーヤ、リヴェリア、ロキも参加の意を示した。各々既に飲み物を持って来ており、否定的な者でも楽しみにしていることがうかがえた。

 

 

 「ぞろぞろ来やがって・・・はぁ、もうちょい待ってろ」

 

 

 各々は落ち葉を囲むように丸太の上に座った。

 銀時が嘆息するも他の面々が気にすることは全くなかった。そのことに少しだけ凹んだ銀時であった。

 

 

 「ほれ、焼けたぞ」

 

 「あっ私手伝います!」

 

 

 銀時が取り出し、この中で最年少であるレフィーヤが周囲にサツマイモを配っていく。

 全員にサツマイモがまわると、フィンが銀時に向かって口を開いた。

 

 

 「銀時、音頭を頼む」

 

 「えぇやだよめんどくせェ」

 

 「しないと後が怖いよ?」

 

 「・・・・・・・・・不承不承ながルァァァァア、わたくしサカタ銀時がァァ音頭をとらせていただきまァァァすゥゥァァァァア!」

 

 「うるさい。巻き舌やめろ。癇にさわる」

 

 「・・・・・・・・・うす」

 

 「リヴェリアは銀時に対しては辛辣だなぁ。早く素直になればいいのに・・・ウソウソ、ウソだから振り上げた拳下ろしてくれないかな?」

 

 

 心を抉る言葉に更に凹む銀時。静かにキレるリヴェリア。少々焦るフィン。いつもの光景に自然と笑みが零れる他多数。

 

 

 「じゃあいつもどおりウチがやろか!アイズたん【Lv.6】到達おめでとうプチパァリィや!カンパーイ!」

 

 「「「カンパーイ!」」」

 

 

 ホクホクのサツマイモを一斉に食べ始める。

 パカッと二つに割って食べる者や、綺麗に皮を剥きながら食べる者、皮ごと食べる者など食べ方は多種多様だ。

 だが皆が口を揃えて言うことは『美味』であること。そして銀時のちょっとした特技に驚いたことだ。

 

 

 「ん〜美味しい!銀さんおかわり!」

 

 「わ、私もいいですか?」

 

 「銀ちゃん、もう一つ」

 

 「はいよ。ちょいと待ってな」

 

 

 腐るほどあるサツマイモを銀時は再びふかしはじめる。

 立ち上る煙はいつの間にか狼煙のようになっていた。黄昏の館の周囲がざわめき始めるが中庭にいる面々は気付いた様子はない。

 

 

 「何してんスかみなさん!!」

 

 「「「ん?」」」

 

 

 談笑している空気に割り込んできたのはラウルだった。全員がラウルに視線を向ける。

 

 

「ちょっとしたボヤ騒ぎみたいになってるッスよ!早く消さないと!」

 

「気にすんなよらっつぁん。小せェのはテメェの息子だけにしとけ」

 

「余計なお世話っす!!」

 

「・・・・・・・・・フッ」

 

「どこみて笑ってんだ!股間か!俺の股間っすか!」

 

「まぁまぁ、もう直ぐ出来るみたいだからさ。それまで待っておいてよ、ラウル」

 

「団長がそう言うなら・・・」

 

 

 介入したラウルの言い分はもっともであった。だがサツマイモの味を知った面々は止める気配がない。

 

 出来上がったサツマイモをその場で食べるのではなく、各自持ち帰って自室で食べることになった。残された男性陣は片付けを任された。

 

 

 「なんで俺まで片付け任されるんスか!」

 

 「団長の僕まで片付けをやらせるとはね。リヴェリアは相変わらず怖いよ」

 

 「つべこべ言わずにさっさとやっちまおうぜ。日ィ暮れたし」

 

 

 ラウル、フィン、銀時の三人はせっせと片付けを始めた。しかし一つ問題が起きる。

 

 

 「おいラウル、水汲んでこいよ。熱くて仕方ねェ」

 

 「いやッスよ。大体、銀さんがこの騒動を起こしたんじゃないッスか」

 

 「僕が行くのも筋違いだね。やはり、君が行くのが正しいよ銀時」

 

 「めんどくせェなァおい。あ、そうだ!いっそのこと小便でよくね?」

 

 「いいわけねェだろうがァァァァ!!中庭で用を足せる訳無いでしょうが!!」

 

 「じゃあ、う〇こで」

 

 「これが本当のヤケクソだね・・・ってなんねェよ!!いい加減にしろよ!もっとマシな案出して下さいッス!」

 

 

 結局、三人が一人一人バケツを持って消火にあたった。一番疲労の色が濃かったのはラウルであることは言うまでもない。

 ラウルは出たゴミをまとめるとホーム内へと戻って行った。残った二人はホームの柱に腰掛けて空を見上げ、口を開いた。

 

 

 「銀時」

 

 「あん?」

 

 「君は最近、帰りが遅いそうじゃないか。それに娼婦館にも度々通っていたり、神ヘルメスと仲良くしてるそうじゃないか。何か変なことに首を突っ込んでいないだろうね?」

 

 「お前が心配する様なこたァしてねェよ。女囲って酒呑んだっくれてるだけだ。それに俺の心配をするよりテメェの心配した方がいいんじゃねェの?いい歳してんだから」

 

 「ハハハ、耳が痛いよ。どうしてか縁が全く無くてね。いや、ただ苦手なだけ・・・かな?」

 

 「オラリオ1のモテ男が何言ってやがる。だが・・・()()()()()っつう崇高な目標を持ってらっしゃる小人族(パルゥム)が他にいるかね?」

 

 「どう・・・だろう。だけどそれが僕の悲願だからね。やり遂げない訳にはいかない」

 

 「もっと肩の力抜けよ。楽に生きようぜ楽に」

 

 「そうだね。銀時の様に生きられたらどれだけ幸せなのだろう。でも僕は【ロキ・ファミリア】の団長でこの身を一族再興の為だけに捧げると決めている。その為の地位で力で、その為の【勇者(ブレイバー)】だ」

 

 「そうかい。なら何も言わねェよ」

 

 

 二人はロキが置いて行った酒瓶を傾け、右手に焼き芋、左手に先ほど水を汲みに言っていた時に持ってきたお猪口を持ち、語る。

 

 

 「フィン」

 

 「何だい?」

 

 「()()()()()()()()()

 

 「何が・・・と聞くのは野暮だね。わかったよ。僕は一族再興の為なら鬼にでもなろう。決して道半ばで曲げたりはしないと誓う」

 

 「・・・よし。まぁ今度いい小人族(パルゥム)がいたら紹介するわ」

 

 「本当かい?銀時は人知れず顔が広いからね。期待しておくよ」

 

 

 その会話を最後に他愛のない話に変わっていった。

 しばらく二人が談笑していると、酒を持ったガレスが混ざりに来た。古参の三人は星を眺めながら、次回の一大遠征に向けて思い馳せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AM10:00《中央広場(セントラルパーク)

 

 

 「ベル様、今日は何層まで行かれるので?」

 

 「んー師匠の采配次第かな。久しぶりだから少しだけ緊張してる」

 

 

 ベルはダンジョンに続くセントラルパークで師匠である銀時を待っていた。いつもと違うのは隣にはサポーターと呼ばれる少女がいること。

 

 

 「ベル様の師匠様はどのような方なのですか?」

 

 「ん〜上手く言えないなぁ。謎が多いんだよね。でも一言で言えば“恰好いい”かな」

 

 「へぇ〜ベル様が言うならホントにそうなのでしょうね。リリも気になります」

 

 

 銀時に師事されてからはやくも1ヶ月弱。

 毎日欠かさず手だけで畑を耕し、いちご牛乳を配達し、時折蜂の巣の駆除をした。銀時と会うときは週2日ぐらいであり、1日はダンジョン、もう1日は刃を交えている。

 ベルは重りをつけた状態だが、ようやく元のスタイルに戻れる程成長していた。その成長に一番驚いていたのは師である銀時だ。

 

 

 「しかしそのお師匠様は遅いですね。約束の時間は過ぎてますが」

 

 「あ〜師匠は朝に弱いから。もしかしたらまだ寝てるかも」

 

 

 たはは、と力弱く笑うベルをサポーターの少女は怪訝な顔で見つめる。そしてある思いが胸中を渦巻いた。

 

 

(もしかしてベル様はその師匠様に騙されてます?ヘスティア様にも頼まれたんです。リリがしっかりしないと。)

 

 

 サポーターの少女、もといリリルカ・アーデは密かに決意を固めた。自身を助けてくれた意中の相手の師匠を見極めてやると。

 

 

 「あっ!師匠!おはようございます!」

 

 「あまりでけェ声出すんじゃねェ。二日酔いに響く」

 

 「す、すみません!気をつけます!」

 

(あれ・・・この声、どこかで聞いた声だなぁ。)

 

 

 フードをかぶっているリリは銀時の顔が上手く見えなかった。それは以前の同業者と鉢合わせしない為に仕方のない処置ではあるのだが。

 

 

 「あ、師匠。この前に紹介してたサポーターの────」

 

 「リリルカ・アーデと言います。ベル様には・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 「どうしたのリリ!?」

 

 

 銀時を見るや否や絶叫したリリにベルは驚きを隠しきれない。

 対する銀時は鼻をほじりながら、あることを思っていた。

 

 

 「あの時の意地汚い大人!リリから金品巻き上げようとした酷い大人なんです!ベル様!」

 

 「あー思い出した。テメェあの時は犬族(シアンスロープ)だったな。それが本当の姿・・・ってか先に手ェ出したのそっちだろうが!!」

 

 「えぇ。僕はどっちに付けば・・・」

 

 「【白夜叉】とは名ばかりのダメダメな男のくせに!『マダオ』のくせによく言いますよ!少女にお金をカツアゲして、あまつさえケーキを奢らせて、まだ過去を掘り返すんですか!まだリリを脅すんですか!」

 

 「あぁ上等だゴルァ!俺の弟子に相応しいかどうか見極めてやらァ!!・・・・・・・・・ん?」

 

 

────あれ?コイツ、小人族(パルゥム)じゃね?

 

 

 銀時はニタァと笑った。その笑みはリリだけでなくベルでさえも二の腕をさするほどだった。何がよからぬ事を考えていることは明白だった。

 

 

 「テメェら今日は一旦帰って昼過ぎにもう一度ここに集合しろ」

 

 「な、何を・・・」

 

 「えぇっ!?急にどうしたんですか師匠ッ!?」

 

 「体の隅々まで洗ってこい。服は用意してやる」

 

 「だ、だからなんなんですか!急に冷静になって!」

 

 「いや何、どっちが悪ィか公平に判断して貰おうと思ってな。ベル、テメェにもチャンスくれてやるよ」

 

 「へ?なんで僕?ちょっ師匠!」

 

 

 それだけ言うと銀時は踵を返してホームへと戻って行った。ベルとリリはポカンとしたままその場で立ち尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お見合い作戦開始じゃァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、終わりました。いかがでしたか?

今回はある意味大事な回です。どこの文が、とは言いませんが。


毎度恒例謝辞。

『shibaren』さん、『神天地無用』さん、『匿名希望傍観者』さん、『あなべべさんじゅうなな』さん、最高評価ありがとうございます!!

『39373』さん、『ゆのこう』さん、高評価ありがとうございました!!


更新が遅くなります。今回は急ピッチで仕上げたのであしからず。


四月は新刊がたくさん出るので楽しみです。漫画もラノベも推理小説もなんもかんも。アニメもですね。


そうですね、銀魂のイベントに参加したいんです。でも機会がなくて。一度友人に誘われたんですが部活があったりとか・・・ね。行った人いいなぁって思ったり。


今後とも、この作品『ダン(ザム)』とTouAをよろしくお願いします。


@TouA_ss

Twitterです。更新情報や進捗状況をお知らせします。あとは原作についてつぶやいたり。


ではまた次回!感想評価お待ちしております!


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お見合いという名の・・・

フィン様フィン様、打ってたら途中からメガネかけた韓流ドラマの主演男性の名前にしか読めなくなった件について。※ドラマ名『(ピー)のソナタ』

あ、前書きにこれ書いたら皆さんもそうとしか読めなくなってしまうか。まぁいいやw

ではどうぞ!




 

《黄昏の館 とある和室》

 

 

 「あ、あの、師匠?僕たちをなんでこんなところに・・・」

 

 「そ、そうですよ!なぜリリたちを【ロキ・ファミリア】のホームに連れて来たんですか!それにこの様な、と、東洋の衣服まで着させて!」

 

 「まぁ少し待て。いま、呼んでくる」

 

 

 ベルとリリは銀時に連れられ、【ロキ・ファミリア】のホームである《黄昏の館》に訪れていた。

 その際にリリは紅に金箔が降られた着物を、ベルは黒と白が基調の着物。銀時もベルとお揃いの着物を着ていた。

 ちなみにリリの着付けは狐人(ルナール)の女性が、男性側は褐色のアマゾネスが担当した。どちらも銀時の知己である。

 銀時は二人にそう言うと席を立ち、襖の向こうへと消えた。

 

 

 「全く何を考えているんですかあの人は・・・この衣服も動きにくいですし・・・」

 

 「ハハハ・・・でも似合ってるよリリ。すごく綺麗だよ?」

 

 「〜〜〜〜〜〜〜っ!ベ、ベル様はずるいです」

 

 

 顔を赤らめたリリにベルは気づいた様子はない。ベルはそんなリリよりも気になっている事があった為だ。

 

 

(ここはヴァレンシュタインさんがいるホームなんだよね・・・)

 

 

 想いを寄せている、加えるなら憧憬そのものの女性が在籍しているホームに心が落ち着かないのだった。会えるのでは、という僅かな期待が胸を膨らませる。

 

 

 「連れてきたぞ〜」

 

 「銀時、僕はまだ書類の仕事が・・・・・・これは?」

 

 「フィ、フィン・ディムナさん!?」

 

 「フィン様!?どうして・・・」

 

 

 二人が驚くのも無理はない。

 ベルからしてみれば雲の上の存在である【ロキ・ファミリア】の団長であり、数少ない【Lv.6】の冒険者。リリを含めた女性からしてみれば見目麗しく人気のある俗に言うモテる男であったからだ。

 

 フィンは少しだけ黙考し、事態を把握すると二人とは机を挟んで反対側に腰を下ろした。銀時もそれに続きフィンの横に座る。

 

 

 「少しだけこの状況に面食らってしまったよ。知っているかもしれないけど【ロキ・ファミリア】の団長を務めさせてもらっているフィン・ディムナだ」

 

 「ヘ、【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネルです!よろしくお願いします!」

 

 「リリルカ・アーデです。よ、よろしくお願いします」

 

 

 ベルは上擦った声で、リリは平静を装った声でフィンに自己紹介をする。銀時は既に口を押さえて笑いを堪えていた。

 

 

 「それで銀時、どういう事か説明してくれるよね?」

 

 「オメェが昨日言ってた様にいい小人族(パルゥム)を連れてきた。そんだけだ」

 

 「はぁ。これは東洋でいう“お見合い”というものだよね?婚約を望む男性女性が第三者の協力を得て出逢うという。僕は目の前にいる綺麗な着物に身を包んだ彼女とのお見合いをセッティングされたという認識でいいのかな?」

 

 「お、おおおおお見合い!?婚約!?」

 

 「なっ!最初に聞いた話と違うじゃありませんか!どういうことですかサカタ様!!」

 

 

 縁もゆかりもない話に目を回すベルと聞いてなかったことに焦り、憤慨するリリ。フィンも銀時の答えを待っていた。

 

 

 「ウチの団長も早いとこ身を固めなきゃなんねぇ。だがフィンは自身の持つ崇高な目標に寄り沿い、強く在れる小人族(パルゥム)じゃなきゃ納得しねぇ。そんな時、出逢ったのが仮にも【Lv.6】である俺に真っ向からツッコミを入れることが出来るテメェだったってこった」

 

 「評価されたところそこですか!ツッコミだけですか!リリだってしたくてしてるんじゃないんですよ!」

 

 「ちょっ、リリ落ち着いて・・・」

 

 

 フィンは納得した様にゆっくりと頷いた。相反する様に激昂のするリリをベルが宥める。

 

 

 「オイオイ、女の憧れフィン様だぞ?玉の輿だぞ?何が不満だっつうんだよ。所詮、女なんざ男を担保かアクセサリーぐらいにしか思ってねぇんだから十分だろうが」

 

 「酷ッ!?思ってませんよ!何でそんなに女性に対して偏屈なんですか!リリは兎も角、フィン様に失礼でしょ!」

 

 「うん。僕も流石に傷ついたよ銀時。本人を前にそれを言うのはどうかと思うなぁ」

 

『お、お料理をお持ちしました・・・』

 

 「み、皆さん!料理が来たんですって!少し落ち着きましょう!ね?」

 

 

 変な方向にヒートアップする会話を一回ストップさせようとベルが提案する。

 スーっと襖が開くと、少しばかり豪勢な活けづくりを両手に抱えた割烹着姿の金髪の女性が恭しく入室してきた。

 

 

 「ヴァレンシュタインさん!?!?か、可愛ブフッ!」

 

 「ベル様が落ち着いてください!!」

 

 「てめーが落ち着け」

 

 「君が落ち着きなよ・・・」

 

 

 料理を運んできたのはアイズだった。

 割烹着姿のアイズの衝撃に鼻血を吹き出したベルはそのまま幸せそうに机に突っ伏した。

 

 

 「と、取り敢えずいただきましょうか・・・?」

 

 「そうだね、ではいただきます。」

 

 

 突っ伏したベルを除いた三人・・・否、アイズを含めた四人は運ばれてきた料理に舌鼓を打った。だがリリだけは気まずいままであったので深く味わうことが出来なかった。

 

 

 「それにしても・・・銀時、こういうことは事前に連絡してもらわないと困るなぁ。僕もそうだけど目の前にいる二人も随分と困ったはずだ」

 

 「フィン様の言う通りです。もう少しだけでも話してく────」

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

 「急にどうしたんですか!まだ何もいってないでしょ!」

 

 

 耳の前に手を当てて二人の意見を聞いていた銀時は、突然泣き声を上げ机に突っ伏した。なぜか師弟の格好が同じになるという奇跡も同時に引き起こした。

 

 

 「僕はねぇ!良かれ良かれと思ってやったんですよ!ファミリアの為にこのお見合いをセッティングしたんですよ!君にはわからないでしょうね!」

 

 「フィン様・・・どうしたんですかこれ」

 

 「あ〜〜ねぇアイズ。このお酒、もしかしてドワーフ用の度数の強い酒じゃないのかい?」

 

 「わからない。でも銀ちゃんにお酒もってこいって言われたから適当に持ってきた」

 

 

 なんとなく理由を察したフィンとリリ、きょとんと首を傾げるアイズ、未だに突っ伏したままのベル、泣き叫ぶ銀時。お見合いは既にカオスになりつつあった。

 

 

 「でもね!僕の何がわかるって言うんですか!ファミリアの何がわかるって言うんですか!僕はこのファミリアをッ変"え"た"い"ッ!!!」

 

 「ちょっと黙ろうか」

 

 「グフッ!!」

 

 

 フィンの手刀が首に落とされた銀時はいとも簡単に意識を刈り取られた。

 その光景を見たリリは苦笑いを浮かべるが、アイズは気にした様子もなく食事を進める。

 

 

 「さて、本題に入ろう。僕は銀時が言ったようにとある目標がある。その為にも小人族(同 族)の異性、つまり伴侶が必要なんだ」

 

 

 フィンはリリに一から説明した。

 小人族(パルゥム)は他の種族に比べて、その可愛らしくも小さな外見も相まって、種族としての潜在能力が最も劣っていると言われている。事実、他の種族と比べて武勇伝や伝記は圧倒的に少ない。

 そんな中でも古来から小人族(パルゥム)の最初の栄光であり、誇りとされている『フィアナ』という()()()()()小人族(パルゥム)の心の拠り所となっていた。

 だが来たる『神時代』により、『フィアナ』の信仰は一気に廃れた。下界に降りてきた神たちの中にその姿はなかったのである。そして止めを刺された小人族(パルゥム)の低種族であるという自意識に拍車がかかったのであった。

 リリの目の前に悠然と構える異性の同族は、一族の再興の為にオラリオに来て、冒険者となり、名声を手に入れ、同族たちの旗頭になる為にここまで上り詰めたのだ。

 

 

 「銀時は賭博で身ぐるみはがされたり、娼婦館に通って金を湯水の様に使ったり、お酒をベロベロになるまで飲んで他人に迷惑をかけたり、見て聞いての通り、まるでダメなおっさん、いわゆる“マダオ”ではあるけれど、人を見る目があることは僕が()()()()知っている。おふざけ半分で君をここに連れて来たりはしないだろう。だから一族の再興を望む者として、改めて君に問おう。僕の婚約を受ける気はあるかい?」

 

 

 「────すみませんフィン様。受けることは出来ません」

 

 

 フィンの問いに少ししてリリは返答した。

 その返答に困った顔をしたフィンは首を横に少しだけ振ると、口を開いた。

 

 

 「ふぅ・・・なんとなくそんな気はしていたよ」

 

 「リリはベル様の隣にいると心に誓いました。ヘスティア様にも誓いました。それに────」

 

 「それに?」

 

 「サカタ様がベル様を()()()()()()以上、リリが傍にいなくてはなりません!絶対にベル様をマダオに染まらせてなるものですか!」

 

 

 リリの決意の上に見える鬼の形相にフィンは柔らかい笑いを浮かべた。だが内心は女の子は怖いなぁ・・・と震えていた。

 

 

 「取り敢えず二人を起こそうか」

 

 「そ、そうですね・・・」

 

 

 ベルを起こした後は解散の運びとなった。

 ベルは普通に起きたのだが、師である銀時はそのまま突っ伏したまま動かない。予想以上に一撃が重かったようだ。

 

 こうして終わった銀時の思いつきお見合い作戦であるが、更なる波乱が銀時らを襲うことなど知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 煌々と燃える薪がパキッと佳い音を鳴らす。

 辺りは薄暗く、薪が照らす光だけが周囲を薄く照らしている。

 

 

 「フェルズ。中層で起こった問題はどうなっている?」

 

 「【ヘルメス・ファミリア】に続いて【剣姫】にも依頼した。明日には発つだろう。万が一が起こったとしても十分対応できる戦力だ。心配には及ぶまい」

 

 「ふむ」

 

 

 2メドルを超える男神が暗闇向かって問い掛けた。

 声に反応する様に暗闇から全身を黒衣に包んだ者が音を立てずに現れた。

 

 

 「────リドたちはどうだ?」

 

 「問題ない。人目をつくことなく移動できたようだ」

 

 「そうか・・・・・・やはり、()の者の様な存在が無くてはどうも不安になる」

 

 「()()()の事を考えても始まらないだろう。過去を顧み、友に思い馳せるのは全てが片付いてからでも遅くはない。幸い、我らには悠久の時がある」

 

 「そう、だな。では頼んだぞフェルズ」

 

 「あぁ」

 

 

 再び、黒衣に包んだフェルズと呼ばれた者は闇へと消えた。

 男神は静かに目を瞑ると、絞り出す様に虚空に向かってゆっくり言葉を紡いだ。

 

 

 「いずれ全てを語る時が来る。いずれ全てを知る時が来る。その時、貴殿はどうするのだろうな。()の者の様に()()()()()と豪語するのか。それとも全てを掌から零すのか。なぁ────サカタ銀時」

 

 

 その問いは誰にも届くことはなく静かに霧散し、闇へと消えた。

 

 

 

 

 

 




はい終わりました。待たせてしまい申し訳ない。

この小説、本当は終わりまで見えているんです。ゴリラとは違い、最終回まで見えているんです。

多分、30話。いや、書きたいこと、捕捉していったら30話超えるかもしれません。ですがエタったりはしないので絶対。ここに誓います。


毎度恒例謝辞。

『現実逃避の神様』さん、『チュッパチャプス』さん最高評価ありがとうございます!!

『L 11 エルエルフ』さん、『ンゴロニウム』さん、『雑賀衆』さん、『くろがねまる』さん、『たい焼き屋台』さん、『のる』さん、高評価ありがとうございます!!

感想も楽しませて頂いています。みなさんのご意見を見ながらニヤニヤしてますw


しかし今回・・・あのネタ使ってしまったけど大丈夫だろうか。消されたりしないかな?まぁなるようになれ。


次回予告 “ティオネ様 降臨”


ではまた次回!感想評価お待ちしてます!!


P.S.浅田真央選手、お疲れ様でした!勇気をありがとう!


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SとM

取り敢えず前回と前々回のまとめ。

銀時、ベル、リリ、10時半会合。《前々回》

夕方再集合、のち、着付けのあとにお見合い。フィン参加《前回》

銀時気絶。フィンふられる。ベル、復活。《前回》

翌朝、銀時は・・・《今回》

ではどうぞ!

すみません、今回短いです!




 

 「ん・・・・・・んぁあぁムニャムニャ・・・なっ何じゃこりゃぁぁぁ!!」

 

 

 銀時起床。

 だがいつもの自室の布団ではなく、見覚えのない部屋のど真ん中で椅子に座らされ、手足を太い縄で縛られていた。

 

 

 「あら、銀さん起きたの?」

 

 「ティ、ティオネ!これァどういうこった!」

 

 

 銀時の向かい側の椅子に腰掛けていたのはティオネだった。

 ティオネは読んでいた本を閉じ、机の上に置くと銀時の方に向き直り、口を開いた。

 

 

 「どういうことも何も、話を聞きたいだけよ」

 

 「話聞くだけなら縛る必要ありますか!?」

 

 「あるわよ。バカじゃないの?」

 

 「バカはお前だッ!!」

 

 

 逃げ出そうと力を入れる銀時だったが一向に縄がほどける気配はない。

 

 

 「なんだこの縄!?全く(ほど)けねぇじゃねぇか!!」

 

 「あぁ【万能者(ペルセウス)】特製だから簡単には(ほど)けないわよ?刃物には極端に弱いけど力には強いから」

 

 「どんな需要があるんだよ!」

 

 「私が団長にキツく縛ってもらう為に決まってるじゃない。バカなの?」

 

 「だからバカはお前だァァァァ!!」

 

 

 銀時が怒鳴るがティオネは素知らぬ顔だ。

 銀時は息を整えるとティオネに疑問をぶつけた。

 

 

 「それで何が聞きたいんだよ」

 

 「団長がお見合いしたって話。アイズから聞いたんだけどホント?」

 

 「あ、あぁ・・・」

 

 「ふ〜〜〜〜ん」

 

 

 大量の汗を流し、露骨に目を逸らす銀時にティオネはジリジリにじり寄る。

 

 

 「で、どこのメス豚よ。その女」

 

 「・・・へ?」

 

 「どこのメス豚だって言ってんのよ!!」

 

 「テ、ティオネさん?」

 

 「どうせ団長に汚い言葉で罵られて発情する様な醜いメス豚でしょ!?亀(ピー)縛りされてろうそく責めされて濡れる様な淫乱痴女でしょ!?そんな女に団長を渡してやるものですか!」

 

 「それ全部お前ェェェェエ!!誰か助けてくれェェェ!!」

 

 

 銀時の慟哭は誰にも届くことはなかった。ティオネは有りもしない事実に憤慨しその思いを銀時にぶつける。

 

 

 「それでどこのファミリアよ」

 

 「・・・知らねぇな」

 

 「さっさと吐いた方が身の為だと思うけど?」

 

 「ホントに知らねぇんだよ!サポーターしてるって事だけだ!後はなんも知らねぇ!!」

 

 「たったそれだけしか知らないのに銀さんはその女と団長を引き合わせたの?もしかしてムチでぶたれたいの?それともぶちたいの?それともぶたれといてぶたれてやってると思いたいの?もしくはぶっといてぶたされていると思────」

 

 「落ち着けェェェ!!ティオネ様、そのムチ下ろしてェェェ!」

 

 「おいどうした!?」

 

 「「あ・・・」」

 

 「────すまない、邪魔したね」

 

 

 悲鳴を聞いて飛び込んできたのは、話の中心人物であるフィンだった。

 今現在、その一室では椅子に縛られて身動きが取れない銀時に向かって自前のムチを嬉々として向けているティオネの姿がある。

 フィンは一瞬だけ目を見開くと、一言謝罪しスッと退室した。

 

 

 「ちょっと団長に変な誤解されちゃったじゃない!どうしてくれんのよ銀さん!!」

 

 「バッキャロー!あらぬ誤解を受けたのは俺だ!!テメェはもともとドMだからいいだろうが!!」

 

 「うっさい!私は団長の前ではきちんと清純で可憐な女の子を演じてたの!!」

 

 「どこが清純だ!辞書で調べて赤線引いてこい!そんなDT殺しの服を着た清純なキャラがいるわけねぇだろうが!!」

 

 「ど、どこ見てんのよバカ!天パ!マダオ!」

 

 「今更、清純派みたいなキャラ立てしてんじゃねぇ!!清純派キャラってのはなぁ!!恥ずかしがり屋で、あがり症で時には地元の方言がポロッと出るが、心遣い(ホスピタリティ)満載の郷土料理を作れるぐらいピュアッピュアッの優しい子なんだよ!!テメェみたいなドMがなれる訳ねぇだろうが!!」

 

 「ぐぬぬぬぬぬ・・・・・・」

 

 

 もはや何を口論していたのか忘れかけている二人は違う方向にヒートアップする。とは言っても論点はティオネについての事なのだが────その時。

 

 

 「だいじょ〜ぶだよティオ太くん。それならこれ────(ダミ声)」

 

 「ティオナ?どうしたのそんな声出して・・・」

 

 「ティオナ!オイ助け────」

 

 

 突然入室してきたティオナは外から、人が三人ぐらい入れそうなバケツを部屋に持ち込んだ。

 

 

 「生コンクリィトォ〜〜〜(ダミ声)」

 

 「何するつもりだァァァァァァァ!!」

 

 「ホネカワ銀夫と銀アンとデキスギ銀(とし)をこれに入れて海に沈めれば、全てが闇に葬られミナモト・フィンかちゃんの心は君のものになるっていう作戦さ!!(ダミ声)」

 

 「それ全部俺ェェェェ!!誰だ!心が綺麗なティオナにドSの所業(こ ん な こ と)()()()()()奴はァァァァァ!!」

 

 「いいわねその作戦!乗ったわ!」

 

 

 パァッと笑顔を咲かせるティオネとは反対に銀時は自身の行く末と後輩の純情さを汚した者に悲しみと怒りを覚えた。

 

 結局、銀時はティオネにフィンの個人情報を売る事によって難を逃れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《豊穣の女主人》

 

 

 「じゃあ行ってきます!」

 

 「はい、お気を付けて!」

 

 

 《豊穣の女主人》の店員であるシル・フローヴァは毎朝、冒険者であるベル・クラネルに昼食を持たせるのである。

 毎朝の習慣になりつつあるこの出来事は独り身の男の冒険者からしてみれば憧れそのものだろう。

 

 一仕事終えたような顔をしつつもどこか幸せ気なシルは《豊穣の女主人》の店員からいじられることもしばしばだ。

 だがそんなシルなのだが最近、妙に浮かない顔をしていることを店員たちは心配していた。

 

 

 「シル」

 

 「リュー・・・どうしたの?」

 

 「それはこちらのセリフです。悩み事でもあるのですか?」

 

 「えっと・・・クラネルさんのことでちょっとね」

 

 

 恩人の悩みに親身になるリューはシルに優しく問いかけた。

 シルは大層な事じゃないんだけど、と前置きしてリューに打ち明けた。

 

 

 「一週間ぐらい前なんだけど、クラネルさんに私が『何か食べたい物はありますか?』って聞いたの」

 

 「へぇやりますねシル」

 

 「もぅリュー茶化さないで。それでね、その時にクラネルさんは最初は遠慮してたんだけど最後に────」

 

 

 

────じゃ、じゃあ“いちご牛乳”に合う料理をお願い出来ますか?

 

 

 

 「って言ったの」

 

 「“いちご牛乳”・・・ですか。甘い飲み物がお好きなんですね、クラネルさんは・・・ん?しかしクラネルさんは甘い物が苦手だった筈じゃ────」

 

 「そうなの。だから私は『甘い物がお好きになったんですか?』って聞いたの。そしたら予想外の答えが返って来て・・・」

 

 「予想外ですか。どんな?」

 

 

 

────はい!好きになりました!あ、シルさんは西のメインストリートの路地裏にあるケーキ屋知ってます?あそこの苺のショートケーキ美味しんですよ!他にも・・・

 

 

 

 「まるで女の子みたいな答えだったの!!他にもパフェの美味しい店を教えてもらったりして・・・実際行ってみたら隠れた名店だったらしくて本当に美味しかったの」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・シル」

 

 「何?リュー、そんな怖い顔して」

 

 「心当たりがあります。その美味しいパフェも一度食べたことがあります。まだ私が【アストレア・ファミリア】で刀を振るっていた時ですが」

 

 「え!?リューがそのお店知ってるなんてちょっと意外だった」

 

 「えぇまぁ。私は()()()に無理矢理連れていかれたのです。『顔が怖いから糖分を取れ』と。『カルシウムが足りないだろうから』と言って山盛りの生クリームが乗ったパフェを食べさせられました。美味であったのが非常に癪だったのを今でも覚えています」

 

 

 リューは過去に思い馳せたのだが顔は険しい。その表情を見てシルはピンときたようだ。

 

 

 「リューがそこまで言う人なんてあの人しか思い浮かばないんだけど。でも確かにその人なら辻褄が合うかもしれない」

 

 「恐らくシルが思い浮かべている人とクラネルさんを毒した男は同一人物でしょう。あのマダオが・・・」

 

 「ね、ねぇリュー?私、別に悪いことじゃないと思うんだけど」

 

 「何を呑気な事を言っているのですかシル!あのクラネルさんが酒を飲んだっくれては女に迫り、ギャンブルに走っては下着一枚で帰ってくる様な男に成り下がってもいいのですか!!」

 

 「そ、それはさすがに嫌だけど・・・」

 

 「全く、シルは危機感が薄いのです。クラネルさんはただでさえ人を惹き付ける力が有るのですから」

 

 

 ぷりぷりシルに向かって注意を促すリューはまるで()()()()()()()かの様に饒舌に語り出す。

 

 

 「いいですか?たとえ敵から命を救ってくれた恩人であったとしても男は男なのです。私から言わしてみれば男なんて────」

 

(リューは気付いているのかな?時々とっても魅力的な笑顔を浮かべていることを。・・・うふふ、本当に楽しそうに話しちゃって。ちょっと妬いちゃいますよ銀時さん)

 

 

 店長であるミアからの怒号が飛んでくるまでリューによる愚痴は止まる事はなかった。

 だが愚痴だと思っているのはリュー本人だけだろう。第三者から見てみればただの()()()当然のものである事は言わずもがな、であった。

 

 

 

 

 

 

 

 





はい終わりました。ようやくこれでヒロインと銀時との関係の話は書けたかな?あ、まだお母さんがいたよ。まだまだ書かなければ。


では毎度恒例謝辞。

『スライム 極』さん、『To、kensin』さん、『チキン革命』さん、『れんれん』さん、『☆リューク★』さん、『RURL』さん、『からに』さん、最高評価ありがとうございます!!

『斬咲 瀧』さん、『花代 ひな』さん、『ノブヲ』さん、『ABCFF』さん、『たなべ5』さん、『冀望のクエン酸 lv.2』さん、高評価ありがとうございます!!


前回は高評価と低評価が入り交じり、評価バーがもう揺れ動く揺れ動く・・・あのネタ、やっぱ不評だったのかなぁとちょっと反省してます。


今回の話でティオネが何枠か分かってくれたかと思います。ですがあくまで好意の感情を向けているのはフィンに対してです。この小説はダンまちであって銀魂ではありませんから。


★あとドSって誰でしょうね(すっとぼけ)



一つだけ報告を。


https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=147098&uid=106761


上記のURLにこの作品のアンケートを載せました。
三巻分が終わると番外編を1つ挟むつもりなのでその投票を行っています。皆さんの投票をお待ちしております!


ではまた次回!感想評価をお待ちしています!!


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P K R

前回の話で銀さんが『清純キャラ』について語っていました。

そうです。食戟のソーマの『田所恵』の事を言っていました。わかった方すごいです!

なぜその田所ちゃんにしたかというとティオネと声優が一緒なんですよね。それにも気付いた方もいらっしゃいました。いやホントすごい。


今回のサブタイは読めば何の意味かわかります。まぁ言うより見てもらった方が早いかと。


今回は久しく過去篇から。ではどうぞ!





 

『銀時、桜を見た事がありますか?』

 

『んぁ?当たり前だろ。春になりゃそこら中に咲いてらァ』

 

 

 墨汁を垂れ流した様な純黒の空に平然と佇む望月。

 銀髪の少年と壮年期後半の白髪と黒髪の入り交じる男性が縁側に座り、語り合う。

 

 

『では(すべ)ての木が、桜という山を見た事は有りますか?』

 

『・・・ねぇな。え?そんな山あんの?』

 

『えぇ有りますよ・・・そうですね、(ようや)く私達の部隊が正式に認められたのですから、時期になれば皆で見に行きましょうか』

 

『それ・・・いいな。酒とか飯とか一杯持っていこうぜ!』

 

『君は()だ未成年でしょう銀時。()しや、隠れて呑んでいるんじゃないでしょうね?』

 

『そ、そんな訳ないじゃないですかぁ〜アハハ、アハハハハハハハハハ・・・・・・』

 

 

 冷や汗を滝のように流す、遠き日の銀時。

 男性は呆れたように嘆息し、夜空を見上げ呟いた。

 

 

『────空は繋がっている。だが見る事が出来る者と出来ない者がいる。だから約束しよう。共に空を見上げる、其の日の為に』

 

 

『・・・一体なんだよその言葉。(いくさ)の前に必ず鼓舞の為に使ってるが、俺にゃあどーも意味が違うく聞こえんだよなァ』

 

『・・・流石ですね銀時。(これ)()()との約束の言葉です。()い換えるなら私の誓いの言葉でもあります。・・・(いず)れ教えますよ』

 

『別に知りたい訳じゃねぇ・・・』

 

 

 男性は銀時に優しく微笑み、どこか遠くを見る様な目で再び夜空を見上げた。

 銀時はその横顔を見ながら、自身の“師”について考えた。

 

 

如何(どう)かしましたか?銀時』

 

『んにゃ、何もねぇよ』

 

『そうですか。では久し振りに英雄潭でも語りましょう。今日は十倍もの軍勢に討ち勝った英雄の話を────』

 

『お、俺はもうガキじゃねぇ!もう寝る!』

 

『銀時ッ、明日は朝一で居合いの特訓ですからね!・・・・・・はぁ』

 

 

 銀時は立ち上がると自身の部屋に向かって歩き始めた。

 その後ろ姿に声をかけた男は苦笑いのまま短く息を吐くと目を瞑り、過去と未来に思い馳せた。

 

 

『────時計は決して左には回らない。銀時、貴方(あなた)は私の最後の希望なんです。だからもう少し、私の我侭(わがまま)に付き合って下さい』

 

 

 男性の力のない笑みは誰にも見られることはなく、呟きでさえも誰にも届かず、雲一つ無い夜空に吸い込まれ、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「─────さん」

 

 「ん・・・・・・」

 

 「────銀さん」

 

 「んぁ・・・・・・」

 

 「起きて!銀さん」

 

 「んだよ・・・るっせぇなぁ・・・まだおネムの時間なんだよ・・・・・・」

 

 「・・・もぅ仕方ないなぁ」

 

 

 銀時の自室。

 なかなか目覚めない銀時にしびれを切らした女子はサングラスを取り出し自身に付けると、銀時の顔に徐々に口を近付け────そして。

 

 

 「ドゥルルルルッ↗ドゥルルルルッ↘ドゥルルルルットゥドゥルルルル〜ドゥルルルルッ↗ドゥルルルルッ↘ドゥルルルルッティドゥルルルル〜ドゥルルルムギュッ!?!?」

 

 「何してんだテメー」

 

 

 額に青筋浮かべてる銀時の右手に頬を挟まれているのは、サングラスを掛けたティオナだった。

 

 

 「おはヨございます。髪切った?」

 

 「切ってねぇよ!寝込みに何、悪質なイタズラしてんだテメェは!!」

 

 「怒んないでよぉ・・・大体、何回揺さぶっても起きない銀さんが悪いんじゃん!起こさなかったら私がリヴェリアに怒られるんだよ!」

 

 「ぐ・・・・・・ったく、お蔭で嫌な夢見たぜ」

 

 「へ?嫌な夢?どんな夢?」

 

 「あーいや、何でもねぇよ。ほら、着替えっから出てった出てった」

 

 

 半ば強引にティオナを外に押し出した銀時はささっと着替えて共に食堂へ向かった。

 朝食の時間帯のピークを少し過ぎたとはいえ、食堂はまだ混みあっていた。空いている席も僅かだ。

 

 

 「おばちゃん、宇治銀時丼一つ」

 

 「はいよ!」

 

 

 いつも通りに宇治銀時丼を頼んだ銀時はいちご牛乳を片手に空いた席を探す。一番近くにあった手頃な席に着くと、真向かいの人物が声を掛けてきた。

 

 

 「遅いぞ銀時」

 

 「へぇへぇ悪ぅござんした。以後気をつけまーす」

 

 

 真向かいに座っていたのはリヴェリアだった。その口調からは怒気が混じっていることが伺えた。

 

 

 「嘘でも少しは気持ちを込めて言ったらどうなんだ?あと糖分は控えろ。さすがに体に悪い」

 

 「オメーは俺の母ちゃんか。それに俺ァ糖分取らにゃやってられねぇんだよ」

 

 

 紅茶を口に運ぶリヴェリアと宇治銀時丼を口に運ぶ銀時。品性というか育ちの良さが明確に分かれている。

 

 

 「私たちはオラリオのトップを張るファミリアだ。どこに行っても【ロキ・ファミリア】という肩書きが付き纏う。素行の悪さが衆目に晒されればファミリア全体に迷惑が掛かる。わかっているのか?」

 

 「わぁーってるよ。そうカリカリすんなよ。そんなにビビらせてぇんなら、その髪、バリカンで刈り上げて襟をピンッとした方が凄みが増すぜ?」

 

 「私は別に貴様をビビらせたい訳ではない!!【ロキ・ファミリア】であり、【Lv.6】である自覚を持てと言っているのだ!あと、刈り上げか唐揚げか知らんが髪型を変えるつもりは毛頭ない!」

 

 「俺はどこが一番とかどうでもいいんだよ!もういっそのこと一番でも〇〇(ピー)、二番でも〇〇(ピー)、ナンバーワンも〇〇(ピー)、オンリーワンも〇〇(ピー)でいいじゃねぇか!」

 

 「言いわけないだろう!馬鹿なのか貴様は!・・・あー馬鹿だったな!昔から貴様は何も成長していない!小さい頃はまだ愛らしくて許せたが今は唯のマダオだ!」

 

 「うるせぇぇぇ!俺ァ童心を忘れねぇことによって人生を楽しく生きてんだよ!」

 

 「大体、このファミリアは問題児が多過ぎる!休息を取れと言ったのにダンジョンに向かうアイズ(バーサーカー)や自身の性欲を抑えきれず他のファミリアに処理用のアイテムを依頼するティオネ(ドM)、ギャンブルで全額失った上に、年中甘い息を吐き続ける銀時(マダオ)、それに貯蓄しているマヨネーズが毎晩無くなったりと、お前達は私を過労死させたいのか!!」

 

 

 ヒートアップする二人の会話に対して、周囲の反応は冷めたものだった。寧ろ、また始まった。飽きないなぁあの人たち。程度の認識だった。

 それからと言うもののリヴェリアの愚痴は止まることなかった。そして遂に銀時の堪忍の尾が切れた。

 

 

 「大体な、テメーはアイズやらに『甘えろ』なんぞ言ってるが、そんなお堅い雰囲気のヤローに甘えれるかっつうの。可愛いぬいぐるみが好きです(ハート)ぐらいの属性つけて言えってんだ」

 

 「・・・・・・ふぇっ」

 

 「・・・え?何その反応。まさか、ぬいぐるみ抱き締めて寝てますみたいなそんな感じ?」

 

 「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 

 「・・・あーなんか悪い。か、可愛いとこあんだなお前」

 

 「・・・・・・もうリヴェリアおウチ帰る!」

 

 

 脱兎の如く食堂を走り去ったリヴェリア。

 銀時はバツが悪そうに顔をしかめるが、直ぐにニタァと悪い顔を浮かべた。

 

 

(どっちもガキじゃん!あとリヴェリア様可愛い)

 

 

 っとまぁ周囲の反応はこんな感じである。

 リヴェリアの愚痴に身に覚えがある者は今日から控えようと心に誓った。銀時を除く、であるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「銀時のバカ者・・・」

 

 

 リヴェリアの自室。しっかりと施錠したその部屋にリヴェリアは()()()()()を抱いてベッドに座り込んでいた。

 

 

 「あんな(ミナ)の前で言わなくても良いではないか・・・」

 

 

 リヴェリアが銀時の指摘された様にぬいぐるみを抱えて寝ることになったのは理由がある。

 それは十数年前、言うならば銀時と出会って少し経った時の話だ。

 

 銀時が【ロキ・ファミリア】に加入し、一年半でLv.2に上がった時の話だ。それはもう物議を醸したことをリヴェリアは昨日の事のように思い出せる。

 

 

────ミノタウロスを一人で倒した!?

 

 

 そう銀時は危険を顧みず、中層の浅層まで潜ったのだ。まぁ正確にはギルトの職員やリヴェリアの注意を聞かずに適当に下層に潜った、なのだが。

 

 そこでLv.2に成り立てであろう四人のパーティーと遭遇。命からがら逃げ出していたそのパーティーは銀時にミノタウロスや他のモンスターをトレインして上層へと帰還した。

 

 銀時は望んだ事では無かったとはいえ『殿(しんがり)』を任された形になった。『殿(しんがり)』は銀時の血が滾り【夜叉】としての記憶を取り戻すには十分な程の戦場効果を発揮した。

 

 ミノタウロスや他のモンスターを次々と屠り、銀髪に血を浴び、ダンジョンを駆る姿は正しく【夜叉】だった。

 

 

────なぜこの様な無茶をした!!

 

────俺が殺らなきゃ何人も死んだ。そんだけだ。

 

 

 当時、世話役だったリヴェリアでさえもこのザマだった。何を言おうにも、ぐうも言わせぬ正論で黙らせた。

 

 リヴェリアも感情では銀時が正解であることをわかっていた。だが理屈ではそう判断はできない。自身の立場があったというのもある。

 

 早い話、【Lv.1】である銀時がミノタウロスや他のモンスターを一つの戦闘だけで狩った話が【ロキ・ファミリア】や他のファミリアに広まれば間違いなく自信過剰の冒険者が死地に赴く事になる。上位の属する【ロキ・ファミリア】は【Lv.1】でさえも腕に自信がある者が多い。銀時と同じ道を辿り、早く【Lv.2】になろうとミノタウロスの対峙することは想像に難くない。

 

 だからリヴェリアやフィン、ガレスはこの話をロキと要相談し伏せた。銀時は一年半という短い期間でレベルアップした理由を周知されなかった。

 

 神会(デナトゥス)で銀時の二つ名が決まる時、ロキは銀時がレベルアップした経緯を他言しないように他の神々を脅した。だがその畏怖や忌避、()()()()もあって付けられた二つ名は【白夜叉】。神々には誰一人としてその二つ名に反論することもなく満場一致であった。

 

 

────こら、大人しくしろ!

 

────いってぇなぁ・・・

 

 

 銀時はそれからというもの一人でダンジョンに潜り、多数の怪我を負って帰ってくる事が多くなった。たとえ強引にパーティーを組ませても、いつの間にか姿を消して一人で中層へと潜って行った。

 その度にリヴェリアは銀時を甲斐甲斐しく世話をした。怪我の治療や骨を折って帰った時は食事の世話など、それはもう母と子の関係に近いものだった。

 

 そんなある日のことだ。

 リヴェリアの自室でいつもの如く、銀時の世話をしていた。銀時も最初は嫌がっていたがこの時になっては不承不承ながら受け入れていた。

 

 

────おい、銀時?

 

 

 銀時は疲れ切っていたのか糸が切れた様にリヴェリアのベッドで爆睡した。

 遅い時間ではあったのでリヴェリアが銀時を銀時の自室まで送るわけにもいかなかった・・・そして。

 

 

 銀時を抱き締めて()()()()()()()()()()()

 

 

 思えばこれが始まり。

 暖かく丁度良い大きさの銀時を抱き締めて寝てしまったのが始まりだった。朝になればリヴェリアが先に目を覚ますので、その時に銀時を自室へと運んだ。

 

 それからというものの銀時が疲れ果てて寝てしまえば、リヴェリアは銀時を抱き締めてベッドに入るのだ。日頃の憎たらしい雰囲気とは真逆の子供らしい雰囲気にやられたというのもある。とにかくリヴェリアは()()()()()()()()()()

 

 勿論、そんな事は長くは続かない。銀時だって成長する。リヴェリアの世話になることも少なくなる。思春期、と簡単に言えばそうであるし、ダンジョンを経験するにつれて怪我をすることも少なくなる。

 

 だが銀時は離れて行っても、どうしても()()()()が欲しくなるのがリヴェリアだった。なぜか癖になってしまったあの感覚をもう一度この手に、と。

 

 だからリヴェリアは『ぬいぐるみ』へと手を伸ばしたのだ。あの時の銀時と同じぐらいの大きさのぬいぐるみを抱き締めて寝るようになった。あの時ほどでないが、銀時の代役としては十分であった。

 

 

 「言えない・・・こんなこと言えるものか」

 

 

 どこか銀時に似たぬいぐるみを抱えたリヴェリアはギュッと抱き締めて一人呟いた。

 

 

────早く素直になればいいのに。

 

 

 焼き芋を食べた時に団長であるフィンに言われた言葉。

 本当に素直になれたらどれだけいいのだろうとリヴェリアは想う。

 

 

 「副団長としての立場が・・・いやこれは詭弁だな」

 

 

 周りからの期待や信頼、エルフの王という肩書きのせいにする事で、この話題から目を逸らしてきたことを今になって後悔する。もう後戻りはできないレベルにまできているのだ。

 

 だからこそ、一人でいるこの時ぐらいは本音を吐露しても許されるだろう。リヴェリアは自身が思うままに口を動かした。

 

 

 「甘えたい・・・」

 

 

 自身の口から出た言葉にリヴェリアは頬を赤らめて、ぬいぐるみに顔を押し付ける。ムームー!と言葉にならぬ声が自室に響き渡る。

 

 

 「・・・私がそう言えばお前はどんな顔をするのだろうな・・・・・・銀時」

 

 

 少しの期待と不安が胸中を渦巻く。

 だが見てみたいという感情がそれを押し退け、頬を緩ませた。

 

 いい年して乙女のような顔をするリヴェリアは、くすぐったそうに微かな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 




はい終わりました。いやー書いてて楽しかった!こんなにニヤニヤしながら書いたのは初めてかもしれない。

今回の話で、2話で載せた銀時のステータスの中で、【耐久】がなぜ低いのかが理解出来たと思います。そういう事です。

あと題名の意味です!↓


(ポンコツ) (カワイイ) (リヴェリア)


という意味ですね。やべぇ今回やり過ぎた。消されるかもしれない笑


そして毎度恒例謝辞。

『ただ幸せな世界を望む』さん、『はちみつれもん@』さん、『stop08』さん、『自由奔放主義者』さん、最高評価ありがとうございます!!

『ごぼごぼ』さん、『しゅうゆ』さん、『四葉志場』さん、『intet1234』さん、『弥未耶』さん、『フェニックス天庵』さん、高評価ありがとうございます!!


最高評価と高評価を五十名以上の方が入れてくれる。もうほんと嬉しい。感謝感激!!



話は変わりますが・・・。


https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=147098&uid=106761


↑のリンク、私の活動報告でこの作品の番外編のアンケートを取っています。

今のところ6番のリューとのデートが多いです。しかし今回の話でリヴェリアの票が多くなるかなぁと思ったりなんたり。

全部書いて、という意見もありましたが私を殺す気ですか。いつこの作品が終わることやら。まぁそう思ってくれるのは嬉しいですけど。

訂正したい方は訂正してご投票ください。あと一票だからな!!二票入れてる奴訂正しろい!!


ってことでまた次回。感想評価お待ちしてます!


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マヨネーズが足りないんだけどォォォオ!!

題名通りです。


↓銀魂のBGMを脳内で補完し、しばしお楽しみください。いわゆるBGオンリーです。

3人のゆる〜い会話にお付き合いください。





 

 

 「次の遠征に向けての会議はこれで終了だ」

 

 「はぁ〜やっと終わった」

 

 「後は諸連絡だね。何か有るかい?」

 

 「金欠」

 

 「それは君がギャンブルで全部スったからだろう?自業自得だよ銀時」

 

 「フィンさまがつ〜め〜た〜い〜銀子泣いちゃう〜〜〜」

 

 「はぁリヴェリア」

 

 「フンッ」

 

 「ひでぶっ・・・いってぇな、杖で殴るこたぁねぇだろ?」

 

 「今日の朝と言い、貴様には辱められてばかりだからな。いい報いだろう」

 

 「あれは自分で墓穴掘っただけじゃねぇか・・・」

 

 「はいはい、そこまでにしておこうか。それでリヴェリアは?」

 

 「食堂の担当の者から苦情・・・いや、相談が2件ほど来ている」

 

 「ふむ。どんなのだい?」

 

 「マヨネーズが足りない、という何ともまぁ間抜けな相談と、食堂から深夜にズルルルッと何かを啜る音がする、という相談だ」

 

 「・・・その二つの相談事は繋がっていると僕は思う。深夜に食堂に行った犯人がマヨネーズを盗み取る。そして我慢出来なくなった犯人がその場でマヨネーズを啜る。そうすると音の問題も解決するし・・・高貴なハイエルフのリヴェリアには絶対理解出来ないと思うけど」

 

 「そんな下劣な事をする輩がこのファミリアにいると言うのか・・・早急に対処せねばなるまい」

 

「ハッハッハッハッハッ!!」

 

 「何だ銀時・・・何が可笑しい?」

 

 「おいおいリヴェリアさんよぉ、オメェ朝に────」

 

 

 

────貯蓄しているマヨネーズが毎晩無くなったりと、お前達は私を過労死させたいのか!!

