(旧)ユグドラシルのNPCに転生しました。 (政田正彦)
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第一部《主人公に原作知識がある場合》(リメイク待ち)
転移まで(1/3)


第一部の全編リメイク版が、9月15日より、更新開始となりました。
今現在これを見ている方は、そちらをお読みになることを推奨致します。


https://novel.syosetu.org/114385/32.html


 私の名前は好豪院英梨(こうごういん えり)

 いたって普通の……ちょっとアニメとか漫画とか、そしてその二次創作が大好き、特に異世界物とかが大好きな、ごくごく普通~~~の女子高生……でした。

 

 でしたっていうのは……まぁ、何ていうか……。

 

 私、今、オーバーロードの世界でNPCやってます。

 

 異世界転生ってやつ、ですかね~……アハハ……。

 ……笑えない。

 

 え?どうして転生したのか?そんなのこっちが知りたい。

 こちとら明日も普通に学校に行こうとしておやすみなさ~いってベッドに入って目が覚めたらこうなってて意味がわからないなんてもんじゃない。

 

 ゲーム最終日にログインしてたら異世界転移したモモンガさんもビックリですよ。

 

 いや、しかも何かただの異世界転生ではなくて、某遊びじゃないゲームみたいに、ゲームの中に閉じ込められてしまったらしく、他の皆さんは普通にユグドラシルを楽しんでいるのに対し、私の扱いはプレイヤーではなくNPC。

 

 ……つまりログアウトなんか出来ませんよ、と。

 

 はい、意味が分からない。誰か説明してくれ。むしろ代わってくれ。

 しかもこの世界が憧れのオバロの世界で?ユグドラシルっていうゲームで?そのゲームの中のNPCとして転生して?原作のキャラの人たちと出会って?

 

 ……ふぅ……一言だけいいですか?

 

 本気(マジ)で意味が分からない。

 

 

 

 あー……えっと、そうですね、今は説明するよりも、当時の私の様子を見てもらった方がわかり易いと思います。

 

 というわけでですね、こっからやっと本編……ていうか本編までのプロローグ?かな?が始まります。

 

 

 これは、ユグドラシルのNPCに転生した私の物語が始まります。

 

 

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===

 

 

 

 

 チチチチチ・・・・

 

 

 私がその重たい瞼をうっすらと開くと、どうやら今日は気持ちのいい晴天らしいという事がまず頭の中に入ってきた。

 

 遠くで小鳥の鳴き声が聞こえ、森の木々がざわざわと風に揺らめいて擦れあう音が聞こえる。

 

 日差しが差しており、私を照らしているようだが、そこに、思わず手で遮ってしまいそうになる程の熱は無い。

 熱くも寒くない気候、風も吹いているのか吹いていないのか分からない程度でしかない。

 

 「くぁ……」とあくびをして一つ、背伸びをする。

 

 そこでようやく違和感に気付く。

 

 本来そこで目に入るハズなのはこんな大自然の森の中の景色ではないはず。

 

 おおよそ女の子の部屋というよりは、好きなアニメキャラのポスターだとか、キャラグッズ、フィギュアなんかが置いてある、ヲタ女の部屋、それが目に入ってきて然るべき光景。だが現実は違った。

 

 

 はて、私はいつからこんな草むらの中で寝ていたのだろうか?

 ……と、そこでようやく周囲に目を向けて……。

 

 「ここ……どっこやねん……」

 

 唖然とした。

 

 

 えっ、も、森の中?え?私普通に自宅のベッドで寝てたよね?

 あれ?夢かな?と思い試しに頬をツネって……ホラ!!やっぱり痛くない!!なぁんだやっぱり夢じゃないかと、ホッと胸をなで下ろす。

 

 

 

 ……その割にはやけに意識がはっきりとしている。

 いや、あ、あれよ、多分きっと、ほら、明晰夢ってやつだ。

 

 

 以前夢に関する本で、明晰夢かどうかが判別できる方法として簡単なのは、爪に「伸びろ~」って念じる事だったと思うのだが、今やってるけど全然できないんですがそれは?

 

 ……うむ、時に本が間違っていたりすることはよくある事だ。よくよく考えれば、女子高生が好む頭のふわふわした感じの雑誌の話だったような気もする。

 

 全く当てにならない雑誌の知識に騙されて憤慨し、目覚めたら真っ先に「適当な事を書くな」とコメントを送りつけてやろうと心に決めた。

 

 あ、それか、想像力が足りないってことか?う~~~んそれにしては森とかすごいリアルだが……。

 

 

 

 ま、いいや、とりあえず、夢の中なんだし、覚めるまで夢の中を探索して遊ぼ~っと……イタッ!……くはないけど、クソ~この年になって見事なまでに転んじまうとは……誰も見てない、よね?

 

 夢の中でまでこんなドジを踏むなんて。

 

 

 

 

 

 そしてそのまま森の中をさまようこと……時計がないので正確な時間は分からないけど、今まで見た夢の中ではいっちばん長い夢だなぁ~っと思い始めてから更に結構経った頃。

 

 

 ……あ、あれ?おかしい、全然目覚めない。

 どっゆことやねん……?

 

 よし、落ち着け、まずは状況確認だ。

 

 

 よくよく見て見ると、周囲の状況以外にもおかしい点がある。私自身、見たこともない洋服来てる点だとか……肌が妙に真っ白である所とか……おおお、おっぱいがでかくなってる所とか、更には「何か口の中に違和感を感じるな?」と思い、いーっと歯をむきだして触ってみると、歯が「これで紙とか切れるんじゃない?」と思う程鋭く尖っていた。

 

 もしこれで眼も赤ければ、私、ただのヴァンパイアなんだけど……。

 うん?女の吸血鬼もヴァンパイアでいいんだっけ?

 ドラキュリーナ?ヴァンピレス?どちらもしっくりこないな。

 

 こういう時近くに都合よく水溜りとか池とか……とにかく自分の姿を確認できるものがあればいいのだが。

 

 とりあえず、明日学校行ったら絶対この事自慢しちゃおう。フヒヒ。

 

 

 ……まぁきっとこんなにぐーすかねてる時点で遅刻確定だろうけど。

 おーい?起きろ私~そろそろ起きないと遅刻だぞ~。

 

 

 

 しばらくして、まず夢から目覚める為の代表的な方法として有名なのは頬をつねる事だと思い出し、実行する。

 しかしよく考えたら始めてきた時にそれをやって目覚めなかったのだから今やって目覚める道理はない。

 あとは……目を閉じたり開いたり、とか?

 

 そんな事を色々と試す。

 

 果ては弱めのビンタを私の頬にお見舞いするが、目覚める気配はない。

 

 

 

 ……はぁ……起きれない。

 

 起きれない、という事自体は冬に布団から出られなくて二度寝してしまい夢の世界へなんて事は何度もあったから慣れてるのだが、夢の世界から出られなくて寝過ごすなんて言って誰が信じてくれるだろう?

 

 私ですら信じられない。

 

 

 ほとほと精神的に疲れ果て、もうどうにでもなれという気分になる。

 このまま夢の世界を楽しむというのもアリかもしれない。 

 流石にいつまでも目覚めない私をいつかは母が起こしてくれるだろう。

 

 

 そうと決まればと森を散策を初めて歩いている時、唐突にそういえばヴァンパイアならもう一つ、特徴があるではないか、と思い出す。

 

 ヴァンパイアの数ある逸話の中には闇夜に紛れて空を飛んだり、ゲームの中のヴァンパイアの設定ではよく、空を飛翔する事が出来るヴァンパイアが多い。

 こう……翼とかマントとかで、《バッ》!!っと……バッ……?

 

 突然布を勢いよく広げたような音がして背後を見る……と、背中に、バッサバッサと、それっぽい翼が……えー?すっごいリアル、触ってもいい?

 

 触ってみてもやっぱりリアルである。

 温度とかはわからないが、「触っている」「触られている」という感覚はある。

 

 

 ひょっとしてこれ、飛べるのでは~?なんて思い立つ。飛べないか試せないか……いや、夢の中だし!いいよね別に!と覚悟を決めて全力で空へ飛び立つ。

 

 

 《ピョンッスタッ》……《ピョンピョン》《バサッ》《バッサバッサバッサ》

 

 

 飛べませんでした。

 

 うん……まぁ知ってましたけどね? 

 

 い、いや、私がまだ飛び方を分かっていないだけで、夢の中で飛べない何てこと……ほら、飛べ、飛べ!もういっそ飛べなくてもいいから浮け!せっかくの夢の中で遊ぶチャンスなんだからさぁ!!アイ キャン 【フライ】《ブワッ!!》~~~~~~~~ッ!!!!??

 

 

 「キャアアアアアアアアア~~~~~~!!!」

  ャアアアア~~~~……

  アア~~~……

  ア~……

  …… 

 

 

 その瞬間、どことも知らない森の中で、一人の少女の悲鳴が響き渡った気がした。

 実際にはあまりに突然の事だったのか、声など出ていなかったが。

 ……まぁ本当は声なんて私に出せるわけがないと知るのはもう少し後である。

 

 木々ににぶつかりそうになりながら、その間を縫うように飛び回り、なんとか無事に……いや、頭から地面に不時着した。

 

 控え目に言って死んだと思った。

 

 え?何?これひょっとしてフライっていう単語に反応した感じ?

 どんなシステムだよ私の夢!!そして怖かったよばーか!!ばーかばーか!!

 

 しかしそうとわかればこっちのもの。

 

 再びフライと心の中で詠唱して宙に浮かび上がる。

 すると、案外楽に飛べるようになり始めてきた。

 例えるなら、水の中を自分の体を動かすことなく、何か魔法の力で泳ぐような感覚。

 慣れれば楽しいもんだね。

 

 ……まぁでも、温度も風も感じやしないんだけどさ~。

 

 

 ……?

 

 おっ、あっちに街があるやん!?

 すご~い!あれなんか外国っぽい!RPGとかで出てきそうな感じが私の好きな世界観にドストライクでやばい!!オラ、ワクワクすっぞ!

 

 新たな指標、目的地を手に入れた私は、さながらお前それどこの戦闘民族?みたいな飛び方で街までひとっ飛びだぜ!!や~、登下校時にもこれが使えればいいのにな~なんて益体の無い事を考えながら。

 

 

 途中、スピードを出しすぎて少しバランスを崩した。

 

 むう。

 

 

 と、街についたわけだけど……人も結構居るんだね?

 夢の中だからか、お空を飛んで来たことに対しては全くの無反応だけれども。

 

 おっ、第一村人発見。

 こんにちは~っと挨拶する為に近寄ってみる。

 

 「ようこそ!ここはユポソンの街だよ」

 

 ……?あ、はぁ……さいですか……?

 よくわからないままお辞儀をしてその場を後にする。

 

 夢の中初の村人とのコミュニケーションだったが、色々と突っ込みどころが満載である。 えっと、まずなんで表情が一ミリも動いていないのでしょうか?口も動かさずに喋るとか器用だね君!腹話術かな?

 

 とはいえ、夢の中だし、しょうがない、のか?

 

 よく見れば他の住人の皆さんも、表情が一ミリも動いていない。

 そんな光景を見ていると、なぜだろう、なんだがとてもRPG臭がする……。

 もう一度話しかけても同じ事言うのではないかとふと思ったが、不自然だし、やめといたほうがいいだろう。

 

 そのまま、気にせず街の中を散策……ほおおおおおおすっごい……まるでRPGのよう……それ何回言うねん……でもすごい……中世っぽいと言えば伝わるだろうか、良くある、それこそ異世界が舞台のRPGにピッタリな世界観だ。

 

 日本じゃ絶対見られないよこんな光景。こんな光景を夢に観るなんて、これはもう完璧に私が心の深い所でこういうとこ行きたいな~って思ってるからに違いないね。

  

 

 ……ただ夢の中だけあって行き交う人たちみんな格好がカオスなんだよね~。

 エルフっぽかったりドワーフぽかったり、果てはなんかもう良く分からないぐちゃぐちゃした「お前それどう言う原理で動いてんねん」っていう化物まで闊歩して……うおっ!!?なんかスケルトンまでいるじゃん!?

 

 まぁでもオバロでスケルトンは見慣れてるから全然平気だけどね~。

 

 つかよく見たらあのスケルトン顎めっちゃ尖っててモモンガさんそっくりじゃん!やっぱり私の夢だけあって、スケルトンっていったらあの顔なんだなぁきっと。隣にいる銀色の騎士さんなんか私の想像の中のたっちさんぽくて好き~。

 

 

 思わず凝視してしまったが、あんまり見ているのもなんだかな、と思い、再び街へと視線を移す。

 

 

 

 「た、たっちさん、今なんかあっちのヴァンパイアの娘にすっごい見られたんですけど……」

 「うん?気にすることないさ、ここではフレンドリーファイアはもちろんの事PL同士での戦闘が出来ない初心者御用達の街だからね」

 「成る程……あっ、じゃあ、ひょっとしてあの娘も初心者なんじゃ?なんかすごい回りをキョロキョロしてるし」

 「いや、それにしては凝ったキャラメイクをしているんだけど……イベントが早く終わってしまって暇だし、行ってみようか?」

 「ですね」

 

 

 

 

 さて、さて、次はどうしよう?

 どこへ行こうかなぁ……。

 

 「ねえ、そこの君」

 【わひゃっ!?は、はい】

 

 「(あれ?メッセージウィンドウ?音声ではなく?……だとしたらNPCか?でも、名前が表示されていないし……。)……何か困った事でもありましたか?先程から何かを探しているようだけど……」

 

 【い、いえ……その……えっと……】

 

 

 どどどどうしよう、まさか話しかけられるなんて。

 しかもあの至高の御方の一人、モモンガさん(っぽい人)に!

 緊張しているのか、上手く声が出せない。

 いや、上手く、というか、全く声が出せない。

 

 

 「えーと……たしかNPCの情報を見るには、こうだったっけかな?ちょっと失礼しますよっと」

 

 なっ何?なんか出てきた。

 

 ▲▽名前:エレティカ=ブラッドフォールン▽▲

 齢:0

 性別:女性

 種族レベル:ヴァンパイア:lv1

       真祖(トゥルーヴァンパイア):lv1

 職業レベル:ワルキューレ/ハルバード:lv1

 

 

 説明:

 大昔にこの近くに存在していた亡国で不幸にもその命を落とし、数年、あるいは数日、はたまた数分前に蘇ったばかりのトゥルーヴァンパイアであり、死んだショックのためか、別の要因があるのか原因は不明だが、記憶が無く、行くあてもなく森を彷徨っていた所で、街へ迷い込んでしまった存在である。

 

 

 「……だそうです、たっちさん」

 

 「NPCだったのか……ランダムで出現するのかな?少なくとも前ここに訪れた時こんなNPCは見なかったし、それに……凝ったキャラメイクをしているから、リアルの友人を探している人なのかと思っていたのだが……」

 

 何を言ってるんだろう、この人たち、っていうか今目の前のモモンガっぽい人、たっちさんって言った?いや、まさかそんな、でも私の夢の中だとすればありえるけど。

 

 けど、この板(空中に浮かんでいるのはもはや気にしない)文字が全部裏返しになっているけど、レベルとか種族って文字が見える。そして、名前の欄……これ、ひょっとして、「ブラッドフォールン」って書いてないか?

 

 

 ひぇ、よくできた夢だこと。

 

 

 ブラッドフォールンと言えば、私が大好きな小説、「オーバーロード」に登場するキャラクターの一人、シャルティア=ブラッドフォールンと同じ名前ではないか。

 目の前の人物も、名前を教えてもらったら実はモモンガとかたっちみーとか、あるいはモモンとか、ぎぶみーとかそんな名前だったりして。

 

 「非敵対の証に名前の文字が赤でも白でもない黄色だから、とりあえずプレイヤーの敵ではないみたいだね。ヴァンパイアってのが怖いけど。……まぁそれは同じ異形種である私たちが言えたことではないか」

 

 「そうですねぇ……どうします?とりあえずギルドの皆に報告……」

 

 「お~い、モモンガさん、たっちさ~ん!!俺も今イベントクエストを終えまし……うおおおおおおおお!!!??」

 

 

 

 

 二人の会話に割っては入れずに困惑していると、後ろから、まぁやっぱりというべきか、モモンガというらしい人とたっちさんを呼ぶ声が聞こえたので後ろへ振り返ると、なんとそこには騎士風の装備を着たバードマンが居るじゃないですか。

 

 たしか、シャルティア・ブラッドフォールンの製作者も、バードマン。

 もし名前がペロロンチーノだったら……。

 

 

 「な、なんですかこの……超絶かわいいヴァンパイアっ娘さんは!?お、お名前は!?この際中身おっさんでもいいんで結婚してくださいませんか!!?」

 

 「ちょ、ペロロンチーノさん落ち着いて、この子、NPCですから!!」

 

 

 少し間を置いて、「NPC……?」と静かにこぼしながらそのバードマンは、困惑するモモンガさんと、やれやれと言った感じで「NPCだよ」と肯定するたっちさん、そして眼をぱちくりさせている私、と何度かバードマンの目線が行ったり来たりしてから……。

 

 「……まじで?」

 「「まじです」」

 「えーと……どこのギルドさんがお作りになられたNPCちゃんなのでしょうか?」

 「公式のNPCです」

 「……まじで?」

 「「まじです」」 

 

 バードマンは膝をついて、出ないはずの涙を流しながら「オォォォォ……」と嗚咽を漏らしながら、「こんなの、こんなのってないよぉ……!」とさめざめ泣き始めた。

 いや、表情がまるで動いていないので顔は泣いていないのだが、明らかに嗚咽を漏らして肩を震わせながら腕を地面に叩きつけているあたりかなりの悲壮感だ。

 おまけにあからさまに「悲しい」と言いたげな表情のアイコンまで飛び出る始末である。

 

 

 「あーもう、泣かないでくださいよペロロンチーノさん……」

 

 「だって……だってさ……どこ探しても居ないからもうこの際自分で作ろうって思ってた理想のキャラクター像にピッタリの人物がそこに立っててさ……それなのにNPCって言ってさ……もうわけわかんないよね……普段からこういうNPCを作れよ……ちくしょおおぉぉぉぉ……」

 

 「まぁ、確かに本当にNPCか疑いたくなるレベルで凝った作りしてますよね……」

 

 いや、そんなこと言われても困るわ。

 っていうかNPCじゃな……え、NPCなん?私?そういやさっきも喋ったらメッセージウィンドウみたいなのが出てたな、この人たちは普通に喋ってるのに。

 

 もしかしてNPCだから声が無い?その代わりに文字がピョインッと出ているというのだろうか?だから声が出ないのか?

 

 「……いや、これ、本当にただのNPCか?」

 

 「えっ!?どういう事です!?」

 

 「いや、この子、中のAIが素人目で見ても、尋常じゃないクオリティーだ。

 さっきペロロンチーノさんが全力で走ってきた時に気づいたんだが、顔のグラフィックにわざわざ差分をつけたって事なのかは知らんが、表情に変化がつけられていたんだ、「困惑している」という顔を。そもそも、自分じゃない者に対して呼びかけたのに、そっちを振り返ったのを見るに、声に反応して振り返るなんて機能がついてるって事じゃないか」

 

 「た、確かに……!……てことは、何か今後のアプデやイベントクエストにこの子が関わるかもって事ですかね?」

 

 「それか、何かのイベントに使う予定だったけどボツになって、もったいないから隠しキャラとして登場させた、とか……」

 

 

 

 だ、だめだ、全然話についていけない。

 つまりどういうことだってばよ?

 私について何か話してるのは分かるんだよ。

 それと、私がNPCにしてはすごい細かい作りをしてるって事も分かったけど……あれ?話の内容理解してんじゃん、やっるー私!

 

 ……じゃなくて、これ、完全に、オバロの……モモンガさんが転移する前の世界、だよね、ユグドラシルっていうDMMORPG?の。

 

 つまり私、その……ユグドラシルのNPCになってしまった……。

 

 

 

 

 ……という夢を見ているってことか!!?

 

 な、なんだそりゃ……せめて42人目の至高が良かったよ!!!

 NPCてなんやねん!?中にちゃんと人入ってるっつーの!!!

 

 そりゃその辺のAIが詰め込まれただけのNPCに比べたら表情も豊かだろうし反応も、それこそ数え切れないバリエーションがあるでしょうよ!!

 

 「詳しく調べたいけど、公式が作ったNPCに対しては、ツールって使用出来ないんですよね……」

 

 「くっそー、もしプレイヤーだったら絶対ギルドに誘ったのになぁ……」

 

 そう言いながらペロロンチーノさんは残念そうにため息をついた。

 

 って、あれ?なんか諦めムードになってません?

 でもまぁ、もしも私がプレイヤーとしてここに閉じ込められたーとかならまだしも、NPCだしなあ、ついていくってのも無理なんだろうか。

 

 ……待てよ?ついていく?

 仮にこの人、モモンガさんやたっち・みーさん、ペロロンチーノさんに、アインズ・ウール・ゴウンに付いていったとして……そうしたら、どうなる?

 

 ここで、私はオーバーロードのおおまかなあらすじを思い出した。

 

 そうだ、このゲーム、ユグドラシルが終わる時、モモンガさんがナザリックと異世界に転移して……そこから物語が始まるんだ。

 そこでは、もちろん原作なのだから、原作のキャラクターが、たくさん登場するわけで、そこには私の好きなキャラクターだとか、私が「もうちょっとこの人の運命はどうにかならなかったのだろうか」と不憫に思ったキャラだとか、二次創作で取り上げられていた「こんな物、あんな物があるのでは?」という謎の多い世界。

 

 ……い、行きたい。

 

 

 ゆ、夢でもなんでもいいからすっごい仲間入りたい!

 夢でもプレイヤーでもNPCでもいいから異世界行きたいです!!

 アインズ様万歳したいです!!階層守護者の皆とかにも会いたいし!!

 もうこの際異世界に行けなくてもいいからアインズウールゴウン入りたいですぅ!!

 

 思わず、私は手を伸ばし、今にも立ち去りそうだったバードマンの服の端をつまむ。

 頼む、置いていかないで、という念を込めて、少々わざとらしい位眼に涙をためて。

 

 「うーん……《ギュッ》……ん?う、うおおお!?なんか、服の端を掴まれてるんですけど!?やべめっちゃ可愛いなんだこれ鼻血出そうリアルの身体にダメージ行きそうやばい」

 

 「うわぁ、いいなあペロロンチーノさん……じゃなくて、すごいな、このNPC」

 

 お願いだから連れてって!!ペロロンチーノさん!!頼みますよ!!

 

 

 「ん!?」

 

 

 なんて言ってついて行かせてもらおうかと考えて、もうこの際知らないけど隠しクエスト的な扱いで「私を連れて行ってください」的な事を言おうとしたら、うしろのたっちさんから驚きの声があがる。

 

 

 「こ、これを見てくれ!!」

 

 「どれど……え?」

 

 「なんですか今説明欄なんて見てる場合じゃ……えっ?」

 

 促されるがままにその……ボード?コンソール?に目を向ける二人。

 その視線に釣られるように、思わず私も振り返ってそこに視線を合わせる。

 

 

説明:

 (前略)

 行くあてがなく、自分の主となってくれる存在を探している。

 もしあなたにその気があるなら、彼女を雇う事ができるだろう。

 

 

傭兵:

 彼女を雇いますか?

 

 【YES】【NO】

 

 雇うために必要な資金:金貨50000枚

 

 

 

 

 

 「……えっなにこ《ピッ》ペロロンチーノさん!!?」

 

 「うおおおおおやったあああああああああああ!!!!!!」

 

 「ええええええ……?こんなのってアリなのか……?」

 

 

 そこに書かれていたのは私が傭兵NPCとして雇える、という情報であり、それを見たペロロンチーノさんが速攻でコンソールを操作、瞬く間に契約を完了してしまった。

 

 良く分からないけど、これは、私はペロロンチーノさんに雇われたって事、イコール、仲間になった、連れてってくれるって事、で、いいのかな……ええと、それじゃあ……。

 

 

 【エレティカ=ブラッドフォールン、御身に絶対の忠誠を誓います】

 

 「「「重ッ……!!!」」」

 

 あれ、ナザリックのNPC風にやってみたんだけど、ダメだったようだ。

 

 

 こうして、私という、エレティカという名のNPCは、アインズウールゴウンで唯一、「特別な条件を満たす事で傭兵として雇うことができるNPC(多分そうだと思われるけどぶっちゃけよくわかんない)」として、アインズウールゴウンの支配下にあるNPCとなったのであった。

 

 …………ところでこの夢いつになったら覚めるんだろうなぁ……?




ちょっと修正。

あと、最近原作第一巻を買って、本当に傭兵NPCが居るんだと感激しました!!

やったね、これでぼっちな人も寂しくないね!!


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転移まで(2/3)

特別な条件を満たすことで仲間にできるNPC、エレティカ=ブラッドフォールンとして生まれ変わってしまった主人公!一体これからどうなっちゃうの~!?


 どうも皆様、こんにちは、エレティカ=ブラッドフォールンです。

 アインズ・ウール・ゴウンが一人、ペロロンチーノさんに拾われました。

 

 「はぁ~エレティカたんぐうかわ……」

 

 そういうバードマン、ペロロンチーノさんは無表情だけど感情表現のアイコンが「にっこり」のアイコンが出ており、声色からもかなり緩みきった表情をしているんだろうなと思う。

 

 【ありがとうございます、感激の極みです】

 

 「ぐうかわというワードにもちゃんと反応してくれるエレティカちゃんほんと神……はぁ……ただ、ギルドのNPCじゃないから自分で育てないといけないし、設定も改変出来ないから、ちょっと不便……まあその分思い出は増えるんだけどね!」

 

 えっと、というわけで、今はレベリングの最中。

 見たところまだギルドの方々は辞めてる人もちらほらいるかなー?位で、人数はまだ多い方の時期なんじゃないでしょうか?

 

 ですが、メンバーは41人より少しだけ少ないです。

 

 つまりは、今このアインズ・ウール・ゴウンは最盛期ではない、という事。

 

 異世界に転移して自分の意思を持ち始めたNPCが呼ぶ「至高の41人」とは、最盛期にギルドに所属していた41人の事を指すため、41人よりも少ない、ということは、まだ最盛期に突入していないか、あるいはもう既にメンバーが減り始めたと考えるべきでしょう。 

 

 

 そこから導き出される物、それは、異世界入りするまでは……私がNPCでなくなるまではまだ時間がかかりそうだねって事である。

 

 「うんうん……えーと、それじゃあ、今日はここまでにしよっかな……じゃあ、おやすみ、エレティカ~」

 

 【おやすみなさいませ、ペロロンチーノ様】

 

 

 最初こそペロロンチーノ様とのコミュニケーションに不慣れだったり、私のAI?に興味を持ったらしいヘロヘロさんとかその他クリエイターさんの至高の方々や「チクショウ!!俺がその場に居れば絶対エレティカちゃんを俺のものにしたのに!!」みたいな事まで言ってくる至高の方々まで居て本当に混乱したけれど、私は元気です。

 

 

 ……あぁ、そうそう。

 

 

 

 

 

 

 どうやらこれ夢じゃないっぽいね(今更)

 

 

 

 やっべー……これ、あっちの身体はどうなってるんだろ?ちゃんと生きてるんだとしたらそれはそれで怖いしアレなんだけど……まぁ多分死んでんだろーなー……結局何故寝ているうちに死んでしまったのかはわからないままだけど、下手に、こう……トラックに轢かれて~とか、電車のホームで後ろから押されて~とかいう他人に迷惑になる形じゃなくてよかったよね、うん。

 

 よくある異世界転生物だと「うっかり神様のミスで交通事故に遭って死んじゃった!責任とって次の生ではチート級の異能を持たせてあげるね(はぁと」とかいうものがあるので、いや、それも作品としては大好きなんだが、いかんせん、その、主人公の知人である残された人、主人公の家族、友人、恋人、そしてなにより主人公を轢き殺した運転手があまりに可哀想である。

 

 ……あぁ、でも、居眠り運転だった~とか、そもそも通り魔だった~とかは別として。

 

 まぁどうして私がこんな事になっているのかなんてのは今考えても分かることじゃない。

 ある意味主人公であるモモンガさんよりファンタジーな異世界転生をしているんだが、それも今は置いておこう。

 

 さてさて、で、今現在の私の現状ですが……。

 

 

 まぁ、彼らの、ギルドとしての私の扱いとしては、「ある特別な条件を満たすと仲間にできる傭兵NPC」だと解釈されたらしく、「運良くボツになったキャラクターの良質なAIを持たされているのか、あるいはそのまま流用されているイベントキャラクターがそのまま傭兵NPCとなった」という結論に至ったらしい。

 

 まぁどっちにしても私はちょっと人間らしい動きをしすぎたので、最近はちょっと動きに法則性?をつけたりしているけれども。

 

 部屋にあったでっかい鏡を見るに、格好はやはり、ブラッドフォールンがついているからなのかは知らないけれど、シャルティアによく似ている。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 違う部分といえば、まず髪型こそ同じような感じだが、髪が銀髪ではなく、赤い。だがつむじから毛先にかけて、銀のグラデーションがかかっている。ヘッドドレスはない。赤に染めてから銀色の髪が生えてきたみたいな感じといえば伝わるだろうか?眼は赤紫色。体格は……巨乳ロリ。

 

 えっ、本物かって?それは……乙女の秘密です。

 嘘です、R18規定みたいなものがかかっているらしく、例え自分のお胸であってもモミモミしても感覚がないため、確かめる術がないだけです。

 

 あとは、まぁ、吸血鬼だからかNPCだからかは知らないけれど、睡眠を必要としていない、というのも変わった点といえば変わった点、しかしなんというか、睡眠を全く必要としない身体は奇妙な物で、それでも一応寝た方がいいのではなんて思わされる。

 

 あとは……なんだろうな……多分私はこのまま何年かしたらモモンガさんと一緒に異世界に飛ばされるんだろうし、そしたら、純粋なトゥルーヴァンパイア、アインズウールゴウンの下僕としての生を受ける事になるんだろう。

 

 そういう意味では、幸いだった。ここがアインズウールゴウンだった事が。

 

 もし知らずに適当なギルドか冒険者に拾われてたかあるいはペロロンチーノ様に出会わずにあのままだったらと考えると寒気がする。

 

 きっと私はデータ扱いで消滅してしまったのではなかろうか……。

 

 まぁ、そんなこと言ったら私が無事に異世界に行ける保証もないんだけれど。

 

 

 ……あ、やべ、この件、なしなし、考えんのやーめた。

 

 

 えっと……それから、私は、「シャルティア=ブラッドフォールン」が生まれる前に彼らと出会ったらしく、レベリングとか、レベルの管理を全てペロロンチーノ様に任せているんだけど、シャルティアとは随分違う。やはり姿が違えばそういった要素も変わってくるわけで、私がまんまシャルティアの立ち位置に入れ替わってしまったなんて事はないようだ。

 

 そのレベリングとかもろもろのおかげで、無事に私は最高レベルに到達。そのまま、階層守護者としての役割を与えられて、現在シャルティアと同じ、1,2,3階層の守護者をやっている。

 

 最高レベルに差し当たった所あたりだったか。これ、シャルティアちゃんと生まれてくるよね?と不安になっていたら、ペロロンチーノ様のお姉さまことぶくぶく茶釜様が双子のダークエルフを見せびらかしに来て、私と大層張り合わせた挙句、「ならばもう一人同じトゥルーヴァンパイアの子を作って、こちらも双子で対抗してやる!!」という結論に(何故そうなった……?)なったらしく、今さっきまでせっせとデザインを作っていたところだった。

 

 チラッと見てみると、シャルティアはシャルティアでした。

 原作となんの変わりもない、普通にシャルティアそのまんま。

 1,2,3階層の守護者っていうのも同じ。

 「双子はいつも一緒じゃないといけないんだよ!!」というぶくぶく茶釜さんの熱弁によって采配されたものである。

 

 職業(クラス)レベルも私が知る限りではシャルティアまんまである。

 原作では守護者最強の攻撃力を誇るシャルティア、そのまんま。

 

 もし原作でのシャルティアが支配されるシチュエーションに私が陥りそうになったら、とりあえず冷静に対処出来るようにしておかないと同じ事になるから気を付けないと、シャルティアのそのぶっ壊れ性能にそんなことを思った。

 

 まぁ死んでも多分生き返れるんだろうけど、あまり死にたくないし、確実性はないから、一番は死なないようにするってことかな……。

 

 で、最後に、モモンガさんと異世界に行った際に、実は中に人が居るよ~ってことはどうするかというと……まぁ、それは伝えなくてもいいと思っている。

 

 正直、言っても良いんではと思ったが、言ったとしてどうなる?モモンガさんに新たな悩みの種が増えるだけでしょ……これ以上苦労させたくないむしろ苦労の種を取り除きたい。

 

 特にシャルティアの離反イベントとかどうにかしたい。

 

 けれど私が口を出した所で、私とモモンガさんでは生まれた時代が違うし、オーバーロード原作の話なんかしても「運営は一体何を考えているんだ?」としか思われないだろう。

 

 其の辺は追々、どうにかしていきたい。

 

 

 そういえば、ペロロンチーノさんがログインするまで暇なのでは?

 と思うかもしれないが、実はそんな事はなく、私はNPCなので、「機能停止」というコマンドを用いることによって再び「起動」のコマンドを用いらない限りずーーーーーーーーーーーっと寝てることが出来る。

 

 懸念材料だった、ペロロンチーノさんの引退後の私の時間は、普通に寝ていればいいという結論に至った。

 

 だけど、異世界に転移した時には、停止(待機)状態だったNPCであったアルベドが動き出したことから、異世界に転移したら停止状態だったNPCは動き出すんだろうね。

 

 逆に言えばペロロンチーノさんが最後に私を停止させた時、次に目が覚めるのは異世界の大墳墓ということになるわけ。

 

 いや~、そう考えると、結構異世界転移までの時間もそう遠くないのかもね……。

 

 

 でも本音を言えば、ペロロンチーノさんやぶくぶく茶釜さんには、残って異世界に一緒に行きたいなぁ……ダメかな……。

 

 だって、どうせこのゲームでいうところのリアルの世界って、外ではマスク無しじゃ生活できないほど劣悪な状況なんでしょ?

 

 だったら、と思ってしまう。

 

 ただ、モモンガさんと違って、他の至高の方々には別の……リアルの生活があって……。

 

 ……やめやめ、皆には皆の生活があるんだから……。

 

 未だにこんなことを考えているのは、「それでも」と考えてしまうからだろうね。

 

 寂しいなーと漠然と思いながら、私は次の起動の時を待った。

 

 思ったよりも私は自分を拾ってくれた存在、それ以上に、実の娘のよう(にしては少し愛が気持ち悪いが)に愛してくれたペロロンチーノさんに少なからず恩義を感じているんだなと思った。

 

 彼のおかげで、残してきた両親や妹に対して、家に対して、寂しいとか、帰りたいとか思うことが少なかったのは事実である。

 

 一人で未だに彷徨っていたら、気が狂ってしまったのではないかとすら思う。

 

 それだけペロロンチーノさんは私を可愛がってくれた。

 

 この容姿に感謝だ。

 これはいわゆる転生特典とかいうやつなのだろうか。

 

 

 

 そうして、レベリングも終了した頃、ついに、私の双子の妹……生き別れの妹であり、アインズウールゴウンの下僕となった時に奇跡的な再会を果たした……という設定で、シャルティア=ブラッドフォールンが誕生した。

 

 「エレティカ!ついに出来……いや、君の妹が見つかったよ!」

 

 と見せられた時は、本来妹なんていう存在があるという設定がないはずのエレティカとして、どういう反応を示せばいいのだろうかと思ったが、結局、抱きつきたいのを抑え、NPCっぽく、いつもと変わらない表情でその嬉しそうなペロロンチーノさんを見ていた。

 

 とにかく、まだ一度も喋ったことはないし、恐らく異世界転移されるまできっと話すことは無いんだろうけど、まぁ、せめて、ペロロンチーノさんがうっかり私の停止を忘れてしまった時ぐらいであれば、頭を撫でたりしてもいいのでは?と思っている。

 

 だってほら私NPCだから!アカウント停止とかないしね!!

 

 今では、双子のヴァンパイアとして、第一、第二、第三階層を二人で守護する存在として、常に一緒にいる。

 

 今はまだ喋ることはないし、微笑みかけることも、触れても何も感じないが、ギルドの人たちの会話や言動を覚えているのなら、今のうちに、出来ることはした方がいいと思った。

 

 

 ひとまず今は、ペロロンチーノ様が見ていないところで、シャルティアを可愛がる事にする。

 

 

 NPCに垢BANは通用しないからね!!




はぁ……シャルティアちゃんかわゆ……。


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転移まで(3/3)

シャルティアちゃんと双子の姉妹になった主人公、エレティカ。
ついに転移。


 私がユグドラシルのNPCになってからどれくらい経っただろうか。

 寝ていたから分からないな。

 

 

 でも……ああ、本当に色々な事があった……。

 色々な事が多すぎて、何から説明したらいいのか困るなあ。

 

 

 ええと、まあ、とりあえず一つ言えるのは……。

 

 

 

 ペロロンチーノ様はやはり、このゲームを辞めてしまったという事だ。

 ぶくぶく茶釜様もまた、リアルの仕事の方をとった。

 

 最後のログインしていた時の様子は……嬉しそうでもあり、悲しそうでもあった。

 

 確かに夢……生活が安定して、職にありつける事は大きい。

 けれど、ここでの生活もまた大きい。

 

 

 だが所詮はゲームだ。

 少なくとも、彼らにとってはゲームなのだ。

 

 そしてそのゲームも飽きられ始め、ついに残ったのは、やはり、原作通り、モモンガさん、ただひとり。

 

 ペロロンチーノ様が、最後に「眠り姫っていうのもなんか違う気がするしな……エレティカには、やっぱりこれまでどおり、1階層と、2階層、3階層の守護者として、シャルティアとここを守っていて欲しいな……いつか帰ってきた時のために」

 

 と言われたので、私はペロロンチーノ様がやめてからもずっと「待機モード」でここを守ってきた。

 

 大丈夫。

 

 あの1500人のプレイヤーが攻めてきたって、結局は勝てたんだから。

 

 私はその時に一度死んでしまったけれど、生き返った時のペロロンチーノ様の安心した様子といったらなかった。

 おもわず【ありがとうございます】なんて言って、「復活した時にまでメッセージが用意されているのか!?……うちの子にも覚えさせようかな……」「でもそれって死ぬのが前提みたいな感じでちょっと……」といった感じでちょっとした騒ぎになってしまったのはいい思い出だ。

 

 そういえばある時には私達に一目惚れしたとか言い出した人間のプレイヤーの人まで居たっけ?その人はペロロンチーノ様が撃退したけれど、その後にどこか自慢気に「今のやつ、見た?」と言っていた。懐かしい。

 

 

 と、まぁ、そんな思い出を抱きながら私はずっと、双子の妹であるシャルティアとここを守っている。

 

 まぁ、今はもう、誰も来ない事はわかっているんだけども。

 

 けれど、それももう終わり……そして新しい、異世界でのアインズウールゴウンの伝説が始まるんだ。

 

 メッセージログには、モモンガさんの「どうせですから、最後まで残って行きませんか……」という悲痛なメッセージが表示されている。

 

 だから、きっと、もうすぐ終わってしまう。

 

 この時計の針が0になったとき、この世界、ユグドラシルでの生活が終わるのだ。

 

 

 

 私はメッセージログウィンドウを閉じ、じっとその時を待つことにした。

 

 

 23時40分……あと少しで異世界転移が始まる。

 せっかくだからその瞬間をこの眼に収めておきたいのだが、果たして何か変わったという実感が湧くようなものなのだろうか?

 

 まぁいいや、あともうちょっとで、NPC脱却なんだから。

 

 

 

 異世界に転移したあとのことに思いを馳せて、その時を待っていた。

 

 

 そして、ついに、異世界転移の時間が……やってくる前に、私はあることに気づく。

 

 ついさっきまでそこにいた筈のシャルティアが、いない。

 どういう事だと動揺して思わずあたりを見渡すが、いない。

 

 

 そうして混乱していると、後ろからぐいっと何かに引っ張られて、そのまま転移の魔法、ゲートに突っ込まれた。

 

 突然の事に動揺し、抵抗しそうになったが、しかし、すんでの所で私はこの引っ張る腕がどこか懐かしい事に気付く。

 

 

 そしてその転移の魔法で連れ出された場所はあの玉座がある間。

 NPCなので未だに一度も入ったことのない部屋。

 

 そこに居たのは、我が妹、シャルティアと、第六階層守護者の双子、アウラ・ベラ・フィオーラと、マーレ・ベロ・フィオーレ。

 そして、我らがギルド長であり、このゲートを開いた張本人だと思われるモモンガ様と……。

 

 

 「やっぱり、最期はこの子達も一緒に、ね」

 「そうだね」

 「最期くらいは、いいですよね」

 

 ペロロンチーノ様と、ぶくぶく茶釜様のお姿だった。

 

 

 

 そして、約束された時は訪れる。

 

 

 

 

 

 

 23:59:58

 23:59:59

 

 

 

 00:00:00

 

 

 00:00:01

 00:00:02

 00:00:03

 

 

 

 

 「「「……あれっ?」」」

 

 

 「どうかなさ……「どうかなさいましたか?モモンガ様、ペロロンチーノ様、ぶくぶく茶釜様?」」

 

 

 

 

 

 まさか、まさかまさかまさか帰ってきてくれるなんてええええええっ!!

 ばかばかばかばかバカばっか!!

 なんでリアルの方を優先しなかったんだよ~~~~っ

 いやしたのかもしれないけどそれならそのまま来なければいや来て欲しかったけどそれでもさぁ~~~~っ!!

 

 私は溢れそうになる涙を必死にこらえようとして、うっかりアルベドよりも先に至高の方々に声をかけてしまう。

 

 一瞬「えっ」という表情で全員に見られるものの、まぁごめん、あとで謝るからゆるしてほしいでありんす……。

 

 

 「じ、GMコールが使えないみたい、いや、使えないようなんだが……」

 

 「……申し訳ありません、無知な私にはGMコールというものに関してお答えすることが出来ません……」

 

 私が喋らないのを見て、今度こそアルベドがそう答え、その後呼ばれている階層守護者である私たち姉妹と姉弟を見回す、もちろん皆残念そうに、あるいは悔しそうに首を振る者ばかりであり、私も無表情のまま、首を横に振った。

 

 「この場にいる私たち一同、この失態を払拭する機会を頂けるのであれば、それに勝る喜びはございません!」

 

 「ふむ、そうか……」と考えに耽るモモンガ様と、ここはモモンガ様に任せるのが得策だと思い、その様子を見守るペロロンチーノ様とぶくぶく茶釜様。

 この緊急時で、NPC達にボロを出すわけには行かないと思っての行動かも知れない。

 

 そして考えがまだまとまっていないだろう、しかし、このまま行動を起こさないのも愚策だと考えたモモンガ様は頭を抱えるようにしていた手を置き、思い切ったように命令を始めた。

 

 「セバス!」

 「ハッ!」

 「……プレアデスを一人連れ、大墳墓を出て、ナザリックの周辺地理……そうだな、半径1km内の確認せよ。また、人間などの知的生命体などが居た場合、ここに連れてこい。その際あちらから何か要求があればほとんどの場合は呑んでもいい物とする。また知的生命体ではないにせよ、ナザリックに、ひいては我々に対して敵対的である者と接触した場合は、戦闘を控え、即時離脱せよ。私に確認を求めたい場合は、メッセージを使え」

 

 「かしこまりました。モモンガ様」

 

 わぁ~、やっぱモモンガ様すげぇ~。

 支配者って感じするわ~。

 伊達に何年も魔王ロールやってないね!!

 

 「他のプレアデスたちは、9階層に上がり、侵入者の警戒にあたれ」

 「「「かしこました、モモンガ様」」」

 

 

 「……ではモモンガ様?私達は何を?」

 

 「ああ、そうだな……」

 

 

 えっと……原作ではここで、R18指定の行動が許されているのか、許されているのならばゲーム内である可能性が高まるという事で、アルベドのおっぱいを揉むシーンなんだけれども……。

 

 「アルベドは、第4、第8を除く各階層守護者に、6階層の闘技場まで来るように伝えよ。時間は今から一時間後とする。アウラ、マーレ、シャルティア、エレティカに関しては、そのまま闘技場に向かって構わん」

 

 「かしこまりました、モモンガ様」

 

 

 ……えっと、私も行かなきゃなんだよね?ふぅ……少しはなれているとは言えちょっと疲れるなぁ……。

 

 《バタンッ》

 

 

 

 「う、うう……ぐずっ」

 

 ……ん?

 

 「ぺ、ペロロンチーノ様が、ペロロンチーノ様がご帰還なされ……うぇぇ……もう帰ってこないのかと思ったよお……」

 

 「それに、ぶくぶく茶釜様も……よがっだ、本当によがっだよお」

 

 「おねえちゃ、泣くにしたって、もうちょっと……うう、ぐすっ!」

 

 「ちょ、ちょっと貴方達、嬉しいのは分かるけど、今は泣いている暇はないわ、早く与えられた使命を果たさないと」

 

 あちゃあ、そういやこういう人たちだったね……全く、世話が焼けるんだから。

 

 

 「シャルティア、せっかく至高の方であり、私たちの造物主(私は違うけど)が帰還されたというめでたい日なのに、そんなぐしゃぐしゃの顔で出迎えるつもりなの?……ほら、ゲートを開いて、一度身なりを整えてきなさい」

 「う、うん、分かった。いや、ええと、分かったでありんす」

 

 「アウラとマーレは私が第6階層までゲートで送ってあげるから、こっちへおいで。アルベド、あとはよろしくお願いします」

 

 「え、ええ……」

 

 ん?なんで困惑顔?……あー、そうか……設定上はシャルティアとアルベドやアウラって仲悪いんだよね、今まで戦闘以外では直接見たことのない私が印象と違っててびっくりしてんのかな?

 

 「じゃあシャルティア、ちゃんと間に合うように来るのよ、いいわね?」

 「うっ、分かってるでありんす……」

 

 「そう?じゃあ行くわね、アウラ、マーレ。

……《ゲート/異界門》」

 

 

 

 

 

 はあ、これから疲れそうだなぁ……。

 それに、ペロロンチーノ様やぶくぶく茶釜様がいる分、原作とのズレも出るだろうし……まぁ、楽しそうだからいいんだけどねっ。

 特にシャルティアいじりがっ!!

 

 

 「さて、では貴方達も、ほら、これで涙を拭いて」

 「う、うん……」

 「ご、ごめん、ありがとう……」

 

 はぁ~アウラもマーレもかわゆすなぁ~~~テラ可愛い。

 ぶくぶく茶釜さんいい仕事してるわぁ~~~。

 

 と、しばらく待っていると、まず先にモモンガ様が転移でやってきた。

 

 「よ、ようこそモモンガ様!第6階層へ!」

 

 「うむ、ところで……」

 

 「シャルティアは、1時間後にここへとの事だったので、身支度を整えてからゲートでやってくるかと」

 

 「ふむ、そうか」

 

 「……あの、ペロロンチーノ様とぶくぶく茶釜様は……?」

 

 「あぁ、宝物庫に、自分の装備を取りに行っている」

 

 「そうですか……やはり私達の夢や幻ではなく、本当にあのお二方がナザリックに帰還なされたのですね……」

 

 

 いやぁー、辞めるってなったときはすごく残念だったけど結果よければ全て良し!

 ……ていうか、戻ってきたのって、ひょっとして私のおかげだったりするのかな?

 バタフライエフェクトじゃないけど……私という存在があるかないかで、戻ってきたのであれば、まぁ、うん……尋常じゃなく嬉しいな。

 

 ……ていうか今の一言でまた双子が泣きそうになってる。

 もう~……。

 

 

 少し落ち着いてから(モモンガ様も空気を読んでくれました)

 

 「ところで、他の守護者が来る前に、3人に手伝って欲しいことがあるのだが……」

 「あの、それがあの、モモンガ様しか触ることを許されないという、伝説のアレですか!?」

 

 「そう、これこそが、我々全員で作り上げた、最高位のギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンだ。……(以下説明)……まぁ、なんだ、そんなわけだ」

 

 「すっ、すごーい!」

 「すごいです、モモンガ様!」

 「さすがは我らがナザリックの王、モモンガ様の武器なだけありますね」

 

 「う、うむ……」

 

 ごめんモモンガ様……今はその羞恥に耐えてくれ。

 正直その格好で羞恥に悶えてると考えるとシュールですっごい面白いから。

 

 

 「そ、そういう訳で……これの実験を行いたい」

 「分かりました、すぐに準備します」

 

 

 そうして準備されたかかしを持ってくるリザードガーディアンがかかしから離れるのを見計らって、モモンガ様が呪文を口にする。

 

 

 「《サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル/根源の火精霊召喚》!」

 

 

 《グオォォォオオオオオオ!!》

 

 

 かかしが一気に炎の塊となり、それが意思を持ち、一つの精霊の姿へと変わっていく。

 

 おお、思ったより実際に見てみるとすごいな……。

 いや、ユグドラシルで見たことはあったんだけど、実際に、というか、この異世界で見ると、ここまで熱が伝わってくるし、なによりリアリティーが違う。

 

 「……戦ってみるか?」

 

 「え!?いいんですか!?」

 「あ、あの、僕しなくちゃいけないことを……「マーレ!」ええええ~~~!?」

 「私は後ろから見守っていますね、二人の連携を邪魔しても悪いですし……」

 「エレティカまで!!!」

 「分かってんじゃ~ん!」

 

 

 と、まぁ、こんな感じで普通に双子の戦いを眺めていると……。

 

 「すみません、遅れました」

 「バカ弟のせいで……自分の装備の付け方ぐらい感覚で分かれっての」

 「ちょ!それは言わない約束だろ!?」

 

 「お待ちしておりました、ペロロンチーノ様、ぶくぶく茶釜様」

 「うおおおおおおおおおエレティカだよ姉ちゃん!!マジでエレティカが喋ってるよ!!」

 「うっさいわね!!わかったから触手を引っ張るな!!」

 「ちょ、ちょっと二人共、相手は今まで、その……」

 

 「あっ」とその言葉で察した2人が、双子が戦っているうちに少しだけ離れてまたヒソヒソと(実際にはメッセージで会話している)話し、やがて話し終えたのか、双子の戦いが終わる頃にはまた威厳のある態度になっていた。

 

 「あっ!!ぶくぶく茶釜様~!!」

 「ぶくぶく茶釜様~~!!」

 「あらあら……二人共疲れたでしょう?お水飲む?」

 

 「えっだれコイt……イタッ!!」

 

 あぁ、その役割がモモンガ様から茶釜様になるのね……。

 二人共あんなに嬉しそうにしてまあ……。

 

 

 「お、遅れて、申し訳ないでありんす……」

 「ちょうどいいタイミングねシャルティア、ペロロンチーノ様がお見えになったわ」

 「あぁっ、ペロロンチーノ様ぁっ!」

 

 ここで本来であれば美しさの塊であるモモンガ様に飛びつくのが、今回はペロロンチーノ様の方に飛びついたシャルティア。

 さながら、というか、本当に、長年離ればなれになっていた親子がようやく再会したような……戦場から帰ってきた父親と娘が再会したような、そんな光景がそこにあった。

 

 おっと、ヤバイ、涙が。

 

 「おっとと、はは……ごめんなシャルティア、今までほったらかしにして……」

 「いいんです、私、私……」

 「ほら、エレティカもおいで」

 

 うんっ!?そ、そう、そうだよね……私も?一応?ペロロンチーノ様の下僕なわけですから?……あれ、おかしいな、私いつからこんな忠誠度高くなったんだろ。

 

 しかし流石に妹であるシャルティアの涙でぐしゃぐしゃになった姿を見せられた後では流石に飛びついて抱擁を交わすというのは少し恥ずかしいものがある。

 なので、差し出された手を両手で包んで微笑むだけに留めた。

 

 「……ペロロンチーノ様……よくぞお戻りに……」

 「うん、ただいま。……もうちょっと甘えてもいいんだけどなあ……いや、そこがエレティカの魅力か……」

 

 

 その後、空気を読んでくれたアルベド嬢の計らいで少しだけ遅れてしまったが、ペロロンチーノとぶくぶく茶釜を加えて、転移後初めての、会合?が開かれる。




やっとアニメ第一話が終わりました。


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カルネ村まで(1/3)

とりあえず、集まりました。


 「では皆、至高の御方々に忠誠の儀を」

 

 アルベドがそう口を開き、各々の姿勢が正される。

 私はその聞き覚えのあるセリフに脳内で確かこのシーンは、と記憶を探る。

 

 あっ、あのシーンか!まさか自分がやる羽目になるとは……!!

 ……っていうかひょっとして順番的に私からやるのでは……?

 

 「第一、第二、第三階層守護者、シャルティア=ブラッドフォールン、御身の前に」

 

 おおっとその前に妹ちゃんがやってくれたぜ!

 それに続く感じでいいんだよね?

 

 「同じく、第一、第二、第三階層守護者、エレティカ=ブラッドフォールン、御身の前に」

 

 「第五階層守護者、コキュートス……御身ノ前ニ……」

 

 渋ぅい!!説明不要ッ!!

 

 「第六階層守護者、アウラ=ベラ=フィオーラ」

 「同じく第六階層守護者、マーレ=ベロ=フィオーレ」

 「「御身の前に」」

 

 あっ!!私たちもそうやれば良かった!!

 ま、まあいいもん別に、息の良さとか羨ましがってねーし????

 むしろ私たちのほうが合って……合ってるよね?合ってない?

 

 「第七階層守護者、デミウルゴス……御身の前に」

 

 キャー!デミえもーん!

 

 「守護者統括、アルベド……御身の前に。

 ……第四階層守護者ガルガンチュア、及び第八階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者、御身の前に平服したてまつる。

 ご命令を、至高なる御身の方々よ、我らの忠義全てを、御身に捧げます」

 

 思わず感嘆の声が出そうになる。

 それ程に、完成された……お前ら実はついさっきまで裏で練習していたのでは?と思うほどの綺麗な動きに感動していた。

 

 ひぇー!かぁーっこいいーっ!

 

 そして、そんなNPC達が忠誠を誓っている当の本人のモモンガ様は何故か真っ黒な絶望のオーラが滲み出ている……んだけど何故ペロロンチーノ様やぶくぶく茶釜様まで絶望のオーラを纏ってるんですかね……?

 

 「「「面を上げよ」」」

 《サッ》

 

 あそれ三人同時に言うんだっ!?

 

 

 「よく集まってくれた。感謝しよう」

 

 「感謝などもったいない!我ら至高の御方々にこの身を捧げた者達……!至高の方々にとって、とるにたらない者でしょう。

 しかしながら、我らの造物主たる思考の御方々に恥じない働きを誓います」

 

 「「「誓います」」」

 

 うへぇ~~~っこれは……すっごい忠誠度だ!

 逆に、よくここまで育て上げましたね……。

 さすがにギルドのNPCとはいえ無条件でここまで従ってくれるものでもないだろうに。

 

 「……素晴らしいぞ!守護者たちよ!私達は、お前たちならば、失態なく事を運べると強く確信した!」

 

 「「「おお……!!」」」

 

 「さて、本来ならば私達は、ギルドメンバーである二人の帰還を盛大に祝いたいところなのだが、そうも言っていられん……というのも、現在ナザリック地下大墳墓は、原因不明の事態に巻き込まれているのだ」

 「すでにセバスに地表を捜索させているんだけど……」

 「丁度帰ってきたようね」

 

 ……あの、恐らくメッセージでやりとりしてるんだろうけど、リレーして喋るのね?それ……いやまぁ、いいんだけどさ……。

 

 

 「「「……草原?」」」

 

 そうして帰ってきたセバスから告げられたのは衝撃の事実であった。

 それこそ、もはやなにがなんだか、と頭を抱える程の。

 私も事前に知っていなかったら少なからず動揺しただろう……か?

 アンデッドによる精神の沈静化が働いているから大丈夫な気もする。

 

 「はい、かつてナザリック地下大墳墓があった沼地とは全く異なり、周囲1kmに人口建築物、人間などの知的生命体、モンスターの類の存在は、一切確認できませんでした」

 

 「ご苦労様、セバス」

 「どうやら何らかの原因でどこか不明の地に転移してしまったという事は間違いないようだな……」

 「と、こんな状況になったから……アルベド、そしてデミウルゴスの両者で、階層守護者内の情報共有システムをより高度にし、警備を厚くしてくれ」

 

 「「ハッ!」」

 

 

 これって、結局どうなってるんだろう?

 あとでちゃんと教えてもらえるといいんだけど……っていうか私、難しい仕事とか出来るかな……?

 

 

 「マーレ、ナザリックの隠蔽は可能か?」

 

 「幻術といった類の、魔法といった手段では難しいと思います……ですが、例えば土をかけて、そこに植物を生やした場合とか……」

 

 「栄光あるナザリックの壁を土で汚すと?」

 

 おっと、ここは止めればいいのかな?いや、モモンガ様が止めてくれるからいいか。

 

 「……アルベド、私がマーレと話をしている。お前がここを大事だと思っているのは理解しているが、今は余計な口出しは無用だ」

 「ハッ、申し訳ありません」

 「それにナザリックが土にまみれたとしても、我々と、貴方達が無事ならそれでいいのよ、ナザリックはあくまで器でしかないのだから」

 「で、マーレ、土をかけた場合、隠蔽は出来そうかしら?」

 

 「は、はい、お許し頂けるのでしたら……ですが……」

 

 「土の盛り上がりが不自然、か……」

 「セバス、周りに山や丘のような場所は?」

 「いえ、残念ながら……」

 「だったら、ほかの場所にも土を盛り上げて、ダミーを作った場合等は?」

 「それなら、さほど目立たなくなるかと」

 

 トントン拍子で話が進んでいくなー……っさっすがー……でもちょっと退屈かな……ちょっとくらいなら口を挟んでもいいかしら?

 

 「……ダミーという言葉で思ったのですが、ついでに、ナザリックそのもののダミーを作ってしまってもいいかもしれませんね。模造品という言い方をしたら気に入りませんが、作るのが私達であるなら問題はないかと」

 「ふむ……そうだな、いずれ必要になるかもしれん、それについては後日また考案するとしよう」

 

 やっべ!!モモンガ様と会話しちゃったやったーうへへ!!!

 

 「上空部分には、幻術を展開させればいいかな……?」

 「じゃあマーレ、あなたはそれらの作業にあたってくれる?」

 

 「は、はい!かしこまりました!」

 

 

 「最後に」

 

 おっこれはまさか……

 

 

 「各階層守護者に聞いておきたい事がある」

 

 来るか……?来るか……?

