憑依してしまった以上、救いたいと思った (まどろみ)
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本編
蘇る超高校級①


いや、その…………ゲームをしてたら、ね?
書きたくなってしまったというか…ね?
ほら…所謂、謎の衝動ってやつなんだよ!
それで勢い余ったと言いますか…ただの気まぐれと言うか…

うん。ただの自己満足なんだよ


気がつけば、アタシは知らない場所にいた。

いろんな物がゴチャゴチャと置いてある……そう、倉庫の中のような場所に、だ。

植物が生えている事が、かなり気になるけれど。

 

「どこだよ…ここ?」

 

少し前までの自分の行動を必死に思い出そうとして、アタシは目を閉じて腕を組み「う~ん…」と唸る。

そう……私はゲームをしてたはずだ。

大好きなダンガンロンパの新作である『ニューダンガンロンパV3-みんなのコロシアイ新学期-』をしていた。

プロローグからエピローグを何度も周回して、溜まりに溜まったモノクマメダルを一枚ずつ消費しながらガチャを回すという作業をして、アイテムコンプを目指していたはずなのに…だ。

 

「それが気づいたらこんなとこにいましたって……意味が分からない」

 

改めて周りを確認しようとして、アタシは目を開けた。

しかし、それよりも新たな疑問が生まれてしまった。

 

(あっ、あれ?アタシって…こんな声だっけ?てか、髪の色違うし……この服装も変!!)

 

そう。声も身体もアタシが知っているアタシじゃなかった。

でも、アタシは今自分が着ている制服には見覚えがあったし、誰の物なのかもなんとなくだけど分かっていた。

この胸元を強調するような着こなし方をしたピンク色のセーラー服を着た人物。

だけど……だ。

それはあくまで、フィクションの架空の存在の人物だ。

だけど、もしそうならば……アタシが今いる場所が知らないはずなのに見覚えがあることにも納得がいく。

 

「……って、んな訳ねーだろ!何現実逃避じみた事考えてんだ!!確かめた方が早いに決まってる…」

 

そうだ。分からないなら確かめるだけ。

それだけで済む事なんだ。

視界の端に捉えたハンドミラーに、ゆっくりと手を伸ばす。

 

(大丈夫……そんな馬鹿な事、起きるはずがない)

 

きつく目を閉じながらハンドミラーを手に取り、アタシはゆっくりと慎重に目を開けた。

 

「……………えっ?」

 

鏡に映っていたのは、緊張に満ちたようなアタシが見慣れた姿ではなくて。

驚きで目を丸くする、アタシがさっきまでやっていたゲームの登場人物。

 

 

入間美兎の姿だった。

 

 

 

 

アタシが知っている限りの、入間美兎という人物について説明しよう。

彼女はゲーム『ニューダンガンロンパV3』において“超高校級の発明家”という才能を持つ高校生として登場。“超高校級”の才能持った他の高校生達と共に才囚学園に閉じこめられている…という設定。

見た目は良いのだが性格が残念というキャラで、彼女の作る発明品は凄い物や聞いているこっちが赤面するようなもの等がある。

ミニゲームの絶望のデスロードでは、彼女の発明品が大活躍だった。

チャプター1の時点であのミニゲームをクリアした人、超高校級のゲーマー名乗っていいと思う。

と、誰に対してなのか分からない大まかな説明をした所で、アタシはその場に座り込んだ。

 

今のアタシの状況を言葉にするならば、『憑依』という線が強いんだろう。

というか、それしか考えられない。

憑依から解放する為、アタシは適当に近くの物を漁り何かないかと探してみる。

高跳びの棒、砲丸、使い捨てカメラ、センサーに受信機のブザー、ロープ…。

待て、なんでアタシはこれらを見たんだ。

恐るべし、トリックに使われた物品達。

 

「ねぇ、何か探してるの?」

 

思考を変えようとしたところで後ろから突然声をかけられ、アタシは驚いて勢いよく後ろを振り返った。

そこには、たった今倉庫に入ってきたのであろう音符のヘアピンを付けてリュックを背負った少女と、深く帽子を被った少年がいた。

……主人公の赤松楓と最原終一の二人だ。

 

「急に話しかけてくんな!オレ様がショックでやる気なくしたら、世界規模の損失なんだぞ!!」

 

よくこんな言葉言えたなと、自分にツッコミを入れたい。

自分の事をアタシと言わないように意識しながら叫ぶと、二人は少し困惑するかのような表情を浮かべた。

…できる限り入間美兎の喋り方をしたとはいえ、何かおかしかった?

いや、でも……下ネタは言う勇気なんて流石になかったし。

 

「えっと……あなたって何者なの?」

 

赤松が言った言葉に、今度はアタシが困惑した。

 

「お、お前マジか?このオレ様を……知らねーのか!?」

 

えっと……つまり、今のアタシ達は初対面ってこと?

ってことは、今はゲームのプロローグで。

アタシの喋り方に違和感を感じたから変な顔をしたわけではなく、アタシが言った事に対してあの反応だっただけ?

……少しとはいえ、何か間違えたかと思ったアタシの心配を返せ。

 

「いいか、よーく聞きやがれ!オレ様は“超高校級の発明家”入間美兎さまだッ!」

 

…正直なところ、憑依しているだけのアタシが発明品を作れるかどうかはかなり不安でしかないけれど。

下手したら、ストーリーに異常を齎すレベルなのだから。

 

「ちなみに…どういう発明をしているのか聞いてもいい?」

 

疑問に思ったのか、最原が質問をしてきた。

……えーっと、ちょっと待って。

すぐに思い出すから。

 

「確か…寝ながらキーボード打てる便利グッズだったり、寝ながら漫画読む便利グッズだったり?」

 

いかに寝ながらできるかの発明が課題だとか言ってた気がするし、嘘ではない……はず。

 

「全部寝ながらなんだ…」

 

苦笑いを浮かべた赤松の言葉に、アタシはムッとしながらもそれを表情に出さないようにして言葉を続ける。

 

「あとは、『目薬コンタクト』とかもそうだな!」

 

「えっ?あれって入間さんの発明なの?友達でも使っている子いたよ!?」

 

「僕の友達にもいたよ…。入間さんって凄いんだね」

 

いい感じに驚いてくれた赤松と最原の反応に、アタシは誇らしいと思うと同時に申し訳ないという気持ちで一杯だった。

いや、だってさ、いくら今のアタシが入間美兎とはいえ、作ったのは入間美兎であってアタシじゃなくて……あっ、ややこしい。

 

「まっ、権利は企業にやったからオレ様は関係ねーけどな」

 

話は終わりだとばかりにアタシは二人に背を向けると、再び倉庫内を捜索する。

あっ、モノクマメダル見っけ。

 

「ところで…さっきから何を探しているの?一生懸命探していたよね?」

 

心配で声をかけてきたと思われる赤松に何も言わずに、アタシは出ていけとばかりに手で追い払うような素振りをした。

バカ正直に『憑依という怪奇現象を解く方法がないか探してます』とか言えるわけないからな。

 




さて、この自己満足がいつまで続くのか…


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蘇る超高校級②

主は言いました……まだ満足できねぇと…。

あっ、うん。ごめん。
僕が満足していないだけです。


あれから倉庫内を散々物色してみたけれど、結論から言う。

憑依を解くような手がかりなんて、存在しなかった。

いや、そもそも倉庫の中にあるって思った事がおかしかった。

理解不能な状況になると冷静さを失うっていうのも、嘘ではないようだ。

 

ということで、アタシは次なる手がかりの捜索だとばかりに倉庫の扉を勢いよく開けて廊下に出た。

 

「んー…手がかりになりそうなのがある場所なんてあったか?」

 

ガシガシと頭を掻きながら記憶の中からそれらしい場所を探してみる。

図書室…は、ゴチャゴチャしてて探すのに苦労しそうだし。

となれば、隠し部屋か?

………それはそれで危険な気がする。

 

そんなアタシの思考を止めるかのように、『キーンコーン…カーンコーン』と建物全体にチャイムが鳴り響いた。

その少し後に、扉を開けっ放しにしている倉庫のモニターに映像が映る。

 

『おはっくまー!お待たせ!!今から入学式を始めるよ~』

 

『ヘルウェー!今すぐ体育館に集まれ!!』

 

赤・青・黄・緑・桃色の五体のクマことモノクマーズによる集合を知らせもものだった。

その後はブツッと音をたてて、元の何も画面に映らないモニターだけがそこにあるだけ。

 

「はぁ~あ…」

 

思わず溜め息が出た。

行くしかないんだろう。

そもそも行かないと何をされるか……あっ、だいたい予想つくからやっぱ行くしかないじゃん。

 

「おっ、そうだ…」

 

行く前の寄り道…と言わんばかりにアタシは倉庫の隣にある購買部の扉に手をかけた。

なんでって?

 

んなの、ガチャに決まってんだろ!

 

ドアノブを回し、アタシは扉を開けようとしたが……鍵がかかっているのか『ガチャガチャ』と耳障りな音をたてただけで、扉は固く閉ざされていた。

 

 

 

不本意だけど、実に不本意だけど、今だけはガチャを諦めてアタシは体育館に向かって歩き出した。

 

 

 

×××××

 

 

 

アタシを含め、体育館には既に何人か超高校級の才能を持った生徒が集まっていた。

最後に“超高校級のピアニスト”である赤松と、“超高校級の探偵”の最原が体育館にやって来るのを見ると、「これで16人…全員揃ったわね」と“超高校級のメイド”である東条が全員揃った事を教えてくれた。

 

「へー…超高校級が16人揃った絵面ってのも壮観だな」

 

“超高校の宇宙飛行士”の百田がこの場の全員を見渡しながら、そう口にする。

アタシは思わずそれに賛同しながら、口には決して出さないが内心では『凄いけれど、この中に憑依してるだけの凡人がいます!誰のことって?アタシだよ!』と叫んでいる。

 

「みなさん、油断は禁物です。いつどこからか危険が来るか分かりませんから」

 

百田の呑気な言葉を壊すかのように、“超高校級のロボット”ことキーボがアタシ達に周りを警戒するように言う。

どうでもいいけど、キーボの名前って“希望”からきてるよね?

 

「き、危険とか言わないでよ……オレ、怖くてどうしたらいいか…」

 

キーボの言ったことにすぐ、“超高校級の総統”である王馬が怯えたように弱音を吐く。

その言葉が嘘か本当なのかは、アタシには分からない。

 

「心配しなくても大丈夫だよー。ちゃんと神様が見守ってくれるから」

 

不安等感じさせないような声で“超高校級の美術部”夜長アンジーが笑顔で言った。

いや…見守るんじゃなくて、今すぐアタシを助けてください神様。

 

「心配すんな!次にあのヌイグルミ集団が出てきたら、オレがまとめてブッ壊してやっからよ!」

 

アタシ達を安心させようと、百田が拳を握りしめて宣言する。

人はそれを、フラグが立ったと言う!

なーんて、アタシがふざけていると遠くの方から何か音が響いた。

その音はどんどんアタシ達のいる場所に近づいてきて…それは突然現れた。

 

「「「「「おはっくまー!」」」」」

 

その挨拶は数分前に聞いたモノクマーズのものだったが、アタシ達の目の前にはモノクマーズではなく、大型ロボットが5体……エグイサルという……まぁ、ガ○ダムみたいなのを適当に作った感じのやつだった。

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

それを見た瞬間、“超高校級のコスプレイヤー”の白銀が悲鳴を上げた。

ワーオ、演技上手い。

本当に怖くて悲鳴上げているようにしか見えないよ。

 

「みんな、ゴン太の後ろに下がって!」

 

白銀の悲鳴にハッとしたように、“超高校級の昆虫博士”のゴン太がみんなを守るかのようにしてアタシ達の少し前に出る。

さっきの話しの流れ的に、それを言うべきなのは百田だとアタシは思う。

まぁ、思うだけで口には出さないが。

 

「な、なんですか…このバケモノは!?」

 

“超高校級の合気道家”の茶柱が悲鳴に近い声で叫ぶ。

因みに、アタシが初めてゲームでエグイサルを見た時のリアクションと同じだったりする。

 

「こいつは高機動人型殺人兵器エグイサルだ!」

 

バケモノ呼ばわりされたのが嫌だったのか、モノクマーズの誰かがエグイサルの正式名称を言った。

…正式名称長ッ。

しかも、なんでかさっきからアタシの手が何かをしたくてウズウズしている。

まさか、入間美兎としてのアタシがエグイサルを解体しようとしているのか!?

それはそれで困る。

 

「ねぇ、誰かあれをまとめてブッ壊すとか言ってなかったっけ?」

 

騒然となった空気で淡々とした声でそう言ったのは、表向きでは“超高校級の保育士”となっている“超高校級の暗殺者”の春川。

いいぞ、春川さーん!もっと言ってやれ!!

 

「ふ、ふざけんな!あんなの聞いてねぇぞ!」

 

ブッ壊す宣言をしていた百田を見てみると、顔色を真っ青にしてエグイサルを見ていた。

まぁ、見て分かるけれど勝ち目なんてないもんな。

 

みんながエグイサルを見て内心慌てている中で、それを宥めるかのように「まぁ、ちょっと落ち着くっす」と超高校級の……えっと、どっちで言うのが正解なんだろう?

本編とオマケ編で才能違っていたからなぁ……。

“超高校級の生存者”と言うべきか、“超高校級の冒険家”と言うべきなのか迷うけれど、天海が確信を持っているかのように自信あり気に話しを続ける。

 

「慌てなくても多分平気っすよ。俺らを殺すつもりなら…とっくにやってるはずっす」

 

そこまで言うと、天海はエグイサルに不用心にも近づいた。

 

「で、俺らに何をさせるつもりなんすか?酷い目にあいたくなかったらって脅して、俺らに何かを強いるつもりもんすよね?」

 

思わず拍手をしたくなるような天海の問いに、エグイサルに乗っているモノキッドはそれを待っていましたとばかりに「だったら言っちまうぜ!オマエラにやって貰いたい事は……」と一度止めた。

 

 

「コロシアイ、ダヨ」

 

 

しかし、続けて喋ったのはモノキッドではなくモノダム。

だけどそんな事は、この凍ったような空気の中ではどうでもいいことだった。

 

コロシアイ…殺しあい…殺し合い。

 

分かっているつもりだったのに、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

…オマケの紅鮭団ルートになってくれなんて願っても、憑依した時点で神様に見放されたアタシの願いなんて聞き入れられず、気づいたらモノクマーズが喧嘩していた。

いや、なんで潰し合おうとしてんだよ……って、さっきモノダムがモノキッドの台詞を取ったからか。

 

「ねぇねぇ、入間ちゃんって“超高校級の発明家”なんだよね?アレ、発明品でどうにかできない?」

 

モノクマーズ達の喧嘩を楽しんでいるかのように笑っている王馬が、いつの間にかすぐ側で期待するかのような目でアタシを見ていた。

 

「…今は何もねーよ」

 

王馬の視線から逃げるように、目を逸らしながらアタシが答えると「ふーん…」と興味を無くしたような返事をしたかと思えば、次の瞬間には王馬はニコニコと笑っていた。

 

「知ってる?今の入間ちゃんみたいなのを、役たたずって言うんだよ」

 

 

………ちょっと殴らせろと思ったアタシは悪くない。

 

 




それなりに書いているのに、未だにゲームのプロローグって……

そして、所々でネタを入れる僕は、やはりシリアスみたいな雰囲気は無理なんだなとしみじみ思う。


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蘇る超高校級③

王馬へのイライラを無理矢理封じ込める為に、アタシはモノクマーズの喧嘩に意識を向ける。

なんで、ほぼ初対面で役立たずって言われないとダメなんだよ?

…頑張ってなかった事にしよう。

 

「こうなったら、アタイが4匹まとめてブッ壊しちゃうんだから!」

 

「4匹って、ワイもターゲットやん!?」

 

「やんのか、コラァ!」

 

未だにエグイサルに乗ったまま喧嘩をするモノクマーズが、今だけ羨ましい。

こんな状況じゃなかったら、アタシも多分今頃は王馬と喧嘩してる。

 

 

 

『お止めなさい…愛しい我が子達よ』

 

アタシ達が見ることしかできなかったモノクマーズの喧嘩を、体育館に響いた姿無き声が制した。

その声が聞こえた瞬間、モノクマーズが一斉にエグイサルから降りてきて「お父ちゃん!?」と叫びながらキョロキョロしだす。

 

「お…お父ちゃん??」

 

誰かがそんな疑問を口にした瞬間、突然体育館の証明が全て落ちた。

真っ暗な暗闇で、自分の手すら見えない。

やがて、再び証明がついた事に安心する暇もなく、ステージから身体の半分が白と黒で分けられたクマ…モノクマが背中に羽根を生やして登場した。

まぁ、羽根はすぐにポロリと落ちたけれど。

 

「才囚学園の学園長!そう、モノクマだよ!オマエラ、どうもはじめまして!」

 

開口一番にそう言ったモノクマに、返事をする者などはいない。

 

「見える…僕には見えるヨ。あれは絶望と狂気が渦巻く不吉のヌイグルミ…」

 

“超高校級の民族学者”真宮寺が不気味に笑いながら、モノクマを見つめる。

 

「ねぇ…そもそもヌイグルミじゃなくて、ボクはモノクマなんだけど。そして、この才囚学園の学園長なんだよ!もっと敬って欲しいもんだね!」

 

ヌイグルミって言われた事に、モノクマは怒ったかのように顔を赤くして叫ぶ。

そんなモノクマを無視するかのように、天海が「けど…」と呟いた。

 

「気になるのは、さっきのコロシアイの話しっす。あれって、どういう意味っすか?」

 

天海の疑問に、モノクマは待ってましたとばかりに「うぷぷ…」と両手を口元にまでやり笑い声を上げる。

 

「コロシアイをして貰いたいんだよね。超高校級の才能を持つオマエラ同士でさ」

 

「殺し合い…?わ、私達で?」

 

「冗談はやめて下さい!」

 

驚きで目を丸くする赤松を見て、茶柱が冷や汗をかきながら叫ぶ。

対してモノクマは意外そうに首を傾げて「えっ?もしかして嫌なの?」なんて聞いてきた。

 

 

「オマエラも、学園を見て回ったならもう分かってるでしょ?学園の周辺は巨大な檻に囲まれて外に逃げられないって事も…エグイサルがいる限り、ボクらに逆らえないって事もさ。つまりオマエラの生殺与奪権は、このボクが握ってるんだよ」

 

「ふ、ふざけないでください!なんで仲間同士で殺し合うんですか!?」

 

「…仲間?」

 

何の事やらとばかりに、モノクマはわざとらしく首を傾げると狂気に満ちた笑みをアタシ達に向けた。

 

「オマエラは仲間同士なんかじゃないよ。互いの命を狙って殺し合う…敵同士なんだよ」

 

その一言で顔を青くしたアタシ達を見るモノクマは、楽しくて仕方がないって顔に出ていた。

 

「それより聞きてー事がある。俺らはどうやって殺し合えばいいんだ?武器でもくれるのか?」

 

モノクマの言った事になんとも思わなかったのか、“超高校級のテニスプレイヤー”の星がモノクマに問いかけた。

そんな星の態度に、百田が「何聞いてんだよ!」と怒鳴るも「連中から情報を聞き出すのが先だろ」言われると、渋々大人しくなった。

 

「武器なんてあげないよ?この学園で行われるコロシアイは…知的エンターテイメントなのです!そう……学級裁判によるコロシアイなんだよ!」

 

 

 

アタシから、簡単に学級裁判についての説明をしようと思う。

校則には、殺人を犯すと学園から卒業できるというルールが存在していて、それは誰にもバレていない事で初めて成立できるモノだ。

それがちゃんとできているのか…それを立証するシステムが学級裁判だ。

 

殺人を行ったクロと、それ以外のシロによる命がけの裁判。

議論の最後にする投票でクロを指摘し、そのクロが正しければ指摘されたクロがおしおきされ、不正解の場合クロ以外のシロ全員がおしおきされる。

因みに、おしおきっていうのは処刑をさす。

 

 

「まぁ…かったるい説明はこれくらいにして----ワックワクでドッキドキなコロシアイ新学期を始めましょうかー!お好きな殺し方で、お好きな相手を、お好きに殺してくださーい!」

 

これから起こるであろう殺し合いが楽しみなのか、モノクマが豪快に笑う。

 

「あんたに何て言われようと…私達はやらないよ」

 

そんなに大きな声ではなかったけれど、赤松の声はこの場にハッキリと聞こえた。

モノクマも笑うのを止めて、ジッと赤松を見ている。

 

「コロシアイなんて絶対にやらない!あなたの思い通りにはさせないから!」

 

「そういう反抗は大歓迎だよ。嫌がっているオマエラをその気にさせるのが、学園長であるボクの仕事だしね。アーッハッハッハッハ!」

 

モノクマが高笑いを始めると、それに釣られるように「ぎゃはははは!」とモノクマーズも笑いだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全部止めてやる…」

 

誰にも聞こえないぐらいの声で、アタシは呟いた。

憑依がなんだ。

今のアタシは“超高校級の発明家”入間美兎だ。

だったら、自分の植え付けられた才能を信じる。

 

きつく握り締めた拳の爪が痛いとかも気にしてられない。

これから起こる犯行の方法も、トリックも、タイミングも、犯人もアタシには分かるんだ。

だったら、全力で止めてやる。

原作なんて関係ない。

アタシは自分のやりたいようにしてやる。

このコロシアイを……アタシが望む形で終わらせてやる!

 




やっとプロローグ終わった…。
次から、チャプター1に入ります。


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私と僕の学級裁判①

本当はね、昨日投稿しようと思ってたんだけど…ちょっと僕のライフポイントが足りなくなったというか…。

いや、紅鮭団で赤松さんの愛の鍵イベントを解放しようと奮闘していたら……春川→百田→アンジー→アンジー→入間→王馬→真宮寺→春川→東条→真宮寺→真宮寺→真宮寺→真宮寺→赤松って感じになりまして……。
なぁにこれぇ…

何度も怖い思いをさせてごめんよ…最原君………



体育館からモノクマとモノクマーズが去った後、みんなが持っているモノパットから校則が追加された事を知らせる電子音が鳴った。

アタシもモノパッドを制服のポケットから取り出して、みんなと同じように校則を再確認する。

 

いや、だって覚えてないやつとかあったら嫌だし。

才囚学園校則という文字から、以下の文が順番に流れていく。

 

 

・才囚学園での共同生活に期限はありません

 

・学園内で殺人が起きた場合、全員参加による学級裁判が行われます

 

・学級裁判で正しいクロが指摘できれば、殺人を犯したクロだけがおしおきされます

 

・学級裁判で正しいクロを指摘できなければ、クロ以外の生徒であるシロがおしおきされます

 

・クロが勝利した場合は才囚学園から卒業し、外の世界へ出ることができます

 

・シロが勝ち続けた場合、最後の2人になった時点でコロシアイは終了です

 

・夜10時から朝8時までの夜時間は、食堂と体育館が封鎖されます

 

・才囚学園学園長であるモノクマへの暴力は固く禁じられています

 

・モノクマが殺人に関与する事はありません

 

・モノパッドは貴重品なので壊さないでください

 

・死体発見アナウンスは3人以上の生徒が死体を発見すると流れます

 

・才囚学園について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません

 

・校則違反を犯した生徒は、エグイサルによって処分されます

 

 

 

改めて見ると、本当によくできた校則だと思う。

そんな校則に疑問を持ったのか、アンジーが「この6番目の校則って、どういう意味ー?」と全員に問いかけた。

6番目の校則…『シロが勝ち続けた場合、最後の2人になった時点でコロシアイは終了です』ってやつか。

 

「…残り2人になったら、裁判が成り立たないからじゃないかな」

 

「なるなるー。終一って頭いいねー。にゃははははー」

 

疑問が解けてスッキリした顔でアンジーが笑い、それとは逆に「ふ、ふざけんな…」と百田が怒りで声を震わす。

 

「何がコロシアイだ…何が校則だ…ふざけんなっ!誰がこんなモンに従うかってんだ!」

 

そう叫ぶや否や、百田はモノパッドを持つ手を大きく振り上げ、その勢いのまま床に叩きつけようとした。

 

「…おっと、ダメっすよ」

 

そう言って、近くにいた天海が百田の腕を掴んで止めさせた。

止められた事に対して百田が睨みつけるが、天海はそれに屈する事もなく自分のモノパッドを操作して校則を百田に見せる。

 

「モノパッドは壊したらいけないって、校則にも書いてあるっす」

 

「校則なんて知るかっ!オレはこんなふざけた遊びに付き合う気はねー!」

 

「いや、これは遊びなんかじゃねーっす。この状況で逆らうのは無謀っす」

 

天海の言っている事は正論なのだが、百田は認めたくないのか再び口を開き文句を言おうとするも…

 

 

「もー!ケンカしてる場合じゃなーい!!」

 

 

おそらく本日聞いた中の一番の大声で赤松が叫んだ事で、2人の言い争いはピタリと止まった。

…止まったのはいいんだけど、アタシ耳がキーンってしてる。

 

「こういう時こそ、みんなで協力しないと……って、ホントは言葉で言うよりピアノで弾いた方が早いんだけどね。ほら、ショパンの『軍隊ポロネーズ』だよ。一気に結束力が高まると思うんだよね」

 

赤松には悪いとは思うんだけれど……クラシックとかベートーベンの『運命』しかアタシは知らないから、そんな例えをされてもなんの反応もできない。

 

「ともかくさ、みんなで協力して、もう一度出口を探してみない?」

 

「でも…あの大きい壁のどこを探しても、扉も穴も開いてなかったよ?」

 

「だったら、ボクらはどうやってこの壁の内側に入ってきたのですか?」

 

白銀が壁には何もなかった事を告げるも、キーボがすぐに疑問を抱いて思った事をそのまま口にした。

しばらく考えるように赤松は腕を組んで唸っていたが、やがて閃いたかのように手を合わせた。

 

「きっと、どこかに抜け穴があるんだよ!それをみんなで探せばいいんだよ!ここに私達を閉じ込めた誰かさんは、私達を争わせたいみたいだけど…そうはいかないって事を見せてやろうよ!私達はみんなで協力し合うんだよ!」

 

そう力強くそう言った赤松だったが、周りが何も言わずに静かになっている事に焦り出したのか「私、変な事言った…?」とアタシ達に向けて不安そうな顔をしだした。

 

「んなわけ、ねーだろ!だから、そんな顔をオレ様の前ですんな!」

 

ビシリと赤松に指差しながら言ってみると、アタシの言い方が悪かったのか、さっきよりも困り顔にさせてしまった。

うーん…難しい。

 

「言い方はあれだけど、入間さんの言う通りよ。貴女が真っ直ぐな正論を言うから、もう他に言う事がなくなっただけよ」

 

東条のフォローも入り、赤松の顔に徐々に笑顔が戻る。

うん…素直になれないこの性格が悪いだけか。

もう少し言い方を考えないとな…。

 

「じゃあ、さっそくみんなで手分けして、出口を探しに行くぞー!おー!」

 

アンジーが身体を左右に動かしながら、一人で見事なコール&レスポンスをして笑う。

そうして手分けしようという空気の中で、「あっ、ちょっと待って!」とゴン太がそれを止めた。

何事だとばかりにゴン太に視線が集まる中、「関係ないかもしれないけど…」と前置きをしてゴン太が話し始める。

 

「さっき…校舎裏の草むらでマンホールを見つけたんだ」

 

「マンホール?」

 

あまりピンと来ないのか、赤松が目を丸くして考む。

 

「それだ!そのマンホールの中を確認すんぞ!出口に通じているかもしれねぇ!!でかしたぞ、ゴン太!」

 

マンホールの存在をみんなに示したゴン太を褒めている百田には悪いけれど、アタシは無事に出口までたどり着ける自信がないから、できれば止めておきたい。

けど、そんな事は口が裂けても言えない。

 

「校舎の裏という事は…裏庭のボイラーがある所ね?獄原君、案内をお願い」

 

「うん。みんな、ゴン太について来て!」

 

こうして、アタシ達は獄原君を先頭に体育館を飛び出して裏庭のボイラー室まで走った。

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

ボイラー室に全員入ると、みんなの視線はすぐに草むらの中に隠れるように存在しているマンホールに注がれた。

 

「うわー、このマンホールのフタって重そうー。持ち上がるのー?」

 

「ボクがやってみましょうか」

 

そう言ってキーボがマンホールのフタに手をかけ、渾身の力で持ち上げようとするも、フタはビクともしなかった。

 

「スミマセン、無理です」

 

「だったら、ゴン太に任せてよ。さっき見た時は持ち上がったから、多分大丈夫だと思うよ」

 

そう言って、今度はゴン太がマンホールのフタに手をかけ、そのまま軽々と片手でマンホールのフタを持ち上げた。

…一体、どんな腕力してんのこの人。

そしてそのまま、ゴミ箱にティッシュを捨てるかのようにポイッとマンホールのフタを投げた。

ねぇ、本当にどんな腕力してんの?

 

「な、なんか不気味だね…ここに入るの?」

 

マンホールの中を覗いた白銀が不安げに呟く。

アタシもその隣で中を覗いて見る。

マンホールの中は薄暗くてよく見えないけれど、埃っぽくて、ひんやりとした空気が漂っていた。

 

「…………行こう」

 

自分を叱咤するように胸の前で拳を握りしめると、アタシは足を踏み外さないようにマンホールの梯子を降りていった。

それに続くように、ゆっくりと他の人も梯子を降りてくる。

そのまま、みんなで長い梯子をしばらく降りると、やがて開けた場所へとたどり着いた。

 

「広い工業用の通路みたいね…。昔ここに工場でも建てられていたんじゃないかしら」

 

足を踏み入れた瞬間、東条がそんな事を呟いた。

その言葉の通りで、ここはマンホールの中とは思えない造りになっていた。

 

「それより…あれを見るっす」

 

そう言って天海が指差した先には、『出口』と書かれた立て札があった。

その先には長いトンネルが続いている。

 

「わざわざ出口なんて書いて…怪しくないですか?」

 

茶柱が本当に出口があるのか疑っていると、「そりゃあ、ちょっと危ないかもしれないけれど…」と赤松が自信あり気に笑いながら続ける。

 

「これだけ『超高校級』が揃っているんだし…みんなで協力し合えば、絶対になんとかなるはずだって!」

 

なんとかなる、大丈夫……そんな思いを胸に抱いてみんながトンネルの中に入っていく中で、アタシはトンネルの中にあるであろう仕掛けの事を考えてしまい、憂鬱な気分になっていた。

 

 

お願いだから、誰か今すぐ仕掛けを無力化させるハンマー作って………てか、作るのアタシじゃん。

 

 



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私と僕の学級裁判②

こんな自己満足な小説に、お気に入りと評価してくれてありがとうございまぁぁぁぁす!(確認したのは、実は今日が初めてだったりする)
僕の自己満足に付き合ってくれるなんて……なんて優しい人達なんだろうと思いました。

そしてあわよくば、誰か僕に文才分けてください(切実)


 

さて、アタシから絶望的に残念なお知らせです。

第1回目、絶望のデスロード~初見でも超高校級がこれだけいるんだし(略)~に挑戦した所、気絶者に軽傷者続出という結果になってしまった為、一時撤退ということになりました。

尚、再開の目処は立っていません。

 

なんて数分前の出来事を、脳内で眼鏡をかけたどこぞの絶望みたいに言ってみる。

はい、察しの通り無理でした。

 

 

「あ…あれ?私…そっか、気絶しちゃったんだ」

 

真っ先に罠に掛かって、気絶していた赤松がゆっくりと身体を起こす。

でもそれだけで、それ以降は誰も口を開こうとせずに沈痛な雰囲気に支配された空気だけが漂う。

 

「うわー、みんなボロボロねー?可哀想。同情しちゃうわー」

 

だからこそ、モノクマーズの1体であるモノファニーの声がよく響いた。

それに釣られるように他のモノクマーズも姿を見せ、モノクマまで出てきた。

 

「チッ…ゾロゾロ出てきやがった。気付かれちまったみてーだな」

 

舌打ちを隠そうともせずに見せつけながら、百田が真っ先にモノクマから目を逸らした。

 

「オマエラがここから脱出しようとして失敗する事ぐらい、ボクにはお見通しだったけど?」

 

予想通りになったのを見て、愉快だと言いたげな楽しい声でモノクマが告げた。

 

「最初から知ってたって事は、やっぱり、これって罠だったんだね」

 

「出口なんてなかったんですね!」

 

罠だと気づいていた春川がモノクマを睨み、茶柱は騙された事がよほど気に入らなかったのか大声を上げると、モノクマーズがモノクマを庇うように2人の前に出た。

 

「出口ならちゃんとあるわよ」

 

「みんなで頑張って協力すれば、きっと辿り着けるんじゃないかな!」

 

身振り手振りで出口は存在するアピールをするモノクマーズと、アタシ達一人一人の顔をモノクマは眺めながら「うぷぷ…」と笑みを零した。

 

「そういうわけだからさ…せいぜい頑張ってみるといいよ。納得するまでトライすればいいよ!アーッハッハッハッハ!」

 

最後に嫌な笑い声を上げながら、モノクマはモノクマーズと共に姿を消した。

 

「完全に出口を塞ぐんじゃなくて、わざと小さな望みを残しておくことで…精神的に追い詰めようって魂胆っすね」

 

「だからって…諦めるわけにはいかないよ」

 

小さな希望を信じる…赤松の目にはそんな強い思いが宿っていた。

だけど、アタシは知っている。

その希望は嘘で作られていて、真実が残酷なのを。

まぁ、誰にも言うつもりはない。

 

「もう1回…ううん、何度でも挑戦しようよ。それで、みんな揃ってここから出たら……友達にならない?」

 

赤松はきっと、ここにいる全員で集まって馬鹿騒ぎしているような…そんな素敵な未来を思い描いているんだろう。

それはとても平凡で、とても素敵な事で…みんなの志気を上げるには充分だった。

 

「フン…悪くねーかもな」

 

「それなら、なおさら…ここはなんとしてでも突破しないとね」

 

「うん、みんなで頑張ろう!さっきは失敗したけど、次こそ上手くいくよ!」

 

「あぁ、やっぱり人間っていいネ。困難に立ち向かう姿もまた美しいヨ」

 

強い意志を持って、再びトンネルに挑もうと意気込むみんなを見て、アタシはフッと自分の手を見つめる。

ひ弱な力しかない手だけれど、発明品を作れる手だ。

 

今すぐは無理だとしてもいい。

自分に出来ることをやろう。

 

「入間さん!早くしないとみんな行っちゃうよ!」

 

「うるせー、赤松!言われなくても分かってるっての!」

 

握った拳は決意の再確認で、みんなとの結束力。

 

アタシ達はもう一度、絶望のデスロードに挑む為トンネルの中へと入って行った。 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

2回目も駄目だった。

3回目も駄目だった。

その次も、その次も、そのまた次も…

何度も何度もトンネルの中に入っては、失敗してしまいマンホールの開いた空間に戻ってきた。

諦めずに『今度こそ』。

そうやっていく内にいつしか体力もなくなってきて、身体が悲鳴を上げ始める。

それはアタシだけじゃなかったようで、疲労の表情を浮かべていく人が増えていく。

 

「さすがに…もう無理だよ…」

 

白銀はそれだけ言うと、ペタリと座り込んだ。

それに続くように、アタシも近くの壁にもたれかかった。

 

「待ってよ。諦めちゃダメだって。次こそ…」

 

「……いい加減にしてよ」

 

座り込んだ白銀の側に寄りながらそう言う赤松を、王馬が俯きながら低い声で止めた。

 

「えっ?」

 

赤松が驚いたように目を丸くしているのも気にせず、顔を上げた王馬の表情は今にも泣き出しそうだった。

 

「無理だと分かっている状況で諦めちゃダメって言われても、しんどいだけなんだよ…。赤松ちゃんは、『諦めない』って言葉で仲間を追い詰めているんだよ!」

 

「わ、私は…そんなつもりじゃ…」

 

酷く狼狽えながらも、赤松は周りを見渡すと目を見開いた。

この場の半分がトンネルから出口まで行くことを諦めていた事に、赤松は落ち込んだかのように顔を伏せた。

 

「テメーら!ここから出られなくてもいいのかよ!?」

 

「別に無理しなくても…違う方法で出ればいいだけじゃない?」

 

百田の叫びに、即座に王馬がトンネルから出る以外の方法を示す。

…一瞬だけ、アタシの背中に悪寒が走った事は気のせいだと思いたい。

 

「まさか…コロシアイの事っすか?」

 

表情を堅くした天海に、王馬は「キミはそう解釈するんだね」と笑いながら答えた。

なんでだろ、また悪寒が…。

 

「やれやれだな。あっという間にバラバラじゃねーか」

 

少し前までの結束力が簡単に消えた事を、星が呆れたように告げる。

 

 

「ごめん…私のせいだね。本当にごめん…」

 

気持ちだけが先走ってしまい、周りを見ていなかった事を謝る赤松に、百田が「何謝ってんだよ!」と声を荒げる。

 

「私は赤松のせいだと思うけど」

 

「あぁ!?なんでだよ!?」

 

ぼそりと呟いた春川に、百田が苛立ったように理由を求めると、そのタイミングで『キーンコーン…カーンコーン』とチャイムが鳴り、近くにあったモニターから映像が流れ出した。

 

『才囚学園放送部からのお知らせやでー』

 

『午後10時になりましたー。今から夜時間だよー』

 

『良い子も悪い子も、おねんねの時間だぜッ!』

 

『夜時間は食堂と体育館が封鎖されるので注意してくださいね』

 

『…………』

 

『『『ぎゃはははは!クマすみー!』』』

 

そうしてモニターは、元の何も映らない真っ暗な画面になる。

 

「夜時間…っすか。ここは仕切り直した方がいいかもしれないっすね」

 

みんなにそうつげた天海に便乗するように、「オレ様眠い…」とアタシは欠伸をした。

 

「全員分の個室がある寄宿舎があったわ。あそこで休息を取るのはどうかしら?」

 

アタシがここで寝ないようにするためか、東条が身体を揺さぶりながら言う。

部屋まで寝るなってことか…。

 

「で…明日はどーすんだよ?」

 

眠気と戦いながら必死に明日の動きを確認する。

とりあえず、明日の朝は「8時に食堂に集合」という王馬の考えで決り、その場は解散となって寄宿舎にある自分の個室で休むことにした。

 

 

 

 

 

個室に入るなり、アタシはベッドに頭から倒れ込んだ。

憑依で頭を変に使ったり、絶望のデスロードで体力を使ったりと踏んだり蹴ったりな1日だった。

 

「たとえ、これが夢だとしても……」

 

 

 

全てが終わるまで、夢から覚めませんように。

 

 

そう願いながら、アタシは意識を手放した。





もうすぐバレンタインデーだけど、作るお菓子考えてないし……ロシアンルーレットのカップケーキとかでいいかな…。


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私と僕の学級裁判③

困った。

ものすごく困っている。

 

何が困ったの?って聞かれたら、アタシは間違いなくこう答える。

 

 

今、やることがなくて暇なんです。

 

 

なんで今に至るのか簡単に説明させてもらうと、

・朝起きて、みんながいる食堂へ

       ↓

・みんなで話し合いをしているとモノクマ登場

       ↓

・最初のコロシアイでは学級裁判が行われないという、初回特典の動機を発表

       ↓

・百田が我慢の限界でブチギレ。モノクマに掴みかかろうとする

       ↓

・見せしめとして、百田がエグイサルに潰されそうになるが、モノクマーズの操作ミスとしてモノクマが潰され軽く爆発

       ↓

・モノクマが死んだ=コロシアイゲーム終了という考えにより『迎えを待とう』な空気に

       ↓

・解散。自由行動となり暇に

       ↓

・何をしようかと考えながら、教室でメダル集めてガチャを回す

       ↓

・ガチャの景品を見て、改造しようかという考えに

       ↓

・道具とかは研究教室じゃないとなさそうなんで、研究教室へレッツラゴー

       ↓

・準備中期間だったらしく、開いていなかった(イマココ)

 

 

あっ、思い出したら泣けてきた。

重い荷物(ガチャの景品)を持って“超高校級の発明家の研究教室”まで来たのに、お預けとか。

楽しみを奪われてガックシと肩を落とすも、アタシを慰めてくれるような優しい人達は、残念ながら今この場にはいない。

もう、やけくそでまたガチャ回すか?

ダブったら、誰かに押し付けたらいいしね。

 

「いや…でも待てよ……」

 

もし、ガチャ回して出たのがダブりじゃなかったら?

それを見て、こんな発明品あったらいいな~ってインスピレーションが湧いてきたら?

腕を組んで「むむむ…」と悩む。

 

どうする?

回すべきか……回さずにいるべきか……

 

「あぁ、改造してぇ~……この際キーボでもいいから、オレ様に改造させろよぉ~」

 

「なんでボクなんですか!?」

 

独り言のつもりだったのに、どうやら聞いてた人がいたようで。

しかも、それが話題にあげた人物…というか、ロボットだったようで。

 

「あっ……えっと…」

 

当人に聞かれているとは思わなかったアタシは、必死に言葉を探す。

ていうか、なんでアタシは改造しようなんて思った?

もしかして、アタシは少しずつ…才能だけじゃなくて、それ以外も入間美兎に染まってきているんじゃ?

えっ、なにそれ凄い困る。

あんな下ネタ発言をいつかやるとか考えると、胃が痛くなるんだけど。

そんな事はないと願いつつ、本来の問題に戻らないと。

 

改造…改造……発明………

 

「そ、そりゃー…アレだ!このオレ様がテメーに役立つ機能を付けてやろうかと考えてだな…」

 

「機能…ですか?それなら、もうすぐここから出るんですし博士に……」

 

そう言って断ろうとするキーボの言葉を、アタシは「うるせぇ!」と遮った。

いや、ホント昨日までのアタシは何処に行った!?

 

「この天才発明家のオレ様がやると言ったら、やるんだッ!」

 

ビシッと効果音が付きそうな勢いで、アタシはキーボに指を突つけ宣言すると、相手の言い分も聞かずに校舎の方へズンズン歩いて………キーボが見えない所まで来ると一度足を止めた。

 

 

「……困った」

 

 

えっ、本当にアタシどうしたの?

あれかな?研究教室開いてなくてイライラしたのか?

そうだなよな?そうに違いない。

よし、ここは一度冷静になれ。

 

「あっれー?誰かと思ったら、初日で役立たずだった入間ちゃんじゃん」

 

「こんっの…王馬チビヤロー!!」

 

開始僅か3秒で、イライラとこんにちわ。

いくら好きなキャラとはいえ、自分を馬鹿にされたらムカつく以外何もなかった。

 

 

 

 

×××××

 

 

 

たまたま近くを通りかかった東条に王馬の説教をしてもらい、アタシは鼻歌混じりに校舎内の地下へと繋がる階段を降りていた。

 

目的は、図書室にある動く本棚を実際に見ることだ。

まぁ、見るだけで動かすつもりはない。

アタシの記憶が正しかったら正確な時間帯は分からないけれど、赤松と最原が動く本棚にある隠し扉を調べるはずだ。

もしアタシが好奇心で本棚を動かした所を2人に見られたら、1番に首謀者だと疑われる。 

だから鉢合わせしてしまったら、本を借りに来た~とか、読みに来た~で誤魔化すつもりだ。

 

これなら完璧だろ。

 

口元に笑みを貼り付けて、アタシは図書室の扉を開けた。

図書室の中にはすでに赤松と最原がいて、『これから調べるのかな?だったら、本を何冊か持って寄宿舎に行こう』なんてアタシは思っていたが、その考えは見事にブチ壊された。

 

なんでって?

 

 

今、このタイミングで…本棚が閉まったからですが何か?

 

 

 

「「あっ……」」

 

アタシに気づいた赤松と最原が『しまった…』とばかりに顔を青ざめた。

そんな反応されても、アタシが困るんだけど。

てか、アタシは短時間でどれだけ困ればいいの?

 

「赤松に…最原?2人揃ってなに顔を青くしてんだよ?」

 

黙っているのも怪しいと思い、アタシは必死に声を絞り出した。

隠し扉が動くところなんて見てませんって遠まわしに言ってみたけれど、上手くいくかな…?

 

「そ…そうかな?入間さんは、どうしてここに??」

 

「は?図書室に来てやることなんて、限られてんだろ?」

 

バクバクと五月蝿い心臓を誤魔化すように、アタシは本棚から適当に本を何冊か引き抜き、パラパラと数頁捲り面白そうだと思った本をそのまま抱える作業をしている間、2人の視線がすごく気になった。

視線で『バレてない?気づかれてない?』みたいな事を訴えるな。

アタシの気が散るだろ。

 

もう…ボロを出さない内に出よう。

そんで、部屋に引きこもってやる。

それが一番良い。

 

5冊ほどの本を持って、アタシは用は終わったとばかりに図書室の扉の前まで行くと、一度赤松と最原の2人の方をクルリと振り向いた。

それだけだというのに、赤松は肩をビクリと跳ね上げ、最原はアタシの視線から逃げるように帽子を深く被った。

 

そんな2人の前で「すぅっ…」と息を吸い込むと、前から言いたかった事を力一杯に叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「リア充、爆発しやがれッ!!」

 

 

 

 

 

そのまま図書室から出ると、扉越しから「そんなんじゃないよ!」と赤松の声がしたけれど、無視だ無視。

さっさとくっつけ、無自覚カップルめ。

 

 

 

ちなみに余談だが、その後個室でのんびりと本を読んでいたら、あっという間に夜時間になってた。

 



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私と僕の学級裁判④


インスピレーションが~沸き上がりそうで~出てこない~
誰か僕に文才恵んで…いや、ホントまじで。


 

「いやー、一時はどうなるかと思ったけど、何事もなくて本当に良かったよねー!」

 

「んあ~…昨日はゆっくり寝られたわい」

 

「神様のおかげだよー。きっと、色々と裏で手を回してくれたんだねー」

 

みんなが集まった食堂は明るい空気に包まれていて、昨日までの事が嘘のようだった。

まぁ、モノクマが今だけとはいえ居ないんだ。

アタシも今の空気が心地よくて、思わず笑顔を浮かべながら東条が作ってくれた朝食をいただく。

このフレンチトースト、まじデリシャス。

こんなお嫁さんがいたら、旦那となる人が羨ましい…マジ許さん。

 

「…どうした。浮かねー顔だな」

 

少し離れた所で同じように朝食を食べていた星が、隣に座っている天海の顔を覗き込んでいた。

周りに気を使っているのかその声は小さく、聞き取れたのが不思議だ。

 

「や、別になんでもねーっす。このまま終わるに越した事はないっすよね」

 

苦笑いを浮かべて笑う天海と星の会話を、アタシと同じように聞いていたんだろう。

アタシの隣に座っていた赤松が、急に食事の手を止めて腕を組む。

 

 

「でも…本当にこれで--」

 

 

その言葉、斬らせてもらう!

 

なんて事を心の中で叫びながら、アタシはとっさに赤松の口の中にサラダとして朝食に出ていたトマトを無理矢理入れた。

べ、別にアタシがトマト嫌いだからとかじゃないから。

本当だから、嘘じゃないから。

赤松の発言で今の空気が壊れる事を防ぎたかっただけだから。

それ以外に理由なんてねーから!

 

「い、入間さん?」

 

赤松の真っ正面に座っていた最原が、引きつった顔でアタシと赤松を見ていた。

いや、これにはちゃんと理由があってね?

説明しようにも、余計な事ゲロっちゃいそうだから言えないけど、理由があんだよ!

 

「ちょっと!いきなり何するの!?」

 

復活したかのように、口の中のトマトを飲み込んだ赤松が怒ったように叫ぶ。

いや、だから理由が(以下略)

 

「わ、悪かったから…そんなに怒らないでよぉ……」

 

怯えたような声を出しながら涙目で赤松を見ると、「もー…」っと呟いたのを最後に何も言わなくなった。

まぁ、目で訴えてはきているけれど…。

計画通り…なんてどや顔はしないが、アタシは勝ったとばかりに拳をグッと握りしめた。

 

「…………」

 

そんなアタシ達のやり取りを、さっきから真顔で最原の隣で見ているチビな総統が「んー…」と呟いていた。

恐らく、赤松が言おうとしていた事に気づいたんだろう。

王馬がテーブルに肘をついて身を乗り出すと、赤松は自然とアタシから王馬の方に意識をやった。

 

「ねぇ、赤松ちゃんが何を心配しているのかは知らないけどさ…コロシアイを続けるのは不可能なんだよ?」

 

にしし、と笑いながら王馬がそう言ったすぐ後に「そこで、オレッチの出番だクマ!」と、昨日の朝を最後に聞かなかった声が食事に響いた。

みんなして食事の手を止め、テーブルの上にいつの間にか立っていた某猫の妖怪のような格好をしたモノクマを凝視した。

 

「…え?」

 

「モ、モノクマッ!」

 

ガタタッと数人が立ち上がり、信じられないとばかりの顔をする。

アタシは座ったまま朝食を続行させてもらうけどね。

お腹減ってるし。

 

「オレッチはモノクマじゃないクマ。事故でポックリ逝っちまったオレッチは妖怪ジバックマとして生まれ変わったんだクマー!これからは、オレッチがこの学園の学園長クマ!」

 

……周りのモノクマを見る目が凄い。

白銀はコスプレの完成度が低いって文句を言うし、神宮寺は妖怪と幽霊を取り間違えていると民族学的な話しをしだすし、それ以外はパチモンじゃん…って目で訴えてる。

その反応を見て、モノクマは落ち込んだようにションボリしながら「これだから高校生は嫌なんだよ」と言う。

 

「もー、さっきから何を騒いで…」

 

なぜか厨房の方からモノタロウがやって来ると、モノクマを見て「あれーっ!?」と叫んだ。

それを聞きつけて、他のモノクマーズもゾロゾロと厨房から食堂にやってくる。

 

「死んだはずのお父ちゃんが実は生きていたー!」

 

「きっと、妖怪の仕業だわ!けど、生きてるならそう言ってよ。死んだと思ってコトコト煮込んでたのよ?」

 

どこで煮込んでるのか気になるけれど、気にしたらいけない気がする。

 

「あっちで死骸が煮込まれているのに、なんでこっちにもお父ちゃんがいるんだ!?どっちが本当のお父ちゃんなんだーッ!?」

 

厨房の方を見ながら叫んだモノキッドのせいで、どこで煮込んでるのかなんとなく分かった。

できれば、アタシは知らないままでいたかった…。

 

モノクマは首を傾げながら「いや、どっちも本物なんだけど」と、モノクマーズを見て言う。

 

「ボクにはちゃんとスペアがあるんだよ」

 

アッハッハと笑うモノクマに、モノスケが閃いたとばかりに手をポンと叩いた。

 

「つまり…この学校にはお父やんを製造する機械があるっちゅー訳やな。で、なんぼでもお父やんのスペアを製造できーー」

 

その言葉を遮るように、モノクマはモノクマーズを順番に抱き上げると思いっきりペロペロと舐め始めた。

感動の再会と称してやっているけれど、過激すぎる。

 

「もしかして…コロシアイってまだ続くの?」

 

「やっぱ…そうっすか。終わらすにはモノクマを倒すだけじゃなくて…その後ろにいるやつを、なんとかしないといけないんすね」

 

「どちらにしても想定内…驚く事じゃないわね」

 

それを聞いたモノクマはモノクマーズを舐めるのを止めると「へぇ、想定内ねぇ…」と呟くと、ニヤリと笑った。

 

「だったら、こういう展開はどう?では、『追加の動機』の発表でーす!」

 

追加の動機と聞いて、みんなの表情が険しくなる。

知ってるとはいえ、アタシの体も強張る。

 

「タイムリミットは2日後の夜時間とします。もし、それまでに殺人が起こらなければ…コロシアイに参加させられた生徒は全員死亡!噂のモノクマ製造機から大量のモノクマを出動させて、クマ本来の野生味を大解放しちゃうよっ!」

 

「タ…タイムリミット?」

 

「全員死亡…だと?」

 

追加された動機の条件に、場の空気が一気に凍りついた。

それを見ても、モノクマは悪びれもせずに「オマエラが全然コロシアイをしないせいだろ?」と笑う。

 

「それより、お父ちゃんの大量出動ってどういう事?タイムリミットの後はオイラ達の出番じゃないの?」

 

「そうだぞッ!今度こそエグイサルに活躍させろよッ!」

 

出番が取られたとばかりにモノクマーズが講義すると、モノクマは面倒だとばかりに肩を落とした。

 

「いや…あんな目に逢いたくないっていうか…ほら、オマエラが疲れると可哀想だから…」

 

アタシ的に、モノクマの本音は前半部分だと思う。

昨日、事故とはいえエグイサルに潰されてるし。

 

「まぁ、好きにすればいいよ。仲良く一緒に死ぬのも、自分だけ生き残るのも、ぜーんぶオマエラの自由だからさ。アーッハッハッハ!」

 

モノクマはアタシ達にそれだけ言い残すと、モノクマーズを連れて姿を消した。

数分前の事が嘘のように、重い空気になった食堂は苦痛でしかない。

食欲なんてログアウトしたし…。

 

「ねぇ…どうするの?2日後の夜時間なんて…あっという間だけど?」

 

震える腕を押さえながら、白銀がこの場の全員の顔を伺う。

 

「こうなったら、戦うしかないよ…」

 

「そ、そうですよ!先手必勝で襲いかかればきっと勝ち目はあります!」

 

ゴン太の考えに賛成とばかりに、茶柱が合気道家とは思えない発言をする。

そんな中で、アタシはゆっくりとみんなから離れて食堂の出口に足を進める。

 

あともう少し…あとちょっと……

 

扉をゆっくり開けた所で、「…どこ行くの?」と春川が此方を見ないで呟いた。

いつから気づいてた…って、春川なら流石にバレるか。

 

でも、それだけでみんなの視線が一気にアタシに集まるんだから怖い。

もう、みんな一斉に振り返るとかホラー。

タイミング合いすぎ。

思わず「ひぃっ…」って悲鳴を上げたんだけど。

 

「な、なんだよぉ。ちょっと頭の中を整理したいだけじゃん…」

 

まぁ、正確には部屋に置きっぱなしにしているガチャの景品を整理しながらどう改造しようか考えるだけだけど。

 

「だから…部屋で休んでくる!」

 

脱兎の如くアタシが外へ飛び出すと、後ろから「変な考え起こしちゃダメだからね!」と誰かの声がした。

 

 

 

 

×××××

 

 

 

改造のイメージも固まり、暇になった為アタシは何をしようかと思考を巡らせた。

昨日のように本を読むのもいいと思うけれど、明日解放される研究教室に備えて倉庫やガチャで素材集めをするのもいいかもしれない。

 

『ピンポーン…』

 

突然、部屋に響いた音に一度首を傾げるも、すぐにインターホンが鳴ったのかと気づく。

 

「……えっ?インターホン??」

 

ということは、誰かがアタシを訪ねに来たということ。

慌ててドアを開けて誰なのか確認する。

 

「こんにちは、入間さん」

 

扉の先には、赤松が立っていた。

えっ、何か用?

ま、まさか昨日アタシが本棚の仕掛けを見ていた事に気づいたとか!?

 

「どうした赤松?まさかオレ様が変な事考えてないのか確認しに来たのかよ?」

 

冗談半分でそう言うと、すぐに「違うってば…」と否定してきた。

 

「ちょっとお喋りしない?ピアノも弾けないし、やることなくて暇なんだよね」

 

「ふーん…まっ、オレ様も暇だったし乗ってやる」

 

立ち話もどうかと思い、アタシ達は寄宿舎の階段に腰掛けた。

そのまま、アタシは隣に座る赤松が話し出すのを待ってみるも、何故か何も言おうとしない。

えっ、まさかの話題なしで来たの?

 

「あのさ…さっきは、ありがとね」

 

「はっ?」

 

話し出したと思ったら、赤松がアタシにまず言ったのはお礼だった。

えっ、意味が分からない。

誰かと間違えてない?

 

「ほら、さっきの朝食の時みんながコロシアイは終わったって思ってる中で、私はこのまま終わるわけないって言おうとしてた時の。止め方は酷かったけど…アレって私があのトンネルの時みたいに責められないようにしてくれてたんだよね?だから…ありがとう」

 

「……あぁ、あのトマト突っ込んだ時のか」

 

うん。思い出した。

でもさ、そこまでは考えてなかった!

ただ嫌いなトマトを…ゲフンゲフン。

じゃなくて、あの空気壊したくなかっただけで…あれ?結局はそうなるって事か…??

よく分からん。

 

「それでね、入間さんにお礼がしたくて。こんなので良かったら貰ってくれる?購買部のガチャガチャを回したら出てきたものなんどけど…」

 

そう言って赤松がアタシにプレゼントとしてくれたのは、触手マスィーンだった。

 

………ナイス、チョイス!!

 

アタシがガッシリと赤松の手を両手で包むと、いきなりの事で驚いたのか赤松の肩が跳ね上がった。

でも、そんなの気にしてあげない!

 

「ありがとな、赤松!ちょうどこんなのが欲しかったんだよ!!」

 

フフフ…これでアタシの改造の幅が広がった。

もう誰もアタシを止められない!いや、止める事は許さない!

 

「なら…良かった」

 

アタシが喜んだのを見て、赤松が嬉しそうに笑顔を浮かべた。

もしかしたら、渡すのが不安だったんだろうな。

ほっと一息って、安心してるのが分かる。

 

「それじゃ、オレ様は部屋に戻るとするかな」

 

「えっ、もう?」

 

立ち上がったアタシを、階段に座ったままの赤松が見上げる。

何で?と目で訴えるな。

 

「あー、もう。分かったからぁ…。これを部屋に置いてくるだけ!すぐ戻るから待ってろッ!」

 

だから、そんな捨てられたチワワみたいな顔しないでください。

それに弱いんで。

部屋に赤松から貰ったばかりの触手マスィーンを置くと、アタシはガチャでダブったタピオカジュースを2つ手にして赤松の元に戻った。

 

別に長話するつもりはないけど、喉が乾いたら嫌だからっていう理由なんで。

 

 

 

 

 

って思っていたのに、アタシが赤松から解放されたのは夜時間の少し前だった。

……なんでこうなった。

 



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私と僕の学級裁判⑤

V3のコラボカフェ、今日までだよ!
みんな行った?食べた?

えっ、僕……?
あはっ、あははあははははは!
僕みたいな虚弱体質な田舎民が行くなんて、おこがましいじゃないか!
そう、僕はみんなの踏み台なんだよぉ!(泣)


…で、何の話しだっけ?
あ、友達を通して知り合っただけの人が、行ってきた~って嫌み全開で自慢してきたから、その人を僕がタコ殴りするっていう話しだったね。
あっ、嘘だよ。
タコ殴りするのは、僕じゃないからね



朝のアナウンスが鳴るまで、まだ少し時間がある頃。

訪問者を知らせるインターホンの音で、アタシは目を覚ました。

誰だろうなんて呑気に思いながら欠伸をかみ殺して個室のドアを開けるも、そこには誰もいなかった。

 

「…悪戯かよ」

 

ならばもう少しだけ寝ようと思ってドアを閉め、再びベッドに潜り込むとさっきまではなかった何かに触れた。

 

………えっ?何か触った??

 

一瞬で眠気が吹き飛び、アタシは正体を確かめる為に布団を勢いよく捲った。

 

「やだなー、入間さん。ボクを抱き枕にしたいなんて、人気者は照れちゃうねー」

 

正体はモノクマだった。

おい、いつからいたんだよ。

…あっ、もしかしてさっきドアを開けた時に侵入したんじゃ!?

 

 

 アタシは どうする?

▷たたかう  おはなしする

 ねる    にげる

 

 

頭の中でそんなゲームのような選択肢が浮かぶ。

しかし、アタシはどれでもない本を読んで無視をするという選択肢を作り、実行。

椅子に座って図書室から持ってきた本を読み出す。

 

「ショボーン…無視されたよ。まぁ、ボクはこれぐらいで傷つかないけどね……」

 

視界の隅で、モノクマが頭に茸を生やしてしょんぼりする。

いやいや、思いっきり傷ついてるじゃん…。

本に栞を挟んで閉じると、アタシはモノクマに目をやった。

 

「で?何の用だよ。つまらねー事だったら、許さねーぞ!」

 

アタシの睡眠時間を削ったんだ。

くだらない事だったら、怒るから。

 

「あっ、聞くの?聞いちゃうの?そんなに知りたい?」

 

「さっさと言えっ!」

 

うぷぷ…と笑いだすモノクマに思わず怒鳴ると「しょうがないなー」と言われた。

本当、早く言って。

そしてアタシの部屋から出ていけ。

 

「やっと準備が終わったから、ボクがわざわざ教えに来たんだよ」

 

「はっ?準備??」

 

「そ。入間さんの為に作られた中庭にある『超高校級の発明家の研究教室』の準備ができたんだよ」

 

研究教室!

やっと使えるんだ。

 

「さぁ、その才能を生かして殺戮兵器でも発明して……ちょっと!?どこ行くのさ!?」

 

アタシがモノクマを抱き上げて部屋を出ると、まだ説明の途中だとばかりにモノクマが手足をジタバタ動かす。

てか、その先は絶対余計な事を言うだけだろ。

寄宿舎の出入り口で、パッとモノクマを掴んでいた手を離すと、モノクマは「やっと解放されたよ…」と疲れたような声を出した。

むしろ、こっちが解放されたい。

 

「もう、いくらボクが愛らしいマスコットだから抱きたくなる気持ちは分かるけど、もう少し優しく……って、聞いてないし」

 

寄宿舎から出て行くアタシを見るモノクマの文句も聞かずに、今日1日は研究教室に籠もる事になりそうだなと考える。

 

となれば、軽食を漁りに食堂に………あっ、まだ開いてない時間じゃん。

何して時間を潰そう。

 

 

 

 

 

 

モニターから朝8時を知らせるアナウンスが鳴るとアタシは食堂に入り、その奥にある厨房で片手で食べられるような物を探す。

……普通に、サンドイッチかパンでいいかな。

足りなかったら、ガチャで出たものを食べればいいし。

 

それらを手に食堂の方へ戻ると、狙ったようなタイミングで最原を連れた赤松が「おはよう」と食堂にやって来た。

本日も仲が良いようで……。

 

「お前ら、今日も一緒かよ。見せつけてくれるじゃねーか」

 

冗談でからかってみるも、赤松に「そ、そんな事より!」とスルーされた。

まさか…昨日散々話した時にからかったせいで、アタシの扱いに慣れたのか?

それはちょっと…楽しみが減ったみたいでツマラナイ。

 

「あのね…入間さんにお願いがあるんだ。ね、最原君?」

 

「う、うん…実は、入間さんに作って貰いたいものがあるんだ。倉庫でカメラと防犯センサーを見つけたんだけど…その2つを改造して組み合わせて『自動で撮影してくれるカメラ』を作ってもらえない?モーションセンサーで人の動きを感知して、自動でシャッターを切ってくれるカメラだよ」

 

あぁ……そういえば、それも作らないといけないんだっけ。

綺麗に忘れてた。

それ+アタシが個人的に作りたいモノを考えると…あっ、今日は徹夜じゃん。

まぁ、徹夜には慣れてるからいいけど。

 

「ねぇ、入間さん…お願い。みんなでここから出る為にも入間さんの力を貸して」

 

黙り込んだアタシを見て何を思ったのか、赤松が頭を下げた。

それを真似するかのように、最原まで「お願いだよ…入間さん」とアタシに頭を下げる。

 

「や、やるに決まってんだろ!だから…そのぉ…頭下げるの止めろよぉ……」

 

「ホント!?ありがとう入間さん!」

 

バッと顔を上げた赤松が嬉しさのあまりか、アタシに抱きついてくる。

あの…苦しいんだけど。

最原も安心して一息つかないで、助けてくれないかな?

赤松の力が意外と強くて、アタシ一人じゃ無理。

 

「で…今からそのカメラとセンサーを取りに行けばいいのか?」

 

ギブアップとばかりに赤松の背中をペシペシ叩きながら最原に聞くと、苦笑いで「僕が取ってくるよ」と言われた。

…その苦笑いの意味を、聞いてもいい?

 

「あっ、待って最原君。私も行くよ。リュックに荷物入れられるし。入間さんは研究教室で待ってて!」

 

やっとアタシから離れた赤松がバタバタと慌ただしく、倉庫に向かった最原の後を追う。

…あいつら、仲良しだなー。

 

「んじゃ、準備するか…」

 

軽く伸びをしてながら、アタシは食堂を出ると一度寄宿舎に寄り、それから研究教室の方に向かった。

 

 

 

 

×××××

 

 

 

研究教室は様々な道具や部品、機械で一杯だった。

正直、初めて見るものとかもあるのに、才能のお陰なのか使い方が分かるんだから不思議だ。

一通り確認した所で、「コンコン…」と扉からノックの音がした。

あの2人が来たんだろうと思いながら扉を開けると、予想通り赤松と最原だった。

 

「はい、コレ」

 

赤松がリュックから3台の使い捨てカメラを取り出してアタシに手渡し、最原も持っていた防犯センサーを渡してくる。

 

「で、これを組み合わせて自動で撮影するカメラを作るんだな?」

 

最終確認としてアタシが聞くと、赤松は頷いたが、最原が「あのさ…」と前置きをして話す。

 

「1台だけ防犯センサーの機能を残したまま、それと連動して撮影するカメラを作れないかな?つまり、センサーが動くと受信機のブザーが鳴って、同時にカメラで撮影される……そういう仕掛けが欲しいんだ」

 

あの動く本棚に設置する分の事だろう…。

アタシが「なるほどな…」と頷くと、「細かい注文はここに全部書いておいたから」と最原が小さな紙を手渡してきた。

それに書かれている事をザッと目を通していく。

 

「で、いつ取りにくるんだ?」

 

「明日の朝までに…できるかな?」

 

無理言ったかなと顔に出している最原に、アタシはニヤリと笑った。

 

「それぐらい、余裕だぜ!じゃ、明日の朝に取りに来いよ」

 

一方的に告げると、アタシは扉を閉めて研究教室の中に戻った。

台の上に、赤松と最原から預かったカメラと防犯センサーを置き、少し離れた場所にはアタシが個人的に作りたい物の材料を並べる。

 

 

 

「それじゃ、作戦開始…なんてな」

 

 

そうしてアタシは、手を止めることなく作業に集中することにした。

空腹や睡眠なんて、これの前では無意味に等しい。

 

『超高校級の発明家』入間美兎の才能とアタシの発想、思う存分に見せてあげようじゃないか。

 

 



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私と僕の学級裁判⑥

本日2回目の投稿なので、間違えて此方を見ないように気をつけてくださいね。(僕、一回あったので…)
後書きってふざけたくなるんだよね…何かの病気かな?

兎に角、今回でチャプター1は終わりです。
次はチャプター2に入る……前に、ネタ話しを書きたいと思ってます。


「---さん。い--さーー」

 

ユサユサと、誰かがアタシの体を揺らす。

誰かがアタシの眠りを妨げようとする。

昨日徹夜だったんだから、あと5分だけ……。

 

「入間さんっ!」

 

「ひいぃっ!?」

 

耳元で聞こえた大声に驚いて、思わず体を起こした。

な、何っ!?

 

「ご、ごめん。そんな驚かすつもりはなくて…」

 

アタシの目の前で、大声を出した張本人であろう最原が消えそうな声で謝罪する。

なんだ、最原か……へ?

 

「な、なんで最原がここにいるんだよ!?」

 

「えぇ?昨日頼んだ物を貰いにきたんだけど…」

 

そこでアタシは、もう朝の8時を過ぎていた事に気づいた。

あぁ…だから、最原がアタシの研究教室にいるのか。

なるほど納得。

状況の整理終わり。謎は全て解けた。

 

「ちゃんと作ったぞ。はい、コレ」

 

そう言って、アタシはダンボール箱に入れておいた自動で撮影するカメラ3台を最原に手渡した。

最原はそれらを一つずつ確認すると「凄い…」と呟く。

 

「ちゃんと注文通りに、センサーが感知して自動で撮影されるカメラ2台と、センサーが感知すると受信機のブザーが鳴ると同時にカメラの撮影がされるやつを1台だ。フィルムの巻き上げは自動にしてやったし、巻き上げ音とシャッター音の音はちゃんと消してるからな」

 

「ありがとう。入間さん」

 

えっと、他に言うことは何だっけ…。

あぁ、そうだ。

 

「今はちゃんと撮影されないようにセンサーの電源は切ってるけど、一度電源を入れたら10秒くらいで立ち上がるからな。それから、カメラのインターバルとして、一度シャッターが下りると次にシャッターが下ろされるのに30秒かかるようになってるから」

 

とりあえず、これで言うべき事は一通り言った…かな?

それでも気になる事があるのか、「あのさ…」と最原が顎に手を当てて聞いてきた。

 

「これって、フラッシュの機能って残っているのかな?」

 

あぁ、言ってなかったけ。

肝心な事を言い忘れてたか。

アタシは注文の書かれた紙をヒラヒラと見せながら、最原にこう言った。

 

「フラッシュの機能をなくしてほしいなんて、書いてなかったからな。残ったまんまだぜ」

 

 

 

 

 

 

ーー嘘だけどね。

 

 

 

 

 

そのまま研究教室から出て行った最原を見送り、アタシは軽く体を動かした。

変な体制で寝てたのか、バキバキと音が鳴る。

うーん…これからの事を考えて、研究教室に簡易ベッドでも置くべきかなぁ?

…今度から、ガチャで出たハンモックでも使うか。

 

「それじゃ…オレ様も動くかな」

 

モノクマの動機の期限…タイムリミットは今日の夜時間。

みんなの生存ルートを辿ると決めた以上、アタシに失敗は許されない。

明け方にできたばかりの発明品を片手に、アタシは研究教室を出ると校舎に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

食堂の扉を少しだけ開け、赤松を除いた女子が全員いることを確認すると、アタシは一階の女子トイレの中に入った。

……今思うと、女子トイレの中に入るのなんて初めてだ。

ぐるりと、トイレを念のために確認して問題ない事を知ると、アタシは持ってきた発明品を床に置いた。

 

「…………」

 

緊張で指が震える。

もし、失敗したら…なんて、嫌な考えが浮かぶ。

ううん。その時はその時で別の方法を使うだけ。

何度もあらゆる可能性を考えて、その時での行動パターンだって…

 

「あぁ~!クソッ!」

 

グシャグシャと髪を掻きむしると、アタシは頭の中の考えを消すように首を振った。

赤松と最原に頼まれたあのカメラだって、ちゃんとできたんだ。

ちゃんと、思った通りに作れたんだし…。

 

意を決して発明品の電源を入れると、アタシは慌てて女子トイレから飛び出すと扉を閉めた。

そのまま近くの壁にもたれかかって、心の中で発明品が起動するまでの時間を数える。

念のために余分にカウントをしてから、ゆっくりと扉に手をかける。

そして、力を込めて……

 

 

 

ガタガタッ、ガタッ

 

 

 

押しても引いても開かない扉に、アタシは無事に成功したんだと実感して笑った。

 

「んあ?入間よ、こんな所で何を笑っておるのじゃ?」

 

通りすがりの夢野が、トイレの前で笑っているアタシを見て首を傾げていた。

…不思議がっているんだとは思うけれど、表情に出ていないから分かりにくい。

 

「聞いて驚け。世界規模の大発明のテストをしてるんだ。これが上手くいけば、消臭と清掃が一気にできるんだぜ」

 

まぁ、それはカモフラージュとして作った機能でしかないけれど。

それでも、夢野は興味を持ったのか「ふむ…そうか…」と何度も頷いてくれる。

 

「その発明品が出来れば、ウチは面倒な掃除をしなくて済むのじゃな…」

 

あっ、そうだ。

この子めんどくさがりだった。

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

時間はあっという間に過ぎていき、刻々とその時が迫ろうとしていた。

図書室から借りたままの本を片手に、アタシは校舎の中を落ち着きなくウロウロする。

そのせいか、たまたま近くにいた天海に「ちょっと落ち着くっす」と笑いながら言われた。

 

「落ち着けって言われてもよぉ……」

 

「そんなに心配なら、入間さんもこの後の百田くんの作戦会議に参加するっすか?聞いた感じだと、心強いメンバーが集まってるらしいんで」

 

アタシを安心させようとしているのか、笑いながら天海がそんな事を提案してくる。

まぁ…確かに、この後の事を考えるとそれはいいかもしれない。

 

「おっと…そろそろ時間っすね。玄関ホールで集まる事になっているんで、俺は行くっすけど…入間さんはどうするんすか?」

 

「オレ様、今は役に立つような発明品は持ってねーけどよ…行ってもいいのかな?」

 

「まぁ、人は多い方がいいっすからね」

 

そう言って歩き出した天海を追うように、アタシは本を胸の前で抱え直すと、小走りしながらその隣に並び立つ。

それからは何も言わず、お互い無言のまま集合場所である玄関ホールまで向かって歩いき、玄関ホールの近くまで来た時だった。

 

突然、校舎の至る所から不気味な音楽が鳴り出した。

聞いて思わず気分が悪くなるようなこの音楽は、コロシアイ催促のBGMだ。

 

思わず耳を塞ぎながら玄関ホールまで辿り着くと、すでに百田、ゴン太、春川、夢野、アンジーの姿があり、みんなして玄関ホールにあるモニターを見ていた。

 

「チッ、こんな映像なんか見せやがって…。おーし!とにかくこれでメンバーは揃ったな!」

 

声をかけられて来た訳ではないアタシが居ることに、百田は気づいていないのか…それとも忘れているだけなのかは分からないけれど、この場に集まったメンバーを見て満足そうな顔をしていた。

 

「よしっ。作戦会議だけどな…ここじゃなんだし、ゲームルームでするか」

 

そう言って歩き出した百田の後をみんなでゾロゾロと歩く。

 

「…最初から集合場所をゲームルームにしておけばよかったんじゃない?」

 

「春川の言う通りじゃ。まったく、メンドーな事をするのぅ…」

 

「別にいいじゃねーか!急に思いついたんだしよ…」

 

みんなの後ろの方でそんな会話を聞きながら、アタシは本を持つ手に力を込めた。

自分で微かに震えているのが分かる。

 

階段を降りて目的の地下のゲームルームにみんなが入っていく中、アタシは誰かの視線を感じて階段の方を振り向いた。

階段の陰に隠れるようにして、誰かが此方を見ていた。

まぁ、誰かっていうか最原だったけど。

 

何も見なかったフリをしてアタシが最後にゲームルームに入ると、「さて、作戦の方なんだが…」と百田が仕切り出した。

意見を出し合うみんなを見て、作戦会議ってこんな感じでやってたのか…なんて思いながら、アタシは未だに不気味な映像と音楽を流すモニターに目をやった。

 

いつの間にか、画面の映像は切り変わってモノクマが高笑いしている姿になっていた。

その周りに、皆殺しまであと1時間というテロップが流れる。

 

「すみません百田君。俺、ちょっとトイレに行ってくるっす」

 

そう言って、みんなから離れようとする天海の通路を塞ぐような場所に立っていたアタシの姿に、天海は「ちょっと、どいてもらっていいっすか?」と苦笑いを浮かべながら言う。

でも、アタシはそれを聞かずに「なぁ、百田!」と声を上げた。

 

「どーした、入間?」

 

「あのさ、図書室に行ってもいいか!?この本を本棚の上に戻したいし……それに、役に立ちそうな本を探してやるから!」

 

図書室という単語に反応した天海が、一瞬だけ怖い顔をしてアタシを見た。

すぐに元の苦笑いに戻ったとはいえ、怖すぎる…。

 

「だから、少しだけ待ってろっ!」

 

後ろからの制止も聞かず、アタシはゲームルームから出ると隣の図書室の前まで走り、一度呼吸を整えながら扉を開けた。

 

そのまま迷うことなく脚立を登って、階段のような形で綺麗に整頓された本の山の上に、持っていた本を置いた。

その後はアタシの右側に摘まれた本を適当に手に取って、ペラペラ捲っては中を見た後、左側に置くという作業をする。

こうする事で、本で作られた階段はどんどん崩れていき、ただ本が乱雑に置いてあるだけのものになる。

そんな時、図書室の正面入り口から天海が入ってきた。

 

「…本当に本を探しているだけだったんすね」

 

そんな事を言いながら、モノパッドを片手に持った天海が下からアタシを見上げた。

やっぱり本当かどうか疑ってたのか…。

まぁ、アタシでも多分そうするし当たり前か。

脚立からゆっくり降りると、アタシは天海の前に立った。

 

「お前、トイレに行くんじゃなかったのかよ?それとも、オレ様が心配でついて来たのか?」

 

最後に至っては別に言う必要はなかったかなと思ったが、天海は何でもないかのように「そうっすよ」と答えた。

 

「正確に言えば、入間さんがここで何かしようとしているんじゃないか…って心配っすけど」

 

……こいつ、図書室の動く本棚の事を隠す気あるのかな?

 

いや、もしかしたらアタシにカマかけてるだけかもしれないし…。

うーん…気にするだけ無駄か。

 

「オレ様を疑ってたのかよ…」

 

「いや、それはホント悪かったっす」

 

できる限りで睨んでみるも効果なしで、むしろ宥められた。

年下みたいに扱いやがって…もう知らん。

拗ねたフリをして動く本棚の近くまで行くと、アタシはまた本を抜いて読んでいく。

未だに疑ったままなのか天海はアタシを見ていたが、小さな声で何かを言った。

 

「…今、何か言ったか?」

 

大音量のBGMのせいで上手く聞き取れなかった為、天海の方を振り向いてみると、天海は何故かアタシの方を指差していた。

 

…ん?どういうこと?

 

「だから、ちょっとどいてもらっていいっすか?」

 

よく分からないままアタシは本棚から少し離れると、天海は動く本棚の前まで行き、ゆっくり動かそうと……えっ、動かすの!?

 

「えっ……えぇ?」

 

「まぁ、ちょっと見ててほしいっす」

 

困惑するアタシの前で、天海が本棚を動かす。

本当に動かしやがった…。

全開にまで天海は本棚を動かすと、未だに混乱しているアタシと本棚から現れたモノクマを連想させるような隠し扉を見比べた。

 

えっ、この人は何を考えてるの…?

こんな展開になるなんて、予想してなかったんだけど。

 

「なんでって顔をしてるっすね。それは--」

 

天海の言葉を遮るかのように、突然図書室の扉が勢いよく開いた。

それと同時に赤松と最原、その後ろから百田と茶柱が図書室に入ってくる。

 

 

「えっ…。天海君に…入間さん?」

 

入ってきてすぐ、赤松が信じられないとばかりに目を丸くした。

あっ、これ絶対首謀者だと疑われるやつだ…。

 

「オイオイ…どーなってんだよコレ」

 

動く本棚と隠し扉に気づいた百田が、状況を上手く飲み込めないのかそれを凝視する。

アタシにも誰か説明プリーズ。

 

「あの…図書室に行くと言っていた入間さんは分かるんですけど…天海さんはここで何をしてるんですか?」

 

茶柱、アタシもそれ聞きたい。

なんでこんな事をしたし…。

 

「あのさ…2人はここで何をしようとしていたの?まさか2人が……」

 

帽子の下から覗く最原の目が、アタシと天海を鋭く射抜く。

ていうか、状況的に言い訳が思いつかないし…かなりヤバイ事になってきた。

 

「最原君達の言う首謀者は俺達じゃないっすよ…。まぁ、信じて貰えなくても構わねーっす。でも言わせてもらうと、俺らはモノクマに交渉しに来ただけっすから」

 

さりげなく、アタシまで頭数に入れた天海に驚いて口をパクパク動かすも、何も言わないのを良い事にして、そのまま天海は話し続ける。

 

「本当は俺と入間さんだけの秘密だったんすけど…まぁ、バレちゃ仕方ないっすね。あの奥の部屋にも入れないんで」

 

恨めしそうに扉の横にあるカードリーダーを見る天海に、百田は頭をガシガシと掻きながら「あのなぁ…」と呟く。

 

「そーいう大事な事は、今度からちゃんと言いやがれ!」

 

話しを信じ込んだ百田がそう言うと、「次は気をつけるっす…」と苦笑を浮かべて天海が謝った。

それでも、状況が良くなったわけではない。

 

「あの…みなさん……それよりもですね、転子はさっきから気になる事が…」

 

そう言って茶柱が恐る恐る赤松の足元を指差す。

みんながそれに釣られるように視線を下にやると……

 

「ありゃ、バレちゃった?」

 

いつの間にか、モノクマがそこにいた。

驚きのあまり声も出ないアタシ達に、モノクマはアタシと天海に目を向けると「でさぁ…」と怪しく笑ってみせた。

 

「ボクに交渉しに来たんだっけ?」

 

「そうっすよ…」

 

天海は一歩モノクマの前に出ると、モノクマに目線を合わせた。

 

「だって、モノクマも本当はこんな形で終わらせるなんて事…望んでないっすよね?」

 

確信を持っているように話す天海に、モノクマは何も言わずに固まったまま動かない。

もしかしたら、言葉の意味を探ろうとしているだけかもしれない。

 

「そ、それに…コロシアイって、ある意味ではモノクマとオレ様達のチーム戦みたいなもんじゃねーか。コロシアイをさせたいモノクマと、コロシアイをしたくないオレ様達……あっ、絶望させたいモノクマと、絶望に屈したくないオレ様達って言った方が言いのか?こんな形でオレ様達を終わらせるって事は、オレ様達の絶望に屈しないっていう思いが勝ったって事になるんだぞ?お前はそれを望むのかよ?」

 

下手したら逆鱗に触れそうな言葉を並べてみると、モノクマは突然「ぶひゃひゃひゃ!」と大声をあげて笑い出した。

えっ、もしかしてアタシ変な事言った?

 

「うぷぷ…そうだね。確かにそんな展開になるのはボクも望んでないし……いいよ。皆殺しの件はなかった事にしてやるよ。それに、誰かさんのせいでボクの製造機も使えないから、どうしようかと困ってたんだよねー。という事でオマエラ、次の動機が発表されるのを楽しみにしておくんだね……アーッハッハッハ!!」

 

最後に高笑いだけを残して、モノクマはアタシ達の目の前から姿を消した。

 

「私達…助かったの?」

 

 

 

赤松の、助かったという言葉が心に響く。

 

助かった。

皆殺しが……なくなった…。

 

 

 

アタシは、最初のコロシアイの阻止に……成功、したんだ。

 

 

それを実感した途端、へにゃへにゃとアタシはその場に座り込んだ。

あっ、やばい……腰抜けた。

 

 

 

『キーンコーン…カーンコーン』

 

夜時間を告げる鐘と共に、モニターに昨日までと違ってモノクマが映る。

そして……確かに皆殺しを止めたという事を告げて、モニターは真っ暗になった。

 

 

「入間さん、立てますか?」

 

座り込んだアタシに、茶柱が手を差し伸べる。

その手を取ろうとして手を伸ばした瞬間、緊張が解けたのと徹夜という事もあって睡魔がアタシを襲い……そのまま意識を手放した。

 





ここから先は、ただのおふざけなので見なくても大丈夫です。
えぇ、遊び心なんでスルーしてください。





オマエラ、モノクマショッピングの時間だよ!
部屋の掃除が面倒…部屋の臭いが気になる……そんな悩める奥様に、本日紹介するのはこちらの商品!
掃除・消臭…部屋丸ごとこれ1個!超高校級の発明家が作った発明品、名付けて『元・前向きな加湿器だったもの』だよ!
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使い方は簡単。
使う部屋の窓をまずは全て閉めて、商品のスイッチを押し、起動する10秒以内に部屋を出て扉を閉めるだけ!
ちなみに、一度使ったら1日中その部屋には入れないし、出ることもできないから注意してね。

えっ?どうしてって?
それはね…起動すると、中から変化自在な膜なようなものが出てきて、部屋中に広がるんだ。
で、それが固まる事で掃除・消臭ができるからなんだよ!

これで面倒な大掃除とかも楽になるよね!

という事で、この商品のご購入をご希望の方は、才囚学園まで50万円お振り込みくださーい。
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さぁ、今すぐお電話を!!



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休題

宣言通り、今回はネタ話し回だよ!

ゲームしてたらね、どうしても…どーしても!このネタを書きたくて仕方なかったんだ!!

1章終わってキリが良さそうだし、休題と称してドーン!!!!…って勢いで投稿。


 

みんなが寝静まった夜時間。

本来であれば、アタシも今はみんなと同じで寝ているのだけれど…

 

「どうすっかな…」

 

昼間に貰ったばかりの鍵を見て、頭を悩ませていた。

 

 

 

 

愛の鍵。

 

それは、カジノの景品として手に入れるアイテム。

夜になると、鍵を持つ自分とランダムで選ばれた相手が、ラブアパートの一室に招かれ…相手が思い描く妄想を夢として展開するという……まぁ、みんな大好きなアイテムイベントだ。

 

数多のファンがこのイベントの虜となり、全キャラコンプや気になるキャラを見る為に何度も寝る前にセーブして、お目当てが出るまでロードしたプレイヤーも多いだろう。

かくいうアタシも、その一人だ。

 

 

で……そのアイテムが今アタシの手元にあるわけで。

使うor使わないで悩んでいる。

 

…いや、だってさ?

あれって、確実に落としてくるじゃん?

プレイヤーキャラがキャラだったからっていう可能性もあるけど…どうしても身構えてしまう。

しかし、使いたいという思いもあるわけで。

 

 

「変な展開になりませんように…!」

 

 

 

結局、見てみたいという思いには勝てなかった。

 

 

 

×××××

 

 

 

招かれた相手は、鍵を持つ人物を自分の理想の相手と想い、自身の妄想に溺れる。

その為、どんな役を押し付けられたとしても、アタシはそれを演じなくてはならない。

そうしないと、相手は夢から覚めて苦しむ事になってしまうから。

 

「………」

 

さて…アタシの相手として選ばれた赤松楓は、アタシにどんな理想を求めているのか…。

 

 

「いよいよだね…。美兎ちゃん、準備はできた?」

 

急に話し始めた赤松に、話しが読み込めないアタシは「はっ…?」と返事する事しかできなかった。

いや、だって…いきなり『準備できた?』なんて聞かれても、何の事やらアタシには分からないし、まさかの名前呼びに驚いて何も言えなくなったというか…ほら、今の自分がどんな役なのかすら分からないんだ。

適当に『はい/いいえ』で返事するわけにもいかない。

 

「ほら、この後みんなの前で演奏会するから…」

 

「…演奏会??」

 

えーっと…つまり、赤松はこの後ピアノをみんなの前で弾くわけで………?

なら、アタシはそれのセッティングでもしてた設定か?