 

 

 

 「って、嘆いていたじゃねぇか。低俗な者が豪華な生活に憧れる様に、高貴な者はそんな低俗な行為をしたくなるもんなのさ・・・つまり犯人はお前だァァァ!!」

 

 「何を言い出すかと思えば・・・証拠など何もないだろう?とばっちりのスカスカ推理もいいところだ」

 

 「証拠なら有る。俺とお前の長い付き合いだ。お前がドレッシングよりマヨネーズ派だってこたァ前から知ってる。コロッケにもトンカツにもマヨネーズをかけている事を俺はよぉく知ってんだ」

 

 「〜〜〜〜〜っ!ふ、ふぅん、よく私を見てるんだなお前は。だがな銀時」

 

 「ぁん?」

 

 

「いつから私がマヨラーだと錯覚していた?」

 

 

 「なん・・・だと・・・・・・」

 

 「確かに私はマヨネーズは好きな方だ。だからといって容器に入ったマヨネーズを直で啜る様な低俗で下劣なことはしない。調味料の中では好みといえ、そこまではしない」

 

 「だってよ銀時。僕もリヴェリアが犯人だとは思えない。それにリヴェリアが本当に好きなのはぬいぐ────」

 

 「そこまでだ。それ以上言えば命はないと思え」

 

 「あはは・・・だって銀時も知ったんだろう?なら別に隠さなくても────ごめんごめん、もう言わないから魔法唱えるのやめてくれない?」

 

 「ふんっ!────私はもう部屋に戻る」

 

 「おう、お疲れ〜」

 

 「お疲れ様。また明日」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ダンジョン24階層》

 

 

 ダンジョン24階層。

 アイズと【ヘルメス・ファミリア】は黒衣の人物からの冒険者依頼(ク エ ス ト)に合同で取り組んでいた。内容は平時より数倍多いモンスターの出現の原因の調査と解明である。

 それとは別行動でレフィーヤ、ベート、【ロキ・ファミリア】と協力関係を結んでいる【デュオニソス・ファミリア】の団員のフィルヴィスが調査に来ている。

 

 

 「ガァッ!!」

 

 「・・・はぁはぁ」

 

 

 赤髪の女が金髪金眼の少女、アイズに()()で吹き飛ばされる。

 赤髪の女は以前18階層で刃を交えた調教師(テイマー)だ。名をレヴィスという。

 レヴィスは24階層の問題の首謀者の一人だった。つまり、18階層の事件とも繋がりがあるということになる。

 

 今現在、レヴィスの策略により、アイズとレヴィス、他のメンバーと数々のモンスターとで分断されてしまった。だがレヴィスにとっては誤算が多く生じることになったのだが。

 

 

 「おい『アリア』・・・お前、剣無くても戦えるのかよ・・・とんだ誤算だったぞ」

 

 「銀ちゃんに教えてもらった・・・【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 「チッ!!」

 

 

 アイズの愛刀は遠くに刺さっている。目の前にいるレヴィスに弾き飛ばされたからだ。

 チャンスだと考えたレヴィスはアイズに特攻したが、失敗に終わった。なぜならアイズは徒手空拳でも十分なほどの強さを持っていたからだ。

 

 アイズはただでさえ押しているにも関わらず、付加魔法を使い威力を更に上げる。レヴィスは危険を感じ、全速力で前線から去る。

 

 

(『リル・ラファーガ』はロキが考えてくれた剣の技。そして、これが銀ちゃんが私の為に考えてくれた全てを終わらせる“拳”の技・・・)

 

「もうこれで・・・終わらせる・・・だからありったけを」

 

「く、来るなっ!!」

 

 

 テンペストによりすぐに追いついたアイズは右拳に風を集束させる。それを見たレヴィスの顔は恐怖に染まる。

 

 

 

「ジャンッ拳ッグ〜〜〜(棒)」

 

 

 

 アイズの放った拳はレヴィスの横顔を綺麗に捉えた。

 Lv.6へと器を昇華させた力と付加魔法のテンペストによる風により、レヴィスは弧を描くどころか、階層をぶち破る勢いで吹き飛んだ。

 レヴィスは、アイズと他のメンバーを分断していた緑の複数の柱にぶつかり粉砕。だが勢いは止まらずそのまま外に蔓延っていたモンスターにぶつかり、穿孔し、灰へと還す。そして漸く止まった。

 

 

「あ、アイズさん!」

 

「レフィーヤ、大丈夫?」

 

 

 愛刀を手に取ったアイズはレヴィスの体の張った穿孔痕をくぐり抜け、レフィーヤ達が交戦していたモンスターを次々と屠っていく。

 

 

「ぐっガハッ・・・」

 

「おいレヴィス、口だけか?」

 

「黙れ・・・オリヴァス」

 

 

 止まったレヴィスに一人の男が近寄る。

 レヴィスがオリヴァスと呼ぶその男は白骨の鎧兜をかぶっている。状況から察するにオリヴァスという男もレヴィスと同じ調教師(テイマー)である事はアイズらも理解していた。

 オリヴァスはレヴィスが灰へと還したモンスターたちの魔石をレヴィスの傍に放り投げる。レヴィスはその魔石を人目も憚らず一気に口に入れた。

 

 

「レヴィス、一旦引くぞ。戦況が悪い」

 

「バリッバリッゴクン・・・チッ、わかったよ。巨大花(ヴィスクム)を使うぞ。いいな?」

 

「仕方ない。行くぞ」

 

 

 アイズにやられた傷がみるみる塞がっていくレヴィス。

 オリヴァスとレヴィスは自身が一旦引くために最終手段を使った。

 

 

「な、なんだ・・・」

 

 

 恐ろしい程の体積が鉄槌となって地面に叩きつけられ、今日一番の衝撃が大空洞中を震撼させた。

 階層主を優に超える巨大花のモンスターに上級冒険者達は一様に戦慄する。

 

 

「蹴散らせ」

 

 

 オリヴァスの命に従い、巨大花が動く。

 食人花の如く首を高くもたげることもできない超重量の体を蚯蚓(ミミズ)の如く蠕動(ぜんどう)させ、周囲の冒険者に一斉に襲い掛かる────が。

 

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】」

 

 

 金髪金眼の少女を中心に風の渦が吹き荒れる。いや、それはもう風の渦などと簡単に形容する事は出来ず、人災と呼ぶに相応しい。

 

 

────一閃。

 

 

 最大出力の風を愛刀に付与したアイズの横薙ぎの一閃。

 たったそれだけで巨大花(ヴィスクム)の首が斬り飛ばされた。その場にいるアイズを除く全員が時の流れが緩慢になる錯覚を覚えた。

 

 

「何を固まっているのですか!急いで片付けますよ!!」

 

 

 周囲に呼び掛けた水色の髪の女性────【ヘルメス・ファミリア】の団長、アスフィ・アンドロメダはいち早く動き出した。周囲も魔法や飛び道具を使い、モンスターの核だけを狙っていく。

 

 

「────差ァ開けられた」

 

(ベートさん・・・)

 

 

 未だにLv.5であるベートはアイズの戦い振りに対抗心を燃やす。

 隣ではレフィーヤが魔法を唱えている。が、ベートの感情の篭った呟きをどうしてもレフィーヤの耳は拾ってしまった。同じ気持ちをレフィーヤも持ったからだ。

 

 

「クソがァァァァァア!!」

 

 

 狼人(ウェアウルフ)の青年が空に向かって吼える。直後、地を蹴り瞬間加速し、モンスターらを屠る為に蹴りを見舞う。

 

 

────ボトッ

 

 

「・・・ふぇっ?」

 

 

 レフィーヤは思わず詠唱を止めてしまった。

 狼人(ウェアウルフ)の青年が地を蹴った瞬間に、その場にある物が青年のポーチから落ちたからである。別段、それだけなら大して驚きもしない。だがそれが予想の斜め上に行く代物だったからだ。

 

 

「ま、マヨネ────」

 

「オイ」

 

「ひゃいっっ!!」

 

「何も見てねぇよなぁ!?なぁ!!」

 

「は、はいぃぃぃ!!!」

 

 

 爆速で帰ってきた狼人(ウェアウルフ)の青年は、その代物をさっとポーチに直し、再び雄叫びをあげながらモンスターの群れに突っ込んでいった。

 

 レフィーヤは先の記憶を消し去ろうと無我夢中で詠唱し、全てのモンスターを焼き尽くした。まぁ消えることはなかったが。

 

 

 こうしてダンジョン24階層の事件は取り敢えずは収束した。

 だが再び、調教師(テイマー)達と合間見えることをどこか【ロキ・ファミリア】の面々は心の奥底で感じていた。

 

 

 

 

 

 

 




マヨラーがリヴェリアだといつから錯覚していた?(ヨン様風)


お久しぶりです。二週間ぶりの更新ですね。今回は小ネタばっかり挟みましたが・・・まぁ気付かれた方が多いでしょう。

この作品を書くにあたってメタ発言は出来るだけ避けています。ですから銀魂らしさがイマイチ出辛いんですけどね…苦悩のしどころです。


毎度恒例謝辞。

『カイ3227』さん、『ひでお』さん、『メイ(^ ^)』さん、『耶義』さん、『紅彦』さん、『ましろんろん』さん、『surimu』さん、最高評価ありがとうございます!!

『カガミン』さん、『リッキー001』さん、『メイド@AI』さん、『たむマロン』さん、高評価ありがとうございます!!

ランキングにも載るようになり、更に気が引き締まる思いです!!ありがとうございます!!


話は変わりますが…

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=147098&uid=106761


次の話で番外編をします。その為のアンケートです。

↑のリンク、私の活動報告でこの作品の番外編のアンケートを取っています。

ここまででも、6番のリューとのデートが多いです。


いいんだな?ただのリューとのデートでいいんだな!?


はい。期限を設けます。三日後の五月十三日まで。まだまだ募集してますのでドシドシおくってください!


※全部とか書かないんだからねっ!



前回の感想で一言。

リヴェリア可愛くね?っで感想沢山もらいました。感想だけでなく評価の欄にも書いて頂いたりと。それはもう沢山。

僕もそう思う。はい。



ではまた次回!感想と評価、お待ちしてます!!


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女の一番の化粧は笑顔

遅れてすみません!

投票の結果“6”となりました。


5番のリヴェリアとは僅差でした。


たくさんの御応募ありがとうございました!!

・・・ですが先にベルと銀時の会話をいれます。四巻に入る大事な会話になりますので。


ではどうぞ!!







午前09:00《城壁上》

 

 

「【ファイアボルト】ッ!!」

 

「ふわぁ〜」

 

 

 欠伸をする銀時に走る稲妻の如き火炎が宙を翔ける。

 銀時は片手を突き出し、火炎を握り潰す。少し熱かったのか手をブンブン振る。

 

 

「やっぱ火力が足りねェなぁその魔法」

 

「うぉおおお!!」

 

 

 間髪入れず、ナイフを二刀持ち、嵐の様な怒涛の斬撃を繰り出すベル。

 銀時は最低限の身のこなしで躱していく。攻撃に隙が出た瞬間、指を引き絞ってベルにデコピンを放つ。

 

 

「〜〜〜っ!」

 

 

 仮にもLv.6のデコピンである。痛くない訳が無い。ベルは目尻に涙を浮かべながら再度突進する。

 

 

「よっ」

 

 

 銀時は突進してくるベルに向かって、上段の廻し蹴りを放つ。

 ベルは蹴りを躱そうと身を屈める・・・が。

 

 

「甘ェ」

 

「げふっ!」

 

 

 銀時は股関節を内旋させることで蹴りの軌道を変えた。いわゆる突き返し蹴り(ブラジリアンキック)である。それによって躱せる筈だった蹴りは側頭部に直撃。ベルは弧を描く様に飛んで行った。

 

 

「もうちょい性格悪くなって意地汚さを覚えりゃ・・・いや、ベルにはこれ以上無理な話か」

 

 

 更に斜め上の心の成長を期待する銀時であったが、ベルに限ってそれは無理だと思った。

 

 

「おいベル、ポーションいるか?」

 

「・・・」

 

 

 城壁に体を預けているベルに銀時は近付き問い掛ける。反応が無いことから気絶しているのだろうと────刹那。

 

 

「【ファイアボルト】!!」

 

「っ!」

 

 

 ベルは限界まで意識を殺し、ゼロ距離からの【ファイアボルト】を放った。

 銀時は咄嗟に顔を手で守るが少し遅い。

 

 

「あ、ちょっすみません師匠。頭が更に天パに・・・」

 

「・・・フンッ!!」

 

「げふっ!」

 

 

 無慈悲なる拳骨にベルは本当に気絶する。銀時は手櫛で髪の毛を直そうとするが一向に直らない。

 

 

「こういう奇襲は学んでんだなぁ・・・しっかし直らねぇ!もぅいい知らん!寝てやらァ!!」

 

 

 

────一時間後。

 

 

 

「師匠起きて下さい。師匠?」

 

「あと五分・・・」

 

「起きて下さいって!」

 

「うっせぇなぁ、あと十分・・・」

 

「増えてるっ!?もぅ師匠ォォォォォ!!」

 

「あぁもぅうっせぇ!起きたっつうの!!」

 

 

 ベルは銀時の耳元で叫ぶ。飛び起きた銀時は少しだけ怒りを顕にする。

 

 

「もう少し寝るつもりだったら、師匠のすね毛を一本ずつ抜くつもりでした」

 

「サラッとえげつないこと言うんじゃねぇっ!誰が教えたんだそんなもん!」

 

「こうしたら直ぐ起きるって師匠が言ってましたよ?以前にガレスさんにしたって・・・」

 

「そうですね!俺ですね!」

 

 

 ベルの返しに反省する銀時。少しずつ()()()()()()()ベルに銀時は焦りを覚えた。

 

 

(思えばコイツを夜連れ回したり、余計な入れ知恵したのが悪かったのか。純粋過ぎて全部鵜呑みにしてやがる・・・コイツんとこのロリ巨乳やらサポーターに何て言われる事やら)

 

 

 やらかした事を反省し始める銀時。だがもう時は既に遅かったことに気付くのは暫く後の事だった。

 

 

「はぁ、今日はもう終わりにしてパフェでも食いに行くか」

 

「ほっ本当ですか!?行きたいです!」

 

 

 先程までのブラックな感じとは違い、少年染みた満面の笑みを浮かべるベルを見て銀時は少しだけ安心した。

 

 二人は並んで行きつけの店に向かって歩き始める。周りからすれば本当に兄弟にしか見えないのだ。そんな中、ベルは銀時にかねてから聞きたかったことを尋ねた。

 

 

「あの師匠・・・」

 

「ん?」

 

「────“必殺技”ってどう思います?」

 

 

 真剣な顔をして真っ直ぐ見つめる赤い瞳に銀時は吹き出しそうになった。

 

 

「・・・そうだな。男なら誰もが憧れるよなぁ」

 

「そうなんです。以前、師匠がヴァレンシュタインさんに“必殺技”を授けたって言ってたじゃないですか。もし良ければ僕にも・・・と思いまして」

 

(アイズの“必殺技”は酒の勢いで付けたとか言えねぇ・・・)

 

 

 ベルのマジトーンによる相談に銀時は頭を捻る。しかし適当な物しか浮かばない。何せ銀時は自身の“必殺技”というものを持っていないからだ。

 

 

「お、俺ァ“必殺技”はベル自身が考えた方がいいと思うぜ?ほら、自分が()()()()()言葉を並べた方が気合いが入るし・・・」

 

 

 銀時は全部弟子にぶん投げた。ベルはベルでその意見にうんうん頷いている。だが少しだけ寂しい顔をしたのを銀時は見逃さなかった。

 

 

「あ〜そうだな・・・“必殺技”の前の“必殺技”なら付けてやらん事もない」

 

「“必殺技”の前の“必殺技”?」

 

「そう!“必殺技”を繰り出す前に一回入れる技だ。そうしたら“必殺技”をやり易くなるだろ?」

 

「なっなるほど!さすが師匠!!是非お願いします!!」

 

「“必殺技”の“前”の“必殺技”。名付けて────」

 

 

 ベルは喉をごくっと鳴らした。銀時は溜めて溜めて一気に言い放った。

 

 

「────前の必殺技(アバンストラッシュ)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《とあるカフェ》

 

 

「「あ・・・」」

 

「銀時さんにクラネルさん!」

 

 

 行きつけの店に辿りついた銀時とベルは、向かい側から来た女性二人と鉢会った。その女性は“豊穣の女主人”で働く“シル・フローヴァ”と“リュー・リオン”だった。

 

 

「偶然ですね!シルさんとリューさんもパフェを食べに来たんですか?」

 

「えぇそうなんです。ミアお母さんに午前中だけ休みをもらって・・・そうだっ!クラネルさん、二人でランチに行きましょう!」

 

「え、いやまだ10時半ですよ?それにパフェを食べに来たんじゃ・・・」

 

「つべこべ言わずに!行きましょう!」

 

 

 シルはベルの手を取り駆け出す。振り向き様に親指を立てていたが、リューや銀時は何の事か全く理解出来なかった。

 

 

「じゃあ折角だし入るか」

 

「私は帰ります。シルが居ないのなら意味がないので。お一人でごゆっくりどうぞ」

 

「そうか。俺の人生、この店で最後のパフェになるかもしれねぇってのにひとり寂しく食うのか・・・」

 

「・・・な、なにを」

 

「あーあ・・・遠征の前の最後ぐらい誰かと一緒に食いたかったなぁ・・・・・・」

 

「・・・さ、最後だなんて縁起でもない。で、ですがまぁこのままだとサカタさんが可哀想なので少しだけなら、つ、付き合ってあげます」

 

「じゃあ決まりだな。入るぞ〜」

 

「ちょっ手を引っ張らないで下さい!」

 

「いだだだだっ指折れるっ!折れるから離して下さいっ!」

 

 

 リューの言葉を無視して勝手に入ろうとした銀時にリューは憤慨し・・・いや羞恥で顔を赤く染めながら反撃する。

 

 店員に案内され、向かい合わせに座る。リューの顔は未だに赤いままだ。

 

 

「宇治抹茶パフェとコイツに苺パフェ。あ〜コイツのは生クリーム多めで頼まぁ」

 

「何勝手に頼んでいるのですか!私の意見は!?」

 

「ん?以前来た時これが一番好きだったじゃねぇか。違ったか?」

 

「なっ!!」

 

「ハイかしこまりました。少々お待ち下さい」

 

 

 更に顔を赤らめるリュー。銀時は何故リューが顔を赤らめているのか理解出来なかった。

 少ししてリューは銀時に問いかけた。

 

 

「なぜそんな昔の事を覚えているのですか・・・」

 

「一番記憶に残ってっからだよ。お前さんはいっつも仏頂面のくせにパフェ食う時だけは目を輝かせて幸せそうな顔すんだから。だからよ、俺はパフェ食う時はお前さんと食う時が一番美味しく感じるぜ?」

 

 

 そう言って銀時は少年の様な満面の笑みを浮かべた。リューは先程以上に顔を赤らめる。例えるなら茹でタコだ。

 

 

「宇治抹茶パフェと苺パフェ生クリーム多めでございます。ごゆっくりお楽しみください」

 

 

 ドンッと二つの巨大パフェが机に置かれる。

 銀時の宇治抹茶パフェは抹茶のゼリーや抹茶アイスをはじめ、照り輝く白玉やとても甘い小豆がどっさり乗っており、人から見れば胸焼けする代物だ。

 リューの苺パフェも負けず劣らずである。透明な器からは沢山の苺や満遍なく生クリームも入っていることが確認出来る。頂上にはバニラアイスがあり、その周りを花が咲くようにカットされた苺が乗っている。

 

 

「さぁて食うか・・・ん?食わねぇの?」

 

「いえその・・・この流れで食べるとサカタさんに負けた様に感じるので・・・・・・」

 

 

 エルフという種族のちっぽけなプライドである。意地、と言った方が正しいのかもしれない。銀時の天然ジゴロに振り回されっ放しのリューは何としてもゆずれないよく分からない意地があった。

 

 

「大体、私は少し付き合うと言っただけです。なのにあなたは勝手にこんなに大きなパフェを────」

 

「アイス溶けんぞ?」

 

「いただきます」

 

 

────何を迷っていたのか。

 と、言わんばかりにリューは無言で苺パフェを食べ始めた。銀時もそれに釣られて食べ始める。二人に共通することはとても幸せな顔をしていることだ。

 

 そして先に食べ終えたのは・・・リューだった。

 

 

「さ、さすがにお腹一杯になりますね・・・」

 

「はやっ!どんだけ食べたかったんだよ。量で言えばお前の方が多かっただろうが・・・」

 

「む・・・それは私のせいではありません。この美味しいパフェのせいです」

 

 

 銀時の言葉に少しだけムスッとするリュー。リューはスプーンをふりふりしながら苺パフェに責任転嫁する。

 

 

「クリーム付いてんじゃねえか」

 

 

 手を伸ばし、リューの頬に付いていた生クリームを指で優しく取る。銀時はそのまま生クリームが付いた指を自身の口に咥えた。

 

 

「ん、甘ェな」

 

「なっなっ何をしているんですかっ、こ、こんな不埒なマネを公衆の面前でっ!もうっ!!」

 

「おいおい、どこが不埒なんだよ。まさか照れてんの?ウブだねぇ・・・」

 

 

 顔を赤らめ憤慨するリューに対して、銀時はただニヤニヤするだけだ。

 

 

「あ、貴方(あなた)って人はいつもそうだ!いつもいつもそうやって私をっ私をっ!」

 

「はぁ・・・」

 

「なんでため息をつくのですかっ!つきたいのは私のほ────」

 

「ほらよっ」

 

「んぐっ!?!?」

 

 

 言葉を遮る様に、銀時はリューの口に抹茶アイスと小豆が乗ったスプーンを突っ込んだ。

 突然の出来事に目を白黒させるリューだったが、口の中に広がる優しくも甘い味だけは感じることが出来た。

 

 

「俺が苺パフェの生クリーム食べたから、俺の宇治抹茶パフェを寄越せって言いたかったんだろ?わかってるわかってるって」

 

「〜〜〜〜〜〜っ!ちっ違っ私が言いたいのは────」

 

「美味ェだろ?」

 

「・・・美味しいです、けど」

 

 

 美味ェだろ?と満面の笑みで再度問い掛ける銀時にリューの言葉は尻すぼみに小さくなっていった。反比例する様に心臓の音は大きくなっていたが。

 

 

「けど?」

 

「な、何でもありませんっ!早く食べてくださいっ!」

 

 

 真っ直ぐ見つめる銀時の目に思わずリューは目を逸らしてしまった。今日こんなに暑かったのか、とリューは銀時が食べ終わるまでひたすら自問自答を繰り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜食った食った。満足満足」

 

「・・・あれから苺パフェ頼んだのですから当たり前ですよ」

 

 

 帰り道。

 銀時はリューを“豊穣の女主人”まで送り届けていた。とは言え本人達にその自覚はないのだが。

 

 

「サカタさん」

 

「ん?」

 

「冗談でもこれが“最後”なんて言わないでください」

 

 

 リューはカフェに入る前の銀時の言葉に言及した。その目と声は心の底から言っていると分かるほど真っ直ぐ銀時の心に響いた。

 

 

「なぁに?リューさんもしかして俺のこと心配してくれてんの?やだなぁ銀さん照れちゃう!」

 

「心配ですよ。心配に決まってるじゃないですか!!」

 

 

 それでもおちゃらけた言葉を返す銀時にリューは今度こそ憤慨した。それは銀時が今まで見たことがない表情だった。

 

 

貴方(あなた)はいつもそうやって皆を安心させようと自ら“道化”を演じるから・・・心配になるんですよ!イヴィルス掃討(あ の と き)も貴方は私を、()()()をそうやって安心させて一人で勝手に突入したじゃないですか!!」

 

 

 十五年前からオラリオに訪れていた暗黒期。オラリオに闇派閥(イヴィルス)が蔓延っていた時代。多数のファミリアがその闇派閥(イヴィルス)の対処に当たっていた。

 リューはその時の銀時の行為を言っているのだ。

 

 

「貴方は私達を護ろうとしてボロボロになるまで一人で戦って・・・」

 

 

 リューが在籍していた【アストレア・ファミリア】はリューと主神を残し壊滅した。リューはそれから私怨による報復で闇派閥(イヴィルス)の残党を殺害して回った。

 ギルドがその事実を隠蔽してた為、銀時にその情報が回ってきた時はすべてが終わっていて、リューが要注意人物(ブラックリスト)に載った後であった。

 

 銀時がその時、衝動的に自身の顔を思いっきり殴ったことは極少数しか知らない。だが相談してくれなかった事を寂しく、哀しく、そして悔しく思ったことは銀時以外知り得ていない。

 

 

「私はあの時から、貴方がボロボロの姿を見るのが嫌になったんだ。あの日、私怨に駆られた日も貴方にだけは知られない様にギルドを脅して・・・貴方は私がしている事を知れば止めに来る事は分かっていたから!そして貴方が私の代わりに犠牲になることも想像出来てしまったから!私は────」

 

「わぁったよ。約束してやる」

 

「え・・・」

 

 

 銀時はリューの頭に優しく手を置き、撫でた。そして優しくも強い言葉でリューに宣言した。

 

 

「絶対ェ生きて帰ってきて、お前んとこの店で最高の酒を呑むって約束だ。あいつらの命をしょってんだから、この約束も、お前の想いも、丸々全部しょってやらァ。だからリュー、泣くんじゃねぇ」

 

 

 銀時はリューからこぼれ落ちる雫を指で拭う。それは生クリームを取った時より優しくあった。

 

 

 

「・・・ではお待ちしてます。“豊穣の女主人”でサカタさんの帰りを。心から」

 

 

 

その時。

 

たった一人に向けられた笑顔は。

 

天然ジゴロの腐れ天パ侍でさえも思わず顔を背けてしまうほど。

 

美しく。

 

可憐で。

 

愛おしい。

 

万人を自然に破顔させる最高の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




書いた私が言うのも何ですが・・・



この二人に“ジャスタウェイ”投げつけてもいいかな?いいよね?



皆さんも感想欄にて“ジャスタウェイ”を投げ付けてくれたら嬉しいです。

さて、リューがどうして銀時に対してこんな感情を抱いていたのかを明らかにした一話でした。


私達の代わりに傷つく貴方を見たくない。なぜなら私は・・・


これが結論です。リューも自身の気持ちに気付きました。これからどうなっていくかはお楽しみに。


ではまた次回にお会いしましょう。次回は早く更新できるよう頑張ります!!


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第二章 その刀、木刀につき
いざ行かん!遠征へ!!




オイ皆さんジャスタウェイ投げる方向間違えてますよ?


作者にに投げんじゃねぇ!!


次投げた奴、パトリオットミサイルの刑な。


では第二章どうぞ!


※今回は第二章のプロローグ的な回なので少し短いです。





 

 

「うしっ行くか」

 

 

 遠征当日。

 いつも通りの天パ。いつも通りの服装。いつも通りの木刀。だが一つだけいつもとは少し違う点が。それはいつも以上に真っ直ぐな瞳をしている事だ・・・死んだ魚の様な目をしている事には変わりないのだが。

 銀時は部屋から出ると、近くにある団長のフィンの私室に入った。勿論、ノックなどしていない。

 

 

「フィン、邪魔するぞ・・・悪ィマジで邪魔だったっぽいな」

 

「大丈夫。今終わったからね」

 

 

 フィンは『フィアナ』という小人族で信仰されている架空の女神に祈りを捧げていた。だが銀時が入ってくる頃には終わっていたらしい。

 銀時に続いて、リヴェリア、ガレスとフィンの私室に入室する。

 

 

「さて、と最終確認をしようか。ガレス」

 

「物資を含め、不備はない。問題なしじゃ」

 

「ありがとう。リヴェリア、皆の様子は?」

 

「鍛錬漬けで体の調子だけが懸念材料だったが問題ない。皆きっちり仕上げてきている。・・・あぁただ昨日に甘い物を取り過ぎて胸焼けし、寝込んだ大馬鹿者がいた様だがどうやら大丈夫そうだ。なぁ銀時?」

 

「誰だよそんなアホは。まぁ取り敢えず、今日の休息の場でのツマミは柿ピーでお願いします。甘い物は遠征から帰って来た後でいいや」

 

「遠回しに認めているんだけど、敢えてツッコまないでおいてあげるね。とにかく皆、万全の様で何よりだ」

 

 

 互いに情報を交換し合い、着実に士気を高めていく。貫禄、というのに相応しい顔付きだ・・・ひとりを除いて。

 

 

「とうとうここまで来た。男神(ゼウス)女神(ヘラ)が残した未到達階層への挑戦。これを超えれば改めて僕等の名は世界に轟く」

 

 

 そう語るフィンの目には揺るぎない意志が見て取れた。その姿を見つめるリヴェリアは口を開く。

 

 

「もう十分ではないか?お前のことを知らない者はもういないさ」

 

小人族(パルゥム)には《勇気》という名の光が必要だからね。僕が世界に知られていても他の同族の名声や活躍は聞こえてこない。だから僕は進むよ。何が待ち受けていようとね」

 

 

 覚悟を語る小さな冒険者に周りの皆は呆れ顔を浮かべる。銀時は鼻に小指を突っ込みながら言う。

 

 

「肩の力抜けっつうの。ザウスだっけ?フェ(ピー)だっけ?んなもん関係ねぇよ。せっかくの()()の冒険なんだ、楽しまねぇと」

 

「ハハッそうだね。あと銀時、次に僕の部屋で鼻くそ飛ばしたら指斬り落とすから」

 

「ういうい、気ィつけま~す」

 

 

 全く反省してない銀時にフィンは溜め息をつく。だがいつもの事なので直ぐに切り替えた。

 四人はふっと笑みを交わし合う。

 

 

「一発、景気づけに何かやるか。銀の字、主の祖国の景気づけを教えてくれんか」

 

「お、それはいいね。何かあるかい?」

 

「頼むからマトモな事にしてくれよ」

 

 

 ガレスが提案し、フィンとリヴェリアがそれにノる。銀時は少し思案して口を開いた。

 

 

偉大なるダンジョン(グ ラ ン ド ラ イ ン)に行く為に、一つの樽の上に全員が片足乗せて目標を言い誓い合う“進水式”────」

 

「進むのはダンジョンであって海じゃないから無理だよ。それに樽なんて僕の部屋には無いし」

 

「ん~じゃあ“魂”のこもった“刀”を自分の胸に突き刺して名前を────」

 

「儂ゃまだ死にたくないので却下じゃ」

 

「これはどうだ?一つの“錠”と人数分の“鍵”を用意してこう誓いやぁいい────“愛を永遠に(ザクシャインラブ)”と」

 

「なぜ景気づけに貴様と永遠の愛を誓わねばならんのだ!!そういうのはちゃんとした場でゴニョゴニョ・・・

 

 

 尻すぼみに小さくなっていくリヴェリアの声は誰にも届く事は無かった。

 そんな時、フィンの部屋の扉がまた開いた。

 

 

「何や何や!楽しいそうなことやってるやん?ウチも入れてぇや!」

 

 

 四人の中に主神であるロキも加入した。そして銀時は最後の一つの案を出した。

 

 

「“心中立て”でいいだろ」

 

「「「心中立て?」」」

 

 

 “心中立て”とは約束の厳守を主とした男女の誓いである。だが銀時は詳しいことは知らず、ただ約束を厳守するという約束だけに重きを置いていた。

 大体は遊女が客に買われる際、または永遠の愛を誓う際に行われるものだ。かなり昔は遊女の小指を切り落として相手の男性に渡すという物であったが、今は髪の毛を指に結びつけるというのが主流である(※この世界では)

 

 

「おい銀時。私は何週間とある遠征の間、皆の髪の毛を指に巻き付けるのは反対だ。流石に抵抗がある」

 

「まぁ陰険エルフは仕方ないじゃろう。おい杖を振り上げるな!」

 

「じゃあこうしたらええやん!ウチの髪なら朽ちることもないしええやろ?その代わり、ウチに皆の髪の毛を一本ずつ頂戴!つまり主神(ウチ)に“誓う”ってことやな」

 

 

 それなら、とリヴェリアはギリギリ妥協した。フィンやガレスは髪の毛を、銀時は鼻毛を・・・としたところでリヴェリアに殴られ髪の毛を抜き、それぞれが丁寧にロキの指に結び付けた。

 ロキは四本抜き、四人に渡した。各々が小指に主神の髪の毛を結んだ。

 

 

「ウチに誓いを立てェ!フィンは団長として遠征組を指揮して皆の安全を護ること!リヴェリアは魔法で敵をぶっ飛ばして皆を護ること!ガレスは団の“盾”として若い子供たちをちゃんと護ること!銀時は団を誇るゴキブリ並の生命力を駆使して皆を護ること!えぇな!?」

 

「ロキさんロキさん、俺だけ酷過ぎやしやせんか?」

 

 

「ええな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央広場(セントラルパーク)

 

 

「サカタさん」

 

「ん?アスフィじゃねぇか」

 

 

 中央広場(セントラルパーク)には、遠征をあと数十分先に控えた【ロキ・ファミリア】に叱咤激励を送ろうと何十人ものの冒険者や神がやって来ていた。

 アスフィ・アンドロメダもその一人である。他の面々とは目的は違えど銀時に渡す物があった為、やって来たのだった。

 

 

「できましたよ、注文の品」

 

「おっマジか。助かる」

 

 

 銀時はアスフィにある物をヘルメス経由で頼んでいた。遠征に持って行くからそれまでに、と。

 

 

「この物の発動は“音声認識”です。その文字を感知した瞬間から五秒のカウントが始まりますので、お気を付けて。御武運をお祈りしています」

 

 

 アスフィは銀時に一枚の紙を渡した。その紙の上には丁寧な字で文字が書かれてある。銀時はその紙を懐にしまうとアスフィに感謝を伝え、別れた。

 

 

「銀時」

 

「アイシャ・・・」

 

 

 次に銀時に訪れたのは歓楽街を牛耳るファミリアに所属しているアイシャだった。いつもの格好とは違い、着物は着崩しておらず、ただ上品だった。

 

 

「アンタの事だから心配には及ばないだろうけど、一応ね。春姫からの言伝も預かってるし」

 

「ん、何だ?」

 

「『無事に帰って来て今回の遠征の出来事をお聞かせ下さい!』だとよ。私も最上級のお•も•て•な•しを用意して待っとくよ」

 

「嫌な予感しかしねぇが楽しみにしてらァ。春姫にもそう伝えておいてくれ」

 

「わかった。帰ってきた時に()()()をきちんと取れるよぅ、よく働いて来る事だねェ」

 

 

 アイシャは舌なめずりをした後、銀時と別れた。銀時の腕には鳥肌が立っていた。

 

 

「銀時さん!」

 

「シルじゃねぇか。どうした?」

 

 

 次に声を掛けてきたのは“豊穣の女主人”で働くシルだった。抜け出してきたのか制服のままだ。

 

 

「ミアお母さんから餞別としてスルメを貰いました!どうぞ!」

 

「助か・・・る?まぁあんがとさん」

 

「あの銀時さん。本当はリューも誘ったんです。でもリューは頑なに行こうとしなくて」

 

「まぁ昨日の今日だからな。しゃーねぇよ」

 

「それでもですよ!『別れは昨日に済ませました。私はここでサカタさんを待つ義務がある』って言って聞かないから・・・」

 

「気持ちだけで十分。帰って来た時の宴会の準備、宜しくな」

 

「はいっ!承りました!!」

 

 

 営業スマイル全開のシル。それはもう銀時でさえも溜め息をつかざるをえなかった。

 各自が知己との別れを済ませ、フィンの号令を待っていた、その時。

 

 

「ぎーーんーーとーーきぃぃぃぃぃ!!!」

 

「ぶへっ!ろっロキ!?」

 

 

 ダッシュで駆け寄り、銀時の腰に抱き着いたのは主神であるロキだった。

 周りの団員はその様子に目を見開いている。だがフィンやガレス、リヴェリアはその光景を見ても動じなかった。

 

 

「お、おいロキ?ホームで待つんじゃなかったのか?」

 

「無理無理!!そんなん無理ィィ!」

 

「子供か!神の威厳もへったくれもねぇなっ!いい加減に子離れしやがれ!!」

 

「嫌や!!銀時は皆を護るからいッッッつも傷だらけで帰って来るやんか!不安なんよォォォ行かんといてよォォォ寂しいよォォォ!!」

 

「めんどくせっ!ウチの主神めんどくせっ!!」

 

 

 銀時の腰に抱きつくロキは子供のように泣きじゃくった。

 その光景を見たことがない者は激しく動揺し、見たことがある者は溜め息をついた。

 

 

「・・・やはり出たか。ロキの悪癖」

 

「はぁ、士気に関わるからやめて欲しいのが本当なんだけど・・・こればっかりは仕方ないか」

 

「じゃな。好きなだけ甘えさせておけ」

 

 

 リヴェリア、フィン、ガレスはなぜロキがこの様な状態になっているかわかっていた。遠征に参加する団員は三人の会話に自然と耳が傾く。

 

 

「僕達と銀時の初めての遠征もあんな感じだったなぁ・・・まだ小さかった銀時にああやって抱き着いてた」

 

「私達がロキの眷属になった時は既にいい大人だったからな。子供という子供が加わったのは銀時が初めてであったから、注がれた愛が重いのは分かっていたが・・・」

 

「最近は治まってきたと思っておったが・・・我慢の限界でよく分からん母性愛が爆発したんじゃな。まぁ銀の字が上手く治めるじゃろ」

 

 

 冷静に解析する古参の三人であるが、周りの団員はそわそわして落ち着かない。それも無理はないだろう。

 

 

「だァァァァもうっ!ほらロキ、指出せ!」

 

「グズッグズッ・・・指ぃ??」

 

 

 ロキは“心中立て”した手を差し出した。

 銀時はロキの手の小指と自身の指を絡ませた。お互いの髪の毛が綺麗に絡み合う。

 

 

「“心中立て”ってのァもう一つあんだよ」

 

「・・・なんやぁ?」

 

「“指切り”ってのがな。行くぞ」

 

 

 銀時は片方の手をロキの頭に置いた。ゆっくり撫でて言葉を紡ぐ。

 

 

「指切りげんまんっ嘘ついたら針千本の~ますっ指切ったっ!」

 

「・・・ふぇっ?」

 

「俺の故郷の約束事を護らせる魔法の唄だ。ロキに誓った約束は決して破らねェ。周りが死にかけて約束を破りそうになったら俺が全部護ってやらァ。俺ァ腐っても侍だ。一度約束したら絶対に約束は護りきってやんよ。だから安心してホームで待ってな、ロキ」

 

「うん・・・うんうん!待っとく、待っとくな!!」

 

 

 涙を強引に服の袖で拭いたロキは目を腫らして、笑った。

 一同に落ち着いた空気が流れる。緊張で凝り固まっていた空気が弛緩した。いい具合に緩み、フィンは苦笑いした。そして────。

 

 

「────総員、遠征を開始する!」

 

 

 部隊の正面でフィンが声を張り上げた。ロキから作られた空気が再び締まっていく。

 

 

「君達は『古代』の英雄にも劣らない勇敢な戦士であり、冒険者だ!大いなる『未知』に挑戦し、富と名声を持ち帰る!!」

 

 

 フィンはある神物を・・・未だに銀時に撫でられているロキを指差した。

 

 

「犠牲の上に成り立つ栄誉は要らない!!全員、この地上の光と泣き虫な主神に誓ってもらう────必ず生きて帰ると!!」

 

 

 各々が拳を握り締める。頭上に広がる蒼穹にしばしの別れを告げる様に、泣き虫な主神を安心させる様に、フィンは息を吸い込み────号令を放った。

 

 

 

「遠征隊、出発だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 





ここから第二章がはじまります。プロローグ的なこの一話、如何でしたか?


ロキをやっと出せた。やっとロキを・・・ロキを・・・感涙。


今回は“ジャスタウェイ”大丈夫でしょう。多分。皆さんで判断してください。


では毎度恒例謝辞。

『@ファイブズ』さん、『花京院セイラ』さん、『GUNO』さん、最高評価ありがとうございます!!

『元金』さん、『ナンナ』さん、『F215SS-I』さん、『ゼオン』さん、『フィーエル』さん、『テレビス』さん、高評価ありがとうございます!!


これから第二章ですがお付き合いください!本当にありがとうございます!!


ではまた次回!!ベル君回にて!

感想評価、よろしくお願いします!!


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僕はただ・・・

いや~皆さん、ジャスタウェイ!(挨拶+開き直り)

今回もね、皆さんでジャスタウェイジャスタウェイしていきましょう(錯乱)

ではどうぞ!




 

 

『オオオオオオオオオ!!』

 

 

 僕にとっての因縁の、そして乗り越えるべき壁の存在が雄叫びを上げた。

 

────ミノタウロス。

 

 咆哮はダンジョンに轟々と響く。鼓膜を劈き、四肢を震わせる。僕が奴に遭遇する前に襲われていた冒険者は恐怖で顔を歪め、全身が震えていた。それも無理はない。普通はそうだ。僕もそうだ。

 目の前で僕を見下ろすミノタウロスは僕一人に敵愾心を向けている。体が、心が、感情が高ぶっているからか僕はそれが鋭敏に感じ取れた。

 

 

「リリ、逃げるんだ」

 

「ベ、ベル様っ嫌です!リリは────」

 

「リリを巻き込みたくはない。これは僕が壊すべき壁だ」

 

「ですがっ!」

 

「聞こえなかったか?早く行くんだ。僕は大丈夫だから」

 

 

 リリは涙を拭いて駆け出した。

 この状況、師匠の言葉で言えば“殿(しんがり)”だったっけ?味方を護る為に一番危うい立場だった筈だ。

 

 なのにどうしてだろう、ここまで気分が高揚するのは。

 なぜだろう。早く剣を交えたいと思うのは。

 

────これが僕の初めての冒険だからか。

 

 震えていたのは武者震いだったというだけ。目の前に立つ因縁の敵は乗り越えるべき壁だったというだけ。簡単なこと。

 短刀を二刀構え、重心を落とす。自然と頬が緩んでしまうのは許して欲しいところだ。

 

 

 僕は────自分(超えるべき敵)との戦いに身を投じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ダンジョン9階層》

 

 

「ッ!」

 

 

 アイズの道に立ち塞がり、厳然と佇む者が一人。

 瞬間、アイズの表情には一切の余裕が消えた。それもその筈で、目の前にはオラリオ最強と名高い男が抜刀し敵意を向けているからだ。

 

 

「【猛、者】・・・」

 

 

 敵意を向ける男、【フレイヤ・ファミリア】の首領・【猛者】オッタル。

 急ぐ理由があるアイズにとってこの遭遇は不幸そのものだった。敵意を向けられている時点で刃を交えねばならぬことは必然的だった。

 

 

(早く行かないと・・・彼が・・・・・・)

 

 

 アイズは先程、命からがら逃げ出した冒険者からある話を受けていた。

 

────ダンジョンの9階層にミノタウロスが!白髪の少年が俺たちを庇って・・・

 

 アイズは悟った。いや何かを感じたというべきか。ミノタウロスに白髪の少年と言われれば、以前から多少なりと関わりのある男の子を想起してしまうのは仕方の無いことだった。

 

────ベル様を助けて下さいっ!!

 

 その後に出会った小人族(パルゥム)の少女のサポーターは悲痛の声をあげていた。ベル、という特徴的な名前もその師匠からよく聞かされていた。ミノタウロスに襲われているのはアイズが以前、傷付けてしまったあの少年なのは確定的だった。

 

 

「【剣姫】、手合せ願おう」

 

「どうしてっ!」

 

「敵対する積年の派閥(かたき)と一人、ダンジョンで相見えた。殺し合う理由には足りんか?」

 

「そこをどいてっ!!」

 

 

 言葉での説得が無理だと直感したアイズは滑空しオッタルに肉薄する。

 オッタルは厳然としたままゆっくりと大剣を構えた。

 

 

「シッ!」

 

「温い」

 

 

 アイズの渾身の刺突を事もなげに斬り払うオッタル。圧倒的な力の差にアイズは顔を顰めた。

 オッタルは最重量級の武器にも関わらず、自身の手足の様に大剣を振るう。アイズは間一髪で避けることが出来ていた。

 

 

「お前の剣には俺が認めた男の剣が見え隠れしている。俺にとっては僥倖だ」

 

「くっ!」

 

「だが奴程ではない」

 

 

 速度が上がる。それはアイズの連撃の速度であり、オッタルの守りの速度でもある。風を、空間を斬る音が轟く。

 だがアイズはたった一撃さえもオッタルに叩き込めて無かった。巨岩の如く、全ての攻撃を小揺るぎもせず相殺されていた。

 

 

「ふんっ!」

 

「・・・・・・っ!!」

 

 

 オッタルが放った横薙ぎの一撃がアイズを襲いかかる。

 アイズは愛刀を盾替わりにして攻撃を受けつつ、攻撃の方向と同じ方向へ飛びダメージを減らした。しかしあまりの衝撃に体は吹き飛ばされ、ダンジョンの壁に叩きつけられた。

 

 

「くっ・・・はぁ・・・」

 

 

 ヨロヨロと立ち上がるアイズ。なぜアイズは少年の為にここまでしているのか理解してなかった。だが何か特別なモノが突き動かしているという事実だけは理解していた。

 

 

「私は、まだ・・・彼に、謝って・・・ない」

 

「・・・」

 

「【 目覚め(テンペ)────」

 

「はい、ストップ」

 

「あうっ」

 

 

 アイズが必殺の魔法を唱えようとしたその時、首根っこを掴まれた。引き戻されたアイズは何とも間抜けな声を上げた。

 

 

「その剣は置いとけ、アイズ」

 

「銀ちゃん・・・」

 

 

 アイズを引き戻したのは銀時だった。片手でアイズの首根っこを掴み、片手で先程の小人族(パルゥム)のサポーターの少女を抱えている。

 

 

「来たか【白夜叉】」

 

「ハッ、上層にミノタウロスが出たっつうからよ。遠征がてら見に来たって訳よ」

 

「そうか・・・」

 

「襲われた奴の話を聞きゃぁ迷宮の武器庫(ランドフォーム)じゃねぇで大剣を装備しているときた。これァテメェの主神(おんな)の差し金か?」

 

「答える必要は無い」

 

「はぁ、だからテメェは猿公(エテこう)なんだよ。惚れた女に付き従うことしか脳がねぇんだから」

 

「なぁに、ただのうのうと生きているだけの貴様よりはマシだ。知能という点では貴様も猿公だろう?」

 

「男は皆猿公(エテこう)ってか?それァまぁ分かるが、猪に言われちゃあ世話ねぇなァ」

 

「フッフッフッ」

 

「ハッハッハッ」

 

「ガッハッハッハッ!」

 

「ギャッハッハッハッ!」

 

「「ダッハッハッハッハッハッハッ!!」」

 

 

 二人のいい大人の笑い声が響く。銀時に引き戻された金髪の少女も抱えられている小人族(パルゥム)の少女も顔を引き釣らせていた。

 

 

「餞別にスルメを貰ったんだよ。どうだ?」

 

「頂こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと・・・銀時、この状況を説明してくれるかな?」

 

「あん?一人の男の冒険をスルメ食いながら見ているだけだ」

 

「オッタルと一緒に?」

 

「おうよ」

 

「久しいなフィン」

 

「君も毒されているのか・・・」

 

 

 フィンに続き、【ロキ・ファミリア】の幹部級の人物達が銀時らと合流した。フィン、リヴェリア、ベート、ティオナである。

 フィンは項垂れた。目の前には胡座をかきながら仲良くスルメを食べている銀時とオッタル。離れたところにはミノタウロスと死闘を繰り広げている白髪の少年。話によればその白髪の少年はLv.1であり、到底ミノタウロスには敵わない筈だ────だが。

 

 

「ベート・・・僕の記憶が正しければ一ヶ月前、あの少年は如何にも駆け出しに見えたんじゃないのかい?」

 

「何が起きやがった・・・」

 

 

 ベートが驚くのも無理はない。目の前で死闘を繰り広げているのは確かだ。だがLv.2の冒険者さえ一人では御免被る敵であるミノタウロスをLv.1である白髪の少年が対等に渡り合っているのはにわかに信じ難い光景であったからだ。

 

 

「手出しすんなよ。する奴ァ俺を倒してからにすんだな」

 

「誰も出さねぇよ・・・それが冒険者のルールだからな。横取りはしねぇ」

 

「ワンコのくせに分かってんじゃねぇか」

 

「ハッ!」

 

 

 鼻で笑うベート。だがそれが理屈では理解出来ても感情では理解出来ていない者が三人。アイズとリリとティオナだった。

 ティオナは恐る恐る銀時に話しかけた。

 

 

「ねぇ銀さん。Lv.1なら死んじゃうよ?」

 

「死なねぇよ。何せ俺の“弟子”だからな」

 

「「「ハァ!?」」」

 

 

 リヴェリア、ベート、ティオナは素っ頓狂な声を上げた。フィンは何となく察しが付いていたのか目を丸くするだけだった。

 

 

「他のファミリアに干渉することは御法度であることは貴様でも知っている筈だ!!何を考えているのだ銀時!!」

 

「あまりカッカすんじゃねぇよ・・・老けるぞ」

 

「んな・・・」

 

 

 リヴェリア撃沈。

 

 

「おい腐れ天パ、テメェは何を────」

 

「ふんっ!!」

 

「マヨネェェェェズゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 

 ベートはいつの間にか盗み取られていたマヨネーズを追い掛け、どこかに消えて行った。

 

 

「・・・銀さん、何あれ?」

 

「ただのマヨラーだ。気にするな」

 

「あぁ・・・うん。そうする」

 

 

 大人の反応をするティオナ。

 

 

「おい【白夜叉】。スルメはもうないのか?」

 

「ハマったんかい!!まだあっから!」

 

 

 壊れ始めるオッタル。

 

 

「僕はもう何が正解なのか分からないよ・・・」

 

「ベルの勇姿を見届けるのが正解。これが()()()()()()()()()だからな」

 

 

 団員を見て頭を抱えるフィン。だが見届けようと顔を上げ瞳をベルに向けた。

 

 

 

「冒険を楽しめよベル。ここで殺られる様なタマじゃねぇだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭が冴えていた。

 心は落ち着いていた。感情は昂っていた。体は火照っていた。

 

 彼女の隣に立ちたいと、師匠を超えたいと、英雄になりたいと。強く強く願う。この時ほど強く思った時はないと思う。

 

 

「ウォォォォォォオオ!!」

 

『ォォオオオオオオォォオオッ!!』

 

 

 僕は叫んだ。ミノタウロスも雄叫びを上げた。

 

 

「遅いな・・・君の攻撃は蜂より遅い」

 

「ッ!!」

 

 

 hit&awayで攻撃こそ当たるが威力が無いため致命傷には至らない。肌の表面に切り傷が入るだけだ。

 

 

「オオオッ!」

 

「くっ!」

 

 

 学習能力が有るのか、ミノタウロスは僕の移動先を先読みして大剣を振り下ろした。

 僕は二刀をクロスさせ、大剣を正面から受け止める。ギシッと骨が軋む音がした────だけど。

 

 

「師匠の攻撃よりは遥かに軽いッ!!」

 

「ブモッ!?」

 

 

 足のバネを使い、大剣を打ち上げる。

 僕は間髪入れずに神様のナイフを逆手に持ち、ミノタウロスに向かって滑らせた。

 

 

「────アバンストラッシュ」

 

 

 師匠から授けられたアバンストラッシュ(必 殺 技 の 前 の 必 殺 技)を繰り出す。

 

 瞬間、視覚も聴覚も嗅覚も味覚も痛覚も消えた。

 

 ただ一刀。

 

 自分自身の気力、体力、魔力を捨てて、その一斬に全ての力が集束された様な刹那の感覚を覚えた。

 

 

『オオオオオオオオッッ!?!?』

 

 

 僕の意識が()()から戻ってきた時の光景。

 それはミノタウロスの肘から先の右腕が血を撒き散らしながら宙を舞っている光景だった。

 それらを視認すると同時に凄まじい倦怠感が僕を襲った。危うく膝を地面に着きそうになる。勝負はまだ付いていないのだから歯を食いしばり何とか堪える。

 

 

『オォォオオッ!!』

 

「クソッ!」

 

 

 大剣を振れなくなったミノタウロスは左手の拳を何度も僕に振り下ろした。

 体があまり言う事を効かなくなった僕は体ごと投げ出して転がりながら回避するしかない。しかしそれも長くは回避出来ないことは感覚でわかっていた。

 

 

「ガッ!!」

 

 

 そしてミノタウロスの拳が僕の腹に突き刺さった。殴り飛ばされ壁に叩き付けられる。肺から空気が叩き出された。

 何かが折れる音、何かが破裂する音が体内から聞こえる。幻聴だと思いたいけど燃える様な痛みが真実なのだと頭に警鐘を鳴らしてくる。

 

 血が口から大量に吐き出され、意識が暗転しかける。ミノタウロスの死の足音が近付いてくる────その時、走馬灯の様に一つの記憶が蘇った。

 

 

 

────冒険者にとって大事なことぉ?

 

 

────エイナさんに言われたんです。『冒険者は冒険してはいけない』って。生きて帰ってくる事が大事なんだって。師匠はどう思いますか?

 

 

 

 師匠との記憶。僕が改めて師匠に憧れを抱いた記憶。

 

 

 

────あ〜確かに大事だな。だが俺ァ冒険者にとって大事な事は三つあると思ってんだ。

 

 

────三つ・・・ですか?

 

 

 

 師匠はいつも通りの天パの頭をガシガシ掻きながら言った。

 

 

 

────一つ目は仲間と共に育くむ【友情】。仲間にゃあ世話になる分、俺が護ってやらァっていう持ちつ持たれつの関係を築き上げる事が大事だ。

 

 

────なっなるほど・・・

 

 

 

 僕も神様やリリ、関わってきた全ての人達に沢山助けられてきた。それ以上に師匠はその経験があるのだと思った。だからその言葉はとても重く感じた。

 

 

 

────二つ目は【友情】を護る為に必要なこと【努力】だ。仲間を護る為にゃぁ自分(テメェ)が強くならねぇとなんねェ。自分(テメェ)の体を磨いて、自分(テメェ)の技を磨いて、自分(テメェ)の心を磨かなきゃなんねぇ。わかるか?

 

 

────はい!わ、わかります!

 

 

 

 師匠と初めて出会った時、僕は師匠の剣に魅せられた。何千、何万と振ればあれだけ美しい剣になるかわからない。だから僕は師匠に教えを請うたんだ。より強くなる為に。彼女に近付く為に。英雄になる為に。今は師匠を超える為に。

 

 

 

────仲間との【友情】を護る為に積み重ねる【努力】。そして最後の三つ目は仲間の想いに応え、強大な敵であろうが自分(テメェ)の限界という名の壁をぶち破って得るモンだ。それは────。

 

 

 

 

「【勝利】だァァァァァアア!!」

 

 

 

 

 関わった神様やリリや皆から【友情】を学んだ!いつも助けられてばかりだ!

 だから皆を護る為に【努力】した!そしてあの人に追いつく為に!師匠を超える為に!【努力】を積み重ねた!

 僕はこのままじゃ終われない! 死んでも死にきれない!僕を支えてくれた全ての人達に応えなきゃならない!僕に期待してくれた全ての人達に返さなきゃならない!たった一つの【勝利】を!その為に!!

 

 

 

 

「僕はただ壊すだけだ!!目の前にそびえ立つ限界という名の己の壁を!!」

 

 

 

 

 余った力の全てを集束させろ!視覚も聴覚も嗅覚も味覚も痛覚も要らない!!たった一つの“技”を繰り出すだけでいい!!

 

 

 

 

夜空を翔ける“星”より速く!!

 

己の全ての技を“爆発”させろ!!

 

“嵐”の如き怒涛の連撃を!!

 

 

 

 

 

「────スタァバァストッストリィィムッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石、お前の弟子と言うべきか」

 

「ハッ、言ってろ」

 

 

 銀時らの視線の先には血みどろの白髪の少年が立ったまま気絶していた。そして地面に転がるのはミノタウロスであった()()()()の肉塊。

 

 

「俺は戻る。武運を祈っている」

 

 

 オッタルはそう言って片手にスルメを持ってこの場を後にした。その言葉は銀時たちに掛けたモノなのか、英雄になる資格を手に入れた少年に掛けたモノなのか分からなかった。

 

 

「凄かった・・・本当に。最後の連撃は綺麗だった」

 

「16連撃。他の技術は僕達からしてみれば稚拙そのものだったが、その連撃とミノタウロスの右腕を斬り落とした斬撃は見事だった。最後の連撃の時に()()()()()()のはその連撃以外の不必要な情報を削ぐためか・・・」

 

 

 ティオナが皆の気持ちを代弁し、フィンが興奮が混ざった声で解説した。

 リリはリヴェリアから譲り受けたポーションを持ってベルの元へ駆けて行った。

 

 

「ねぇ銀ちゃん・・・」

 

「何だ?」

 

 

 アイズは声を震わせながら銀時に声を掛けた。その瞳は未だに少年に向いたままだ。

 

 

「あの子も、銀ちゃんも戦いの時、何を見ているの?どこを見ているの?」

 

 

 その問いはその場にいた全員の問いだった。

 

 

自分(テメェ)だよ。自分(テメェ)という己の中にある最大最強の敵だ」

 

 

 そう言って銀時は微笑んだ。だが周りの連中は銀時の言葉を反芻しながら、白髪の少年を見ていた。

 

 

 

「何はともあれお疲れさん、ベル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この話は私がこの二次小説を書き始めて書きたかった1話の一つです。楽しんでいただけたでしょうか?

銀時の教えとして【友情】【努力】【勝利】は外せませんでした。ジャンプを知ってる皆さんはわかりますよね?


【重要】ベルの発現スキルを変えました!!


はい、この話でベルの銀魂のポジションがわかったと思います。パクヤサ以外で・・・。


○中二病混じり。ちょいポエマー。
○攻撃に必要な情報以外を削ぐ為に“左目”を瞑る。
○僕はただ壊すだけだ!己の中にある限界という名の壁を!


はいわかりましたね。
答えがわかった方は感想欄にてジャスタウェイと一緒に。


では毎度恒例謝辞。

『晩鐘』さん、『ただの通りすがり』さん、『ユウ11』さん、『回る空うさぎ』さん、『金子カツノリ』さん、『早川龍馬』さん、『魔剣士スパーダ』さん、『ニャルるん』さん、『耶義』さん、『速報』さん、『エアーマン』さん、最高評価ありがとうございます!!

『主任大好き』さん、『SCI石』さん、『漆黒の覇王黒龍』さん、『gatamon』さん、『かっちゃん0430』さん、『C3PO』さん、『正宗の胃袋』さん、『茶飲み話』さん、高評価ありがとうございます!!


皆さんの投票で日間ランキングにのり、3000人の方にお気に入りして貰えました。作者としてこんなに嬉しいことはありません!!本当にありがとうございます!!


ではまた次回!!感想、評価お待ちしてます!!


※感想貰えるのはとても嬉しいのですが、ジャスタウェイの一単語だけじゃ本篇に関係ないと言われ、感想が運営にブロックされる可能性が有ります。ご了承ください。


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スキルとスルメ


やぁ皆さんジャスタウェイ!(挨拶)


前回や前々回の感想について、読んでくれている友人や読者の皆さんの疑問をここで答えたいと思います。



「お前さ、なんでこんなリューやリヴェリアやロキを可愛く表現出来んねん」

「ん?俺がされて嬉しかった事を書いてるだけなんだけど」

「さ・れ・て・嬉しかったこと・・・って自分まさか!?」

「多分、そのまさかと思うよ?」

「この裏切り者がァァァァァァ!!!」



はい、答えになってるか分かりませんが。友人からはジャスタウェイ(消しゴム)を投げつけられた事だけは報告しておきます。


後書きでは実写化の話題に触れます。


ではどうぞ!!