 

 

 「まずはシャルティア、お前にとって、私、ペロロンチーノさん、ぶくぶく茶釜さんは一体どのような人物だ?」

 「ちょちょ、ちょっと待ってください!!シャルティア!も、モモンガさんだけでいい!!」

 「ええ?何で?」

 「い、いいから……!」

 

 うわぁぉ……ほんとにこの質問するとは……。

 いや、まぁモモンガ様からしてみれば「NPCの忠誠心がマジなのか分からない。」「裏切る?裏切る?」と不安、不確定要素であり、解決すべき確執の一つである為、まぁ仕方ないといえば仕方ないのだろうと思う。

 

 「モモンガ様は……美の結晶!まさにこの世界で最も美しい御方でありんす!ペロロンチーノ様は、我が造物主であり、再びこの地に戻ってきてくださった慈悲深き御方だと、ぶくぶく茶釜様は、そのペロロンチーノ様のお姉様であり、同じくこの地に再び舞い戻ってきてくださった、慈悲深き君でありんす……」

 

 「……次はエレティカ、長くなるので私に対してだけd」

 「我らがナザリックの王、全ての頂点に君臨する御方だと存じています。

 そしてペロロンチーノ様は、記憶を失い、離れ離れになってしまった妹、シャルティアと再会させて下さった、命をもってしても返しきれない御恩のある御方、私の全てを持って、永遠に忠誠を誓うべき御方だと思っています。ぶくぶく茶釜様は、そのお姉様であり、私にも大層優しく接して下さった思い出があり、同じく永遠の忠義を捧げるべき御方だと……」「も、もういい、もういい!」

 

 えっ?モモンガ様に対してだけで良かった?ごめんなさ~いてへぺろ☆彡

 

 

 「……次はコキュートス、お前は私をどのような人物だと思っている?」

 

 

 

 【以下原作と同じなので割愛】

 

 

 

 

 「……そして私の愛しい御方です!」

 

 あっ、ペロロンチーノ様とぶくぶく茶釜様が居るのに結局モモンガ様大好きっ子になってたんだ、アルベド……じゃあうちの妹共々、応援してあげなきゃね!(ゲス顔)

 

 「なっ、成る程……」

 「各員の考えは十分に理解しました」

 「「「今後共忠義に励め!」」」

 

 

 「「「ハッ!!」」」

 

 《シュンッ……》

 

 

 

 ……んー……今頃、「あいつら、マジだ!!」ってやってんだろうなー、ふひひひ。

 

 本来知りえないハズの事を知っている、というのは割と気分がいい。

 それに、モモンガ様はあの骸骨の顔だから表情などほぼ皆無に等しい。

 だからその心情は彼のみが知るところなのだが、生憎私も大体どういう事を考えているのかは知っている。

 

 その上で「今頃こんな事を考えているんだろうな」とか「実はめちゃくちゃ焦ってるんだろうな」とか考えるのはちょっと楽しかったりする。

 既にいくつかモモンガ様をからかう手段をいくつか考えつく位には。 

 

 

 「ふぅ、凄かったね、お姉ちゃん……」

 「うん、心臓がギュッ……てなったよ」

 「あれが支配者としての器をお見せになった至高の方々の本来の姿なのね……」

 「ですね……」

 「我々の忠義に応えてくださッたという事カ……」

 「ね、私達と居た時の3人は全然何も感じなかったのに……」

 「そうなのカ?」

 

 おっと、アルベドの様子がそろそろおかしくなってくるかな?

 

 「そう!すっごく優しかったんだ~茶釜様なんて、疲れたでしょう?って、お水まで出してくださって!」

 「やっぱり支配者としての本気になった至高の方々って凄いんだね!」

 

 おや?アルベドの様子が……

 

 

 「全くそのとおり!!!」

 

 も、もどして……。

 元のアルベドに戻して……。

 

 

 「我々の忠義に応えて下さり、その支配者としての器をお見せなるとは、さすが私達の造物主……!至高なる41人の方々の中でもこの地に残り、そして帰還成されて下さった、この世の頂点に立つ方達……!」

 

 「……では私は、先にモモンガ様の元へ戻ります」

 

 「そう、セバス、もしもモモンガ様が私に(以下略」

 「分かりました、では階層守護者の方も、これで失礼させていただきます」

 

 

 ふぅ~っようやくお仕事始められ……ないんだよなぁ。

 この可愛い可愛い愚妹のせいで……。

 

 「ん?どうしましたシャルティ……」

 「いえデミウルゴス気にしないで今シャルティアはそっとしておいてあげてほらアルベドもほかの階層守護者に指示を出しておいてね私はシャルティアを見てるから(早口)」

 「あ、あぁ、うん、確かに、女性の事は女性に任せるべきだし、姉妹である君が適任だろうね、うん」

 「えっと……分かったわ、エレティカ」

 「え?ええ?姉様?」

 

 ふーっ、これで二人がキャットファイトをして時間が長引く事もこれ以上両者がヒドインになることもないね!うん。

 っていうか「姉様」って!!さっきも言ってたような気がするけど姉様って!!!

 はぁ、まぁでも、うん、らしいっちゃらしいよね。

 シャルティアに「おねえちゃ~ん」は似合わないよね。

 

 「で、突然どうしたでありんすの姉様?」

 「どうしたもこうしたもないわよ……シャルティア、あなたモモンガ様の気に当てられて濡れてしまったのでしょう?ほら、隠しててあげるから今すぐこれに履き直しなさい。一刻も早く」

 「どっ、どうしてそれが……わ、分かったからあまり急かさないでほしいでありんす……!」

 

 見るからに赤くなった頬を見るにやはり私の記憶は正しかったように思える。

 そしてこれがアルベドにバレるとちょっと面倒なので先に回避させておいた次第だ。

 

 「……あの二人は何をしているの?お姉ちゃん?」

 「……さぁ……?どうせシャルティアがなにかやらかしたんでしょ~?」

 「(ひょっとすると……あれが文献にあった、「百合」、というものなのでは……?二人はそういう関係!?……いや、まさか。考えすぎでしょう)」

 

 ふぅ、これが終わったらデミえもんの男の娘に対する知識を正しくしないといけない……いけないこともないけどね?

 

 

 「履き直したでありんす。……姉様はいいんでありんすか?至高の方々から、あれだけ強い気……ご褒美を頂いたのに」

 「私?私は……え~と……(濡れてないと言ったらこの子を怒らせるんだろか?)私はここに来る前にその手の欲求の処理を済ませてしまったから」

 「なるほ……え゛っ!?いつの間に……?」

 

 「だってあの至高の方々と会うんですよ?もし万が一その鋭い観察眼で持って至高の方に性的な興奮を覚えてしまったとバレてしまっては……二人きりの時ならともかく、こんな非常時にまで発情していると知られてしまっては「見境の無い者」だと思われてしまっても反論出来ませんもの」

 

 「成る程……で、でも……ペロロンチーノ様なら……。」

 

 「確かにあの心優しい御方に限ってそれはないと、支配者としての器を見た今なら思えますけれど。あなたも次からは気をつけるべきだと思いますよ?至高の御方々は決して全員が全員ペロロンチーノ様のようにお優しいという訳ではないのですから」

 

 「な、なるほど……!分かったでありんす……!(姉様……恐るべし!!)」

 

 ここまで言っておけばさすがに会う度に濡れるなんて事ないだろ……多分……。

 いや無理か、無理だな(確信)

 

 さて、これでようやく仕事の話を……。 

 

 「マーレ、ところで君は何故女装を……」

 

 「ええと、これはぶくぶく茶釜様に着せられたんです。男のコと言っていましたから、僕の性別を間違えてではないと思います……」

 

 「ふむ……であれば……!?」 

 「あああああああ待ってその説明は私がするからああああああああ!!!」

 

 仕事の話をするはずだったのになぁ……。

 

 

 

 

 「……ということなの、分かった?」

 

 「……成る程、エレティカ、君は詳しいんだね」

 

 「すごーい!流石、守護者の中で唯一外で暮らしてた事があるだけのことはあるね!」

 「男の娘って、そういう意味だったんだね……///ああ、もう、茶釜様、そうと分かったら、なんだか、すごく恥ずかし……」

 

 「ヌゥゥン……至高の御方々によって決められた服装を恥ずかしいなどと言っては、不敬になるやもしれんゾ……!」

 「や、でも……」

 

 「まさかぶくぶく茶釜様がせっかく用意してくださった服装を恥ずかしいなんて言わないわよね???」

 「はぃ」

 

 

 フー、これで男の娘の件は大丈夫だね……別に修正しなくても良かった気がするけど……。

 ……あれ?本当になんで修正したんだろ?

 別に男の娘のままでも……まぁでも、間違った知識を植え付けたままにするのもなんだかなーって感じだし、いっか。

 

 ……そういえば前の前の……私がまだJKだった頃に、良く友人の勉強を見てあげていた時に片っ端から間違った所を「それはそうじゃなくてこうこう、こういう事でね?」と教えるたびに「お節介を焼きすぎ」と小言を言われたっけなぁ……。

 

 「(エレティカ……守護者の中では唯一、外部から拾われて来て、ナザリックで育ったという、異例な存在……ひょっとしたら彼女は、私達よりも至高の方が使う言葉に詳しいのかもしれないな……)」

 

 ……ん?えっ、なんかすっごいデミウルゴスに見られてる、怖い!

 

 「どうかした?」

 「いぃえぇなんでもないですよ。

 ”今は”仕事の話をしないとね……アルベド、揃ったようだ、そろそろ仕事に移ろうか?」

 「そうね、分かったわ」

 

 

 ついにお仕事かー……何すんだろ私?結局この時はシャルティアも何してたんだっけ?……ていうか、待てよ?この時ってモモンガ様はお忍びの格好で外に行って……星を見て、うっかり世界征服なんて言葉を滑らしちゃって、デミウルゴスが本気にするんだっけか?

 

 

 

 えーと……その後は、ミラーオブリモートなんとかで周囲について調べて……。

 あっ!!カルネ村!!!!

 

 エンリちゃんにもネムちゃんにも会いたいし、モモンガ様達には「その格好は人間には刺激が強すぎるのでは?」とか言いたいし戦士長さんとはあわよくば一緒に戦いたいし、ニグンさん?えっと……そんなモブいましたっけ?

 

 ど、どうしよ、すっごい行きたい……行きたいけど……どうやったら行けるだろうか……。




エレティカ:「い゛ぎだい゛ッ!!!私も一緒にカルネ村に連れてって!!!」
ペロロチーノ:「ほいきた」

エンリ:「え……?(困惑)」
ネム:「え……?(困惑)」


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カルネ村まで(2/3)

 現在、ひとまず第一階層で警備という名の待機中。

 今までと違うのは、隣にシャルティアが居ることだろうか……?

 

 

 さて……カルネ村を見つけた時が昼だったから、まだ夜である今はミラーオブリモートビューイングで何もしていないって事、かな?

 

 いや、でもペロロンチーノ様やぶくぶく茶釜様あたりがその作業にあたっている、という可能性も否定出来ない。

 とはいえ時刻は先ほど1時を回ったばかりで暗いため、少なくとも日が昇るまでは時間があると考えていいだろう。

 

 もしも今ミラーオブリモートビューングを使ったなら、カルネ村が襲われる前に襲われていた、名前も知らない村を救うことが出来るかもしれないが……。

 

 いや、そもそもまだ「世界征服なんて面白いかもしれないな」とモモンガが言うまで何日か猶予があったはずだ。

 記憶では3日と記憶しているが実際のところどうなのだろう。

 

 なんにせよ、カルネ村発見まではまだもう少し時間がかかる訳だ。

 それまでに上手いことカルネ村まで連れて行ってくれるように、都合の良い言い訳を考えておかなければ。 

 

 「姉様?さっきからずっと難しい顔で考え込んで、どうかしたでありんすか?」

 「え?いや……そうね、これからの事について考えていたわ……」

 

 まぁ嘘は言ってない、嘘は。

 非常事態のこの状況で考えに耽って、隣で話しかけてきていた妹に一瞬気づかないなんて、と頭を振って余計な考えを外に放り出す。

 

 「……姉様は、”ナザリックの外”に居たんでありんしたよね?」

 「そうね……」

 

 いきなり何の話だろうか、シャルティアは、「前々から聞きたかったのですが」を付け加え、口を開く。

 私も日が昇るまでは暇なので、妹と話をするのも悪くないと思い静かに聞く。

 

 「……そこは、いわゆる、”リアル”という場所なのでありんすか?」

 「いいえ、リアルは私が居た所よりも更に外側の……至高の御方々にしか行き来出来ない、地獄より残酷な世界」

 

 外では専用のマスクをしなければ息も出来ない程汚染された空気で満たされ、無論ユグドラシルのように魔法が使えるわけでも、化物じみた身体能力があるわけでも、数え切れないスキルがあるわけでもない世界、と正直に話したらどんな反応をするだろう。

 そんな世界で今も至高の御方々が戦っているのだと知ったら。

 

 多分「お守りしなければ!」とか言って自分もその世界へ行こうとするのではないだろうか。

 

 「……そうでありんすか……」

 

 しかしその手段がない以上、そう言う訳にも行かないし、そもそも私はモモンガ様の居たリアルとはまた違う……まぁ、それこそ異世界から来た存在な訳で、リアルという場所から来たわけではない。

 故にこれも嘘ではない。

 しかし地獄より残酷な世界に自分の親でもあるペロロンチーノ様が居たと知って、何故自分にその世界に行く力がないのかという無力感。そもそもそんな世界で私がかの御方を守ることが出来るのだろうかという疑問。しかしそんな世界からでも生きて帰ってきてくれて良かったと、どこかホッとしている情けない自分。

 

 そんな事を思っているのだろう。

 シャルティアの表情は暗い。

 だが、それ以上に残念だったのは。

 

 「……私なら、リアルのことについて何か知っているかもって?」

 「な!?ど、どうして」

 「わかるわよ、あなたの姉だもの」

  

 本当はリアルという場所について知っているのなら是非にもその世界について詳しく教えて欲しかった。

 しかしその世界から来た訳ではないと知って、そして御方々にしか行き来出来ないと言われて、アテが外れたような気分になっていた。

 

 私はシャルティアの姉として、シャルティアが生まれたその時から知っているのだ。

 そして、その設定も、今、どう思っているかも。

 

 「……必要であれば御身自ら話してくれるわよ」

 「そうでありんすね……」

 

 ……ひょっとして、他の守護者も、モモンガ様達が見ていない所では同じように、泣き言を言ったり、愚痴を言ったり、涙を流したりしているんだろうか……?

 ……だとしたら……。

 

 居なくなってしまった悲しみは、私も十分理解しているつもりだから、その悲しみを乗り越える為の手助けが出来るならしたい、と思う。

 最も、彼らの色々な意味の強さなら私が口出しするまでもないと思う。

 

 それに、手助けとは自分でいいつつ、どこか見下しているような気がして気が引ける。

 

 

 「姉様……ペロロンチーノ様は、もう、どこかへ行ったりはしないわよね?」

 「しないわ、大丈夫」

 「……どうしてそう言い切れるでありんす?」

 「……私は、その答えを知っている……けれど……ごめんね、言えないの……それとも信じられないの?、ペロロンチーノ様を、我らが至高の御方々を」

 「……私は……」

 

 至高の御方々の事は信じているし、尊敬しているし、誰より忠誠を誓っているという自信はある。

 だがまた姿を隠されたら?

 またここを去られてしまったら?

 またあの寂しさを感じることになったら?

 

 そう考えるとシャルティアの顔から不安の色が濃くなっていく。

 

 手のかかる妹だ、しかしそれでもなにより愛しい妹である。

 

 慰めようと手を伸ばそうとしたその時、転移の魔法独特の、空気が切れるような音が背後から耳に入り、そちらの方向へ目を向ける。

 

 

 「シャルティアーッ!エレティカーッ!!」

 「ペッ、ペロロンチーノ様ッ?」

 「どうしたんですか?」

 

 噂をすればなんとやらだ。

 駆け寄ってきたのは、至高の御方が一人、ペロロチーノ様その人である。

 

 「ちょっとそこまで、デートしない?」

 

 ……この非常時に何言ってんだこのバードマンは……?

 ……ってあ、そうか、そろそろモモンガ様が「世界征服なんて、面白いかも知れないな」とか口を滑らせる頃か。

 んで、それに伴って「一緒に行きましょうよ」とペロロンチーノさんも誘われたか……あるいは誘った側なのかな?

 

 と、そんな推理をしながらゆっくりと微笑む。

 

 「で、ですが……」

 「是非私もお供させてください。<シャルティア、至高の方の頼みを断る気?>」

 「(うっ……。)分かりました、お供させて頂きます……でありんす」

 「ウンウン、そんじゃ、掴まって、すぐ地表まで飛ぶから」

 

 ……ま、ちょうどいい。

 マーレの結婚指輪でもからかって遊ぶかな(ゲス顔)

 

 

 そして転移した先では、戦士の姿になったモモンガ様と、ローブで身を隠したペロロンチーノさん、そして……えっと、これ、保護色になって近くで見ないとわからないけど、ぶくぶく茶釜様なんだよね?

 

 

 「モモンガさん、遅れました」

 「あれ?その二人も連れてきたんですね」

 「ええ、まあ、どうせなら多い方がいいかな、と」

 「それじゃ行こっか?バレないように」

 「……バレないように……?」

 

 ……バレないようにっていうか……転移出来る時点でバレバレだと思うけど、言わないでおこう。今回は私達もついてるからデミウルゴスも……まぁもしかしたらついてくるかもしれないけど。

 

 「おや?……シャルティア、エレティカ、どこへ……モモンガ様?ペロロンチーノ様にぶくぶく茶釜様まで……そのようなお召し物で一体どちらへ?」

 

 ほらもう見つかった……。

 

 「うむこれには……まぁ、色々と事情が有ってな……」

 「……成る程、まさに支配者にふさわしいご配慮かと」

 「えっ」

 「流石はデミウルゴス、言わずとも私達の真意を見抜いたようね」

 

 ……これ、内心冷や汗だらっだらなんだろうなぁと思うとすごい面白いな……。

 

 「もしお許し頂けるのであれば、僭越ながら、私も視察にご同行しても?」

 「……もうシャルティアもエレティカも許可してるしね」

 「……分かった、同行を許そう」

 「私のわがままを受け入れていただき、感謝致します」

 

 内心では「これじゃ息抜きできないなぁ」くらいに思ってんだろうな~……。

 まぁ私が助け舟を出しても良かったけど、不自然だし、デミウルゴスに睨まれたくないし……諦めて、モモンガ様。

 

 

 「……うわあ……!」

 「これは……凄いな」

 「キレー……」

 

 おお……こりゃ確かに感動するわ……私もここまで透き通った空は初めてだ……。

 

 「「「《フライ/飛行》!」」」

 

 あ、っと置いてかれる。《スキル/飛行》っと……。

 「《スキル/飛行》!」

 「クコカカカッ」

 

 《バサッ!!》

 

 おう、当然のように変身するのやめーや。

 ちょっとビックリしただろうが。

 

 

 

 

 雲の上から見ると、更に壮観だ……。

 星々がよく見えて、月の明かりだけで周囲がよく見える程に。

 

 大気汚染が、モモンガ様の居た世界よりかは進んでいなかったと思われる私の住む世界の日本でも、こんな光景はまず見られないだろう。

 ……いや、北海道とかならあるいは……。 

 

 「まるで宝石箱みたいだ……」

 「おっと、モモンガさん、意外にロマンチスト?」

 「でもほんと、宝石みたいよね」

 「この星々が美しく輝いているのは、御身を美しく飾るための宝石を宿しているからかと」

 

 「こっちもなかなかロマンチックな事言うじゃない」

 「確かにそうかもしれないな……」

 

 

 「私達がこの地に来たのは……この誰も手にしたことのない宝石を手に入れる為……いや、ナザリックや、わが戦友達、アインズ・ウール・ゴウンを飾るためのものかもしれない、か……。」

 「お望みとあらば、ナザリック全軍を持って手に入れてまいります」

 

 「何言ってるのデミウルゴス?まだこの地にどんな脅威があるかもわからないのに」

 

 「どのような脅威があったとしても、その上を行けば良いだけの事です。ぶくぶく茶釜様」

 「エレティカまでノリノリになっちゃってまぁ……」

 「わ、私も、必要とあればどんな事をしても御身の期待に応えるでありんす!」

 

 「あぁ、そうだな……」

 

 

 ……あっヤベッ……いや、やっぱいいや、ほっとこう(ゲス顔)

 

 「世界征服なんて、面白いかもしれないな……」

 

 「「ッ!?」」

 

 あぁ、言っちゃったよこの人……。

 まぁ、言うと思ってたけどね。

 

 「そうですね……」

 「俺たちなら、割とどうとでも出来そうですけどね?」

 「フフフ……」

 

 うわぁ……これは完全に魔王ですね。

 間違いない。

 

 

 

 そうして、しばらく談笑した後、下から地響きのような、波のような音が聞こえる。

 

 《ズズン……!!》

 

 「ん?あれは……マーレか、早速例の作業に取り掛かっているようだな」

 「さすがうちの子ね」

 「範囲を拡大した上でクラススキルも発動しているみたいだね」

 

 「モモンガ様、今後の予定を聞いても?」

 

 「うむ、マーレの陣中見舞いに行く、何が褒美として良いと思うか?」

 「モモンガ様がお声をかけるだけで、十分かと」

 「うむ(相談する相手を間違えたかな……)」

 

 「シャルティアはどう思う?」

 「え?ええと……デミウルゴスの意見と同様でありんす。私達は至高の御方々にこの身を捧げた身……お声をかけていただくだけで十分でありんす」

 

 「エレティカは?」

 

 え~~~……?あの子ら欲しいものとか一切無いだろうしな~~~?

 う~~~ん……。

 

 「……そうですね、やはりいくら彼女、いえ、彼が優れた階層守護者であるとしても、まだまだ子供です……ですから……頭を撫でてやるのはどうでしょう?特に、ぶくぶく茶釜様に撫でて頂けたら、それは最高の褒美になるのではと思いますが……とはいえ、彼を労う、という意味でならデミウルゴスの意見と同様で……」

 「よしわかったさっそく撫でてくるわ」

 

 ちょっ早いなあのピンクスライム……。

 

 

 「ふっ……私達も向かうとするか」

 「かしこまりました」

 

 

 

 

 

 「あっ、モモンガ様、ペロロンチーノ様……!」

 

 そこには顔を赤くしながらピンク色の肉棒の形をしたスライム状の生物に撫で回されるマーレがいた。

 ……もし人型の生命体であったなら微笑ましい光景だろうが、こうして見ていると……。

 

 「……捕食しているようにしか見えないよ、姉ちゃん」

 「弟、黙れ」

 

 今回ばかりは弟悪くないですよぶくぶく茶釜さん!

 ……うん?マーレの指に既にリングがはめられている?

 ……ぶくぶく茶釜さんが渡したのか、なるほどね……ってことはそろそろ……。

 

 「ところで、モモンガ様とペロロンチーノ様はどうしてそんなお召し物を……?」

 「う、うむ、それはだな……」

 

 「簡単よ、マーレ」

 

 き、キター!!!ヒドイン!!あっいえなんでもありませんどうぞ続けて。

 

 「絶対なる支配者である至高の御身を眼にしたら、下僕達は仕事を止めて忠誠を誓ってしまうでしょう?それは御身の本位ではない、それゆえの処置……ですよね?モモンガ様?」

 

 「あ、あぁ、そのとおりだ……ハハハ(言えない……ただ息抜きがしたかっただけなんて言えない……)」

「(その理論で行くとシャルティアとエレティカを連れて来ちゃったのは失敗だったかな……)」

 

 「お褒めにいただき光栄の極みごございま……す!!?」

 

 おっと、マーレの指輪を見つけちゃったか……。

 シャルティアは経緯を知ってるからニヤニヤしてるな、私もしてるけど。

 

 「ど、どうかしたか?」

 「何が、でしょうか?」

 「え、あ、そうだ、アルベドにも、このリングを渡しておこう……お前にも必要なものだからな」

 「……このような秘宝をいただいて、感謝の極みでございます……」

 

 ちょっ、もう早く行ったほうがいいんじゃない? 

 ほらもう羽とかぷるってるし。

 

 「デミウルゴスには……また後日渡すとしよう」

 「かしこまりました、かの偉大な指輪頂けるよう、精進してまいります」

 

 「シャルティアとエレティカにも、あとであげるからねー」

 「アウラにも、あとであげるからって伝えておいてね」

 

 「それでは、この辺で失礼することにする、今後も忠義に励め」

 

 《シュンッ》

 

 「ウオオオオオオオオオオオオオオッシャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 うるさっ……。

 

 

 その後、1時間にも及ぶアルベドのモモンガ様大好き結婚したい話(大体2分でループする)を聞かされて、なんだか精神的に疲れた……。

 

 

 さて、次はどうしたものか……。

 

 

 うーん、まずはアルベドにそれとなく最強装備をいつでも着れるように準備しておくように言っておこうかな……?

 

 と、その前に……。

 

 

 

 「マーレはぶくぶく茶釜様とご婚約なさったの?」

 「えぇっ!!?そんな、違うよ!?」

 「そう?でも……指輪をはめる位置がそこだと、婚姻指輪という意味になってしまうのだけど……」

 「そ、そうだったの!?あぁ……すぐに付け直さないと……。」

 

 ※ちなみになかなか付け直そうとしませんでした。

 

 「(なんだ……モモンガ様から頂いたというわけではなかったのね、ふぅ~、焦って損したわ……)」

 

 「それじゃあ、お互い本来の持ち場の警備に戻りましょうか?」

 

 「そうだね、では私はこれで失礼するよ」

 「ええ、マーレ、引き続きお願いね」

 「しっかりやるんでありんすよ、マーレ」

 

 「う、うん、頑張ります」

 

 

 ……さて、どうやってカルネ村に行くこじつけようか……まずはモモンガ様に話を聞いていただくところから始めようかな?




やっぱり今回もダメだったよ……。

アルベド「え??何が???」


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カルネ村まで(3/3)

エレティカ、ついに念願のカルネ村へ!


 「シャルティア、ここの警備をあなたに任せてもいいかしら?私は、至高の御方々に、他に手伝えることがないか聞いてきます」

 「えっ?……何故突然?」

 「ここを守る位、あなた一人で十分でしょう?であるなら私は他に仕事が無いかを探しに行くのも一つの手だと思うの」

 「ですが、与えられた命を放棄しては不敬になるのではありんせんか?」

 「与えられたことを忠実にこなすのも大事だけど、時には自分から動くのも必要だと思わない?」

 

 シャルティアは一つ「成る程」と呟くと首を縦に振って肯定の意を示した。

 

 「じゃあ、行ってくるわね、何かあったら報告をお願い」

 「わかったでありんす」

 

 

 

 

 「……そして私達の元に来たというわけか」

 「勝手に持ち場を離れてしまい申し訳ないと存じていますが、この非常時ですから、他にやるべきことがあるならば指示を伺いたいと思ったのです」

 「うん、自主的に仕事を探すのはいい事だよ、ね?モモンガさん?」

 「えっ、あぁ、そうだな……(NPCが自主的に与えられた仕事以外の仕事を取りに来ること自体おかしいんだけどなぁ……でも来たのがエレティカ一人って事は、彼女が特殊ってことなのかな?)」

 

 「でも、今はやることはないわね……」

 「……モモンガ様、それは?」

 

 「うん?これは、ミラーオブリモートビューイングだ。周囲の状況の確認に役立つと思ったんだが……いかんせん、転移する前と操作方法が変質しているらしく上手く操れないのだ」

 「もしお許し頂けるのでしたら、失礼してもよろしいでしょうか?」

 

 「うむ、許そう」

 

 そう言って、ミラーオブリモートなんちゃらをこちらに渡しつつ、その様子を覗ける位置に至高の方々が集まる。

 ちょっと……アニメの動作を真似するだけだっていうのに、緊張するな。

 

 「まず、もっと遠くから景色を見たいのだが、ズームアウトやズームインの方法が分からないのだ」

 「成る程、ええと、確か(あの時は、腕をこうやって……)」

 

 私が腕を広げるような動作をすると、ミラーオブリモート……ええと?は、映し出す光景がズームインし、またその逆をすればズームアウトした。

 

 「お?おおお、あーなるほど、タッチパネルを操作する時みたいな感じか!」

 「流石エレティカ!いやー助かったよ!ずっと片手で操作しようとしてたのが間違いだったんだな~……」

 「お役に立てたようで何よりです」

 

 思ったより操作が簡単で良かった、やったことないし。

 でしゃばった真似をしたかな?とセバスを見るが、特に問題は無かったらしい。

 ウンウンと頷きながら手を叩いて「流石はエレティカ様です」と賞賛してくれている……一応立場的にはそんな様なんてつけられる程の上下がある関係ではないと思うんだけど……。

 

 「……あら?エレティカ、今、何か村のようなものが見えなかった?」

 「……ええと、はい、そのようです」

 

 だが、まぁ、思ったとおり、その村は今、なにかの事件に巻き込まれている真っ最中ですという感じだった。

 成る程、これがカルネ村か……。

 

 「……祭りか?」

 「いえ、これは違います」

 「……殺戮……それも一方的な……」

 「チッ!」

 

 こっちではぶくぶく茶釜さんが舌打ちを……今どうやって舌打ちしたの?

 いや、そんな事言ったらモモンガ様とかペロロンチーノ様はどうやって喋ってるんだって事になるけども。 

 

 「どうなさいますか?」

 

 「…………」

 

 

 ……おお、原作では迷わずに見捨てる、と切り捨てたモモンガ様だったけど……。

 今は仲間が二人もいるから、人間性が若干失われずに済んでいるんだろうか?

 それなら助かるんだけどな~……。

 

 

 「僭越ながら、意見してもよろしいでしょうか。これ以上は口を挟むなというのであれば……」

 「良い、許可する」

 

 「はい、モモンガ様は恐らく、この者達が、転移する前の地での常識の通用する相手ではないという可能性を案じているのかと。そのような危険を冒してまで、この村を救うメリットが無いとも。しかしそれでも今迷われているのは、いずれ外の人間とは接触することになる、その時に後手にまわるような事は避けたい、なるべくなら早いうちに懸念材料は無くしておきたいという思いもあるからだと思われます」

 「うむ、続けよ」

 

 「ハッ……そういった要素を考えた上で申し上げますと、私はこの村を救うべきだと愚考します。」

 「ほう?」

 「エレティカ、どういうこと?」

 

 「先ほど申し上げたとおり、いずれはこちらの常識の通用する相手なのか知る必要があります。そのためにいつかはあちらの人間と戦わなければならない……であるならば、この状況は好機です」

 「というと?」

 

 「ええ、まず、この状況で無ければ私達は人、あるいは国を襲うモンスターという形、あるいはいつ来るか分からないナザリックの敵に対抗するという手段でしか、相手の戦力がどれほどなのか知る機会はありません、ですがこの状況、この村を襲う人間共と戦闘をする場合であれば、この村にとって私達は村を救った恩人として扱われ、うまく交渉を行う事に成功すれば、自ら進んで情報提供に応じてくれる可能性があります。もし言葉が通じずとも敵対的な関係になることは避けられるかと」

 

 「なる程な、お前の考えは理解した。……セバス、各階層守護者に通達、警備レベルを最大まで引き上げよ、私達はこれよりこの村を救いに行く」

 

 よし、作戦成功!ここまでは……。

 で、これからどうやってカルネ村に行くのかだが……。

 

 

 「であれば、私もお連れになってください」

 「セバス、貴方には情報を通達するという役目があるわ、貴方が私達とここを出てしまっては誰がその役目を果たすというのかしら?」

 「……ハッ、出過ぎた真似をしました。」

 「であれば、私、エレティカ=ブラッドフォールンをお連れください。状況を存じております故、スムーズに事を運べると強く確信しております」

 

 「モモンガさん、俺からも頼みます、エレティカは元々俺の雇った傭兵N...ですから、こういう時にはもってこいの役目を持っていると思います」

 「ウム、分かった。エレティカはゲートを超えた先ではペロロンチーノを守るようにせよ。……だが一応……セバス、アルベドに完全武装で来るように伝えておけ。ただしギンヌンガガプの所持は許さん。では、ペロロンチーノさん、ぶくぶく茶釜さん、エレティカ、行くぞ。《ゲート/転移門》」

 

 

 

 

 

 ……あっ、姿……まぁもう時間ないしどうせ記憶を弄れるから、いいか……。

 っていうか私が居るから私が率先して動けばいいだけの事だよね。

 

 

 

 《ズズズズ・・・・》

 

 「なっなんだ!?」

 

 そしてゲートをくぐった先に居たのは……おー居た居た、エンリとネムだ。

 若干遅くなっちゃったから生きてるか心配だったけどちゃんと生きてるね、うんうん……。

 

 「《グラスプ・ハート/心臓掌握》」

 

 「ぐげっ!!!?」

 

 あっ、もうモモンガ様ったら雑魚相手にそんな強い魔法を使って……。

 

 「ば、化物!!」

 「どうした?女子供は追い回せても、毛色の変わった相手は無理か?……せっかく来たんだ、実験に付き合ってもらうぞ」

 「(ウワーモモンガさん完全に悪役っぽい……)」

 

 とりあえず後ろでライトニング撃っている間にこっちの二人の治療をしておくか……。

 

 「大丈夫?……傷が深いわね、このポーションを飲みなさい。大丈夫、落ち着いて、もう大丈夫だから……」

 「ぐすっ……お姉ちゃん、だあれ?」

 「え、ええと、分かりました」

 

 一瞬赤い色のポーションに戸惑ったようだったが、私のにこやかスマイルでなんとかスムーズに受け取ってくれた。

 恐る恐るそのポーションを口にしたエンリは、飲んですぐに自分の背にあった痛みが消えたことに気付き、「嘘……」とつぶやきながら自分の背中をペタペタを触っていた。

 

 「……<中位アンデッド創造><死の騎士(デス・ナイト)>」

 

 おっと、それはちょっとこの子達に刺激が強いですよモモンガ様!

 死体がガタガタッと動き出したところで、とりあえず私は二人に「見ちゃダメ」と目を伏せさせながらその様子を見守る。

 

 「……(?なんでそんな見てはいけないもののような反応を……?まぁいいか。)デスナイトよ、この先の村を襲っている騎士を殺せ。」

 《グオオオオオオオオオオ!!……ガッシャガッシャガッシャ……》

 

 「「「えぇ……?」」」

 

 ブフゥッ!!?ちょっと!!吹きそうになったじゃないですか!!

 その気の抜けた声×3は、反則ですよ!!!

 何とか姉妹を抱き込み背を向けているからバレてはいなさそうだが、肩が震えているかもしれない。

 

 「盾であるはずの者が守るべき主人を置いていってどうするのよ……。」

 「や、でも命令したのはモモンガさんだし……。」

 「……とにかく、まずはそこの二人を……ところでどうして眼を伏せさせているんだ、エレティカ?」

 

 あー……ええと、どういったもんかな。

 流石に「その姿じゃ怖がられるだろ!!」とは言えんしなぁ。

 

 「……モモンガ様、ペロロンチーノ様、ぶくぶく茶釜様、失礼を承知で申し上げますが……人間にはあなた様の姿はあまりに、その……刺激的と申しますか、冒涜的と申しますか、子供には見せられない、と申しますか……。」

 

 一瞬「?」という顔を(しているのかどうかは分からないが)したモモンガ様だったが、すぐ私の意図に気づいたのか、例のマスクを被り、手をガントレットで隠し始め、それを見たペロロンチーノ様やぶくぶく茶釜様も察したらしい。

 

 ペロロンチーノ様は元々バードマンという種族で形だけみれば人間種の亜人、ハーピィにも似た姿だったのでもしかしたら、と思ってはいたが、やっぱり、人間に擬態するスキルも持っていたらしく、今はオレンジ色の髪をした弓兵の姿の好青年に。

 

 ぶくぶく茶釜様も、ソリュシャン同様、人間に化けるスキルか、化ける為のアイテムを持っていたのか、今は桃色の長い髪を持つ騎士風の女性の姿になっていた。

 ……ひょっとしてエロゲのキャラだったり?

 「くっ殺せ!」とか言いそう。

 

 ……モモンガ様……宝物庫にアンデッドが人間に化けられるアイテムが無いか探しておきますね。(すっかり忘れてた)

 

 「うむ、これなら問題ないだろう」

 「はい、お手間を取らせてしまい申し訳ありません」

 「エレティカが謝ることじゃないよ、俺達もちょっと考えれば分かることだったね、危うく現地の人を怖がらせるところだった、むしろ迅速な判断と行動を評価しよう」

 

 ホッ、良かった。

 まぁ優しい人たちなのは知ってたから処罰なんてされないだろうとは思ってたけど、それでもね~。

 そしてエンリとネムが顔を上げて困惑していると、またゲートが開き、そこから全身を黒い鎧に包んだアルベドが現れる。

 

 「準備に時間がかかり、遅くなって申し訳ありません」

 「いいや、実に良いタイミングだ、アルベド」

 「ありがとうございます、それで……」

 

 そのヘルムを通してでもみるみるその目線に敵意がこもっていくのが分かる。

 おいおい、ちゃんとしてよ。

 せっかく事前に「準備しておいたら?」って言っといたのにさ。

 

 「……アルベド、話を聞いているので知っているとは思いますが、彼女達はこの地の人間、この先にある村を救って情報を提供してもらう、いわば協力者です。敵となる人間達はあそこに転がっている鎧を身にまとった連中です」

 

 「(やべっ、そうだったの?……あぶねー!!!助かったわエレティカ!!)」

 「エレティカの言ったとおりだ、そして……ひとまず傷はポーションによって治ったようだな。であれば、そうだな、お前たちは魔法というものを知っているか?」

 

 「はい、村に時々薬草を採りにやってくる、私の友人が魔法を使えます」

 

 おっ、ンフィー君の事か……彼ともできれば会いたいんだけど、うーん……ナーベの役を取っちゃうのは流石にどうかと思うし、一緒に連れてってもらう事は出来ないだろうか……。

 

 「ふむ、であれば話は早い、私はマジックキャスターだ。《アンティライフ・コクーン/生命拒否の繭》《ウォール・オブ・プロテクションフロムアローズ/矢守りの障壁》」

 

 モモンガ様がそう唱えると、彼女らを中心に、緑色の膜のような結界が二重に展開された。……これってどのくらいの強度なんだろう? 

 

 「守りの魔法をかけてやった、そこにいれば大抵は安全だ。……それと、念の為にこれを渡しておこう。吹けばゴブリンの軍勢がお前に従うべく姿を見せるはずだ」

 

 これが原因でエンリは将軍になるんですねわかります。

 

 

 「これ以上は過保護かな?」

 「そうね、先に向かったデスナイトを見に行きましょう」

 「「お供いたします」」

 

 うぉ、ハモッた。

 

 

 「あ、あの!助けてくれてありがとうございます!」

 「ありがとうございます!」

 

 「……気にするな」

 「お名前は、貴方達のお名前は、何と仰るんですか!?」

 

 

 あっ、そういえばここでモモンガ様ってアインズ・ウール・ゴウンに名前を変えるんだっけ……?どうなるんだろ、ここでは?

 

 

 「私達は、いや、我らこそが、ナザリック大墳墓の絶対なる41人の支配者、アインズ・ウール・ゴウン!」

 

 あっ、これは……団体名、アインズ・ウール・ゴウン様になりました。

 なりましたっていうか元からそうだから変わらないね。

 モモンガ様はこのままなのかな?




我ら、アインズ・ウール・ゴウン!(背後で爆発)

……えっ私もやるんですか?


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ニグン捕獲まで(1/2)

ええ、二次創作でも本編でも必ずと言っていいほどボコられるニグンさん登場ですよ。
……いや今回はまだ出ないかも。


 私達がそこについたのは、デスナイトが、勇敢にも立ち向かってきた騎士の一人の頭が吹き飛ぶというSAN値チェック待ったなしなタイミングだった。

 

 

 ……だが、やっぱりというべきか、私もヴァンパイアになったせいか、それともこの光景を一度見ているからかは分からないが、動揺とかはあまりしない。

 せいぜい、痛そうとか可哀想とか、その程度で……「ウッ」と卒倒したり吐き気がしたりといった事はない。

 

 

 これでも一応私のカルマ値は善寄りなのだが……。

 

 ひょっとしたらヴァンパイア化して人間や血を酒等の嗜好品と同等と捉えてしまっているのかもしれない。

 今のところ「美味しそう」とかは思わないけれど、この先性格や趣向がヴァンパイアに引かれていくんだとしたら、ちょっと注意すべきかも。

 

 それにそうじゃなかったとしても、私にもシャルティア同様、血の狂乱というスキルが存在するため、気を付けないと狂乱状態に陥ってしまうという事もありえる。

 

 

 「そこまでだ、デスナイトよ!」

 

 

 ピタリとデスナイトの動きが止まり、周囲がざわつく。

 そして、騎士の一人がこちらに気付き、「あ、あれを見ろ!!」

 と叫ぶ。

 

 そんな事は意も介さず、私達は悠然と地に降り立ち、モモンガ様がこう続ける。

 

 

 「初めまして、私達はアインズ・ウール・ゴウンという」

 「貴方達には生きて帰ってもらうわ」

 「そしてお前らの上司……飼い主に伝えるがいい」

 

 「「「このあたりで騒ぎを起こすなら次は貴様らの国まで絶望を与えに行くと」」」

 

 「行け!そして確実に我らの名を伝えよ!!」

 

 「「「ヒッヒイイィィッ!!!」」」

 

 

 騎士たちは剣や盾も捨てて一目散に走り出す。

 一刻も早くここから逃げ出したい一心で。

 

 「……<モモンガ様、情報を聞き出すために、何人かはこちらで捕縛してもよろしいでしょうか?>」

 「<うん?……ああ、そうだな、情報は多いに越したことはない。許可する>」

 「<ハッありがとうございます。では、私は下僕を召喚して、2~3人騎士風の男を捕えさせておきます>」

 「<うむ>……さて」

 

 

 「た、助かった……のか?」

 「ええ、貴方たちはもう安全よ。」

 「や、やった……助かった……。」

 

 村の人から安堵の歓声にも似た声が上がる。

 よほど怖かったのか、ホッとして腰が抜けた女性までいるようだ。

 だが、何人かは、未だ後ろに控えているデスナイトに怯え、怪しんでおり、それに気づいたモモンガ様が続ける。

 

 「とはいえ、タダというわけではない」

 「そうね、助けた代わりに、報酬と情報をもらいたいのだけど……。」

 「事後承諾になっちゃって悪いけど、それでいいかな?」

 

 「「「……おおお!」」」

 

 営利、金銭、情報が目的だとハッキリして、ようやく村全体に安心したような空気が流れ始める。

 このあたりは同じだね。

 

 私は後ろで、自分の影から配下の者が森の影へと溶け込んで行くのを横目で見届けつつ……「怪我人は居ませんか?重傷者の方や、子供、老人を優先的にこちらへ集まってください。」

 

 「(エレティカってほんと言われなくても行動してくれるから助かるな……。)では、村長は……貴方か?貴方とは私達と対価について話がしたい、どこか落ち着いて話せる場所へ案内を頼めるか?」

 「は、はい、でしたらこちらへ……狭い場所ですが」

 

 

 ……で、ここがユグドラシルじゃないってわかる……っていうかほぼ確信するんだったよね、確か。

 

 私は後でモモンガ様から教えてもらったというていにしなくちゃいけないから、ボロを出さないように気を付けないとね。

 

 またさっきは赤いポーションを使ってしまったけれど、ンフィーの事もあるから治療に使うのは治療のスクロール、あるいは、普通に傷口を消毒して包帯を巻いたりといった一般的な方法での応急処置になる。

 

 「はい、貴方はどこを……あぁ、大丈夫、すぐに治りますから落ち着いて下さい。

 大丈夫です、治癒魔法が使えるので……アルベド、あなたは先ほど助けた姉妹と思われる人間の女二人を連れてきてくれる?」

 

 「……分かったわ」

 

 えっ、なにその顔。

 すっごい悔しそう……。

 ……なんで?

 

 

 そうして怪我人の手当が終わり、村長とモモンガ様達による交渉が終わった後、葬儀が終わり……村の復興作業を始めだした所で、だんだんと日が落ち始め、「そろそろ来るかな?」と思っていた者達が現れる。

 

 「ど、どうしますか村長?」

 「うーむ……」

 「……どうされました?」

 「おお、あなたは……」

 「アインズ・ウール・ゴウンの配下が一人、エレティカという者です。以後お見知りおきを……して、どうされました?」

 「はい、村に騎士風の者が近づいているそうで……」

 「……分かりました。我が主達に報告し、指示を仰いでみましょう」

 「おお……助かります」

 

 

 まだ、「助ける」とは言ってないんだけどな……でも結局は助ける事になるし、そもそも今から来るのは味方、なんだけどね。

 

 

 「一難去ってまた一難かぁ」

 「面倒だね……」

 「……では、村長は私と広場に、生き残った村人は村長殿の家に至急避難していて下さい」

 「分かりました!」

 

 

 そうして、準備が整った頃、段々と馬の蹄の音が聞こえてくる。

 先頭で率いているあのイケオジが、ガゼフさんかな?

 

 

 「私はリ・エスティーゼ王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ、このあたりで村々を襲って回っている帝国の騎士達を討伐するために、王のご命令を受け、村々を回っている者である」

 

 「王国、戦士長……!」

 

 ひぇー、やっぱ戦士長っていうだけあって貫禄があるね。

 

 「……(……子供?それに、魔法詠唱者と、騎士が二人に、弓を扱う者が一人……どれも帝国の物とも法国の物とも違う装備をしているが……。)この村の村長だな、横に居る方々は一体誰なのか、教えてもらいたい」

 「この方達は……」

 

 「それには及びません初めまして、王国戦士長殿。私達はアインズ・ウール・ゴウン。この村が襲われていたので、助けに来た者達と、その配下です」

 

 「……!!、《バッ!》村を救っていただき、感謝の言葉もない!」

 

 あぁ~、こういう素直にお礼を言えるのが、この人のいいところだよね~。

 やっぱ戦士って言ったらこうでなくっちゃあ!

 

 「<なかなか良い男じゃない?>」

 「<だね、好印象をうける人間だ>」

 「<王国戦士”長”ともなれば、王国と呼ばれる場所で結構偉い人物である筈だから……友好的に接して損はないでしょう>」

 

 どうやら至高の方々も同じような印象を受けたようだね。

 

 「……して、あちらのアンデッドは……?」

 「心配ご無用、あれは私の支配下にある物ですので」

 「なんと……その仮面がそうですかな?」

 「ええ、ですから、顔を見せる事が出来ないのですが、そういう事情ですので、ご理解頂きたい」

 「成程、こちらとしてもそうしてくれると助かる」

 

 実際は何の効果もないマスクなんだけどねー……。

 まぁ、実際何も知らずに見せられたら何かしらの効果は持ってそうだと思うけど。

 

 「戦士長!村を囲うように、複数の人影が!」

 「なんだと?」

 

 ああ、もう来たの?早いなぁ……。

 もうちょっとゆっくりくればいいのに。

 そうすればもう少しだけ……長生き出来ただろうに。

 いや、死ぬより辛い生を受けるんだから、長生き、という表現はおかしいかな?

 

 

 

 

 「……確かに居るな」

 「村を囲うように、等間隔でこちらに来ています」

 

 ひとまず、状況を整理するために村の倉庫へ集まった戦士長と私達だったが、まぁ、状況はあまり芳しくない。

 私達がチート級のトンデモ化物達じゃなければの話だけど。

 

 「彼らは一体?」

 「……あれだけのマジックキャスターを揃えられるのは、スレイン法国……それも、神官長直轄の特殊工作部隊、六色聖典のいずれかだろう」

 

 で、でたー!相手の実力を測れない奴ーーー!

 ……ええと、今回はどうなるんだろうな……。

 

 「じゃあ、さっきのは?」

 「装備は帝国の物だったが……どうやらスレイン法国の偽装だったようだな」

 

 わかっていたから良かったけど、捕縛した奴らはナザリックに送ってしまったあとだからなぁ……。

 まぁ、居ても居なくても大して変わりはない、か。

 

 

 「この村にそこまでの価値が?」

 「この村には無いだろう、そして、アインズ・ウール・ゴウンの皆様にもその心当たりがない、とすれば、答えは一つだ」

 「……憎まれてるのね、戦士長殿は」

 

 だよねぇ、いくら有名な戦士とはいえ二つの国から命を狙われてるって事でしょ?

 控えめに言って生きた心地しないよね。

 

 「まったく、本当に困ったものだ、まさか法国にまで狙われているとは」

 

 「……いかがなさいますか?モモンガ様」

 

 「……よければ雇われないか?報酬は望まれる額を約束しよう」

 「お断りさせていただきます」

 「……そうか……」

 

 ……原作ではここで「強制的に徴兵させると言ったら?」みたいなやりとりがあったけど、流石にこの数を相手にするとなると分が悪いと思ったのか、あっさり引き下がった。

 まぁ確かアニメの方でもあっさり引き下がっていたような気もするけど。

 

 「ではアインズ・ウール・ゴウンの皆様、お元気で。この村を救ってくれた事……感謝する。そしてわがままを言うようだが、もう一度だけ、もう一度だけ村の者達を守ってほしい。……どうか……《ガシッ》どうかっ!?」

 

 「そこまでする必要はありませんいいでしょう、村人たちは私達が守りましょうこの、アインズ・ウール・ゴウンの名にかけて」

 

 「ならば後顧の憂い無し……私は、前のみを見て進ませていただこう!」

 

 かぁーっっこいいーっ!!

 渋すぎるよ旦那ーっ!こりゃついて行きたくなる人たちの気持ちもわかるな~。

 

 「……では、これをお持ちください」

 「……?君からの品だ、ありがたく頂戴致しましょう。……では」

 「……ご武運を」

 

 

 ここって、恐らく助からないだろう戦士長を見送るっていう悲しいシーンなんだよなぁ……。

 

 ……モモンガ様が超ド級のチートマジックキャスターじゃなければ。

 

 

 「どうも初対面の人間には虫程度の親しみしかないが……(初対面だとそこまで親しくはなれないけど)話し込んでみると、小動物に向ける程度の愛着が沸いてしまうな(話していると愛着が沸いてついお節介したくなっちゃうなぁ)」

 「ですから尊き名前を用いてまで、お約束をされたのですか?」

 「そうなのかもな」

 

 ん~~~~……モモンガ様って結局今どれくらい人間の心が残ってるんだろう?

 でもまぁ結局身内にはものっそい優しいおじちゃんであることに変わりはないから、私としてはどっちでもいいんだけど……。

 

 ……どっちでもいいってやばくね?私もヴァンパイアに引かれ始めたかな。

 

 

 

 その後、戦士長達は非常に、善戦した。

 だが結局のところ魔法が使える相手とアークエンジェル達によって既にボロボロにされ、状況は壊滅状態であった。

 

 「よく頑張ったと褒めてやろう、そこに横になれ。その意思に敬意を評し、せめてもの情けに苦痛のないように殺してやる。そしてその後は、あそこの村人を全員殺してやる」

 

 「クッ……フッ……フフフフフ……ッ」

 「……何がおかしい?」

 

 「愚かなことだ、あの村には、俺よりも強い方々が居るぞ」

 「……ハッタリか?もういい、総員、かかれ!」

 

 

 

 

 「……モモンガ様、そろそろ」

 「ああ、……そろそろ交代だな」

 

 

 

 一瞬、まばゆい光が戦士長の体を包み込み、次の瞬間現れたのは、死の支配者、モモンガ様と……ペロロンチーノ様、ぶくぶく茶釜様、アルベド、そして私の姿だった。




次回……ニグン、死す!

ニグン「えっ」


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ニグン捕獲まで(2/2)

誤字報告が多数の方から鬼のように届いて若干震え上がるとともに
適用すると自動で直してくれる便利&楽さに溺れて注意力散漫になりそう。

あと、この小説の挿絵イラストを知り合いの絵師さんの妹さんを人質に取り、脅して描かせました!


……嘘です自分で描きました。
エレティカのイメージ画像です。



【挿絵表示】



 「……何者だ?いや、今、一体どこから現れた。」

 

 

 「初めまして、スレイン法国の皆さん。」

 「私達の名は、アインズ・ウール・ゴウン……。」

 「あの村とは少々縁があってさあ。」

 

 「村人の命乞いにでも来たのか?」

 

 「いえいえ、実は……。」

 

 

 そこで、モモンガ様の雰囲気が、ガラリと変わる。

 いや、雰囲気ではない、空気が、大気が、そして……この場の流れというものが変えられる。

 

 「お前と戦士長との会話を聞いていたのだが、本当にいい度胸をしている。」

 「私達がせっかく救ってやった村人を全員殺すだと?」

 「こんな不快な事があるかよ。」

 

 「不快!とは、大きく出たな、冒険者?で、だからどうした?」

 

 「抵抗することなくその命を差し出せ。」

 「そうすれば少なくとも痛みはないわ。」

 「いいぜ、もしそれを拒絶するっていうなら……」

 「「「愚劣さの対価として、絶望と苦痛の中で死に絶えることとなるだろう。」」」

 

 キャーッ至高の方々カッコイイーッでも普通に言ってくれ頼むから。

 リレーして言うのほんと腹筋に来るから!

 あとペロロンチーノ様はさりげなく幻想ぶち殺す人っぽく言うのやめーや!

 一瞬「あれ?」と思ったわ!!

 

 「天使たちを突撃させよ!!」

 

 

 そして、飛んできた哀れな羽虫の刃が、モモンガ様の服に突き刺さる。

 ……が……。

 

 「……人の忠告は素直に受け入れるものだぞ?」

 「やはりユグドラシルと同じモンスターのようね。」

 「お前らがどうしてそれを使えるのか知りたいとこだけど、それは後においておこうか。」

 

 「次はこちらから行くぞ?鏖殺だ。」

 

 

 ……それは一瞬、そう、ほんの1秒にも満たない出来事だった。

 

 モモンガ様の飛ばした負の波動と、ペロロンチーノ様の放つ光速の弓矢、ぶくぶく茶釜様による、不可視の盾の生成と攻撃による圧殺。

 

 それぞれ全てが一撃で天使を屠るに至っている。

 

 「ば、馬鹿な!?」

 

 「ば、化け物!!」

 

 そして混乱した敵が次々に魔法を放つ。

 どれも、ユグドラシルの物で、私たちからすれば、何もしなくても何のダメージにもならない、無意味なもの。

 

 「やはりユグドラシルの物ばかりね。」

 「……誰が、その魔法を教えた?」

 

 

 「ぷ、プリンシパリティーオブザベイション!!かかれ!!」

 

 ……ん?おっと、モモンガ様にいくのかと思ったら、こっちに来たな。

 まぁ一応ペロロンチーノ様を守っている盾役として受けといてやるか?

 ……それにしても遅いなぁ。

 

 

 「……エレティカ、別に待たずにやっちゃってもいいよ。」

 「承知しました、では。」

 

 許可が出たのであなたには一撃も見せ場はなく終わっていただこう、たった今メイスを振りかぶっているところだけど、残念、遅すぎ。

 

 

 《ヒュッ》

 

 スキルを使うまでもない、通常攻撃。

 申し訳ないけどお前なら手刀による一突きで十分オーバーキルだ。

 

 そのただの一突きで、頑強な筈の天使の外殻は豆腐か何かのように陥没、そのまま、光となってキラキラと消滅していく。

 

 「一撃……だと……!!?ありえん!!上位天使がたった一回の武技で滅ぼされるはずがない!!!」

 

 いや、武技ですらないんだけどね?

 

 「ヒュゥーッ流石俺のエレティカ!」

 「お褒めに預かり光栄の極みで御座います。」

 「も、モモンガ様、次、次は私がやりましょうか?」

 「い、いや、お前は守りに徹していろ……。」

 「かしこまりました!」

 

 

 「た、隊長、我々はどうしたら!?」

 「……最上位天使を召喚する!!」

 

 あれは……魔封じの水晶(雑魚入り)!ユグドラシルのアイテム(無駄遣い)もあるわけか……!!

 

 「アルベド、スキルを使用し、私達を守れ。」

 「必要ないとは思うけど、一応私も防御魔法をかけておくわね。」

 「ハッ!承知しました。」

 

 うん……本当に必要無いんだよね、とはいえ一応警戒するふりだけでもしておくか。

 

 

 「見よ!!最高位天使の尊き姿を!!ドミニオン=オーソリティ!!」

 

 

 《バサッ!!!!》

 

 おお、でっかい。

 こりゃ確かに何も言われなけりゃ最高位の天使って思っちゃうかもなぁ……。

 ……実際は私たちの足元にも及ばない雑魚なんだけれども……。

 

 

 「馬鹿な……。」

 「これが、切り札……?」

 「……ありえん。」

 

 「恐ろしいか?怯えるのも無理はない!」

 

 

 「……下らん」

 「興が冷めたわ……。」

 「正直これは……期待はずれかな。」

 

 「……何?」

 

 「この程度の幼稚なお遊びに警戒していたとは……。」

 

 「幼稚……?期待はずれ……?何を馬鹿な……いや、まさか……ハッタリだ!!!ドミニオン=オーソリティー!!あの愚か者どもを滅殺せよ!!!」

 

 

 《ズズンッ……!!!》

 

 その次の瞬間、私達へ向けて光の光線が天より放たれる。

 ……とはいえ、それが与えるダメージなどもとより無に等しい。

 カルマ値がマイナスであるモモンガ様やアルベドですら「ンーちょっと今日日差し強すぎかなー?」くらいのもんである。

 私に至ってはカルマ値が善寄りなので、ほぼ何も感じない。

 

 

 「ハハハハ……これがダメージを負う感覚!痛みか……!」

 「ん~……?ちょっと強い日差しって感じ?」

 「あ、それだ!」

 

 この人たち一応今攻撃受けてんだよなぁ……?

 私もだけどさ……。

 

 

 「か……」

 「か?」

 

 「下等生物があああああああああああああああああーーーーーっ!!!!!」

 

 《ドゴゴゴッ……!!!》

 

 

 えっ!!?ちょ、なにこれ、ひょっとしてこのアマ、怒りの咆哮だけで光の柱を打ち消しやがったの!!?さ、流石はアルベド……!!

 

 

 「私の、私の超~愛している御方に、いた、痛みを与えるなどおおおおおおっ!!!ゴミである身の程を知れえぇぇーーーーーーーーーーーーっ↑↑↑!!!!」

 

 「ヒィィーーーーッ!!?」

 

 「よ、良いのだアルベドよ。」

 「ですが!!モモンガ様!?」

 「良いのだ、天使の脆弱さを除き、ありとあらゆる事態は私達の狙い通りだ。」

 「……かしこまりました、モモンガ様……。」

 

 「(びっっっっっっくりした~~~~~……。)」

 「(アルベド、こえ~~~っ。)」

 

 ……あっ、ひょっとして今、私も今のやるべきだった?