 

「その顔…私とピアノの連弾をするって事、忘れてたんでしょ?」

 

「えっ……?わ、忘れてなんかねーぞ!?」

 

忘れるも何も、今知ったんだけど。

…まさかの、アタシも演奏者かよ。

た、確かに誰かと一緒にピアノを弾く連弾は、楽しいと思うけどさ…。

 

「た…ただ、本当にオレ様でいいのかなって…。赤松の足を引っ張りそうだし……」

 

ていうか、実際にやったら絶対に足を引っ張る自信ある。

これが夢の中の出来事で本当に良かった…。

 

「もー…緊張してるのは分かるけど、なんで急に苗字呼びになるの?いつもみたいに楓でいいって。それに…昔から私とピアノをしてた美兎ちゃんなら大丈夫に決まってるよ!だから、自信持って…また、昔みたいに私と一緒にピアノを弾こうよ」

 

ニッコリと笑う赤松に対して、アタシは自分の設定を脳内で整理するので精一杯だ。

赤松の中でアタシは、昔一緒にピアノを弾いてて…名前で呼び合う程の付き合いがあって…これからみんなの前で連弾の演奏会をする。

 

自分の設定が今になって分かるとか、情報を引き出す能力なさすぎて辛いわ…。

 

「まぁ、たまになら…一緒に弾いてやるよ」

 

できれば、現実でできたらいいな…。

赤松に教えてもらいながらピアノを弾くっていうのも…本当に仲の良い友達みたいで楽しそうだ。

 

「ホント!?約束だからね!」

 

『約束』…そう言って、赤松はアタシの目の前に小指を出した。

指切りなんて、随分子供っぽい事をするんだな。

 

「オレ様は、約束を破らねーからな」

 

そう言って、アタシ達は一方的な約束を交わした。

この夢から覚めれば、赤松は絶対に忘れてしまう…。

ならば、アタシだけでもその約束を守ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ…」

 

起きたら自室のベッドの上だった。

おぅ…本当に夢だったみたいに、曖昧にしか思い出せない。

思い出せ…仕事しろ、アタシの記憶。

あっ、無理。まだ眠い。

未だにハッキリと覚醒しない意識の中で、アタシは夢の中での赤松との約束を思い出す。

 

…そうだ。

『一緒にピアノを弾こう』って約束したんだっけ。

 

思いたったらすぐ行動。

アタシが自室を出ると、ほぼ同じタイミングで隣の個室から赤松が出てきた。

だったら、ちょうどいい。

 

「なぁ、赤松…お前、今日暇か?オレ様にピアノを教えてくれねーか?」

 

 

 




というわけで…本編では絶対に書かないであろう、愛の鍵のネタでした。
ネタ話しって、一回書いたらまた書きたくてなるから困るよね…
思わず、他キャラver.で書いたネタ帳と睨めっこしちゃったよ(汗)

聞かれない内にゲロっておきますと、今回赤松ちゃんにしたのは………あみだクジの結果です。


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限りなく地獄に近い天国①

聞いて、僕は朝から変な行動を起こしてしまったんだ。

落書きと称して、モノクマの絵を描いたまではよかったんだ。
その後、親に朝ご飯ということであんパンを貰った。
それをもぐもぐ食べながら、無意識に手を動かしていたんだろう…
モノクマの頭上にアンパンチをやろうとしているアンパンマンを描いていたんだっ!

いやいやいや、何やってんだ僕!?
他作品のキャラを描くにしても、ドラえもんorまる子にすればいいだろう!
なんでアンパンマンなんだよぉ!!

……って叫びながら布団から飛び起きました。

まさかの夢オチだったんだよ。
それにしても、叫びながら起きるとか恥ずか死ぬ。




ベッド上で目を覚ましたアタシがまず最初にやったのは、自分の今の状況を整理する事だった。

 

「………動けない」

 

ガッチリと身体を何かにホールドされている。

それから逃げ出そうとして動くと、余計に締め付けられた。

苦しいぃぃ。

 

「むにゃ…夢野さ~ん……」

 

訂正。

アタシをホールドしているのは、何かではなく誰かで。

今の台詞で誰かなんて、嫌でも分かった。

 

「オレ様は夢野じゃないから離せ、茶柱…」

 

やっとの思いで、アタシは茶柱の方に身体をクルリと回って真っ正面から言ってみるも、茶柱は夢の中。

揺さぶったり、声をかけてみたが全く起きる気配がしない。

 

こうなったら、アレだ。

最終手段だ。

茶柱の枕元にあった時計から時間を確認してみると、明け方と言ってもいい時間。

ならばと思い、アタシは思いっきり息を吸い込むと…茶柱の耳元で力一杯叫んだ。

 

「茶柱らぁぁぁぁぁ!オレ様を離せええぇぇぇぇぇ!!」

 

でも、それはどうやら間違った選択だったようで…

 

「きぃえええぇぇぇぇ!!!!」

 

目が覚めたばかりの茶柱に、投げ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、すみませんでしたっ!」

 

投げ飛ばされた際に痛めた腰をさすっていると、我に返った茶柱がオロオロしながら謝罪をしてきた。

落ち着かせるためにも「大丈夫だから…」と言ってみたけれど、めっちゃ痛い。

部屋に置いてある家具に当たらなかっただけマシなんだけれど、痛いのは痛い。

 

「すみません。入間さんを転子の部屋で休ませた事を忘れて…男死が勝手に部屋に入ったのかと思って」

 

……どんな勘違いなんだよ。

というか、なんでアタシは茶柱の部屋で寝てた?

茶柱の部屋に行った記憶なんてないんだけど?

 

「なぁ…茶柱。それよりも、なんでオレ様はここに?」

 

茶柱の部屋を見渡しながら、アタシはそう言って頭を抱えた。

そんなアタシに、茶柱は「覚えてないんですか?」と恐る恐る聞いてきた。

これっぽっちも覚えてません。

何かあった?

 

「ほら、入間さん…昨日、天海さんと一緒に転子達の皆殺しを止める為に交渉してたじゃないですか」

 

…うん。そこまでは覚えてる。

問題はその後なんだけど。

 

「その後、図書室で寝てしまったんですよ?で、その場にいた転子か赤松さんの部屋で寝かせてあげようって話しになりまして…」

 

「なるほどな…」

 

それ以降の記憶がない事もハッキリし、アタシはポンッと手を鳴らした。

徹夜とかで疲れてたとはいえ、なんたる失態。

人前でいきなり寝るなんて…

 

「はい。最原さんと赤松さんは『無理をさせた』と心配していまし、百田さんや天海さんも『今は寝かせてあげよう』との事でしたので…起こさないように気をつけながら、転子が部屋に運びました!」

 

ドヤァ…と効果音が付きそうな程のどや顔をする茶柱に、アタシは苦笑しながらも「ありがとな」とお礼を言った。

…ホールドされたり投げ飛ばされた事は、無理矢理記憶からなかった事にする。

 

「い、いえ…転子は当たり前の事をしただけで…」

 

照れたように顔を赤くする茶柱を可愛いなんて思いながら、アタシはもう一度お礼を言って寄宿舎から出て行った。

 

 

 

 

×××××

 

 

 

朝8時を知らせるアナウンスが鳴った後、アタシは一階の女子トイレから回収した発明品を持って食堂に来ていた。

もう何人か既に集まっており、簡単に朝の挨拶をしながらアタシは席についた。

 

「あれ?入間さんの持っているソレって何?地味に気になるなぁ…」

 

アタシの持っていた発明品に気づいた白銀が、興味津々とばかりに覗き込む。

「これはなぁ…」とアタシが口を開くと、隣からガタッと音がした。

 

「入間よ…これはもしや、お主が昨日言ってたやつか?」

 

アタシの隣の椅子に腰掛けていた夢野が、身を乗り出してくる。

覚えてくれていた事が嬉しくて、思わず「その通りだぜ!」なんてアタシは笑ってみせた。

 

「昨日テストとして女子トイレで起動させたコイツの性能を、朝確かめたんだよ。ちゃんと掃除・消臭ができてるかな…」

 

「で、どうだったんじゃ?」

 

「性能自体は成功だな。ただ…一度しか使えないってのと、1日中部屋に入れないってのを改善しねーとな」

 

アタシがそう言うと「そうか…」と夢野は身を引っ込めたが、今度は逆に話しを聞いていた白銀が身を乗り出してきた。

 

「えっ…もしかして、昨日トイレの中に入れなかったのって、入間さんの発明品のせいだったの?わたし、トイレ使おうとしてたのに開かなかったから、地味に困ってたんだけど…」

 

そりゃ、使えなくするのが目的だったんだから…なんて素直にい言う訳にもいかず、アタシは「えっ!?」と驚くフリをするしかなかった。

 

「だって、誰もあそこのトイレ使うの見たことなかったしよぉ…それに、発明品を試す条件に合う場所でもあったから…。だから、ごめん…怒らないでぇ…」

 

偶然が不運にも重なっただけだと思わせる為にも、アタシは半泣きになりながら白銀に謝った。

…自分の事ながら、よくこんな適当な事言えたなアタシ。

全部がデタラメって訳じゃないからこそ、信憑性のある言い訳になったと思う。

 

「怒ってないから、別にいいよ。もう過ぎた事なんだし…」

 

口ではそう言いながらも、明らかに怒ってる白銀からアタシが目を逸らすと、そのタイミングで「みんな、おはよう」と言いながら赤松が最原を連れて食堂に入ってきた。

…いや、違った。

最原の帽子を被った赤松と、「あ、赤松さん!返して!」と慌てる最原だった。

 

もう、お前ら一生やってろ。

 

心の中でそう思いながら、カメラ持ってくるんだったとアタシは後悔した。

 

 

 

 

 

 

「文字…ですか?」

 

朝食を食べ終えると、中庭で変な文字を見つけたと言い出したゴン太の言葉に、キーボが真っ先に首を傾げた。

 

「うん。ゴン太が今朝見つけたんだけど…中庭の草むらの中に隠れたコンクリートの地面に『いは うま』って文字が書いてあったんだ」

 

改めて文字について説明をしたゴン太に、みんなが何のことだろうと首を傾げる。

 

「んー…最原君、何かわかる?」

 

「いや…僕にも、ちょっとわからないよ」

 

「そっか…」

 

探偵の最原でもわからないということに、赤松は更に「うーん…」と唸る。

そんな中、「でもでもー」とアンジーが声を上げた。

 

「草むらに隠れた地面の落書きなんて、よく見つけられたなー?ゴン太、神っちゃってるー?」

 

にゃははーと笑うアンジーに、ゴン太は頭の後ろを掻きながら「小さな虫さんのお陰なんだ」と答えた。

 

「虫っすか?」

 

天海が確認するように聞き返すと、それに続くように東条が「この学園には、いないんじゃなかったの?」と疑問を口にした。

 

「ゴン太もそう思っていたんだけれど…中庭を散歩している時に、小さな虫さんを見た気がしたんだ。ただ…視力6,0のゴン太でもほとんど見えないくらいの小ささで…」

 

「で、その虫さんを追いかけてる最中に、そのメッセージを見つけたってわけだね。いやー、ゴン太は大活躍だね!さすがオレが最初から頼りにしていただけあるよ!」

 

嘘か本当か分からない王馬の言葉の数々に、ゴン太が「えっ、ホントに?」と聞き返す。

 

「…ホントだよ。だから、オレの手下になってよ」

 

「わかった!なるよ!」

 

すぐに返事したゴン太に、赤松が「なるの!?」なんて驚く。

いや…アタシもこれには吃驚だ。うん。

 

「ゴン太、気をつけろよ。そいつは平気で嘘をつきやがるぞ」

 

アタシが知らない間に王馬の嘘の被害を受けてたのか、百田がワナワナと体を震わせながらゴン太に言い聞かせる。

 

「えっ?そうなの?」

 

「あはは、そんな訳ないじゃん」

 

そう言って笑ってみせる王馬に、アタシは思わず「もう、言ってんじゃねーか…」と小さな声で言う。

それでも、ちゃんと聞こえてた王馬がアタシの方を見たけれど、気づかないフリをしてアタシは欠伸をして無視を決め込んだ。

 

 



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限りなく地獄に近い天国②

この作品の本文書いてる時によく『ディストピア・ジバンク』っていうボカロの曲を聞きます。
…曲の雰囲気がダンガンロンパに合うからって理由で、聞いてるだけですがね。


 

「やっほー、なんだか盛り上がってて楽しそうだね!ボクも混ぜてよー」

 

いつも通り、いつの間にか食堂にいたモノクマが明るい声でアタシ達の会話に突然入ってきた。

そんなモノクマを見るや、王馬は良いこと思いついたとばかりに顔を輝かせ「うん!入間ちゃんがオレをイジメて、とっても楽しそうなんだ!」と言った。

 

…って、ちょっと待てええぇぇぇ!?

 

「なんでオレ様なんだよっ!?」

 

つい、アタシはとっさに王馬の肩を鷲掴みにするとガクガクと揺らして、抗議する。

しかし、それは間違った行動だったようで、逆に王馬を余計に笑わせただけだった。

 

「イジメはダメだよ!イジメなんてカッコ悪い!どん引きしちゃうよ!」

 

「だから、してねーって!」

 

うわぁ…モノクマまで悪乗りしだした。

アタシがある意味イジメられてんじゃん…。

 

「それより…なんの用だ?」

 

悪気なんてないと思うけれど、星がモノクマに言った一言を聞いた瞬間、アタシはその場に座り込んだ。

それよりって…それよりって酷い。

アタシにとっては、それよりなんて言葉で済まないのに…。

 

「入間ちゃん生きてるー?」

 

ニヤニヤ笑いながらアタシの頭をつつく王馬の手を、ペシッと払いのける。

そもそも原因はお前だから。

 

「うーん…ホントはね、あの動機でコロシアイが起きてから渡すつもりのご褒美だったんだけどさ…誰かさん達のせいで動機をなかった事にしちゃったし?だからって、このままオマエラの世界が狭いままなのも面白くないから渡す事にしたんだよね」

 

うぷぷ…とモノクマはそう言って笑う。

こういう笑い方してる時って、絶対何か考えがあってやってるよね…多分だけど。

 

「渡すって…何を?」

 

赤松がそう疑問を口に出すと、突然現れたモノタロウが「はーい、言われたやつだよー!」と大声を出した。

それにつられて、他のモノクマーズもぞろぞろと食堂に集まる。

 

「今から、順番に渡してやるぜッ!」

 

「心の広いお父ちゃんに、感謝してよ?」

 

「………」

 

「ええか!キサマラに渡すのは、この『ようわからへんアイテム』や!」

 

そう言ってモノクマーズがアタシ達の前に出したのは、校内にある謎のオブジェに使うアイテムだった。

…これ、ゲームでは学級裁判を乗り越えたご褒美とかで貰ってたやつだ。

 

「『龍の宝玉』と『黄色いオカリナ』と『通行手形』と『ゾンビゲームでよう使う六角クランク』…こいつをセットでプレゼントするでー!」

 

やったね、カジノで遊べる。

…遊ぶ時間作ろう。

 

「なんだ、このガラクタ!?」

 

どう使うんだと、百田がモノクマに使い道の説明を求めるも「ボクもよくわかってないけど…」なんて答えが返ってきた。

 

「まぁ、よくわからない使い道があるんじゃないかな?そういう訳だから、後はお好きなように頑張ってくださーい!」

 

そんな適当な事を言い残して、モノクマはモノクマーズと共に食堂から姿を消した。

 

「で、さっきのガラクタはどうするの?」

 

春川がモノクマーズ達が置いていったガラクタを見ながら、うっとおしそうに言う。

 

「だったら、最原君が持っておこうよ」

 

「えっ、僕?」

 

自分に話しが回ってきた事に慌てる最原に、赤松が強引にガラクタを持たせた。

 

「最原君は探偵だから、こういうパズルみたいなの得意だと思ってさ…。ほら、このガラクタって校内にある変わったオブジェになんとなく関係ありそうじゃない?私も手伝うからさ、一緒に頑張ろう」

 

「赤松さん…」

 

 

あのさ…最原が持っておく事になったのはいいんだけど、アタシ達空気みたいになってるから。

ほらー、春川なんか「またやってる…」とか言って食堂出て行こうとするし。

天海に関しては「仲良しっすね」って笑ってる場合じゃない、近くにいるんだし止めて。

星も「若いな…」とか言うな。何歳だよお前。

 

 

「と…とりあえず!赤松と最原を中心に怪しいと思ったオブジェを回って行くぞ!」

 

アタシが無理矢理話しを進めると、周りから『よく言った』みたいな視線を受けた。

 

お前らも止めろよぉっ!

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

オブジェの捜索に向かったみんなとは別に、アタシは未だに食堂から動かずに寛いでいた。

もう、朝起きた時からいろいろ疲れた。

何がとかは言わないけど。

 

「なんか忘れてる気がするけど…いいや」

 

テーブルの上で、腕を枕のようにして顔を埋める。

動機が発表されていない、この何もない1日っていうのは貴重だからな。

有効に使わないと…ね?

 

「オブジェは他人任せにして、このまま寝てやる…」

 

「それはダメっすよ」

 

「ダメとか言うなよ。オレ様は……んんっ!?」

 

あっれー、おかしいな?

今、誰かと話した?

会話になってたよな?

誰かいるよね?ね?

 

ゆっくりと顔を上げて、食堂の出入り口の方を見る。

外に繋がる方…は、誰もいない。

となれば、廊下に繋がる方……。

 

「……なんだ、天海か」

 

「ちょっと、また寝ようとしないでほしいっす」

 

再び寝る体勢に入ったら、注意された。

なぜだ。

 

「お前、なんでここにいるんだよ?赤松や最原と一緒に校内走ってたんじゃねーのかよ?」

 

「いや、走ってないっすよ。そういう入間さんは、なにサボってるんすか?」

 

疑問に疑問で返された。

なんでだよ、答えろ。

…それとも、アタシから答えないとダメなやつなのか?

いいの?言っちゃうよ??

後悔しても知らないよ?

 

 

「朝から茶柱に投げ飛ばされて、強打した腰が痛いから動かないだけ」

 

答えた瞬間、天海に目を逸らされて「そっすか…」とだけ言われた。

ねぇ、肩震えてるけど笑うのこらえてるの?

アタシの目を見て話してくれないかな?

 

「…オレ様は答えたぞ。お前は何しに来たんだよ?」

 

「あぁ…俺は姿が見えなかった入間さんを探しに来ただけっす。いろいろ話したい事もあるんで」

 

やっと目を合わせて話したと思ったら、予想とは違って真面目な顔をしていた。

それより…アタシがいるのが、ここだとよく分かったなぁ!?

モノパッドのマップには、誰がどこにいるとかはゲームと違って表示されないのに…。

 

「で、今話してもいいっすか?」

 

どうせ、昨日の図書室での事だろうしなー。

…説教されんのかな、アタシ。

悪いことした覚えないけど。

 

アタシが何も言わないのを、肯定の意味だと思ったらしい天海が話しだそうとすると、そのタイミングで食堂にアンジーが入ってきた。

タイミングが神ってるー。

 

「やっほー!美兎と蘭太郎みーっけ!体育館に集合だってさー」

 

それだけ言うと、アンジーは慌ただしくどこかに駆けて言った。

せめて、なんで体育館に集まるのか教えてから行って。

 

「……」

 

「……」

 

残されたアタシと天海は、無言でお互いの顔を見る。

沈黙が無駄に重い…なんでだ。

 

「とりあえず、行ってみるっすか?話しはその後にでもやるんで」

 

「あぁー…うん」

 

後からなら、アタシにも心の準備というのができるはず…うん、お説教ぐらい受けてたとう。

あっ、でも本当にただの話しだったらいいな…。

そんな軽い気持ちでアタシは頷くと、集合場所と言われた体育館までゆっくり歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

体育館にみんなが集まると、アンジーが全員に見えるように「ほーれ、これってなーんだ」と手を持ち上げた。

その手にはヘンテコな懐中電灯が…って、それ思い出しライトっていう名前の記憶植え付け機械じゃん。

 

「よくわからないから、もりもり調べてみたんだけど…結局わからなかったのだよー。だから、教えてほしいってアンジーから頼んでおいたよー」

 

笑いながらそう言ったアンジーの後ろから、「困った事があったらモノクマにお任せーっ!」と笑いながらモノクマが出てきた。

えっ…まさかアンジー、モノクマをおんぶしてたの?

 

「教えてよー。この懐中電灯ってなんなのー?」

 

「あぁ、それは『思い出しライト』だよ。その懐中電灯が照らすのはただの闇じゃなくて…」

 

 

 

オマエラの『失われた記憶』という闇なんだ

 

 

 

モノクマのその言葉に、アタシを除いた全員が僅かに表情を動かして反応した。

 





もう少し書こうと思っても、気力の問題で強制終了。


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限りなく地獄に近い天国③

ある朝起きたら廊下で寝てた……何があった!?

※寝ぼけてただけでした。


「私達の…記憶?」

 

「ほら、ちょっと前までオマエラも気にしてたでしょ?この学校に来た経緯を覚えてないのをさ…。その思い出しライトを使えば、それを思い出せるって寸法さ!」

 

モノクマの言った事が半信半疑なのか、最原が「このライトで?」と、どうするか考え込むかのように思い出しライトを眺める。

 

「やっぱ…さらわれた時の記憶がねーのは、テメーの仕業だったんだな?

 

「だけど、私達に何をしたの?どうやって記憶を奪ったの?」

 

百田と東条が詰め寄って問いかけるも、モノクマは「それも、思い出しライトを使えば、思い出せるかもねー」と質問には答えずに、体育館から出て行った。

残されたアタシ達は、アンジーの手にある思い出しライトを見つめる。

キーボが「それで…どうします?」とみんなの意見を聞いてみるもま迷っているのか誰も答えようとはしなかった。

そんな中で、星が「だったら…」と口を開いた。

 

「機械に詳しいヤツに聞いてみたらどうだ?そこに超高校級の発明家がいるじゃねーか」

 

そこで、みんなしてその手があったかとばかりにアタシを見た。

あっ、アタシに決定権委ねられてるんですね、はい。

 

「どうなんすか?入間さん」

 

みんなの視線を一気に浴びながら、アタシは頭の中で幾つか選択肢を考える。

 

①使ってみよう。

②怪しい、罠だ!

③それは、記憶植え付け機械だ!

 

…③は、たぶんダメだろうな。

見ただけでなんでわかるんだって言われそう。

となると、①か②だけど……うん、②の方がいいかもしれない。

 

「あのモノクマの事だからな…何か目的があってオレ様達にコイツを使わせようとしてるかもしれねーな。見ためだけじゃ性能なんかわからないし、解体してもいいってんなら…オレ様が詳しく調べてやる」

 

アタシが罠の可能性を出すと、余計にどうしようか…という空気が強くなる。

あと、一人だけ『余計な事を…』みたいなオーラ出すの止めて。

アタシが泣きそうだから。

 

みんながアタシの考えに乗ってくれるのをドキドキしながら待っていると、「おーし、決まりだ!いっちょ使ってみるか!」って百田が大声を出した。

 

オイコラ、なんでそっちに決まった。

今の!流れの!何で!そっちに決まった!?

 

「な…オレ様の話しを聞いてたのか!?」

 

「あぁ、ちゃんと聞いてたさ…。オメーらはビビり過ぎなんだよ。いいか!逃げてばっかじゃ勝てねーぞ。どんな時も、本気で勝ちてーなら、ちょっとくらいの無謀は覚悟しねーとな」

 

いや…その、勝つ為にアタシは解体して調べるって提案を出したんだけど。

つ、使わせてたまるかっ!

 

「でもよ…」

 

「勝つ為には、まず立ち向かわねーと話しにならねーだろ!」

 

コイツ、アタシに反論させない気か!?

反論する隙もくれないの!?

メチャクチャにも程がある…。

 

「まぁ、それでも逃げてーなら勝手に出てけ。オレは止めも責めもしねーからよ」

 

それ、結局使うって事じゃん!?

そんなの、絶対にダメに決まって…

 

「残るに決まってます!だって男死にあそこまで言われて逃げるなんて、ムカつくじゃないですか!」

 

「ボクも百田クンの意見に賛成です。立ち向かわない限りは100%勝てませんからね」

 

 

えっ……マジで?

本気なの?ねぇ?

 

 

アタシ以外が『使う』と言い出す。

これ、ここでアタシが使わないって言った所で、多数決的にも不利じゃない?

 

「入間も、それでいいよな?」

 

「うぅっ…」

 

もう、承諾する以外認めないみたいな空気じゃん…。

はい負けました。アタシの負けです。

でも、せめて…

 

「使い終わったら、ソレをオレ様によこせよ…」

 

「それぐらい構わねーさ!んじゃ、全員決まったな」

 

正直に言う。

メッチャ不安。

記憶を植え付けられると知っている分、なんとか区別はできるとは思うけれど……あっ、逃げたい。

 

「ではではー…ポッチーン!」

 

そんな軽いノリで、アンジーが思い出しライトのスイッチを押した。

 

 

 

 

その瞬間、世界が歪んだ…なんて事は起きなくて。

頭の中で早送りのように映像が次々と流れては、消える……ただ、それだけだった。

そう。それだけ。

それを過去にあった出来事なんて感覚にはならず、ただTVのワンシーンを脳内でリピートさせるような感覚だった。

……あれ?

 

みんなはどうなんだろう…。

そう思って、アタシは周りを見渡した。

 

「思い出した…僕は超高校級狩りから逃げる為に、自ら記憶を…」

 

「えっ?最原君も超高校級狩りに追われていたの?」

 

「貴方達だけじゃないわ。私も…いえ、他のみんなも同じじゃないかしら?」

 

東条の言葉を肯定するかのように、みんな顔を青くしていた。

すみません、アタシだけ他と感覚が違う。

なんで?不具合か何かなのか?

それとも、憑依スペックか?

……うん。わからん。

 

「あの…誰か教えてくれませんか?そもそも、超高校級狩りってなんでしたっけ?」

 

そろそろ…と茶柱が手を上げると、「んな大事な事を忘れんなよ…」と言いながら、百田が言葉を繋げようとして…止まった。

 

「あ?どういうことだ?どうして思い出せねーんだ?」

 

「ウチもじゃ…靄がかかったみたいに、何も思い出せん」

 

そもそもアタシは、思い出す以前の問題に陥ってるんだけど。

変に発言しない方がいいよね?

 

「天海君は何か知ってるんじゃないかナ?前に、超高校級狩りという言葉に心当たりがないか聞いてたヨネ?」

 

「や…それが、俺にもわかんねーんすよ。ただ、あの時はその言葉が急に浮かんだだけだったんで…」

 

そんな話し、いつしたの?

全然知らない……あ、研究教室に籠もってる時か。たぶん。

 

「うぷぷ…無事に記憶を取り戻せたみたいだね」

 

そんな声が聞こえたと思ったら、体育館から出て行ったはずのモノクマがステージに立ってアタシ達を見下ろしていた。

 

「そんなわけないじゃん!肝心の事はサッパリだよ!」

 

「いやぁ…オマエラの封印された記憶って頑固だから…1度の思い出しライトでは全ての記憶を蘇らせる事はできなかったみたいだよ」

 

残念残念と呟くモノクマに、王馬が「ホントはわざとのクセに」と笑ってみせる。

ていうか、そもそも思い出したわけじゃなくて…もういいや。

 

「で、あんたは超高校級狩りとどう関係してるの?」

 

「…それは教えられないなぁ。ま、ボクの正体がどうあれ、ボクの目的はオマエラにコロシアイをして貰う事!それが、たった1つのボクの目的なのだーッ!」

 

そしてモノクマは、ステージに突如開いた穴に吸い込まれるように姿を消した。

今の、落とし穴?

さっき、あの穴使って出てきてたわけか?

 

「なにがコロシアイですか!絶対に起こりませんよ!」

 

「うん。その為にもみんなで協力しないとね!」

 

茶柱に同意するように、赤松がそう言ってみんなに呼びかける。

すると王馬が「あのさ…」と手を後ろに組んで呟いた。

 

「協力とか頑張ろうとか前向きな事ばかり言ってると…手痛いしっぺ返しを食らう事になるよ?」

 

王馬の顔に歪な笑みが浮かぶ。

怖い…何がとは言えないが、アタシは今だけ王馬を怖いと思った。

なんせ、言っている事が的を得ている…。

でもこれが、王馬なりにみんなを思っての忠告なんだ。

 

「あー、もういいっ!とりあえず、オレがこいつをぶん殴る!」

 

しかし、百田の逆鱗に触れた。

バキバキと指を鳴らす百田を見るや、「うわっ、殴られる!逃げないと!」と言いながら王馬は体育館を飛び出した。

 

「チッ…逃げ足のはえー野郎だ」

 

呆れたように呟きながら、百田もゆっくりと後を追うように歩き出す。

それにつられるように、他のみんなも出口へと向かって行き、気づけばアタシだけが体育館に残されていた。

そのまま、アンジーが置いて行った思い出しライトに手を伸ばして掴もうとすると、アタシよりも先に思い出しライトをモノクマが掴んだ。

 

急に出てくんなよ!?

 

「それじゃ、これはボクが預かっておくねー」

 

「ま、待て!それはオレ様が…!」

 

呼び止めるも虚しく、モノクマはアタシの手を逃れて再び現れた落とし穴に姿を消した。

…思い出しライト持っていかれたぁ!

アタシが調べてないようにってか!?

 

「…やられた」

 

肩を落としながら、アタシは自分の研究教室へと向かって歩き出した。

……あっ、天海との話し合いの事忘れてた。

まぁ、向こうも忘れてるだろうし、どこでするとかも時間も決めてないし別にいいか。

…テキトーとか言うな。

 



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限りなく地獄に近い天国④

育成計画モードが楽しすぎて辛い。
夢中になりすぎて、本編の流れの確認を忘れそうになるから大変。


研究教室に籠もって機械を弄りながら発明品を作っていると、急に研究教室の扉が勢いよく『バンッ!』と音をたてて開いた。

…扉壊れるんで、もう少し優しく開けてくれないかな?

心でそんな注意をしながら道具をテーブルに置き、ゴーグルを外して一息つくと、アタシは椅子をクルリと反転させて来客の姿を確認した。

 

……すぐに目を逸らしたけど。

 

 

「入間さん…話しがあるって言ったっすね?」

 

 

なぜかお怒りの、天海蘭太郎がいらっしゃいました。

 

アタシ悪くない。

だって、何も言わないでそっちが体育館出て行ったし?

アタシは暫く体育館でボッチだったし?

思い出しライトの残骸モノクマに持っていかれ……これは関係ないか。

…忘れかけた事は、無理矢理除外する。

 

「き、聞くから!だから…一度外に出るぞっ!」

 

天海の体を反転させて外に出るよう、手で押しながら誘導する。

だってここじゃ発明品とか、材料がゴチャゴチャしててまともに話しなんてできないし。

無理矢理だったが、なんとか中庭まで連れて行くと「で?話しって?」と本題を切り出した。

忘れてた事に対するお説教は、受け付けない。

 

「そうっすね。まずは…あの後、図書室であった事っす」

 

腕を組ながらそう言った天海に、アタシは「はっ?」と素で聞き返した。

あの後って…どの後だ?

 

「ほら、最初の動機でモノクマと話した後…入間さんが寝落ちした後の事っす」

 

「な、なんかあったのかよ…?」

 

思いもしなかった話しに、思わず警戒してしまう。

そんなアタシに気づいた天海が「そんな変な事じゃないんで、怯えなくても大丈夫っすよ」と苦笑を浮かべた。

…別に怯えてないし。

 

「茶柱さんが入間さんを寄宿舎に連れて行って、百田君がゲームルームにいたメンバーに事情を説明している間に、赤松さんと最原君と話しをしてたんすよ…。で、その時に赤松さんに謝罪されたっす」

 

「待て待て!今の流れじゃ、何もわからねーぞ!?オレ様にもわかるように説明しろよ」

 

肝心な部分が省略されすぎだ!

話しが読めなくてわからん!

 

「はは…そりゃそうっすよね。…で、赤松さんが謝罪してきた理由なんすけど…あの図書室で首謀者を殺そうとしていたみたいっす」

 

「……へ?」

 

思わず、そんな間抜けな声が出た。

それはつまり…赤松は天海と最原に、自分がやった事を全部話していたって事でOK?

 

……マジで?

 

呆然とするアタシに構わず、天海は更に話しを続けていく。

 

「でも結局は、最原君達が入間さんに改造して貰ったカメラ…隠し扉の本棚付近のカメラのフラッシュが壊れてたり、凶器の砲丸の通り道である本棚の上を、入間さんが本を探して乱雑にした事もあって、未遂で終わったっんすよ」

 

…言葉が出て来ない。

何も言えない。

もうアタシ、黙って脳内で情報整理するのに精一杯だ。

 

「とりあえず、カメラとセンサーは最原君が持っておくことになって、砲丸は3人で倉庫に戻して一目につかない所に置いといたんで…それだけ伝えておこうと思ったっす」

 

「お、おう…?」

 

夜時間になったら砲丸回収しに行く気満々だった…。

うん。話してくれて良かった。

時間の無駄にならずに済んだしな。

これで、心置きなく発明に時間を費やす事ができる。

 

「とりあえず、話しはそれだけか?だったら、オレ様は発明の続きを…」

 

「いや、まだっすよ」

 

研究教室に戻ろうとしたら、引き止められた。

まだ何かあんの!?

 

「ちょっと…見て貰いたいものがあるっす」

 

そう言って天海が取り出したのは、モノパッドだった。

これ、まさか……ないないないない。

そうだ。生存者特典とかいうやつじゃないよな、うん。

ただのモノパッドで、何か不具合が出たんだな。

そうだ、そうに決まってる!

 

「なんだよ、故障でもしたのか?」

 

自分に言い聞かせるように笑いながら、天海からモノパッドを受け取ると電源を入れた。

モノパッドの画面が瞬時に明るくなり、所有者である天海の名前が画面に浮かぶ……事なく、アタシの期待を裏切るようにその文字が画面に浮かぶ。

 

 

 

生存者特典

 

 

 

……why?

 

顔から血の気が引いていくのを感じながら、アタシは恐る恐る天海を見上げた。

だけど、天海は何も言わずにアタシの手にあるモノパッドを操作すると、「これ、見て貰っていいっすか?」と言って黙り込んだ。

 

『コロシアイを終わらせるヒント』

 

そんなタイトルと共に、文章が続いていた。

ところがどっこい、どれだけ文章を読んでも全く内容が頭に入らない。

もう読んだ事にしよう。

後で冷静になった時に、また見せて貰えばいいや。

 

「……」

 

声を出したくても、上手く言葉にする事ができず空気が擦れるような音になる。

だから、代わりに『なんで?』と目で天海に訴えた。

なんでアタシに見せた。

もっと相応しいやつがいるだろう、最原とか。

 

「『キミが最初に思い出す記憶は超高校級狩りについてだ』…つまり、このモノパッドに書かれている事は真実って事っす」

 

違う。

アタシが言いたいのは、そっちじゃない。

 

「なんで…オレ様にコイツを見せるんだよ?」

 

やっと出てきた言葉は震えていて、ちゃんと言えたかどうか不安になる。

それをどう捉えたのかは知らないが、天海はモノパッドを取り上げると「で、次の話しなんすけど…」と何もなかったかのように笑いながら話しを切り替えた。

 

えっと…話しって、今ので最後じゃなかったのか?

ていうか、なんで答えない。

 

「ま、まだ何かあんのかよぉ…」

 

そろそろ、アタシのライフポイントが尽きそうなんだけど。

誰かヘルプミー。

 

「こっからは大した話しじゃないんで、そんな泣きそうな顔しなくても大丈夫っすよ」

 

「ホント…?だったら聞いてやる。さっさと言え!」

 

急に強気に出たせいか「切り替え早いっすね…」なんて言われたけれど、気にしない。

それよりも、アタシの気力的に早く済ませて。

 

「入間さんって、兄弟とかいるっすか?」

 

「兄弟ぃ…?」

 

いきなり何を聞いてくるんだ…みたいな目で、思わず天海を見てしまった。

いやホント、いきなりどうした?

 

「や…特に何でもないんすけど。で、どうなんすか?」

 

「兄貴がいるけど、それがどうかしたか?」

 

アタシ自身の兄を思い浮かべながら答えた。

妹に背を抜かされた兄貴って、見てて可愛いんだよな…。

ブラコンではないと思いたいけれど。

 

「俺にも妹がいるんで、いつか入間さんのお兄さんとは話し合ってみたいっすね…」

 

それはつまり、シスコントークでもするつもりか。

天変地異でも起こらない限り無理だから、諦める事をオススメする。

 

「ふーん…つまり、お前は『妹』とか『弟』ってやつに飢えてんのか?だったら、オレ様が『蘭太郎お兄ちゃん』って呼んでやろーか?」

 

冗談混じりで笑いながら適当に言ってみると、「いいんすか?」って真面目な顔で返された。

 

「えっ、マジかよ…」

 

「えっ、冗談だったんすか?」

 

 

絶句するしかなかった。

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

 

あの後、強制的に話しをなんとか終わらせて、アタシは休む間もなく研究教室に籠もって手を動かしていた。

周りが気になって一度手を止めて外を確認すると、もう真っ暗な暗闇が広がっており、夜時間のアナウンスもとっくに終わっている時間になっていた。

 

「こっちは完成。こいつは明日もう少し改良するか…」

 

散らばったままの道具や部品を片付け、出来たばかりの発明品は別に保管すると、アタシは昼間に部屋に設置しておいた布を敷いたハンモックに横になった。

…こうして見ると、研究教室が第2の個室みたいになってきてる。

ゴロリと寝返りをしながら、アタシは次のコロシアイ阻止方法を考える。

そろそろ、次の動機である大切な人が映った動機ビデオを配られる。

 

 

そこから起きてしまうコロシアイを止めるには、どう動くべきか…

 

 

頭の中で可能性を考える。

そうしている内に、アタシは眠りについていた。

 

 



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限りなく地獄に近い天国⑤

あ、あのね?
まだ2章の途中でこんな事言うのもおかしいんだけど…2章書き終わったら、また前みたいに休題って称して愛の鍵ネタを書きたくてですね。

それで、皆さんに…どのキャラでのネタを書くかアンケートをやろうかなと思いまして。
活動報告で募集するので、い…いいかな?(チラチラ)
まだ書いてないので、多分5分か10分後になるけれど…募集していいですか!?
いや、やらせてください(スライディング土下座)


朝8時を知らせるアナウンスが鳴ってから、アタシは作った発明品の最終チェックをしていた。

…うん。遊び心で作ったやつだけど、どれも良い出来になってると思う。

これなら……

 

「入間さーん!」

 

「ひいぃぃ!?」

 

研究教室に響いたキーボの大声に驚いて、つい発明品を落としそうになる。

危なっ!?

せっかく作った発明品を台無しにする所だった!

 

「あの…入間さん?その手に持ってるのは…」

 

「オレ様が作ったミニキーボだ!」

 

ドヤッとばかりに見せつける。

これには、カメラ機能と録画機能がついている上、ラジコンを使えば動くというもの!

更に音を拾うマイクもちゃんとある。

さーらーに、ラジコンについているモニターからミニキーボが見ている景色をリアルタイムで見る事ができる上、ミニキーボに搭載されているマイクの音をヘッドホンで聞く事ができるという優れもの。

 

「なんでデザインがボクなんですか!?いえ、それより…今すぐ食堂に集まってください。絶対ですよ!」

 

「は?おい、キーボ!理由を…」

 

引き止めてみるもキーボは聞いてくれず、アタシの研究教室を出て行った。

えー…。理由も言わずに用件だけ言う人多すぎ。

 

「まっ、食堂に行けばわかるか」

 

ミニキーボとラジコンを入れた袋を片手に、アタシは仕方なく食堂に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

食堂に来たのは、アタシが最後だったらしい。

キーボと百田に『遅い』って言われた。

そんなに急ぎの用だったなら、何故理由を言わなかったし。

 

「新しい動機が配られたんだ。話し合わねー訳にはいかねーだろ」

 

やっと百田から食堂に集められた理由を聞いた瞬間、アタシは「はああぁぁぁ!?」と思わず叫んでしまった。

 

「えっ、マジ?もう動機きてんのかよ!?」

 

研究教室で寝てたし…個室に戻ってないんで知らなかった。

えー…そっか。

配られるの今日の夜だと勘違いしてた。

勘違いって恐ろしいな。

 

「なんで知らないのかは後で聞くとして…あの映像ってなんなんだろうねー?」

 

楽しそうに笑いながら王馬が言うと、赤松が「動機なのは間違いないよね…」とみんなを見渡した。

 

「でも、どうして入れ替えられてたんだろう?」

 

「ホントだよ!どうしてゴン太のところに白銀さんの映像が…」

 

「そっか…。ゴン太君がわたしの映像を持ってるんだね…」

 

聞きたくなかった…みたいな顔をした白銀に、ゴン太が「ご、ごめん!言っちゃダメだった?」と頭を何度も下げて謝っていた。

 

「で…どうするんすか?本来の持ち主と交換する…なんて言うんすかね?」

 

「いえ、交換はダメです」

 

「なんでだ?自分の『大切な人の映像』なんだぜ?見たいに決まってるだろ」

 

即座に反論した星に、「だからこそ…です」とキーボが言葉を続ける。

 

「どういう意図があるかは知りませんが、動機が入れ替えられた状態で配られているなら…ボク達がそれを交換しない限りは、自分の動機を見なくて済むということです」

 

「無視するのがいいという事じゃな?」

 

夢野に同意するようにキーボが「そうです」と頷くが、星はそれでも納得できないようで「…俺は反対だぜ」と自分の意見を貫く。

 

「いい加減、目を覚ましやがれ!生きる気力のねーゾンビ野郎がっ!」

 

「生きる気力がねー…か。そう思われてもしかたねーな」

 

百田に胸ぐらを掴まれても、星は意見を変える気はないらしい。

逆に、百田の方がうろたえだす。

そして、それを黙って見ていただけの王馬が「別にいいじゃん。星ちゃんは自分の意見を言っただけなんだし」と言うと、百田の怒りの矛先が星から王馬に変わった。

 

「ほら、モノクマの手口を思い出してみてよ?オレらが団結するからこそ、あいつはオレらを苦しめてるじゃん」

 

「つまり…私達が団結さえしなければ苦しめられる事もないって事?」

 

東条が分かりやすく言うと、王馬は「そーそー」と笑った。

 

「オレらは無理に協力なんてしないで、適度にバラバラの方がいいんだよ。そういう意味でも、オレは星ちゃんに賛成なんだよね」

 

みんなが黙りだした中で、アタシは「あ…あのさ…」とゆっくり手を上げた。

 

「んー何?どうかした?入間ちゃん」

 

わざとらしいキョトン顔で、王馬がアタシを見る。

…なんかイラッてするし、その余裕崩してやりたいわ。

 

「その…動機ビデオだっけ?オレ様は見てねーから分からないけどよ、本当に全員が入れ替えられてんのか?…自分宛てのを持っているやつもいるんじゃねーのかよ?」

 

「………」

 

一瞬だけ、王馬の顔から表情が消えた。

他にも数名、僅かに表情を変えた。

東条は知ってたけど…赤松と天海はマジか。

 

「あはは、入間ちゃんは変な事言うねー。…まぁ、言わないだけでいるかもしれないけどさ」

 

その言葉、そのままブーメランにして返ってきてるだろ。

王馬持ってるじゃん。

言わないけど…。

 

「さっ、協力しないと宣言した以上、もうこんな所でツルんでられないし…ほら、ゴン太も行こうよ」

 

「えっ、ゴン太も!?」

 

なんで!?と目を丸くするゴン太に、王馬は「えー!忘れたの!?」と声を上げた。

 

「どうすればみんなが動機を交換するのか、一緒に作戦会議する約束だったでしょ?という訳で、東条ちゃんは後で差し入れよろしくねー」

 

そう言って食堂を出て行った王馬を、ゴン太が慌てて追いかけて行く。

えーっと…これは解散って事でいいのか?

 

「話しは終わりか?だったら、オレ様は新しく作った発明品を試したいから行くわ」

 

ミニキーボとラジコンの入った袋を持ち上げて、アタシは廊下に続く出口の扉を開けた。

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

さぁ、レッツエンジョイ!

そんなかけ声を心中でして、アタシはラジコンを操作してミニキーボを動かした。

 

「…なんでここで操作するの?」

 

「なんとなくだ」

 

廊下に座り込んでラジコンを操作するアタシを、隣にいる春川が見下ろしていた。

何を隠そう、アタシが今いるのは超高校級の暗殺者の研究教室の前。

となると当然、保育士を名乗っている今の春川が部屋に誰も入らないようにと扉の前に立って見張っているわけで。

 

ミニキーボに廊下を歩かせ、その姿が見えなくなるとアタシはラジコンのモニターを頼りに操作していく。

おぉ…ミニキーボ視点で見ると、廊下がめちゃくちゃ広く見える。

やばい、楽しい。

 

「春川もミニキーボ操作するか?」

 

「いらない」

 

この楽しみを、分かち合いたかったのに断られた。

まぁ、当然の結果だけど。

ラジコンで遊ぶ春川とか…想像できないし。

 

「なー…春川。そこの研究教室ってお前のなんだっけ?」

 

「そうだけど。入れないから」

 

「別に入らねーよ…」

 

モニターから目を離さずに春川と話しをする。

おっと、ミニキーボの目の前に壁が…あっ、曲がり角か。

 

「赤松から聞いたけど、望んで今の才能を手に入れたわけじゃねーんだっけ?」

 

「…だったら何」

 

あっ、春川の声のトーンが下がった。

そしてマズイ。

ミニキーボの視界の遠くに王馬とゴン太が見えた。

逃げろ逃げろ。ミニキーボ回れ右だ。

 

「と、特に何もないけどよぉ…。誰かの為を思ってやりたくない事をして、その結果今の春川の才能があるんじゃないかって思っただけでぇ…」

 

「……………」

 

何か反応して。

アタシが不安になるから。

……って、うわっ!?

ミニキーボの視界が上に行った!?

な、何が起きた!?

 

「あんたって変な奴だね。…施設にいたあの子みたい」

 

「へ…変!?」

 

そこでアタシは初めてモニターから顔を上げて、春川を見上げた。

…微妙に笑ってる。

あれか、アタシが施設にいた子供と同レベルだから笑ってるのか?

 

というか、ミニキーボが動かない。

どうなってるんだ?

そうだ、音で何か……

 

すぐにヘッドホンを耳に当てる。

そしてアタシは最悪な結果になった事を知る。

 

『ゴン太、大変だよ!キー坊が夢野ちゃんの魔法で小さくなってる!』

 

『えぇ!?キーボ君、大丈夫!?どうしよう王馬君。キーボ君が何も言わないよ!』

 

『よーし、どうやったら元に戻るのかオレ達でいろいろ試してみようか!』

 

『えっ?でも夢野さんに元に戻してって頼めば…』

 

『馬鹿だなー、ゴン太は。そんな事したら---』

 

そこから先は聞いてられなかった。

アタシはヘッドホンを首にかけると、「じゃ、また来るから!」と春川に別れを告げてモニターの映像を元に走った。

最悪だ。

こんな事なら別の場所で試せば良かった。

 

「あっれー?入間ちゃん、そんなに走ってどうしたの?」

 

「オレ様のミニキーボを解放しろー!」

 

「えっ、入間さんの発明品だったの!?」

 

ゴン太、お前は少し疑う事を覚えて。

頼むからっ!

王馬も絶対わかってて嘘ついただろ。

というか、マジで返してくださいお願いします。

 



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限りなく地獄に近い天国⑥

昨日投稿しようと思ったら、寝落ちしてた…。
後、なんか長くなりそうだったんで途中で強制終了。



 

新しい朝が来たー希望の朝だー…なんて明るい気持ちになるように言ってみるも、アタシの気持ちは明るくなるどころか、暗くなる一方だった。

背負っているナップサックに入っているミニキーボを、操作する気も起きない。

 

みんなで集まる食堂での朝食会をボイコットして、カジノに入り浸ってコイン稼ぎをしてるのにさ、アタシの脳内では全く別の事考えてて集中できないというか?

この後どーするよ…って考えると憂鬱でしかないってやつで…。

 

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ…どうしようどうしよう」

 

だってさ、よく考えたら第2のコロシアイが起こるのって今日の夜時間だ。

考えても考えてもいい方法なんて思いつかなくて…もう、話し合うしかないかなって感じでして。

そもそも、どのタイミングで話し合いしようか…って問題で、でもきっとできない。

 

 

 

 

 

昆虫でなごもう会

 

 

 

王馬と…彼に騙されたゴン太によって起こされる虫地獄。

あれのせいで、迂闊に外をウロウロできない。

出歩いてゴン太と遭遇した瞬間、それは地獄への片道切符。

虫が大量にいる部屋とか入りたくない。

だってアタシ虫嫌いだし。

もう、隠れてやり過ごすしかない…って、どこに隠れる?

あっ…トイレに長時間いるとか暇だし論外する。

 

 

もう夜時間しかあの2人と話す暇ないかも……よっしゃ、モノリスの難しいでA判定ゲット!

さぁーて、次はスロットでも…って、そうじゃなくて。

 

「真面目に考えねーとな…」

 

いや、別に今までがふざけてたわけじゃないけど。

…実際この問題とどう立ち向かう?

 

「あっ、入間さんもカジノに来てたんだ?」

 

スロットに座ってコインを入れていたアタシに気づいたのか、たった今カジノにやって来た最原が「おはよう」なんて挨拶をしながら、隣のスロット台の椅子に腰掛けた。

…よくよく考えると、探偵がカジノにいるってどうなんだろう?

 

「よー、最原。今日は彼女と一緒じゃねーのかよ?」

 

「あああ赤松さんとは、そんなんじゃ…!」

 

「誰も赤松なんて言ってねーし…」

 

墓穴を掘って顔を赤くして黙り込んだ最原に、ちょっと意地悪しすぎたかな?と軽く反省しつつスロットを回す。

…くっそ、揃わなかったか。

仕方ない…もう一度だ。

アタシがコインを投入している間に少しは冷静になったのか、最原が「そういえば…」と話題を出してきた。

 

「入間さんは朝食会に出てなかったよね。明日の朝、体育館で夢野さんが…」

 

「マジカルショーやるんだろ?」

 

遮るようにアタシが答えると、「知ってたんだ…」って小さな声で返事が返ってきた。

そこから話題がなくなったように、パッタリと会話が止む。

更に言うと、スロットの盤面が揃わない。

…うん、もういいや。

そろそろ隠れる場所探そう。

 

椅子から立ち上がり、隣でスロットを回す最原を見る。

…うん。とりあえず言うだけ言ってやるか。

 

「じゃ、オレ様は行くけど…。最原、頑張れよ」

 

「えっ?入間さん、それどういう意味!?」

 

どうもこうも、この後に起きる事に対して言っただけだ。

「ちょっと待ってよ!」と引き止める最原に、「じゃーなー」と手を振りながらアタシはカジノを出て行った。

さぁ…どこに隠れようかなー。

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

「………………………」

 

「あの…入間さん?凄く顔色が悪いですけど…大丈夫なんですか?」

 

「………大丈夫ジャナイ」

 

心配してくれた茶柱の背中に思わずしがみつく。

だって、周りはどこを見ても虫、虫、虫、虫だし。

虫かごに入っているだけまだ耐えられるけど、精神的にガリガリ削られる。

 

…はい、ここまで言えば分かるよな?

超高校級の昆虫博士の研究教室nowだ。

 

くそぅ…なんでだ。

隠れる場所探すためにカジノエリアを出た瞬間、ゴン太とエンカウントするとか運がなさすぎて辛い。

たまたま近くにいた茶柱と一緒に、抵抗虚しく…そのまま強制連行されてしまった。

いろんな意味で泣きたい。

 

既に捕まっていた赤松、白銀、キーボ、真宮寺が王馬と何か話しているけれど、全く耳に入らない。

 

もうやだ、帰りたい。

 

茶柱にしがみついたままガタガタ震えていると、天海と気絶したままの最原がゴン太に連れてこられた。

うーん…やっぱり最原は気絶して連れて来られたか。

王馬に急かされ、次なるターゲットを探しに行ったゴン太が「最原君に悪いことしちゃったな…」と落ち込んでいたけれど、まぁ…仕方がなかったって事で。

 

 

 

「おーい、最原ちゃーん。死んじゃダメだよー」

 

「うぅっ…?」

 

王馬が最原の顔を覗き込んだと思ったら、そんな事を言って笑っていた。

……なんて起こし方をするんだ。

それで意識を取り戻す最原もどうかと思うけど。

しばらくぼーっとして顔で王馬を見ていた最原だったが、何かに気づいたのかハッと息を呑んだ。

 

「まさか…王馬君が、ゴン太君に僕達を拉致させたの?」

 

「にしし…あいつってホント単純だよねー。虫が大嫌いな連中が、ここの虫を処分しようとしてるって教えたら…泣きながら『昆虫の良さをわかってもらう!』とか言っちゃってさ。で、こうして全員強制参加の『昆虫でなごもう会』が開かれる事になったんだ」

 

大正解だとばかりに笑ってみせた王馬に、「…キミの目的はなんですか?」とキーボが問いかけた。

すると、王馬の口元がニヤリと歪んだ。

 

「あぁ、ちょっと上映会をしようと思ってさ。キミらが持っている例の映像を集めて」

 

例の映像と聞いて、みんな動機ビデオの事だと分かったのだろう。

赤松が焦ったように「そんな事したら…!」と顔を青ざめた。

それで自分が見た映像を思い出したのか、天海がそれを振り払うように何度も首を振る。

 

「前にも言ったよね…オレはみんなの為に、みんなの協力を本気でぶっ壊すつもりだって。やるからには、積極的に楽しまないとね」

 

悪意の欠片を感じさせない無邪気な笑顔を浮かべる王馬に、誰も何も言えなくなっていた。

そんな時、教室の扉が開くと同時に夢野とアンジーを連れてきたゴン太が「お待たせ!」と帰ってきた。

 

「ねぇ、ゴン太…体育館で捕まえたのはこの2人だけ?」

 

「ゴメン…東条さんは無理だったよ。体の強さとかを超越した迫力って言うか…」

 

口ごもりながら言うゴン太に納得したかのように、「他の連中は隠れたまま?」と王馬が言うと、「だけど!」とゴン太がハッキリと叫んだ。

 

「これだけ集まったら十分じゃない!?もう立派な昆虫なごもう会になるよね!?」

 

「それもそうかもね」

 

仕方がないとばかりに肩をすくめて王馬が、準備を始めるゴン太を眺める。

 

「ま、待てゴン太!止めろ、こいつの嘘にのるな!」

 

「そうだよ!その人はゴン太君を利用しているだけなんだって!」

 

アタシと白銀が慌てて止めると、「えっ!?そうなの!?」とゴン太が王馬を見た。

 

「ううん。昆虫でなごもう会の為だよ。オレはゴン太以上に、昆虫が大好きだからね」

 

「どうやら…何を言っても無駄なようだネ」

 

真宮寺が諦めたように呟く。

それなら、別の手段で行くまでだ。

虫と戯れるのはゴメンだ。

でも、その為には……

 

「さてと…じゃあゴン太には、こいつらに虫さんの素晴らしさを教えてあげてよ。オレはちょっと用事があって外出しちゃうけど、絶対に途中退出させちゃダメだからね」

 

「外出って、もしかして王馬君は…」

 

「もちろん、キミらの部屋に忍び込んで荷物を持ってくるんだよ。ピッキングぐらいは楽勝なんだよねー」

 

針金を見せつけながら、王馬が最原に笑ってみせる。

部屋…うん、発明品は部屋に置いてないし入られても平気だけど…でも、やっぱり抵抗あるなぁ。

 

「こうなったら、ボクの能力で止めるしか…」

 

キーボのそんな呟きに、「ロボットボイスなんて聞いてる暇ないよ」と王馬が無理矢理遮った。

 

「えーっと…今はちょうど9時か。じゃあ、夜時間までには戻って来れるかな。ま、それまでは虫さんと仲良く遊んでよー」

 

そうアタシ達に死刑宣告とも言える言葉を言い残して、王馬は教室を出て行った。

そして「じゃあ、そろそろ始めようか!」とゴン太が虫かごに手をやった。

 

…今しかない!

 

「は、始める前に…ちょっとトイレ行かせろっ!」

 

「えっ?」

 

どうして?とばかりにゴン太がアタシを見つめる。

王馬が居ない今なら、なんとかできる筈だ。

 

「途中退出はできねーんだろ?だったら、始まる前の今に行くしかねーだろ!」

 

「うん、そうだね。でも、ちゃんと戻ってきてくれる?でないと、入間さんが王馬君に怒られちゃうから…」

 

ゴン太の純粋さに、思わず涙が出そうになる。

騙している事に対しての後ろめたさが、デカい。

ゴン太、ホント騙してゴメン!

でも…あともう一押しだ。

 

「オレ様が戻らないか心配なら、見張りを連れて行くから!」

 

そう言ってアタシは、赤松と天海の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。

 

「うん。それなら心配いらないね!」

 

「んじゃ、さっさと済ませてくるか」

 

なぜ自分達がと戸惑う赤松と天海の背を押して、アタシ達はゴン太の研究教室から廊下に出た。

扉を閉める間際、こっちを見ていた最原に『なんとかしてやる』と口パクで伝えると、『頼んだよ』と最原も口パクで返してくれた。

 

うん、任せろ(何をとは、あえて言わない)。

 

扉を完璧に閉めると、研究教室の中から微かに悲鳴が上がる。

…みんな、ゴメン。

 

「で…俺と赤松さんを付き添いにした事について、何か考えがあるんすよね?」

 

研究教室から聞こえる悲鳴に耳を傾けながら、天海が確信を持っているかのようにアタシに言ってきた。

なんで…天海に考えが微妙にバレてるんだ。

えっ、わかりやすかった?

顔に出てた?

 

「えっ…?入間さん、ホント?」

 

赤松の反応をみる限りだと、天海にだけバレてたみたいだ。

あっ、でも最原とかも気づいてそう…いや、ないと思いたい。

とりあえず…移動しながら本題を話そう。

 

「オレ様がお前らを選んだのは、簡単な理由だ。…お前達が自分宛ての動機ビデオを持っていると思ったからだ」

 

隣の2人が息を呑む気配がした。

気づいてないとでも、思ってたのか?

配られた日の反応で丸わかりなんだけどなぁ…。

まぁ、いいや。続けよう。

 

「その反応は認めたって事で仮定して、話しを続けんぞ?オレ様の考えでは…ゴン太に捕まらなかった連中の中に、自分宛ての動機ビデオを持っている人物がいるはずなんだ」

 

「えっ、それって…」

 

「百田君、東条さん、春川さん、星君……あっ、星君は食堂での様子を見る限りだと違うっすね」

 

話しがトントン進んでいく事に安心しながら、アタシはコクリと頷いた。

 

「王馬のやり方は滅茶苦茶だけどよ…オレ様は動機ビデオをみんなの前で見せ合ってもいい思う。そうすれば、少なくとも1人で悩む必要はないからな」

 

そうして話している内に、一階に続く階段まで来た。

一度2人の様子を窺って見ると、アタシの言った事に複雑な思いを抱いているのか、気難しい表情を浮かべていた。

 

協力して貰えなかった時は…その時は、1人でなんとかしないといけない。

だから、アタシは2人に頭を下げた。

 

「1人で悩んでいる誰かが、選択を間違えない内に……手伝って、ください」

 

ここからは、きっと1人じゃどうにもできない事が沢山できてしまう。

今だって、そうだ。

アタシには、彼女を止める確実な方法が思いつかないままでいる。

 

「入間さん、顔を上げて?」

 

あぁ、訳も話さずに頼むのはやっぱりダメだったのか…。

ゆっくりと顔を上げると、泣きそうな顔をしてアタシに笑いかける赤松と目があった。

 

「私は協力するよ。やっぱり…1人であんな事を抱え込むのって苦しいもん。だったら、私はみんなにあのビデオの悩みを打ち明けたいし、同じように悩んでる人に寄り添ってあげたいから」

 

「俺も協力するっすよ。裏切られてもいいから信じたいって、一度は決めたんすから」

 

「赤松…天海…」

 

出そうになった涙をグッと堪える。

そうだ、まだ泣く時じゃない。

全てが終わってからだ。

 

「ありがとな」

 

協力者がいるって、すごく心強いな…。

 

すぐに、次にやるべき事を2人に伝えるとアタシ達はそれぞれ動き出した。





2章書き終わった後に書く愛の鍵ネタに関するアンケートは、活動報告で明日まで募集していますので、まだの人はよろしければどうぞ!


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限りなく地獄に近い天国⑦

今回で2章終わりですが、かなりグダグダになってしまいました。
勢いで書いてたら、ある程度考えてても当初の予定から外れたりするハプニングが起きるというか…えっと…その………

すみません、ただの言い訳です。
全部僕が悪いんだ。


 

アタシが2人に頼んだ事は至ってシンプル。

昆虫でなごもう会に参加していない残りのメンバーを見つけて、詳しい詳細は言わずに超高校級の昆虫博士の研究教室に連れて行く事だ。

その際に各担当を決めて赤松には春川を、天海には百田と星を探す事を頼んだ。

 

そして…東条はアタシが探す事に。

 

今の時間だと、東条と王馬は鉢合わせしている可能性が高いから2人が王馬に文句を言われないように…という理由からだ。

巻き込んでしまった時点で迷惑をかけているのに、これ以上は…と思うと気が引ける。

 

「さて…と……」

 

階段に腰掛け、背負っていたナップサックからミニキーボを取り出す。

昨日のテスト運転から、再び改良して機能を足したものだ。

離れていてもラジコンに付け足したマイクから、こちらの声が相手に届く…という微妙な機能だけれど、それでも今はこれぐらいが調度いい。

 

パチンッと、電源を入れてラジコンのモニターを見つめる。

改良したおかげでモニターに映るミニキーボの視界は昨日よりも広い。

 

「右よし、左よし、前方よし…」

 

周りを念の為確認して、行くべき場所までのルートを確認する。

まずは…玄関ホールから。

いなかったら外に出るだけだ。

 

移動キーを押すとミニキーボの足元から、小さなタイヤが出てきた。

一度その場でキュルキュル…とタイヤの音をたてると、エンジンがかかった暴走車のようにミニキーボは凄い勢いで走って……

 

 

 

あっ…普通の前進の筈が、Bダッシュになってた。

ボタン押し間違えたわ。

移動キー2つも作るんじゃなかった。

 

 

かといって、今更勢いを落とす気はない。

アタシはレースゲームのように、モニターに映る映像を元にミニキーボを操作していく。

気分はそう…赤い帽子被った髭のおじさん。

 

階段から玄関ホールまでそんなに距離が離れていなかった事もあり、目当てである東条はすぐ見つかった。

あと、ついでに王馬も。

これ、王馬に何か言われてでもアタシが直に行った方が早かったな…なんて思っていると、2人が突然外に走り出した。

慌ててミニキーボで追いかけさせるも、2人との距離は離れていくだけだった。

 

えっ、待って。

王馬の逃げ足速すぎない?

それ追いかける東条も足速すぎぃ…

ミニキーボでも追いつけないとか、アタシだったら絶対無理じゃん…

 

 

「と、いうことも想定しといてよかったな…」

 

2人の足の速さにドン引きしながらも、アタシは冷静にラジコンについていた赤いボタンを、ポチッと押した。

すると、2人との距離がだいぶあったミニキーボだったが、どんどん2人との距離が縮ませていき、遂には東条の足元付近まで行く。

なんでって?

実は背中にジェット機を内蔵させてただけなんで。

それ使っただけです、はい。

 

『これは…キーボ君かしら?』

 

ヘッドホンから、ミニキーボに気づいたらしい東条の声がした。

ヒョイッとモニターの視界が上にいき、画面一杯に不思議がっている東条の顔が映される。

 

ジェット機内蔵のミニキーボを簡単に捕まえるなんて…いや、それよりも本来の目的に戻ろう。

 

「東条ぉ…助けてえぇ…」

 

マイクに向かって泣きそうな声でそう言うと、声でアタシだと分かったのだろう。

『入間さん?』と目を丸くした東条と画面越しとはいえ、目があった。

 

『あれ?それって入間ちゃんの玩具じゃない?』

 

東条の異変に気づいたのか、王馬までもがミニキーボを覗き込んだ。

…それで王馬が東条に捕まった事については、何も言わない。

 

『それで…助けてってどういう事かしら?』

 

「む…虫が……」

 

画面の向こうで、東条と王馬が『虫?』と首を傾げた。

 

「部屋中に大量の虫が…」

 

何の事なのか、東条にはまだ分からないようだったが、元凶ともいえる王馬にはどういう事なのか分かったのだろう。

嫌そうな顔をして『うわぁ…』なんて呟いていた。

 

「ゴン太の研究教室まで来てくれ!みんな大変なんだっ!」

 

『…それは、私への依頼なのね?』

 

「…うん」

 

その場から立ち上がり、アタシは階段をゆっくり上りながら東条の返事を待つ。

しばらくの間、東条は何か考え込むかのように何も言わなかったが、王馬を捕まえていた手を離すと『わかったわ』と頷いた。

 

『獄原君の研究教室ね?今行くわ』

 

その言葉を最後に東条の姿が画面から消えて、モニターには王馬だけが映される。

もしかしてミニキーボは今…王馬が持ってるの?

 

まぁ、いいや。

東条は来るって言ったんだし、絶対来る。

一応依頼として頼んだんだからな。

アタシも急いでゴン太の研究教室の前まで行こう。

 

赤松と天海の方も無事に達成できたのか、確認しないと…。

 

『ねぇ、入間ちゃん』

 

付けたままのヘッドホンから、王馬の声がした。

それには返事をしないで、アタシはモニターから視線を外した。

 

『あれ?もしかしてもう電源切っちゃった?まぁ、いいや。ちょっと独り言を言わせてもらうね?』

 

アタシが無視してるのに気づいてない事を祈りながら歩いていると、少ししてゴン太の研究教室が見えてきた。

教室前には赤松達が集まって、何か話し込んでいるのが見える。

よかった…ちゃんと集まったみたいで。

となれば東条が来たら、第一段階はクリアだ。

近くの壁にもたれかかって、アタシは東条が来るのを待つ。

その間も、王馬はずっと1人で話していた。

 

『オレの考え過ぎかもしれないけどさぁ…入間ちゃんは何か知ってるんじゃないの?例えば…誰かが自分の動機ビデオを持っていて、コロシアイを起こそうとしてる、とか?』

 

「…………っ」

 

バッ、とラジコンのモニター画面を見ると、『にしし』と笑う王馬の姿があった。

えっ、ちょっと待って……えっ?

 

『驚いた?まぁ、嘘なんだけどね。…って、聞いてるかどうかも分からないのに言うだけムダか』

 

無視してるって気づいてるの?

それとも、気づいてないの?

ねぇ、どっち?どっちがホントの事?

そんな反応されたら、分からないから困るんだけど!?

 

『とにかくさ、オレのやろうとしている事に協力するつもりで東条ちゃんにあんな事言ったのか、邪魔するつもりで言ったのかは知らないけどさ…入間ちゃんって性格悪いよね!』

 

「お前にだけは言われたくねーわ…」

 

マイクで音を拾われないように電源を落としてから、呟く。

ていうか、アタシ別に性格悪くないし…たぶん。

 

ナップサックにラジコンを入れて、少し考える。

…よし、今の王馬の話しは聞かなかった事にしよう。

そう決め込んだ所で、コツコツ…と足音が聞こえてきた。

それがどんどん近くなって東条の姿を確認すると、アタシは安堵の息を吐いた。

 

「待たせてしまったみたいね」

 

「いや、十分だ」

 

両手で東条の手を引きながら、ゴン太の研究教室の前まで急かす。

すると、アタシ達に気づいた赤松と天海が軽く手を振ってきてくれた。

アタシも同じように、2人に手を振り返す。

 

「おいおい…いきなりなんだ。ゴン太のアレはもう止まったのか?」

 

「ねぇ、そろそろ説明してくれない?」

 

「そうだぞッ!今のゴン太に捕まったら最後、どうなるかわかりゃしねーんだ!」

 

星、春川、百田がアタシと東条を見るなり、説明しろと赤松と天海に詰め寄る。

 

「まぁまぁ…これから話すんでとりあえず中に入ってほしいっす」

 

笑って誤魔化しながら天海が扉を開けると、みんなして顔を引きつらせていたが、そんな中で東条だけが「なるほど、これが依頼の正体ね」と冷静に状況を見ていた。

 

「なんじゃこりゃ…」

 

百田が思った事をそのまま言葉にして、固まった。

うん。アタシもそう思う。

 

虫……出しすぎ。

 

「あっ、お帰り!他の人達も来てくれたの!?それじゃあ、みんなで王馬君が戻るまでなごもうよ!」

 

「獄原君、その前一度だけでいいから虫を片付けましょう。誰かが虫で生き埋めになっているわ」

 

虫を捕まえては虫かごに戻す作業をする東条が、ゴン太にそう言って空の虫かごを押し付ける。

そんな東条に逆らえないと思ったのか、ゴン太が大人しく虫を片付けていくのを見ながら「どういう事か説明して」と春川がアタシを睨みつけた。

 

「え…っと、そのぉ……それは、だな…」

 

思わず口ごもりながら、視線をさ迷わせる。

いや、だって…ね?

眼力がヤバイというか…殺気が凄いというか……。

アタシがそうやって狼狽えていると、「あのね、みんなに見てほしいものがあるんだ」っと、赤松が変わりに話しだした。

 

「見てほしいもの…ですか?」

 

虫地獄から解放されたばかりのキーボが、ぐったりとした様子で言った。

赤松がそれに頷くと同時に、研究教室に王馬が大量のモノクマーズパッドとミニキーボを両手に抱えて戻ってきた。

 

「あっれ?なんかメンバーが増えてる。まぁ、そっちの方が都合いいし…別にいいや」

 

「まさか…赤松さんが見てほしいものって…」

 

最原が信じられないとばかりに目を見開いて、王馬の手にあるモノクマーズパッドを凝視する。

 

「…うん。私の動機ビデオだよ。私と天海君は配られた日に入間さんが言ってた通り、自分達の動機ビデオを持っていたんだ」

 

赤松が言った事が余程衝撃的だったのか、あちこちから驚きの声が上がりだした。

そんな中で、王馬だけが「なるほどねぇ…」と呟く。

 

「でもさ…赤松ちゃんは何でみんなに見てもらいたいって思ったの?そこがわからないんだよねー」

 

「共有するべきなんだって思ったからっすよ」

 

赤松の代わりに天海が答えた。

 

「百田君も前に言ってたっすよね?俺らが本当に勝ちに行くなら逃げるべきじゃないって…それは、この動機ビデオだって同じっす。1人で見る事で不安になって誰にも言えないまま動機になってしまうならば、みんなと見る事で不安を少しでもなくすべき…って、入間さんの言ってた事なんすけど」

 

 

そこでアタシの名前は出さないで欲しかったかなぁ!?

ほらー、『本当にそんな事、こいつが言ったの?』って大勢が目で言ってるんだけど。

部屋に引きこもるぞ?

 

 

「ふーん…じゃあ、お望み通り赤松ちゃん達の分から上映会を始めようか」

 

そう言って、王馬はモノクマーズパッドの画面を明るくした。

 

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

みんなの動機ビデオが次から次へと流されていく。

自分の映像を見ては、お互いに勇気づける事を何度か繰り返し…半分ほど映像を見た後、アタシが待っていたその時がきた。

 

『超高校級のメイド、東条斬美さん…』

 

モノクマーズパッドから東条の名前が出された瞬間、突然動き出した東条を赤松と一緒に押さえつけた。

きっと、これでみんなが東条が自分の映像を持っていたと知ったと思う。

 

「離して…っ、それだけはっ…!」

 

珍しく慌てたように暴れる東条を嘲笑うかのように、モノクマーズパッドは東条が国の総理大臣から真の総理大臣として任命された事と、全ての国民が東条の仕える主人だという事を明らかにしていく。

 

「東条さんって、そんなに凄い人だったんですね…転子、知りませんでした。それで…あの、東条さんだけでもここから出す事ってできないですかね?」

 

「そのために、東条が誰かを殺す事になるとしてもか?」

 

「そ…それは…」

 

冷や汗を垂らして目を逸らす茶柱から視線を外し、アタシは顔を青ざめている東条と目を合わせて更に続ける。

 

 

「東条の外に出たいって気持ちは強いかもしれない。国民を守らないといけないっていう使命感はあるかもしれない。でもな、お前が仕える国民の人達ってのはお前に守らなければ何もできない連中なのか?…違うだろっ!沢山の人達がいるんだ…お前がここにいる今も、自分達でなんとかしようとしているやつらだっているはずだろう!?そいつらの持つ可能性を、自分でなんとかしようとする頑張りをムダにはさせんな…」

 

「うっ……ううっ…」

 

アタシを見ているようで、どこか違う所を見ているような東条の姿にみんなが見守る。

話し合う事しか、今のアタシにはできない。

だから、東条の決意を…ここでなんとしても崩したい。

 

「みんなで…誰一人欠ける事なく、ここを出よう。それで…みんなと外の人達の手助けをしよう。これは…オレ様からお前への依頼だ」

 

ポロポロと涙を流し始めた東条にアタシは卑怯かなと思いながら…依頼を口にした。

 

「なら、俺も足掻いて生きてみるか。全員でここを出る為に…な」

 

ん?と思いながらそう言った星の方を見てみると、モノクマがぺこりと頭を下げた映像の映ったモノクマーズパッドを持っていた。

 

…星のやつ、いつの間に自分の分を見たんだ。

 

それだけでも驚いていたというのに、星はポケットからテニスボールを取り出すと、持っていたモノクマーズパッドをラケットのようにして…

 

 

 

他のモノクマーズパッドを何個か打ち抜いた。

 

 

 

 

…しかも、打ち抜いたやつの殆どはまだ見ていないものだったせいか、ちょっと王馬がうるさかったとだけ言っておく。

 

 



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休題

やっほー、今回は休題回だよー。

活動報告でのアンケートのご協力、ありがとうございました!!
いやー…クジを作るのが、めんどk(殴
思っていたよりも、回答をくれる人がいて嬉しかったです!
集計の結果、僕が書く事になったのは……この人だっ!

でも、あまり期待しないでね?


 

愛の鍵…それは、招かれた相手が鍵を持つ人物を理想の相手と想い、自身の妄想に溺れる夢のひとときを見せるもの。

 

そんな鍵を片手に持ち、アタシは今回会うのは誰なんだろう…と考えながら一室の扉を開けた。

 

 

 

 

 

目がチカチカするような内装の部屋に、今回の相手である彼女はジッ…とアタシを見ていた。

さて、東条はアタシにどんな理想を抱いているのか…なんて、実はなんとなく予想できてたりする。

だって、東条はメイドだし…ね。

 

「入間さん、聞かせてちょうだい…この前言っていた事は、本当の事なの?」

 

「……へっ?な、なんの事ぉ??」

 

いきなり東条にガッシリと肩を掴まれ、アタシは狼狽えるしかなかった。

あれ?アタシが予想していた物となんか違う。

 

「そうよね…いきなり言われても、何の話しかなんて分からないわよね。ごめんなさい。同じメイドである貴女が、私の悩みを解消する物を作ってくれるって聞いてから…自分でも驚く程に舞い上がってしまってたみたいだわ」

 

「えっ?えっ?」

 

同じメイド?

悩みを解消する物を作る?

あの東条が、思わず舞い上がる?

 

おかしいな。

アタシの予想では、お嬢様扱いされる予定だったのにな。

一体何が起きてこうなった。

 

「あ~、東条の悩みって確か…」

 

そう言ってみるも、何も思いつかない。

えぇ…待って。

今回難しくない!?

東条に悩みなんてあったか!?

 

1人慌てるアタシに、東条は「覚えてくれてたのね」と微笑んだ後、顔をうつむかせた。

 

「私の悩み…どうしても、こんにゃくが切れない事よ。こんにゃくが切れないメイドだなんて、笑い者にされてしまうもの。今の所、他のメイドや旦那様達には気づかれていないみたいだけれど、いつかは私が作る料理にこんにゃくがない…って怪しまれるわ」

 

 

…悩みって、こんにゃくですか。

確かに、そんな設定あった気がする。

うん、あんまり覚えてないけど絆イベントで言ってた。

 

「も、もうすぐ完成間近だからな!あれが完成すれば、こんにゃくでもスパスパと切れるからな!」

 

とにかく、ここは話しを合わせるべきだ。

アタシがそう言うと、東条はうつむいた顔を上げて目元を手で拭った。

泣くほど嬉しかったの?

 

「やっぱり、貴女に悩みを打ち明けて良かったわ。発明家で知られる入間家のお嬢様が私と同じメイドとして働いている…って知った時はとても驚いたけれど、今はそれに凄く感謝しているし、とても誇りに思うわ」

 

「お…おう?」

 

なんか、アタシの設定が凄い。

どこからツッコミを入れたらいいのか分からないけど、とにかく凄い。

戸惑う事しかできねー…。

 

「だからこそ…貴女が本来の自分に戻る時に、私はそんな貴女に仕えたいと思うの。私のように、困っている人達を発明品で手助けをする貴女を支えてあげたいのよ。…どうかしら?」

 

「ど、どうって言われてもぉ…」

 

えーっと…ちょっと考える時間くれ。

今のアタシは、元・お嬢様で今は東条と同じメイドで、アタシがお嬢様に戻る時には、東条がアタシに仕えたいって事で…。

うん、なんて言うんべきなのか…。

 

でも今のアタシって、お嬢様じゃなくてメイドなんだよな?

何らかの理由があって。

だったら…

 

「それは嬉しいけどよ…オレ様は、東条とメイドとして働いている今が凄く幸せなんだ。今更、この生活を放り出したいとは思わねー。だから…主従関係とかじゃなくて、同僚…ううん、友達としてオレ様を支えてほしい」

 

「…そう、わかったわ。そうよね、貴女はそういう人だったわね」

 

残念そうに言いながらも笑っている東条を見て、アタシも気づけば笑っていた。

 

 

 

×××××

 

 

「………」

 

ベッドから体を起こすと、まずアタシが最初にやったのは布団を頭から被る事だった。

グルグル回る頭の中で考える。

東条の悩み…こんにゃく…発明品…それらのワードが浮かんでは消えていく。

 

「…作るか」

 

頭の中で固まったイメージに満足げに頷くと、『ピンポーン…』とインターホンが鳴った。

こんな時に誰だ…なんて悪態つきながら個室のドアを開けると、そこにいたのは東条だった。

 

朝食会に来ないアタシを心配して、呼びにきたらしい。

もうそんな時間?

でも、せっかく呼びに来てくれたんだ。

だったら、次に作る発明品の意見を聞いてみるのもいいかもしれない。

 

「悪い…寝てた。でも、聞いて驚け!とても良い発明品を思いついたんだっ!!」

 

きっと、喜ぶはずだからな。



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転校生 オブ ザ デッド①

3章突入だよー!
みんな、心の準備できた?ツッコミ(?)の用意はできた?
……僕はできてないよ!

だって、思いつきと勢いで書いてるんだもの!
むしろそれで書いている僕を、誰か褒めてっ!!


みんなが寝静まった夜に、地下にある秘密部屋で彼女はソファに座ってイライラしていた。

 

「ホントありえない。こんな絶望的な事、誰が得をするっていうのよ…」

 

ツインテールに結い上げた、自身の明るい色をした髪を触って呟く。

彼女の計画では、すでにコロシアイが起きているはずだった。

学級裁判を行っているはずだった。

 

「はぁ…一体、どこからこんな事に…いえ、思えば最初の動機からでしたね…」

 

急にジメッとした空気になったと思えば、さっきまでとは違った喋り方をしていた。

しかし、それもすぐに変わって今度は「邪魔だよね…」と片手で顔を半分ほど隠していた。

 

「やっぱり、今の彼女は絶望的に邪魔だね。次の動機でなんとかするしかないか。誰かがコロシアイを起こすように誘導させて…」

 

そこまで言うと、急に口元を歪めて「うぷぷ…」と笑った。

 

「それにしても、アタシが監視してた感じだと…たまたまと偶然が重なりすぎて胡散臭いってゆーか、気味が悪いのよねー」

 

大きなため息を吐きながら、「よいしょっ」っと彼女は近くにいたモノクマを抱っこして、ここ数日の事を思い出す。

まずは最初の動機。

あの時、彼女は赤松楓と最原終一の計画を利用して、天海蘭太郎を殺す計画をしていた。

理由を述べるとしたら、彼の持つ生存者特典。

その情報が他人に回らないようにする為だった。

 

 

なのにだ。

計画を実行する際に、彼女にとっての誤算が起きた。

 

 

1つ目は、秘密部屋に行く為の隠し通路が使えなかった事だ。

彼女しか知らない隠し通路がある場所に、ある人物が余計な事をした事が原因だった。

2つ目は、その人物が図書室に作られていた凶器の通り道を、めちゃくちゃにして壊した事。

どこにも不自然を感じさせなかったこれらの行動が、彼女の計画を壊す要因として重なっていた。

彼女がこの部屋に入れなかった原因もあり、この動機は没にするしかなくなった。

 

そして更に最悪な事に、その人物に生存者特典の存在を知られた。

思い出して怒りが膨れたのか、「チッ…」と舌打ちをする。

 

次に、今回の動機。

 

動機ビデオという自分にとって、大切な人達の身に危険が迫っていると、外に出たいと思う気持ちを後押しする…いや、実際には思い出しライトと同じ要領でそう思わせる事で、コロシアイを起こす気だった。

彼女の計画通り、それである人物がコロシアイを起こそうと計画した。

 

なのに、ここでも誤算が起きてしまう。

 

わざと数人だけに自分の動機ビデオを持たせ、他の人達は『ビデオが入れ替えられた状態』だと思わせる事で、みんなが入れ替えられていると思わせた。

それなのに…またある人物が『自分の分を持っている人はいないのか?』と言ったせいで…当てはまる人達が顔色を変えたのを見て、確信したかのような顔をしていた。

 

だから、彼女はその人物のやる事の1つ1つに、細心の注意を払って見ていた。

それでも、特に気になるような行動は起きなかった。

だが、念には念を…として、昆虫でなごもう会の為に自分が王馬小吉と獄原ゴン太の計画を利用して、その人物の身動きを取れないようにした。

なのに……

 

「この私様をコケにするなんて…!おのれ、やるじゃない人間め!」

 

つい数時間前の事を思い出したのか、急に立ち上がって肩で息をしながら怒鳴り散らす。

 

「うぷぷ…楽しみにしててよね……」

 

そう言って笑った後、彼女の姿はこの学園内でよく見る人物になっていた。

 

「私なりに、地味に絶望させてあげるから」

 

 

 

 

 

××××

 

 

 

 

夢野のマジカルショーも何事も起こらずに終わり、アタシ達は食堂で東条の作った朝食を食べながら感想を述べ合っていた。

 

「ピラニアが落ちてきた時は吃驚したけど、凄く良かったよ」

 

「私は、獄原君がステージに上がった事に驚いたわ」

 

「ゴ、ゴメン…」

 

「まぁ、いいじゃねーか」

 

みんなが笑顔で感想を言っているのが嬉しいのか、夢野は満更悪くないとばかりに「ウチの魔法は凄いじゃろう!」と胸を張って言っていた。

 

「確かに凄かったけど…結局、あれってどういう仕掛けなの?」

 

「最原よ…。お主、ウチの魔法を信じておらんな?」

 

帽子の陰から睨んできた夢野に、最原は根負けしたかのように「ご、ごめん…」と謝る。

そんな最原に、百田が笑いながら肩を叩いた。

 

「気にする事ねーって終一。オレも気になってたしな!」

 

「だから、あれはウチの魔法じゃ!」

 

それらを見ながら、隣で「馬鹿らしい…」と呟いた春川に、思わずアタシは苦笑いをした。

 

「そーいえば、オレからみんなに言いたい事があるんだけどいい?」

 

急にそんな事を言い出した王馬に、みんなして首を傾げた。

かくいうアタシも、なんだろう?と思って記憶を辿る。

…うん。ゲームではこんな展開なかったはずだ。

 

「実はオレ、知っちゃったんだよねー。オレより嘘つきなヤツがいる事を!」

 

「…はぁ?」

 

百田が何言ってんだコイツ…みたいな顔をして、王馬を見る。

それに吊られるように、他の人も呆れたような顔を浮かべたり、また始まった…みたいな顔をしながらも、王馬に続きを促す。

 

この流れ…なんとなく分かった気がする。

 

食事の手を止めて、アタシは王馬の側まで行くと「つまんねー嘘だったら、しばくぞ!」とだけ言ってやった。

 

 

「大丈夫だって!…これは嘘じゃないしさ」

 

ニヤリと笑った王馬に、「あっそ…」と言ってアタシはそっぽを向いて、無言で王馬を睨んでいる春川に視線をやる。

 

「それじゃ、言っちゃうよ?動機ビデオで知っちゃったんだけどさー。春川ちゃんって、超高校級の保育士じゃなくて…超高校級の---」

 

王馬がそこまで喋った瞬間、春川が目にも止まらぬ速さで動いた。

その手が王馬の首に届く前に、アタシは春川と王馬の間に割り込むように入った。

 

「どいて、入間。そいつの減らず口を止めないと」

 

「だからって、お前が今からしようとしている事を止めない理由にはならないだろ。むしろ、お前がそうするのを王馬は望んでいるとしか思えねーな」

 

アタシの背中に隠れながら春川の様子を伺っていた王馬を見てみると、「あっ、バレてた?」と悪びれもせずに笑っていた。

 

「で、続けるけど…春川ちゃんって超高校級の暗殺者だったんだよ!」

 

「えっ…?」

 

「あ、暗殺者…?」

 

驚きで目を丸くするみんなの視線から逃げるように、春川は王馬をきつく睨みつけると食堂から出て行った。

 

「王馬君…今の話しは本当なの?」

 

「ホントだよ。だから、春川ちゃんもあんな行動に出たんでしょ?入間ちゃんが止めなかったら、きっと今頃オレは殺されてたよ…」

 

むしろ、自分からそうなるようにしてたんじゃ…なんてアタシの考えは無理矢理押し殺す。

 

「それにしても、暗殺者なんて危険だネ…」

 

「ならば、変な事をしないように閉じ込めますか!?転子のネオ合気道が炸裂しますよ!」

 

なにやら、物騒な事になりそうな意見が飛ぶ中で、百田が胸を叩きながら「まぁ、待て。春川の件はオレ任せろ」と笑ってみせた。

 

「何か考えがあるんすか?百田君」

 

「あぁ、オレがあいつの化けの皮を剥がしてやるよ」

 

…正確には、春川の暗殺者としての化けの皮だろ。

言葉抜けてるぞ、百田。

 

「なら、春川の事は百田に任せるか…」

 

星がそう言って話しをまとめた所で、「話しは終わった?じゃあ、話してもいい?」とモノクマがテーブルの下から出てきた。

なんて変な所から出てくるの!?

 

「もう、いちいち構ってる暇なんてないって!」

 

「そんな…。せっかく、オマエラの世界が広がる為のものを持ってきたのにさぁ…」

 

赤松が言った事にモノクマが落ち込んでいると、少し遅れてやってきたモノクマーズが「お父ちゃんどうしたの?」と首を傾げた。

 

「マァ、イイヨ…。ソレジャ、オラ達カラキサマラニ…素敵ナプレゼントヲアゲル!」

 

モノダムがそう言うと、他のモノクマーズもモノクマを気にするのを止めた。

おい、それでいいのかよ。

 

「今回は…」

 

「待て、オレに言わせろよッ!」

 

「この『ゴールドハンマー』と『魔法の鍵』と『伊賀の巻物』だよー」

 

「これらを、セットでプレゼントや!」

 

渡されたそれらに、キーボが「予想はしてましたが…やはりこのガラクタでしたか」と呟いた。

それに同意するかのように、王馬も「あーあ」とぼやき出す。

 

「ガラクタはキー坊と入間ちゃんの発明品だけで十分だってのに…。まぁ、その発明品を借りパクしてるオレが言う事じゃないか」

 

「ロボット差別ですよ!」

 

お決まりとなっている事を言うキーボに対して、アタシは両手で顔を覆った。

そうじゃん…なんだかんだで忘れてたけど、ミニキーボは王馬が持ったままだった。

いい加減、返せよコノヤロー…。

思いっきりそう言ってやりたいのだが、天海が妹をあやすみたいにアタシの頭を撫でるから、別の意味で顔を覆ってしまう。

誰かこのお兄ちゃん止めて。

 

「それじゃ、それを使って新しい区域を捜索してきなよ。思い出しライトも隠しておいたしさ…」

 

そう言い残して、モノクマはモノクマーズと仲良く食堂から出て行った。

 

「それじゃ、早速捜索するか…。終一、また頼んだぜ」

 

「う、うん…」

 

渡されたアイテムを手に取って頷いた最原は、そこでアタシが別の意味で顔を覆っているのに気づいたのか「天海君…」と声をかけた。

 

「ん?どうかしたっすか?」

 

そこでやっと頭から手が離れた事についてアタシは最原に感謝し、相変わらず顔を覆ったままで東条の後ろに隠れた。

なんで笑っているの斬美ママ。

 

「フフ…大丈夫?入間さん」

 

「あいつ、絶対オレ様を妹扱いしてる…。年下扱いしてやがる…」

 

慰めて!とばかりにアタシは東条の腕にしがみついた。

そこで、アタシは冷静になって一度考える。

天海に妹扱いされたのって、こういう行動が原因じゃね?