 

 

「ベル君おめでとう!これでLv.2だ」

 

「そう・・・ですか」

 

 

 ベルは服を羽織りながらそう呟いた。

 ベルの主神であるヘスティアは大きな双丘を揺らしながらベルに問うた。

 

 

「ベル君あまり驚いてないようだけど・・・」

 

「はい、なんかこうレベルが上がる事に疑問を覚えないんです」

 

「どうしてだい?」

 

「上手く言えないんですけど・・・敢えて言うんなら自分の限界の壁を壊せた感覚があるから、ですね」

 

「そっかぁ・・・また一段と恰好良くなったねベル君」

 

 

 ベルはヘスティアに優しく微笑むと左手でそっと左目を覆った。

 

 

「左目が痛むのかい?」

 

「いえそういう訳じゃないんです。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「ミノタウロスの命が徒花(あだばな)の如く(あで)やかに散る瞬間が左目に焼き付いて離れないんです」

 

「べ、ベル君?」

 

 

 ベルは先の死闘で自身が考えたスターバーストストリーム(二 刀 流 必 殺 技)を放つ前に左目を瞑った。ベルとしては何となくの行動であったのだが、その瞑る前の左目に焼き付いた最後の一瞬がベルの心を大きく揺さぶっているのだ。

 

 

「あの死闘が、あの瞬間が、あの世界が、僕を掴んで離さないんです・・・・・・神様ッ!多分あの感覚が限界の壁を壊すか否かの刹那の一瞬なんですよ!!」

 

「そう、なの・・・かい?」

 

 

 一人、自己完結したベルをヘスティアは引き攣った笑みで返した。

 ベルは自身の師と憧憬の人物に一歩近付いた事に喜びを隠せない。ヘスティアはステータスが書かれてある紙をベルに渡した。

 

 

「ベル君、スキルが発現したよ!」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ!聞いたことがないから恐らく君だけのレアスキルだ!」

 

 

 

 

《スキル》

 

破壊衝動(ラグナロク)

 

・寸分違わぬ能動的行動(アクティブアクション)能動的発声(アクティブアトランス)により発動。

・自己が定めた一定の能動的行動(アクティブアクション)を超高補正。

・但し、補正は自己の懸想(おもい)に起因する。

 

 

 

 

「これは・・・」

 

「ベル君はこのスキルの意味が分かるかい?僕はよく分からなかったんだけど」

 

「はい、大体は分かります。でもダンジョンに行かない限りは・・・」

 

「そうだろうね。でも今日明日ぐらいはゆっくり体を休めなよ?サポーター君にもそう言ってあるから」

 

「分かりました。そうします」

 

 

 ヘスティアはそう言うとバイトがあるからとホームを出て行った。

 ベルはミノタウロスに破壊された武具やヘスティアから貰ったナイフを見ながらスキルについて考えを巡らせた。

 

 

(恐らく能動的行動(アクティブアクション)が必殺技で能動的発声(アクティブアトランス)が必殺技名だよね?寸分違わぬってことは同じモーションで繰り出せなきゃ駄目って事だよね・・・)

 

 

 ナイフを握り、数回振る。ヒュンヒュンと空気を斬る心地よい音が鳴る。

 

 

「スターバーストストリームは16連撃。語感の良さや攻撃の順番、僕の中では最上級に恰好いい必殺技・・・スキルの最後の『補正は自己の懸想(おもい)に起因する』というのは多分、僕がその技の名前とか攻撃モーションをどれだけ気に入るかって事だよね・・・」

 

 

 何百、何千と繰り返し自身の体に染み込ませた連撃“スターバーストストリーム”はベルにとって初めて完成させた必殺技だった。

 アバンストラッシュもそう。師である銀時に名を授けられ、自身の中で最高の形で完成させた必殺技だ。

 

 

「あ・・・師匠から買って貰った短刀折れたんだった」

 

 

 鞘から抜き放ち、確認する。その短刀はベルとミノタウロスの攻防の果てに刀身が折れたのだった。

 

 

「師匠は確かこの短刀作ってくれた人の名前を言ってたような・・・ヴェルフ・クロッゾだったっけ?」

 

 

 ベルは少し休んだらその刀匠の元へ足を運ぼうと考え、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ダンジョン50階層》

 

 

「ね、ねぇリヴェリア?やり過ぎじゃ・・・」

 

「ふん、当然の報いだ」

 

 

 リヴェリアは御立腹な様子でアイズの問いに答えた。

 目の前には逆さに吊るされ、顔が原型をとどめていないほど無惨なベートの姿があった。

 

 

「ず、ずびばぜんでじた・・・」

 

「ほらベートさんも反省してるし・・・」

 

「ならん。入りたてのファミリアの者ならまだしも幹部級の者が夜中にマヨネーズを盗み取り、あまつさえその場で我慢ならずに啜るなど馬鹿げている。これでさえ、まだ足りないぐらいだ」

 

 

 リヴェリアは憤慨していた。理由は数日前に遡る。

 ベルがミノタウロスと死闘を繰り広げていた時のこと。弟子(ベル)についての事を問い詰めるベートを銀時はマヨネーズを投げる事で回避したのだ。

 その場にはフィンやティオナ、そしてリヴェリアもいた。食堂の犯人はベートであることは明白になり、こうして罰を与えている次第であった。

 

 

「アイズ、レフィーヤの様子が最近おかしいのは気付いていたか?」

 

「うん。聞いても『何も見なかったZ・・・』とか変なこと言ってた」

 

「あぁ。聞いたところによるとレフィーヤはベートが犯人である事を知っていたらしい。その理由は分からないが、この阿呆に脅されたと言っていた」

 

「えぇ・・・」

 

 

 さすがのアイズもベートを冷たい目で見た。

 ベートは何よりそれがショックだった。だがただでは終われない。ここまでされた仕返しをしようと奮起する。

 

 

「お前だってマヨラーだろうが!クソババア!」

 

「あぁん?」

 

「知ってんだぞ!何の具材に対してもマヨネーズをかけていることをなァ!」

 

「えぇ・・・」

 

 

 アイズは冷たい目を今度はリヴェリアに向けた。

 リヴェリアは取り乱す事なく、淡々と事実を語る。

 

 

「確かに私もマヨネーズは好きだ。だが貴様の様な下劣で低俗な真似はしない」

 

「ハァ!?マヨチュッチュッは下劣でも低俗でもねぇ!!(れっき)としたマヨラーの文化だ!文化をバカにするとは・・・恥を知りやがれ!!」

 

「なぜ私が説教されねばならん!?恥知らずはお前だバカ(ウルフ)!!」

 

「んだとこのクソババア!!いいか!よく聞きやがれ!オラリオのマヨネーズはァァァァァ世界一ィィィィィ!!」

 

「うるさい黙れ!あと次ババアって言ったら焼きダルマにしてやるからなっ!覚悟しておけ!!」

 

 

 ギャーギャー喧しい二人にアイズは眉をひそめる。二人がその様子に気づいた様子はない。

 

 

「大体なァ!何で今更俺がマヨネーズを盗んでいる事にキレだしたんだよ!」

 

「はぁ?それはベル・クラネルの時に知ったからで・・・」

 

「嘘つけ!俺がこっそり保存していたマヨネーズに“下剤”仕込んだ奴がいるだろうが!アレはテメェらの仕組んだ罠じゃねぇのかよ!!」

 

「なん・・・だと・・・?銀時やレフィーヤの他にこの事実を黙認してた者がファミリアの中に居ると言うのか・・・やめて欲しかったのか、命知らずなのか、単にバカなのか知らんが・・・」

 

 

 ベートの発言により更に別の問題が浮き彫りになり頭を抱えるリヴェリア。だが挙げた三つの可能性の他に()()()()の可能性がある事を思い付かなかったのは仕方ないことだろう。エルフの王であるリヴェリアには到底考え付くことではないからだ。

 アイズはというと────心底どうでもいいと溜息をついていた。

 

 

「リヴェリア、そろそろ下ろしてあげよ?」

 

「む・・・ベート、二度としないと誓うか?」

 

「反省はしている。後悔はしていない(キリッ)」

 

「一生そのままでいろ馬鹿者」

 

「バイバイベートさん」

 

「待ってェェェェェ!!」

 

 

 ベートの悲痛な叫びも二人には届かない。最後の最後でアイズがチラッと振り返った。ベートはその瞬間を見逃さず、畳み掛けた。

 

 

「おいアイズッ!助けてくれたら俺の秘蔵のマヨネーズ分けてやるからよォ・・・助けてくれ!!」

 

「私はケチャップ派なので」

 

「「それはないわぁ・・・」」

 

「・・・なんでリヴェリアまで反対するの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい旦那ァ!」

 

「椿・・・」

 

 

 銀時が一人、木に寄りかかり黄昏ていると酒瓶と刀を持った女性が寄ってきた。

 名を“椿・コルブランド”という。【ロキ・ファミリア】ではなく【ヘファイストス・ファミリア】である。この遠征においてフィンやロキが武器の磨耗や消費を食い止める為に鍛治の大ファミリアに協力を依頼したのだった。その引き換えに深層域で取れたドロップアイテムを優先的に譲るという契約はあるが。

 

 

「相変わらずデケェ乳してんなぁ」

 

「ハッハッハッ、鍛治場には邪魔で仕方ないからくれてやりたいわ!」

 

「ロキに聞かせてやりてぇよ・・・あ、ティオナでもいいか」

 

 

 猥褻な質問にも豪快に返す。【ヘファイストス・ファミリア】の団長であり【Lv.5】は伊達ではない。まぁドワーフと極東のヒューマンのハーフであることが大きな点かもしれないが。

 

 

「のォ旦那。深層アタック前に手前(てまえ)にその木刀を見せてはくれんか?」

 

「会う度にそう言うよなお前。ほらよ」

 

「おお!ほら、酒じゃ!」

 

 

 木刀との対価交換として酒を渡される。銀時はちびちび呑み始めた。

 対する椿は銀時の木刀をまじまじと見る。その目は鍛治場に生き年生ける歴戦の鍛冶師そのもの。職人としての矜恃、渇望、飽くことなき執念が見て取れる。

 

 

「やっぱり綺麗に作られとるのぉ・・・手前ではこんなに繊細に作りきらんわ」

 

「俺の師匠が魂込めて作ったって自慢げに言ってたな・・・“洞爺湖”ってのも自分で彫ったつってたし」

 

「そうなのか!?旦那のお師匠の名前は!?」

 

「────だ、聞いた事ねぇだろ?」

 

「な、ない・・・色々聞いてみたかったぞ」

 

「叶わねぇ夢だな。諦めろ」

 

 

 残念そうに声を漏らす椿。

 銀時は叶わない夢だと一蹴したが、どこか嬉しそうな声音だった。師の技術が一流の鍛冶師に認められたのが少し嬉しかったのだ。

 

 

「あ、そうだ!旦那の依頼通りに刀打ったぞ!これだ!」

 

「おっ・・・ん?何コレ」

 

「刀だぞ?旦那の注文通りに作ったぞ?」

 

「そりゃ見りゃわからァ・・・俺が訊いてんのはこの鍔の装飾だよ。これウン────」

 

「ウンコじゃない。とぐろを巻いた龍よ」

 

「てめェ!俺がウンコと言い切る前にウンコと言ったっつうことは自分でも薄々ウンコと思ってる証拠じゃねーか!」

 

 

 椿から渡された刀の鍔にはとぐろを巻いた金のウン・・・龍が装飾されていた。

 

 

「名は『星砕(ほしくだき)』。大事に使ってくれよ旦那」

 

「あん?お前特有の〇〇シリーズってのは付けなくて良かったのか?」

 

「ハッハッハッ!今回は特別よ。初めて旦那が手前に刀を頼んでくれたんだ!この手前、最高の出来の刀は旦那だけの物よ!」

 

「フッありがとよ、椿」

 

「いいってことよ!手前と旦那の仲であろう!」

 

 

 二人はそう言うと酒を呑み始めた。明日から始まる深層域へのアタックに思い馳せながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《バベル五十階・最上階》

 

 

「ただいま戻りました、フレイヤ様」

 

「あらオッタル。随分と遅かったじゃない」

 

「申し訳ありません」

 

「いいわ、私の我が儘に付き合わせたんですもの」

 

「寛大な心、感謝いたします」

 

 

 フレイヤはオッタルにある事を頼んだ。

 それはベルに試練を与えること。つまりトラウマとなっているミノタウロスをベルにぶつけることを頼んだのだった。

 オッタルはそれを快く承諾し、ダンジョンへ赴いた。ベルにとって最高の相手となるミノタウロスを探し抜き、見つけると鍛え上げた。まぁベルに粉微塵にされたが。

 

 

「それで・・・貴方(あなた)はどう思った?」

 

「スルメが美味しかったです」

 

「そんな事聞いてないわよ!?」

 

 

 オッタルの発言に思わず立ち上がりながらツッコんだフレイヤ。オッタルは申し訳なさそうに必死に頭を下げた。

 

 

「申し訳ありません・・・」

 

「はぁ・・・分かればいいのよ。それでどうだった?」

 

「噛めば噛むほど味が()みだし、程よい塩加減がとても────」

 

「味の感想を聞いた訳ではないのだけど!?彼のことよ!ベル・クラネルのこと!!」

 

「あぁそちらでしたか・・・」

 

「最初からそれしか聞いてないのだけど!?貴方、ダンジョンで何があったのよ!!」

 

「【白夜叉】にスルメを貰いました」

 

「それはわかったから!!やっぱりあの男のせいなのね!あの男に彼を任せたのは間違いだった気がするわ・・・」

 

 

 フレイヤの意見にオッタルは自身の意見を述べた。即ち、ベルを銀時に任せたのは間違いではなかったという意見だ。

 フレイヤはオッタルの意見を徐々に受け入れ、納得した。それからはいつも通りバベルの最上階から下を見下ろし、口を開いた。

 

 

「オッタル、お酒に合うツマミはないかしら?出来れば乾燥していて、焼酎などに合う物がいいわ」

 

「────スルメなど如何でしょう?」

 

「そ、それでいいわ。そうね・・・ミアから貰って来て頂戴」

 

「かしこまりました。貰って来ますので少々お待ち下さい」

 

「で、出来るだけ急ぐことね・・・」

 

「はい、心得ております」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プッ」

 

 

 

「ちょっ今貴方笑ったでしょ!!待ちなさいオッタルゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





オッタルさんどうしたんや(困惑)

なんだこの混沌(カオス)・・・いかがでしたか?

皆さん、意外とリヴェリアがベートにキレること期待してて良かった。入れるかどうか悩んでたんですよね・・・まぁベートにはこれからたくさん苛められてもらうんで頑張って欲しいところ。


では毎度恒例謝辞。

『白渦かたな』さん、『働き者のキリギリス』さん、『kusari』さん、『タヌキ三世』さん、『メタリカ太郎』さん、『みけにゃん』さん、『墜落精神』さん、『チュロリス』さん、『名無しの無名』さん、最高評価ありがとうございます!!

『くろがねまる』さん、『Mig-21@0』さん、高評価ありがとうございます!!


皆さんの感想や評価はモチベーションアップに繋がりますし、とても嬉しいです(小並感)




さて、話は変わって銀魂実写版。

映画公開に続き、dTVで三話構成のドラマ版【ミツバ篇】・・・エェナンデ!?ミツバ!?ナンデ!?

沖田ミツバ役────『北乃きい』さん。
ごめんなさい、実写版銀魂で一番納得出来ない。だってミツバはナウシ・・・違った。島本さんの声の様な大人の感じじゃないと認められない。私だけかもしれませんが。

まぁどうせ泣くだろうけどね。ちくせう。


ではまた次回!!感想、評価お待ちしてます!!


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神会


【朗報】TouA、星4ベル・クラネル当たる。

最初の10連で当たった・・・星4確定チケではロキだった。可愛く書いてくれたことの感謝だと思ってる(確信)。
ダンメモにハマって更新遅れました。それもありますがリアルも忙しい・・・。


────僕はただ壊すだけだ。2%という確率の壁を。


なんて言葉が聞こえるぐらい疲れてます。ダレカタスケテ―


取り敢えずどうぞ。






 

神会(デナトゥス)

 

 

「次に進もうか。命名式や」

 

 

 ロキの言葉で顔が強ばる神々が数人。

 神会(デナトゥス)とは神々による三ヶ月に一回開催される定期的な集会である。雑談や情報交換が主であるが、真面目な議題や、ランクアップした冒険者の命名も話し合われる。今から行われるのはランクアップした眷属にそれぞれ二つ名を付ける式である。

 

 

「お、この子可愛いなぁ」

 

「黒髪かぁ可愛い」

 

「東洋の子か・・・タケのファミリアかぁ」

 

「こんな子にネタ満載の二つ名付けるのも心が痛むなぁ」

 

「本当か!」

 

 

【タケミカヅチ・ファミリア】の“ヤマト・(ミコト)”である。

 悪意だらけの神会(デナトゥス)において眷属たちの二つ名を酷くさせない方法は幾つかある。神にとって気に入られるか、金品を貢ぐか、である。

 

 

「だが、タケミカヅチ、テメーが駄目だ」

 

「この天然ジゴロが!」

 

「すけこまし!」

 

「唐変木!」

 

「ワンサマー!」

 

「何言ってんだ!?特に最後は意味がわからん!俺は別に・・・」

 

 

 タケミカヅチは東洋の神である。容姿も爽やかで大変女性に人気がある。だが当の本人にその自覚はない。よって僻みが生まれているのである。

 

 

「【絶✝影】でどう?」

 

『異議なし』

 

「うわぁぁぁぁぁああああ!!」

 

 

 この様に眷属が人気であっても主神がヘイトを集めていると、この様な惨事になる。娯楽を欲している神にとってただの気まぐれで悪ふざけであるだけだ。

 順調に名だたるファミリアの冒険者たちが列挙され新たに二つ名を付けられはじめる。そのままだったりする者も多い、アイズはそのままだ。

 

 

「最後にドチビのとこの・・・一ヶ月半!?」

 

「ファッ!?」

 

「嘘やん!」

 

「チートや!チーターやん、そんなもん!」

 

「ふっふーん!」

 

 

 ヘスティアは自慢気に口の端をつり上げた。目を丸くする神もいれば大して興味の無いような顔をする神もいる。千差万別、十人十色だ。

 ヘスティアはロキに“神の力”を使ったのかと疑われた。だが答える事は出来ない。それがベルの為であるからだ。娯楽に飢えた神は事実を知れば舞い上がるだろう。自分のファミリアに入れようと画策することは想像に難くない。

 

 

「あら、別にいいじゃない」

 

「・・・・・・え?」

 

「あぁん?」

 

 

 神の目線が発言した女神へ引き寄せられる。

 

────美の神・フレイヤ。

 

 フレイヤの一言により、これ以上の詮索はなくなった。まぁ好奇心は全く消えてなくならないのだが。

 

 

「と、取り敢えず二つ名決めようぜ!」

 

「うっし、そうだな・・・【兎吉(ピョンきち)】とかどうよ?」

 

「それもう中古。既に、ある鍛冶師が自分が作った鎧に付けてた」

 

「なん・・・だと・・・」

 

 

 色々ベルについての二つ名が出されるがイマイチピンと来ない。そんな時、一人の神が声を上げた。

 

 

「はいはーい、ウチの子がこのベル・クラネルって子に助けられたんだよ。何に対して助けられたかはギルドから口止めされてるから言えないけど・・・」

 

『ふむふむ』

 

「その時よ、その子、モンスターと戦っている時に“()()”を瞑ったんだってよ。そして決めゼリフも言ったんだと」

 

「「「「「「うわぁ」」」」」」

 

「────僕はただ壊すだけだ!」

 

「「「「「「腐ェェェェェ!!」」」」」」

 

(あちゃぁ・・・ベルく〜〜ん)

 

 

 助けられた者とはミノタウロスの戦の時に、最初にミノタウロスに襲われていた冒険者である。

 

 

「あと必殺技を叫んでたってよ!」

 

『痛ェェェェ!!』

 

「はぁぁい!ベル・クラネルの二つ名は【厨二病】で!」

 

「「「「「「それだ」」」」」」

 

「ダメに決まってるだろ!!」

 

 

 ヘスティアが叫ぶ。決まりそうな雰囲気が流れる中、どうにか神々は踏みとどまった・・・訳ではなく、もう少し面白そうな二つ名を探し始めただけだ。

 

 

「片目を瞑る・・・一ヶ月半という異例の速さと強さ・・・白髪、赤目・・・・・・はい!!」

 

「なんや言うてみい」

 

「ベル・クラネルの二つ名は【隻眼(カネキ)】でどう!?」

 

「────二つ名と」

 

「────見た目と」

 

「────偉大な功績が奏でる」

 

「────ハァァァァモニィィィィィ!!」

 

「「「「「「トレ!ビアンッ!!」」」」」」

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ヘスティアのツインテが怒髪天をつく勢いで立つ。神友であるタケミカヅチやヘファイストスがどうにか宥めるが収まる気配はない。

 

 

「あっ!思い出したぞこのヒューマン!!」

 

「お、まだあるのか!」

 

「“豊穣の女主人”のシルちゃんとデートしてた!!」

 

「「「「「「なんだとぉぉぉぉ!」」」」」」

 

「なんだって!?詳しく聞かせろぉぉぉぉ!!」

 

「ヘスティア落ち着いて!貴方までそっちに行っちゃダメ!!」

 

「一つの山の如きパフェを二人で食べてたぞ!伝説の夢シチュである“あーん”もしてた!」

 

「「「「「「くそがぁぁぁぁ!」」」」」」

 

「もっと詳しく聞かせろ!!後でその女とっちめてやるゥゥゥ!!」

 

「落ち着くのだヘスティア!平静を保て!!」

 

 

 徐々にカオスと化していく神会(デナトゥス)。だがこれだけでは終わらず更に他の神から燃料が投下された。

 

 

「そういえばこのヒューマン、摩天楼(バベル)でギルドの受付嬢のエイナちゃんと私服デートしてたぞ!!」

 

「「「「「「ふざけるなぁぁぁ!」」」」」」

 

「なにをォォ!!やっぱりそうだったのかぁぁぁぁ!!ベル君の浮気者ぉぉぉぉ!!」

 

「「もういいや・・・」」

 

 

 タケミカヅチとヘファイストスはヘスティアの暴走を止めることを諦めた。

 

 

「なんでモテる奴とモテない奴との差が激しいんだよぉ!」

 

「一度くらいモテたいよぉぉぉ!!」

 

「畜生、誰だこんな理不尽な世界を作り上げた野郎は────俺たちか」

 

「「「「「「俺たちの馬鹿野郎!!」」」」」」

 

 

 神々は各々が嘆き始めた。他神のファミリアの子供を弄るつもりがダメージがそのまま自分に返ってくるという最悪なパターンになってしまったからだ。

 

 

「はい!ベル・クラネルの二つ名は【非リアの敵(キ リ ト さ ん)】でどうでしょう!?」

 

「いいや足りねぇ!【接吻の神(ク サ ナ ギ)】でどうだ!?」

 

「恰好いいから却下!【怠惰担当(ペ テ ル ギ ウ ス)】でどうよ!」

 

「語感いいから却下だ!【ただのオタク(ア キ ト モ ヤ)】は!?」

 

「はぁぁい!纏めて────【ラノベ主人公(マ ツ オ カ)】」

 

「「「「「「決定」」」」」」

 

「駄目だぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ヘスティアはベルの天然すけこましに憤りを感じるが、それ以上に変な二つ名が付くことでベルが傷つくことに憤りを感じた。複雑な心境である。

 

 

「くっくっく、もっと苦しめばいいんやドチビ!いい気味や!」

 

 

 ロキは困り果てるヘスティアを見て仕返しとばかりに満足気に口の端をつり上げた。

 そんなカオスな空間の中、またしても美の神が口を挟む。

 

 

「貴方たちいいの?この子【白夜叉】の弟子よ?」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

 

 ピシッと神々は固まる。そしてその事実を飲み込み始めると同時に波紋を呼んだ。

 そしてその事実に驚愕を隠しきれない神が一人。

 

 

「お、オイ、色ボケ女神・・・ウチの銀時がこの子の師匠やっちゅうことか?な、何でそんなこと知ってんねん」

 

「と、言うことは貴方は知らなかったのね・・・可哀想に」

 

「ちっ違っ、ウチが聞いてるのはそうじゃなくて・・・」

 

「あの子に信頼されてないのね」

 

「────っ!?違うもん!そんなことないもん!銀時はウチのこと大好きやもん!」

 

「一度でもその様な事を彼が言ったのかしら?言ってないのなら、それはただの貴方の思い込みで────妄想だわ」

 

「う、うわぁぁぁぁぁあああああん!!」

 

 

 ロキは泣きながら何処かへ消えて行った。その光景に神々は何事かと思うが、何となく察しがついたので深く考えないことにした。

 

 

「フレイヤ、僕を助けてくれるのは嬉しいけどロキをあまり虐めないであげなよ?銀時君のネタに弱いことは周知の事実なんだから」

 

「そうだったわね・・・以後気をつけるわ。スルメの仮りは返したわよオッタル

 

 

 フレイヤはそう言ってふふと笑った。嘆いていた神はその笑顔に見惚れ、落ち着いた。どこまでが計画的なのか誰もわからない。

 

 

「えっと・・・【白夜叉】の弟子ってことならランクアップが早いのも何となく納得いくなぁ」

 

「そ、そうだな。そうだよな・・・さて二つ名、二つ名」

 

 

【白夜叉】の弟子という事実を念頭に入れた上で話し合いが再開される。どこか神々はよそよそしいというか消極的だ。

 

 

「まぁこれなら許せる・・・かな?」

 

「異論なし。ベル・クラネルの二つ名は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ疲れたぁ・・・」

 

 

 古びた教会。ヘスティアは自宅に帰っていた。早く、ベルに会いたい一心で足を動かしていた。

 

 

「ただいま!ベルく〜〜〜ん!!」

 

 

 駆け足で教会に飛び入り、ベルを探す────そして。

 

 

「────ぇ」

 

「お帰りなさい、神様」

 

 

 口調は何一つ変わらない。声のトーンも変わらない。だが徹底的に服装、纏う空気が違う。

 東洋物の着物、紅が多い事から女物なのかもしれない。その上に金の花の模様が入った黒を基調としたものを肩に掛けている。極めつけは左手に持っている煙管(キセル)だ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ベル・クラネルの二つ名────【白小鬼(オルガ)】。

 

 

 

 この二つ名は刹那として広まることになる。

 

 

 

 




はい終わりました。物語進まなくてすみません。

今回は初めて挿絵を入れさせてもらいました。下手+適当なので後は想像で補ってください。すんません。誰か書いてくれてもいいのよ?(小声)


以後、恒例謝辞。

『タヌキ三世』さん、『カローラ』さん、『Sushiman91』さん、『ひょい三郎』さん、『nine_ball』さん、最高評価ありがとうございます!!

『ナニ』さん、『怠惰な奴』さん、『ああああLv.99』さん、『シグナル!』さん、『KAIKI』さん、『ジェイドティーア』さん、『カイル012』さん、高評価ありがとうございます!!

良くも悪くも投票してくれた方が250人を超え、この作品が愛されているのだと思うと同時に気が引き締まります。ありがとうございました!!


書き始めたのは三日前。書き終わってダンメモのアプリで単発引くとあら不思議。

リリルカさんの星4が単発で出ちゃったじゃないですかぁやだぁ。

────もっと出番よこせ。

そう言われた気がした今日このごろ。さぁ考えよう。


ではまた次回!感想と評価を貰えるととても嬉しいです!!


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未到達領域 上


前回忘れてた・・・。


みなさん、ジャスタウェイ(挨拶)!!


前々回、前回の補足。

★ベルの二つ名“オルガ”は“子鬼”という意味の仏語。早い話“オーガ”の仏語。
ポジションが高〇で“総督”という立場であり部隊を率いるから“鉄〇団団長”と同じ名前にしたという理由ではない。チ〇コかチン〇コぐらいかの違いだから大して気にしないで欲しい。ホントダヨ?(^v^)

★前々回になるがベルのスキルである【破壊衝動(ラグナロク)】についての説明。
簡単に言えば某有名ラノベのソー〇スキル。だがあれはモーションを取れば自動的に自身の意思とは関係なくそれに沿ったソー〇スキルを放てる代物。
だがこの小説の場合は、自身が定めたモーションを寸分狂わずに沿わなければならない。よって途轍もなく難しい。何百、何千と同じモーションを繰り返し体に染み込ませないと意味がないスキルということ。
勿論、モンスターによって肉厚とか細さとか変わってくる。それらに関係なくベルが定めた“必殺技”を繰り出す為に【破壊衝動(ラグナロク)】が補正するイメージでお願いしやす。


わかりにくかったら感想欄にてお願いします。

ではどうぞ!!

あ、今回アンケート取りますよー。





 

 

《ヘスティア・ファミリア 本拠》

 

 

「ベ、ベル君・・・どうしたんだい?その格好」

 

「え・・・似合ってませんか?」

 

 

 ベルは少し困った顔をしてヘスティアの質問に対して質問で返した。

 ヘスティアはその質問に答えず、ベルを上から下までマジマジと見た。

 

 

(似合ってないどころか、バリバリ似合ってるよ・・・東洋の着物とベル君の白髪と赤目は、聞くだけならミスマッチの様だけど、絶妙な着物の色具合がベル君に幼さを残しつつ色気を醸し出してる・・・グヘヘ、えぇのぅえぇのぅ・・・ご飯五杯はいけそう)

 

 

 口の端がだらしなく吊り上がるヘスティア。

 ベルはそんな主神を見て、どうやら似合ってなくはないらしい、と確信を持てた。

 

 

(そう言えば銀時君はいつも着物は右腕脱ぎしてるよね・・・ベル君は左腕かぁ・・・その所為でもっと色気が出てるよぉ・・・・・・ハァハァ、銀時君、グッジョブ!こんなベル君もいいよぉぉぉぉぉ!!)

 

 

 ヘスティアは心の中で銀時に親指を立てた。まぁその銀時は今、遠征中であるが。

 

 

「か、神様?」

 

「はっ!!そ、それでその着物はどうしたんだい?」

 

「神様、取り敢えずヨダレ拭いて下さい」

 

「・・・・・・んんっ、それで?」

 

「ミノタウロス戦の時に師匠から買って貰った短刀が折れたんです。それでその短刀を作った鍛冶師に会ってみようと思って。【ヘファイストス・ファミリア】のヴェルフさんの所を訪れたんです」

 

「へぇ〜ヘファイストスのねぇ・・・そのヴェルフとやらには会えたのかい?」

 

「はい!ミノタウロスのドロップアイテムである角を使ってまた短刀を打ってくれるみたいです!」

 

 

 ベルは嬉々としてそう語った。ベルが身に付けていた鎧やアーマーもヴェルフ作であり、ミノタウロス戦で壊れたので専属契約を交わす代わりにもう一度作ることを約束したのだった。

 

 

「むむ・・・まだ話が見えてこない」

 

「こ、これからです!それで僕とヴェルフさんは専属契約を交わした後に作業場の外で一息ついたんです。その時に────」

 

「その時に?」

 

「僕がいちご牛乳をこぼしちゃったんです。いちご牛乳とかの乳製品の飲み物って服についたら臭いじゃないですか」

 

「うん、そうだね。それでそのヴェルフ君がその着物を貸してくれたのかい?」

 

「いえ、貰いました」

 

「貰ったァ!?どうしてだい!?」

 

「もうヴェルフさんは大きさが合わないからって。それに他にも何着か有るから、専属契約を交わしてくれたお礼だと言って譲らなかったので・・・貰いました」

 

 

 事のいきさつを理解したヘスティアは、名前しか知らないヴェルフに感謝した。感動を有難う、と。

 ヴェルフが東洋の着物を持っていた経緯は【ロキ・ファミリア】の遠征に付いて行っている刀匠にあるのだが、それはまた別の話。

 

 

「その煙管(キセル)は?」

 

「面識のないチャラい男の神様から貰いました。『君にはこの煙管(キセル)が良く似合う』って言われて」

 

「断りなよベル君」

 

「断ろうとしたんですけど、まるで()()()()()()にその場から居なくなって・・・まぁ預かるという形で」

 

「それなら・・・まぁいっか」

 

 

 それはそれで絵になるのでヘスティアは強く言えなかった。いや、有った方がよりベルの色気に磨きが掛かるので思考を放棄した、の方が正しい。

 

 

「あ、あとヴェルフさんからこれも貰ったんです」

 

「ん?なになに・・・こ、これは!」

 

「────そう、眼帯です」

 

(君はどこまで属性付ければいいんだよぉぉぉぉベルくぅぅぅぅぅん!!)

 

 

 神友(ヘファイストス)が付けていた物にそっくりな眼帯を目を輝かせながらヘスティアに見せるベル。

 ヘスティアはさすがにヤバイと思ったが、ベルがそんな事に興味を抱く年頃である事を思い出し、閉口して目を伏せた。

 

 

(やっぱり元のベル君がいいよぉぉぉぉ!!君の所為かぁぁ銀時くぅぅぅぅぅん!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおっ・・・ィエッキシッ!」

 

「汚ッ!銀さん汚いっす!」

 

 

 銀時はラウルの顔目掛けてくしゃみをぶっ放した。

 

 

「風邪っすか?」

 

「いや、誰かが俺の噂でもしてんじゃねぇの・・・は、は、マイケルジャクション!!」

 

「それは無理があるっす!あと汚い!」

 

 

 くしゃみが止まらない銀時にラウルがツッコむ。

 いつもの光景、だがその二人とは真逆に、緊張を顔に浮かべている者は多い。まぁ

 

 

「あいつらはいいのぉ、これから未到達領域(5 9 階 層)にアタックしようというのに、あの神経の図太さは憧れるわ」

 

「ガレス、君がそれを言うのかい?プレゼントを今か今かと待ち構えている子供みたいなキラキラした目をしているくせに」

 

「そっくりそのまま返そうフィン。血に飢えた獣の様な目をしよって」

 

「そんな目をしているかい?僕が飢えているのは血じゃなくて“未知”なんだけどね」

 

「よく言うわい。この()()が」

 

「それは昔の話だろう?僕は【勇者(ブレイバー)】として成すべき事を成すだけだ。もう卒業したさ」

 

 

 グリンっ、と首を回転させたドMが居たが二人が気にした様子はない。寧ろ昔の話に花を咲かせてるぐらいである。

 他の団員はというと・・・。

 

 

 ムニムニムニムニ────。

 

 

「リヴェリア?」

 

 

 ムニムニムニムニムニムニ────。

 

 

「・・・リヴェリア?テディベアをムニムニしてないで話聞いて」

 

 

 陰で他の団員にバレないよう緊張をほぐす為にぬいぐるみをムニムニしているリヴェリア。話を聞いてもらおうとそのリヴェリアを揺するアイズ。

 

 

「ジュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルプハッ!マヨネーズうめぇ!!」

 

「何も見てないZ・・・」

 

 

 マヨネーズをとんでも顔で啜るベートや何も見てないと目を逸らすレフィーヤなど、各々が違う心境でこの場に立っている。

 

 

 

────そして。

 

 

 

「総員、前進」

 

 

 未到達領域へと足を踏み入れる。

 密林のように木々が生い茂る場所であるダンジョンの59階層。未知なる冒険に胸を踊らしているのは極少数の強者のみ。

 

 

「『強化種』・・・」

 

 

 穢れた精霊。デミ・スピリット。

 女体と見紛う上半身と怪物の如き下半身。ただ、下半身は蛸の足のように、何百本もの食虫植物の様な触手が揺らいでいた。

 外見と色彩から察するに、タイタン・アルムに寄生したのだろうとリヴェリアはそう分析した。

 その精霊が出現すると同時に、後方に道を塞ぐように芋虫型の新種のモンスターも多数出現した。四面楚歌、この言葉がこれ以上に似合う状況もあるまい。

 

 

『アリア・・・アリアアリアアリアアリアアリアアリア!!』

 

「おいおい、ウチの姫様に随分とご執心じゃないの。倒しては出てきて倒しては出てくる・・・何そのヘビーローテーション!テメェらに掛けられるストレスは、何百万と貢いだ推しのアイドルが電撃結婚した時と同じレベルだバカヤロー!!」

 

 

 銀時が唾と野次を飛ばす。だがこの状況に笑うものなどいない。寧ろ頬を引き釣らせる者が増えた。だがそれも一瞬のみ。総員、前後に蔓延るモンスター共に闘志の炎が燃え盛る目を向ける。

 

 

「総員!戦闘開始!!」

 

 

 フィンの号令により戦端が開かれる。

 作戦通り、後衛にリヴェリア、レフィーヤ、ラウル、椿、サポーターの面々が。他は前方でおぞまし気に微笑む精霊に突撃した。

 

 

「うぉぉぉぉぉおおおお!!」

 

 

 汚れた精霊までの道を塞ぐ芋虫型の新種のモンスターを雄叫びを上げながら屠っていく。

 ラウルは魔剣を、レフィーヤは短文詠唱の魔法を遠距離から直接精霊を狙う。

 だが敵の下半身にある花弁が自身を護る盾となる。二人の威力では突破することは叶わなかった。

 

 

「チッ!銀時!突破しろォォォ!!」

 

 

 フィンの怒号に似た指示に銀時は行動で応える。芋虫型のモンスターを木刀と『星砕』を使い正面突破を目指す。

 

 

『【アイシクル・エッジ】』

 

「おまっ!ふさげろォォォ!!」

 

 

 銀時を危険視したのか精霊は口から氷柱を発射した。ベルと同じ超短文詠唱。

 

 

「ふぬァァァァァ!!」

 

 

 銀時は特大の氷柱を二刀をクロスさせる事で正面から受け止めた。だが勢いは止まらずそのまま銀時を後方へと押し返す。

 

 

『銀(さん)時ッ!!』

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」

 

 

 銀時に意識を割ける者が叫ぶ。

 骨が軋み、泣き喚く筋肉。体全体、いや筋繊維の一本たりとも気が抜けない状態だ────そんな中。

 

 

「銀時ィィ!お前、今回の遠征、いいとこ無しだぞォォォ!!さっさと【白夜叉】の名誉を“挽回”しろォォォ!!」

 

 

 リヴェリアが叫ぶ。近くに居た者たちは苦笑い。なぜ笑えたのか、簡単な話だ。銀時ならやってくれる、その期待と確信によるものだ。

 

 

「ウォォォォオオオ!!“卍解”ィィィィィ!!

 

「オイィィィ!文字が違うだろォォォォォ!!」

 

 

 リヴェリアの痛烈なツッコミが轟く。

 銀時のスキル【武士道(マモルベキモノ)】。護るべきモノが存在する限り発動し、状況に応じてアビリティを最大二段階補正する。

 団員たちの期待と自身のキャラを“護る”為にアビリティが一段階跳ね上がる。

 

 

「返品してやらァァァァ!!レシートは要りましぇぇぇぇぇぇん!!!」

 

『────っ!?』

 

 

 精霊は目を見開く。殺す気で放った巨大な氷柱がそれ以上の速さとなって返ってきたのだから当たり前だ。

 

 

『ギャアアアアアアアアア!!』

 

 

 照準はズレたが妖精の胸付近に氷柱が着弾し、穿つ。

 

 

「釣りは要らねぇよ。とっときな」

 

 

 レフィーヤの矢が、ラウルの魔剣が殺到する。毀傷の回復に意識を割いていた精霊は軽くない一撃を貰う。

 

 

「行っくよ〜!!」

 

 

 ティオナとティオネ、ガレスも後援に負けじと追撃する────だが。

 

 

「高速再生!?ちょっと速過ぎィ!」

 

「知性があるのは厄介ね!!」

 

 

 精霊は自身の本体より花弁の再生を優先し、もう一度壁を張った。それによりティオナたちは勿論のこと、アイズも攻めあぐねた。

 

 

『火ヨ、来タレ────』

 

 

 呪文が奏でられる。全員が直感した。先程、銀時に放たれた魔法よりも強い魔法が放たれるのだと。

 フィンの号令によりレフィーヤやラウルは後援の仕事を更に加速させる。無駄だとどこかでわかっていても止めることは出来ない。

 

 

「リヴェリア!結界を張れ!」

 

 

 リヴェリアと精霊が並行するように詠唱を紡ぐ。危険を察知した前衛にいた者たちはリヴェリアの傍まで退避する。

 

 

「【ヴィア・シルヘイム】!!」

 

『【ファイアーストーム】』

 

 

 翡翠色の結界が発生し冒険者を包む。

 ほぼ同時に精霊の魔法が完成し世界を紅に染め上げる火炎の魔法をフロア全体に解き放った。階層一帯が火の海に呑み込まれる。

 

 ピキッ、ピキッッと。

 

 嫌な音と同時に亀裂が入る。一方向だけでなく全方向に亀裂が生じる。

 

 

「ガレス!皆を守れ!」

 

「ぅ────ぉおおおおおおおおお!!!」

 

 

 ガレスの絶叫が巻き起こる。亀裂から入り込む灼熱をガレスの盾が防ぐ。が、長くは持たない。

 

 

「ぐおぉおおおおおお!!」

 

 

 盾が消散するとガレスは腕を広げ、全身で受け止める。咆哮と炎嵐がぶつかりあい爆発を起こした。

 

 

「ぐ・・・ぅあ・・・・・・」

 

 

 地形が変わる。正に天変地異の如き魔法。灰以外何も残っていない。

 冒険者たちは満身創痍だ。特に酷いのが全身を焼かれ仰向けに転がるガレスだ。リヴェリアも倒れ伏している。

 

 

『地ヨ、唸レ────』

 

 

 絶望に絶望を重ねるように。

 精霊は微笑みながら詠唱を開始した。先ほどとは異なる漆黒の魔力光。

 

 

「ラウル達を守れッ!!」

 

 

 駆け出すフィンが迫り来る光を浴びながらサポーターの腕を取る。

 同じくしてLv.5以上の冒険者はサポーターたちを護る様に庇う様に胸に閉じ込める。

 

 

『【メテオ・スウォーム】』

 

 

 魔法円の輝きが直上に打ち上がり、階層天域が闇と光に包まれる。

 膨大な魔力が収束し、次には黒光の隕石群が姿を現した。

 

 誰もが死を覚悟した────その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャァァスタウェェェェイ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀時が謎の言葉を叫びながら懐から取り出した物を宙へ、魔法円へ、ぶん投げた。

 

 

────この物の発動は“音声認識”です。その文字を感知した瞬間から五秒のカウントが始まりますので、お気を付けて。

 

 

 銀時はヘルメス経由で【万能者(ペルセウス)】であるアスフィに、ある物の作成の依頼を出していた。その物が完成したのは遠征直前であったが。

 

 

────(ひかり)(ひかり)

 

 

 銀時が宙へ投げた物体は五秒後、強烈な光と熱を放出し、妖精の魔法による隕石群を巻き込み消し炭にした。

 だが消し炭にしたのはあくまで頭上に存在した隕石のみ。遥か頭上に存在した隕石にまではその爆炎は届き得ない。

 

 

「今の内に散れェェェェ!!」

 

 

 フィンの号令によりサポーターを抱えた冒険者は蜘蛛の子のように散り散りになった。だが、起き上がれない冒険者が二人。

 

 

────特大魔法円。

 

 

 予測してたかのようにたった一つ。先程の魔法円の大きさを遥かに上回る魔法円がリヴェリアとガレスの頭上に残っていた。

 

 

「間に合えェェェェェ!!」

 

 

 リヴェリアの元に駆け付けた銀時は、それより前方に転がるガレスの手前の地面に向かって全力で木刀を投擲した。

 

 

「────っ」

 

 

 スキル【武士道(マモルベキモノ)】により更にアビリティを補正された【力】で神速投擲された木刀は、地面に突き刺さると同時に周囲を揺るがす程の衝撃波を生み、地面ごとガレスを遠くへ弾き飛ばした。

 

 

「後は────」

 

「銀ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

 リヴェリアを抱え、退避しようとしたその時。

 階層に轟いた泣き声混じりのその声は。

 必死に何かを訴えていて。必死に何かを伝えようとしていて。必死に何かを────。

 

 

「────諦めてたまっかよ」

 

「────バカ、者」

 

 

 リヴェリアは銀時の頬を優しく撫でる。

 

 

 二人に覆い被さる様に巨大な影が────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆さんのここで終わり!?って声が聞こえる気がする。はい、終わりです。下、はなるべく早く投稿しますね。


https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=153940&uid=106761


上記のアンケートの内容・・・それは。


ベル君に使って欲しいネタ技アンケートォォォ!


ジャンプに限りません。たくさんのご応募お待ちしております!!上記のリンク、または私の活動報告に飛んでいただけると幸いです。



では毎度恒例謝辞。

『金子カツノリ』さん、『HRKTY』さん、『そら@』さん、『ぷにぷに餅』さん、最高評価有難うございます!!

『KAIKI』さん、『エボニー』さん、『クーゲルシュライバー刃』さん、『りみ』さん、『テルミン』さん、『コットンライフ』さん、『逆さま』さん、『ごんべぇ』さん、『くろがねまる』さん、高評価有難うございます!!


久しぶりにこんなに長く書いた気がする。うん、満足。


ではまた次回!!感想、評価お待ちしております!


アンケートもよろしく!!


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未到達領域 下

ジャスタウェイ!(挨拶)


早く投稿するとかいいながら普通に遅れてしまったZ。許して欲しいZ。


ではどうぞ!





 「銀ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

 アイズがこれ程まで声を張り上げたのはいつぶりだろうか。恐らく【ロキ・ファミリア】に入った当初まで遡る。それ程までに感情が心が激しく揺れた。

 

 銀時が宙に向かって何かしらの物を投げた後、爆発が起こり精霊の魔法による隕石を消し飛ばした。

 だが一つだけ精霊は魔法陣を残しており、それらをリヴェリアとガレスへ解き放った。銀時の機転によりガレスは隕石に巻き込まれることは無かった。だが銀時とリヴェリアは・・・。

 

 

 「ゴホッゴホッ・・・ぎ、銀時ィィィィ!」

 

 

 リヴェリアは隕石による破壊の渦に巻き込まれずに済んでいた。だき抱えていたリヴェリアを攻撃の範囲外へぶん投げたからだ・・・女性の扱い方として最低この上ないが状況が状況であり攻める気も小言を言うことすら頭にはない────ただ。

 

 

 「銀時ッ!銀時ッ!銀時ィィィィ!!」

 

 

────ただ、リヴェリアは隕石の下敷きになっている者の名を呼んだ。喉が悲鳴を上げようが、魔力がカラカラで体の自由が利かなかろうがただ、叫んだ。目頭からは小さな雫が幾度と零れ落ちている。

 

 

 「終わり・・・か」

 

 

 椿がぽつりと呟く。

 その言葉は、この戦況を映すに十分だった。闘争心など風前の灯だ。前衛で戦闘していた者は絶念の声こそ上げないが目は諦念に満ちている。後衛で魔法を唱えていた者は声を魔力を振り絞り言葉を紡ぐ事すらしない。それ以外の者はもう心さえ折れていた。

 

 

 「銀・・・ちゃん・・・・・・・・・」

 

 

 アイズはただその言葉をつぶやくだけだった。目元から何かが溢れている様な感覚があるが気にはならなかった。ただ喪失感、いや虚無だけが残っていた。

 

 

 「・・・・・・」

 

 

 その中でフィンは。

 汚れた顔を乱暴に拭い、ゆっくり前へ踏み出した。

 顔を上げるラウルたちを、自失するレフィーヤを、振り返るベートたちを、右目を向ける椿を、虚無に支配さられるアイズを、そして泣き喚くリヴェリアの横を抜いて前へと進んでいく。

 地に転がった長槍を拾い上げ、遥か前方、禍々しい精霊と対峙する。

 立ち止まり、ティオナたちに背を見せながら、手にした槍を地面に突き立てる。

 

 

 「あの怪物(モンスター)を、討つ」

 

 

 小指に巻かれている緋色の髪の毛を見ながら、そして言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《豊穣の女主人》

 

 

 「あ・・・・・・」

 

 「リュー大丈夫!?」

 

 「えぇ・・・まぁ」

 

 

 リューの足元には砕け散ったお猪口(ちょこ)の破片が散らばっている。

 シルはそのお猪口を見て呆然としているリューに心配の声を掛ける。

 

 

 「これって銀時さんのお猪口・・・」

 

 「・・・・・・・・・えぇ。割って、しまいました・・・」

 

 

 銀時が“豊穣の女主人”に訪れた時には絶対に使うお猪口が割れてしまった。リューがそれを取り出した理由は暫く使ってなかったので洗おうと一念発起したことによる。

 

 

 「ミア母ちゃ〜ん、お店の予約に来たんやけど!」

 

 「あ、今所用で出掛けていて」

 

 「そっかぁ〜・・・・・・ん?」

 

 

 ロキが開店前だと言うのに入店する。そして二人の視線を追い事情を悟った。

 

 

 「あーあ、割れてもうたかぁ・・・」

 

 「・・・すみません、神ロキ」

 

 「えぇよ、えぇよ。銀時もこんな事を気にしたりせぇへん────あと変な想像もやめるんや」

 

 「────っ」

 

 

 ロキは片目を開け、そう言った。

 リューは肩を震わせる。お猪口が割れたのをどうしても銀時の安否と結びつけていたからだ。

 

 

 「銀時が『帰ってくる』って言うたんやろ?アイツは約束だけは絶対破らん。わかってるやろ?」

 

 

 そう言ってロキは左手をリューに眼前にかざした。

 ロキの小指から人差し指にかけて、銀、翡翠、金、濃茶の色の髪の毛が結ばれていた。

 

 

 「・・・はい。そう、ですね。そうです。サカタさんは約束だけは絶対守ってくれる。()()()()()帰って来てくれますよね」

 

 「うん、ちょっと引っ掛かった言葉もあるけどわかったならえぇ!ミア母ちゃんに予約のこと伝えておいてくれへん?」

 

 「引き受けました。伝えておきます」

 

 「うんうん、よろしゅうなぁ!」

 

 

 ロキはそう言うと髪の毛が結ばれた左手をぶんぶん振りながら店の外へと出て行った。

 リューは気持ちを入れ直すと店の準備へと取り掛かった。二人が話している時にシルが割れたお猪口を片付けてくれていた。

 

 

 「早く顔見せてくれないと・・・私、泣きそうです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「君達に『勇気』を問おう。その目には何が見える?」

 

 

 目の前には幾多のモンスターを従えた異形の精霊。そのモンスターから魔力を吸収し不気味な笑みを浮かべる人知を超えた存在。

 

 

 「恐怖か、絶望か、破滅か、僕の目には倒すべき敵、そして勝機しか見えていない」

 

 

 一同が肩を震わせる。その者らから驚愕の視線を小さな背中で受け止めながら続ける。

 

 

 「退路など不要だ。この槍をもって道を切り開く」

 

 

 毅然とした声音で断言し、その意志の眼差しでティオナ達を見つめた。

 そして緋色の髪が巻かれた左手の小指を立てて、言い放つ。

 

 

 「女神(フィアナ)泣き虫(ロ キ)に誓って、君達に勝利を約束しよう────ついてこい」

 

 

 胸が、瞳が、四肢が震える。拳を作り、心を奮わせ、立ち上がる。

 

 

 「それとも、ベル・クラネルの真似事は、君達には荷が重いか?」

 

 

 脳裏に蘇る決戦風景。

 死力を削り、未知なる『冒険』に全身全霊を賭した白髪のヒューマン。

 激闘の余韻が、熱が、彼等の臓腑を焼く。何よりも熱く、何よりも純粋で尊い。

 

 

────英雄譚の一頁。

 

 

 「あたし達も『冒険』しなきゃね」

 

 「雑魚に負けてられっかァ!マヨネーズラインを見つけるまで死ぬわけにゃいかねェェ!!」

 

 「団長に縛りプレイされるまで死んでたまるもんですか!」

 

 

 笑みを浮かべる。宙に吠える。願いを叫ぶ。

 アイズを含めた第一級冒険者は立ち上がり、気焔を吐きながら奮起する。

 

 

 「────ラウル」

 

 「は、はいっす!」

 

 「この戦いの最後の指令だ。魔法の使用を許可する」

 

 「っ────わかったっす」

 

 

 フィンの言葉で、ラウルは立ち上がり腰にぶら下がっている剣を抜き放った。

 それを見たフィンは頷くと、瞑目した。

 

 

 「【魔装よ、血を捧げし我が額を穿て】」

 

 

 槍の鋭い穂先を己の額に押し当てた直後、魔力光が体内に侵入した。

 

 

 「【凶猛の魔槍(ヘル・フィネガス)】」

 

 

 次の瞬間、見開かれたフィンの美しい碧眼が、凄烈な紅色に染まった。

 同時に団員の全員が悟る。フィンが指揮を捨てたのだと。

 フィンのこの魔法は、燃え滾る好戦欲を引き出し術者の諸能力を大幅に引き上げる。ただしまともな判断力を失うのだ。そして()()()()

 

 

 「ガレス、いつまで寝ているつもりなんでさァ。金〇袋縮こませてねぇでさっさと起きやがれってんだァ」

 

 「────こ、このドS小人族(パルゥム)め・・・」

 

 「リヴェリア、いつまで泣いてやがんだ。キャラを一貫しねぇから行き遅れるんだよ、この形だけ王妖精(ハイエルフ)が」

 

 「────グズッ、いっ、言わせておけば!私は形だけではない!!」

 

 

 判断力を失う以外の弊害。

 それは昔のフィンに戻るということである。時が経つにつれて優しく穏やかになっていたフィンだが、過去ではドSとして周知されていたのだ。知っている者も数名のみ。

 

 

 「おい」

 

 「はい団長♡」

 

 「ラウルを守れ、雌豚」

 

 「仰せのままに、ご主人様ぁ♡あ、少し濡れちゃった」

 

 

 ティオネに簡単な指示を出し、槍を二槍構える。そして最後の一人に対して声を荒らげた。

 

 

 「銀時ィ!いつまで寝てやがんでぃ!俺達ァ先に行くぞ!!」

 

 

 その言葉が届いたのかどうかは分からない。

 だが巨大な隕石とその地が少しだけ振動しはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────君の体はまだ動くでしょう?

 

 

・・・・・・。

 

 

────君の手はまだ届くでしょう?

 

 

・・・・・・ッ。

 

 

────みんなを護るんでしょう?

 

 

・・・・・・あぁ。

 

 

────君は侍ですから。

 

 

・・・・・・わあってるよ。

 

 

────皆を護る。約束、ですよ?

 

 

 

 

 

 

 

 「あぁ、約束だぜ。先生ェェェェェェ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 隕石が破砕の衝撃以て寸断される。

 その衝撃は止まることなく地を穿ち、天を割った。

 

 

 

 「失っちゃいねェ、終わっちゃいねェ」

 

 

 

 満身創痍。血みどろの侍が一人。

 血を吐きながら想いを轟かせる。

 

 

 

『ッ!?オニだ!オニオニオニオニ!死にかけのオニだ!!アハハハハハハハハハハ!!』

 

 

 

 精霊が嘲る。

 

 

 

 「俺ァ“相楽総一”の弟子────サカタ銀時だ」

 

 

 

 精霊の口から魔法円。巨大な氷柱が、前進するフィンを他所に銀時に向かって肉薄する。

 

 

 

────一閃。

 

 

 

 抜き身も見えぬ抜刀が氷柱を両断した。

 銀時の手には抜刀された『星砕』が握られている。刀身は銀時の血で濡れていた。

 

 

 

 「銀時!回復を!」

 

 

 「要らねぇ、この一刀だけで動かせりゃ十分だ」

 

 

 

 リヴェリアは瞬時に悟った。いや誰もが銀時の姿を見ればわかる。一目瞭然だ。

 銀時は尋常じゃない量の血を垂れ流しており、地面を赤く染めている。内蔵が潰れているのか、骨が砕けているのか、どちらにしても戦える体ではない。失血も多い。

 

 

 

『唸れ炎龍────』

 

 

 

 精霊が詠唱を始める。

 フィンを含めた第一級冒険者はそれを止めようと奔走する。だが芋虫型の新種モンスターが行く手を阻む。

 銀時はゆらゆらと覚束無い足取りでゆっくりと精霊に近付いていく。

 

 

 

『────ムスプルヘイム』

 

 

 

 巨大な紅の魔法円から炎柱が解き放たれる。

 その炎柱は銀時に向かって放たれ、姿形は龍の形に酷似していた。

 

 

 

 「────ッ」

 

 

 

 銀時は『星砕き』を両手で持ち、上段に構えた。

 殺到する炎龍に向かって一気に振り下ろす。

 

 

 

『────ハ、アアアアアアア!!』

 

 

 

 炎龍が真っ二つに割れた。炎を真っ二つに斬り割いた。

 この一撃を形容出来るものはいるまい。その斬撃の勢いは止まらず妖精の左半身を割った。文字通り、割ったのだ。

 

 

 銀時のスキル【夜叉】。

 

 ・瀕死時発動。

 ・森羅万象、凡百(あらゆ)るモノを斬る。

 

 

 森羅万象に存在するもの全てを斬る。人もモンスターも炎も魔法も全てを斬るのだ。

 だが瀕死時状態のみの発動である。一撃貰うということは死を意味する。捨て身の、諸刃の、命喰らう【夜叉】の、スキルだ。

 

 

 

 「椿さん、ティオネさん、守って下さいっす!」

 

 

 「いいだろう!手前もうずうずしておったところよ!」

 

 

 「えぇ!男見せなさい!」

 

 

 

 ラウルはゆらゆらと覚束無い足取りで歩く銀時を見て、迷ってる暇はないと理解した。

 抜き放っている剣を『ごめん』と一言呟くと刀身を拳で叩き割った。

 

 

 

 「なっ!?手前何して・・・」

 

 

 「椿さん、後でなら幾らでもお叱り受けるっす」

 

 

 

 ラウルの目には死にかけの銀時の背中と更に魔法を紡ぐ精霊の姿が映っている。

 ふぅと息を吐くと刀身のない剣を両手で中段でもち、詠唱を始める。

 

 

 

 「【邪聖剣(じゃせいけん) 烈舞踏常闇(れっつだんしんぐおーるないと) 雷神如駆特別極上奇跡的(らいじんぐすぺしゃるうるとらみらくる) 超配管工兄弟 (すーぱーまりおぶらざーず) 弐號役立(せかんどえでぃしょん) 不弟逆襲(るいーじのぎゃくしゅう) 監督斬(でぃれくたーずかっと)】」

 

 

 

 詠唱が終わった瞬間、爆発的に魔力が溢れ出し、刀身のない剣に集束していく。

 やがて1メドルほどの長さの青白い尖形状の光刃が形成される。ラウルの額には脂汗が浮かんでいた。

 

 

 

 「何その魔法・・・」

 

 

 「魔法名は【電光剣流(ビームサーベルー)】。魔力をごっそり減らす代わりに魔力を帯びた剣を作り出す魔法っす」

 

 

 「それがどうして禁止されていたのだ?」

 

 

 「まず極端に燃費が悪いっす。後、この魔法は魔法暴発(イグニス・ファトゥス)する可能性が高いっす────だけど」

 

 

 

 

 「成長したんだ!銀さんと肩を並べれる様に!皆と冒険出来る様に!平凡は平凡なりにやる事をやったんだ!!銀さんと皆の邪魔はさせないっす!!」

 

 

 

 

 ラウルはビームサーベルを右手に持ち替え、キリキリと背の限界まで引き絞る。狙いは精霊の紡がれる魔法円と紡ぐ口。

 

 

 

 

 「うぉぉぉぉおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 吸収されたマインドが爆発的に高まり、ビームサーベルから青白い光線が射出される。

 銀時を襲おうとしていた芋虫型のモンスターを複数貫き、穿ち、焼き切り、蒸発させる。勢いは止まることを知らず、精霊の護りの花弁を貫通させ、魔法円を強制霧散し、精霊の顔を抉り、魔法暴発(イグニス・ファトゥス)を起こさせた。

 

 

 

『ギャアアアアアアアアア!!!』

 

 

 「ビームサーベル最長は────13kmや」

 

 

 

 決め台詞をビシッと決めたラウルはバタンとその場に倒れた。そのラウルを守ろうと椿とティオネが奮戦する。

 

 

 

 「テメェェらァァァァァ!一撃に全部込めやがれェェェ!!!」

 

 

 

 銀時の罵声に心を決めた前衛に居た者、後衛に居る者は自身が持つ最大の一撃を放つ準備をする。

 

 

 

 「うぉぉぉぉおおおおおおお!!」

 

 

 

 銀時は血の霧を振り撒きながらモンスターの群れへと突っ込んだ。

 戦場を駆る【夜叉】の如くモンスターを怒涛の勢いで魔石へと変えていく。

 

 

 

 「【レア・ラーヴァテイン】!」

 

 

 

 リヴェリアの極大魔法による巨大炎柱が無数に出現する。それは精霊の魔法にも負けぬ威力で再び紅の世界へと塗り潰していく。そしてあらゆるモンスター獄炎に呑み込まれ炭となり果てた。

 

 

 

 「粉微塵にしてくれるわァァ!」

 

 

 

 ガレスが放つ【力精剛拳(ドゥエルグ・エンハンス)】。

 踏み込んだ足で地面を陥没させ、壁となっていた硬質な花弁を粉砕し、地面を深く抉る。

 

 

 

 「【悪魔風脚(ディアブルジャンプ)脂肪焼却(マヨネーズショット)】ォォオオオ!!」

 

 

 「【大切断(アマゾン)狂乱撃(バーサーク)】!!」

 

 

 

 ベートの炎の軌跡を描く足刀とティオナの銀の斬閃を刻む必殺の一撃が精霊の鋼鉄の鞭の如き蔦を焼き払い、切り払った────道が拓ける。

 

 

 

 「【ティル・ナ・ノーグ】」

 

 

 「【アルクス・レイ】!!」

 

 

 

 フィンによる投擲槍が再生しかけた顔面を破壊する。 レフィーヤの必中の矢が分散した体を結合させようとする組織の細胞ごと破壊する。

 

 

 

 「【リル・ラファーガ】」

 

 

 

 アイズの神風が解き放たれる。精霊へ進む螺旋矢が大気を巻き込み、全てを蹂躙し、風の一閃が走り抜け巨躯を貫いた。

 

 

 

 「失せろ、精霊」

 

 

 

 アイズの風で爆砕された精霊の体の中から。

 吹き荒れる風さえも斬り裂き、銀時は魔石を斬り砕いた。

 

 

 

────【ロキ・ファミリア】。59階層踏破達成。

 

 

 

 勝鬨の歓声が響く。

 未知なる『冒険』を超えた冒険者たちは声を、数々の武器は光沢を放った。

 

 

 

 「お、わった・・・・・・・・・」

 

 

 

 天パの銀髪の侍は。

 集中か、緊張か、また両方が切れたからなのか。凄まじい痛みに襲われていく。

 

 

 

 「約束、なんぞ・・・気安くするもんじゃ・・・ねぇ、な・・・」

 

 

 

 小指に巻かれた紅の髪の毛を見て、銀時は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 




ん、こんなことするつもりなかった。ホントにヤバイ。眠たいというテンションでこんな感じになってしまった。多分、目覚めたら書き直します。


感想、評価ありがとうございます!励みになってます!