 ……ん~、先にアルベドがキレたせいで冷静になってしまった、ということで。

 

 「今度はこちらの番だな……絶望を知れ。【ブラックホール】」

 

 

 そう唱えると、空中に、光も音も温度も感じられない真っ黒な空間が生成され、全てを飲み込むように空間を捕食していく。

 無論、最高位天使(笑)も無事ではすまず、音も立てずにその中に吸い込まれ、そして黒い空間が消えた時、そこには何も残らなかった。

 

 

 一瞬思考が停止したような顔をしたニグンだったが、すぐに現実に戻ってきたらしく、唯一、現状を正しく理解できた……いや、まだ足りないか。

 

 「お前は……お前らは、一体、何者だ!?」

 「最初にいったはずだけど耳もついていないのかしら?」

 「この名はかつて、知らぬ者がいないほど轟いていたのだがな……。」

 

 《ビシィッ!!》

 

 んぉっと!!?あぁ、そういえばあったなーこれ。

 空間にヒビみたいのが入っているのが見える。

 すぐに粉々になると空気となって消えていくそれは、情報系の魔法が阻害された時の物だろう。

 

 「い、一体何が?」

 「情報系の魔法によって、お前を監視しようとした者が居たみたいだな……。」

 

 そう告げると、ニグンは既に悪かった顔色がサーッと更に青くなっていく。

 

 「本国が……俺を?」

 

 「私達の防壁が作動したから、大して覗かれてはいないはずだけどね。」

 

 

 

 「では、遊びはこれくらいにしよう。」

 

 「まっまままま待ってほしい、アインズ・ウール・ゴウン御一行殿!!いや、様……!!私達、いえ、私だけで構いません!!命を助けていただけるのならば!望む額の用意を……。」

 

 「あなた間違っているわ。」

 「はぇっ!?」

 「人間という下等生物である貴方達は、頭を下げ、命を奪われる時を感謝しながら待つべきだったの。」

 

 うわぁ~~~~エッグイ……。

 

 「かとう……せいぶつ……。」

 

 

 「無駄なあがきをやめ、そこでおとなしく横になれ、せめてもの情けに苦痛なく殺してやる。」

 

 

 

 ……とここでニグンさんはあまりの衝撃とショックで失神、周りの部下達も次々に倒れていった。

 ……つって、実は絶望のオーラで気絶させたんだけどね~。

 

 「……では、これをナザリックに運んでおきます。」

 「うむ、頼んだぞ、エレティカ。」

 

 

 ニグンさん……うん、まぁこれっぽっちも同情はしていないけども、ちょっと哀れだなぁ~……え?いやいや、……救いはない。

 

 

 

 

 

 そして、その夜。

 

 モモンガ様は結局モモンガ様のままだったので、改名したという事は伝えられなかったが、とりあえず「勝手に出歩いてごめーんねっ☆彡」て事と「詳しくはアルベドよろしくぅ」って事だけを伝えて今日の活動報告は終わった。

 

 

 

 

 ……と思っていたのか?

 

 

 「デミウルゴス、モモンガ様、ペロロンチーノ様、ぶくぶく茶釜様とお話した際の事を、皆に。」

 「我ら至高の方々であるお三方が夜空をご覧になったとき、こう仰言いました。

 私達がこの地に来たのは、誰も手にしたことのない宝石箱を手にするためやも知れない、と……そして、こうも仰言いました。

 

 

 

 

 

 

 ……世界征服なんて、面白いかもしれないな。と。」

 

 

 「各員、ナザリックの最終目的は、至高の御方々に宝石箱を……この世界をお渡しする事だと知れ!!」

 

 

 

 「「「「オオオオオオーーーーーーーッ!!!」」」」

 

 

 

 ……ご苦労様です……。




世界征服なんて、面白いかも知れないな……。

下僕「ktkr」
モモンガ「えっ」
ペロロンチーノ「えっ」
ぶくぶく茶釜「えっ」

エレティカ「普通にやってのけそうで怖い」

次回は番外編です。


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【番外編】モモンガ様から見たエレティカ(1/?)

モモンガ様視点からみたエレティカ。
モモンガ様がエレティカをどう思っているのかという話。


 「ううむ……。」

 

 ナザリックの王であり、アインズ・ウール・ゴウンのまとめ役、全ての頂点に君臨するオーバーロード、モモンガ。

 

 彼は今、起きないはずの頭痛に襲われ頭を抱えそうになるほど思い悩んで、迷っていた。

 

 というのも、彼を悩ませる存在など一つしかない。

 

 

 ナザリックで自分に忠誠を誓ってくれているNPCである彼らに、悩まされていた。

 

 

 彼はリアルでは冴えないサラリーマンでしかなかった。

 だが、ナザリックの王として異世界に転移した今、威厳を持った態度で、支配者たる振る舞いをしなければならないといった状況にあるのだが、そのNPCがまた際物揃いで扱いに非常に困るのである。

 

 まずその代表といってもいいのが、NPCでも最高位である階層守護者、その階層守護者の更にまとめ役、守護者統括という役目を与えられたNPC、アルベドだ。

 

 

 彼女はモモンガがユグドラシルの最期の時間を過ごす時に、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜と久々に会った事で舞い上がり、まぁ、言ってみればテンションがおかしくなっていたのである。

 

 そう言えば言い訳に聞こえるかもしれない、実際、彼がした事実は揺るがない訳であって、アルベドの「そうあるべき」という思考の奥深く、最後の一行には、「モモンガを愛している」と確かに記されていた。

 

 

 それがまさか異世界転移をして、そのままモモンガ様大好きサキュバスになってしまうだなんて誰が想像した?

 

 とにかく、彼女の前では彼は下手なボロが出せない。

 

 彼はそう考えていた。

 ……ちなみに一緒に飛ばされた友人たちには「あんな美人とあんな事やこんな事ができるチャンスじゃないですか!」とか「モモンガおにいちゃん、せきにん、とってよね(ロリ声)」とかネタにされて終わるのだが。

 

 

 ……それと、アルベドとは別に、困らされる、という訳ではないのだが、扱いに困るというか、むしろ彼女が居たおかげで大分助かったのだが、何故彼女は他のNPCと違う行動を取るのか?と考えていたNPCがいる。

 

 

 第一、第二、第三階層守護者、エレティカ=ブラッドフォールンだ。

 

 

 彼女はアインズ・ウール・ゴウンがまだ最盛期に差し掛かる前から存在するNPCで、唯一、「ナザリックの外部で生まれたNPC」である。

 

 その経緯は、あれは偶然だったのか、それとも奇跡だったのか、だれかの思惑が働いたのか分からないが、とにかく突然の事だった。

 

 私達(モモンガ、たっち、ペロロンチーノ)はその時、久々に初心者の街、言わば、このゲームの中では珍しい、安全圏でイベントが開催されるということで他にやることもなかったので見に行った所、やはりというかなんというか、イベント自体はすぐに終わってしまい、暇をしていた。

 

 そこで見つけたのが彼女である。

 

 初めはやけにこっちを見てくるヴァンパイアの女性が居るなと思った。

 

 その後キョロキョロと辺りを見回して居たので、ひょっとしたらなにか困った事があったのかも、困っているのなら助けるのは当たり前、という事で、ひとまず話しかける事にした結果、なんとNPCだったのだ。

 

 ここだけならまだいい。

 彼女はランダムに現れる隠しNPCだったんだろう。

 今回……あるいは別のイベントで使用される予定だったキャラクターだったが、何らかの原因でボツキャラになり、しかし作ってしまったものをそのまま捨てるのも勿体無いということで、こういう処置を取ったのではないか、というのがここまでの見解だった。

 

 だが、その後ペロロンチーノが合流し、彼女に一目惚れ(?)

 あぁ、NPCじゃなければ、絶対に仲間に誘ったのになぁと残念そうにしながら、仕方ないとその場を後にしようとしたところで、なんと、NPCである彼女がペロロンチーノを引き止めたのだ。

 

 どうなってるんだコレ?とそのNPCをしげしげ見ているとたっちさんが驚きの声を上げてNPCの説明ウィンドウをこちらに見せてきた。

 

 ……そこにはなんと、先程までなかったはずの、傭兵として雇用することができるという旨の文章、なんだこれ?という前に、ペロロンチーノが迷いなくYESをポチッ!

 

 

 これが彼女がナザリックのNPCの仲間入りした経緯である。

 

 ここまでの経緯だけで、だいぶ……いやとても、すっごい、とんでもなく異質、変わったNPCであると理解できるだろう。

 

 

 彼女は、何というか……そう、謎が多いのだ。

 

 

 実を言うと、そもそも傭兵NPCとしてステータスを見たり、育成方針をこちらで決めたり、スキルを取らせたりといった事は管理出来るので、性能において彼女に知らない事はない。

 

 だが、彼女の「設定」はどうかと言われると、実はモモンガは「初心者の街の近くに有る森で蘇り、何らかのショックで記憶を失い、街に迷い込んでいたトゥルーヴァンパイア。」という事しか知らない。

 

 というのも、設定にある蘇る前……つまり記憶を失う前、彼女はどこで何をしていて、どうして死んだのか?むしろ何故トゥルーヴァンパイアとして蘇ったのか?

 

 その辺の設定が良く分からない。

 

 ギルドのNPCであればツールを使ったりコンソールを開くことでそのあたりの情報もアクセスすることができたのだが、あれはギルドで作ったNPCではない。

 その為、詳しい情報を見ることができないのである。

 

 

 なぜか、と言われるとそれが公式のNPCだからだとしか言えないのだが……そう、例えば、この迷宮を一緒に探検してくれるNPCが居たとして、そのNPCの情報を丸裸にできたとする、すると、そこには「あなたを裏切るつもりである」と書かれていたらどうだろう?

 

他にも、やけにカルマ値が低いだとか、そういうことも見られないように設定されている。

 

もっとも、何かそれを看破出来るアイテムやスキルがあれば別の話なのだが。

 

 つまりはそういう、プレイヤーにとって、クエストのネタバレになる設定は見られないようになっているのである。

 

 

 という事から、モモンガ、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜等のアインズ・ウール・ゴウンの面々は、エレティカが「どういう設定のNPC」なのか、結局理解出来ず終いでここ、異世界に飛ばされてしまい、そうしたらエレティカも意思をもって動き始めているのであって。

 

 

 ここで何が問題かというと、彼女は自分たちにどういう感情を持っているのかが分からない、彼女の行動理念というかそもそも何を考えているのかが分からない、彼女の好きなものは?嫌いなものは?

 

 ……とここまで考えてしまうとまるで好きな女の子の事を考える男子中学生のようだが、彼はいたって真剣である。

 

 

 もっと言えば彼女の行動には不可解な点が多い。

 

 

 まず、カルネ村に行って初めて村人に会った時の対応がそれだ。

 そもそもユグドラシルのNPCである筈なのに何故かこの世界の人間に対しても理解があり、「その格好は怖い」と遠回しに言ってのけ、初めて会った村の娘姉妹に対して言われなくてもポーションで治療する、私たちの姿を見せないようにする等の心配りを見せた。

 それだけではなく、遅れてやってきたアルベドへの迅速な情報共有だとか、ニグンとやらと戦った後でガゼフという王国戦士長の男と何やら会話をしていたりだとか……。

 

 果てはそのニグンの尋問を執り行う際にも「先に隊長格から尋問するよりも、まずはその部下から情報を聞き出したほうが良いのでは?隊長格は他の者より多く情報を持っていると考えるべきでしょうし」という鶴の一声があり、それもそうかと特別情報収集官(尋問官)であるニューロニスト・ペインキルに指示したところ、なんと奴ら陽光聖典と呼ばれる部隊の者には「特定の状況下で質問に3回答えたら死亡する」という魔法がかけられていたのが発覚した。

 

 危うく法国の特殊部隊の隊長という貴重な情報源をむざむざ殺してしまうところだった。

 その魔法をどうにかする手段が見つかるまでは尋問はお預けだ。

 

 もうこれに限っては「運が良い」とか「勘が良い」とかいうレベルを超えているのではないかと思ったがそんなことを言い出したら今この状況がそもそも常識の範疇を超えている。

 

 ちなみに死んだ陽光聖典の者は人食種の口に入ることになった。

 

 

 話がそれてしまったが、つまるところ彼女が他のNPCと違うのは「ナザリックで生まれたNPCではない」という事の他に、「命令をしなくても動く」「人間に対しナザリック内で随一といっていい理解を持つ」「気遣いだとか心配りだとかに非常に長けている」といった点が挙げられる。

 

 

 いずれも表面だけ見れば良い配下なのだが……。

 まずユグドラシルとは違う世界の人間に対して理解を持っている時点でおかしいのではないか、命令をしなくても動く自主性は警戒に値するのではないか、その気遣いや心配りはどこで学んだのか、妹であるシャルティアについてはどう考えているのか?という疑問が生まれるのである。

 

 それに、人間に対して理解がある割には、目の前で人の首が飛んだり、ナザリックで拷問されていたりといった事実に対してあまり関心は無いようだし……。

 

 「いずれにしても、いつかは直接話し合ってみないとな……。」

 

 随分長い間考えに耽っていたようだ。

 休憩もそこそこにして、活動を再開しよう。

 

 

 

 

 <ガサゴソ……>

 

 ん?

 

 

 「<ガチャリ>こんな所で何をやっているんだ?エレティカ。」

 「ああ、モモンガ様、いえ、私は今、これからのことを考えて倉庫に置いてあったアイテムの整理を行っている所です。(モモンガ様を人間化させるアイテムを探すついでに。)」

 

 「ふむ、(またそんな頼んでもないことを……いやホント助かるからいいんだけどね?ちょっと、俺の立場が……。)アイテム整理か……うむ、私も全てのアイテムの効果を理解しているわけではないからな……今後の役にたつアイテムもあるかもしれない、私も手伝おう。」

 

 「ああ、いえ、よろしいのですか?」

 「うむ、それにしても、宝物庫もそうだがここは(ゴミアイテムを捨てるのも勿体ないからと放り込んであった、別名”ゴミ倉庫”だっただけに)特に散らかっているな……どれどれ、これはなんだ?」

 

 「はい、それは「ファ〇リッシュ」ですね、使うと霧状に消臭効果のある液体を吹き散らし、ついでに殺菌や除霊等の効果があります。」

 

 「これは?」

 「はい、それは「クレイジーキラーベアードの木彫り」ですね、置物です。特に効果はないです。」

 

 「これは?」

 「はい、それは「地面に線引くやつ」です、持ち手を持ってコロコロ転がすことで中の粉が落ちて線が引けます。」

 

 「これは?」

 「はい、それは完全なる狂騒……って、まってくださいモモンガ様!それをこっちに向けないd」

 

 <パーーーンッ!!>

 

 「あっ、す、すまんエレティカ!大丈夫か!?」

 「……っ、っ、……。」

 

 「……ど、どうした?大丈夫、か?これは一体……?(ええと、完全なる狂騒の効果は……これか?なになに?アンデッドに対して精神系魔法が効くようになるアイテム?なんだそりゃ?……いや待てよ、それってひょっとして精神安定が効かなくなったという事で、それはつまり……。)」

 

 「……つまり、これを使うと精神が不安定になってしまう、ということか……?ってどうしたんだお前は!?」

 「うわわわわわわモモンガ様だあぁぁああああやべえええええええ!!本物だああああああ!!」

 

 「あ、当たり前だろう!!何を言って……」

 ハッ、ひょっとしてこれがこのアイテムの効果!?精神が安定していない状態だとこうなるってことか!?

 

 「ハァハァ、モモンガぐう至高……やばば……。」

 いやだからって変わりすぎだろこれは!!本物って意味がわからんぞ!?し、しかしこれは、普段冷静沈着なエレティカから本音を聞き出せるチャンスなのでは!?

 

 「え、エレティカよ、突然つかぬ事を聞くようだが……私のことをどう思ってる?」

 「え?モモンガ様のこと?えーと……………………………苦労人?」

 

 グフウッ!!?そんな風に見られてたの俺!!?いや確かに苦労はしてる自覚あるけどさ!!?

 

 「ほ、他には何かあるか?」

 「んー?…………アルベドとかシャルティアのこともあるしデミウルゴスもなんだかんだで性格がアレだから、ストレスが溜まってないか心配、とか?」

 

 う、うわー……よく見てるんだなぁこど……NPCって……いや、エレティカが特別なだけ、そうに違いない……。

 「な、なるほど……。」

 「他にはペロロンチーノ様と仲良しで微笑ましいなぁーとか……アルベドとはいつ結婚するのかなーとか……妹の事はどうするつもりなのかなーとか……あとは、えーと、えーと……。」

 

 「も、もういい、分かった、そうだな、では次にお前の好きな物を教えてくれ。」

 「えー?好きな物?そうだなぁ……(二次)小説とか……食べ物で言うならラー油メンマが好き!」

 「ら、ラー油メンマ?」

 

 なんだそれ……?知らんけど、今度ダグザの大釜で作ってもらうか……?

 

 「では、嫌いなものは?」

 「人が不幸になるのは実際に見るのも物語の中でも嫌だ!あとはネギが嫌いです!」

 

 ええ子や……!!人の幸せを願うことができるええ子や……!!

 あとネギが嫌いってこれユグドラシルの運営は何を思ってそれを嫌いなものにしたんだ!?いやラー油メンマとやらもそうだけどさ、そんなのユグドラシルにあったか!?

 

 ……っていうか、待てよ、もしこれが精神が安定しない事で、「思わず本音を言ってしまうような状態」だったとしたら、普段との違いから察するに……俺ひょっとしてエレティカにだいぶ無理をさせてしまっているのではないだろうか……?

 

 ……本来はこんなに明るい性格って事だろ?

 

 

 

 「……今何かしたいことはないか?」

 「特には!」

 「……そうか、では引き続きアイテムの管理を頼む。」

 「はーい!」

 

 <ガチャッ……バタン>

 

 ……ごめんエレティカ……!!俺もっと頑張るよ……!!

 

 それにしても完全なる狂騒……とか言ったか、あのアイテム、よく考えたら対象がアンデッドって事は俺にも効くって事だろうし……ゴミ倉庫に置かれていた物だし、まだいくつかあるかもな。

 

 あと……エレティカは……うん、流石に永遠にあのままって事は無いだろ、元に戻るまで放っておくかな……元に戻ったらペロロンチーノさんに今まで以上に優しくするように言っておこう、そうしよう。




その後、たまたまエレティカを探しに訪れたバードマンが「萌え死する!!」と謎の死を遂げそうになりその言葉をたまたま聞いた下僕から伝言ゲームよろしく騒ぎが大きくなり、ナザリック内の警戒レベルが3段階位引き上がった大騒ぎになるという事件が起こったり、事の顛末を聞いたぶくぶく茶釜が「こんの大馬鹿野郎!!」と怒り狂って本当に殴り殺しそうになったり、丁度そのあたりで狂騒が治ったエレティカが自室に引きこもって出てこなくなったり、

宝物庫から更に多数の完全なる狂騒が発見され、間違って自分に使ってしまった挙句、
やっとの思いで狂騒状態から治ったと思ったら、
アンデッド、インプ、デュラハン、ドッペルゲンガー、ワーウルフ、ショゴス、アラクノイド、オートマトン(モモンガとアルベドとプレアデス)が偶然ひとつの場所に集まり、大変な事になるのを、モモンガはまだ知らない。


書き溜めが底を尽きたのですこ~しだけ間が空きます。


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【番外編】他の守護者達目線(1/?)

他の守護者から見たエレティカです。


ナザリック地下大墳墓、第9階層のどこか……。

 

 

 「……これで守護者各員は集まったようね。」

 「ちょっと待ってくんなまし、我が姉、エレティカ=ブラッドフォールンがまだでありんす。」

 「いいのよ、彼女はそもそも呼んでいないもの、今回は彼女についての会議を行うのだから。」

 

 

 アルベドによって、集められたエレティカを除いた各員が一室に集まる。

 一名居ないのにも関わらずその部屋にはピリピリとしたプレッシャーが張り詰めており、もし仮に、ここにレベル1の一般人が突然放り込まれようものなら、尻餅をついて失禁するかもしれない。

 

 「エレティカについて……って、どういう事?」

 

 まずその場で口を開いたのは第6階層守護者であるアウラ・ベラ・フィオーラ。

 エレティカについて、という言葉のそもそもの意図が分からない、という顔である。

 次には「エレティカはエレティカでしょ?」とでも言いたげである。

 

 「……まず、貴方達、彼女についてどれだけ知っているのか聞いてもいいかしら?」

 

 「?……ええと、シャルティアのお姉さん、ですよね?」

 

 「それだけではない筈よ。」

 

 「……ナザリックで至高の御方々に仕える下僕の中で、唯一ナザリックの外部で生まれた存在……という事を言いたいのですか?」

 

 「それもあるわ。」

 

 「それも?」

 

 アルベドは一つ息を付いたあとで、皆の顔を見渡した後で、立ち上がってこう続ける。

 

 

 「私達、彼女について知らない事があまりにも多くないかしら?」

 「……それ、どういう意味?」

 

 「私達は皆、彼女は「ナザリックの外」で生まれたシャルティアの姉、ということしか知らないわ。」

 「ヌヌゥ。モッタイブラズニ言ッテクレ。ソレノ何ガ問題ナノダ?」

 

 「……成る程、確かに、これは盲点でした。」

 「……デミウルゴスは気づいたようね……言い方を変えましょう。

 私達の内で一人でも、「彼女がどこで生まれ、どうして至高の御方々に仕えており、どんな事を考えているのか」を、知っている人物が一人でも居るかしら?」

 

 「…………。」

 「……いないの?どうして?……そう、例えば私であれば皆知ってのとおり、ここでタブラ・スマラグディナ様によって創造された者で、統括守護者という地位、役職を頂いた身であるというのは周知の事実よね?」

 

 それだけではなく、モモンガ様への愛だとか、性格だとか、どんな事を考えているのかといった事をだいたい知っている階層守護者達は、そこまでは口に出さず、静かに首を縦に振る。

 

 

 「……では彼女は?どこでどうやって生まれたの?」

 「でも、そもそもナザリックには私達とは違う生まれ方をした者は数多くいます、よね?」

 「そう、その通り、そして彼女もそうなのでしょう。

 ……でもだとしたらそもそも一つの矛盾に気付かない?

 シャルティア、貴女に関することよ。」

 

 「わ、私?」

 

 ビッと指を指され、まさか自分に矛先が向くと思っていなかったシャルティアが驚きながら必死に頭を動かすが、何が矛盾なのかは分からない。

 我が姉、エレティカと、自分が関係する事に矛盾になんてあるのか?どこに?

 

 「……まさか、アルベド、それは……いや、しかし……。」

 「…………ま、まさかアルベド!アンタ、私達の「そうあるべき」と定められた事に対しての事を言っているの!?」

 

 自分より早く気づいたらしいアウラに、目が向けられ、アルベドは一つコクリとうなづく。

 

 「なんてこと、それは……不敬じゃないの?」

 「でもこれは事実よ。」

 「さっきからなんのことを言っているでありんすか!?アルベド……デミウルゴス!」

 

 ついに熱を持たないはずの頭が熱を帯びるのを感じた時、限界に達したシャルティアがアルベド、デミウルゴスに詰め寄る。

 

 「……シャルティア、君とエレティカ、君たちは、姉妹だね?」

 「そうでありんす!そこに……何、が…………。」

 

 「……シャルティア、貴女は「そうあれ」とペロロンチーノ様に創られた存在よね?」

 「そうで、ありんす……あれ?でも、でも、姉は……エレティカは……。」

 

 

 

 「……そう、あなたはペロロンチーノ様によって創られた存在。しかしあなたの姉は……「ペロロンチーノ様によって創られた存在ではない。」これでは、……そもそも姉妹という関係性に矛盾を感じるなという方が無理があるというものよ。」

 

 「…………!!」

 

 衝撃であった。

 考えたこともなかった。

 そうあれと創られたから。

 シャルティアが創られた存在であるのに対しエレティカはそうではないと言う。

 しかし、それでもそうあれという自分の中の何かが、「お前とエレティカは姉妹だ」と言う。

 

 「……シャルティア……。」

 「ツマリ……アルベドハナニガ言イタイノダ?」

 「……シャルティア、貴女と、貴女が姉だというエレティカ=ブラッドフォールンは……。」

 

 

 

 「私とシャルティアは、紛れもなく、一片の曇りもなく、ただ一つの矛盾さえなく、完璧に、完膚なきまでに姉妹よ、アルベド。」

 

 全員が一斉にその声のした方向へ振り返る。

 ドアの前で、悠々と、余裕の表情でそこに立つのは、件の人物、エレティカ=ブラッドフォールンその人である。

 「私をのけ者にして、こんな場所でこそこそと内緒話だなんて、ずるいじゃない。」なんて言うエレティカは、各守護者の疑念の目線等気にする様子もなく、一歩一歩と確かにシャルティアに歩み寄る。

 

 一体いつからそこにいたのか?

 一体どうしてここにいる?

 いや、それはもうどうでもいい。

 

 彼女は今確かに「シャルティアと自分は姉妹である」と、言い切ったのだ。

 

 「……シャルティア、私と貴女は姉妹、そうでしょ?」

 「そ、そうで、ありんす。そうであるはずであるはずなんでありんす!で、でも……。」

 「そうである、と思うのは何故かしら?」

 「わ、私とエレティカは……生き別れの姉妹で、ペロロンチーノ様の手によって、生み出された私と外の世界で生まれたエレティカが、ナザリックで再会を果たした、それが私が知っている私と姉様の記憶でありんす。」

 

 「そう、それは正しいわ。」

 

 「でも、ペロロンチーノ様に創られた私と、外で生まれた姉様とはそもそも生まれ方が違うではありんせんか……?」

 

 「……それがなんだと言うの?」

 「え?」

 

 涙目でキョトンとするシャルティアの肩に手を置くと、「良い?貴女達もよく聞いておきなさい」と言い、こう続ける。

 

 

 「確かに私とシャルティアではそもそもの生まれ方が違うわ、だから本来は姉妹ではないのではないかという疑念を持ってしまうのは確かに仕方のない事かもしれない。特にアルベドには姉妹が居るし、アウラとマーレは双子の姉弟ですもの……そう、仕方ないわ。

 けれど、だからなんだというの?”至高の御方”が「そうあれ」と定めた事に疑念を持つ事、それ自体がそもそもおかしいでしょう?」

 

 そのあまりに強い目力に、思わず唾を飲み込むアルベド。

 他の守護者達ですら、その迫力に気圧される。

 そうだ、自分たちは一体何に対して疑念を持っていたのだろう?

 

 「良い?同じように、あの方々がアウラとマーレが双子だと言ったら双子なのよ。デミウルゴスがナザリックで一番の知見を持つ者と言ったらそうなの。アルベドがモモンガ様を愛していると言ったらそうでなくてはならないし、私とシャルティアが姉妹だと言うのならば、私達は姉妹でなければならない。」

 

 「違う?」と各々に顔を向けるが、反論は出てこない。

 むしろ、そう言われて「確かにそうだ!」とさっきまでとは違う、確信めいた顔つきになった者がほとんどである。

 

 「エレティカ……ごめんなさい、謝罪するわ。確かにその通りね。」

 「いえ、いいのよ、私ももっと貴女達に説明しておくべきだったわ、私自身のことについて、私がどんな人物であるのか……分からないというのは恐怖だもの、御方々ですら、今の未開の地に対して警戒しているのだもの。それと同じよ。」

 

 アルベドが頭を下げようとするが、それを制止しながら、そう言ったエレティカは、言い切った後で一つ息をつくと、「この機会だから、今のうちに私に聞いておきたい事があったら言ってちょうだい?」と言い、次の瞬間から、「エレティカってどんな人?」的な会議が始まった。

 

 そして、そんな話題の中心人物たるエレティカの心情とは……。

 

 

 

 

 「(ああ、ああああああああああああっぶねええええええええええ!!!)」

 

 もし、もしもたまたま自分が9階層、ロイヤルスイートにて爪の手入れをしてもらう為に訪れていなかったら、そしてここを通りかからなかったら、今頃どうなっていたん!!?

 

 もうほんと怖いわ!!まさかそこを突かれると思ってなかったから完全に油断してたしね!?

 

 あービックリしたー……。

 

 守護者達が外の廊下まで聞こえるくらいの大きな声でヒソヒソ話しててくれて本当に助かったー……。

 

 

 と、内心で流れる冷や汗を拭いながら、守護者たちの「そもそもどこで生まれたのか?」とか「至高の41名の方について」とか果ては「けんこうしんだんという物について何か知っていることはありますか?」なんて全然関係ない質問までされる質問地獄の最中だったが、なんとか涼しい顔でやり過ごすことに成功したエレティカだった。

 

 

 

 そして会議は続けられる。

 

 

 

 「……では次の質問ですが、そもそも、シャルティアであれば、アウラと不仲であるとか、貴女と姉妹であるといった「そうあれ」といった定めがある訳ですが、貴女にはそういった物は?」

 

 「無いです。そもそも生まれ方が違うので、ペロロンチーノ様は私に「そうあれ」と設定する事が出来ないのです。今の階層守護者という地位も、最初はガルガンチュアと同じく、正式なものではなかったのですが、ペロロンチーノ様のお心遣いによって、シャルティアと同じ役目を頂いたのです。」

 

 いつの間にやら会議は各守護者とエレティカが対になるような位置に座って進行しており、なにやら、圧迫面接のような雰囲気を醸し出している。

 

 「じゃあさ、私達についてどう思ってる?」

 

 そして、つまらなくなってきたのか、このやり取りに既に飽き始めたアウラが、聞いた覚えのある質問をエレティカに問いかける。

 エレティカもそのことをわかっているので、「お、お姉ちゃん!」と焦るマーレを放って、それに返事を返す。

 

 

 

 「全員、大事な仲間だと思っているわ。」

 

 

 エレティカは心の中で、「大変手のかかる」や「可愛い」を付け加えながら、笑顔でそう答えた。




知らぬが仏と言いますが、
無知は罪とも言いますし、
知らないで済まない事もあるわけで。

知らないって怖い。

それはどんな人でも同じ。


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【番外編】エレティカの説明(1/1)

本編で触れられるか分からない脳内設定を「えーいっ!☆彡」ってやりました。
後悔はしていません。

本編は書きためるまでもうちょっと待っててください。

……具体的に言うと2日か3日位?


エレティカ=ブラッドフォールン 

所属:【ナザリック】【第一、第二、第三階層守護者】【ナザリックNPC唯一の外部で生まれたNPC】

 

性別:女性 

年齢:死後4~7年といったところ。精神的には16歳前後。

体重:【編集済み】kg

身長:140cm前後

種族:真祖(トゥルーヴァンパイア)、ヴァンパイア

 

▽好物▽

甘い物が好きだと人には言っているが、実はおつまみ系のしょっぱい物が大好物であり、特にラー油メンマが好物である。(転生する前ですら誰にも言ったことはない。)

食べ物以外では小説(ラノベとその二次創作)を好む。

 

▽嫌いなもの▽

思い入れがある人物の不幸。ネギ(青ネギ玉ねぎ長ネギ太ネギ全てダメ。)

 

 

▽人物▽

寝ていたら突然ユグドラシルのNPCに転生(憑依?)してしまったごくごく普通の女子高生であり、本名は好豪院英梨という仰々しい名前をしている。

オーバーロードについてのいわゆる原作知識が(全てを覚えているわけではないが)あり、これから起こるであろう事に対して何かしらの対策をしていく。

ちなみにその行動理念は純粋に目の前で自分が好きな作品の登場人物達が困ってたりするのに何もしない事が出来ないというだけである。

 

 

▽容姿▽

赤く染めた髪に生え変わるように銀色の髪を持っており、髪型は後ろで結っている(妹であるシャルティア=ブラッドフォールンと同じ髪型だが、左右の髪の分け目が逆になっているのと、ヘッドドレスをつけていないという違いがある。)血のようにも見える赤と、白を基調としたドレスを身にまとっており、体格的には14歳前後の少女のように思える。なお彼女のおっぱいが本物かどうかは分からない。少なくともシャルティアのように不自然な偽乳ではないのだが、その年齢でその胸はおかしいだろ?という判断に困る胸をしている。けしかりません。

 

 

▽性格▽

基本は温和で優しい性格の持ち主であり、妹となったシャルティアに対して姉らしく振舞う。また元々が人間だったこともあり、人間に対して理解があり、心配りや気遣いに長けた性格をしているのだが、あくまで彼女の行動理念の根本は作品のファン、ミーハーとも呼べるような、お節介を焼きたい程度の物であり、実を言うと至高の御方々だとかアインズ・ウール・ゴウンへの忠誠といったものは、ほぼ無い。

むしろモモンガに限っては「実は今凄い焦ってんだろうなぁ」と内心楽しんでいる節すらある。

ペロロンチーノに対しては、拾ってきてくれたおかげで消滅から免れた言わば命の恩人であるので、それなりの恩義を感じている。

 

 

▽生活▽

普段の生活としては、同じ第一、第二、第三階層守護者であり妹であるシャルティアと行動を共にしたり、9階層で極楽の限りを尽くしていたり、暇を見つけてはモモンガの憂いを晴らすべくお節介を焼いている。(と本人は思っているが、他の下僕からは与えられた仕事をこなすだけでなく、自分から仕事を取りに行ったり、主君の為に身を粉にして忠義を尽くしていると思われている)

他の階層守護者とも別段不仲である事はない。

 

 

▽知能▽

決して高くはない。

むしろ馬鹿な方。

 

 

▽能力▽

元々が傭兵NPCということで戦闘に良く出かけたりレベリングしたりするのに戦闘が必須だったため、シャルティアと同じくガチのレベル配分がされている。

ただ「血の狂乱」というスキルがあることから人間を殺すのには注意が必要だと考えている。

 

 

▽人間関係▽

シャルティア:妹、可愛い、からかい甲斐がある。

アルベド:おっぱいでけー(おまいう)。仲は悪くない。

デミウルゴス:さすデミ。りあるについて話す事がある。仲は悪くない。

アウラ・マーレ:かわいい。仲は良い方。

コキュートス:カッコイイ、渋い。あまり話すことはないがこれといって不仲ではない。

セバス:ナイスミドル。カルマ値が極悪なのが多いナザリックで少数派の善寄りなので仲は良い。

その他NPC:気になるのがいくつか居るが、別段不仲である者は居ない。

モモンガ:苦労人。頑張って!私も手伝うから!

ペロロンチーノ:えちぃ事以外でなら、まぁ、恩もあるし……。やらせたい事がある。

ぶくぶく茶釜:ロリボイス羨ましい。できればやってほしい事がある。

エントマ:どうにかして「アフフ~」って笑わせられないか全脳細胞を活性化させて考えている。



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冒険者編第一章(1/4)

冒険者編です。




 「ヨオオオオオシッ勝ったあぁぁぁぁッ!!」

 「クソオオオオオオオ!!エレティカとキャッキャウフフ冒険ライフが出来る絶好のチャンスだったのにいいいいいッ!!」

 「はぁ……バカばっか。」

 

 いや、ね、そりゃあさ、これから冒険者として活動するにあたって、至高の方が3人も居るけど皆で行くの?それとも誰か一人を選んでいくの?その場合誰が行くの?と思ってはいたよ?けどさ……。

 

 

 ジャンケンってあなた……。(呆れ)

 

 突然呼ばれて何事かと思ってドアを開けようとしたら、中から「ジャンケンポン!!あいこでポン!!ポン!!ポン!!!」と聞こえて来たからまさかと思って覗いてみたら、これですよ。

 

 「……<ガチャリ>エレティカ=ブラッドフォールン、君命に従い、ただいま参上しました。」

 「おお、丁度良いタイミングだ、エレティカ。」

 「(でしょうね。)丁度良いタイミング……とは?」

 「これから私は直接王国という場所で冒険者として活動し、情報収集に努める事にした。やはり聞くのと実際に見聞きするのでは違うと思ってな。」

 

 ……といいつつ実は冒険がしたいだけなんでしょう?知ってるんだからね?

 

 「で、今まさに、至高の3人の中で誰がその任に就くかという会議が終わった所なんだよ。結果として、モモンガさんがその役目を担う事になったわけだけど。」

 「そうですか、これから先を考えた、良い方法だと思いますが……私はどうして呼ばれたのでしょう?」

 

 そうだよ、よく考えたらまだ私何もしてないんだよね。

 本当だったらプレアデスのナーベが呼ばれるところだったんじゃないの?

 

 むしろ、ひょっとしたら私は先に出たシャルティアと行動を共にすることになるのではないかとさえ思っていたんだけど……。

 

 「うむ、実はな、最初こそ、私一人だけで行くのはよろしくないだろうと考え、プレアデスの中から供を連れて行こうと思ったのだが、なかなか決まらなくてな……そこで、ペロロンチーノが「だったらエレティカを連れて行けば良いのではないか」と案があったのだ。」

 

 ペロロンチーノ様……?うーん、何故そうなったかは分からないけど、とにかく説得する手間が省けたと思えばいいのかな?

 というか、ちょうどいいから後でペロロンチーノ様にあの件について話しておこうかな、この人なら私が頼まずともやってくれそうだけど。

 

 「分かりました、至高の御方からのご期待に沿えるよう、全力をもってモモンガ様をお守りする任を遂行しましょう。」

 「うむ、よろしく頼む。それでは早速、冒険者として活動するにあたっての打ち合わせと行こうか。」

 「はい、ですがその前に、ペロロンチーノ様と別件でお話がありますので、今から少しよろしいでしょうか?」

 「えっ?俺?なんだろ?デートのお誘いかな?」

 「弟、黙れ。」

 

 

 

 

 

 ー王国のとある宿屋ー

 

 <バタンッ!!>

 

 宿屋にも酒場にも見える場所の扉を開けて入ってきたのは、全身を漆黒の鎧(めちゃんこ硬い)に身を包んだ二対の大剣を背負う戦士、漆黒のモモン。

 身長は177cmと大きいほうだし、黒い鎧がそれを助長させていた。

 顔は同じく漆黒のヘルムによって覆われ、一切が判断できない。

 

 そして、その傍らに居るのは、細剣(サラマンダーより速い)を帯刀した革(魔獣製)や布(もはや良く分からない素材)で作られた身軽な格好の少女……漆黒のティカ。髪は白くどこまでも透き通っており、肌もまた透き通るような色をしているが、決して病的な程白い、ましてやヴァンパイアと見間違える程ではなく、健康的な顔色をしている。身長は144cm程度、しかしその身長に見合わないたわわに実った胸が特徴的。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 「おい、見ろよ」

 「なんだ?あの鎧……。」

 「ヒュー、ちっと若ぇがいい女じゃねぇか。」

 

 おーおー、真昼間だってのにパカパカ酒飲んじゃってまぁ……彼らはちゃんと仕事をしているのだろうか?

 

 「宿だな?相部屋で一日五銅貨、飯は……」

 「二人部屋を希望したい、食事は不要だ。」

 「……お前さん、カッパーだろう?だったらここは……。」

 「先ほど、組合で登録してきたばかりなんだ。」

 「……一日7銅貨!!……前払いだ。」

 「それで構わん。」

 「……部屋は二階の奥だ。」

 

 はぁ~もう、ただ宿を借りたいだけなのにこんな扱いなんて。

 <ドン>……って、あ。

 

 「おいおい!イテェじゃねぇか?どうしてくれんだよ?あ?」

 

 こいつのこと忘れてたなぁ……。

 んー……どうしよっか。

 ……ほっとこう。

 

 

 「こりゃ、そっちの女に優しく介抱してもらうしかねぇなぁ?」

 

 え?嫌ですけど?(真顔)

 

 「フッ……いやすまん、あまりにも雑魚に相応しいセリフに笑いをこらえきれなかった。」

 「ああん?……<グイッ>っぉ、うおおっ!!?」

 「お前とならば、遊ぶ程度の力も出さなくて良さそうだな。」

 「う、うわああああっ!!?<ガシャーン!!>」

 

 あぁ、えっと、モモンガ様?あれ打ちどころ悪かったら死んでますよ。

 いや別に死んだとしても同情はしないけれども……。

 

 「さぁ、次はどうす……」

 「ほぎゃああああああーーーーーっ!!?ちょっとちょっとちょっとちょっと!!アンタ何すんのよ!!アンタのせいで私のポーションが割れちゃったじゃない!!弁償しなさいよ!!!」

 

 来たな……えっと……なんて名前だっけこの人……あっブリタさんか、思い出した。思い出した、主人公並に不幸な事に巻き込まれる割に生き残る運の持ち主だよね。

 

 「ポーション?そこの奴らに請求したらどうだ?」

 「いつも酒に呑んでくれてるだけのあんたらに払えるわけないわよね?……あんたさ、ご立派な鎧着てんだから治癒のポーションぐらい持ってんでしょ?現物でも構わないからさ。」

 「ふむ……。」

 

 とここでナーベだったら思わず切ろうとしてしまうんだが……。

 

 「<モモン様……その女の言うポーションですが、恐らくですがこの世界特有のポーションかと思われます。>」

 「<何?>」

 「<今その女が割れたというポーションを確認したところ、こちらではポーションが青い色をしており、こちらの持っている治癒のポーションとは何かが異なるようです。>」

 「<ふむ、であれば……>」

 

 

 

 「悪いな、さっきも言ったが、私達は先ほど街に着いて冒険者として登録したばかりでな、丁度今から調達しに行く所だったのだよ。」

 「なによそれ、仕方ないわね、じゃあいいわ、その今から丁度調達しに行く所について行ってあげるから、そこで弁償して頂戴。」

 「……分かった、では少しここで待っていろ。」

 「私もここで待ってます。」

 

 

 ……うーん、とっさに回避させてしまったけど、ンフィーくんに出会うのなら渡しちゃってたほうが良かったのかな?いや、であればこちらからコンタクトを取ればいいのでは?不慮の事故で交流が出来るのとこちらから交流を持ちかけるのとではわけが違うよね。

 

 

 「……聞いておきたいんですが、このあたりで最も質の良いポーションを提供してくれるのはどこの店になるのでしょうか?」

 「最も質のいい?となると……リィジーバレアレっていうこの国最高の薬師の人がやってるって所が1番評判いいんじゃない?ちょっと値は張るけど。」

 「では、そこに行きましょう。それと……申し訳ございません、仲間が大切なポーションを割ってしまって、お怪我はありませんでしたか?」

 「え?ああ、大丈夫大丈夫、ポーションも、弁償してくれるっていうなら別に。……あんたはあっちの黒い鎧のやつと違って感じ良いじゃない?」

 「モモンさんも、ああ見えて普段はとっても優しい人なんですよ。」

 

 うん、まぁ冒険者としての人と接するときの加減はこんなもんでいいかな?

 ちょっと……いや全然、まったくナザリックのNPCっぽくないけど……いやそもそもNPCじゃないし!!中に人入ってますから。

 

 「なんだティカ、早速こっちの冒険者と仲良くなったのか?」

 「あんたと違ってすっごく良い子じゃないのこの子!なんであんたら二人で冒険してんの?」

 「生まれが同じ国なんですよ、ね?モモンさん?」

 「まぁそんな所だ。(ごめんエレティカ……助かるわ~。)」

 

 「<モモンガ様申し訳ありません、このあとは準備を進めつつ宿屋でお休みになられる予定でしたのに。>」

 「<気にするな、こちらとしても、ユグドラシルのポーションとこちらのポーションが異なるというのは少し気がかりだ。元より何か差し迫った用事があったわけではない、あと、お前が見つけてくれたこのアイテムの具合も見ておきたかったからな。ゆっくり行こう。>」

 「<かしこまりました。>」

 

 それに実は資金はカルネ村を襲ってた騎士とニグンさんの部下とかから剥ぎ取った装備を若干手直ししたり直したり法国製の物だとバレないようにした上で盛大に売ってやったので、それほど大した額ではないが、懐は暖かい。

 「もしもの時のためにとっておけ」とお小遣いまでもらっちゃったしね~。

 

 「ここだよ。」

 「ほう……(店と工房が連結して一つの建物になっている……かなり本格的な場所のようだな。流石はこの国で1番と言われるだけのことはある。金には今のところ余裕が有るし、ナザリックへ持ち帰る用にいくつか多めに購入していくとするか。)」

 

 「いらっしゃいませ、何をお求めですか?」

 「治癒のポーションが欲しいのだが、見せてもらってもいいか?」

 「ええ、どうぞ。」

 

 やはりというか、わかってはいたけれどポーションは全て青い色をしており、瓶の中に詰められている。

 ブリタさんの反応を見る限りとても上質なもののようだ。

 

 「ここは先輩であるブリタさんに選んでもらいましょう、ね?モモンさん?」

 「ああ、そうだな。」

 「えっ!!?あ、そうかそういう話だっけ……っと、それじゃあ……私は、これで。」

 「では私も同じものをください。」

 「ふむ、これを五つ頼む。」

 「分かりました、こちらお値段になります。」

 

 金貨40枚、か。一つ金貨8枚。

 でも、こちらが持っている赤い治癒のポーションであれば1個で金貨30枚はするんだっけ?ううん、うろ覚えだな、流石にそこまで覚えてないや、何年も前だし。

 

 「これでいいか?」

 「はい、確かに。」

 

 「あの、本当に良かったの?私が持ってたのよりだいぶ質がいいし、なにより値段が、さ。」

 「いいんですよ、迷惑料と、このお店を紹介して頂いた情報料だと思って下されば。」

 「そう?じゃあ、お言葉に甘えて!」

 

 そう言ってポーションを受け取ると、ブリタは嬉しそうにポーションをいろんな角度から眺めたり頬ずりしそうになって、ハッと気づいたようにこちらを見ると照れたように頭を掻いた。

 男勝りしてそうなイメージだったし実際その通りだったのだが、まぁこうしてみれば悪い人では無いんだろうな。

 

 「じゃあ、私はこれで失礼するよ、あんたらの武運を祈ってる、また何かあったら声かけてね。」

 「はい、さようなら。」

 

 「……ティカはナザリックの者の中では一番といっていいほど人間とのコミュニケーションに向いているかもしれんな……。」

 「え?」

 「いや、なんでもない。ところで……ンフィーレア、と言ったか、ここでは頼めばアイテムの解析も行ってくれると聞いたのだが。」

 

 ああ、赤いポーションの解析もここで済ませちゃうんですね?

 

 「はい、銀貨3枚になります。」

 「ああ、では代金と……解析してもらいたいのは、これになるんだが……。」

 「えっと……これは……赤い、ポーション?ちょ、ちょっと待ってくださ、いや、奥の工房に来てくれますか?おばあちゃんに話を聞いてみますので。」

 「ああ、いいとも。」

 

 

 ……結局ここで赤いポーションの持ち主がモモンだとバレるんだったら最初から渡しても良かったのかな?……あと、ブリタさんに赤いポーションを渡しそびれちゃったけど、後のシャルティアと戦う時の影響はどうなるんだろう?

 あれがないと彼女は……。

 

 ……まぁ、彼女がデザートになってしまうかどうかはともかくとして、シャルティアが支配される件については、既に手は打ってあるんだけどね。




ブリタさんと仲良くなり、ンフィー君には自分からコンタクトを取ることでストレス軽減を図りました。

ていうかもうほんとエレティカはモモンガ様のストレス軽減用NPCか何かなのではなかろうか……。




更新再開して早速で申し訳ないんですが、
今回から更新頻度低くなるかもです。


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冒険者編第一章(2/4)

冒険者編その2です。


 「ふぅ、まさかこんな下級のポーション一つにこんなに翻弄される事になろうとはな……。」

 「全くですね……しかし、それだけこの世界と私達の居た世界とでは差異があるという事、どんな所からボロが出るか分からない以上、警戒を強めるべきかと。」

 「だな……。」

 

 あれから私達は赤いポーションがこの世界でどれだけの価値があるんだろうか?という疑問を解消させる為にリィジー・バレアレに鑑定してもらう事にしたのだが、まぁ~それはもう凄い剣幕で「これをどこで手に入れた!!?」「なんとか製造方法を知る事は出来んのか!?」とまくし立てられて大変だった。

 

 結局の所、今日の所は「私達は薬師ではない」と一蹴して帰ってきてしまったわけだが。

 

 まぁこれでカルネ村入りするときによりスムーズに話が進めばいう事無し、なんだけどね、モモンガ様は「たかが下級ポーションでこんな目に遭うとは」と結構注意力が高まった感じ、かな?いや、どうだろ……。

 

 「これからは不用意に私達の世界の物を使ったり人に見せたり渡したりするのは避けた方がいいですね。」

 「そうだな……まぁ、そこは元からそのつもりだったからいいのだが、より注意するべきだろう。」

 

 大丈夫みたいですね。

 リィジー=バレアレさんをカルネ村に誘う時はどうしよう?

 ん~~~……まあなんとかなる、かな?

 

 

 「……時に、ティカよ、人間をどう思う?」

 

 えっ!?それ私にも聞くんで……あっ、そうか、モモンガ様は私のカルマ値とか見れないんだったね、一応私は善寄りだからここは素直に答えるべき、かな?

 

 「そうですね……相手がどのような人間かによりますが、友好的な人間であればそれだけ好意的に感じますし、敵対的であれば、残念ですが、何の感情も沸きません。

 せいぜい怒りや悲しみ、哀れみといった程度のものでしょうか。」

 「そうか……ティカはそのように割り切って考えているのだな。」

 

 

 流石にゴミとかノミとかとは思ってはいませんとも。

 ただね、ちょっとヴァンパイア寄りになってきたのか、自分に関係ない人物だと目の前で死んでても何の感情も沸かないんだよね。

 もしカルネ村のエンリとかネムとかが危険に晒されてたら、少し、いや、かなり怒ると思うけど。

 

 ……あぁ、そういえばあの駄犬にほうれんそうを覚えさせ……ん~……そこまでしなくてもいいかな?怒られるのも一つの勉強だと思ってくださいっす。

 

 「では、これからの行動方針について話し合うとするか。」

 「承知しました。」

 「……ティカ、その、なんだ……もっと砕けた感じで話せないか?」

 「え?」

 

 「いや、これから冒険するにあたって、モモンとティカという冒険者は仲間であり、肩を並べる同等の存在、今のままだと、モモンはどこかの王族か貴族、ティカはそれに従う従僕のように見られるのではないか、と思うのだ。」

 

 あぁ、成程、つまり……「普段から敬語だから特に意識してなかったけど正直その敬語で話されるの気が休まらないからせめてモモンの時位もっとフレンドリーに接してくれないかなぁ」という事ですね分かります。

 

 「いえ、それはそうかもしれませんが……よろしいのですか?」

 「うむ、構わん。既に出会って会話してしまった連中には……慣れない土地で緊張していた、とか言い訳をするか、いざという時には記憶を弄ればいい。」

 

 記憶を弄るってあなた……まぁいいけどさ。

 

 「えっと…………とは言いましても、その、これが普通ですので……例えば、どのように、その、砕けた口調にすれば?」

 「ふむ、ちょっとアバウト過ぎたか?なら、ティカに設定を追加するという形にしよう、そうすればお前も演じられるだろう。」

 

 えっ、まじっすか、自信無いっすよモモンガ様!

 

 「そうだな、じゃあまず……昼にも話していたらしい設定を取り入れて、ティカはモモンと同郷であるという設定はまず大前提に入れよう。出身はここから遠い異国の地である。ここまでは良いとして、問題はティカとモモンの関係性だ。」

 「同郷からここまで遥々やってきたわけですから、”冒険において”二人はパートナーのような存在なのでしょうか?」

 「うむ、ペロロンチーノさんには悪いがそういう事にしよう、なんなら後で3人になってもいいしな。」

 

 ほへぇ、パートナーになってしまった。

 これは……アルベドには絶対に知られないように……。

 ……っ!おい、そこで監視してる影の悪魔(シャドウデーモン)!!分かってんだろうなッ!!?

 

 「では、モモンとティカは、パートナー同士であり……要するに、気を許せる相手である、という事でしょうか?」

 「うむ、であることから、ティカの私に対する口調は敬語ではなく、そうだな……シャルティアやアウラと話す時のように、あるいはセバスやユリと話す時のように。出来るか?」

 「もちろんです。も、もちろん、だよ?……もちろんだよっ?」

 「おお、そうそう、そういう感じで今後も頼む。」

 

 

 うおおおなんだこれ凄い恥ずかしいんだけど……。

 出鱈目で特にこだわりがなく間違いが多かったとはいえ敬語がいかに便利だったことか……!!

 

 「じゃあ、モモンさん、明日はどうする?」

 「そうだな……やはり、当初の予定通り、冒険者ギルドへ行って、クエストというものを受けてみよう。」

 「うん、分かった!」

 「(……14歳くらいの子がかしこまった口調なのも違和感があったが、これはこれで違和感が凄いな……。いやっ、きっと慣れる筈、なんたってエレティカは元々明るい性格の筈だからな!)」

 「(うう……これやばい!すっごい違和感あるんだけど……元々のJKだった頃の自分を思い出せ自分!!)」

 

 ((これは早く慣れないとな……。))

 

 全く思惑は別の所ではあるが、二人の心が初めて一つになった瞬間であった。

 

 

 

 -翌日の朝/冒険者ギルド/クエストボード前-

 

 

 ((よ、読めない……。))

 

 そしてこれが二回目の心が一つになった瞬間であった。

 

 

 いやぁ、もしかしたらちょーっと位読めるのではないかと思ったけど全然そんな事無かったぜ!!なんだこれ?適当に書いてるわけじゃないよね?と疑うレベルで何も読めない。

 

 文字を解読する~みたいなアイテムがあったら読めたのかな……?

 

 ひょっとしたら宝物庫にあるものをひっくり返せば見つかるかもしれないけど……、私はまだ指輪をもらってないから宝物庫に入れないんだよね……ただ、ゴミ倉庫にもそれなりに使えそうなものはあったけど。

 

 ……えっ?ああ、はい、ええと……そういや気にも留めていませんでしたが周りの冒険者の目は「カッパーの癖に」とか「だがいい女じゃねぇか」とか「どっかのボンボンだろ?」といった……まぁ、気にするに値しませんね。

 別段特筆すべき点もないでしょう。

 

 やがてモモンが(うっかりモモンガ様と言わないように脳内でもティカの時はこの呼び方にしようと決めました。)意を決したようにバッと一枚の依頼書をクエストボードから剥がして受付へ歩を進め、その勢いのまま依頼書を受け付け娘の前へバンッと叩き付ける。

 

 「これを受けたい。」

 「……申し訳ありません、これはミスリルプレート以上のの冒険者様へのご依頼でして……。」

 「知っている。だから持ってきた。」

 「ですが、規則ですので。」

 「下らん規則だ。」

 「依頼に失敗された場合、多くの方の命が失われる場合があります。」

 

 ま、そうですよね~……普通はそうなんでしょうが、まぁ、私達だったら正直余裕なんだよね。

 そうは言わないし、言うつもりもないけどね、それが狙いという訳じゃないから。

 

 「ふむ……私の連れは第三位階魔法の使い手だ。」

 「えっ!?」 

 

 「何っ!?第三位階魔法だと!?」

 「あの幼さでか……。」

 「しかしだとしたらあの細剣は一体何なんだ?」

 

 幼さとは失礼な!!……と思ったけどよく考えたらみてくれはちょっと格好の良い14歳だから……あれ?この異世界ではそんなに珍しくもなさそうだけども。

 ……ひょっとして私が思っているより幼く見られているのか?

 そう思い、私は少しでも大人っぽく見えるように背筋をピンと伸ばす。

 

 ……ああ、ちなみに決して魔法特化という訳ではないのにこの紹介、第三位階魔法の使い手、という設定にした件については全くの嘘、という訳ではなく、私がもっているこの細剣や隠し持っているマジックアイテムに秘密がある。

 

 まずその細剣についての説明だが、まず名前は【雷鳴のレイピア】という名前の……まぁざっくり説明するとこの剣は戦士系のクラスを持つ者が持つと第三位階魔法の雷系魔法に相当する雷魔法を放つ事が出来る、という名前のまんまの特殊性能を持つレイピア。ただし攻撃力は同じ等級のマジックアイテムの中でも決して優れているとは言えないというレベルの物。

 

 他にも、身体強化系の魔法を使えるようになる腕輪とか、魔力増強の効果がある髪留め、その他、マジックアイテムがetc……。

 

 完璧に”すごい強い”第三位階魔法の使い手に化けられるようにした装備だ。

 

 

 「そして私も彼女に匹敵するだけの戦士だと自負している。私達は実力に見合った高いレベルの依頼を希望する。」

 「……申し訳ありませんが規則ですので……それは出来ません。」

 「……そうか、我儘を言ったようで悪かった。ではカッパーのプレ―トで一番難易度の高い物を見繕ってくれ。」

 「かしこまりました。」

 

 よしっ誘導成功だねモモンガ様!じゃない、モモンさん!流石!

 

 「でしたら、私達の仕事を手伝いませんか?」

 「は……?」

 

 おっ!で、出たー!

 現れたのは四人の冒険者のグループ。

 そう、ご存知「漆黒の剣」のメンバーだ。

 

 もう先に言っちゃうけど絶対救ってやるからな~っ!!

 

 

 

 「私が漆黒の剣のリーダー、ペテル=モークです。」

 

 いやぁ、実際見てみるとマジでなんていうか、こう、好青年を絵に描いたような人だなぁと思う。

 爽やか……爽やか系イケメン?

 こういうキャラに限って実は暗い過去があってそれを心を許した人にだけ見せてくれるんだけどその一面にギャップを感じて萌えーーーっ!!!!

 ……つってね、多分そんなことはない。と思う。

 

 「そしてあちらが、チームの目と耳である、レンジャーのルクルット=ボルブ。」

 「はぁ~い。」

 

 でこっちがチャラい系イケメン。

 チャラい、執拗なまでにチャラい。

 必要以上にチャラい。

 でもこういうキャラに限ってやるときはやるし守るべき物を守る時の真剣な顔にギャップを覚えて、も、も、萌えーーーーーっ!!!!

 ……いや、うん、これは多分そうなんじゃないかな?私はそんな趣味ないけど。

 

 「そして治癒魔法や自然を操る魔法を使う、ドルイドのダイン=ウッドワンダー。」

 「よろしくお願いする。」

 

 この……この人のである口調っていうのは、実際には「~である」って発音しているわけじゃなく、私達の耳に届くまでに翻訳されているわけだから、実際にはそういう……訛りのようなものなんだろうね。

 萌えポイント?あなたはいきなり何を言ってるんですか?

 訛りってのがそもそも萌えポイントでしょう!

 まったくもう!!

 ……いえ私はそういう趣味はないんですけどね?

 

 「そして最後に、このチームの頭脳、ニニャ=ザ=スペルキャスター。」

 

 二次創作では嫁にされたり姉と再会を果たして幸せになったりモモンさんラブになったり実験体にされたり死んだのに生き返らされたりと色々な運命の分かれ道があるニニャちゃんだけど……。

 もっかい言うけど絶対救ったるからな~見とけよ見とけよ~。

 え?男装っ子ですか?