 

うん、てかそれ意外考えられない。

さすがアタシ…完璧な推理だ。

 

勢いよく東条から離れると、アタシは最原を中心にオブジェの捜索を始めたみんなの少し後ろからその後を追った。

 



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転校生 オブ ザ デッド②

うぇーい…いつの間にやら、ランキングという神聖な場所に土足で入ってました。
一体、何が起きたんだろうね?
未だに信じられないよ…(ガタガタ)



 

今のアタシは機嫌がいい。

いきなりこんな事言ったら、説明しろって言われそうだけれど…とにかく機嫌がいい。

鼻歌をしながら、これから使うのに必要であろう物を手に取っていくアタシを、ベッドで横になっているキーボが不思議そうに見ていた。

…まぁ、ベッドって言ってもただのベッドじゃないけど。

 

「あの…入間さん?一体、何をするんですか?」

 

ベッドの真上にあるノコギリやドリルといった工具を恐ろしそうに眺めながらそう言ったキーボに、アタシは「聞いて驚け!」と満面の笑みで言ってやった。

 

「オレ様がメンテナンスしてやるついでに、カメラとライト機能をつけてやるよっ!」

 

「なるほど。それで無理矢理、入間さんの研究教室に連れて来られたんですか…」

 

やれやれと肩を竦めたキーボの言葉が、グサリとアタシに突き刺さった。

いや、だってね?

ゲームでやってた行動もしとかないとダメかなーって…。

まぁ、本音はキーボの機能を増やすのが楽しそうって理由なんだけれど。

 

「でも、いいんですか?最原クン達はあのアイテムの使い道であるオブジェを探しているのに、こんな事をしていて…」

 

キーボに機能を追加させる為のパーツをつけながら、「大丈夫だろ」とアタシは力強く告げた。

 

「どーしても、最原と赤松が『詰んだ』って思ったら、手助けしてやれって天海に言っておいたしな!」

 

ほら、だって生存者特典の校舎全体の地図があるし。

ついでに、あの2人は信頼できるから言っちまいやがれ!って大口叩いたし。

まぁ、もう一つ理由を上げるなら…。

 

「それに、オレ様がサボるの初めてじゃねーし」

 

前回に訳ありとはいえ、一度サボってたアタシだ。

今更、1回増えただけで痛くも痒くもない。

 

「いや、ダメじゃないですか!」

 

「ひいぃっ!?急に動くなよぉ…。大事なパーツに当たって損傷したらどーすんだ!」

 

機械ってのは繊細なんだよ?

しかも、アタシが作ったという代わりがないパーツなんだよ?

無駄になったら、どうするんだよ。

 

「すみません…」と言ったきり大人しくなったキーボに、アタシは工具を片手に持ちながら改造とメンテナンスを実行していく。

このコロシアイ生活を見ている視聴者の目でもあるキーボの視界を布で隠し、少し考える。

やっぱり、改造として一番いいのはキーボの見ている景色が、外にいる視聴者が見れない…って事だろうか。

それても、内なる声を受信するアンテナから?

 

どちらにせよ、それは今やるべきではない気がする。

 

「どこからやっていくかな…」

 

思考を切り替えるようにガチャガチャ…と散々弄った後、アタシは目隠しとして使っていた布を取って「どうだ?」とキーボに声をかけた。

追加された機能を試すように、キーボは目をピカピカと光らせたり、口から脳内でインプットしていた写真を出して具合を確かめていく。

 

「どこにも、不自然な所はありません。それに…さっきよりも体が軽く感じます」

 

「なら、大丈夫だな。何か追加して欲しい機能があればオレ様に言えよ?キーボの慕っている博士には及ばねーかもしれねーけどよ、ここにいる間はオレ様ができる限り機能を追加させてやるよ」

 

「ありがとうございます。入間さん」

 

キーボが頭を深々と下げてお礼を言っていると、ギギ…と音をたてながら研究教室の扉が開いた。

誰か来たのかと思っていると、扉の隙間から王馬がヒョッコリと顔を出した。

…何その微妙にあざとい覗き方。

 

「ねぇねぇ、何してたの?オレも混ぜて!」

 

「王馬クンには関係ありませんし、混ぜませんよ!」

 

アタシを空気ように無視してぎゃんぎゃん騒ぐ2人(1人と1体?)の声を聞きながら、出しっぱなしにしていた道具や発明品を片付けていく。

…ほら、見られたら面倒な事になりそうなものがあったら嫌だし。

ないと思うけれど、念の為に。

 

「えー…いいじゃん。仲間外れとか良くないって。入間ちゃんもそう思うよね?」

 

「いえ、入間さんならば、ボクと同じ考えのはずですよ!」

 

ね?っと、1人からは面白そうだから混ぜてと、もう1人からはよくない事があるからと目で訴えられる。

 

「いや、何の話しだよ。そもそも、王馬は何しに来たんだ?」

 

話しを聞いてないのに、答えを迫られても困る。

だから、気になっていた事を聞いてみると「ゴメンゴメン。忘れてた」なんて笑いながら言われた。

 

「さっき、最原ちゃんが思い出しライトを見つけたからさ、みんなを食堂に集めてたんだよねー。えーっと、他に声をかけてないのは…百田ちゃんか。って事で、先に食堂に集まってよね!」

 

「じゃ、また後でねー」と言いながら駆けて行った王馬を軽く見送りながら、アタシは動かずにいるキーボに「どうした?」っと声をかけた。

 

「いえ、ちょっと考えていたんです。さっき、王馬クンが言った事はいつもの嘘なのか、本当なのか…って」

 

「あー……」

 

呆れるくらい王馬をフォローする言葉が1つも浮かばずに、アタシはキーボの言った事に納得するかのように口ごもるしかできなかった。

 

 

 

 

×××××

 

 

 

「さっそくどうするか話し合いたい所だけど、まだ百田君が来てないね…」

 

「魔姫もまだだよー!」

 

食堂に集まった人をグルリと確認した白銀とアンジーに、「あぁ、春川ちゃんは来ないよ」と頭の後ろで手を組ながら王馬が言った。

 

「ん?なんでだ?」

 

「だって呼んでないもん」

 

星の問いに、王馬はあっさりと答えた。

…いや、呼んであげようよ?

 

「そんな事よりさ、入間ちゃんとキー坊は4階のコンピュータールームを見た?」

 

「はっ?コンピュータールーム?」

 

急に話題が変わった事に戸惑うアタシに、「変わったコンピューターがあったんだよ。後で調べてもらってもいいかな?」と最原が続ける。

 

「そっか。キーボ君か入間さんなら、あのコンピューターの事が分かるかもしれないもんね!」

 

両手を握り合わせながらそう言った赤松に、「すみません、ボクはコンピューターには弱いんです」とキーボが謝った為、自然とみんなの視線がアタシに注がれる。

 

うん。デスヨネー。

 

「やるから、そんなに見るなよぉ…」

 

まぁ、調べなくてもどんなコンピューターなのかは知ってるけどさ。

 

 

「よぉ!待たせたな!」

 

食堂にそんな大声が響いたと思ったら、百田が春川を連れてやって来た。

春川の姿を見るや、なんでここにっ!?っと大勢が驚いたように目を丸くする。

 

「帰る…」

 

「まぁ、待てって」

 

それに気づいた春川が食堂から出て行こうとすると、百田がその腕を掴んで引き止めた。

すると、キーボが「前から聞きたかったのですが…」と前置きをして話し始める。

 

「春川さんは本当に超高校級の暗殺者なんですか?キミは…人を殺した事があるんですか?」

 

キーボの問いにすぐには答えずに春川は黙ったまま、ほんの一瞬だけ赤松とアタシを見た後「…あるよ」と短く答えた。

 

「どうして…それを隠してたの?」

 

「…こうなるのが嫌だったからだよ」

 

小さな声だったが、ハッキリと春川は答えてアタシ達全員を見た。

 

「私の才能を知ったら、みんな今みたいに私を恐れる…自分が殺される前に私を殺そうとする人が必ず出てくる」

 

「そ、そんな事…」

 

赤松が否定するように声を出したが、「絶対…そうに決まってる」と春川は切り捨てた。

 

「私の正体を知った人は、いつもそうだったから」

 

諦めたようにそう言った春川に、アタシは「それは今までの事だろ」と言ってみると睨まれてしまった。

それでも、負けじとアタシも春川をジッ…と見ていると、「やっぱり、あんたって変な奴だよ」って大きなため息を吐かれた。

 

「でも、これだけは言っとく。私は誰かを殺すつもりなんてない。ただし…誰も私を殺そうとしなければだけとね。って言っても…どうせ信じてもらえないんだろうけどさ。だったら…せめて私には関わらないで。私もあんた達とはできるだけ関わらないようにするから」

 

それまで淡々と話し続けていた春川だったが、百田に掴まれたままの腕を離してもらうとアタシ達に背中を向けて「お願いだから…私の事は無視して」と寂しそうな声でそれだけ言うと、食堂から出て行った。

 

「……っ」

 

その後に続くように、アタシはみんなの制止の声も聞かずに食堂を飛び出して春川の後を追った。

 

思い出しライト?

今回はとりあえず、パスで。



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転校生 オブ ザ デッド③

どうしても、途中でなくなってしまう気力。
まぁ、書いてたらどこで終わろうかどうか悩みそうだし、これぐらいがいいのかもしれない。


 

「暗殺者って、瞬間移動使えるんだな…」

 

4階のコンピュータールームにやって来るなりそう言ったアタシに、既に居た天海が「いきなりどうしたんすか?」と苦笑いを浮かべた。

 

「ほら…オレ様、春川を追ってすぐに食堂から出ただろ?曲がり角を曲がるまではちゃんと姿を捉えてたのにさ…角を曲がったら、誰もいなかったんだよ…」

 

ホント、どういう運動神経をしていたらそんな芸当ができるんだろうな?

もう暗殺者というより、忍者かもしれない。

いや…忍者もある意味では暗殺者か。

 

「んで、これが例のコンピューターか。でけぇな…」

 

みんなに調べて欲しいと頼まれたコンピューターを見て、アタシはその大きさに度肝を抜かれる。

だって、プログラムだけで場所を取っているようなものじゃん?

 

「確かに大きいっすよね。モノクマはこのコンピューターが新しい世界に繋がるって言ってたんすけど…」

 

「まっ、調べたら分かるだろ」

 

カタカタとキーボードを打ち、プログラムの内容を確認していく。

うわー…文字が殆ど英語とプログラム用の言語じゃん。

 

「んー…要するに、プログラムで作られた世界に行けて、それを実際に体験しているって脳が思うやつだな」

 

「VRシステムみたいなヤツっすか?」

 

「まぁ、そんな感じだと思っていいだろ」

 

どう説明したらいいか分からないし、このコンピューターについてのちゃんとした説明は後でもいいだろう。

 

コンピューターを見ながら何か考え込む天海に、「どうした?」と声をかける。

そしたら、誤魔化すように笑って「大した事じゃないんすよ」って言われたけれど、普通に気になるわ。

 

言えって催促すると、諦めたように「思い出しライトの事なんすけど…」と喋りだした。

 

「今回も外れだったみたいで…自分の才能と超高校級狩りについて何も思い出せなかったんすよ。それどころか、ここにいる俺らの葬式をしている風景なんかを思い出して…」

 

何も言わなくなったアタシが呆れているとでも思ったのか、「変な事言って、申し訳ないっす」と謝罪してきた。

うーん…謝られてもなぁ。

 

「えいっ」

 

なんとなく、ビシッと天海の頭に軽くチョップを落としてた。

何が起きたのかわからないとばかりに目を丸くする天海に、アタシはこっからどうしよう…と頭を悩ませる。

無意識の行動って、怖い。

 

「別に、焦って思い出す必要なんかねーだろ。オレ様なんて、さっき思い出しライトを使った時はいなかったから何も知らねーし、才能がわからなくても誰も仲間外れなんかしないんだ。気にするだけ無駄だろ」

 

「その通りかもしれないっすけど…俺の場合、あのモノパッドの事もあるんで、できるだけ早く思い出したいんすよ」

 

モノパッド…生存者特典の事か。

教えられるものなら、教えてあげたいけど…やっぱり、ダメだよなぁ。

ほら、あの人に目を付けられるかもしれないし。

 

「あー…だったら、オレ様が発明品で記憶を思い出せるようなものを作ってやる!すぐには作らねーけどなっ!」

 

「いや、そこはすぐに作るって言って欲しかったっす」

 

そう言いながらも、「まぁ、自分で思い出せなかった場合の保険として頼んでおいていいっすか?」と納得はしてくれたようだった。

 

「それまでは超高校級の兄貴(仮)とか、超高校級の助手(仮)って言っておけばいいだろ」

 

適当に候補を上げてやると、「その(仮)ってなんすか…」って苦笑いが返ってきた。

自分でも想ってたけど、聞かないでほしかったな。

 

 

「でもさー、超高校級の助手(仮)だと百田ちゃんの手下みたいじゃない?それならいっそオレの手下になってよ」

 

「何言ってんだよ。王馬なんかの手下になったら、どれだけ振り回されると……あ?」

 

「確かに大変そうっすね。で、王馬君はいつから聞いてたんすか?」

 

天海の問いに、いつの間にかコンピュータールームにいた王馬が「えーっと…入間ちゃんが『暗殺者って、瞬間移動使えるんだな…』って言った所からかな」って盗み聞きしていた事を隠す事もなく答えた。

ていうか、それ最初からじゃねーか。

 

「ほら、赤松ちゃんと最原ちゃんが2人でよくコソコソしているのと同じでさ、入間ちゃんも天海ちゃんとコソコソしてる時あるじゃん?ちょっと気になってたんだよねー」

 

「別にコソコソしてねーぞ?」

 

だって、普通の会話ぐらいしかしてないし。

変な会話なんてしてない…はず。

だよね?大丈夫だよな?

 

「知ってるよ?だって、さっきの嘘だし」

 

「………」

 

嘘かよ!?

変に考えていたアタシがバカみたいじゃないか!

 

「まぁ、ホントは入間ちゃんに頼みたい事があったんだよねー」

 

そう言うや、王馬はアタシの腕を掴んで歩き出した。

えっ、どこに行くの??

 

「じゃ、またねー天海ちゃん!」

 

「はいっす」

 

お互いにヒラヒラと手を振り合っている天海と王馬に「説明しろよぉ!」と言ってみるも、「うるさいなー」と逆に王馬に怒られた。

 

だから、説明しろって!

頼み事くらい、あの場でも言えたんじゃないの!?

 

 

 

 

 

王馬に連行されてやって来たのは、今となっては馴染み深いアタシに与えられた研究教室だった。

あー…頼み事って、発明品絡み?

 

「ってことで、ここに書いてるヤツ全部作ってよ」

 

バサッと王馬に手渡された紙は、軽く10枚超えていた。

これを全部…作るの?

1枚ずつ書かれているものを確認していくと、アタシの口から自然と「あー…」だとか「うーん…」と声が出た。

 

見覚えのある発明品の設計図だけで3枚はある。

虫取り掃除機とか、ハンマーとか、爆弾とか…。

残りは、悪戯グッズとか…役にたちそうなものとか。

 

「これ全部となると、すぐに作る事は無理だけどよぉ…。いつまでにやればいいんだよ?」

 

期限によっては、徹夜と寝不足が確定。

まぁ、それでもなんとか考慮ぐらいはしてくれると思うけれど…

 

「んー…明日?」

 

「お前は鬼か!?」

 

ガックガックと体を揺らして抗議するが、「えー…できないの?それとも、作れないの?」なんて挑発を受けてしまう。

そして愚かな事にアタシは…

 

 

「できるわ!できるに決まってんだろっ!!」

 

 

その挑発にまんまと、乗ってしまった。

今更、前言撤回とかできないし、アタシは王馬を掴むとそのまま研究教室の外へ放り出して「オレ様をバカにしたこと、後悔させてやるからな!」と叫ぶや、勢いよく扉を閉めた。

 

…むしろ、アタシが今後悔してる。

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

触手マスィーンを改造して作った『発明造るのお助けマジックハンド』というネーミングセンスの欠片もない発明品を背中に背負いながら、アタシは机に並べた数10個の発明品を品定めするかのように眺めていた。

 

「やってやったぜ…。これなら、流石に文句の一つも言えねーよなぁ!」

 

王馬の無茶ぶりに、アタシは勝った!

ざまーみやがれ!

エレクトハンマーとエレクトボムはまだ試作品段階だから、1個ずつしか造ってないけどな。

 

制作時間?

既に夜時間だし、もう少しで8時の放送なるよ。

睡眠?なにそれおいしいの?

 

さて…寝たら起きれなくなりそうだし、このままコンピュータールームで解析の続きでもやるか。



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転校生 オブ ザ デッド④

そろそろ、次の休題のアンケートを作ろうかと思っています。
ということで…また、ご協力よろしくお願いします。
別に、自分で選ぶのがめんどい…って理由じゃないんだよ(遠い目)

因みに次回の休題は、ちょっと日常っぽいのを書こうと思ってます。



 

コンピュータールームに籠もっていたら、朝8時を知らせるアナウンスが鳴った。

それだけならいつも通りだったけれど、今回はなぜか体育館に集合とのこと。

 

…もしかして、次の動機発表?

展開的にはそうなる…よな?

 

「ふぁ…」

 

今になって出てきた欠伸を手で隠しながら、アタシは体育館に向かって歩いて行った。

 

 

あっ、そういえば…今回の動機ってどうなるんだろ?

変な理由付けて、ゲーム通りになるのかな??

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、今回の動機を発表するよー!」

 

体育館に全員が集まると、モノクマが開口するなりそう告げた。

あぁ、やっぱり動機か。

 

「にゃははー、どんな動機でも関係ないよー。アンジー達はコロシアイなんてしないもーん」

 

ケラケラと笑うアンジーに、モノクマが「でもね、今回はただの動機じゃないんだよ」と目を光らせた。

 

そういえば、今更かもしれないけれど…モノクマーズとモノクマが喧嘩(?)みたいなのしてないから、ゲームみたいにモノクマが禿げてないし、動機を発表するのもモノクマーズじゃなくていつも通りモノクマなんだな。

 

「それじゃ、発表しまーす!今回の動機は…」

 

そこでモノクマは言葉を止めて「うぷぷ…」と笑った。

変な所で止めるなよ!

き、気になるじゃねぇかよぉ…って、アタシは知ってるんだけどさ。

 

だって、屍者の書以外考えられないし。

 

「屍者の書ー!これを使って、死んだ人間を転校生として向かえ入れるんだよ」

 

ほれみろ、やっぱりー。

そう思っていたのもつかの間、「って、言いたい所なんだけどさ…」とモノクマが続けた。

 

「ほら、オマエラがコロシアイできてないから誰も死んでないじゃん?だからこの動機って使えないからさー…急遽、『この学園生活で、オマエラが他人に隠している事』をボクが発表するって事に変更したんだよね」

 

 

「「「…はぁ?」」」」

 

 

アタシを含めて、大勢がそんな声を出した。

いや、他のみんなはきっと『最初から、そっちを動機として言えばいいじゃん』とか『学園生活で他人に隠している事?』って思って言っただけかもしれない。

アタシにとっては『どっかで聞いた事ある動機だ…』なんて意味で言っただけのものだけど。

 

というか…そっか、屍者の書は動機から除外されるのか。

なんか外の世界で死んだ人を~とか、言い出すと思ってたんだけどなぁ。

 

「じゃ、そう言う事だからさ…知られたくなかったら、コロシアイをしてよね。因みに、期限は2日後の朝だよ。」

 

いつもの高笑いを残してモノクマが体育館から姿を消すと、残されたアタシ達に『発表する動機の内容って、なんだろう』という疑問だけが残された。

 

だってさ、内容教えてもらってない。

それともアタシ達が勝手に『あの事について、バラされる!?』と思わせて、コロシアイを起こすのが目的なのかもしれないけど。

 

 

 

×××××

 

 

 

「んあー…動機の『学園生活で他人に知られたくない事』ってなんじゃろうな?ウチには何も思いつかんぞ…」

 

「それは、みんな同じだろ。オレ様だって何も浮かばねーし…」

 

食堂で夢野と一緒に東条が淹れてくれた紅茶を飲みながら、アタシは今回の動機について考えていた。

そもそも、どうして知られたくない事を『外の世界での事』じゃなくて、『学園生活での事』にしたのやら。

 

目的がわからない。

 

「うむ…。アンジーなんかは『神様に任せれば大丈夫だよー、きっと最初の時みたいになんとかしてくれるってー』って笑っておったぞ」

 

「悩む必要なんてないって事かよ…」

 

ポジティブとも思えるアンジーの考え方に、思わず苦笑してしまう。

アタシもそんな風に、何も考えずにいられたら…なんて思う。

まぁ、それはそれで後から後悔とかしそうだし嫌だけどな。

 

……アンジーといえば、ゲームではコロシアイを阻止するために生徒会を作ってわちゃわちゃしていたけれど、コロシアイが起きていない今では作る必要がないのか、生徒会の存在など影すら見あたらないし、夜時間の行動を制限する…なんて事もなさそうだった。

 

「転子なんかは『やらしい隠し事をするのは、男死だけです!』って言っておったしのぉ…」

 

「やらしい…のか?」

 

どんな理屈なんだ…とは思うけれど、それが茶柱の考えなんだろう。

それにしても、やっぱりなんだかんだ夢野はアンジーと茶柱と仲が良いんだな。

…表情には出てないけれど、話している時の声とか雰囲気が楽しそうなんだよね。

 

「なぁ、夢野…お前、もうちょっと感情を顔に出したらどうなんだ?せっかく可愛いのにもったいねーぞ?」

 

ゲームで見た彼女の泣き顔を思い出す。

感情を出すきっかけが、大切に思っていた2人を失った後だなんて寂しすぎる。

 

「か…可愛い、じゃと?」

 

「あん?」

 

てっきり「めんどい…」と言われると思ってただけあり、今の夢野の反応に首を傾げた。

もしかして…照れてる?

 

「だって、茶柱も何回か言ってんじゃねーか。『夢野さん、可愛いすぎます!』ってよ。オレ様もそう思ってんぞ?」

 

「そ…そうじゃったのか」

 

…やっぱり、これ照れてるわ。

なにこの可愛い生き物。

 

「お前のマジ…じゃなくて、魔法はみんなを笑顔にするんだろ?だったら、お前自身も笑顔になれよ!自分の感情に蓋をして、我慢すんなよなっ!」

 

危うくマジックって言いそうになった…。

せっかく、機嫌良いのに悪くさせる所だったわ。

危ない危ない…。

 

「ウチの魔法を信じてくれるお主の言った事じゃ。少しだけ…善処してやってもよいぞ」

 

魔法だと言ったのが嬉しかったのか、夢野は満足そうな表情を浮かべてそう言った。

例え少しずつでも…これなら、茶柱やアンジーと夢野の3人が笑いあっている……そんな未来がやってくるのも近いかもしれない。

 

 

「少しじゃなくて、全力で今すぐやれよな!」

 

「それは…ちょっと、恥ずかしいのじゃ」

 

 

まぁ…道のりは長そうだけれど。

 

 

 

 

×××××

 

 

 

「へー…本当に全部1日でできたんだ?日数かかっても良かったのに」

 

「オメーが!1日で作れって言ったんだろっ!?」

 

発明品の完成具合を依頼者である王馬に見せる為に研究教室に呼ぶなり、早速口論になった。

昨日の『んー…明日?』っていうのは、嘘だったのかよ!?

もう、王馬に振り回されるのやだー。

 

「ゴメンゴメン。でもさ、よく作れたよねー。絶対できないだろうなー…って思ってたやつもあったのに」

 

「部品と材料があれば、できるに決まってんだろっ!」

 

「だよねー!って事で…これもお願いね?」

 

そうして、アタシの両手にドッサリと紙束が乗せられる。

…なぁにこれぇ。

枚数が昨日の倍あるじゃねーか。

 

「オレが考えた発明品の案だよ!あっ、それは何時でもいいから出来たら教えてね」

 

固まったままのアタシに「それじゃ、早速いくつか性能を試してみるからさ。後はよろしく!」なんて笑顔で告げて、王馬は研究教室から去って行った。

 

「………」

 

遠まわしにすぐに作らなくていいって言われた紙束を、一枚ずつ確認する。

数枚捲った所で、アタシは「あんにゃろ…」とその場でしゃがみこんだ。

 

発明案だと思われるものが書いていたのは最初の3枚だけで、後は白紙だった。

しかも、4枚目の紙の隅の方に『無理させてごめんね?嘘だけど!』なんて小さなメッセージ付きときた。

 

「せめて、最後の嘘は抜いておけよな…」

 

紙束をバサッと机に置くと、パーツカタログを片手に持って「誰かと時間を潰すか…」と研究教室を出て暇そうにしている人を探しに、中庭周辺をブラブラと歩いた。

 

 

 

 

結局は、最原とカジノで遊んで終わったけれどね。



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転校生 オブ ザ デッド⑤

相変わらず思いついたものを勢いで書いてしまうこの癖を、そろそろなんとかしたい。

あっ、3章終わった後に書く休題のアンケートを作ったので、答えてくれたら嬉しいなー。(ドキドキ)



 

本日の朝食会はやけに騒がしかった…らしい。

 

らしいというのは、アタシは朝食会に参加せずに研究教室に引きこもってたのと、人から聞いた話しでしかないからだ。

 

最初は、昨日発表された動機についてみんなで話しあっていたみたいなのだが、何故かどんどん話しが脱線していき降霊術の話しになって、モノクマーズが思い出しライトを持って食堂に現れるという事になったようだ。

 

…なんで、動機の話しからそんなに脱線したんだよ。

 

これらの話しはキーボから聞いたものだったけれど、「ボクにも理解不能です」と切り捨てられて、自分で色々考えた結果「気にするだけ無駄」という結論に至り考えるのを放棄した。

 

で、モノクマーズが思い出しライトを持って現れた後は、みんなを集めて使おうという話しになったらしい。

 

 

しかし、そこでちょっとした事故が起きたようで。

 

 

「僕、他の人達を呼んでくるよ」と最原が走り出す。

        ↓

走り出した最原に、王馬が足を出して転ばせる。

        ↓

最原の目の前には思い出しライトを受け取った赤松が!

        ↓

2人揃って転けてしまい、思い出しライトが宙を舞う。

        ↓

そこに「遅れてごめん!」とゴン太が食堂にin。

        ↓

その時に、何かが「グシャリ」と壊れる音が。

        ↓

みんなしてゴン太の足元を見ると、そこには潰された思い出しライトの残骸が。

        

 

 

 

 

どこのギャグ漫画?

見たかった…じゃなくて、王馬は何してんの!?って聞いた時は思った。

そんなのフィクションの世界でしか見れない…って、ここもある意味ではフィクション世界だったわ。

 

とりあえず、そんな朝食会での出来事を教えてくれたキーボにはお礼としてメンテナンスをしたり、改造をしてやった。

 

新しい機能?

本人曰わく「涙を流す機能が欲しいです」との事で、希望通りに目から水を流せるようにしてやった。

…こっそり、ジュースの機能を入れようかどうか必死に悩んだけど。

 

後は、みんな大好きロケットパンチが出せるようにしてみた。

…まぁ、30㎝ほどしか飛ばないし威力も低いけどな。

 

ロケットパンチ機能を追加したことはキーボには言わず、そのまま研究教室を後にしたキーボを見送ってから、今現在までずっと発明品を造る事で時間を潰してた。

 

「…こんなもんでいいか」

 

手にしていた道具を置き、ゴーグルをグイッと頭に持ち上げるとアタシは「んー…」と大きく伸びをした。

今回造ったのは寝ながら○○できるシリーズという事で、寝ながら会話できる発明品という…まぁ、遊び心のものと、本命でもあるエグイサルを操作できるコントローラーと、誰がどこにいるのか一目で分かる懐中時計型の機械。

 

…後者については、非常に大事なものなので常に持ち歩いておく事にする。

 

 

 

×××××

 

 

「主は言いました…美兎と一緒に過ごしなさいと」

 

校舎4階にある超高校級の美術部の研究教室に入るなり、アンジーに突然そんな事を言われた。

何も言わずにいるアタシの目の前で「ねーねー、何するー?」とアンジーは身体を左右に揺らしていたが、アタシがあるものを見て固まっているのに気づくと「あー、あれねー…」とアンジーは笑顔を浮かべた。

 

「凄いでしょー。アンジーと神様の作品なんだよー」

 

「どう見ても、呪いの絵じゃねぇか!?」

 

そう叫んだアタシにアンジーは「えー…そうかなー?」と不思議そうにキャンバスに描かれた絵を見た。

 

いや…だってね?

禍々しいオーラというか…見ているだけで落ち込んでしまうような…何か出てきそうなな…そんな絵なんだよ?

上手く説明できないけど、見ただけでヤバいって言える。

そういうのは、ホラーゲームだけでいいって。

 

「でもでもー、美兎は終一や楓達みたいに倒れてないし、きっと神様に選ばれてるんだよー!」

 

「見せたのかよ!?」

 

達って事は、名前を上げなかった人も何人か被害者になってるんだよね!?

てか、倒れたって何が起きたの!?

 

「きっと、美兎もアンジーみたいに神様を感じる事ができる日が近いよー。にゃははは、楽しみだねー」

 

…喜ぶべきなのか、何も言わないでいるべきなのか。

この場合は、どっちになるんだろうな。

でも、アンジーが楽しそうなんだし別にこれはこれでいいか。

 

「神様っていえば…アンジーの神様ってどんなやつなんだよ?」

 

「神様は神様だよー。人によって姿を変えるからねー、アンジーの神様を美兎が見る事はできないよー?」

 

あぁ…うん。

聞いたアタシが悪かった。

 

「因みにねー、美兎の側にいる神様はー…」

 

そこまで言うと、アンジーの顔から急に笑顔が消えた。

えっ、待って。

なんか怖いんだけど。

 

「にゃははー、沢山の神様がついてるねー。美兎ってば、神ってるー!」

 

「なぁ、それ本当に神様かよ?ヤバそうなのいるくないか?」

 

だって、さっき真顔だった時に「うわー…」って小さな声で言ってたし。

絶対アタシ何かに憑かれてる…って憑いてるのはアタシなんだけどさ。

 

「大丈夫だよー。そんなに沢山の神様に愛されている美兎なら、明後日の朝に発表されるモノクマの言う動機の秘密も、そんなに大したことないねー」

 

ていうか、実際大した事ないだろ。

だって、バラされるのは『学園内で他人に秘密にしている』事だ。

秘密事なんて抱えていないアタシには、関係ないしな。

それに…それは、他の人だって言えるはずだ。

 

大丈夫とは思うけれど…もし、他の誰かが動くという事を考えたら。

ううん、きっと大丈夫なはずだ。

その為の朝に造った発明品なんだし、寝なければ問題ない。

 

寝不足と徹夜は友達ってやつだ!

…悲しいな。

 

 



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転校生 オブ ザ デッド⑥

どれだけ減らしても、課題という名の絶望が僕にやってくる…。

課題よ、僕は君に好かれた所で嬉しくもなんともないんだよ?
だからさ…お願いだから僕の目の前から消えてくれええぇぇぇ!


寝そうになるたびに、王馬が考えた『寝ようとすると腹パンしてくるマシーン』のお陰で寝る事なく、夜時間のみんなの行動を発明品を通して確認する事ができた。

 

造った時は嫌がらせだと思ってたけど、そんな事なかった。

今だけありがとう、王馬の発明案!

…何度か寝そうになって、キツイ腹パンされた回数についてはノーコメントだ。

 

結果、夜時間の間にコロシアイになりそうな行動を起こす人など居らず、本日の朝食会も誰一人欠ける事なく開催。

だけど…恐らくここからが本番になるだろう。

明日の朝には、モノクマから本日の動機にもなっている『学園生活内で他人に秘密にしている事』がみんなに知られる事になるのだから。

 

「入間さん、口にご飯がついてるよ?」

 

「うー…」

 

隣でアタシと同じように東条が作ってくれた朝食を食べていた赤松が、そう言っておしぼりを使ってアタシの口元を拭う。

やめてよ。恥ずかしいし、自分でできるって…。

逃げるように首を動かすと、「動いたら取れないよ?」と逃がさないとばかりにアタシの動きを封じようとする。

ホント止めて。

小さな子供みたいで恥ずかしいんだって!

 

「あぁ、もう動かないで…。うん、これで取れたよ」

 

寝不足のせいでろくな抵抗もできず、されるがままになっていた。

それを見て、ゴン太が「赤松さんは紳士なんだね!」なんて言っていたけれど…いいか、ゴン太。

相手が不快になっていたら、それは紳士的な事じゃなくてただのお節介だ。

そもそも、今のが紳士的な事だったのかどうかがアタシは疑問だけどね。

 

中断せざるを得なかった食事を再開させ、ぼんやりとした頭でみんなの会話を聞く。

今日は何をして過ごすだとか、昨日の事だとか、見事に内容はバラバラだ。

空になった皿を見ながら、アタシが少しだけ仮眠でもしようかと考えていると「この後、降霊術でもしてみないかイ?」という声を聞いて、一気に目が覚めたかのように目を見開いた。

 

「死んでしまった姉さんに、ここにいるみんなの事を話してみたいと思ってネ…。誰か参加する人はいるかナ?」

 

真宮寺がそう言って、その場にいる全員を見渡すと同時に「ガタンッ!」と大きな音が食堂に響いた。

 

 

「ゆ、ゆゆゆ幽霊なんているわけねーだろッ!」

 

 

椅子からひっくり返ったような体制のまま、百田が青ざめながらガタガタと体を震わせて叫ぶ。

そんなにオカルトはダメだったのか。

 

「も、百田君…」

 

「またなの…?昨日もやってたじゃん」

 

最原が苦笑いを浮かべ、春川が呆れたような顔をして呟く。

へー…昨日の朝食会もこんな感じだったのか。

真宮寺も「またなんだネ…」と呟くと、百田を静かに見据えて「昨日から、気になってたんだけド…」と語り始めた。

 

「どうして幽霊がいないなんて思うのかナ?」

 

「ううう、うるせー!オレがいないと言ったらいないんだ!」

 

 

なぁ百田…それはどういう理論なんだよ。

もっとこう、科学的な証明をしてほしかったかな。

宇宙飛行士なんだしさ、科学とか得意そうじゃん?

 

 

 

 

×××××

 

 

 

「ねぇ、入間さんも参加しない!?」

 

校舎の4階をうろついていると、白銀に会うなりそんな事を言われた。

その後ろには、アンジーに王馬、真宮寺の姿まである。

何このメンバー…どういう集まりなんだよ。

 

「神様も言ってるよー。参加すればいいことあるってー」

 

「何の話しだよ?オレ様にも分かるように説明しろ!」

 

この際、誰でもいいので説明プリーズ。

いきなり誘われても分からなければ、答えもろくに出せない。

 

「ほら、降霊術だよ。真宮寺君が朝に誘ってたでしょ?今からするんだけど人数が足りなくて。だから、入間さんにも地味に参加してほしいの」

 

白銀の説明に「なるほどな」と理解して、少し考えるフリをする。

…まぁ、答えなんて最初から参加する一択なんだけど。

 

「これで人数も揃ったんだしさ、早くやろーよ。オレ、降霊術がどんなものなのか気になってたんだよねー!」

 

目を輝かせてこの場の全員を促す王馬に、アンジーが「でもー、美兎はまだ何も答えてないよー?」とストップをかけた。

 

なんでまだ参加するなんて言ってないのに、王馬にメンバーの1人としてカウントされたんだ…って思ってた分、アンジーの言い分はごもっともと言える。

 

アンジーの言った事に、王馬は「えー!」と不満げに声を上げた。

 

「だってさー、入間ちゃんみたいな雌豚がオレの誘いを断るわけないじゃん!」

 

「テメーは、オレ様を何だと思ってんだよ!?」

 

そもそもなんでアタシが、ゲームの入間と同じ扱いをされないといけないんだ!?

下ネタとか言ってないし、そんなに人を罵倒してないだろ!?

ビッチって言われないだけマシだけど!

なんだよ、雌豚って!?

 

「王馬君はあんな事言ってるけど…入間さんはどうするの?キミも参加すル?」

 

なんかここで頷いたら、王馬が言った事をそのまま認める形になりそうだけれど…ううん、そんな事気にしてる場合じゃないな。

 

「んな楽しそうな事、参加するに決まってんだろ!」

 

「そう…それは良かったヨ」

 

「それじゃ、空き部屋まで行こうか。地味に準備は終わってるみたいだし…」

 

 

 

 

 

 

4階校舎にある、3つ並んでいる空き部屋の1つを使い降霊術を行う事になった。

ゲームでは真ん中の空き部屋を使っていたけれど、アタシ達が使うのはアンジーが選んだ左側の部屋らしい。

部屋に入ると、蝋燭の灯りが僅かに照らしているだけで室内は薄暗く、不気味な雰囲気が滲み出ており、部屋の床には大きな魔法陣が描かれていた。

降霊術の魔法陣として、真宮寺が描いたものだろう。

 

「じゃあ、最初に注意事項を言っておくけど…床に描いている魔法陣には決して入らないでネ。清めの塩で描いているだけだから、踏むと簡単に崩れてしまうんダ…。というわけで、暗いから足元にはくれぐれも注意してネ」

 

真宮寺の話しを適当に聞き流しながら、アタシはこれからするべき自分の行動を考え込んでいた。

 

アンジーか白銀に、被害者がやっていた口寄せ役になって貰い…真宮寺が凶器を隠した白い布を、アタシが無理矢理奪って凶器をここにいるみんなの前に出す…。

そうすれば、真宮寺がやろうとしている事は止められるはずだ。

名付けて『やってしまう前に、さらけ出してしまえ作戦』。

 

「それじゃあ、さっそく『かごのこ』の降霊術を始めるとしようカ。その前に口寄せ役を選ぶんだけど…できれば、姉さんと同じ女性がいいナ」

 

この場にいる女性はアンジー、白銀、そしてアタシの3人。

だけどアタシにはアタシの作戦がある為、名乗ろうとはしない。

 

「つむぎと美兎、どっちがイケニエになるー?」

 

「わたしも地味に嫌だなぁ…。だから、入間さんに口寄せ役をしてもらってもいい?」

 

「な…なんでぇ??」

 

ちょっと、そこの白銀。

そこは公平にじゃんけんとかにしようよ。

なんで消去法みたいにして、アタシが選ばれるんだよ。

 

「主は言いました…美兎がやるべきだと」

 

「なんだよ…それぇ…」

 

アンジーまでもが、白銀に同意してしまう。

 

 

…こうなったら、最後の賭けだ。

 

 

真宮寺と王馬の方をゆっくりと振り返って、「なんとかしてくれ」と目で訴える。

 

「オレは別に誰でもいいんだけど?」

 

「…それじゃあ、口寄せ役は入間さんで決まりだネ」

 

 

どうしよう…アタシの味方がいない。

ていうか、真宮寺に関しては絶対拒否すると思ってたのに。

ほら、ゲームで「入間さんと春川さん以外なら、誰でも良かったんだヨ」みたいな事言ってたじゃん!

なんでなんだよ!



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転校生 オブ ザ デッド⑦

どうでもいいかもしれませんが、僕のV3での推しCPは最赤と百春です。(ドヤ顔)

そして、いろんな意味でオワタ\(^o^)/
ばいばい、課題。
キミとはもう会いたくないよ


 

人生初、降霊術の口寄せ役に選ばれた。

こんな形でなるとは思わなかったわ。

未だに、どうしてアタシが口寄せ役に選ばれたのか分からない。

 

「それじゃ、他のみんなはこの歌詞を覚えてもらうヨ」

 

そうやって、他のメンバーが真宮寺の指導の元でかごのこの歌詞を暗記していく。

その間はアタシだけ暇になってしまうから、民俗学の研究教室に行ってかごのこの文献を空き部屋に持ってきたり、すれ違った東条に少し頼み事をするついでにある物を預けたりしていた。

…何を頼んだとか、何を渡したかなんて後に分かると思うから、これについてはあまり触れない事にする。

 

 

それにしても、魔法陣の再現率凄いなぁ…一点を除けばだけど。

 

 

文献の魔法陣と、床に描かれた魔法陣を何度か見比べる。

口寄せ役に選ばれた時は、どうしようと思ったけれど…これはこれで良かったのかもしれない。

さて…どうするかな~と考え込んでいると、バッと文献が手元から消えた。

 

「歌の暗記も終わったし、始めるヨ」

 

…もうちょっとだけ考える時間くれ。

えっ?無理??

うん、わかってた。

 

 

 

 

 

「では、口寄せ役の入間さんには中央の円に入ってもらうけれど…魔法陣を踏まないように、中央の円へと繋がる通路を歩いてくれル?」

 

言われた通りに、アタシは魔法陣を踏まないように真ん中あたりに描かれている円まで歩いた。

あぁ…始まってしまう。

塩のシーソーが。

 

「次に、その円の中で亀の形になって貰いたいんだけど…目印の石を置くから、そこに額を付けた体勢でお願いするヨ」

 

コトリ、と真宮寺が床に石を置く。

いっそのこと、石の位置を少し隣の床板の面にずらそうか…と思ったけれど真宮寺がすぐ側で見ているので断念した。

仕方なく、一度正座した後に亀のように体を丸めて次の段取りを大人しく待つ。

 

「ちょっと体勢が苦しいかもしれないけれど、終わるまで我慢してネ…。決して途中で顔を上げたり、体勢を変えたりしてはいけないよ」

 

「わかってるよぉ…」

 

動く気満々だけど、この場はそう言っておく事にする。

そして、真宮寺の指示で白銀・アンジー・王馬の3人がアタシに鉄カゴを被せていく。

 

被せるまで、ずっと重いとか言ってたから、落ちてきたらどうしようと内心ヒヤヒヤしていたのはアタシだけの秘密だ。

 

更に、鉄カゴの上に真宮寺が白い布を被せた為、アタシは少しだけ身体を鉄カゴの隅っこの方に寄せながら、自分の頭上を見上げた。

そしたら、鉄カゴの底に設置されていたギラリと輝く鎌を発見。

さっきまでアタシがいた真上あたりにいたよ。

アタシを殺す気か。

 

ゲームだと標的から外されていたのになんでかなーって考えていると、布の上に犬神の置物みたいなのが乗せられたようで鉄カゴがその重みで微かに振動を起こした。

 

「ひいいぃぃぃ!?」

 

壊れる事なんてないと分かっているけれど、思わず驚いたアタシは叫び声を上げてしまった。

な…情けない。

 

「あっ、ごめんね。地味に手が滑って…」

 

白銀のそんな声が聞こえるが、あいにく布のせいで姿が確認できないし、その後に「入間ちゃんは怖がりだなー」って煽るような王馬の声がした。

布のせいでどんな顔して言ってるのか分からないけど、絶対笑ってると思う。

 

「美兎ー、大丈夫ー?神様も様子を見てあげなさいって、心配してるよー?」

 

鉄カゴ越しでニコニコ笑っているアンジーが、そう言ってアタシを見ていた。

 

 

 

……えっ?アンジー??

なぜ、布で隠れているはずの姿が??

 

 

 

一瞬、布消えた!?と思ったけれど、アンジーが少しだけ捲っていただけだった。

だから鉄カゴ越しでその姿が見えたのか…。

 

あっ、アタシが場所を少し移動してるのバレるじゃん。

目印の石はそのままなんだし…。

どーすんだよ。

 

アンジーもそれに気づいたのか、すっ…と笑顔が消えた。

それから、他のメンバーに「ねーねー」と声をかけると、一気に布を引き上げた。

 

 

 

 

「美兎が入った鉄カゴに変なのがあるんだけど…あれって、何かなー?誰がやったのかなー?」

 

 

 

鉄カゴに変なの…鎌以外にあるのか?と思って見てみたけれど、やっぱり鎌しかなかった。

 

「変なのって…アンジーちゃん、これってさ鎌じゃないの?」

 

「なーるなるー」

 

みんなして鉄カゴに集まって、鉄カゴの底に突如出現した鎌をマジマジと見ていく。

 

「地味に気になるんだけど…なんで鎌なんかがあるの?」

 

「主は言いました…この中の誰かがコロシアイの為に仕込んだと」

 

お祈りをするように手を握り合わせて言うアンジーに、「誰かって誰なの!?」と白銀が顔を青くして詰め寄った。

 

…アタシを置いて、話しがどんどん進んでいくー。

 

「オレには分かっちゃったなー…真宮寺ちゃんだよ!」

 

「…どうして僕なのかナ?答えによってはキミの神経を抜き取るよ」

 

「だって、真宮寺ちゃん以外考えられないし」

 

こっちはこっちで真宮寺が王馬に詰め寄っていた。

…ここでノンストップ議論でもやるの?

 

「でも、王馬君達が鉄カゴを被せて、僕が白い布を被せる時にも鎌なんてなかったよネ?だったら、入間さんが布を被せた後に仕掛けた…って事になるんじゃないかナ?」

 

「なんで、オレ様がそんな事するんだよ…」

 

人を自殺志願者みたいに言いやがってぇ…。

 

「でも、そうだとしたら布が動くから地味に分かると思うけどなぁ…。ほら、あの鎌って見た感じ取っ手の部分がそれなりの長さなんだし…」

 

白銀がそう言うと「それもそうだネ…」と真宮寺は笑いながら引き下がった。

 

 

ほっといたら長くなりそうだし…もう、ゲームの知識使っていい?

 

「あのさ…ちょっとオレ様なりに考えてみた事を喋ってみてもいいか?」

 

「…何かナ?」

 

アタシを警戒しているかのように、真宮寺の声はどこか硬かった。

どこから言うかな…。

 

「鎌がいつから鉄カゴに置いてたかって考えるより、どこに隠されていたかって考えた方がいいんじゃねーの?」

 

「例えば、真宮寺ちゃんが被せた白い布とかねー」

 

同意だとばかりに、王馬がそれに乗ってくる。

それを聞いて納得したかのように「確かに、それなら布を被せる時に鎌も設置できるよ!」と白銀が頷いた。

 

「…でもさ、鎌を設置した所で意味なんてないよネ?現に、鎌の刃は入間さんに届いてないんだからさ」

 

「だったら、部屋にそれでもできるような方法を作ったとかー?」

 

思いついたとばかりにアンジーがそう言うが、「例えばどんな?」と聞かれると黙り込んだ。

しばらくして「床板に何かしてたんじゃないのかなー?」なんて言うと、グルリとアンジーは鉄カゴの後ろの方へ回った。

 

「んー…この辺だったかなー?」

 

そんなアンジーの声が聞こえてきたかと思うと、アタシの横で床板が突然上に向かって動いた。

 

「えっ…?」

 

鎌に突き刺さった床板を、みんなして見つめる。

アンジーも正面に戻ってくると、「やっぱりねー、神様が言った通りだったよー」と床板と鎌を見ていた。

 

「これに参加する前にねー、斬美と隣の部屋にいたんだけれど、その時にうっかり斬美が床板を踏み抜いてたのを思い出したんだよー。ちょうど同じ場所なんだよねー」

 

アンジーがめっちゃ冴えてる…。

何があったの。

 

「んー、隣の部屋もそうなっていたって事は…その隣もそうなっているんだろうね」

 

「って事はさ、どの部屋を選んでも犯行ができるし、部屋を選んだ人のせいにする事もできる!真宮寺ちゃんも考えたねー」

 

白銀と王馬がそう言いながら真宮寺を見る。

それでも、まだ余裕だとばかりに真宮寺は「クックックッ…」と笑っていた。

 

「でもさ、仮にそうだとして…どうやってみんなに気づかれないように鉄カゴの中にいる人を殺そうとするのかナ?そんな方法はないよネ?」

 

「あっ、それもそうだよね…」

 

シーン…とした空気になり、勝ち誇ったように真宮寺が目を細めた。

そうはさせねぇぞ。

 

「オレ様はテメーらが歌を覚えている間…かごのこの文献を読んでいたんだけどよ、その時に違和感を感じたんだ。今になって分かったんだけどな!」

 

力強くそう言ったアタシの言葉に、真宮寺がビクリと体を震わせた。

これで…この謎の議論を終わらせてやる。

 

 

「文献の魔法陣と、この部屋の魔法陣にはちょっとした違いがあってな…。部屋の隅の方から魔法陣に向かって引かれた線なんか、文献には描かれてなかったんだ。かごのこは歌う時には暗闇にする…その際、この塩で描かれた魔法陣の線を指でもなぞって動けば…暗闇の中で中にいるやつを殺せるんだからな!」

 

 

雑な説明になったけれど、これだけ言えば大丈夫…なはず。

反論が出ても、なんとかできそうな自信はある。

 

 

 

「…残念だヨ。そんな入間さんを、姉さんの友達にする事ができなくて」

 

「み…認めたって事?」

 

ショックを受けたかのように、白銀が体を震わせる。

 

「ふーん…真宮寺ちゃんはモノクマの動機とは関係なしで動いたってわけなんだ」

 

「そうだよ…大好きな死んでしまった姉さんの友達になってもらう為に、計画してたんだヨ」

 

そこまで言うと真宮寺はマスクに手をかけて、それを下ろした。

 

「嬉しかったわ…是清。私に友達をくれようとしたあなたの気持ちが…」

 

「姉さん!でも、僕は入間さんを姉さんの友達にする事ができなかったよ…」

 

「いいのよ、気にしないで」

 

マスクを付けたり、外したりとしながら1人で喋る真宮寺を見て「何が起きてるのか、地味に分からないよ…」と白銀が呟いた。

 

「初めまして、是清の姉です」

 

白銀の呟きを聞いていたらしく、マスクをとった真宮寺がそう言ってアタシ達に微笑んだ。

 

「でもでもー、姉清は死んだんだよねー?」

 

「えぇ、でも是清が昔やった降霊術で私は是清の中にいるの」

 

「姉さんと僕は1つなんだよ…」

 

マスクを何度も動かして話す真宮寺に、アタシは「だったら!」と鉄カゴを蹴りながら叫んだ。

 

「だったら殺さなくても、テメーと友達になれば自然とテメーの姉貴とも友達って事になんだろ!真宮寺とテメーの姉貴は1つなんだからなぁ!」

 

「…その発想はなかったネ」

 

愉快だとばかりに笑いながら、真宮寺は「観察のしがいがあるヨ…」とアタシ達を眺める。

 

「それじゃあ、今度からは私も是清と一緒にみんなと過ごそうかしら。是清も、それでいいわね?」

 

「勿論だよ、姉さん…。僕もまだまだみんなを観察したくなったからネ…」

 

なにやら1人で自己完結したっぽい真宮寺を見て、思わず残されたアタシ達は苦笑いを浮かべてしまう。

 

とりあえず、死にそうになった事の仕返しでもしてやろうと思って、アタシはパチンと指を鳴らした。

 

指を鳴らす…それはつまり、彼女との合図だ。

 

バンっ!と部屋の扉が開いたと思ったら、そこから東条がもの凄い勢いで真宮寺の元まで走り、その首もとに手刀を落として気絶さて丁寧に床に寝かせ、アタシの発明品の1つである枕を真宮寺の頭の下に置いた。

 

「えっと…何してんの?東条ちゃん」

 

「入間さんからの依頼よ。作った発明品を真宮寺君で試したいから、合図をしたら彼を気絶させてもいいから寝るようにしてほしい…っていう依頼をメイドとして実行しただけよ」

 

 

まさか、ここまでスピーディにしてくれるとは思わなかったわ。

全くないと言ってもいい語弊力で表すなら…動きが残像みたいに凄かった。

 

そのまま東条に手伝ってもらいながら、アタシは鉄カゴから出してもらい、みんなで道具を片付けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「被害者として消すはずだったんだけど…失敗かぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうでもいいかもしれないけれど、目が覚めた真宮寺が「幽霊になって姉さんに会ったと思ったら、モノクマと姉さんから塩をかけられて…ドロドロになって消える夢を見たヨ」と天海に話していたとか、いなかったとか。



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休題

勘のいい人であれば、前回の前書きでどんな休題になるのか分かったんじゃないかなぁ…。



 

才囚学園は本日も晴天なり……ううん、晴れ所により雷が落ちるでしょうの間違いだ。

 

 

 

「どういう事か説明して…」

 

「そんなに怒らないでよぉ…。オレ様が悪かったからぁ…」

 

寄宿舎の個室で、アタシは赤松から説教を受けていた。

その隣では、春川が「まぁまぁ…」と苦笑いで宥めている。

 

赤松と春川がやっている事、いつもと逆じゃね?…なんて思った奴。

それは正解だ。

決して、見間違いとかじゃないからな。

 

「これ、どうやったら戻るの?方法はあるんでしょ?」

 

恐ろしい目つきをして睨んでくる赤松に、アタシはガタガタ震える事しかできない。

普段怒らない人を怒らせたら、怖いってのは本当だったんだね!

…なんて言ってふざけてる場合じゃなかった。

 

「でもさ、春川さん。これはこれで少しの時間は楽しむ事ができるんじゃないかな?」

 

そう言ってピアノを弾くように指を動かしながら、春川が赤松に笑いかけた。

なんで春川が赤松に「春川さん」って呼んだのかとか、なんで赤松が春川みたいに睨むんだとか……他の人から見たら混乱してしまうような光景でしかないだろう。

 

 

 

どうしてこんな事になったのか……理由を言っちゃえば、アタシが造った発明品のせいだ。

『食べると中身が入れ替わるキャンディ』なんてものを開発し、赤松と春川に見せようと部屋にお菓子とかも準備して招いた。

今思えば、それが原因だったんだな。

発明品=機械だと思っていた赤松と春川は、お菓子と一緒に出していた例のキャンディを食べてしまい、中身が入れ替わったというわけだ。

発明品が機械から食べ物に進化したぜ!

なんて舞い上がっていたアタシはその事に気づく事なく、赤松となった春川に現在進行形でギャンギャンと説教を受けている…なんて事態になった。

 

 

 

「に、2時間後には自然と戻るから!」

 

「……わかった」

 

なんとか赤松(春川)の説教も終了して、アタシは一安心とばかりに一息つき…ある考えが頭に浮かんだ。

いや、考えなんて甘いものじゃない。

これはある意味…作戦だ。

 

「赤松!」

 

「えっ、何?」

 

突然名前を呼ばれてキョトンとした顔の春川(赤松)の腕を引いて、アタシは個室の扉の方へと歩いて行く。

 

「ちょっと外に行ってドッキリしてくる!春川、待ってる間暇ならオレ様が発明した『どんなソフトでも遊べるゲーム』をテレビに繋げて遊んでていいからな!」

 

「…なにそれ」

 

呆れ顔をしながらも、赤松(春川)はそれ以上何も言わずに、外に飛び出したアタシと春川(赤松)を見送った。

 

 

 

 

「入間さん、ドッキリって?」

 

寄宿舎を出るなり、春川(赤松)が首を傾げて聞いてきた。

さっきのキョトン顔といい、この仕草といい…普段の春川なら絶対やらない事を簡単にやりやがる。

 

「んなの、アイツがオメーの事をどう思っているのかを聞くんだよ。名付けて…他人だと思ってその人について喋ったら、実は本人でしたドッキリだ!」

 

「長いドッキリ名だね…」

 

春川(赤松)にネーミングセンスについて、笑われてしまった。

うーん…アタシ的には、良いと思ったんだけどなぁ?

 

 

 

 

 

 

標的1:最原 終一

 

 

「えっ?赤松さんをどう思っているのか?」

 

カジノエリアで見つけた最原に早速、赤松をどう思っているのか聞いてみた。

ていうか、最原。

お前カジノばっかり行ってるんじゃねーの?ってぐらいに、カジノでよく見るなぁ…。

 

「別に答えるのはいいんだけど…どうして入間さんと春川さんがそんな事を聞いてくるの?」

 

「別にいいじゃん、答えてよ!」

 

春川(赤松)がそう言うと、不思議そうに思いながらも最原は「う、うん…」と頷いた。

 

「えっと、僕にとって赤松さんは優しくて、一緒にいると心強くて安心する…そんな人だよ。彼女の行動力に、僕は何度も助けて貰っているし」

 

「こっちだって…最原君には助けて貰ってるよ」

 

春川(赤松)がポツリと呟いたのを、最原は聞いていたらしく「えっ…?」と声を上げると、考え込むかのように黙り込んだ。

あっ、これアカンやつだ。

気づかれる。

まだ聞きたい事あるけど、これで最後にしよう。

 

「おい、最原!テメー、赤松の事が好きなのか!?」

 

「「えっ?」」

 

ボンって音が鳴るぐらいに、最原と春川(赤松)の顔が同時に赤くなった。

あっ…ストレートに聞きすぎた?

そんな事ないよね?

だって、友達としての好きって考える人だっているんだし。

 

質問の仕方に間違いはないと1人で確認していると、春川(赤松)がアタシの背中を押して無理矢理歩かせ始めた。

ちょっと、今からが面白い所なのにどこに行くつもりだ。

 

「あっ、ほら!もうすぐ約束の時間だし!入間さん、寄宿舎に戻ろ!」

 

「えっ?約束?そんなのあった…?」

 

戸惑うアタシを連れて、春川(赤松)は「それじゃ!」と最原に一方的に別れを告げた。

 

 

 

 

「春川さん…なんかいつもと様子が違ってたな。どうしたんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

「やっと戻ってきた…」

 

寄宿舎の個室に戻ってくると、赤松(春川)がゾンビの討伐ゲームをしていた。

 

「んじゃ、次は春川行くぞ!あっ、赤松はゲームして待ってろよ」

 

「はぁ?何の話し?」

 

顔をしかめる赤松(春川)を引き連れて、アタシはもう一度外に飛び出して行った。

 

 

 

 

 

標的2:百田 解斗

 

 

「ハルマキをどう思っているか?んなの、困っている時には助けるべき助手だ!」

 

「ハルマキって呼ぶなって、何度も言ってるのに…」

 

赤松(春川)の言った事は百田には聞こえなかったようで、「そんな事聞いてどーかしたのか?」なんてアタシ達に聞いてきた。

 

「それは…ほら……あれだ!よく一緒にいるのを見るから気になっただけだ!」

 

「あぁ、ハルマキは助手だからボスとして放っておけなくてな!」

 

チラリと赤松(春川)の方を見ると、「だと思った…」と少し不機嫌そうだった。

 

「じゃ…じゃあ、春川の事を可愛いって思った事は!?」

 

そう言った瞬間、アタシの足に痛みが走ったと思うと「殺されたいの?」って百田に聞こえないように、赤松(春川)がアタシの耳元で物騒な事を囁いてきた。

変な事を言ったのは後で謝るから、足どけて。

 

「ん?ハルマキは可愛いだろ?」

 

そんな中で百田から落とされた爆弾に、赤松(春川)が目を丸くして固まった。

そして、クルリと百田に背を向けたと思うと、物凄い勢いでその場から逃走した。

 

「えっ、ちょ!?はる…じゃなくて、赤松待てって!オレ様を置いて行くなよ!」

 

慌ててアタシはその後を追いかけるも、追いついたのは寄宿舎を入ってすぐだった。

 

「百田が…可愛いって…」

 

思い出して恥ずかしくなったのか、赤松(春川)はその場でボールみたいに丸くなった。

 

 

 

 

 

 

「あっ、帰ってきた!」

 

個室に戻ると、春川(赤松)が音ゲーをして遊んでいた。

なんか、もう…やってるゲームで個性が出すぎというか、やっぱりそのゲームしてたか…ってなるな。

 

ふっと何気なく時計に目をやると、効果が切れるまであと少し…といった時間だった。

2時間って、意外とあっという間に過ぎるな。

 

今度はもう少し、見た目とか効力を変えてやってみようかと考えていると「「戻った!」」という2人の声が聞こえ、視線をやるといつも通りの赤松と春川にちゃんと戻っていた。

 

「ちょっと楽しかったけど、戻れて良かったぁ…」

 

「私は、もう嫌だけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後に3人で軽い女子会をしてから解散し、アタシは1人で中庭をブラブラと歩いていた。

 

「人の入れ替わりの食べ物…は、今回みたいになりそうだから見た目を変えねーとな。あとは…時間がもう少しあれば面白そうだな!」

 

改善点を口にしながら歩いていたせいか、「そういう事なら、俺にも参加させてほしいっす」と天海が突然目の前に現れた。

…いきなり出てくるとか聞いてない。

 

「な、なんだよぉ…オレ様は別に何も考えてねーぞ!?」

 

「入れ替わりって、面白そうじゃないっすか。ちょっと中身を入れ替えて欲しい人がいるんで、俺も協力するっすよ」

 

話し聞いて。

あと、アタシの独り言は今すぐ忘れろ。

 

「いや…だからぁ…」

 

「食べ物も機械もダメなら、日用品でできないっすかね?枕とかどうっすか?」

 

「オレ様の意志は!?」

 

ちょっと待って、なんか怖い!

こいつ、どんだけ必死なんだよぉ…。

 



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気だるき異世界を生かせ生きるだけ①

この前ね、友達とこんな会話したんだ。

友達「最赤・百春の要素入れるんだったら、憑依してる入間も誰かとらーぶらーぶしちゃえばよくね?」

僕「えー…考えるのめんどい」

友達「候補を上げるとしたら、最原・キーボ・王馬・天海・赤松・春川とかどうかな?あっ、それともクジで…」

僕「は な し を き け 。お前好みの展開にさせるつもりか!?しかも、後半に関しては百合展開!?」


なんであいつは、突然こんな事言い出したんでしょうね?
意味がわからないよ。
所詮、あいつも男死という事なんだね。


 

和食を食べたい気分だったから東条にお味噌汁を用意して貰い、それを朝食として食べていた。

洋食もいいけれど、和食もいいな。

…まぁ、東条の作る料理はどれも美味しいから食べれたら、なんでもいいんだけどな。

 

「それはそうと、アレはどうなったんですかね?」

 

「アレ?」

 

茶柱の疑問に、何の事だろう…とゴン太が記憶を辿るように唸るが、なかなか出ない事に痺れを切らしたのか「モノクマの動機じゃ」と夢野が憂鬱そうな顔をしながら答えを出した。

 

「そういえば、今日の朝が期限だったな…。何も言わねーって事は、モノクマも忘れてるんだろ」

 

「なら良かったんだけどネ…」

 

そんな不吉とも呼べるような事を言いながら、真宮寺が指差した先には「はいはい、ちゃんとやるって…」とやる気がなさそうなモノクマの姿があった。

 

「はい、注目ー…」

 

そう言ってアタシ達の視線を集めるモノクマの声には、いつもの覇気が感じられなかった。

知らない間に、何があった。

 

「えー…ほら、この前言った動機のね、オマエラの学園生活内での他人に秘密にしている事を発表しに来たんだけどさ…。オマエラ、全然コロシアイしてくれないし、批判が酷いしで…ボクのやる気がなくなってるんだよね…」

 

ポツポツと喋るモノクマから、何か聞き逃してはいけないような単語が聞こえた気がしたのは、アタシの気のせいなんだろうか。

みんなも気になったのか「批判…?」と、誰かが呟いた。

 

「もう…とりあえずさ、何人かだけ発表してボクは少し休む事にするよ」

 

「というわけで、オイラ達が5人だけ選んで発表するよー」

 

「お父やんを休ませなアカンしな!」

 

やる気のないモノクマに代わって、モノクマーズが小さな四角い箱を持って場を仕切りだした。

 

「ソレジャ、引クヨ…」

 

モノダムが箱に手を入れていき、箱から手を抜いた時には紙を持っていた。

発表される5人って、くじ引きかよ!?

 

「モノダム、紙にはなんて書かれてるの?」

 

「…『コスプレイヤー』ダヨ」

 

「えっ、わたし?」

 

自分の才能を読み上げられた白銀が不安そうに、表情を曇らせる。

白銀の秘密…ねぇ。

 

「それじゃあ、発表するわね。白銀さんの学園生活での秘密は…『毎朝、誰もいないのを確認して図書室で薄い本を読んでいる』よ」

 

「ぶっ!」

 

モノファニーが発表したのは、思いもしなかったもので…正直、笑いそうになった。

というか、お茶吹きそうになった。

……今だけ飲むの止めとこ。

 

「うすい…本って?」

 

「ゴン太君は知らなくていいんだよ!」

 

「えっ?う、うん…」

 

薄い本というのが気になったゴン太が白銀に聞いてみたが、白銀の剣幕に負けてそれ以上聞こうとはしなかった。

 

「ほな次は~…『探偵』や」

 

次は最原か。

正直、ゲームのプレイヤーとしては…秘密になりそうな事なんてなさそうだったけどな。

 

「最原君の学園生活での秘密は…『カジノで手に入れた鍵を毎晩使って、楽しんでいる』だって」

 

それかい!?

まさかの愛の鍵なの!?

それって、秘密に入るのかよ!?

 

最原の方をチラリと見てみると、机に突っ伏して耳を塞いでいた。

何も聞きたくないってか。

 

「続けていくぜッ!お次は…『発明家』だ!」

 

……アタシ?

いやいや、アタシに秘密なんてあるわけ…

 

「入間さんはね…『キーボ君に、ロケットパンチをする機能をつけた』よ」

 

…あったわ。

なんか、王馬とキーボが五月蝿いけれど無視しておこう。

ほら、ロケットパンチぐらい、大したことないし…ね?

 

「次は…『マジシャン』よ」

 

「マジシャンではない!魔法使いじゃ!」

 

夢野が即座に訂正をするように訴えた。

 

「ええっと、夢野さんの学園生活での秘密なんだけど…『鏡の前で笑顔の練習をしている』ですって」

 

「きゃー!夢野さん、可愛いすぎです!!」

 

「や…止めい」

 

抱きついてきた茶柱を引きはがそうと夢野はもがくが、引き離す所か余計…抱きしめられる力が強くなっているような気がする。

 

「それじゃ、最後は…『宇宙飛行士』だよー」

 

モノタロウが引いた紙には、宇宙飛行士と雑な字で書いていた。

百田の秘密が最後…なのか。

 

「百田君の秘密なんだけどね…実は『命に関わる病気にかかっている』のよ」

 

……あっ。

病気の存在忘れてた。

 

「んなの、嘘に決まってんだろ。証拠に、オレはこの通りピンピンしてるぜ?」

 

ニカッと笑ってアタシ達にそう言い放った百田に、みんなして「本当に?」と表情を暗くしていた。

そんな雰囲気でも気にせずに、モノタロウが「あのね、まだオマエラに渡す物があるんだよ」とアタシ達の目の前にオブジェのガラクタを渡してくる。

 

ちょっ、今かよ。

後にしようとは思わないの?

 

「あっ、今回は動機でもある謎のカードキーもプレゼントするからね」

 

それに便乗するかのように、モノクマからサラリととんでもない発言が落とされる。

 

「今…動機って言った?」

 

「そうなんだよね…。このカードキーが今回の動機なんだよ」

 

ヒラヒラ~とカードキーを見せつけるモノクマを見て、「それの何が、動機に繋がるのかなー?」とアンジーが不思議そうに呟くと「それを使った場所に、本当の動機が隠されているかもしれないね…」と最原が探偵らしい憶測を述べた。

 

「気になるなら、使えばいいんじゃない…?」

 

「じゃ、そのカードキーはオレが貰うねー」

 

「あー…うん、勝手にしなよ」

 

ずっとやる気がないモノクマから、動機のカードキーを奪い取ると王馬は「じゃ、使ってみるからバイバーイ」と食堂から出て行ってしまった。

 

「おい、それは動機なんだぞ!?待ちやがれ!」

 

「ったく…一人じゃ大変だろ。俺も手伝うか」

 

王馬の後を追いかけて、百田と星までもが食堂から出て行く。

どうしよう…アタシも追いかけるべき??

 

 

「そうそう、思い出しライトもどこかに隠しておいたから、探してみるといいわよ。お父ちゃん、いい加減元気出して」

 

「そうだよお父ちゃん。オイラ達がついてるよ!」

 

「そんな事言われても…やる気がおきないんだよ」

 

モノクマーズに引っ張られるような形でモノクマ達が食堂から出て行くと、残されたアタシ達は「これからどうする?」という空気が漂った。

 

「ここは、王馬さんの持っている動機も気になりますから、最原さんと一緒にオブジェの探索をするグループと王馬さんを探すグループに分かれますか?」

 

茶柱がゆっくり手を上げながら、これからの行動について提案を出すと「だったら、それで決まりだね!」と赤松が賛成して残ったメンバーでグループ分けをしだした。

 

 

 

アタシ?

もちろん、ボイコットするに決まって…

 

「入間さん、一緒に行こう。最原君もそれでいいよね?」

 

「うん。僕は別に構わないよ」

 

赤松と最原という壁が立ちふさがった。

お前らはいつから、アタシの見張りになったんだよ。

 



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気だるき異世界を生かせ生きるだけ②

何も考えてないけど、なんとかなるさ!(白目)



 

赤松・最原のオブジェ捜索に付き合い、中庭に超高校級のロボットの研究教室を解放させたり、校舎の5階を解放させた。

もう、あの2人は何でアタシをオブジェ捜索に誘ったんだろうね?

あれか?サボリの常習犯だからか?

 

解放されたばかりの5階をブラブラ歩きながら、超高校級のコスプレイヤーの研究教室の扉をコッソリ開けて中を覗いてみると、テンションが上がって「尊いよぉ!」と叫んでいる白銀の姿があった。

 

見なかった事にしてあげよう。

 

気づかれない内にバタンと扉を閉めて、今度は超高校級の探偵の研究教室に行く。

すでに教室の中を調べていた赤松と最原は、本棚のファイルを調べたり、毒薬と解毒薬を見比べたりしていてアタシが来た事には気づいていないようだった。

 

今ならサボって、作りかけの発明品の仕上げとかできそうじゃない?

うん、できる。

絶対にやれるわ。

 

「おっ、入間じゃねーか。終一と赤松も一緒か」

 

後ろから突然聞こえた百田の声に、アタシは思わずビクリと肩を跳ね上げた。

 

「あっ、百田君。王馬君はどうだった?」

 

「それがよ、星といくら探しても見つからねーんだよ。まっ、代わりにこいつを見つけたけどな」

 

そう言って百田がアタシ達の目の前に出したのは、今ではお馴染みとなった思い出しライトだった。

出たな、記憶植え付けライト…。

 

「つーわけでだ、食堂に来てくれ。他のメンバーには星の方が声をかけてるはずだからな」

 

「うん。わかったよ」

 

そして、赤松と最原が研究教室の出入り口の方に行くのを眺めながら、アタシは百田をジロジロと眺めていた。

百田が抱えてしまった病気…。

そうなるようにしたのがモノクマ達だとすると、治療する為には…

 

「入間さん?」

 

動こうとしないアタシの肩を、赤松が叩いてくる。

それを振り払うように身じろぎしながら、アタシは「モノクマ、ちょっと来やがれ!」と大声で叫んだ。

すぐ側で、3人が驚いたように「えっ?」と声を出す。

それを無視してモノクマが来るのを待っていたけれど、出てきたのはモノクマじゃなくてモノクマーズだった。

 

「呼ンダ?」

 

「悪いけど…お父ちゃんは今、無気力なのよ」

 

「だから、用件はオイラ達が聞くよー!」

 

「で、何の用や?」

 

「とっとと吐きやがれッ!」

 

なにこの見事な連携プレー。

いや…それよりも、まずはやるべき事を済ましておかないと。

 

 

「オレ様の用件は、ただ一つ…百田の病気の治療をしろ」

 

 

そう言った瞬間、百田が「だから…」と言い訳をしようと口を開けたのを見計らって「黙って聞け!」と遮りながら、塩キャラメルを口に入れてやった。

後ろから時々聞こえてくる「うわっ、甘っ!って…しょっぱ!」って叫びに笑いそうになるのを堪えて、「で、どーなんだよ?」とアタシはモノクマーズに問いかけた。

 

「ど、どうって言われても…」

 

「せ、せや。ワイらはそんなん知らへんし…」

 

「そそそ、そうだぜ!」

 

「………」

 

「オ、オイラも、ウイルスを入れたとか知らないよー!」

 

こいつら、嘘つくの下手くそすぎるだろ。

知らないって、みんなの前でそう言ったのお前らだし。

 

「ふーん、ウイルスを入れた…ねぇ」

 

オウム返しのように呟くと、「な、なんでそれを知ってるの!?」とモノタロウが頭を抱えながら叫んだ。

 

「ちょっとモノタロウ!そんな事言ったら、お父ちゃんの命令でアタイ達がウイルスを挿入した事が…」

 

「それ以上はアカンて」

 

「ミー達がやった事がバレちまうだろっ!」

 

「モウ、バレテルヨ…」

 

モノダムがガタガタ震えながら、アタシ達の顔色を見て「ドウシヨウ…」と呟く。

とりあえず…自白おつ。

 

「なっ…やっぱ、テメーらのせいだったのか!」

 

ズカズカと百田がモノクマーズの側まで歩み寄り、1体ずつ見下ろす。

 

「キャー!どうするの、モノタロウのせいよ!」

 

「えっ、オイラのせい?」

 

「ミンナノセイ、ダヨ」

 

「お父ちゃんに怒られちまう…」

 

「に、逃げるが勝ちや!」

 

そう言って逃げ出そうとするモノクマーズに「逃がすか!」と、アタシはポケットに忍ばせていたピンク色の銃を構えて発砲する。

 

「えっ、ちょっと…なに、その……銃?」

 

突然発砲したアタシを、最原はギョッとしたように顔を青くして詰め寄って来たが、これがアタシの発明品だと気づくと苦笑いを浮かべていた。

まぁ、銃口からは弾丸ではなくネットが飛び出してきて…それがモノクマーズを見事に捕まえているのを見たら、流石にそうなるか。

 

ネットから抜け出そうともがくモノクマーズを、ネットごと抱え込んでアタシは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「お前らが大好きなモノクマの為にも、薬とかは出すべきだぜ?」

 

モノクマーズにだけ聞こえるようにアタシが小声で囁くと、「ドウイウコト?」って返事が返ってきた。

 

「考えてみろよ…モノクマは、コロシアイをしてほしいんだろ?学級裁判を起こしたいんだろ?」

 

「せやな」

 

その返事を聞いて、アタシは更に笑みを深くした。

 

「もし、百田がウイルスに負けてこの3分後に死んだら?何のトリックもない学級裁判になるんだぜ?それに…モノクマが殺人に関与しないっていう校則はどうなるんだよ?」

 

「あわわわわ…」

 

慌てふためくモノクマーズと、小声で何か言いながら笑っているアタシを見ている3人は、何が起きているのか分からないって顔をしてどうなるのかを見守っている。

 

「オイラ、薬を取ってくるよ!このままじゃ、お父ちゃんが悪者になって更に落ち込んじゃう!」

 

「早ク、行コウ」

 

「なら、お前ら2体で取ってこい。残りは人質だ」

 

ネットからモノタロウとモノダムを解放して、残りのモノクマーズと以前に王馬に頼まれて作った試作品のエレクトボムを見せつける。

 

…やばい、今のアタシどこからどう見ても悪役じゃん。

ほら、赤松と最原と百田が引きつった顔でアタシを見てるし。

 

薬を取りに言った2体のモノクマーズを見送り、アタシはどん引きしている3人に「これで、なんとかなりそうだな!」ってわざと明るく言ってみた。

 

だからさ、いい加減にそんな目で見るの止めてくれない?

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

モノクマーズから無事に薬を貰うと、アタシ達は思い出しライトを使うために食堂に集まった。

 

「随分遅かったじゃん」

 

「あぁ…悪りーな。ちょっと色々あってよ」

 

春川に百田はぼかしなから答え、食堂に集まった全員に思い出しライトを見せつけた。

 

「んじゃ、早速使ってみるか」

 

「王馬君がまだ来てないみたいっすけど…」

 

天海の言った事を確認するように、アタシは食堂にいるメンバーを見渡してみる。

あっ、確かにいないけど…どうせすぐに来るだろ。

ゲームではそうだったし。

 

「オレならいるよー」

 

何処かから、そんな王馬の声が聞こえてきたと思うと、背中の方に軽い衝撃が走り「うっ…」とアタシは呻き声を上げた。

首を動かして正体を確認すると、「にしし」と笑いながら王馬がアタシの背中にしがみついていた。

 

…普通、やられるのアタシじゃなくてゴン太じゃない?

いや、そのゴン太が出入り口から離れた所にいるから、近くにいたアタシの方にきたのか。

ゴン太と今すぐ場所をチェンジしたい。

 

「王馬君…あのカードキーはどうしたの?」

 

「あぁ…アレ?どこで使えばいいか分からないから、使うのを諦めたんだよねー」

 

笑いながら王馬は最原にそう答えると、「みんなは集まって何してるのー?」と今度は逆に質問してきた。

だけど、百田の持っている思い出しライトに気づくと「なるほどねぇ」と納得したようだった。

 

「それじゃ、みんな集まったし押しちゃうよー。ポッチーン!」

 

アンジーがそう言ってスイッチを入れ、ライトから放たれた光から頭の中にグルグル映像が流れる。

 

 

ニュースで流れる隕石群……街を歩く暴徒達…。

 

そして…

 

 

 

 

 

誰かのすすり泣く声。

 

 

 

 

違う。これは思い出しライトのものじゃない。

 

 

 

 

 

 

これは……

 

 

 

 

 

 

 

気づけば、アタシは真っ暗な闇の中にいた。

そんな闇の中には、アタシともう1人…誰かがいた。

ううん、誰かなんかじゃない。

 

彼女は……

 

 

 

『ひひっ…何が隕石群だ。何が人類は地獄に落ちるべしだ…』

 

 

アタシに背を向けて、彼女はそう言った。

それで、なんとなく分かってしまった事がある。

 

アタシが思い出しライトを浴びても平気だったのは、憑依スペックだとかそんな素敵なものじゃない。

全部…アタシという存在のせいで、意識の奥深くへと眠ってしまった本来の彼女がアタシの代わりに、その記憶を植え付けられていたお陰でしかなかった。

 

『超高校級狩りとかも、よくわからないし。どうなってるのぉ…?』

 

 

そして、彼女は涙で濡れた顔をアタシに向けた。

 

だけどそれは、一瞬の事でしかなく。

 

次の瞬間には、何かを思いついたとばかりに顔を輝かせた。

 

 

『なぁ、お前はオレ様で…オレ様はお前なんだよな?』

 

 

ゆっくりと、彼女はアタシに歩み寄る。

逃げたいのに…まるで、見えない鎖にでも捕らえられたかのように、アタシの足は動けなかった。

 

 

『つまり、オレ様達は2人で1人の考えなんだよな…』

 

 

人を誘惑するような甘い声で、彼女がアタシに囁く。

 

これ以上、聞いたらダメだ。

そう思ってアタシは両手で耳を塞いだ。

 

それでも、声は続く。

どれだけ否定しても、聞こえてくる。

 

やめて。

 

聞きたくない。

 

 

『だったら------------』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

声にならない叫び声を上げると、アタシは元の食堂にいた。

今のは、夢?

それとも……。

 

幻聴のように聞こえるあの言葉を振り払うかのように、アタシは「もう少しだから…」と自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「もう少しで、嘘も真実も全部繋がるから…」

 

 

そう…後少し。

もう、半分切ったんだ。

ここでアタシが…アタシが台無しにするわけにはいかない。

 

 

どれだけ自分に言い聞かせても、あの声が離れず思考は混乱したままで。

それを振り払うように、アタシは食堂を飛び出して自分の研究教室に走った。

 



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気だるき異世界を生かせ生きるだけ③

ゲームのイベントに夢中になってたら、予定よりも更新遅れてました(笑)


研究教室に籠もって、1人で黙々と発明品造りに精を出す。

そうしている内にだんだん落ち着いてきたのか、今では数時間前の自分を思い出すだけで穴に入りたい思いになる。

 

ヤバイ、どうしよう。

思い出しライト浴びた後のあの行動(っていうか逃亡?)は、マズイ。

絶対みんなから『こいつ大丈夫か?』みたいな目で見られるくない?

何か絡まれる確立が高そうじゃない?

アタシだったら、心配になって拒否されても絡む自信あるし…。

 

うん。

次に造るのは、忘れろビームみたいな発明品で決定だな。

ついでだし、他にも思いついた物もやっちゃおう。

 

「あっ、やっぱりここにいた。探したよー入間ちゃん」

 

聞こえるはずのない声に思わずバッと振り返る。

教室の出入り口…あれ?いない??

 

「んだよ、気のせいか」

 

「あのさー、気のせいじゃないから」

 

「ひいぃぃっ!?」

 

いつの間にか真っ正面にいた王馬に驚いて、思いっきり後退りする。

心臓に悪い!

せめて普通に出てこい…って、なんかモノクマみたいな扱いになってるなぁ…。

 

悪戯成功とばかりに笑っている王馬に「オレ様は忙しいぞ」と言って、アタシは此処から出ろとばかりに扉を指差した。

それでも「えー…、別にいいじゃん。入間ちゃんはケチだなー」と言うだけで、全く出ようとしない。

むしろ、その辺で置きっぱなしにしている発明品を見て「これ何に使うやつ?」なんて聞いてくる。

 

 

どう足掻いても、会話のキャッチボールができない。

むしろ、デッドボール。

アタシが諦めるしかないのか。

 

 

諦めたアタシが「何しに来たんだよぉ…」とオドオドしながら聞くと、その言葉を待ってましたとばかりに王馬の目が輝いた。

 

「やっと聞いてくれる気になった?実はまた作ってほしいものがあってさー。ほら、この前の『エレクトハンマー』と---」

 

「お前が欲しいのは、この『試作品のエレクトハンマー』か?それとも『できたてのエレクトハンマー(在庫あり)』か?」

 

王馬の言葉を遮り、アタシは泉の精のように2つのエレクトハンマーを持って問いかけた。

 

「えっ、どっちもに決まってんじゃん」

 

「貪欲すぎんだろ…」

 

王馬から返ってきた答えは両方。

なんとなく分かってたけど、せめて悩むフリぐらいしろよ。

 

「あとさ、『エレクトボム』もあと何個か作ってよ。それからー、いつでもいいって言った前の発明案に書いた、エグイサルとかの機械を操作できるやつを今日中に」

 

てきたばかりのエレクトハンマーを手に取りながら、王馬は更なる注文をしてくる。

…それについての答えは前から決まってる。

 

「そいつは無理だな」

 

「なんで?」

 

スッ…と王馬の顔から表情が消える。

 

「な、なんでって言われてもぉ…材料がねーんだよぉ」

 

なんせ、エレクトハンマーとエレクトボムは同じ素材を使って造っている。

原作よりもハンマーを多く造ったうえに、性能も上げたとなると……見事にボムの分がなくなってた。

気づいた時は「あっ、やばっ…」なんて思っていたんだけど、後になって「別にいいか」ってなった。

というわけで、エレクトボムはあの試作品1個と新たに造った1個だけだ。

 

…エグイサルのリモコンもどきは、以前造ったから言わずもがな。

あれはやらん。

 

「つーわけでだ、諦めろ。オレ様はコンピュータールームでやる事もあるしな」

 

「ふーん…。じゃ、今はそれでいいや」

 

今は、ってなんだよ。

後でも絶対にやらねーって。

 

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

コンピュータールームなう。

 

あの馬鹿でかいコンピューターこと、コロシアイシュミレーターをアタシなりにアレンジ中だ。

ほら、なんかこれって遊べそうじゃん?

危険物とかがなければ、ただのゲーム世界って事での遊びとかできるでしょ。

 

まぁ、遊びの内容なんて思いつかないけれど。

 

そうやって作業を進めている内に、誰かがコンピュータールームに来たらしく、扉の開く音がした。

 

「あれ?入間さん?」

 

「あー…白銀か。誰か探してるなら、他を当たれよ」

 

入ってくるなり、周りをキョロキョロしだした白銀にそう言うと、「そんなんじゃないんだけど…」と白銀はアタシの隣からプログラムを覗き込んだ。

 

「何やってるのか聞いてもいい?地味に気になって」

 

「これか?みんなでゲームできるように、プログラムを書き換えてるんだよ!完成したら、絶対楽しいぞ!」

 

「ゲーム…キャラクターはどんなの!?主人公は?黒髪赤眼のキャラっている!?」

 

ゲームと告げた瞬間、白銀に両肩をガッシリと捕まれて逃げ道を失い、一気に質問責めにされる。

なんか、変なスイッチ入れてしまったやつ?

 

「いや、その…分身となるアバターは、ここにいるみんなの姿にしようかと思って……」

 

「それって、わたしたちがゲームのキャラなの?でも、どうせならもっと凄いのにしない!?ほら、みんなの『こういった人物になりたい!』っていう姿にするとかさ!」

 

両手を握り締めて恍惚の表情を浮かべる白銀に、アタシは思わず苦笑した。

そんな事したら、誰が誰か絶対に分からない。

いや、それよりももっと面倒な事になりそうな気がする。

 

「で…でもぉ、オレ様はプログラムを書き換えるのに時間がかかるし、そんなの聞いてる暇なんて…」

 

遠回しに諦めてもらうように弱腰で言ってみるも、「だったら、わたしが代わりに聞いてあげるよ!」と白銀が諦める事はなかった。

……マジで止めて。

 

「い、いや…いい!そういうのなら、ゲーム世界よりもコスプレでやった方がいいだろ!?だから…」

 

コスプレの方に話しを逸らそうとすると、白銀の目が更に輝いた…気がした。

 

「入間さん…コスプレに興味があるの!?だったら、もっと早く教えてよ!」

 

「なんでそうなるのぉ…?」

 

また、アタシは白銀の変なスイッチを押してしまったらしい。

もうやだ。

白銀ってば、1人で何かのキャラについて語り始めた。

とりあえず頷いてみたりするも、内容なんてさっぱりだ。

 

「…っていう事なんだけど、入間さんはどのキャラのコスプレをしてみたい!?やっぱり組織の科学者とか?それとも、武道に長けたヒロイン!?」

 

「ちょっ…待ってぇ。それよりも、プログラムの方を…」

 

「あっ…そうだったね」

 

やっと落ち着いてくれたのか、白銀はそれっきり黙り込んだ。

…それはそれで、アタシが落ち着かないんだけどね。

 

兎に角、アタシはプログラムの書き換えを再開する。

凶器になりそうなものや、プログラム世界での物は壊れないというルールのせいで縄と同類となってしまったトイレットペーパーのプログラムデータを次々と消していく。

 

「ねぇ、入間さん…ちょっと思ったんだけどね」

 

消去の処理時間を見計らったように、白銀が考え込むように人差し指を口元に持っていって空を見ていた。

 

「最初の動機の…『最初の殺人においては学級裁判が開かれない』ってやつって、地味にまだ続いているんだよね?」

 

「………は?」

 

思わずそんな声がでた。

いやいやいや…えっ?

続いて…はい?

 

「んなわけあるかよ。あんなの、最初に動機を提示した時だけに決まってんだろ?」

 

「でも、本当にそうかなぁ…?だって、時効とか取り消しなんて聞いてないんだよ?」

 

確かにそうだ。

でも…。

 

「なんでオレ様に言った?んなの、最原にでも言えばいいじゃねーか?」

 

だからといって、アタシにそれを話す理由なんてないはずだ。

 

「確かにそうなんだけど…入間さんなら、いいかなって」

 

全くもって意味がわからん。

意味不明もいいところだと思う。

どう返事したらいいか分からず、アタシはガシガシと頭を掻きながら「食堂で東条に紅茶貰ってくる…」と扉を開けて廊下に出た。

 

 

 

 

「うぷぷ…」

 

 

 

 

聞き慣れた笑い声に、アタシは近くにモノクマがいるのかと思って辺りを見渡した。

でも、廊下のどこにもモノクマの姿なんてない。

 

「……寝不足か?」

 

それにしても、モノクマの幻聴なんて誰得なんだ。

今この状況では、絶対にお引き取り願う。

 

 



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気だるき異世界を生かせ生きるだけ④

いつか本編が書き終わったら…紅鮭団次元とか、育成計画次元を書こうと思ってるんだっ!
嘘だけどねっ!!