あ、フィンがドSって点、結構伏線張ってましたよ?探してみて下さいね。

ではまた次回!感想評価をお待ちしてます!!


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中層の冒険

前回の投稿が遅れたので、お詫びとばかりに投稿。


ではどうぞ!


※この前、ベルは着物を着ていましたがアレはプライベート様にしています。ダンジョンでは何時も通りの軽装備です。





 

《ダンジョン 15階層》

 

 

 「リリ!ヴェルフ!」

 

 「わ、私は大丈夫ですが・・・ヴェルフ様が」

 

 「俺も歩くに支障はないが・・・戦闘は厳しいかもな」

 

 「・・・・・・」

 

 

 ベルは己を取り巻く現状に顔を歪めた。

 リリは平気だというが顔からは疲労が見て取れる。ヴェルフは13階層での落石に巻き込まれ左足を駄目にしていた。

 

 ベル、リリ、ヴェルフは中層にアタックしていた。十分な警戒と装備を整えていた筈なのだが、イレギュラーや別のパーティーからの怪物進呈(パス・パレード)により窮地に追い込まれていた。ポーションも少ない。

 

 

 「ベル様、ヴェルフ様、13階層から縦穴に落ちておそらくここは15階層です。進むも地獄、帰るも地獄です・・・・・・どう、しますか?」

 

 「俺はお前の選択肢に任せる。絶対に恨んだりしねェ」

 

 「────進もう。ヴェルフとリリは気力を持たせる為に互いを支えあっていて欲しい。僕は大丈夫だから」

 

 

 ベルはそう言って微笑んだ。

 リリとヴェルフは目を丸くする。と、同時にこういう人であったのだと改めて認識した。

 

 

 「僕はただ壊すだけだ。目の前に広がる圧倒的なまでの絶望を」

 

 

 ベルは背中で語る。

 リリとヴェルフはその姿に畏敬の念まで抱きそうになった。それ程までに頼りがいのある背中であり、心を掴む言葉であり、希望を抱かざるを得ない人望だった。

 

 

(僕がもっと強ければ・・・・・・!)

 

 

 ただ、ベル自身の胸の中にある想いはそれだけだった。

 溢れそうになる激情を理性で抑えつける。目の前にある絶望という“壁”が最優先で壊さねばならぬ物であったからだ。

 

 

 「ヘルハウンド・・・!」

 

 

 リリは諦念を滲ませた声を上げる。

 ヘルハウンドとは13階層でベルたちを襲った犬型のモンスターである。口から火炎攻撃を放つ、上層にはない厄介極まりないモンスターだ。

 

 

 「大丈夫だよ、リリ。もう────」

 

 

 ヘルハウンドは二体。

 ベルはヴェルフが打ってくれたミノタウロスの角で作られた“牛若丸”を握り、地を蹴った。

 

 

 「────見飽きたから」

 

 

 ベルは縮地の如く一体のヘルハウンドへ近付くと、滑らかな動作で魔石だけを斬った。

 灰に還る仲間を見たヘルハウンドは反応が少し遅れた。直ぐ様、火炎を放とうと口を開いた────が。

 

 

 「遅いよ」

 

『ガアッ!』

 

 

 ベルの右手がヘルハウンドの口を塞ぐ様に口内へ突っ込まれた。有り得ない行動にリリやヴェルフさえ目を見開いた。

 

 

 「────【ファイアボルト】」

 

 

 爆砕。

 体内から零距離で直接撃ち込まれた砲撃で、ヘルハウンドは断末魔を上げることもなく木っ端微塵に砕け散った。

 

 

 「進もう────ん?どうしたの?」

 

 

 向けられた無邪気な顔がリリやヴェルフに末恐ろしさを感じさせ、表情を凍てつかせたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ダンジョン 18階層》

 

 

 「あー暇だ」

 

 「それでも安静にしといて下さいっす。銀さんが一番重傷なんすから」

 

 

 銀時は簡易ベッドに寝かされていた。全身の至るところに包帯が巻かれてある。

 59階層の激戦を終えた銀時は意識を手放した後にリヴェリアによる回復魔法とエリクサーで治療された。だが内蔵までいっていたのもあり、絶対安静をリヴェリアに言い渡された事もあり、こうして安静にしているのである。

 

 

 「らっつぁん、なんか面白い話してくれ」

 

 「ハードル高いっす」

 

 「ハードルは高けりゃ高いほどくぐりやすいもんさ。ほれ、話してみろ」

 

 「それを妥協って言うんすよ。現実見てください」

 

 「面白くねぇ男だな。だから童貞なんだよ」

 

 「ど、どどどどどど童貞ちゃうわ!・・・はぁ、わかったっす、話しますよ」

 

 「いよっさすが【超童貞(ハイ・ノービス) 】!!」

 

 「ルビはきちんと振れよコラ」

 

 

 素のツッコミを入れるラウル。銀時は今か今かとニヤニヤする。

 

 

 「学区に居た時の話なんすけど」

 

 「ほぉ?」

 

 「カラーコンタクトを付けて来た女子生徒が居たんすよ。クラスの中心人物だったんすけどね」

 

 「ふーん」

 

 「その女子生徒がこう訊いてきたんすよ『私、可愛い?』って。上目遣いで甘ったるい声を出しながら。それでこう答えたんです」

 

 「・・・ゴクリ」

 

 

 

 「色目使うんじゃねぇよ────カラコンだけに」

 

 

 

 ラウルの渾身のドヤ顔と面白い話は、銀時の外出したいという欲求を加速させるだけであった。

 

 

 

 「いやちょっ布団もぐんないで反応してェェェェェェ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ダンジョン 16階層》

 

 

 「ミノタウロス・・・・・・」

 

『ヴォオオオオオオオオオオ!!』

 

 

 抗戦は不可能だった。普通ならば。

 三人を見下ろす牛人型のモンスターは二体。三人一組(スリーマンセル)であったとしても、ミノタウロスというLv.2でも逃げ出す様な怪物の出現には膝を折りたくなるのは必然だろう────だが。

 

 

 「ヴェルフ、リリ、少し待ってて」

 

 

 絶望に向かい一歩踏み出す【小鬼】が一匹。

 ヴェルフとリリをその場で待機させ、ベルはミノタウロスらに一歩踏み出したのだ。リリもヴェルフも無茶だと叫びたいのは山々だったのだが、有無も言わせぬ静かな威圧がベルから滲み出ていた為、何も言えなかった。

 

 

 「────小太刀(ナイフ)二刀流」

 

 

 ベルは息を吐き出すと共に“牛若丸”と“ヘスティアナイフ”を握り、地を蹴った。

 ミノタウロスは肉薄してくるベルに向かって天然武器である斧を振り下ろす。

 

 

 「────遅い」

 

 

 爆発的に高まったベルのスピードにミノタウロスらは反応出来ない。四方八方から起こる剣嵐はミノタウロスの判断力を奪うには最適であった。

 

 

 「────単純だね」

 

 

 トップギアのスピードを、足の筋肉を上手く使い急停止させミノタウロスを翻弄する。

 予測して振り下ろした斧が地面を抉るだけで終わる。流水の如き極端に緩急のついたベルの攻撃をミノタウロスは防ぐ術など持ち得ていなかった。

 

 

 

 「────アバンストラッシュ・肆連(しれん)

 

 

 

 スキル補正がついた必殺技。

 それが二刀で二回ずつ、つまり四度繰り返され、ミノタウロスの四肢を胴体と斬り離した。

 

 

 「────次」

 

 

 芋虫の様になったミノタウロスを一瞥する事なく、ベルはもう一体との戦闘を開始する。

 だが先程とは違いスローペースでの戦闘。ベルは駆け引きとしてスピードをわざと殺した。

 

 

 「ほら」

 

『ブモッ?』

 

 

 ベルは“牛若丸”をミノタウロスの眼前へ行く様に()()()()()

 有り得ない行動にミノタウロスは疑問の様な唸り声を出した。そして目線はその放り投げられたナイフに釘付けになる。

 

 

 

 「────ももパーン」

 

 

 

 目線をナイフに集める、つまり自身から目線を逸らさせるとミノタウロスの(もも)に強烈な廻し蹴りを放った。

 

 

『ブモッ!?』

 

 「行くよ────小太刀二刀流」

 

 

 強烈な一撃に体勢が崩れたミノタウロス。立て直そうにも急所を決められ力が咄嗟に入らない。

 ベルは放り投げ、落ちてきたナイフを掴み、トップスピードで回転する。周囲の風を巻き込み、空間さえも裂傷させる。

 

 

 

 「────回天剣舞・六連」

 

 

 

 刹那の一瞬に六度の斬撃の嵐。

 先程までと一線を画する速度と斬撃の重さはミノタウロスの反撃を許さず、強靭な体躯をぶつ切りの肉塊へと変えた。

 

 

 「うわっ!!」

 

『ブオォォォォオオオオ!!』

 

 

 凄まじい倦怠感がベルを襲う中、背後からもう一体のミノタウロスがヴェルフ達に迫る光景が視界に飛び込んできた。

 

 

 「クッ!!」

 

 「うわぁっ!」

 

 

 ミノタウロスは二人を一度で屠ろうと天然武器である斧を横薙ぎする。

 ヴェルフとリリは前方へ倒れ込む事によりそれを回避。だが次の一撃は絶対に躱せない、死を意味することはす地に出すまでもなかった。

 

 

(ふざ、け・・・ろッ!!)

 

 

 ベルは斧を振り上げるミノタウロスに向かって人差し指の先を向ける。指先の照準はミノタウロスの魔石の位置。

 

 

 

 「────【デスビーム(フ ァ イ ア ボ ル ト)】」

 

 

 

 人差し指の指先から射出された【ファイアボルト】はミノタウロスの強靭な体躯を貫通し、魔石を破壊し、灰へと還した。

 

 ベルの魔法【ファイアボルト】は超短文詠唱で発動できる魔法であるが、威力が弱いという欠点があった。だがそれを克服する為にベルがイメージしていたものがある。

 

 水道のホースの様に魔法の射出の範囲を狭めれば、貫通力や威力が上がるのではないか、というものである。

 

 ベルの狙い通り、それは可能だった。ベルだけの唯一のスキルである【破壊衝動(ラグナロク)】がそれを可能にしたという事実に気付くのはもっと先の話ではあるが。

 

 

 「ベルッ!」

 

 「ベル様ッ!」

 

 

 倒れるベルを二人が地を滑空するようにして支える。意識が飛びそうになるところをどうにか耐えた。

 

 

 「あと少し、持ってくれ・・・僕の体」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ダンジョン 18階層》

 

 

 「リリ、ヴェルフ!?」

 

 

 飛び上がる様に僕は起きた。泥のような倦怠感に呑み込まれるが意識をどうにかハッキリと持ち、ヴェルフとリリを探した。

 

 

 「い、居ない・・・」

 

 

 軋む体を強引に従わせ立ち上がる。ようやくそれで僕が布地の天井のテントにいることを知った。誰かが助けてくれたのだろうか。

 僕の記憶は17階層まで降りて階層主であるゴライアスと遭遇したところで途絶えている。誰かが僕を救ってくれたのは明白だけど今はそれどころじゃない。

 

 

 「リリ・・・ヴェルフ・・・」

 

 

 二人を探すためにテントの外へ出た。まず強烈な光が僕の目に飛び込んでくる。

 次に視界に広がったのは大規模な野営風景だった。物資運搬用のカーゴや僕が寝かされていた物と同じ様な天幕が設置されている。

 

 

 「起きたかベル」

 

 「し、師匠・・・師匠オォォオオオ!!」

 

 

 師匠は困った様に笑った。

 師匠はいつもと変わらない銀髪と死んだ魚の様な目をしているけど全身が包帯で巻かれていた。()()()()()()()。僕も巻かれているけれど師匠の五分の一ぐらいで明らかに僕より重傷だった────でも、それよりも。

 

 

 「ヴェルフは!リリは!ぶ、無事────」

 

 「無事だ。今は俺の仲間と飯食ってらァ」

 

 「よ、良かったぁ・・・」

 

 

 一気に力が抜ける。その場でへなへなと膝を折ってしまった。

 師匠は頭をガシガシ掻くと僕に手を差し伸べてくれた。

 

 

 「・・・ったく、泣き虫は直ってないらしいな」

 

 「・・・へ?あ、あれ・・・なんで」

 

 

 僕の目頭から涙がポロポロ零れていた。拭っても拭っても零れる。

 

 

 「ほら、行くぞ。仲間のもとに」

 

 「は、はい・・・ありがとうございます、師しょ────」

 

 「銀時ィィィィィイイイイイ!!」

 

 

 師匠の手をとろうとした瞬間、間違いなく怒っているエルフの女性がズカズカと足音をわざと鳴らしながら迫って来た。

 

 

 「絶対安静だと言っただろが!」

 

 「お、俺ァ散歩しか────」

 

 「散歩しか!?お前、腰に下げている木刀はなんだ!包帯についている()()()はなんだ!この大バカ者!!」

 

 「か、返り血・・・?」

 

 

 てっきり師匠の傷跡から滲み出た血だと思っていたんだけど、どうやら違うらしい。

 エルフの女性は怒髪天をつく勢いで怒ってる。証拠に頬をピクピクさせてる・・・何したんですか師匠。

 

 

 「んだよ、リヴェリア。大バカ者って────」

 

 「大バカ者だろう!!誰よりも重傷のくせに、散歩ついでに17階層のゴライアスを倒してくるなんてバカ以外に誰がやる!?このバカバカバカ!!バカという言葉がこれ以上似合う奴なんて世界中に居ないだろうな!!」

 

 「ええっ!?師匠が助けてくれたんですか!!」

 

 「あー・・・・・・・・・散歩ついでにな」

 

 

 師匠は視線を明後日の方向へ向け、頬をポリポリ掻いた。困った時の師匠の仕草だ。

 

 

 「いい加減にし────」

 

『────着いたァァァァ!!』

 

 

 師匠にリヴェリアと呼ばれたエルフの女性。僕も知っているぐらいオラリオでは有名だ。だって師匠やヴァレンシュタインさんが在籍しているファミリアの副団長だから。

 そのリヴェリアさんが爆発しそうになった時、18階層の入口であろうところから聞き覚えのある、でも聞こえてくる筈のない声が届いてきた。

 

 

 「────か、神様?」

 

 

 ふらふらとした足取りでその声の元へ歩く。

 続々と集まってくる人だかりをくぐり抜け、目線が僕と合った神様が双眸を真ん丸にして転がるように走り出した。

 

 

 「ベェルゥくぅぅぅん!!」

 

 「か、神様ぁぁぁ!」

 

 

 どうしてか。なぜなのか。

 おじいちゃんが聞かせてくれたド定番のシチュエーションを神様としている僕。

 歩きながら両手を広げ、走ってくる神様を迎える準備ができた僕は────。

 

 

 「ベェェェルゥゥゥくぅぅ────グヘッ!!」

 

 「神様ァァァ────うおっ!?」

 

 

 

────疾風が。

 

 

 

 思わず目を瞑ってしまうほどの疾風が、神様を吹き飛ばし僕を吹き飛ばした。その風を目で追ってみると、衝撃的な光景が目に飛び込んできた。

 

 

 

 「が、あ、ぁあ傷口がァァァ!」

 

 

 

 疾風が。人垣を割り師匠の腹に直撃していたのだった。

 師匠はボサっとしていたのか受け止めきれずに体が倒れ、どさっと尻餅をついてしまっていた。

 

 

 

 「・・・・・・・・・・・・へ?」

 

 

 

 師匠がおずおずと口を開く。

 師匠の腹に直撃した疾風、いや鮮やかな緑のフードをかぶった覆面の冒険者は師匠の背中まで腕を回して抱き締めている。

 

 

 

 「お、おい、お前まさか」

 

 

 

 師匠がフードを脱がせようと頭に手を置いた瞬間。

 覆面の冒険者はガバッと顔を上げ、プルプル震え始めた。

 

 

 

 「わ、わ、私に触るなァァァァァァァ!!」

 

 

 

 師匠を抱き締めたまま、流れるようにジャーマンスープレックスを決めた覆面の冒険者は、一体誰なんだろう。

 

 

 

 

 

 




さぁ誰なんでしょう。あーすっきりすっきり。
あ、ジャーマンスープレックスは基本、背後からしますがそこら辺はなぁなぁでお願いします。


前回の捕捉。

最初の最初に書きましたが、この作品はダンまちの世界に銀時がいる。というストーリーです。

つまり銀時の師匠が吉田松陽ではない、ということになります。同じにしたら二番煎じで面白くありませんし。

前話で“相楽総一”が銀時の師匠であると判明しました。かなり前の話になりますが、ベルはおじいちゃんに書いてもらった英雄譚のお蔭で銀時の所属していた組織を予測していました。それは確認してもらえたらと。


長く語りましたが、謝辞に移ります。

『中村 健介』さん、『祐ラス』さん、『雪うさぎ優希』さん、『Shiroyukin』さん、『エリュシデータ×ダークリパルサー』さん、『ティーも』さん、『FURUBU』さん、『中原千』さん、『アムク』さん、『青の雲』さん、『nine_ball』さん、最高評価ありがとうございます!!

『Lily29』さん、『の氏』さん、『ブーーちゃん』さん、『デジール』さん、『トラブる@闇ちゃん』さん、『G_WOOD』さん、『荼毘』さん、『くろがねまる』さん、高評価ありがとうございます!!


いやホント嬉しいです!!早く投稿できるのも皆さんのおかげです!!


えっと事前に疑問に答えますが。
ベルの【破壊衝動】は【英雄願望】より使い勝手が悪いのではないか、という点。
これはまだ扱い切れていない、ということ。ミノタウロスをぶつ切りにするぐらい“オーバーキル”なのでこれからの課題が調整になります。はい。


沢山のアンケート回答ありがとうございます!!反映できるものはしていきますので(今回見たく)、まだまだ募集してますのでよろしくお願いいたします!!


ではまた次回!!感想と評価、お待ちしてます!!


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教えて♪ 3年D組 銀八先生!!

 

 

「うーし、お前ら席に着いたな。3年D組、ホームルーム始めまーす。学級委員長のフィン君、号令ェよろしくぅ」

 

 

「はい!起りーつ!気を付け、銀八先生に礼!」

 

 

『宜しく御願いしま〜す!』

 

 

「はいよろしく〜。さて────」

 

 

「あの!銀八先生、質問です!!」

 

 

「んん?どうした学級副委員長のリヴェリア君」

 

 

「3年D組の“D”ってなんなのですか!ゴム人間とかそんな感じですか!?怒られますよ!!」

 

 

「違います。3年D組の“D”は、“ダ”ンまちの“D”です。間違っても全身ゴム人間の名前の“D”じゃないし、無駄無駄叫ぶデ〇オ様の“D”でもありません。次言ったヤツは凄まじい殺気のもと、ケツの中にツララぶっ刺しまーす」

 

 

『・・・・・・』

 

 

「じゃあ授業に移りまーす、ペンネーム『ナニ』さんからのお便り────」

 

 

 

『ベル君の装備はあくまでナイフというまかり間違っても小“太刀”と分類できるものではありません。なのにベル君の「小太刀二刀流」発言。気になりすぎて頭が沸騰しそうです。是非とも、お答えを!!』

 

 

 

「はい、お答えしまーす。ズバリ、ダンまちに良くある適当ルビ振りでーす。『大切断』と書いて『アマゾン』と読むとか仮面ラ〇ダー要素をぶっ込んだりするのと同じです。深い意味はありません。気になり過ぎて頭が沸騰しそうならプールに飛び込んで冷ましなさい。だけど唇が紫色になったらプールサイドに出ること。紫菌には気を付けるよーに」

 

 

「すみません!銀八先生!」

 

 

「なぁに?お便りまだあるから紹介したいんだけど」

 

 

「隣のヤンキーのオッタル君がひたすらスルメを食べてて集中出来ません!どうにかして下さい!」

 

 

「んだとぶち〇すぞフィンあぁん!?」

 

 

「はいはいそこまで。確かに匂いキツイからやめるように」

 

 

「ふざけるな!俺にとってのスルメは体の一部なんだよ!それに煙草吸ってる教師に言われたくはない!」

 

 

「煙草じゃなくてレロレロキャンディです。塩分で頭イッたか?保健室行ってこい」

 

 

「違う!・・・仕方ない!俺はスルメにかける想いを詩にした!よぉく聴け!!」

 

 

『はぁ・・・・・・・・・』

 

 

 

「────体はスルメで出来ている」

 

 

「────血潮は干物で心は燻製」

 

 

「────幾たびの行程を越えて防腐」

 

 

「────ただ一度も腐敗は無く」

 

 

「────ただ一度も食べ残しなし」

 

 

「────彼の者は常に独りスルメを片手に美酒に酔う」

 

 

「────故に、他のツマミに意味はなく」

 

 

「────その体は、きっとスルメで出来ていた」

 

 

 

「保険委員のレフィーヤ君、そこの脳まで塩分が回った中二病を保健室に連れて行ってくれ」

 

 

「なっ何故だッ!向こうの【剣姫】はじゃが丸君を食べているというのに!反対側の【凶狼(ヴァナルガンド)】はマヨネーズを吸っているというのに!」

 

 

「りょ、了解しました!!」

 

 

「はい、次のお便りでーす。ペンネーム『TouA』さんから────」

 

 

 

『実写映画見てきました!原作者のゴリラはこの映画を“泥舟”だと揶揄してたけど、そんなことありません!寧ろ原作の売れ行きを伸ばす“ノアの方舟”レベルです!それに各業界へ積極的に喧嘩を売って行く姿勢、感服しました!銀魂サイコー!』

 

 

 

「はーい、今日から公開の映画実写版“銀魂”。原作者のゴリラは『一回くらい、映画(ここ)でぐらい海賊に勝たせて』と言っています。ジャ〇プの本誌でワン〇ースに勝てない以上、映画でパイ〇ーツ・オブ・カリ〇アンに勝たせてあげるよう何度も映画館に足を運ぶように」

 

 

 

「行かなかったらテメーら1ヶ月間、糖分摂取禁止」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 






すみません、本編は明日あげまする


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女はベジータ好き 男はピッコロ好き


えー昨日は急に“銀八先生”で申し訳ない。

映画が想像以上に完成度高くて、爆笑して、書かなくては!と一念発起した次第でした。隣の女子高生が猿かっつうぐらい口開けてキーキー声で爆笑してましたから。


皆さんはこの三連休で見に行くのかな?感想欄で面白かったとか感想聞きたいけど、ネタバレは無しの方向でオネガイシャス。私はいいですけど他の方が・・・ね。


ではどうぞ!!





 

 

《ダンジョン18階層》

 

 

「師匠、宜しく御願いします!」

 

「あぁ来い────っとその前に」

 

 

 18階層の森林奥の拓けた場所。

 ベルと銀時以外の人の気配は全くなく、二人の呼吸と声が森に吸い込まれていく。

 二人は全身に包帯が巻かれてある。決して軽くはない傷なのだが、どうしてか二人にそれを慮ることはないようだった。

 

 

「白衣と眼鏡外させて」

 

「まだ着てた!?」

 

「そりゃ着てらァ。急に違う世界線になる訳ねぇだろ。フィンもリヴェリアもアイズもベートもレフィーヤも学生服着てたろ」

 

「確かにね!?何で着てんだと思いましたよ!正直言って制服はヴァレンシュタインさんと黄色掛かった茶髪のエルフの人がギリギリのラインですよ!」

 

「そうだよなァ・・・リヴェリアは制服着てはしゃいでるBBAにしか見えねぇし、フィンは逆にピッカピカの中坊一年にしか見えねぇし・・・ベートはなんか、少しノリノリで気持ち悪かったし」

 

「ホントだよ!僕もああいう都市最強のファミリアを見たくありませんでしたよ!!」

 

 

 敢えて()()()()の存在には触れなかった二人。触れてはならない禁忌の物であったのだということは二人の共通認識だった。

 

 

「そういや【Lv.2】になったんだったか?」

 

「あ、はい!スキルも発現して・・・」

 

「ほーん、まぁそれを含めて見せて貰おうか」

 

 

 銀時が木刀をゆっくり抜刀するのと同じくして、ベルも短刀を二本抜刀し腰を落として構える。

 

 

「そうだなぁ────ベル」

 

「は、はい」

 

「オレに一発だけでも喰らわせられたら、遊園地に連れて行ってやる」

 

「遊園地って何!?」

 

 

 なぜか急に髪の毛を上へ上へと押さえつけ始めた銀時。

 ベルは聞いたことのない単語に疑問を隠しきれない。よって声を荒らげるのも無理はなかった。

 

 

「なんなの?遊園地嫌いなの?」

 

「だから遊園地ってなんですか!?あとなんで髪を上にツンツンにして“富士額”っていうか“M字ハゲ”にしてるんですか!」

 

「イメチェンに決まってるだろバカヤロー」

 

「急にイメチェンされる方の身にもなって下さい!心臓に悪い!」

 

「心臓に悪い、だと?────心臓病か!未来から俺の息子が薬を持ってくるかも知れないな・・・」

 

「違うわ!持ってくるわけないでしょうが!!」

 

「落ち着けカカ〇ット」

 

「アンタが落ち着けェェェェエエ!!」

 

 

 鍛錬をつけてもらう前から肩で息するベル。

 銀時はその髪型のまま木刀を構えている。シュールと呼ぶ他ない。

 

 

「大体なぁ人のイメチェンに言及するんじゃねぇよ。人には人なりの考えがあんの。人には人の大事にしたいオサレポイントがあんの。わかる?」

 

「は、はぁ・・・僕は師匠の宇宙人の様な感じより、頭にターバン巻いて横長の肩パットついたマントを着ている宇宙人の方が好きです」

 

「はーん、ベルはベジータ(野 菜)よりピッコロ(木 管 楽 器)の方が好きなのか」

 

「ねぇ今、何にルビ振りました!?ねぇ!?」

 

 

 ベルは声を荒ら(ry。

 

 

「うし、やるか」

 

「ここまでが長かったですね!ホント!」

 

「体、温まったろ?」

 

「温まりましたよ!全身から湯気が出そうなレベルでね!」

 

「ギ〇(セカンド)?界〇拳?」

 

「アンタほんと1回黙れ!!」

 

 

 ベルは目の前の男に向かって地を蹴り距離を詰める。強引にその口を封じる為だ。

 

 

「速くなったな」

 

「っ・・・・・・!」

 

 

 手数は圧倒的。型に嵌まらぬ無数の斬撃。故に予想は出来ない筈なのだが銀時は鼻をほじりながらいとも簡単に全ての斬撃をいなす。

 

 

(僕は中層でリリやヴェルフを護れなかった・・・だから僕は壊さなきゃならない。過去の自分を!己の限界を!)

 

 

────ベルの()()()()が入った。

 銀時は直感した。警戒を数段階引き上げる。木刀を握る手に血が巡る。

 ベルは右手に漆黒のナイフ、左にヴェルフがミノタウロスの角で作ってくれた紅の短刀を握っている。

 

 

「────スタァバァストッストリィイム!!」

 

 

 夜空を翔ける“星”より速く、己の全ての技を“爆発”させた“嵐”の如き怒涛の連撃を銀時に放つ────だが。

 

 

「それは一度見た。侍に二度も同じ手は効かねぇよ」

 

 

 何百、何千と繰り返された流麗な剣舞は銀時に届き得ない。

 紛うことなき全力の十六連撃は先程と変わらず、いとも簡単に交錯すると同時に弾かれた。

 

 

「くッ、まだだッ!」

 

 

 ベルは()()()()()()

 その行為は決して意味がある行為ではない。だがそうせずにはいられないのだ。

 倦怠感が襲う前に足に全力で血を巡らせる。右回転による二刀の必殺の連撃。

 

 

「────回天剣舞・六連!」

 

 

 右に高速回転し、刹那の一瞬に六連撃。

 銀時もそれに合わせる様に六度振るう。六連撃をそれ以上の速さと単純な力で相殺する。

 

 

(これがベルのスキルか・・・!チッ、大した威力だなクソッタレ)

 

 

 明らかに先程までとは威力が段違いであるベルの“必殺技”に銀時は心の中で舌打ちする。賞賛と辟易がその舌打ちには混ざっている。

 

 

(ここ・・・だ!繋げ!!)

 

「────は?」

 

 

 ベルは銀時に通じないことは分かっていた。だから工夫を凝らせる必殺技を開発した。

 それが“回天剣舞”。回転により放たれる“回天剣舞・六連”は威力は凄まじいが一度防がれると大きな隙を生じてしまう。加えてスキルの弊害もある。それを逆手に取った結果────。

 

 

「────回天剣舞・六連!!」

 

 

 相殺された反動に乗じて威力が上がる様な、そのまま回転速度に活かせる様な、奇しくも先程ツッコんだ()()()()()()ようなイメージである必殺技を開発したのだった。

 完璧に再現された“回天剣舞”は先程までとは段違いに威力が上がっている。剣を振るう速度も同じくだ。スキルの補正が更に掛かる。

 

 

「ふんがッ!」

 

 

 木刀と二刀の短刀が神速で交錯し、弾けると同時に“火花”を散らす。

 思わず銀時でさえも気合いの声を漏らすほど、ベルの紫紺と紅緋の剣舞は凄まじかった。まるでこの連撃だけベルのレベルが()()()()様な錯覚まで覚える────が、それでも銀時には通用しない。

 

 

「まるで必殺技のバーゲンセールだな」

 

「・・・・・・ハァハァ」

 

 

 これでもか、と放った必殺の連撃を全て相殺されたベルは体の倦怠感に耐えきれず膝を付いた。銀時の発言にツッコむ気力さえ残っていない。

 

 

「どう・・・でした、か?」

 

「きたねぇ花火だった」

 

「ハァハァ・・・辛辣ですね」

 

「相応の評価だと思うけどな。オメーは必殺技に、いやスキルに頼り過ぎだ。体力持たねぇで長続きしねぇくせにな」

 

「うっ・・・」

 

「オメーの戦闘は稚拙だ。経験がねぇのもあるだろうが必殺技を特別視し過ぎな所が特にな。必殺技と二刀流を“点”と“点”で考えるんじゃなく、二つを繋げて“線”にしなくちゃなんねぇ」

 

「・・・はい」

 

「お前の戦闘を例えるなら後衛の奴等と一緒だ。一撃一撃に重点を置いている魔法使いとな。お前のスタイルは前衛だろうが。前衛が体力尽かせて最初にバテたら中衛、後衛がしんどいだろ」

 

「────っ」

 

「まぁなに、それでもオメーが頑張ってるってのァ解った。遊園地には連れて行ってやるよ」

 

「あ、ありがとうございます?」

 

 

 

 

✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 

 

「やぁ銀さん、おひさ〜!」

 

「おうヘルメスさん、おひさ」

 

 

 師匠がくれたポーションで倦怠感が無くなった僕は師匠に付いて行って、ある木のもとへ辿り着いた。

 その木のもとには僕達に心配してダンジョンに潜り込んだ神様と同行していた、ある男の神様が居た。

 

 

「えっと・・・ベル・クラネル君かな?初めまして、ではないか、うん。ヘルメスだ。よろしく」

 

「あ、はい。宜しく御願いします」

 

 

 ヘルメス様は柔和な笑顔で僕に微笑んだ。女の子に見せたらイチコロだろう。

 確かに僕とヘルメス様は初対面ではない。何故なら僕がヴェルフと初めて出逢い、着物をもらった時、街道を歩いていた僕に煙管(キセル)をくれたのがこの神様だったからだ。

 

 

「あ、あのヘルメス様、煙管はっ」

 

「いいよいいよ。君が持っておくんだ。神の好意は受け取っておくもんだぜ?」

 

「は、はぁ・・・」

 

 

 それなら貰っておこうかな。あの着物に煙管はよく似合ってると思うし。多分。それにヘルメス様の好意を無碍にすると怖いと思う。そんな気がする。

 

 

「よし、行くか遊園地」

 

「あの師匠?遊園地ってこの階層にあるんですか?」

 

「おうよ、その為にはまず木に登らなきゃな」

 

 

 よじよじと大の大人が木に登り、それに続いて僕も登る。かなりシュールな絵が広がっていると思う。

 枝分かれしている空中回廊みたいな木の枝を師匠、ヘルメス様、僕の順で進んでいく。時折木から木へと飛び、木々の屋根を進んでいく。

 

 

────ドドドドドドドドド!

 

 

 うん、滝の音ですね。なんとなくこの人達がやりたい事が分かってきた。分かった時点で僕は師匠色にかなり染まってきているんだと思った。

 

 

「ベル君、“遊園地”と書いて“パラダイス”と読む」

 

「ベル、“覗き”と書いて“ロマン”と読む」

 

「「グヘヘヘヘヘ」」

 

 

 マダオだこの人達。救えない、救われない。絶対染まりきってたまるか!共犯者として神様やリリにしょっぴかれる前に逃げなければ!

 

 

「おいおい、逃げる気か?男の浪漫が目の前にあるってのに」

 

「うぐ・・・」

 

「ベル君は女の子に興味ないのかい?まさかアッチ系・・・」

 

「違いますよ!」

 

 

 見たいけど!物凄く見たいけど!僕の中にある罪悪感が膨れ上がるのが想像出来るんですよ。それに押し潰される僕も想像出来るんですよ・・・。

 

 

「男の浪漫が目の前にあるのに、それに手を伸ばさない・・・俺ァそんな男に育てた覚えはないぞ、ベル」

 

「僕は犯罪者になる為に弟子になったつもりは無いんですけどね!」

 

「ベル君、声量を落とすんだ。第一級冒険者にバレる」

 

 

 あっと思い僕は手を口に当てた。

 いやこれバレた方がいいんじゃ・・・いや良くないな。僕まで変な汚名をかぶってしまう。

 

 

「銀さん、ベル君、これを」

 

「さすが、用意いいなヘルメスさん」

 

「双眼鏡・・・」

 

 

 もう手遅れだ。腹を括ろう。僕は犯罪者だ。だからこそ得るべきものは得て自首しよう。

 

 

「師匠、進みましょう」

 

「ふっ、(おとこ)になれた様で安心したよ俺ァ。てっきり玉もチンも付いてないのかと」

 

「失敬な。僕には玉もチンも有りますよ。ただ少し男気が足りなかった、それだけです」

 

「素晴らしい師弟関係だ・・・思わず目頭が熱くなったよ。さぁ進もうか」

 

 

 僕達は進む。楽園(パラダイス)へと。覗き(ロマン)の為に。

 僕達が足を止めた場所は水辺から離れた場所ではなく、女性達の水浴びが出来る場所を上から見れる場所だった。そこそこ高いため、肉眼で見てもボヤけてしまう。まぁ双眼鏡あるからその心配は杞憂なんだけど。

 

 

「よし。ベル、ここからは呼吸は最低限に。おっ勃っても己の全神経を使って抑えろ。エロい視線に女は敏感だからな。いいな?」

 

「銀さんの言う通り。あくまで僕達は“男の浪漫”の為に覗くのであってエロさを求める為に覗くんじゃないからね。そしてこの記憶は地上まで持ち帰るんだ。ベル君、いいね?」

 

「はい・・・・・・!」

 

「「「双眼鏡、装着!」」」

 

 

 まるで何かの呪文の様に僕達は双眼鏡を装着した。

 僕はピントをうまく合わせようとするが、なぜか合わない。二人は使い慣れているからか直ぐにピントを合わせていた。

 

 

「あ、あれ?」

 

「うっひょ〜ティオネは相変わらず大きいなオイ」

 

「アスフィも成長したなぁ〜形整ってるし」

 

 

 僕がてんやわんやしてる間にマダオの二人は覗きに勤しんでいる。早く、早くしなければ!

 

 

「一人、ロバート絶壁スがいるなぁ。あれは【大切断(アマゾン)】かな?」

 

「お、ポール美乳マン・・・あれはアイズか?」

 

「ヴァ、ヴァレンシュタインさん!?ぼ、僕にも・・・!」

 

 

 ピントを合わせた僕は師匠の視線の先を追う。だが拡大されているからか見つからない。

 

 

「師匠・・・位置、変わって下さい・・・!」

 

「あぁいいぞ」

 

「ありがとうございます・・・!」

 

 

 僕は慎重に、足音を立てないように師匠と場所を交換する。

 師匠と僕が横揃いになった瞬間────。

 

 

────バキッ!

 

 

 体重が一点に掛かった木の枝は根元から不快な音を立てた。まるでそれは僕達の終わりへと誘うレクイエムのようで。

 

 

「「「どけェェェ!」」」

 

 

 僕達三人は両手を使い、自分だけが助かろうと二人を物理的に蹴落とそうと行動に移した。それが最終的に足を引っ張り合う形になったことは言わなくてもわかるね。うん。

 

 

────ドボォォォォン!!

 

 

 仲良く三人で水の中に落ちた。たまたまそこは水深がかなりあったから大事には至らなかったんだけど。

 

 

『な、な、な・・・・・・・・・!』

 

 

 女性の皆さんの動揺した声が聞こえる。僕は水に浸かったからなのか頭が冷えていた。

 

 

「「ほわぁぁぁぁあああ!!」」

 

 

 マダオ二人は一目散に脱兎の如く森の中へと消えて行った────僕を置いて。さすがにそりゃないと思う。

 

 

「べ、ベベベベベル君!?君って奴は!」

 

「べっベル様ッ!?」

 

 

 神様やリリの声が聞こえる。アマゾネスの女性たちはやるねぇとか見た目によらないねぇとか言ってる。少しは体を隠して羞恥を覚えて欲しいところだ。

 

 

「あ────」

 

 

 ヴァレンシュタインさんの裸体が目に入る。気恥ずかしそうに胸を腕で隠し、秘部を手で隠している。もうそれだけで僕はお腹いっぱいだ。

 

 

「え?」

 

「へ?」

 

「は?・・・は??」

 

 

 女性の方々が素っ頓狂な声を上げる。

 それもそうだろう。僕の行為はそう見えるだろう。

 僕は森の中へ逃げるのではなく、わざと池の中心へと歩いて行ったのだから。

 

 

────そして。

 

 

 僕は池の中心へ辿り着くと、両目を瞑り、右手の拳を天に掲げ、高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────我が生涯に一片の悔いなし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『死ねェェェェェェエエエエエエ!!』

 

 

 

 

 

 僕は安らかに微笑み、全て受け入れた。

 

 

 

 

 

 





すんません。ホントすんません。謝ります。すみませんでしたァァァァ!!
ベル君・・・ベルくぅぅぅぅぅん!!


毎度恒例謝辞。
『キャベジン太郎』さん、『マグ郎』さん、『タヌキ三世』さん、『プジョー』さん、『Mr.ロリペド』さん、『妙義』さん、『いえっさ』さん、『白狐@白虎』さん、『耶義』さん、最高評価ありがとうございます!!

『氷霞』さん、『間呂_アップグレード中_』さん、『ヴェンデッタ』さん、『エックス2』さん、『石川 真』さん、『うにゃりん』さん、『snes9xw』さん、『リュー@暇人』さん、高評価ありがとうございます!!


これからも頑張っていきますので応援よろしくお願いします!!


これの前書きを書いてた頃は、無かった話なんですが、さっきジャンプとYouTubeで銀魂のゲームが出来ることが決定したそうですね!四年ぶりに!
YouTubeで見る限り、スゴロクとか従来の感じじゃなくてアクションゲーっぽいですよね。無双系っぽいというか。BASARAとか戦国無双とかそんな感じだと嬉しい。

土方でレッツパーリィィィできるからね!



ではまた次回!感想と評価お待ちしてます!!


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痴漢と告白された回数=女のステータス



チーズ蒸しパンになりたい


 

 

「うおぉぉおおおぉぉぉおおお!」

 

 

 銀時は走っていた。

 空を翔ける稲妻より速く、焼き尽くさんと放たれる炎柱よりも速く。

 

 

「死ぬッ!死ぬッ!ヤバイヤバイヤバイィィィィ!」

 

『待てゴラァァァァァァァ!!』

 

 

 銀時は追跡されていた。複数の死神に。

 捕まれば一発アウト。捕まらなくても飛翔する幾多の魔法に当たればアウト。生き死にの狭間に銀時は居た。

 

 

(今更だけど謝れば許してくれるかな!?さすがに重傷の銀さんに本気の魔法撃ち込んでこないよね!!みんな優しいもんね!銀さんのこと大好きだもんね!!)

 

 

 そういう結論に至った銀時は全力の土下座をしようと後ろを振り返る────ヒュンッ!と顔の直ぐ横を一閃の雷が翔けり、頬に赤い線を走らせた。

 

 

赤火砲(しゃっかほう)!」

 

蒼火墜(そうかつい)!」

 

雷吼砲(らいこうほう)!」

 

千手皎天汰炮(せんじゅこうてんたいほう)!」

 

「オイィィィイイイイ!尸魂界(ソウルソサエティ)に送る気満々じゃねぇかァァァァ!!」

 

 

 こうも命を狙われている理由は銀時の愚行にある。

 先程、銀時はマダオ仲間である神ヘルメスと弟子のベルと【ロキ・ファミリア】やその他メンバーの水浴びを覗いていたのだ。それも双眼鏡という技術の無駄遣いの産物まで使って。

 その行為がバレると銀時とヘルメスは脱兎の如く逃走。弟子のベルを置いて逃走したのだ。ついでに途中で銀時はヘルメスさえも置いて行っている。

 

 

「はぁはぁ・・・どうにか捲いた、か」

 

 

 暫く森の中を縦横無尽に走り続けた銀時は追っ手を捲いた。【Lv.6】は伊達ではない。だが捲いたことは良くても道に迷った。

 

 

「喉乾いた・・・いちご牛乳飲みたい」

 

 

 切実に想う銀時。

 その時、耳が水の音を拾った。意識がそれに飛び付く。

 せせらぎとは違う、水をすくっては落とす様な自然のものではない音が銀時の耳に届いた。

 モンスターの可能性も十分あったのだが、銀時にとっては些細な事で乾いた喉の飢えには勝てなかった。

 穴の様な木々の隙間を潜り、水の音源へと近付いていく。鳥型のモンスターギャアギャアという鳴き声が周囲を木霊する。

 森が再び日差しを遠ざけ、薄暗くなり、藍色を帯び始めていく。短い列柱の如く地面から等間隔に生えて、ぼうっと光る幻想的な水晶に導かれる様に銀時は進む。

 

 森が開け、泉が現れた。

 

 

「こんな場所あったんだな・・・」

 

 

 長年、ダンジョンに潜り続けている銀時でさえもこの場所を知り得ていなかった。幻想的な風景にしばし目を奪われる。

 そして水を掬っているような音、その音源へと目を向けた。

 

 

「────────ぁ」

 

 

 音は泉の中心に存在する妖精によって奏でられていた。

 一矢纏わぬ姿で、雪のような白い素肌────ほっそりとした背中を銀時に向け、水浴をしていた。両手で水をすくってはこぼさない様にゆっくりと、自分の髪へ塗り込むように洗っていた。

 

 

何者(だれ)だッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・」

 

 

 私は一人ため息をついていた。

 理由は・・・わざわざ約束を破ってまでその約束を交わした人の姿を見に来ただけなのに、その人との再会ざまにジャーマンスープレックスを掛けてしまったことにある。

 

 

「いやサカタさんが悪いのです。私が悪いんじゃない」

 

 

 そう言い聞かせないとまた爆発しそうになる。

 私はサカタさんが遠征に行ってからというもの店の仕事に支障が出ていた。『必ず帰ってくる』という約束を交わしたけれど、あの人の強さを疑う訳でも無かったけれど、気が気でなかったのだ。店の仕事が疎かになるぐらいには。

 サカタさんの主神である神ロキにも見透かされた上に念押しされた。大丈夫だと。信じて待つのが役目なのだと。

 

 だから私は心のモヤモヤを押し殺してでも、彼との約束を反故にせぬよう“豊穣の女主人”で待つつもりだった。

 

 あの日、神ヘルメスが私の協力が欲しいと“豊穣の女主人”に訪れた時も私は最初は断った。だが────。

 

 

 

 + + + + + +

 

 

『【疾風】のリオン、君の力が借りたい』

 

『お断りします。私はここで待つ義務がある』

 

『そこを何とか頼むよ。君の友達のベル君達が危ないんだ』

 

『他の冒険者に頼むといい。私はとある人との約束を優先しなければならない』

 

『そう言えば、某有名店のパフェの割引券が()()あるんだった。僕は要らないから誰かにあげたいと思ってたんだけどなぁ〜〜〜』

 

『・・・・・・開店前なのでお帰り願えますか』

 

『あっ!18階層に【ロキ・ファミリア】の遠征組が休息(レスト)を取っているという情報が朝に入ってたなぁ。全員無事だけど一部は重傷らしい』

 

『・・・・・・何が言いたい』

 

『いやぁ何もぉ?ただ、俺の友人はたとえ自身の体がボロボロであったとしてもそんな仲間を護る為に瀕死の体を全力で酷使して使い潰すだろうなぁって思ってさ』

 

『────ッ』

 

『それで・・・付いて来てくれるかい?』

 

『・・・同行しましょう。あくまでクラネルさん達を救出させる為です。べっ別にサカタさんのことが心配な訳じゃありませんからねっ!勘違いしないで下さいねっ!』

 

『う、うん・・・チョロいなぁ

 

 

 + + + + + +

 

 

 

 なのに、だ。

 久方ぶりにダンジョンに潜り、約束を交わした相手と再会してみれば私より綺麗な人とイチャイチャしているではないか(※していません)。モヤモヤしていた私の心を弄ぶように。

 別にその行為が悪くは無いことは判っている。誰と仲良くしようが私に関係ないのも判っている。モヤモヤする気持ちを吐露するのも怒りをぶつける、ましてやジャーマンスープレックスという技を掛けるのも間違いなのは判っている。筋違いであるということも・・・。

 それに私は18階層に一行を送り届け、あの人の顔を、元気な姿を一目見たら即刻帰路に付くつもりだった。クラネルさん一行の帰路の世話は18階層で休憩(レスト)を取っている【ロキ・ファミリア】に任せればいいと思っていたのだ。

 

 なのに・・・なのに、なのに!

 あの人の・・・サカタさんの元気な姿を目に捉えると思考が止まった。

 溢れ出る安堵と喜悦。流れ出そうになる涙と激情。理性は働くことを忘れ、感情の濁流は余計な詭弁を全て呑み込んだ。

 気付けば私はサカタさんの腰に手を回していた。衆目の目もあったにも関わらず、私はサカタさんを抱き寄せていた。

 

 

 今は────胸がとても苦しい。

 

 

 

「水でも、浴びましょうか」

 

 

 体に付いた泥や屠ったモンスター血を流す為に私は()()()()()場所の近くにある泉に来た・・・火照った体を冷ますという理由もあるが。

 友の形見である木刀と戦闘衣(バトル・クロス)を脱装し畳んで置く。護身用に白刃の小太刀を携え、ゆっくり泉の中心へと向かう。

 水をすくい髪に馴染ませるように洗う。体は絹を触る様に優しく傷付けぬように。

 ふと私は体の一部に手を置いた。その一部は女性の魅力を醸し出す部分である。即ち、胸だ。

 

 

「サカタさんと仲睦まじく話していたのは恐らくリヴェリア様・・・はぁ」

 

 

 別にだからといって何かある訳ではないのだが・・・シルが少し羨ましい。

 体を清めると、ふぅと自然と息が漏れた。精神的に少し疲れが出ているのだと体が教えてくれた。

 

 

「────────ぁ」

 

何者(だれ)だッ!」

 

 

 鋭敏になっていた感覚が音を拾った。それもモンスターではない人間の声の音。漏れ出た音。

 振り向きザマに私は携えていた小太刀を音源へ神速で投擲。ガキンッと堅い物と堅い物が接触した音が響き渡る。

 

 

「・・・・・・・・な、なんだチミはってか!そうです!私が変なおじさんです!」

 

「・・・・・・」

 

 

 全力で下顎を突き出し、両目を白目にし、全力で変顔をする男。

 先程から私の心を掻き乱すだけ掻き乱し、追い討ちを掛けてくるという外道の中の外道。ましてや“覗き”という人の道さえも盛大に踏み外したド畜生。

 

 

「変なおじさんだから変なおじさん♪」

 

「変な踊りしなくていいですから後ろを向いて下さい」

 

「変なおじさんだから変なおじさんっと・・・♪」

 

「後ろを向いて下さい」

 

「だっふんだ!!」

 

「喧しい!さっさと後ろ向け!」

 

 

 後ろに振り向くと同時に私は忙しく着替える。

 覗きに来てくれた、という事実は女として嬉しくはあっても、エルフの身である私にとっては異性に肌を晒す事は禁忌そのものであって唾棄すべきものである。

 着替え終え、呼吸を整えると私は後ろに振り向いているサカタさんに声を掛けた。

 

 

「それで、なぜ覗いたのですか?」

 

「だっふんだ!」

 

「もう一度聞きます。なぜ?」

 

「だっふんだ!!」

 

「・・・最後です。なぜ!?」

 

「覗いても大丈夫だぁ〜〜〜♪」

 

「・・・・・・・・・ギルティ」

 

「すんませんでしたッ!!」

 

 

 華麗な土下座を私にしたサカタさん。

 土下座までの一連の動作が流麗であり、何度も何度もしてきたのだろうと理解してしまった。理解したくはなかったが。

 

 

「もう一度聞きます。なぜ覗いたのですか?」

 

「・・・・・・」

 

「覗いたことに対しての理由は?」

 

「・・・・・・黙秘権を」

 

「ある訳ないでしょう?弁明は聞くだけ聞きます」

 

「・・・女は告白された回数や痴漢された回数をまるでステータスの様に語るじゃねえか。つまり俺がリューを覗いたのもリューのステータス向上に繋がり、俺も見れてラッキーというwin-winの関係を築き上げただけ────」

 

「言いたいことはそれだけですか?」

 

「・・・・・・・・・だぁぁぁ!もう全部言ってやるよ!」

 

 

 それからサカタさんは半ば自暴自棄にここまでの経緯を語った。

 神ヘルメスとクラネルさん共に【ロキ・ファミリア】や私と同行した冒険者や神ヘスティアなどの水浴びを覗いたこと。それがバレて弟子であるクラネルさんを置き去りにして二人は逃走。【Lv.6】の足に付いていけなくなった神ヘルメスも途中で置き去りに。それで散々迷った挙句、喉の乾きを潤す為にここに辿り着き、たまたま居合わせた私の水浴びを覗いた・・・と。

 

 

「情状酌量の予知なし、消えろ下衆が」

 

「ちょっぉ!話せば許してくれる流れだったじゃねぇか!」

 

「ふむ・・・界王星に行くか、尸魂界(ソウルソサエティ)に行くか、どちらがいいですか?」

 

「遠まわしに死ねってか!界王様のもとで元気玉会得してぶつけるぞコノヤロー!」

 

「いや貴方は天国ではなくて地獄だろうな。地獄行きの魂に当てられて初期のジャネンバにでもなればいい」

 

「初期ってあのデブじゃねぇか!俺ァあんなに太ってねぇよ!」

 

「貴方は蓄積された小豆(あずき)のカロリーが噴き出すだろうからどうせ太るでしょう。諦めなさい」

 

「なんで懺悔風!?」

 

 

 暫く不毛な言い合いをした私達は息をハァハァ切らした後にふっと笑い合った。

 そして私は一番聞きたかったことを聞いた。

 

 

「結局・・・貴方は私を覗こうとして覗いた訳ではないんですよね?彼女らの場合とは違って」

 

「ま、まぁそうだな。不慮な事故で起きたラッキースケベって感じだな」

 

「ふ、ふぅんだ。どうせ貴方は私なんかの体よりもっとボンキュッボンの女性がいいのでしょうね!」

 

「ん?リューの体も十分綺麗だったじゃねぇか。何を謙遜してんだ」

 

「え・・・・・・・・・え!?」

 

 

 今までまともに褒めてくれたことの無いサカタさんが私の体を褒めてくれた。その事実が体温を向上させ血流が良くなり顔を真っ赤にさせた。

 

 

「何を驚いてやがんだよ。エルフの体だぞ?綺麗に決まってらァ」

 

「あ・・・あ・・・あ・・・あっ///」

 

「ま、アイズ方が胸は大きかったけどな」

 

「死ね」

 

「ギャァァァァァァアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・んぁ・・・なっ!?」

 

「・・・起きたかい?銀さん」

 

 

 意識が浮上し、目が覚めると銀時は自身が縛られていることに気付いた。

 隣には同じく縛られているヘルメス。顔を見ると、ところどころ腫れていてイケメンだと巷で言われていた整った顔はもう見る影もない。

 

 

「景色が逆さ、ま?」

 

「そうだよ銀さん。俺達は女性たちに捕まった後に縄で縛られ、木に吊るされてるんだよ・・・」

 

百舌(もず)の早贄ってか?女が百舌(もず)で俺らが虫」

 

「嫌な例えだけど的を得てるよ・・・どうしてこうなった」

 

「ヘルメスさんが覗きに行こうって言ったからだろ?」

 

「おいおい先に言ったのは銀さんだろう?」

 

「ヘルメスさん」

 

「銀さん」

 

「ヘルメスさん」

 

「銀さん」

 

『うるさい!!』

 

 

 二人が醜い争い、罪の押し付けあいをしていると覗きの被害にあった女性らが寄ってきた。リューはいないが。

 

 

「変態は口を閉じていろ。空気が障る」

 

 

 とリヴェリア。

 

 

「団長以外に見られるなんて最悪」

 

 

 とティオネ。

 

 

「私はあまり気にしないけど流石にやり過ぎだよ」

 

 

 と普段は良心的なティオナまで銀時達を批判していた。

 

 

「あ、アイズ?」

 

「銀ちゃん・・・・・・・・・最低」

 

「グハッ!!」

 

 

 最も言われたくなかった妹分に突きつけられた『最低』という二文字の言葉は銀時の心を深く抉った。

 

 

「之から貴方達を裁く訳ですが、その執行人をお呼びしたいと思います」

 

「アスフィ〜許してくれよ〜」

 

「下衆が」

 

「グハッ!!」

 

 

 アスフィの久し振りの全力の白い目とガチトーンにヘルメスも心を深く抉られた。

 執行人、という言葉に二人は生唾を呑み込む。これだけ散々な罰を受けておいてまだ何かしらがあるのかと身を震わせた。

 

 

「執行人は────」

 

「・・・・・・・・・は?」

 

「・・・・・・・・・へ?」

 

 

 ザッザッと床を擦る音。即ち草履。

 左手に煙管(キセル)。紅が映える極東の着物。その上に金の花の模様が入った黒を基調とした羽織を肩に掛けている。

 雪兎の様な真っ白な髪に燃える様な深紅(ルベライト)の瞳。その左の瞳には眼帯がつけられている。

 

 

「神にも人にも誰にも貴方達を裁かせない」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

「貴方達を裁くのはこの僕だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は加害者(こっち)側だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





二週間ぶりの1話、いかがでしたか?
久しぶりにこいつらにジャスタウェイを投げつけたくなった人は多いと思います。私もその一人です。

毎度恒例謝辞。
『@ファイブス』さん、『よこよこ』さん、『ティーも』さん、『噂のあの人』さん、『箱男』さん、『tomorrow05』さん、『シュア.』さん、『クインタス』さん、『タヌキ三世』さん、最高評価ありがとうございます!!