 んー……………………アウラのが可愛い、かな。

 

 「よろしくお願いします。しかしペテル、その恥ずかしい二つ名やめません?」

 「え?いいじゃないですか。」

 「コイツ、タレント持ちなんだ。」

 「ほう、タレント。」

 

 この世界の生まれついての特殊能力、タレント。

 正直これがユグドラシル時代に有ったとしたらどんな事になってたんだろう?

 ……ほしい能力が出るまでリセマラとか有り得そうだな……少なくともこのギルドの人達は絶対半数はやるだろうな……。

 かくいう私もソシャゲとかでほしい物が出るまでリセマラし続けて及第点と呼ばれる物が出たらやめるって感じだったし。

 

 ちなみにニニャちゃんは魔法適性というタレント持ちで、習得にかかる時間が半分になるとかいう結構強いタレント持ち。

 羨ましい……のか?

 

 「この能力を持って生まれたのは、幸運でした。夢を叶える第一歩が踏み出せたのですから。」

 「まぁなんにせよ、この街でも有名なタレント持ちですね。」

 「でも、私よりも有名なタレント持ちが、この街には居ますけどね。」

 「バレアレ氏であるな。」

 

 「……(え゛っ?い、いやもしかしたら同名か同性の人物かも知れないし……)ほう?あぁ、私はモモン、こちらはティカといいます。よろしくお願いします。

 ……して、そのバレアレという人のタレントとは?」

 「成る程、彼のことを知らないという事は、この街の人ではないのですね。」

 「彼はリィジー=バレアレというこの街で1番の薬師の孫で、名前をンフィーレア=バレアレといいます。確か、どんなマジックアイテムでも使用可能、というタレントの持ち主です。」

 「それは……凄いですね。(ウッソ!?そんな凄い能力を持った奴だったのか!?何も知らずにコンタクトを取ってしまったが……。)」

 

 すかさずメッセージ。

 

 「(モモンさん、これは好都合ですね。そんな有名な人物と事前に知り合う事が出来たのですから、上手くすれば情報源として大いに期待出来るでしょう。もちろんそのタレントの危険性は楽観視できませんが。)」

 「(ティカ……。ウム、そうだな、前向きに考えれば確かにそういう見方も出来る、しかしやはり危険だ、今後彼と接触する際は警戒は怠らないように。)」

 「(承知しました。)」

 

 「それで、今回の仕事の話なのですが……」

 

 要約すると、エ・ランテル周辺に出没するゴブリンやオーガ等のモンスターを討伐して組合から報奨金を受け取る、それが今回の仕事の報酬となる。

 正式な依頼ではないのだが、街の人は危険が減るし、自分たちにはお金が入る、誰も損するものはいないという寸法。

 

 「どうでしょう、我々に協力していただけますか?」

 「ええ、こちらこそよろしく。」

 

 特に断る理由はないんだけど……これって正式な依頼じゃないんだよね……?プレートのランクには影響があるのかな?……まぁここは黙っておくほうがいいかな。

 

 「では共に仕事を行うのですし、顔を見せておきましょう。」

 

 

 そう言って、モモンはそのヘルムを外し、その顔を現わにした。

 

 「「「……!!!」」」

 

 

 そこには、黒髪短髪、黒目で少し日に焼けたような褐色肌を持つ”若い男性”が少し困ったように笑う姿があった。




作者:「春休みに入ったからいっぱい絵描きたいなぁ」
エレティカ:「これの更新ちゃうんかーい!!」


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冒険者編第一章(3/4)

大変遅くなってしまい申し訳ありません。

リアルの方が忙しくてなかなか……。
そんでこれからも更新頻度が低くなるかもしれません。

出来るだけ……とりあえず1期アニメのとこまでは終わらせようと思います。
2期が来たら……あるいは作者が原作を買ったら……。

その時は、追々って感じで。


――数日前――ナザリック地下大墳墓のどこか

 

 モモンガとエレティカが、「冒険者モモン」、そして、「冒険者ティカ」という、モモンガが冒険者として活動するにあたって、色々な設定を事前に打ち合わせしていた時の事。

 

 モモンガの目の前にはエレティカが「これを」と差し出した一つのマジックアイテムが、宝石でも扱うかのように置かれている。

 

 それは見た目だけで言えば、ある種ペンダントのような、しかし形状は丸く、手にすっぽり収まる程度の懐中時計でもあるような物で、アンティーク調と言えば聞こえは良いくすんだ金色のソレは、どうやら横についている窪みに指をひっかける事で蓋を開くことができ、「ロケットペンダント」と呼ばれる、中に小さな写真等を入れて置けるアクセサリーだと分かる。

 

 こういった物にいくら縁が無い現実世界の住人だったモモンガも、漫画やアニメといった文化に殊更関心が無かったという訳ではない、というか、宝物殿を守護する軍服姿の息子を思い出していただければ、まぁ、この程度の事は知っていて当然だろう。

 

 蓋を開いてみると、中には何やら貴族のような――豪華で赤い服を着た男性――しかし、顔の部分が掠れてしまっていてその顔を確認することは出来ない――といった写真がはめ込まれており、古くなっているのか、元々取り出すという事を想定していなかったのか、中身を入れ替える事は出来そうにない。

 

 モモンガは、ふむ、と無い鼻を鳴らすと、「これは?」とエレティカに視線を送る。

 自分でマジックアイテムを鑑定する魔法を使えばいいとも思ったが、ここに持ってきた本人にその真意を聞いてみた方が早いと判断したのだ。

 

 「これは、先日私がゴm……倉庫を整理している際に見つけた、【トランスオブヒューマノイド/偽りなる人間への変身】が使えるようになるマジックアイテム、名前を「血族のロケットペンダント」といいます。」

 「……なんだと!?」

 

 

 思わず立ち上がって狼狽する。

 そんなものを何でエレティカが持っているのか。

 このアイテムが非常にレアだからとかそういう理由ではない。

 このアイテムは、今、冒険者として活動しようとしているモモンガにとって、非常に「都合が良すぎる」からだ。

 

 そもそもの話、幻を作る魔法でどうにかすればいいやと思っていたモモンガからすれば、それを出す、という事は、幻覚魔法を使用する必要はなく、しかも、これを使えば人間に変身する事が可能であるという事を意味していた。

 アレを失い、食欲を失い、睡眠する必要も失った彼からすると、それはとても魅力的な物に見えた。

 

 

 「とはいえ、いくつかデメリットも御座います。」

 「……ほう?言ってみよ。」

 

 

 デメリットと聞いて、それはそうだ。でなければゴミ倉庫で眠ってるわけが無い。と思ったモモンガは、精神が沈静化する前に、モモンガは落ち着きを取り戻して椅子に座り直す。

 

 「はい、まず、感情や欲求を抑制するスキルの効果が消え去り、アンデッドであるならば、精神支配の攻撃も人間種同様に受けるようになります。」

 「うっ……。」

 

 その思っていたより痛いデメリットに、思わず顔を顰める。

 尤も、モモンガは表情筋なんてものは無いので、いつもと変わらない顔である。

 エレティカは「多分苦い顔してんだろうな」位には思っているが。

 

 「他には、全体的なステータスの低下……これは種族が異形種から人間種モドキになるからですね。」

 「……まぁ、元より全力を出して戦う事等、そうそうありはしないだろう。それぐらいのハンデは問題ない。」

 「えぇ、もしもの時は私が守ります。そのために居るのですから。」

 

 

 そう聞いたモモンガは別の意味で在りもしない眉を潜める。

 

 基本、モモンガの前……というか、表面上はエレティカはモモンガやペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜への忠誠心は高い。

 余程おかしな要求をされない限りはそれに応えている。

 ……まぁそういう意味で若干一名、身の危険を感じ始めてきている人物も居ないわけではないのだが。

 

 ともかく、そういった忠誠心は未だに慣れない物があるのだ。

 特に、エレティカに限っては、ひょんな事(番外編参照)から、「エレティカは実は明るい性格である」と思っている為、無理してそんな態度を取らせてしまっているのだと思っているために、モモンガは今非常に複雑な心情なのだ。

 

 「性欲や食欲、睡眠欲求と言った欲求等も復活してしまうので、アンデッドであるモモンガ様は食事や睡眠をする事に慣れるのに時間がかかるかもしれませんね。」

 「ふむ……(それって、逆に言えば食事や……えっと……そういうコトが出来るようになるって事、か?それはありがたいが……。)」

 

 そんなモモンガの心情をよそに説明を続けるエレティカ。

 

 遠回しではあるが、エレティカのその発言は暗に「そういう事が出来るようになる」と言っていたし、本人もそのつもりで言っている。

 無論アンデッド状態であったなら、食事をしようとしたらそれは垂れ流し状態になって目も当てられない状態になるし、性的な事はアレが無いために一切不可能だ。

 

 かの偉大なアンデッドの頂点に君臨するモモンガでも、夜の戦では役立たずどころかたつ物が無いんだよなぁ……と下品な事を考えてしまい、つい吹き出しそうになるのをこらえるエレティカ。

 

 モモンガの方は食欲はいいとして、性欲や睡眠欲求は……沈静化が無効化される事で、どれだけ我慢が効かなくなるかが問題だ、などと考えており、エレティカの表情筋がピクピクと痙攣しているのに全く気付いていない。

 

 

 「……まぁでも、モモンガ様でしたら、大丈夫でしょう。」

 「っ、あ、当たり前だ。(何を根拠に大丈夫なんて言っているんだお前は!!)」

 

 

 そうして、お互い別の意図を気付かれるのを恐れて強引に話を打ち切り、結局その「血族のロケットペンダント」は必要に応じて使用する方向で話が決まった。

 

 

――そして現在に戻る。

 

 「……ヘルムで顔をすっぽり隠していらっしゃるので、てっきり戦傷でもあるのかと思っていましたが……。」

 

 「おいおい!それをヘルムで隠しちまうなんてもったいねぇよ!街の中でくらい外していたらどうだ?」

 

 

 モモンも、使うまでは「そういえばどういう容姿になるんだろう?」とは考えていなかった為に、この状況は予想外の物でもあり、予想していたことでもあった。

 

 どういう事か、というと、ブリタという冒険者と出会った時に、モモンだけ借りた部屋に行って、ブリタとティカの二人を待たせたことがあったのを覚えているだろうか?

 

 そう、あの時に、モモンは【トランスオブヒューマノイド/偽りなる人間への変身】を初めて使用し、その容姿に愕然としたのだ。

 

 青年でも、なんならリアルのような容姿でも、冴えないおっさんでも、まぁ人間ならなんでもいいか、流石にショタとか脂肪たっぷりのデブ、まかり間違って女になっちゃうとかはちょっと勘弁してほしいなぁ位にしか思っていなかったモモンだった。

 

 しかし現実は予想を反して……というか、予想の斜め上を突っ切っていくような感じだった。

 

 

 彼、モモンの状態……容姿を細かく伝えるとするなら、まずその顔から説明すると、髪は黒髪短髪、いわゆるベリーショートという奴で、現代の現実世界ならまず間違いなく何かしらのスポーツをやっていそうな偏見を持たれかねない、爽やかさをアピールしている髪型だと言えるだろう。

 

 その顔の作りからしてもそうだ。

 

 鼻は、現代の日本基準で言うところの高い鼻に位置しており、キリッとした目はキツそうというよりは他人にやさしく自分に厳しい、そんなストイックさを醸し出している。現在は苦笑したように微笑んで、整えられた眉も今はハの字だ。

 

 そして全体的に言えることは、彼の身体を構成する皮膚が健康的な褐色肌だったことだ。

 

 現実世界に居たら「おっ?もしかして海行った?」となる程度だが、その程よく日に焼けて黒くなった肌は、となりのティカの透き通るような白い肌とはまた違う魅惑を持っていた。

 

 

 「ハハハ……いや、私もティカも異邦人だと知られると何かと厄介事に巻き込まれるかと思いましてね。」

 

 と、漆黒の剣のメンバーからの驚きやら羨望やら嫉妬やらといった目線から居たたまれなくなり、ヘルムを被り直し、事前に考えておいた言い訳を言っておくモモンだったが、その言い訳で納得するほど漆黒の剣のメンバーも素直ではなく、納得半分疑問半分といったところだった。

 

 

 どうしたものか、と内心で頬を掻くモモンだったが、そこで突然ティカが口を開く。

 

 

 

 

 「モモンはこう見えて恥ずかしがり屋なの。頭のてっぺんからつま先まで隠さないと羞恥で生きていけない程の、ね。」

 

 

 

 ニコリというよりはニヤッとした顔でそう言い放ったティカのその台詞を聞いて、モモンを含めたその場の全員が何かを吹き出しそうになる。というか吹き出した。

 

 「ちょっ!?ティ、ティカ!?」

 

 「ブフッ……言われてんぞモモンさん!」

 「る、ルクルット、失礼ですよ。」

 

 失礼だ、といいつつ、ニニャも若干声が震えているし、その表情はとても笑いをこらえきれていない。

 

 ダインやペテルなんかは、にこにこしながら「彼女なりの冗談なんだろうな」と思いつつ、「そういう理由なら仕方ないですね(のであるな)」なんてのたまっている。

 

 当然モモンも彼女を責めるなんてことはしないし、その程度の冗談は受け流す位の度量はある。何故ならかつての仲間の放つブラックなジョークはこれの比ではなかったから。

 

 「い、言わないでくれって言ったじゃないか~!」

 

 なんて、冗談に便乗している始末である。

 本心では「そうそう!冒険者なんてこのくらい軽い感じでいいんだよ!!」と思っている。

 

 どうにかしてこういうかる~い感じの間柄になれるようNPCに仕向けられないか本気で考える程に。

 

 しかし今ではあの忠誠心MAXの彼らとの接し方も慣れ始めて来たので、突然フランクに接するようになったNPCを想像してしまいブルッと悪寒がしたので、モモンガはそれ以上考える事をやめた。何事も程々が丁度いい。彼らはあれが丁度いいんだろう。

 

 

 「ハハハ……それじゃあ、お互い準備も済んでいますし、早速行きましょうか。」

 

 談笑も程々に、ペテルがそう切り出して一行は階段を降りて出入り口へと向かう。

 お互い準備万端、いつでも行けるぜ!という状態でスタンバイしていた為、今しがたあったこの気の合う冒険者仲間、実はシャイな黒い戦士と、実はちょっとお茶目な一面を持つ可憐な少女……と始まる冒険に心を躍らせていた。

 

 ……が、ティカは知っていた。

 多少原作とは違う道に進んだが、あるいはここで……

 

 「モモンさ~ん?ご指名の依頼が入っています。」

 

 出鼻をくじかれる事を。

 

 「指名?一体誰から?」

 「ンフィーレア=バレアレさんからです。」

 

 

 その時エレティカが感じていたのは、意外、というよりは案外という感じで、「結構原作とは違う事をしたはずだけど、こうなるんだなぁ」と思っていた。




モモンさんの外見ですが、単純に「そういや褐色肌の人って居たっけ?」と思ったから出しました。

もし既に居たらごめ~んねっ☆


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冒険者編第一章(4/4)

 「先日は祖母がご迷惑を……。」

 「いえいえ、私達の方こそ、知らなかったとはいえあんな物を突然持ち込んでしまって……。」

 

 現在、未だに冒険者ギルドに居るのだが、まぁ、思ったとおりというか……。

 モモンとンフィーレアは再会するやいなやお互いに謝り合うという良く分からない事態に陥っていた。尤も現代日本において考えるならこれはよく見られる光景なのだが、ここは異世界。

 

 それを見ている漆黒の剣の人たちは妙な物を見るような顔でそれを見ている。

 そしてその心情の中には「あれ?知り会いだったの?」という気持ちも含まれている。

 

 「モモンさんって、ンフィーレア=バレアレさんと知り合いだったのですか?」

 「ん。昨日街についたばかりの頃、ポーションを買いに行くのと、手持ちのアイテムの価値を鑑定して貰うために、彼の店を訪れたの。しかしまさかタレント持ちだったとは知らなかったけど。」

 

 と漆黒の剣のメンバーには小声で説明しておく。

 ひとまず納得、という顔を見せた彼らだったが、次のモモンの言葉で驚愕の顔に変わる。

 

 「それで、私に指名の依頼があるとの事なのですが……すみませんが私は既に別の仕事を請け負った身。光栄なお話だとは思いますが……。」

 「モモンさん!名指しの依頼ですよ!?」

 「そうかもしれませんが、それでも先に依頼を受けた方を優先させるのは当然でしょう。」

 

 至極尤もな発言ではある、が、それを言える冒険者はなかなか多い方ではない。

 何より漆黒の剣のメンバーからしてみれば自分たちの依頼のせいで、モモンの指名の依頼を無かったことにしてしまったかもしれない。

 そこまでは考えていなかったかもしれないが、ペテルは「しかし、折角の依頼が……」と食い下がる。

 

 無論、モモンもここで本当に「いやいや順番は順番だから」等と頭の固い事を言うつもりはない。

 

 「であれば、どうでしょう。彼の話を聞いてから、考えるということで。」

 

 

 

 そうして、場所を変えて、もう一度話し合うことにした。

 

 

 

 

 「今回、薬草採集の為に、カルネ村近くの森まで行こうと思うのですが、そこまでの警護と、薬草採集の手伝いを依頼したいのです。」

 

 それが、ンフィーレアの依頼の概要。

 ごくごく一般的な警護の依頼だったが……。

 

 

 「(少し厄介だな、俺もエレティカも人を守るスキルは持っていないし……ぶくぶく茶釜さんだったら違ったかもしれないが。)」

 

 が、いつまでも悩んでいるわけではない。そう思考し、自分に出来ないのなら、と思考を切り替えてからは早かった。

 

 「報酬は規定の……」と言いかけたンフィーレアに被さるように、「ペテルさん、私に雇われませんか?」と言うモモン。

 ペテルも、一応話しは聞いていたが、まさか自分に話が回ってくるとは思っていなかったし、雇われないかと言われるとは考えてもみなかった。

 

 

 「というと?」

 「警護任務となると、レンジャーであるルクルットさんのような方が必要ですし、森での採集ならば、ドルイドであるダインさんが居てくれた方が、効率が良いのではないでしょうか。」

 

 名指しされた二人はそれぞれふむと頷く。

 

 「うむ、モモン氏の慧眼、お見事である。」

 「こっちは全然問題ないぜ。」

 

 そして、リーダーであるペテルも「ありがたい申し出です!」と嬉しそうに笑い、ンフィーレアも「僕もそれで問題ありません!」と同意する旨を示す。

 

 こうして漆黒の剣と漆黒の二人、そしてンフィーレアの一行はようやく冒険ギルドを後にした。

 

 

 ▼△ 一方その頃 △▼

 

 

 「……成程、では今頃モモンガ様とエレティカは初の冒険者としての活動に身を投じているという訳ね……では、引き続き監視を。特にエレティカがモモンガ様に色目を遣ってはいないかとか私について何か言っていたとか二人の仲が進展しそうだとかそういう話がもし、もしもあったなら、何よりも早く私に知らせるようにっ!!」

 

 現在、アルベドは二人の監視である従僕達(影の悪魔(シャドウデーモン))達からの連絡を受けており、その内容を聞きハンカチでも食い破りそうな悔しそうな顔でそんな事を告げており、その威圧に押された何の罪もない立派な従僕達は背筋にサーッと冷や水が垂れる様な思いでその場を後にした。

 

 アルベドは人間の街に潜入する等の事に向いていない。

 それは単に彼女が人間の事を嫌っている等という理由もあるが、そもそも人に扮装する為に必要なスキルを持っていないのである。

 その為、人間に近い容姿であり、偽装が楽で、その為のスキルも所持しており、何より人間への理解に長けているといった、こと人間の街への潜入捜査、冒険者として活動するにあたって、エレティカ程それに長けている者は居ない、であるからして、彼女がモモンガ様と現在()()()()()()その潜入調査にあたっている事に対して、それは仕方の無い事だと、アルベドは分かっている。

 

 しかし理解しているのと不満とか未練とか悔しさとか嫉妬だとかが無いというのとはまた別の話であり、まぁ、要するに、アルベドは彼女に嫉妬していたのである。

 

 

 とはいえこれがもしシャルティアのようなモモンガ様にあからさまな好意を向ける様な女だったら、アルベドは強引にでもついていこうとしていたかもしれない。

 

 今現在大人しくモモンガの帰りを待っていられるのは一重に、必死に「人間に扮して人間の街で調査をしようと思う」というモモンガを必死に思い止まらせようとした、アルベドに対するデミウルゴスの「良妻たるもの、夫の帰りを待って、家を守る者ではないですか?」と言われた事、そして、エレティカがシャルティアほどモモンガに対してこれといった好意を見せたことがない事がその理由である。

 

 だが今から考えてみれば前者はまだしも後者は「それは理由としてどうなんだろう?」と思えなくもない。

 

 何故なら相手は何と言っても我らが絶対の忠誠を誓う御身そのお方であるのだ。

 

 一緒に……二人きりで、私やシャルティアといった障害がない場所で、あの御身と、肩を合わせて、夜を……くふーーーっ

 

 ……なんて事になったとして、嬉しくない女が居るだろうか!?

 いや居ない!!断じて居ない!!少なくともナザリックの女、いや男ですら、それが嬉しくない者が居る訳が無い!!!

 

 いや、流石にペロロンチーノ様やぶくぶく茶釜様といった至高の御方々本人の御心はアルベドの知る所ではないにしても……。

 

 ではエレティカはどうなのだろう?

 

 

 普段でこそ、常に冷静であり……(倉庫のアイテムの事故でひと悶着あったようだが)モモンガ様への好意をあまり表には出さない彼女であるが、もしそれが二人きりになったとしたらどうだろうか?

 

 私や妹のシャルティアの目が無い場所での彼女はどうだろうか?

 

 

 

 「モモンガ様ぁ……今日も、いつものアレが……ほしいですぅ……っ。」

 「んん?アレでは分からんな……ちゃんと言ってくれ。」

 「そんなぁ、意地の悪い事を言わないで下さい……分かってるくせに……」

 「フム……では今日は要らないのだな?」

 「あぁっ、そんなぁ、欲しい、欲しいですぅ、(自主規制)がぁ!モモンガ様の(自主規制)で(自主規制)な(自主規制)が欲しいのぉ!!」

 

 

 

 ……なんて事にッなっているのではッ!!?

 なんて羨ま、いや、けしからんッ!むしろ憎いっ!!

 っていうか何故にモモンガ様の方が攻めなのかっ!?

 

 アルベドは理不尽な嫉妬の炎に燃えながら着々と与えられた仕事をこなしていく。

 夫(モモンガ)の帰りを待ちながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 「「っ!!?」」ゾワワァ

 

 「ん?どうかしました?お二人共?」

 「「い、いや、なんか悪寒が……。」」

 

 何か物凄い理不尽な理由で凄まじい怨念の気を当てられているような気がするんだが……多分アルベドかシャルティアだろうな……念のために後で何か言っておこう。

 

 「大丈夫ですか?」

 「あぁ、多分気のせいだろう。」

 「そうですか?……あっ、ここからちょっと危険な地帯に入りますので、その時はよろしくお願いしますね。」

 「分かりました。」

 

 危険な地帯、と聞いて気を引き締めるティカとモモン。

 それを見て、ルクルットが笑いかけながらこう告げる。

 

 「ま、ティカちゃんさ、そんなに心配する事ねぇって、俺が耳であり目である限りは問題ナッシング。どうよ、俺、凄くない?」

 「ええ、頼りにしてるからね?」

 「お、おうよ!」

 

 最初こそルクルットはティカの体型を見て、確かに魅力的な女性ではあるが幼すぎるのが原因であまり積極的に口説くようなセリフを言う事は無かったが、ついいつもの癖で、という感じで今のようなセリフを言ったところ、にっこり微笑み返すティカの笑顔と対応にあてられて段々陥落しつつある。

 

 無論本人もその事は分かっているのだが、さてどうしたものかと悩んでいる。

 

 ティカの女性としての魅力は実は彼女の思っている以上の物であり、少ない時間でも彼女と関わった者はそれに気付くだろう。

 

 なにせ、ティカの対応に対して、若干ドキッとしつつ、へへへと照れ笑いするルクルットに対して「相手は幼女だぞ、お前は見境という物が無いのか!」とは誰も言わないし、言えないからだ。

 

 それは、ティカがあらかじめ、見かけ通りの少女だと思われ子ども扱いされるのが苦痛だった為、「このような見た目ですが実は成人しているんだよ」と言ってある。

 

 同時に「私達が住んでいた国では一般的に女性は若く見えるものなの。」とも。

 

 基本的には間違いではない。

 成人済み、というのは、ユグドラシルに転生した時点で高校生であり、それからすでに何年か経ち……まぁ少なくとも成人はしている。筈である。本人の精神年齢は永遠に高校生であり、肉体年齢的にも止まったままなのだが。

 

 そして国……ナザリックの者は、どいつもこいつも「え?年齢?百から次は数えていませんねぇ」みたいな設定の化け物か「年齢なんてくだらない、数える必要性すら感じません」みたいな人、そして覚えている人にしても、見た目は可憐な少女なのに実年齢は76という、本人曰く「まだまだ育ちざかり」「うん百年もすれば前に立つだけで某吸血鬼が敗北感で下を向いてしまう程の気だるげな女王様になれる」エルフ、そしてその双子の男の娘が居たりだとか……。

 

 仮に現代日本で考えても他国から見た日本人女性は年齢より見た目が若いと言われる事が多い事で有名でもあるし長寿の国でもある。

 

 うん、何も嘘は言っていないね。

 

 漆黒の剣とンフィーレアは「そんな国が……!?」と胸の大きな少女たちが街を行き交う様子や何故か危険な下着でこちらに手を振ってくる様子を妄想していた。

 

 

 「で、結局の所、ティカちゃ……ティカさん、って、いくつなんだ?」

 「ルクルットさん、女性に年齢を聞くなんて野暮ってもんだよ?」

 

 

 年齢については特に考えていなかったのでそう返しつつ、「……あぁ、っていうか私はスキルで人間に変化しているだけなんだから、ボンッキュッボンの綺麗なお姉さんにすれば良かったんじゃあ……。」

 

「髪の毛の色は……黒だとナーベと被るし赤くなってる所を白くすればいいか!肌の色も多少肌色っぽくして……完成!」と簡単な、それこそただの女子高生の時でも出来そうなメイクに似た何かしかしていないエレティカは若干の後悔をしていた。




ようやく冒険の旅へ。


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冒険者編第二章(1/4)

冒険者編中章です。


 現在は、未だに目的地へ向かってとことこ歩いている途中。

 まだゴブリンにもオーガにも遭遇していない、至って平和である。

 しかし、途中であの話が飛び出した。

 

 「森の賢王……ですか。」

 

 曰く、白銀の四足獣であり、知見に富んでおり、おまけに魔法も使える魔物。

 それが、ここ近隣の森を縄張りにしているらしい。

 ……まぁ、知ってたけど。

 

 「それは……是非会ってみたいものだな?ティカ?」

 「そうですね。」

 「うへぇ、二人共勇気あるなぁ、俺は絶対ゴメンだね、命が幾つあっても足りねーや。」

 

 

 その命がいくつあっても足りないと評される森の賢王、その正体は確かに魔獣である事に変わりはない、変わりはないが……見た目が完全に、大きなハムスターに蛇のしっぽをつけたような見た目をしており、こういってはなんだが、非常に愛らしい。

 ついでに「ござる」口調なのだが、なんとこのハムスケ、雌である。

 

 私が彼、いや、彼女に対して何か干渉するとしたら、「モモン、その子、メスですよ」と言ってあげる位だろうか?

 まぁぶっちゃけ支障はないしハムスケのまんまでもいいんだけど……。

 

 ……いや、いっその事シャルティア=ブラッドフォールンの生みの親であり名づけ親でもある、ペロロンチーノ様に相談してみるのは……。

 

 ……ダメか、ダメだな。

 

 

 「!」

 

 そんなことを考えていると、不意に、ルクルットが右手で全員の歩を制する。

 

 「おでましみたいだぜ。」

 「何!?どこだ!?」

 

 あれだよあれ、と指し示す方向には、哀れな被害者一同の皆々様。

 ゴブリン、たくさん、オーガ、いっぱい。

 頭が悪そうな見た目なのに群れで行動する知能があるし、人並みでないにしろ一丁前に武器や道具を使ったりする油断ならない相手である。

 ……普通の、この世界での一般的な冒険者にとっては。

 

 ユグドラシル時代には彼らにももっと強者が居て、それこそ魔法を使ったり軍隊のような徹底した無駄のない動きをする上位種も居た。

 キングオーガ、ゴブリンアサシン、ゴブリンソルジャー、レッドキングオーガ、いやぁ、なかなかどうして、当時は苦戦したものである。

 まぁどれも初級か良くて中級辺りのモンスターだったので現在では片手間で殲滅が可能だが、当時はペロロンチーノさんの護衛があったからなんとかイケた程度である。

 数が多いので経験値上げに最適だったとかなんとか。

 

 

 そんな上位種とは比べるのもおこがましい奴らを相手に、一気に臨戦態勢に入る一同。

 流石は冒険者というだけあってその態勢を整えるのは早い。

 もっとも、態勢を整える事もなく余裕で強者のオーラを発しているモモンも居るが。

 その隣で欠伸が出そうなのを隠しているティカも大概である。

 

 出来レース。

 勝敗は既に、いや、この先の運命は既に決定されている。

 

 そして、ペテルが迅速な指示を出し始める。

 

 「ンフィーレアさんは、そのまま馬車に身体を伏せて、隠れていてください。」

 「分かりました。」

 「モモンさん、分担はどうしましょう?」

 「皆さんはンフィーレアさんを守っていてください。私が敵を容易く屠る所を見ていただきましょう。」

 

 まさに、こんなの朝飯前だという態度でそれに返すモモン。

 その強者の貫禄に口角を釣り上げながらペテルは他の面々にも指示を出し始める。

 

 「それじゃあいつもので行くか。亀の頭を引っ張り出す感じでな。」

 

 

 そのいつものやり方というのは至って単純。

 まず最初にルクルットが矢をわざと外すことで油断させ、敵の全体を誘導。

 そしてそこをルクルットの矢と、ペテルの剣、ダインの魔法によって屠る。

 ニニャは補助系の魔法を使いつつ、状況を見て《マジック・アロー/魔法の矢》で援護射撃をする。

 今回は護衛も兼ねているので、ンフィーレアの所まで向かってくる敵をブロックする事も忘れない。

 

 ただそのいつもの作戦に、いつもと違う所があるとしたら、そこに絶対の支配者とその下僕の中でも高位の位置に座する存在が居た事である。

 

 「良いパーティーだ、お互いの能力を理解し、それぞれ連携が取れている。」

 そこに小声で、「ま、俺とペロロンチーノさんや茶釜さん程じゃあないけどな」と付け加えながら、「愉快だ」というように笑いながら、背に携えた巨大な剣を抜く。

 

 

 「なっ!?」

 ペテルは驚愕に顔を染める。他の面々が必死で戦闘をしている中、彼と彼女だけが悠々と、それこそ街に買い物にでも来たかのようにスタスタと戦場を歩いていたからである。

 

 そしてそこには当然オーガやゴブリンなどが襲って来ることが確実なわけで、現にこうして「かわいそうなまもの」が今まさに拳を、武器を振り上げて走っている。

 

 

 だが、そこを黒と赤の特徴的なラインが横薙ぎに滑る。

 そして、オーガの腹から真っ赤な物が飛び散ったと思うと、上半身がずるりと地に落ちていった。

 

 「い、一撃でオーガを両断するなんて……!」

 

 

 そして続けざまにばっさばっさと敵を一撃で仕留めるモモンに呆気を取られながらも、何とか戦闘中であることを思い出して構え直し、敵を着実に屠っていく。

 

 だが次に起こった出来事に、今度こそ彼らは、そして彼らだけでなく、ゴブリンやオーガまでもがその場で何秒か硬直することになる。

 その原因を作った本人でさえ。

 

 それは、「あいつはヤバイ」と思い、一目散に逃げようとするオーガに狙いをつけたティカの魔法が原因だった。

 

 「ティカ、頼んだ。」

 「了解。」

 

 

 そういった彼女は人間かどうか疑う程、高く跳躍し、そのまま上空である魔法を放つ。

 

 

 「《ライトニング/電撃》」

 

 

 この時ティカは忘れていた。

 自分がかつてのシナリオでここに居るハズだったナーベラル=ガンマと違い、100レベルのヴァンパイアであることを。

 100レベルのモモンガが魔法職でありながらそのステータスでもって前衛の戦士としても十分人間離れしている、ではその逆に、魔法職でないにしろ100レベルの者が魔法を使えるようになったとして、その威力がどうなるかを、考えていなかったのである。

 

 彼女は、そう、逃げ惑う3匹の子豚、いや、汚豚を一気に駆逐するために、撃ち逃しを作らぬよう、多少は本気で放ったつもりではあった。

 だがまさかそれがこんな結果を生むなんて。

 

 それは、一度カッと光ったかと思うと、ゴゴゴゴゴ!!!!という轟音を鳴らしながら、一筋の閃光でもって彼らの身体を尽く蹂躙し、地面ごとその命を消し去り、全てが終わった地面には高温でガラス状になった物を残していった。

 

 「(や、やりすぎてしまった……!!)」

 

 

 この世界に来てから彼女が自覚する上で、初めての大失態であった。

 

 

 

 

 

 「す、すげぇ魔法だったな……。」

 「ええ……あれは恐らく第三位階の雷の魔法でしょう、けど……恐らくここまでの威力を出せるのはティカさんが優れた魔法師であったからでしょうね。」

 「それにモモンさんも凄かったよな……オーガを一撃で仕留める奴なんて初めて見たぜ。」

 「かの王国戦士長に匹敵する強さであるな……。」

 

 それぞれ「上には上が居るんだなぁ」という関心、感激、感動といった表情で彼らを見るが、何故かその二人は向かい合ったまま……ティカの方は何故か地面を睨みつけたまま動かない。

 

 

 「(私の役割はあくまで少し強い魔法師程度の設定だったのに、それを破ってしまいました……。申し訳ございません……普段魔法を使わないせいで勝手が分からなくて。完全に私の未熟が生んだ事態です。)」

 「(いや……元より強者であることを印象付けるようにする手筈だったから、気にすることはないさ。お前が100レベルで、魔法職ではないにしろ、その辺の魔法師と比べたら圧倒的な魔力を誇っている、という事まで頭が回らなかった私の責任だ。)」

 「(これからはこのような事が無いように、もっと精進致します。)」

 「(うむ、よろしい。とはいえ必要な時は今の力で持って敵を蹂躙する事もあるだろうし、そこまで気にすることはないぞ。うん。)」

 

 モモンは内心、忠誠心マッハの下僕よろしく「この命でもって償いを!!」とか言われたらペロロンチーノさんに何て言われるか!!とひやひやしていただけに、エレティカの「もっと精進して今回の失敗を取り返します」という姿勢は本当に助かった。

 ナザリックのメイドに、多すぎて全部は何が原因だったか忘れたが、事あるごとに「申し訳ありません!!この命をもってして謝罪を!!」といきなり目の前で首にナイフを突きつけられたときは本当に驚いた。

 

 一方のティカも、初めての失態らしい失態をしてしまった事もあってか、内心かなり落ち込んでいた。

 ちょっと考えれば分かることだったじゃないか、自分とナーベラル=ガンマのステータス差で考えればこうなることは必然だった。

 そこまで頭が回らなかったのはむしろ自分のせいだ、と。

 

 その後も何故か落ち込み気味のティカの顔を見ては「あれだけの威力だったのに納得が行かなかったのだろうか……?」と不思議そうな顔をする漆黒の剣だったが、途中、こんな出来事がありティカの機嫌は治った。

 

 その出来事というのが、モモンの元に一つのメッセージがエントマより届いた事である。

 そしてその内容は……。

 

 「エレティカ=ブラッドフォールン様より頼まれていました、「ラー油メンマ」……?なるものがダグザの大釜で製作に成功したとの事です。本人のご要望で出来たらすぐに教えて欲しいとの事でしたので、まずこのことを共に任務に就かれているモモンガ様に報告した次第です。」

 

 「ナイスタイミングだ!」と内心握りこぶしを掲げながら、メッセージでエントマから伝えられた事をモモンが耳打ちで彼女に伝える。

 

 途端彼女は上機嫌になり、次の瞬間にはメッセージでエントマに「ありがとうエントマ!」心の中では「どうにかして某何とかテイルの中ボスよろしく、「アフフ~」っていう笑い方にするにはどうすればいいだろうか……。」と本気で頭を回転させながらしかし何も良い案が出なかったので、その場で「帰ったらすぐに取りに向かうからね。でももし気になるのであればちょっとなら食べてもいいわよ」と《メッセージ/伝言》を切った。

 

 その様子を見ていた漆黒の剣は突如として、何故かティカの機嫌が直ったので、「モモンさんが何かしたんだな。」と、きっと帰ったら甘いものでも買ってやろう、と慰めでもしたのかもしれないなんて思いながら微笑ましくその様子を見守っていた。

 

 まさかそれが、現代日本のいわゆる「おつまみ」に位置する、ちょっとこの可憐な美少女が満面の笑みで食べるところが想像できない代物であるとは、知る由もない。




ラー油メンマは単に作者の好みです。
……まだ未成年ですが、ほぼ100%、酒飲みになるだろうなぁと思います。


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冒険者編第二章(2/4)

 現在、あたりはとっぷりと夜の闇に包まれ、焚き火と、星の明かりだけがあたりを照らしており、焚き火の周りで円になるように、一同は夕食の準備を始めていた。

 

 「さて……流石に食事中はこれを外さないとな。」

 

 そう言って、モモンは自分の漆黒のヘルムを外し、傍らに置く。

 その様子を驚くように、ンフィーレアが見ていたが、その視線に気付いたモモンが「あぁ、言っていませんでしたっけ。実はヘルムはこの顔を隠す為にあるんですよ。ほら、異邦人だと知られると何かと……」と説明された。

 

 「は、はぁ……そうだったんですね」と、モモンの爽やかイケメンフェイスを前に頷くしか出来なかったンフィーレアは、ポーションの秘密を探るために二人がどこの国の出身なのか聞くタイミングを逃した。

 

 一方のモモンはここで本来は顔は幻術でしかない偽装を施しているに過ぎない為、食事が出来ない。言い訳として「宗教上の理由で、命を奪った日の食事はうんぬんかんぬん」と言い、話題転換で食べるのをどうにか回避するのだが。

 

 「どうぞ、モモンさん。」

 「ありがとうございます。」

 「ティカさんもどうぞ。」

 「はい、ありがとうございます。」

 

 それは、エ・ランテルで売っている、ごくごく一般的なパンであり、異世界物よろしくな固~いパンではなく、それなりに柔らかくなるように作られており、手に持った感触も軽い物である。

 そしてもう一つのメニューであるスープは、馬鈴薯、人参、豆、保存用の干し肉などが入っており、味付けは香草等のスパイスを効かせた物で、色はコンソメスープに近い。これもまた比較的安価で入手しやすい農作物で出来たスープである。

 

 とはいえモモンから見ればこれらは非常に高価な食べ物に見える。

 当然だ。

 

 リアルの世界ではただただ「栄養を補給するための物」を食べていた。

 栄養を補給できれば味なんてどうでもいい、むしろちゃんと栄養が入っているのならそれでいいじゃないかというレベルの物。

 

 しかし目の前にあるスープとパンは違う。

 パンはふんわりと柔らかそうだし、スープはほかほかと湯気を立てて、具材も多い。

 

 もちろん、ナザリックで用意させようと思えばもっともっと豪華で美しくそして美味しい、素晴らしい料理が食べられるのだが、こういうのはロマンというか、外で食べるのがいいというか、気分の問題だ。

 純粋にあそこで食べようとするとあんまり落ち着かなそうだなんて思っているのは決して口に出すまいと決意している。

 

 

 一方のエレティカも実はドキドキしていた。

 

 ユグドラシル時代ではそもそも食物を口に入れた事すらないのである。

 回復は某ピンクボールの食いしん坊よろしく食べ物で回復……なんて事はない。

 食事の必要性が無い彼女は今の今まで飲まず食わずだったのである。

 

 しかし、今は「知り合った冒険者仲間と食事を共にしなければならない」という名目上、食べなければならない。食べることが許されている。

 

 目の前に映るのは現代日本で何度も何度も口にし、しかしそれほどの感動は覚えなかった馬鈴薯や人参、そして大豆に似た何か、加えてパン。

 

 彼女は今まさにこの食材、いや、全ての食材に感謝したい気分だった。

 ……まぁ帰ったら帰ったで、下僕にダグザの大釜で制作させている大好物のラー油メンマが完成しているハズなので、目の前のコレが実はゲロマズでもそれはそれで楽しみが増えていいかもしれないなんて失礼なことを考えている。

 

 ゴクリッ……。

 

 それはティカか、それともモモンが鳴らした喉の音か。

 「じゃあ食べましょうか。」とペテルが言った途端に、もう我慢の限界だとでも言うように、モモンはスプーンを手にまずスープに口をつけた。

 

 

 「(こ、これは……!!)」

 

 

 それは今まで口にしたことのない味であった。

 しょっぱくて、スパイスが効いてて、腹に落ちるとじわりとそこに熱を孕む。

 加えて馬鈴薯を口に含むと、よく煮えたそれはほろほろと口の中で崩れ、歯なんて要らないんじゃないかというほどに柔らかく、味がしみていて……。

 

 

 「美味い!」

 

 それを皮切りにガツガツと食べていくモモン。

 漆黒の剣の面々とンフィーレアは「この人、一体普段何を食べているんだ……?」とでも言いたげにティカの方を見るが、そのティカもまた満面の笑みでパンを頬張っていたので、気にはなるものの、どう聞いても「貴方たちの国ではこんな物もまともに食べられないのか」と暗に匂わせる発言になるのではと思った彼らは、誰ともなくお互いにそれについては触れないようにしようと決めた。

 

 「はは、良い食いっぷりですねモモンさん!もう一杯要りますか?」

 「はい!お願いします!」

 

 その青年の顔は実に幸せそうなので、ここは腹一杯食べさせてやろうと思う。

 どうせ今日で使い切るつもりだった食材である。

 同時に、いつか、かのアダマンタイト級の冒険者も使うという黄金の輝き亭というエ・ランテル最高級の宿屋の料理を食べたらどんな反応をするんだろうなぁ。

 と、自分達ですらまだ食べてはいないものの、多分いい反応をするに違いないと思った。

 

 そうして、少ししてから微笑ましいものを見る目線に気付き、ハッと我に返ったモモンは照れ笑いしながら「いやぁお恥ずかしい、しばらくまともな物を食べていなかったので。」と後頭部を掻いた。

 一方のティカはそれに一言二言付け加えようとも思ったが、口の中にパンを詰め込んでいずれ出会うことになるハムスケみたいになっているので発言は控えようと思った。

 

 ……ちなみにだが、彼女のヴァンパイアの特徴として有名な犬歯はこれも見た目を変えた時に対処済みである。

 

 

 そして、素に戻ってゴホン、と照れ隠しに咳払いするモモンが、話題を変えようとする。

 

 「と、ところで皆さんは、どうして漆黒の剣という名なのですか?」

 「ああ、それはニニャが……」

 「や、やめて下さい!若気の至りです!」

 「恥じることはないのである。」

 「……勘弁してくれませんか……本当に。」

 

 ここで知らない者は首を傾げるばかりであり、モモンはあからさまに「?」という顔をしている。

 それを見ては流石に答えないわけにもいくまいとペテルが切り出す。

 

 「漆黒の剣、というのは、13英雄の一人が持っていたという4本の剣にちなんでいるんですよ。」

 

 

 

 …………。

 

 

 

 「(えっ、説明終わり!?)」

 

 説明終わりである。

 モモンは「もしかして知らないと恥ずかしいような事なのか!?」と少し焦った顔になるが、心配ご無用。

 その焦った顔を見るまでがティカの計算のうちである。

 

 「13英雄……とは、なんの事なのでしょうか?」

 「(ティカよくやった!……けど、なんだ今の間は……?)」

 

 「モモンさんやティカさんは遠い国からやってきたわけですから、知らなくても無理はないかもしれませんね。」

 

 曰く、漆黒の剣とは、13英雄と呼ばれる13人の英雄の一人、「黒騎士」と呼ばれる人物が所持していたとされる4本の剣の事であり、いつかそれを見つけることが自分たちの目標である、という事らしい。

 

 ニニャが恥ずかしがったのは、単純に、旅に出る前にもモモンが「冒険者って思ったより夢のない仕事なんだなぁ」と思ったように、こういった大きな夢を持つと大概は「そんな事できるわけがない」と馬鹿にされて終わりであるからだ。

 中学生ぐらいの男の子が「俺将来は大金持ちになる!!」みたいな事を口走るようなものだと思えばわかりやすいだろうか。

 

 「本物が手に入るまでの間は、これが私達の印なんです。」

 

 そういって懐から抜いたのは、漆黒の剣というよりは黒い金属を使った短剣、いや、ナイフにも近いかも知れない。

 それぞれそれを所持しており、それが漆黒の剣である事の証となっているようだ。

 

 「本物かどうかなんて関係ないさ、これが俺たちがチームを組んだ証であることに、変わりはないんだしな。」

 「うむ、ルクルットが珍しく良い事を言ったのである。」

 「あっ!?それひどくねぇ!?」

 「たまには褒めてやらないとな。」

 「お前ら俺の扱い悪すぎるだろぉ!ティカちゃ~ん癒して~!」

 「ルクルットさん……せっかくちょっと感動していたのに、台無しです。」

 

 

 彼らはまだまだモモンから見れば、自分たちの足元にも及ばない程に弱く、チームとしての力も、装備も、全てにおいて、モモンに敵う物はない。

 しかし、そんな彼らの様子を見ていると、かつての自分達を思い出す。

 

 「(昔は俺もこうだった。皆で素材を集めて、ナザリックを作り上げて、それで……。)」

 

 過去の栄光。

 そんな言葉がモモンの、いや、モモンガの脳裏をよぎる。

 

 「モモンさんも、冒険者のチームを?」

 

 どんな話しからそんな話の流れになったのか。

 ティカだけが少しその話題に反応し、モモンは、ゆっくりと息を吸い込み、夜空を見上げながら、まだ弱かった頃の自分の話。純白の聖騎士の話、愉快な仲間の話をした。

 素晴らしい仲間だった、最高の友人達だった。

 

 「……彼らは最高の仲間です。今は遠くに居て会えませんが。」

 

 

 「モモンさん……。」

 

 

 ここでティカはおや?と思う。

 本来ここでモモンは暗に「仲間は何か大変なことがあって全滅した」なんてことを匂わせる台詞を言うはずで、それに対して気を遣った言葉を言おうと「いつかきっとその仲間をも超える仲間に出会えますよ」と言ってしまい、結果モモンの逆鱗に触れてしまうのである。

 

 「遠くへ行った……なんて表現をしたら、まるで皆さんが亡くなってしまったみたいじゃない。勝手に殺すのはよくないよ、モモン。」

 「ははは……それもそうだな。……あの二人に失礼だった。」

 

 「な、なんだよ、紛らわしい言い方しやがって!一瞬ドキッとしちまったぜ。」

 

 

 ハハハ……。

 

 

 

 その笑い声にはどこか寂しいものが混ざっていたが、現状はまぁ、これでいいかとティカは自分で納得し、その後もそれ以上の事が起こることは無かった。

 

 

 

 「それにしてもモモンさんってほんと、すげぇよなぁ、完璧超人って感じ?」

 「え?」

 「だってよぉ、あんなに強くて、物腰も柔らかく礼儀正しい人格者で、おまけにその顔ときたもんだ!!」

 

 ルクルットの言っていることは最もだ。

 オーガを一刀両断出来るほどの常人離れした戦闘力だけでも、いくらでも女が寄ってこようという物なのに、加えて性格はいいし、しかも美形。

 言われてティカも気づくが、「これなんて乙女ゲーの攻略対象?」と思うほどである。

 

 そんな事を言われてもあまり実感が沸かない本人は「いやぁハハハ」と照れ笑いするもんだから、実は女性であるニニャは思わず頬を赤らめ、それを悟られないように顔を背けて明後日の方向に目をやった。

 

 そして、そんなモモンを見て浮かない顔をしている少年が一人。

 

 ティカはそれを見てニヤリとすると、「どうかしましたか?」と微笑みながら語りかける。

 

 「い、いえ!ただ……その……。」

 

 いきなり絶世の美女……になるであろうと思われる美少女から微笑みを受けて思わずドキッとしてしまったンフィーレアは、もにょもにょと口を動かしてばかりでその先を言おうとしない。

 

 ただその場の空気が完全にンフィーレアの方に話の矛先を向けたというように、しんと静まり返るので、ンフィーレアは腹を括ったとでも言うように、その思いを告げた。

 

 「モモンさんって、その、やっぱり、モテますよね……?」

 「いえ、別n「そりゃあもう、モテるよ、モテモテだよ。」」

 「え?いy「そりゃこんな良い物件、放っておく女の方がおかしいって!」」

 「ちょ「うむ、あれだけの腕前であれば、引く手数多であろうな。」」

 

 「えっと……実は、カルネ村に、ある女の子が居るんですけど……その子がモモンさんに……惚れちゃったりしたら嫌、だなぁ……なんて……。」

 

 

 その言葉を聞きながら、段々と口角を釣り上げる面々。

 モモンですらその甘酸っぱい少年の話に、苦笑いしつつもにやぁっと口元が緩む。

 すべてを最初から知っていたティカに至っては緩みっぱなしである。

 

 「女の子ってどんな子?」

 「良ければ協力しますよ!」

 「役に立てることがあればなんでも言うのである!」

 「私を見誤ないでくださいよ、ンフィーレアさん、人の恋路を邪魔するなんて真似、戦士として出来る訳が無いでしょう?」

 「鈍感な子には一発ストレートなのを言ってあげないと伝わらないわ。」

 「よぉし!お兄さんが少年にすっげぇテクを教えてやっ……イテェ!!」

 

 

 ハハハハハハ……。

 

 

 

 

 まだまだ、冒険者達の夜は長い。




すっごーい!君はすごい平和なオバロ二次小説なんだねー!
でもまぁ騒ぐほどでもないか……。


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冒険者編第二章(3/4)

 「しかし、こんだけ見渡しが良いんだ。隊列を組む必要もなかったかもなぁ。」

 「警戒は大切だ。いつ何が起こるか分からないんだぞ。」

 「ここから見えるあの氷山にはフロストドラゴンが棲んでいるという話もありますし、警戒するに越した事はないと思います。」

 「ほう、ドラゴンですか。」

 

 氷山の上にフロストドラゴンというドラゴンが生息しているという話から、大昔には、それよりももっと強い、天変地異を操るドラゴンが居たらしいがしかし名前は忘れてしまったという話などをした。

 本来はここで、少しだけモモンとニニャの間の暗い空気が晴れるのだが、そもそも逆鱗に触れた訳でもないため、他愛のない話をしている、という意識しかなかった。

 

 エレティカとしては、「あれ、そういえばこの話って結局どうなったんだっけ。ニニャが死んでしまったから、アニメでは知らないまま終わったけど。」と記憶を遡る。

 しかし思い出す前に、ンフィーレアが、「あれ、おかしいな……」と声を漏らす。

 

 「どうかしましたか?」

 「いえ、前に来た時は、あんな頑丈そうな柵無かったと思うんですが……。」

 

 それは木で作られた柵であり、上の部分は針のように鋭く尖っているそれは閉鎖的で攻撃的な印象を持たせる。国の兵士の駐屯地だと言われても信じてしまいそうだ。

 それを見て、一同はあからさまに警戒の色を強める。

 

 しかし、村からは特に、誰かの悲鳴や怒号が聞こえるだとか、火の気が上がっているだとか、殺気立った気配があるだとかいう訳ではなく、ひとまず、人がいるのであれば話を聞いてみようという事になった。

 

 そして、門、と思われる場所に近づいた瞬間である。

 

 「あれは!?」

 

 ぞろぞろと現れたのは、武装したゴブリンの集団。

 いつの間にか四方八方をゴブリンに囲まれ、絶体絶命かと思われる状態に陥っていた。

 まさに一触即発、そんな雰囲気の中、ゴブリンの一匹がこう言い放つ。

 

 「お兄さん方、こっちとしては戦闘は本意ではないんですよ。武装を解除してくれますかねぇ。特にそこのフルプレートの兄ちゃん、あんたからはヤベェ雰囲気ってのをバリバリ感じるぜ。」

 

 やや荒っぽい声色でありながら、ゴブリンでは珍しい程丁寧な口調でそう告げる。

 ちなみに普通のゴブリンの口調は「クラエ!」とか「キエロ!」とかである。

 

 武装を解除しろ、と言われた漆黒の剣とモモン達であったが、四方八方を魔物に取り囲まれて、剣や弓矢を突きつけられている現状で、武装を解除しろと言われてはい、そうですかと言うわけもなく、その場でしばらく硬直状態が続く。

 

 だがそれは長くは続く事は無かった。

 いち早く「姐さん」を呼びに行ったゴブリンが「姐さん」を呼んで戻って来たからであり、その姐さんこそ、この状況を解除するその人であった。

 

 

 「どうしたの?ゴブリンさん。」

 「おお、姐さん。」

 

 「エンリ!?」

 「え?ンフィー!?」

 

 そう叫んだンフィーレアの言葉を聞いて、漆黒の剣の面々は昨夜聞いたンフィーレアの甘酸っぱい話に登場した、「エンリ」と言う可愛らしい村娘の話と、その容姿を教えてもらったことを思い出す。

 そして今現れた村娘がその特徴そのものであることを。

 「あの子!」「であるな。」

 

 あの娘の様子を見るに、どうやら危険はないようだと判断した漆黒の剣達は、武装を解除する。

 モモンの方は、「村に来る薬師が魔法を使える」と言うエンリの言葉を思い出し、それはンフィーレアの事だったのだなと一人「縁とはどこでどう繋がるか分かったものではないな。」とこぼした。

 

 

 

 ひと段落つくと、ンフィーレアは冒険者のみなさんには申し訳ないが、この村に何があったのか知りたい、とエンリと家の中へ入っていき、それを漆黒の剣の面々とモモン達は了承し、村を見ていく事にした。

 その心境には「片思いの女の子と二人きりになるんだから、邪魔をしないでやろう」と言う心もある。

 

 エレティカはと言えば、「あの赤いポーションの事もあるし、エンリと話すことで、モモンやティカの正体はバレるだろうなぁ」と思っていた。

 

 そんなエレティカとモモンが見ているのは、村人達がゴブリン達による弓術の教授を受けている所であり、ついこないだまで弓を持った事もない村人達にしては上出来、と言った結果に「なかなかやるじゃないか」と感想をこぼしていた。

 

 「ついこの間まで戦うことを知らなかった村人が、生きるために戦い方を学ぼうと、友人を、仲間を、親兄弟を守ろうとしている。ナザリックの者達に比べればまだまだお粗末な者だが、その逞しく生きる姿は、賞賛するべきだ。」

 「その通りだと思います。モモンさん。」

 

 

 フッとヘルムの下に笑みを作るモモン。

 気分はさながら、武の道を極めた武闘家が稽古に励む弟子やその子供を見るようなそれである。

 

 「ペロロンチーノさんにも今度話を聞いてみようか。」

 「そうですね、いいと思います。」

 

 と、そこに、どうやら話を終えた……訳ではなく、何故か酷く焦った様子のンフィーレアが走って来るのが見える。

 

 「モモンさん!!」

 

 「どうしました、そんなに慌てて。」

 

 はぁはぁと息を切らし汗を垂らすンフィーレアに、まさか不測の事態に陥ったのかとモモンも若干警戒を強める。

 だがその次に言うンフィーレアの言葉に呆気に取られる。

 

 

 「モモンさんは、アインズ・ウール・ゴウンの方なのでしょうか!!?」

 

  

 そのかなり確信を持っているらしい表情に思わず身じろぎするモモンだったが、咄嗟に「何のことかな。」としらばっくれるものの、それはンフィーレアから見て、謙虚で囃し立てられたりお礼を言われたりすることに慣れていない、シャイな人物であると言うようにしか見えなかった。

 エレティカの「あーあぁバレちゃった」とでも言いたげな表情もあったが。

 

 「あの、分かってます。名前や所属する場所を隠すのには何か理由があるんだろうなと思います……それでも言わずには居られなくて……この村を……僕の好きな人を守ってくれて、ありがとうございました!」

 

 と、ここまで真剣に言われ、モモンはそれに答えるべく、ため息を漏らしながら早々に観念することにし、怪訝そうな声で疑問を口にする。

 

 「どうして分かった?」

 「きっかけは、あの赤いポーションでした。同じ色のポーションである事や、異邦人らしいと言う事、この辺りの国や事情について疎いと言う事などが共通点として見られたので、もしかしてと思ったのと、あとは、モモンさんの強さ、ティカさんの魔法、ですかね。」

 

 成る程言われてみれば確かにと言う風に納得した様子を見せるモモン。

 むしろここまで共通点があって何の関係もないと思う方が難しい。

 ティカに至っては名前が知られていると言ってもいいだろう。

 彼女達と会った時に名乗った覚えこそないが、そういえばあの姉妹の前で「エレティカ」と何度か呼んだことがあったかもしれないからだ。

 少し安直すぎたかと少し後悔したモモンだったが、下手なネーミングで偽名を名乗れとか言ったらペロロンチーノさんになんて言われるか分からないので、略すしか無かったんだと正当化する。

 

 そして、なんのことかわからない、といいつつ、あからさまにどこか焦った様子のモモンの対応から考えれば一発で、それこそ目の前の少年でも理解できるだろう。 

 実を言うと、ンフィーレアはそうでなかったのなら、「ではアインズ・ウール・ゴウンと言う人たちに何か心当たりはありませんか?」とでも言うつもりだったのだ。

 

 「大したことはしていない。困っている人が居たら、助けるのは当たり前の事だ。」

 「それでも、ありがとうございます……それで、えっと、もう貴方なら気づいていると思うんですが、実は今回の依頼は、貴方達から、どうにかあの赤いポーションの製法、その糸口が掴めないかと思いまして、その……。」

 

 後半はかなりの小声で、震えるように「すみませんでした」と謝罪するンフィーレア。

 しかしそれをモモンは「何を謝ることがあるんだ?」と不思議そうに返す。

 

 

 「今回の依頼はコネクション作りの一環だったのだろう?何が問題だと言うんだ?そもそも君は赤いポーションの製法を知って、どうするつもりだったのだね。」

 

 「エッ!!?えっと、それは、知識欲と言いますか、その……特に考えていませんでした。」

 

 「悪用するつもりだったのならともかく、そうでないなら、私としては、私達がアインズ・ウール・ゴウンに属していると、誰かに言いふらしたりしなければ、言うことはない。ついでにその赤いポーションについてだが……まぁ、考えておくとしよう。だが期待はしないでくれ。」

 

 「は、はい!ありがとうございます!!」

 

 

 そうンフィーレアが言い終わると、話は終わったなと言うように視線を元に戻したモモンだったが、それを眩しいものを見るように、憧れるようにンフィーレアは見続けた。

 流石はエンリが凄いと言うだけの人物だと。

 

 同時に、もしもモモンが居なければ?と考える。

 

 もしもモモンがたまたま村が襲撃されている時に通りがかって居なかったら、今頃エンリは。

 

 いや、例えばそこに自分が居たとして、彼女の両親が殺されてしまうよりも早く居たとして、尚且つ手に漆黒の剣の方が使っていたような剣が転がっていたとして、そんな状況であったとして自分に何が出来ただろう。

 

 恐らくは何も出来はしないだろうと彼の頭脳はそう結論付けた。

 

 彼は自分の「弱さ」を誰よりも理解していたから。

 

 

 もっと強くなりたい。

 

 愛する人を守れるぐらい、強く。

 

 モモンさんのようになりたいとまでは言わない。

 

 けれど、それに少しでも近づく事が出来るなら、なんて考えてしまう自分は愚かだろうか。

 

 

 モモン、という名の、アインズ・ウール・ゴウンの誇り高き戦士、いや、この村を救った英雄を前にして、少年はそんな事を思うのだった。

 

 

 「すみません、私のせいで……。」

 「いや、お前のせいではあるまい、私達の警戒が少し足らなかっただけだ。」

 

 

 短くそんなやりとりをし、どうやら準備を終えたらしい漆黒の剣と合流し、一行は本命であった薬草回収へと、森へ向かうことにした。




ちょっと短いかも。
後で書き足すかもしれません。

次はようやく奴が出るぞ奴が~。


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冒険者編第二章(4/4)

今回はヤツが出ますが、それより挿絵描きました。


人モドキ化モモンのイメージ(仮)

【挿絵表示】

個人的にはもうちょっと20代感出したい(意味不明)

そしてエレティカ三変化

【挿絵表示】

分かりづらいですが冒険者スタイルでは髪は完全な白になります。




 -カルネ村付近の村(森の賢王の縄張り付近)

 

 「では、ここから森に入りますので……警護をよろしくお願いします。」

 

 

 エレティカは、まず一目見て、原作知識として持っていたこの森へのイメージを改める必要がありそうだと思った。

 まず、木が半端じゃなく大きい。

 一体樹齢何年何だろう、と思う程に、入り口からして木の大きさに少し驚く。

 エレティカはせいぜい4~5mあれば良い方だろうと思っていたがとんでもない、目の前の木は優に15m~20mに届くのではないか、もしかしたら30mなんてこともありえるかもしれない程に大きかった。

 

 原作知識だけでかかると、いかにも「初心者ご用達の森!」というイメージがあるのだが、どちらかと言えば、「冒険に慣れて来た冒険者が挑むべき場所」というイメージを持たされる。

 

 「まぁ、モモンさんが居れば大丈夫だとは思いますが!」

 

 そんな事を思っていたので、一瞬反応が遅れ、ペテルや他の漆黒の剣の面々の事を思い出しつつ、「いやいやユグドラシルではもっと鬱蒼とした森に入った事もあるだろう、それに比べればこんなもの初心者向けというにもおこがましいというものだ。」と考えを改めた。

 

 ユグドラシルでレベル上げの為に潜った霧の立ち込めた森や精霊が出現する聖域、歩くだけで凍り付いた草によるダメージを受ける樹氷の森等もあったし、そもそもナザリックなんて毒の沼地なんていう危険な場所に有ったのだから今更だ。

 

 「あの、モモンさん……も、もし、森の賢王に会ったら、殺さずに追い返してくれませんか?」

 「えっ!?」

 

 ここでンフィーレアが口走った事にペテルは驚愕した。

 普通なら、森の賢王なんていう伝説の魔獣に出会ったとして生きていられるかすら定かではない。

 そこにさらに、「殺してはならない」と付け加えるとなると任務の成功確率はグンと下がるだろう。

 

 殺すほどの威力を持たない方法で追い返すより、モモンの持つ圧倒的な腕力で切り伏せてしまった方が早いし、確実で、何より楽だと思われた。

 

 「それは何故ですか?」

 

 しかしそこで慌てるようなモモンではない。

 彼は危険なタレント持ちという警戒すべき人物だが、この依頼を通じて彼が意味もなく自分達にとって不利益、不利になりえない事を言う人物ではないと知っているからだ。

 

 「これまでカルネ村がモンスターに襲われなかったのは、森の賢王が、このあたりを縄張りにしていたからです。それを倒してしまうと……。」

 

 つまりは、森の賢王は村にとって、村を守護する存在であり、それのおかげでモンスターに襲われなかった。

 それがいなくなった場合、今までのようにはいかず、カルネ村はモンスターに襲われるようになるだろうという事が簡単に予想できる。

 

 「いくらなんでもそれは無理だろ。」

 「了解しました。」

 

 そう、普通はいくらなんでも無理だと思うが、そこは漆黒のモモン。

 普通とはかけ離れた存在である。

 

 「相手は伝説の魔獣だぞ……!?」

 「強者のみに許された態度であるな……。」

 

 そんな存在を前にして、漆黒の剣はこの依頼で一体何度驚き、何度その姿に尊敬の念を覚えただろうか。

 もはやモモンは彼らにとって憧れの存在ともいえる人物に成っていた。

 

 最も、一番大きなイベントはこの後にこそ控えているのだが。

 とティカは一人笑みを零す。

 

 「そこで、一つ提案なのですが……。」

 「どうぞ、モモンさん。」

 「実は、ティカが使える魔法の中に、《アラーム/警報》に似た魔法があるんです。出発する前に一度森の中を見てきていいでしょうか?」

 「構いませんよ。でも、あまり長く離れないで下さいね。」

 「もちろんですとも。」

 

 

 そう言って二人は先に森の中へとその足を踏み入れる。

 

 ざわざわという木々が風でざわめく音と、鳥の鳴き声が響き渡る森。

 木々が多い事もあってか、昼間だというのに少し深い場所へ行こうとすると、その一寸先は闇、何が起こるか分からない、という雰囲気が漂っていた。

 

 

 「この辺りでいいな。」

 

 そう言ってモモンがぴたりと足を止める。

 それに合わせて、ティカが歩みを止めると、モモンが大声で周囲に呼びかける。

 

 「さあ!我が名声を高める為の打ち合わせと行こうじゃないか!」

 

 そして、すぐに聞き覚えのある元気いっぱいな女の子の声が響き渡る。

 

 「はぁーい!!」

 

 その方向に目をやると、そこにいたのは第六階層守護者の片割れ、アウラ・ベラ・フィオーラその人であった。

 

 「成程、アウラですか。」

 「チェッ、この程度じゃ驚かせるのは無理か~。」

 

 実を言うとティカはこの森に入ってからずっと尾けている事だけは知っていたので、全力でアウラがどこにいるのか探していた。

 が、それでも、気配すら感じ取ることができなかったので、流石はアウラだなと素直に感心していた。

 アウラはアウラで、その様子を見ていたので、いかなる時でも警戒を崩さないエレティカ、という印象を受けて、表でこそ「イタズラに失敗した~」というような顔であるが、内心流石はエレティカだなと感心していた。

 

 「……それに比べてあのバカは……。」

 「はい?」

 「ううん!?なんでもない!」

 

 と、ここで一応アウラがここに居る理由について話しておくが、簡単に言えば、森の賢王を探し出し、それをモモンにけしかける。

 そこで森の賢王を見事に退け、名声を得よう、という作戦である。

 その理由は単に、「オーガを一撃で屠ったってだけじゃインパクトに欠けるよなぁ」という理由である。

 そんな頭がおかしいのかと思う程自己中心的な目的は森の賢王からしてみればたまったものではない。

 まぁ、エレティカはこの作戦の結末を知っているのだが。

 

 「ではアウラ、任せるぞ。」

 「はいっ!」

 

 そして少女の姿をしたダークエルフは一瞬にしてどこかへ飛び去っていく。

 

 

 そうしてアウラとの打ち合わせを終え、再び漆黒の剣と合流し、森の中へ。

 

 一応採集の手伝いはするものの、「ここら辺りには私達の国で見るような薬草は見られないのですね」という、暗に「どれが薬草なのかわからない」という予防策を立てつつ、薬草採集の手伝いをする。

 

 とは言っても、モモン達は薬草採集が出来ない(薬草を見せられても、それが薬草だと分からない)為、ほとんど荷物持ちという形でしか手伝えないのだが、ティカはンフィーレアからその薬草の効能を聞いたり、食べられる山菜だという植物をいくつか貰えるように事前に話していたため、かなりご満悦な様子であり、モモンもそれを見て仮初の頬が緩んだ。

 

 それからしばらくして、薬草もほどほどに集まり始めてきた頃だった。

 

 ―――ザワザワ……!!