1人、冷静になって考えてみる。

白銀が言っていたアレだ。

 

『最初の殺人に関しては学級裁判が起きない』

 

もし、本当に継続されたままならば…どうなるんだろう?

もし、誰かがそれに気づいたら…どうなるんだろう?

 

考えてしまっているうちに手が止まっていたのか、アタシは慌てたように再びプログラムの作成をする。

キーボードを打つ音だけが無機質に響く。

 

アタシにできるのは、本当にコロシアイを止める事だけ?

コロシアイが起きないように阻止するだけ?

 

本当に?

 

ホントニ?

 

ソレダケ?

 

 

 

「………」

 

 

しっかりしろ、アタシ。

アタシの目的はなんだ?

それを間違えるな。

 

首謀者も含めて、全員で…この学園から出る。

 

その本来の目的を忘れるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キーン コーン カーン コーン』

 

才囚学園全体に響くチャイムの音に、アタシはいつの間にか自分が寝ていた事に気づいた。

モニターの映像から、モノクマーズが朝8時を知らせる。

 

まさかの寝落ち…。

 

「ふわぁっ…んー、どこまでやったっけ?」

 

欠伸をしながら、コンピューターを確認する。

えぇっ…と、確か凶器になりそうなものは消去して……そうだ、アバターのプログラムを作成してる途中だ。

 

「…あん?」

 

それなのに、だ。

いつの間にか、全員分のアバターのプログラムが完成していた。

 

なぜだ……。

 

手を動かして、1人1人のアバターを念入りにおかしな所などないかを確認していく。

だけど、どこにも『○○に触れられたら行動不能』だとか『物として扱われる』とか怪しいものはない。

 

でも、怖いものは怖い。

なんで完成してるの?

アタシの記憶違い?

 

「うぅ…気味が悪い」

 

靴を作ってる途中で居眠りした童話のおじさんみたいな事って、起きたらいいなと思ってても…実際はただのホラーじゃん。

 

他におかしな所がないか確認するも、他は特になさそうだった。

マジでなんなのぉ…?

あれか、モノクマの仕業か。

 

……てか、それしか思いつかない。

うん、間違いない。

モノクマorモノクマーズの仕業だ。

そう思えば怖くない。

 

「んー…とりあえず、次にやるのは……みんなで楽しめる事を考えねーとな」

 

コロシアイシュミレーターを楽しめるゲームにすると決めた以上、中途半端なものは許されない。

でもなぁ…みんな好きな事とかバラバラなんだよね。

共通する何かがあれば…。

 

「うーん…」

 

「何かお困りかしら?」

 

考え込んで唸っていたアタシに、コンピュータールームにやってきた東条が開口一番にそう言って微笑んだ。

その手には、何やらいい匂いのするランチボックスがある。

 

「入間さんの分の朝食よ。片手で食べられるパンを持ってきたわ」

 

アタシの視線に気づいた東条が、そう言ってランチボックスを差し出してきたので、すぐに開けて中を確認する。

コロネ、クロワッサン、ブリオッシュ、メロンパン、揚げパン…沢山のパンが入っており、アタシのお腹の虫がそれを見た瞬間に食べたいとばかりに鳴いた。

 

1つだけ手に取り、作ってくれた上に届けに来た東条に「いただきます」と一言言って咀嚼。

うん、美味しい。

嫁として迎えたくなる美味しさだ。

胃袋を捕まれて離さない…癖になりそうだ。

 

「味はどうかしら?入間さんの好みに合うように作ってみたのだけれど…」

 

「むぐむぐ……結婚して」

 

あっ、間違えた。

 

「んんっ…オレ様の好みをよく分かってるじゃねーか!さすがは東条だな!お陰で良い物が作れそうだぜ」

 

「なら、良かったわ。所で…さっきは何を悩んでいたのかしら?」

 

頬をリスのようにパンで膨らませながら食べていると、東条が「良かったら、力になるわよ」と言ってくれた。

メッチャ心強い。

 

「んぐんぐ……実は…」

 

「まずは、口の中の物を食べてからにしてちょうだい」

 

スミマセンデシタ。

 

よく噛んでから飲み込み、アタシは「実はだな!」と東条にコンピューターを見せた。

 

「こいつを使って、みんなで楽しめる……今よりもっと仲良くなれるようなゲームを作ろうと思ってるんだ!けどな、ほら…みんなの好きな物ってバラバラだろ?」

 

「それで、悩んでいたのね」

 

顎に手を当てて「そうね…」と東条が考え込む。

 

「動物と戯れるゲームなんてどうかしら?」

 

「動物?」

 

アタシが聞き返すと、東条は「えぇ」と真剣な顔で頷いた。

 

「動物には癒やし効果…アニマルセラピーというものがあるでしょう?楽しむのは勿論だけれど、みんなの不安を取り除く心のケアも必要だと思うわ」

 

「なるほどな…動物に癒されて、不安を忘れるってやつか」

 

それは盲点だった。

完璧に、ゲーム=遊びって考えだった。

そっか…癒やしか。

 

「犬や猫は勿論だけれど、小動物とかもみんな喜ぶんじゃないかしら?」

 

「おぉ…!」

 

これは…いい。

凄くいいぞ!

何より、動物と戯れるみんなを見てみたい。

採用決定だ!

 

きっと、みんな喜んでくれるはず。

口元に笑みを浮かべながら、アタシはまた一口パンを食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなオレ様に感謝するはず。

 

そして、オレ様の事をもっと好きになるはずなんだ。

 

だって…オレ様の発明は世界を救う事ができるんだから。

 

 

だから、

 

 

だから、

 

 

こんな所で…

 

 

 

死ぬわけにはいかねぇんだ

 

 





ここから、何かの予告!


舞台は才囚学園…そこではモノクマによる超高校級達によるコロシアイが起き………「るわけないじゃん。嘘だよー」

「いいか、コレをやるのは…テメーだ、ダサイ原!」

「えっ?僕が?」


あるクエストに挑戦する事になった最原。


「私もさ、怖いよ。最原君がいなかったら、きっと震えてたと思う」

「なんで図書室なんかに行ったんすかね?」

「よし、まずは腕立て100回だ!」

「殺されたいの?」

いつもと変わらない日常…それでも、最原を確実に追い詰める数々のクエストの影が忍び寄る。

「最原ちゃんになら、何されてもいいよ」

「にゃははー。先輩の言う事は絶対だよー?」

「ここまで追いかけてくるとはな…」

果たして、彼が受けたクエストとは…?


「ひゃーっ、ひゃっひゃっ!なぁ、パンツは集まったか?」

「みんなの前で言わないでよ!」


パンツハンター最原の試練 ~集めろ、みんなとの絆~


という、エイプリルフールならではの遊びを前書きと後書きにしてみた。
つまり、全部嘘。


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気だるき異世界を生かせ生きるだけ⑤

最近、友達からのリクエストとかで絵を描く事が増えましたー。
うぇーい…画力ないのにorz
リクエスト消費してる時に気づいたんだけど…周りに王馬君の事が好きな人が多い。
お陰で、資料見なくても大雑把に描けるようになったよ…。

そんでもって、今回はお兄ちゃん暴走させちゃった(笑)
別に後悔はないよ。
ほら、いつもの僕のおふざけだから。



「はーなーれーろー!」

 

ぐぎぎぎっ…と腕に力を込めて、腰に纏わりついた腕を離そうとアタシは必死になっていた。

理由?

本能が、なんとなく逃げろって言ってるからかな。

 

「入間ちゃんが『うん』って言ったら、ちゃんと離すって!」

 

そう言って、アタシの後ろから更に腕に力を込めて抱きついてくる王馬。

ホントに止めろ。今すぐ離れろ。

さっきから、頭の中で警報がガンガン鳴ってるから。

 

ていうか、なんで校舎の廊下でこんなやり取りをしないといけないんだ。

 

「いいから、離れろって…!」

 

少しでも抜け出そうと抵抗するも、王馬の方が力が強くて中々抜け出せない。

もし、こんな所を茶柱に見つかったらどうなると思ってるんだ。

確実にアタシごと、投げ飛ばされるぞ。

それに、今いる廊下が食堂の前というのもマズイ。

誰かに目撃されてみろ…絶対に苦笑いされる。

 

…どっちも嫌な結末だ。

なんでこうなった…と、アタシはこれまでの記憶を辿る。

 

まずは朝食会。

いつも通り、東条が作ったご飯を食べた。

朝食後、キーボのメンテナンスをした。

まぁ…その時も王馬が騒いでた気がするけれど、キーボの研究教室にあった強化パーツとかを取り付けてたりして聞いてなかった。

そしてメンテナンスを終わらせると、アタシは購買部のガチャを回しに行った。

その時は…うん。王馬はキーボに夢中だったな。

だから、勝手にキーボに用があったんだろうと思ってた。

思い込んでたわ。

 

それがさ…ガチャを回し終えて満足しながら購買部を出て、コンピュータールームでみんなをゲームに誘う準備しようって計画してる時に、遭遇した王馬から「もう!勝手にどっか行かないでよねー!」となぜか怒られたうえに、逃げられないようにホールドされた。

 

 

……で、文頭の出来事である今に至るんだけど。

アタシは新手の嫌がらせでも受けているのか?

 

「いいから、『やります』って言えよっ!」

 

「なんで、オレ様が命令されてるのぉ…?」

 

これは、絶対に頷いたりしたら駄目なやつだ。

この状態から解放されるかもしれないけれど、後が怖いやつだ。

 

 

だったらアタシは……

 

 

諦めたように「はぁーあ…」と溜め息を吐いて、アタシは離そうと必死に力を入れていた腕を下ろした。

後ろから見上げてくる王馬と一瞬だけ目を合わせると、何もなかったようにアタシは歩き出した。

 

あれだ、無視ってやつだ。

 

そんなアタシに反抗するかのように王馬が後ろに体重をかけるから、実際にはズルズルと王馬を引きずりながら壁伝いに歩いているだけだけれど。

 

正直…すっっっっっごく、歩き辛い。

なんなの、まともに30㎝も歩けないとか。

亀よりも歩くの遅くない?

 

「ちょっ、入間ちゃん酷いよ…オレを引きずりながら歩くなんて!うわああああぁぁぁあああぁん!酷いよー!入間ちゃんが苛めるー!」

 

「へ、変な事言うな!勝手に引っ付いてるお前が悪いんだろ!」

 

大声で嘘泣きしだした王馬の声を聞いてなのか、食堂の方から茶柱とアンジーが出てきた。

 

…わぁ、茶柱がいるー(棒)

 

「何やってるんですか、王馬さん!今すぐ離れないと転子のネオ合気道がでますよ!?」

 

ジリジリと構えながら、茶柱が距離を詰めてくる。

これ、アタシもやられるわ。

巻き添えのパターンだな。

 

「あれ?茶柱ちゃんこんな所にいたの?さっき夢野ちゃんが探してたんだけどー…」

 

「夢野さーーん!今、行きますよー!」

 

今にも投げられると諦めていたアタシだったけれど、王馬のお得意の嘘で無駄に終わった。

こっちを見向きもしないで、走り去る茶柱の背を見送るアタシに、アンジーも「みんな仲良しだって、神様も言ってるよー」って笑ってその後ろ姿を見送ると、また食堂に引っ込んだ。

 

えっ、待って。

まさか今の仲良しって台詞には、アタシ達も含められてたのか?

アンジー、カムバック。

よく見て。

アタシ嫌がってるから。

 

「危なかったー…茶柱ちゃんに投げられる所だったよ」

 

「………」

 

むしろ、投げられた方が良かったのかもしれない。

心のどこかでそんな事を思い、再びまだ離れようとしない王馬を引きずりながらゆっくり歩く。

 

「ねー、入間ちゃん。諦めたら?」

 

後ろから、ニヤニヤと笑みを浮かべる王馬に「だからっ、何を!?」と思わず叫んだ。

まだ昼前なのに、すごい疲れてくる。

 

「何って…『やります』か『うん』って言えばいいだけだって」

 

「なんでぇ!?」

 

「ほら、早く言えって!」

 

どこのガキ大将だよ。

理由くらい教えてくれたっていいじゃん。

それとも、アタシに知られたくない理由なんじゃ…。

 

「まさか…お前っ!」

 

ハッ…と気づいて、アタシは顔を青ざめた。

こいつ、無理矢理アレをさせるつもりか!?

今後の事を考えると、確かに王馬には必要不可欠かもしれない。

ニヤリと王馬の口元が三日月型になったのを見て、アタシは自分の考えが間違いではないと確信した。

 

こいつ…アタシに追加のエレクトボムとエグイサルを操縦するリモコンを造らせる気だ。

嫌だぞ。

アタシは決めてるんだから。

ボムはこれ以上造らない、エグイサルのリモコンはアタシが隠し持っておくって。

 

……うん、気づかなかった事にしよう。

無理矢理だけど、適当な事を言ってこの場を凌ぐ。

そして、誰かに助けてもらう。

 

ニコニコ…ではなく、ニヤニヤと笑う王馬を見下ろす。

よしっ、言ってやれアタシ!

 

 

「お前っ…オレ様の発明品使っても、身長は伸びねーぞ!?」

 

 

「…ゴメン、入間ちゃん。今なんて?」

 

真顔になったと思ったら、腕の締め付ける力が強く…って、キブギブギブ!

ふざけたのは謝るから、止めて…って、声を出す余裕もない。

どんだけ力あるの!?

 

参りましたとばかりに王馬の腕を叩いたけれど、それでも力が緩む事はなかった。

うわー…マジで怒ってるじゃん。

ホントごめんって。

悪気はなか……あったわ。

 

ていうか、これどうするの?

このままじゃホントやばい。

誰でもいいから助けて…という願いが届いたのか「何してるの…?」と明らかに困惑した声がした。

虚ろな目で声がした方を見ると、目の前に最原と天海がアタシ達を見て引きつった笑みを浮かべていた。

おい、どん引きじゃねーか。

 

「やっほー!最原ちゃん、天海ちゃん。見ての通り、入間ちゃんと遊んでるんだよー」

 

違うとばかりに、アタシは首を振って否定する。

遊んでない。

むしろ、嫌がらせされてる。

 

「えっと…一回離れてあげたらどうかな?」

 

「大好きな最原ちゃんのお願いなら、仕方ないなー」

 

あれだけ何を言っても離れなかった王馬がパッと手を離した事で、やっと解放されたアタシは壁にもたれた。

あー…辛かった。

 

「入間さん、大丈…夫じゃないっすね」

 

「王馬君…何したの?」

 

「だから、遊んでただけだってー」

 

可愛らしく「ねー」なんて言って王馬がアタシに同意を求めてくるけれど、それから目を逸らして「どこが?」って素っ気なく答えた。

仮に遊んでたとしても、アタシからしたら遊ばれていたって事になる。

 

「あれって、遊んでたの…?」

 

「うん。逃げようとするのを邪魔する遊びだよ」

 

それは遊びじゃない。

そんな嫌な遊びがあってたまるか。

 

「入間さんは王馬君から逃げようとしてたんすね…」

 

「酷いと思わない?オレから逃げようとするんだよ?さすがのオレも、これには傷つくよ…」

 

「むしろ、オレ様の方が傷ついたわ」

 

なんで…こんな目に合わないといけないの。

ただ頼まれた発明品は造らないって言っただけなのに。

 

……うん。

ちょっと王馬には悪いけれど、嫌がらせには嫌がらせで対応してやろう。

 

別に、アタシが見てみたいとかいう欲は混ざっていない。

これホントダヨー。

 

「なぁ、蘭太郎お兄ちゃん」

 

アタシが天海に声をかけると、驚いたように最原と王馬が固まった。

自分が何を口走ったのかに気づき「ち、違っ!今のは間違えただけで…!」と慌てて訂正をいれる。

今のは本気で間違えた!

 

「大丈夫っすよ。何も間違えてないっす」

 

真顔で言うな。

なんか、心配になってくるから。

 

「えっと…さっき、王馬が天海の事を『お兄ちゃんって呼んでみたいなー』って言っててな…」

 

「入間ちゃん…つまんない嘘は止めてよ」

 

呆れたような顔でそう言った王馬だったけれど、天海が「一回、呼んでもらっていいっすか?」って言うと、口元を引きつらせた。

だけど、すぐにいつものように笑顔になると「おにーちゃん」と語尾にハートが付きそうな猫なで声で言った。

 

「…無駄にあざといっすね。35点。もう一回っすよ」

 

何その点数。

でも、王馬は天海が本気だと感じたのか「またね、入間ちゃん!最原ちゃん!」という捨て台詞を残して逃走した。

その後を、天海は何も言わずに追いかける。

 

「王馬君…大丈夫かな」

 

「大丈夫だろ」

 

アタシがやられた事と比べると、まだマシだって。

多分…。

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

コンピュータールームの設備を1つ1つ確認していく。

1人掛けソファ、よーし。

装置、よーし。

プログラム、特に異常なーし。

 

後は、みんなを呼びに行くだけ。

 

軽い足取りで校舎内を駆ける。

あぁ、みんなどんな反応するかな?

喜んでくれるかな?

それとも、原作ゲームみたいにうざがられる?

 

どっちでもいいけどな。

 

昔よくやったピンポンダッシュをしながら、1人ずつコンピュータールームに来るように声をかけていく。

時々「なんで?」って言われたけれど、「ゲームして遊ぶぞ!」って言ったら食いついてくれた。

 

みんな、ゲーム好きだよね。

 

なんとか全員誘い終えると、アタシは楽しみで仕方ないとばかりに鼻歌をしながらコンピュータールームに戻って行った。

 

「早く集まらないかな~」

 

思わず緩んでしまう頬を両手で隠しながら、アタシはみんなが来るのをソファに座って待った。



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気だるき異世界を生かせ生きるだけ⑥

この前、母校に友達と遊びに行ったのですが、1人で行動したら見事に迷子になりまして…気づいたら図書室の近くにいたから、本を読んで大人しくしてたんですよ。
で、迎えに来た友達に「なんで図書室で本読んでるの…」って言われたので、思わずノリで天海君のなん図書発言。
そしたら、図書室でレポートらしきものを書いていた学生に「砲丸で殴られなくて良かったですね」と言われました。

こんなふざけた卒業生で、すみません!…って思ったけど、ネタが通じると嬉しいよね。


「急に呼び出して悪かったな。でも、完成したゲームを早くみんなでやりたくて…」

 

コンピュータールームに集まったみんなに話しを切り出すと、アタシがやっていた事を知っていた白銀と東条がお疲れ様とばかりに微笑んでくれた。

 

「で…そのゲームっていうのは何かナ?」

 

「聞いて驚け!みんなでプログラム世界に行くんだ」

 

「ぷろぐらむ…世界に行くの?」

 

理解できていないゴン太が首を傾げて、必死にどういう事なのかを考え込む。

とりあえず、説明続けていい?

 

「そのコンピューターと接続したこの装置を頭に被ると、意識がプログラム化されて、プログラムで作られた世界に行けるんだ。そこで、みんなに楽しんでもらったり、癒されたりする事ができるゲームを作ってやったぜ!」

 

「楽しむのは分かりますが、癒やされるって…?」

 

「そいつは、行ってからのお楽しみだ」

 

ほら、焦らすのって楽しいし。

それに、驚かせたいじゃん?

 

「まっ、楽しめるのは保証するぜ。なんたって、意識を丸ごと転送して、現実世界と同じように行動できるんだからな」

 

すると、白銀が「それって、もしかしてマトリックス!?」なんて興奮気味に聞いてきたけれど、アタシはそれに答えず「何か、気になる事あるやついるか?」とみんなを見渡した。

 

「あっ、それじゃあ…僕らの意識がコンピューターに入った後、その意識はどうなるの?」

 

「神様も気になるーって、言ってるよー」

 

最原とアンジーが手を上げて、質問をぶつけてくる。

えっと、意識がどうなるか…だっけ?

 

「プログラム世界での体として作ったアバターに、意識が入るようにしてある」

 

「あばたー?」

 

聞き慣れない単語に、ゴン太が再び首を傾げた。

そんなゴン太に、「自分の分身って思えばいい」と星が補足を入れてくれる。

 

「残った体の方は、どうなるんすかね?」

 

「プログラム世界にいる間は、夢を見ているのと同じで眠ったみてーな状態になる。まぁ、オレ様は他のやつが作ったこのプログラムを楽しめるように改良しただけだけどな」

 

「元となるプログラムを作ったのは、別の誰かなの?」

 

初耳とばかりに、赤松が目を丸くした。

えっ、まさかアタシが1から全部作った…って思ってたの?

 

「そう、このプログラムを作ったのは…ボクでしたー!」

 

どこからともなく現れたモノクマに、みんなが「嘘だろ…」と呟く。

 

「ちょっと、久しぶりにやる気に満ちて登場したと思ったら、酷くない?このコンピューターの中にあるプログラム世界は、ボクがあるプログラムを元にして作ったコロシアイシュミレーターなのでーす!まぁ、入間さんのせいで今となっては見る影もないけどね」

 

残念とばかりに落ち込むモノクマの言った事に、「どういう事?」と春川が呟いた。

 

「ん?あぁ、なんで見る影がないかって言った事?危険物とか、意外な凶器になるものとかのプログラムを消されちゃったんだよね。だから、仕返しとしてプログラム世界に外の世界の秘密を隠してあげたよ」

 

「はぁ!?いつの間にそんな事を…!?」

 

焦ってプログラムを確認してみると、アタシがみんなを誘っている時間帯に思い出しライトのプログラムが書き加えられていた。

削除しようにも、プログラムにロックが付いていて削除できないし、肝心の植え付けられる記憶の内容も見れない。

 

「それを見つければ、学園の外がどうなっているのか分かるかもねー」

 

うぷぷ…と笑って姿を眩ますモノクマを見送り、アタシはどうするか考える。

削除できないなら、みんなが見つけないようにする?

それともいっその事…

 

「…使うの止めるか」

 

思わず声に出ていたのか、「えー…!」と嘆くような声が聞こえた。

 

「その秘密を知る事で、このコロシアイに怯える生活に終止符を打てるかもしれないのに?入間ちゃんはそれでいいの?」

 

「王馬の言う事に賛同する形にもなるが、オレはそのプログラム世界ってのも気になるしな!」

 

そう言った百田に、春川が「またバカが始まった…」と呆れたように呟いた。

呆れるぐらいなら止めて…って、やった所で止まらないか。

 

「むむむ…正直、入間さんが作ったゲームを男死もやるってのが嫌ですけれど、よく考えれば転子達が楽しんでいる間に男死達に探させればいいんですよね!」

 

さり気なく男子がパシリ確定な発言をしながら、茶柱もプログラム世界に行きたいという意志を示す。

 

「ほれ、早く準備するのじゃ!でなければ、ウチの魔法で無理矢理にでもやらせる事になるぞ?」

 

それはそれで、絶対に嫌だな。

魔法使えないとは分かってるけど…。

 

「…分かったから、お前ら椅子に座れ。装置の説明するから」

 

 

多数決的にも、アタシの負け確定っぽかった。

まぁ…多分なんとかなるだろ。

椅子に座って装置と、赤と青のコードを手に取る。

 

「頭に被る装置の裏側に端子が2つあるだろ?そこに、コンピューターと繋がる2本のコードを刺すんだ。赤いコードが意識のコードで、青いコードが記憶のコード。この2つのコードがテメーらの意識をプログラム世界にぶっ込んでくれるってわけだ」

 

「で、どっちのコードをどっちに刺すの?」

 

自分の分を刺しながら、アタシは「右に赤。左に青。間違えると何らかのバグが起きるからな」と言っておいた。

 

「あの…なんらかのバグって、例えばなんですか?」

 

「あー…プログラム世界での記憶が引き継げないとかじゃね?」

 

キーボの問いに答えながら、周りをグルリと見渡す。

みんなが慎重な手付きで装置にコードを刺していくのを見て、思わず笑いがこみ上げる。

夢野に至っては「右はお箸を持つ方じゃから…」と何度も確認していた。

 

「それじゃ、後は装置を頭から被るだけだ。で、こめかみのスイッチを入れたら…そこはもう、ゲームの世界だぜ!アバターはオレ様ができるだけオメーらに似せて作ったけど、期待はすんなよ!」

 

「期待しろじゃないんだ…」

 

苦笑いでそう言いながら、赤松は装置を被ってスイッチを押す。

それに続くように、他のメンバーも装置を被ってスイッチを押していく。

みんながログインしたかどうかをプログラムの履歴から確認し、アタシを除いた全員が無事にログインしたのを見ると、アタシも装置を被ってプログラム世界に入った。

 

 

 

 

 

×××××

 

 

「ねぇ、入間。どういう事?」

 

「そうじゃ!なんじゃこの姿は!」

 

プログラム世界で作られた館のサロンにログインするなり、春川と夢野に詰め寄られた。

 

「言ったじゃねーか!アバターについては期待するなって!」

 

二頭身のみんなの姿。

それが、このプログラム世界でのみんなの姿だ。

 

「いいえ、むしろ逆ですよ!夢野さんがこんなに可愛くなるなんて…!」

 

「転子はちょっと落ち着きなよー」

 

夢野を抱きしめる茶柱に、アンジーがストップをかけるが聞いていないのか、茶柱は抱きしめたままだ。

…最終的に、夢野が自力で引き剥がしたが。

 

「夢野さんが、茶柱さんを引き剥がした…?」

 

最原の言葉を拾った春川が「で、どういう事なの?」と、アタシに更に詰め寄る。

ヤバイ…大事な事を言い忘れてた。

 

「えっと…このプログラム世界では、みんなの力は均等にしててだな」

 

「そんな、困るよ!ゴン太がみんなを守れなくなっちゃう!」

 

あぁ、うん。

とりあえず、後出しの説明だけでも先にさせてくれない?

 

「後は、特徴としては物が壊れない。アバターに傷がつかない。んでもって、現実世界の本体とアバターは五感を共用しているから、プログラム世界でアバターがダメージを受けると現実のダメージと錯覚されるんだ」

 

「じゃあ、王馬に殴られたキーボが痛いと思ったのって、そういう理由だったんだ。でもさ、そういうのは最初に言ってくれない?」

 

ジロリと睨みつけてくる春川に、「ご、ごめんなさい…」と謝る。

説明するの、本当に忘れてた。

 

「それよりも、早く外の世界の秘密ってやつを見つけて、みんなで入間さんが作ったゲームで遊ぼうよ」

 

「そうですね。そのために、この世界について知る必要がありますし…地図とかはありますか?」

 

「地図なら、この部屋を出た廊下の壁に用意しておいた。それから…」

 

アタシは一度言葉を切ると部屋の電話機を指差し、「ログアウトする時は、あそこの電話機に自分の名前を言うだけだ。つまり、ログインもログアウトもこの部屋を経由するって訳だ」とログアウトの方法を教えておいた。

 

「それじゃ、地図を見に行きましょう。入間さん、案内してくれる?」

 

「あぁ、こっちだ」

 

東条に促され、歩き出した所でアタシは違和感を感じた。

ポケットに何かが入っている…。

 

今ここで確かめる訳にもいかず、後で確認しようとアタシは部屋から廊下に出て「あれだ」とみんなに壁に貼ってある2枚の地図を見せた。

 

「小さい方は館の地図だ。館ってのはこの場所の事で、1階にはさっき居たサロンと、この廊下…ってか、玄関ホール。食堂と厨房に必要ねーけどトイレがある。で、2階はなくて、屋上があるぐらいだ」

 

続けて、もう1枚の地図も簡単に説明しておく。

 

「こっちの大きい方は、プログラム世界全体の地図だ。今いる館の隣にはやたらと物でゴチャゴチャしてる教会があるぐらいだけどな。あぁ、それから…この地図の端と端は繋がってるんだ。所謂、ループ世界ってやつな。」

 

説明に必要なのはこれぐらいだろ、とアタシが納得していると『ひゃーっひゃっひゃっ!』って笑い声がアタシの脳内に聞こえた。

 

「えっ…」

 

サァッ…っと体温が低くなるのを感じながら、アタシはどういう事なんだろうとグルグル考え込んだ。

 

なんで、なんで、なんで、なんで!?

何が起きた?幻聴??

 

『あ?オメーが言ったんじゃねーか、ポンコツが。プログラム世界に意識をプログラム化させて転送させるって。つまり、普段はオメーによって奥底に追いやられたオレ様の意識だって、このプログラム世界ではオメーと同じ存在としていられるんだよ!まっ、オレ様の声はオメーにしか聞こえないし、思ってる事を共有したりするぐらいだけどな!』

 

確かに、そう言ったけど!

こんな事になるなんて予想してなかったというか…えっと。

 

「おい、入間。どーした?急に黙り込んでよ」

 

「えっ!?あぁ…そ、そうそう!外にはこのゲームの主役とも言える動物がいるから、触れ合って遊びながら世界の秘密を探す事もできるからな!」

 

焦りながら答えたアタシが愉快なのか、『んだよ、ビビりすぎてチビったのかよ?』なんて笑う声が頭の中で響く。

 

ちょっと黙ってくれないかな?

ほら…思わず口元とか縫い付けたくなるからさ。

 

『じ、自分にそんな事を思われるなんてぇ…』

 

あっ、ダメだ。

本来の入間にとっては、ご褒美みたいなものになってたわ。

 



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気だるき異世界を生かせ生きるだけ⑦

やっと…絶望のデスロードのモノパッド着せ替えをゲットしました。
な、長かったぜ…。何度諦めそうになったやら。
まぐれでクリアできたとはいえ、嬉しくて泣きそうになった。


これからどうしようか…なんて思いながら、アタシは脳内でノンストップで繰り広げられる下ネタやら罵倒の嵐を聞き流していた。

あの後、王馬はゴン太を連れて別行動。

外の世界の秘密(笑)を探す為に、他のみんなは屋上に行ったり、教会の方に行っている。

 

プログラム世界は雪が降ってて寒い。

外にいれば寒さのせいで体が震えてるだけと言えるけれど、アタシがいるのは館の中なので…別の意味で震えていた。

マジでどうしよう。

 

玄関ホールで1人、いろいろ考えて頭を抱え込む。

その元凶なんかは、アタシが何も言わない事に落ち込みだしたのか、グスンと鼻を啜るような音がした。

 

『おい、無視すんなよぉ…。オレ様とお前の仲なんだからぁ…』

 

どんな仲だよ。

主人格と憑依人格の仲って言いたいの?

…自分で言っておいてだげど、意味が分からない。

 

『ひぐぅっ!せ、せっかくオレ様がお前の為に、色々してやったのにぃ…。ポケットに携帯電話を忍ばせておいたり、お前が寝てる間にカス共のアバターを作ったり…協力してやったのにぃ…』

 

「お前かよっ!?」

 

思わず声に出してしまい、慌てて手で口を抑えた。

聞かれてない?

うん…大丈夫そうだな。

周りには誰もいない。

そっか、ポケットの中は携帯電話なのか…。

 

『い、いきなり大きな声を出すんじゃねーよ!で、でもぉ、ホント苦労したんだよ?だって、オレ様って普段意識の奥底にいるだろ?だから、お前に気づかれないようにプログラム作るの大変だったんだからな!しかも、そう長くは表に出られねーから、余計にな!!』

 

へぇ…お疲れ。

 

『もうちょと誉めてくれたって、いいじゃねーかよぉ。外に出るための秘密の凶器も用意してやったのにぃ…』

 

「……は?」

 

今なんて言った?

秘密の凶器って言った?

ちょっと、詳しく教えて貰っていいかな?

ほら、アタシと入間の仲なんでしょ?

さっさと、ゲロりなよ。

 

『い、言います!すぐに言いますぅ!食堂の扉の近くに時計があるだろ?そいつを、目玉カッ開いて見てみやがれ!』

 

玄関ホールにポツンと置かれている変わった形の時計に、言われた通りに近づいて見てみる。

 

「特に変わった所なんて見当たらねーけど?」

 

『テメーの目は節穴か!?時計の針をよーく見やがれ!!』

 

脳内で騒ぎ立てる入間の声に「一言余計だ」と文句を言いながら、アタシはゆっくり手を伸ばして時計に触れる。

すると時計の長針が、カラン…と音をたてて足下に落ちた。

 

「……え?」

 

あれ?もしかして壊した?

いや、でもプログラム世界では物は壊れないというルールがあるんだし…えっ、なんで長針が落ちた!?

どういう事だ、答えろ入間!

 

『ひゃーっひゃっひゃっ!とんだ間抜け面だな!そいつが、オレ様がお前の為に用意した秘密の凶器だ!時計の長針だけあらかじめ時計とは別の物…ナイフとしてプログラムをしておいてだな…』

 

「あっ、だいたい分かった」

 

『最後まで言わせろよ!』

 

騒ぐ声を無視して、長針を手に取る。

屋上にいるメンバーが玄関ホールに戻ってくる前に、時計に戻しておこう。

 

『な、なんでぇ!?ここで誰かヤッちまえやがれよ!でないと、裏切られて殺されるかもしれねーんだぞ!?だったら、初回特典が有効かもしれねー内に、一緒に出ようよぉ』

 

アタシの行動に、なんでなんでと頭の中で騒がれる。

あー…もう。

そうやって、誰も信じなかったから…犯行を犯そうとして逆にゴン太に殺される結果になるんだよ。

そもそも、あんたが行きたがってる外は……

 

『………』

 

「ごめん、変な事言った。忘れろ」

 

黙り込んだ声からは、返事は返ってこない。

それを良い事に、アタシは時計に長針を戻そうとして…止めた。

誰かがコレに気づいたら、それはそれで面倒な事になりそうだ。

だったら、良い隠し場所を見つけるまで持っておこう。

 

携帯電話と同じようにポケットに入れて、アタシは外に飛び出して……目を疑った。

 

「ん?入間か。調度良い時に来たな。コイツらの遊び道具とかねーか?」

 

身体の自由を大量の猫に奪われた星が、アタシの目の前で「やれやれ…」と言いながら満更でもない顔をしていた。

…不覚にも、可愛いなんて思ったのは秘密だ。

 

「や…悪いな、その…遊び道具はなくてよぉ」

 

「そうか。まぁ、俺はこの有り様で動けないから、代わりに外の秘密を探してきてくれるか?」

 

「あ、当たり前だろ!テメーはそいつらとニャンニャンして待ってろ!」

 

走ってその場から離れると、アタシは肩を震わせて笑っていた。

だって、あの星が猫まみれって。

似合いすぎてて辛かった。

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

「この辺…には誰もいねーのか?」

 

館の裏手の方をキョロキョロしながら歩く。

最初にログインしてから、それなりに時間も経ってて、それなりに人数も沢山いるのに、未だに誰もモノクマによってプログラム世界に置かれた思い出しライトを見つけていない。

いや、王馬とゴン太はもう見つけた後である可能性が高いな。

 

「うーん…」

 

いっそ、外の世界の秘密を見つけたって嘘をついて、みんなを集める?

それとも、携帯電話を使って強制ログアウトさせる…?

唸りながらアレコレ考えを上げてみるも、最善策なんてアタシには分からない。

 

尻尾を振りながらすり寄ってきた子犬の背を撫でながら、空いている片方の手で雪を掻き分けて穴を掘る。

うー…雪冷たい。

 

ある程度掘り終えると、アタシはポケットから成り行きで手にしてしまった時計の長針を取り出した。

 

『本当にいいのかよ?最初で最後のチャンスなんだぞ?』

 

さっきまで何も言ってこなかった入間の声が、また聞こえてきた。

思わず、長針を握る手に力が入る。

チャンスなんて、アタシには関係ない。

けど、コロシイを起こしたら、お前が後悔するのは確かだ。

 

『オレ様達の発明は、世界を救えるんだぞ!』

 

そんな言葉と同時に、撫でていた子犬が急に姿勢を低くして威嚇するように唸りだす。

アタシが長針なんか出したから、警戒しているんだろう。

ごめん、すぐに片付けるから。

 

「今、外に出たって…絶望するだけだ」

 

そう言った瞬間、すぐ後ろで何かがドサッと落ちる音がした。

なんだろうと思い首を動かして確認すると、すぐ側にスノコが落ちていた。

そして、アタシの目の前にはそのスノコを持っていたと思われるゴン太がいた。

なぜか、不自然に両手を上に上げていたけれど。

 

「ゴン太と同じで、入間さんも思い出したの?思わず自殺しそうになっちゃうあの事を…。ゴン太は、入間さんを守れなかったんだね」

 

グスッグスッと目の前で泣き出すゴン太に、アタシは目を丸くするしかできない。

ほら、このスノコで何をしようとしてたんだ…とか、なんか盛大に勘違いされてる気がするけど、何も言わない方がいいかな…とか。

 

「王馬君から、入間さんが誰かを殺そうとしているって聞いて、でも、外に出たら入間さんはきっと絶望しちゃうと思ったから…。だからゴン太がそうさせない為に…でも、入間さんはもう外の事を知ってて。ゴン太は守れなかったんだ!ゴン太は馬鹿だ!」

 

『お、オレ様のやる事が、あのツルショタにバレてやがったのかよ!?』

 

目の前と頭の中で、一斉に喋られる。

今すぐ止めて。

アタシはパニック議論が苦手なんだよ。

はら、何言ってるかなんて聞き取れないし。

 

あぁ…この状況どうしよう。

まぁ、やることなんて最初から1つなんだけどな。

 

アタシはポケットから携帯電話を取り出すと、それに向かって「獄原ゴン太」と告げた。

すると、ゴン太の足下から光が現れる。

そしてそれが消えた時には、ゴン太のアバターはアタシの目の前から消えていた。

 

さて、どんどんいこう。

続けてどんどん携帯電話に名前を言っていく。

 

王馬、赤松、最原、東条、星、夜長、天海、茶柱、真宮寺、夢野、キーボ、白銀、百田、春川…。

 

みんな仲良く強制ログアウトだ。

 

『なぁ、なんで外に出たら絶望するんだよ?』

 

自分の名前を言おうとしたら、そんな疑問を脳内で聞かれる。

 

 

「……入間美兎」

 

 

でも、アタシは答えずにログアウトした。

知らない方が幸せって事もあるからな。

 

 

 

 

 

 

 

被っていた装置を頭から外すと、真っ先に視界に入ったのは困惑したみんなの顔だった。

 

「あの…気づいたらログアウトさせられてたんですけど、転子だけじゃないんですよね?」

 

「もっちもちー。アンジーもだよー」

 

「ゴン太は気づいたら寝てたから、分からないんだ…ごめん」

 

装置を置いて椅子から立ち上がると、アタシは適当にコンピューターを操作して「あー…」と言葉を濁した。

 

「どうした?原因は分かったのか?」

 

後ろから百田がコンピューターを覗き込むも、プログラム言語の羅列に「なんだこれ…」と顔を引きつらせた。

そんな百田をコンピューターから引き剥がしながら、春川が「で、なんだったの?」と訪ねてくる。

 

「あー…エラーに対しての防衛みたいなやつでの強制ログアウトだな。プログラムが幾つかエラーでおかしくなってる。修復には結構時間かかるぞ…」

 

「エラー?」

 

隣からプログラムを覗き込んできた王馬に、画面を見せる。

変な嘘はバレるだろうし、本当の事を混ぜて嘘をつくしかない。

 

「ほら、ここ…誰かがログインの際に何らかのエラーが起きたらしくてな。それを修復しようとプログラムが動いたみたいなんだが…結果はご覧の有り様だけどな」

 

「ふーん…」

 

上手く騙せたかは分からないけれど、たぶんバレてる。

何も言わないのが、どうしてかは知らないけれど。

 

「ククク…僕としては、もう少しあの世界で猫と戯れる星君を見ていたかったネ」

 

「やめろ。照れるじゃねーか…」

 

「ゴン太は寝てたから分からないけれど、みんなが楽しめたなら良かったんだと思うよ!」

 

みんなが喋り出す中で、アタシは装置とコードを回収していく。

…ゴン太がコードの挿入場所を間違えたのは言わずもがな。

 

「はい、これで全部だよね?」

 

同じように装置とコードを回収してくれていた赤松から、残りを受け取る。

よく見れば東条を中心にして、みんなも椅子を集めたりして片付けてくれている。

さすがは、仕事が早いメイドとして定評のある東条。

そんな東条の活躍もあり、片付けはすぐに終わって解散となった。

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

 

研究教室に用意していたハンモックに座って、ぼーっとする。

そうしていると、扉がゆっくり開いた。

やって来た来客に、アタシは「待ってたぜ!」と笑顔で歓迎する。

 

「で…大事な話しって何?」

 

来客…春川は鋭い眼光でアタシを射抜く。

どうして此処に春川が来たのか…アタシが片付けの後に大事な話しがあるから、1人で来てほしいと頼んだからだ。

約束通り1人で来てくれたらしい。

これは、信頼されてる…って自惚れていいのかな?

それじゃ…アタシも信頼には信頼で応えよう。

これから話すのは、アタシなりの信頼だ。

 

「これから話すのは、他のやつらには他言無用で頼む。それぐらい真剣でヤベー話しなんだ」

 

試作品として、ずっと使わずにいたエレクトボムを起動させながらアタシがそう言うと、春川の目が更に鋭くなった。

 

「今使ったのは、試作品のやつだけどエレクトボムって言ってな…詳しい事は時間がねーから省くぞ?で、大事な話しってやつだけど…オレ様はモノクマのコロシアイ生活を終わらせる為に首謀者の乗っ取りを計画しているんだ」

 

「首謀者の…乗っ取り?」

 

春川が目を見開くと同時に、扉の方からガタンと物音がした。

2人して目を合わせて扉を開けると、そこには座り込んだ王馬の姿があった。

 

「やっほー、入間ちゃんに春川ちゃん。2人して内緒話し?オレも混ぜてー!」

 

思わず、顔を手で覆う。

聞かれたくない人間の上から2番目の王馬に、聞かれた。

 

「どうするの?」

 

「…時間勿体ないし、巻き込むか」

 

「にしし、そうこなくっちゃ」

 

あーあ、最初の予定では春川だけに言うつもりだったのになぁ…。

でも、心のどこかでこうなるなと理解していたからか、そこまでショックは大きくなかった。

そんな事で急遽、王馬も加えた3人でアタシの研究教室の中に。

時計でエレクトボムの効力の残り時間を確認しながら、アタシは「で、一番ヤバイ話しだけど…」と一度前置きを置いた。

 

「超高校級の発明家として、思い出しライトを調べたけど……あれは、記憶を思い出すようなヤツじゃなかった。あれは、記憶を植え付けて、オレ様達に過去にあった事として思い出したように錯覚させるとんでもねーやつだったんだ」

 

「えっ…」

 

「嘘じゃなさそうだね。入間ちゃん、続けて」

 

絶句する春川に対して、王馬はいつも通り…じゃないな。

王馬は真顔で話しを催促してきた。

 

「…で、さっき春川に話した首謀者の乗っ取りに話しに繋がるんだけどな。他の連中にオレ様が首謀者だと嘘をついて、嘘の証拠を見せる。そしたら、みんなはオレ様が首謀者だと思うだろ?」

 

「なるほどね、入間ちゃんが首謀者だと名乗る事で、本物の首謀者が目障りな入間ちゃんを消そうと何らかの形で行動を起こすかもしれないって事だよね?それが、記憶を植え付ける思い出しライトかもしれない…って事でいい?」

 

王馬が話しを飲み込むのが早くて助かる。

その一方で、アタシの腕を掴む春川は話しを飲み込めても納得できていないようだった。

 

「でも、それをやるのは入間じゃなくても…」

 

春川が辛そうな表情をして、アタシの腕を掴む手に力を入れる。

あの、痛いです。

 

「そうそう…例えば、オレとかね」

 

それはできれば止めてほしい。

 

「そうだよ、入間。盗み聞きしようとしてた、このクソヤローに代わりに痛い目に合ってもらいなよ」

 

そこは、クソヤローだからこそ信用できないって言ってほしかったかな。

心の中で涙を流している間に、『首謀者の乗っ取りを実行するのは王馬』と2人の中で決定され、それを元に話しが進められていく。

なんでアタシってこう…弱いのかな?

 

「ったく…んじゃ、残り時間の問題で一気に話していくぞ。後から確認ってのは、絶対になしだからな」

 

「その前に、首謀者の乗っ取りを考えたのはどうしてなの?思い出しライトだけが理由なんて思えないんだけど」

 

そう聞いてきた春川に、手榴弾のような発明品を渡しながらアタシは「んなの、決まってんだろ」と笑ってみせた。

 

「このコロシアイ生活をそろそろ終わらせる為…って言いてーけどよ、このオレ様を一瞬の気の迷いとはいえ、コロシアイに走らせようとした仕返しだ」

 

これは、何があっても許せない事だからね。



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休題

休題の存在忘れてて、慌ててネタ作りました。
いつもみたいに、執筆中機能使ってチマチマ書く予定だったのですが、なんか「もう、これでいいや」となりまして…。

いつもより、ふざけてばっかりの休題ですが、どぞ。


 

白銀:もしみんながRPGのキャラなら…ってのを考えたんだけど…聞いてくれる!?聞いてくれるよね!?

 

百田:面白そうだな!で、誰がどんなキャラなんだ?

 

最原:百田君…

 

白銀:今思いついているのはね、この通りだよ。

    最原君→新米剣士(主人公の勇者)

    夢野さん→魔法使い

    茶柱さん→武道家

    星君→ガンナー

    百田君→主人公の師匠

    春川さん→主人公の姉弟子

    東条さん→お城で働くメイド

 

赤松:凄い!最原君、勇者になってるよ!

 

百田:さすがは、オレの助手だな!

 

春川:まっ、最初は頼りないけど成長して強くなる…って勇者は、王道っぽくていいんじゃない?

 

最原:そう、かな?

 

キーボ:それで、名前の上がってない人達の役割を決めたらいいんですね?

 

星:それよりも、なんで俺はガンナーなのか聞いてもいいか?

 

白銀:ラケットとボールがあれば、「狙った獲物は逃がさない」って感じのスナイパーが似合うと思って!

 

星:なるほどな

 

入間:で…残ったオレ様達の役割を決めるんだったか?

 

夜長:じゃあ、アンジーは神様にお祈りを捧げる神父をやるねー

 

夢野:うむ。ウチの魔法的にも、アンジーにはそれがピッタリじゃ

 

茶柱:でしたら、後は赤松さんと入間さん、白銀さんですね!

 

王馬:えっ、オレ達は?

 

茶柱:男死の事なんて、転子は知りませんよ!

 

キーボ:でしたら、その3人を先に決めていきましょう

 

白銀:あっ、だったらわたしは村娘とか、ナレーションかな。ほら、地味だし

 

天海:それじゃ、後は赤松さんと入間さんっすね

 

真宮寺:入間さんは、武器商人とか似合いそうだネ

 

入間:じゃ、それでいいぜ

 

東条:だったら、赤松さんは私が仕えるお姫様なんてどうかしら?

 

獄原:うん。ゴン太も、それが赤松さんにピッタリだと思うよ!

 

赤松:な、なんか照れるなぁ…

 

白銀:案外すんなりと決まって行ったね…

 

入間:それじゃ、残りを決めていくか

 

夢野:ならば、王馬は倒すべき魔王なんてどうじゃ!?

 

最原:あー…

 

王馬:ちょっと、最原ちゃん!

   そこは否定してよねー!

 

百田:でも、ある意味ピッタリなんだよな…

 

キーボ:でしたら、ボクはどんな役がピッタリですか?

 

王馬:えっ?キー坊はセーブポイントに決まってるじゃん

 

キーボ:ロボット差別ですよ!

 

星:そう騒ぐな。

  だったら、僧侶なんてどうだ?

 

赤松:あっ、これで旅のパーティー揃ったんじゃない?

 

春川:剣士、魔法使い、武道家、ガンナー、僧侶…。

   確かに、バランスは悪くなさそうだね

 

百田:よーし。それじゃゴン太は、オレと同じで名のある剣士だ!

 

春川:勇者の師匠ってだけで、誰もそんな事言ってないけど…

 

百田:細かい事は気にすんなよ、ハルマキ

 

天海:あっ、真宮寺君はアイテム商人なんてどうっすかね?

 

入間:怪しいアイテムとかもありそうじゃねーか?

 

真宮寺:人の事を言えるのかイ?

 

最原:それじゃあ、後は天海君だね

 

白銀:あっ、勇者が仲間を集めるのに必要な店の人とかどうかな?

 

赤松:みんなが集まりやすい、宿とか?

 

入間:ドラ○エか…

 

白銀:じゃあ、これで役は決まったし…始めようか!

 

獄原:えっと…何を?

 

白銀:もちろん、この配役でみんなでRPGの役になりきるんだよ!

 

王馬:だったら、冒険の書のキー坊には出番がないね

 

キーボ:だからっ、ボクは記録係りじゃないですって!

 

 

 

白銀:小さいながらも、数多くの歴史を連ねる小国、サイシュウ王国に、魔の手が伸びようとしていた…

 

最原:(あっ、始まってたんだ)

 

東条:姫、隣国は魔王軍により壊滅状態。

   この国に侵略してくるのも時間の問題です

 

赤松:(ええっと…)だったら、魔王をやっつけてくれる勇者を探さないとね!

 

東条:それについては、もう準備しておいたわ

 

赤松:えっ、もう?

 

東条:えぇ。この城で騎士団長を勤めた事のある百田君のお弟子さんよ

 

赤松:それなら、心強いね!

 

東条:でも、問題があって…彼1人じゃ不安なのよ

 

赤松:問題?(最原君に、問題なんてなさそうだけどな…)

 

東条:えぇ…自分に自信が無さ過ぎて、とても魔王を倒せるような子にはみ見えないのよ

 

最原:(くっ…)

 

百田:(しっかりしろ、終一!まだ冒険は始まってないぞ!)

 

赤松:き、きっと大丈夫だよ!

   私はやってくれるって、信じてるからさ!

 

最原:(あ…赤松さんっ!)

 

王馬:(落ち込んだり喜んだり、最原ちゃんも大変だね)

 

 

白銀:こうして、サイシュウ王国の命運は1人の少年に託される事になったのだった…

 

 

百田:つー訳でだ!終一、頑張って魔王を倒して来い!

 

最原:う…うん

 

春川:嫌なら、代わってあげるけど?

 

最原:いや…大丈夫だよ、ありがとう

 

春川:そっか…

 

百田:んじゃ、打倒!魔王!って事で仲間を集めないとな!

 

獄原:だったら、ゴン太に任せてよ!

   ゴン太の友達に、良い人を紹介してくれる人がいるんだ!

 

最原:それじゃあ、お願いしようかな

 

白銀:こうして、勇者は仲間を求めて街の中を歩いた…

 

王馬:テレレレーン。やっほー、最原ちゃん!

   魔王の登場だよ!!

 

入間:(なんでだよ!)

 

赤松:(気持ちは分かるけど、落ち着いて!)

 

最原:………

 

東条:(一番困っているのは、最原君ね)

 

王馬:あっ、別に今からボス戦ってわけじゃないよ?

   今日は、お忍びで街に遊びに来ただけだからさ!

 

入間:(そんな魔王が居てたまるか!)

 

天海:(まぁまぁ、落ち着くっす)

 

王馬:じゃ、そういう事だからバイバーイ最原ちゃん!

 

最原:なんだったんだ…

 

茶柱:(これだから、男死はっ!)

 

夢野:(落ち着くのじゃ、転子)

 

獄原:えっと、今の王馬君は魔王なんだよね?

   捕まえた方が良かったのかな?

 

最原:うーん…別に今は、野放しでもいいんじゃないかな?

 

王馬:(野放しって…動物みたいに言わないでよ)

 

 

白銀:…トラブルに遭遇しながらも、勇者は街のある店にたたどり着くと、案内してくれた騎士とはその場で別れ、店の中に入って行った…

 

 

天海:へいらっしゃい!

   今日は新鮮な魚が入ったばかりなんで、味は保証するっすよ

 

最原:あっ…うん

 

入間:(………)

 

春川:(言いたい事があるなら、無理しないで言えば?)

 

入間:(なんで、店のチョイスが寿司屋なんだよ!?)

 

百田:(いいじゃねぇか。寿司美味いし)

 

最原:あっ、あのさ…心強い味方が欲しいんだ。

   だから、力になってくれるような人を紹介してもらえないかな?

 

天海:だったら、良い人達が今日は集まってるっすよ

 

夢野:カーッカッカッ!

   ウチこそは、全ての魔法を極めた大魔法使いなのじゃ!

 

茶柱:男死は、転子のネオ合気道でやっつけますよ!

 

最原:あれ?武道家って設定じゃなかったっけ…

 

星:まぁ、いいじゃねぇか。

 

キーボ:そうですね。

    何かあれば、遠慮せずにボクに言ってください

 

 

白銀:こうして、勇者は寿司屋で魔法使い、武道家、ガンナー、僧侶という心強い味方と出会ったのであった…

 

 

天海:それじゃ、次はアイテムと武器の購入っすね。

   ここの向かいに、アイテム商人と武器商人がいるっすよ

 

最原:(寿司屋の向かいに、アイテムと武器の店って…)

 

赤松:(考えてみたら、凄く変な店並びだね)

 

 

白銀:そんな訳で、勇者はアイテム屋へと向かったのだった…(うーん、どこからこんなおかしな事になったんだろ?)

 

 

真宮寺:クックック…よく来たネ

 

夢野:MPを回復させるのに必要なアイテムはあるのか?

 

真宮寺:もちろん…この清めの塩なんてどうかナ?

 

入間:………

 

キーボ:(あの、隣の店で入間さんが何か堪えてますけど…)

 

星:(あいつはあいつで、何かと戦ってるんだろ。見守ってやれ)

 

茶柱:ぐぬぬ。一応聞きますけれど、攻撃力を上げるような物は…

 

真宮寺:フム。なら、こちらの食塩なんてどうかナ?

 

入間:…~っ!

 

最原:(入間さん…凄く必死になってる)

 

星:(あれは、そろそろ限界だろうな)

 

真宮寺:僕としてオススメなのは、MPとHPを回復させる岩塩だヨ

 

入間:なんで、テメーはさっきから塩ばっかり商品として出してんだよ!?

 

最原:(ツッコミの我慢が限界だったんだね…)

 

星:最原、武器の方も覗いてみようぜ

 

最原:うん…そうだね

 

夢野:入間よ、武器を見せるのじゃ!

 

入間:あぁ…武器だっけ?正直、良いのなんてねーぞ?

 

茶柱:それを決めるのは、転子達ですよ

 

入間:…じゃ、まずは砲丸

 

赤松:(……)

 

白銀:(……)

 

天海:(なんか、急に頭上が怖くなってきたっす)

 

入間:んで、ロープ

 

東条:(なにかしら、あの嫌な感じ)

 

星:(あれは使わない方が良さそうだな)

 

入間:金箔の模擬刀

 

真宮寺:……

 

アンジー:(主は言いました…あれは、捨てるべきだと)

 

入間:鎌

 

真宮寺:(なんでかな…姉さんが見えるヨ)

 

茶柱:(うぅ、なにやら悪寒が…)

 

入間:…トイレットペーパー

 

獄原:(あれって、武器なの?)

 

春川:(そんなの聞いた事ないけど…)

 

入間:で、プレス機だな

 

百田:(あれって、持ち運べない武器じゃねーか?)

 

王馬:(入間ちゃんの武器のチョイスがおかしい)

 

キーボ:あの…魔王を倒すのに有効な武器とかはありますか?

 

最原:確かに、どれも王馬君相手じゃ危ないしね…

 

入間:だったら、ハリセンとか蠅たたきとか、スリッパだな!

 

東条:(王馬君…普段、入間さんに何をしているのかしら?)

 

王馬:(発明品の依頼してるだけだよー)

 

夜長:(じゃあ、なんであんな武器なんだろーねー?)

 

赤松:(でもさ、あれを見た限りだと…)

 

天海:(よく思われてないのは、確かっすね)

 

王馬:(…泣いていい?)

 

百田:(嘘泣きならやめろ)

 

王馬:(嘘じゃないよ!)

 

春川:(分かったから黙って)

 

獄原:(蠅たたきはダメだよ!虫さんが可哀想だよ!)

 

王馬:(誰もそんな話ししてないだろ!?)

 

夢野:なにやら、裏の方は賑やかじゃな…

 

茶柱:男死さえいなければ、転子も混ざるのですが…

 

最原:とりあえず、アイテムと武器はこんなのでいいのかな…

 

星:そうだな

 

キーボ:それでは、次にいきましょうか

 

夜長:やっほー、だったらアンジーの出番だよー。

   教会においでー

 

夢野:ならば、すぐに教会に出発じゃ!

 

 

白銀:そんな訳で、勇者一行は教会に行く事に

 

 

夜長:みんな来たー?

   だったら、神様にお祈りしようねー

 

白銀:黒髪赤眼の神様…っ!

 

最原:(あっ、白銀さんは村娘として教会にいるのか…)

 

夢野:イケメンの神様が…

 

茶柱:夢野さん!?

 

キーボ:あの、教会ってどんな役割があるんですか?

 

夜長:えっとねー、バッタンキューしたみんなを、復活させる場所として必要な場所だーって、つむぎは言ってたよー

 

最原:そ、そうなんだ?

 

百田:(スライムの敵が出てきそうだな!)

 

真宮寺:(確実に出てくるだろうね)

 

春川:(で…あいつらは何やってるの?)

 

天海:(いくっすよ、8連鎖!)

 

入間:(甘いぞ!12連鎖!!)

 

東条:(受けた任務は遂行してみせるわ…32連鎖!)

 

獄原:(上から沢山、お邪魔が落ちてきたよ!?)

 

赤松:(…入間さんが叫ばないように、ゲームをしてるんだって)

 

春川:(だからって、ぷよ○よしてるの?)

 

最原:(東条さんの連鎖数が凄い)

 

キーボ:それにしても、教会にしては雰囲気が暗くないですか?

 

夜長:気になるー?気になるー!

   にゃはは!だったら、教えてあげるー

 

王馬:それはね、ここが魔王の秘密のアジトだからだよ!

 

最原:

 

星:

 

キーボ:はい?

 

茶柱:えっ…?

 

夢野:なんじゃと!?

 

赤松:(最原君と星君が固まってる!)

 

東条:(まさか、もう侵攻していた設定だなんて!)

 

春川:(…ゲームするか、驚くかどっちかにすれば?)

 

百田:(オイオイ…どーなってやがる?)

 

天海:(なんで、ラストステージなんかに乗り込んだんすかね?)

 

 

王馬:という訳で…悪いけど、最原ちゃん達はここでゲームオーバーだよ

 

最原:いや…僕は負ける訳にはいかない。

   ゲームオーバーになるのは君だよ、王馬君

 

 

白銀:そして…戦いの火蓋は落とされるっ!

 

 

王馬:省略させてもらうけれど、オレの負けだね!

 

赤松:(省略って…いいのかな)

 

最原:あ、危ない戦いだった…

 

夢野:そうじゃな…叩いて被ってじゃんけんぽんは、もうやりたくない…MPの消費が激しすぎるんじゃ

 

茶柱:転子も、ババ抜きはしばらく控えます…

 

キーボ:懸命な判断だと思います

 

星:やれやれだな…

 

入間:(何があったのか、すっごく気になるじゃねーか…)

 

東条:(ババ抜きから始まって、人生ゲーム、叩いて被ってじゃんけんぽん、人狼ゲーム、カラオケ大会、コスプレ大会…あとは、宝探しで勝負をしていたわ)

 

入間:(勇者と魔王の関係はどうしたんだよ!?)

 

百田:(平和的でいいだろ?)

 

赤松:(最原君のコスプレ、可愛かったよ!)

 

入間:(そんな答え聞いてねー!)

 

春川:(諦めなよ)

 

真宮寺:(まぁ、カラオケ大会で勝負は決まってたしネ)

 

獄原:(キーボ君の歌を聞いてから、王馬君フラフラしてたもんね)

 

天海:(あれは破壊的っすよ…)

 

夜長:(終一だけ、平気だったもんねー)

 

白銀:(あれは地味に凄いよ…)

 

入間:(キーボだけで魔王倒せたんじゃねーの?)

 

キーボ:みなさん、ちゃんと聞こえてますからね

 

星:まぁ、先にこっちを終わらせてやろうぜ

 

夢野:そうじゃな

 

最原:王馬君…君の負けだ。

   この国の侵略は諦めるんだ

 

王馬:負けちゃったしね、いいよー

   あーあ、今もキー坊の歌声が耳に残ってる…

 

キーボ:ぐっ…

 

最原:キーボ君、気にしなくていいよ

 

茶柱:転子達も危なかったんですよ!?気にしてください!

 

キーボ:すみません…

 

 

白銀:こうして、サイシュウ王国の平和は地味に守られましたとさ…

 

 



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愛も青春もない旅立ち①

早速だけど、変な話しをするよ!
どーでもいいって人はスルーしてね!

実は僕…最近、変な夢を見るんだ。
あの歩く死神と言われてる探偵(見た目は子供のやつ)の世界に、なぜか最原君がいるという謎のクロスオーバー事件。
こうも頻繁に見てるとさ、何かの暗示なんじゃないかって考えて……今日、答えが出たんだ。

きっと、誰かがそんなクロスオーバー小説を書くんだ!っていう答えが!!(とか言いながら、そうだったらいいなという願望)



「おい、モノクマーズ!」

 

まだ朝のアナウンスには早い時間に目が覚めたアタシは、モノクマーズを呼び出そうと大声を上げた。

正直まだ眠いけれど、春川と王馬を巻き込んだあの作戦を実行するためには、モノクマーズをモノクマ側からコチラ側に引き込まないといけない。

話し合いで駄目なら、発明品を使った洗脳…なんて危ない考えをしながらモノクマーズ達を待つが、やってくる気配がない。

 

あれ?

 

「おーい…モノタロウ、モノキッド、モノスケ、モノファニー、モノダム??」

 

纏めて呼んだのがいけなかったのか?なんて思って、1体ずつ名前で呼んでみる。

それでも、モノクマーズが出てくる気配がない。

どうなってるんだ?

 

「はいはーい、呼んだー?」

 

やっと来た!なんて喜んだアタシだったけれど、部屋に姿を見せたのはモノクマだった。

 

「チェンジで」

 

「ちょっと、ボクを見るなり嫌そうな顔するのやめてくんない?それから、アイツラはもういないよ!」

 

「あん?モノクマーズがいないって、なんでだよ?」

 

いなくなるような理由なんて、何も思いつかない。

そもそも、ゲームと違って学級裁判が起きてないんだし、クロの処刑の巻き込まれ(?)みたいな形でモノクマーズがジャンクと化す事なんてないんだし……いない理由が分からない。

 

「うぷぷ…分からないって顔をしているね」

 

だって、マジで分からねーし。

 

「ほら、アイツラって最近ボクに反抗的だったじゃん?」

 

そうだったか?と記憶を辿ってみる。

……うん。分からん。

アタシからすれば、物分かりの良い子達(深い意味はない)だったけどなぁ?

 

「入間さんなら分かると思うけど、アイツラって勝手に百田クンの薬を渡しちゃったんだよね?それだけで、十分ボクからしたら勝手な事をした反逆行為なんだよ。おかげで、百田クンはピンピンしてるし、それを動機にしたコロシアイも起きそうにないし…」

 

いや、知らねーよ。

 

「だからね、罰として処刑しちゃったから…もう、いないんだよね」

 

罪に対して罰が重い。

アタシがモノクマーズだったら、確実にグレる。

 

それにしても…そうか。

モノクマーズがいないなら、アタシがする事は今の所はないな。

 

「いねーならいいわ。じゃーな」

 

ヒラヒラと手を振りながら、部屋を出ようとしたアタシに「ちょっとー!」とモノクマが立ちふさがった。

危なっ、危うく蹴る所だったじゃねーか!

 

「なんなのさ、ボクを呼びつけておいて用がないなんて!」

 

「いや、モノクマを呼んだ覚えはねーし」

 

行き先を塞ぐモノクマに思わず頭を抱えながら、アタシはどう対象しようか…と考える。

朝のアナウンス時間になれば、勝手にいなくなるとは思うけれど……どうしようか?

 

「所で入間さん。昨夜は研究教室で春川さんと何してたの?」

 

「……は?」

 

なんでそんな事を聞いてくるんだと思ったけれど、すぐにエレクトボムを使ったから何があったのかは知らないのか…と納得した。

王馬の名前が出なかった事に、内心で笑いながら「ただの話し」と告げるとモノクマを無理矢理どかして個室から出て、そのまま寄宿舎から中庭へと足を運ばせた。

 

…後ろから、モノクマの不満げな声がした気がするけど、聞こえなかった事にする。

 

8時まで研究教室に引きこもろうか…なんて考えながら歩いていると、背中を思いっきりバシーンと叩かれた事で、一瞬とはいえ思わずフラついた。

 

「よー、入間!朝っぱらから、なーに難しそうな顔をしてんだよ!んな事するぐれーなら、体を動かしてみるか?」

 

背中の痛みに思わず涙目になりながらも、親指を立てて笑う百田を見ていると、何言っても無駄だろうな…という諦めがすぐに浮かんだ。

その後ろでは、止めようとしたけど止められなかったと、少し拗ねたように髪を弄る春川の姿もあった。

 

「なんでテメーは、そんな朝からやる気に溢れてんだよ」

 

「なんたって、俺は宇宙に轟く百田解斗だからな!」

 

そんなの理由になってない。

なんだ、そのメチャクチャな理論。

 

「入間、考えるだけ無駄だから」

 

春川にそう言われたので、言われた通り考えるのを止めた。

あれでしょ『考えるな!感じろ!』っていうやつか。

 

「よーし、入間!お前も今から俺の助手だ!何を悩んでるのかは知らねーが、ボスである俺に任せろ!」

 

「えっ、やだ」

 

助手の件は悪いけれど、お断りさせていただく。

夜時間のトレーニングとかやりたくないんで。

 

 

 

×××××

 

 

 

本日の朝食会は、モノクマがプログラム世界に置いた外の世界の秘密とは何だったのかという議論から始まった。

まぁ、結局は赤松の「外に出る事ができたら分かるんだし、みんなでどうやって外に出るか考えようよ!」の一言で、すぐに議論は終わったけれど。

その後は、朝食会に参加していない王馬の姿を、今日は誰も見てないなという話しになったけれど、夢野が「あやつは隠れんぼの達人じゃからなぁ…」と呟くと、妙にみんなが納得していた。

 

思わず、それでいいのか…と春川と視線を合わせてしまったのは秘密だ。

 

そして今、モノクマが持ってきたガラクタアイテムを使うオブジェの捜索という事で、アタシは校舎の5階をウロウロしていた。

周りには誰もいない。

所謂ボッチ状態だけれど、もうすぐしたら最原とかが来るだろと思いながら、暇潰しにモノクマメダルを指で弾いて遊ぶ。

コイントスをしようにも、裏表が変わらないから弾くだけの遊びになってしまうけれど、それでも十分な時間潰しにはなっていた。

そうやって遊んでいる内に、やっと最原が赤松と天海を連れて、アタシのいる巨大な扉のオブジェにやって来た。

 

「あれ?入間さんもここが気になって来たの?」

 

「入間さんがオブジェ捜索に参加してるって、珍しいっすね」

 

「いや、もしかしたら此処で王馬君を探していたっていう可能性も…」

 

アタシを見るなり、3人とも驚いたように目を丸くしただけでなく、言いたい放題に思った事を口にしていく。

なんか、グサッときたのがあったんだけど…。

 

「オレ様がどこで何をしていようが、勝手だろ!?」

 

「確かにそうだけど…。今は真面目にしてほしいというか…」

 

それ、普段は不真面目という事か?

そんな馬鹿な事あるわけない。

 

「オレ様、他の所行ってくるから…」

 

言葉で傷つきました…と落ち込んだフリをして、アタシはフラフラとした足取りで歩く。

せっかくここで何かしてあげようと思っていたのに、綺麗サッパリ忘れたわ。

 

因みに、赤松が「サボっちゃ駄目だからね!」とか背中越しで叫んでたのがトドメの一撃だったりする。

 

 

 

 

 

今回のオブジェ捜索では、思い出しライトは見つからなかったようで…代わりにと言ってはなんだけど、ずっと前にゴン太が見つけた『いは うま』という文字が書かれた石が、『このせかいはおうまこきちのもの』という文章になっていたという報告が白銀とゴン太から上がった。

 

…王馬の行動が速すぎて、何度春川と顔を見合わせたか。

 

それにしても、作戦の話し合いの際に『首謀者を演じる準備とかしながら、誰にも会わないように動けよ』なんて言っておいたアタシの言葉を本当に実行してくれるとは…。

なんか、てっきり「あんなの嘘だよー」とか言って出てくるんじゃないかっておもったりしたけれど、余計な心配だったようだ。

 

たまには部屋でのんびり過ごそうと思い、寄宿舎の個室の扉を鍵を使って開ける。

 

 

 

「あっ、入間ちゃんお帰りー。ご飯にする?お風呂にする?それとも…オレ?」

 

 

 

すぐに見なかった事にして、鍵をかけ直したけどな!

なんでアタシの部屋にいるんだよ!

ピッキング!?ピッキングなのか!?

 

 

バンッ!と勢いよく扉を閉めたタイミングで、個室から出てきた真宮寺が「どうしたんだイ?」と怪しく笑いながら近づいて来る。

見られた?

王馬が部屋で寛いでいるの見られた?

冷や汗を流しながら「いや、何もねーぞ?」と笑って誤魔化す。

 

「その割には、随分焦っているみたいだケド?」

 

…相手が悪かった。

人間観察が趣味みたいな真宮寺を誤魔化すのは、やっぱり厳しいのか!?

あれ?その考えでやると、最原が来たらもっと面倒な事になるんじゃない?

 

「フム…何やら怪しいネ」

 

「テメーに比べたら、マシだっつーの!」

 

真宮寺を指差しながら、思わず反論する。

アタシは、あんたと違って怪しい人間じゃない!

 

 

「真宮寺君に入間さん?何してるの?」

 

 

はい、ここで自由行動として部屋から出てきた探偵が合流ー。

なんて嫌なタイミングで来るんだ。

 

「あぁ、最原君…。何やら、入間さんが挙動不審になっていてネ。その理由を探っていたんだヨ。まるで、何か見てはいけないモノを見てしまったような…ネ」

 

「見てはいけないモノ?」

 

口元に手を当てて考え込む最原と、アタシの行動から何があったのかと色々口にする真宮寺の姿に、思わず泣きそうになる。

なにこのタッグ。

確実にアタシの精神追い詰めてくる。

 

「うーん…。さっきからチラチラと部屋の方に視線がいってるし…入間さん、部屋に何かあったの?」

 

さ、さすがは探偵の最原…痛い所をついてくるじゃねーか。

だけど、アタシは黙秘権を行使する!

 

「部屋から出る時に一瞬だけ見た感じだと…まるで、『なんで?』とばかりの驚いたような表情だったネ」

 

……これヤバイ。

黙秘権使っても、バレる気がしてきたぞ?

なんでか、学級裁判で追い詰められてきたクロの気分なんだけど?

ねぇ、この話し合い終わらない?

止めよう?

 

「入間さん…もしかして、部屋に誰かいたんじゃないかな?」

 

それは、ブレインドライブで導き出した答えなのか?

いくらやる機会がないからって、こんな時にしなくていいから。

 

「となると…王馬君じゃないかナ?彼、ピッキングができるんだシ」

 

もう、このコンビやだ。

正解に辿り着きやがったよ。

この流れを変えるには、あれしかない。

ほら、王馬がよくやるやつ。

 

「そんなヤバイやつじゃねーって!ただ…部屋に置いていた発明品が誤作動してて…ほら、オレ様って天才発明家だろ?自分の失敗を受け入れるのができなかったというか…そのぉ…」

 

もっと、マシな嘘は浮かばなかったのかアタシ!

偽証にすらなってないじゃん!

こんなんじゃ、この2人を誤魔化す事なんて…

 

 

「そうなんだ…。勝手に勘違いしてごめん」

 

「ククク…そういう事なら、これ以上の詮索は止めるヨ」

 

 

 

できたわ。

「ま、紛らわしい事して悪かったな!」なんて引きつった笑みを浮かべながら、アタシは心に誓った。

 

 

このコンビは組ませちゃいけないと。

 



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愛も青春もない旅立ち②

スイパラのV3コラボカフェに行きたい…。
行きたいけれど家からめっちゃ遠いし、電車乗り換えだし、迷子になるし……

神様、あんた僕の事嫌いだろ(血涙)


徹夜で作った発明品を片手に、中庭を歩く。

才囚学園は本日も快晴。

絶好の作戦日和だ。

 

いや、あれはアタシが作った作戦って言えるようなものじゃないし…訂正。

絶好の共犯日和だ。

……どうしよう、何を言ってるのか自分で分からない。

なんだよ、共犯日和って。

 

「…なに変な顔してんの?」

 

寄宿舎から出てきた春川に、若干引かれながらそんな事を言われた。

落ち込みそうになるのをグッと堪えて、アタシは「ほらよ」と持っていた発明品を春川に差し出した。

 

「何これ?手榴弾?」

 

受け取った春川は首を傾げながらも発明品…ピンク色の派手な見た目をした手榴弾を確認すると、アタシに「で?どんな効力があるの?」と聞いてきた。

 

「そいつはな、エレクトボムの手榴弾タイプだ。まぁ、ボムと比べるとちょっと性能は落ちるけどな」

 

本当は造る気はなかったんだけど、念の為というわけで寝ないで造った。

アタシが持っているやつと、春川に渡した分だけが現在存在するエレクトボムだ。

試作品は、この前使ったのだから当然ない。

その時に春川には簡単にエレクトボムの説明もしてあるから、通信やセンサー、レーダーを妨害するという効力も当然把握済みなんだし、今更余計な説明は不要だろう。

 

「エレクトボム…この前、話す時に使ってたやつだっけ?私用に造ったんだ」

 

嬉しそうに口元を緩ませる春川だったが、アタシがジーッと見ている事に気づくとすぐに「で、実行するのって今日だっけ。準備とかあるの?」といつもの表情に戻ってしまった。

 

うーん…アタシとしては、もうちょっとだけ珍しくデレを見せた春川の顔が見たかったなぁ。

 

「準備なんて大層な事は特にねーぞ?けどよぉ…」

 

春川の制服の裾辺りをギュッと握りながら、アタシは思わず上目遣をししながら春川と目を合わせた。

 

「そのぉ…どうやって、みんなを誘えばいいのかなーって……」

 

ほら、自分から誘う事なんてキーボに「メンテナンスやんぞっ!」って感じでしかした事ないし?

この前のプログラムの事だって、どうやってみんなを誘ったのか覚えてないし?

いや、もしかしたらプログラムの時は入間の人格が出てくれたのかもしれないけれど、こっちに戻ってきてからは何も反応がないから、頼れないというか…できれば頼りたくないというか…。

 

「………」

 

信じられないとばかりに絶句する春川の視線が、めっちゃくちゃ怖かったとだけ明記しておこうかな。

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

「…っていうわけで、入間があの地下道を攻略する為の発明品を造ってたから、夜時間になったら裏庭のボイラー室に集合して欲しいんだって」

 

朝食を食べに集まったみんな(王馬を除く)に、春川がアタシが言うべき台詞を1から10まで説明してくれた。

時折、自分で言えって目線で訴えられたけれど、視線をわざと逸らして誤魔化した。

 

だってさ、アタシだったら春川みたいに説明もせずに『今日の夜時間になったら裏庭に集合しろ!』とか『そん時になったら分かる!』って感じでやってたと思うし。

……あれ?アタシってコミュ症だっけ?

うん、違う。大丈夫、コミュ症じゃない。

ただあれだ…説明するのがめんどくさかっただけだ。

ほら、徹夜してたから頭回らないだけ。

 

「じゃあ…みんなとここから出られるの!?」

 

真っ先に食いついてきたのは、赤松だ。

誰よりも、みんなとここから出たいと願っていたのだから、当然と言えば当然かもしれない。

あまりの嬉しさでが、うっすらと涙が滲んでいる。

 

 

…地下道ーーー絶望のデスロードの結末を知ってる身としては、罪悪感が酷い。

 

 

「じゃあ、その発明品を使えばゴン太達はここから出られるの?」

 

「そういう事だな。よくやったぞ、ハルマキ!入間!」

 

「別に私は何もしてないし…。後、ハルマキは止めてってば」

 

わいわい騒ぐみんなの様子を眺めていると「あの、1つ聞いてもいいですか?」と隣にいたキーボが喋りだした。

 

「なんだ?身体に不調でも感じるのか?」

 

メンテナンスという言葉がすぐに頭に浮かんだけれど「いえ、そうではなくて…」と否定された。

 

なんだよぉ…早く言えよ。

 

「どうして夜時間なのかと思って。今からじゃ駄目なんですか?」

 

「………」

 

そこに疑問持たれるとは思わなかったわ。

まぁ、確かに今からでも突撃する事はできるんだけれどさ。

 

「えぇっと…最終チェックとか、心の準備の問題だな」

 

素直に『原作の流れ的に』とか、『王馬が首謀者乗っ取る為の布石の為』なんて言えないし、それっぽい事を言ってアタシは誤魔化した。

苦しい言い訳っぽいけど……大丈夫だろ!

ほら、言ってる事とかそんなに変じゃないし、間違ってない…よな?

 

「そうですね!転子も心の準備は必要だと思います!」

 

茶柱からの同意も得られたし、問題ない。

そういう訳で、朝から明るい空気になった食堂で「外に出たら、何をしよう」という話しをしながら朝食を迎えた。

 

1つ付け加えるなら……東条の作る朝食の量がいつもの倍に多かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、オレ様はなんで足止めされてんだよ」

 

朝食後にガチャを回そうと席を立った瞬間、なぜか茶柱に再び椅子に座らせられた。

なんでだよ、アタシが何をしたっていうんだ。

 

「そう言わずに、転子達と少し話しましょう!あっ、もちろん男死は抜きなので安心してください!」

 

「あん?……転子『達』?」

 

ということは…他にも話しをするメンバーがいるって事か?

食堂に残ったメンバーを、ぐるりと見渡す。

といっても、朝食は終わったんだから人数はさっきより少ない。

とりあえず、1人ずつ確認していく。

赤松、東条、アンジー、茶柱、白銀、夢野、春川、それからアタシ。

 

 

これ、食堂にいるの全員女子だ。

茶柱が言ってた通り、男子は食べたらすぐに自由行動を始めたし…まぁ、いないのは別に気にしないんだけどさ。

なんで…女子だけ1人も欠けずに食堂に残ってるんだろう?

 

 

「よーし、それじゃあ男子禁制の女子会を始めよっか!」

 

 

赤松のそんな掛け声に、茶柱と白銀のテンションが上がった。

東条も、みんなの前に紅茶を出して準備を終えると椅子に座る。

このメンバーで女子会…かぁ。

そういえば、したことなかったな。

 

「女子会は別にいいけどよぉ…なにするか決めてんのかよ?」

 

紅茶を一口飲みながら聞いてみると、「神様が決めてくれるよー」なんて答えがアンジーから返ってきた。

なるほど、決めてないのか。

 

「女子会を始めたはいいけど、地味に難しいよね」

 

「食堂じゃ、できる事は限られておるからのう…。ウチは今、MP切れで魔法は使えんぞ?」

 

口々に言うみんなに、赤松だけは笑顔で「女子会っていえば、アレだよ!」と目を輝かせていた。

進行役なのか、東条が「それじゃあ、聞かせてちょうだい」と赤松に続きを促した。

 

 

「女子会っていえば…恋バナだよね!」

 

 

わー、赤松がすっごく楽しそう。

ピアノ弾いてる時と同じぐらいに、楽しそうな顔してる。

……ピアノ弾いてる姿は見たことないけど。

 

「な、なんで男死の話しをしないといけないんですか!?」

 

それに比べて、茶柱は全身で嫌がってる。

他のメンバーは他人の話しが早く聞きたいって感じかな?

…春川は、あまり興味が無さそうだったけど。

 

「でもさ、みんな気になる男の子とかはいるでしょ?」

 

「ね?」と赤松がみんなに同意を促す。

すると、アンジーが手を上げながら「えっとねー、アンジーはねー」と笑顔で最初に話し出した。

まさかの話題決定かよ。

 

「アンジーは、終一が気になるよー」

 

そして言っちゃったよ。

うーん…でもまぁ、これはゲームの絆イベ的に予想できたかな。

 

「え?」

 

だから、アンジーの発言で赤松がそんな声を出した。

 

「うーん…でも、地味に分かるかも。最原君って、話しやすいんだよね」

 

「私も、いつかは最原君には仕えてみたいもの。彼にはそれだけの可能性があるわ」

 

「まぁ…最原さんなら、転子もまだ許せますけど。なんせ、ネオ合気道を志す同士ですし」

 

アンジーに続くように白銀、東条、茶柱までもがそう言うのだから、赤松は「え?え?」と混乱してしまっている。

 

「んあー…最原は人気者なんじゃな」

 

「まぁ、悪い奴じゃないしね」

 

それを見て、夢野と春川が他人事のように喋る。

 

 

なんかコレ、女子会というより最原について話す会になってない?

 

 

「あっ…い、入間さんは!?」

 

ハッとしたように、赤松がアタシに詰め寄ってきた。

その表情は、少し不安そうに歪んでいた。

あんなに最原の名前があがれば…恋バナというより、ただの最原の話しだもんな。

……もういっその事、関係ない話しでもいい気がしてきた。

 

「次は何を作るかなぁ…」

 

「ちょっと、誤魔化さないでよ!入間さんは最原君の事どう思ってるの!?」

 

関係ない話しはダメだったか。

あと、話しの内容が恋バナから最原の話しになっている事について、アタシは赤松に何か言ってやるべきか?

 

「入間さんっていえば…キーボ君のメンテナンスを地味によくやってるよね」

 

「この前なんて、王馬さんと一緒にいましたしね」

 

「蘭太郎とも、前に話してるの見たよー」

 

「そういえば、前に一緒にカジノで話したって最原が百田に言ってたっけ…」

 

急にアタシの話しになったけど、正直恥ずかしいから止めて欲しい。

アタシがいない時に話してほしいな。

 

「入間さん…さっきの中で、本命とかいるの?」

 

赤松がやけに真剣な顔して、アタシを真っ直ぐ見据える。

えっ、何コレ?どういう状況?

本命とか言われても、意味が分からない。

 

「東条、これってどうしたらいいんだよ?」

 

「思ったままに答えればいいんじゃないかしら」

 

東条にヘルプを出してみたけれど、良い結果は得られなかった。

答えるも何も……えっ、今何の話ししてたっけ?

 

そうやってアタシがずっと固まっていたら、気づけばお昼になっており、食堂に近寄らなかった男子が食堂にやって来たので女子会は強制終了となった。



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愛も青春もない旅立ち③

シリアスっぽい雰囲気にしないといけないのは分かるんだけど、どうしても…シリアスを壊したくなるんだ。
これは絶対、病気だと思う。

それと、5章後に書く休題のアンケートを作りましたー。
なので活動報告を覗いてくれたら嬉しいです。


昼食後、女子会(?)の第2ラウンドが始まる前にアタシは全力で逃げた。

文字通り、全力で。

だって、追いかけてくるのが『滅私奉公!』が口癖な東条だよ?

黒いスーツ着たハンターも驚きの速さで追いかけるんだから、怖かった。

 

発明品(煙幕)を使わなければ、絶対に捕まっていたな。

そういえば、春川も同じように逃げていたけれど…どうなんだろう?

まぁ、他人の心配をしている暇があるのかと聞かれても、ないんだけどね。

 

「前方…東条の姿なし。行くなら今か?」

 

茂みに隠れながら、寄宿舎へのルートを確認する。

部屋に入ってこその逃走クリアなんだ、ここでしくじる訳にはいかない。

念の為にもう一度ルートを確認しながら、ゆっくり茂みから出る。

 

寄宿舎はもう目の前。

分かるか、諸君……そう、アタシの勝ちだ!

 

勝利を確信し、寄宿舎のエントランスを駆け抜ける。

後は、個室に引きこもるだけ!

部屋のドアノブを掴む。

あとは、これを開けるだけで逃走成功。

東条というハンターから、アタシは逃げ切った!

 

 

「待っていたわ」

 

気を抜いたのがいけなかったのだろう、そんな声が聞こえたと思うとアタシは浮遊力を感じると共に東条に担ぎ上げられていた。

 

……いや、なんで?

肩に担ぐとか、メイドさんのやる事じゃない。

 

「離せよ、ママ!」

 

「大人しくしなさい。それと、ママはやめてちょうだい」

 

バタバタと手足を動かして抵抗してみるけど、意味なかった。

この運ばれ方、小さい子みたいで嫌だ。

せめて、お姫様抱っこにしてほしかった!

…それはそれで、やっぱり恥ずかしいけれどな。

 

アタシは抵抗を諦め、運ばれる荷物と化す。

ブラーンと脱力して「あともう少しだったのにぃ…」と呟くと、東条から「フフ…」と笑い声がした。

 

「残念だったわね、入間さん。流石の私も焦ったから、協力な助っ人に力を貸して貰ったのよ」

 

確保するために助っ人まで用意するなんて、全力過ぎて凄い。

うぅ…誰だよ、東条の手助けしたやつ。

発明品のハリセン喰らわしてやる。

誰を助っ人にしたのか聞いてみると、東条は「近くに居合わせた人達よ」と答えた。

 

「入間さんが食堂で煙幕を使って逃げた後、飲み物を取りに最原君と星君とゴン太君が来たのよ」

 

あっ、なんかこの時点で詰んだ気がする。

 

「煙幕に紛れて、春川さんも逃げていたんだけれど、騒ぎを聞きつけた百田君と天海君、真宮寺君とキーボ君も食堂に来て…」

 

どんだけ近くにいたんだよ。

集まりすぎだろ。

 

「そこで急遽、赤松さん主催の『春川さんと入間さんを捕まえようの会』になって…」

 

なにやってんだよ、赤松。

そんな話し合いに人を巻き込むなよ。

 

「といっても…春川さんは百田君がその場で呼んだら、すぐに天井から出てきたから『入間さんを捕まえようの会』になったわ」

 

いろいろ聞きたいけれど、聞いちゃいけない気がする。

とりあえず、アタシの中で春川がヒロインからチョロインになった。

 

「そこで赤松さん、アンジーさん、天海君、百田君が入間さんが行きそうな所の候補を上げたの。その後、茶柱さん、白銀さん、夢野さん、キーボ君、星君がそこに行くまでの通り道を考えて、最後に春川さん、最原君、真宮寺君が『入間さんは、きっとこうする』という詳細も加えた事で、私が捕獲に移ったのよ。因みに、ゴン太君は話しについていけないみたいだっから、お茶を飲んで過ごしてもらったわ」

 

ただ女子会から逃げただけなのに、なんでそんな事になった?

とりあえず、逃げる気も失せたので降ろしてもらい、東条と並んで歩いて食堂に足を踏み入れる。

 

やっぱりというか…食堂は女子しかいなかった。

 

「カーッカッカッ!ウチの魔法が効いたんじゃな。東条が入間を連れて戻ってきたわ!」

 

「流石です、夢野さん!では、厨房にいる男死を追い払って女子会を再開させましょう!」

 

入った瞬間、響いたのは夢野の高笑いだった。

ていうか、謎の会議に参加した男子達は厨房にいるの?

何してるんだよ。

 

茶柱に「オレ様が追い払ってやるよ」と一声かけて、厨房の方へ足を進める。

……なぜか甘い匂がするんだけど、料理でもしてんのか?

 

「これで、ゴン太も紳士に近づけたかな?」

 

「なぁ、終一まだか!?」

 

「えっ?入れたばかりだよ!?」

 

「慌てるんじゃねー。ここはクールに待とうぜ」

 

「あと30分くらいはかかるっすよ」

 

「できるのが、楽しみだネ」

 

「ボクは…食べれませんけどね」

 

厨房を覗いてみると、なぜかオーブンの前に男子が群がっているという謎の光景が飛び込んできた。

 

「……何やってんだよ」

 

ホントお前ら何してんの。

正直怖いわ。

 

「おっ、入間か。東条に捕獲されたのか?」

 

アタシに気づいた百田が二カッと笑いながら、そんな事を言ってくる。

捕獲?されたよ。

どっかの誰かさん達のせいでな。

それはいいから、この状況の説明を誰かしろ!