『鎧武 極』さん、『田坂』さん、高評価ありがとうございます!!


夏休みは頑張って投稿しますので、応援よろしくお願いします!!


ではまた次回にお会いしましょう!


ジャスタウェイ!(挨拶)


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中二病 一生残る 心傷 TouA


皆さんジャスタウェイ!

夏休みに入ってペースが上がるどころか落ちるという・・・。

ちっ違うんだ!決して怠けてた訳ではないんだ!
ただバイトしたりゲームしたり本読んだりデートしたりしてたらあっという間に時間が経っていたんだ!

はい、ってことで始めまーす。




 

 

「お前は加害者(こっち)側だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 喉が張り裂けるレベルで吼える銀時。

 耳を塞ぎたくても手足を縛られているため塞ぐことができないヘルメス。

 その二人を絶対零度の目で見つめる女性が複数。

 そして吹き荒れる疑心暗鬼という台風の中で、その目であるかの様に静かに悠然と佇むベル。

 

 

「今から裁きを下します」

 

「待てぇぇぇぇぇ!ツッコミどころ有り過ぎてどこからツッコもうか迷うんだけど!!兎にも角にもお前はこっち側だろ!ベル!」

 

「僕は許してもらいました」

 

「ナンデッ!?じゃあ俺等も許してくれよ!」

 

 

 覗き、という行為においてはベルも銀時もヘルメスも同罪である。なのにベルだけが許されているという事実が銀時は許容出来なかった。

 銀時は必死に許しを女性陣に乞うた。口を開いたのはリヴェリアだ。

 

 

「確かに罪の重さは等しい。普通に考えればここまで罰を受けたのなら許されるのが同理だろう」

 

「なっならっ!」

 

「だが断る」

 

「ふざけんなっ!!」

 

「リヴェリアが好きなことの一つは、助かると思ってる奴に“NO”と断ってやることだ」

 

「何辺露伴なんだよお前はッ!!こっちは早く解放されたいんだよ!スタンド出すぞコノヤロー!」

 

「笑止」

 

「やかましいわっ!」

 

 

 ノリノリなリヴェリアにゼェハァゼェハァ肩で息する銀時。

 銀時の息が整うと、説明は僕から、とベルは一歩前に出て口を開いた。

 

 

「僕は下に落ちたとき師匠やヘルメス様の様に逃げる事はありませんでした。泉の中心へ行き、拳を掲げ『悔いは無い』と吼え、皆さんの怒りの全てを受け入れました」

 

「お、おう・・・」

 

 

 流石に罪悪感が湧いたのか銀時はいたたまれない顔でベルを見返した。

 

 

「その後に謝罪を土下座で行いました。精一杯の謝罪と()()を込めて」

 

「・・・・・・感謝?」

 

「はい、感謝です。皆さんの裸体を覗いてしまったのでそれに対する感謝です。いいもん見させて貰いました、と感謝しました」

 

「・・・・・・・・・・まさか」

 

 

 銀時はあることに気付きベルから視線を外し女性陣を見た。

 女性陣は程度は違えど皆同じ様に照れ臭そうに顔を伏せていた。

 

 

「お前ら・・・ベルの真摯な態度に庇護欲を唆られたとかそんなアホな理由じゃないよね?違うよね?」

 

 

 女性陣はビクッ!と肩を震わせてあさっての方向を向いた。

 

 

「だってあんなにウルウルした目で見られたら許しちゃうじゃない」

 

 

 とティオネ。

 

 

「キュンッと来ちゃったんだから仕方ないじゃん?アルゴノゥト君ってばウサギみたいなんだもん」

 

 

 とティオナ。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・可愛かった」

 

 

 とアイズ。

 

 

「まぁ自分の身を挺してまで『師匠は悪くない』と涙目で訴えられたら許すしかありませんよね・・・」

 

 

 とアスフィ。

 他の者も同じ様に、意見は違えどあの場に居た全員が全員ベルの庇護欲を駆り立てる姿と行動に胸を打たれ目を奪われたのだとそう語った。

 

 

(ベルの奴ぅ・・・自身の容姿を使って上手く切り抜けやがったな!!コイツ、悪い意味で人たらしじゃねぇか!!それに俺とヘルメスさんを庇う事で心証も良くしてやがる!!コイツ見た目に反して真っ黒じゃねぇか!!)

 

 

 ベルは銀時らを庇う事でイメージアップを成し遂げた。それと同時にベルは遠回しに銀時らのイメージダウンをやってのけたのである。 勿論ベルはそんなつもりは全く無く、ただ単に銀時達が悪くないと訴えただけなのだが。

 

 

「それでティオネ達が私のもとに相談に来たのだ。どうしよう、と。だが私は被害を受けた身ではないから判断に困った。それである人物に判断を仰いだ」

 

「おいおいまさか・・・」

 

「そうフィンに相談したのだ」

 

「最悪な奴に相談したのな!!黒と黒を混ぜても黒にしかなんねェってジンの兄貴も言ってただろうが!!・・・・・・・ってことはこの状況もアイツの指示か!!」

 

「ご名答」

 

「あんのドS小人族(パルゥム)がァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

 その銀時の慟哭を聞いたとあるファミリアの団長は親指を立てて血走った目でウィンクしたそうな。

 

 

「いい加減諦めろ銀時。横の神ヘルメスを見てみろ」

 

「んぁ?」

 

「もう真っ白な灰になっている」

 

「早ぇぇぇよぉぉぉぉぉ!!燃え尽きるにはまだ早いから!!」

 

 

 穏やかな顔で罰を待つヘルメスに銀時は必死に呼び掛ける。まぁ一向にヘルメスは反応しないが。

 リヴェリアの説明を続ける様に再びベルが口を開く。

 

 

「それで僕はフィンさんに『君が裁きなよ』と言われたんです。ここまでがこうなった経緯です」

 

「納得できるかッ!ヘルメスさんも何か言って下さいよ!」

 

「アーメン」

 

「おぃぃぃぃぃ神が神に祈りだしたんだけど!?シュール過ぎて涙が出そうなんだけど!?」

 

 

 ヘルメスの説得を諦めた銀時はベルへのツッコミを再開した。

 

 

「おいベル!俺はお前を師匠を裏切るような男に育てた覚えはない!」

 

「・・・・・っ」

 

「それに何だその格好は!女物の着物だぁ?お前はそれでもキ○タマ付いてんのかァァァァァァァァ!!」

 

「つ、付いてますよ!」

 

 

 実際、この服はヘスティアがホームから持ってきたもので、ベルが着た理由としては泉の水に濡れてビショビショだったからに尽きる。

 

 

「あとベル、目に何か付いてんぞ」

 

「え、いやこれは・・・」

 

「おいおい真っ黒な出来物でも出来たのか?ポーション掛けてもらえよ、ほら」

 

「で、ですからこれは・・・」

 

「まさか・・・眼帯?怪我でもしたの?」

 

「いや、してない、です、けど・・・」

 

「そうだよね!でも俺と久しく会ったときはしてなかったよね?ね?ね?」

 

「・・・・・・・・・ファッション、で

 

「まさかオシャレで付けてたの?視野も狭くなるのに?格好いいと思ってたの?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ひぐっ」

 

「あっごめん!師匠、ベルがそういう年頃だってこと忘れてた〜☆」

 

「べっ別に格好いいとか思ってないしぃ・・・パ○レーツ・オブ・カリ○アンごっこしてただけですしぃ・・・なんなら外すしますしぃ・・・・・・・・・ひぐっ」

 

 

 涙声でそう答えるベルに愉悦の表情を浮かべる銀時。

 もはや説得ではなく思春期の子供をそのネタで弄る汚い大人に成り下がっていた。

 

 

「判決を・・・・下じまず・・・・・・ひっひぐっ・・・・・二人を・・・下ろじて、あ゛け゛て゛く゛た゛さ゛い゛・・・」

 

 

 ベルの弱々しく震えた声に同情する女性陣はゆっくりと二人を地面へ下ろした。縄は解かれていない。

 銀時は『計画通り』と口角を釣り上げて静かに笑った。大人げないとは全く思わなかった。

 

 

(俺の勝ちだ!ダッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!)

 

 

「判決・・・二人を木の葉隠れ秘伝体術・奥義の刑に処します・・・執行人は僕です・・・・・・・・」

 

 

「んん?・・・・ん!?ちょっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「千年殺しィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は“痔”になった、とだけ記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 





二章も佳境に入りました。
今回は短かったですね。
理由がありまして、次回がクソ長くなるからです。はい。


毎度恒例謝辞。
『バーサーカーグーノ』さん、『万屋よっちゃん』さん、『レビス』さん、『ヨーゼフ』さん、『凪咲』さん、『木原@ウィング』さん、『雷神無双』さん、『D-suke』さん、『カルーアイオス』さん、『黄昏るヒト』さん、『チキン革命』さん、最高評価ありがとうございます!!

『天パおじさん』さん、『くろがねまる』さん、『ハミルカル』さん、『きら@』さん、『赤原矢一』さん、高評価ありがとうございます!!


日刊ランキングに載り、多くの人にこの作品を見てくれるのも皆さんが評価してくれたおかげです!本当に感謝してます!


二章が入ったこともあり、一章同様にやってほしい話アンケートを行います。
下記のリンクより飛んでください。または自身の手で私の活動報告にて。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=158923&uid=106761

ちなみに。

1、春姫の懺悔室
2、ベート、宝くじが当たる
3、フレイヤの優雅(笑)な一日
4、ヒロインとデート(※これの場合はヒロイン名を記入して下さい)


では沢山のご応募お待ちしてます!!


ではまた次回にお会いしましょう!感想と評価、お待ちしてます!!


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そして少年は


ジャスタウェイ(挨拶)

前回の感想で少し説明不足というかもう一度説明するべきだと思ったので補足を。

ベルの着物について。
これはヴェルフから貰ったものですが、実際ヴェルフは椿から譲り受けました。それで女物なんです。
加えて、“銀魂”の背が低いのに○杉さんの着物はどう見ても女物でしょう?咲き散る艶花と金の蝶とか女物の着物しか有り得ないでしょう?

まぁそう思って着物が渡される道順を女性の椿にしたんですけどね。


ってことで第二章もあと少し。どうぞ!!





 

《ダンジョン18階層 安全階層(セーフティーポイント)

 

 

 バキッ、バキッ─────と。

 水晶に深く歪な線が走る。生じた亀裂から水晶の破片が煌めきながら儚く落下していく。

 

 

「まさか・・・モンスター?」

 

 

 誰の呟きだったか。この層にいる全員の認識が言葉となって漏れた。

 悲鳴を上げても水晶の破砕音に掻き消される。階層内に居るモンスターの咆哮が四方から重なり合いながら木霊する。

 

 

「・・・ゴライアス、なのか?」

 

 

 この階層に辿り着いた冒険者ならば知り得ている。

 目の前に産まれ堕ちたモンスターが17階層の階層主であるゴライアスであると。だが姿形は似ていえど肌の色が異なっていた。本来の薄い灰褐色ではなく全身を漆黒に染め上げた肌をしているのである。

 事態に気付いた者はいち早くこの階層から逃げ出そうとした。賢明な判断だった──────だが。

 

 

「穴を・・・・!」

 

 

 上層と下層に繋がる洞窟はダンジョンが起こす地震によって崩落した。それはまるでこの階層に留まる全ての者を幽閉することがダンジョンの意思であるかのように。

 

 

「やるしかねぇんだ!武器を取れ!あの化物と一戦やるぞォ!今から逃げ出した奴は二度とこの街の出入りを許さねぇ!」

 

 

 ならず者の集まりで出来たリヴィラの街を総括しているボールスは腹を括れと檄を飛ばした。街に滞在していた冒険者達も武器を持って続々と大草原へと向かっていく。

 

 

『ゥゥ─────ォォォォォォォォァアアアアアアアアアッ!!』

 

 

 だがゴライアスから放たれる咆哮(ハウル)は現状に抗おうと奮い立った冒険者の意志を、いとも簡単に粉砕した。

 その咆哮(ハウル)に連動する様にこの層に存在するモンスターが引き寄せられ召喚される。そして応戦せざるをえない冒険者達に対して冷酷に進行する。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 絶叫が絶叫を呼び、恐怖が伝播する。

 阿鼻叫喚の嵐が吹き荒れる。運命が理不尽に翻弄する。それでもまだ絶望は始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶望が始まる数十分前。

 ベル、ヴェルフ、リリ、ヘスティアの一行と【タケミカヅチ・ファミリア】の桜花、 (ミコト)、千草と【ヘルメス・ファミリア】のヘルメスとアスフィは地上へ帰還する準備を進めていた。

 

 

「この街は聞いた通りです!全部が全部ボッタクリじゃないですか!」

 

「まぁまぁ。背に腹は替えられないし・・・」

 

 

 激昂するリリを宥めるベル。ヴェルフも武具や砥石の値段を不服そうに見つめている。ヘスティアは初めてのダンジョンに興奮が隠しきれないのかどこか落ち着かない様子だ。

 

 

「足りないのなら俺達も出そう」

 

「いえ、お金の貸し借りは友人ならまだしもファミリアでやるとなるとそれなりの問題がついて回ります。ですから気にしなくても大丈夫です」

 

「そうか・・・」

 

 

 桜花は申し訳無さそうに目を伏せる。

 この【タケミカヅチ・ファミリア】はベル達が中層で 『怪物進呈(パス・パレード)』をされたファミリアである。要するに自身のパーティー、この場合は千草が瀕死であった為にモンスターをベルらに押し付けたのだ。

 その負い目からヘスティアが捜索願をクエストとして出した時、謝罪と共に捜索隊に加わった。後にヘルメス、アスフィ、そして用心棒としてリューが加わった。

 捜索隊が18階層に辿り着き、リューが銀時にジャーマンスープレックスをかましたあと桜花達はベルに本家本元の土下座をした。それはもう大層綺麗な土下座だった。一応和解という形にはなったものの簡単に遺恨が消える訳ではなく、今もこうしてギクシャクしているのである。

 

 

「ねぇねぇアスフィ・・・」

 

「何ですか?クソ外道」

 

「もう悪意を隠す気も無いんだね・・・あのね、ボラギノール探してきてくれない?」

 

「嫌ですよ。私が買ったら私が痔を患っているみたいに思われるじゃないですか」

 

「そこを何とかぁ〜!」

 

「はぁ。ボラギノールではありませんが代わりの物なら有りますよ」

 

「え!それでいいよ!早く頂戴!」

 

「はい」

 

「ジャスタウェイじゃないか!何なの!?アスフィってば俺のア○ルに恨みでもあるの!?」

 

「汚らわしい・・・貴方は仮にも神なのですから発言する言葉は考えて下さい」

 

「じゃあ俺の(アスタリスク)に恨みでもあるの!? 」

 

「あ、ちなみにそのジャスタウェイは音声認識ですから」

 

「おぉうッ!?」

 

「まぁ嘘ですが」

 

「嘘かよぉぉぉぉぉ痛ててててててててて!!」

 

 

 咄嗟にジャスタウェイをあさっての方向に投げたヘルメスだったが見事にアスフィに踊らされたのであった。それと同時に激しい動作をした為に痔が暴発しかけ涙目になる。

 

 

「ヘルメス様大丈夫ですか!」

 

「べ、ベルく〜〜〜ん」

 

 

 その痛みの元凶であるのに優しくされたヘルメスはまるで神に会ったかの様な眼差しを向け目に涙を溜める。

 

 

「聞いてくれよ!アスフィが!アスフィがぁ〜痛たたたたたた!」

 

「そ、そこの宿屋で休んでて下さい!探してきますから!」

 

 

 そう言ってダッシュでボラギノールを探しに行ったベル。

 ヘルメスは近場にあるぼったくり宿屋で休憩することになった。他の面々はそれぞれ自由行動を勤しむ。

 

 

「有りましたよ!ここに置いときますね!」

 

「ありがとう・・・ありがとう」

 

 

 ベルはボラギノールを伏せて寝るヘルメス傍に置くと部屋から出ていった。

 ヘルメスはズボンを下ろし処置をした。

 

 

「ふぅ────あっ」

 

 

 ヘルメスが一時の安堵に深く息をついた直後、ゴゴゴゴとダンジョン全体が揺れ始めた。

 

 

「・・・やっべ」

 

 

 あまりの気持ち良さと安堵に包まれ気が緩んでしまったヘルメスは気の緩みから“神威”が少しだけ漏れ出てしまった。

 気付いた時にはもう時既に遅く、ダンジョンがヘルメスの存在に気付き異変を生じさせた。地震を起こし何かが産まれ堕ちる 異常事態(イレギュラー)が発生する。

 

 

「ヘルメス様ッ!大丈夫ですかっ!」

 

ア○ル(こっち)は大丈夫だ!ベル君、君は早く仲間と合流するんだ!」

 

「はっはい!」

 

 

 颯爽と駆けて行くベルを窓越しから見送るとヘルメスはゆっくりと息を吐き、宙を見上げた。

 

 

「いい機会だ・・・見せて貰うよ、君が英雄足り得る器であるのかを」

 

 

 尻をさすりながらヘルメスは期待の籠もった声音でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁああ!」

 

 

 裂帛した声が周囲を木霊する。

 その声に共鳴するかの様に冒険者が奮い立ち、ゴライアスとそれを取り巻くモンスターと衝突する。

 

 

疾風(リオン)!説明は不要だと思いますが、今からくる援軍が一斉射撃の準備を行います!貴方はゴライアスの注意を引き付けておいて下さい!」

 

「分かりました。それでは私と貴方で注意を分散させましょう」

 

 

 絶望かと思われたその局面に現れた覆面の冒険者と高名な冒険者。

 その二人が繰り出す攻撃は少しながらゴライアスの表皮を削っている。その光景に触発された冒険者は名を上げようと躍起になっている。

 

 

(どうしてこうなったのか・・・いえ今は目の前の敵に集中せねば)

 

 

 リューは【ロキ・ファミリア】の遠征隊が地上へ帰還する時に一定の感覚を開けて帰路につく予定だった。それまでの空く時間に仲間が眠る場所に花を添えようとしていた。

 店については【ロキ・ファミリア】の宴会は彼らが地上に帰還してから一日空けてからなのでハードスケジュールではあるが問題は無かった。

 まぁ現実というものは上手く行くものではなく、仲間の墓参りをしている最中にダンジョンに異変が生じゴライアスが産み堕とされた。無視する訳もいかなければゴライアスを倒さねば帰路につくことも叶わないのでこうして交戦している。

 

 

「レベルは5以上か・・・私だけでは辛い」

 

 

 思わずリューから溢れ出た言葉は真実であり眼に見える残酷である。

 幾らリューやアスフィが削ってもゴライアスは自身の魔力を使い治癒能力を上げ自己修復をする。キリがないのは火を見るより明らかだった。

 

 

「なら相手の魔力が枯渇するまで削る・・・!」

 

 

 無謀だということが無謬であったとしてもそれしか道は無い。

 

 

「魔法が飛ぶぞぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 リヴィラを総括しているボールスの咆哮が響き渡る。

 リューとアスフィは一時前線を離脱し後方部隊に任せる。

 魔道士達は杖を振り上げると魔法円(マジックサークル)の輝きが弾け、怒涛の一斉射撃が火蓋を切る。

 

 

『───────ッッ!』

 

 

 連続で見舞われる多属性の攻撃魔法。火炎弾が着弾すれば雷の槍が突き刺さり、氷柱の雨と風の渦が炸裂する。一部『魔剣』の攻撃も加わり、階層主の巨躯が砲火の光に塗り潰された。

 

 

『───────フゥゥッッ!』

 

 

 だがゴライアスを仕留めるには足り得なかった。全く効果が無かったのだとみるみる傷が癒える様を無言で見つめる冒険者は目を見開きながら絶望に打ち震えた。

 そしてゴライアスは巨大な両腕を頭上へ高く振り上げ、振り下ろした。

 

 

「───────ッ」

 

 

 大草原が割れる。

 凄まじい爆発を起こし、地割れと、衝撃波を発生される。放射状に広がる破壊の津波は全ての前衛攻役(アタッカー)を一瞬で呑み込み、蹴散らし、蹂躙した。そしてその衝撃は後衛の魔道士にまで届き、ゴライアスを囲んでいた包囲網は破壊された。

 

 

「あ、あぁ・・・あぁ・・・・・・・」

 

 

 喉を嗚咽が駆け上がる。誰かが膝を突く音が届く。次第にそれは連続し、高い音を立てて武器を取り落とす音が連鎖した。

 抗うことを始める気概さえ奪われ、誰もが瞳から力を失い、武器を握る気力を吹き消されている。

 

 

「───────ぁ」

 

 

 絶望に呑み込まれた。誰もがそう思った────刹那。

 死屍累々の戦場を、衝撃波によって荒野となった草原を、一人の少年が降り立った。

 あまりにも異質な光景で、あまりにも理不尽な状況で、あまりにも絶望に塗れた戦場で────少年は一人、目の前の壁をただ見つめた。

 

 

  「───────立て」

 

 

 紡ぎ出された一言はあまりにもこの戦場に不釣り合いだった。

 終焉の未来を押し付けられ、心をへし折られた冒険者にとってその言葉は意味を持たない。だがその者の声音は耳によく届く。

 

 

「手足も動く。顔も上がる。目も見える。声は届く。諦めなんぞ存在しねェ」

 

 

 少年を知っている者は目を見開く。知らない者は目を奪われる。

 充満していた死臭が少年の下へ集束していく様な錯覚を覚える。そして空間さえも従えて少年は言葉を紡いでいく。

 

 

「目の前に在るのは何だ?絶望か?諦念か?運命か?自分(テメェ)で壊せねェんなら僕が壊してやる」

 

 

 冒険者から見えるその姿はあまりにも小さい。巨大な壁を前にして当たれば反動で飛びそうな弱者だ。

 なのに、なぜか、なぜなのか。目の前の少年─────否、男の圧倒的なまでの大きい背中に心が震える。一つ一つの言葉が、紡ぎ出される言霊が、一人一人の心を奮わせる。

 

 

「僕はただ壊すだけだ。この腐った絶望(セカイ)を」

 

 

 男は色艶やかな着物を靡かせ、大地を踏みしめる。 右手を絶望(ゴライアス)へ向け、左手を添える。

 ゴライアスは右の拳を引き絞り、風斬り音と共にその男へと拳を射出する。轟音と共に少年の背丈の数倍もある拳が肉薄する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング『ファイアボルト』砲ォォォォォォォォオオオオオオオッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法は長文詠唱ほど威力が高く、短文詠唱ほど威力が弱い。

 冒険者でなくとも知る事実。夢見る子供でさえも理解している真実。

 男の魔法は名を唱えるだけの超短文詠唱。威力は無論弱い。それは魔法に於けるロジックで、真理で、ある種の制約だ。

 

 ならばそれさえも()()()()()()()()()()()

 

 ロジックを破壊し、真理を破壊し、科せられた制約さえも破壊する。

 超短文詠唱に詠唱を付け足す事で何が起こるかは言うまでもない。

 

 そして男の“スキル”のトリガーは“破壊衝動”である。

 

 倫理の破壊、真理の破壊、限界の破壊、絶望の破壊、これらを目前とした時、そのスキルは真価を発揮する。

 今回、男が破壊の対象にしたのは『魔法の概念』と『目前の絶望』である。一つの対象の時でさえ絶大な威力を発揮したスキルが二重になれば結果は火を見るより明らかだ。勿論、単純な積では測れない。

 

 

『──────────────ッッ!?』

 

 

 白い稲光と共に凄まじい轟音を撒き散らしながら大炎雷は絶望(ゴライアス)の拳から腕を消滅させ、勢いを止める事なく右半身を呑み込んだ。

 声にならない悲鳴を上げた絶望(ゴライアス)はそのまま地に倒伏する。巨躯が砂塵を巻き上げ、衝撃が戦場を駆け抜け、暴風が吹き荒れる。

 

 

 

 ─────法螺を実現させる法螺吹きが英雄と呼ばれる。

 

 

 

 誰が遺した言葉だったか。

 その言葉はたった一人の為に存在し得たのではないかと錯覚する。言うまでもなく該当する人物は一人のみ。

 

 

「どうせ死ぬんなら僕の為に生きろ(死ね)。 言っとくが僕は死なねェ・・・目の前に在る“絶望”を壊すまでは、な」

 

 

 士気を折られた冒険者達が顔を見合わせ、震える膝を鼓舞して立ち上がる。

 取り落とした武器を拾い上げ、剣を抜き、喉が張り裂けるほど叫び、嗄らす。

 雄叫びが上がる。自らの心を奮い立たせる様に、己の魂を今一度輝かせる為に。

 

 

「弱音は屍になってから吐きやがれ!!屍にならねェんなら最後まで僕の隣で戦い抜け!!」

 

 

 “夜叉”の子が“子鬼”となって吼える。

 “子鬼”に触発された全ての仲間が一つの群となって“絶望”に抗う。

 

 

「続けェェェェェェェェェエエエエエエ!!」

 

『ウォォォォォォオオオォォォオオオオオオオ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(おや)(おや)なら弟子()弟子()ですね・・・」

 

 

 リューは優しげに微笑んだ。

 戦意を取り戻した冒険者は左半身へとなったゴライアスへ殺到する。誰も彼もたった一人の英雄に目を奪われたのだ。奮い立たされたのだ。憧憬を抱かされたのだ。

 向かって行った冒険者にはリューと同じ様に男よりレベルを勝る者も居るだろう。それでも尚、その男に憧憬を抱かずには要られない。

 

 

「─────クラネルさんっ!」

 

 

 英雄は、ベルは、かなり消耗していた。ベルのレベルであれだけの高火力の魔法を放ちながら意識を保っているだけで奇跡である。

 

 

「リュー・・・さん、お願いが、あります・・・・・・・・」

 

「わ、私に出来る事なら・・・」

 

「僕を動けるだけ・・・あと一撃放つだけ、回復させて下さい・・・」

 

 

 まだ動こうとするのか。まだ戦おうと立ち上がるのか。

 リューは口の否定よりも早く回復魔法をベルに掛けていた。マインドだけはどうにもならなかったが幾分かは楽になるだろう。

 

 

「ありがとうございます・・・あと一つだけ」

 

 

 拳を地面に叩き付けて、起こした半身に勢いを付けてと立ち上がる。その瞳は輝きを失ってはいない。絶望を破壊するだけの希望の光はまだ潰えていない。

 

 

「道を・・・お願いします」

 

「本当に師弟揃って人使い荒らいんですからッ!」

 

「ハハッ・・・お代は師匠にツケといて下さい」

 

「承りました」

 

 

 二つ返事どころか即諾したリューは息を短く吐くと詠唱を紡ぎながら戦場を『疾風』の様に走り抜ける。

 その背中に見入っていると目がある物を捉えた。いや捉えることが出来るように態と視野に入る様にしたというべきか。

 

 

「これは・・・・・・!」

 

 

 ベルとリューの中間点にその物は突如空中から出現し、幾度と回転を繰り返しながら地面に突き刺さった。

 

 

「木刀・・・師匠の・・・いや違う。年季は入ってるけど全く使われた気配が無い」

 

 

 考えるより先にその木刀を地から抜き放ったベルはそれを見て確信する。

 師匠である銀時が常日ごろから装備している木刀と似て非なる物なのだと。何度も師匠の木刀と交錯したからこそ分かる事実だ。

 

 

「よしッ!」

 

 

 ベルは深く腰を落とし、左手を刀身に沿って滑らせ、木刀の峰を優しくゆっくりと添える。切っ先は爛爛と輝いているゴライアスの魔石へ。格好で言えばビリヤードのキューを構えた状態。

 全身を駆け巡る赤い血潮を前を行く力へと変え、漏れ出る裂帛の気合いを全身の筋肉と神経に集約させる。景色が暗転し破壊すべき対象だけが色を持つ。

 

 

「あああああああああああああああああッッ!!」

 

 

 大地を蹴り付け、大草原を駆け抜ける。

 リューだけではない、ヴェルフもリリも桜花も命も千草もアスフィも触発された冒険者もベルの横顔を、英雄の片鱗を見せた男の背中を目で追い掛ける。

 多くの視線を一身に背負い、ベルは速度を上げ、突貫する。

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

 

 燃え盛るゴライアスの双眼が接近するベルを射抜く。

 絶叫と怒号を渾然とさせる雄叫びを上げ、その炎の左の豪腕を背後に引いた。右半身が修復されてない今、ゴライアスが放つ一撃は捨て身の全身の体重を乗せた一撃となる。

 

 

「火月ィィィィィィィィィィィィィィィ!!」

 

「【ルミノス・ウィンド】!」

 

 

 その豪腕をベルから逸らす為にヴェルフから真紅の轟炎を纏う巨大な炎流が。リューからは緑風を纏った無数の大光玉が一斉砲火され夥しい閃光を連鎖させた。

 

 

 

「───────牙突ッッ!!」

 

 

 

 閃光と炎流を潜り抜け、ベルは究極にまで集約された力の奔流の如き一撃をゴライアスの魔石に向けて撃ち放つ。

 魔石へと届き得たその一撃は純白の極光と共に周囲を埋め尽くし、誰もが目で覆った。

 視界が回復した者から恐る恐る目を開けると、そこにはゴライアスの存在した欠片は塵一つ現存せず、遙か向こう側の18階層の外壁に左半身が撃ち付けられていた。そして暫くすると魔石を破壊された為、本物の塵となって静かに消えて行った。

 

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 

 次の瞬間、大歓声が巻き起こった。

 周囲の冒険者は両手を上げて喜び、あるいは肩を組みながら涙さえ浮かべて喉が張り裂けんばかりに声を上げた。戦闘で消耗した途方も無い数の武器と武具は自らの凱歌を挙げるが如く銀の光を散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この戦いに於ける余波は。

 

 

 英雄の片鱗を見せたその男に触発された者達は。

 

 

 彼の主導のもと同志として集い。

 

 

 彼を“総督”として、英雄として、一人の男として。

 

 

 “鬼”の様に強い集団を組織し。

 

 

 

 

 

 オラリオを護り続ける為に立ち上がる事になる。

 

 

 

 

 

 





前回に言った通り、通常の二倍の文字数です。
楽しんでいただけたならとても嬉しいです。この一話は私の中でも最も力が入った一話になりました。どうでしたか?

ベルのスキルについて解説する為に書き上げた一話と言っても過言ではありません。わからない点があれば感想欄にてお書き下さい。


毎度恒例謝辞。
『デオキシリボ』さん、『タヌキ三世』さん、『Night Fish』さん、最高評価ありがとうございます!!

『くろがねまる』さん、『テルミン』さん、高評価ありがとうございます!!

お気に入りが四千を超えて恐悦至極でございますが、有頂天にならぬようこれからも面白い作品を書けるように努力していきたいと思います。


ではまた次回!感想と評価、本当におまちしてます!!いつも感想をくれる方、とても励みになってます!!


ジャスタウェイ!


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その刀、木刀につき


最近ネタばかりで内容が薄い、と感想で言われました。

うわぁぁぁぁぁん!僕はねぇ!良かれ良かれと思ってやったんですよ!面白いって言ってくれるからそっち方面にシフトしたんですよ!読者の皆さんにはわからないでしょうね!でもね!僕の何がわかるっていうんですか!作者の何がわかるっていうんですか!僕はこの作品をか"え"た"い"っ!!

すみません、猛省してます。書いていて僕も感じてたことでしたが、やはり読者の皆さんも思っていたようです。
僕が書きたいように書きます。それが一番だと思いますから。


では最終話、どうぞ。




 

 

「お、アスフィ。木刀の回収ありがとう」

 

「…アレで良かったんですか?」

 

「良かった!良かったよ…彼は俺の想像を遥かに越えた。やはり彼は英傑の器足り得る人間(ヒューマン)だ」

 

「そう、ですか……」

 

「アスフィには分からないかな?この高揚と興奮が」

 

「分かりません。マダオが発情している様に見えるだけです」

 

「本当はどう思ってるんだい?」

 

「─────ッ」

 

「俺に嘘をつけるとでも?話してみなよ。咎めたりしないからさ」

 

「………また()()()()()()()()()()()?」

 

「んん?アスフィは“彼”のことを知らない筈だけど」

 

「調べる方法など幾らでもあります。まぁ大変でしたけどね。ヘルメス様の思考は出来るだけ把握しておかないと後で私に皺寄せがきますから」

 

「ハッハッハッ優秀だねアスフィは。そうだよ、俺は性懲りもなく繰り返すのさ」

 

「………」

 

「俺は求めているのさ。誰よりも強く在り、誰もが羨望を抱き、戦場に立つだけで空気を変える、そんな英傑をね」

 

「ですが……!」

 

「【白夜叉(おに)】だけでは駄目なんだ。足りない、足りないんだよ!俺が求め、彼等が求め、“彼”の悲願を達成させる英傑は彼()()では駄目なんだ!強いだけでは駄目なんだよ!足りないんだ!」

 

「だからといって…」

 

「だから俺は“彼”の“武士道”を受け継いだ男から“強さ”と“武士道”を受け継いでいる少年に賭けたのさ!神会(デナトゥス)で彼の二つ名を【小鬼(オルガ)】と提案したのも俺だ!そして……それは正解だった!俺の目に狂いはなかった!」

 

「………」

 

「ようやく…ようやく一歩進んだぞ!お前の悲願は俺が成し遂げる……お前の最初で最後の悲願(ねがい)だからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠ぉ〜〜〜」

 

「んぁ?」

 

「こんなグータラしてていいんですかぁ〜」

 

「いいんだよ〜偶にゃあこういう日があっていいんだ」

 

 

 都市の北西にある市壁の上部。

 目が死んだ魚の様な男と目が紅に爛々と輝いている少年は隣に並んで寝転がっていた。二人のすぐ傍にはいちご牛乳が置かれてある。

 

 

「よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。人生を面白おかしく張り切って過ごす。これが銀時流よ」

 

「それ、銀時流じゃなくて亀(ピー)流です師匠」

 

 

 冷静なツッコミを入れるベルだが銀時が気にした様子はない。

 久方振りに戻って来たいつもの日常を二人は贅沢に使っていた。夕方前の柔らかな日の光が眠気を誘う。

 

 

「朝、シルさんが言ってましたけど今日宴なんですか?」

 

「…一緒に来るか?ベルなら歓迎されるだろうさ」

 

「えっえええ遠慮しときます!【ロキ・ファミリア】の皆さんには悪いことしちゃいましたし。の、覗きとかゴニョゴニョ………」

 

「本音は?」

 

「ベートさんが怖いからですはい」

 

 

 正直なベルに思わず銀時は苦笑する。

 18階層の時、ベートは団員の解毒の為に先に地上へ戻っていたのである。だからベルとベートは鉢合うことはなかったのだ。

 

 

「ベル、そうはいうけどよぉアイツだっていいとこはあるんだよ」

 

「は、はぁ…」

 

「18階層で休息(レスト)取ってた時も解毒薬取りに地上へパシらされたり…まぁ扱い易いんだよアイツ」

 

「えぇ………」

 

「“く”るしい時、“そ”んな時、頼りになる“ベート”。略して────」

 

「“クソベート”じゃないですか」

 

 

 銀時に振り回される者として少しだけベートに親近感が湧いたベル。だからといって苦手意識が消えるわけではなかったが。

 

 

「師匠」

 

「ふわぁ…んだよ」

 

「師匠の木刀と同じ物をこの前見たんです」

 

「ん?」

 

「黒のゴライアスと()りあった時のことです。突然上から木刀が降ってきたんですよ」

 

 

 馬鹿みたいな話だかベルはしょうもない嘘はつかない。銀時はそれを知っていた。半分流しつつも耳を傾ける。

 

 

「それで最後の一撃はその木刀で放ったんです。触れれば触れるほど師匠の木刀とそっくりなんです。まぁ木刀は使われた形跡が全くなかったんですけどね」

 

「……その木刀はどうしたよ」

 

「わかりません。目が覚めたらその時にはありませんでした」

 

「見間違いだ見間違い。大体なぁこれァ全てが桜の木で出来ている山にある千年桜の枝で作ってんだ。そう簡単に似たもんがホイホイあってたまるかよ」

 

「そう、なんですね。やっぱり見間違いかもしれません」

 

「お(ピー)ぎと(ピー)コとク(ピー)ス松村が同じ(ツラ)に見えるのと一緒一緒。気にすんなよ」

 

「それはさすがに無理があります師匠。同じ(ツラ)じゃなくて同じ(カマ)です師匠」

 

 

 暫く心地よい沈黙が続く。

 ベルも暖かな光に眠気を誘われ、意識が飛び掛ける。だが聞いておきたいことが出来たのでゆっくり口を開いた。

 

 

「見たことあるんですか?その…山全てが桜っていう」

 

「ねェ」

 

「…ないんです、か」

 

「あぁ。見に行く予定はあったが結局見に行くことはなかったな」

 

「じゃあ見に行きましょう!」

 

「……そう、だな。いつかな」

 

「はい!いつか!約束ですよ!!」

 

 

 隣を見ずともベルが満面の笑みを浮かべているのが銀時には分かった。二人はそのまま眠りについた。穏やかでありながらとても幸せそうな顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなぁ〜おつかれさん!!かんぱぁぁぁぁい!!」

 

 『かんぱーい!!』

 

 

 ロキの音頭で盛大な酒宴が始まる。

 場所はあらかじめ予約しておいた“豊穣の女主人”。爽やかな果実酒や鶏の香草焼き、その他の様々な食欲をそそる料理が次々と運ばれてくる。それに負けることなく団員達は料理にかぶりついた。

 

 

「どうぞサカタさん」

 

「お、おう………」

 

 

 銀時の隣にはリューが座っていた。

 店主であるミアからの許可をもらい銀時の酌を務める事になったよだ。これは遠征に出発する前の約束に原因がある。

 

 

(ま、悪くねェな……グヘヘヘへ)

 

 

 周囲から視線が飛んでくるもののこの状況は男としての理想そのもの。アホ面になるのも仕方ないと言える。

 

 

「師匠も師匠なら弟子も弟子だと思いました」

 

「ん?」

 

「クラネルさんのことです。彼は貴方によく似ている」

 

 

 感慨深げにリューはそう呟いた。

 銀時はふっと頬を釣り上げると、弟子だからな、と一言だけ呟いた。

 

 

「どうしたのアイズ?」

 

「いや…別に」

 

「あ、銀さんのとこ行きたいの?私に任せて!」

 

 

 独特の雰囲気を作り上げていた銀時とリューにティオナが割り込む様に話し掛ける。アイズもちょこちょこと後からついていく。

 

 

「ねぇねぇ銀さん!アイズもお酒注ぎたいんだって!」

 

「お?頼むわ」

 

 

 ぎこちないがアイズも銀時にお酒を注いであげている。

 美少女二人を侍らせている銀時だが少し離れたところから射抜くレベルの視線が飛んで来ていることに対しては無視を決め込んでいた。

 

 

「体大丈夫?」

 

「お、おう。ケツの穴以外は問題ねぇよ」

 

「良かったぁ」

 

 

 少しだけ銀時の声が上擦ったのはアイズが銀時に密着しながら酒を注いでいるからである。勿論、計画的ではなくてただの天然だが。

 

 

(アイズの胸がヒットアウェイ!!俺のお猪口にお酒がワークアウェイ!!俺の気持ちはフライアウェェェェェイ!!)

 

 

 どんどんお酒のペースが上がっていく銀時。

 ストップを掛けるべきところなのだがリューとアイズの酌はちょっとした張り合いに発展しており、交互に止まることなく注いでいる。

 

 

「私にもさせてさせて!」

 

 

 ティオナがリューとアイズの張り合いが楽しそうに見えたのかそう言った。アイズは断ることも出来ないのでしぶしぶ変わる。

 

 

「エヘへ〜どうぞ!」

 

(…………寂しいな)

 

 

 天真爛漫な笑顔を振り撒いているティオナだが銀時の心情は胸の感触が無くなったことによる悲哀に包まれた。それを敏感に察知したのかティオナは頬を膨らませて銀時に詰め寄る。

 

 

「む〜今銀さん何か失礼なこと考えた!!」

 

「いんやヒンドゥー教とニュージーランドのこと考えただけだ。いやホント」

 

「……略して?」

 

貧乳大地(ヒンニューランド)

 

「ひどいっ!!!」

 

「ごぶふぁっ!!」

 

 

 腰の入った拳が銀時の頬に突き刺さり店の外へ吹き飛ばす。

 何事かと視線を集めたが吹き飛ばされたのが銀時だと知り、ファミリアの団員は『なんだいつものことか』と食事へと戻った。

 

 

「痛っってぇぇぇなぁぁぁぁ!!」

 

「バーカバーカ!銀さんのバーカッ!!この腐れ天パ!足臭!死んだ魚の眼!うわぁぁぁぁぁん!!」

 

「ゴラァ銀さん!妹泣かせてんじゃねぇぇぇぇ!」

 

「あっ!マヨネーズが落ちたじゃねぇかバカゾネス!!」

 

「んだとこのバカウルフ!!表出ろゴラァ!!」

 

「二人とも落ち着いて、ね?お願いだから団長の僕を困らせないでくゴフッッッ!!!」

 

「銀ちゃん、ヒック。みんな……ケンカ駄目だよ?ヒックヒック」

 

「誰じゃいアイズに酒を飲ませた奴は!ケンカを止める為にフィンの頭を(はた)いたぞ!!」

 

「……上等だテメェらァァァ!!ドSのフィンちゃんの力見せてやらァァァァァ!!」

 

「フィンに変なスイッチが入ってもうた!!ガレス!リヴェリア!はよ止めてェェェェ!!」

 

「どうせ私なんか形だけの【王妖精(ハイエルフ)】ですよ……グスン」

 

「リヴェリアの泣き上戸ォォォ!!ひっさびさに見たで!!レアやけどそんな場合やない!!ヘルプぅぅぅぅ」

 

「もう無理だZ。全員粛清対象だZ」

 

 

 全員、店主のミアにボコボコにされたとだけ記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頭いてえ……なんだここ」

 

 

 銀時がガバッと体を起こすと知らない天井だった。

 周りを見渡せばその部屋は一面のピンク。どう考えてもあの部屋である。

 

 

「なんで俺裸……へ?嘘でしょ?K点超えた?超えちゃった?」

 

 

 身に起こった事実を把握し始めた銀時は顔を真っ青に染める。

 キングサイズのベッドの右寄りで寝ていた銀時は左側を向く。するともぞもぞと何かが布団の中で動いていた。

 

 

「かぁぁぁぁぁぁ……………」

 

 

 間違いなくK点を超えた銀時は白目を剥いて倒れ込む。だがこの状況で意識を失う訳にもいかず、もぞもぞさせている存在を確かめるべく布団を手に掛けた。

 

 

「お願いしますお願いしますお願いします。知り合いじゃありませんように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「K点どころか大気圏ぶち抜いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リヴェリアが産まれたままの姿で寝ていた。

 

 

 

 

 





これからも銀時の戦いは続いていく!

最後までお付き合い頂き有難うございました!

TouAの次回作にご期待ください!!


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最終章 その楔、万事につき
ROMANCE DAWN


 富・名声・力。

 

 嘗てこの世のすべてを手に入れた男。

 

 

─────スルメ王“ゴー(ピー)ド・ロ(ピー)ャー”

 

 

 彼の死に際に放った一言は全世界の人々を海へ駆り立てた。

 

 

 

「俺の財宝(スルメ)か?欲しけりゃくれてやるぜ…探せェッ!この世の全てをそこに置いてきた!」

 

 

 

──────世は正に天日干し時代!!

 

 

 

「お前とは利害が一致した。同行させてもらおう」

 

 

 ある約束の為に【ひとつなぎの大スルメ(O N E P I E C E)】を探すことになった戦う猪────ヒトヒトの身の能力者“オッタル”と。

 

 

「僕はただ壊すだけだ……この腐った世界を」

 

 

 世界を壊したいだけの衝動に駆られている世にも恥ずかしい中二病患者────鬼兵隊総督“ベル・クラネル”と。

 

 

「べっ別にアンタのことなんか好きじゃないんだからねっ!勘違いしないでよねっ!」

 

 

 朝から晩までツンツンしているエルフの王────ぬいぐるみ大好き“リヴェリア・リヨス・アールヴ”と。

 

 

「ちょっと待たんかいぃぃぃぃぃ!!」

 

 

 ツッコミ眼鏡────“ラウル・ノールド”と。

 

 

「天パ神剣伝承者であり飛天御剣流の使い手である私が来た!!行くぞっ!卍解ッ“多重影分身の術”!!」

 

 

 ひょんなことから酒のツマミが欲しくなった天パぐるぐる侍の“坂田 銀時”は、スルメ王が残したと言われる【ひとつなぎの大スルメ(O N E P I E C E)】を探し海へ!!

 

 

 

「行くぞテメェらァァァァ!出航だァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!銀さん怒られるッス!!ごちゃごちゃし過ぎッス!!」

 

 

「うるせぇぞラウル。大体こんなんだったろ」

 

 

「どこがだっ!ちゃんとして下さい!大体それをするにしても俺の説明が雑過ぎるッス!」

 

 

「合ってるだろ。ちっちゃい事ばっかり気にするからテメェのキャラの扱いに困ってんだよ作者は」

 

 

「知ったこっちゃないッス!!ツッコミ不在のこの作品なんざカオスなだけッス!!これから最終章に入るんでしょ!?真面目にしてください!」

 

 

「わぁったわぁったよ。ちゃんとやるから。↓にちゅうもーく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乾いた空気に頬を刺すような風。

 足元から背筋まで這うように伝う冷気がひりつく空気と共に緊張を加速させる。

 向かい海岸にある、周囲を無言で威圧するほど巨大なファミリアのホームを静かに見つめる銀時とその一行。そのホームから数人の猛者たちが銀時らを見下ろしている。

 

 

「ベル、あの旗を撃ち抜け」

 

「了解。【ファイアボルト】」

 

 

 風に靡いていたファミリアのシンボル旗を正確無比に魔法で撃ち抜くベル。それを意味する事は宣戦布告以外にない。

 向かいで高らかに笑っていたファミリアはその光景に目を丸くし、憤怒に顔を赤く染めた。

 ただその中にも顔を絶望に染めている女が一人いた。女は猛者の一人に腕を縛られ、殺気を浴びせられていた。だがその女は撃ち燃やされた旗を見て、今にも涙が溢れんばかりに表情を崩した。

 

 

「────なんてことをっ!」

 

「まだお前の口から聞いてねェェェェェ!!」

 

 

 銀時の咆哮は万里に轟く雷音の如く、人々の心を奮わせた。

 自然に頬が釣り上がるのを止める者は誰一人としていない。ただ静かに闘志を燃やした。

 

 

 

 

「食べたいと言えッッ!!」

 

 

 

 

「食べたいッ!!」

 

 

 

 

 女の涙腺が決壊した。震える声で希望を口から漏らした。

 その言葉に呼応する様に銀時一行は各々の得物を抜き放ち、女を捕らえていたファミリアの猛者達も臨戦態勢に入った。

 

 

「私にもスルメを分けて頂戴ッ!!」

 

 

「今行くぞッ!フレイヤァァァァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うだろォォォォォォ!このハゲェェェェェェェェ!!」

 

 

「ハゲてませんー!天パなだけですぅ」

 

 

「どうやったら二章の最後から↑に繋がるんスか!!繋がってたのは最初のフザけたモノローグでしょうが!!いい加減にして下さいッス!!」

 

 

「だからいい加減にしたじゃねぇか」

 

 

「屁理屈言うなッ!!どうしてこうなったんですかっ!」

 

 

「作者が彼女にフラれて凹んでるからだろ。ヤケクソだヤケクソ」

 

 

「ざまぁないっスね!フォォォォォォォ!!」

 

 

「ってことでさっさと最終章始めんぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

最終章 その楔、万事につき

 

 

 

 

 

 

 

 スタァァァァトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

 

 

 




わたくしTouAは一言も()()()()なんて言ってませーん。


二章が完結しただけです。これから最終章。最後までお付き合い下さい。


次回からはきちんとします。二章の続きから。


ではまた次回!期待を込めての感想、評価お待ちしてます!!


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事件は会議室ではなく、ラブ○テルで起きてました!!


お久しぶりです!!

そこそこの量は書いたのでお楽しみください!!

前章までのあらすじはタイトルに書いてます。はい。


 

 

 

「オ゛ェェェェェェェェエエエエエエエエ!!」

 

「………ふんっ」

 

 

 陽が昇り始めた早朝、ラブ(ピー)テル横の路地裏。

 銀時は吐いていた。其れはもう流れ落ちる滝の如く、マーライオンの如く、口から吐瀉物を吐き出していた。

 隣には顔を赤らめたまま、心配そうに銀時を見つめるリヴェリアがいる。だが口は尖っており、何か不満があるがことが見て取れる。

 

 

「お、おい……」

 

「にゃっ……んんっ、何だ銀時」

 

「あ、あの……俺、悪いんだけど…な、何も覚えて……ないんだ…けど」

 

 

(何で悪いとか思ってんの俺!?何でちょっと気遣ってんの俺!?気持ち悪いんだけど!!)

 

 

「そ、そうか……グスッ」

 

 

  (何でグズっちゃってんの!?何でちょっと乙女出してんの!?振り向きたくても振り向けないんだけど!?)

 

 

 吐瀉物を地面にぶち撒けまくってもう胃液しか出てこない銀時はこれからどうしようかと思考する。だが二日酔いのせいなのか思いの外良い案が出て来ない。

 

 

「………ズズッ、つ、都合が良いな。私も覚えていない。二人とも覚えが無いんだ……な、何も無かった。其れでいいではないか。お、お互い…今回の事は……忘れよう。うん、忘れよう」

 

 

(忘れられる訳ねーだろうがァァァァ!!こんなとんでもイベント!!)

 

 

「そ、そうか……な、なんか…すまなかったな」

 

 

(すまなかったって何!?オイもう何言っても気持ち悪いことしかならねェぞ!!)

 

 

()せ、気持ち悪い。実際な、何も無かったかもしれないのだ」

 

「そ……そうだな。何も…無かったよな。酔い潰れてただ同じ場所で寝てただけだよな、きっと」

 

 

 二人はラブ (ピー)ホテルの路地裏から時間差を置いて出ると、各々が反対方向を向いた。互いに目は一度も合っていない。

 

 

「そ、そろそろ帰ろうか……団員の皆が心配してるかもしれん」

 

「あっ…べ、別々に帰った方が良いね。や…ややこしい勘違いされても………アレだし」

 

「じ、じゃあね……銀時」

 

「あ…あぁ」

 

 

(何で社内恋愛みたいになってんのォォォォォォ!!同伴出勤をバレない様に別々に行くみたいなカンジになってんのォォォォォォォォ!!)

 

 

 お互いが別方向に向かって歩き出した瞬間、銀時は奇声を上げながら無我夢中にオラリオをひた走った。

 一方のリヴェリアはと言うと────。

 

 

「グスッグスッ……ぎんときのばぁか」

 

 

 一人グズりながらオラリオの街をふらふら歩いた。

 なぜ泣いているのかという理由はリヴェリア以外、知り得ることは無かった。唯一、後に遭うドS(フィン)だけはなぜ泣いているのか察する事が出来た。

 

 

 

 

 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 

 

「オ゛ォ゛ェェェ……気持ち悪い」

 

 

 暫くがむしゃらに走った銀時は再び気持ち悪くなり路地裏で吐いていた。それを見掛けたウェイトレスが一人、銀時に近寄ってくる。

 

 

「ぎ、銀時さん…大丈夫ですか?」

 

「………シルか」

 

 

 銀時らが打ち上げの時に使っていた店“豊穣の女主人”の店員である“シル・フローヴァ”である。

 シルは銀時の背中を擦り、介抱する。幾らかマシな表情になったと判断したシルは銀時に問うた。

 

 

「あの銀時さん」

 

「……ん?」

 

「リューと何かあったんですか?」

 

「へ?リューと?」

 

 

 銀時はリヴェリアとの出来事を“豊穣の女主人”の店員や【ロキ・ファミリア】の団員達に知られていないか、その一点だけが不安だったのだが新たにシルの口からもたらされた情報に混乱する。

 

 

「さっきまでリューと買い出しに来てたんです。それで吐いている銀時さんを私が見付けて『介抱しないと』とリューに言ったんです。するとリューが『あんな不埒な男苦しめばいいんです』って言って先に帰ってしまって……」

 

「………」

 

「昨日私は忙しくて銀時さんの方に関わってないから……何か、心当たりでも有りますか?」

 

「…リューはどっちに行った?」

 

「あっちですけど」

 

「すまねェ!」

 

 

(リヴェリアとの不祥事をリューが知ってる可能性が有るぅぅ!?そういやアイツ、俺の横で酌に付き合ってくれてたな!!マズイぃぃ!)

 

 

 昨夜の事を徐々に思い出し始めた銀時はリューに口止め、加えて昨日に何があったのか諸々聞き出す為にまた走った。

 リューの背中が見えてくると銀時は力を振り絞り、リューの正面へ回った。息切れしながらもリューに問いかける。

 

 

「ゼェハァ、ゼェハァ……リュー」

 

「な、何ですかサカタさん」

 

「昨日の事なんだが……」

 

「き、のう…ね」

 

 

 銀時の“昨日”という言葉に顔を顰めるリュー。

 その表情から銀時はリューが昨日何があったのかを知っていると確信した。

 

 

「いやぁ…あの、さ、昨日の事は俺、全く覚えてなくて……」

 

「何も覚えてない、ですって?」

 

「そうなんだよそうなんだよ……それで何が起きたかちょっっっと聞きたいかなぁって銀さん思っちゃってさ?何か…知ってる?」

 

「………」

 

 

 銀時はあくまで“覚えてない”という体でリューにカマかけた。何も知らないのなら其れは其れでこの話は終わりだからである。

 

 

「ホントに……覚えてないんですね」

 

「あ…あぁ。だから何かあったのなら教えて欲───ぶべらっ!!」

 

 

 リューから放たれた渾身のストレートが銀時の頬に突き刺さった。

 何度も空中で回転しながら銀時は吹き飛ぶ。起き上がると鼻血がポタポタと零れ落ちていた。そして銀時は何で殴られたのか、なぜリューも()()()()()()()分からなかった。

 

 

「わ、私の()()を奪っておいて……何も覚えてないなどとよく言えましたね!!!最低です!ホントにお酒の勢いだけだったんですね!!幻滅しました!!……もう私の前に現れないで下さい!!」

 

 

 そうリューが銀時に向かって吐き捨てると目に涙を浮かべながら走り去っていった。

 銀時はそんなリューの背中を見ながら暫し放心した。そして────。

 

 

(……私の純…潔?私ってどーいう事だ?え?リヴェリアのじゃなくて…え?リューの?……………えっ?え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え!!!!!)

 

 

 事の大きさに気付いた銀時は何もかも忘れたくて二度、オラリオをがむしゃらに奇声を上げながら走った。

 

 

(まさか俺は…俺はァァァァ!!リヴェリアだけでなくリューもォォォォ!?そんな、そんなバカな!信じない!信じないぞぉぉ!!これが現実なら二つ名が【白夜叉】から【妖精と一発(エルフキラー)】になっちゃうんだけど!?夢なら醒めてェェェェ!!)