 

 「!!」

 

 突然、小鳥達の群れが、「なにかから逃げるように」飛び立ち、その方向の木々が不自然にざわめくのが聞こえる。

 

 すぐにレンジャーであるルクルットが耳を地面につけて音を探知、その結果……。

 

 「……まずいな、こりゃ……デカイ物がこっちへ向かって来てる!」

 

 そう険しい顔でルクルットが告げる。

 

 「森の賢王でしょうか……!?」

 「わからない、だが、とてつもなく巨大で……しかも、速い!!」

 

 ヘルムの下でモモンは「アウラが作戦に成功したようだな」とほくそ笑む。

 そのまま、森の賢王が来ると思われる方向に立ちふさがると、余裕といった態度で言い放つ。

 

 「ここからは、私達に任せてください。」

 「分かりました!」

 「頼みましたぞ!」

 

 「あの、モモンさん!」

 「何でしょう?」

 「その……無理は、しないでくださいね?」

 

 ……これ、声と顔を見ているからなんとも思わないが、行っているセリフを文面だけに直して見ると、まるで思いを寄せる目上の方へ気遣いを見せる女性の後輩のようだ、なんて事を考えてしまい、一人悶絶しそうになるティカ。

 だがそこは鉄壁のアルカイックスマイルが防いでくれる。

 

 対してモモンの方はというと、「誰かが見ていてくれないと、撃退しても相手が森の賢王だと分からないではないか……」と独りごちた。

 

 「足の一本位切り飛ばすか……。」

 

 スッ、と大剣を構えながらそんな事を言っていると、そろそろ足音が近くなってくる。

 それにつれて、流石に、万が一にでも、アレに一撃もらうのは嫌だなぁとエレティカは警戒を強めていつでも動き出せるようにする。

 本来、その必要はないほどのスペック差はあるのだが……。

 

 

 そして、次の瞬間、それを目視する。

 

 とはいえその相手は高速移動しており、自分達に気付くや否や、旋回し、角度を変えた方向から素早い攻撃を繰り出す。

 

 それは、緑色の蛇の頭のように見える、伝承通りであればヤツの尻尾。

 

 並外れた身体能力でもって、余裕でそれをいなすモモンだったが、その攻撃の重さにモモンの体重の方が根負けして、ズリリと音を立てながら地面を数センチ滑る。

 

 「はぁっ!!!」

 

 そして雄叫びと共に大剣で受け止めた尻尾の攻撃を弾き返す。

 尻尾はしゅるしゅると再び木々の影に隠れるように戻っていく。

 

 相手はそれに驚いたのか、あるいはそれによって冷静になったのか、相手の力量を知ってか知らずかその姿を潜める。

 

 そして、モモンがその伝説の魔獣の姿を探しているとどこからか声が響く。

 

 

 『某の初撃を完全に防ぎきるとは、見事なものでござる。』

 

 「……ござる?」

 

 『さて、某の縄張りへの侵入者よ。もしここで引き返すのであれば、先の見事な防御に免じ、某は追わないでおくが……どうするでござるか?』

 

 どうする、といいつつ、既に答えが分かりきっているような声色だ。

 現にモモンの方も、「今なら見逃してやる」という挑発に乗ることにし、こちらからも挑発を仕掛けることにした。

 

 「それよりも姿を見せないのは、自信が無いのか?それとも、森の賢王ともあろう伝説の魔獣は意外とシャイなのかな?」

 『言うではござらぬか……。』

 

 ここでティカは「おや?」と若干違和感を感じて内心首をひねり、それが冒険者組合での自分の発言が原因だと思うと、少しそのアルカイックスマイルの口角が上がった。

 

 『では某の威容に瞠目し、畏怖するが良い!』

 

 ずん、ずん、という、大きな音が鳴り響く。

 そしてそれは、恐れる様子もなくこちらに近づき、その進行上にあった木をその強靭な腕と爪で無理やり折り曲げ、そこでようやくその姿の全貌が明らかになる。

 

 

 「な……こ、これは……!!」

 『フフフ……そのヘルムの下から、驚愕と恐れが伝わって来るでござるよ。』

 

 既に、勝ち誇ったような態度でそう告げる魔獣。

 しかしモモンの方はというと全く別のことに対して驚きを隠せずにおり、ついにそれを口に出して本人に問いかけてしまう。

 

 「一つ、聞きたい……。お前の種族名は…………ジャンガリアンハムスター、とか言わないか……?」

 

 「なんと!?もしや其方、某の種族を知っているのでござるか?」

 

 そう、その魔獣の全貌……それは一言で言えば「巨大なハムスターに魔術の刻印のようなものと蛇のような見た目の緑色の尻尾を付けたらこうなる」といった魔獣である。

 その顔は、間違っても魔獣とは呼べないほどに愛くるしく、くりくりとした目とひくひくと動く鼻は女子供にとてつもない愛玩欲求を生むだろう。

 まぁ、こうも巨大で人の言葉(何故か武士口調)まで話すとなると流石に違う気もするが。

 

 「……う、ん……知っていると言って良いか……かつての仲間が、お前によく似た動物を飼っていた……。」

 

 そのギルドメンバーには実はエレティカも会ったことがある。

 ペロロンチーノがエレティカを良く連れ回していた頃に、飼っているハムスターの画像をこれでもかと言う程ギルドのメンバーに見せつけまくっていた人だ。

 だからこそ、そのハムスターが死んだときには目も当てられなかった。

 NPCだから下手な動きをするわけにもいかないし、実はペロロンチーノがログアウトした直後にちょっと泣いてしまったのはエレティカの秘密である。

 

 「なんと!?もし同族が居るのであれば、教えて欲しいでござる!子孫を作らねば生物として失格であるが故に……。」

 「いや、それはサイズ的に無理だ……。」

 「そうでござるか……残念でござる……。」

 「すまんな……。」

 

 モモンはそう答えつつ、その理屈で行くと俺はやはり生きる者として失格ということになるな、と思いかけ、首から下げたペンダントの存在を思い出して内心で苦笑する。

 どうやら本当に心までアンデッドになっているようだ。

 わざわざこんな物を使ってまで人間化し、上手く行けば子孫繁栄も夢じゃないというのに。

 ……いや、そもそも一体誰と子孫を繁栄させるというのか?

 

 ……いや、それはおいておいて、だ。

 

 「良いでござるよ……それよりも!」

 『そろそろ無駄な話は止して、命の奪い合いをするでござる!!』

 

 その、わざわざ声を変える必要ってあるんだろうか……というかどうやって変えているのだろう?やはり魔獣、侮りがたし!

 

 「……ハズレだ。」

 

 ……侮りがたし!……とはならないようで。

 

 

 「森の賢王なんて……名前だから……期待したのに……。」

 

 モモンはまるでいじける子供のように、大剣をザクザクと地面に振り下ろしてはブツブツと愚痴を垂れる。

 まぁ、それはそうだろう。

 

 森の賢王という伝説の魔獣!?どんな奴なんだろう!?とおもって蓋を開けてみれば、デカイハムスター(魔獣)である。

 がっかりするのも無理はない。

 

 男の子がクリスマスに携帯ゲーム機を頼んだら、成る程確かに頼んだ携帯ゲーム機であるが、何故かカラーがピンクだった時のような、そんな気分だ。

 

 『某の支配する区域に侵入せし者よ!某の糧となるでござる!!』

 

 「外れだ……完全に外れだ。」

 

 賢王だというのに、出会って数十秒経とうとしているが、いまだにその賢王たる所以、その片鱗のへの字も見られない。

 相手と自分の力量の差を見ることすら出来ないとは……。

 

 こんな魔獣を撃退したとて一体誰が褒めてくれるだろう?

 

 

 モモンは、完全に興が削がれた、という気分であり、とてもじゃないがまともに戦おうという気すら起きなくなっていた。

 

 当の魔獣はというと『何をしているでござるか?まさかとは思うが未だ勝敗が分からぬ内に降伏とは有り得ぬでござろう?さあ、某と本気で戦うでござるよ!命の奪い合いをするでござる!!』などと気合十分という顔をしている。

 

 ――もう、ヤメだ。

 

 「スキル、<絶望のオーラ……………レベル1>。」

 

 極めてめんどくさそうに言いながら、剣先を件の魔獣へ向け、スキル名……とその加減具合を示すレベルを言い放つと、剣先から黒いオーラ(極めて脆弱な)が弾け、魔獣の体を包む。

 

 「ふあああああ……!!?」

 

 途端、魔獣はゾワゾワとした悪寒、その上位版のような、目の前の相手には絶対に勝てないと本能に直接叩き込まれたかのような感覚に陥る。

 

 すぐさま、ずしんと倒れるように自分の腹を見せ、「こ、降伏でござる~!某の負けでござるよぉぉぉ……。」と力なく降伏の意を示した。

 

 

 モモンはそれを見ながら、「さて、どうするかな……。」と呟くと、その一部始終を見ていた者が上から声をかける。

 

 「殺しちゃうんですか?」

 

 見ると、それはこの魔獣をモモンにけしかけた張本人であるアウラである。

 木の枝に座り込んで愉快そうに足をプラプラさせる姿は、成る程、ダークエルフだな。

 

 「でしたら、皮を剥ぎたいなって思うんです!結構良い皮取れそうですし。」

 「そ、そんなぁぁぁ……。」

 

 魔獣からしてみれば、大人しく自分の住処で寝ていたところをスキルでたたき起こされて、侵入者が居ることを知り、駆けつけて出会った戦士に戦いを挑めば結果はご覧の有様であり、挙句殺して皮を剥ぐとまで言われる。

 

 それをその傍で見ていたティカは、流石に目の前のなんの罪もない立派な魔獣の踏んだり蹴ったりっぷりに、激しく同情したのであった。




なかなか良い終わりどころが決められなくてちょっと長くなってしまいました。

……あぁ、そういえば、ようやく次回あたりに、あの人が出ますねぇ。
第三章は、その辺を色々片付けるまでになります。

そろそろペロロンチーノさんやぶくぶく茶釜さんにもスポットライトを当てたいと思いますよ~。


作者がなにかいいネタを思いつき次第では、これからの展開は本来のオーバーロードの展開からちょくちょく大きく逸れるところがあったりなかったりします。

なので、もう、事前に言っておこうと思います。





作者、クレマンティーヌさん大好きです……。^p^


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冒険者編第三章(1/2)

もはや好きすぎてクレマンティーヌ編にしてもいいかもしれないまである。

でも動かしやすさとか喋らせやすさだとルクルットが一番喋らせやすいんですよねぇ……。


 「この森の賢王、殿に仕え、共に道を歩む所存。皆々様にはご迷惑をおかけするようなことはせぬでござるよ!」

 

 「こ、これは……!!凄い!!なんて立派な魔獣なんだ!!」

 「強大な力と叡智を感じるのである!!」

 「私達だったら、皆殺しにされていましたね……。」

 「これだけの偉業を成し遂げるたぁ……流石、ティカちゃんを守っているだけのことはあるわー!」

 

 思わずモモンはその言葉に「ハァ!!?」と聞き返しそうになった。

 その言葉はモモンが森の賢王、と何故か呼ばれてる伝説の魔獣らしい(まぁ確かにこの地のモンスターにしてはちょっと強いかも知れない、魔法も使えるし)見た目は完全に巨大なハムスターでしかない存在だったが、従属させたことを知らせないわけにも行かず、いっそ堂々とそれを見せた。

 その魔獣に対するニニャの答えは、「なんて立派な魔獣なんだ!!」というものであり、モモンは顎が落ちそうになる程驚く。

 

 「え、エレティカはどう思う?」

 「強さはともかくとして、目に力と叡智を感じさせますね。(まぁ、アウラが使っている魔獣に比べればその強さは雲泥の差ですが、きっと彼らにとっては伝説の魔獣なのでしょう。)」

 「そ、そうか……(う、うーん……そういうものなのだろうか。)」

 

 ティカがいつものように胃腸薬っぷりを発揮させたところで、モモンは納得したようないかないような心情であった。

 

 「モモンさん、その魔獣を連れて行った場合、縄張りがなくなった事でカルネ村にモンスターが襲いかかったりしませんか……?」

 

 確かにその考えは最もな事である。

 つい目の前の偉業を見て忘れてしまっていたがそもそも殺さずに退けるように言ったのはその縄張りが無いとナワバリが消え、カルネ村がモンスターに襲われる可能性があるからだ。

 

 「どうなんだ?」

 「その可能性はあるでござろうな。」

 

 しれっと答える魔獣。

 ナザリックも大概だが、この魔獣は人間をどう思っているのだろうか。

 流石に「ゴミ同然の虫けら」とは思っていなさそうだが、今の物言いから察するに、魔獣にとって人間たちの村が襲われようと、大した事ではない、と考えているようだ。

 

 「そんな……。」

 

 その答えに対しンフィーレアは動揺を隠しきれない。

 ここからナワバリが消えたらカルネ村が危ないのだが、だからといって魔獣を、モモンを、自分ひとりの力で説得する事は極めて困難であると思う。

 漆黒の剣もその偉業を讃えているわけだし、折角モモンの従属した魔獣となり、人に危害は加えないと言っているのに、それを元の生活に戻らせたらまた危険な魔獣に逆戻りなのではないか、という懸念があった。

 

 やがて、ンフィーレアは決心したように、それでも、前々から考えてはいた、という風に口を開いた。

 

 「で、でしたら、モモンさん……!僕を、貴方のチームに入れてくれませんか!?」

 「は?」

 

 ここでいうチーム、とは、冒険者としてのチームではない。

 ンフィーレアは、以前カルネ村を救った【アインズ・ウール・ゴウン】という組織の名を知ってしまっている。

 

 実はこの時点でンフィーレアはモモンが王国戦士長に匹敵する戦士であるという事実しか知らないのである。

 さらにその上、英雄級のマジックキャスターである事はンフィーレアは知らなかった。

 つまり、ここでいうチームとは漆黒ではなく【アインズ・ウール・ゴウン】の事であり、ンフィーレアはモモンがそのチームの中の誇り高き戦士だと思っていたのである。

 

 「僕は、エンリとカルネ村を守りたい!僕に、モモンさんのその強さを、欠片でも教えて欲しいんです!!」

 

 続けて薬学に知識があり、荷物運びでもなんでもするという覚悟もあるという旨を伝え、「お願いです!!」と真摯に頼み込むンフィーレア。

 

 「つまり、マジックキャスターとして、強くなりたいという事でしょうか?」

 「はい。」

 

 至って真剣な少年の眼差し。

 漆黒の剣の面々も固唾を飲んでそれを見守る。

 そしてモモンの答えは……。

 

 「フッ……ハッハッハッハッ……いやすまない、君の決意を笑った訳ではない。……気持ちは十分に分かった。覚えておこう……。だが、君を私のチームに加えることはできない。」

 

 少年の向上心や、決して勇敢とは言えない性格、しかし底なしの人の良さと、愛する人の為に、英雄級の人物に対してここまで言える少年、そしてその真剣さ、それは確かにモモンの心に響き、先程の魔獣がハムスターでガッカリ事件での沈んだ心を明るくさせた。

 しかし、それとこれとは話が別である。

 

 そもそも秘匿するべきことが多すぎるチームだ。

 ンフィーレアが、モモンとティカの二人のチームに入りたかったのか、アインズ・ウール・ゴウンに入りたかったのかは分からないが、どちらにせよ、彼を加えることはいくら真摯に頼まれても首を縦に振る事は出来ないだろう。

 

 「しかし、あの村を守るという点については、少しばかり力を貸すとしよう。もしかしたら、君の協力も必要になるかもしれないが。」

 「是非、是非やらせてください!」

 

 ……こうして、カルネ村付近の森への薬草採集、その警護任務は終わりを告げたのであった。 

 

 

▼△▼△  ▼△▼△

 

 

 

 それから、随分と時間が経過した。

 

 丁度エ・ランテルに帰還した時、辺りはすっかり夜になっており、森の賢王がさっそく騎獣としていい働きを見せようとしたのだが、結局彼……いや、彼女が活躍出来たのはモンスター避けという点でしかなかった。

 

 「ではモモンさん!私達は先に、ンフィーレアさんのお宅で荷下ろしを済ませておきます。」

 「分かりました。私も組合で魔獣の登録が済み次第向かいます。」

 

 さて、ここだ。

 ここで動かなければ運命は変わらない。

 私はここで彼らを彼女の襲撃から守らなければならない。

 

 その理由?目の前で人が死ぬというのに助けないとどうなるか、と考えればわかるだろう。

 ……そう、私の良心が傷つく。

 つまりは私は私の心に後味の悪い物を残さないように、彼らを救う。

 

 しかし、事はそう簡単ではない。

 まず、彼らについて行くという事は、イコール、モモンから離れなければならない。

 絶対の支配者であるモモンガの護衛を担っておきながら、良く分からない動機でその御方の傍から離れ、あろうことかモモンガの警護より虫けら同然の人間の冒険者の救助を優先した。

 

 ……と、ここまで軽く考えただけでも、階層守護者としてあるまじき行為。

 下手したら首が飛ぶ、投獄される、追放される等の極刑を受けることになりかねない。

 

 ティカはそんな条件の中「上手い事彼らを守りつつ、モモンの護衛を続ける方法」を考えた。

 その結果。

 

 

 「(モモン様、念のため、ンフィーレア君のお宅にシャドーデーモンを先行させておきます。特に、ンフィーレア君は、まぁ無いとは思いますが……いえ、警戒をしておくに越したことはないと愚考します。)」

 「(フム……まぁ、いいだろう。)」

 

 

 というやりとりをメッセージで行う。

 ここでの重要な点はシャドーデーモンは彼らの警護ではなく、あくまでンフィーレアの家で彼らの監視を命じるというだけの事。

 

 モモンからしてみても、彼はいくら人が良くて真摯に強さを求め薬師としての才能が有るとは言っても、特殊なタレント持ちで、かつアインズ・ウール・ゴウンの存在、その一端を知っているという警戒すべき相手だ。

 「片時も目を離せられない」という気持ちも分からないでもない、と思ったので、少し迷いつつそれに許可を出した。

 

 

 故にティカの目的は薬師ンフィーレアを警戒して、なんてことは一切無い。

 既にンフィーレアの家に潜んでいると思われるクレマンティーヌとカジットを事前に発見し対処する。

 その為に自分が動けないのであれば別の者に任せればいい。

 

 

 確実にシャドーデーモンからメッセージが入る。

 悠長にモモンがハムスケの絵を書いている時にでも、あるいは街で凱旋している時か。

 そこでティカが直ちに現場へ向かって助けるまでが作戦である。

 

 

 実際、ここまでやる必要はないかもしれない。

 ンフィーレアの店で襲撃があった後、モモン達と一緒に途中で合流した、祖母であるリィジーバレアレが同行したのを覚えているだろうか。

 その時、ンフィーレアがその場に居ないと知って狼狽した彼女に対し、モモンは「守ってやれ」とナーベラルに命令したシーンがある。

 

 この為、極端な話、彼が「行け」と言えば、警護する任務を一時的に解除してでも行かなければならない。

 

 今回の作戦で上手いように話が進めば、【シャドーデーモンがクレマンティーヌを発見】【シャドーデーモンから指示を仰ぐ通信が入る】→【モモンから彼らを守る任務を受ける】→【目的を達成。】

 

 さて、上手く行くだろうか……。

 

 

 「……うん?」

 「……?どうかしまし……どうかした?モモン?」

 「いや、何……少し思ったんだが……」

 

 「(ま、まさか……なにか勘付かれたか!?)」

 

 

 

 「ハムスケに跨るの、お前の方が似合うんじゃないか?(巨大ハムスターな魔獣に跨るのがおっさんか美少女だったら美少女の方がいいと思うんだよ。うん。すみません嘘ですこの罰ゲームもう勘弁して代わってエレティカ!!)」

 「……では、その……(御方だけを歩かせるわけには行きませんし)二人で乗りましょうか……?」

 「いや、それは流石に……。」

 「むむ!某は二人でも大丈夫でござるよ!!」

 「あら、だそうですよ、モモン。」

 「……仕方ない、言いだしたのは私だしな……。(せめて注目がエレティカに集まることを祈ろう。……そうだよ、夜の街に溶け込みやすい漆黒の鎧だし行けるって、うん……だから全然恥ずかしくない……クソォ……。)」

 

 

 その夜、エ・ランテルの街では伝説の魔獣、森の賢王に跨って凱旋する二人の冒険者が居たという。

 その様子はさながら父と子のようにも、冒険者仲間のようにも、恋人にも、王族と従者にも見えたという。

 だがそれは彼らにとって大した問題ではない。

 

 問題は後に、エ・ランテルで彼らを題材とした物語が流行った時に、このシーンが「ティカがモモンに対しての恋心を自覚するシーン」として有名になり、それを守護者統括様の耳に入り、大騒動が巻き起こったのだが、それはまだまだ先の話である。




ティカ役「あぁ、私、やっぱり貴方の仲間として相応しくないわ。」
モモン役「どうしてだ、ティカは私のパートナーとして最高の……。」
ティカ役「違うの……モモン、貴方とこうして二人きりになれるのなら、私、祖国を滅ぼしたヴァンパイアなんて、どうでもいいって気持ちになってしまうの。」
モモン役「なら、ヴァンパイアを倒した後も、ずっと二人で旅を続ければいい。
ずっと共に行こう、ティカ。」

ティカ役「モモン……。」
モモン役「ティカ……。」

アルベド「なんだこりゃあああああああーーーーッ!!!」

エレティカ「どうどう」
モモンガ「落ち着くのだアルベド」



コメントと評価人数が100件を突破した事について活動報告でお礼を申し上げています。↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=151544&uid=184561


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冒険者編第三章(2/2)

更新が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。


 エ・ランテル冒険者組合までの道のりはそれ程長くない。

 しかしそれでも到着までのしのしと自慢げに凱旋する巨大ハムスターに乗るのは、羞恥心を煽られる。

 

 今はその効果を発揮していないが、もし今人間化していたら、顔が真っ赤になっていたかもしれないモモン。

 現在は羞恥心を含んだ感情、憤怒等の激しい感情でないものに対しては、沈静化が効かないのか、と、そんな事を思っていた。

 

 

 そして、冒険者組合がまだ見えぬ、道半ばで、送り出していたシャドーデーモンからのメッセージが入る。

 

 

 「……モモン、どうやらあちらに邪魔が入ったようです」

 「うん?…………何者だ?」

 「彼の店兼家、そして工房でもあるあの場所に、戦士風の女が一人、そして物陰に潜むように、司祭のような男が一人、そしてその男の部下だと思われる男が2人です」

 「それはただの冒険者なのではないか?それだけなら、ンフィーレアが薬師であるのを考えると、緊急に薬が必要になったという可能性もあるんじゃないか?」

 「いえ、その戦士風の女ですが、何やら殺気立った不穏な気配を発しており、司祭のような男から「やり過ぎるなよ」と言われているのを目撃したとの事です」

 「そうか……明らかに、クロだな」

 

 

 それを聞いて、モモンは「また厄介事か」とため息をつきたくなるのを堪え、口を開く。

 

 「……面倒だな。シャドーデーモンは飽くまでも偵察用に送り出す、ナザリックの中では戦闘力の低い者達だ……相手がこちら以上の実力者だった場合、無駄に騒ぎを大きくすることになりかねん」

 

 「……かと言って、ナザリックから応援を呼ぶというのもまた他の騒ぎを起こすことになりかねません。彼らの力は家が密集した場所で振るうには、あまりに強大です」

 

 エレティカの指摘はもっともな物だ。

 ナザリックで従えている「荒事」に使う者達というのは、ナザリックを護る為にその力を振るう事が多く、その力の大きさはナザリックという強大であり唯一無二の場所を護る事に適した物だ。

 故に彼らを使い、一般人、それを護る為に、そんな一般人の家で力を振るったらどうなるか。

 

 答えは簡単、その強大すぎる力によって二次災害とも言える事故が起きる。

 それの処理をするのは誰か?

 そう、自分達であった。

 それは大変面倒臭い事だ。

 

 しかも自分達は冒険者になりたての頃に、宿屋で冒険者を投げ飛ばし、その結果更なる面倒に巻き込まれた、という前例もあった為、行動も慎重になるというものだった。

 

 「そうだな……エレティカ、頼めるか?」

 

 であれば、この件に対して、最も有効かつ迅速に対応出来る者は誰か。

 そう考えた時に名前が挙がったのはエレティカである。

 

 彼女は元より「一介の冒険者」として制限された装備をしている為、力を振るったとしても問題無いし、ここで強大な力を使ってほしくないというモモンガの意思も理解している。

 

 が、ここで「冒険者ティカ」ではなく「エレティカ」として命じたのは、もし仮に、相手が予想を上回る実力者だった場合。

 

 その時は冒険者ティカではなく、階層守護者の一人として力を振るう事を許可し、その力を示せ、という事であるという理由が一点。

 

 そして、もう一つ。

 

 

 そもそもの話、ここからンフィーレア=バレアレの家までには距離がある。

 事前に、冒険者組合へ向かうモモンと、ンフィーレアと漆黒の剣とで二手に分かれて逆方向に進んでいるのだから、その距離は今から純粋に走っていたのでは、ンフィーレア達が先に自宅へ到着してしまい、結果その不審な輩に出会ってしまうだろう。

 

 「はい。処置は如何様に致しましょうか?」

 「捕らえてから決めよう。もしお前のヴァンパイアとしての特性である魅了が効くのであればそれで良し、効かなければ……今夜エ・ランテルで()()()()()が一人増える、それだけのことだ。」

 「承知しました。」

 

 であるのにも関わらず、エレティカを指名した。

 その意図はただ一つ。

 

 この件を片付けるのに、ナザリックから応援を呼ぶよりも、エレティカが今から「走って」それらを処理した方が圧倒的に早い。

 ただそれだけの事である。

 

 

 そして、エレティカは、ハムスケ(結局名前は変わらなかった)の背からふわりと浮かぶように飛び降りる。

 そして、彼女の足が、つま先が、地面に着いたその瞬間。

 

 

 《バンッ》

 

 

 突如、彼女が世界から消える。

 

 否、消えているのではない。

 消えたのかと思う程に、速い。

 

 それは銃弾、あるいはミサイル、それよりも速く道を駆ける。

 いや、最初の、何かが弾ける様な音から既に彼女の足は、ほとんど地面についておらず、その圧倒的なスピードで低空を滑空しており、時折、パンッ!という爆ぜたような音を立てる。

 その音の正体は、彼女の足が目に見えぬほどの速さで地面を蹴り、方向転換をしている音である。

 

 《ビュオッ!!》

 

 「う、お!すげぇ、風だなぁ」

 「あら、今何かが壊れる様な音しなかった?」

 「どっかの家の花瓶でも落ちたんじゃないか?」

 「どうせ、どっかの飲んだくれ冒険者が暴れてんのさ」

 「キャッ!」

 

 道行く人たちの、真横を通っている。

 だが気付かれない。

 そのあまりの速さに、道行く人々は皆「強い風が吹いた」としか思っておらず、時折聞こえる破裂音も、どこかの冒険者か、のんだくれの親父が暴れている音か何かとしか思っていなかったのである。

 

 そして、その中には。

 

 

 「すごい風でしたね、今の……」

 「うむ、ンフィーレア殿、大丈夫であるか?」

 「アハハ、大丈夫ですよ。……あぁ、でも薬草の入った袋が今のでいくつか倒れちゃってる……」

 「アチャー、中身、結構出ちまってるぜ」

 「拾うの手伝いますよ」

 

 

 漆黒の剣、そして、薬師ンフィーレア=バレアレの姿があった。

 その「すごい風」はそれを目視し、人知れず自分の目的が達成できそうなことに対して、ニコッと微笑んだ。

 

 

 

 

 「さて、そろそろ帰ってくるだろう」

 

 

 そうカジットが告げて表の見張りに行ってから何分しただろうか。

 

 秘密結社ズーラーノーンの幹部《十二高弟》の一人であり、元漆黒聖典第9席次、人間種最強の戦士でもある彼女、クレマンティーヌは、忍び込んだ家の中で一人、「その時」をじっと待っていた。

 

 

 早く、早く来ないかなぁ。

 

 

 文字だけ見ればまるで恋焦がれる少女がその相手の来るその時をじっと待っているような感じだが……まぁ、ある意味間違いではないのも否定しきれないだろう。

 

 彼女は人類種最強の戦士であると同時に、とんでもない人格破綻者。

 殺戮、拷問といった他者を痛めつけ、殺すことを……愛している。

 

 そんな異端な人物の元に、一つの風が。

 

 住宅が揺れる、とまではいかないまでも、窓がガタガタと音を立てるくらいの強い風が吹いた。

 

 そして、その風が過ぎ去るのとほとんど同時に、《ギィ……》と扉が開かれる。

 

 

 来たっ!!

 

 クレマンティーヌは潜んでいる扉から飛び出してしまうのを必死に我慢する。

 おそらく一緒に来ているであろう冒険者達が、全員中に入ってきたのを確認したら、仲間である、カジットが出口を塞ぐ。

 そういう手筈になっている以上はそれに従うしかない。

 

 しかし、クレマンティーヌはその次の瞬間には歓喜の表情を潜めて「はて?」と首を傾げることになる。

 

 まず、足音が一つしかないのである。

 それも、冒険者というには少し軽い、軽すぎる様な、例えばまだ年端も行かない少女のような足音。

 

 そして次の瞬間聞こえて来た「あの~夜分遅くに申し訳ありません……誰か居ませんか~?」という少女の声で、クレマンティーヌは目的と違う人物であるのに気付き、ハァとため息をつく。

 

 どうやら何かしらの事情があって緊急でポーションが必要になった、とか。

 そんな所だろう。

 

 カジっちゃんも、表で見張っているのなら止めればいいのに。

 今更小娘の一匹や二匹、どうって事ないでしょ。

 

 どうせ、今日起こる死の螺旋で、この子も、この子の帰りを待つ者も、皆、皆皆皆死ぬ事になるのだから。

 

 その少女はいつまで経っても「誰か居ませんか~?」と間抜けな声を上げて人を呼んでいる。

 

 あぁ、まずいな。

 何故カジっちゃんがこれを止めないのか分からないけど、下手したら近隣の住民に聞かれちゃうかもしれないじゃないか。

 

 そうしたら全部殺せばいい、なんて言ったら怒られるだろうなぁ、うん。

 多分、「それくらいの雑事はお前がやれ」ということだろう。

 はぁ、メンドクサイ。

 

 

 「はいは~い、どちらさま~?」

 

 クレマンティーヌは、さもこの店の者ですよと言わんばかりに扉を開き、「可哀そうな少女」を目に据える。

 やはり、思った通り、冒険者と呼ぶにはいささか幼い……あえて言うならば、「冒険者見習いの子供」とでも言った感じだろうか。

 強いて特筆することがあるとすれば、その綺麗なお顔だとか、髪の毛の色だとか、細剣だとか……―――

 

 

 

 ――闇夜に光る、「真っ赤な目」…………とか…………。

 

 

 …………………………………。

 

 

 「あら、奇遇ですね、こんな所で何をしているの?」

 「ほんと、奇遇だね~。今?えっと、う~ん、これ、話しちゃっていいのかなぁ?」

 

 う~ん、流石に死の螺旋の事について話すのはダメなような気もするけれど。

 ま、いっか、お友達だし。

 

 「え~っとぉ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………との事です。」

 

 正直、自分でも魅了を使うことがあるのだから、対策くらい取っているだろうと思っていたがそんな事は無かった。

 自分ではそんな魔法にかかる事など無いと思っていたのだろうか……その絶対な自信が仇となるのは、こっちでも同じなようだ。

 とはいえ流石にまだこちらが何か言う前に偶然目が合って、そこで魅了が完了するなんてとても思っていなかったけれど。

 

 「クレマンティーヌとやらはスレイン法国の裏切者で追われている身、か……武技についても人間種の戦士最強とまで言われるほどとなると、殺すのは惜しいな。それに情報も持っているだろうし、叡者の額冠という、ユグドラシルでは無かったアイテムも手に入った。問題は人格だが……魅了が効く以上それも問題ないだろう。」

 

 

 現在、二人は無事に依頼を終え、何も知らないンフィーレア・バレアレから報酬を受け取り、漆黒の剣に紹介された宿の一室にて会話をしている。

 

 本来、ンフィーレア・バレアレはクレマンティーヌの暗躍により拉致、居合わせた漆黒の剣のメンバーは皆殺しにされゾンビになる。

 その後墓地で死の螺旋という、街一つがアンデッドの巣窟になってしまうという恐ろしい儀式を行っている、ズーラーノーンという秘密結社とモモンとの闘いが始まり、結果はモモン達の圧勝、以降漆黒の英雄として称えられるようになる。

 

 のだが、エレティカというイレギュラー因子……いや、至高の御方の胃腸薬様の行動により、漆黒の剣はゾンビにもならず、何事も知らずに生存。

 ンフィーレアは大量の薬草を手に入れほくほく顔で自宅でモモンやティカについて祖母に話をしていた。

 

 

 ズーラーノーンの残党達は既に捕えられており、少し脅したら快く情報提供してくれたことにより、情報を照らし合わせても齟齬は無く、クレマンティーヌ、カジットは魅了で完全に支配下にある事を証明した。

 

 

 「しかしなんだな……せっかくならその死の螺旋というものが起きて、ゾンビの大群が墓地から押し寄せて来ている所に颯爽と駆けつけてその問題を解決した……なんて事になっていたら、今頃私達は英雄だったかもしれんな、ハハハ」

 「おっしゃる通りかと……ハッ!?もしや私は余計な事を?」

 「何を言う、そんな事があるものか。今頃はンフィーレアや漆黒の剣の面々が私達の地位と名誉を高める活動に勤しんでくれている事だろう、あのままではそうはならなかった。お前は役に立ったということだ」

 

 ティカとしては、そこは「人命がどうの」という事は触れないのかと思いもしたが、そこは仕方のない事だと割り切っていた。

 

 

 後に、今回支配下に置いたクレマンティーヌは、こちらの世界においてエレティカが唯一自分で支配し、眷属とした事で若干大きめな騒ぎがナザリックで起こるのだが……

 

 『モモンガ様、お話ししたい事が』

 「エントマか?どうした、言ってみろ。」

 

 

 

 

 

 『第一、第二、第三階層守護者、シャルティア=ブラッドフォールン様が反旗を翻しました。』

 

 「…………………………は?」

 

 

 ほとんど同時期に起こったこの大事件によって、彼女の件がナザリックの中で影の薄い物となっていくのは仕方の無い事だった。




あ、あれ?クレマンティーヌさんの出番、もう終わり……?
そ、そんな!!

こんなのあんまりだよお!!!!


カジチャン「ワシの方があんまりじゃわい!!!!!!」



……ちなみにシャドーデーモンですが、レベル的にはガゼフに匹敵しうるレベルなんだよなぁ……。


次回から、シャルティア編です。


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シャルティア編(1/4)

この章でアニメ第1期は終了しますので、実質最終章となります。

長いようで短い……いや確実に短かったですが、
ひとまず完走まで頑張りたいと思います。



 「……それで、反逆したという根拠がこれか……」

 

 そこに開かれたウィンドウ、マスターソースには、ナザリックに所属しているNPCの全ての名前が表記されており、通常の者は白い文字で表記されているのに対し、シャルティア=ブラッドフォールン、その文字だけは、赤黒い表記に変わっており、それはつまり、「第三者による、精神支配などによって、一時的な敵対行動を取っている」という状態を指している。

 

 つまり、この場合、シャルティア=ブラッドフォールンが敵対行動をしているという事に他ならず、同行していた眷属のヴァンパイアも死亡している事が確認された。

 

 「連絡が途絶えた為、確認したところ……このような表記に」

 

 「ふむ……事情を説明していただけますか?ペロロンチーノさん」

 

 「うぐう……」

 

 

 モモンガが顔を起こして目をやった先には、赤黒く変色したピンクスライム、ぶくぶく茶釜……によって拘束されている、ボコボコにされたバードマン、ペロロンチーノの姿があった。

 が、実際にナザリックにいるわけではなく、ミラーオブリモートビューイングによって遠隔的に観ているに過ぎず、防壁も一時的に解除している。

 ぶくぶく茶釜が居るのはもしもの時の為にモモンガがゲートを使って送り出した為である。

 

 「すみません……全ては俺の責任です」

 「当たり前でしょ!?この愚弟が!!あんた一体何のためにあの子に付いて行ったのよ!!?」

 「か、返す言葉も無い……」

 

 

 その後数分説教を受けた挙句話が進まないと見たモモンガによってそれは一時中断。解放されたペロロンチーノは正座で「今から、何があったか説明するよ。」と開く。

 

 

 

 

 〜時は今から遡り、シャルティアside〜

 

 

 

 

 

 「それで、獲物は釣り針に引っかかったという事でありんすか?」

 

 とある山道、そこを行く、この世界では豪華な方な馬車。

 その中でシャルティアは揺られて居た。

 彼女は至高の御方々からの「犯罪者の拉致」という君命に従い、ナザリックを離れ、独自に行動していた。

 

 それは、この世界の情報についてだとか、政治的な情報等、国家について、そして、この世界特有の技能であると思われる、「武技」と呼ばれる存在についてや、この世界特有の魔法の調査の為であり、現在はその調査をしていた。

 

 ……というのは、表向きの話。

 

 実際には、カルマ値が極悪寄りのナザリックの僕達の為、食べたり虐めたり痛めつけたり実験に使ったり、切り刻んだり皮を剥いだり目玉をくりぬいたり血を抜いたり指を落としたり発狂させたり……etc

 

 といった事をしても何ら問題の無い人間、その確保の為であった。

 

 

 「ええ、見事に。全ては我らが御方々の思惑通り」

 「武技やモモンガ様の求める魔法の使い手が居るといいでありんすねえ、ね?ペロロンチーノ様?」

 「そうだね。でもまぁ、あまり調子に乗りすぎて殺してしまわないようにしないといけないのが面倒だけど」

 

 そして、本来のシナリオと違うのは、この男、ペロロンチーノの存在である。

 

 この男も、モモンガと同じくこの世界に転移してきてしまったユグドラシルプレイヤーであり、悪名高きアインズ・ウール・ゴウンの古株でもある、バードマンの弓使いである。

 現在は変装するスキルによって人間に化けており、髪は元来のゴワゴワとした茶髪を短めに切りそろえた物で、目は黒く、服装は今はセバスと同じくスーツ姿を着こなし、セバスの部下の若い執事と行った風貌である。

 

 セバスは「恐れ多い」と言っていたが、一番違和感なく彼らに同行できる形がこれしかなかったと言われてしまうと何も言えなかった。

 

 馬車に乗って居るのは、そのシャルティアとペロロンチーノ、そしてヴァンパイアブライド2体、セバス、そして我儘なお嬢様役の、プレアデスのソリュシャン=イプシロンである。

 

 「ところでシャルティア様とペロロンチーノ様に、失礼をご承知で一つお聞きしたい事があるのですが」

 「ん?何?」

 「この度は私達がご同行させてもらう形になりましたが……エレティカ様と離れてしまって良かったのでしょうか?」

 

 それを聞いて、シャルティアは悪戯に笑う。

 

 「ん?それは私とペロロンチーノ様、そして貴方達だけではこの任務は荷が重いという事?」

 「いえ、そのような事は!」

 

 慌てふためくセバス。

 もちろんそのような意図があって言った訳では無い。

 そこでペロロンチーノからフォローが入る。

 

 「こら、あまりいじめちゃいけないよ。セバス、君はおそらく出立前に我が姉であるぶくぶく茶釜の「双子は常に一緒に居るべきである」という言葉から、離れるのはよく無いと案じて居るんだろうが、今回はあくまで任務だ。当然本人や姉の承認はもらって居るし、会議を行なって決定した話だ。まぁ、シャルティアとエレティカを離れ離れにしてしまうのは悪いと思って居るが、適材適所という言葉がある。今は我慢してほしい。」

 「だ、大丈夫です!姉様が居なくても、立派に任務をこなしてみせま……見せるでありんすえ!」

 

 隣から叱責を受けてピンと一層背筋を伸ばして息巻く、我が娘同然……いや、愛娘の姿を見て頰が緩むペロロンチーノだったが、その時、突如馬車が急停止し、彼らの時間を邪魔する野蛮で愚かな声が。

 

 

 「おい!出てこい!!」

 「とっとと出てくるんだ!!」

 「早くしろ!!」

 

 

 ドンドンと扉を叩きながら、そうまくし立てるのは、事前に美人で気の強い世間知らずなお嬢様、という絶好の餌を垂らされているのを見て、まんまとそれに釣り上げられた愚かな盗賊の一派。そしてその手引きをしたザックという男。

 

 そして、彼らの声に応えるように、馬車の扉がゆっくりと開く。

 そこには、白髪で赤黒いドレスを着た、見目麗しい絶世の美少女だった。

 

 ただ一人、ザックはその姿を見て、「ん?」と疑問の声を漏らすが、逆光でよく見えて居ないだけかもしれないし、もし、もし仮に彼がその違和感に気付き、その事を仲間に知らせたとしても……

 

 この蹂躙劇の幕は、もう上がってしまっている。途中退場は許されない。

 

 

 

 最初の犠牲者が一人、「へへへ」と下劣な笑い声を漏らしながら、「それ」に歩み寄る。

 

 「運が悪かったなぁ、嬢ちゃん。なあに、大人しくしてりゃあ命までは取らねえよ、へへへ……ガキにしちゃいいもん持ってんじゃ……」

 

 そして、その言葉に対する彼女の返答は、彼がそのコッテコテの盗賊っぽいセリフを言い終わる前に、第三者によって返された。

 

 「うちの娘に薄汚ない手で触るんじゃない、ゴミが。」

 

いつから手に持っていたのか、朱く燃えるような色の弓を手に、盗賊に狙いを付ける執事風の男が、少女を庇うように前に躍り出る。

 瞬間、まずその娘の胸に伸ばして居た腕が弾き飛ぶ。

 

 「あ……え??」

 

 次に、ナイフを持って居たもう片方の腕、次に両足、重心を失い地面に着く前に胴体と首が弾け飛び、最後に頭が飛んだ。

 

 

 「あ……!!?」

 「な、何だ!?一体何が……。」

 「ぎゃあああああああああ!!!!!」

 

 その一瞬のうちに放たれた数本の矢の直線上に居たある一人、あるいは数人の盗賊の腹や腕、足がが消し飛び、かつて経験した事のない痛みでたまらず悲鳴をあげる盗賊。

 

 それを皮切りに、蹂躙劇は一気にクライマックスへ。

 

 「ば、化けもぼッ!!?」

 「うわあああああ!!!?」

 「足が、俺の、足があああああベボボッ!!!」

 「いやだ!!死にたくない!!死にたくな……」

 

 ある者はどこからか現れたヴァンパイアの美女によって八つ裂きにされ、あるものは首がいつの間にか吹き飛び、あるものは果敢に立ち向かって見るも無残な姿になり、あるものはそれらを見て狼狽している内に、気づいたら死んでいた。

 

 ザックは一人それを目前にし、「何故だ?」と一人困惑する。

 

 どうしてこうなった?何が起きている?俺は死ぬのか?こんなところで?こんな、こんな訳のわからない化け物共に殺されて……「ザックさん」

 

 そこに聞き覚えのある艶やかな声がザックの耳に入る。

 後ろを振り返ると、そこには、先ほどまで馬車に乗って居た金髪の美女の姿。

 

 「こちらへ」

 

 先ほどまでと、まるで違う口調、言葉遣い、表情だったが、困惑した彼にそれらに違和感を覚えるような余裕はなかった。

 彼女は惨状が起きている場所から少し離れたところへ彼を誘い込むと、おもむろに衣服を脱いで、胸部を剥き出しにする。

 

 ザックはもう、何も考えられなくなって居た。

 目の前の光景、後ろで行われている惨状。

 正気を保て、というのは、彼には酷な話である。

 

 何より、本能的に、本当に死にそうになった時、人間はいくつかある欲求が生まれる。

 本当に窮地に立たされて命を危ぶまれた時、彼らは自身の子孫を残そうとするのだ。

 

 ザックはこの状況でそんな気分になるのが不思議でたまらなかったが、それは本能的に仕方のない事だと言え、目の前の彼女も、自分と同じ感情に至っているのだろうと考えたら、もう何も考える気にはなれず……彼女の胸部に手を触れるまでに、かかった時間と動揺、迷いは一瞬だった。

 

 

 しかし、その行動、その全ては間違いであった。

 

 「………!!!!ああああああ!!!??」

 

 手を触れた瞬間、自分の手がズブズブと彼女の胸部に飲み込まれていく。

 同時に両手に凄まじい熱で焼かれるような痛みが走り、絶叫する。

 そこでようやくザックは正気を取り戻すが、もう遅い。

 

 「やめて!!!助けて!!!助けてくれ!!!誰か!!!」

 

 その叫びは誰にも届かない……いや、一人届いている者が居た。

 それは彼を今まさに捕食しようとしている彼女である。

 

 その叫びは、彼女の嗜虐心を大いに刺激し、大いに満足させるに値した。

 だから彼女はそれに対して、微笑みを返す。

 

 でも彼女はスライムだから、ちょっぴりその笑顔がぐにゃりと歪んでいるけれど……。

 

 

 「助け…………」

 

 

 

 それは、まぁ、ご愛嬌、というものである。

 

 

 

 「今回のは外れみたいでありんしたねぇ」

 「そうだね……」

 

 散々やっておきながら外れと言われてしまう盗賊達は気の毒だが、自業自得であるし、どいつもこいつもただ斬りかかるか狼狽して糞尿を漏らすかのどちらかしかなかった為、やはり外れであると言えるだろう。

 

 そんな中、一人のヴァンパイアブライドが気絶した盗賊の一人を引きずりながら口を開く。

 

 「シャルティア様、ペロロンチーノ様、人間共の寝ぐらが分かりました。こいつらの仲間に武技の使い手で「ブレイン」という男がいるそうです。この国の王国戦士長、ガゼフと互角に戦ったとか。」

 

 「その王国戦士長なる者……確かこの国で一番の戦士だったかと。」

 

 報告を聞いて、シャルティアの口が三日月のように裂け、くすくすと笑い声を漏らしながら「それは楽しみでありんすねぇ」と零す。

 

 その傍でペロロンチーノは「あんまりやりすぎて殺さないように見守っておかないとなぁ」と考えていた。




主人公が事前に打っておいた策である「ペロロンチーノ様に任せる」という手は失敗に終わり、シャルティアは支配されてしまいました。

支配回避しても良かったんだけど……クレマンさんとの戦いをほぼほぼ回避に近い形にしちゃったんで、戦闘描写がすっっっっくないんですよね。

だから入れちゃいましたってわけでもないのだけど、回避した場合このシャルティア編そのものが、1000文字ちょいで終わる内容になってしまうので。

「モモンガとエレティカは漆黒の英雄としての立場を手に入れた!」
「シャルティア達は洗脳されることなく無事にブレインとかをGETした!」
「え?漆黒聖典?白銀の騎士?なにそれ美味しいの?」
「そして物語は伝説(アニメ2期)へ」

 〜完〜


さすがにこれじゃ……ねぇ?


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シャルティア編(2/4)

遅くなりました。
脳内の中でしかありませんが、ようやく、アニメ1期の終わりまで
どういう展開にするか、という大まかな計画、骨組みが出来始めてきました。

それとは別に、番外編としてやりたいことのネタなんかがポツポツあるので
早くそれを書くためにも、頑張りたいと思います。

……まぁでも、更新速度は……これから夏休みに入って滅茶苦茶忙しくなるので……お察し。


 ならず者、盗賊、山賊、どう呼べばいいものか……。まぁとにかく、シャルティア達を襲い、そして完膚なきまでに撃退……むしろ殲滅されたと言っても過言ではない何人かの人間、その仲間達の巣食う洞穴。

 

 洞穴というよりは廃坑とか言った方が正しいだろうが……まぁそれは今は重要ではない。

 

 重要なのは、そこにナザリック地下大墳墓の階層守護者であるシャルティア=ブラッドフォールンが居るという事。

 

 その目的は単純明快、かの御方々のお役に立つ為に、この世界特有の技能……「武技」の使い手を捕獲する事。

 

 その使い手の中でも「王国戦士長」と呼ばれる、この国一番の戦士と互角に戦ったという腕利きの戦士が居るらしいという情報が手に入ったので、それの捕獲に向かい、現在に至る。

 

 ちなみに、その侵入者……この場合侵入者というよりかは侵略者という感じだが……。

 

 シャルティア=ブラッドフォールンを初めてとし、その眷属であるヴァンパイアブライド1体、そして……。

 

 「ペロロンチーノ様、このような場所に御身が足を運ばずとも、私が……」

 「ん?シャルティアは俺と行動を共にするのが嫌なのか?」

 「そんな!滅相もありません!!」

 「ならこのままでいいじゃないか、そうだろう?」

 

 あろうことか至高の御方、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーが一人、ペロロンチーノがその場に同行していた。

 

 もはや「一人も生きて返すつもりなど無い」とでも言いたげに、人化のスキルは既にその成りを潜め、代わりに異形種であるバードマンとしての姿がそこにあり、「正面玄関から堂々と、だッ!」とでも言うように、彼らは盗賊の巣窟を正面から突破しようとしていた。

 

 恐ろしいのは、甘々で、とても敵地に居るとは思えない……実際敵にすら成り得ないという意味では敵地ではないのかもしれないが……そんな場所で話すような会話の内容ではないというのも含め、至って普通に、買い物でもしているかのような、そこで人でも探しているかのようなその雰囲気でありながら、今もその進行を止めようと斬りかかる盗賊達を片手間で肉隗に変貌させてしまっている所だ。

 

 「うぎゃああああああ!!!」

 「ば、化け物だあぁぁあああ!!!」

 

 

 そんな……多少疑問形ではあるものの、仲間、の叫び声を聞いて「おいおい何事だよ」と、強者の余裕を持ちながらその場へ向かう男が居た。

 

 名はブレイン=アングラウス。

 

 

 今回、侵略者の標的(ターゲット)である。

 

 

 そこに偶然逃げて来た仲間が居たので話を聞くと、どうやら侵入者はたったの3人。

 

 しかも二人は少女と言ってもいい程度の年齢の餓鬼だとか。

 滅法強く化け物だと仲間は言うが、彼らの言う化け物とは一体難度何十の雑魚から上を呼称する為の物なのだろうなと益体も無い事を考えつつスタスタと特に焦る様子もなく現場へ向かうブレイン。

 

 

 数秒、いや数分かかっただろうか。

 しばらくして両者は邂逅する。

 

 「きゃああっ!!」

 

 ブレインの不意打ちの一撃がヴァンパイアブライドの胸の当たりを切り裂いて、という形でだが。

 

 「どうやらようやくお目当ての人と会えたようだね」

 「……ヴァンパイアと……バードマンか?また妙な組み合わせだな」

 

 ヴァンパイアはまぁまだ分かるとして、この、鳥と人間が合体したような見た目なのでとりあえずバードマンと呼称するしかないコイツは一体何なんだ?