 

「で、何をしているか…でしたね。実は話の後、ボク達は茶柱さんに出て行くように言われたんですが、何もする事がないから…という事で、クッキーを作ろうって事になりまして…」

 

「それで、天海と真宮寺を中心にして作ってたってわけだ」

 

名前の上がった2人がアタシの方を見て、照れくさそうに笑う。

ていうか、真宮寺にお姉さん降臨されてんだけど。

正しくは天海と真宮寺(姉)じゃん。

てか、クッキー作るとか。

お前ら女子なの?女子力アピールなの?

ふざけんなよ、女子より女子力高いとか嫌がらせかよ。

 

「どうしたの?何かあった?」

 

「なんなら、転子が手伝いますよ?」

 

なかなか男子を追い出そうとしないアタシを不思議に思ったのか、赤松と茶柱が後ろから厨房を覗き込む。

 

 

……一部男子の謎の女子力を見て、驚愕してたけど。

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

夜時間を告げるアナウンスが学園全体に響く。

もしもの事を考え、リュックの中に壊れてしまった場合の修理する為の道具と、幾つかの発明品を詰め込み、エレクトハンマーのバッテリーを一つずつ確認して、台車に乗せる作業を黙々とこなす。

あとは、この台車を押しながら裏庭のボイラー室に行くだけだ。

 

それだけ…なんだけど。

 

「…意外と力いるな」

 

人数分のエレクトハンマー乗せた台車の重さ半端ねぇ…。



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愛も青春もない旅立ち④

活動報告の休題アンケートは、21日まで募集しておりまーす。
回答が沢山きてくれたら嬉しいなー(チラッ)



コロシアイが起こらない。

それは致命的な事だ。

まず、番組として成り立たないのだから。

 

超高校級達によるコロシアイと、学級裁判。

それがメインなんだから、視聴者からのクレームの嵐は酷い。

起こりそうで、結局は起こらないコロシアイ。

こんなの、誰が見たいと思うんだろう。

 

 

もし次に確認した時に視聴者が減っていたら、彼女のせいだ。

 

 

かごのこの時、何も知らないまま被害者として死んでくれなかったから。

プログラム世界でコロシアイを起こそうと準備していたのに、実行してくれなかったから。

どうして、プログラム世界で行動してくれなかったんだろう?

番組を進行させる為の、動機の押しが足りなかった?

 

 

それとも、今持ってきた発明品を使えば、この学園から出られるなんて考えてしまったから?

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

 

 

台車を押しながら裏庭のボイラー室に来てみれば、どうやらみんな(王馬除く)は既に集まっていたようで「遅い!」って言葉が飛んできた。

遅れたのは、本当に悪いと思ってる。

アタシも遅れるなんて思わなかったんだから。

 

「後で土下座でもなんでもするからぁ…許してよぉ」

 

「誰も、そこまでしろとは言っておらんわい…」

 

引きつった顔をする夢野を見て、内心で「デスヨネー」と同意しながら、アタシは台車に乗せていたエレクトハンマーの1つを手に取った。

 

「それが、あの地下道を攻略する発明品なのか?」

 

エレクトハンマーをジロジロ見ている百田に「そうに決まってんだろ」と吐き捨てると、アタシはみんなに1つずつ渡していった。

 

「こいつはエレクトハンマーっていってな、あらゆる電子機器を停止させる事ができるんだよ。だから、間違ってもキーボには当てんなよ?」

 

「入間さんまでロボット差別するんですか!?」

 

ガーンと音が鳴るくらいに落ち込むキーボに「そ、そんなつもりじゃ…」と、必死になって言葉を探してみるけれど、何も浮かばずアタシの手が落ち着きなくキーボの前でウロウロする。

誰か、アタシの代わりにキーボにフォローを!

 

「ロボット差別といえば…王馬さんはやっぱり来てないですね。まぁ、男死は居なくてもいいんですけど」

 

「誰か、王馬君を見かけなかったかしら?」

 

ロボット差別という言葉で王馬を思い出す茶柱はどうかと思うけれど、話題を変えるキッカケにはなった。

あぁ…王馬な。

あいつは重役出勤だからなぁ。

適当に、それっぽい言い訳でもしておくか。

 

「ここに来る前にオレ様が声をかけてやったら、『オレはやる事あるから、みんなで勝手にやってなよー』って言われたぜ?」

 

「それ、放っておいて大丈夫なの?地味に怪しくない?」

 

「神様が見てるから大丈夫だよー」

 

「ここ最近、ずっと隠れてたんだし…王馬君は王馬君なりに考えているんだと思うよ」

 

えーっと…色々言ってるみたいだけど、とりあえず王馬の話し終わっていい?

エレクトハンマーの方に話しを戻したいんだけど。

ほら、説明とかしないといけないし。

 

「どこまで話したっけ…あぁ、そうそう。こいつはバッテリーで動いてるから、調子に乗って使いすぎるなよ。でねーと、まだ地下道の罠が残っているのにバッテリー切れなんて事になるからな」

 

朝の内に、春川に地下道の罠は電子機器だと聞かされているから、みんな黙って頷いてくれた。

みんな、エレクトハンマーを持ってやる気充分といった所か。

 

「おーっし、んじゃ行くか!」

 

「うん。これだけ超高校級が揃っているんだし、今度こそ外に出られるよ!」

 

百田と赤松を筆頭に、みんながエレクトハンマーを片手に持ってマンホールの中に入っていく。

アタシもそれに続くように、最後にマンホールを降りていく。

 

マンホールの中は、最初に来た時と変わっていなかった。

ただ違うのは、今のアタシ達にはエレクトハンマーという絶望のデスロードを攻略する武器があるという事だ。

出口と書かれた看板の先にあるトンネルに、みんなで一歩ずつ入っていく。

 

 

さぁ、みんなで嘘の真実を見に行こう。

 

 

たとえその嘘が

 

 

みんなにとっての絶望だとしても。

 

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

「ここが、出口?」

 

「そうみてーだな。あれを見てみろよ」

 

絶望のデスロードにある罠の数々をエレクトハンマーを使って停止させていく内に、アタシ達はトンネルの奥にまで辿り着けたらしい。

目の前に、電気バリアで覆われた巨大な扉があった。

 

「じゃあ…あの向こうが」

 

「きっと、外の世界だよ!」

 

ここまで来れたのがよほど嬉しかったのか、みんなの表情は嬉々としていた。

それにつられて、自然とアタシまで笑顔になってしまう。

 

「それじゃあ、扉を開けましょう。安心するのは、外に出てからでもできるわ」

 

「そうだよね…。でも、ゴン太嬉しくて…」

 

嬉し涙を流すゴン太の肩を、百田が「ゴン太はよく頑張ってたもんな!」と言いながら、優しく叩いていた。

 

「ところで…あの電気バリアはどうやって解除するんだ?」

 

「あの操作パネルを叩いたらいいんじゃないっすか?」

 

みんなの視線が、自然と扉の近くにある操作パネルの方に集まる。

これをエレクトハンマーで叩けば、そこは外だ。

 

「これで、転子達はいつもの日常に戻れるんですね」

 

「そうじゃな…」

 

「それじゃあ…行こうか。それで、みんなで友達になろう!」

 

そう言うや、赤松はエレクトハンマーを大きく振り上げ、操作パネル目掛けて一気に振り下ろした。

 

『ロックガ……解除…サレマシタ』

 

そんな機械的な音声が流れると、少しずつ扉を開けていく。

 

「やっと…出られるんだね!」

 

そう言ったのは、誰だったか。

 

ゆっくり開いた扉から見える景色が段々と鮮明になっていくと、さっきまで希望で満ちていたみんなの顔が、一瞬で絶望に染まった。

 

「これが………外の世界?」

 

「な…なんだ…これ?」

 

一面に広がる真っ赤な空。

崩れた瓦礫の建物。

抉れた地面。

そして……何より、息ができない。

 

「うっ…!?」

 

思わず、アタシは口元に手をやった。

上手く息ができず、苦しくなる。

ガスマスクを持って来れば良かったなんて思いながら、遠のく意識の中で『扉ガ…ロック……サレマシタ』という音声を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、みんな!気分はどう?もちろん最悪だよねー!」

 

息苦しさがなくなり、ゆっくりと身体を起こして周りを見渡してみると、さっきまでいなかった王馬の姿があった。

一瞬だけ目が合うと「にしし」と笑われた。

どうせ『今から嘘の首謀者になるよー』とか思って笑ってるんだろ。

 

「あれが…外の世界の真実?」

 

「今のを見て分かったろ?オマエラが望む外の世界なんて、どこにもないんだよ」

 

顔を真っ青にした赤松に、モノクマみたいな喋り方をしながら王馬はなんでもない事のように告げる。

 

「…どういう意味っすか?」

 

「だったら教えてあげる。でも、オレも嘘つくのに飽きたから、ここからは本当の事しか言わないよ?」

 

既に嘘をついてるじゃねーか…なんて目を春川としながら、黙って話しを聞く。

そんなアタシと春川の無言の訴えに気づかないフリをしているのか、王馬は「すべての発端は、空から降ってきたあの絶望なんだ」と話し始めた。

 

地球に降り注ぐ隕石群。

それらから、地球の滅亡は避けられないと知った各国政府が、人類の滅亡を防ぐ為にゴフェル計画の実施を決定した。

それは、選ばれた優秀な人間を宇宙船に乗せ、滅びゆく地球からの脱出と人類が生存可能な星を見つけて、人類の種の保存を行う計画である事。

 

そのゴフェル計画に選ばれたのは、16人の若くて才能溢れる高校生…超高校級と呼ばれる16人が、新世界のアダムとイヴとして選ばれた。

しかし、16人は辞退して計画から逃げる事にして、自分の記憶を消す事で超高校級の才能を捨てて、普通の高校生になろうとしていた。

 

その頃から、終末思想を掲げる過激なカルト集団がゴフェル計画の阻止を企み、超高校級狩りが始まった。

逃げた16人は次第に追い詰められてしまい、ゴフェル計画を実施する組織は「超高校級の16人は全員死亡した」との嘘の情報を流し、隠れていた16人は保護され、ゴフェル計画は実行に移された。

 

ゴフェル号の打ち上げは成功し、地球に隕石が降り注ぐ中、16人の超高校級は人類最後の生き残りとして宇宙に旅立ち……

 

 

「そのゴフェル号こそが…この才囚学園の正体なんだよ!」

 

思い出しライトと、この前の動機だったカードキーでよくここまで考えれたな…と思う。

王馬の頭が良すぎてヤバイ。

さすが総統。

……アタシの語弊力、大丈夫かなぁ。

 

「こ、この学園が丸ごと…大きな宇宙船?」

 

「そ、そんな事って…」

 

信じられないとばかりに顔を青くしていくみんなを無視するように、「で、話しには続きがあるんだけど…」と王馬は喋り続ける。

 

「不思議だと思わない?人類の希望を背負ったゴフェル号で、どうしてコロシアイを強いられるような生活をするようになったんだろうね?」

 

「何が言いたいのかナ?」

 

真宮寺のその言葉を待ってましたとばかりに、王馬は悪意のこもった笑みを浮かべた。

 

「実はね…ゴフェル計画を実施した組織は大変な見落としをしていたんだ。16人の中にとんでもないヤツが紛れ込んでいた事をね」

 

冷や汗を垂らしながら、何かに気づいた星が「おい、そいつはまさか…」と、今にも消えそうな声で呟いた。

 

「そう、ゴフェル計画を潰そうとしたカルト集団のリーダーだよ。16人の中に紛れ込んだそいつは、高性能なロボットを宇宙船に仕込んでおいたんだ。それが、モノクマだよ。本来、16人はコールドスリープ状態にされて…宇宙船が相応しい星を見つけた所で解除される予定だったんだけど、モノクマが滅びた後の地球に戻してしまったんだ。で、別の惑星で目覚めるはずだった16人をコールドスリープから目覚めさせてしまって…今に至るって訳だね」

 

あー…確か、ゲームでもそんな事を言ってた。

よく噛みもせずに、一気に話せるな…。

 

「ち、地球に戻したって事は…」

 

「さっきキミらが見た光景…あれが今の地球なんだよ。キミらがコールドスリープしている間に、数百年が経過した後の地球…すっかり滅んで酸素もなくなって、生物もいない地球…キミらが知る街も、知る人も、どこにも存在していない地球…。それが…外の世界の真実なんだよ。つまり、オマエラには帰る場所なんてもうないんだ。だから外に出ても無意味なんだよ。だって、外の世界なんて、もう存在してないんだもーん!」

 

これ、首謀者も吃驚な設定のネタばらしだろうなー。

さぁ王馬、今こそあの首謀者乗っ取り作戦(ゲームでは王馬が1人でやってたけど)の一番の見せ所だ!

 

「という訳で、素直に告白するけど…さっき言ったカルト集団のリーダーってオレなんだよね。つまり、オマエラにコロシアイをさせようとした首謀者って……オレなのでしたー!」

 

 

思っていたよりも、軽い感じで言いやがった。

いや、ゲームでもこんな感じだったかも…?

駄目だ、ちゃんと思い出せない。

 

「王馬クンが…首謀者!?」

 

「神様もビックリだよー」

 

まぁ、信じている人はいるみたいだし…深く考えるだけ時間の無駄か。

 

「まっ、それが嘘って思われない為にも、証拠を見せてあげるよ。オレが首謀者って揺らがぬ証拠をさ」

 

まだ半信半疑な人を信じ込ませる為に、王馬はアタシが見覚えのあるリモコンを操作する。

すると、どこからともなく5体のエグイサルが姿を見せた。

 

…あれだけ渡さないと言ってたのに、気づいたら盗られてたんだよな。

あらゆる電子機器を操る装置こと、エグイサルのリモコン。

気づいた時は、本当に焦った。

 

「なんでエグイサルが…モノクマーズにしか操れないはずじゃ…」

 

「首謀者のオレは別なんだよ。この学園の全てはオレの意のままだからね。このリモコンを使えば、全てのエグイサルがオレの手足となって動くんだよ」

 

驚いて後ずさる最原に対して、王馬はラジコンを操作するようにエグイサルをリモコンを使って操る。

 

「オレらは…テメーに振り回されていただけだってのかよ!?」

 

エレクトハンマーを強く握りしめながら、百田が王馬を睨みつける。

それを面白そうに見ながら「あれ?怒った?で…怒ったらどうするの?」と王馬が煽っていく。

 

「うるせー!エグイサルを味方につけたくらいで勝った気になってんじゃねーぞ!こっちには、入間が造ったエレクトハンマーが…な、どうした?」

 

持っているエレクトハンマーが動かなくなった事に気づいたのか、アタシを見ながら焦ったように狼狽える。

 

「あー…バッテリー切れになったみてーだな。充電には24時間かかるぞ」

 

自分のもバッテリー切れになりましたとばかりに、アタシはエレクトハンマーを見せつけながら告げた。

勿論、他のメンバーが持っているのも仲良くバッテリー切れになってる。

 

「そうやって怖い顔で睨まないでよ。オレを殴った所で問題は解決しないよ?」

 

「そうだとしても、殴らなきゃ気が済まねーんだよっ!」

 

エレクトハンマーを投げ捨て、百田は拳を構えて王馬に向かって走り出す。

最原と赤松が制止の声をかけるも、百田は止まりそうにない。

 

「百田ちゃん、止まった方がいいよ。でないと…人質がどうなっても知らないよ?」

 

人質という言葉に反応したのか、百田が突然ピタリと動きを止めた。

えっ、人質がいるとか…アタシ聞いてないんだけど。

あれ?なんかアタシの知ってる展開と違う。

 

「に…逃げろ……!」

 

百田がアタシ達にそう叫んだ。

んー…でも、アタシがみんなの後ろから見た感じだと、誰かに危険が迫ってるようには見えないんだけど?

おかしいなと首を傾げた所で、みんながアタシを見て固まっているのに気づいた。

あの春川でさえ目を丸くして、口パクで何か訴えてきている。

 

えーっと…?う…い……お?

うしろ…あっ、後ろ??

 

クルリと後ろを振り返ると、目の前にエグイサルが1体。

その手が、ゆっくりとアタシに伸ばされる。

 

「入間さん!そこから離れて!!」

 

いや、そう言われても驚いて動けない。

 

 

こんなの聞いてないよ…。

 

 

そんな文句も言えないまま、アタシの意識は真っ暗な闇の中に消えた。



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愛も青春もない旅立ち⑤

やっとリアルが落ち着いてきました。
このまま、前までの更新ペースに戻れたらいいなぁ…。
むしろ、無理矢理にでも戻りたいです。現実逃避として!


ふわふわと身体が浮かんでいるような浮遊感。

目の前に広がる、みんなが笑い合っている風景。

すぐに、これは夢だと気づいた。

 

才囚学園じゃない、どこかの教室に超高校級の16人がいるなんて、夢じゃなかったら何なのだろう。

みんなが同じ制服を着ているなんて、夢じゃなかったら何なのだろう。

不意に、発明家がアタシに話しかけてきた。

それに続くように、ピアニストも話しに交ざる。

アタシは2人に返事をしようとして…止めた。

 

どうして、アタシはここにいるのだろう。

こんな夢を見てまで、もっとみんなと一緒に居たいと願ってはいけないのに。

泣き出したアタシを、2人が必死に慰めようとする。

それに気づいた他の人達も、何事かと集まってくる。

 

だけど、みんな声をかけてくるだけでアタシに触れる事はない。

アタシが手を伸ばしてみても、見えない壁があるのか誰にも触れない。

 

そりゃそうだ。

だって本来ならば、アタシ達がこうやって話す事すらできないのだから。

夢だから許される奇跡のような瞬間なのだから。

 

 

『それは違うよ』

 

 

そう思っていた時に、教室に入ってきた新たな人物がアタシにそう告げて微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅ…ん?」

 

何か夢を見ていた気がするけれど、よく思い出せない。

ゆっくりと身体を起こして、アタシは自分の周りを確認した。

 

えーっと、プレス機とエグイサル1体と塗装機と洗浄機。

それから…アタシに背を向けてゲームをしている王馬。

その近くには、アタシが背負っていた発明品とかを入れたリュックが無造作に転がっている。

状況と場所の確認はOK。

どうやら、エグイサルの格納庫に拉致られたようだ。

となれば、アタシがやることはただ1つ。

 

忍び足でリュックから必要な発明品を手に取ると、目の前にいる王馬めがけて…振り下ろした。

 

「おっと、危ない…。入間ちゃんやっと起きたのー?寝坊助さんだなー」

 

…すんでの所で逃げられた。

ゲームから目を離さずに避けるとか、お前なんなの。

 

「急に標的変えたテメーが、オレ様を罵るんじゃねー!」

 

だけど勢いのまま、発明品の『伸縮自在なハリセン』をフルスイングで振り回すと、今度はちゃんと当たり「スパーーーン!!」と良い音が鳴った。

ハリセン強い。

 

 

 

×××××

 

 

「で、入間ちゃんは1日中寝てたわけで…」

 

「だから、なんでオレ様なんだよ。あの流れだと絶対百田が拉致られる感じだったじゃねーか…」

 

暫くして落ち着いたアタシは、王馬から今に至るまでの経緯を聞いていた。

 

「だって殴られたくなかったんだよ。それとも、入間ちゃんは大人しく百田ちゃんに殴られたら良かったんだって言いたいの?そんなの酷いよ…」

 

「どっちがだよぉ…。テメーのせいで予定を色々狂わされたオレ様の身にもなれよな!」

 

お互い色々と伏せながら話しているせいか、微妙に会話になっていない。

それでも理解できるのは、共犯のような関係を結んだせいなんだろう。

……こんな形で相手の考えがなんとなく分かるとか、嫌だ。

 

「本当なら今頃、春川とあんな事やそんな事をしていたのにぃ…」

 

図書室の奥の秘密部屋に侵入したり、思い出しライトを製作する教室を調べたりするのが、アタシと春川がやるべき事だったんだけど…どーすんだよ、アタシが居ないならできないじゃねーか。

なんで百田を拉致しなかったんだ!

今頃、春川が「どうしたらいいの…」って困ってるじゃん!

 

「入間ちゃん…今の発言は、さすがのオレでも誤解しそうなんだけど」

 

うわぁ…って、なぜかドン引きしている王馬を見て、そんな反応をした王馬にアタシもドン引きする。

 

「お前、それどういう意味だよぉ…」

 

「えっ、オレの口からはとても言えないんだけど…」

 

顔を青くする王馬を見ていると、内心で笑っているような気がした。

こいつ、暇だからってアタシで遊ぶ気なんじゃないの?

その手に嵌まるのは最原とかのお人好しぐらいだろ。

 

「…折角だしエグイサルの魔改造でもするか」

 

王馬から意識をエグイサルに向ける。

道具は万が一、エレクトハンマーが故障した用として持ってきたものがあるし、それで多分大丈夫だろ。

道具をリュックから取り出そうと手を伸ばすと、なぜか王馬に奪われた。

ちょ、人の邪魔するなよ…。

 

「ねぇ、入間ちゃん…。オレさ、今暇なんだよね。入間ちゃんが起きるのを、ずっと待ってたんだよ?これは嘘じゃないよ。ホントだよ?だからさー、暇人な入間ちゃんの良い所を見たいなー」

 

「うん?だからエグイサル改造するって言っただろ?その間暇なら、さっきやってたゲームでもやればいいじゃねーか」

 

良い所=改造・発明だろ。

それを今からするから、その手に持っているものを早く返せ。

 

「分かってないなー。変な所でバカで、意味深な発言する入間ちゃんに分かり易く言ってあげると、この中に入ってた面白そうな発明品を使って暇潰しやろーって事なんだけど?」

 

いきなりディスられたぁ…。

あと、そのスライムみたいな顔止めろよ。

それは今やるべき表情じゃない。

勇者に退治されても、知らなねーぞ?

というか、ちょっと待った。

 

「お前、オレ様を拉致した理由が『暇潰し』とかじゃねーよな?」

 

さっきから暇って言ってるし、まさか…とは思うけれど聞いてみる。

いやほら、念の為ってやつ。

 

「えー、そんな訳ないじゃん!ホントだよ!嘘じゃないって!!」

 

うん、そう言われたら余計に嘘っぽく見えてきたわ。

重い溜め息を吐きながら、リュックを無理矢理奪い取る。

中に入っている発明品を1つずつ確認しながら、王馬の言う暇潰しになりそうなものを探す。

 

「ほらよ」

 

結局、どれなのかは分からなかったので、前に王馬の注文として造っていた発明品…というか、ゲーム機を出してみる。

どうやら正解だったらしく「そうそう、これなんだよー」って言いながら、2つあるコントローラーの内の1つをアタシに手渡してきた。

 

あっ、対戦相手か協力プレイって事か。

そっかー…なんで?

これさ、1人でも遊べるやつなんだけど?

 

「お…おい、王馬…」

 

「入間ちゃん始まるよー」

 

小さな液晶画面には無慈悲にも、スタートの合図が流れる。

待って、ソフトがホラーゲームとか聞いてない。

ゾンビ止めろ、追いかけてくるの止めろ、いきなり出てくるの止めろ。

それよりも、アタシの意思に関係なくスタートするの止めろ。

 

「もうっ、入間ちゃん下手くそだなー。嘘でも上手なんて言えないよ…」

 

「だから待ってぇ!?オレ様の話し聞いてよぉ!!」

 

作戦を急遽変更したうえに遊ぶとか、春川に知られたら怒られる所じゃねーよ!?

ボールペンとか、コンパスで磔にされるかもしれないんだぞ!?

 

「ちゃんと聞いてるってー!嘘だけどね!あっ、入間ちゃん。敵がそっちに逃げた」

 

「それ聞いてないって事じゃねーか!あぁ、クソ!」

 

何を言っても無駄だと思うと、どうでも良くなってきた。

……バレて怒られたら、土下座しよ。

 

王馬が飽きるまで仕方なく付き合う事になり、アタシがエグイサルに触る事ができたのはモノクマのいないアナウンスがモニターに映された後だった。

 




休題アンケートは、まだ活動報告の方で募集してますよー。


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愛も青春もない旅立ち⑥

今回は、前半主人公視点。後半は春川さん視点となっています。
(分かりづらかったり、見にくかったりしたらすみません)


モノクマのいない無人の映像がモニターに映し出された事で、もう朝なのか…と思いながら、アタシはつけていたゴーグルを頭の方へかけ直した。

エグイサルの簡単な改造も終わった事で気が抜けたのか、眠気が襲ってくる。

ふわぁ…と欠伸をすると、目をキラキラ輝かせた王馬がアタシの側までやってきた。

 

「ねぇねぇ、入間ちゃん!エグイサルにどんな改造したの?空を飛ぶようにしたの?それとも、穴を掘るようになったの?必殺技とか出るの!?」

 

「ちょ…オレ様今から寝るから。起きたら説明してやるから…」

 

これ以上つきまとわれないように荷物を持ちながら格納庫の奥の扉を開けると、不満そうな声を出す王馬から逃げるように扉を閉めて、その場でズルズルと座り込む。

っていうかさ、ほぼ無意識で動いてたから今になって気づいたんだけどさ…

 

「ここ、格納庫の奥のトイレじゃん…」

 

トイレで寝ようとするとか、なんなの。

これ…後から絶対に弄られるやつじゃない?

主に王馬に。

 

頭では今から向こうに戻って寝るスペースを捕獲しようかと考えるけれど、睡魔が酷くて思うように身体は動かない。

 

……もういいや。

もう朝だというのに、こんな場所でだけど…おやすみ。

 

 

 

 

 

 

誰かの足音が聞こえて、夢の中から意識が現実に引き戻される。

ソロソロと動きながら、アタシはトイレに設置されている小窓の方へ近づいて、誰が彷徨いているんだろうと確認がてら覗き込む。

 

「「うわぁっ!?」」

 

すると、ちょうどこちらを覗きにきていた最原と同時に驚きの声を上げたけれど。

 

「な、なんだよぉ…。驚かすんじゃねーよ!」

 

バクバクと五月蝿い心臓を落ち着かせながら、できるだけ小声で文句を言ってみる。

下っ端魂全開(?)な最原は、アタシの文句に申し訳なさそうに「ご、ごめん…」とすぐに謝ってきた。

いや、多分アタシの方がごめんって言うべきなんだけどな。

 

「つーか、こんな所で何してるんだよ?」

 

「入間さんを助けに来たんだよ」

 

最原にそう言われて、アタシは小窓から確認できる程度で周りを確認する。

最原以外は誰もいないし、何かを持っているようでもなさそうだけど?

 

「はぁ?お前1人で何ができるんだよ??」

 

「今日は下見だよ。明日の朝、みんなで助けに行くから…」

 

窓の近くの壁に凭れながら、「そっか…」とアタシは最原をジロジロと観察する。

何かを決意したような、そんな強い瞳をしている。

 

「…落ち込むのは、止めたのかよ?」

 

「うん。百田君や春川さん達のおかげだよ。確かに一度は絶望に押しつぶされて、参っていたけど……だけど、思い出したんだ。僕達が沢山の人達の希望を背負っていた事を」

 

絶望と希望…ねぇ。

詳しい事は分からないけれど「思い出しライトでも使ったのかよ?」って聞いてみれば、肯定する返事が返ってきた。

となると…記憶の内容もゲーム通りなのかな?

 

もし、アタシが王馬と春川の意見を無視してまで首謀者役をしていたら…なんて考えをして、今更バカげているなと頭に浮かんだ妄想を振り払う。

例えそうだとしても、カルト集団のリーダーが王馬からアタシに変わるだけで、内容までは大して変わらないんだろう。

 

格納庫への扉を、一度だけチラリと見る。

王馬が入ってくる気配は無さそうだけど、だからといってこのまま最原とダラダラ話し続ける訳にもいかない。

名残惜しいけれど、最原にはみんなの所に帰ってもらおう。

 

「そろそろ、戻った方がいいんじゃねーの?王馬にバレたら厄介だぜ?」

 

「うん…。またね、入間さん」

 

小窓から最原が離れ、その姿が見えなくなるとアタシは格納庫の方に行く為に、扉を開ける。

すると、扉にピッタリくっついていた王馬が転がり込んできた。

 

おーい、盗み聞きかよ。

 

呆れたように王馬を見下ろしていると、「さっき話してたのって、最原ちゃん?」って聞かれた。

どっから聞いてたのやら。

前のコンピュータールームの時みたいに、最初から聞いてましたーって感じでも可笑しくない気がしてきた。

「そうだけど、それがどうした?」ってアタシが聞いてみると、王馬は急に目に涙を溜めて嗚咽を洩らす。

えっ、何事。

 

「入間ちゃん…浮気するなんて、あんまりだよっ!」

 

「意味不明な嘘つくなよ!?」

 

ふざけるにも、これはないと思うわ。

そもそも浮気って、誰と誰がだよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

充電したエレクトハンマーを持って、寄宿舎から集合場所である食堂に向かいながら、あのクソヤローのせいで今頃苦労しているだろう入間に同情した。

入間は大丈夫だと言っていたけれど、あんな勝手な事をした王馬が本当に首謀者じゃないという証拠もない。

だけど入間と王馬が一緒に居るという時に、食堂で見つかった思い出しライト。

あの時の入間が言っていた思い出しライトの本当の性能と、首謀者がするであろう行動を思い出す。

それらを合わせて考えると…不本意だけど、王馬は首謀者じゃないっていう事になるんだと思う。

 

だけど、昨日使った思い出しライトでの記憶と入間の話し。

それらを分けて考えるのは、かなり難しい。

笑いながら「春川なら、大丈夫だろ!」なんて言っていた入間に、一言言ってやりたい。

 

全然大丈夫じゃないんだけど。

 

頭を押さえながら食堂に入ってみると、珍しい事に私が最後だったみたいで、百田に「やっときたな、ハルマキ!寝坊したか?」なんて笑顔で言われた。

こっちの苦労もしらないで…まぁ、それが百田の良い所なのかもしれないけど。

 

「別に寝坊なんてしてないし、必要な物を確認してたら遅れただけ」

 

いつもなら赤松か最原のどっちかが最後に来るのに、珍しい事もあるんだ…って思いながら、私はポケットから入間が造った手榴弾型のエレクトボムを取り出す。

 

そういえば、どうやって王馬が首謀者じゃないって説明するつもりなんだろう。

本当なら、入間じゃない別の誰かが格納庫の奥に閉じ込められる予定だったんだし、なんだか嫌な予感しかしない。

…それでも、あの2人なら何か考えてそうだけど。

 

「それじゃあ、行こうか。みんな、エグイサルには気をつけて格納庫を目指そう」

 

昨日、下見として格納庫に行ったという最原の掛け声で、私達は食堂から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

サイバーな中庭を、できるだけ数人で固まりながら格納庫を目指す。

道中で見かけた、動かない4体のエグイサルを不思議に思いながらも格納庫のシャッターの近くまで辿り着くと、百田が全員いるかどうかの確認をしていった。

 

シャッターの真上にあるセンサーのせいで、これ以上近づく事はできないけれど、エレクトボムを使えば警報センサーは無効となる。

その後は、操作パネルをエレクトハンマーで叩いて電子バリアを解除、中に侵入…暗殺の仕事をする前のように、自分のやるべき事を脳内でシュミレーションしてると、百田の確認は終わっていたみたいで私に視線が集まってた。

 

「春川さん、お願い」

 

「言われなくても分かってるし、失敗する事はない」

 

エレクトボムを持つ手に、力が篭もる。

チャンスは1回だけ。

 

「その発明品、昨日の話しでは有効時間は1時間で、有効範囲は50メートル…だったわね?」

 

確認してきた東条に、黙ったまま頷く。

入間曰わく、本来のエレクトボムは有効時間が2時間らしいけれど、それでも十分な時間だ。

 

「中にいる王馬クンのリモコンが使えなくなれば、エグイサルにも隙が生まれるはずです」

 

「王馬君がエグイサルに乗り込みそうになったら、ゴン太が抑えるよ!」

 

道中で見たエグイサルは4体。

もう1体は、格納庫の中に健在したまま。

まぁ、エグイサルは使ってくる事はないと思うけれど念の為という事で、何人かはエレクトハンマーを起動させた。

 

「じゃあ…いくよ」

 

エレクトボムの起動スイッチを入れて、シャッターの前まで投げる。

これで、警報が鳴る事はない。

茶柱が操作パネルをエレクトハンマーで叩いた事でシャッターの電子バリアも解除された。

 

 

 

シャッターを開けて、格納庫に入り込んでいく。

 

 

 

けど、格納庫に入った瞬間…思わず足を止めた。

しかも、足を止めたのは私だけじゃない。

全員だ。

 

 

「………」

 

 

「……え?」

 

 

視線が、ある一点に集まる。

 

 

 

こんな事になるなんて、聞いてないっ。

 

 

 

 

 

『ピンポンパンポーン』

 

 

 

 

 

聞いた事のないアナウンスが流れた。

 

モニターに、暫く見かけなかったモノクマが映る。

 

 

 

『うぷぷ…うぷぷぷぷぷぷ……死体が発見されましたー!』

 

 

 

困惑・混乱・動揺・錯乱。

グルグルと頭の中で、それらが混ざる。

 

 

 

 

大量の血が流れたプレス機が、絶望として私達の前にそびえ立っていた。

 



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愛も青春もない旅立ち⑦

「アイエエエ!?プレス機なんで!?どういうことだってばよ!?答えろ、苗木ぃ!」と、なんか色んなネタを混ぜて五月蝿い友達を黙らせる為にソッコーで書き上げました。

今回の視点は、最原君です。


「嘘…だよね?こんなの…」

 

顔を真っ青にした赤松さんが血だまりと化したプレス機を見ながら、今にも消えそうな声でそう言った。

僕だって、こんなの信じたくない。

だけど……

 

「さっきのモノクマのアナウンス…あのプレス機の下で、誰か死んでるの?」

 

誰かって…そんなの、格納庫に居た王馬君と入間さん。

2人だけだ。

 

「王馬か入間のどっちかが、死んだって事かよ!?」

 

拳を壁に力強く叩きつけながら、百田君が「チクショウ!」と大きな声で叫ぶ。

なんだかんだで、百田君はよく王馬君の嘘の被害に合っていたから話す事も多かったし、入間さんには病気を治す薬を貰ったという借りがある。

それなのに、こんな事になるなんて…思いもしなかった。

 

「うぷぷ…すべては学級裁判で明らかにしてください。だって、それがコロシアイのルールだから!という訳で、やっとコロシアイが起きたね!モノクマファイルを配っておきまーす!」

 

重い空気の中で、楽しそうなモノクマの声が響く。

 

「モノクマ…ファイル?」

 

プレス機を呆然と見ていた春川さんが、ゆっくりとモノクマの方に顔を向けた。

殺気がヒシヒシと、モノクマに向けられる。

 

「そう。ほら、オマエラって捜査に関しては素人だから、これを見たらバッチリってわけ。それじゃ、捜査を頑張ってくださーい!」

 

モノパッドから確認できるらしいモノクマファイルの説明をするや、モノクマは僕達の前から姿を消した。

 

「コロシアイが起きて…モノクマが動いているっていう事は、首謀者の王馬さんが生きているって事になりますよね?」

 

「じゃったら、あそこで死んでおるのは入間という事か…!?」

 

茶柱さんと夢野さんが『気づきたくなかった…』みたいな顔をしながら、話していた。

そんな中で、何かに気づいた星君が僕達に「だったらよ…」と辺りをキョロキョロしながら話し出した。

 

「犯人が王馬だとしたら、あいつはどこに行ったんだ?」

 

「もしかしたら、現場であるここから離れている可能性があるネ…」

 

「でしたら、手分けして探しましょう!」

 

今にも飛び出して行きそうなキーボ君を「そんな事してる暇はないと思うけど」と、春川さんが止めた。

…確かに、モノクマが捜査の時間をどれだけくれるのか分からないんだし、王馬君の捜索に時間を削る訳にはいかない。

それに、入間さんが死んだと決まった訳でもないんだ。

 

真実を暴くのは恐い…だけど、僕達の命がかかっているんだ。

だから、僕は真相を見つけ出す。

超高校級の探偵として…!

 

「みんな、調べよう。ここで何が起きたのかを」

 

「よく言ったぞ、終一!早速やってやろーぜ!」

 

「うん。私も頑張るよ!」

 

百田君と赤松さんの後押しもあり、みんなが一斉にモノクマファイルを確認したり、格納庫内を調べていく。

僕も、やれる事はやらないとな…。

まずは、モノクマファイルの確認からしていこう。

 

 

『死体発見現場となったのは、エグイサルの格納庫…被害者はプレス機で押し潰されている為、身元は不明…』

 

 

…これだけ?

 

「これじゃあ、何も分かっていないのと同じっすよ…」

 

同じようにモノクマファイルを確認していた天海君が、頭を抱え込みながら呟く。

それには、僕も同意だ。

 

この被害者の身元が分からないって、どういう事なんだろう?

被害者が分からないなんて、そんな事あるのか?

まさか…モノクマは被害者を知らないのか?

 

いや、そんなまさか…ね。

 

「最原君、どう?何か気づいた事とかある?」

 

モノクマファイルを一通り読み終えたらしい赤松さんが、僕の意見を聞いてくる。

気づいた事…か。

 

「ううん、今はまだ何も。だけど、被害者が不明って事が気になるな」

 

「さすが最原ちゃん!モノクマが被害者が分からないからって不明にした事に気づくなんて、流石だね!」

 

「えっ、モノクマが分からない事なんてあるの!?……って、え?」

 

赤松さんが隣で固まった。

僕だって、一瞬何が起きたのか分からなかった。

今、赤松さんの前に…誰が喋っていたんだ?

 

「赤松さん…今……」

 

王馬君の声がしなかった?と確認しようとしたら、また別の声が聞こえてきた。

 

「つーか、ここに死体なんかあったか?オレ様達はそんなの見てねーぞ?ていうか、見たくないよぉ…」

 

……まただ。

でも、今のは王馬君じゃない。

入間さんの声だ。

 

 

2人の声が聞こえるなんて、僕の耳は正常だろうか?

 

 

「さ、最原君、後ろに…」

 

ゴン太君が僕と赤松さんの方を指差す。

いや、今の言葉からすれば、正確には僕達の後ろだ。

よく見れば、みんなが僕達の後ろの方を見て目を丸くしていた。

百田君だけは、なぜか震えていたけど。

 

一度、赤松さんと目を合わせてから僕は後ろを振り返った。

 

何か言うべきなんだろうけれど、言葉が出なかった。

 

 

 

「あり?みんなして驚いたような顔してどうしたの?」

 

「王馬の顔に変なのついてるから、それ見て吃驚してるだけだろ?」

 

「入間ちゃん、つまんない嘘は止めなよ」

 

 

 

僕達の心境なんて知りもしないで、いつも通りに談笑している王馬君と入間さんの姿があった。

 

「で……出たああああぁぁあぁぁぁぁ!!!!」

 

春川さんにしがみつきながら、百田君が絶叫する。

あまりの声の大きさに、思わず僕は耳を押さえた。

も、百田君…いきなりどうしたんだ?

 

「どっちだ!?どっちかが幽霊なのか!?ふふふふざけんじゃねーぞ!」

 

「…ちょ、殺されたいの!?」

 

百田君の行動の理由に気づき、僕は改めて王馬君と入間さんに目を向けた。

一瞬、百田君の方から鈍い音がしたけれど…僕は何も見てない。

 

 

「あーあ、百田ちゃん春川ちゃんに殴られてやんのー」

 

王馬君の煽りに、百田君は「うぐっ…」と唸り声で返す。

春川さん結構キツくやっなんだな…。

 

「えっ、待って、どういう事!?なんで2人とも無事なのさ!?」

 

格納庫から出て行ったはずのモノクマが戻ってきたと思えば、2人に詰め寄っていた。

あれ……何かおかしいぞ。

 

「無事も何も…オレと入間ちゃんは遊んでただけだよ?」

 

「だよなー。つーか、死体って何?全員いるじゃねーか」

 

何を言っているんだとばかりに、2人はうんざりしたような顔でモノクマに答えた。

やっぱりおかしい…どうして、首謀者の王馬君がやっている事をモノクマは知らないんだ?

なんで…誰も死んでいないのに死体発見のアナウンスを流したんだ?

 

「じゃあ、あのプレス機はなんなのさ!?ご丁寧に動かないように電源コードまで切って!」

 

頭の中で情報を整理しながら、僕達はモノクマと王馬君、入間さんの話しを黙って聞いていく。

 

「あぁ…プレス機?あれで潰されているのはな……オレ様の発明品なんだぜ!いきなり潰すとか酷いよぉ…」

 

「えー、いいじゃん!あんな輸血するだけの発明品なんて、東条ちゃんがいたら必要ないんだしさー」

 

プレス機の血だまりの正体は、入間さんの発明品だったのか…。

百田君もそれを聞いて落ち着いたのか、さっきまでの怯え方が嘘だったかのように「そうだと思ってたぜ…」と立ち直っていた。

 

「えっ、待って?それじゃあ、つまり……」

 

「モノクマが勝手に勘違いしたってわけだー」

 

困った顔をしながら呟いた白銀さんに続くように、アンジーさんがいつもの笑顔で真相を告げた。

やっぱり…そうなるんだよな。

 

「待ってちょうだい。どうしてモノクマは勘違いなんてしたのかしら?首謀者は王馬君なんでしょう?」

 

「あぁ…首謀者っていうのは、オレの嘘だよ。だって、それがオレと入間ちゃんと春川ちゃんの3人で作った作戦なんだから」

 

東条さんの質問に答えた王馬君の言葉に、僕達は更に衝撃を受けた。

 

王馬君が首謀者だという事は嘘?

入間さんと春川さんも含めた、3人で作った作戦?

一体、何の為の?

 

「待ってください!だったら、王馬君が絶望の残党という事は、どう説明するんですか!?」

 

「ぜつぼーのざんとう?何ソレ?」

 

何も知らないとキーボ君に返す王馬君は、嘘をついているようには見えない。

何がどうなっているのか、分からなくなってきた。

 

「3人の作戦っていうのが少し気になるんだけど…誰か説明してくれるかナ?」

 

真宮寺君が王馬君、春川さん、入間さんの3人を見て、目を細める。

確かに…その作戦っていうのが何なのか知っておいた方がいい。

 

「プログラム世界から戻ってすぐに、入間が私に話しがあるって声をかけてきたんだ」

 

ポツリと、春川さんが話しだした。

プログラム世界の後となると…何日か前か。

 

「で、それをたまたま知ったオレは盗み聞きしてやろーって思ってたんだけど、2人にバレちゃってさー。まぁ、結局はオレも混ぜてもらう事になったんだけどね!」

 

…王馬君は、入間さんに呼ばれた訳じゃなかったのか。

だけど、入間さんの話しって?

 

「入間が私に話したのは『首謀者を乗っ取る為に協力して欲しい』って事だった」

 

「でもその偽の首謀者役はオレの方が適任だから、変わってもらったんだよねー。オレも同じ事考えてたから調度良いと思ってさ」

 

入間さんが、首謀者を乗っ取ろうとしていた?

でも、実際に行動したのは王馬君で…。

 

さっきから何も言わないで、エグイサルを見ている入間さんに目を向ける。

いや、だとしても…やっぱりおかしい!

 

「だったら、僕達が思い出しライトで思い出した『王馬君が絶望の残党』っていうのは、どうなるんだ!?」

 

「あぁ、それ?」

 

入間さんが僕達1人1人を見ながら、やっと話しだした。

 

「発明家として言わせてもらうけど、思い出しライトは記憶を思い出す機械じゃねー。デタラメの記憶を忘れた記憶と思わせるような、ヤベー機械だ」

 

告げられたのは、思い出したもの全てを否定する言葉だった。

僕達が思い出しライトで思い出した記憶は、全てデタラメ?

 

「あっ、勿論これはオレと春川ちゃんは前もって聞いてた事だよ」

 

2人が何時、入間さんからそんな事を聞かされたのか。

考えなくても分かる。

3人の考えた作戦について、話している時だ。

 

「それと今の話しにもなるんだけど、モノクマがオレらの作戦を知らない事と、コロシアイが起きたって勘違いしちゃったのはエレクトボムを使ったせいだよ。入間ちゃんの発明品なんだけど…みんなは効果を知ってるよね?だから説明を省いちゃうけど、モノクマは何らかの方法でオレらを監視できるらしくてさー。本当に参っちゃうよね」

 

 

 

もしかして…3人が考えていた作戦って!

 

 

「まさか…モノクマと本物の首謀者を騙す為にこんな事を?本物の首謀者が自分達の嘘に乗るように…少しでも首謀者を追い詰める為に、嘘の首謀者を演じてたのか?」

 

 

導き出した考えを3人に投げる。

だって、他に考えられないんだ。

 

 

 

これが…嘘で作られた事件の全てだ。

 

 

 

格納庫に居た王馬君と入間さん。

この2人と僕達と一緒にいた春川さんは、ある作戦の元で行動を起こしていた。

それは首謀者を追い詰めて、その正体に少しでも近づく事。

モノクマにも気づかれないように、入間さんの発明品であるエレクトボムを使って、3人しか知らない秘密の作戦を作った。

首謀者の乗っ取り…僕達全員を敵に回してしまうような計画を、3人はする事になった。

 

その為に、今までの思い出しライトでの記憶や地下道から見える外の世界…それらをつなぎ合わせた話しを作り、王馬君が首謀者だと僕達に思わせる事から始めた。

あの地下道から見た外の世界…それを前もって王馬君は知っていて、話したんだろう。

僕達はその話しを信じてしまった。

そして…偽の首謀者となった王馬君は、協力者である入間さんを僕達の目の前で連れ去り、絶望だけを残して格納庫に篭もった。

暫くは、何もする気が起きないぐらいに僕達は参ってしまっていたけれど、3人の計画はここからが本番だった。

 

昨日の朝、春川さんと百田君から思い出しライトが食堂で見つかったという事で、僕達は食堂に集まって思い出しライトを浴びた。

思い出しライトから王馬君が絶望の残党である事と、僕達が希望ヶ峰学園の生徒であること、沢山の人達の希望を背負っている事を思い出した。

でも、それこそが3人の狙いだった。

入間さんが教えてくれた思い出しライトの性能から考えると…これは、首謀者が都合の良いように作っただけの記憶でしかないんだから。

 

僕達が次の日の朝に来ると知った王馬君と入間さんは、恐らく昨日の夜にでもエレクトボムを使って、嘘の死体を発明品で作り…モノクマにコロシアイが起きたと思わせた。

モノクマが分からない殺人…本当ならば、そんな事は起きるはずないみたいだけど…エレクトボムの効力によって、何らかの方法で僕達を監視していたモノクマは見る事ができなかった。

それでなくても、モノクマはエグイサルに囲まれていたんだし、知りたくても知れなかったんだろう。

2人はエレクトボムの効果が切れるまでの時間にそれらを終わらせると、姿を眩ませた。

もしかしたら、ここでも入間さんの発明品を使っていたのかもしれない。

モノクマは2人の思惑通りに、その嘘に騙された。

 

朝になって僕達が格納庫に乗り込むと、モノクマと同様にコロシアイが起きたと思ってしまった。

そりゃあ、あんな血だまりのプレス機を見れば、誰だってそう思ってしまうに違いない。

だけど、これは嘘のコロシアイでしかない。

モノクマが死体発見のアナウンスを流し、僕達が捜査に乗り出したのを不審に思った2人は…ネタバラしとばかりに、僕達に姿を見せた。

 

 

これが、僕が導き出した真相。

 

 

よく思い出してみると、王馬君が勝手に首謀者を名乗っていただけで…モノクマから告げられた訳でもないし、肯定された訳でもない。

僕達みんなが、勝手にそう思い込んでしまっただけだった。

 

 

「全部説明しないで済んで、助かったぜ…」

 

 

僕の推理は合っていたようで、入間さんは補足とかは特にしてこなかった。

だとしても、まだ分からない事がある。

例えば……

 

「じゃあ、あの地下道の扉を開けた時に見た外の世界はなんだったの!?思い出しライトが本当にそういう機械だっていう証明ができるものも、地味にないよね!?ねぇ、入間さんは本当に思い出しライトを調べたの?そんな時間今までなかったはずだよ!?それに、本当に首謀者なんているの!?」

 

白銀さんが一気に質問をぶつけていく。

 

なんだ?

何か違和感があった気がする…。

 

「だったら、この学園中を調べればいいじゃねーか」

 

モノパッドのに書かれている校則の『才囚学園について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません』という文章を指差しながら、入間さんは僕達に向けて笑っていた。

 

それってつまり…この学園に、全ての謎を解く鍵があるのか?

 

「ついでに…なんで最初の動機が没になったのかとか、本物の首謀者が誰なのかもハッキリさせちまおーぜ」

 

なんで今になって、最初の動機の話しが出たんだ…?

もしかして、それが首謀者に繋がる何かなのか?

何も教えてくれない入間さんの考えを、全て理解するのは難しい。

だけど、なんとなく分かる。

僕達は確実に、首謀者の尻尾を引きずり出してきている。

 

「それで…オレ様達の手で、この希望と絶望の物語の幕引きをしてやろうじゃねーか。それでいいよな、モノクマ?」

 

「うぷぷ…」

 

モノクマが入間さんに返したのは、そんな不気味な笑いだった。

 




~ここから先、ただの悪ふざけです~



赤松「ところで、どこに隠れていたの?」

入間「エグイサルに決まってんだろ?1人乗り用なんだけど、オレ様が改造して2人乗り用にしたんだぜ!」

赤松「凄い!さすが入間さん!」

入間「そ…そう?」

最原「それにしても、本当にコロシアイが起きたと思って焦ったんだけど…」

入間「そんな最原に言いたい事があるんだけどよぉ…」

最原「な、なに?」

入間「ジャジャーン。…ドッキリ大成功!」

最原「……うん。なんとなくそんな気はしてたよ」


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休題

5章終わったから休題。
アンケートの結果、愛の鍵ネタになりました。

そして、みなさんにご報告。
この前「多忙から解放されたー」なんて言ってましたが、再び多忙になる事になりました。
週1更新さえも怪しくなってしまい、只今凹んでおります。
やること多すぎるんだよ、誰だよこんなに増やしたの。僕だけど。


やけに派手な内装の部屋。

大きなベッドにメリーゴーランドの回転木馬という…まぁ、あれだ。

簡単に言うと、ラブアパートの部屋に気づいたら居た。

 

「なんでぇ…?」

 

情けない声を出してしまったけれど、そこは見逃して。

 

…だって、アタシ愛の鍵使ってないのに此処にいるんだよ?

いくら寝ぼけて『使いますか?/はい』を選択してたとしても、ありえない。

 

なぜならアタシは、愛の鍵を持ってないから。

 

なんでだよ、意味が分からないんだけど。

ふざけんなよ。

何が悲しくて、ラブアパートの一室でボッチ状態にされなくちゃいけないの。

 

「………待てよ?」

 

愛の鍵ないのに、ラブアパートでボッチ?

まさか……ランダムで相手役に選ばれた、なんて落ちじゃないよね?

違うよな?

そんな訳ないよね?

 

……どうしよう、言ってる内に自信がなくなってきた。

 

いや、待った。

まだ1つだけ可能性は残っているはず。(現実逃避じゃない)

例えば…

 

「夢……とか」

 

そうだ、夢に違いない。

だってここにはアタシ1人なんだから。

なんだ…悩んで損した。

となれば、やることは1つ。

 

「前から気になってたんだよなぁ…」

 

無意識に回転木馬に目がいく。

これ、乗れそうじゃん?

乗ってみたいと思わない?

いや、思うだろ。

 

木馬にゆっくり手を伸ばす。

その時「ガチャ…」と扉が開く音がして、アタシは慌てて手を引っ込めた。

 

えっ、誰か来たの?

思わずドアの方を振り返る。

 

 

アタシの姿を見て、固まった最原の姿があった。

 

 

「………」

 

「…………」

 

お互いに無言のまま時間が流れる。

ちょっと…何か喋れよ。

ていうかさ、アタシがここにいるのは最原のせいなのか?

最原が鍵を使ったせいなのか!?

おい、どーすんだよ。

こんな事になるなんて聞いてない。

 

えっ?アタシの妄想で設定作れって?

無理だよ。今は頭真っ白。

 

「……」

 

「……」

 

この空気どうしたらいいんだろう。

向こうも『どうすればいいんだ…』みたいな顔してんじゃん。

アタシのせいだけどさ、どうするんだよ!

仕事しろ、アタシの脳内妄想!

 

「えっと……その…」

 

頑張って喋ろうとするも、言葉は文章にすらならない。

なぁにこれぇ。

長年、部屋に引きこもっていたコミュ症ニートかアタシは。

 

「大丈夫…?」

 

わー…、最原に苦笑いで心配されたー。

結構ダメージくるかも、精神的に。

 

「えっ…?あ、うん。大丈夫大丈夫」

 

口ではそう言ったけど、全然大丈夫じゃない。

なんでだよ、これって部屋に呼ばれた相手の妄想で話しが始まるんじゃなかったの?

妄想が行方不明になってるの?

そんなのアリ?

 

「あー…その、だな」

 

落ち着きなく、視線をさ迷よわせる。

こうなったらヤケだ。

いつも通りに話そう、それがいい。

 

「なんで、殆どの自由時間はカジノにいるんだよ?」

 

「…えっ?」

 

なんでそんな事を聞くの?って顔をされた。

アタシもなんでそんな事聞いたのか、自分でも分からない。

 

「あっ、ごめん。今のなし。テイク2で」

 

「いいけど…」

 

さっきより最原の苦笑いが深くなった。

誰のせいかなんて言わずもがな、アタシのせいだ。

 

うーん…と何を話そうか考える。

そうしていると妄想が今になって帰還したのか、ある設定がふと頭に浮かぶ。

…よし、この設定でこの愛の鍵イベントを乗り越えよう。

 

 

「いいか、最原。お前の事を信用して話すから、こっから先言う事は他言無用で頼むぜ」

 

「う、うん…」

 

急に真面目な話しになったせいか、最原の表情が強張る。

でもさ…ごめん、こっから先話すのはアタシの妄想100%だから。

言わなくても、知ってると思うけどな。

 

「オレ様には双子の姉がいるんだ。小さい頃にオレ様が親戚に引き取られたせいで、実はあんまり面識がないんだけど…」

 

「それってつまり、僕は探偵として入間さんの双子のお姉さんを捜せばいいのかな?」

 

それぐらいなら、おやすいご用とばかりの最原に「その必要はねーんだ」とアタシは否定した。

 

「実はもう見つかってるんだよ。ただ…その、相手がオレ様達がよく知る奴でさ…」

 

俯きながら最原をチラリと確認してみると、真剣な表情で考え込んでいる様子だった。

あっ、どうしよう。

なんか楽しくなってきた。

 

「それで…その人物って誰なの?」

 

思いつく人がいなかったのか、恐る恐るといった風に最原が問いかけてくる。

気になるなら答えてあげよう、妄想で作られた衝撃的な嘘の真実。

さーて、どんな反応をしてくれるかな。

 

「あ…赤松なんだ」

 

「」

 

あれ?最原が固まった。

目の前で手を振ったり、呼びかけたりするけど反応がない。

マジの『返事がない。ただの屍のようだ』は誰も望んでないと思うんだけど?

…えっ、生きてるよな?

 

「おーい、最原?立ったまま寝てんのかよ?」

 

「えっ?いや…ええぇぇっ!?」

 

頬をツンツンしてると、やっと最原から反応が返ってきた。

起きてるなら返事ぐらいしろって。

何も反応なかったから驚いたじゃん。

 

…一番驚いているのは、最原だと思うけれど。

 

「えぇ!?赤松さん?双子?えっ、待ってよ。……えぇ?」

 

まさかとは思うけれど、本気で思ってたりしない…よな?

これ、君が好きな愛の鍵イベントなんだけど。

全部妄想なんだよ?

 

「ごめん、入間さん…ちょっと考える時間を貰っていいかな?」

 

「お…おう?」

 

いっその事、最原が考えを纏めている間に部屋から出て行こうかな…なんて考えが浮かんだ。

ゲームでは王馬がやってたんだし、問題ないと思うんだ。

よし、帰ろう。

 

強制終了だ。

じゃあな最原。

アタシは夢として、この部屋で起きた事を全部忘れてやる。

 

 

 

×××××

 

 

朝起きたら、無駄に疲労感があった。

おかしいな…昨日はいつもより早く寝たはずなんだけど。

寝返りとかで体力使ったのか?

 

「まっ、別にいいか」

 

別に支障が出るほどじゃない。

とりあえず今日はキーボのメンテナンスでもして、後は適当に過ごそう。

さっ、東条の作った朝食でも食べに行こう。

 

空腹の為、切なげに鳴く胃を押さえながら個室から出ると、今まさにインターホンを押そうとしている最原が目の前にいた。

 

「…ここはオレ様の部屋だぞ?」

 

思わず寝ぼけてんじゃねぇの?と失礼な事を考えながら言うと、「それは知ってるよ…」なんて返答がくる。

じゃあさ、なんでアタシの部屋のインターホンを押そうとしてんだ。

朝から何か用なの?

なんかあったっけ?

…何もないはずなんだけどなぁ。

 

「ちょっと気になった事があって、それを聞きに来ただけなんだけど…。入間さんって、双子のお姉さんがいたりする?」

 

「……………………はぁ?」

 

ごめん、いきなり何?

双子の姉?何を言ってるのか意味が分からんぞ。

 

「最原、頭打ったのか?東条に見てもらえば?」

 

「えっ!?いや…うん。なんでもないんだ」

 

1人で自己完結したのか、最原はそれ以降は「あれは夢だもんね…うん。現実の事が混ぜ合わせになってる訳ないよね…」とブツブツ呟いていた。

ちょ、マジでどうした。

朝から怖いって。

 

「よく分かんねーけど、オレ様もう行ってもいい?腹減ってんだよ…」

 

「あっ、待ってよ。僕も行くから」

 

さっきまでのよく分からない空気が嘘だったかのように、今日の朝食は和食と洋食のどっちにするだとか、今日は何をする予定だとか、他愛もない会話で盛り上がった。

 



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さよならダンガンロンパ①

動画を作るわけじゃないのですが、友達とある曲を題材としてV3キャラのイラストを描くことになったのが最近忙しくなった理由です(しかし、まだ下描き段階である)。

そんな近状報告はさておき、今回から最終章に入ります!
ここまで、長いようで短かった…(だいたい僕のせい)。
過去話をたまに見直したりしてると、誤字の嵐が凄いですね。
気づいた所は修正してますが、それでもまだまだある予感が…orz


ある意味モノクマに喧嘩をふっかけたような形になったけれど、お咎めとかはなくモノクマはその場から去っていった。

まぁ、校則にも学園について調べるのは自由ってあるんだし…大丈夫だよな。

文句があるなら、校則変えてみやがれバーカ……と思ったけれど本気で変えたりしたら嫌だし忘れよう。

 

それに、アタシには別の問題があるんだし…。

 

「……春川、ごめんって」

 

「オレもやり過ぎだって、入間ちゃんに言ったんだよ?それなのに聞いてくれなくてさ…」

 

「黙れクソヤロー。殺されたいの?」

 

みんなの目の前で、王馬と一緒に春川の前で正座して謝る。

隣でヘラヘラしながら正座している王馬は、余計な嘘を吐くぐらいには余裕そうだ。

なんでこんな事をしているか…ぶっちゃけ、プレス機ドッキリが原因だったりする。

プレス機で偽の死体現場作る事なんて、誰かさんのせいで作戦を変更して急遽作ったものでしかない。

それを知らず、本当にコロシアイが起きたと心配した春川に、みんなの前で謝罪…。

こんな謝罪会見やりたくない。

 

「こんな事、次からはしないでよね」

 

「本当にスミマセンでした」

 

無事に終わったので立ち上がろうとするも、正座している内に足が痺れてしまったのだろう。

上手く立ち上がれず、その場に座り込む。

…同じように正座していたはずの王馬が平気で立っていて歩けるのが、アタシは不思議でたまらないんだけど。

負けじともう一度立ち上がろうとすると、今度はちゃんと立てたけれど……正直、立っているので精一杯って感じだ。

歩くとか絶対無理。

 

「それで…学園の事を調べるって言っていたけれど、どこを調べるの?僕達でも分からない場所となると…」

 

何か言いかけて黙った最原に、アタシはニヤリと笑う。

 

「んなの、怪しそうな場所片っ端からに決まってんだろ。気づかなかった発見とかもあるだろうし…図書室の隠し扉も、あれから曖昧になったままじゃねーか」

 

図書室の隠し扉…と聞いて、みんなが反応を示した。

ありゃ?なんでみんな「そんなのあったな…」みたいな顔してんの?

ゲームと違って学級裁判とか起きてないし、隠し扉の存在知ってる人なんてさ、一部だけじゃなかった?

 

「そーいえば、最初の動機が有耶無耶になった時に終一とも話していたけど、今まで忘れてたな!」

 

「わざわざ部屋にいた奴とかも呼んでたくせにね」

 

…ん?つまりどういう事?

百田と春川の話しについていけなくて首を捻る。

 

「どうしよう。オレ様、話しに置いていかれてる」

 

「ゴン太で良かったら説明するよ?」

 

アタシの呟きを聞いたゴン太が、説明役に出てくれる。

おー…さすが紳士。

 

「えっと、つまり…ゴン太達みんな、図書室の奥に隠し扉があるのは知ってるんだ。あのタイムリミットの時間に百田君がみんなを図書室に呼び出してさ。最原君と天海君から、その隠し扉がどんな意味を持つのかって事を聞いてたんだよ」

 

なにそれ、初耳。

アタシが寝落ちという失態をやらかした時とはいえ、そんな大事な事は報告してほしかったな!

……誰とは言わないけど。

 

「首謀者が分かれば、こんな学園生活から…今度こそ終わる事ができるのか?」

 

「うん。今度こそみんなで外に出よう!首謀者と学園の謎を見つけてさ!」

 

みんながそんないい雰囲気になっている中、誰かが「あっ…」と間抜けな声を出した。

それと同時に、アタシの袖を誰かが引っ張る。

誰だよ。今、めっちゃいい雰囲気なのに。

 

「どうしよう入間ちゃん。キー坊のアンテナ引っこ抜いちゃった…」

 

そんないらん報告をしてきたのは王馬だった。

いやいや、いつもの嘘だろ?

キーボのアンテナ引っこ抜くって何?

とりあえず無視だ。

 

「もう、キー坊のアンテナで遊んでたら抜けたんだって!嘘じゃないよ!」

 

見せつけるように王馬がアタシに差し出したのは、確かに誰かのアホ毛みたいなやつで。

キーボを確認してみると頭のアホ毛が消えていて、ロード中なのか固まっていた。

再び王馬の持っているモノをもう一度見て、助けを求めるようにみんなに視線をやった。

 

 

「「何やってるの王馬君!!!」」

 

 

真っ先にそう叫んだのは、最原と赤松のアンテナコンビだった。

ほんと何やってくれてんだろうね。

 

「一回、痛い目に合えばいいんじゃない?」

 

そういうや否や、春川の姿が視界から消えたと思えば王馬の前にいて。

あっという間に、王馬が首を捕まれて宙ぶらりん…という事になっていた。

 

「ハルマキ、それはやり過ぎじゃねーか…?」

 

百田に言われて春川はパッと手を離したが、納得はできないらしい。

ギロリと王馬を睨んでいた。

 

「また、入間の仕事増やしたら許さないから」

 

…アタシの事を思っての行動だったらしい。

というか、キーボを修理するのはアタシで決定なのか。

別にいいけどさ。

 

「いえ、その必要はありません」

 

だけど、キーボ自身がそれを否定した。

どうやら問題なく動く事はできるようだ。

まぁ、ゲームでもそうだったし…変に暴れない限りは問題ないと思いたい。

 

「本当になんともないんだな?」

 

「はい。内なる声が聞こえないだけで、特に問題ありません。では、ボクは自分の研究教室に行きますね。ちょっと確かめたい事があるので…」

 

研究教室に向かったキーボをみんなで見送ると、アタシは東条に「あのさ…」と声をかけた。

 

「どうかしたの?」

 

「オレ様に、何か食べ物をください…」

 

格納庫にいる間、ずっとガチャの景品で持っていた食べ物しか食べてなかったから、まともなご飯が欲しい。

塩キャラメルとか誰かの顔した饅頭とかは、暫く見たくもない。

 

 

 

×××××

 

 

久しぶりのまともな食事を終えて、一息つく。

お腹一杯で動ける気がしない。

いっそのこと、このまま昼寝でもしてやろうかと思う。

 

「五分だけ…仮眠するか」

 

テーブルに額をくっつけ、瞼を閉じる。

そのまま夢の世界へ……行こうとしていたら、テーブルが揺れた事で身体を起こす。

悪戯でテーブルが揺れたとかじゃない。

地震が起きたみたいに、学園全体が揺れてた。

 

あぁ…嫌な予感がする。

ご飯食べてのんびり…なんてするんじゃなかった。

 

食堂から出て、玄関ホールへ足を進める。

玄関ホールへ行こうと思ったのは、ただの勘でしかない。

だけど、そこまで行くとキーボを除いたみんなの姿があった。

 

「な、なぁ…これって何の騒ぎ?」

 

未だに感じる揺れに内心でビクビクしながら、アタシは集まっているみんなに聞いた。

 

「キー坊がエグイサルと乱闘してるんだよ!」

 

「それが、部屋から出たら…」

 

「モノクマが邪魔してきやがったんだ!」

 

「研究教室を調べてたら、急に学園が揺れて…」

 

見事にバラバラだった。

パニック議論みたいになってるけど、1人分多い。

こんなんじゃ、コトダマ撃つ事もできないよ。

そもそもウィークポイントどこ?

…これを止めるようなコトダマなんて持ってないけどな。

 

とりあえず、キーボがエグイサルと戦ってる事しか分かんない。

流れ!そうなった流れは!?

 

「あー、もう!みんな落ち着いて!私が説明するから!!」

 

赤松が大声を上げた事で、パニック議論終了。

それぞれ自分の主張をしていた人達が黙り込む。

 

「ほら、学園内を調べて首謀者の正体を暴く!って事になったからさ、モノクマがエグイサルを使ってそれを阻止しようとしてきたの」

 

エグイサルを使って…あれ?

モノクマーズいつの間に復活した?

 

「そしたら、武装したキーボ君がエグイサルを引きつけてくれて…」

 

この揺れの正体と、大まかな流れは分かってきた。

良かった…ゲームの時とは違って、キーボが勝手に暴れてる訳じゃなかった。

もしゲーム通りに暴れてたら、アホ毛直さなかった事を後悔するところだった。

 

「キーボさんがエグイサルと戦っているのなら、転子達も加勢した方が!」

 

「いや、それはキーボ君の足を引っ張る事になるかもしれない。モノクマやエグイサルの事は彼を信じて任せよう」

 

今にも飛び出しそうな茶柱を、最原が止めた。

 

「じゃあさー、その間アンジー達は何をするのー?みんなでキーボが上手くいくように神様にお祈りするー?」

 

「他に、俺達ができることをした方がいいんじゃねーのか?」

 

星にそう言われてアンジーは「うーんっとねー…」と考えだした。

あれは、そう簡単に思考から戻ってこないんじゃ…?

 

「最原君達には、何か考えがありそうだネ」

 

「だったら言ってやれ、終一。安心しろ、助手を助けるのはボスであるオレの役目だからな!」

 

真宮寺や百田にそう言われて、最原は力強く頷いた。

 

「うん。キーボ君がモノクマの相手をしているんなら、変に邪魔される事もないかもしれない。だから今の内に、僕達でこの学園を調べよう。みんなで力を合わせれば、きっと首謀者に辿り着けるはずなんだ。そうだよね、入間さん」

 

「へっ?」

 

いきなり話しを振ってくるとは思わなかった。

いや、なんでこっちに振った?

あー…うん。まぁ、いいや。

 

「当たり前だろっ!とりあえず、手分けして手当たり次第に調べれば、なんとかなるんだよ!」

 

自分で言っておきながら、雑だなと思う。

けど、そんなの気にしてられない。

 

 

 

「うぅ…ドキドキしてきました」

 

「本当に、首謀者なんているのかなぁ…?」

 

「いるよ。私達で絶対に見つけよう!」

 

「あぁ、やってやろーぜ!」

 

「ウチも本気でいくぞ」

 

「みんな、無茶だけはしないでちょうだい」

 

「何かあったら、ゴン太が助けるよ!」

 

「神様もいるから安心だねー」

 

「それは頼もしいっすね」

 

「ククク…今のみんなは最高に美しいヨ」

 

「ここらでクールに決めてやるか…」

 

「首謀者は絶対に殺す」

 

「それは止めろよ。オレ様の発明品の実験台にするからな!」

 

「にしし。盛り上がってきたねー」

 

「それじゃあ…みんな、また後でね」

 

 

このコロシアイ学園生活に、みんなで終止符を打とう。

だって、これは最終章なんだから。



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さよならダンガンロンパ②

最近、友達がよくダンガンロンパの話しをします。

友達「ダンロンキャラのイラスト描こうぜ」
僕「今描いてるものとは、別物のものになるの?ねぇ、どんだけ描かせるの?」
友達「合作やろーよ」
僕「絵の雰囲気とかで、違和感凄い事になんぞ?」

友達「創作論破やってみよう!」
僕「別にいいけど…なんで?」
友達「おもしろそうだから!」
僕「手伝いぐらいは構わないけれど、書くのはキミね」
友達「マジか。頑張るわ」

僕「某テーマパークにV3のコスプレしてる人いないかな…」
友達「いないなら、自分がやるって選択もありやすぜ」
僕「言い出しっぺの法則か!?」
友達「そうそう。俺が最原君のコスプレやるから、そっちは…」
僕「あっ、なんとなく分かった。でも、やるなら秋ぐらいで。今の時期にやったら、暑すぎて死ぬ」

友達「イラストサイトで見つけたダンロンの画像を、良かれと思って送ってみました」
僕「送りすぎ。何コレ多っ……!?」

……一体、友達の身に何が起きたんだろうね?
ラインのトークまでもが、ダンガンロンパの話しばっかりなんだけど。
いや、コスプレうんぬんかんぬんは僕のせいなんだけどさ……。
それでも、なんでこうなった?


みんなと別れると、アタシは中庭にある自分の研究教室に向かった。

エグイサルとキーボの乱闘に巻き込まれないように注意しながら、なんとか研究教室まで辿り着くと、真っ先に目当ての物を手に取った。

ゲーム時とは違って、完成されている虫取り掃除機。

 

「あれ?入間さん、それ何?」

 

付いて来てたらしい白銀が、アタシが持っている虫取り掃除機を見て首を傾げた。

完璧に1人だと思っていたから、盛大に驚いてしまった事には気づかれていないみたいだ。

……よかった。

 

「前に王馬に頼まれて造った虫取り掃除機だよ。まぁ、この通り作動させても虫なんていねーけどな」

 

「そういえば、前にゴン太君も虫を見たとか言ってたもんね…」

 

見た目は空っぽな虫取り掃除機を片手に持ちながら、アタシは目を凝らして中を見る。

うーん…ゲームのようにモノッチッチがいるとは思うけれど、やっぱり肉眼では見れそうにない。

落ち着いたら、キーボに確認してもらおう……。

 

「まっ、他の場所で使ったりしてみるか。オレ様はまた校舎の方に行こうと思ってんだけど、白銀はどーすんだよ?」

 

「うーん…わたしはみんなの研究教室を地味に見て回ってみようかな」

 

「…じゃ、またな」

 

みんなの研究教室を調べると言った白銀と別れて、アタシは再び校舎の方へと足を進めた。

 

 

ーーー虫取り掃除機をモノパッドに記録しましたーーー

 

 

×××××

 

 

校舎へと引き返し玄関ホールに戻ってくると、みんなと別れた時にはなかった大きな穴があった。

思わず「うわっ…」って言いながら穴を覗き込むと、地下へと続いているであろう階段がある。

段差を踏み外さないように降り、道に沿って歩いていくと大きな扉が目の前にあった。

ゲームの記憶では、ここは王馬の研究教室だったはずだ。

中に入ってみるとゲームで見た、いかにも悪の秘密結社という雰囲気を出す部屋だった。

 

「やっほー、入間ちゃん。秘密を知られたからには生きて帰れないよ?」

 

部屋に入るなり、真っ先に王馬にそんな事を言われた。

だったら、同じようにここにいる東条やアンジーはどうなんだ…って思ったけれど、深く考えない事にする。

 

「入間さんも来たのね。調度よかったわ。少し、これを見て貰っていいかしら?」

 

東条が差し出した本を受け取り、表紙を見る。

 

「希望ヶ峰学園…公式…資料集」

 

パラパラと中を見ていくと、希望ヶ峰学園や未来機関、絶望の残党という単語が何度も書かれており、ゲームやアニメで見た絵が写真として載っていた。

 

「およよ、アンジー達が取り戻した記憶と同じ事が書いてるよー」

 

「えぇ。私達が思い出しライトで思い出したのは、ここに書かれていた通りのものなの。だからこそ、聞かせてちょうだい。思い出しライトで思い出した事は、本当に作られた記憶なの?」

 

アタシは何も答えずに、東条達が思い出しライトで思い出したという記憶を聞く。

 

 

すべてのきっかけは、あの事件。

希望ヶ峰学園から始まった人類史上最大最悪絶望的事件。

人類にとって絶望とも言うべきその事件によって、世界は滅びる所まで追い込まれた。

そんな人類史上最大最悪絶望的事件を起こしたのは、たった1人の女子高生…超高校級の絶望、江ノ島盾子。

彼女は人類絶望化のクライマックスに、世界を絶望に叩き落とす為…希望ヶ峰学園78期生によるコロシアイを企んだ。

そして、超高校級の絶望によって閉じ込められた78期生は、そこでコロシアイを強要された。

でも、そのコロシアイの末に倒れたのは、すべての黒幕である江ノ島盾子の方だった。

彼女が死んだ事によって事件は収束し、世界は復興に向けて動き出した。

それでも彼女の意志を継ぐ絶望の残党は、世界に絶望を振り撒き続けた。

対抗すべく結成された未来機関も立ち向かい続けたが、その戦いは終焉を向かえる。

それが、隕石群の衝突…。

 

「なるほどな。所々、気になるのがあったけど…まぁ、今はいいか」

 

希望ヶ峰学園公式資料集と、東条が言ってくれた相違点を見比べた後、アタシは本を閉じた。

 

「気になる事?」

 

「アンジーは特に何もなかったよー?」

 

「もしかして、さっきの最原ちゃんと同じ事かなー?」

 

…周りがなんだか騒がしいけれど、別の場所に行かないと。

 

 

ーーー希望ヶ峰学園公式資料集をモノパッドに記録しましたーーー

 

 

 

×××××

 

5階にある天海の研究教室に行ってみると、最原・天海・夢野・茶柱の姿があった。

それだけなら良いんだけど、なんか…4人揃って巨大金庫と睨めっこしてるとか、なに?

実際にこの部屋に入ったのは初めてだけど……謎解き脱出ゲームにありそうな雰囲気だと思う。

いや、そう思っているのはアタシだけかもしれないけど。

 

「入間さん!良い所で来てくれましたね!転子達と一緒に考えてくれませんか!?」

 

「えっ、あっ…考えるって何を!?」

 

よく分からないけど、茶柱にグイグイ引っ張られて巨大金庫の前にまで連れて来られてしまった。

 

「ウチの魔法でも、開けることは不可能なんじゃ…。入間よ、ウチらの変わりに開けてくれんか?」

 

「それは難しいんじゃないっすか?」

 

苦笑いでそう言った天海に「開けれんぞ?」って告げると、最原から「えっ、分かったの?」と詰め寄られた。

 

「え?…まぁな!こ、これぐらいはなんともないんだぜ!」

 

期待の眼差しから逃げるように、金庫に向き合う。

右側のイと書かれたダイヤルには十二支を選ぶようになっていて、左側のロと書かれたダイヤルには十二星座を選ぶようになっている。

 

「この2つのダイヤルを、合わせればいいんだろ?だったら…」

 

そう言って、アタシはイのダイヤルを十二支の馬に合わせる。

すると、最原が「そうか!」と突然大声を上げた。

 

「この学園のどこかにヒントがあるって…そうか、あの文字の事だったのか!あの『いは うま』っていう文字は『イは 馬』っていう、この金庫を開けるヒントだったのか!」

 

「なんじゃと!?」

 

「それに気づくなんて…入間さん凄すぎです!」

 

ごめん茶柱。

これ、ただのゲーム知識だから。

褒めてくれるのは嬉しいんだけど、複雑だ。

 

「じゃあ、ロの方はどうなるんすか?それも、どこかにヒントがあるんすよね?」

 

「いいから、オレ様に任せとけって」

 

ロのダイヤルは双子座に合わせる。

実際に見た訳ではないけれど、ボイラー室に『ろは ふたご』と書かれていた記憶がある。

カチリと鍵が外れた音がし、金庫を開ける。

中は物が沢山入りそうなほどスペースがあったが、中に入っていたのは小さなUSBメモリだけだった。

 

とりあえず確認…ってことで、都合よく教室にあったノートパソコンに挿す。

すると、ノートパソコンの画面から映像ファイルが見つかった。

 

「…入間さん、この映像を再生してもらっていいかな?」

 

「言われなくても、そのつもりだっての!」

 

最原に言われるまでもなく、映像ファイルをクリックして再生させる。

すると、再生された映像には天海が映っていた。

驚きのあまり、誰も言葉を発さない。

そんな中で、映像の天海はゆっくりと話し出した。

 

『やぁ、どうも。今更、名乗る必要はないっすよね?……多分、この俺の姿を見て、ますます訳わかんなくなってるはずっす。だったら、まずはその説明をしておいた方がいいっすね…。まず、今この映像に映っている俺は、紛れもないキミ自身っす。この映像を録画した記憶がないのは、キミがこの時の記憶を失っているせいっす。要は、この映像って記憶を失う前の天海蘭太郎から…記憶を失った後の天海蘭太郎に向けたものなんすよ』

 

「ちょっと待ってほしいっす」

 

「んあー!なんで映像を止めるんじゃ!」

 

急に映像を一時停止させた天海に、夢野が抗議の声をあげる。

それを「いいじゃないっすか…」とあまり良いとは言えない顔色をしながら、天海は返した。

 

「混乱してるのは分かるけどよぉ…後にしねーか?一個一個考えてたって分かんねーだろ?」

 

「…そっすね」

 

なんとか同意も得たので、アタシは映像を再び再生させる。

 

『で、ここからが本題っす。どうして俺がこんな映像を録画したかって言うと…実は、このコロシアイをするにあたって、俺には特別にいくつかの特典が用意されてるんす。その特典の内の1つがこのビデオメッセージって訳なんすよ。ただし、このメッセージを見るには、モノクマが用意したパズルを解く必要があるんすけど…ま、これを見てるって事は、そのパズルは解いてるはずっすね。それと、この映像は仲間と共有できない決まりっす。近くにいた仲間がモノクマに追い出されたとしたら、その理由はそういう事なんすよ』

 

すみません、今はモノクマは多忙の為…アタシ達も見てます。

同じように映像を見ているメンバーも同じ事考えていたのか、なんとも言えない顔をしていた。

 

『ちなみに、特典はもう1つあって、それはコロシアイ開始時からキミが持っている物っす。あれを上手く使えば、そっこーでコロシアイが終わると思ってたんすけど…キミがこのメッセージを見ているって事は、オレの作戦は失敗だったみたいっすね。ま、この2つが俺に与えられた特典で、それ以外は他の参加者と同じ条件っす。今までの記憶を空っぽにして、コロシアイゲームに参加する…そういう事っすよ。ちなみに、モノクマからはとっくに説明を受けていると思うんすけど…この残酷なコロシアイは最後の2人になるまで続くっす。そのルールが何を意味するか…実は、それが一番重要な所なんすけど…』

 

その時、画面から警告音のような『ブブー!』と音が鳴り、映像に映った天海が苦笑いを浮かべた。

 

『ははっ、さすがにそれはNGワードだったみたいっすね。その先の謎はキミが解くしかないみたいっす。けど、頭のいいキミならきっと大丈夫っすよ。…あ、そうそう、それともう1つ言っておく事があったっす。実は、俺がコロシアイゲームに参加するのは、今回が初めてじゃないっす。俺は前回のコロシアイを生き残った[超高校級の生存者]なんすよ…。俺だけに特典が与えられているのはそういう事っす。あれは生存者特典なんすよ。けど、有利な事だけじゃないっすよ。キミの正体を知る者は、きっとキミを狙ってくるはずっす…要は、そいつに気をつけろって事っすね。あ、それと最後に、これだけは言っておきたいんすけど…これはキミが望んだコロシアイっす。だから、絶対に勝たないと駄目っすよ…絶対にね』

 

映像はそれで終わり、アタシに重い空気がのしかかってくる。

誰でもいい、何か喋れ。

 

「…こんな形で、自分の才能を知りたくなかったっす」

 

……余計、空気が重くなっただけだった。

 

 

ーーー天海のメッセージビデオをモノパッドに記録しましたーーー

 

 



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さよならダンガンロンパ③

最近、最終章を書き終わったら、次に何をしようか…って事で本気で悩み始めました。



やっぱり、調べる場所として外せないのは図書室の隠し扉。

みんなもそう思っていたのか、アタシが図書室に来た時には既に何人か集まっていて、その後に残りのメンバーも集まった。

 

「で、どーやって隠し扉を開けるの?」

 

「それは…」

 

最原が何か言いかけた所で、白銀と茶柱から悲鳴が上がった。

思わずビクッとしてしまうも、図書室を覗き込んでいるエグイサルみ見ると、アタシは冷静になった。

 

『随分と勝手な真似をしてるよねー?勝手にあっちこっち入ったらダメなんだよ!』

 

そんなの、校則に書いてないぞ。

心の中で反論している間にも、エグイサルは図書室に入ろうとしてくる。

だけど、凄いスピードで飛んで来たキーボが廊下の瓦礫がある場所に向かってエグイサルを蹴り飛ばした。

 

やばい、キーボがめっちゃ格好いい。

 

「みなさん、お待たせしました。話しは最原君から聞いています。隠し扉を開けるので、少し下がってください。あまり近いと危険です」

 

言われた通りに、みんなして隠し扉から離れる。

すると、キーボは扉にロケットランチャーを撃って隠し扉を破壊した。

 

「ありがとう、キーボ君」

 

「いえ、それじゃあボクはエグイサルを引き止めておくので、捜査の方は任せましたよ!」

 

エグイサルが邪魔しないように引き止めると言ったキーボを置いて、アタシ達は隠し部屋に乗り込んだ。

隠し部屋はやけにハデな内装で、テーブルやソファーといったものまである。

 

「首謀者はどこだ!?」

 

キョロキョロとみんなで部屋を見渡していると、「ここだよー!」というモノクマの声が真宮寺の近くでした。

 

「この布は何かナ?」

 

何かを覆う布の方から声がしたのか真宮寺がそれを取ると、頭だけのモノクマが入った機械が姿を現した。

 

「ラスボスの待ち構えるステージまでようこそ!だからと言って、コロシアイは止められないよ。このコロシアイは絶望に生み出されたもの。そう、超高校級の絶望が引き起こした、希望ヶ峰学園でのコロシアイから全てが始まった…すべては繋がっているんだ!このコロシアイこそが絶望そのものなんだよ!」

 

別にラスボスは待ち構えていないと思ったけれど、アタシは何も言わない事にした。

ほら、喋ったら変な事も言いそうだし。

 

「モ…モノクマ?」

 

「もちろん、モノクマだよ。でも、ただのモノクマじゃないんだ。このコロシアイをコントロールし、すべてのモノクマの祖となる存在であるボクには…マザーモノクマという、特別な名前が与えられているんだ!」

 

うん、知ってた。

 

「じゃあ、この学園の中にある、モノクマのスペアを作る設備っていうのは…」

 

「あぁ、ボクの事だよ」

 

赤松が言い終わる前に、マザーモノクマが答える。

ゲームしてる時も思ったけど、情報を喋るのに躊躇いとかないな。

 

「でもさー、スペアを作れるって嘘かもしれないよ?」

 

王馬がわざとらしく言うと「嘘つきはお前だろ!スペアは簡単に作れるよ!」とマザーモノクマはムキになっていた。

 

「だったら、試しにやってみてくれ」

 

「そうだよ!新しいモノクマを作ってみてよ!」

 

「愛もないのに、産めるわけないじゃない!」

 

作れと言った白銀に、マザーモノクマが怒鳴りつける。

一応、アタシも産めって言ってみるか。

 

「オレ様が産めって言ってんだから、産んでみやがれっ!」

 

あっ、なんか凄く上から目線で言っちゃった。

いや…でも普通か。

1人ずつ順番に、マザーモノクマに産めって言っていく。

でもさぁ、「産まないと神経を抜き取るヨ」とか「産んでみなよー。でないと罰があたるよー?」とか「産まないと、入間さんに改造されるっすよ?」とか「産まないと、ゴン太に捻り潰されるぞ!」って脅しじゃない?

あと、何でアタシの名前が出たんだ。

アタシ関係ない。

 

「いいから、モノクマを産まんか!」

 

「聞いているのか?新しいモノクマを産めって言ったんだぞ?」

 

「もう!しつこいよ!ボクは声紋認証システムが組み込まれているから、本人の声で『産め』って言われないと産めない体なんだよ!」

 

本人の声=首謀者だよな。

それを最後に、マザーモノクマは幾ら話しかけても(一部は脅してたけど)一言も話さなくなった。

アタシ達の存在は無視か…。

 

 

ーーーマザーモノクマをモノパッドに記録しましたーーー

 

 

「仕方ないわね…。マザーモノクマは放っておいて、少しこの部屋を調べましょう」

 

そう切り出した東条に従い、アタシ達は隠し部屋を少し調べる事にした。

といっても……ここで調べる事って、あんまりなくない?

コロシアイだって起きてないんだし…あっ、そうだ。

 

「なぁ、天海。この前見せてくれたモノパッドなんだけど、ちょっと見せてくんねー?」

 

「別にいいっすけど…」

 

なんでこんな時に?とでも思っているのか、天海は別の事を言いたげな顔をしながらも生存者特典のモノパッドを見せてくれた。

さっき、研究教室で見せて貰えばよかったな。

とりあえず、アタシが見たいのは地図とあの無駄に長い文だ。

文章とこの学園全体の地図を一通り見て、この隠し部屋に来る手段が図書室としか明記されていないのを確認すると、アタシは天海にモノパッドを返した。

 

「何か気になる事でもあったんすか?」

 

「えっ?理由もなく見たらダメなのかよぉ…?」

 

 

ーーー生存者特典をモノパッドに記録しましたーーー

 

 

と、とにかく次だ。

今じゃ瓦礫と化した隠し部屋の扉を調べている最原と百田の近くまで行って、その様子を覗き込む。

 

「どうだ?」

 

「うん、図書室からこの部屋に入るにはカードキーが必要なんだけど、この部屋から図書室に行く分にはカードキーは必要ないみたいだね」

 

アタシに気づかないぐらい真剣そうだし、邪魔にならない内に2人から離れよう。

 

 

ーーー図書室の隠し扉をモノパッドに記録しましたーーー

 

 

「それにしても、やはりここは首謀者の部屋で間違いなさそうじゃな」

 

「やっぱ、分かっちゃう?」

 

夢野の呟きに、それまで黙っていただけのマザーモノクマが再び喋り出した。

 

「オマエラが捜している人物が、この部屋に頻繁に訪れているのは確かだよ。でも、それを見つける事はできないよ。オマエラに見つかるようなバカじゃないからね!」

 

夢野の隣で悔しそうに茶柱が唸る中で、アンジーが急に「ほれー」とアタシに手を差し出してきた。

……どうしろと?