 

 

 

 

 

 

 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 

 

 

 

「銀ちゃん?」

 

「アイズぅぅぅぅぅ!!」

 

 

 一周回って【ロキ・ファミリア】のホームに帰って来た銀時は丁度玄関から出て来たアイズと鉢合わせた。

 アイズの何時ものキョトン顔に心底安心した銀時は目に涙を浮かべながらアイズに抱き着いた。例えるなら青ダヌキに便利道具をせがむ丸眼鏡の少年と同じ図である。

 

 

「どうしたの銀ちゃん?」

 

「俺は…俺は……汚れちまったんだよ真っ黒な灰に」

 

「?」

 

 

 銀時の言っている意味がピンときていないアイズはただ首を傾げるだけだった。

 それが銀時にとってどれだけ助かる事実だったのかアイズは知らない。アイズが知らないという事は他の団員の面々も知らない可能性が大きいという証明でもあったからだ。

 

 

「銀ちゃん帰ってくるの遅かったね……朝帰り?」

 

「朝帰りじゃねェェェェ!!」

 

 

 

 “朝帰り”の意味を理解していないアイズ。

 アイズが問うたのはそのままの意味であったのだが銀時はそう受け取る事は出来なかった。今の状況と合致し過ぎているのもあるからだ。

 

 

「ぎ、銀ちゃん……声大きい。鼓膜破れちゃうよ」

 

「処(ピー)膜なんて破ってませんんん!!」

 

 

 銀時はもはや気が動転してきちんと意味を受け取らない、というより勝手にそっち路線に言葉が脳内変換している。肩に手をおいて決死の表情でアイズに訴えかける銀時の目は血走っていた。

 

 

「だってもう朝、だよ?」

 

「あ…あ、朝だけれどもやめろその言い方!!あ、あの俺、起きたらゴ…ゴ…ゴミ捨て場に転がってた!!の、飲みすぎちゃった!!アハハ〜〜〜!!」

 

「そうなんだ。さっきリヴェリアも朝帰りしてゴミ捨て場で寝ていたから秘密にしておいてくれって………」

 

「べっ別に一緒のゴミ捨て場じゃないからね!!俺のゴミ捨て場とリヴェリアのゴミ捨て場は全く別の所だからね!!一緒に寝てた訳じゃないからね!勘違いしないでよねっ!!」

 

 

 必死に弁明する銀時だがアイズはそれでも首を傾げるばかりだ。なぜなら銀時が勝手に自爆して勝手に慌てているだけだからだ。

 

 

「あっご飯出来てるよ」

 

「そ、そうか……今日のメシはなぁにっかなぁ〜〜〜!」

 

「えっと確か…お赤飯だよ」

 

「………せ、赤飯?何で?」

 

「何でって……オメデタだから?」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 

 アイズの言葉で全てを察した銀時はホームに帰らずにまたオラリオの街へ駆け出した。

 アイズはなぜ銀時があんなに苦しそうな顔をしていたのか分からなかった。暫く考えに耽っていると背後から声を掛けられた。

 

 

「アイズ」

 

「フィン」

 

「銀時は?」

 

「どっかに行っちゃった」

 

「そうか…早く帰ってくると良いけど。何せ今日は遠征やら何やらで祝えなかった銀時の()()()()をするからね。銀時の誕生日は10月10日で今日で丁度一ヶ月だから……アイズは何をあげるんだったかな?」

 

「ティオナやティオネと一緒に()()()を作ったの。東洋じゃ祝いの時はお赤飯を炊くって聞いたから……あとジャガ丸くん」

 

「ハハッアイズらしいや。僕は東洋から取り寄せた焼酎にしたんだけど、味気ないかな?」

 

「そんなこと無いよ。きっと喜ぶ」

 

「だと良いけどなぁ」

 

 

 準備がある、といってアイズは買い出しに出かけた。

 フィンはそんなアイズを見送り、優しく微笑んだ。遠征から帰って無事に全員で銀時の誕生日を遅れたとはいえ祝える事を心から嬉しく思ったからだ。

 

 

「僕とガレスはお酒で、アイズ達は手作りご飯……リヴェリアは何をあげたのだろう?まさかバージ………いや、号泣して顔をグチャグチャにしてたぐらいだから失敗したんだろうな。ハァ……」

 

 

 

 

 

 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 

 

「オヤジィ〜〜〜もう一杯」

 

 

 銀時は酔っていた。昼間だとか関係なく呑んでいた。やってられない、酒の勢いで全て忘れよう、と溺れるまで飲むつもりだった。

 

 

「いやぁ銀さん、そろそろ止めといた方がいいんじゃないの?まだ昼間だぜ?」

 

「うっせ、男には呑まなきゃやってられねぇこともあるんでィ」

 

「すまない、最後に一杯あげてやってくれ。俺が持つ」

 

「へ…へ、へいっ!」

 

 

 銀時に渋っていた呑み屋のオヤジであったが、そこに現れた巨漢の男に気圧されとっとと酒を出した。

 

 

「お、オッタル………」

 

「スルメの礼だ。酒を飲んで忘れるといい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺も…忘れる。昨夜のことは…………」

 

 

 

 

「お前もかいィィィィィィィィィィィィ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ヒロインはリューかと思った?リヴェリアかと思った?残念!

オッタルさんでしたァ!!(ゲス顔)

本当の事実はどうなのか。それは読者の皆さんのご想像にお任せします(全投げ)。

次回からちゃんと本編に入ります。はい。今回はリハビリがてらでした。


ゲームの《銀魂乱舞》マジで面白そうですよね!!だが出る時期が悪い……モンハンとかドラゴンボールとかと被ってる。やめてくれぇぇぇ!!


ではまた次回!!感想や評価をお待ちしてます!!


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戦争遊戯


12月2日、今週の土曜日ですね。
ヘスティア様のライブに行ってきます($・・)/

今回。
この作品初の1卍超え。あ、1万字超え。
ネタ無しのシリアス全開。いや待てこれシリアスかな?

取り敢えずどうぞ!!





「もぅ駄目じゃないベル君」

 

「す、すみません……エイナさん」

 

 

 僕はギルドでエイナさんに叱られていた。理由は昨日の打ち上げにある。

 

 

 + + + + + +

 

 

 昨日、僕とリリ、ヴェルフは【焔蜂亭(ひばちてい)】という如何にも冒険者の居酒屋!という雰囲気の店で中層の冒険の打ち上げをしていた。

 何時もの様に美味しい食事に舌鼓をうち、辛くも楽しかった冒険譚に花を咲かせていると、ある小人族(パルゥム)の冒険者が僕を冷やかした。

 

 

────嘘もインチキもやりたい放題の世界最速小鬼(レコードホルダー)はいいご身分だなぁ!

 

────あっ逃げ足だけは本物らしいな!昇格(ランクアップ)出来たのも、ちびりながらミノタウロスから逃げおおせたからだろう!?流石だな!

 

 

 冷やかしというより侮蔑だった。小人族(パルゥム)の冒険者の周りには其の冒険者を含めて同じエンブレムを付けた男が六人いた。皆が同じ様にせせら笑った。

 だが僕は不愉快ではあったけれど、口を閉じた。派閥同士の揉め事は避けた方がいいからだ。【ファミリア】のルールを入団直後から神様やエイナさんから叩き込まれている僕は、素直にその言いつけに従った────だが。

 

 

────知ってるか!?あの『小鬼(オルガ)』は他派閥(よそ)の連中とつるんでるんだ!売れない下っ端の鍛冶師(スミス)にガキのサポーター、寄せ集めの凸凹パーティーだ!

 

 

 僕が黙っておけば次の嫌味の矛先がヴェルフとリリに変わった。衝動的に立ち上がろうとした僕をヴェルフとリリは僕の服を掴み、首を横に振って制止した。気にするな、言わせておけ…二人の目はそう語っていた。

 だがその姿が気に食わなかったのか、徹底された無視が癪に障ったのか、次には彼等は大きな舌打ちの後に声を荒らげた。

 

 

────威厳も尊厳も無い女神が率いる【ファミリア】なんてたかが知れているだろうな!きっと()()()()()()()()()()()、眷属も腰抜けなんだ!!

 

────取り消せ。

 

 

 瞬間、視界に火花が弾けた。

 心は怒りに支配されていた。だがあくまでも冷静を徹した。その分、言葉に気持ちを乗せた。ふつふつと湧き立つ怒りが乗っていた。

 神様を────尊崇する己の主神を侮辱された。これ以上に屈辱的で激しい怒りを覚える事柄は存在しない。

 

 束の間酒場は静まり返っていた。僕の静かな怒りと漂う気配に目の前の小人族(パルゥム)の男は、怖気付いたのか、目に見えて怯えた素振りを見せた。けれど何とか嘲笑を纏い直し、震える声で続けた。

 

 

────ず、図星かよっ。あんなチビで“紐神様”が主神で恥ずかしくて堪らないんだろう!?

 

 

 抗う事の出来ない感情の波が全身を無意識に突き動かした。冷徹で在ろうとしたが、流石に我慢の限界だった。

 リリがいけませんっと声を荒らげる。その声を振り払い、目の前の小人族(パルゥム)の冒険者の胸ぐらを掴む。

 

 

────神様は“ヒモ”なんかじゃない!ちゃんとじゃが丸君を売ってるし、ヘファイストス様のところで働いてるんだ!!

 

────いやそっちィ!?そっちの“ヒモ”じゃないんだけど!?

 

────……………諸々取り消せ。

 

 

 冒険者のツッコミで噛み合ってない事を理解した僕は顔が紅潮しかるが、現状を省みて再び冷静になる事が出来た。

 だが彼等が神様を侮辱した事には変わりない。言葉のニュアンスからして神様を()()()()()で見ていることも判った。本心でないにしろ、誰かから言わされてるにしろ、僕の(はらわた)が煮えくり返っている事には変わりなかった。

 

 

────て、手を離せっ!

 

────謝罪が先だ。

 

 

 胸ぐらを掴む手首を内側に返して、更にキリキリと絞める。

 苦痛と恐怖に歪み始める顔を見た仲間の巨漢の男が僕に向かって拳を振りかぶった。

 僕は顔を逸らすだけでその拳を躱す。躱された巨漢の男は全身を使って拳を振りかぶっていた為、体制を崩した。僕は反対の手で巨漢の男の顔面を掴んだ。俗に言うアイアンクローだ。

 

 

────やってくれるな、『小鬼(オルガ)

 

 

 謝罪を拒む小人族(パルゥム)の冒険者は僕の圧に気絶し、巨漢の男は泡を吹いてダランと垂れた。僕は二人を出来るだけ優しく寝かせると、冒険者の仲間であろう美青年の男が僕にそう言った。

 其の男、茶色の髪は品良く纏められていて、色白の肌は女性の様にきめ細かく、金属のイヤリングを始めとした、様々な冒険者用装身具(アクセサリー)を派閥の制服の上に身に付けていた。

 

 

────僕達を侮辱したのは貴方達だ。相応の報いを受けさせたまでです。

 

────だが先に手を出したのは貴様だ、小鬼(オルガ)

 

 

 ちらほらと酒場の冒険者から目の前の美青年ヒューマンが【Lv.3】である事を話している。僕は未だに【Lv.2】。目の前の男性と差がある事は明白だったけど、引けなかった。引ける訳が無かった。

 

 

────では、こうしましょう。

 

────なに?

 

────ここで全てを清算する。

 

 

 僕がナイフを振り抜き、地を滑空するのと同時に美青年の冒険者は腰に携えてある波状剣(フランベルジュ)を抜き放つ。

 刹那の一瞬だけ視線が交錯し、銀閃走る剣閃がぶつかり火花が散る。

 

 

────バッゴォォォン!!

 

 

 僕達が次のモーションへ移るとき、【焔蜂亭】の端で蹴り上げられた机が宙を舞った。

 僕達が音の方へ視線を送ると、椅子に座りながらテーブルを蹴り上げた、灰色の毛並みを持つ狼人(ウェアウルフ)の青年がいた。

 

 

────雑魚の喧嘩は目障りだ。不味い酒が更に不味くなる……あァ暴れ足りねェんなら俺が相手してやるよ。こちとらマヨネーズが欠乏( イ ラ イ ラ )してんだ。

 

 

 師匠と同じファミリアのベートさん。忘れもない、僕を【豊穣の女主人】で散々罵った人。師匠の話で悪い人では無いことは知ってけど、苦手意識はまだ根強く残っている。

 青年は『興が冷めた』と言うと踵を返して帰って行った。最後に僕を冷めた視線で一瞥したけど。

 

 

 + + + + + +

 

 

 そんなこんなで侮辱されたとは言え、手を出してしまったのは僕だ。散々言われていた『他ファミリアと揉め事を起こすな』というルールを破ってしまった為、エイナさんに僕は叱られている。

 

 

「昨日ヘスティア様にこってり絞られただろうからあんまり言わないけど……今度から気を付けてね?約束だよ?」

 

「は、はい……」

 

 

 エイナさんから優しい忠告を受けた僕はギルドを後にする。エイナさんはいつもの様に僕を外まで送ってくれる。

 ギルドを出ると僕を待ち構えていたかのように二人の少女が姿を現した。

 

 

「ベル・クラネルで間違いない?」

 

「は、はい」

 

 

 気の強そうなショートヘアーの少女が尋ねてくる。頷くと、今度は後ろに控えている柔らかそうな少女がおどおどしながら歩み出てきた。

 

 

「あの、これを……」

 

 

 遠慮がちに差し出される一通の手紙。いや───招待状。

 上質な紙に封蠟(ふうろう)が施されており、差出人が判るように徽章が刻印されている。そして刻まれているのは、()()()()()()()()()()()

 このエンブレムは昨日にひと悶着起こしたファミリアと同一だ────【アポロン・ファミリア】。射手と光明を連想させる弓矢と太陽のエンブレム。

 エイナさんが耳打ちで、恐らく僕より年上の二人の事を、吊り目の少女が“ダフネ・クラウス”さんで“カサンドラ・イリオン”さんである事を教えてくれた。二人共【Lv.2】の第三級冒険者だという。ちなみに僕が剣を交えた美青年の人は“ヒュアンキントス・クリオ”といって【アポロン・ファミリア】の団長だったらしい。

 

 

「アポロン様が開く“宴”の招待状で、です。べ、別に来なくてもいいんですけど……」

 

「必ず貴方の主神に伝えて。いい、渡したからね?」

 

「わかりました」

 

 

 訝しみながら了承するとダフネさんたちは身を引いた。それ以上、話すこともないのだろう。短い髪を揺らすダフネさんは僕を見て去り際に呟いた。

 

 

「ご愁傷さま」

 

 

 ダフネさんはそれ以上何も言わなかった。

 僕はエイナさんと立ち尽くしながら、手元にある招待状を見下ろした。

 

 

 

 × × × × × × × × × × × × × × × ×

 

 

 

 馬車が止まる。

 馬の嘶きが響く中、高級な作りの扉を開いて、一人先に外へ。

 着慣れていない礼服───いわゆる燕尾服を身に纏う僕は、これまた上品な革靴を鳴らして地面に降り立った。

 ぎこちない動きで振り返り、次に降りてくる少女───ヘスティア様に手を貸す。ヘスティア様は僕と同じ様に正装のドレスで身を包んでいる。

 

 

「ありがとうベル君。ちゃんとエスコートできるじゃないか」

 

「いえ……」

 

 

 僕と神様は、結局アポロン様の宴の招待に乗った。諍いを起こしてしまった負い目も相まって、だけど。

 この燕尾服。僕が着るとまるで田舎の人が背伸びした様にしか感じない。やっぱり僕は()()()()()()()()()のだと痛感した。

 

 

「大丈夫だぜベル君。似合ってるよ」

 

 

 そう鼻を抑えながら言ってくれる神様の言葉を疑うわけじゃないけれど、年相応ってのがあると思う。

 話は変わってアポロン様の開く『神の宴』。普通は神様だけが参加なんだけど今日は趣を変えて眷属の一人を同伴させることになっていた。ヘスティア様は僕を、ミアハ様はナァーザさんを、タケミカヅチ様は(ミコト)さんを精一杯おめかしして連れて来ていた。豪奢な玄関ホールを抜け、大広間へ来るとヘルメス様とアスフィさんが。ヘルメス様は緊張している僕や(ミコト)さんに話し掛けてくれて、解してくれた。

 

 

『諸君、今日はよく足を運んでくれた!』

 

 

 人と神が多く集まると高らかな声が響き渡った。

 日の光を放つブロンドの髪は、まるで太陽の光が凝縮した様に煌々と艶がある。口元に浮かべている笑みも眩しく、その端麗な容貌は男の僕でも目を奪われてしまう。頭の上には緑葉を備える月桂樹の冠、左右には男女の団員を控えている───あれがアポロン様だろう。

 

 

『多くの同族、そして愛する子供達の顔を見れて、私自身喜ばしい限りだ────今宵は新しい出会いに恵まれる、そんな予感すらする』

 

 

 客席を見渡していたアポロン様の視線がこちらを射抜いたような気がした。

 僕はその視線が意味する事が何なのか判らない。だが何だか不快であった事には変わりなかった。眉をひそめ、怪訝な表情を見せると神様が心配そうにこちらを覗き込んだ。大丈夫です、とそう伝えた。

 

 

『今日の夜は長い。上質な酒も、食も振る舞おう!是非、楽しんで行ってくれ!!』

 

 

 アポロン様はその言葉を最後に両手を広げた。呼応する様に男性の神様達が歓声を上げる。沢山の人が洒落たグラスを掲げ合い、たちまち大広間は騒がしくなった。

 ファミリア同士の禍根を残しておきたくない僕と神様は後々アポロン様のところへ伺うことを決めて、今は取り敢えずこの宴を楽しむことにした。

 

 暫く美味な料理に舌鼓をうち、話したことが少ない神様達と談笑していると、ざわっっと広間の入り口から大きなどよめきが起こった。

 

 

「おっと……大物の登場だ」

 

 

 ヘルメス様がおどける様に言う。人込みの奥にしせんをとばすと、何が騒ぎになっているのか、一瞬で理解してしまった。

 

 

「あ、あれって……」

 

「フレイヤ“様”だよ、ベル君。【フレイヤ・ファミリア】の名前は知っているだろう?」

 

 

 僕はヘルメス様の言葉に頷く。

 その【フレイヤ・ファミリア】は師匠が所属する【ロキ・ファミリア】と並ぶ最強勢力の派閥。オラリオの頂点に君臨するこの二強の派閥は迷宮都市の双頭と比喩されるほどだ。

 フレイヤ様の登場を境に、場は一気に盛り上がった。それほどまでに彼女は美しい。銀の双眸を持つ美貌も、大きな胸やくびれた腰を閉じ込めた天の衣の様なドレスも、一つの動作でさえも、沢山の視線を釘付けにしている────でもなぜだろう?

 

────フレイヤ様はどこか師匠と同じ臭いがした。

 

 それについては一向に説明が出来ない。ただそう思った、それだけだ。もしやフレイヤ様は師匠と同じで見た目に反して()()()()()()()()。まさか美神であるフレイヤ様に限ってそんなことは無いだろうけど。

 

 

「久し振りね、ヘスティア。神会(デナトゥス)以来かしら?」

 

「っ……やぁフレイヤ、何しに来たんだい?」

 

「別に挨拶をしに来ただけよ?珍しい顔ぶれが揃っているものだから、足を向けてしまったの」

 

 

 そう言ってフレイヤ様は僕達の側にいる男神、ヘルメス様、タケミカヅチ様、ミアハ様に流し目を送った。

 蠱惑的なその視線に、ヘルメス様はあっという間にデレデレし出し、タケミカヅチ様は軽く赤面しつつ「おほん」の咳払い、ミアハ様は「今宵もそなたは美しいな」と普通に褒めた。

 

 

「ぐあっ!?」

 

「うっ!?」

 

「ぬおっ!?」

 

 

 まぁ直後に眷属である女性達に足を踏まれ、(つね)られ、打撃されていたけれど。まったく……少しは女心を男の神様達は察しないと。まっ僕は師匠に鍛えられているから察せるけどね!

 

 

「痛っ!」

 

 

 心で誇っているとヘスティア様からツインテビンタをされた。何で?

 口を尖らせてぶーぶー言う神様を他所にフレイヤ様は僕を見て、優しく微笑む。するりと手が伸びて来て僕の頬を撫でる。

 

 

「今夜───私に夢を見させてくれないかしら?」

 

「見せるかァ!」

 

 

 僕の代わりに神様が吠える。頬を撫でている手をツインテで叩き落とし、真っ赤になって激昂した。

 神様は早口でフレイヤ様にまくし立てているけど、途中から僕の悪口になっているのは気のせいだろうか?師に似て鈍感だの、唐変木だの、褒められてはいないな。うん。

 

 

「あら残念。ヘスティアの機嫌も損ねてしまったようだし、もう行くわ。オッタル」

 

「はい」

 

 

 ヘスティア様の反応をひとしきり楽しんだフレイヤ様は側にいた従者に声を掛け、僕達に背を向けた。従者はニM(メドル)を超えており、手には一杯のスルメが……ん?スルメ?何でスルメ?

 

 

「よぉードチビ。早速色ボケにちょっかい出されたなぁ」

 

「ロキ!?」

 

 

 ヘスティア様が叫んだ先、そこには男性用の正装をした朱髪の女神様がいた。

 そしてその隣には。

 薄い緑色を基調にした美しいドレスを身に纏った金髪金眼の少女───アイズさんがいた。着慣れていないのか、とても恥ずかしそうにしている。

 

 

「ぁ……」

 

「………!」

 

 

 おとぎ話から飛び出したお姫様の様なアイズさんの姿に目が離せない。

 薄い緑のドレスは胸元と背中が開き、そのほっそりとした肩まで剥き出しになっていた。精緻な刺繍や装飾が施されていて、恐らく衣装作製を主導したであろうロキ様のお金と熱意が伝わってくる。

 金の長髪は一部を結い上げながら、背中の半ばまで降ろしている。頬の染まった可憐な相貌に細い首筋、谷間を作る胸、細い腰から広がっていくスカートまで。

 

 

 可愛い。異論は認めない。

 

 

 冒険者でも剣士の姿でも無い、女の子としてのアイズさんがそこにいた。

 目が合うと、少しだけ声を漏らして、すすすとロキ様の体の陰に隠れた。小さくもじもじと体を揺らしているのがわかる。

 

 

「ふーん、その少年がドチビの眷属()で銀時の弟子か……」

 

 

 暫く固まっている僕にロキ様は朱色の瞳を向けた。思わず口を噤んでしまう。ジロジロと無遠慮に見られ、少々居心地の悪い時間が続いた。

 

 

「おいドチビ」

 

「何だいロキ」

 

「この子、ウチがもろうてえぇ?」

 

「いいわけ無いだろっ!?」

 

 

 突拍子にそんな事をロキ様が言うものだから僕は言葉の意味がよく分からなかった。暫くしてとんでもない事を言われているのだと理解するとあわわわと頭の中がぐるぐる回り始めた。

 

 

「だって小さい頃の銀時とそっくりやん!その銀時より純粋やん!めっっっっちゃ可愛いやん!!」

 

「だからって駄目に決まっているだろ!?可愛いことは同意だけど!同意だけども!───ってあぁっ!?」

 

 

 僕はロキ様に引き寄せられ胸元で抱き寄せられた。ゴチンっと……虚しい音が響く。柔らかいけど固いという未開な感覚に僕は戸惑った。

 他の神様達がその様子に涙ぐむ。だけどヒートアップしているロキ様と神様はその様子に気付いた様子は無かった。

 

 

「離せこのまな板ァァァァ!!」

 

「うっさいわこの脂肪の塊ィィィィ!!」

 

 

 結局、神様をヘファイストス様達が、ロキ様をアイズさんが羽交い締めにするまで僕は解放されなかった。

 

 

 

 × × × × × × × × × × × × × × × ×

 

 

 

 

 神様達やアイズさんが二人の神様を宥め終わると、タイミング良く音楽が流れ始めた。田舎出身の僕でも聞いたことがある舞踏会とかでよく流れる曲だ。

 楽隊の素晴らしい演奏が満ちる大広間は薄暗くなっていた。天井にある魔石灯の光は抑えられ、唯一ダンスホールとなっている広間の中心だけが、月の光に照らし出された様に明るくなっていた。他の神様達はその中央で神様同士や眷属と美しく舞っている。

 ヘスティア様とロキ様はお互いぷんすかしながら逆方向の食べ物を取りに行った。残されたのは……僕とアイズさんのみ。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 気まずい。話したいことは沢山あるんだけど話せない。いや、何を話したら盛り上がるかとか色々考えたら何も言葉が出ないのだ。情けないです本当に。

 

 

「あのね」

 

「…へ?は、はいっ」

 

 

 見かねたのかアイズさんが声を掛けてくれた。あまりの情けなさに顔が紅潮する。師匠なら上手くやるんだろうなぁと思う。

 

 

一昨日(おととい)ね、銀ちゃんの誕生日会をやったの」

 

「し、師匠の?」

 

「うん。私は赤飯とか特製のじゃが丸君とか作ったんだ」

 

 

 アイズさんの話によると師匠の誕生日は一ヶ月ほど前であったらしい。だけど遠征と被ってしまったせいで祝えなかったそうだ。だから丁度一ヶ月後の一昨日に誕生日会をしたんだと嬉しそうに語っている。

 

 

「でもね、銀ちゃん酔い始めると……『やっちまった、やっちまったなぁ…ヤッちまったよぉ………』しか言わないの。どうしたの?って聞いても答えてくれなくて」

 

「そ、そうなんですね。何かあったんでしょうか?」

 

 

 そう言えば打ち上げ前に寄った『豊穣の女主人』で会ったリューさんも機嫌が悪かった様な……気のせいかな?

 僕とアイズさんの共通の話題は、それこそ冒険者である話と師匠の事しかない。共通の話題がある事は嬉しいけど、何だかそれが……とてもとても嫌だった。

 

 僕とアイズさんが話すのは“サカタ銀時”という一人の男の話題のみ。僕の会話の引き出しが少ないから仕方ないのかもしれない。でも僕は…僕は……!

 

 

 

「アイズさん」

 

 

 

「…ん?」

 

 

 

 隣から正面へ。彼女と向き合う。

 頭を下げ、大きな心臓の高鳴りと一緒に手を差し出す。

 

 

 

「僕と……私と踊って頂けませんか?」

 

 

 

 もしかしてこれが“嫉妬”というものなのかも知れない。

 とても醜い。僕とアイズさん(意中の人)の関係の間には“サカタ銀時(敬愛する師匠)”が居る。でも今、彼女の目の前に居るのは────僕だけだ。

 

 

 

「………喜んで」

 

 

 

 ドレスを纏うアイズさんは頬をうっすらと染め、微笑んだ。

 そっと重ねられた彼女の細い指を、勇気を振り絞ってぎゅっと握る。

 指を絡ませた僕達は、ダンスホールとなっている広間の中心へ赴いた。

 激しい鼓動が伝わってしまわないだろうかと気になりながら、滑らかな動きで踊り舞う男女の輪に加わる。左手は握り合ったまま、おそるおそるほっそりとした腰の辺りに右手を回すと、アイズさんも僕の方に手を置いた。

 

 

───その夢の様なひとときは。

 多分、僕の中で女の子に一番勇気を振り絞った瞬間で。

 拙かったけれど、一番頭と体を動かす事を考えた一瞬で。

 

 

 

「ダンスを踊ったのは、これが初めて……」

 

 

 

 彼女との初めてを一緒に共有出来た幸せな片時で。

 若輩な僕が少し大人びた事をした長い人生の僅かな瞬刻で。

 

 

 

「だから、嬉しい………ありがとう」

 

 

 

 凛々しい彼女の表情から零れ落ちた、幼い少女の笑顔を。

 きっと【剣姫】なんかじゃない、本当の彼女を見れたひとときで。

 

 

 

 少しだけ“(おとこ)”になれた刹那の一瞬だった。

 

 

 

 

 

 × × × × × × × × × × × × × × × ×

 

 

 

 

「諸君、宴は楽しんでいるかな?盛り上がっているようならば何より。こちらとしても開いた甲斐があるというものだ」

 

 

 いつの間にか音が止み、アポロン様を中心に円が出来上がる。

 適当な言葉を並べたあと、アポロン様はヘスティア様に目を向けて口を開いた。

 

 

「遅くなったが……ヘスティア。先日は私の眷属()が世話になった」

 

「……あぁ、ボクの方こそ」

 

 

 笑みを浮かべているアポロン様に、ヘスティア様は返事をしつつ怪訝な表情をする。

 ひとまずことを荒立てないように神様が話をつけようとすると、アポロン様は最初からみなまで言わせず、発言を被せてきた。

 

 

「私の子は君の子に重症を()()()()()。代償をもらい受けたい」

 

 

 はて?僕は【アポロン・ファミリア】の人に重症を負わせただろうか?答えは否だ。まぁトラウマにはなったかも知れないけれど。

 言いがかりにも程があるし、何よりあちらが被害者ヅラなのが受け入れ難い。

 アポロン様が指をパチンッと鳴らすと、あの時の小人族(パルゥム)が全身を包帯でぐっるぐる巻にしたミイラ状態で出て来て、そして堂々と呻いた。

 

 

「痛ェ…痛ェよぉ!」

 

 

 アポロン様は更に証人がいる、と言う。もう一度指を鳴らすと団員や神様達が現れた。出来過ぎている事は言うまでもない。

  ヘファイストス様が訴えたが、軽く一蹴する。証人(笑)がいて、且つ全員がアポロン様の味方だとするのならば、それはやった、やってないのいたちごっこに過ぎなかった。

 そう考えているうちに神様とアポロン様の口論がヒートアップしていく。とは言え、アポロン様はどこまでも涼し気な顔だけど。

 

 

「ヘスティア、どうあっても罪を認めないつもりか?」

 

「くどい!そんなもの認めるものか!」

 

 

 

「ならば仕方無い。ヘスティア、君に『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を申し込む!」

 

 

 

────戦争遊戯(ウォーゲーム)

 それは対戦対象(ファミリア)の間で規則を定めて行われる、派閥同士の決闘の事だとエイナさんに聞いた事がある。眷属を駒に見立てた盤上遊戯(ボードゲーム)のごとく、対立する神と神が己の神意を通す為にぶつかり合う総力戦なのだと。

 

 言わば、神の代理戦争。

 

 勝利をもぎ取った神は敗北した神から全てを奪う、命令を課す生殺与奪の権利を得る。通常ならば団員を含めた派閥の資財を全て奪うことが通例だと……エイナさんに教えて貰った知識を鮮明に思い返す。

 

 

「ヘスティア────我々が勝てば君の眷属、ベル・クラネルをもらう」

 

「最初からそれが狙いかっ……!」

 

「ヘスティア、答えは?」

 

「受ける義理はないな!」

 

 

 そうアポロン様は言い放つと、欲望だけを一途に煮つめた様な、そんなおぞましい笑みを浮かべた。

 ぞっっと寒気がした。ミノタウロスやゴライアスとは違ったベクトルの猛烈な悪寒。それがアポロン様から発されていた。

 

 

────ふぅ。

 

 

 僕は心の中で息を吐く。僕もヘスティア様も一度思考をリセットしなければならないとそう思った。

 だから僕は【アポロン・ファミリア】の小人族(パルゥム)の冒険者である…確かルアンと言ったっけ?ルアンさんのもとへ歩き出した。

 

 

「なっ何だよ!」

 

「余ってませんか?包帯」

 

「……へ?」

 

 

 ルアンさんは呆けた顔で僕を見つめた。はっと我にかえるとおそるおそる僕の伸ばした手にボケットから出した包帯を置いた。ありがとうございます、と呟くと僕は次にアイズさんのもとへ歩き出した。

 

 

────左目に包帯を巻きながら。

 

 

 ロキ様の横に並び立つ、僕とあまり変わらない身長のアイズさんの正面に立つ。

 アイズさんは首を傾げる。僕は包帯を左目に巻き、留め終わるとアイズさんにゆっくりと微笑んだ。

 

 

「アイズさん、長手袋を貸して下さいませんか?」

 

「………っ!…いいよ」

 

 

 想いに応えてくれる様にアイズさんも微笑んでくれた。少しだけぎこちなかったけれどそれだけで十分だった。

 ありがとうございます、と僕が目を見て言うとアイズさんは何かを言い掛けて口を開いたけど、直ぐに閉じた。ただ目だけが『頑張れ』って言ってくれていた。

 神様の横に立つ。目の前には欲に歪んだアポロン様の醜態がある。だがそれは神が神たる由縁なのだと思う。

 

 

「もう一度問おう、ヘスティア。答えは?」

 

「ボクの答えは─────」

 

 

────バシッ!

 

 

 アイズさんから手渡された長手袋を、僕はアポロン様の顔目掛けて渾身の力で投げ付けた────まぁ横に控えていたヒュアンキントスさんに防がれたけど。

 

 

「悔悛していないのか、貴様は」

 

「反省はしても後悔はしねェ主義なんで。それに仲間を、神様(家族)を侮辱されてノコノコ帰れる訳あるめェよ…何よりそんな奴ァ “(おとこ)”でもねェ」

 

 

 ヒュアンキントスさんと僕の口角が上がる。

 神様は僕の様子を見て目を丸くしているが、僕の意見に反対はしないようだ。

 アポロン様は僕達の様子を見て、にいっと口端を引き裂いた。そしてこの宴の初めと同様、両手を開き高らかに宣言した。

 

 

「双方の合意はなった───諸君、戦争遊戯(ウォーゲーム)だ!!」

 

 

『いぇぇぇえええええええええええいいいいい!!』

 

 

 

────戦争遊戯(ウォーゲーム)まで残り一週間。

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?久々にベルを格好良く、且つジャスタウェイを投げたくなる一話になったと思います。

次回予告。

『ヴェルフがやられた!?』

『このひとでなし!』

『な?ヴェルティン』

『いや誰だァァァァ!』

『止まるんじゃねぇぞ……』


次回ご期待下さい!感想や評価お待ちしてます!!


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フリー○アとか銀魂のBGMオンリーとか体に染み付いたBGMは勝手に脳内再生されるもの



もう直ぐクリスマスですね。ここで昨晩の友人との会話を載せてもらいます。


友人「もう直ぐクリスマスだなぁ…ダン侍でクリスマスの話書くの?」
TouA「いやその予定は無いよ。読者の皆さんが希望するなら書くけど」
友人「ほーん…彼女とも別れたのに何して過ごすのさ?イヴは日曜だろ?」
TouA「……まぁ予定はあるから」
友人「予定?……お前まさか!?」
TouA「そのまさかだと思うよ?」
友人「この裏切りもんがァァァァァァァァ!(二度目)」


ってことで始めまーす(白目)




 

 

「どうしてこうなったんですかっ!!」

 

「まぁまぁ落ち着け、リリスケ」

 

 

 僕がアポロン様並びに【アポロン・ファミリア】に啖呵を切った翌日。

 古びた教会…僕とヘスティア様の本拠地(ホーム)に僕、リリ、ヴェルフが集まっていた。神様は戦争遊戯(ウォーゲーム)の為に臨時で開かれた神会(デナトゥス)に行っている。

 

 

「これが落ち着けますかっ!戦力差は圧倒的なんですよ!今、ヘスティア様がルールを決めに行ってますけど正直こっちが有利になるようになる可能性は低いんです!!」

 

 

 リリが声を荒らげながら現状を話す。まぁそれもそうだろう。娯楽を何よりも求める神様達にとって【戦争遊戯(ウォーゲーム)】は格好の的で、展開的に面白いものを求めるに決まってる。“1対1”をヘスティア様やリリは望んでいるけれど、タイマンは見栄えも悪いし面白くないから一蹴される可能性が高いのは言うまでもなかった。

 

 

「リリ、ヴェルフ」

 

「何ですかベル様っ!!」

 

「何だベル」

 

 

 リリは半分キレ気味だけどヴェルフと同様に真っ直ぐな目でこっちを見つめてくる。リリの怒りは僕や神様を想っての事なのは判っていた。だからこそ僕は────。

 

 

 

「────僕に力を貸してくれないか?」

 

 

 

 僕はで二人にそう告げた。

 リリとヴェルフは少しの時間だけ驚いた顔をした。それから直ぐにヴェルフは快活に笑い、リリは不満そうに笑顔を浮かべた。

 

 

「愚問だなベル。俺は(お前)と共に歩き続けるって決めてんだ…とうの昔から、な」

 

「ベル様は本当にズルいです……力を貸してくれないか、ですって?リリの力でいいのなら全部貸しますよ!それにリリはいつまでもベル様の隣に居るって決めてますから!!」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 リリの言葉に少しだけ違和感を感じながら、というより他意を感じながらも僕は断言してくれた二人に心の底から感謝を述べた。

 僕を入れた三人の結束を固めているとヘスティア様が帰宅した。その顔は浮かばれない。

 

 

「皆聞いてくれ。【戦争遊戯(ウォーゲーム)】は【1対1】ではなくて【攻城戦】になった。ボクたちが“攻め”だ。参加出来るのは形式上【ヘスティア・ファミリア】のメンバーとオラリオ外の冒険者一人だけ……本当にごめ───っ」

 

 

 僕は人差し指を神様の唇に当て、神様を最後まで喋らせなかった。

 なぜなら、僕達にとってそれ以上の言葉は無粋でしかなく、加えて僕達が欲しいのは神様の謝罪じゃない。

 それが伝わったのか神様は唇に当てられた僕の手を両手で優しく握る。そして慈愛の光が灯る瞳で僕達を一人一人見つめ、力強く頷いた。

 

 

「そう、だね…やるしか、やるしかないんだ…!!二人共、ベル君に力を貸してくれ!」

 

「「はい!」」

 

「ありがとう!」

 

 

 それからは二人は“改宗(コンバージョン)”するという話に移った。

 改宗(コンバージョン)は前【ファミリア】から退団し、別派閥へ移籍する、再契約の儀式の事だ。二人はそれに同意、自分の言葉で主神に話をつけると言った。

 

 

「サポーター君にはボクが付いていく」

 

「へ、ヘスティア様っ!?」

 

「ソーマは…というより【ソーマ・ファミリア】は一筋縄ではいかない。だからボクが直々に赴いた方が何かと速い。それは君も判っているだろう?」

 

「そ、それもそうですが……」

 

「ヴェルフ君はヘファイストスに。ベル君は【戦争遊戯(ウォーゲーム)】の為に力を付けてくれ。いいね?」

 

「わ、分かりました」

 

 

 話が一応まとまると、僕達は行動を起こした。

 神様とリリは【ソーマ・ファミリア】の本拠地(ホーム)へ、ヴェルフはヘファイストス様のもとへ、僕は師匠のもとへ、それぞれの目的地へ向かう。ヴェルフと僕は途中まで道程が一緒なので同じ方向へ歩きだした。

 

 

「ベル」

 

「ヴェルフ?」

 

「俺はもう…意地と仲間を秤にかけるのは止める」

 

「?」

 

「いや気にするな……【戦争遊戯(ウォーゲーム)】、勝つぞ」

 

「…うん!」

 

 

 

 

 

 × × × × × ×

 

 

 

 

 

 ヴェルフと別れたあと、僕は師匠を訪ねていた。この時間帯、大抵師匠は馴染み深い酒場にいる事が多い。案の定、師匠はそこにいた。

 

 

「師匠」

 

「おっベル、呑むか?」

 

「呑みません」

 

 

 僕は毅然とした態度できっぱり断る。相変わらずだけど酒はまだ回っていないようだからここに来たばかりなのだろう。僕にとってこの状況はとても都合が良い。

 

 

「今から師事してください、お願いします」

 

 

 頭を下げる。何もせず刻一刻と時間を浪費することを僕は許されていない。

 師匠は何も言わない。ただ視線が僕の後頭部を射抜いている事はわかる。死んだ魚の眼であっても僕の本質はしっかりと見抜かれているのだと思う。

 

 

「アポロンに喧嘩をふっかけたって俺ァ聞いた。仮にベル自身が【戦争遊戯(ウォーゲーム)】の賭けの対象だったとしても、いざ負けた時、周りがどう思うか、どう受け取るか、どう被害が及ぶか、考えなかったテメェじゃねェよな?何がそこまでテメェを突き動かした?何がテメェを駆り立てた?」

 

 

 師匠が僕に問うたことはこの【戦争遊戯(ウォーゲーム)】勃発の根幹に関わる事だった。つまり僕がなぜアポロン様に、【アポロン・ファミリア】の喧嘩を買ったのかを問われているのだ。だがそれはもう既に、僕の中で答えは出ていた。

 

 

 

「──── 家族()のため」

 

 

 

 顔を上げ、僕は師匠を真っ直ぐ見据えてそう答えた。

 師匠は僕の答えを受けて、ニィっと笑い、僕の頭に手を乗せた。それから力任せに僕の頭をグシャグシャに撫でた。痛い。

 

 

「よし、行くか」

 

「は、はい!」

 

 

 

 × × × × × ×

 

 

 

「さぁてと、今回の【戦争遊戯(ウォーゲーム)】は【攻城戦】だったな……つうことはベルが先陣切って敵をバッサバッサ斬り伏せりゃいいんだよな?」

 

「まぁ…そうですね。可能なら、ですけど」

 

 

 いつもの城壁。日はもう沈みかけている。

 僕を刃を交えたヒュアンキントスさんは【Lv.3】。それを含めて【アポロン・ファミリア】は僕と同じ【Lv.2】の冒険者が多い。考え無しに特攻するだけじゃ勝てないのは頭の良くない僕でも分かる。

 

 

「オイオイ最初(ハナ)から弱気でどうすんだよ。それにいつも以上に付き合ってやんだから制約つけるからな」

 

「せ、制約ですか?」

 

「おうよ。【戦争遊戯(ウォーゲーム)】中、【破壊衝動(ス キ ル)】使うの禁止な?」

 

「え!?」

 

 

 その制約は僕にとってかなり痛手だ。【破壊衝動】は【Lv.2】の僕にとって【Lv.3】のヒュアンキントスさんの唯一の対抗手段といっても過言では無かった。師匠に師事したのもこのスキルを更に使いこなす事を前提としていたんだけど…。

 

 

「ベル、お前は【英雄】に憧憬を抱いてオラリオ(ここ)に来たんだよな?」

 

「は、はい」

 

 

 突拍子に師匠がそんなことを口にしたから吃ってしまった。

 そう僕は絵本の物語に出てくる【英雄】に憧憬を抱いている。今となっては師匠とアイズさんに追い付きたい、隣に並びたいと強く想っている。

 

 

「【破壊衝動】は相手を破壊するっつう一撃必殺みたいなもんだろ?格上の奴にそのスキル使って勝利してよ、周りがどう思うよ?」

 

「えっと…『ベル()が勝てたのはレアスキルのお蔭だ』…ですかね?」

 

「分かってんじゃねェか。それに、何かに()()()勝ちを乞い願う様な奴に俺ァ育てた覚えはねェからな」

 

「はい…!」

 

 

 そうだ。僕が目指しているのは途方も無い遥か高みだ。

 何かに縋って相手に勝とうなんて怠惰もいいところ。僕は僕の今まで培った技術と力で勝つ。それだけだ。

 

 

「だから今から鍛えるのは“技術”と“心”だ」

 

「“技術”は分かりますが…“心”ですか?」

 

「あぁ“心”だ。戦場の先陣を駆けるとき、目の前に在るのは無数の敵だけだ。味方の背なんざ一つも見えやしねェ…お(メェ)はまだその怖さを知らねェ」

 

「だから“折れない”為の“心”ですか?」

 

 

 艱難辛苦に遭ったとき、不撓不屈の精神を肝要出来るのは己だけ。如何なる時も敵だけを見据える姿勢は想像するよりよっぽどしんどいものだと師匠は言う。

 

 

「そういうこと。いいかベル?俺達、神の“眷属”は()()()によって経験値が入り、成長し、時が来れば“器”が昇華する。それが『恩恵(ファルナ)』を受けた者の特徴だ」

 

「そう、ですね…」

 

「だけどな…“心”ってもんは負けた時に経験値が入る様になってんだよ。心魂尽き果てて、膝が折れ、蒼天を仰ぎ見た時、目の前で見えるのァ自分(テメェ)と同じ様に戦うの仲間の背中だ。だから絶望の淵に立ったとしも、足掻きまくって、藻掻きまくんなきゃなんねェ。それが背負う苦しみも背負われる苦しみからも逃げずに家族()を護ると決めた英雄(テメェ)の仕事だ、ベル」

 

 

 師匠の言葉に言葉が詰まる。実感のこもった言葉は僕の考えが甘かったのだと気付かせた。

 その“英雄”としての役割を僕が出来るかは分からない。僕は皆に支えられてここまで来たんだ。誰かを指標になるなんて、誰かの“希望(英雄)”になるなんて考えた事なかった。でも僕は…やらなきゃならない。止まってる時間なんて無い。

 

 

「……うっし、やるか」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 × × × × × ×

 

 

 

 

 半日経ったその日の夜。

 ふらふらした足取りで本拠(ホーム)へ向かう。今日は早めに切り上げて明日から期限まで延々と続けると師匠は言った。()()()()()()()もあると言っていたけど。

 

 

「おかえりベ────だ、大丈夫かい!?」

 

 

 僕に慌てて駆け寄ってくれたのはヘスティア様だ。このまま意識を手放したいけれど何となく格好悪いので意地で耐える。

 リリが運んで来てくれた水を飲んで辺りを見渡すと、神様、リリ、ヴェルフ、そして【タケミカヅチ・ファミリア】の(ミコト)さんがいた。

 

 

「ベル殿、私も一緒に戦わせて下さい!貴方には返しきれない恩がある!」

 

「恩なんてそんな……でも、宜しくお願いします。(ミコト)さん」

 

「はい!」

 

 

 (ミコト)さんはタケミカヅチ様に自ら【改宗(コンバージョン)】を願い出たという。過去には色々あったけれど黒いゴライアス(1 8 階 層)の時に協力したり、ヘスティア様とタケミカヅチ様が仲が良いから恙無く進んだそうだ。

 

 

「ヴェルフ、リリ」

 

「改めて宜しく頼むぜ、団長」

 

「や、やめてよ、ヴェルフ」

 

「改めて不束者ですが宜しくお願いします、ベル様」

 

「う、うん」

 

「サポ〜タ〜くぅ〜〜ん?」

 

 

 いつものように神様とリリがじゃれあっている中、僕はヴェルフから『牛若丸弐式』が出来上がった、と報告を受けた。【Lv.2】になり『上級鍛冶師(スミス)』となったヴェルフが最初の作品を僕のナイフにしてくれたのだ。僕が倒したミノタウロスの角の残り半分で作られたそのナイフは『上級鍛冶師(スミス)』の最初の一刀で会心の一作だと言い、快活に笑った。僕もつられて嬉しくて破顔した。

 三人が【改宗(コンバージョン)】した事は既にギルドに報告したらしい。もう既にその情報が張り出されているという。

 

 

「一つだけ懸念があります」

 

 

 そう口にしたのは(ミコト)さんだ。僕達は声の方向に振り向いて耳を傾ける。

 

 

「私もアポロン様主催の『神の宴』に参加していました。ですからベル殿の啖呵も喧嘩を買った様子も目にしています」

 

「それがどうかしたんですか?」

 

 

 リリが問う。僕もあの場に懸念があるようには思えない。既に双方の合意を為した上で【戦争遊戯(ウォーゲーム)】の開催は決まっているからだ。

 

 

「確かに【戦争遊戯(ウォーゲーム)】の開催が決まりました。ですがその…ベル殿の喧嘩の買い方がマズいといいますか……【アポロン・ファミリア】は【フレイヤ・ファミリア】ほどでは無いにしろ“神の寵愛”の為に動いているファミリアです。あの仕方じゃ【アポロン・ファミリア】から余計に反感を買い、暴走する者も現れるのでは、と。私だけじゃなくタケミカヅチ様もそう仰っていました」

 

 

 (ミコト)さんは主神に長手袋を叩き付けた(ヒュアンキントスさんに防がれたけど)事をマズいと言った。これからは直感だけで動くのはやめよう。うん。

 嫌ぁな沈黙がこの場を支配する。耐え切れなかったのかリリがゴホンと咳払いして口を開いた。

 

 

「とにかく気を付けましょう。狙われるのはベル様だけとは限りません。既にもうギルドで【改宗(コンバージョン)】の事は公表されてますから」

 

 

 リリの言葉に頷く。

 リリと(ミコト)さんは夜が明けるまで待機。僕とヴェルフは完成した『牛若丸弐式』を取りに【ヘファイストス・ファミリア】のヴェルフの鍛冶場へ向かった。ヴェルフだけ行かせるには(ミコト)さんが言ったように不安があった。僕が付いていくのはいわゆる保険だ。

 

 

 

 

 × × × × × ×

 

 

 

 

「はぁ…ベル」

 

「言わなくていいよヴェルフ。僕も同じ気持ちだから」

 

 

 ヴェルフの鍛冶場で『牛若丸弐式』を受け取ってから暫く歩いたある場所で。

 僕達を後から()けてくる気配が数人。歩き続けるにつれてその数は増えて行っている。実力行使には出ないのか、まだ微妙なところだ。それに…師匠の修行による疲労が未だに抜けていない。十分に戦えることはまず、無い。

 

 

「フラグ回収早くないか?」

 

「そうだね…」

 

 

 ぞろぞろと進路方向の奥に現れる冒険者。全員が漆黒のコートを着用し、フードで顔を隠している。背後の人らと合わせれば二十人近い。それぞれが個々の得物を、槍、太刀、短刀、大剣…数えるのも億劫だ。

 僕とヴェルフは静かに抜刀する。僕は『牛若丸弐式』だけを抜刀し、片方は魔法を撃つようにしている。体が十全じゃない以上、魔法を頼るしかない。

 

 

「────ッ!」

 

 

 列を為して一斉に敵が襲い掛かってくる。

 正面から迫った剣撃をナイフで切り払う。すかさず迫る槍を弾き、続く攻撃をギリギリのところで回避する。間断なく攻めかかってくる相手の冒険者の統率に惚れ惚れしつつも確実に反撃を加えていく。

 

 

「【ファイアボルト】!」

 

 

 乱れたところにすかさず魔法を撃ち込み、着実に戦力を削いでいく。人数が人数な上に統率が取れているからヴェルフを気にかける余裕が無い。

 

 

「【燃えつきろ、外法の(わざ)】!」

 

 

 ヴェルフの超短文詠唱魔法。対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)は詠唱中の魔法を強制的に魔力暴発(イグニス・ファトゥス)させる。即ち、魔導士達を爆弾に変える魔法だ。僕は大爆発の連鎖で発生したうなりを上げた獰猛な爆風に飛び込み、視界を奪われていた五人の冒険者を【ファイアボルト】と剣撃で一気に制圧する。

 

 

「前見ろベルッ!」

 

 

 どっと疲労が押し寄せる。ヴェルフの言葉が僕に警告を叩くが視界が点滅する。死力を振り絞り、声にならない声を吐き出しながら立ち上がる。

 

 

「────ッ!」

 

 

 振り下ろさせれる凶刃を(かぶり)を振ることで躱し、左足を軸に半回転しながら裏拳を鼻頭に叩き込む。つかさず背後から襲いかかる冒険者を【ファイアボルト】と小声で詠唱し迎撃。

 

 

「ベルッ!」

 

 

 突然視界が真っ黒に染まる。

 ヴェルフが僕に覆い被さっていると気付くには暫くかかった。そして覆い被さっていたヴェルフが徐々に僕に体重を預け始めることに恐怖を覚えた。

 

 

───────。

 

 

「ヴェ、ヴェルフ……?」

 

 

 ヴェルフの背には矢が数本刺さっていた。

 絞り出した声は震えていた。ヴェルフは僕にむかって無理矢理笑顔を作り、僕の胸に拳を当てた。

 

 

「いいか…ベル……お前にしか出来ない仕事がある様に…俺には『団長を護る』っていう仕事があんだよ…」

 

 

 騒ぎを聞きつけたのか雑踏が五月蝿い。一人を仕留めたら良かったのか周りにはもう冒険者の姿は無かった。

 僕は慌ててポーションを探す。ヴェルフは血を流しながらもそれでも言葉を続けた。

 

 

「俺が…【戦争遊戯(ウォーゲーム)】に参加、出来なくても…前を向いて進み続けろ……ベルが止まんねェ限り、お前の背を追うのが俺達だからよ………」

 

 

 絵本の一節を想い出す。

 “英雄”とはただそこに立つだけで、味方の気配だけでなく敵の気配ごと戦場を変える者だ、と。

 “英雄”とならきっと奇蹟を引き起こせる。どんな絶望の状況下でもそんな“幻想”抱かせてしまう罪な生き物なのだ、と。

 故にその光に惹かれどれだけの仲間が散ろうとも、どれだけの敵が散ろうとも構いはしない。振り向きもせず、ただ前を向き、“英雄”は走るのだ、と。だからこそ人は────。

 

 

────何があろうともその背中を追いかけ、前へ進む事が出来るのだ、と。

 

 

 師匠だけじゃない。ヴェルフもその役目を僕がやれ、という。

 僕の何が皆を惹き付けるのか分からない。僕は“英雄”に憧れたただ一人の弱い人間だというのに。支えてくれなきゃ立ち上がる事も出来ない矮小な人間だというのに。

 

 

 

「だからよぉ、ベル……止まるんじゃねぇぞ」

 

 

 

 それでもヴェルフは止まるな、と。前を向いて進み続けろ、と。そう言うのだ。それが“英雄()”の使命だと言わんばかりに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ベル・クラネル》 【Lv.2】

 

 二つ名《小鬼》

 

 

【 力 】 :SS 1088

【耐久】:SS 1029

【器用】:SSS 1388

【敏捷】:SSS 1348

【魔力】:A 883

【幸運】:I

 

 

 

────【戦争遊戯(ウォーゲーム)】当日。

 

 

 

 

 




きぼうのはな〜つないだ絆を〜〜


ヴェルフは死んでません。ちゃんと生きてます。
次回予告の内容が半分くらいしか入ってませんがそれはまた次回に。


今回はベルの“心”の成長のきっかけです。まだまだ高○になるには器が足りてませんから。

ではまた次回!感想、評価お待ちしてます!!


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男の下ネタより女の下ネタの方が数倍エグい



明けましておめでとう御座いまジャスタウェイ(挨拶)
『ダン侍』とTouA共々、これからも宜しくお願い致します。

先日、ゲームセンターにてジャンプ50周年記念の銀さんのフィギュアを取ってきました。英世が3枚飛びました。


私は万事屋()にお年玉をあげたのだとそう思っています(白目)


では新年一発目、どうぞ!!
一万字超え!この作品最長!初笑いと共に楽しんでください!