 妙な組み合わせだ、と言っておいてなんだが、よくよく見れば妙なところを挙げればキリがないな、こいつら。

 

 「……楽しそうだな?」

 「お一人でありんすか?お友達の皆さんをお呼びなされても構いんせんよ?」

 

 言ってる事は滅茶苦茶だが、ひょっとして今気遣われたのか?とことん舐めてやがる。

 

 「要らんよ。雑魚がいくら居ても邪魔なだけだ」

 「……勇敢でありんすね」

 「(勇敢、というよりは蛮勇……あるいは無謀だな)」

 

 斬られたヴァンパイアブライドが即座に、盾になるべく主人であるシャルティアの前に立つが、それはシャルティア本人の手によって拒絶される。

 

 その細腕のどこにそんな力があるのか。

 ぐいと引っ張られたと思うと近くの壁に叩き付けられ意識を失っていた。

 

 「……交代」

 「(ちょっ!?眷属とはいえ一応仲間なんだが……)……程々にな、シャルティア」

 「もちろんでありんす」

 

 程々に。つまりは「手加減はしてやれ」とでも言いたげに……いや実際そう言っているのだろう。ブレインの頭にカッと血が上りそうになるがそれを抑えて構えを取る。

 

 わざと挑発するような言動をとっているようにも見える。これも相手の作戦の一つなのかもしれない。

 

 しかしそれとはまた別に、今の常人ではあり得ない腕力を見せられて「こいつは只者じゃねぇな」と考えを改めたのもまた確かである。

 

 そして、一応剣を持つ者として、これまた一応ではあるが命の奪い合いをするわけであって、形式上ではあるが名前位は知っておこうと思ったブレインは目の前のヴァンパイアに向かって自分の名前を告げる。

 

 「ブレイン=アングラウスだ」

 

 ……が、しばしお互いに沈黙が流れる。

 

 「……シャルティア、彼は多分お前の名前が知りたいんだと思うよ」

 「まぁ、そうだったのでありんすね」

 

 まるで「その考えには至らなかった」という表情で、しかし次の瞬間には優雅に、貴族のパーティーにでも来たかのような趣で、恭しく腰を折って「シャルティア=ブラッドフォールン。」と名前を告げる。

 

 そして顔を上げるとニヤリとヴァンパイアの特徴の一つである犬のように鋭い歯を剥き出しにして笑い、「一方的に楽しませてくんなましな?」と言い放つ。

 

 

 「(絶対的強者を気取る、愚かなモンスターが……。)」

 

 「(ん?あれ?俺には聞かないのだろうか?……あぁ、そういえば今弓を仕舞っている状態だから、戦闘要員としてすら見られていないのか)」

 

 その場の約一名の思考とは関係なく、ピリついた空気の中ブレインは刀を収め、武技を発動させる。

 

 かつて自分の人生で初めての敗北の味を知ることになったガゼフを倒すために編み出した技であるそれは、<領域>半径3メートル以内の事がすべて手に取るようにわかるという武技と、<神閃>知覚不能な速さで剣を振り抜くという武技、その二つを合わせる事で回避不可能な一撃を繰り出す武技である。

 

 その名を、秘剣「虎落笛」と呼称した。

 

 「そろそろ準備も出来んしたかえ?……では、蹂躙を開始しんす」

 

 

 シャルティアと名乗るヴァンパイアはまるで警戒した様子もなく、一歩、また一歩と領域の内部に近づく。

 念のために後ろのバードマンにも警戒は向けておくが……まずは、コイツだ。

 

 

 そして容易くその領域に一歩踏み込むヴァンパイア。

 その瞬間、知覚不能な程の高速の一閃がシャルティアの首を切り飛ばす。

 

 

 ……かに思えたが、しかし、そうはならなかった。

 

 

 「なっ!?」

 

 

 思わず、鋼でも仕込んでいるのか、あるいは首そのものが鋼で出来ているのかと錯覚する。刀が圧倒的な力でもって固定されている先を見れば、そのどちらでもなかったという事が理解できる。

 

 指。それが彼の、必殺の秘剣を首に到達する前に彼女が使用した自衛手段である。

 これを自衛と呼べるのかどうかは微妙な所であるし、もっと言えば彼女が仮に防御を取らず、彼の剣がしっかりと彼女の首を捕らえていたとして、彼女にダメージが通っていたかどうかも疑問ではあるのだが。

 

 まぁ、その中指と薬指と親指とで刃を挟み込み、異常な程の強靭な握力と腕力でもって、剣が微かに震えるだけで微動だにしないそれを見せられてしまえば、たとえ相手がブレインでなかろうとも、ある一つの解答にたどりつかざるを得ない。

 

 

 「ばっ……化け物……!!」

 「やっと理解して頂きんしたかえ?私は残酷で冷酷で非道で、そいで可憐な化け物(バケモノ)でありんす」

 

 そう言うと、刀にかかっていた異常な圧力が消え、ふわりと、こちらに歩み寄ってくる前の位置まで飛びのいたシャルティアがこう言い放つ。

 

 「そろそろ準備も出来んしたかえ?」

 

 先程と同じセリフ。

 うすら寒さ、圧倒的な実力の差、種族的な力の差、相手のゴミでも見る様な冷たい目。それら全てに晒されて、知覚させられて、かのブレインをもってしても、思わず刀を持つ手がガタガタと小刻みに震える。

 

 そんな様子を見て思わず眉尻を下げて怪訝そうな顔をするシャルティア。

 

 「……ひょっとして武技が使えないのでありんすか?」

 

 無論そんな事はない。

 

 どうしてそんなセリフが口から飛び出てくる事になる?一瞬思考が停止し、そしてその答えが分かると思わず苦笑する。

 

 「そうか……そのように見えたか(・・・・・・・・・)

 

 

 フッと自嘲気味に笑いが漏れるものの、逃げようとはせず、勇敢に刀を持ち、ヴァンパイアに立ち向かう。

 

 「うおおおおおおおおっ!!!」

 

 だが……。

 

 

 

 「ふあ~……あ……」

 

 

 欠伸。あろう事か、このヴァンパイア、切りかかっている存在を目の前にして欠伸しながら対処している。見れば完全に目を閉じてこちらを見てすらいないし、更には小指だけでこちらの斬撃を全て防御しきっている。

 

 改めて……化物だ。

 

 「(シャルティア、遊んでるなぁ……お前はトゥルーヴァンパイアなんだから眠くなることなんてないだろうに)」

 

 「はぁっ、はぁっ……」

 「おや?疲れちゃいんしたかえ?」

 

 気づけば既に息は上がっており、刀を振る手に汗がにじんでいた。

 対してヴァンパイアは、どうともないとでも言うように、汗一つかかず涼しい顔をしてこちらを見ては、申し訳なさそうな顔で意外な事を言う。

 

 「申し訳ないでありんすえ」

 「……?」

 

 申し訳ない?何に対してだ?ブレインのプライドを打ち砕いた件ではない。そんな事に対しての謝罪ではなく、むしろこの言葉がきっかけでブレインのプライドは粉々に打ち砕ける羽目になる。

 

 「おんし、さっきは武技を使ってくれていたのでありんしょう?」

 「!!?」

 

 思わず、息がつまる。

 

 「でも、私が測れる強さの値は1m単位」

 

 

 

 「1mmと2mmの違いって、わかりんせんでありんす」

 

 この瞬間、ブレインの心はポッキリと……いや、もうこれ以上ないくらいバキバキに折られた。それを聞いてブレインはかつて自分に敗北の辛酸を舐めさせたガゼフとの戦いで受けたショックをもってしても流すことは無かった涙が頬を伝っていた。

 

 「安心してくりゃんせ、武技が使えるのであれば、この御方の、ひいては偉大なる御方々のお役に立てるでありんすから。」

 

 御方々……つまりは、このヴァンパイアをもってして、さらに「偉大である」と言わしめる程、上の存在が居るという事。しかもその内の一人が、目の前に。

 

 「俺は……馬鹿だ……!!はは……ハハハハハ……!!……うぅぁぁああああああ!!!!」

 

 彼は踵を返して一気に駆け出した。

 逃げるため、生き抜くため、戦士の矜持だとか誇りだとかをすべてひっくるめて道端に捨てて、格好も涙も汗も気にせずに、ただ我が身の命惜しさにとにかく走った。

 

 「あら、今度は鬼ごっこ?色々と遊んでくれるのねえ。でも……私の造物主であらせられるペロロンチーノ様に見られている以上、これ以上の遊びは止めて、そろそろ終わらせないとねえ。」

 

 「……!?シャルティア!?まさか!」

 

 

 ……ペロロンチーノはシャルティアの頭上にある血の玉、その血液の量を見て少しは察するべきだったのかもしれない。あるいは久々に見たから忘れていたのか、ユグドラシルとは格好が違ったのかもしれないが……結果として。

 

 「直グニ……終ワラセテ、クルデアリンスゥ……。」

 「しまった……!!血の狂乱!!……(エレティカに注意しろって言われてたのに!!俺のバカ!!!)」

 

 ……ペロロンチーノはその様子をほとんど見ているだけで、本来のルートに殆ど影響を与えることなく……シャルティアが狂乱状態に陥ったのだった。

 

 

 ……という訳ではない。

 

 

 そう、ここまではまだ良かったのである。

 問題はここから。

 

 「ブ、ブレインさん!!」

 「どけ、どけえ!!!うわああああああーーーっ!!!」

 

 最早なりふり構わず、といった様子で走り抜ける様子のブレインに驚きながら、しかし、あのブレインがあんなになる程の事態、それがどういう事を示すかという事を理解してからでは時すでに遅し。

 

 「ウフフ……アハハハハ!!鬼ゴッコノ次ハ、カクレンボオォォォ!!?」

 「や、ヤツメウナギ!!ギャアアアアアッ!!!」

 

 ソレに噛まれた者は瞬く間に血が抜かれ、みるみると水分が抜けたミイラのような姿に変貌してしまった。

 

 「う、うわあああ!!!」

 「化物だ!!!」

 「助けてくれえーーーっ!!!」

 

 そして、次々と蹂躙され、ならず者達の死体が積み重なっていく……が、肝心のブレインの死体が出てこず、あたりを探すと……。

 

 「穴ァァァ……?逃ゲ道カァァァァーーーッ!!?」 

 

 ブレイン=アングラウスが洞窟の抜け道を使って、シャルティアがとことん人間を下に見て遊んでいる隙に逃げ出し、それを知ったシャルティアが激昂する。

 だが、次の瞬間、それを止める者がいた。

 

 「待て!!シャルティア!!」

 「!!」

 

 そう、彼女の造物主であるペロロンチーノその人である。

 傍らには、外で見張りを行っていたもう一体のヴァンパイアブレイドも居る。

 

 「シャルティア様、複数の何者かがこちらに向かってきております。」

 「今ここで存在がバレるのはあまり良くない。こちらに向かってきている者に見つかる前に奴を捉える。その為に……まず少し落ち着け、シャルティア。」

 「ハッ……は、はい!!すみません、ペロロンチーノ様!!私としたことが、大量の血を目の前にしたものですから、つい……。」

 

 しょぼんと落ち込むシャルティアに対して内心「んもーっ、シャルティアちゃんったら困ったちゃんなんだから!」と特大級のブーメランを投げる偉大な御方だったが、思考は至って冷静で、「まずはお前の眷属を使って森に逃げたと思われるブレイン=アングラウスを捉えよう。俺は俺で目を使って探すから。」と指示を出す。

 

 こちらに向かってきている者に対しては、まず間違いなくこちらの様子がおかしいからだと思うが、洞窟に攻め入るかどうか決めかねている様子だったので、それを良い事にスルーする方針で。

 

 

 その冒険者……赤毛で健康的な体つきの「そこそこ」な女冒険者を尻目に、気づかれないよう森に潜入、そのまま影のような、狼のような眷属を放った。

 

 まだそう遠くへは行っていまい。

 それはすぐに見つかると思われたが……。

 

 

 「!!……あの子達が倒された……!?……敵か!?」

 

 放った眷属の狼が何者かによって倒され、さてはブレインか!?あるいは未知の敵か!?いずれにしろ、これ以上の失敗は許されない、絶対にぶっ殺す!!

 

 「シャルティア!?……くっ、待て!!」

 

 しかしてその静止の声は届かず……シャルティアはソレと邂逅してしまう。

 

 

 

 目に入ったのはブレイン、ではなく……数人の団体、その中でも強いと思われる騎士の一人だった。

 

 「(あれは……強い!)」

 

 何にせよ、相手が何だったにせよ、とりあえず殺せばいいだろう。

 そうすればこれ以上問題も失敗も増えない。

 相手が武技が仕える奴だったりタレントとかいうやつを持っているのなら尚のこと、好都合である。

 

 今の興奮したシャルティアの頭ではせいぜいこの程度の事しか考えられなかった。

 

 そして正面から高速で突っ込むシャルティアに立ち塞がるように槍を構え、そして交える騎士の男。

 

 「邪魔ァ!!!」

 「ぐっ……使え!!」

 

 その合図を見た、白い……チャイナ服だろうか?を着た老婆が何やら構えを取ると……その服に刻まれた刺繍の龍が光り輝く。

 

 「(あれは……マズイ、なにか、なにかとてもマズイ。早く、早く……殺さなければ……!!)」

 

 そう思ったシャルティアは目の前の騎士を殴り飛ばし、ターゲットをその老婆へと変える。

 

 

 「(こいつらは一体……!?なっ!?あ、あれは……け、傾城傾国!!?ユグドラシルのアイテム……その中でも最上位である、ワールドアイテムが何故ここに!!……なんて言ってる場合じゃない!!)」

 

 一方でシャルティアを追って来たペロロンチーノもその姿を目に捉え、しかし姿を晒そうとはせず、その場で弓を構えて射る準備をする。

 

 

 ……だが、それは少しばかり、遅かった。

 

 「ガッァ……!!!?」

 

 龍の光があたり一面を照らし、シャルティアを包み込む。

 

 「(間に合わない!!)」

 「ウアァァアアアアーーーーッ!!!」

 

 そして、その光で一瞬動きが静止するシャルティアだったが、最後の力を振り絞って、とでも言うように足を地面に叩きつけてその場で踏ん張り、スキル<清浄投擲槍>によって、そのチャイナ服の老婆、その前に立ち塞がる盾を持った騎士をまとめて貫いて、そして……ぶらんと両手を垂れ下げて、そのまま静止した。

 

 「(クソッ!!!クソッ!!!クソッ!!!マジかよ!!!これはやばい!マジでヤバイ!!)」

 

 考えろ、考えろ、どうしたらいい、こんな時、どうしたら。

 

 

 こんな時、ぷにっと萌えさんだったら?アインズさんだったら?姉だったら?デミウルゴスだったら?エレティカだったら?

 

 

 今何をするべきか。

 

 今何を優先すべきか。

 

 

 一秒ですら惜しい。

 

 早く、早く、早く……。

 

 

 見たところ、シャルティアに傾城傾国を使った老婆は、シャルティアの反撃によって動けないか、意識不明……あるいはすでに死んでいるかのどれかであるとして……。

 

 という事はつまり、今のシャルティアは「洗脳状態でありながら命令が無い状態」である事、この状態である場合に限らず、洗脳状態は攻撃するとその相手に対して攻撃をする状態異常だ。

 

 これを踏まえて考えると、彼らは完全にシャルティアを支配下に置いたわけではない為、今シャルティアを攻撃すると反撃を食らう。つまり、今彼らは下手にシャルティアに手出しすることはできない、という事。

 

 ならばシャルティアは大丈夫な筈だ。

 なんならうちにもワールドアイテムはある。

 最悪それを使えばなんとかなる筈だ。

 

 

 であれば俺が今取らなければならない行動とは何だ?

 

 

 シャルティアを洗脳した彼らを殲滅する?

 ダメだ、ワールドアイテムを所持しているかもしれない以上、こちらもワールドアイテムを持っていないと対抗できない可能性が高い。ここで手を出すのは危険だ。

 

 だからといって逃がすか?

 それはありえない。

 シャルティアは俺の娘だぞ……それをお前……よくも、よくも洗脳なんかしてくれやがったな。絶対に、絶対に許さん……許してなるものか。

 ここでこいつらを見逃すのは絶対に有り得ない。

 

 っていうかこのまま終わって「洗脳されちゃいましたテヘペロ☆」とかマジで姉だけじゃなくアインズさんにも殴り殺される。

 

 

 それにここで見逃したら今後ずっとあの傾城傾国の驚異に脅かされながらの活動を余儀なくされてしまう。

 

 

 そうだ、今とりあえずの問題はあのワールドアイテムだ。

 あれがあるとシャルティアのように他のNPCはおろか……俺やアインズさん、姉まで洗脳されてしまう可能性がある。

 

 そんな驚異を野放しにしておくなんて、ナンセンスだ。

 

 そういう意味では、これはチャンスかもしれない……。

 

 

 

 

 まずは、あのワールドアイテムをどうにかする!!

 

 

 

 このエロス、娘が洗脳されているというのに意外と冷静であった。




いや、まぁ、いくらエロスの権化たるペロロンチーノさんでもね、
アインズ・ウール・ゴウンの一員なのだから、
これくらいの思考能力は持っててもおかしくないと……思うんですよ?(遠い目)


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シャルティア編(3/4)

急いで書いたからいつにも増して誤字が凄そう……。
いつもいつも誤字報告してくださる皆々様、本当にありがとうございます。




 漆黒聖典。

 

 法国が持つ特殊部隊であり、表舞台からは秘匿されている部隊である。

 その強さは王国最強の戦士ガゼフ・ストロノーフを優に凌ぐ英雄級の面々で揃えられており、間違いなく人類最強の部隊だ。

 

 ……この世界でならの話だが……。

 

 かつてナザリックに攻め入ったランカーのプレイヤー……その人間種達に比べれば、その差はまさに蟻と獅子。

 

 言うまでもなく彼らが蟻である。

 

 

 そしてそんな彼らをもってしてその絶対的な差があると言わしめる人間達と幾度となく戦いを繰り広げていた異形種ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」が一人、ペロロンチーノからしてみれば彼らの殲滅は容易い事だ。

 

 

 ただ問題は彼らがワールドアイテムを所持している可能性があること。

 そして優秀な戦闘特化のNPCであるシャルティアが洗脳によって使えなくなっている事。

 

 

 彼らが何者なのか?という疑問もふと脳裏によぎるものの、その答えが出るはずもなく。

 

 わからない問題を考えるのは後だと頭を切り替える。

 

 

 「クソッ……こっちはダメだ、カイレ様!カイレ様は!?」

 「生きてはいる、だが、治癒魔法が効かない……恐らくはこのヴァンパイアの能力の一つなのだろうが……!!」

 

 相手の被害は思ったより甚大であるようだ。

 

 姿を潜めて彼らの様子を窺うペロロンチーノはひとまず彼らのスペックを確認することから始めた。

 

 まず、カイレとかいうBBAだが、今の発言を聞くに、シャルティアのカースドナイトのスキルによって低位の治癒魔法では傷を癒せなくされ、瀕死の重傷を負っているらしい。

 

 

 続いて……死亡者は二人、か。

 

 

 一人はそのカイレというBBAを守ろうと立ちふさがった大きな盾を持つ男。

 シャルティアの清浄投擲槍によって体の胴体に大きな穴が空いており、素人目でも致命傷、重要な器官の多くを消滅、大きなダメージを負っており、あれはもう助からないだろう。

 

 そしてもう一人の死亡者は洗脳されてから命令がないことから、自動防衛状態になっていたシャルティアに近づき、それを敵対行為と見なされ殺害された者。

 鎖などを持っていた事から恐らく捕縛しようとしていたと思われる、が……結果は言うまでもない。

 

 そして、数えるとどうやら残りは9名、その中でも「隊長」と呼ばれている長髪の男の騎士。

 あれは結構なやり手だな。

 

 一瞬とはいえあのシャルティアと槍を交えて力が拮抗する程の実力者だ。

 甘く見ないほうがいいだろう。

 

 

 彼らは一体何者なんだ……?これだけの戦力を持っている存在がこの世界にも居たのか。そしてそんな奴らが何故こんな場所にいるというのか……?

 

 大体その強さというのもメンバー全員が同じような実力というわけでもないようで、まず2人あっさりとシャルティアに殺されているし、そもそもその死んだ仲間を前に、何故蘇生魔法を使わない?

 

 もし魔法職である者や僧侶などの役職があったとして、まず優先すべきはそっちじゃないのだろうか。他に敵がいるかどうかの警戒はそれが出来る者に任せればいいのだから。

 

 仮にもワールドアイテムを持つというのならそれぐらい出来て当然だ、だがそうしない。何故か?

 

 さらに、もっとよく見てみると、驚きべきことに、彼らの装備品には見覚えのあるものがチラホラと見受けられる。

 

 というか……一人、完全にブレザーと学生鞄を持った女子高生が居るんだが……。

 

 

 「……まさか……プレイヤーなのか……?」そう思うペロロンチーノ。

 だがそれなら尚更蘇生魔法の用意もしておかないという事に対して疑問を覚える。

 

 

 ちなみにここでのこの隊長の考えはというと、「自分と拮抗する程の装備を持つヴァンパイアがそうそう居るはずが無い。ここでもし仲間が居たとしても、今追撃してこないという事は、自分達のリーダーが洗脳されてしまったを見て踵を返して逃げたか、初めからこのヴァンパイアは単騎であったと考えられる。」と考えていた。

 

 まぁ、人間種最強であるが故の驕りと言ってしまえば簡単だが、そもそもそんな彼らに勝る装備をたんまりと持っているナザリック勢が異常なのだ。

 

 

 そんなこんなで、双方に食い違いが起こりつつ、事態は進む。

 

 

 「カイレ様を死なせてはならない。ここは撤退だ」

 「ですが、隊長!このヴァンパイアは危険です!ここで始末しておいた方が……!!」

 「分かっている。だがまずはカイレ様をお守りする事が先だ。このヴァンパイアは後日装備を整えてもう一度討伐隊を組み直し、必ず討ち取る。今は退け」

 「くっ……」

 

 

 

 ペロロンチーノは迅速に撤退を始める漆黒聖典の様子を見て焦った。

 

 「(クソッ!尻込みしている場合じゃないだろ!相手はあのシャルティアを洗脳した相手なんだぞ!?)」

 

 狙うはあの傾城傾国。

 

 

 その入手方法は、かつて、ユグドラシルのアルフヘイムでかつての仲間、たっち・みーが優勝した公式の世界大会が開かれたように、同じようなイベントで……だが競うのは実力を図るものではなく、作りこんだ自身のアバター、その美しさを競う公式の女性限定の祭典、「ミス・ユグドラシルコンテスト」で、優勝者だけがそれを手に入れる事が許されるという、この上なくレアなアイテムである。

 

 そもそも設定では国を揺るがすほどの美人だけが装備することを許される、とかいう設定だった筈だが、それは置いといて。

 

 つまりそれだけのアイテムを持っておきながらここに来てまさかの撤退。

 

 ペロロンチーノはてっきり、「辺りにコイツの仲間が居るかもしれない!徹底的に探し出して必ず仕留めろ!!」とか言い出すと思っていたのだ。

 

 

 一瞬混乱するものの……ペロロンチーノは、「好都合だ」と一人内心でほくそ笑み、警戒が緩んだそこに一本の”絶望”を放った。

 

 

 「(!?こ、これは、殺気!?)……!?待て!!全員戦闘態勢に……」

 「(この距離から気付くか普通……?だけど、まぁ、遅いよ。隊長さん)」

 

 

 ヒンッという風切り音、それが普通の矢であったならば反応出来ただろうが、今のそれは、漆黒聖典の全員の反応速度を遥かに上回るスピードで、吸い付くように標的へと飛来、だがそれは隊員のいずれにもかすることなく、地面に突き刺さり、そして……。

 

 

 乾いた轟音を立てながら爆発を巻き起こした。

 

 

 ペロロンチーノは元より超々遠距離からの爆撃攻撃を得意とし、それゆえに視界が遮られた環境下において戦闘力が著しく低下するのだが……低下してなお、この実力である。

 

 「くっ!?どこからだ!?」

 

 隊員はいずれも攻撃の元を探すが、この矢の速度は異常で、感応速度を遥かに凌いだそれは風切り音がしたかと思えば突如地面が爆発する程の物で、その場所に残っている矢から方向を特定したとしても、爆発のせいでそれが確かなのかも分からない。

 

 それにここまでの実力を持つ相手だ。

 恐らくもうすでにポジションを変えてこちらを狙っているに違いない。

 

 次いで、次の矢が来る。

 いや、次いでというより、”次々に”と言った方が正しいか。

 

 

 あたり一面、地雷原かなにかになったかのように、地面が抉れる。

 

 しかし、こちらを牽制するつもりなのか、それとも、別の目的があってのことなのか、本来容易く当てれるであろう矢はどれも地面に突き刺さり、爆発を起こすのみ。

 

 実際その矢を放っているペロロンチーノの真意はというと、単に、与えたダメージが返ってくる類のスキルやワールドアイテムを危惧し、逃す気こそ無いにしろ、ここで自分ひとりで彼らを全滅させるのは厳しいかも知れない。

 

 ならば、まず狙うは彼らの統制された動きを崩す。

 

 現に、次々と巻き起こる爆発と、土煙によって遮られた視界、隊員はせいぜい当たらないように走り回るしかない。

 

 「総員、隊列を乱すな!!」

 

 そう叫ぶがしかし、その声は通らない。

 次々に巻き起こる爆発音が耳にダメージを与えているのか、そもそもその爆発音によってかき消されているのかは不明だが。

 

 「(くっ!!まさかこれほどの実力を持つ者がまだ存在しているとは!!)」

 

 その力を前にして危機感に晒されるが隊長、と呼ばれた男は焦ることなく辺りを見渡し、冷静に魔力感知に長ける隊員へ声をかける。

 

 「敵の位置は分かるか!?」

 「そ、それが……この爆発、ただの爆発じゃ……!魔力が、阻害されて……!」

 「な……!?」

 

 爆発に紛れて聞こえてきた報告から、冷静な脳から嫌な解答が告げられる。

 

 「相手の目的は、まさか……!!」

 

 

 バッと迅速に辺りを見回す。

 そして、土煙で見えなくなった視界の隙間に、カイレを警護していた仲間が倒れ伏す姿と、何者かがカイレを麦の束でも持つかのように乱暴に抱き上げ、今まさに連れ去ろうとしている姿であった。

 

 「待て!!」

 「(待てと言われて待つ奴がいるかってんだ!!)」

 

 止まる気配が無い、むしろ自分がそう叫んでから速度が上がったようにも感じるその人影が飛ぶように走り去る。

 

 思わず手に持っていた槍でそれに攻撃を加えようとするが、角度的にカイレにも即死に至る致命傷を与える可能性がある事を危惧して思いとどまり、舌打ちをするような思いで踵を返す。

 

 

 対するペロロンチーノは、隊長が人の影だと認識したように、念の為にわざわざ人化まで施しておくあたりは冷静だが流石に近接戦闘でこいつを相手にするのは分が悪い。ペロロンチーノはここに来て、割とガチ目に必死になって走り、逃げ去った。

 

 漆黒聖典の面々は、爆撃が止んだ後も追撃に注意しつつ、慎重にその場を撤退。

 

 

 かくして、アインズ・ウール・ゴウンが一人、ペロロンチーノと、漆黒聖典の戦いはひとまず終わりを迎えた。

 

 

 

 「……それで、連れ去ってきたBBAはとりあえず、ナザリックに送り、奴らの事を聞くため、傷を治療し、情報を抜き出すようにと伝えてあります。準備が出来次第、下僕がこちらに向かう手筈になっています」

 

 そうして逃げ切ったペロロンチーノは現在、戦闘した地点から遠く離れた場所で、拠点作成型のマジックアイテム、「影の小屋」という、見た目こそボロボロの廃屋なのだが、実はその地下に広い部屋が構成されているというマジックアイテムを使用して、姿を隠していた。

 

 本来なら戦闘を想定して弓術を扱うもの専用の物もあるのだが、姿を隠すには、今現在ペロロンチーノが所持している中でこれが一番だった。

 

 ……ただし、魔法でほぼ大きさ等関係無いにしても、地面に穴を開けて無理やり部屋を作ったとしか言い様がないこの部屋は、環境の悪さも所持している拠点制作系のマジックアイテムで一番であったのは言うまでもないが……。

 

 

 「……そうですか、で、傾城傾国は?」

 「はい、これです」

 

 アイテムボックスからスッとそれを取り出し、備え付けの木箱……中にはなけなしの食料が入っている(実際にアイテム名が「なけなしの食料」という名前の食料である)。の上に置く。

 

 そこにあったのは白を基調とした、美しい金色の龍が刺繍で描かれているチャイナ服……紛れもない、傾城傾国そのものであった。

 

 「シャルティアの件は……聞く限りでは仕方なかった事のように思えます。むしろ、傾城傾国を奪い、敵の情報も持ち帰ってきてくれたのは良かったです。もしペロロンチーノさんがその場に居なかったら、ずっとソレの恐怖に怯えて活動することを余儀なくされるところだった……」

 

 一応、そのことに関しては評価しなければならないだろう。

 これで本来のルートでは「シャルティアを洗脳した輩」という情報しかなかったのが、カイレという情報源を手に入れたことによって更に対策可能になった。

 

 「とはいえ!ちゃんとシャルティアの手綱を掴んでおかなかったせいで洗脳されたのは事実!アンタは少し、あの子の親だという自覚を持て!!」

 

 「うぅっ、本当にすみませんでした……」

 

 「私に謝るんじゃない!!あの娘とエレティカに謝りなさい!!この愚弟が!!謝って済むことでもないけどね!!」

 

 

 そうして、何分程説教をしていただろうか、ふと「エレティカ」というワードで思い立ったようにペロロンチーノが顔を上げてモモンガに問う。

 

 「そ、その……エレティカは今、どうしてますか……?」

 

 「……報告では自室で待機しているはずです。まぁ無理もないでしょうね……実の妹がナザリックに敵対しているなんて知ったら……忠誠度の高いエレティカの事です、今頃精神にかなりのダメージが来ているんじゃ……」

 

 「う、うう……すまん、すまんエレティカ……俺が不甲斐ないばっかりに……」

 

 

 どうやらその事がトドメになったらしく、ペロロンチーノはついに涙を流しながら、かつてエレティカがNPCだと知って盛大に絶望したときよりも激しく地面に手を打ち付けて己の行いを後悔した。

 

 傍で見ていたぶくぶく茶釜も、これを見ては流石に説教する気が失せたのか、いつの間にか骨が軋む程の締めつけを見せていた触手は成りを潜め、じっと弟を見守っていた。

 

 

 

 それから何分か経ち、「ずっとこうして泣いているわけにもいかない」と立ち直ったペロロンチーノを見てひとまず安心したモモンガは、「ではまずはシャルティアの洗脳をどうにかしましょう」と冷静に話を進める。

 

 

 まず、精神支配で洗脳状態にあるシャルティアに対しての対処だが、相手はワールドアイテム、解除にはこちらもワールドアイテムを用いる必要がある。

 

 ならば傾城傾国でもう一度、今度はこちら側から精神支配をすれば良いだけなのでは?と思うが、そう上手くはいかないと言うことは彼ら三人が全員理解していた。

 

 

 精神支配は最初にかかった者の効果を優先するシステムがある。

 これはユグドラシル時代で精神支配を得意とする者と精神支配を得意とする者同士が戦った際、同じ系統の魔法の掛け合いになる。

 こうなると、相手が操る物と自分の操る物が交互に入れ替わるだけで、全く決着がつかないのである。

 

 かつてそういう精神支配を得意とするボスが配置されたとき似たような問題が起こり、運営がそう対処してから、このシステムはずっとこのままである。

 

 

 つまるところ、傾城傾国ではシャルティアの精神支配をどうにかすることは不可能。

 仮にもう一度使ったところで、シャルティアを支配下に置くことも出来ない。

 それに、精神支配が上乗せ出来たとして、ずっとそのままにしておくのは三人の本意ではなかった。

 

 「……やはり、ワールドアイテムを使うしか……」

 

 モモンガはそういうが、実はもう一つ、方法がある。

 

 

 それは、シャルティアを殺し、もう一度生き返らせる事だ。

 

 

 ユグドラシル時代では、一度精神支配におかれたNPCも、殺してもう一度蘇生するという方法で、ほとんどのデバフは精神支配を含め解除された。

 

 問題なのは、そのシステムがこちらの世界でも通用するのか。

 もし通用しなかったらどうする。

 そもそも誰が殺すんだ。

 というかそれをペロロンチーノやエレティカが許すとは思えない。

 

 だからこそ、モモンガは喉まで出かかった言葉を飲み込んで、「ワールドアイテムを使うしかないのだろうか」と口にした。

 

 だが、一時期ゲームから離れていたとはいえ長い間冒険を共にした仲間であるモモンガの言いたい事はペロロンチーノにも分かっていた。

 

 だが、どうしても「シャルティアを殺す」とは言えなかった。

 

 

 自分がもっとちゃんと見ていれば、と言い出せばキリがないが、とにかく、シャルティアを守れなかった自分が、今度はあろうことかその愛するわが子を、確かでもない方法で救う為に、殺す。

 

 そんな事が許されるのか?

 

 あまりに身勝手な話ではないか。

 

 もしそんな事を言ったら、と考えて、モモンガや姉、エレティカに頬を思い切り殴られる自分の姿を幻視し、ぶるぶると頭を振る。

 

 

 だが、かといってワールドアイテムを使うという選択肢、それもまた選択し難い物だ。

 

 別にシャルティアの為に使うのならペロロンチーノ本人としては是非もない事である、それぐらいシャルティアを愛している自信はあった。

 

 それに実際、アインズ・ウール・ゴウンが持つワールドアイテムの内、シャルティアを解放するアイテムは確かにある。

 

 だがそれは、あまりに効果が強すぎて、一度しか使用できない物だ。

 

 

 使っていいのか。

 ここで。

 シャルティアというたった一人の娘の為だけに、皆の努力と時間の結晶を。

 元より、困ったときにはアインズ・ウール・ゴウンは多数決制で物事を決めていた。

 そういった習慣もあり、とても自分のワガママだけで使おうとは思えなかった。

 

 

 

 しばし沈黙が続く。

 

 そして、ペロロンチーノが意を決したように顔を上げ、口を開く。

 

 

 「シャルティアを………」

 

 

 

 

 <バタンッ!!!>

 

 

 「……モモンガ様……!!」

 「ど、どうした、アルベド……今は……いや、言ってみろ。何があった」

 「エレティカが……」

 

 だがそれを最後まで口にする事はなく、突然モモンガの居た執務室に飛び込んで来たアルベドの声を聞いて、エレティカの名前を聞いて、思わず口が閉ざされる。

 だが次の報告を聞いて、再び口が開き、顔は驚愕の色に染まった。

 

 

 

 

 

 「自室で待機中だったハズのエレティカ=ブラッドフォールンが、いつの間にか単独でシャルティアの元に……!!」

 

 「「「な……何!!?」」」




動き出すエレティカちゃん。


ー追記ー

今回は筆が乗ったのか、頭の中でプロットが完成したのが良かったのか、
随分と早く書き上がり、次回シャルティア編4も
明日の一二時に予約投稿が完了しております。


お楽しみに。

(実は今回のは書き溜めで、明日かそれ以降に投稿する予定だったのに日付間違えて即日投稿になってしまったなんて絶対言えない…………。)


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シャルティア編(4/4)

そろそろ最終回も近い感じです。


 《ゲート/異界門》は見たことがある場所にしか繋げられない。

 ミラーオブリモートビューイングを使えば離れた場所への転移も可能だが、情報防壁を持つ高レベルNPCであるエレティカが居る以上その手も使えず、結局少し離れた所にゲートを開き、エレティカを連れ戻すという事になった。

 

 そしてその役目を担うのは、ペロロンチーノその人である。

 

 下僕のNPCは猛反対したが、「俺はあいつらの親だぞ!!」と激昂するペロロンチーノを止められるNPCは居なかったし、モモンガやぶくぶく茶釜としても、NPCを向かわせて無事で済む保証もないという事が危惧された為、いざという時にはすぐに離脱するようにという条件付きでペロロンチーノを送り出した。

 

 「どこだ、エレティカ……!!」

 

 初めは空を飛翔して向かっていたが、エレティカの姿が見えず、森を歩いているかもしれないという可能性を考え、森を足で踏みしめて移動していた。

 

 「何故だ、どうしてたった一人で向かったんだ、エレティカ!」

 

 エレティカは他の守護者に比べて頭が良い……というか性格が良い、非常に優秀なレベルで。それこそ、いつもそれに助けられているモモンガの話を聞いていても、ユグドラシル時代で普通のNPCの数十倍近いメッセージのデータ量を見ても、「このNPCを作った人はかなり人への気遣いに溢れた優しい方なんだろうなぁ」と密かに考えていたほどの物で……だからこそ分からない。

 

 何故エレティカはたった一人で向かった?

 

 いや、何故かは分かる。

 

 

 恐らくは、シャルティアを殺すためだろう。

 

 彼女は馬鹿ではない。

 きっと俺がシャルティアが精神支配を受け、その状態を打破するためにどうするか考えた時、自ずと「シャルティアを殺害し、蘇生させる事によって精神支配を解除する」という答えに行き着く事を予見していたのだろう。

 

 あるいは、「自分の妹の為にワールドアイテムを使うなんてとんでもない!」という意思があるとも考えられるが……。

 

 

 聞けばゴミ倉庫で他のギルドメンバーが捨てていったアイテムを勝手に回収して使っていたりモモンガさんに渡したりしていたらしいじゃないか。

 

 確かにユグドラシル時代でも、戦場で手に入れたデータクリスタルやアイテムを拾っては俺に持ってきたり、いつの間にか倉庫に保管することもあった。この行動はその名残なのだろうと思えば不自然な事はない。

 

 そういった点で、彼女もワールドアイテムがどれだけ貴重な物で、替えが効かないという事も理解している。だからこそ、そういった考えに至っても不思議ではない。

 

 

 ……だからって勝手に一人で拠点飛び出して妹を殺しに行く姉がどこにいる!?

 ……しかしそうとしか考えられないのもまた事実。

 

 「エレティカ……お前一体……」

 

 

 何者なんだ、と言おうとした口を閉じる。

 何者だって構わない。お前だって俺の娘なんだ。

 

 シャルティアもエレティカもどっちも大事な俺の娘だ。

 どっちかが勝手にいなくなったりましてや姉妹で殺し合いなんて、俺が絶対に許さん。

 

 そこまで考えて、「……我が儘な奴だな、俺って」と自嘲気味に笑い、足を進めるスピードを早めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……やっぱり、こうなっちゃったかぁ……。」

 

 シャルティアを前にして、エレティカはそう独りごちる。

 情報防壁を発動させている以上、まさかシャルティアの真ん前に居るとは思われていないだろうが、そろそろアルベドかアウラあたりが自分が勝手にナザリックから飛び出したことに気づいているだろうなと思うエレティカ。

 

 ぐったりと両手を垂れ下げ、ただその手元にはスポイトをそのまま武器にしたような、その名もスポイトランスという馬鹿げた名前でありながら、その性能は、傷つけた相手のHPを一部自分のものにできるという凶悪な能力を持っているそれを握り締めて立っているシャルティアを見て、エレティカはため息をつく。

 

 

 「まったく、ガチ過ぎでしょ。これがラスボスだと言われても私は何も疑わないね、うん。」

 

 自身の親であるペロロンチーノのセンスを疑う。

 あんなエロスの化身でありながらこんな凶悪なキャラメイクまで出来るなんて。

 

 ……まぁ私の職業やスキル構成も同じ人の手がけたものだという事を考えるとシャルティアの事は言えないのだが。

 

 

 「ねぇ、実は意識あったりしないよね?ドッキリでありんす!みたいなさ。」

 

 無論そんな事はない。分かっている。だがあまりに平然とそこに居るのでそう言いたくもなる。傍から見ればひたすら姉を無視する妹にその姉である。

 

 

 「聞いてるの?」

 

 

 顔を覗き込むが、眼球一つ動かない。眉尻を下げて「聞こえるわけ無い、か」と呟く。

 

 

 「……あーぁ、本当なら……例えば私が二次創作の主人公だったりしたら、もうちょっと上手くやる方法があるんだろうなぁ……。」

 

 

 諦めたように両手を上げて大げさに「まいったー!」とふざけるエレティカ。

 そういえばここに来てから、というか、ナザリックに拾われてからというもの、こういう素の自分を出した事ってほとんどなかった。

 

 

 任務を放棄し、なんのしがらみもなく、ただ妹の為だけに駆けつけた姉。

 

 意図せず、彼女は自由な時間というものを手に入れていた。

 

 

 「ねぇ、シャルティア。」

 

 返事は無い。いや、むしろここで今の今まで無視を決め込んでいた妹が突然「はいなんですか?」と言いだしたら今度こそドッキリ成功、という感じなのだが。

 

 「私さ、実はこの世界の……そしてユグドラシルの世界の人間でも……もっといえば、モモンガさんが居るリアルの世界の住人でも無いんだよね。」

 

 語るのは、自分の、今まで誰ひとりとして語ってこなかった身の上話。

 言いつつ、「誰もいないよね?」と辺りを見渡すが、現在の時刻を時系列にして表すと、今が丁度ペロロンチーノがエレティカがナザリックからシャルティアの元へ飛び出していった事を知ったタイミングであり、誰が来るハズもなかった。 

 

 

 「信じられないでしょ?私も信じられない。だってさ、自分の部屋のベッドでおやすみ~って寝て、おはよ~って起きたと思ったらユグドラシルの世界でこの身体だったんだよ?最初は夢だと思ってたよ。私。」

 

 言いながら、ちょこんとシャルティアの隣に座り込むエレティカ……いや、気分的には、好豪院恵里として、そこに居た。

 

 

 「突然、家族とも友達とも離れ離れになっちゃってさ…………ここだけの話、実は最初の頃は毎日、ペロロンチーノさんがログアウトして誰も居ない時間を見計らって大泣きして愚図ってたんだよね。」

 

 

 どうして突然。

 帰してよ、私を。

 返してよ、私の日常を。

 家族や友人の元に帰りたい……。

 

 

 「大量の人間の軍勢が押し寄せてきたときなんか、もう、ほんと、やってらんねーって感じだったよ……しかもその後普通に死んじゃうしね!?生き返られるの知ってホッとしたけどさ。」

 

 

 思わず蘇生魔法を使ったペロロンチーノに対して素で「ありがとうございます」なんて言ってしまったっけなあ、なんて事を思い出すエレティカ。

 思えばあれからペロロンチーノさんに対して、ほとんど素で「様」をつけて呼べるようになったんだっけ。

 

 そりゃそうだよ、事実命の恩人なわけだし。

 

 

 「もしナザリックに拾われてなかったら今頃どうなってたんだろう、なんて、想像しても仕方のない事だけど……。」

 

 

 もしかしたら消滅してたかもなぁ、とは常々思っていたが、実際のところどうなんだろう。ひょっとしたら消滅に巻き込まれてそのまま現世に帰れたかもしれないし、そのまま消滅して私のことなんて無かったことになっちゃうのかもしれない。

 

 「でも、なんて言ったらいいかな……うん……拾われて、ナザリックに入って……NPCになって。モモンガ様やペロロンチーノ様やぶくぶく茶釜様……それに、他のギルドメンバーの人達や、アルベドを始めとした守護者の皆や下僕の娘達……この世界で出会った数々の人……」

 

 

 「それに」と顔を上げてシャルティアに向き合う。

 

 

 「シャルティアと出会えて良かったよ、私」

 

 

 いや、昔から妹が欲しかったんだよね。なんてフザけた調子で言いながら少し照れ臭くなって、あるはずのない熱が頬に帯びるのを感じた。

 

 

 

 脳裏には、一緒に温泉に浸かりながら私の胸を凝視するシャルティア。

 

 第一階層の侵入者を一緒に協力して倒した時のシャルティア。

 

 プレアデスのユリを部屋に連れ込んでニャンニャンしてるのが見つかって若干気まずそうに「ね、姉様も混ざるでありんすか?」とおどけるシャルティア。

 

 ペロロンチーノ様は造物主として絶対の服従を誓っているのは当然の事として……美の結晶でありナザリックの絶対支配者、至高の方々の頂点に君臨するモモンガ様も魅力的で……両方から夜伽のお誘いを受けたらどっちを優先したらいいのか、と本気で悩むシャルティア。

 

 

 

 ……思わず、くすっと笑みが漏れた。

 

 

 「……さて、そろそろ……時間が来たみたい、だね。」

 

 そう言いながら、懐に手を伸ばし、あるものを取り出すエレティカ。

 それを手に握り、斬りかかった瞬間、戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 「始めよっか」

 

 

 

 だが、手に持っていたのは、彼女の得意武器のハルバードでも、ティカの際に使っていた細剣でもない。

 

 かつて、ガゼフ・ストロノーフを救う際に使った木彫りの人形のような不思議な形をしたアイテム……によく似た、木彫りの、妙な形の人形。

 

 それがきらりと光り、それに合わせて、シャルティアの懐でなにかがキラッと光るのを見て、エレティカは静かに笑う。

 

 

 「フフ、いい子、ちゃんと”それ”、持っててくれたのね。」

 

 

 そして、その人形の光が最高潮になった時、人形はその光に耐え切れずといった風に、光の塵となって消える。

 

 その様を見て一瞬不安になるエレティカだったがしかし、次第に自分の身体の自由が奪われていくような感覚に陥るのを感じ、再び笑顔になる。

 

 

 「う……ぅん……。」

 

 

 加えて、目の前のシャルティア、愛しくて、可愛い、後で生き返るからといってもとても私の手で殺すなんて出来ない愛すべき妹。

 その体がピクリと動き、眠りから覚めるように意識が浮上する様を見て、満足そうに頬が緩む。

 

 「ほら、起きてシャルティア、皆心配してるわよ」と声をかけようとした。

 

 

 だが、思ったより早くに自由が奪われ、精神支配されているらしい。

 その声を出すことは、叶わなかった。

 次第に、その顔から笑みも薄れていく。

 

 

 「えっ……?姉……様?」

 

 

 

 最後にシャルティアの顔を見て、エレティカが感じていたのは安堵だった。

 

 「(良かった……。)」

 

 だがその思いとは裏腹に、反応が無いエレティカを見て、無防備にその身体に触れようとするシャルティアに、いつから手に持っていたのか、禍々しい形のハルバードが彼女に切り掛ろうとしていたが、エレティカにはちゃんとその無慈悲の刃から妹を守る至高の方の高速で飛んでくる姿が見えていた。

 

 

 「シャルティア!!!」

 「えっ……きゃあ!!?」

 

 

 <ヴヴン!!!>

 

 

 そのハルバードは先程までシャルティアが居た場所に叩き落とされ、その間に、名状し難い、とにかく嫌悪感を覚える、まるでそれ自体が何か怨念めいた声か何かのような風切り音を鳴らしながら……。

 

 <ズンッ!>

 

 「くっ……分かってはいたがなんて威力なんだよ全く。」

 

 叩き落とされた場所から先、30m程、綺麗な直線が地面を抉っていた。

 

 ペロロンチーノとシャルティアはそれを間一髪で躱し、ペロロンチーノはズリリッとスライディングしながら距離を取る。シャルティアはその腕の中でただただ狼狽していた。

 

 「ね、姉様……なんで……。」

 

 その顔にいつもの調子は無く、至高の御方、ペロロンチーノの腕に抱かれているというのにそれに対してなんの反応もできない程に、ただ呆然と、自分に刃を向けた姉を見ていた。

 

 「シャルティア……話は後だ、今は離脱する!」

 「で、でも」

 「シャルティア!!!」

 

 いつになく声を荒げるペロロンチーノに、シャルティアがびくりと身体を震わせ、微かに目尻に涙を貯める。

 

 その様子を見て若干「しまった」と思い、次は宥めるように腕の中のシャルティアに優しく声をかける。

 

 「頼む……今はただ黙って俺の言うことを聞いてくれ」

 「は、はい……」

 

 いつになくその有無を言わせない雰囲気に気圧されて、シャルティアはただ頷き、結果として、エレティカから少し離れた所でゲートを開き、無事にナザリックに帰還する。

 

 そんな様子を見届けると、エレティカは安堵した心持ちのまま、そこに佇んだ。

 

 

 

 

 

 『ペロロンチーノ様、突然お呼び出ししてしまって申し訳ありません』

 『いいよ、ほかでもないエレティカの頼みなんだから』

 『そう言ってもらえると……それで、ええと、相談なんですが……』

 『相談?何かな?』

 『ゴミ……倉庫で、アイテムの整理をしていた所、いくつか役立ちそうなアイテムを見つけたので、ペロロンチーノ様に使用許可を頂ければ、と……』

 『ん?……これ、ほとんど外れアイテムのゴミばっかだけど……まぁ使いたいなら好きに使えばいいよ』

 『ありがとうございます!』

 『いいよ、ハハハ、大体、ゴミとはいえ、あそこに眠っているアイテムのほとんどはお前が拾ってきたアイテムじゃないか?(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 『モモンガ様、これを』

 『これは……?』

 

 

 

 

 『シャルティア、これは貴女に渡しておくわ。』

 『?……これはなんでありんすか?』

 『それは……フフ、今はまだ内緒、でもきっと後で役に立つ時が来るわ』

 『うーん……?』

 『私も同じものを持っているの』

 『肌身離さず持っているでありんす!!』

 

 

 

 傾城傾国の精神支配の力は、ワールドアイテムでしか解消する事は不可能。

 かの、願いを叶えるマジックアイテムですら、それは同じこと。

  

 だが、もし……。

 

 もしその精神支配の相手を入れ替える(・・・・・)だけなら……?

 

 

 正直、当たって砕けろな博打、作戦とも言えない賭けだった。

 

 その為にわざわざ、ペロロンチーノに「使いたいんですが」と進言した際に、ゴミに紛れて実はガゼフが使ったものより遥かに高位の……名を『奇術師のトーテム』というアイテム。それを紛れさせておいた。

 

 効果は見ての通り、『お互いに事前に持っておく事で、どちらが状態異常にかかったとき、これを使う事によって状態異常を肩代わりすることが出来る。』という効果。

 

 

 しかし、「自分が状態異常を受けた際に盾に状態異常を肩代わりしてもらうという使い方なら役立つかもしれないが、そもそもそういう盾には総じて耐性がついているもんだしなあ」と結果ゴミ扱いになったアイテムなので嘘はついていない。

 

 

 また、飽くまでも「事前に」渡しておかなければ、精神支配によって敵判定となっているシャルティアにこれを渡しても効果がないと思われた為急いで渡す羽目になり、モモンガの為に人化のアイテムを探すのに少し時間がかかった。

 

 

 もっとも時間がかかったのはユグドラシル時代にこの事について対策のためとそれに気付かれないようにするダミーの為に数々のアイテムを拾い集めた為。

 

また、メンバーの何人かがそんな私のゴミ同然のアイテムに紛れて、ガチの方のゴミを置いていったりしてくれたお陰でもあるのだが。まぁ、その中にもいくつかおもしろいアイテムがあったから、それについては許している。元々ただの倉庫で、私が私物化していいものでもないしね。

 

 

 初めにペロロンチーノに見せておいた理由としては万が一「そんな便利なアイテムがあるなら!」となった時に「だってペロロンチーノ様が」と後ろ盾が欲しかったから。

 

 それだけの理由であった。

 

 

 これだけの事をやっておいて、実は彼女は自分のことを「頭は弱い方だ」と思っている。

 まぁナザリックで右に出るものは居ないと言うほど知見に長けたデミウルゴスでさえ、「いやいや私など至高の御方々に比べたらまだまだ」なんていう有様であるし、それに間違っても知見で勝っているなどと考えられないエレティカからしてみれば「あの」シャルティアの姉であることも助長し、「自分は頭が弱い方である」と意識してしまうには十分過ぎた。

 

 今回の件も、たまたま上手くいったに過ぎない。

 というか、たまたまペロロンチーノが駆けつけてくれなかったら、今頃シャルティアを切りつけていたかも。

 なんて思っているあたり、やはり彼女にその自覚は無いようだが、しかし、彼女が必死になって妹を守ろうとした計画は今、実を結び、結果妹を無傷でナザリックへ送還。

 

 彼女がユグドラシルのNPCに転生してからずっと立てていた計画は今、成功したのであった。

 

 

 

 

 

 「(事前に手を打っておいて(・・・・・・・・)本当に良かった……。)」

 

 

 

 

 

 エレティカは、深い、深い……安堵の中に、その意識を手放した……。




次章、VSエレティカ編、乞うご期待。


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決戦前(1/3)

感想欄が荒れはじめた位に現実の方でも色々と辛いことが重なり始め、
「もうやめようかなぁ」と思いましたが、

そんな中暖かいメッセージをくれる方が居たり、
こんなに荒れてるのにお気に入り数だけは見るたびに少しずつ増えていたり、
評価してくださる方が居るので、

ここでやめてしまうのはあまりに無責任だと思い、
ひとまず、区切りをつけてしまおうと思います。

今回から最終章となります。


追記:
(あ、あれぇぇぇ!!?確認したとき消したはずなのに……!?)