 

「神様がねー、美兎のハンマーでゴッチーンしたらいいよーって言うから」

 

「えぇ?」

 

ハンマーって、エレクトハンマーの事?

今は持ってないんだけど。

というか、アンジーちょっとマザーモノクマに対して怒ってる?

 

 

ーーー首謀者の手掛かりをモノパッドに記録しましたーーー

 

 

「ここに首謀者はいないみたいだね…」

 

「だったら、誰かここに残って調べてもらってる間に、他のみんなで別の場所を調べてみる?」

 

ゴン太と王馬の話しに便乗するように、アタシは「なら、オレ様が残るぜ」と告げた。

 

「だったら、俺も残るか。1人でやるよりはマシだろ」

 

手伝うとばかりに星が名乗り出てくれる。

確かに、1人よりいいとは思う。

 

「んじゃ、オレも手伝うぜ。助手が残るってんなら、ボスも手伝わねーとな」

 

百田も残ってくれるらしいけれど…助手って誰の事だ?

……アタシじゃないよな?

勝手に助手にカウントされてないよな??

 

「私も残るよ。首謀者は隠れているだけかもしれないし…」

 

百田が残るメンバーにいるためか、春川もここに残って調べるメンバーに入った。

……このメンバーのメンツ、なんか強くない?

気のせい?

 

「それじゃあ…4人ともよろしくね」

 

隠し部屋の捜査を任されたアタシ達は、他の場所を調べに図書室の方へ戻るみんなを見送ると、改めて部屋の中をグルリと見渡す。

 

「調べる…って言っても、何をすればいいんだ?マザーモノクマから首謀者の情報を聞き出せばいいのか?」

 

沈黙を貫くマザーモノクマを見ながら星が百田に聞くも、百田から返ってきたのは「とにかく、やれる事をやるぞ!」だった。

なんとなく、そんな気はしてたよ。

でも…その通りなんだよな。

 

「みんな、伏せて!」

 

図書室の方に目を向けていた春川が、急に強張った声で叫んだ。

よく分からなかったけど、言われた通りに伏せると何かが盛大に崩れる音と共に砂埃が部屋中に広がる。

 

「ゲホッ…ゴホッ……」

 

「一体、何が起きたんだ?」

 

視界がだんだんクリアになっていくと、真っ先に視線は床に転がったマザーモノクマにいっていた。

うん、見事に壊れかけてる。

 

「オイオイ…どーすんだよ、閉じ込められてんぞ?」

 

焦ったように言う百田の声に反応して図書室の方を見てみると、壁が崩れていて人が通れない状態になっていた。

……うわっ、ゲームで夢野がやられてたやつじゃん。

えっと…隠し通路って壁にあったよな?

どの辺だっけ?

 

「ちょっと、何してるの?」

 

壁をペタペタ触るアタシを見て、春川が戸惑いながらも聞いてくる。

まぁ、端から見たら気が動転してでの行動に見えるもんね。

 

「だってぇ…隠し扉とか、隠し通路があったっておかしくねーだろ?」

 

そうやって壁を触っている時に、ガコンと音が鳴ったと思うといつの間にか、アタシの目の前に隠し通路があった。

 

「…どうやら、当たりだったみたいだな」

 

「スゲーじゃねぇか!」

 

隠し通路へ足を踏み入れながら、星と百田がよくやったとばかりに笑いかける。

 

「この先に、首謀者がいるかもしれないんだね」

 

殺意の籠もった目で隠し通路の先を睨みながら、春川が先頭を歩きだす。

それに続くように百田や星も歩いていくから、アタシも遅れないように付いて行く。

前の3人のやる気が凄いんだけど…この通路の先って、あそこなんだよなぁ。

長い通路を注意深く歩いていくと、再び扉が目の前に立ちふさがる。

 

「…この先みたいだね」

 

「よーっし、いっちょやるか!」

 

「こっから先は、気を引き締めねーとな」

 

カンストしそうな勢いでやる気満々な所悪いんだけど、その先は…あっ、どうしよう笑いそうなんだけど。

3人が扉を開けてその先に駆け込んで…固まった。

 

「ん?なぁ、ここって…」

 

「なんの冗談だよ!?」

 

「……女子トイレ?」

 

こんな状況なのに、アタシ笑いを堪えるのに必死で辛い。

とにかく、女子トイレに居たままって訳にもいかないので、廊下の方に出る。

運良く、誰も近くにいなかったから星と百田はどことなくホッとした表情をしていた。

もし茶柱に目撃でもされてたら「これだから男死は…!」って凄い事になってた気がする。

うん。見られてなくて良かった。

 

「この一階の女子トイレからでもあの部屋に行けるって事は、首謀者には図書室以外にもあの部屋に行くルートがあったんだよね?」

 

考え込みだした春川は「だったら…なんで」と言ってから、黙ってしまった。

 

「どうした?ハルマキ」

 

「最初の動機の時、なんで首謀者はここから隠し部屋に行けたはずなのにモノクマを作らなかったのか気になっただけ」

 

「言われてみれば、こいつはどういう事なんだ?」

 

春川の考えに賛同するかのように星も一緒になって考えだす。

すると、百田が思い出したかのように「そーいえばよ…」と話し出した。

 

「あの時、モノクマは『誰かさんのせいで製造機が使えない』って言ってたな…。誰かが首謀者の邪魔になるような事をしたんじゃねーのか?」

 

百田の言うあの時って…多分、タイムリミットの時だよな?

 

「あっ、オレ様のせいかも…」

 

そんなに大きな声では言ってないのに、3人は聞こえていたのか目で続きを言うように促された。

 

「じ、実はだなあの日は発明品…っても、試作品なんだけどよ。このトイレで使ってたんだ。消臭・清掃ができるんだけど、使っている間はその部屋に入れないって効果があって、丸1日入れないようになっちまうんだけどな。図書室にはオレ様達がいたし、首謀者が部屋に行くには女子トイレの隠し通路しかねーだろ?」

 

「なるほどな…そういう事か」

 

納得したように星は頷いてくれたが、百田は「けどよ…」と反論してきた。

 

「首謀者はあの隠し部屋にずっといるんだろ?関係なくねーか?」

 

その言葉、斬ってみせる!…って、そういうのは最原とか赤松の仕事だよな。

てか、なんで学級裁判でもないのに反論ショーダウン起きた。

 

「マザーモノクマが言ってただろ?オレ様達が捜している人物は頻繁に訪れるって。つまり、ずっとあの部屋にいる訳じゃねーんだ。んでもって、隠し通路の存在も考えてみると……」

 

そこから先は言うのを止めた。

まだその時じゃない。

 

 

ーーー隠し通路の隠し通路をモノパッドに記録しましたーーー

 

 

次にどこを調べよう…と考えていると、思い浮かんだのは2階にある思い出しライトを作る教室だった。

教室に入ってみると、そこには何かを見て固まっている真宮寺とゴン太の姿があった。

アタシが来た事にも気づかないぐらいに、ある一点を見ている。

何を見ているんだろうと彼らの視線の先を辿る。

 

 

その視線の先には、机や椅子を張り手で吹き飛ばす赤松の姿があった。

 

 

あぁ…うん。2人の気持ちが分かった気がする。

凄い勢いで吹っ飛んでいくのを見てると…腕力とか疑いたくなるよな。

 

「あっ、入間さんも来たの?ちょっと待ってて。もうすぐで一掃できそうだから!」

 

アタシにニッコリと笑いながらも、机と椅子をどんどん飛ばしていく赤松を見ていると、別の意味で怖くなった。

一掃するって何。

もう考えるの止めよう。

 

「これには驚いたヨ…」

 

「うん。ゴン太も負けないように頑張らないと…」

 

真宮寺とゴン太がそれぞれ何か思いながら言ってるけど、ゴン太はそれ以上力持ちになってどうするつもりだ。

 

「あれ?」

 

不意に赤松が手を止めた。

何か見つけたのかと思って真宮寺が赤松に近づいていく。

 

「おや…なんだか怪しいものがでてきたネ」

 

「入間さん、ゴン太君、2人ともこっちに来て」

 

赤松に呼ばれて、ゴン太と一緒に見つけたものを確認してみると、机の盤面にホログラムのキーボードが浮かんでいた。

試しに触ってみると教室の黒板に思い出しライトのセットアップという文字が浮かぶ。

 

「せっとあっぷ…って、なに?」

 

「ん?あぁ…ようは、設定ってやつだよ」

 

セットアップの意味が分からなかったゴン太に分かりやすく説明し、赤松に「触ってみる?」って聞いてみると、即答で「ううん。遠慮しとく」って断られた。

真宮寺に関しては、聞く前に「僕も止めておくヨ…」って言われたけどな。

ゴン太は…触るのもダメそうだから聞かない。

 

キーボードを操作していくと、黒板に表示された画面が『今までに思い出した記憶』という項目に変わり、選択肢がズラーッと並ぶ。

一通り見てみようと思ってカーソルを一番下にまでやると、新たに記憶を思い出すという選択肢が出てくる。

 

「ねぇ、試しにそれでやってみない?」

 

「ん。任せろ」

 

赤松に言われた通りにやると、記憶の項目を選べというものに変わった。

どれでもいいと思って一番上にあった生存者についての項目を選ぶ。

すると、また記憶の項目を選べという事で幾つかの選択肢が出てきた。

 

「生存者は他の星にいる、ゴフェル号の中に他の生存者もいる、本当に生存者はいない…ククク、なるほどネ」

 

選択肢をご丁寧に読み上げてくれた真宮寺が、不気味な笑い方をしている事に気づかないフリをして適当に選んでみると、思い出す記憶の確認画面になった。

 

「まっ、問題ねーだろ」

 

そう言ってアタシが決定キーを押すと、近くで『ガタン』と何かが落ちる音がした。

 

「あれ?今、ロッカーから音がしなかった?」

 

「ゴン太が見てくるよ」

 

ゴン太がロッカーを開けると、中には思い出しライトが入っていた。

 

 

ーーー思い出しライトの設定をモノパッドに記録しましたーーー

 

 

あとは特に調べる所もなさそうだし、ずっと持ち歩いていた虫取り掃除機を再度使ってみる。

…やっぱり、見た感じでは何の変化もなさそうだ。

 

「ねぇ、それゴン太に見せて!」

 

「いいけど…壊すなよ?」

 

眼の色を変えたゴン太に、虫取り掃除機を渡すと「凄いよ!和むよ!」と大声を出すもんだから、赤松や真宮寺は『何が?』と言いたげな顔をしていた。

 

「ねぇ、この虫さんはどこで捕まえたの!?」

 

「えっ?虫??」

 

赤松が虫取り掃除機の中をジッ…と見てみるも、見えないのか「えっ?どこ?」と困惑していた。

 

「ゴン太でも、やっと見えるってぐらい凄く小さな虫さんなんだよ」

 

そんなの、普通の人間には無理だよ。

ゴン太だからできるだけじゃん。

でも、ちゃんと吸い込まれているのは分かった。

 

「んじゃ、後でキーボに頼んで…中に入ってる虫をよく調べてもらうか」

 

「キーボ君に?」

 

なんでキーボの名前が出たのか分からない3人に、説明もしないでアタシは教室から飛び出した。

さーて、どこに行こう。

 

 

×××××

 

 

他に行くような場所なんてなかったはずだし、適当に時間を潰す。

ゲームでは百田の研究教室も調べてた気がするけど、あそこは別に無視してても問題ないかなって思う。

無意識に歩いている内に玄関ホールまで戻ってきていたらしく、本気でどうしようかと思い悩む。

だけど、なんだか外がさっきまでと違って静かだし、いつの間にか地響きも止んでいるんだし…外に出てみようかな。

 

「あれ?」

 

玄関ホールの扉を開けて中庭の方に出てみれば、なぜかみんないる。

えっ、もしかして集合するように言われてた?

なにそれ聞いてないんだけど。

 

「…これで、みなさん揃いましたね。最原君、赤松さん、説明をお願いします」

 

未だに武装したままのキーボが、状況が分かってないアタシを入れる一部の人への説明を促す。

 

「うん。あのね、これから学級裁判をする事になったんだ」

 

「そこで、首謀者の正体を明らかにして…この生活を終わらせよう」

 

つまり…最初で最後の学級裁判って事でいいのかな。

でもその為には、もう1つ明らかにしておくべき事がある。

 

「おい、キーボ。テメーのその目でこの掃除機の中に入ってるやつの写真を撮ってくんねーか?」

 

「えっ…掃除機の中ですか?」

 

キーボに虫取り掃除機の中を見てもらう。

しばらくジッ…と見ていたキーボだったけど、口から一枚の写真を取り出すとそれを渡してきた。

 

「どれどれ…?」

 

受け取った写真には、虫のような羽を付けた小さなモノクマが映っていた。

その手には、カメラがある。

 

「えっ…モノクマ?」

 

「これが、虫さんの正体なの?」

 

隣から写真を覗き込んできた最原とゴン太が見るなり、思った事をそのまま言ってきた。

それにつられて他のみんなも覗き込もうとしてくるので、みんなに写真を渡した。

 

「で…こいつらの正体は分かりそうか?」

 

「任せてください。ボクなら声も聞き取れるはずです」

 

むしろ聞き取れなかったら、アタシがメンテナンスでキーボの性能を弄った意味がなくなる。

虫取り掃除機に耳を当てて、キーボがその声を聞く事に集中する。

 

「…名前はモノチッチ。6体目のモノクマーズで、持っているカメラで撮った映像はマザーモノクマを経由してモノクマに送られるらしいです」

 

「…キー坊って、ただのポンコツロボじゃなかったんだね」

 

それって、今言う事なのか…?

 

 

ーーー6体目のモノクマーズをモノパッドに記録しましたーーー

 

 



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さよならダンガンロンパ④

最近は、ホームとマイページしか開かなかったので、久しぶりに小説検索のページでダンロンの小説をあさってました。
そしたら……知らない間に、V3の小説が増えているじゃないか!
嬉しすぎて、衝動的に書き殴ってしまったよ!!
もっと増えていいんだよ、てか増えてください(土下座)

書き殴ったせいで、今回の学級裁判の話しの展開早い気がするけど、そこはあえてツッコミはなしでお願いします。
ほら、あれだよ…作者の都合ってやt((殴


どんどん下へと降りていくエレベーターの中で、アタシはフッと思い出したように隣にいるキーボを見た。

今では武装を解いていて、いつも通りの姿だ。

そんなキーボに「ちょっとだけ、ジッとしてろよ」と声をかけてから、キーボの腕にペタッと小さなシールを貼ってやった。

 

「あの…これは?」

 

「ん?お守りみたいなやつだよ」

 

まぁ、何かなんて嫌でもいずれ分かるさ。

ガタガタと音をたてて止まったエレベーターから、みんながゆっくり降りて裁判場に足を踏み入れていく。

 

裁判場には、すでにモノクマ達の姿があった。

アタシ達16人が用意された証言台の前に立つのを確認すると、モノクマは「うぷぷ…」と不敵に笑い出す。

 

「まさか、オマエラ全員揃ってここに立つ事になるなんてね…。で、それなりの手掛かりは得たんだろうね?オマエラがずっと捜していた首謀者と学園の謎の手掛かりを!」

 

モノクマにそう問われた事で、みんなの表情が強張る。

だけど大丈夫。

手掛かりは…必要なコトダマはある。

みんながいる。

それが何よりも、今のアタシには心強い。

 

「それじゃあ、早速なんだけど…何について話すの?」

 

「あっ、だったら俺からちょっといいっすか?」

 

議論を始める前に、天海が手を上げた。

誰も止める事はしないので、天海はそのまま話し出す。

 

「やっと、俺の才能が分かったんすよ。知らない人もいると思うんで言うっすけど…俺の才能は『超高校級の生存者』なんすよ」

 

「確か…天海さんは前回のコロシアイを生き残った『超高校級の生存者』なんでしたっけ?」

 

一緒にビデオメッセージを見ていた茶柱がそう言った事で、「前回のコロシアイ?」とゴン太が首を傾げた。

 

「うむ。じゃが、その時の記憶は失ってしまっておるがな」

 

「どうせ、モノクマが奪ったんだろ」

 

百田がそう吐き捨てると「そうだけど、それがどうかした?」なんて返事がモノクマから返ってきた。

 

「それで、天海君には生存者特典としてビデオメッセージと生存者特典のモノパッドが与えられていたみたいなんだ」

 

「生存者特典…ですか?」

 

何も知らないキーボや他のみんなに、天海が生存者特典のモノパッドを見せる。

 

「このモノパッドはみんなのモノパッドと違って、図書室の隠し扉や研究教室といった場所の地図に、コロシアイを終わらせるヒントってのがあったっす。だから俺は、最初の動機の時には既に隠し扉の存在を知っていたんすよ」

 

各々納得していく中で、アタシは「じゃ、次なんだけどよ…」と言って、モノクマにモノチッチの写真を見せた。

 

「あら、お父ちゃんソックリで可愛いわね」

 

「なんや、その写真」

 

「…オラ、知ラナイ」

 

「オイラ知ってるよー、そいつは同じモノクマーズでモノチッチっていうんだー」

 

「なんで知ってんだよっ!?」

 

真っ先にモノクマーズが喋り出した事で、喋るタイミング逃した。

ちょっと今だけ黙ってモノクマーズ。

 

「こいつの撮った映像は、マザーモノクマを経由してモノクマに送られる…。だったら、首謀者は隠し部屋にいる時は、オレ様達の行動を知っていたんだな?」

 

「うん、そうだね。今もオマエラの事を見てるよ」

 

「…隠し部屋じゃなくて、オレ様達と同じコロシアイ参加者として見ているんだろ」

 

そう言った瞬間、周りの温度が下がった気がした。

というか、絶対下がった。

 

「首謀者がこの中にいるっていうのは、本当なの?」

 

「そんな訳ないよ!今もマザーモノクマを通して見てるだけなんじゃないの!?」

 

春川と白銀が、ハッとしたように発言する。

アタシはモノクマの様子を窺ってみるも、話し出すような気配はない。

 

「今、マザーモノクマは壊れている。モノクマ、それでも首謀者は隠れたままだって言うのかよ?」

 

もう少し押せば話すか?

だけど、押し黙ったままで何も言ってくれない。

 

「ねー、首謀者って何のことー?」

 

「アタイ達の知らない話しね」

 

代わりとばかりに話し出したのは、モノクマーズだ。

ちょっと悪いんだけど、ややこしい事になりそうだし黙ってほしい。

 

「みんなも知ってると思うけど、図書室から隠し部屋に入るには、隠し扉でカードキーを使わないといけない。前に、カードキーに埃を詰めてみたら使われていた痕跡があったんだ。この中の誰か…なんて出来れば考えたくないけど、その可能性はあるよ」

 

タイミング的には遅いけれど、最原からの賛成を貰った。

よしっ、どんどんやってみよう。

 

「可能性はあるじゃなくて、実際そうなんだよ。マザーモノクマも言ってただろ?オレ様達が捜している人物は頻繁に訪れているって」

 

「へー…。じゃあ、本当にオレ達の中にいるんだ?うわー、誰だろう!」

 

なんで、王馬はそんなに楽しそうなの?

あぁ…いいや。今はそれよりも議論を進めないと。

 

「つー訳でだ。最初の動機のタイムリミットの時…変なBGMが鳴ってる時に何をしていたのか、オレ様に暴露しやがれ!」

 

あちこちから「なんで!?」って声が上がったけれど、いいから喋っていけって。

意味も言わずに言ったせいか、みんな言うのを渋っていたけど「しょうがないなー…」と赤松が困ったように話し出した。

しょうがないってなんだよ。

 

「えーっと…私は最原君と1階の空き教室で見張りをしていたよ」

 

「俺は自分の部屋にいたな」

 

「ボクも自分の部屋で過ごしていましたけど…」

 

「実は、オレも部屋にいたんだよねー」

 

「ゴン太は、モノクマと戦う為に百田君達と一緒にいたよ」

 

「他には、ハルマキに茶柱、夜長、夢野、天海、入間もいたな。天海と入間は途中で図書室に行ったけどな」

 

「わたしは食堂にいたよ。東条さんと真宮寺君も一緒にいたけど…途中でトイレに行ったよ。食堂近くのトイレは使えなかったから、2階に行ったけどね…」

 

上から赤松、星、キーボ、王馬、ゴン太、百田、白銀が証言していく。

渋ってたわりには、いい感じに進んでいるかもしれない。

それじゃ、ちよっと突っ込んだ話しにしていこうか。

 

「なぁ、白銀…テメーが食堂を離れたのは、本当にトイレに行く為だけだったのか?」

 

「え……?」

 

アタシが行った言葉が理解者できないのか、少し青ざめながらも「どういう意味?」と白銀が聞いてくる。

でも、アタシが何かを言う前に「そっか…」と春川が口元に手を当てながら呟いた。

 

「あのBGMが鳴っている時に、校舎1階の女子トイレに行こうとするなんて…偶然だとしても見過ごせないよね。だって、あのトイレには隠し通路があったんだし」

 

思い出したのか、星と百田が気まずそうに視線を逸らしていた。

あの時は、笑いそうになってごめん。

 

「その隠し通路は、どこに繋がっていたのかしら?」

 

「あの図書室の隠し部屋だったよ」

 

東条の問いに春川が答えると「ちょっと待ってほしいっす」と天海が慌てたような声を出した。

 

「そんなの、俺の生存者特典のモノパッドには書いてなかったっすよ…!」

 

「つまり、首謀者のみが知る抜け道って事だネ…」

 

真宮寺にそう言われた事で、天海の顔からサーッと血の気が引いた。

もしかしたら、最悪な結果になった場合の事でも考えてしまったのかもしれない。

…そうならなくて、今は本当に良かった。

 

「でもでもー、なんで1階のトイレは使えなかったのー?」

 

アンジーの疑問に、意外にも夢野が「入間の発明品じゃ!」と大声を上げた。

 

「ウチは、ただならぬ魔力を感じて近くにおったから見たんじゃ!入間の発明品が、誰もトイレに侵入できんバリアを貼るところをな」

 

あー…そういえば、あの時夢野に会ったっけ。

ていうか、え?たまたま通りかかったとかじゃなくて、見てたの?

うわっ、恥ずかしい。

 

「ま…待ってよ、そんなの偶然だよ!私は本当にトイレに行こうとしてただけだよ!それに、みんなも見たでしょ?私がマザーモノクマに新しいモノクマを作るように言った時に、みんなと同じで新しいモノクマが作られなかったのを!」

 

「そうですよ!男死ならともかく白銀さんは関係ありません」

 

がるるると威嚇する茶柱に思わず苦笑いしそうになった時、「待って」と赤松からストップがかかった。

 

「でも、白銀さんは『作れ』って言っただけで『産め』って言わなかったよね…?」

 

その一言に、みんなの視線が一斉に白銀に集まる。

驚きとか、やっぱり…なんて視線ばかりがある。

 

「確か、マザーモノクマには声紋システムがあって、首謀者の声で『産め』と命令されないと、新しいモノクマを作らないんだったわね?」

 

改めて、東条がマザーモノクマの性能を確認してきたから、黙って頷く。

なんか、スムーズに進み過ぎて後が怖い。

 

「ねー、なんでつむぎは『産め』って言わなかったのー?」

 

「そ、そんなのは偶然で…」

 

震える声でそう言った白銀に「そう何度も、偶然が重なるのか?」と星が帽子を被り直しながら言う。

 

「それじゃあ、白銀さんがゴン太達をここに閉じ込めた首謀者なの?」

 

「その可能性が高いってだけで、まだ白銀と決まった訳じゃねーだろ!」

 

ゴン太の言った事を訂正するように百田が叫ぶ。

それに便乗するかのように、白銀も「そうだよ!」と大声を上げた。

 

「私は首謀者じゃないよ!きっと、首謀者は江ノ島盾子だよ!!ほら、今までのコロシアイだってそうだったでしょ!?」

 

「ですが、江ノ島盾子は既に消滅したはずです!」

 

キーボがそう言った途端、モノクマがなぜか「うぷぷ…」と笑った。

 

「そんなはずないよ!だって、江ノ島盾子は…」

 

「江ノ島盾子は?」

 

まるで、オウム返しのようにモノクマが白銀の台詞を真似る。

 

「だって、江ノ島盾子は…!」

 

「江ノ島盾子がなんなんだー!」

 

待ちきれないとばかりにモノクマが大声を上げた瞬間、どこからか出現した白い煙が白銀の姿を隠した。

 

 

「だって、江ノ島盾子は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいるじゃなーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煙が晴れると、そこには白銀の姿はなかった。

代わりに、クマのヘアゴムを付けたツインテールの少女の姿があった。

 

超高校級の絶望、江ノ島盾子の姿が。

 

まぁ…白銀のコスプレなんだけどね。

 



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さよならダンガンロンパ⑤

本当は昨日に投稿する予定だったんだ。
でもね、昨日って王馬君の誕生日だったじゃん?友達と一緒になって「王馬君ハピバ」って感じで盛り上がってたら、忘れてて…。

先月なんて、僕と東条さんの誕生日が1日違いって理由で、東条さんのオマケ扱いでお祝いだったし……僕の周りで推しキャラの誕生日祝う人が多い。

あれ…それとも、これが今では普通なのかな?
キャラの誕生日を祝う事をしない僕が、おかしいのかな…


「うぷぷ…待たせたわね。オマエラの誰も待っていなくても、ザコドモに『またかよ』と思われても…美しくて絶望的な私様の登場よ!江ノ島盾子53世のね!」

 

「という訳で、今回の黒幕も江ノ島盾子でしたー!」

 

ぶひゃひゃひゃとモノクマが大声で笑い出す。

それに重なるようにモノクマーズも笑うもんだから、笑い声が裁判場によく響いた。

 

「し…白銀さん?どういう事なんですか!?」

 

目の前で起きている事が信じられないのか、そう言った茶柱の声は震えていた。

 

「あー、今までの白銀つむぎのキャラは忘れて。だって、あの存在は嘘なんだからさ。というわけで、居るかどうか分からない彼女のファンはご愁傷様でしたー」

 

さりげなく、ファンとか言ってるんだけど。

これって、視聴者に言ってる…んだよね?多分。

 

「えーっと…状況が分かってないのってオレだけ?白銀ちゃんは何やってるの?」

 

そんな王馬の一言が、動揺しているみんなの空気をブチ壊した。

そうだ…一応、アタシと王馬は思い出しライトを浴びなかったから江ノ島盾子を知らない事になってるんだ。

 

「さっき名乗ったじゃないですか。江ノ島盾子53世って。すぐに忘れられるなんて、私って絶望的に影が薄いキャラなんですね。ていうか、アンタって一応アタシを崇拝する絶望の残党って設定なんだからさ、空気読んでくんない?」

 

不満げに「えー、初めて会う人を崇拝しろとか言われてもなー…」という王馬の文句を押しのけるように、「ちょっと待って!」と最原が大声を上げた。

 

「その声にその顔…なんで江ノ島盾子がここにいるんだよ!?」

 

江ノ島は眼鏡をかけて「歴史が繰り返すように、江ノ島盾子も繰り返す… 」と怪しく笑みを浮かべながら言ったと思うと、次の瞬間にはその眼鏡キャラを止めていた。

 

「ご覧の通り、アタシは江ノ島盾子を完全再現してるの!つまり、江ノ島盾子そのものなのよっ!」

 

「じゃあ、あんたを殺せばいいんだね」

 

暗殺者の目になった春川が、真っ直ぐに江ノ島を見据える。

止めろ、殺すの駄目絶対。

 

「あ、殺傷事件とかやめてよー。アタシを殺したところで、コロシアイは終わらないしねー。あっ、間違えました…そもそも今回は、まだコロシアイが起きてませんでした。あーあ…アタシの思惑通りなら、今頃生き残ってるのは5人くらいの予定だったんだけどなー。ねぇ…なんで邪魔してきたの?入間さん」

 

急に白銀に戻ったと思えば、アタシを睨んでいた。

なんで…ねぇ。

全員生存を目指して、何が悪いの?

 

「な、なんの事だよ。オレ様が何したっていうのぉ…?」

 

まぁ…理由なんて教えてやらない。

 

「ふーん…あくまでしらばっくれるんだ?まっ、アタシはそれでもいいんだけどさ、これだけは答えてくれる?…………アンタ誰?アタシの知っているはずの入間美兎とは、ちょーっと違うのよね」

 

また江ノ島盾子の姿になった。

…下ネタ発言してこなかったのが、やっぱり問題だった?

ちょっと適当に誤魔化しつつ、そのまま返してやろうか。

 

「ケッ、オレ様が誰かなんて今更言わせんじゃねー。黄金の脳細胞を持つ美人すぎる天才発明家…入間美兎様だぞっ!だいたい、テメーこそ誰なんだよ。雑魚共がほざいている希望ヶ峰学園とか絶望の残党とか…んなの、思い出しライトで植え付けたデタラメの記憶でしかねーんだ。空想の中の人間になっているテメーは、誰なんだよ!」

 

「「「………え?」」」

 

あっ…誤魔化す為とはいえ、雑魚とか言っちゃった。

いや、それ以前の問題?

みんなの視線が集まりすぎて、ちょっと逃げ出したい衝動にかられる。

調子乗ったのは悪かったから、そんなに見ないで!?

 

「…なにそれ。アタシが空想の人間?そんな訳ないって。オマエラは希望ヶ峰学園の生徒で、アタシは江ノ島盾子。その事実は変わらない。だから、思い出しライトの記憶がデタラメな訳ないじゃん」

 

「それは違うよ!」

 

…え、何。

赤松の『それは違うよ!』を生で聞けるとか、何の学級裁判…って、今は学級裁判の最中だった。

ていうか、どこからノンストップ議論に入ったの。

 

「思い出しライトの記憶がデタラメかもしれないって証拠はあるよ。そうだよね?真宮寺君、ゴン太君」

 

「あれは忘れられないヨ…」

 

「あの思い出しライトを作れる教室の事だよね?」

 

もう、アタシ黙ってても議論進んでいけるんじゃない?

ちょっと空気になってみよう。

 

「そこではね、思い出しライトを作る為に思い出す記憶を設定する…っていう項目があったんだけど、その選択肢がおかしかったんだ。その時は生存者についての設定だったんだけどね『生存者は他の星にいる』『ゴフェル号の中に他の生存者もいる』『本当に生存者はいない』…っていう選択肢が出てたんだ。これって、おかしくない?だって、私達の記憶を取り戻す装置なら、こんな矛盾が起きる選択肢が出てくる訳ないよね?」

 

赤松の解説に補足を付け足すように、隣で最原が「それだけじゃないよ」と、王馬の研究教室で見た希望ヶ峰学園公式資料集を取り出した。

待って、今それどこから出てきた。

 

「この本は、複数の研究者が希望ヶ峰学園に関して徹底的に調べたものらしい。つまり、ここに記載されている情報は、かなり正確な情報なはずなんだけど…」

 

「それに書かれている内容と俺達の記憶で、食い違っている所があるって言いたいのか?」

 

最原の言おうとしている事に気づいた星が、口ごもっていた最原の代わりに言った。

 

「それは本当なの?」

 

確認してきた東条に最原は頷くと、本のページを捲り出した。

 

「僕らの記憶だと、人類史上最大最悪の絶望的事件を引き起こしたのは、たった1人の女子高生江ノ島盾子…だけど、この本に書いてある内容では超高校級の絶望は、江ノ島盾子だけを指す言葉じゃなくて…彼女から伝染した集団や現象を指す言葉なんだ。だから、超高校級の絶望は、江ノ島盾子1人じゃないんだ」

 

「そんなの、聞いた事ないっすよ…」

 

「だけど、食い違っている点は他にもあるんだ」

 

最原がそう言った瞬間、「えー、もう良くなーい?飽きちゃったー」と江ノ島が退屈そうな声を出した。

 

「じゃあ、あんたは黙ってて」

 

バッサリと切り捨てるように春川がそう言った事で、最原が再び本のページを捲る。

 

「78期生によるコロシアイの時に、彼らを希望ヶ峰学園に閉じ込めのは超高校級の絶望…っていうのが、僕らの思い出した記憶なんだけど、希望ヶ峰学園に閉じこもったのは78期生自身なんだ。希望ヶ峰学園シェルター化計画っていうのが理由らしいんだ」

 

「あれま、ビックリだねー。神様も言ってるよー?アンジー達が希望ヶ峰学園の募集に応募して、入学したのかどうかも怪しくなってきたってー」

 

たまに思うんだけど、アンジーの神様って有能な時とそうでない時の差が激しいよな。

ほら、隣で最原が「アンジーさんの言う通りだよ」って同意してる。

 

「新しい希望ヶ峰学園は、かつてと同じように才能ある生徒の募集をしていた…けど、この本には生徒の募集は行っていなくて、スカウトのみによって生徒を集めていたんだ」

 

思い出しライトを作る教室や、思い出した記憶と資料集の相違点。

これらが出たなら、誰だって嫌でも気づくはずだ。

 

「じゃあ、俺達が思い出した記憶は嘘っぱちだったのかよ!?」

 

「現状を見る限りだと、前に入間さんが言っていた通り…記憶を植え付ける為の道具という事になりますね」

 

思い出した記憶は作り物のデタラメでしかない、という真実に。

 

「えー!そんな真実は酷いよー!だって、思い出しライトの記憶が嘘だとすると…」

 

「今までの話しが全部嘘って事になるわ!」

 

「伏線モ意味ガナクナルヨネ…」

 

「これまでの展開は、なんだったんだよ!」

 

「んな訳ないやろー!」

 

モノクマーズがいろいろ言っているけど、それゲームではモノクマが全部言ってた気がするなぁ…。

 

「まぁ、そういう話しなんだけどね。という訳で、今までの記憶はすべて偽物なのでしたー!それが真実なのでしたー!」

 

そう言うや、江ノ島から白銀へとその姿を戻す。

 

「たとえば、わたし達が希望ヶ峰学園の生徒だった件なんだけど…あれも、嘘なんだよ。わたし達は希望ヶ峰学園とは何も関係ないんだ」

 

せっかく白銀の姿で喋ったと思えば、また江ノ島の姿になる。

 

「だけど…希望ヶ峰学園の記憶を思い出させたのは、やっぱり失敗だったわね。慌てて用意したせいで矛盾を見逃しちゃうし、そのせいでバレちゃうし…。アハハハッ!絶望的に最悪ね!」

 

絶望的に最悪って言っているわりには、凄く良い笑顔なんだけど…って、江ノ島盾子なら当たり前だっけ?

 

「すべて、偽の記憶だとしたら…ウチらは、どこにいるんじゃ?なぜ…こんなコロシアイを強いられる生活をしているんじゃ?」

 

震えながらも声を絞り出した夢野に、江ノ島は無責任にも「理由くらい自分で考えなよ?これは学級裁判なんだからさ」と吐き捨てた。

 

「だったら…お前は誰なんだ?」

 

「…ん?」

 

誰と聞いてきた最原の言葉の意味が分からないのか、江ノ島が首を傾げた。

 

「あっ、そっか。私達が希望ヶ峰学園と関係ないなら、君が江ノ島盾子なのはおかしいよね?」

 

赤松が気づいたように、江ノ島を指差す。

 

「少し前に入間さんが聞いた時は、希望ヶ峰学園や思い出しライトを言い訳にしていたけれど…お前は一体何者なんだ!」

 

「…俺は俺だ。他の誰でもない」

 

いつの間にか、江ノ島盾子から日向創へと姿を変えていた。

コスプレするなら、するって前もって教えてほしい…って、これは無理か。

 

「あの…何が起きたのか分からないのは、転子だけですか?」

 

「えっ?知ってるよね?ほら、ジャバウォック島のコロシアイに参加していた…」

 

白銀はそう説明すると、再び日向の姿になった。

 

「…俺は日向創だ」

 

白銀の隣に立っている真宮寺と天海のシスコンコンビが、ポカーンとしてる事については、誰も突っ込まないんだ。

いや、その分…白銀のコスプレのインパクトが半端ないって事か?

 

「えっと…何をしているの?」

 

「何って…コスプレだよ?」

 

ゴン太に白銀がそう答えた事で、あちこちから「コスプレ…?」という呟きが聞こえてくる。

 

「うん、これはコスプレなんだよ」

「でも、ただのコスプレじゃねーぞ!俺のコスプレはキャラを完全再現だからな!」

「どうだよっ!声もソックリだろ!?」

 

小泉、葉隠、左右田とコロコロ姿を変えていく。

早着替えと呼んでいいのかすら分からない速さなんだけど…着込んでたりしてない…よな?

 

「だったらよ、さっきの江ノ島も…」

 

「わたしのコスプレなんだよ!」

 

嬉々として答えた白銀に、思わず頭を抱えそうになる。

コスプレのクオリティ高すぎぃ…。

 

「あらゆるキャラクターを完全再現して、あらゆるキャラクターになりきる事ができる…それが、超高校級のコスプレイヤーの才能なんだよ!」

 

完全再現しすぎじゃね?

声とか身長とか…どうやってんの。



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さよならダンガンロンパ⑥

今月中に本編を終わらせたいなぁ…という、できるかどうか分からない目標を立ててみる。
学級裁判って、こんなに長かったっけ?


白銀のコスプレを見ながら、ぼんやり考える。

声とかキャラにソックリすぎて、コスプレを通り越した何かにすら見えてくる。

というか、ボイスチェンジャーもなしにどうやって声変えてるの。

どこぞのキザな怪盗がやる芸当じゃん。

………まぁ、くだらない考えはこれぐらいにして、学級裁判の方に意識を戻そう。

 

「あの…コスプレって、架空のキャラクターになりきる事っすよね?」

 

確認するかのように聞いてきた天海に、白銀は「うん!そうだよ!!」と肯定するや苗木のコスプレをした。

だから、着替えるの早いって。

 

「だとしたら…みんなはどう思う?今までの話しからして、希望ヶ峰学園ってなんだったと思う?」

 

そんなの、聞くまでもない。

 

「んなの、フィクションって事だろ?」

 

アタシがそう答えると、白銀を除いたみんなが驚愕したかのように固まった。

 

「人類至上最大最悪の絶望的事件なんて、実際には起きていない…。希望ヶ峰学園も未来機関も絶望の残党も、この世界には存在しない…」

「なぜなら、あれは現実世界の話しじゃなくて、フィクションの話しだからだ」

 

十神から十神(詐欺師)へとコスプレしていきながら、白銀は話していく。

みんな必死に頭で理解しようとしているのか、黙って聞いているだけだ。

 

「そう…すべて、ダンガンロンパというフィクション作品の中の出来事でしかないのよ」

 

霧切のコスプレをしながら告げられた言葉に、ゲームのプレイ中に思わず『メタ発言!』なんて言った記憶が蘇る。

これも、ある意味ではダンガンロンパというフィクション作品なんだけど?

 

「ダンガンロンパー!」

 

モノクマの楽しそうな声が、響く。

それに対して、やっとの思いで「ダンガン…ロンパ?」と呟いたみんなの声は震えていた。

 

「なんだ?その、ダンガンロンパってのはよ…」

 

「えっ?ダンガンロンパを知らないんですかぁ?私達はみんな…そのキャラクターなんですよ?」

「そうだよ、わたしもゲロブタも、みーんなフィクションの存在なんだよー」

 

百田の疑問に答える為だけに、白銀は罪木と西園寺のコスプレをする。

もう、コスプレについて深く考えるのはやめよう。

 

「それってつまり、希望ヶ峰学園は存在しないって事?あーあ…流石のオレでも、この嘘は見抜けなかったんだけど」

 

悔しそうに爪を噛みながらそう吐き捨てた王馬に、白銀はなんでもないように「あれはフィクションだからね。現実世界には存在しないよ」と笑顔で答えた。

 

「オメーらは、ダンガンロンパってフィクション作品の話を記憶として植え付けられていたんだよ」

「そのせいで、みなさんはフィクションを現実と思い込んでいたのです」

「そうやって、みんなの認識する世界を丸ごとコスプレさせてたんすよ!世界を丸ごとダンガンロンパにコスプレさせてたんすー!」

 

大和田、ソニア、澪田と順番に姿を変えながら、白銀は告げていく。

だけど白銀はコスプレを一度やめると、アタシ達を見下したような目をしていた。

 

「キャラクターのコスプレをするだけが、超高校級のコスプレイヤーの才能だと思った?」

 

ゲームで初めて見た時は、そう思ってたよ。

だから、最終章では『マジかよー!』って叫んでた。

今となっては、そんな事あったなってだけの話しだけどな。

 

「それだけじゃないんだよ…。わたしは世界そのものをコスプレする事ができるんだよ。そのわたしが敵だとすると…みんなの敵は、ダンガンロンパの世界そのものなんだよ!」

 

いや…別に敵にしたいとかじゃなくて、その…なんというか……語弊力が迷子だから何も言えない。

 

「なぁ…どうしてお前はそんな事をしたんだ?フィクションを現実と思わせるなんてよ」

 

「もちろん、みんなにコロシアイをやって貰う為だよ!」

 

朝日奈のコスプレで星の問いに答えたと思うと、次の瞬間には九頭竜の姿になっていた。

 

「ここはダンガンロンパの世界なんだぜ?コロシアイをやるのは当然だろーが」

 

まぁ、コロシアイの後の学級裁判がメインのゲームだしね。

キャラクターも魅力的なのが多いし。

 

「と言っても、ただのコロシアイじゃないんだけどね。フィクションで塗り固めた世界で行われる、現実の命を使ったコロシアイ…」

「つまり、究極のリアルフィクションなんじゃあああ!」

 

狛枝、弐大のコスプレから、このコロシアイがリアルフィクションである事を告げられる。

 

「現実の命を使ったリアルフィクション…。フィクションという事は、世界が滅びていた光景もフィクションっていうことになるよね?つまり、私達には帰る場所がちゃんと---」

 

「あー、そりゃねーべ」

 

赤松の言葉を遮るように、葉隠のコスプレをした白銀が声を上げた。

 

「教えてよモノクマー。どういう事なのー?」

 

アンジーがモノクマに問いかけてみたが、モノクマーズが真っ先に喋り出した。

 

「本当ニ、知リタイノ?」

 

「外の世界なんて、気にしても仕方がないわよ!」

 

「せや!キサマラの世界は、この才囚学園の中だけなんやしな」

 

「自分と関係ない世界の事なんて、ほっといた方がいいぜ!」

 

「知ったら後悔しちゃうよ!」

 

モノクマーズがそう訴えている間、モノクマはずっと眺めていただけだったけど、「視聴者のみんなも、そう思うよねー!」とモノクマーズ達の後に笑いながら言うと、裁判場に沢山のモニターが出現して、色んな人々の顔が数々と移り込む。

 

「彼らはずっと、あなた達を見ていたのよ」

「当然…これはほんの一部だがな」

「デスゲームは、見てくれる人がいるから成立するんですよ」

 

霧切、大神、舞園とコスプレしていきながら、白銀はモニター映る視聴者を見ていた。

 

「こ、ここでの生活を見ているのは…とても平和な世界の人達なのよ…」

「とても平和な世界…それは、言い換えればとても退屈な世界という事です」

「誰もが平和に退屈し切っているのよ。だからこそ刺激を求めるの…」

 

白銀がなりきる腐川、セレス、霧切の言葉が、少し前までゲームとして楽しんでいたアタシにグッサグッサと突き刺さる。

で、でも!オマケモードの平和な世界軸もとても素敵だと思ってる。

むしろ、平和な世界軸の方が好き!

……アタシは誰に言い訳してるんだ。

 

「ダンガンロンパはそのニーズに応える為に、この究極のリアルフィクションまで発展したんだよ。これを見ている外の世界の人達はね…みんなダンガンロンパの大ファンなんだよ。コロシアイが大好きなみんな…これは、そんなみんなの為のコロシアイ…。だから…みんなのコロシアイ新学期なんだよ」

「それが、あなた達がやっているコロシアイ生活の正体なんだよ。まさに、究極のリアルフィクションでしょ?」

 

七海のコスプレをしたと思ったら、いつも通りの白銀に戻る。

見ているこっちとしては、大変そうなんだけど実際どうなんだろ?

 

「もう、気付くのが遅すぎるよ!モノクマと言えば、ダンガンロンパなんだから…ボクがいるって事は、これはダンガンロンパなんだよ!」

 

モノクマがそう言った瞬間、モニターの画面が変わった。

このコロシアイのタイトル『ニューダンガンロンパV3~みんなのコロシアイ新学期~』という文字が浮かぶ。

 

「これは…何かナ?」

 

視線がモニターへと釘付けになりながらも真宮寺が白銀に聞くと、白銀は九頭竜のコスプレをして「テメーらがやっているダンガンロンパのタイトルだ。こいつを見ればわかるはずだぜ?」と笑う。

そして、苗木のコスプレをするとアタシ達1人1人の顔を見ていた。

 

「このコロシアイは何回目のコロシアイだと思う?これはシリーズ何作目のダンガンロンパだと思う?あのロゴを見ればわかるはずだよ?」

 

…これ、実はロゴを見なくても分かったりする。

 

「53回目…だろ?さっき、53世とか言ってたしな」

 

アタシが即座に答えてやると、「ぴんぽーん!大正解ー!」とモノクマがすぐに肯定した。

 

「そう、これはシリーズ53作目のダンガンロンパなのでーす!つまり、ニューダンガンロンパV3の正式名称はニューダンガンロンパ53なのでしたー!」

 

うん、知ってる。

そんなアタシの内心を知らずに、モノクマはダンガンロンパシリーズについての話しをしていく。

 

「ダンガンロンパは希望ヶ峰学園シリーズを描いた、1と2と3を経て…それからもシリーズは続いていき、コロシアイもどんどんエスカレートしていって…やがてゲームやアニメという枠を超え、この究極のリアルフィクションの形まで発展し…そして、今作のダンガンロンパで53作目になるのでーす!」

 

えっと…一応、アタシの前までの認識でいくと、一応これもゲームなんだけど。

口が滑らない内に考えるのを止めておこう。

ほら、混乱とか避けたいし。

 

「だからね…首謀者はわたしだけど、あなた達にこれをやらせている黒幕は……外の世界の人達なんだよ。だって、わたしがダンガンロンパの世界を作ってるのも、あなた達にコロシアイを強要させているのも…外の世界がそれを求めているからなんだよ?それはわたし達だけじゃなくて、このプロジェクトに関わる全員がそうだからね」

「ダンガンロンパを作っているのは、チームダンガンロンパって会社なんだよ」

 

…なんで最後だけ不二咲のコスプレで説明したし。

 

「わたしも所属している、チームダンガンロンパの仕事はね…とびっきりのコロシアイエンターテイメントを作って、みんなを思いっきり楽しませる事…その最新作となるのが、このニューダンガンロンパV3なんだよ!」

 

メタ発言と思っているのは、この場ではアタシだけなんだろうか。

……いや、どう足掻いてもアタシだけだよな。

 

「ふ、ふざけんじゃねーぞ!テメーの作ったフィクションの世界で、フィクションと同じコロシアイをするなんてよ…」

 

「そうだ、いくらフィクションの記憶を埋め込まれたからって、僕ら自身はフィクションじゃーーー」

 

百田の怒鳴り声に便乗するように最原も叫ぶように言うも、モノクマに「…どうして言い切れるの?」って口を挟まれた事で止まってしまった。

 

「キミらもボクらと一緒なんだよ。ダンガンロンパの世界でしか生きられないんだ」

 

狛枝のコスプレをした白銀にそう告げられた事で、何人かは気づいたんだろう。

所々から「まさか…」なんて声が聞こえた。

 

「そう、あなた達もフィクションなんだよ。最初に才囚学園にやって来た頃、あなた達は今とは違う姿だった…。その時のあなた達こそが本当の姿で、今のあなた達はフィクションの存在でしかない…それが真実なんだよ」

 

つまり、超高校級の才能なんてこれっぽっちも持ってない、普通の一般人でしかなかった。

だけど、最初の…ゲームでいうプロローグの時、思い出しライトで超高校級としての才能やキャラクター設定、性格や生い立ち、家族構成に思い出を植え付けられ、生み出されただけの存在でしかないということ。

 

「みんなの才能なんて、ただの嘘っぱちなんだよ。もちろん、最初からある程度の適正はあったけど、プラシーボ効果みたいなものなんだよ。自己暗示だね…ほら、やればなんとかなるってヤツだよ」

「肉体が本物だとしても、人格や性格も才能も過去もフィクションの存在…」

「それでも、フィクションじゃないって言い切れるの?」

 

七海、日向、苗木のトリプルコンボ。

この3人のキャラに言われるのは、コスプレだと分かっていても辛い。

 

「まぁ、仕方ないよね。あなた達も元は外の世界の人間だったんだから…大好きなダンガンロンパに参加したいと思っても、不思議じゃないよね」

 

恍惚とした表情を浮かべながらそう言った白銀に、赤松が「そんなはずないよ!」と否定したが、「だったら、これを見てもそう言える?」と白銀はモノクマに目配せすると、モニターに映像が流れた。

 

そこには、今とは違う制服を着た最原が映っていた。

 

『154番…ーーーーです。僕は…昔からダンガンロンパが好きで…いつかコロシアイに参加してみたいって思ってて…。えっと…もし参加する事になったら、僕は超高校級の探偵になりたいです…。あ、でも…探偵じゃなくてもいいです。とにかく…僕はどうしてもダンガンロンパの世界の一員になりたいんです…。だから、こよコロシアイに参加できる事になったら、僕は精一杯頑張ります!今まで誰も見た事がないような殺人をして、見ている人全員を驚かせるつもりです!超高校級の探偵がクロって展開は今までないですし、探偵ならではの特殊なトリックができるはずです!そうだ、僕がクロになった時のオシオキも考えてあってーーー』

 

……マシンガントークな最原って、なんか新鮮。

隣で見ていた最原本人をチラリと見てみると、顔を真っ青にして「こんなの嘘だ…」と呟いていた。

 

「今のあなた達は、フィクションのキャラクターなの。あのオーディションを受けていたあなた達とは別人なんだよ。だからね、外の世界にみんなの帰る場所なんてないんだよ。みんなを閉じ込めている本当の密室は、ダンガンロンパの世界なんだよ。だから、あなた達はこの世界から出られない。あなた達はこの世界でコロシアイをするしかない…あなた達はその為に生み出されたフィクションの存在で、世界もそれを求めている。だから…どこにも逃げられないんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

全て、フィクション

 

 

 

全て、作られただけの設定

 

 

 

全て、嘘

 

 

 

 

 

 

 

「どう?絶望した?むしろ、絶望してくれないと困るわ!ここからがやっと私様の出番なんだもの!あなた達が絶望する姿こそが、視聴者を惹きつけるのです。だから、ほらーっ!外のみんなだってあんなに楽しそうでしょー!?」

 

モニターから視聴者のコメントが溢れ出る。

絶望絶望って……あぁ、もう五月蝿い。

 

 

「フィクションのキャラクターが何を叫ぼうと、どう助けを請おうと無駄だよ。それは視聴者に可哀想って感情を与えるだけで、むしろ、その背徳感がより視聴者を夢中にさせるんだよ。そんな背徳感こそがデスゲームの魅力であり、コロシアイの魅力であり、ダンガンロンパの魅力なんだからね」

 

モノクマが長々と何か言っているけど、それすらも頭に残らないぐらい聞き流してしまう。

 

 

「みんな、諦めちゃダメだ。どんな時だって必ず希望はあるはずなんだ」

 

あっ、キーボに変なスイッチ入った…。

 

「リアルフィクションという事は、すべてがフィクションではないはずだ…。だったら、突破口だってあるはずだ!ボクは最後まで希望を諦めないぞ!外の世界にはボク達の声だって届いてる!だとしたら、ボクの内なる声の言う通りーーー」

 

希望を語っていたキーボに、白銀は「それ…内なる声じゃなくて、外の世界の声なんだけど」とキーボに内なる声の正体を告げた。

 

「あなたは視聴者代表っていう特別な存在なんだよ。あなたの頭のアンテナは、視聴者のアンケートを受信するものだったんだよ。でも、それだけじゃないよ。あなたのその目は視聴者のカメラでもあるの。つまり…そのまま視聴者の目なんだよ。外の世界の人達はね、ずっとあなたの視線でこの生活を見ていたんだよ。自分がダンガンロンパの世界にいるかのような臨場感。それを生み出していたのが…あなたの存在なんだよ」

 

それも、もうじき終わるけどな。

教えてやらないし、言ってやらないけど。

 

「アンタを絶望させる事で、アタシは外の世界を絶望させるのよっ!そして、絶望はフィクションから現実に侵食する!こんな絶望的なラストは、誰も絶望的なまでに想像してないはずさ」

 

「ボクはこの内なる声を通して、外の世界に希望を伝染させるっ!外の世界は、本当は希望を求めているはずなんだ!だから、ボクは希望を信じる!外の世界を信じるぞっ!」

 

なんか…キーボと白銀だけで盛り上がってるんだけど。

あの、周り置いていかれてる。

 

「だったら…決着をつけよう」

「希望と絶望の最後の戦いだ…っ!」

 

日向、苗木とコスプレをしてそう言った白銀に、「決着を着けるって…何をするんだ?」とキーボが問いかけると「特別な投票を行おうか」という答えが返ってきた。

 

「最後の投票で選んで貰うのは…わたしとキーボ君…そのどっちがオシオキされるべきかだよ」

 

用は、物語の結末を選べってやつだ。

希望を選ぶか、絶望を選ぶか…。

 

「もし希望であるキーボのオシオキが決まって、アタシの絶望が勝利した場合は…このままコロシアイ生活を続けてもらうよ。校則にあった通り…最後の2人になるまでね。まぁ、動機を作った所で嘘だってバレてるから、何も起きない可能性が高いけどねー。みんなで仲良く絶望的に生き続ける事ができるってわけ。で、逆に絶望であるアタシのオシオキが決まって、キーボの希望が勝利した場合だけど…もちろん、このコロシアイは終わるよ。でも、最後の2人になるまでっていう校則は守ってもらうから。だから、卒業できるのは2人だけだよ」

 

どっちにしろ、2人までじゃねーか。

誰だよこんなルールにしたの。

 



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さよならダンガンロンパ⑦

7月入ったら、V3コラボしてるなぞともカフェに行こうという話しを友達としていたら、テンション上がって書いていた。
謎解き脱出ゲームができるカフェらしいけど、どんな感じなんだろう(ドキドキ)

どうしよう、自分でどんな風に本文を書いたかあんまり分からないぞ……(脳内が別の事を考えているせい)

とりあえず、次くらいで学級裁判終わりそうです。
あれ?これなら前話の前書きで書いた『今月中に本編終わらせたい』っていう謎の目標達成できるかも…?(一部ではこれを、フラグという)


希望と絶望。

どちらを選んでも、結局は同じ。

外に出られるのは2人だけ。

 

「うーん…そろそろ投票タイムにいってもいい?」

 

そんな、どっちを選べばいいのか分からない空気の中でモノクマは投票をしたいと言い出した。

 

「最後の投票!そこですべて終わりだっ!オマエラの臭い希望も…オマエラ自身もなっ!」

 

それに付け加えるように白銀が江ノ島のコスプレをするんだから、みんなして焦りだしていた。

………ということで、そろそろアタシの出番かな。

さっきまではみんなに任せていたけど、ここからはアタシも主張をしていく。

 

 

 

「希望と絶望……オレ様は、どっちも捨ててやる」

 

 

「「えっ…?」」

 

 

隣にいる最原とキーボの声がなぜかハモった。

白銀なんか、コスプレもしないで目を丸くしている。

 

 

「フィクションだから何もない?今までの思いも全部嘘…?それがなんだよ。設定だからって…全部嘘だからって、オレ様達のここから出て友達になろうって決意も、道を踏み外しそうになった苦悩も、誰かを好きになった想いも…オレ様達にとっては本物だっただろっ!?例え、フィクションの存在として作られただけだとしても…オレ様達は生きた人間で、それは外の世界のやつらと何も変わらない。苦しみも悲しみも喜びも……感じたもの全て本物なんだよ!」

 

 

1章で赤松が首謀者の殺害を企んだ事だって、例えそういう設定をされていたからやったとしても、赤松にとってはそれは紛れもない自分の強い想いだったはず。

みんなを助けたいという気持ちは、紛れもない本心だったはずなんだ。

その後のコロシアイだって、みんな自分の強い想いがあったはず。

アタシは、それを否定したくない。

否定されたくない。

 

「だいたい、生き残った2人が外の世界に出たって…天海みたいに、次のコロシアイで超高校級の生存者として、もう一度コロシアイに参加させられるかもしれねーじゃねーか。だったら、オレ様はどちらも選ばない……投票なんて、放棄してやる」

 

ここにいるみんなは、生きている。

誰一人欠けずに、生き延びてきたんだ。

誰も犠牲になんてさせない。

 

 

 

「オレ様は、希望も絶望も否定してやるっ!」

「僕は…希望も絶望も否定する!」

「私は、希望も絶望も否定するよ!」

 

 

……なんか、最原と赤松まで便乗してきたんだけど。

最原は分かるよ?ゲームで言ってたし。

まぁ、いいんだけどさ。

 

「投票を放棄って…そんな事したら、ルール違反で殺されちゃうよ?それでもいいの?」

 

ルールなんて知らない、アタシがルールだ…なんて言えたら格好いいんだろうけど、恥ずかしいから言わない。

 

「これをやらせている外の世界を否定する!だから、僕は投票を放棄するんだ!絶望でも希望でも終わらせない為に!」

 

「たとえフィクションだとしても…私達の感じた苦しみは本物なんだよ!」

 

最原と赤松の訴えで、希望を探していたキーボが俯きながら「ボクは…この希望を信じられません」と呟いた。

 

「キーボ君?何を言ってるの?あなたの内なる声がそんな事をしろって言ったの?」

 

「いいえ…内なる声は希望を諦めるなと言っています。でも、その希望こそが…ボクらに悲劇を求め続けているなら……」

 

そこまで言って、キーボは顔を上げると「ボクは希望を放棄しますっ!」と叫んだ。

 

「そんな事をして、どうなるか分かってるの?視聴者に逆らうなんてーーー」

 

キーボを睨みつけながら言う白銀の声を遮るように「いいんじゃない?」と王馬が笑いながら言った。

 

「キー坊がポンコツロボなのは、前から知ってるし。それに…ハッピーエンドにもバッドエンドにもさせないなんて、悪の総統っぽいじゃん?大好きな最原ちゃんが放棄するって言うなら、オレも投票を放棄しちゃおっかなー」

 

キーボが小さい声で「こんな時にもロボット差別ですか…」って言ってるけど、いつもと違って笑っているように見える。

…どちらかといえば、苦笑い?

 

「ねぇ、みんな…この投票を棄権しよう。このコロシアイを私達の手で終わらせようよ…」

 

「そんな事したら、みんなペナルティーで死んじゃうよ?それでもいいの!?」

 

考え直してとばかりに白銀が叫ぶが、それに負けないぐらいの大声で「この長く続いたコロシアイを終わらせる為に、僕らの命を使うんだよ!」と最原が叫んだ。

 

 

さぁ、最後の議論といこうか。

 

 

「オレ様達が投票を棄権すれば、オレ様達は全員死ぬ事になる。けどな、決着が付かずに終わるのは…誰も求めてねー最低の結末なんだよ」

 

「その為に命を捨てるというのか?」

「そんなものは無駄死にだぞ」

 

辺小山、大神のコスプレをしながら白銀が反論してくる。

だけど王馬が「別に捨てるわけじゃないよ?」と否定した。

 

「この命は僕達の武器なんだ。だから、この武器で外の世界と戦うんだ!」

 

嘘の存在だとしても、この命が本物である事は紛れもない真実。

 

「前に参加していたコロシアイの事は、今となっては思い出せないっすけど…でも、きっと辛くて苦しかったと思うっす。俺は、それを他の誰かに繰り返させたりしたくないっす。だから…俺は赤松さん達の提案に乗るっす」

 

「フィクションだとしても、私はみんなにメイドとして仕える事に喜びを感じていたわ…。過ちを犯しかけたけれど、あの時の私の苦悩は本物…それを見せ物として楽しんでいる外の世界の人達を、見過ごす訳にはいかないわ。私の持てる武器を使って、その認識を変えてみせるわ」

 

「どうせ、一度は生きる事を諦めていた身だ。だったら、こういう形で終わらせた方がクールだろ。だが、勘違いするなよ。俺は生きる事を諦めた訳じゃない。こんなくだらない茶番を終わらせる為に、命を使うのさ…」

 

「んっとねー…神様も言ってるよ。アンジーが神様の声を聞けるのは嘘じゃなくて、本当の事だーって。それを嘘呼ばわりするなんて…神様が怒っちゃうよ?だから、神様を怒らせた人達の罰としてー、アンジーも投票を放棄しちゃうよー。にゃはははー、神ってるー」

 

「ウチがフィクションのキャラクターだとしても、この命は本物なんだったな…。ウチはこの命を見せ物の為には使ってやらんぞ!ウチはウチの命を使って、この憎きコロシアイを終わらせてみせる!」

 

「ククク…みんなの死を恐れずに立ち向かうその姿、最高に美しいヨ。これだから、みんなと一緒にいるのは飽きないネ。全部がフィクション?だとしても、僕の側にいる姉さんは本物だよ。ええ、その通りよ是清」

 

「ったくよー…助手にここまで言わせておいて否定とか、ボスのする事じゃねーしな!ボスってのは、助手を支える存在なんだからな。その助手の決意を無駄にはさせねーよ。いいか、物語の主人公が簡単に諦めたら、クソみたいな話しになっちまうんだ!だったら、自分の気持ちを信じるしかねーだろ!」

 

「言ってる事、滅茶苦茶なんだけど。でも…私はその滅茶苦茶に救われてたんだよね。それに、フィクションから現実を変える事ができれば、それはただのフィクションじゃなくなる…。きっと…私のこの想いも」

 

「ぐぬぬ…やはり、怖いという気持ちはありますが、男死にあそこまで言われて引く訳には行きません!嘘だったと言うのなら、それを本当の事にしていけばいいんですよね!だって、転子達にとってはフィクションじゃないんですから!」

 

「ゴン太がみんなの力になりたいって思ったのも、紳士を目指していたのも嘘じゃないよ。今だってそうなんだ!ゴン太は、そう思う自分の気持ちを信じるよ!だから、みんなの言っている、こんなの繰り返したりしたらダメだって思う気持ちを信じる!」

 

1人、また1人と投票を放棄するという気持ちを宣言していく。

もう嘘だから、フィクションだから意味がないって気持ちは感じない。

 

「みんな一緒に死んでもいいって言うんですかぁ!?」

「なんでオメーらは、そんなに死にたがるんだべっ!」

 

「死にたい訳ねーだろっ!」

 

コスプレする白銀に、思わず拳を握り締めながら反論した。

今まで、コロシアイを止める為に頑張ってきた。

死にそうになったり、逆に殺しそうになってしまった時もあった。

 

「このコロシアイ学園生活は、少しでも判断を間違っていたら悲劇になっていた…。オレ様達にとっての、本物の悲劇にな!」

 

だから、止めたかった。

みんなを救い思いで、ここまで来た。

 

「だから、絶対に止めてやる。こんなコロシアイを、繰り返さない為にもな!!」

 

「だから…止まらないって。世界はそれを求めているんだもん。みんながコロシアイエンターテイメントを求める限り、ダンガンロンパは終わらないんだよ!」

 

それでも、フィクションから現実に想いを伝える事ができる。

感動や苦しみ、悲しみは伝えられる。

アタシは、自分の身でそれを知っている。

 

「ボクも、投票を放棄します。みんなを…信じます」

 

希望を放棄すると言ったきり黙り込んでいたキーボも、投票を放棄すると決心してくれた。

 

「よーっし、決まりだな。オレ達は投票を放棄するぜ!」

 

「いいの!?そんな事したら、首謀者のわたしだけが生き残っちゃうんだよ!?」

 

そう言われても…正直、希望とか絶望はどうでもいい。

それは無印と2とアニメの3の話しだし。

一応、V3は嘘と真実がメインだったはずだし。

 

「それじゃ、学級裁判も終わりだね。投票タイムにしていいよ」

 

赤松がモノクマにそう言うも、モノクマは「…投票タイム?」と首を傾げた。

 

「ダメだよ!まだダメだって!だって、ゲームはまだ続くんだ!学級裁判だって終わらない!本当にコロシアイが終わっていいの?ダンガンロンパが終わっちゃっていいの?論破でも賛成でもいいから…もっとゲームを楽しもうよ!」

 

モノクマの主張を、みんなで無視していく。

だって、このゲームさえも放棄しているんだから。

 

「放棄なんて…させないよ…!」

 

「そうだよ!オマエラにはまだまだゲームをやって貰わないといけないんだっ!」

 

ゲーム…ねぇ。

アタシはポケットに手を突っ込むと、カジノの景品のゲーム機を2つ取り出し、その内の1つを隣の最原に手渡した。

電源を入れて、ゲーム起動。

一度やってみたかったんだよね…ファクトリーの協力プレイ。

 

「ねぇ…何やってんの?」

 

「ちょっと、真面目に学級裁判をやってよ!外の世界の人達が退屈しちゃうでしょ!」

 

さっき、ゲームをやれって言ったから言われた通りにゲームしてるだけじゃん。

…もちろん意味は分かっててふざけてる。

ごめん、悪気はあるんだ。

仕方なくゲームはポケットに突っ込んで仕舞う。

 

外の世界の人達は退屈すればいいよ。

だって、これは見せ物じゃない。

文句があるなら、『これつまんねー』って言いながら見るのをやめればいいんだ。

 



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さよならダンガンロンパ⑧

やっと…ここまで辿り着けた。
本編ラストは明日にでも投稿の予定です。

学級裁判って、こんなに長かったっけ?


このままだと、投票放棄という形で終わる。

それだけは避けたいのか、白銀は「キーボ君、いいの?そんな結末でいいって内なる声が言ってるの?」と静かに喋り出した。

 

「外の世界は本当にそれを求めているの!?ダンガンロンパの終わりを求めているの!?ねぇ!みんなはなんて言ってるの!?内なる声はなんて言ってるの!?」

 

だけど、それらはやがて叫び声へと変わっていく。

白銀は白銀で必死になっている。

 

「内なる声はそんな結末認めないと言っています。でも、ボクにはもう内なる声なんて関係ありません!」

 

言い切ったキーボを見て、白銀は「やっぱりね…。でも、なんで?」と首を傾げた。

 

「視聴者代表のキーボ君が視聴者に逆らうなんて、視聴者の怒りを買うだけだよ?だから、邪魔な人格を消されたっておかしくないのに。ううん、勝手な暴走を繰り返すキーボ君は視聴者のアンケート結果により、人格を消されたはずなのに…なんで人格が残ってるの?」

 

理解できないとばかりに目を丸くする白銀が、キーボを見つめる。

だけど、何かに気づくとハッとしたようにアタシを睨みつけてきた。

 

「ねぇ…今までキーボ君のメンテナンスをしてたみたいだけど、その時に何かした?キーボ君の人格が消えないように、プロテクトでも作ったの?」

 

「メンテナンスで、そんなのやる暇ねーよぉ…」

 

嘘は言ってない。

アタシは…メンテナンスの時にはしてない。

学級裁判が始まる前に、お守りとか言ってやっただけ。

だって、人格を消すとかロボットだからって残酷でしかない。

ロボットだろうと、視聴者代表だろうと…キーボにはキーボの考えや気持ちがちゃんと存在している。

 

「…だけど、外の世界はコロシアイを求めているんだよ。勝手にダンガンロンパを終わらせるな!今までずっと応援してたんだぞ!…ってね。だから、いくらあなた達が投票を放棄して死のうと、その訴えは外の世界には届かないんだよ。外の世界はダンガンロンパを求め続ける!それは変わらないんだよ!」

 

「それでも、僕達が変えてみせる…。どんな不可能だって、やり遂げれば可能になるんだっ!」

 

嘘には無限の可能性がある…。

嘘を真実に変えてしまうように、嘘から世界を変える事だってできる。

それが、アタシ達がやっているダンガンロンパなんだ。

 

「そんなの、できる訳ないよ!」

 

「そうよ!みんなダンガンロンパが好きなんだから!」

 

「今更、偽善者面スルノ…?」

 

「世界が求めるから、ミー達は作られたんだぜ!?」

 

「説得なんて、するだけ無駄や!」

 

モノクマーズが言い合う中で、裁判場の形が変わっていく。

白銀とモノクマ、モノクマーズ…モニターに映る視聴者と向き合うように、アタシ達15人が並ぶ。

…まさかの、議論スクラム。

議題は『ダンガンロンパは終わらない』と『ダンガンロンパを終わらせる』って感じかな。

 

モニターから溢れ出るコメントが『希望でも絶望でもないなんて認めない』やら『運営仕事しろ』やら『今回のロンパは荒れてんな』で溢れている。

『コロシアイしなよ』なんてコメントもあれば、『平和な世界軸(笑)』なんてのもある。

……関係ないかもしれないけど、『最原君の眼力欲しい』とか『赤松ちゃんと結婚したい』とか『なん図書』っていうコメントはなんなんだ。

 

「オマエラはフィクションなんだよ!フィクションが世界を変えられるわけないよ!」

 

「それでも想いを伝える事はできるっす」

 

「フィクションだって、世界を変えられるんだよ!」

 

外の世界を変えられないと言ったモノクマに、天海と赤松が外の世界を変えられると反論する。

 

「コロシアイは最高のエンターテイメントなんだよ!」

 

「だが、俺達の命は本物だ」

 

「コロシアイなんて間違っているわ」

 

コロシアイをエンターテイメントと言うモノクマーズに、星と東条かがエンターテイメントではないと反論していく。

 

「投票放棄で無駄死になんて、最悪なオチだよ!」

 

「無駄死になんかじゃないヨ」

 

「外の世界のみんなに、分かってもらうんだよー」

 

「だって、転子達の命を使うんですから!」

 

無駄死にだと言う白銀に、真宮寺とアンジーと茶柱が無駄死にではなく、命を使うんだと反論する。

 

「『キャラがコロシアイをするのが、ダンガンロンパだろ!』」

 

「誰もテメーらの思惑通りに、動かねーよ。オレ様達は見せ物じゃねー」

 

「ゴン太達は、コロシアイなんてやらない!」

 

視聴者コメントをそのまま読み上げたモノクマに、アタシとゴン太で言い返す。

 

「『希望か絶望か選びなよ!』」

 

「だから、どっちも捨てるって。オレには嘘があれば充分だからね」

 

「どっちかを選ぶから繰り返されるんだ、だったら選ばねーよ!」

 

選べという白銀と視聴者コメントに、王馬と百田が選ばないという強い意志を見せる。

 

『ダンガンロンパは終わらないよね?』

 

「ここで終わるんだよ」

 

「これ以上は続けさせんぞ!」

 

「みんなの手で、ダンガンロンパを終わらせるんだ!」

 

視聴者のそんなコメントに、春川と夢野と最原がダンガンロンパの終結を叫ぶ。

だから、これ以上は無駄だと思ったんだろう。

裁判場の形が、全員を見渡せる元の形に戻った。

 

「わたしには分かってる…外の世界はダンガンロンパを終わらせたりしない。みんな…ダンガンロンパが大好きなんだ…。それが現実なんだよっ!コロシアイエンターテイメントは永遠に続くんだよっ!」

 

「そういう事だよ!キーボ君だって外の世界に逆らえないよ。間違いなく絶望である白銀さんに投票する。だって、それが外の世界の選択だからね!」

 

そう言ったモノクマの手にはいつの間にか、裁判前にアタシがキーボに貼ったシールがあった。

あっ、せっかく造った人格保護プログラム取られてる。

さっきのスクラム中、キーボが黙ってたのはそういう理由!?

 

視聴者のアンケート通りに動くようになってしまったキーボを、みんなが不安そうに見つめる。

でも、誰も何も言わない。

外の世界に言いたい事は言ったんだから。

きっと…大丈夫なはず。

 

「では、張り切っていきましょう!最後の投票ターイム!」

 

そうして、投票を促される。

だけど、この投票は放棄すると決めていたんだし、する必要はない。

目を閉じて、時間切れになるのを待つ。

 

「さて、投票が終わったようなので、さっそく結果発表にいきましょうか」

 

モノクマによる結果発表が出される。

その前に、白銀が「そうそう、わたしも投票を放棄したからね」と告げた。

 

「ほら、わたし達って仲間でしょ?あなた達だけに投票を放棄させる訳にはいかないよ。で…わたし達15人が放棄したって事は、キーボ君の投票だけが有効って事になるから…彼がわたしに投票していても、生き残るのはキーボ君だけ…希望の勝ちって事になるんだよ」

 

……だからさ、希望と絶望をズルズル引きずるのやめようよ。

 

「みんなが命懸けでコロシアイを止める気なら、わたしは命懸けでコロシアイを続ける気だよ。たかがフィクションとは言え、わたしだって命懸けで作ってるんだよね。でね…この後のわたしのシナリオはこう。長い戦いの果てに、無事に希望が勝ったものの、生き残ったキーボ君は首謀者の策略にハマってしまい…そして、たった1人で次のコロシアイに挑む事になる。次こそ真の希望を掴む為に…っ!」

 

それ、今回の天海もある意味ではそうだったんじゃない?

ほら…あのビデオメッセージとか、生存者特典の言葉的に。

 

みんなの顔に焦りが見えだしたけれど、そんな中で最原だけは笑っていた。

 

「モノクマ…投票結果を教えてくれる?」

 

「はーい!それでは始めましょーう!勝つのは希望か絶望かー!?」

 

いや、だからさ希望と絶望は(以下略)。

そこはさ、嘘の世界か外の世界かー!?でもいいんじゃない?

えっ、だめ?

 

大きなモニターから、投票結果が表示される。

そこには『ATTENTION 投票なし』と大きな文字が映されていた。

 

「…は?」

 

白銀が、真っ先に素っ頓狂な声を出した。

 

「16人全員…投票放棄?それじゃあ…」

 

みんなの視線が、キーボに注がれる。

アタシが造ったプロテクトを失った事で人格を消され、外の世界の意志を元に行動したキーボに。

 

「な、何それ…!」

 

狼狽える白銀に、キーボが「外の世界が、コロシアイを否定したという事ですよ」と外の世界の真実を突きつける。

 

「ちょっと…待ってよ!ほ、本当にそれでいいの!?ダンガンロンパが終わっちゃうんだよ?疑心暗鬼のコロシアイが…仲間同士の裏切り合いが…シリーズ53作目でいきなり完結なんて…そんな終わり方で本当にいいのっ!?」

 

そんな白銀の訴えも虚しく、モニターに映る視聴者の姿が1人また1人と消えていき…最後には真っ暗な画面だけが残った。

その間に、アタシはポケットに入れていた発明品を幾つかキーボに取り付けていく。

急げ…だけど、作業は丁寧に。

 

「まさか…全滅して終わりとはね。こんな結末は予想してなかったから、それに相応しいオシオキは用意してないんだよね…。だから、キーボ君に任せるよ」

 

「ま、待って!もうちょっとでキーボの簡単な改ぞ…じゃなくて、メンテナンスも終わるからよ」

 

ガチャガチャと音をたてながら白銀にダメもとで聞いてみると、「早くしてよ」って返事が返ってきた。

言われなくても、早く済ませてやんよ。

 



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みんなのコロシアイ修了式

こ、これが僕の答えだ…っ!
駆け足なラストだけど、深く考えたらダメ。


簡単なキーボの改造も終わり、アタシが離れるとキーボはすぐに武装した。

 

「このフィクションの世界のすべてを破壊し、コロシアイを終わらせる…それが、外の世界の意志です」

 

それはつまり、才囚学園を破壊するというゲーム通りの展開だ。

 

「そっか…。まぁ、最後の最後に計画が失敗するっていう結末までしっかり模倣できたんだから…模倣犯としては、胸を張っていいはずだよね?」

 

…そういうよく分からない発言は、どうしても意味を探ってしまうからやめて欲しい。

ほら、変に考え込んでしまいそうだし。

 

「これで…良かったんだよね?」

 

「えぇ。コロシアイに苦しめられるのは、私達で最後なんだから…」

 

「にしし…。嘘も悪くないでしょ?」

 

「テメーは度がすぎるんだよ…」

 

そうやって笑い合う中で、「…では、始めます」とキーボが淡々とした声で言う。

 

「いえ、終わらせましょう!これが外の世界の意志ですっ!!」

 

そう言ってキーボが飛び出して行くんだから、アタシはハッとしたように東条を振り返った。

 

「東条、依頼だ。白銀の確保」

 

「よく分からないけど…任せてちょうだい」

 

こういう状況だけど、依頼とあれば実行してくれる東条に感謝する。

でも、東条だけでは少し荷が重かったのか、白銀はモノクマやモノクマーズを使って抵抗しており捕獲は困難だった。

 

「もー…しょうがないなー」

 

それを見かねた王馬が、見覚えのある機械をポケットから取り出して操作する。

ちょ、お前それ…エグイサル操つるリモコン。

まだ持ってたのかよ。

そんな事を思っている間に、王馬の操るエグイサルがモノクマとモノクマーズを抱えて中庭へと飛び出して見えなくなった。

 

「ちょっと…どういうつもりなの!?」

 

首謀者としてオシオキを受ける為に、アタシ達から離れようとしていた白銀は東条に捕獲されるなり大声で叫んだ。

でも…正直聞きづらい。

ほら、外ではキーボが派手に暴れてるから。

学園の壊れる音とかで…聞き取るのが大変なんだって。

 

とりあえず、なんで東条に捕獲させたのか答えてあげないと。

アタシは歩み寄ると、すぅー…と一度息を吸った。

あぁ、崩壊の振動が凄いから歩くだけで時間がかかったじゃないか。

 

「んな顔すんなよ…。いいじゃねーか、オレ様達は仲間なんだ。だったら、みんな仲良く一緒に…だろ」

 

ちゃんと聞こえるように、一言も聞き逃さないように、できるだけ大きな声を出してアタシは笑顔で言ってやる。

呆気に取られたように白銀はキョトンとしていたけれど「まぁ…そういう事なら」と、苦笑いで返した。

ちょ、苦笑いしなくてもいいじゃん。

 

頭上から降ってくる数多くの瓦礫を見ながら、アタシは「そろそろかな…」と1人呟く。

あいにく、誰にも聞こえなかったのか変に聞かれる事はなかった。

 

白銀はアタシ達の側にいる。

だから、ゲームの時みたいに首謀者として瓦礫に潰されて死ぬなんて事はないはず。

キーボだって、さっき改造した。

だから自爆みたいな事をしようとすれば、武装機能が解除されて一時的にキーボの全機能が停止、念の為に視聴者の目となる機能は永遠に失うようにした。

もちろん、空中で機能停止なんてなったらキーボが墜落しちゃうからそれの保険としての発明品もこっそり装着させたし、機能停止した後にキーボの代わりとして爆発を果たす自立移動の発明品も用意しておいた。

キーボは、みんなが死なないように計算してこの学園を壊しているんだろうし…うん、完璧じゃないか。

みんなは無事外の世界に出られて、そこで嘘を真実にして生きていく。

ただ、そこに…アタシという人格がなくなるだけ。

そこにいるべきなのは、アタシじゃなくて本当の入間美兎なんだ。

 

「………」

 

寂しくないと言えば、嘘になる。

ただ、本来のあるべき姿に…本来の形に戻るだけ。

 

「これ以上求めるなんて…バチ当たりじゃん」

 

目を閉じて、崩壊の音が止まるのを待つ。

この音が止まった時、アタシはまだここにいるんだろうか?

それとも……アタシのいるべき日常に戻ってる?

 

 

 

 

 

 

 

 

何も聞こえなくなり、アタシはゆっくりと目を開けた。

目の前は真っ暗だ。

自分の姿さえもよく見えない。

アタシはどこにいるんだろう。

本来いるべき現実?

夢の中?

それとも……

そうやって、グルグルと頭の中で自問自答を繰り返す。

でも、答えはズズッ…と頭上で何かを動かす音と、そこから差し込んだ微かな光で分かった。

 

「よかった!みんないたよー!」

 

そこから、声が沢山聞こえる。

ゆっくり首を動かして自分の周囲を確認すると、座り込んでいる東条と白銀の姿があった。

アタシはまだ……みんなと一緒にいる。

 

「ねぇ…なんで、わたしたちは生きているの?」

 

白銀がアタシや東条にそう聞いてくる。

なんで……あれ、なんでだっけ。

何か理由があった気がするんだけど…ヤバイ、忘れた。

そもそも最終章のオシオキ後の話しは1度しか見ていない。

 

「外の世界が、それを望んだんです」

 

答えてくれたのは、こっちに歩いてくるキーボだった。

どうやら、一時停止は解除されていたみたいだ。

キーボの手を借りながら、ゆっくり立ち上がると微かに笑顔を浮かべているみんなの顔が視界に映る。

 

「外の世界はフィクションの終わりを受け入れた上で、ボク達を生かすという選択をしました…」

 

あぁ…そういえば、ゲームで3人が生き残った時に、そんな可能性の話しをしていた気がする。

 

「これから、どうするんすか?」

 

「あれで終わりだと思ってたからな…何も考えてねーぞ」

 

「だったら…今度こそ、みんなと友達になろうよ!一緒に遊んだり、出かけたりしてさ!」

 

「いいですね!男死がいるかもしれないのは不満ですが…まぁ、邪魔しなければ一緒でもいいですよ」

 

これからの事を話し合うみんなを見て、思わず袖で目を擦った。

ずっと待ち望んでいたエピローグ。

ずっと…待ち望んでいた風景。

アタシがやってきた事は無駄じゃなかった。

 

「あれ?入間ちゃん泣いてるの?」

 

「な、泣いてねーよ!」

 

まだ!まだ泣いてないならセーフ!

ていうか、そんな事言わなくていい。

声に出して言うなよ。

 

「でもでもー、今にも泣きそうだよー?」

 

「だ、だから…違うんだよぉ……」

 

ほらー、みんなしてアタシの顔を覗き込んでくる!

そんなに見るなって!

…恥ずかしいから、本当に勘弁してください。

でも、悪くない。

むしろ、心地良い。

 

「真実で世界が変わるように、嘘で世界を変えられる…か」

 

声にして言うつもりはなかったけれど、気づいたら言っていた。

嘘と真実は別物でありながら、実は一緒なのかもしれない…なんて、アタシにとって都合の良い考えでしかないんだろう。

 

 

「それじゃあ、行こうか。この世界の…フィクションの向こう側の世界に」

 

 

みんなが歩き出す。

遅れないようにアタシも歩き出すけれど、眩しい光がどんどんアタシの視界からみんなの姿を隠していく。

あぁ…やっぱり、この先にはアタシは行けないんだ。

でも、それでも良い。

真っ白になった視界の中で、みんなに小さな声で「バイバイ」と別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケッ、なに寝ぼけた事言ってんだよカスが」

 

「なっ!?」

 

思わずカチンときて、アタシは真っ白な世界の中に現れた入間を睨みつけた。

うーん…さっきまでの自分を睨むなんて、なんか変な気分。

 

「そ、そんなに睨むことねーだろぉ…?だって、本当の事じゃねーかよぉ」

 

おどおどしながらもそう言ってくる彼女に、アタシはますます訳が分からなくなる。

アタシが言った事を寝ぼけた事?

…何もおかしな事は言ってないはずだ。

 

「アタシは、さっきまでキミだった…。だけど、そんな事は普通じゃ起きない事なんだ。物語が終わった今、アタシはアタシのいるべき世界に戻るはず…。キミに憑依していた理由もなくなる」

 

これだけは、どう足掻いても変えられない真実。

それなのに入間は「ったく、ブスは記憶もチキン並みかよ…」なんて悪態をついてきた。

…アタシをバカにしてんのか?怒るぞ?

 

「まっ、この世界じゃ仕方ねーか。ここではある程度の記憶は引き継いでるが、肝心な部分は一時的とはいえ忘れるんだからな!もうすぐオレ様みたいに思い出したら、出かかったクソみてーなテメーでもわかんだろっ!」

 

いや、さっぱり分からない。

あとその嫌な例え方を止めろって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

 

 

 

目を開けた時にまず目に入ったのは、机に椅子といった物が沢山置いてある学校の教室だった。

ここはどこで、アタシは誰なのか…ぼんやりとした頭で考えて、思い出す。

アタシはさっきまで、ゲームの世界にいた事を。

でも、ただのゲームじゃない。

 

だって………

 

混乱する頭を整理するように、アタシは頭を抱えてその場にうずくまる。

あぁ…そうだ、思い出した。

アタシは、そういう存在だった。

 

ならば……

 

そこまで考えて顔を上げると、16人の見知った人間が頭に被っていた装置を取っている所だった。

V3の…超高校級の才能を持った、16人の姿が。

 

まずは…なんて声をかけようか?

お帰り?

おはよう?

それとも…

 

「みんな…お疲れ様」

 

やっぱり…労いの言葉かな。

アタシが声をかれると、入間がすぐに「あっ!」と声を上げるなり、ズンズンとアタシの前まで歩いてきた。

 

「テメー、なんでオレ様のアバターにちゃっかり入り込んでんだよ!テメーの仕事は、その電脳空間からオレ様達のやっている事を見守ったりする事だろ!単細胞が何やってんだよ!!」

 

「アタシは、ちゃんと管理してたって!それなのに、気づいたらキミの意識プログラムに飲み込まれるし…むしろ、プログラム世界とはいえ誰も死なずに終えられた事に感謝してくれたっていいじゃん!」

 

ギャンギャンと言い争うアタシ達は、端から見たら入間がパソコンに向かって怒鳴っているようにしか見えないんだろう。

そりゃそうだ…だって、アタシは目の前にいる入間によって作られた、決して交わらない平行世界の人間の記憶を持った人造エネミーなんだから。

 

初めは、凄く取り乱した。

気が付いたら電脳空間で、自分は電脳体、目の前にはゲームで見た事ある超高校級達。

しかも、通っているのは新しく設立された希望ヶ峰学園で16人はクラスメート…学園長は無印の主人公である苗木、クラスの担任が霧切ときた。

驚きで口をあけて、長い時間間抜けな顔をしていた記憶がある。

 

何度も何度もアタシは入間から、平行世界の人間の記憶を見る事ができる発明品を改良したり、他の発明品と一緒に使ってみた結果、偶然生まれた存在なのだと聞かされた。

……思い出すだけで、何をしたんだよと聞きたくなる結果だ。

とにかくその瞬間から、アタシは記憶を元にしただけの作られた存在でありながら、最初から自我を持つ人造エネミーとなった。

だから、変にテンションがおかしくなって色んな事を喋った。

 

思えば、それがダメだったのかもしれない。

アタシは思わず喋ってしまったのだ。

ダンガンロンパの、超高校級のみんなの事を。

アタシの世界でのみんなの事を。

で……入間はそれを体験できるプログラム世界を作り、みんなは好奇心でやった。

それだけなら、アタシの記憶通りのゲームで見た展開になるはずだったんだけど……ここで、予期せぬ事が起きた。

プログラム世界で予期せぬバグが起きぬように見守る役目のアタシが…プログラム内で入間の意識プログラムに飲み込まれ、ゲーム設定の為にエネミーになったという記憶を失い、彼女に憑依した人格としてプログラム世界で奮闘する事になった。

そして…今に至る。

 

まぁ…あれだ。

元凶は自分でしたー…っていうオチになるのかな。

うわー、嫌だぁ。

でも…と思って、アタシはプログラム世界から帰ってきて話し込んでいるみんなを見る。

 

ゲームでは、何が嘘で何が真実なのか分からない、プレイヤーの想像にお任せします…って感じのオチだった。

賛否両論なんて事になったりしていた。

 

「嘘も真実も知っているのはアタシだけ…ってのも、悪くないや」

 

クスッと思わず笑うと、トントンと肩を叩かれた。

なんで肩を叩かれたかなんて…そんなの、アタシと同じ電脳世界でしか生きていけない存在にしかできない。

ゆっくりと振り返ってみれば、不二咲のアルターエゴが「話しがあるんだけど…ちょっといいかな?」と不安そうにアタシを見ていた。

 

「あー…ちょっと待って」

 

そう言って、アタシは一度みんなの方を見て見たけれど、なぜかみんなある一点を見て『しまった…』みたいな顔をしていた。

どうしたんだろう…と思いながら確認できる範囲でみんなの視線の先を見てみると、3より少し大人っぽくなった苗木と霧切が教室に入ってくる所だった。

 

 

あっ…これ、みんなして説教されるパターンかな。

まぁ、そりゃそうだよね。

だって、端から見れば人類至上最大最悪の絶望的事件を元に作ったプログラムだしな。

アタシはみんなから視線を逸らして、不二咲のアルターエゴを再び見るなり土下座した。

 

「その…反省してます」

 

「な、なんで僕が言おうとしている事が分かったの!?」

 

なんでって、エスパーですから!