 

 欲望に忠実に。

 或る者は勝利を掴む為に。或る者は仲間を救く為に。或る者は与えられた使命の為に。或る者は期待に応える為に。

 渦中の人物達がそれぞれの行動を起こし、それぞれの決意を秘め、それぞれの思惑が絡み合っていく中。

 迷宮都市(オラリオ)は静かに、確実に熱を帯び始めていた。

 其れは大人達にとっては労働よりも気になる事柄で、商人にとっては市場の物流に敏感になりがちな連日連夜で、荒くれな冒険者にとっては勝利の女神がどちらに微笑むか討論し、どちらかに賭けるかを語り合う、少年少女でさえ何時もとは違う街の雰囲気に興奮を覚えさせるほど、何時もとは異なる非日常だからだ。

 

 

「【アポロン・ファミリア】に一万ヴァリスだッ!」

 

「俺は【ヘスティア・ファミリア】!」

 

 

 今日(こんにち)は『戦争遊戯(ウォーゲーム)』当日である。開戦は正午から。

 オラリオの居酒屋は午前中で戦争遊戯(ウォーゲーム)前にも関わらず、客がごった返し盛況だ。冒険者だけでなく一般人、そして一番熱を持っている神々も酒気を帯びている。そして其の酒気に比例する様に商人の提供のもと賭博の賭け金が加算されている。

 大金を積んだ者達は酒が置かれた卓の上で賭券を握っている。現在オラリオの賭けの比率はおおよそ【アポロン・ファミリア】対【ヘスティア・ファミリア】=【25】対【3】だ。【ヘスティア・ファミリア(大 穴)】の殆どは最も欲に忠実な神が多くを占めている───が。

 

 

「おい、お前は【ヘスティア・ファミリア】に賭けるのかよ?」

 

「当たり前だろ?【18階層】での出来事を目にした奴は【ヘスティア・ファミリア】に賭けてるだろうさ。箝口令が敷かれてるから詳細は喋れないけどな」

 

 

 大穴狙いなどでは無く、確信して【ヘスティア・ファミリア】に賭けている者も少なからずいる。其れは18階層(黒いゴライアス)の一件を目にした者達だ。根拠こそないが其の者達は【ヘスティア・ファミリア】の、と云うより“ベル・クラネル”の存在がそう確信させているのである。

 酒場の他に、ギルドの前にも大勢が詰め寄せていた。酒場に比べると一般人が多く、子連れもポツポツ視認できる。

 

 

『あー、あー、えー皆さんおはようございますこんにちは。今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)実況を務めさせて頂くっス【ロキ・ファミリア】所属、生粋のツッコミ担当こと“ラウル・ノールド”っス!以後お見知りおきを』

 

 

 ギルド本部の前庭では仰々しい舞台(ステージ)が勝手に設置され、実況を名乗る褐色の肌の青年が魔石製品の拡声器を片手に声をひびかせていた。

 

 

「解説はこの方!オラリオ甘党総帥で在らせられる“サカタ・銀時”さん!」

 

「宜しくお願いしゃーす。オイこれ金出ん────」

 

「はいっ有難うございましたッス!そして【ロキ・ファミリア】団長、“フィン・ディムナ”さんッス!」

 

「今、御紹介にあずかりました【ロキ・ファミリア】団長、“フィン・ディムナ”です。宜しくお願いします」

 

「以上!三名で戦争遊戯(ウォーゲーム)の実況をするッス!開戦まで暫しお待ちを!!」

 

 

 ラウルが銀時の余計な発言を遮り、フィンが当たり障りのない挨拶をする。が、仮にも【Lv.6】である銀時とフィンが解説に加わる事により、解説の質が上がったと云う事実に観衆は一斉に喝采を送った。その中には色めき立つ声もあるが、それはフィン目当ての女性達だ。

 

 ギルドの前庭、また酒場に居座る神とは別に、白亜の巨塔『バベル』の三十階にも神々は待機している。代理戦争を行う両主神ヘスティアとアポロンもこの場で待機している。

 

 

「…頃合いかな」

 

 

 取り出した懐中時計は正午が目前に控えることを告げていた。

 取り出した呟いたのは男神“ヘルメス”である。ヘルメスは顎を上げ、宙に向かって話し掛ける。

 

 

「それじゃあ、ウラノス。俺達に『力』の行使の許可を」

 

 

 空間を震わせた彼の言葉に、数秒置いて応える声があった。

 

 

【────許可する 】

 

 

 ギルド本部の方角より、重々しく響き渡る神威のこもった宣言を聞き届けたかのように。

 オラリオ中にいる神々が一斉に指を弾き鳴らした。

 瞬間、酒場や街角に虚空に浮かぶ『窓』が出現する。都市のいたる所に無数に現れた円形の窓に、人々の興奮は最大まで引き上げられた。

 下界で行使が許されている『神の力(アルカナム)』────『神の鏡』。千里眼の能力を有し、離れた土地においても一部始終を見通す事ができる。企画される下界の催しを神々が楽しむ為に認められた唯一の特例だった。

 

 

「さて、『(えいぞう)』も届いた事ですしルールをおさらいするッス!今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は【ヘスティア・ファミリア】対【アポロン・ファミリア】で、形式は【攻城戦】!!両陣営の戦士達は既に戦場に身を置いてるッス!」

 

「補足として【ヘスティア・ファミリア】が“攻め”で【アポロン・ファミリア】が“守り”だね。共通しているのは勝利条件で“両ファミリアの大将の撃破”だ」

 

「有難うございますッス団ち…フィンさん!さて銀さん、どちらが有利ッスかね?」

 

「あ、そこのお姉さんパフェ貰える?あー3つね、それぞれ違う味で。お代は【ロキ・ファミリア】にツケといて」

 

 

「…………それでは間もなく正午ッス!!」

 

 

 ラウルの跳ね上がった声が響き、ギルド本部の前庭にざわめきが波のように広がった。ギルド前だけではない、冒険者が、酒場の店員達が、神々が、全ての者の視線がこの時『鏡』に収斂された。

 

 

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)────開幕ッス!!!」

 

 

 

 ラウルの号令のもと、大鐘の音と歓声と共に戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 時は昨夜まで遡る。

 古城───シュリーム古城は嘗て『古代』に築きあげられた防衛拠点の一つだ。【アポロン・ファミリア】は大将の“ヒュアキントス”の指示のもと前準備を行っていた。

 それらを見据える様に丘の上に三つの影が月明かりに照らされ、地面に並行しつつ歪に伸びていた。オラリオとは違い月が大きく見える、それが原因の一つだろう。

 

 

「……」

 

「リリ殿は上手くやっているでしょうか……」

 

「彼女は敏いから問題ないでしょう」

 

 

 無言を貫く少年は岩に腰掛けている。東洋物の紅の着物、その上に金花が刺繍されている黒を基調とした羽織を肩に掛けている。月光に照らされている金の刺繍は闇夜を切り裂く様に煌々とし、肩にあずけてある黒刀を反光に晒している。腰には血液より鮮やかな紅緋色の短刀が携えられている。

 その隣には黒髪のヒューマンとエルフが控える様に立っている。両者共、鼻まで隠す様に覆面を付けている。

 黒髪のヒューマンの少女は服装を“紺”に統一している。上衣(うわぎ)に手甲、袴に脚絆(きゃくはん)、足袋に草履。東洋に伝わる“忍者”の装束、其のものである。腰には暗器のクナイなどの類が装備され、ニ振りの小太刀が携えられている。

 エルフの女性は何時もの戦闘衣(バトルスーツ)に、嘗ての友の形見である木刀を二本、そして紅と紫の二振りの魔剣を腰に携えている。彼女が【ヘスティア・ファミリア】に協力出来る()()()()()()()である。身バレを防ぐ為に緑色のフードを被り、覆面こそつけてはいるが、熟練の冒険者や当時のファンだった神々には瞬時に判るだろう。

 

 

「クラネルさん、その……サカタさんの提案は何だったのですか?」

 

「あァ師匠の提案は────」

 

 

 ++++++

 

 

『襲撃されただァ?』

 

『はい…ヴェルフは回復薬(ポーション)のお蔭で大事には至ってませんが、やる気満々なんです』

 

『アイツが復帰したら次に誰が狙われるか判らねェってのに』

 

『そう伝えましたけど…言い張って聞かなくて』

 

『気持ちは痛ェほど判るが……はァ俺が説得してきてやらァ。だからベルは昨日通りに鍛錬をこなしとけ』

 

『…わ、判りました。お願いします』

 

 

 ─────二時間後─────

 

 

『ハァハァ……あ、師匠』

 

『おうベル、話付けてきた。って事で頼むわ─────ヴェルティン』

 

『あっヴェル……いや誰だァああああああああ!!!』

 

 

 銀時が肩に手を置いた男は隣には炎を連想させる赤髪に黒の着流しを纏っている“ヴェルフ・クロッゾ”の姿………などではなく、赤髪のウィッグを頭上に乗せ、上半身は半裸。ベルの目からしてヴェルフより二周りほど体が大きい。端的に言えばそれは“ヴェルフ・クロッゾ”に似せてきた別人であった。

 

 

『師匠ッ!ヴェルフでさえ無いじゃないですか!全くの別人じゃないですかッ!!』

 

『Huh?ワッツドゥーユーセイ?ヴェルティンだろ?どっからどう見てもヴェルティン以外の何者でも無いだろ?ザッツトゥルー』

 

『どっからどう見ても別人以外の何者でもありませんよ!?360度あらゆる角度から見ても一箇所たりとも被ってないですけど!?っていうか師匠はヴェルフの参戦を止める為の説得に行ったんでしょう!?どうしてそれがこんな偉丈夫を連れてくる結果になるんですか!!』

 

『いいかベル、人ってのは艱難辛苦を乗り越えて強くなるもんだ。怪我っつう人生の高き壁を乗り越えたヴェルティンはまるで別人の様に』

 

『別人でしょうが!まごう事無き別人でしょうがッ!!せめてヴェルフの替玉にするのならウィッグはきちんと被せるとか徹底して下さいよ!獣人特有の耳がひょっこり出てるじゃないですか!!ていうかこの人、この前の『神の宴』でフレイヤ様の側仕えしてた人じゃないですか!!』

 

 

 ベルは目の前にいる“ヴェルフ・クロッゾ”に扮した何かを何処かで見た気がしていた。記憶が結びついた時、それは数日前にアポロンが開いていた『神の宴』で腕いっぱいに“スルメ”を抱えていたフレイヤの従僕であったことを思い出した。

 

 

『ハァン?何言ってんだベル。オッ───ヴェルティンはヴェルティンだろうが。だよな?』

 

『1時間1万ヴァリス分スルメ。2時間2万ヴァリス分スルメ。オーケー?』

 

『オーケーオーケー。3時間3袋スルメ。4時間4袋スルメ。オーケー?』

 

『オーケーYEAHHHHH!!』

 

『結局2万ヴァリス分しかスルメ貰えてないでしょうがッ!!いいの!?迷宮都市(オラリオ)最強がスルメで動いていいの!?』

 

 

 ベルの疑問の投げ掛けは二人のハイタッチの高音で掻き消された。ベルは鍛錬より二人にツッコミする方が疲れている事に気付き頭を抱えた。

 

 

『ていうかヴェルフは納得したの!?替玉に納得したの!?』

 

 

 当のヴェルフは“オラリオ最強”に自身が打った武器を使って貰えるなら、と快く了承していた。それを聞かされたベルは地面に身をあずけ、五体投地の体勢である。

 

 

『これは俺の独断だ。【フレイヤ・ファミリア】は関係無い。俺はあくまで“ヴェルフ・クロッゾ”だからな』

 

『ど、どうしてそこまで……』

 

『し、【白夜叉】に頼まれたら断る事など出来るものか……///』

 

 

 まぁギルドの確認でベルと銀時がこっ酷く叱られ、替玉も不可能であった事は言うまでもない。

 

 

 ++++++

 

 

「師匠の提案はヴェルフを武器の作成だけに集中させると云うものでした。それ以外には何も無いです……本当に何もありませんから!」

 

「そ、そうですか」

 

 

 それ以外の提案は無かったと言わんばかりの鬼気迫るベルに、リューはこれ以上踏み込むことをやめた。

 そう無かった。無かったのだ。替玉やら頬を染めて銀時に熱い視線を送る“オラリオ最強”などは見ていない。見ていないったら見ていないのだ。

 三人は明日の戦争遊戯(ウォーゲーム)の最終確認を行う。武器の調達は既にヴェルフが済ませてあり、直接参戦するのは大将のベル、リリ、(ミコト)、そして都市外からの助っ人として認められたリューだ。

 

 

「じゃあリューさんは手筈通りに。(ミコト)さん、背中は任せます」

 

「判りました」

 

「はい、この命に代えても御守り致します」

 

 

 ベルは包帯を右目に巻きながら、城壁を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 時は開戦直後に戻る。

 盛り上がるオラリオとは裏腹に、戦場である古城の士気は低めであった。

 攻城戦とあって戦闘期間は三日間も用意されている。【アポロン・ファミリア】の面々は集中力が低下する最終日まで本格的な城攻めは引っ張ってくるだろうと大方の予想を立てていた。散発的な攻撃はあるだろうが、それも見張りの目と堅牢な城壁が力を合わせれば何の問題もない、と。

 

 だがその予想は────大きく外れる事になる。

 

 

「なっ何だ!?」

 

 

 凄まじい砲撃が城壁を襲う。

 城壁の正面から押し寄せてきた衝撃に、城内は一瞬で混乱に見舞われた。今も続くて恐ろしい震動と爆音に騒然となる。その光景に言葉を失うのは無理も無い。

 

 

「数はッ!?」

 

「ひ、一人だ!」

 

 

 見張りをしていた一人が城壁の階段から転げ落ちる様に戻ってくる。

 慌てて其の者に問い詰めるが、耳を疑う答えしか返ってこない。怯えるように口に出された或る単語は団員達をごくりと喉を鳴らせた。

 

 

「ま、間違いねェ!『クロッゾの魔剣』だっ!あいつら、伝説の魔剣を持ち出してこの城を落とそうとしてやがる!」

 

 

 世界広しと言えど、あれほどの城壁を一撃で粉砕する『魔剣』は『クロッゾの魔剣』他ならないだろう。魔法でないとするのならば、妄言であると切り捨てたい言葉も急速に現実味を帯びてくる。

 一際強い爆発に城壁の上部が弾け、瓦礫と共に長弓(ロングボウ)を持った弓使い(アーチャー )が地に叩きつけられる。

 

 

 ++++++

 

 

「おっとこれはぁ!【ヘスティア・ファミリア】は短期決戦狙いッスか!」

 

「そうだろうね。“攻め”にはいい参謀がいるようだ、僕もそうするだろう。砲撃は『クロッゾの魔剣』かな?紅の剣を下ろせば巨大な炎塊が吐き出され、紫の剣を薙げば紫電が走っている。最強の攻城武器だ」

 

 

『クロッゾの魔剣』という単語にギルドの前庭はざわめき出す。オラリオでは『鏡』を通じて早くも驚愕と興奮が人々に伝播していた。大衆は一人、獅子奮迅する強く美しい彼女に応援の声が送っている。

 

 

「いやぁそれにしても最初から盛り上がっているッスね!銀さんはどう思われますか!?」

 

「んーイチゴパフェだな。チョコレートパフェも抹茶パフェも捨てがたいが……やっぱ原点こそ頂点だわ」

 

「いい加減仕事しろッス!三つ頼んでたから俺達全員分のパフェを頼んでくれたのかと思ったら一人で全部食べやがったッス!」

 

 

 ++++++

 

 

『裏切りだぁ────!!』

 

 

 誰の声だったか。いやそれはどうでも良い。

 オラリオのいたる所で、その一言は爆発的に拡散した。オラリオの殆どの市民が頭を両手で抱えて総立ちし、悲鳴ともつかない叫び声が連鎖した。

 

 

『【アポロン・ファミリア】の団員が味方を裏切ったぞ!?』

 

『敵をお城の中に入れてんのか!?』

 

 

 複数存在する円形の窓の内、ヒューマン二人と小人族(パルゥム)の男が映る『鏡』に指が差され、多くの視線が集まった。

 まさかの裏切り────ルアンの手引きによって、易々と城内へベルと(ミコト)は入る。リューが敵の大半を『クロッゾの魔剣』と共に城外へ引きつけている事で手薄な場所から潜入する。不意に彼等と遭遇した敵団員が驚愕し声を張り上げようとするが、小鬼が一瞬で斬り伏せる。

 

 

 

 

 

「上手く化けましたね、リリ殿」

 

「リリはこれくらいしか取り柄がありませんから」

 

 

 走りながら(ミコト)はルアン────リリに囁いた。

 声は男のまま、口調が女性のものに変わるルアン、もといリリ。顔は違えどその微笑みはリリが浮かべるものとそっくりだ。裏切ったルアンの正体は『魔法』で変身したリリだ。

 リリは四日前からルアンに扮し、諜報活動を行った。その情報をもとに作戦を練り、計画に移したのだ。そして今現在の城内の情報を二人に伝える。

 

 

「じゃあ後は頼んだぜ」

 

「はい!」

 

 

 リリはルアンの口調で(ミコト)にそう伝える。ベルを頼む、という言葉に(ミコト)は力強く頷いた。

 ベルは目でリリに感謝を告げる。ルアンに扮したリリは破顔し、その目に応えた。

 笑みを残し、その場で彼等と別れるルアン。観戦者(オラリオ)以外の者にはまだ正体がバレていない彼女は、ベル達に追手が向かわないよう、城内を再び撹乱させる為に踵を返した。

 

 

 ++++++

 

 

「こっこれはぁぁぁあああああ!【アポロン・ファミリア】の裏切りによって敵大将らが城内へ入ったッス!!まだまだ勝負は判らないぃぃ!!」

 

「これは大きなアドバンテージだ。情報の質では【ヘスティア・ファミリア】が勝っている。情報の多さでは【アポロン・ファミリア】が勝っているけれど虚偽の情報をわざと掴まされているね。情報戦は【ヘスティア・ファミリア】に軍配が上がってるよ……あ、僕は抹茶パフェの方が好きかな」

 

「判ってねェなフィン。パフェってのは“イチゴ”っつう果物があってはじめて完成する代物なんだよ。ほれ、一口やるから食ってみろ」

 

「いいの?じゃあ頂きます」

 

「アンタら仕事しろやぁぁぁぁぁ!!そこのお姉さんっ、俺にもチョコレートパフェ!!」

 

 

 ++++++

 

 

「ダフネっ敵が来た!ヒューマン二人…敵大将(オルガ)だ!」

 

「ここで止めるわよ!!」

 

 

 ダフネはベルに『神の宴』の招待状を渡した冒険者だ。【アポロン・ファミリア】の中でも上位陣である。

 ダフネはベル達の進撃を食い止める為に空中(わたり)廊下に陣を敷く。大の男が十人以上並んでも塞がらない横幅は広く、そしてとにかく長大だ。壁と窓、天井に包まれた長い一本道にはぼろぼろになった赤絨毯が端から端まで伸びている。ダフネは後続の団員に詠唱を開始させる。

 

 

「────(ミコト)さん」

 

「合点承知」

 

 

 詠唱する魔導士に(ミコト)はクナイを打つ。投げるのではなく、打つのだ。それと同じ様に棒状の諸刃の刃物を手首のスナップを利かせて投擲────棒手裏剣と呼ばれるものだ。

 詠唱を高速で投擲された棒手裏剣によって遮断させられる。揺らいだ精神は『魔力』の制御をなくし、体の中心から魔力暴発(イグニス・ファトゥス)という愚かな自滅を巻き起こした。

 

 

「なっ!」

 

 

 咲き乱れる爆破の華。【アポロン・ファミリア】の魔導士の殆どが魔力暴発(イグニス・ファトゥス)に追いやられ、弓使い(アーチャー)らを巻き込み左右へ吹き飛ばした。魔導士らの殆どは再起不能に陥ったのは言うまでもない。

 

 

「ベル殿!御武運を!」

 

 

 ベルは(ミコト)の言葉を背に受け、爆煙へと突っ込む。そのまま敵大将が待つ場へと駆け抜けた。

 不味い、とダフネが慌てて後を追おうとするも、打ち上がった悲鳴が彼女の足を止めた。ばっと振り返ると、止めを刺された弓使い(アーチャー)が視界に入り、同時に鳩尾に強烈な肘鉄が突き刺さった。

 

 

「ぐぁッ……!」

 

 

 抜き足。

 気配を極限下まで殺した(ミコト)は、視界が悪い爆煙の中では最強である。それはまさしく────暗殺に特化した“忍者”であった。

 

 

 ++++++

 

 

 

「“サムライ”と“シノビ”……ッスか。あ、やっぱりチョコ美味しいッス」

 

「いやはや吃驚(ビックリ)したよ。暗器術と体術。東洋に伝わる“シノビ”だね、いや“忍者”の方がいいのかな?主君を護る為に孤軍奮闘するその姿は正しく、だ。………それでも僕は抹茶派だなぁ」

 

「いや待て結論を出すにはまだ早ェ!俺のお気に入りの店があんだがそこのイチゴパフェを食べて貰えりゃ考えも変わる筈だ!よし今から取り寄せようそうしよう!」

 

 

 

 ++++++

 

 

 ヘスティアも、リリも、ヴェルフも、(ミコト)も、観衆も、恐らく神々さえも────そして何よりもベルが。

 自分の手で決着をつけることを自他共に望んでいる。

 ベルは左手の煙管(キセル)を器用に指でくるくる回しながら、己の足音だけを空間中に響かせた。残る敵は敵大将のヒュアキントスとその近衛兵だけだ。

 

 

「来たか、【小鬼(オルガ)】」

 

「……」

 

 

 ザッザッと。

 草履を擦るようにベルはヒュアキントスが待ち構える戦場へ辿り着いた。近衛兵はおよそ十数名、ルアンに扮したリリが伝えた情報と合致している。

 近衛兵はヒュアキントスが自ら見繕っただけあって練度は高い。【Lv.2】であるベルには過剰戦力であることは誰の目にも明らかだった。

 

 

「行けッ!!」

 

 

 ヒュアキントスの号令で近衛兵の二人が飛び出す。片方は槍を、片方は両刃剣(バセラード)を構えている。

 ベルは腰に携える黒刀も、紅の短刀も抜き放たない。ただ静かに向かってくる二人、そして後続する数人の冒険者を見据えた。

 

 

「─────ッッ!!」

 

 

 繰り出される槍の刺突を相手の懐に()り込む事で躱し、槍の柄の部位を握る拳を人間の構造上、向き得ない方向へ捻り上げる。小さく呻き冒険者は槍を手放した。

 ベルは相手が離した槍を片手で握ると小器用に槍を振り回し、両刃剣(バセラード)の男へ刃とは真逆の石突(いしづき)で鳩尾を穿つ。その勢いで宙に浮いた両刃剣(バセラード)の男を左足を軸に旋回し、鼻頭に踵を叩き込んだ。

 

 

「ガッ!」

 

 

 槍を地面に突き刺し、手放された両刃剣(バセラード)の腹で槍を携えていた男の頭上から振り下ろす。ゴンッという鈍い音と共に意識を刈り取った。

 再び左足を軸に旋回し、両刃剣(バセラード)を後続の冒険者に投擲する。

 投擲された両刃剣(バセラード)に驚愕しつつも左右のステップで避ける。体勢を崩し、意識を一瞬奪われた冒険者は既にベルの策に陥っている。

 ベルはすかさず冒険者の一人の小太刀を先程と同じ要領で叩き落とし、掴み取り、自身の体の延長線として携えた紅の短刀と共に二刀流で斬り伏せる。

 

 

「うぉぉおおおおお!!」

 

 

 ベルの背後から裂帛の気合を放つ巨漢の男が、ベルの背丈ほどある大剣をベル目掛けて振り下ろした。

 ベルは小太刀と紅の短刀をクロスさせる事で正面から受け止める。骨が軋み、泣き喚く筋肉を心で奮い立たせ、大剣を跳ね上げる。

 

 

「────ッ!!」

 

 

 声が漏れ出すほど踏み込まれた一歩に全体重を乗せ、体勢を崩し後方へ倒れる巨漢の男の鼻頭に渾身をもって振り抜かれた。顔にめり込み、吹き飛ばし、撃砕する。

 

 

「なっ……!」

 

 

 驚愕と怒りの声を漏らすヒュアキントス。近衛兵は残り半分と少しだ。

 ベルは羽織を整え、左手を前に突き出す。掌を天に向け、人刺し指を三度曲げる────単純な挑発。しかしそれはヒュアキントスにとって今迄前例に無いレベルの最大の侮辱だった。

 

 

「貴様ァァァアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 ++++++

 

 

「ハハ…マジッスか。槍、両刃剣(バセラード)、小太刀二刀、大剣……次は棍棒、戦闘斧(バトルアックス)、極めつけは二槍流ッスか」

 

「彼には固まった型が無い。即ち“我流”だ。剣技を極めたのではなく、それぞれの武器の特徴を踏まえた上で戦況に応じて戦い方を変えている。これは……凄いな」

 

 

 思わず漏れた第一級冒険者(フィン・ディムナ)の感嘆の声に、ギルドの前庭で観戦していたオラリオの市民はここ一番の歓声を上げる。しかしまだ大将同士の戦闘が行われていない事から興奮が絶頂まではいってないのだろう。

 

 

 

 一方、オラリオのバベル三十階。

 神々の視線は『鏡』に収斂されている。それはヘスティアもアポロンも同等である。娯楽に飢えている神々にとって戦争遊戯(ウォーゲーム)は至高の馳走であるからだ。

 

(そういう事か!ベル君がステイタスで初めて【敏捷】ではなく【器用】が上回った理由がようやく判った……!!)

 

 ヘスティアはベルの最後のステイタスの更新時、どうして【敏捷】を【器用】が上回ったのかずっと疑問に思っていたのだ。ベルに聞いたところ当の本人は納得している様子で、

 

 

『あっやっぱり。神様、戦争遊戯(ウォーゲーム)見ていて下さい。必ず、魅せますから』

 

 

 ベルの宣言通り、ヘスティアは魅せられてメロメロである。それは出会った当初からではあるのだが。

 隣にいるヘファイストスが涎を何度拭いてあげたか判らない。目がハートになるという古風な芸は神友としてはやめて欲しいところだと辟易している。

 

 

「何を…何をやっている!?」

 

 

 そんなヘスティアと相反する様にアポロンは顔を青くしている。凝視する『鏡』の先には多種多様な剣閃で斬り伏せられ、意識を刈り取られる眷属(子供)達だ。

 

 

「お前達…気張れ、気張れ…気張れぇぇえええええええええええ!!」

 

「いっけぇぇぇぇぇええええベルくぅぅぅぅぅんッ!!」

 

 

 両神の張り裂けんばかりの声援のもと、戦争遊戯(ウォーゲーム)は最終局面を迎える。

 

 

 ++++++

 

 

 

 真っ直ぐ、自分に向かって歩いてくる人影に両者は歩み寄る。

 少年は黒刀に手を掛ける。青年は波状剣(フランベルジュ)を抜き放つ。黒刀は濃密なまでの漆黒な闇夜を想起させ、弧を描く長刀はその闇夜を陽光で切り裂く様に日光に照られ反光する。互いが持つ得物でさえ、相対していた。

 両者が自身を穿つ戦意を捉え、確信する────勝敗は一撃で決まると。

 

 

 

 

「僕はただ壊すだけだ。この腐った戦争遊戯(せかい)を……!」

 

 

 

 

「私はただあの方の寵愛に応えるだけだ……!」

 

 

 

 

「は、ァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 

 

「る、ゥアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 

 

 黒閃と白閃が煌めき、両者はまるで示し合わせたかの様に同時に飛び出した。

 研ぎ澄まされた魂と、極上の鋼と、際限なく高まる激情がその場の空間を巻き込み、捻じ曲げ、その結集がたったの一撃に込められる。駆け抜ける極限の一瞬が大気を吹き飛ばし、落雷の如き轟音と閃光を生み出し、そして────。

 

 

 パリィン……、と。

 

 

 たった一刀の交錯に、僅か一撃の錯綜の果てに、極限下の一瞬に。

 ヒュアキントスの波状剣(フランベルジュ)は刀身から破砕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだだぁぁぁぁアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

 ヒュアキントスが最後の賭けに出る。

 彼我の距離が大きく離れる中、全魔力を紡ぐ詠唱を開始する。起死回生の───最後の切札。形成を逆転させる、最後の悪足掻き。衆目など気にしない、矜持など知った事ではない。必殺の行使に踏み切り、目前で佇む少年に勝ちたい────それだけの想いで。

 

 

 

 

「【我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ!我が名は罪、風の悋気(りんき)。一陣の突風をこの身に呼ぶ!放つ火輪の一投───来れ、西方の風】ッ!!」

 

 

 

 

 上半身を捻り、重心は低く、左腕を下に、そして右腕が高々と上げられたその体勢は───円盤投げ。高出力の『魔力』を右手に凝縮させながら、ヒュアキントスの碧眼は厳然と佇むベルを射抜き、一挙、魔法を発動させる。

 

 

 

 

「【西風の火輪(アロ・ゼフュロス)】!!」

 

 

 

 

 太陽光のごとく輝く、大円盤。振り抜かれた右手から放たれた日輪が、高速回転しながら驀進(ばくしん)する。人の上半身ほどもある巨大な光円、それは自動追尾の属性を持っており、照準した対象に命中するまで消滅しない、出せば勝ち(チート)魔法。

 

 

 

 

「───────」

 

 

 

 

 ベルは目を閉じる。想い描くはたった一度の御技。

 直立不動から、左足を半歩引く。腰を柔らかく落とし、身体は脱力。黒刀の鞘は左手の小指と薬指で軽く握り、他はただ添える。

  ()にかける右手は赤子の肌を触るが如く優しく、左足の踏み込みに備え、右足の発条(ばね)を正確無比に作る。体の重心は右足七の左足三。

 

 

 

 

「───────」

 

 

 

 

 銀時がたった一度だけ見せ、そして魅せられた技伎(わざ)

 静かなる水面に、一滴、水が落ち、波紋が広がる瞬刻の感覚。極限下の世界の隅々まで行き渡る、研ぎ澄まされた決死の感覚。

 胸一杯に、深く息を吸う。これは矢を(つが)えた弓の弦を引くに等しい行為と等しい。即ち、吐くと同時に全てを解き放つのだ。

 

 

 

 

 

「───────ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 刹那、声にならない気合と共に、ベルの四肢が爆ぜる様に動いた。

 左足で一歩踏み込む神速の推進力、腰骨の超速旋回、それらのベクトルの違う力を纏め上げ、右腕へと伝える背骨のしなり。

 頭上に掲げる黒刀の鯉口を切る。刃を鞘に滑らせる。抜きざまに、右腕に伝えた力を使い、重力に従って、黒刀を唐竹割りに、撃ち下ろす────圧巻の絶技。

 全身を余すことなく利用してひねり出した、常軌を逸した『力』と『速度』。それらを物理的に全く減衰させることなく刀に乗せ、今迄に培った恩恵(ステイタス)を相乗させ────その常軌を逸した鋭利なる斬撃は大気を引き裂き、真空を生み出し、刀の間合いの外────遠間をも斬り裂く刃と為る。

 

 

 

───────。

 

 

 

 刃は、ベルを呑み込まんとしていた魔法(太陽)を左右に斬り裂き、遥か遠い間合いのあるヒュアキントスの半身を斬り裂いた。

 袈裟に血風が巻き起こる。ヒュアキントスは何が起きたのかさえ理解する事なくそのまま伏した。しかしその顔にあるのは驚愕などでなく、ただ全てを出し切った上に敗北したのだという清々しい表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 

『──────────────ッッッ!!』

 

 

 オラリオの上空に大歓声が打ち上がった。

 古城跡地で打ち鳴らされる激しい銅鑼の音と共に、決着を告げる大鐘の音が都市全体に響き渡る。観衆である多くの亜人(デミ・ヒューマン)が、『鏡』の中に立ち、黒刀を掲げる少年へ興奮の叫びを飛ばした。

 人々は【ヘスティア・ファミリア】に賭けた者は主神のヘスティアを筆頭に勢い良く立ち上がり、勝利の歓声を上げた。【アポロン・ファミリア】に賭けた者は無数の賭券を破り捨てて頭上に放り投げた。

 

 

「戦闘終了〜〜〜〜〜ッ!?まさに大番狂わせ(ジャイアント・キリング)ッ!!戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝者は【ヘスティア・ファミリア】ッスぅぅぅぅぅ!!」

 

 

 舞台(ステージ)上、実況者のラウルが身を乗り出し真っ赤になって拡声器へ叫び散らす。

 フィンは結果はどうであれ、一つの決着と健闘した戦士に拍手を送り、銀時はというと─────。

 

 

「やっぱイチゴパフェだわ」

 

 

 己のパフェ論争に一人決着をつけていた。まるで最初から結果が判っていたかの様に、ただただ…食していた。

 

 

 ++++++

 

 

「勝ったんだね…おめでとう」

 

 

 柔和な笑顔を浮かべるアイズにディオナが満面の笑みを浮かべながら抱き着く。ホっとしたのと同時に温かい気持ちが広がっていく。この気持ちを何というのか、気付くのはもっと先の事であるが。

 

 

(最後の一撃は……銀ちゃんの)

 

 

 気付く人は気付いただろう。最後の抜刀術は銀時の御技だ。

 それをベルが未完成ながら放った。これが意味することは一つ────彼も“英雄”の器足り得る人物である、ということ。

 

 

「頑張ってね…待ってるから」

 

 

 アイズの一言は誰にも届く事は無かった。ただ伝えずともいずれ辿り着くのだと何かが予感させていた。

 

 

 

 

 

 

 次回────ベル、銀時に連れられ遊郭へ。

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、最長。長いわ。疲れたわ、楽しかったけども。
新年一発目、いかがでしたか?楽しんでいただけたでしょうか?それならば幸いです。
ベルの武器奪取の上にその武器で敵を切り裂く、というのは【紅桜篇】の最後の銀時と桂のシーンのオマージュです。そう思って頂けたら嬉しい事この上ないですが。


ベルの最後の技は次次回解説。戦争遊戯の背景やらその他諸々も次の次に解説。


そして次回は『チキン革命@(以下略)』さんの【ロキ・ファミリアの団長は胃潰瘍になりそうなようです】とコラボします!!いやーここまで来るのに長かった。やっと出せる。

https://syosetu.org/novel/114793/

リンクは↑に。この作品とのコラボは既に『チキン革命@(以下略)』さんは書き上げてくれています。この作品より銀魂銀魂してる一話を先に楽しんで頂けたらな、と。


ではまた次回!今年も宜しくお願いします!!
感想、評価、お待ちしてます!!


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カカオよりココロ【上】


歓楽街篇に入らなくてすみません。
予告詐欺ですみません。

バレンタインイベントをやらせて下さい、何でもしますから。


 

 

 聖バレンタイン。その日は2月14日。

 

 それは、恋する乙女が意中の人にチョコを渡すという至極単純なイベントである。

 言葉に表すのは容易だ。しかし行動に移すとなればまた一味違ってくる。そんな恋する女子の駆け引き、そして勇気を振り絞る刹那の一瞬がこの時期なのだ。

 こう言うと、バレンタインを知らない者は女子の一大イベントであるかの様に思うかもしれない。

 

 しかし、そんなことは全く無いのである。

 

 なぜならば、この時期になると男子はソワソワし、服装に気を遣い、態度を改めるのだ。女子に積極的に声を掛けることをやめ、『別に俺、チョコとか要らねェし』という雰囲気を醸し出し始める。

 

 つまり、男子にとってもバレンタインは一大イベントなのだ。

 

 だが、モテない男子にとって、このバレンタインというイベントは悪しき風習この上ない。 上記の様に女の子に気を遣ったとしても貰えない物は貰えないのである。

 

 ここ、オラリオにもバレンタインの時期がやってくる。

 今日は2月13日。バレンタイン一日前。女の子はせっせと準備に励み、男は明日が何の日か知った上で、平常に振る舞う。

 

 では覗いてみよう。

 オラリオの一年で、女の子が最も可愛いイベントを。

 オラリオの一年で、男の子が最もソワソワするイベントを。

 オラリオの一年で、最も甘美なイベントを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《【ロキ・ファミリア】in『黄昏の館』》

 

 

「リヴェリアー!へるぷみー!」

 

「分かった。今行く」

 

 

【ロキ・ファミリア】のホームである『黄昏の館』。その中で大きく占めている一室である調理場にて。

 ここでは【ロキ・ファミリア】の女性団員が一心不乱にチョコを作っていた。楽しそうに作る者も居れば、ダンジョンに潜る時並みに必死の形相を浮かべている者もいる。

 

 

「どこが分からないんだ?」

 

「ここのね、湯せんってやつ!」

 

「あぁこれは……」

 

 

 このイベントに於いて最も頼もしいのはリヴェリアであった。

 血気盛んな女子が比較的多い【ロキ・ファミリア】において、繊細且つ丁寧な作業が出来る者は少ない。単純に、今まで剣しか握っていなかった者やこのイベントが闘争に身を置いていた者が多いというのもあるが。

 

 

「むむむ…」

 

「どうしたの、レフィーヤ。こういうの得意じゃないの?」

 

「は、はい…残念ながら。普通の料理はまだ出来ますけど」

 

 

 悪戦苦闘するティオナにリヴェリアが調理方法を教える様に。

 レフィーヤもまたチョコ作りに四苦八苦し、頭を悩ませていた。それを見たティオネが思わず声をかけたのだ。

 

 

「まぁバレンタインっていう行事がオラリオに流行りだしたのは()()()()のことだしねェ。慣れない女子が多いのも当然か」

 

 

 ティオネの言う様に、ここ《オラリオ》で“バレンタイン”というイベントが流行りだしたのは昨今のこと。

 娯楽に飢えた神たちが始めたという話だ。ある男神が女の子の可愛い顔が見たい、ただそれだけの為に始めたという。とんでもない話だがそれがこうしてブームとなり、一年の一大イベントとして周知されたのだから馬鹿にはできない。

 

 

「ティオネさんは得意なんですね!チョコ作り」

 

「ん?そりゃそうよ。団長に食べてもらう為に試行錯誤するのは楽しいもの。それに、皆とこうしてワイワイやるのは好きだからねェ」

 

 

 そういって花咲くような笑顔で魅せるティオネ。恋する乙女は眩しいものである。

 意中の人、という存在がまだいないレフィーヤにとってその姿は羨ましく、微笑ましいものであった。普段は頼りになる姉的存在が年相応にはしゃぐのだ。そう思うのも無理はないだろう。

 

 

「あの…ティオネさん。どうして今年は【ロキ・ファミリア】全員でチョコを作ることになったのですか?」

 

「あ〜それはね、男性同士の団員の軋轢を生ませないためよ」

 

「よく、わかりません…」

 

「そうね、例え話だけどレフィーヤに好きな人が出来るとするでしょう?」

 

「ふぇっ!?は、はい……///」

 

「その人が他の異性の人からチョコを貰って笑顔だったところを見てしまったら、どう思う?」

 

「わ、私が好きになるくらいですから?とても素敵な人でしょうから仕方ないと思います。で、でも…少しモヤモヤすると思います」

 

「ふふっ、でしょう?それが明日、この建物でそこら中で起きてしまったら…そう考えると、恐ろしいでしょ?」

 

 

 ティオネからそう言われると、レフィーヤは言いたい事が分かった。そしてなぜ、【ロキ・ファミリア】の女性団員が全員総出でチョコを作っているのか。

 

 ひとえに、男同士のしょうもないプライドを傷つけない為なのだと。

 

 だからこそ、女性団員総出でチョコを作り『女性団員、皆からのチョコ』として男性団員に明日渡すのだと。そうやって理解が及べば皆幸せなイベントに早変わりになる。まぁ良し悪しはこの際置いておくが。

 

 

「これを提案したのはリヴェリアなのよ?知ってた?」

 

「そ、そうだったんですか!?リヴェリア様がご提案を…」

 

「ほら、団長って人気でしょ?【ロキ・ファミリア】だけでなく他のファミリアとかオラリオ中からチョコが届くのよ。でもね、一つも受け取らないのよ団長は。まぁチョコに何が入ってるか分かったもんじゃないしね」

 

「…え、えっと?」

 

 

 ティオネの突然の話の転換に思考が追いつかないレフィーヤ。

 ティオネはそれでも止まることなく続ける。

 

 

「でも、その気持ちを無碍にするつもりは全く無い。だからリヴェリアは聡明な団長を立てる為にこの企画を立てたのよ。【ロキ・ファミリア】の女性皆からのチョコなら食べても問題ないでしょ?それ以外は受け取らないって決めて、最初から線引きしたのよ。団長だってチョコ食べたいだろうし」

 

「そういうことだったんですね。で、でもそれならティオネさん『個人』のチョコも団長受け取らないんじゃ……」

 

「そうね、受け取らないわ。今まで渡してきたけど全部断られてゴミ箱行きだったし」

 

「それではどうして……」

 

「それが作らない理由にはなり得ないからよ、レフィーヤ。好きな人に『好き』って伝えることに意味なんてないわ。言いたいから言う、伝えたいから伝える、美味しいって言ってほしいから渡す。それだけよ」

 

 

 そのチョコに込められた想いは届くのだろうか。

 レフィーヤは柄にもなく、そんな事を思ってしまった。自分自身でさえ、異性を好きになるという経験をした事がないから。

 

 

「その想いは大層立派だが手を動かしてくれ。明日に間に合わん」

 

「は、はいっ!リヴェリア様!!」

 

「ごめんごめん、今からやるって」

 

 

 リヴェリアからの小言に反省する二人。そのリヴェリアも本気で言った訳ではないことは声のトーンで分かった。

 ティオネが持ち場に戻ったとき、リヴェリアはため息と同時に口を開いた。

 

 

「確かに、ティオネが言った様にフィンの負担を軽減するため、それとティオネの様に必死の想いでフィンに気持ちを伝える少女達の想いを踏み躙らない為にこれを企画した。だが其れと同時にロキのご機嫌取りという目的もある」

 

「ロキ様の…ですか?」

 

「そうだ。ロキは私達からチョコを貰えないとうるさいのだ。特に私にグチグチ言ってくる。それが一週間続くとなると私も耐えかねる」

 

 

 疲れたように笑うリヴェリアを見て、レフィーヤのやる気が沸々と湧き上がった。自身が頑張ることで少しでもリヴェリア(尊敬する人)が肩の荷を下ろせるのならば、と。

 

 こうして【ロキ・ファミリア】のバレンタインの前日は過ぎて行く。

 明日どうなるかは誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《【イシュタル・ファミリア】とある館の別館》

 

 

「よし、出来た……!」

 

 

 深夜、【イシュタル・ファミリア】の調理場にて。

 戦闘娼婦(バーベラ)であるアイシャ・ベルガはチョコを作っていた。チョコに生クリームを混ぜ、ココアパウダーをまぶしたトリュフチョコである。凝った物ではないとは言え、アイシャの気持ちがぎゅっと詰まった一品だ。

 

 

「ふわぁあ……アイシャさん、出来たのですか?」

 

「ん?春姫、起きてたのか。出来たよ、アイツに渡すやつ」

 

 

 綺麗に整えられたトリュフチョコ。

 アイシャがあまり料理が上手ではないことを知っている春姫にとって、努力と愛情によって生み出されたそのチョコはとても眩しい。

 春姫は春姫でアイシャの言う《アイツ》という存在にチョコを渡すつもりだった。だがそれはいわゆる恋愛感情などではなく、英雄譚を聞かせに来てくれる日頃のお礼と言ったところだ。

 

 

「アイシャさん、確認ですけど()()()入れてませんよね?」

 

「さすがに入れてねェよ。入れるかどうか迷ったけどな……まぁでも、その……あ、愛情はたっぷり入れた…つもり」

 

「……ッ!きっと、届きますよ!美味しいって絶対言ってくれます!」

 

「そ、そうか?」

 

「はい!絶対です!!間違いありません!私が保証します!」

 

「……だといいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《『黄昏の館』とある一室》

 

 

「さて、今年もこの季節がやってきた」

 

「そうッスね…」

 

 

 男だらけの一室。通称【非モテの憧れ(ディズニーランド)】。

 この一室には【リア充爆発しろ(ジャスタウェイ)の会】という会の会員たちが肩を並べて議論を交わしていた。無論、会員は男のみである。

 内容はバレンタインという一日をどの様に過ごすか、というもの。とても健全で有意義なものだ……非モテにとって。

 

 

「もはやこのイベントを止める術はないッス。既に年中行事の一つとして組み込まれてしまった」

 

「それよりも会長。昨年からチラホラ見掛けた“義理チョコ”なるシステム。どうお考えで?」

 

 

 会長と呼ばれた者───サカタ銀時に視線が集中する。

 銀時は机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってくる、通称“ゲン〇ウポーズ”のまま、静かに口を開いた。

 

 

「義理チョコも同じだ。滅ぶべきだと考えている」

 

「どうしてですか?」

 

「ある男の例を挙げよう。あれは中学のとき────」

 

 

 とある部活に所属していた男は、部員のからかい半分でとある後輩の女の子が好きだという噂を流されていた。無論、好きでも何でもない。話したことさえ、数える程しかなかった。

 そして2月14日のバレンタインの日。部活終わりの放課後、事件は起こった。

 なんと、その後輩の女の子からチョコを貰ったのである。驚いた男は“本命”か“義理”かも分からず、その日を悶々と過ごした。

 翌日、その後輩の女の子もバッタリ出会った男は、意を決して聞いた。答えはこうだった。

 

『男先輩って私のこと好きなんですよね?その話が部活中に広まってるから私が男先輩にチョコあげないと女としての私の立場が危ういし。それに男先輩にあげれば健気な女の子を演出できますし……わかります?』

 

 

「分かるわけねェだろバカヤロォォォォ!!……ゴホン、これが作し…ある男の“義理チョコ”ならぬ『勘違いチョコ事件』だ。数年経った今でも部活の語種(かたりぐさ)になっているという」

 

『うわぁ……』

 

「本命チョコではない義理チョコであるにせよ、モテない男を傷付ける事が多々あるのだ。それに、上記の事件からみて、バレンタインというイベントは女性の保身の為にあるようなイベントと言える。加えて、あの有名チョコ店の『Goriva』も義理チョコは止めないか?と言っている。これはもう世の中が“バレンタイン”なんてするもんじゃないと言っているようなものなのだ!」

 

 

 一室のあちらこちらで拍手が上がる。

 銀時はその調子で立ち上がり、左手を前に突き出して言い放つ。

 

 

「“バレンタイン”。このイベントはモテ男(リア充)モテ男(リア充)によるモテ男(リア充)の為のビックイベントである!」

 

「今や、このイベントで【リア充爆発しろ(ジャスタウェイ)の会】の半数がリア充(宇宙) へ消えた!この輝きこそ、我らの不撓不屈の証である!」

 

「決定的打撃を受けた非モテ(我々)にいかほどの戦力が残っていようとも、それは既に形骸である!」

 

 

 「あえて言おう!カスである(羨ましい)と!」

 

 

「我ら軟弱の集団がモテ男(リア充)を抜くことは出来ないと私は断言する!」

 

「しかし!バレンタインは!!」

 

「我ら選ばれた雑種たる非モテ男(非リア充)を嘲笑・放逐することで永久に生き延びるのである!」

 

「だからこそ!明日の未来のために非モテ男(非リア充)は立たねばならんのである!!」

 

 「ジャァァスタッウェイッッ!!」

 

 

 黄昏の館の一室である【非モテの憧れ(ディズニーランド)】にいる男の面々は、銀時の演説に合わせ拳を天に突き上げた。全員の心が一つになった瞬間である。

 

 ※ここにいる皆、明日貰えることを知りません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あとは……これとこれ」

 

 

 男の子は胸を高鳴らせ、女の子は不安で胸を一杯にし、寝静まっている深夜。誰も居ないはずの調理場。

 金髪の美少女が一人静かにチョコを作っていた。所々危なっかしいが、チョコ作りが初めての経験でないことは所作でわかる。

 

 

「誰か居るのか?」

 

「────ッ!!」

 

「なんだアイズか。何をして…なるほど、な」

 

 

 金髪美少女───アイズは突然のリヴェリアの来訪に肩を震わせた。

 リヴェリアはリヴェリアで真摯にチョコに向き合うアイズを優しい眼差しで見つめる。その手にはチョコの型などがある。

 

 

「リヴェリアも作るの?」

 

「………………あぁ。あと一つ、作らねばならない。皆が寝静まった頃に作らないと何を言われるかわかったものでは無いからな」

 

 

 副団長という立場がある以上、そう簡単に人様に自身のプライベートを見せてはならない。余計な誤解や憶測が飛び交う上、相手側にも迷惑を被ってしまう。それはアイズも同様なのだが。

 

 

「銀ちゃんに渡すやつ?」

 

「ブフォッ!」

 

「女性としてそのリアクションはどうかと思う」

 

「んんっ!言うようになったなアイズ。いやまぁそれはそうなのだが誰に渡すかとかそんなの聞くのはご法度なんじゃないかなぁと私は思ったりする訳でそれよりもアイズは誰にチョコを渡すのかと私気になります!」

 

「ど、どうしたの?リヴェリア」

 

 

 頬を染め、目を回しながら早口でまくし立てるリヴェリアにアイズは少し引いている。

 敬語やら何やらをごちゃまぜにしている事から図星であることがわかる。だが、アイズにとってそれはあまり意味をなさないのだ。なぜなら、

 

 

「私も銀ちゃんに渡すの。日頃お世話になってるから」

 

「あぁ…そういうこと」

 

 

 アイズも渡すからだ。日頃のお礼という名目で、ではあるが。

 勿論、リヴェリアが銀時にチョコを渡す意味とアイズが銀時にチョコを渡す意味は大きく異なっている。それにも関わらず、鈍感なアイズはリヴェリアの裏の意図を察せず『銀時にチョコを渡す』という仲間が増えたと内心喜んでいた。

 

 

「他に誰に渡すのだ?」

 

「えっと…まず銀ちゃんでしょ?後はロキと刀壊して迷惑かけてるからゴブニュにも」

 

「ほぅ、そうか。『チョコを斬れ』という手順の時に台所ごと愛刀(デスペラード)で斬った時から成長したな」

 

「も、もぅやめてリヴェリア」

 

 

 羞恥のあまりリヴェリアの胸をポカポカ叩くアイズ。

 リヴェリアは見逃さなかった。アイズは先程、銀時、ロキ、ゴブニュに渡すと言っていたが、机上を見るにチョコの器が()()()()。そういう存在が出来たのか、と心の中で呟き、頬を緩めた。

 

 

「な、なんで笑ってるの?」

 

「いやすまない、何でもないんだ。ホントに…ふふ」

 

「もぅ、まだ笑ってる……」

 

 

 プンスカ怒るアイズにリヴェリアは堪えきれず更に笑ってしまう。

 それから二人は一緒にチョコを作り始めた。とは言っても各々が渡すチョコは自分たちだけで作り、片方の手伝いをすることは無かった。

 

 

「なぁアイズ」

 

「ん?どうしたのリヴェリア」

 

「渡す時ってどんな顔したらいいのだろう?」

 

「それを私に聞くの?」

 

「それもそうか…」

 

「認められたら、られたで少し複雑」

 

「す、すまない」

 

 

 なぜか、ことバレンタインという一大イベントにおいて、リヴェリアはアイズにマウントを取られっぱなしなのである。天然がこういう色恋沙汰のイベントに強い事を改めて認識する。

 

 

「そう言えば、リヴェリアは去年、銀ちゃんの顔にチョコを叩き付けてたね」

 

「いざとなると思いの外、緊張してしまってな。無我夢中に“スパーキング”してしまった。いやまぁ去年だけでなく渡そうと一念発起した年からだが」

 

 

 そのリヴェリアの行為が【リア充爆発しろ(ジャスタウェイ)の会】発足の発端であることを当の本人は知る由もない。

 二人は適度に会話を挟みながら世界に一つだけのチョコを作っていく。目は真剣そのものだ。

 

 

 

 

 

 

 こうして夜が明けていく。

 勝つのはモテ男(リア充)非モテ男(非リア充)か。

 今ここに、熱き戦いの火蓋が切って落とされる(違う)。

 

 

 

 

 




皆さんお久し振りです。
テストやら何やらで書く時間が取れませんでした。すみません。


皆さんはどちらを応援したいのでしょうか?

恋する乙女VS非モテ男の巣窟

ちなみに私は【リア充爆発しろ(ジャスタウェイ)の会】の会員番号一番です。異論は認めない。参加者募集中。

それと一つ。
感想の反応を見てこのイベントの物語を変えます。
あのジャーマンスープレックスエルフを出していないのもそれが理由ってことです。


以後恒例謝辞。
『冬瀬功』さん、『グラットン』さん、『秋刀魚』さん、『瞬矢』さん、『@MARU』さん、『マヨ侍』さん、『udeunc:%23jbbf*』さん、『PoNGuMa』さん、『astaroth』さん、最高評価ありがとうございます!!
『首付きの獣』さん、『名無しの無名』さん、『松囃子』さん、『トゥday』さん、『blank s』さん、『最終世界』さん、『tnake』さん、『汐水』さん、『kaiki』さん、高評価ありがとうございます!!


久々に日間ランキングに載るなど嬉しさいっぱいです!これからも頑張りますので応援よろしくお願いします!!いっぱきちゅきぃ。

ではまた次回!
感想、評価お待ちしてます!


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カカオよりココロ【下】


暫く更新してなかったから忘れてしまいましたよね?

リューの純潔(意味深)を銀時は奪っています。それから仲直りしてません。ですから普通には行きません。はい。

ではどうぞ!


 

 

 ジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイジャスタウェイ──────。

 

 

 轟々たるリア充爆発しろ(ジャスタウェイ)の大合唱。 無論、合唱している奴等は【リア充爆発しろ(ジャスタウェイ)の会】の会員たちだ。

 今日は2月14日。聖バレンタインの日。

 オラリオ最強のファミリアの一角である【ロキ・ファミリア】の面々はその大合唱が目覚ましになった。

 

 

「うるさぁぁぁぁぁぁぁいッッ!!」

 

 

 バンッッ!と扉が勢い良く開かれるとジャスタウェイの合唱は止み、会員たちの視線がその扉へ集中した。

 そこには、ゼェハァゼェハァ肩で息をしながら義憤の相を浮かべる団長の姿。要するにフィンがいた。

 

 

「朝から何をやってるんだッ!しかもここは“執務室(僕の部屋)”じゃないかッ!!」

 

 

 そう【リア充爆発しろ(ジャスタウェイ)の会】が集まっている部屋、通称【非モテの憧れ(ディズニーランド)】はフィンの仕事部屋────いわゆる執務室であった。

 非モテ男(会員)たちがモーゼの海の如く半分に割れると、気味の悪い微笑を浮かべた男がフィンの前へ進み出た。

 

 

「おぅおぅフィンさんじゃないですか。オラリオNo.1モテ男のフィンさんじゃあないですかァ」

 

「やはり君か…銀時ッ!」

 

 

 男────サカタ銀時は気味の悪い微笑を浮かべたまま崩さない。その笑みは銀時だけでなくその他のメンバーも浮かべている。

 フィンはその狂気染みた様子にすこしたじろぐ。が、直ぐに表情を取り繕い、相対する。

 

 

「今直ぐにこの馬鹿げたことを止めて自室に戻れ!傍迷惑だ!」

 

「ほぅ?オラリオNo.1モテ男はモテない男達の決起の機会も奪いますか!横暴じゃァありませんかね!?」

 

「何が横暴だ!?大体、こんな事をしているからモテないんだろう!?なぜそれに気付かない!?」

 

 

「「「「「「「「ハッ」」」」」」」」

 

 

「騙されるな!いいか?するもしねェもモテねェ奴はモテねェんだよ!貰えたとしてもお母さんやら姉、妹の慈悲深い義理チョコだけだろうが!」

 

「…」

 

「もぅ嫌なんだよ…バレンタインの翌日に『俺、母ちゃんと姉ちゃんからも貰ったから個数的に俺の勝ち!』なんて傷を舐め合うだけの会話が!」

 

「もぅ嫌なんだよ…貰えなかった事をプチ不幸自慢大会で『ネタにしてる位だから全然気にしてませんよ』アピールする事が!」

 

「もぅウンザリなんだよ…義理だの本命だのくだらねェやりとりをするバレンタインという悪習そのものが!」

 

「ここにいる奴等はもうバレンタインというイベントを一斉にやめるべきでファイナルアンサーなんだよ!俺達にはリア充的生活(ファイナルファンタジー)なんて無い事を知ってんだよ!リア充よりリアルを見据えているのが非リア充(俺達)なんだよ!判ったかコノヤロー!!」

 

 

 一気にまくし立てる銀時はフィン同様に肩で息をする。

 迷惑を掛けられた上に自分の部屋を占領され、知らず知らずの内に罵倒されていたフィンはとうとう堪忍の尾が切れてどこかの血管がプチンと切れた音がした。

 

 

「モテる事が良いことだと思っているのか…?」

 

「あん?そりゃ良いことだろうが。毎年毎年、山の様にチョコ貰いやがって…今年は貰いませんんん?いい御身分ですねコノヤロー、流石は最弱無敗の勇者(ブレイバー)

 

「僕だってチョコを全部貰って食べたいさ…でもね、山の様なチョコの八割は受け取った瞬間に親指が疼くンだよ!わかるかい!?何か()()()()()()を入れられている証拠だ!」

 

「それでも貰えるだけ良いだろうがッ!貰った後にその子と夜の神装機龍(バハムート)だろうがッ!僕の《暴食(リロード・オン・ファイア)》が火を吹くんでしょうがッ!」

 

「話が飛躍し過ぎだろう!?お前はそっちの方向にしか考えが行かないのかッ!頭の中ピンク色に染まり切ってるのか!」

 

「頭ん中、ゴールドのリア充に言われたくねェえええ!!ゴールデンボールを年中使ってる奴に言われたくないわッ!ゴールドフィンガー持ちの加藤のファルコンに言われたくないわッ!“合法年増ショタ”に言われたくないわッ!」

 

「……言ったな、言ってはならない事を言ったな?よし、戦争だ。【魔装よ、血を捧げし我が額を穿て】────【凶猛の魔槍(ヘル・フィネガス)】」

 

「ヨッシャ、テメェらぁぁ先ずはリア充筆頭を討ち取るぞぉぉおおお!!」

 

「「「「「「「「オウッッ!!」」」」」」」」

 

「掛かって来な…テメェら全員、自分(テメェ)のゴールデンフィンガーで自分(テメェ)のゴールデンボールを弄れねェようにしてやるァ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《【ヘスティア・ファミリア】inホーム》

 

 

「いっぱい貰っちゃったなぁ…」

 

 

 2月14日。聖バレンタインの日。

 僕がオラリオに来て初めてのバレンタイン。まぁバレンタインというイベント自体、最近知ったんだけど。

 

 このイベントって女の子が男の子にチョコをあげるっていうイベントらしい。何でそんな事するんだろう…女の子は損失しかないのに。

 

 僕はどんなイベントかは知れたけど、そのイベントに意気込む人々の心情までは知らない。だけど、街が何時もよりソワソワした様に感じるのは勘違いではないと思う。

 

 

「ベルさまっベルさまっ」

 

「ど、どうしたのリリ」

 

「ベ、ベル君ッ!」

 

「ど、どうしたんですか神様」

 

「「こんなに誰から貰ったのですか(んだい)ッ!?」」

 

 

 物凄く凄まれて問い詰められる僕。

 リリと神様の目が殺気立ってる気がする。何でだろう?チョコを貰っただけなのに。

 

 

「エイナさんとシルさん、ナーザさんにアスフィさん、『豊穣の女主人』の皆さんにデメテル様。あ、デメテル様には野菜も沢山貰いました!」

 

「ふ〜ん」

 

「ふ〜ん」

 

「な、何ですか」

 

「ベル様のバカ」

 

「ベル君の唐変木」

 

「なっ何でですか〜!!」

 

 

 プンスカしながら野菜を台所に持って行くリリ。ヘスティア様もプンプンしながらリリを手伝っている。

 

 言い忘れてたけど、ここは僕達の新しいホームだ。

 戦争遊戯(ウォーゲーム)で【アポロン・ファミリア】に勝った僕達は、というより神様がアポロン様に“ファミリアの解散”と“ホームの譲渡”を言い渡した。僕達は【アポロン・ファミリア】から全財産を譲り受けたのでそれを使いつつ、元【アポロン・ファミリア】のホームを改築。ヴェルフの鍛冶場や(ミコト)さんが欲した木製の風呂。皆が求めた物は新しいホームにきちんと整備されている。

 

 

「あっベル殿」

 

(ミコト)さん?」

 

「これ、チョコです。何時もお世話になっているお礼です」

 

「あっありがとうございます!!……ひっ!」

 

「さっ、さらば!」

 

 

 聞いたこと無い言葉…まぁ多分祖国の言葉なんだろうけど、それを最後にピュぅーと自室へ走って行った。

 まぁ背後に居るリリや、柱からこちらを覗き込んでいるヘスティア様のせいだろうけど。視線が怖い。痛いまである。

 

 

「ベルさま」

 

「ベル君」

 

「は、はひっ!」

 

「「はい、どうぞ!!」」

 

 

 二人が一緒に綺麗に包装されたチョコを僕に差し出した。

 二人とも目を爛々と輝かせている。とても嬉しいんだけど…二人の視線が互いにぶつかると火花が弾けてるのは気のせいではないと思う。

 

 

「あ、ありが─────」

 

 

 と、二人のチョコを一緒に受け取ろうと…うん、離してくれませんね。

 どちらかを先に受け取らないと手を離さないと、二人の目が訴え掛けてくる。僕はそれを……。

 

 

「神様、リリ。いつもありがとうございます!愛してます!」

 

「「グハッ!!」」

 

 

 満面の笑みでそう二人に伝える。

 これは師匠に教えて貰った“上手いショタの使い方”というもの。

 二人とも鼻血を出して背後にバタンッと倒れ込んだ。幸せそうな笑顔で目を回している。師匠に感謝しないと。

 二人に貰ったチョコと皆に貰ったものを大事に抱えて自分の部屋へ。そのあと二人を居間のソファにお姫様抱っこ(恐縮です)して運んだ。ティッシュで鼻血を拭うと、少しだけ魔が差してしまったのか二人の頭を撫でてしまう。多分、師匠の影響。

 

 起きてしまうとまた問い詰められそうなので外に出る。

 もう時間は夕過ぎ。陽はまだ高いけれど、とても寒い。

 

 

「あっ……」

 

 

 そんな漏れた様な声が聞こえて、顔を向ける。

 そこには何時もの装備ではなく、ぬくぬくとした恰好に茶のマフラーを巻いたアイズさんがそこにいた。

 

 

「アイズさん」

 

「あの……コレ」

 

 

 おずおずと僕にピンクの綺麗な包装の物を差し出すアイズさん。途轍もなく可愛いのだが、如何せんそれ以外の情報が入らないレベルでこの急なイベントに驚いている。

 普通に考えたらバレンタインのチョコだろう。でも、なんでアイズさんが僕に…?という疑問がついて回る。しかもわざわざ僕達の新しいホームまで来てくれて。

 

 

「ありがとう…ございます」

 

「うん……あのね、ミノタウロスのこと。謝って、なかった…から」

 

 

 マフラーで口元を隠しながらアイズさんはそう言う。

 僕とアイズさんの出会いはミノタウロスだ。そして僕が師匠に教えを乞うことで少し話すようになって、アポロン様の『神の宴』でアイズさんと僕の人生で最高のひとときを過ごした。

 でも、アイズさんはずっとミノタウロス戦(僕達の出会い)のことを引きずっていた。それを謝りたいと、そう言った。

 

 

「ぼ、僕は気にしていません!そのお蔭でアイズさんにも師匠にも出会えました!謝るなんてとても…寧ろ感謝してます!ありがとうございます!」

 

 

 これが僕の本心。頭を下げて感謝を告げる。

 今になって振り返ってみるとアイズさんとの出会いが会ったからこそ、今の僕がある。少しだけ格好良くなれた僕がいる。だから感謝こそすれ、恨んだりなんて…ある訳がない。

 

 

「ねぇ…顔を上げて」

 

「は、はい……」

 

「私も…君と出会えて良かった、って思ってる」

 

「えっ…」

 

「ありがとう」

 

 

 また一つ、僕はアイズさんの女の子としての顔を見れた。

 僕に『ありがと』と告げたアイズさんの花咲くような笑顔は【剣姫】なんてそんな物騒な言葉は似合わない、絶対に。

 

 

「あ、あの…アイズさん」

 

「ん?」

 

「少し、散歩しませんか?」

 

「……いいよ、行こ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《『黄昏の館』in【ロキ・ファミリア】他》

 

 

「ふぅ…」

 

「ふぅ…」

 

 

 午前中にひと波乱あった【ロキ・ファミリア】のホームである『黄昏の館』。

 その玄関口にエルフの女性とヒューマンの女性が深呼吸しながら『黄昏の館』を見据えていた。

 

 

「「あのすみません…」」

 

 

 殆ど同じタイミングでそう口に出した二人の女性。

 その言葉に反応した『黄昏の館』の門番役の一人が怪訝そうに二人を見つめ、口を開いた。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「サカタさんに…」

 

「銀時に…」

 

「「えっ!?」」

 

「…銀さん?」

 

 

 まさか二人とも用がある人物が同じだという事実に驚きの声が漏れる。

 そして門番の人はまさかの人物に目を丸くする。『てっきり団長かと…』と呟いてしまう程だ。

 

 

「判りました。本人に…あ、ボコボコにされてたな……どうぞ、案内します」

 

 

 門番の一人は『銀さんの知り合いなら良いでしょ』と勝手に結論付け、二人を銀時の自室へと案内する。皆が出払っているのか『黄昏の館』内部には人はあまり見えない。

 

 

「銀さーん、お客さん連れてきたよー!じゃ、ごゆっくり〜!」

 

 

 そう言って門番の一人はそそくさと持ち場へと帰って行った。

 二人は顔を見合わせて、どちらが先に入るかを目線で会話し、譲り合う。

 

 

「ふぅ…あっ」

 

 

 そうやって二人で譲り合っている矢先に。

 緊張を感じさせるエルフの女性が黒の包装を胸に抱え、二人に近付いて来る。二人の存在に気づくと同時に少し驚きの声を上げた。

 

 

(君らもか?)