すみません正しくは今回から最終章、ではなく、
今回の決戦前~からは、最終章まで毎日1話ずつ、というのが正しいです。

ちなみに、この決戦前を3話、次章、屍山血河の戦乙女が2話、
最終章が1話、あるいは2話という構成になっています。
決戦前に話が終わるとかではないです、すみません;;;;

最後の最後までやらかす馬鹿な作者で申し訳ない限りです(恥


あと、多くて6日、少なくても5日……。

こんな馬鹿な作者ですが最後まで楽しんでいただけると幸いです。


 「姉さま……私のせいで姉さまが……」

 

 ナザリック地下大墳墓の第一、第二、第三守護者の片割れ、シャルティア・ブラッドフォールンは今、後悔と悲哀、罪悪感で胸が張り裂けそうなほど落ち込んでいた。

 

 原因は言うまでもない。彼女の姉であるエレティカ・ブラッドフォールンが自らを精神支配から解放する為に、自らの体を持ってその支配を肩代わりし、精神支配された状態、ナザリックに敵対している状態にあるからである。

 

 「……落ち込んでてもしょうがないでしょ」

 

 そこを慰めてくれるのが、普段険悪な雰囲気ではあれ、本心ではお互いそれほど悪く思っていない、同じナザリック階層守護者で、またその中でも姉弟で一つの階層を守護するというシャルティアやエレティカと似た境遇のアウラ・ベラ・フィオーラだった。

 

 マーレとは一時的に別行動である。

 

 「でも……」

 「心配しなくても、ペロロンチーノ様やぶくぶく茶釜様、モモンガ様と三人も至高の御方が居るんだもん。きっとなんとかしてくれるって。私達は私達に出来る事をするだけ」

 「(チビ助……)そう……そうでありんすよね……」

 「(なんとか持ち直したか……まったく世話の焼けるヴァンパイアね)」

 

 こうして、奇しくも創造主である御方であるペロロンチーノとぶくぶく茶釜のようなやり取りをした後、シャルティアはどうにか、一応任務に差し支えはない所まで持ち直す。

 元より精神支配等、精神に対するダメージは強い方だ、余程の事がない限り、一つきっかけさえ与えれば落ち込んでいても回復は早い。

 

 「(私がしっかりしないでどうするの、今度は私が姉様を助けるでありんす!)」

 

 しばらくしてそう決意したらしく、ふんすと息巻くシャルティアを見てアウラは「本当に大丈夫だろうか」と思ったが、そういえば元々大丈夫ではなかったと思い返し、自分の任務に戻っていった。

 

 

 

 一方、モモンガはというと、現在はエ・ランテル近郊の森に居た。

 冒険者組合で出現したヴァンパイアについての対策会議に呼ばれていた冒険者、イグヴァルジと呼ばれる「モモンの事前の警告も虚しく、高レベルのヴァンパイアによって見るも無残に散っていった」男を横目に、血のついた杖を持つマーレやアルベドに指示を出していた。

 

 「(冒険者の方はひとまずこれでいいだろう)後は……そうだな、マーレはハムスケをナザリックまで帰還させてやってくれ」

 「と、殿……某は大丈夫なのでござろうか、食べられたりしないでござるか?」

 「……当然よ、モモンガ様のペットであるなら、許可もなしに食べられたりしないわ」

 「よろしくおねがいするでござるよ……」

 「うむ……では行くぞ、アルベド」

 「ハッ」 

 

 そうして一通り指示を終え、モモンガとアルベドはそのまま森の奥……エレティカ・ブラッドフォールンが待つその場所へと足を運んだ。

 

 

 そうしてその場に居たのは、虚ろな目でだらんと手をぶら下げたエレティカの姿。

 

 

 「……エレティカ」

 

 

 当たり前だが、モモンガが呼びかけたところで反応するわけもない。

 思わず「エレティカ!」と激昂しそうになるアルベドだったが、事前にモモンガから彼女の精神支配はワールドアイテムによるものだと知らされており、またどういった経緯でこうなるに至ったかも知っていた為に、唇を噛んで、かろうじてそれ以上の言葉を出すことはなかった。

 

 

 「(ここで、ワールドアイテムを所持する謎の団体とシャルティアが戦ったんだよな……?まず、精神支配の使い手が相打ちで致命傷を負ったにしろ、それで連れ去られたにしろ、何故それだけの戦力を持ちながら隙だらけのシャルティアを見逃したのか、仮に反撃やワールドアイテム何らかの効果を恐れたとしても、ペロロンチーノさんから聞いただけの頭数があれば、どうにでも出来たはず。にも関わらず、何故?……)」

 

 その捕まえた老人は死にかけだったが、そこはナザリックのアイテム。

 不可能などありはしないということで完治済みなのだが、前回の陽光聖典の時もあるのと、エレティカの件が重なり、すぐには拷問ないし情報の収集には移れないでおり、そういう意味で既にクレマンティーヌという絶好の情報源を手に入れているのだが、まさか彼女が敵の裏切り者だとは考えておらず、現在彼女に下されている処置は、「保留」である。

 

 モモンガはしばらく思考し、「(いや、今はそんなことを考えている場合ではない、か)」と考え直す。

 

 「……戻るぞ、アルベド」

 「え?は……はい」

 

 今回はひとまず戦場跡から何か探れないか、あるいは伏兵が潜んでいるのならとアウラ達に調査をさせ、防御担当のアルベドとこの地へ訪れたモモンガだったが、そのアウラからたった今「周囲に人影や異常は見受けられません」との報告が上がり、結果はただの無駄足だった。

 まぁ、エレティカが無事にシャルティアの精神支配を肩代わり出来たあたり、そのあたりの事を証明してくれたも同然だったのだが……。

 

 アルベドはというと、てっきり今ここで始末するつもりかと思い、エレティカからかつて「いつでも最高の装備で出撃出来るようにしておいたほうがいいよ」という助言を元に、彼女が今出来るフル装備で訪れていたが、どうもそんな様子ではないモモンガの後を追ってゲートの中へ消えていった。

 

 

 

 その後、ものの数時間でナザリックに所属する全NPCに、警戒レベルを最大限まで引き上げるようにとの知らせが伝達された。

 

 

 「現在ナザリックは最大限の警戒を要しているでありんす……お前たちも、行動を持って、至高の御方々への忠誠を示せ!!」

 「ハッ!」

 

 本来のルートと違い第一、第二、第三階層はマーレとコキュートスの管理ではなく、心なしかいつもより目が赤い(というか泣き腫らしたように見える)気がするシャルティア・ブラッドフォールンによって、滞りなく警備体制の構築が進む。

 

 その他の階層も、階層守護者によって警護を厚くしており、ナザリックは今、かつて人間の軍団が進行してきた時以上の堅牢さを見せている。

 

 ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜も至高の御方である三名で話し合った結果(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、今はナザリック内で待機している。

 

 

 そんな中、モモンガ、アルベド、ユリが、ナザリック地下大墳墓のどこにも隣接していない孤立した空間である、宝物殿へと足を踏み入れていた。

 

 

 「二人は宝物殿は初めてだったか?」

 「はい、アインズ・ウール・ゴウンの指輪が無いと入れませんから」

 

 そして少し歩き、大量の金貨の中でそこだけが異様な存在感を放つ、真っ黒で巨大な結界のような場所に向かって、あらかじめ設定されていた合言葉を口にする。

 

 

 「”アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ”」

 

 

 すると続けて応えるように文字が表示される。

 かなり長いパスワードを言わないと入れない場所だが、モモンガは難なくそれを記憶から探り当てた。

 

 

 「(確か……)”かくて、汝、全世界の栄光を我が物とし、暗き者は全て、汝より離れ去るだろう”……だったか?」

 

 

 言い終えると黒い壁が一瞬にして収縮し、大きな通路が顕になる。

 モモンガはアルベドに「行くぞ」と視線で伝えるとその先へ足を進めた。

 

 

 通路に足を踏み入れ少し進むと、その通路の壁にはディスプレイのように飾られた数々の武具やアイテムがあり、一つとして同じものが無いあたり、コレクター魂で出来たような人の性格が伺えるものになっている。

 

 

 「この先の霊廟が目的地になっている」

 「霊廟、でございますか……?」

 「ん?……お前たちは知らないのか?では、パンドラズ・アクターは?」

 

 「会ったことは御座いませんが、管理上把握しています」と応えるアルベド。パンドラズ・アクターとは、この宝物殿を管理するNPCで、階層守護者や守護者統括と同等の実力と頭脳を持ち、ナザリックの財政面の責任者でもある。

 

 「そして、モモンガ様の御手によって作られた者です……」

 

 心底羨ましそうにそう言うアルベドの迫力に気おされるものの、「う、うむ……」と態度に現れる事はなく、そのままその先へと足を進めた。

 

 

 そこで辿り着いた少し広い部屋。中は殺風景で長テーブルが一つに高級そうなソファが2つ。

 そしてそのソファに腰掛ける者が一人……。

 

 それはこちらに気が付くとぬるりと立ち上がり、モモンガ達と対面する形になる。

 

 

 「なっ……!!?」

 

 その姿を見た瞬間アルベドは驚愕する。

 立ち上がった者の気配、姿がある者と酷似していたからである。

 

 「タブラ・スマラグディナ様!?」

 

 そう、それは、アルベドを含む、ニグレド、ルベドの3人を創造した至高の御方々が一人。

 タブラ・スマラグディナ。この場合、アルベドにとっては父親にも近い存在と言えるだろうか。

 ……が、だからこそ分かる。

 

 「そんな……いや、違う!一体何者……!?たとえ姿や気配を真似ようとも、創造してくださった方までは間違ったりしません!!」

 

 そう捲し立てるアルベドだったが……目の前の異形の者は首を傾けるばかりで何も答えようとはしない。

 そう、答えるつもりが無いのね、とアルベドが結論を出し、ユリに指示を下す。

 

 「……殺せ」

 「で、ですが……」

 

 「もうよい、パンドラズ・アクター」

 

 が、指示を出した直後に、モモンガがその名を呼ぶと目の前の異形の姿形が流動的に動くスライムのように、色まで変化していき、やがて一つの……その者本来の姿へと戻っていく。

 

 「ようこそ、おいで下さいました」

 

 それは黄色い軍服……ナチス親衛隊制服に酷似した軍服を身に纏っており、顔が埴輪のような、つるりとした顔になっている異形。

 カツカツと足音を立てながら前に進み出たその者は恭しく頭を下げ……るのではなく、足並みをカツッと揃え、ビシッとした姿勢で右手を頭に掲げるような形……いわゆる、軍隊における敬礼のような形で忠誠の意を示す。

 

 「私の創造主たるモモンガ様!」

 

 「お、おう……」と、パンドラズ・アクターのやや高め……いやかなり高めのテンションに押されてつい「お前も元気そうだな……」等と言ってしまうが、それに対して「はい!」と覇気のある声で答えられ、続けて、「ところで今回は…………どう、されたのでしょうか?」とかなり溜めながら、大袈裟に問われる。

 

 「ワールドアイテムを取りに来た」

 「おおっ、ワァールドアイテムッ!!世界を変えれぇる!!……強大な力……ッ!!至高の御方々の偉大さの証……!!ナザリックの最奥に眠る秘宝の数々が………………ついに力を振るう時が来たと……?」

 

 言いながら、「お前はそれ一体何回ポーズを変えるんだよ」と言いたくなる程、大袈裟かつダイナミックに言うパンドラズ・アクター。

 モモンガは内心「うわあ……だっさいわぁ……」と身悶えしていた。

 何故ならパンドラズ・アクターを作った本人だからである。

 

 しかしそれも一瞬の事。

 

 「……うむ、『強欲と無欲』『ヒュギエイアの盃』『幾億の刃』『山河社稷図』を持っていくつもりだ」

 「ハッ!承知しました、モモンガ様」

 

 そして、ビシッ!と敬礼をし続けるパンドラズ・アクター。

 ……それを冷たい目で見守るアルベドとユリ・アルファ……。

 

 「(やめてくれ……そんな冷たい目で俺の黒歴史を見ないでくれ……!!

 そうだよ!!服装も言動も皆カッコイイと思って俺が作った設定だよ!!

 ……いや軍服は?今でもカッコイイと思わなくも無いんだけどさあ?)」

 

 あまりの羞恥に、内心で誰に向けているのか勝手に言い訳を始め出すモモンガ、そしてその視線を疑問に思ったパンドラズ・アクター。

 

 「いかが!!なさいましたか!?」

 「(ハァァァァァァ)」

 

 思わず手で顔を覆うモモンガ。

 いや、パンドラズ・アクターは悪くないのである、「そうあれ」と設定された通りの事をしているだけなのだから……。

 そう思い直し、とにかく用事を早く済ませてしまおうと思ったモモンガは「ではいくぞ」と歩を進める。

 それに続くアルベドとユリ・アルファに、パンドラズ・アクターが声をかける。 

 

 「いってらっしゃいませ、モモンガ様、そして……お嬢様方(・・・・)。」

 「お嬢様……?」

 

 思わずその言葉にピクリと反応してしまうアルベド。

 いや、ここでの反応というのは嬉しいという意味ではなくむしろその逆であったが。

 

 「私は守護者統括、ユリはプレアデスの副リーダーです。そのような軽々しい呼び方は慎むよう」

 「私からも是非お願いします」

 

 と女性二人から極寒の冷たい目線と反応が返ってくるが、パンドラズ・アクターはほとんど応えたような様子を見せず……「おお、これは失礼しました……薔薇のように美しくも、可憐なお姿に、つい」「おいちょっとこっち来ーい」

 

 そのままモモンガはパンドラズ・アクターを引きずって壁に追いやった後、いくつか説教……いや、この場合頼みとかお願いという類なのだろうか……。

 

 ともかくその敬礼はやめろ、うん、今のドイツ語だったか?それもやめような!うん!

 

 ……というやり取りを行って、ようやくモモンガとアルベドは宝物殿へと足を進めるのだった。

 

 

 

 ……「っとその前に、アルベド、ユリにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを預けておけ」



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決戦前(2/3)

前回の追記でも書きましたが、前回のこれが最終章っていう一文は作者の消し忘れです!!

もうほんと…………どうせなら美少女に生まれてドジっ子として確立したかった……(血涙


正確には、
【決戦前】~【屍山血河の戦乙女】~【最終章】

となっております。
重ね重ね申し訳ありません。

では本編へどうぞ。


 「ギルドの指輪で転移しないと入る事も出来ない宝物殿……しかし、この部屋に指輪をつけたまま入ると、ゴーレム達に襲われる……と言う訳だ」

 

 モモンガは事前にアルベドに指輪を外させた訳を話しながら歩みを進め、アルベドは説明を聞きながらある疑問を抱き、それを口にした。

 

 「……このゴーレム達は、至高の方々を(かたど)ったものでは?」

 「よく気がついたな……これらは私がかつての仲間達を模して作った物だが……かなり不格好な形だろう?」

 「とんでもございません」

 

 そう、ここに置かれているゴーレムは全て、かつてこの地に居た仲間達を模してモモンガが作った物、そのゴーレム達の体には、その仲間達がモモンガへ「売り払っても構わない」と言って遺していった装備品が持たされている。

 ……ただし、ペロロンチーノのゴーレムとぶくぶく茶釜のゴーレムだけは、転移した初日に装備品を取りに行ったので、今はなにも付けられていない。

 それを見てモモンガは「やはり売り払わなくて正解だった」と内心で笑みを浮かべていた。

 

 「……しかし、霊廟という名前といいこのゴーレムといい……もしや、他の至高の方々は、お亡くなりになられたのですか?」

 「それは……正解ではないな」

 

 正解ではない、と言葉を濁すものの、内心ではそれこそが正解なのではないかと思っていた。

 だがこうしてペロロンチーノやぶくぶく茶釜のように、成り行きではあれ戻ってきてくれた仲間も居る。

 それに、心のどこかでは……かつての仲間もこの世界に来ているのでは、と考えてしまう自分も居る。

 

 そう思っていると、ふとアルベドの悲しそうな目線に気づく。

 

 「どうした?」

 「いえ、何も……」

 

 そんな顔で何でもないと言われてはそれ以上聞く事も出来ない。

 とりあえず話題を変えようと思ったモモンガは、空席の場所を指しながら言葉を紡ぐ。

 

 「空席の場所があるだろう?あそこに、私の像が置かれる予定なのだよ」

 「そのような事はっ……仰らないで……!言わないでください!!」

 

 言い切って、そう返って来てからモモンガは自分の失敗に気づく。

 ああ、今の選択はミスだったと。

 

 「モモンガ様……最後にお残りになられた慈悲深きモモンガ様……どうか、いつまでも私達の上に君臨してくださいますよう、心より、お願いいたします!!」

 

 今の話の流れでは、まるで自分もいつかはここを去ってしまうようではないかと思う。

 ペロロンチーノやぶくぶく茶釜が戻ってきたとは言え、彼らはアルベドにとって「一度はこの地を離れた身」であるという意識が拭えなかったのと、書き換えられた「モモンガを愛している」という設定も相まって、アルベドにとってモモンガこそが至高の方々の頂点に君臨する存在であり、唯一忠誠を誓う相手であった。

 そんなアルベドにとって今の話はあまりに酷な物である。

 

 彼女ら、ギルドのNPCにとって自分の存在意義とは、至高の方々に仕え、僅かでもお役に立つ事、それが成せない存在など存在する意義はない。

 またそれは忠誠を誓う相手が居なくなった場合にも同様、自分たちは「要らない物」だと認識し、絶望に暮れるだろう。

 

 そこまで理解してかしていないのか、モモンガは無言でアルベドの顔を上げさせ、その頬に伝う涙をローブで拭き取った。

 

 「……許せ」

 

 そして、そんなアルベドの悲痛な訴えに返って来たのは謝罪の言葉だった。

 それは、泣かせた事に対して?そんな訳はない。

 自分はいつまでもここに君臨する存在ではないと言われたのと同義だった。

 アルベドはそれを認めようとはせず、「モモンガ様!お約束下さい!私達をお捨てになって、この地を去らないと!」と、悲痛な叫びはより具体的に訴えられた。

 

 「すまんな……しかし」

 「何故!?何故約束して頂けないのですか!?何がご不快なのでしょう!?仰ってくだされば、その要因を即座に排除致します!!もし私が邪魔だと言うのであれば、すぐに自害を!!」

 「違う!!」

 

 叫ぶアルベドに対し強い主張を持ってそれに応え、落ち着かせるように両肩に手を乗せながらモモンガは「聞いてくれ」と続ける。

 

 「ワールドアイテムの効果は絶対だ。その効果を防ぐには、こちらもワールドアイテムを所持する必要がある」

 「だ、だからこそ、ここのワールドアイテムをお取りに来られたのですよね?」

 「そうだ。だがそれは今回の件と、今後件の敵と思われる部隊。ひいては、もしもその大元と戦闘する事があった際に守護者たちに持たせる(・・・・・・・・・・)為だ。」

 「えっ?」

 「実のところ、エレティカを救う手段はあるのだ!」

 

 モモンガはアルベドの肩に手を置いたまま叫ぶように事実を告げる。

 そのことに動揺するアルベドを放って、話が進んでいく。

 

 「ワールドアイテムの中でも、破格の効果を持つ『二十』と呼ばれる二十個のアイテム……その中の一つがこの奥にある……だが、二十は強大な力であるが故に、一度使えば失われてしまう。この世界でもワールドアイテムが存在し、敵と思われる存在ないしこれからの活動において遭遇するかもしれない未知の存在がそれを所持している可能性があると分かった以上、今その切り札を使うのは躊躇われるのだ。……まったく、情けない主人だ」

 「そ、そのような事はありません!ワールドアイテムは、至高の御方々の労力によって集められた物……その価値は、私共よりも高いと思われます」

 

 モモンガの情けない主人だという言葉に対するアルベドの主張も、最もである。

 NPC達は一度失われたとしても、蘇生すれば済む話だ。

 それを抜きにしたとしても、一度使えば無くなってしまい取り返しがつかないワールドアイテムに比べ、その価値を同じ天秤に乗せたとしたら、蘇ることができるNPCと二度と蘇らないアイテムとでは雲泥の差があるだろう。

 最も、モモンガはそうは思っていなかったが。

 

 「アルベド、先のお前の言葉に沈黙で返した理由を聞かせよう。……お前が至高の方という私、そしてペロロンチーノさんとぶくぶく茶釜さんと三人で話し合った結果……”私が単騎でエレティカと戦う”という結論に至った。その為、生きて帰れるかは分からないからだ」

 

 アルベドは驚愕した、そして即座にその言葉に待ったをかける。

 

 「エレティカと戦うのは分かります!放置は最も愚策だということも!しかし!であれば、数で押しつぶせば良いではないですか!!何故御身一人で戦われるというのですか!?」

 

 最もな意見である。しかもモモンガにはかつての仲間であるペロロンチーノやぶくぶく茶釜も居るのだから、余計に一人で戦う理由がわからない。

 その二人がその決断に至った理由も。

 

 モモンガは「違うんだ、アルベド……」とどこか悲しげに呟く。

 この後話そうとしていること、それは本来必要ないことかもしれない。

 それはほとんど愚痴や弱音を言っているのと同義だと考えているからかもしれない。

 だが、理由はなんだと言われては……

 

 「そうだな……理由は4つある」

 

 話さない訳にはいかないだろう。

 

 「一つは、私がお前たちの主人として相応しいのか、疑問を抱いたからだ」

 

 それはアルベドを再度驚愕させるに十分な一言だった。

 他でもない、絶対なる支配者の口から出た言葉とは到底思えない。

 だがモモンガはそんな思考をよそに更に言葉を続ける。

 

 「冷静にユグドラシルプレイヤーが居る可能性について考えるのならば、ワールドアイテムの存在についても考慮すべきだった……こんな抜けた者に、支配者としての資格があるだろうか?」

 「モモンガ様はここにいらっしゃるだけで価値があります!それに、及ばずながら、私共が補佐をさせていただきます!」

 「二つ目の理由だ」

 

 ここに居るだけでいい、そう訴えるが、モモンガはそれに答えることなく次の理由について語った。

 

 「二つ目の理由は、敵の正体が未だ不明であるという点だ。

 そもそもエレティカが単騎でシャルティアの精神支配を肩代わりした際も、エレティカは無事だった、例えばシャルティアが囮であり、周囲に伏兵が潜んでいたなら、何故エレティカは無事だったのか?」

 

 そう、もしもあれが罠だったら何故敵はエレティカを襲わなかった?

 一人で行ったから伏兵を警戒された?

 だとしたらエレティカを追い、そしてシャルティアを回収したペロロンチーノは?

 突然の出来事に動揺したシャルティアとペロロンチーノは隙だらけだった、エレティカの攻撃も相まって、襲撃するには絶好のタイミングだった筈だ。

 

 よって、罠であるという可能性は低くなった。

 だがそれも、低いというだけで、考えられる最悪のケースならいくらでもある。

 

 例えば既にナザリックの位置がバレている場合。

 

 ここでもしエレティカの討伐に人員を割いて大人数で向かったら、その隙をついてナザリックに攻め入られる可能性はないだろうか。

 そうなってからでは遅い。瞬時に敵の襲来を伝達し、エレティカの件を置いて転移するにしても、転移を妨害する魔法だって存在するのだ。

 

 であるならば、エレティカの討伐へは単騎で挑み、敵に伏兵の存在を警戒させ、その上でナザリックの守りは健在であるという可能性も警戒させなければならない。

 

 「三つ目に……この事は既に、現在居る私、そしてペロロンチーノさん、ぶくぶく茶釜さんの三人で話し合いを行い、多数決で私に決定したからだ。故に、私が単騎で行く事はもう変えることは出来ない」

 

 アインズ・ウール・ゴウンは元々多数決制だ。

 元より癖の強い者達が集まったギルドであるし、衝突は一度や二度ではなかった。

 その為、ギルドでもしそういう事があったなら、多数決で決めるのが定例となっていたのである。

 

 そして多数決で決まった、とはいったが、三票揃ってモモンガで決まったわけではなく、当然反論はあった。

 1票はペロロンチーノ自身が自分に、残り2票はモモンガとぶくぶく茶釜とでモモンガに決まったのである。

 

 ペロロンチーノの主張は「俺はあの子の親だ、子が道を違えたなら親がそれを正すのが道理だろう」というものだったが、逆にぶくぶく茶釜は「親子で殺し合う奴があるか」という主張で、ただし自分ではエレティカを倒せるほどの決定打が無いという事と、立場というか気持ちの上で彼女……エレティカの叔母であるので、自らの主張の上で、自分が殺すというのはおかしいという気がした。

 

 なので、実力と実績を知る限りでは確実に倒せるであろうモモンガだったのだ。

 

 「そして最後に……エレティカを殺すからだ」

 

 「ならば!!ならば私が行きます!!私がエレティカを殺します!!」

 

 アルベドはそう訴える、が、モモンガはそれに対して冷ややかに、「お前に勝算はあるのか?」と問う。

 

 「それは……」

 「……エレティカは強い。一騎打ちでエレティカに勝てるのはナザリックで私だけだ」

 「確かに、モモンガ様の武装ならば勝てるかもしれませんが……」

 

 アルベドとエレティカは同じ100レベルだ。

 だが、勝算はほぼ無いと言っていいだろう。

 ……だがそれはモモンガにも言えることだ。

 例え武装で固めても性能差が開いていては同じことなのではないだろうか。

 

 「エレティカはシャルティアと同様、戦闘用に特化された構成であり、素早さに特化した『シャドー・ロード』、肉弾戦でいうならシャルティアよりも上……。つまり、単騎で戦った場合、MPが切れたら戦えなくなる私の方が不利、そう言いたいのだろう?」

 「恐れながら……」

 

 幸いなのは、姉妹で一つの層を守護するということで、シャルティアはアンデッドに特化した信仰系マジックキャスターであるのと反対に、エレティカは対人間種用に特化した滅びの姫(プリンセス・オブ・フォール)という職業を持っているという点だ。

 

 そう考えるとシャルティアより脅威度は落ちるかもしれない。

 

 残る脅威を考えるとするならば、彼女はギルドのNPCで無いからか普段から他のNPCに無い行動を良く取ることがあり、また彼女のキャラクターとしての設定を知らないという点であるが……。

 

 「その考えは正しい……しかし間違えてもいる……お前たちの知識は与えられたものにしか過ぎないのだな……」

 「えっ?」

 

 「ナザリック最高の支配者とお前たちが呼ぶ存在が……

 

 

 

 伊達では無いことを教えてやろう

 

 

 

 性能差だけで私に勝てるものか。そして何より、私とペロロンチーノさんは仲が良い!……戦闘は始まる前から終わっている……という事だ」

 

 

 それは、強い意思を持った、勝利の宣言。

 不利だからなんだというのだ、性能に差があるからなんだというのだ、お前の親であるペロロンチーノさんとは今でも(・・・)仲が良いんだぞ、と。

 

 その強い力を持ち、赤く揺れる瞳に、アルベドはもはやそれを止めようとは思わず、不敬にもその力を疑ってしまったことを恥じている程であった。

 

 「最早お引き止めはしません、ですがお約束下さい……必ずこの地に帰ってくると」

 

 アルベドの顔にもはや涙は無く、対するモモンガの心にも、もう迷いはなかった。

 

 

 

 

 「約束しよう……私はエレティカを倒し、友の待つこの地に……再び戻る」





概ね原作の流れと同じ感じになってしまいましたが、ここは変に変えないほうがいいかな、と、ちょっとした補足だけつけた感じにしました。

(前回残り二人の至高の方が出なかったのはここのゴーレムの装備を売らなくてよかったとかそういう下りとかがやりたかったからです)


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決戦前(3/3)

 エ・ランテル近郊の森、その森を一望できる崖の上で、ゲートが開かれ、そこから一人のオーバーロードと、それに仕える三人(・・)の使者。

 

 モモンガ、その後ろにアウラとマーレ、そしてシャルティアであった。

 

 「お前達とはここで別れるとしよう、その後周囲の偵察に入れ」

 「はい「でありんす」

 「ただし、敵の数が同数以上である場合は、即座に撤退せよ」

 「……かしこまりました」

 「いいな?絶対に撤退せよ」

 

 二度に渡る撤退しろとの命令は、微かに、彼女らの心に「もしや自分が弱いから、力不足だからなのでは?」と不安を募らせる。

 

 「それもまた、私の計画の一環なのだから。それに、お前たちに預けた山河社稷図と強欲と無欲はナザリックの秘宝の一つであり、加えてシャルティアに預けた傾城傾国(・・・・)は、今ナザリックが保有するワールドアイテムの一つ。絶対に奪われてはならない、場合によってはお前達の命より重い物と知れ」

 「はい!」

 

 言葉は厳しかったものの、それは自分達にそれだけ重要なものを預けるだけの力量があると見てくれていると考えた三名は先程よりは顔色も声色も明るい物で、募らせた不安はなかった。

 

 「(しかし、まぁやはりというべきなのか、魔法で視認はしていたが、シャルティアを支配した敵の部隊とやらは未だ姿を見せず、か……一体奴らは何が目的なんだ?)」

 

 そこで、決戦直前になって「まてよ?」と脳裏にちらつく一つの可能性に気づく。

 

 「(もしやその敵の部隊とやらは、他の目的があったのではないだろうか?そこに、たまたまシャルティアとペロロンチーノが居て、運悪く遭遇戦になってしまった……って、いくらなんでもそれはないよな。ワールドアイテムを所有する組織同士が”偶然で”対峙するハメになるなんて、一体どんな確率だよ)」

 

 自身の考え、しかしそう考えれば全ての辻褄が合う上に、自分達もまたゲームの世界から転移するなどという可能性では考えられないような体験をしているのにも関わらず、モモンガは「そんなことありえないだろ」と一蹴し、目の前の、エレティカとの戦いに集中しよう、と頭を切り替えた。

 

 

 

 

 一方で、ナザリックでは、そんなモモンガの様子を魔法でモニターし、見守るために集まっている者達が居た。

 テーブルとその魔法を挟んで、コキュートス、アルベド、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノ、そしてそこにもう一人、任務から戻ってきた者が加わる。

 

 「只今戻りました」

 

 それは、デミウルゴスである。

 彼は疑問だった。

 何故モモンガ、至高の御方をたった一人で向かわせたのだろうかと。

 そしてこうも思っていた。

 当然それに応える、”私が納得できる答え”は用意されているのだろうな、と。

 

 デミウルゴスはペロロンチーノに「ここに座れ」と言われ、不敬かと思ったが時間が惜しく、言われたとおりに、ペロロンチーノの隣へ腰を下ろした。

 

 「話を、聞きましょうか」

 「モモンガとの話は先程メッセージで伝えたと思うが?」

 

 ただし返って来たペロロンチーノの言葉は彼の疑問を晴らすには不十分であった。

 確かに聞いてはいたがそれに対し疑問を持っているのだから。

 

 「……何故、お一人で行かせたのですか?」

 「お前達が至高と呼ぶ私達が三人で決めた事だ、今更この計画に変更は許されない」

 

 次にぶくぶく茶釜がそう答えた。

 今更お前がどれだけ喚こうが騒ごうが、この計画に変更は許されないとも加えて。

 だがデミウルゴスは更に食い下がった。

 

 「……罠があれば私が囮になればいい、伏兵など下僕が全員でかかって押しつぶせばいい、例えこの場所に敵が攻めてきたとしても、それでも尚、戻ってくるだけの時間を稼ぐ位の足止めには十分すぎるほどの戦力がナザリックにはあります。それはモモンガ様も承知しているハズ……恐らくは嘘をつかれた。その深淵なるお考えは理解出来ませんが、それは至高の御方であるお二人や宝物殿に同行したアルベドも気づいているハズです!」

 「デミウルゴス」

 

 それは強い言葉での、叱責にも似た強い口調だった、ペロロンチーノの怒りが垣間見える程の。

 

 「お前、我がアインズ・ウール・ゴウンの絶対支配者たるモモンガを侮っているのか?あの男が、たかだか傭兵NPCの一人如きに敗北するとでも?」

 「そ、それは……」

 「見くびるなよデミウルゴス、あの男は「殺す」と言えば殺す男だ、相手が誰であろうと、アルベドの話ではわざわざ約束まで取り付けたらしいじゃないか、エレティカを殺し、この地に再び帰ってくると……であればお前はそれを信じるべきだ」

 「……かしこまりました……先の失言、お許し下さい」

 「許そう、下僕の主人を想う気持ちから出たものだからな」 

 

 デミウルゴスはもはや何も言えなかった。

 感情論ではあるが、至高の御方であるペロロンチーノからそう言われてしまえば、彼は頭を縦に振るしかない。

 

 「安心しなさいデミウルゴス、お前の考えは分かっている。この地に支配者が不在となるのを恐れているのでしょう?仮に彼が帰ってこなかったとしたら、その場合、私が彼の代わりを務めるから。これも三人で話して決めた事よ」

 「それは……!そうですか……いえ、そうであるならば、私からはもう何も言うことはありません」

 

 唯一の懸念であった支配者の不在はありえないとぶくぶく茶釜によって宣言された。

 そして彼が死んだ場合自分が代理、いや、次の支配者を務めるとも。

 

 元よりぶくぶく茶釜はギルド結成時から存在する古株。見た目こそアレだが、プレイヤースキルはギルドの中でも高いと言えるプレイヤーであり、高度なゲーム知識に裏打ちされた的確な判断はトップクラス、指揮官としてチームを纏めていた事もあった彼女は、次の支配者として十分な裁量は持っている。

 

 まぁ本人としてはそんな気はさらさら無い。

 蘇生云々を抜きにしてもモモンガはここに帰ってくる。

 必ずモモンガが勝つと確信しているからだ。

 

 魔法によるモニターに映るモモンガに目を移せば、丁度エレティカの元にたどり着いた瞬間であった。

 

 

 「(馬鹿だよなぁ……)」

 

 そこでモモンガは、改めて自分の今やろうとしていることの愚かさを噛み締めていた。

 

 「(もっと上手くやる手段は知っているんだけどな……)」

 

 本当のところを言うなら、モモンガは後衛職であるので、そもそも単騎でエレティカと戦おうとすること、それ自体が間違いなのである。

 

 本来モモンガの戦闘スタイルは、アンデッドモンスター等を召喚して戦うという典型的な後衛職である。ならば今回も、と思うかもしれない。

 だがそうも行かない理由がある。 

 

 姉妹であるシャルティアには、「ダメージを与えるとその分自分の体力を回復出来る」という凶悪な効果を持つスポイトランスと呼ばれる武器を持っている。

 そしてその姉であるエレティカには、名前を【血で血を洗う】というハルバード、その性能は「敵に勝利すると、敵のレベルや状態に関係なくHPが全快する」という凶悪なものであるのだ。

 

 この為、召喚するなら彼女を仕留められる程のアンデッドを喚び出す必要があるのだが、上位アンデッド一匹では彼女を止められない、かといって四匹出したとしても、それを一匹ずつ仕留められては同じことだ、「数で押しつぶせば良い」、この言葉に「それは違う」と言った理由もこの武器が一因を担っている。

 

 シャルティアと違い魔法職を支援系以外取っていないエレティカだったので、唯一そこに活路を見出すとすればスキルを使い切らせることだったが……魔法を使わない分スキルの数も多い。

 

 それを使い切らせるとなると上位アンデッド四匹(一日に召喚できる上限)では足りない、中位程度では足止めにもなりはしない。

 

 

 

 つまり、その他の事(・・・・・)で勝つしかないのだ。

 

 だから、本来ここでモモンガが取るべきなのは、彼女を自分が召喚出来る上位アンデッド上位の存在、それこそ守護者達等で前衛を固め、HPを削ったら一気に討ち滅ぼす、これが最善である。

 

 「(それに、これは博打だ。)」

 

 さらに言えば例え勝ったとして……エレティカをユグドラシルと同じ方法で無事に蘇らせられる保証等どこにある?

 元よりユグドラシルでの法則が効かない部分も多々ある。

 シャルティアの配下であるヴァインパイア・ブライドのA子やB子はシャルティアが精神支配から開放された後に従来の方法で蘇ったが……。

 傭兵NPCである彼女はどうだろうか?元より他のNPCと違う面を多々持つ謎のNPC……考えてみればモモンガは彼女の本来の設定すら知らないのである。

 まかり間違ってモモンガ自身が敗北し、死亡してしまう可能性もある。

 その場合自分はちゃんと蘇生出来るだろうか?

 

 「(そんな状況で、生死をかけた戦いをしようというのだからな……でも……)」

 

 

 脳裏に蘇るのは、アルベドの必死の訴え。 

 

 『私がエレティカを殺します!!』

 

 そして、ペロロンチーノの悲痛な叫び。

 

 『俺がしっかりしていればシャルティアも、そしてエレティカも、こんな事にならなかった……エレティカは俺が殺すべきだ。彼女を従える者として、支配者として、親として』

 

 「(そんな姿、見たくないんだよ……仲間同士のお前達が殺し合う姿を、親が子と殺し合う姿を……それに)」

 

 モモンガは決意を改めて、身に纏うローブを靡かせながら宣言する。

 

 「私は、アインズ・ウール・ゴウンの絶対なる支配者、モモンガ!ならばその名にかけて、敗北はありえない!!」

 

 そして、遂に戦闘準備を始める。

 

 「《ボディ・オブ・イファルジエントベリル/光輝緑の体》」

 

 一瞬、モモンガの身体に、輝く緑色の膜のような物がモモンガを包んでいき、淡く光り続ける。そして……。

 

 「フフ、やはりな……完全な敵対行動を取らない限り、戦闘準備にすら入らない……まるでゲームだな?……ならばエレティカ、悪いが戦闘開始まで、そのまま待っていてもらうぞ?」

 

 そう言って行われるのは、次々に使用される自身を強化する魔法、そして罠やディレイといった対策の魔法のオンパレード。

 

 「《フライ/飛行》

 《ブレスオブマジックキャスター/魔法詠唱者の祝福》

 《インフィニティウォール/無限障壁》

 《マジックウォード ホーリー/魔法からの守り 神聖》

 《ライフ・エッセンス/生命の精髄》

 《グレーターフルポテンシャル/上位全能力強化》

 《フリーダム/自由》

 《フォールスデータ ライフ/虚偽情報 生命》

 《シースルー/看破》

 《パラノーマル・イントゥイション/超常直感》

 《グレーター・レジスタンス/上位抵抗力強化》

 《マント・オブ・カオス/混沌の外衣》

 《インドミタビリティ/不屈》

 《センサーブースト/感知増幅》

 《グレーターラック/上位幸運》

 《マジックブースト/魔力増幅》

 《ドラゴニック・パワー/竜の力》

 《グレーターハードニング/上位硬化》

 《ヘブンリィ・オーラ/天界の気》

 《アブショーブション/吸収》

 《ペネレート・アップ/抵抗突破力上昇》

 《グレーター・マジックシールド/上位魔法盾》

 《マナ・エッセンス/魔力の精髄》

 《トリプレット・マキシマイズ・マジック・エクスプロードマイン/魔法三重化・魔法最強化・爆撃地雷》

 《トリプレットマジック・グレーター・マジックシールド/魔法三重化・上位魔法盾》

 《トリプレット・マキシマイズ・ブーステッド・マジック・マジック・アロー/魔法三重化・魔法最強化・魔法位階上昇化・魔法の矢》

 

 

 ……さぁ、行くぞ?」

 

 次の瞬間、モモンガの周りにドーム状に魔法陣のようなものが形成され、天にまで届く光の柱のような物が立ち上る。

 

 そしてそれは下僕の目にも映る。

 

 「あれは……?」

 「た、多分、超位魔法だよ……」

 「初手から超位魔法を……?」

 

 「ほう、初手からそれを使うか……」

 「魔法というよりは、スキルに近い物ですよね?」

 「MPノ消費ガ無イガ、連射ガ効カナイ超位魔法ヲココデ使ウトハ、思イ切ッタ戦術ダ」

 「恐らくはエレティカのHPを早めに削っておきたいとのお考えなのでしょうが……」

 「ん?あれは……」

 

 そこでぶくぶく茶釜とペロロンチーノが、モモンガの取り出した物が何か気づく。

 

 「ああ、成る程……」

 「そういうこと、モモンガさんも人が悪い……」

 「……?あれが何か……?手に巻き付いているのは何か見えませんが……あの木の棒は一体?」

 「見ていれば分かるよデミウルゴス、フフ……」

 

 やけに余裕の声だ、先程までとは打って違って……あれを出した途端、「どういう戦法で戦うのか?」と注視していた雰囲気が、既に「ああそうやるのか」と安心したような、面白くてたまらないような声色に変わっていた。

 もしや、もうモモンガ様が勝つと確信していらっしゃるというのか。

 

 そして、モモンガを中心に展開された超位魔法が、ついに発動する時を迎えたのか、更に大きく展開し、まるで爆発寸前といった様子であった。

 

 「いくぞエレティカ!超位魔法、《フォールンダウン/失墜する天空》!!」

 

 その日、エ・ランテル近郊の森に、巨大な光の柱が立ち上る。

 それはまるで天空がそのまま崩れて墜ちて来たような激しい衝撃を生み出し、あたり一帯を飲み込んだ。

 

 

 決戦が始まった瞬間である。



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屍山血河の戦乙女(1/2)

 しばらくして、光の柱……超位魔法、《フォールンダウン/失墜する天空》がもたらした破壊による光と砂煙が晴れ、そこに一人のオーバーロードと、それに対峙する一人の戦乙女が戦闘準備を終えてそこに立っていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 それは騎士というより狂戦士であった。

 自分の身丈より遥かに巨大な全長と、切っ先で禍々しい髑髏を貫き、生命のように血肉を纏い、生きているかのように鼓動するハルバード、「血で血を洗う」を、小枝でも振るうかのように軽々と持ち上げている。

 全身の装備は赤黒く、所々に黄金の輝きを放つアクセントが加えられたデザインの鎧は彼女の為に存在し、彼女を絶対な堅牢さでもって守護すると思わせる重々しい物であった。

 (ただし製作者の趣味により、ちょくちょく肌が露出している)

 

 攻撃を受けたエレティカは今まで微動だにしなった身体を震わせて、顔を歪めた。

 

 

 ……顔を歪めた?

 

 

 「いッッッたーーーーーーい!!!」

 

 それはその場にいた、そしてそれを見ていた誰もが予想外の反応、顔を歪めながら苦痛を訴える悲鳴であった。

 

 「なんッて事するんですか!!!死んだらどうすんですか!!この馬鹿!!!!」

 「馬ッ……!?もしや、素の性格か?」

 「そうですが、何か?」

 「いや、何度見ても普段のお前とは随分違うなぁと……」

 「幻滅しました?」

 「いいや全く。普段のかしこまった態度より良いと思うぞ」

 

 エレティカの、普段は絶対に見せない”素”の反応に、一見冷静なようで面を食らっているモモンガとそれを見ている下僕達。

 

 始めて彼女の素を見た数名は目が丸くなっていた。

 

 「嬉しい事言ってくれますねぇ……でも一発は一発ですからね!」

 

 それはまるでただの少女のような、それこそ女子高生位の、明るい性格の女の子に見えただろう、それが完全な武装をした100レベルのトゥルーヴァンパイアじゃなければの話だが。

 

 エレティカが姿勢を屈め、クラウチングスタートのような体制に入ったと思うと、まるで銃声、あるいは何かの破裂音のような乾いた後を立てて姿が消える。

 

 「(早い!)」

 「くぁっ!?」

 

 しかし、彼女の進行方向には事前に仕掛けた罠、 《トリプレット・マキシマイズ・マジック・エクスプロードマイン/魔法三重化・魔法最強化・爆撃地雷》が仕掛けてある。

 対するエレティカは罠に引っかかったものの、いち早くそれを察知し、腕で防御の体制を取った為、大したダメージは入らなかった。

 

 「言い忘れていたな……このあたりには罠を仕掛けさせてもらった、飛行で飛んできたらどうだ?」

 「そうですか?でもぉ……それ、嘘ですよねぇ?あのモモンガ様が大した効果の無い魔法にMPを割く訳ないじゃないですか、妹ならともかく私は騙されませんよ?」

 「……フッ、そうか、バレバレか」

 「えぇ、バレバレです」

 「(嘘だろ、本気で全部バレてる……!!)」

 

 当然である、エレティカは既に一度この戦いを……正確には正規ルートであるシャルティアとモモンガの戦いを幾度となく見ているのだから。

 ……今、何故かその事を忘れて突っ込んでしまったが……。

 

 「(すっかり忘れてたなぁ、この後は何が起こるんだったっけ?)モモンガ様こそ、本来は後衛職なのですから、上位アンデッドでも創造して後ろから戦ってはいかがですか?その綺麗なお顔に傷を作りたくはないでしょう」

 「おっと、そうは行かんぞエレティカ、私がお前の持つ武器の効果を忘れているとでも思ったか?」

 「そうですか、では気の毒ではありますが、お一人で頑張ってくださいね」

 

 そう、エレティカの持つ「血で血を洗う」がある以上、下手な戦力では愚策に成り得ない故、モモンガは一人で戦うしかない。

 

 「では、いくぞエレティカ」

 「あらあら、絶対なる支配者であるモモンガ様が「いくぞ」なんて仰ってはいけませんよ?そこは「どこからでもかかって来い」位の事を仰らなくては」

 「そうか?そうかもな……ところで、何故お前は私を「様」付けで呼ぶんだ?」

 

 「これはおかしな事を、主人の友人たるモモンガ様を様付けで呼ぶのは当然……………待って、何かおかしい、私は大切なことを忘れている?……この事を……こうなる事を知っていた?……そして、その為に……いや、どうでもいいか、今は……”攻撃を受けたからには全力で滅ぼさなくては”」

 

 「……そうか、理解した(お前の状態は、な)」

 

 そしてもう一度エレティカの突進……今度は手に持ったハルバードで斬りかかりながら超高速で突っ込んでくる。

 が、そこを見切り、「甘い!《マキシマイズマジック・グラビティメイルシュトローム/魔法最強化・重力渦》!!」と、黒ずんだ紫色の球体を放つ。

 途中で方向転換し、それから離れるエレティカ。

 

 「《マキシマイズマジック・ホールド・オブ・リブ/魔法最強化・肋骨の束縛》!」

 

 そして、そのエレティカの着地点を中心に彼女を閉じ込める形で巨大な骨のドームが形成され、こんな物に捕まるものかと、易々とそれ形成し切る寸前で上空に飛び立ち脱出する。

 だが、モモンガの狙いは閉じ込めることではなく、その脱出した瞬間である。

 

 「《ドリフティング・マスターマイン/浮遊大機雷》!!」

 「くっ!」

 

 それを魔法、《シャドー・ダイブ/影への侵入》で影の中へ逃げ込むエレティカだったが、それを許さない。

 

 「《マキシマイズマジック・アウトラル・スマイト/魔法最強化・星幽界の一撃》」

 「グッ!」

 

 非実体化した物に対して効果を発揮する魔法の一撃、その何発かがエレティカの身体に突き刺さる。真っ黒な影となった身体だったが、それは影に潜る前に実体化する。

 一見なんのダメージを受けていないように見えるが、僅かに吐血したように口から血が流れ出ているのが、良い証拠となっていた。

 

 「《サウザンドボーンランス/千本骨槍》!」

 

 畳み掛けるようにモモンガの攻撃は続く。

 エレティカを中心として、その三六〇度あらゆる角度から同時に骨で生成された槍が猛スピードで攻撃を仕掛ける、が、「《変わり身の影》」というスキルを発動し、エレティカの身体は攻撃を受けた後、そのまま影となって消える。

 

 変わり身で攻撃を回避すると同時に影の中へ退避する、シャドー・ロードのスキルの一つである。

 

 「《影の牢獄》」

 「チッ……《グレーター・テレポーテーション/上位転移》!」

 

 影に逃げたエレティカからの、相手を捕縛しつつ呪いのダメージを与えるスキルから逃れるためにモモンガが転移を行い、空中へ逃げる。基本的に影からの攻撃は空中に居る敵に弱いからだ。

 逃げたモモンガを追って高速で影から這い出し、攻撃を加えんとするエレティカ。

 

 「そこか!」

 「スキル!《不浄衝撃盾》!!」

 「何っ……ぐあっ!!」

 

 不浄衝撃盾、妹であるシャルティアも使う、攻撃と防御を同時に行うことが出来るスキルの一つだ。

 

 「フッ、今のはスキルか?見たことも無いな」

 「あらあら、昔はレベリングの為に、貴方様の前でも何度か使ったことがあるのですが、忘れてしまわれたのですかぁ?」

 「(うっ、流石にちょっと厳しいか?)そうだったか?」

 「……いいでしょう、忘れてしまったと言うならもう一度教えればいいのですから」

 

 そう言いながら、右手でスキルを発動する。

 それは光りながら高速で回転する大きな斧のような形の物であった。 

 

 「いいですか?これはシャルティアの持つ清浄投擲槍と同じ種類のスキル、清浄投擲投斧(せいじょうとうてきふ)といいます。神聖属性を持つ魔法扱いの武器なので、モモンガ様にはちょっと痛いかもですから、頑張って避けて下さいぃ……ぃねっ!?」

 「マジックキャスターにスキルを避けろとは、無茶を言うものだな……!!」

 

 「ね」で投げられたそれはアーチ型に旋回しながらモモンガの身体へと吸い込まれるように投擲され、モモンガの身体を斬り付ける。

 

 「ぬがぁっ!!」

 

 「(大した演技力ですねぇ、モモンガ様……!本当はそんなに効いていないのでしょう?でも、ここは騙されたふりをしてあげますよ!)

おやおや、大丈夫ですか?だから避けてくださいと言ったではないですか!

 

(…………ん?何故騙されたふりをしなければならないの?……まぁいいや)」

 

 

 ちなみに、ここで避けろというのは例えモモンガがマジックキャスターでなかったとしても不可能である。

 このスキルも清浄投擲槍同様、MPを使えば必中効果を付与することが可能であるからだ。

 ちなみに清浄投擲槍との違いは、その演出(エフェクト)と、刺突ダメージか斬撃かと、清浄投擲斧の場合は同時に二つ投げる事が出来る点である(その場合回数も二つ減るのだが)

 

 「まだまだ行きますよ!《清浄投擲斧》!」

 「舐めるな!!《リアリティ・スラッシュ/現断》!!」

 

 先程と同様に投擲された清浄投擲斧を食らうモモンガだったが、それと同時に放った空間そのものを斬り付け、景色がズルリと滑り、エレティカの胴体から大量の血が吹き出る。

 だが、その大きなダメージとなったと思われる一撃は、エレティカのスキルによって、まるで水面を叩いたかのようにぐにゃりと揺れ、元に戻ったときにはダメージも無かったことになってしまっていた。

 

 「ただの回復ではないな?何をした!」

 「スキル、《水の月》ですよ。もしかして、わざとやってますかぁ?そんなに私に興味が無かったなんて、悲しいです。くすん」

 「……それは本音か?」

 「もちろん」

 

 あからさまに悲しいですという反応に一瞬「どう見ても嘘だが、それはそれで、興味を持たれなかったとしても悲しくもなんともないという事実になって悲しい……」と思いつつ、再びモモンガは魔法を放つ。

 そして対するエレティカもまた同じ清浄投擲斧だ。

 

 ……これでエレティカが今日撃てる清浄投擲斧の回数が0になった。

 

 「(でも、MPはだいぶ削れている……随分と減っているように見えるHPは偽装だろうけどね……そして私にはまだ攻撃出来るスキルはいくつか残ってる……)《イクスプロージョンサークル》!」

 「《トリプレット・マキシマイズマジック・コール・グレーター・サンダー/魔法三重化・魔法最強化・万雷の撃滅》」

 

 モモンガが魔法を発動すると、一瞬でエレティカに向かって雷の魔法が牙を剥く。

 たいするエレティカのスキルはモモンガの居る地点を中心に爆発を起こすスキル。

 それは炎属性によるものであり、炎属性はモモンガの弱点でもあった。

 

 ただし、その威力はMPの付加量に比例する。

 彼女のMPは(彼女の基準では)決して多いと言えるほどではない為、連発は出来ない。

 

 「キャアァァ!!」

 「くっ……!!(くそっ、いってぇ!!!だが、ここは悟られないようにせねば……!!)」

 「……(うわぁ痛そー)おやモモンガ様?炎への対策は?」

 「……弱点を補うのは基本だろう?」 

 

 

 「(……ここで本来なら騙されて神聖魔法を使うべきなのでしょうが……生憎私は信仰系マジックキャスターではない為、スキル以外での攻撃は出来ない。かといってスキルで攻撃したとしても、魔法で対応されて魔法戦に持ち込まれてはモモンガ様の方が圧倒的に分がある。ならば……直接攻撃あるのみ!…………はて?別に騙されていないのならもう一度炎属性の攻撃をすればいいだけなのでは?まぁいいか)」

 

 本格的にハルバードを構えたのと同時に、モモンガが防御魔法をかける。

 「いい判断です」と心の中で賞賛しながら、エレティカは地面を蹴ろうとする。

 だがしかし、刹那聞こえてきた声によって、その足はすんでのところで止まってしまう。

 

 「……まったく、なんて不利な戦いなんだ……」 

 「……なら、逃げればいいじゃないですか?」

 「まぁそうなんだけどなぁ……私は……そう、非常に我が儘なんだよ、エレティカ。逃げたくないんだ……誰にも理解されないかもしれないが、私はこの瞬間にギルド長としての満足感を得ているんだ。何だろうな……

 

 私は……いや俺は、ギルド長の地位にあったが、基本的にやっていたのは実務や調整だ。だが今の俺は、ギルドの為に戦闘で戦っている。

 

 ……自己満足かもしれないな」

 

 「……モモンガ様は、自分の事を我が儘だと仰言いましたが、それは私も同じ事です」

 「何?」

 

 

 「妹と仲間や親が殺し合うのを見るのも、かといって自分の手で殺すのも嫌だからという理由で、ナザリックに反逆行為にも等しい行為を行っているのですから」

 「エレティカ!?お前……!!」

 

 モモンガにとってそれは驚愕するに、驚愕で全身が雷に撃たれたかのような衝撃を受けるに十分な言葉。

 エレティカは、精神支配状態でありながら、自らが行っている行為、そして置かれている状況について理解したのだ。

 

 無論、「エレティカの強い精神がうんぬん」という精神論ではない。

 

 これは、原作知識によるものだ。

 

 エレティカは最初戦いながら、この戦いに既視感を覚えていた。

 初めに突っ込んでから違和感を覚えた。

 この戦いはどこかで見たことがある。

 こうなる事を私は知っていたはずだ、と。

 そしてモモンガと相対するのは本来自分ではなく、シャルティアだったハズだが。

 

 妹が”精神支配”によってナザリックに敵対し、それを殺す為にモモンガが戦うという本来のシナリオ。

 

 だが思い出せるのは、”それが起こってから、本来はこうだった”という事のみ。

 次にモモンガがどんな一手を繰り出してくるのか、それが思い出せなかった。

 

 そして思考すらも、目の前の敵を打ち倒すためにはどうすればいいか。

 それだけを冷静に分析して考えている戦闘マシーンと化しており、今でもエレティカは本気でモモンガを殺そうと、その原作知識すら利用している。

 

 だが、今、自らの心中を吐露するというモモンガの行為は、結果として一瞬だけエレティカの霞んだ脳を戦闘から切り離すことに成功した。

 

 ただし思い出したのはあくまで今までの事。

 

 未だに、原作でこの後どうなったのか、シャルティアが勝利したのか、それともモモンガが勝利したのか、それすらも思い出せないでいた。

 シャルティアが精神支配を受ける前後の出来事を覚えていなかったように、エレティカもまた精神支配を受け、いくつか記憶が飛んでいるのだ。

 

 原作知識を有して、モモンガのそれが演技だと分かっていながらそれに乗るのは、単純に「原作にないルートへ行くと原作知識を活用することができなくなるから」というただそれだけの理由である。

 

 

 自らがこうなる前に事前に何年も時間をかけて手を打っておいた、”最後の安全装置”の事すら今は忘れてしまっている。

 

 

 一方でモモンガはそれを聞いて驚愕していた。

 

 NPC同士で殺し合うのも、親子同士で戦うのも見たくないという自分と全く同じ理由がこの反逆行為の理由だったからだ。

 仲間同士で殺し合うのを見たくない。そしてそれに加えてエレティカは、自分の手で殺すのも嫌だと言った。

 

 それが彼女が反逆行為に等しい独断専行に走った理由……。

 

 そして、彼女がこの戦いにおいて本当に望んでいるのは、自身を俺に殺してもらうという事であると、理解してしまった。

 

 

 

 「無駄話はこれくらいで十分でしょう?では行きますよ、モモンガ様、せいぜい死なないで下さいね?《眷属召喚》!!」

 

 

 そして、先程も言われた「避けてくださいね」や「死なないでくださいね」が、挑発などではなく、彼女の本心から来る言葉だと知る。

 

 

 「……チッ、《シャークスサイクロン/大顎の竜巻》!!」

 

 エレティカはシャルティアと同様、トゥルーヴァンパイアであるため、そのスキルである眷属の召喚もスキルとして行う事が出来る。

 それを見て、一斉に排除することが可能な、大きな竜巻を巻き起こす魔法を行使するモモンガだったが、それに視界を遮られてしまう。

 

 「(《オーバーヘイスト/限界加速》そして《タイム・アクセラレーター/自己時間加速》!!)」

 

 そしてエレティカがその隙を見逃すはずもなく、所有する数少ない魔法の一つ、自分と自分の体感時間を加速させる魔法を行使し、限界まで自分の速度を底上げし、先程の突進より更に早く、竜巻を突き抜け、ハルバードを振りかぶる。

 

 「加速したか……!!」

 そのままハルバードの刃がモモンガを斬り付け、鉄よりも強固な骨であるモモンガの身体に刃が振り下ろされ、金属でも叩きつけたかのような甲高い音が鳴り響く。

 

 「くっ……!《ボディ・オブ・イファルジエントベリル/光輝緑の体》発動!」

 

 しかし次の瞬間発動された魔法によりモモンガの姿がブレ、刃の届かない程度の後方へとモモンガの位置がずれ、一瞬ではあるがエレティカの体勢が崩れる。

 エレティカのスピードではほんの一瞬が命取りである。その隙を逃す手はない。

 

 「《グレーターマジックシール/上位魔法封印》、開放!」

 「ぐぬぅぅぅぅ……!!」

 

 この魔法により、エレティカの数少ない自身を強化する魔法を封じられる。

 そして今現在働いている魔法の効果も、永久ではない。

 効果が続いているうちに!と、ダメージを負ったもののそこで踏みとどまり、再度ハルバードを叩きつける。

 

 「ぐあぁっ!!!……くっ、《フライ/飛行》!!」

 「逃がすかぁ!!」

 「《トリプレット・マキシマイズマジック・リアリティ・スラッシュ/魔法三重化・魔法最強化・現断》!!」

 

 すかさず追撃を加えんと高速で飛び上がるエレティカに対し、三重化、最強化した一撃を放つ、が、エレティカの勢いを止めるまでには至らず。

 

 「《不浄衝撃盾》!!」

 「ぐあぁぁっ!!」

 

 本日二度目の不浄衝撃盾……エレティカはこれでもう不浄衝撃盾を使うことはできなくなった。

 

 地面に叩きつけられるモモンガ、そしてそこに降り立つエレティカ。

 だが、今ので魔法による強化の時間は切れてしまったらしい。

 代わりに、火力を最も底上げする、シャルティアも持つ切り札を出す。

 

 「……来たか、遂に来たか!お前達姉妹の最強の切り札!」

 「《エインヘリヤル》!!」

 

 それは、自身の分身を作り出すスキルであり、造られた分身は単純な直接戦闘しか出来ないが、武装や能力値は本体と一切遜色が無いという、今の状況で言うならば実質驚異度が二倍に跳ね上がったも同然であった。

 

 「《眷属召喚》!!」

 

 そして続けて眷属を召喚する。

 召喚されるのは影で作られたネズミのような魔物と、同じく影の狼、そしてカラスといった、シャルティアとほぼ同じ構成のもの。

 

 ただし、エレティカの持つ「血で血を洗う」は、シャルティアの持つスポイトランスのように、ダメージさえ与えれば良いというものではない。

 飽くまで戦いに勝利することで始めて全快してくれるというものだ。

 この場合の戦いとは、自らが召喚した眷属等、元々フレンドリーファイアが解禁されていなかったユグドラシルの世界に置いて仲間との戦いは想定外の物であり、それはこちらでも同じだと考えられるし、そもそも仲間同士では「敵との勝負に勝利する」という前提条件が満たせない。

 

 よって、シャルティアのスポイトランスと違い、「血で血を洗う」は眷属をいくら叩き潰したところで回復を行う事は出来ない。

 

 「行きますよモモンガ様?繰り返して言いますが、死なないでくださいね?」

 「本当にそう思っているなら少しは手加減をしろ!!」

 

 そこから繰り出されるのは超高速のハルバード捌きによる攻撃。

 本来前衛の者を相手にするにも十分オーバーキルになり得る猛攻は、猛烈なヒット数を叩き出し、モモンガのHPを削っていく。

 モモンガも、《ウォール・オブ・スケルトン/骸骨壁》等の魔法を使うものの、時間稼ぎにしかならない。

 

 だが、それでいい。

 時間稼ぎこそモモンガの目的なのだから。

 

 「ここで終わりだ!<The goal of all life is death/あらゆる生ある者の目指すところは死である>!!」

 

 モモンガの背中に、巨大な、そして極めて不吉なオーラを放つ時計版が出現し、大きな歯車が忙しなく回り、針を動かしていく。

 

 「《ワイデンマジック・クライ・オブ・ザ・バンシー/魔法効果範囲拡大・嘆きの妖精の絶叫》!!」

 

 続けて使用する魔法によって、名状しがたい、子供のような、あるいは化物のような、何とも言い難い者の耳をつんざく絶叫が辺りに鳴り響き、眷属たちの動きが止まる。

 

 

 

 そして歯車の音を立てながら時計の針は進む。

 

 その間も続く攻防戦。

 

 斬る、躱す。

 斬る、躱す。

 斬る、斬られる。

 斬る、斬られる。

 

 そして全てに終わりを、死を告げる終焉の鐘が鳴り響く。

 

 

 刹那、辺りが光で包まれ、作られた分身であるエインヘリヤルも、眷属も、そしてエレティカもその光に飲まれ、消滅していく。

 そしてやがて音すら消え、空気すらも死んで真空状態に、土をも命を奪われ、死んで砂漠化していく。

 

 

 

 

 そして光が晴れると、そこにあったのはまるで森の中の一角、そこだけが砂漠になってしまったかの様な光景であった。

 

 土は砂漠に、その地に一切の生命はなく、真空状態から戻ろうとして発生した風によって砂嵐が吹き荒れる。

 

 まさに死の土地であった。

 

 そしてそんな死の土地に立っているのは一人のオーバーロード、そして……

 

 

 「眷属達は全て死んだようですね……私も、姉妹でペロロンチーノ様から頂いた、一度だけ死亡を無かったことにできる蘇生アイテムが無ければ、危ないところでした」

 

 

 先程と何も変わらない姿で……いや、むしろ蘇生アイテムによってHPが全快し先程よりも活き活きとした顔でクスクスと笑うエレティカの姿だった。

 

 

 

 絶望。

 

 

 

 見ていた者の脳裏にそんな言葉がちらつく。

 

 

 「終わりです、モモンガ様、逃げるならお早目にご決断を。それか仲間を呼んでも構いませんよ?”我が儘”を通してここで死ぬというのでしたら、最後に遺言を聞いて差し上げましょう」

 

 

 

 

 「ああ、そうだな……私の方が性能的に不利だから……MPを使い切れば雑魚だから……そう思って温存することなくスキルを使ってくれたお前に、深い感謝を贈るよ。でなければ、こうも上手く事を運ぶことは出来なかった」