……嘘だけどね。

 

 

 

           ~END~

 

 





~この先、作者による独り言~

・どこからどこまでが嘘で本当?
 ・16人は超高校級級の才能を持っている→本当
 ・16人は新しい希望ヶ峰学園の生徒→本当
 ・才囚学園はフィクション→本当
 ・人類至上最大最悪の絶望的事件が起きた→本当
 ・隕石の墜落→嘘
 ・ゴフェル計画→嘘
 ・超高校級狩り→嘘
 ・白銀がチームダンガンロンパの人→嘘
 ・天海の生存者という才能は?→嘘。本当は冒険家

・つまり、どういう事?→V3でのコロシアイは、プログラム世界での出来事(だと思っている)

・主人公はどういう存在?→入間の発明品の結果にできてしまった偶然の産物(説明が雑)

・これで本編完結という事は、更新も終了?→活動報告にて発表


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番外編:名も無きAIの記録

紅鮭やる前から、ずっとコソコソ・ノンビリと書いてたやつなので紅鮭関係ないです。
本編前後の話しみたいなものだと思って、温かーい目で見てください。


--,--,--

 

さよなら今までのアタシ。

そしておはよう、新しいアタシ。

……うん、なんか文面だけみれば頭の可笑しい人みたいになっているけれど、そこはスルーだ。 

えーっと……こういう時って、まず自己紹介から始めるんだっけ?

いや、別に誰かにこのログを見せるわけではないけれど、メモリーとして残しておくのって大事だと思うし。

それでは…コホン、アタシは人造エネミーである。名前はまだない。

こことは異なる世界の記憶を持ったある人物を元にしたというか……あっ、待ってやっぱり今のなし。

アタシもよく分かっていないし。

その辺の説明はアタシの生みの親とも呼ぶべき彼女に任せよう。

………他力本願ではありませんので、あしからず。

 

 

--,--,--

 

ダンガンロンパ。それがこの世界の作品名だ。

希望と絶望による世界を巻き込んだ大バトルとも言うべき作品で……えっ?大バトルなんてしてない??

何を言ってるんだ。絶女とかシューティングゲームだったじゃん。

……まぁ、あれは番外編という形だったけれど。

 

それはそうと聞いてほしい。

なんとアタシ、マスター(生みの親)にアタシの知るこの世界の事をゲロりました。

希望ヶ峰学園から始まった過去の絶望的な事件の数々とか、あとその他。

マスターのクラスメイトも聞いているし、調子に乗っていらない事を話したことを今は一応反省してる。

 

 

ーー,ーー,ーー

 

どうやら、マスター達はアタシが話したゲームのアレコレを体験できる発明品を作成したらしい。

さすがマスター、天才ー。

でもキミにペコペコする素振りを見せる気はないから。

性格がアレなので。

アレって何かって?

聞くな、察してくれ。

 

そういえば、アタシAIの友達ができた。

勝手に『ちーたん』と『ナナミン』って呼んでるけど、めっちゃ可愛い。

ちーたんは、学園のリンクをウロウロしてたら最初はウイルスと間違えられて焦ったし、ナナミンはたまにしか会わないけど、よくゲームして一緒に遊ぶよ。

 

 

ーー,ーー,ーー

 

マスター達がゲームを体験する日を決めたらしい。

プログラム内でバグが起こってもすぐに対応できるように、アタシは眺めるだけの監視者に任命された。

ゲームのストーリーは、最初から辛い・しんどい・まさかのトリックただけれど、脱落した人からゲームから目覚めてその後を見守るというやつだし、最初から最後までアタシが1人だけ置いてけぼりとかにならない。

脱落者にはアタシと同じ見ることしかできない、でも助けてあげたいというジレンマを盛大に味わってもらう予定。

 

 

ーー,ーー,ーー,

 

V3結果報告。

 

なんかよく分からないけど、いろいろあった。

脱落者なんて1人も出なかったし、アタシが勝手に盛り上がってた結果で元凶はアタシでしたという現実。

なぁにコレェ。

マスター達は学園長を中心とした大人にお叱りを受けるし、アタシはちーたんに怒られるという……うん、なんかいい感じに終わりそうだったのにそうならなかった。

怒っているちーたんも可愛かったとだけ記しておく。

可愛いっていいよね。

 

 

ーー,ーー,ーー

 

学園長と初めて会話した。

 

今までは、アタシが一方的に知っていただけ&遠く離れた所からあなたをコッソリ見ていますの軽いストーキングみたいな感じだったけれど、この度ついに目と目を合わせて向かい合う形でお話しした。

終始ずっと正座だったからか、少し足が痺れたけれど。

おかしいな、今のアタシ電脳体だからそんなの感じないはずなのになー。

 

ところで学園長。

あったかもしれないコロシアイがちょっとしたハプニングの結果起こらなかったIFの話しでも聞く??

 

 

ーー,ーー,ーー

 

1人1人のルートの結末を話していたら、ふと気づいた事がある。

学園長の左手にキラリと光りながら、実はずっといましたと存在を主張するものの存在を…。

あっ、おい、隠すな。

バッチリ見たぞ。

……………。

…………………。

……苦笑いした所で、この電脳プリティガールの尋問からは逃れられませんからねー。

それあれだよね、指輪でしょ?

相手は……知ってますよ。だってエスパーですかrーーーあぁぁぁ!

ちょっと、待って!?

パソコン閉じないで!何も見ーえーなーいー!!!

ファンとしては、どれだけ仲が進展したのか気になって仕方ないんだってば!

一言!一言でいいのでお願いしま……ちーたん、邪魔しないで!

面会時間終了とかそんなの初めて聞いたから!

 

 

 

ーー,ーー,ーー

 

 

おはこんにちばんわ、学園長!

昨日に引き続きまた来たよー。

えっ?何度聞かれても教えないよって?

あぁ…うん、もういっそのことタイミングを見てお相手に「告白またはプロポーズは何て言われたのか教えてくれ」って頼むから。

………それだけは絶対に止めてって必死すぎない?

うーん…まぁ、困らせたいわけじゃないし別にいいけどさー……その方がいろいろ考えられて面白そうだし。

 

そういえば、もうすぐ文化祭だよね!

アタシね、マスター達には是非とも演劇をしてほしいと思ってるんだ。

ちょうど良いネタもあってさー……ほら、過去に絶望の残党による未来機関コロシアイ事件ってあったじゃん。

ニュースとかで取り上げられてたやつ。

あれを『本当は未来機関のお偉いさんが絶望を世界に広げた応用として、希望を世界に広げようとして起きた事件だった!』という感じで台本とかを考えているんだけど…………絶対にダメ??

そっかー…なら、別のやつで考えるしかないか。

諦めが早いねって?

だって、なんとなく反対しそうな気がしてたし。

よぉし!それなら、物忘れが多い女の子が主役のハートフルラブストーリーでも……………嫌な予感がするから、できればそれも止めてほしい?

 

 

 

ーー,ーー,ーー

 

 

模擬刀の先制攻撃だべ!って言いながら御曹司の人に話しかけたら、鼻で笑われた。

咬ませ眼鏡め……余裕ぶっていられるのも今の内だ。

 

 

 

…ジェノサイダー呼ぶぞ?

 



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紅鮭団
1日目①


「待ってましたぁ!」ってお馴染みの人も、「暇だから見てやんよ」っていう優しい人も、今回から紅鮭団の話しでーす!
未だに、誰と卒業させるか決めてないよー。
いつも通り、勢いとノリで書いてるよー。
誰かそんな僕を助けて(笑)

そうそう…先日、友人とV3コラボのなぞともカフェに言ってきました。
参加特典のステッカー貰ったりして、テンションおかしかったです。
あっ、ちゃんとクリアしてきましたよ。
意外な事にスラスラーと解けました。
(しかし、電車の乗り換えやら方向音痴のせいで、変に体力消費しました)


何が起きているのか、分からない。

いや…分かってはいるけれど、頭の中で状況が追いついていない。

沢山の何で?が浮かんではグルグル回る。

何でアタシはゲームの世界にいるのだとか、何でアタシは超高校級の発明家の入間美兎に憑依しているのだとか、何で体育館にV3の超高校級が集まっているんだとか、何で……

 

「コロシアイは中止!オマエラには、恋愛観察バラエティのキャストになって欲しいんだよね。そういう番組のお約束通り、誰かと結ばれた2人は才囚学園から卒業できるよ」

 

 

何で……本編をぶっ飛ばした紅鮭団なんだ。

 

 

いや、別に嫌ってわけじゃないよ?

ゲームで全員卒業エンド迎える程度にはやり込んでたし。

平和でいいよ?

いいんだけど………。

 

でもさぁ、よく考えてみようか。

これは恋愛観察バラエティで、結ばれたペアが卒業。

それってつまり、誰かと『らーぶ、らーぶ』しろって?

…できる自信がない。

あれは、ゲームだからできる事なんだよ。

 

こっちの事情や弱音なんて無視するかのように、モノクマがここでの過ごし方を説明していく。

視聴者の問題で期限は10日間。

過ごしたい相手を誘う時は、デートチケットを使う。

デートチケットはカジノで各自購入……と、ゲーム通りのやつだ。

絆の欠片って、どうなっているんだろうと思ってポケットに入ってたモノパッドを見たけれど……うん、分からん。

 

「それじゃあ、頑張ってくださーい!アーッハッハッハ!!」

 

高笑いするモノクマの声を聞き逃してしまう程、アタシは1人真剣に考える。

 

10日間で恋愛とか、本当にできんの?

 

あれ?恋愛って……なんだっけ(混乱)

 

 

 

 

与えられた個室に閉じこもり、これからどうするか…と考える。

こうなってしまった以上、やっぱり卒業は目指したい。

でもさ…卒業って誰と?

歴代ダンガンロンパのシリーズで、V3は推しキャラの数が過去最大なんだけど。

その中の誰か1人を選んで、卒業しろと?

 

「え、選べないよぉ…」

 

というか、仮にアタシが卒業したいと思う人物を1人選ぶ。

そこに、卒業ルールの恋愛的に結ばれた2人を当てはめてみる。

それが女子だとしたら、百合ルートまっしぐら。

できたら避けたい。

逆に男子だとしたら、多分アタシの心臓がもたない。

悶え死ぬ場合がある。

あれ?詰んでる??

 

…どうしよう、冗談抜きでマズイ事になってきた。

 

最後の希望、全員選ぶ…は、ゲームの紅鮭団を何回か周回してできた事だし、下手したら修羅場になってしまう。

これは…どう足掻いてもできそうにない。

というか、ゲームだからできたって可能性もある。

となれば…この案はできない。

 

おい、どーすんだよ。

もう深く考えないで誰かと過ごしてみる?

…それが一番の最善策な気がしてきた。 

となれば善は急げ、カジノでデートチケットをゲットしに行こう。

ていうか、カジノのコインあったっけ?

手当たり次第に探ってみるも……ない。

仕方がない。

研究教室でモノクマメダル探す事から始めよう。

 

やることを頭の中で組み立てながら個室から出ると、ほぼ同じタイミングで最原が個室から出てくる所だった。

アタシに気づいた最原が「あっ、丁度良かった」なんて言っているけど、アタシにとっても丁度いいかもしれない。

だって、最原だよ?

プレイヤーのせいで、3代目パンツハンターとか愛の鍵ギャンブラーなんて言われてるやつだ……カジノのコインをちょっとぐらい恵んでくれるかもしれない。

お互い向き合い、同時に手を出して要件を伝える。

ただ、違うのは……

 

「オレ様にカジノのコインを10枚ほど恵んでくれねーか?」

「良かったら、僕と一緒にどうかな?」

 

話しの内容と、最原の手にデートチケットがあった事だった。

……マジか。

 

 

 

×××××

 

 

 

一緒に過ごす場所を最原に任せると、やってきたのは食堂だった。

東条ぐらいは居るかなと思っていたけれど、珍しい事に食堂にはいない……せめて誰か居てほしかった。

普段の自由時間での2人きりなら平気だけどさ……デートチケット使ってでの2人きりって落ち着かないんだけど。

頭では変に考えてはいけないと分かってるんだけど…どうしても、意識しちゃうんだよなぁ…って、それより話題を探さないと。

 

でも…なんで最原はアタシを誘ったんだろ?

だって、赤松を真っ先に誘うだろうなって思ってたし。

それに他のみんなみたいに、最原を楽しませる事なんてできない気がする。

さっきも、いきなりカジノのコインくれなんて言ったから引かれてたし…。

アタシを誘った所で面白い事なんてないと思うんだよね。

うわー…アタシってこんなに考え方暗かったっけ?

 

同じように黙り込んでいる最原を見ながら、1人であれこれ考える。

すると「あのさ…」と最原が話しを切り出した。

 

「他の誰かと変に比べる必要はないんじゃないかな?面白いかどうかは別として…入間さんが楽しんでくれたら、僕はそれで嬉しいんだ。だから発明品の話しでもいいし、カジノでやるゲームの話しでもいいよ」

 

「ほ、本当にそんなので良いのかよ…」

 

ていうか最原、人の心を読んだな!?

ココロンパか!?まさかの初っ端デートからココロンパか!?

くそっ、めっちゃ恥ずかしい!

 

「うん。さっきも言ったけど、入間さんが楽しんでくれたら誘った僕としては嬉しい事なんだ。だから、難しく考えなくていいよ」

 

「…だったら適当に話していくか。でないと、オレ様らしくねーもんなぁ!あっ、なんならお菓子でも摘みながらする…?」

 

厨房の方まで行けば、お菓子ぐらいはあるはずだ。

まぁ、なかったらモノクマガチャでアストロケーキを引き当てるだけだけど。

 

「そうだね。僕、何か見てくるよ」

 

厨房の方に行った最原を見送り、今の内に何の話しをしようかなーと候補を上げていく。

発明品の話しも楽しそうだけど、世間話の方がいいかもしれない。

 

「ごめん、何がいいのか分からなかったから、クッキーを持ってきたよ」

 

「おう、悪りーな」

 

さっそく1つ掴んで、口の中に入れて食べる。

うん…美味しい。

もう1つと手を伸ばした所で、最原が近くの窓を凝視している事に気づいた。

何かあるのかな…と思いながら気になってアタシも思わず窓の方へ目を向ける。

すると…まぁ、あれだ……アホ毛が見えた。

誰かなんて、顔を見なくても分かる。

そんなに最原が気になるのか。

ていうか、誰かと一緒にいるのか?

もう1人はアホ毛ないのか見えないぞ。

 

「…後で誘ってやれよ。テメーを誘いたかったんだろうしな」

 

「だと嬉しいんだけど…。うん、誘ってみるよ」

 

ていうか、絶対に誘え。

少し離れた所から見てやるから。



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1日目②

最近になって、Twitter始めました。
落書きとか、どうでもいい呟きとかしてめっちゃ遊んでます。


デートチケット確保の為にカジノに行って、ある程度稼いだらコインとデートチケットを交換。

ゲームであったラブラブ度っていうのを確認するために、アタシはモノクマに聞いてみたら……

 

「えっ?みんなとのラブラブ度?うぷぷ…そんなの教えるわけないじゃん」

 

なんて言われた。

ちょっとエレクトハンマーで叩いてやろうかなんて考えたけれど、グッと堪える。

 

「な、なんでぇ!?最原には教えてるじゃんかよぉ…」

 

「あぁ…見てたの?1人だけ特別に教えてるんだよ。それが、たまたま最原君なだけなんだよねー!」

 

……なにそれ、ズルイ。

エレクトボムで放送事故でも起こしてやろうかと考えたけれど、これもなんとか堪える。

だってほら、モノクマによる理不尽とか何時もの事だし。

 

「でもまぁ、ボクも鬼じゃないから教えてあげるけど…。今の入間さんなら誰とデートしても視聴者にとっては盛り上がる事、間違いなしなんだよねー!」

 

左様ですか。

とりあえず、誰が相手でもデートチケット使えるって事でいいのかな。

ていうか、視聴者は最原に注目しとけばいいよ。

最原が誰と卒業するかで盛り上がればいい。

アタシは見るな。

 

 

 

 

 

モノクマと別れると、アタシはある人を探してウロウロする。

ほら、せっかくデートチケットあるんだし誘わないと。

チケットを片手に握りしめながら目当ての人物の姿を見つけると、アタシは急いで駆け寄った。

 

「東条!」

 

「入間さん?どうかしたの?」

 

アタシを見るなり首を傾げた東条に「これ!」と言ってデートチケットを差し出す。

 

なんか、もう……いろいろと吹っ切れた。

友達を遊びに誘う感覚でやる。

 

「それは…私への依頼かしら?」

 

「ふぇっ!?えっとぉ…」

 

えっ、誘うのに依頼とかあるの?

いやいや…そんな事ないよな?

 

「友達として誘った…ってのはダメなのかよ?」

 

「メイドだもの。対等な関係になるのはよくないわ」

 

えっ、なにそれ悲しい。

 

「えっと…じゃあ、依頼って事で」

 

「そういう事なら、引き受けるわ」

 

なんで依頼じゃないと誘えないんだろう…。

いや、デート中に友達として接していけばいいのか?

…その場合、友達として接しているのはアタシだけなんだろうな。

 

 

 

 

×××××

 

 

って事で、体育館に来てみた。

来る途中に何人かとすれ違ったりはしたけど…体育館には、今はアタシ達以外に誰もいない。

……なんでいないのか、すごく気になる。

 

「それで…何をするのかしら?」

 

何も考えてませんでした…なんて言ったら、怒られるだろうなぁ。

うーん……体育館でできそうな事…。

 

「あっ、だったら掃除でもするか?」

 

デートなのに掃除?なんて思うかもしれないけれど、なんか…草とか地味な埃とか気になるんだよ。

 

「だったら任せてちょうだい。掃除は得意なのよ」

 

どこから用意したのか、モップを片手に微笑む東条にアタシは「待て待て!!」と思わず叫んだ。

いつの間に用意したのかが凄く気になるけど、それよりもだ!

 

「なんで1人で掃除しようとしてんだよ!?」

 

「何か問題かしら?」

 

どこからどう見ても、問題ありだって!

東条からモップを取り上げて、取り返されたりしないようにアタシはギュッと手に力を込めてモップを握りしめる。

 

「言い出しっぺのオレ様が、何もやらねーのはおかしいだろ!?」

 

「だけど、入間さんの手を煩わせるわけにはいかないもの」

 

…なんでそんな考えになった。

いくらみんなに仕えるメイドだからって、これはおかしい。

 

「うぐっ…。オレ様は、東条と一緒に掃除したいんだって!」

 

みんなのママだし、みんなの為に色々してくれるし、ほんのちょっとでも…手伝ってあげたいという思いが伝わってほしいという一心で、気づけば小さな子供が我が儘を言うみたいに叫んでいた。

どうしよう、東条が目を丸くして固まってる。

やっぱり…駄目、なのかな?

目線を落ち着きなくさ迷わせるアタシに、東条は「そう…」と呟いたと思うと微かに微笑んだ。

 

「それなら、仕方がないわね。一緒に掃除をしましょう。ただし…やるからには徹底的にやるわよ?」

 

「お…おう」

 

あっ、これ遊び心で掃除できないやつだ。

東条の目が、本気と書いてマジと読むやつだよ。

掃除指導が始まるやつじゃん。

やろうと言いだしたのアタシだけどさ…。

 

「それじゃあ、早速取りかかるわよ。まずは…そうね、雑草を抜く事から始めましょうか」

 

まぁ、東条が楽しそうなんだし…間違った選択ではなかったと思う。

ていうか…草抜きからやるのか。

結構時間かかりそうだし、草抜きできる発明品でも作ってみようかな。



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1日目・夜

タイトルを見て、「夜ってなーに?」って思った人!
夜のイベントに何があったか思い出してみましょう。

あと急に話し変わりますが、活動報告にてみなさんへの質問…というか、アンケート作ったので返信して貰えると助かります。
とっても助かるやつなんです(僕が)


突撃訪問、失礼しまーす!……なんて心の中でふざけながら、アタシは勢いよく目の前の扉を開けた。

だけど、ただの扉じゃない。

なにしろ愛の鍵がなければ、この部屋に入る事はできないんだ。

 

ゲームと変わらないラブアパートの内装を見ながら、アタシは目のいる人物…夢野は一体アタシを相手にどんな妄想をするのだろ…と考える。

まぁ、どうせ魔法関連だとは思うけれど。

夢野=魔法みたいな方程式なんだよ。

 

「……んあー。やっと来おったか」

 

なんか、いきなり『長時間待たされてました』みたいな顔された。

お呼びだしされてた設定か?

 

「まったく…ウチは大事な話しがあると言ったじゃろ。忘れられたかと思って泣きそうになったではないか…」

 

「えっ…わ、悪かったな?」

 

あれ?意外と普通っぽいぞ。

魔法関係ないパターンなのか?

 

「で…オレ様に話しってなんだよ?」

 

まぁ、なんにせよ話しの内容を聞き出そう。

でないと、自分がどういうポジションにいるのか分からないんだ。

 

「うむ…。お主、ウチに隠し事をしておるじゃろ」

 

帽子を深く被りながら、夢野がジトーっとした目でアタシを見上げる。

…威嚇してる小動物みたい。

 

「オレ様が…お前に隠し事ぉ?」

 

「そうじゃ!ウチを騙そうたって、そうはいかんぞ!!」

 

いやいやいやいや…隠し事って何!?

夢野の中で、アタシはどういう人物なんだよ!?

分かんないよ!

 

「な、何も隠してねーって…」

 

これ本当。

でも、夢野の中ではやはり違うらしく「んあー!まだ誤魔化すつもりか!?」となぜか怒られた。

あの…本当にアタシはどういう人物になってるんだよ。

 

「ウチはこの目で、しっかりと見たんじゃぞ!?」

 

ビシッと夢野に指を向けられ、思わず少し怯んでしまう。

えっ、何この迫力。

夢野の中のアタシ、本当に何をしたんだ。

 

 

「お主…一体、いつから魔法少女になったんじゃ!?」

 

「…へ?」

 

 

まほーしょーじょ?

今、魔法少女って言った?

誰が魔法少女って?

 

……夢野が、魔法少女じゃなくて?アタシが?

…え?

 

「は、はああぁぁぁぁあ!?」

 

ナニソレ、ナニソレ!?

急な不意打ちとか止めろって!

魔法関係ないじゃんって考えた少し前のアタシに言いたい。

がっつり魔法関連だったよ!

 

「さぁ、答えるんじゃ!お主を魔法少女にさせたのはどこの誰じゃ!?どんな願いを叶える為に魔法少女になったんじゃ!?」

 

「え…えぇ??」

 

い、いきなりそんな事を言われてもぉ…答えられねーよ!

魔法少女って!?

アタシ『マミられたー』みたいなやつはお断りだからな!?

 

「つーか、テメーがそんなの聞いてどうすんだよ!?」

 

答えを考える間の時間稼ぎとして、逆にアタシが夢野に問いかけてやる。

すると、傷ついたような顔をしながら「ウチは…」と夢野はポツリと喋り出した。

 

「ウチは偉大なる魔法使いじゃからな…今まで、沢山の魔法少女や魔法少年が願いの代償に戦い、命を落とすのを見ておる。じゃから…」

 

ごめん、その前に魔法使いと魔法少女って全くの別物扱いなんだ?

ていうかさ、アタシに死亡フラグたってるじゃん。

 

「オレ様が死ぬ…なんて言いてーのかよ?」

 

「う…む。い、今からでも遅くはないぞ!?魔法少女なんて止めて、ウチの弟子になるんじゃ!そうしたら、お主が危険な目に合う事なんてないんじゃ!」

 

両手を握り締められ、夢野から必死である事が伝わってくる。

魔法少女か弟子か。

アタシなら、安全な弟子を確実に選ぶ。

だけど、夢野の中でのアタシは?

妄想とはいえ、危険がつきまとう魔法少女の道を選んでまで願いを叶えようとしている。

だったら断るべきなのか?

うーん……

 

「んあー!何を悩んでおるんじゃ!お主は何も考えずに頷けばいいんじゃっ!!」

 

「は、はいいぃぃぃ!!」

 

グダグダ考えていたアタシに痺れを切らしたのか、大声を上げた夢野に思わず反射的に返事してしまった。

 

「カーッカッカッカッ!そうじゃ、ウチに任せるがよいぞ!立派な魔法使いにしてやろう。まずは使い魔である鳩の召喚方法から教えてやるから、覚悟するのじゃ」

 

それ、鳩って言った時点で魔法からマジックに脳内変換されたんだけど……。

 

 

 

×××××

 

 

 

目が覚めて真っ先に頭に浮かんだのは、今日の予定を立てる事だった。

だけど、結局はその時の状況に合わせて動けばいいか…という考えに行ってしう。

ひとまず朝食…という事で食堂に行こうと寄宿舎を出ると、目の前に鳩が飛んできた。

 

「あっぶねーな!?なんなんだよ!?」

 

慌てて衝突を避ける為にその場でしゃがみ込み、鳩を見上げる。

…人の頭に乗るなよ。

あのさ「クルッポー」って言われても、鳩の言葉なんて分からないから。

 

「すまん、入間よ…。どうやら、ウチの使い魔が逃げ出したようじゃ」

 

中庭にいた夢野がこちらにやってきて、鳩を回収する。

えっ、収納先って帽子なの?

普通に被るの?

 

「待て待て待て!」

 

「んあ?」

 

何か問題でも?と首を傾げる夢野は無視して、アタシは帽子をマジマジと手に取っり、ひっくり返したりして鳩がどこに消えたのか確認していく。

 

「……鳩、消えた?」

 

えっ?普通の尖り帽子なんだけど?

鳩が隠れるような場所見当たらないんだけど?

マジック凄い…。

 

「カーッカッカッ!ウチの魔法に不可能はないからの!」

 

「他には!?他にも見せてぇ!!」

 

「んあー…。喜んでくれるのは嬉しいのじゃが、MP切れじゃ」

 

プチマジックショー見たかった…。

 

「えー…だったら、せめて仕掛け教えてくれよぉー」

 

「じゃから、ウチのは魔法じゃから仕掛けなどないわ!」

 

あっ、そうだ…魔法って言わないとダメだった。

「わ、悪かったから。そんなに怒るなよぉ…」とアタシは夢野に暫く謝っていた。



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2日目①

実は僕、軽くスランプ気味だったりします…
これも全部、暑さのせいだ(言い訳)


朝起きたら、昨日の事は全て夢落ちでした……なんて事はなく、アタシは未だに入間美兎として才囚学園にいる。

10日以内に結ばれたペアは卒業という条件の紅鮭団の2日目。

5日目までには、誰と卒業するのか決めておかないといけない気がする。

 

「まっ、ゆっくり決めればいいか…」

 

発明品を作ったり、みんなとの朝食を終え、個室でデートチケットをヒラヒラさせて遊びながら『今日は誰を誘うかな』とアタシは1人で悩む。

そんな時、誰かが来たのか『ピンポーン、ピンポーン』と呼び出しのインターホンが鳴った。

しかもその後に扉をドンドン叩くもんだから、思わず飛び上がってしまう。

ちょ、扉壊れるから止めろ。

 

「ドンドンうるせーぞ!」

 

「ご、ごめん!でも、ゴン太どうしても入間さんに頼みたい事があって…本当にごめん!」

 

怒鳴りながら扉を開けた事を、後悔した。

怒鳴ってごめん。

だから、そんなに落ち込まないで。

 

「わ、分かったから…もう謝るの止めろよぉ…。で、頼みたい事って?」

 

本題に踏み込むと、ゴン太は満面の笑みを浮かべて「ゴン太のお願いはね…」と切り出した。

 

「一緒に虫さんを探してほしいんだ!」

 

うん、だと思った。

なんとなくそんな気はしてた。

あと、虫を探すだけなのになんでデートチケットを出した?

ゴン太の中では、虫探し=デートなのか?

 

「まぁ…いいけどよぉ…」

 

ゴン太の研究教室以外で、虫と呼べるような虫いなくない?

飛んでるとしても、モノチッチだぞ?

肉眼じゃ見えないって…。

 

 

×××××

 

 

虫あみ装備のゴン太と一緒に中庭に行き、周りをキョロキョロ見渡す。

うーん……やっぱり、虫なんて見当たらない。

 

「おーい!虫さーん!出ておいでー!!」

 

「虫って、呼んだら出てくんのか…?」

 

虫を呼び続けるゴン太に苦笑いをしながら、虫眼鏡を使って茂みとかを探すけれど…何もいない。

分かってたけれどさ…。

 

「なぁ、なんで虫を探そうなんて思ったんだよ」

 

「小さい虫さんを見たんだ。だから、どこかにいるはずなんだよ!」

 

それ、虫じゃなくてモノチッチ。

モノクマーズだから。

 

「それにね、王馬君が昨日教えてくれたんだ!入間さんに頼めばなんでも解決してくれるって!!」

 

いやいや…頼んだら解決してくれるの東条だから。

アタシ違う。

発明品でできる範囲しか解決しないから。

 

「ゴン太…それ、王馬の嘘だから」

 

「えっ?嘘だったの!?じゃあ、虫さんは……」

 

ショックを受けたように固まったゴン太に、アタシは慌てて「あー…でも、全部が嘘ってわけじゃねーぞ?」と訂正した。

 

「えっ?どういう事??」

 

「だから、オレ様が虫を捕まえる発明品を作ったら、テメーが探してる小さい虫を捕獲できる可能性があるって言ってんだよ!」

 

ゲームの本編であった虫取り掃除機を作って使えば、ゴン太の言う虫を捕まえる事はできる。

…あれは、虫であって虫じゃないけど。

 

「じゃあ、その発明品ってのを使えば、ゴン太は虫さんを見つけられるんだね!?凄いよ!!それで…その発明品ってどこにあるの?」

 

「まだ作ってねーよ!?」

 

気が早いって!

どんだけ虫を捕まえたいんだよ。

 

「と、とにかくだ!作ったらすぐに教えてやるから、それまでは研究教室の虫を愛でておけばいいじゃねーか」

 

まぁ、アタシはゴン太の研究教室には…できれば行きたくないけどな。

虫は苦手なんだよ。無理。

 

「分かったよ。ゴン太、入間さんが作るのを待ってるね。そうだ、今から一緒に虫さんと和もうよ!!」

 

「あー…そういえば約束があるのを思い出した。悪いゴン太。虫と和むのはまた今度な」

 

行きたくないと思った瞬間に誘われるとかないわー。

ゴン太以外だと嘘だとバレるそうな棒読みでそう言うや、アタシは走って自分の研究教室に逃げた。

虫と戯れるデートとか、絶対に嫌だ。



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2日目②

紅鮭団を書き始めてから、下書き中に謎の発狂を起こして「うわあぁぁ!!」って叫ぶ事が増えたけれど、今回は一番叫ぶ回数多かった気がする。

文才とネタが欲しい!!


1つ何か作れば、今度はこれも作りたいとポンポン頭に浮かんでは消えていく。

研究教室に引きこもってからそれなりに時間も経っているのだし、アタシは一度手を止めると「ふぅ…」とため息を吐いた。

ちょっとした息抜きをしていると、『この後、誰と過ごそうか』という問題の脳内をしめた。

 

…まぁ、正直誰でもいいんだけどさ、やっぱり考えてしまうんだよ。

 

「とりあえず、ブラブラするか…」

 

アタシと同じようにボッチ状態な暇そうな人を見つけたら、誘えばいいんだし。

…都合よくいたらいいなぁ。

 

作りかけの発明品を片付けて、中庭の方へ出る。

中庭には、絶賛デート中なのか百田と春川の姿があった。

邪魔者でしかないアタシは気づかれない内に退散しようと思っていたけれど、こっちに気づいた春川が軽く手を振ってくれたので、反射的にアタシも手を振り返した。

 

あれ?春川って…こんな愛想いいやつだっけ?

いや、でも朝食の時とかもなんか…めっちゃ親切だったし……。

考えるの止めよう。

ほら…『いつまでここにいるの?』ってばかりに顔が険しくなってきてるし。

 

「うわっ…春川ちゃんオレの事すっごい睨んでる」

 

いつの間にかアタシの隣でしゃがみ込んでいた王馬が、怯えたような顔をしながら2人を見ていた。

……思わず驚いて後ずさったじゃねーか。

心臓に悪いわ。

 

てか、春川が怖い顔している理由は王馬であって、アタシじゃなかった…のか?

あれ?もしかして、どっちもとかだったりする??

だったら、アタシ達は退散した方がよくない?

 

「王馬…今、暇?」

 

「暇じゃないよ!」

 

…暇そうにしか見えないけど、とりあえず他の人を誘うか…と頭を切り替えてデートチケットをポケットから出しながら、その場から離れる。

誰かいないかなーと思いながらチケットを眺めていると、誰かがアタシの手からデートチケットを奪った。

…誰かというか、王馬だったけど。

 

「あっ、暇じゃないってのは嘘だよ。本当はすっごく暇なんだよねー。入間ちゃん、分かっててスルーしたでしょ?」

 

ナンノコトカナー。

 

 

 

×××××

 

 

お互いに暇だからという理由でデートチケットを使ったデートをする事になり、図書室に来た。

理由?よく分からないけど、王馬が「じゃあ、図書室に行こう」とか言い出したからだけど。

行き場所を選ぶ権利取られた…。

場所を選ぶの、アタシの密かな楽しみだったんだけどな。

 

「さっき最原ちゃんとここでデートした時に、オススメの本とかの話ししててさー」

 

そう言って本棚をあさる王馬を見ながら、アタシも本棚から適当な本を抜き取る。

…王馬は本日2回目の図書室デートなわけ?

飽きないの??

 

「で、さっき最原ちゃんと見てた本を入間ちゃんにも見せてあげようと思ったんだよね!」

 

渡された本を渋々受け取り、アタシは表紙を見て「うん?」と首を傾げた。

表紙を見た限り、世界の写真集みたいだけれど……なんでこれ?

こんなの見てたのか??

早く中を見てほしいのか、キラキラと目を輝かせた王馬が「それ、すっごくいいやつだったよ!」なんて言うから、アタシはその視線から逃げるように本を開けてしまった。

 

見た瞬間、閉じたけど。

 

「……エロ本じゃねーか!」

 

図書室では静かになんて暗黙のルールを無視して、アタシは本を床に叩きつけながら叫んだ。

くそっ、表紙に騙された!

なんて手の込んだ悪戯をしやがるんだ!!

 

「にししー。オレと最原ちゃんの2人で楽しんだ本なんて、簡単に見せるわけないじゃん」

 

いやいや、これ2人で読んでたやつだろ絶対!

どうせ『えっちな本でも読もうか』とか言った最原と、2人で仲良く読んでたんだろ!

……茶柱に投げ飛ばされてこい。

 

どっと疲れが押し寄せてきて、思わずその場にしゃがみ込む。

なんで振り回されなきゃいけないのぉ…?

 

「ねぇねぇ、入間ちゃんどう?ドキドキした?デートなんだからドキドキさせようとオレ頑張ったんだよ?」

 

「あぁ…うん。別の意味でドキドキしたわ」

 

こんなドキドキ(意味深)なデートとか、今後一生ないな。

てか、デート(仮)でエロ本見るとかなんなの?

うあー…思い出したら恥ずかしい。

 

あとさ、人の顔をじーっと見るの止めろ。

 

「なんだよぉ……」

 

「…入間ちゃんには、刺激強かったみたいだね。オレなりに楽しませるつもりだったのになぁ」

 

嘘だ。

絶対に自分が楽しみたかっただけだろ。

 

「そうそう、オレと最原ちゃんがいいなと思ったこの本のモデルの人はねー、金髪の巨乳の人なんだー」

 

「赤松逃げろ。マジで逃げろ」

 

嘘の可能性もあるけど、王馬のとんでもない発言に思わずアタシはここには居ない赤松の身を案じた。

 

……特別製の防犯ブザーでも作って渡すか??



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2日目・夜

暑いせいで、夏バテになり食欲が失せています。
それなのに…食事を沢山出す母親は鬼なのだろうか…

そうそう、昨日グランフロント大阪のダンガンロンパフェア行きました!
グッズ買えたし、同じくファンの人と少しお話しできて満足。
でもさ……僕、一応成人してるのに10代に見られるって何なの。
あれかな、チビって事なのかな…もう身長伸びねーよ


カジノで入手した愛の鍵を使い、今日は誰かなーと1人でドキドキしながら扉を開ける。

だからこそ、部屋の中にいる人物を見た瞬間、アタシはこれから起こるであろう展開の全てを悟った。

…こいつ相手じゃ、アレ以外考えられない。

 

「今日も話しを聞きに来たんすか?ちょっと照れるっすね…」

 

照れくさそうに頬を掻く天海に、アタシは内心で『お兄ちゃん呼び絶対(強制)』という言葉を浮かべ、思わず苦笑いしてしまった。

ふざけて『蘭太郎お兄ちゃん』って呼ぶ事はあってもさぁ…こう、呼ばなきゃいけない時に限って呼ぶのを躊躇うんだよな…。

できるだけ、名前で呼ぶような事態にならないようにやってみよ。

 

話し…だっけ。

天海の中で、アタシはいつも何かの話しを聞きに来てるのか?

 

「えっと…今日は何の話しを聞かせてくれるんだよ?」

 

できれば面白い話しだといいなー…と思いながら天海に聞いてみると「そうっすね…。じゃあ、ノヴォセリック王国に行った時の事なんすけど…」と返事が返ってきた。

 

…ちょっとタンマ。

 

ノヴォセリック王国?

え?えぇ??

 

「行った事あるのかよ…」

 

「あるっすよ」

 

まじかー…それは是非とも聞きたい。

てか、聞かせてほしい。

めっちゃ気になるし。

 

「あれは確か…オレが知り合いの船に黙って乗り込んだのが始まりだったんすけど」

 

「悪い…前提がおかしくねーか?」

 

なんで黙って乗り込んだんだよ。

普通に許可貰えよ。

知り合いの船なんだよな?

 

「いや、その時は許可貰う時間も惜しいぐらい急いでて、ついやっちゃったんすよ。まぁ、バレて怒られたんすけどね」

 

それゃ怒られるわ。

てか、なんでそんなに急いでたのかは…聞かない方が良さそうだな。

 

「で…その船の行き先がノヴォセリック王国の近くだったんで、成り行きで行ったんすよ。そこで、前に旅先で会った人と再会して、マカンゴの事を聞いたんで…一度見に行こうと思ったんすよ」

 

これは…マカンゴの正体が、とうとう分かるのか!?

あの、正体不明のマカンゴが!!

動物だという事しか分かっていない、あのマカンゴが!

 

「それで、マカンゴについて聞いていたら、黄金のマカンゴっていう存在を知ったんで、それを探す事にしたんすよ。まぁ…結局は見つからなかったっすけど」

 

見つからなかったのかよ…。

いや、でも普通のマカンゴなら見た可能性が…。

 

「その…マカンゴって、どんなやつなんだ?」

 

「ええっと…なんか、こんな感じのやつっす」

 

そう言って、天海が身振り手振りでマカンゴがどんな物か伝えようとしてくれるけれど…ごめん、どう見ても寿司ざんまいのポーズにしか見えない。

なんでだ…。

 

「で…こっからが大変だったんすよ。なんでも育てたマカンゴが行方不明になるっていう事件に巻き込まれてしまって、犯人だと勘違いされたんすよ」

 

なんで話しが突然重くなるんだ。

妄想の中で危険を犯すな。

 

「まぁ、なんとか無実を証明したんで何もなかったんすけど…その行方を眩ませたマカンゴは所有者を困らせる為に自分から逃げ出したらしくて、要するにマカンゴの家出騒動だったっす」

 

「お…おう…」

 

思ってたよりも、小さな事件だったな。

いや…でも、そいつらにとっては大きな事件だったのか…?

って、これ妄想だって事忘れてた。

 

「なんか、その話し聞いてたらオレ様もマカンゴを見たくなってきたなぁ…。いつか育ててみるか」

 

「おっ、いいっすね。なんなら俺と入間さんでそれぞれマカンゴを育てて、いつか見せ合うっすか?」

 

「いいな、それ。面白そうだな!」

 

ていうか、呼び方いつも通りじゃん。

自分が天海にとってどういうポジションなのか、一気に分からなくなったぞ。

 

「入間さん…意味、分かってないっすよね?」

 

「あん?お互いに育てたマカンゴを見せようって話しだろ?」

 

アタシがそう答えると、なぜか天海から返ってきたのは苦笑いだった。

えっ、何か間違えた事言った?

ちょっと待って、今マカンゴについての記憶を思い出すから。

 

…ダメだ、黄金のマカンゴを特徴のない顔立ちのアンテナを生やした勇者が討伐するって話しのインパクトが強すぎて、他のやつについて思い出せない。

 

 

 

×××××

 

 

 

目覚めてすぐに頭に浮かんだのは、なぜかマカンゴだった。

なんでマカンゴ?

 

「えっと…確かこの辺に」

 

ベッドから起き上がり、図書室から持ってきた数冊の本の中から海外の観光スポットの写真集を引っ張り出して、読みながら寄宿舎を出て食堂に向かった。

食堂にみんなが集まるにはまだ時間があるし、いい暇潰しにはなるはずだ。

もうすぐで食堂…って所で、アタシの手から本が消えた。

っていうか、奪われたってのが正しいかも。

 

「いいの見てるっすね。けど、歩きながら見るのは止めた方がいいっすよ?」

 

そう言いながら、本を奪った天海はパラパラとページを捲りながら写真集を見ては「あっ、ここ行った事があるっす」なんて言っていた。

 

ちょ、アタシどこまで見たか分からなくなるから…返してください。

 



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3日目①

できるだけ週1更新を心掛けていますが、「あっれー?更新遅いぞー??まだなのー?」って感じた場合は、僕が忘れているか、ゲームに夢中になっているか、ネタ切れで奮闘していると思ってください(←え?)



カジノのコインが余っていたからという理由でコインと交換したモノダミンV3を飲みながら、アタシが個室の扉を開けると今まさにインターホンを押そうとしている百田が目の前にいた。

 

…驚いてモノダミンを吹き出しそうになったのは、秘密だ。

 

「おっ、出て来たな。何も言わずにちょっと付き合え」

 

「な、なんだよぉ…」

 

デートチケット渡されたけど、トレーニングとかだったらサボるからな。

ていうか、アタシがあのタイミングで部屋を出なかったらピンポンラッシュされてた…?

 

モノダミンを一気に飲み干し、アタシは寄宿舎から出ようとする百田を急いで追いかけた。

 

 

×××××

 

 

百田を追いかけて辿り着いたのは、やっぱり中庭だった。

嘘……だよな?

トレーニングなんて、やらないよな?

 

「おーっし!そんじゃ、まずは腹筋100回だっ!」

 

「はぁっ!?」

 

えっ、ちょっと…嘘だと言ってくれ。

 

なかなか始めようとしないアタシに、百田は「いいから、身体を動かしてみろ」なんて言って、ゆっくりと腹筋をやり始めた。

いやいや……身体動かすの苦手なんで、遠慮したいんだけど。

 

「ったく…いいか。何を悩んでいるのかは知らねーが、身体を動かせば悩みなんて、どーでもよくなっちまうんだよ」

 

「別にオレ様に悩みなんて…」

 

腹筋はしないけれど、座り込みながら言ったアタシの言葉は「隠す必要はないぜ!俺にドーンと任せろ!」なんて言った百田の言葉でかき消された。

人の話しを聞けよぉ…。

 

「テメーの事だ。どうせ、誰と卒業するかで悩んでんだろ?」

 

「…………へ?」

 

ちょっと待て。

なんで、バレてるんだ…。

いや、悩みって言うほどじゃないけれど…確かにそれについて考えているのはそうなんだけれど。

 

「いいか、入間。宇宙の広さに比べたら、テメーの悩みなんてちっぽけなもんだ」

 

うん、だろうね。

それでも悩んでしまうのが、人間なんだ。

 

「ったく…深く考えすぎなんだよ。テメーも終一も。いいか、自分が一緒にいたいと思ったやつを信じろ。そう思った自分の気持ちのままに動けばいいんだ」

 

「……それができれば、苦労しねーよ」

 

簡単に言いやがって……。

正論なのがムカつく。

バカのくせに…バカのくせに!

 

「まっ、どーしても無理だと思ったら俺がなんとかしてやるよ!」

 

ニカッと笑う百田に、アタシは「不安しかねーよ」と笑った。

口ではそう言いながらも、心のどこかではどうしても決められなかったら本当に何とかしてくれるんじゃないか…なんて思ってしまう辺り、アタシもバカだと思う。

 

アタシ自身が、自分で決めるのが最善策なんだけどな…。

だけど、せっかくならみんな揃って卒業したいし……みんなの優しさや好意に頼ってしまうのもいいかもしれない。

まぁ…日数はまだあるし、みんなの動向から考えるのもありかも?

 

「おっ、少しは吹っ切れたか?んじゃ、腹筋500回やるか!」

 

「回数をこっそり増やしてんじゃねー!」

 

でも……まぁ、アタシの中で考えが少しだけ楽になったのは事実だし、少しだけならトレーニングに付き合ってやろうと、ゆっくりと腹筋を始めていく。

 

そういえばさ、春川に百田とトレーニングしてるこの状況を見られたら、アタシ殺されたりしない?

大丈夫??

 



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3日目②

ネタが思いつかず、考えながら書いていった結果こうなった。


トレーニングしたせいで喉が渇いたから食堂で飲み物を…と思って来てみたけど……

 

「それで、その時に妹達が……」

 

「へぇ…僕の姉さんはネ……」

 

気づいたら、目の前で天海と真宮寺のシスコントークが始まっていた。

興味のないフリをして、ジュースを飲みながらどのタイミングでこの場から離れようかと必死に考える。

…もう、一気に飲み干して出て行こう。

 

「入間さんはどうかナ?姉さんの友達になる気はないかイ?」

 

「俺の妹達ともどうっすか?」

 

いきなりこっちに話しがきた。

なんでだよ。

アタシはジュース飲んでただけで、お前らの話しを真面目に聞いてないんだから、そんな事言われても困る。

というか、真宮寺は遠回しに『死んでください』って事じゃねーか。

やだよ?

 

「……ノーコメントで」

 

そう言って、一気にジュースを飲み干す。

だけど、その場から離れる事はできなかった。

主にシスコンコンビのせいで。

 

「選べないのかナ?だったら、僕が姉さんがどれだけ良い人なのか教えてあげるヨ」

 

「妹達について語るなんて、俺も余裕っすよ」

 

違う、そうじゃない。

 

アタシを挟むように座ったシスコン達に、思わず頭を抱えそうになる。

この短時間で『姉さん』とか『妹』って単語をどれだけ言ったら、気が済むの??

 

「…何してるんだ?」

 

そんな最悪のタイミングで食堂に来た星は状況をよく解っていないのか、『仲良しなんだな』みたいな目をアタシ達に向けている。

アタシは関係ない。

被害者だ。

というか、今すぐここから離れる事をオススメする。

 

「あぁ…実は今、入間さんに姉さん達の魅力を語っていた所なんだヨ」

 

「星君もどうっすか?」

 

星のアタシを見る目が、一瞬にして同情の色に変わった。

そんな目で見るくらいなら、助けて。

「遠慮しておくぜ…」なんて言いながら、1人で出て行こうとしないで……って、そうだ!

 

「ちょ、待てよ星!オレ様と一緒に時間潰そうぜ!!」

 

デートチケットを星に押し付けるようにしながら、アタシはそのまま食堂を出た。

目指すは、食堂以外のデート場所だ。

すれ違うように食堂に入った最原とキーボは、運が悪いとしか言いようがない。

 

 

×××××

 

 

思わず星をデートチケットを使ってAVルームに誘ったけれど…ここからどうしよう。

…せっかくだし、何か見よう。

 

「星は、何か見たいやつあるか?」

 

「いや、特にないな。あんたの好きにすればいい」

 

それはテニス関係でもいいって事か?

でも、アタシは生憎テニスについての知識はないからなー…。

「うーん…」と唸りながら何にしようかと考える。

まぁ、アタシの好きにしていいって言ってたし、猫特集の映像でいいか。

デッキにセットして準備を済ますと、スクリーンに映像が流れるのをのんびりと待つ。

 

「なかなかいいのを選んだな」

 

そして、スクリーンに子猫の姿が映りだすと星はそう言ったきり、映像を眺めて……その…凄く、気のゆるんだ顔をしてた。

普段のクールはどこに行った。

 

「猫って、いいよな…」

 

だけど、映像に映る猫達の姿にアタシも気のゆるんだ顔をしているんだろう。

あぁ……癒される。

 

「なんだ、あんたも猫が好きなのか?」

 

「マンチカンとか、オレ様のツボ…」

 

「マンチカンか…確かにいいと思うが、ロシアンブルーもくるものがあるぜ」

 

「確かにな」

 

そんな話し合いを最後に、アタシ達はスクリーンの画面に釘付けになって黙り込む。

……まぁ、どういう原理かピコピコ動く星の帽子の耳みたいな部分も少し気になるけど。

…触ったら怒られそうだし、やめとこう。

 



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3日目③

今日は最原君の誕生日という事で朝からTwitterに流れるお祝い絵とかを見て、ニヤニヤしていました。
さすが主人公…愛されてるね。
親友が最原君推しなので、一緒にお祝いしてました。

…今から、入間ちゃんの誕生日が待ちどおしいなぁ。
みんな、入間ちゃんの誕生日はちゃんと祝ってね。
忘れてたなんて言わないで、ちゃんと祝ってよ!?

まぁ、その前に天海君の誕生日が来るんだけどね。



いつもなら、この時間帯に疲れきって部屋に引きこもってのんびり過ごす事が多いけれど…今日はまだ動ける余裕がありそうだ。

朝に飲んだモノナミンの効力?

 

…あれって、朝に飲む事で効力出るやつだったか?

 

「どーすっかなぁ…」

 

ベッドの上でゴロゴロしながら、ポケットに手を入れる。

デートチケットはまだ何枚かあるから、誰かを誘う事はできる。

だけど、何か発明品を作りたいという気持ちもある。

うーん……悩む。

そうやって、アタシが考えていると珍しく『ピンポーン』と部屋にインターホンの音が鳴った。

 

「あん?誰か来たのか??」

 

一体誰が、何の用事で?と首を傾げながらも扉を開けて来訪者の姿を確認してみる。

 

 

なぜか、土下座している茶柱の姿があったから思わず扉をすぐに閉めたけど。

 

 

「いやいや…今のは見間違いだろ。うん、見間違いに決まってる」

 

ドンドンと扉を叩く音がするけれど、「開けてくださーい!」って声がするけれど、あれは茶柱じゃない。

別人だ。

茶柱が土下座するとか、想像できない。

うん、アタシってば疲れてるのかな。

 

扉が壊れたら困るので、ゆっくり扉を開けて部屋の前にいる人か扉と衝突しないようにする。

 

「どうして部屋に戻ってしまうんですか!転子は入間さんをお守りする為に来たんですよ!」

 

目の前にいた茶柱に両肩を掴まれたと思ったら、揺さぶられた。

ちょ、止め……ガクガクして気分悪くなるから。

 

「えっ…その、だな。誰かが土下座してる幻覚を見てだなぁ…」

 

「幻覚じゃありません!転子は入間さんに土下座をして謝っていました!」

 

「なんでぇ!?」

 

思わず後ずさろうとしたけど、両肩を捕まれていた為できなかった。

なんでアタシに土下座したの?

謝るって何!?

 

「転子は、女子の皆さんを男死から守る為に動いていたんですけれど……入間さんが、男死から絡まれてばかりなのを知ってしまい、守れなかった事に対して謝っていたんです」

 

……凄い悔しそうに拳を握りしめる茶柱を見ていたら、今このタイミングで男子が寄宿舎にいたら投げ飛ばしそうと思ったのは、アタシだけか?

 

「オレ様、そんなに絡まれてたっけ…?」

 

「気づいていないんですか!?ですが、安心してください!今から少しの間ですが、転子がお守りします!」

 

茶柱のリアクションは少しオーバーな気がするけれど、アタシは今までチケットを使ったり誘われたりしたメンバーを思い出す。

えーっと…1日目は最原と東条。

2日目は、ゴン太と王馬。

今日が…百田と星だったな。

 

あれ……確かに男子といる事多くね?

デートチケットで過ごした女子って、ママである東条だけ?

てか、アタシ女子からデートに誘われた事ない!?

えっ…もしかして、嫌われてる???

 

「茶柱…オレ様と一緒に過ごしてくれる?」

 

「勿論ですよ!転子はそのために来たんですから!」

 

お任せくださいと笑う茶柱が、一瞬だけ犬に見えた。

 

 

 

×××××

 

 

どこで過ごそうかと話しあった結果、体育館になった。

うーん……せっかくだし、ボール遊びでもするか?

でも、体育会系の茶柱を相手にするとなると…アタシの身体がもつか不安だ。

 

「入間さん、せっかくなので転子と運動しませんか?男死相手は本気でやりますけれど、女子にはちゃんと手加減をしますよ!」

 

…なんでアタシの考えを読んだかのようなタイミングで、そう言うのかなぁ。

いや、まぁ…ありがたいんだけどさ。

 

「運動って、何するんだよ?バスケか?ドッヂボールか?」

 

アタシとしては、バスケのシュート練習(?)とかの方がビクビクしないで済みそうなんだけどな。

 

「そうですね!でしたら…」

 

茶柱がそう言ってる途中で、体育館の扉が開いた。

誰が来たんだろうと思ってたら、夢野とアンジーだったから「夢野さあぁぁぁん!!」って叫びながら茶柱は夢野に抱きついていた。

 

「およよー?転子達も来てたのー?だったら、みんなで遊ぼー。神様もそうしろって言ってるよー」

 

「そうですね!ぜひ、転子達と遊びましょう!!」

 

「んあー!少し離れんか!!」

 

……アタシ抜きで話しが進んでいく。

お前ら本当に仲良しだな。

見ていて微笑ましいわ。

 

「夢野さん、転子とペアを組んでドッヂボールしましょう!」

 

「じゃあ、アンジーは美兎と組むねー!」

 

しかもドッヂボールやるのかよ。

夢野が凄い『めんどいのじゃ』って顔してるぞ?

ねぇ、このメンツでちゃんとドッヂボールできるかアタシ不安なんだけど。

 

「マジでやんのかよ…」

 

「んあー…めんどいが、やるしかなさそうじゃのぅ」

 

思わず夢野と顔を見合わせる。

茶柱とアンジーはやる気満々だけど、こっち(主に夢野)はやる気0だぞ?

ちゃんとドッヂボールできるの?

 

「夢野さんならば、魔法できっと格好良く転子を勝利に導いてくれるはずです!」

 

「美兎だって、きっと凄い技を隠し持ってるって神様が言ってるから、勝のはアンジー達だよー?」

 

……アタシと夢野のプレッシャーやばくない?

ドッヂボールやるの止めよう?



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3日目・夜

ゲームに夢中になったり、ゲーム実況に夢中になってたりしたら、投稿するの忘れてましたテヘペロ。


今となってはお馴染みとなった部屋の扉を、愛の鍵を片手に握りしめながら開ける。

 

さて、アタシの今回の相手は誰だっ!

 

「遅い」

 

部屋に入った瞬間、今回の相手らしい春川からダメ出しを喰らう。

遅いって……どういう状況?

 

「こ、これでも急いで来た方だっての!」

 

「まぁ、いいけど。あんたが時間通りに来ないのなんていつもの事だし…」

 

……春川の中で、アタシは遅刻魔か何かなの?

と、とりあえずまずは、状況とアタシがどういうポジションの人間なのかを知っておかないと…。

 

「えっと…春川はここで何やってんだよ」

 

「は?何それ…」

 

急に不機嫌になったと思えば、春川は目を細くしてアタシを睨みつけていた。

えっ、待ってなんで!?

普通に聞いただけなのに!?

 

「ゆっくり話そう…って呼び出したのはそっちでしょ。ていうか、なんでいきなり苗字で呼ぶの?なんか気持ち悪いんだけど」

 

「なんでそこまで言われるのぉ…??」

 

思わず半泣きになりながら、頭の中で呼び方を考える。

苗字呼びがダメなら…下の名前か渾名の2択だ。

普通に名前呼びなら、魔姫。

渾名なら、ハルマキ。

……渾名はないな。

名前呼び…ちゃん付けするべきか?

だとしたら魔姫ちゃん??

 

「なぁ、マキロール」

 

「………は?」

 

春川がポカンとしたように口をあんぐり開ける。

…アタシってば何を口走った?

マキロール???

お腹減ってるの?

 

「ごめん、今のなし。なんか変なの混ざった!」

 

両手を合わせながら謝ると、春川から返ってきたのは小さな笑い声だった。

 

「本当、美兎は昔から変わらないね…。そんなあんただから、私も施設の子供達も気を許しちゃうだろうね」

 

あっ……ゲームと同じで、同じ施設育ちっていう設定なんだ。

なるほど…だから名前呼びなのか。

 

「どうせ、話そうって呼び出したのって、私が施設から引き取られてから何をしていたのか聞きたいんでしょ?」

 

さっきまでの笑顔が抜け落ち、春川から表情が消える。

無表情…というには、何かが違う。

辛いのを、悲しいのを無理矢理押し殺しているような…そんな風に見える。

 

「ケッ…今更んなつまんねー事、誰が聞くんだよ」

 

「えっ?」

 

アタシの返答が意外だったのか、春川が微かに動揺した。

いやだって、聞かないで欲しいみたいな顔してるし?

それに、ゲームでプレイした時に大体は知ってるんだし。

 

「聞くために、ここに呼び出したんじゃないの…?」

 

言った事を信じてないのか、疑いの眼差しを向けられる。

そんなに信用ない?

 

「う、うるせー!オレ様に無理矢理話しを聞こうとするような度胸はねぇよ!」

 

「そういえば、あんたって昔から変な所でヘタレだよね」

 

ストレートすぎる一言に、思わず凹みそうになる。

アタシに対して容赦なさすぎ…。

 

「うぅ…とにかく、あれだ!!暇な時でいいから、オレ様と遊びに行くぞ!ゲーセンとかどうだ?施設でゲームで遊ぶ事なんてなかったしな。あと、それから……」

 

身振り手振りで、アタシは春川に何が楽しいとか、何が好きかと質問しながら遊ぶ際の候補を挙げていく。

そんなアタシを落ち着かせるかのように、春川はアタシに手を伸ばし……

 

「痛っ!?」

 

なぜか笑顔でデコピンされた。

 

「焦らなくても、ゆっくり決めたらいいでしょ。……あんたと私が初めて施設で会った時みたいにさ」

 

懐かしむかのように笑う春川に、アタシは思わず固まる。

……まさか、初めて施設で会った時もアタシデコピンされてたりする?

いや、妄想の話しで現実じゃないんだけど……ちょっと複雑な気持ちになる。

 

 

 

×××××

 

 

「……それ、ちゃんと食べなよ。東条が作ってくれたんだから」

 

「ひぐぅっ!」

 

朝食として出されたトマトサラダを隅に置いていると、春川にバレた。

東条の作る料理は美味い。

その辺のシェフが作るものより確実に。

 

だけどトマト…テメーは駄目だ。

 

「うぅっ……」

 

何が何でも食べたくない。

だけど、春川はそれを許さないとばかりにジッ…とアタシを見ている。

アタシに逃げ道はないのか!?

 

「はぁ…」

 

やがて諦めたように溜め息を吐いた春川が椅子から立ち上がって、アタシの横に立った。

待って、嫌な予感しかしないっ!

 

「ほら、食べさせてあげるから口を開けな。他の物と一緒に食べればマシでしょ」

 

「オレ様は幼稚園児と同じ扱いかよ!?」

 

普通に嫌だから!

みんなに見られてる!恥ずかしいからっ!

 

「つーか、そういうのはオレ様じゃなくて、百田にやればいいだろ!」

 

「………っ!」

 

言うべき言葉を間違えたのか、アタシは容赦なく春川にトマトを口の中に入れられた。

(なぜかみんなが微笑ましいものを見るような目で見ていた事に関しては、気にしない事にする)

 



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4日目①

ただのネタざんまい。
ゲームや漫画に夢中になりすぎた結果がコレなのか…(いつものこと)


「わーたーしーがー……きたっ!!!」

 

「……………………何やってんだよ、白銀」

 

驚きすぎて、アタシの返答に間ができたのは仕方がないと思う。

だって、部屋から出たら目の前でドヤ顔した白銀がいたんだ。

仁王立ちでドヤ顔してるんだよ?

目を疑うね。

 

これはあれだ、関わったら厄介な事になるパターンだ。

きっと多分。

 

「じゃ、オレ様急いでるから…」

 

片手を上げてその場を去ろうとすると、後ろからガッシリと肩を掴まれた。

誰に掴まれたのかなんて、振り返らなくても分かる。

 

「お願いだよぉ…。地味に無視しないでよ~」

 

「ひいいぃぃぃぃっ!!?」

 

怨霊みたいに背中に張り付くもんだから、アタシの口から悲鳴が上がる。

髪の毛の隙間からアタシを見上げるな!

地味に怖えーよ!!

 

「な、なんなんだよぉ…。オレ様に用があんのかよぉ…??」

 

「あっ、聞いてくれるの?」

 

ケロッといつもの白銀に戻ると、ビクビクしているアタシを見て「そんなに怖がられたら、地味に傷つくなぁ」なんて言うけど、誰のせいだと思ってるんだ。

 

「ほら、わたしと入間さんって地味にそんなに話した事ないからさ、少しでも仲良くなりたいなーって思って」

 

どこぞの決闘者みたいにデートチケットを「ドロー!からの…召喚!!」って言いながら見せつけてくる白銀に、アタシは無言を貫くしかなかった。

 

いや、確かに白銀とはあんまり進んで話そうとした事ないよ?

 

だってお前、首謀者じゃん。

ちょっとしたボロを見せたら即アウトだから、地味に避けてたんだよっ!

それが裏目に出たの?

だったら、アタシはどうするのが正しかったんだ?

 

「ほーら、入間さん怖くないよー。大丈夫だいじょうぶダイジョウブ…」

 

アタシが黙っているのを、未だに怖がっているせいだと思っているんだろう白銀が、漫画とかに出てくる悪役のような笑みを浮かべながらジリジリよってくる。

 

「わ、分かったから、ジリジリ寄ってくんな!」

 

 

アタシは白銀について考える事を放棄した。

 

 

 

×××××

 

 

白銀に連れて来られたのは、何の因果か図書室だった。

わざとか?わざとなのか!?

アタシはこんな所で『なん図書』したくないっ!

それをやるのは、天海だろっ!?

 

………落ち着け、落ち着くんだ。

アタシが変に荒ぶると、白銀の思うツボだ。

それに、たまたまっていう可能性もある。

いや、むしろそうだってアタシは思いたい。

ていうか、そうじゃないと泣く。

 

「うーん…やっぱり地味に埃っぽいね。あっ、そうだ入間さんはどんな本を読むの?小説から漫画や辞書といろいろあるけど…」

 

「えっ?あぁ……」

 

いけない…自分の思考に意識が行ってて、白銀の話しを全然聞いてなかった。

誤魔化すように視線をさ迷わせて、何か白銀の意識が向きそうなものがないか探す。

 

……漫画が一番効果あるかもね。

 

「そっ、そーだ!白銀、オメーこの漫画知ってるか?」

 

「ああぁ!もちろん、知ってるよ!それって、人気ゲームが原作のやつだよね!?ちょっと残酷な描写もあるけれど世界観とかキャラクターとかが魅力的で--」

 

本棚から適当に抜いた漫画について、白銀がすごく語ってくる。

おかしいな…アタシは知ってるかどうかを聞いただけだったんだけど。

漫画を確認してみると、アタシがアタシとして暮らしていた世界にもあったフリーホラーゲームの漫画だった。

おう、マジか……こっちの世界にも存在してるんだ。

 

「特に一番いいのは、死にたがりの主人公と殺人鬼が協力して出口を目指す内に絆が深まっていくのが--」

 

「お、おい…白銀?」

 

いつまで熱く語ってるんだよ。

そろそろ、色んな意味でここから離れたくなってくる。

嫌な予感しかしない。

 

「そうだっ!せっかくだし何人か誘ってコスプレしようよっ!!!」

 

ほらやっぱりこうなったっ!

こんな時だけ的中するな、アタシの勘!

 

「そ、そうか…集まるといいな。じゃあ、オレ様は特別製のカメラを発明してやるよ」

 

嫌な汗が頬を伝うを感じながら、アタシは遠回しに『コスプレやらないんで、他を当たってください』アピールをする。

 

「フフフ。何を言ってるの入間さん…」

 

だけど、白銀は怪しく笑いながらアタシの肩をガッシリと掴んだ。

 

「逃がさないよ……」

 

そう言った白銀の目は本気のガチなやつ、逃げようものなら呪い殺すと言わんばかりのもので……アタシは本日2度目でありながら、今までで1番の悲鳴を上げた。



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4日目②

別に遅くなった理由が、予約投稿したと思ってたのにしてなかったとか、某ヒーロー漫画にハマってそれの小説作ろうと考えていたとか、紅鮭で一緒に卒業するキャラで悩んでいたとかじゃないから。
嘘じゃないから、本当だから……(ガタガタ)


うーん…と唸りながら伸びをすると、肩から少しだけ骨が軋む音がした。

目の前の作業台には、乱雑に置かれた道具の数々と遊び心で作った発明品がある。

それらをいそいそと片付けながら、アタシは「ふぅ…」と一息ついた。

さっきの白銀とのデートは酷かった。

記憶から忘れたいぐらいには。

まぁ…そんな事があったから先程、危険予知ランプという発明品を作成したんだけれど。

今度からは部屋から出る前にコレを確認する事にする。

 

「よっと…」

 

ダンボール箱に入れた発明品を両手で抱えて研究教室を出て、寄宿舎へと向かう。

 

……運んでいる間も危険予知ランプの電源は入れている為、起動する事があればすぐに隠れてやるけどな。

 

「凄い荷物ですね…」

 

発明品が起動する事もなく寄宿舎までたどり着くと、寄宿舎の前にいたキーボが中身を覗き込んできた。

わざわざ「良ければ、運ぶのを手伝いますよ」と言ってくれたけれど…キーボってそんなに力なかったよな?

持たせた瞬間に、ガッシャーンとかならない??

 

「もうすぐそこなんだし、別にいいって。落とされて怪我されたら困るしな!」

 

「ロボットのボクを心配してくれるのは、入間さんだけです…」

 

しみじみと言ってるキーボだけど、ごめん…アタシの今言った言葉の大半は発明品の心配が含まれてる。

いや、キーボに何かあっても困るけど。

 

「あの…それを運び終えたらでいいので、ボクの相談に乗ってくれませんか?」

 

相談なんて言われて、何の悩みだろうかと考える。

まぁ、キーボがアタシにする相談なんて機能の事ぐらいしか思いつかない。

それ以外だったら、他の人にするだろうし。

 

「あぁ、オレ様に任せろ!テメーの悩みぐらいすぐに解決してやるぜ!!」

 

改造・メンテナンスに心を踊らせてそう答えたけれど、数分後にアタシはそれを思い違いだったと知る事になる……。

 

 

 

×××××

 

 

 

せっかくだからデートチケットの消費も兼ねて、キーボの相談に乗るために中庭のベンチに腰掛けた。

中庭を選んだ理由なんて、研究教室が近いからだ。

 

「で、悩みって?」

 

「あの、実は……」

 

ドキドキしながらキーボが話すのを待つが、そう言ったきり何故か口ごもる。

言いにくい事…まさか、とうとうロケットパンチできるようになりたいのか!?

 

「キーボ、恥ずかしがる必要はねーんだ。オレ様に任せろ!」

 

早く言えとアタシが急かすと、キーボはショートしてしまったのかと錯覚してしまう程に顔を赤くした。

 

「あの、恋とはどういったものなんですか!?」

 

「は?」

 

こい…恋……鯉??

 

「あー、あれか!池とかでよく見る魚か」

 

「いえ、それじゃなくて…恋愛する際になるものの方で……」

 

湯気を出しながら訂正してきたキーボに「あぁ、そっちかよ」なんて言いながら、アタシは視線を落ち着きなくさ迷わせた。

恋とは何か…という相談だったか。

まぁ、確かに紅鮭時空は恋愛的に結ばれた2人が卒業だもんな。

キーボなりに、卒業しようと努力してるんだよな。

そこまでは良い……だけど、相談する相手を間違えたとしか思えねーよ!

そこはほら……赤松とか最原にするべきだ。

赤松なら喜んで答えてくれる気がする。

 

「あー…えーっと……うーん…」

 

なんと答えるべきか分からず、言葉にならない声を出すアタシを見て「入間さんでも、分からない事なんですね…」と落ち込んだように呟いた。

 

「はぁ!?この天才であるオレ様に分からない事なんてあるわけねーだろ!ただ、なんて答えてやるか言葉を選んでいるだけで…」

 

あんな大口叩いて相談に乗ってやるって言ったんだし、なんとかして答えないとアタシの気が済まない。

まぁ…テンプレとも言える言葉で教えてあげるしか方法なんて思いつかないけど。

 

「恋ってのはなー…ほら、あれだ!恋してる人と一緒にいるとドキドキしたり、幸せって感じてだな…もっと一緒にいたいって思ったり、そいつの事を考えるだけで時間がすぎてたりして……」

 

あとそれからなんだっけ…と思いながらキーボの様子を伺うと、頷きながら何やら深く考え込んでいるようだった。

 

「あっ、それとだな…そいつが他の誰かと一緒にいるのを見ると辛くなって、自分だけを見て欲しいという欲が出て、振り向きもしてくれなかったら『私を見てくれない君なんて…っ!』とか言って相手を殺す事で自分の物にしようなんて狂行きなってだな……」

 

「そんな恐ろしい事を、ボク達はモノクマにやれと言われているんですか!?」

 

怯えたように狼狽えるキーボを見て、アタシは首を傾げた。

キーボのこの反応…アタシが知っている反応となんか違う……。

最後のはキーボに言わない方が良かったか?

いや、でも恋について知りたいのなら、そういうのも知るべきだろうし…いや、でも伏せるべきだった??

 

「ま…まぁ、他にも何人かに聞いてみろよ。オレ様がいつも正しいとは限らねーからなっ!」

 

「今の話しを聞いた後って事もあって、あまり気は進みませんが…そうします」

 

絶対にそうしてこい。

正しい恋について教えてくれるはずだから。



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4日目・夜

書いてる最中、ずっと『は!か!た!の!塩!!』というフレーズが頭から離れなかった


もう今ではお馴染みとなってしまった愛の鍵を握りしめて、目の前の扉をゆっくりと開ける。

最初はゲームでのネタが見たかったからという理由だったけれど、アタシと最原ではやっぱりみんな妄想というか対応が違うのだと気づくとほぼ毎日使っている。

 

……次の日の朝には、半分ぐらい内容忘れてるけど。

 

「今日はだれ、だ………?」

 

少しだけ開けた隙間から部屋の中を覗き込むと、アタシの身体は金縛りにでもあったかのようにピシリと固まった。

 

「おや、来たんだネ」

 

そんなアタシに気づいた本日の相手、塩……じゃなくて、真宮寺が『おいで』とばかりに手招きする。

いやいやいや……天海に負けない程のシスコン&ネタを持ちながらヤバイ奴が相手とか……。

 

「実家に帰らせていただきます」

 

「いきなり何を言っているのかナ?それに、フィールドワークの話しを聞きたいと言い出したのは、入間さんだよネ?」

 

それはお前の妄想の中のアタシであって、アタシではない!

それに、嫌な予感しかしないっ!!

何かおかしなことが起きたら逃げようと心に決めて、アタシはワザとらしく咳払いをした。

 

「で…そのフィールドワークの話しって、面白いのか?オレ様を満足させてくれるんだろうな??」

 

「ククク…今日はとびっきり、入間さんが好きそうな話しをしてあげるヨ」

 

アタシが好きそうな話しと聞いて、ピクリと反応する。

おぉ…どんな話しなんだろう。

 

「どの文献を探しても名前が見つからない事から『名も無き集落』って呼ばれていたある集落で、鬼子と呼ばれる子供が産まれたんダ」

 

……おっ?なんかいつもの民俗学講座じゃなくて御伽噺みたいなのが始まったぞ??

 

「曰わく、ある日を境に歳を取らなくなったとか、どんな方法でも死なないとか、色々言い伝えがあってネ…。まぁ、それを気味悪がった集落の人達に鬼子は舌を抜かれて話せなくなった上に、人が立ち入らない山奥に作った地下室に閉じ込められたんダ。そして今も尚、その山奥には鬼子が生きて住んでいて、人がその山に足を踏み入れると長年の怨みから殺されると言われているその山に、この前行ったんダ」

 

「………う、うん?」

 

えっ、何それ。

民俗学というより、完璧にオカルトなんじゃないの?

何その心霊写真撮るために心霊スポットに行ってきましたみたいなノリは…。

 

「ケッ、テメーが生きてるって事は、その伝承はガセって事かよ」

 

「そうとも限らないヨ。伝承があるという事は、必ず何か元となる事が起きたという事だからネ…。実際に気味悪がられて舌を抜き取られた子供の話しはよくあるし、昔は鬼がいたとされるからネ。村人が鬼に襲われるというのは、よくある事だヨ。それに、確かに僕はその山で鬼子らしき人物と出会えたヨ」

 

えーっと……あー、うん。

一気に喋るからよく分からなかったけど、なんとなくは分かった。

前半はチンプンカンプンだったけど、後半はよく分かった。

だから、アタシはあえてこう言おう…

 

「会ったのに、テメー生きてんのかよ!?」

 

「危ない所だったけれど、なんとか助かりヨ…。実はね、鬼子が暴れた時の捕縛手段のやり方も伝承には書かれていてネ…」

 

……なんだろう。

真宮寺が怪しく笑うもんだから、嫌な予感がしてきた。

そろそろ逃げるべきか??

 

「見ておくんだヨ。こういう普通の縄を使うんだけれど…」

 

「待て!タンマ!ストップ!!その場で動かずステイ!テメーその縄、今どっから出した!?」

 

手品みたいに気づいたら持ってたぞ!?

まさか、アタシがここに来た時には隠し持っていたとかいうパターンか!?

 

「あぁ…怖がる事はないヨ。ただ縛り方をレクチャーするだけだかラ……」

 

「あーっと、そうだ!オレ様この後用事があるんだった!」

 

これ以上は駄目だ。

そう感じ取ったアタシは予定通りに部屋から出て行こうとドアに駆け寄った。

 

「まだ終わっていないヨ」

 

ククク…と笑う声が聞こえたと思えば、アタシの身体に何かが巻きついた。

何かっていうか、縄だったけど……。

 

「な、なんで一瞬で縛れるんだよぉ…」

 

「こうやって、僕は殺そうとしてくる鬼子を縛り上げて無事だったんだよ」

 

くっそ、こいつ人を縄で縛っておいて普通に話してやがる…っ!

どんな神経してんだよ。

 

「あぁ、そうだ。変に動いて縄を解こうとしない方がいいヨ…。余計締め付けるカラ」

 

それをもっと早く言え。

 

 

×××××

 

 

身体の節々が痛い。

これが愛の鍵を使ったせいなのか、アタシが変な寝方をしていたせいなのかは、考えない方がアタシの為だろう。

食堂に行くと既に何人か来ていて、東条が作った朝食を食べている。

アタシも東条から朝食を貰うと空いている席に座って黙々と食べながら、今日は何をしようかと思考する。

 

「入間さん、悪いんだけど塩を取ってもらえるかナ?ゆで卵に少しかけたいんダ」

 

同じように朝食を食べていた真宮寺に声をかけられ、アタシのすぐ側に塩の入った瓶が置かれていた事に気づいた。

それと同時に、アタシの中で真宮寺=塩という方程式が組み込まれ、瓶を手に取ると「オレ様がかけてやるよ」と言って、真宮寺の皿に載っていた卵に塩をかけた。

……というか、盛り塩にしてやった。

 

「……これはどういうつもりかナ」

 

「えっと………ゆで卵の盛り塩」

 

遊び心でやったのがいけなかったのか真宮寺がアタシに何か言う前に、いつの間にか後ろに立っていた東条に怒られるハメになった。



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5日目①

(僕の)頭のネジがおかしくなった結果がコレだったりする。
今後はこういう暴走は(できるだけ)抑えるんで……今回は多目に見て欲しいなぁ…なんて思ってます。
いや本当、なんでこうなった?


紅鮭時空も、早い事で今日で5日目だ。

『もう』5日目と考えるべきか、『まだ』5日目と考えるべきなのかとアタシなりに思考した結果前者だろうなと思う。

 

例えば朝食会では本人が聞いていないのを良いことに、『最原が誰と卒業するのか』で賭け事が起きる程度には、みんな隙あらば最原を狙っている。

…女子だけじゃなく、男子からもモテモテじゃねーか主人公。

なんて内心で笑ってるけど、これってある意味ではピンチだ。

 

みんな最原狙い=その中の一名をアタシに振り向かせないと留年確定。

仮にアタシが最原と卒業しようと考えれば、みんなに背後から刺される未来しか浮かばない。

 

…こんなのどうしろと??

 

「いや、でも…誰でもいいから1人は確実に仲良くならないとここから出られないんだし。ああぁっ!!でも、自信ねーよ!」

 

思わず頭を抱えながらベッドにダイブする。

くそぅ…今だけ最原が人気者になっているのが憎い。

 

「うぅ……今日はどうしよう」

 

正直、誰かを誘えるような気力がない。

 

「誰でもいいから来いよー…。オレ様(ぼっちで)寂しいよー」

 

兎は寂しいと死ぬんだぞー、なんて内心で愚痴りながら丸くなる。

……まぁ、自分から動けば即解決なんだけどな。

そんな時に、『ピンポーン』と呼び出し音が部屋に響いた。

 

「……あん?」

 

まさか、本当に誰か来た!?なんて思いながらベッドから飛び起きると、部屋の扉を開ける。

 

「あっ、良かった!居なかったら、どうしようかと思ってたんだ」

 

「赤松…」

 

朝食の時に、みんなが最原を狙っているのを聞いておいてアタシの所に赤松が来たという事は……そうか、これが嫁の余裕か。

羨ましいなんて、これっぽっちも思っていないからな。

 

………ちくしょう。

 

 

 

×××××

 

 

赤松に引っ張られるような形で食堂に来たけれど、さっきからここから出たら何をしたいだとか、どこに行きたいとかで、向かい合って座っている赤松の話題が途切れる事はない。

アタシといえば、相槌を打ちながらお茶を飲んでばかりだ。

これがアタシと赤松のコミュ力の差か…。

 

「それでね、演奏会にはみんなを招待したいと思ってるんだ!忙しいと思うから中々集まる機会はないと思うけれどね、来てくれたみんなのイメージにぴったりな曲を弾いて聞かせたいんだ」

 

「まっ、悪くはねぇな」

 

「でしょ?あっ、あとね!思い出話とかしたり、ショッピングでお揃いの物とか買ってみたいな!」

 

……とまぁ、こんな感じで出るわ出るわ話題の数々。

止まることを知らないんだろうか?

 

「それでさ、それを叶える為にはみんな揃って卒業したいじゃん?だから、私良いことを思いついたんだ!!」

 

両手をパンッ!と叩きながら、赤松がテーブルの上に身を乗り出してきた。

そんなに名案なのかは分からないけれど、その良いことが本当に良い提案だとしたら、アタシにも協力させて欲しいと思う。

だって卒業してここから出たいし。

 

「ほら、モノクマも言ってたじゃん?『恋愛的に結ばれた2人がここから卒業できる』って」

 

「あぁ、初日に確かにそう言ってたな」

 

「でもさ、『1人1組』とは言ってないよね?」

 

「お……おう?」

 

えっ、いや、確かにそうだけどさ…それかなりハードモードというか……(ゲームで)何回か周回してやっとできるやつじゃん?

まさか赤松、アタシと今こうして話しているのは嫁の余裕とかじゃなくて、『みんなで最原を中心に卒業しよう』とか言い出すのか!?

嘘だろう!?

 

 

「だからさ……私が女子のみんなとそういう関係になって、最原君に男子みんなを任せれば卒業できるんじゃないかな?」

 

 

「………………………は?」

 

 

違った、斜め上の展開だった。

テーブルに身を乗り出したままの赤松が、笑顔を浮かべながらアタシの頬に片手を伸ばす。

 

「そうしたらさ、みんなここから出られるし、一緒にいる機会も多いと思うんだ。ねぇ…どうかな?」

 

「ど……どうって言われてもぉ…」

 

何これ、何コレ、ナニコレ!?

こんなフラグが立つ気配、微塵も感じなかったぞ!?

2次創作でよくある赤松攻め百合展開!?

一体全体、アタシが知らない時に何があった!?

 

冷たい汗は流れるし、身体は震え、心臓はバクバクと五月蝿い。

本当、なんでこうなった?

いやいや……待て、考えろ。

普通の赤松ならば……こんな考えにはならないはず。

誰の入れ知恵だ?

モノクマか?それとも白銀か??それとも、王馬に変な事を吹き込まれた?

 

「入間さんも…賛同してくれるよね?」

 

「ひ…ひぐぅ……お、オレ様は…」

 

てか、『も』って何!?

既に赤松の手に落ちている人いるの!?

誰だよ!?そんな気配微塵もなく、みんな最原狙ってたんじゃないの?

まさか嘘なのか!?演技なの!?

もう、本当に誰!?怖いって!!

 

「う……うわーーーーーん!!!」

 

頭の中がぐるぐると落ち着かなくなって、どうしたらいいのか分からなくなった。

気づいたらアタシは小さな子供のように叫びながら、逃げるように走った。

 



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5日目②

今年最後の投稿ー!
…12月って、なんでこんなに忙しいの?
もう現実逃避として仕事の後に、先月の終わり頃に始めたFGOをやっては「どうして上司が賢王じゃないんだろう?」って呟くのが癖になってきました。
いや本当、上司達は賢王を見習うべきだよマジで


走る。

どこに向かってなんて決めていないけれど、走らずにはいられない。

 

ドクドクと高鳴る鼓動は走っているせいだ。

頬に流れる汗は走っているせいだ。

そう、走っているせいだ。

全部そうに決まっている……そうでなくちゃいけない。

 

「誰だよ!?あんな変な事を(赤松に)吹き込んだやつはー!!!」

 

中庭にアタシの叫びが響く。

まぁ、誰もいないから答えてくれる人なんていなかったけれど。

…いても困る気もするけど。

 

「ふぅ……よしっ、忘れよう。何もなかった事にして造った発明品の効果を実際に使って確かめよう。そうしよう」

 

いつまでも引きずる訳にもいかないし、忘れよう。

明日に答えを求められても「何かあったか?」と惚けよう。

いや、いっそのこと一部だけ記憶を失う発明品を造って、あの謎の提案そのものを赤松の記憶から消すべきか…。

あっ、それいいじゃん。さすがアタシ天才か。

 

「となれば、さっそくやってやるか!腕が鳴るぜー!」

 

握り拳を胸の前で作り、ピョンピョンと跳ねるようなスキップで研究教室に向かった。

 

すれ違った最原と王馬が凄く不思議そうな顔をしていたけれど、まぁアタシは関係ないだろうから無視しておいた。

 

 

×××××

 

 

「ひゃーっ、ひゃっひゃっひゃっ!さっすがオレ様!!思い通りにいきすぎて恐ろしくすらなるな!!」

 

まだ完成にはいかないけれど、半分ほどできてきた発明品に満足げになりながら目を覆っていたゴーグルをポイッと放り投げて思わず高笑いを上げていると、落下したゴーグルの落ちた先から「痛っ!?」って声が聞こえてきた為、アタシの高笑いはピタリと止まった。

 

「ひいぃぃ!?なんなのぉ…誰かいんのかよぉ」

 

まさかお化け!?と内心でビクビクしながら、攻撃性のある発明品(名称、レオナルドパーンチ)を構えながら声のあった方にゆっくり近づく。

ゴーグルが落ちた場所の近くには、人をダメにする椅子がある。

幽霊じゃなかったら、そこの影に隠れている確立が高い。

ていうか、リアルで幽霊とか見たくないから知っている人間であってほしい。

そろーっと発明品を構えながら確認してみると、そこには頭を抱えながらしゃがみ込んで苦痛の表情を浮かべた最原と、その最原の口を手で塞いでいる王馬の姿があった。

 

……なんでアタシの研究教室にいるんだよ。

いつ入ってきたんだ?いや、それよりも………

 

「…あー、うん、オレ様は何も見てないから。どうぞごゆっくり」

 

「ちょっと待ってよ。それは誤解だって気づいてるんでしょ!?」

 

「入間ちゃん、分かってて言ってるよね?」

 

ちょっとふざけただけで、2人からダメ出しされた。

くそぅ…アタシの嘘は下手って事かよ。

 

 

 

 

で、だ……肝心のなんで最原と王馬がここにいるのかだけど、結論から言うとアタシの様子がおかしかったから少し気になったとの事だった。

最原曰わく『王馬君と話していたら、食堂から涙目で全力疾走してる入間さんの姿が見えたからどうしたんだろうと思ったら、大声でよく分からない事を叫びだすし…。その後、急にご機嫌になるから王馬君が「これって、絶対何かあるよねー」って面白がってそれに付き合わされたんだよ』だった。

 

うわー…もう最初から見られてる。

王馬に見つかった時点でアウトだった。

それに付き合わされた最原は…ゴーグルが頭に落下してきた事も含めて災難だったな。

しかし…だ。

 

「それで…何があったの?僕で力になることがあれば手助けしたいんだけれど…話してくれないかな?」

 

「オレとしては、さっき造ってたやつも気になるなー」

 

この2人からはどうやって逃れようか。

馬鹿正直に食堂での赤松の事を話せば最原なんて失神しそうだし、王馬なんて大爆笑しそうだ。

かといって、作り話だとどこかでボロを出す。

 

 

「……わ、笑わないで聞いてくれる?」

 

「うん」

 

「まっ、話しの内容によるよねー」

 

……よし、それっぽく、オブラートに言おう。

でないと笑いそうな奴が1人いる。

 

「さっきまで、赤松と食堂で話してたんだけど…」

 

慎重に言葉を選びながら、もごもごと切り出す。

これは嘘じゃない。

話していたのは本当だ。ただ、デートチケットを使ったデートとは言っていないけれど。

 

「それで…な、赤松のやつと此処を一緒に卒業するのは誰にする?って話しになって……」

 

さぁ……問題はここからだ。

アレをどう言い換えるべきだ?

 

「えーっと…………………………赤松は一緒に卒業したいやつがいるみたいだけど、オレ様はいないから焦って取り乱して発明品造りという現実逃避を…だな、その………うん」

 

話している内に自分が情けなくなって、思わず顔に熱が集まる。

途中から思わず目線を逸らして話していたけれど、上手く誤魔化せたか不安になり、そっと反応を伺うと最原も王馬も目を丸くしてアタシを見ていた。

 

「えっ……入間さん、一緒に卒業したいって人いないの?」

 

信じられないみたいな顔をしてアタシを見る最原の視線がグサグサと刺さる。

そうだよー、だって決めてねーもん。

 

「最原ちゃん…これ、事件だよ。大事件になるよ」

 

分かってるよ…残り日数が半分なのに、卒業したい人間すら決められてないやつなんてアタシだけなんだろうし。

てか、大事件なんて大袈裟……いや、妥当なのか?