 

(はい)

 

(そうだ)

 

 

 目線だけで会話する三人。

 再び譲り合いが始まるが、意を決した三人目のエルフの女性が銀時の部屋のドアノブに手を掛ける。しかし回さない、いや回せない。

 

 

(縦に並ぶの止めない?皆で一斉に────)

 

(いや、ここはエルフの王としてお願いします)

 

(右に同じ)

 

(……グスン)

 

 

 ふぅ…ふぅ…と深呼吸をして、意を決した様にバンッッと扉を開く。

 いきなりの来客、というより予想斜め上の人物の来客に銀時は布団から跳ね上がり、驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「なっ何用で!?」

 

「スパーキングゥゥゥ!!」

 

「へぶあっ!!」

 

 

 エルフの王────リヴェリアは緊張で舞い上がったのか、例年通り銀時の顔にチョコをスパーキングした。その後は顔を両手で隠しながら爆走し、部屋から飛び出した。

 

 

「毎年毎年何なの!?俺に何の恨みがあんのアイツは!!」

 

 

 顔に付いたチョコを取りつつ口に入れながら、銀時はもう見えないリヴェリアの背に今までの憤懣をぶつけた。しかしチョコ自体は大変美味しく戴いている。

 

 

「おい、銀時」

 

「…モグモグ、アイシャか」

 

「こ、これっ」

 

 

 ヒューマンの女性────アイシャは可愛く包装された黄色い包みを銀時に差し出した。

 銀時は視線を、包みとアイシャの交互にうつす。現状が未だに理解していないのだ。

 

 

「赤マムシ?」

 

「チョコに決まってるだろ!」

 

「婚薬入り?」

 

「カカオ100%だよ!」

 

「陰(ピー)とか入れてないよね?」

 

「入れるわけないだろぉぉぉ!」

 

「ふごっ!!」

 

 

 アイシャの正拳が銀時の鳩尾に突き刺さり、銀時は地面に倒れ伏した。

 アイシャはこめかみに怒りマークを浮かべながら部屋を退出しようとドアノブに手を掛ける。振り返ることなく、口を開いた。

 

 

「チョコ、残したら殺す。あと、春姫が寂しがってるから早く来い。遠征の前に約束したろ」

 

「ゴホッゴホッ、ふぁい……」

 

 

 遠征出発前、アイシャが銀時に遠征後に来いと言っていた約束。

 果たしていない約束を果たす事を宣言し、アイシャは部屋を出た。その口元は緩んでいた事は言うまでもない。

 

 

「サカタさん」

 

「ゴホッゴホッ……リュー?」

 

 

 最後の一人、エルフの女性────リューはもじもじしながら入室した。

 銀時は目をパチクリさせる。今まで訪問した人物の中で一番驚いている。一番有り得ないと思っている人物だからだ。

 

 

「サカタさん」

 

「…はい」

 

「もう一度聞きます。貴方は遠征帰りの打ち上げで、私の“純潔”を奪いましたよね。覚えていますか?」

 

「………覚えてません、すみませんでしたァァァァァァ!!」

 

 

 何をやってしまったのか分からない。だが謝らずにはいられないほど、リューの顔は悲しげに歪んでいた。

 土下座を繰り出し、リューに謝罪する。額を地面に擦り付け、声を張り上げる。

 

 

「もう良いです」

 

「……えっ」

 

「もう良いと言ったんです。覚えていないのなら仕方ありません。私も忘れますから」

 

「……お、おう。すまん」

 

「良いのです。あと、これは『豊穣の女主人』の皆からです。残さず食べて下さいね」

 

「有難く頂戴します」

 

「じゃあまたお店で。お返しはお店に食費を落として下さい」

 

 

 コクコクと首振り人形の様に何度も頷く銀時。

 その銀時を優しく見つめると、踵を返し、リューはその部屋を後にする。その背中に銀時は何も声を掛けなかった。

 

 

「チョコうめェ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《遠征後『豊穣の女主人』in【ロキ・ファミリア】》

 

 

『サカタさん、しっかりして下さい』

 

『んだよ、コンニャろう…もっと酒持ってこぉい』

 

 

 時は戻り、遠征後の打ち上げ。

 酒が回った銀時はラウルに背負われ、『豊穣の女主人』の一室に連れて行かれた。酒癖が悪いので、銀時は酔いが回ると大体別室に連れて行かれるのである。

 一室のソファに座らされた銀時の看病役として、先程まで銀時の酌をしていたリューが担った。この経験は一度や二度では無いからだ。

 

 

『水です、呑んで下さい』

 

『ふぁい?』

 

 

 呂律の回っていない銀時をリューは水を手渡す。

 銀時は水を受け取らずに、じーっとリューを見詰める。

 リューはその視線で顔を直視できなかったが、水を銀時の眼前に差し出す。

 

 

『うぃ、あんがとさん』

 

『いえ、気にしないで下さい』

 

 

 受け取った水を一気に喉に流し込む銀時。呑み終わると、一気に立ち上がった。

 

 

『急に立ち上がっては─────』

 

 

 リューの言葉も聞かずに立ち上がり、また呑もうと一歩踏み出した銀時は案の定、足を絡ませて前へ倒れる。即ち、リューに覆い被さる形になるのだ。

 

 

『ちょっ─────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リューの唇に柔らかいものが初めて触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 





よし、2月14日に投稿できた。ギリギリセーフだけども。

皆さん、バレンタインはどうでしたか?
ドキドキしましたか?一喜一憂しましたか?青春を過ごせましたか?

私は…………ジャスタウェイ。


他のメンバーのバレンタインは次回の本編にて。
特にフィンやらティオネやらレフィーヤやらリア充爆発しろ(ジャスタウェイ)の会のことやら…お楽しみに。

ではまた次回!
感想、評価お待ちしてます!!

※感想返せなくてすみません。きちんと読んでゆっくりですが返信していきます!いつもありがとう御座います!


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スタバの新商品の度にインスタ映えの為に来店する客は新商品に群がるインスタ蝿


気付けば四ヶ月。お久しぶり(ジャスタウェイ)です。

銀魂実写化の二発目の情報が続々と、ダンまちの映画のPVも二期の発表も続々と。

月日が経つのは早いものです。

まぁそうですね、ハッハッハッ…更新出来なくてすみませんでしたァァァァァァァああああああああ!!




 ()

 

「…リュー」

 

「…な、何ですかサカタさん」

 

 

 闇夜の中。

 外からの光を頼りに半裸の二人がベッドで向き合う。

 鍛え上げられた傷だらけの男と綺麗な曲線美をえがくエルフの女。対局する二人の(あわい)は三十センチも無いだろう。

 

 

「…良いんだな?」

 

態々(わざわざ)、聞かないで下さい…ここにいる事が………………答えです、から」

 

 

 苦笑しつつも愛らしく思う男と直視出来ずに目線を逸らす女。

 エルフの女は平静を保つ為にいつも通りに振る舞うが、声は震え、頬から耳にかけて紅潮していた。幸い、闇夜の中の為、相手の男に露見してはいないが。

 

 

「んっ……」

 

 

 伸ばされた手が頬を撫で、艶めかしい声が漏れる。

 エルフにとって身体を許すという行為自体が、本当に最後の最後まで信頼関係を積み上げた証拠なのだ。素肌さえ世に晒すことを拒み、嫌悪するまであるのだから、二人の関係は…いや、言葉は無粋だろう。

 

 

「は、恥ずかしいので…見ないで下さい」

 

「な・ん・で?」

 

「その…シルみたいに大きくないし、リヴェリア様みたいにスタイルが良い訳でも………」

 

「リュー、ここにいる事が俺の答えだ」

 

「ズルいです……もぅ」

 

 

 相互に一糸纏わぬ姿になる。

 例えるならば────“妖精”だろうか。

 雪の様な白い素肌にほっそりとした背中、紅潮する長く尖った耳、肉付きの薄い細身の体。

 男ならば釘付けになる、そうこれは必然だ。浅ましい感情が生まれるのも無理はない。だがそれ以上に、二人は見えぬ糸で繋がっていた。

 

 

 

 

 ────。

 

 ──────。

 

 ────────。

 

 ──────────。

 

 ────────────。

 

 

 

 

「接吻って……甘いのですね」

 

「よくもまァそんな言葉を恥ずかし気も無く…」

 

 

 

 

 ────。

 

 ──────。

 

 ────────。

 

 ──────────。

 

 ────────────。

 

 

 

 

「んぁっ……んんっ、サカタさんサカタさん……っ」

 

「………もう濡れてるな」

 

「いやっ……その、んっ…!あぁっ……サカタさんっ、サカタさん………っ、んっ」

 

 

 

 

 ────。

 

 ──────。

 

 ────────。

 

 ──────────。

 

 ────────────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゅってして…………銀時」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………私は、何て夢を」

 

 

 我に帰った様に目が覚めた私は、濡れて冷えた体を両手で抱きしめた。

 ベッドの側にある窓からは、雨が入り込み、私とシーツを濡らしていました。

 3月中期。

 天候がコロコロ変わる季節です。心地よい春風を感じずにはいられない季節ですが、窓を開放したまま睡眠を取るのは今後控えなければと思わされます。

 

 

「…リュー?あっ、ビショビショじゃない!」

 

「…シル」

 

 

 シル・フローヴァ。

 私を救ってくれた恩人。“豊穣の女主人”の同僚であると同時に良き友です。

 彼女は胸を強調する寝間着にガウンを羽織っています。制服姿より強調された凹凸は凶器と言っても過言ではありません。男を籠絡する、という文言が入りますが。

 

 

「そうですね…私、ヌれてます」

 

「うん、見たら判るんだけど言い方気を付けてね?」

 

「?……下着までビショビショです」

 

「余計酷くなった!」

 

 

 シルが何に憤慨しているのか判りませんが、どうやら私の言い方に問題があるようです。事実しか口にしていない筈なのですが…。

 寝間着が濡れ、薄っすらと下着が透けています。以前にシルのを洗濯時に見た事がありますが…矢張り、私のは映えません。色香など皆無です。

 

 

「リュー、体を冷やさない為にお風呂に早く入って!」

 

「(お風呂に)イッていいのですか……?」

 

「んん〜っ!早く行って!シーツは私が取り替えておいてあげるから!」

 

「じゃあ…(風呂へ)イキます」

 

「言い方!言い方変えて!!」

 

「イクッ…」

 

「ワザとでしょ!?ねぇ!?」

 

 

 頬を紅潮させて、風呂の方向を指差すシル。

 良く出来た女性です。ホントに、クラネルさんに早く貰ってもらねば。

 

 

「シル…」

 

「あとで聞くから!早く、ね?」

 

 

 早く行きなさい、とシルが私の背中に触れた時────。

 

 

「んぁっ…!」

 

「ふぇっ!?なんて声出してるのッ!?」

 

 

 冷えた体にシルの温かい手が触れた瞬間、体が跳ね上がり声が漏れてしまいました。シャワーで急に設定温度より熱いお湯が出た時と同じ感覚です。それに体も心もビックリしてしまったので仕方ないのです。しかも寝間着の中でも素肌に近いところを的確に突いてきましたし。

 

 

「シルは破廉恥ですね……」

 

「うぇえッ私がっ!?納得いかないよぉ!」

 

 

 何が納得いかないのでしょう?

 プンスカ言うシルの言葉を背に受け、私は風呂場へと急ぎます。

 素肌に張り付く寝間着を脱ぎ、下着を外すと、風呂場の側にある等身大の鏡が目に入ります。

 

 

「ふむ………」

 

 

 前にあの人から教えてもらった、口角を指で上げる行為をしてみます。

 ぎこちない、不細工なエルフの笑顔が鏡に移ります。教えて貰ってから毎日の習慣となっていますが、無愛想は変わりません。

 

 

「はぁ」

 

 

 それから私は、ペタペタと自分の体を触り、体のチェックを行いました。冒険者家業の時からのクセで不調や違和、傷跡などを確認…ふと思うと、体を触る順序が()()()()()()()()()()()()()()()()()なことに気付きました。

 

 

「〜〜〜〜〜〜!!」

 

 

 首が折れるのではないかと思うぐらい横に振り、大きく息を吐きます。

 こんなものは私ではない。私は最高にクールなエルフなのです。破廉恥な女ではありません。色恋に(うつつ)を抜かし、意中の相手を夢に見て幸せな気分に浸っている訳ではありません。えぇ…えぇ、えぇそうですとも!悪いのは私の夢に勝手に出てくるあの人が悪いのです。

 

 

「……シャワーを浴びましょう」

 

 

 結論を出したところで、私は浴室へと歩を進めました。

 

 

 

 

 ────。

 

 ──────。

 

 ────────。

 

 ──────────。

 

 ────────────。

 

 

 

 

「あ、やっと上がったねリュー。ほら、コーヒー淹れてるよ」

 

「有り難う御座いますシル。何から何まで」

 

「良いよ、困った時はお互い様でしょ?」

 

 

 感謝を述べ向かいに座り、淹れてくれたコーヒーに舌鼓をうつ。

 朗らかな笑顔を浮かべるシルに感謝してもし足りない。私がここにいるのは目の前にいる少女の御蔭他なりません。

 困った時は…彼女は聡い。私の腕っ節を使う日が来ない事を願いますが、その時は盾となり刃となる。その覚悟はとうに出来ています。

 

 

「シル」

 

「ん?な、なななぁに?」

 

「どうしてそんなにソワソワしているのですか?さっきからずっと私とベッドへと視線が行き来して… 」

 

「そ、そんな事ないよ!ベッドの一部分が水じゃなくてヌルヌルした粘り気のある液体だったなんて誰も気にしてないから!……いや!ホントは何にもないから!いや…うん違うから!攻めてる訳じゃないからね!女の子として普通だから!ねっ!?うん!!」

 

「は、はぁ…有り難う、ございます?」

 

 

 目を見開きながら手をブンブン振るシルは何時ものシルらしくありません。肯定したり否定したり気にするなと言ったり…情緒不安定です。

 この話を掘っても仕方ないので、話を変えます。

 

 

「シル、このコーヒー美味しいですね。どこから仕入れたのです?」

 

「え?あ、あぁそのコーヒーは、というより豆はね?最近オラリオに出来た『スターボックス・コーヒー』から仕入れたの。聞いたことあるでしょ?」

 

「あぁ聞いた事はあります。それがあるかないかで田舎か都会か判断されるというお店ですよね?行ったことはありませんが」

 

「間違ってないから否定しにくいなぁ…」

 

 

 シルが言うにそのお店は『スタボ』という略称があるそうです。

 それにコーヒーだけでなく、キャラメルやストロベリー、東洋の『まっちゃ?』という苦味の強い物の飲料を出しており、加えてケーキなどのスイーツも置いてあるので、四六時中人気なんだとか。昼頃の豊穣の女主人のライバル出現みたく感じます。

 

 

「じゃあ今日のお昼にでも二人で行こう!私はもう何度も行ったから」

 

「そうですね、宜しくお願いしますシル。ちなみにシルのオススメは何です?」

 

「えっとね…『トールバニラノンファットアドリストレットショットチョコレートソースエクストラホイップコーヒージェリーアンドクリーミーバニラフラペチーノ』とか『トールバニラソイアドショットチョコレートソースノンホイップダークモカチップクリームフラペチーノ』かな」

 

「………何て?」()

 

「リュー、語調が変だよ?えっと『トールバニラノンファットアドリストレットショットチョコレートソースエクストラホイップコーヒージェリーアンドクリーミーバニラフラペチーノ』と『トールバニラソイアドショットチョコレートソースノンホイップダークモカチップクリームフラペチーノ』だよ」

 

 

 私の単語単語の聞き間違えでなければ、かなりの仔細をお客側で決めれる事になります。

 ベースになる飲料にサイズ、ミルク、シロップ、ソース、チョコチップの有無、ホイップやパウダー、恐らく氷の分量も決める事が出来るでしょう。聞くだけで人気が出るのも頷ける内容です。

 とは言え…自由過ぎるのも考えものだと思いますが。

 

 

「その『何たらフラペチーノ』ですが、それは態々覚えたのですか?メニューやトッピングの仔細を指定する為に。しかも二つも」

  ()

「そうだよ?それに『トールバニラノンファットアドリストレットショットチョコレートソースエクストラホイップコーヒージェリーアンドクリーミーバニラフラペチーノ』と『トールバニラソイアドショットチョコレートソースノンホイップダークモカチップクリームフラペチーノ』だよ。『何たらフラペチーノ』じゃありません!魔法の詠唱を覚えるより簡単でしょ?」

 

 

 それとこれとは話が違うでしょう…?

 と言いたいところですが、確かに魔法の詠唱よりは語彙は少ないです。覚えられないの?と問われれば『覚えられる』と自信を持って答える事ができます。いやぁでも、そういう事じゃないでしょう…?

 

 

「その『トールバニラ…』、あぁもう『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲』で良いですね、それらの容器ってどのような物なのですか?」

 

「少しも掠ってないんだけどッ!?というか何なのその『ネオアームストロング………』何だっけ?」

 

「『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲』です」

 

「それは覚えられるのに『スタボ』のは怪訝な顔するんだね!?……えっと、容器はね、ドーム型って言うのかな…蓋はまぁるくなっていて、透明だから外から中身を確認しやすい作りになってる。最近は『スタボ』で買った二種類のドリンクを隣に並べて写真を撮ることが、カップルの中で流行だって聞いたよ!」

 

 

 興奮気味に説明するシルはクラネルさんに想い馳せているのか、幸せそうで、思わずこちらも頬を緩めてしまいます。

 ふむ────蓋が丸、というよりドーム型で円形。最近の流行りはカップルで()()()()()こと。そして喉に流し込む際には長き棒(ストロー)を使う………うん。

 

 

 

「矢張り『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲』ですね」

 

「どこが!?というか本当に何なの其れっ!?」

 

「長き棒と二つの玉で出来るものです。最上級の褒め言葉は『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねェか、完成度高ーなオイ』……です」

 

「ド下ネタ!?知らないけども!聞いてもないけども!最近銀時さんに似てきたね!リュー!」

 

 

 私がサカタさんに似てきたァ?ショックで目眩がするレベルです。

 夢の中で、私を襲おうとしてきた人ですよ?

 確かに先程の文言はサカタさんから教えてもらったものです。

 ですがそれが私が彼に似たという結果に成り得るのでしょうか?いや、成り得ません。寧ろ、名誉毀損でシルを訴えるまであります。まぁそんな事はしませんが。

 

 

 

「シル…酷いです。撤回の上、謝罪を要求します」

 

「あはは、御免ねリューそんな顔しないで。流石にギャンブル狂いのダメダメ男と一緒にしてはいけないよね…」

 

「サカタさんはダメダメじゃありません。撤回の上、謝罪を要求します」

 

「面倒くさ!この()面倒くさ!どうしろと!?褒めても貶しても謝らなくちゃいけないんだけど!?」

 

 

 そんな他愛のない話をして一息ついた時。

 コーヒーを淹れ直したシルは私に真剣な眼差しを向けて、口を開きました。

 

 

「昨日…ベルさんと銀時さんが一緒に来たじゃない?」

 

「来ましたね。それが?」

 

「ホワイトデーと言って私達にお返しくれたじゃない?だから、今度それを口実にデートでも誘ったら?私もベルさんと約束を取り付けるから」

 

「……無理です」

 

「どうして?」

 

「私とその…男の人と特定の行動をするのは、地獄に行くようなものです。地獄に堕ちろ(ゴートゥーヘル)です」

 

「それは違う様な気がするけど…」

 

 

 まず、私にはそんな度胸は有りません。

 シルは『でぇと』と言うものを私にさせたいのでしょう。付け加えるに、シルもクラネルさんを誘うというのならば、前に教えて貰った『だぶるでぇと』というものになる。

 いやァ無理でしょう。サカタさんも嫌でしょう。私ですよ?無愛想で触れただけで拳を飛ばす私ですよ?全自動反撃装置(ただし男に限る)ですよ?

 

 

「リュー、私はね?サカタさんはそんな事であーだこーだ言う人じゃないと思うよ?それに、そういう人だってこと、私なんかよりよっぽど知ってるでしょ?」

 

「さらっと心を読まないで下さい。まぁ……はい」

 

「なら、早速行動しよ!自分の正直な、素直な気持ちを相手に伝えたら、きっと応えてくれるよ!」

 

「素直…ですか」

 

 

 私とは無縁の言葉です。

 少しだけ、気持ちの吐露をした事はあります。遠征に行く、あの人に対してほんの少しだけ、気持ちが溢れて…今思い出してもあれが私だとは思いたくありません。

 とは言え、私の友人の提案を無碍にするわけにもいきません。彼女はあくまでも私の事を考えて提案してくれたのですから。そのくらいは感情に疎い私でも判ります。

 正直、素直、正直、素直、正直、素直、正直、素直────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムラムラします」

 

 

 

 

「ど直球過ぎる!!そんな事言われた日には、銀時さんGo to hell(ゴートゥーヘル)どころかデートの後にGo to health(ゴートゥーヘルス)だよ!罪深いよ!」

 

 

 取り留めの無い話をシルと交わし、気付くと雨も止み、仕事の支度の時間が近付いてきました。

 味わい深いコーヒーを一気に飲み干し、よっこいしょういち、と言い立ち上がります。シルは淑女然とした華麗な所作で立ち上がります。何かこちらに言いたげな顔をしていましたが、何も言いません。

 

 椅子を離れ、近くにある机へ。

 置かれてある『アポロ』と大きく書かれたチョコレートを二粒ほど手に取り、一つは口に入れ、一つはシルに渡します。今日の諸々の礼です。

 

 彼らしいバレンタインデーのお返しです。

 イチゴのチョコレートと甘めのチョコレートが積み重なっているものです。よく市場で見掛けます。

 これを仕事前に食べる事を習慣にする事を貰った時に決めました。なぜかやる気というか…心が温かくなって、身が引き締まるのです。よしっ、と心の中で呟き、振り向くと、シルが笑顔でこちらを見ていました。

 

 

「リューってやっぱり可愛い!」

 

「きゅっ、急にどうしたんでちゅかっ!」

 

「ふふっ、チョコを食べてる時のリューの顔、今まで見た事がないくらい笑顔だったよ?チョコはチョコでも銀時さんから貰ったチョコだか……いひゃいいひゃい!ふぉふぉひっふぁらないへっ!」

 

「む〜〜〜っ!」

 

 

 モチモチですべすべな肌を引っ張ります。

 涙目になっていますが知りません。私をからかうからです……いや別に勘違いしないで下さい。私がシルが言うように笑顔だったのはサカタさんからのチョコレートを含んだからではなく、元々甘い物が好きなだけなんです。決してサカタからのお返しだからという理由ではないんです。信じて下さい、何でもしますから。

 

 

「今何でもするって……」

 

「言ってません。それより、早く仕事に行きますよ」

 

 

 頬を(さす)るシルを一瞥し、着替えをします。

 夢では襲われ、現実では友人に彼の事で(からか)われ、悪い事象が折り重なっている筈なのに、なぜか心はポカポカ温かい。

 おっと危ない。私は仕事に私情は持ち込まない主義です。頬が緩まない様に、口に力を入れ、気を引き締めます。その表情でシルの方へ振り向くと────吹き出されました。

 

 

「リュー、顔が“男梅”みたいになって…いひゃいひゃい!ごふぇんって!ゆるひて!」

 

「〜〜〜〜〜ッ!」

 

 

 そんなこんなで仕事には遅刻し、ミア母さんにこってり絞られることになりましたとさ…全部、サカタさんの所為(せい)です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うへへ…うへへ……」

 

 

 時同じく早朝。

 一人のいい年した女性がベッドに寝転び、全長1(メートル)ぐらいある、とあるクマの“縫いぐるみ”に抱き着いていた。抱き枕代わりである。

 

 

「うへへ…うへへ……」

 

 

 女性は種族で言えばエルフだ。

 エルフは見目麗しい体を持ち、それを誇るよう誰よりも高潔である。

 だが、寝転がる女性には見る影もない。加えると…だ、その女性は誰よりも高潔である種族の“王”である。

 

 

「うへへ…うへへ……へへ」

 

 

 さて、誰が見ても残念なこの女性。大の“縫いぐるみ”好きである。

 それまでは良い。微笑ましい、それに尽きる。しかしこの女性、縫いぐるみが無いと眠れないという、まるで幼稚園児の様な事を平然と言ってのけるのである。まぁ公言している訳ではなく、ごく一部のこの趣味を知っている人間には言っている…というのが正しい。

 

 

「可愛いなぁ可愛いなぁ……うへへ」

 

 

 寝惚けているからか?────NOである。

 至って正常、至って通常運転である。

 エルフの王、都市最強の魔法使い、そしてオラリオの一角を担うファミリアの副団長の立ち位置である彼女がこうである。世も末だ。

 

 

「お前の名前は何にしよう…?ん〜悩ましい」

 

 

 この女性、いい年して縫いぐるみに名前を付けている。

 何度でも言おう。いい年して、いい年して、いい年して……そろそろ止めておこう。

 

 

────コンコン

 

 

 この女性、縫いぐるみに夢中だからか、自室のドアを叩く音が聞こえていない。

 この女性を敬慕する同種族の者は沢山いる。ノックしている少女もその一人だ。同時に彼女の性へ…ゴホン、趣味も知り得ている。

 

 

────コンコン

 

 

『リヴェリア様?』

 

「んー何が良いかなぁ…フリーザ、セル、ブウ…しっくり来ない……うへへ」

 

 

 ノックの上、声もドア外から掛けたのに返事が無い。

 不安になるのも仕方が無い。幾ら、エルフの王で最強の魔法使いであろうが、睡眠時の闇討ちは防げない。嫌な想像だけが膨らんでいく。

 

 

『リヴェリア様?』

 

「くぅ〜!悩ましい!……君の名前はなぁにっかなっ♪?」

 

 

 この女性、いい年して縫いぐるみに話し掛けている。

 変な音節と共に語り掛けるが、返事は無い。屍の様だ?違う。答える訳がない。何せ縫いぐるみだからである。

 

 

「それっ♪」

 

 

 この女性、遂には全長1(メートル)程あるクマの縫いぐるみにダイブした。言うのならば、クマの縫いぐるみを()()()()()()()()()()になっている。

 可哀想なのは外の少女だ。不安ばかりが煽られて、挙動不審になっている。返事も無いのに入って良いのかと、礼儀と危機管理に板挟みで自問自答を繰り返している。

 そして────意を決する、少女の名を“レフィーヤ”という。

 

 

「貴方の名前はなぁに?……“シルバータイム”…あなた“シルバータイム”って言うのね────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しますリヴェリア様ッ!!」

 

 

 

「曲者ぉぉぉぉおおおおおおおッ!!」

 

 

 

「ヘぐァッ!?!?」

 

 

 縫いぐるみより数万倍価値のある、愛用の“杖”を入室した人物に投げる────リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 レフィーヤだと気付いた際にはもう遅い。杖はレフィーヤの眉間に吸い込まれ、打突した。レフィーヤからは女性にあるまじき変声が漏れ出た。

 

 

「レフィーヤなぜノックをしない!そんな礼儀知らずに育てた覚えはないぞ!」

 

「理不尽ッ!何度もしましたよ!!」

 

「む………こ、声を掛けるなどあっただろう!?」

 

「お言葉ですが!声も掛けました!返事が無かったので無理矢理入りました!」

 

 

 さすがの理不尽さにレフィーヤも少し気が立っている。言葉遣いが少々荒っぽい。

 リヴェリアもその剣幕に言葉が詰まり、ひと呼吸おいて口を開いた。

 

 

「お、おおおお前は私が“縫いぐるみ”に夢中で音が聞こえなかったとでも言うのか!」

 

「語るに落ちてる!?一言もそんなこと言ってないですよ!!」

 

「や、喧しい!」

 

「恥ずかしいなら恥ずかしいと言えば良いじゃないですか!私に当たらないで下さいよ!別に()()()()()()()()()()()のマネをしていたとか言いませんから!」

 

「〜〜〜〜〜ッ!忘れろッ忘れろぉぉ!三分間だけ待ってやる!」

 

「────バルス」

 

「目がッ目がァァァァァアアアア!!……じゃないッ!!早く忘れろレフィーヤ!」

 

 

 ワーギャー言っている内に約束した時間を迎え、二人仲良くフィンに怒られるのはまた別の話だ。

 そんなこんなで今日もオラリオは平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?師匠、昨日ぶりですね」

 

「おう」

 

 

 数刻が経ち、昼と夜の(あわい)の時間。

 ベルが在籍する【ヘスティア・ファミリア】の新しいホームに銀時は訪れていた。

 銀時が訪れたことを二階から視認したベルは、ダッシュで玄関をあけて銀時の前にまで馳せ参じたのである。従者か何かと間違うぐらいの速度だ。

 そんな時、(ミコト)は丁度散歩から帰って来たところで彼等と鉢会った。

 

 

「おや、ベル殿と…」

 

「あ、(ミコト)さん。こちらは僕の師匠のサカタ銀時、初めましてですよね?」

 

「あ、貴方がそうでしたか!私はヤマト・(ミコト)と言います!【タケミカヅチ・ファミリア】から改宗(コンバート)し、多士済々の【ヘスティア・ファミリア】にて様々な事を学び日々研鑽に励む所存です。宜しくお願いします」

 

「固ェ固ェ。お前さんの頭は、好きな人を前にした童貞のお粗末品ですかコノヤロー」

 

「……ちょっ、ちょっと師匠!!」

 

 

 (ミコト)は理解出来ず、首を傾げている。

 言葉の意に気付き赤面したベルが銀時をぐわんぐわん揺らすが、死んだ目のまま鼻をほじる銀時は止まらない。

 

 

「あー思い出した、お前さん『くノ一』だろう?」

 

「『くノ一』って何ですか?」

 

「ベル殿、『くノ一』とは女性の『忍』の事です。私の母国語になりますが、平仮名、片仮名、漢字と三つの種類が有りまして、平仮名の『く』と片仮名の『ノ』と漢字の『一』を組み合わせると『女』という漢字になる…つまり、男性と女性の『忍』の区別化の為に出来た名称です」

 

「女性の忍の名称…って事ですか?」

 

「その通りですベル殿。然し銀時様、何故其れを知って…確かに名前からして私の故郷のものと似ていますが……」

 

「一緒だろうな、お前さんと」

 

「“サカタ・銀時”……ってこう書きますよね?」

 

 

 (ミコト)は銀時に向かって空中で指を踊らせ、故郷の字で銀時の名を書く。

 銀時は肯定も否定もしなかった。まるで()()()()()()()()ところであるかの様に。

 銀時は(ミコト)の手を握ると『サカタ』の綴りを手直した。

 

 

「“サカタ”ではなく“坂田”……?」

 

「はいお終い。これ以上は言わねェよ」

 

「ま、待って下さい!!()()()()()()()()()()()は将軍から────むぐっ!!」

 

(ミコト)つったか、覚えときな。女は男の過去に踏み込んじゃいけねェんだ。男ってのァ女に過去を穿(ほじく)られると変な傷が疼いて体と思考を蝕んだよ。自分(テメェ)は女の過去まで自分のものにしたいくせにな。だからよ、未来だけ見据えて胸張っとけ。そういう格好いい女に男は弱いもんさ」

 

 

 銀時はそれだけ言うと『スタボ』で買った飲み物などを(ミコト)に渡し、ベルを連れて夜の街へと歩き出す。

 渡されたものは【ヘスティア・ファミリア】の人数分入っていた。ベルを除く人数分、であるが。

 (ミコト)は銀時に言われた言葉と思い付いた仮説との狭間に思考が揺れ動き、少々動きが止まる。そして跳ね上げる様に顔を上げた。

 

 

「………はっ!有り難うございます!それと何処に行かれるのですか?」

 

「南東のメインストリート、朝までにはベルを返すって紐神様に言伝(ことづて)頼まァ」

 

「合点承知!行ってらっしゃいませ!」

 

 

 ビシッと敬礼した(ミコト)は二人の背中が見えなくなるまでその体勢を続けた。律儀なところは(ミコト)の美点だが少々真面目過ぎる節があるのは誰もが周知の事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、(ミコト)君おかえり!!おや?それは」

 

「ただいま戻りました、ヘスティア様。これは銀時様が私達に、と差し入れを下さいました」

 

「ん??あっ『スタボ』じゃないか!!行ってみたかったんだよね〜〜〜。サポーターくぅーん、ヴェルフくぅーん、お茶にしよー」

 

 

 喜びがツインテールに表れ、跳ねて跳ねまくる神ヘスティア。

 そのヘスティアの呼び掛けでサポーターのリリと鍛冶師のヴェルフも集まり、食後のおやつとなっていた。夜だから太るぞ、なんて無粋な事を言うものはいない。

 甘味の暴力に舌鼓を打ち、満足気な顔でゆっくりとした時間を過ごしていると、(ミコト)は思い出したかの様に口を開いた。

 

 

「ヘスティア様、そう言えば銀時殿から言伝を預かってまして」

 

「銀時君から?何だい?ベル君のこと?」

 

「えぇまぁ。朝まで借りるとの事で、行き場所は南東のメインストリートだと仰っていました」

 

「南東のメインストリートですって!?」

 

 

 (ミコト)の言葉に反応したのはヘスティアではなくリリだった。

 リリはガタンッと椅子を飛ばして立ち上がると、ヘスティアに視線を送った。ヘスティアはその意図、銀時がベルをどこに連れて行ったのか察しがつくとリリ同様、凄まじい勢いで立ち上がった。

 

 

「ど、どうしたのですかお二方…?」

 

(ミコト)様、南東のメインストリートに有るのは…」

 

(ミコト)君、朝には帰る、つまり朝帰りってことからも行き先は…」

 

 

「「『歓楽街』!」」

 

 

「あんの白髪頭!ベル様に何を仕込むつもりですか!許せません!阻止しなければ!」

 

「純粋無垢なベル君に女遊び教えてみてみろ…僕のツインテールが火を吹くぜ!今から向かおうサポーター君!まだ間に合う筈だ!」

 

「勿論ですとも!ヴェルフ様、(ミコト)様も行きますよ!」

 

 

 顔が紅潮し目が血走っている二人の相は鬼のようだった。

 頭を抱えながら渋々腰を上げるヴェルフと未だに状況を把握出来ていない(ミコト)は戸惑いながらも、二人の後を追い掛ける事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠、南東のメインストリートには何が有るんです?修行ですか?」

 

 

「そうだなぁ、修行って言やァ修行だな。ベル、今日やんのは『女の喜ばせ方』だ」

 

 

「へ?ど、どういうことですか…」

 

 

「俺の故郷ではな、“女”を“喜”ばせるって書いて『嬉』しいって読むんだ。『女を喜ばせる』それこそ男の在るべき姿なんだよ」

 

 

「は、はぁ…」

 

 

「ベル、今日は『戦争遊戯(ウォーゲーム)』の祝勝祝い、俺の奢りだ」

 

 

「それは有り難いですけど…まだ話が見えて来ないです」

 

 

「ベル、大人になる時だ」

 

 

「へ?」

 

 

「一皮剥けてこい。色んな意味で」

 

 

「え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 





どうもお久し振りですTouAです。
久方振りの一話、如何でしたでしょうか?楽しめて頂けたのなら幸いです。

久し振り過ぎてね、どんな感じで書いていたのか忘れてましてね…その結果が今話のリヴェリアです。お察し下さい。

雑談なんですが、『僕のヒーローアカデミア』という作品をずっと追い掛けていて、この前神回があったんです。オールマイトとオールフォーワンの。泣きじゃくって見てたんですが。
一貫したNo.1ヒーローの行いに胸を打たれて友達と語り合ってたんです。

「いやぁオールマイト最高。一貫したヒーロー像、在り方、ホントにもう…ね、いつか僕も一次小説に挑戦する時は性格が一貫したキャラクターを作りたいわ」

「いや無理だろ」

「え、なんでだよ」

「お前……自分の作品を省みてみろよ、ベル君、リュー、リヴェリア、オッタル……原作者に謝らなきゃならんレベルだぞお前のは」



ぐうの音も出ませんでした。まる
まぁ良いじゃない、人間だもの(遠い目)。


さて次の話題。
実写版『銀魂2』キャストも発表されましたね、それぞれのキャストも納得出来てます。特にマダオ。多分これは満場一致で納得してんじゃない?原作ファンもアニメファンも福田雄一ファンも。

今から楽しみです!

ではまた次回!
更新頻度は上がると思いますので、そのときに!皆、会いしてるぜ!


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ホップ・ステップ・ジャンプ


テニプリっていいな♪

銀魂終わらなかったよぉぉぉぉぉ!よかったよぉぉぉぉ!!

というテンションで書き上げた一話です。どうぞ




 

 歓楽街────遊郭。

 それは男の願望を叶えんとする桃源郷なるものだ。

 異文化の街路はとにかく明るかった。魔石灯以外にも提灯(ちょうちん)と呼ばれる蝋燭の証明が道の至るところに吊るされており、その光の下を若い男女が行き交じっている。

 

 

「ほへ〜〜〜」

 

 

 そんな間抜けな言葉が思わず漏れてしまう僕は、一人ポツンと歓楽街の街中で空を仰いでいた。

 なんせ、目線を前に向けても後ろに向けても乳房がこぼれそうな女性ばかり。心に決めた女性がいるのに、思わず目移りしてしまうほど艶やかな女性ばかりで大変目に毒だ。

 師匠は僕に瓶を渡してどこかへ行ってしまうし…『精力剤』って書いてあるし。本当に卒業するの?大人の階段登っちゃうの?僕は男だからシンデレラじゃないんだけど。

 

 はぁ、取り敢えず僕にはそんな勇気は無い。師匠には悪いけど帰らせて貰う。

 そう決意して、道ゆく男性二人組に帰路を尋ねようと試みる。

 

 

「あの…すみません」

「んぁ?何だ客引きか?もう無理無理。ムスコも限界です」

「いやそうではな────」

(あん)ちゃん、若いのに客引きたぁ結構な心掛けじゃねぇの。雇った楼主も相当なタマだろうよ。そんな肝っタマ据わった主人の店なら女もレベル高いだろ?お金もタマもスッカラカンな俺達よりも他を当たってくれや」

 

 

 そう言って僕の肩をポンポンと叩いた男性達は千鳥足でどこかへ消えてった。

 しかし何で僕が客引きだと……あ、なるほど。この街にいる女性…いや娼婦の方が着ている服は『着物』と呼ばれる極東の民族衣装だ。

 僕もヴェルフに貰った『着物』を着ている為、この街の関係者、つまり供給側だと判断された訳か。ある意味、女性達に誘われない事からして不幸中の幸いってところだ。

 

 納得がいって、改めて少しだけ慣れた歓楽街に視線を戻す。

 広い路上の真ん中や脇に植えられているのは、迷宮のとある階層で発見されている蒼桜(アジューラ)だった。ダンジョンから持ち帰られた迷宮産の樹は、季節に関係無く美しい花を咲かせ、蒼い花びらを石畳の上に散らかしていた。

 師匠が前に言っていた“桜”は恐らくこういうものではなくて、元来の桃色のものだろう。実物を見たことが無いから断言出来ないけど。

 それでも幻想的な蒼い桜に驚嘆していると、背後から肩を叩かれた。

 

 

「ねェアンタ…」

「はひっ!?」

 

 

 跳ね上がる様に振り向いた僕の背後に居たのは、漆黒の長髪が臀部まで伸びている、踊り子の衣装を身に纏ったアマゾネスの娼婦だった。

 男性の視線を釘付けにする褐色の肌からは色香が漂い、艷やかで潤った唇や捜し物を見つけた様な、それでいて捕食者の様な目は僕を惹き付けて離さない。

 いや待って、拙いぞこれは……!悪寒が走り、この場を離れようとする。

 

 

「アンタ、【白小鬼(オルガ)】だろ?アタシはアイシャって言うんだが……」

 

 

 バレてるよフゥー!!

 なんて現実逃避しないといけないくらい体の中は熱い。悪寒走る手足は凍りついたように動かないけどね!

 言葉を発せず、首をブンブン振る僕に対して、目の前の女性…アイシャさんは優し気に目を細め、唇を少し釣り上げる。呆れ笑いというか苦笑…?を浮かべて口を開く。

 

 

「あのさ────」

「アイシャ誰それー!」

「何だか青い男の匂いがするー!」

「今日は不作だー!」

 

 

 彼女が何かを言い掛けたとき、畳み掛けるように周囲からわらわらと、方々の街路や路地裏から沢山の人影が、ていうかアマゾネスが姿を現した。

 ぎょっとする僕を他所に、見目麗しく溌剌とした彼女達はこちらへやって来た。

 

 

「あらあら、歓楽街に来るのは初めて?」

「久し振りだな、こういう男を見掛けるのは」

 

 

 多分、客寄せに出ていただろう娼婦達は何も言い返せていない僕を口々にからかう。気が付けば周囲を囲まれていた。

 アイシャさんを含めて全員が全員アマゾネスだ。当然、アイシャさんかそれ以上の露出。

 目のやり場に困り、抜け出そうと足に力を込めた瞬間、とあるアマゾネスの人が声を上げた。

 

 

「あー!!【白小鬼(オルガ)】じゃん!戦争遊戯(ウォーゲーム)でヒュアキントスを倒した!」

「バッ…!」

 

 

 世界最速鬼(レコードホルダー)やら白い髪やら赤い目やら着物やら何やら言われて揃って僕の顔を凝視し特定されるという…。

 アイシャさんがまるで僕を庇うように避難の声を少し上げてくれたが、徐々に盛り上がるアマゾネスの方々の声に掻き消された。どうやらアイシャさんだけがアマゾネスの方々とは違う目的の様だ。

 

────豹変する空気。

 

 からかい半分の雰囲気が吹き飛び、女戦士(アマゾネス)達の双眼がギラギラし出す。

 話し声が消え、全員の視線が輪の中にいる僕の事を串刺しにした。

 逃げなきゃ────と思った次の瞬間。わっっ!!と彼女達は僕に飛び掛かった。

 

 

「強い男は大歓迎!」

「ねぇ!私を指名しない!?」

「そんなちんちくりんより私の方が!」

「男の子はおっぱい大きい方がいいよね!ね!」

「何言ってんのよ形よ形!大きいだけって脂肪の塊ぶら下げてるだけじゃない!」

 

 

 やめて!僕の為に争わないで!

 アマゾネスの荒波に一瞬で呑み込まれた僕は、アマゾネスの肢体の中で撹拌(かくはん)され、幸せのひとときを過ごし……じゃないよ!視界が肌と衣服の色以外何も見えなくなり、意識も飛びかけて────ぐいっと。

 僕の伸ばした腕を掴み、強引に引きずり出す存在があった。

 

 

「コイツはアタシが最初に目を付けたのさ」

 

 

 アイシャさんんんんん!

 もみくちゃにされる僕をその大きな胸で抱き寄せたアイシャさんは、アマゾネスの一団に毅然とした態度で言い放った。

 アイシャさんは他のアマゾネスの方とは違って、()()()()()()()があって僕に接触したようだから安心して身を預けられる…ほふぅ。

 胸の谷間に顔を埋めた僕が真っ赤になる中『ブーブー!!』と大顰蹙の声が上がった。上目でアイシャさんを見ると、非難の嵐はどこ吹く風だった。超クール……!

 

 

「アイシャずーるーいー!!」

「後で貸してくれるんなら許さないこともない!」

「そうだそうだ!皆に回せ!」

 

 

 とんでもない事ばかり口にしているけれど、アイシャさんは僕を抱き締めて離さない。守ってくれる事は有り難いけどそろそろ色々ヤバイので脱出を試みる。

 

 

「だっ、駄目に決まってるだろ!アタシがコイツの初物を貰うのさ!それは決定事項だ!」

 

 

 ………。

 アイシャさんも目的変わらんんんん!

 危機が再燃したのを感じ、両腕と背筋に力を籠めて脱出。慌てて距離を取る。

 四面楚歌な現状には変わりないけど、窮地に脱するしか僕の貞操を護る方法は無いと知る。そして女性が怖いものだということも初めて知った。

 味方なし。前後左右に敵あり。逃げるなら────。

 

 

「【ファイアボルト】ッ!!」

 

「「「「うわっ!」」」」

 

 

 上空(うえ)だ。

 魔法を地に向かって撃ち、体を宙に浮かせる。速攻魔法だから詠唱も要らないし、威力も弱めだから石畳が壊れる事はまず無い。

 目くらましにもならないけれど虚をつくことが出来た僕は、その勢いで傍にあった娼館の屋根に登る。そして行き先も判らないまま、ここに留まってはならないその想いのみに従って、屋根から屋根へと駆ける。

 

 

「逃すなァァ!!追えぇぇぇ!!」

 

 

 狂乱の声から遠ざかるために。

 僕は足がもげるんじゃないかと思うくらい酷使して、この場からの逃走を図った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、困ってるようだったら連れて来いって銀時に言われただけなんだがねェ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、ひひ久しいな春姫(はるひめ)

「お久し振りで御座います銀時様!」

 

 

 冷や汗をダラダラ流しながら挨拶をする銀時。

 対して、春姫は久方振りに再会する、というより逢いに来てくれた銀時に燦然と目を輝かして嬉面一色で喜びを表した。

 銀時は春姫とアイシャを含めて、遠征が終われば会いに来ると約束していた。紆余曲折あって、というより半分忘れかけていてバレンタインによるアイシャの言葉でここに来る決心をしたのだ。ベル(弟子)の卒業などオマケである。

 

 

「取り敢えず……呑むわ」

「はい!お席へどうぞ!」

 

 

 銀時にとって昔懐かしい料理がずらっと並んでいた。

 並べられた料理は、およそ遊郭には似合わない、揚げ物や味噌汁、煮物と庶民的なものだった。これは銀時が初めてここに訪れた時に注文したものだった。

 

 

「ん、やっぱ美味い」

「それは良かったです!」

 

 

 パンッと手を合わせて花のような笑顔を浮かべる春姫。

 春姫にとっては、銀時と話せることが嬉しくも楽しいことであるから、()()()()()()()()()()が大きく心を占めている。つまり感謝だ。

 銀時はそれを知って尚、会いに来なかったことに自戒を込めて心の中で何度も何度も謝罪していた。()()()()()()()を理解していながらもこうまでして回りくどいことをしているのはこの所為である。

 

 

「銀時様!59階層のお話を!今回の冒険譚をお聞かせ下さいませっ!」

「そうだな…」

 

 

 春姫は外界と遮断された世界で過ごしている。

 故に、殆どの情報が耳に入って来ない。だからこそ、銀時の訪問が酷く嬉しいのだ。

 

 春姫は極東の島国に生まれだ。家系は代々続く高貴なものである。母はおらず、父は国の役人だった。

 蝶よ花よと育てられる生活は寂しくはあったけれど、少ないが友人もおり、不自由ない生活だった。

 

 然し五年前、春姫が齢十一となったときのことである。

 父親の客人が持ってきた神饌(しんせん)、極東に君臨する大神(アマテラス)に捧げるお供え物を寝惚けて食べてしまったことにより、家から勘当を受けた。

 無論、春姫に身に覚えはない。

 それに、起床した際に食べ滓が口の周りについていたことと、客人がえらく春姫を気に入っていたこと、激昂した父親が春姫を義断し、客人に引き取られたことを鑑みれば、自ずと答えが見えてくるような気がするが……それはさておき。

 

 父親の客人が春姫を引き取った帰路。

 モンスターに襲われるという泣きっ面に蜂という怒涛の展開になり。

 足手纏いである春姫を置いて、客人は一人で逃げ出したのである。

 そのモンスターに殺されかけたところを盗賊に助けられた春姫は、生娘であることを確認されたあとに、このオラリオの歓楽街に売り払われたのである。

 

 勿論、それだけならば春姫が外界と遮断されている理由には成り得ない。問題の根幹はもっと他にあるのである。それは銀時も知らない。

 

 銀時は春姫がここまで連れて来られた背景しか知り得ていない。

 それに、春姫は今の生活に不満があるわけでもない。

 幼少期から大陸に憧れを持っていたし、アイシャを含めた遊女(おねえさん)達も春姫に優しく接している。願望こそあれ、切望するほどでもないのだ。

 それを知っているからこそ、銀時はオラリオ(外 界)の話を春姫に聞かせるのだ。春姫が寂しくないように、()()()()としても。

 

 それが、触れてはならない禁断の果実を目の前に垂らす行為だと知りながら。

 

 それでも銀時は動けない。

 それは、春姫が【イシュタル・ファミリア】で、銀時が【ロキ・ファミリア】であるからだ。

 当の春姫(本人)が望まないことを、銀時がする義理などどこにも無い。

 

 なぜなら、春姫は“娼婦”で、銀時が“客”であるからだ。

 

 

 夜は更けてく。

 注がれる安酒(エール)に舌鼓を打ちながら、銀時は面白可笑しく、今回の遠征の話を聞かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」

 

 

 

 

 

 訪れたシリアス(空 気)に耐えられなくなったTouA(作 者)を慮ってか、襖を蹴破って雰囲気をぶち壊した鬼が一匹────。

 

 

「きゃあッ!!」

「危ねッ!」

「あッ、ししょーッ!」

 

 

 急転直下の出来事に悲鳴を上げる春姫。

 飛んできた襖をスレスレで躱す銀時。

 そして、肩で息をして、目が血走っている────ベル・クラネル。

 

 

「おいこらベル、部屋に入るときゃあノックってもんをだなぁ…」

「お叱りは後で受けますから助け“ろ”ください!」

「こ、こちらに!」

 

 

 ただならぬ事情が見て取れた春姫は、敷かれてあった布団にベルを誘った。

 ベルは、娼婦が殿方を布団に誘う意味を何となくではあるが判ってた。それが自身を救う善意だということは重々承知していたが、それでも矢張り、頬を紅潮させてしまうほど恥ずかしさが勝ってしまう。

 だが背に腹は替えられない。春姫に小さく感謝を告げ、布団へと潜り込む。

 

 

「念の為で御座います…着替えを」

 

 

 春姫は、襖の中に常備されている着替えをさっと布団の中にワンセット入れる。

 ベルは受け取ると布団の中でもぞもぞと脱ぎ始め───。

 

 

「ここかぁ!」

 

 

 春姫がベルに着替えを渡して寸刻。

 頬を上気させた娼婦達が部屋の前に姿を現した。皆が皆、血に飢えた獣のような目をしている。正確には男、なのだが。

 

 

(ヤバイヤバイヤバイ!早く着替えないと!)

 

 

 ベルの衣服は着物だ。着替えにも相応の時間がかかる。

 慌てれば慌てるほど帯が解けない。布団という狭い空間、加えて居場所がバレてはならないという制限が慎重にならざるを得ない状況をつくり上げていた。

 

 

「春姫、ここに【白小鬼】が来なかった!?」

「き、来ておりません!」

「怪しいなぁ〜〜〜、ん?なんで【白夜叉】と春姫が一緒にいるんだ?」

「俺が春姫の客だからに決まってんだろ。これからだって時に…」

「そ、そりゃ悪かったね…」

「…邪魔したよ」

 

 

 ベルが居るかどうか、何人もの娼婦らが銀時や春姫に尋ねる。

 だが、冒険者で知らぬ者はいない【白夜叉】の機嫌を損ねるとどうなるか判らない。()()()()で十二分に味わっていた娼婦らはそれ以上詮索する事ができない。

 

 ベルが居ないこと、銀時がいること、それらを知った娼婦らはバラバラに散り始めた。

 足音が遠退くことに安堵したベルだが、危険なことには変わりない。着替えることが先決だと、着物を脱ぎ終えたとき────気付いた。

 

 

(これ女性物じゃないか!!)

 

 

 目が暗闇に慣れると気付かされた。

 春姫が寄越したのは女性物のワンセットであると。

 勿論、春姫は男性物を渡したと思っている。急だった為に確認してなかっただけなのだ。娼婦の部屋には、行為後に衣服を汚してしまった男性に渡す着替えがあるのは事実である。

 

 

(でも…仕方ないよね。短髪だけど黒髪のウィッグもある事だし…やるしか)

 

「なぁ春姫。お前の後ろにある布団…膨らんでるよな?」

「な、なななななんの事で御座いましょうか!?」

「ちょっと確認させて貰うよ」

 

(嘘が下手すぎる!)

 

 

 布団の中でベルは一人ごちった。

 何人かは、部屋から離れていったがそれでも数人は残っている。一人の娼婦が発言したことによって、疑惑が広がる。即ち、春姫が匿っているのではないか、という疑惑だ。

 代表の一人が布団に近づく。春姫が血相変えてその娼婦に言葉をぶつける。

 

 

「何もありませぬ!ありませんよ!だから他を探しに行くと宜しいかと!!」

「尚更怪しいじゃないかぁ。襖だって蹴破られてるじゃないか。コラ、布団離しな」

 

 

 春姫は布団を上から押さえつける。

 銀時は動けない。銀時が動き、その行為をやめるように言うとそれはもう答えであるからだ。

 それが判っているベルは焦燥に駆られる。早くどうにかせねば、と。

 

 

「駄目でございます!」

「往生際が悪いねェ……!よし!」

 

 

 娼婦は布団を剥がす事を諦め、布団の中に手を入れた。

 人の感触があれば終わり。違ったとしても、後で春姫に謝れば良いだけ。そう思い、布団の中に手を侵入させた。

 

 

「ん、なんだいこの温かい人肌のような、いや熱い……ボール?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違う。それは僕のおいなりさんだ」

 

 

 

 

 突然の声に、驚いて手を引く。

 娼婦は、部屋の入り口まで後ずさった。

 布団から手を離した春姫も、他の娼婦らも、銀時までもその布団に釘付けになる。もぞもぞと動く、その布団を注視する。

 

 バッッッ!と。

 布団が舞い上がり、地へ落ちると、皆の目に()()が飛び込んできた。

 

 その男────。

 黒髪の短髪、ガーターベルト、パンツを可能な限り上げて肩にかけ、ハイレグのようにしている。

 そして、頭部顔面にパンティを装備した、どこからどう見ても変態……変態の極み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エクスタシィィィィィィィ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ、春姫の下着………」

 

 

 春姫がこぼした呟きは、変態の奇声で掻き消えた。

 

 

 

 

 

 




深夜テンションで書き上げた一話。


反省はしてる後悔はしていない。


でも万が一、億が一、女性の読者がいらっしゃったらすみません。


多分消します(確信)


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