まさかの8500字越え。
(ちなみに次回も長い)


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屍山血河の戦乙女(2/2)

戦闘ラスト。



 「ひとつ言っておくことがあるとすれば……PVPにおいて重要なのは、相手にいかに虚偽の情報を掴ませる事だが……お前の場合それが大変やりづらかった、とでも言っておこうか。スキルを知らないという言葉を信じたのかどうかはわからんが、結局スキルを温存せずに使ったのは確かだしな……一重に、油断大敵、という事だ」

 

 「…………」

 

 エレティカとしては言いたい事はあったが、こらえることにした。

 最初から最後まで騙されてなどいなかったが、それでも原作にないルートに行って予測不能な行動をとられるよりは対処がしやすいと考えた為である。

 

 だが、次の瞬間にはそれを後悔することになったので、やはりどこかで油断はしていたのだろう。

 

 「《パーフェクト・ウォリアー/完璧なる戦士》」

 

 次の瞬間、モモンガが残り僅かなMPで発動させた魔法の名を聞いて、エレティカは驚愕と、恐怖……いや、恐ろしいというよりは、血の気が引いていくような……そう、「何故今までこの魔法があることを考慮しなかったのか」という事について。

 そしてこの先に待ち構えている”展開”の、その片鱗のようなものを味わっていた。

 

 「さぁ、最終ラウンドといこうじゃないか、エレティカ」

 

 そう言いながら、ローブを脱ぎ捨てるように装備を変更する。

 

 そこに現れたのは、銀色の鎧を着込んだ戦士の姿のモモンガであった。

 

 

 

 「コ……コンプライアンス・ウィズ・ロー……、それは……たっち・みー様……!!」

 

 「そうだ、今お前の目の前に立っている男は、もはやモモンガではない。

 ……アインズ・ウール・ゴウン41人の力が結集しているものであると。

 そして知るがいい、お前に端から勝機など皆無であったと!!」

 

 

 戦士化の魔法。

 それは、本来魔法職では装備出来ない、あるいは出来たとしてもある程度のペナルティを受ける戦士職の装備を、ペナルティ無く装備することが可能になるという、文字通り戦士と化する魔法、それが《パーフェクト・ウォリアー/完璧なる戦士》である。

 

 だが、一体誰が思っただろう。

 

 まさかその戦士化の魔法で、大会で優勝しなければ手に入らない、ワールドチャンピオンの鎧まで装備することができるなどと。

 

 そうして、方や、猛々しい声を上げながら”ある武器”を手に斬りかかる戦士。

 方や、恐怖と、次々と蘇る記憶(げんさくちしき)で絶叫し、手に持つハルバードを全力で振るう戦乙女。

 

 「きゃあああああああああああああーーーーーッ!!!」

 

 その”ある武器”によって、赤黒く染まった鎧の防御をいとも簡単に通り抜け本体にダメージを与え、エレティカが金切り声のような絶叫を上げながら大量の血を吹き出す。

 

 そして、振り抜かれたそれを見てエレティカは目を瞠って絶句する。

 いや、エレティカだけではない。

 モモンガと、このことをなんとなく察していたぶくぶく茶釜、そしてペロロンチーノ以外の、この戦いを見ている者全てが、この剣を見て目を瞠った。

 

 

 そう、今まさにエレティカにダメージを与えた、雷を纏うかのようにバリバリと音を立てる剣、いや、刀の名は……

 

 「建御雷八式…………!!?」

 

 「相応しくないかもしれないが、ここは「いくぞ」と言わせてもらおうか。

 安心しろ、代わりに死ぬな(・・・)なんて無理は言わないとも」

 

 そう言い終わる前にエレティカが後ろへ飛んでその刀の攻撃範囲から遠ざかる。

 それは攻撃範囲を見極めてのものか、あるいは恐怖からくるものか。

 

 

 「アインズ・ウール・ゴウン41人の力をその体に刻み込むがいい!!」

 

 「くっ……!!」

 

 エレティカも負けじとその禍々しい凶刃を振るうものの、大きなダメージを与えるには至らず、逆にカウンターの体勢を取られてしまい、その刃は思わず防御をしようとした左腕を易易と切り飛ばす。

 

 「ぐっ!!……カハァッ……隙あり、ですねぇ!!」 

 

 だが、その大振りの、腕を切り飛ばす程の一撃はエレティカにとって一瞬ではあるが隙を突くのに十分な間を取らせた。

 その間を縫うようにハルバードが振るわれる、が、既にその時モモンガの手には刀はなく、代わりに二本の対となる月のような静けさを持った小太刀、月詠とその反対に明るい日の出のような輝きを放つ天照と呼ばれる小太刀を握っていた。

 

 そして、その二本の小太刀でもって、易易と攻撃を受け止める。

 

 「どこに隙があるというんだ?」

 

 「そ、れは……!!弐式炎雷様の……!!」

 

 そして、ハルバードを軽くいなすと、小太刀の届く範囲、エレティカの懐に飛び込み、その刃が突き立てられる。

 

 「がぁぁぁっ……これは……神聖属性のぉっ……!!離れろ!!」

 

 「ふ、であれば手伝ってやろう。目一杯距離を取るといい」

 

 「なっ……!!」

 

 この一瞬で、一体どれだけ武器を入れ替えるというのか……今度は、巨大で刺の生えた凶悪なガントレットを装備し、その一撃を振るおうとしていた。

 エレティカは突然の事に防御を取るしかない。

 

 だが、そのガントレット……元々はやまいこ様の装備である『女教師怒りの鉄拳』の巻き起こす衝撃波によって、エレティカは短い悲鳴を上げながら後方へと吹き飛んでいく。

 

 そして、空中で体勢を立て直して地に降り立ってモモンガの方向へ目を向けると、そこには信じ難い物を持ったモモンガの姿があった。

 

 それは、一言で言えばスナイパーである。

 ただし近代でいうところのそれではなく、ひたすらに黒塗りで光の一切をも反射しない程の、漆黒と呼ぶ相応しい長身の銃であり、構えている右肩から腕をすっぽり覆って固定する形になっている持ち手が特徴的な物。

 

 まるで腕自体が銃になっているかのような形である。

 

 だが本来であればここでは、ペロロンチーノの武器が使われるはずである。

 が、それは今、帰還しているペロロンチーノの手の中にある。

 

 

 「そ……それは、テンパランス様の、『俺の後ろに立つな』……!!?」

 

 

 ここに来て、始めてエレティカは既視感を感じない光景を目にするが、しかしそんな事に構っていられるほど余裕があるわけでもない。

 

 「それを一体、どこに……!!?」

 

 「答えを教えておこう……『課金アイテム』だよ」

 

 「(まさか……あの木の棒が……いや、そうだ……そうだった。私はどうして、こんな事まで忘れてしまっているの?…………アレは、貫通力が高く、スキルか魔法で強化した防壁でもない限り防ぐことも出来ない!不浄衝撃盾が使えれば……いや、違う、か……)」

 

 そして、モモンガが引き金を引くと、銃口から赤い閃光が走り、ドパンという弾ける音と共に、一瞬でエレティカの右胸に大穴を開け、鮮血を飛び散らせる。

 普通なら即死でもおかしくない重症であるが、この程度で死んでくれる程、エレティカは甘くない。

 

 「がっは……!!ごのまま、では……!!」

 

 そして、その距離が酷く不利であると理解したエレティカは、一気にモモンガとの距離を詰める。

 

 「いい覚悟だ」

 

 そして、手に取り付けられていたスナイパーは消え、代わりに大きく真っ赤な戦斧。

 奇しくもハルバードとバトルアックスという似たような武器がぶつかり合う。

 名前も「血で血を洗う」と「血を啜り肉を喰らう」と、「血」が入った文章が名前の武器シリーズでもあるのかと思うほどの偶然であった。

 

 

 「……モモンガ様ノ勝利、ダ」

 

 「何故だね?私からすれば、まだ勝敗は遠いところにあると思うのだが……」

 

 「……エレティカが防御を捨てて攻撃に特化したからよ、デミウルゴス。

 もし私がエレティカの立場だったら同じことをすると思うわ」

 

 「……成る程……モモンガ様が武器を次々と交換していく、つまり他にどのような武器があるのか不明のため、情報が欠如している現状では、距離を取るという行為が愚行になるという可能性があると考えたのでしょう。

 あの銃器を見せられればそう思うのも無理はないでしょうね。

 だからエレティカは、せめてあのハルバード「血デ血ヲ洗ウ」……血で血を洗うの届く距離で戦うしかない、という事ですね?」

 

 「流石はアルベドだな、おそらくその通りだ」

 

 「成る程……私にもなんとなく理解できました。

 つまり防御を捨てたエレティカに対して、モモンガ様はあの斧「血ヲ啜リ肉ヲ食ラウ」……ありがとうコキュートス、その、血を啜り肉を食らうを持ち出された。

 見ての通りその血を啜り肉を食らうはバランスが悪く命中性能に乏しいが、防御を捨てたエレティカにならば問題はない、という事ですね?」

 

 「そう、全てはモモンガさんの考えているとおりに進んでいるというわけだ」

 

 「……しかし、相手はあのエレティカ。

 妹であるシャルティアよりも肉弾戦闘に長けた構成である彼女と、戦士化したとはいえ本来魔法職であるモモンガ様とでは些か分が悪いのでは?」

 

 「心配する必要は無い。

 ここまで全てはモモンガさんの思惑通り、そして、あの腕につけた時計……ここから考え出される答えを導き出せば、おのずとモモンガさんの勝利への道が見えてくるはずさ」

 

 

 

 「ハァァァァーーーッ!!!」

 

 「ヌグッ!!」

 

 ここに来て、怒涛の勢いでハルバードを振るうエレティカ。

 彼女はもはや何の知略も策略も関係なしに、ただ目の前の敵を屠る事だけを考えてハルバードを振るっていた。

 

 でないと、死ぬ。

 

 原作知識がもたらしてくれる”嫌な予感”がそう言っているからだ。

 

 正直勝てる気もしない。

 

 だからといって、逃げるわけにも行かない。

 

 先程のスナイパーで射抜かれてはいくら遠くへ行っても同じことだ。

 

 そんな彼女の必死の攻撃は、この世界で言うところの武技というものの動きをも超越するほど洗練され、磨きぬかれ、モモンガとの戦いにおいてもこれ以上ないほどのヒット数を叩きだしていた。

 

 が、同時に、死神の、着々と自分に歩みを進めているような足音が聞こえてくるような気さえしてくる”嫌な予感”に、焦りは募る一方であった。

 

 そして、モモンガの持つ武器が消え、代わりに盾が現れる。

 それによって、スキルではないにしろ、タイミングを見計らって攻撃を弾き返す事で体勢を崩し、パリィに近いような事をすると同時に少し距離を取る。

 

 すかさず距離を詰めようとするエレティカだったが、その瞬間聞こえてきた声に、思わず足が、思考が、ピタリと止まってしまう。

 

 

 

 『モモンガおにいちゃ~ん、予定した時間が経過したよ~!』

 

 

 

 「ぶくぶく茶釜……様……」

 

 「……なぁ、何の時間が経過したと思う?」

 

 

 エレティカは、思わず身構えるが、それを無視してモモンガが続けて話す。

 

 

 「今までの……魔法戦でお前のスキルを全部消費させたのと、その後、ギルドメンバーの装備を使い、蘇生後のお前の体力を削ったのと……そして、今、予定した時間が経過したというものが全て、私の計算の内だったとしたら、この時間の経過は何の意味を成すと思う?」

 

 「ま、さか……いや、そんな馬鹿な……」

 

 エレティカには覚えがある。

 このあとに続く言葉を覚えている。

 あれだけ何度も何度も読み返し、小説で、アニメで、漫画で聞いて見て読んだのだ。

 

 覚えていない、ハズがない、なのに、どうしてか霧が晴れない。

 頭の中の霧が……。

 

 

 「決着だよ。

 勝負の終わり、ということだ」

 

 「私は、まだ……!!」

 

 「エレティカ……俺はペロロンチーノさんと仲が良い。

 ここに来る前にお前の持つ蘇生アイテムの事も、お前の持つスキルの事も、装備の事も聞いたさ。

 そして、だからこそ、ここまで手の込んだ作戦を立て、わざわざギルドメンバー達がかつて使っていた武器などまで持ち出した。

 何のためにだと思う?

 ……超位魔法一回では、HPが満タンのお前を屠ることができないからだ、エレティカ」

 

 「ぁ……」

 

 「……ならば、一回で倒せるくらいまで、HPを消耗させれば良い。

 ……そう思わないか?」

 

 「ぁ、ぁ……ぁぁぁああああああああっ!!!うあああああああああーーーーー!!!!」

 

 エレティカはなりふり構わず、という風でハルバードを振るった。

 いや、これはもはや、そんな可愛いものではない。

 半狂乱。

 

 狂ったようにハルバードを振るう。

 

 だが、そのいずれもモモンガの持つ盾によって防がれ、尽くを弾かれてしまう。

 

 それでも攻撃は止まない。

 

 渾身の一撃が、盾に振り下ろされる。

 

 

 

 その時であった。

 

 

 

 

 エレティカの振るったハルバードから、何かが折れるような、割れるような、崩れるような、そんな音が鳴る。

 

 見れば、ハルバードの刃にあたる部分に一筋、稲妻に打たれたかのように分岐するひび割れがあった。

 

 そして、絶句する間もなく、ハルバードの刃はどんどん割れが酷くなっていき、最終的に、バリンッというガラスを叩き割ったかのような音が鳴り響き、ハルバードは見る影もなく……いや、その姿形すらもうどこにもなく。

 

 欠片となり、塵となり、砂となり、キラキラとした粒子となり、エレティカの手を離れ、消えていった。

 

 

 

 「……あぁ……」

 

 

 そういうこと(・・・・・・)か、とエレティカは納得した。

 

 

 

 つまり「私」は、最初から……。

 

 

 

 エレティカは、呆然とするように、自分の相棒の散っていく姿を見届けた後、キッとモモンガに構え直し、残った方の腕を大きく振るい上げる。

 

 

 「その意気は良し!引導を渡してやろう、これが本当の最後だ!エレティカ!!

 《フォールンダウン/失墜する天空》!!」

 

 「!!……なぜここで発動まで時間がかかる超位魔法を?」

 

 エレティカはそうモモンガへ問うが、対するモモンガは何も答えず、手にした砂時計のようなアイテムに亀裂を入れる。

 

 

 

 「……それも、課金アイテム……!!!」

 

 殴りかかろうとしたところで、やめる。

 あれは恐らく割る事で効果を発揮するんだろう。

 拳が当たった拍子に割れたとしても同様かも知れない。

 

 エレティカは、最早負けを確信したように、地に膝をつけ、ただ超位魔法の発動を待つことにした。

 モモンガも内心でそれに少し驚いたものの、ユグドラシルでも実力の差を知り、自暴自棄になったり、降参したりするプレイヤーを何回か見てきた。なので大して動揺することなく、威厳ある口調で最後に言葉をいくつか紡ぐ。

 

 

 「…………私の勝ちだ、エレティカ」

 

 「えぇ、貴方の勝ちです、モモンガ様……貴方こそ正に、ナザリック最強の御方……」

 

 

 そして、何秒たっただろうか、あるいは一瞬だったかもしれないが、本日二度目の超位魔法が発動し、その光の中にエレティカとモモンガが飲み込まれていく。

 

 

 その光の中で、エレティカは何か見た気がした。

 

 遥か遠くに居るはずで、今ここで、視界に映るはずもない、妹の姿を。

 

 命を賭けて守ったというには少し主張が我が儘過ぎる気がするけれど、それでも、例え後で生き返ると知っていても、貴女が死ぬのを見たくなかった……。

 

 けれど、それは貴女も私に同じことが言えたかもしれない。

 

 貴女は私が死んだら例え後で生き返ると知っていても悲しんでくれるだろうか?

 

 

 段々と意識が遠くなっていく。

 

 

 あぁそうか。

 

 

 

 一度体験した事はあるが、あれは痛みも何もないゲームの中だったもんなぁ。

 

 

 

 つまるところ、これが死か……これが逝くという事か……。

 

 

 

 これが……

 

 

 

 

 ……この地を去る

 

 

 

 という事……

 

 

 

 何とも、悲しい…………

 

 

 

 ……そして、寂しい……

 

 

 

 ……”彼ら”もきっと……

 

 

 

 

 

 こんな気持ちだったのだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……エレティカ……」

 

 「……お姉ちゃん……」

 

 「……帰るよ」

 

 「え?でも、勝負は……」

 

 「モモンガ様の圧勝!!!」

 

 アウラは腹が立っているような、泣いているかのような、そんな声で返し、ズンズンと帰路を進んでいき、その後ろをマーレが慌ててついて行った。

 

 そして思い出したかのようにアウラが戻ってくると、呆然とその場に立ち尽くしたシャルティアの首根っこを掴み、ズルズルと引きずっていった。

 

 

 

 

 「ペロロンチーノ様……アレは……今のは一体……エレティカの持つ武器が割れて、崩れて、消えたように見えましたが……」

 

 「……アレは、武器が耐久値の限界を超えたときに、起こる現象だ……消えたわけではなく、インベントリに強制的に仕舞われてしまい、ああなると、一度専用のスキルとアイテムで修理しなければ二度と装備することができない」

 

 「ですが、耐久値のチェックは私達下僕は皆必ずやっている事です……エレティカともあろうものがそれを怠るハズは……」

 

 口で言っていて、アルベドはその答えに行き着く。

 いや、行き着いてしまった。

 

 

 「……武器は、自分で使う以外に、専用のアイテムを使う、強化にわざと失敗する、シャルティアのカースドナイトのような特性を利用する等の方法で、”あえて”耐久値を減らす事が可能だ」

 

 「それは、つまり……」

 

 「……俺は最初から不思議で仕方なかったんだ。

 そもそもエレティカは何故、武器や防具を装備しているのだろうと。

 妹を想い、精神支配を肩代わりし、代わりに命を差し出すというのなら、装備は邪魔でしかない。

 シャルティアに万が一反撃されたときのことを考えたとしても、エレティカの足なら十二分に逃げ切ることが可能だ。

 なのに、何故だろう、と。

 

 ……まったく、わが娘ながら末恐ろしいよ。

 

 一体どこまで考えて行動していたのだか……」

 

 

 この場に居た守護者全員がそう思った。

 ここまで考えていたのか、と。

 

 

 

 そう、全ては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に!! 

 

 

 

 元よりあの場所には敵部隊が居た場所である。

 多少の装備はして当然であるし、それもシャルティアを支配したともなれば一層、装備を固めなければならないだろう。

 

 だが、本当に完全なフル装備では、洗脳状態である自分が、まかり間違って至高の御方を殺してしまうかもしれない。

 

 

 

 だからあえて耐久値を減らした武器を持った。

 

 

 こうすれば、例え洗脳状態である自分が敵部隊と戦うことになっても、ひとまず私達が応援に来るまでの時間は稼げ、その後弱った自分はめでたくあの御方の御手によって華々しい最期を飾れるというもの!!

 

 そして例え敵部隊との戦闘が無く、最初から至高の御方と戦うハメになったとしても、ギリギリの所で武器の耐久値がなくなって丸腰に、そうしたら後はあの御方の御手によって、(至高の御方にお相手をしてもらえるというおまけ付きで)最期を飾れるという事!!!

 

 なんて……っなんて羨ましいッ!!

 さては最初からそれが目的だったのでは!?

 

 (無論、シャルティアだけはそうは思っておらず、「もしもの時のためにあんな策まで用意しておくなんて姉様はすごいなあ」ぐらいに考えている)

 

 

 無論流石のナザリックダークサイドな皆様も、自分の目的のために同僚、ましてや妹までもを危険に晒してまでやり遂げたい事などありはしないので、今回のことは「たまたま条件が揃ってそういう風になってしまっただけで、エレティカにそのような意思は無かっただろう」という事にされた。

 表向きは。

 

 

 ちなみにその支配者、至高の御方である三名は、今更ながらに、「ひょっとすれば、自分達はエレティカに実力を疑われてしまっていたのかもしれない」と思った。

 

 

 それはペロロンチーノに関してだけ言えば正解である。

 

 

 実を言うとエレティカ本人ですら、こうまで念入りに……シャルティアにペロロンチーノを同行させたり、もし洗脳されたときの為にトーテムを持たせたり、そしてそうなった場合の為に武器の耐久値をわざと減らしたりと計画を立てたものの、それを全て使うハメになるとは思っていなかったのである。

 

 まず初めに、シャルティアにペロロンチーノを同行させた事。

 

 ここでエレティカは「うまくいけばここでシャルティアの洗脳は回避できる筈だ」と考えていたのである。

 

 そう、ペロロンチーノが愛する娘にデレデレになってうっかりシャルティアの先行を許してしまうなんてことにならなければそもそもの話シャルティアは洗脳されなかったのである。

 

 しかしまぁ、そこは結果として傾城傾国を持ち帰ったのとついでにBBAをもって帰ってきたので、まぁ、うん……セーフにしておこう。

 

 

 

 

 しかしその後私に何も連絡がないっつーのはどういうこっちゃねん!!!??

 

 

 

 そう、実はエレティカ、部屋でずーーーーーーーっと、ペロロンチーノが「エレティカが部屋に閉じこもっている」と知って泣いている間も、そこから立ち直って「じゃあシャルティアどうしよっか?処す?処す?」となっている間も!、ずーーーーーーーっと待っていたのである。ペロロンチーノ本人がメッセージあるいは直接謝罪の一言、ひいては……

 

 

 「シャルティアは必ず俺が取り戻す(キリッ」

 

 

 位の事は言ってくれるのを待っていたのである、娘として。

 本人からすれば「めっちゃ落ち込んでるだろうし今はそっとしておくか」というだけの話なのだが……慰めるかそっとしておいた方がいいか、実際にそれを決めるのはペロロンチーノではなくエレティカである。

 

 そしてもしそんな事を言ってくれようものならわざわざ自分から死地に飛び出すなんて真似はしなかった。

 

 結果としてエレティカはガチ装備(ただし死なないように耐久値を削って)で精神支配を受け、その牙を剥くことにしたのである。

 

 

 ぶっちゃけた話、そうでもなければ装備なんて防御力皆無のネグリジェでも着て、トーテム以外の持っているアイテムを全て自室に置いていき、手ぶらで洗脳を肩代わりすればよかったのである。

 

 それを事前にモモンガやぶくぶく茶釜に言っておく事もできた。

 

 

 ……ちなみに、この後無事にエレティカは蘇生され、そして事の顛末、自分が洗脳されていた間の話を聞き、エレティカを殺したのがペロロンチーノではなくモモンガだと知り大層いじけるのだが、それはまだ、先の話で……いや、あえて語ることもあるまい……。




エレティカ「ところで『俺の後ろに立つな』とかいう武器が出ましたが後々何かしらの機会でテンパランスさんの武器が出てきたらどうするつもりなんでしょうねこの作者は……(呆れ)」

作者「それはお前アレだよお前別の世界っつーかパラレルワールド的なお前アレだよお前これ二次創作だしって事でカタがつくんだよお前これお前」

エレティカ「(駄目だこいつ)」


番外編として、もしもエレティカと戦うのがペロロンチーノだったら、とか、エレティカ自身がシャルティアと戦ったら、というのも、いつか書いてみたいです。いつか、ね。


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最終章(1/1)

ガチの最終章にして、最終話です。
思えば短いような長いような……あっという間の時間でした。
ここまで書けたのも一重に皆様の暖かい感想やメッセージのお陰だと思います。

今まで本当にありがとうございました。


12000字以上にもなってしまいました最終話、お楽しみください。


 私の名前は好豪院英梨(こうごういん えり)

 

 ごくごく普通の、でもちょっとアニメとかラノベとか、そしてそれらの二次創作とかが、特に異世界物とかが大好きな、極めて普通~~~の女子高生です。

 

 今日もいつものようにベッドから目覚め、朝ごはんを食べ、学校へ行って、学業と部活に励み、そしてまた帰ってきて、夕御飯を食べて、TV見て、RINEして、ラノベの新刊情報やアニメを一通りチェックしたら、また明日も学校なのでベッドで寝る。

 

 そして、明日もいつものようにベッドから目覚め、朝ごはんを食べ、学校へ行って…………。

 

 

 でも、何故だろう。

 

 

 私は今、通学路でいつものように登校しているだけなのに。

 

 

 どうしてこうも心がざわつくのだろう?

 

 

 まるでここに居る事に酷く違和感を持っているかのようだ。

 

 

 

 私は「風邪でも引いたかな」と、背中に走るゾクゾクを風邪のせいにし、場合によっては早退する事も考えつつ、歩みを進めた。

 

 

 

 だが、その違和感は一向に収まらない。

 

 途中で友達の#####ちゃんと会って、アニメについて話しても、そのゾワゾワが消えてくれない。

 

 どうして?

 

 いつもどおり登校しているだけだよ、あたし。

 

 足を進めるごとに、それが、増していく。

 

 増して。

 

 手が震え。

 

 足がすくむ。

 

 ここは本当に私の居場所なの?

 

 

 「……うぁぁっ!!」

 

 

 そして、遂に違和感は最高潮へ。

 

 頭が割れそうなほどの頭痛に襲われ、目の前が真っ白になる。

 

 そして、次の瞬間目の前に現れたのは、先程まで居た、自分の家だった。

 

 

 目の前には、母と、父が居る。

 

 涙を、流しながら。

 

 

 

 「ちょ、ちょっと、パパ、ママ、なんで泣いてるの?」

 

 

 

 私の言葉は、彼らには届いていないらしく、二人はおいおい泣くばかりであった。

 

 ねぇちょっと、やめてってば。

 

 何がそんなに……

 

 

 

 そう思って、周囲を確認しようと後ろを見た瞬間。

 

 笑顔の自分の写真……

 

 

 

 

 

 自分の遺影と、目が合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ…………」

 

 

 それと同時に、次々に記憶が蘇ってくる。

 

 私が、気付いたら異世界、それもユグドラシルの世界で、NPCになったこと。

 その世界で出来た妹が死ぬのが見たくなかったから、身代わりになって死んだこと。

 その世界で私は、エレティカ=ブラッドフォールンという名前だった事。

 

 

 「あ…………あ…………!!」

 

 私は、絶叫した。

 

 あれだけの事があったのに、全ては私が死ぬ前に見た夢だったとでも言うの?

 

 あれだけの事をしたのに、全ては無意味だったと言うの?

 

 

 そんなの、あんまりじゃないか。

 

 そんなの、あんまりじゃないか……。

 

 こんなの、あんまりじゃないか……………………。 

 

 

 

 「嫌ああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………ぁぁぁああああああっ!!!」

 

 

 ガバッ!と音を立てながら起き上がる。

 

 

 周囲を確認するが、そこはいつもとまるで変わりない、自分の部屋。

 好豪院英梨の部屋だった。

 

 時刻は……真夜中、午前3時を指していた。

 

 着ていたパジャマは大量の寝汗でびちゃびちゃになっており、とてもじゃないが着替えないと気持ち悪くて寝られない。

 

 私は、多分このせいで悪い夢を見たんだろうなと結論付け、着替えるためにベッドから起きた。

 

 

 それにしても長い夢であった。

 

 

 朧げにしか覚えていないが、まさかユグドラシルのNPCに転生するだなんて……今日学校へ行ったら絶対にオタク友達に自慢しよう、そうしよう。

 

 私は自分の汗を拭き取り、自分の部屋で寝巻きを引っ張り出し、手早く着替えてから、酷く喉が渇いていることに気付く。

 

 体からあれだけ大量の水分が失われたのだから仕方ないかもしれない。

 

 私は体から出て行った水分を補給する為に、冷蔵庫の中のジュースを一杯飲み干しながら、何気なく、窓の外の暗闇へと顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 …………そこには、腰に手を当てながら、ガラスのコップでオレンジジュースをがぶ飲みする、エレティカ=ブラッドフォールンの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 思わず、ブッと漫画の如く吹き出しそうになるのを堪えて、しかし思い切り気管に入って咳き込む。

 次に見間違いかともう一度確認する。

 

 すると今度はどういうわけか、窓に映るエレティカが自分とは全く違う動きをしており、なんというか、今咳き込んでいる私を、悪戯が成功して笑っているかのような目で、しかし、にこやかな、軽やかな、そんな顔でこちらを見つめていた。

 

 

 はっきり言って100%怪奇現象である。

 本当にあったやべー話。

 むしろ世にも奇妙過ぎるって話?

 

 

 であるのにも関わらず、私はなぜか彼女に恐怖を抱くことは無かった。

 

 私はしばらく呆然と彼女を見ていた……というか見つめ合っていたが、しばらくして彼女は恭しくお辞儀をすると、何やら口にして、くるりと後ろを向き、どこかへ歩いて行ってしまう。

 

 その後ろ姿を見て、なんとなく、そう、本当になんとなくだが私は、「ありがとう」と口にした。

 

 恐らくは彼女も同じことを言っていたのだろうと直感したからである。

 

 

 なにせ、彼女はもうひとりの私だ。

 

 ユグドラシルという世界で確かに生きた、私なのだ。

 

 きっと、あの人たちの所へ行くのだろうな。

 

 

 

 そんな事を想いながら、ジュースを冷蔵庫へと締まって、冷蔵庫のドアを閉める。

 

 

 もう一度窓の外へ目を向けるが、そこにはもう、銀髪の可憐な美少女の姿は無く、ただただ、ちょっと寝癖が酷い、いつもの私がそこに居た。

 

 もう届くことはないのだろうなと知りながら私は心の中で「元気でね」と言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△ △▼

 

 

 

 

 

 「……エレティカ」

 

 

 耳元で、私の名前を呼ぶ声がした。

 …………いっけね!さては私寝てた!?

 目を開けると、そこには、私を心配そうに見つめるバードマン、ペロロンチーノ様の姿があった。

 

 私が目を覚ましたと思うと、ペロロンチーノは突然私の身体を抱き上げ、お姫様抱っこされ混乱する私を尻目に何度も何度も「良かった……」と、そして何度も何度も「すまない……」と謝っていた。

 

 というか何故私は布1枚を羽織ってあとはすっぽんぽんでいるのだろう?

私は脳をフル回転させ、現状を理解する。

 

 あー、要するに、上手くいったというわけだ。

私の蘇生は。

……まぁそうだろうと思ってはいたけれど。

 

 なんなら次目覚めるのは牢獄の中やもしれないと思っていただけに、少しホッとした。

 どう見ても私を処刑しようとかいう雰囲気じゃあなさそうだ。

 ないよね?

 

 「俺は……お前に、お前達に、なんて謝ればいいか……」

 

 「もういいのです……これで、良かったんです、ペロロンチーノ様……」

 

 

 実は数刻前まで腹の中では「何故何も言いに来ないんじゃ!!」と激怒していたのだが、それをおくびにも出さず、今はただペロロンチーノの頬を撫でた。

 もういいのです、という言葉も、本心から来るものとなっていき、ペロロンチーノの首に腕を巻きつけた。

 

 

 「エレティカ、どこにも痛みは無いか?体に異常とか……」

 

 「はい、至って健康です、どこにも異常は見られ……ん?」

 

 「…………あっ」

 

 

 私が自身の身がどこにも異常はなく、健康体であるというのを確認していると、腹のあたりにナニかが当たるのを感じる。

 ちなみに今は、私がペロロンチーノ様に、正面から抱きしめている、という状況である。

 

この位置……。

温度…………。

硬さ………………。

そこから導き出される答えは一つである。

 

 「……イヤ、コレハソノ……」

 

 「………………、ペロロンチーノ様…………その、すみません、でも流石に今はちょっと……」

 

 「こんのっ!ドスケベ色ボケバカ弟があぁぁああああーーーーッ!!!」

 

 「いってえぇぇええええーーーーッ!!!」

 

 

 ぶくぶく茶釜による鉄拳制裁により、パカァーーーンッと小気味のいい音が鳴り、ペロロンチーノは私をそっと離しながら、脳天に走る激痛に顔を歪ませ、仄かに涙をにじませていた。

 

 「ほんとあんたという弟は……!!際限の無いスケベだな本当に!!お姉ちゃん若干悲しくなってくるわ!!!」

 

 「すんません!!本気ですんません!!俺の愚息がほんとにすみません!!!!」

 

 「あんたの娘の裸でしょう!!?それくらい我慢しなさいよ!!っていうかエレティカも「今はちょっと」って何!!?あんた娘になんて事言わせてんの!!?」

 

 「はいそのとおりでございます!!!返す言葉もございません!!!」

 

 そこには、ピンクの肉棒が、バードマン(起立)を大声で叱りつけるという何ともカオスな空間が広がっており、それを見守っていた配下の者達も、「え、これどうすればいいの」とモモンガの方へ目をやった。

 

 「はぁ……落ち着いてください、二人共」

 

 「「……はっ!す、すみません」」

 

 言いつつ、モモンガは二人から懐かしいものを感じていた。

 そういえばいつもそうこんなんだったなぁ、と。

 

 そして、正面に目を移せば、エレティカを囲む守護者に、一瞬、かつての仲間たちの面影を見て、言葉につまるものの、なんとかそれを口に出す。

 

 「改めて問う、エレティカ、どこにも異常はないな?」

 

 「はい。ちゃんと胸もあります」

 

 「ん゛っ、そ、そうか。して、記憶等にも異常はないか?最後に覚えている光景を教えてくれ」

 

 「最後の記憶…………そうですね……シャルティアの精神支配を肩代わりした所までは覚えています」

 

 「そうか、まぁ詳細な説明はデミウルゴスに任せるとして……」

 

 

 そこまで言ったところでモモンガが全員の方へ目を配る。

 

 

 「皆にも言っておくが、今回の件は、様々な情報を有しながらそこまで考慮しなかった私こそが最も責められるべきだ。エレティカの独断専行に言いたい事がある者も多いと思うが、今回に限り、エレティカの「妹を救いたい」という強い意思に免じて、その者の罪を不問とする。

 エレティカ、そしてシャルティア、お前達に罪はない。

 この言葉をしかと覚えておけ」

 

 「ありがとうございます……!」

 「ありがたきお言葉……」

 

 「そして、未だナザリックに帰還していないセバスだが、奴にはそのまま任務にあたってもらい、例の集団について接触がある可能性も考え、極秘理に監視をつける。

 アルベド、その監視の選抜はお前に一任する」

 

 

 平たく言えば原作と同じ囮のようなものであった、が、今回は情報源となる、傾城傾国のおまけ……いや、カイレと呼ばれていた老女を捕虜として既に手の内に収めている。

 

 が、その老婆から情報を聞き出そうとするも、「拷問をして情報を吐かせようとすると爆発して死ぬようになっている」と言われ、ニグンという男の部下からも学んだ事であったので、どうしたものかと思っていたのだが……。

 

 

 

 「その件の集団についてですが、ご報告があります」

 

 「何?」

 

 「いえ、また奴らが現れたという訳ではないのですが、以前モモンガ様がエレティカと共に冒険者として活動していた頃に捉えた女戦士、名をクレマンティーヌという女ですが、どうやらこの女、件の集団、名を”漆黒聖典”という組織の裏切り者であったという事が判明しました」

 

 「それは本当か!」

 

 なんと、偶然拾っただけ、そして偶然エレティカの件が重なっていたので放置していたクレマンティーヌが口を割り、漆黒聖典についての情報を得る事ができた。

 だが、どうしてそうなるに至ったか。

 

 ……それは、一言で言えばデミウルゴスの知能があったからである。

 

 

 どういうことか、一から説明すると……

 

 

 まず、クレマンティーヌに、「何故あそこに居た?あそこで何をしようとしていた?」というような質問を行った際、魅了状態であったクレマンティーヌが語る内容はこうであった。

 

 

 祖国を裏切って神器を奪ってやった

 風花【聖典】という者達に追われている

 だから、死の螺旋という魔法でアンデッドの大軍勢に街を襲わせ、その混乱に乗じて逃げようと計画していた。

 むしゃくしゃしてやった、後悔はしていない。

というのが彼女の言い分であった。

 

 

 そして、もう一人の、ペロロンチーノが捉えた老婆、カイレに「何故シャルティアを支配した?我々を狙っているのか?」と聞くと、ニヤリと笑みを浮かべなら勝気な態度でこう返された。

 

 

 愚かな化け物共め

 こんな事をして、我らがスレイン法国が誇る最強の部隊、漆黒【聖典】が黙っていると思うなよ。

 必ず……(以下略

 

 

 【聖典】

 

 デミウルゴスの脳内でそれがカチリと当てはまったとき、全てを理解した。

 

 

 つまりはクレマンティーヌは、祖国……「スレイン法国」を裏切った反逆者であり、風花聖典と呼ばれる組織に追われていた。

 であれば、シャルティアを襲った「漆黒聖典」についても知っているはずだ、と。

 

 ……大正解であった。

 

 デミウルゴスは早速クレマンティーヌに「漆黒聖典について知っているか」と”尋ね”てみた。

 すると出てくる出てくる敵の情報の数々!

 

 隊長はこういった風貌の方だ。

 隠匿される部隊であるため普段は一般人として市民に紛れている。

 その為結婚も出来る。

 他のメンバーの構成は、私の知る限りではこうだった。

 また、さらに”番外席次”という化け物が隠匿されている。

 こ、これ以上知っていることはない、だからお願いしますやめてそれだけは(以下略

 

 

 モモンガはデミウルゴスがクレマンティーヌから聞き出した情報を聞きながら、内心での口角を釣り上げた。

 そして他の守護者達も同様であり、見れば殆どのものがそれを聞いて暗黒微笑と呼ぶに相応しい笑顔を顔に浮かべていた。

 

 

 ど う し て く れ よ う ?

 

 

 エレティカは心の中で、「スレイン法国終了のお知らせ」とつぶやき、手を合わせておいた。

 

 仮に、もしこの世界の一般人がここに放り込まれたら、泡を吹いて気絶するだろう。

 

 

 「…………素晴らしい、素晴らしいぞデミウルゴス。

 まったく、自分達でも気づかぬ内にこんな拾い物をしていたとはな!

 後ほど頃合を見てその女を私の元に呼べ。

 貴重な情報源だ……せいぜい丁重に扱えよ?」

 

 「ハッ!」

 

 意外にも「敵の所在が分かった!面倒なことになる前にすぐぶっ潰そう!!」とはならなかった。

 

 今はまだ敵がなんなのかが分かっただけだ。

 

 スレイン法国が何を考えてあそこに居たのか、それが分からない以上、敵であるのか、そうでないのかも分からない。

 

 「出来るなら穏便に済ませよう」というモモンガの意見が尊重されることとなった為、よっしゃこの国つ~ぶそっとはならなくて済んだのだ。

 

 最も、それはエレティカが一言二言、「もう少し情報を集めてからでもいいのでは?」とか、「相手の目的がなんだったのか知ってからでも遅くはありません」とか、「事を荒立てないで済むならそのほうが……」といった事を囁いたからである。

 

 ともかく、スレイン法国に関しては、あちらからこちらに明確な敵対の意思が見られない限り、もう少し泳がせておいてやろうという結論に至った。

 

 そして次の議題。

 

 ワールドアイテムを所持する者が居ると分かった以上、それについて、対策を練らなければならない。

 ひいてはそれを持つ漆黒聖典などを含む、これから出会うかも知れない未知の敵に対して。

 

 

 「早急にナザリックの強化計画に入りたい。

 手始めに、私のスキルでアンデッドの軍勢を作り出そうと思っている」

 

 「それなのですが、モモンガ様のスキルですと、人間の死体を媒介にしたものでは、せいぜい40レベル以下の者しか作り出せませんよね?」

 

 「その通りだが……」

 

 「実は、リザードマンの村落を、アウラが発見しております。

 そこを襲撃し、滅ぼしてはどうでしょうか?」

 

 

▼△ △▼

 

 

  スレイン法国……その最奥に位置する場所にて。

 

 「スレイン法国最強の名を持つ漆黒聖典が、ヴァンパイアとバードマン一匹に敗れるなど……」

 

 そう言った老人の前には、それに膝をついて頭を垂れる一人の男。

 漆黒聖典において、隊長、と呼ばれる男の姿であった。

 

 「カイレ様がケイ・セケ・コゥクで仕掛けましたが……精神を完全に支配する前に反撃を受け、死者一名、重症一名となり、撤退が最善と判断したものの、そこをヴァンパイアの仲間だと思われるバードマンの襲撃により、ケイ・セケ・コゥクとカイレ様を奪われるという事態に陥ってしまいました」

 

 老人は一つため息をついた。

 いったいどんな化物が彼らの隙をついて老人一人攫う事ができるだろうかと。

 しかもそんな化物が二体、もしかしたらそれ以上に居るかもしれない。

 

 というか、何故ヴァンパイアとバードマンが手を組んでいるのか?

 

 「……どのように対処すべきか……?」

 

 そう口を開いたのは別の老人。

 彼の心中と言ったら、本当ならここで頭を抱えて転げ回りたいほどであり、それはこの場にいた誰にも言えることであった。

 

 「ニグンの陽光聖典は先日の件より消息不明……風化聖典は、巫女姫から神器を奪った裏切り者を追っている……」

 

 「割ける人員も無い以上、最低限の監視をつけて放置するしかあるまい」

 

 「それに、もしそんな化物を倒せる者が居たなら、それこそ警戒すべきであるかもしれんな」

 

 「……了解しました」

 

 そう結論づけたものの……彼らはまだ知らない。

 もう既にそのヴァンパイアは洗脳を解いて仲間たちの元へ帰還していることを。

 彼らはまだ知らない。

 その際の戦場跡が、この世のものとは思えない、想像を絶する戦場跡が残されていることを。

 彼らはまだ知らない。

 同じような実力の持ち主が二人や三人などと言う単位ではなく、かなり多数存在する事を。

 そして、そんな彼らのもとに、裏切り者が渡り、今まさに、その情報を化物に与える事になっているという、今度こそ頭を抱えて転げ回りそうな事実を。

 

 

 

 ▼△ △▼

 

 

 ところ変わって、エ・ランテル。

 

 そこで薬師をしていたンフィーレア・バレアレは、あれから数日後、恋をした女の子の為に、店を街からあの村へ移す気になった。

 というのも、モモン率いる、アインズ・ウール・ゴウンから、「自分達の為にポーションの製造を行って欲しい」という旨の話があり、その為なら協力を惜しまないという約束と共に、かの赤いポーションを研究用にいくつか貰ったからである。

 

 表向きは森で取れる薬草が豊富で、そこに移り住んだ方が研究の効率がいいからという理由である。

 

 アインズ・ウール・ゴウンとしても、今やユグドラシルで製造出来ていたアイテムの中、特に課金アイテムの中には、もう二度と手にすることのできないモノが数多く存在し、その筆頭が回復アイテムであったため、これらの研究は急務であり、その為に彼らの力が必要だったのは嘘ではない。

 

 

 「では、カルネ村までは私、ナーベがお供いたします。

 そこからは、私の同僚が既に村で警備にあたっていますので、彼女の指示に従ってください」

 

 「はい!わかりました!」

 

 

 そう言って彼らはエ・ランテルを離れ、カルネ村へと店を移したのだった、が、そのカルネ村の様相を見て驚く。

 

 「なんだい?あれは?」

 

 「前見たときより囲いが凄くなってる……!」

 

 それは木で組み立てられた、村全体を囲う、見張り台まで設置された大きな壁であった。

 これだと、ゴブリンはおろか、オーガでも、壊すのに時間がかかりそうだと思う程の。

 

 そして、門と思われる場所には、ンフィーを待つ、エンリという少女と、それらを警護する、プレアデスの一人、二房の赤く特徴的な三つ編みと浅黒い肌を持ち、背中には聖印を形どったような巨大な聖杖を背負っている女性。

 

 姉妹であるナーベと目が合うとにこりと微笑み、「ちわーっす」と軽い感じで手を挙げる。

 

 

 「モモン……様達に言われて、ンフィーレアさん達のお世話をさせていただく、ルプスレギナ・ベータ、っていうっす」

 

 

 彼らはまだ知らない。

 彼女が、社会人の常識であるほうれんそうが出来ない駄犬だと。

 彼女はまだ知らない。

 それが原因で至高の御方を大変お怒りさせてしまうことを。

 

 あるいは、それを事前に知っている誰かさんがお節介をしてくれるかもしれないが。

 

 

 

 

 ▼△ △▼

 

 

 リ・エスティーゼ王国の王都では、セバスとソリュシャンが潜伏しており、情報収集に勤しんでいた。

 

 「そろそろご休憩されてはいかがですか?セバス様」

 

 「あぁ、ありがとうございます、ですが、これを片付けてからにしましょう」

 

 そう言って、ソリュシャンが出した紅茶を一口口に含むと、再び書類に向かい直すセバスであったが、ふと窓の外を見ると、大きく雷が鳴り響き、閃光を発したのを見て、明日の天気を憂いた。

 

 そして、そんな雷雨の中ひた走る男が一人。

 

 男の名は、ガゼフ・ストロノーフ……王国最強の戦士長の名を持つ男である。

 王都の道を息を切らしながら走っていた彼であったが、ふと、視界の端で何かを捉える。

 

 その方向を見れば、そこには震えながら、刀を抱いて死んだように座り込む男が一人。

 その男に、ガゼフは一人、似た面影を持つ者を知っていた。

 

 「……アングラウス……?」

 

 そして、その名を呼ばれると、死んでいるかのように見えた男はゆっくりとガゼフの方へ顔を向ける。

 ひどくやつれており、生きる活力、生命力を感じない、死んだ目だ。

 

 「……ガゼフ……ストロノーフ……」

 「……!?……ブレイン・アングラウスか……!?」

 

 

 彼らはまだ知らない。

 彼らの先に待つ数々の至難と、数奇な運命を。

 

 

 ▼△ △▼

 

 

 ナザリックのある一室

 

 「モモンガ様、件の女を連れてまいりました」

 

 「うむ、通せ」

 

 扉を開いて彼の前に現れたのは、以前見たときと何ら変わりない姿の、まるで山猫のような目で威嚇する女戦士……そして、スレイン法国の大反逆者、クレマンティーヌだった。

 

 クレマンティーヌはというと、突然現れた、この化け物共を総括、いやもしくはそれ以上の存在であるらしいオーバーロードを前にし、死を覚悟していた。

 

 なにせ今の彼女は手に枷をつけられ、持っていた武器の全てを、鎖を握る男によって奪われたのだから。

 

 「……殺すなら殺せ」

 

 「まぁそう怯えるな、私はなにもお前をとって食おうってわけではない。

 ……話をしよう」

 

 そう言って開かれたアンデッドの口からは、とんでもない内容の話が飛び出した。

 

 「私のために、その剣を振るう気はないかね?」

 

 「…………は?」

 

 このアンデッドの言い分はこうである。

 

 

 君が吐いてくれた情報は実に有益で助かるものだった。

 だからそのお礼として、私が目をつけていた者を殺そうと企んでいたのは目をつぶってやろう、なんならあのカジットとかいう男の命も助けてやってもいい。

 

 だが君自身の吐いた情報では、君は祖国を裏切り、反逆者として追われていると聞いた。

 

 だから、もし協力してくれるのであれば匿って、部屋を与えよう。

 武器を与えよう、力を与えよう。

 そして協力で貢献度が高いとなれば更なる自由を約束しよう。

 

 なに協力といってもそこまで難しい話ではない。

 

 

 「何をしろって言うんだ?まさかケツ振ってダンスを踊れとでも?」

 

 「まさか。

 今私達はある実験をしていてね……。

 自らの手で、迷宮……ダンジョンを作り出そうというものだ」

 

 「ダンジョン……?」

 

 「知らないか?その場所には魔物が多く生息し危険が多い代わりに、魔道具をはじめとしたアーティファクトや武器が多く産出される宝の山だ。

 それを私達の手で創造し、冒険者を引き入れる」

 

 「そんな事が……」

 

 可能なのか、と言おうとしたが、その目に宿る絶対なる自信、そしてここに来るまでに通った、まるで別世界だと言って遜色ない、ナザリックという場所の”絶対なる力”を前にして、虚言を言っているとは思えなかった。

 

 「一体何のために、そんな……」

 

 「そこまで君が知る必要はない。

 我々はそのダンジョンの試作品とも言える物を既に用意しているのだが……まだ調整段階であり、不確定要素が多い。

 であるから、君という人類最強の戦士とやらに、実験の協力を要請しているのだよ。

 つまりは、君に私達の作ったダンジョンに足を踏み入れる第一人者となってほしいのだ。

 無論、そこで手に入れた、私達の配置したマジックアイテムについては、褒美として君にくれてやろう」

 

 ちなみにそのダンジョンの製作者は、エレティカやペロロンチーノ辺りが外の世界へ行っている間暇だった為アウラやマーレを誘ってぶくぶく茶釜が作ったものである。

 

 作ってしまったあとになってから、「冒険者の戦いを見ることで現地の情報の収集に繋がる」「ナザリックの他に注意を向けさせる事で本物のナザリックの防波堤になってもらう」という言い訳を考えついたものの、それまではなにも考えずに迷宮を作っていたというのだから末恐ろしい。

 

 アルベドの裁縫の趣味然り、今回の件然り、暇になった女性がひたすらに趣味に走ると、時々時間を忘れてとんでもないものをつくる事があるとモモンガは学んだ。

 

 放っておいたら山を一つまるまる改造して要塞にでもしてしまいそうな勢いである。

 

 

 そうとも知らないクレマンティーヌは、まるで「どうだ、簡単だろう?」と言うように手を広げながら言うモモンガに対して、苛立ちでも怒りという感情は既に無く、多少自棄も入っているものの、「面白いじゃないか」と思った。

 

 良いように扱われている感があるのは癪だが。

 

 こうして、クレマンティーヌはほぼ毎日、ダンジョン……「リューゲ(偽りの)=ナザリック地下墳墓」へと足を踏み入れ、代わりにナザリックで部屋を一つ……この世界では考えられない程快適で豪華な部屋を割り当てられた。

 

 

 この事から下僕からはハムスケに次いで二番目の、「モモンガ様のペット」であると認識された。

 

 

 最初はモモンガに対し敵意100%だったクレマンティーヌも、ナザリックの力を知った後は、これなら祖国からの追っ手を簡単に振り切れるだろうと確信して機嫌を良くし、その上かつて無い程良い暮らしが出来るのを素直に喜んだ。

 

 加えて、数日前まで同じ場所に放り込まれていた自分と同じく捕まっていた人間達を見て、それらを虐める権利を「貢献度に応じて考えてやらなくもない」という返事を貰い、一層実験に励んだ。

 

 そしてモモンガはモモンガで、仲間が作った調度品や部屋に対して「なんっ、だこりゃァ!?こんな豪華な部屋見たこともねーぞ!?」と歯に衣着せぬ、手放しの賞賛を贈る彼女を気に入ったらしく、何かと気にかけてやることが多くなった。

 

 彼にとって100レベルに到達したNPCならまだしも、40レベルにも満たない彼女がいくら殺意を自分に向けたところで、せいぜいが爪を引っこ抜かれた野良猫にネコパンチされるようなものであったので、「裏切られるかも」という恐怖心無く接することができる存在は貴重であったのだ。

 

 「手始めに、そのダンジョンへ潜るのにこれを身につけておくといい。その悪趣味なビキニアーマーでは、すぐに死んでしまうかもしれないからな」

 

 「へぇーっ、サービスいいじゃん」

 

 上機嫌に新品装備と細剣を受け取ったクレマンティーヌは知らない。

 その後、彼女は受け取った細剣を使い、数々の敵(召喚されたアンデッドや余ってたゴミ同然のゴーレム)を打倒し、めきめきレベルを上げ、単騎でプレアデスに匹敵するほどの実力の持ち主になるのを。

 クレマンティーヌは知らない。

 モモンガから目をかけられているという事実が他の下僕達に嫉妬で人が殺せれば100回は死んでいそうな程嫉妬されているのを。

 

 ……後者はこのまま永遠に知らない方が幸せであろう。

 

 

 

 ▼△ △▼

 

 

 エ・ランテル、冒険者組合

 

 

 バタンッと大きな音を立てながらその両開きの扉が開かれ、そこから漆黒のフルプレートを纏う戦士が現れる。

 

 以前は彼に向かって馬鹿にするような声が多くあがったものだが、今では彼の名声、そして実力を知らないものは居ない。

 

 「あれが、王国三番目のアダマンタイト級冒険者……『漆黒の英雄』モモンと、銀色の幼姫(ようき)ティカ……」

 

 「噂じゃ、件のヴァンパイアとの戦いで、森の一角を焼き尽くしたのが彼らしいぞ」

 

 「まさか、それは人間のレベルじゃねぇぞ」

 

 「それが出来るひと握りってことだろう?俺は彼がアダマンタイト級、いや、それ以上の存在だったとしても、驚かないね」

 

 「ティカたんのちっちゃい足に踏まれたい……」

 

 「それな?」

 

 「成長したら一体どんな美しい令嬢になるんだろうな?」

 

 「それこそ、黄金を超えるんじゃないか?」

 

 「違いない」

 

 「馬鹿野郎お前!!ティカちゃんは今のままでいいんだよ!!今のままがいいんだよ!!」

 

 そんな冒険者たちの羨望のまなざしを背に受けながら、モモンは受付嬢に仕事の達成を報告する。

 

 「次の依頼を受けたい、いいものを見繕ってくれ」

 

 「すみません、今モモンさんに依頼する程の依頼は来ておりません……」

 

 「そうか、なら……むっ?…………それは丁度良かった。

 少し用事を思い出したので、何かあれば宿屋に来てくれ」

 

 「はい!黄金の輝き亭ですね?」

 

 既にマントを翻し、踵を返していたモモンはさっと左手を上げてそれに答えた。

 

 「では、これで失礼します」

 

 その後に続くティカは恭しくお辞儀すると、急いでモモンについて行った。

 

 

 

 冒険者組合を後にしながら、ティカは思う。

 

 もうこれから先、原作知識は使えない。

 もう既に運命は原作と大きく変わりつつあるからだ。

 

 だがそれを後悔することは無いだろう。

 

 

 私はまだ知らない。

 この先、原作からかけ離れた世界がどうなるのかを。

 

 

 だがそれでいいと思っている。

 

 原作からかけ離れた事で、今現在目の前で起こっている光景が、リアリティを増して行き、むしろ、ようやく、本当の意味でナザリックの物となれたような……この世界に溶け込んだような気がしたから。

 

 

 「ガルガンチュアに起動を命じろ。

 ヴィクティムも呼び出せ。

 ペロロンチーノさんとぶくぶく茶釜さんにも声をかけておけ。

 コキュートスが戻り次第……せっかくだ。

 

 全階層守護者で行くとしよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユグドラシルのNPCに転生しました。

 

 

 第一部「主人公に”原作知識”がある場合」

 

 原作:オーバーロード

 

 筆者:政田正彦

 

 

 

 

 ―END...?―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼△ △▼

 

 

 ナザリック地下大墳墓、とある一室

 

 

 「ねぇ、ごめんって、謝るから……そろそろ離してくれない?」

 「ダメでありんす!!本当に姉様は……!!私がどれほど心配したかわかっているんでありんすか!?」

 「(それは私からも貴女に言いたいことなんだけどなぁ)」

 

 そこはエレティカの部屋である。

 部屋は天幕のついた黒いベッドだとか、赤や黒を基調とした調度品、仄暗い紫の光を放つ照明のエロティックな雰囲気、その周りに置かれた人形だとかで、いかにも、「吸血鬼の姫が住んでいそうな部屋」であった。

 

 そしてそんな部屋のベッドで姉に抱きついて離れないのは、彼女の妹であるシャルティアであり、全力でひっついて、甘えていた。

 

 「まったく……困った妹……」

 

 そう言いつつ、エレティカはシャルティアの髪を優しく撫でた。

 

 「もう二度と……こんな事をしないと約束して欲しいでありんす……」

 

 「分かった……シャルティアも、もう二度とあんな事やらかさないで。これは約束よ」

 

 シャルティアはそれに短く応えると、顔をエレティカの胸の中へ埋めた。

 エレティカはもう一度シャルティアの髪をなでると、慈しむような目で、妹が満足するのを待つことにした。

 

 だが、その直後になって気付く。

 この光景が純粋な姉妹愛からくるものではなく、妹の姉に対するそれ以上の愛が生んだ光景だということに。

 

 「ふへ……ふへへへへ……」

 

 「ちょっと、ンッ、くすぐった、アフッ……やめっ……シャル、ティア?」

 

 私はすっかり忘れていたのである。

 シャルティアを制作したのが誰なのかを。

 シャルティアの設定に書かれた「盛りすぎだろ!!」という性癖の数々を。

 そしてそんなシャルティアの、「両刀」「ロリ○ッチ」「死体愛好家」「巨乳好き」という設定上……スタイルの良いユリに次いで、自分はドストライクだという事に……。

 

 「(し、辛抱たまらんでありんす!!で、でも相手は姉!姉妹でありんすし!あぁでもおっぱい柔けええええ!!!)」

 

 「ちょっと?ねえ?聞いてる?シャルティア???ちょ、目が怖い!目が怖いんだけど!!ん、ひぁ、やめっ、ぁっ、く……んひぃっ……やぁぁ……」

 

 「ぁ……姉様、可愛い……(もう、姉妹とか、どうでもいいのでは……???)」

 

 「やめてぇ……」

 

 そして、そんな姉の反応も相まってシャルティアの勢いはみるみる激しさを増して行き、涙目になったエレティカの顔を見てついに辛抱が効かなくなった彼女の指がするりとエレティカの柔肌を羽根のように、探るように滑っていく度に幸福感と快楽を走らせていく。

 

 そして……

 

 「あっ……ヤダ、そこは、ダメ……」

 

 涙目で、恥じらうようにそう言う姉の姿を見て、とうとうシャルティアの中で、何かが切れる音がした。

 

 「姉様ぁ……そんな可愛い顔をされたら、私は、もう……」

 

 

 

 

 「……キ、キマシタワー……!!!(小声」 

 「馬鹿言ってないで早く止めてこい馬鹿弟!!」

 「アッハイ」

 

 こうして、事が起きる前に至高のお二人によって止められたが、もし止められていなかったら……。

 

 その後の姉妹間で繰り広げられることになる展開を……私はまだ知らない。 

 

 ……知りたくない……。

 

 

 

 

 END




 これにて、第一部完結となります。
 

ですが、色々なご指摘を受け、おかしい部分や説明のつかない部分、正直失敗したなと思う部分が多々あるので、ハッキリ言って満足の行く出来だったとは到底言えません。

なので、恐らく先の話になると思いますが、

シナリオの再構成を行いたいと思います。

いつになるとか詳しくはまだ分かりませんが、リメイク版として新規に次話投稿する形で、一話からやり直したいと思います。

多分秋頃……いや冬に差し掛かる頃かなあ……


ともかく、一先ずはこれを区切りとして一旦終わりと、させて頂きます。

今まで応援して下さり本当にありがとうございました。



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