 

「……話してくれてありがとう。後は僕たちに任せて」

 

「…は?」

 

「いやー、やっぱり面白い事になったねー」

 

「……は?」

 

もう用はないとばかりに早足で去って行った2人を見て、アタシは「なんだありゃ?」と首を傾げる事しかできなかった。

うん。本当に意味が分からないんだけど。



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6日目①

あけましておめでとうございまーす!

今年も憑依入間ちゃんをよろしくお願いします。
(ついで扱いでいいので、僕の方もよろしくお願いします)
それでは今年お初の話しをどーぞ!


昨日は気づいた時にはお外真っ暗。

午後をずっと研究教室で過ごして発明品造りに精を出していた。

貴重な親密度高める時間を、昨日のアタシは見事に自ら消してしまっていた。

 

ということで、サヨナラお月様おはよう6日目の朝日。

アタシの睡眠時間は0時間なので、おはようは間違いかもしれないけれど、挨拶って大事だから。

 

「……腹減ったなぁ」

 

意識した途端切なく音を鳴らしたお腹に手を宛てながら、フラフラとした足取りで食堂に向かった。

 

 

 

 

みんなへの挨拶を手短に済ませ、アタシは東条から手渡された本日の朝ご飯を受けると「どこに座るかな…」と空いている席を探す。

だけど、その間に食堂にいる人達の目線がずっとこちらを見ていたのに気づくと、その場で後ずさった。

 

「あの…入間さん。昨日は何をしていたんですか?ずっと研究教室にいたみたいですが…」

 

ご飯を食べる必要がなくても律儀に食堂に顔を出すキーボが、昨日アタシが研究教室に籠もって何をしていたのかと問いかけてくる。

それに同意するように、周りが頷いてきたので「発明品造ってたけど…」と答えながら空いていた端っこの席に座った。

 

えっ、何これ怖っ。

昨日の夕飯に食堂に行かなかっただけでこんなに見られるの?

おかしくない??

 

「ほ、ほら!やっぱり王馬さんの嘘たったんですよ!これだから男死はっ!!最原さんと入間さんが夜逃げしたなんて!」

 

「………………………………………………はぁっ!!??」

 

茶柱の口から告げられたとんでもない単語に、思わず大声をあげた。

えっ?誰と誰が夜逃げしたって?

してねーよ!?

 

「えー?でもやろうとしてたのは本当だよ?」

 

そしてサラリと追加される嘘。

お前ちょっと一度黙ろうか!?

 

「おはよー…あれ?みんなどうしたの?」

 

まだ眠たいのか、欠伸をかみ殺しながら食堂に入ってきた最原だったが、食堂の雰囲気がいつもと違う事に気づいたのか首を傾げていた。

 

「気にする事ねーぞ、終一!」

 

「え?うん…」

 

聞いてしまったアタシは気にするけどな。

 

 

×××××

 

 

朝食会を終え、特に目的地もなくブラブラする。

もう6日目という事もあってか、一緒に時間を過ごす人を既に決めて話し込むという早業をしている人がいるけれど、羨ましいなんて思っていない。

すれ違うたんびに恨めしそうに見てはいない。

……そんな事してない。

 

「カジノ行こうかな……」

 

ギャンブルでもして落ち着こう。

……本当はこんなストレス発散は駄目なんだけどさ。

カジノのコイン何枚残ってたっけ。

ゴソゴソとポケットを探って出てきたカジノコインは5枚。

全然ないじゃん…。

 

「…アンタ、またあそこ行くつもり?」

 

近くを通りかかった春川が、呆れたようにそう言ってため息を吐いた。

 

「文句あんのかよぉ…」

 

「別に……ただ…」

 

おずおずと差し出されたデートチケットに、思わずアタシは飛びついた。

 

 

 

 

「夜のトレーニングの時に聞いたんだけど、まだ相手すら決めてないんだって?どうするの?あと4日しかないけど」

 

中庭のベンチに座るなり、早速痛い所をつかれた。

最原め…昨日の研究教室での事、チクリやがったな?

トレーニングの時って事は、百田も知ってるな?

 

「だって、みんな最原にゾッコンだし…。それに比べてオレ様なんて……」

 

一部に好かれている程度だしなぁ…。

でも、早く決めないと記憶を一部消す発明品作ったとはいえ、赤松と卒業…なんて事になりそうだし。

 

「私は、アンタさえ良ければ……」

 

アタシを見向きもせずに、何か言い出した春川は多分…百田と卒業するんだろうなぁ。

 

「オレ様なんて誘って良かったのかよ?百田を誘った方が………いひゃい」

 

百田の名前を出した途端、なぜか頬を引っ張られた。

解せぬ。

 

「勝手に決めつけないで…」

 

「ひょうはいれふ…」

 

目が暗殺者の目になってるー…。

照れ隠しもここまで来たら、微笑ましい通り越して怖いだけ。

 



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6日目②

宛もなく、フラフラ歩く。

次は何をしようか…誰と過ごそうか……。

 

「…オレ様も、本腰あげねーとな」

 

さっき春川と過ごしていて分かった事がある。

みんな、誰かしら一緒に卒業したいと思う人がいて……それが叶わなかった時の事も考えて、何人か候補がいる。

 

それに比べてアタシは他力本願。

誰かがアタシに手を差し伸べるのを待っていて、自分から手を差し伸べようとはしない。

手を差し伸べる相手すら、まだ決めていない。

 

……決めなくちゃいけない。

 

「そうと決まれば、やっぱ……」

 

「神様に相談すれば、解決だよー」

 

「ひゃあぁぁぁ!!?」

 

背後から突然ぬっと出てきたアンジーに驚いて、変な悲鳴をあげた。

気配もなく現れたけど、いつからいたんだよ!?

 

「お、驚かすんじゃねーよ!!」

 

「ほーれ、アンジーに話してみなよー。神様も今ならご機嫌だから聞いてくれるよー?」

 

アタシの言った事は無視か。

それと、じりじり寄ってくるの止めて。

腕を広げて抱擁しようとするの止めて。

 

「別に、テメーの神様とかに頼る必要なんてねーよ。オレ様の中で自己完結したっつーの!」

 

「本当かなー?神様は何でも知ってるんだよー??」

 

ビシッと指差してくるアンジーの剣幕に、無意識に後ずさる。

いやいやいや…本当になんでもないんだけど。

思い当たる事なんて……ない、はず。

うん、ない。絶対ない。

 

「心配いらねーっての!そういうアンジーはどうなんだよ…」

 

「アンジーには神様がついてるから、すぐに解決するから問題ないよー」

 

「そーかよ」

 

ていうか、その神様=アンジーの考えじゃないの?

まじの神様とか…そんなわけないよね。

いくらなんでも、それだけはないな…うん。

 

「ねーねー!美兎にだけお得な事教えてあげるー」

 

「お……お得な事??」

 

いきなり何の話しだと思わず身構える。

アンジーのお得と、アタシのお得は別物な気がする。

 

「アンジーを選ぶと、もれなく神様がついてくるよー。今ならポイント10倍で超お得ー」

 

「……………うん?」

 

つまり、どういう事?

今日のこのあとの時間を、全部アンジーにつぎ込めって事??

それとも別の意味で?

………自分で考えておいてなんだけど、別の意味の場合が分からん。

 

「まぁ…オレ様も暇してるし、話し相手にならなってやるよ」

 

「うーん…神様も美兎の考えを読むのは難しいみたいだし、アンジーは今はそれでいいよー」

 

にゃははーと笑うアンジーに「今はってなんだよ…」と聞いてみたけれど、それに対しての返答は返ってこない。

代わりに「そーそー、あのねー」と話しが変わった。

自由人か。

 

「神様の作った作品を見ると、なーんでかみんなバッターン!ってなるんだー。神様が見る人を選んじゃうからだと思うけれどー、どうしたらいいー?」

 

「分かるわけねーだろ!?」

 

「そっかそっかー。美兎でも分からないかー。でも、大丈夫だよー?神様がきっと理解できるようにしてくれるから」

 

その神様が、アタシは理解できないんだけど。

 

 

 

×××××

 

 

 

「でねー、その時に楓がー……」

 

「うんうん…」

 

気づいたら、アンジーの話し相手をすること2時間。

……おかしい、こんなお喋りだったか?

いや、最初の1時間と30分は殆ど神様の話しだったけど。

暫くは宗教関係なの聞きたくないぐらい聞かされた。

それに神様の話し終わって満足かと思いきや、今度は他のみんなの話しに変わってた。

中には笑える話しもあって、百田と最原が図書室でエロ本読んでて茶柱の合気道の餌食になったとか、白銀がゴン太に紳士的なキャラについて熱く語っていたとか、夢野のマジック(夢野曰わく魔法)を見せてもらったとか、天海と真宮寺が姉や妹について語って……これはいつもの事だな。

 

「神様も吃驚するような事を言ってたんだー」

 

「勿体ぶるなよぉ…」

 

今は赤松のピアノの演奏を聞いた時の話しになっていて、アンジーの言う神様でも驚いた事があったらしい。

最初はピアノの演奏ということから、なんか凄い曲でも弾いたのかと思っていたけど…どうやら赤松の言った事に驚いたようで。

 

「んーっとねー、楓を中心とした女子みんなで卒業しよーって提案されてねー。アンジーも神様も一瞬だけポカーンとしちゃったんだー」

 

「…………あれか」

 

昨日の事が脳内に蘇る。

そっかー……やっぱり女子全員に言って回ってたのかー。

 

「それでねー、神様が面白そうって言ってたから『いいよー』ってアンジーは返事したんだー」

 

「テメーかよ!?」

 

赤松の百合ハーレム(仮)に、アンジーがまさかの承諾していた事にアタシは開いた口が塞がらなかった。

しかも、理由が面白そうだから。

それでいいのか、神様。ちゃんと仕事しろ。

 

「でもねー、神様が終一にしなさいって言ったらアンジーは終一を選ぶし、美兎にしなさいって言ったら美兎を選ぶよー?神様の言う事は絶対だからねー」

 

「自由な神様だな…」

 

「アンジーの神様だからねー!」

 

それ、理由になんの?

アンジーの神様、もうちょっと真面目になろう??



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6日目・夜

いろいろあって投稿遅れましたが、まぁ……サボリ常習犯の癖が出てたという事で


もう何度目になるかは忘れたけれど、鍵を片手にアタシは夢と妄想で溢れる部屋を訪れた。

朝起きた時には殆どの内容を忘れていたりするけれど、それでもやっぱり全員分は体験したいという気持ちがあるわけで……己の欲望には勝てない。

 

「今日は誰だ…?」

 

ゆっくり開けた扉の隙間から、部屋の中を覗いて中にいる人物を確認しようとしたけれど、角度が悪いのかアタシの視界には誰もいない。

仕方ないから一気に扉を開けて部屋全体を見渡したけれど、誰もいない。

えっ、なんで?

 

「わっ!」

 

「ひいっ!?」

 

誰もいないと思ってたのにいたわ。

天井から縄を使って器用に宙ブラリンしてて、突然目の前に王馬が登場してきた。

 

………お前、何やってんの。

一瞬、お化けかと思った。

 

「もー、遅いよ入間ちゃん。オレ暇だったから1人遊びしてて部下達に『総統…友達いないんですか?』とか言われたんだよ?」

 

「はい、ダウトー」

 

そのまま放置してやろうかと思いながら、アタシはズンズンと部屋の中に入る。

これ、どういう設定なんだろ?

王馬の考えなんて、アタシには分からないぞ。

そう考えている間にも、王馬は縄を解いて見事に着地していた。

テメーは、猫か。

 

「にしし。ようこそオレの率いる組織のアジトへ!知ったからには生きて帰さないから覚悟してよねー」

 

「本当にここがアジトっつーなら、お前センスねーな…。オレ様なら、こんな総統は即クーリングオフだな」

 

ド派手な部屋の内装を眺めながら、ここがアジトっていう設定なのか…と思わず頭を抱えた。

まだ研究教室の方が雰囲気あるぞ。

 

「たっはー…いきなり痛い所つかれちゃったか。うん、オレもこの部屋のセンス最悪だなーって思ってるけど、これはこれで面白そうだからいいかなって」

 

面白そうって言ってるわりには、王馬は無表情の真顔だ。

これ、絶対面白そうとか思ってないやつだろ。

 

「まぁ、この部屋の事は置いといてさ…入間ちゃんの答えを聞かせてよ」

 

「はっ?オレ様の答え??」

 

何の事だとアタシが困惑していると、王馬は「えっ……まさか忘れちゃったの?」とアタシ事を哀れみの目で見ていた。

そんな目で見るんじゃない。

 

「仕方ないなー。大事な話しを忘れちゃった残念な記憶力を持っている誰かさんにも分かるように説明してあげるよ!」

 

「…残念な記憶力で悪かったな」

 

むしろ、このラブアパで繰り広げられる設定を知っていろってのが無理だから。

アタシ悪くない。

 

「入間ちゃんにとって、幸せなのはどっちだと思う?」

 

「あ?」

 

「その才能を生かして、オレの組織に入って好きなように発明品を作れる代わりに、たまにオレの依頼も受ける発明家になるか、それとも自分の利益の為に一方的に命令してくるだけのやつらの手足となって、好きな発明品が作れない発明家になるか……だよ」

 

「………………………」

 

 

なぁにそれぇ。

 

 

進路の就職先決めるみたいになってるじゃねーか。

なんでだよ。

 

「因みに、オレの組織に入れば衣住食は確保できるし娯楽もあるし、何より24時間365日オレと一緒にいられるオマケつきだよ」

 

ごめん、最後のオマケは個人的に困るかな。

振り回される未来しか見えない。

 

「ケッ、んなもん決まってんだろ」

 

とにかく、その2つから選べというのならば……

 

 

「オレ様はひとまず隠居して、やりたい事やるに決まってんだろ」

 

どれでもない別の道を作って、やりたいようにやる。

ゴーイングマイウェイってやつだ。

 

「ふーん……それでいいんだ。ところでさ、入間ちゃん。ここがどこなのか忘れてない?」

 

「ここがどこかって、そりゃあ……」

 

ラブアパートだろって言いかけて、止める。

そうだ、最初……王馬はこの場所を何て言っていた?

ニコニコというより、ニヤニヤと笑っている王馬を見て思わず「あー…」と呻いた。

そうだ、一応ここ王馬のアジトっていう設定だった。

 

「じゃ、オレ様は帰るから」

 

「本気で逃げられると思ってる?」

 

逃走条件はこの部屋を出るだけ、本当のアジトならムリゲーだけどこの程度の逃走中ならアタシでもいけるはずだ。

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

ベッドから飛び起きて、手元に置いてあったペットボトルを手に取る。

ゴクゴクと水が喉を通るたびに、少しずつ渇きがなくなっていく。

 

「ふー…」

 

それなりに喉が潤った所で一息ついて、目を閉じたまま再びベッドにダイブする。

なぜか、ベッドの方から「うっ…」ってくぐもった声が聞こえてきたけれど。

 

「…………」

 

これはベッドから離れた方がいいかもしれない。

いや、それよりもまずは正体を確認するべきか。

………なんにせよ、逃げたい。

 

目を開けて、やけに膨らんでいるベッドの布団を捲る。

なんとなく予想してたけれど、王馬の姿があった。

 

「なにしてんだよ…」

 

「あっ、バレた?寝起きドッキリするつもりだったんだけど」

 

悪びれもせずに笑っている王馬に再び布団をかけて、そのまま担ぐとアタシは部屋を出る。

バタバタと抵抗しようとする王馬は布団が邪魔なのか、上手く抜け出せないようだ。

ザマアミロ。ピッキングで人の部屋に入った報いだ。

階段を上り、目的の部屋の前に来るとピンポーンとインターホンを鳴らす。

運良く部屋の主はいたようで、すぐに部屋の扉は開かれた。

 

「あら、朝早くから珍しいわね。どうかしたの?」

 

「悪ぃ東条。これ頼んだ」

 

そう言って、アタシは布団と王馬を東条に差し出す。

それだけで東条は察したのか、王馬を逃がさないように掴みながら「朝食のリクエストはあるかしら?」と王馬については何も聞かずに朝食のリクエストを聞いてきた。

 

「んー…じゃあ、軽い軽食がてら卵サンドで」

 

「分かったわ。それと、まだ食堂が開くまで時間はあるから、彼の事は任せて頂戴」

 

ようするに、朝食を作るにはまだ時間が早いから、その間は説教しておくってことだな。



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7日目①

なんだかんだで、この生活もあと僅か。

もう少し続いてほしいような、今すぐ終わってほしいような……そんなチグハグな思いが渦巻く。

まぁ、アタシという人格がある事自体が奇跡中の奇跡というか、本来の入間美兎がどのタイミングで表に出てくるのかが怖い気もするけれど、それはそれ、これはこれと深く考えない事にする。

 

「折角だし、久しぶりにガチャでもしてから………あん?」

 

中庭を歩いている最中、見慣れた後ろ姿の異常な気配を察知して、思わず足を止めた。

なんというか……普段からでは考えられないどんよりとした雰囲気が出てるし、手元に持っている物を見てブツブツ独り言を言っている。

 

おい、いつも醸し出してるシスコ…じゃなくてイケメンオーラはどうした。

 

「あ、天海?何やってんだよ…」

 

一応、それなりの距離を取った状態で恐る恐る声をかけてみる。

遅れて声をかけた事に気づいたのか、ゆっくりとした動作で振り向いた天海の顔色はめちゃくちゃ悪かった。

 

「あぁ……入間さんっすか」

 

「そ、そんな死にそうな顔すんなよぉ…。よく分かんねーけど、体調が悪いなら寝とけっつーの!」

 

斬美ママー!と心の中で叫びながらビシッと寄宿舎の方を指差す。

そんなアタシに力無く笑いながら「や、体調が悪いとかじゃないんで大丈夫っすよ」と天海は言ってくるけど、全然大丈夫じゃねーだろ。

 

「落ち込んでるのは…その、俺の優柔不断さというか。………実際に見せた方が説明が早そうっすね」

 

そう言って手招きしてくるから、逃げ腰になりながらも天海に近づいていき、人が2人分ほど入りそうな距離まで来ると「これなんすけど…」と持っていたものを見せてくれた。

 

 

「なんだコレ……」

 

 

「最原君から貰った、一途コンパスっていうアイテムらしいんすけど…」

 

 

「んなの、オレ様も知ってるっつーの」

 

 

確かアイテムの説明では、気になるあの子がどの方向にいるのか一目で分かるストーカー涎ものアイテムとか書いてた気がするけれど、こんな針が高速回転するやつじゃなかったはずだ。

 

ナニコレ?バグ?不良品?

もはや、別のアイテムじゃねーの??

 

「これを持っていたら、ここから出るとき妹を捜すのに役立つと思って貰ったんすけど……誰か1人なんて選べねーっすよ」

 

「………そうか」

 

真面目に考えて損したわ。

なんだよ、いつものシスコン擦らせてただけかよ。

あぁ、でも本人からしたら大問題だったな…。

だったら、仕方ない。

超高校級の発明家であるアタシの出番だ。

 

「オレ様に貸しな。改造してやるよ。確か妹の人数は12人だったよな…?」

 

天海の手から奪い取るように一途コンパスを回収すると、コンパスの針は高速回転を止めてピタリと止まった。

………針の先については、見なかった事にする。

 

「俺の為に改造してくれるんすか…?」

 

「当たりめーだろ。なんたって友達だからな」

 

「…そうっすね。変に考えたりしないで最初から入間さんに頼んでおけば良かったんすね。最原君に残りの必要分も貰うのは、流石に引かれてしまうんで…」

 

「それは流石にねーわ…」

 

一途コンパスを12個身につけて世界を巡る天海を想像してしまい、思わず笑いが込み上げる。

必死に笑うのを堪えようと思ったけれど、無理。

肩が震えるし、腹捩れる。

 

「まっ、これなら針を追加して調整してやるぐらいだし、すぐに終わんだろ。オレ様にかかれば楽勝もんだな!」

 

 

 

×××××

 

 

これぐらい余裕・楽勝って、少し前までなら思ってた。

倉庫が近くにあるからという理由で、食堂に道具を持ち込んで改造し始めたのはいいんだけど……。

 

「……………」

 

「凄いっすね、コレ。中がこんな風になってるなんて知らなかったっす」

 

めっちゃ後ろから覗き込まれてる。

何度か「離れてねーと、危ねーぞ」と言ってはいるものの、少ししたら気になるのか再び後ろから見られている事数回。

正直やり辛い。

男子はみんなメカとか改造が好きなの?

 

「……っと。針は入れたし、後は仕上げも良し。性能の確認だけだな」

 

「手際良いっすね」

 

さて…後は、どうやって天海に見られる事なく確認作業をするかが問題だ。

アタシ自身が持っている一途コンパスと照らし合わせる必要があるし、針の向きを見られでもしたら…誰を指しているのか分からないとしても精神的に死ぬ。

適当に理由を付けて遠ざける(叉はアタシがここから離れる)のがベストだが、何か理由として使えそうなものはないかとテーブルの上に散らばった物を見る。

……殆ど倉庫から持ってきたものだし、これをダシにするか。

 

「まっ、その前にもう使う事ない部品を片付けておくか」

 

「だったら、俺がやるっすよ」

 

そう言うや天海は、アタシがもう使わないと固めて置いていた物を持って食堂から出て行った。

やることイケメン…じゃないくて、確認作業しないと。

アタシが所持している分の一途コンパスを取り出して、針にずれがないかあらゆる角度から調整する。

 

うん。問題なしだな。

 

食堂に戻ってきた天海に「これで大丈夫だぜ」と裏面の状態で改造した一途コンパスを手渡す。

早速とばかりに天海が針の見える表面にひっくり返してみると、なぜか12個の針が全て高速回転していた。

 

 

………なんでだよ!?知らない内に妹増えたのか!?

 

 

「……これ、妹意外にも反応してるかもしれないっす」

 

「はあぁぁ!?」

 

思いついたかのように言う天海に、思わず脱力しそうになる。

んなの、アリかよ。

今度は針何本いるんだよ。

 

「あっ、でも多分1人分で済むと思うんで、頑張ってガチャ回してみるっすよ」

 

それでも出る確率はどれだけか分からないし「なら、オレ様のをやるよ!!」と無理矢理押しつけると、大ざっぱな妹探索器となってしまった一途コンパスの針がピタリとそれぞれ違う方角を指して止まった。

 

………妹、散らばりすぎじゃね?



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7日目②

リアルが多忙、ざっけんな。
僕の夏休みはログアウトしました(そもそも、夏休みがない)


どんなゲームでも、隠しルートや隠しキャラというのは存在する。

でも、それを解放するためには様々な条件があり時にはそれは厳しい条件だったりするけれど。 

例えば、定められた時間に特定エリアで焼きそばパンを数個獲得して、それで出現する騎士王を倒す事でサブストーリーが解放されたり、落とし物のライヴキャスターを拾って特定マスを踏んで、落とし主と連絡を何度か取り合う事で夢特性を持ちと交換してもらえるとか…。

 

…いきなりこんな話しをしてどうしたって思うかもしれないけれど、こんな事考えた事はファンならあるんじゃないか?

スクールモードのモノクマ、アイランドモードのモノミ…じゃなかっだウサミ。

 

どうして、あいつらにデートチケットは使えないのかって。

 

 

「入間さん、何か悩み事かしら?よければ相談にのるわよ」

 

アタシの切実な悩みはどうやら顔に出ていたらしい。

おやつのスコーンをわざわざ持ってきてくれた東条が、そう言って微笑んでくれた。

流石はみんなの斬美ママ、アタシの変化にもすぐに気づいてくれるなんて……!

 

「お母ちゃん!オイラも食べたい!!」

 

「これを売り飛ばしたら、ええ金になりそうやな!」

 

「もう、せっかくのオイルティーが不味くなるじゃない」

 

「オイルよりハチミツだろ!?」

 

「………」

 

 

まぁ、そんな感謝感激オーラはアタシの背後から現れたモノクマーズにかき消されたけれど。

 

「……随分と懐かれたのね」

 

「オレ様は何もしてねーのに!」

 

ある意味では長年の夢叶った役得だけど、本当どうしてこうなったと言いたい。

モノクマーズ相手にデートチケットなんて使ってない(そもそも使えない)し、攻略できるキャラとしてカウントされていないはずなのに……気づいたら、めっちゃ懐かれた。

なんか、ずっと側にいて離れない。

 

あれか、たまたま通りすがりにモノダムが虐められてるのを止めたからか?

それとも、その際にモノキッドのギターが壊れていることに気づいて研究教室で直してやった事か?

それとも、待ち時間にオイルで作ったオイルティーとハチミツでおもてなししてやったからか?

害のなさそうな発明品をモノスケに押し付けたからか?

なぜかお手伝いしてくれたモノタロウが可愛くて頭を撫でたからか?

 

………あげだしたら、全部な気がしてきた。

アタシが元凶かよ!

知らない内に隠しキャラ攻略ルート突入してたやつだ。

素直に喜んでいいのか分からないけれど、やったな!

 

「オレ様は今、身を持って知ったぜ…。あいつらが攻略対象にされなかった理由を……可愛いマスコットキャラは、存在が罪なんだ」

 

「ごめんなさい…。何がどうでそうなったのか私には理解できないわ。解るように説明して貰えるかしら?」

 

ごめん、東条。

説明とか上手くできる気がしない。

だってほら……いろいろぼかして説明するとか、アタシには無理だわ。

モノクマやマザーモノクマ経由で記憶持ちってバレる。

コロシアイが起こる本編じゃないのに、下手したら死体出てくる。

まぁ、簡単に言うと……アレだ。

 

「モノクマーズが可愛いすぎて辛いから、オレ様の子供として育てるんだ。もうモノクマのヤローの所になんて行かせねーからな!」

 

「「「「「お…お母ちゃん!!!!!!」」」」」

 

ガシッとモノクマーズを抱きかかえてヘラリと笑って見せると、東条は「大変な事になったわね…」と青ざめながら口元を押さえていた。

 

「これじゃあ、入間さんがモノクマーズに懐柔されたのか、モノクマーズが入間さんに懐柔されたのか分からないわ…。いえ、それよりも目を覚まして頂戴入間さん。モノクマーズは私達をここに閉じ込めたモノクマの仲間なのよ」

 

「違うよ!オイラ達はお母ちゃんの子供なんだ!!」

 

「オラ達ミンナ…オ父チャンニ、従ウノ止メル」

 

ヤバイ…語彙力ないけど本当にヤバイ。

モノクマーズが最推しになりそう。

 

「みんなで協力して、モノクマが支配するこの檻から卒業しような…」

 

「お願いだから、戻ってきてちょうだい。モノクマーズ達では卒業条件を満たせないのよ?」

 

………そ、それぐらい分かってるし。

忘れてねーよ?

 

「な、なんだよ……そんな顔しなくても分かってるよぉ…。オレ様がちゃんと面倒見て育てるから、ちゃんと相手にも認めて貰うからぁ……。それなら文句ねーだろ…???」

 

「モノクマーズが同伴となると、かなり厳しいわよ?……きっと、みんな反対するわ」

 

「認めてもらうようにするからぁ!!」

 

お願いママ、みんなを説得するのに協力して!と手を合わせると「…………………分かったわ」と長い沈黙の後、了承してくれた。

 

「マジで!?さっすが東条!」

 

「本当は反対したいのだけれど、モノクマーズを上手くこちら側につければ、条件とか関係なしで出してくれる可能性もあるもの。それに……一部の人は別の卒業相手を探すでしょうし」

 

最後のやつさえなければ、丸く収まる形だったのにな!




よくよく考えてみれば、このネタでスクールモード&アイランドモードやってみれば…苗木君はモノクマというか、モノクマを操作している江ノ島を落として、日向君はウサミを落とすという……希望×絶望、生徒×教師という構図になるんだなって考えて、1人で盛り上がってた。


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8日目①

時期的に考えれば、ネタとしてはギリギリアウトな部類かもしれない

本当は、もっと早くに書き終わる予定だったんだ…ので、多めに見てください。


アタシの目の前には、プールサイドに腰掛けてバシャバシャと水遊びをする夢野と茶柱。

その近くではビーチチェアをプール倉庫から出してきたのであろう、アンジーと白銀がトロピカルジュースを飲んでいて、その隣ではパラソルを設置する東条の姿がある。

 

「プールって、いいよな…」

 

「うんうん。なんか見ているだけで眼福ってなるよね。はいコレ」

 

簡易型ウォータースライダーを造る手を止めずにポロリと呟いた言葉に、差し入れとばかりにココナッツジュースを持ってきた赤松から意外な形で同意を得た。

 

「気がきくじゃねーか。春川、ちょっと休憩しよーぜ」

 

「わかった」

 

春川に声をかけてから、一息つくために受け取ったジュースを飲みながら改めて辺りを見渡す。

夢野も茶柱も白銀も東条も赤松も、ウォータースライダー造るのを手伝ってくれてる春川もアンジー…は、いつもと変わらねねーけど、みんな身につけているのは布面積の少ない水着だ。

みんな水着可愛いから、ただでさえ顔面偏差値高めのメンバーが余計にランク上がってる。

白銀と赤松の水着とか、ナンパ待ったなしだから。

 

えっ、男子はって…?

茶柱が提案して誘ってきたメンバーが集まってるだけだし、来ないんじゃないか?

 

「美兎ー、神様がもう待ちきれないって言ってるけど、あとどれぐらいでできるー?」

 

「一番乗りは、もちろん転子達ですよね!」

 

「あと少しだけ待ちやがれ。オレ様だって、遊んでもらうの楽しみなんだからよ」

 

待ちきれない茶柱とアンジーには悪いけれど、もう少しだけ待ってもらう。

ジュースを飲みながら次の作業の手順を脳内で幾つかシュミレーションし、完成した時の出来を想像する。

ウォータースライダーの前にも、プールの底が深すぎるから急遽造った発明品で足場を作るようにしたり、雰囲気出すためにプロジェクションマッピングの応用で室内を丸ごと南国風にしてみたり、赤松チョイスの音楽をかけたり…と、誘われてからずっと準備をしていたからか、感づいた春川や赤松の手伝いもあって完成までもう少しといったところだ。

 

「ウチの水魔法を使えば、入間に苦労させずに済むのじゃが……NPが切れていてのう」

 

シャクシャクと氷菓子を片手に持って食べる夢野に、春川が小声で「切れること多すぎだけどね…」と呆れたように呟いていた。

こらそこ、そんな事言わない。

 

「もし完成したら……地味にポロリとかあるんじゃ!?」

 

「えっ!?どうなの入間さん!」

 

白銀と赤松が何やら盛り上がっているけど、スルーだスルー。

アタシは何も聞いていない。

 

「駄目ですよ、そんなの!もし男死がどこからか覗いていたら大変じゃないですか!!」

 

茶柱が全力で否定しいる間、アタシの頭の片隅でクシャミしている最原の姿が浮かんだ。

……さすがに今回はない、よな?

そういうのにすぐ気づきそうな東条と春川がいるんだし。

 

飲んでいたジュースを一度手放し、アタシは再びウォータースライダーを造りながら、騒いでいるみんなを眺めながら水着美女万歳と心の中で叫んだ。

 

 

×××××

 

 

ウォータースライダーも無事に造り終わり、パラソルの下で寝そべりながら水鉄砲で遊ぶ。

だけど、そこから出るのは水ではなくシャボン玉。

こうして見ると、普通のプールじゃなくなってきているのがよく分かる。

呼ばれていない男子達が知れば何か言いそうな気もするけど、茶柱に誘われなかった事に嘆けばいいと思う。

本当…何回目かになるか分からないけど、水着最高眼福。

 

「ウォータースライダー凄いね。さっき春川さんと一緒に滑ってきたけど…なんであんな別れ道ばっかりなの?迷路みたいだったよ?」

 

休憩とばかりに赤松がビーチボールを抱えながら、アタシの隣に座り込む。

迷路みたいになった理由はアンジーの提案のせいだから、それについてはアタシ関係ない。

それにしても……

 

「赤松はフリルのついた白ビキニがよく似合ってんな」

 

「あ、ありがとう…じゃなくて!もぅ、すぐにそうやって話題を逸らす」

 

照れ隠しなのか、ビーチボールで軽く叩かれていると「何してるの…」とヤッチー君らしき浮き輪を持った春川が、ジト目でアタシと赤松を見下ろしていた。

 

「春川はやっぱり、赤が似合うな。飾り気があまりないスポーティーな感じなのがまた良い」

 

「本当はもっと可愛いの着せたかったんだけどね…」

 

アタシと赤松が何について話しているのか分かったのか、そっぽ向きながら「どうだっていいじゃん…」と言っていたけど、ほんのりと顔が赤くなっている事にアタシも赤松も見逃さなかった。

思わず顔を見合わせてから、図ったかのように春川に2人して抱きつく。

ツンデレ可愛いすぎ。

 

「お主らは仲良しじゃのぅ…。見ているこっちが恥ずかしくなるわい」

 

茶柱、アンジーと3人で仲良くプールを泳いでいる夢野がアタシ達を見ながら、ポツリとそんな言葉を零した。

夢野、それブーメラン。

自分に返ってきてるって分かってるのか?

 

「でも、こうしていられるのも残り僅かだと思うと、地味に寂しいよね」

 

「そうね。私がこうしてみんなのメイドでいられるのもあと2日間だもの…。思い出として残す為に、誘ってくれた茶柱さんには感謝しないといけないわね」

 

ベリベリとアタシ達を引き離しながら、白銀と東条の会話を聞いていた春川が「そういえば…」と思い出したかのように呟いた。

 

「卒業する相手、決まったの?」

 

その瞬間、空気が凍ったかと思えば火花が飛び散る幻覚が見えた。

例えるなら…そう、恋する乙女がライバルを牽制し合うようなやつ。

あれか、修羅場ってやつか。

最原め…どれだけタラシ込めば気が済むんだ。

 

「ほ…ほら、そういうのは後にして、今は楽しもうよ!ね!」

 

鎮まりたまえーとばかりに宥める赤松のおかげで、なんとかその場は収まったけれど……これはヤバイと流石のアタシでも分かる。

 

最原…このままじゃお前、二次創作のネタとかで初代パンツハンターみたいに女子全員に向かって土下座しなきゃいけなくなんぞ。



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8日目②

残り話数カウントしてたら、嘘やん…って思いながらもテンション上がるという謎の現象が起きました


プールでの女子会も終わり、1人でひたすら考える。

ゲームをしている間は深く考えなかったが、こういう立場になったら実感せざるを得ない問題がある。

 

大きな問題……主人公とか関係なしに最原が人タラシであるということに。

 

前からなんとなく感じ取ってはいたけれど、やっぱりこれが一番の壁に他ならない。

なんせ、男女関係なく最原に矢印が向いているんだ。

幸いアタシはまだタラシ込まれてない(言い方が他に思いつかない)から、最原争奪戦(仮)には参加しないが………うん、これは酷い。

 

最原がデートチケットを使ったのか、夢野と一緒にいるのが遠くに見える。

そしてそんなアタシの隣には、音声も拾えるアタシ作の双眼鏡を持ってギリギリと恨めしそうにする茶柱を始めとしたその他数名。

なんだコレ。

修羅場か。

平和な世界軸でコロシアイが起こらない事を祈る。

といっても、あと何日かしたら終わりだし大丈夫だとは思うけどな!

 

寄宿舎の壁に凭れながら、ストーカーよろしく最原を見ていた集団が一斉に双眼鏡をポケットにしまい、解散とばかりに散っていくのを見る限りだと、最原は夢野とのランデブー(仮)を終了したらしい。

次は自分を誘って貰えるように、1人でいるアピールという事か。

せめて、双眼鏡を返却してからバラけて欲しかったかなぁー。

 

「あれ、入間さん1人?さっきまで集まって何かしてたように見えたけれど…」

 

どうやら、こっちからの様子は最原の方にもバッチリ見えていたらしい。

まぁ…何をしていたのかまで分からないようだが、知らない方が幸せってこともある。

 

「あー…まぁ、あれだ。それについてオレ様は黙秘を使うからな」

 

「要するに、聞かれたら困る事なんだね。だったら無理には聞かないよ…」

 

答えた所で困るのはアタシじゃなくて、最原だけどな。

そんな事を口に出せるわけなく、アタシは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

さて、この無駄に静寂だけが流れる状況をどうしようかと考えていると、どこからか『ピンポンパンポーン』と音楽が流れた。

それと同時に近くのモニターにモノ久マーズの姿が映しだされる。

いやいやいや、何事。

てか、今の死体発見アナウンスで流れる音楽じゃなかった?

 

『おはっくまー!迷子のお知らせだよー!』

 

いきなり変なことが始まってる。

意味が分からず疑問符を浮かべるアタシと同じように、最原も「えっ、迷子????」と困惑していた。

一体なんなんだ。

 

『えーっと…誰を呼び出せば良かったんだっけ?』

『んもー、忘れちゃったの?最原君よ!』

『王馬クン二、頼マレタカラ……』

『まっ、どこで待ってるかは聞いてへんけどな!』

『根気よく探してこいって事だぜ!』

 

最後にいつも通り『ばーいくま!』と締めくくり、モニターが真っ暗の画面になる。

まぁ、分かった事はあれだ。

 

「最原…テメー、その歳で迷子とかマジかよ」

 

「待って、誤解だよ!」

 

ドン引きとばかりに最原から軽く距離をとると、必死に迷子じゃないと弁明してくる。

…確かに、放送的に迷子なのは王馬の方になる………のか?

 

「つまり、最原は王馬の保護者だった……のか?」

 

「それも違うよ…!」

 

どうしてそうなったとばかりに、最原がガックリと肩を落として弱々しい声で「どうしたらいいんだ…」と唸る。

 

「まっ、王馬のヤローに目をつけられたのがテメーの運の尽きだな!人タラシも程ほどにしとけって事だ」

 

恐らく全員が聞いているであろうアナウンス効果か、あっちこっちから騒ぎ声が聞こえる。

最原は最原で「王馬君に目をつけられているのって、僕だけじゃないと思うんだけど…」とか言ってたけど、声小さすぎてそれ以降は何を言っているのか全然聞き取れないんだけど。

頼むから、もう少し聞き取りやすいように喋ってくれ。

 

「あと、僕は人タラシなんかじゃないよ。そんな事した覚えないから…」

 

無意識が一番怖かったりするよね。

そうやって、何人も落とすんだ。

アタシは絶対に落とされないからな。

 

「とにかく、僕はもう行くけど……入間さん、何か悩み事とかあったらすぐに言ってね」

 

「へ…?」

 

「ほら、もうすぐこの生活が終わったら…僕達はみんなそれぞれの生活に戻る。バラバラになっても、ここで過ごした時間は、絆はなくなったりしない。躓いたり、困った事とかあったら…僕に相談してほしいな。まだ見習いだけど僕は探偵だからね。赤松さん達には言いにくい事も僕は親身になって聞くし、だから…その、僕を頼ってほしい………って、入間さん!?」

 

寄宿舎の壁に思い切り頭を打ちつけたアタシに、最原が「何してるの!?」と必死で止めようとする。

ええい、止めるんじゃない!

危うくアタシも最原に落ちる所だった…危な。

 

「お前…本当に、そういう所だからな?マジで止めろよぉ……」

 

何人とフラグ立てたら気が済むんだ…。

いい加減にしろよな。

此方を気にしながらも立ち去る最原と入れ替わるように、赤松が「えっと…大丈夫?」と優しく背中をさすってくれる。

 

「赤松ぅぅ…テメーの旦那どうなってんの??」

 

「べ、別に最原君とはそんなんじゃないよ!?」

 

顔を赤くしながらも「それより、落ち着いた?」と、なぜか抱擁されながら頭を撫でられる。

……そうだ、赤松も最原同様じゃん。

危うく赤子に退化する所だった。

 

「……………もう、オレ様引きこもる」

 

もう部屋で大人しくしよう。

 



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9日目①

ラストまでもう少し……されど、道は長いんね。


目が覚めて真っ先に感じたのは、違和感だった。

いつもと何かが違う。

だけど、部屋に変わった様子はない。

だとしたら、何に違和感を感じてしまったのか。

その疑問の正体が何なのか確かめる為に、アタシはベッドから出てからもう一度だけ室内の隅から隅を確認した。

 

クローゼットの中を開け、ベッドの下を覗き、トイレも一応確認して、机の引き出しも確かめる。

どれも何時も通り、おかしな所なんてどこにもない。

だとしたら、何だ?

 

そんな疑問をモヤモヤと抱きながら身支度を整えて、ドアノブに手をかけた所で「……ん?」とアタシは動きを止めた。

ドアの向こうから、どことなく重い空気が伝わってくる気がする。

気のせいと思いながらも、少しだけドアを開けて様子を窺って見ると、寄宿舎で何人かがどんよりとした空気を漂わせていた。

 

えっ、何事??

 

あのスーパーメイドの東条とか、ちょっとした事では動じなさそうな星とか、幼女並みに元気ハツラツ無邪気なゴン太も、いつも笑ってるイメージのあるアンジーとか、人間観察が趣味みたいな真宮寺とか、馬鹿っぽいけど頼りになる兄貴分な百田とか、いつもオタク魂全開な白銀といったメンツの纏う空気だけがいつもと違って重かった。

お前ら、マジでどうした。

何があってそんな暗い表情を隠そうともせずに、その場で溜め息吐いてるんだ。

誰か説明プリーズ。

 

「あの…入間さん、出て来ないんですか?」

 

「ちょうどいい所に居たな。なぁキーボ、こいつら何があったんだよ?つーか、お前もなんか様子がおかしいけど、どうしたんだよ?」

 

ドアを開ける時に邪魔にならないような位置に体育座りで座り込んでいたキーボに声をかけられて、心の中で『いたのかよ!?吃驚させんな』と叫びながら、頭のアンテナをへにょんとさせて落ち込んだ様子のキーボに説明を求めると、なぜか余計にキーボの纏う空気が重くなった。

おい待てどうした。

朝から一体何が起きた。

 

「えぇ……実は僕達、もうすぐ期日になってしまうので最原君に一緒に卒業して欲しいと思いを伝えたんです。ですが……」

 

「分かった、それ以上言うんじゃねー。傷を抉るような真似して悪かったな」

 

つまり……なんだ。

最原に『あなたが好きなので、一緒に卒業してください』と言ったものの、断られてしまった人達の集まり会みたいになってると。

……頼むから、誰かの部屋でやってくれ。

寄宿舎のエントランスでそんな集会されたら、気になって仕方ないから。

 

「すみません…気を使わせてしまって。…ボクが最原君の『どうしても振り向かせたい人』にはなれなかったのはショックです。最原君にそこまで思われている人が羨ましいけれど、それでも最原君が選んだ人ならボクは最原君がその人と卒業する事を応援してあげたい……。こんな事を聞いてくれてありがとうございます。入間さんに話していたら少しだけスッキリしました」

 

「別にオレ様は何もしてねーけどな」

 

「それでも、ボクに気持ちの整理がついたのは確かです。それに、最原君言ってました。『キーボ君達のお陰で、僕も今日伝える決心ができた。これからも大切な友達として僕を支えて欲しい。僕もキーボ君達が困ったら支えてみせるから』って…。ロボットのボクも友達で仲間なんだと言葉にしてもらえただけでも……」

 

そのまま口を閉ざしたキーボの頭をグリグリと撫でてから、アタシは扉をパタリと閉じた。

こんな空気で、しかも原因を知ってしまった以上は外に出回る気分にも慣れず、アタシは部屋で「うーわー…」と座り込んだ。

なんだろ…こっちまで泣きたくなってきた。

 

とりあえず、お昼までは部屋で大人しくしてよう。

 

「にしても、最原が『どうしても振り向かせたい人』……なぁ」

 

確実にあの場にいなかった誰かだろう。

となると…だ。

ある程度予想する事は簡単にできる。

 

あの場に姿がなかったのは赤松、春川、茶柱、夢野、王馬、天海だけれど………アタシの中で一番可能性があるのって赤松なんだよな。

でもキーボのくれた貴重な情報の事もある。

もしかしたら、百田に思いを寄せている春川か……夢野のセコムみたいになってる茶柱っていう可能性も捨てきれない。

それとも…………その…あれだ………一部のお姉さま方が大歓声を上げそうな王馬と天海という可能性が????

どこからか黄色い歓声が聞こえた気がして、慌てて首を振る。

電波の受信はキーボだけで十分。

えっと次、夢野はどうだろう…昨日一緒に居たし、その可能性もありえる。

その場合は茶柱というラスボスが出現するけど。

 

「……あれ、だとしたら予想できなくねーか?」

 

意味ないじゃんと心の中で情報の少なさに絶望する。

胸の前で腕を組みながら、何か見落としがないか情報の整理をしてみるが、うむ分からん!

 

超高校級の探偵の力を借りたいな……って、元凶の元はその探偵だけど。

探偵の思い人知る為にその探偵の協力仰ぐとか、それ本人に直接聞いてるに等しい。

そんな直球ストレート…アタシにできるわけない。

確実に変化球、または何かいらん事言ってデッドボールになる。

 

……まぁ、明日になれば嫌でも分かるだろうし、今から午後をどうするか考えておこう。



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9日目②

変な所で一区切り………それが、僕のやり方なんだ!


大人しく部屋に閉じこもってテレビゲームをしていると、扉の方からガチャガチャと物音がした。

まるで、誰かが無理矢理入ろうとしているかのようにドアノブを動かす音のように聞こえてしまい「ひっ!?」と思わず短い悲鳴を出した。

モノクマの悪戯なのか、それとも他の誰かなのかは知らないけれど鍵がかかっている限り押しかけられるなんて事はないはずだ。

 

………モノクマなら、入ってくるかもしれないけれど。

 

仕上げとばかりにカチャリと鍵の回った音に、いよいよマズイと悟ったアタシは持っていたコントローラーをテレビの真横に置いてクローゼットの中に隠れて身を潜める。

すぐに扉が盛大に開かれる音がして、少しでもタイミングがズレていたら隠れる瞬間見られて恥ずかしい思いするやつ…なんて思いながら誰が来たんだろうと首を傾げた。

 

「やっほー入間ちゃん!ちょと協力して欲しい事が…って、あれ?留守??」

 

「駄目っすよ王馬君。勝手に女子の部屋に入ったら…」

 

少しだけ開けたクローゼットの隙間から部屋の様子を窺ってみれば、首根っこを掴まれて子猫みたいになっている王馬と、親猫のように首根っこを掴んだまま部屋を出ようとする天海の姿があった。

 

あっ、これ隠れてるのバレたら多分めんどくさい事になるやつ。

 

「でもさー、天海ちゃん。オレの作戦では入間ちゃんが駒としていた方が絶対面白い事になるんだって!」

 

「それ、王馬君だけっす。ほら、男子の俺らは出るっすよ」

 

何やら不穏な会話をしながらも出て行った2人を確認すると、アタシは出来るだけ音を立てずにクローゼットから出てきた。

出て行ったと見せかけて、アタシが物音を立てた瞬間乗り込むなんて事になったら大変だ。

 

「何だったのかは知らねーけど、とりあえずベッドの下の非常食を持ってもう一度隠れておくか」

 

「うんうん。でも、隠れるのは諦めてね」

 

ゾクッと背中に悪寒を感じながら、ギギギ…と壊れたブリキのようにゆっくりと出てきたばかりのクローゼットを振り返る。

クローゼットとテレビ台の間に座り込んだ赤松は、アタシと目が合うと「入間さん、確保ー!」と大声で叫びなが逃がすまいとアタシの腕を掴んだ。

すると、部屋の外に出ていた2人も再び入って来るのだから、アタシは諦めてうなだれた。

まさかアタシが隠れていた場所から視界に入らない所に赤松がいたなんて………声を出さなかった事といい、一体誰の策略にアタシは陥ってしまったのやら。

 

 

 

×××××

 

 

 

作戦について、アタシは王馬からコレといった説明なんてされなかったけれど『今日は夜時間まで赤松にベッタリついてたらいい』というよく分からない役割を押し付けられた。

まるで誰かさんへの嫌がらせのようにも見えるかもしれないけれど。

とりあえず…ということで裏庭をブラブラしているけれど、未だに真意など理解できない。

 

「ったく…何考えてやがんだあいつ」

 

「でも、入間さんが一緒にいてくれるなら私も嬉しいかな」

 

王馬の作戦関係なしでそう言って微笑む赤松から逃げるように、アタシは視線を逸らす事で自分に『今は照れるな』と言い聞かせた。

ほらだって赤松……ちょっと…あれ、百合方向な思考があるから。

 

「なんて、考えるだけ無駄か」

 

「どうかした?」

 

「オレ様を巻き込むなんて、王馬も偉くなりやがったなーって思っただけ」

 

アタシがそう言うと赤松から返ってきたのは苦笑いだった。

どうせ、今は逃げられないんだ。

少し離れた所からは作戦立案者の王馬が隠れながらこっちを見ているし、なぜか赤松がアタシの腕を組んでベッタリしているし、もう1人の実行犯らしい天海の姿もない。

 

というか、天海が王馬の悪巧みらしきものに乗るなんて珍しいんじゃないか?

何か秘密でも握られたのか…一応、後で確認しよう。

あと、赤松はアタシとやる事が逆なんじゃない?

アタシからはやろうなんて思わないけれど。

恥ずかしいし、相手をからかうわけでもないのにできるわけない。

赤松のメンタル凄いな。

 

「んじゃ、次はどこに行くか……」

 

ずっと裏庭をブラブラするわけにもいかないし、一応デートという形なのだから何か楽しい事……面白い事……話題…。

 

「ん?話題っていえば…」

 

足を止めて立ち止まったアタシを赤松が「どうかしたの?」と覗き込む。

赤松は、朝起きた人類至上最大最迷惑な撃沈者多数最原事件(今勝手に名前付けた)を知ってるのか??

………赤松に王馬に天海はあの事件の被害者にならなかった数少ない生存者なんだし、あれ………最原のやつ本当に今日中に言えるのかな。

なんか心配になってきた。

 

「ねぇ、本当に大丈夫なの!?」

 

「なんでもねーよ。ちょっと、考え事してただけだっつーの」

 

心の中でもし赤松だったら、アタシじゃなくて王馬を恨めよ…と最原に訴えながら気を取り直す為に、目を閉じた。

 

「あっ、最原君だ」

 

まぁ、赤松のそんな一言で確認するためにすぐに目を開けてしまったから意味なかったけれど。

 

 



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9日目③

ちんたらしていたら、いつの間にか新年になっていた……
お年玉を渡さなきゃいけない立場の人間だけどさ、子供みたいに『金くれよ』って言いたい。
まぁ貰えないし、渡しもしないんだけどさ。

……まぁ、今年もよろしくお願いします。
今年はもっとV3キャラが出る小説が出たら嬉しいなぁ!!(他力本願)


ここで問題…赤松を侍らせた状態で最原と遭遇してしまったアタシの心境を簡単に述べよ。

答えは、アタシ完璧に邪魔者なのでは?だ。

 

いやだってさ、さっきから何か言いたげにアタシと赤松を見てるんだよ?

これ絶対あれだろ。

最原…お前赤松と卒業したくて告白しに来たんだろ。

青春万歳、リア充爆発しやがれ。

 

「さっき天海君に2人を見かけたって聞いたから、急いで来たんだけど……見つかってよかった」

 

「えっ?もしかして何かあったの??」

 

「いや…僕個人の用事というか……」

 

話しながらも緊張しているのか、最原は頭の方に手を持っていくがそこには帽子がないから空を掴むだけだ。

それを見て赤松がクスクスと笑うのだから、あの……アタシ完璧に空気だ。

2人で勝手にいい雰囲気にならないでくれ。

離れようにも腕は赤松にホールドされているから、できないんだ。

せめて……どこかでアタシが入るスペースを!

かといって邪魔するのも嫌だし、今日も空が青いなぁ…なんて遠くを眺めていると、最原の死角となる場所からこちらに何やら必死にジェスチャーしている王馬の姿が視界に入った。

天海に肩車された状態なのが凄く気になるけれど、えーっと…何?

 

こっち……いや、最原か?

最原を指差してから……両手を頭上にして角…いや、兎の耳か?

口元に手をやって、何かを話している感じの後で……なぜかグーパンチ。

全くもって意味不明だけど、推測ぐらいはアタシでもできるばす。

 

赤松と最原の会話を時々耳に入れながら、王馬が伝えようとした事を推理していく。

まずは最原を指差していたから、最原に何かしろ……ということは確定でいいだろう。

その次にしていた兎の耳みたいなのは……多分だけれどアタシを指しているかもしれない。

ほら、名前が美兎だし。

で……何か話す?

アタシが最原に何かを話すということか?

それとも最原が話しだしたらということか??

よく解らないけど、グーパンチはそのまま殴る……としたら、だ。

 

最原にアタシは何の理由もなしに話しながら殴れってか???

何を言っているんだあのチビは。

いやでも待てよ、もしかしたらアタシの推理が根本的に間違えているんじゃ……。

もうちょっと分かりやすい指示しろよ。

 

「ね、入間さんはどうするの?」

 

「ひゃい!?な、何がだよ…」

 

赤松にいきなり話しを振られて返事したものの、変に裏返ったし内容聞いてなかった。

苦笑しながら最原が「だから、僕の今から話す事を聞くかどうかだよ」と教えてくれた。

アタシとしては、赤松と最原を2人っきりにしてあげたいけれど…王馬に赤松と一緒にいろって言われたし……いやでも別にもうよくない?

最原にバレないように王馬を盗み見ると、天海の頭をポカポカ叩きながらこっちを気にしながらも離れていく王馬の姿があった。

……なんだかんだで、天海は協力しながらも最原の味方でもあったということか。

それじゃあ、アタシも最原の味方をしてやるか。

幸いな事にいつの間にか赤松から受けていた腕の拘束は解けたし。

 

「あー……そういえばオレ様には、やることがあるんだった!つーわけでだ、後はテメーらで仲良くランランルーしてろよ」

 

「らんらん……何?」

 

「えっ?入間さん今なんて??」

 

仲良くコテンと首を傾げる様子に、言葉のチョイスを間違えたと後悔しながら逃げるように「じゃな!何かあれば来いよー」とアタシはその場から駆け出した。

 

まぁ、あの仲の良さなら何の問題もないだろ。

 

 

×××××

 

 

人の事よりまずは自分の心配しろって言いたい。

 

もうすぐで夜時間となる時間帯に、1人中庭のベンチに座りながらアタシは頭を抱えた。

よく考えれば明日が最後のチャンスじゃん。

やばない、嘘やん、人の手助けしてる場合じゃない。

 

「明日から本気だすし…」

 

口にしてから、これ駄目なやつだと悟って更に頭を抱えた。

くそっ…今から『一緒に卒業しねー?』って突撃しに行くか?

でも…こんな時間に行くわけにもいかないよなー。

詰んだ。

今日は諦めたから、明日のアタシ頑張れ。

 

「良かった…ここに居たんだ」

 

かけられた声に現実に戻ってくると、最原がベンチの空いていた隣に腰掛けてきた。

 

「んだよ、まーたテメーか」

 

今日はよく絡む機会が多いなぁと思いながらアタシは最原を見るけれど、真上を見上げている最原とは視線が合う事はない。

 

「実は僕、どうしても今日中に言いたい事がある…伝えたい人がいたんだ」

 

ポツリと話し出した最原に「へぇ…」と相槌を打ちながら、アタシはわわざわざ結果を伝えに来たのかと続きを待った。

 

「でも……結局言えなかったんだ」

 

「………………はっ?」

 

言えなかった…?

まさか、いざ言おうとしてヘタレになったのか?

そんな馬鹿な…と思いながら最原から視線を外しながら「で、どーすんだよ。諦めんのか?」と問いかけた。

隣で身じろぐ気配はしたけれど、生憎と今は最原を見ていなかったからどんな反応をしたのかはアタシには分からない。

 

「諦めるつもりなんてないよ!だから……」

 

これはアタシが協力するパターンになるかな…と感じ取って「なぁ…」と恐る恐る最原に向かって手を伸ばすと、両手でしっかりと掴まれた。

おう、マジか。

そんなに必死だったのか。

 

「ちゃんと逃げずに聞いて欲しい」

 

「お、おう…」

 

あまりの気迫に戸惑いながらも、なんとかコクコクと頷く。

やっぱりまずはキャスティングとかを考えていくべきか?

それともシチュエーション??

……どれもアタシには向いてなさそうだなぁ。

 

「入間さん…僕は君とこの学園を卒業したい。君の特別に……僕は…なりたいんだ」

 

「………………マジか」

 

その発想はなかったわ。

 



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10日目①

マスターやったり、騎空士やったり、審神者やったり、プロデューサーやったりしてたら見事に忘れてた。
首を長くして待ってた人には申し訳ない!
ゲームの期間限定イベントという誘惑には勝てなかったんだ。


いつと変わらない朝だった。

ただ違うのはモノクマーズが朝のアナウンスをする前に目覚めて、二度寝する気分でもなかったから身支度をしてから部屋を出た事ぐらいだ。

 

そして誰よりも早起きな東条と中庭でバッタリ会って朝の挨拶をして、学園内を散歩しながらアタシはここではこんな事をしただとか、ここで誰かがこんな事を話していたと思い出の一つ一つを紐解いていた。

なんだかんだで、この学園で過ごすのも終わりだ。

明日になれば、きっと皆してここから出て行く事になる。

明日に…なれば………。

 

「…………ひぐぅ」

 

そんな謎の呻き声を上げながら、アタシはズルズルと壁に凭れながらその場に崩れ落ちた。

恋愛バラエティーとかいう、ちょっと何を言っているのか分かりません案件のこの学園生活。

超高校級の才能を持つキャラクターになぜか憑依して、オタクでいう推し達と楽しく過ごしてきた日々。

その中での一番の楽しみといえば、超高校級の夫婦(仮)を眺めては、アタシなりにからかったり、背中を押してあげたりする事だった。

だった……つまり、過去形。

全て、プレイヤーだった頃の考えを地盤にしていたアタシだけがそう思っていただけの事。

現実だと何が起こるか分からないな!

 

つまり、何が言いたいかというと……だ。

 

「オレ様…殺されない?大丈夫???」

 

男女構わずフラグ立てまくり(本人無自覚)の最原の心を、物理的に知らない内にハートキャッチしていたらしいアタシは、今日を無事に乗り越えて過ごす事ができる自信が地味にないです。

 

もし誰かに知られたら?

アタシ闇討ちされる自信しかねーよ?

トイレットペーパーで首を締め上げられるとか嫌だよ?

 

「そもそも、昨日ちゃんと返答できてねーし……」

 

なんで昨日のアタシ返事しなかったんだろう。

あんな真剣な目で見つめられて、握られた手がアタシより大きくて……そんな事を考えた途端、顔に熱が集まって心臓が騒がしくなったりしなければ、ちゃんと返事できたはずなのに。

結局何も言えないまま寄宿舎まで一緒に戻って、自室のベッドの布団にくるまりながら『アタシは恋する乙女かよぉ!?』と叫んだまでが昨日の事。

すぐに力尽きて寝るとは思わなかったけれど。

 

「はぅ…1人でずっと勘違い起こしていたオレ様とか、ネタ案件じゃねーかよぉ」

 

「えっと…何がネタ案件なのか、地味に聞いてもいいかな?」

 

独り言聞かれてた…しかも白銀に。

やばい、砲丸で殴られる。

とりあえず立ち上がって、頭上の安全を確保しようと思い立ち上がり振り返る。

白銀だけかと思っていたけれど、ゴン太も一緒だったようで目が合うなり「おはよう、入間さん!」と笑顔を向けられた。

ゴン太は独り言を気にしてはいない……いや、聞いてなかったのか?

ならば、白銀をどうするかで誤魔化せる可能性あり?

 

「こ、こんな所で奇遇だな!って…もう朝食会の時間じゃねーか。オレ様とした事が時間を忘れてたなんてなー…」

 

「確かにそうだけど…ねぇ、それよりも」

 

「腹減ったし、さっさと食ってのんびりと過ごさせてもらうとするか!」

 

目で掘り返してくるなと訴えながら、白銀の言葉を遮りながらく空腹だと態度で伝わるようにお腹な手を当てる。

それで伝わったのか、叉は諦めたのか白銀はそれ以上は何も言わずに数歩離れた距離でゴン太と話しながら、後ろを付いて来る。

 

 

今日の朝食何かなー…なんて考えながら扉を開けると、食堂のテーブルに乗っている料理はいつもより種類豊富で軽いバイキングと化していた。

いつも使っているテーブルが料理で埋まっているからか、倉庫から持ってきたであろう折りたたみ式の簡易テーブルといつも使っている椅子が何組かに別れて設置されている。

料理はパン、スープ、パスタ、サラダといったものから、和食用にとご飯に味噌汁、デザートに一口サイズのケーキといったものまであり、ドリンクも多種多様置いてあって、まるで小さなバイキング店だ。

後から来た白銀とゴン太もこれには驚いたのか凄い凄いと目を輝かせると、お皿をそれぞれ手に取り料理を乗せていった。

 

それら全てを用意したであろう東条の方に視線をやると「もしかしたら、明日は朝食を食べる時間がないかもしれないでしょう?これが最後かもしれないと思っていたらこうなっていたわ」と真っ当な理由が返ってきた。

 

「あれもこれもって、沢山取ってしまったすよ…」

 

「ククク…もしかしたら、食べきれないかもしれないネ?」

 

「そん時は俺が食べてやるから安心しろ!」

 

「まぁ、キー坊は食べられないけどねー」

 

既に食べている天海と真宮寺、百田と王馬の隣でキーボが「ぐっ…王馬君は絶対に訴えますからね」と悔しそうに拳を握り締めて…もはや恒例と化したやりとりをしているが、周りの食べる手は止まらない。

その隣で、赤松と春川はケーキを頬張りながら「次はあれを食べてみよう」というやりとりをしていた。

 

「見てる場合じゃねー…オレ様の分まで下手したら盗られる!」

 

早い者勝ちなバイキングで遅れをとるのは敗北に近しい。

アタシもお皿を片手に、整列された料理から気になるものを次々と取っていく。

その際に、同じように料理を皿に盛っていた星の足元に踏み台があった事にはそっと見ないフリをしてあげた。

 

「あれもこれも美味しいですね!さすが東条さんです!男死さえいなければ、もっと良かったのですが…」

 

「転子よ…ウチの把握している限りじゃと、お主さっきから甘いものばかり食べておらんか?」

 

ある程度確保して座る場所を探していると、お皿に料理を沢山盛り付けた茶柱と、その隣でジュースを飲む夢野からそんな話し声が聞こえてくる。

そんな2人の隣の椅子が空いていたので腰かけると「あー、そこアンジーの席なんだよー」と独特な料理の盛りつけ方をしたアンジーがアタシの目の前でぐいんぐいんと左右に身体を揺らしていた。

「へっ…そうなのか?」

 

「そうだよー。だからアンジーと椅子を半分こして使うー?」

 

「はっ!それなら夢野さん!ぜひ転子の膝に乗って食事を…」

 

「食いづらいから却下するに決まっておるじゃろ」

 

それはそれで見てみたいと思ったけれど、とにかくアンジーに迷惑かけるわけにもいかないから空いている椅子を探す。

皆が座っている所から少し離れるが、1つだけポツンと空いている席があるしそこにしよう。

 

「あー…座る場所取って悪かったな」

 

「アンジーは気にしてないからいいよー?」

 

それ下手したら神様の方は気にしているんじゃないかと思ったけれど、それよりもどうやって料理をタワーのように盛り付けたのかが凄く気になった。

 

 

1人でもっきゅもっきゅと食べていると「おはよう、入間さん」と最原に話しかけられた。

最原の持っている皿は他の男子達と比べると、料理の量が少ない。

なんせデザートが1つもない。

まさか食べ歩きしていたのかと思ったが、さっきまでは姿が見えなかったから寝坊してきたのだと勝手に推測した。

 

「お前、そんだけで足りんのかよ?」

 

「一応食べたいものもあったんだけど…」

 

言葉を濁しながら苦笑いを浮かべる最原の視線の先を辿ると、デザートの周りで陣取っている女子達の姿があった。

あの中に混ざるのは気が引けるという事か。

最原なら違和感なく溶け込めそうな気もするけれど、それでも茶柱がちょっとした小言を言いそうだもんなー。

やっぱり難しいかー。

ならば仕方がない。

 

「で、お目当てのものはあの中のどれなんだよ?」

 

「えっ?小さいティラミスのケーキだけど…」

 

「ふーん……あれか」

 

そうかそうかと頷きながら、アタシは椅子から立ち上がると最原に「他に座るとこねーなら、座れば?」と正面の空いている椅子を指差し、女性陣に混ざってデザートの追加をする。

 

「あっ、入間さん。この苺ケーキ、すっごく美味しいけど食べた?まだなら食べないと損だよ!」

 

「だったら、チーズケーキも食べたら?」

 

アタシが来た事に気づくと、真っ先に赤松と春川がアタシのお皿にそれぞれのオススメだというケーキを乗せていく。

アタシは子供か!?

 

「そういう流れならば、私からはガトーショコラをオススメするわ。もうすぐなくなりそうだもの。どうぞ」

 

更に東条にまで追加された。

だからあなたママって言われるんだよ。

口には出さないけれど。

 

「入間さんが末っ子キャラ扱い!?じゃあ、私も地味に便乗して…」

 

ノリノリな白銀からは抹茶ケーキを頂いた。

これは白銀なりの地味なチョイスなのか…?

じゃなくてだ。

 

「テメーらはオレ様の保護者かよ!?」

 

これ以上、勝手に乗せられてたまるかと皿を守るように頭上近くまで持ち上げたが、なぜかスライムタワーのように天井に向かって積み重なったモノクマーズに「お母ちゃんにあげるー」とフルーツヨーグルトを貰った。

……いつの間にいたんだ。

 

「……ったく、仕方ねーなー」

 

もう文句を言う気力もなくなり、もともと食べる予定だったものを追加しながらそれ以上は何も言わずに、関係ないはずの王馬からジュースまで手渡された。

東条が用意したドリンクにはない色をしてたし、絶対に混ぜているやつだ。

何と何を混ぜたのかは知らないけれど、ドリンクバーで小学生とかがやる遊びをここでやる?

あれか、嫌がらせか。

アタシがお前に何をした…拗ねるぞ。

 

ジュースは飲むべきか否かを自問自答しながらさっきまで座っていた席に戻ると、アタシが持っているジュースを見て「それは…?」と困惑した表情を浮かべた。

 

「知らねー。王馬のヤローに押し付けられた」

 

王馬の名前を出すと、最原の視線が哀れみと同情の籠もった複雑のものに変わった。

 

「それ……飲むの?」

 

「…………………………一口だけ飲んでみるか」

 

飲んだら何を混ぜたか分かるだろうし。

東条に報告するのはその後でも間に合うだろう。

王馬が東条に怒られるのは、アタシの中では確定事項だ。

 

「まっ、ジュースなんてどうだっていいんだよ。ほらよ」

 

最原の持っているお皿に取ってきたばかりのプチティラミスを運ぶと、最原から「えっ?」と間抜けな声が出た。

 

「わざわざ僕の為に取ってきてくれたの…?」

 

「オレ様が食べるデザートの追加だっつーの!どうせ行くなら、その方がいいと思ってだな……。なんなら赤松達から貰ったものもあるし、テメーがどーしてもって言うなら半分分けてやる」

 

自分でも不思議なくらいにモゴモゴと小さな声で言いながら、取ってきたデザートの殆どを最原の皿にのっけていく。

本当の本当についでだし、それ意外の考えなんて別にない。

 

「ありがとう、入間さん」

 

「お、オレ様にお礼を言う意味が分かんねーな。別にそんな事言われるような事してねーっての」

 

ふいっとそっぽ向きながら、プチケーキを口に入れていく。

…うん、オススメしてもらっただけあって美味しい。

いくらでも食べられそうだけれど、この後が怖いので食べすぎには注意しておかないと。

甘い食べ物は、時に女子の天敵になるからなぁ…。

それに比べて男子はそういうの気にしないのか、好きなだけ食べるよな。

 

お皿が空になってきた所で、難関かもしれない王馬の謎ジュースの入ったグラスを手に取る。

 

「それ、本当に飲むの?止めた方がいいと思うんだけど…」

 

「一口だけだし大丈夫だろ」

 

多分。

口直し用の水も用意しているし、準備はできている。

心配してくれている最原には悪いが、ちょっと挑戦したいという冒険心もある。

ワックワクのドッキドキには結局、アタシは抗う事ができないのだ。

グラスに口を付けて、少しだけ口に入れる。

 

「ゴフッ!?」

 

「だ、大丈夫!?」

 

少し飲んだだけなのに、結果は咽せた。

本当に何を入れたんだあのチビは……!

心の中で悪態の数々を呪詛のように飛ばしながら、水を一気に飲み込んだ。

なんっっだ、あの味!?

 

「上手く言えねーけど、口の中でオーバー・ザ・レインボー…いや、滅びのバースト・ストリーム??なんかそれぐらいヤバイ味がした」

 

あれは飲み物じゃない、ただのゲテモノだ。

物理的な飯テロだ。

これは酷い、酷すぎる。

水を飲んだのに、まだ変な感じがする。

正直、飲まなきゃ良かった…。

好奇心に負けたアタシが言っても意味はないんだけれども。

 

「ケーキ追加してくる」

 

「そんなに酷かったんだ…」

 

気になるのか謎ジュースを眺める最原に「好奇心に負けたら飲んでみれば?オレ様はオススメしねーけど」と言い残して、アタシはまた女子の輪に混ざりに行く。

そんなアタシと入れ違うように、百田がさっきまでアタシが座っていた席に座って最原と何やら話しだした。

アタシの座る場所取られたなーと思いつつ、百田がさっきまで座ってた場所で食べればいいかと切り替える。

 

またデザートを取りに来たアタシに「美味しいから、沢山食べちゃうよね」と赤松が真っ先に声をかけてきた。

アタシも「東条が作ったものは、なんでも美味しいからなー…」と肯定しつつ、残り僅かとなったデザートを皿に乗せていく。

 

「あっ、そうだ。入間さんに聞きたい事があったの。今まですっかり忘れちゃってたんだけどね」

 

「聞きたい事?」

 

なんのことやら想像もできず、首を傾げていると内緒話しでもするかのように、赤松が小さな声で「ほら、あれだよ!」と言ってくるけれど……どれの事やらアタシにはさっぱりだ。

 

「もう……だから、私と卒業するかどうか考えてくれた?返事を聞かせてほしいんだけど!」

 

そういえばそんな事あった………。

いや別に忘れてたとかじゃないけど、アタシなんでW主人公にモテてるの。

嬉しいけれど今は切実にどうするべきか困るというか、どことは言わないけれど別の時にモテ期きてほしかったわ。



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10日目②

アイスが美味しい季節になるの、早すぎじゃないかな…?


「悪いんだけど、オレ様には誰か1人とか選べねーから、3人で仲良く卒業とかできたり……しない?」

 

朝食バイキングが終わってから、アタシは赤松と最原を連れてと図書室にやってくるなり真っ先にそう言った。

最後の方が弱気になってしまったのは、断られた時の不安が出てしまったせいだ。

別にアタシが小心者というわけではない。

 

「「別にいいよ」」

 

一度お互いの顔を見合わせた赤松と最原は、アタシのそんな不安は余計だとばかりに即答したので、すぐに脱力することになったけれど。

 

「えっ、マジで?本当にそれでいいのか??オレ様の我が儘に付き合ってくれるの???」

 

「もちろんだよ!入間さんと最原君と私の3人で仲良く卒業っていいと思うよ。それに私からすれば両手に花!なんなら、この気持ちをピアノで表そうか!?」

 

「いや、そこまでしなくていいっつーの」

 

というか、両手に花なのはどちらかというと最原の方じゃねーの?

赤松からすれば、最原はヒロインなの?

否定はしないけど。

 

「僕としては思う事は色々あるけれど…それでもいいんだ。だって、悩んだ末の我が儘を言ってくれるってことは、少しは…その、他のみんなよりは僕らの事を想ってくれているって事なんだし」

 

言ってて恥ずかしくなったのか、頬を赤くした最原に思わず「はぅ…」と言葉にならない返事をしてしまう。

いや本当にすみません。

アタシは最原の心の広さに感謝すべきかもしれない。

 

「それじゃあ、これで決まりだね!私達は3人で卒業して…その後は同棲生活を始めるでしょ。で、最原君の探偵業を手伝ったり、私の演奏会で他のみんなと集まったり、入間さんの発明品のアイデアを出し合ったり……うんうん、いいんじゃないかな!」

 

「赤松さんのその日のオススメで、事務所に流す音楽を変えるってのも面白そうだよね。モノクマーズ達も来るんだよね?探偵事務所のマスコット的な存在になりそうだな…。依頼内容によっては、もしかしたら入間さんの発明品が活躍するかもしれないね」

 

「私もそれ思った!今から楽しみだよ!!」

 

どうしよう、赤松と最原の間でもう未来図が出来上がってきている。

気が早いというべきか、誰かこの流れを止めてくれと願うべきか……アタシ置いていかれてる。

そんな未来の話しで盛り上がっている中で、図書室の入り口から「話しは聞かせてもらったっすよ」と第三者である天海が割り込んできた。

どっから聞いてたのかは、怖いので聞かないでおく。

 

「あっ、天海君。天海君はやっぱりここから出たら海外を回るの?」

 

「そうっすね。もしかしたら、たまに最原君を借りる事になるかもしれないっすけど、その時はよろしくっす」

 

「妹さんの事だよね?もちろんだよ」

 

最原が力強く頷くと同時に、天海は「そういえば、最原君と赤松さんに言っとく事があるんすけど」と言いながら、なぜかアタシの頭にポンッと片手を乗せた。

あー……なんか面倒くさい事になる予感がする。

 

「入間さんと同棲したいというならば、兄である俺を納得させてからにしてほしいっす」

 

奇声を上げなかったアタシを誰か誉めてほしい。

今アタシの頭を撫でているこの人は、なんて言った??

 

「だとしたら、入間さんがもし誰かと付き合う事になるとしたら……」

 

「その時は、俺を倒せるような人なら許可するっすよ」

 

当たり前だと言わんばかりの顔で言い切った天海を見て、最原が「天海君が壁になるのか…。僕も少しは鍛えないと……」と深刻な顔で言ってたのは、この際聞かなかった事にする。

 

「天海君……いくら妹の入間さんが大事だからって、私達の素敵な未来に口出しするのは可笑しいんじゃないかな」

 

「待って、オレ様妹じゃねーよ?」

 

「赤松さん達は知らないみたいなんで、この際だから言っておくっす……妹達の口癖は『将来はお兄ちゃんと結婚する』なんすよ」

 

「なぁ、だからオレ様は…」

 

「天海君、兄気質の君なら『義兄さん』と呼ばれるのも悪くはないと僕は思うんだ。だったら…」

 

「俺をそう呼ぶ人が現れるには、まだ100年は早いっすね」

 

「…………オレ様泣いていい?」

 

誰もアタシの言葉を聞いてくれない。

お前らアタシの知らない所で誰かに洗脳でもされてるの?

なんで妹として認識されてるの?

もう本当になんなのさ。

誰が特するんだよ、こんな謎の会話。

よく分からないけど、モノクマのせいにしておこう。

そうだ、全部モノクマのせいなんだ。

 

思い出しライトを影で製造していた白銀の可能性もあるけれど。

 

「いいっすか、入間さん。赤松さんや最原君と卒業するのは認めるっす。2人とも良い人達っすからね。けど、卒業した後の同棲はお兄ちゃん認めないっすから!」

 

「何でオレ様が怒られてんだよ!?つーか、誰が誰の妹だよ!?」

 

シスコンこじらせすぎた天海には、今すぐ治療が必要だと思う。

主に本物の妹さんが今すぐ現れる勢いの荒治療で。

 

 

 

 

×××××

 

 

 

疲れた。

主にツッコミに。

なんでオレ様以外の全員に、アタシが天海の血のつながらない妹の1人と認識されているんだ。

誰だよそんな意味のない洗脳を施したのは。

ざっけんなチクショウ。

アタシが1人だけ間違えているみたいじゃないか。

いつからそんな認識がされていたからは知らないけれど、眠って明日になれば消える事を願う。

いざとなれば忘れろビーム(物理)を茶柱に頼む。

 

「うぷぷ……明日には期日だけど大丈夫ー?視聴者はだいぶ盛り上がっているみたいで、どこかで『誰が卒業するのかー!?卒業できないやつはいるのかー!?』って賭け事も起きてるみたいだよ。学園長のボクとしては、オマエラ全員留年させたいんだけどね。そしたら、ドッキドキのワックワクな学校イベントが……ハァハァ、想像しただけで……」

 

「モノクマかー……」

 

部屋で1人寛いでいると、ベッドの下からモノクマが突然飛び出してきてマシンガントークを始めた。

そういえば、モノクマはアタシ達のこの10日間の生活の中では余計な事は何もせずに、見守っていくポジションを徹底的にしていたなぁ……。

まぁ、本編みたいに暴れられるのは困るから、これぐらいがちょうど良いのかもしれないけれど。

 

「久しぶりに話し相手になってやったのに、その『なんだお前かよ』みたいな態度……。流石のボクもこれにはしょんぼりするんだけど」

 

「むしろ絶望できて嬉しいんじゃねーの?」

 

「イヤイヤイヤ……この程度じゃ、まだ絶望なんてできないね!むしろ絶望できない事に絶望するしかないっていうか……もう!何を言おうとしたか忘れちゃったじゃないか!」

 

なぜかモノクマに理不尽な事でキレられて、思わず「なんで怒るのぉ…?」と弱腰になってしまう。

こればかりは条件反射だ。

でもまぁ、モノクマの話しを聞くのが久しぶりな事は否定しないから、マスコットキャラクター扱いされてそうな学園長の話しに耳を傾ける事に……

 

「えーっと……そうそう、やり残した事とかはないよね?泣いても絶望しても明日は卒業式!このボクのキュートでプリティーで絶望を振り撒く姿が久しぶりに視聴者の目に写る日でもあってーーーー」

 

「さーて、明日に備えてもう寝るかー」

 

前言撤回。

どうでもいい話しをしそうだから寝よう。

 

「ちょっとー!?人の話しは最後まで聞かなきゃオシオキしちゃうんだからねー!?えっ、そもそも人じゃなくてクマだって?ヤダなー、ボクは学園長だよ?生徒は話しを聞くのが当然な義務なのさ。アーッハッハッハ!!まぁ、別にこれといって話す事なんてないんだけどさ。明日の発表をお楽しみにーー!!」

 

ベッドの下に引っ込んだモノクマを見送ってから、もしかして全員の所にああやって今夜は回っているのだろうかと考える。

変な所で律義というか、なんというか……

 

「で、この置いて行ったと思われる隠れモノクマはどーしたらいいんだよ!?」

 

ゲームしてた時には集めていた隠れモノクマだけど、リアルでは置き場所に困るというか、別にいらないかな…。

 

 

 

 



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卒業

紅鮭団完結!
ここまでのご愛読、ありがとうございました!!
やり切った感で灰になりそうです。

さぁ、僕はいろいろと落ち着くまで読む専門になるぞぉー


期日を迎えて朝から体育館に呼び出されたアタシ達が全員揃ったのを見ると、モノクマは「今日で約束の10日が経った訳ですが……」と話し出した途端、明らかに落ち込んだようにショボンとしだした。

 

「オマエラは全員……卒業できる事になりました」

 

やったと内心でガッツポーズを取りながらも、アタシは周りの反応を見ていく。

嬉しいと思いながらも、みんなモノクマの真偽をはかりかねているようで、この後に変などんでん返しが起きたりしないか不安になっているみたいだ。

けれどモノクマが「サブモードで無駄などんでん返しを、起こしたりはしないよ。全員卒業って言うのは、確かにボクとしては不本意だけどね…。まぁ、視聴者がそんな結末を望んだ結果だから、今更どうしようもないんだけど……」と話しながらヨヨヨと泣き真似をしだす。

 

おい、今サラッと息をするかのようにメタ発言出たぞ。

この意味に気づいているのがアタシだけだということで、変に発言できないのが辛い。

だけど、心の中で言うぐらいなら文句ないだろうと納得すると、アタシは腕を組むと口には出さずに叫んだ。

 

メタ発言も大概にしやがれ!!!

 

「ねーねー、なんでそいつらが、アンジー達の結末を決められるのー?」

 

「もうっ!そんな事はどうでもいいんだよ!夢野さんの魔法がどう見ても手品だってくらいどうでもいいんだよ!」

 

アンジーが出した疑問に、モノクマは顔を真っ赤にすると追求は許さないとばかりに大声で叫び、なぜか夢野に飛び火する。

すかさず夢野が「どうでもよくない!ウチが使うのは魔法じゃ!」と抗議するが、モノクマは聞いていないのか「この結末は、決して敗北って訳じゃないからね!」と誰に向かってなのかよく分からない事を言い出した。

 

「オマエラ全員に卒業されても全然悔しくないし、むしろ想定の範囲内っていうか…収まるべきところに収まって、逆によかった気がするっていうか……」

 

ブツブツと言葉を並べるモノクマの姿にドン引きしながらも、赤松がぽそりと「…完全に負け惜しみだね」と呟いた。

それがモノクマにはバッチリと聞こえてたらしい。

 

「だとしてもだよ!ボクは転んでも、タダで起きるようなクマじゃないからね。次にこういう企画を催す事があったら、その時に活かす事にするよ」

 

できれば、その次というのは今回のよりも平和であってほしい。

本編的な問題でだけど。

ていうか……アタシも結構メタ発言を心中でしてる。

モノクマの事言えない。

 

「まぁ、これ以上喋って本編と被るネタばらしをしても仕方ないし、ボクはこの辺でおいとまさせてもらうことにするよ。それじゃあ、バイナラ~!ダンガンロンパとモノクマは永久に不滅だよ~!」

 

そう言い残すとモノクマは姿を消し、残されたアタシ達は『よくわからない事を残して、モノクマ本当に消えやがった』という空気が流れた。

前言撤回。

やっぱりモノクマの方がメタ発言しすぎだわ。

 

「結局、俺らはここから出られるって事でいいのか?」

 

確認するかのように聞いた星に百田は「当たり前だろ!」と即答した。

 

「やっぱりナシだなんて言い出したら、オレが惑星軌道までぶっ飛ばしてやるぜ!」

 

拳を握り力説する百田のすぐ隣で、春川が呆れたように溜め息を吐きながら「あんたは最後まで口だけたね」と聞こえるかどうか微妙なほどの小声で零した。

 

「でも、ちょっとだけ…本当にちょっとだけなんだけど…ここを出るの、地味に寂しくない?」

 

白銀の呟きに「そう?普通に出られて嬉しいけどネ…」と真宮寺が首を傾げた。

 

「いや、わたしも当然嬉しいんだけど、もう少し、ここにいてもよかったって言うか…。ほら?ここの景色ってコスプレ映えするのが多いから、もう少し浸っていたいんだよね。みんなもない?そういう名残惜しい気持ち」

 

………本編の黒幕怖いって思ったアタシは仕方ないと思う。

だって、白銀の目からハイライト消えてる。

黒幕の顔出てるよ、頼むから引っ込めてください。

 

「…オレはここを出たら、もう1度檻の中だ。そういう意味では…確かに、ここでの生活に名残惜しさはあるな」

 

「離れ離れになるのは…ゴン太も寂しいな…」

 

「でも…ここを出たって、みんなで過ごした時間がなかった事になる訳じゃないよ?ここで手に入れたものを胸に、これからの生活を頑張っていけばいいんじゃない?」

 

励ますかのように言った赤松に「…手に入れたもの?」と春川が首を傾げた。

赤松はそれに答えずに「最原くんはわかるよね?私達がここでの生活で手に入れたもの」と話しを振った。

 

「…う、うん」

 

自分の方に来るとは思ってなかったのか、言葉に詰まりながらも頷いた最原を見て、思わず悪戯心が湧いたアタシはこっそり耳打ちするかのように「恋愛スキルと視聴率の事か?」と小声で最原に聞いてみると、最原は驚いたような顔をしたかと思えば何を考えたのか赤くなりながら勢いよく首を振った。

 

「…絆、だよね。こんな滅茶苦茶な事に巻き込まれなければ、僕達が一緒にいる事はなかった。でも、だからこそ…生まれた絆があるんじゃないかな?」

 

最原へのミスリードに失敗した事に残念な気持ちになりつつも、よくもまぁ、そんな恥ずかしい事が言えるものだと目を逸らす。

けど、そんな最原だからこそみんなが頼り、一緒にいて心地いいと思ってしまうんだろう。

 

「名残惜しいのは変わりねーが…あんたらとの記憶があれば、檻の中での生活も、少しは楽になりそうだ」

 

「ゴン太も、紳士を目指してますます頑張れそうな気がしてきたよ!」

 

名残惜しいとさっきまで言っていた2人の変わりように、東条が微笑んだ。

 

「それに、ここを出たからといって、永遠に離れ離れになるわけではないわ。依頼があれば、私はいつでも駆けつけるわよ」

 

東条のそんな一言に感化されたかのように、王馬が「みんなに会えて、本当によかったよおおおおぉ!みんなの事、これからも大好きだからねー!」と泣きじゃくりながら、アタシの制服の袖で顔を擦る。

アタシの衣服は、テメーのハンカチでもタオルでもねーから今すぐ止めろと言いたかったが、黙り込んだ白銀が気になって何も言わなかった。

 

「そっか…みんながそれでいいなら…」

 

そこから先は聞き取れず、アタシはふっとこの10日間を思い返す。

 

フィクションのような滅茶苦茶な状況で生まれた絆。

 

アタシという存在がいつこの身体から消えるか分からないという恐怖と、もし本当の入間美兎が主導権を取り戻した時の不安。

 

でも、それでもみんなならば乗り越えられるんじゃないかという信頼。

 

ならば、そんな時が来るまでアタシは彼らと同じように、ここで得た嘘偽りのない絆を大事に抱えていこう。

だけど………真実はいつかちゃんと語ろう。

今はまだ無理だとしても。

 

決意を胸に秘め、アタシの……アタシ達の才囚学園での不思議な生活は終わりを告げた。

この後にどんな日常があるのかなんて分からない。

 

 

それでもきっと……

 

 

 

 

 

 

 

その日常はとても、輝かしくて、愛おしいものなんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

「テメー!またオレ様を除け者にしやがって!」

 

「はい~~!?アタシは忠告したけど?『天才のオレ様に限って、同じ間違いはねーぜ!』とか言ってアタシの言った事無視してマシンを起動させたのは、ど こ の ど な た でしたっけ?」

 

もはや日常となっているアタシ達の姉妹のような言い合いに、一室に集まった面々は『また始まった』とばかりに笑って見ていた。

それに不服だとは思ってはいないが、そういう素振りだけ見せようとアタシは「フン!」と鼻で笑ってそっぽ向くと、まだ何か文句を言ってくる彼女の声を遮断するかのように、こちらからの操作でパソコンの電源を落としてやった。

 

今ごろ彼女は地団駄しているだろう。

ザマアミロってやつだ。

 

そんな事を考えていると、フフと自然と笑みがこぼれた。

今頃、みんなさっきの恋愛バラエティーの紅鮭団の話題で盛り上がっているのかな。

これを機に、素直じゃないあの人達の関係に進展があればいいな。

後でこっそりみんなの元に戻って確認しよう。

 

楽しみだとばかりにテンションが上がっているアタシだったが、ふと気づいた気配に平静を取り戻す。

 

アタシの居城たるこのネットワークエリアに、来客が来たようだ。

そうだ、折角だし彼女に頼んで作って貰った……彼らの学園、又は修学旅行のifの絆を育むゲームを振る舞おう。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、アタシの退屈でツマラナイ……けど、希望と絶望が行き交い、真実と嘘が混ざり合う、そんな愛すべき日常で…。誰も知り得ないその先を確かめるとしようかな!」

 

 

まずはその一歩を。

以前よりももっと、固い絆で結ばれた16人と一緒に。



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